FAIRY TAIL 妖精の戦姫 (春葵)
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序章
1.プロローグ


初めまして、春葵です!!

気ままに書き進めたので、誤字脱字や変な言い回しがあるかもしれませんが、広い心で読んでいただけると幸いです。


暗く深い森の中、少女一人で道なき道を走っていた。

少女の体は酷く傷ついていたが、それでも必死に走り続けていた。

 

 

逃げなきゃ…もっと、遠くに……

 

 

頭ではそう考えているが、少女の限界はとうの昔に超えていた。

体中が悲鳴を上げ、ついに何もない所で足がもつれて転んでしまう。

 

「うっ、うぅ…」

 

立ちあがろうとするも力が入らず、体を起こすことも出来ない。

 

 

「……い!…まえ、……いじょ...か!?」

 

 

薄れゆく意識の中で少女は優しく凛々しい声を聞いた。

しかし、少女にはもはや返事をする体力すら残っていない。

その声の主が敵でないことを祈りながら少女は意識を手放した。

 

 

 

 

「……ん……あ、れ?」

 

 

目を覚ますと、目の前に広がるのは森ではなく見知らぬ天井だった。

 

「ここ、は……?」

 

痛む体をいたわりながら体を起こすと、自分が寝ていたのはどこかの医務室のベッドだった。いつの間にか怪我も綺麗に治療されている。

 

「一体誰が…」

 

別に誰かに向けたものでもなかった問いの答えはあっさりと目の前に現れた。

 

 

「目が覚めたか?」

 

 

そそに立っていたのは緋色の髪に鎧を身に纏った少女だった。

 

「え、えと……はい。お陰様で」

 

ペコリと一礼をしてそのままベッドから出ようとするが、その少女に引き止められる。

 

「まだじっとしておけ。ひどい怪我だったんだ。一体何があったんだ?」

「それは……」

「なんだい、もう目が覚めたのかい?なら、早く出ていきな」

 

 

どこか懐かしいような声が聞こえ、そちらに目を向けると、厳しそうな女性が立っていた。

 

「ポーリュシカ、流石にそれは…」

「見た目は酷かったけど命に別状はないよ。さあ、出てった出てった」

「グラン…ディーネ…?」

「……!?」

 

ポーリュシカの顔が一瞬にして驚愕に変わる。

 

「エルザ、悪いが少し外してくれるかい?」

 

 

エルザが出ていったことで病室に二人きりになり、少し気まずい雰囲気になった。思い空気の中でポーリュシカが口を開く。

 

「あんた、さっきの名どこで聞いた?」

「えと…私、グランディーネに天空の滅龍魔法教わったんです!!」

 

嘘偽りなく答えると、少し間を置いて「そうかい」とだけ呟いてすぐ近くの椅子に腰掛けた。

 

 

「私は確かにグランディーネだがあんたの知るのとは全くの別人。私はここじゃない世界から来たのさ」

「そう…ですか…」

「……探してるのかい?グランディーネを」

「いえ、私はずっと前に彼女と別れてますから。ただ、ウェンディ…私の後に魔法を教わった子が今どうしてるか心配です」

 

当時のウェンディは、まだ魔力の操作も覚束無い女の子だった。そんな中、親代わりのグランディーネが居なくなってしまったら彼女は一人ぼっちだ。そんな彼女を心配しないはずがなかった。

 

 

「なら、ギルドに入りな」

「……え?」

「ギルドならいろんな情報が入ってくる。お前を助けたエルザもギルドの魔導士だ。紹介して貰いな」

「私なんかが…入っていいの…?」

「構わない。私は歓迎するぞ」

 

いつの間にか戻ってきていたエルザが優しく微笑みかける。

 

「……入りたい…。私、ギルドに入りたい!!」

「そうか。…えっと、名前は…」

「システィ…システィ・トワイライト!!」

 

 

 

 

 

 

 

「あれからもう三年かぁ~」

 

 

昔の事を振り返りながら私は空を仰ぐ。

未だにウェンディやグランディーネの情報は得られていないが、二人とも必ず生きていると信じているから今は特別心配していない。

 

そのまま空を見上げていると、肩に僅かな重みが加わる。

 

「システィ、確認終わったよ」

「ありがと、シェリル。じゃあ帰ろっか」

 

 

今では大切な相棒となった三毛猫のシェリルに笑いかけると、荷物を背負い大きく伸びをする。

私の立っている場所の周りには百を軽く超える人がボロボロになって倒れていた。

 

「それにしてもこいつら、全く歯ごたえが無かったよね~」

「凄いのはシスティだよ。たった一人で闇ギルドを殲滅したんだから!」

「ギルドの支部がいっぱいあるって分かった時はホントめんどくさかったよねぇ。結局いくつだっけ?」

「えっとね、…十四だね」

「そんなに潰したっけ?そりゃ長引く訳だ」

 

 

殲滅の依頼を受けてから既に一年が経っている。

心配はされてないと思うけど早く帰った方がよさそうだ。

 

「よし!じゃあ帰ろっか、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に!」




最後までお付き合い、ありがとうございます!!

実はこの作品は書き溜めたものを投稿してるので、間違いが多々あるかもしれません。

今後もチョコチョコと投稿していくので、どうか今後もお付き合いお願いします!!


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2.オリ主設定

オリキャラの設定紹介です。
少々面倒かと思いますが、最後までお付き合いお願いします!!


名前:システィ・トワイライト

 

ランク:S級魔導士

 

年齢:17歳

 

 

異名:妖精の戦姫(ヴァルキリー)

 

使用する魔法:天空の滅竜魔法、付加魔法、支配のアーク、瞬間移動(ダイレクトライン)

 

好きな物:ギルドのみんな、料理、昼寝

 

嫌いな物:家族を傷つけるもの、命を粗末にする人、睡眠妨害、乗り物全般

 

一人称:私

 

二人称:あなた あんた お前

 

 

性格

優しく気配りができるが、基本的に自分からは動かずに行く末を見守る。

魔力も多く実力もあり、ギルド最強と言われるほどの実力を持つ。しかし、全力を出すことは滅多にない。

仕事へは基本一人(シェリルはノーカウント)の為貯金が結構ある。

過去に聖十大魔導に三度ほど誘われているが、自分にはもったいないとか適当な理由で断っている。

仲間の為に身を投げ出すことを躊躇わず、そのせいで度々マスターからお叱りを受ける。

 

 

容姿

胸元まである銀色のストレートヘアに薄緑色の大きな瞳。

白のチュニックに赤と白のジャケットと短パン、黒いタイツに動きやすいショートブーツを履いている。

ある程度遠くへ仕事に行く時は薄茶色のフード付きケープを羽織っている。

ギルド内ではミラに次ぐ美人で、時間が合えば週刊ソーサラーで時々モデルをしている。

ギルドマークはナツと逆側の場所で色はピンク。

 

 

備考

天竜グランディーネに育てられた。

竜がいなくなるX777年7月7日時点で既に一人旅をしていた。

今はグランディーネと一緒に魔法の修行していた少女、ウェンディ・マーベルを探して旅をしている。

過去に天空の滅竜魔法を狙う集団に捕まり実験を繰り返され、苦痛の末に支配のアークを習得し脱出。その逃走時にエルザに拾われ、そのままギルドに加入する。

それ以来エルザを慕っており、昔はよく一緒に仕事に行っていた。

ギルド加入一年半後、S級昇格試験でギルダーツとラクサスと戦っており、両者ともに勝利してS級魔導士となった。

 

付加魔法は自他両方に掛けることができ、一度に大勢を対象に取ることが出来る

支配のアークは、生物(植物を覗く)以外なら魔力で支配できる。

魔法も支配することができ、方向変更など可能。

魔法の場合、構造を解析して自分の魔法に昇華できる。ただし、失われた魔法(ロストマジック)は不可。

魔力が足らないと支配できない。

 

 

相棒シェリル

三毛猫のエクシード(メス)

傷だらけで倒れているところに仕事帰りのシスティーが通りかかり、治療したことで仲良くなって今では相棒になる。




長々とすみません…。

支配のアークに関してはオリジナル魔法です。
相手の魔法を操ったり、自分も使えるようになったりと我ながら完全にチート魔法ですね…。

今後、この魔法がどのように活躍していくのか、お楽しみ下さい。


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3.懐かしい面影

ここからほぼ原作に則ってやっていきます。

多々改変しているところもあるので分かりにくい箇所があると思いますが、最後までお付き合い、どうぞよろしくお願いします!!


イシュガル大陸の西端に位置する永世中立国フィオーレ王国。その港町ハルジオンにシスティは立ち寄っていた。

 

「うう…まだ気持ち悪い…」

「大丈夫、システィ?」

 

道中で乗った電車のせいでシスティは気分を害していた。

滅竜魔導士はなぜか皆乗り物に弱い。酔い止めを飲もうが関係なく酔ってしまう。

まだ覚束ない足取りで街を彷徨っていると、不意に微かな魔法の気配を感じ取る。そして、それて同時に後ろから大勢の女性達がシスティーを追い抜いていった。

 

「キャーッ、火竜(サラマンダー)様よ~!!」

「な、なに?今の……」

 

まるで嵐のように通り過ぎていった光景にシスティは思わず唖然とする。それに、女性達が叫んでいたことが凄く気になる。

 

 

「ねぇシェリル、あの人達さっき火竜って言ってなかった?」

「言ってたね」

「ナツ…だよね?」

「多分……」

 

二人の間に微妙な空気が流れる。

女の子達にキャーキャー言われているナツなんて想像できない。

とりあえず確かめてみるべく、システィは小走りで先を急いだ。

 

 

 

「キャーッ!!火竜様~!!」

「あそこか~」

 

遠目で人だかりを見つけ、そこに向かって走っていく。そして、すぐ近くまで近寄ると今度は鮮明に魔法の気配を感じた。

 

危険レベルは低い。攻撃性もない。この魔法は……魅了(チャーム)

 

人だかりの隙間から覗き込んで中心人物を確認すると、案の定ナツではなかった。

 

「なんだ、なりすましか」

「みたいだね」

「どっかご飯でも行こっか、シェリル」

 

小さくため息をつくと、システィは街の表通りの方に向けて歩き出した。

その時にはもうご飯のことしか考えていなかったため、システィは後ろで起こっている騒ぎに全く気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

ハルジオンのとあるレストランにて、桜色の髪に銀色の鱗のようなマフラーをした少年ナツと青毛の猫ハッピーが、旅をしているというルーシィにご飯を奢ってもらっていた。

 

「あんふぁ、ちょういひやつだな」

「あい!ありがと、ルーシィ」

「そんな急いで食べなくていいから。これはお礼なんだから」

 

もの凄い勢いで食べるナツにルーシィは苦笑いする。

 

「さっきのやつ、魅了って魔法使ってたの。それ、人の心を惹きつける魔法でね、もう何年か前に発売禁止になったはずだったんだけど…。そこまでモテたいのかな?」

「…魔法詳しいんだな」

「こー見えてもあたし、魔導士なんだ。まだギルドには入ってないけどね。いや、入りたいギルドは決まってるんだけど、そのギルド有名だし凄い魔導士が一杯いるからさぁ。あ~あ、入りたいけど厳しいんだろーなぁ…」

 

「お、おう…」

「ルーシィってよく喋るね」

 

ルーシィのあまりの熱弁にナツ達は圧倒されていた。

 

 

「じゃ、あたしはそろそろ行くから。ゆっくり食べなさいよ」

 

ルーシィは立ち上がると食事代をテーブルの上に置いた。

それを見てナツとハッピーは互いに頷くとルーシィに向かって土下座をした。

 

「ご馳走様でした!!!!」

「でした!!」

「キャー!ちょ、ちょっとナツ、恥ずかしいからやめて~!!」

 

 

 

そうやって店内で騒ぎたてる三人を、同じ店内から眺めている二人がいた。

 

「相変わらずだね…ナツは」

 

性格は全然変わっていないが、雰囲気から彼の成長を感じ、思わず笑みを溢すのだった。




最後までお付き合いくださり、ありがとうございます!!

実の所書き溜めはそこそこあるのですが、一気に投稿しすぎると書く気が無くなるという自分勝手な理由で投稿を遅らせています。本当にスミマセン…<(_ _)>

最低でも一週間に一話は投稿できるように頑張るので、今後ともどうかよろしくお願いします!!


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4.火竜と天竜

最近調子が良いのかハイペースで投稿できてます!!
問題はどこまでこのままのペースで行けるかですね…。

どうか、最後までお付き合いお願いします!!


夜になり、システィ達がハルジオンの街を出てから三時間ほど経っていた。

 

 

「ナツ達元気そうだったね~」

「そうだね。元気すぎて面倒起こさなかったらいいんだけど…」

「ホントだよ…」

 

 

ドゴオォォン……!!

 

 

「「………」」

 

後ろを振り返ると、巨大な客船が横転して陸に乗り上げていた。その上では度々爆炎が上がっている。そして、それに巻き込まれて沢山の民家が……。

 

 

「……ナツだね」

「そうだね…」

 

二人は同時にため息を漏らし、ハルジオンへ引き返した。

 

 

 

 

 

 

「まっじぃ。こんな炎ありえねぇ」

「炎を…食べてる!?」

 

ルーシィはナツの戦闘スタイルに驚いてばかりだった。

炎を纏って蹴ったり殴ったり。終いには炎を食べている。

 

 

「竜の肺は炎を吐き、竜の鱗は炎を溶かし、竜の爪は炎を纏う。これは、自らの体を竜の性質に変換させる古代の魔法(エンシェントスペル)。元々は竜迎撃用の魔法だけどね」

「食ったら力が湧いてきたぁ!!」

 

ナツは拳を打ち鳴らし、魔法陣を展開する。そして、大きく息を吸い込み、魔力を乗せて勢いよく吐き出す。

 

「火竜の咆哮ォ!!」

 

ナツから特大の火炎放射が放たれ、火竜(サラマンダー)と名乗っていたプロミネンスのボラが吹っ飛ばされる。

 

「す、凄い…。これが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士…」

 

圧倒的だった。

ボラの攻撃は当たらないし、そもそも当たっても効果はない。

それに対してナツの攻撃は何もかもを粉砕し吹き飛ばす。一撃一撃の威力が計り知れない。

 

「これで終わりだ!火竜の鉄拳!!」

「いっけーー、ナツー!」

 

その場にいた誰もがもう決着がついたと思った。

実力の差は歴然で、ボラも空中に吹っ飛ばされていて防御できる体勢では無かった。

 

しかし、ナツの一撃は予想外の乱入者によって阻まれた。

 

「はい、そこまで」

「なっ!?シ、システィ!?」

 

ナツの一撃を片手で軽く受け止めているのはシェリルに抱えられて飛んでいるシスティだった。

 

 

「あ~あ。システィ、街がめちゃくちゃだよ」

「もうナツ、やり過ぎだよ。下の方も騒がしくなってきてるし」

 

気付けば街の軍隊が出動していて、ハッピーがルーシィを連れて飛んで来ていた。

 

「しかたないか。じゃあナツは罰として走ってもらう方針で、ハッピーはちゃんとその子を運んでね」

「ちょ、システィ!?」

「あい!」

 

システィはナツに有無を言わさず容赦なく投げ捨てた。一応軍隊のいないところに投げる配慮はしてあげたが、振り切るのは大変だろう。

 

「え、あの、私…」

「なに?君、入りたいんでしょ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に」

「…!?はい!!」

 

ルーシィの返事を聞くとシスティは優しく微笑んで手を差し伸べた。

 

「私はシスティ・トワイライト。私はあなたを歓迎します」

 

二人と二匹の猫はそのまま飛翔し、一直線にギルドを目指した。




ようやく今回でルーシィがフェアリーテイルに入りました!!

この後は原作に則って鉄の森《アイゼンヴァルド》編に入っていくので、今後もよろしくお願いします!!


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鉄の森編
5.帰還


個人的にかなりハイペースでの投稿です。
何故か忙しい時ほどネタが浮かぶんですよねぇ…。

それでは最後までお付き合いお願いします!!


ナツとはちゃんと途中で合流し、三人と二匹揃ってマグノリアに帰ってきた。システィにとっては一年ぶりの帰還なので、懐かしい光景に胸を躍らせていた。

 

「帰ったぞー!!」

「あい!」

「ただいま~」

 

ギルドの扉を開けると、懐かしい日常の光景が広がる。

ナツは帰って早々グレイに突っかかっているし、カナは相変わらず酒を樽で飲んでいる。

ギルドを見渡すことでシスティは改めて帰ってきたことを実感した。

 

「早かったわねナツ。システィは久しぶりね。一年ぶりかしら?」

 

出迎えてくれたのは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の看板娘、ミラジェーン。

 

「そうだね。ただいま、ミラ姉。マスターは?新人希望なんだけど」

「は、はじめまして、ルーシィです!よろしくお願いします!!」

「はい、よろしくね」

 

 

 

手続きを終えてルーシィが正式に妖精の尻尾に入った直後、眼鏡を掛けた茶髪の男ロキがギルドに駆け込んできた。

 

「ナツ、グレイ!まずい。エルザが…エルザが帰ってきたぞ!!」

「な、なにぃ!?」

「へぇ~エル姉に会うのも久しぶりだな~」

 

ロキの言葉にギルド全体が震える中、システィは一人だけ彼女の帰還を楽しみにしていた。

 

「あの、システィさん。エルザさんって誰ですか?」

「システィでいいよ、ルーシィ。エル姉はね、とっても強いんだよ」

「あい!ナツもグレイもボッコボコなんだよ」

「あのナツが!?」

「でもエルザよりシスティの方が強いんだよ」

「ええぇ!?」

 

 

ギルド全員がエルザの話で持ち切りの中、静かにギルドの扉が開かれる。

 

「今戻った」

 

入ってきたのはもちろんエルザだった。お土産として持って帰ってきた巨大な魔物の角が彼女の強さを証明している。

 

「ナツとグレイはいるか?」

「あい、こちらに」

 

ハッピーが指差す先には肩を組んで仲良さげにしているナツとグレイがいた。

 

「や、やあ…。今日も俺達な、仲良くやってるぜ…!!」

「あ、あい!」

「うむ、仲がいいのはいいことだ。

悪いがナツ、グレイ、頼みがある。力を貸してくれ」

「「頼み?」」

「へぇ、なんか面白そうだね。エル姉、私も行っていい?」

「システィか。こちらとしてもお願いしたい。出発は明日だ、よろしく頼む」

 

そう言うと、ナツとグレイには有無を言わせず話を切ってギルドを後にした。

ギルドは嵐が過ぎ去ったように静まり返り、誰もが状況についていけていなかった。

 

ナツ、グレイにエルザとシスティで結成された新設チーム。

いきなりの事で唖然とするルーシィの横でミラが小さく呟いた。

 

「今まで考えたこともなかったけど、これってもしかするとギルド最強チームかも……」




ここから鉄の森編にドンドン入って行きます。
誤字脱字等は見つけ次第優しく教えてくれると幸いです。

それでは次回もお楽しみに!!!!


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6.列車内にて

少し時間が空いてしまいスミマセン…。

その分面倒事が多少片付いたので、連続投稿できるように頑張ります!!

最後までお付き合いお願いします!!


「ううぅ…気持ち悪い…」

「おええぇ…」

 

一同が列車に揺られる中、ナツとシスティは絶賛乗り物酔い中だった。

 

「ナツが乗り物に弱いのは知ってたけど、まさかシスティもだななんて…」

 

ルーシィが意外そうに呟く。

ルーシィはミラに頼まれてナツとグレイの仲介役として一緒に来ていた。

 

「滅竜魔導士は、乗り物に弱いの…。シェリル、エルザの話聞いといて…」

「分かった。システィも無理しないでね」

 

 

ナツとシスティがグロッキー状態の中、エルザが今回の詳細を話し始める。

 

「今回の目的はエリゴール、闇ギルド鉄の森(アイゼンヴァルト)のエースで“死神”と呼ばれる男だ。奴は“ララバイ”という魔法で何か企んでいるらしい」

「ララバイ……子守唄か」

「私はこの事態を看過することはできないと判断した。エリゴールを見つけ次第、ギルドごと殲滅する!」

「あたし、やっぱり帰ろうかな…」

 

ルーシィが後悔したように呟くが、列車は無情にも進み続けるのだった。

 

 

列車は目的地であるオニバス駅に到着し、一同は荷物をまとめて下車する。

 

「それで?これからどうすんだ?」

「まずは鉄の森の情報を探る」

「へぇ~…あれ?そういえばナツ達は?」

 

その場にいるのはグレイ、エルザ、ルーシィと猫二匹。

つまり、列車に酔っていた二人を置き去りにしていた。しかも、二人を乗せた列車は既に出発している。

 

「くそっ!!二人のことを完全に忘れていた!!あの二人は乗り物に弱いと言うのに……」

「システィ…」

「とにかく、早く追いかけるぞ!!」

 

グレイはそう呼びかけ駅の外へ走っていく中、エルザは躊躇すること無く列車の緊急停止レバーを下ろすのだった。

 

 

 

 

まだエルザ達がシスティ達の不在に気づいていないころ、システィとナツはグロッキー状態で列車に揺られていた。

 

「うぅ……ナツ、大丈夫?」

「おえぇ…気持ち悪ぃ…」

 

二人とももう限界が近かった。

そんな中、一人の男が近づいてくる。

 

 

「お二人方、ここ空いてる?」

「ああ、はい…。どうぞ……」

 

限界で受け答え出来ないナツの代わりにシスティが対応する。

しかし、男は座ることなくナツの右腕のシンボルマークに目をやる。

 

「へぇ、あんたら妖精の尻尾(フェアリーテイル)、正規ギルドかぁ。いいねぇ、羨ましいねぇ」

 

そう言ってナツを魔法で吹き飛ばす。

 

「ナツ!?貴方、何のつもり!!」

「あれ?お嬢さん、もしかして妖精の戦姫(ヴァルキリー)?可愛いねぇ~そんなギルド辞めてうちのギルドに入らない?」

「うるさい…」

「正規ギルドだからって偉そうに。てめぇらなんてハエだよハエ」

「黙れ!!」

 

システィは両手に風を纏わせるが、乗り物酔いのせいで上手く制御出来ない。

 

「やっぱり、ハエはハエ、だな」

 

しかし、次の瞬間に列車はなぜか急ブレーキを掛けた。

 

 

「うぉっ!?」

「…!?止まった!!」

 

列車は完全に停車し、続いて車内放送が流れる。

 

 

『ただいま緊急停止レバーが下ろされましたので、事態の確認がとれるまで一時停車します』

 

 

「よくわからないけど、列車が止まればこっちのものよ!!……ん?」

 

気づけばさっきの急ブレーキのせいで男は転倒し、懐から三つ目の髑髏の笛が転がり落ちていた。

 

「随分と趣味の悪い笛ね。禍々しい魔力を感じるわ」

「…!?み、見たな!?」

 

男は距離を取り、今度はその笛を咥える。どうやら今からそれを吹くようだ。

しかし、また流れてきた車内放送を聞いて今度は戦っている場合ではなくなった。

 

 

『大変お待たせ致しました。先ほどの警報は誤報と判明致しましたので間もなく運転を再開します』

 

 

「やば…。ナツ、下りるよ!!」

 

列車が再び動き始めたら二人とも力が入らなくなってしまう。

ナツとシスティは列車が再び動き出す直前に急いで飛び下りるのだった。




最後までお付き合いありがとうございます。

次話は、遅くても明後日にでも投稿できたらなぁと考えてます。

もし宣言通りなら、頑張ったんだなぁとでも思っていて下さい(笑)

それでは、また次話もよろしくお願いします!!


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7.死神エリゴール

何とか宣言通りに投稿出来ました!!

このままの勢いで連続投稿できたらして行こうと思います。
出来たらだけど…。

それでは、最後までお付き合いお願いします!!


システィとナツが列車から飛び降りてから少しして、魔導四輪車に乗ったエルザ達が追いついてきた。

 

魔導四輪車は運転手の魔力を消費して走る車だ。相当飛ばしたのか、エルザには少し疲れが見えた。

 

 

「すまないナツ、システィ。とにかく、無事でよかった」

 

 

ゴツン!!

 

 

「痛ぇーー!!」

 

エルザの手で胸元へ頭を抱きしめられるナツだったが、エルザは鎧を着用しているため、鈍い音が響き渡る。

エルザはシスティも抱きしめようとしたが、システィは全力で断った。

 

 

 

「あ、そういえば列車で変な人に絡まれてさぁ」

 

魔道四輪車に乗り込む直前でシスティが思い出したように口を開く。

 

「ああ、何か変な笛みたいなの持ってたな。それが気味悪ぃ笛でよぉ、三つ目の髑髏の笛なんだ」

「三つ目の…髑髏?」

 

不意にルーシィがどこか引っかかったように呟いた。

 

「笛…髑髏…ララバイ…子守唄……

あ!!そうよ、それがララバイよ!!呪歌、“死”の魔法!!」

「何!?それは本当か!?」

 

エルザからの問いにルーシィは頷くと、思い出したララバイの情報を語り出した。

 

 

ララバイは大昔にいたと言われている黒魔導士“ゼレフ”が作り出した魔笛。そして、その笛の音を聴いた者全てを呪殺する。

それが集団呪殺魔法 “ララバイ”。

 

 

「集団呪殺魔法…だと!?」

「あの笛がララバイ…」

「とにかく、今はあの列車を追う。お前達も早く乗れ!!」

 

全員が速やかに乗車すると、エルザは魔力を惜しまず全力全開でぶっ飛ばす。

 

「ちょ、ちょっとエル姉、うぷっ…」

 

速度に伴って揺れもこれでもかというほど激しく、いつもより八割増の乗り物酔いがシスティとナツを襲う。

 

「お、おぇ…。もう、下ろして、くれぇ…」

 

ナツも限界を超え、飛び降りてでも降りようとするナツをルーシィが全力で引き止めている。

そんな地獄のような時間を耐え抜き、一同は目的の駅、オシバナ駅に到着した。

状況は最悪。駅には入場を規制するように軍隊の人達が立っており、中は闇ギルドによって占拠されているとの事だった。

 

 

「君、中の状況は!?」

「な、なんだね君たちは!?」

「遅い!早く答えんか!!」

 

 

ゴツン!!

 

 

「ちょっと!!」

 

突然のことで回答に戸惑っていた軍の人にエルザは理不尽に頭突きを喰らわす。

 

「エルザって結構メチャクチャなのね…」

「そだね…。エル姉は昔からあんなだよ」

 

 

結局エルザは勝手に規制を無視して駅構内に入り込んだ。

そして、目の前に広がる光景に全員絶句する。

 

「そんな…」

「軍が…全滅してる…!?」

 

軍隊の小隊は全員ボロボロで、呻き声をあげながら倒れていた。傷の具合を見ると、特に命に関わる大怪我をしている人はいないので、システィは魔力温存のために回復魔法を掛けず放置しておいた。

 

そのまま一同は駅の奥へと進みホームに足を踏み入れると、そこには数十人の集団が待ち構えていた。そしてその中の一人、大きな鎌を持った男がシスティ達の前に進み出る。

 

「よう。待ってたぜ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のハエども」

「貴様がエリゴールか!!一体そのララバイで何をする気だ!?」

 

エルザが一歩前に出てエリゴールに向けて声をあげるが、エリゴールは気圧されることなくシスティ達を見下ろす。遥か上空から。

 

「あいつ…浮いてる…!?」

「風の魔法だね、あれは」

「クククッ、分からねぇか?ここは駅だ。駅には何があると思う?」

 

エリゴールは不気味な笑みを浮かべながら駅に設置されたスピーカーをコンコンと叩く。

 

「まさか!?」

「ああ。これは粛正。死神が与える“死”という名の罰だ!!」

「そんなこと、我々がさせると思うか?」

「ハエは大人しく潰されてな。

てめぇら、俺は笛を吹きに行く。後は任せるぞ」

 

そう言うと、エリゴールは天井近くの窓を割って、隣のブロックへ姿を消した。

 

「あ、逃げんのかこらぁ!?」

「クソッ!!」

「チッ…ナツ、グレイ!ここは任せて二人で奴を追え!」

 

エルザの指示にナツとグレイは互いに顔を見合わせて啀み合う。

 

「なんでこいつと!俺一人で十分だ。グレイは引っ込んでろ」

「ああ!?なにほざいてんだ。てめぇが引っ込め」

「さっさと行け!!」

「「あいーーー!!」」

 

痺れを切らしたエルザが二人に怒鳴りあげると、二人は瞬時に肩を組んで走っていった。

 

「何なの、あの二人は…」

「さて、私達はさっさとここを片付けてナツたちを追うぞ」

「だね。ちゃんとついてきてよ、エル姉」

 

この瞬間、妖精の尻尾最強と謳われる妖精の女王(ティターニア)妖精の戦姫(ヴァルキリー)の二人による殲滅戦が幕を開けた。




最後までお付き合いありがとうございます!!

後二話位で鉄の森編を終わらせる予定です。あと、少し原作とは違う感じになる予定なのでご了承ください。

それでは、次回もよろしくお願いします!!


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8.妖精の舞う戦場

予定通り投稿できた~と一人感動に浸ってます(笑)

ちょっとペースを上げすぎたので、今週は少し控えめにしようと計画中です。

それでは最後までお付き合いお願いします!!


「悪いが時間が無い。最初から全力でいく」

 

エルザは魔法剣を出現させ、その切っ先を鉄の森(アイゼンヴァルト)の連中に向けた。

それが合図となり、戦闘が始まった。

 

「ちょっとシスティ、流石にエルザ一人じゃ…」

「大丈夫だよ、エル姉は」

「そんなこと言ってる場合じゃ…」

 

しかし、ルーシィの心配は完全に杞憂だ。

エルザは緋色の髪を靡かせながら敵を次々と薙ぎ払う。

そして、槍や双剣に斧と武器を素早く入れ替えている。

 

「クソッ…この女、なんて速度で“換装”するんだ…!?」

「“換装”?」

「魔法剣はルーシィの星霊魔法に似てて、別空間にストックされている武器を呼び出すって原理なんだ。で、その時に“持ち替える”ってことを“換装”って言うんだよ」

「へぇ~凄いなぁ……」

「ただ、エル姉の換装は武器だけには収まらないよ」

 

ハッピーの説明に隣からシスティが付け足す。

 

「エル姉の換装は自身の能力を高める“魔法の鎧”も換装しながら戦うんだ。それがエル姉の魔法、“騎士(ザ・ナイト)”」

 

 

「換装、“天輪の鎧”!!舞え、剣たちよ」

 

エルザがそう唱えると出現した剣たちが踊るように回り、敵を切り刻む。

 

「天輪!!“循環の剣(サークル・ソード)”!!」

 

「「「「「ぐあぁぁぁぁっ!!!!」」」」」

 

「容赦ないね…。さて、そろそろ私も行きますか」

 

エルザのお陰で敵の総数は半分を下回っている。ここで一気に方付ける。

 

「エル姉、いくよ~。天竜のぉ…旋風(せんぷう)!!」

 

システィは超巨大な竜巻を起こし、敵を遥か上空吹き飛ばす。そして、空中に投げ出された彼らはシスティの魔法を回避できない。

 

「天竜のぉ…咆哮ォ!!」

 

システィの口から放たれた強烈な突風は鎌鼬のような鋭さを持ち、体を切り刻んでいく。

 

「す、すご……」

 

半分近く残っていたはずの敵はシスティの魔法によって全滅。ルーシィの出番なく戦いは終了した。

 

「ルーシィ、早く活躍しないと猫のオイラたちと同じ扱いだよ」

「エルザ達と比べたらあたしなんてそんなもんよ…」

「ルーシィ、さっきの突風に隠れて逃げた奴がいた。もしや、エリゴールの下へ向かうかもしれん。追ってくれ!!」

「あ、はい!!」

 

 

ルーシィは急いで残党の逃げた方へ走っていく。システィはついでにハッピーとシェリルもルーシィに同行させた。

ルーシィ達が見えなくなるとシスティは一息つき、エルザに肩を貸す。

 

「全く…。あれだけ魔導四輪車を飛ばしたのに魔力使いすぎ。もうほとんど残ってないでしょ?」

 

システィは魔力切れで顔を青くしているエルザに自身の魔力を流し込む。

 

「すまない。私はいいから、早く、外の奴らの避難を…」

「大丈夫、まだ時間はあるはずよ。もし、ララバイをスピーカーで流す気ならもうとっくにしてるはず。なのにそうならないってことは、目的は別にあるはずよ」

 

『ハエにしてはやるじゃねぇか』

 

「エリゴール!?」

「エル姉、あれは思念体だよ」

 

『テメェの言う通り、本来の目的は別だ。俺はこのままクローバーの街へ向かう。止めたきゃ止めてみな。もっとも、そこから出られたら、だがな』

 

そう言い残すと、エリゴールの思念体は消滅した。

 

「クローバーの街…そこに何があるっていうの…?」

「待て、確かクローバーの街ではマスター達の定例会が…。まさか、奴の狙いはギルドマスターか!?」

「エルザ、システィ!!」

 

振り返ると大したものではないが、傷を負ったグレイが飛び込んできた。

 

「グレイ、無事だったか」

「ああ。だがそれどころじゃねぇ。エルザ、システィちょっと来てくれ」

 

 

 

グレイに連れられて駅を出ると、駅の周りは大きな竜巻に包まれていた。しかも、中から外へ出られないように風が吹いていて、下手に突っ込めば体を抉られそうな威力だ。

 

「ん~よし。グレイ、この魔風壁は任せてナツとルーシィ連れてきてくれる?」

「わかった」

「システィ、やれるのか?」

「何言ってんの。私は天竜の滅竜魔導士だよ」

 

そう言うと、システィは魔風壁を食べ始めた。滅竜魔導士は自身の属性の魔法を喰らい、己の力にできる。天空の滅竜魔導士にとってそれは空気、つまり風も食べることができる。

魔風壁なんて格好の餌食だったが、ここで一つ問題が生じた。

 

「これ、食べきれないな…。食べても食べても周りの空気を使って大きさを維持してる…」

「システィでも手に負えんか…」

「連れてきたぞー」

 

ここでグレイが二人と二匹を連れてきて全員が合流する。ナツが先走って突っ込もうとするが、何とか引き止めて落ち着かせる。

 

「さて、全員揃ったことだし、こんな壁はぶっ壊してやりますか」

 

正直、システィは魔風壁を食い切れるとは考えてなかった。ただ、ぶち破るための魔力を得ていたのだ。

 

「天竜の風は全てを貫く。天竜の圧穿(あっせん)!!」

 

両手から放たれた竜巻は魔風壁に大きな穴を開け、一同はそこから魔風壁を脱した。

 

 

「よし、出られた」

「流石だぜ、システィ」

 

後ろを振り返ると、さっき通った風穴が閉じていく。システィ達全員が脱出した今、あの魔風壁は鉄の森を捕らえる檻と化した訳だ。

 

「あれ?そういえばナツは?」

「ハッピーもいねぇぞ」

「全く、世話の焼ける奴だ。私達も先を急ぐぞ」

「おう!!」

「うん!!」

 

エルザの指示で一同はまたもや魔導四輪車でクローバーの街へと出発した。

 

その後ろで密かにシスティの作った穴から脱出していた一人の男が気味悪く笑っていた。




最後までお付き合いありがとうございます!!

天空の滅竜魔法って風っぽいから魔風壁食べれるんじゃね?っていう勝手な解釈で書いちゃいましたけど、実際どうなんですかね?

この章は次で終わらせるつもりなので、ぜひ最後までお付き合いお願いします!!


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9.三つ目の悪魔

前回から少し間を置いての投稿です。

急いだので誤字脱字等あるかもしれません…。

それでは、最後までお付き合いお願いします!!


「う、うぷっ……気持ち悪い…」

「すまんシスティ…。だが今は気遣っておれん」

「あぁぁ揺れる…。気持ち悪い…」

 

エルザはすまなそうに言うが、今のシスティの耳には入ってこない。ただただ自分のことで一杯一杯だった。

エルザは先を急ぐあまり一直線にクローバーの街を目指しているため、道無き道を突き進み、車体は激しく揺らされる。システィにとってはかつて経験したことないほどの地獄だった。

 

 

 

地獄のような時間がどれほど続いたのか、ようやく先行していたナツに追いついた。

勝敗は既に決しており、ナツの足元でエリゴールは気絶していた。

 

「おう!遅かったな、みんな」

「エリゴールを倒したのか。ナツ、よくやった」

「楽勝だったぜ」

「その割にボロボロだな」

「んだとゴルァ!!」

「やんのか!?」

 

 

そんな調子でワイワイしている中、システィだけ何か嫌な予感がしていた。どこかこのままでは終わらない気が。

 

「っ!?ハッピー、後ろ!!」

 

システィが気づいた時にはもう遅かった。

いつの間にいたのか、エリゴールの部下の一人がハッピーからララバイを奪い取り、システィ達が乗ってきた魔導四輪車も奪って走り去っていく。

 

「ハハハッ!!ララバイは頂いて行くぜぇ」

「しまった!!」

「不味い、早く奴を追うぞ!!」

 

エルザの指示とともにシスティ達は急いでクローバーの街に向かった。

 

 

 

そして数十分後、定例会場近くにある森の中で逃げた男と我らがマスター、マカロフを見つけた。

 

エルザ達が急いで止めにはいろうとするとが、寸でのところで止められる。

 

「しっー!今いいところなんだから、黙って見てなさい」

「あ、あなたは…!」

青い天馬(ブルーペガサス)のマスタぁー!?」

「あらー、エルザちゃんにシスティちゃんじゃない!!二人ともすごく綺麗になっちゃってー…いいわねぇ!」

「…何なの?この人」

 

ルーシィがシスティに呆れた口調で尋ねる。

 

「あれでも青い天馬のマスターのボブだよ」

「へ、へぇ…」

「どうした?早くせんか」

 

突然現れた青い天馬のマスターに忘れていたが、マカロフの声が聞こえ、目的を思い出す。

 

「い、いかん!」

 

慌ててエルザが止めに入ろうとするが、またもや止められる。

 

「静かに見てろ」

 

今度はサングラスをかけた男、四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)のマスター、ゴールドマインだった。

よく見るとゴールドマインの後ろにも定例会に出ていたギルドマスターがおり、マカロフの様子を伺っていた。

辺りに少し静けさが戻った今、マカロフの言葉が鮮明に響き渡る。

 

 

「何も変わらんよ…」

「っ!?」

 

「弱い人間はいつまで経っても弱いまま…。しかし弱さの全てが悪ではない…。

元々、人間なんて弱い生き物じゃ。一人じゃ不安になる。だから、ギルドがある、仲間がいる。強く生きるため、寄り添いあって歩いていく。

不器用な者は人より多くの壁にぶつかるし、遠回りをするやもしれん…。しかし、明日を信じて踏み出せば、自ずと力は沸いてくる。 強く生きようと笑っていける。そんな笛に頼らなくても…な」

「……参り…ました…」

 

マカロフの言葉が胸に響いたのか、男はすっとララバイを手放し、俯いて涙を流した。

 

事が解決するとエルザ達が一斉にマカロフの下へ駆け寄っていく。

 

「「マスター!!」」

「じっちゃん!!」

「じーさん!!」

「ぬお!?お、お主ら、何故ここに!?」

 

突然現れたエルザ達にマカロフは驚愕する。

 

「流石です!マスターのお言葉、胸が熱くなりました!!」

 

ガツッ!

 

「いたぁい!!」

 

感動のあまりエルザは勢いよくマカロフを抱きしめるが、マカロフは鎧に頭を打ち付け、鈍い音が響く。

 

「じっちゃんすっげぇなぁ!」

 

ナツはマカロフの頭を叩きながらそう言う。

 

「すごいと思うのなら頭を叩くでないわ!!」

「これで一件落着だな!」

「そうね!」

「あい!!」

 

グレイやルーシィ達がお互いに顔を見合わせ、笑みを浮かべ喜んでいるなか、システィは冷静に周囲を見る。

 

「………まだだよ」

 

システィの目線の先には地面に転がったララバイ。

ギロッ!!とララバイの目が怪しく光ったと思うと笛がいきなり喋り出す。

 

『カカカッ どいつもこいつも情けねぇ魔導士共だ…!!もう我慢出来ん…。我が自ら、喰らってやろう………!!貴様らの、魂をなァアアッ!!!!』

 

するとララバイは巨大な怪物へと姿を変えた。

 

「な…こ、これは…!?」

「ゼレフ書の悪魔…」

「本性を現しやがったな」

 

ナツが叫び、システィはマカロフとアイコンタクトを取る。

 

「一体どうなっているの…?」

 

ルーシィが戸惑いの声を上げる。

 

「ララバイとはつまり、あの怪物そのものの事を言うのさ。ララバイ…生きた魔法…。それが、ゼレフ書の悪魔さ」

 

答えたのはゴールドマイン。

 

「ゼレフだと!?ゼレフって確か大昔の…」

「そう。黒魔導士ゼレフ、魔法界の歴史上最も凶悪だった魔導士…」

 

そして……今もどこかで……

 

 

 

『さぁて、どいつの魂から頂こうか…。いや…全員まとめて喰ってやる!!』

 

ララバイの言葉に慌てるギルドマスター達だが、マカロフは余裕の笑みを浮かべる。

 

「行くぞ!!」

「「おぉっ!!」」

 

そして、エルザ、グレイ、ナツの三人が動き出す。システィはギルドマスター達の護衛としてその場に残るが、しっかり三人をサポートする。

 

「いくよ、三人とも!!イルバーニア、イルアームズ」

 

システィの付加魔法により移動速度、攻撃力をともに倍加させる。

 

「換装、天輪の鎧!!」

 

その声と共に鎧を変え、複数の武器を手にララバイを斬り裂くエルザ。

 

「うぉりゃぁ!!火竜の鉄拳」

 

エルザに続きナツがララバイの体をよじ登ると、その顔面を炎でぶん殴る。

 

「何じゃ、あれは!?あれも魔法なのか!?」

 

鬱陶しく感じたララバイがナツとエルザに向け攻撃を出すが、イルバーニアによって加速した二人はいとも容易く避け続ける。

時折流れ弾がギルドマスター達の元に飛んでくるが、待ち構えていたグレイが魔法で防ぐ。

 

「アイスメイク………“(シールド)”!!」

 

 

ギィイイインッ!!!!

 

 

グレイの魔法は瞬時に氷の盾を作り出し、ギルドマスター達の身を守る。

 

「おお、一瞬でこれだけの造形魔法を!!」

「造形魔法?」

「魔力に“形”を与える魔法だよ。そして、形を奪う魔法でもある…」

 

ハッピーの言葉に思わずルーシィは息を呑む。

 

「アイスメイク………“槍騎士(ランス)”!!」

 

今度はグレイの魔法がララバイの下半身を吹き飛ばす。

 

「す、すごい!!」

「流石だねぇみんな。さて、私もそろそろ行こうかな」

 

ルーシィが感嘆の声を上げるなか、遂にシスティも動き出す。

 

「天竜の牙は空をも切り裂く…。天竜の砕牙!!」

 

システィの腕から放たれる牙にも似た風はララバイの両腕に突き刺さり切断する。

下半身も両腕も無くなったララバイにはもう抵抗する手段はない。

 

「決めるよ!!天竜のぉ……圧穿(あっせん)!!」

 

竜巻はララバイを貫通し、やがて静かに塵となって消滅した。

 

「かーかっかっか!!どーじゃ、凄いじゃろー!!」

 

マカロフの甲高い笑い声が一同を現実に引き戻し、全身で喜びを顕にする。

 

「すっごーい!!」

「これが妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強チーム…か」

「見たか!!これが俺たち妖精の尻尾だぁ!!」

 

「………あ」

 

突然、システィがなにかに気付いたような声を漏らす。

 

「む?システィ、どうかした…か…」

 

システィの視線の先には本来あるはずの定例会の会場が消え去っていた。

結局、この後システィ達はショックのあまり気絶したマカロフを抱え、逃げるようにギルドへと帰還した。




最後までお付き合いありがとうございます!!

鉄の森編が今回で終わりましたので、次はデリオラの話になります。
そろそろ原作通りじゃなくて、オリジナルストーリーも考えようかなとも考えてます。

それでは次回もよろしくお願いします!!


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悪魔の島編
10.火竜VS妖精の女王


今回から悪魔の島編に入っていきます。

ちょくちょく展開は変えていくので、最後までお付き合いお願いします!!


いつの間にこんな話になっていたのか、ギルドに帰って早々エルザ対ナツの決闘が行われようとしていた。

 

「ねぇ、ホントにやるの~?」

「あったりめぇだぁ!!エルザ、全力でやれよ!!」

「無論だ。まだまだ負ける理由にはいかんのでな」

 

そう言うと、エルザは“炎帝の鎧”に換装する。

 

「うっわ、火属性耐性の炎帝の鎧ってエル姉ガチだね…」

「全力でかかってこい!!」

 

遂にナツとエルザの決闘が幕を開ける。

 

先に動いたのはもちろんナツ。体に炎を纏い蹴りやパンチを放つがエルザには当たらない。しかし、エルザの攻撃もナツには当たらない。

二人の攻防を通して、エルザはナツの成長を身を以て感じていた。

 

「やるな、ナツ」

「へっ、まだまだこれからだぜ!!」

 

二人の拳と刀が何度もぶつかり合う。本気の二人の戦いを目の前にして、観戦するみんなのテンションもドンドン上がっていく。

誰もが興奮する二人の戦いは永遠にも続くように思えたが、その終わりは誰もが予期しない形で訪れた。

 

 

パアァァァンッ!!

 

 

「そこまで」

 

大きな音とともに現れた一人の(一匹の?)カエル。それはナツとエルザの前に進み出る。

 

「全員その場を動くな。私は評議会の使者である」

「評議会!?」

「なんでそんな奴がここに?」

 

その場が段々とざわつき始める。

評議会からの使者はその様子を気に止めることはなく、持っていた文書を読み上げ始める。

 

「先日の鉄の森(アイゼンヴァルト)テロ事件において、器物損害罪他十一件の罪において、エルザ・スカーレット、並びにシスティ・トワイライトの両名を逮捕する」

「ちょっと、何よそれ!?定例会の会場を壊したのは私なんだから私だけでいいじゃない!!」

「騒ぐな。この件は既に評議会で決定済みだ。大人しく投降しろ」

「くっ……」

 

結局、システィの抵抗は聞き入れられず二人とも逮捕され、評議会に連れていかれた。

 

 

 

評議会に連れてこられた時は、一体どんな罪を受けるのか内心心配だった。懲役刑はいやだなぁだとか、面倒な仕事が押し付けられるだけですめばいいなぁとか考えていた。

しかし、エルザは分からないが、システィに関しては牢屋にぶち込まれることも無かった。

 

「さて、システィ・トワイライト。ここに呼んだのは他でもない。貴殿の各地での活躍は我々の耳にも届いておる」

「は、はぁ…」

 

評議会の議長直々の言葉にシスティは戸惑いを覚える。

 

「今回の件についても尽力してくれたと聞いておる。そこでじゃ、我々はそれを評価し、貴殿に“聖十大魔道”の称号を授けたい」

「いや、受け取れません!!私にはそこまでの実力はありませんから」

「そうか…。なら、貴殿が本当の強さを手に入れた時に渡すとしよう」

 

議長はシスティの心を見透かしたように言うと、すぐに引き下がってくれた。だけど、それが逆に不気味だった。

 

その後、ナツが評議会に乱入してくるというハプニングがあったものの、元々形式だけだったエルザの裁判も終わり、翌日には三人揃ってギルドに戻ってきた。

 

 

 

 

ギルドに戻ってきて早々エルザとシスティはメンバーから質問攻めにあったがシスティはあまり語らず、聖十大魔道に関しては隠しておくことにした。幸い、知っているのはあそこにいた評議会の人とシスティだけだ。

ただ、マカロフにだけは打ち明けて置くことにした。

 

「マスター、少しいいですか?」

「ん?…ああ、構わんぞ」

「どうかしたんですか?」

「いや……、眠い」

 

マカロフがそう呟くと、入口に近い者から順にバタバタと倒れていく。システィにも眠気が襲ってくるが、魔力を高めて意識を保つ。

 

「久しぶりだね、ミストガン」

「ああ。久しいな、システィ」

 

ミストガンはシスティの頭を軽く撫でるとクエストボードから一つを手にしてマカロフに手渡す。

 

「この仕事を受ける」

「次はどのくらいかかるの?」

「分からない。最近アニマの出現周期が短くなっている」

「そう…。あまり無理しないでね」

「お互いな」

 

ミストガンは少しからかうように言うと、すぐに扉の方へ歩き始めた。

 

「これ!眠りの魔法を解かんか!!」

 

 

伍………四………参………弐………壱………零

 

 

ミストガンがギルドを出た瞬間、ナツ以外のメンバーが目を覚ます。

 

「今の魔法…ミストガンか!?」

「相変わらずすげぇ眠りの魔法だな…」

「んぅー…なにぃ?今の…」

「ミストガンだよ」

「…ミストガン?」

 

眠そうに目を擦るルーシィの疑問にシスティは答える。

 

「このギルドの最強格の一人だよ」

「え、そうなの!?」

 

システィの言葉に驚き、ルーシィは眠気を忘れて声をあげる。

 

「でも誰も顔を見たことがないのよね…」

 

ミラは苦笑を浮かべながら残念そうに言う。

 

 

「いんや、俺は見たことあるぜ」

 

しかし、突然ギルドの2階から男の声が響く。

 

全員が驚き、声のした方に顔を向けると、そこには金髪でヘッドフォンをした男が立っていた。

 

「「ラクサス!?」」

「…帰ってきてたんだ」

「俺やジジィだけじゃねぇ…。システィもミストガンを知っているぞ。なぁ?システィ…」

 

ラクサスはそう言い、システィに向けて不敵な笑みを向ける。

 

「前から甘ぇとは思ってたが甘すぎだ。俺はな、俺より強ぇテメェが腑抜けてやがるのが一番気に食わねぇんだよ」

「そろそろウザいよ、ラクサス」

「……不味いな」

「な、何が?」

「システィがイラつき始めた。アイツが怒る前に止めないと後が厄介だ」

 

システィとラクサスの両者は魔力を徐々に高め合い、一触即発の空気が漂う。

 

「これ、よさんか全く。お主らは…ギルドを壊す気か?」

「流石にそこまではしないよ。ただ、少し身の程を知ってもらおうと思ってるだけ」

 

マカロフの言葉に笑みを浮かべるシスティの耳に、突然「ラクサスーーー!!」と、叫ぶナツの声が届く。

今まで眠りこけてたはずのナツはラクサスに向けて全力で叫ぶ。

 

「ラクサスー!俺と勝負しろ!!」

「ナツ………」

 

ナツの言葉に呆れを見せるシスティ。

 

「はっ…やりたきゃここまで上がってこいよ。なぁナツ?」

「上等だァァ!!行ってやらァ!!」

 

ラクサスの挑発を受けて階段をかけ上がろうとするが、マカロフの巨大な拳が一段すら上らせなかった。

 

「二階に行ってはいかん、まだな」

「ははっ!止められてやんの!!」

「ラクサス!お主も挑発は止めんか!!」

「はっ!いいか、これだけは言っておくぜ。妖精の尻尾最強はこの俺だ。システィ、いつか必ずテメェを倒す」

 

ラクサスはそう言って高笑いを響かせながら二階の奥へと姿を消した。

 

 

 

ラクサスとの一悶着でざわついていたギルドだが徐々にいつもの様子を取り戻し始めていた。

 

ふと、先ほどのマカロフの言葉が気になったルーシィはミラに声をかける。

 

「あの…ミラさん…さっきマスターが二階に行ってはダメだって…」

「あぁ、あれね?二階には一階に貼られてある依頼とは比べものにならないくらい難しいS級クエストが貼られているの。その依頼に行けるのはギルドの中でもマスターに認められた実力のあるS級魔導士だけ。その中にはエルザ、ミストガン、ラクサスそれにシスティも入ってるわ」

「え!そーなんですか!?」

 

ルーシィは驚いた表情でシスティに視線を送る。

話を聞いていたシスティはルーシィの視線に苦笑いする。

 

「まぁ…確かに私も二階に行けるよ。そういや最近行ってないし、覗いてみようかな~」

 

いつの間にか一悶着あったギルドの雰囲気はいつもの感じに戻っていた。しかし、そのせいで一人と一匹の悪巧みに誰も気づかなかった。




最後までお付き合いありがとうございます!!

今週は少し控えめにしてきましたけど、そろそろペースアップしていきます。(願望)

有言実行目指してやっていくので、次回もよろしくお願いします!!


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11.S級クエスト

ようやくここから悪魔の島編が展開していきます。

最後までお付き合いお願いします!!



ラクサスの一件の後、ギルドの二階にあるS級クエストのボードを眺めながらシスティはシェリルと悩んでいた。

 

「システィ、どれにするの?」

「う~ん、別にお金には困ってないからなぁ…」

「ならこれは?報酬に黄道十二門の鍵だよ」

「へぇ、いいね。じゃあそれにしよっか」

 

 

報酬金は大して高くはないが、世界にたった十二本しかない星霊の鍵が貰えるのは嬉しい。何ならルーシィにお土産としてあげてもいい。何らかの対価はいただくけど。

 

クエストボードから依頼書を外し、システィとシェリルは相変わらず騒がしい一階に下りる。すると、丁度マカロフがカウンターで寛いでいるのが見えたので、この間の聖十大魔道の件について話しておこうと思い、マカロフの隣に座った。

 

 

「マスター、この間の評議会でのことなんだけど…」

 

そう切り出し、システィはマカロフにあったこと全てを話した。

システィが話し終わると、「フム…」と呟いて少し残念そうな顔をした。

 

 

「システィ、お前さんはもう十分に強い。それはワシも、ギルドのみんなも認めとることじゃ。そろそろ自分に自信を持て」

「でも、やっぱり私は…」

「そういう不器用なところはエルザにそっくりじゃな…」

 

 

その後もマカロフとすっかり話し込んでしまい、システィは危うく本来の目的を忘れるところだった。

 

「あ、マスター。私、この仕事…ってあれ?」

 

気づけば置いてあったはずのS級クエストの依頼書が無くなっていた。辺りを見渡してもどこにも見当たらない。

 

「どうしたんじゃ、システィ?」

「二階から依頼書取って来たんだけど、気づいたら無くなってて…」

「そこにあった紙切れなら、青猫が取ってったぞ」

「ラクサス!!」

 

声の方を向くと、ラクサスが二階から見下ろしていた。

 

 

「青猫ってハッピーのことでしょ?何で止めなかったの!?」

「俺には何の紙か分かんなかったんでな。それよりジジィ、ナツはギルドの掟を破った。もちろん破門、だよなぁ?」

 

ラクサスの言葉に対してギルド全体がマカロフの答えを待つ。

ナツがギルドの掟を破ったことは確かな事実だ。最悪の場合、ラクサスの言う通り破門だって有り得る。

 

「マスター、これはちゃんと見てなかった私の責任です。私が連れ戻してきます」

「……頼まれてくれるか?」

「はい。依頼は私名義で受けておいて下さい。相手側に迷惑は掛けられませんから」

「待て、システィ。私も行く」

 

そう言い出したのはエルザだった。

エルザはギルドの風紀委員と言えるほどに掟に厳しい。行くと言い出すのも当然だろう。

 

「エル姉…。うん、お願いするね」

 

 

私が気まぐれでS級クエストを受けようなんて思わなければ…

 

システィはそう後悔せずにはいられない。

最後に「行ってきます」とだけ告げ、システィとエルザは依頼のあった悪魔の島、ガルナ島に向かった。




最後までお付き合いありがとうございます!!

次回からようやく島に上陸してストーリーが展開していきます。
バトルシーンもあるかもです。

では、最後までお付き合いありがとうございました!!



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12.上陸、悪魔の島

何とか投稿できました!!

スピード重視なので誤字脱字等は勘弁ください…。

最後までお付き合いお願いします!!


ハルジオンに着いた二人は、早速ガルナ島行の船を探すが、捜索は難航していた。

 

「う~ん…まさかガルナ島までの船が無いなんてねぇ…」

 

船乗りたちはガルナ島の呪いを恐れ、今ではその付近の航路さえ通る船はないらしい。

 

「どうしようエル姉……ってあれ?」

 

気づけばさっきまで隣にいたエルザの姿が消えていた。

辺りを見渡してみると、エルザの特徴的な緋色の髪は港町から浮いていて、すぐに見つけることが出来た。しかし、エルザの後ろに広がる光景に思わず絶句した。

 

 

「……え…」

 

エルザは密かに港に停泊していた海賊船に乗り込み、船員たちを殲滅していた。

 

「えっと…何やってるの…?」

「あぁ、心優しい奴らがいてな、交渉をしたら乗せてくれるそうだ」

 

エルザは近寄ってきたシスティに笑みを見せるが、エルザの手には涙を流すボロボロの船長の姿があった。

 

「へ、へぇ…それは良かった…ね?」

 

結局、エルザの交渉(脅し)の末、ガルナ島まで運んでくれる事になった。

 

 

「あ、あんたら一体あの島に何の用なんだ?あの島は、みんな怖がって誰も近づかねぇってのに!?」

 

舵を切っていた船長は震える声でシスティ達に問いかけるが、返ってきたのは言葉ではなく殺気だった。

 

「つべこべ言わず、貴様は黙って船を操縦していろ」

「ヒィ!!わ、分かりましたっ…!」

 

首筋に剣先を突き付けられ、船長は震えながら舵を握る。

誰もこの状況を止めることはできない。船員は元より話にならず、システィの場合は乗り物酔いでダウンしている。

 

「う、うぷっ……死にそう…」

 

方や殺気を放つ恐ろしい少女、方や乗り物酔いでグロッキーな少女。そんなシュールな光景が海賊船上で繰り広げられていた。

 

 

暫く船を進め、ようやくガルナ島に到着した。

 

「ここが呪いの島か」

「うん…」

 

乗り物酔いから回復したシスティは頷くとガルナ島を照らす月を見上げた。

 

「紫色の月…か」

 

辺りを照らす紫色の月光は島の不気味さを増幅させている。それに、月から確かに魔力を感じる。恐らくあの紫色は何らかの魔法の影響なのだろう。

 

「あの月、島の呪いと関係ありそうだね」

「同感だ」

 

とりあえず二人は島の海岸線にそって歩き始めた。

しばらく歩くと、悲鳴とともに何か大きな物が落ちたような音が聞こえた。

 

「っ!エル姉!!」

「ああ!!」

 

二人は一気に足を早めると、大きなネズミと、今にもネズミに潰されてしまいそうなルーシィが目に入った。

 

「天竜の咆哮っ!!」

 

システィは威力より距離を優先して咆哮を放ったが、風はネズミの大きな体を軽々と吹き飛ばした。

 

「シ、システィ!?」

 

ルーシィは予期せぬ援軍に驚いたがすぐに表情に笑みが浮かぶ。

 

「システィ、来てくれたんだ…!!」

「来たのは私だけじゃないけどね…」

「え……?」

 

システィはそう言うと、吹き飛ばしたネズミに目線を向ける。ネズミは今にも起き上がろうとしているが、それが許されるはずが無い。

 

 

ズサササッ!!!!

 

 

いつの間にか天輪の鎧に換装したエルザの攻撃によってネズミは戦闘不能となった。

 

「エルザ!!!!」

 

システィに加えてエルザの登場に笑みを浮かべるルーシィだったが、すぐに二人が来た理由を悟り、顔を青くしていく。

 

 

「ルーシィも来てたんだ…。ねぇ、ナツは?一緒じゃないの?」

「ナツは分からない。グレイは怪我しちゃって…」

「見かけないと思ったらグレイもかぁ……」

 

ルーシィの言葉にシスティは頭を抱える。

今は静かだが、エルザも相当怒っているだろう。いつの間にかルーシィを追ってきていたハッピーもこの場におり、既にエルザの手に捕まっていた。

 

 

「とにかく状況を確認したい。とりあえずグレイのところへ連れて行って…」

「わ…分かった………」

 

 

ルーシィに連れられてシスティ達が着いたところは、大きく森が開けたところだった。ルーシィの話では、少し前にさっきのネズミの落とした謎のゼリーに村を溶かされてしまったらしい。

 

システィ達は負傷して眠っているグレイがいるテントの中に入った。

システィは眠るグレイの傍に腰を下ろすと巻かれた包帯を外して怪我の具合をみる。

 

「…これならちょっと深いけどすぐ治せるよ」

「そうか……頼めるか?」

 

システィは無言で頷くとグレイの傷口に両手を当てた。

 

「え、治すって?」

「ルーシィはまだ見たことなかったよね。システィは回復魔法が使えるんだよ」

「へぇ~」

 

ルーシィはじっとシスティの手を見つめる。

グレイに触れるシスティの手から淡い銀色の光が輝き、次第にその輝きはグレイの傷口を塞いでいく。そして、銀色の輝きが消える頃には苦しげだったグレイの呼吸や表情は幾分か穏やかになり、傷口も完全に塞がっていた。

 

 

「よし。とりあえずはこれで大丈夫。流石に流れた血は回復できないけど、傷はもう大丈夫だよ。後は目覚めるのを待つだけ」

 

そう言い、システィはエルザたちの方を振り返る。

 

「わぁ!良かった…」

「あい!」

「流石だな…システィ」

 

エルザたちはシスティの言葉に安堵し笑顔を浮かべた。

 

 

「ねぇルーシィ、この島で何が起こってるの?」

 

村の人曰く、どうやらナツは一人で島の中心部にある遺跡に向かったらしいが、すぐに追いかけようとするエルザを引き止め、システィは状況確認のためルーシィに問い掛けた。

 

 

「この島の異変…それは全部、月のせいなの」

 

そう言ってルーシィは厄災の悪魔デリオラ、月の雫(ムーンドリップ)、そして主犯であるリオンとグレイの関係について語った。

ルーシィの話を聞き、システィは空の月を見上げる。ルーシィの話を聞いても疑問は解消されない。

 

「おかしいよ」

「え…?」

「月が紫色になるなんて、有り得ない」

「でも、現に月は…」

「もし!月が紫色になってるなら他の場所からでも紫色に見えるはずだよ。でも、ここからしかそう見えないってことは…」

「この島に原因がある、ということか。だが、今日はもう遅い。明日にはナツを見つけて、グレイが目を覚まし次第ギルドに連れて帰る」

 

エルザの言葉に一同は一度解散し、村人が用意してくれたテントに入って一夜を過ごすことになった。

 

 

その夜、システィは隣で眠るシェリルを起こさないようにテントを出ると、散歩がてら海岸に向かった。

海を眺めると、海面に紫色に光る月が映っている。システィは近くの岩の上に座ると、空に浮かぶ月を見上げた。

 

 

「眠れないのか、システィ?」

「…エル姉」

 

システィはチラリと後ろを振り返ると、再び空に目線を向けた。

 

「なんか気になっちゃってね…」

「あの月のことか…」

 

エルザの言葉に小さく頷く。

 

 

「…あのさ、エル姉。お願いがあるんだけど聞いてくれる?」

 

突然話し始めたシスティにエルザは視線を向けるが、何も言わずに先を促す。

 

 

「私の代わりにナツ達を見守ってくれないかな?」

「……!?まさかシスティ、ギルドを…」

「辞めないよ。ただ、そろそろ探しに行こうと思ってる」

「あぁ、確かウェンディだったか?」

「うん。私にとっては妹みたいな女の子だよ。大体目星は付いてきてるんだ」

 

エルザはシスティの瞳に強い想いを感じ取った。決して曲がらない信念のような思いを。

エルザはため息をつくと、苦笑を浮かべてシスティを見た。

 

「分かった。……だが、ちゃんと無事に帰ってくるのだぞ」

「うん、わかってる。エル姉、ナツ達を頼むね」

「お前の頼みだからな…。さて、そろそろ休もう。明日に響くぞ」

「あ、うん………」

 

先を行くエルザの後に続いてシスティも立ち上がる。

最後に紫に光る月を眺め、海岸を後にした。




最後までお付き合いありがとうございます!!

バトルシーンを入れるつもりだったけど、入れられませんでした…すみません…。
あと、次回もバトルシーンは無理そうです…ホントにすみません…。

次々回こそは、バトルシーンを入れます!!

次回も何卒よろしくお願いします!!!!


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13.決断

何とか三日連続投稿です!!
実は、密かに週七投稿目指してます!!

今回も最後までお付き合いお願いします!!


システィとエルザが島についた翌朝、ようやくグレイが目を覚ました。

 

「……っ…こ、ここは…?」

「起きたか、グレイ」

 

まだ痛む身体をゆっくりと起こしたグレイの視界には気を失う前はいなかったシスティとエルザの姿があった。

 

 

「システィ!?それにエルザも…!!」

「…大体の話はルーシィから聞いたよ。分かってる?これはギルドの掟に反することだよ?」

 

システィの言葉に何も言い返せずにグレイは顔を俯く。

 

「はぁ…呆れてものも言えんぞ」

「っ…ナ、ナツは?」

「ナツはここにはいないわ…。多分どこかで迷子になってるか、もしかしたら遺跡にいるのかも」

 

グレイの質問に答えたルーシィを見て、グレイは「そうか…」と俯く。

 

「とにかく、ナツを見つけ次第お前達を連れ私はギルドへ戻る」

 

エルザのその言葉を聞き、グレイは有り得ないとでも言うような顔をエルザに向ける。

 

 

「な…ギルドに帰るって…お前!この島で何が起きているのかルーシィから聞いたんだろう!?なら…!!」

「あぁ聞いたさ。だがそれがどうした?私の目的はギルドの掟を破った者を連れ戻すこと。ただそれだけだ。

あとはナツを見つけ次第、私達は戻る。それ以外の目的などない」

 

エルザの言葉を聞き、グレイはエルザをきつく睨みつける。その表情は険しく、どこか苦しげだ。

 

 

「この島の人たちの姿を見たんじゃねぇのかよ!?」

「見たが?」

「それを放っておけというのか!?」

「依頼書は各ギルドに発行されている。正式に受理したギルドの魔導士たちに任せるのが筋というものだろう?」

 

口論は完全に二人でヒートアップしているが、システィはなぜエルザがシスティがその依頼を受けたことを言わないのか不思議だった。

 

 

そうこうしているうちにグレイは我慢の限界を超えたのか、拳を強く握り締める。

 

「………見損なったぞ、テメェ…!!」

「…なんだと?」

 

グレイの言葉を聞き、ルーシィ達を気にせず殺気を放ったエルザだが、グレイはそれに怖気付くこと無く立ち向かう。

 

 

「見損なったのはこちらの方だ。現に貴様は掟を破ってここにいる」

 

確かにギルドのルールを破ったナツやルーシィ、グレイに非があるのは変わらぬ事実だ。グレイもそんなことは百も承知だ。

 

「ただではすまさんぞ」

 

そう言いきり、エルザはグレイの首元に剣先を向ける。

 

「ちょ!エルザっ!!」

「システィ!!」

 

二人のやりとりを見ていたルーシィとシェリルはエルザの行動に慌てる。しかし、システィはただじっと二人を見守っていた。

 

剣を向けられたグレイは引くどころかエルザの剣を握りしめ、押し返す。

 

「勝手にしやがれ!!これは、俺が選んだ道なんだよ!!やらなきゃならねぇ事があるんだ」

 

そう言い、グレイは剣を握る手を強める。その手からは血が滴り始め、テントの床を赤い斑点が出来る。

エルザはグレイの引き下がらないと言った決意の見える瞳を暫く見つめ、一時の沈黙の後エルザははぁと一つため息をついた。

そして、グレイに剣を離させるとルーシィとハッピーを縛っていた縄を切った。

 

 

「「…え?」」

「エルザ…?」

 

こればかりはグレイも驚いたのか、グレイは気の抜けた声を出す。エルザはグレイを振り返り、呆れた顔で言う。

 

「これでは話にならん。…まずは仕事を片付けてからだ」

「え…で、でも他のギルドがこの依頼を受けてたら問題になっちゃうんじゃ…?」

 

先ほどの他のギルドに任せろと言ったエルザの言葉を覚えていたルーシィは恐る恐ると言った様子でエルザに問う。しかし、答えたのは今まで黙っていたシスティだった。

 

「この依頼、もう私が受けてるから他のギルドが受けるなんてことは絶対にないよ」

 

まるで今までの雰囲気をぶち壊すようなヘラリとした口調でシスティは言い切った。

 

「「「…えぇ!?」」」

「エル姉も意地悪だよねぇ。ま、私もみんなに手伝って貰うつもりだったけど」

 

システィのからかうような視線を受けたエルザはフッと笑い、システィを見返すエルザ。

 

「初めから許可しては反省せんだろう。それに、私はこいつの想いを聞きたかったのでな…。少々試させてもらったんだ」

 

二人の会話を聞き、ルーシィ達は呆然とその光景を見つめる。

 

「え…じ、じゃあ最初から連れ戻す気はなかった…ってこと…?」

 

確認のため問いかけてくるルーシィにエルザは呆れた顔をする。

 

「バカなことを言うな。私は初めからお前達を連れ戻す気だった。だが、お前達の成長を見るいい機会だと思って仕方なくだ」

 

そう言いながらエルザはチラリとシスティに視線を送る。それはシスティにしっかり見定めろとでもいうような瞳だった。

恐らくエルザはこの依頼を通して、ナツ達は心配するほど弱くないことを示したいのだろう。

 

 

「ホント、エル姉は変なところでお人好しなんだから…」

 

クスクスと笑いながら、システィは誰にも聞こえないくらいの大きさで呟いた。

 

 

 

「さてと、…グレイ?手出して」

「ん?あ、あぁ…」

 

グレイはすぐにシスティの意図を察し、傷ついた手を差し出す。システィはその手を優しく握り、回復魔法でその傷を治す。傷はすぐに塞がり、グレイはギュッ、ギュッと感触を確かめるように手を握る。

 

「……うし!サンキュー、システィ」

「グレイ、分かってると思うけど、あんまり無茶するとすぐ傷が開いちゃうから無理はしないように。

……あと、これだけは覚えておいて。貴方が今何を思い、何に悩んで、何に苦しんでいるのか私は知らない。けど、あなたにはみんなが…仲間がいる。それだけは、忘れないで」

 

そう言うシスティの顔は何故か悲しげだった。

グレイはじっとその顔を見つめ、「…分かった」とだけ返した。

 

その答えを聞くと、システィは優しく微笑んでエルザの方へ向き直った。

 

 

「それじゃあエル姉、…そろそろあのバカを探しに行きますか…!」

「あぁ…そうだな…」

 

システィの笑みに釣られてエルザも笑みを浮かべる。

 

「よし、……行くぞ!」

「「「「「おおーー!!」」」」」

 

エルザの掛け声と共にテントを飛び出し、システィ達は問題の遺跡へと足を進めた。




最後までお付き合いありがとうございます!!

次回は予告通りバトルシーンを入れるつもりです。

週七投稿目指してこのまま突っ走ります!!
次回もよろしくお願いします!!


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14.災厄の悪魔デリオラ

悪魔の島編もそろそろラストスパートです!!

予定では、あと一、二話のつもりです。

それでは、最後までお付き合いお願いします!!


村を出たシスティ達は遺跡に向かう途中で、グレイから敵の情報と目的を再度聞いていた。

 

 

「なるほど…。つまりその零帝リオンはかつてお前の師匠でもあったウルが命をかけて封印した怪物、デリオラの封印を解き、自身の手でそれを破壊…。そして、師を超えることを望んでいるのか…」

「あぁ」

 

簡潔に纏めたエルザの言葉に頷くと、グレイは足を止めることなく遺跡を睨みつける。

 

「確かに…ウルは俺達の前からいなくなった……。けど、ウルはまだ生きてるんだ」

 

グレイの話を聞き、システィ達は自然と走る足を速める。

そしてふと遺跡を見つめると、ルーシィは遺跡に違和感を感じた。

 

 

「あれ?遺跡が傾いてる…?」

「恐らくナツだろう…」

「なるほど…あれなら月の雫(ムーンドリップ)はデリオラのいる地下まで届かないね」

 

相変わらずこういう時だけ頭が回るんだからと、システィは心の奥で愚痴りながら足を進めると、突然目の前を仮面をつけた民族の集団が現れ、道を塞いだ。

 

 

「っ!くそ!こっちは急いでるっつぅのに!!」

 

目の前に立ち塞がった集団にグレイは愚痴を吐く。

その横でシスティも小さく舌打ちをし、強引に突破しようと魔力を拳に溜めた時、急にエルザが前に出た。

 

「行け…ここは任せろ。グレイ、お前はリオンと決着をつけてこい!!」

 

小さく背後を振り返ったエルザの瞳には、負ける疑いなど一切なかった。

 

 

「っ!!サンキュー!エルザ!!」

 

エルザに礼を言うとその横を通り、遺跡へと走るグレイ。

 

「システィ、お前も行け。ナツ達の成長を見届けてこい!!」

「うん、わかった!!シェリル、お願いね」

 

システィはシェリルに掴まると、一直線に遺跡を目指した。

 

 

遺跡の中へ入ると、システィはそのまま地下への道を走っていく。

 

「多分こっちの方からナツの匂いがきてるんだけど…」

 

竜同等の嗅覚でナツの居場所を探すが、崩れて風通りが良くなったからか、匂いが薄くなっている。

 

「どう、システィ?追えそう?」

「んー………この辺だとは思うんだけど…」

 

薄い匂いを辿ってきたが、そろそろ限界だった。これ以上は薄すぎて追い用がない。

しかし、運良く探し人の方から来てくれた。

 

「待てやゴラぁああああっ!!」

「ナツ!!」

 

走ってきたナツは変な仮面をつけた小さな老人を追っていた。

 

 

「お?システィ!?丁度いい。そいつ捕まえてくれ!!」

「…そいつ?」

 

ナツの追う老人は狭い通路を細やかに逃げている。老人とは思えない素早さだ。それに、システィはその老人とどこかで会った事があるような気がしていた。

 

 

「あ、システィ!ナツ見失っちゃうわよ!!」

「んぇ?あ、うん分かってる」

 

 

あの雰囲気…一体誰だっけ…

 

システィは記憶を巡らせながらナツと共に追跡を始めた。

 

 

老人を追う中、システィはナツの隣に並んで老人を指差す。

 

「ナツ…アレ誰?」

「俺が知るかよ!!けど、あいつの魔法で折角傾けた遺跡が元に戻ったんだ!!」

「遺跡が…!?」

 

今さらながら、システィは自分の走る通路が傾いていないことに気がついた。

だが、ものを元の形に戻すなんてできる魔法は“失われた魔法(ロストマジック)”でもただ一つ。時空の魔法、“時のアーク”しか有り得ない。そして、システィはそれが使える魔導士を一人しか知らない。

 

「やっぱり………」

「ん?システィ、どーかしたか?」

「ううん、何でもない…。それより早く追わないと」

 

しかし、追っている仮面の老人が一瞬にして目の前から姿を消した。

 

「えっ!?」

「消えた!?」

「もしかして…。ナツ、デリオラの所に急ぐよ!!」

 

 

急いで地下へと掛け降りると、システィの予想通り仮面の老人は地下深くのデリオラの前にいた。

 

「見つけた!!」

「火竜の鉄拳っ!!」

 

氷に覆われたデリオラを見上げ、ニヤニヤと笑っている仮面の老人に向けてナツは火を纏った拳を放つ。しかし、ナツの拳はひょいっと軽い様子で避けられてしまう。

 

「ほっほー。よくここがお分かりになりましたね?」

「俺達は鼻がいいんだよ!!」

「それに、貴方の匂いにはどこか覚えがある」

 

システィは鋭い視線を向けるが、老人は怖気づくことなく笑い続ける。

 

「ほっほっほっ…私はね、どうしてもデリオラを復活させねばなりませんのよ…」

「へっ!やめとけやめとけ!もう無理だ」

 

ナツは笑う仮面の老人にニヤッと笑みを見せ言い切る。

 

「グレイがあいつをぶっ飛ばす!!そして、俺がお前をぶっ飛ばす!!それで終わりだこの野郎!!」

「ちょっとナツ、私もいるんだからね」

 

システィは呆れ顔をナツに向ける。

 

 

「ほっほっほっ、そう上手くいきますかな?」

 

すると突然デリオラの氷に紫の光、“月の雫”が降り注いできた。

 

「なに!?上で儀式してる奴がいんのか!?」

 

ナツは月の雫が降り注ぐ天上を見上げ、顔をしかめる。

 

「ほっほっほっ。たった1人では月の雫の効果は弱いのですが、既に十分な月の光が集まっております。あとはきっかけさえ与えてしまえば…」

 

仮面の老人がそう呟いた時、ピシッと乾いた音が氷から響いた。

 

 

「っ!」

「氷に亀裂が…」

「くそ!上にいる奴を何とかしねぇと…!!」

 

そう叫び、来た道を戻ろうとするナツだが、その道を仮面の老人が天上の岩を落として塞ぐ。

 

「んなっ!」

「逃がしませんぞ…。お二人にはここに残って貰います」

「くっ…それなら…。システィ!!」

 

システィはナツの目を見て考えていることを察し、二人同時に息を吸い込んだ。

 

 

「っ!?ま、まさか…」

 

「火竜の…」

「天竜の…」

 

「「咆哮ォ!!」」

 

放たれた火炎と竜巻は入り交じり、より強力な炎の渦となって天井を貫いた。

合体魔法(ユニゾンレイド)。本当に息が合った者同士でなければ発動は難しく、生涯を費やしても習得には至らないと言われるほどの高難度魔法。

だが、システィがナツに合わせることで二つの魔法が真に一つとなり、より強力な魔法となった。

 

 

ドドドドドゴォオオオン!!!!!!

 

 

地下最深部から放たれた火炎の竜巻は勢いそのままで地上の遥か空まで貫いた。

竜巻が消えると、儀式の光は消え月の雫も消滅した。

システィとナツは互いに顔を見合わせ安堵する。

 

しかし、安心するのはまだ早かった。

 

 

 

グォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!

 

 

 

まるで地鳴りのような雄叫びが響き渡った。

 

「うわぁ!?」

「な、なんだ!?」

「え…う、そ……!?」

 

システィ、ナツ、シェリルの目に映るは大きな雄叫びをあげ、氷から完全に解放されたデリオラの姿だった。

 

 

「そんな…復活してる…」

「驚いてる暇はねぇ!行くぞシスティ!!」

「待て!!お前らでどうにか叶う相手じゃねぇ!!!!」

 

突然割って入ってきたのはグレイの声だった。

グレイは先程ナツとシスティが開けた穴から降りてきて、デリオラの前に立ち塞がった。そして、不意にグレイはある構えをとる。

永久氷結魔法、絶対氷結(アイスドシェル)の構えを。

 

「な…グレイ!?やめなさい!!!!」

「絶対氷結!!!!」

 

グレイはシスティの言葉を聞かず、その呪文を唱える。

すると、その呪文と共にグレイの周りに膨大な魔力が集まり始める。

その光景を見たリオンは堪らず声を上げる。

 

「よ、よせグレイ!!あの氷を溶かすのにどれだけの時間がかかったと思ってるんだ!?」

「うるせぇ!!俺が今、こいつを止める…!!」

 

グレイは更に魔力を高め、標準をデリオラへと合わせる。しかし、それを阻むようにシスティとナツは立ち塞がる。

システィはゆっくりと歩み寄り、グレイの目の前へと辿り着く。

 

「どけ、システィ!!それ以上近づくとお前まで凍っちまう!!」

 

実際、システィの体は徐々に凍り始めていた。

しかし、システィはそのことが気にならないほど激怒していた。

 

「……“邪魔”」

 

バシィィン!!!!

 

「なっ…!?」

 

誰も何が起こったのか理解できなかった。

さっきまで発動寸前だったはずの絶対氷結が一瞬にして霧散したのだ。さっきまでの冷気が嘘のように消えている。

 

 

「ねぇ、私言ったよね?なのに何で一人で抱え込もうとするの?

貴方にはみんながいる。仲間がいる。家族がいるじゃない!!」

「…あの時、死んで欲しくねぇから止めたのに、俺の声は届かなかったのか…?」

「っ!?ナツ……」

 

デリオラを見上げるナツの隣にシスティも並ぶ。

 

「こいつがいつまでもグレイを苦しめるなら、私達がその傷を癒してみせる」

「っ!!無茶だ…やめろぉおおおっ!!!!」

 

ナツとシスティがほぼ同時に地面を蹴り、デリオラに向けて飛び出したその時―

 

 

ピシ、ピシピシ、ガラガラガラッ!!

 

 

「っ!?なんだァ!?」

 

突然、デリオラに亀裂が入り、拳から全身が崩れ落ちていく。

デリオラは既に死んでいた。ウルの氷の中で徐々に命を削られ、既にその命を終わらせていたのだ。

 

 

「すっげぇ…すっげぇな!!お前の師匠!!」

 

崩れ落ちたデリオラの残骸を見つめると、ナツは背後で俯いていたグレイを振り返り、満面の笑みを見せる。

グレイは俯き、目元を手で覆っていた。

 

「ありがとう……ございます…師匠………」

「よかったね、グレイ……」

 

これでグレイの暗い闇は消え去った。

海に溶けて帰っていくウルの氷と共に流されるかのように、グレイを苦しめていた長年の闇が涙となって流れ落ちた。




最後までお付き合いありがとうございます!!

自分でも思いましたが、今回のはバトルシーンだったのでしょうか…?
バトルというより、魔法を使っただけのような…。

とりあえず、攻撃魔法を使っただけで一歩前進したということにしておいてください。

次回もどうかよろしくお願いします!!


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15.真実

あと少しで週七投稿達成です!!
正直もう結構えらいです…。

それでは最後までお付き合いお願いします!!


「みんな!無事だったのね!」

 

システィ達が遺跡から出ると、外ではルーシィとエルザが待っていた。

 

「そっちも大丈夫そうでよかったよ」

「よっしゃ、終わったーー!!!!」

 

ナツが両手を空に掲げ、満面の笑みで叫ぶ。

 

「これで俺達もS級クエスト達成だー!!」

「だー!!」

 

ナツの叫ぶ姿を真似てハッピーも飛び上がり、一緒に喜んでいる。

 

「もしかしてあたし達二階に行けちゃうのかな!?」

 

ルーシィもルーシィで、クエスト達成に喜びの声を上げている。だが、忘れてはいけないのは、ナツたちは掟を破ってここにいることだ。

 

 

「ちょっと三人とも、そんな訳ないでしょ?帰ったらお仕置きだからね。もっとも、今から既にお仕置きだけど」

 

そう言って指差したシスティの先には背後に修羅を背負ったエルザがナツ達を睨んでいた。それはもう恐ろしい程に…。

 

「ひぃ!?」

「そ、そうだ…お仕置きが待ってたんだ…」

「……その前に、やるべき事があるだろう?」

 

しかし、エルザはその場でナツ達を叱ることはなく、まだクエストは達成していないことを言ってきた。

 

 

「…え?」

「“悪魔にされた村人を救うこと”…それが今回の依頼の内容でしょ?」

「で、でも…デリオラは死んじゃったし…村の呪いもこれで………」

「いや、あの呪いとか言う現象はデリオラの影響ではない。月の雫(ムーンドリップ)の膨大な魔力が人々に害を及ぼしたのだ。つまり、デリオラが崩壊したからと言って事態は改善しない」

 

ルーシィの疑問にエルザが答える。

 

エルザの答えに、「そんなぁ…」とルーシィは目に見えて落胆する。

ふと、では月の雫の儀式をしていた張本人、リオンならば何か知っているのでは?という意見が出て、グレイがリオンを見やるが、リオンは何も知らないと言い切った。

 

 

「なんだとぉ!?」

 

ナツはリオンを睨みつける。

リオンはナツに視線をやり、ため息をつくと淡々と話し出す。

 

「三年前、この島に俺達が来た時、俺達は村が存在するのは知っていたが村の人達には干渉しなかった。彼らから逆に会いに来ることもなかったしな」

 

リオンの言葉にシスティがピクッと眉を寄せる。

 

「…三年間、一度も?ずっと島にいたのに?」

「何が言いたい?」

「どうしたの、システィ?」

「…もしかしたら………」

 

システィの言葉にハッとエルザも気づいた。

 

「貴様ら…何故三年間もあの光を浴びながら悪魔の姿になっていないんだ…?」

「「「「あっ!!」」」」

 

エルザの言葉にナツ以外のメンバーがようやく気づき、リオンを見張る。

 

「………気をつけろ、奴らは何か隠している」

 

 

リオン達と別れ、一同が村に戻ってくると、消されたはずの村が元通りになっていた。

 

「えっ?…直ってる?」

「ど、どーなってんだ…?」

 

ナツ達はその光景に目を見張り、驚愕する。

だが、システィは誰がやったのか確信していた。

 

 

………一体、どうして……ウルティア…

 

 

システィはこの場にいない彼女に心の中で問い掛ける。

もちろん答えが返って来るはずもなく、空には依然紫色の月が浮かんでいる。

 

「おーーーい!!システィ!何してんだ〜!?」

 

遠くから、システィを呼ぶナツの声が聞こえてくる。もはや何かとんでもないことをしでかしそうな気配しかしない。

 

「で?どうしたの、ナツ?」

「今から月ぶっ壊すからシスティにも手伝ってほしいんだ」

「ふ~ん月を……月!?」

「システィが常識人でよかった~」

 

何故かルーシィが抱きついてくるが、システィはそれどころじゃない。

 

「ねぇ、ホントに壊すの?」

「あぁ、無論だ」

 

エルザの言葉にシスティは思わず頭を抱える。

 

「エル姉が言うと現実味が出ちゃうんだよなぁ。

それで?私は何を手伝うの?」

 

エルザの作戦としては、まずシスティの付与魔法で全員を強化ひ、エルザが巨人の鎧と破邪の槍のコンボで槍を投擲。最後にナツの鉄拳とシスティの咆哮でブーストをかけて月の破壊を試みるというものだった。

 

 

「行っくぞォォ!!」

「今だ、ナツ!!!!」

「うぉおおおっ!!!!火竜の鉄拳!!」

 

タイミングは完璧。エルザが破邪の槍を投げるその瞬間に合わせてナツの拳が当たる。それが一次加速。そして、続いて二次加速。

 

「天竜の…咆哮ォ!!」

 

風の後押しも得た破邪の槍は、速度が衰えることなく突き進んで行く。そして、槍はドンドン小さくなっていき、空中で何かに突き刺さった。

 

 

ビシィッ!!!!

 

 

「「うそぉおおおおお!?」」

 

月にヒビが入ったように見えたが、実際にエルザの槍が壊したのは島の上空を覆っていた月の雫の光によりできた呪いの膜だった。

それには村人達の脳や記憶を狂わせてしまう効力があり、そのせいで村人達は長年苦しんでいたのだ。

つまり、月の光のせいで悪魔化したのではなく、光のせいで記憶が狂っていたのだった。

 

これにて一件落着。依頼は無事達成された。

 

 

 

翌日、依頼の報酬をシスティに差し出すが、そのシスティが一切受け取らないため村長も困っていた。

 

「それではこの報酬は受け取れぬと……?」

「はい。この依頼は最初不当で受けられた依頼でした。……なので、報酬金は頂けません。村の復興などにでも当ててください」

 

そう言ってシスティは報酬金の受け取りを拒んだ。。

結局、最後まで諦めなかった村長の押しに負け、おまけの報酬である金の鍵のみ受け取ることにして、一行はエルザとシスティが行きに使った海賊船でマグノリアへと帰還するのであった………。




最後までお付き合いありがとうございます!!

今回で悪魔の島編は終わりで、次回から幽鬼の支配者編に入っていきます。

今回も最後までお付き合いありがとうございました!!


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幽鬼の支配者編
16.幽鬼の奇襲


あと一日で週七投稿達成です!!

それでは最後までお付き合いお願いします!!




海賊船に乗り、マグノリアの港へと帰還したシスティ達。

いつも通り、乗り物酔いの余韻か残るナツとシスティに苦笑を浮かべながら一同はギルドへ帰る途中だった。

 

 

「システィ、いつごろ旅に出るつもりなんだ?」

 

ナツ達に聞こえないよう気遣いながらエルザはシスティに問いかける

 

「そんなにすぐって訳じゃないから安心して、エル姉。一応この一件が終わって落ち着いたら行くつもり」

「そうか…」

 

「人馬!?それってどんな奴なんだ?」

 

深刻な雰囲気で話し込むシスティとエルザを他所に、ナツ達は貰った黄道十二門の鍵を持って騒いでいた。

そんな光景を見て、システィは思わずため息をついてしまう。何だか真面目な話をしている自分の方が馬鹿みたいだ。

 

 

「ナツ、ルーシィ。その鍵あげたのは私だけど……いいの?そんなに呑気にしてて」

「え?」

「だって帰ったらアレだよ?」

 

システィは隣のエルザへ視線を向ける。

 

 

「…ギルドへ戻ったら、お前達の処分を決定する」

 

エルザは普段と変わらず、途轍もない量の荷物を引きながら、ナツ達に無表情でそう告げる。

その言葉を聞いた瞬間、ナツ達は思い出したように震える。

 

「ま、判断を下すのはマスターだけどね。一応覚悟はしといた方がいいよ?」

 

お仕置きを受けるナツ達を想像してか、ニヤニヤし始めるシスティを見て、ナツとグレイは背筋に嫌な寒気が走る。

 

 

「ま、まさか…アレをやらされるんじゃ…!?」

「え、アレって?」

「アレだけは嫌だよぉ~!!」

「だからアレって何!?」

 

グレイやハッピーが恐怖に震え、それを見たルーシィも訳もわからず恐怖する。

 

「へ、大丈夫だって!!きっとじっちゃんならよくやったって褒めてくれるさ!!」

 

唯一、ナツだけは気落ちせずにポジティブ思考を貫いている。

 

「あんた…どんだけポジティブなのよ…」

 

その様子にルーシィが呆れた目で見つめ、システィも苦笑を浮かべ、ナツを見る。

しかし……

 

「いや…アレは確実だろう」

 

エルザの無慈悲な声が響く。

すると、さっきまで笑顔だったナツの顔から次第に滝のような汗が流れ、恐怖で顔が歪む。

 

「嫌だぁああああっ!!!!

アレだけはっ!!アレだけはっ!!絶対嫌だぁああああああああっ!!!!」

「だからアレって…何なのよぉおおおお!?」

 

ナツとルーシィが絶叫し、逃げ出そうとするナツをエルザが首根っこを掴んで、引きずられるようにしてギルドへと歩を進める。

 

 

「あはは…。流石に自業自得だよ、ナツ」

 

流石に助けられないと苦笑を浮かべ、エルザとのやり取りを見ていたシスティは、ふと周囲の視線がおかしいことに気づいた。

 

 

「…ねぇ?なんか見られてない?」

「ん?あぁ、確かにな……」

 

システィの言葉にエルザも頷き、ナツ達も周囲へと意識を回す。

 

「なんだァ?」

「なんか…嫌な感じね?」

 

ナツとルーシィが怪訝そうな表情で言い、グレイやハッピーもそれに頷く。

 

「またギルドのみんなが何かしちゃったのかな?」

「しちゃったとしたらあたしたちだと思うけどなぁ…」

 

 

周囲の目を気にしながら、ギルドへと真っ直ぐ帰ると、次第にその姿が見えてくる。

そして、ギルド全体を目にすることでその理由が判明した。

 

 

「んな…!?」

「んだこりゃあ!?」

「ひ、ひどい…」

「ギルドがボロボロだぁ…」

「これは…!」

「…!?この魔力って……!?」

 

 

システィ達の目の前には、何本もの鉄の柱が壁に突き刺さり、ボロボロになったギルドがあった。

ナツやグレイは口々に怒りを顕にし、エルザも拳を握って震わせている。

 

 

「何があったというのだ…」

「…ファントム」

 

システィ達の背後から、弱々しいが聞き覚えのある声が聞こえ、振り返ると悲しく悔しげな表情を浮かべたミラが俯き、立っていた。

 

「ファントム…だと?」

「悔しいけど、やられちゃったの…」

 

その名を聞き、ナツは更に表情を歪まさせ、システィは笑顔のないミラの頭を撫で、抱きしめる。そして、ミラに案内されてギルドの地下の仮酒場に向かった。

 

そこではギルドメンバーが神妙な面持ちで集まっており、しーんと普段では考えられないほど静まり返っていた。

すると、システィ達の帰還に気づいたマカロフが酒を片手に手を上げた。

 

 

「よっ!おかえり!」

「マスター…!」

 

マカロフの呼びかけにシスティ達はすぐにその傍へと駆け寄る。

 

「ただいま…戻りました」

「じっちゃん!!酒なんか飲んでる場合じゃねぇだろ!?」

 

ナツの怒声が響く。しかし、マカロフは一瞬真剣な表情になると、

 

「おぉそうじゃった!お前達!!勝手にS級クエスト何ぞに行きおってからに!!」

 

何故かギルド建物のことではなく、ナツ達が勝手にS級クエストへ行ってしまったことへの怒りが落ちた。

 

「え!?」

「はァ!?」

 

マカロフの言葉に、驚きの声を上げるルーシィとグレイ。

 

「罰じゃ!!今からお前達に罰を与える!!覚悟せいっ!!」

 

マカロフからの“罰”の言葉に、ナツ達はビク!と震え、身構える。

 

だが、結局はルーシィを除いた者は頭に一発チョップをくらい、ルーシィはお尻を叩かれるという、いわゆる“セクハラ”で終わった。

 

そんなマカロフの様子にエルザは唖然とし、ほんの僅かに怒りを覚えたのか、テーブルをバンッ!!と叩き、マカロフへ鋭い目を向ける。

 

「マスター!!今がどんな事態か分かっているのですか!?」

「ギルドを壊されたんだぞ!?じっちゃん!!」

 

エルザとナツの怒声を聞くも、マカロフは平然としており、怒るのではなく二人を宥め始めた。

 

「まぁまぁ落ち着きぃ。騒ぐほどのことでもなかろうに。ファントムだァ?誰もいないギルドを狙って何が嬉しいのやら…」

「誰も…いない?」

 

マカロフの言葉にシスティが首を傾げ、ミラを見やる。

ミラもシスティの視線を感じ、頷く。

 

「えぇ…。幸いにもやられたのは夜中で誰もいなかったから怪我人はいないのよ」

「へぇ…」

 

夜中に一体何の目的で…

 

「不意打ちしかできんような奴らに目くじら立てる必要はねぇ…。放っておけぇ!!」

 

マカロフはその言葉と共に、この話は終わりじゃ!と叫び、その後ナツ達からの抗議の声も一切聞かず、酒を飲み続けた。

 

 

 

そしてその後、仮酒場にはマカロフとシスティのみが残っていた。

 

 

「マスター…どういうおつもりなんですか?」

「なんじゃ…。さっき言ったじゃろ?

別にガキどもは誰も傷ついておらん。建物は、みなで力を合わせればまた作り直せる…。騒ぐほどのことじゃあねぇ……。

そうじゃろ?」

 

「……でも、今回は、どこか普段と様子が違う気がするんです…」

 

システィのその言葉にマカロフはピクッと眉を動かし、システィを見つめる。

 

「………下手な詮索はよすのじゃ。これ以上、向こうが何もしてこねぇなら何も言うことはないじゃろ…」

 

何を言っても気持ちは変わらないと言うマカロフにため息をつき、システィは仮酒場を後にする。

 

 

「確かに、ギルド間での争いは禁じられている…。それがマスターのお心なら、私はそれに従いますよ」

 

そして、扉を開け出ていく間際…

 

「…でも、もし誰かの血が流れるようであれば、私は“一人の魔導士”としてでもやるつもりですから」

 

そう呟き、では…と、システィはその場を立ち去った。

去っていったその後を見つめ、マカロフは長いため息をつくのだった…。

 

 

 

ギルドを出たシスティはその足でルーシィの家へと向かっていた。

暫くは一人でいるのは危ないということで、今夜は全員誰かと一緒に過ごしている。

システィとシェリルもまた、ナツやエルザに誘われていた為、ルーシィの家へと向かっているのだ。

 

 

コンコンコンッ

「ルーシィ、来たよー」

 

バタバタバタッ!!!! ガチャ

 

「システィ、シェリル、いらっしゃい!!はぁ~良かった!!システィが常識人でほんっと良かった!!」

 

ただノックしただけなのに…と、システィは訳が分からないと言うような顔をする。

 

「ま、とりあえず中に入って入って!!」

 

ルーシィに押されるがままにシスティは部屋の中へと入る。

ルーシィの部屋の中では、ナツが未だに唸っていた。

 

 

「くっそー!じっちゃんもミラもみんなビビってんだよ!!」

「だぁから、ちげぇだろ…」

「マスターも我慢しているんだ…。ギルドを壊され、一番悔しいのはマスターだろう」

 

騒ぎ暴れるナツをグレイとエルザが宥めている。

その様子を見つめ、ハッピーとシェリルはため息をついており、ルーシィとたった今来たシスティは苦笑を浮かべた。

 

 

「それにしても…ファントム?って酷いことするのね…前にもこんなことあったの?」

 

話を変えようとルーシィはシスティ達に問いかける。

 

「んー?いや、確かに今まで小さな小競り合いはあったけど…」

「こういうことは初めてよね」

 

システィとシェリルの言葉にそうなんだ…と頷くルーシィ。

 

「んがー!やっぱ納得いかねぇ!!じっちゃんもビビってないでやり返せばいいだろ!?

先に手出されたのはこっちなんだぞ!?」

「だーから!そういう問題じゃないでしょ!?それに、マスターもビビってる訳じゃないわよ…」

 

再び叫び声をあげるナツを宥めるシスティ。

 

「システィの言う通りだろ…仮にもじーさんは聖十大魔道の一人なんだぞ?」

「…聖十大魔道?グレイ、聖十大魔道って?」

 

グレイの言ったその単語に聞き覚えのないルーシィは首を傾げて問いかける。

 

「聖十大魔道と言うのは魔法評議会議長が定めた、大陸で最も優れた魔導士十人につけられる称号のことだ」

「ちなみにファントムのマスター、ジョゼもその一人よ」

 

エルザとシスティの説明に、ルーシィはへぇと興味を示す。

 

「ちなみに、システィはこの間聖十大魔道に招待されてたわよ」

「え、そうなの!?」

「はぁ?システィ、聞いてねぇぞ!!」

 

シェリルからの突然の告白にルーシィだけでなくナツ達も驚きの目でシスティを見つめる。

 

「ちょっと、それは言わなくていいでしょ!?

えっと…まぁ…確かに今まで何度か声は掛けられてるんだけど…。私にはまだ早いかな~って」

「早くねぇよ!!システィは今でも充分強ぇじゃねぇか!!」

「ううん。私なんてまだまだだよ」

 

そう言うとシスティは暗い顔をして俯いてしまう。そんな顔をされては流石のナツも言い返せない。

 

そう。私はまだまだ弱い。

みんなを守れるくらい強くならないと…

 

 

時間は刻々と過ぎ、夜も耽ていく。

今夜は何だか嫌な感じだ。

 

「何も起こらないといいけど…」

 

システィはどこか胸騒ぎを感じながらそっと呟いた。

 

 

 

 

翌日、マグノリア広場にて―

 

「通してくれ、ギルドの者だ」

 

人だかりが集まる中をエルザが先導し、押し進む。

そして……

 

 

「っ!!レビィちゃん…!!」

「ジェット…ドロイ…!!」

「ファントム………!!」

 

システィ達の目の前には、鉄の杭で腕を固定され、傷だらけの状態で木に括りつけられているレビィ、ジェット、ドロイの姿だった。

 

 

「ひ、ひどい……」

「こんなの、有り得ない」

 

三人の姿にハッピーとシェリルの目には涙が浮かぶ。

システィは静かに三人に歩み寄ると、風を纏わせた手刀でレビィ達を捕まえていた鉄の杭を切断した。

 

レビィ達を順に支え、木に寄りかからせるとシスティは回復魔法を掛ける。

 

 

「………マスター………これでも、手を出さないと…?」

 

音もなく、静かにその場にやってきたマカロフにシスティは振り返ることなく問いかける。

システィの怒りに呼応するように周囲の空気が振動し、草木を激しく揺らす。

また、彼女の声の中にも強い怒りを感じさせ、殺気すら纏っていた。

 

 

「ボロ酒場までなら許せたんじゃがな………。

ガキの血を見て黙ってる親はいねぇんだよ…」

 

ここで初めてマカロフが怒りを見せた。

 

「戦争じゃ…!!」

 

持っていた杖を握り潰し、宣言した。

妖精による幽鬼の殲滅を―




最後までお付き合いありがとうございます!!

予定では、あと三、四話くらいで幽鬼の支配者編を終わらせて、オリジナルストーリーを挟みたいと思っています。

ペースは落ちると思いますが、よろしくお願いします!!


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17.妖精の反撃

週七投稿達成です!!
もう頭が疲れました…。

それでは最後までお付き合いお願いします!!


フィオーレ王国にある、オークの街。

そこに、ギルド“幽鬼の支配者(ファントムロード)”のギルドホームがあった。

そこでは、現在妖精の尻尾(フェアリーテイル)についての話題で持ちきりだった。

 

「だっはっはっー!!サイッコーだぜこりゃぁ!!」

「妖精のケツの奴らはボロボロだってよぉ!」

「その上ガジルのやつァ、三人もやってきたって」

「ヒュゥー!!流石だぜ!」

 

男達は盛大に酒を飲み、大騒ぎする。

 

 

「そういやぁ、マスターが何か言ってなかったかァ?」

「さぁ?知らねーな」

「どうでもいいさ!それより惨めな妖精に乾杯だぜ!」

「おぉーよ!!」

 

 

酒を更に注ぎ、大笑いするファントムの魔導士達。

互いにグラスを打ち鳴らし、ゲラゲラと笑っていると―

 

 

ドッゴォオオオオオオオオオンッ!!!!

 

 

大きな爆発音を立て、ギルドの扉が吹っ飛ぶ。

 

「妖精の尻尾じゃぁああああああっ!!!!」

 

殴り込んできたのは怒りに揺れる妖精。

マスター・マカロフのその怒声と共に一斉に妖精の魔導士達がファントムの魔導士達を攻撃していく。

 

「誰でもいぃ!!かかってこいやゴラァあああああ!!!!」

 

ドォオオオオン!!!!

 

「ぎゃああああああっ!!」

「こ、こいつ!!妖精の尻尾の火竜(サラマンダー)だっ!!」

 

ナツに続き他のメンバーも次々と襲撃していく。

 

「こ、こいつ!!氷の造形魔導士のグレイだっ!!」

妖精女王(ティターニア)のエルザもっ…!!」

 

 

皆がファントムの魔導士達に容赦のない攻撃をし、圧倒していく。

そして、一番最後に乗り込んだシスティは状況を冷静に観察し、二階部分に狙いを定める。

 

「あんたら…妖精の尻尾に手ぇ出しといてタダで済むと思うなよっ!!

天竜の…咆哮ォ!!」

 

「「「ぎゃああああああっ!!!!」」」

 

システィの放ったブレスは建物を貫通し、一階で乱闘をしていた連中に瓦礫の雨を降らせる。

 

「こ、こいつ……まさか妖精の戦姫(ヴァルキリー)…。システィ・トワイライト!?」

「ちくしょぉおおおおお!!!!」

 

システィに向かって四方八方から一斉に突撃してくる。

だが、システィは周囲を一瞥すると、両手に風を纏わせる。

 

「天竜の翼撃ィ!!」

 

システィは周囲の敵を一撃でなぎ払う。

 

「ぐがぁあああ!!!!」

「ちぃ!!マスターだ!!マスターを狙えぇ!!」

 

 

やけになった数人が、突っ立っているマカロフに魔法を展開するが、それはこれ以上ない愚策だ。

 

「………カァーーーーー!!!!」

 

一瞬で巨人化したマカロフは、その拳でファントムのヤツらを殴り潰す。

 

「ひ、ひぃ…!?ば…化け物………」

「貴様らはそのバケモンのガキに手ェだしたんだ…。人間の法律で自分を守れるなど…夢々思うなよ!あァ!?」

 

「や、やめ…」

 

マカロフの威圧にファントムの魔導士達は腰を抜かすが、蹂躙は終わらない。

 

 

「つ…強えぇ…」

「兵隊共もハンパじゃねぇぞ!!」

「こいつら、メチャクチャだろ…!?」

 

圧倒していく妖精にファントムの奴らも徐々に引き下がっていく。

 

 

「ジョゼェーーー!!出てこんかぁっ!!」

「どこだ!?ガジルとエレメント4はどこにいるっ!!」

 

マカロフとエルザの叫び声が響く。

 

そして、それを上の方で鑑賞している影が一つ。

 

 

「けっ…。あれがマスター・マカロフに妖精女王のエルザに妖精の戦姫のシスティかァ…。凄まじいな。どの兵隊よりも頭一つ二つ抜けてやがる…」

 

ギヒッと不思議な笑い方をする黒髪の男。

 

「ギルダーツにラクサス、ミストガンは参戦せずか…。舐めやがって」

 

男は腰を上げ、立ち上がり更に笑みを深める。

 

「ギヒッ…。しかし、これほどまでマスター・ジョゼの計画通りに事が進むとはなぁ……。せいぜい暴れ回れや…クズどもが…」

 

 

 

 

システィ達がファントムを襲撃している頃、一人置いていかれたルーシィはレビィ達の見舞い品を買い、三人の眠る病室に戻るところだった。

 

 

「もぉ…。皆あたしを置いて行っちゃうんだから………」

 

あたしってそんな弱く見えるかなぁ?と一人ぶつぶつ呟きながら裏道を歩いていると、ぽつりとルーシィの頬に水が落ちる。そして、ザァーとものの数分で雨が降り始めた。

 

「ん?何?…通り雨?」

「………しんしんと」

「……っ!?」

 

雨空を見上げるルーシィの耳に誰かの声が届く。

ルーシィの目の前に傘をさした女が歩いてくる。そして、ルーシィと目が合うと、その女は足を止め瞬き一つせずに見つめる。

 

「え?な…なに?」

「………それでは、ご機嫌よう…しんしんと」

「はぁ!?」

 

何なの、この人…とルーシィは呆然とその様子を見つめる。

次は女の後ろ、地面から帽子とメガネを掛けた男が現れる。

 

「ノンノンノン。ノンノンノン。ノンノンノンノンノンノンノン。三・三・七のNOでボンジュール?」

「ま、また変なのが出た!!」

「ジュビア様…。ダメですなぁ、仕事放棄は…」

「………ムッシュ・ソル」

 

女は“ジュビア”、男は“ソル”という名のようだ。

 

「私の眼鏡がささやいておりますぞぉ…。そのマドモアゼルこそが愛しのシブルだとねぇ…」

「え……シブル…標的………?」

「あら……この娘だったの?」

「え…?何なの?」

 

ルーシィには二人が何を言ってるのかわからなかった。

 

 

「申し遅れました…私の名はソル。ムッシュ・ソルとお呼びください。

偉大なる幽鬼の支配者より、お呼びにあがりました」

「ジュビアはエレメント4の一人にして…雨女」

「ファントム!? あ、あんたたちがレビィちゃん達を!!」

 

目の前の2人がファントムの魔導士だと知ると、ルーシィは即座に身構える。

 

 

「ノンノンノン。三つのNOで誤解を解きたい…。ギルドを壊したのも、レビィ様を襲ったのもら全てはガジル様」

 

ソルがそう言い、目を細めた瞬間、ルーシィは突然現れた水の玉に包まれ、その拍子に鍵を落としてしまった。

 

「っ!?うぐぐぁ!?」

「まぁ、我々ギルドの総意である事には変わりありませんがねぇ」

 

水の玉はルーシィを取り込み、遂には完全に玉の中に閉じ込められてしまう。

 

「んっ!?ふ…ぷ、ばっ! う……うぐ……!?」

 

ルーシィはどうにかして水面から顔を出そうとするが水は意志を持ったかのように動き、ルーシィを逃さない。

 

「ジュビアの“水流拘束(ウォーターロック)”は決して破れない」

 

ジュビアが手を動かすと水球は大きさを増し、ルーシィを拘束する。そして、ついにルーシィは息が続かずに気絶させられ、ファントムに囚われてしまった。

 

 

「大丈夫……。ジュビアはあなたを殺さない…。あなたを連れて帰る事がジュビアの任務だから……。

ルーシィ…“ハートフィリア”様」

 

 

 

 

一方その頃、ファントムのギルド内では未だに乱闘が続いていた。

 

 

「エルザ、システィ!!ここはお前達に任せる!

わしは、ジョゼの息の根を止めてくる…!!」

 

マカロフが前で戦闘を続けるエルザとシスティに叫ぶ。

 

 

「マスター…!お気をつけて…」

 

……また…嫌な予感がする…

 

ジョゼがいるであろう最上階へ消えていくマカロフのその背を見て、システィは顔を歪める。

 

「………気をつけて…マスター…」

 

 

 

そして、マカロフがいなくなったのを見て、ようやく一つの影が動き出す。

 

「ギヒッ!厄介なのがようやくいなくなったぜ…。こっから暴れるぜぇ……」

 

 

そう呟くと、男は乱闘する場へ飛び降りる。

 

「ギヒッ!!来いやクズどもぉ!!」

「あいつは…!黒鉄のガジル!!」

 

その男は、幽鬼の支配者に所属する鉄の滅竜魔導士“黒鉄のガジル”その者だった。

 

 

「鉄竜棍!!」

 

ガジルの狙いは完全に背を向けていたシスティ。

だが、システィは振り向き様に、

 

「月竜の鉄拳!!」

 

システィの拳が迎え撃ち、ガジルをいとも簡単に吹き飛ばす。

 

「…ギヒヒッ…最高だぜ、妖精の戦姫…。殺りあおうや…」

「黒鉄のガジル…。ギルドのみんなを傷つけた罪は重いぞ!!」

 

システィが濃厚な殺気を放ち、一触即発の雰囲気が漂う。

しかし、

 

「ガジルゥウウウウウウウウウ!!!!」

 

ナツの突然の乱入によって緊張が解ける。

 

「は!!火竜がやるってかぁ!?」

 

飛びかかってきたナツの拳をガジルは鉄化した手で受け止める。

そこから幾度か二人の攻防が続くが、それよりも激しい戦いが建物を揺らす。

 

 

ゴゴゴゴゴォ!!

 

 

「やべぇな、こりゃあ…」

「これはマスターの…マスター・マカロフの怒りだよ!!」

「マスターがいる限りお前達に勝ち目はない!!!!」

 

妖精の尻尾の魔導士達はその振動と魔力に士気が上がり、逆にファントムの魔導士達は恐怖に震え始める。

妖精の総攻撃が再び開始される。そう誰もがそう思った時、

 

 

……!!…何か…降ってくる…!?

 

 

システィが何かを感じ、上を見上げた時、

 

 

ズッドォオオオン!!!!

 

 

何かが落ちてきた。

巻き上がった煙が晴れると、そこには魔力が全く無くなってしまったマカロフの姿があった。

 

「っ!!マスターっ!!!!」

 

すぐにシスティが駆け寄り、その身体を抱え上げる。

 

「わ、わしの…魔力が……」

「マスター!!」

「じっちゃん!!」

「おいおい…何が起きたんだ!?じーさんから魔力を全然感じねぇぞ!?」

「マスター!!しっかりして!!」

 

必死にシスティが呼びかけるが、マカロフは、それに苦しげに呻くだけである。

 

マカロフがやられたことにより、今度は妖精の尻尾の士気が下がり始め、ファントムの士気が上がり始める。

 

 

「くっ……。撤退だ!!全員、ギルドへ戻れ!!!!」

 

これ以上は不味いと判断したエルザは大声で指示を出す。

 

「何!?俺はまだやれるぞ!」

「ここで逃げてちゃ漢じゃねぇ!!」

 

エルザの指示に納得いかないナツとエルフマンだが、エルザが無理にでも撤退させる。

 

 

「ギヒッ!もう終わりか…つまんねぇなぁ…」

 

撤退する姿を再び上から見下ろすガジル。

 

そして、その背後に巨体の男が現れる。

 

「…アリアか………」

「全てはマスター・ジョゼの計画通り…素晴らしい!!」

 

そう叫び泣き始める男…“アリア”。

 

「いちいち泣くんじゃねぇよ…うぜぇな…。で?…ルーシィとやらは捕まえたのか?」

「「っ!?」」

 

ナツとシスティの驚異的な聴力が遠くにいるガジルの言葉を確かに聞き取る。

 

「計画通り、今は本部に幽閉している…」

「なん…だと!?」

「…ルーシィが?」

 

ナツとシスティの声が聞こえたのか、ガジルは二人を見下ろし、ギヒッと笑う。

 

「ガ、ガジル!!どういうことだァ!?」

「待ちなさいっ!!ルーシィを…ルーシィをどこにっ!?」

 

二人の止める声を他所に、ガジルはアリアと共に姿を消した。

 

 

「くそ!!ルーシィが捕まっちまった…」

「……ナツ、まだいけるよね?」

「あ?ああ、もちろんだ!!」

 

ナツの頷く姿を見てシスティはニッと微笑み、背中を押す。

 

「ここは任せて。ルーシィのこと、頼んだわよ」

 

そう言うと、撤退する妖精の尻尾の魔導士達に向けた魔法陣を展開するファントムの前に立ち塞がる。

 

 

「っ!?システィ、何をしている!!」

「エル姉、私が時間を稼ぐからその内に…」

「よせ!!無茶だ、システィ!!」

 

ザッと見て戦力差は一対二百ぐらいだろうか。正直、一度にこれだけを相手にするのはシスティでも流石にきつい。

だけど、仲間のためにもやるしかない。

 

 

「大丈夫!!すぐ追いつくから。ナツも……ルーシィをお願い」

「………おう!!」

 

システィの、言葉でナツはルーシィを助けるために駆けていく。

 

そして、エルザも苦々しい表情を浮かべ、システィに背を向ける。

 

「…すまん、システィ………」

「謝らないで、エル姉。…そっちは任せるね」

 

 

 

「………さて……と」

 

エルザも走り去っていく姿を確認し、システィはファントムの魔導士を前に立ち向かう。

これだけの数を相手にするのだ。システィも本気のギアを一段階上げる。

 

「悪いけど、流石に手加減なんて、出来ないからね」

 

 

 

「エアロ・ドライブ」

 

システィの体を吹き荒れる風が包み込み、身体能力を向上させるとともに、向かってくる魔法を全て弾き飛ばす。

 

「天竜の羅貫」

 

「「「ぎゃああああああああ!!!?」」」

 

右手から圧縮された竜巻か、まるでブレスのように放たれ敵陣に突き刺さる。

だが、ブレスと違うのは、薙ぎ払いが出来るところだ。

 

「う…りやぁああ…!!!!」

「ぐああああああっ!!!!」

 

吹き飛ばされるファントムの魔導士達。

何とかその攻撃を回避した奴らも魔法で反撃するが、風に阻まれてかすり傷すら付けられない。

 

「てめぇえええええ!!!!」

「調子乗ってんじゃねぇぞォ!!!!」

 

魔法攻撃が通じないと判断すると、今度は武器を取って近接戦を挑んでくる。だが、魔法ですら勝てないのに肉体戦で勝てるはずもない。システィは確実に攻撃を避け、カウンターで全員の顔面に強烈なパンチを放ち、意識を刈り取っていく。

 

 

「そろそろだね…。ルーシィも救出出来ただろうし、早くしないとエル姉に怒られちゃう…」

 

ルーシィの魔力に集中して感じ取ると、発信源は妖精の尻尾の方へ向かっているのが感じられた。どうやらナツは無事救出出来たようだ。

これで一応システィの役目は終了だ。

 

 

「貴方達、これで終わりだと思わないことね。必ず、私達がぶっ飛ばすから」

 

 

ここで、妖精と幽鬼の戦いが一時休戦となった。

だが、ここで終わるはずもなく、幽鬼の壮絶な反撃がまもなくはじまる―




最後までお付き合いありがとうございます!!

今回はバトルシーン多めで大変でした…。
この章は何かとバトルが多いので骨が折れそうですね。

それでは、次回もよろしくお願いします!!


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18.幽鬼の逆襲

連続投稿記録更新中です!!

最近、一話辺りの文字数が少なすぎないか不安になることが多いです…。細かく分けすぎなのかな…?

今回は結構多めのつもりなので、最後までお付き合いお願いします!!


ファントムのギルドから戻り、妖精の尻尾(フェアリーテイル)では怪我をした者の治療や次の戦いに向け作戦や魔法具の補充など、全員が次に向け動き回っていた。

そんな中、ルーシィはただ一人ギルドの中で椅子に座り、暗い表情をしていた。

 

 

「…どーした?まだ不安か?」

 

俯き暗い表情をするルーシィにグレイは声をかける。

 

「ううん…そうじゃないんだ…。なんか、ごめん…」

 

そう謝り、ルーシィはまた俯いてしまう。だが、ファントムの狙いがルーシィだったからといって、ルーシィが責任を感じることではない。

 

「ルーシィ、誰もこうなったことが貴方のせいだなんて思ってないよ」

「ああ、謝る必要はねぇ」

「しっかし、まさかルーシィがお嬢様だったとはなぁ…」

「オイラもびっくりしたよ…。どうして隠してたの?」

 

ナツとハッピーの言葉にルーシィは苦しげな表情を浮かべる。

 

「隠してたわけじゃないんだけど…家出中だし言う気になれなくて……。ごめん…迷惑かけて…。ほんと、ごめんね…」

「ルーシィ…」

「あたしが…家に戻れば済む話なんだよね…。そうすれば皆にも迷惑かけないし……」

「そんなことしなくていい…」

 

ルーシィが自責の念に押し潰されそうになっているのが見ていられず、システィはルーシィを優しく抱きしめた。

 

 

「シ、システィ……」

「それは違うよ、ルーシィ…。

誰も、あなたが悪いなんて思ってないし、誰もルーシィのせいで迷惑かけられてるなんて思ってないよ。

ルーシィ……お願いだからそんなに自分を責めないで?」

 

ね?とシスティに慰めるように抱きしめられ、ルーシィは思わず涙を流した。

 

 

「ルーシィはさ、この汚ねぇ酒場で笑って騒ぎながら冒険してる方が似合ってるしな」

「ナツ…」

 

システィに続き、言葉をかけてくるナツを見つめるルーシィ。

ナツはルーシィの頭を撫で、ニカッと笑う。

 

「ここにいてぇんだろ、ルーシィ。戻りたくない場所に戻って何があんだよ?

お前は…“妖精の尻尾”のルーシィだろ?」

「ルーシィ…貴方の本心は?本当に帰りたい…?」

 

システィの問いかけにルーシィは即座に弱く首を横に振った。

 

「ううん、…帰りたくない……。私…私は…ここにいたいよぉ………」

 

ルーシィの答えを聞きシスティはふっと柔らかく微笑みを浮かべ、より一層強く抱きしめた。

 

「ルーシィ…なら、迷惑なんて思わないで?

私は…ううん、私達は、全力で守るから。だから笑って?ここが、貴方の居場所なんだから」

「うん…うん………」

 

 

絶対に守りきるんだ……ルーシィも……みんなも……

 

 

大粒の涙を流し続けるルーシィを抱きしめながら、システィは改めて心に強く誓った。

 

 

 

ルーシィが泣き止み、ギルド内の慌ただしい雰囲気も少しは和らいだ頃、それは突然やって来た。

 

 

ズン………ズゥン……!ズゥウン…!!

 

 

「な、何だァ!?」

「一体、何が…」

「外だー!!!!」

 

その声を聞いて、みんな一斉にギルドから飛び出すと、外には大きなロボットのようでお城のようでもある建造物が海を歩いてギルドに近づいてきていた。

 

 

「な…なんだありゃぁあああああ!?」

「でっ…かくねぇか!?」

「こっちに来てるぅ!?」

 

ナツ、グレイ、ハッピーが口々に叫んでいる。

 

「ファントムかっ!?」

「っ…こんな方法で攻めてくるなんて……!?」

 

ギルドに迫ってくるソレを見上げ、システィは拳をきつく握りしめる。

そして、それは突然動きを止めると、建物の中心にある砲台の先端に大量の魔力を集め始めた。

 

 

「なっ…!?ま、まさか…!?」

「あれは…魔法集束砲ジュピターか!?」

「なにィ!?ギルドごと吹っ飛ばす気かぁ!?」

「っく…全員、伏せろぉおお!!ギルドを…やらせるものか!!!!」

 

エルザは全員の前に立ち塞がる。

 

「ちょ、エル姉!?」

「まさか…!?エルザ、あれを受け止める気か!?」

「よせエルザ!!いくらお前でも…」

 

 

全員が止める中、エルザは魔法鎧を換装させようとする。

だが、それより先にシスティは動いていた。

 

「天竜の鋼殻(こうかく)!!」

「っ!?」

 

エルザを含むギルドメンバー全員を半透明の殻が覆い尽くす。

この殻は一見脆そうだが、竜の鱗並みの硬さと防御力を併せ持っている。しかもそれは双方向で、中からも容易に破れない。

 

 

「システィ!早くここから出すんだ!!」

「……ダメだよ、エル姉…。あなたは、倒れちゃいけない……。エル姉は妖精の尻尾を勝利に導く女王(ティターニア)だから…。

だから私が…戦姫(ヴァルキリー)の私があれを止める!!」

 

システィはみんなに背を向け、一人で砲撃を待ち受ける。

 

「っ……!?システィ……!?」

「やめろ、システィ!!

やめろぉおおおおおお!!!!」

 

 

「皆は私が……絶対守ってみせるっ!!!!」

 

 

システィは両手を構え、魔力を高める。

 

「天竜の風壁(ふうへき)!!!!」

 

構えたシスティの両手から広がるように風の壁が展開される。

 

「壁…まさか…!?」

「まさかシスティ…ホントにあれを受け止める気でいるの!?」

「システィ!!そんなの…体が持つわけない…!!」

 

シェリルが涙を流して訴える。

エルザもシスティを止めようと動くが、システィはもう止まれない。

 

 

「イルアーマー、イルアームズ、神の騎士(デウスエクエス)!!」

 

システィは自身に攻撃力防御力倍加、全身体能力上昇の付加魔法をかける。

まさに、システィの全力全開。システィは全力を持って砲撃を迎え撃つ気なのだ。

 

 

「システィっ…!!」

「やめろナツ!!」

 

今にも殻を壊して外に出ようとするナツをグレイは引き止める。

 

「ナツ、今はシスティを信じるしかねぇ!!」

「くそ…システィ…」

 

 

強くなったつもりだった。それこそ、仲間を守れるくらいに…。

だが、目の前には自分達を守ろうとする少女が立っている。

見た目は自分よりか弱そうな少女なのに、自分の実力は彼女の足元にも及ばない。

 

 

俺は、いつも守られてばかりだ…。俺は、まだまだ弱い…。

 

 

 

「くっ…みんな伏せろぉ!!!!」

 

エルザの声が響いたその瞬間、魔法集束砲が発射された。

 

 

ドッ…ゴゴゴゴオオオオオオン!!!!

 

 

収束砲から放たれた魔力が一瞬で空を駆け、防壁と接触する。

 

「うぐぐっ……!!こ、んのぉおお…!!」

 

防壁の風が威力を外側へ逃がしてはいるが、強力すぎる威力のせいで徐々に押され始める。

 

 

ミシ…ミシミシッ………!!

 

 

気流が乱れ始め、どんどん押されていく。

 

「っこんのぉ……!!ま、けて………たまるかぁあ!!」

 

瞬間的に魔力を上げ、ほんの一瞬だけ押し返す。

その瞬間、風の防壁は霧散し、受けきれなかった魔力がシスティに襲いかかる。

 

 

「うおおおおおっ!!!!滅竜奥義…絶華・乱空迅(ぜっか・らんくうじん)

 

 

ドォオオオオオオオオオオオオン!!!!

 

 

「ぐあああああああっ!!!!」

「システィーーー!!!!」

 

システィの魔法と砲撃が衝突し、大爆発を引き起こした。それに加え、相殺し切れなかった残りの威力とともにシスティは吹っ飛ばされた。

 

砲撃が終了し、鋼殻も消滅する。それと同時にナツは走り出していた。

システィの倒れるところに走り寄り、抱き上げる。

 

「システィ!!しっかりしろ、システィ!!」

「う……くっ………ナツ…」

 

二人の下にエルザ達も駆け寄る。

 

「システィ!!!!しっかりしてっ…!!」

「バカ者!!何故前に出たっ!?」

「無茶し過ぎだよ、システィ!!!!」

 

ルーシィ達の声にシスティは消えかけている意識を何とか繋ぎとめる。

 

 

「みんな…無事…?私…守れた…かな…?」

「うん!うん…!みんな、無事だよ!!」

「そ……よかった…」

 

安心したようににっこりと微笑むシスティを見てルーシィはまた涙が溢れ出す。

 

 

『…マスターマカロフ…次いで戦姫も戦闘不能』

 

ファントムのギルドから、スピーカー音でジョゼの声が響く。

 

「っ!やろぉ………!!」

 

『もう貴様らに…凱歌は上がらん…。大人しくルーシィ・ハートフィリアを渡せ…。今すぐだ』

 

「誰が渡すかっ!!」

「仲間を差し出すギルドがどこにある!?」

「っ………!」

 

ジョゼの言葉に反論する妖精の尻尾たちの言葉にルーシィは涙が溢れ、止まらない。

 

 

家に帰りたくない…。

その気持ちは本当だけど、自分が家に戻ることで解決するのなら、自分は家に帰った方がいいんじゃないか。

 

そう思っていると、ルーシィの手を誰かが強く握った。

 

「…っ!システィ…」

「……だい、じょうぶ、だよ……。…ルー、シィは、私達が…絶対、守る、から…ね?」

 

システィは苦しげに呼吸をしながらもルーシィに微笑む。

 

「でも…でもっ!あたし………」

「仲間を売るくらいなら…死んだ方がマシだァ!!」

「っ!!」

 

ルーシィの言葉を遮るようにエルザの声が響いた。

 

「そーだそーだ!!」

「ルーシィは仲間だ!!渡すもんか!!」

「みんな………」

 

エルザの言葉に続き、叫ぶ仲間達を見てルーシィは言葉を失う。

 

 

『チィ…ならば、特大の魔法集束砲をくらわせてやる!!今度は防げるなど思うなよ。発動までの15分、恐怖の中であがけ!』

 

ジョゼの怒り狂う声が響くと、ファントムのギルドから浮遊する無数の兵が飛んでくる。

 

『地獄を見ろ…妖精の尻尾…。貴様らに残された選択肢は二人だ……。

我が兵に殺されるか、魔法集束砲で死ぬかだ!』

 

そう言うと、ジョゼの声は途切れた。

 

 

「ど、どーすんだよ!?魔法集束砲をどうにかしないと…」

「システィですらあの様だぞ!?」

「おまけにファントムの兵なんざ…ヤバイだろ!?」

 

どうすればいいか仲間内で混乱が広がる。

 

そんな中、辛うじて意識を保っていたシスティがギュッと近くにいたナツとエルザの手を握る。

 

「っ…システィ?」

「は…はぁ……ナツ…エル姉……行って……。私は…大丈夫……。

ナツ、は…あれを……止め、て………」

「システィ……。あぁ、分かった……俺がぜってぇ止めてくる!!」

 

ナツのニカッとした笑みを見てシスティも微笑み、手を離す。

 

「エル姉……みんなを…お願い…ね…」

「ああ、承知した」

 

エルザの返事を聞くと、システィはその瞳を静かに閉じ、気を失った。

 

「…ルーシィ、システィを頼む………」

 

ナツは気を失ったシスティをルーシィに預けた。

 

システィが戦えねぇ今、俺がやんなきゃ誰がやるんだ…!!

ナツは自分で両方の頬を叩き気合を入れる。

 

「システィとの約束だ…俺は必ずあれを止める!!」

「ナツ…私達も後から追う…。先に行ってくれ」

 

エルザの言葉にナツは「おう!!」と頷く。

 

「ハッピー行くぞ!!」

「あいさー!!」

そして、ハッピーとともに魔法集束砲の砲台へと飛び出した。

 

 

「頼むぞ………ナツ」

 

エルザはナツの後ろ姿を見届けると、半壊したギルドを振り返った。

 

「システィや負傷者を中へ運ぶぞ!!

その他の戦闘のできるものは準備して応戦する!!

行くぞぉ!!!!」

 

「「「「おぉ!!!!」」」」

 

エルザの号令により妖精達が動き出す。

 

 

今、今度こそ妖精と幽鬼の本当の全面戦争が幕を開ける―




最後までお付き合いありがとうございます!!

幽鬼の支配者編もようやく大体半分くらい終わりました!!
正直ちょっとキツイ……。

予定として、幽鬼の支配者編が終わったらオリジナルストーリーを入れようかな〜と計画中です。
頭をフル回転させて頑張りますので、そこそこ期待しててください!!

今回もありがとうございました!!


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19.蘇る記憶

長らくお待たせしました。久しぶりの更新です。

スランプ気味と言うか、やっぱり文字で表現するって難しいですよね…。

時間が開いた割に短いですが、お付き合いよろしくお願いします!!


システィは気づけばどこか分からない空間にいた。

意識は朧げで、どっちが上かさえも分からない。

 

 

………ここは…どこ………?

 

 

辺りを見回し、システィは首を傾げる。

 

確か、ギルドにファントムの奴らが攻めてきて、魔法集束砲を撃とうとしたから私が受け止めて……

 

それ以降の記憶はどう頑張っても出てこない。

記憶の整理を諦め、今度は辺りを見渡していると、

 

 

“……動くな…”

 

…っ!?

 

突然、システィの頭に直接声が響いた。

それは、二度と聞きたくなかった男の声だった。

 

気がつけば周りの風景が病室に変わっており、システィは四肢をきつく縛り付けられていた。

コツコツという足跡とともに、向こうから誰か人のシルエットが近づいてくる。

誰だかよく分からないほど霞んだシルエット。だが、システィには一目で分かった。

 

あいつだと…。

 

 

“お前のその力は私のものだ…。その力を私に寄越せ…!!”

 

 

男のシルエットは、システィの体に奇妙な魔法具や、注射器を躊躇なくぶっ刺してくる。その度に激痛が走り意識が朦朧とするが、気を失うことは出来ない。

いっそ、気を失えればどれだけ楽か。それほどの激痛だった。

 

 

“痛い…痛いよ……。やめて、これ以上は…やめてぇえええ!!!!”

 

 

システィの身体に打ち込まれたものは次第にシスティの体を蝕み、精神も壊していく。

 

だが、唯一光があった。

彼女の存在だ。

 

エルザよりも真っ赤な髪をしているいつも元気な女の子。システィと同じように何かの実験に利用されていて、いつも両腕には数え切れないほどの注射の跡があった。

 

出会ったのは偶然。ただ、ぼんやりと夕日を眺めている時に話しかけられたのが始まりだった。互いの存在は辛い実験の記憶を忘れられる心地よいもので、決まって夕方には会って暗くなるまで一緒にいた。

 

トワイライトの名も彼女から貰ったものだ。笑顔は夕日のように朧げで綺麗だからという安直なものだったが、システィにとっては親友からのプレゼントのようなものだった。

だが、その日以来彼女が現れることは無かった。

 

 

光を失い、実験もさらに激化し、ついにシスティの精神は完全に崩壊した。

 

 

“あぁ…あああ゛あああ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛!!!!”

 

 

薬品の投与を終えた男は、今度は肉体的ダメージをシスティに与え続ける。

高電圧の電気を流したり、死には至らない程度の毒物を投与したり…。終いには両腕を潰されたりもした。

 

 

やめて…やめて…やめテ…やメテ…ヤメテ…ヤメロォオオ…!!!!

 

 

そこで意識は途切れ、気づけば今度は沢山の瓦礫の山の上に立っていた。

 

ああ、開放されたんだ…。

 

そう思い、ふと自分の足元に目をやると、自分を苦しめ続けた男の腕が瓦礫に紛れて落ちていた。

 

その瞬間に悟った。

自分が何をしたのか。

 

悲鳴を上げるシスティ。その目には涙が溢れ、頬を濡らす。

システィは堪らず逃げ出した。一刻も早くその場所から遠くに離れたかった。

 

雨に降られ、何度も転けながらも、システィは光を求めて走り続けた。

 

そして、光が差す―

 

 

システィーー!!!!

 

 

これは、ナツの声…?

 

システィっ!!!!

 

これは、エル姉の声だ…。

 

システィ……

 

これは、シェリルの……

 

 

あぁ…………行かなきゃ…。みんなが待ってる…。

今……行くから…。

 

 

そして、システィは光の射す場所へ向かい、歩き出した。




最後までお付き合いありがとうございます!!
とりあえず、回想ストーリーということで。

我ながらなにやら伏線っぽいですが、回収するかは分かりません。もしかしたら、後々関わってくるかも…。

それでは、次回もよろしくお願いします!!


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20.復活の戦姫

またまた時間が開いてしまい、本当にすみません…。
今後の流れを考えながら書いていると、なかなか思うように書けなくて…。
なるべく週一投稿は守りたいと思います‼︎

それでは、最後までお付き合いお願いいたします‼︎


「システィ………システィっ!!!!」

 

目を覚ましたシスティの視界には顔を涙で濡らし、小さな手で自分の手を握るシェリルの姿が映った。

 

「シェリル…」

 

シェリルはシスティが目覚めたことに気づくと、嬉しさのあまり飛びついた。

 

「システィ!!…良かったぁ!!…ホントに良かったぁ!!」

「ごめんね、心配かけて。もう大丈夫だから…」

 

本当は全く大丈夫じゃない。身体中は痛むし、魔力もほとんど残っていない。それでもシスティは痛む身体に気付かぬフリをして体を起こし、シェリルの頭を優しく撫でた。

 

そして、シェリルを傍に下ろすと、枕元に置いてあった薄めの上着にに腕を通し、立ち上がる。

 

 

「ちょっとシスティ!?何やってるの!?」

「何って…私も皆のところに行こうかなって…」

 

あっけらかんと言うシスティはそのまま足をギルドの外へ向けるが、その足取りはどこか覚束無い。

 

「ダ、ダメだよシスティ!!身体中傷だらけで…魔力もほとんど残ってないでしょ!?」

「まぁ…ね。でも、行かなくちゃ…。みんな戦ってるのに私だけ休んでるわけにはいかないよ…」

 

システィはシェリルを見つめ、小さく微笑みを見せる。

 

「で、でも………」

「…それに……もう誰かを失うのはゴメンだから…」

 

システィはそう言うと目を閉じ、朱色の髪をした彼女を思い浮かべる。

 

………もう、あんな思いをするのは絶対に嫌だ…。

 

目を伏せるシスティを見つめ、シェリルも何かを感じとった。

 

「…分かった………。でも、危なくなったら止めるからね?」

「ありがと…シェリル」

 

シェリルからの許可が下りるとシスティはギルドの外へと出た。

 

 

 

「システィ!?」

「カナ、今の状況は?」

「それが…悪い。ミラがファントムの奴らに捕まっちまった…」

「ミラが……。エル姉達は?」

「エルザ達はファントムのギルドで今も戦ってる。

魔力収束砲はぶっ壊したけど、今度はあれが出てきてな…」

 

カナが指差す先には、煉獄砕破(アビスブレイク)の巨大な魔法陣が上空に描かれていた。

 

「ミラが、カルディア大聖堂辺りまで消し飛ぶって…」

「確かに、あの感じだとこの辺一帯は吹き飛びそうだね」

 

魔力の集中具合からして、残された時間は十分も無いだろう。

 

 

「シェリル、行くよ!!」

 

システィはファントムのギルドを睨みつけ、ギルドから飛び出す。

 

「待って、システィ!!あんた…そんな身体で行く気!?」

「カナ…。私は何と言われようと止まらないし止まれない。

それに、少し休んだから大丈夫だよ」

 

システィの痩せ我慢が見え見えの笑顔にカナは深いため息をつく。

 

「はぁ…分かったよ………。でも、無茶だけはすんなよ……」

「……うん!」

 

カナの言葉に力強く頷き、システィは近くに落ちていた刀を手に取った。

魔力が圧倒的に不足している今、道は刀で切り開くしかない。

 

 

「…“纏え(アームド)”」

 

刀身に風を纏わせて、切れ味を高める。

 

「よし!じゃあ、行ってくる!!」

 

 

飛び出すと同時にファントムの兵を切り裂き、どんどん前へと進んでいく。

それでも一瞬で、再び幽鬼の兵が集まっていく。

 

だが、今度は妖精達も怖気付いてはいなかった。

 

むしろ、最強の女(システィ)が復活したことにより、仲間内での士気は格段に上がっていた…。

 

 

 

「システィも頑張ってるんだ!!ナツやエルザも…エルフマンやグレイもあっちで頑張ってる…。私達も私達の家を守るよ!!!!」

 

カナの喝と共に、妖精達はファントムの兵の攻撃に対抗する。

システィもファントムの兵の大軍を切り抜けながら、ナツ達の元へ急ぐ。

 

「………もう少し…。もう少しだけ…耐えて………」

 

戦いの中にいるナツ達を思い、システィは拳を強く握り締める。

 

 

妖精と幽鬼の壮絶な戦いは、妖精の戦姫(ヴァルキリー)の復活とともに、激化する。

決着の時は、まもなく訪れる……。




最後までお付き合いありがとうございます‼︎
システィも復活したので、そろそろこの章も終わりに向かっていきます。予定では後四話くらいかな…。
この章の後はオリジナルストーリーを挟むので、また更新が遅くなると思います。本当にすみません…。

それでは、次回もよろしくお願いいたします‼︎


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21.援軍

すみません、お久しぶりです!!
長らくお待たせしてしまいました。

それでは最後までお付き合いお願いします!!


システィがまだファントムのギルドへ向かっている頃、エルザは満身創痍の身で幽鬼の支配者(ファントムロード)のマスター・ジョゼとの戦いを強いられていた。

 

「ぐはぁっ!!」

「ほう…まだ耐えますか。私と戦い、ここまで持ちこたえるとは…もしアリアとのダメージが無ければもっとマシな戦いが出来たでしょうに…」

「くっ…強い…」

 

痛む体に鞭を打ち立ち上がり、魔法剣を換装するとジョゼに斬り掛かる。

しかし、何度も剣を振るも傷ついた体では本来の速度は出ず、簡単に攻撃は避けられる。さらに、幾度目かの攻撃の際に一瞬隙を見せたエルザを見逃さず、その足首を掴まれ、投げ飛ばされる。

 

「ぐっ!くっ……」

 

空中で体勢を立て直し、なんとか床に着地するエルザはジョゼを睨みつける。

 

「貴様…アリアとの戦闘で魔力を消費しているはず…。なぜまだ動ける?」

「仲間が私の心を強くするんだ…。愛するもの達のためならばこの体など…惜しくない!!」

 

ジョゼの問いかけに迷いなく、真っ直ぐとした瞳で答えるエルザを見て、ジョゼは笑みを深める。

しかし、その額には僅かに青筋が立っていた。

 

「クククッ!なんて気丈で美しい……。なんて殺しがいのある小娘でしょう…。

…何故、私がマカロフにトドメをささなかったか…お分かりですか?」

「…なに?」

 

エルザは剣を構えながらジョゼを見つめる。

 

「絶望を与えるためですよ。

目が覚めた時、愛するギルドと仲間が全滅していたらどうでしょうか?クククッ悲しむでしょうねぇ……。

あの男には絶望と悲しみを与えてから殺すのです!!ただでは殺さんよぉ…!!苦しんで苦しんで、苦しませてから殺すのだぁ!!!!」

「貴様…下劣な……!!」

 

ジョゼの語る言葉を聞き、エルザは怒りを顕にする。

 

 

「幽鬼の支配者はずっと一番だった…。この国で一番の魔力、一番の人材、一番の金があった。

………だが、ここ数年で妖精の尻尾は急激に力をつけてきた。エルザにラクサス…ミストガン、システィ……。

その名は我が町にまで届き、火竜の噂は国中に広がった。

いつしか“幽鬼の支配者”と“妖精の尻尾”はこの国を代表する二つのギルドとなった……。

気に食わんのだよ…!元々クソみてぇに弱っちぃギルドだったくせにィ!!」

「貴様…まさかこの戦争はその下らん妬みが引き起こしたというのか!?」

「妬みだと?違うなぁ…。我々はものの優劣をハッキリさせたいのだよ……」

 

ジョゼの言葉を聞き、エルザはさらに顔を歪める。

 

「そんな…そんな下らん理由で……!!」

 

ドゴオォオオン!!

 

不意に、ジョゼの放った魔法がエルザを吹き飛ばし、壁に叩きつける。

 

「ぐあっ!!!!」

「前々から気にくわんギルドだったが、この戦争の引き金は些細な事だ。ただ、ハートフィリア財閥のお嬢様を連れ戻してくれという依頼さ」

 

ジョゼの口から出た言葉に目を見開くエルザ。

 

「う、ル…ルーシィを!?」

「この国有数の資産家の娘が妖精の尻尾にいるだと!?貴様らはどこまで大きくなれば気が済むんだァ!!」

「ぐっ……あぁあ゛……!!」

 

ジョゼはエルザの首を掴むと壁に叩きつけた。

 

「ハートフィリアの金を貴様らが自由に使えたとしたら間違いなく我々よりも巨大な力を手に入れる!!

それだけは許してはおけんのだァ!!」

 

「があああああ゛あ゛あ゛!!!!」

 

ジョゼが叫び、怒声を上げる度に壁に押し込まれ、エルザを苦しめる。

 

だが、エルザは苦しみながらふっ…と小さく笑った。

 

「どっちが上だ下だ…と騒いでいること自体が嘆かわしい……。…が、貴様らの情報収集力のなさにも呆れるな。それでよく一番のギルドなどと言えたものだ…」

「………なん、だと?」

「ル…ルーシィは……家出、してきたんだ……。家の金など…使える…ものか……!!」

 

エルザの告げる事実にジョゼは目を見開いていく。

 

「家賃7万の家に住み…私達と共に旅し……共に戦い、共に笑い、共に泣く……。同じギルドの仲間だ!

戦争の引き金だと…?ハートフィリア家の娘…?花が咲く場所を選べないように…子だって親を選べないんだ…。

貴様に…貴様に涙を流すルーシィの何が分かる!!」

 

エルザはそう叫ぶと、ジョゼの手から逃れようと必死に足掻く。

そんなエルザを見て、ジョゼは不敵な笑みを浮かべる。

 

「確かに、家出人というのは誤算だった…。だが、何とでもなる。マカロフもシスティもいない今、こちらの勝ちも同然だ。

そして、ハートフィリアの財産は、全て私のものとなるのだ!!」

「っ…貴様ぁ!!」

 

エルザの怒号が響いたその時…

 

「そんなこと…させるかァアアア!!!!」

 

突然の乱入者に不意を突かれ、ジョゼの顔面に拳がクリーンヒットする。

 

「ぐはっ!?」

 

不意打ちを食らったジョゼはそのまま壁まで吹っ飛ばされる。

そして、ジョゼの拘束から解かれたエルザは静かに崩れ落ちる。

 

「お、お前…」

「………ごめん、遅くなって………」

 

エルザは驚きのあまり思わず目を見開く。

エルザの目の前には、戦闘不能になったはずのシスティが立っていた。

体はボロボロで、服の下には包帯が巻かれており、魔力もほとんど残っていない。

しかし、透き通るような緑色の丸い瞳は、明らかな敵意を倒れるジョゼの方に向けていた。

 

「……システィ………」

「あとは任せて…」

 

システィはそう言い、エルザを隅の壁に寄りかからせる。

 

「クッハハハハッ!!待っていましたぞ、戦姫(ヴァルキリー)っ!!

貴様を……貴様を殺し、妖精を地獄へと落としてやるっ!!」

 

魔力を荒らげ、叫ぶジョゼをゆっくりと振り返り、システィは刀を構える。

 

「…随分…派手にやってくれたね………」

 

システィは刀の柄を強く握り締め、そして、ギロッとジョゼを睨みつける。

 

「絶対許さない…!!

ここからは慈悲なんて無い…」

 

幽鬼は妖精の怒りを買った…。

そして今、戦姫から天罰が下される―




最後までお付き合いありがとうございます!!
時間が空いた割に少なくてすみません…。
それに、また次の更新に時間がかかるかも…。
とりあえず、この章だけは早急に仕上げます!!

次回もどうかよろしくお願いします!!


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22. 決着

なるべく頑張ったのですが、やっぱり時間が空いてしまいましたね…。
この章もラストスパート、頑張って行こうと思います!!

それでは最後までお付き合いお願いします!!


「さあ、蹂躙の始まりよ…っ!!」

「クククッ…待っていましたぞ、戦姫(ヴァルキリー)!!」

 

互いに睨み合い、両者とも相手の隙を窺う。

 

「喰らえ!デッドウェイブ‼︎」

 

最初に動いたのはジョゼだった。ジョゼはシスティに向かって魔法を放つ。

対してシスティは、風を刀に纏わせて構える。

 

旋風(つむじかぜ)‼︎」

 

システィは一閃でジョゼの魔法を両断する。

 

「ふむ…やはり、聖十大魔道に招待されるだけはある…。素晴らしい力だ……。だが、それでは私には勝てんよ…」

 

ニヤッと笑うジョゼを見て、システィも笑い返す。

 

「アンタこそ、それで聖十大魔道に選ばれたの?弱すぎて話にならないんだけど?」

「クハハハッ!これが私の本気なわけがないでしょう…小娘が……」

 

ジョゼが手をかざすと不穏な魔力が集まり出す。

 

「吹き飛べ、戦姫!!」

 

 

ドォオオオン!!!!

 

 

放たれた魔法はシスティに命中する前に弾け、大きな音と爆炎をあげた。

 

「システィ…っ!?」

「エルザ待って!」

「っ!?シェリル!?お前もここに…」

 

立ち上がろうとしたエルザを寸でのところでシェリルが止める。

 

「ここはシスティを信じて!!お願い…」

 

爆炎が立ち上る中、エルザとシェリルはただそれを見守る。

 

 

「…それで?これで終わりなの?」

 

すると、そんなシスティの声が爆炎の中から聞こえる。

 

「なに…!?」

 

爆炎の中から現れたシスティには一切怪我が無く、それどころか、システィの立っていた床だけヒビ一つ入っていない。

ジョゼはその光景に目を見張る。

 

「貴様何故…!?」

「この程度の攻撃で私がやられるとでも?

それに言ったよね?これは戦いじゃない。ただの“蹂躙”だって…」

 

 

システィは表情を消すと、一瞬でジョゼの目の前から姿を消す。

 

「なっ!?どこに…」

 

システィを見失ったジョゼは辺りを見渡すが、システィは嘲笑うかのように背後から刀を脇腹に突き刺す。

 

「ぐっ!?」

 

悲鳴を上げるジョゼに、システィは更に攻撃を仕掛ける。

ジョゼがどんなに反撃しようとシスティは全て躱し、接近したところを刀や手足でじわじわとダメージを与える。

そう。システィはこの戦いにおいて、刀への付与を除いて魔法を一切使っていないのだ。

 

「ふざけて…いるのか…!?」

「なぜ?私は至って真面目よ?

これは一方的な殲滅。たった一発の魔法で死ねると思った?」

「ぐふっ!!」

 

強烈な蹴りを喰らってジョゼは吹き飛び、壁に叩きつけられる。

システィはジョゼの方へ歩み寄ると、刀の切っ先をジョゼの鼻先に向けた。

 

「早く立ちなさい。まだまだこんなものじゃないわよ」

 

その光景にエルザは驚く。

 

「システィ………こんなに強かったのか…?」

「…システィ…」

 

シェリルはシスティが負けるなど露にも思っていなかったが、システィは今すぐ倒れてもおかしくないほどの重症を負っているため、気が気でなかった。

 

 

「ぐ……グハハハハハ………。やはり強いなぁ…戦姫………」

 

ジョゼは立ち上がると、システィを睨みつける。

 

「クククッ…後悔するんだな、戦姫…。……私に力を使わせることになるとは…ネェ!!!!」

 

ゴォオオ!!!!

 

「っ!?」

 

ジョゼの魔力が爆発的に高まる。

その風圧はエルザやシェリルの方まで届き、二人は思わず顔を歪める。

 

「ぐっ!この魔力は…!!」

「な、なにこれ…!?」

「…地獄ヲ見ルガイイ…戦姫ィ!!」

 

 

ドォオオオ!!

 

 

邪悪なエネルギーが再びシスティに向けて放たれる。当たれば怪我くらいでは済まないだろう。

システィは刀を鞘に収め、それが迫り来るのを静かに待ち構える。

 

 

「……朧月(おぼろづき)…」

 

キンッという微かな音が響き、ジョゼの魔法は真っ二つに切断された。しかし、ジョゼはそれ見越してシスティの後ろに回り込んでいた。

 

「シネェ…小娘ェ!!!!」

 

しかしシスティは振り返ることも刀を抜こうともしない。

しかし、それは勝負を諦めたのではなく、その必要がないからだ。

 

 

「グハッ…!?」

 

突然、ジョゼの左肩から右脇腹までの所から血が吹き出した。

 

「な、なぜ……いつの間に…」

「…二連撃抜刀術、『朧月』。

二刀目は音速を超えるわ。見えないなら貴方はまだまだって事ね」

「ばか…な…」

 

バタリとジョゼは崩れ落ちた。

一瞬の空白の後、今度はシスティが膝をつく。

 

「ゼッ……は………はァ……はっ…」

「システィっ!!」

 

倒れ、白目を向くジョゼを前にエルザとシェリルはシスティの元へと駆け寄る。

限界を超えたシスティは息を荒らげたまま近くの壁にもたれる。

 

「ギリギリセーフ……」

 

システィはさっきの技で砕け散ってしまった刀を眺める。システィの剣技と風の付与は刀に負荷をかけすぎる。決着まで刀がもつかどうかは正直賭けだった。

 

「システィ、体は大丈夫なのか?」

「まあ何とか……。ギリギリ…かな」

 

回復し切っていない魔力を振り絞って戦っていたため、システィの体は限界がきていた。すると突然、システィの目の前が揺らぎ、人の姿が顕になる。その瞬間、エルザの背筋に嫌な寒気が再び走った。

 

「っ!!システィっ!!」

 

システィの目の前に現れたのは、エルザが倒したはずのエレメント4の1人、アリア。

システィは起き上がることすらできず、苦しい表情でアリアを弱々しく睨む。

 

 

「悲しいなぁ…。マスター・マカロフに続き戦姫まで私の手によって……!!」

 

涙を流しながら、アリアはシスティへ魔法を放つ。

エルザはなんとか止めようとするが、体が言うことを聞かず膝をついてしまう。

 

「システィっ!!!!」

 

 

ドゴォオオオ!!!!

 

 

「ぐはぁっ!?」

 

しかしその魔法は突然現れた巨大な手によってアリアごと吹き飛ばされた。

 

「………もう終わったんじゃ、ギルド同士のケジメはつけた。もし、これ以上を望むのなら…貴様らを跡形も無く消すぞ。

ジョゼを連れて去れ………」

 

巨大な手が開けた穴から現れたのは、魔力を全て奪われて戦闘不能に陥っていたマカロフだった。

 

「「マスター!!」」

「心配かけたの、主ら。システィも、よく…やってくれた。お疲れ様じゃ」

「…マス…ター…」

 

朦朧とする意識のせいで視界がボヤけていたが、システィはマカロフの魔力を感じ取っていた。

そして、フワッと優しく頭を撫でられる感覚がシスティを包み込み、その優しさに触れ、システィの意識は途絶えた。




最後までお付き合いありがとうございます!!
この章もようやく次で終わりを迎えます。
話は長くないのにここまで長かった…。

次の章は予定通りオリジナルストーリーです。
なるべくペースは上げていこうと思っているので次回もどうかよろしくお願いします!!


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23.復興

今回は早くに投稿出来ました!!
出来るならこの調子で行きたいですねぇ。

それでは最後までお付き合いお願いします!!


システィがジョゼを倒した後、結局評議会のルーンナイトが押し寄せ、数日間妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーは事情聴取を受けることとなった。

そして、幽鬼の支配者(ファントムロード)との戦闘から一週間後、やっと普段の生活がスタートし始めていた。

 

 

現在、崩壊したギルドの跡地では新しいギルドの建設の為全員が一丸となって動いていた。

 

「うぉおおらぁああ!!っーーーがっ!?」

 

角材を約十本程持ち、運ぼうとしたナツがその重さに耐えれず、ゴキッ!と嫌な音をさせて後方へ倒れる。

 

「わぁ、痛そ…」

「ちょっとー…大丈夫ー?ナツー」

 

気の抜けたハッピーとルーシィの声がナツに向けられる。

 

「おぉぅ…大丈夫だァ」

 

痛みに耐えながらも答えるナツに、システィは苦笑を浮かべる。

 

「ちょっと、遊んでないでちゃんとしなさいよ?」

「一度にそんなに持つからだバーカ」

 

ナツの様子を見ていたグレイから喧嘩口調で挑発する。

 

「じゃあグレイ、お前システィに負けて悔しくねぇのか!?」

 

「え、私?」とシスティは首を傾げるが、ナツが言っているのはシスティの持つ角材の量である。

システィは片手で軽々と十本の角材を持っているのだ。

 

「だあああ!!負けてられるかぁあ!!!!」

「バカ、持ちすぎだ!!」

 

普段と変わらない喧嘩を始めた二人を見つめ、シェリルとルーシィはため息をつく。

 

「あーあ…そんな事してると………」

 

「そこぉっ!!」

「「グゲッ!?」」

 

喧嘩を始めた二人の後ろからエルザからの怒声が響く。

 

「貴様ら、口より身体を動かせ!!一刻も早く妖精の尻尾を再建させるんだ!!」

「「あぃ………」」

 

予想を裏切らない光景を見せる三人にシスティは思わず笑ってしまう。

 

「あとシスティ!!」

「え、私?」

「お前はじっとしていろと言っただろ!!そこでルーシィと大人しくしておけ!!」

「え~いいじゃん、少しくらい…」

「「「ダメだ!!!!」」」

「え~」

 

エルザ、ナツ、グレイから同時に反対され、システィは仕方なくルーシィの隣に腰掛けた。

 

 

「ねぇルーシィ、みんな過保護だと思わない?」

「いや、流石に今回は仕方ないと思うよ?」

「システィ、ポーリュシカさんに絶対安静って言われたでしょ?」

「う…そりゃそうだけど…」

 

システィはジョゼとの戦闘の後、実は五日間も意識が戻らなかったのだ。そして、目が覚めた現在も妖精の尻尾の専属医者のポーリュシカにより、絶対安静が言いつけられているのだった。

 

 

 

「お~いルーシィ、こっち来てみろよ!!」

「な~に~ナツ〜?…ごめんシスティ、ちょっと行ってくるね?」

 

ナツに呼ばれて走っていくルーシィを見ていると、突然後ろからロキが現れた。

 

「ごめんシスティ。これ、ルーシィに渡しといてくれないか…?」

 

そう言って差し出されたロキの手には、ルーシィの鍵があった。

 

「これ、ずっと探してたの?言ってくれたら手伝ったのに…」

「悪い。それじゃ、後は頼む」

 

ロキは弱々しく笑みを作ると、「じゃあな」と言って去っていった。

 

「…ロキ………」

 

その後ろ姿をシスティは見つめていた。

 

……ロキ…あなたに残されているのは、あとどれ位なの……?

 

その質問は喉まででかかったけど、結局システィの口から出ることはなかった。

 

 

ルーシィが離れてから一時間くらい経った頃、ナツとハッピーがルーシィを引っ張ってシスティの元に戻ってきた。

 

「聞いてくれよシスティ!!ルーシィの奴、紛らわしいんだぞぉ!!」

 

飛びかかってきたナツを抑えて話を聞くには、

ルーシィの“家に帰る”という言葉をナツ達が早とちりして、それが他の仲間を巻き込んで一騒動になっていたらしい。

 

システィはその話を聞いて苦笑を浮かべ、ルーシィを見つめる。

 

「ルーシィ…災難だったね…」

「ホントよ、もう…」

 

こちらも苦笑を浮かべ、ヤレヤレといった表情を浮かべた。

 

 

 

「そう言えばシスティ、これからどうするんだ?」

 

またまた言い争うナツとグレイをなだめるシスティにエルザは問いかけた。

 

「一応、まだ完治してないからポーシュシカさんの所でしばらく過ごすつもり。あそこ、空気がおいしいんだよねぇ」

 

そう言うと、システィはニヘラと笑う。

 

「そうか。なら、それからか」

「うん。ウェンディを探しに行くよ」

「なんだァ?なんの話してんだ?」

 

エルザとシスティの深刻な顔を見てか、ナツが素っ頓狂な声をあげた。

 

「ナツ。私、ポーシュシカさんの所から帰ってきたらしばらくギルドを開けるから、その間はよろしくね」

「ん?おう、任しとけ」

 

分かっていないことは目に見えているが、話すのも面倒なので、システィはそのまま放置しておいた。

どうせ、帰った時に怒鳴り散らしてくるだろうけど…。

その光景を想像して、システィは誰にも気づかれずにクスリと笑った。




最後までお付き合いありがとうございます!!
この章はここで終わり、次はオリジナルストーリーの『竜の(あぎと)編』に入っていきます。
さて、どんな話なのか、次回を楽しみにしてください!!
では、今回もありがとうございました!!


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竜の顎編
24.戦姫の休養


新章“竜の顎編”開始です!!
どうぞ最後までお楽しみください!!


「ん~やっぱりここは気持ちいいなぁ」

 

システィは両手をグッと伸ばし、大きく伸びをする。

システィがいるのは、フィオーレ王国の人里離れた森の中。そこには妖精の尻尾(フェアリーテイル)の顧問薬剤師でマカロフの古い友人である治癒魔導士のポーリュシカが暮らしている。

システィはそこに療養とリフレッシュを兼ねて来ていた。

 

「やっぱりここはエーテルナノが豊富だね」

「まぁ、これだけ街から離れてたらそれもそうでしょ」

 

森の中には二人の声以外に人気は感じられず、まるで世界から切り離された場所のように感じた。

しかし、

 

「っ!?」

 

ほんの一瞬だけ魔力を感じた。しかも、ジョゼのように禍々しくも、マカロフのように優しくもない、言うなれば無色の魔力だ。システィには逆にそれが不気味だった。

システィは魔力を感じた方に視線を向ける。しかし、視線の先には森が広がるだけだ。

 

「……行ってみるしかないか…」

 

システィは意を決して森の奥へと歩き出した。

 

 

 

歩き始めて数分、先に異変に気づいたのはシェリルだった。

 

「…なんか、ちょっと静か過ぎない?

「…動物が…いない…?」

 

さっきまで鳥の鳴き声や、風の音が溢れていたが、今では一切が無くなっている。

何かいる。そう思わずにはいられなかった。

 

生い茂った草木をかき分け少し開けた場所に出ると、そこは小さな湖だった。水は澄んでいて、魚も何匹か泳いでいる。

そして、目線を湖から離した時、彼が目に入った。

黒い髪に漆黒の瞳、黒い装束と全てが黒で染められている。

向こうもこちらに気づいたのか、ゆっくりと顔を上げられ、目が合う。

その瞬間、システィの本能が危険を告げ、即座に距離を取った。

 

 

「貴方は…いったい何者…?」

「僕かい…?僕はただの旅する魔導士さ」

「嘘。さっき感じたあの魔力、貴方は只者ではないはず…」

「……確かにそうだね。それじゃあ改めて名乗ろう。僕の名はゼレフ」

「ゼレフ…!?貴方があの魔法界の歴史上最も凶悪だったと言われる黒魔導士の…!?」

 

システィは即座に構え、魔力を解放した。

 

「その魔力…グランディーネの子か。ウェンディ…いや、システィだったかな?」

「っ!?貴方、どうして私の名前を…」

「……さぁ、どうしてかな?とにかく、僕は戦う気なんてないから魔力を抑えてくれないかな?」

 

実際、システィが魔力を解放してなお、魔力を出すどころか動こうとしない。

しばらくは警戒していたが、結局システィの方が根負けして魔力を収めた。

 

「ねぇ、貴方歳は幾つなの?一体どれだけの時間を貴方は生きているの?…」

「歳…か。そんな概念もう忘れたよ。

……システィ、君はなぜ人は歳を数えると思う?

僕はね、死ぬまでの時間を逆算する為だと思うんだ。

でも、僕には死は訪れない…。だから、三十を超えたあたりから数えることを辞めてしまったんだ…」

「不老…不死……」

「『アンクセラムの黒魔術』っていう古い呪いなんだ」

 

システィはそれを知っていた。

人を尊いと思えば思うほど人を殺めてしまう矛盾の呪い。

それは自分の意思とは関係なく周囲の生命を一瞬にして枯渇させる。

 

「だから、僕にはあまり近づかない方がいいよ」

 

そう言ってシスティに向ける笑顔は、とても悲しく苦しそうなものだった。そして、その笑顔が、昔ナツが幼なじみを亡くした時に見せた作り笑いとなぜか重なり、システィは無意識に手を伸ばしていた。

 

「っ!?」

「ごめん。私にはこれくらいしか出来ない」

 

システィは風を操り、優しく彼を包み込んだ。

 

「…久しく忘れていたよ…。これが、人の温もりなんだね…。

ありがとう、システィ…」

 

ゼレフが見せた笑顔は、さっきのは違って優しく柔らかいものだった。

 

「さて、僕はもう行くよ。ここらの草木を枯らす前に」

「…お元気で」

 

ゼレフはそのまま一度も振り返らず去っていった。

 

彼が去った後、森は思い出したように活気を取り戻す。

システィはまた彼の去った方向に視線を向けた。

 

「最悪の黒魔道士ゼレフ…か」

 

システィは呟くと、そっとシェリルを抱き上げた。

 

「戻ろっか」

「うん…」

 

システィはシェリルを抱いたまま、丁度ゼレフの去った方向とは逆に進み始めた。

 

 

 

 

二人がポーリュシカの元に戻ると、そこにはなぜかミストガンが来ていた。

 

「あれ?どうしたの、ミストガン?」

「……システィか。ちょっと野暮用でな…」

 

そう言って、ミストガンは顎と目線で遠くに見える大きな木を差し示す。ミストガンが二人きりで話したい時によく使う仕草だ。システィは黙って頷くと、シェリルに断って一人でその木に向かった。

 

 

「それで話って?」

「…お前が“ウェンディ”という少女を探していると聞いた…」

「うん。そうだけど…?」

「……その少女の名前、“ウェンディ・マーベル”か…?」

「っ!?なんで…どこで聞いたの!?」

 

システィはギルドのみんなに彼女のフルネームを教えてはいなかったはずだ。少なくとも彼には教えたことがない。

 

「まさか、会ったの…?」

「ああ…。だが、随分昔のことだ…。俺は彼女を化猫の宿(ケットシェルター)というギルドに託した」

「そう…よかった」

 

システィは心から安堵していた。ギルドに保護されているなら、余程のことでもない限り無事でいるだろう。

 

「ありがとう、ミストガン」

「いや…もっと早くに言えばよかったな…」

「ううん、教えてくれただけで十分だよ」

「すまん…。無事再会出来ることを祈ってる…」

 

そう言い残すと、ミストガンは去っていった。

 

「本当にありがとう…」

 

システィは感謝を込めて彼に向けて頭を下げた。

 

 

それから三日ほど経ち、システィの怪我も完璧に治っていた。むしろ、怪我する前よりも調子がいいくらいだ。

 

「さあ、治ったんなら早く出ていきな」

「もぅ…分かったから。…ありがとね、グランディーネ」

「その名で呼ぶんじゃないよ。……もう、あんまり無茶はしないことだね」

「分かってるよ。じゃあ、行くね」

 

そう言ってシスティはポーリュシカの元を後にした。

 

もし、ウェンディをここに連れてきたら、どんな反応をするだろう…。

 

そんなことを考えながら、システィは妖精の尻尾に向けて足を進めた。




最後までお付き合いありがとうございます!!
今回は序章のような感じですね。物語は次回から展開していきます。

それでは次回もどうかよろしくお願いします!!


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25.出会い

何とか一日空けての投稿です。私的には超ハイペースです!!
それでは最後までお楽しみください!!


マグノリアに帰る途中、システィはベスネルクという街に立ち寄っていた。そこは魔法具の製造や売買が盛んな街として賑わっており、フィオーレ王国の中でも有名な観光スポットにもなっている場所だ。

システィとシェリルは、そこへお土産を買いに来ていた。

 

「何か面白い魔法具(おもちゃ)とかないかなぁ?」

「誰かにあげるの?」

「ナツにね。ほら、どうせ私がギルドを離れるって言ったら怒ってくるだろうから機嫌直しにね」

 

そう言って、至るところの魔法具を物色する。しかし、イマイチなものばっかりでどれがいいのか迷ってしまう。

 

「もうこれでいいんじゃない?スイッチを押すと電気が流れるドッキリ用魔水晶(ラクリマ)だって」

「それ、逆に怒られそうだよね…」

 

そうやって色んな店を回っているうちに空が暗くなり始めてしまい、仕方なくシスティはこの街に一泊することにした。

 

 

 

夜も更けて街の明かりも少なくなった頃になっても、システィは未だに寝られずにいた。

外の空気を吸うために、シェリルを起こさないよう静かにベランダへ出ると、外の空気は冷たく、心地いいものだった。

 

「…ウェンディ…」

 

システィは静かにその名を口にする。

眠れないのは、彼女の事が原因だった。

今まで、最悪のことも有り得るため意識的に考えずにいたが、ミストガンからギルドに保護されていると知って、居ても立ってもいられなくなっていた。

 

「ちょっと頭冷やさないとなぁ…」

 

システィはベランダから街を眺める。

この宿は少し宿泊代か高い代わりに眺めがいいと評判の宿だ。二階ともあって、その眺めは素晴らしい。

すると、近くの裏路地に全身黒衣でフードを深く被った集団が目に入った。人数はだいたい二十人程度。キョロキョロと辺りを見渡し、何かを探している雰囲気だった。

 

「何だか一悶着有りそうね…」

 

システィはニヤリと笑うと、ベランダから宿の屋根に飛び乗り、上から尾行を始めた。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

少女は裏路地の影にしゃがみ込み、追っ手から身を隠していた。

バタバタと足音が近づき、自分を血眼になって探しているのが嫌でも分かる。

そして、足音は結構近い所で止まった。

 

「おい、いたか?」

「いや、こっちじゃない」

「クソッ、どこに行きやがった…!?」

 

コツコツと二人の足音が離れていく。同時に肩の力が抜け、その場からゆっくり離れようとしたその時、足元にあった空き缶を倒してしまった。

カラカランという音が裏路地に響き渡る。不味いと思った時には既に少女は走り始めていた。後ろから「居たぞ!!」という声があがるが、気にせず少女は走り続ける。

そしてそのまま走り続け、街の中心にある広場に出た。広場には別の路地に繋がる道が五本もある。これでまた時間が稼げるだろう。

しかし、それが奴らの作戦だった。

 

「しまった…」

 

広場から別の路地に入る道から次々と奴らが出てきて、道が完全に塞がれてしまった。

 

「随分手間かけさせてくれたなぁ、この小娘が…」

 

後ろを振り向けば、さっきから追いかけてきた二人組が後ろの道を塞いでいる。

これで逃げ場は完全に無くなり、少女は止む無く臨戦態勢に入る。

 

「さあ、もう逃げ場はない。大人しく渡せ!!」

「嫌!!これは父さんから預かった大切な物よ。あんた達になんか渡すもんか!!」

 

少女は叫びながら敵の数を確認する。

 

大丈夫。五人程度ならなんとか…。

 

しかし、そんな希望は即座に裏切られた。

 

「ならば仕方ない…」

 

塞がれていた道からゾロゾロと仲間が出てきて、少女を取り囲む。これでは隙をついて路地に逃げ込むこともままならない。

 

「くっ…」

「…十分痛みを与えてから奪い取れ」

 

リーダー格と思われる男の指示で、一斉に奴らが少女に向けて飛びかかる。

 

やるしかない…。

 

少女もやむを得なず魔力を解放し、首から掛けられた牙のような飾りに軽く触れた。すると、ほんの一瞬だけその首飾りが光った。

 

「テンペスト!!」

 

暴風を生み出し、一番近くにいた三人を上空に吹き飛ばす。次に懐から小太刀を抜き取り斬撃を防御、股下を潜り抜けて 距離をとる。

 

捌ききれない…。

 

ほんの数秒で、そう実感させられた。

少女自身の実力不足もあるが、圧倒的な数の差の前にどうすることも出来ない。

さっき吹き飛ばした三人も、何事も無かったかのように立ち上がり、少女を壁へと追い込んでいく。

 

「くはっ…」

 

壁に叩きつけられ、堪らず膝をつく。

奴らはまるでいたぶるようにゆっくりと近づいてくる。

 

もう、駄目だ……。

 

少女はまるで縋るように首飾りを強く握り締めた。

すると、戦闘を歩いていた奴らのうちの一人が急に振り返り、仲間を殴り飛ばした。

 

「え……」

「くっ…何しやがる!?」

「てめぇ裏切るのか!?」

 

仲間達からさまざまな怒号が放たれるが、その一切に応じずに刀を構えた。その行動を見て仲間達もそいつを完全に敵と見なし、全員で襲いかかった。

少女はその戦闘を眺めながら、その一方的な状況に目を見張った。

さっきの自分と同様に、一人で何人も相手してしているにも関わらず、攻撃を全て回避している。逆に、カウンターとして放たれる攻撃を誰も回避できず、一人また一人と意識を刈り取られていく。

結局、数の利を完全に覆して全員を倒してしまった。

 

 

「ふぅ…あんまり手応えなかったなぁ…」

 

そう言って被っていたフードを取り去る。すると、隠されていた白銀の髪が月光を反射して美しく輝いた。

 

「…ねぇ、大丈夫?」

「あ、はい…」

「そ、よかった」

 

そう言うと、彼女は少女に向かって微笑んだ。

それが、少女と妖精の戦姫(ヴァルキリー)の出会いだった。




最後までお付き合いありがとうございます!!
やっぱりというか、オリジナルストーリーって文字にするのが大変ですね…。そのせいで書いたり消したりの繰り返しです。
次話は少し時間が空いて来週になると思います。
それでは次回もどうかよろしくお願いします!!


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26.竜の顎

日進月歩というか、日々お気に入りやUAが増えていくのは嬉しいものですね。
たくさんの人に読んでもらえていると思うと嬉しいです。
できれば感想とか頂けると嬉しいです。

それでは、最後までお付き合いお願いします!!


「大丈夫?」

「え、あ、はい……」

 

システィは倒れたまま自分を見上げる少女に、手を貸して立たせてあげる。少女は手を借りながらも、どこか警戒した目でシスティを見ている。どうやら、敵の仲間の格好をしているのが逆に警戒心を強めているようだ。

 

「あの、貴方は一体何なんですか?」

「何って言われてもねぇ……。とりあえず、場所移そうか。こいつらが起きたら厄介だし」

「……じゃあ、こっちです…」

 

そう言う少女の後にシスティは続く。少女はまだシスティのことを警戒しているようで、二人の間には少し距離があった。

 

「……ここです」

 

到着したのは街の外周近くにある錆びれた宿屋。中に入ると、木が腐ったような独特の匂いが鼻をついた。

少女が借りているであろう部屋に入り、システィはベッド、少女はイスに腰掛ける。

 

「それで、貴方は何なんですか?」

 

少し落ち着いた所を見計らって、さっきと同じ質問がシスティに投げかけられた。

さっきも思ったが、漠然としすぎた質問のせいでシスティは回答に困ってしまう。

 

「何って言われてもねぇ…。

とりあえず、私の名前はシスティ・トワイライト、魔導士よ。ギルドは妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属してます。

……こんな感じでいいかな?」

 

肩に印されたシンボルマークを見せながら言ったが、少女は首を傾げるだけだ。

 

「……もしかして、妖精の尻尾って聞いたことない?」

「すいません…。私、世間に疎くて…」

「そっか……。まあ、そういう魔導士ギルドって理解してくれればいいよ。

…じゃあ次はあなたの番だよ。名前、何ていうのかな?」

「私は、エリナ・ルーエルといいます。父は魔法具職人をやっていて、私はその跡継ぎとして修行しています」

「へぇ、魔法具の…」

「……あの、ホントにあの人達と関係ないんですか?」

「ないよ、これっぽっちも」

 

システィは即答するが、少女―エリナはまだ信用しきれていない感じだ。

システィも、今になって敵の仲間を装って助けたことを後悔していた。

 

「……それで?追われている理由に心当たりはあるの?」

「………多分、これです…」

 

エリナは首に掛けられた物を外し、システィに手渡した。それは、何かの牙のようなただの首飾りだった。何か特別な物のような感じは全く見られない。

 

「へぇ…これは何の牙なの?」

「…父は、ドラゴンの牙だと推測しています」

「…えっ!?ドラゴンの!?」

 

システィは手の上にあるそれを凝視するが、明らかに牙というよりは爪のような大きさだ。少なくとも、グランディーネの牙はこんなに小さくは無かった。

 

「…でも、ドラゴンの牙にしてはちょっと小さすぎない?」

 

「そう推測する理由は形よりもその能力の方です。

それに魔力を流し込んだり接触させると魔力を蓄え、またその魔力を使って魔法を発動することもできます。

その能力が滅竜魔法と似ていることから、ドラゴンの牙改め、“竜の(あぎと)”と名付けられました」

 

確かに魔法を喰らう点は滅竜魔法と似通っていると言える。それに、蓄えた魔力を使って魔法を発動出来る能力は稀少で欲しがる輩も多いだろう。

 

「なるほどね。それで狙われてたって訳か〜」

「はい……」

「そう……で、目的地は?」

「へ……?」

 

突然のことにエリナは呆けた顔をする。

 

「だから目的地だよ。こうして会ったのも何かの縁だし、近かったら目的地まで送ってあげる」

「でも……いいんですか?」

 

エリナもさっきの戦闘でシスティの底の見えない強さを知っている。送ってくれるならそれに越したことはないだろう。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて……。

でも、実は目的地はないんです。どっちかって言うと人探しで…」

「そうなの?…じゃあ誰を探してるの?」

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)です。父が、竜の顎を研究するのに会ってみたいらしくて」

「じゃあ目的達成ね。私、滅竜魔導士だし」

「ええっ!?ホントですか!?」

 

エリナは突然立ち上がり、目をキラキラさせながらシスティの体をペタペタ触る。触診でもしているのか、触りながら「特にヒトと違った所は無いな…」などと独り言を言っている。全く、滅竜魔導士を何だと思っているのだろうか…。

 

「えっと……」

「あ、すいません……。ちょっと興奮しちゃって……」

 

エリナは恥ずかしさのあまり顔を赤らめる。それでもまだ触りたいというような顔をするエリナにシスティは呆れてため息をついた。

 

「まぁ、別にいいけどさ……」

「じゃ、遠慮なく!!!!」

「えっ!?ちょっ、そういう意味で言ったんじゃ…うわっ」

 

システィはベッドに押し倒され、完全に理性がとんでるエリナに至るところを触られ続ける。同性なのをいいことに、宣言通り遠慮と言うものが一切無い。

 

「うわぁ…肌スベスベ…。ここはプニプニだ〜」

「ちょっとどこ触ってんの!!」

「フワフワプニプニ〜」

「キャッ!?もう、離れない!!……さもないと…」

「キャッ!?くすぐった〜い!!」

 

エリナの触診はいつの間にかくすぐり合いに発展し、出会った頃が嘘のように打ち解けていた。そして、二人とも力尽き、抱き合ったまま狭いベッドで眠りに落ちた。

そうして夜が深まっていく。一匹の猫の存在を忘れながら…。

 

 

 

「ごめん、シェリル!!本当にごめん!!」

「システィのバカ!!私がどれだけ心配したと思ってるの!!」

 

今朝方エリナの宿で目を覚ましたシスティは、シェリルを宿に置いてきたことを思い出し、既に起きていたエリナを連れて宿に戻り、今に至っていた。

 

「シェリル、ホントにごめん!!」

「……わかった。その代わり一つ貸しだから」

「う………わかった…」

 

ちなみに二人の間で貸し一つは結構大きかったりする。

貸し一つで何でも一つ言う事を聞くという、言ってしまえば絶対命令権だ。システィの場合、性格上貸しを作ることが多く、しかもシェリルは中々それを使わないので、貸しは貯まる一方だった。

 

「えっと……今貸し幾つだっけ…」

「今回で貸し十。そろそろ貸し全部使って、フィオーレ一周の列車ツアーに十回連続で行ってもらおうかな〜」

「それだけは勘弁して!!死んじゃう!!ホントに死んじゃうから!!」

 

結局システィは何とか列車ツアーを回避し、シェリルもまた貸しを保留とした。

話が一段落ついたところでシスティはエリナを紹介する。

 

「さて、遅くなったけどこの子はエリナちゃん。昨日色々あって西にあるエスティアまで送るになったの」

「色々ねぇ…。私はシェリル。よろしくね、エリナ」

「エリナ・ルーエルです。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

二人の挨拶が済み、ようやくエスティアに向けて出発する。

まだ行ったことのない街に期待を膨らませながら、エリナを加えたシスティとシェリルの旅が今始まる。




最後までお付き合いありがとうございました!!

オリジナルストーリーなだけあって話を考えるのが前より倍はキツイです…。
内容が薄めだったり話のテンポが早いかもしれませんが、最後まで読んでいただけると幸いです。

それでは次回もどうかよろしくお願いします!!


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27.波乱の道中

お盆になったと思ったらもう終わりですねぇ…。
これからまた忙しくなると思うとすごく憂鬱です。

忙しくなっても、なるべくペースは落とさず頑張ります!
それでは、最後までお付き合いお願い致します!


ベスネルクを出発した二人と一匹は、途中で馬車に乗り込み、少しずつエスティアに向けて進んでいた。このままのスピードで行けたら、エスティアまでは一日も有れば着けるだろう。もっとも、この馬車はエスティアまでは行かないため、途中からは徒歩になってしまうが。

少女にとっては馬車に乗るのは初めての体験のようで、乗ってからしばらくは楽しそうに辺りを見渡していた。しかし、今となっては乗り物酔いで苦しむシスティを前に、楽しむに楽しめない状況になっていた。

 

「うぷっ……気持ち悪い…」

「あの、大丈夫ですか…?」

「大、丈夫……。いつもの、ことだから…」

 

本人はそう言っているが、エリナから見たら全くそうには見えない。こんな弱点丸出しで大丈夫なのか、と正直疑ってしまう。

 

「大丈夫。システィはこれでも聖十大魔道に招待されるほどの実力者だよ」

「せいてん……?…それって凄いんですか?」

「……世間知らずもここまでくると呆れるしかないね…。いい?聖十大魔道っていうのはね……」

 

シェリルが説明を始め、エリナも熱心にそれを聞いている。そんな様子をシスティは乗り物酔いに苦しみながらも眺めていた。

 

あの小さかったウィンディも、今頃エリナくらいの身長に成長してるのかなぁ…

 

ワイワイ楽しそうにする二人を見てシスティは優しく微笑んだ。

 

 

 

 

しばらく進んでいると、突然馬車にブレーキがかかり停止した。だが、システィ達が乗せてもらえるよう交渉した場所にはまだまだ遠いはずだ。二人も今の状況に違和感を感じ、警戒して話すのをやめて黙り込む。システィも、持っていた薄茶色のフード付きケープを羽織って妖精の尻尾(フェアリーテイル)のシンボルマークを隠し、ついでにフードで顔を隠す。外から山賊らしき男が入ってきたのはその直後だった。

 

「テメェら、外に出ろ」

 

銃型の魔法具を突きつけられ、やむなくシスティ達は男に従う。

外に出ると馬車の周りを二十人以上が囲んでおり、ほとんど全員が同じ魔法具を手にしていた。

 

「あれ、王国軍用に開発されたパイソンシリーズの七型です。射程は三十メートルと短いけど、その分威力は強力です」

 

エリナが隙を見計らってシスティに耳打ちして教える。システィにとって情報の有無は大した勝因にはならないが、戦いやすくなることは事実だ。システィは得た情報を元に戦闘をイメージする。

すると、リーダー格と思われる男が空に向かって魔力弾を撃ち上げ、高々に言い放つ。

 

「よしテメェら、手荷物を含む金品を全部寄越せ!!」

 

いくつもの銃口を向けられ、御者さんも仕方なく積荷を下ろして差し出す。システィ達は竜の(あぎと)を除いて貴重そうな物は持ってなかったし、竜の顎自体もただの爪か牙にしか見えないためそのまま立ち尽くしていた。しかし、そのせいで山賊達の目に留まってしまった。

 

「おいそこの女二人、こっちに来い」

「…分かりました……」

 

エリナが怯えた様子で頷き、システィも続いて男の元へ歩み寄る。男の前に立って早々にシスティはフードを取られ、素顔が露わになる。控えめに言っても美人すぎるシスティを山賊が気に入るのは当然のことだった。

 

「……ほう…。中々上玉じゃねぇか。放っとくのは惜しいなぁ」

 

男はシスティの顎を押し上げ、気味の悪い笑みを浮かべる。だが、そのせいで男はシスティの怒りを買った。

 

「汚い手で触れるな」

「グハッ…!?」

 

思わず本気の正拳突きを放ち、男は軽く10メートルは吹っ飛ぶ。仲間が呆けているうちにエリナを背負い、御者さんを背後にして守る。

 

「テメェ、タダで済むと思うなよ!!!!」

 

山賊達は半円を作るようにシスティ達を囲み、銃を構える。

逃げ場のないこの状況の中、ただ一人システィだけが余裕の表情を浮かべていた。

 

「死ねぇ!!!!」

「天竜の旋風!!」

 

放たれた魔力弾は全て上空へと吹き飛ばされ、消滅する。そんな想定外の光景に一瞬の硬直が生じ、システィは一気に突っ込んだ。

崩れた陣形はただ自分達の首を締めるだけで、システィは敵を誘導して同士討ちを誘発させたり、軌道をずらして敵に当てたりして敵の数を減らしていく。相手もこのままでは不味いと感じたのか、攻撃を近距離に変更し接近してくる。しかし、狙って撃つだけの遠距離戦闘とは違って近距離戦闘では相応の技術が要るため、逆に一瞬で残りが片付いてしまった。残るはリーダー格の男ただ一人だ。

 

「さて、そろそろ何が目的か話して貰おうか。あ、もちろん戦いたいなら相手するよ?今度は手加減しないけど」

「……聞くなら聞け。答えられる範疇なら答える」

「そ、じゃあ遠慮なく…。

誰に頼まれてこの馬車を襲ったの?」

 

システィ達が乗っていた馬車は、荷台が小さな馬車で荷物も大して積んでいないのが外から見ても分かる。それなのに襲われた。しかも、山賊達は過剰と言えるほどの装備を揃えている。裏で糸を引いている奴がいると推測しても何も不思議はない。

そして、やはりシスティの推測通り黒幕が存在した。

 

「……ラーガスという名の男だ」

「えっ!?」

「ん?知ってる人なの?」

「はい…。本名はラーガス・グラルフ。エスティアでは父の次に有名な魔法具職人です」

「なるほどねぇ…」

 

狙いは確実にエリナの持つ竜の顎だろう。竜の顎は今の所世界に一つしかなく、魔力の貯蔵と放出という機能は何にでも応用可能だ。もしそんな竜の顎が複製されでもしたら、ルーエル氏の優位が確実なものとなってしまう。ラーガスは恐らくそれを嫌ったのだろう。

 

「……貴方のお父さんが心配だなぁ…。ちょっと急いだ方がいいかも……」

 

人質にとられているなんて事もありえないことはない。

エリナも同じことを考えていたのか、システィの言葉に大きく頷くと二人は馬車に乗り込み、再びエスティアに向けて進みだした。

 

「父さん……無事でいて…」

 

まだまだエスティアまでは遠く、今はただ待つしかできない。馬車の速度にもどかしさを感じながら、エリナはただ祈り続けるのだった。




最後までお付き合いありがとうございました‼︎
黒幕が登場し、早くも?終盤に入っていきます。
やっぱり内容薄いかな…すごく心配です。
次回も是非ともよろしくお願い致します‼︎


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28.対峙

一週間ぶりの投稿です。
出来ればこれくらいのペースで投稿出来たらと思っています。

それでは最後までお付き合いお願いします!!


約束の場所で馬車を降り、残りは自分達の足で歩くこと約二日、ようやく目的地のアスティアが見えてきた。ベスネルクからはだいたい五日程の長旅だったが、街に着いたら休んでいる暇はないだろう。隣を歩くエリナもどこかソワソワしている感じだ。

 

アスティアの門を潜ると、エリナは待ち構えていたように走り出す。目的地は言うまでもないだろう。システィもエリナの後を追う。ショートカットするためか大通りを素通りし、裏路地に入り込む。裏路地はあまりにも入り組んでいるためシスティは仕方なく上から追跡する。そして、町の中心から少し離れたところにある建物の前でエリナは足を止めた。

 

「……ここがそうなの?」

「はい…。ここがお父さんの工房です」

 

何というか意外だった。街を代表する魔法具職人のはずなのにその工房はボロボロで小さい。街の真ん中にある大きな工場がそうだと言われた方がまだ信じられた。

 

「…へぇ~てっきりあそこのでっかい工場なのかと思ってた」

「あそこはラーガスさんの工場です。あそこは大量に生産して安さを売りにしてましたから」

 

「それが、安定した売り上げをもたらすのだよ」

 

「「っ!?」」

 

振り返ると、そこにはいかにも悪巧みをしてそうな男が立っていた。背後には帯刀している護衛が二人控えてさせており、変に手出しはできないようにしている。

 

「よく帰ってこれたな、エリナ・ルーエル。父親に似て運だけは強いようだ」

「お父さんに何もしてないでしょうね!?」

「ああ……今のところは、な」

「くっ……」

「取り引きだ。俺はお前らに手出ししない。その代わり、お前の持っている竜の顎を渡せ」

 

こちらが断れないことをいいことにそんな条件を提示してくる。竜の顎を渡すわけにはいかないが、この状況では他に方法はない。エリナは仕方なくラーガスに向けて竜の顎を投げ渡した。ラーガスは念入りに本物かチェックし、それが本物だと分かると、顔を気味の悪い笑みで歪めた。

 

「クックック…。確かに受け取った。これでお前らに用はねぇ。親子仲良く死んでもらおうか」

「なっ…⁉︎どうして⁉︎約束と違う!!」

「約束?……あぁ、確かに言ったな。俺は(、、)手出ししない、ってなぁ」

 

そう言うと、ラーガスは踵を返し建物の影に姿を消した。それを黙って見送った護衛二人はシスティ達に向き直ると、刀を勢いよく抜き放く。その刀身は紫色で禍々しい雰囲気を放っている。恐らく、何かしらの効果を持った魔法具なのだろう。

剣先を向けられてはシスティも黙っておらず、エリナを守るように前に立つ。三人の視線が交錯し、そしてほぼ同時に地面を蹴った。

 

「天竜の鉄拳‼︎」

 

先手はシスティ。先行する一人に向けて拳を放つ。対する相手は刀の腹で防御しにかかるが、滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)の攻撃に対してその対応は愚策だ。滅竜魔法をあの細い刀身で受けたら破壊は免れないだろう。

しかし、蓋を開けてみれば刀を破壊どころか罅一つ付けられず、逆にシスティの左手が刻まれていた。

 

「くっ……その刀……」

「ああ。銘は叢雲(むらくも)。魔を絶ち祓う剣だ」

「なるほどねぇ……。つまりそっちの剣もそういうやつか」

「…銘を十握剣(とつかのつるぎ)という」

 

この状況に流石のシスティも面倒な相手だと思わずにはいられなかった。

あの魔法が効かないという能力は、さっきのような防御だけでなく攻撃にも利用できる。鎧のように纏った風を簡単に引き裂いてくる。―引き裂くというより霧散させられていると言うべきか―魔法での攻防が意味をなさない今、システィはただ避けるしかできない。

 

避けるのは訳ないけど魔法が効かないのは厄介だなぁ…。

 

システィは避けながら反撃の糸口を探すが中々有効的な手段が見つからず、結局今も攻めあぐねている。

 

「システィさん!!!!」

 

そんな時に工房の方から大きな声で呼ばれ、システィは戦闘の最中ながらも視線をそちらに向ける。すると、工房の方からエリナがこちらに向けて何かを投げるところだった。

 

「これ、使ってください!!」

 

二人から大きく距離をとって投げ渡された物を手に取る。そして、それを反射的に抜き放った。

 

「へぇ…いい刀だね」

 

投げ渡された物は刀身が白く透き通った刀だった。これも魔法具なのか、二人の持つ剣とどこか似た雰囲気を感じる。

 

「銘は天羽々斬。魔力を散らすことは出来ませんが、切れ味と魔力伝導性は抜群です!!」

 

エリナの言った通り、魔力を流し込むとまるで自分の体のようにすんなりと風を纏わせることが出来た。これに刀本来の切れ味が加われば、ほとんどの物は簡単に斬れそうだ。

システィは左腕の傷を治し、柄を両手でしっかりと握る。

 

「じゃあ、そろそろ反撃開始といきましょうか!!」

 

システィは地面を蹴り、思い切り刀を振るう。相手も刀で迎え撃ってくるが、気にせず振り切る。すると、全く抵抗を感じずに刀は切断された。まるで空振りをしたかのように斬った手応えが全くない。異常なほどの切れ味だ。それに、刀身に負荷がかかっている様子もない。

 

「これならいけるかも……」

 

システィには長らく封印していた技がある。その技は風の付加以上に刀に負荷をかけてしまうため、どんな刀でも壊れてしまうのだ。だけど、この刀なら少なくとも一回は耐えられるかもしれない。システィは刀を鞘に収め、これまで以上に魔力を流し込む。

 

「“研ぎ澄ませ(アームド)”」

 

鞘の中の刀に風が集まって行くのが鞘を持つ左手を通して分かる。しかも負荷が全くかかっていない。自分の魔力を全て流し込んでも耐えられそうだ。だが、今度は逆にシスティ側の技量が試される時だ。限界まで切れ味を強化されたこの刀でなら何でも両断してしまう。だから殺さぬように調整する必要がある。

 

「まさか、刀に試されるとはなぁ…」

 

システィは静かに腰を降ろし、相手を見据える。無駄な力を抜き、抜刀する瞬間に備える。相手を見て、その動きに合わせるように刀を引きぬく。

 

ギュィィィン!!!!

 

システィが刀を振り切った後から途轍もない轟音と衝撃波が発生する。流石にこの刀にも負荷はかかったようで、少し刃が欠けていたがその程度だった。あと三回は難なくやれそうだ。そして相手の方も、刀を綺麗に三等分(、、、)し、本人の方も致命傷を避けている。久しぶりなのに鈍ってなくてよかった。

 

「貴方達はその刀の性能に頼って剣技の方が疎かになってる。そんなんじゃ貴方達は刀に使われてるだけだよ」

「……最後の一閃、全く見えなかった。あれも剣技なのか…?」

「そう。私が編み出した抜刀術の奥義、『幻月(げんげつ)』。二撃目は音速を超え、三撃目以降は光速に迫る速度になる。刀の限界を無視すれば六連撃くらいは何とかいけるでしょうね」

「そうか…。俺も、まだまだということか…」

 

そう言って男は静かに地に伏した。システィはそれを見届け、そっと刀を鞘に収めた。集中が切れたためさっきまでの疲労感が一気に襲ってくる。だけどまだ全部が終わったわけじゃないのでそんなに休んではいられない。

 

「エリナちゃん、これありがとね。助かったよ」

「いえ、私に出来ることなら何でもしたいんです!!「」

「じゃあこの刀の手入れお願いできる?さっきのでだいぶ消耗してるから」

「はい!…でも時間が…」

「大丈夫。ゆっくりでいいから完璧にして手入れして」

「はい、わかりました!」

 

大事そうに刀を持って駆けていくエリナを見送り、彼女が工房に入ったところでシスティは立ち上がった。

 

「やっぱり置いていくんだ」

「うん。シェリルはあの子の傍にいてあげて」

「…分かった。でもよかったの?刀預けちゃって。相手は竜の(あぎと)を持ってるのよ?」

 

シェリルの言う通りで、この戦いは刀を使った方が断然楽だ。さっきの二本の刀は魔法を霧散させるだけだったが、竜の顎は魔法を喰らい、自身の魔力としても使うことができる。魔導士には相性の悪い敵だ。

 

「いいんだよ。正直一発ぶん殴らないと気が済まない。なるべく刀の整備が終わるまでには戻るよ」

 

シェリルの頭を優しく撫で、システィはラーガスの工場に向けて歩き始めた。一人歩くシスティの瞳には一切の慈悲もなく、純粋な怒りだけが宿っていた。




最後までお付き合いありがとうございます!!
予定では次回が最終回となります。ちょっと早いですかね…。
次は原作に戻って楽園の塔編を予定しています。

それでは次回もどうかよろしくお願いします!!


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29.決戦

竜の顎編最終話です。


特に妨害もなく正面から堂々と工場に入り込んだシスティはほとんど素通りで最深部まで辿り着いた。そこはどうやら魔法具の倉庫のようで、いろいろな魔法具が積み上げられていた。魔法具の山を通り抜けてさらに奥へと進むと、暗い部屋でラーガスが待ちかまえるかのように立ち塞がっていた。

 

「ようこそ、愚かな魔導士殿」

「敵を招き入れるなんて随分余裕そうね。護衛二人を倒された今、貴方の盾はもうないのよ?」

「ハハハ、あいつらは形だけの護衛だ。第一、人間など信用できない。すぐに嘘をつき、裏切る。その点、発明品は裏切ることは無い」

「信じられるのは自分の魔法具のみってわけね。ホント、悲しい人」

「口うるさい奴だ。…丁度いい。お前には新兵器の実験台になってもらおう」

 

ラーガスがボタンを押すと同時に床から何かがせり上がってくる。暗くてよく見えないが、シルエットから人型のように見える。ガタンと音を立ててリフトが止まると、今度はガシャンガシャンとまるで鎧が歩くような音を立てながらそれが動き始めた。

 

「これが新兵器、“パラディン”だ。」

 

姿を現したのは盾と剣を持つ騎士の鎧。しかも、鎧の魔法具ではなくあれ自体が自律した魔法具なのだろう。人の気配が一切感じられない。鎧と盾と剣の全てが何らかの効果を持った魔法具だと考えて戦った方がよさそうだ。

 

「さて、性能チェックだ。行けパラディン!!」

 

命令を受けてまっすぐ突っ込んでくるパラディンに対してシスティはすぐさま構えを取って動きを観察する。とりあえず最初はこちらからの攻撃は控えて、相手の行動と攻撃のパターンを分析する。中に人が入っている訳ではない為、パラディンの行動には何らかの規則性があるはずだ。それが大体把握できれば次は防御。パラディンが取れる行動は防御、回避、カウンターの大きく分けて三つだ。把握するのはそう難しくない。そして最後に魔法に対する行動だ。奴が相当な馬鹿でない限りあれを仕込んでいるはずだ。

 

「天竜の翼撃!!」

 

予想通り盾によって防がれた魔法は全て吸収された。どうやら竜の顎は盾に埋め込まれているようだ。これだとダメージを与えるには盾を掻い潜って直接攻撃するか、盾を奪うしかないだろう。だが、盾はパレディンの腕と完全にくっついているため、ここは前者の作戦で行くしかない。幸い、奴の行動パターンは解析済みだ。うまく相手の盾で出来た死角に入り込んで一撃を狙う。

 

「天竜の鉄拳!!」

 

技はしっかり胸元にクリーンヒット。しかし、鎧は少し凹んだ程度でダメージがあまり通っていない。そこまで堅そうにみえないのになんで…。

 

「盾を避ければダメージを与えられるとでも思っていたのか?パラディンを甘く見てもらっては困る。そいつの鎧には高い魔力伝導性があってな、鎧を通じて魔力を吸収できるのだ」

「解説どうも。でも、確かに厄介ね…」

 

ラーガスの言う通り鎧への攻撃もあまり効果的ではない。さっきの鉄拳も魔力を吸収されて精々凹ませることぐらいしかできていない。こちらの攻撃が全くいかない為完全に打つ手がなくなった。

 

「どうだね、私の最高傑作は?」

「確かに倒すのは難しいけど、正直負ける気はしないわね」

「ほう?ならば…パラディン、バーストモード」

 

『コマンド確認、バーストモード』

 

盾からまるで血管のように赤い線が延びて鎧が赤く染まる。直感的にあれはヤバいと感じ、構えた時には奴は魔横にいた。

 

「えっ、うぐっ!?」

 

思い切り蹴飛ばされ、壁に激突する。間髪入れずに剣が突き刺されるのを紙一重で躱し、何とか距離を取る。パラディンの方は勢い余って壁を破壊し、瓦礫の下に埋まっている。だが、時間稼ぎにもならないだろう。

 

「何?あの速度とパワー…。吸収した魔力を身体強化に使ってる?」

「ご名答。だが、それだけじゃあない」

 

すると、瓦礫の隙間から光が漏れ出し、それは次第に強くなってくる。この光り方、まさか魔法⁉︎

 

『フレイムバースト』

 

爆音と共に炎の渦が一気に瓦礫を吹き飛ばす。しかも、放たれた炎は再び盾に吸収されていく。

 

「永久機関とまではいかないが、こういう風に自身が使った魔法を吸収して魔力消費を最小限に抑えることもできる。どうだ?これでも負ける気はしないか?」

「くっ……」

 

パラディンのことは、所詮魔法が効かない魔導兵器だと甘く見ていた。それに、ここまで手こずるなんて一切考えてなかった。

 

ちょっと調子に乗ってたな…

 

戦姫なんて呼ばれて、さらには聖十大魔道に誘われたことで完全に調子に乗っていた。油断は隙を作り、隙は死を招く。システィ自身がナツやグレイに何度も言ってきたことだ。自分が油断してどうする⁉︎

 

「……ナツなら、どうやって切り抜けるかな…」

 

『魔法が効かなかったら?んなもん素手で殴りゃいいんだよ』

 

「ふふっ。ナツならきっとそう言うだろうね」

 

シルフィはポツリとつぶやくと、パラディンに向けて拳を構えた。無駄な思考は要らない。ただ、自分の全力をぶつけるだけ。

 

「止めだ。いけ、パラディン!!」

「これで決める…」

 

システィは風を推進力に利用し、一気に距離を詰める。距離を詰めた後は、普通なら拳に魔力を纏わせて威力を上げるところだが、今回はそのまま勢いをつけて拳を放つ。

 

「…天竜の|剛拳≪ごうけん≫!!」

 

システィとパラディン自身の突進力が相乗効果を生み、魔力を纏っていない拳は簡単に盾を貫き鎧を粉砕した。魔力が吸収されないため威力が落ちず、貫通力と威力がすさまじい一撃をもろに喰らったのだ。パラディンはボロボロ。魔力の吸収もできていないようだ。だが、システィも素手で盾と鎧を殴っているので、右手は完全に折れて血だらけになっている。

 

「ば、ばかな……。私の…私の最高傑作が…」

「さてと、次はお前の番だクソヤロウ!!」

 

システィは左拳をラーガスに向ける。ようやく殴れると思うと自然と力が入ってしまう。

 

「ひっ…く、くるな!!」

 

腰が抜けたのか這ってでも逃げようとするラーガスの首を掴み、上に放り投げる。

 

「みんなの痛み……受け取れクソヤロウ!!!!天竜の鉄拳!!」

 

システィの怒りが込められた拳はラーガスの腹部に命中し吹き飛ばした。そのまま壁に叩きつけられたラーガスは気絶。無事報復が済んだシスティはエリナの待つ工房へと戻るのだった。



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30.帰還

お久しぶりです…。
長らく時間が空いてしまい、本当にすみません。

それでは最後までお付き合いお願いします!!


ラーガスを倒したシスティは、後のことを町の衛兵団に任せて、気絶したラーガスを引き渡した。どうやらラーガスは数々の悪事を働いていたにも関わらず、その証拠が見つかっていなかったらしい。しかし、今回の一件でようやく逮捕に踏み切れたらしい。

これで役目も終わったので、システィは自分の怪我を手当てしてからエリナの待つ工房へと向かい始めた。時間を見てみると、一人工房から抜け出してからもう一時間半程経っている。やはり心配していたのか、刀を持ったエリナが工房の外で待っていた。

 

「どこ行ってたんですか!?心配したんですよ!」

「ごめんね。でも、ちゃんと取り返してきたから」

 

そう言うとシスティは竜の(アギト)をエリナに手渡した。

 

「え、これって…」

「ラーガスは私がちゃんとぶっ飛ばしたよ」

「本当に取り返してくれたんですね!?」

「言ったでしょ?システィは強いって」

「シェリルもエリナちゃんのことありがとね」

 

頭を撫でてからシスティはシェリルを抱きかかえる。エリナは改めて頭を深く下げた。

 

「システィさん、本当にありがとうございました。感謝してもしきれません」

「いいよ。私が好きでしたことだから」

「いえ、是非お礼をさせてください。私に出来ることならなんでも言ってください!!」

「いや、でも……」

「是非!!」

 

何とか断ろうとはしたけど、結局強い押しに折れたのはシスティの方だった。だけど、お礼と言ったってして欲しいことなんて何も無い。だからと言って適当に流すのも相手に失礼だ。

 

「じゃあ……一つ、お願いしようかな」

 

何とかアイデアを捻り出し、願いをエリナに託した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

「あら、おかえりなさい。システィ」

「ただいま、ミラ姉」

 

ギルドに顔を出してすぐにミラジェーンに声を掛けられ、二人で軽く言葉を交わす。休養中のことを簡単に話した後は、自分がいない間のギルドのことを聞いた。やっぱりナツは勝手にいなくなったと言って怒っているらしい。ちゃんと行く前に言ったのにな…。

 

「あ!ナツ、システィ帰ってきてるよ~」

「ホントだ!!システィ、お前どこ行ってたんだよ!?」

 

仕事帰りなのか、荷物を持ってギルドに戻ってきたナツはシスティを見つけると、すぐさま飛びかかってくる。

 

「ちゃんと言ったじゃない。休養にポーリュシカさんの所に行くって」

「そだっけか?」

「やっぱりオメェが忘れてただけじゃねぇ〜か、この馬鹿が」

「ンだと!?やんのかグレイ!!」

 

グレイが口を出したことでいつものように二人の口論が始まる。一人蚊帳の外となったシスティはそのうちにマカロフへの報告へ向かう。

 

「マスター、今帰りました」

「おおぉー、休暇はどうじゃった?」

「まあ、有意義な時間でした。十分に休んだのでこれから妹を探しに行こうと思います」

「そうか。…そのことはエルザから聞いとる。見つかるといいのぅ…」

「はい…。」

 

マカロフと話終えた後、システィは早速準備のためにギルドを後にする。一先ずミストガンが最後にウィンディと別れた所へ行ってみるが、一応いなかった時も考えて長旅の用意をしないといけない。しかし、ギルドを出てすぐに後を追いかけてきたルーシィに引きとめられた。

 

「待ってシスティ!」

「どうしたのルーシィ?そんなに急いで」

「これ、アカネリゾートのチケットなんだけどシスティもどう?」

 

確かアカネリゾートは王国でもっとも人気のある海辺の観光地だ。綺麗なビーチはもちろん、遊園地のようにいろんなアトラクションもあり、中にはカジノもあるんだとか。フィオーレに住んでいれば一度は行ってみたい所だ。でも、今のシスティにはやることがある。

 

「私はいいよ。ちょっとやることがあるし」

「エルザから聞いてるよ。ちょっと長旅になるかもなんでしょ?」

「そう。だから今回は遠慮しとくよ」

「じゃあなおさら行こうよ!!こんな機会滅多にないよ!?」

「何をしている。ルーシィ、システィ、早く準備しろ」

 

なぜか事情を知っているはずのエルザも準備万端でシスティを誘ってくる、というか行く前提で話が進んでいる。システィも行くことは最早決定事項のようだ。

 

「ま、リゾートの近くからも船は出てるし、そこからでもいっか」

 

結局システィが折れることでリゾート行きが決定し、システィの旅はお預けとなったのだった。




最後までお付き合いありがとうございます!!
今回でオリジナルストーリーが終わり、次回からは楽園の塔編です。恐らく更新のペースが落ちていくと思いますが、どうか次回もよろしくお願いします!!


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