俺の好きな神プロのキャラが活躍する小説を書きたかっただけ。 (いでんし)
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一章:始まりの世界編
神姫、解放


あらすじの方でも言ったけど、基本的にこの小説にR-18の要素は無いので、そこら辺は理解して頂きたい。
需要があるなら作るかもしれないけど。

では、どうぞ。



 …魔法科学文明。

 かつてとある世界で繁栄していたとされる文明。

 だが、現在、その事を知る者はいないとされている。

 その理由は…

 

 

×××

 

 

「ゼェ…ゼェ…よかった…何とか町に戻ってこれたぞ…」

 

 とある小さな町に、一人の青年が入ってきた。

 茶色い瞳に茶色い髪と、いたって普通の青年である。

 しかし、その格好は普通ではない。厚手の上着と頑丈そうなブーツ、そして立派なマントを身につけており、腰には小さなポーチと折れた剣(⁉︎)を携えている。

 服があちこち薄汚れているのを見るに、どうやら冒険者らしい。

 

「まさか…魔物と戦って剣が折れるなんて…」

 

 どうやら、彼は魔物退治の帰りらしい。

 いつ頃からかは不明なのだが、この世界には普通の人間では太刀打ちできないレベルの魔物が出現する。

 だが、中にはそんな魔物達に挑む物好きもいて、魔物専門の研究家になった人物もいる。

 彼も、魔物研究家になる気は無いようだが、その物好きの一人のようだ。

 青年はひときわ目立つ大きな建物の中に入っていった。

 入り口の看板には「冒険者協会」と書かれている。

 受付の女性に声をかけると、女性はとても驚いていた。

 

「…まさか、本当にあのゴーレムを倒したのですか?」

「もちろんさ。ほら、この腕は間違いなくあのゴーレムのものだろ?」

 

 青年は羽織っているマントの中から巨大な腕を取り出した。

 見た所、明らかに自然にできたものではない。どうやら、この魔物が今回の討伐対象であるらしい。

 

「協会騎士数人が一斉にかかっても倒せなかったんですよ!?本当に一人で…」

「俺もタダじゃ済まなかったよ。あちこちに擦り傷負ったし、剣も折れちまった」

「…と、とりあえず、今回の依頼は完了です。えーっと、お名前は…」

「カゲツだ」

 

 カゲツ。それが青年の名前のようだ。

 

「カゲツさんですね。…どうぞ、報酬の150000ジェムです」

「ありがとう。…これでしばらくは資金に困らないな」

 

 冒険者は、冒険者協会に所属して、そこに集められる依頼をこなし、その報酬として資金を得る。

 冒険者だからといって、流石に無料で泊めてくれる宿屋などありはしない。

 何事も結局は金なのである。

 

「宿代の心配は無くなったけど、問題は武器だな。この町の武器屋は…あそこか」

 

 冒険者協会を後にしたカゲツは、真っ先に武器屋へ向かった。

 

 

×××

 

 

「はぁ!?剣がもう無い!?」

「申し訳ございません。先程、売り切れてしまいまして…」

 

 初老の武器屋の店主が、ひたすら頭を下げている。

 

「他に武器屋は無いんですか?」

「この町の武器屋はここだけですねぇ」

「マジか…次の入荷予定とかは分かります?」

「早くても2日はかかるかと思われます」

「困ったな…まあ、2日くらいなら金も持つし、後日また…ん?」

 

 青年の目は、店の奥にある槍に向けられた。

 …いや、槍にしては柄が短すぎる。装飾品も多く、とても武器として使えるとは思えない。

 だが、なんと言えば良いのだろうか、謎の魅力を感じる。

 手入れも行き届いており、ピカピカに輝いている。

 

「…あの奥にある槍?は…なんですか?」

「ああ、アレですか。私が店主になる前からあります」

「え!?そんな前からあるんですか?」

「ええ…」

 

 何を思ったのか、店主は少し考えた後、青年に問いかけた。

 

「良ければあの槍、持って行きませんか?」

「え!?良いんですか、結構昔からあるんでしょう?」

「私ももう歳でしてね、この店をもうじき閉める予定でして…」

「え?でもこの町の武器屋は…」

「新しい武器屋がもうすぐこの町にやってくるそうなんですよ」

「おお!じゃあ早速その店で新しい剣を…」

「一週間後の話ですけどね」

「ダメじゃん!」

「要するに、剣の代わりに、この槍を持っていってはどうか、という話です。お代はいりません、どうぞ持っていってください」

「え!?そんな長く置いてあった物をタダで!?大丈夫ですか!?」

 

 カゲツはさっきから驚いてばかりだ。

 店主は続けた。

 

 

「問題ありませんよ。この槍はきっとあなたに良い結果を残す。長年武器屋の店主をやってきたからわかる勘みたいなものです。あなたのような人に使われれば、この槍も本望でしょう」

 

 

 謎の説得力を感じる。

 そこまで言われると、青年も断れなかった。

 

「じゃあ…その槍をください」

「まいどあり。大事にしてやってください」

 

 店主から槍を渡される。

 そこそこ重量があり、ますます武器として扱うのは難しそうだ。

 だが、どう表せば良いのかわからなかったが、謎の安心感を感じた。

 

 

×××

 

 

「さて…どうしたものか」

 

 武器屋の店主にうまいこと言われて貰った武器ではあるが、あくまでもカゲツが得意とする武器は剣なのだ。

 槍なんて簡単に使える気がしない。

 とは言え、今更武器屋に返しに行くのも気がひける。

 

「もう暗くなってきたし、飯食って寝るか…」

 

 カゲツには魔物退治の疲れが溜まっているらしい。

 とっとと宿屋に戻っていった。

 

 余程疲れていたのか、自分の後ろから誰かが見てたことすら気付かなかった。

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

 

「…………………ん…………?」

 

 真夜中のことだ。

 

「!?なんだ………これ……」

 

 体が重い。

 体の上に何かがいるらしい。

 確か俺は、宿屋に戻った後にすぐに寝たはずだ。

 一体何が‥

 

「あ…………やっと起きた…………」

 

「!?」

「おはよう………マスター……♡」

 

 目を開けると、見知らぬ少女が四つん這いでカゲツにのしかかっていた。

 少し紫のかかった銀髪にルビーの様な赤い瞳、そして紫色が中心の機械的な鎧の様な物を着ている。

 しかし、手足がしっかり補強されているのに反して、発育の良い胸元や腹部・太ももを、まるでビキニの様に露出させた、大胆な格好をしていた。

 腰からは配線の様な物が伸びており、頭には機械的な装飾品を着けていた。

 顔立ちは良く整っており、美少女と言って差し支えないだろう。

 

「なんだこいつ…おい!降りろ!」

 

 カゲツは少女を無理やり除けようとする。

 しかし、それは叶わない。

 体の自由を封じられる魔法を使われたとか、そんなものではない。

 純粋に筋力で負けている。

 この特別筋肉がある様には見えない少女に、数多くの魔物を相手し、勝利してきたカゲツが単純な力で勝てない。

 

「お前は…一体何者なんだ…?」

 青年は問いかける。

 

 

「私はエリゴス……神姫だよ……」

 

「神姫…?」

 

 聞いた事のない単語だ。

 

「私は王の寵愛をもたらす悪魔。未来を予見する神姫、エリゴスよ……」

「悪魔…?未来…?」

 

 訳が分からない。カゲツは混乱が止まらなかった。

 

「よく分からんが…お前は…俺を殺しに来たのか?」

 

 悪魔と聞いてカゲツが思い浮かべたのは、人間の魂を取って食らうような、邪悪な存在。今目の前にいるこの少女…エリゴスも、その類だと思ったのだ。

 だが、エリゴスは首を横に振った。

 

「違う。私はただ、マスターに愛されたいだけ………」

 

 予想以上にぶっ飛んだ返答が飛んで来て少々困惑するが、どうやら彼女にカゲツへの敵意は無いらしい。

 

「なら…一旦俺から降りてくれないか?これじゃ落ち着いて話すことができない」

 

 エリゴスは、渋々とカゲツの上から降りた。

 カゲツは一瞬不意打ちでこっちが逆にとっちめてやろうかとも思ったが、このエリゴスという少女には悪気は無いようだし、そもそも純粋に自分の力でそんな事ができる気がしなかったので、諦めた。

 見た目は普通の少女…いや、服装は全然普通ではないのだが…に襲いかかる事なんてできないという、カゲツの良心が働いた事も付け加えておく。

 

「それで…神姫、だっけか。お前は自分をそう言ったな。神姫とは一体なんなんだ?」

 

 身体が自由になったカゲツは、エリゴスに問いかけた。

 

「神姫は、神や悪魔の力を与えられた存在。かつて、ラグナロクっていう災厄を止めた存在……」

「ラグナロク…?」

「千年以上前に発達した魔法科学文明を崩壊させた災厄……。本当は世界を滅ぼすはずだった災厄を、文明の崩壊程度に食い止めたのが私たち神姫よ……」

 

 あまりに現実味のない話である。カゲツは話半分に聞いていた。

 

「へぇ…あんたの先祖が止めたのか?」

 

 本当だとしたら、先程もエリゴスが言った通り、千年以上前の話になる。

 なのだが、

 

「違う。私がラグナロクを止めた……みたい」

「へぇ………はぁ!?お前が!?」

「ラグナロクを止めた後、私たちは長い眠りについた。その間に記憶が抜けちゃったみたい……」

「なんだそりゃ…」

 

 そうなると、大半の時間を眠って過ごしてるとはいえ、エリゴスは見た目に反してかなりの長寿ということになる。

 まぁ、悪魔の類ならそんなことはザラなのかもしれないが。

 

「じゃあ、俺はどうやってその神姫様を解放したんだ?」

「神姫の大半は、何かしらの武器に封印される形で眠りについた……。私も一緒。あの槍に封印されたの」

 

 エリゴスが指差す先には、昼間に武器屋で貰った槍があった。

 

「俺が正式な持ち主になったから、それに応じてあんたも解放された…ってことで良いんだな?」

「そうだよ……」

「なら、最後の質問だ。エリゴス、あんたは強いのか?」

「……私の力は、マスターを守るための力。マスターの敵は、絶対に倒す」

 

 なんか質問の回答が噛み合ってない気がしなくもないが、やはり強いらしい。

 

「…そうか。なら一つ頼みがある。聞いてくれるか?」

「頼み?」

「俺は今、魔物を討伐しながら金を稼ぎつつ生活している。その魔物討伐の手伝いをしてくれないか?」

 

 多数の魔物を相手にしてきたカゲツだが、エリゴスを振りほどく事は出来なかった。もしかしたら、魔物相手にも問題無く戦えるかもしれない、そう思ったのだ。

 

「もちろん、ついていく。私の力は、マスターの為にあるのだから」

「ありがとう!最近の魔物は手強いし、一人で行くのは少しキツかったしな」

 

 多少上手くいきすぎな気もするが、協力者が増えてくれるのはありがたい。

 

「ところで…まだ外は暗いが、今は何時だ…?」

 

 カゲツは枕元に置いてあった懐中時計を確かめる。

 

「まだ1時じゃないか…もう少し寝るか…」

 

 カゲツはベッドに倒れこんだ。

 

 

「……なぁ、なんであんたは俺にくっついて寝てるんだ?」

「………私も一緒に寝る。マスターと一緒がいい」

「何言ってるんだ⁉︎暑い!離れてくれ!頼むから離れてくれぇぇ!」

 

 エリゴスはカゲツから離れない。

 柔肌が当たって、カゲツは変に意識してしまう。

 結局その日は、まともに寝る事は出来なかった。

 




ガチャでエリゴスちゃんを当てた時に一目惚れした。
だからエリゴスちゃんは多分この小説で一番出番があると思う。
そして一番戦闘で過労すると思う。
感想等お待ちしてますm(_ _)m


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初陣

さて、今回はいよいよ戦闘回。

ツイッターの方で長く感じたとの意見をいくつか頂いたので、状況次第では短くするかもしれない。



 カゲツが神姫エリゴスと出会って二日が経った。

 ちょうどその日に槍を譲ってくれた武器屋の所に新しい剣が入荷したので、カゲツはエリゴスを連れて向かった。

 

「いらっしゃいませ。おや、そちらの女性は?」

 

 初老の店主が現れた。

 

「おととい貰った槍。それにこいつが封印されていたんです」

 

 カゲツは、店主に神姫の事を話した。

 神姫という存在が、かつてラグナロクという災厄を止めた事。ラグナロクによって、魔法科学文明が崩壊してしまった事。

 色々な事を話したが、店主は首を傾げてばかりだった。

 当然だろう。なにせあまりにも非現実過ぎる。

 カゲツ自身も、エリゴスが普通の人間より強いのは把握してるが、他はやはり信じきれていない。

 とりあえず新品の剣を購入したカゲツは、その足で冒険者協会へ向かった。

 

 

×××

 

 

 武器屋に剣が入荷するまでの間、カゲツは協会の仕事を一切受けていなかった。

 剣が無いので、自分の力で戦う事が出来なかったからである。

 エリゴスは「私一人でも大丈夫」と自信満々に言ったが、それでも少し不安だったのだ。

 

「エリゴス、どの仕事が良いんだ?」

 

 カゲツが渡した冊子には、魔物退治、農業の手伝い、貴族の護衛…様々な内容の依頼が書かれている。

 一通り内容を確認したエリゴスは、一つの依頼を指差した。

 

「…畑を荒らすオークの討伐か。これで良いのか?」

「……このくらいなら簡単」

「ずいぶんな自信だな…」

 

 

×××

 

 

 依頼を受けたカゲツとエリゴスは、郊外の畑に向かって出発した。

 移動の最中、カゲツは眠たそうに欠伸をした。

 

「……マスター、眠いの?」

「誰のせいだと思ってるんだよ…」

 

 ここ二日、カゲツは寝不足だった。原因はもちろんエリゴスである。

 カゲツが寝ようとすると、エリゴスはカゲツと一緒のベッドで寝ようとする。

 エリゴスをベッドに寝かせて自分は床で寝ようとすると、エリゴスは無理やりカゲツをベッドに引きずり込んでしまう。

 エリゴスは神姫なので、周りより少し強い程度の人間であるカゲツが抵抗できる訳が無かった。

 一度ベッドインすると、エリゴスは執拗にカゲツにくっついてくる。

 女性との関係が少ないカゲツには、出会って数日の女性にここまでされるのは少々刺激が強すぎたらしい。

 変に緊張してしまい、ぐっすりと眠れない日々が続いている。

 カゲツにとって、エリゴスが自分を慕ってくれるのはありがたいのだが……

 さて、このエリゴスという少女(?)に関して、少しとはいえ分かった事がある。

 まず、彼女はあまり感情を表に出さない。

 カゲツにアプローチする時に歪んだ笑みを見せる事こそあれど、自分から満面の笑みを見せたことは無い。

 まぁ、まだ出会って日が浅いし、当然の事だろう。

 また、これと言った好物も無い。

 肉・魚・野菜、どれも普通に食べるし、酒に弱い訳でも無い。

 先程説明した無表情も合わさって、彼女の好物は一切分からなかった。

 

「…おっ、ここがその畑か」

 

 カゲツ考え事をしてる内に、目的地に到着した。

 郊外とはいえ、そこまで遠くにあった訳ではなかったようだ。

 

 

×××

 

 

「…という事で、よろしくお願いします」

「わかりました。行くぞ、エリゴス」

「うん」

 

 依頼人の農民から話を聞いたカゲツとエリゴスは、魔物が集まるというエリアへ移動する。

 数分移動して到着したは良いが、魔物が見当たらない。

 なので、相手がこちらへ来るまで待つしかない。

 

「準備しとけよ、エリゴス」

「わかった」

 

 エリゴスの手には、あの槍が握られている。

 

「………」

 

 彼女が力を込めると、なんと槍の柄が伸びた。

 元々の長さは人の腕くらいしか無かったのだが、今はエリゴスの首より上まで伸びている。

 もちろん、そんな事を知らなかったカゲツはただただ驚いていた。

 

 

×××

 

 

 …待つ事数分。ようやく今回の獲物が現れた。

 

「…何度見てもデカイな」

 

 オーク。

 発達した筋肉を持ち、その身長は2メートル程にもなる。

 手にはメイスや棍棒を握り、専用に作られたであろう鎧を着込んでいる。

 知能こそ低いが、凶暴性が強く、しかもあちこちに生息しているので危険な魔物の代名詞として広く知られている。

 今回畑に入って来たのは二体。

 内一体は畑に入るなり、すぐに農作物の方へ向かっていった。

 そして無造作に掘り出し、土汚れなど一切気にせず口に放り込む。

 スキだらけだ。

 

「さてと…行くぞ!」

 

 カゲツとエリゴスはオークへ向かってダッシュ。

 

「オオオオッ!」

 

 オークはすぐに存在に気付き、二人に向かってメイスを振り下ろした。

 流石の反応速度だ。

 カゲツは右に、エリゴスは左に回避。カゲツはすぐさま剣で斬りつけるが、頑丈な鎧に弾かれてしまった。

 だが、それも作戦の内。

 二人は畑からオークを引き離すために、オークの出て来た森に向かって走った。

 森の中はオークの仲間がいる可能性も高いが、畑への被害をできるだけ少なくするためにはこの行動が一番いい。

 急に攻撃されて憤慨したオークは、すぐに二人を追いかけ始めた。

 少し奥に入ったところで、二人は方向転換し、再びオークに突撃。

 オークは力任せにメイスを振り下ろすが、二人はまた回避する。

 

「破っ」

 

 エリゴスがオークの右脚に槍を突き刺し、魔力を込めると、オークの右脚が()()した。

 オークはバランスを崩し、倒れこむ。

 その隙に、後ろに回ったカゲツが、地面と水平に剣を振る。

 オークの頭が鮮血を撒き散らしながら吹っ飛び、司令塔を失った体は大きな音を立てて地面に倒れこんだ。

 

「ふぅ…畑からは大分遠ざけたな。ケガは無いか?」

「大丈夫。……もう一匹は?」

「…あれ?どこ行ったんだ?」

 

 先程のオークは二体で行動していた。一体は今ここで倒したが、もう一体の姿が見当たらない。

 

「………!マスター!」

 

 突然、エリゴスがカゲツを突き飛ばした。

 瞬間、先程までカゲツがいたところに火の玉が飛んで来た。

 火の玉は近くの木に着弾すると、爆発を起こして燃え上がった。

 エリゴスがカゲツを突き飛ばさなければ、カゲツがあの木のように火だるまになっていただろう。

 

「オオオオオオオオッ!」

 

 続けてオークの咆哮が響く。

 どうやら、もう一体のオークが仲間を連れて来たようだ。

 その数、なんと七体。しかも、

 

「…一体、倍近くデカいのがいるな…」

 

 身長は4メートル程。持っている棍棒もそれ相応のサイズである。

 おそらく、あの群れのボスなのだろう。

 いくらカゲツでも、七体同時に相手する事はできない。

 エリゴスと分担して倒すにしても、三、四体を同時に相手する必要がある。

 しかし、ここで逃げては、依頼を解決する事はできない。

 カゲツが苦悩する中、エリゴスは言った。

 

 

「大丈夫。私が全部倒す」

 

 

「………は?」

 

 言った。

 今間違いなく言った。

 エリゴスは、あの魔物を全て自分で倒すと言ったのだ。

 

「何言ってるんだ⁉︎無茶だ!」

「……神姫は、これくらいの相手、どうって事ない」

 

 そう言って、エリゴスは魔法を展開した。

 

「相手から姿が見えなくなる魔法を使った……でも、大きな声を出したり、動きすぎたりしたらすぐにバレちゃうから、絶対に動かないで」

「なっ…」

 

 エリゴスが魔力を高めると、エリゴスの背後に巨大な手のような翼が現れる。

 おおよそエリゴスの衣服を意識してデザインされたようだ。

 魔力を扱えないカゲツでも分かる程、その物体からは魔力が溢れていた。

 瞬間、エリゴスは、一気にオークの群れへ突っ込んだ。

 まず、先頭にいるオークに槍を突き刺す。いとも簡単に鎧を突き破り、槍がオークの腹に深々とくい込んだ。

 エリゴスが槍に魔力を込め、内部からオークの腹を爆破する。

 鮮血が吹き飛び、仲間のオークも怯んだ。

 返り血も気にせず、エリゴスは怯んだオークの首に容赦無く槍を突き立てる。

 そしてそのままボスの巨大オークに向けて槍を振るう。屍となったオークを投げつけた。

 高速で飛んできた屍を、巨大オークは手に持った棍棒で弾き飛ばした。

 ボスと言うだけあって、やはり戦闘慣れしているようだ。

 

「オオオオオッ!」

 

 巨大オークが咆哮を上げ、手下のオークに強化魔法を付与した。

 次の瞬間、オークは一糸乱れぬ連携でエリゴスに襲いかかる。

 あっという間に、エリゴスはオーク達に囲まれてしまった。

 オークの一体が、全力でエリゴスに棍棒を振り下ろす。

 エリゴスはこれを回避するが、背後から別のオークが攻撃する。

 だが、エリゴスは全て避ける。前後左右からの連撃を、エリゴスは全身に目でもついているかのように避け続ける。

 

「…凄い」

 

 カゲツが思わず呟いた。

 何故、彼女はこれほどまでに攻撃を避け続けられるのか。

 カゲツには心当たりがあった。

 

 

『私は王の寵愛をもたらす悪魔。未来を予見する神姫、エリゴスよ……』

 

 

 それは、二日前にエリゴスがカゲツに向けて言った言葉。

 未来を予見する。

 おそらく、エリゴスは相手がどんな攻撃をして来るのかを()()()()()()()()()()のだ。

 だから、全て避けることができる。

 どんな攻撃も、確実に回避できるのだ。

 エリゴスが攻撃を避け続けるにつれ、オーク達の連携は鈍くなっていく。

 どうやら強化魔法が切れてきたらしい。

 やがて、オークの一体が味方を殴ってしまう。

 その隙を見逃さず、エリゴスは殴ったオークに槍を突き立てる。

 吐血して崩れ落ちるオークには目もくれず、エリゴスは次々とオークを屠っていく。

 四体、三体、二体、一体。

 最初は七体いたオーク達も、ついに巨大オークだけになった。

 

「オオオオオオオッ‼︎」

 

 雄叫びを上げて、オークが火の魔法を連射する。

 

「……邪魔……」

 

 エリゴスが槍にとてつもないの量の魔力を込める。

 

 

「もう死ね……ナイトメアスピア」

 

 

 込められた魔力は、一筋の光線となって、巨大オークに肉迫する。

 あっさりと火の玉をかき消して、巨大オークを貫いた。

 黒い爆発が起こり、衝撃のあまりカゲツは目を瞑る。

 目を開けると、そこには返り血まみれのエリゴスと、上半身の消し飛んだ巨大オークの死体が転がっていた。

 手のような物体は、戦闘が終わったからか消滅した。

 カゲツは、エリゴス…いや、神姫の圧倒的な力の前に、何も言えなかった。




…ちょっとグロくなっちゃったかな(汗)
今回は神プロでのエリゴスちゃんの設定を全力で活かした構成となりました。
未来予知の能力ってこんなに扱いやすかったのか…


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デバイス

今回は少し短め。
4000字書くのが個人的なノルマだったけど今回は3450文字程度。
良いのかなこれ?



 計八体のオークを倒したエリゴスとカゲツ。

 街に入ると、すれ違う誰もが「ひっ」と驚いて顔を引きつらせた。

 …まぁ、当然だろう。

 先程の戦いで、エリゴスはオークの腹部に魔力を送り込んで()()()()()というかなり残酷な殺し方を多用してきた。

 そんな戦い方をしたら、返り血がつかないはずもなく…

 エリゴスは、全身返り血まみれで街を歩いていた。

 

「だから、近くの川で洗ってくればよかったのに…」

 

 同行しているカゲツがぼやく。

 当のエリゴスは、そんな事を気にする様子もなく、堂々としてるようにも見えた。

 

 

×××

 

 

 今回の依頼の報酬だが、なんと20万ジェム。

 魔物の群れ一つをまるまる壊滅させたことが評価されてのことらしい。

 証拠として巨大オークの肉片を受付嬢に見せた時、受付嬢は一瞬固まっていた。

 

 

×××

 

 

 返り血を洗い流すためエリゴスがシャワーを浴びている最中、カゲツは街を散策していた。

 カゲツはあちこちを旅しながら魔物を討伐して小金を稼いでいる。…流石にこの量は小金とは言えないが。

 この街に来たのもゴーレムを討伐した日の前日であり、地理関係は全く把握していなかった。この街の構造を覚えがてら、神姫に関する情報を集められたらいいと思ったようだ。

 そもそも、カゲツは神姫の事を全くと言っていいほど理解していない。

 過去の厄災を止め、魔物の群れを一人で一掃する程の実力を持つ存在が、なぜ突然自分の前に現れたのか。

 あの様子ではエリゴスがカゲツに愛想を尽かして離れていくのはまずありえないため、神姫が何者なのか調べておかなければ、という使命感が、カゲツにはあった。

 しかし、この街に資料館や図書館はあったが、神姫のことについて書かれた本はどこにも無かった。

 もう少し情報が欲しいところではあるのだが、すれ違う人全てに神姫のことを聞くのも迷惑だし、煩わしい。

 

「せっかくだし、もっといろんな所を回ってみるか…」

 

 カゲツは、この街にどんな物があるのか、調べてみることにした。

 

 

×××

 

 

 カゲツがたどり着いたのは骨董屋。

 古めかしい道具や家具、用途の不明な壺などが所狭しと並べられていた。

 もしかしたら、何かしら掘り出し物があるかもしれない。

 この店にあるものから神姫に関する情報が取れたら儲けものだ。

 一種の博打と言えるだろう。

 とりあえず金はあったので、適当に色んな物を買っていった。

  壺、金槌、ナイフ、銃、その他諸々。

 ここの店以外にも骨董屋があるらしく、カゲツは片っ端から骨董屋の商品を買っていった。

 

 その背後からは、一つの人影がついてきた。

 以前、エリゴスがそうした様に。

 

 

×××

 

 

 

 カゲツは宿屋に戻って来た。

 

「おかえり」

 

 部屋に入ると、エリゴスがベッドに座っていた。

 だが、部屋に備え付けのバスローブを羽織っている。

 

「エリゴス、服はどうした?」

「……洗濯。血で汚れたから……」

「…洗う必要あるんだ、あれ」

「それで……何か見つかったの?」

「とりあえず色々買ってきた。神姫の手がかりがあれば良いんだけどな」

 

 カゲツはマントの中から買った物を次々と取り出す。

 エリゴスは、その中の一つに興味を示した。

 

「?これ……」

 

 エリゴスが取り出したのは片手で持てる程の小さな板状の物体。

 変わった装飾が施されており、中央には硝子製の板がはめ込まれていた。

 カゲツが持ってみたところ、軽い。

 強く落としたりでもしたら簡単に壊れてしまいそうだ。

 

「なんだこれ?この中に神姫が封印されてるのか?」

「いや……それは……」

 

 エリゴスが何かを言おうとした瞬間、

 

 ピコン。

 

「⁉︎」

 

 カゲツが手に持つ物体から、突如音が鳴る。

 続いて、硝子板に光が灯り、そこに少女の姿が映し出された。

 銀色の髪、そして銀色が中心の服を着ている。

 エリゴスレベルの無表情で、どこか機械の様な無機質さを感じる。

 そして、あちらこちらから伸びている配線に繋がっている大きな椅子に腰掛けていた。

 

「なんだ…?こいつは…」

 

『…マスター・コグレは、何処へ?』

 

 出会い頭に、画面の中の少女は質問する。

 

「コグレ…誰だ、そいつは?」

『…なるほど、おおよそ理解しました』

 

 勝手に自己解決した少女は、カゲツに言った。

 

『カゲツよ。貴方は継承者に選ばれました』

 

「………はぁ?」

 

 突然訳の分からない役職(?)に任命され、カゲツは思わず声を出してしまう。

 

「継承者……⁉︎」

 

 だが、横で話を聞いていたエリゴスの声には、少々焦りが篭ってるように聞こえた。

 

『貴方が継承者に選ばれた理由は他にはありません。近々、魔法科学文明を滅ぼした災厄、ラグナロクが再来します』

「なっ⁉︎」

 

 ラグナロク。

 エリゴスが説明してくれた、世界を滅ぼすはずだった災厄。

 神姫達の活躍により、なんとか文明の崩壊程度には収まったが、それだけでも相当恐ろしいものだ。

 それがまたやってくるとなると…相当マズい状況である。

 

『ラグナロクを阻止するには、神姫を集め、それらをこの『デバイス』で従える継承者の存在が必要です。カゲツ、貴方はそれに選ばれたのです』

「…要するに、俺に世界を救う大役を任せたってことか。だが何故俺なんだ?俺より素質のある人間はいっぱいいるだろ」

『とんでもありません。普通の人間には、デバイスを起動させる事は絶対に叶いません。継承者の素質があるからこそ、貴方はデバイスを起動させられたのです』

 

 画面の中の少女は無表情でカゲツを説得しようとする。

 カゲツは困った。一度押されるとカゲツは弱いのだ。

 二日前にエリゴスに押し倒された時も、ほとんどエリゴスがペースを握っていた。

 

「分かった!分かったよ、なれば良いんだろ?継承者とやらにさぁ!」

 

 諦めたのか、それともあしらうのに飽きたのか、カゲツは継承者になる事を自暴自棄気味に決めた。

 

『ありがとうございます。さて、継承者となった貴方には、様々な異世界へと渡り、神姫を集める必要があります。その時に、このデバイスが必要になります』

「異世界?」

『貴方の住んでいるこの世界は、メガフロンティアと呼ばれています。異世界に行くには、メガフロンティアの各地にある遺跡からデバイスを使う必要があります』

「遺跡か…エリゴス、ここから一番近い遺跡は?」

「……北東へ5キロくらい歩くとある」

「分かった。今夜の内に準備を済ませて、朝一で出発するぞ。………あぁそうだ、デバイス、一つ聞いておきたい事がある」

『?』

 

「さっきお前は『マスター・コグレは何処だ』って聞いたな。そいつは誰なんだ?」

 

『………』

「あれ?」

 

 デバイスの画面は真っ暗になっている。

 カゲツが応答しても、デバイスが反応する事は無かった。

 

 

×××

 

 

 その日の晩のこと。

 旅支度を終えたカゲツは、ベッドに寝転がった。

 それを見るなり、エリゴスもカゲツの横にくっつき、腕を抱きしめる。

 三度目になると、ちょっと耐性がついたのか、初日のように落ち着かない事は無かった。

 …この状況に慣れるというのは、なんとも言えない気分になるのだが。

 カゲツの頭の中は不安でいっぱいだった。

 神姫と言っても、エリゴスの例を見る限り、見た目は普通の少女だ。

 普通に生活してる分は探すのは不可能に近い。

 こんな大役を自分が引き受けて本当に良かったのか、カゲツは心配でならなかった。

 

「……マスター、不安なの?」

 

 カゲツの不安を察したのか、横にいるエリゴスが声をかける。

 

「大丈夫。……マスターは、きっとラグナロクを止められる」

「…なんでそう断言できるんだ?」

「……私は、未来を見通す神姫だから」

「…そうか」

 

 エリゴスは、カゲツを安心させようとしている。

 その気持ちは、カゲツに届いたようだ。

 カゲツの表情に少し余裕ができ、それを見たエリゴスは少し微笑んだように見えた。

 

「…なぁ、エリゴス。一つ聞いていいか?」

 

 カゲツが質問する。

 

「……何?」

「どうしてお前は俺をここまで慕ってくれるんだ?何故出会って間もない俺に力を貸してくれるんだ?」

 

 エリゴスは、しばらく考えた後、こう答えた。

 

「……マスターの手が、優しかったから。槍を持った時の手が、とても優しかったから」

 

 エリゴスは微笑んでいた。

 その笑顔を見て、カゲツは昔の事を思い出した。

 

 白いショートヘアが眩しい少女。

 その優しい笑顔が、目の前のエリゴスと重なった。

 

「……どうしたの、マスター?」

「?何が?」

「マスター、泣いてる……」

「えっ?…あっ」

 

 カゲツが目元をこすると、指先がうっすらと湿っていた。

 

「マスター、大丈夫?」

「……なんでもない、忘れてくれ。ほら、明日は早いんだ、もう寝るぞ」

「……わかった」

 

 エリゴスは腕を抱きしめる力を少し強くする。

 最近はエリゴスのおかげで寝不足だったカゲツだが、その日はよく眠れたという。




ようやっとデバイスを入手できました。
遺跡に行かずにどうやってデバイスを入手するか。
ものっそ考えました。
さて、カゲツの前に現れた英霊とはー⁉︎(次回予告的なやつ)

アーサーの超火力を体感してみたいのだけれども
その前にアンドロメダとダルタニアンを解放したい。
欲しすぎてたまらない。
序盤に英霊ポイント無駄遣いしなけりゃよかった…(泣)


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英霊

ソルちゃん神化おめでとぉぉぉぉぉぉぉ!

俺も早く覚醒させたいけど
金のエロ本と眼が足りないんですよ…



 朝五時。

 宿のチェックアウトを済ませたカゲツとエリゴスは、北東の遺跡に向かって出発した。

 あらかじめ買っておいた食料を頬張りながら、遺跡までの道を歩いていく。

 途中何体かの魔物に遭遇したが、カゲツが何かする前にエリゴスが全て片付けてしまった。

 男なのに戦闘をエリゴスに任せっきりなのを感じて、カゲツは申し訳なくなった。

 

 

×××

 

 

 歩き始めて数時間。目的地の遺跡に到着した。到着したのだが…

 

「しまった…教会騎士の存在を忘れていた」

 

 遺跡の周囲には、赤と銀の高貴な鎧を身につけた集団がいた。

 彼らが教会騎士。

 この世界に点在する遺跡を守護する役目を持つ。

 迂闊に遺跡に近づこうものなら、一瞬で捕らえられてしまうだろう。

 とはいえ、カゲツは教会騎士数人が倒せなかったゴーレムをたった一人で倒しているし、エリゴスはそのカゲツよりはるかに強い。

 その気になれば真っ正面から突っ込んでも勝てそうではあるが、念には念を入れて、騎士の少ないエリアから侵入する。

 ちなみに、オークと戦った時にエリゴスがカゲツに使った、相手から姿を見えなくする魔法は、少し移動するだけですぐに解除されてしまうため、使う事はできないらしい。

 騎士達の隙をついて、こっそり遺跡に侵入する。

 手筈だったのだが…

 

 ドカァン!

 

 カゲツ達のいる場所の反対側から、突如爆発音が響いた。

 騎士が次々と爆発音の方へ走っていく。

 

「……マスター、行かないの?」

「…誰がやったか知らないが、確かに今がチャンスだな。行くぞ!」

 

 二人は遺跡に突入する。

 

 

×××

 

 

「くそっ、誰だ⁉︎こんな事をしたのは⁉︎」

 

 一方こちらは爆発のあったエリア。

 爆発に巻き込まれた騎士数人がうずくまっている。

 

「おい!しっかりしろ!何があった⁉︎」

「うう…」

「木の方から何か落ちたと思ったら、そいつが爆発したんだ!」

 

「おい!木の上にガキがいるぞ!」

 

 一人の騎士が叫ぶ。やがて騎士達の視線は樹上の子供に向けられた。

 露出の多い赤い服と非常に短いダメージジーンズ、白いテンガロンハットを被った碧眼の少女。

 水色の髪を束ね、ヘッドマイクのような装飾品をつけている。

 見た目は10歳に達しているか怪しいほど幼い。

 どこぞの西部劇に出てきそうな、ウエスタンな雰囲気を醸し出している。

 

「お前か!今の爆発を起こしたのは!」

 

 騎士の質問に対し、少女は満面の笑みで対応する。

 どうやら、爆発を起こしたのはこの少女のようだ。

 敵とわかれば、騎士がやるべき事は一つ。

 邪魔者の排除である。

 

「光魔法、放て!」

 

 騎士が一斉に少女に剣を向け、光の光線を放つ。

 そんな中、少女が取り出したのは二丁の拳銃。

 そして撃つ。撃ちまくる。

 一見乱雑に撃っているようにも見えるが、弾は的確に光線に命中している。

 ついには、光線全てを撃ち落とした。

 

「くっ…第二射、用意!」

 

 騎士達が攻撃の体制に入るが、させぬと言わんばかりに少女の拳銃が火を噴く。

 銃弾は騎士の手や剣に的確に命中し、あるものは手を負傷して剣を落とし、あるものは自慢の剣を折られて落胆した。

 

「なんだこの精度は⁉︎」

 

 少女は無垢な笑顔を見せて言った。

 

 

「お兄ちゃんの邪魔は、ビリーがさせないんだからね!デスバレット!」

 

 

 少女の二丁拳銃から銃弾が発射される。

 だが、狙ったのは騎士ではなく、地面。

 着弾すると、地面にヒビが入り、やがて大きな爆発を起こした。

 騎士の目が爆発に向いてる隙に、少女は木から飛び降り、騎士の集団に突っ込んだ。

 

「おい!ガキがそっちに行ったぞ!」

 

 少女を見ていた騎士が叫び、反応した騎士が少女を探し始める。

 しかし、どういうことだろうか。

 先程の集団をいくら探しても、少女が見つからないのだ。

 少女と騎士の格好は大分異なるため、集団に紛れるなんてことはできない。

 

「おい!お前、鎧はどうした⁉︎」

「くっ…何者かに襲われて、一瞬で剥ぎ取られた…」

 

 声の方を見ると、鎧を全て脱がされ、パンツ一丁になった男が。

 

「…まさか…!」

 

 騎士の一人がワナワナと震えだす。

 

「侵入者だ!今のガキは囮だ!ガキも鎧を着て遺跡に侵入したに違いない!探せ!捕えろ!」

 

 騎士達はすぐに動き出した。

 

 

×××

 

 

「まさかこんなに早く見つかるとはな……!」

 

 遺跡に侵入して早数分。

 カゲツとエリゴスは早くも騎士との戦闘に入っていた。

 だが、騎士達は少し苦戦している。

 教会騎士は遺跡を守護する者。

 遺跡の狭い通路の中で魔法をぶっ放そうものなら、重要な文化財に傷をつけてしまう可能性がある。

 故に、騎士達は剣での戦闘を強いられており、近距離戦を得意とするカゲツとエリゴスに有利な間合いで戦う事ができない。

 一方、遺跡が多少傷つこうと何の問題も無い二人は、相手から魔法が飛んでくる心配も要らないため、好き勝手に暴れられる。

 剣や槍を壁にいくら引っ掛けたか、二人はもう覚えていない。

 ただ、異世界への扉がある、遺跡の最奥部へと突き進むだけである。

 

 

×××

 

 

 二人ともこの遺跡の構造は知らなかったが、デバイスのサポートのお陰で何とか最奥部にたどり着く事ができた。

 最奥部は広いホールとなっており、天井や壁からの光源で明るくなっている。

 この光源は、デバイスによると魔法科学文明の遺産であるらしい。

 だが、その仕組みは今となっては謎で、デバイスにも記録は残っていない。

 こういった物にロマンを感じるのも乙だが、今はそれどころではない。

 いつ起こるかわからないラグナロクに向けて神姫を集めるために、異世界へ行く必要がある。

 ホールの奥に台座があり、どうやらそこから行けるらしい。

 だが、その前には巨大なゴーレムが、まるで守護神のように鎮座している。

 カゲツとエリゴスが近づくと、ゴーレムの目と思わしき部分が発光し、ゆっくりと立ち上がった。

 目の光がだんだん強くなり、やがて高熱のビームを発射した。

 カゲツは持ち前の身体能力で、エリゴスは予知能力でギリギリ回避。

 エリゴスはそのまま突っ込み、ゴーレムに槍を突き立てる。

 しかし、硬い装甲に槍は弾かれ、ゴーレムは反撃のパンチを繰り出す。

 エリゴスはまた回避。床にぶち込まれたパンチは、大きなクレーターを作り出した。

 まともにくらえばたまったものじゃないだろう。

 ゴーレムの意識がエリゴスに向いている隙に、カゲツは台座へ向かい、デバイスを起動させる。

 だが、察知したゴーレムはカゲツの行く手をビームで阻む。

 

「こいつを大人しくしなければ、台座へは行けないってことか…」

 

 カゲツは剣を構えてゴーレムに突撃する。

 ゴーレムが拳を振るうが、カゲツはスライディングで回避し、膝の裏側に剣を突き立てた。

 だが、鈍い金属音と共に弾かれる。

 

「なっ…ここも硬いのかよ!」

 

 驚くカゲツ。ゴーレムの拳が飛んで来て、慌てて避ける。

 

「……ナイトメアスピア」

 

 エリゴスが放つ闇の光線がゴーレムの腹に命中するが、これも効いていない。

 

「くそっ…どうすればいいんだ…」

 

 全身が硬い装甲に覆われたゴーレム。エリゴスの魔法すら弾く強度。

 どうやって倒せばいいのだろうか。

 悩むカゲツ。

 その間に、エリゴスが壁に追い込まれ、逃げ場が無くなってしまう。

 

「エリゴス!」

 

 ドォン!

 

 ホールに響いたのは、エリゴスがゴーレムに潰される音ではなく、銃声だった。

 ゴーレムの目から煙が上がり、動きが突然鈍くなる。

 

「お兄ちゃん!大丈夫⁉︎」

 

 突然ホールの入り口から声がする。そこには二丁拳銃を持った少女が。

 あの少女がゴーレムを撃ったのだろう。

 身体に攻撃を当ててもビクともしなかったのに、目を撃たれただけでこの弱りよう。

 恐らく、このゴーレムの弱点は目のようだ。

 カゲツが叫ぶ。

 

「エリゴス!目を狙え!」

 

 カゲツの指示を受けて、意図を察したエリゴスは跳躍する。

 槍に魔力を込め、ゴーレムの頭を貫いた。

 頭部を失ったゴーレムは、エリゴスを殴ろうとした体制のまま、動かなくなった。

 

 

×××

 

 

「ビリーはビリーザキット!お兄ちゃんのデバイスから召喚された英霊だよ!」

「英霊…?」

 

 戦闘の後、カゲツはデバイスを起動させつつ、ビリーザキットと名乗った少女と会話していた。

 エリゴスには、教会騎士が来ても大丈夫なように入口の方を見てもらっている。

 

『英霊は真の勇者の素質がある者の元に現れる存在。その実力は神姫となんら変わりありません』

 話を聞いていたのか、デバイスが補足する。

「お兄ちゃんは、ラグナロクを止めるために行くんでしょ?ビリーも連れてってー!」

 

 ビリーザキットの銃の扱いはかなりの精度だった。これからの旅は魔物との戦闘もきっと多くなる。戦力が増えるのは純粋にありがたい。

 

「わかった。これからよろしくな、ビリーザキット!」

「長いからビリーでいいよー?」

「そ、そうか。よろしくな、ビリー!」

 

 二人が挨拶を交わすと、エリゴスが戻って来た。

 

「デバイスの準備……できてるみたいだけど」

 

 デバイスを見ると、画面が虹色に輝いている。

 

「二人とも、準備はいいか?…行くぞ!」

 

 三人は、デバイスの光に包まれた……




神姫より後に英霊を解放するっていうのもアリだと思うんですよ()

次に仲間にする神姫はもう決めてるんだ…
さぁ、誰が来ると思います?


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祭り

エリゴスちゃん!エリゴスちゃん!エリゴスちゃん!エリゴスちゃん!
ああっ、ああっ、ああっ、ああっ…
ああああああああああああああああああ!!!!!!


火属性の新しいエリゴスちゃんが実装されてからずっとこんな様子です。
いやぁ嬉しい。ものっそ嬉しい。



 デバイスから溢れる光が、徐々に弱くなっていく。

 光が完全に収まり、目を開けたカゲツは、目の前の光景に驚愕した。

 先程まで、自分たちは遺跡の中にいたはずだ。

 ところが、目の前に広がるのは草原。

 とにかく広い草原だった。

 先程の遺跡は森の中にあり、草を払った程度の簡素な道も整備されていたが、 ここにはそんなものすらなかった。

 

「本当に、異世界に来たんだな、俺…」

 

 周りを見渡すと、エリゴスとビリーもちゃんといた。

 転送に失敗して三人それぞれ別の場所に飛んでいった、ということが無くてひとまず安心である。

 後ろには元いたメガフロンティアのものに酷似した遺跡があり、メガフロンティアに戻る時はあそこから行くといった判断でいいだろう。

 

 

×××

 

 

「さて、どうするかな」

 

 カゲツ達がこの世界に来たのは、ラグナロクを止める力を持つ神姫を探すため。

 今すぐにでも出発したいところだが、カゲツ達はこの世界のことを何も知らない。

 どの方向に行けば何があるのか、そういったものは全く分からなかった。

 

「デバイスなら、神姫がどこにいるか、分かるんじゃないのー?」

 

 ビリーが進言する。

 だが、いくら呼びかけても、デバイスは反応しなかった。

 遺跡の中ではちゃんと作動していたのだが、今はただの硝子板と成り果ててしまっている。

「異世界へ送ってやったから、後はお前達でなんとかしてくれ」ということだろうか。

 困惑するカゲツ達。

 

「ねぇ、アンタ達そこで何してるのさ?」

 

 突然、声をかけられた。

 見ると、いつの間にか少女が立っていた。

 ブロンドの髪を束ねてポニーテールにしている。

 スパッツの上に鎧を着ているが、胸元や籠手、脚など最低限の装備しかつけておらず、開放感がある。

 足には妙にゴツいヒールを履いていた。

 

「ここらじゃ見ない顔だなぁ。旅でもしてるの?」

「まぁ…そんなところだな」

 

 初対面の人間に神姫の事を話したところで混乱させてしまうだけなので、素性は隠しておく。

 

「私はヘルモーズ。あなた達は?」

「俺はカゲツ。そっちが…」

「……エリゴス」

「ビリーザキットだよー!」

 

 ヘルモーズと名乗った少女と挨拶を交わす。

 

「よろしく。ところで、なんでこんな所にいるの?ここには遺跡くらいしかないじゃない」

「地図を失くしてしまってな…ここから一番近い街を知らないか?」

「あぁ!近くの街なら今祭りをやってるんだ!私もこれから戻る予定だし、案内する?」

「おぉ、それはありがたいな!案内してくれ」

 

 ヘルモーズの案内で、近くの街に行くことになった。

 

 

×××

 

 

 数分ほど歩いた時のこと。

 突然、ヘルモーズはプルプルと震え始めた。

 

「?おい、どうし…」

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!もう我慢できないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 突然叫びだすヘルモーズ。

 ギュイィィィン…

 直後、ヘルモーズの鎧のヒールから、機械音が響きだした。

 続けて、ヘルモーズの靴から電撃が溢れ出す。

 その状態で、ヘルモーズが地を蹴ると…

 

 ドヒュン!!

 

 ものすごい風を起こして、ヘルモーズははるか先へ駆けていた。

 

「………おおう」

「す、すごーい……」

 

 カゲツとビリーはポカーンとしている。

 

「……」

 

 エリゴスは相変わらずの無表情だが、驚いてはいるようだ。

 とりあえずわかることは一つ。

 

「あの人、神姫だよね…」

「……いなくなっちゃったけど、大丈夫?」

「この先の街へ向かったんだろうから、運が良ければまた会えるだろ。それより問題は道案内役がいなくなったことだぞ」

「「……あっ」」

 

 女子二人が同時に声を上げた。

 

 

×××

 

 

 幸いながら、ヘルモーズの走って行った方向にまっすぐ行くと、彼女の言っていた街があった。

 メガフロンティアでカゲツが拠点としていた街よりかなり大きい街だ。

 人通りが多く、活気もあり、街として栄えているのを感じさせる。

 少し中に入ると食べ物やアクセサリーを販売している露店が数多く並んでいた。

 テンションが上がったのか、ビリーは突然カゲツの右腕をつかみ、肌を密着させる。

 

「えへへ〜、お兄ちゃんとデート♡」

「はぁ?一体何を…」

 

 横で見ていたエリゴスは、ムッとしてカゲツに駆け寄り、余った左腕を掴んで引き寄せた。

 柔らかい感触が伝わり、カゲツは少し落ち着かない。

 

「なぁ…二人とも…暑いんだが…」

 

 カゲツが苦情を言うが、エリゴスとビリーは離れない。

 

「エリゴスお姉ちゃんはずっとお兄ちゃんとくっついてたでしょ?ビリーもやりたいー!」

「……マスターには、私だけを見て欲しい……連れてかれるのは、困るの」

 

 二人はにらみ合い、火花をバチバチと鳴らす。

 カゲツは、両手が塞がったまま、ため息をつくことしかできなかった。

 

 

×××

 

 

「お兄ちゃん!ビリー、あれやりたい!」

 

 ビリーが指差す露店の看板には「射的」と書かれている。

 奥の棚には小さな菓子の箱が並び、手前のテーブルにはおもちゃの銃が置かれている。

 店主の説明を聞くと、この銃で棚の菓子を撃ち、倒す事が出来れば景品としてその菓子を貰えるルールとのこと。

 

「マスター……私、やる」

 

 エリゴスが前に出た。

 店主に代金を渡して銃を受け取ったエリゴスは、棚の菓子に向けて銃を構える。

 パンッ。

 引き金を引くと、コルクの弾が飛んでいった。

 弾は菓子に向けてまっすぐ飛んでいき…

 菓子の上をかすめていった。

 

「………ッ」

 

 エリゴスは更に二回チャレンジするが、撃ち落とすどころか、弾がかすりすらしなかった。

 

「もう、エリゴスお姉ちゃんはまだまだだなぁ。ビリーに任せてー!」

 

 続けてビリーが前に出る。

 店主から銃を受け取り、構える。

 

「ガンマンの実力、見せてあげるね!」

 

 そう言って、ビリーが引き金を引く。

 弾は的確に飛んでいき、菓子の箱のど真ん中に命中。箱はそのまま倒れた。

 なんという精度。

 先程のゴーレムとの戦いでも、彼女は一発でゴーレムの頭部を撃ち抜いて見せた。

 カゲツが関心している間に、ビリーは残りの二発もちゃっかり命中させ、三つの箱を持って戻ってきた。

 横のエリゴスは明らかに不満そうである。

 ビリーは少し考えた後、

 

「はい、どーぞ!」

 

 三箱の内一つを懐にしまい、残りの一箱をカゲツに、もう一つをエリゴスに渡した。

 

「……これ……」

「えへへー、仲間のしるしー!」

 

 ビリーがニカッと笑顔を見せる。

 

「でも……」

 

 エリゴスは少し抵抗があるようだ。

 

「せっかくだ。貰っとけ」

 

 カゲツが言うと、エリゴスは、

 

「……マスターがそう言うなら、貰う」

「やれやれ…素直じゃないな」

 

 

×××

 

 

 街の地図を見ながら歩くと、大きな広場にたどり着いた。

 広場には大きなステージが配置されている。

 

「なんだこれ…見せ物でもするのか?」

「お前、旅の奴か?」

 

 若い男に声を掛けられる。彼は発光し続けている棒を手に持っていた。

 

「あぁ、そうだが…」

「ラッキーだな、お前。なんてったって今日はラミラミのライブがあるからな!」

「ラミラミ?ライブ?」

 

 すると、突然、一気に暗くなった。

 空を見ると、真っ黒な雷雲が押し寄せている。

 やがて、落雷がステージに落ち、煙と共に焦げ臭い匂いが漂う。

 煙が晴れると、そこには…

 

「こんにちは〜。みんなのアイドル、ラミエルです♡」

 

 フリルでできたスカートに、髪にはピンクの大きなリボン。チェーンのついた赤いベルトを巻き、天使の翼を模した装飾を背中につけた少女が現れた。

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!!ラミラミーーーー!!!」

「ラミラミに会えて俺…最高だよ…!」

 

 少女が現れた瞬間、周りの男達が熱い声援を送る。

 

「みんなはお祭り、楽しんでる?楽しんでるあなたも、そうでないあなたも、ラミラミの歌で元気にしてあげるね〜♡」

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

「それじゃあ…キュクロプスちゃん、よろしく!」

 

 いつの間にかラミラミの隣にいたキュクロプスと呼ばれた少女が、鎌のように見えるギターを弾く。

 それに合わせて、ラミエルが歌い、踊り出す。

 空中にはいつの間にかスポットライトが数多く浮かんでおり、ライブを盛り上げる。

 サビに入ると、男達の興奮もピークに達し、なぜか彼らまで謎のダンスを始める。しかも皆同じように。

 男達だけではない。周りの人々まで彼女のライブを楽しんでいる。

 気づけば、軽く1ヘクタールはある広場が、完全に観客で埋まってしまっていた。

 あっという間に一曲が終了。

 観客からは拍手と賞賛の嵐。

 

「まだまだライブは終わらないから、楽しんでいってね〜!」

 

 観客達は叫ぶ。はしゃぐ。踊り出す。

 この素敵な時間を全力で楽しむために。

 

 

 

「…えーっと………なにこれ?」

 

 観客が興奮する中、カゲツは状況についていけずにポカーンとしているだけだった。

 

 ふとエリゴスを見て、カゲツは驚愕する。

 エリゴスが首を振りながらリズムをとっているのだ。

 あの無表情で何事にもドライな反応を示すエリゴスが、である。

 ビリーを見て、再び驚愕する。

 ビリーは飛び跳ねてまで喜んでいる。

 それほどこのライブが面白いのであろう。

 カゲツは察した。

 今の状況についていけてないのは自分だけだと。

 

 

×××

 

 

 ライブも終盤に差し掛かった時の事。

 

「それじゃあ、最後にラミラミじゃんけん、やっていくよ〜♡」

「ラミラミじゃんけん?」

「ラミラミに勝ち続けて、最後に残った人には、このラミラミ直筆サイン入りの魔法銃をプレゼントしちゃうよ〜」

 

 ラミエルが銃をかかげる。

 赤と黒、銀を基調とした立派な魔法銃だ。

 おぉぉぉぉ…と男達の声が響く。

 それを見て、ビリーが目を輝かせる。

 やはりガンマンとだけあって、銃には関心があるようだ。

 

「お兄ちゃん!ビリーあれ欲しい!」

「はぁ⁉︎何言ってんだ、この人数だぞ⁉︎まず無理だよ」

「えー、そんなぁ…」

 

 残念がるビリー。それを見て、エリゴスが言った。

 

「任せて。私があれをとってくる」

「…まさか強奪とかしないよな?」

「……そんな事、しない」

 

 エリゴスには、何か秘策があるようだ。

 

「それじゃあ、いくよ〜!ラーミラーミじゃーんけーん、じゃーんけーん、ポン!」

 

 

×××

 

 

 …数分後。

 

「という訳で、今回のラミラミじゃんけんの優勝者はエリゴスさんでした〜♡」

 

 宣言通りに優勝し、壇上に上がったエリゴスは、ラミエルから銃を受け取る。

 

「……マジか。考えたな、エリゴス」

 

 このエリゴスという少女、あろうことか自身の持つ能力「未来を予言する能力」をフル活用し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という、軽い反則技で勝ち上がり、最終的に魔法銃をあっさりと受け取ってしまった。

 ファンの男達は悔し涙を流している。

 

「今回のライブはここまで!みんな見てくれてありがと〜!」

 

 どこからか煙が立ち込め、ラミエル達の姿を隠す。

 煙が晴れると、そこにはもうラミエルはいなかった。

 同時に雷雲もどこかへ行き、太陽が顔を見せた。

 

 

×××

 

 

 人混みをかき分けてカゲツのところに戻ってくるエリゴス。

 

「すごいじゃないか、エリゴス!」

 

 カゲツに褒められて、エリゴスは嬉しそうにしている。

 エリゴスはビリーのところに行き、

 

「……これ」

 

 持っていた銃を、ビリーに渡した。

 

「え?くれるの⁉︎」

「……お菓子の、お礼」

「わーい!ありがとー、エリゴスお姉ちゃん!」

 

 エリゴスがビリーを仲間として認識するようになったのか。

 カゲツには、その光景がとても微笑ましく見えた。

 

「それにしても、改めて見るとずいぶん立派な魔法銃だ。ちょっと見せてくれないか?」

「いいよー!」

 

 ビリーから銃を手渡されると、突然、銃が鈍く光り輝く。

 

「?」

 

 次の瞬間。

 

 カゲツは突然後ろから誰かに抱きつかれた。

 

「⁉︎」

 

 すぐに背後を確認。

 すると、そこには少女がいた。

 フリルが沢山ついた白いドレスを身にまとった、オレンジの長髪の少女。

 赤いマントと変わった形の冠もつけている。

 見た目はビリーより少し年上といったところか。

 

「君は…?」

 

 カゲツが問う。

 

「私はソル。神姫だよ!あなたも神姫を連れてるの?」




ソルちゃん登場。そしてエリゴスちゃんずるい。
ソルちゃんの服は装飾が多くて表現に時間がかかるかと思いきや割とあっさり目に。
エリゴスちゃんの作戦は1話を書き終えた時にはすでに決定してたり。
後ラミラミとキュクロプスはまだ仲間にしてないのに無理やり登場させたり。


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光の神姫

エリゴスちゃんやビリーちゃんはブラウザ版、ソルちゃんはアプリ版の衣装で考えてます。
アプリ版の衣装チェンジは見ててなかなか面白い。
ほとんど肌隠しだけど。


 何らかの理由で武器を手に入れたら、突然神姫が現れた。

 カゲツは一度この光景を見たことがある。

 エリゴスが、まさにそうだった。

 だが、その後にとる行動が、寝ているカゲツの上に四つん這いでのしかかるという、少々常軌を逸したものだった。

 あろうことか、今回もそれは変わっていない。

 今回現れた相手は、突然初対面のカゲツに背後から抱きついた。

 そして言う。

 

「私はソル。神姫だよ!あなたも神姫を連れてるの?」

 

 

「…えっと…なんで抱きついてるんだ?」

「私を解放したってことは、私を仲間にしたいんでしょ?人間はこうやって親愛を深めるって聞いたよ!」

「いや、こう言うのには順序があるだろ⁉︎いきなり抱きつくなんてあるか⁉︎」

「人間の間じゃ、こういうのが普通って聞いたよ?」

「と、とにかく一旦離れて…」

 

「…………マスター……?」

 

「ヒッ⁉︎」

 

 異常に暗い女の声。

 カゲツは、壊れた機械の如く、声の方向へゆっくりと首を回す。

 案の定、そこには闇の魔力をダダ漏れさせたエリゴスの姿があった。

 怒っている。

 間違いなく怒っている。

 

「マスター……」

 

 エリゴスが、ゆっくりと近づいてくる。

 今すぐにでも逃げたいのだが、ソルがくっついていて動くことができない。

 そして、

 

 そっと、カゲツを抱きしめた。

 

「って、お前もかよ⁉︎」

 

 なんなのだろうか、この光景は。

 人が大勢いる広場の真ん中で、少女二人に抱きつかれるというよくわからない状況になっている。

 

「マスターには、私だけを見て欲しい……」

「あーもう!分かった!分かったから二人とも離れろ!ビリー!お前も便乗しようとするな!分かってるからな!」

「あっ…バレてた?」

「バレるわ!本当に俺が大好きだなお前ら!」

 

 

×××

 

 

「それで、ソルだっけか。アンタは何の能力を持つんだ?」

 

 何とか二人を引っぺがしたカゲツは、近くのベンチに腰掛けてソルに話を聞く。

 

「私にできることかぁ…そうだ!太陽作れるよ!」

「…?つまりどういうことだ?」

「だから、太陽を作れるの!」

「…今空で俺たちを明るく照らしてる太陽を?」

「私が作れるの!」

「…すごい能力だな、それ」

 

 エリゴスは未来予知、ビリーはガンマン顔負けの銃の腕。

 どちらも人間には真似できない能力を持っているが、やはりと言うべきか、ソルもぶっ飛んでいた。

 ピコン…

 突然デバイスが起動する。

 

『神姫ソルは、最上位の神姫。神姫の中でも指折りの実力を持ちます』

「最上位?神姫にも階級があるのか?」

『神姫にはそのような区別はありませんが、事実上は中位・上位・最上位といった階級が存在します。一方、英霊ははっきりと基本英霊・上位英霊・最上位英霊と区別がされています。ビリーザキットは基本英霊、エリゴスは上位神姫です』

「へぇ…」

 

 エリゴスはかなりの実力を持っていたが、単純に階級だけで考えると、最上位神姫のソルは上位神姫のエリゴスより強いということになる。

 そんなソルが戦ったら、どうなるのか。

 少し好奇心が沸くカゲツ。

 

 ドゴォォォン…

 

 突然響き出す爆発音。

 北の方向を見ると、黒い煙が上がっていた。

 

「…魔物か?」

 

 もしそうなら、急いで止めなくてはならない。

 カゲツの足は、無意識の内に動き出していた。

 エリゴス、ビリー、ソルは、慌ててカゲツを追いかけた。

 

 

×××

 

 

 爆発音が発生する数分前のこと。

 女の二人組が、北側のエリアを歩いていた。

 

「あっ!この食べ物美味しそうね。あっ、こっちも!」

 

 一人は緑のハンチング帽に、緑と金色のローブを羽織った銀髪ボブカットの女。

 

「…ハスター様、私達はここへ遊びに来た訳ではありませんよ?」

 

 もう一人は緑色の制服のような服に身を包んだ少女。

 長い銀髪で、杖を片手に携えている。

 ハスターと呼ばれた女は、少女の言葉に不満を出す。

 

「いいじゃない、イタクァ。せっかくのお祭りなんだから」

「ハスター様、自分の立場を分かっておりますか⁉︎貴女はいずれ黄衣の王となり、世の神姫全てを従える者なのですよ!そのような者がこのような祭りでハメを外していては、周りに示しがつきません!」

「もー、イタクァは相変わらず堅いわね。…ん?ああっ!あのお店のお酒美味しそう!」

 

 ハスターは、別の露店に駆け寄った。

 

「あぁ…スケジュールがめちゃくちゃです…」

 

 イタクァと呼ばれた少女は、頭を抱えてついていった。

 

 

×××

 

 

 ハスターとイタクァは、露店に設けられた椅子に腰を下ろした。

 やがて、酒がなみなみと注がれたジョッキがテーブルに運ばれてきた。

 ハスターはそれを見て目をキラキラと輝かせる。

 

「おいしそ〜!これはなかなかの上物ね!それじゃ早速…」

 

 ハスターがジョッキに手をかけようとした、次の瞬間。

 

 ドゴォォォン!!

 

「⁉︎」

 

 とてつもない衝撃が、ハスター達を…いや、北側のエリア全体を襲う。

 その衝撃はあまりにも大きく、酒の入ったジョッキが大きく傾いた。

 

「あっ…待って!」

 

 ガシャアン!

 

 ハスターの叫びも虚しく、ジョッキは倒れ、中の酒は全てテーブルに溢れてしまった。

 

「あぁ…あぁ…私のお酒が…」

 

 ハスターは怒りと悲しみでプルプルと震えている。

 

「…ハスター様、大丈夫ですか?」

「………ない」

「ない?」

 

「ぜっっっったいに許さないわ!!誰⁉︎あの爆発を起こしたのは!!」

 

 …どうやら、相当お冠のようだ。

 ハスターは涙を流しながら、怒りを顕にしていた。

 

「私がとっちめてやるわ!イタクァ、ついて来なさい!」

「…構いませんが、この人混みですよ?どうやって行くんです?まさか魔法で人を吹っ飛ばしたりなんてしませんよね?」

「………そんなことする訳無いじゃない」

「少し間が空いたということは、考えてたということですね?」

「うっ…」

 

 図星だったらしく、ハスターがバツの悪そうな顔をする。

 

「…ん?」

 

 ハスターの意識が、突然別のものに向いた。

 大勢の人が逃げる方向から、三人くらいの少女が走ってくる。

 テンガロンハットの少女は民家や街灯を三角飛びで足場にして飛び回り、純白のドレスを着た少女は露店の屋根を走り、手なのか翼なのかよくわからない装備をつけた少女に至っては、一人の男を抱えて空を飛んでいた。

 人がここまで逃げ惑っているというのに、率先してそこへ向かって行くのは何故なのか。

 そもそも、あの身体能力はなんなのか。

 建物や屋根でアスレチックしたり、当たり前のように人が空を飛ぶなど、魔法を使わない限りまずありえない。

 だが、ハスターとイタクァは()()()()()

 人間には真似できないことを平然とやってのける存在、神姫を。

 

「イタクァ、あれって…」

「えぇ、間違いありません。()()()()()()でしょう」

 

 何故なら、()()()()()()()()()()()()()

 

「イタクァ、人混みが少なくなったら、追うわよ」

「了解しました、ハスター様」

 

 普段はハスターのワガママを止めようとするイタクァも、この時はハスターに賛同した。

 

 

×××

 

 

「マスター、どうして泣いているの?」

「聞くな…」

 

 先陣を切って走り出したのはカゲツだった。

 しかし、彼は所詮人間。

 神姫や英霊のフィジカルに敵う訳が無かった。

 気づけばビリーが猫の如く街中を飛び回り、ソルには普通に走りで負けていた。

 そして、爆発でパニックになった人々が前から走って来た時のこと。

 カゲツの身体が、突然宙に浮いた。

 最後尾を走っていたエリゴスが、カゲツを背後から抱き抱えたのだ。

 そして翼を展開し、そのまま空を飛ぶ。

 カゲツはお姫様抱っこの状態になり、人混みに巻き込まれる事は無かったのだが。

 カゲツには、なかなか屈辱だったらしく、涙を流していた。

 

「なぁ、次にこんなことあったら背中に乗せてくれないか?」

「……おんぶされたいの?」

「違うからな…」

 

 カゲツのツッコミにはキレが無かった。

 

 

×××

 

 

 煙の元に到着したカゲツとエリゴス。

 既に、ビリーとソルは到着していた。

 

「お兄ちゃん、おそーい!」

「お前らと俺を一緒にするなよ。俺は人間だぞ?」

「リーダー、そんな雑談をしてる暇は無いよ!」

 

 ソルが指差す先には、黒い体色の魔物と、それを使役している三人の男達。

 魔物の一匹は狼のようなフォルムをしており、一匹は人型。奥の一匹はずんぐりとした大型で、腹に大きな口を構え、四本の腕を持っている。

 大型の魔物の口の中には…何やら人のようなものが見える。

 …いや、人ではない。

 先程カゲツ達の前でライブをしていた少女だ。

 

「ラミエル…!どうして捕まってるんだ⁉︎」

 

「ムッ!キミ達、ボク達のラミラミを奪うつもりか⁉︎」

 

 三人の男の内、痩せ型の男がカゲツ達に気づく。

 

「ボク達はラミラミがボク達以外の男に見られるのは許せないんだ!ボク達と一緒に暮らせば、彼女も幸せに決まってる!」

「ふざけるな!そんなものお前らの自分勝手だろうが!」

「うるさ〜い!ボク達の邪魔をするなら排除するまでだ!…ん?そこの銀髪…ラミラミの直筆サイン入り魔法銃を奪った女!ちょうどいい!あの銃も一緒にボクらのものにするんだ!行くぞ!」

 

 相手は完全にやる気マンマンのようだ。

 

「あれ⁉︎カゲツ達じゃん!どうしたんだよ、こんな所で!」

 

 突然声を掛けられた。

 建物の屋根を見ると、そこにはブロンドの髪の少女。

 街に入る前に案内してくれたが、その前にどこかへ走り去ってしまった彼女がいた。

 カゲツがその名前を呼ぶ。

 

「ヘルモーズ!」

 

 ヘルモーズは、華麗に屋根から飛び降り、着地する。

 

「どうしてお前がここに?」

「話は後だ!ったく、ラミエルったら、面倒なことして…ラミエルを助けたいんだろ⁉︎協力する!」

「助かる!お前、神姫なんだろ?」

「もちろん!馬術の達人、俊敏のヘルモーズとは私のことさ!」

 

「なんだ、お前達の仲間か⁉︎一人増えたところで何の問題もない!みんな潰してやる!」

 

 ラミエルを誘拐しようとする男達と、それを阻止するカゲツ達の戦いの幕が、切って落とされた。




大型の魔物はポケ○ンのアク○キングをモデルにしてます。
いつか○ケモンの小説も書きたいところ。

ハスター様はいいぞ!


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最上位神姫の実力

前回説明し忘れていましたが、中位神姫・上位神姫・最上位神姫とは、ゲームで言うR神姫・SR神姫・SSR神姫の事を指しています。
ついでに言うと、Nの武器や幻獣は「下位」で表現しています。


 ラミエル誘拐犯とカゲツ達の戦い。

 

「皆、邪魔……ダークネスレイ」

 

 先手を取ったのはカゲツサイド。

 エリゴスが単独で突っ込み、魔力波で攻撃した。

 ナイトメアスピアより威力は劣るが、代わりに攻撃範囲は広い。

 前にいる狼型と人型の魔物が怯む。

 その隙に、一瞬で距離を詰めたヘルモーズが人型に連続蹴りを浴びせ、カゲツが狼型の喉元を狙って剣を振るう。

 なんとか魔物達は距離をとってかわすが、ビリーとソルが見逃さずに攻撃。

 ビリーの銃弾が人型の脳天を貫き、狼型はソルの光魔法で吹っ飛んで建物の壁に激突、そのまま動かなくなる。

 一気に戦力で差をつけられた誘拐犯サイド。

 

「なかなかやるじゃないか…ならこれはどうだ⁉︎」

 

 大型の魔物の腕に魔力が集中し、魔法弾を発射する。

 とはいえ、弾速は遅い。十分に避けられる。

 ヘルモーズが一気に距離を詰め、ラミエルが捕らわれている魔物の下腹部を攻撃する。

 だが、蹴りは効かない。とてつもなく頑丈なバリアで防がれてしまった。

 

「無駄だ!このバリアは雷属性の攻撃では決して壊れない!ラミラミも雷属性、中から破壊することなんてできないのさ!」

 

「じゃあ……これは?」

 

 飛び出したのはエリゴス。魔物に向けて槍を突き立てる。

 

「防げ!」

 

 男の指示を受け、なんとか反応した魔物だったが、図体がでかいために動きが遅く、回避が間に合わない。

 エリゴスの槍は、バリアではなく魔物の腹の肉に深々と突き刺さった。

 このまま魔力を送り込み、内部から爆発させる…

 

 

 ……おかしい。

 いくら魔力を送り込んでも、爆発する予兆が見えない。

 その時、エリゴスの脳裏に映像が流れる。

 自身が、何者かに叩き潰される映像だった。

 とっさの判断で槍を引き抜き、全力で後退する。

 瞬間、エリゴスがいたところに、魔物の腕が振り下ろされる。

 大きな音を立てて、地面に敷いてあるタイルが粉々になった。

 見ると、先程までヒョロ長かった魔物の腕が、筋肉質になっている。

 

「ビリー!攻めるぞ!」

「うん!」

 

 カゲツとビリーが突っ込む。

 ビリーの二丁拳銃でバリアに攻撃するが、銃弾は全く効いていない。

 だが、それは囮。

 背後に回ったカゲツが、魔物の腕を剣で斬りつけた。

 

「何っ⁉︎」

 

 ()()()()驚きの声をあげる。

 剣は、確かに魔物に当たった。

 だが、少し肉に食い込んだだけで、剣はそれ以上刺さらなかった。

 カゲツの剣はなかなかの上物で、しかもまだ買って3日の新品だ。毎日手入れも行っている。

 カゲツ自身も、エリゴスが仲間になる前から一人で魔物を相手してきたし、鍛錬も日課となっている。今でもそれは変わっていない。

 神姫ほどの実力を持たないとはいえ、カゲツの剣が通用しない。

 更に、エリゴスの攻撃も効いている様子はない。

 これは明らかな異常事態である。

 カゲツがどういうことかと考えている間に、魔物は暴れだし、カゲツを振り払った。

 カゲツはなんとか回避する。

 しかし、距離をとったことで、魔物の攻撃体制が整う。

 

「攻めろ!シャドウ・ボウル!」

 

 男の指示を受け、放たれる無数の魔法弾。

 数、威力、弾速、共に先程とは桁違いだ。

 予知能力を持つエリゴスとスピード狂のヘルモーズは難なく回避するが、他はそうもいかない。

 特に、人間のカゲツには少々辛いものがあった。

 ギリギリで攻撃を避け続けていたが、近くに着弾した魔法弾の爆風に煽られ、地面に倒れてしまう。

 そこに飛んでくる魔法弾。この体制では避けることはできない。

 

「マスター!」

 

 エリゴスが割って入り、体を張ってカゲツを庇う。

 魔法弾がエリゴスに触れた直後、大爆発を起こし、エリゴスの背中を焦がした。

 

「エリゴス!」

 

 エリゴスは、カゲツに倒れかかってきた。

 

「しっかりしろ、エリゴス!」

「………マスター……大丈夫……?」

 

 相当ダメージは大きいようだ。

 だが、最初に魔物が撃った魔法弾は、とてもここまでの威力があるとは思えなかった。

 一体、どういうことだろうか。

 思考を巡らせるカゲツ。

 

「…なるほど、そういうことか」

 

 変化があったのは、あの時。

 

 ()()()()()()()()()()()()だ。

 

「お前…エリゴスの魔力で何かしたな?吸収して自身を強化するとか…そういう感じか」

「フフッ…見破るとは、やるな。そうさ!こいつは雷と闇の魔力を吸収してパワーアップできるのさ!」

 

 よほどの自信なのか、男はネタばらしを始めた。

 

「こいつは様々な魔物を合成させて作った、言わばキメラだ。その結果、偶然とはいえ、雷だけでなく闇にも強い強力な魔物が完成したのさ!こいつを作るのには、なかなか苦労したよ…」

 

 男が魔物を作る経緯を語り出したが、魔物が攻撃を再開したため、ゆっくりと話を聞いている暇もない。

 とにかく、これはかなりまずい状況だ。

 この調子だと、最初に撃ったダークネスレイも、もれなく魔物のエネルギーになっている事だろう。

 カゲツは動くことができないエリゴスを抱えながら避けているため、更に動きが鈍くなっている。

 ビリー達が何とかフォローするが、やがて体力の限界が来る。

 気づけば、全員疲弊しきっていた。

 

「なんだ、もうボロボロじゃないか。さっさとやってしまえ!」

 

 魔物が屈強な腕で、カゲツ達を潰そうと迫ってくる。

 その魔物に対して、行かせまいと立ち塞がる者が一人。

 

 それは、ソルだった。

 

「任せて。ソルが、皆を守るから!」

 

「正気か⁉︎よせ!解放されたばかりだってのに、死にたいのか⁉︎」

「大丈夫。ソルに任せて!」

 

 ソルが、手に持つ杖に魔力を込める。

 太陽を模した杖のコアが淡く発光し、装飾が高速で回り始めた。

 

「光魔法、いっくよー!アールヴレズル!」

 

 魔物の正面に光が集まり、やがて弾ける。

 魔物は怯んでいる。ダメージは与えられているようだ。

 だが、この程度の攻撃では倒すのは厳しいだろう。

 

「光魔法か、さすがにそいつは効くな…ん?」

 

 男が異変に気付く。

 

 エリゴスの魔力によって屈強になった魔物の腕が、細く、貧弱になり始めたではないか。

 

「なっ⁉︎どういうことだ!」

 

 男が驚きの声を上げる。

 魔物は衰弱し、地面に倒れこんだ。

 ソルは、その隙を見逃さなかった。

 

「闇を浄化する、閃光の太陽!」

 

 ソルが魔力を高めると、杖のコアの回転が更に強くなり、コアが外れて空に飛んで行った。

 空へ飛んで行ったコアはまばゆい光を放つ。目が開けられない程の光だ。

 

「ホワイト・プロミネンス!」

 

 ソルが両手を空に掲げ、技名を叫ぶと同時に、上空の光から何かが落ちてきた。

 …流星だ。

 光を纏った流星が、ものすごいスピードで魔物に向かって降ってきた。

 それも一つではない。

 無数の流星が、魔物を貫かんとばかりに降ってきたのだ。

 流星を受ける度に、魔物の身体はえぐれていく。

 鳴き声を発する器官が存在しないのか、魔物は無言でやられていき、叫び声も上げなかった。

 

「これで…トドメッ!」

 

 ソルが空に掲げた両手を同時に振り下ろす。

 瞬間、先程の倍以上のサイズの流星が、魔物を無慈悲に飲み込んだ。

 あまりの光に目がくらむ。

 やがて目が慣れてくると、魔物の本体は完全に消滅し、後にはラミエルを包むバリアだけが残った。

 そのバリアにもヒビが入り、ラミエルが解放される。

 

「…やっぱり、神姫は凄いな」

 

 エリゴスやビリー、ヘルモーズがかかっても倒せなかった魔物を、たった一人で倒したソル。

 カゲツは、最上位神姫の実力に、驚くばかりだった。

 

「そんな…ボク達が研究に研究を重ねて完成させた魔物が…クソッ!こうなったらラミラミだけでも…」

「させると思ってるのか?」

 

 ラミエルだけでも連れて行こうとする男達だが、ラミエルのそばには、既にヘルモーズが立っていた。

 ヘルモーズのスピードなら、ラミエルを抱えて一瞬で逃げる事も容易い。

 周りを見れば、騒ぎを聞きつけて駆けつけた憲兵も集まっている。

 男達は、もう素直にお縄にかかるしか無かった。

 

 

×××

 

 

 男達は憲兵に連行され、ラミエルを奪還することには成功した。

 だが、まだ負傷したエリゴスをどうするかという問題が残っている。

 

「大丈夫。ソルに任せて!痛いの痛いの、とんでけー!」

 

 突然、ソルが魔法を発動し、優しい光がエリゴスを包む。

 …いや、エリゴスだけではない。光はラミエル、カゲツ、ビリー、ヘルモーズ、ソル本人も包み込んでいた。

 戦闘でできた傷が、少しずつ癒えていく。

 やがて光が消えると、エリゴスの背中の傷は綺麗さっぱり無くなっていた。

 

「回復魔法…そんな技も使えるのか」

「ソルの一番得意な魔法だからねー」

 

 カゲツ達のすり傷も、完全に癒えている。

 エリゴスが身を起こした。

 

「エリゴス、大丈夫か?」

「……大丈夫。心配しなくていい」

 

 エリゴスは無事に復活したが、ラミエルの意識は戻らない。

 先程のバリアはラミエルの魔力も使って強度を上げていたらしく、相当消耗していたようだった。

 

「仕方ないな…なぁ、カゲツ達。ちょっとついてきてよ!礼がしたいんだ」

 

 ラミエルを背負ったヘルモーズが歩きだす。

 

「どこへ行くのー?」

「私たちのリーダーの所さ」

「さっきみたいに勝手に行くなよ?俺たちはあんたのスピードについていけない」

「分かってるよ…あーあ、ラミエルが起きてくれば、全力で走れるのになぁ…」

 

 残念そうにするヘルモーズであった。

 

 

×××

 

 

「さっきの光魔法…一体どういうことなの?あれくらいの攻撃じゃ衰弱するような相手には見えなかったけど」

 

 戦いの一部始終を見ていたハスターとイタクァ。

 ハスターには、ソルが魔物に使った魔法が理解できないようだ。

 

「あの魔法は…確か、攻撃した相手の強化魔法の効果を消去する魔法ですね。以前見た本でそのようなことが書いていました」

「よくそんな事を覚えていられるわね…」

「私の特技ですからね。ハスター様も、もっとそのような本を読まなければいけませんよ?」

「………」

「嫌そうな顔をしてもダメですよ」

 

 やがて、カゲツ達が移動し始め、ハスターとイタクァはそれを追いかけ始めた。




まずい…ヘルモーズを活躍させようと思ってたのに空気になっちゃった…


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継承者

待 た せ た な(待ってた人がいないとかそんなことは知らない)

何万課金したかはわからないけど、最近ようやく火エリゴスちゃんを仲間にできました。
ツンツンしやがって…まったくかわいいなぁ(バカ)


 ヘルモーズの案内で到着したのは、貴族レベルの高貴な者のみが泊まれる特別な宿だった。

 ラミエルの立場を考えると、このような場所に泊まるのも難しくは無いのだろう。

 

「ここが、今の私達の拠点だ」

 

 宿に入ると、綺麗な礼服を着こなす男達が、ヘルモーズに向かって礼をする。

 最上階まで続く階段を登り、案内された部屋の前で、ドアをノックする。

 

「どちら様ですの?」

「ヘルモーズだ!ラミエルを無事に連れてきたぞ!」

「本当ですの⁉︎すぐに皆さんを呼びますわ」

 

 やがて部屋の鍵が開く。

 中には、頭につけた薔薇の花飾りと、胸元の赤いリボンが特徴的な金髪ロングの女がいた。

 中々のナイスバディだ。

 太ももには謎の紋様が浮かび上がっており、薄く発光している。

 

「目立った外傷も無しと…なんとかなったようですわね。ところで、そちらの方々は?」

「あぁ、ラミエルの救出に協力してくれた、カゲツ達だ」

「あぁ、なるほど…。わたくしはカシオペア。この世で一番美しい英霊ですわ」

「なっ…英霊⁉︎」

 

 カシオペアは「この世で一番美しい」という部分を妙に強調して言ったが、問題はそこでは無い。

 彼女は自身を英霊と言った。

 英霊はデバイスを持つ継承者しか召喚できない存在のはず。つまり、

 

「継承者ってこと?あなたたちのマスターも…」

「まぁそうなるな。立ち話もなんだ、入ってくれ」

 

 部屋に入るカゲツ達だったが、また驚かされることになる。

 部屋にはよく分からない台座があり、そこに槍が突き刺さっていたからだ。

 この台座、とても元から備えられていたものではないだろう。

 よく見ると、カシオペアの脚にあるものと酷似した紋様が、槍からも伸びていた。

 カシオペアの武器なのだろうが、何をするつもりなのだろうか。

 

「さて、皆さんを連れて来なさい」

 

 カシオペアが命令すると、突然空間に穴が開いた。

 それだけでも十分驚くのだが、更に、奥から謎の巨大な手が伸びてきて、穴を強引に広げたのだ。

 やがて、中から3人ほどの人影が現れた。

 一人はラミエルのライブでギターを鳴らしていた少女で、左目が茶髪で隠れている。カシオペア以上の巨乳…いや、ここまでくるともはや爆乳の域で、中々目のやり場に困る。

 一人は頭に角を生やした金髪褐色の女で、背中には五つの小さな太鼓がついた輪を背負っている。その太鼓からはとてつもない雷のエネルギーが溢れており、実力者である事を伺わせる。

 最後はカゲツより数歳年下に見える小柄な少年だ。神「姫」というだけあって、女性の姿をしているはずなので、彼は神姫ではないだろう。

 

「順番にキュクロプス、雷光、そして、私達のマスターであるコガネだ」

 

 ヘルモーズはそれぞれ三人を紹介したが、カゲツにとってはカシオペアの能力があまりにも不思議で、内容が頭に入ってこない。

 

「……エリゴス」

「ビリーザキットだよー!」

「ソルだよ!よろしく!」

 

「なんでお前ら馴染んでるの…?」

「まぁ、神姫達にとっては、こんな能力を持っているのは当たり前のようなものなので…」

 

 コガネというらしい少年が、カゲツに近寄ってくる。

 

「コガネって言ったか。あなたも継承者なのか?」

「まぁ、そうですね。僕もデバイスを持っています。さ、カシオペアを戻さないと」

「戻す?」

「あれ?知らないんですか?まぁ、実際に見てもらった方が早いか」

 

 コガネはシャツの中からペンダントを取り出す。どうやらそのペンダントがデバイスのようだ。

 デバイスをカシオペアにかざすと、カシオペアの身体は光の粒子となり、デバイスに吸い込まれていった。

 またまた驚かされるカゲツ。

 

「英霊は本来、戦闘の時だけに召喚する存在。別にずっと召喚していてもなんの問題も無いんですけどね。ビリーザキットも英霊でしょう?」

「…あぁ、そうだ」

 

 てっきり、異世界へと行く為の扉を開いたり、英霊を操るだけの機械だと思っていたのだが。

 このデバイス、なかなか奥が深いと知るカゲツであった。

 

 

×××

 

 

「僕たちは、ラミエルの頼みで、ライブをしながら各地を周っているんです」

「ライブか」

 

 コガネに勧められた茶をすすりながら、カゲツは話を聞いている。

 エリゴスやヘルモーズ達は祭りに戻ったが、ソルと雷光はラミエルの様子を見る為に残っていた。

 

「俺はああいうものに疎いんだが…いつもあんな感じなのか?」

「そうですね。この世界に戻ってきたのも10回目くらいでしょうか」

「結構な数を回ってるんだな…」

「カゲツさんはどうしてこの世界に?」

「かつて魔法科学文明を滅ぼした厄災・ラグナロク。よくわからんが、俺はそいつを止める役割、継承者になったらしい」

「なるほど、あなたが…」

「知ってるのか?」

「えぇ。一部では言われていました。まもなくどこかの世界で継承者が現れると…」

 

「ソル、難しい話よくわかんないよ…」

「まぁ、あれに私達が突っ込むのは野暮だろう」

 

 ソルと雷光は、あくまでも傍観するらしい。

 構わずコガネは続ける。

 

「メガフロンティアは、全ての異世界と異世界を行き来するための中継点です。そこで産まれ育ったあなたが継承者に選ばれたのも、何かの運命なのかもしれませんね」

「そういうものなのか?」

 

「んっ……あれ?ここは…」

 

 ラミエルが目を覚ましたようだ。

 

「ラミエル!意識が戻ったか!」

「気分はどうだい?ラミエル」

「えっ?あぁ、うん、私は大丈夫…痛っ」

 

 ラミエルが顔をしかめる。

 まだ、身体にダメージが残っているようだ。

 

「動かないで!ソルが治してあげる。ぴかぴか、ぴかーん!」

 

 回復魔法を発動するソル。

 暖かい光がラミエルを包む。

 

「…ありがとう。ちょっと気分が楽になったわ」

「そう?良かったー!」

 

 ラミエルも回復したようで、一件落着である。

 

「ところで、この茶はなかなか旨いな。何の茶葉を使ってるんだ?」

「この世界の特産品です。僕もかなりの異世界を渡って来ましたが、これほどまでの茶葉はこの世界でしか見たことがありません」

「へぇ…俺も欲しいな。どこに売ってるんだ?」

「この街の南側の店なので、反対ですね…ですが、今日は祭りの日なので、出張サービスをしてるかもしれません」

「せっかくだから、買いに行こうかな?ラミエルの調子も良いみたいだし」

「良ければ、僕が案内しましょうか?カゲツさんはまだこの世界に慣れてないようですし」

「おお、そいつはありがたいな。頼むよ。ソル、ラミエルを診てやってくれ」

 

 マントを羽織り、外出の準備をするカゲツ。

 コガネも鞄を持って、いつでも出発できる状態が整った。

 しかし、カゲツはドアの前で足を止めてしまう。

 

「…どうしたんですか?」

「いや…大したことじゃない」

 

「だけど、まずは部屋の外にいる奴の対処が先だなって思ってさ」

 

 直後、ホテルの廊下からドタドタと足音が響く。

 それだけではなく、ドン、ドンと銃声まで聞こえるではないか。

 しかも、この部屋の前で。

 10秒、いや、5秒経つうちに、足音が止んだ。

 コガネが慌てて廊下に飛び出す。

 廊下には4人の女。

 杖を持った女はビリーに銃口を突きつけられて壁に寄りかかっており、角笛を持った女はエリゴスにのしかかられて身動きが取れないでいた。

 コガネは戦慄する。

 全く気配を感じ取れなかった。

 いつから尾行されてたのか、全くわからなかった。

 

「ヘルモーズ達と祭りに出かけたんじゃなかったのか?」

「お兄ちゃんがビリー達に残れって言ったのにー」

「そうだったか?」

 

 談笑する余裕まであるのか。

 コガネは驚きを隠しきれない。

 雷光とラミエル、カゲツの仲間であるソルまでもが同様だった。

 

(ソルさんには伝えていなかったのか…!)

 

 敵を騙すにはまず味方から、ということだろうか。

 彼女らを尻目に、カゲツはハスターに接近する。

 

「…いつから気づいていたのかしら?」

「誘拐犯との戦いの後、ソルがエリゴスを回復してくれた時辺りだ。魔物退治をしてたからな、魔物や人の気配を察知するのは得意なんだ」

「そう。…それで、私とイタクァをどうするのかしら?」

「そっちの対応次第だな。あんたらの狙いは十中八九デバイスだろ?」

「…何もかもお見通しみたいね」

「コガネから色々教えて貰ったからな。デバイスの重要性を知って、少し過敏になってるんだ」

 

 カゲツは冷たい目でハスターを睨みつけた。

 その茶色の瞳からは、微かに殺気すら篭っているようにも見える。

 観念したのか、ハスターは自らの目論見を話し始めた。

 

「私はハスター。いずれ黄衣の王となり、全ての神姫を従える神姫よ。そっちは部下のイタクァ」

「王…か。大きく出たな」

「自分が王になろうとしている神姫は別に珍しくないわ。私もその一人って訳」

「デバイスを使って、自らが王になる準備を進めたかった訳か」

「ちょっと違うわね。私はデバイスの存在なんて知らなかったわ。ただ、人間が神姫を操っているのを見て、何かあると思っただけ。デバイスがどんなものかは、さっきの盗み聞きでようやく知ったの」

「…王が盗み聞きなんてしていいのか?」

「う、うるさいわね…」

「それで、あんたはこれからどうするんだ?俺からデバイスを奪って逃げるか?」

「そんなことできると思う?今私は押さえつけられてて動けないのに」

「そうか。じゃあどうするんだ?」

 

「そうね、私は思ったわ。私が黄衣の王になるためには、そのデバイスの力が必要不可欠だと思うの。でも、あなたからデバイスを奪うのは相当難しいと思うの」

「…つまり?」

 

「私達をあなたの仲間に加えて欲しいの」

 

 直後、ハスターは殺気を向けられたのを感じた。

 だが、カゲツからではない。

 

 彼女を押さえつけているエリゴスからだった。




コガネ君のパーティ、見事に雷ばかりです。
キュクロプスと一緒にいるとかなり股間と性癖に困りそう。


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テスタメント

ハスターは「マスター君」って呼んで欲しかった。
なのでここでは君付けで呼ばせていただきましょうか。
趣味の範囲でキャラ設定を色々変えられるのは二次創作のいいところ。


 エリゴスは不満気だった。

 彼女の眼前には、主人であるカゲツと、彼の腕を抱いてご機嫌なハスターがいる。

 エリゴスは、むすーっとした顔で、ハスターを睨みつけた。

 

 

×××

 

 

 話を数時間前に戻そう。

 先程、ハスターは神姫を連れているカゲツに興味を示し、自身が黄衣の王になるための足掛けとして、カゲツの仲間になりたいと言い出した。

 ラグナロクを止めるため、神姫を一人でも集めたいカゲツと、王になるための経験値を貯めたいハスターとの利害が一致し、カゲツはハスターの部下のイタクァ諸共、自らの仲間に加えたのだ。

 

 

×××

 

 

 当然ながら、エリゴスにとって、面白い状況ではない。

 まぁ、要するに、彼女はヤキモチを焼いているのである。

 

 そんな中、ソルとビリーは、今日一日中歩き回ったのが応えたのか、ベッドの中で寝息を立てていた。

 そして、カゲツとイタクァは苦悩していた。

 エリゴスとハスターの仲が悪い事を気にしているのではない。

 

 資金が足りない。

 

 コガネ一行と別れた後、カゲツ達は街を散策し、ギルドや宿、武器屋等を見つけた。

 街が広くて散々迷った挙句、気づけば日が沈んでいた。

 レストランで夕食を取った後、ソルとビリーが眠そうにしていたので、宿に泊まった…といった具合である。

 たったそれだけなのだが、メガフロンティアでカゲツとエリゴスが稼いだ約30万ジェムの内、おおよそ4分の一が消えた。

 原因は、この一日で仲間が一気に四人も増えた為である。

 カゲツとエリゴスが食うには充分な程度のジェムはあったのだが、今日が祭りの日ということもあり、結構浪費してしまったのだ。

 この状況が続けば、財政難になるのは目に見えている。

 幸いなのは、この世界がメガフロンティアと同様の通貨を使っていることと、イタクァ側もそれなりの量の資金を持っていたことだった。

 とはいえ、いつまでもこのままでいい訳がない。

 

「しょうがないか…イタクァ、ハスター。お前達にも協力してもらうぞ」

「お金を稼ぐ方法があるのですか?」

「ある。しかも、俺が知ってる中では非常に楽な方法だ。というかそれしか知らん」

 

 そう言って、カゲツはマントから剣を取り出す。

 

「魔物狩りだ」

 

 

×××

 

 

 翌日、朝食を取ったカゲツ一行は速攻でギルドへ向かった。

 

「誰が一番早く着けるか競走しようよ!」

 

 とビリーが提案したので、全員走ってギルドまで向かうことになった。

 もちろん、カゲツが彼女達についていける訳がなく、エリゴスに乗せてもらった。

 のだが、今日はカゲツが積極的に自分を頼ってくれるのが嬉しかったのか、エリゴスの飛行は少々安定感に欠け、非常に揺れた。

 朝食を入れたばかりのカゲツは、当然ながらグロッキーになった。

 

 

×××

 

 

 吐き気をこらえながらギルドの依頼に目を通すカゲツ。

 この辺りの魔物は凶暴性が高く、よく畑を荒らすらしい。

 神姫が一気に増えたが、だからと言って高難易度の依頼を受けるとあっさり壊滅する危険性もあったので、ひとまずはそこそこの難易度の依頼を受けることにした。

 内容は、犬型の魔物の群れの討伐である。

 

「少し前までは、人里を襲うようなことはしなかったんですよね。あの魔物は」

「暴れ出したのは結構最近なの?」

 

 受付嬢の言葉にソルが反応する。

 

「そうなんです。人懐っこくて、番犬にしている家もありました」

「そんな魔物が人を襲うなんて…何があったのですか?」

「わかりません。ある日急に暴れ出し、鎖を引きちぎって森へ駆けていったそうです」

「へぇ…どうなっているのかしら」

 

 ハスターとイタクァが興味を示す。

 受付嬢は更に続けた。

 

「そうそう。しばらくしてその人の所に戻ってきたんですが、姿が変わっていたそうです」

「姿が?」

「えぇ、まるで…」

 

 

×××

 

 

 馬車に乗って、魔物の住まう森に到着した一行。

 馬車を降りるとすぐに森へ向かった。

 森は15メートル程度の木々で構成されており、日の光はほとんど入らない。

 薄暗い森の中を、カゲツ達はどんどん進んでいった。

 最近雨が降ったのか、土はうっすらと湿っていた。

 突然、カゲツが足を止める。

 

「止まれ。気配がある」

 

 同時に、エリゴスも何かを察したのか、カゲツの背後に立つ。

 エリゴスが止まると、すぐに全員が足を止めた。

 

「…右ッ!」

 

 未来予知で察したのだろうか。

 突然エリゴスが槍を突き出す。

 瞬間、金属音が耳に響く。

 右を見ると、エリゴスの槍が、魔物の爪を防いでいた。

 

「なっ…⁉︎」

 

 カゲツが驚きの声を上げる。

 だが、不意打ちされたことにではない。

 カゲツが注目したのは、その姿だった。

 頭に一対の耳と腰にふさふさの尻尾。ここまでは普通の犬と変わりない。

 だが、こいつは胸に豊かな二つのふくらみを持ち、手足は爪のついたミトンのようなもので覆われている。

 

 その姿は、魔物の姿をした人間の女そのものだった。

 

「こいつが魔物…⁉︎」

 

 グルルルル、と魔物がうなる。

 受付嬢が言っていた通りだ。

 見た目こそ人間だが、知性はかけらも見られない。

 気づけば、五体程度の群れに囲まれていた。

 

「…やるしかないようね」

「ビリー、俺を援護してくれ。他は一人一匹ずつ相手だ!」

「応ッ!」

 

 ビリーを除く全員が魔物に突っ込み、群れから引き剥がした。

 カゲツは剣を振るうが、野生の勘と言うべきか、魔物は的確に攻撃を避けていく。

 隙を見つけて、カゲツに襲いかかってきた。

 だが、攻撃はビリーの銃弾によって阻まれ、カゲツが腹部に一閃。

 腹を裂かれた魔物は倒れこみ、動かなくなった。

 もう戦力にはならないだろう。

 後ろを見れば、エリゴスとソルも戦闘を終えており、残るはイタクァとハスター。

 

「皆さん、下がってください!ポイゾナスガスト!」

 

 突然イタクァが叫ぶ。

 言われた通りに距離を取ると、イタクァの杖から紫色の風が吹き出し、魔物を包み込んだ。

 すると、魔物が突如地面に突っ伏し、身体を痙攣させ始めた。

 

「…毒の風か」

 

 やがて、風が霧散すると、魔物はピクリとも動かなくなっていた。

 奥を見ると、ハスターも魔物を片付けていた。

 

「私とハスター様は風魔法の使い手です。もちろん、ハスター様の方が私の何倍も強いです」

 

 イタクァがすまし顔で説明する。

 昨日尾行されてた時、こちらが先に不意打ちされていたら、間違いなくデバイスを奪われていただろう。

 

 そんな中、突然ハスターの背後から更に三匹の魔物が現れた。

 

「っ⁉︎避けろ、ハスター!」

 

 カゲツの言葉に反応したハスターは、ギリギリで攻撃を回避した。

 攻撃を仕掛けた一匹が攻撃をかわされて地面に突っ込むが、対応した個体がハスターに爪を向けて襲いかかってきた。

 ハスターは一瞬のうちに角笛を構え、強く息を吹き込んだ。

 瞬間、美しい音色が響き渡り、同時に襲いかかってきた魔物が二匹同時に吹っ飛んだ。

 魔物は木に激突。すると、木はメキメキと音を立てて折れた。

 

「は…⁉︎」

 

 なんて威力だ。

 カゲツが思わず腑抜けた声を上げる。

 あんな威力の風攻撃を受けたらひとたまりもないだろう。

 攻撃を避けられた魔物もハスターを攻撃しようとするが、無残に風魔法で吹き飛ばされてしまった。

 

「どう、カゲツ君?これが最上位の実力よ」

「最上位…ソルと同格か。確かにその強さなら納得だが…」

 

 やはり神姫は強い。

 それは当然なのだが、ソルと比べると魔法の攻撃力が段違いに高い。

 ヒーラータイプのソル、アタッカータイプのハスターといったところだろうか。

 

「……マスター、待って。まだ誰かいる」

 

 突然エリゴスが警戒を促す。

 すると、森の中から集団が現れた。

 しかし、魔物ではない。

 銀の鎧に紫のフードを被り、レイピアや魔法の杖で武装した男の集団だった。

 先頭の男が、カゲツ達を眺めて話し始める。

 

「魔物が突然倒され始めたから、何があったと思ったが…まさか神姫とは!」

「…神姫を知ってるのか。何者だ?」

 

 神姫という単語に内心では驚いたカゲツだったが、決して顔には出さない。

 カゲツがメガフロンティアで拠点としていた街では、神姫のことを知っている者は誰一人いなかったからである。

 そんな中、突然自分たちの前に集団で現れ、かつ見た目は普通の少女と変わらないエリゴス達を一発で神姫と見抜かれるとなると、流石に警戒せざるを得ない。

 

「俺たちはテスタメント。訳あって神姫を探しているんだが…ちょっとそいつらを分けてくれないか?」

「断る」

「即答か。何故だ?」

「こんな少人数を大勢で囲んで、武器まで持っている。ただの取引じゃあないだろう」

「そうだな。少なくとも、穏便に済ませられるとは思ってないな」

 

 先頭の男はニヤリと笑い、レイピアを空に向けて叫んだ。

 

「いくぞお前ら!神姫は生け捕りにしろ!男は殺しても構わん!」

「オオオオ!」

 

 雄叫びをあげて、男達が突撃してくる。

 

「リーダー、向かってくるよ!」

「……どうするの、マスター?」

 

 エリゴスが問う。

 それに対し、カゲツの返答はもちろん一つ。

 

「決まってる!迎え撃つぞ!」




ハスターは本来トリッキータイプ。
しかし、その基準は実装当時に防御デバフをかけられる唯一の風SSRだったからというもの。
普通にアタッカータイプでいいと思ってる。
カゲツ君も間違えて仕方ないよ、あれは。


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幻獣

前回投稿するのに何ヶ月もかかってたのに…
何があったよ俺


 テスタメントが集団で押し寄せる中、エリゴスは、単独で真っ正面から敵に突撃していった。

 エリゴスの槍が無慈悲に振るわれる度に、一人、また一人と男達がなぎ倒されていく。

 魔導師の男が魔法で迎撃しようとするが、未来予知を持つエリゴスには当たらない。

 そもそも、魔法弾を樹上にいるビリーに狙撃され、攻撃を届かせることすらできないこともある。

 エリゴスとビリーがほとんどの敵を二人で相手しているため、カゲツ達にかかる負担は少ない。

 しかし、ゼロではない。

 テスタメントはカゲツ達にも容赦なく襲いかかってくる。

 だが、相手は所詮人間。

 カゲツやハスターの敵ではなく、後ろからはソルとイタクァのサポートもある。

 戦いを続ける内に、テスタメントはどんどん数を減らしていった。

 

「くそっ、こいつら強ぇ!敵わねぇ!」

「退け!今日は撤退だ!」

 

 所詮数だけの集団だったらしく、テスタメントは負傷者を抱えて逃げようとする。

 

「逃がすか!ハスター、一人捕まえるんだ!」

 

 テスタメントとは何者なのか、何の目的で活動しているのか、何故神姫を集めているのか。

 知りたいことが山ほどある。

 ならば、一人こちらで捕まえて、情報を吐かせた方が手っ取り早いと思ったのだ。

 カゲツの指示を受け、ハスターがテスタメントの一人に向かって突撃する。

 彼は傷ついた仲間を背負いながら逃げているため、動きが遅い。

 男の目にはハスターがものすごい見幕で追いかけているように見えるのか、「ヒイィ」と情けない声を上げて逃げている。

 あと少しで手が届く。

 

「ハスター、止まって!」

 

 突然、エリゴスが叫ぶ。

 普段からエリゴスがあまり大声を上げないこともあって、驚いたハスターが足を止める。

 

 瞬間、ハスターの眼前に魔法弾が降り注いだ。

 

「⁉︎あっぶなっ…」

 

 あと一歩踏み出ていれば、確実に直撃していただろう。

 エリゴスの予知に助けられた。

 

「今のを避けますか…お見事ですね」

 

 突然声をかけられる。

 声の方向には、テスタメントのフードを被った小柄な少年。

 しかし、ほかの男達と違って鎧を着ておらず、身軽そうな印象を受ける。

 

「わたしは…そうですね、この世界で彼らテスタメントを仕切る、いわば上司みたいな者です」

「…何の真似?まさか、私達神姫をたった一人で相手するつもりじゃないでしょうね?」

「そのまさかですよ。わたしの部下を傷つけられて、黙ってなどいられません。とはいえ、流石にこの戦力差では不利ですね。逃げる時間を稼ぐ程度にしておきます」

 

 直後、少年は手に持った魔道書を開き、詠唱を始めた。

 一秒もしないうちに、彼の背面に大量の魔法弾が出現し、エリゴス達に襲いかかる。

 全員がかろうじて攻撃を避けるが、魔法弾は地面をえぐり、小爆発を起こす。

 スピードも速く、威力、精度共に申し分ない。

 回避行動を行ったためにエリゴス達に隙ができ、少年は更に追撃しようとするが、突撃してきたカゲツがそれをさせない。

 少年は身体をのけぞらせて剣を避け、魔法弾でカゲツを引き剥がした。

 ゴロゴロと地面を転がって攻撃を回避するカゲツ。彼のマントは泥だらけになった。

 

 かなりの実力者だ。

 それがカゲツの正直な感想だった。

 

 仕方ないと、カゲツは懐から何かを取り出し、少年に投げつけた。

 当然少年は回避する。

 しかし、着弾と同時に物体から大量の煙が溢れる。

 

(煙玉か)

 

 少年の視界は完全に塞がれてしまう。

 直後、銃弾が彼の頰をかすめた。

 ビリーの銃弾だろう。

 それだけではなく、闇の光線、竜巻、毒の風、光の炸裂弾が次々と煙の中から襲いかかってきた。

 どうやら、煙玉で視界を奪い、遠距離攻撃で仕留める作戦のようだ。

 風魔法のせいで徐々に煙は晴れているが、流石にこれでは持たない。

 瞬間、五方向から飛んでくる攻撃。

 少し遅れて、爆発が響いた。

 

「どうだ…?」

 

 煙が晴れる。

 少年は()()()立っていた。

 

「なっ…⁉︎」

 

 少年が無事な事にも驚きだが、()()()()()()()()()()()

 少年の前に、一人の女がいたからである。

 ひらひらした金色の衣装を身にまとい、長い髪にはいくつも花飾りがついている。

 そして、これまた金色をした機械型の馬のようなものにまたがっている。

 しかし、二本の長い角が生えており、もしかしたら馬ではないのかもしれない。

 

「平気ですか?マスター」

「…少々侮っていました。彼らはここで始末しておいた方がいいですね」

「わかりました。…精一杯、やらせていただきます」

 

 瞬間、機械の馬?から魔力がほとばしり、二本の角の間で雷のエネルギーが発生した。

 女が機械に命令すると、雷は強烈な電磁砲となってエリゴス達に襲いかかってきた。

 余裕を持ってかわすことこそできるが、威力は凄まじく、地面にクレーターができた。

 それほどの攻撃を放っておきながら、相手は即座に魔力をチャージし、あの威力の電磁砲を連発してくる。

 その間、一秒に一発の速さ。

 ビリー、ソル、イタクァが攻撃を放って相殺しようとするが、威力は相手の方が格段に上。

 エリゴスとハスターもほぼなすすべが無い。

 必然的にカゲツサイドは防戦一方になってしまった。

 

 これほどの攻撃力を持った敵が相手だと、実力が劣る人間であるカゲツは足手まといしにかならない。

 そんな中カゲツができるのは、あの突然現れた女が何者なのか、考える事だけだった。

 少年が現れた時、あの女が一緒にやってきた様子は無かった。

 これといった気配も感じなかった。

 つまり、少年を集中砲火したあの瞬間に、彼女は突然現れたことになる。

 生憎、カゲツはそれを可能にするアイテムを所持している。

 デバイスだ。

 おそらくあの女はデバイスで呼び出された英霊だ。

 何度か試してわかったことだが、神姫をデバイスから召喚することはできない。そのことが、推理を後押ししている。

 あの少年もデバイスを持っているに違いない。

 できれば今すぐに調べたいところだが、この状況では厳しい。

 というか、そもそもそんな余裕がない。

 ならば、せめて撤退だけでも。

 

「ビリー、下がれ!エリゴスとハスターは敵を牽制しろ!」

 

 カゲツの命令を受けて、ビリーが戻ってくる。

 

「さぁ…来い!」

 

 カゲツが命じた瞬間、デバイスに光が灯り、画面から大きな銃が出てくる。

 名は魔光銃ソルイグナイト。

 それは、かつてソルが封印されていた、あの銃だった。




エリゴスちゃんの予知ホント便利だわー(棒)

凄いのが能力持つ当人だけじゃなくその仲間までやられにくくなるってとこ
一気に死ににくくなるんですねこれが
ズルいわぁ…


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風魔法

前回のサブタイ幻獣だったけど前回に幻獣って単語一回も出てきてないやん!(殴


「さぁ …来い!」

 

 物体をデバイスの中に入れたり、デバイスを通じて異世界から呼び出したりする機能。

 同じデバイスの継承者であるコガネが教えてくれたデバイスの機能の一つだ。

 今回は、かつてソルが封印されていた銃、魔光銃ソルイグナイトを召喚した。

 

「ビリー、これを持ってろ。俺が合図したら撃て!」

「うん!」

 

 ビリーが銃を構えるが、相手側からしたら何かしら企んでいるのはバレバレである。

 相手は警戒の色を見せた。

 

「エリゴス、ハスター、接近戦で攻めろ!イタクァはサポートに入れ!」

 

 突撃するエリゴスとハスター。

 相手は電磁砲を連発するが、的確にイタクァが風魔法で迎撃していく。

 

「くっ…風魔法は相性が悪いですね」

 

 魔法には属性が存在する。

 火・水・雷・風・光・闇の六種類があり、火は風、風は雷、雷は水、水は火に強い。

 更に光と闇は上位の属性として存在しており、他の四属性にほんの少しだけだが強い。

 今回は、雷魔法を使う相手に、風魔法を使うハスターとイタクァが有利を取っている状態だ。

 数の利も手伝って、次第にカゲツサイドが押していった。

 

「ぐううっ!」

「落ち着きなさい!広範囲の電撃に切り替えるのです!」

 

 命令を受け、相手は即座に攻撃を切り替える。

 彼女を中心にドーム状の電撃を放ち、エリゴスとハスターを引き剥がした。

 エリゴス達は再び距離を取ることになってしまう。

 

 だが、問題はない。

 

 カゲツの背後から光が溢れる。

 ビリーが抱える銃に魔力がチャージされた証拠だ。

 これで発射準備は整った。

 とはいえ、一度発射してしまえば、しばらくチャージに時間がかかる。

 その間に攻撃される可能性は大いにある。

 故に、この一発が勝負を決めると言っても過言ではない。

 

「エリゴス!ソル!イタクァ!一斉に攻撃だ!」

「迎え打ちなさい!押し返すのです!」

 

 女の魔力が劇的に高まる。

 相手も全力のようだ。

 

「食らいなさい!雷霆万鈞(らいていばんきん)!」

 

 高圧の雷が三人分の攻撃をいとも簡単に押しのけ、カゲツに襲いかかる。

 

「撃て、ビリー!」

「うん!デス…バレット!」

 

 魔光銃ソルイグナイトから光球が発射される。

 威力はソルのホワイト・プロミネンスに勝るとも劣らない。

 光と雷がぶつかり合い、激しい衝撃が起こる。

 二つの大技はせめぎ合い…

 

 ビリーの光球が、相手の雷を貫いた。

 

「何っ⁉︎」

 

 全力の攻撃が押し負けるなど予想外の事態だったのだろう。

 攻撃と攻撃がぶつかり合ったことでスピードは大幅に落ちており、なんとか回避には成功する。

 だが、着地した女の足元から突如風が吹き出す。

 

「かわされるのは…予測済みよっ!」

 

 ハスターが起こす小さな風が竜巻となり、女を包み込む。

 その規模はだんだんと大きくなっていき、脱出も叶わなくなる。

 竜巻に煽られた葉っぱは、一瞬で吹き飛び、暗い森のそこだけは太陽の光で明るくなった。

 

「渦巻く旋風よ、食らい尽くせ!グレートオールドヴァン!」

 

 ハスターが手を天に掲げ、開いた手を握ると、竜巻が弾け、女を吹き飛ばした。

 

「きゃぁぁぁぁぁ⁉︎」

 

 女は木に激突する。

 それでも意識を失っていないようだが、確実に弱ってきている。

 ハスターがとどめを刺そうと近づく。

 

「……()としたことが、少々手を抜きすぎたらしいな」

 

「⁉︎」

 

 ハスターが反射的に飛び退く。

 俺?

 今、あの女は自分を俺と言ったのか?

 いや、問題はそこではない。

 

 先程までは感じられなかったとてつもない雷の魔力が、ハスターの身体に響いてきたのである。

 

(まだ本気じゃない…⁉︎)

 

 戦慄するハスターに構わずに、女はケガのことなど忘れたように立ち上がる。

 

「こっから本気出していくからよぉ…覚悟しな!」

 

「いい加減にしなさい、麒麟」

 

 女が襲いかかろうとしたその時、彼女の背後から殺気がした。

 彼女を従える少年の、とても冷たい殺気だった。

 

「あくまでもこちらの本来の目的は足止め。始末するとは言いましたが、ここまで貴女が負傷したらそれも厳しいです」

「なっ…マスター!俺はまだ行ける!」

「そういうのはいいので、早く撤退しますよ、麒麟」

 

 有無を言わさぬ威圧感。

 麒麟と呼ばれた女は、従わざるを得なかった。

 少年は、最後にカゲツの方を振り向いた。

 

「我々テスタメントと継承者は、よく衝突する。また会うこともあるでしょう」

 

 そう言って、少年は麒麟と共に森の中へ消えた。

 カゲツ達には、追いかける体力は残っていなかった。

 

 

×××

 

 

「麒麟」

「…はい」

 

 森の中を駆ける少年と麒麟。

 

「相手から弱体化魔法をかけられていたことに気づきませんでしたね?」

「その通りです」

 

 相手の攻撃力を下げるソルのカルドルーチェと、相手の防御を崩すハスターのエメラルド・ラマ。

 ビリーが攻撃のための魔力をためている間、エリゴス達の連撃に混ぜてかけた魔法だ。

 少年は察知していたが、麒麟は気づかなかったようだ。

 

「貴女の実力は確かですが、まだまだ甘いですね」

「…チッ、テメェも言える口じゃないだろうが…」

「素、出てますよ」

 

 雑談をしながら、二人は暗い森へ消えた。

 

 

×××

 

 

 夜。

 拠点としている街に戻ってきたカゲツは、エリゴスと二人で酒場にやってきた。

 

「それは英霊じゃないですね。おそらく幻獣です」

「幻獣…?」

 

 酒場には偶然にもコガネがいた。

 今日のテスタメントとの一件のことについて話していたら、男二人で話し込んでしまった。

 取り残されたエリゴスは、居合わせたヘルモーズと酒を飲んでいた。

 

「むぅ……」

「ハハ…そんなに落ち込まないでくれよ。飲もう?」

 

 落ち込むエリゴスに申し訳ないと内心では思いつつ、カゲツはコガネの話を聞く。

 

「幻獣は自然現象に形と人格を与えた存在。神姫と同様に、デバイスで操ることができます」

「なるほど…つまり、テスタメントはデバイスを持っている…?」

「おそらくはそうでしょう。我々の予測しない技術で操っている可能性も無くはないですけどね」

「技術か…」

 

 カゲツは苦い顔をした。

 あの少年は「また会うこともあるでしょう」と言った。

 あのレベルの敵をこれからも何度も相手するかもしれないと思うと頭が痛い。

 コガネは、そんなカゲツを見かねて酒を勧めた。

 

「このお酒はなかなか美味しいですよ。この店では一番かと」

「ありがとう。でも遠慮しとく」

「…?なぜ…」

「やばいんだ。あいつに見つかったら…」

「あーっ!マスターこんなところにいたの?」

 

 突然酒場の扉が開き、ハスターがやってきた。

 

「ハ、ハスター⁉︎お前、宿で休んでるって言ってただろ⁉︎」

「いいじゃないの、暇なのよ。あっ!美味しそうなお酒!」

「バカ!イタクァに怒られるぞ!」

「昨日の誘拐犯の件で邪魔されて我慢してたのよ!イタクァに見つかる前に…」

 

 ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ。

 

「……ぷはぁ…えへへ、このお酒なかなかの銘酒じゃない〜♪なんで教えてくれないのぉ〜?」

「嘘だろ…グラス一杯だぞ…あれだけでここまで酔うのかよ…?」

 

 ハスターは、今までの態度が演技だったかのように、目をとろけさせていた。

 確実に酔っている。

 カゲツはそんな様子を見てガクガクと震えていた。

 

『いいですか、マスター?ハスター様には決してお酒を飲まさないでください。酔っぱらって制御が効かなくなりますから…』

 

 カゲツの脳裏に、イタクァの言葉が浮かぶ。

 ハスターはカゲツに抱きつく。

 

「ねぇカゲツ…私の夫にならない?私と一緒なら、お酒も飲み放題だし、あーんなことやこーんなことだって、いくらでもしてあげるわよ?」

「お、夫⁉︎お前調子に乗りすぎだぞ、いい加減に…」

「……ダメ。マスターは、私と一緒。ずーっと一緒だかりゃ……」

「なんでエリゴスまで来てるんだよ⁉︎…ってうわっ、酒臭っ!お前まで酔ってるのか⁉︎」

「すまんカゲツ…そいつ酒勧めたら一気飲みして…」

「オォイ!何やってるんだヘルモーズ!」

「ハスター様!ようやく見つけましたよ…酔ってる!」

「おおイタクァ!ちょうどいいところに!助けてくれ!」

「…無理です。ハスター様の酔いが覚めるまではどうしようもできません…」

「おい!だからってなんで距離を取るんだよ⁉︎おーい⁉︎」

 

 酒場で大騒ぎするハスター。

 暴走はカゲツやイタクァだけでは止めることが出来ず、気づけば酒場の客全員を巻き込んだ宴会になっていた。

 

「ハハハ…本当に面白い仲間ですね」

 

 コガネはそんな様子を見て、苦笑いをしていた。




酔ったハスターはかわいい(確信)

このシリーズには基本的に作者が仲間にしたキャラしか出さないというルールがある…
(ラミラミで思いっきり無視したけど)

そして今回麒麟が登場した…

つまり…


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強襲

クリスマスヘルモーズはよ


はよ!


「……うぷっ…」

 

 青白い顔のハスターが、バケツを片手に横になっている。

 どう見ても二日酔いである。

 ハスターだけではない。

 カゲツと共に酒場に同伴していたエリゴスはヤケ酒でハスター同様体調を崩しており、酔いで暴走するハスターを止めようとしたイタクァも彼女らに巻き込まれ、結果当時の記憶が飛んでいる。

 

「これからしばらくハスターは禁酒だな…」

「うるさいわね…ていうか、どうしてマスター君は平気なの⁉︎私達と同じくらいのお酒を飲んでたじゃない!」

 

 正確にはハスターに無理矢理飲まされたのだが、カゲツは割とピンピンしていた。

 彼は酒に強い体質のようだ。

 見事に三人がダウンした為、まともに活動できるのは昨日の宴会に巻き込まれなかったソルとビリー、そしてカゲツの三人だけである。

 とはいえ、そうなったらそうなったで依頼の難易度を下げればいい話なのでそこまで問題ではないだろう。

 

「とりあえず今日は俺達だけで依頼を受けに行く。三人は休んでろ」

「ソルの回復もかけたし、大丈夫だよね!」

「よーし!行こっ、お兄ちゃん!」

 

「なんでみんな元気なのよー…」

「……飲んでないからだと思う」

 

 文句を垂れるハスターに、エリゴスはツッコミを入れた。

 

 

×××

 

 

「…依頼が無い?」

「はい。昨日の魔物討伐の報告を受けてから、街の衛兵総出でテスタメントの捜索にあたることになりまして」

 

 昨日依頼を受けた同じギルドにて、カゲツと受付嬢が話す。

 昨日ギルドにはテスタメントの事を連絡したが、どうやら彼等を危険視したらしい。

 ちなみに、ギルドには「テスタメントという組織が魔物を意図的に発生させているらしい」とだけ説明し、神姫については一切話していない。

 どうせ理解はされないだろうし、近くにテスタメントがいると考えると迂闊に話しかけにくいからだ。

 

「もともとこの辺りは治安が良く、警備もしっかりとしてるので、ギルドにまでこのような依頼が来るのは珍しいんです」

「へぇ…」

 

 とにかく、依頼が無いのなら何もする事がない。

 今日は一日暇になりそうだ。

 

「という訳だ。今日はこれといった依頼もない。何をする?」

「「お祭りいきたーい!」」

「えっ」

 

 前言撤回。

 今日一日、忙しくなりそうだ。

 

 

×××

 

 

 数時間後。

 中央広場のベンチに、疲れた顔のカゲツがいた。

 正直なところ、神姫や幻獣、テスタメントのことで頭がいっぱいになっており、とても祭りの事を考える余裕などなかった。

 そもそも祭りが今日まで開催されているとは思ってもいなかったのだ。

 言い訳はここまでにしておくとしよう。

 二人の子供に付き合わされ、無尽蔵の体力に振り回されたカゲツは、疲弊した様子でベンチに座り込んでいた。

 ソルとビリーは、カゲツの元を離れて別行動している。

 彼女らは神姫と英霊とはいえ精神的にはまだ子供だ。目を離すのは不安だったが、カゲツの体力が持たなかった。

 …改めて考えると、神姫は人間とは色々と規格外である。

 戦闘能力においては、間違いなくカゲツが劣っているだろう。

 

(こんな奴が本当にリーダーでいいのか…?)

 

 少し自分が弱気になっていくのを、カゲツは感じた。

 

 

×××

 

 

 その後もカゲツ達は日が暮れるまで街を回った。

 今日が最終日らしく、そのせいもあってかかなり盛り上がっているようだ。

 人の波に巻き込まれ、気を抜けばはぐれてしまいそうだ。

 

「お兄ちゃん、ソルちゃんどこ?」

「え?…本当だ、いなくなってる。人混みに流されたか?」

 

 早速やってしまったようだ。

 正直、どこにいるのかさっぱり見当がつかない。

 

「デバイスで探したりできるか…?…あ、できた」

「ホント?お兄ちゃんすごーい!」

 

 画面にはレーダーと、ソルを示す点が映っている。

 デバイスには神姫を探す機能まで付いているらしい。

 カゲツ達からは少しずつ離れてしまっている。

 

「仕方ないな、追うぞ、ビリー」

「うん!」

 

 

×××

 

 

 所変わって、ここはカゲツ達がいる街の城下町。

 この街の王族や貴族層が住むエリアには、衛兵を派遣するための施設がある。

 その一室に、慌てた様子の兵士が入ってきた。

 彼の上官は、その様子を見てどうしたと様子を伺う。

 

「…全滅です」

「何?」

 

 震えた声で兵士が告げる。

 

「テスタメント捜索に結成した部隊が、全滅しました!」

「…⁉︎どういうことだ!我が軍の兵士はどれも訓練を重ねた手練れ!そう簡単に全滅するなど…敵の数は⁉︎」

「一人です」

「…ひとり…?」

「蛇を連れたたった一人の女に、100人の兵士全員がやられました!」

「馬鹿な…そんなはずが…」

「報告!報告ッ!」

 

 話を遮って、別の兵士が駆け込んでくる。

 

「どうした!こっちは緊急事態なんだ!報告なら後で…」

「こちらも緊急事態です!東門から多数の魔物が現れました!」

「魔物⁉︎隣国が戦争でも仕掛けてきたのか⁉︎」

「いえ、どうやら野生の魔物が何者かによって操られているようです!術者はまだ確認できません!」

「クソッ…どうなってる…⁉︎」

 

 上官は頭を抱えた。

 

 

×××

 

 

 東門周辺。

 突然現れた魔物達。

 オークや昨日カゲツ達が戦った犬女(ガルム)など、多数の魔物が突然現れた。

 とても数が多く、兵士達だけではとても相手仕切れない。

 幸い、まだ魔物達から城門までは距離がある。

 城門を閉じてしまえば、魔物は進入できないだろう。

 兵士が制御室の仕掛けを操作し、城門を閉じようとする。

 

「急げ!城門を閉じろ!」

「おっと、させねぇよ!」

「⁉︎何者だ!」

 

 いつのまにか、制御室に紫のローブをまとった男達が進入していた。

 テスタメントのメンバーである。

 テスタメントは兵士の胸にレイピアを深々と突き刺し殺害、城門の操作を妨げる。

 

「邪魔者は消えた!一気に突撃、神姫を回収しろ!」

 

 通信機の様な機械を取り出し、テスタメントが指示を送る。

 瞬間、牛歩移動だった魔物達が街に向けて一斉に走り出した。

 こうなっては、兵士だけで止めることは叶わない。

 ついに、魔物は街へ侵入してしまった。

 人々はパニックに陥り、逃げ惑う。

 とある幼い少女は恐怖で足がすくみ、転んでしまった。

 母親らしき女性が呼びかけるが、彼女にはもう聞こえていない。

 少女の前にオークが歩を進め、手に持ったメイスを振り上げる。

 そして、無慈悲に振り下ろした。

 少女は目を瞑る。

 

 ガキィン!

 

 耳をつんざく様な金属音が響く。

 

「おい、大丈夫か⁉︎」

 

 男の声。

 目を開けると、青年…カゲツが剣一本でオークのメイスを受け止めていた。

 一瞬で割り込まれ、驚くオーク。

 直後、銃声が一発響き、オークは脳天から鮮血を撒き散らして倒れた。

 ビリーの見事なヘッドショットである。

 

「早く逃げろ、ここは危険だ!」

 

 カゲツに促され、ようやく少女は逃げだす。

 それを確認したカゲツは、視線を城門へ向ける。

 

 逃げ惑う住人。

 暴れる魔物達。

 それらを指揮している様に見える紫ローブの集団。

 

「まさかとは思ったが、やはりテスタメントか」

「!お兄ちゃん、あれ!」

 

 ビリーが指差す方向には城門がある。

 外には幌馬車があり、白いドレスを着たオレンジ髪の少女が見える。

 

「ソル!」

 

 どうやら、ソルはテスタメントに捕まっていたらしい。

 後ろ手を縛られているのか、まともに動けないようだ。

 あの様子では足枷も付いているだろう。

 カゲツ達に気づいたのか、幌馬車は出発してしまった。

 

「クソッ、待て!」

「お兄ちゃん!魔物が!」

 

 カゲツが追いかけようとするが、魔物達がその進路を塞ぐ。

 さらに、彼の頭上から犬女が飛び出し、襲いかかってきた。

 

 瞬間、犬女に闇の光線が直撃した。

 

 何が起こったのか分からないまま、犬女は情けない声を上げ、蒸発する。

 

「……マスター、無事?」

 

 エリゴスが、そこにいた。

 ハスターとイタクァも一緒だ。

 

「エリゴス!調子は良いのか⁉︎」

「大丈夫です。丸一日寝て、エリゴスもハスター様も回復しました」

「私達が休んでる間、ずいぶん大変なことになってたみたいね」

「あぁ。現にテスタメントにソルをさらわれた。…俺のミスだ」

 

 落ち込む様子を見せるカゲツ。

 エリゴスは、そんなカゲツを見かね、彼の肩を掴んで言った。

 

「落ち込むのは、後。今は、この状況をどうするか、考える。……そうだよね、マスター?」

 

 カゲツの目をじっと見つめるエリゴス。

 

「…そうだな、ウジウジしてても仕方がない」

 

 カゲツは顔を上げる。

 そこには暗い表情は見られなかった。

 そして、仲間に指示を出していく。

 

「ハスター、ソルは幌馬車に乗せられた。まだそこまで遠くには行ってないだろうから、ビリーと一緒に追いかけてくれ」

「わかったわ」

「任せてー!」

「エリゴスとイタクァはここに残れ。魔物を相手しろ!」

「了解」

「了解です!」

「ビリーちゃん、背負うわ。早く!」

「うん!」

 

 ビリーを背負ったハスターは、風魔法を展開し、空に飛び上がる。

 なるほど、それなら魔物に邪魔されることもない。

 しかし、テスタメントはそれを見逃さない。

 

「逃がすか!撃ち落としてやる!」

「させるか!」

 

 カゲツが剣を突き出し、横から妨害する。

 

「テメェ、やりやがったな!」

 

 十数人の紫ローブ男が集結。

 カゲツを取り囲んだ。

 

「マスター!」

「気にするな、エリゴス!お前は魔物に集中しろ!」

 

 囲まれても、カゲツは慌てた様子を見せない。

 余裕たっぷりの表情でカゲツは言った。

 

「お前ら全員、俺が片付けてやるよ。かかってこい!」




都合よく来てくれるエリゴスちゃん可愛い(は


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防衛

今年のクリスマスレイドイベは面白かったなぁ…
テスタメントの新装備とかワックワクよ()


 魔物から街を守れ。

 

 それが、エリゴスとイタクァに課せられた使命であった。

 どちらも多数の敵を相手するのは得意分野なので、妥当な判断だろう。

 その戦術は至ってシンプル。

 イタクァが毒で弱らせ、そこをエリゴスが狩る。

 イタクァの毒はだいぶ強力らしく、毒に多少耐性を持つらしいオークですら、歩くことすらままならなくなっている。

 そうなれば、予知を使わずともエリゴスで狩れる。

 敵の増援が枯れる気配は無いが、まだ大丈夫なはずだ。

 それよりもエリゴスが心配しているのは、テスタメント相手にたった一人で立ち向かったカゲツのことだった。

 

「エリゴス、マスターなら大丈夫ですから。私達は目の前の敵に集中しますよ」

「……うん」

 

 

×××

 

 

「お前ら全員、俺が片付けてやるよ。かかってこい!」

 

 自信満々に宣言するカゲツ。

 テスタメントの人数は剣士7人と魔導師8人の計15人、対してカゲツは一人。

 エリゴス達は魔物の相手に手いっぱいで、こちらまでは手が回らない。

 必然的に、カゲツは一人でこの人数を相手することになる。

 

「随分と大口を叩いてんな。俺達を舐めてるんじゃねーか?」

「少なくとも、人間としてはな。俺達を探しにきたのは結構だが、だからと言って民間人まで襲うのはどうかしてるぜ」

 

 カゲツは相手を挑発する。

 

「もっとも、この人数で俺一人に負けたりしたら、一生舐められるだろうがな!」

 

「…調子に乗るなァ!」

 

 あっさりと挑発に乗せられたテスタメントは、レイピアを構えて襲いかかる。

 男の一人が闇魔法を纏った突きを繰り出してきた。

 カゲツは、それをいとも簡単に避け続ける。

 突撃してくる相手が三人に増えても、それは変わらない。

 体を反らし、時には剣で弾く。

 レイピアを弾かれて体制を崩した相手に斬撃を与え、相手を一人、また一人と倒していく。

 あっという間に、剣士が三人戦闘不能になった。

 接近戦に持ち込まれては勝ち目がないと判断したのか、全員が距離を取った。

 魔導師が詠唱を始め、その間に出の早い遠距離魔法を使う剣士が攻撃。

 避けた所に魔道士の魔法が飛んでくる。

 そして、再び詠唱に入り、その隙を剣士がカバーする。

 なるほど、戦術としては理に適っている。

 魔法を一切使わないカゲツには有効だろう。

 避け続けるしか対応策が無いカゲツは舌打ちした。

 

「仕方ねぇ…ちょっと『本気』出すか」

 

 カゲツが突然そんなことを言い出し、足を止めた。

 魔導師の魔法がカゲツに向かってくる。

 炎魔法、雷魔法、闇魔法、種類は様々だ。

 

 カゲツは、それら全てを()()()()()()()

 

 テスタメントは皆驚いた。

 今まで攻撃を避けてばかりだった相手が、急に攻撃に対抗し出したからだ。

 その動揺が、彼等に大きな隙を生んだ。

 カゲツは剣を構えて突撃した。

 

「くっ…撃て撃てぇ!」

 

 テスタメントの対応は早い。

 一瞬で攻撃体制に入り、攻撃魔法を連発する。

 しかし、先程の瞬発力に剣での対抗が合わさり、攻撃はカゲツに全く届かない。

 魔法を連発した影響で魔力を消費し、相手はだんだん疲弊しているようだ。

 だが、テスタメントはそれだけでは終わらない。

 指示こそ無かったが、攻撃が足元に集中してきたのだ。

 ジャンプで避けるのを待ち、制御の効かない空中で狙い撃ちするという魂胆だろう。

 そして、実際にジャンプで避けざるを得ない攻撃が飛んできた。

 飛んでくる無数の闇魔法。

 カゲツは跳躍。

 体をひねらせ、剣だけで魔法を全て斬り裂いた。

 だが、それすらも予測していたのか、着地点に闇魔法が一つ飛んできていた。

 剣での斬撃も間に合わない。

 足を持っていくことはできるだろう。

 

 だが、カゲツは避けなかった。

 あろうことか、()()()()()()()()()()()()()()

 

「…は?」

 

 テスタメントは硬直した。

 自分の目に映った光景が理解できないようだった。

 踏み潰された?

 剣で斬ろうともせずに?

 俺たちの攻撃はその程度だったって言うのか?

 

「…今のが、お前らの全力か?」

「えっ?」

 

「…ぬるい」

 

 瞬間、テスタメント達に悪寒が走る。

 

 殺気だ。

 

 継承者から殺気が流れている。

 

 自分たちのランクが、人間から獲物に下がった。

 そんなことを思わされた。

 

 カゲツは固まっているテスタメントに突撃した。

 近くにいた相手から、片っ端から斬っていく。

 一人倒すのには一秒もかからなかった。

 相手の残りが五人程になると流石に相手も対応し始めたが、時すでに遅し。

 剣士の突きより速く、カゲツが相手を鎧ごと斬り裂いた。

 血を吐いて剣士が崩れていく。

 死んではいないだろうが、もう戦えない。

 やがて残りは魔導師の男一人となった。

 

「ひっ…ヒイィ…」

 

 男は腰が抜けたのか、立ち上がることすら出来ない。

 カゲツは彼の持っている杖を斬り飛ばし、魔法を使えないようにした後に、胸ぐらを掴んで威圧しながら質問した。

 

「わざわざ魔物まで引き連れてこの街にやってきた目的は?」

「ヒッ⁉︎…お、お前のっ、連れている神姫だ…」

「ソルをどこに連れて行った?」

「…昨日お前達と戦った、森の奥にっ、ある、古城だ…」

「そうか」

 

 カゲツは男をゆっくりと下ろした。

 

「マスター、無事⁉︎」

「ぐほっ⁉︎」

 

 エリゴスが突然抱きついてきた。

 イタクァも一緒だ。

 どうやら、魔導師を無力化したことで、魔物も大人しくなったらしい。

 ショルダータックルを食らったカゲツは激痛に悶えてうずくまった。

 

「大丈夫だから!そんなに強く抱きついてくるな!テスタメントと戦うよりこっちの方が大怪我するわ!」

「でも……心配だった……」

「エリゴスったら、戦闘中もずっとマスターを心配してたんですよ?」

「だからってそんな全力でダッシュするなよ!」

 

 そんなことを話していたら、ちょうど、憲兵が駆けつけてきたようだ。

 

「この街の憲兵は騒動が終わらないと来ないのか…?」

「対応が遅いのはどうにかしたほうがいいですね」

「聞こえてるぞ、君たち…」

 

 憲兵はテスタメントを次々と回収していった。

 魔物の遺骸や兵士の遺体も数多く残っているが、その掃除も彼等に任せてしまった方がいい。

 カゲツ達は、急いでここを出発しなければならないからだ。

 カゲツは憲兵と交渉することにした。

 

「テスタメントに俺の仲間が一人さらわれた。馬車で移動してたから、人の足じゃ追い付けない。馬車を貸してくれないか?」

「民衆を守ってくれた礼だ。好きなだけ貸してやろう」

「……いらない」

「いや、お前(エリゴス)は飛べても俺とイタクァが追いつけないんだよ。借りた方がいいって」

「マスターは私の背中に乗ればいい。イタクァは頑張って走って」

「「「えっ」」」

 

 ぶっ飛んだ発言をしたエリゴスに、三人は固まった。




カゲツ君はなぁ!
人間だけどなぁ!

強いんだよ!


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追跡

前回イタクァ走らせた方が馬車より速くないかみたいなこと(多分違う)エリゴスちゃんが提案してたけど普通に馬車使えば良くない?

おいおいシナリオグタグタだな(今更)


 空高く白い月が登っている。

 その光が、森の中を疾走する一台の馬車を照らしていた。

 よく見ると、その馬車は妙に明るい。

 中に光源があり、それが発光しているようだった。

 

「しっかし眩しいな。魔力を抑える手錠をつけてもこのままとは…」

「魔力ではない何かで発光しているのかもしれませんね」

「ん〜……!」

 

 口に布を巻かれ、手足に枷までつけられて身動きが取れない少女。

 彼女…ソルこそが、光源そのものだった。

 ソルはいつも自らの体を発光させている。

 かつて、彼女がその身に取り込んだ「太陽光炉」の力によるものだ。

 傷ついたエリゴスを治したのも、その力だ。

 心臓の鼓動を自らの意志で止めることができないように、彼女自身も光量こそ調節できるものの、その発光を完全に止めることはできない。

 唯一、カゲツのデバイスを使うことで発光を抑えることができるが、彼は今ここにはいない。

 

 ソルは今、テスタメントにさらわれているからだ。

 

 理由はカゲツたちには知る由もないが、テスタメントは神姫を欲している。

 祭りの人混みに紛れ、ソルを誘拐することに成功したテスタメントは、馬車に乗って彼らの根城へ向かっているのだ。

 馬車の中にはテスタメントの青年と少年、そしてソルだけだ。

 少年の方は、昨日カゲツらと戦ったあの少年である。

 フードに隠れてよく見えなかった顔は、ソルの光を浴びてはっきりと見えるようになっていた。

 最初、ソルはそれを見て驚きを隠せなかった。

 今すぐにカゲツ達に報告したいところだが、拘束されていてそれは叶わない。

 何より、ソルは少年の持つ魔道具によって記憶を消されており、彼の顔はすっかり忘れてしまった。

 よって、彼女は今さらわれた後拘束されて魔法を封じられ、行先がわからない馬車に乗せられた挙句見知らぬ男二人に監視されていることになる。

 この上なく不安だろう。

 現に、彼女の目には涙が浮かんでいた。

 

(みんな…リーダー…助けて…!)

 

 ソルは心の中で助けを求めた。

 

「後どれくらいで着きそうだ?」

「二、三分ですかね。この光で魔物に気づかれなければいいんですが」

 

 彼らがそんなことを話した瞬間だった。

 突然、馬車が傾いた。

 

「?なんだ?上り坂か?」

「いや、そんな坂はアジトまでのルートに無かったはずですが…なっ⁉︎」

 

 外の様子を見ようとして、少年は驚愕する。

 まず、外からとてつもない風が吹いている。

 目を開けることも難しい。

 それでもなんとか目を開くと、違和感に気づく。

 地面が妙に遠い。

 自分の見ている風景が、少しずつだが下に動いている。

 

「まさか…風で()()()()()()()()()()()()のか⁉︎」

 

 原因は馬車の下から吹き荒れている強風だ。

 その規模はどんどん大きくなり、竜巻となった。

 竜巻は馬車を浮かび上がらせるほど成長していった。

 だが、突然竜巻が消滅。

 当然馬車は落下し、地面に叩きつけられる。

 落下の衝撃で車輪が潰れ、ついでに荷台も少し壊れ、馬車は横転し使い物にならなくなった。

 

「少々乱暴だけど、馬車を止めるにはこれが手っ取り早かったのよねぇ」

 

 上からの声。

 見ると、ハスターがそこにいた。

 

「追いついて来ましたか」

「追いついてきたわ。全く、逃げ足は速いんだから。さて、ソルを返してもらうわよ」

「させません。彼女は今回の作戦に必要ですからね」

 

 少年は右手に魔道書を持った。

 詠唱すると、背後に魔法弾が出現し、ハスターへまっすぐ飛んでいった。

 

 だが、魔法弾は銃声が鳴った直後に爆発、ハスターには届かなかった。

 

 ハスターの背中からヒョコッと現れたのは、笑顔のビリー。

 魔法弾を全て狙撃してみせたようだ。

 

「弾は昨日いっぱい見たから、もう見切れるのー!」

「…お見事です」

 

 少年はテスタメントの男に言う。

 

「ソルを抱えて早くアジトへ向かってください。ここはわたしが食い止めます」

「…すまねぇな。頼むぜ」

 

 男は横倒しになっている馬車からソルを引っぱり出し、脇に抱えて逃げ出した。

 ソルはまだ拘束されているので、抵抗は不可能だ。

 

「ハスターさん!ソルちゃんが!」

「逃がすか!」

 

 追跡しようとするハスター。

 しかし、その行く手を雷撃が阻む。

 

「行かせませんよ」

 

 麒麟。

 少年が使役する謎の存在。

 コガネの言っていることが正しければ、あれは幻獣で間違いない筈だ。

 

「はあぁぁぁっ!」

 

 麒麟が乗っている機械から電撃が飛んでくる。

 更に、少年の魔法弾がハスターの退路を阻む。

 ハスターは回避に専念するが、ビリーを背負っているのでおぼつかない。

 ビリーは振り落とされないようにしがみつき、時々銃を撃って魔法弾を迎撃しようとするが、飛んでいるハスターの背中はバランスが悪く、うまく標準を合わせられない。

 

「…ビリーちゃん、降りてくれないかしら。私が麒麟を相手するから、ビリーちゃんは地上に降りてフードの子と戦って。その方が戦いやすいと思うわ」

「りょうかーい!」

 

 ビリーはハスターから飛び降りた。

 気づけば人間が落ちたら命を落とすのは避けられないレベルの高さまで来ていたが、彼女は英霊。

 無傷で着地することなど造作もない。

 

「ぶへっ⁉︎」

 

 …着地を盛大にミスったようだ。

 ビリーは顔面から突っ込んだ。

 

「……」

 

 場の三人が固まったのは言うまでもない。

 

 

×××

 

 

 ソルを抱えたテスタメントの男は、なんとかアジトの古城へたどり着いた。

 

「ぐっ…暴れるな!」

「〜〜〜っ!」

 

 ソルは男の腕の中で必死にもがいた。

 最も、魔力が封じられているこの状態ではソルは普通の少女となんら変わらない。

 焼け石に水だった。

 やがて、ソルはとある広間に連れ出された。

 

「リリス様!神姫を一人捕らえました!」

 

 広間の奥には古ぼけた玉座があり、そこに美女が座っていた。

 踊り子のような赤と黒の衣装に肉感的な身体を包み、膝から下はレースで着飾っている。

 妖艶、という言葉が彼女にはよく似合う。

 手には杖を携え、何故か紫の大蛇を侍らせていた。

 

「御苦労ね。奥の部屋に閉じ込めておきなさい」

「了解しました!」

 

 リリスと呼ばれた美女は男に指示を出す。

 ソルは奥の部屋に引っ張られていった。

 

「…爆発音?()が戦っているのかしら?」

 

 リリスは外の戦闘音が気になるらしい。

 そこでは、彼…少年とハスター達が戦っている真っ最中であった。

 

 

×××

 

 

「雷霆万鈞!」

「サモンフォーカイム!」

 

 空中でぶつかり合う風と雷。

 だが、徐々に風が押し負けているように見える。

 

「ぐっ…」

「どうしたどうした!仲間がいねぇとその程度なのか⁉︎」

 

 ハスターが苦しそうな表情を浮かべる。

 対峙する麒麟は、ハスターに、そして自分にキレていた。

 昨日の戦いでハスターに重い一撃を入れられたのが相当悔しいらしい。

 口調も一層乱暴になっている。

 その怒りが、彼女の内なる魔力を目覚めさせていた。

 元々、カゲツの神姫達五人を同時に相手取るほどの実力者だ。

 ハスター一人手玉にとることなど造作もない。

 

 だが、麒麟は攻撃の手を止めてしまった。

 

「…どういうことよ、ナメてんの?」

「ナメてるさ。この程度のやつをいたぶったところで面白みが無い」

 

 麒麟はすっかり興醒めしてしまったようだ。

 しかし、彼女はとある提案を仕掛けてきた。

 

「なぁ、あんたらは俺達テスタメントの仲間になる気は無いのか?あの男みたいな堅苦しい生活はしなくていいだろ」

「…えっ?」

 

 

××

 

 

 一方で、地上ではビリーと少年が戦っていた。

 少年が放つ魔法弾はビリーの正確な狙撃によって無効化される。

 しかし、ビリーが反撃に移る暇もなく次の魔法弾が飛んでくる。

 そして、その弾数とスピードは少しずつ増している。

 結果的に、今はビリーが押されている状況だ。

 

 そして、ついに。

 

「わぁっ⁉︎」

 

 ビリーの顔前で魔法弾が炸裂した。

 

 すんでのところで身を引き、爆発に巻き込まれない範囲で迎撃したため、ビリーにダメージはない。

 しかし、爆風までは避けられない。

 体の軽いビリーは吹き飛び、尻もちをついた。

 ふと空を見上げると、麒麟に苦戦している様子のハスターが目に映った。

 このままでは二人ともやられるのが目に見えている。

 

「貴女に仲間のことを心配する余裕があるのですか?」

 

 意識を少年に寄せられる。

 少年の背後には大量の魔法弾が浮かんでいた。

 今すぐにでも発射できるだろう。

 

「拍子抜けですね。継承者の部下ならもう少しまともかと思いましたが」

 

 少年の表情はフードと暗がりに隠れて見えないが、軽蔑しているのは明らかだ。

 

「麒麟!つまらぬ交渉などしている暇があったらハスターにトドメを刺しなさい!」

「はぁ⁉︎やらなきゃダメかよ…仕方ねぇな」

 

 麒麟も魔力をチャージし始めた。

 彼女の雷撃に飲み込まれれば、ハスターだとしても無事では済まない。

 

「貴女達のマスターに会ったら言っておきましょう!貴方の下手な采配で、部下が二人も命を落としたとね!」

 

「……!」

 

 ハスターとビリーの眉がピクリと動く。

 

 ハスターを貫かんとする神獣の雷撃。

 

 ビリーに襲いかかる無数の魔法弾。

 

 

「私達が死ぬですって…?」

 

「お兄ちゃんのせいで…?」

 

 

「「そんな事…ある訳無い!!」」

 

 ビリーは二丁拳銃を向け、一瞬で魔法弾を一掃した。

 一つを残して。

 

 残った魔法弾は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ⁉︎」

 

 魔法弾を全て狙撃された事と、最後の一発が突然消滅した事実に、少年は驚きを隠せない。

 

 

×××

 

 

 上空では、ハスターが雷撃を竜巻で受け止めていた。

 しかし、このままでは押し負けてしまう。

 

「ルクス・アルデバラン」

 

 ハスターが何か唱えた瞬間、彼女の魔力が跳ね上がる。

 竜巻のサイズはみるみる大きくなり、ついには雷撃を完全に包み込む。

 ハスターが麒麟に向けた右手を握ると、雷撃は潰され、霧散してしまった。

 

「…どうなってやがる」

 

 麒麟も、目の前の状況が理解できなかったらしい。

 

「お兄ちゃんを馬鹿にされちゃあ…」

「黙ってる訳にはいかないのよね」

 

 先程とは見違えるレベルの魔力をみなぎらせて、二人は叫んだ。

 

「「私達をナメるな!」」




こっそり番外編みたいなものを書いてますが完成時期が未定です。
だいたい半年くらい同じシナリオに頭悩ませてます。
気長に待ってくれれば幸いです。

タイミング半端過ぎて投稿しづらいって理由もあるけど…


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逆転の一手

ハスターさんは可愛いですねぇ
…酔ってなければ

酔ってなければ!(重要)


 ハスターとビリーの魔力は、先程とは比べ物にならないほど膨れ上がっていた。

 

 ビリーは腰のポーチに手をかける。

 取り出したのは、飲み水などを入れる革製のボトルだった。

 フタを外し、中身を飲もうとするビリー。

 

「させません!」

 

 少年が魔法弾を発射する。

 しかし、発射された頃には、液体は既にビリーの腹の中だ。

 ボトルを捨てたビリーは魔法弾に銃口を向け、引き金を引く。

 一秒もせず、彼女は全ての魔法弾を撃ち落として見せた。

 明らかにパワーアップしている。

 あのボトルに魔力を増幅させる液体が入っていたのかもしれない。

 少年がそんなことを考えている間に、ビリーの銃弾が次々と飛んでくる。

 今度はビリーが攻めに回る番だ。

 密度の高い銃弾の雨を、少年は魔法弾と軽やかな身のこなしでかわし続ける。

 しかし、だんだんと押されていく。

 これでは不利だ。

 仕方ないとばかりに少年は魔道書を開き、詠唱を始める。

 一秒もせず、彼の前には光のシールドが現れた。

 彼は防御魔法まで習得しているらしい。

 無数の銃弾がシールドに襲いかかるが、シールドは無傷。

 ビリーでは破壊することはできなさそうだ。

 しかし、ビリーはニカッと笑って、銃口を天に向けた。

 銃口を向けた先には…

 

 麒麟がいた。

 

(ここから麒麟を狙い撃つつもりか…?いや、当たるわけがない!)

 

 確かに、ビリーの銃弾でははるか彼方にいる麒麟を狙い撃つのは無理があるかもしれない。

 しかしそれは、()()()()()()()使()()()()()の話である。

 ビリーは銃に魔力を込め、叫んだ。

 

「これが、スナッチの真骨頂だよ!デスバレット!」

 

 ドォン!!

 

 ビリーが引き金を引くと同時に、爆音が響き渡る。

 それは、()()()使()()()()()がビリーの銃から放たれた音だった。

 

「っ⁉︎」

 

 一発、ビリーに着弾も撃ち落とされもしないで突然消滅した魔法弾があった。

 しかし、消滅させたのではない。

 奪っていたのだ。

 かつてビリーが教会騎士と対峙した時、騎士の鎧を剥ぎ取って擬態したのも、この技によるものである。

 少年の魔法に、更にビリーの魔力を上乗せした攻撃。

 空中の麒麟を狙い、その距離を一瞬で縮めていく。

 

「麒麟!下です!!避けなさい!!」

「なっ⁉︎」

 

 麒麟が下からの攻撃に気付いたようだが、もう遅い。

 魔法弾は麒麟が乗る機械に直撃した。

 機械が無ければ、麒麟は空を飛ぶことができない。

 魔法弾の衝撃でシステムダウンした機械は、麒麟を乗せたまま高度を落とした。

 落下しながらも、麒麟の視線は上を向いていた。

 視線の先には、強化魔法で魔法の威力が格段に上がったハスターがいた。

 ただでさえ高いハスターの魔力が、更に膨れ上がる。

 魔力は風へと変換され、麒麟を包み込む。

 

「…待て」

 

 落下しながら麒麟が呟く。

 ハスターには届かない。

 

「…待て待て待て待てェ!!」

 

 焦った表情を浮かべて、麒麟が懇願する。

 やはり、ハスターには届かなかった。

 

「グレートオールドヴァン!!」

 

 風は麒麟を握り潰すように包み、爆散した。

 

 爆風に煽られ、麒麟は地面に叩きつけられた。

 そして動かなくなる。

 死んではいないだろうが、戦闘は不可能だ。

 ハスターが地上に降りてきて、少年を睨みつける。

 

「教えてもらおうかしら。ソルをどこに連れて行ったの?」

 

 ハスターが戻ってきたため、少年に勝ち目は無くなってしまった。

 少年は、正直に行方を話しだした。

 

「…この道をまっすぐ進めば古城があります。…そこにソルはいます」

「そう」

 

 ハスターはゆっくりと近づいてくる。

 不意をついて逃げ出したとしても、ハスターの瞬発力の前には無力。

 更には、ビリーまでが銃を構えており、少年の逃走の選択肢を潰していた。

 

「知ってる事、洗いざらい話して貰うわ。ついでにフードで隠れてるその顔も見せてもらいましょう」

 

 逃げられる道理はどこにもない。

 

 普通ならば。

 

「…断る」

 

 瞬間、茂みがガサリと音を鳴らした。

 何事かとハスターが顔を向けると、スパークによるまばゆい光がハスターを照らした。

 閃光により、ハスターとビリーの視界は数秒効かなくなる。

 少年にとっては、その数秒で十分だったようだ。

 視界が効かないながらも、ハスターは何者かが自分の前を猛スピードで横切ったのを感じた。

 二人が視界を取り戻した時、少年はどこにもいなかった。

 負傷して動けないはずの麒麟も姿を消していた。

 少年を連れ去った者が麒麟も同時に回収したのか、デバイスの様な物で麒麟を戻したのか。

 詳細は分からないが、一つ言えることは、ハスターとビリーは少年を逃がしてしまったということだ。

 

 

×××

 

 

 五分ほど走って、ハスターとビリーは少年の言っていた古城へたどり着いた。

 石レンガ造りの建物で、長く使われていないのか所々にツタが張っている。

 しかし気になるのは、テスタメントのアジトと言われていながら、人の気配が全くしないということだ。

 カゲツ達のいた街を襲ったのは十五人。

 しかし、昨日森で襲われた時には倍近くの人数がいた。

 おそらく、残りのメンバーはこの城にいるはずだ。

 

「…突入するわよ」

「うん」

 

 本来ならカゲツ達を待った方がいいだろうが、時間をかけるとソルが何をされるかわからない。

 覚悟を決めたハスターとビリーは、半開きになっているドアから侵入した。

 二人を迎えたのは、赤い絨毯が敷いてある大広間だつた。

 煤けたシャンデリアが床に落ちてガラスを撒き散らしている。

 その代わりに壁に付けられたろうそくが火を灯している。

 人がいるのは明らかだ。

 見たところ、建築されてからかなりの年月が経っているようだ。

 手入れがされていないのか、少々埃っぽい。

 

「ばっちいわねー、本当にテスタメントがいるのかしら?」

「もしかして、今は別のところにいるとか…?」

「ないと思うわ。私達がソルを助けに来るのはわかってるはず。ここを空けたら、すぐに取り返されちゃうでしょ?」

 

 雑談をしながら、二人は城内を探索する。

 しかし、ソルは一向に見つからない。

 

「この正面の扉は調べてなかったわよね?」

「あと調べてないのはここだけじゃないかなー?」

 

 正面の扉に手をかけようとした、その時だった。

 

 悪寒を感じた。

 この扉の奥にいる、とてつもない魔力の持ち主のものだろう。

 

 恐らく、この扉の向こうに敵がいる。

 意を決したハスターは、木製の扉をゆっくりと開いた。

 

「あら、招かれざる客かしら?」

 

 扉の先は大ホールに繋がっていた。

 その奥にある玉座に腰掛けているのは、蛇を携えた美女。

 

「私はリリス。この世界でテスタメントを指揮する者よ」




次回、とうとうリリスと対決です。


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vs.リリス

リリスの技を確認する為にストーリーモードでリリスを探したけど…

全然見つからない…

一番強くてキュベレーの世界のやつって…
そんなに戦ってないのな…


「ここまで来たってことは、『彼』は負けたのね。やるじゃない」

 

 リリスと名乗る美女は、ハスターとビリーを褒めたてた。

 

「貴女達がここに来た理由は大体わかるわ。神姫を取り戻しに来たんでしょ?」

「よく分かってるわね。できれば今すぐ返して欲しいのだけど」

「無理ね。返せって言われてはいどーぞって返す程、私達はできてないのよ」

 

 ハスターとリリスは言葉を交わす。

 

「でもまぁ…私を戦闘不能にできるなら、こちらもソルを返すしかないわねぇ」

「あら、分かりやすいわね」

「確かに分かりやすいわね。それができればの話だけど」

 

 瞬間、ハスターの横から闇魔法が飛んできた。

 攻撃自体はビリーが撃ち落としたので問題ない。

 しかし、大ホールのギャラリーには、いつのまにかテスタメントの男達が数十人も立っていた。

 

「ちょっと!あんた達が手出しても意味ないのよ!私に任せておきなさい」

 

 リリスの指示を受け、テスタメントは追撃をやめた。

 

「さて、そろそろ始めましょうか」

「そうね、いつまでも無駄話する意味は無いわ」

 

 ハスターとリリスが魔力を高める。

 ビリーも、銃を構えて臨戦態勢に入った。

 

「エメラルド・ラマ!」

 

 先手を取ったのはハスター。

 相手の防御力を弱体化させる魔法を纏った風攻撃だ。

 それらを何発も繰り出す。

 リリスはサイドステップで回避し、攻撃が終わるのを見計らって突撃した。

 そして、手に持った杖でハスターに殴りかかった。

 距離を取れず回避が間に合わないと判断したハスターは、腕でガードして杖を受けた。

 腕と杖がぶつかり合うと、衝撃が響いた。

 想像より一撃が重い。

 何発も食らえるような攻撃ではない。

 

「ハスターさんから…離れてっ!」

 

 ビリーが横から銃を連射する。

 リリスは後退して回避したが、結果的にハスターから距離を取ってしまった。

 ハスターは角笛を吹き、先程よりも強力な風魔法で攻めたてる。

 一回撃つ毎に隙ができるが、その隙をビリーが銃撃で補う。

 リリスは二人から遠距離攻撃を連続で食らう羽目になった。

 しかし。

 

「流石ね。継承者がいなくても連携が取れているわ」

 

 状況に似つかわしくない表情と余裕。

 どうやら、彼女はまだまだ余力を残しているようだ。

 そして、リリスは再び突撃した。

 当然、ビリーが銃をぶっ放し、ハスターとの距離を離そうとする。

 しかし、リリスの傍らにいた蛇が動き出す。

 リリスの盾となり、銃弾を全てその身ひとつで防ぎ切った。

 おまけにちゃっかり防御魔法を発動させており、ほぼ無傷だ。

 妨害を避け切ったリリスは、杖でハスターに突きを繰り出した。

 人間の目で追うのはほぼ不可能な攻撃。

 すんでのところでハスターは回避した。

 

 ズドォン!!

 

 突きは床に風穴を開けた。

 

「嘘っ⁉︎」

「あの杖、尖ってもないのに…!」

 

 二人とも驚きの声を上げる。

 あの突きを食らえばタダでは済まないだろう。

 

「ルクス・アルデバラン!」

 

 ハスターは攻撃力を上昇させる魔法を発動させた。

 

「長引くと不利だわ。短期決戦で行くわよ!」

「りょうかーい!」

 

 ハスターは竜巻を発生させ、リリスに向かって発射する。

 速度・威力、共に申し分ない。

 とはいえ、リリスにとってこの程度の攻撃、回避するのは容易だ。

 しかし、リリスが避けた場所に向かって、ビリーが銃を連射する。

 

「ちっ!」

 

 リリスは銃撃を蛇にガードさせる。

 しかし、先程とは違い、蛇が徐々に押されている。

 

「あの小娘まで攻撃力が上がっているというの…⁉︎」

 

 やがて、蛇の防御魔法が貫かれ、蛇はダメージを負った。

 怯んだリリスに、ハスターが一瞬で距離を詰める。

 そして、風魔法を纏った掌底を叩き込んだ。

 吹っ飛ばされ、壁にぶつけられるリリス。

 衝撃で壁にヒビが入った。

 

「リリス様!」

 

 流石のテスタメントからも焦りの声が響く。

 ハスターは壁に寄りかかるリリスに急接近。

 拳に風を纏わせ、インファイトを繰り出した。

 肉弾戦はハスターの専門外だが、風魔法を併用することで一撃一撃が非常に重くなっている。

 リリスは腕をクロスしてガードの体制に入るが、ハスターの連撃は止まらない。

 更に、ハスターがリリスを殴る度に、壁のヒビがだんだん広がっていく。

 

「これで終わり!サモンッ…フォーカイム!」

 

 至近距離から強烈な一撃を叩き込む。

 

「ぐあぁぁっ!」

 

 リリスが背にしていた壁はついに崩壊し、リリスは奥の部屋へ吹き飛ばされた。

 

「マズイぞ、リリス様が!」

「いや、待て!あの部屋は…」

 

 テスタメントの声が聞こえる。

 どうやら、リリスを吹き飛ばした部屋には何かがあるらしい。

 瓦礫の埃にむせながら、ハスターは奥に入っていく。

 

「なっ…⁉︎」

 

 広さはホールの半分程度。

 そして、巨大な鉄格子が右手にあった。

 暗くて見えにくいが、鉄格子の奥に人のような影が見える。

 しかも一人二人じゃない。

 二十人程度はいるだろう。

 衰弱しているのか、ハスターが入ってきても何の反応もない。

 そして、その中に一人、淡い光を発している少女の姿があった。

 

「ソル⁉︎」

「⁉︎ハスター!」

 

 ハスターに気付いたソルが駆け寄ってくる。

 

「無事だったのね!ケガはない?」

「大丈夫だよ!他のみんなは…」

「ビリーちゃんがいるわ。マスター君達は街に来た魔物を相手してるから、ここにはいないけど…」

 

 とりあえず、ソルは見つけた。

 しかし、檻から出す手段が見つからない。

 檻の錠前は電子ロックで、鍵穴は見当たらない。

 パスワードで開くらしいが、適当に打って罠が発動しようものなら目も当てられない。

 カゲツの到着を待つしかないだろう。

 

 

「ハスターさん!後ろ!」

 

 突然ビリーが叫ぶ。

 

 背後から、蛇にまたがったリリスが襲いかかってきたのだ。

 

 蛇のスピードはとてつもなく速い。

 一瞬で距離を詰め、ハスターを串刺しにしようと杖を突き出す。

 ハスターはすんでのところで回避したが、リリスはしつこく刺突を繰り出した。

 

「決めたわ!あんたは絶対に殺す!!!」

 

 ビリーが助けようと銃を向けたが、無駄だった。

 相手が速すぎて、銃弾が当たらないのだ。

 狙いを定めず乱射すれば当たりはするだろうが、もともと効果があるかどうかと聞かれると怪しいし、何よりハスターやソル達を巻き込みかねない。

 つまり、ビリーは何もできなかった。

 ハスターは風魔法を纏わせてスピードを上げようと試みるが、リリスはそれにしっかりついてくる。

 大ホールと比べて半分以下の広さしかないこの牢獄では、逃げられる場所も制限される。

 そして、ハスターにも異変が起きる。

 

(…え?あれ?嘘っ、魔力が出ない…⁉︎)

 

 本人の言う通り、突然、魔力が出なくなった。

 スピードはガタ落ちし、攻撃は一切できなくなる。

 自分の身体に何が起きたのか?

 それを考えた時、ハスターの目の前にリリスが迫っていた。

 

(⁉︎しまった!)

 

 刺突が迫ってくる。

 避けようとしたが、無駄だった。

 

 刺突は、ハスターの右脚を貫いた。

 

「あああああッ!……ぐゔぅ…」

 

 ハスターが苦痛を訴えるかの様に叫ぶ。

 ふと自身の右脚を見ると、太ももからドクドクと血が流れていた。

 脚はなんとか繋がってはいるが、これでは立てない。

 

「どうしたの?まだ終わりじゃないわよ!」

 

 リリスが杖を振り、ハスターをぶん殴った。

 ハスターが吹っ飛んだ先にリリスは一瞬で移動し、再びハスターを殴り飛ばす。

 さながらお手玉の如く、ハスターは弄ばれた。

 

「強い…」

 

 ビリーとソルは、ただハスターが一方的に攻撃されるのを眺めるしかなかった。

 最上位神姫が、こうもあっさりやられるなんて。

 勝てる訳がない。

 お手玉を数十回繰り返したリリスは、蛇に指示を出し、尻尾でハスターの首を絞めた。

 

「ハスター!」

「ぐっ…⁉︎かはっ…」

「あんたは私に屈辱を味わわせたわ。たっぷり痛めつけて、そこの牢屋にぶち込んであげる。英霊のガキは、後でいーっぱい相手してあげるから、楽しみにしていなさい?」

「ハスターさんを離して!」

 

 ビリーが銃を撃つ。

 しかし、弾はバリアに阻まれ、逆にビリーへ向かって飛んで来た。

 対応しきれず、ビリーは攻撃をまともに食らってしまった。

 

「ビリー!」

「後でって言ったのに…待ってなさい、今すぐに終わらせてあげるから!」

 

 リリスはハスターに杖を向けた。

 間違いなく、この攻撃でトドメを刺すつもりだ。

 

「どのみち、もうすぐ私の部下が魔封じの枷を持ってやってくるわ。リリス様に逆らった事を悔やみなさい!アハハハハ!!」

 

 勝利を確信し、高笑いするリリス。

 

「さぁ …まずはあんたを黙らせてあげる!」

 

 長い間首を絞められ、ハスターの意識はほとんど飛んでいる。

 あれでは抵抗もできない。

 

「ハスターー!」

 

 ソルは泣きながら叫ぶ。

 しかし、彼女には届かない。

 リリスの杖が、無慈悲に煌めいた。

 

 

 

 

 ガキィン!

 

 

 

「……え?」

 

 金属音にも似た音が響く。

 

 見れば、何者かが、ハスターとリリスの間に文字通り()()()()()()()()

 

 巨大な手の様な機械の翼が特徴的な少女。

 ソルはその姿に見覚えがあった。

 

「……エリゴスなの?」

 

「……ハスターから離れて」

 

 エリゴスは槍に魔力を込め、リリスの杖を弾き飛ばす。

 

「ナイトメアスピア」

 

 そのまま闇の光線を蛇にぶつける。

 攻撃をモロに食らった蛇は後ずさり、ハスターを離した。

 ようやく解放されたハスターは咳き込んだ。

 

「ゲホッ!ゲホッ!……エリ…ゴス?」

「ハスター、平気?…じゃなさそうね」

「ハスター様!ハスター様!」

 

 続けて、銀髪の毒使いのイタクァが、叫びながら駆け込んでくる。

 

「ハスター様!脚が…ビリーもダメージを受けてますね…すぐに回復します!」

 

 ソル程ではないが、イタクァも回復魔法を扱えるのだ。

 イタクァは杖を持ち、詠唱を始めた。

 

「どういうことよ…街へ向かった部隊はどうしたのよ!」

 

 イラついた様子のリリスが叫ぶ。

 それに返答したのは、男の声だった。

 

「街に来たテスタメントなら全員憲兵に突き出したよ。ここへ入る時にもテスタメントがいたが、全員片付けた」

 

 茶髪に茶の瞳、黒いマントの男。

 継承者のカゲツが、そこにいた。

 

「エリゴス、イタクァ。そいつを倒して、ソルを助けるぞ」




カゲツ一行のご到着だぜぇ!
がんばれエリゴスちゃん!


ハスターは脚をえぐられるか腹をえぐられるかで悩みましたが、書いてる俺が無理だったので脚にしました(は


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毒と未来予知

前回結構間延びしたイメージがあったけど普段と比べたら1000文字くらい少なかった事が判明
というか普段から3500文字書いてたんだなと

もうすぐ二周年ですね


「全員倒したですって…?何言ってるのよ!」

 

 リリスは、大ホールに入ってきたカゲツを睨みつけた。

 

「嘘じゃない、本当だ。なんなら見てみるか?」

 

 カゲツが奥を見るように促す。

 よく見ると、奥の廊下でテスタメントの男達が倒れているのが見えた。

 

「ここにも憲兵を呼んでいる。いずれ包囲されるぞ」

「…流石、継承者といったところかしら」

「俺が継承者だと思うのか?」

「思うわよ。あんたのマントの奥から、光が漏れてるもの」

 

 カゲツがふとズボンのポケットを見ると、何かが確かに光っていた。

 どうやらデバイスが発光しているらしい。

 

(…なるほど)

 

 デバイスに表示された文字を見て、カゲツは納得する。

 

「それがデバイスかしら。似合っているじゃない」

 

 リリスがデバイスに興味を示したようだ。

 

「悪い事は言わないわ。それを私にくれないかしら?」

「断る」

「即答なのね」

「神姫を誘拐するような輩がデバイスを使って、ろくな事する訳ないからな」

「……マスター、長話し過ぎ。あいつに逃げられる」

 

 エリゴスがリリスの逃走を危惧する。

 しかし、カゲツは「そんな事はまず無い」と反論した。

 

「よく見ろ、ここには俺達以外には誰も入ってこれない」

「はぁ?」

 

 どういうことだ。

 ふとリリスの視界に、大ホールの出入口が入った。

 そこに、紫色の気体が多量に浮かんでいるのが見えた。

 

「…毒霧…ねぇ」

「…わかりますか」

「毒を使って挑んでくる奴なんて、よくいるわ」

 

 どうやらイタクァが、予め毒霧を出入口周辺に散布し、うまい具合に道を塞いでいるらしい。

 なるほど、それなら逃げることも、増援を呼ぶのも難しい。

 

 つまり、現状のリリスは孤立無援の状態だ。

 

「さて、どうする?大人しく捕まるか、抵抗して捕まるか」

 

 もうリリスに選択肢は無いように見える。

 しかし、リリスは笑みを余裕の表情を絶やさなかった。

 

「そうね、確かに神姫は諦めるしか無いみたいだけど…」

 

 瞬間、リリスは蛇にまたがり、目にも留まらぬ速さでカゲツに接近した。

 

「継承者、テスタメントにとって、貴方は邪魔なの。貴方を殺して、デバイスも奪うわ」

 

 リリスが杖を振り下ろす。

 あまりにも動きが速すぎて、デバイスをしまう余裕がない。

 カゲツはデバイスを左手で持ったまま、右手の剣で杖を受け止めた。

 重い。

 明確な殺意を持った、非常に重い一撃だ。

 彼女は本気でカゲツを殺そうとしている。

 攻撃を受け止められてはいるが、片手では限度がある。

 しかし、リリスの力が急に緩んだ。

 カゲツはなんとか杖を弾き、リリスから距離を取る。

 エリゴスが蛇の下に回り込み、下から攻撃したらしい。

 

「ちいっ!」

 

 舌打ちしたリリスが、カゲツに向かって襲いかかってくる。

 だが、またエリゴスが邪魔をする。

 槍と杖の猛攻。

 鋭い金属音が連続して響いた。

 だが、リリスの攻撃は全てエリゴスに見切られる。

 エリゴスの得意技、未来予知を使った回避だ。

 時に避け、時に受け止めて完全に防ぎ切る。

 

「意地でも行かせないってことかしら。ムカつくわね!」

 

 イラつく様子を見せたリリスは、魔力を漲らせた。

 

「まだ本気じゃないのか…!」

 

 この女、やはり只者ではない。

 カゲツは冷や汗をかいた。

 あの調子だとまだまだ魔力をブーストできるだろう。

 

「この技に見覚えがあるかしら?」

 

 リリスが頭上に生み出した、闇を纏った球。

 ラミエルの追っかけが使役していた魔物が、酷似した魔法を使っていた。

 

「あの魔物は私の魔力を注ぎ込んで強化したものよ。だから私の技を使えたの」

「やっぱり、あなたたちが……」

「でも、これから使うのは、あれとは比べものにならない威力よ」

 

 球はさらに増えていく。

 最終的な数は三十個程度。

 フードの少年程ではないが、かなりの数を扱えるようだ。

 

「食らいなさい!」

 

 それらを全てエリゴスへ向けて発射する。

 

「ダークネスレイ」

 

 闇を纏った衝撃波。

 リリスの弾幕に劣らない範囲を持ち、球とぶつかり合った。

 しかし、威力が分散したせいで、一発一発がとても強力なリリスの球には敵わない。

 衝撃波は、いとも簡単に押し負けた。

 しかし、それすらエリゴスの予想通り。

 槍にさらなる魔力を込め、弾幕に向かって放つ。

 

「ナイトメアスピア」

 

 闇の光線が威力の弱まった球を貫いた。

 球は大爆発。

 さらに、その爆発が別の球に衝撃を与えて誘爆。

 次々と爆発した。

 衝撃と爆風に煽られ、カゲツは吹っ飛び、ソルは尻餅をついた。

 埃が舞い散り、視界が一気に悪くなった。

 砂埃が舞う中、先に動いたのはリリス。

 蛇にまたがり、突如埃から突撃してきた。

 

(奇襲!)

 

 エリゴスは槍を構えて受け止める体勢に入る。

 そして、エリゴスと()()激しく衝突した。

 

「なっ⁉︎」

 

 リリスは高く飛び上がっていた。

 エリゴスを飛び越え、杖を向けてカゲツに襲いかかった。

 蛇はエリゴスを引きつけるための囮だったのだ。

 

「しまった!」

 

 爆風で怯んだカゲツは隙だらけだ。

 リリスは杖を突き出した。

 これではもう、エリゴスのフォローは間に合わない。

 

 だが、カゲツに付き従う神姫は、何もエリゴスだけではない。

 

「アブダクション!」

 

 カゲツの目の前で金属音が響く。

 イタクァが、リリスの杖をしっかりと受け止めていた。

 

「マスター!無事ですか⁉︎」

「助かった、イタクァ!ハスターとビリーは⁉︎」

「応急処置はしました。しばらくは大丈夫です!」

 

 二人の回復が終わったイタクァも、リリスの戦いに加勢した。

 

「注目魔法?珍しいわね」

「いいえ。さらに上位の攻撃集中魔法です。ハスター様とマスターを守る力です!」

 

 イタクァが「マスターを守る」と言った辺りでエリゴスが負のオーラを発した気がしたが、気のせいであってほしい。

 とにかく、反撃開始だ。

 エリゴスは両手で槍を持ち、リリスに向かって連撃を繰り出す。

 常人ではまず見切れない攻撃を、リリスは杖を回転させて器用に受けた。

 更に蛇を退げ、距離を取ってから魔法弾を連発した。

 魔法弾は弾速が増しており、エリゴスのダークネスレイも間に合わない。

 回避はできるが、エリゴスは近づけなくなった。

 

「イタクァ!敵の動きを止めろ!」

「了解です!ポイゾナスガスト!」

 

 ここで、カゲツの指示を受けたイタクァが動き出す。

 毒の風を発生させ、リリスの移動範囲を狭めた。

 

「今だ!奴はもう動けない!」

 

 退路を塞がれたリリスの元へ、エリゴスが突撃。

 槍に魔力を込め、全力で突き出した。

 

 ギィン!

 

「甘いわね」

 

 エリゴスの攻撃は蛇の防御魔法によって阻まれていた。

 全力の攻撃をものともしていない。

 更に。

 

「なっ…毒が消えていく⁉︎」

 

 イタクァが慌てる通り、毒霧が霧散していく。

 

「私の魔法を無力化したのですか…⁉︎」

 

 イタクァは驚きを隠せない。

 その横を、リリスと蛇が猛スピードで駆け抜けた。

 蛇は鋭い牙を伸ばし、カゲツを捕らえようとする。

 

「ぐっ!」

 

 カゲツは身体を逸らして蛇の噛みつきを回避した。

 しかし、頭上からリリスの刺突が襲いかかる。

 ギリギリで剣で受け、なんとかノーダメージでやり過ごした。

 

「ナイトメアスピア!」

 

 エリゴスが闇の光線を発射した。

 まっすぐにリリスに向かっていく。

 しかし、様子がおかしい。

 

「威力が……落ちてる……?」

 

 光線はリリスに近づくにつれ、遅く、弱くなっていく。

 そして、あと少しで届く、そんな距離で。

 

 光線は、虚しく霧散した。

 

「ハスター様⁉︎安静にしてください!」

 

 突然イタクァが叫ぶ。

 見ると、息も絶え絶えなハスターが、立ち上がろうとしていた。

 

「マスター君…気をつけて…そいつは敵の魔力を封じてくるわ」

「ハスター様!脚の傷が開きます!」

 

 ハスターはまだ立てそうにはない。

 ソルがいればなんとかなるだろうが、彼女は拘束されて魔力を封じられている。

 ハスターは戦えない。

 

「魔力を封じるのか…なるほど」

 

 しかし、カゲツは何か思いついたようだ。

 

「二人とも、目を塞げ!」

 

 叫んだカゲツが、蛇に向かって何かを投げつけた。

 黒い小さな玉だ。

 投げられた玉は、蛇に触れると同時にまばゆい光を発した。

 

「がっ⁉︎目が…」

 

 視界を奪われたリリスが蛇の上でうずくまる。

 

「今だ!リリスは動けない!」

 

 エリゴスがリリスに突撃する。

 カゲツの指示で目を塞いだので、リリスとは違い、視界は良好である。

 

「くっ…守りなさい!」

 

 リリスとエリゴスの間に割って入るように、リリスの蛇が飛び出した。

 防御魔法を展開、エリゴスの攻撃を受け止める。

 おそらくダメージはほとんど入っていないだろう。

 そして高速でエリゴスから距離を取る。

 リリス本人の戦闘能力もさることながら、彼女の蛇も相当厄介だ。

 防御魔法で的確に主人を守り、時には彼女の足となって機動力を補う。

 

 だが、やるべきことはやった。

 

「イタクァ!毒霧で行動範囲を狭めろ!」

「はい!」

 

 イタクァがポイゾナスガストを発動、リリスの周りに毒霧を発生させた。

 

「何やってるのかしら?そんなことをしても、無効化されるだけよ?」

「本当にそうか?」

「はぁ?」

「やってみろ。お前はもう魔力を無効化できない」

「…望み通り、やってやるわよ!」

 

 カゲツの挑発に乗ったリリスは、イラついた様に叫んだ。

 

 しかし、何もしない。

 

 そして、そのまま、何も起こらなかった。

 

「…どういうこと?」

 

 リリスは自らの身体中をまさぐり、何かを探すそぶりを見せる。

 しかし、彼女の探し物は見つかることはなかった。

 

「何故⁉︎何故()()が無いのよ!」

 

 リリスはは更にイライラを強める。

 瞬間、彼女の目の前で、エリゴスが槍を向けていた。

 

「言ったはず。あなたはもう魔法を無効化できない。……ナイトメアスピア」

 

 槍から闇の光線が撃ち出される。

 その一撃は、弱まることなど一切なく、リリスに直撃した。




かばうってどうやって表現したらいいんだろう
→攻撃集中魔法

だっせぇ…(ネーミングセンス皆無)


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ゴエティアハンド

神姫project2周年!おめでとう!

生放送良かったなぁ…
不動様はSuica派なんだなぁ…()


 エリゴスの槍から放たれた光線が、リリスを貫いた。

 先程まで、それらはあっさり無効化されていた攻撃。

 リリスの身に届くはずもなかった攻撃。

 

 カゲツの目論見が成功している証だ。

 

「…どういうことよ…どうして私の()()()()が無いのよ!」

 

 攻撃を食らったリリスは、イライラをブチ撒けるように叫ぶ。

 突如出てきたデバイスという単語に、イタクァは驚いた。

 

「私やエリゴスの魔法が無力化されたのは、リリスのデバイスが原因…まさか、リリスも継承者⁉︎」

「いや、違うな」

 

 カゲツはポケットから自分のデバイスを取り出し、画面をイタクァに見せる。

 画面には、『近くに量産型デバイスの反応あり』と表示されていた。

 

「量産型デバイス…⁉︎」

「本来のデバイスより能力は劣るが、それでも神姫の魔力を無効化することはできるらしいな。もっとも、本物のデバイスの影響下にあるエリゴスやイタクァには効かなかったらしいが」

「…確かにそうね。でも、それは私のデバイスが無くなった理由にはならないはずよ!どこにやったのよ!」

 

 カゲツのデバイスがリリスのデバイスの力を抑えられても、それだけではリリスからデバイスを奪うことはできない。

 ましてや、この戦いで、カゲツは自らリリスに接近していない。

 二人は実力が離れすぎていて、とてもデバイスを奪うなんてことはできないだろう。

 

「よく考えてみろ。俺の仲間は何人いる?」

 

 あの男の仲間?

 何度かテスタメントと接触しているカゲツの情報は、こちらに入っている。

 部下がさらってきたソル。

 私が脚を負傷させたハスター。

 今現在、戦っているエリゴスとイタクァ。

 あと一人…

 

 

 ……あと一人…⁉︎

 

 リリスが察した瞬間、彼女の背後で何かが発光する。

 

 そこには、魔光銃ソルイグナイトを構えたビリーがいた。

 

「デスバレット!」

 

 放たれた光球は、リリスの背中を的確に捉えた。

 声を上げる間も無く、リリスは光球に呑まれた。

 

「閃光弾で怯んだ隙に、ビリーのスナッチでデバイスを奪う。それが作戦だった」

 

 もちろん、この程度でリリスを倒せるとは思っていない。

 現にリリスは、ボロボロになりながらも立ち上がっていた。

 しかし、目にはまだ強い殺意が宿っている。

 どうやら彼女は、カゲツを殺すことをまだ諦めていないらしい。

 

「…やってくれるじゃない。油断してたわ」

 

 まだ余裕がある。

 リリスの底は、到底見えそうにない。

 

「前に別の継承者に絡まれてから、私も特訓したのよ。あいつは本当にムカつく奴だったわ」

 

 どうやらリリスは、別の継承者と戦ったことがあるらしい。

 

「でも、今回はそうはいかないわ。あいつを殺す練習台として、あなたたちも殺してあげる!」

 

 ただでさえ異常だったリリスの魔力が更に強大になった。

 

「エリゴス!ビリー!イタクァ!構えろ!」

「はい!」

 

 三人が返事をするが否や、リリスがエリゴスに突っ込んできた。

 エリゴスは両手でしっかりと槍を握りしめ、リリスと相対する。

 リリスの杖とエリゴスの槍がぶつかり合うと、闇の魔力が衝撃波を発生させた。

 ビリーとイタクァが、リリスの横から銃と毒霧を放つ。

 すかさず蛇が間に割り込み、主人を攻撃から守った。

 

「あなたたちの相手はこの子よ。存分に暴れなさい!」

 

 指示を受けた蛇はビリーに突撃。

 ビリーはなんとか回避するが、エリゴスのサポートには回れなくなった。

 

「イタクァ!ビリーを援護しろ!」

「はい!」

 

 ビリーを助けに向かうイタクァ。

 蛇と戦う二人の傍で、エリゴス対リリスのタイマンが勃発した。

 

(攻撃が当たらない…全て避けられてる⁉︎未来を見ているかのように…!)

 

 リリスの刺突をエリゴスは余裕の表情でかわし続ける。

 避けながら、時々反撃を入れる事も忘れない。

 一対一において、予知能力を持つエリゴスは圧倒的に有利だ。

 しかし、リリスも負けじと魔法弾を大量に放って応戦する。

 手数はリリスが有利。

 弾幕に押されて、エリゴスはリリスから距離を取った。

 からは、リリスの得意な間合いだ。

 無数の魔法弾を生成し、間髪入れずにエリゴスへ向けて発射した。

 エリゴスは遠距離攻撃を持たない訳ではないが、こうも隙間なく攻撃されると、反撃も何もできない。

 従って、エリゴスは不利な状況に陥っていた。

 

「エリゴス!」

 

 エリゴスの後ろからカゲツが叫ぶのが聞こえた。

 心配しているのだろう。

 この状況において、戦力で劣るカゲツは何もできない。

 しかし、エリゴスはカゲツの方を向いて言った。

 

「……任せて。マスターのことを思えば、どうということもない」

 

 瞬間、エリゴスの背後に剣のようなエフェクトが見えた。

 

「……闇に身を任せる」

 

 同時に、エリゴスの魔力が強く、濃くなっていくのがわかる。

 その間にも、魔法弾はエリゴスに次々と向かっていった。

 

「自分から的になってくれるのかしら?そのまま蜂の巣になりなさい!」

 

 無数の魔法弾が迫り来る。

 

「邪魔」

 

 エリゴスが目にも止まらぬ速さで槍を振るう。

 

 あろうことか、エリゴスを狙った魔法弾は、その一瞬で全て爆散した。

 

「⁉︎」

 

 その場にいた全員が、エリゴスの攻撃に目を見張った。

 エリゴスは翼を展開。

 空中に浮かび上がると、槍を構えて突撃した。

 そのスピードは、リリスの蛇をはるかに上回った。

 

「くっ、近寄るな!」

 

 リリスは魔法弾を放って牽制を試みる。

 それに対し、エリゴスは翼に魔力を集中させ、ローリングしながら魔法弾に真っ正面から突っ込んだ。

 魔法弾はエリゴスの魔力で打ち消され、エリゴスの接近を易々と許してしまう。

 急接近したエリゴスは、リリスに高速で刺突を繰り出した。

 

「がはっ…」

 

 攻撃を見切れず、その全てをまともにくらったリリスは吐血。

 身体のあちこちが裂傷し、血が流れている。

 主人の危機を察した蛇は、ビリーとイタクァの相手を放棄して、エリゴスに飛びかかった。

 鋭い牙がエリゴスに迫る。

 

 だが、エリゴスは回避せず、またもや突撃。

 蛇の下へ潜り込み、腹部に五発、一瞬で刺突を叩き込んだ。

 

 蛇はギリギリ意識を残しているが、攻撃する体力は残ってなさそうだ。

 

「私ですら目で追えなかった…なんて速さなの…⁉︎」

 

 ハスターが、信じられないように呟いた。

 

「どうする?……まだ戦う?」

 

 エリゴスはリリスに槍を向ける。

 その気になれば、いつでもトドメを刺せる。

 

「…フフッ」

 

 だが、この状況でなお、リリスは笑みを浮かべる。

 

「こんな気もしてたわ。()()()()()も残しておくものね」

 

 瞬間、古城は大きく揺れ始めた。

 

「何だ⁉︎地震か⁉︎」

「……!マスター!上からくる!」

 

 直後、天井にヒビが入り、倒壊する。

 そこに現れたのは、多数の巨大な魔物だった。

 更に、壁を蹴破って、別の魔物が入ってきた。

 それらは全て、ハスターやソル等、負傷して動けない者や、拘束されている者を狙って走り出した。

 見届けたリリスは、ふらふらと立ち上がった。

 

「どこからこれほどの魔物を…!」

「私は逃げるとするわ。憲兵が来るまで遊んであげなさい!」

「逃がすか!」

 

 ビリーが銃弾を放つ。

 しかし、またもや蛇に阻まれた。

 

「エリゴスの攻撃を受けても生きてるのか…!」

「じゃ〜あねぇ〜♪」

 

 リリスを乗せた蛇は魔物の隙間をスルスルと抜けて脱出。

 すぐに追おうとするカゲツだったが、ここでも魔物が邪魔をする。

 

「くっ…まずい、この数は相手できないぞ!」

「し、しかし、このままではハスター様やソルが!」

 

 そういう命令を下されているのか、魔物達はソルなどの拘束されている者や、ハスターといった負傷者を狙っていた。

 カゲツはハスターを守ろうとするが、一人では限度がある。

 そして、魔物の一撃は、カゲツの剣を易々と弾き飛ばした。

 武器を失い、丸腰になるカゲツ。

 そのカゲツに向かって、魔物は再び、棍棒を振り上げた。

 

「あっ…」

「マスター!」

 

 間一髪、エリゴスがカゲツを守る。

 しかし、エリゴス一人では太刀打ちできる数ではない。

 

「エリゴス、ここは…」

「マスター」

 

 カゲツの言葉を遮って、エリゴスが言う。

 

「……指示を」

 

 突然指示を求められるが、どうすればいいかわからないカゲツ。

 すると、懐で何かが震え出した。

 震えている物を取り出すと、それはデバイスだった。

 

「なんだ、これは…」

 

 見たことのない画面が広がっていた。

 画面に『ビリーザキット』『エリゴス』『イタクァ』と文字が写し出されている。

 そして、エリゴスを示すアイコンだけ、右側に『100』と表示されていた。

 訳が分からないが…

 

「あるのか?この方法を乗り切る手段が…」

「ある」

 

 エリゴスは肯定する。

 それを聞いて、カゲツはただ一つ、命じた。

 

「頼むぞ」

 

 指示を受けたエリゴスは、翼を展開した。

 そして、手のような翼を、弱く握るように縮こめる。

 その指先には、エリゴスの魔力が集まり、エネルギー体になっていた。

 エリゴスがその翼を勢いよく広げた。

 

 エネルギー体は怪光線と化し、魔物達の頭上から降り注いだ。

 

「グォォォォ!!!」

 

 脳天や腹を貫かれ、魔物達は絶命する。

 だが、怪光線だけでは全ての魔物を倒すことはできなかった。

 生き残った魔物の一匹が、エリゴスに金棒を振り下ろした。

 

 グシャッ!

 

 床板がいとも簡単に砕け散る。

 だが、()()()()()()()()()()()()()

 一瞬でカゲツの視界から消えたのだ。

 カゲツが周囲を見回すが、彼女は見つからない。

 

 コォォォ…

 

 何か音がする。

 上からだ。

 そこには翼を魔物達に向けたエリゴスがいた。

 

「邪魔……死んじゃえ……ゴエティアハンド……!」

 

 翼の掌と言うべき部分から放たれた光線は、魔物達を闇に飲み込んだ。

 数日前、カゲツは巨大オークを易々と貫くエリゴスの光線を見た。

 しかし、今回はそれとは段違いの威力だ。

 光線が止んだ時、生き残っている魔物はもういなかった。

 

「ひとまず…終わったみたいだね」

『無事に「バーストアタック」を決められたようですね』

 

 ソルが安堵すると、デバイスから音声が流れる。

 デバイスの中の少女のものだろう。

 

「『バーストアタック』…」

 

 カゲツが、デバイスの言った単語を呟く。

 画面を見ると、エリゴスのゲージは0になっていた。

 

「……もう朝……」

 

 山から登った朝日が、エリゴス達を照らしていた。




だいぶ伸びた()
十六話で短くなった分と思ってくれれば…

リリスとの戦いは一旦終わり。
次回、最初の世界での生活は最後です。


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エピローグ

(一章は)もう少しだけ続くんじゃ


 エリゴスが魔物を殲滅してすぐ、多数の憲兵がやってきた。

 しかし、リリスは逃げた後。

 カゲツ達が倒したテスタメントの部下も、全員いなくなっていた。

 リリスが魔物達のどさくさに紛れて回収したらしい。

 安全を確認したカゲツは、デバイスで牢獄やソル達の錠を解放していく。

 

「うぉっ、どうしたソル?」

 

 手錠が外されるとすぐに、ソルはカゲツに抱きついてきた。

 

「怖かった…リーダー、ありがとう…!」

 

 ソルは泣きながら、カゲツに礼を言う。

 ソルが落ち着くように、カゲツは優しくソルの頭を撫でた。

 

 

×××

 

 

 テスタメントがさらってきた神姫達のほとんどは、ロクな環境に置かれていなかった為か、ひどく疲弊していた。

 中には昏睡状態になっている者までいるほどだ。

 ソルの回復魔法で体力は戻したものの、しばらくは町の病院で入院する必要があるとのことだ。

 入院する神姫の中には、リリスとの戦いで脚を貫かれたハスターもいる。

 検査の結果、骨まで見事にやられたらしい。

 その状態でリリスにいたぶられ、傷を長い間放置したが故に血も多く失ったようだ。

 結果、ハスターは意識を失ってしまった。

 命に別状はないが、完治にいつまでかかるかわからない。

 回復するまでは街に残るしかないだろう。

 

「とりあえず馬車で街まで戻りましょう。私は疲れました…」

「ビリー、もう眠たいよ…」

「…確かに、一晩越したら眠いな。馬車で寝てくか…」

 

 馬車に乗り込んだカゲツ一行は、数分揺られるとすぐに夢の世界に旅立った。

 エリゴスはカゲツのそばに寄ると、小さく呟いた。

 

「……おやすみ、マスター……」

 

 

×××

 

 

 

「マスターくーん!会いたかったわ〜!」

 

 部屋の扉を強引に開けて、ハスターが飛び込んできた。

 ハスターはカゲツを見つけると、一目散に飛びついた。

 

「ぐはっ⁉︎」

「二日ぶりのマスター君〜♡ちゅ〜っ♡」

「ちょっ…ハスター様!スキンシップが過ぎますよ!そもそもなんでここに…」

 

 何故入院しているはずのハスターがここにいるのか。

 まさか傷がもう治っているわけがない。

 

「なんでって…傷が治ったからに決まってるじゃない」

「は?」

 

 そのまさかだったらしい。

 当時は蒼白だった顔にはすっかり血の気が戻っており、とてもあれほどの重傷を負ったとは思えない。

 

「ソルちゃんに来てくれた甲斐があったわ」

「ソルに頼んでたのか…昨日は出かけるって言ってたけど、まさかハスターのところに…」

「マスター君もお見舞いしてくれたっていいじゃないのよ」

「したわ!二時間もな!」

「足りないわ!もっとしてくれたっていいじゃない!お酒も持ってこないし!」

「憲兵から事情聴取される予定があったから仕方ないだろ!あと病人に酒を勧めるバカがいるか!」

 

 とりあえず、回復はしたようで何よりである。

 

「しかしまずいことになったぞ…」

「まずい?何がよ?」

「エリゴスですよ!今のハスター様を見たらなんて言うか…」

「……マスター……?」

「うわぁぁ見てた!いつからいたんだお前!」

「ハスターがマスターと濃厚なキスをしていた時…」

「最初からじゃねぇか!」

「あーっ!ハスター、こんなところまで来てたの⁉︎休んでなきゃダメって言ったのに!」

「ハスターお姉ちゃんばかりずるーい!ビリーもぎゅーってするー!」

「やめろ!エリゴスが本格的にやばいことになるから!」

 

 ソルとビリーまで乱入し、まさに修羅場。

 エリゴスが爆発する寸前でカゲツがなだめたため、大事には至らなかった。

 ちなみに、この後ハスターは普通に病院に連行された。

 回復こそ速かったが、最終検査をすっぽかして逃げ出して来たらしい。

 戻されて当然だろう。

 

 

×××

 

 

 最終検査を終えたハスターが戻ってくると、カゲツ一行は宿を出発した。

 そろそろ、次の仲間を探しに行くタイミングだと判断したからだ。

 だが、カゲツは一つやりたいことがあった。

 

「コガネに一度挨拶しておきたいんだ。デバイスのことや、幻獣のこととか、色々教えて貰ったしな」

「なるほどね。…そういえば、ここしばらく会ってないわね。私のお見舞いに来てくれてもいいじゃない」

「お前どんだけ見舞いに来て欲しかったんだよ…」

 

 雑談をしながら歩くと、コガネのいた宿に辿り着いた。

 しかし、受付嬢によると、コガネ一行は昨日チェックアウトしてしまったらしい。

 どこへ向かったかは、知る由もなかった。

 

「……マスター、どうするの?」

「…とりあえず、一度メガフロンティアに帰ろう。あの遺跡に向かうぞ」

 

 

×××

 

 

「お祭りの片付けも、すっかり終わったみたいだね」

「もっとお兄ちゃんといろんなお店回りたかったなー」

 

 すっかり変わってしまった街並みを眺めながら、ソルとビリーが話す。

 楽しい会話が続くが、そんな中ビリーがふと呟いた。

 

「こんなに楽しくても、ラグナロクが起これば、全部無くなっちゃうのかな…」

 

 ビリーの発言に、全員の表情が硬くなる。

 カゲツは、ビリーの頭を撫でる。

 

「大丈夫だ。お前らと一緒なら、ラグナロクだって止められる。きっとな」

 

 ビリーを安心させるようにカゲツは語った。

 すると、皆の表情も少し柔らかくなった。

 

「…そうだよね、ビリー達とお兄ちゃんがいれば、ラグナロクも止められるよね!」

 

「ソルも、リーダーやみんなをいーっぱい照らしてあげるね!」

 

「私も、マスター君の力になるわ。私に任せて!」

 

「マスターをサポートするのが、私達の仕事ですからね」

 

「マスター、……行こう?」

 

「おう、出発するぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ〜、これがポータルなのね!」

「一見するとただの鏡にしか見えません…これで本当に異世界へ行けるのでしょうか?」

「そう言えば、ハスター達はポータルを見るのは初めてだったか」

 

 カゲツがこの世界にやってきた時、付いてきたのはエリゴスとビリーの二人だけ。

 だが今は、ソル・ハスター・イタクァが加わり、計六人だ。

 

「この調子で、ラグナロクを止めるための神姫をどんどん集められるといいんだけどな」

「そう簡単に行くのかな?」

「神姫は皆私達よりも一癖も二癖もある人ばかりですからね」

「……イタクァが言えるようなことじゃないと思う」

「何言ってるんですか。早くしましょう、スケジュールが狂いますよ!」

「イタクァお姉ちゃん、そういうとこだよ…」

「おい、ポータルが起動できたぞ。行くぞ!」

 

 ポータルがまばゆい光を発し、カゲツ達を飲み込んでいく…

 

 

 

「⁉︎」

 

 カゲツは驚愕する。

 まず、メガフロンティアに戻ることはできたらしい。

 召喚された場所に、カゲツは見覚えがあった。

 異世界へ渡る前に、ゴーレムと戦った大広間だ。

 そのゴーレムが、大広間の中央辺りに陣取っているのだ。

 奴はビリーとエリゴスに弱点の頭を貫かれて機能停止したはずだ。

 更に驚いたのが、その横に教会騎士が大勢並んでいることだ。

 ここにいるだけでもざっと二十人はいる。

 そして、一人の女が彼らを代表して前に出た。

 

「貴方が侵入者ですね。単刀直入に言います。デバイスをこちらへよこしなさい」




一章はこれで終了となります。
次回から普通に二章に入ります。
人気が出なくても意地でこの小説は続けていきますので、今後もよろしくお願いします。

あと、ちょっとした番外編を作る予定です。


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二章:教会騎士遭遇編
エレミア


ハスター「前話の更新が二ヶ月前だけど何があったの?」
作者「言うて前に半年間隔空いたこともあったけどなぁ…」
イタクァ「そういうのいいので、早く説明してください」
作「神姫のR小説書いたり#コンパスにハマってR小説書いたりしてました」
ハ「R小説ばかりじゃない…」
イ「で、本当の理由は?」
作「ポケモンの非公式大会参加して色々厳選してました」
ハ「浮気者かしら?」
作「やめろ」

第二章、始まります。


「単刀直入に言います。デバイスをこちらによこしなさい」

 

 カゲツ達を取り囲む、大勢の教会騎士。

 彼らを代表して言ったのは、ボアコートを肩に羽織った美女だった。

 他の教会騎士にも見られる赤と銀を基調とした服装だが、彼らとは違い、自身の豊満なボディを見せつけるような服装をしていた。

 

「嘘だろ…待ち構えてたのかよ…」

「継承者がこのポータルから消えたという報告がありましてね。防衛機構も破壊されていましたし、予め待機しておいたのです」

 

 その破壊された防衛機構は、今現在頭部を修復され、教会騎士の後ろに立っている。

 命令があれば、すぐにレーザーをカゲツ達に照射できるだろう。

 

「あなたたちには三つの罪があります。許可を得ずに勝手に遺跡に侵入したこと、遺跡の壁や防衛機構に損害を与えたこと、そして我ら教会騎士に攻撃したことです」

 

 メガフロンティアにおいて、教会騎士は強大な地位を得ている。

 魔法科学文明の遺産の中で最も重要な、各地に点在する遺跡。

 それらをあらゆる敵から守るため、相応の実力を持つ騎士が大勢いる。

 そういった者たちが街を警備すれば、犯罪の抑止力にもなる。

 結果、遺跡の守護だけではなく、メガフロンティアでの憲兵の役目も果たしているのだ。

 一般市民が逆らったら投獄はほぼ確定である。

 そして、カゲツ達は投獄されてもおかしくない罪を三つも抱えている、というのがあちらの見解のようだ。

 

「だからって、『人間兵器』エレミアまで呼ぶか、普通…⁉︎」

「おや、私を知っているのですね。その通り、私はゼスト教第一騎士団騎士長、エレミアです」

 

 額に汗を垂らすカゲツ。

 だが、神姫達は「人間兵器」なる単語にピンとこない。

 

「『人間兵器』…?」

「教会騎士の中でも指折りの実力を持ってることから付けられた二つ名だ。人間としての実力はメガフロンティアでもトップクラスだろう」

 

 カゲツが説明すると、ビリーやソルは身構える。

 警戒する様子を見て、エレミアは笑みを浮かべた。

 

「あまり抵抗はしない方が身のためですよ。これほどの人数差が…」

 

 

「邪魔」

 

 

 エリゴスが放った闇の光線がエレミアの横を突き抜け、彼女の背後のゴーレムの頭部を貫いた。

 

「⁉︎」

 

 ゴーレムが仰向けに倒れ、教会騎士に衝撃が走った。

 

「おいエリゴス!やるなら先に言え!」

「言ったら相手に避けられると思ったから……」

「はぁ…まぁいいか。ゴーレムは潰した」

「どうするの、マスター君?」

「ここまで来たら逃げるしかないだろ」

 

「逃げられると思っているのですか!」

 

 エレミアが教会騎士をけしかける。

 だが、神姫の力の前には意味がなかった。

 

「サモンフォーカイム!」

 

 ハスターの強烈な風魔法が教会騎士を一斉に吹き飛ばす。

 竜巻は反対側の通路まで伸び、綺麗な一本道を作り出した。

 

「今よ!」

 

 ハスターの合図に合わせて、一行は走り出す。

 迫る教会騎士をビリーの銃撃とイタクァの毒霧で遠ざけ、通路に入ることに成功した。

 教会騎士は追おうとするが、狭い通路を大人数で通ることはできない。

 我先にと行こうとした結果、ほとんどが進めずにいた。

 

「エリゴス、羽をしまえ。この狭い通路だと邪魔になりやすい」

「でも……」

「大丈夫だ。それでも騎士は相手できるだろ。それに…今は仲間がいる」

 

 困惑するエリゴスの前に、ビリーとイタクァが出る。

 

「私達に任せてください」

「お兄ちゃん達は、ビリーが守るのー!」

 

「背中は私に任せて!マスター君には、指一本触れさせないから!」

「頼む!ソルは状況に合わせてサポートしろ!」

「了解だよ!」

 

 ハスターとソルも、後続の相手をするために構えた。

 

「エリゴス、お前が心配しなくても、俺達はいける。安心して守られろ」

「……わかった」

 

 エリゴスは機械の羽を解除する。

 同時にエリゴスの魔力が大きく下がってしまう。

 が、前からの敵をカゲツ、ビリー、イタクァで、エレミア率いる後続はソルとハスターで相手することで、なんとか逃げようという魂胆だ。

 それには、前からの敵も脅威だが、何よりも追ってくるエレミア達を、最悪ハスター一人で抑え込む必要がある。

 

「相手はここにいる教会騎士全員がかかっても敵わない強敵だ。ハスター、いけるか?」

「…上等じゃない。やってやるわ」

「頼もしいな」

 

 カゲツがそう言った瞬間だった。

 

 光の光線が、カゲツの頬をかすめた。

 

「っ⁉︎」

 

 鈍い痛みに頬を抑えるカゲツ。

 手に残る血の感触からして、出血しているのは想像に難くない。

 

「もう追いついてきたの⁉︎」

 

 教会騎士でごった返していたはずの背後から、エレミアが一人で歩いてくる。

 まさか単独で追ってくるとは、完全に予想外だ。

 自身の部下が足止めにもならないことをよくわかっている。

 

 そして、アクシデントはまだ終わらない。

 

 バチッと電気の流れる音がする。

 どこからだ?

 エリゴスがふと上を見ると、電流が尾を引いていた。

 

「マスター君!」

 

 電流の正体を察したハスターが、自分以外の全員を風で吹き飛ばす。

 

 瞬間、カゲツ達のいた場所に、天井から伸びた鉄格子が突き刺さった。

 

「ハスター⁉︎」

「ハスター様!」

 

 ハスターと他の五人が分断された。

 鉄格子の間隔は狭く、とても通れない。

 

「どうなっているんです…⁉︎」

 

 突然作動した遺跡の罠。

 カゲツ達も驚いたが、一番驚いていたのは、他でもないエレミアだった。

 

「奴らが仕掛けたんじゃないの…?」

 

 どうやら意図的に起こした罠ではないらしい。が、状況は深刻だ。

 ハスターが単独行動を強いられ、エレミアに追われる。

 デバイスで遺跡の内部を把握しているので、デバイスを持たないハスターが迷って出られなくなる可能性すら出てきた。

 

「この鉄格子を壊せれば…」

 

 ソルが光魔法を発射する。

 瞬間、強烈なスパークが発生し、魔法をかき消した。

 もちろん鉄格子には傷一つつかない。

 

「壊すのは無理そうですね。剣を使うと感電する恐れもあります」

「…ハスター、大丈夫か?」

「心配しないで。逃げるのは余裕よ。風魔法を駆使すれば脱出だって…」

「……リリスとのことを考えると……」

「やめて⁉︎」

 

 エリゴスの一言にツッコミを入れるハスター。

 そして、鉄格子で分断された二組は、別々の道を行く。

 

「逃がしません!」

 

 ハスターに光線を放つエレミア。

 ハスターはそれを的確に回避し、横道へ逃げた。

 

「くっ…」

「エレミア様!」

 

 背後からエレミアを呼ぶ声が聞こえる。

 教会騎士が一人、こちらへ駆け寄ってきた。

 

「地上の兵士に命令を出しました。継承者一行を捕らえるため、全速力で向かっています」

「御苦労です」

「しかし…一つ問題が」

「…何かあったのですか?」

「遺跡内部で銛や鉄格子といった罠が大量発生しています!継承者が起こしたものではない様ですが…既に多数の損害が出ています!」

 

 報告を受けるエレミアの表情が硬くなる。

 

「…そこの道に一人逃げ込みました。追いなさい」

「はっ!」

 

 いつのまにか集まった兵士達が、エレミアの指示を受けて次々とハスターを追いかける。

 エレミアはそれを見て、小さく呟いた。

 

「…また私達の邪魔をしますか、継承者」

 

 エレミアが舌打ちしていたことは、誰も気づかなかった。

 

 

 ×××

 

 

 正面から銛が飛んでくる。

 かなりのスピードだが、ハスターにとって避けることは容易い。

 避けた銛が追いかけてきた騎士の一人の胸を穿つと、銛は高圧の電流を発し、騎士の身体を容赦なく焼き焦がした。

 人間が炭化するレベルの電圧。ハスターといえど、当たれば助からないだろう。

 

「幸いなのは、私が逃げるだけでも大丈夫ってことかしら」

 

 教会騎士側でも想定になかった罠の大量発生。

 それらは、ハスターだけではなく、騎士達にも容赦なく牙を剥いた。

 彼らが罠に足止めを食らっている間に、ハスターは余裕を持って逃げることができていた。

 恐らく、ハスターを安定して追えるのはエレミア程度しかいない。

 そのエレミアをどれだけ引き離せるかが、この逃走劇の鍵となる。

 

「なるべく近道を使った方が良さそうね…魔力展開!」

 

 ハスターは自身の魔力を風に変換し、展開する。

 その風によって、ハスターは遺跡の内部構造を把握し、最短ルートで移動することができていた。

 故に、この広大な遺跡といえど、脱出は容易い。

 

 懸念すべきは、やはりエレミアと、無尽蔵に襲いかかってくる罠の数々だ。

 エレミアはともかく、罠はどうしようもない。

 自分に襲いかかってくる分はどうでもいい。()()()()()()()()()()

 現在エリゴスは実質戦闘不能、カゲツも逃げる時には足手まといになっている。

 イタクァやビリー、ソルがついているとはいえ、やはり心配だ。

 

(…何不安になってるのよ、私)

 

 だが、ハスターは考えを改める。

 自分の信頼している仲間達だ。

 この程度の罠などどうということはないはずだ。

 

(だから…無事でいてね、マスター君)

 

 ハスターが心の中で呟いた瞬間だった。

 背後から光の刃が飛んできた。

 目でも追えない速度の攻撃を、ハスターはほぼ反射的に避けていた。

 

「逃がしませんよ。貴女は継承者を捕える餌になる」

 

「人間兵器」が、すぐそこまで迫っていた。




どうでもいいけど風パってデバフフレフレース込みで計算した方がいいと思うの


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VS.エレミア

レイドイベントのストーリーいいですよね
キャラクターが話しているのを見るだけでもう楽しいし
なにより二次創作意欲が掻き立てられる…


 遺跡を駆けるハスターに、光の刃が襲いかかる。

 

 光魔法を発動しているのは、教会騎士の一人、「人間兵器」エレミアだ。

 突如発生した遺跡の罠により、カゲツ一行と分断されたハスターを単独で追いかけている。

 

 光の刃は遺跡の壁や床を容赦なく切り裂いていく。

 ハスターはその行動に疑問を持った。

 

「いいのかしら?騎士様が自ら遺跡を傷つけることをして」

「残念ですが、目撃者がいなければそれらは全て貴女達の責任となります」

「濡れ衣着せられるって訳ね。よくできてるわ」

 

 軽口を叩きながらも、ハスターは全速力で逃げる。

 風魔法を遺跡中に展開してわかったことだが、この遺跡、非常に広い。

 地下10階程度の階層に分かれており、それらが迷路の如く張り巡らされている。

 なるべく袋小路に逃げ込まないように、ハスターは走り続けた。

 

 

 ×××

 

 

 五階程度まで上がって来たところで、異変は起きた。

 

 ハスターの風魔法が、巨大な質量を感知したのだ。

 

「何か来る…?」

 

 魔力を持つ物質や生物ならある程度判別がつくが、この質量、魔力も生体反応も全く持たない故に、なんなのか全くわからない。

 質量が出現した場所は上に登る階段がある場所だ。

 階段を滑り落ちるように移動している。

 

 そして、それは曲がり角から現れた。

 

「——⁉︎」

 

 現れたのは、通路を埋めるほどの巨大な岩塊だった。

 

 それは、まるで意思を持つかのように、ハスターに向かって転がりだした。

 シンプルながら、侵入者を圧死させるには十分な威力がある。

 隙間、無し。

 横道、無し。

 後退…エレミアが追ってくる。無し。

 

「突破するしかないみたいね…!」

 

 ハスターは角笛を力強く吹く。

 美しい音が鳴り響き、同時に高密度の風魔法を展開。

 

「エメラルド・ラマ」

 

 風魔法は転がってくる岩塊の一点に集中。

 岩塊に大きなヒビが入り、直径一メートル程の小さな岩が次々に誕生する。

 しかし、ハスターはサモンフォーカイムなる更に高威力の風魔法を扱える。

 その気になれば岩塊を粉々に砕くことも可能だ。

 にもかかわらず、そうしなかったのには理由がある。

 

 ハスターは風魔法で岩を持ち上げると、背後のエレミアへ向かって投げつけたのだ。

 

「!!」

 

 突然飛んでくる石つぶて…岩つぶてを、エレミアはなんとか回避する。

 しかし、突然の回避でバランスを崩しかけたところに、次々と岩が飛んでくる。

 

「ぐっ!」

 

 次々と着弾する岩。

 岩が埃を巻き上げ、エレミアの姿は見えなくなった。

 同時に通路に岩が転がり、歩行をやや困難にする。

 

「埃が捲き上るってことは手入れされていないのかしら…とにかく、これで少しは時間を稼げるわ!」

 

 再び、ハスターは走り出した。

 

 

 ×××

 

 

「もーっ!なんで当たらないの⁉︎」

 

 遺跡のとある部屋で、少女の高い声が響く。

 

 何者かの闇魔法によってゴーレムを破壊されたところで、その少女は目を覚ました。

 遺跡の各地で戦闘が勃発し、罠はことごとく突破され、大岩までもが砕かれた。

 そもそもここは、自分が守護している遺跡ではない。

 本能で遺跡中に罠を張り巡らせたが、魔力の低い者ならともかく、肝心のハスター達には掠りもしない。

 何が起きているのかさっぱり分からず、少女は喚いた。

 

「何よりも、ここしばらくの記憶がないっ!何⁉︎ここはどこなの⁉︎」

 

 慌てふためく少女は、やりようのない怒りでわなわなと震えだす。

 そして、大声で叫んだ。

 

「一体、何がどうなってるのー!あたしの宝はー⁉︎」

 

 

 ×××

 

 

「ぐぁぁっ!」

「もう!どれだけいるのよ、この集団!」

 

 教会騎士が、ハスターの風魔法で吹き飛ばされていく。

 現在、ハスターがいるのは第一層。

 出口が近い為か、騎士達と遭遇する頻度もかなり上がってきた。

 しかし、いくら束でかかって来ようと、ハスターと騎士では実力に差がありすぎた。

 風魔法で次々と騎士をなぎ倒していく。

 

「ひぃぃ…だめだ、勝てねぇ!」

「退避!退避ー!」

 

 ハスターに恐れをなして、逃げ出す者まで現れた。

 騎士に関しては問題ないだろう。

 ハスターの意識は、別の方に向いていた。

 

 ズズゥン…

 

 数分前から、遺跡では謎の地鳴りが発生するようになっていた。

 遠くのエリアで発生しているようだが、こちらからは確認する手立てがない。

 カゲツ達が無事なことを信じて、出口へ走り続けるだけである。

 

 だが、ただ一人、ハスターの行く手を遮る者がいる。

 

「いい加減しつこいわよ、エレミア…!」

「単独で、しかも私から逃げながらここまで来るとは思っていませんでした。ですが、ここでおしまいです」

 

 エレミアは懐から何かを取り出した。

 装飾の施された板状の物体の片面に、硝子板が張られた代物。

 

「…またデバイス?しばらく見たくなかったわ」

「また、とはなんでしょうか。貴女にデバイスを見せるのは初めてのはずですが」

「ごめん、そういう意味じゃないのよ」

 

 対応のノリはあまり変えないが、間違いなく自分の表情が硬くなるのをハスターは感じていた。

 脳裏に浮かぶのは、テスタメントの一人、リリスとの戦いで、彼女の持っている量産型デバイスで魔力を封じられたことだ。

 同じ戦法を使われたら、ハスターに勝ち目は無い。

 ハスターが一歩後ずさる。

 同時に、ズンと低い音がして、何事かとハスターは背後に視線を向ける。

 

「⁉︎」

 

 通路の天井まで届く図体を持った牛型の魔物が、背後から現れたのだ。

 

 それだけではない。

 人魚型、龍型、多種族の魔物が一斉に出現した。

 おまけに、テスタメントの使役していたもののように、少女と動物の混じったような姿をしている。

 どうなっている。

 カゲツの話が正しければ、この遺跡には教会騎士によって生息していた魔物は全て駆逐され、中で魔物と遭遇することはないはずだ。

 つまり、誰かが人為的に魔物を発生させたに違いない。

 そして、魔物を発生させる方法をハスターは知っている。

 

「そのデバイスで魔物を呼び寄せたって訳ね」

「呼び寄せた、とは少し違いますね。この魔物は全て私のデバイスで使役し、召喚した者です」

 

 前にエレミア、背後に魔物。

 どう見ても多勢に無勢である。

 

「かかれぇっ!」

 

 エレミアの指示で、魔物が一斉にハスターに襲いかかる。

 我先にと飛び出したのは、羽を生やし、大きな卵の殻に下半身を沈めた幼い少女の龍型。

 電撃を纏って突進してくる。

 そこへ人魚型の水魔法によるアシストが加わり、回避は困難になる。

 牛型は動かない。しかし、でかい図体のお陰で退がれない。

 あくまでも、こいつはハスターの退路を塞ぐ役割のようだ。

 そして、龍型と人魚型の連携により、牛型の所へ追い詰められる。

 

「今です!首を跳ね飛ばしなさい!」

 

 命令を受けた牛型が斧を振り下ろす。

 ぐしゃりと肉の潰れる音が響く。

 

 

 

 そして、龍型に柄が折れた斧の刃が飛んできた。

 

「⁉︎」

 

 龍型はギリギリで回避するが、避けた刃は人魚型の腹を深々と抉った。

 吐血した人魚型は血だまりに沈む。

 

 ズドン!

「オォォォォ…」

 

 何かが壁に叩きつけられる音と、低い女の声が響く。

 それは、両腕をねじ切られた牛型が、風魔法で吹っ飛ばされた断末魔だった。

 

「よそ見してて良いのかしら?」

 

 龍型の目の前で、ハスターが左腕を振りかぶっていた。

 左手の竜巻は容赦なく龍型を飲み込み、壁に叩きつけた。

 

 残るは、一人。

 

「流石ですね。対処はいささか乱暴ですが」

 

 傍観していたエレミアが呟いた。

 

「あんたも相当よ。自分の魔物が殺されても声一つ上げないんだもの」

「構いません。これらは所詮捨て駒。代わりはいくらでもあります」

「…腐ってるわね、あんた」

 

 風と光、二つの魔力が膨れ上がり、遺跡がビリビリと震えだす。

 エレミアは光球を周囲に出現させ、ハスターに向けて放った。

 テスタメントの例の少年を思い出す戦法。

 数もそれ相応に多く、全て対処するのは難しい。

 狭い通路を、光球と土煙が埋め尽くした。

 対して、ハスターが放ったのは小さな竜巻。

 ただの竜巻ではない。

 エレミアの光球を飲み込み、切り刻む。

 風の刃をふんだんに仕込んだ、特製の竜巻だ。

 エレミアは剣に光を纏わせると、竜巻に刃を突き立てた。

 だが、弾かれる。

 弾かれることは想定していなかったのか、エレミアの反応が一瞬遅れる。

 瞬時に、ハスターは土煙の中からエレミアに飛びかかる。

 至近距離からの風魔法を叩き込めば、いくらエレミアと言えど大ダメージは避けられない。

 

「サモンフォーカイム!」

 

 ガードは間に合わない。

 竜巻がエレミアを飲み込み、吹き飛ばした。

 怯んだ隙に、横道に逃げる。

 

「…まさか、もう出口を」

 

 嫌な予感を感じたエレミア。

 ダメージを気にせずすぐに立ち上がり、ハスターを全速力で追う。

 

 そして、通路の奥に光を見た。

 遺跡の壁に取り付けられた、人為的な光ではない。

 太陽の光だ。

 その先にハスターがいる。

 

「待ちなさい!」

 

 ハスターは止まらない。

 光魔法を放つが、ハスターは全てを避ける。

 そして、ハスターは遺跡から脱出した。

 

「くっ…逃がしません!!」

 

 エレミアも負けじと追いかける。

 ハスターと同様、外に飛び出した。

 

「今よ!」

 

「…ナイトメアスピア」

「ポイゾナスガスト!」

「アールヴレズル!」

 

 ハスターのかけ声と共に、三属性の魔法が、エレミアを襲った。




ハ「次回からここのスペースで登場した神姫の解説をしていくわよ」


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VS.エレミア(2)

LINEスタンプ発売されましたね
私は早速友人にエリゴスちゃんのスタンプ送り続けました

ブロックされました


「……ナイトメアスピア」

「ポイゾナスガスト!」

「アールヴレズル!」

 

 エレミアが遺跡から飛び出したタイミングと、エリゴス・イタクァ・ソルの三人が魔法を放ったのは、ほぼ同時だった。

 闇が、光が、毒が、エレミアを飲み込み、爆発を引き起こした。

 

「ハスター様、無事ですか⁉︎」

 

 イタクァが心配した様子で駆け寄った。

 

「見ての通りよ。…そっちも大丈夫みたいね」

「はい。全員ケガもなく…」

「あれ?マスター君の姿が見えないけど…」

 

「呑気に喋ってる暇があるのですか?」

 

 土煙の中から声がした。

 直後、光の刃が、ハスターとイタクァを貫かんと伸びた。

 回避は、間に合わない。

 反射的に、ハスターは目を瞑った。

 

 

「……?」

 

 何も起きない。

 恐る恐る目を開くと、

 

「無事で何よりだ、ハスター」

「イタクァお姉ちゃんも大丈夫ー?」

 

 両刃剣を構えたカゲツと、二丁拳銃を携えたビリーが、そこにいた。

 

「…そっちもね。助かったわ、マスター君」

「気を抜いてるところ悪いが、まだ安心は出来ないぞ」

 

「光を斬りますか。お見事です」

 

 土煙が晴れ、中からエレミアが現れた。

 衣服は砂で多少汚れているものの、三人がかりの攻撃で傷一つついた様子もない。

 

「……完全に不意打ちだったはず。おかしい」

「何もおかしくはない。アイツは…エレミアはそういう奴だ」

 

 エレミアは剣を構え、カゲツに向かって一直線に突撃した。

 突撃するエレミアに、ビリーは二丁拳銃をぶっ放す。

 エレミアは避けようとはしなかった。

 ただ平然とした表情で、ビリーの銃弾をその身で受け止める。

 

「えっ?」

 

 状況が理解できず、ビリーの反応が遅れる。

 真っ正面から銃弾を受けてなおノーダメージのエレミアは、突撃した勢いのまま、ビリーに剣を振り下ろした。

 瞬時にカゲツはビリーを突き飛ばし、同時に剣でエレミアの攻撃を受ける。

 キィン、と金属音が響き渡った。

 

「お前、とことん化け物だな…!」

「お互い様では?私の剣は並大抵の反応速度では見切れません」

 

 エレミアは余裕の表情を浮かべ、カゲツの剣を弾いた。

 そして、鋭い突きを幾度も繰り出す。

 カゲツはかろうじて全てを受けきるが、早くも肩で息をしていた。

 このままではまずい。

 

「マスターから離れて!」

 

 エリゴスが二人の間に割って入り、エレミアの相手を引き受けた。

 槍と長剣がぶつかり合うが、若干エレミアが押してように見える。

 エリゴスの未来予知の力で、ギリギリ互角のレベルに抑えている状況だ。

 

「マスター君、私とエリゴスで足止めするわ。逃げて!」

 

 エリゴスですら、エレミアに遅れをとった。

 今ここに、エレミアの相手をまともにできるのはハスターしかいない。

 カゲツは言われるがまま、逃げるしか無かった。

 

 だが、悪い状況は変わらない。

 草木を掻き分けて、次々と人影が登場。

 遺跡を囲う森から、多数の教会騎士が現れたのだ。

 

「ここで増援かよ…!」

 

 今まで見てきた教会騎士とは違うのは、今までの一般兵とは比べ物にならない魔力と、全く異なる武器。

 やはりエレミアには及ばないが、戦闘力は相当高いはずだ。

 

「神姫を捕らえろ!殺しても構わん!」

 

 指揮官と思われし男が指示を出した瞬間、多数の教会騎士がカゲツに向かって来る。

 

「ビリー!イタクァ!ソル!迎え撃て!」

「了解!」

 

 カゲツを守るように三人が立ち塞がり、騎士と戦う。

 だが、教会騎士の数は10人を超える。

 その一人一人が神姫にも劣らない実力の精鋭揃いだ。

 いとも簡単に二人の騎士がイタクァとソルの間を抜け、カゲツに飛びかかった。

 一人は斧、もう一人は電気を纏った鞭を武器にしている。

 

「大人しくしろ!」

「されるかよ!」

 

 カゲツは斧を剣で受け止め、鞭を身体を逸らして避けた。

 鞭は斧に命中。

 感電する直前に剣を離し、結果騎士だけが感電する羽目になる。

 

「あばばばばば!」

「しまった!…貴様ぁ!」

 

 怒った騎士が鞭を伸ばそうとするが、銃声と共に倒れる。

 ビリーの銃撃が脳天にヒットした為だ。

 

「お兄ちゃん、大丈夫⁉︎」

「まだこれくらいなら大丈夫だ!」

 

 残る騎士は八人。

 しかし、カゲツの下に残った三人はあくまでも回復等の補助が専門で、直接の戦闘には向いていない。

 だが、状況を変えるには、やるしかない。

 

「…行くぞ」

 

 

 ×××

 

 

 一方で、エレミア対エリゴス・ハスターの戦いは激化していた。

 

「エターナルエアレイド!」

「サモンフォーカイム!」

 

 風の刃と竜巻が衝突。

 そして、ハスターの竜巻が押し勝った。

 エレミアは竜巻を避けようとはせず、長剣で斬り裂いた。

 

「風魔法では私が一枚上みたいね?」

 

 エレミアは何も答えない。

 そして、頭上を斬るように剣を振るう。

 剣は、エリゴスの不意打ちを受け止めていた。

 

「ハァァァッ!」

 

 エリゴスが無数の刺突を繰り出す。

 エレミアは攻撃一つ一つを的確に剣で受けており、ダメージを全く与えられない。

 エレミアが反撃で攻撃を一発入れると、それだけでエリゴスは吹っ飛んだ。

 

「ガードしたのにこの威力……」

「ボーッとしないで、エリゴス!来るわよ!」

 

「ナイツオブクリムゾン!」

 

 エレミアの放つ火球は、着弾と共に爆発を起こす。

 火の手が次々と回り、火属性に弱いハスターの逃げ場を着実に奪っていく。

 

「……ナイトメアスピア!」

 

 エリゴスの闇魔法が、ハスターを守るように横からぶつかる。

 火球は霧散し、ハスターが空へ逃げる隙間を作った。

 ハスターは風に乗り、火の海から脱出した。

 だが、既にハスターは疲弊の色を見せていた。

 

「魔力…使いすぎたかも…」

「……!」

 

 ハスターは単独でエレミアから逃げてきた。

 その過程で、魔力をかなり使ってしまったらしい。

 

「さて…貴女たちの目的は継承者の時間稼ぎでしたが…目論見は失敗のようですね」

「⁉︎」

 

 エレミアの視線の先には、教会騎士と戦っているカゲツの姿がある。

 交戦中にここまで押し戻されたらしい。

 

「さて…デバイスを頂きましょうか」

 

 瞬間、エレミアはカゲツの元へ駆けた。

 火の海を躊躇なく進み、エリゴスとハスターとの距離をずんずんと離していく。

 

「逃がさない……!」

 

 自分だけでもとエレミアを追おうとするエリゴス。

 だが、エレミアは自身のデバイスを操作し、魔物を数十体呼び出した。

 魔物は地に降りた瞬間にエリゴスを敵と認識し、咆哮を上げて襲いかかってきた。

 

「貴女の相手は彼らです。行け!」

「……!」

 

 エリゴスを足止めしたエレミアは、今度こそカゲツに突撃する。

 

「エレミア⁉︎まずい、遺跡まで戻ってきてしまったのか!」

 

 激戦のあまり、周りの状況を把握していなかったカゲツ。

 交戦していた騎士を蹴飛ばし、エレミアの剣を受け止めた。

 

 ギィン!

 

「ぐっ…」

 

 一撃が重い。

 手の痺れが、エレミアの剣技の威力を物語っている。

 

「この程度で終わりではありませんよね?」

 

 エレミアの連撃は更に激しさを増していく。

 このままではエレミアに敗北し、デバイスを奪われてしまう。

 カゲツが反撃するには、神姫の力を頼るしかない。

 ビリーの銃弾はエレミアには効かず、イタクァの毒霧は多人数を同時に相手取るには必須。

 エリゴスとハスターは距離を考えると助けを呼べるとは思えない。

 となると、あと一人。

 

「ソル!手を貸してくれ!」

「わかったよ、リーダー!」

 

 瞬間、ソルの光球がエレミアを囲んだ。

 光球がエレミアの背中を攻撃すると、ダメージを受けたエレミアの力が緩んだ。

 

「ぐっ…」

「おおおおっ!」

 

 カゲツが力を振り絞り、剣を押し返した。

 そしてすぐさま距離を取る。

 

「はぁっ…はぁっ…」

「リーダー、大丈夫⁉︎」

「あぁ、助かったぞ、ソル」

 

「くっ…やりますね」

 

 ふらつきながらもエレミアが立ち上がる。

 ソルの攻撃は間違いなくダメージになっているようだ。

 なら、こちらにも勝ちの目はある。

 

「ソル、ここから反撃する。俺が接近するから、サポートを頼む」

「うん!」

 

 カゲツはエレミアに向かって走り出した。

 

「何やら企んでいるようですね…ナイツオブクリムゾン!」

 

 エレミアが放つ火球が、カゲツを焼き尽くさんと迫ってくる。

 

「ぴかぴか、ぴかーん!」

 

 負けじとソルも光球で攻撃。

 ソルの光球とエレミアの火球がぶつかり合う。

 炎と光が織り成す爆発は、三人の視界を燃え盛る赤に染めた。

 爆発の間を潜り抜けて、カゲツはエレミアに迫る。

 袈裟斬りを繰り出すと、エレミアは剣で受け、攻撃が一瞬止まる。

 その隙にマントから何かを取り出すカゲツ。

 

「ソル、目を瞑れ!」

 

 そう叫ぶと、取り出した物体をエレミアの足元に向かって投げつけた。

 地面に叩きつけられた物体から発するのは、閃光。

 カゲツが魔物狩りに使うアイテムの一つだ。

 

「があっ…目が…」

「今だ、やれ!ソル!」

 

「闇を浄化する、閃光の太陽…ホワイト・プロミネンス!」

 

 ソルの杖から生み出された小さな光球が、エレミアに向かって降り注ぐ。

 最後にトドメと言わんばかりに、特大の光球が一発撃ち込まれる。

 衝撃と爆発が周囲に響き渡った。

 

「エ…エレミア様!」

 

 教会騎士が焦りの表情を見せる。

 爆発による土煙で、エレミアの様子はわからない。

 

「あっぶねぇ…少し避けるのが遅かったら死んでた」

「リーダー、大丈夫?」

「あぁ、なんとかな」

 

 ギリギリでソルの技を回避したカゲツが、土煙から現れた。

 ソルはカゲツを急かす。

 

「早くビリーとイタクァの戦いに加勢しよう?」

「そうだな」

 

「まだ勝った気でいるのですか」

 

 背後からの声。

 土煙から人影が飛び出してきたのは見えた。

 その瞬間、灼熱が走った。

 

 腹がとてつもなく熱い。

 それに、熱いだけではない。

 痛い。

 痛い痛い熱い熱い熱い痛い痛いいたいあついあついいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい。

 あまりの激痛に頭が回らなくなり、身体に力が入らなくなる。

 口の中に何か広がっていく。

 

 血の、味だ。

 

 

「……マスター……?」

 

 魔物を皆殺しにし、返り血を全身に浴びたエリゴスが、カゲツを呼ぶ。

 

 返事は、ない。

 

 

「閃光弾には一杯食わされました。お見事です。ですがここまですね」

 

 カゲツの腹を、エレミアの長剣が貫いていた。

 

「いやぁぁぁぁ!リーダー!!」

 

 ソルが目に涙を浮かべ、絶叫する。

 カゲツは吐血し、その場に倒れ込んだ。

 

「……殺す……!」

 

 エリゴスが明確な殺意を向けて、エレミアの元へ向かおうとする。

 だが、

 

「エリゴス!後ろ!」

「⁉︎」

 

 鉄球が飛んできた。

 モーニングスターを振るう騎士が、エリゴスの背後から飛び出して来たのだ。

 

 気付いた時にはもう遅い。

 ハスターの助言も虚しく、エリゴスは鉄球を横腹に食らい、森へ吹っ飛ばされる。

 エリゴスが激突した木はメキメキと音を立てて倒れた。

 

 まずい。

 カゲツが重傷を負い、エリゴスもあれでは復帰が難しい。

 デバイスを奪われ、魔力を強引に抑えられれば、こちらの負けが確定する。

 それ以前にカゲツが失血で死にかねない。

 早くカゲツを助けられるか?

 エレミアがいるのに?

 どうやって助け出す?

 

 ハスターの思考がぐるぐると回る。

 

「早くトドメを刺してしまいましょう」

 

 だが、エレミアは今すぐにでもカゲツの命を断てる状況にあった。

 無慈悲に剣が振り下ろされる。

 

「…させません!」

 

 すんでのところで何者かが割り込み、防御魔法でカゲツを庇った。

 

 イタクァだった。

 

「イタクァお姉ちゃん⁉︎」

「イタクァ⁉︎貴女では無理よ、戻って!」

「私が相手です。マスターを殺す前に、私と…!」

 

 ビリーとハスターの制止の声は、イタクァに届かない。

 イタクァは必死にカゲツを守ろうとしている。

 だが、イタクァの足は恐怖で震えていた。

 はっきりと、実力差があるのをわかっていて、それでいて彼女はあの場所に立っているのだ。

 エレミアは、表情を変えず、火球を剣先に生み出した。

 

「言いたいことはそれだけですか?」

「…ッ!」

「なら、死んでください」

 

 剣が振り下ろされる。

 

「イタクァ!」

 

 ハスターが叫ぶが、もう遅い———

 

 

 

 

 

「やぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ピシャァァン!!

 

 突如、遺跡から高い声が、次いで雷撃の音が響く。

 エレミアは驚き、イタクァへの攻撃を中断して遺跡の方を向いた。

 遺跡の壁がガラガラと崩れ、中から何かが現れる。

 

「私の宝を…返せぇぇぇぇ!!」

 

 現れたのは巨大な幻獣体。そして、ブランコに乗った幼い少女だった。




長く苦しい戦いだった(執筆が)

エレミアの技を調べるためにジャンヌ一人でエレミアと戦うクエストに何度も挑んだのは私だけでいい

リリスも同じようなことしたけど結局技使ってないな…


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幼女幻獣

全然関係ない話なんですけど、ネフティスってああ見えて結構過激なこと言うらしいんですよね。
継承者を傷つけた奴は殺すみたいなこと。
おー、おっかない。
やっぱり闇属性なんだなと。

これもしかしてプレイヤー名エリゴスちゃんにすれば俺の気持ち代弁してくれるんじゃね?


「あたしの宝を…返せぇぇ!!」

 

 怒りに身を任せ、内部から遺跡を破壊して現れたのは、巨大な幻獣体と、それを使役しているであろう幼女だった。

 幼女は踊り子のように肌面積の広い黒の衣服を着用し、幼い肢体を見せつけている。

 だがそれ以上に目を引くのが頭や手足に着けられた腕輪や髪飾りと言った装飾品で、その全てが金色に煌めいている。もし全てが本物の純金だとしたら、換金したらかなりの値打ちになるだろう。

 幻獣体は、純金の鎧を纏った屈強な胴体と、東洋風の龍の頭部と下半身を組み合わせたような姿だ。頭部からは角と白い毛を生やし、背中には天使のものに似た翼を携えている。

 幻獣体の頭部からは鎖が伸びており、その鎖は幼女の乗るブランコに繋がっていた。

 

「何よ、あれ…!」

 

 突然出現した新手に、ハスターは動揺を隠せない。

 

「やああっ!」

 

 幻獣体が力任せに剛腕を振るう。

 その質量から繰り出される一撃は、単純ながら人を殺傷するには十分すぎる威力だ。

 騎士が数人巻き込まれ、吹っ飛ばされた。

 

「イタクァ、マスター君を連れて離れて!」

「は、はい!」

 

 イタクァは負傷したカゲツを抱えようとする。

 しかし、エレミアはそれを見逃さなかった。

 

「させません。彼はこちらで預かります」

 

 エレミアはイタクァの進路を妨害し、風魔法でイタクァを吹き飛ばした。

 そしてカゲツを守る様に立ち塞がる。

 

「きゃあっ!」

「担架を持って来なさい。継承者を運び出します」

「はっ!」

 

 どこからか担架を持った騎士が現れ、カゲツを運び出そうとしている。

 

「イタクァお姉ちゃん、お兄ちゃんが連れてかれちゃうよ⁉︎」

「まずいです…このままでは…」

 

 だが、次の瞬間、担架を運ぶ騎士に電撃が降り注いだ。

 

「⁉︎」

「ぐぁぁっ!」

 

 騎士だけではない。

 電撃は他の騎士も容赦なく襲う。

 その電撃は、あの幻獣が起こしているものだった。

 

「あの幻獣…雷の魔法を使うのね」

 

 騎士は幻獣に立ち向かうが、強力な電撃を受け、一人、また一人と倒れていく。

 カゲツ達を邪魔した騎士も、数人にまで減っていた。

 

「…不思議ね。どうして私達は襲われないのかしら?」

「ハスター様!マスターが…」

「わかってるわ、一旦落ち着いて」

 

 なんとかイタクァ達と合流したハスター。

 不安になるほど落ち着いている彼女は、ふと疑問を口にする。

 

「さっきの放電、かなりの広範囲にわたって魔法を放っていたわ。なのに私達どころか、マスター君にも傷一つついてないじゃない」

「そういえば、ずっと騎士を狙っていますね」

 

 イタクァも、自分たちが狙われない事に違和感を覚えた。

 わかることは、あの幻獣がこちら側に影響は与えないということだ。

 

「とにかく、マスター君を助けないと。でも…エレミアが動いてくれないと、話にならないわね」

「エリゴスもです。どこまで飛ばされたかわかりませんよ」

「あー、そうだったわ…」

 

 山積みの問題に頭を抱えるハスター。

 その時、ビリーがハスターの服を掴んで言った。

 

「ハスターお姉ちゃん…お兄ちゃん、大丈夫だよね…?」

 

 彼女はもう泣きそうになっていた。

 見ると、ソルも目に涙を浮かべ、落ち着かない様子だ。

 ハスターは、彼女らを落ち着かせるように言った。

 

「安心して。必ず助けるから」

 

 

 ×××

 

 

 幻獣と教会騎士の戦いはより苛烈になっていた。

 大半の騎士が電撃で倒されたが、残ったのはその中でも精鋭揃いだ。

 ただ、そんな戦いでも、幻獣は互角以上の戦いを続けていた。

 

 そんな中、事態はエレミアが参戦することで動き出した。

 

「暴れるのも、ここまでにしてもらいましょう」

「…何、お前。あたしを封印したのはあんたなの?」

 

 幼女がエレミアを睨みつける。

 エレミアは臆することなく、相手に話を振った。

 

「貴女の名前は?」

「あたしの質問を無視するなー!…まぁいい。あたしはアマル。エルドラドを守護する幻獣だー!」

 

 アマルと名乗る幻獣は、エレミアに食ってかかる。

 

「だんだん思い出してきたぞ!お前らと同じ格好の奴が、あたしの遺跡に侵入して、あたしを倒して…お前、私に何をしたの?エルドラドはどうなったの⁉︎」

「エルドラド…そういえば、記録がありましたね。エルドラドなら、現在我らがゼスト教の管理下にあります」

「ふえっ?」

「遺跡の罠は全て取り除き、財宝もこちらで管理しています。あぁ、ご安心を。勝手に換金するようなことはしていません。貴重な文化財なので」

「なっ…なっ…」

 

 アマルがブランコの上でわなわなと震え出す。

 気にせず、エレミアは話を続ける。

 

「現在はエルドラドへのルートを整備し、観光地として中を歩けるようにしています。毎日多くのお客様がいらっしゃっていますよ。ただ、貴女に暴れてもらうと困るので、この遺跡に封印して貰ったのですが…」

「…さない」

「?」

 

「ぜっっっっっっ対に、許さないぞ、お前達ぃぃ!!!」

 

 激昂するアマルが、エレミアに向かって電撃を放つ。

 エレミアは問題なく回避するが、電撃の余波が森に飛び、森林火災を引き起こした。

 そうしてなお、アマルの怒りは収まらない。

 

「あの遺跡と宝は、私が何百年も守り続けてきた、大切なものだったんだぞ!それを勝手に持ち出して、観光地にして、挙句あたしをこんな辺境に封印して!許さないからなぁー!」

 

 癇癪を起こしたアマルの魔力が大きく膨れ上がる。

 電撃は怒りのままに撒き散らしているだけでエレミアを捉えられないが、攻撃範囲が非常に広く、ハスター達にまで影響が及ぶ程だ。

 

「へへーん!電撃が邪魔で近づけないでしょ!このままやっつけちゃうからー!」

 

 エレミアの退路を電撃で塞いだところに、アマルの剛腕が撃ち込まれる。

 回避はできない。

 重低音と土煙が巻き上がった。

 

 だが、エレミアは剣どころか、自身の拳だけでアマルの剛腕を受け止めていた。

 

「ふえっ?」

「はあぁぁっ!」

 

 エレミアが力任せに剛腕を押し返した。

 あまりの腕力に、アマルの幻獣体がひっくり返る。

 

「くっ…やぁぁぁ!」

 

 お返しにと電撃を放つアマル。

 しかし、エレミアは背後で倒れているカゲツを守るように立ち回り、飛んでくる電撃を全て切り裂いた。

 そして跳躍し、風の刃で切り刻む。

 

「エターナルエアレイド」

 

 アマルの幻獣体は、身体にまとう鎧ごと斬られた。

 幻獣体は肉体を保てなくなり、消滅する。

 同時に、ブランコからアマルが投げ出された。

 

「ひゃあっ⁉︎」

「さて、これで貴女は戦えませんね」

 

 エレミアは、自らのデバイスを手に取り、アマルに向ける。

 アマルに悪寒が走り、彼女は恐怖で震え出した。

 

「お前…何するつもりなの?」

「私の駒にします。現在、ゼスト教では戦力が大きく不足していまして。幻獣を捕獲して、我々の戦力としているのです」

「い…嫌っ…」

 

 幻獣体を失ったアマルは抵抗できない。

 このままエレミアに意識を支配されてしまう。

 

 しかし、エレミアの表情が硬くなった。

 

「…デバイスで支配できない…?」

 

 神姫や幻獣に対して圧倒的な支配力を持つデバイス。

 それが機能しないとなると、明らかな異常。

 

「…まさか、もう既に…⁉︎」

 

 嫌な予感がし、エレミアが背後を向いた瞬間だった。

 剣が、エレミアを断ち切らんと振りかぶられていた。

 エレミアがほぼ反射で回避する。

 

「馬鹿な…その傷で…」

 

「…先に俺のデバイスを奪ってから戦うべきだったな」

 

 満身創痍のカゲツが、デバイスを持って笑っていた。

 腹の傷は治っていないのに、何という胆力だ。

 

「俺のデバイスでアマルと強制的に契約を結んだ。こうなったら、どんな方法でもあいつを無理やり従えることはできない。…例え本物のデバイスでもな」

「…ッ!貴様ァァ!」

 

 激昂したエレミアが、怒りのままに剣を振り下ろす。

 だが、突然横から飛んできた闇の光線により、剣が飛ばされた。

 

「マスターから……離れろと言っている」

 

 傷だらけのエリゴスが、息も絶え絶えといった様子で立っていた。

 

「……ハスター!」

「任せて!」

 

 一瞬の隙を、エリゴスとハスターは見逃さない。

 丸腰になったエレミアの背後にいるカゲツと、ついでにアマルを一瞬で掠め取った。

 

「えっ?ちょっと、何?お前達何⁉︎何なの〜⁉︎」

「リーダー!リーダー!」

「もう大丈夫よ!ソルちゃん、回復を!」

「…うん!」

 

 ハスターの風に乗り、カゲツとその神姫たちは逃げ出した。

 エリゴスもイタクァの肩を借り、何とか逃げ出す。

 

「させません!エターナルエアレイド!」

 

 最後の最後まで、エレミアは継承者を諦めない。

 ハスターを狙い、風の刃を放つ。

 

 ビリーが、それをさせなかった。

 

「こっちもだよ!デスバレット!」

 

 いつのまにかソルイグナイトを構えたビリーが、光の光線を発射。

 風の刃とぶつかり合い、爆発を引き起こした。

 土煙が巻き上がり、カゲツ達の姿は見えなくなる。

 視界がはっきりした頃には、誰もいなくなっていた。

 

「逃がしましたか。…ですが、必ず捕らえてみせましょう」

 

 諦めの姿勢を見せないエレミアは、拳を握り締めていた。

 

 

 ×××

 

 

 負傷したカゲツとエリゴスは、すぐに街の医療施設へ連れていかれた。

 幸いにも、どちらの怪我も命に直接関わるものではなく、安静にしていればすぐに退院できるレベルとのことだ。

 特にカゲツは、長剣で腹部を貫かれたにもかかわらず、内臓には傷一つついていなかったという。

 奇跡的な確率だが、エレミアの力量ならその程度簡単にこなせそうではある。

 

「それにしても、マスター君やエリゴスが指名手配されてないのは驚いたわね」

「そうですね。教会騎士は発言力が高いようですし、そういったことをしないのは驚きです。何か裏を感じますね」

「エレミアが利益を独占しようとしてる…?いや…他に知られると都合の悪いことが…?」

 

 カゲツ達の見舞いを終えたハスターとイタクァは、議論を交わしながら滞在している宿に戻っていた。

 宿にはビリーともう一人が待っている。

 ソルはカゲツとエリゴスに何かあった時のため、念のため医療施設に残っている。

 では、あと一人とは。

 

「戻ったわよ。…その様子だと、まだ警戒しているみたいね、アマル」

「…」

 

 成り行きで連れていかれた幻獣・アマルが、クッションを抱え、ハスターを睨みつけていた。




お前前回解説忘れてたよなぁ!?やるぞ!!

・エリゴス
闇属性。SR。アタックタイプ。
作者の嫁。主人公LOVE勢の一人。すっごくかわいい。
エピソードによると未来予知や幻影魔法が使えるらしいが、ゲームでは一切その片鱗を見せない。この小説みたいに予知で回避率アップ!なんてこともしない。
ゲームでの性能は連撃率アップバフに単体攻撃アビと全体攻撃アビを兼ね備えた、まさにアタックタイプ、といった性能。一方でデバフや味方へのバフを一切扱えない。本気で活躍させたいなら味方のサポートが必須。

元ネタはソロモン72柱に所属する悪魔の一柱で、グリモワールの一種「ゴエティア」によると序列は15位。階級は公爵。
召喚者の前に、槍を携え、旗を掲げ、蛇または杖を持った端整な騎士の姿で現れる。未来を予見する力を持ち、隠された物事や戦争について語るとされている。また、王や偉大な人物の寵愛をもたらすとも言われる。フルーレティの配下であるとされることもある。

ゴエティアとは悪魔を召喚したり、その悪魔を使役する方法が記された筆者不明のグリモワール「レメゲトン」の第1部。ソロモン王がいかにして悪魔を使役し名声を得たかを記し、その悪魔の性質や使役方法を述べている。
ちなみにエリゴスちゃんのバーストアタックは「ゴエティアハンド」。あの翼は意外と重要な物なのかもしれない。

余談だが、主人公を呼ぶために魔物の幻影を見せたが、その時周りの人に子供と見間違えられたため、ロリ疑惑が浮上している。
エリゴスちゃんッッ可愛いよおかわいいいよォエリゴスゥゥアアァァアアァッ!!

・ハスター
風属性。SSR。トリッキータイプ。
攻撃アビ二つに味方攻撃アップを兼ね備えている。Wikiでは強化版ガウェインと言われたりするが、まさにそれ。どこら辺がトリッキーなんだお前…?
アビリティが威力、クールタイム共に扱いやすく、防御デバフも併せ持つため単純明快で扱いやすい。風属性はデバッファーが不足気味なのでより評価が高くなっている。
アルコール耐性0。しかも悪酔いする。はっきり言って相当タチが悪い。
自分勝手な性格も相まって、従者のイタクァをしょっちゅう困らせている。
こんなんでも一応黄衣の王を目指しているらしいが。

元ネタはクトゥルフ神話に登場する神格。初出展は「羊飼いのハイータ」。
旧支配者(グレート・オールド・ワン)と呼ばれる強大な力を持った存在の一員とされる。四元素の「風(大気)」に結び付けられる。
「名状しがたきもの(「名付けられざりしもの」という解釈もある)」の他に「星間宇宙の帝王」、「邪悪の皇太子」などの異名がある。
代名詞とも言える『黄衣の王』はあくまで化身の一つに過ぎず、その正体は目に見えない力であるとも、精神的にしか感じられない目に見えない力だというものからタコのような姿、全身がミミズのような触手で構成された身長60m級のゴジラのように直立するトカゲとも言われている。
…細かく説明するととにかく長くなるので各自で調べて欲しい。

黄金の蜂蜜酒を飲んで次の呪文を唱えると、ビヤーキーを遣わしてくれる。

 いあ! いあ! はすたあ! はすたあ くふあやく
 ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ
 あい! あい! はすたあ!


内容はハスターを讃えるもので、この文言は祈祷文にも遣われるらしい。
聞き覚えのある方も多いのでは?

参考文献:ウィキペディア、ピクシブ百科事典など


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ビリーとアマル

新規浴衣キャラ全部外しました


 エレミアとの戦闘の時、成り行きでカゲツ達に連れていかれたアマル。

 しかし、彼女にとっては何かと納得がいかない結果になっていた。

 本来住んでいた遺跡を教会騎士に奪われ、復活したと思いきやエレミアに完膚なきまでに叩きのめされ、挙げ句の果てにカゲツに意図しない形で主従関係を形成された。

 破壊された幻獣体の復活には一週間程度の時間を要し、おまけにデバイスの力で人間のカゲツに逆らうこともできない。

 何もかもがアマルの意思に反しており、納得のいかないアマルは何度も癇癪を起こし暴れた。

 所詮幻獣体の無い彼女はただの駄々をこねる幼女なので、イタクァにすら簡単に押さえつけられてしまうが、やり場のない怒りを発散することはそうするしか無かったのは事実である。

 三日三晩泣き喚き、反動で一日眠り続け、ようやく起きたのが今朝の出来事だ。

 そして今、ハスター・イタクァ・ビリーの三人は、アマルを説得してパーティに歓迎しようとしていた。

 

「ラグ…ナロク?それを止める旅?」

「そうです。私達はかつて起きた大厄災を止める旅をしています。それには神姫はもちろん、英霊や幻獣といった力ある存在が一人でも多く必要です。是非、同行して欲しいのですが」

 

 イタクァはアマルを刺激しないように、優しい口調で説明する。

 アマルは少し考えた後、答えた。

 

「やだ」

「ええっ?」

「人間に従わされるのが納得いかないの!あんた達神姫でしょ?あんな人間にいいように扱われて、悔しくないの⁉︎」

「あんな人間って…マスターを何だと思っているのですか!」

「うるさいうるさい!私はついていかない!」

 

 駄々をこねるアマルと、カゲツを悪く言われて怒るイタクァ。

 見かねたハスターが、イタクァの代わりに説得することになった。

 

「アマル、あんたは一つ大事なことを学ぶ必要があるわ」

「大事なこと?」

「あんたはもう少し集団での行動を学んだ方がいいわよ?私達についていくのもいかないのもあんたの勝手だけど、そのままだといつか後悔するわ」

 

 ハスターの放った台詞は、彼女らしからぬ正論だった。

 ビリーとイタクァは震えだす。

 

「…ハスターお姉ちゃん、大丈夫?」

「明日は雹が降りそうですね…」

「そこまで言わなくてもいいんじゃない⁉︎」

 

 私は普段どんな風に見られているんだ、と嘆くハスター。

 

「と、とにかく、あんたはまだ子供なのよ。いつまでもわがままばかり言えると思ったら大間違いってことを教えてやりたいの」

「だ、誰が子供だー!」

「それに、どうせその状態なら一人じゃ何もできないでしょ?」

「うっ…」

 

 痛い点を突かれ、口ごもってしまうアマル。

 そこへ、ビリーが更に追い討ちをかけた。

 

「ねぇ、アマルちゃん、これ、何だと思う?」

「ふえっ⁉︎そのお菓子…」

「この街に来た時、とっても羨ましそうに眺めてたよね…?」

 

 街まで逃げて来たとき、アマルがケーキ屋を眺めていたのを、ビリーは見逃していなかった。

 説得に向けて、ビリーが予め用意していたのだろう。

 

「このケーキ、一週間に50個限定なんだよー。しかも最後の1個!」

「さ、最後の1個…!」

「仲間になってくれるなら、あげないこともないけど…来ないなら食べちゃおうかな…?」

「えっ…ええっ…?」

 

 長い間遺跡で宝を守ってきたアマルは、甘い菓子類とは無縁の生活を送ってきた。

 そんな彼女にとって、ビリーの誘惑は狂気の沙汰に違いない。

 

「悪魔よ…悪魔がここにいるわ…」

「純真無垢さが今は恐ろしいですね…」

 

 ハスターとイタクァは恐怖を覚えていた。

 

「アマルちゃん、どうする…?」

「うっ、ううう〜…」

「決められないの?じゃあこのケーキ、ビリーが食べちゃうね!いただきま——」

「ま、待って!仲間になるから!お前たちの仲間になるから、ケーキ食べないでぇぇっ!!」

「えっ、仲間になってくれるの?やったー!これからよろしくね、アマルちゃん!」

「あっ…」

 

 アマルはカゲツのパーティに加わることとなった。ついでに限定品のケーキも貰えた。

 だが、不服だったのは言うまでもない。

 

 

 ×××

 

 

 数日後、カゲツとエリゴスは無事退院し、アマルの魔力も回復した。

 だが、アマルの機嫌だけは治らなかった。

 

「いつまでぶーたれてんのよ。そろそろ出発するわよ」

「やだ。あんな奴と一緒に行きたくない」

「ケーキに釣られた時点であんたはもう私達の仲間なの!わがまま言わない!」

「やだやだやだやだ!」

 

 子供の様に–––実際に容姿は子供なのだが–––暴れるアマル。

 見かねたハスターは、カゲツに「アレ」を促す。

 

「それは出来るだけ控えたいんだがな…仕方ない」

 

 カゲツはデバイスを取り出すと、硝子板に指を滑らせ操作する。

 すると、アマルが途端に大人しくなった。

 

「あ、あれ…?力が抜ける…何したの?」

「デバイスの機能だ。デバイスの制御下に置かれた神姫や幻獣は、デバイスで魔力を封じることができる。俺の意思でな。あの幻獣体を召喚することも、暴れることも、今はできない」

「そ、そんな!戻してよ!」

「いいぞ。素直になって、ハスターの許しが貰えたらな」

「そんな〜…」

 

 分かりやすく気を落とすアマル。

 見かねたビリーは、アマルに駆け寄り言った。

 

「大丈夫だよ!アマルちゃんはビリーが守るから!」

「そ、そういう問題じゃない!そもそもこんなことになったのはお前が…」

「でも、ケーキ美味しかったでしょ?」

「えっ…うん」

「次の街に行ったら、またケーキ買おう?ね?」

「えっ、ほんと⁉︎な、なら一緒に行ってやってもいいぞー!」

「やったー!」

 

 アマルは頬を緩め、偉そうに胸を張った。

 その様子を見るカゲツ達。

 

「……言いくるめた」

「アマル、楽しそうですね」

「長い間遺跡で過ごしてて、友達がいなくて寂しかったのかもしれないな」

「年の近いビリーちゃんがいい感じに付き合ってくれれば、安泰かもね」

「…年?」

「……マスター、あまり突っ込まない方がいい」

「あっ、はい」

 

「リーダー、そろそろ出発しよう?」

「そうだな、今回は長旅になりそうだし、行くか」

 

 ソルの進言で、カゲツ一行は歩みだした。

 目的地は、山道を超えた先にある、ここ最近見つかったばかりの地下遺跡だ。

 

 

 ×××

 

 

「ま…待ってくれ…休憩…」

「……マスター、大丈夫?」

「正直かなりしんどい。どうしてこんなことに…」

「靴、買っておけば良かったですね」

「靴なんて履いても、私は歩かないぞ。足痛いし」

「この野郎…」

 

 カゲツはえらく疲弊していた。

 山道を歩く過程で、アマルが疲れただの足が痛いだのと言い出し、カゲツが彼女を背負って歩くことになった。

 正直なところ、これは山道を歩くというのに、まともな準備をしていなかったカゲツが一方的に甘いと言う他無い。

 何せアマルは裸足なのだ。険しい山道を裸足で歩かせるのは流石に無理がある。

 エリゴスとイタクァは彼を気遣って残ってくれたが、残りの三人はカゲツがバテる内に先に行ってしまった。

 

「…回復魔法、かけ終わりました。どうですか?」

「ありがとう。だいぶ楽になった」

「だらしないなー、それでもマスターなのか?」

「半分はお前のせいだぞ…」

 

 文句を零しながらも、カゲツは立ち上がる。

 山道は人が通れる程度に整備されてはいるが、それでもそれを踏破するとなると厳しい。

 ましてやカゲツはアマルを背負いながら歩いているので尚更である。

 

「ハスター達、なんで先に行っちゃったんだろうな。待っててくれてもいいのに…」

「魔物に襲われてもハスター様なら平気だとは思いますが、やはり不安ですね」

「魔物だけじゃないぞ。この山は山賊の縄張りなんだ」

「……山賊?」

「山を越える行商人をターゲットにしているらしい。俺もこの道を通るのは初めてだからなんとも言えないけどな」

「じゃあ、どうしてこの道を選んだの?」

「近道だからな」

「それだけ⁉︎」

 

 話しながら山道を進む一行。

 だが、数十分進んだところで、エリゴスが足を止めた。

 同時に、他の三人にも警戒心が芽生える。

 

「……空気が変わった。敵がいる」

「…魔物か?それとも…」

「待ってください。この魔力…ハスター様のものです」

「ハスターだと?ハスター!近くにいるのか⁉︎」

 

 ハスターを探そうと、カゲツが前に出る。

 瞬間、木々の奥から触手が伸び、カゲツに襲いかかってきた。

 

  「はっ!」

 

 間一髪でエリゴスが触手を跳ね除け、事なきを得る。

 

「一発で見切るか、やるな!」

 

 低い声の先には、カゲツ達を待ち構えている五人程の集団がいた。

 身なりは整えられてはおらず、無精髭を生やした男たちだ。

 そして、その後ろに、触手の持ち主である魔物が鎮座している。

 蠢く無数の触手が伸びているという、なかなかグロデスクなデザインだ。

 

 そして、その触手には、

 

「ハスター様⁉︎ビリーにソルまで…」

 

 先に行ったはずのビリー、ソル、ハスターが捕らえられていた。




アマルの再ボス化を割と待ってたりする


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山賊と触手

ハロウィンハスター引けなくてやる気無くしてました


「いい女が揃ってるじゃねぇか…お前ら!かかれ!」

「イェッサー!」

 

 剣を抜き、山賊がカゲツ達に襲いかかる。

 

「アマル、降りろ。戦闘だ!」

 

 カゲツは背負ったアマルを降ろし、剣を抜く。

 エリゴスは既に動いており、触手に捕らわれたハスター達の救出を狙う。

 

「おっと、行かせないぜ!」

 

 だが、間に山賊二人が割り込む。

 人間にしては異常な瞬発力に、エリゴスはイライラを募らせた。

 

「邪魔……!」

 

 エリゴスが連続で突きを繰り出す。

 しかし、山賊は剣を巧みに操り、槍攻撃をことごとくブロックする。

 

「……だったら……!」

 

 エリゴスの槍に闇の魔力が蓄積される。

 魔力は光線となり、山賊を一人吹き飛ばした。

 普通の人間なら、神姫の魔法を食らえばタダでは済まない。

 

「キシャァァァ!!!!」

 

 突如響き出す耳障りな騒音。

 触手の魔物が、金属音にも似た音を発し出した。

 反射的にエリゴスは耳を塞ぐ。

 

「うっ…ああぁっ…」

 

 同時に、触手に捕らわれたソルがもがき、苦しみだす。

 魔物の騒音が原因、という訳では無さそうだ。

 目を凝らすと、ソルの周りの魔力の流れがおかしいことに気付く。

 

「ソルの魔力が触手に吸われてる……?」

 

 エリゴスの目にはそう映ったようだ。

 ソルの魔力を吸った触手は、魔力を倒れた山賊へ飛ばした。

 すると、何事も無かったかのように山賊が立ち上がった。

 傷が癒えているのだ。

 あの攻撃を受けて、すぐに回復するとは考えられない。

 

「まさか…ソルの魔力を…?」

「へへ、今度はこっちから行かせてもらうぜ…」

 

 そして、山賊がエリゴスに次々と突撃した。

 その数、四人。

 エリゴスは剣を弾き、槍で凪ぎ、光線で吹き飛ばす。

 だが、山賊達はその度にソルの魔力で回復し、ゾンビの如く蘇ってくる。

 

「ぐっ…魔力が…」

 

 更に、触手はハスターからも魔力を吸い出し始めた。

 触手が山賊に魔力を送り込むと、彼らの周囲の魔力が濃くなった。

 剣を一振りすれば、それらは風を纏った飛ぶ斬撃として、エリゴスに襲いかかる。

 少人数でありながら無限に復活する彼らに、エリゴスは着々と体力を削られていった。

 

 そして、森の中を迂回して飛んでくる触手に、エリゴスは気付かない。

 

「エリゴス、伏せろ!」

 

 声と共に、触手に何かが突き刺さる。

 直後、それは爆発を起こした。

 

「キシャァァァ!?」

 

 触手が悶える。

 効果はあるようだ。

 カゲツが、エリゴスの窮地を救った。

 

「炎で焼くのが効果的みたいだな…だったら、こいつの出番か」

 

 マントから投げナイフのような投擲物を取り出すカゲツ。

 

「イタクァ!お前はエリゴスのサポートに回れ!俺であの魔物を片付ける!」

「お任せください!」

 

 カゲツは一人、触手と対峙する。

 

「こいつが火に弱い事を見ただけで判別するか。やるじゃねぇか」

 

 他のメンバーがエリゴスの相手に向かう中、唯一残った山賊が拍手を送る。

 他と比べるとやや小綺麗な服装からして、彼が山賊の頭だと推測できる。

 

「魔物狩りで生計立てて来たからな。勘で弱点はだいたいわかるさ」

「成程な。だが…呑気に話してていいのか?」

 

 前方から触手が数本伸びてくる。

 カゲツは剣で斬りつけるが、弾性の高いゲル状の触手には刃が食い込まない。

 止むを得ず、カゲツは回避に移った。

 そして、敵の猛攻撃をいなす最中、カゲツは衝撃を受ける。

 

 焼き飛ばした触手が、少しずつだが再生している。

 

「お前も再生するのか…クソ!」

 

 投げナイフの数には限りがある。

 予め魔術を埋め込んであり、何かに刺さると同時に爆発魔法が作動するという代物だが、使い切れば当然有効打が無くなる。

 再生しなければケチらず使っていたところだが、そう上手くは行かないらしい。

 しかし、倒さなければ今度は無限に復活する山賊達にやられる。

 カゲツサイドは一気に不利な局面に落とされた。

 

 

 ×××

 

 

 アマルは、戦いの様子をただ黙って見ているだけだった。

 戦況は、残念ながらこちらが押されている。

 エリゴスとイタクァは山賊に苦戦を強いられ、カゲツも触手に有効打を与えられないでいる。

 このまま戦っても、彼らに勝ち目はない。最悪、そのまま死ぬだけだ。

 

 ふと、アマルに一つの考えが浮かんだ。

 

 逃げてしまえばいいのではないか、と。

 

 もともと、あたしはこいつらに勝手に連れ回されているだけ。

 菓子こそ貰ったが、だからといって付いていく義理はない。

 仮にここでこいつらが死んだところで、自分には関係が無い。どうでもいいのだ。

 

 アマルは背を向け、この場から去ろうとした。

 

「アマルちゃん!」

 

 背後から名前を呼ぶ声が聞こえる。

 思わず振り向いた先には、触手に絡め取られた一人、ビリーの姿があった。

 

「アマルちゃん、助けて…」

 

 ビリーは目に涙を浮かべ、助けを求めていた。

 

「ど、どうしてお前を助ける必要が…」

「早くしないと!早くしないと、お兄ちゃんが…」

「あいつのことなんか知ったことか!」

「でも、ビリー達は友達でしょ⁉︎」

「⁉︎」

 

 思わず面食らったビリー。

 友達?

 友達ならピンチの時なら助けてくれると思っているのか。

 甘い。子供の考えだ。

 …いや、今はそんな事はどうでもいい。

 

「あたしを…友達って言ってくれるの?」

「そうだよ。ビリーはアマルちゃんの友達だよ!」

 

 友達。

 そんなことを言われたのはいつぶりだろうか。

 遺跡を守護していた頃は、部下と呼べる関係の者はいたが、友達だとは思っていなかった。

 もしかしたら、それは生まれて初めてのことかもしれない。

 

 何かが頰を伝った。

 …涙だ。

 それが自分の涙だと気付いたのは、十数秒が経った後だった。

 

 アマルは涙を拭い、高く跳躍した。

 今日のあたしはとても気分がいい。

 今までの最高出力の電撃を発動できる気がする。

 それに、

 

 

「ビリーには、お菓子の恩もあるからなーーッ!」

 

 

 アマルの魔力が膨れ上がり、雷鳴が轟く。

 そして、金色に輝く鎧を纏った鳥人が、その姿を現した。

 

「オーロ・トゥルエル!」

 

 鳥人の手に高圧の電撃が集中する。

 そして、力一杯、触手に向けて投げつけた。

 

「ギシァァァァ–——–ッ!!!」

 

 触手の断末魔が響き渡る。

 電撃が触手を次々と焼き飛ばし、その中枢が露わになる。

 そして、丸裸の触手に飛びかかる者が一人。

 

「…ありがとう、アマル」

 

 大ジャンプからの落下を利用して、剣を振り下ろす。

 魔物の核は、カゲツの一閃で真っ二つにされた。

 

「そ…そんな…あいつが倒された…?」

 

 盗賊の頭の余裕は何処へやら、情けない声で震えだした。

 他のメンバーも、動揺の色が見られる。

 

「さて…これでハスター様の魔力を使って、強化魔法を発動する事は出来ませんね」

「ひっ⁉︎」

 

 イタクァが、鬼の形相で山賊を睨みつけていた。

 山賊達だけではなく、カゲツやアマル、エリゴスですら恐怖を覚え、一斉に肩を震わせた。

 ハスターを拘束しただけではなく、魔力を勝手に使われて、さぞかし怒っているのだろう。

 

「…お覚悟を」

「おいおいおい!待て!何をする気だ⁉︎」

「何もしませんよ。ただ、ちょっとキツめの毒を食らってもらうだけです」

「イタクァ⁉︎」

 

 カゲツが制止するよう促すが、彼女は聞く耳を持たない。

 しかし、

 

「はいはいはい、ストーップ!」

 

 触手から解放されたハスターが、突如割り込んできた。

 

「ハスター様⁉︎大丈夫ですか?」

「全然平気よ。今から説明するから、とりあえず武器を下ろしなさい」

「えっ?でもこの人達は…」

「いいのよ。私達とグルなんだから」

「「「えっ?」」」

 

 カゲツ、アマル、イタクァの三人が、素っ頓狂な声を上げた。

 

 

 ×××

 

 

「最初は普通に山賊に襲われたけど、簡単に撃退した」

「うん」

「そして、山賊に頼んで自分達を襲わせ、アマルが俺達を助けるように仕向けたと」

「そうなるわね」

「んなもんわかるか!」

「そうだぞ!こいつに言われなきゃあたしは逃げるつもりだったぞ!」

「でも、アマルちゃんは実際助けてくれたよね?」

「結果論だ!」

 

 アマルとの交流を深めるため、ハスター達は襲撃してきた盗賊と一芝居打った。しかし、事はハスター達の思い通りに進んだものの、そのやり方には大きな問題があった。

 当然ながらカゲツ達の反感を買い、現在は言い争いをしている。

 エリゴスは彼女らから若干離れ、我関せずを貫いているようだ。

 盗賊の頭はエリゴスに近づき、一つ質問した。

 

「なぁ、嬢ちゃん。あいつらいつもあんな感じなのか?」

「……うん。でも、慣れた」

「…そうか」

 

 しばらくして、言い争いは終わった。今回の件はひとまずチャラになったようだ。

 首謀者のハスターには、禁酒一週間の罰が下されたらしいが。

 

「はぁ…困るな、全く」

「悪かったわよ、だから禁酒は三日に縮めて!」

「ダメです。しっかり一週間守ってもらいます」

 

 さて、盗賊とはここでお別れだ。

 カゲツ達には、次の遺跡を目指して道を進まなければならない。

 

「おじさんたち、ありがとー!」

「貴方達、あの魔物を操れる技術があるなら、盗賊稼業から足洗ってそっち系の仕事した方がいいわよ」

「…おう、考えとくよ」

「……マスター、早く」

「ちょっと待ってろ、すぐ行く」

 

 戦闘前同様、アマルを背負うカゲツ。

 だが、彼は盗賊に近づき、一つ呟いた。

 

「あの触手、誰から貰った?」

「…何の話だ?」

「あんな規模の魔物、この山では聞いたことがない。俺は仕事でここに何度か来たことがあるが、あんたらの話は聞いてても触手の話は一度も出てこなかった。それに、あれは()()()()()()()()()()だろう。何を隠している?」

「……」

「答えたくないならいいよ。悪かった」

「…おい、カゲツ」

「気にするな。ただの質問だよ」

 

 アマルが不穏な空気を察するが、カゲツはそれをはぐらかし、エリゴス達に向かって走っていった。




クリスマスに向けて意気揚々と準備してたバアル姐さんが限定ソルにサンタ役取られて泣いてる姿が想像できました


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騎士との攻防

覚えている人もそうでない人も初めまして
他ゲーにハマりすぎて神プロのモチベがダダ下がりですたすけてくだささ




 エレミアが率いるゼスト教第一師団の騎士は、現在とある問題の解決に急いでいた。

 

 継承者一行を捕らえ、デバイスを入手することだ。

 

 エレミアは一部の人間にのみデバイスの詳細を伝えており、下っ端の騎士はそれを知らない者も多い。せいぜい魔物を思うがままに操れる古代の遺産、という認識しか持っていないだろう。

 ひと月前、エレミアの師団に移籍された騎士のベルクも、その一人だった。

 彼は現在、新任の騎士ととある農村の警備をしていた。

 

「魔物ハンターが何故か遺跡から出てきて、エレミア様と戦闘になった…どういうことだよ」

「知らないっすよ。そもそもデバイスって何なんすか」

「何も分からん。多分上官は知ってるだろうけどな」

 

 警備とは銘打っているが、この農村はここ数年で事件はほとんど起きていない平和な村である。

 彼等は元々カゲツ一行が侵入した遺跡を守護していたが、易々と突破されたため、左遷されてしまったのだ。

 仕事も怪しい通行人の装備を調べる程度で、基本は暇である。

 

「俺は遺跡を守護するために教会騎士になったんすよ?こんな辺境の田舎町なんか守って何になると…」

「そういうのはやめとけ」

 

 新兵は暇だ暇だと嘆いている。生意気な後輩に、ベルクは頭を抱えていた。

 

「おっ、人が来ましたね」

「来たな。…妙に女が多いな。子供もいるぞ」

 

 男一人に女五人のパーティだ。しかも女は皆整った顔立ちときた。所謂ハーレムというやつだろうか。羨ましいとかは思っていない。

 ベルクは彼等に声をかけた。

 

「遺跡荒らしが逃げたって話でな。荷物を見せて欲しいんだが、いいか?」

「分かりました」

 

 最初に長い銀髪の女が前に出た。杖以外の装備はない。

 次に銀髪ショートの紫女。手足がごつい癖に胸元は出してる。持ち物はない。

 続いて銀髪ハンチング帽…銀髪多くね?男の趣味なの?こちらも持ち物なし。

 次にオレンジ髪の女。若干光ってる気がする。装備は杖のみ。

 次に踊り子みたいな格好の幼女。裸足じゃないか、これで歩かせてるのか?いや男がおぶってんのか。持ち物なし。

 最後に男。他と違って剣やら爆発物やら、やけに重装備。だが怪しい物は無かった。

 

「…変な物は無いな。通ってよし」

「どうも」

 

 変な奴らだったと思ったベルク。

 その()()が、自分が探している継承者の一行だとは知る由もなかった。

 

 騎士たちから離れた後、カゲツの手に何かが落ちてきた。

 彼らの探し求めている、デバイスそのものだった。

 

「助かった、ハスター」

「いいのよ」

 

 

 ×××

 

 

「あの村で泊まってくんだよね?」

「そうだ。何か異常は?」

「教会騎士が入り口を警備してるねー」

「うーん、やっぱりいるか、警備」

 

 数十分前。

 山を越えたカゲツ一行は、休憩がてら目的地の農村を眺めていた。

 ガンマンだからか、何故かやたら目が良いビリーは、双眼鏡も無しで辺りを調べている。

 

「村を出入りする人に取り調べしてるみたいだねー」

「取り調べですか。デバイスがバレたら大変ですよ?」

「あんな奴ら、あたしの電撃で一発よ」

「……ダメ。大ごとにはしたくない。人の目もある」

「えー、じゃあどうするの?多分反対側の入り口にもあいつらいるんでしょ?」

 

 どうやって何事も無く通り抜けるかで悩む一行。

 更に、ビリーが不安な事を口にした。

 

「…あの人、会ったことあるかも」

「え?」

「お兄ちゃんと合流する時、騎士と戦ったんだけど…あの人、ビリーが鎧()った人だ」

「何をどうしたら戦闘中に鎧を奪う発想になるの⁉︎」

 

 ちなみにその鎧を奪われた騎士、ベルクだったりする。

 とりあえず、これで問題点が二つ浮上した。

 一つは取り調べによるデバイスの露見。もう一つは、面識のあるビリーの顔バレ。

 この問題点をどうやって解決するかが重要になる。

 あと少しで日も暮れる。せっかく宿のある村の直前まで来たというのに、ここへ来て野宿は避けたい。

 そもそも、そんなことはスケジュールの鬼・イタクァが許さない。

 

「デバイスがあればダメ、ビリーがいてもダメ、気絶させるのもダメ…お兄ちゃん、どうしよう?」

「どうするかなぁ…」

「そうだ!あたしの電撃で周りの人みんな気絶させれば…」

「ダメに決まってるでしょ!」

 

 いい案が出ず悩む一行。

 そこに、ソルが一つ意見を出した。

 

「デバイスをハスターの風で空高く飛ばして、乗り切るのはどうかな?」

「空高く…なるほど、騎士の目が届かない高度まで飛ばせれば…」

「時間もありません。デバイスはそれで隠しましょう。ですがビリーはどうします?」

「ビリーは英霊なんだよね?だったら、デバイスの中にいれば良いと思うよ」

「あっ…」

 

 すっかり忘れていたが、英霊は元々デバイスから召喚する存在。コガネも言っていたことだが、そもそも戦闘時以外はデバイスに戻しておくのが普通なのだ。

 

「あまりビリーをデバイスの中に入れておくってのもなぁ…なんか、閉じ込めてるみたいで」

「大丈夫だよー?デバイスの中に閉じ込めるんじゃなくて、別の異世界にいるビリーを呼び出すって感じだから」

「そうなのか?…悪いな、一旦戻ってくれ、ビリー」

 

 カゲツの指示を受け、デバイスが起動する。

 同時にビリーの身体が光の粒子に変わっていく。

 

「ちょっとお別れだねー。後でね、お兄ちゃん!」

 

 光の粒子と化したビリーは、デバイスに吸い込まれていった。

 パーティが突然一人減り、空気が少し変わる。

 

「……行こう、マスター」

 

 エリゴスが出発を促す。

 休憩もたっぷりとった。出発するなら今だろう。

 

「おう。…とりあえず、胸を頭に載せるのはやめてくれないか」

「……むぅ」

 

 エリゴスのスキンシップは変わらない。そこに、少し安心感を覚えるカゲツだった。

 

 

 ×××

 

 

「いやー、なんとかうまくいって良かったわね」

「そうだな、ビリーもハスターもありがとう。案を出してくれたソルもな」

「えへへー」

 

 宿に併設された酒場で夕食を取る一行。

 カゲツに褒められ、ソルはニコニコ笑っている。

 

「じゃあマスター君、ご褒美にお酒を…」

「ダメです」

「じゃあマスター君を…」

「ダメ」

「なんでよー!イタクァもエリゴスも酷いじゃない!」

 

 酒好きのハスターにとって、目の前にある酒が飲めないのは大変辛かろう。だが、彼女に酒を与えるとろくなことにならないのだ。我慢してもらうしかない。

 ちなみに、その横ではさらっとビリーとアマルが酒をガッツリ飲んでいたりする。

 見た目は明らかに酒を飲める年齢では無い彼女らだが、英霊と幻獣にはそんな理屈は通用しないらしい。

 

「あんたら、もうちょっと控えなさいよ!飲んでいい見た目じゃないでしょ⁉︎」

「あたしは酒を飲むのも何百年ぶりなの!こんなにうまい酒は昔には無かったから、ちょっと飲むくらいいいじゃん!」

「禁酒してる方からしたら生殺しなのよ!も〜…」

 

 ワイワイと騒ぐ一行。

 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

 気づけば、閉店の時間も迫っていた。

 

「さて、そろそろ宿に戻るぞ」

「そうですね。明日のスケジュールの確認もあります」

 

 宿で明日の予定を確認し、皆は各自に当てられた部屋に戻っていく。

 だが、カゲツはただ一人、剣を持って外へ出て行った。

 魔物狩りを始めてから一日たりとも欠かしたことのない、自主鍛錬の時間だ。

 

「早めに戻ってきてくださいね?エリゴスがうるさくなります」

「分かってるって」

「……うるさくない」

 

 

 ×××

 

 

「ふっ!…はっ!」

 

 宿周辺の空き地で、黙々と剣を振るカゲツ。

 夜風に紛れて、刀身が風を斬る音が響く。

 仲間が増え、人と話す事も増えたカゲツだが、この間だけは再び、孤独の時を過ごす。その様子を見ている者があるならば、それは空に浮かぶ月くらいのものだ。

 

 だが、その日は違った。

 

「誰だ?隠れてないで出てこい。視線でバレてるぞ」

 

 戦いの機会が減ったとはいえ、野生の魔物と戦って得た、カゲツの気配の察知力は衰えていない。

 視線を向けた影が、その姿を現した。

 

「貴方、凄いですね。ちょっと覗いていただけのつもりでしたが」

 

 柔らかい少女の声が響く。

 銀髪のショートヘアに青いシルクハットを被り、青い外套を羽織った碧眼の少女。ミニスカートにゴツめのブーツと、動き易そうな格好だ。旅装だろうか。

 

「こんな夜更けに鍛錬する人がいるのは珍しいですからね、ついつい見てしまいました。私はアナヒットといいます。考古学者として各地を彷徨っておりますよ」

「俺はカゲツ。魔物ハンターだ」

「魔物ハンターですか。道理で立派な筋肉をしてるわけです」

 

 アナヒットは汗で濡れているにも関わらず、カゲツの二の腕をペチペチと叩く。

 カゲツが払いのけると、アナヒットは「これは失礼」と離れた。

 

「魔物ハンターがどうしてここまで?この辺りにはハンターの手を借りるような危険な魔物は生息していないはずですが…」

「事象があって、今は旅をしてるんだ。遺跡巡りの旅を」

「遺跡巡りですか。なら、もしかするとまたお会いする事もあるかもしれないですね。こんな時間ですし、私はもう宿に戻るとするです」

 

 アナヒットは去ろうとしたが、何を思ったか再び戻ってきて、

 

「はい、どうぞ。お近づきの印と言うことで」

 

 カゲツに飴玉を一つ手渡した。

 

「えっと…ありがとう」

「いえいえ。それでは」

 

 アナヒットは今度こそ去っていった。

 飴玉の色は緑。緑色の葡萄があるという話は聞くが、それの味だろうか。

 カゲツは何故かそれを食べる気にはなれず、ポケットに入れた。

 

「…俺も帰るか」

 

 カゲツは荷物をまとめると、宿に向かって歩き出した。




カゲツパーティ、銀髪多すぎる問題

アナヒットたそも銀髪なんだよな…


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直前の村で

FGOやスマブラにうつつを抜かしてしたので初投稿です。

FGOではふーやーちゃんが好きです。その後も様々なロリが性癖だと実感しました。
なお本妻のエリゴスちゃんはロリとは程遠い体型をしていますが、これに関しては運命的な出会いだったということで決着がつきました。


 カゲツとアナヒットが言葉を交わしてから幾日かが経過した。

 あの村を出てから、かなりの距離を歩いた。村で購入した食料が底を尽きかけ、魔物の肉や森の果実で食いつないでいるほどだ。

 割とピンチな状況だが、サバイバルに長けたカゲツが色々工夫を凝らしてくれるので、食事のバリエーションには困らなかった。

 

「この調子だと、明日のお昼には街に辿り着けそうですね」

「助かるわ……マスター君の作るご飯、味は悪くないけど飽きてたのよね」

「飽きただって?俺の飯のどこがダメなんだ?」

「あれだな。種類が多くても味付けが塩ワンパターンなのがな……」

「……マスターのご飯、栄養摂取を第一に考えてて見た目も悪い。味は悪くないけど」

「アマルはともかくエリゴスまで!?」

 

 やたら「味は悪くない」と連呼されるのもあって割とダメージは大きい。

 だったら自分で作ってみろという話だが、そう言うとパワハラだのなんだのとごねるのがこの神姫達である。ろくでもない。

 この中でまともに料理ができるのはせいぜいイタクァくらいである。料理本の中身を完璧に覚えた彼女ならではの技術だ。

 

「とにかく急ぐぞ。雨に打たれたら大変だからな」

「雨?雲なんて全然無いじゃない」

「この辺りは天候を変えて旅人を惑わす魔物がいるって話なんだ。できれば戦闘は避けたい」

「天候操作の魔術ですか。人間ではその魔法を使える者はいるのですか?」

「多分居ないよ。竜巻やら雷雨やら起こす奴ならここにいっぱいいるけど」

「おい、人間と幻獣を一緒にするな!」

 

 そんな調子で、なんやかんやで一行は進んでいた。

 

 

 ────────────────

 

 

 順調に旅を進める一行の裏で、教会騎士も動きを見せていた。

 遺跡での戦いで、教会騎士はカゲツのデバイスが発する魔力波を特定していた。魔力波の反応を探ることで、カゲツらが北方向にある遺跡を目指していることが判明したのだ。

 しかし、遺跡の道中の村に教会騎士を配置したにも関わらず、カゲツらを捕らえること、最低でもデバイスを奪取するという目的は、ことごとく失敗していた。カゲツの顔が各地の騎士に認知されておらずそのまま見逃したり、見破ったとしても神姫の圧倒的な力に何もできずに蹴散らされたのが主な原因である。

 カゲツの顔が認知されていないのはエレミアの連絡が遅れているせいであり、こればかりはエレミアの不手際と言わざるを得ない。

 他にも数々の不運が重なり、エレミアはカゲツを捕らえる事は未だできていなかった。

 

「……しかし、次は南の遺跡に向かうと思っていたのですが、北とは」

 

 ここは、カゲツとエリゴスが最初に訪れた遺跡の周辺に張られたキャンプ地。簡易な教会騎士の詰所になっている。

 テントの一室で、エレミアと部下が会議を行っている。

 

「この調子では、一週間程で遺跡に辿り着くかと」

「そうですね。水路を利用して、先回りしましょう。もちろん私も行きます」

「こちらの対処はいかがなさいましょう」

「教会から代わりを派遣してもらいます。後片付けはそちらに任せましょう」

「わかりました」

「出発は今夜です。準備しなさい」

「はっ!」

 

 エレミアの指示を受けて、騎士が慌ただしく動き出す。

 

「さて、向こうがどれだけ足止めできるか……」

 

 

 ────────────────────

 

 

 所変わり、ここは北の遺跡に通じる森。……の付近にある村。

 そこそこ栄えてはいるが、カゲツが拠点にしていた街程ではない。宿屋に冒険者ギルドに武器屋、その他様々な施設がある、よくある村だ。街と街を繋ぐ馬車の中継地といったところだ。

 既に日は落ちており、現在は宿で休んでいる。部屋は三部屋借りており、現在はカゲツ用の個室に集合している形だ。神姫や幻獣も女性なので、プライベートは分けるべきというカゲツの意向である。

 なお、ビリーはメガフロンティアに戻ってからというものの、夜になるとデバイスに戻るようになっていた。何か事情があるらしいが、何をしているかは誰も把握していない。

 

「……馬車、使えばよかった」

 

 夜行の馬車が通り過ぎるのを見て、エリゴスが呟く。実際その通りである。何故馬車を使わなかったんだとカゲツは頭を抱えた。

 

「次の街に行く時に使えば良いんだよ、リーダー」

「いや、あの森はそんなに危険じゃないから、半日で通り抜けられると思う。そしたら遺跡もすぐだし……」

「「「…………」」」

「約3人からの視線が痛い……」

 

 とにかく、今日はこの村で一晩過ごすことにする。

 ラグナロクでいつ世界が滅ぶかわからないというのに、かなり呑気な話である。

 とはいえ、急いだところでこの人数ではどうしようもないだろう。何十人もの神姫の力を借りなければ、ラグナロクには対抗できない。と思うカゲツ。

 

「まだ4人……いや、むしろ数日で4人も集まったのが奇跡か……?」

「そういえば、マスター君はラグナロクのことなんて知らなかったんでしょ?どうやってそのことを知ったの?」

「あぁ……」

 

 そういえば、その辺りの事情はエリゴスしか知らない。

 改めて、説明することにした。

 

「えぇ……デバイスって骨董品だったの……?」

「魔力制御装置としては最高峰の代物ですよ?それが骨董品屋なんかに置かれているなんて……」

 

 ハスターとイタクァはただただ驚くばかりである。

 

「でも……だからってそんな簡単に継承者?になってよかったのか?」

「いや、わからないな。テスタメントやら教会騎士やら、面倒な奴等に狙われることになったし。ただ……これは奴等に渡したらダメな気がするんだ」

「……どうしてそう思うの?」

「なんとなく。ただ……デバイスを渡したら、ろくなことには使わないだろうなって、そう思っただけだよ」

「……うん、そうだよね。でなきゃソルを捕まえたりしないもん」

 

 ソルはテスタメントに誘拐されたことが少しトラウマになったらしく、テスタメントのことを話題に出すと怯えるようになってしまった。故に、テスタメントにいいイメージは持っていない。

 神姫を誘拐してまで、何をしたかったのか。デバイスや継承者を捕らえて、何をしたかったのか。カゲツ達には知る由もない。

 しかし、それをさせてはならないという強い意志は、皆持っていた。

 

「今夜はもう寝るぞ、明日は早めに出たいからな」

「じゃあ私はマスター君のベッドで……」

「何のために部屋を分けたと思ってるんだ」

「……私と一緒に寝るため……?」

「違う!イタクァ、ハスターとエリゴスを引き剥がしてくれ」

「はいはい、分かってますよ。ほら行きますよ」

「あーん、イタクァのいけず〜」

「むぅ」

 

 

 ────────────────────

 

 

 日の出と同時に、エリゴスは目を覚ました。

 頭の中で、目まぐるしく光景が流れていく。

 その大半は、戦闘の光景だった。夜の平原で、遺跡の前で、森の中で、そして……

 

 

 今現在宿泊している、宿の壁が見える。カゲツも、見える。

 

 

「……!」

 

 敵襲だ。

 即座にエリゴスは飛び起き、槍を手にして駆け出した。横で寝ていたアマルが文句を言うが無視する。

 狭い廊下を走り、カゲツの部屋にたどり着いた直後、銃声が二発鳴り響いた。

 

「マスター!」

 

 ビリーの銃か、それとも敵か。

 エリゴスは槍でドアを突き破り、中に突撃する。

 

「エリゴス!?」

 

 驚くカゲツの傍には、二丁拳銃を構えるビリーと、倒れた数人の教会騎士がいた。

 

「悪い、襲撃された」

「無事!?」

「大丈夫、無傷だ。こいつら、宿にまで乗り込んできやがった」

「……早くここを出なきゃ」

「当然だ。ハスター達を起こせ、今すぐ出る」

 

 カゲツが素早く装備を整える。その横で、エリゴスは少し震えていた。

 

「……ビリー、替わりにハスター達を頼む」

「りょーかーい!」

 

 ビリーが部屋を出ていく。

 カゲツは震えるエリゴスに近寄り、声をかけた。

 

「エリゴス、どうした。ひどい顔色だぞ」

「……ごめんなさい、守れなかった」

「……なんだ、そんなことか。無事って言ったろ?ビリーも助けてくれたし」

「で、でも、もし間に合わなかったら……」

 

 エリゴスは、カゲツを失うことを非常に恐れていた。声は震え、目には涙が浮かんでいる。

 カゲツはやれやれといった調子で頭をかき、エリゴスの肩に手を乗せた。

 

「エリゴス、こっちを見ろ」

「えっ?」

「教会騎士が襲撃した時、誰よりも早く来てくれたな。予知でもしたのか?」

「……うん」

「その予知の中で、俺はどうなってた?」

「……敵に襲われてた」

「そして?その先は?」

「……わからない。そこから先は見れなかったから」

「そうか。もしかしたらその先で俺が死ぬかもしれないって思ったんだな?」

「……でも、もし本当に死んじゃったら」

「エリゴス」

 

 肩を揺らし、床を向いた視線を再び顔に戻す。

 

「もしものことなんて考えるな。未来でいくら可能性を見ようとな、一度起きた結果は覆せないんだ。だったら、その結果を噛み締めて行動した方が何倍もいい。俺は生きてる。それで済む話なんだ」

「…………」

「いいな、エリゴス。俺がここで死ぬ予知は忘れろ」

「………………」

 

 エリゴスは黙りこくったまま、しばらく動かなかった。数秒か、あるいは数分なのか、時間ははっきりとわからなかった。

 しばらくして、エリゴスは涙を拭い、カゲツの胸に飛び込んだ。

 

「……わかった、マスター」

「…………」

 

 抱きつくエリゴスを、カゲツは咎めなかった。

 イタクァが部屋に飛び込んでくるまで、エリゴスはずっと抱きついていた。

 

 

 ────────────────────

 

 

「このことだけじゃない。……起きた時、いろんな未来を見た」

 

 出発直前で、エリゴスはカゲツに告げた。

 今、この部屋にはカゲツとエリゴスの2人しかいない。エリゴスがカゲツと2人だけで話したいことがあるといい、現在こうしている。

 エリゴスは、カゲツ以外に予知のことを明かしていなかった。何故そうしないかは分からないが、とにかくエリゴスは周りに能力が露見するのを頑なに避けていた。

 

「そうか。何を予知した?」

「…………」

「どうした」

 

 

「エレミアと、戦う予知」




久しぶりに投稿したけどハーメルンに色々な機能追加されてて驚きましたね。文章の修正がしやすいのなんの。

神姫ですが、現在闇スナイドル銃を作っている最中です。
カスパール、欲しいんだ。ロリだし。
最終的に見た目はビリーちゃんに挿げ替えますけどね。……できるよね?
というか何故スナッチのCT伸ばしたんだろう。スナッチ即発動アビの仕業か?


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森で

剣盾楽しい

ゲンガー使いたいけどミミッキュドラパルトがマジでキツすぎる


 教会騎士がカゲツに襲撃を仕掛けて、早くも30分程度が経過していた。

 宿を素早く出て遺跡に走り出す一行。

 しかし、

 

「マスター! 林道に教会騎士が!」

 

 林道に教会騎士が配置されている。その人数は、遺跡で相手した時とは比べ物にならない。彼らは本気でデバイスを狙っているようだ。

 

「エリゴス、頼む!」

「……ダークネスレイ……!」

 

 魔力の波と怪光線が同時に襲いかかる。騎士の大半が光線に貫かれ、樹上の騎士は地に落ちた。

 

「くっ……貴様ァ!」

 

 後続の魔道士が光弾を発射する。

 しかし、それらは着弾する前に、ビリーの銃弾とソルの光魔法で撃ち落とされる。

 更に、イタクァが毒魔法を展開し、近づくことすら難しくしている。

 

「行け行け! デバイスを確保しろ!」

 

 脅威は騎士だけではない。

 敵方に魔物の調教師でもいるのか、複数の魔物が徒党を組んで襲いかかってくる。その中には、かつて山賊が使役していた触手の魔物の姿もあった。

 

「あの魔物……やっぱりゼスト教が絡んでたのか」

「アマルちゃん!」

「オーロ・トゥルエル!」

 

 以前の戦いで、魔物の身体を構成するゲルが炎や電撃に弱いのは分かっている。

 アマルの電撃が触手の魔物が焼き払い、核をエリゴスの光線が貫く。

 敵を倒すことは簡単だ。しかし、敵はそれ以上の増援を連れてやってくる。

 

「このままじゃジリ貧ですよ!」

「ハスター、でかいの一発かましてやれ! そこから突っ切る!」

「マスター君の頼みとあらば、断れないわね! 来なさい、バイアクヘー!」

 

 ハスターの指示と同時に、蜂のような魔物が1匹現れる。

 あれこそがバイアクヘー。ハスターが使役する強力な魔物だ。

 

「全開で行くわよ……サモンフォーカイム!」

 

 バイアクヘーが強烈な風魔法を放ち、教会騎士を纏めて吹っ飛ばした。

 

「ナイスだハスター。これでだいぶ楽になる!」

「ふふーん、まだまだ出せるわよ、この子。さぁ行くわよ!」

 

 次々と召喚されるバイアクヘーに、教会騎士は何もできない。

 林道は、たちまち風で吹っ飛ばされた騎士がえずく地獄絵図と化した。各地で戦闘音が鳴り響き、かつての静かな森の面影はどこにも残っていない。

 風で吹き飛ばされ、槍で貫かれ、銃弾は百発百中。デバイスを持っている男も、多種多様な武器で応戦してくるので隙がない。騎士たちは抵抗できず、蹂躙されるしかなかった。最終的に、逃げ出す者すら現れる有様だった。

 

「この辺りの騎士は片付いたか」

「どうします? この先にも騎士が待ち受けているでしょうし、このままだとスケジュールが狂います」

「何か足が有ればいいんだけどな」

「ゼスト教の馬車とかないかしら……」

 

 このままでは厳しいと、馬車を探すカゲツとイタクァ、ハスター。

 しかし、馬車は見当たらない。近くに大きな川と小舟が複数確認できたため、水路を利用したと判明した。

 

「水路か……確かにそれなら先回りできるな」

「いえ……それならおかしいです。この舟の数じゃ、あそこまでの人数を運べません」

「じゃあ、別の移動手段があると?」

「そうです。とはいえ、私達が使った道以外では馬車でも間に合わないと思います」

「確かに、他の道はかなり遠回りだよな。同じ道を通ったら俺たちにもわかるし」

「まさか、魔法でここまで来たとかじゃないでしょうね。ワープしたりとか」

「そんな技術聞いたことないけど……いや、ゼスト教が隠蔽してる可能性も……」

 

 考察しても、事態は良くならない。途方に暮れる3人だったが、そこにビリーとアマルが現れる。

 

「お兄ちゃん、馬車あったよー!」

「本当か!? すぐ案内してくれ」

「いや……あれを馬車と呼んでいいかは怪しいんだけど……」

 

 笑顔のビリーとは裏腹に、アマルは微妙な表情をしていた。

 

 

 ────────────────────

 

 

「……これか?」

「これだよー」

「……馬じゃないですね」

「ライオンじゃない?」

「……でも牛の胴体がある」

「そして尾がなぜか鶏。身体は何故か青い」

「リーダーはどう思う?」

「……キメラでいいんじゃないか?」

 

 馬車ならぬ、キメラ車であった。

 

「いろんな動物を混ぜ合わせてるみたいね。生きてるのが不思議なくらい」

「ゼスト教の魔法は公開されてない物も多いらしいぞ。俺はよく知らないが」

「近くにも同じやつが何匹もいたぞ。こいつらに乗って来たんじゃないか?」

「……マスター、使う?」

「かなりパワーがありそうだ。遠慮なく使わせてもらおう」

 

 どうやらゼスト教はデバイスに似た機械でこのキメラをテイムし、操っていたようだ。ゼスト教ではない部外者の命令に従わないのが懸念点だったが、杞憂に終わった。

 

「御者は私がやりましょう」

「イタクァ、できるのか?」

「経験はありませんが、知識はあります。それに、マスターを外に出したくありませんし」

「それはありがたいけど……1人じゃ不安だ」

「なら私も外にいるわ。イタクァだけじゃ不安だもの」

 

 ということで、イタクァとハスターが御者を担当し、残りは荷車で休憩をとることになった。

 

「さぁ、暴れるわよ、バイアクヘー達!」

 

 ハスターが指をパチンと鳴らすと、バイアクヘーが瞬時に3匹現れた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 キメラ車のスピードは凄まじかった。

 以前出会ったヘルモーズに追いつくんじゃないかと錯覚するレベルだ。

 途中に河があろうと難なく飛び越え、森の木をなぎ倒しながら進む姿は恐ろしさすら感じた。『これもしかして私の幻獣より強いんじゃない?』とアマルは語っていた。

 そんな突破力を持つキメラ車にハスターのバイアクヘーが3匹もくっつこうものならどうなるか。

 もはや、蹂躙と呼ぶことすら生ぬるい有様だった。例えるなら、アリの列に真っ正面から熊の群れが突っ込んでくるような……そんな感じだった。

 

「アハハハハ、最高ーッ!」

「テンション高いな!? 落ちるなよハスター!」

「そんなヘマしないわよ。というか、これはかなり速く遺跡にたどり着けるんじゃない?」

「……この距離なら10分もかからなそう。行く?」

「エレミア達は待ち構えてるだろうが……もう戻れないか。行くしかないな」

 

 エレミアは強かった。それでも、立ち向かうしか道はない。

 カゲツは腹をくくった。

 やがて、雑兵も姿を消し、一本道をただ走り続けるだけとなった。

 

 

 だが、異変は唐突に訪れた。

 

 

「あれ、ハスター様、バイアクヘーが減っていませんか?」

「えっ? 3匹いるじゃ……」

 

 いない。

 キメラの圧倒的な速度に追いつくバイアクヘーが、数を減らしている。キメラ車の横にくっつき、併走していたバイアクヘー2匹がどこにもいないのだ。

 驚愕するハスターの顔面に、突如バイアクヘーが現れる。瞬間、バイアクヘーは矢を残して霧散した。ハスターを身を挺して庇ったのだ。

 

「狙撃手がいる……!」

 

 休む暇なく、次の矢が御者台を狙う。

 エリゴスは瞬時に御者台に上がり、飛んでくる矢を槍でブロックした。

 

「ハスター、イタクァ! マスターを!」

 

 返事はない。

 エリゴスは矢を打ち返すのに精一杯で、後方を確認できない。

 だが、エリゴスは予知した。次の矢で、攻撃が止まる。

 

「マスター!」

 

 矢を払い、振り向いてカゲツを確認しようとする。

 カゲツはいなかった。

 カゲツだけではない。ハスターも、ビリーも、ソルも、イタクァも、アマルも、誰も荷台に乗っていない。

 今、このキメラ車に乗っているのは自分1人だけだとエリゴスが察知するには、一瞬の時間を要した。

 その隙に、一矢がエリゴスではなく、荷台に刺さる。矢には矢尻以外の何もついていないように見えたが、それは着弾した途端、爆発を起こした。

 猛スピードで走るキメラ車から放り出されるエリゴス。空中でなんとか姿勢を立て直す。

 そして、盾、弓、鎌を持つ3人の教会騎士が、エリゴスに襲いかかってきた。




カスパール解放するのに5年はかかりそうです(適当)


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エレミア親衛隊

また投稿間隔空いてるよこいつー

プルート覚醒はめでたい。情報来てから長かったなお前な。

未来予知能力や寵愛の力を持つエリゴスちゃんは結構な大物キラーな気がします。
最も、ゲームの方だと未来予知は全然使ってくれませんが。うちのエリゴスちゃんはガンガン使うけど。


 荷台から投げ出されたエリゴスが見たのは、それぞれ盾、弓、鎌を持った教会騎士の少女らだった。

 だが、今まで蹴散らしてきた雑兵とは違う。それは、彼女らから溢れる魔力の波を見れば明らかだった。

 彼女らは樹上からエリゴスを見つめるばかりで、向こうから攻めようとはしない。

 正直、今すぐにでもカゲツを探しに行きたい。だが、それは騎士が許さない。

 戦う他、ない。

 

 静寂を断ち切り、先に動いたのは鎌を持った少女だった。

 いかにも死神が持っていそうな、大きな首切り鎌だ。刃からは得体の知れない液体が滴っている。

 少女は鎌を振りかざし、エリゴスに斬りかかった。

 エリゴスは鎌を避ける。避ける、避ける、避け続ける。

 鎌を振るうその動作には無駄が一切なく、反撃の隙がない。エリゴスは回避に集中せざるを得なかった。

 エリゴスが避けた斬撃が、森の木を掠る。ほんの少し掠っただけだったが、その切り口は即座に紫色に染まり、爛れた。

 

(毒……)

 

 皮膚に直接食らえば、どうなるかは明らかだ。

 極力接近せず、遠距離から攻めるのが得策と見た。

 エリゴスは後退し、背中のユニットに魔力を込める。

 

「ダークネスレイ」

 

 闇の魔力が込められた6本の怪光線は、鎌使いの少女に向かって真っ直ぐ放たれる。

 だがそれは、少女に届くことなく、全て矢によって撃ち落とされた。

 樹上の弓兵は、素早く矢を番え、エリゴスを狙い撃つ。

 ただ、エリゴスの実力と予知能力があれば、弓矢での狙撃自体は十分に槍でいなせる。爆走する荷車の上というバランスの悪い環境でも、エリゴスはカゲツらを矢から守り通せた。結局は分断させられたが。

 問題なのは、これに鎌使いが介入してくることだ。こうなってしまうと、いくらエリゴスといえど攻撃に被弾する可能性がある。予知はあくまでも未来の先読みであり、その後の行動を起こさなければ、未来を変えることはできない。予知ができても、エリゴスの身体が反応できなければ意味がないのだ。

 数で劣るこの戦い。優位を返さんとするエリゴスがとった行動は、弓兵を真っ先に倒すために、樹上へ突撃することだった。

 遠距離から攻撃してくる敵を速く潰すことで、戦闘はある程度楽になる。

 弓兵の矢は幾度もエリゴスを射抜かんと飛んでくるが、エリゴスはそれを全て防ぐ。

 不利を察した弓兵は樹上を跳び回り、距離を取ろうと試みる。だがそれよりも、エリゴスが間合いを詰める方が早い。

 

「……これで、終わり」

 

 構えた槍を、弓兵の左胸目掛けて突き出す。

 

 ガキィン! 

 

「!?」

 

 重い金属音が響く。槍はすんでの所で盾に阻まれていた。

 

 そう、騎士はもう1人いた。

 

 盾を持つ少女は、エリゴスの槍を真っ向から受け止めていた。盾には傷一つついていない。

 

迎撃態勢(カウンターモード)・シールドバッシュ」

 

 盾使いは何かを唱える。すると、盾の模様が青白く発光し、盾に魔力が集まった。

 蓄積された魔力は衝撃波となり、エリゴスを吹き飛ばした。

 

「……っ!」

 

 吹っ飛ばされた先には、鎌使いが待っていた。木々を飛び移って跳躍し、はるか空中のエリゴスを斬り裂かんと襲いかかる。

 

「死ね、神姫!」

 

 普通ならそのまま鎌使いに真っ二つにされるか、毒液を受けて身体を蝕まれるかのどちらかである。

 だが、エリゴスは空中で体勢を立て直し、ギリギリで鎌を槍で防いだ。

 この近距離だと鎌から滴る液体が身体に触れる危険性もあるが、同時にエリゴスの攻撃のチャンスでもある。

 

「ダークネスレイ」

「!!」

 

 空を飛べるエリゴスと違い、鎌使いは空中で姿勢を制御できない。結果、エリゴスの怪光線をモロに食らってしまった。

 鎌使いはそのまま落下。エリゴスも、弓兵の追撃を避けるため、遮蔽物の多い地上に逃げた。

 

「リーダー、メムが……」

「問題ない。あいつならあの程度じゃ死なんさ。それに……アレもそろそろ起きる時間だろう」

 

 

 ────────────────────

 

 

 エリゴスが降り立った場所は、キメラと大破した荷車があった林道だった。弓兵の追撃の過程でかなり移動したように感じたが、実際には同じ場所で戦っていただけのようだ。

 爆発の衝撃を受けたのか、キメラは気絶しており、ピクリとも動かない。

 これなら平気だろうと、エリゴスはキメラに背を向ける。

 視線の先には、エリゴスの怪光線を食らった鎌使いが、ボロボロの姿で立っていた。

 鎌を杖代わりにしてようやく立っている状況であり、受けたダメージで脚がガクガクと震えている。

 神姫の戦闘能力は人間を遥かに凌駕する。その攻撃をまともに受けて、立っていられるのは純粋に恐ろしいことだ。

 

「神姫……殺す……」

 

 ぶつぶつと呟く鎌使い。

 目には殺意が混じった闘志が宿っており、エリゴスを睨み続けている。

 

 そして鎌使いは、突如矢で胸を射抜かれた。

 

 当然ながら、その矢は味方のはずの弓兵が放ったものだった。

 味方を射殺した? 

 何のために? 

 困惑するエリゴスの前では、異様な事態が起こっている。

 胸を射抜かれた鎌使いは、多少仰け反りはしたものの、すぐに体勢を立て直した。

 矢は徐々に霧散し、同時に鎌使いの傷が癒えていく。

 矢が完全に消滅した時、傷はどこにも見られなくなっていた。

 

(矢で射抜くことで回復する魔術……?)

 

 どういう魔法かは分からないが、鎌使いは完全に復活してしまった。

 だが、それだけではない。

 

「ぐるるる…………」

 

 エリゴスの背後から唸り声が響く。

 それは、数秒前まで地に伏していた、キメラのものだった。

 目覚めた獣は目の前の肉を捉え、力強く吠えた。

 

「────────ー!!」

 

「こいつは我がゼスト教で製造された合成獣だ。ただ、少々凶暴になりすぎてな。機械で操らなければ我々も危ういが……どうする?」

 

 

 ──────────

 

 

 気づけば、カゲツは木々の中を飛んでいた。

 いや、少々語弊がある。吹っ飛ばされたと言うべきか。

 

 エリゴスが矢の猛攻を必死で抑えていた最中だった。必死に荷台に戻ったイタクァが、目の前で消えたのだ。

 次いでソルが、ハスターが次々に消えた。そこまで来てようやく、敵は既に襲撃していると察知した。

 カゲツができることは、ビリーとアマルをデバイスに戻すことだった。英霊や幻獣をデバイスで呼び出す際は、別の場所にいる彼女らをデバイスを介して召喚するのか、あるいはデバイスの中に独自の空間が形成されており、そこから召喚するのか。詳しくはわからなかったが、少なくとも一度戻すことができれば、またすぐに召喚できるのは確かだった。

 ビリーをデバイスに戻し、すぐにアマルを戻そうとした時、アマルは消えた後だった。

 そして、最後に残ったカゲツが飛ばされた。

 

 不思議と痛みや衝撃はなかった。

 だが、木々は猛スピードで視界を通り過ぎていく。このまま何かに衝突すれば重傷では済まないのは火を見るより明らかだった。

 幸いながら、大木に激突する瞬間に突然勢いが弱まり、カゲツは安全に着地できた。

 

「よし、ここまで飛ばせば、そう簡単に戻れないでしょ」

 

 大木を背にするカゲツの前に、いつのまにか1人の少々が立っていた。

 身長はソルより高い程度だが、他の騎士にも見られる赤と銀の鎧を着け、その上から似た色合いのローブを羽織っていた。

 手には魔導書。あれで魔法を発動し、カゲツ達を分断したのだろう。

 

「そのローブ……噂のエレミア親衛隊か?」

「おっ、鋭いね。知ってるんだ」

 

 エレミアを始めとしたゼスト教の精鋭を敬愛し、付き従う実力者達。それが親衛隊だ。

 エレミア親衛隊は、彼女が特別に選別した10人の少女で構成されていると噂されている。一般市民はおろか、ゼスト教の騎士達ですら存在を知らない者は多い。

 

「結構な機密情報のはずだけどなぁ、どうして知ってるの?」

「……それを言う義理は無い」

「そっかぁ、残念。じゃあ、それ、貰うね」

 

 悪寒が走る。それ、とは間違いなくデバイスのことだろう。

 腰のポーチに忍ばせたデバイスに触れ、召喚を試みる。

 

「ビリー、アマル、来てくれ!」

 

 デバイスから光が放たれ、英霊ビリーザキット、幻獣アマルが召喚された。

 アマルは呼び出せるかどうか不安だったが、無事成功してくれたようだ。

 

「吹っ飛ばされたかと思えば、次はお前に召喚されて……どうなってるの!」

「分からない。だけど……目の前のそいつは、敵だ」

「……じゃあ、暴れてもいーい?」

「あぁ、存分に暴れろ!」

 

 カゲツの指示を受け、アマルが巨大な鳥人型の幻獣体を召喚する。

 幻獣体は雷を纏った豪腕で少女に殴りかかった。

 まともに食らえば一撃で死にかねないレベルの威力だが、少女はそれを瞬間移動で回避。当然、少女は無傷だ。

 

「いけいけいけ! ぶっ飛ばしちゃえ!」

 

 パンチの雨が襲いかかる。だが、一発たりとも少女には当たらない。ただ、森の草木を焼き焦がすだけだ。

 地面を陥没させ、大木をへし折る威力の攻撃も、当たらなければノーダメージ。なんてことはない。

 

「じゃあ、そろそろ反撃しちゃうよー」

 

 少女は魔導書のページをめくると、詠唱を開始する。瞬間、アマルの身体は幻獣体ごと10メートル程後方に吹っ飛び、木々を何本もなぎ倒した。

 

「うわあっ!?」

「アマル!」

 

 吹っ飛ばされたことによるダメージはやはり無さそうだ。しかし、木に突っ込んだ際にでも刺さったのか、幻獣体の背中に枝が何本も刺さっている。

 

「これで終わりじゃないよー」

 

 相手がさらに詠唱すると、アマルになぎ倒された木の一本が浮き上がる。

 そして、グルグルと回転しながら幻獣体を殴りつけた。

 その様は、大きなハンマーで人を力強く殴るが如く。アマルは横に吹っ飛び、また木々が巻き込まれた。

 

「くそっ、ビリー!」

「りょうかーい!」

 

 魔術師を狙うは二丁の拳銃。

 弾数無限、百発百中の狙撃は、しかし間に割り込んでくる木々に的確にブロックされる。

 更に、突如大木が横から飛び、ビリーを狙う。ビリーはギリギリで避けたが、大木は隣の木に衝突、そこから真っ二つに折れた。

 

「あっぶなーい!」

「いやいや、流石だね。あれは避けられないと思ったんだけど。マスターの指示が的確なのかな?」

 

 カゲツらを称賛しながら、少女はなお猛攻を止めない。

 見る限り、相手の魔術は自身や物体を自由自在に浮遊させ、動かせる能力のようだ。ただそれだけなのだが、大木のような質量のある物体を高速で振り回されれば、それだけでも十分な凶器になる。しかもアマルのような巨大な生物まで自在となれば非常に厄介だ。

 カゲツは巧みな剣術で迫りくる大木を両断し続ける。だが、斬っても斬っても、次から次へと大木は補充される。

 

「くそっ、キリがない!」

「そうだね。あと、デバイスを持ちながら戦うのは流石に酷じゃないかな?」

 

 少女が小声で詠唱すると、ズボンのポーチからデバイスが浮かび上がり、少女の手元に飛んでいった。

 

「なっ!」

「危なっかしいからね、私が預かってあげるよ」

「返せ!」

 

 カゲツは剣を構えて突撃する。

 だが、真っ正面から突っ込めば少女に操られて当然だ。カゲツはそのまま宙に浮かされ、振り回され、木に叩きつけられた。

 

「お兄ちゃん!」

 

 ビリーが少女に銃を向ける。術者に当てるか、最悪魔導書だけでも破壊すれば魔法を止められるかもしれないと思っての行動だった。

 だが、少女はカゲツを盾にした。

 

「当ててみれば? お兄ちゃんが死ぬけどね」

「卑怯だー!」

「勝負に卑怯もラッキョウも無いんだよ! じゃあねー」

 

 デバイスを奪い、カゲツとアマルを負傷させた。やることは済ませた。

 少女はさっさと逃げようとする。

 

「なんとか……近づけたな」

「え?」

 

 木に叩きつけられて苦しむカゲツ。だが、顔は笑っている。

 

()()()()()()!」

 

 カゲツのマントから、1匹のバイアクヘーが飛び出した。

 

「なんだこいつ!?」

「ハスターから1匹借りてたんだ。いざという時のために、ってな!」

 

 バイアクヘーは風魔法を展開。枝を折り飛ばす程の突風と風の刃で、少女に襲い掛かる。

 召喚者のハスターがいなくても、その実力は折り紙付きだ。

 

「ビリー! バイアクヘーに加勢しろ!」

「うん!」

 

 バイアクヘーが起こす竜巻と、ビリーが撃ち出す弾丸の雨が少女に襲いかかる。

 咄嗟に大木で防御しようにも、バイアクヘーの放つ風の刃はそれをいとも簡単に真っ二つにする。

 バイアクヘーの加勢によって、戦況はひっくり返った。

 やがて、ビリーの銃弾が少女の魔導書を蜂の巣にした。

 

「ヒィィィ!」

 

 たまらず、少女は逃げ出した。

 が、眼前に巨大な豪腕が振り下ろされる。

 

「逃すわけないよなぁ!?」

 

 鬼の形相のアマルが、少女を睨みつける。

 腰が抜けたのか、少女はその場にぺたりと座り込んでしまった。




「卑怯もラッキョウもあるものか!」
初代ウルトラマンに登場する悪質宇宙人ことメフィラス星人の名言。
何か頭に残るインパクトがある気がします。

エレミア親衛隊っていそうだよね。新ストーリーはまだ全部見れてないんですけど、登場したりしました?


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エリゴスvs親衛隊

筆が乗ったので短期間投稿です。

実の所、話の流れはある程度固めています。なんなら次の章まで。
筆が乗らないだけなのです。


「──────────!」

 

 キメラの咆哮が響き渡る。

 目の前を飛び回る少女を追いかけ続けるその姿は、まさに本能のままに駆ける獣。

 広い林道では逃げられない。エリゴスは森へ逃げ込んだ。巨大な体躯では狭い森の中を通ることはできないと判断しての行動だった。

 しかし、

 

「──────────!」

 

 キメラは大きく吠えると、森へ突っ込んだ。

 奴はなんと森を形成する木々を体当たりのみでなぎ倒し、エリゴスへ向けて一直線に駆けだしたのだ。

 

「──!」

 

 たまらずエリゴスは森の奥へ逃げる。木々をなぎ倒す突進を食らえばひとたまりもない。

 幸いながら、何もない林道を走っていた時と比べれば、木が邪魔をする分スピードは落ちている。これなら、逃げ切れる。

 だが、脅威はこれだけではない。

 

「逃げ切れると……思うなァ!」

 

 あらゆる生命を奪う毒液が滴る鎌が、エリゴスを切り裂かんと弧を描く。

 エリゴスは背中の翼に魔力を集中、ブーストをかけて回避した。

 が、即座に急ブレーキをかける。直後、眼前に3本の矢が通った。

 直前で矢を回避され、弓使いは冷や汗を流す。

 

(なんだあいつは……メムの攻撃も、私の矢も避けている……まるで未来を見ているかのように……)

 

 弓使いの矢は当たらず、鎌使いの少女の攻撃も避けている。盾使いのおかげで防御は問題ないが、このままではジリ貧になる。

 矢で気を逸らし、盾で反撃を防ぎ、鎌で仕留める。このチームの強みが全く生きていない。

 結局のところ、親衛隊の決め手はキメラに頼ることになりそうだ。

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 エレミア親衛隊の構成員の多くは、親を失った少女だ。

 仲間からはメムと呼ばれる鎌使いの少女も、その1人である。

 彼女は元々、農耕を営む家に生を受けた、ただの村娘であった。

 その暮らしはとても幸せなものだった。優しい両親に、甘えん坊だったが彼女をよく慕ってくれた2人の弟。

 村の人々も、彼女に優しく接してくれた。まさしく、彼女の人生の絶頂期と言えるだろう。

 

 

 しかし、その幸せは、1人の狂った神姫によって打ち砕かれてしまう。

 

 

 近くの遺跡か何かから復活したのか、それとも別の地域から流れてきたのかは定かではないが、ある日の夜、それは突如現れた。

 神姫は村に入った途端、目に入った村人を虐殺し始めたのだ。

 少女の弟の1人は、彼女の目の前で首を飛ばされた。

 もう1人の弟を連れて家まで逃げたが、神姫は家まで追いかけてきた。

 少女は床下収納へ、弟は物置に隠れた。

 直後、両親の絶叫が響いた。数分経って、弟の泣き声も聞こえた。

 少女はただ、恐怖に怯えて震えるしかなかった。

 

 

 夜が明けて、ゼスト教の教会騎士が少女を見つけだした。

 家はひどい有様だった。父は背中をざっくりと切られ、母は頭を潰されていた。

 弟に至っては全身を潰されていた。床には血塗れのハンマーが転がっていた。何度も、何度も、徹底的に叩いたのだろう。少女が見つからなかったストレスをぶつけたのだろうか。

 生存者は10人にも満たなかった。

 少女は絶望した。幸せな日々が、たった1人の狂人の手によって壊されたのだ。

 

 

 数日経って、狂った神姫はエレミアによって討伐されたという情報が入った。

 しかし、少女の絶望は無くならなかった。神姫を殺しても、殺された家族は、村のみんなはもう戻ってこないのだから。

 やがて彼女は知ることになる。ラグナロクに備えて、神姫が各地で目覚めていることに。

 それを聞いた彼女は、ゼスト教の教会騎士に志願した。

 神姫によって人生を狂わされることなどあってはならない。この手で、全ての神姫を殺してみせる。それが家族の仇討ちとなる。

 その信念をもって入隊した少女は、やがてエレミア親衛隊の一員に数えられることになる。

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 鎌使いは、キメラと並行してエリゴスを追いかける。かなり森の奥に入ってきたようで、辺りは木々で暗くなっていた。

 すると、突如エリゴスが大木に槍を突き刺す。

 エリゴスの魔力を送られた木は爆発し、幹が鎌使いに向かって飛んでくる。

 

「うわっ!?」

 

 なんとか回避したが、足を止めたことでエリゴスを見失った。

 幸いながらキメラがなぎ倒す木が目印になって、追いかけるのは容易い。

 しかし、事態は変わる。

 空中から雨のように怪光線が降り注いだのだ。

 地に落ちた怪光線は爆発を起こし、視界が悪くなる。

 

(何の真似だ?)

 

 その答えはすぐにやってくる。

 視界が悪くなった隙をついて、エリゴスが突撃してきたのだ。

 しかし、槍の一撃は鎌によって難なく受け止められる。

 

「不意打ちのつもりか?」

 

 受け止められるのは予想外だったのか、エリゴスの動きが止まる。

 鎌使いは、それを見逃さなかった。

 鎌が弧を描く。

 

「……かはっ」

 

 鎌の一撃は、エリゴスの腹部をかっ裂いていた。

 腹と口から血を流し、腹を抱えてその場にうずくまるエリゴス。

 

「痛いのか? ……みんなの受けた痛みはこんなものじゃない!!」

 

 村の住民とエリゴスを混同して、鎌使いは叫ぶ。

 途切れそうな意識の中で、エリゴスは訳もわからず困惑する。

 そんなことを意に介さず、鎌使いはトドメを刺そうと鎌を振りかぶった。

 エリゴスは避けようとしたが、腹部の傷と毒が動きを鈍らせ……

 

 エリゴスの首が、切り落とされた。

 

 頭部は宙を舞って地面に落ち、司令塔を失った胴体は力なく倒れ込んだ。

 そして、鎌に仕込まれた毒液によって即座に腐敗を始めた。

 

「やった……やった! 神姫を殺せた!」

 

 歓喜のあまり、鎌使いは震える。

 家族を殺した神姫を、圧倒的な力を持つ神姫を、自分の手で殺すことができた。

 勝てる。力の劣る人間でも、神姫に勝てる! 

 

「やった……やった……お父さん……お母さん……!」

 

 少女は歓喜の涙を流す。

 あの時の、家族が殺されるのを見ているだけだった自分はもういない。

 エレミア親衛隊として、家族を奪われた復讐者として、自分は生まれ変わったのだ! 

 いずれは、家族を殺したあの神姫も……! 

 

「メム! メム!」

 

 声が聞こえる。リーダーの声だ。

 

「リーダー! 見てください! 神姫を殺しましたよ!」

 

 

 

「見るのはお前だ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「…………え?」

 

 他に伏せるエリゴスの死体を見る。

 そこに転がっていたのは、首を失い、毒で変色・腐敗したキメラの姿があった。

 

「なっ!?」

 

 鎌使いは動揺を隠せなかった。首を飛ばした手応えはあったはずだ。

 いや、その手応えこそ、このキメラのものだったのだろう。

 しかし、彼女がそれを理解することはなかった。

 

「危ない!」

 

 突如、鎌使いを守るように盾使いが現れる。

 猛スピードで突撃したエリゴスの槍は、盾に突き刺さった。

 

「逃げて! 私が食い止めるから!」

 

 盾使いは、鎌使いを逃がそうとする。

 しかし、殺したと思っていたエリゴスが生きていたことに混乱する鎌使いに、それを考える余裕は無かった。

 そして、盾に刺さったエリゴスの槍は、盾の魔力を司る核を捉えていた。

 

「なんだこれは……奴の魔力が流し込まれて……!」

 

 エリゴスの魔力が混じって、盾の魔力を制御できなくなる。

 やがて、魔力炉に収まらない魔力が送り込まれて……

 

「ナイトメアスピア」

 

 盾が、大爆発を起こした。

 爆発の威力は凄まじく、盾使いを吹き飛ばした。

 鎌使いにダメージは無かったが、自分を守ることは出来なかった。

 顔の皮膚が吹き飛んだ盾使いを見て、鎌使いはわなわなと震えだした。歓喜の震えではない。どす黒い、怒りから来るものだった。

 

「よくも……よくも!! 貴様ら神姫は私から! 家族だけじゃなく!! 仲間まで奪うのか!!!」

 

 激昂した鎌使いは、絶叫しながらエリゴスに突撃する。

 怒りのままに向かってくる少女。しかし、そんな相手など、エリゴスの敵ではなかった。

 鎌使いの頭上から怪光線が降り注ぐ。エリゴスしか見えていなかった少女は、それを回避することができなかった。

 

「神姫…………殺……」

 

 目に大粒の涙とエリゴスへの殺意を浮かべたまま、少女は倒れ込んだ。

 

 残った親衛隊は、1人。

 弓使いの矢は、エリゴスに当たらない。エリゴスは、逃げる弓使いに追いつける。

 結果は、わかり切ったことだった。

 弓使いは弓を捨て、降参の意を示す。

 

「結局、かすり傷すらつけられなかったな」

「そんなのはいい。マスターがどこに行ったか、教えて」

「知らん。貴様らの分断は他に任せてあるからな」

「そう」

 

 エリゴスは興味を失い、その場から立ち去ろうとする。

 弓使いはそれを制止した。

 

「待て。ひとつだけ聞きたい」

「……何?」

「メムに……鎌使いに何をした? 何故あいつは合成獣を殺したんだ?」

「……別に。魔法で幻覚をかけて、アレを私だと思わせただけ」

「……簡単に言ってくれるな」

「……あの2人はまだ生きてると思うから、早くした方がいい。……さよなら。私はマスターを探しに行くから」

 

 今度こそ、エリゴスは立ち去った。

 残された弓使いは、近くの木を殴りつけ、悪態をついた。

 

「……化け物が」




鎌使いの子、ジャンプの連載がコミックス2巻くらいしか続かない漫画の主人公みたいになりました。

虐殺を行った神姫は、当然エリゴスちゃんではありません。
エレミアによって殺されています。
死者蘇生とかもないです。
アスクレピオスが難儀するぐらい、神姫世界でのそれは難しいことらしいですから。


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3つの邂逅

このゲーム、推しがSRやRだろうと関係なくスタメンに据えるって人はなかなか見ません。
制限ステージ以外だとSSRでおkなゲームだから仕方ないんですけどね。

私の闇パはエリゴスちゃんを前衛に配置しています。
前衛は攻撃する頻度が嫌でも多くなるので、エリゴスちゃんをたくさん動かせるわけですね。


「ふぅー……」

 

 森の中、ため息をつくのはハスター。

 その足元には、風で吹っ飛ばされて目を回している親衛隊2人の姿があった。

 

「ハスター様、ご無事ですか?」

 

 木の陰からイタクァが現れる。

 

「大丈夫よ。バイアクヘーを呼び出すまでもなかったわ」

 

 他の仲間たち同様、分断されたハスターとイタクァだったが、この2人は偶然か必然か、早い段階で合流することができた。

 が、そこでエレミア親衛隊のメンバーに同時に襲われたのだ。

 結果はハスターの圧勝。イタクァは出る幕すらなかった。

 

「親衛隊って聞くから強いのかと思ったけど、大したことなかったわね」

「それは何よりですが……油断は禁物ですよ?」

「わかってるわよ。だとしても拍子抜けだけどね」

「ところで、マスターの場所はわかっているんですか?」

「もちろん。バイアクヘーを1匹忍ばせておいたもの。すぐにたどり着けるはずよ」

「本当ですか!? 早く行きましょう!」

「私もそうしたいところだけどね」

「え?」

「ちょっと、厳しいみたい」

 

 

「2人を同時に倒すなんて。貴女は他の神姫よりもはるかに強力なようですね」

 

 

 森の奥から、親衛隊がもう1人現れた。

 手に持つのは棒に鎖付きの鉄球が付いた武器。モーニングスターと呼ばれる代物だ。

 

「よりによってこいつか」

「ハスター様?」

「構えて、イタクァ。この女、他よりずっと強いわ」

「えっ?」

「前に遺跡で戦ったとき、他より魔力の高い奴らが2人いたわ。1人がこいつ」

「……!」

 

 警告を受け、イタクァの目つきが変わる。

 手に持つ杖を構える。

 

「思い出しました。あの鉄球でエリゴスを吹っ飛ばした……!」

 

 遺跡での戦いでエリゴスに痛手を負わせた相手。

 それが、目の前にいる親衛隊だった。

 

「あの人はここにいないみたいですね。まぁ、貴女方もなかなか強そうですし、楽しめそうです。クスクス」

「……わざとらしい笑い方ね。なんかイライラするわ」

 

 嫌味を垂れつつ、ハスターは角笛を勢いよく吹いた。3匹のバイアクヘーが、次々と召喚される。

 

「イタクァ、私とバイアクヘーが動きを封じるわ。その隙に、貴女の毒をぶつけて」

「わかりました、ハスター様」

「クスクス、では……参ります」

 

 バイアクヘーの放つ風魔法と、親衛隊の鉄球がぶつかり合った。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 デバイスに表示された神姫の反応を辿って、カゲツ・ビリー・アマルの3人は森を走っていた。

 ……いや、アマルはカゲツに背負われているので走ってはいない。裸足なので森を走れないのもあるが、先の戦いでダメージを負ったのであまり動けないのだ。

 最も、カゲツも木に叩きつけられてダメージは負っているが。

 

「ケガ人に人背負わせるとか、鬼だなお前は」

「鬼じゃない、幻獣だ!」

「そこ重要なのか?」

 

 そんな話をしながら走っていれば、神姫の姿が見えた。

 

「あっ、リーダー!」

 

 ソルが走ってきた。……親衛隊らしき人影を2人連れて。

 

「ちょちょ、ソルちゃん、大丈夫ー!?」

「大丈夫だけど……2人相手だと厳しいよー!」

 

 ソルは太陽に匹敵する火力の攻撃が使えるが、本分はあくまでも回復。攻撃の隙は大きいので、エリゴスやカゲツのような前衛が時間を稼ぐ必要があるのだ。

 だがデバイスを持った継承者がいるなら、そんなことは問題ない。

 

「魔力を回すぞ! 一撃で決めてやれ!」

 

 デバイスの力で、ソルに魔力が集まる。

 その魔力は、上空で太陽の如く光球に変わる。

 

「いっくよー! ホワイト・プロミネンス!」

 

 光球が親衛隊の2人を飲み込む。

 叫び声すらあげる暇なく、親衛隊の2人は動かなくなった。

 

「やったー! リーダーありがと!」

「おう、お前も無事で良かったよ」

「あれ? リーダーとアマル、怪我してるよ? 治す?」

「頼む。俺はともかく、アマルは結構やられた」

「わかった! ぴかぴか、ぴかーん!」

 

 ソルの回復魔法がカゲツとアマルを包む。2人の傷はあっという間に癒えた。

 

「お前の回復魔法は本当に頼りになるな」

「本当? もっと頼っていいんだよー」

「……いや、本当に無事で良かった」

 

 デバイスは英霊と幻獣を召喚することはできても、神姫は呼び出すことはできない。

 そんな中で、単独の戦闘能力に特別優れるわけでもないソルを無傷で保護できたのは幸いだった。

 エリゴス・ハスター・イタクァは元々ある程度の戦闘能力は備えているので、なんら問題ではない。

 

「ビリー、アマルに、ソルを加えて3人。これで残りは3人か……」

「あの3人なら、問題なさそうだけどねー」

「いや、そうとも限らないぞ」

 

 3人の力を信頼しているビリー。

 しかし、アマルはそれに反論する。

 

「お前、デバイスであたしの力を奪ったでしょ」

「あぁ。原理は俺もわからないけど」

「それって神姫にも使えるのか?」

「……使ったことはないけど、多分できる。というか、前の世界だとハスターがそれでやられたからな」

 

 前の世界では、リリスの持つデバイスの力でハスターの力が奪われ、結果カゲツが到着するまで痛めつけられた。

 カゲツのデバイスにその機能があるかは試してないのでわからないが、可能性はある。

 

「ハスターはエレミアと戦った時、幻獣をけしかけてきたって言ってたな。……あれ、これマズくないか?」

「大変だよ! どんなに強くても、デバイスがあったら……」

「早く探さないと!」

 

 

「その必要はありません。貴方達はここでおしまいですから」

 

 

 突如、上空から火球が降り注いだ。

 

「!」

「この攻撃は……!」

 

 ソルの光球とビリーの銃弾が、落下する火球を撃ち落とす。

 こぼれ玉も、カゲツが全て切り裂いた。

 

「森の中でこの規模の火魔法、正気じゃないな、エレミア!」

 

 ゼスト教第一騎士団騎士長・エレミアが、上空に浮かんでいた。

 

「さて、正気じゃないのはどちらでしょう。教会騎士団に歯向かっている時点で、言い逃れはできませんが?」

「こっちは正当防衛なんだよ。このデバイスは大切なものだ、はいどうぞと渡せるわけないだろ」

「先に遺跡に侵入し、損害を出したのは貴方達ですよね?」

「…………」

「論破されちゃったよ!?」

 

 情けないカゲツに一同がツッコミを入れる。

 

「……話は終わりましたか? では、早くデバイスを渡してください」

「……相変わらず、その一点張りか。断るって言ってるだろ」

「よろしいのですか? 面子は少々変わっているようですが、それでも私には勝てないと思いますよ」

「やってみなきゃ……わかんないだろ!」

 

 真っ先に飛び出したのはアマル。幻獣体の豪腕を振り回して、エレミアに殴りかかった。

 エレミアは剣すら使わず、真っ正面から拳で受け止めた。

 

「これでは、先日と変わりありませんが?」

「どうかな!」 

 

 カゲツがデバイスをかざす。

 瞬間、エレミアの身体から力が抜け始めた。

 

「何!?」

 

 ソルとビリーのアビリティで攻撃力を奪ったのだ。

 エレミアは辛うじて受け止めているが、このままでは潰されてしまう。

 

「このまま潰してやる!」

「……っ! 舐めるな!」

 

 早くも追い詰められたエレミアだが、自身の身体に魔力でブーストをかける。

 豪腕をみるみるうちに押し返し、アマルを弾き飛ばした。

 

「嘘だろ!? あいつの力、底が見えない……!」

 

 全身から魔力を迸らせるエレミア。

 怒りのこもった目でソルを睨みつける。

 その眼力に、ソルは怯え、動けなくなってしまった。

 

「忌々しい! 先に貴女から始末しましょう」

 

 剣を抜き、エレミアは呪文を唱える。

 複数の火球が瞬時に生成され、ソルに向かって降り注ぐ。

 ソルの脚力では、全て避け切るのは不可能だ。

 

「ソル! 光魔法で火球を撃ち落とせ!」

「アールヴレズル!」

 

 太陽レベルの魔法なら、あの攻撃も大したことがない。しかし、現在はそれを使うには時間が足りなさすぎる。

 瞬時に放てる光魔法で迎撃を試みるソル。しかし、出力はエレミアの火球の方が上だった。

 火球は光魔法をものともせず、ソルに向かって一直線に向かう。

 

「ソル!」

「ソルちゃん!」

 

 アマルとビリーが叫ぶが、間に合わない。

 

 彼女らは、だが。

 

 

「ダークネスレイ」

 

 

 空から闇の怪光線が降り注ぎ、火球を一つ残らず貫いた。火球は爆発し、ソルに届くことはなかった。

 

「……やはり来ましたか」

 

 空からゆっくりと降りてくる、少女の名をカゲツは叫ぶ。

 

「エリゴス! 来てくれたか!」

 

 嬉しそうに叫ぶカゲツに、エリゴスは笑みで返す。

 エリゴスだって、本当は今すぐにカゲツの元へ行きたい。なんなら抱きつきたい。だが、今はそれどころではない。

 エリゴスは、エレミアの前に立ちはだかり、槍を構える。

 

「ここまでは予知どおり。これからは……私にも、わからない」

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 所変わって、林道の中。

 

「おおー、これはすごいですね。すごい戦闘があったようです」

 

 飴をしゃぶりながら、少女が呟く。

 綺麗だった林道は、魔法で木々が荒らされ、道には気絶した教会騎士があちこちに転がっており、その面影はない。

 

「貴様、神姫か? そこで何をしている?」

 

 エレミア親衛隊の1人が、少女の背後に現れた。

 本来アマルを相手するはずが、直後にアマルがカゲツに召喚されたことで手持ち無沙汰になった所を、たまたま発見したのだ。

 

「いかにも、私は神姫ですが……」

「継承者の仲間か?」

「けいしょうしゃ? なんですか、それ?」

「なんだ、関係ないのか? だったら失せろ。ここは貴様が来るべき場所ではない」

「そうなんですか? じゃあ急がないとですね」

「……私は引き返せ、と言いたかったんだが。これ以上進むなら、捕縛するぞ」

「えぇ、それは困りますよ」

 

 少女は自身の武器を取り出す。それは棒の両端に剣が備えられた代物だ。

 

「私は考古学者です。近くに遺跡があるならば、行きたくなるのが(さが)というものですよ」




能力バトルでは「能力を持たない人物は能力者に勝てない」みたいな状況がよくあります。
エレミアは人間の身で神姫に立ち向かっていく点でなかなか好感度高いですね。彼女は彼女で能力者みたいなもんですけど。


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