戦国†恋姫 〜死ヲ穿ツ少年〜 (録音ソラ)
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始まり

 青年は一人、夜の森を駆ける。

 そこは日本の、三咲町。

 そこから少し離れた山にある森。

 月明かりに照らされ、眼に映る森は罠、罠、罠、罠。

 木々のあらゆる場所に罠が張り巡らされた森を、迷いもなく青年は駆ける。

 その青年が向かう先にあるのは

 

 一つの大きな屋敷。

 

 森を駆ける青年、殺人貴や死神と呼ばれ、死徒からも恐れられた吸血鬼の姫を守る者

 

 遠野志貴という青年は、その屋敷にある不可思議なものを壊す為に動いていた。

 ある者から、それを壊すことで彼女は少しでも吸血衝動から逃れることが出来るという。

 なら、俺は迷いもなく行動しよう。あいつの為になるんだったら

 

 そうこうしている内に屋敷から少し離れたところにある蔵についた。

 

「おかしいな、誰とも遭遇しなかった…?」

 

 事前の情報によると、ここには多くの女性を娶った男が住んでいるという話だった。

 それにその女性たちというのも、武術に長けたものが多く、ここへ侵入することさえ困難だと言われるほどに。

 しかし、あったのは多くの罠のみ。

 呆気ないほど簡単に侵入することに成功していた。

 

「まさか、みんなでピクニックにでも行ったのか?」

 

 なんてことを言いつつ、蔵の扉に手を掛ける。

 ギィ、と音を立て、扉は開いた。

 鍵もかけていなかったようだ。

 

「妙だな…」

 

 違和感はそれだけではなかった。

 蔵の中に入り、棚を調べていく。

 

 しかしそこには、なにも置かれていなかった。

 

 少し前まで置いていた様だが、今は何もない。

 ほとんどの棚を調べるも何もない。

 

「蔵としての役目を終えたってところなのか?…いや、蔵を新しく建てた、なんて話はなかったし、それにこんな中華風の蔵をわざわざ何個も建てる金があるのか…?」

 

 そんなことを言いながら最後の棚を見てみた。

 そこに一つだけ物があった。

 

「これ…か?」

 

 手に取ったものは…鏡…だろうか?

 しかし、ガラスは無く、少し汚れている。

 誰かが使っていたものとは言い難い。

 

 こんなものが、あいつの力を弱らせる原因の一つ…?

 

 情報の提供者は、あいつのことに関してなら正しいことしか言わない奴だと思う。

 それに、わざわざ俺をこんなところへデマ情報で向かわせるとも思えない。

 とりあえず鏡らしきものを拭いてみた。

 壊せばいいのだが、なんなのかよく分からないもののままというのもアレだ。

 

「これだけ磨けば…」

 

 何とか一部分だけ、綺麗になった。

 一応鏡としては機能するらしい。

 しかし、変わった物だな…

 そう眺めていると、ふと

 

「誰だっ!!そこにいるのは!」

 

 女性の声が扉の方から聞こえた。

 

「まずっ…!?」

 

 慌ててその鏡を抱えながら、ナイフを取り出す。

 七夜と刻まれたナイフ。

 そのナイフの刃を出した、その時だった。

 

「なっ…!」

 

 驚くと同時に俺は、唐突に、光に、全身を、呑まれた。

 そして、意識はそこで途切れた

 

 

 --------

 

「これでよかったのでしょうか?」

 

 女性は横にいる男性に尋ねる。

 

「ああ。本来なら剣丞が外史の扉を開くはずだったが…彼が開いたなら仕方ない。それに、アレが最後の外史へと続く扉だ。この世界にとってはアレが俺たちの危険に繋がるなら壊してもらうか、使ってしまってもう開かない様にしてもらうしかない」

 

 男は淡々と告げる。

 

「彼なら、どんな外史だろうと生き延びられるだろう。アレだけの罠を掻い潜ってきたなら」

 

 そして、男は去っていく。

 女性もその後をついていく。

 彼らが向かうその先はー




変な文章だなぁとかあれば感想で容赦無く言ってください。読んでくれた優しい方は


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出会い

「申し上げます!」

 

 伝令が戻ってきた。

 それが吉報か、はたまた…

 

「許す!」

「今川勢は現在、田楽狭間にて小休止!全軍を分散させ昼弁当を使っております!」

「デアルカ。…大義」

「はっ!」

 

 伝令は報告を終えると、自らの持ち場へと戻る。

 届いた報告は吉報。

 この雨の中、そして田楽狭間での小休止ということは敵は隙だらけだということだ。

 

「勝者の余裕…というとこですかな」

「勝者か。あながち間違ってもおらんな」

 

 今川勢はこの小休止の終了と共に全軍を清洲まで向かわせる。

 そうなれば、此方は一方的に敗北することとなる。

 

「我が方は二千弱。対する義元公は一万五千ほど。軍神摩利支天といえど、この差を覆すのは至難の業でしょう」

「常識的に考えれば、あの大軍にこれだけの少数で

 奇襲を仕掛けるのは無謀を通り越して自殺行為だからな」

 

 確かにその通りだ。

 本来これだけで挑めば返り討ちにあう。

 そうなれば此方は抵抗したところで勝ち目などないだろう。だが

 

「常識などと、そんなつまらんものに縛られる者に、大業など成しえんぞ」

「ですが殿…」

「おけぃ。今やることは問答ではなく、合戦である。説教は義元を討ち取った後に聞いてやる。持ち場につけ」

「「はっ」」

 

 二人は馬を走らせ、持ち場へと戻っていく。

 

「さて……これより織田久遠信長、一世一代の大博打。勝ちきってみせようではないか……!」

 

 少女は一人、その目に野心を、闘志を滾らせ、その先にある未来を視るー

 

 --------

 

 呼子が鳴る音が聞こえた。

 それと同時に今川勢は急ぎ本陣を守ろうと動き始める。

 しかし、酒を呑んだ者たちや慌てて起きた者、状況を理解できない者達により戦場は混乱。

 その中へ

 

「織田上総介久遠信長が家中、柴田権六勝家参候!」

 

 柴田衆による奇襲。

 本陣ではさらに混乱が起こる。

 

「やったか新介?」

「な、なんとか……」

 

 少女達の声が聞こえる。

 奴の頸を取った様だ。

 

「新介、小平太、大義なり!名乗れぃ!」

 

 少女達はその頸を持ち

 

「織田上総介久遠信長馬廻り組組長、毛利新介!」

「同じく服部小平太!」

 

「東海一の弓取り!今川殿、討ち取ったりー!」

 

 この一言により、今川勢は全て武器を捨て、撤退を始める。

 この好機、逃すわけにはいかないー!

 

「今こそ好機なり!織田の勇士たちよ!これより敵を追討ーー」

 

 そう叫んだ時である。

 ふと、聞き慣れない音が聞こえた。

 雨音や逃げる足音、叫び声が聞こえる中でもはっきりと聞こえてきーー音。

 

「なんだ、この音はーー」

 

 次に光が周囲を照らす。

 この雨雲の中、それは日輪の光のように明るい光ーー

 

「な、なんだあれはっ!?殿、空を!」

 

 その声を聞き、それを見る。

 そこにはーー

 

「光の玉が、天から落ちてきいるだと…!?」

 

 その光の玉は静かに落ちていく。

 そして、地上へと落ちた瞬間、さらに光り輝き、次の瞬間には消えていた。

 

「消えた……」

 

 隣では何だったのか分からないものに驚きを隠せない者がいた。

 しかし、そんなことより、今目の前にあるこれは何処から現れたのだ?

 

「おい、権六。あやつは誰だ?」

「は?……っ!!」

 

 権六と呼ばれた女性はその方を見る。

 そこには一人の見知らぬ格好をした男が倒れていた。

 

「男か?歳は我より少し上ぐらいに見えるが…それに怪我でもしているように見える」

 

 目の前にいる男は目を覆うように包帯を巻いている。

 怪我をしたのかもしれない。

 

「久遠さま!崩れたとは言え、彼我の戦力差は未だ変わらず!今すぐ後退すべきかと!」

 

 ここは敵の本陣、混乱は一時的なものでしかない。

 主君を討たれた兵が戻り、仇を討つものもあるかもしれない。

 

「……デアルカ。おい、猿」

「は、はひっ!?」

 

 猿と呼ばれた少女は緊張しているのか、上擦った声で応える。

 

「そやつを持って帰れ。あとで検分する」

「あ、あの死体をですかっ!?」

「死体かどうかまだ分からん、やっておけ」

「は、はひぃ〜…」

 

 猿はその男を馬に乗せる。

 それを確認し

 

「権六!五郎左!疾く退くぞ!」

「はっ!皆の者、追い頸はやめぃ!今はすぐに清洲に戻る!」

「全軍退却!速やかに清洲に戻ります!急いで!」

「「「「「おう!」」」」」

 

 権六と五郎左の指示により、退却が速やかに行われた。

 此方側の被害は広がることはないだろう。

 

「義元は討った。当面の危機は去ったが…」

 

 先程の青年を思い出す。

 光の玉の中から現れた青年。

 包帯を巻き、片手に短刀のようなものを持ったアレはーー

 

「あやつは何の兆しなのか……。乱れ乱れたこの世の地獄で、何かが始まろうとしている」

 

 ---そんな予感がする

 

 ------------

 

(---ん?)

 

 はじめに感じたのは違和感。

 先程、蔵で光に包まれた筈の自分には感じない筈のもの。

 

(布団…?)

 

 何というか、懐かしい。

 そんな感じの肌触りと---変わった匂い。

 

(何の…匂いだ…?)

 

 その匂いを嗅いでいる内に徐々に意識が覚醒してくる。

 それと同時に、すぐに感じたさらなる違和感。

 

 ---人の気配。

 

 すぐに瞼を開けた。

 そう言えば先程誰かに見つかり、光に包まれたのだ。

 その誰かに今捕まっているのでは。

 光が目に入り込んでくる。

 そして、視界が明るくなる。

 はじめに目に入ったのは

 

「………え?」

 

 女の子の顔だった。

 

 この少女との出会いから始まる、外史。

 乱れ乱れたこの戦乱の中、青年はどうなる




思いっきり、恋姫の中身です。当分こんな感じ。志貴と剣丞という違いがどのようになっていくか、まぁ、楽しんでもらえれば……いいなぁ!
まぁ、多めですけど、ちらほら文章追加したり、消したりして、うん。まさかこんな進め方になるとは…


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少女の名は

オリジナル要素は増えてく筈


「おお、起きた起きた」

 

 起きた時に女の子の顔がある。

 こんな経験は二度目だ。

 あの時は俺が寝てしまったから此方の家に不法侵入されたんだった。

 

「貴様、一週間も眠りっぱなしだったんだぞ?壮健なのか?目は見えているか?包帯を取ったが何も傷がなかったから目が見えないのだろうかと思って医者に見せたが、問題はないとのことだったぞ」

「いやそんなことよりも貴様に聞きたいことがある。どうやって天から落ちてきた?いや、どうやって天に昇った?医者にも見せれたから、死人というやつではないな。それとあの光どうやったのだ?あれは日輪の如く光っていた。大日如来の化身とでも言うのか?全くそうは見えないな。やはり、貴様は何者だ、と言う話に戻るが……何か言ってみせよ。黙っているだけでは何が何だかわからんではないか」

 

 黙って聞いていれば…

 起きてすぐにそんな近くで長々と…

 

「…んな…」

「む?」

「この、ばか女ー!」

「っ⁉︎」

 

 つい、大声でしかも初対面の相手に言ってしまった。

 けれど、こっちにだって言いたいことがある。

 

「一週間も寝てた相手に起きてすぐにそんなに聞かれても答えられるわけがないだろ、このばか!寝てなくても答えられる範疇じゃない!一気に何個も聞く奴があるかっ!」

 

 いや、1番言いたいのはこれじゃない

 

「………君誰?」

「無礼な貴様こそ何者だ」

 

 --------

 

「遠野…?遠野氏の出身か」

「遠野氏…?」

「おまえの出身ではないか。何処の出だというのだ?」

「俺は…三咲町で育って、今は用があって東京に来ていたんだが…」

 

 相手は何を言っているんだという顔をしている。

 それは俺の台詞だ。

 

「俺としてはここが尾張清洲で、今川がどうとか、あんたが織田信長だとか、その辺りが全く理解出来ない」

「貴様、我が嘘をついているとでも言うのか?それと、諱で呼ぶのは無礼だと先程言ったであろう!織田久遠と呼ぶがいいとも言った」

 

 目の前の大変ご立腹な少女は、織田久遠信長というらしい。

 確か学校で織田信長とかは習った。

 しかし、その教科書に書かれているのはおっさんだった覚えがある。

 というより、こんな可愛い子が教科書に載っていたら忘れるはずもないと思う。

 いや、まともに授業受けれた日が少ないから言い切れないんだが…

 

「嘘をついているとは言ってないだろ。ただ理解ができないだけだ。…久遠って呼べばいいんだな」

 

 とりあえず怒りを鎮めてもらおう。

 話は、それからだ。

 

「うむ。嘘つき扱いしていたのは許そう。無礼なことも目を瞑ろう」

 

 何とか鎮まりそうだ。

 しかし、久遠と名乗る少女の話が本当ならば、色々とまずい。

 ここは尾張清洲、目の前の少女は織田信長。

 これだけで分かることはここは知っている世界じゃない。

 そして、信じられない、と言いたいがこういうことは魔術師の中では特異点と呼ばれ、実際に存在すると言われる。

 特異点ーそれは世界の歪みとも言える正しい歴史とは異なった空間、らしい。

 詳しいことは全く知らないがそういうものだと聞いた。

 そして、それは世界そのものに影響を及ぼす。

 つまり、それはアルクェイドにも影響を及ぼす可能性があるということ。

 ならば、その歪みを消せばいい。

 だが……

 

「おい、聞いているのか?」

 

 目の前の少女はどう考えても歪みだ。

 しかし、多分、こいつだけが歪みというわけでもないだろう。

 他にもいる。

 そんな感じがする。

 この世界自体が歪んでいる。

 

「無礼なやつだな…」

 

 目の前の少女は睨んでくる。

 

「っと、すまない。考え事をしていた」

「我の前で話も聞かずに、か。無礼なやつだが、貴様について話すというのなら許す」

 

 俺について、か。

 どう話せばいいのか…ただ言えることは一つ。

 

「どうやら俺はこの世界の人間じゃない」

 

 そう言うと少女の目は俺の目を捉える。

 まるで俺の中を覗き込むように。

 

「その様だな」

「……信じるのか?」

「嘘のない瞳をしている。色々と隠し事はある様に見えるが、その事に関しては信じてやる」

 

 信じてもらえるとは思ってなかったがこうもあっさり信じられてしまうとは。

 

「何を間抜け面をしている」

「あっさり信じるんだな、と思ってな」

「世迷言を抜かすような輩を、か?確かにその一言だけでは単なる世迷言にしか聞こえない。理屈としても信じられたものではない。だが、人は理屈のみで生くるにあらず」

 

 そう言い、俺の目を再び見つめてくる。

 その瞳はとても綺麗だと感じた。

 

「我のような立場の者はな、瞳を見ればどのような人物か分かる」

「分かっていて信じられるなら大した人間だな」

 

 元いた世界では、不死者と殺し合い、殺人貴として恐れられた存在。

 そんな人間だと見抜いたなら尚更信じられないのではないか?

 

「この世の中では人を斬るというのは常にあるものだ。それに、見抜いたからこそ信じられる」

 

 その瞳は本当に俺自身の全てを見ているような気がした。

 その目は優しい目だった。

 

「貴様がどのような人間か、それぐらい見抜かなければ生きていけない世の中だ。志貴は信頼出来る者と見た」

 

 久遠は少し離れ、改めて聞いてくる

 

「貴様は何のためにここへ来たのだ?」

「…本来は来る必要はなかったんだが…」

「来る必要はなかった…?」

 

 何を言っているのか、と不思議そうな顔をしている。

 

「俺はここへ来ることが出来るモノを壊しに来ていた、が。何かの拍子に此方へ飛ばされた、ってところだ」

「ふむ…」

 

 考え込む久遠。

 俺は俺でこの先どうするか、それを考えなければならない。

 

「おい」

 

 ふと、久遠が

 

「これからどうするつもりだ?行くあてはあるのか?」

 

 と、聞いてきた。

 

「どうするかはこれから考える。……行くあてがあるなら行ってる」

 

 それもそうか、という顔をしている。

 うん、行くあてがあれば即動いている。

 

「それにしては泰然としているな」

「焦っても何も変わらないしな。何をすべきで何を避けるべきか。そう考えておけば何とでもなるんじゃないかなって」

 

 そう俺が言うと、ジト目で見てくる。

 

「何とでもならないと言いたそうな顔をしながら言うものではないぞ」

「そんな顔してたか…?」

「まぁ、いい。…志貴、我の家臣になれ」

 

「は?」

 

 何がどうなってそんな話になったんだ。

 いや、まぁ、行くあてのない人間を見捨てるような人間には見えないが、かと言ってこんな時代だ。

 ただ、拾ってきた人間を家臣にするとは思えない。

 

「うむ、拾ってきた『ただの人間』であれば、捨てておくが、我がこの目で見て嘘を付くような間者ではなく信頼出来る者だと思ったからだ」

 

 恐らくこれは嘘だろう。

 

「成る程な。けど、悪いが家臣にはなれない」

「ほう…?」

 

 家臣になると言うことは関係のない人間まで殺すことになる。

 俺は人殺しをするつもりはない。

 あくまで、殺すのは人ならざる者だけだ。

 

「人殺しをするつもりはない、それが理由だ」

「…では、どうする。行くあてもない貴様ではこの先生きていけないだろう」

 

 全くもってその通りだ。

 この身体は元から強い方ではない。

 簡単に死んでしまう。

 

「……行くあて何とかならないのか?」

「我に聞かれても、紹介することは出来ん。だがな…」

 

 久遠は少し笑みを浮かべる。

 これを聞くのはやめた方がいい気がする。

 

「家臣ではなく、我の元にいる。そして、衣食住を何とかしてやろう」

「……具体的にどうしろって言うんだ」

「我の夫となれ」

 

 ……意味がわからなかった。

 

「あー、何だって?」

「我の夫となれ、と言った」

 

 聞き間違いではない様だ。

 

「何でそうなるんだ…」

「何、本当に夫になれと言うわけではない。形式上夫であれと言うことだ」

 

 形式上…?

 ようやく納得がいった。

 

「男避け、か」

「そう言うことだ」

 

 簡単に言えば、寄ってくる男を追っ払う為のものだ。

 この時代だとそう言う事がよくあるのだろう。

 

「けど、それなら初めて会った男より元からいる誰かに頼めばいいんじゃないか?他に使い道でもあるのか?」

「…なかなかに聡いな。他の使い道が本来の貴様の役目だ」

 

 ニヤリと笑う。

 面倒なことに巻き込まれそうだ。

 

「本来の役目っていうのは?」

「天から降りてきた貴様が我の勝因だと考える奴が多い。ならば、その勝因となった貴様を我の元に置いておき、相手に何かあると思わせる。その為だ」

 

 成る程な。

 勝ったと同時に俺が現れたと聞いたが、天から降りてきた何かによる協力があって勝ちを得たとあれば……逆効果じゃないか?

 

「待て、未知のものを恐れて逆に追い込まれないか?」

「警戒して攻めてこなくなるだろう。それに、そう思わせる貴様を我の元から離してしまえば、我の方も攻めにくくなる」

 

 本来はそっちが目的か。

 まぁ、拾われて、衣食住を提供して貰えるならそれぐらいの役目は、な

 

「わかった。なら、遠慮なく厄介になるよ」

「……簡単に信用するのだな」

「こっちが信用されてるのに、信用しないってのもおかしな話だ。それに、さっきの話なら信用出来る。筋が通っているんだ。疑いようもない」

 

 不服そうな顔でこちらを見てくる。

 

「悪いことを裏で考えているかも知れんぞ?」

「それはない。いや、あったとしてまんまと騙されたのなら仕方ない」

「仕方ない、で殺されでもしてみろ。それでいいのか?」

 

 殺されるのは勘弁してほしいが……

 

「殺されるつもりはないし、殺すつもりもない。それに助けてもらった立場だ。疑う気にもなれない」

「……胡散臭い」

「ごもっとも……」

 

 それが計算して助けてもらった人間だとしたら、信頼できない言葉だ。

 胡散臭いな…

 

「まぁ、いい。貴様が我の元にいる間は衣食住は何とかしよう」

「ああ、助かる」

「無礼な奴だな、貴様は…」

 

 呆れたと言わんばかりの表情だ。

 

「礼儀なんて教わってこなかったからな。礼儀は少しずつ覚えていくよ」

「それはいつになることか。まだまだ先の話だな」

 

 ひどい言われ様だ。

 だが、お互いに腹の探り合いなんてしなくてもいい。

 そう思える程にはなったと思う。

 

「改めてよろしく頼むよ」

「ああ、我の夫として、働いて貰うぞ。志貴」

 

 こうして、少女と青年の物語が始まる




なんかぐだぐだしてる気が((
剣丞と志貴では境遇も考え方も頭の回転も相当違うので、どうしようか結構悩みますね…


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現状

タイトル決めるのって難しい


 久遠と話した後、俺は一人部屋で考え事をしていた。

 久遠は公務があるとのことだ。

 …態度はでかいが、働くにしても見た目が少し若過ぎるように見える。

 

(……秋葉よりも大変かもしれないな)

 

 アルクェイドと共に千年城ブリュンスタッドで暮らしている間、秋葉達とは話していない。

 

(早く戻って遠野の家に少し寄ってみようか…)

 

 早く戻る。

 それを胸に決意し、今の状況と戻り方について考える。

 

 今は久遠の夫という役割をこなしつつ、特異点の鍵となるものを探すことが1番だ。

 特異点はそれを解決すると世界が自動的に直し始めるらしい。

 …どうやって帰るのかは知らないので、それも探さなければならないのだが。

 織田信長が女の子という時点で特異点の鍵と決め付けそうになっていたが、もしかすると他の人もそうなっていることもある。

 そうなるとそれをどうにかするだけでは元に戻ることはない。

 もっと根本的なものを探さなければ……

 

 その時、ふと辺りを見渡してみた。

 

 シンプルな和室だ。

 琥珀さんを追いかけた時に見つけた使用人の使っていた離れに似ている。

 それに、前に住んでいた部屋にも……

 

 ……前に?

 

 今の住んでいる場所は千年城ブリュンスタッドだ。

 その前は遠野の屋敷。

 その前は有間の家に……

 その前は…ナナヤの里にある、俺の家に…

 

 どうしてここまで鮮明に思い出せる…?

 それによく思い出してみると、俺じゃない俺の記憶がある…

 

 シオンなんて聞いたことない名前の筈なのに、顔も声も鮮明に思い出せる。

 どういうことなんだ…?

 それに1番不思議なのは…白いレンの主人になった記憶。

 使われないもの同士、なんて言葉を言われている。

 分からない、これは何なんだ…!

 

「……あの、お客様?」

 

 その声を聞き、振り返る。

 襖の向こうから声を掛けられたようだ。

 

「よろしいでしょうか?」

「あ、はい」

 

 襖が開き、奥から女性が現れる。

 久遠とは違い、大和撫子という言葉が合いそうな美しい女性だった。

 あと、大きい。どこがとは言わないが

 

「給仕を承ります、私、織田三郎が妻、帰蝶と申します。不束者ではございますが、よしなに」

 

 三つ指をつき、頭を下げる女性。

 それにつられこちらも頭を下げる。

 

「あ、ああ。俺は遠野志貴。これから世話になるよ」

「いえ、久遠より言いつかっております。お食事をお持ち致しました」

 

 そういうと顔を上げ、足つきのお盆を捧げ持って入ってくる。

 

「では、ただいまお給仕を」

「いや、それはいいよ」

「ですが…」

「一人で食べられる。それに、久遠の奥さんに給仕なんてさせられない」

 

 そう言うと、帰蝶はお盆を俺の近くに置いてくれた。

 

「君は食べないのか?」

「お客様にお出しする分しかありませんので」

「そうなのか」

 

 食べている間ずっといるのだろうか、などと考えつつ

 

「いただきます」

 

 とりあえず食べることにした。

 食事を出されて急に腹が減った気がしたので今は食おう。

 

 茶碗を手に取り、ふと気がつく。

 茶碗に視える線。

 そのモノの「綻び」だ。

 今まで何故か気にならなかったが、辺りは「綻び」だらけだった。

 

 綻びとは、そのモノの死にやすい場所。

 死の線と呼ばれるものだ。

 脳が根源と接続されることにより、そのモノの死を理解し、それが線や点となって目に視えるようになる。

 直死の魔眼と呼ばれるものの力というところだ。

 

 何故気になったかというと、少しばかり視え過ぎている。

 それに、これを見て何も思わないことが不思議だった。

 モノの死、そのものを見ているのだ。

 見続けでもすれば、気が狂い、脳が焼き切れそうになる。

 しかし、そうならない。

 普段は包帯を巻き、封印してはいたが……そう言えば今してないんだった。

 

 違和感を感じつつも食べていく。

 腹の虫には勝てないのだ。

 

 食べ進めている間、ずっと見られている。

 さっきの女性の視線をとても感じる。

 

(食べにくい…)

 

 俺の食べ方が変だろうか、普通に食べてるつもりなんだが…

 

「見られていると食べにくいんだが…」

「…………」

「俺の顔に何かあるんですか?」

「……あなたが久遠の夫になるのですか?」

 

 顔には何もないみたいだ。

 

「形だけのもの、だ。俺は衣食住を、久遠は俺を男避けとかに使うらしい。対等な条件なのかは分からないけど、助けて貰えるならこっちも助けるってだけの関係だよ」

「……形だけとしても、あなたに久遠の夫が務まるとは思えませんが…」

 

 俺もそう思う。

 夫なんて何をすればいいのかもさっぱりだ。

 

「気楽な気持ちで受けたのならば、すぐに撤回し、この国から出て行ってくれませんか」

「撤回するにしても本人はいない。それに、野垂れ死ぬ訳にもいかないから、お世話になる側だけど、そのことはお断りだ」

 

 それに勝手に約束を破ったりしたら…後が怖いのはアルクェイドの件でもうわかってる。

 約束を破ったりはしない。

 

「ごちそうさま」

 

 睨まれ続けながら食べる飯ほど味が分からないものはない。

 あと食べにくい。

 

「美味しかったよ」

「…ありがとうございます」

 

 あ、この人が作っていたのか。

 ちゃんと味わってから感想言えればよかった。

 

「とりあえず、さっきの話は久遠が戻ってから。そうでないと何も進まない」

「…わかりました。では、久遠が戻るまでの間、おくつろぎください」

 

 そう言うとお盆を持って部屋から出て行った。

 

「…どこの馬の骨かも分からない人間が近くにいるっていうのは不安だろうな…」

 

 それも夫…?妻…?にあたる人間のそばにいることになるんだ。

 不安になるのも仕方ないし、警戒されても仕方ない。

 知らない人間を、それも天から降ってきたなんて男を怪しむのは当然だろうな…

 

「しかし、そんなことよりも…」

 

 そんなことよりもこの眼だ。

 長時間、死を見続けてはいるが、未だに頭痛はない。

 それに人以外にはどうも点は視えなくなっている。

 

(こちらへ来たときに脳が少し変わったりした、とか?根源とさらにしっかりと繋がった…だとしたら、このよく分からない記憶もそれの影響ってことなのか…?)

 

 こんなに考えても分からないものは分からない。

 魔術関連の話はさっぱりだ。

 ……難しいことを考えるのはよそう。

 食べたあとだからか、眠気が襲って来た。

 

(寝ておこう)

 

 俺は眠りについた。

 これからどうするか、どうなるのかなんてことを考えることもなく、ただ今は休むために




はい、ということで、この遠野志貴くんは漫画版とかとかですね。はい。漫画版しか詳しく知りません。あとメルブラはよくやってます。
直死の魔眼は本来根源と繋がり見えるものです。志貴ではなく式さんは根源と直接繋がってたりするので、通常時は痛みなく使える、らしいです。
志貴くんは根源とたまたま繋がった人間ですからね。脳が追いつきません。それで痛みがあるのです。

次回はー…
志貴くん無双が…始まる


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