FAIRY TAIL 未知を求めし水銀の放浪記 (ザトラツェニェ)
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水銀の蛇はとある世界で二人の少年少女と出会う

これは私のもう一つの作品、「アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹」の裏側で水銀が何をしているのかに焦点を当てたものです。
サラサラっと書いてみたものを投稿させていただきました!
もはや水銀が優し過ぎて、何この水銀とか言われるかもしれませんが、その辺りは生暖かい目で許容してください!

ではどうぞ!



君たちは未視感というものを経験したことがあるだろうか。

 

 

既視ではなく未視。

 

 

これまで幾度となく見た筈のものが初めて見たかのように感じる感覚。

 

 

それは五感・六感にいたるまで、ありとあらゆる感覚器官に訴えるもの。

 

 

例えば、見慣れた筈の景色が初めて見たかのように感じる。

いつも食べていた筈の物が初めて食べたかのように感じる。

嗅ぎ慣れた筈の匂いが初めて嗅いだかのように感じる。

いつも聞いている筈の音楽が初めて聞いたように感じる。

いつもまぐわっていた筈の女が初めてまぐわったように感じる。

 

 

そして、何度も抱いた筈の感情が初めて抱いたように感じる。

 

 

錯覚―――脳の誤認識が時に生み出す、なかなか風情ある一種の錯覚。

 

 

そんな既知感と似たようなそれを、君たちは経験したことがあるだろうか。

 

 

それに是という者もいれば、否という者もいるだろう。

 

 

私は否だ。この身は遥か那由他の果てから既知感という正反対の感覚に苛まれてきた身故、そのような感覚は()()()一度も感じた事は無かった。

 

 

既知感。それは既に知っている世界で既に知っている出来事だけを繰り返し繰り返し行うのみ。

 

 

そのような地獄を体験していた身故に、私は先ほどの質問に是と答えた者たちに対して嫉妬を覚える。私もそのような風情ある感覚を味わえたのならどれほど世界が美しく見えただろうか―――

 

 

 

 

だが、そんな私にもその未視感というものが感じられるきっかけが舞い込んできた。

 

 

那由他の果てまで回帰し、森羅万象遍く全てを既知として飽いていた中、唯一私が至高の既知と讃えた存在―――マルグリット・ブルイユが第四天たる私を放逐し、第五天として座に坐ったのだ。

 

 

そしてマルグリットの提唱した理―――輪廻転生がこの世界に流れ出した瞬間、私は未知という感覚と共に、今まで感じた事の無かった未視感というものを感じ始めた。……ふむ、前言を修正しよう。私は今この時、未視感というものを感じる事が出来ている。他ならぬマルグリットのおかげで―――

 

 

未視感というものを初めて感じ、知った瞬間に私は一体どうしたと思う?―――心の底から歓喜したよ、胸が震えた。今まで既知感しか感じていなかったのだからそうなるのはある種、道理と言えるだろう。

 

 

それ以来、私は黄昏の守護者として女神の理を守護する他に、女神の法下にある世界を見てみたいが為に数多の世界を放浪するようになった。他ならぬ未知を求める為に―――

 

 

 

そんな放浪の最中に私の未知に飢えた目はとある世界に止まった。

今宵、語るはそんな哀れな道化が興味を抱き、今に至るまで干渉を続けている世界の物語。

 

 

始まりの舞台はX777年のフィオーレ王国。人口1700万の永世中立国であり―――魔法というものが存在する世界。

 

 

これは女神の理が流れ出してから約百年程経った頃の物語。

 

 

そして―――私があの兄妹に目を付け、手を加える僅か一ヶ月程前の物語―――これから語る物語はそんな時に幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはりここにも無い……か」

 

地上にさんさんと太陽の暖かい日差しが降り注ぐ昼間、私は少し年季の入った小さめの書店から出た。

私は目的の書物が無かった事に小さく息をついた後、そのまま通りを歩く人たちの波に乗って歩き出した。

 

「予想はしていたが、こうもどこにも売っていないとは……。まあ、仕方ない」

 

私は再びため息をはいて、思考を切り替える。次に考える事は今後の予定についてだ。

 

「ならばこの街にもう用は無いな。占いでそれなりに貯えも出来たし、そろそろ次の街に向かうとしようか」

 

この世界に入り込み、放浪し始めてから早一週間―――私は自らが最も得意とする占いを生かして商売をしていた。

もちろんデタラメやイカサマを行うような占いではなくきちんとした占星術やカード占いをしている。下手に嘘をついたり、適当にやったりすると後々面倒事になる可能性もあるからだ。

ちなみに占いの的中率は九割程といったところで、その的中率の高さ故か、あっという間にこのオニバスという商売都市では私の占いはよく当たると噂が広まった。

おかげで売り上げも右肩上がりで、私の財布には現在30万J程入っている。

 

「次はここらでよく聞くマグノリアという街にでも行ってみるか。有名な魔導士ギルドとやらもあるようだしね」

 

魔導士―――この世界では魔法を駆使して生業としている者たちの事である。

当然ながら、私もそのような存在に少なからず興味を持っていた。獣殿や我が愚息がいた世界にはそのような存在はいなかったからね。

特にそのマグノリアという街にある妖精の尻尾(フェアリーテイル)というギルドについて私は凄まじく興味を持っていた。

ちなみに私も少々ながらこの世界の魔法を勉強し、いくらか使えるようになっていた。大方の属性魔法は軽く扱える程度まで仕上げてあるのだが―――その事を話すのはまた後ほどにしよう。

今後の方針を大方定めた所で、私はオニバスの街から出ようと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が西に傾き始め、夜の帳が辺りに下りようとしている頃―――私は鬱蒼(うっそう)とした木々が生い茂る森の中の一本道を歩いていた。手持ちの時計を見るとオニバスの街を出てからかれこれ五時間程が経っている。

 

「ふむ、辺りに村は無しか。ならば今日はこの辺りにテントでも張ろうか」

 

私は周りを見渡し、周りに灯りが無い事を確認しながら言った。元より当ての無い流れの旅路だ。私はこのような野宿には慣れている。

……む?ニートがテントを張れるのか、だと?ふっ、愚問だな。私とて外で寝る為のテント程度は張れるのだよ。数多の世界を放浪しているのだからその程度は出来て当然だ。

そして私はテントを準備しようとカバンに手を掛けたその時―――

 

「む?」

 

真っ直ぐ伸びている道の先にふと、二人の少年少女が道の端にいるのが目に入った。

一人は五歳くらいの少女だろうか。青色の短髪をした彼女は道の端でうずくまって肩を震わせていた。

そしてもう一人は十を少し過ぎたくらいの少年で、こちらも青色の短髪をしていた。彼はそんなうずくまっている少女の側で片膝をついて付き添っているように見える。

 

「ふむ……」

 

それを見た私は不思議とその二人に興味が湧き、近付いて話し掛ける事にした。

―――これが後々の物語のきっかけ、序章の始まりだった。

 

「どうしたのかね?このような遅い時間にこんな所で?」

 

「あ、すみません。この子が道の端にいたので声を掛けたら、突然泣き出してしまって……」

 

青髪で顔に紋章が入ってる少年は私に気が付くと、困ったような顔をしながらそう説明した。

どうやら彼とうずくまっている少女は赤の他人のようだ。髪の色などが似ているので兄妹ではないかと思ったのだが。

 

「いかがしたのかな、お嬢さん。もうすぐ日が沈むという時間に、こんな所に一人でいるとは危険ではないのかね?」

 

私は出来る限り親切な言葉で彼女に問いかける。すると少女は―――

 

「うわあぁぁぁん……グランディーネ……どこぉ……?」

 

人物名と思われる言葉を呟きながら、大粒の涙をさらに流し始めた。

その発言と先ほどからの少女の行動を踏まえた上で、私は一つの結論を出す。

 

「先の発言から察するに、迷子かね?」

 

「多分そうだと思います……」

 

「ふむ……」

 

迷子か……ならば彼女にはどこでそのグランディーネとやらとはぐれてしまったのかを聞いて、探し出してあげたい所なのだが……。

 

「……とりあえず彼女が泣き止むのが先決だな」

 

「そうですね……僕はこのまま泣き止むまで、彼女の側にいます」

 

「なら私も付き合わせてもらおう。何、遠慮はいらんよ。声を掛けた手前、泣いている童女を見捨てて立ち去るような真似をする程、私は薄情ではないつもりだからね」

 

「すみません……」

 

そうして私と少年は少女が泣き止むまで、側で付き添った。

 

 

 

 

 

そして五分後―――少女は落ち着いたのか、目元をこすりながら立ち上がって私と少年に向いた。

 

「あ、あの……突然泣き出してしまってごめんなさい……」

 

「気にしなくていいよ、それよりもう大丈夫かい?」

 

「はい……」

 

少年が優しい笑みを浮かべながら問うと、少女は元気無く頷いた。

 

「それはそうとお嬢さん。一つ聞いてよろしいかな?」

 

「な、なんですか?」

 

そして私は先ほど、この少女が言っていたグランディーネという者について尋ねようとしたのだが―――

 

 

グゥ〜……

 

 

「ん?」

 

「おやおや―――」

 

突然小さいながらも、私と少年の耳に届く位の低く、可愛らしい腹の音が聞こえた。

無論私ではないし、おそらく少年のものでも無い。となると……。

 

「…………」

 

必然的にこの少女の腹の音という事になる。それを肯定するかのように、少女は顔をうつむかせていた。

やはり見た目幼い少女でも、知り合って数分程の男二人に自分の腹の音を聞かれたのは恥ずかしいようだ。

 

「とりあえず込み入った事情を聞くのは後ほどとしよう。今から君たちの寝る場所と食事を準備をするから少し待っているといい」

 

「え……?」

 

私が言った言葉を聞いた少年は、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして、戸惑いながら確認してきた。

 

「えっと……あの……それってつまり、貴方が僕とこの少女の寝る所と食べる物を用意してくれて、一緒にいてくれるって事ですか?」

 

「だからそう言っているではないか。それとも嫌なのかね?私にそのような事をされて、一緒にいるのが」

 

「あ、いえ……そういうわけでは……ただなんでそんなに優しくしてくれるのかって思いまして……」

 

「別に優しくしているわけではない。適切な判断を下したまでだよ。よく考えてみたまえ、既に日は僅かにしか拝む事が出来ず、近くに人の住んでいるような場所も無し、しかもこの辺りでは物の怪が出るとも聞く。そのような場所に子供二人を置いて去る事が出来ると思うかね?」

 

常識的に考えて出来ないだろう。

―――今、私にそんな感性があったのか!?と驚いたお前たち、心外だぞ。私にだってそれくらいの常識は弁えている。

 

「幸いにも、私はこう見えてそれなりに魔法は扱えるのでね。物の怪から君たち二人を守る位は容易い」

 

最も、そこの少年も魔法を使える可能性は高い。彼の背負っている杖からはかなり強い魔力を感じるからだ。そしてもう一人の少女の方からも不思議な魔力を感じる。

私が先ほどこの二人の為に寝床と食事を準備すると言ったのも、その魔力に興味が湧き、もっと詳しく触れてみたいという未知への探究心もあるが故だ。他には純粋に人助けをしてみたいという未知に対する欲求もあったのだが。

 

「……なら、僕はお言葉に甘えます。君はどうする?」

 

「あ……わ、私は……」

 

「遠慮はいらないよ。それとも君はこの暗い森の中をこれから当ても無く歩くのかな?」

 

私がそう言うと、彼女はビクッとして周りを見回した。

既に辺りは完全な闇に包まれてしまい、不気味な雰囲気を出していた。今にでも物の怪が出そうである。

 

「い、嫌です……私もここにいていいですか……?」

 

「構わぬよ。では暫し待ちたまえ。すぐに準備するからね」

 

私は二人にそう言い、準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、寝床となるテント(大きめ)を立てた私は、焚き火を起こして次に食事の準備へと取り掛かっていた。とはいえ、私はあまり料理が得意ではないのでそう大したものは作れない。

なので手持ちのもので、シンプルかつ一番簡単で美味しいものを作る事にした。

 

「そろそろ焼けたか……食べるといい。熱いから気を付けるのだよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

それは某世界ではかなり有名だろうこ○がり肉というものだ。

生肉をただムラ無く焼くだけの簡単なものあり、腹が減った時に一口食べればたちまち元気とスタミナが湧き上がってくるという素晴らしい料理である。私もかなり気に入っている料理の一つだ。

私は焚き火の上で焼いていた肉の焼け具合を見た後、ちょうどいいと判断し、先ほど腹を鳴らしていた少女へと差し出す。

少女は恐る恐るといった様子でこんがりと焼けた肉を受け取ると―――

 

「……いい匂い」

 

食欲を容赦無く刺激するこん○り肉の匂いにそう呟くと、ついに我慢出来なくなったのか、その小さな口で肉にかぶりついた。

 

「っ!はふ……はふ……」

 

少女は肉を一口、口の中に入れると予想以上に熱かったのか、はふはふと口の中で冷ましながら食べる。

 

「……美味しい」

 

そしてぽそりとそう感想を漏らした少女は一口、二口と勢いよくかぶりつき、一口一口しっかりと味を噛み締めるかのように咀嚼し始めた。どうやら熱さには慣れたようだ。

 

「とても美味しいです……!」

 

「それは重畳。焦らずにゆっくりと食べるといい。これは君の分だ」

 

「いただきます」

 

少女が嬉しそうに頷くのを確認した私は、次に少年に肉を手渡した。

 

「では私もいただこう」

 

そして私も自らが焼いた肉を手に取り、口へと運んだ。

瞬間、塩とコショウが付いている外皮のパリッとした食感と、中の部分から溢れ出す濃厚な肉汁と身が同時に私の口内に流れ込んでくる。

 

「これは……美味い」

 

「使っているのは生肉一つとほんの僅かな塩コショウ程度だがね」

 

「それだけでこんなに美味しくなるんですね……」

 

私はそれに頷き、いよいよ本題を切り出した。

 

「さて……では、先ほど聞こうとした質問を―――と言いたい所だが、私としたことが大事な事を忘れていた。今更ながらで申し訳ないが、君たちの名を聞かせてもらえないだろうか?」

 

「あ……はい!私はウェンディ。ウェンディ・マーベルといいます……」

 

少女は元気に返事したかと思うと、消え入るような声で自らの名を名乗り―――

 

「僕はジェラールっていいます。貴方の名は?」

 

少年はハキハキとした口調で答え、私の名を尋ねた。

 

「ふむ……カリオストロ、サン・ジェルマン、ノストラダムス、パラケルスス、メルクリウス……。名は売る程持っているが、君たちにはカール・クラフトと名乗らせてもらおうか。カールとでも、クラフトとでも、どちらか好きな方で呼んでくれても構わない」

 

私は聖槍十三騎士団を結成し、副首領となった時に使用した名を名乗った。

マルグリットと出会った時に名乗ったカリオストロと同様に、こちらの名も我が親友である獣殿に名乗ったが故に愛着がある。その名を何故彼らに名乗ったのは分からないが……なぜかそう名乗るべきなのだと感じたのだ。

 

「じゃ、じゃあ私はカールさんって呼びます……。それで私に聞きたい事ってなんですか?」

 

「先ほど君が泣いていた時に言っていたグランディーネとやらについてだ」

 

「…………」

 

その言葉を聞いた途端、ウェンディは黙って俯いてしまった。

また泣かせてしまったか……と思い、この話はまたいずれ話す事にしようと切り上げようとしたその時―――

 

「……グ、グランディーネは……私を育ててくれたドラゴンです……」

 

「ドラゴン……」

 

ぽつりと呟いた言葉に私は耳を疑った。

ドラゴン―――この世界では伝承などではよく聞くものの、滅多に見られない非常に珍しい存在とされている生物である。一説には絶滅したとも言われているのだが……。

そんな生物に育てられたと目の前の少女は言う。

 

(まさかまだドラゴンが存在していたとはな……あの存在によって全て狩られたと思っていたが……やはり生き残りはいるものなのか)

 

そんな事を思いながら、私はウェンディの話を聞いていた。

ウェンディの話の内容を纏めると、グランディーネは彼女にとって母親のようなものであり、魔法を教えてくれた師匠のようなものであると言った。

そんな彼女にとっては育ての親であるドラゴンが数日前、何も言わずに突然姿を消したらしい。

そしてそのドラゴンを探して様々な場所を探し歩いているうちに、一人になった悲しさと恐怖が溢れ出して、先ほどまで道の端でうずくまっていたとの事だ。

 

「そこに僕とカールさんが来て、今に至るって事だね?」

 

「はい……」

 

一通り話を聞き終えた私は先ほどの話を踏まえて、目の前の彼女の処遇について考え始めた。

一番良いのはグランディーネと呼ばれるドラゴンを見つけて彼女を渡す事なのだが……そのドラゴンを最後に見たのは数日前だと言うし、何より彼女自身当ても無くふらふらと歩いて探して来たらしいので、元々どこで育てられていたのかも分からないらしい。つまり決定的な情報や手がかりとなるようなものが全く無いのだ。

とはいえ、私たちがお手上げという事で彼女を見捨てるのもまた得策とは言い難い。私たちが諦めても彼女はたった一人でそのドラゴンを探すだろうし、(よわい)たったの五歳の少女一人がこの広い世界でたった一頭のドラゴンを探すというのは、はっきり言って夢物語にもならない。

 

「なら僕と一緒にそのドラゴンを探そうか?」

 

「え……?」

 

すると私と同じく考え事をしていたジェラールが言った提案にウェンディは目を点にして固まる。その反応から見るに、彼女はやはり私たちと別れて一人で探そうとしていたようだ。

 

「僕は色々な所を旅しているから、一緒に来ればそのドラゴンに会えるかもしれない」

 

「それは妙案だ。ならば私も協力させてもらっても構わないかね?二人よりも三人の方が色々と効率もいいだろう」

 

「あの……えっと……」

 

ここで会ったのも何かの縁であるし、何よりもこの二人についていけば自ずと未知や未視が感じられるのではないか―――そう思い提案すると、ウェンディは困惑したように言葉を詰まらせる。

 

「そ、そんな事までお世話になるわけには……」

 

「やれやれ……では聞くが、君はこれからそのドラゴンを探す当てがあるのかね?それにお金や寝床、食料はどうするつもりかな?そして君は物の怪に襲われてもそれを退ける程の力を持っているのかね?」

 

「そ、それは……」

 

私の指摘にウェンディは言葉に詰まる。やはりそこまで深く考えていなかったようだ。まあ齢五歳程度だからそこまで考えていないのは、仕方が無いといえば仕方が無いのだが。

 

「君はまだ幼く、弱く、そして脆い。それなのに無理をして遠慮する必要などどこにも無いのだよ。困った時は人に頼りたまえ。それが生きるということなのだからね」

 

「…………」

 

私の言葉にウェンディは黙ってうつむいてしまった。何も考える必要は無いと言うのに……彼女は引っ込み思案が強過ぎて、遠慮し過ぎてしまう性格のようだ。

 

「まあいい、その結論は明日出すといい。今日はもう疲れただろう?先にテントに入って寝たまえよ。重ねて言うが、遠慮はいらないよ」

 

「……はい」

 

返事をしたウェンディは地面から立ち上がると、ゆっくりと歩いてテントの中へと入っていった。

 

 

 

 

その場には私とジェラールの二人が残り、私たちは揃って無言となった。

 

「…………カールさん」

 

「何かね?」

 

暫くしてその静寂を破ったのは私では無くジェラールだった。まあ、私自身は彼が話しかけてくるまで待っていたのでこの静寂を破るつもりは無かったのだが。

 

「さっきも聞きましたけど、何故貴方は見ず知らずの僕と彼女にそこまでしてくれるんですか?さっき聞いた話だと適切な判断をしたまでと言っていましたが、本当はそうじゃないんですよね?」

 

するとどうだろう。彼は私の嘘を見破ってそう問いかけてきたではないか。

―――その質問に自然と自らの口角が引き上がるのを感じながら、私は問う。

 

「ほう。なぜそう思ったのかね?」

 

「……なんというか貴方は他の人とは違う気がするんです。僕と同じように……」

 

「君と同じように?」

 

私と同じ―――それはつまり既知感を感じるという意味だろうか。それとも別世界から来たという意味だろうか。その答えは―――

 

「……貴方には話しても大丈夫そうですね。実は僕はこの世界の裏側から来たんです」

 

後者であった。

しかしこの世界の裏といえば……。

 

「つまり君はエドラスの生まれという事かね?」

 

「っ!エドラスの事も知っているんですね……」

 

「愚問だな。私はこう見えて知識だけは豊富なのでね。エドラスについても本に書かれていた事を覚えていただけだよ」

 

しかしエドラスの者か……ならば彼自身の体から魔力が感じ取れないのも納得がいく。

エドラスに住む者たちは皆、このアースランドの者たちとは違い、体内に魔力を貯める器というものが無いらしいのだ。

それよりも先ほどの質問の返答を返すとしよう。

 

「確かに私もこの世界では無い別の世界から来た。しかしそれと君たちに親切にしたのは別件だよ」

 

「この世界では無い別世界……?いや、それよりそれと別件というなら貴方は何の為に僕たちを……?」

 

「何の為に……か。未知を求めて、だよ」

 

私はそう答え、彼に語り始めた。

かつての私は既知感というものばかりを感じて、未知というものをほぼ感じずに生きていたという事。しかしそれはとある出来事によって、今はある程度は緩和されたという事。

そして緩和されて以来、私は未知を求めて様々な世界を放浪しているという話を彼にした。

 

「……それってつまり、僕と彼女が貴方の未知を感じたいって気持ちに引っかかったって事ですか?」

 

「端的に言うとそんな所だ。理解したかね?私が君たちに対して、こうして世話を焼いたのも、君たちについて行きたいと提案したのも、全ては一つの理由に帰結する。つまり未知の結末を見る(Acta est fabula)という事なのだよ」

 

私がそう締めくくると、ジェラールはうつむいて何かを考え始めた。

そのまま再び静寂が辺りに満ちるものの―――彼は再び口を開く。

 

「……分かりました。でも一つだけ言わせてもらってもいいですか?」

 

「何かな?」

 

「貴方は僕と彼女に未知を求めていると言ってましたけど……きっと期待に沿えないと思いますよ。それでも貴方はついてくるんですか?」

 

「然り。それにたとえ未知を感じる事は出来なくとも、私はそれで構わないしね」

 

私がそう返すと、ジェラールは再び黙り込んでしまった。ならばと思い、今度は私の方から質問を投げかける。

 

「質問は終わったかね?ならば今度はこちらから問いたい事があるのだが」

 

「…………なんでしょうか?」

 

「何故君はこちらの世界にいるのか。確かエドラスとアースランドの行き来は容易では無いと記憶しているが……」

 

基本エドラスとアースランドは互いに表裏一体となっているだけで、互いの世界や人たちが干渉しあう事は無い。

まあ、次元の移動程度造作も無く出来て、異世界の者でもある私ならば一瞬で行き来出来るので干渉も何も無いが、この世界の者たちは違うだろう。おそらく反対側の世界に入り込むには多少なりとも、大掛かりな方法になると思われる。

そこまでして何故この少年がこの世界にやって来たのか―――興味が尽きなかった。

 

「……超亜空間魔法アニマ……僕はそれを塞ぐ為にこの世界に来たんです」

 

「ほう……。アニマとはどのような魔法なのかね?」

 

彼が口にした聞いた事の無い魔法の名前に私はますます興味が湧き上がり、即座に問い返した。

その後の彼の説明曰く、アニマとはエドラスがアースランドの魔力を搾取する為の超亜空間魔法との事。

空に開けた穴を介して魔力を持つ存在―――この場合はもっぱら魔導士など―――を空間ごと吸収して、魔水晶(ラクリマ)に変えるという中々に規模の大きい魔法だった。

 

「エドラスはアースランドとは違って、魔力は有限なんです。だから―――」

 

「その有限の魔力を補充する為に、こちらの世界から奪うというわけだね」

 

地力が無いのなら他から持ってくればよい―――確かに道理だとは思うが、そこまでの魔法を作る技術があるならば、魔力を作り出す魔法などを作った方がよいのではないか?と思ったのが感想だ。

 

「僕はそれを塞がなければいけないんです。あの人の計画を阻止する為にも……」

 

「……なるほど……。すまなかったね、わざわざそのような事まで説明してもらって」

 

「いえ、今日面倒を見てくれたお礼って事で気にしないでください」

 

それから私とジェラールはもうしばらく語らいを続け、揃ってテントの中で就寝したのは、日付が変わる頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、寝る前に散々考えた挙句、私たちと共に親探しの旅を手伝ってほしいと頭を下げたウェンディに、私たちは揃って了承の返事を返した。

それから私たち三人は様々な所を転々と旅したよ。

広大な森林が広がるジャングル、地平の果てまで続くような大草原、灼熱の太陽輝く砂漠―――大変な環境などもあったが、中々に愉快な旅路だったと今でも思う。

彼らにとってもそれは同じ事だったようだ。現にウェンディはとてもよく笑っていたし、ジェラールも楽しそうだった。そして私もそんな彼らに未知や未視を感じ、楽しませてもらったよ。

 

 

 

だが、そのような楽しい時は何か些細なきっかけ一つで崩れ去ってしまうものだ。

それは私たちが旅を始めて丁度一月(ひとつき)程経ったある日、前触れも無く突然訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……ここにもいなかったね」

 

「はい……」

 

「そんなに落ち込まないで、ウェンディ。こうやって探していればいつかはきっと見つけられる筈だ」

 

私たちはワース樹海近辺で、ウェンディの親ドラゴン探しをしていた。

だが結局見つける事は出来ず、落ち込むウェンディにジェラールは励ましの言葉を投げかける。

 

「ジェラール……うん!」

 

「しかしここにもいないとなると……次は霊峰ゾニアにでも行ってみるかね?」

 

「うわ……あそこってずっと雪が降ってませんでしたっけ?」

 

「ええっ!?さ、寒いのは少し……」

 

「さして問題は無いだろう。暑さの次には寒さにも慣れてはどうかな?それにグランディーネがそこにいたとしたらどうするかね?」

 

「う、うう〜……」

 

私がニヤつきながら聞くと、ウェンディは何か言いたげに私を見つめた。実に可愛らしいとは思うが、マルグリットには遠く及ばぬな。

 

「そう睨まないでほしいのだがね、ウェンディ。そこへはまだ行かないから安心するといい」

 

「まだって……まあ、とりあえず今日は近場の街にでも行って休む事に―――」

 

 

 

と言い掛けた所でジェラールは、何かを感じたのかバッと後ろに急に振り返る。そして―――

 

「アニマ!?」

 

そう叫んだかと思うと空を見上げた。私もそれに倣って彼と同じ方向の空を見上げてみると―――

 

「あれが例のアニマという魔法かね?」

 

空がほんの僅かながらも穴のような形になっており、そこからは微弱ながら魔力を感じた。どうやらあれが超亜空間魔法アニマの初期の状態のようだ。

 

「そうです。あれがどんどん大きくなっていって―――」

 

「例の効果が発動すると……」

 

私たちの話の内容が分からず、キョトンとしているウェンディを放置して、私は問い掛ける。

 

「どれ位で発動するのかね?」

 

「あの大きさだと、後一時間位で……そうなる前に早く塞がないと……」

 

「ふむ、ならば……旅はここまでというわけだね」

 

「えっ……?」

 

私の言葉にウェンディは、一瞬私が何を言ったのか分からないような声を出し、ジェラールは仕方ないといったように首を縦に振った。

そして彼はウェンディの目線に合わせてしゃがみ込み、彼自身も言いたくないだろう事を口にした。

 

「ごめん、ウェンディ。親探しの旅はここまでにしよう。僕はこれから一人で行かなくちゃいけない所があるから……」

 

「え……?」

 

その言葉にウェンディは茫然自失となり―――次の瞬間にはその両目に涙を浮かべ始めた。

 

「嫌だよ、ジェラール……もっといっぱい旅しようよ……私とカールと一緒にグランディーネを探してよぉ……」

 

「ウェンディ……ごめん」

 

「嫌ぁ……行かないでぇ……お願いだから……」

 

地面に跡を残すような大粒の涙を流し始めたウェンディに彼はただ謝る事しか出来なかった。そして―――

 

「大丈夫、君の事は近くのギルドに連れて行ってあげるから……だから……またいつか会おう。その時はまた一緒に旅を……」

 

「嫌ぁ!!そんなお別れの言葉なんて聞きたくないよぉ……ジェ……ラール……」

 

彼の睡眠魔法により、ウェンディは閉じた目に涙を浮かべながらも後ろに倒れそうになり―――私はそれを受け止める。

 

「……いいのかね?このような別れで」

 

「……仕方ないんです。いつかはこうなってしまうって思っていましたし、僕にはやらなければならない事がありますから……」

 

「……そうか。ならば私もそろそろ始めなければならないな」

 

私が座を譲った女神に捧げる歌劇を―――

 

「貴方も何処かに?」

 

「元いた世界に少しの間だけ戻るだけだよ。七年程度でまたこの世界に戻ってくる」

 

「そうですか……という事は、貴方とも暫しの別れというわけですね」

 

「そういう事になるね。そして彼女とも……」

 

私は目尻に涙を浮かべながら眠っているウェンディの頭を優しく撫でた。

そしてジェラールはここで別れる私に何を言うべきかを少し考えた後に―――

 

「一ヶ月間、僕とウェンディの世話をしてくれてありがとうございました。今回はこうなっちゃいましたけど……また次に会えた時には―――」

 

「ああ、その時はまた君たちに付き合わせてもらおうか。さあ、そろそろ行きたまえ」

 

「はい。本当にありがとうございました。ウェンディは僕が責任を持ってギルドに連れて行きますから……」

 

「頼んだよ」

 

最後に私に向かって深く礼をしたジェラールはウェンディを抱えて走り去った。

その場には私だけが残され、辺りは鳥のさえずりと僅かながらのそよ風の音のみが静かに響き渡っていた。まるで先ほどまでの楽しい会話など無かったかのような静寂が辺りを包んでいたが―――

 

「さて、私もそろそろ準備を始めるとしようか。我らの未来を決めるかもしれぬ歌劇を」

 

そのような事などに微塵も興味が無い私は即座に転移した。我らが女神のいる座の近くへと―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして私がキャスティングをした例の歌劇が始まってから十五年。しかし時間軸の異なるこちらの世界では七年の月日が経った頃、私は再びこの世界に降り立った。更なる未知を求めて―――

 




一番初めの序章としてはかなり長かった気がしますが、いかがでしたでしょうか?

この作品の水銀は未知や新たに感じるようになった未視を求めながらも、既知も楽しみ始めた水銀です。
ここまでこいつが丸くなったのはマリィのおかげ……本当、第五天は偉大ですね(崇拝)とはいえやはり水銀は水銀なのですが(苦笑)

次回は一気に時が進んでニルヴァーナ編に入ります。水銀の魔法の腕前は?FAIRY TAILの世界の人たち(特に敵の人)は水銀を見てどのような反応をするのか?そしてニルヴァーナ編が終わった後は……?

様々な謎が気になる作品かと思いますが、こちらの作品もエタらないように頑張って書いていきます!

誤字脱字・感想意見等よろしくお願いします!


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水銀の蛇は久々に例の世界へと降り立つ

今回からニルヴァーナ編へと入ります。こちらの作品は比較的短めに書く事があると思いますが、その辺はご了承ください。

水銀「では、第一幕を始めようか」



予想外とはいいものだ。それが既知であれ、未知であれ、悪くない。

 

これは以前、我が盟友である獣殿が言っていた言葉であるが……まさか今度は私がそのような事を言うとは思わなかった。

 

それはあの兄妹について、という意味合いでもあるし、七年の月日を経て戻ってきたこの世界について、という意味合いもある。

 

 

 

 

 

「ふむ……ここは……」

 

あの時ジェラールに七年程度で戻ってくると言った私は約束通り、七年後にこの世界に戻ってきた。

久々に転移してまず私の目に飛び込んできたのは―――

 

「久しいものだ。七年という月日が経とうとも、やはりここは変わらないか」

 

鬱蒼とした樹海の広がる森―――そう、ここは七年前にウェンディとジェラールと別れたワース樹海の近辺である。

その樹海を見ていると、昔日の記憶が呼び起こされる。この世界では七年前、私がいた世界では十五年前という今まで那由他の果てまで回帰してきた私から見れば、ほんの刹那の間の時間であるが、随分と懐かしく感じるのは何故だろうか。

私はそのような事をしばらくその場で考えていたものの、特に気にする事でも無いかと結論を出し、踵を返して森の中を歩き始める。

そんな歩いている中、次に私が脳内で考えていたのは……。

 

(あれから二人はどうしただろうか……ウェンディはあれから寂しい思いをしていないだろうか?ジェラールは無事なのだろうか?)

 

あの時、仕方の無い事とはいえ別れてしまった二人のその後であった。

本来なら女神以外は万象塵芥であると断じていた私がこうして他人を心配するとは……自分自身が考えている事とはいえ、これもまた未知である。

そんな未知を感じて内心歓喜しながら歩いていると……。

 

「……こんな森の中に屋敷が建っているとは……」

 

私の目の前にそれなりに大きな屋敷がひっそりと建っているのを発見した。

何やらハート型のガラス窓など一部趣味が悪いと思う装飾は施されているものの、手入れはある程度されているらしく、建物に(つた)などの植物や、劣化による錆なども見受けられない。

そこから今も、この建物は使われているだろう事は容易に想像出来た。

まあ、どうでもよい事だ。そう思い立ち去ろうとした瞬間―――

 

「――――――」

 

私は屋敷の内部から記憶にある懐かしい魔力を微量ながらも感じ取った。

それに内心驚きながらも、再びその建物に見上げる。

その建物を見た瞬間、私の中にあったこの建物の感想は一瞬で変化した。

最初はなんとも言えぬ悪趣味な装飾が施されている取るに足らない建物だと思っていたが、今は私の求めた未知を内包しているかもしれない建物へと変わったのだ。

 

「面白い」

 

そう呟いた私はその魔力の正体を確かめるべく、屋敷に向かって歩き出した。

その胸の内に未知への欲求を募らせながら―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、そのなんとも言えない悪趣味な建物の内部では四つの正規ギルドの魔導士たちが集まり、これから始まる作戦についての説明を始めようとしていた。

 

「これで全てのギルドが揃った」

 

蛇姫の鱗(ラミアスケイル)に所属している聖十大魔道(せいてんだいまどう)の一人―――ジュラ・ネェキスは集まった魔導士たちを見回してそう言ったのだが―――

 

「失礼、少しお尋ねしてもよろしいかな?」

 

そこに突然第三者の声が響き渡った。

 

「む……」

「誰だ!」

 

その声にジュラは訝しりながら振り返り、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属している火竜(サラマンダー)の異名を持つ青年―――ナツ・ドラグニルは声の主に警戒を向けた。

ナツの警戒の意は他のギルドの面々にも伝わり、全員がその声の主に警戒を向ける。

その反応も仕方の無い事で、元よりこの屋敷に集まるという事は、この作戦の関係者以外には知られてない。故にここにその作戦の関係者以外の者は来る事は無い筈なのだ。

しかし―――

 

「おっと、これはまた失礼。私はこの辺りを流浪していた者なのだが道に迷ってしまってね。道を尋ねようと思ったのだよ」

 

そのような警戒など、どこ吹く風と言ったように影絵のような存在は答える。

その姿を見たナツたちは揃って不快感のようなものとなんとも言えない感覚を感じた。

ぼろぼろの外套で全身を覆った姿は、まるで冥府の使者めいていて……顔立ちは男か女か、(おぼろ)げでよく分からない。

かろうじて声から男―――それも比較的若い―――だとは分かるものの、それ以外の事はよく分からず謎に包まれていた。

だが―――

 

「……う、そ……そんな……」

 

ただ一人―――化猫の宿(ケット・シェルター)に所属しているウェンディ・マーベルだけはその存在を見て、驚愕の表情を浮かべていた。

なぜならその声とその気配は彼女にとっては懐かしく、また再び触れたいと思っていた人物のものだったのだから。

 

「カール!」

 

目尻に薄っすらと涙を浮かべながらそう叫んだウェンディは、その存在へと向かって駆け出し―――思いきり抱き付いた。

 

「おやおや、また逢えたねウェンディ」

 

「カール……どこへ行ってたの……?」

 

その存在―――カール・エルンスト・クラフト―――メルクリウスはそんなウェンディの頭を軽く撫でて薄っすらと笑い、ウェンディは彼の行為に何も言う事無く、黙って受け入れながらも問い掛けた。

 

「私も彼と同じくほんの少しながら用事が出来てしまってね。寂しかっただろう?随分長い間独りにさせてしまった。私を恨んでいるのではないかな?そして彼の事も」

 

「ううん……。私は私を救ってくれたカールと彼を恨んだりなんかしない。ただ、寂しかったし、怖かった……。もうカールと、彼と逢えないんじゃないかっていつも思ってたから……」

 

「あの時はちゃんとした別れも言えずに行ってしまったからね。すまなかった。許してほしい」

 

そう言って謝るメルクリウスに、ウェンディは首を横に振る。

 

「気にしないで、カール。私は別に怒ってないから……。それよりも今はまたこうして逢えたんだから……嬉しい……!」

 

「そうか。なら私も君に逢えた甲斐があったというものだよ」

 

そう言ったメルクリウスの顔は、どこか満ち足りたような顔をしていた。

彼にとってはここでウェンディに偶然出会ったのも、ウェンディにこうして泣きながら抱きつかれたのも未知なのだろう。

そしてメルクリウスは子供好きでもある。そう言った意味でも彼は嬉しいのだろう。最も、彼の年齢と繰り返してきた月日を考えれば、ほとんどの者たちは彼にとって皆、子供と大差ない年齢とも言えるのだが。

 

「……ああ、予想外とはいいものだ。それが既知であれ、未知であれ、悪くない。確かにその通りだ、獣殿」

 

その未知をしっかりと堪能したメルクリウスはウェンディから一旦離れる。

 

「あ……」

 

するとウェンディは名残惜しそうな声を出してメルクリウスを見た。一方の彼は苦笑いを浮かべながら周りを見渡す。

 

「しかし、これ以上私たちだけで感動の対面を繰り広げるわけにはいかないな。見てごらん、周りが戸惑っているではないか」

 

「あ……!」

 

メルクリウスのその言葉にウェンディの顔は瞬時に真っ赤になる。

嬉しさに身を任せて思いきり彼に抱きついてしまった為にすっかり失念していたが、今思えばここには他のギルドの人たちや、自分と同じギルドに所属している猫のシャルルなどがいるのだ。

 

「そ、その……すみませんでした!」

 

その事に少しばかり遅れながらも気が付いたウェンディは顔を真っ赤にしたまま、ナツたちに向かって頭を下げた。

ナツたちはそれぞれ構わないとか、気にしなくていいなどと口々に言うが、変わらず警戒だけは解いていない。―――ルーシィやエルザ、青い天馬(ブルーペガサス)に所属している一夜などは先ほどの光景に一瞬警戒を忘れて感動していたようだが。

そんなどこか微妙な雰囲気が漂ってしまっている中、その空気を変えようとしたのかは分からないが、言葉を発した者がいた。

 

「ウェンディ、そいつは誰なの?」

 

「ダメだよ、シャルル。そんな言い方しちゃ……彼は昔、私を救ってくれたんだから」

 

「ふ〜ん……」

 

白い体毛を持ち、服を着ている二足歩行の猫―――シャルルはメルクリウスを睨み付けながら問い掛け、ウェンディはそれを咎める。

 

「ほう、喋る猫とは珍しい。これは君の友達かい?ウェンディ」

 

「うん!ほらシャルル、挨拶して」

 

「……そんな怪しげな男と慣れ合う気なんて無いわ」

 

「おやおや、会ってまだ少ししか経っていないというのに嫌われてしまったようだ」

 

「シャルル……」

 

シャルルの毒のある言葉にメルクリウスはくっくっと肩を震わせて笑った。

その反応から見るに、どうやら彼は先ほどの毒舌を大して気にしていないようだ。

そもそも、彼は他の者たちからも罵倒どころか下手をすれば攻撃される程嫌われている為、シャルルの言った程度の罵倒など彼にとっては日常茶飯事である。

 

「さて、自己紹介がまだだったね。私はカリオストロ、サン・ジェルマン、ノストラダムス、パラケルスス、メルクリウス……。と、名は星の数程持っているが、今はカール・クラフトと名乗らせてもらっている。カールとも、クラフトとも、どちらでも好きな方で呼びたまえ」

 

メルクリウスは胡散臭い笑みをその顔に浮かべながらそう言った。

その自己紹介にその場にいたウェンディ以外の者たちの脳内に同じ疑問が浮かんだ。

星の数程名を持っている?

本来名前というのはその人物を表す固有名詞だ。唯一無二の大事なものである。それを数多く―――それも星の数程と言われれば、そのような疑問が浮かぶのは当然だろう。

しかし―――

 

「次は君たちの名を聞かせてもらおうか」

 

そんな疑問など知らないといったようにメルクリウスは、目の前にいる魔導士たちに問い掛ける。

ただ名前を尋ねられただけ―――それなのになんとも言い難い感覚が襲ってくるのは何故なのだろうか?

魔導士たちはそんな事を考えながらも、名乗られたから名乗られ返すというごく一般的な礼儀に従って、ウェンディとシャルルの次にメルクリウスに近いジュラから自己紹介を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷内に集まっていた十二人と猫二匹の自己紹介を聞き終えた私はそういえばと思い、ある事を問い掛けた。

 

「一つ聞きたいのだが……ウェンディ、何故君がこんな所にいるのかね?」

 

「えっ……と……」

 

ウェンディはその質問を聞いた瞬間に、視線を彷徨わせ―――ジュラの方へと視線をチラリと向けた。どうやら言って良い事なのかジュラに確認したいのだろう。

そんなウェンディの視線に彼は気付き、口を開く。

 

「ふむ……ウェンディ殿の知り合いならば言ってもいいだろう。私たちはバラム同盟の一角、六魔将軍(オラシオンセイス)を討つ為に今日、ここに集まったのだ」

 

「バラム同盟?」

 

ジュラの言葉の中に聞き慣れない単語があったので、私はそれを聞き返した。

バラム同盟―――それはこのフィオーレ王国にある闇ギルドを総括している最大勢力であり、六魔将軍(オラシオンセイス)悪魔の心臓(グリモアハート)冥府の門(タルタロス)という三本柱とそれぞれに直属している闇ギルドの総称の事を言うそうだ。

 

「なるほど。今回はそのような強大な組織の一角に挑む為に、そうして連合を組んでいるのだね?」

 

「そうだ。それならば彼らを討てる可能性も高まるし、後々のバラム同盟の狙いも拡散するかもしれないからな」

 

仮にこの中の一つのギルドだけが六魔将軍(オラシオンセイス)を討ったとしたならば、後々バラム同盟にそこだけが狙われる可能性もある。連合を組んだのはそれを回避する為でもあるのだろう。

 

(それで四つの正規ギルドを集めた、というわけか……しかし……)

 

私は四つの正規ギルドの面々の顔を見回して、内心呆れた。

 

(この程度の実力の者たちで討とうとは……そう簡単にいくのかね?)

 

魔力の量と魂の質を見るに、ここにいる面々はまだまだ未熟である。時が経てば皆、大成するとは思うのだが……今は如何せん実力不足過ぎる気もした。

最も、それはその相手の強さにもよるのだが。

 

(ならば―――私も参加してみるというのもまた一興か)

 

手助けをするという以前は経験出来なかった未知を―――

その果てにある新たな光景を―――

それを見たい、それを感じたい。その気持ちに動かされた私はジュラに問い掛けた。

 

「ジュラ殿、その連合作戦とやら、私も参加させてはもらえないだろうか?」

 

「何だと?」

 

私の志願にウェンディ以外の者たちは皆、一瞬驚愕の表情を浮かべた後に、(いぶか)しるような眼差しを浮かべて私に注目した。

 

「ああ、心配はいらない。私はこう見えてもそれなりに魔法は使える身でね。恐れながら魔法を使う事を本職としている魔導士(君たち)にも遅れは取らないと自負しているよ」

 

「しかし……貴方は我々と違って一般人。いくら魔法が使えるとはいえ、こんな危険な作戦に関わらせるわけには……」

 

「それにそうは言われても、俺たちはあんたの実力を知らねぇ。簡単にはいそうですか、で参加させると思うか?」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)に属しているエルザと名乗った女性は戸惑いながらも、私の申し出を拒否しようとし、彼女と同じギルドに属しているグレイは明らかに疑念に満ちた表情で答えた。

確かに二人の意見は至極真っ当な事である。しかし私もむざむざと引き下がるつもりは毛頭無い為、ならばせめて作戦だけを聞いて、後はこちらで勝手に動くとしようか―――などと考えていた刹那。

 

「あ……あの……カールもこの作戦に参加させてあげてください!」

 

私の意図していない意外な人物からの後押しが生じた。

 

「カ、カールの魔法の腕は私なんか足下にも及ばない程凄くて……えっと……強いのできっと頼りになります!」

 

「ウェンディ……」

 

ウェンディの必死な様子を見て、エルザが困惑したように声を上げる。ふと周りを見回すと、他の面々も同じような顔をしていた。

それも仕方の無い事だろう。先ほどまで(昔のウェンディの性格から思うに)おどおどしていただろう少女がこんなにも必死になってお願いしているのだから。

 

「……ウェンディ殿がそれ程までに言うのなら確かなのだろうな。いいだろう、参加してくれ」

 

「ジュラさん!?」

 

「ここで無下に断るというのも悪いだろう。それに戦力は多い方がいいだろうしな。まあ、彼が何かしらの怪しい行動をしようものなら、ウェンディ殿に止めてもらえば良い」

 

「ええっ!?」

 

「それはありがたい。では、よろしく頼むよ」

 

何やら予想だにしなかった言葉が最後に出てきた為、驚いてオロオロとしているウェンディを尻目に、私は改めて全員の顔を見回した後にそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……話も纏まったようなので、私の方から作戦の説明をしよう」

 

全員がある程度落ち着きを取り戻し、青い天馬(ブルーペガサス)に属している一夜という男がそう言ったのでやっと説明を聞けると思った直後―――

 

「―――とその前にトイレの香り(パルファム)を」

 

「オイ!」

 

「そこには香り(パルファム)って付けるな……」

 

前言を撤回するように彼はトイレへと用を足しに行ってしまった。

 

「……あれは何かね?」

 

「すまない……奴はすごい魔導士ではあるんだが……あんな奴でな」

 

「なぜ君が謝る?」

 

「いや……なんとなく謝った方がいいと思ってな」

 

何故か申し訳無さそうに謝るエルザを横目に私は一夜という男について考える。

二頭身程でかなり顔の濃い男で何やら犯罪を犯しそうな匂いがプンプンしていたが……このメンバーの中で一番紳士度が高いと思われるのは何故だろうか。

かつてのメトシェラの三万倍以上は紳士だろう。私には遠く及ばないがね。

などと那由他の果てまで回帰しようとも価値の生じない考えを五分程していると、用を足し終わったのか一夜が戻ってきた。

 

「さて……では、今度こそ説明を始めよう」

 

彼は恰好を付ける為なのか、ライト付きの台の上に立って、私たちを見回した後に説明を始めた。しかし―――

 

(……ふむ、先手を打たれたか)

 

一夜の持っていた魂の質が明らかに変化したのを確認した私は、周りの者たちを見た。

どうやら私以外の者たちは一夜の些細な変化に気が付いていないようだ。この世界の者たちは私のように魂の質を見る事が出来ないようだな。

まあ、何にせよとりあえずは一旦説明を聞く事としよう。どちらにせよ()()など後で締め上げればいいのだから。

 

 

 

そして一夜から説明を受けた作戦を簡単に纏めると次のようになる。

六魔将軍(オラシオンセイス)は古代人たちが封印した強大な魔法を手に入れる為に樹海に集結しているという事。

その強大な魔法とはニルヴァーナ―――涅槃(ねはん)を意味するであろう詳細不明な魔法であるという事。

そして最後に六魔将軍(オラシオンセイス)の者たちの説明を聞いた。

毒蛇を使うというコブラ。

そのコードネームからスピード系の魔法を使うと思われるレーサー。

天眼(てんげん)のホットアイ。

心を覗けるという紅一点、エンジェル。

情報が少ないミッドナイト。

そして司令塔であるブレイン。

 

いずれもたった一人でギルド一つ位は潰せる魔力を持っているらしいが……その程度なら私の敵では無いだろう。

 

「それでどういう作戦を考えているのかね?」

 

「我々の目的は奴等の拠点を見つける事だ」

 

「今はまだ、奴等を補足していないが樹海には奴等の仮設拠点があると推測される。もし可能なら奴等全員をその拠点に集めてほしい」

 

「集めてどうするのだ?」

 

エルザの問い掛けに、ヒビキは上を指差して言う。

 

「我がギルドが大陸に誇る天馬、クリスティーナで拠点もろとも葬り去る!!」

 

「おおっ!!」

 

「魔導爆撃艇!?」

 

ほう、この世界にはそのようなものがあるのかね。

しかし、この事も既に向こう側には筒抜けなのだろうな。今頃その魔導爆撃艇とやらは破壊工作でもしているのだろうな。

と、思っていると―――

 

「おしっ!!燃えてきたぞ!6人纏めてオレが相手してやるァー!!」

 

そう叫びながら、ナツが扉を突き破って樹海の方向へと走り去って行ってしまった。

彼は全くと言っていい程、作戦の話を聞いていなかったらしい。

 

「仕方ない、行くぞ」

 

「うえ〜」

 

「ったく、あのバカ」

 

その後をエルザと、嫌そうな顔をしたルーシィ、呆れたようなグレイが追いかける。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)には負けられんな。行くぞ、シェリー」

 

「はい!!」

 

「リオン!!シェリー!!」

 

そんな三人に負けるまいと、蛇姫の鱗(ラミアスケイル)のリオンとシェリーも追いかけ、さらに青い天馬(ブルーペガサス)のトライメンズの三人も続いた。

そして最後にウェンディと猫2匹が走り去って行くのを見た後、私はジュラと一夜へ向き直った。

 

「なにはともあれ作戦開始だ。我々も行くとしよう」

 

「その前に一つよろしいか、ジュラ殿?」

 

「なんだ?」

 

「作戦を始める前にこの場に紛れ込んでいた偽物を叩き潰したいのだが……」

 

「何?」

 

そう言った私は一夜へと視線を向ける。

 

「わたしが偽物だと言うのかい?カール君」

 

「その通りだよ、一夜殿―――いや、双子座のジェミニと言った方がいいか」

 

そう言った私は()()の魔力の波を一夜へ向けて放つ。

俗に何処かの世界で言う、いてつくはどうという奴だが、それを受けた一夜の偽物はそのまま床に倒れ込んで2体の人形のような精霊の姿へと戻った。

 

「何っ!?これは……!?」

 

「双子座の精霊ジェミニ。確か触れた者の容姿、能力、思考をコピーする、だったかね。今頃本物の一夜殿はトイレに押し込まれているのだろう。ジュラ殿、行ってきてはくれないだろうか?」

 

「そ、それは構わぬが……お主は?」

 

「私はこの精霊とその主にちょっと用があるのでね。ああ、心配はいらない。この程度の者たちに負ける気は微塵も無いからね」

 

「わ、分かった」

 

そして私はジュラを見送った後、隣の部屋へ通じる扉へと視線を向けた。

 

「さて……そろそろ出てきてはどうかな?先ほどから君がそこでこちらの様子を伺っていたのは知っていたのだから」

 

すると隣の部屋へ通じる扉が開き、そこから一人の女性が姿を現す。

特徴のある寝癖のような髪型。天使をイメージしただろう服装。人を見下したかのような目や態度。

彼女が例の六魔将軍(オラシオンセイス)のメンバーが一人、エンジェルだろう。

 

「どうして奴が偽物だって分かったんだゾ?」

 

「彼の魂の質が明らかに変化したからだよ。私はそういう学問を些か納めている身でね。それが本人の魂の質なのか見分ける事など容易い」

 

そう告げた私は彼女を見据える。

 

「さあ、では始めようか。記念すべき我が物語の幕開けとなる一戦を―――私を失望させてくれるなよ?」

 

「お前を満足させる気なんて……こっちは微塵も無いゾ!」

 

私たちは互いの目的を果たす為、戦闘を開始した。

 




終わり方が何処か微妙な感じだと思いますが、今回はここまでです!
メルクリウスが子供好きっていうのは前に何処かで聞いた気が……?などと思い、組み込んだものです。

次回、メルクリウスが六魔将軍(オラシオンセイス)相手に遊びます(笑)
まあ、後々の展開の為に六魔将軍(オラシオンセイス)たち全員を行動不能にはさせませんが……さて、メルクリウスは一体どこまで手加減するんでしょうか?
それとウェンディも連れ去られてしまいます……。
そ、そうじゃないと、話が進まないし……そこはご了承を……。

誤字脱字・感想意見等よろしくお願いします!


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水銀の蛇は未知を求めて力を振るう

遅くなりましたが投稿!
さあ、水銀の活躍をご覧あれ……。
ちなみにこちらでメルクリウスがニルヴァーナ編に顔を出している間、アブソ世界では第四話〜第八話の時間が経過しています。



戦いというのは読み合いである。相手が何をしてくるか。そしてそれを常に考えながら互いに上回りあう。

ならば敗北とは何なのだろうか?

それは予想の上を行かれる事である。

予想外の戦法により敗北する。

予想外の攻撃方法により敗北する。

予想外のトラブルにより敗北する―――敗北の理由など多種多様だ。

 

 

ならば今、六魔将軍(オラシオンセイス)の眼前で無残にも倒れ伏している連合軍の敗因は一体何だろうか。

それはかの作戦で使われる予定だった魔導爆撃艇が破壊された事による動揺から来たものなのか。

それとも、六魔将軍(オラシオンセイス)のブレインという者に天空の巫女、ウェンディを連れ去られた事による衝撃から来たものなのか。

それとも、ただ単純に彼らが弱く、未熟なだけなのか―――

いずれにしろ、連合軍は圧倒的敗北を喫している事には変わりない。

 

「ゴミどもめ。纏めて消え去るがよい」

 

ブレインという男は連合軍の者たちへ止めを刺すべく、不気味な魔力を集めて放とうとする。

が―――

 

「はぁ……はぁ……!」

 

その時、近くの草むらから六魔将軍(オラシオンセイス)の一人、エンジェルが傷だらけの状態で現れた事で彼女の仲間は皆、一様に驚く。

 

「エンジェル!?その傷は……!?」

 

「おやおや、追いかけっこはもう終わりかね?」

 

そして、そのエンジェルを追いかけてきたであろう一人の男が今、この場に合流した事によってこの状況は大きく変わる事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、君たちが例の六魔将軍(オラシオンセイス)とやらかね?」

 

私は目の前に立っている六人の者たちの顔を見回して問い掛けた。

ふむ……魔力の質や量などは、連合軍と大差無いようだな。この程度ならば私の十八番である他力本願で連合軍に任せても問題は無いだろう。まあ、連合軍の者たちは皆後ろで倒れているのだが。

元より、私が出ると物語は退屈になってしまうのは火を見るよりも明らか、それでは面白くない。

―――とはいえ、今私の目の前にはこの世界で初めて出会った戦闘を生業としている者たちがいる。

初めて―――即ち未知だ。そんなものを目の前にして自重する私ではない。

 

 

ならば、少々彼らの相手をしてみるのも一興。

 

「ふむ……この世界の者はどの程度の魔力を持っているのか気にはなっていたが……この程度ならば私の敵では無いな。所詮塵芥は塵芥だという事か」

 

「何?」

 

少々露骨過ぎる挑発をしてしまったと我ながら言った後に痛感したが、相手はそんな私の挑発に乗ったようだ。

しかし、度し難いな。この程度の挑発で怒り、魔力の質と量を上げるとは……呆れ果ててしまいそうだよ。

 

「我らが塵芥だと?」

 

「そう言っているではないか。君たち如き、寄せ集まっても何も成せん塵芥だよ。興味も湧かん」

 

「―――やれ」

 

私の言葉に我慢ならなかったのか、リーダー格の男……確かブレインと言っただろうか?

彼は傍らにいた一人の男、レーサーに指示を出した。

瞬間、私の真後ろにレーサーが現れる。

 

(ふむ……)

 

彼は私に拳を振るおうとしたが、私はそれを受け止める。

 

「なっ!?」

 

「止めただと!?」

 

受け止められるとは思っていなかったのか、レーサーは驚愕に顔を歪め、グレイも声を上げて驚く。

 

「なるほど。シュライバー、いや、我が愚息と同型の魔法か。しかしその手の能力と速さなど、私は嫌という程見てきたのだよ」

 

私は初めて見た彼の魔法の能力を見抜き、既知の能力であると断じた。

彼は一見すると、シュライバーと同じように高速で動く魔法を使用しているかのように見えるが、実際は周囲の……おそらく生物の体感速度を遅める魔法だ。

なぜそのような事が分かったのかというと、彼が私に接近してきた際に愚息と比べるまでもない程の微々たる力だが、体感速度に影響する魔法の気配を感じたからだ。

体感速度を遅める。我が愚息の時間の停滞と似て非なるものだ。

そう思っていると彼は続けざまにその魔法を駆使して、様々な方向から体術を放ち始めた。

拳で殴りかかる、回し蹴り等を繰り出す彼の攻撃を、私はのらりくらりとかわす。

わざと紙一重でかわし、ニヤニヤと笑う私を見て、レーサーは段々と苛立ち始めた。

 

「くそっ!何故当たらねぇ!?」

 

「言っただろう?この程度の速度は見慣れていると。ああ、遅過ぎる。これならまだ、活動位階の黒円卓団員の方が速い」

 

向こうで他の六魔将軍(オラシオンセイス)共が驚愕の表情を浮かべているのを尻目に、私は走って突っ込んでくるレーサーを横に回避し、ついでに彼の足を引っ掛けた。

結果、彼は「うおっ!?」と素っ頓狂な声を上げながら盛大に転ぶ。

 

「やれやれ、そうも簡単に足掛けに引っかかるとは……。猪突猛進な事だ」

 

「テメェ!キュベリオス!」

 

わざと見下したかのような視線で言い放つ私に苛立ちを覚えたのか、コブラという男が毒蛇に指示を出し、私の方へと向かわせる。

 

「シャアア!!」

 

「笑止な。毒蛇如きが私に勝てると思うのかね?」

 

「―――!!?」

 

キュベリオスと呼ばれた毒蛇は、私がチラリと視線を向けるだけで驚いたかのように動きを止め、恐怖を感じたのか小刻みに体を震わせ始めた。

 

「っ!?どうした!キュベリオス!?」

 

ふむ、あの毒蛇は本能で悟ったか。目の前に立っている私が()()()()()()なのかを。

すると私の足元の地面が沼のように変化した。

見てみると、ホットアイという男がこちらに指を向けている。

 

「地面を柔らかくする魔法―――ありふれていてつまらんな」

 

柔らかくなった地面は、すり鉢状に盛り上がり、上から私を生き埋めにしようと土が上から襲いかかってくる。

だが―――

 

「どうした、終いか?」

 

「何っ!?」

 

土が覆い被さり、生き埋めになったと思い込んでいた彼らは、まったく攻撃を受けた様子が無く、平然としている私を見て顔をさらに驚愕に歪める。

元々この身は影絵のようなもの。実体など無いし、どこにでもあるものだ。故にほとんどの攻撃などすり抜けるに容易い。

私は驚愕し、攻撃の手を止めている彼らを見て、失望の眼差しを向けた。

 

「ああ、興醒めだ。もうお前たちはいらん。故に―――」

 

私は彼らに向けて両手の指を北斗七星のように構える。

それと同時に彼らの頭上に今にも落下してきそうな星空が現れる。

 

「あの魔法は……!」

 

「天……体……魔法……!?」

 

私の後ろからナツと苦しそうなエルザの声が聞こえたが、無視して呟く。

 

「七つの星に裁かれよ―――“七星剣(グランシャリオ)”!」

 

瞬間、彼らの頭上で輝いていた星たちが瞬き始め、その星の中で最も大きい七つの輝きが彼らに向かって墜落していく。

それを皮切りに、他の輝きも彼ら目掛けて落ち始めた。

 

「ぬうっ!?」

「ぐわっ!」

「うおおっ!」

「く……!」

「ちょ……!」

「――――――」

 

寝ているミッドナイトを除いた五人は天から降り注ぐ隕石を回避し始めた。

 

「さあ、愚かしく舞え。お前たちにはそれしか出来ぬだろう?寄せ集まっても、何にもなれぬ塵芥共が」

 

「―――貴様ぁ!!」

 

回避の最中にブレインは杖を私の後ろへと向けて光線を放った。

様々な怨念を感じる光線は私の頭上を通り過ぎ、後ろで倒れている連合軍の者たち目掛けて落とす。

 

(私の意識を彼らに向けさせて離脱するつもりか)

 

まあ、彼らの事は無視しても構わないのだが―――それはそれで後でウェンディに悲しい顔をされてしまうだろう。

別段マルグリット以外の存在はどうでもよい私でも、流石に童女の泣き顔を見るのは心が痛む。

そう思った私は倒れている彼らを助けに向かおうと振り向いたのだが―――

 

岩鉄壁(がんてつへき)!!」

 

一夜を見つけ、ようやく我らに追いついたらしいジュラが先ほどブレインの放った攻撃を防ぐのを見て、いらぬ心配だったなと苦笑いを浮かべる。

そして改めて正面に向き直ると、六魔将軍(オラシオンセイス)は一人残らず逃げていた。

 

「ふふ……ふふふふふ……」

 

あれだけの爆破の中で攻撃を繰り出し、挙句にその隙をついて逃げるとは……先ほどの評価を訂正して、彼らは少しは楽しめる相手だと見直す事にしよう。

 

「遅かったではないか、ジュラ殿、一夜殿」

 

「すまぬな。一夜殿の治療をしていたら遅れてしまった」

 

六魔将軍(オラシオンセイス)め。我々が到着した途端に逃げ出すとは、さては恐れをなしたな」

 

「あんた、ボロボロじゃねーか」

 

グレイの突っ込みを尻目に、一夜は痛み止めの香り(パルファム)を、怪我をしている者たちへと嗅がせた。

 

「いい匂い」

 

「痛みが……和らいでいく……」

 

「……だが―――」

 

私の視線を向けた先には痛み止めの香り(パルファム)が効かないのか、苦しそうな表情を浮かべながら木に寄り掛かるエルザがいた。

 

「そんな……痛み止めの香り(パルファム)が効かないなんて!!」

 

「エルザ嬢、少々よろしいか」

 

エルザに断りを入れ、私は彼女が抑えていた右腕を見る。

そこにはあの蛇のものと思われる牙の跡がついていた。

 

「……遅効性の毒……。もって三時間といった所か」

 

「そんな……!」

 

「……やむを得ん……。クラフト……何か縛るものはあるか……?」

 

エルザのその言葉の意味を察した私は目を細めて問いかける。

 

「……本気かね?」

 

「仕方……ないだろう……このままでは戦えんし、覚悟の上だ……」

 

私からもらった縄で腕を縛り、近くに剣を落としたエルザははっきりと言う。

 

「私の腕を斬り落とせ」

 

「!!!」

 

「バカな事言ってんじゃねぇよ!」

 

それに一部の者たちは考え直せと怒鳴り、また一部の者たちはそんな彼女の頼みを成すべく、剣を取ろうとしたり、黙って成り行きを見守ろうとしている。

 

「よせ!!」

 

「今、この女に死んでもらう訳にはいかん」

 

「けど……」

 

「よさないか!!」

 

「そんな事しなくても」

 

「エルザ殿の意志だ」

 

「やるんだ!!早く!!!」

 

リオンが剣を取り、エルザの腕に狙いを定める。それをグレイがやめるように言うが―――彼はその剣を振り下ろした。

 

 

 

 

が―――

 

「しかしまあ、少し待ちたまえよ。そう短絡的に考えるのも結構だが―――他にも方法はあるのだよ」

 

片腕と言えども、ウェンディは悲しむだろう。そんな彼女の顔を悲しみに歪めさせるわけにはいかないと判断した私は、即座に彼が振り下ろそうとした剣を素手で掴んで止める。

素手で難なく受け止められた事にリオンを含め、周りは少しばかりざわめくものの―――そのざわめきはすぐに収まり、グレイが問う。

 

「他の方法があるのか?」

 

「然り、でなくば私はこうして止めないよ」

 

これしか解決方法が無いのなら、仕方ないと割り切るがね。というかそれならば、私が彼女の腕を一瞬で苦しませる事無く斬るだろう。

とまあ、そのような事は一先ず後にするとしよう。

 

「それで、その方法とやらだが―――ウェンディならば助けられるだろう」

 

「やっぱり貴方もウェンディの魔法を知ってたのね」

 

「当然だろう?一月も共に旅をしていたら、目撃する機会くらいある」

 

「それってあの()が解毒の魔法を使えるって事?」

 

「解毒だけじゃない。解熱や()()()()、キズの治癒も出来るの」

 

「あ……あの……私のアイデンティティーは……」

 

「あの()がいない今ならば、痛み止めの香り(パルファム)は役に立つが……もし彼女がいたならば、言わずとも分かるのではないかな?」

 

つまりは用無しである。

 

「メェーン……」

 

「先生ーーーー!!?」

 

私の言葉を聞いた一夜はショックを受けたように両手を地面について落ち込み、それをトライメンズの面々が励ます。

それに微塵も興味を示していないシャルルは続ける。

 

「あの()は天空の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)天竜(てんりゅう)のウェンディ」

 

「なっ!?」

 

「いいっ!?」

 

「ドラゴンスレイヤー!?」

 

「…………」

 

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)―――竜迎撃用の太古の魔法(エンシェント・スペル)

その魔法、竜の鱗を砕き、竜の肝を潰し、竜の魂を狩りとる……。遥か昔に書かれた本にそう書かれているように、かなり強力な攻撃魔法だと思われる。

とはいえ、昔のウェンディは治癒魔法しか使えなかったので、そのような太古の世界を支配していた竜の力が眠っているようには到底思えないのだが……もし本当にその身に竜の力を宿しているのならば、今は攻撃魔法の一つくらいは習得しているのだろうか?その辺りも助け出したら聞いてみるとしよう。

 

「詳しい話は後!!ってゆーかこれ以上話す事はないけど。今、私たちに必要なのはウェンディよ。そして目的は分からないけど、あいつ等もウェンディを必要としてる」

 

「……となれば」

 

「やる事は一つ」

 

「ウェンディちゃんを助けるんだ」

 

「エルザの為にも」

 

「ハッピーもね」

 

「おっし!!」

 

すると全員が決意を固めたような表情で円陣を組み、全員が中心に拳を突き出す。

 

「おい、あんたも出せよ」

 

「ん?私もかね?」

 

「当たり前だろ。あんたもこの作戦の協力者だ」

 

「それにお前もウェンディを助けるんだろ?なら目的は同じじゃねぇか。仲間を助けに行くぞ」

 

そう言ってニッと笑うナツの顔を見た私は―――

 

(―――ああ、その顔。我が愚息が尊き刹那と称した者たちに向けたものと似ているな)

 

仲間を―――尊く、失いたくない刹那たちと共に笑う愚息の表情と重なったのを幻視した。

彼も仲間を大事にしているのだな……。

 

「ふふふ……相分かったよ」

 

そんな彼の気持ちを尊重したいと思った私は、彼らの円陣に加わり、拳を中心に突き出した。

そして―――

 

 

 

 

「行くぞォ!!!!」

 

『オオッ!!!!』

 

 

その言葉と共に、我らは彼女たちを救う為に行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天空の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)ってさぁ。何食うの?」

 

「空気」

 

「うめえのか?」

 

「さあ」

 

「私もそれが気になって聞いてみた事があるのだが……どうやら空気にも様々な味があるようで、美味しいものもあるそうだよ」

 

「マジかっ!?」

 

「……それって酸素と違うのか?」

 

全員で改めて今回の作戦に対する決意を固めた後―――私はナツ、グレイ、シャルルと共に樹海の中を駆け抜けていた。

ちなみに上の会話で私がナツに言った事は、ウェンディ本人に聞いて得た答えである。

正直、私も空気に様々な味があるとは思わなかった。場所によって味が違うらしく例えば、低温、高湿度の場所の空気はその辺りに売っている普通の食べ物より美味しいらしいとか。

 

「『美味しいから、カールも食べてみるといいよ』などと昔ウェンディに言われた事があったが、丁重に断らせてもらった。私は彼女と違って、空気で腹は膨れないからな」

 

しかし、例外としてマルグリットの残り香が漂っている空気は別だ。多元宇宙に漂う女神のほんの僅かな香りだけで、我が脳髄は幸福に包まれ、肺と腹は刹那の間も経たずにマルグリットで満たされる。

ああ……そのような想像しただけで絶頂しそうだ。

 

「ふふ、ふふふふふ……」

 

「何、気持ち悪く笑ってるんだ……」

 

「知らないわよ」

 

おや、思わず笑みが漏れていたようだ。

ナツとグレイが私を見て引きつった顔を浮かべているが……まあ、そんな事はどうでもいい。

 

「あのコ、あんたに会えるかもしれないってこの作戦に志願したの」

 

「オレ?」

 

「同じ滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)でしょ?」

 

そういえば、先ほど知った事なのだが、私の前を走っているこの桜色のツンツン頭の青年、ナツもウェンディと同じく滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)らしい。

 

「あのコ、7年前に滅竜魔法を教えてくれたドラゴンがいなくなっちゃって探してるんだって。それであんたならドラゴンの居場所知ってるかもって」

 

「ウェンディを育てたというドラゴン―――確か天竜グランディーネという名前だったかね?」

 

「確かウェンディもそう言っていたわね」

 

シャルルの口ぶりから察するに、ウェンディは私たちと別れた後もどうやらグランディーネを一人で探していたようだな。そして未だに見つけていないようでもある。

しかもその後の彼らの話を聞いていると、どうやらナツも7年前に育ての親であるイグニールという火竜が姿を消したとの事だ。そしてナツの話によると、もう一人、7年前の同日に親であるドラゴンが姿を消したと言っている仲間がいるらしい。

 

「つまり7年前の7月7日に、三体のドラゴンが姿を消したというわけか……」

 

「そう聞くと、不思議だよなぁ……」

 

そんな会話をしながら、なぜ7年前のその日に三体のドラゴンが姿を消したのか、もしやこの世界で破壊を司る奴の仕業か……。などと頭の中で考えていると―――

 

「な……何コレ!?」

 

シャルルの驚く声に思考を現実に引き戻した私の目に映ったのは―――枝も葉も、おそらく根も真っ黒になっているだろう幾つかの木々だった。

 

「木が……黒い……」

 

「き……気持ち悪ィ」

 

「普通ならばあり得ない変色の仕方だな。もしやこれが……」

 

「ニルヴァーナの影響だって言ってたよな。ザトー兄さん」

 

「ぎゃほー。あまりに凄まじい魔法なもんで大地が死んでいくってなァ。ガトー兄さん」

 

「誰だ!?」

 

私たちの疑問に答えたのは、二人のまるでサルのような顔をした男たちだった。

そんな男たちが姿を現すと同時に、周りから待ち伏せしていたのか多くの魔導士たちが出てきた。

おそらく彼らは六魔将軍(オラシオンセイス)傘下の闇ギルドの一つだろう。

そしてそれは向こうの発言で決定付けられた。

 

六魔将軍(オラシオンセイス)傘下、裸の包帯男(ネイキッドマミー)

 

「ぎゃほおっ!!遊ぼうぜぇ」

 

二人のサルのような男の言葉にシャルルは苦渋に満ちた顔をする。

 

「敵は……6人だけじゃなかったっていうの……!?やられた……」

 

しかし、私とナツとグレイだけはシャルルとは別の反応を示していた。

 

「こいつァ、丁度いい」

 

「ウホホッ、丁度いいウホー」

 

「然り然り」

 

「何言ってんの、アンタたち!!」

 

「拠点とやらの場所を吐かせてやる」

 

「当ても無くウロウロと探索するのもこれでお終いだな。さあ、さっさと吐いて死ぬがいい」

 

「今、行くぞハッピー!!ウェンディ!!」

 

「なめやがって、クソガキが……」

 

そう言って双方が戦闘態勢を取る。

……だが、戦闘を始める前に一言言わせてもらおうか。

 

「君たちをなめている事に関しては否定しないが……私はガキという枠に当てはまる程、若くはないよ」

 

見た目はこのようなものだが私が今まで重ねてきた年月を考えれば、ガキや青年というよりも、老人か化石だろう。いや、それ以上の何かかな?

肩を竦めてそう言った私も戦闘態勢を取る。

 

さて、さっさとこの者たちを倒して、拠点の場所を聞き出し、ウェンディを助け出すとしよう。

 




メルクリウスが七星剣(グランシャリオ)って言うのが脳内再生余裕なのは私だけではない筈……。
水銀はまあ、予想していた人は多いでしょうが天体魔法も使えます。トンデモ占星術をあれだけ使えるなら当たり前ですよね(苦笑)

誤字脱字・感想意見等よろしくお願いします!


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水銀の蛇は新たな仲間と共に巫女を救出する

この小説が始まってから間も無く一ヶ月……それにしては結構お気に入りが多いのはこれいかに?

水銀「愚問だな。皆、本当は私の事が狂おしく愛しいのだよ。しかしその度し難い事実を認めたくないが故に私の事をニートや変態ストーカー、コズミック変質者などと罵っているだろう?だが私はそれもまた数ある表現の一つ、故に私もそれを受け入れよう。ふふふ……ふははははははは!!!」

地味にウザい……とりあえずこの水銀の事は放っておいて今話をお楽しみください!

水銀「おや、私の事は放置かね?放置プレイなのかね?」

だまらっしゃい。



「だはーーっ」

 

「ぶはーーっ」

 

「…………」

 

ナツ、グレイ、メルクリウスが六魔将軍(オラシオンセイス)傘下の闇ギルド、裸の包帯男(ネイキッドマミー)と戦闘を開始してから僅か十分後。

勝負は多少ボロボロとなったナツとグレイ、そしてノーダメージで闇ギルドの面々を黙って見ているメルクリウスに軍配が上がった。

 

「何だよ、コイツらザコじゃなかったのかよ」

 

「意外とやるじゃねーか……」

 

「当たり前じゃない!相手はギルド一つよ!!何考えてんのよアンタたち!!」

 

「愚問だな」

 

木の後ろに隠れてそう怒鳴るシャルルにそう返したメルクリウスはふと、先ほどのサルのような顔をした男の片方に近付き、魔術を行使して男を宙へと拘束した。

 

「では君に問うとしよう。君たち、延いては六魔将軍(オラシオンセイス)の拠点がどこにあるのか、教えてくれないかね?」

 

「言うか、バーカ。ぎゃほほっ」

 

そう男が言った瞬間―――その男の体は、どこからか発生した漆黒の炎によって包まれた。

 

「ぎゃほぉぉぉぉぉぉ!!?」

 

その炎はたっぷり三十秒程、男を燃やした後にふっと消える。

そして―――

 

「では改めて問うとしよう。君たち、延いては六魔将軍(オラシオンセイス)の拠点がどこにあるのか答えたまえ」

 

先ほどの質問と若干の差異はあるものの、メルクリウスは再び同じ質問を投げかける。

しかし当然男もそれに答える事は無く―――

メルクリウスは再び男を漆黒の炎で男を燃やす。今度は一回目より若干長く、四十秒程燃やした後にまた問う。

 

「では改めて問うとしよう。君たち、延いては六魔将軍(オラシオンセイス)の拠点がどこにあるのか答えたまえ」

 

「ちょ……まっ……ぎゃほぉぉぉぉぉ!!!」

 

そしてメルクリウスは再び、今度は五十秒程燃やした後に、一言一句違わずに問いた。

 

「うわっ……」

 

「ひでぇ……」

 

「……アンタたちって本当色々とめちゃくちゃね。……特にクラフト……」

 

それを見たナツとグレイは引きつった顔で、シャルルは目の前でいともたやすく行われているえげつない行為から目を背けながら呟いた。

 

 

 

それからメルクリウスがその男に尋問を始めてから早五回目……遂に男は耐え切れなくなったのか、拠点の場所を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後、ナツ、グレイ、シャルル、メルクリウスは敵の拠点だと教えられた西の廃村へと辿り着いていた。

ここはかつて古代人たちが多く住んでいた村だったようだが、今はボロボロとなり、崩れかけている家などしかない。

 

「ここか!?ハッピー!!!ウェンディー!!!」

 

「ちょっと!敵がいるかもしれないのよ!!」

 

着いて早々、ナツが廃村に向かって自らの相棒である青猫と、青い髪の少女の名を叫んだ。

すると―――

 

「―――ふ」

 

「!!?」

 

先ほどの大声を聞きつけて始末しに来たのか、レーサーが魔法を駆使してこちらに向かってきた。

しかしその行動を完全に読み切っていたメルクリウスがレーサーの殴りかかってきた手を掴んで、腕を起点にくるんと一回転させて尻餅を付かせるように軽くいなした。

結果として、レーサーは尻餅どころかまたもや盛大に転び、メルクリウスたちの背後にある森の方へと転がって行った。

 

「またアイツだ!!」

 

「クラフト、お前あれを見切れるってすげぇな……」

 

「先ほど言ったではないか。あれは私からしたら遅過ぎるのだよ。それと君は学習能力というものが無いのかね?私にとっては君のような直線的な殺意を持つ者の攻撃など至極読みやすい」

 

「ちっ!!」

 

レーサーはメルクリウスの発言に舌打ちし、再びこちらへ攻撃してこようとしたが―――その前に地面が一瞬で凍り、つるっと滑ってコケた。原因はグレイが氷の造形魔法で床を凍らせたからである。

 

「ここは任せろ!早く下に行け、ナツ!!クラフト!!」

 

「おし!!」

 

「攻撃を見切る事も出来ない君一人で大丈夫かね?」

 

「心配すんな、見切る方法なんざ戦いながら考えりゃあいい。それにさっきは遅れを取ったが、二度もそんなヘマはする気もねぇしな!」

 

「……承知したよ。ではここは君に任せて私たちは降りるとしようか。ナツ殿、シャルル殿」

 

「おう!シャルル、羽を!!」

 

「ええ!!」

 

シャルルは返事をすると、自らの背中から(エーラ)を生やして、ナツを掴んで廃村へと飛んで行った。

 

そして廃村へ降り立った二人がまず最初に見て目を疑ったのは―――

 

「やあ、遅かったね」

 

「クラフト!?お前どうやって俺たちより早くここに!?」

 

彼を知る者が見たら、ウザいと感じて殺しにかかりそうな笑みを浮かべたメルクリウスだった。

再度言うが、今の彼は影絵のような存在。つまりどこにでも存在出来る上にどこにでも移動出来るのだ。

 

「そのような瑣末(さまつ)な疑問は後回しにするべきではないかね?今は成せねばならぬ事があるだろう?」

 

「おお、そうだった!!ハッピー!!ウェンディー!!」

 

ナツは廃村を見回して一人の少女と一匹の猫の名を叫ぶ。すると―――

 

 

『ナァーーツーー……』

 

 

「ハッピー!!」

 

「あの中よ」

 

ハッピーの声が廃村の奥にある洞窟の中から聞こえ、二人と一匹はそこへ向かう。

 

「な……何だ……コレ……」

 

「そんな……」

 

「…………」

 

そこで彼らが目にしたのは―――

 

「ナツ〜」

 

床にうつ伏せで寝ながら、涙目になっているハッピーと。

 

「一足、遅かったな」

 

薄っすらと勝ち誇ったような笑みを浮かべているブレイン。

 

「うう……ごめんなさい……ごめんなさい……私……」

 

地面に大粒の涙を落としながら、俯いて謝るウェンディ。

そして―――

 

「――――――」

 

無言のまま、睨みつけるようにこちらを見ていたジェラールだった。

 

「ジェラール……」

 

「……ウェンディ、君は一体何をしたのかな?」

 

「カール……ナツさん……シャルル……ごめん……なさ……ひっく……ジェラールを……本当は治しちゃいけないって分かってたのに……私……」

 

「ウェンディ!!あんた、治癒の魔法使ったの!?何やってるのよ!!その力を無闇に使ったら……」

 

そこでウェンディが魔力を消耗し過ぎたせいか、ふらついて地面に倒れる。

 

「ウェンディ!!」

 

「な……なんでお前がこんな所に……」

 

するとナツの体から炎が巻き起こり始める。

その時ナツの脳内では―――

 

 

 

 

 

『かりそめの自由は楽しかったか、エルザ。全てはゼレフを復活させる為のシナリオだった』

 

目の前にいる(ジェラール)と戦った―――

 

『面白い。見せてもらおうか、ドラゴンの魔導士の力を』

 

楽園の塔での記憶が再生されていた。

 

『オレが……八年もかけて築き上げてきたものを……貴様ァ……!!!』

 

そして最後に浮かんだ記憶は―――

 

『ナツ……頼む……言う事を聞いてくれ……』

 

涙を流し、自らの禊に巻き込みたくないという思いでナツに逃げろと告げたエルザの姿だった。

 

 

 

 

 

 

「ジェラァァァァァァル!!」

 

そして遂に怒りが頂点に達したのか、ナツが右手に炎を纏いながらジェラールへと向かう。

しかし―――

 

「――――――」

 

ジェラールは無言で右手をナツへと向け、ほんの僅かな力を放出して吹き飛ばした。

 

「うあああっ!」

 

「ナツ!!」

 

吹き飛ばしたナツはそのまま崩れてきた瓦礫の下へと埋れてしまった。

 

「相変わらず凄まじい魔力だな、ジェラール」

 

するとジェラールはそう言ったブレインへと振り向き、腕を横へ振るった。

瞬間、ブレインの足元の地面が崩れ落ちた。

 

「ぐぉあああっ!」

 

ブレインは叫び声を上げながら落下していき、その場に残ったのはシャルル、ハッピー、気絶したウェンディ、そして―――

 

「…………」

 

先ほどから無言でジェラールを見つめているメルクリウスだけとなった。

 

「…………」

 

「――――――」

 

ジェラールはメルクリウスとほんの僅かな時間の間視線を交わした後、まるで興味が失せたかのように視線を逸らしてそのまま洞窟の外へと出ていった。

 

(……あれは、私とウェンディの知っている彼ではないな。それにあの目は……)

 

「ジェラール!!どこだ!!」

 

「行ったわ」

 

ナツは瓦礫の中から起き上がり、ジェラールを探すもすでにその場にジェラールはいない。

 

「あんにゃろォーーーっ!!」

 

「あいつが何者か知らないけどね。今はウェンディを連れて帰る事の方が重要でしょ」

 

「然り、事を急がねばエルザ殿が事切れてしまうだろう」

 

「―――っ!分かってんよ!!!行くぞ、ハッピー!!」

 

「あいさ!!」

 

そしてハッピーはナツを、シャルルは気絶したウェンディを掴んで洞窟から飛び出した。

その後をメルクリウスは天体魔法である流星(ミーティア)と自らの魔術で速度を合わせながら、ついていく。

後方から飛んできたメルクリウスを見て、シャルルが困惑したような顔でメルクリウスに問う。

 

「……ねぇ、あんた本当にどういう存在なのよ?突然現れたり、平然と空を飛んだり……」

 

「数刻前と答えは変わらんよ。私はそこらにいる流れ者と同じ身だ」

 

「……ただの流浪者にしては随分と多芸だし、色々怪しいけど」

 

「そうかね?私のような者など、この世界には捨てる程いると思うがね」

 

そう言いながら、メルクリウスは(おもむろ)に右手に重力増加魔法の術式を纏わせ、真下に向かって(かざ)した。

その行為に首を傾げたシャルルだったが―――その理由は直後に判明する。

 

「うおぉぉぉ!!?」

 

下から目にも留まらぬ(メルクリウスからしたら普通に見えるが)速さで彼らを急襲しようと迫っていたレーサーがメルクリウスの魔法により真下に猛スピードで落下していく様を見た故に。

 

「なっ……!?」

 

塵は塵に(Dust to Dust)。塵が宙を舞う事など認めん。永劫叶わぬ祈りを願いながら地に這いつくばっているといい」

 

メルクリウスは落ちていくレーサーに向かって冷徹な声でそう告げ、ウェンディや彼らの護衛をするべくその場を後にして飛んでいく。

そしてそのメルクリウスたちを追おうとするレーサーを止めるべく、その場に残っていたグレイは巨大な“城壁(ランパート)”で大きな壁を作る。

 

「くそ……あいつは三度も俺の走りを止めやがった。そして貴様も二度も俺の走りを止めた」

 

「あの男も俺も何度だって止めてやんよ。氷は命の“時”だって止められる。そしてお前は永久に追いつけねぇ。妖精の尻尾でも眺めてな」

 

 

 

そんな勇ましい事を言う彼と塵芥と断じた敵が始めた戦闘を、メルクリウスは暗く輝く翠色の瞳に映して笑う。

まるで私の知らぬ未知の輝きを感じる戦いであるとでも言うかのように―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……う、うぅ……」

 

小さな呻き声が樹海の一角、僅か数メートル範囲内で響き渡る。

それは地面に横たわっている青色の長髪の少女の声だった。

少女は意識が覚醒してきたのか、ほんの少しずつその両目を開き始める。

 

「うぅん……あれ……?私……?」

 

その両目がはっきりと開かれた少女の目に映り込んだのは、天高く生い茂る木の数々だった。

それを見た少女は、なぜ自分がこんな所にいるのか寝転がったまま考え始めた。

 

「……なんでこんな所に……?」

 

「おや、目が覚めたか?」

 

するとそんな少女の声に気付いたのか、少女の顔を覗き込む者がいた。

深海のように暗く輝く翠色の瞳、少女よりも長い黒い髪、そして少女にとっては聞き覚えのある懐かしい声。

それは七年前、一ヶ月という短い期間ながらも共に旅をし、つい数刻前に再び再会した男のものだった。

その男―――メルクリウスの顔を見たウェンディは一瞬表情が緩むも―――

 

「―――!!ひっ……ごめんなさい……私……」

 

敵に脅されて治してはいけないと分かっていながらも、過去に救ってくれた恩人を治してしまった事と、それに対する自分の罪を思い出したウェンディはメルクリウスや周りで見ていたナツたちから後ずさって距離を取って謝る。

しかし、その謝罪にメルクリウスは首を傾げながら問いた。

 

「何をそんなに謝っているのかね?ああ、それよりナツ殿が君に頼みがあるようだよ。皆への謝罪はその後でもいいのではないかな?」

 

「え……?」

 

「ウェンディ!エルザが毒ヘビにやられたんだ!!助けてくれ!!頼む!!!」

 

「……毒?」

 

ウェンディは首を傾げてエルザの方を見やる。

エルザは土下座して助けてほしいと言うナツの背後で横たわっており、右腕が毒々しい色に変色していた。

 

六魔将軍(オラシオンセイス)と戦うにはエルザさんの力が必要なんだ」

 

「お願い……エルザを助けて!!」

 

その場にいた青い天馬(ブルーペガサス)のヒビキと妖精の尻尾(フェアリーテイル)のルーシィの頼みに、ウェンディは自分が頼られていると自覚する。

 

「も……もちろんです!!はいっ!!やります!!!」

 

「本当か!?」

 

「よかった〜」

 

「いつまでのびてんのよ、だらしない!!」

 

それらの声を聞きながら、ウェンディはエルザの元へと行き、優しげな青白い光を持つ解毒の魔法を行使する。

 

(ジェラールがエルザさんにひどい事したなんて……)

 

そう考えながら治療するウェンディをメルクリウスはただただ黙って見つめているのだった。

 

 

 

 

それから暫くした後―――

 

「……終わりました。エルザさんの体から毒は完全に消えました」

 

ウェンディはエルザの体の上に翳した手を除けて、汗を拭きながらそう言う。

それにナツとルーシィとハッピーが食いつく。

 

「「「で!?」」」

 

「ふむ……毒も消え去り、牙の跡も消えているな。これなら再発の心配も無いだろう」

 

「おっしゃー!!!」

 

数多の平行世界で医者としても名乗っていたメルクリウスがそう答えると、ナツたちが喜びの声を上げた。

 

「ルーシィ、ハイタッチだーっ!!」

 

「よかった〜♡」

 

「シャルル〜!!」

 

「一回だけよ!」

 

それぞれが喜び、一部の者たちはハイタッチでその喜びを表現する。

 

「ウェンディ、ありがとな」

 

「あ……はい!暫くは目を覚まさないかもですけど、もう大丈夫ですよ」

 

ナツの満面の笑みにウェンディは恥ずかしそうに顔を俯かせながらそう答える。

するとメルクリウスがそんなウェンディへと近付き、その頭を撫でた。

 

「よくやったね、ウェンディ。かなり魔力を使ったようだが大丈夫かい?」

 

「あ……うん!私はまだまだ大丈夫だよ」

 

「そうか。あまり無理をしないようにするんだよ。でなければ君の友人がうるさく言うだろうからね」

 

メルクリウスはウェンディの友人―――シャルルに視線を向ける。

視線を向けられたシャルルは「フン……」と鼻を鳴らしたが、心なしか顔が若干赤い。

 

「後はエルザさんが目覚めたら反撃の時だね」

 

「うん!!打倒六魔将軍(オラシオンセイス)!!!」

 

「ニルヴァーナは渡さないぞぉ!!」

 

皆が意思を固め、そう決意した瞬間―――樹海が光った。

 

「何!?」

 

全員が驚き、光った方向の空へと視線を向けた。そこには黒く禍々しい光の柱が天高く光り輝いていた。

 

「黒い光の柱……」

 

「まさか……」

 

「あれがニルヴァーナか」

 

「まさか六魔将軍(オラシオンセイス)に先を越された!?」

 

「あの光……」

 

それぞれが様々な反応を見せる中―――ナツだけは違う感情を昂らせていた。

 

「ジェラールがいる!!!!」

 

その言葉にルーシィがどういう事かを問いかける前に、ナツは光の元へ向かって走り出した。

 

「ナツ!!ジェラールってどういう事!!?」

 

「私の……私のせいだ……」

 

「会わせる訳にはいかねぇんだ!エルザには!!あいつはオレが……潰す!!!」

 

そう言って駆けていくナツを、メルクリウスはただ黙って見つめていた。

 




一応この小説のヒロインはウェンディって事にしてるんですけど……やっぱりメルクリウス相手なら恋愛フラグとかは立ちませんよねぇ……(苦笑)
さて、その辺りをどうしようか?

水銀「そこは指揮者であり、作者である君次第ではないかね?私たちはただ、演技をするだけだよ」

さらっとメタい事を言わないでくれませんかねぇ!?

水銀「おっと、それは失礼―――では今日はこの辺りで終わろうか。誤字脱字・感想や意見、是非とも頼むよ」


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水銀の蛇は強大な魔法に興味を示す

随分と日が空いてしまいました……申し訳ありません!

水銀「本当に申し訳無いね。最近作者がモンハンダブルクロスをやりだしてしまって更新が遅れていたのだよ」

本当にすみません……。その影響か、今話は結構駄文の可能性大です。どこかおかしくね?とかあると思いますが、そこはご容赦を……。大きめの間違いならばご報告ください。修正致しますので。

水銀「との事だ。以上の事を踏まえた者は私の歌劇をご覧あれ……」



 

「ナツくんを追うんだ」

 

ナツが駆けていった後、ヒビキの言葉に私たちは頷いた。

 

「ナツ……ジェラールとか言ってなかった?」

 

「説明は後!!それより今はナツを……」

 

「あーーーーーーっ!!!」

 

その時、シャルルの叫び声が樹海に響き渡った。

その叫び声が聞こえた方に振り返ってみるとーーー

 

「エルザがいない!!」

 

「む……いつの間に」

 

「なんなのよあの女!!ウェンディに一言のお礼も無しに!!」

 

「エルザ……もしかしてジェラールって名前聞いて……」

 

「どうしよう……私のせいだ……」

 

その時、私の横から自分を貶めるような自責の声が聞こえてきた。

その声が聞こえた方をチラリと横目で見る。

 

「私がジェラールを治したせいで……ニルヴァーナ見つかっちゃって、ナツさんや……エルザさんが……」

 

そこにはウェンディは頭を抱えて俯きながら、小声でブツブツと自責と自傷の言葉を並べ始めていて、私は内心またかとため息をはいた。

元々、彼女は何かと不都合な事が起きてしまうと、自分が悪いと言って自らを貶めてしまう悪癖があるのだ。

ーーーしかし今回はその悪癖がいつもより強固なような感覚がするな。

まるで必要以上に自分を悪と定義して、その身をさらに落としていくようなーーーそんな感覚である。

 

(……もしや、ニルヴァーナという魔法……)

 

そこで私の脳内に一つの仮説が浮かぶ。もし私の仮説が真実ならば、ウェンディのこの過剰な自責と自傷にも説明がつく。

ーーーしかし今は、ウェンディを宥める事が先決か。

 

「やっぱり私が……この作戦に参加したからこうなっちゃったんだ……参加しなければ、こんな事には……」

 

(……やれやれ、彼女を慰めるのも年長者足る私の役目か。まあ、別にそれ自体は構わないのだがーーー)

 

なぜ私は……彼女のこのような姿に既知感を感じているのだろうか?

間違いなくこの世界は私の記憶に無い、未知に溢れた美しき女神が治める世界の筈なのだ。なのになぜーーー

 

(ーーーーーー)

 

その時、ほんの刹那の間だけ視界にノイズが走る。

そのノイズの先には、泣きはらした目をしているマルグリットの姿があった。

 

(……ああ)

 

彼女はーーーあの時のマルグリットと似ているのだ。

那由他の果てまで繰り返した数ある歌劇の中の一つのマルグリットに。我が愚息がゾーネンキントと道を歩もうとしたあの回帰の果てに。

瑣末な違いこそあれど、自らのせいだと自責をし、償いを求めているという所では同じだ。

 

(どちらにせよ、まずは……)

 

私はその内、自らの存在理由まで否定して精神崩壊してしまいそうなウェンディの頭に手を置いた。

 

「え……?カール……?」

 

突然の私の行動に驚いたウェンディは、声を漏らして顔を上げる。その時のウェンディは自らに対する怒りや憎しみ、そして深い哀しみに満ち足りていた顔をしていた。

目は潤み、頬には綺麗な涙の跡が残っているウェンディに私は努めて優しく笑いかける。

 

「何を哀しんでいるのかな?」

 

「……だって……何の力にもなれない私が……ジェラールを助けたせいで……ナツさんが、エルザさんが……皆さんがこんな目に合っちゃって……なのに……」

 

「それを償いたいと願っても、何も出来ない自分の無力さに打ちひしがれていたーーーといったところかな?」

 

「………………」

 

それにウェンディは再び俯いて、小さく頷いた。

 

「それは君のせいでは無いだろう。無粋な事だが、世の中には人の数だけ道理がある」

 

「え……?」

 

「君が君の中で思い描いた道理ではそうかもしれんが、客観的に見ればこれは他の思惑が起こした悲劇。他人の道理(のぞみ)が、君の道理(のぞみ)より強かったのだよ」

 

かつて自責の念に駆られていたマルグリットに投げた言葉を、少し変えながら続ける。

 

「訪れた不幸に理由をつけて自らを貶めるのはやめたまえ。自責と自傷は尾を噛む蛇だ。キリが無く、果てが無い。起こってしまった事は変えられないし、戻る事も無い。それにーーー」

 

私は離れて私たちの会話を聞いているルーシィたちに視線を向けた。

 

「そんなに自らを責めずとも、君は十分彼らの力になっていると私は思うがね。君がここにいなければ、今頃毒に侵されていたエルザ殿はどうなっていただろうか?」

 

「…………」

 

私の言葉にウェンディは反応を見せない。だが彼女からいくらか負の感情が薄れてきたのを感じる。

 

「君は彼女を救ったのだ。その事に誇りを持ち、胸を張りたまえ。君がこの作戦に参加したからこそ、彼女はこれから先も生きていけるのだ。さらにもう一つ付け加えるのなら、君がこの作戦に参加していなければ今こうして私と再会する事も無かったと思うのだが?」

 

「……!」

 

「それでも君は、この作戦に自分が参加しない方がよかったと思うかね?ならばそれもよし、私からこれ以上言う事は無いよ」

 

私はそう締めくくり、彼女の頭から手を離してウェンディの返答を待つ。

そうして暫く黙って待っているとーーー

 

「……そう、ですね……私がいなかったら……エルザさんは今頃……」

 

「そうだよ!だからそんなに自分を責めないで?ね?」

 

ルーシィの慰めを受けたウェンディは、目尻に浮かんでいた涙を拭いて顔を上げた。そこに先ほどまで見せていた自らに対する怒りや憎しみ、哀しみなどの感情は跡形も無く、どこか覚悟を決めたような表情になっていた。

 

「どうやら答えが出たようだね」

 

「うん!私は……カールが言った通り、皆さんの力になってるんだって考える。こんな私にだって出来た事もあったし、これからもきっとあると思うから……」

 

「それは重畳」

 

その返事を聞いた私はウェンディに向かって、静かに笑いかけたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃ……!」

 

「おっと、大丈夫かね?」

 

「ウェンディちゃん、大丈夫?」

 

「はい!それよりも早くあの光の所に行かなきゃいけないんですよね?」

 

「そうだよ。あれは危険な魔法なんだ。だから早く行って止めないと……」

 

ウェンディが決意を固めた後、私たちはあの光の元へと走っていた。

その時、私はふと先ほどの出来事の際に気が付いた事をヒビキに向かって問いかけた。

 

「一つお聞きしてもよろしいか、ヒビキ殿」

 

「なんだい?クラフトさん」

 

「先ほどウェンディが自責と自傷の淵で揺れていた際に、彼女に向かって魔法を放とうとしていなかったかね?」

 

「ーーー気付いてたのか」

 

「なんですって!?」

 

「愚問だな。ーーーなぜウェンディに向かって魔法を放とうとしていたのかな?」

 

「……あの時は仕方ないと思ったんだ。実は本当の事を言うと……僕はニルヴァーナという魔法を知っている」

 

『!!!』

 

「ほう……」

 

ヒビキの言葉にウェンディたちはそれぞれ驚いたような反応を見せる。

一方の私は、ニルヴァーナという魔法を知りたいが故に、彼に説明を求める視線を向けた。

 

「ただ、その()()()誰にも言えなかった。この魔法は意識してしまうと危険だからなんだ。だから一夜さんもレンもイヴも知らない。僕だけがマスターから聞かされている」

 

意識をしてしまうと余計に危険な魔法。そしてニルヴァーナの光が上がった後に豹変したウェンディの精神状態。その二つから考えるに、やはりニルヴァーナというのは……。

 

「もしや、精神に干渉する魔法かね?」

 

「そう。光と闇を入れ替える。それがニルヴァーナ」

 

「光と……」

 

「闇を……」

 

「入れ替える!?」

 

光と闇……それを精神的な言い方に変えるとするならば、光は正義、闇は悪といった感じか。

しかし、それを魔法で強制的に入れ替えるとなれば代償は計り知れないだろう。そう都合のいい魔法など、それこそ数える程しか無いだろう。

 

「しかし、それは最終段階。まず封印が解かれると、黒い光が上がる。まさにあの光だ。黒い光は手始めに、光と闇の狭間にいる者を逆の属性にする」

 

「つまり狂おしい程の負の念を持った光の者は闇に。逆に闇の者ならば、光に落ちるという事だね」

 

「それじゃ、ウェンディを魔法を撃とうとしてたのは……」

 

「自責の念は負の感情だからね。あのままじゃ、ウェンディちゃんは闇に落ちていたかもしれない。クラフトさんが助けてくれたけどね」

 

「そうだったんですか……」

 

ウェンディはヒビキの言葉を聞いて、何かを考え込むような表情を浮かべる。

私はそれを尻目に続ける。

 

「ふむ……ならば今のナツ殿の感情は危険だな。誰かの為に怒っているというのならば、それもまた負の感情となり得る」

 

「それこそが僕がこの魔法の事を黙っていた理由。人間は物事の善悪を意識し始めると、思いもよらない負の感情を生む」

 

あの人さえいなければ、あの人がああなる事は無かったーーー

このような目に遭うのは誰の仕業かーーー

なぜ自分ばかりーーー

それら全ての感情がニルヴァーナにより、定められてしまうという事だ。

 

「でもさ……それって逆に言うと、闇ギルドの奴らはいい人になっちゃうって事でしょ?」

 

「そういう事も可能だと思う。ただニルヴァーナの恐ろしさは、それを意図的にコントロール出来る点なんだ」

 

「そんな!!」

 

「あ、あの……!もしかしてそれがいいギルドの方たちに使われたら……大変な事になりませんか!?」

 

そこでウェンディがその事実に気が付き、悲鳴じみた声を上げた。

もし光のギルドにニルヴァーナが使われてしまった場合、どうなるのかは想像に容易い。

仲間同士での躊躇無しの殺し合いから始まり、果ては他の光ギルドとの理由無き戦争まで引き起こせるだろう。

 

「一刻も早く止めなければ、光のギルドは全滅する。その前に何としてでもーーー止めないと」

 

そうヒビキが言い、ウェンディたちもまた決意を固めたその時、私たちの目の前に樹海を流れる川が姿を見せた。

 

「ほう、樹海にこのような場所があったとは……」

 

「本当、この樹海って広いわね……って、あれは……!?」

 

その時、私の隣にいたルーシィがある方向を見て声を上げる。そこにはーーー

 

「お……おま……うぐ……」

 

イカダに乗って、気分が悪そうにうずくまっているナツとーーー

 

「死ね」

 

そんなナツに止めを刺そうと、氷で出来た槍を掲げたグレイがいた。

いつもと雰囲気が違うグレイに、ルーシィやハッピー、ヒビキもシャルルもウェンディも困惑する中、私は冷静に彼の本質ーーー魂を見抜いていた。

 

(ーーーあの魂……また彼らかね?全く、あの時は少しの間は行動不能になる程の魔力を当てたというのに……精霊の回復能力というのは中々なものだな)

 

「っ!!開け、人馬宮の扉!サジタリウス!!」

 

呑気にそんな事を思っているとルーシィが金色の鍵を掲げて、精霊召喚の言葉を紡いだ。

瞬間ーーールーシィの背後に馬……の着ぐるみのようなものを着た男性が弓を構えながら現れ、矢をナツとグレイの間の地面に向けて放った。

 

「何してんのよ、グレイ!!」

 

「であるからして、もしもし」

 

「グレイさん!なぜナツさんを攻撃しようとしてるんですか!?」

 

私たちの姿を確認したグレイはどこか苛立ったかのように吐き捨てる。

 

「邪魔すんなよ、ルーシィ」

 

「な……なによ、これ……。まさかグレイが闇に堕ちちゃったの……?」

 

「いいや、違うな」

 

私はルーシィの言葉を否定して、再び()()の強さを乗せたいてつくはどうを周りに放つ。

それを受けたルーシィやウェンディたちは特に何も起こらなかったものの、グレイもどきだけは違った。

彼ははどうを受けた瞬間、イカダの上に倒れこみ、二体の人形のような精霊の姿へと戻った。

 

「な、何あれ!?」

 

「双子座のジェミニーーー黄道十二門の一つだよ」

 

私はそう説明しながら川の向こうの森に視線を向ける。

その視線の先にはエンジェルが、私を見て嫌そうに顔を歪めながら姿を見せた。

 

「またお前か……。しつこいゾ」

 

「仕方ないだろう。私とて君に会いたくてここにいるわけではないのだからね」

 

エンジェルは手に持っていた鍵を横に振って、ジェミニを閉門した後、別の鍵を取り出した。

 

「開け、彫刻具座の扉。カエルム」

 

瞬間、小型の機械のような精霊が出現し、ウェンディに向かってレーザーを放った。

 

「ウェンディ!」

 

「あ……」

 

シャルルが叫ぶも、予想だにしなかった突然の攻撃にウェンディは呆然と立ち尽くしてしまう。

そんなウェンディの前にヒビキが即座に割り込み、防壁を作って攻撃を防御した。

 

「大丈夫かい?ウェンディちゃん」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「シャルル!ここは私とヒビキに任せて、ウェンディを連れて行って!クラフトさんもついて行ってあげて!」

 

「……いいのかね?」

 

周りの状況を確認し、視線を向けずに言うルーシィに私は問う。

 

「敵の精霊魔導士一人位、私とヒビキで十分よ!それよりも早くナツとエルザを!」

 

ーーーほう。この少女も中々威勢のいい事を言う。内心では本当に勝てるのかどうか揺らいでいるというのにーーー

 

「……承知した。では行く前に一つ、年長者たる私から施しを与えよう」

 

私は片手をカエルムに向け、魔力を込める。

するとカエルムは突然爆発四散して跡形も無く消えていった。

 

『なっ!!?』

 

「さて、では参ろうか。シャルル殿、ウェンディ」

 

「ーーーっ!分かったわ!」

 

「えっ!?シャルル!?」

 

私に声を掛けられ、真っ先に我に返ったシャルルは先ほどの光景に唖然とするウェンディの体を掴んで大空へと羽ばたいた。

私はその後を追うように、流星(ミーティア)と魔術を合わせた魔法を行使する。

そして地面を蹴り、飛び立とうとしたその刹那ーーー

 

「ウェンディちゃんを頼んだよ。クラフトさん」

 

「頼んだわよ。それにしても年長者って……アンタもあたしたちと変わらないでしょ」

 

こちらを見ずに言うヒビキとルーシィの言葉に私は薄っすらと笑みを浮かべた後、シャルルとウェンディの後を追って、大空へと飛び立った。

 




水銀「終わって早々だが、一ついいかね?」

はい?

水銀「サブタイトルにああ書いておきながらそれ程私が興味を示している様子を見せていない件について、何か言う事はあるかね?」

無いです(笑)作者も書き終わって、投稿する時にあれ?とは思いましたが……これはこれでと思ったので投稿しました(笑)意見があれば大きく加筆・修正はします。

水銀「そういう事では無いのだがな……。まあ、良い。今回はここまでだ。誤字脱字・感想意見等、是非ともよろしく頼むよ」


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水銀の蛇は彼女の追憶を聞く

遅くなりました!そして今回の話はウェンディの過去話が中心です!

ウェンディ「皆さん、楽しんでいってくださいね!」



六魔将軍(オラシオンセイス)が一人、エンジェルと遭遇し、ルーシィとヒビキとハッピーに相手を任せた私たちは大空を飛翔していた。

 

「ルーシィさんたち、大丈夫かな……」

 

「何、心配する事はないよ」

 

双子座のジェミニは、私の()()強いいてつくはどうの影響で暫く行動不能にしておいたし、カエルムも破壊した。

少なくともある程度は、エンジェルの戦力を削いだと予想出来る。

 

「それにしてもあんた、あの機械みたいな奴をどうやって倒したのよ?」

 

「どうやってとはまた奇妙な事を聞くのだね。君もその目でどのように倒したかなど見ていたではないか」

 

「見てたけど訳が分からないわ。突然手を向けたと思ったら、すぐに爆発したんだもの」

 

「あれ位不思議でもなんでも無いだろう。あの時ナツ殿を吹き飛ばしたジェラールと同じような事をしただけだよ」

 

手に一定の魔力を収束させ、一気に放出する。私やジェラールがやったのはそういう事だ。

言葉にすると簡単に思えるが、実際は魔力の収束に失敗すると暴発するか消滅してしまう。魔力操作という技術に長けていないと、そう簡単には出来ないだろう。

 

「ふ〜ん……。そういえば、ウェンディとクラフトはあの男ーーージェラールについて知っているみたいだけど、どんな人なの?」

 

「え?いきなりどうしたの?シャルル?」

 

魔法云々の話からいきなりジェラールに関する質問を投げかけたシャルルに対し、今まで黙って話を聞いていたウェンディが首を傾げる。

 

「別にただの興味よ。恩人とかあの時言ってたけど……私、そんな話聞いた事無いわよね」

 

「そういえば話してなかったね。あれは七年前、天竜グランディーネが姿を消して私は一人……路頭に迷ってたの」

 

そしてウェンディはあの日の事をシャルルに向かって語り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーグランディーネ……どこぉ……?置いてかないでよぉ……ーーー

 

 

 

「あの時の私は一人でグランディーネを探していたの。でも私はグランディーネと住んでいた巣からあまり出た事が無かったから、本当に当ても無く、ただふらふらと泣きながら歩いていた」

 

 

 

ーーーグランディーネ……グランディーネェ……ーーー

 

 

 

「今でも思い出せる……。あの時の私は一人で……他に頼れる人もいなくて……グランディーネも見つからなくて……とても怖くて、悲しくて、寂しかったって……」

 

 

 

ーーー……ううっ……。うわあぁぁぁぁん……ーーー

 

 

 

「でもあの日……。私が歩き疲れちゃって道端にうずくまって泣いていた時、ジェラールとカールに出会ったの」

 

 

 

ーーー君、どうしたの?ーーー

 

ーーーうわあぁぁぁぁん……ーーー

 

ーーーうわっと……。本当にどうしたんだい?ーーー

 

ーーーグランディーネがぁ……いなくなっちゃったの……ーーー

 

ーーーグランディーネ?ーーー

 

ーーーどうしたのかね?このような遅い時間にこんな所でーーー

 

ーーーあ、すみません。この子が……ーーー

 

 

 

「あの後、私は二人の前でしばらく泣いちゃった。ーーーきっとあの時の私は……安心したんだと思う。今まで一人で怖くて、寂しくて、心が折れそうな気持ちでいっぱいだった私に声を掛けてくれた二人に、私はどうしようもなく頼りたくなったんだと思う。そんな突然泣き出しちゃった私をジェラールとカールは、見捨てないで泣き止むまで側にいてくれた」

 

 

 

ーーーそろそろ焼けたか……食べるといい。熱いから気を付けるのだよーーー

 

ーーーあ、ありがとうございますーーー

 

 

 

「その後、カールがこんがり焼いてくれたお肉の味は今でも忘れられないよ。数日ぶりのご飯だったし……私にとってはグランディーネ以外の人と初めて食べた食事だったから……。その後私は今まで彷徨ってた理由を二人に全部話した。そうしたら……」

 

 

 

ーーーなら僕と一緒にそのドラゴンを探そうか?ーーー

 

ーーーえ……?ーーー

 

ーーー僕は色々な所を旅しているから、一緒に来ればそのドラゴンに会えるかもしれないーーー

 

ーーーそれは妙案だ。ならば私も協力させてもらっても構わないかね?二人よりも三人の方が色々と効率もいいだろうーーー

 

 

 

「嬉しかった。本当に頼れる人が出来るのかもしれないって思った。けど……私はそれでも二人にこれ以上の迷惑は掛けたくないとも思っていた。でも……」

 

 

 

ーーー君はまだ幼く、弱く、そして脆い。それなのに無理をして遠慮する必要などどこにも無いのだよ。困った時は人に頼りたまえ。それが生きるということなのだからねーーー

 

 

 

「カールは優しくそう言ってくれた。そして答えを出すのは明日でいいって言って、疲れた私を寝かせてくれた。そんな優しさに甘えたくなった私は次の日の朝、二人にグランディーネを探してほしいと頼んだの」

 

 

 

ーーーあの……昨日の事なんですけど……。い、一緒にグランディーネを探してくれますか……?ーーー

 

ーーーもちろん。見つかるまで手伝ってあげるーーー

 

ーーー私も構わんよ。ではまずはどこから向かおうか?ーーー

 

 

 

「二人はどこまでも優しかった。私みたいなどこの誰かも分からない迷子の面倒を見てくれて、頼みも聞いてくれて……本当に涙が出る程嬉しかった。ーーーその後は三人で色んな所を旅をして、色んなものとか生き物とかを見たり、いっぱい美味しいものも食べたりして……とても楽しかったよ」

 

 

 

ーーーふむ……この木の実は確か食べれた筈だったか。……食べてみるといいーーー

 

ーーーありがとう、カールーーー

 

ーーーありがとうございます、カールさんーーー

 

ーーーわぁ……!甘くて美味しい!ーーー

 

ーーー確かに美味しい……。この木の実がこんなに美味しかったなんて……ーーー

 

ーーーふふふふ……あ、そっちの木の実は毒があるから気を付けたまえーーー

 

ーーーふえぇっ!?ーーー

 

ーーーこれには毒があるんですか……。覚えておこうーーー

 

 

 

「ジェラールはいつも私の事を気にしてくれていた」

 

 

 

ーーーウェンディ、疲れてないかい?ーーー

 

ーーーはぁ……はぁ……。だ、大丈夫……ーーー

 

ーーー……ほら、ウェンディ。僕の背中に乗ってーーー

 

ーーージェラール……。うん……ありがとう……ーーー

 

 

 

「カールは私やジェラールが知らない事をたくさん教えてくれた。普通の事から魔法の事まで……」

 

 

 

ーーーとなれば、ここの魔法式はこうなるーーー

 

ーーーう〜ん……ーーー

 

ーーーふむ、まだウェンディには理解し難いかな?ーーー

 

ーーーカールさん……。僕にも分からないんだけど……ーーー

 

ーーー君もかね。もう少し勉強したまえよーーー

 

ーーーえぇ〜……こんな複雑な魔法式なんて使うかなぁ……ーーー

 

 

 

「そんな楽しい時がいつまでも……せめてグランディーネが見つかるまではずっと続くと思ってた。でもある日……」

 

 

 

ーーーアニマ!?ーーー

 

ーーーあれが例のアニマという魔法かね?ーーー

 

 

 

「ジェラールとカールは突然私には分からない話をし出したの。そしてしばらく二人で話し合っていたと思ってたら……ジェラールが突然一人でどこかに行くって言い出したの」

 

 

 

ーーー嫌だよ、ジェラール……もっといっぱい旅しようよ……私とカールと一緒にグランディーネを探してよぉ……ーーー

 

ーーーウェンディ……ごめんーーー

 

ーーー嫌ぁ……行かないでぇ……お願いだから……ーーー

 

ーーー大丈夫、君の事は近くのギルドに連れて行ってあげるから……だから……またいつか会おう。その時はまた一緒に旅を……ーーー

 

ーーー嫌ぁ!!そんなお別れの言葉なんて聞きたくないよぉ……ジェ……ラール……ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が覚えてるのはそこまで……。そして次に目を覚ました時にはジェラールとカールはどこかに行っちゃって……私は化け猫の宿(ケットシェルター)に預けられたんだ」

 

「そうなの……」

 

ウェンディの話を聞き入っていたシャルルは何やら思案顔をした後に、私の方へ顔を向けた。

 

「それで、あんたはどこで何をしに行っていたのよ?」

 

「それは言えないな。まあ、だが……少々外せない急用が出来たとでも言っておこうか。すまなかったね、ウェンディ」

 

「ううん、急用が出来たなら仕方ないよ。それにジェラールも……」

 

そう言ったウェンディは寂しげな笑みを浮かべて黙り込んでしまった。

そんなウェンディの返事に何も言えなくなったのか、シャルルもまた黙り込んで何かを考え始めているようだった。

その時、樹海の広い範囲で大きな揺れが巻き起こる。

 

「っ!?何!?」

 

「……どうやら完全に封印が解かれたようだな」

 

視線を向けた先には先ほどの光の柱がより一層強い輝きを放ちながら、何かが地中から現れようとしていた。

それと同時に辺りの樹海の地面もひび割れ、そこから何やら細長い触手のような脚が現れる。

 

「あれが光を崩す最終兵器……」

 

「超反転魔法、ニルヴァーナ……」

 

「完全復活……か。君たちは先に行きたまえ」

 

「あんたは?」

 

「すまないが、私は少し用がある。何、すぐに戻るから心配はいらないよ」

 

「…………分かったわ」

 

「気を付けてね、カール」

 

私の言葉に頷いたウェンディとシャルルは中心にある都市のような場所へ飛んでいく。

 

「さて……」

 

それを見送った私は眼下にあるニルヴァーナを見下ろす。

ニルヴァーナの中心には様々な形の建物が建っており、随分昔に人が住んでいたという事が窺い知れる。

 

「移動する古代都市か……」

 

私としては古代都市など回帰した世界で幾つも見た事があるものの、こうして移動する古代都市とは初めて見た。

その初めてという感覚に歓喜を覚えるがーーーそれはそれとして、この都市は一体どこへ向かっているのだろうか。

 

「……あっちか」

 

ニルヴァーナが最初に歩を進めている方向に何があるのかーーー気になった私は流星のような速度を発揮して飛んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニルヴァーナが歩を進める方向には何が存在するのかーーーそれを調べにきた私が暫くして上空から発見したのはーーーとある小さな集落だった。

 

「ふむ……。あれが目指しているのはこの集落で違いないか」

 

この集落の後ろは山があり、その先は広大な海が広がっている。海の向こうにある町などが目的という考えもあるにはあるが、どうにもそれは考えづらかった。

なぜならーーー

 

「…………」

 

その集落の中心ーーーそこにある猫のような形をした大きい一つのテントーーーそこから何か不可思議な魔力を感じた故に。

そんな不可思議な魔力に興味を惹かれた私はそのテントへと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、その猫のような形をしたテントーーー化け猫の宿(ケットシェルター)内ではニルヴァーナが接近しているという報告を受け、混乱に包まれていた。

 

「ニルヴァーナがここに向かって来てるって!?」

 

「連合軍の作戦は失敗か!?」

 

「あのジュラやエルザがいたというのに……」

 

「安心せい」

 

そんな混乱に喘ぐ者たちをギルドマスター、ローバウルは答える。

 

「光の魔力は生きておる。なぶら大きく輝いておる」

 

その言葉にギルドの者たちは安心したように声を上げる。

しかしーーーローバウルは表情を暗くして続ける。

 

「ニルヴァーナを止めようと、なぶら戦っている者たちの勝利をワシは信じている。だが……時が来たのかもしれん。ワシらの罪を清算する時がな」

 

その言葉に再びギルド内に暗く、思い悩むような雰囲気が満ちる。

 

 

 

 

しかしその空気は次の瞬間、一人の者が訪ねてきた事で一変する。

 

「夜分遅くに失礼、ここは化け猫の宿(ケットシェルター)で合っているだろうか?」

 

「む?」

 

突然、何気無く尋ねられたその質問。その質問を投げかけたのは誰なのか、ギルド内にいる者たちの視線が入り口の方へと向けられる。

そこにいたのは影絵。

そこにいるのかどうかも不鮮明で、不思議な存在。

男性か女性か、それも認識出来ない不可解な存在。

 

「いかにも、ここは化け猫の宿(ケットシェルター)。ワシはこのギルドのマスターのローバウルじゃ。して、流離い人よ。ここに何の用かの?」

 

そのような存在にも怖気づく事無く、ローバウルは尋ねる。

するとその影絵のような存在はくっくっと笑いながら答えた。

 

「さて、何用かと聞かれればあまり大した事ではないのだが、この場所にとある危険な魔法が移動してきている事を伝えようと思ってね」

 

「ほう……」

 

影絵の言葉にローバウルは驚きの表情をほんの少しだけ覗かせる。

 

「お主も連合軍の者か」

 

「然りーーーと言いたい所だが少々違うな。私は貴方が最初に言った通り、ただの卑小な流離い人に過ぎない。連合軍とはほんの刹那の間だけの協力関係だ」

 

「なるほど……すまぬな。お主のような流離い人にも、あれに巻き込んでしまって……」

 

「私からあれに介入したのだ。貴方がそう気に病む必要は無い。それよりも逃げないのかな?もう後数十分程度で、あれはここに来る」

 

「左様」

 

「貴方たちを葬りに来るだろう」

 

「左様。しかしそれが、ワシ等の運命。なぶら重き罪の制裁」

 

「自らが生み出した魔法に滅せられる事が……かね?」

 

影絵の問う言葉にローバウルはさらに驚く。

なぜお主がその事を知っている?お主は一体何者なのか?

しかし、そのようなローバウルの疑問を知ってか知らずか、影絵は嗤う。

 

「温いな。確かにそれも自らが犯した過ちの清算となり得るだろう。しかし、それよりもまだやるべき事があるのではないのかね?」

 

「……何をだ?」

 

「あれの最後を、あれの結末をその目で見届け、このギルドに属するかの者たちに隠していた真実を告げるという事をーーー」

 

「……お主、どこでそれをーーーいや、それよりもお主は何者なのだ?」

 

「おっと、失礼。私としたことがまた名乗り忘れてしまった。私は数多の名を持つが、ここではカール・クラフトとでも名乗っておこうか」

 

影絵の存在ーーーカール・クラフトがそう名乗ると、ローバウルは何かを考えるような顔になる。

 

「カール・クラフト……?どこかで聞いた事のある……。それにお主の顔もどこかでーーー」

 

 

 

 

 

その時、テントの外からとても大きな音が聞こえてきた。

 

「ふむ、どうやら例の魔法がすぐそこにまで来たようだな」

 

「…………」

 

「……逃げるつもりは無いと。まあ、それはそれで構わないがね。私は為すべき事をするだけだからな」

 

そう言うと、カール・クラフトは踵を返してテントから出て行こうとする。

そして最後にボソリと呟く。

 

「……信じたまえ。貴方のギルドに属する、勇敢なる二人の魔導師を」

 

そう言った彼は、今度こそテントから出て行った。

その場に残ったのは、先ほどまでの状況をただ黙って見ていたギルドの者たちとーーー

 

「……なるほど、お主はウェンディと共に旅をしていた者か。そしてーーー」

 

合点がいったかのように頷くローバウルがいたのだった。

 




短めでしたが、どうでしたでしょうか?
ちなみにメルクリウスはほとんど戦闘をしません。元から他力本願が十八番の彼は、そこまで積極的ではないのです。
「正直、荒事は苦手だが」とか言ってますからね!(そう言っておきながら、最終的には派手にぶっ放してたけど)
なのでニルヴァーナ編はサラサラっとした感じで終わるかと……(苦笑)

誤字脱字・感想意見等、よろしくお願いします!


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水銀の蛇は古代魔法を止める

アブソと同時投稿!遅れてすみません……。

この小説のお気に入りがアブソを超えた件(; ̄O ̄)

ちなみにもう少し後ですが、この小説はもう一作品とクロスします。(もうアブソで布石置いたから変更はしません)



 

 

「さてーーーでは始めようか」

 

私は化け猫の宿(ケットシェルター)前で、力を溜めているニルヴァーナの砲台へと視線を向けながら魔法陣を組んでいた。

私としては、この背後にあるギルドなど消し飛んでも別にどうこうするつもりなど無いのだが……それではここに所属するウェンディとシャルルが嘆き悲しむだろう。

 

「……ふふふふふ……」

 

そのギルドの前でこうして魔法陣を組みながら私は思う。

僅か一ヶ月という永劫繰り返してきた私にしてみれば取るに足らない短い時間ながらも、その短い時間の中で共に過ごしたあの青髪の少女に私は随分と甘いようだ。

 

「…………」

 

しかし、私がこうして背後にある化け猫の宿(ケットシェルター)を守ろうとしているのには、もう一つ別の理由があるのだがーーーまあ、それを語るのは全てが終わってからでも遅くないだろう。

それよりも私は今、それらの事象よりも興味を抱いている疑問があった。

それはーーーあの砲撃に当たれば、私も善悪が反転するのだろうか?という疑問である。そもそも私はあの程度の砲撃で倒れる事などあり得ないし、認めないのだが、あの砲撃にはニルヴァーナの魔法効果があるようだ。

まあ、別段私があれを受けたとしても私自身は何も変わらないだろう。この世界の魔法など私にとっては全くと言っていい程効かないのだからな。

だがーーーもし仮に、その善悪を反転させるという効果が私に発揮されたとしたらーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、マルグリット。言ってみようか」

 

「で、でも……!」

 

「言わないのかな?ならばーーー」

 

「っ!やめて!お願い……レンに酷い事しないで……!」

 

「ふむ、ならばどうすればいいのかーーー賢い君なら分かるだろう?」

 

「……っ」

 

「やめろ……!マリィ、俺の事はいいから……!」

 

「レン……」

 

「さあ……さあ!」

 

 

 

 

 

 

 

ふむ、若干中途半端な感じながらも想像してみたが、悪と言われるとこのような感じだろうか?しかしこのような悪に落ちた私が存在するのは許容出来んな。

特に私が親愛なるマルグリットを涙目にさせるなど言語道断。もしそのような私がいる平行世界を見つけたのなら、素粒子間時間跳躍・因果律崩壊でその世界諸共消し去ってやろう。

自らを紳士だと言っている変態は滅尽滅相。これがこのマルグリットの治める世の成り立ちである。ちなみに私は変態ではない正真正銘の紳士なので、滅尽滅相される事もされる気も無い。

とまあ、一先ずそのような事は置いておいて、私が悪の反対になった場合ならどうなるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、獣殿」

 

「……今までどこに行っていたのだ、カールよ?そしてその見ているだけで寒気がする笑顔は何かな?」

 

「おや、寒気がするような笑顔とは失敬だな。私とてこのような顔をする事はあるのだよ」

 

「……さようか」

 

「しかし獣殿、貴方の渇望はいつ見ても素晴らしいですな。私は総てを愛しているーーーああ、実に美しい。至高と言っても差し支えない」

 

「………………」

 

「故に、私も貴方のその渇望により触れ、共に行きたいと願う。さあ、獣殿。私と共に総てを愛そう!まずは我が女神と息子へと我らの愛を示そうか!」

 

「ーーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

善となった私は博愛主義に目覚めるのだろうか?もしそうなるのならば、獣殿は間違いなく気絶するだろうな。

しかし、そのような未知は私としては勘弁願いたい。私とて経験したくない未知というものもあるのだからね。

 

「ふふふ……む?」

 

そんな妄想をしていると、ニルヴァーナの砲台に集まっていた魔力が今すぐにでも弾けそうな程の光を持って輝いている事に気が付いた。

もう後、五秒程で発射されるか。

それを確認した私は今まで構築していた魔法陣を自らの周りへと浮かび上がらせ、その中で一際大きい三つの魔法陣をニルヴァーナの砲台の前へと重ねて魔法を発動する。

その魔法はかつて一ヶ月という短い間ながらも共にいた、あの青髪の少年の魔法を思い出し、再現したものだった。

 

「三重魔法陣、鏡水」

 

その瞬間、善と悪を反転させるという太古の魔法が私と化け猫の宿(ケットシェルター)目掛けて放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、古代都市ニルヴァーナ内ではウェンディとシャルル、そしてエルザと記憶を失っているジェラールが再会を果たしていた。

 

「ジェラール!!」

 

「エルザも一緒よ」

 

「ウェンディ」

 

駆け寄ってきたウェンディとシャルルの姿を見たエルザは安心したように息を吐いた。

 

「無事だったかーーークラフトはどこへ行った?」

 

エルザは周りを見渡して、メルクリウスがいない事に疑問を感じて問いかける。

するとウェンディは少し俯いて答えた。

 

「カールなら少し用があるって言ってどこかへ……」

 

「用だと?こんな時に一体どこへ向かったのだ?」

 

「知らないわよ!それよりも私たちのギルドはどうなるのよ!!もうすぐそこにあるのよ!!」

 

その時、ニルヴァーナが大きく、そして持続的に揺れ始める。

 

「何だ?」

 

「っ!!この魔力……!」

 

「まさかーーーニルヴァーナを撃つつもり!?」

 

そのシャルルの言葉を肯定するかのように、ニルヴァーナは前方にある砲台へと強大な魔力を収束し始めた。

 

「っ!アンタ!ニルヴァーナの止め方は!?しっかりと覚えてるんでしょうね!!」

 

「……もはや自律崩壊魔法陣も効かない。これ以上打つ手は……すまない」

 

「そんな……」

 

唯一止める方法を知っていそうなジェラールから、お手上げの返答を聞いたウェンディは目尻に涙を浮かべながら、ペタリと座り込んでしまう。

 

「いやぁ……やめて……!」

 

ウェンディは頭を抱えて、悲痛な声を出しながら自らのギルドを攻撃しようとしている者に、攻撃をやめるように懇願した。

私たちのギルドに攻撃しないでーーー

私たちの仲間を、家族を攻撃しないでーーー

私たちの大切な居場所を奪わないでーーー

しかしそのような一人の少女の必死な懇願は、攻撃を加えようとしている者の耳には届かずーーー無情にもニルヴァーナは強烈な光と轟音を辺りに轟かせながら、反転魔法を放った。

荒れ狂う善悪を反転させる古代の超魔法はそのまま攻撃目標である化け猫の宿(ケットシェルター)へと向かっていきーーー

 

 

 

 

 

 

 

ギルドへと命中する直前で、突如現れた巨大な魔法陣に接触。そして一瞬の拮抗すら無く、ニルヴァーナの砲撃を跳ね返した。

 

「何!?」

 

跳ね返された砲撃はそのまま直線上にあった二本の触手のような細長い脚の付け根を纏めて貫通し、破壊した。

そして当然と言うべきか、自らの体を支える二本の脚を失ったニルヴァーナは大きくバランスを崩した。

 

「きゃっ」

 

「くっ!」

 

「何が……」

 

バランスを崩したニルヴァーナから振り落とされまいと、エルザはウェンディとシャルルを掴んで踏ん張り、ジェラールは地面に伏せて何が起きたのかと疑問を示した。

その謎の現象の答えはウェンディが見つけた。

 

「カール……!」

 

化け猫の宿(ケットシェルター)の前で、多くの魔法陣を周りに浮かべながらニルヴァーナの前に浮かんでいるメルクリウスをその目で確認したウェンディは、またもや目尻に涙を浮かべる。

その涙は先ほどまで浮かべていた悲しみの涙では無くーーー感謝の気持ちが詰まった涙だった。

 

「あれを……跳ね返しただと!?」

 

「本当に何者なのよ……あいつ」

 

一方のエルザはメルクリウスの行った行為に対して戦慄し、シャルルや至ってはもはや驚くというより呆れていた。

 

『聞こえるかな?』

 

その時、ウェンディたち四人の脳内に魔術師の声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『クラフト!お前がニルヴァーナを跳ね返したのか!?』

 

念話を繋げて早々に、エルザが大声でそう叫んだ。いきなり耳元で叫ぶのはやめてほしいのだがね。

 

「然り、しかしそこまで驚く事かね?」

 

別にあの程度の砲撃など、私ではなくても跳ね返す事位造作も無い筈だが……。

 

『驚くに決まってんでしょ!?普通は出来ないわよ!』

 

そう思っているとシャルルからそう突っ込まれた。つまり私は普通ではないというわけだな。まあ、それは自覚しているが。

 

「それよりーーーヒビキ殿、そちらの状況はどうかね?」

 

『こっちもなんとか無事だよ!でもクラフトさんがニルヴァーナを跳ね返してくれたなら、僕たちはいらなかったかな?』

 

「いやいや、君たちの支援も十分意味あるものだった。仮に私がニルヴァーナを防げなかったとしても、君たちがニルヴァーナの脚を攻撃して軌道を変えていなければ、今頃化け猫の宿(ケットシェルター)は消え去っていただろう」

 

そう言い、上空を見上げてみるとこの作戦開始直後に墜とされた魔道爆撃艇がボロボロになりながらも堂々と飛行していた。

実は先ほどニルヴァーナが発射される直前、魔道爆撃艇からニルヴァーナの脚へ攻撃があったのだ。それのおかげで若干軌道の変わったニルヴァーナを跳ね返す為に少し魔法陣を移動させる羽目になったのだが……特に問題も無いので瑣末な事だと切り捨てる。

 

『ヒビキか?』

 

『わぁ』

 

『エルザさん?ウェンディさんも無事なんだね』

 

『私も一応無事だぞ』

 

『先輩!!よかった!!』

 

ふむ、現在無事な者たちはある程度把握出来たな。

エルザ、ウェンディ、シャルル、ヒビキ、そして一夜か。

 

『どうなっている?クリスティーナは確か撃墜されてーーー』

 

あの魔道爆撃艇はクリスティーナと言うのか。確かに天馬のような外見をしているが……もう少しマシなネーミングは無かったのだろうか?

 

『壊れた翼をリオンくんの魔法で補って、シェリーさんの人形劇とレンの空気魔法(エアマジック)で浮かしているんだ』

 

『こんな大きなもの……操った事ありませんわ』

 

『お……重たくなんかねえからな』

 

『ちなみにニルヴァーナの脚を攻撃した時の一撃はイヴの雪魔法さ』

 

蛇姫の鱗(ラミアスケイル)青い天馬(ブルーペガサス)、初めは険悪な雰囲気となっていたというのに今となっては双方の者たちが力を合わせ、ニルヴァーナへ乾坤一擲を放つとはーーー

 

「くふふふふふ……ふはははははは!!素晴らしい、なんと美しい絆か。一つのギルドをなんとしても守りたいという強い意志を力へと変える、そう簡単に出来るものではないな。予想以上だ、憧憬(どうけい)しよう」

 

『ははっ……ありがたい言葉だよ、クラフトさん……でも……もう魔力が……』

 

ああ、絆とは実に素晴らしいものだ。幾度と無く繰り返した私の生とは呼べぬ人生の中でこれ程まで歓喜したのは、我が息子とその親友、ゲオルギウスとの魂の決闘以来か。

 

『イヴの言う通り、僕たちはすでに魔力の限界だ。もう船からの攻撃は出来ない』

 

その言葉と共に天馬(クリスティーナ)が空中で分解しながら墜ちていく。

 

「ああ、君たちのその誇るべき意志、私と彼らが受け継ごう。その素晴らしき意志に敬意を払い、一つ君たちに守りの魔法を掛けておこう」

 

そうして即席で作り出した防御魔法を墜落する天馬(クリスティーナ)へと向けて飛ばす。

これで少なくとも、彼らは大きな怪我をしない筈だ。

 

『ははっ……ありがとう、クラフトさん。でも最後にこれだけは聞いてくれ!!時間が掛かったけど、ようやく古文書(アーカイブ)の中から見つけたんだ!!』

 

 

 

 

『ニルヴァーナを止める方法を!!』

 

『っ!!』

 

その瞬間、この念話を聞いている全ての者たちが息を飲んだ。無論その反応も当然の事だろう。この忌むべき古代魔法を止める方法がようやく見つかったというのだから。

 

『本当か!?』

 

『ああ、ニルヴァーナには脚のようなものがあるだろう?』

 

「ああ、全部で八本。内二本は私が砲撃を跳ね返して付け根から破壊した」

 

『つまり残りの脚は六本ーーー実はその脚は大地から魔力を吸収しているパイプのようになっているんだ。その魔力供給を制御する魔水晶(ラクリマ)が、各脚の付け根付近にある』

 

『それを破壊すれば、ニルヴァーナを止められるんですか?』

 

『だけど一つずつではダメだ!六つ同時に破壊しなければ、他の魔水晶(ラクリマ)が破損部分を修復してしまう!』

 

なるほど、だが私が破壊したあの二本の脚は修復する間も無く破壊され、脚が分断したから修復される心配はないな。

ならば話は簡単だ。

 

『同時に破壊するタイミングを僕が計ってあげたいけど……もう念話が持ちそうにない。だから君たちの頭にタイミングをアップロードした、君たちならきっと出来る!!信じてるよ!』

 

その言葉と共に私の頭上にコンピューターなどでよく見かけるような読み込みバーが現れ、ピコーンという音と共に二十分という制限時間とニルヴァーナの地図が設定された。

 

「二十分以内に破壊しろという事か」

 

『そう、次のニルヴァーナが装填完了する直前だよ』

 

……まあ、仮に全て破壊出来なかったとしても私がここにいる限りは問題無いのだがね。まあ、それは言わない約束であり、最終手段だ。

 

『無駄な事を……』

 

その時、僅かなノイズと共に我ら以外の第三者が念話をジャックしてきた。

その声の主は、私が少し前に対峙していた男のものだった。

 

『誰だ!!?』

 

『この声……』

 

『ブレインって奴だ!!』

 

『違うな。オレはゼロ、六魔将軍(オラシオンセイス)のマスターゼロだ』

 

その声の主はつい数刻前までの何処か知性を感じさせる声色では無くーーーまるで人格そのものが変わったかのような声色で話始めた。

 

『まずは褒めてやろう。まさかブレインと同じ古文書(アーカイブ)を使える者がいたとはな……ワハハハ!!聞くがいい!光の魔導師よ!』

 

 

 

『オレはこれより全てのものを破壊する!!』

 

 

 

「ーーーーーー」

 

その言葉を聞いた時、私の心の内に芽生えた感情はなんだったのだろうか。

だがその言葉を聞いた瞬間、私の頭の中では唯一の盟友の言葉が蘇っていた。

 

 

 

『私は総てを愛している。故に総てを破壊する。天国も地獄も神も悪魔も、三千大千世界の総てを()そう。それこそがーーー我が覇道なり』

 

 

 

私の友は森羅万象遍く総てを平等に愛している。その愛の示し方はそれこそこの念話をジャックしてきた彼と同じように、破壊という再生よりも意味のある行為によってだ。

だがーーー彼は一体なんの為に全てを破壊する?

 

『手始めにてめえらの仲間を三人破壊した。滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)に氷の造形魔導士に星霊魔導士、それと猫もか』

 

『ナツくんたちが……!?』

 

『…………』

 

『そんなのウソよ!!』

 

自らの全力を出す為か?

万象全てを愛する為か?

あるいはーーー

 

『てめえらは魔水晶(ラクリマ)を同時に破壊するとか言ったなァ?』

 

特別強い渇望も何も無く、ただただ周りを破壊したいと言っている自らと自らの力に酔い狂っているだけなのか。

 

『オレは今、その六つの魔水晶(ラクリマ)のどれか一つの前にいる。オレがいる限り、同時に壊す事は不可能だ!!』

 

ーーーいずれにせよ、彼は私の盟友とは明らかに違う。いや、もはやそのように比べるという行為自体が間違っているな。

総てを平等に愛し、破壊する美しい博愛主義を実行する者と、そこらにいるようなただ泣き散らす子供のように破壊欲求を喚き散らす狂人ーーーすまないな、獣殿。彼は貴方と比べるような対象では無かったようだ。

それどころか貴方を目の前の狂人と比べる事自体、貴方に対する冒涜だった。ああ、私はなんと恥じるべき考えをしてしまったのだろうか。許してほしい。

故にーーー

 

「笑止な」

 

私が彼のその痴愚な考えを否定し、打ち砕く。

貴方と同じ破壊を求めたとしても、彼は貴方とは永遠に相容れない存在なのだからーーー

 

「お前がこの世の全てのものを破壊する?なんとも愚かな、無知蒙昧とはまさにこの事か」

 

『……何?』

 

『カール……?』

 

「お前如きなど、私の友の率いる一髑髏にすら劣る。その程度の力とくだらぬ俗物のような欲望で有象無象を破壊するなどと嘯くなよ。万象総てを破壊する我が友に対する冒涜だ」

 

困惑する声を相手にそう斬り捨てた後、私は彼に宣言する。

 

「お前には我が友の破壊の愛を一片だけ見せてやろう。喜べよ、本来ならばお前のような取るに足らぬ存在が見るべきものでは無いが特別だ。我が友の破壊の愛を感じながらーーー永劫この世からその魂ごと消え去るがいい」

 

そう言って彼ーーーゼロとの念話を強制的に遮断した。

 

「…………」

 

『…………』

 

私は先ほどのゼロとの念話でつい昂ぶってしまった感情を静かに息を吐く事で落ち着かせる。その間、先ほどの私の言葉を聞いていた連合軍の者たちは皆黙り込んでしまった。

おそらく皆、私があれ程まで激昂するとは思わなかったのだろう。

成り行きとはいえ、私が作り出してしまった微妙な空気に、どのような弁解をしようかと悩んでいるとーーー

 

『……カール、大丈夫?かなり怒ってたみたいだけど……』

 

私を心配してくれてるのか、ウェンディがそう聞いてきた。

私はそれに対して苦笑いする。

 

「心配はいらないよ、ウェンディ。すまなかったね、ついつい我を忘れて激昂してしまった。他の者たちもすまなかった」

 

『いや……いいんだ。私たちも奴に一言言いたかったからな』

 

『……とりあえずその話は後よ。今は誰がどこの魔水晶(ラクリマ)を壊すか決めないと』

 

「然り、だが生憎と私はこの場から離れるわけにはいかないな。もし君たちの中の誰か一人でも魔水晶(ラクリマ)を破壊出来ず、ニルヴァーナが再び放たれた際の保険として、私はここにいなければいけない」

 

実際、化け猫の宿(ケットシェルター)が消え去る、連合軍の者たちの人数が六人を下回る、その六人の内の誰か一人の魔力が尽きない限り、こちらには何度でもチャンスがある。

問題は六人も魔水晶(ラクリマ)を壊せる者がいるかどうかという所なのだがーーー

 

『わ……私……破壊の魔法は使えません……ごめんなさい……』

 

『っ!?こっちは二人だ。他に動ける者はいないのか!!?』

 

『私がいるではないか。縛られているが……』

 

『一夜か、これで三人だ!』

 

『まずい……もう……僕の魔力が……念話が切れ……』

 

『後三人だ!!誰か返事をしろ!!』

 

「……ナツ殿、グレイ殿、ルーシィ殿、ハッピー殿、聞こえているかね?立ち上がるのだよ。まだ最後の大仕事が残っているのだからね」

 

私は両目に倒れている三人と一匹の姿を映しながら言う。

 

『グレイ……立て。お前は誇り高きウルの弟子だ。こんな奴らに負けるんじゃない』

 

『私……ルーシィなんて大嫌い……。ちょっとかわいいからって調子に乗っちゃってさ。バカでドジで弱っちいくせに……いつも……いつも一生懸命になっちゃってさ……死んだら嫌いになれませんわ。後味悪いから返事しなさいよ』

 

『ナツさん……』

 

『オスネコ……』

 

『ナツ……』

 

『ナツくん……僕たちの……声が……』

 

そんな仲間たちの言葉は彼らにーーー届いていた。

 

 

『聞こえてる!!』

 

 

すでに体中傷だらけになり、どれ程肉体が痛めつけられようとも、その魂に光の輝きがある限り、彼らは立ち上がり続けるだろう。

 

『六個の魔水晶(ラクリマ)を……同時に……壊……す……』

 

『運がいい奴はついでにゼロも殴れる……でしょ?』

 

『後十八分、急がなきゃ……シャルルとウェンディのギルドを守るんだ』

 

その諦めぬ不屈の魂ーーー色鮮やかに輝いている!

 

「ははははははは!!本当に素晴らしい、その一言に尽きる。いやそれすら足らぬな。弁には自負があったのだが、どうにも陳腐な言葉しか思い浮かばんな。ふふふ……君たちは今この場において最も輝いている!」

 

『クラフト……さん……称賛は後に……今は、君たちの頭に送った地図に……各、魔水晶(ラクリマ)に番号を……つけたから……全員がばらけるように……』

 

『1だ!!』

 

『2』

 

『3に行く!!ゼロがいませんように』

 

『私は4に行こう!!ここから一番近いと香り(パルファム)が教えている』

 

「『教えているのは地図だ』」

 

『ちょ、エルザさんもクラフトくんもそんなマジで突っ込まなくても……』

 

知った事か。

 

『私は5に行く』

 

『エルザ!?元気になったのか!?』

 

「ウェンディのおかげでね」

 

『いえ、それ程でも……』

 

「謙遜する事はないよ、ウェンディ。では最後の一人は6に向かいたまえ。さあ、皆で協力してこの茶番劇を終わらせよう。その果てに君たちの望む結末があるのだから……」

 

そしてプツリと念話が切れる。それと同時に私はもう一つの魔法陣を形成し、それをニルヴァーナへと飛ばした。

 

「獣殿、貴方のその総軍の一部、ほんの刹那の間だけ借りさせてもらおう」

 

そして私は次の出番が来るまで、彼らの行動を俯瞰し始めるのだった。

 




今回のお話、いかがでしたでしょうか?
そして今回お話の内容について補足します。

水銀「君たちはニルヴァーナの脚が八本あると聞き、「あれ?」などとは思ってないかね?」

漫画の方では最初八本脚だったんですよね……。それがいつの間にか二本消えて六本に(苦笑)「マジで!?」とか思った人は漫画を確認してください(笑)

水銀「それにしてもこの小説のこお気に入りがここまで伸び、もう一つの作品のお気に入りを追い抜くとはな」

ちょっと微妙な気分ですね……。まあ、両方しっかりと読んでくれる方がいるだろうからいいんですけど……。

とりあえず今回はこの辺で……。
誤字脱字・感想意見等、よろしくお願いします!(感想いただきたい……)


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水銀の蛇は古代魔法を破壊する

投稿しまーす!っていうか本編が始まる前に一言ーーー


なぜこっちの作品の方がアブソよりお気に入り多い!?(笑)


水銀「まあ、あちらの方が色々と作者が至らない部分が多いからだろう。無論それだけではないだろうが」

やめろ……!あっちの方が色々と駄文だったり、やばかったりしてるのは自覚してるからやめろ……!

水銀「それよりも早く神咒神威神楽をやりたまえよ。こないだ買ってきただろう?それをやって、早くあちらの作品を進めるのだよ」

そうは言いますけどねぇ……色々とこっちにも出来ない事情があるんですよ!

水銀「無論知っているよ。その上で言っている。そもそも私はお前の事情など知らん」

…………

水銀「……この程度で沈黙するとは……まあいい。これの事は放っておいて、そろそろ本編を始めよう。では皆様、私の歌劇の続きをご覧あれーーー」



ーーー暗く、長い石造りの廊下に足音と息切れをしているような声が響き渡る。

 

「ハァ……ハァ……」

 

その二つの音は一人の青年から発せられていた。

彼はフラフラと今にも倒れそうな足取りで、しかしこの通路の先にある目的地をしっかりと目指して歩いていた。

 

(この先か……魔水晶(ラクリマ)とあいつがいるのは……)

 

もはや着ている服も一部破け、全身あらゆる所から血を流している青年は歩き続ける。

その通路の先に目的の物と敵がいる事を知りながらーーー

 

 

 

 

一番魔水晶(ラクリマ)の部屋ーーー

 

(やっとか……)

 

暗く、長い通路を歩いていた青年はようやく目的の部屋へと辿り着いた。

その部屋には、青年の目的の物となる大きな魔水晶(ラクリマ)とーーー

 

「フン、まだ生きてやがったのか」

 

その魔水晶(ラクリマ)の前に、気持ち悪い程の凶悪な魔力を全身から放つ男の姿があった。

その男ーーー六魔将軍(オラシオンセイス)ギルドマスター、ゼロは桜色の髪をした青年を嘲笑う。

 

「何しに来た?クソガキ」

 

さっきは息の根止める位まで痛めつけた筈だが、また無謀にも壊されに来たのかーーーそんな事を考えていたゼロは、桜髪の青年がニッと笑うのを見て、さらに残虐な笑みを深める。

 

「壊れんのはオレか、おまえか。どっちだろうな」

 

桜髪の青年ーーーナツは心の底から楽しんでいるような笑みを浮かべながら、右手に炎を纏わせてゼロに殴りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーふふ……いよいよ始まったか」

 

化け猫の宿(ケットシェルター)前の空中、そこに一人浮いていたメルクリウスは一番魔水晶(ラクリマ)のある部屋で戦闘を開始したナツとゼロを右目に映して見ていた。

 

「互いの思惑が衝突し、互いの意地を全力でぶつけ合う。彼らは譲れぬ結末を迎える為に戦っている」

 

メルクリウスは嗤いながら独白する。

 

「方や万象全てを破壊するという愚行の為、方や仲間たちの思いを背負い、守るという素晴らしき行いの為ーーーそれぞれ戦う理由はありきたりだが、それ故に他のどのような戦いよりも優れて見える」

 

破壊か、絆かーーーどちらが相手を打ち破り、勝利するのか。

 

「本来ならば、どちらが勝つのかなど予想がつかないのだがーーー今回ばかりはあの青年に勝ってもらわなければならないな」

 

そう自嘲めいた笑いを浮かべたメルクリウスは続いて、左目に別な世界で戦闘を繰り広げている者たちを見る。

 

「そしてこちらもこちらで素晴らしい。我が友の爪牙であるベイに啖呵を切り、自らの思いを力に変えて戦う妹とそれを見て自らの思いも形にしようとしている兄ーーー君たちはまだ未熟ながらも、私が思い描いた結末へいずれ至るだろう」

 

故にーーーとメルクリウスはこの世界の魔法陣とは別の魔法陣を自らの周りへと大量に浮かべ、暗く輝く翠の双眸に二つの世界を映しながら言葉を紡ぐ。

 

「君たちのその意志、そして魂の輝きにこの言葉を贈らせてもらおう。受け取れよ、これ程名誉な事はあるまい」

 

そしてメルクリウスは腕を振り上げて謳う。その意志こそが至高であり、彼らと自らが望む結末に関わってくると直感しながらーーー

 

 

 

 

「Verum est sine mendacio,certum:

これは疑いもなく確か且つ、これ以上の真実はないというほどの真実である」

 

「Quod est inferius est sicut id quod est superius,

すなわち下にあるものは上にあるがごとく」

 

「et quod est superius est sicut id quod est inferius,

上にあるものは下にあるものがごとし」

 

「ad perpetranda Miracula rei unius.

それは唯一なるものの奇跡の成就のためである」

 

 

 

 

「ではこれより、今宵の恐怖劇(グランギニョル)を始めよう」

 

 

 

 

そして一つの古代魔法を巡る物語はいよいよ終結へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやらその力……まだ完全には引き出せてねぇようだなァ!!」

 

「ぐはぁっ!!」

 

一番魔水晶(ラクリマ)内では、現在凄まじいまでの戦闘が繰り広げられていた。

 

「こんなモノか!?ドラゴンの力は!!太古の世界を支配していたドラゴンの力はこの程度か!!!」

 

戦っているのは全てを破壊せんとする魔力を容赦無く相手へと叩きつけているゼロとーーー

 

「ぐっ!ごぁっ!!」

 

そんなゼロにひたすら蹴られ続けながらも、必死に耐えているナツだった。

ナツは現在、記憶を失っているジェラールから託された(とが)の炎を食べ、ドラゴン・フォースという滅竜魔法の最終形態を発動させていた。

その魔力はドラゴンにも等しいと言われる全てを破壊する力ーーーしかしその力を持ってしても、ナツはゼロに苦戦していた。

 

「オレは六魔将軍(オラシオンセイス)のマスターゼロ。どこかの一ギルドの兵隊とは格が違う。てめえ如きゴミが一人で相手出来る訳がねーだろうが」

 

そう言いながら、ゼロはナツが立ち上がるのを待つ。

面白い、実に壊し甲斐のある男だと嘲笑を浮かべながら。

そしてナツはそんなゼロの考え通りに立ち上がろうとする。

 

「一人じゃねぇ……」

 

「ん?」

 

「伝わってくるんだ……皆の声……皆の気持ち……」

 

その時、ナツの脳内には今回の作戦で共に支え合っていた仲間たちの顔が、想いが駆け巡っていた。

 

「オレ一人の力じゃねぇ……皆の想いが……オレを支えて……オレを!今ここに!!立たせている!!!」

 

その啖呵と共にナツの全身を、荒れ狂う金色の炎が包み込む。

それを見たゼロはフッと笑い、今までよりも凶悪な魔力を集めながら、円を描くように両手をゆっくりと回す。

 

「粉々にするには惜しい男だが、もうよい。楽しかったよ。貴様に最高の“無”をくれてやろう。我が最大魔法をな」

 

それにナツは自らの魔力を爆発的に増幅させながらゼロを倒すべく、太古の世界を支配していたドラゴンの息の根をも止める程の奥義を行使する。

 

「滅竜奥義……紅蓮爆炎刃!!!」

 

対してゼロは冥界からの亡者たちを呼び出す自らの最大魔法を行使する。

 

「我が前にて歴史は終わり、無の創世記が幕を開けるーーー」

 

そしてゼロの両手に集っていた黒い緑色の輝きはやがて一箇所に集まり、宣言と共に弾けた。

 

「ジェネシス・ゼロ!!!」

 

その言葉と共に邪悪な輝きから、苦しみと怨念の叫び声を上げる亡者が幾百と現れる。

 

「開け、鬼哭の門ーーー無の旅人よ!!その者の魂を!!記憶を!!存在を喰いつくせ!!」

 

魔法の行使者であるゼロの命令により、名も無き亡者たちは金色の炎を纏うナツへと襲来する。

 

「消えろ!!ゼロの名の下に!!!」

 

そしてナツは(おびただ)しい数の亡者たちに飲み込まれていく。

ナツは飲み込まれまいと抵抗するものの、亡者たちの勢いに負けーーー亡者たちがひしめく無の世界へと飲み込まれていった。

 

「ふむ、少し位は足掻くと思ったが……存外呆気なかったな」

 

それを見たゼロは興が削がれたというように呟いた。

ナツが飲み込まれる直前に、この世界のものではない魔法陣が現れていた事には気付かずにーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレは……くそ……力が……」

 

何も聞こえず、何も見えず、一片の希望の光さえも差す事の無い空間。

ゼロの魔法に飲まれたナツはただ一人、悔しそうに呟きながら揺蕩っていた。

 

「ルーシィ……グレイ……エルザ……ハッピー……シャルル……ウェンディ……他の皆も……すまねぇ……」

 

一人一人の仲間の顔を思い出しながら、ゼロを倒せなかった事を謝罪するナツ。

そこにはいつものナツらしくない弱々しく姿があった。

 

 

 

 

そんな時、ふとナツの目の前に一つの薄暗い光を放つ小さな球体が現れた。

 

「なんだ……これ……?」

 

現れたその球体はゆっくりとナツの目の前へと近付きーーー語り出した。

 

『例えば、己の一生が全て定められていたとしたらどうだろう』

 

『人生におけるあらゆる選択、些細なものから大事なものまで、選んでいるのではなく、選ばされているとしたらどうだろう』

 

『無限の可能性というものは幻想であり、人はどれだけ足掻こうとも定められた道の上から降りられない』

 

「この声……クラフトか……?」

 

そんなナツの問いかけを無視して光球は独白を続ける。

 

『ならば、君があの男によってこの世界に未来永劫、幽閉されるという事も初めから定められていたという事になる』

 

『君の未来は初めからどう足掻こうとも、このような終わりと決まっていたのだという事になる』

 

「なん……だと……?」

 

メルクリウスの声が聞こえる光球からの言葉にナツは残された力で光球を睨む。

しかしそれでも光球は語り続ける。

 

『別段驚く事でも無い。君は知らないだろうが、かつて今から数百年前はそのような理が数多の並行世界を覆っていたのだからね』

 

『富める者は富めるように、貧しき者は飢えるように、善人は善人として、悪人は悪人としてーーー未来永劫、死に至った瞬間にその者の魂は母親の胎内へと刹那の間も無く回帰し、再び同じ道を繰り返す』

 

「…………」

 

『富を得た者は運命という名のものに与えられた虚構の玉座を得て満足し、持たざる者は何度も理不尽な結末を与えられる。ーーーその事実を知った君は、そのような運命を知って笑えるかね?』

 

ここで初めて光球がナツへと問いかけた。

今の光球の話が本当だとするならば、ナツがこのような結末になるのは絶対的な予定調和という事になる。

それどころかナツが今まで会ってきた人たちや、倒した敵さえも全て運命によってそうなるように決められていたという事だ。

そんなふざけた話があるだろうか。

だからーーー

 

「笑える……わけ、ねぇだろ……!」

 

そう答えると同時にナツの魔力が再び練り上がり始め、彼の周りに薄っすらと金色の炎が現れ始める。

 

「お前の話が本当なら……エルザが泣いたのも……グレイの過去も……ルーシィやハッピーと楽しく過ごせていたのも、ウェンディやシャルルと会ったのも全部仕組まれていたって事だろ……?」

 

『然り』

 

「ふざけんじゃねぇーーーーーっ!!!」

 

瞬間、ナツの叫びと共に、彼の魔力と薄っすらとしていた金色の炎が一気に無の世界を照らしていく。

 

「オレはそんな話なんて信じねぇ!運命は他の誰かに決められるものじゃねぇ!オレが!オレたちが自分で決めるもんだ!!」

 

自分のギルドや、他のギルドの仲間の意志すらも全て誰かの掌の上だなんて絶対に認めない。

そんな魂の叫びを聞いた光球は薄っすらと輝き始める。

 

『ふふ、ふふふふふ……まったく、君は熱い男だ。だがーーー悪くない』

 

そしてその光球は次第に黄金の光を帯び始め、さらに周囲の無の世界を容赦無く照らして侵食し始めた。

 

『正直、私もこのような結末(終わり)など認めん。私とて彼女の笑顔を守りたいと思っているからね。故にーーーこの世界から抜け出すのだ、竜の子よ』

 

『その黄金の輝きを持って、彼の者の願いを、意志を打ち砕け』

 

「言われなくても……やってやんよ!!!」

 

瞬間、何も無い無の世界が全てを燃やし尽くさんとする黄金の炎で覆われた。

 

 

 

 

 

「ーーーバカな!?」

 

その時、ゼロは目の前で起こったあり得ない光景に瞠目した。

なぜなら完全に無の世界へと落ちた筈の(ナツ)が今、無の世界へと亀裂を入れ、万を超える亡者たちを焼き殺しながら自分へと向かって来ているのだ。

さらに瞠目すべき所はもう一つあった。

 

「金色のーーー髑髏だと!?」

 

ゼロの魔法を燃やし尽くしているナツの周りには、銃剣を手にしてナツが焼き殺せなかった周りの亡者たちをどんどん討ち取っていく十体程の黄金の髑髏たちがいたのだ。

万を超える数の亡者たちに対し、その全てを燃やし尽くす程の黄金の炎を纏っているナツと、僅か十体という少数ながらも圧倒的な力を見せつける黄金の髑髏に対して瞠目していたゼロの脳内に突然声が響く。

 

『これが我が友の軍勢のほんの一部。永劫に戦い続け、総てを破壊し呑み込まんとする髑髏の軍隊。お前の呼び出した亡者など彼らにとっては、何の力も持たない赤子と同義だ』

 

その声はゼロが連合軍の魔導士たちの念話をジャックした際に聞いた男の声だった。

 

『お前の持っている全てを破壊する力など、彼らの前では塵芥に等しい。なぜなら彼らこそが真にこの世界を破壊せんとする力を有しているのだからね』

 

お前の言う破壊など取るに足らないと断じた男は、この状況が心底愉快でたまらないと言ったかのような声色で言う。

 

『さあーーー行くがいい、竜の子よ。私を憧憬させるような乾坤一擲を全力で放て』

 

「おう!!」

 

吹き荒れる黄金の爆炎、まるでドラゴンを思わせる程の咆哮、踏み出した足はドラゴンの強靭な足を思わせる。

ゼロはそんなナツを見、一瞬だが彼が太古の世界を支配していたドラゴンの姿を幻視する。

そのような隙を逃すナツではない。彼は瞬きする間も無くゼロを殴り飛ばして宙に浮かばせる。

 

「全魔力解放ーーー滅竜奥義“不知火型”!!」

 

黄金の炎と紅蓮の炎を混ぜ合わせた強大な炎がナツを中心に渦を巻き始める。そしてーーー

 

「紅蓮鳳凰劍!!!!」

 

足元に作り出した魔法陣から一気に飛び出し、全身に黄金の炎を纏わせながらゼロに突き刺さる。

まるで巨大な炎剣の如き姿となったナツは、まるでドラゴンか鳳凰が天へと飛翔するように昇っていき、ニルヴァーナの階層を破壊しながら上へと向かう。

 

「ぐあああああ!!!」

 

「うおおおおお!!!」

 

そして全ての階層を突き破り、目標の魔水晶(ラクリマ)の部屋へと到達したナツは、そのままの勢いでゼロごと魔水晶(ラクリマ)へと突撃し、破壊した。

 

 

そして同時刻、他の魔水晶(ラクリマ)の部屋ではーーー

 

氷雪砲(アイス・キャノン)!!!」

 

氷の造形魔法で作り出されたミサイルランチャーから撃ち出された氷の塊の一撃が。

 

「「「いっけえええ!」」」

「モオオオ!!」

 

黄道十二門の中で最も攻撃の強い精霊による一撃が。

 

「メェェェン!!」

 

力の香り(パルファム)によって強化された肉体の一撃が。

 

「ハァァァ!!」

 

攻撃力を格段に上げる鎧を纏っての一撃が。

 

「天竜の……咆哮!!!」

 

そして自らの内へと眠っていたドラゴンの力を風を纏う咆哮へと変えて放った一撃が。

 

 

文字通り、全員が乾坤一擲として放った一撃は見事に全ての魔水晶(ラクリマ)を破壊し、爆発と共にニルヴァーナを崩壊させ始めた。

 

 

 

 

 

『見事』

 

 

 

 

 

そのような大業を成し遂げた英雄たちをその目に映した道化は、たった一言のーーーしかしそれでいて実に至高であるといった感情を感じられる声で称賛するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

脚が破壊されてバランスを失い、崩れゆくニルヴァーナを見ていた私は、自然と自らの頬が緩むのを感じていた。

 

「実に素晴らしい。本当に一回で成功させるとはーーー」

 

正直失敗した時の事を考え、色々と準備していたが杞憂だったようだ。

ちなみに失敗した場合は、髑髏たちに代わりに破壊させるつもりだった。あるいは連合軍の者たちに対して結界を張った後、ニルヴァーナを超新星爆発で消し飛ばそうかとも思っていたのだが。

 

「だが、まだ最後の仕上げが残っているーーー聞こえるかね?」

 

そして私はニルヴァーナを破壊した英雄たちに向かって語り掛ける。するとーーー

 

『クラフトか!?すまないが今それどころじゃーーーくっ!』

 

『メェーン!』

 

『やべーぞ、こりゃ……さっさと脱出しねぇと瓦礫で埋れちまう!』

 

『ウェンディ、こっちよ!!早く逃げないと!!』

 

『待って、シャルル!』

 

ニルヴァーナを破壊した者たちが降ってきているだろう瓦礫をよけながら、必死に脱出を図っている状況が伝わってきた。

そんな状況の中で告げるのはいささか気が引けるが、とりあえずこれから私がやる事を彼らに告げた。

 

「逃げながら聞きたまえ。まずはニルヴァーナの破壊、見事なり。惜しみない喝采を君たちに送ろう」

 

『そりゃどうも!!うおおおっ!』

 

「しかしこれで終わりではないだよ」

 

『え?』

 

私の言葉に全員が耳を疑うように聞き返してきた。

そう、まだ終わりではないのだ。

 

「ニルヴァーナは君たちが破壊した。しかし数年後、もし仮に大きな力の持った者がニルヴァーナを修復してしまったのならば、今回の作戦が全て水泡と帰してしまう。故にニルヴァーナは跡形も無く、完全に消し去らなければならない」

 

今目の前で大きく崩れて原型が無くなってしまおうとも、この世界の魔導士の中には修復系の魔法を使う者もいるだろう。

そんな輩が集まってニルヴァーナを再び動かせるようになるまで修復してしまえば、それこそ元の木阿弥だ。再び同じ事が繰り返される。

 

『つまりお前がニルヴァーナを完全破壊すると?』

 

「然り、既にニルヴァーナを消し去る魔法も組み上がっている。撃とうと思えばいつでも撃てるがーーー四十秒。君たちが脱出するまで待とう。それまでに脱出出来なければーーー言わずとも分かるだろう?」

 

『急げぇぇぇ!!!』

 

『うおおおおおおおっ!!』

 

事の結末を理解した者たちは、揃って早急に脱出しようと走り出した。

 

 

 

そして念話で破壊宣言をしてから三十秒が経った頃、私はこの世界の魔法とは別のーーー自らの本来の占星術を紡ぐ。

 

 

「sic itur ad astra

このようにして星に行く」

 

これは私からしたら前座にも及ばないものだがーーー威力はニルヴァーナ(これ)を粉々にするには十分だろう。

ふと、連合軍の者たちを見るとどうやら全員が脱出したようだ。六魔将軍(オラシオンセイス)?知らん。

そしてさらにニルヴァーナを囲うように結界を展開し、最後の一句を告げる。

 

「sequere naturam

自然に従え」

 

瞬間、上空から純粋な魔力のみで構成された流星群が大量に降ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな無事か!?」

 

「ぷはー」

「あぎゅー」

 

「エルザさ〜ん、よかったぁ」

 

「な、何だ、その体は!?」

 

「我らも無事だが……」

 

「ナツさんとジェラールがいない!!」

 

ニルヴァーナから急いで脱出した者たちはニルヴァーナから少し離れた森の中で合流を果たした。そしてーーー

 

「愛は仲間を救う……デスネ」

 

ニルヴァーナによって改心したホットアイによってナツとジェラールも合流し、皆の顔に笑顔が戻る。

 

「これで全員脱出か。ところでクラフトはどこだ?」

 

「カールなら私たちのギルドの前にーーー」

 

そうウェンディが言った瞬間、突然ニルヴァーナ全体を囲う結界が現れた。

 

「結界?……クラフトはニルヴァーナを完全破壊すると言っていたが、一体どうするつもりだ?」

 

「それは……私にも分かりません。でもきっと、とてもすごい魔法を使、うと……」

 

するとウェンディは何かに気付いたかのように視線を空へと向ける。そしてその何かの正体が分かったウェンディは段々と顔を青ざめさせ、恐怖に満ちた表情を浮かべた。

それに気が付いた他の者たちも、揃ってウェンディが視線を向けている方向を見る。

そしてーーー

 

「ーーーーーー」

 

「何、だよ……あれ……!?」

 

彼らもまた、ウェンディと同じように顔面を青ざめさせた。

 

 

そこにあったのはまさに絶望や悪夢といった言葉を体現したかのような光景。

ーーーワース樹海の空の約八割程を覆い尽くさんとする百を超える流星群が、絶望的や強大といった言葉すらも陳腐に思えてくる程の魔力を持って降ってくる。

凄まじい炎を纏った流星はニルヴァーナへと落下する度に、恒星が爆発したかのような光と轟音を辺りに響き渡らせる。

墜落した流星はニルヴァーナごと地表を巻き上げ、地面に巨大で底が見えない程深いクレーターを作り上げる。

そんな天変地異というに相応しい光景がどれ程の時間続いただろうかーーー百を超える流星群が全て落ち、周辺を舞っていた砂埃が晴れると、そこには大小様々な大きさと深さを持ったクレーターが無数に出来上がっていた。

当然ながら、ニルヴァーナは跡形も無く文字通り消え去っていた。

 

『ーーーーーーーーー』

 

そのような時間にして僅か一分にも及ばない時間の間に起きた出来事に、ナツたちは顏を青ざめさせながらただただ呆然と立ち尽くしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、少々やり過ぎてしまったかな?」

 

流星群全てを残らずニルヴァーナへと叩きつけ、出来上がった目の前の光景に私は苦笑いしながら呟いた。

いや、正直に言うと少々どころかオーバーキルという言葉すら甚だしく、やり過ぎだと言われても否定出来ないレベルの被害になってしまったのだがーーーまあ、過ぎた事なので考えるのをやめよう。

魔力反応を探ってみると、辛うじて結界内にいた六魔将軍(オラシオンセイス)の者たちもなんとか生存しているようだ。最も死んでいたとしてもどうでもいいがね。

 

「ーーーさて、どうやらあちらも終わったようだ」

 

とりあえず目の前の問題を丸々棚上げした私は、もう一つの世界を覗く。

そこにはベイと戦い、見事退けた例の兄妹が学園へと運ばれる光景が映る。

 

「獣殿、そちらの歌劇もまた素晴らしいものだった。是非とも貴方の感想を聞きたいな」

 

そう呟いた私は、我が友の城へと転移した。




水銀「ふむ、そしてこれの後に私はアブソ作品の第八話に登場すると……」

そういう事になります。ちなみに水銀の流星群詠唱はkkkの夜刀を参考にさせてもらってます。本来水銀が流星群降らせる場合は無詠唱なのですが、それでは華が無いので(笑)

水銀「我が愚息もあの世界では流星群を降らせる事が出来るのだったな。そもそも私の血や力を持つ者ならあの程度出来て当然だが」

ということは、あっちの世界のあの二人も……。

水銀「大成するかどうかは別だがね。では今回はこの辺りで一旦幕を閉じよう。誤字脱字・感想意見等、よろしく頼むよ」


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水銀の蛇は全ての真相を暴く

はい!久しぶりの投稿です!
ってかお気に入りが300越えって何故!?私何かしたっけ!?
思い当たるのはkkk買ったって事か……あるいは……。

水銀「あるいは?」

……まあいいや、詳しくはあとがきで書きます!とりあえず本編に入りましょう!

水銀「……相分かったよ。では始めようか」



ニルヴァーナ破壊から一晩が経過した。

私は魔導士ギルド、化け猫の宿(ケットシェルター)がある集落の建物内で一人、椅子に座って別世界のある光景を両目に映していた。

 

「すまないな、ヴァルキュリア」

 

私の目には現在我が愚息に質問責めされ、少々あたふたとしながら答えているヴァルキュリアの姿がある。

なぜ彼女がそのような姿を晒しているのかーーーまあ、それは向こうの第八話辺りを読んでみれば分かるだろう。……ん?メタい事を言うな、だと?知らんよ。

 

「それにしても、昨日はやはりやり過ぎてしまったようだな」

 

昨日のニルヴァーナ破壊後ーーー私はグラズヘイムへ転移し、獣殿と短い会話を交わした後に再びこちらの世界へと戻ってきたのだがーーーやはりというか化け猫の宿(ケットシェルター)へ入った瞬間に、先に戻ってきていた連合軍から凄い様相で質問責めにあったのだ。

あの魔法はお前が本当にやったのか?だとか、あれ程の魔法をどうやって身に付けたか?とか聞かれたよ。まあどれも曖昧な返事を返しておいた。

私がそういう曖昧な返しを繰り返していたからなのか、幸いにも質問責めは僅か十分程で終了した。

結局、あの流星群は私が降らせたとんでもない威力の“魔法”だという理解に収まったようだ。それでもまだ色々聞きたそうな者たちは居たがね。

 

「カール、入ってもいいですか?」

 

「ウェンディかい?構わないよ」

 

そんな事を考えていると、建物の入り口の方からウェンディの声が聞こえてきた。

両目に映していた光景を瞬きする事で消した後に了承の意を返すと、この集落で作られているという服を着たウェンディが入ってきた。その横にはウェンディの友人であるシャルルの姿もある。

 

「ふむ……その服装、美しく可憐な君によく似合っている。確かここで生産されたものだったかな?」

 

「あ……う、美しく可憐……は、はい。ここは集落全部がギルドになってて、私が着ているような服とかの織物の生産も盛んなんです……」

 

ウェンディの服が昨日と変わっているのを見て、誇張などせずに感想を述べると、彼女は顔を真っ赤にして俯きながらそう説明してくれた。聞けばウェンディの服はニルビット族に伝わる伝統的な織り方で作られたものらしい。

ちなみにウェンディとシャルルはギルドの者全員がニルビット族の末裔だとは今まで聞いた事が無く、知らなかったようだ。まあ、彼女たちだけ後に入ったようだからそれも仕方ないだろう。

最も彼女たちがそれを知らされてなかった理由は他にもあるだろうが。

 

「そ、それよりもカールのその服装は……?」

 

「ああ、この軍服の事かな?」

 

ウェンディが若干戸惑いながら聞いてくるのも無理は無いだろう。なぜなら私は現在、黒円卓の軍服を着ているのだから。

 

「これは私が以前所属していた軍のものであり、私にとっての正装でね。今日はこの後、ギルドの前で正式に任務完了の報告をすると聞いて着てきたのだよ」

 

正直ボロボロのローブ(いつものもの)を纏っていてもいいのだが、正式な場と聞いたのであれでは失礼だろうと思い、念の為これを着てきたのだ。

 

「どこかおかしい所でもあったかな?」

 

「い、いえ!むしろよく似合ってます!なんか……随分昔から着慣れてるって感じに見えます」

 

随分昔から着慣れてる……か。確かに第四天として座に居た本体の私はほとんどこれを着ていたので、その通りといえばそうなのだが。

 

「それにしても見た事のない軍服ね。どこの軍に所属してたの?」

 

「この大陸から遥か西に行った所にある国だ。名はあまり知られていないがね」

 

私がそう説明すると、シャルルは「ふーん」と言って納得したようだ。

ちなみに私がかつて所属していた国を言わない理由は至って単純で、この世界にはドイツという国が無いからである。存在しない国の名など言ってもどうしようもない。他にもアメリカやロシアなどといった大国もこの世界には無い。しかし東洋には日本と似たような文化を持つ大陸もあるらしい。

このような別の世界にはあって、こちらには無いといった多元宇宙は珍しくない。むしろ全く同じ歴史、事象、概念が存在している世界の方が珍しいだろう。

多元宇宙は存在している数だけ、様々な歴史、事象、概念がある。

例えば魔法がある世界と無い世界。

男性のみが存在する世界や逆に女性のみが存在する世界。

もしかしたら人間という存在が居らず、人外のみが蔓延っている世界などもあるだろう。

それだけこの多元宇宙というのは無限の可能性を秘めているのだ。

 

「へぇ〜……カールって元軍人さんだったんだ……知らなかった……」

 

「随分昔の事だったからね。今は各地で占いをしながら流離っているしがない詐欺師に過ぎない」

 

「詐欺師って……カールはあまりそんな感じに見えないけどなぁ……」

 

「騙されちゃダメよ、ウェンディ。詐欺師に見えないような立ち振る舞いをするのが詐欺師ってもんなんだから」

 

いやはや、全くもってシャルルの言う通りである。

 

「けどあんたは今回の件で私たちのギルドを守ってくれたり、他の人たちを助けてたりしてたから、私もあんたを詐欺師とは思ってないけどね」

 

「ほう、つまり最初会った時は私を疑っていたと」

 

「当然でしょ。ウェンディと一ヶ月も一緒にいたとはいえ、そんなのは今から七年も前の話よ。それに七年前って言ったらウェンディもまだ幼かっただろうから、あんたに何かしら騙されてたって可能性も否定出来ないわ」

 

「ごもっとも」

 

最も、当時五歳のウェンディと十を少し過ぎた位のジェラールを相手にして何を騙すのかという話なのだが、突っ込んでも余計に話が拗れる上に、意味が無いので無視する。

 

「それはそうと二人はなぜここに来たのかな?何か私に用でも?」

 

「あっ、忘れてました……広場の方に皆さんを集めるように言われたので呼びに来たんですよ」

 

「おや、招集がかかっていたのか。ならば急いで向かうとしよう」

 

椅子から立ち上がり、軽く埃を払い落とした私はウェンディとシャルルに案内されながら建物を出た。

私がいた建物はこの集落の比較的外側に位置しており、目的の広場に着くまで二分程掛かる。

その間、何も話さないのは気まずいとでも思ったのか、ウェンディが話題を出してきた。

 

「そういえば、さっきシャルルが言ってて思ったけど……私がジェラールとカールに出会ってから七年も経っているんだよね……」

 

「そうだね」

 

七年ーーー神であった私にとっては瞬きしている間に過ぎ去ってしまう刹那の時間。

しかし、人の身である彼女にとっては非常に長い年月に感じられるだろう。

 

「……ねえ、カール。七年前のあの時と比べて……私って色々変わった……?」

 

ウェンディはどこか自身がなさそうな顔でそう問いかけてきた。

それに対して私は少し考え、思った事を包み隠さず話す。

 

「あくまで私個人の意見だが……そこまで変化していないように感じるね。気が弱くおどおどした所など七年前よりかは少なくなったとはいえ、今でも見受けられる」

 

「そう、ですか……」

 

私の言葉を聞いたウェンディは思い詰めるかのように呟いて俯いてしまった。

 

「今のままじゃ……ダメなんですかね……」

 

「別にダメというわけではないよ。それは君自身の唯一無二の個性でもあるから変えろと言う気は無い。まあ、もう少し自分に自信を持つべきだとは思うが」

 

「ほら、クラフトもこう言ってるでしょ。あんたはやっぱりもう少し自分に自信を持つべきなのよ」

 

「でも……私は皆さんに色々迷惑を掛けてしまったし……」

 

どうやら彼女は色々あり過ぎて、昨日私が言った事も忘れてしまったようだな。ならばもう一度言うしかあるまい。

 

「ウェンディ、昨日私は言った筈だ。訪れた不幸に理由をつけて自らを貶めるのはやめたまえ。自責と自傷は尾を噛む蛇であり、キリが無く、果ても無いと」

 

「…………」

 

「それに君が居なければ救われなかった者たちもいるとも言った筈だ。最後の魔水晶(ラクリマ)破壊とて、君の協力がなければこうして私とゆっくり話す事や、今回の作戦で集った仲間たちが全員無事な事、さらに君たちのギルドの者たちが生きている事も無かった筈だ。誰も君を迷惑だとは思ってはいないよ。むしろ皆、君が居た事に感謝しているだろう。私が保証しよう」

 

今回の作戦は実際、誰か一人でも欠けていたのならこのような結末にはならなかっただろう。

最終的にジェラールが逮捕されたりと、全てが大団円という結末にはならなかったがね。

 

「…………」

 

「……ウェンディ、七年前君が一人でグランディーネを探そうとした時に私が何と言ったかーーー覚えてるかい?」

 

「……うん、覚えてるよ」

 

困った時は人に頼れ、それが生きるという事なのだからーーー私は七年前、迷惑をかけまいと一人でグランディーネを探そうとしていたウェンディにそう言った。

 

「それは重畳。ならば特段思い悩む必要も無いだろう?君は今、仲間たちと共にこの瞬間を無事に生きているのだからーーーそれを誰も迷惑だ、なんて思わんし、口を挟む権利も無いよ。無論私もね」

 

「……そっか……そうだよね」

 

するとウェンディは何が吹っ切れたような顔をして、私を見上げた。

 

「ごめんね、カール。こんな事言っちゃって……それとーーー」

 

「ん?」

 

ウェンディがそこで言葉を切った事に私は首を傾げるとーーー次の瞬間、ウェンディが私へ抱きついてきて、顔を上げて言った。

 

「昨日は色々あって言えなかったけど……私とシャルルのギルドを、そして皆さんを守ってくれてありがとう……!」

 

「ーーーーーー」

 

「カールが居なかったら、きっと今回の作戦は大変な事になってたと思う。もしかしたら誰か死んじゃってたかもしれない……それをカールは守ってくれた。本当に……本当にありがとう!」

 

ーーーああ、私としたことが刹那の間とはいえ我を忘れて見入ってしまった。彼女は実に綺麗なーーー思わず見惚れてしまう程の笑みを浮かべる。

以前の旅路の時にも彼女の笑顔はよく見たものだが……これ程までに美しく、讃えたいと思った程の眩しい笑みは今まで無かった。マルグリットの笑みには及ばないが……これもまた悪くない。

 

「ふふ……礼には及ばないよ。私は私のやりたい事をしただけだからね」

 

そう言って彼女の髪を()くように撫でる。

彼女の髪は撫でていて、どこかに引っかかるような感じはせず、彼女もまた女性らしく髪にしっかりと気を遣っているのがよく分かる。おそらく触り心地もいいだろう。手袋をしているので詳しい触感は分からないが。

 

「それでも、だよ。……ねぇ、カール」

 

私の名を呼んだウェンディは、迷ったように視線を彷徨わせた後、改めて私の顔を見上げて訊く。

 

「一つ聞きたいんだけど……カールはこの後の作戦の報告会が終わったら……またどこかに行っちゃうの?」

 

「…………」

 

「……私ね、もっとカールと話がしたい。この七年で面白かった出来事とか話したいし、カールの話も聞きたい。それにたまにでいいから、また前みたいにいろんな所に一緒に出かけたいよ」

 

「ウェンディ……」

 

「…………」

 

「だから……こんな事言うのは私のわがままで、勝手な事だって分かってるけど……前と同じように……私と一緒に居てほしいな……なんて……」

 

シャルルの若干驚いたような声を尻目に、ウェンディは語尾を段々と小さくしながら言った。

それにしても私と一緒に居たいとはーーー私の事を嫌っている者たちが聞いたなら果たしてどう思うだろうか。少なくともベイやマレウス、ヴァルキュリア辺りはそんな発言をしたウェンディの正気を疑うだろうな。まあ、そのような面子の反応など私にとってはどうでもいいが。

ーーーそしてこのお願いは、ウェンディに興味のある私にとっても願ったり叶ったりなお願いでもあった。

 

「……やれやれ、そこまで頼み込まれた上にそのような顔をされてしまっては敵わないな。本来ならもう少し流浪の旅を続けるつもりだったのだがね」

 

「カール……」

 

「君のわがままとやらに付き合ってみるのもまた一興。私としても君に色々と問いたい事もあるからね」

 

そう返すと、ウェンディは花が咲いたような笑みを浮かべてくれた。

 

「ありがとう!じゃあ、報告会が終わったら二人でいっぱい話そうね!」

 

「ああ、そうするとしよう」

 

「……お二人さん、楽しそうに話している所悪いんだけど、そろそろ行かないと皆待ちくたびれてるわよ」

 

「「あ」」

 

そんな中、シャルルの指摘に私たちは揃って声を上げる。

そういえばつい忘れてしまっていたが……私たちは招集を掛けられていたのだったな。

 

「ふむ……確実に待ちぼうけているだろうな」

 

「そんな他人事みたいに言わないの!ほら、行くわよ!……後、そういうのはもうちょっと場所を選んでやってちょうだい」

 

「あっ!待ってよ、シャルル〜!」

 

そう言って先を歩いていくシャルルに私たちはついていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから約一分後、私たちは少し駆け足気味に招集場所である広場へと辿り着いた。

そこにはすでに私たち二人(と一匹)以外の全員が揃っており、化け猫の宿(ケットシェルター)の者たちも揃っていた。

 

「ふむ、私たちが最後かな?」

 

「おっ、やっと来たかーーーってクラフト、その軍服は……?」

 

私の姿を確認するなり、困惑したような表情で問い掛けてきたエルザ。見ると他の者たちも皆、私の服装に困惑しているようで訝しげな表情を浮かべていた。

それに対して私は先ほどウェンディに答えた返答と同じ答えを返す。

 

「お前、軍属だったのか!?」

 

「“元”だがね。今は当てもなく各地を風に運ばれる木の葉のように流離っている身だが」

 

「ちなみにどれ位勤めてたんだい?」

 

どれ位勤めていたか、か……。ふむ……。

 

「さて……十五年程だろうか。そして退役したのは……八年前だったかね」

 

「……えっ?ちょっと待って……計算が……」

 

「……クラフト、あんたーーー何歳なのよ?」

 

真っ先に私の矛盾に気が付いたのはルーシィとシャルルだった。

察しのいい者なら分かるだろうが、私の先ほどの回答が真実ならば私の外見年齢との矛盾が生じる。

 

「何歳なのかとはまた奇怪な事を。君たちのその目で見た通りの年齢だよ」

 

「おかしいのよ。それだとあんたはすごく幼い頃から軍に入っていた事になるわよ?」

 

「少年兵という言葉を知っているかな?それを考えれば別段珍しくも無いだろう。まあ、私は違うがね」

 

というかこの世界で少年兵などはほとんど見た事も、話を聞いた事も無いが。

 

「だとしたら、あんた……」

 

「そのような話など一先ず後にしようか。それよりも今はーーー」

 

私が視線をローバウルへと向けると、彼は頷いて感謝の言葉を述べ始めた。

 

「うむーーー妖精の尻尾(フェアリーテイル)青い天馬(ブルーペガサス)蛇姫の鱗(ラミアスケイル)、そしてウェンディにシャルル。よくぞ六魔将軍(オラシオンセイス)を倒し、ニルヴァーナを止めてくれた。地方ギルド連盟を代表してこのローバウルが礼を言う。ありがとう。なぶら、ありがとう」

 

先ほどまでの私たちの会話をまるで聞いていなかったかのように、ローバウルが突然に感謝の言葉を告げる。

それに連合軍の面々はどこか困惑しながらも、それぞれ感謝の言葉を受け取る反応を示した。

私はそんな彼へとただ一言問い掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

「……なんとか間に合ったかね?ローバウル殿」

 

「……そうじゃのう……ギリギリじゃったが……」

 

『え……?』

 

私と彼の言葉に周りの者たちは何を言っているのか分からないと言ったような反応を示す。

そのような周りの反応など気にせず、私は続ける。

 

「…………400年か。よくもそのような状態で長らく存在出来たものだ。今の貴方はとうの昔に動力源を失った機関車のようなものだろう」

 

「……確かにその通りじゃのう……。ワシがこうして今まで存在を維持出来ていたのも奇跡に近い。それかーーー執念とでも言えるのかもしれん」

 

「……自らの手で作り出した魔法の結末を見届けたい、か。ああ、ニルヴァーナを作り、唯一生き残ったニルビット族の貴方らしい渇望(願い)だ」

 

「ニルビット族……?ニルヴァーナを作った……?カール、マスターも何を言ってるの!?」

 

「……皆さん、ワシがこれからする話をよく聞いてくだされ」

 

叫ぶウェンディを見たローバウルは一つ、息を吐いて話始める。

 

「まず始めに、ワシ等はニルビット族の末裔ではない。そこの者が言ったようにニルビット族そのものーーー400年前、ニルヴァーナを作ったのはこのワシじゃ」

 

「何!?」

 

「うそ……」

 

「400年前!?」

 

「……」

 

最初の事実に連合軍の者たちはそれぞれ唖然としたような反応をし、言葉を失っているようだった。

しかしそれでもローバウルは続ける。

 

「400年前……世界中に広がった戦争を止めようと、善悪反転の魔法ニルヴァーナを作った。ニルヴァーナはワシ等の国となり、平和の象徴として一時代を築いた。しかしーーー強大な力には必ず反する力が生まれる。闇を光に変えた分だけ、ニルヴァーナはその“闇”を纏っていった」

 

「…………」

 

「闇が存在する限り光が生まれ、光が存在する限り闇が生まれる。そのようなバランスの取れた表裏一体の理は当然人にも存在する。故に人の在り方を無制限に光に変える事は出来ないのだよ。必ず代償というのはあるものだ」

 

「その代償ーーー人々から失われた闇は我々ニルビット族に纏わりついた」

 

抑えられた闇がその許容量を超えて人に取り憑いた場合、どのような結果になるのかは火を見るよりも明らかだ。

 

「そんな……」

 

「地獄じゃ。ワシ等は行き場の失くした人々の闇に纏わりつかれ、意味も無く互いを憎み、殺し合った。結果としてニルビット族はワシ一人を残して全滅、ニルヴァーナという国は自らの手で破滅へと至ったのじゃ」

 

『…………』

 

「……いや、ワシだけが生き残ったという表現も今となっては少し違うな。我が肉体はとうの昔に滅び、今は思念体に近い存在。ワシはそのような罪を償う為……また、力無き亡霊(ワシ)の代わりにニルヴァーナを破壊出来る者が現れるまで400年、この地で見守ってきた」

 

そして彼はようやく肩の荷が下りたといったように告げる。

 

「今……ようやく役目が終わった」

 

「そ……そんな話……」

 

その言葉を告げると同時にーーー化け猫の宿(ケットシェルター)のメンバーが一人、そしてまた一人と()()し始める。

 

「な、何これ……!?皆……」

 

「あんたたち!!」

 

「どうなっているんだ!?人が消えていく!!」

 

ウェンディが次々と消えていく者たちに消えてはダメと叫び、シャルルも困惑した面持ちで叫び、他の者たちも驚愕した表情を浮かべる中ーーーローバウルは申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 

「騙していてすまなかったな、ウェンディ」

 

「……彼等は皆、ローバウル殿の作り出した幻影なのだよ」

 

私が幻影の一人に近付き、手を差し伸べる。すると目の前の消滅しかかっている女性の幻影が微笑みながら手を伸ばしーーー彼女の手が私の手をすり抜け、その手は彼女の存在と共に消えた。

もうこの唯一無二の存在とも言える幻影たちは実体すら失い、二度と形成される事は無いだろう。

 

「人格を持つ幻だと!?」

 

「なんという魔力なのだ!!」

 

そしてローバウルはこのような幻影を作り出したきっかけを話始めた。

 

「……ワシはニルヴァーナを見守る為にこの()()()()で住んでいた。しかし七年前、一人の少年がワシの所に来た」

 

 

 

『この子を預かってください』

 

 

 

「少年のあまりに真っ直ぐな眼に、ワシはつい承諾してしまった。……一人でいようと決めていたのにな……」

 

 

 

『おじいちゃん、ここ……どこ?カールは……?』

 

『こ……ここはじゃな……』

 

『ジェラール……私をギルドにつれてってくれるって……』

 

『っ……ギ、ギルドじゃよ!!ここは魔導士のギルドじゃ!!』

 

『本当!?』

 

『なぶら、外に出てみなさい。仲間たちが待ってるよ』

 

 

 

「……そして幻の仲間たちを作り出した」

 

「ウェンディの為に作られたギルド……」

 

「そんな話聞きたくない!!」

 

ウェンディが泣きながら耳を塞いでそう叫ぶ中、私はローバウルへと呟いた。

 

「……ニルビット族というのはかなり強大な魔力を持っているのだね」

 

「ワシ程度の魔力を持つ者など、400年前は大勢いた。それよりもーーー」

 

そこでローバウルは私に視線を向け、苦笑いをした。

 

「貴方の方がワシなどより、凄まじい程の魔力を持っていると見受けられるが?()()()()様」

 

「ーーーーーー」

 

その言葉に驚かなかったと言えば嘘になる。なぜならその名はこの世界では一言も言った事が無いのだから。

 

「水銀の……蛇?」

 

「……どこでそれを知ったのかね?」

 

「ふふふ……ワシ等の時代、400年前は様々な神話が語り継がれていた。貴方の神座伝説もその一つじゃ。曰く、第四天として永劫回帰を唱えた者とーーー今はもう忘れ去られた伝説として、覚えているのはワシぐらいじゃろうが……」

 

「なんとまあ……これはこれは……」

 

まさか座の事が語り伝えられていた世界があったとは思わなかった。

という事はこの世界には座に触れた者がいる、またはかつていたのだろう。

 

「まさかあの第四天様とこうして実際にお会い出来たとは……先に逝ったワシの一族にいい土産話が出来た」

 

「マ、マスター……何を……カールが第四天って何の事……?」

 

そう呟くウェンディを尻目にローバウルは続ける。

 

「貴方程の方がウェンディの側にいてくれるのならば……ワシとしてはこれ程安心出来る事はない。ーーーウェンディ、シャルル。もうおまえたちにワシの作った偽りの仲間はいらない」

 

そして彼は私たちを指差して微笑む。

 

「おまえたちには、本当の仲間が出来た。それはワシにとっても喜ばしい事じゃ……」

 

そしてローバウルの姿も次第に光に包まれ始めーーー

 

「マスター!!!」

 

ウェンディは七年という間、自分の為だけに偽りとはいえ仲間をくれた人物の元へと走り出す。

 

「おまえたちの未来は始まったばかりだ。ーーーその道に幸ある事をワシは願っている」

 

そしてウェンディが彼へと伸ばした手はーーー虚しく散った光すらも掴めず、ただ空を掴んだだけだった。

 

『皆さん、本当にありがとう。ウェンディとシャルルを頼みます』

 

「マスタァーーーー!!!!」

 

長きに渡り共に過ごした大切な家族が最後の願いを告げ、後に残ったのは膝をついて泣き叫ぶウェンディと、薄っすらと涙を浮かべるシャルル、そしてそんな二人を見て涙を流したり複雑そうな表情を浮かべる者たちだけだった。

 

 

 

もはや誰も居なくなり、何もかも無くなった集落跡にウェンディの悲しげな泣き声が響き渡る中ーーーエルザが泣き叫ぶウェンディへと近付いて肩を叩く。

 

「愛する者との別れは辛い。だがーーーその辛さは仲間が埋めてくれる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、私が語る物語の第一幕ーーー楽しんでいただけただろうか。

 

 

残念ながら第一幕の結末は喜劇と呼べるものではなく、どちらかといえば悲劇と呼べるものになってしまったがーーーこのような結末もまた一興。

 

 

喜劇しか起きない物語程、興の削がれるものは無い。故にこのような結末になってしまったのはある意味仕方の無い事、ご容赦願いたい。

 

 

ーーーおや、失礼。私のような語り手がこうして表舞台に姿を現し、話す事などあってはならないな。そろそろ引っ込めと言われるだろうから、私はこの辺りで退散させてもらおう。

 

 

ではーーー最後に一つ、あの赤髪の女性が泣き叫ぶ少女に告げた言葉を持って第一幕の幕引きとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私たちがその辛さをーーー悲しさを埋めてやろう。来い、妖精の尻尾(フェアリーテイル)へ!」

 




水銀「さあ、あとがきだぞ。言いたまえ」

いきなりですね!?まず今回の話はどうでしたでしょうかって言葉から始まるのが普通ではーーー

水銀「言え」

はいはい。というか何かしたというより何か見たって感じなんですけどね。お気に入りが300越えする前の日の夜位に夢を見たんですよ。

水銀「ほう、内容は?」

……私が髪を下ろしたベアトリスをベットに押し倒した感じから始まって、「私、実は初めてなんですよ。はは、少佐の事笑えませんね。でも精一杯頑張るので……よろしくお願いしますね」ってベアトリスが言った所で目が覚めました。

水銀「……とあるwikiで似たようなセリフを書いたコメを見た事ある気がするのだが」

まあ、実際に寝る前にその記事見てましたからね。そしてまだ起きるには時間が早かったので、もう一回寝たんですよ。するとーーー

水銀「すると?」

メルクリウスがマルグリのおきてとか言って、うざったい笑みを浮かべながら踊り出す夢を見ました。

水銀「……マル・マル・グリ・グリみんな好きだよ♪とか言って踊ってたのかね?」

……もしかしてそれが小説のお気に入りが増えた理由……!?

水銀「いや、無いだろう」

デスヨネー。まあ、それはそれでいいです。お気に入り登録してくれた方、本当にありがとうございます!

誤字脱字・感想意見等、よろしくお願いします!


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水銀の蛇は少女と共に妖精の尻尾へと赴く

投稿!毎度毎度言っていますが、遅れて申し訳ありません……。



よく晴れた日の昼下がりーーー水平線の彼方まで広がる青い海と僅かな雲のみが浮かぶ青空の下、一隻の船が海上を悠々と航海していた。

 

「ああ……船って潮風が気持ちいいんだな」

 

その船に乗る青年ーーーナツ・ドラグニルは僅かに塩の香りがする風の香りを嗅ぎながら、そんな事を呟いた。

先ほどの発言ーーー何やら船に初めて乗ったかのような物言いに聞こえないだろうか?

よくよく考えればそのようにも捉える事の出来るその言葉は実際、的を得ていた。

 

「……彼は船に乗った事が無いのかね?」

 

「いや、そういうわけでは無いのだが……」

 

「ナツは乗り物に乗ると酷く酔っちゃうんだよ。それこそ倒れて顔をオイラの毛並みみたいに青くする位に」

 

「乗り物酔い……ならば今彼が酔っていないのはなぜ?」

 

「それは私が魔法を掛けているからだよ」

 

そう答えて微笑むウェンディを見た男ーーーメルクリウスはそのような魔法も使えたのかと言ったような視線を向けた。

 

「あ、でもそろそろかな?」

 

「何がかな?」

 

「乗り物っていいモンだなーオイーー!!」

 

「ナツさんに掛けてる乗り物酔いの魔法がもうそろそろ切れます」

 

「おぷぅ」

 

楽しそうに甲板を駆け回るナツはウェンディがそう言った途端、顔を真っ青にして甲板に倒れ込んだ。

どうやら彼に掛けていた魔法が解けたらしい。

 

「おぷ……も、もう一回掛けて……」

 

「……ウェンディ、もう一回掛けてあげてはどうかな?これではかなり彼が哀れに見えるのだが……」

 

「でも、連続で使用すると効果が薄れちゃうんですよ?最終的には効かなくなってしまうし……」

 

「ふむ……ならば仕方が無いな。我慢したまえ」

 

そう言ってメルクリウスはナツを切り捨てた。最も、彼がその気になれば半永久的に持続する酔い止めの魔法など片手で他所を見ながらでも作り上げる事が出来るのだが、メルクリウスにそれをする気は無いようだ。

どうやらこのまま放置した方が面白いと判断したらしい。それが証拠にメルクリウスはニヤニヤと小馬鹿にするかのように笑っている。

 

「ち、くしょう〜……おぷ……」

 

「放っておけよ、そんな奴」

 

「あはははっ」

 

そして彼らは隅で顔を青くして倒れているナツを無視して、ウェンディ、シャルル、メルクリウスを見る。

 

「それにしても本当にウェンディもシャルルもクラフトも妖精の尻尾(フェアリーテイル)に来るんだね」

 

「私はウェンディが行くって言うからついてくだけよ」

 

「私も似たようなものだ。ウェンディとの約束もあるしね」

 

「シャルル、カール……ごめんね?私のわがままに付き合ってもらって……」

 

あの後ウェンディはシャルルとメルクリウスも一緒に妖精の尻尾(フェアリーテイル)に行こうと提案してきたのだ。

 

「構わんよ。それと既に何度も言った事だが、別に君が謝る事はない。シャルルは君が心配だから、そして私は君との約束と頼みを成す為についてきたのだからーーー」

 

「……私は別にウェンディの心配なんてそれ程……」

 

「しているだろう。今回の作戦の志願理由とて、ウェンディの事が心配だったのだろう?」

 

シャルルは本来、今回の作戦に参加する予定では無かったのだ。しかしウェンディが心配だからと、ローバウルに軽く掛け合ってウェンディの後を少し遅れてついて行った事をメルクリウスはローバウルから聞いていたのだ。

 

「わざわざローバウル殿に直談判した時点でそれ程心配してないとは言えないと思うが?」

 

「……クラフト、なんでそんな事知ってるのよ」

 

「蛇の道は蛇ーーーと言いたい所だが、実際はローバウル殿が教えてくれたのだ」

 

「マスターが!?」

 

「楽しそうに話してくれたよ。曰く、「シャルルもまた、ウェンディと同じく仲間思いに育ってくれた。なぶら嬉しい事だ」と言っていたよ」

 

「ぷっ……あはははははっ!」

 

「くっ……!ク、クラフト……!そ、それは……ローバウル殿の真似か……!?」

 

「然り、似ていたかね?」

 

「に、似すぎだろ……!はははははっ!」

 

メルクリウスのどこか似ているモノマネが面白かったのか、ルーシィやグレイ、ハッピーも笑い出す。

さらに少し離れた場所で話を聞いていたエルザもメルクリウスに問いかけながら、顔を背けて笑いを堪えていた。

 

「ふむ、そこまで似せるつもりは無かったのだがね」

 

「結構似てたよ。後ろから声を掛けられたら、分からない位に」

 

「そこまでか」

 

そうして先ほどまでのどこか重苦しい雰囲気は一変し、船酔いで完全ダウンしているナツ以外の全員が楽しそうに笑い始めた。

無論ウェンディも笑っているし、シャルルもどこか興味無さそうにしているが、笑いを堪えようとしているのか、顔を少し背けて若干プルプルとしている。

 

 

そうしたどこか楽しげな雰囲気に包まれながら、彼らは自分のギルドへと帰る。

新しい友、仲間を連れてーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハルジオン港で船を降り、そこから列車へと乗り換えて約二時間ーーー彼らはついにマグノリアへと帰還した。

そしてそのまま彼らは自らの所属するギルドへと向かいーーー新たに加わる仲間を紹介する事となった。

 

「……と、言う訳でーーーウェンディとシャルル、そしてカール・クラフトを妖精の尻尾(フェアリーテイル)へと招待した」

 

「よろしくお願いします」

 

今回の作戦の報告を終え、エルザの紹介を受けたウェンディは妖精の尻尾(フェアリーテイル)メンバーたちへと頭を下げる。

一方、シャルルは腕を組みながら興味が無さそうにしているし、メルクリウスに至ってはギルド内を興味深そうにキョロキョロと見渡している。

そんな三人に対して、ギルドのメンバーたちはーーー

 

「かわいーっ!!!」

「ハッピーのメスがいるぞ!!」

「みんなおかえりなさい」

「あの軍服着た人、かっこいい!」

「おジョーちゃん、いくつ?」

 

まるで学校の自分のクラスに新しい転入生が来た時のように、全員がテンション高く三人へと一斉に話しかけ始める。

それを見たエルザや妖精の尻尾(フェアリーテイル)マスター、マカロフ・ドレアーは穏やかに笑う。

 

「マスター」

 

「うむ、よくやった。これでこの辺りもしばらくは平和になるわい。もちろんウェンディとシャルル、クラフトも歓迎しよう」

 

一方、一部のギルドメンバーたちは今回の作戦から無事帰ってきた他のメンバーたちへ思い思いの行動をしていた。

 

「ルーちゃん、おかえり〜!」

 

「きゃっ!レビィちゃん!!」

 

「よく無事だったな」

 

「だんだんルーシィが遠い人に……」

 

ルーシィの方へはレビィ・マクガーデンが抱きついて無事に帰ってきた事を喜び、レビィと同じチーム、「シャドウ・ギア」に属しているジェットとドロイは今回の作戦でまた強くなったであろうルーシィを見て、どこか遠い目をして呟いていた。

 

「ジュビア……グレイ様が心配で心配で目から大雨が……」

 

「グレイ止めろ!」

 

「おぼれる!!」

 

「何でオレが……!!」

 

そしてまた別の所では、ジュビア・ロクサーがグレイを思うあまりに発生した局地的な大津波にウォーレン・ラッコー、マックス・アローゼ、そしてグレイが巻き込まれていた。

 

「んでよォ、ヘビが空飛んで……」

 

「ヘビが空なんか飛ぶかよ!!漢じゃあるめーし」

 

「漢?」

 

船酔いと列車酔いから復活していたナツは、エルフマン・ストラウスや他のメンバーに対して今回の作戦の事を、身振り手振りで表現しながら話していた。

それらを見て楽しそうな顔をしていたウェンディに対して、ミラジェーン・ストラウスが話しかける。

 

「シャルルは多分、ハッピーと同じだろうけどウェンディはどんな魔法使うの?」

 

「シャルル!!本物のミラジェーンさんだよ!」

 

「ちょっと!!オスネコと同じ扱い!?」

 

(実際同じだろう)

 

未だにギルド内を見渡しながら、メルクリウスは内心そう突っ込んだ。

 

「私……天空魔法を使います。天空の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)です」

 

『!!!』

 

ウェンディが自らの魔法を告白すると、つい先ほどまで騒ぎ立てていた者たち全員が静まり返る。

 

「あ……」

 

目を見開いて驚いたような面々の顔を見たウェンディは少し顔を俯けて、自傷するかのように薄く笑う。

 

(信じてもらえない……か。かなり珍しい魔法だから、仕方ないかな)

 

そう納得し、顔を上げようとした刹那ーーー

 

「おおっ!!」

 

「スゲェ!!」

 

「ーーーーーー」

 

誰かがそう言ったのを皮切りに、ギルドメンバーたちが笑いながら再び騒ぎ出す。

 

「ドラゴンスレイヤーだ!!!」

「すげーーーーっ!!!」

「ナツと同じかっ!!」

「ガジルもいるし、このギルドに三人も滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)が!!」

「珍しい魔法なのになぁ……本当にすげぇもんだ」

 

自らの事をすんなりと受け入れてくれたーーーその事実が伝わったウェンディもまた、花が咲くような綺麗な笑顔を向ける。

 

「今日は宴じゃー!!!ウェンディとシャルル、クラフトの歓迎会じゃー!!!」

 

『おおおおっ!!!』

 

それを見たマカロフはそう叫び、メンバーたちは歓声と共に宴を始める。

 

「ミラちゃーん、ビール!!」

「はいはーい」

「うおおおっ!!!燃えてきたぁぁ!!」

「きゃあああ!あたしの服ー!!」

「いいぞールーシィ!」

「グレイ様、浮気とかしてませんよね?」

「な……何なんだよソレ!!」

「なぜどもるし」

「シャルル〜オイラの魚いる?」

「いらないわよっ!」

 

仕事の依頼書が、酒の入ったビンが、そして果てはギルド内に置かれているイスなどが宙を舞い、すっかりいつもの騒がしい日常へと戻ったギルドを見て、ウェンディはテーブルの上で腕を組みながら座っているシャルルに言う。

 

「楽しいトコだね、シャルル!」

 

「私は別に……」

 

「もう!そんな事言って……カールも楽しいよね?」

 

そして今この時、ウェンディとシャルルはある事に初めて気が付いた。

周りを見渡しても、どこにもメルクリウスがいない事にーーー

 

「あれ?カールは……?」

 

「……見る限り、どこにもいないわね。どこに行ったのかしら?」

 

そんな二人の疑問の声は、誰の耳にも入る事無く喧騒の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

宴と表したいつもと変わらない日常を繰り広げていた妖精の尻尾(フェアリーテイル)にほんの数分の間だけ帰還したミストガンは、現在マグノリアから少し出た所を歩いていた。

 

(ウェンディ……まさか君がこのギルドにやってくるとは……これも運命なのか)

 

彼の脳裏に浮かぶのは、先ほどギルドの二階からちらりと見た一人の青色の髪をした少女の姿。

彼女はまさしく今から七年前、自らともう一人の魔術師と共に一ヶ月という短い期間ながらも旅をした少女だった。

 

(あの時、別れてからもう七年か……。随分と大きくーーーそして綺麗になった)

 

彼は件の少女が成長していた姿を見て嬉しく思う反面、どこか複雑な心境でもあった。

 

(本来ならば……久しぶりだと声を掛けるべきなのだろう。七年も姿を(くら)まして悪かったと謝るべきなのだろう。だがーーー)

 

生憎とーーー自分にはまだやるべき事が残っている。

なんとかしなければならない罪が残っている。

それは決して投げ出す事が出来ない事だからこそ……彼は彼女と会わないのだ。

もし彼女と話すのならば全てが終わった後か、あるいはーーー

 

 

 

 

「やあ、久しぶりだね。ジェラール」

 

「ーーーーーー」

 

そんな大事な事を考えていたからだろうか。

彼は背後から気配も無くそう声を掛けられた事に驚きを感じながらも振り返った。

そして振り向いて、その人物を視界に収めた瞬間ーーー彼の顔はより一層驚愕する事となった。

なぜならそこにはーーー

 

「ふむ、こうして会って話すのは七年ぶりか。ウェンディを久しぶりに見た時も思ったが、君もあの時より随分と大きく立派になったね」

 

「……カール……さん」

 

七年前、自分とウェンディと一緒に旅をした例の魔術師があの時と何一つ変わらない笑みを浮かべて立っていたのだから。

 

「……なぜここに?」

 

「愚問だな。私が七年前のあの日、何と言って別れたかーーー忘れたわけでもないだろう」

 

元いた世界に一旦戻り、七年程経った頃に戻る。確か彼はそう言っていた。

ああ、確かになぜここにいるかなんて聞くのは愚問中の愚問だった。

それを自覚したミストガンは一つ苦笑いを浮かべてから、自らの顔を覆っていたマスクと帽子を外しーーー彼にジェラールと瓜二つのその顔を晒した。

 

「忘れていませんよ。……本当にあの時言ってた通り、戻ってきたんですね」

 

「当然だろう。私の目的は未だ成し得てないからね。それとも私がこの世界に戻ってこられる事に何か不都合でもあると、君は言うのかな?」

 

「まさか」

 

少なくとも目の前にいる彼が戻ってきて、都合の悪くなる事などジェラールには何一つ無い。それどころか久しぶりに再会出来て嬉しいと思っているのだ。

 

「またお会い出来て嬉しいです。あの時と変わらないお姿のようで安心しました」

 

「それは重畳。そういう君はかなり凛々しい顔立ちとなったね。まあ、つい先日君と全く同じような顔をした男と出会ったが」

 

「……こちらの世界(アースランド)の私の事ですか?」

 

「然り。こちらの世界の君はどうやら過去に大罪を犯していたようだね。……もしや先ほどまで君が顔を隠していたのもそれが理由かね?」

 

「確かにそれも理由の一つですが、本当の理由は別にあります」

 

「そうか……」

 

そう返した魔術師はそれ以上の詮索は野暮かと思い、話を変える。

 

「ところで君は彼女には会わないのかな?どうやら先ほど、ほんの僅かな間だけ彼女を離れた場所から見ていたようだが……」

 

「やはり気付いていましたか……。本来なら会って謝罪をするべきなのでしょう。しかし、私にはまだやるべき事があります」

 

「アニマか……。あの時と比べて最近はどうなのかね?」

 

そう問われ、ジェラールは難しい表情を浮かべる。

 

「……あまり芳しくありません。アニマは日を増す毎に大きくなっています。いずれそう遠くない将来……私一人の力では抑えられなくなるでしょう」

 

「……もし例の魔法が発動した場合、対象となった魔導士ーーーひいてはその対象となった街や人たちはどうなる?」

 

「……前例が無いので確かな事は言えませんが……おそらく残らず消滅するかと」

 

「発動後、例の魔法を止める事は?」

 

「……ほぼ不可能だと思われます」

 

「…………」

 

およそ考えうる最悪の結末を予想するジェラールに魔術師は黙って考え込む。

そしてーーー

 

「……最後にもう一つ聞こう。もし仮に、アニマによってどこかの街が消滅したとしよう。そのアニマの残痕からエドラスに入る事は可能かね?」

 

「ーーーーーー」

 

続いた質問の意味が理解出来ず、ジェラールは呆然としながらも言葉を絞り出す。

 

「……な、何を……?」

 

「何、一種の興味というものだ。エドラスという私たちが本来知り得ない魔力が有限の土地ーーー実に興味深い。是非とも一度行ってみたいと思っていたのだ。ーーーもう一度問う。私やあるいは運良く消滅を免れた者たちはエドラスへと入れるのかね?」

 

そう問う男に対し、ジェラールは若干の恐怖を感じる。

例の魔法は発動してしまえば、もう止める事は出来ない。おそらく多くの人たちが気付く間も無く消滅してしまうだろう。

常人ならばその事実に絶望し、何か防ぐ手立ては無いかと躍起になるものだろう。

しかし彼の目の前にいる魔術師は、あろうことか最後に人々の命を守る手立てが本当に無いのかとは聞かず、自分の知らぬ未知を知る事が出来るかと聞いてきたのだ。

人には大凡理解の出来ないその感性。まるでそれもまた一つの結末だと切り捨てて、それよりも自らの欲を満たす事を優先するような態度にジェラールは恐怖したのだ。

 

「…………」

 

「どうかな?」

 

黙るジェラールに魔術師は早く答えを聞かせてほしいと催促をするかのように問いかける。

それを受け、ジェラールは正直に答える。

 

「……超速でアニマの残痕を突き抜けるか、あるいはそのアニマの残痕を利用して飛べば入れると思いますが」

 

「ほう……どちらも私からしたら不可能ではないな」

 

その返答を聞いた魔術師は、実に嬉しそうなーーーしかしそれでいて他の者から見れば、背筋が凍る程不気味な笑みを浮かべる。

 

「相分かった。もしその時が来たのならば、その方法で本当に行けるのか試させてもらおう」

 

そう告げた魔術師はギルドへ帰ろうと、振り返って歩き出す。

 

「ーーーああ、そういえば一つ、念の為に言っておくがーーー」

 

するとそこで魔術師は立ち止まり、ジェラールへと視線を向ける事無く告げる。

 

「私は仲間を見捨ててまでも未知を求める程、落ちぶれてはいないつもりだよ。少し前の私ならば、構わず未知を求めていただろうがね」

 

「…………」

 

その言葉を告げた魔術師は、今度は立ち止まる事無くギルドへ向かって歩き始めた。そんな彼の後ろ姿をジェラールはただ黙って見つめていたのだった。

 




今回も結構短いです……もうちょっと長く書こうとしたんですけど、色々と難しかったのでこの長さです。

水銀「というより最近の作者は三つ目の小説の案が頭に思い浮かびまくって仕方が無いらしい」

まあ、書きませんけどね。書くとしたらこの二つの小説終わってからでしょうか……。kkkが主体のものなので、時系列的に同時進行させるわけにはいかない小説なので。

水銀「……神咒神威神楽に影響を受け過ぎではないかね?」

し、仕方ないじゃないですか。kkkをプレイしていたら思い浮かんだんですから!

水銀「……あの下種に滅ぼされた後のif世界か……」

それ以上言わないでください……ネタバレになります。

水銀「……とまあ、今の作者は三つ目の小説の内容を構築していたり、現在投稿している二つの小説を書いたりと大変な思いをしている」

なのでこれからもこの投稿ペースのままでしょうね……。すみません!
さて、それでこの小説の次話についてですが……次はネタ回の予定です。内容はお楽しみに!
では今回はここまで!誤字脱字・感想意見等、よろしくお願いします!


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水銀の蛇は古代文字の意味を解き明かす

皆さん、お久しぶりです。はい、前回の更新からもう間も無く二ヶ月が経とうとしています。仕事の影響とはいえここまで遅くなってしまったのは本当に申し訳ありません……。

さて、今回は前回言った通り、ネタというか閑話休題的な話になります。結構荒い所が目立つかもしれませんが楽しんでいってもらえれば幸いです。ではどうぞ!



 

魔導士ギルド、妖精の尻尾(フェアリーテイル)―――フィオーレ最強とも呼び声高いそのギルドのクエストボードには毎日、様々な内容の依頼書が貼られる。

 

例えば凶悪なモンスターを討伐してほしい。

例えばある砦を根城にしている盗賊団を討伐してほしい。

例えばある場所へ行って、ある素材を代わりに取ってきてほしい。

例えばとある人物を目的地に着くまで護衛してほしい。

以上のような比較的よく見るような内容の依頼もあれば、時々変わった内容の依頼が張り出されている事もある。

 

例えば子供たちに基本的な魔法を教えてほしい。

例えば客足の遠のいている劇場を魔法で盛り上げてほしい。

例えば自分のお店の手伝いをしてほしい。

例えばある魚を捕まえて一緒に食べてほしい。

以上のような少し変わった依頼から、魔導士がやるような仕事では無いと突っ込みたくなる依頼も舞い込んでくる。

 

 

今回の話は後者の方―――少し変わった内容が書かれた一枚の依頼書を巡る物語である。

その依頼書はかつて『チェンジリング』と呼ばれ、当時の妖精の尻尾(フェアリーテイル)メンバー全員に恐怖と絶望と悪夢を植え付けた恐るべき代物である。

今回はそんな悪夢を見せた『チェンジリング』が水銀の蛇の手によって、再び絶望を振り撒く。そんなお話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六魔将軍(オラシオンセイス)打倒作戦から二日後、妖精の尻尾(フェアリーテイル)書物庫にて―――

 

 

 

「…………」

 

外の光が窓から差し込み、比較的明るい書物庫内でメルクリウスは一冊の魔導書を開き、立ったまま一心不乱に読んでいた。

 

「……あ、あの〜……クラフト?」

 

「ん?何かな?」

 

そんな集中している様子の彼に、少し薄い色の青髪で黄色のターバンのようなものを頭に着けている少女、レビィはおずおずと話しかける。

 

「いや、あの……魔導書読むのは別に構わないんですけど……整理の方もそろそろ手伝ってほしいかな〜なんて……」

 

「カール……整理途中にそうやってつい本を読んじゃう気持ちは分かるけど……」

 

「ああ、これはすまない。思わずこの本に興味が湧いてしまってね」

 

メルクリウスは苦笑いを浮かべているレビィとウェンディに軽く謝罪をして、読んでいた本を本棚へとしまった。

 

 

さて、なぜ書物庫にこの三人が居るのか?それは今から僅か十分程前まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

「少々よろしいか、レビィ殿」

 

きっかけはメルクリウスがギルド内で一人、本を読んでいたレビィに話しかけた事から始まった。

 

「あ……クラフトさん。どうしたんですか?」

 

レビィはメルクリウスに初めて話しかけられた事に内心少し驚きながらも問い返した。

なぜ彼に初めて話しかけられただけで驚くのか―――それはメルクリウスがこのギルドに来てから二日間、ナツたちやウェンディ、そしてギルドマスターであるマカロフ以外の人たちと全く話さなかった事に起因する。

とはいえ彼自身は、きちんと話しかけられたらしっかり返事をするし、質問を投げ掛ければしっかりとそれに答えてくれる。しかし特定の人物以外には自分からは全く話しかけないというとても変わった人物であった。

そしてそんな状況をよろしくないと善意で思った数人のギルドメンバーは彼に何度か声を掛けてみたのだが、いずれの会話も長くは続かず、二、三言葉を交わして終わるという状態だった。

そして彼へと話しかけた者たちは揃って、彼の事をこう評した。

 

『まるで全てを見透かされているような感覚がして、あまり長く話そうとは思わない』と―――

 

レビィも当然ながら、そんな彼らの話を聞いていた。

果たして彼はナツたち以外の人たちに自分から話しかける事があるのか?そしてそんな彼がもし一番最初に声を掛けるとしたら、一体誰に声を掛けるだろうか?

少なくとも私は特に魅力も無いから、一番最初に話しかけられるなんて事は無いだろうな〜とレビィは内心思っていたのだ。()()()()()()()()

しかし運命というのは分からないもので、まさか一番最初に声を掛けられたのが自分だとはレビィは微塵も思っていなかったのだ。

そんな事に驚いているレビィに対して、メルクリウスは特に気にした様子も無く続ける。

 

「私に対して敬語など使わなくても結構。実は貴女に折り入って頼みたい事があってね」

 

「頼みたい事?」

 

私に対して頼みたい事なんて、何かあるのかな?と内心首を傾げているレビィにメルクリウスは言う。

 

「ここに来た時から他でも無い貴女に頼もうと思っていた事なのだが……このギルドの書物庫へと案内してはもらえないだろうか?」

 

「……え?」

 

メルクリウスの頼み事を聞いたレビィは、彼の言葉とその頼み事に対して呆気にとられたような顔をしてしまう。

 

「わ、私に?」

 

「然り。聞く所によると君はかなりの読書家で、よくギルド内の書物庫に行っていると聞いたからね」

 

ちなみにその情報提供者はハッピーだったりする。

 

「私はウェンディたちと出会う以前は長らく各地を旅していてね。その旅の目的の一つに、ある存在について記された本を探す、という目的があるのだよ」

 

「……つまりこのギルドの書物庫にその本があるか探したいって事?」

 

「そういう事だ。他の誰よりも書物庫へと出入りしている君なら、私の探す本も見つけてくれるかもしれないと思ったからね。最も、私が書物庫に向かいたい理由はそれだけではないが」

 

メルクリウスはこの世界に来て以来、すでに五十冊以上の魔導書を所持している。

これもひとえにこの世界の魔法を知り尽くそうとしているからなのだが、それでもまだこの男にとって五十冊程度では全然足りないのだ。

そこで、メルクリウスは少し趣向を変えてこのギルドに保管されている魔導書にも目を向けてみようと考えた。それが彼女にこうして頼んでいる理由の大半である。

 

「へぇ〜……クラフトさんって本を結構読むんだ」

 

「あくまでそれなり、だがね。君と比べれば、私などそう大して読んでないよ」

 

「私だってそんなに読んでないと思うけどなぁ。まあ、それはいいとして……ちょっと待ってて、今マスターに聞いてくるから」

 

そう言ってカウンターへと向かうレビィの後ろ姿を見ながら、メルクリウスは例の探したい本の事を考えていた。

 

(しかし……おそらくここにもあの漆黒の竜について書かれた本は無いだろうな……。もし無ければ今度、魔導図書館にでも立ち寄ってみるとしようか)

 

そんな今後の予定を考えている内に、レビィがカウンターの方から戻ってくる。

その顔はニコニコと笑みを浮かべていて、それを見たメルクリウスは許可が降りるのだろうかと心配していた事が杞憂になったと苦笑いする。

 

「ふむ、その顔から察するに許可は降りたようだね」

 

「うん!でも私と一緒に書物庫の整理整頓をやれってのが条件みたいなんだけど……」

 

「構わぬよ。そも私が言って頼んだ事なのだ、その程度の条件ならばお安い御用だよ」

 

「でも私も最近仕事ばっかであまり書物庫に行ってなかったからなー……かなり散らかってるかもしれないから、後もう一人位人手が欲しい所なんだけど……」

 

そう言って、誰か他に手伝ってくれる人はいるかなと悩むレビィ。それを聞いたメルクリウスは今日もバカ騒ぎをしているギルド内を見渡し―――彼らから比較的近くにいた人物に声を掛けた。

 

「ああウェンディ、少しいいかな?」

 

「はい?」

 

その人物とはウェンディだった。彼女はメルクリウスに呼ばれ、可愛らしく首を傾げながら二人の元へと近付く。

 

「何か用なの?カール」

 

「ああ、実は今からレビィ殿と共に書物庫内を整理整頓する事になったのだが……どうやら相当に散らかってるらしくてね。私と彼女だけでは時間が掛かりそうなのだ。せめて後もう一人手伝ってくれる者が欲しいのだが……」

 

「ウェンディ、もしよかったら一緒に手伝ってくれないかな?」

 

「あ、はい!私なんかでよければ手伝いますよ!」

 

「なら決まり!そうと決まれば早速行こっか?」

 

 

 

 

 

 

 

以上が今に至るまでの事の次第である。

本棚へと魔導書をしまったメルクリウスを見て、レビィは苦笑いを浮かべながら言う。

 

「よく居るよね、大掃除とかしていたら気になる本が出てきて、掃除中断して読み始める人って。クラフトもそういうタイプなんだ」

 

「遺憾ながら。しかし君もその口では無いのかね?」

 

「うっ……確かに……」

 

「あはは……実は私もそうなんですよね……」

 

そのような話をしながら、メルクリウスは目的の本を探し、そしてウェンディとレビィはメルクリウスにこれが目的の本かと聞きながら整理整頓をしていく。

 

 

そして書物庫内の大体九割が片付いた頃―――メルクリウスが本棚へしまおうとしていた一冊の本の隙間から、一枚の紙がヒラヒラと宙を舞いながら落ちた。

 

「おっと」

 

それに気付いたメルクリウスは宙を舞う紙をキャッチし、挟まっていた本の中へ紙を戻そうとして―――止まる。

 

「これは……」

 

「カール、どうしたの?」

 

「ん?」

 

その紙を見て呟くメルクリウスに気付いたウェンディとレビィは首を傾げた。

 

「カール、その紙は?」

 

「どうやらここに書かれている文字を解読してほしいという依頼書のようだね。なぜこの本に挟まっていたのかは分からないが」

 

「……文字?解読?」

 

それを聞いてレビィは「あれ?どこかで聞いた事がある気が……」と呟きながら、ウンウンと唸り出した。

 

「……中々に面白い魔法だ」

 

そんなレビィを尻目にメルクリウスはしばらくその紙を見つめた後、元々挟まっていた本には戻さずに、自分のコートの内側へとしまった。

 

「……クラフト、その紙どうするの?」

 

「何、そう大した事はしないよ。ただ少しだけ興味が湧いたから、後ほどじっくり見るだけだよ」

 

そう返したメルクリウスは再び書物庫の整理整頓へと戻る。

そんなメルクリウスを見たウェンディとレビィは揃って首を傾げるも、メルクリウスが手早く整理整頓しているのを見て、自分たちも整理整頓を再開した。

 

 

 

 

 

 

そしてそれから十分後―――

 

「ふむ……」

 

書物庫の整理整頓を終えたメルクリウスはギルドにある酒場のカウンター席に座りながら、先ほどコートにしまった依頼書を取り出してじっと見ていた。

 

 

そしてそんなメルクリウスから僅か五メートル程離れた席では、ナツ、グレイ、ルーシィ、エルザ、ウェンディ、ハッピー、シャルル、レビィが集まってメルクリウスの様子を見ながら話していた。

 

「なあ、クラフトの奴、何見てんだ?」

 

「整理整頓の時に見つけた依頼書です」

 

「依頼書だぁ?しかも整理整頓の時に見つけたって?」

 

「はい、本の間に挟まってたんですよ。ちなみに内容はこの文字を解読してほしいとか……」

 

「「……文字の解読?」」

 

ナツとグレイの質問に答えたウェンディの言葉を聞いて、ルーシィとエルザがどこかで聞いた事がある気が……?と思い、首を傾げた。

それを見たレビィが尋ねる。

 

「……ねぇ、二人とも。私、その依頼書の事知ってる気がするんだけど……気のせい……だよね?」

 

そう尋ねるレビィの声色は暗く、表情もどこか曇っているようにも見える。それはまるでルーシィとエルザに気のせいだと言ってもらいたいかのようだった。

そんなレビィを見たルーシィとエルザは、お互いに顔を少し見合わせた後に頷いた。

 

「……なあ、ウェンディ。その依頼書がどんな見た目だったか覚えてるか?」

 

「え?えっと……なんか真ん中にボロボロの石板みたいなのが書いてあって……そこに古い言葉が書かれてて……横の方には現代語訳が書かれてましたけど……?」

 

「「…………」」

 

そんなウェンディの答えを聞いたルーシィとエルザの脳裏に、ある悪夢の記憶が蘇る。それと同時に二人の顔は段々と青ざめていく。

いや、二人だけではない。ウェンディの言葉を聞いて、ウェンディとシャルル以外の全員がそれぞれ嫌な顔をする。

さらには周りで聞き耳を立てていた他のギルドの面々も、似たような顔をしていた。

 

「み、皆さんどうしました?なんか顔色が悪いみたいですけど……?」

 

「周りで聞いてたアンタたちもどうしたのよ?その依頼書に何かあるの?」

 

『っ!!』

 

そうシャルルが問い掛けると、その場にいた全員はハッとして、例の悪夢を呼び起こしただろう依頼書を持っているメルクリウスへと揃って視線を向け―――凍り付いたかのように固まった。

 

 

 

 

「おやおや、揃ってこちらを見てどうしたというのかね?」

 

 

 

 

そこには席に座りながら足を組み、右手に例の依頼書を持ったメルクリウスが、全身の毛が逆立つ程の笑みを浮かべながらナツたちを見ていた。

その薄暗く輝く瞳を見たナツたちはまるで蛇に睨まれた蛙の如くに竦み上がる。

それを見たメルクリウスは右手に持つ依頼書を見ながら、言葉を紡ぐ。

 

 

人の子は悪意ある者に連れ去られる(Filius hominis A malitiosum Factum est auferetur)

 

 

それはメルクリウスが依頼書に書かれた古代文字を自分流に、そしてより強力な効果にするべく紡ぎ出した言葉だった。

 

 

それもまた運命である(etiam Fatum Est)

 

 

するとギルドの中にいたメルクリウス以外の全員の体が虹色に光り輝き―――自分の体から抜け出した魂が、近くにいた者の体の中へと入り込み、またその体の持ち主だった魂も入り込まれた者の体へと入り込んだ。つまり魂と体が別の誰かと入れ替わったのだ。

その結果、何が起こるのかというと―――

 

 

 

 

 

「うおっ!?俺がエルザァー!!?」

「またか……またなのか……」

「あ、あれ……私ってこんなに視線高かったっけ……?ううっ……なんか寒い……」

「おおっ!?いきなり視線が低く……これは……ウェンディと入れ替わったのか!?」

「ナツ、見て見て〜!オイラの胸にまたかっちょいいおっp―――」

「ハッピー!!あたしの胸触るな!!」

「な、何よこれ!?」

「うわ〜……私はシャルルかぁ……」

 

お互いの入れ替わった相手を見て絶望、あるいは悪夢の再来だと嘆く地獄のような、しかしそれでいて術を掛けた者からしたらとてつもなく愉快な光景が出来上がる。

 

「……カナ、お前結構あるんだな」

「人の胸揉みながら何言ってんのさ!」

「な、なあ、ドロイ……お、俺たち……」

「入れ替わってる!?」

「ア、アルザックの体に……!」

「ビ、ビスカの体に……!」

 

周りもそれぞれ入れ替わってしまった事を自覚して絶望したり、また一部の変わり者は異性の体と入れ替わって、若干嬉しそうにしながら入れ替わった相手の体を触りまくったり(主に女性の体に入り込んだ中身男性)、そんな自分の体を触りまくっている相手を物理的に殴ったり(主に男性の体に入り込んだ中身女性)と、中々にカオスな光景が広がっていた。

 

「ふむ……」

 

そんな大混乱を巻き起こした犯人であるメルクリウスは、依頼書を見て呟く。

 

「効果範囲は五十メートル、効果時間は約三十分、入れ替わってる間は魔法が完全に使えなくなり、魔力が微量な者には効果が現れない……と言った所か」

 

そんな一人で満足そうに頷くメルクリウスにウェンディ(外見グレイ)がオロオロしながら問い掛ける。

 

「カール!!これどういう事なの!!?私がグレイさんになって、グレイさんが私になってるんだけど!?」

 

「その通りだよ、ウェンディ。君たちだけではない、このギルドにいる者たち全員が今同じような現象を体験しているのだよ」

 

「ええっ!?」

 

「おいクラフトォ!!!元に戻せやコラァ!!」

 

「え〜……」

 

「面倒くさそうな顔すんなぁ!!お前が原因だろうが!!」

 

「はよ戻せい!!」

 

明らかに戻すの面倒くさいと言ったような顔をするメルクリウスにナツ(外見エルザ)がガンを飛ばし、マカロフ(外見ミラ)が怒鳴る。

しかしメルクリウスはどこ吹く風と言った感じだ。

 

「別に取り立てて騒ぐ程の事ではないだろう。三十分も経てば皆、元に戻るのだからね」

 

「ふざけんじゃねぇー!!俺はこんな体嫌なんだよ!!早く元に戻しやがれ!!」

 

「お、おい……ナツ……」

 

「ああ!!?」

 

ナツは青ざめたグレイ(外見ウェンディ)が指を指した方向へと振り向く。そして次の瞬間―――ナツの表情が凍りついた。

そこにいたのは全身から凄まじいまでの殺気を溢れ出させ、ナツにとても冷徹な目を向けるエルザ(外見ナツ)だった。

 

「ほう……ナツ、そんなに私の体は嫌か」

 

「い、いや!お、俺はそんなつもりで言ったわけじゃねぇ!今のは言葉の綾みたいなもんで―――」

 

「問答無用!!!!」

 

「ギャアアァァァーーーーーッ!!!!」

 

 

 

 

それから僅か一分後―――

 

「ふん!」

 

「――――――」

 

そこには鼻を不機嫌そうに鳴らして今だに怒っているエルザと、その足元でボコボコにされて伸びているナツという光景が出来上がっていた。

そんな二人を見て、周りの者たちは揃って顔を青くする。

 

「エルザの奴、自分の体だってのに容赦ねぇな……」

 

「中身がナツだからじゃない?」

 

「それにしては容赦なさ過ぎる気がしましたけど……」

 

「多分、エルザ何も考えないでボコったと思うよ」

 

グレイ、ルーシィ(外見ハッピー)、ウェンディ、レビィ(外見シャルル)がそう呟く中、エルザはツカツカとメルクリウスの元へと歩いて行き、彼の胸ぐらを掴んだ。

 

「おい、クラフト。早くこの魔法を何とかして解け。さもなくば―――貴様を今ここでバラバラに斬り裂いて、川に投げ捨ててやる」

 

「それはそれは……」

 

しかしそんなエルザの凄みすらもニヤニヤとしながら受け流すメルクリウスは、自分の胸ぐらを掴んでいるエルザの手へと視線を向ける。その瞬間―――

 

 

バチィッ!!

 

 

「っ!!」

 

まるで電気が迸るかのような音とがすると同時に、エルザがメルクリウスから手を離す。

 

「なんとも血気盛んな事だ。しかしそれ程までに元に戻りたいのかね?ならば戻してやっても構わないが……」

 

「戻せるのか!?」

 

「無論」

 

メルクリウスの言葉にエルザは飛び付き、周りで騒いでいた者たちも全員が早く戻してくれと叫び始める。

 

「ふむ……それ程までに君たちは元に戻りたいのかね。折角他人の体へと入れ替わるという貴重な体験をしているのだ。短い時間制限の中で、各々試したい事を試してみるといいだろうに……」

 

「特に試したい事なんてねーよ……これはウェンディの体だし、あまり変な事もしたくねぇ。それより早く元に戻してくれ……」

 

「……はぁ、そこまで言うのなら仕方ないな。では一組ずつ順に戻していくとしよう。生憎とこの術は一組ずつしか解除が出来なくてね。まずは先ほどから戻せ戻せと叫んでいるエルザ殿とナツ殿から戻そうか」

 

そしてエルザとエルザに叩き起こされたナツを並ばせたメルクリウスは言葉を紡ぐ。

 

 

悪意ある者に替えられた子は異端である(A malitiosum et mutaverunt liberi Dicitur haeresis)

 

子の真実を見抜け(liberi veritas Vide in)

 

そうメルクリウスが唱え終えた瞬間―――

 

「「うぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」

 

『!!!??』

 

ナツとエルザは揃って凄まじい絶叫を上げて、床へと倒れ込んだ。

その様子を見て、周りの者たちは言葉を失う。

 

「……この魔法はチェンジリングとは違い、()と肉体を入れ替える魔法だ。新たな肉体へと入り込んだ魂は一瞬で体と己の魂とを繋ぐ精神網を構築する。それは他人の肉体でも同じ事が成されるのだ。精神網とは言うなれば、血を全身へと運ぶ血管のようなもの。それを無理矢理引きちぎり、元に戻せばこのような事になる」

 

その説明すらも耳に入っていないのか、ナツは叫びながら床をゴロゴロと転がり、エルザは蹲って痛みに耐えていた。

メルクリウスはそんな二人を尻目に、他の皆へと視線を向けて問い掛ける。

 

「さて、それでは次に戻りたい者は私の前へと出てきたまえ。すぐにそこの二人と同じように元に戻してやろう」

 

薄っすらと不気味な笑みを浮かべるメルクリウスの言葉に、ギルド内の全員が一歩後ろに下がる。

 

「おや、どうしたのかな?早く戻りたいのだろう?」

 

「き、気が変わった。俺は時間が来て解けるまで待つからいい……」

 

「あ、あたしも……三十分経てば元に戻るって話だし……」

 

「そもそもあんなのを見たら、早く戻してほしいなんて言えないわよ……」

 

シャルル(外見レビィ)が今だに痛みでのたうちまわっているナツとエルザを見て、諦観したかのように呟く。

 

「ふむ……それ程強い痛みでは無い筈なのだがね。精々腕や足を引きちぎられ、全身が引き裂かれる程度の痛みに過ぎないのだが……」

 

「程度って……」

 

「うわぁ……想像しただけでゾッとする……」

 

「その程度でゾッとするのかね?世の中にはさらに想像を絶し、長く痛みを伴うものも多くあるのだがね。例えば、手足の爪の間に薄い竹べらのようなものを差し込んで思い切り爪を剥がすといった拷問。これも中々に痛い。大の大人が赤子の如くに泣き叫び、垂れ流してしまう程だ。だが、人というのはその程度で死ぬ事は無い。人の痛点はまだ全身に残っている。他には歯を―――」

 

「わー!わー!カール!もういい!もういいから!!」

 

聞くだけで背筋がゾッとするような話をペラペラと話すメルクリウスにウェンディが顔面蒼白になりながら止める。

よく見れば周りも皆、顔面蒼白である。

 

「む……そうかね」

 

「……クラフト、その手に随分詳しいわね」

 

「当然だろう。私は元々軍属だ、その程度の拷問など昔はよく見かけたものだよ」

 

最もメルクリウスの場合、その程度の拷問以上の事を行った事があるのだが。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々が知らない事とはいえ、その事を棚に上げて平然と話すこの男も中々に大概である。

そんな話の空気を変えようと、ウェンディが尋ねる。

 

「そ、そういえば、カールはなんでこの魔法を試そうと思ったの?」

 

「何、ただの興味だよ。その為に皆を実験に利用したのは申し訳ないと思うが……概ね成功し、魂が消滅するものも居なくてよかったよ」

 

「待て、消滅じゃと?」

 

マカロフが最後の言葉に反応する。

 

「ああ、実はこの魔法は入れ替わる対象が効果範囲内に居ない場合は、そのまま魂を消滅させる魔法となるのだよ」

 

つまり他の入れ替われる行き場(肉体)が無い魂は問答無用で消滅するのである。

また大人数で集まった際、集まった人数が奇数で一人あぶれた場合でも、同じような現象が発生する。

 

「消滅!?」

 

「まあ、幸いにも現在ここに集まっている人数は偶然にも偶数だったし、一人あぶれて消滅するなんて事は無かったがね」

 

「お前、なんで恐ろしい魔法をいきなり掛けんだよ……!」

 

「だからただの興味だと言っただろう?」

 

そう言ってニヤニヤと笑うメルクリウスを見て、再び顔面蒼白となる妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々だった。

 

 

 

 

そしてそれから三十分後、メルクリウスの掛けた魔法の効果は切れ、なんとか全員元に戻る事が出来たが……無理やり魔法で戻り、凄まじい痛みでのたうちまわっていたナツとエルザは約半日程、ベッドに沈んでしまった。

ちなみにメルクリウスは例の依頼書は破棄せずに持ち歩くそうだ。曰く、「このような興味深い魔法が書かれているものを破棄するなど、無知蒙昧の極み」との事。最もロクな事に使わないのは火を見るよりも明らかだが。

 

 

 

そうして水銀の蛇によって絶望へと突き落とされた一日は無事に終わりを迎えた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、黄昏の浜辺にて永遠の刹那と黄昏の女神の絶叫が響き渡ったのは決してこの件と無関係では無いだろう。

 




というわけで今回はチェンジリングをアレンジした話でした!
水銀の詠唱のラテン語、もしかしたら文法とかがおかしいかもしれません。どうかご容赦ください。

水銀「作者は外国語が全く出来ないからな。故に文法がおかしいなどの突っ込みが来るのは覚悟済みだそうだ」

まあ、そういうの詳しい方が直してくれたらな〜なんて内心では思ってますが……まあ、その辺りは知らんと言って切り捨ててくれても構いません。

ウェンディ「で、今回のお話で入れ替わった人たちについてですが……」

入れ替わったのは以下の通りです。

ナツ⇔エルザ
グレイ⇔ウェンディ
ルーシィ⇔ハッピー
シャルル⇔レビィ

そして他には……。

マカロフ⇔ミラ
エルフマン⇔ワカバ
カナ⇔マカオ
ジェット⇔ドロイ
ビスカ⇔アルザック
ナブ⇔リーダス
マックス⇔ラキ

という感じになっています。ちなみにウォーレン、ガジル、ジュビア、雷神衆は仕事で不在という事になっています。後は名も知らぬモブキャラ同士が入れ替わってるって感じで。

ウェンディ「……ねぇ、ザトラさん、ガジルさんたちが仕事で不在っていうのはやっぱり人数合わせ―――」

水銀「おっと、その辺りはあまり突っ込んではいけないよウェンディ」

……というわけでそこもあまり突っ込まんといてください(苦笑)


さて、それでは今回はこれで終わりですが……。

水銀「次の話の内容は決まっているのかね?」

う〜ん……まだ決まってないんですよね……。エドラス編に入る前にもう少し間話入れたいんですけどね。なので次の更新も少し間が空きそうです。申し訳ありません。

では……誤字脱字・感想意見等、よろしくお願いします!


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水銀の蛇は舞い散る桜を見る

新年明けましておめでとうございます!お久しぶりです!
今回もアブソと同時投稿してます。よければあちらも覗いてみてくださいね!

水銀「何を宣伝しているのか……」

さて、今回はお花見のお話で、ネタ多めです(笑)楽しんでいってくださいね。
では、もはやウザいだけの蓮と化した水銀の物語、始まります!



 

「……花見、かね?」

 

チェンジリング騒動から一週間が経った頃、今日も今日とて喧騒が響き渡るギルドにもいよいよ慣れた私は目の前の席に座っているレビィに聞き返した。

 

「そう!明後日、妖精の尻尾(フェアリーテイル)で毎年恒例イベントのお花見があるんだよ!」

 

「へ〜!お花見ですか!」

 

「このギルド、毎年そんな事やってるのね」

 

私の隣に座っているウェンディが楽しそうな、机の上で腕を組んで座ってるシャルルが少し興味あるように反応を見せる。

 

「それはどこでやるのかね?」

 

「この近くにある公園だよ。そこに咲く桜の木の下でミラさんが作ったご飯を食べたり、ワイワイ楽しんだりするんだよ。あ!それとゲームもやる予定だよ」

 

「ゲーム?」

 

「そう!豪華賞品も当たるかもしれない白熱のビンゴ大会!これも毎年恒例なんだ〜。……まあ、私は去年もその前もいいもの貰えなかったけどね」

 

「ほう、して気になるのはその豪華賞品とやらだが、一体何が貰えるのかな?」

 

まあ、そんな事を聞いても教えてはくれないだろうーーーと思いきや。

 

「さあ?実際当日まで分からないし……それに豪華賞品ってギルドの皆が持ち込んだものだから、本当にいいものが当たるかどうかは分からないよ」

 

「皆さんがビンゴ大会の景品を持ち寄るんですか?」

 

「うん。去年なんかナツとハッピーがどこから持ってきたのか知らないけど確か……く○もんとか言うぬいぐるみを持ってきてたよ?」

 

ちなみにそのぬいぐるみはエルザが手に入れたそうだ。というかなぜこの世界にく○もんが居るのだろうか。

 

「ウェンディとクラフトも何か景品を持ち寄ってみたら?当日ギリギリまで受け付けてるみたいだし」

 

「う〜ん……突然そんな事を言われても……」

 

「私たちはこのギルドに入ったばかりでまだ荷物の整理とかも落ち着いてないから難しいわね。そもそもそういう所に出せるような物も持ってないし」

 

景品の当てが無いウェンディとシャルルは揃って悩み始めた。

それを見て苦笑いを浮かべたレビィは次に私へと視線を向けてきた。

 

「クラフトは何か景品は出せないの?」

 

「ふむ…………当ては無くも無い。ただ用意するのに一日程度掛かるが……」

 

「あ、いや、そこまで準備するのに大変なら無理しなくていいんだよ?」

 

「いや、準備に手間取るというわけでは無くてね。探し出すのに少々時間が必要というだけだよ」

 

私は女神が座に坐ったその後、こうして各界に放浪の旅をしている時以外は自らが作った空間で過ごしている。一応、獣殿のグラズヘイムにも私の部屋はあるのだが、そちらには必要最低限のものしか置いていない。

一方、私の作った空間内には様々なものが置いてある。例えば私が金銭を稼ぐ際に使う占星術の道具や、様々な世界の歴史や魔法について書かれた本。さらにはかつての回帰世界で使う予定の無かった聖遺物の素体や、過去の回帰で訳あって手に入れた息子の巻いていたマフラー、獣殿のコートやストラなどもある。

ちなみに私が大切にしているマルグリットコレクションは、そことは別の空間に時間軸から切り離して厳重に保管してある。仮に愚息や獣殿、そしてその仲間たちが血眼になって探したとしてもそこに辿り着く事は未来永劫あり得ないだろう。

 

「どちらにせよ、明日一日を使って何か良いものがあるかどうか探しておこう。せめて珍しい本の一冊位はあるだろうからね」

 

「珍しい本か〜……。よし!私も何か探してみよっかな」

 

「……私も少し探してみようかな……シャルル、後で荷物見てみよっか?」

 

「……そうね。なんか私たちだけが何も出さないってのもあれだし」

 

「でも何も無かったら、それはそれでいいからね?」

 

「はい!」

 

そしてその日の夕方、ギルドを後にした私は自らが作った空間へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とはいえ、ついこの間に少し処分してしまったからな。何かいいものがあるといいがーーー」

 

メルクリウスは一人、そう呟きながら大量のものが置いてある自分の空間内を見回す。

実はつい先日、彼はいらなくなってしまったものを宇宙の彼方に投げ捨てて、超新星爆発で処理してしまったのだ。その処理した中にはまだ使えるような魔法道具なども含まれていた。

その事に僅かながら後悔するメルクリウスは何かいいものが無いかと物色を始める。

 

「これは……まだ読んでいる途中だったか。こっちはあの魔術に使うもので……ふむ、この本ならば問題無いだろう。確かこっちの方に下巻もあった筈……」

 

メルクリウスは一人でそんな事を呟きながら、大量に積まれた本の山から一冊一冊手に取って整理するついでに探していく。

 

 

ーーーそうして丸一日時間を掛けて探した結果、計十二冊の不要な魔導書や古文書などを景品として提供する事にした。

魔導書の内容はどれも難易度の高いものばかり書かれているが、例の世界で使えない魔術は無いし、しっかりと修行を行えば便利に使いこなせるようになるだろう。それでも息をするかのように使いこなすにはそれなりの時間と修行が必要だろうが。

とりあえず景品として見繕ったそれらの本を、メルクリウスは少々大きめのカバンに詰め込む。

そして詰め込み終えたメルクリウスは転移する前にもう一度だけ、周りを見回してみる。

 

「……ん?」

 

すると彼の視線の端の方に積んであった本の上で、一瞬何かがキラリと光る。

メルクリウスはそれに誘われ、積んである本の上にあったものを見る。

 

「……これは」

 

それはかつて永遠の刹那が持っていたものであり、現在は訳あってメルクリウスが所有しているものだった。

 

「……この際だ、これも持っていくとしよう」

 

一瞬とはいえそれに興味を引き付けたメルクリウスはそれも手に取り、例の世界へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自らの作った世界から転移し、朝の少し早い時間にギルドへ景品を提出した後ーーー私はマグノリアにある一軒のアパートを訪ねていた。

その理由はここに住むある人物と会う為だ。

 

「ふむ、確かここの二階だったかね?」

 

「はい。ミラさんはそう言ってましたけど……」

 

「随分質素な外見ね」

 

私の問いにウェンディが答え、シャルルがアパートの外見の感想を述べる。

なぜ彼女たちが私と共に居るのかと言うと、その人物の家の住所をミラに尋ねた際に、ウェンディが自分も心配だから行きたいと言い始め、シャルルがそれに付き添う形で付いてきたのだ。

その人物が住む部屋の前へと辿り着いた私は控えめにノックをする。すると扉の向こうから「は〜い……こんな時間に誰よぉ〜……」というくぐもった鼻声が聞こえ、扉が開いた。

 

「どちら様でーーーってクラフトにウェンディ?シャルルまで……」

 

「やあ、早朝に訪ねてきて申し訳無いね、ルーシィ殿」

 

「おはようございます、ルーシィさん」

 

出てきたのは毛布で全身を包み、顔を真っ赤にしているルーシィだった。

彼女は訪問者が私たちだと知ると驚いたような顔をする。

 

「どうしたの?こんな朝早い時間から……」

 

「何、昨日君が仕事中に雪崩に巻き込まれたとウェンディやミラ嬢から聞いてね。もしや風邪でも引いているのではないかと思って訪ねたのだよ。そうして来てみれば案の定君は……」

 

「あ、あはは……はい、風邪引きました……ゴホッゴホッ」

 

「大丈夫ですか?」

 

「うぅ〜……寒いし、頭も痛い〜……」

 

辛そうな顔でフラフラとする彼女はとても体調が悪そうだ。この様子だと彼女は今日の花見に向かう事は出来なさそうだな。

 

「ルーシィ、花見は仕方ないから今日はゆっくり寝てなさい」

 

「そうするぅ〜……」

 

「あ、その前に私が治癒魔法掛けておきますね。症状が治まるのはきっと明日になりますけど……」

 

「ありがとう、ウェンディ〜……」

 

しかし気の毒だな。聞けば彼女は今日の花見をとても楽しみにしていたそうだ。それがこうして体調を崩して行けないとなると、彼女の内心はどうなってるのか容易に想像が付く。

……ふむ、流石に可哀想に思えてきたので少しばかり救済を与えてやろう。

 

「ルーシィ嬢、お花見に行きたいかね?」

 

「もちろんよぉ〜……皆で思いっきり騒いで、ビンゴ大会を楽しくやって……でも、ズズッ、こんな状態じゃとても行けないし……」

 

「ならば―――」

 

私は右手を軽く前に出し、少しばかり念を入れる。

すると瞬きする間に私の右手に緑色の液体が入った瓶が現れる。

その事にとても驚いているような表情をしている二人と一匹を尻目に、私はそれをルーシィに渡す。

 

「これを飲むといい。私が調合した風邪に対して効果のある薬だ」

 

「……風邪薬?」

 

「いや、それとは違うよ。正確には風邪を先送りにする効果がある薬と言った方がいいか」

 

「「「??」」」

 

この薬にはある特定の症状に対して、その症状を先送りにさせる効果を持つ薬草が入っている。

つまりこの薬を飲むと、今現在引いている風邪は次に風邪を引いた時まで先送りになり、彼女はすぐに回復する事が出来る。

しかしその代わりとして次に風邪を引いた際には、今回先送りにした分の風邪症状とその時引いた風邪症状が合わさり、病状が普通に風邪を引いた時よりも悪化する。

 

「つまり次の風邪はいつもより二倍位の強さになるの?」

 

「そういう事だ。おそらく次に引いた時は普段とは比べものにならない程凄まじい頭痛や寒気、咳などが君に襲い掛かるだろう。付き切りで誰かに看病してもらわないと、ろくに治療も出来ないかもしれないな」

 

「でもそれって逆に言えば、今後風邪を引かなければそんな事は起きないんでしょ?」

 

「しかし今後一生、絶対に風邪を引かないと君は言えるのかね?」

 

「…………」

 

この世界の人々の平均寿命は80歳前後。そしてルーシィは確か17歳だと聞いた。彼女はこれから約60年間、一度も風邪を引かずに生涯を終える事が出来るだろうか?

 

「ちなみに私が昔、医者や薬剤師として働いていた時にこの薬を処方した者は、数日程時間を作ってからわざと風邪を引いていたよ」

 

「わざと引く……ね……」

 

「……ん〜……私もそうしようかなぁ……少なくともこれを飲めば、今日元気に花見に行けるんだよね?」

 

「然り、私が保証しよう」

 

「それじゃあ早速―――」

 

私の返事を聞いたルーシィは瓶の蓋を開け、右手を腰に当ててグイッと薬を飲み干した。実にいい飲みっぷりである。

それから僅か10秒後、薬を飲み干したルーシィの顔色は少しずつ赤みを帯びた色から元の健康そうな肌の色へと戻っていく。

 

「わぁ……!すごい……!」

 

「ルーシィさん、ちょっとおでこ触らせてもらいますね」

 

「どう?」

 

「―――本当にすごいです……!熱が完全に無くなってます!」

 

「それに鼻声も治ってるわね。―――それにしてもクラフト、あんたって本当に何者なのよ……」

 

「おや、その答えは以前と変わらんよ」

 

「はぁ……聞くだけ無駄って事ね」

 

その後、ルーシィは機嫌良く鼻歌を歌いながら花見に向かう準備をし始めた。

その間、私たちは彼女の住む部屋へとお邪魔してほんの僅かながら部屋を見せてもらった。その際に彼女が書いているという自作の小説をちらりと見せてもらったが―――中々に面白い内容だったと言っておこう。

 

 

 

 

 

数分後、ルーシィの準備が終わったのを確認した私たちはそのまま花見会場であるマグノリアの公園へと向かう。

道中、暖かい春風に運ばれてきたのか、桜の花びらがひらひらと宙を舞う様子を目にする。それに気付いたルーシィやウェンディの表情が段々と嬉しそうに変化していく様は見ていて中々に愉快だった。

そして花見会場へと到着した私たちが見たものは、満開に咲く数多くの桜と地面に敷いた敷物の上ですでに大騒ぎを始めている妖精の尻尾(フェアリーテイル)メンバーたちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ……!綺麗だね、シャルル!」

 

「そうね」

 

花見会場に着き、空いている敷物の上に座ったウェンディは満開の桜を見上げて感嘆の声を上げ、シャルルも桜を見上げながら同意する。

春の訪れを感じさせるピンク色の桜は時折吹く優しい春風で少しばかり揺れ、何枚かの花びらを宙に舞い散らせる。

そのような風情ある光景を眺めながらウェンディは先ほどミラからもらったジュースを一口飲む。

そしてシートの上に所狭しと並べられているご馳走を見て、どれから食べようか悩んでいると―――

 

「ウェンディ、隣空いているかね?」

 

その声に反応して振り向くと、そこにはビールが入ったジョッキを片手に持つメルクリウスが居た。

声を掛けられたのがメルクリウスだと分かったウェンディは嬉しそうな笑みを浮かべながら、少し横にずれる。

 

「あ、うん!―――はい、座って!」

 

「では―――」

 

メルクリウスはそう言いながらウェンディの左隣へと腰を下ろし、並々と注がれたビールを敷物の上に置いた。

 

「うわ、零れそう……カールってお酒飲めるんだね」

 

「あまり強くはないがそこそこ飲めるね。まあ、あちらで樽に入った酒を一気飲みしているカナ嬢には負けるが」

 

「あ、あはは……」

 

「あれは例外でしょ……」

 

そう言う3人の視線の先にはシートの上で胡座をかいて、ギルドから持ってきた酒樽をグイグイ飲むカナ・アルベローナが居る。

 

「相変わらずここの桜は綺麗だねぇ、酒が進むよ」

 

「お前はギルドに居ても大量に飲んでるだろ」

 

「つか樽ごと持ってきてるのか……」

 

「お、なんだい?欲しいのかい?でもこいつは渡さないよ?」

 

「誰も取りゃあしねぇよ」

 

カナの反応に周りの者たちは揃って苦笑いを浮かべる。

ちなみにメルクリウスはあまり酒に強くないと言ったが、聖遺物をその身に宿す者は基本的にどれ程アルコールを摂取しても酔わない(一応酔おうと思えば酔える)。

なのでこの場で一番酒を飲めるのはそんなに飲めないと言っているメルクリウス本人なのだが……それはまた別の話。

 

「ウェンディも興味があるなら一口飲んでみるかね?」

 

「ええっ!?あ、あの……わ、私まだ12歳でお酒は飲めませんよ……?」

 

「未成年にお酒を勧めるって……」

 

「ふふ、冗談だ」

 

メルクリウスはニヤニヤと胡散臭い笑みを浮かべながら、ビールを四分の一程飲んで、近くにあった料理に手を付ける。

 

「ほう……この唐揚げ、中々に美味だ。ビールとも非常に合う」

 

「なら私も一つ―――ん〜♪とっても美味しい……!」

 

「あらあら、そう言ってくれると私も作った甲斐があるわ♪クラフト、もう一杯ビールいる?」

 

そこへ飲み物の入ったグラスをお盆いっぱいに乗せているミラがニコニコと嬉しそうな笑顔を浮かべてやってきた。

 

「ミラさん!」

 

「では、遠慮無くいただこう」

 

「ミラちゃん!こっちにもビール!」

 

「はいは〜い♪」

 

「ねぇ、シャルル〜オイラのお魚いる?」

 

「いらないわよっ!」

 

「おおっ!この肉うめぇ!!」

 

「おいナツ!それは俺が目を付けてた肉だ!返せこの野郎!」

 

「へっへ〜ん、食ったもん勝ちに決まってんだろ!文句あんならかかってこいよ変態野郎!」

 

「んだとクソ炎!」

 

「はぁ……またあの二人はケンカしてるし……てかグレイ、いつの間にかまたパンイチ……」

 

「あはは……そういえばルーちゃん、風邪引いてたって聞いたけど大丈夫なの?」

 

「うん!クラフトが薬をくれたおかげで元気いっぱいよ!」

 

「薬だと?」

 

「彼、過去に医者や薬剤師として働いてたそうよ」

 

「医者や薬剤師……本当に多芸だな」

 

そうして花見は賑やかに進んでいく。そして花見が開始されてから二時間程経った頃、ミラが皆に聞こえるように大きな声で話し出す。

 

「さてと、それじゃあ宴もたけなわとなってきたので〜……いよいよお花見恒例のビンゴ大会を!」

 

『オオォォオオ!!』

 

「―――やる前に〜」

 

『え?』

 

「今回はビンゴ大会の前にもう一つ催し物をしたいと思いまーす♪その名も……カラオケ大会!」

 

『カラオケ大会!?』

 

その声と共にギルドのウェイトレスたちがそれなりに大きいカラオケセットを設置し始め、メルクリウスもどこからか取り出したマイクを片手に立ち上がる。

 

「そう!今年はクラフトがカラオケセットを貸してくれるって言ったからやってみようと思ったの」

 

「そういうわけだ。折角こうして皆で騒ぐのだから、催し物は多い方がよかろう?さて、では一番最初に歌ってくれるのは誰かな?」

 

まるで「一番手はとても重要だ、白けさせるなよ」とでも言いたそうな表情でマイク片手に問い掛けるメルクリウス。それを見て怖気付いたのか、誰も一番手として名乗りを上げない。

仕方ない、ならばこちらから適当に指名してやろう―――などとメルクリウスが思っていると―――

 

「なら私が歌いまーす」

 

「ミラちゃん!」

「おおっ!!一番手はミラちゃんか!!」

「ミラちゃーん!!」

 

ミラが自分から名乗りを上げ、それを聞いたギルドメンバーたちはお祭り騒ぎとなる。

そしてマイクを片手に持ったミラはカラオケマシンの画面を見ながら選曲を始める。

 

「う〜ん……何歌おうかなぁ……」

 

「このマシンにはバラードやロック、J-POPにデスメタルにオペラに演歌、果てはアニメソングやVO○A○OIDなどと幅広い曲種が収録されている。どれでも好きなものを選ぶといい」

 

「今、聞いた事の無い曲種が幾つか聞こえたわね……」

 

「……V○CAL○IDって何だろうね、シャルル」

 

「さあ?」

 

そんな話をしている内にミラの選曲が終わり、曲が流れ始めた。

 

 

 

 

 

 

「さて……」

 

カラオケマイクをミラに手渡した私は、以前ドイツに行った際に買ったワインを片手にウェンディの元へと向かう。

 

『さあ!ロックで行くわよぉ!!』

 

『オオオオオ!!』

 

ミラの言葉に湧き上がるメンバーたち。それを見て相変わらずこのギルドは騒がしいなという感情を抱く。まあ、こうして気心の知れた仲間たちと気兼ね無く騒げるという事は素晴らしいと思うので文句は無いのだが。

そして私はウェンディの隣へと再び腰を下ろし、手に持っていたワインをグラスへと注いで匂いを少し楽しんでから一口飲む。

 

「……ふむ、相変わらず好いワインだ」

 

「あら、白ワイン?」

 

「ああ、私が軍人として勤めていた国で作られたワインでね」

 

「ふ〜ん……何て言うワインなの?」

 

シャルルがワインボトルに貼られたラベルを見て、首を傾げながら問いてきた。どうやらラベルに書かれていた文字が読めなかったらしい。

 

モーゼルランド(Moselland) リースリンク(Riesling) アウスレーゼ(Auslese)。これ一本でかなりの額がする高級ワインだよ」

 

「モ、モーゼル……?」

 

「あまり聞いた事は無いだろう?この国ではそれ程名が知られていないワインなのでね」

 

正確にはこの世界には存在しないワインと言った方がいいのだが。

 

「程よい酸味と甘みが特徴のワイン―――そうだ、試しに飲んでみるといい」

 

言って私は油断しているウェンディの後頭部を右手で逃げられないように優しく押さえ、左手に持ったワイングラスをウェンディの少し開いている口元へと優しく押し付ける。

 

「んむっ!?んん〜〜っ!!」

 

そんな突然の行動に驚いたウェンディだが、自らの口の中にアルコールの入った白い液体が流れ込んできた為に、彼女は目を回しながら弱々しく抵抗を始める。

―――まだワイングラスの十分の一も飲んでいないというのに、もう酔ってしまったらしい。

とりあえず十分の三程飲ませてからワイングラスを口から離すと、彼女は口元から少量の白ワインを垂らし、頬を薄っすらと上気させ、トロンとした目で私を見上げてくる。

言葉にしてみると人によっては中々に劣情を抱くような光景だろうが、私はマルグリット一筋なので可愛らしいとは思えどもそういう気は起きない。

 

「カ〜ル〜……突然飲ませるなんて酷いですよ〜……あ〜う〜……お星様がくるくる回ってます〜……」

 

そう言いながら後ろに倒れてそうになったウェンディを咄嗟に支えて私は苦笑いする。

 

「ああ、すまなかったねウェンディ。―――まさかここまで下戸だとは……」

 

「ちょっとあんた!無理矢理ウェンディにお酒を飲ませるなんてどういうつもり!?」

 

「特別深い意味は無い。強いて言うならちょっとした悪ふざけだったのだが……まさかこうなってしまうとはね」

 

まあ、彼女が飲んだ量は少量でアルコールもそれ程強くないだろうから10分程経てば酔いも覚めるだろう。

私はシャルルに説教されながら、そんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

それからカラオケ大会も順調な盛り上がりを見せ、ナツやグレイ、ルーシィやエルザ、さらには酔いも覚めたウェンディもかなりノリノリでカラオケを歌い、ついでに私も以前獣殿と暇つぶしで歌ったオペラ/フェロ☆メンを獣殿と声が似ているフリードを無理矢理アブダクションして共に歌った。

そしてカラオケ大会も終わり、花見も午後の部へと入った頃―――

 

「それではこれより、お花見恒例のビンゴ大会を始めまーす!」

 

『ビンゴー!!!』

 

「にょっほっほっほ!今年も豪華な景品が盛り沢山じゃ!皆、気合い入れてかかってこい!」

 

『うおおぉぉぉぉ!!』

 

ミラとマカロフの一言により、ギルドメンバーたち全員が空気を震わせるような歓声を上げる。

本当に賑やかな事だ。

 

「準備はいい?まずは最初に真ん中の穴を開けてね。それじゃあレッツビンゴ♪」

 

その言葉と共に魔法式のビンゴマシンが動き出し、一番最初の数字を弾き出した事でビンゴ大会は幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「続いて8番!」

 

「ビンゴだー!!!」

 

『おおっ!!』

 

ビンゴ大会が始まって数分後―――一番最初にビンゴしたのはエルザさんでした。

 

「初ビンゴはエルザさんですね!」

 

「彼女は随分と運があるようだね。まさかこれ程早くビンゴするとは」

 

「運も実力の内だ!で、景品はなんだ?」

 

軽く目をキラキラと光らせて楽しそうに聞くエルザさんでしたが……。

 

「はい、これ!一時的に魔力をアップさせる薬草で〜す♪」

 

「な、何ぃ!?これは私たちが昨日取ってきたもの……!」

 

「あれが昨日ハコベ山からルーシィ嬢が風を引いてまで取ってきた例の薬草かね?」

 

「そうなんだけど……これ、完全に枯れちゃってるわね」

 

ルーシィさんの言う通り、私たちが昨日取ってきた薬草はもう元の形が分からない程クシャクシャに枯れていました。

 

「ハコベ山と言えば、1年を通して雪に覆われている山。そこに生える植物は皆、寒さには強いが反対に暑さには弱い―――エルザ嬢、何かしらの加工保存なり対策なりはしなかったのかね?していればこうはならない筈なのだが……」

 

「何もしてなかったわよね、エルザ」

 

「…………ううぅ、私の……初ビンゴが……!」

 

「し、仕方ないよ、エルザ」

 

「そ、そうだよ!元気出して、エルザ!」

 

カールとシャルルに言われて泣き崩れるエルザさん……。それを見て私たちは慰めるしかありません……。

 

 

 

その後もビンゴ大会は順調に進んでいき、他の方たちも続々とビンゴしていく中―――

 

「13番!」

 

「む、揃ったな」

 

ミラさんが弾き出された数字を読み上げるとカールの持っていたカードが綺麗に横一列でビンゴしました。

 

「わあ!すごいです!」

 

「まさか13番という数字で揃うとは……。まあそれはいい、少し行ってくるよ」

 

カールは何か含むような事を言いながらも、ミラさんとマスターの元へと向かっていきました。

 

「カールはどんな景品をもらってくるかな?」

 

「エルザみたいなハズレ景品じゃないといいけどね」

 

「ちょっとシャルル……」

 

少し棘のある言い方をするシャルルに、私は苦笑いしながらなんとも言えない微妙な気持ちになる。まあ、確かにカールにはエルザさんの時みたいな事にならないといいなとは思ってるけど……。

ちなみにエルザさんは少し離れた桜の木の付近で枯れた薬草を片手に体育座りで凹んでます。

 

「エルザさん、大丈夫なんですかね……?」

 

「ちょっとショックが大きかったみたいだからね〜……慰めても元気にならなかったし、しばらくはあのままじゃないかな?」

 

「ま、ほっときましょ。その内復活するわよ」

 

そう言うシャルルに私とレビィさんは揃って苦笑いを浮かべてしまう。

そんな事を話していると、カールが右手にそれなりに大きい袋を持ってミラさんたちの所から戻ってきた。

 

「おかえりなさい!何をもらえましたか?」

 

私がそう問い掛けると、カールは手に持っていた袋を私へと手渡してくる。

その袋に貼られているラベルを見て、レビィさんが言う。

 

「これは……紅茶の茶葉?」

 

「然り、ミラ嬢が持ち寄ったものらしくてね。聞けばそれ一袋で5000Jはするそうだ」

 

「5000J!?高級茶葉じゃないですか!!」

 

それがこんな大きな袋でもらえるなんて……すごい……。

 

「正直、私自身もこれ程いい物をもらえるとは思ってもみなかったな」

 

「いいなぁ……私もクラフトみたいに高級なものじゃなくていいから何か欲しいよ……」

 

そう言うレビィさんのビンゴカードを見てみると、それなりに穴は開いているのにリーチが一つも出来ていない状態でした。

それを見たカールは少しだけ笑みを浮かべます。

 

「そこまで案ずる必要はない。おそらくレビィ嬢、そしてウェンディもそう遅くない内にビンゴするだろうね」

 

「あはは……慰めてくれるのは嬉しいけど、私はまだ一つもリーチしてないんだよ?」

 

「私もだよ……」

 

「否、これは別に慰めではないよ。何やらそのような予感がするのだ。言うなれば―――占い師の予感と言ったものだろうか」

 

「占い師の予感ねぇ……」

 

カールがそう言うと、ジュースを飲んでいたシャルルが疑うような目をする。ちなみにシャルルは興味が無いって言って、ビンゴ大会に参加していない。面白いのに……。

 

 

 

 

それからさらにビンゴ大会は進んでミラさんも景品が残り少なくなってきました〜と言い、もうビンゴしても景品もらえないかな……と思い始めた頃―――

 

「続いて、え〜……6番!」

 

「「あっ、開いた!―――え?」」

 

横一列に開いた私と全く同じタイミングでレビィさんも声を上げ、揃って顔を見合わせました。

 

「あらあら、二人同時なんて珍しいわね。マスター、どうします?」

 

「う〜む……とりあえず二人とも、こちらに来なさい」

 

マスターに手招きされ、私たちはとりあえず前に向かいます。

 

「クラフトの言った通りだったね……」

 

「カールの予感はよく当たるんですよね……。でもまさか同時にビンゴするとは思いませんでした……」

 

私たちは小声でそんな事を話しながらも、マスターの前へと辿り着きました。

 

「さて……それで景品の事なんじゃが……お主らには二つある景品の内からどちらかを選んでもらおうかの」

 

「二つある……」

 

「景品?」

 

意味が分からなくて、首を傾げる私たちを前にミラさんは奥にあった布を取り払って、景品を見せてくれました。

 

「実は次に用意していた景品はこの魔導書や古文書の計十二冊と、こっちにあるチョーカーのセットなんだけど……」

 

「……ああ、なるほど。選ぶってそういう事ね。ならウェンディが先に選んでいいよ」

 

「えっ!?……う〜ん……」

 

そう言われて本にするかチョーカーにするか悩みましたが―――レビィさんの事を考えて、私はミラさんからチョーカーを手渡してもらいました。

 

「なら私はこっちのチョーカーをもらいます」

 

「えっ、ウェンディはチョーカーでいいの?」

 

「はい!本は私よりレビィさんが持っていた方がいいと思いますから」

 

実際、レビィさんは女子寮の部屋が図書館並の本で埋め尽くされている位の読書家ですからね。チョーカーより本の方が欲しいと思っているでしょうし。

 

「あはは、そう言ってくれるなら遠慮無くもらっちゃおうかな!」

 

「うむ、二人とも大事にするんじゃぞ。何しろその景品はお主らと親しい者が所持していたものじゃからの」

 

「「えっ?」」

 

「うふふ、そうですね♪二人とも、戻ったらあの人にお礼を言っときなさいね♪」

 

ミラさんにそう言われて送り出された私たちは本を抱きかかえながら、元来た道を戻ります。

その道中―――

 

「……ウェンディ、私たちと親しい人って……あの人だよね?」

 

私はレビィさんの問い掛けに少しだけ笑って、少しだけ早足になります。これを持ち寄ってくれた人へお礼を言う為に―――

 

 

 

 

 

 

 

「ほう……」

 

私はこちらの方へ戻ってくるウェンディとレビィの持つ景品を見て、思わず笑みを浮かべる。

まさか私の持ち寄った景品を偶然にも彼女たちが当てるとはね、これも何かの運命なのだろうか。

しかし十二冊の魔導書や古文書はいささか多過ぎたかもしれんな。まあ、そこまで重い本は無い上にすぐそこまで来ているので手伝う必要はなさそうだが……。

そう思っている内に戻ってきた二人は本を敷物の上に置くと、揃って私の方へ向く。

 

「ん?どうしたのかね?」

 

「クラフト、聞いたよ?この本とウェンディの持ってるチョーカー―――元々クラフトのなんだよね?」

 

「然り、ミラ嬢から聞いたのかね?」

 

「うん!こんなに多くの本をありがとうね!」

 

「私からもありがとうございます!でもこれ、もらっていいんでしょうか……?」

 

「当然だろう。そうでなければビンゴ大会の景品になどせんよ」

 

全く……相変わらず彼女は妙な所で心配をする。

 

「どれ、こちらに来たまえ。チョーカーを着けてあげよう」

 

「あ……いいんですか?なら―――」

 

そう言ってウェンディはチョーカーを私に手渡して、背中をこちらに向ける。

 

「では、前から失礼するよ」

 

言って、チョーカーをウェンディの首の前に通し、留め具を後ろへと持ってくる。

 

「あ、ちょっと待って―――はい、髪の毛上げたよ」

 

「ああ、すまないね」

 

するとウェンディは自分の長い髪の毛が着けるのに邪魔になると察したのか両手で髪の毛を纏めて持ち上げ、うなじを見せる。

ウェンディが髪の毛を持ち上げている間、手早く留め具を着けた私はもう髪の毛を下ろしていいとウェンディに言う。

 

「よし、これでいいだろう。―――ふむ、私が想像していたよりも似合っているな」

 

「えへへ……そう言ってくれると嬉しいです。そういえばこれって何を表しているんですか?」

 

ペンダントトップの装飾を手に取り、問いかけてくるウェンディに私は笑いながら逆に問いかける。

 

「私から聞こうと思っていた。何に見えるかね?」

 

「え、えっ……と……ぱっと見、車輪とか歯車とか……時計に見えます」

 

ふむ、確かにその三つに見えなくもないがいずれも外れだな。

 

「それは太陽系の縮図を表している。よく見てみるといい、中心を囲うように九つの星が円環しているだろう?」

 

「あ……言われてみればそうですね」

 

水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、そして少し前に作られた物なので未だに入っている冥王星も合わせて九つ。

 

「そしてそれは九つある種類の内の一つでね―――そのペンダントが表しているのは水星」

 

「水星……?」

 

「そう、マーキュリー(Mercury)メルクリウス(Mercurius)と呼ばれる太陽に最も近い天体だ。そのペンダントの中心に最も近い星がそれだよ」

 

「へぇ〜……」

 

説明を聞きながらペンダントトップを見つめていたウェンディはさらに問いかけてくる。

 

「でも、なんで水星なの?」

 

「……そのチョーカーは私の知り合いから譲り受けた物でね。その知り合い曰く、私のイメージに合った星が水星(それ)だったらしい」

 

「カールのイメージが水星……?」

 

言ってる意味が分からないと首を傾げるウェンディに、今まで近くで黙って私たちの話を聞いていたルーシィが割り込んでくる。

 

「―――水星は雄弁家、盗賊、商人とか旅人を象徴する星って言われてるのよ。その知り合いはあんたの事を見て、そのどれかのイメージを思い浮かべたのかもね」

 

「へぇ〜……でも確かにカールって雄弁だよね」

 

「それにあんた、占い師として商売をしていたり、各地を旅してたんでしょ?」

 

「まさにイメージ通りだよね」

 

「ふむ……しかしルーシィ嬢、やけにその辺りの事情が詳しいね?」

 

「私、こう見えて精霊魔導師なんだけど……」

 

む……?ああ、なるほど、そういえばこの世界では精霊というと黄道十二宮を筆頭として、星座を模した存在だったな。

 

「でもそんな人からもらった物……本当に私がもらってもいいの?」

 

「くどい。私がいいと言っているのだから喜んで受け取りたまえ。それに君が持っていた方が私の知り合いもさぞ喜ぶだろう」

 

愛しき刹那を永遠に味わいたい。それは大凡大半の者たちが思い、共感するものだ。そしてそれはここにいる者たちもまた同じ事―――

 

「―――そのチョーカーを持っていた知り合いは夢見がちな男でね。美しく素晴らしい陽だまりのような日常を愛し、無くてはならない友人たちを愛し―――永遠の存在と称した恋人を愛した。そうした時間と共に過ぎ行く刹那を永遠に味わいたい、守りたい―――そんな事をよく言っていたよ」

 

我が息子のその祈りは、永劫回帰という法を流れ出させた身から見ても非常に美しく素晴らしい祈りであると思える。かく言う私も今の女神の治世を永遠に味わっていたいと、続いてほしいと願っているのだから。

故に―――この刹那はなんとしても守り通さなければならない。

 

「刹那を永遠に味わいたい……ですか」

 

「然り。―――その男は“永遠の刹那”と呼ばれ、今もそうした刹那を楽しんでいる」

 

「“永遠の刹那”……なるほど、言い得て妙だな」

 

彼らもまた、息子と同じように家族とも言える者たちと過ごす刹那を楽しんでいる。共に笑い、共に泣き、そして困難があれば力を合わせて立ち向かう。

……私も多様な人の業に触れてきた身であるが、やはりこのような思いを抱く者たちが何よりも美しく、憧憬してしまう。

 

「……ウェンディ。君もまた、今この刹那を大切にしたいと……願っているかね?」

 

「そんなの……当たり前だよ。私は化け猫の宿(ケットシェルター)の消えてしまった仲間たちを今も大切に思ってるし、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の皆も、シャルルもカールも大切に思ってる。それは紛れも無い本音だよ」

 

「ウェンディ……」

 

私の目を真っ直ぐと見据えて宣言するウェンディに思わず、一瞬だけ苦笑を溢してしまう。

彼女は時々、今の座を包み込む女神と重なって見える時がある。純粋に人を信じ、救える者たちを救済したいという祈りは実にいい、結構な事だと同意しよう。

 

 

 

しかし、今の彼女たちはあまりにも()()()()()。真に抗う事が出来ないと思ってしまうような絶望を知らなさ過ぎるのだ。

この世には彼女たちのような救いの手を汚らわしく気持ち悪いと感じ、他人を他人として認識すらせず、徹頭徹尾ただ己のみを愛し、己以外の他人を一人残さず滅相する吐き気を催す下衆さえいるのだから。

……とはいえ、彼女たちがそれを知るのはもうしばらく後になるだろう。あるいはそう遠くない未来に何かしらの出来事でそれを知る事になるか……どちらにせよ、遅かれ早かれ彼女たちは抗うに困難な絶望を知る事となるだろう。……今はまだその時では無いがね。

一先ずそんな考えを頭の片隅へと追いやり、私は苦笑した顔から取り繕った笑みの顔へと変える。

 

「それは重畳。ならば尚更そのチョーカーは君が持っているといい。いずれ何かしらの役に立つ時があるかもしれないからね」

 

そう返すと、彼女は花が咲くような笑顔を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……流石に飲み過ぎたか……」

 

賑やかだったビンゴ大会が幕を閉じて数時間後、日もすっかり暮れて、夜の帳がマグノリアの街を包み込んで多くの人たちが仕事やらを終わらせて帰路につく頃―――花見会場となっている公園では今だにギルドの面々がどんちゃん騒ぎを繰り広げていた。

ナツがドタバタと走り回りながら目に付く男女(一応体が丈夫そうな奴のみ)に腹パンをして喧嘩を売ったり、それを食らったすっぽんぽんのグレイがナツに仕返ししたり、エルフマンが「漢ォォ!!」と叫びながら飲み物をがば飲みしていたりと中々にカオスな光景になっている。

そんな光景を横目に、メルクリウスは先ほどカナに無理矢理飲まされた大量の酒の酔いを覚ますべく、一人花見会場を見下ろせる小さい丘の芝で横になっていた。

―――とは言え、今のメルクリウスの顔はとても酔っているとは思えない程素面(シラフ)に見える。ちなみに酒の飲み比べをふっかけてきたカナは目を回してばったりと倒れ、ミラに介護されている。

 

「…………」

 

目を閉じて一つ小さく息を吐き、彼はそよ風と共に運ばれてくる喧騒や丘の上に生えている一本の桜の花の香りを楽しんでいた。

 

「ここに居たんだね、カール」

 

するとサクサクと芝生を踏みしめる音と共に、一人の少女の声が彼の耳へと届く。

それに反応したメルクリウスは目を開き、声がした方へと視線を向ける。

そこには苦笑いを浮かべたウェンディがメルクリウスを見下ろしていた。

 

「…………」

 

「どうしたの?」

 

しかしメルクリウスはウェンディの言葉に返事をせず、黙って見上げていた。それが気になったウェンディは首を傾げて尋ねる。

するとメルクリウスは―――

 

「……ふむ、白か。純情可憐な君らしいね」

 

「え?」

 

「見えているよ、角度的に」

 

そう呟いたメルクリウスはいつの間にか手元に持っていた撮影用の魔水晶(ラクリマ)でその白い何かをウェンディの表情と共に撮影する。

瞬間―――彼が言った言葉の意味を理解したウェンディは瞬時に顔を真っ赤にさせて、民族衣装のスカートを押さえる。

 

「きゃ……!な、なんで撮ったんですか!?」

 

「撮らなければならないという使命感に駆られた……とでも言っておこうか」

 

「と、撮ら……!?カ、カールの変態!!」

 

「ぶべらっ!」

 

それに怒ったウェンディは脚線を晒しながら蹴りを放ち、綺麗にメルクリウスの顔面へと突き刺さる。

 

「―――はっ!?ご、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」

 

あまりにも綺麗に攻撃が顔面に入った上に、メシャッという生理的によろしくない音を聞いたウェンディはすぐさま我に返ってメルクリウスの心配をする。

対してメルクリウスは先ほどのウェンディの強行をまるで何も無かったかのような表情で答える。

 

「大丈夫かと聞かれれば大丈夫だが中々に痛かったぞ。これが私でなければ確実に医務室送りだったろう。……しかし、踏み付けておきながらその相手の心配をするとは……相変わらず君は優しいね」

 

「や、優しい……!?あ、え……う、うぅ〜……」

 

もはや頭から湯気が上がりそうな程に顔を真っ赤にしたウェンディは恥ずかしさのあまり、ぺたんと芝生に座り込む。

 

「そ、そんなお世辞はいいから早くその撮った写真を消して!」

 

「別にお世辞ではないのだがね。ふむ……ウェンディにそう言われると消そうか迷ってしまうが……そうだ、一部の者たちにウェンディの顔を隠して先ほどの写真を提供してみる、というのも一興か」

 

「お願いだからそれだけはやめてぇ〜!!」

 

ニヤニヤといやらしく、そして全力でもう一度蹴りを入れてやりたい程ウザい顔で笑うメルクリウスにウェンディは涙目になりながら懇願する。

 

「ふふ、冗談だ。若い嫁入り前の少女の恥ずかしい姿を他の者に見せてしまう程、私は外道ではないのでね。……まあ、先ほどのは消さないが」

 

「…………」

 

「…………」

 

それを聞いてウェンディの厳しく冷たいジト目がメルクリウスに突き刺さり、一方のメルクリウスもそんなウェンディの目をジッと見返す。

 

「……カール」

 

「……何かな?」

 

「……お願いだから本当に消してほしいな」

 

「…………」

 

若干の怒気を浮かべて頼むウェンディにメルクリウスは黙ってウェンディの目を見つめていたが、暫くしてメルクリウスは目を逸らして撮影用魔水晶(ラクリマ)を操作、先ほどの写真を消した。どうやらこれ以上のからかいはやめた方がいいと判断したようだ。

 

もし今までのやりとりの相手がウェンディでは無く、彼の愛する愛しの女神(マルグリット)だったならば、素直に写真を消したりしないだろう。

 

ちなみに余談だが、今までのやりとりの相手をウェンディでは無く、女神に変えたら彼がどのような行動を取るのかは想像に容易い。

おそらく女神に見下ろされ、その上中まで見えてしまった彼はその時点で呼吸どころか心臓などの不随意筋までの動きが停止し、さらにそれに怒った女神の罵倒や踏み付けを食らった暁にはきっと「あぁ〜マルグリットあぁ〜」と言いながら、女神の足の下でうねうねくねくねにょろにょろするだろう。

控えめに言って気持ち悪く、はっきり言って死ねばいいのに……と多くの者たちが思ってしまうと予想出来る。

 

 

 

閑話休題(それはそれとして)……。

 

 

 

「ところで君は何の用でこちらに来たのかな?何か私に聞きたい事でもあるのかね?」

 

先ほどの写真を消した証拠として撮影用魔水晶(ラクリマ)をウェンディに手渡したメルクリウスは右隣に座ったウェンディに尋ねる。

 

「ん〜……それもあるけど……なんか向こうにいたら、他の方たちにお酒とか無理矢理飲まされるかもしれないと思ったから……」

 

ウェンディはそう答えながら撮影用魔水晶(ラクリマ)に先ほどの写真が無いか確認し始める。

 

「ああ、それでこちらに避難してきたのだね。―――そういえば君の友人であるシャルルは向こうに居るのかね?」

 

「あ……ううん、向こうには居ないよ。今から十分位前にちょっと席を外すって行ってどっか行っちゃったんだけど……」

 

「ほう……して、何をしに席を外していたのかな?」

 

するとメルクリウスは誰かに問い掛けるように声を少し大きくして、ちらりと後ろの桜の木を見る。

そんな彼の行動にウェンディは首を傾げるが―――桜の木の裏側から一匹の白猫がメルクリウスを睨みながら姿を現した事で少し驚いた顔をする。

 

「シャルル?なんでそこに?」

 

「大方彼女も君と似たような理由だろう。私に何か聞きたい事があるのだろう?」

 

「……ええ。やっぱり気付いてたのね、私が後ろに居た事」

 

「愚問。後ろで果汁100%のジュースを飲みながら耳を澄ませていたのも知っていたよ。先ほどはウェンディをからかってすまなかったね。怒っているだろう?」

 

「まあね、だけど写真はちゃんと消してくれたみたいだしもういいわ。でも次にウェンディを辱めるような写真を撮ったら許さないわよ?」

 

「おや、それは恐ろしい。肝に銘じておくとしよう」

 

シャルルの怒りを柳に風と受け流すメルクリウスはウェンディから返してもらった魔水晶(ラクリマ)をしまいながら、どこか余裕のある笑みを浮かべている。

それに若干気に入らない感情を抱きながらも、シャルルはウェンディの膝の上に座った。

 

「では―――何を聞きたいのかな?大抵の事はなんでも答えよう」

 

「じゃあ単刀直入に聞くけど―――()()()()()()()()()?」

 

「…………」

 

投げかけられた質問は今までシャルルが幾度と無く聞いた質問。しかしそれに含まれている感情や意味は今までのそれとは明らかに違った。

 

「分かってるとは思うけど、流離い人とか詐欺師って答えは求めてないわ。私は本当のあんたの正体を知りたいの」

 

「……カール、実は私も同じ事を聞こうと思ってたよ。マスター(ローバウル)の言っていた水銀の蛇とか第四天とか永劫回帰とか……一体何の事なの?」

 

真っ直ぐとメルクリウスの目を見つめて問うシャルルとウェンディにメルクリウスは小さく息を吐いた。

 

「……君たちはどのような願いでも叶えられるシステム、あるいは全能の神になれるシステムというものがこの世に存在している言われたら……信じるかね?」

 

「どんな願いでも叶えられるって……そんな夢物語信じられるわけないでしょ」

 

どんな願いでも叶えられる。全能の神になれる―――いきなりそんな女子供が思い描くような話をされて信じる者などほとんど居ないだろう。

 

「ふむ、確かに私も君たちの立場ならばきっと同じ事を言うだろう。だが―――」

 

「……まさか……存在、するの?そんなシステムが?」

 

突然の荒唐無稽な話に少しばかり面食らっているウェンディが聞くと、メルクリウスは頷く。

 

「……今から遥か古、今よりかなり進んだ科学力を持った世界の人々は渇望という強き願いを流れ出させる事象の中心、宇宙の核とも言える“座”というシステムを生み出した」

 

「“座”……」

 

「そのシステムは前言の通り、強き渇望を持ってして坐すれば自らが望む法を流れ出させ、人々にその法を強制、あるいは無意識に順応させる事が出来る。罪深き世を救済したいと願えば人々の内に宿る悪性を完全に排除し、誰もが心身共に満たされた恒久的平和世界―――天道悲想天となり、全てを抱きしめたいと願えばどんなに辛い事があろうといつか必ず幸せになれると言った法―――輪廻転生が流れ出す」

 

「「…………」」

 

人々の―――つまりは自分たちの意思や認識すらも変えてしまうという説明を聞き、絶句するウェンディとシャルル。

まあ、それも仕方の無い事で、基本座の支配領域に居る者たちはそのようなシステムの存在を知る事はほぼ無い。座の事について真に詳しく知れるのは強き渇望を抱き、座に到達出来る者―――つまりは覇道神か、あるいは何かしらの方法で座に触れた一部の例外位だろう。

その事を説明した上で、メルクリウスは自分が前者の存在―――覇道神だと二人に伝える。

 

「―――って事は……カールってもしかして神様なの!?」

 

「神様“だった”と言った方が正しいがね。私はかつて第四の座―――水銀の蛇として永劫回帰の法を唱え、多くの多元宇宙を支配した。今は次代の第五天へと座を受け渡したがね。―――ああ、別に畏れる必要は無い。今はただありとあらゆる世界を渡り歩く流離い人でしかないからね。それに今までごく普通に話していたというのに、突然畏まられるとこちらも困る」

 

「「――――――」」

 

次から次へと明かされる信じられないような事実に、ウェンディとシャルルは完全に言葉を失ってしまう。

 

「……まあ、神座について詳しく知りたいのならば、それについて書かれている古文書でも探してみるといい。どうやらこの世界にはそう言ったものがあるようだからね」

 

400年前を生きたローバウルは神座の事を少なからず知っていた。そして神話というのは例え何百、何千年経とうが語り伝えられていくものである。となればそれを纏めた書物なり何なりがこの世界には存在しているだろう。

 

「さて、では私も少々用事があるのでそろそろお暇させてもらおうかね」

 

「ま、待って!私たちまだ色々と聞きたい事が……!」

 

軽く首を鳴らし、立ち去ろうとするメルクリウスにウェンディが声を上げるも―――

 

「私が今、伝えるべき事は全て伝えた。後は君たちが自らの手で調べるといい。さすれば私もいずれ全てを話そう」

 

そう告げたメルクリウスは瞬きする間に姿を消してしまった。

 

「……行っちゃったわね」

 

「……うん」

 

後に残ったのは少しばかり困惑した表情を浮かべるウェンディとシャルルの二名。彼女たちは先ほどまでメルクリウスが居た場所を黙って見つめた後、揃って息を吐いた。

 

「……ねぇ、ウェンディ……。あんたはさっきのクラフトの話、どう思う?」

 

「……正直、信じられないよ。自分が望んだ願いを流れ出させるシステムなんて……」

 

「そうね……でも、あの男が嘘を言っているようには見えなかった」

 

「うん、私もそう思うよ」

 

座の説明をしている時、メルクリウスはどこか懐かしそうな、自嘲しているような、それでいて真剣な表情をしていた。あれは嘘をつく時の表情では無い。しかし―――

 

「でも……カール、少し悲しそうな顔をしてたな……」

 

「そうかしら?あまりいつもと変わらないように見えたわよ?」

 

ウェンディはメルクリウスがまるで何かに悲憤しているような表情を薄っすらと浮かべているように感じた。

無論、彼が何に対して悲憤しているのかは分からない。それ故にウェンディの内心に少しばかり不安が生まれる。

 

「話してくれたら少しは楽になるかもしれないのに……私ってそんなに信用されてないのかな……」

 

自分は彼に対してかなりの信頼を寄せているのに、彼は一切そんな様子を見せてくれない。その現実を認識したウェンディは落ち込んだように息を吐き、自らの首に掛かっているチョーカーを手に取って見つめる。

 

「……ウェンディ、今日はもう帰って寝ましょう?」

 

「……うん、そうだね」

 

そんな彼女の様子をこれ以上見たくなかったのかシャルルがそう提案すると、ウェンディも苦笑いを浮かべながらシャルルを抱いて立ち上がる。

 

「神座伝説……ね」

 

「……今度、その本を探してみよっか?」

 

「そうね……」

 

二人はそんな事を話しながら、自分たちが住んでいる寮へと戻るべく歩き出した。

―――その間、ウェンディの首から掛けられたチョーカーが、まるで何かを伝えるように淡く蒼い光を発していた事に二人は気付かなかった。




今回のお話、どうでしたでしょうか?ある程度の情報を話して後はそっちで調べろというメルクリウス(笑)
ちなみにビンゴ大会でメルクリウスが当てた茶葉はアブソの方で既に出てきてます(笑)

ウェンディ「それにしてもウザいだけの蓮さんと化したカールって言っておきながら、最後の方に変態要素を入れてるのって……」

書いていて思い付いたのだから仕方ない(笑)というかメルクリウスならあれ位の変態要素は持ち合わせてますし(笑)

ウェンディ「……確かにそうですね……」

ウェンディさん、そんな全てを諦めたような目をしないでください……。

ウェンディ「だってあんなカールを見たら……」

うん、まあ、それは分かりますけどね……(苦笑)

さて、では今回はこの辺で!誤字脱字・感想意見等よろしくお願いします!

ウェンディ「皆さん、今年もよろしくお願いします♪」


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水銀の蛇は追い求めし黒竜の話を聞く

―――随分長く待たせてしまったな……(大塚明夫風)

はい、すみません。皆さんお久しぶりです。
約八ヶ月ぶりの投稿です。

……半年以上更新してないってもうなんか色々とダメですよね……本当に申し訳ありません。
次回投稿からはなるべく早く投稿するように心がけますのでどうかご容赦を……。

それからもう一つ。
今回もアブソと同時投稿させていただきましたが、それともう一つ別の新しい短編小説も上げさせていただきます。よければ読んでみてください!

では少しばかり内容が物足りないかもしれませんが……どうぞごゆっくりお楽しみください……。



 

花見から数日後―――もはや語るまでもない程賑やかなギルド内にて―――

 

「どお?このギルドにも慣れてきた?」

 

ルーシィは着ていた上着を脱ぎながら、近くのテーブルで本を見ながらノートに何かを書いていた青髪の少女―――ウェンディへと問い掛ける。

 

「あ、はい!」

 

「女子寮があるのは気に入ったわ」

 

それにウェンディは嬉しそうに笑いながら返事し、シャルルは紅茶を飲みながら素っ気なく言う。

実はこのギルド、少し離れた場所に男子禁制の女子寮が存在するのだ。そこにはルーシィや一部の妖精の尻尾(フェアリーテイル)女性魔導士を除く全ての女性魔導士たちが住んでいる。

 

「そういえばルーシィさんは何で寮じゃないんですか?」

 

「実は女子寮の存在、最近知ったのよ。―――てか寮の家賃て10万Jよね……もし入ってたら払えなかったわ、今頃……」

 

「あ、あはは……」

 

ルーシィはそこそこ多く仕事に行くものの、同じチームとして組んでいる仲間(主にナツやグレイ)がよく物などを壊し、報酬額を幾分か減らされる事が多々ある。

そのせいで彼女は現在住んでいるアパートの家賃7万Jさえ払うのに苦労している。

そんな裏事情をついこの間、花見の日に知ったウェンディは思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

「そういえばウェンディは家賃大丈夫なの?10万Jって結構なお金だけど……」

 

すると今度はルーシィがウェンディにそんな事を問い掛ける。

確かに12歳の少女が月10万Jという大金を払うというのは中々に苦しいものがあるだろう。

するとウェンディは少し困ったような顔で苦笑いしながら答える。

 

「あはは……確かに10万Jっていう大金、今の私じゃ払えないんですよね……でも今月の家賃はカールが全額出してくれたんですよ」

 

「えっ、クラフトが?」

 

「ええ、どうやら昔の仕事で稼いだお金があるらしくてね。確か二ヶ月分位の家賃なら代わりに払ってやっても構わないとか言ってたわよ?あまりお金も使わないらしいし」

 

「二ヶ月分の家賃!?」

 

ちなみにそのお金とはメルクリウスが今から七年前に占いで稼いだお金である。

 

「私も最初は自分で払うからそこまでしなくてもいいって言ったんですけど……今月だけはどうしようもなくて払ってもらっちゃいました……。でも来月からは私がちゃんと全額払うつもりです。やっぱり自分で稼いだお金で払ったり、貯金したりしないといけませんからね」

 

「うん、まあ、それはね……でも家賃二ヶ月分かぁ……」

 

今月のウェンディの家賃事情を聞いたルーシィは何処か遠い目をしていた。おそらく家賃二ヶ月分(計20万J)をその場で支払えると言ったメルクリウスに何かしら思うものがあるのだろう。

もしかしたら何か家賃が払えない事情が起きたら、最終手段として払ってもらおうかとでも考えているのかもしれない。

 

「それにしてもクラフトって本当謎よね。それだけの大金を持っているのに放浪の旅をしてるなんて……」

 

「放浪するのが好きなんでしょ」

 

何気無く呟いたルーシィの一言にシャルルは即座にそう切り返し、そう離れていない場所でレビィと向かい合って何かをしている件の男を見る。

 

 

 

 

 

「―――チェックメイト」

 

「うわ……また負けちゃった……」

 

件の男―――メルクリウスがテーブルの上に広げたチェス盤に駒を置くと、レビィは少し悔しそうな表情となる。

 

「あ〜あ……今度こそ勝てると思ったのになぁ……」

 

「ふむ、確かに今回は中々悪くない手だった。並の者ならば敗北していただろうが、その程度の戦略では私に勝つ事など出来んよ」

 

相手の白いキングを片手で弄りながらニヤリと笑みを浮かべるメルクリウスにレビィは苦笑いを浮かべる。

 

「本当にクラフト強過ぎ……三回連続でやっても勝てなかった事なんて今まで無かったんだけどなぁ」

 

「自慢ではないが生憎とチェスだけは得意でね。今まで私にチェスで勝った者など片手で数える程しか居ない」

 

「片手で数える程って……すごいなぁ。クラフトもクラフトに勝ったその人たちも」

 

そんな会話をする二人にルーシィとウェンディ、シャルルも混じる。

 

「へぇー……クラフトってレビィちゃんに連勝しちゃう位、チェス強いのね」

 

「昔から時間だけは持て余す程あったのでね。暇な時を見つけてやっているうちに、ここまでの腕になってしまったのだよ」

 

「そういえばカールって、七年前もジェラールとたまにチェスやってたよね」

 

「ああ、彼も中々良い手を打ってきたものだよ。いずれにしろ私を下した事は一度も無かったが」

 

「ちなみにレビィ、あんたってチェス強いの?」

 

そう問い掛けるシャルルにルーシィが答える。

 

「強いと思うわよ。私が知っている限りだけど、今までレビィちゃんに勝ったのはクラフトが初めてなんじゃない?」

 

「いやいや、私そこまで強くないって。ルーちゃんが知らないだけでフリードとかに負けた事もあるし……少し前にはミラさんとやって負けたよ?」

 

「ほう、二人とも強いのかね?」

 

「うん。フリードは術式魔法を使うから、チェスみたいな戦略を考えるゲームとか得意だし、ミラさんはなんて言うか……先が読めない手ばかり打ってくるんだよね……」

 

「なるほど……いずれその二人とも一局指してみるとしようか。ふふふ……」

 

「え、えっと……カール?」

 

「なんか次の標的を定めたみたいね……」

 

レビィの説明にメルクリウスが怪しくニヤニヤと笑う。そんな彼にウェンディは恐る恐る声を掛け、シャルルは呆れたように首を振った。

とそこで突然、メルクリウスは何かを思い出したかのように表情を変え、ウェンディへと向き直った。

 

「―――おっと、ところで話は変わるがウェンディ、私が出した例の問題は解けたのかな?」

 

「あっ、うん!なんとか解けたけど……合ってるかな?」

 

「どれ―――」

 

そう言ってウェンディは先ほど何かを書いていたノートをメルクリウスへと手渡し、メルクリウスはそれに目を通し始めた。

 

「そういえばさっきからずっと気になってたんだけど、何を書き込んでたの?」

 

「あ、えっと……カールの出した魔法数式の問題を解いてたんです」

 

「魔法数式……?」

 

「―――ふむ、中々にいい所まで解けているが……少し惜しいな」

 

「えっ?どこか間違ってるの?」

 

「……ウェンディ、ここの式が違うわ。正確には多分―――こうじゃないかしら?」

 

そう言ってシャルルがウェンディの書いた数式の一部を書き換える。それを見てウェンディは「あっ……」と声を上げ、メルクリウスは笑みを深めた。

 

「正解だ、シャルル嬢。よく分かったね」

 

「ここ数十日でウェンディにあれこれ教えてるあんたの話を聞いていたら、これくらいは分かるようになるわよ」

 

そう返したシャルルは続いてノートの新しいページに新しい魔法数式を書いて、それをウェンディに手渡した。

 

「それじゃ、次はこれを解いてみなさい。さっきのよりは簡単だからすぐ出来る筈よ」

 

「う、うん!」

 

((……一体どんな問題解いてるんだろう……?))

 

それがふと気になったルーシィとレビィはウェンディの後ろへと回り、ノートを覗き込む。―――そして僅か5秒程で二人は唖然とした表情となる。

 

「うわ、何この見るだけで嫌になる難解な数式……」

 

「……何書いてるのかさっぱり分からないね」

 

ノートには普通の者にはさっぱり理解出来ない複雑な数式がびっしりと書かれており、どこからどう見てもかなり高等な魔法数式だと理解出来る。それと同時にこれをなんとかして書いたウェンディと、ウェンディの間違いを指摘した上に問題の解き方を完全に理解しているシャルルとメルクリウスに二人は感嘆する。

 

「……でもなんで魔法数式の問題なんてやってるの?」

 

「実はニルヴァーナの件が収束し、ここに来て少し経った頃にウェンディから仕事の合間に魔法を教えてほしいと頼まれてね。承諾した私はまず最初に基礎中の基礎となる魔法数式について教える事にしたのだよ。自分の使用している魔法の式を深く理解していれば、攻撃魔法の威力や補助魔法の効果も高まるだろうしね」

 

「へぇ〜……なら私も精霊魔法の数式を覚えれば、もっと強くなったりするのかしら?」

 

「無論。しかし精霊魔法の数式は、この世に存在する魔法数式の中で最上位に位置する程複雑で難解だがね。例えば―――これは宝瓶宮の扉、アクエリアスを呼び出す際の魔法式だが……」

 

メルクリウスは紙にさらさらと魔法数式を書き、ルーシィへと手渡した。

手渡された魔法数式はウェンディがやっている魔法数式よりも複雑で、それを見たルーシィはすぐに頭を押さえて呟く。

 

「……やっぱり覚えるのやめようかしら」

 

「構わぬよ、それは君自身が決める事だからね」

 

そんなたわいもない会話をしながら、メルクリウスはミラの所にでも行って何か飲み物でも飲もうかと立ち上がろうとする。その刹那―――

 

 

 

 

 

 

「大変だーーーーっ!!!」

 

突然ギルドの入り口から一人の男が血相を変えて飛び込んでくる。それと同時に妖精の尻尾(フェアリーテイル)》最上に位置する鐘が、普段あまり聞かないリズムで鳴り始めた。

 

 

 

ゴーン……ゴゴーン……ゴーン……ゴゴーン……

 

 

 

「この鳴らし方は……!!」

 

「あい!」

 

「おおっ!」

 

「まさか!!」

 

鐘の音はマグノリア全域に響き渡り、その鳴らし方に聞き覚えのあるギルドの面々は嬉しそうに、そして街の人々は困惑しているかのようにざわめき始める。

 

「何!?」

 

「この鐘の音は……?」

 

「……この鳴らし方、もしや……」

 

一方、このギルドに入ったばかりのルーシィやウェンディ、シャルルやジュビアは何事かと首を傾げ、メルクリウスは以前ギルドに保管されていたマグノリアの歴史書に記されていたこの鳴らし方の意味を思い出していた。

 

「あんた、何か知ってるの?」

 

「ああ、この鳴らし方は確かある魔導士がこの街へと帰ってきた際に鳴らすものだ」

 

その魔導士とは妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の魔導士と呼ばれる程の実力者であり、一つの大きな街に住む者たちが揃って警戒する程の危険な魔法を使用する者である。

その者の名は―――

 

「ギルダーツが帰ってきたァ!!」

 

「あいさー!!」

 

『オオオオオオッッ!!!』

 

一際嬉しそうなナツの声を皮切りに、ギルド内の者たちは揃っていつも以上に騒ぎ出す。

 

「ギルダーツ?」

 

「私も会った事無いんだけど……妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の魔導士なんだって……」

 

「うわぁ!」

 

「それはいいけど、この騒ぎよう何!?」

 

「お祭りみたいだね、シャルル」

 

「ホント騒がしいギルドね」

 

「……ミラ嬢、一つ聞いても構わないだろうか」

 

ルーシィやウェンディ、シャルルがそんなやり取りをしているのを尻目にメルクリウスは近くに来ていたミラへと問い掛ける。

 

「ん?何かしら?」

 

「確かギルダーツ殿は三年前に100年クエストに向かった筈ではなかったかね?」

 

「あら、よく知ってるわね。その通りよ」

 

「「100年クエスト!?」」

 

さらりとメルクリウスの口から出た単語にルーシィとウェンディが驚く。そんな二人へ補足するようにミラが説明を始めた。

 

「そう、クエストには五つのランクみたいなものがあるのよ。まずは魔導士なら実力を問わずに誰でも受けられる普通のクエスト―――あそこのボードに貼ってあるクエストね。あれが五つのランクの中で一番下なの」

 

「そしてそれより一段階上にあるのがS級クエスト……エルザ嬢などの限られた実力者しか受けられないクエストだったね」

 

「ええ、そしてその上にSS級クエストってのがあるんだけど、そのさらに上に10年クエストって仕事があるの」

 

10年間、誰も達成した者が居ない高難易度かつ達成困難なクエスト―――故に10年クエスト。

 

「ギルダーツはそのさらに上―――五つのランクの中で最も難易度が高くてすごく危険な100年クエストに行ってたのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「100年クエスト……」

 

「それって100年間……誰も達成出来なかった仕事って事ですよね……!?」

 

「そういう事だ。最も私の知る限り、現在まで100年クエストを受ける資格有りと判断された魔導士など片手で数える程度しか居ないがね」

 

私は驚愕しているルーシィやウェンディにそう説明しながら、他の人が頼んだまま手の付けていない飲み物を盗み飲む。

100年クエスト―――それはこの世界の秩序を保つ為に法を定めている評議院から依頼される最高難易度かつ達成不可能と思えてしまうようなクエストの事である。

ちなみに100年クエストを受ける為には、満たさなければならない条件が幾つかあるのだが、その中で一番重要なのはやはりクエストを受ける魔導士の実力だろう。少なくともこのギルドのマスター、マカロフや蛇姫の鱗(ラミアスケイル)に属するジュラなどの聖十大魔道以上の実力―――もっと言えば聖十大魔道序列上位四人と対等に戦えるか僅かでも抗える程度の実力が無ければならないと思われる。

 

「そ、そうなんだ……。ギルダーツさんってどんな人なんだろね、シャルル」

 

「さあ?ものすごく怖い人だったりして」

 

「ふむ、それもありえない話ではないな」

 

「ええっ!?」

 

シャルルの冗談に同意するとウェンディが若干怖がる。まあ最も、ギルドの面々がこれだけ嬉々として騒いでいる様子を見ればその可能性は無いと思われるのだが。

 

『マグノリアをギルダーツシフトへ変えます。マグノリアをギルダーツシフトへ変えます。町民の皆さんは速やかに所定の位置へ移動してください。繰り返します―――』

 

そんな事を考えていると、ギルドの正面入り口から随分と緊迫した雰囲気のアナウンスと町民たちの悲鳴にも似た声が聞こえてくる。

 

「こ、これから何が始まるんですか!?」

 

「それは外を見てみれば分かるわよ」

 

そうミラが答え、皆が揃って外へと視線を向けた直後、マグノリアの街全体が大きな地鳴りを伴って揺れ始める。それと同時にギルド前の大通りがゆっくりと左右に開き、その下から新たな道が現れる。

そしてその揺れが収まる頃には妖精の尻尾(フェアリーテイル)と街の郊外を結ぶ長い一本道が出来上がっていた。

 

「う、うそ……街が……割れたーーーーっ!!!」

 

「これが噂に聞くギルダーツシフトかね」

 

「ええ、ギルダーツは触れたものを粉々にする《粉砕(クラッシュ)》って魔法を使うんだけど、ボーッとしてると民家も突き破って歩いてきちゃうの」

 

「どんだけバカなの!!?てかその為だけに街をこんな風に改造したの!?」

 

「すごいねシャルル!」

 

「ええ……すごいバカ……」

 

聞けば彼はよくボーッとする癖があるらしく、こうでもしなければ街中の建物を大量に破壊してしまうそうだ。さらにはその癖と魔法のせいで村一つをうっかり滅ぼしてしまった事もあるとの事。

 

「うっかりで村一つを滅ぼしたって……もう何も言えなくなる位バカね……」

 

シャルルの言い分には同意せざるを得ないな。だが世の中には人の勇気見たさに“つい”で世界を滅ぼそうとした者も居るという。そちらの方が余程の馬鹿ではないだろうか。

とまあそのようなどうでもよい事を考えている間に、ギルドへと続く一本道をゆっくりと歩いてくる者の姿が徐々に明らかとなっていく。

そして―――

 

「ふぅ……」

 

ギルドの入り口に立った茶髪の男はまるでようやく帰ってきたとでも言うように深く溜息をした。

 

(ほう……この男がギルダーツか)

 

なんとも力強い魔力を持つ男だ。確かにこれ程の力を持っているのならば、このギルド最強と呼んでも差し支えない。

……だが少々、この男の体から違和感を感じるな。左手と左足辺りから本来感じられる筈の生気が感じられない。

 

「おかえりなさい、ギルダーツ」

 

「む……お嬢さん、確かこの辺りに妖精の尻尾(フェアリーテイル)ってギルドがあった筈なんだが……」

 

「ここよ。それに私、ミラジェーン」

 

「ミラ?お、おお!?随分変わったなァオマエ!!つーかギルド新しくなったのかよーーっ!!」

 

「外観じゃ気付かないんだ……」

 

ギルダーツは先ほどの雰囲気から一変、とても驚いたようにギルドの中を見回し始める。

そんな彼に向かって走る者が一人。

 

「ギルダーツ!!俺と勝負しろォォーーー!!!」

 

「いきなりソレかよ」

 

「おおっ?ナツか!!久しぶりだなァ」

 

懐かしそうに笑みを浮かべるギルダーツへと問答無用で飛び掛かるナツ。相変わらずこの男は……と内心呆れるものの、標的にされた男は慣れたように笑う。

 

「俺と勝負しろって言ってんだろー!!」

 

「ははっ、相変わらずだなオマエは。―――でもまた今度な」

 

「ごぱっ」

 

そして彼は突っ込んできたナツを右手で適当に放り投げ、天井へめり込ませた。

その光景にルーシィとウェンディは驚愕のあまり言葉を失い、他のメンバーたちはやっぱりといった感じで笑う。

 

「あんたも変わってねぇな、オッサン」

 

「まさに漢の中の漢!」

 

「お、グレイにエルフマンか!!オマエらも久しぶりだなァ!元気にしてたか?」

 

「「おう!」」

 

「そうか、そいつは良かった。―――にしても暫く見ないうちにだいぶ変わったなァ。見ねぇ顔も増えてるし……」

 

「ギルダーツ」

 

すると今まで黙ってカウンターの上に座っていたマカロフが口を開く。

 

「おおっ!マスターも居たのか!!久しぶりーーー!!!」

 

「うむ、主も元気そうで良かったわい。それで―――仕事の方はどうじゃった?」

 

マカロフが問うと、ギルダーツは笑いながら報告する。

 

 

 

 

「ダメだ、俺じゃ無理だわ」

 

 

『何!?』

 

「嘘だろ!?」

 

「ギルダーツが失敗……?」

 

(ほう……)

 

彼―――ギルダーツはこのフィオーレ地方において最強の魔導士と噂される程の男だと聞いた。そんな男ですらも達成出来なかった100年クエストとは……一体どのような内容の仕事なのだろうか。

 

「そうか……主でも無理か……」

 

「スマネェ、名を汚しちまったな」

 

「……いや、無事に帰ってきただけでよいわ。ワシが知る限り、このクエストから帰ってきたのは主が初めてじゃ」

 

「ふぅ〜……とりあえず俺は休みてぇから帰るわ。疲れた疲れた……」

 

そう言い、ギルダーツはギルドの扉へ向けて足を進める。その際に彼は何かを思い出したかのように声を上げた。

 

「そうだ、ナツ。後で俺ん家来い。土産があるぞ〜」

 

「おおっ!土産って何だ!?」

 

「そいつァ来てからのお楽しみって奴さ。んじゃ―――」

 

「おっと、その前に一つよろしいだろうかギルダーツ殿」

 

私はギルドの壁を壊して、最短距離で帰ろうとしているギルダーツへと声を掛けた。すると彼は私の事を興味深そうに見つめてくる。

 

「む……あんたは?」

 

「カール・クラフト。つい先日このギルドに入ったばかりの若輩者だよ」

 

「へぇ……先日入ったばかりとは驚いた。俺は……まあ知ってるみたいだから名乗る必要はねぇか。で、なんだ?」

 

「いやなに、かの100年クエストから初めて生還してきた貴方から色々と話を聞きたいと思ってね。それに()()()()に関しても少々気になる所があるのだよ。そういうわけで、私もナツ殿と共に貴方の家を訪ねてもよろしいだろうか?」

 

「…………ああ、いいだろう。俺もあんたにたった今、聞きたい事が出来たからな」

 

そう答えたギルダーツはギルドの壁を粉砕して出ていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギルダーツの土産か〜。珍しい外国の“炎”とかかなぁ?」

 

「珍しい“炎”って何よ……。もしかしたら食べ物とかじゃない?」

 

「……何言ってんだルーシィ、“炎”も食いもんだろ?」

 

「それはあんただけでしょうがっ!!」

 

「じゃあ珍しいお魚とかかなぁ?何だろうね」

 

ギルダーツさんがギルドの壁を壊して出ていってから数分後、私はナツさん、ルーシィさん、ハッピーにシャルル、そしてカールと一緒にギルダーツさんの家へと向かっていました。

 

「全く……ナツとオスネコはまだしもなんで私やウェンディ、ルーシィまで行かなきゃいけないのよ」

 

「ちょっとシャルル……」

 

前を歩く3人のやり取りを呆れたように見ながら呟くシャルルに、私の隣を歩いているカールが答えました。

 

「仕方ないだろう。君たちとルーシィ嬢はギルダーツ殿に挨拶していないのだからね。新参が古参に挨拶をしにいくなど当然の事であり、これから世話になるかもしれない人物に挨拶しに行かないというのはいささか失礼だとは思わないかね?」

 

「……それもそうね……」

 

確かにカールの言う通り、私たちが今後ギルダーツさんに何かしらお世話になる可能性は否定出来ません。そもそもお世話になるならない以前として、私たちよりずっと長く妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属している方に、初めましても言いに行かないのは常識としてどうかなと思います。

シャルルもそれは思ったようで、静かに頷きました。

 

「ま、これからあの男に世話になる事があるかどうかなんて分からないけどね」

 

「それでもある程度関係を持っておいて損は無いだろう。いざという時に頼れる存在というのはとても大切だからな」

 

「頼れる存在、かぁ……」

 

そう呟いた私の視線は、自然とカールとシャルルの方に向いてしまいます。

 

「―――む、どうかしたかね?」

 

「あ、ううん。何でもないよ」

 

……私にとって一番頼りになる存在―――それが一体誰なのかと聞かれればなんて答えるか、皆さんなら分かりますよね。

 

「ならいいが、余所見などしていると転んでしまうよ。君は何かと転ぶ事が多いからね」

 

―――カールは私なんかよりずっと魔法とか強くて、私が知らない事もいっぱい知ってて……七年前からいつも私の事を気に掛けてくれる優しい大切な人。

 

「そうね、あんたはなんにも無い所で転んだりするんだから……」

 

―――そしてシャルルは私よりもしっかりしてて、カールやジェラールが居なくなって悲しんでた私を元気付けてくれたり、どんな時でも側に居てくれた大切な友達……。

2人は私にとってかけがえのないとても大切な存在です。

 

(……はぁ……私って2人に頼り過ぎだなぁ……)

 

だからこそ私はそんな2人に甘えている自分自身に内心溜息が出ます。他者に頼る事自体悪くないのはカールにも言われたし、私自身も分かってはいるけど……いつまでも2人に甘えてたら、いざ私一人で何かをしなきゃいけないってなった時に大変な事になるかもしれません。

 

(……私ももっと強くなって、いざって時に皆さんを助けられるようにならなきゃ……!)

 

「……それはそうとクラフト、少しあんたに聞きたい事があるんだけど」

 

私が心の中でそう決意を固めていると、シャルルがカールに質問をしました。

 

「ふむ、何かね?」

 

「……ギルドであの男(ギルダーツ)とあんたが話していた内容について、一つ気になる事があったのよ」

 

「……それは私が彼と話したいと思った理由について、かな?」

 

そう問われたシャルルは小さく息を吐いて続けます。

 

「ええ。あんたが彼から100年クエストの話を聞きたいっていうのは分かるわ。今まで誰一人として帰ってこなかったクエストから生還してきたらしいもの、そう思うのは納得出来る。でももう一つの理由―――()()()について気になる事ってなんなのよ?」

 

「あ、それ私も気になってたよ」

 

カールはギルダーツさんの体について何か感じたみたいですが、私たちは何も感じませんでした。だから何が気になるのか聞いてみたかったんですが……。

 

「ふむ―――まあ、それは本人に聞くのがよかろう」

 

そう言ったカールの視線の先には少し小さくてボロボロの家があり、ナツさんやハッピーさんはその家の扉を開けて中へと入って行きました。ここがギルダーツさんのお家みたいですね。

 

 

 

 

「よォ」

 

「お邪魔します」

 

「来たかナツ、ハッピー。それにクラフトと……そちらのお嬢さん方は?」

 

お家に入って早々、ギルダーツさんはナツさんやカールの後ろから入ってきた私たちを見て首を傾げました。

 

「彼女たちは私と同じく、ここ最近ギルドに入ったばかりの新顔でね。他にも後数名程居るが、とりあえず今回はナツ殿たちと親しい面々を連れてきた次第だ。さて、ルーシィ嬢―――」

 

「あ……は、初めまして!私はルーシィ・ハートフィリアって言います!ナツとハッピーに誘われて妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入りました!」

 

「ほお、ナツとハッピーに誘われてね……。んで、そっちの嬢ちゃんは?」

 

「は、はい!私はウェンディ・マーベルって言います!私はエルザさんに誘われてこのギルドに入りました。そしてこっちは一緒に入った私の友達で―――ほらシャルル、挨拶して?」

 

「……ふん」

 

「おやおや」

 

「ちょっとシャルル……!」

 

「ははっ、随分と気難しい性格の子が入ったもんだなァ。別に気にすんな、嬢ちゃん。俺はこういう子の態度にも慣れてるからな」

 

あまりにも失礼な態度のシャルルに私は思わず声を上げようとしましたが、ギルダーツさんは豪快に笑い飛ばして許してくれました。

 

(初めて見た時はとても怖い人かもって思ったけど……)

 

話してみると思っていたより気さくそうな人で安心しました。危険な魔法を使うって話もあったので、ちょっと怖いなとも思ってたんですが……。

 

(お家の中もそんなに変なものもなさそうだし……)

 

ギルダーツさんのお家の中は三年も留守にしていたからか、埃がたくさんたまっていたり、観賞植物が枯れてたり、壁に穴があいていたり、蜘蛛の巣が張ってたりしてますが、見る限り何か変なものが置いてあったりはしてません。

 

『……ウェンディ、何か変なものが無いかと気になる気持ちは理解出来なくはないが、少しばかり失礼ではないかな?』

 

『っ!う、うん……』

 

そんな事を思っていると、カールに小声で注意されました。確かに初対面の人の家をちょっと警戒するように見回すのは失礼でしたね……。

でもギルダーツさんはそんな私たちの様子に気が付く事も無く、話を続けます。

 

「……そういや話は変わるがナツ……オマエ、リサーナとはうまくやってんのか?ん?」

 

「……はぁ?」

 

「はぁ?って……な〜に照れてんだナツぅ」

 

「――――――」

 

そうギルダーツさんが言った瞬間、ナツさんとハッピーの雰囲気が少しだけ変わり、カールも小さく溜息を吐きながら目を瞑りました。

一体どうしたんだろう―――そう思った私の考えは、ナツさんの言葉で強制的に中断させられました。

 

 

 

「……リサーナは死んだよ。2年前に」

 

『っ!?』

 

「なっ……マ、マジかよ……。そっか……それでミラの奴……うおお……スマネェ、ナツ」

 

ナツさんの言った言葉に目を見開いて驚き、申し訳なさそうに頭を下げるギルダーツさん。そんなギルダーツさんを見ながら、私はさっきナツさんが言った言葉を思い返していました。

 

(リサーナさんって誰の事だろう……?見た事も聞いた事も無い名前だけど……)

 

『……ちょっとクラフト、あんた呆れた感じで溜息吐いたけど何か知ってるの?リサーナって誰なのよ?』

 

『……リサーナ・ストラウス。ミラ嬢とエルフマン殿の妹であり、ナツ殿とは幼馴染のような間柄だったとミラ嬢から聞いている。……彼女は2年前、仕事中にある理由で暴走したエルフマン殿を止めようとして命を落としたそうだ』

 

『…………』

 

……言葉が出ませんでした。2年前にそんな出来事があったなんて……。

 

『しかし随分と綺麗に地雷を踏み抜いたものだな……』

 

……3年間仕事に行っていたから知らなかったとはいえ、仲間をとても思いやるギルドの皆さんにとって深い傷になったと思われるリサーナさんの死……。

そんな話題を出されたからか、ナツさんは明らかに不機嫌な顔を浮かべて立ち去ろうとします。

 

「……そんな話ならオレは帰んぞ」

 

「ちょっとナツ!」

 

「ナツさん!」

 

「ナツってば」

 

「…………」

 

背を向けて苛立ったように呟くナツさんを引き止めようと、私たちは声を掛けますが―――

 

 

 

 

「ナツ……仕事先でドラゴンに会った」

 

『!!!』

 

とても真剣な声色で呟いたギルダーツさんの言葉にナツさんは振り返り、私たちもまたギルダーツさんを見ます。

 

「ナツが探してる赤い奴じゃねぇとは思うがな……。俺が見たのは黒いドラゴンだった」

 

「黒い……ドラゴン!?」

 

「……ギルダーツ殿、そのドラゴンとはどこで?」

 

「霊峰ゾニア―――そのお陰で仕事は失敗しちまったよ」

 

「っ!」

 

場所を聞いたナツさんはギルダーツさんの家から飛び出そうとしましたが……。

 

「行ってどうするのかね、ナツ殿」

 

「決まってんだろ!!イグニールの居場所聞くんだ!!」

 

「もう居ねぇよ、あの黒竜は大陸……あるいは世界中を飛び回っている」

 

「それでも何か手がかりがあるかもしれねぇっ!!行くぞウェンディ!!もしかしたらグランディーネの手がかりもあるかもしれねぇっ!!」

 

「えっ!?ナ、ナツさん!?」

 

叫ぶナツさんに手を掴まれ、私は状況を整理出来ないまま連れて行かれます。

 

 

 

「ナツ……これを見ろ」

 

そんな私たちを引き止めるように声を掛けたギルダーツさんは、今まで体全体を覆っていたマントを外して体を晒し―――私たちはそれを見て言葉を失いました。

 

『――――――』

 

「……ふむ、やはりそういう事だったか」

 

マントの下から現れたのは筋骨隆々としたギルダーツさんの体……。

でもそれは右半身だけで、左半身の方は多くの包帯が巻かれ、左腕と左足の部分は金属性の義手義足になっているという見ているだけで痛ましいと思ってしまう姿でした。

 

「貴方の左半身から一切生気を感じなかった事について甚だ疑問に思っていたのだが……先の話で合点がいった」

 

「ああ……ほとんど一瞬の出来事だった。俺の魔法は奴に一切効いた様子も無く……左腕と左足、内臓も幾つか持っていかれた。……あの後奴が興味を失って飛び去り、死にかけていた俺を評議員の役員が見つけてくれなかったら……俺は今、ここには居なかっただろう」

 

『――――――』

 

―――あまりにも突然の話に、私たちは一言も言葉を発する事が出来ません。

ギルダーツさんはそんな私たちを一瞥しながら、マントを再び着直しました。

 

「……イグニールって奴はどうだか俺は知らねぇ。だがあの黒い竜は間違い無く人類の敵だ。そして……人間はあれに勝てない」

 

「そ……それを倒すのがオレたち……滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だろ!!オレの魔法があれば……黒い竜だって……!」

 

「……本気でそう思ってんのなら止めはしねぇよ。だが、あれは並大抵の実力じゃあ傷を付ける事すら出来ない。それは覚えておけ」

 

「っ……!くっそおおおっ!!」

 

「ちょっとナツ!どこ行くのよ!」

 

「ナツ!!ルーシィ!!」

 

雄叫びを上げながら、飛び出して行くナツさん。それを追いかけようとルーシィさんもまた家を飛び出し、ハッピーもその後を追いかけようとした瞬間―――

 

「ハッピー……お前がナツを支えてやれ。アレは人間じゃ勝てねぇが、ドラゴンなら勝てるかもしれん」

 

「―――あい!」

 

そしてハッピーも家を飛び出し、私たちもまた後を追おうとしますが……。

 

「……ところでクラフト、お前なんだか色々知ってる風に話していたが……例の黒い竜について知ってるのか?」

 

「無論」

 

カールはどこからか取り出した一冊の本を見せてきました。

 

「それはこれまで数多の国の歴史書や、黙示録にも恐るべき存在として記されている伝説の黒き竜―――アクノロギアだろう」

 

「アクノ……ロギア……?」

 

「……やっぱりそうか……」

 

そう言いながら、カールは私とシャルルへ手に持っていた本を開きながら渡してきました。

その開かれたページには禍々しい模様の黒い竜が書かれている絵と、それについての文章が書かれていました。

 

「……その者、闇の翼と呼ばれ、数多の国々を滅ぼした時代の終わりを告げる漆黒の竜なり……」

 

「その竜、強靭な四脚を振り下ろせば大地に無数の亀裂を入れ、荒れ狂う咆哮を轟かせばいかなる堅牢な城壁をも粉々に打ち砕き、全てを無に帰す天からの息吹は国を瞬く間に灰燼とする……。な、なんなのこれ……ドラゴンがこんな事をするなんて……」

 

「意外かね?まあ、私に言わせれば人間を育てたドラゴンが居たという事の方が余程意外だがね。本来ドラゴンというのは人々に対して猛威を振るった恐るべき敵なのだから……」

 

「君たち……って事はそこの嬢ちゃんもまさか……?」

 

「然り、彼女もまたドラゴンに育てられた滅竜魔導士だ」

 

「っ……!そ、そうなのか……。……すまねぇウェンディ、ドラゴンに育てられたってのにこんなショックな話聞かせちまって……」

 

「あ……いえ、その……だ、大丈夫ですよ?」

 

頭を下げるギルダーツさんに私は苦笑いを浮かべます。確かにちょっと衝撃的なお話でしたけど……。

 

「ふむ……しかし残念だな。個人的には一度例の黒竜と対面し、一戦交えてみるのも一興かと思ったのだが……」

 

「やめとけ、さっきも言ったがあれは人間が敵う相手じゃねぇ。あれを下せるとしたらドラゴンか、それこそ神様位しか出来ねぇだろうよ」

 

「「…………」」

 

ギルダーツさんはそう言って、「まあ、神様なんて居るわけねーが」と豪快に笑い飛ばしていましたが……私とシャルルの視線は隣で「そうかもしれないな」と笑っているカールの方に向いていました。

 

(神様、かぁ……って事はもしかしたら覇道神(カール)だったらそのアクノロギアってドラゴンも……)

 

「―――さて、では私たちはそろそろお暇するとしようかね。ギルダーツ殿、実に興味深く愉快な話を聞かせてもらった。改めて礼を言わせてもらおう」

 

「ははっ、こっちこそ色々と面白い話を聞く事が出来て有意義な時間だった。今度またゆっくり酒でも飲みながら話そうや」

 

「おや、それはそれは……喜んで付き合わせてもらうとしよう。では―――行こうか、ウェンディ」

 

「あ……うん!―――ギルダーツさん!私も色々とお話が聞けてよかったです!ありがとうございました!」

 

「そうか、そいつはよかった。また何か聞きたい事が出来たら遠慮無く聞いてくれ。そっちのシャルルもな」

 

「……ええ」

 

そうして私たちは揃ってギルダーツさんの家を後にしました。

 

 

 

 

そしてギルドに戻る帰り道―――

 

「……ねぇ、カール。一つ聞いてもいいかな?」

 

ギルダーツさんの家を出てから私たちは暫く黙って歩いていましたが、私がそう言うとカールは視線をこっちに向けて続きを促してきました。

 

「さっきの黒いドラゴンの話を聞いてて思ったんだけど……ギルダーツさんはその……アクノロギア?ってドラゴンを倒せるのはドラゴンか神様位じゃないかって言ってたよね?」

 

「然り、それは強ち間違いでは無いだろう。実際私は今までドラゴンについて書かれた書物を多く読み漁ってきたがドラゴンには基本的に同族の攻撃か、滅竜魔法以外の魔法はほとんど効かないらしいからね。無論例外もあると言えばあるが……」

 

カールによるとドラゴンを滅竜魔法以外で倒すには最低でも超絶時空破壊魔法―――つまりエーテリオンの何百倍も威力がある魔法じゃないと倒す事はほぼ不可能だとか……。

 

「とはいえ、そのような威力を持つこの世界の魔法など私は聞いた事もないがね。それに滅竜魔法もドラゴンフォースなどの力を発動させない限り、焼け石に水程度の攻撃力しかないようだ」

 

「ふ〜ん……ドラゴンってそんなに頑丈なのね」

 

「太古の昔から生態系の頂点に立っていたという存在だからな」

 

「……じゃあ、もしその黒いドラゴンと、神様―――つまりカールみたいな覇道神が戦ったら……どうなるの?」

 

「余程の不確定要素が起きない限り、我らの勝利で終わるだろうな」

 

そうはっきりと断言したカールはまるで授業を教える先生のように説明を始めました。

 

「まず初めに、我々覇道神は基本的に他の神以外の攻撃で傷付く事などほとんど無い。例えエーテリオンを食らおうと、例の黒竜のブレスを食らおうとね」

 

その説明を聞いて、以前の宴会の際の事が頭の中を過ぎります。あの時私はカールの顔を思いっきり踏んでしまいましたが、カールの顔は少しも変形していませんでした。

内心ちょっと気になった事だったんですが、同格以上の存在じゃないと傷付けられないという事なら納得です。

 

「そもそも例の黒竜は精々この一世界を破壊する程度の力しか持っていないようだしね。我らと対等に争うとするならば、その程度の力では話にならんよ」

 

カール曰く、今の覇道神たちと戦うとしたら最低でも複数の多元宇宙を簡単に滅ぼせる程の攻撃力と、それらの攻撃に耐えられる防御力、そして何よりも強い渇望が無ければ互角に渡り合う事も出来ないみたいです。

 

「渇望、かぁ……ちなみにカールが神様になる位強く願った渇望ってなんなの?」

 

「私かね?私はただ自分が望む至高の結末以外は認めないと願っただけだよ。ああ嫌だ、認めない、私はこのような終わり(結末)など許さない―――とね」

 

望んだ終わり方以外認めない……そしてあの時マスター(ローバウル)が言っていた永劫回帰という言葉……もしかしてカールの能力って……。

 

「―――なるほど、つまりあんたの能力は多元宇宙の時間を巻き戻せるって所かしら?」

 

「然り」

 

「「…………」」

 

じ、時間の巻き戻し……そんな能力をカールは持ってたなんて……。

 

「とはいえ、私が望む結末以外の結末に至った場合しかこの能力は発現しない上に、座に居た頃の私は自らの渇望など流出を行う寸前以外はほぼ忘れていたがね」

 

「ほぼ忘れていたって……」

 

「仕方ないだろう。何しろ永劫の永劫倍以上、私は生きてきたのだからね」

 

「……気の遠くなるなんてレベルじゃないよね」

 

「本当にね。それにしてもあんたは時間を巻き戻す能力まで使って、一体どんな結末を求めてたの?」

 

シャルルがそう聞くと、カールは少し自虐めいた笑みを浮かべました。

 

「さて、なんだっただろうか。何しろ()()()が求めている結末は以前の私が求めていた結末とは異なるからね」

 

「なんだっただろうかってあんた……」

 

「…………」

 

なんだかぼかすような物言いのカールに、私は少し複雑な気持ちになります。

―――私はカールをすごく信用しているのに、カールは私を全く信用してくれてない……まるで私にあまりこれ以上は深く関わるなと言われているみたいに感じて……私はそれがなんだかすごく悲しくて……。

 

「―――おや、どうしたのかな?」

 

そんな私の内心を知ってか知らずか、優しく笑い掛けてくれるカール。

でもその笑みもどこか取り繕ってるように見えて……。

 

「……ううん、なんでもない。早くギルドに戻ろう?」

 

でも、その事を指摘してもカールはきっと気のせいだと言って受け流すと思った私は首を振り、ギルドに向かって歩き始めます。

カールに対して抱いたこの不安を心の中に残しながら―――

 




こちらの小説にも愛と勇気の魔王の影が……!!

約八ヶ月ぶりの小説はいかがでしたでしょうか?
もしかしたら内容結構薄いなぁ……と思ったかもしれませんね。実際私もそう思いますし(ちなみに今回は結構な難産で本当に書き上げれるかな?と焦った位、内容が思いつかなかった)。

というわけで今回の話は現時点でこれが限界です。また暇があれば付け足したりするかもしれませんが。

では今回はこれにて……誤字脱字・感想意見等よろしくお願いします!(短編小説も見てね!)


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水銀の蛇はもう一つの世界へと向かう

皆様少し遅いですが新年、明けましておめでとうございます!そしてお久しぶりです!

前回更新からまたかなりの間が空いてしまいましたね……リアルが忙しかったり、上手い書き方が出来なかったりと色々ありまして……すみません。

今回もアブソと同時更新しました。そちらも見ていただければ幸いです。
ではお楽しみください!



 

―――漂っている。まず初めに感じたのはそんな感覚でした。

まるで宙に浮かんでいるかのような……あるいは水面に体を浮かせているような、そんな感覚。

 

「ここは―――」

 

閉じていた目をゆっくりと開けてみると、そこに広がっていたのはまるでこの世の全部を優しく包み込んでくれそうな黄昏色の光で満ちた空間でした。

 

『――――――』

 

何か声が聞こえる―――そう思って視線を彷徨わせると、突然私の周りに見た事が無い映像が映り始めました。

 

「これは……」

 

映像は私より少し年上―――ナツさんやルーシィさんと同じ年齢位の男性女性たちの何気無い日常を映したようなもので……茶髪の女性と金髪の女性がとても巨大なパフェを食べている映像。

さっきの茶髪の女性が笑いながら困ったような表情を浮かべる青っぽい髪の男性と、薄っすらと笑みを浮かべた茶髪の髪の男性の腕を掴んでいる映像。

魔導二輪(バイク)のようなものに乗って笑っている青髪の男性と茶髪の男性の映像。

カールと似たような軍服を着た金髪の女性と黒髪の男性が雨の中抱き合っている映像。

制服を着た黒髪の女性が同じ制服を着ている女性たちと楽しく笑いながら歩いている映像。

何処かの建物の屋上みたいな場所で楽しく笑いながら話をしている映像。

そして……青髪の男性と白いドレスを着た金髪の女性が眩しいと思う位の笑みを浮かべている映像。

そんな映像と共に私の耳へ響いてきたのは綺麗な女性の声……。

 

『わたしが見ている』

 

『側に居る』

 

『見捨てたりしない』

 

『抱きしめる』

 

『―――ううん、お願い―――抱きしめさせて?愛しい全て―――わたしは、永遠に見守りたい』

 

『他のことはわたしが全部包むから……』

 

『誰でもいつか、明るい明日を……みんな、それを求めて生きている』

 

『レンが教えてくれたこと、ステキな考え―――だからわたし、そんな風にみんなを包めたらいいなって……そう思うよ』

 

(この声……グランディーネみたいに優しくて……落ち着く……)

 

何処か懐かしくて、思わず甘えたいと思ってしまう声が黄昏色の空間に響いていきます。

 

『怖いことも辛いことも、ずっと続いたりなんてしないもん!みんな、み〜んな!明日は笑顔になれるから!幸せになれるんだから―――ふふっ、ねっ?』

 

(―――全てを抱きしめたい……?)

 

もしかしたらこの女性は―――そう思った私は笑顔を浮かべている彼女に手を伸ばそうとして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□(見ツケタ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ひっ!!?」

 

―――怖い。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!!!!

 

□□□□□□□□□□□□□□□□(こいつか―――俺に触れている塵は)

 

(あ、れは……!!?)

 

女性の背後に突然現れたのは何処までも暗く輝く三つの光―――いや、ただの光じゃない……!

 

「眼……!?」

 

でもあれは人が持つ眼なんかじゃない……!それもおぞましいなんて言葉じゃ足りない程、強大で邪悪な……!!

 

□□□□□□□(ついに見つけた)

 

―――嫌……!こっちを見ないで……!私たちを殺さないで……!!どうかそれ以上喋らないで……!!

 

□□□□□□□□□□(こいつさえ居なければ)□□□□□□□□□□□□□(―――俺以外は何もいらない!)

 

紡がれる言葉は私には理解出来なくて、でもそこに含まれた感情と願い(渇望)だけは強制的に理解させられていく。

()()は自分以外の全てを残らず消し潰したいという憎悪と殺意しかない……。

独りになりたい―――そんな誰でも持っている想いがこの存在の願い(渇望)だと……。

 

 

□□□□□□(滅尽滅相!!)

 

 

そしてその言葉を最後に私の意識は途切れる―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!はっ……は……」

 

おぞましく、生きた心地がしない程恐ろしい夢から帰還した青髪の少女は目覚めた瞬間、ベッドから勢いよく上体を起こして荒い息を繰り返す。

 

「はっ……はっ……夢……?」

 

荒い息を整えながら少女は、そのまま視線を彷徨わせて周りを見回す。

綺麗に整理整頓され、年頃の女の子らしい飾り付けや小物、人形などが飾られているその部屋は間違い無く少女が自分で家賃を支払って住んでいる部屋だ。

決して先ほどまで少女の夢に出てきた安らげる黄昏色の空間でも、血と糞尿を際限無く塗りたくったような漆黒の空間でもない。

 

「っ……!」

 

そこまで思い出した少女は右手で頭を押さえて、先ほどの夢を思い返す。

まず最初に見たあの黄昏色の空間―――その空間で見たのはきっと自分の知らない人たちの何気無い、でもそれでいてとても大切な思い出とかそういった類のものなのだろう。中には幾つか疑問に思うような映像もあったが、ほとんど平和的なものだったと思う。

しかし―――

 

「…………」

 

少女の手が震え、全身から汗が吹き出す。

明るく慈愛に満ちた光で溢れていた空間を一瞬で押し潰してしまう程に強く、圧倒的という言葉すらも陳腐に思えてしまう力。

ただその声を聞くだけで耳を引き裂きたくなり、その眼を見るだけでこちらの目玉を抉り出したくなる不快感と負の圧力。

そして自分が今まで見てきた人たちなんて足下にも及ばない格の違い……。

 

 

 

「―――ンディ……ちょっと、ウェンディ……?」

 

「ぁ……シャルル……」

 

と、ここで少女―――ウェンディは自らの名前を呼んでいたこの部屋に住むもう一人の大切な友達―――シャルルの声にようやく気が付いた。

 

「ウェンディ、あんた……大丈夫?頭を押さえた辺りから呼んでたのに全く聞こえてなかったみたいね……」

 

「あ……うん、ちょっと嫌な夢見ちゃって……」

 

ウェンディはシャルルに心配させまいと笑みを浮かべるが、少しばかりぎこちないものになってしまう。そんなぎこちない笑みを見逃してしまうシャルルではなかった。

 

「……どんな夢を見たの?そんなに汗だくになるなんて……」

 

「……それは……」

 

ウェンディの脳裏に浮かぶのは遥か天空の頂きから、黄昏の女性ごとこちらを覗いていた三つの邪眼()と、理解出来ずとも感じ取れる憎悪と殺意に満ち足りた声。

 

「っ……」

 

―――出来る事なら今すぐにでも記憶を消して、もう二度と思い出したくない。それが今のウェンディの心境だった。

しかし―――

 

「思い出すのが辛いなら別にそれはそれで話さなくていいんだけど―――」

 

「……ううん、大丈夫。話せるよ」

 

誰か他の人に話せばきっと少しはこの気持ちも落ち着く筈。シャルルならきっとそれは夢で、そんな事は本当に起こらないってはっきり言ってくれる筈。

……それになんだかさっきの夢はシャルルには言っておいた方がいい気がする。そう直感的に感じ取ったウェンディは記憶の蓋を閉じる事無くシャルルを抱き上げる。

 

「シャワー浴びながら話そう?このままじゃ私、風邪引いちゃいそうだし……」

 

「……そうね」

 

そしてベッドから立ち上がったウェンディは、シャルルを抱きかかえて浴室へと向かう。

 

 

―――そんなやりとりの間、二人はベッドの枕元で淡く紅い光を静かに発していた水星に気付く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「777年7月7日?」

 

「はい、私やナツさんに滅竜魔法を教えたドラゴンは皆、同じ日に居なくなってるんです」

 

「ふむ……」

 

今日も今日とて騒がしいギルドの喧騒をBGMに私はウェンディとシャルル、そしてルーシィと同席して世間話をしていた。

話題はウェンディやナツ、そしてガジルという者の育ての親だったドラゴンについてである。

 

「そういえば前にナツがガジルの竜も同じ日に姿を消したって言ってたかも」

 

「ああ、それは私も(ナツ)から聞いた事があるが……一体その日に何があったのだろうね」

 

私の呟きにう〜んと唸ったルーシィは―――

 

「もしかして遠足の日だったとか?」

 

「ドラゴンが遠足……」

 

 

 

 

 

『さあ、そろそろこの辺りでお弁当でも食べましょうか!』

 

『ふむ、今日の弁当はお前が作ったのかグランディーネ?』

 

『ええ!こっちはブリザードバーンの燻製で―――』

 

『―――ほう、なかなか悪くないな』

 

 

『こっちはヒューマンハンバーグよ!』

 

『『ブフーッ!!』』

 

『ちょ……貴様、我々に何を食わせているのだ!?』

 

『ふふふ……冗談よ。九割冗談だから安心しなさい』

 

『『後の一割は何だぁ!!?』』

 

 

 

 

 

「―――こんな感じかな?今少しばかり想像してみたのだが」

 

「……なかなかすごい絵面ね。ドラゴン三体が青空の下でシート広げて弁当食べてるって……」

 

「グランディーネはそんなもの作ったりなんかしませんよ!?というかルーシィさんが変な事言ったせいで変なイメージが付いちゃったじゃないですか!?」

 

「え、いや、私もただなんとなく言ってみただけだったんだけど……その、ごめん」

 

そのような比較的平和な会話をしていると、少し離れた場所から見覚えのある青い猫がリボンを結んだ魚を掲げて走ってきた。

 

「シャルル〜!!」

 

「!」

 

「ふむ、君に惚れているナイト様が来たようだね」

 

「…………」

 

少しばかりふざけた物言いをしてみると、シャルルから殺意に近い視線を向けられた。おお、怖い怖い。

 

「シャルルこれ……オイラがとった魚なんだ。シャルルにあげようと思って……」

 

「いらないわよ。私、魚嫌いなの」

 

ちなみに猫の好物が魚というのは日の国だけの認識だったりする。

猫は本来完全肉食動物であり、ある学者の実験によるとヒツジやらウシやらの方が喜んで食べるそうだ。逆に猫にとって魚は好物どころか下手をすれば病気の原因となりえると言われている。まあ、その辺りの詳しい説明をここですると長くなるので割愛するが、もし知りたければ自分達で調べてみたまえ。

最も、今私の目の前にいるこの猫のような生命体(ハッピーとシャルル)が私の知っている猫の知識と合致するかと聞かれたら首を傾げてしまうのだが。

 

「そっか……じゃあ何が好き?オイラ今度それをとっt「うるさい!!」っ!!」

 

「私につきまとわないで」

 

「ちょっとシャルル!!言い過ぎだよ!!」

 

ハッピーに怒鳴ったシャルルは鼻を鳴らし、ウェンディや周りの視線も気にせずにギルドから出て行こうとする。

 

「何もあんな言い方しなくても……ねぇ、ハッピー」

 

「…………」

 

「追いかけなくていいのかね?」

 

「っ!待ってシャルル〜!」

 

そしてハッピーもシャルルの後を追いかけてギルドから出て行き、ウェンディとルーシィが息を吐く。

 

「なんかシャルルってハッピーに対して妙に冷たくない?」

 

「どうしたんだろ……」

 

「少なくとも何かしらいい感情は抱いていなさそうに見えるが……」

 

私が察するに、シャルルからはハッピーに対して何かしら憤りを感じているように見える。まるで()()()()()()で生きている事が心底気に入らないといったような―――

 

「……カール、私ちょっとシャルルとハッピーが心配だから行くね」

 

「待ちたまえ、私も行くとしよう」

 

そう言い、ルーシィにまた後でと告げた私とウェンディは外に出る。

 

(……どうやら荒れそうだな)

 

外に出て、空を見上げてみると西の方向から大きな暗雲が流れてきているのが目に入る。あの速さだと後数分程度でこの辺りにも雨が降って来るだろう。そして私が感じているのはそれだけではなかった。

 

(どうやら―――本当に荒れる事になりそうだ)

 

この街の外―――数キロ離れた場所から感じるある人物の気配を感じながら私はウェンディの後を付いていくのだった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それから僅か数分後、大きく厚い暗雲はマグノリアの上空全体を覆い尽くし、ザーッという雨音が聞こえる程の雨を降らし始めた。

多くの人が先程まで買い物をしていた店通りも今や雨の影響で誰も外に居らず、どこかひっそりとした雰囲気を醸し出していた。

そんな雨が降り頻る通りの真ん中に一匹の白猫が佇んでいる。白猫―――シャルルは上空の暗雲を見て小さく息を吐き、自分が住んでいる寮へ帰ろうと足を向けかけたが―――

 

「シャルルー!やっと見つけたっ!!」

 

「ふう、ここに居たのかね」

 

「ウェンディ……クラフト」

 

背後から雨音に混じった二人分の足音と自らを呼ぶ声に、シャルルは一歩を踏み出すのをやめて振り返る。

そこには自分と同じく傘もささずに歩いてきているウェンディとメルクリウスが居た。

 

「あんたたち、傘もささずに……風邪ひくわよ?」

 

「それはシャルルもでしょ!」

 

「私は風邪などひいた事無いのだがね」

 

そしてウェンディはシャルルの近くにしゃがみ込んで、少し頰を怒ったように膨らませて続ける。

 

「シャルル……私たちギルドに入ったばかりなんだから、もっと皆と仲良くしなきゃダメだと思うの」

 

「必要無いわよ。私はあんたが居ればそれで十分」

 

「もぉっ!またそーゆー事ばかり言って!カールも何かシャルルに言って―――カール?」

 

相変わらずの態度にウェンディはメルクリウスからも一言言ってもらおうと視線を向けたのだが……当のメルクリウスは何も言わず、視線を通りの先に向けていた。

それにつられてウェンディとシャルルもメルクリウスの見ている方向に視線を向けると、向こう側からいくつかの杖を背に背負っている男が歩いてきているのが目に入ってきた。

やがて男は彼女たちの前で立ち止まり、メルクリウスへ小さく頷いてから彼女へ声を掛ける。

 

「ウェンディ」

 

「え……?その声……」

「!!!」

 

「……こうして会うのは七年ぶりか……。暫く見ないうちに随分と大きく―――そして綺麗になった」

 

懐かしみとどこか申し訳無さそうな感情を抱きながら、彼はマスクと帽子を外してその素顔を七年越しにに出会った少女に見せる。

 

「―――ジェ、ジェラール……!!?」

 

「ど……どういう事!?あんた確か捕まって……」

 

「それは私とは別の人物だ」

 

「そんな!どう見たってあんたジェラールじゃないっ!!」

 

「……私は妖精の尻尾(フェアリーテイル)のミストガン。七年前は()()()()の事をよく知らず、君とカールさんにはジェラールと名乗ってしまったんだ」

 

(この世界!?)

 

「―――じゃ、じゃあ……あなたが七年前の……あの時のジェラール……」

 

それに静かに頷いたミストガンに、ウェンディは両目から大粒の涙を流し―――

 

「ずっと……ずっと会いたかったんだよ」

 

嬉しさを含んだ言葉と共に彼女はミストガンの元へゆっくりと歩みを進める。

 

「会いに行けなくて本当にすまなかった。カールさんとは君たちがギルドに入ったあの日に向こうから会いにきてくれて、君にも会うように言われたんだが……」

 

「生憎とその時の彼には急いでやらなければならない事があったから君には会おうにも会えなかったのだよ。……そこについては私も謝るべきかな?黙って一人彼に会い、その事を君に言わなかったのを……ね」

 

「ううん……いいの……それより私はまた二人に会えて嬉しくて……」

 

そうしてメルクリウスと久しぶりに再会した時と同じようにミストガンへ抱きつくウェンディ。

 

 

 

 

 

 

だったが―――

 

「―――すまない。今は……再会を喜ぶ時間すら無い……今すぐにこの街から離れるんだ」

 

「え……?」

 

そう言ったミストガンはウェンディを優しく離して、メルクリウスへと視線を合わせた。

 

「カールさん……私の任務は失敗しました……大きくなり過ぎたアニマはもはや私には抑えられません……」

 

「……上空の雨雲の不自然な渦、微弱に感じるこの魔力……。やはりそういう事だったか」

 

「はい……こうなってはもはやどうにもなりません……間も無くこの街(マグノリア)は消滅します……」

 

その会話を聞いたウェンディの目から光が雨で洗い流されていくかのように消えていく。

 

「―――ど……どういう事?カールもジェラールも何を言ってるの……?全然意味が……」

 

「終わるんだ。消滅は既に確定している。だから君やカールさんだけでも今すぐ避難を―――」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)は!!?ギルドの皆はどうなるの!!?」

 

 

 

 

「……全員、死ぬという事だ」

 

その言葉を聞いた瞬間、ウェンディは踵を返してギルドの方向へと駆け出す。

 

「ちょっとウェンディ!!」

 

「待つんだウェンディ!!せめて君たちだけでも街を出るんだ!!」

 

そのような制止の言葉すらも今の彼女には届かない。

なぜなら自分やシャルル、メルクリウスだけが逃げるなんて出来ないから。

自分はもう妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一員なんだからと―――

 

 

「ふふ、ふふふふふふ……」

 

そんな仲間想いな少女の後ろ姿を見て、魔術師は静かに笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃妖精の尻尾(フェアリーテイル)では―――

 

「雨やまないなぁー」

 

「ね」

 

「ジュ、ジュビアのせいじゃ無いと思う」

 

「誰もそんな事言ってねーよ」

 

「くかー……んごがぁー……」

 

「つかいつまで寝てんだナツは」

 

「昼からずっと寝てるよなぁ……よし、顔に落書きしちまおーぜ」

 

上空で自分たちの未来を奪い取るであろう魔法が発動しようとしている事など露程も知らない者たちが、ギルド内でいつものようにたむろしていた。

 

「落書きって……あんまりやり過ぎないようにしなさいよ〜」

 

「わーってるって。ルーシィもヒマしてんならやるか?今ならデコに肉って書けるぞ」

 

「確かにヒマだけどそれはやる気しないわ……何か面白い事とか起きたりしないかなぁ……ミラさんもエルフマンと一緒に教会に行っちゃったし……」

 

「あ、ならルーちゃんもこの本読んでみる?クラフトからビンゴ大会の景品でもらった本なんだけど興味深い事が書かれてて……」

 

「へ〜……なんて本なの?」

 

そう言いながらルーシィはレビィの隣にくっついて、レビィの持っている古くて分厚い本の表紙を見た。

 

 

 

「なになに……『歴代神座の伝説』?……ど、どんな内容の本なのか全く予想出来ないんだけど……歴史書、なの?」

 

「多分……と言っても私もこの本を読み始めたのはつい数分位前だからまだほとんど何にも分かんないんだけど……なんか神座っていう所に至ったり、至る位の実力を持った者たちを纏めた本みたい」

 

ふ〜ん、とレビィの説明に返事をしたルーシィは本の目次と思われる場所を軽く流し読みをしていたのだが―――ある単語が目に入ってきた事により疑問の声を上げる。

 

「あれ?」

 

「ん?どうしたの?」

 

「あ、いや、この単語―――どこかで聞いた気がするなって……あれ?そういえば神座伝説って言葉もどこかで……」

 

そう言ってうんうん唸るルーシィが指差したのは―――『水銀の蛇』という単語だった。

 

 

 

「おいエルザ、ちっとぉ」

 

「はい、なんでしょうマスター」

 

そんなルーシィとレビィの会話が繰り広げられている一方で、ギルドの別の場所では妖精の尻尾(フェアリーテイル)マスターであるマカロフが近くに居たエルザを手招きする。

 

「実は例の100年クエストの件についてなんじゃが……色々検討した結果、やっぱり他にまわそうと思う。ギルダーツ程の魔導士でも達成出来なかったのであれば、うちのギルドに100年クエストを達成出来そうな者は今の所居らんからな。異論は?」

 

「妥当だと思います。とはいえギルダーツが達成出来なかった程のクエストですから、他のギルドにまわしても達成出来る者が居るか分かりませんが……」

 

ギルダーツは妖精の尻尾(フェアリーテイル)のみならず、このフィオーレという王国―――いや、この大陸で最強クラスの魔導士である。そんな男が僅か三年でリタイアしてしまったとなると、いよいよこの100年クエストをクリア出来る者は本当に誰も居ないのではないかと思ってしまう。

しかし世界に目を向ければ必ず何処かに100年クエストを成し遂げる事の出来る輩も居るかもしれない―――と、そこまで考えたマカロフは近くに置いてあった酒を一口飲んでからエルザへ改めて視線を向ける。

 

「それともう一つ、これは以前も話した事じゃが……」

 

「……クラフトの事、ですね」

 

マカロフは一つ息を深く吐いて、エルザへと問う。

 

「あやつがギルドに入ってから二週間程が経った。どうじゃ?」

 

「……今の所、特に気になった所はありません。この間もいつものメンバーで仕事へ行きましたが……あの時のような魔法は一度も……」

 

「そうか……」

 

エルザが言うあの時の魔法とはメルクリウスがニルヴァーナを完全に消し去る際に使った流星群を呼び寄せる魔法の事である。

それを聞いたマカロフは懐から取り出した評議院の印が付けられた紙を見ながら再び息を吐く。

 

「全く……クラフトも厄介な連中に目を付けられたもんじゃわい」

 

「しかしあの報告書を見ればそれも仕方ないかと……」

 

そう言って二人が思い出すのは、メルクリウスがギルドに入ってから数日後に送られてきた評議院からの報告書の内容だ。

報告書にはニルヴァーナ破壊後の巨大なクレーターの写真と、それに関する報告が書かれていたのだが―――

 

「ワシも今まで様々な魔法を見聞きしてきたが……あそこまで穴を開ける魔法は知らん。しかもエーテルナノの数値も一切変わっておらんとは……」

 

「それどころか未知の魔力が検出されたと聞きましたが……」

 

エーテルナノとはこの世界に存在する魔力の元となる気体の事であり、魔導士にとっては必要不可欠なものである。

人間は酸素が無ければ生きていけない。それと同じように魔導士もエーテルナノが無ければ魔力を回復させる事が出来ない。

そしてエーテルナノは地形が大きく変わるような大魔法が使われると大きく減少する事がほとんどである。これはその大魔法を使う魔導士がエーテルナノを吸収、あるいは大魔法の威力そのものによってエーテルナノ自体が減少して引き起こされる事なのだが―――

評議院によるとニルヴァーナ破壊一時間後、六魔将軍(オラシオンセイス)捕縛のついでにその大穴について調査が行われたらしく、その結果この世界に満ちている魔力とは全く別の魔力が検出され、さらにエーテルナノの数値の変動が一切無かったという結果が出たのだ。

 

「そのような結果を叩き出したと思えば、今度は評議院からクラフトにこちらで用意したS級昇格クエストを受けさせろと指令が来るとはのぉ……」

 

「……それはまたなぜ?」

 

「大方、例の魔法を調査していた連中からの要望じゃろう。勿論、S級クエストを受けられる魔導士を増やしたいという普通の理由もあるじゃろうが」

 

S級クエストならば普通のクエストよりも難易度が高い為、例の魔法を使うかもしれない。その瞬間を評議院の研究者たちは見たいのだろう。

 

「それで……返事は?」

 

「一応受けるつもりじゃ。もうこれ以上こちらだけで奴を様子見しても進展が無いからの。奴にも後で受けるか否かの返事を聞くつもりじゃが」

 

そしてもしS級クエストを受けるとメルクリウスが言った暁には―――とエルザを見てマカロフは告げる。

 

「エルザ、お主も一緒に行ってやってくれ。監視と補助をする為にな」

 

その言葉にエルザは無言で頷くのだった―――

 

 

 

 

 

 

 

「はっはっはっ……はぁっ……!」

 

尚も強く降り注ぐ雨の中を、息を切らしながら走るウェンディ。

しかしこれ程の雨が降っている日の路面というのは濡れていて非常に滑りやすい。故に―――

 

「きゃっ!」

 

そんな可愛らしい悲鳴と共にウェンディは転んでしまう。

 

「うう……早く知らせない……と……?」

 

その時ウェンディの目に飛び込んできたのは、地面に溜まった水溜りに写った空の様子。それ気付いて空を見上げると、雨雲が雷とはまた少し違う轟音を上げながら渦を巻いていき、街全体を飲み込める程の不自然な穴が出来上がっていた。

 

 

 

「アニマが……」

 

「―――来るぞ」

 

そして次の瞬間、上空の穴から凄まじい光と衝撃が襲い掛かり、その衝撃によってギルドや街の建物などが穴に吸い込まれていくかのように消え去っていく。

 

 

 

「うそ……」

 

そして僅か数秒後には何も無い真っ白で、雪のようなエーテルナノが舞い散る荒野がその場に出来上がっており、つい少し前までここに多くの人々が住んでいる大きな街があったとは思えない光景が広がっていた。

そこにただ一人残されたウェンディは呆然としながら辺りを見回す。

 

「ギルドが……街が……消えた……。一体……何が起きたの!?」

 

そんな少女の叫びに返事をする者は誰も居ない―――というわけでは無かった。

 

「皆、アニマによって向こうの世界に吸い込まれたのだ」

 

「っ……!カ、カール……!」

 

少し離れた場所から歩いてくるメルクリウスの姿を確認したウェンディは、ここに残ったのが自分だけでは無かった事に心底安堵して両目に涙を浮かべる。

 

「しかしまあ、なんともこれはなかなかに幻想的でありながらも酷い光景だ。人や建物のみならず大気中にある魔力も大量に吸い込んでいくとは……」

 

その時、ギルドがあった辺りの地面がひび割れながらボコッと膨れ上がり、もぞもぞと蠢き始めた。

それに驚いて思わずメルクリウスの後ろに隠れるウェンディだが、メルクリウスの方は至って冷静な表情でそれを見つめていた。まるでその蠢く何かの正体が分かっているかのように。

そしてボフッという音と共に地面から姿を現したのは―――

 

「な、何だぁ!!?」

 

「―――ブフッ……!!」

 

「―――ナ、ナツさん……?」

 

額に無駄に達筆な字で『肉』と書かれ、さらには頰に猫ヒゲまで書かれたナツだった。

メルクリウスはそれを見て先程までの冷静な表情を崩して噴き出し、ウェンディは困惑したような顔をする。

 

「ウェンディにクラフト……あれ、ここどこだ?ってかなんでクラフトは笑ってんだ?」

 

「ククッ……!こ、ここは消滅したギルド跡地、とでも言った方がいいかな。そしてなぜ私が笑っているのかは自分の目で確かめてみるといい」

 

魔法で鏡代わりの反射板を作り出してナツに寄越し、メルクリウスは後ろで落書きを見て「んだこりゃ〜!!?」と言ってるナツをスルーしながら辺りを見回す。

 

「どうやら残ったのは滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)と私、そして―――」

 

「私たちだけのようね」

 

「ナ〜ツ〜!何これ〜!!街がぁ〜!!」

 

「シャルル!!」

「ハッピー!!」

 

メルクリウスの言葉に被せてきたのは少し思い詰めた表情を浮かべるシャルルと慌てた様子のハッピーだった。どうやら二匹とも無事だったらしい。

 

「どうやら滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の持つ特殊な魔力が幸いしたようね。あんた(クラフト)が残ったのも……多分似たような理由かしら。とりあえずよかったわ、あなたたちだけでも無事で」

 

「シャルル……」

 

「そりゃ聞き捨てならねぇなぁ。他のみんなはどうでも……って本当に消滅しちまったのか!?」

 

「ええ、みんな消えたわ。正確に言えばアニマに吸い込まれて消滅した」

 

「アニマって……?」

 

「超亜空間魔法アニマ―――この世界の裏側とも言える別世界、エドラスの大規模魔法の事だよ」

 

「エドラス……?ねぇ、シャルルとカールはなんでそんな事を知ってるの?」

 

「私は君とあの少年―――ミストガンと出会った日に彼からアニマという魔法、エドラスという世界について色々と聞いていたのだ。確か君はその時テントで寝ていただろうから聞いていないと思うが……仮に聞いていたとしても当時の君にはまだ理解出来なかっただろうしね」

 

そう説明されてウェンディは一人納得した。確かに当時まだ五歳だった自分が超亜空間魔法だの別世界だのと言われてもきっと理解出来なかっただろう。……今もあまり理解出来ていないが。

 

「……私は向こう側の世界、エドラスから来たの。―――そこのオスネコもね」

 

「!!!」

 

「え……そ、それってどういう事……?」

 

「…………この街が消えたのは私とオスネコのせいって事よ」

 

そうしてシャルルはこの世界とは別の世界、エドラスについて説明を始める。

曰く、エドラスという世界ではこちらの世界―――アースランドと違って魔力が有限であり、魔法も思うように使えない事。

曰く、その有限の魔力を補う為にエドラスの王はアースランドから魔力を吸収する魔法、アニマを開発した事。

そしてその計画は六年前から始まっており、世界中至る所にアニマが展開されたが何者かがアニマを閉じて回っていたせいで思うような成果が上げられなかった事。

 

「その何者かってのはつい最近まで分からなかったんだけど……さっきのクラフトとミストガンの話で確信したわ。間違い無くあの男が閉じていたのね」

 

「然り。彼はある人物―――おそらくエドラス国王の計画を阻止する為にこちらの世界にやってきたと言っていた」

 

「だけど今回のアニマはミストガンだけじゃ抑えきれない程巨大過ぎたようね。そのせいでギルドとこの街は為す術も無く吸収された。おそらく妖精の尻尾(フェアリーテイル)に属する強大な魔導士たちを、何としてもエドラスの魔力として吸収したかったから巨大なアニマを展開したんでしょうね」

 

「ずいぶん勝手な奴等だなァ!オイ!!みんなを返せよコノヤロウ!!!」

 

「そ……それがオイラとシャルルのせい……なの?」

 

「間接的にね」

 

そして一つ息を吐いてからシャルルは続ける。

 

「私たちはエドラスの王国からある別の使命を与えられてこの世界に送りこまれたのよ」

 

「そんなハズない!シャルルは……卵から生まれたのよ!!この世界で!!」

 

「ハッピーもだ!オレが見つけたんだ!!」

 

「そうね……。先に言っておくけど私はエドラスに行った事が無いわ。ウェンディが言う通り、この世界で生まれてこの世界で育った。でも私たちにはエドラスの知識や自分の使命が刷り込まれている……生まれた時から全部知ってるハズなのよ……!!なのに……アンタは何で何も知らないの!?」

 

「!……オイラは……」

 

「皆が君のように全てを知っているとは限らないだろう。どうやら彼は本当に何も知らぬようだし、そもそもこの世界で君はハッピー以外に使命を刷り込まれている仲間に会った事があるのかな?もしそれが無いと言うならば、君は自らの持つ情報が本当に正しいとの確証も無いままに、自分の意見を勝手に彼に押し付けるという些か理不尽な状況が出来てしまうわけだが」

 

そんなメルクリウスからの指摘にシャルルは思わず黙り込む。確かに彼の言う通り、自分と同じ使命を刷り込まれた仲間になど今まで会った事は無い。それどころかつい最近まで自分と同じ種族などハッピー以外に一度たりとも見た事も聞いた事も無かったのだ。

そんな明らかに情報を照らし合わせるには不十分な状況にも関わらず、自分の意見を押し付けるなど傲慢にも程があるだろう。

 

「初めから自分は知っていた。なぜならそれは最初から自分の内に深く刷り込まれていたから―――それだけでは些か説得力に欠けるな。意図的に刷り込まれたと分かっている以上、それが全て偽りの情報だという可能性も捨て切れないだろう。君はなぜ自分の持つ情報が正しいと確証も無いのに胸を張って言えるのだろうか?自分の持つ情報はエドラスの者たちに何かの意図を持って刷り込まれた偽りの情報だという可能性は考えなかったのかね?」

 

「そ、それは……」

 

考えた事も無かった―――そんな反応を見せるシャルルにメルクリウスは言葉を続ける。

 

「どうやら考えた事も無い、と言った感じかな?ならばあくまであり得るかもしれない可能性の一つとして、少し観点を変えた考えもしてみるとしようか」

 

そうしてわざとらしく考えるふりをしたメルクリウスは仰々しい仕草をしながら語り始める。

 

「例えば―――今、君が自分たちに課せられたと思っている使命そのものが存在しないものだとしたら―――どう思うね?」

 

「え……そ、それってどういう……?」

 

「つまり君の思っている前提条件そのものが違っているとしたら?―――という考え方だよ。要は、そもそもそのような使命は()()()()存在などせず、君が勝手に創り上げたありもしない使命だとしたら―――」

 

「カール、もういいよっ!!それ以上シャルルを責めないで!!」

 

そこでウェンディが大きな声でメルクリウスの話を強制的に中断させ、シャルルを守るように抱き上げる。

 

「おや、私としては彼女を責めているつもりなど微塵も無いのだがね。しかし君がそう言うのならこの話はここまでにしておこうか」

 

「っ……!と、とにかくっ!!私たちがエドラスの者である以上、今回の件は私たちのせいである事は事実よ」

 

「じゃ、じゃあさっきシャルルの言った別の使命ってなんなの……?」

 

その質問にシャルルは顔を俯かせて震えながら答える。

 

「それは……言えない」

 

「シャルル……それはオイラにも教えられないの?オイラ、自分が何者か知りたいんだ」

 

「……ええ、自分で思い出しなさい」

 

そうして全てを話し終えたシャルルは黙り込み、ハッピーやウェンディも黙り込む中―――今までほとんど口を開いていなかった男が一つ息を吐いてニヤリと笑い、それに釣られてもう一人の男も口角を吊り上げる。

 

 

 

「んじゃ……どーやら話も纏まった事だし、いっちょ行くか!!エドラスってトコ!」

 

「然り然り、私も早く向かいたいと思っていた所だ。後、君は早く顔に書かれた落書きを消したまえ」

 

「ちょ……何にも纏まってないわよ!!!てかクラフトはともかくとしてアンタは全く理解してないでしょ!?」

 

「ナツ……オイラ、不安でお腹すいてきた」ぎゅるるるるるる……

 

「そりゃ元気の証だろ」

 

シャルルの抗議もスルーしてナツはお腹を鳴らすハッピーにニッと笑みを浮かべる。

 

「エドラスにギルドや街の者たちが居るというなら、是非も無いのだろう?君にとっては」

 

「おう!みんなを助けに行かなきゃな!」

 

「どうなの?シャルル」

 

「…….おそらく居るとは思う。だけど助けられるかは分からない。そもそも私たちがエドラスから帰ってこられるのかどうかさえ……」

 

「まあ……仲間がいねぇんじゃこっちの世界には未練はねぇけどな。イグニールの事以外は……」

 

「私もだよ。カールは―――」

 

「私に未練という言葉があると思うかね?―――こんなものしか無いがこれで顔を拭きたまえ」

 

メルクリウスはそう返事しながらナツへタオルを渡し、礼を言って受け取ったナツは「うおおおっ!」と言いながら猛スピードで顔を擦って落書きを落とし始める。

 

「みんなを助けられるんだよね?オイラたち」

 

「…………私だって曲がりなりにも妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一員な訳だし、母国の責任でこうなった疾しさもある訳だし……連れてってあげない事もないけど……いくつか約束して」

 

そしてシャルルは約束という名の条件を提示し始める。

 

「一つ、私がエドラスに帰るという事は使命を放棄するという事になる。だから向こうで王国の者やそれに関係する者に見つかる訳にはいかない。だから……」

 

「全員変装する事、かな?」

 

「ええ」

 

「オレもか」

 

「シャルルはそれでいいの?使命を放棄なんて……」

 

「いいの、もう決めたから。そして二つ目は―――」

 

シャルルはハッピーに視線を向けて次の約束を提示する。

 

「オスネコ、私たちの使命については一切詮索しない事」

 

「あい」

 

「そして次に三つ目……私も情報以外エドラスについては何も知らない。つまりナビゲートは出来ないわよ」

 

「了解」

「うん」

「承知した」

 

ナツ、ウェンディ、メルクリウスがそれに了承するのを確認したシャルルは全員を見据えて最後の約束を告げる。

 

「最後に、もし私とオスネコがあなたたちを裏切るような事があったら……躊躇わず殺しなさい」

 

「「っ……!?」」

 

最後に提示したのは自分たちがもし向こうの世界で裏切りをした場合の対処についてだった。

そんな思いもよらない提示にナツとウェンディは揃って驚きの表情を浮かべるが、唯一メルクリウスだけはそのような提案がされると分かっていたのか至極冷静な反応だった。

 

「委細承知した。ならばその時は私がその役目を担うとしよう」

 

「ええ、あなたならそっちの二人と違って躊躇も無く殺してくれそうだから……その時は頼むわね」

 

「願わくばそのような事など無いと思いたいがね」

 

「オイラ……そんな事しないよ」ごぎゅるるるるる……

 

「とりあえずそういう事で頼んだわよ。てかハラの音うるさい!!」

 

そうしたシャルルとメルクリウスのやり取りを見て、ナツとウェンディは揃って顔を見合わせて何とも言えない表情を浮かべる。そんな二人の表情を見ながらもスルーしたシャルルは一瞬で(エーラ)を展開し、ウェンディを掴んで空へと舞い上がる。

 

「さあ行くわよ!!オスネコもナツを掴んで!!」

 

「わぁ!飛んで行くの!?」

 

「私たちの翼は……エドラスに帰る為の翼なのよ」

 

「よし!行こうぜハッピー!!お前の里に!!」

 

「―――あい!!」

 

そしてハッピーもナツを掴んで大空へと舞い上がる。それを見送ったメルクリウスもまた流星(ミーティア)を発動させ、彼らの後をついていく。その時の彼の表情はついに待ち望んでいたもう一つの世界に行く事が出来るという期待に満ちた顔をしていた。

 

「オスネコ!クラフト!魔力を解放しなさい!!!」

 

「あいっ!!!」

 

「きゃああああ!!!」

「うほぉおおっ!!!」

 

シャルルとハッピー、メルクリウスは魔力を解放し、航跡雲を伴う程の速度で空高く飛び上がっていく。

 

「アニマの残痕からエドラスに入れるわ!全力で突き抜けなさい!!」

 

そしてそんな彼らの目の前の空が、まるで水面に雫を落としたかのように波紋が広がっていき―――

 

「今よ!!!!」

 

その波紋の中心に向かって突入した彼らは眩い光に包まれる。

 

 

 

そしてアニマの残痕を通り、たどり着いた先は―――

 

「ここがエドラス……」

 

そこはアースランドとは違って大小様々な島が空中に浮き、月のような形をした小さな星が飛べばすぐ着くような場所に多く浮かび、川などが物理法則を無視して上にある島へ向かって流れているなど目を疑うような光景が広がっていた。

 

「ここがオイラのルーツ……」

 

そのような全くの未知である異世界を目の当たりにした水銀の蛇は一人、口角をこれ以上無い程吊り上げて期待に胸を躍らせるのであった。




さて、いかがだったでしょうか?
アブソの方はもはやスパ○ボか大乱闘なんとかブラザーズレベルのキャラの多さになってますが、こちらは比較的少なめでいく次第です。

話は変わりますがフェアリーテイル三期が始まりましたねぇ。日曜日の朝なので普通にリアルタイムで見てますが……あれにこの小説の強者たちが乱入したらえらいカオスな事になるなと頭の片隅で思っております(笑)
この小説ってフェアリーテイル二次創作の中でもかなり飛び抜けた実力者が出てますからね。

水銀「そもそも私たちだけでも世界どころか多元宇宙を一瞬でどうこう出来るからな」

さらにそこにMUGENキャラですからねぇ……この世界ヤバい(笑)

―――とまあこのような感じで今年もこんな感じで書いていきたいと思うのでよろしくお願いしますね〜(アブソの方も見てください)

では今回はこの辺で!誤字脱字・感想意見等、よろしくお願いします!


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