狼の意志 騎士の剣 (SUSHI)
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夢の中

夢を見る。夢を見ている。

 

目の前には懐かしい友がいた。懐かしい姿を俺に見せつける。

 

白くてモサモサした、でかいだけの犬みてぇに人懐っこいアイツ。誰よりも純粋そうに楽しげに、俺と一緒に居た。

 

クソ田舎の山の中。だだっ広い森に住んでいた、数居た友人の中のただひとりの親友。誇らしかった。

 

夏の暑い日も、雪の降る寒い日も、俺は、アイツと一緒に居た。嬉しかった。

 

ワン!オン!と吠えながら、いつも一緒に森を走り回って、青春と呼べる内の大半がアイツとの思い出だった。楽しかった。

 

出会った時の事は・・・なぜだろう。あまり覚えてない。しかし、ひどく唐突に出会い、当時からずっと友人だった様に覚えている。

 

ガキの頃から一緒に遊んだせいか、すっかりアイツみたいな動きが出来る様になった。なっていた。お陰で高校のワンゲル部じゃ、森や山では負けなしなんてよく言われた。でもつまらなかった。

 

夢を見ている。 自覚はある。

 

 

最高の友は、アイツは・・・しかし俺の前から姿を消した。

 

急に居なくなった。森から、俺の世界から消えさった。

 

 

 

中二を目前に控えた春未満なあの日。アイツはチラチラと、すっかりでかくなった俺を見て、何かしらを伝えようとしていた。あるいは、俺がそうであったように思いたかっただけかも知れない。これは、この光景は、夢なのだから。

 

 

しかし、次の瞬間は覚えている。間違っていないと言い切れるほど鮮明に覚えている。

 

森の奥。深い森のさらに奥から、何かが俺たちを見ていたのだ。

姿を見たわけでも、目があった訳でもなかったが、間違いなく何かが俺たちを見ていた。

 

幼かった俺は、その感覚が一瞬だったこともあって、呑気にそのまま過ごしてしまった。

だが、アイツは違った。まるでいい機会だとでもいうかのように、次の日から俺の前に現れなくなった。

 

後日、姿を消したアイツを探して森に入った時、血溜まりを見つけた。肝を冷やした俺はさすがに楽観視はしなくなり、日課のように行なっていたゲームさえも忘れてアイツを探し回った。

 

死んでしまうかもしれない。そう思っていた。

死んでしまったのだろうか。不安は増していた。

 

しかしアイツは見つからず、ついに俺は探すのを止めた。アイツが姿を眩まして、3ヶ月と少したった頃だった。

 

後悔と失意の中で、俺の世界は家の中だけになった。森を見たくなくなったのだ。アイツを見つけられなかった自分が嫌で、どうしようもなくなっていた。

 

夢の中に居る。 夢の中に生きてる。

 

そんな日々に、ついに転機が訪れる。ゲーム「ダークソウル」が発売されたのだ。

 

ただ腐っていた俺を見かねた友人が、俺の親に薦めたらしく、寝ていた俺の枕元に唐突に置いてあった事を、薄らぼんやりと覚えている。

ただ過ぎていく日々も悪いものではなかった記憶があるが、退屈と好奇には抗えず、遂にプレイし始めた。

 

ゲーム一つでそこまで劇的に何かが変わる訳でもなく、ただ無関心にプレイしていくなかで、心を動かされた存在があった。

グゥインの四騎士の1人、アルトリウスとその友、シフだ。

 

彼らの関係性はまるで俺とアイツのようだった。いや、立場を逆にすればまるで"そう"だ。

だからこそ惹かれていった。ゲームの世界に。

 

DLC攻略直後にシフを手にかけた瞬間を覚えている。今にもゲームを投げそうだった。しかしそうはさせなかった。ダークソウルという世界が俺の心掴んだからだ。

 

そして俺は、学校に復帰した。ダークソウルを薦めてくれた友人に、会って礼をしたかったし、ゲームにのめり込んだ俺の姿を親に見られるのが、ひどく恥ずかしかったから、だ。

 

いや、そうじゃない。一番の理由は、残された者として、森を守りたかったらだ。

灰の大狼 シフの様に。アイツの森を、アイツとの思い出を、綺麗なままで守りたかったら、だ。

 

 

夢 が 終 わ る 。

 

・・・ああ、幸せで有意義な時間だった。思い出した懐かしい姿は、決意を固めさせてくれる。

 

かつての日々では成ることが出来なかった、誇り高き狼騎士に、俺は遂に近付きつつあるのだ。

 

さあ、もうひと頑張りだ。どうせ疲れたら文句が沸き上がってくるが、それはここに慣れてきた証拠だ。

 

目指すは狼騎士アルトリウス。




プロローグ 狼


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簡単な世界観

 今日は夢見が良くとても機嫌が良かったが、だがしかし、それが延々と続く訳もない。疲労を感じるほどの運動中ならなおさらだ。

 端的に述べるとするならば、疲労からか大分ダウナーな気持ちだった。

 

 

 

 朝起きて、飯食って、働いたら寝る。下らなくて変わらない、ありふれた日々だ・・・。

 それでも俺は、退屈で窮屈な平凡というものを気に入っていたのだ。決して変化なんて望んじゃいなかった。

 思い出したからか、不満がこぼれる様になってしまった。

 あるいは、寂寥感か。

 

血が剣に纏わり付く。剣の重さが増し、刃が鈍く光る。

 

 ええい、こんな暗い思考は切り替えよう。俺にとって人生の潤いとは飯だ。うまい飯は活力に直結する。美味しかったと思えなくとも、舌に残る味というのは必ずあるものだ。

 そういえば、いつだかに食ったコンビニ弁当の味が妙に舌に残っている。白米に黒ごまがかかっている、ありふれた弁当だ。おかずは・・・あー・・・なんだったか・・・。

 

敵の懐に鋭角に飛び込み、跳ねるように動き回る。それに遅れてやってくる大剣が鎧を叩き崩す。

血が、舞う。肉が踊り、金属が光を失う様に汚れる。

 

  ああ、そうだった。好物の油淋鶏だった。下に中途半端なスパゲッティも忍ばせてあった。

  俺が思うに、あの微妙なスパゲッティはレタスの代わりなんだ。本当なら下に新鮮なシャキシャキレタスを敷きたい所だが、たいした調理もしてないレタスなんて弁当に入れた日にゃ、手抜きだなんだと批判が殺到しそうだから入れられず、泣く泣く、せめてあと少しと言わんばかりにスパゲッティを敷いたのだ。

 けれども、ああ。かなわくば、もう一度だけでいいから、うまい油淋鶏が食べたいものだ。酸っぱくて、甘い、絶妙なタレと鳥の脂が混ざることで味わえる旨味。想像しただけで腹が減ってくる。

 

泥でも被ったように重い体を動かしてここを後にする。剣に付いた血を払い、背の鞘にしまった。

 

うん?何をしていたのだっけ。はてさて、現実に立ち返る。辺りには荒廃した前時代的な街並みが、あるいは俺自身が、汚ならしく赤黒く汚れているだけだった。

「さて、今日の晩飯は何にしようか。」

オン!と鳴く声が聞こえた気がしたが、周りには動きがまるでない。

 結局、何を口にしたところで、答えるモノは誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暖かい朝日を感じる。心地がいいぬくもりだ。重い体を起こして軽く伸びをし、て・・・ああ、またこれだ・・・。

 

 スッキリとした頭で昨日の依頼を振り返る。

 多少群れた山賊相手とはいえ飯の事を考えながら片手間に戦うなんて、礼節に欠ける行為だった。騎士だなんて名乗れそうもない。遠い道のりだった。

 

 そうやって、一人で頭を抱え悶々と反省をしているところで、空きっ腹が空腹を訴えかけてくる。

 

 

 うん、そうだな。飯にしよう。朝食というものは頭を働かせやすくする効果が認められている。今よりまともにものを考えられるはずだ。

 

 宿の個室のドアを開け、一階の食堂に向かう。ここの食堂は多分この街一だと思っている。宿泊客じゃなきゃ入れないっていう制限さえなければだが、断定したって良い。

 

「よぉ、昨日はずいぶん暴れたみたいじゃないか。」

「昨日の後始末の依頼が出てるぜ。受けてきたらどうだ?」

「そうだな。払いが良ければ、な。」

 

 人の営みは変わらない。欲するものが共通しているからだ。

  "ここ"もそうだ。金をもらって飯を出す。金を払って安全な良い寝床を借りる。

 

 それはつまり、欲求が共通している同程度の知性を持つ存在ならば、人間でなくとも人のコミュニティを築き上げるという証左なのだろう。

 この光景を見ていると、心の底からそう思う。

 

 今俺の近くには多くの、特徴を持つ種族が集まって朝食をとっている。例えば俺の隣の席で岩をかじっているトカゲ人間は、サラマンダーという種族だ。

 彼のような赤い体表のトカゲ人間以外にも、水辺に暮らす緑のトカゲ人間も存在しているらしいが、あいにくまだ見たことがなかった。

 見るからに人ではない見た目をしているが、しかし彼らは人だ。地球でいう人種のようなものなのだ。差別や理由の薄い嫌悪は残っているところもあるが、あまりに人の範囲が広すぎて、いちいち気にしてられない!とのことだ。

 顔の見えない友人が少しばかり見られるが、寝坊したのかもしれないし、そもそも今生きていないかも知れない。昨日まで元気に生きていた人が今日生きていない、なんて、そんなものはここでは日常なのだ。

 

 だからこそ、唐突に現れた俺のような存在でも金を稼ぐために仕事を受けられる、何でも屋が存在しているのだろう。

 

 

 

 何でも屋。自由請負業下請け団体構成員、だ。

 依頼を受け、凱旋する・・・有り体にいえば、ギルドのようなものだ。その例えが最も的確だろう。

 

  何でも屋の歴史は古く、この世界での数百年前から続いているものなのだそうだ。故に、歴史に裏打ちされた何でも屋の社会的立場は大きく、しかし薄い。

  何故ならば、信用できる組織ではあれこそそれは、依頼完遂率を保証出来るものではないからだ。

  つまり、だれでもそれなりに簡単に成れるということは、人材の多様化、質の低下に繋がる。

 それをわかっている何でも屋も出来る限りのフォローを行っているが、いかんせん数が多すぎる。単純に手が足りないのだ。

 そもそも、何でも屋の運営部分の構成員は精鋭が揃えられている変わりに、セキュリティなどの面から見ても簡単には増やせない存在なのだ。

 

 ふむ?話が逸れすぎてしまった。朝食はもう片付けた。俺は朝食後に何をするのだったか・・・。

 

「うーむ・・・。」

 

 

 散歩がてらに森行きの依頼でも探してこよう。

 

 

 

 何でも屋には、「何でも屋」自体を筆頭に様々な名称が存在している。

 わかりやすいのは「何でも屋」でどこに行っても大抵通じるが、地域ごとにまた別の名称が合って、それを様々な出身のやつから聞いて呑むなんてのは、割と定番の話題なんだそうだ。

 ちなみに俺は、誰かが言ったうううう団が一番好きだ。聞いて面白けりゃ言って面白い。乱雑さが人気を呼び、仲間内ならある程度は通用するのだ。利便性なんてカケラもないが。

 そんなくだらない事をつらつら考えながら受付に挨拶をされた俺は、長ったらしい格式張った正式名称の上に貼られた[うううう団]の事を黙って挨拶を返し、受付を後にした。

 

 入って直ぐに、真新しい依頼表が多少貼り付けられたボードを目に入れる。このボードは緊急性の高い依頼が貼られるボードだ。大抵の場合はここに張り出される。旨味の多い依頼はもちろん、少ない依頼だろうと正義感の強いバカや各支部に配属されているその道の猛者がさっさと終わらせる為、一日ごとに置き換わっている。

 しかしながら、今日のボードは大雑把にまとめると

・戦場跡にて行われるサルベージ及び残党狩り

・使われた消耗品の作成の為の人材募集

・近隣の村へのキャラバンの護衛隊募集

  の三つの依頼しか出されてないようだ。

 

 森行きの依頼がないならば、長々と見ていても仕方ない為奥の恒常ボードを見に行く。確か調査依頼がまだ期間だったはずだ。

 

 恒常ボードは読んで字の通り、常に張り出されている依頼だ。

 食料や薬草の調達のような必需依頼から、各地への調査といった長期間の確認が必要な依頼がこちらに張り出されている。

 

 今貼られている森行きの依頼は、先にあげた環境の調査依頼とここ近辺ではあの森にしか生息していない鳥の狩猟、どこにでも生えている薬草の調達依頼程度だった。

 



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