Coffee beans (ふじ成)
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前編
シャトーは暖かな空気に包まれていた。
「美味…これはまた才子のRc脂肪が…」
幸せそうな顔をしながら才子は夕飯をもぐもぐと口に運ぶ。
「そんなものねェよ。大体一日中部屋で遊んで引きこもってたらデブるに決まってんだろ」
「シラギン…お主まるでわかっとらんな。FPSは遊びじゃないのだよ!」
「知らねェよ じゃあなんなんだよ」
不知は、わざとらしい口調でいつものようにだる絡みする才子に一応は反応する。
「そうだな…吾輩にとって戦場《FPS》こそが帰る場所であり、そして何より恋のように激しく求めている場所…!」
「故にFPSは恋人…いや、片思いの想い人と言ったところか」
「あっそ」
不知は完全に興味がないようで「はいはい」と流す。するとそれが癪に障ったのか才子はFPSの魅力を滔々と語り始めた。
「あはは…」
柔和な笑顔を浮かべながらキッチンから戻ってきて椅子に座った青年は、Qsの指導者佐々木琲世だ。
染めたような白髪に頭頂部は黒髪。まるでごまプリンのようなへんてこな髪型をしている。
「そういえばママンには居ないのかい。そういう人。」
くるっと視線を向きを変え思いついたようにニヤッと才子は言う。いつでもその時その時で気分がころころ変わるのだ。
「え?」
突然の不意打ちを食らった琲世は目をきょとんとする。
「お、俺も気になるな。サッサンの色恋事情」
「え、ええ?」
困ったような顔をすると、2人はますますにやにやする。
「せ、先生にも言いたくないことあるだろうしさっ」
真面目な六月は困った琲世を見て擁護に回るがすぐに2人に篭絡されてしまった。
「うーん、異性として好きな人かぁ…」
琲世はしばらく「うーん」と唸る。
そして、おお…という期待が高まる中答えた。
「いないや」
琲世は顎を触りながら答えると、 期待された空気がぷしゅーと抜ける。
「ほんとほんと」
「吐いちまった方が楽になるぜサッサン」と不知は食い下がったが、あまりに堂々としていたためそうなのかな。と納得してしまった。
やっぱりなーという空気も弛緩し、「ほんとだってば」と繰り返す琲世に追求の手はそこまでしつこく追っては来なかった。
「忙しくてそんなこと出来ないからね、忙しいと言えば明日も鈴屋班に提出するナッツクラッカー探索草案のレポートの事なんだけど…」と琲世はするっと論点をすり替えると、そのまま明日の役割分担の話になっていった。
「さ、才子は、明後日から本気出すから明日は充電しときます…」
「何度目だよ、それ」
呆れたように突っ込む不知の声を背中に受けながら才子は、さっと逃げるように食べ終えた食器を下げに行く。
「あはは…」
と、引きつった笑みを浮かべながら、最近はもう仮病すらしなくなったね…僕のお説教が足りないのかな…情けなさそうに呟く。
しかし、本当は心の中では別の事を考えていた。聞かれた時一人のシルエットが脳裏に浮かんだあの人のことだ。
──こんなに綺麗な人がいるんだ、って、そう思ったひと。
名前も知らないあの人に、琲世はどうしようもなく惹かれていた。
×××
*琲世side*
喫茶店:Re。
「り」と読めば良いのか「あーるいー」と読めば良いのか未だわからないこの喫茶店に琲世は度々一人通っていた。
店の奥の方に座り「おいしいコーヒー」の本を開きながらコーヒーを飲んでいる。
「へー〝の〟字をね…」
ここは落ち着いた喫茶店だが、琲世の態度はなんだかそわそわしていて忙しない。
まるで初めてのデートの待ち合わせでもしているような初々しい雰囲気だ。
ところが残念この男。そんな約束は何も無かった。元よりそもそもデートなどした事が無い。
琲世は本で顔を隠しながら、奥で立っている店員に目を向ける。
そこには綺麗な女性がいた。
そう、度々喫茶店に足を向ける理由はそういう事だ。
しかしアタックするほどの度胸は無く、たまに彼女が話しかけてくれるのを待っているような残念さだった。
──ぼ…僕だってわかってるよ…僕とじゃ釣り合わないことぐらい…僕は見てるだけでも十分幸せなんだ…
そんな少々気持ち悪いことを思いながら、本に視線を戻す。
東京を守る為日々奮闘している喰種捜査官のその休暇は、思春期の中学生そのものだった。
×××
「興味あるんですか?」
突然声にビクッと肩がはねる。
声のする方を見ると、あの店員さんが片付けるコーヒーカップお盆の上に置きながら横に立っていた。
「本」
開いていたのは初心者向けのコーヒーの煎れ方本だったので、そこで質問の意図がわかった。
「あ、はい。家じゃ豆から淹れたことは無いから入れてみようかなぁって。それでシャトーの皆にも飲んでもらえたら嬉しいから」
「良いですね」
その店員は朗らかに答える。
「でも、家で煎れられるようになったらもう来なくなっちゃうんじゃないですか?」
「いやいや!来ますよ!気に入ってるので」
「それにここは僕の隠れ家的なスポットなのですから!」
両手をぶんぶんと振りながら、琲世は否定する。謎の必死の弁解がおかしかったのか、店員は笑みを零しながら「ありがとうございます」と言う。
「家でも気軽に入れられる道具というと…豆を挽くコーヒーミルと、ドリッパーとフィルターペーパー、お湯を注ぐ細口のポットと…」
「ちょ、ちょっと待ってください、メモします」
琲世は慌ててコートの内ポケットに入っているメモ帳とボールペンを取り出す。
「あと、コーヒーを入れるサーバー。と豆ですかね」
「思ったよりも色々多いなぁ…豆とかって種類のおすすめとかあったりしますか?」
と初心者丸出しの質問を琲世がする。
「……」
「…?あの…?」
「あぁ、どうせ今度買出しに行くし、付き合ってやろうか?」
「へ?」
「あ…」
店員はしまったとばかりに口を塞ぐ。しかし、一度口から出てしまった言葉は戻すことは出来ない。
琲世の方を見ると頬を紅潮させながら、「いいんですか!?」「あっ、あのでも…!」
とドギマギとしながらテンションが上がっている。
店員は苦そうな顔をしていたが、気付かず一人盛り上がっている琲世を見て、諦めたようにため息をついた。
「あっ…そう言えば…」
店員が琲世に視線を戻すと、琲世は目をそらしながらぽしょりと聞いた。
「お名前、なんて言うんですか?」
×××
*トーカside*
カネキ、いや佐々木琲世がこの喫茶店に来るようになってからしばらく経つ。
どうやらこの店が気に入ってくれたみたいで嬉しいとトーカは思っていた。
でも少し違うのかもしれないと感じ始めてもいた。原因である妙な視線に気がついたのは最近のことだ
「……」
ちょくちょくなんだかこっちを見てくるのだ。そしてその目線には見覚えがあった。
「へー〝の〟字をね…」
そんな懐かしい事を聞いたからだろうか、トーカはつい佐々木に話しかけてしまっていた。
「興味のあるんですか?」
突然話しかけられて驚いたのかビクッと肩がはねる。昔のカネキにそっくりでシルエットが重なり、このモヤシっぽさは変わらないなとトーカは内心で苦笑した。
あん時も良く質問してきたっけな。店長に押し付けられてただけだけど。コーヒーの事で質問され、トーカは自然と思い出す。
──そういえば、ニシキが行ってたからカネキは店長のお使いで豆買いに行った事無かったんだっけ。なら分からないのも無理ないか。
「あぁ、どうせ今度買出しに行くし、付き合ってやろうか?」
何の気無しにそう言ってしまった時、トーカは自分に驚いた。途中から完全にカネキと話している気でいたのだ。
──ば、馬鹿か私は!これじゃクソ山と変わらねえじゃねぇか!
「いや、えっと今のは…」
「いいんですか!?」
慌てて取り消そうとしたが、顔を真っ赤にして喜ぶ彼を見て今更無かったことになんて出来るはずも無かった。
×××
「…月山に顔向け出来ねーな。なぁ店長サン?」
琲世が喫茶店を出ると、店の奥から眼鏡の男が姿を見せた。
にやにやと楽しそうな表情を浮かべ、椅子にどさりと腰を下ろす。
「月山にはあんなこと言っといて自分はデートかよ」
トーカはあしらう様に「アホか」と答える。
ただその顔は完全に「やってしまった」という顔だった。
ニシキはその事が分かっているようで見透かすように言う。
「アイツは佐々木琲世で喰種捜査官だぞ」
「そんなことはわかってるよ」
「なら、いいけどよ」
ニシキは椅子から立ちカウンターの方へ回る。
「何が言いたいの?」
鋭い視線を感じながら、コーヒー淹れ茶化すように言う。
「ラブホでも紹介してやろうと思っただけだ」
「は、はあ?殺すぞクソメガネ!」
ニシキは罵倒を背に受けながら逃げるように店の奥へ戻る。
いつもの気だるげな態度とは違い、にやにやと楽しそうだった。
ニシキが消えると、トーカは一人カウンター席に座った。
この時間は、閉店間際で客も一人もいない。
「はぁーあ」
深くため息を着くと、ぼそぼそと一人つぶやく。
めんどクセーな。ったく。なんで付き合わなきゃいけねーんだ。バレないようにしなきゃな。あと、待ち合わせ時間か。いつもみたいに遅れるの辞めなきゃな。服は…どうしようか新しく買っちゃおうか。
「…馬鹿みたいだ。私は」
──こんな形でも、嬉しいなんて。
読んでいただきありがとうございましたm(_ _)m
久しぶりの投稿です。
東京喰種の二次創作は初めてでとても難しかったです。
批評や感想貰えると嬉しいです。
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後編
*琲世side*
ここは駅前の落ち着いた喫茶店だが、琲世の態度はなんだかそわそわしていて忙しない。
まるで初めてのデートの待ち合わせでもしているような初々しい雰囲気だ。
「そろそろかな…」
時計を確認しながら琲世はつぶやく。
──どうせまたトーカちゃんの事だから遅れてくるよ。
白髪の小さな少年は笑って言う。
『また?』
琲世は首を傾げ声の方を向く。
そこにはなにもいなかった。
「……」
「そろそろ時間だけど…」
一人呟いたところで、ちょうど見覚えのあるシルエットが窓から見えた。
霧島さんが駆けてくるのが見える。
「すみません、待ちました?」
「い、いえ、ちょうど来たところですっ!」
こう答えるのが正しいと本に書いてあった通りに琲世は答える。実は約束の三時間以上前からスタンバってました、なんてことは秘密だ。
「良かった」
「じゃ、じゃあ行きましょうか」
琲世は笑顔も素敵だ…!と思いながら歩き出す。
── 太宰治は〝斜陽〟でこう書いていた…
『私は確信したい 人間は恋と革命の為に生まれてきたのだ』と。
僕もそうであると信じたい……。
「あの…道そっちじゃないですよ」
馬鹿なことを考えながら足を進める琲世に霧島さんが指摘する。
琲世は思わずずっこけた。
×××
*トーカside*
新しい服をネットで予約し、駅前にあるデパートに取りに行く来たのは約束の三時間くらい前だった。
店頭で服を受け取った帰り道、「やっぱ要らなかったかな…」「いや、そもそもこの間赫子出したせいで一着駄目にしちゃったから買おうと思ってたし…」と、服の入った紙袋をじっと見つめながら、一人脳内でうだうだ言い訳をする。
どれもこれもアイツのせいだ、と責任転嫁した所で、ちょうど待ち合わせ場所に通りかかったのでふと目を向ける。
「ア、アイツ…」
そこには、一際目立つごまプリンのような髪型をした男が立っていた。そわそわしながら全身から楽しそうなオーラを出している。
「どんだけ楽しみにしてんだ…!いくら私でも引くぞ…」
トーカはうげっとした表情をする。
「ま、まぁ、遅れないようにしないとな…」
半ば呆れながら元来た道を引き返す。
顔には笑みが浮かんでいた。
×××
*琲世side*
琲世は一つ一つトーカに聞きながら、道具を買っていく。
「うーん、こっちはあんまり長持ちしなそうだし、やっぱり隣のこっちかなぁ」
真剣な面持ちで両手に持ったポットを見比べる。
トーカはささっと既に買い物を終え、琲世の後ろに立っていた。
「どっちがいいと思いますか?」
「うーん、そっちの金色の取っ手の方…がなんとなく良さそうな気がします」
そう言われると、右手に持ってるポットがいきなり輝き出したように琲世には見えた。
「んー、じゃあ言う通りこっちにしときます」
うんうんと頷き琲世は決める。
「あとは、コーヒー豆ですね」
一通り道具を買い終え、コーヒー豆の専門店に向かう。ここから少々行った所にトーカの店で使ってるコーヒー豆を取り扱ってる店がある。
二人横並びになり道を歩く。
「すみません、休日に付き合わせちゃって」
琲世がぽりぽりと頭をかきながら言う。
「いえ、私も楽しいですから」
彼女は笑う。それを見て琲世は安心する。
──な、なんか…いい感じかも…
「き、霧島さんはお付き合いされてる方とか…い、いるんですか?」
琲世はつい気になっていたことを聞く。
「いると思いますか?」
「ん…いや、そりゃ霧島さん綺麗な方だし…」
言うと、トーカはふいっとそっぽを向く。
「い、いるわけねぇだ…いませんよ」
一瞬口調が変わった…?気のせいか。
「カネ、佐々木さんはいるんですか?」
「い、いないですよ!そんな人」
琲世はどもりながら答える。
「ふーん 意外とモテそうなのに」
「意外とってなんですか…モテたことなんか無いですよ…」
ガクッとうなだれた琲世を見て、トーカは笑う。
──楽しいな。
琲世は思った。しかし、同時に一人で遊園地に行った時のような虚しさが心の奥底で小さな声を上げた。
『ごっこ遊びに夢中だね 琲世』
白髪の子供が隣に立っていた。
琲世は無視をする。
『つくられたうそがそんなに好き?』
──ねぇ、ねぇ。ねぇ?
声音は重なっていき、何処までも茫洋と広がる脳の中で反響する。
『きみは、道化師に操られて笑顔になってるマリオネットみたいだ』
「…黙ってろ…。」
なんで、急に…っ!そんな琲世の思惑に構うことなく子供は続ける。
『ほら!みえない?』
子供は無邪気に走り出すと。
琲世は思わず立ち止まった。
『きみの守れなかった残骸』
そこには焼け崩れ、壊され散らばる瓦礫の山があった。
×××
*トーカside*
おっせーな、ポット一個にどれだけ時間かけてんだ。洋服選ぶ女子かよクソモヤシ。
トーカは心の中で悪態をついた。
「うーん、こっちはあんまり長持ちしなそうだし、やっぱり隣のこっちかなぁ」
多分そんなに変わんねーよ。
そんな思いは届くこと無く琲世は言う。
「どっちがいいと思いますか?」
「うーん、そっちの金色の取っ手の方…がなんとなく良さそうな気がします」(知るか)
適当に目立った方を指さして答える。
本当になんとなくで決めていた。
「んー、じゃあ言う通りこっちにしときます」
さっきまで悩んでいた態度はどこへやら、うんうんと頷き琲世は決める。
…もうちょっと考えてやれば良かったかな。
トーカはそう思った。
×××
「き、霧島さんはお付き合いされてる方とか…い、いるんですか?」
いきなり聞かれ、トーカは驚いた。
クソカネキだったらぶん殴ってやると思いながら答える。
「いると思いますか?」
「ん…いや、そりゃ霧島さん綺麗な方だし…」
言われ、自分の頬が赤くなるのを感じる。
見られたくなくて顔を車道の方に向きを変えた。
「い、いるわけねぇだ…いませんよ」
一瞬口調を変えるのを忘れ、慌てて疑問を返す。
「カネ、佐々木さんはいるんですか?」
「い、いないですよ!そんな人」
琲世はどもりながら答える。
「ふーん 意外とモテそうなのに」
これは割と本当に思っていた。いかにも根暗な青年だったカネキの時とは違い、初めて喫茶店に周りの部下と来た時は、気さくで信頼も厚そうな好青年見えたからだ。
「意外とってなんですか…モテたことなんか無いですよ…」
ガクッとうなだれた琲世を見て、トーカは笑いながら考える。
無いって言っても彼女がいた事あっても不思議じゃねぇしな、その辺も気になったが流石に聞くのはやめておいた。まぁ身も蓋もなく言うと。
…コイツ童貞なのか…?それとも違うのか?
うーんと少しの間考え、これ以上考え込むとドツボにハマると思ってやめた。
これ以上やらかしてニシキの冗談がシャレにならなくなったりするとやばい。
まぁいつか、聞く機会があれば聞けば良いか…多分そんな機会ねぇけど…
トーカは思考を丸投げし、琲世の方に視線をやる。
すると琲世は、一点を見つめながら立ち止まっていた。
視線の先には、むかし〝あんていく〟だった瓦礫の山があった。
×××
*琲世&トーカ*
琲世は瓦礫の山に向かってふらふらと歩いていく。
──ほらほらほらほら
脳漿で満たされた部屋に映像と音がぶつかっては跳ね返る。
『『おおお前ら化物とは違うんだ!『ふたつの世界に居場所を持てる唯一の存在なんだよ』何も出来ないのは、もう『嫌──僕が皆を守るんだ」クズ豆は、摘まないと」
「僕が僕が眼帯が僕ががたずげないと・・僕が──死神が、僕が。立っていた。僕が僕が琲世が…っ!!呑まれて『消える?
知らない記憶がフラッシュバックし空の器に溶けた鉛で埋めるような激痛が走る。
「ぐ…っあ…うううっ!!」
『いつまで、夢を見てるつもり?』
吐き捨てるように子供は言う。
僕は今までの僕じゃなくなるのが嫌だ。呑まれたくない。消えたくない。死にたくない。
有馬さん…アキラさん…誰か誰か誰か…!
まだまだ、僕は消えたくない──。
その時、腕が掴まれた。
「……はっ!」
はっと琲世は引き戻され、掴まれた腕を見る。いつの間にか瓦礫の山に向かって歩いていた。
「…道そっちじゃないですよ」
トーカは言う。
──アンタはこっちに来るべきじゃない。
「このまま真っ直ぐです」
「それより顔色悪いけど大丈夫ですか?」
「…あ、あはは。立ちくらみしちゃって…疲れてるのかな」
琲世はなんとか笑ってごまかす。
気づけば息は切れ、汗だくになっていた。
「ありがとうトーカちゃん』
「…!?」
琲世は自分で驚く。いきなり下の名前で呼んでしまっていた。
トーカも呆気に取られた顔をしていた。
が、腰に手を当て、ふっと笑う。
「どういたしまして」
×××
「みんな〜食後のコーヒーはいかが?」
「あっ、欲しいです!」
「才子の分もおくれ」
「俺も」
3人が言う。
「わかったよ〜」
ダイニングからは嬉しそうな声と共にコーヒーの芳醇な香りが届く。
「〝の〟の字っと」
トポトポと注ぎ、人数分淹れたコーヒーを持ってくる。
「瓜江くんにも飲んで欲しかったけど、今日は遅くなるみたい」
「ウリボーになんかいらねェよー」
と言いながら不知は受け取ったカップを才子と六月に回す。
「わ…すごく美味しい!」
一口飲んだ六月が驚いたように言うと、不知も同意する。
「オオ…ホントだ」
「お店の味や…これは一見さんお断りって奴ですな…!」
「なんだそりゃ」
3人から好評だったのが嬉しいようで、「良かった」と喜んだ。
「実はこれ豆から入れてみたんだけどね…」
ふふんっと琲世は得意げに話し始める。
シャトーは暖かな空気に包まれていた。
このまま、ずっとこうしていたいな。そう強く琲世は思う。
心のどこかではそんなこと叶うはずもないとわかっていても。
読んでいただき、
本当にありがとうございましたm(_ _)m
またいつか書こうと思います。
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