fate/grand order 花の魔術師の義弟 (all)
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1話

私は、所謂転生者と言う存在だった。氷の造形魔法と滅悪魔法と言われる特典を持って転生した先は、あろうことか、花の魔術師こと、マーリンの義弟だった。

マーリンと行動を共にすることで、さまざまなことがあったが、一番の出会いはやはりあの騎士王との出会いだろうか。どこまでも律儀で丁寧で、負けず嫌いで。そんな彼女に私はいつしか心を引かれていた。

まあ、私の最後は、カムランの戦いで命を落とす、というまあなんとも地味でありふれていそうで、特徴のない死に様だったんだが。

…出来ることなら、思いを伝えておきたかったものだ。

そんな私も、ある程度の功績を残して、後世に伝わる程度にはなっていたようで、死後の私は英霊の座に迎えられた。

さて、自分語りはこの辺にするとしよう。

久しぶりの召喚だが、いつもと事態は違うようだ。

まあ、どんな目的であろうとも、どんなマスターだろうとも、私は花の魔術師の義弟として氷の魔術師、ジャスパーとして、どこまでも自由に頑張ろう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「じゃあ、白野ちゃん。始めてくれ」

 

私、岸波白野は人理保障機関カルデアのマスター候補だ。

といっても、今、レフという元職員の裏切りによってカルデアが爆破され、ほぼ壊滅状態でたくさんいたマスター候補も私と藤丸立花という女の子だけで他はコールドスリープ状態だ。ちなみに私はその時一人迷子になってカルデアをさまよっていた。

 

「うん、わかった」

 

私が今から行うのは英霊召喚。つまりサーヴァントと契約するのだ。同じ最後のマスター候補の立花はレイシフトによって冬木という場所に飛ばされ、一つの特異点から聖杯を回収してきた。その際にデミサーヴァントとなったマシュと契約をして、その後、アルトリア・ペンドラゴン、俗に言うアーサー王とも契約している。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する

――――告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

私が詠唱を終えると展開されたサークルの中心からまばゆい光が放たれた。

その光が収まるとそこから黒いローブを羽織った、整った顔立ちに金色の髪を持った男だった。

 

「サーヴァント、キャスター。召喚に応じ参上した。真名はジャスパーという。よろしく頼むよ、マイマスター」

 

その容姿は端整で美しい青年だった。その透き通った瞳が私に向けられる。

 

「えっと…私は岸波白野、よろしく、キャスター」

 

「そう、いい名前だね」

 

「ジャスパーってあのジャスパーかい!?」

 

「ん?君は?」

 

「あ、申し遅れた。僕はロマニ・アーキマン。ロマンと呼んで欲しい」

 

「よろしくロマン」

 

いきなり驚いた様子のロマンがキャスターに詰め寄る。

 

「って、そんなことより!君はあのブリテンの宮廷魔術師、氷の魔術師と言われたジャスパーなのかい!?」

 

「ああ、そのジャスパーさ。ほら」

 

そう言ってキャスターは自分の掌の上に拳をのせる。

すると、ジャスパーの隣に、長髪で、少し無愛想な少女、というか私の氷像がたっていた。

 

「すごい…」

 

「ま、私の造形魔術にかかればこんなものだよ」

 

私が自分の氷像をまじまじと眺めていると、外からドカドカガチャガチャと騒がしい音が響いて、ルームの扉が開かれた。

 

「今の魔力は!?」

 

「!?…アルトリア、なのかい?」

 

「ジャスパー…やはり貴方だったか」

 

「ああ、まさか君と会えるとは…。やはり召喚に応じてよかった…」

 

「それは私も同じことを思っています…。…?。ジャスパー、泣いているのですか?」

 

「え…?」

 

「ねえ、ロマン。どういう状況なの?」

 

この状況に着いていけず、私はロマンに尋ねた。

 

「ああ、彼はブリテンの宮廷魔術師、つまり、アーサー王の臣下だったんだ。そして彼はカムランの戦いで命を落とした大魔術師なんだ」

 

私は神話とか伝承とか伝説とかに詳しいわけではないからよく分からないけど、とりあえず感動の再会なのはわかった。

けど、自分の契約したサーヴァントをとられたようで少し悔しい。

まあ、キャスターも嬉しそうだからいいんだけど。現に今、セイバーに抱きついて泣きじゃくってるし。

 

あれから数分後には私とロマン、それに加え途中で加わった立花とマシュの目の前には顔を真っ赤にしている二人のサーヴァントがいたとか。

 

 



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2話

私がマーリンの義弟として転生されたのは、なにか意味があったのだろうか?転生してすぐにそんなことを考えた。歴史を変えることだろうか。そう思った私は全力で知恵を巡らせ、戦った。

それでも、結末は変わらない、変えれない。歴史の修正力というやつだろうか。私がどれ程頑張っても変えれなかったということは、私が転生した理由はもっと他にあったのではないのか?

その考えは間違っていなかったのかもしれない。英雄の座に迎えられ、何度かの召喚では、その考えに確証はなかったけれど、今回の召喚、人理修復を目指す機関からの召喚が、私が転生した最大の理由ではないだろうか?

まあ、そんなことを延々と考えていても意味はない。

今はただ、あの少し無愛想なマスターと共に頑張るとしよう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「そういえば、キャスターのステータスまだ見てなかった」

 

私がキャスターを召喚した翌日、キャスターの部屋で雑談をしていると、私がまだ彼のステータスを確認していなかったことを思い出した。

 

「ん?そうだったね。確認するかい?私のステータス」

 

「うん。えっと…

 

筋力B

耐久B

敏捷C

魔力EX

幸運C

宝具B+

 

クラススキル

陣地作成C

道具作成D

 

保有スキル

カリスマB

滅悪魔術EX

造形魔術EX

 

宝具

滅悪奥義・氷魔零ノ夜霧

ランクB

対軍宝具

 

絶対氷結

ランクB

対人宝具

 

…これってすごいのかな?」

 

素朴な疑問だった。私も魔術に精通しているわけではない。だからこのステータスがどれ程のものなのかわからなかった。

 

「どうなんだろうね?私にもよく分からないけど、今までの召喚の記録では、なかなか使える駒だとは思うよ」

 

「へえ…そういうのって覚えてるの?」

 

「いや、記録としてだけさ。どうも主観的には見れないよね、ああいうのは」

 

「自分のことなのに?」

 

「ああ、でも…今回の召喚は記録としてではなく、心に、記憶にとどめておきたいものだね」

 

「立花のセイバーのこと?」

 

私は少し口を尖らせて言った。二人が旧知の仲で、キャスターがセイバーの事が好きで、セイバーも満更でもない。そんなことはわかっている。ただ、なんというか、独占欲的な何かが働くのだ。

 

「まあ、合っているけど、そう不機嫌にならないでくれ、マイマスター」

 

「でもキャスターはセイバーのこと好きでしょ?」

 

「なっ!?誰がそんなこと!?」

 

顔を真っ赤にしてキャスターが言う。

…嫉妬するなあ。

 

「見たら分かるよ。それで、どうなの?」

 

私がそういうとキャスターは仕切り直そうとしたのか、一度咳払いをして話始めた。

 

「うん、そうだね。私はアルトリアのことが好きだ。生前はこの気持ちを伝えられずに死んじゃったからね。またあえて嬉しかったよ。でも、アルトリアはこの気持ちに答えてくれるかはわからないしね…」

 

「いや、多分行ける気がするけど…」

 

「そうかな?でも、その話をアルトリアにするのは消滅するときか、人理修復を成し遂げた時にするよ。

振られたときは振られたときさ。また次の恋でも見つけるよ」

 

この言葉で、何処かホッとした自分がいた気がした。

これならまだ間に合うかもしれない。そう思ってしまった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、私達は次の特異点に向かうためにレイシフト

 

「レイシフト?次の特異点にいくと言うことかい?」

 

「ああ、そうだよ。今回は立花とマシュ以外ははじめてのレイシフトだね」

 

「そうだね。といっても、私たちもマトモなレイシフトはこれがはじめてだね」

 

「そうですね。私はあのときの記憶もあまりありませんし」

 

「死にかけてたんでしょ?生きててよかったね」

 

そんな会話をしている間にレイシフトの準備はどんどん進んでいく。もう出発直前と言うときに、キャスターがセイバーの隣を離れて私の隣に立った。

 

「いよいよだな。マスター」

 

「そうだね」

 

私の反応は、少し無愛想過ぎたかもしれない。いや、いつものことなんだけど。

やっぱり、初の人理修復なので緊張しているのだろう。

 

「そう緊張しないことだよマスター。何があっても君を危険にさらしはしないさ」

 

私の心情に気付いたキャスターが気遣うように言う。

安っぽい台詞な気もするけど、キャスターが言ったのだと思うと安心できる。

 

そしてレイシフトが終了して私達が送られてきた場所は辺りいったい視界に入るところすべてが草原の場所だった。

 



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3話

私は、久しぶりの再会に嬉しくなった。彼のことは忘れることはなかった。あの戦いで、一番の功績を上げたのは間違いなく彼だった。

そして彼は最後の最後まで私の隣で戦ってくれた。私がどんな道に進んでも付いてきてくれた。私が間違わないように正そうとしてくれた。けれど私はその言葉を聞き入れなかった。そんな彼に、私はなにか出来たのだろうか?こうして再会した今、その思いは強くなっていく。後悔の念が強く残って、後ろめたさを感じてしまう。

彼は私と再会した時に泣いてくれた。その涙を見たとき、私の胸が強く跳ね上がるのを感じた。大人っぽい彼が生前では見せなかった表情。そんな彼に対して何も返していない私はどうすればいいのだろう?彼に聞けば、『私はアルトリアの幸せそうな顔が見ることができたらそれでいいよ』と言ってくれるだろう。

けれど、それでは足りない。自らの身体を氷に変えてまで私を助けてくれた彼に対しては足りない。

ならば、今度は私が手助けをする番なのでは?

『私は自分の生まれた目的を探している』

彼の口癖だった言葉だ。自分はなにか意味があって生まれてきたのだと言っていた。それを彼は見つけることが出来たのだろうか?

もし、まだ見つけていないのであれば、見つける手助けをしよう。

もし、生まれた目的を見つけたのであれば、私はその目的を達成する手助けをしよう。

死んだあとにこんな事を思うのはおかしいことだが、それが私が最愛の彼に出来る最後の事だろう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「レイシフト、どうやら成功したようですね」

 

「フォウ!」

 

「あ、またフォウ君ついてきてる!」

 

「…え?」

 

「へえ…」

 

レイシフトで特異点に送られた直後、急にキャスターとセイバーの様子がおかしくなった。キャスターは面白そうな目でマシュとフォウを見て、セイバーはマシュの方を驚いた顔で見ている。

何処かおかしいところがあるのだろうか?ああ、そういえばマシュの格好が変わっているから驚いたのか?まだ見たことないはずだしね。

 

「あの盾は…」

 

「十中八九、そうだろうね。それにあの獣も…」

 

なにか二人で話しているけど、私には聞こえない。

…仲良いですね。

 

『レイシフトは成功したけど、早速仕事だ。生体反応が複数ある。どうやら人間のようだから、手加減して情報を聞き出してくれ』

 

ロマンの声が聞こえてくる。声のした方には立花がいてホログラムとなって現れたロマニの姿もあった。

 

「人間ねえ…少し確認してみたけど、全員戦う意思はあれど、疲れきってるようだ」

 

「確認?」

 

キャスターが使った確認と言う言葉に疑問を持ち、キャスターに聞いてみる。まだ見えていないものをどうやって確認したのだろう?

 

「そう、確認。私の目は、現在と過去を見渡せる千里眼なんだ。あまり使わないけどね」

 

『なるほど。君は冠位の適正を持ってたりするのかい?』

 

「冠位?」

 

「先輩、冠位と言うのは、その時代の英霊の最高峰の七騎に与えられる称号で、普通の英霊より強いんです」

 

「へえ~」

 

へえ、初めて知った。セイバーはなんとなく納得したような顔をしている。

 

「あるけど、今回は冠位で召喚されてはいないし、本来なら冠位を与えられるべきは兄のマーリンの方なんだろうけどね」

 

「フォウフォウ!」

 

キャスターがマーリンという名前を出すと何故かフォウが怒ったかのように鳴き出した。

…なんで?

 

「マーリンですか…懐かしいですね」

 

「そうだね。また会いたいの?アルトリア」

 

「まあ、会えるものなら会いたいですが…。しかし、マーリンは…」

 

「ああ…いつもからかわれてたもんね。でも、この人理修復をしているうちに会えるとは思うよ?」

 

「そうですね」

 

『!話してるとこ悪いけど、来たよ!』

 

キャスターとセイバーが話していると、ロマニが大きな声で叫んだ。

前を向いてみると既に武装した兵がやって来ていた。

 

「キャスター、戦闘準備!」

 

「了解だよ、マイマスター」

 

「マシュ、セイバー、行くよ!」

 

「了解しました、マスター!」

 

「はい!峰打ちですね!」

 

私と立花が指示をだし、サーヴァント達が臨戦態勢を取る。

…マシュ、盾で峰打ちってどうやるつもりなの?

 



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4話

夢を見た。自由と、自身の生まれた目的を追い求めていた青年の夢を。景色は辺り一帯氷でおおわれた銀世界。山も、湖も、人や炎(・ ・)でさえも凍りついている世界。そこに立つ青年は、溜め息をつきながら辺りを見渡す。

『はあ…。また違ったか…』

そう言って青年は歩き出す。

場面が変わった。今度は対照的に緑でおおわれた場所。そこにいるのは先程にも見た青年と、美しい金髪の少女。

二人は草原に腰を下ろして隣り合っている。二人は楽しそうに会話をして、笑い合う。時々青年が少女の頭を撫でると、少女が頬を赤く染めて恥ずかしそうにする。

この光景を見ていると胸が締め付けられるような感覚になった。

これはやはり、キャスターの記憶で、あの少女は立花のセイバーだろう。仲がいいとは思っていたが、これは勝つのは少し厳しいだろうか?まあ、諦めるつもりは毛頭ないのだけど…。

それに、あの光景、すべてが凍りついた光景は何だったのだろう?あの言葉には、なんの意味が込められていたのだろう?英霊の座に着くような人物だ。当然なにか抱えているものはあったのだろう。キャスターは何かを探している。その何かがなんなのか、私にはわからない。

けど、それは今後ゆっくりと知っていけばいい。

私は彼のマスターで、彼女にはない唯一の関係なんだから。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さてさて、マスター。やってもいいんだよね?」

 

「いいけど、手加減だよ?」

 

「了解した!」

 

この特異点に来ての最初の戦闘。私にとっては、初めての実戦となるわけだけど。

 

「アイスメイク…【弾雨(バレット)】!」

 

キャスターが手のひらに拳をのせてそう言うとキャスターの背後に無数の氷の弾丸が現れる。

その氷の弾丸は一気に射出され、敵の方向へと向かい、着弾した。

威力はかなり落としたようだが、人間に耐えられる威力ではなかったのか、敵はあまりの痛みに声を出した後、全員が気絶してしまった。

 

「キャスター…これじゃ話し聞けないよ」

 

「あっ…」

 

どうやら自分の失敗に気付いたようだ。少し落ち込んでいる。

すると、ロマニが通信で話しかけてきた。

 

「ジャスパー、今のは…」

 

「ふふん、まあ私も召喚されるようなこともあったからね。近代的な銃から、日本の太刀まで、私の造形魔術はさらに幅広くなったんだ」

 

「なるほど…流石、自由の魔術と言っていただけに、応用力はほぼ無限ですね」

 

「へえ~キャスター強いんだね!」

 

「見事でした」

 

皆から褒められてキャスターは少し照れくさそうにする。

みんな、情報はどうするの?

 

『確かに凄かったけど、情報はどうするつもりなんだい?』

 

「そうだよ、キャスター」

 

「うっ…まあ、それは私の失敗であることは間違いないんだけど、心に来るものがあるよね」

 

「まあ、召喚されて初の戦闘だったし、体が馴染んでもいないんじゃない?」

 

「いや、単純に相手の脆さを考えていなかった…」

 

キャスターは頭を抱えてうずくまるようにして落ち込んだような仕草をする。

脆さって…。いや、まあ、英霊からしたら普通の武装した人間くらい脆いなんてレベルじゃないだろうけど…。

少ししてからマシュが口を開いた。

 

「調べたところ、どうやら、今は百年戦争の真っ只中のようです」 

 

「「「「ええ?」」」」

 

その言葉に、マシュ本人とロマニ以外が驚いた。

 

「なんだ、私が倒していなくても、ある程度のことは調べられるのか」

 

一番再起動が早かったキャスターが安心したように言う。まあ、それもそうか。

 

「それに、あの空…。真っ先に気づいても良さそうなものを…。私としたものが、見落としていた」

 

「空?…何、あれ?」

 

キャスターの言葉に全員が空を見上げると、そこにあったのは、とてつもない大きさの光の輪だった。

 



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5話

キツい。ツラい。止めたい。私は何度もそんなことを思い続けて二度目の生を生きてきた。私がこの世界に来た目的を探している時に色々なことがあった。

生まれて初めて、人に斬られた。生まれて初めて、人を殺した。

それ以外にも沢山の事があった。私はこの度に悩んで、死にたくなって、辞めたくなった。それはそうだろう。私は元はただの人。あの騎士王や、義兄とは違う。彼らは心のそこから、芯から英雄だった。

それでも、私が頑張ってこれたのは、この世界に目的があると信じていたからだろう。その人生の中で、私は強くなったとは思う。身体的に。それ以上に、精神的に。

それでも、彼ら彼女らには及ばないかもしれない。所詮、私は上っ面だけの存在なのかもしれない。

 

まあ、結局何が言いたいかと言うと、そんな私が彼女、あの高貴な騎士王、アルトリアに釣り合うのだろうか?という話なんだけど…。それは私がこれからも頑張り続けたらいいのかな?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「キャスターは好きなものとか苦手なものってある?」

 

「え?どうしたんだい、急に」

 

「いや、私キャスターの好みとかあんまり知らないなって思って」

 

気絶してしまった兵士を置き去りにして私達はロマニに辺りを調べてもらっている間、少し歩いたところにあった木陰で休憩をしている。

だが、今いるのは私とキャスターの二人。立花達は霊脈にサークルを設置するため別行動だ。設置を完了したら連絡が入り合流する手筈になっている。

 

「うーん、まずは好きなものからかな?私が好きなものと言えば面白い事、それと…召喚された時に知った和食かなぁ」

 

「へぇ…意外。和食食べたことあるんだ」

 

「まあね。サーヴァントに食事は要らないんだけど、あのときはある人間に憑依しての召喚だったから食事は必要だったんだよ」

 

「そんなこともあるんだ…」

 

その場合、何か条件はあるのだろうか?

ここ最近ずっと驚いてばかりな気もするが、しょうがない気がする。だって知らないことばっかりなんだし。

 

「じゃあ苦手なものは?」

 

私がそう言うとキャスターは昔を思い出してか少し怒ったかのような顔で喋り出した。

 

「ものじゃなくて、人なんだけど、生前のブリテンの宮廷魔術師に炎を操るやつがいてね。そいつとはずっと犬猿の仲だったよ」

 

「うわぁ…炎と氷ってやっぱ相性悪いんだ?」

 

「そうだね。ま、突っかかってきたらいつも凍らせてやったけどね!」

 

「相手炎なのに?」

 

ここまでいって私は気付いた。そういえば夢で見た光景では炎すらも凍っていたことに。

 

「あ、やっぱり今の質問なしでいいや」

 

「?まあいいけど…」

 

「じゃあ次の質問。憧れてた人とかは?」

 

「憧れねえ…まあ、義兄さんは目標ではあったよ。人間性はともかく」

 

義兄さんといえば、ロマニから聞いたマーリンのことだろう。聞けば女好きでよくアーサー王、つまりセイバーを困らせていたとか。

 

「他には誰かいなかった?」

 

「うーん…」

 

キャスターが考えていると、立花達がやって来た。一人女性が増えているが…。

どうやら、休憩は終わりらしい。気づけば三時間近くたっていた。

 

「お帰りー、立花、マシュ、セイバー。それで、そこの女性は?」

 

「お疲れ様…って、え?」

 

キャスターが立花達がつれてきた女性を見て驚いて固まってしまった。

 

「ええと、この人はさっき砦で会って…」

 

「彼女はサーヴァントなんです」

 

立花のあまり要領を得ない説明にマシュが付け足す。

 

「それもこの時代のサーヴァントらしいんです」

 

セイバーがそう言ってさらに補足する。

よく見ると、セイバーと新しいサーヴァント、顔がすごい似てる。セイバーの言動から家族とかそんなのではないと思うけど…。

 

「私はルーラーのサーヴァント、真名をジャンヌ・ダルクと言います。よろしくお願いします」

 

新しいサーヴァント、ジャンヌはこちらに向かって自己紹介をしてお辞儀をした。

って、キャスター、いつまで固まってるの?

 

「キャスター?キャスター!」

 

「ッ!…ああ、ごめんつい驚いてしまってね。よろしく、ジャンヌ。かの救国の聖女様と戦えるなんて光栄だ」

 

私が少し声を大きくして話しかけるとキャスターは私の声に気付いてジャンヌにそういった。

何故か、複雑そうな顔で…。

 

 



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6話

彼女は、あんな結末を迎えて何か思うことはなかったのだろうか?いつかの召喚されたときに共に戦った英霊にたいして、私はそんなことを思った。元はただの村娘だったか?まあ、そういう生い立ちならば、私と通ずるものがあるかもしれないと感じた。しかし、彼女も英霊。彼女と私では精神の出来が違う。

彼女はきっとあの結末でも、恨みなどの感情は沸かなかっただろう。それに、彼女は自分は聖女などではないと言っていた。まあ、私からすればそんなことをいってのけるからこそ彼女が聖女とよばれるのではないかと思うが…。

それはともかくだ。私は彼女と共に戦って、私たちの仲はかなり、というかすごくよくなったとは思うが、それはあの世界、聖杯大戦があったときの記憶であり、記録なのだからこうして再開した今、思い出せなかったりする場合もあるし、今回の召喚は特殊だったからか記憶が混乱してるのかは知らないけど、忘れられたり、初対面で気がついてもらえなかったのは割りとショックだったりする…。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「で、なんなんだい?このドラゴンと骸骨達は?」

 

「どこからどう見ても敵です!行きますよ、ジャスパー!」

 

「了解した、王よ。マイマスター、指示を」

 

「わかった!行くよ、キャスター、ジャンヌ!」

 

立花達と合流した後、私はジャンヌと仮契約を結んだ。理由としてはただ立花と数を合わせるという単純な理由だが。

そしてその後すぐ、私たちの前に敵が現れた。

その数は多く、ドラゴンは10体程、骸骨兵に関しては20を優に越している。

 

「私たちはドラゴンを!立花達は骸骨を片付けて!」

 

「わかった!」

 

全員に指示を飛ばして私達はドラゴンと相対する。

キャスターは今まで見たことのない笑みを浮かべ、戦闘の準備をする。ジャンヌの方は旗を槍のように使うのか、旗を構えている。

 

「準備、完了しました!いつでも行けます!ご指示を!」

 

「ドラゴン、ねえ…。どうもアイツを思い出すから、君らには氷の柱にでもなってもらおうかな?」

 

キャスターの言うアイツとは、休憩している時にいっていた炎を操る魔術師のことだろう。何故ドラゴンと結び付くのかはわからないが、キャスターのやる気は十分のようだ。

 

「ジャンヌ、少し時間を稼いでくれないかい?準備をする」

 

「…?よくわかりませんが、わかりました!」

 

「それどっちなの?」

 

ジャンヌは単身ドラゴンに突っ込む。飛んでいるドラゴンに近づくために跳躍して槍を振るう。

だが、立花が言っていたようにステータスが下がっているためか、ドラゴンはあまり堪えた様子はない。

 

私は準備をすると言ったキャスターを見てみる。

 

「!?キャスター、それ…」

 

「ああ、準備完了だよ」

 

キャスターの体の半分は黒い何かに侵食されたようになっていた。それに、今までとは違う異質な魔力を帯びていた。

これがキャスターの言っていた準備なのだろう。

 

「さて…ジャンヌ!下がってくれ!」

 

「‼️了解しました!」

 

キャスターの声に反応して、ジャンヌが下がる。少し目を離した隙に、ジャンヌは苦戦していたのか、所々に傷が見える。

今度はまた、キャスターの方を見る。キャスターの手には先程までは持っていなかった氷のピストルが握られていた。

キャスターはピストルをドラゴン達に向けると、魔力を込める。そして…

 

「【氷魔零ノ弾丸】!」

 

五度、引き金を引く。放たれた5つの弾丸はドラゴン達を的確にとらえ、着弾する。すると弾に当たったドラゴンは断末魔をあげる暇もなく、氷に包まれて、氷柱になってしまった。

 

「す、凄いですね…」

 

この光景を見てジャンヌがポツリと呟く。誰かに向けたわけでもない独り言だったのか、私がその言葉を聞いていたことに気づくと、羞恥からか、頬をほんのり赤く染める。

大丈夫、私もジャンヌとおんなじこと思ってるから。

 

「さあ、後6匹…ッ!?」

 

「なッ!?」

 

「炎!?」

 

キャスターが残った6匹を仕留めようと再度銃を構え直す。

しかし、突如その残ったドラゴンを炎が通過し、包む。

状況をつかめていない私とジャンヌをよそに、キャスターは一人納得したように炎が飛んできた方向を睨む。

 

「君もいたんだ…久しぶりだね、ハル」

 

キャスターがそう話しかけたのでそちらを見ると、そこには一人の男がたっていた。

 

「ア?んだよ、ジャスパーもいたのか!?まあ、ここであったが百年目ってやつだ。決着つけるぞゴラア!」

 

そう言ってハルと呼ばれた男は指先に炎を出して、COME ON とという文字をつくり、獰猛な笑みを浮かべる。

私は確信した。あ、こいつがキャスターの言ってた炎を操る魔術師だ…、と。

 



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7話

ハル。

そういう名前の彼は私を見かける度に喧嘩を吹っ掛けて、返り討ちにしても懲りずにやって来る。彼の実力もかなりのものなんだが…、いかんせん冷静さに欠ける。彼の使う魔術は滅竜魔術と言い竜を滅する魔術で私の悪魔などを滅する滅悪魔術と少し似ている。

彼が死んだのは、恐らく私より後だろう。その間、彼はどうやって暮らしていたのか?いつも私に突っ掛かってきて、私と喧嘩をするのが生き甲斐のようだった彼は、私がいなくなった後、どうやって暮らしていたんだろう。どうせ、退屈な生活だったんだろう。

決してアイツの事が心の奥底から嫌いと言う訳ではない。普通に嫌いではあるけども…。あれだ、喧嘩するほど仲がいいとか言うじゃないか。それだ。多分…。

 

まあ、久しぶりにあったし、前のように優しく、綺麗な氷の像に変えてやるとしよう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「決着…ね。私の記憶では君に白星がついたことはなかった筈なんだけど」

 

キャスターが、突如現れた男、ハルの「決着をつけるぞ」という言葉にそう返す。

 

「うるせえ!今度こそ俺が勝つ!」 

 

ハルは臨戦態勢を取る。キャスターはあの子供じみた男に対して大人の対応と言うものをしてくれるだろう、私はそう思ってキャスターの方を向いた。

 

「はあ…君は全く変わらないな。いや、変わったとしてもそれはそれで気持ち悪いけど」

 

ため息混じりに肩をすくめるキャスターを見て、私は安心した。

流石キャスター、これが大人の対応か…。

 

「ということで、やろうか」

 

「ダメだった!全然大人の対応できてない!」

 

つい、叫んでしまった。ダメだ、この人たち…。立花のセイバーは大変だっただろう。ブリテンの宮廷魔術師どうなっているんだ…。

 

「そうこなくっちゃな!火竜の…」

 

「氷魔の…」

 

まずい。非常にまずい。いまこの場で無意味に争っても意味がない。それどころか、こちらの損となる。早急に止めなくては。

誰か…。立花達はまだ戦闘中か…。いや、まだ一人いる。

 

「ジャンヌ、あのハルって男を止めて。私はキャスターを」

 

「え?あ、はい!」

 

そう、我らが聖女ジャンヌだ。キャスターは恐らく私が声を掛けると止まってくれる。筈だ。多分…。最悪、令呪である。

 

「止めて、キャスター!」

 

「!?マスター!?」

 

私の一声に驚いて臨戦態勢を解くキャスター。よかった。聞いてくれて。極力令呪は使いたくないのだ。

さて、ジャンヌの方は…。

 

「えぇ!?お、王様ーーーー!!?」

 

「え、お、王様…?」

 

なんと言うか、意外な光景だった。何故かハルがジャンヌの顔を見て、驚いて、王様と呼んだ。

気持ちはわかる…似てるもんね。アルトリア顔と言えばいいだろうか。ジャンヌの顔は立花のセイバーそっくりだ。まあ、似ていない部分もあるのだけど。

 

「はあ…。ジャンヌを見てどうしてアルトリアと見間違うんだ、アイツは」

 

冷静になって私のとなりまできたキャスターが彼等のやり取りを眺めながら呟く。

 

「でも、似てるでしょ?」

 

「顔はね。その他は全然違うじゃないか。性格といい、胸と言い…。まあ、ジャンヌにもアルトリアにもそれぞれのいいところが沢山あるんだけどね」

 

あ、言ってしまった。セイバーが気にしてそうだから今まで言わなかったことを平然と。と言うか、キャスターは随分とジャンヌを気にかけている気がする。なんだ、あれなのか?顔が似ててちょっと気が動いたか?

その後も、キャスターはジャンヌとセイバーの違いをいくつかあげているが、彼は気付いているのだろうか?後ろで鬼の形相をしたセイバーが立っていることを。

その威圧のせいで私は冷や汗をかいてしまっている。

 

「ん?どうかしたのかい?マスター?…ヒッ!」

 

「そうですか…やっぱりあなたも胸が大きい方がいいんですか…?」

 

「い、いや…いやいやいや。そんなこと一言もいって無いじゃないか!ちょっ!待って!エクスカリバーはノー!」

 

キャスター、御愁傷様。

 

 



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8話

岸波白野。私のマスターである彼女は、鋼のように固い精神を持った少女だ。召喚されてからまだあまり時間はたっていないものの、それは感じられた。それこそ、英霊と比べてもいいぐらいの固さだ。だから、気になった。ただの少女のはずの彼女がなぜそこまで強くいれるのかを。

なんと言うか、男らしすぎるところもあるんだよなあ…。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なにこの状況?」

 

「ここで何が有ったんですか?」

 

「私に聞かないで欲しい。こっちが聞きたいんだからさ」

 

私の目の前には、酷い光景が広がっている。おそらく、というか確実に頭がよろしくないであろうハルがジャンヌをセイバーと見間違えて騒いでいて、キャスターはセイバーに土下座している。そしてそれを覚めた目で見る私とマシュと立花。

 

「カオスだね…」

 

「…先に行こう」

 

「私も先輩の意見に同意します」

 

「ちょっと待ってくれマスター!置いていかないでくれ!このままでは駄目だ!殺されてしまう!」

 

「駄目?何が駄目何ですか?あれですか、胸のサイズですか。あんなの脂肪の塊じゃないですか」

 

「ええ!?私そんなこと言った!?アルトリア、ちょっと被害妄想が激しすぎるよ!」

 

未だに夫婦漫才を続ける二人。キャスターの様子はまるで浮気がばれた夫のようだ。おいセイバーそこ変われ。後リア充爆発しろ!

 

「もう、早くしないと令呪使うよ?」

 

流石に令呪をこんな無駄なところで使うのはよくないと考えたのか、キャスターとセイバーは大人しくなった。ジャンヌとハルに関してはキャスターがハルを凍らせたあと、落ち着かせてジャンヌとセイバーは別人だと言った。まあ、結局セイバーを見て騒ぎ出したので、再度氷になってもらったが。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ジャンヌ、皆行っているよ?」

 

楽しそうに会話をしながら歩を進めるマスター達を後ろから眺めていると、不意に声を掛けられる。優しくて、どこか聞き覚えがあるような声の主は、キャスターさんだった。

 

「どうしたんですか?キャスターさん」

 

「キャ、キャスターさん…。ま、まあいいや。それで、ジャンヌはなにボーッとしてたんだい?」

 

「いえ、微笑ましいなと思いまして」

 

今が戦争中だと言うことを忘れてしまいそうになるほどだ。

 

「そうだね…。私も、アルトリアが他の人とあそこまで楽しそうにしているのは滅多に見ることがないからね」

 

「キャスターさんは、セイバーさんに仕えていたんですよね?」

 

「まあ、そうだね…」

 

何処か歯切れが悪いキャスターさんの様子に私は首を傾げた。

確か…キャスターさんの真名は氷の魔術師ジャスパーだったか。その最後は確か…。

 

「あなたの最後は、アーサー王とモードレッド卿が戦戦ったカムランの戦いに第三勢力として参戦して戦い、そこで命を落としたとありました。それとなにか関係が?」

 

第三勢力とは言ったが、実際は十数人の少数部隊だったらしいが。

 

「ッ!そうだね…あの時はアルトリアを正しい道に戻したかったし、モードレッドと殺し合いなんてしてほしくなかった。それが正しいと思ったから戦った。それだけだよ…」

 

「しかし、結局二人は相討ち…」

 

「そう、結局変わらないし変えられないんだよ。私の努力なんて無駄なものだったのかも知れない…」

 

「そんなことありません!」

 

私がそう言うと、キャスターさんは今までは見せなかった少し怒ったような表情をしていた。

 

「何が?私が何をやろうと、結果は変わらなかったんだよ。ただ、あの物語にジャスパーと言う名前が増えただけ。私があそこで誰かを救えたり変えたりなんて、どれだけやってもできないんだ。つまり、無駄だったってことだよ」

 

これが全てだと言うようにキャスターさんは語った。

あって数時間だが、キャスターさんは簡単に怒るような方ではないとは分かる。つまり、私は地雷を踏んだようだ。

だが、

 

「結果は、事実は変わらなかったとしても、変わったものが確かにあったはずです」

 

「……何が?何が変わったと言うんだい?教えて、くれないか?」

 

先ほどとは変わってキャスターさんは俯いて喋り出す。

 

「『心』、です」

 

「心…か。本当に私は、変えることが出来たのだろうか?」

 

弱々しい声が私の耳に届く。

 

「はいっ、ルーラーの私が保証します!」

 

「ははッ、なんだよ、それ…。けどまあ、救われた気がするよ。…そういえば、前もこんな風なことを言われた気がするなあ…」

 

キャスターさんにとって、これは自分でも解決できた事なのだろうか?いや、恐らく違う。彼は誰かからの救いをずっと求めていたのかもしれない。

 

 

 

 

 



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9話

私に聖杯に願うような大層な願いなどない。

ただ、幸せに生きて、幸せに死にたい。それだけだ。英霊として、このようなありふれた願いしかないなど、恥ずかしい限りではあるのだが、これは紛れもない偽りのない本音だ。

だって、そうだろう?元の私はただの一般人。特殊な能力を持っただけのだ。当然、人なんか殺したこともないし、痛いのも嫌いだ。本当に、脳筋の気持ちにはなれない。

もう死んでしまった私には関係のない話だ、と思っていたが、カルデアではどうだろう?かなりの期間の現界となる。幸せな死はなかろうが、幸せな生活ぐらいは、この人理修復を終えたあとに待っているのでは?

ならば、こんなところで消えてはいけないな。

相手が、どんなやつでも。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「英霊召喚?この場で?」

『そう、この場所でだ。これからの戦いではさらに戦況が変わってくるだろう。増やせるところで戦力は増やしておかないとね』

 

一理ある。私はそう考えた。

これからの戦いはかなりの規模になる。現存の戦力に加え、レイシフト先のサーヴァントを合わせたとしても、負ける可能性がある。それならば今時間がある時に召喚を行うのは正しい選択だろう。

 

「じゃあマシュ、お願い」

「了解しました」

 

マシュが自分の盾を立てて召喚サークルを形成する。

この光景を始めてみたであろうセイバーとキャスター、ジャンヌ、そしてもちろん私も感嘆の息が漏れた。

 

「へぇ、そういう使い方も出来るんだ…」

「まあ、納得、って感じかな。私とアルトリア、ハルにとっては」

「そうですね」

「これで、サーヴァントを召喚するのですね…」

「スゲー!なんだよあれ!」

「ゴメン、マスター。一人バカがいるのを忘れていたよ」

 

言わずもがな、ハルである。

 

「それで、どっちがやるんだい?私のマスターか、それとも立花?」

『そうだね…今回は両方とも行こうか』

 

まあ、妥当なところである。片方だけが召喚などとしたらもしかしたらマスター間のいざこざが起きる可能性がある。そうならないためのロマニなりの配慮なのだろう。

まあ、私はそんなことがあっても別に立花を妬んだりしないんだけど。

 

「じゃあ、私は見てるよ。英霊が召喚される瞬間を見るのはなかなか無いからね」

「うん、わかった」

「マスター、頑張りなよ」

 

**

 

…どうしてこうなった。

 

「キャスター、君は少しマスターと近すぎじゃないかね?」

「黒い私!ジャスパーに近すぎです!」

「なにか問題でもあるのか?」

 

結論を言うと、私が召喚したのは赤い外套を身に纏ったアーチャー、エミヤで、立花が召喚したのは別側面のセイバーだった。

カオスに次ぐカオス…。私の心のHPがマッハで削られていく…。

というか!これはキャスターとアーチャーで私の逆ハーレム状態なのでは!?

とも一瞬思ったが、物事の中心はキャスターで、そのキャスターはアーチャーとアルトリアズに絡まれても微動だにせず、どこか遠くを見つめている。

ジャンヌはオロオロしていて、ハルに関しては、頭で処理できる要領を越えたのかショートしている。

 

「せ、先輩…」

 

立花は下を向いて身体を震わせていて、マシュがそれを心配している。

 

「ああ!もう!全員注もォォくっ!!」  

 

時が止まった。痺れを切らした立花が耐えきれなくなり叫んで全員の動きを止めたのだ。

ナイスだ立花。グッジョブ、GJ。

 

「はいそこのアルトリアズ!ジャスパー君から離れる!エミヤも突っかからない!」

「「「はい……」」」 

「ジャンヌはハルを叩き起こして!」

「は、はい!」

 

その後も立花はリーダーシップを発揮する。近くの町での情報収集、今後の方針、戦闘時の大まかな立ち回り。つい最近まで一般人だったとは思えない。もともとそういう才能があったのだろうか。

…まずい。このままでは私だけが取り柄の無い可哀想な娘になってしまう。それだけは回避せねば。

まあ、だからといってこの場で発言をしても空気を乱すことは目に見えているので黙って立花に従うしかないのだが。

 

「ほら、早く行くよ!時間は有限なんだから!」

「凄いな…彼女は」

「ああ、私も今、反省しているところだよ。少しみくびっていたようだね」

「まあ、私を倒したのだ。これくらいしてくれないと困る」

「流石、私のマスターですね」

 

本当に、流石の一言に尽きる。さっきまで大騒ぎして"仲良く"どころではなかったあのサーヴァント達が、今は肩を並べて歩きながら立花を称えてあるではないか。

流石ですね、立花さん。けど…

 

「みんな…町は反対方向なんだけど」

 

 



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