このきっと素晴らしい世界で美遊に祝福を (録音ソラ)
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0話 聖杯

かっこいい士郎くんのお話が書きたい(願望)

この願いは叶えられるのだろうか


 そこでは一つの出会いがあった。

 

 そして俺は『正義の味方』に憧れた。

 

 

 

 そこで一つの別れがあった。

 

「正しく成ろうとすることが間違いのはずがない」

 

「俺が間違いになんてさせないからな…‼︎」

 

 

 

 そこで妹と親友と後輩が出来た。

 

 正義の味方には成れなかったが、幸せな日々が出来て正しかったんだと思えた。

 

 

 

 そこで全てが失われた。

 

 妹を、親友を失った。

 幸せだった日々は終わりを告げた。

 そして、カタチだけを真似た正義さえも失った。

 

 そこで始まりがあった。

 

 聖杯戦争。

 

 親友だった者は人類の救済の為。

 俺はただ一人の妹を取り戻す為。

 

 後輩だった者を失い、託された想いを受け取り戦った。

 

 俺とは違い、正義の味方へと到達した者の力と共に。

 

 戦って戦って戦って。

 自分以外の聖杯戦争の参加者達を倒していった。

 

 

 

 そこで勝利を手に入れた。

 

 聖杯戦争での勝利。

 聖杯を使い、願いを叶える権利を手に入れた。

 

 俺はただ願った。

 

「-我、聖杯に願う」

 

 神稚児として、願望機として、モノとして妹を使われない、妹が苦しむ事のない世界を。

 

「美遊がもう苦しまなくていい世界になりますように」

 

 外を知らない美遊にはもっとたくさん知ってもらいたい。

 

「やさしい人たちに出会って…」

 

 俺以外とは全く会ってないからな。

 俺は失ったけど、美遊にはたくさん作って欲しい

 

「笑いあえる友達を作って…」

 

 本当に

 

「あたたかで」

 

 本当に

 

「ささやかな-」

 

「幸せをつかめますように」

 

 ただ美遊が幸せになれるように。

 

 

 ??side

 

「幸せをつかめますように」

 

 傷だらけで、泥だらけで、ボロボロになった兄は微笑みながら、ただ本当に私が幸せを手に入れることができるよう、そう願った。

 

 聖杯としての機能が、その願いを叶えようとする。

 聖杯の接続陣が起動する。

 だけど、私にはそれだけでは幸せに成れないと知っている。

 そこには、兄がいなければ。

 聖杯が『衛宮士郎』のいる世界へと繋げようとしている。

 

 そうではない。

 それでは幸せには成れない。

 目の前にいる、私の幸せを願ってくれたお兄ちゃんがいなければ-!

 

 その願いが、私の二つ目の願いは-叶えられた。

 

 士郎side

 

 聖杯の接続陣が起動したのを確認した。

 これで美遊は幸せに生きられる。

 美遊の手を離す。

 

 これからこの願いを壊そうとする者が来るだろう。

 それから美遊を守る為、行かなくては。

 美遊のためだけに振るうこの力を使って。

 

 陣から出ようとした-その時。

 

 俺の体は不意に、宙に浮いた。

 

「なっ…⁉︎」

 

 何故、そう思い振り返る。

 美遊は気を失っている。

 しかし、美遊も宙に浮いている。

 聖杯は願いを叶えようとしている。

 美遊の幸せの為に。

 その為には俺も必要だということだ。

 

 しかし、まだ俺にはやることが。

 この願いを壊そうとする者を。

 美遊をこうして聖杯として使おうとした者を。

 桜が死んでしまった原因を。

 

 しかし、その想いは届かない。

 

 そして、俺の意識は、そこで途切れた。

 




はい、ということで異世界とか別世界へと飛びます。
ぶっちゃけ飛ぶ先考えてねぇ…
どうしよ、何かいい案ないかな?
え?タイトル?このすば?タイトルはカッコカリだから、願望だから、お兄ちゃんの願望だから

まぁ、はい。多分このすばの世界へ…他にあるのでしたら何か意見を…くれたらなぁって


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1話 プロローグ

結局このすばということにしました。はい。



 目が覚めると、そこは見知らぬ空間だった。

 

 隣には美遊がいる。

 聖杯の願いは叶った、のだろうか。

 それにしては、周りは何もない。

 いや、目の前に一人、見知らぬ女性が立っていた。

 

 そして、目の前に女性はこう言った。

 

「ようこそ、死後の世界へ。私は、あなた方に新たな道を案内する女神。衛宮士郎さん、衛宮美遊さん。あなた方は……あれ?」

 

 今、なんて言った?

 

 死後の…世界?

 

 あの後、俺は美遊と共に殺されたのか…?

 いや、それはあり得ない。

 あいつは、ジュリアンは美遊を聖杯として使おうとしていた。

 もし、殺しても使えるのであれば抵抗するようなものは殺して使う方が使いやすい。

 だが、そうしなかった。

 つまりは、死んでいてはダメなんだ。

 

 では、何故俺は、俺と美遊は死後の世界なんてところに…

 

「え、あ、あー、そういうこと、なるほどなるほど。死んだわけじゃないのねー。道理で死因とかが全く記載されてないのね。ふむふむ」

 

 そう考えている間に一人納得している女神。

 資料と思われるものを見た後、再び此方を見る。

 

「こほん、あなた方は聖杯の力により、この死後の世界へときました。ここでこの先を決めることになります。選択肢は4つ。一つ目はあなた方のいた世界へと赤ん坊として再び生まれる。二つ目は天国的なところへ行って、おじいちゃんみたいな暮らしをする」

 

 どうやら、選択肢があるみたいだ。

 ただ、今言われた2つはダメだ。

 美遊に幸せは訪れないだろう。

 それに、あの世界で再び生まれたところで美遊がそのまま同じ力を持って生まれてしまったら願った意味がない。

 それに天国的なところへ行ってしまう。

 つまり、死ぬ。

 それこそ幸せはつかめない。

 

 却下だ。

 

「3つ目は、あなたの使っていたカード?が、飛び散ってしまった世界への転移。これは私の管轄下ではないので、他の女神がしてくれるでしょう」

 

 カード。

 聖杯戦争で使用したカードのことだろう。

 アレがある場所はなんて行けば、美遊がまた巻き込まれる可能性がある。

 そんなことは絶対ダメだ。

 

「4つ目は私の管轄下にある、とある世界への転移。ここはあなた方が知っている世界とは異なったものです。あなた方が魔術と呼んでいるものが魔法として使われていたり、魔王なんていうものが存在している世界です。あなたが戦っていたサーヴァントと呼ばれるものより弱い魔物ばかりで危険は殆どありません」

 

 正直に言ってしまえば4つ目も却下だ。

 確かに俺は美遊を守る為に戦ってきた。

 それなりに戦うことは出来る。

 

 だが、美遊は違う。

 

 もし、美遊が巻き込まれでもすれば--

 

「もし、4つ目のものを選ぶのでしたら、今ならお得な特典付きっ」

 

 唐突に、新聞の押し売りみたいになった。

 

「魔王が出るわなんだで、死者が沢山、生まれ変わりを選ばない人が多くて、子供が増えない。だから、他の世界で若くして死んだ人にはチート要素盛り沢山な特典を与えて、魔王討伐をしてもらおうとしてるの」

 

 それを俺たちにもさせようと言うのだろうか?

 

「あ、でも安心して、もう勇者ばかりで魔王討伐だってもうすぐなはず!だから、恐れることはないわ!あなた達に特典を与えるのは念のため。戦わなくてもいいし、戦ってもいい。自由に生きてもいい世界よ!」

 

 とても胡散臭い。

 いや、元から女神というもの自体胡散臭いと思っていたが、先ほどの雰囲気からしてもしかしたら、とも思いかけたこともあった。

 今はそんな雰囲気など一切ない。

 美遊も俺の背後に回り、変なものを見るような目で目の前の女性を見ている。

 

「あんたの話は分かった。けど、多少でも危険があるのは選べない」

「大丈夫よ!もし送ることになってもそこは安全地帯だから!それに、危険があってもキャベツが飛んでくるぐらいだから」

 

 キャベツが飛ぶなんて訳のわからないことを言われたが、何というか、危険な要素は皆無に思えてきた。

 

「いや、魔王なんてものはまだいるんだろ?なら、危ないんじゃ」

「冒険者の初心者が集まるような街にそんな魔王なんて来ないわよ。それに、魔王が近くにいる王都なんて勇者だらけで襲撃があってもすぐに鎮圧されるんだから」

 

 何故それで魔王が死んでないのか?

 だが、相手の言いたいことは分かった。

 

「とにかくその世界に行けって言いたいんだな」

「そういうことよ!」

 

 俺としては、まだ不安ではある。

 美遊がそんな場所で幸せになれるのか。

 危険があっても美遊を守れるのか。

 

「美遊はそれでいいか?」

 

 美遊は頷いてくれた。

 美遊がそれでいいのなら、そこへ行くとしよう。

 

「分かった。そこへ行く」

「分かったわ、じゃあ何か欲しいものを選びなさい!」

 

 様々な武具などがある。

 しかし、必要なのはこんなものではない。

 

「異世界へ飛ばされるんだ。住処か、金銭面を何とかしてもらえると助かる。美遊に野宿はさせられない」

「金銭面であれば用意しましょう。他に何かありませんか?」

 

 先程とは違い、女神っぽい雰囲気を再び出し始めた。

 醜態を晒したとでも思ったのだろうか?

 

「ほかは…そうだな。送られた後、まず何をすればいいんだ?言語は通じるのか?」

「言語は送るときに脳にビビビーっと書き込まれる感じですから安心してください。送られた後は、まず冒険者ギルドへ。そこで冒険者のカードを作ってもらいます。それが身分証明書のようなものになります」

 

 ビビビーってなんだ。ビビビーって

 

「登録が終われば後は宿探しや仕事探し、冒険者としてクエストを受けるのもいいでしょう」

 

 そういうと何処からか現れた人?に、重たい袋を渡された。

 中には紙幣や硬貨が入っていた。

 

「それは向こうの通貨です。此方から出せるのは50万エリス。少しの間でしたら仕事もせず少し安めの宿屋暮らしは出来ます」

 

 紙幣が微妙に少ないのだが、何故硬貨ばかりに…

 

「では、これから送ります。魔法陣の中にお入りください」

 

 その言葉に従い、美遊と共に魔法陣に入る。

 美遊は「見たことのない魔法陣…」なんて呟いていた。

 俺も転移する魔法陣なんてものは見たことがない。

 聖杯の接続陣とも違うものになっている。

 大丈夫なのだろうか。

 

「では、素晴らしい第2の人生を」

 

 そう笑顔で見送る女神を見た後、光に包まれ、意識は途切れた。




正直に言おう。このすばはほとんど読んでない。というより、アニメも二期の後半しか見てないので今読んでます。
このすば関連のことは間違いが多いかもしれないのでその都度指摘してもらえればと思います。
アクアって基本泣いてるイメージしかないし、テンション高いイメージ。女神っぽい雰囲気とか知らない。
こんなのでいいのだろうか?

次回から異世界生活が始まる。美遊の出番増えろ


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2話 『本当』の始まり

原作変更しました。
紛らわしい。そういう感想をいただいたので。
はい、自分自身、これプリヤのキャラが出るだけやーんとか思い始めてました。
もともとこんなつもりじゃなかったんだっ(棒読み

というわけでプリヤのキャラが出るだけのこのすばの様なもの。良ければ読んで感想とか、評価とか、お気に入りとかしてくれると泣いて喜んでハイジャンプします


 気がつくと、路地裏に立っていた。

 

 少し暗い。

 暗いが分かる。

 ここにある壁や舗装されたこの道はアスファルトでなんて出来ていない。

 石で出来たものだ。

 それに木の板に貼り付けただけ飾り付けというわけでもなく、本当に石のみで出来た壁のようだ。

 前の世界とは文明の差、と言うのだろうか。

 それがとても感じられる。

 いつまでもここにいるわけにはいかない。

 

 路地裏から大通りと思わしき場所へ出る。

 そこで見たのは--

 

 中世風の景色。

 人の姿はしているが、耳が長く尖ったようになっている者、獣っぽい者などの変わった人種。

 風景だけ見れば過去へと、ここにいる人を見ると別の世界へと。

 そんな場所へ飛ばされたんだと改めて認識出来てしまう。

 本当に異世界へと飛ばされたんだな…

 あれは本当に女神とかそういうのだったのか。

 なんて考えていた。

 

 そんな俺の隣で美遊は頭から煙が出ていた。

 

「獣…人……耳があんなに長く、それに沢山…何故…あんな…」

 

 どうも、この目の前にある現実がなかなか受け入れられていない様子だ。

 そういえば美遊には絵本とかを全く読ませてなかったんだった。

 なら、無理もない。

 こういう如何にもファンタジーな世界は美遊にとっては理解しがたいものなんだろう。

 

「美遊。こっちではこれが普通なんだ。だから、難しいかもしれないが現状を受け入れてくれ」

「……う、うん…」

 

 初めて見るものばかりで不安だったり怖かったりするのだろうか。

 俺自身、こんな初めて見る人種や街並みなんて見れば驚く。

 街並みに関しては切嗣と共に世界を渡り歩いた時に似たようなものは見たがここまで綺麗な街並みは初めてだった。

 俺だって驚くことばかりだ。

 美遊は賢いし物知りではあるが、外の世界を知らない10歳だ。

 俺がこんななんだから、俺以上に何かを感じるかもしれない。

 

「怖くはないか?」

 

 俺がそう聞くと、美遊は少し深呼吸をする。

 そして、俺の手を両手で握り、あの時のように笑顔で

 

「少し驚いたけど、隣にお兄ちゃんがいてくれるのに何を怖がるの?」

 

 この言葉を聞いたその日に俺は全てを失った。

 本当を始めようとして、道を誤って、妹を、親友を。

 

 今度は間違えない。

 

 だからこそ、今度こそ始めるんだ。

 この土地で、この世界で

 

「ああ…美遊」

 

 俺は美遊の手を握り、進んでいく。

 この先何が待ち受けているかわからない。

 だとしても、俺は美遊を守る。

 まだ、聖杯の願いは叶い切ってないんだ。

 

 切嗣の目指した正義とは真逆のものになったけど。

 

 必ず美遊につかんでもらおう。

 このきっと素晴らしい筈の世界で美遊に祝福(幸せ)を!




なんだろう終わるのかな?
今回はとても短めです。ここまで短くなるか普通。最初打ち終えたとき680字だぞ。なんだこれ
果たして『本当』は始まるのか。というよりジュリアンとかは名前だけで終わるのか。
次回からこそ異世界生活が始まる予感…!始まれ…!
というか、大丈夫かこれ…変なところしかなくなくない?気のせい?


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3話 異世界生活

はい、3話では終わりませんし終わらせません。
投稿少し遅れました。
前回の終わり方的に次回作ご期待くださいとか書かれそうですね、あれ。

これから始まっていきます。


 俺と美遊はこの街を見て歩いていた。

 俺としては冒険者としての登録を済ましてからの方がいいと思ったが、美遊が街の中を見てみたいって言い出した。

 まだ、この世界のことを受け止められていないこともあるだろうが、初めて見るものに興味津々なんだろう。

 まだ日も昇っている事だから、ゆっくり探してもいいか。

 そう思い、美遊とのんびりと歩く。

 

 途中、何かとぶつかった。

 

 黒いマント、三角帽子、変わった形の杖を持った何かが真横で倒れた。

 

「っと、すみません」

 

 ぶつかった拍子に倒れたのだろうと、手を差し伸べる。

 しかし、何故か

 

 動かない。

 

 不思議に思いしゃがんでみるとうなり声のような声が聞こえた。

 ぶつぶつと何か言っている。

 

「お、お腹が空きました…もうダメです」

「大丈夫か、あんた」

 

 とりあえず、倒れている人を立ち上がらせる。

 意外と軽かった。

 それに見てみると小さな少女だった。

 眼帯をしているが、見た目から魔法使い、というのが似合いそうな格好。

 そして、赤い目。

 

「ぶつかってしまったのは悪かった。歩けそうか?」

「もうダメです…何か食べさせてください…歩くのも限界です…」

「あ、ああ…何処か飲食店を探そう」

 

 その少女を背負い、美遊の手を引いて飲食店を探すことにした。

 ふと、視線を感じ横を見ると何故か美遊が背負われた少女を見ながら羨ましそうにしていた。

 

 ------

 

 ガツガツもぐもぐバリムシャァ

 

 なんて、効果音が聞こえてきそうなほど凄い勢いで平らげていく変わった少女。

 それ程までに腹が減っていたのか?

 というより、遠慮ってもの知らないのか…?

 実際、遠慮されるよりも満足してもらえるのが1番だが物価などさっぱりな俺からするとどれだけの出費になるか不安だ。

 

「もぐもぐ……はふぅ…ありがとうございます、通りすがりの人」

「通りすがりの人の前で遠慮もせずよく食べるなぁ…」

 

 小さなその見た目のどこに入るんだと言わんばかりの量を平らげた少女を呆れながら見ていた。

 隣で美遊が引いたような目で見ながら、ゆっくり食べている。

 まぁ、見てるだけで腹がいっぱいになりそうな食べっぷりだったからなぁ。

 

「そんなになるまで、なんで食べなかったんだ?」

「ある事情よりパーティを組まなければクエストさえままならないのです。なのに、何故か誰もパーティを組んでくれないんです。なので、お金がなく、ご飯も食べれない状態でした」

「そうなのか」

 

 多分彼女も冒険者なんだろう。

 ただ、何というか妹と歳は近そうな雰囲気だが、そんな歳の子でも冒険者として働くことができるのか。

 

「君、冒険者なのか?」

「はい!しかし、最弱職では無く、上位職!アークウィザードの我こそは!めぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手!最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者!」

 

 多分カッコいいポーズをとっているつもりなんだろう。

 頑張ってそんな感じのポーズをしている風に見えて何だか可愛らしい。

 しかし

 

「冒険者に最弱職とかあるのか…」

「あの、スルーは流石に少し寂しいのですが…」

「あ、悪い…」

 

 流石にアレを無視するのは失礼だったみたいだ。

 美遊はあのポーズの意味を考えているらしい。

 多分、意味なんてないと思うぞ…

 

「ところで、えーっと……」

「めぐみんです」

「め、めぐみんって本名なのか…?」

 

 あだ名をわざわざ格好つけてまで言わないか…

 それに、自分でつけた名前にしては、名乗りの勢いに合わないような名前だった。

 

「私の名前に文句があるなら聞こうじゃないか」

「文句も何もない。ただ驚いただけだ。そんな名前の人とは会ったことがないから。俺は衛宮士郎だ。あと隣で色々考え込んでいるのは妹の美遊だ」

 

 美遊は「めぐみん……名前は親が子に与える際、意味や画数による風水などを考えつけるはず…あの名前にどんな意味が…」なんて考え込んでいた。

 ずっと考えっぱなしだが、大丈夫なのだろうか。

 疲れきってないだろうか。

 

「あー、めぐみん。俺たちは今から冒険者の登録をしたいんだが…」

「登録していなかったのですか?冒険者ギルドはすぐそこにありますが」

 

 そう言ってめぐみんは窓から見える建物に指を指す。

 飲食店を探しているうちにすぐ近くまで来ていたようだ。

 

「ギルドでは食事も取れるのでそちらへ連れて行って貰えると思っていましたが、すぐ近くのこちらへ来たのはここへ来るのが初めてだったからなんですね」

「ああ、来たばかりで右も左も分からないんだ。だから、少し歩き回っていた。それに美遊が街の中を見てみたいって言うからな」

 

 美遊にとって、この広い街や沢山の人を見かけると言うこと自体が珍しいんだ。

 前にいたところは、ジュリアンが行なった儀式の失敗から現れた闇により人も街もほとんどなくなっていた。

 それに美遊は結界のある家の中で人目に触れることなく生きて来た。

 俺や切嗣と会ってからもずっと家の中に居たんだ。

 こんな街を見れば、いろんなところを見たくもなる。

 

「確かに色々ありますが、こんな駆け出しの街より王都の方が凄いですよ」

「王都?」

「はい、少し離れてはいますが、ここにいる人たちよりレベルが上の人が行くところです」

 

 多分そこが勇者なんて呼ばれるような奴が集まる街なんだろう。

 

「冒険者カードもない人はここからスタートですね。ご馳走になったお礼にギルドまで案内しますよ」

「すぐそこなんだろ」

「案内しますよ」

 

 笑顔で迫って来る。

 正直近すぎる。

 ここまで言われると断れない。

 

「わかった。お願いするよ、めぐみん」

「任せてくださいっ」

 

 なんて、話しているうちに美遊も食べ終わったようだ。

 会計を済ませようと、とりあえず紙幣で払うと6000エリスほど返ってきた。

 あれ、10000エリスだったのか。

 あと美遊、めぐみんがもうよく分からないからと言ってずっと引っ付かれたままだと歩きにくいんだ…

 それにめぐみんはめぐみんで、袋の中を見て目を輝かせているがそれ程までに金欠なのだろうか。

 

------

 

 その後、めぐみんに着いて行きギルドへと入る。

 結構広い空間だった。

 目の前には窓口が3つあり、1つだけ長蛇の列ができている。

 クエストが貼ってあるボードもある。

 ここで食事をしている人の姿も見える。

 カウンター席まであるのか。

 

「この長蛇の列は無視して、空いてるところから冒険者登録をしましょう。あと、一人登録料1000エリスかかりますよ」

 

 登録料1000エリス…

 高いのかよく分からないが、タダでは冒険者出来ないのか。

 資金面をなんとかしてもらって正解だ。

 

「冒険者登録をしたいんだが…」

 

 3つの窓口のうち左にあった窓口へ。

 真ん中の窓口にはどうやら金髪の少し露出が多いのではないかと思う服装の女性がいた。

 多分彼女目当てなんだろう。

 しかし、あの服装はどうなんだ……

 

「はい、冒険者登録ですね。お一人1000エリスの登録料がかかります」

「妹も登録するから2000エリスだな」

 

 袋から先程の釣り銭のうちの2000エリスを取り出し渡す。

 

「はい、確かにいただきました。では、こちらのカードに触れてください。それであなた方の潜在能力が分かりますので、潜在能力に応じてなりたいクラスを選んでくださいね。選んだクラスによって、経験を積む事により様々なクラス専用スキルを習得できる様になりますので、その辺りも踏まえてクラスを選んでください」

 

 俺と美遊はカードに触れる。

 すると、そこに名前や数値などが書き込まれていく。

 

「はい、けっこうです。エミヤシロウさんですね。潜在能力は……こ、幸運以外がとんでもないものですよ!極端に幸運が低いですが…冒険者としてやっていくにはあまり関係ないものですので、どんなクラスにもなれますよ!」

 

 それもそうだろう。

 完璧とは言えないが、アーチャーの技術や魔術回路がこの身体と同化、いや置換されていたのだから。

 多少容れ物がポンコツだろうと、長く英霊と同調していたのだ。

 身体能力は英霊の紛い物ほどにはなっている。

 

「魔力と魔力容量も多く、知力も十分ありますので、アークウィザードと言った魔法使い。筋力などを活かしたソードマスターなんていうものにもなれますよ!」

「他にどんなものがあるか見てもいいか?」

「はい!色々なクラスがありますので自分に合ったものを選んでください」

 

 あるのなら、彼と似たものにしよう。

 置換されているからというわけでもないが、戦闘スタイルとしては1番合っている。

 探している間に美遊の結果を聞いておこう。

 

「はい、けっこうですよ。エミヤミユさんですね。潜在能力は……凄い…この歳でここまでの潜在能力があるなんて…!それに魔力容量だけが特にとんでもない量になっていますよ⁉︎ほぼ無限にあると言っても過言ではないほどに!」

 

 …そこまで凄いのか。

 確かに美遊は運動も得意で、勉強も出来る。料理も何でもこなす自慢の妹だ。

 そこまで凄くても不思議ではないのかもしれない。

 

「お兄さんと同じでどんなクラスにでもなれますよ!魔法使いやプリーストなんていったクラスでしたら、無限に魔法が使え、近接戦でも戦える万能職になってくれるほどです!」

「プリースト」

「プリーストですね。上位職のアークプリーストにしておきます!」

「これでお兄ちゃんが傷付いても助けることが出来るよ」

 

 美遊はそう微笑みかけてくる。

 美遊を助けたあの日、ボロボロになるまで戦ってきた俺を見たから、なのだろうか。

 戦いに前に出るものを選んでいたら止めるところだったが、回復役なら安心して美遊を守ることが出来る。

 

 それに、俺は探していたものがあった。

 

「俺はアーチャーにするよ」

「わかりました。では、アーチャーで登録します」

 

 登録の終えたカードを渡される。

 このカードに色々と書かれているようだ。

 自分の持っているスキルなどが書かれており、触れると色々と確認も出来るようだ。

 

「では、今後の活躍を期待しています。シロウさん、ミユさん」

 

 そう言って笑顔を浮かべた。

 

 因みに俺たちの隣でめぐみんが「無限の魔力容量…無限…爆裂魔法が撃ち放題…!」なんて言いながら妹を見ていた。

 怖がってるから流石に注意した。

 

 ------

 

「では、冒険者登録が終わったみたいなので私とパーティを組んでください」

 

 ギルドにあるクエストを見ようとした時、めぐみんが言った。

 そう言えばめぐみんはパーティを組まないとまともにクエストさえ受けることができないとか…

 

「構わないけど、いいのか?今、登録したばかりでレベルも1らしいが…」

「私も6なので問題ありませんよ」

 

 レベル6。

 少しはクエストを受けたことがある、ということだろう。

 ならば、ある程度教えてもらえる仲の人がいるのはいいかもしれない。

 

「分かった、ならよろしく。めぐみん」

「こちらこそよろしくお願いします。シロウとミユ」

「よろしくお願いします…」

 

 挨拶も済んだことだから、と、クエストを探す。

 3日以内に五匹のジャイアントトードの討伐

 

 そのクエストが目に止まった。

 今見た中では討伐系がこれしかない。

 というより、殆どがジャイアントトードの討伐依頼だった。

 

「なんで、こればっかりなんだ…?」

「今の時期、繁殖期ですから」

 

 小さな子から繁殖期ですからなんて言葉聞きたくなかったなぁ…なんて思いつつ、とりあえず受けることにした。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!武器とかはあるんですか!」

「それなら問題ない」

「それにスキルポイントを使ってスキルも手に入れないと」

 

 スキル。

 この世界では、スキルポイントを振り分けることによってスキルが使えるようになるらしい。

 というわけで、そのスキル欄を見てみると

 

「スキルポイント使いました?」

 

 なんて聞かれた。

 そこには、スキル欄には

『鷹の瞳』『心眼』『弓』『剣』など様々なものが書かれており、『投影魔術』『強化魔術』なども書かれていた。

 

「聞いたことのないものが多いですね…スキルポイントを使わず元からあったスキルということでしょうか?」

 

 そう言い、カードを返してくる。

 そして、今度は美遊のカードを見る。

 そこには

『魔力供給:対象 衛宮士郎』『聖杯』と書かれていた。

 

「なんですか、これは?魔力供給というのは文字通りなのでしょうけど聞いたことありませんし、聖杯?というのも初めて見ますね」

 

 聖杯。

 この文字を見た時、俺たちはまだ逃れられないのかと。

 これの効果が願いを叶えるものであれば、美遊はまた同じことになるかもしれない…

 

『聖杯』と書かれた場所に触れてみる。

『聖杯』:このスキルの所持者、または魔力供給の対象となっている者が手に入れる経験値の2割を魔力として貯蔵していくスキル。保有できる魔力容量はスキル所持者の半分程度。

 

 どうやら正しい聖杯としての在り方ではなくなっているようだ。

 しかし、こんなにも魔力というものは貯められるのだろうか?

 

「こんなにも魔力を貯めてしまうと、ボンッてなったりしないんですかね…」

 

 不吉なことを言うな。

 ただ、聖杯に魔力を貯めすぎるのは良くない気がする。

 

「まぁ、変わったスキルを持っているみたいですが、とりあえずミユはアークプリーストとしてのスキルを全部習得してしまいましょう!ぽちぽちと押していくだけですよ」

 

 めぐみんがひたすらぽちぽちと押していく。

 美遊は何かよく分かっていないようでされるがままだ。

 なんだかんだでこの2人は友達になれるかもしれない。

 歳も近いだろうから、仲良くなってほしいと俺は思う。

 

「よろしくな、めぐみん」

「?ええ、任せてください。紅魔族随一の力お見せしましょう!」

 

 ポンっと頭に手を置く。

 少し睨まれたが、なんでさ。

 美遊は何をされたか分からずオロオロしている。

 

 これからクエストを受けるのだが、大丈夫なのだろうか?




変なところだらけでな気がする……
と、まぁ、めぐみんです。とりあえずどんなタイミングでも腹空かせてそうなめぐみん登場!
ウェブ版めぐみん可愛すぎかよ、惚れるわ……

時間軸的にクズマサンはまだ来てません。もう数話続けば出る、はず、かと思われ…
読んでいただけるとやる気につながりますのでどうぞよろしく。そして、これはひどい!とか、見てられねぇ!とかありましたら感想の方で容赦無く…


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4話 クエスト

評価をしてもらえたり、お気に入りが50を超えたり、UAが3000超えたり感想が少しずつもらえたりと、正直驚いてます。ありがたやぁ…ありがたやぁ…

この物語は出来る限り、このすばの原作に沿っていきます


 若干の不安を抱きつつ、街を出た。

 

 聞いた話によると、街からそこまで離れているわけではない場所に生息しているらしい。

 しかし、レベル1の冒険者が受けるようなクエストではないとのこと。

 今更ながら、美遊を連れて来て良かったのだろうか。

 ギルドに置いていくことは不安で出来ないが、かと言って危険な目に合うかもしれない場所に連れて来るべきでは…

 

「さぁ、行きましょう!我が最強かつ唯一の魔法をお見せしましょう!」

 

 そんな気も知らず、どんどん先へと進んでいくめぐみん。

 ん、待て。

 今とても不安になるようなこと言わなかったか?

 唯一の魔法…?

 

「待て、めぐみん。唯一の魔法ってどういう…」

「私は爆裂魔法を愛し、爆裂魔法のみを極めし者…!」

 

 カッコいい風に言っているが、駄目な気がする。

 先程のスキル選びの時、そう言えば彼女は爆裂魔法のことをずっと言っていた。

 強力なため多くの魔力を消費すると。

 私の魔力容量を超えた魔力を使用して放つ最強の魔法だと。

 

 つまり、だ。

 それしかないということは、この少女、めぐみんは一回爆裂魔法を使うと何も出来なくなるのではないのだろうか?

 

「ひとつ聞いておきたいが、まさかパーティでないとクエストが受けられないっていうのは…」

「はい。魔法を放ったあと私1人では動けませんので」

 

 もしかしなくても、これは1人で美遊とめぐみんを守らなければならないことになるのか…

 どんな相手か分からないが、美遊だけなら守れるがめぐみんまで…いや、流石に見殺しには出来ない。

 爆裂魔法を撃たせないようにしつつ、なんとかしなければ。

 

「わかった。とりあえず、魔法は使わないようにしてだな」

「お断りします。紅魔族は1日一回爆裂魔法を放たなければならないのです」

「嘘だろ…」

「マジですよ。ですので、帰りはお願いします」

 

 美遊が残念なものを見る目でめぐみんを見ている。

 その目で見たくなる気も分かる。

 俺だってそういう目でしか見れなくなる。

 

「文句があるなら聞こうじゃないか」

「文句はないけど呆れてる。一応討伐クエストなんだろ。殺すか殺されるかだっていうのになんだってそんな…」

「浪漫です」

「浪漫で死なれてたまるかっ!全くどうやって生き延びて来たんだ、君は…」

 

 本当に呆れるしかない。

 そんな奴をパーティに、共に戦う仲間にしようなんて奴が現れないのは当然だ。

 戦いの中では邪魔でしかない。

 

「そんな博打みたいな戦い方しか出来ないあなたは邪魔…」

「美遊っ!」

 

 流石に邪魔だと口にしてはダメだ。

 それを言ってしまってはいけない。

 

「邪魔……ですよね」

「…確かに戦っている最中に倒れたりされたら迷惑がる奴だっている。しかも、それが魔力切れなんてことなら尚更だ」

「………」

 

 めぐみんが黙り込む。

 先程までの威勢なんてかけらもない。

 それどころか、どんよりとしたオーラが目に見えるような感じだ。

 

「けど、今はパーティなんだ。俺が何とかするよ」

「…っ!」

「お兄ちゃんっ…!」

 

 美遊はどうも反対のようだ。

 それもそうだろう。

 何かあった場合、俺も美遊も巻き込まれて死ぬかもしれない。

 危険な目に合わないようにするには、めぐみんにパーティから抜けてもらうのが1番だ。

 

「大丈夫だ、美遊。何があっても俺が守る。俺はお兄ちゃんだからな」

 

 この衛宮士郎という男は(美遊)の為に(人類)を捨てたものだ。

 何があろうとも美遊を救う。

 それだけが今の彼であり、彼の正義だ。

 それも今では少し変わろうとしていることに、彼は気がついてはいない。

 本来なら彼は美遊のみを守る者になっていた。

 しかし、今の彼が守るのは美遊であり、美遊の幸せだ。

 彼の正義は知らない間に、自身により置換されていた。

 

「兄妹仲睦まじいですね」

 

 めぐみんが少し引いたような目で見ている。

 待ってくれ。

 

「これぐらい普通だろ?」

「いや、普通じゃありませんから。仲良すぎませんか?普通そのぐらいの歳でしたら兄離れとかあると思いますよ」

「そこは家庭の事情だ。色々あったんだ」

 

 まぁ、いいです。とめぐみんは此方を見つめ

 

「改めてパーティとしてよろしくお願いしますね、シロウ」

 

 とびきり可愛い笑顔で告げられた。

 

 ------

 

 今は木に登ったあと、枝の上に座り、目の前の平原を見渡している。

 平原の真ん中に大きなカエルがいる。

 あれがジャイアントトードのようだ。

 しかし、一匹しかいない。

 ある程度、距離がある為此方には気がついていないようだが。

 

 とりあえず、この俺を挟んで睨み合った二人は何とかならないのだろうか。

 

「あなたがいてもお兄ちゃんの邪魔になるだけ」

「私は駆け出しプリーストよりかは役に立ちます」

 

 さっきからこの調子だ。

 さっきので俺とめぐみんとでは話が終わっていた。

 が、美遊はそれでも納得がいかないみたいだ。

 そろそろ、クエストを進めたいんだが…

 

「そろそろ、クエストを進めないか?あのカエルはさっきから動かないし、早めにだな…」

「仕方ありませんね。我が爆裂魔法を見せる時!」

 

 唐突に勢いよく立ち上がっためぐみん。

 枝が折れることはなかったが、めぐみんが落ちかけていた。

 危ないなぁ…

 

「我が最強の爆裂魔法!その一撃は山をも崩す!あの程度の敵であれば一匹や二匹、十匹でもすぐに消し飛ばしてしまうでしょう!」

「分かったから、早く撃たないのか?」

「詠唱がどうしても長くなりますので、もう少し待ってください」

 

 高位の魔法ともなれば詠唱も長いのか…

 というか、先程のはどう考えても詠唱じゃない。

 いつ詠唱しているんだ。

 それにさっきからめぐみんが落ちそうで怖いんだが…

 

「喰らうがいい!『エクスプロージョン』ッ!!!」

 

 杖の先から光が放たれる。

 それは確実にあのカエルへと。

 カエルに触れたと同時に爆発が起きる。

 カエルは、ほぼ跡形も残らず、そして平原には半径十メートル以上のクレーターが出来上がっていた。

 最強の魔法というだけあって相当な威力だ。

 と、感心していると

 

「あっ」

 

 という声が聞こえた。

 声のする方を見るとめぐみんが木から落ちかけていた。

 

「めぐみんっ!」

「っ!」

 

 腕を引っ張り、抱きとめる。

 めぐみんが真横にいたことですぐに助けることができた。

 杖は落ちてしまったが。

 

「大丈夫か?」

「な、なんとか落ちずに済みましたので、無傷です」

 

 引き寄せた時に怪我をさせたかもしれないと思ったが無事なようだ。

 しかし、どうするか…

 このままだと、クエストが全く進まない。

 それに先程の爆裂魔法が原因なのか、地面からカエルが出てきた。大きいあのカエルが

 

「めぐみん、座っていられるか?」

「ふふふ、魔力を完全に使い切りましたので、もうどこにも力が入りません…」

 

 さて、どうしたものか。

 とりあえずこの状態だと俺も何も出来ない。

 とりあえず背負うことにしよう。

 

「頑張ってしがみついててくれ」

「あ、今手を離されると落ちます落ちます」

「やっぱり邪魔…」

 

 美遊がめぐみんを睨んでいる。

 今はそんな状況じゃないんだが…

 

「もう離すぞ。いいな?」

「はい、もう大丈夫です。数分程度なら掴まってられます」

 

 それを聞いて俺はその場で立ち上がる。

 

 カエルが数匹此方へ向かってきている。

 

 俺はただ一言、この一詠唱を告げる。

 

「---投影、開始(トレース・オン)

 

 手に現れたのは黒い弓。

 もう片方の手に現れたのは螺旋状の剣。

 

 その剣は徐々に、それは矢のように、細くなっていく。

 細く、それでいてとても鋭く。

 

 そして、構える。

 矢は先ほどの剣。

 ゆっくりとだが近づくカエルに狙いを定める。

 

「---I am the bone of my sword.(我が骨子は捻れ狂う)

 

 まだ引き付ける。

 確実に貫き、出てきたカエルをまとめて片付ける。

 ---今だ

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)

 

 矢を放つ。

 それは確実に、吸い込まれるかのように、カエル目掛け飛ぶ。

 飛来するものを見たカエルは動きを止める。

 しかし、もう遅い。

 

 その矢はカエルへと突き刺さる。

 それと同時に中の魔力を爆発させるーー!

 

 先程の爆裂魔法と似た爆発が起きる。

 矢が突き刺さったカエルはすぐに跡形もなくなり、周囲のカエルも巻き込み、平原にもう1つのクレーターが生まれた。

 

「ふぅ…ちゃんと使えるみたいだな」

「「………」」

 

 その光景を見た二人は驚いた表情で、俺を、そしてカエルがいた場所を見る。

 何が起きたのか、分からないという顔だ。

 

「そう言えば、美遊に実際見せるのは初めてだったな。俺の投影魔術」

「投影魔術は、ここまで長く残らないもののはず…お兄ちゃん、いつの間にこんな…」

「美遊を助けに行っただろ、その時にな」

 

 美遊は目の前の魔術が信じられないみたいだ。

 まぁ、投影魔術は本来すぐに消えて無くなるもの。

 殆どの場合は儀式で使うものの代用に使われる。

 しかし、この魔術回路を、この特性を持つ彼は例外だった。

 投影したものは修復不可能なまでに破壊されるか、自らの意思で無ければ消えることはない。

 そんな投影魔術だったのだ。

 

「なんですか!今の!爆裂魔法ですか!いえ、私の爆裂魔法には少し及びませんが、とは言え炸裂魔法よりかは遥かに上のものですよ!」

「爆裂魔法なんて取ってない。ただ、矢に乗せた魔力を爆発させただけだ」

「どれだけの量の魔力を乗せていたんですか…」

 

 背負われているめぐみんは顔の真横から話しかけてくる。

 別にそれは気にしないのだが、少し息が当たってくすぐったい。

 というか、少し鼻息荒くないか…?

 

「まぁ、これでクエストも終わりだろうからそろそろ戻ろう」

 

 そう言って美遊を抱え、木から降りる。

 降りてから気がついた。

 クレーターの一部が盛り上がっている。

 そして、そこからもう一匹のカエルが現れた。

 

「まだいたのか!」

「土に潜ってますからね。普段はどこにいるかはさっぱりですが、地面削ったりすれば出てきたりしますよ」

 

 なんて傍迷惑なカエルだ。

 だが、此方の方も鈍っていないか、確認する必要がある。

 丁度いい。

 俺はめぐみんを木のそばに寝かせ、両手に投影した剣を持つ。

 

 干将・莫耶。

 彼が愛用していた夫婦剣。

 

 さて、どこまでやれるか…

 

 俺はカエル目掛け、駆け出した。

 

 ------

 

 思いの外すぐに終わってしまった。

 結論から言うと鈍ってはいなかった。

 

 俺が突っ込んできていることを視認したカエルはすぐに舌を伸ばしてきた。

 しかし、それも遅い。

 すぐにその舌を飛んで回避した後、その舌目掛け上から斬りかかる。

 すんなりと斬れた。

 投影された模造品とは言え、剣。

 自身との相性はいいと言うことも彼を通して知った。

 が、あまりにもすんなりと斬れたことに驚きは隠せない。だが、これならと。

 俺はすぐに駆け出し、懐まで入り込みひたすら斬りつけた。

 

 一瞬にしてバラバラになった。

 

 あまりにも呆気ない終わりに、消化不良だと言わざるを得なかった。

 しかし、これ以上出てくることはないため、俺はめぐみんを背負い、美遊と街に戻ることにした。

 

「…なんで、アーチャーが剣を振って戦っているんですか?あとなんで強いんですか?」

「お兄ちゃん、アーチャーは弓兵だよ?近距離ではなく、遠距離から弓を放って敵を討つ戦い方が基本だと、思うよ?」

 

 二人からごもっともな言葉をもらった。

 今更だが、俺の方が聞きたい。

 なんで、アーチャーなのに双剣使いなんだ、と。

 弓で戦ったことより剣で戦った方が多いし、なんと言うか此方の方がしっくりきてしまうのは、アーチャーとしてどうかと思う。

 

 そんなこんなで俺たちは1日目で、ジャイアントトードの5体討伐という初クエストをクリアした。

 街へ戻る時の帰り道が1番疲れるクエストってなんなんだ…




なんでアーチャーなのに前衛やってるんですか?

アーチャーは前衛職。モーション変更後のアーチャーがおかしいだけ。

ということでクエストクリアした一行。この後どうしていくのだろうか。というより、カズマさんまだですかー?出番そろそろですよー?たぶんですけどー

また、変なところとかがあれば容赦無く感想等で言ってください。
普通の感想頂くと泣いて喜びます。

気がつけばルーキー日間だと14位とかになってました。
ありがとうございます。
こんな下手な文しか書けない人ですが、良ければ見てください、これからも


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5話 この世界

お気に入りがもう200いくんじゃないかってぐらいまで来ましたね。驚きです。

あと感想もいっぱいありがとうございます。君たちアーチャーを何だと思ってるんだって言いたくなるぐらいアーチャーに対するコメントしかないなぁ!

ルーキー日間にもちょこちょこ出るようになってますね。いやぁ、上位に入れないにしても50位以内に入れることだけでも嬉しいものですね。

更新を予定より遅れてしまってすみません。大学生活が思いの外疲れる…しんどい。まだ一回生よ私。

遅れることがあるかもしれませんが良ければ読んで楽しんでもらえたらなと思います


「はい、指定数より少し多いですが、クエストは完了です。ご苦労様でした。こちらが報酬の10万エリスです」

 

 報酬を受け取り、袋の中に入れる。

 しかし、あのカエルをここに持ってくれば五千エリスになったのか。

 まぁ、ほぼ全てが灰になって、一匹が細切れだ。

 持ってこれないものになっていた。

 それにしても

 

「3日かけるような依頼でこれだけってなんか少なくないか?」

「パーティなどで受けると割に合わないという人もいますよ。人が多いと分け前も減りますので、どうしても足りませんからね」

 

 背負われているめぐみんが少な過ぎると嘆く。

 大したことないような敵に思えるが、それもめぐみんや俺のような火力があればの話だ。

 それにアレだけ大きい相手だ。

 初めて対峙した時、まともに戦えるとは思えない。

 倒すとなると確実にパーティを組まないとまともに戦えないようにも思える。

 まるで命を軽視しているように見える。

 

「あの〜…それを私の前で話すのは…」

 

 報酬を渡してくれた受付の人がとても困っていた。

 まぁ、それもそうか。

 

「ああ、悪い。聞こえるようなところで話すことじゃなかった」

「い、いえ…」

 

 場所を考えるべきだったな。

 それに受け取ってすぐに話す内容でもない。

 

「…冒険者は税金が免除されています」

 

 受付の女性がそう口にする。

 

「…本来のクエスト報酬の一部が税金として引かれていると?」

「そう考えてもらえれば」

 

 それならば、妥当、なのだろうか。

 だとしても、元が少なく思える気がしないでもない。

 しかし、この報酬で装備の修理、宿屋への宿泊費などを引けば殆ど何も残らない。

 税金が一切払えないような冒険者だらけになるだろう。

 なら、報酬の一部を先にとっておいて、税金という概念を忘れさせた方がいいのかもしれない。

 

「…こほん、それにしてもとても仲のいい兄妹に見えますね」

 

 どうやらこれ以上、この話をする気は無いということだろう。

 

「そうか?美遊は確かに妹だけど、背負ってるこれは単なる行き倒れにしか見えないだろ?」

「女の子をこれ扱いとは失礼ですね、この人」

 

 行き倒れにしか見えないのは否定しないのか…

 それに、背負っていて思ったが正直ちゃんと食べてるのかと聞きたいぐらいには体重が軽い。

 本当に単なる行き倒れじゃないかこれ。

 

「それに私としてはこの人の妹扱いをされた方が不満です。同じぐらいの歳じゃないですか」

「「えっ⁉︎」」

 

 俺と美遊だけが驚く。

 何を言ってるんだ。

 どう見ても美遊と年齢が近いようにしか見えない。

 

「めぐみんさんとシロウさんの年齢はさほど変わりありません。一つ差ぐらいですよ」

 

 受付の女性もそう言ってくる。

 正直信じられない。

 

「じょ、冗談じゃない、のか?」

「冗談は言いません。これでも17ですよ」

「…それでその体型なのは、栄養不足…?」

「ちょっとあなたの妹さん、失礼過ぎませんか?哀れなものを見るような目で見てくるんですが…」

「し、仕方ないんじゃないかな?」

「兄妹揃って失礼ですね」

 

 美遊と同じ歳だと見間違えるほどに成長してない。

 身長はもちろん、体重も軽い。

 あと、背中に当たる感触も正直、女の子を背負っているのだろうかという感じだ。

 どういう生活を送ってきたんだ…

 俺に背負われているめぐみんが美遊と言い合いをしていると、ギルドにぞろぞろと人が入ってきた。

 クエストが終わった人たちとかだろう。

 

「そろそろ邪魔になるだろうから、離れるか」

 

 とりあえず、外に出る。

 暗くなり始めているのでそろそろ泊まる宿を探したい。

 行き当たりばったりで探すとなるといつ着くのか、それに部屋が空いているのか不安になる。

 

「なぁ、めぐみん」

「私の家の貧乏さを舐めないで…なんですか?シロウ」

 

 貧乏だということを堂々と言おうとしているめぐみんに宿屋の場所を聞いても無駄なのでは、と思いそうになった。

 とは言え、何処かで寝泊まりはしているだろうから聞いてみるか。

 

「いつもどこで寝泊まりしているんだ?」

「馬小屋です」

「……………」

 

 貧乏過ぎやしないか?

 雨風はしのげるだろうが、衛生面的には最悪だろう。

 

「…宿屋って何処にあるか知ってるか?」

「ええ、もちろん知ってはいますが」

「なら、宿屋の場所を教えてくれ。流石に馬小屋で寝る気なんてないし、美遊をそんな場所で寝させられない」

 

 流石にそんな場所で眠れるはずもないだろう。

 エインワーズがどんな場所で美遊を捕らえていたのかは知らないが、あの時の姿からして牢屋に閉じ込めたまま、なんてことはしていないだろう。

 牢屋だとしても、馬小屋よりマシな場所だ。

 

「いいですが、お高いですよ?今日の報酬の殆ど取られてしまいますが」

「そこはそんなにいい場所なのか?」

「いえ、普通の宿屋です」

 

 高過ぎやしないか?

 まぁ、三人ともバラバラの部屋を使えばそうなるのかもしれないな

 

「まぁ、馬小屋よりマシならいいか。一応幾らかはまだある」

 

 彼女の言っていたことが本当ならまだ余裕はある。

 ただ、怪しいから後でこの袋の中身をめぐみんに確認してもらおう。

 

「わかりました。案内します。案内が終わったら、その、馬小屋の方まで運んでください。私はそっちで寝泊まりしますので」

「?何言ってるんだ。色々と世話になったからめぐみんの分の宿泊費ぐらい出す。それにまだ色々と教えてもらうこともある」

 

 この世界の地理とか、物価とか、生活に必要なこととか。

 生きていくためには聞いておかないと。

 

「教えてもらうこと、ですか?」

「ああ、こっちの世界のことはまだ何にも知らないからな」

「こっちの世界?」

 

 何も言ってなかったな、そう言えば。

 

「そのことも宿に着いたら話すよ」

「…わかりました。では、案内します」

 

 背負われためぐみんの案内の元、宿屋へ向かった。

 

 ------

 

「なるほど、そんなことが」

 

 宿に着いてから俺はここに来るまでの経緯を簡単に話した。

 全てを話すわけにもいかない。

 美遊を聖杯として認識されても困る。

 だから、聖杯は聖杯で別のものとして話した。

 少し嘘をついているということに罪悪感を覚えないわけではないが

 

「…意外とあっさり信じるんだな」

「先程の戦いぶりや冒険者カードにあるスキルを見てしまうと納得出来る点が多いですから」

 

 本来、冒険者はカードにあるスキルを取ってからスキルが使用できる。

 しかし、俺の場合、スキルを取る前からアーチャーに必要なスキル、それ以外のスキルも取れていた。

 美遊は必要なスキル殆どなかったからめぐみんが取ってくれたらしい。

 他人のカードを操作することができることが出来てしまうのはどうかと思うが。

 

「それにシロウのスキルには名前からして魔法使い系に近いスキルも多いですからね。アーチャーが取れるとは思えませんし。スキルが元からあるなんてことはほぼ無いですからね」

「色々と異常過ぎたから、信じられたと」

「そういうことです」

 

 成る程。

 しかし、信じられたというより、信じるしかなかったというのが本当だろう。

 …いや、その割にはさっきの話を聞いて目がキラキラ輝いているんだが…

 まさか、本当に純粋に信じたのだろうか…

 もしそうなら、めぐみんが心配になる。

 

「と、まぁ、そういうわけで色々と教えて欲しい」

「わかりました。では、まず我が紅魔族についてから…」

「「それはいい(いらない)」」

「お二人とも酷く無いですかっ!」

 

 そんなこんなで色々と教わった。

 まず俺たちがいるのは駆け出しの冒険者が集まる街、アクセル。

 そして、ベルゼルグ王国という国。

 あの女神が言っていた王都はこの国にあるもののことを指していたらしい。

 他にもダンジョンのことや魔王のことも聞けた。

 あと、結局紅魔の里のことも聞くことになった。

 

「あ、そうだ。この中身なんだが…」

「報酬を入れていた袋ですか?」

「幾ら入ってるのかわからないし、まず何が入ってるのかさえまだ見てないんだ」

 

 あの空間で貰った袋。

 めぐみんはそれを受け取ると、ひっくり返した。

 

 中からは紙幣や硬貨、さらには宝石のようなものまで出てきた。

 なんだこれは

 

「これはこの国のお金ですよ。紙幣や硬貨もあります。これとこれ、あとこれもです」

 

 そう言って、俺の前に置いていく。

 そして、めぐみんがある硬貨を取ろうとして止まった。

 見ると、それは銀貨だった。

 

「どうしたんだ、めぐみん?」

「…………」

 

 物欲しそうな目でじっと見てる。

 銀貨の山に目が釘付けと言った感じで見てる。

 

「おい」

「なんでこんなもの持ってるんですか…」

「それはさっき説明しただろ?」

「そうなんですが……これは、エリス魔銀貨と言って一枚百万エリスですよ…」

「………百…万?」

 

 あの女神は何と言っていた?

 五十万と言っていなかっただろうか?

 いや、よく思い出すと女神とは別の銀髪の子がこの袋を持ってきていた。

 そして、中身を確認せず渡していた。

 

「多めに貰っていた、ってことか」

「多めに貰いすぎなぐらい貰っていますよ!」

 

 銀貨はざっと数えて100枚はある。

 何でこんなにあるんだ。

 普通に渡しすぎではないか?

 というより、普通の紙幣や硬貨より量が多い。

 

「それにこれは最高純度のマナタイトですよ!使い捨てとはいえ、魔力を引き出して使うことが出来ます。あと、高価です」

 

 何個か取ろうとしためぐみんの手を叩く。

 資金面をなんとかしてくれとは言ったが、流石にやりすぎだ。

 

「あ、これ住居代も入ってるのか…」

「だと思いますよ。これだけあれば豪邸でも買えますね。というより、買って拠点を作った方が安く済みますよ」

「明日不動産屋でも見てみるか…」

 

 あと、仕事も探そう。

 冒険者としての仕事だけでは、すぐにこの蓄えも尽きるだろう。

 税金が免除だとしても、水道代とか食費はかかる。

 

「やることは決まったな。明日は俺は不動産屋に行って来るから、美遊はめぐみんと買い物だな」

「え、お兄ちゃん?」

 

 何故これと、というような目で見て来る。

 もしかしたら話も長くなるかもしれないし、そうすれば美遊の服とか欲しいものを買ってやれない。

 だから、めぐみんと行って貰いたいんだが。

 

「私に不満があるなら言ってもらおうじゃないか」

 

 美遊が何を訴えているのかが分かったらしいめぐみんが睨んでいる。

 

「あなたと買い物に行ったら無駄な出費になる」

「そんな無駄になるようなもの買いません」

「一緒に美遊の服を買ってきてくれると嬉しい」

「任せてください。私のセンスにかかれば-」

「黒とか赤とかで格好良さの重視した服を選ぶつもり?」

「何故わか、では無くちがわい!」

 

 なんだかんだ美遊とめぐみんは仲良く話してるように見える。

 見え…るはず、見える気がする、見えてると思う。

 少し不安だがなんとかなるだろう。

 

「とりあえず、美遊にお金は渡すから明日好きなもの買って来るといい」

「…うん」

 

 明日、不動産屋の帰りにでも何か買って帰ろう。

 

「さて、それじゃあ明日に備えて寝ようか」

「そうですね」

「俺はそこの椅子で寝るから、二人はー」

 

 めぐみんと美遊に両腕を掴まれた。

 なんでさ。

 

「お兄ちゃんはベッドでゆっくり休んで、この人を椅子で寝させればいい」

「ちょっと待ってもらおうか。そういうことでしたら、あなたこそ椅子で寝ればいいんじゃないでしょうか。何もしてないんですから」

「お兄ちゃんと寝たいの?」

「ち、ちがわい!」

 

 美遊を椅子で寝させようって大人気ないな、めぐみん。

 この中で1番年下の女の子だぞ。

 

「というより、ベッド一つしかないんだぞ?女の子同士なら気兼ねなく寝れるだろう?」

「1番疲れてる人がしっかり休まなくてどうするんですか」

「お兄ちゃんこそベッドでゆっくり休むべき」

 

 いや、だからその流れだと

 

「俺は結局どっちかと一緒に寝ることになるんだが…」

「嫌なんですか?」

「それは俺が聞くことだ。美遊は妹だからともかく、いや、美遊もお年頃なんだし、兄と一緒に寝ようとはならないだろ」

「お兄ちゃんと一緒がいい」

 

 ------

 

 数分後。

 俺は眠れていなかった。

 というより、どうしてこうなるんだ。

 

 俺の左右で美遊とめぐみんがぐっすりと眠っていた。

 

(美遊が眠れるのは分かるが、めぐみんは何で眠れるんだ…?)

 

 ついさっき知り合った男の隣で眠るのはどうなんだ。

 それに歳も一つ差しかない相手の隣でだ。

 

(女の子って言うのはよく分からないな)

 

 めぐみんを見て、一つ差しか変わらない女の子。

 後輩だった桜のことを思い出す。

 俺にカードを託し、彼女の兄によって殺された後輩。

 もし彼女とあの場から逃げていればどうなったんだろう。

 

 彼女の側にいれば、俺は正義の味方でも、魔術師でもなく過ごしてこれた。

 彼女の笑顔に救われていた。

 俺はそんな彼女を救えなかった。

 目の前にいたと言うのに。

 

 ここへ来たことは良かったと思う。

 美遊が聖杯として、物として扱われることなく、友達になれそうな子もいて、楽しいことだらけになりそうだと思うから。

 

 けど、俺は一人の女の子を守れなかったと言う後悔を胸にここで生きていってしまうのかもしれない。




はい、と言うことで次回は
シロウ、家を買う
美遊、お買い物へ行く

の二本でお送りします(きっと


いやぁ、カズマさん早く来ないかな


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6話 買い物

美遊視点→めぐみん視点→………という方式で書いてます。
読みにくい?正直すまんかった!!
女の子の買い物風景とかわっかんないよ!もうわっかんないから無茶苦茶です。無茶苦茶すぎてわかりません。

次回からは本気出す


「じゃあ、俺は不動産屋に行ってくるから、めぐみんと美遊は買い物にでも行って来てくれ」

「行ってらっしゃい、お兄ちゃん」

 

めぐみんとともにお兄ちゃんを見送る。

私はこんな朝早くから行く必要はないんじゃないかと思ったけど、お兄ちゃんが行くなら止める必要はない。

 

「シロウは早起きですね。早すぎて私はまだ眠たいんですが」

「まだ、寝ていても構わない」

 

買い物にでも行くにしても早い時間。

それに昨日は殆ど眠れなかったから、私ももう少し寝ておきたい。

 

「では、私は寝てきますね」

 

めぐみんはそのまま部屋にあるベッドへと。

お兄ちゃんが寝ていた場所へと倒れる。

 

「…………」

 

私も寝たいから、寝る場所を確保するためにその場からずらすだけで私がその場所で寝たいとか、私もその場所で寝たいというわけじゃない。

そう言い聞かせ、めぐみんをベッドの端へ。

そして、横になる。

 

「おや、その場所であなたも寝たかったんですか?」

「……違う。私はただ寝たかっただけ。それにその言い方だとあなたの方がその場所で寝たがっていたのでは?」

「ち、ちがわい!」

 

そこで会話が途切れた。

どうもお兄ちゃん以外と話すのはそこまで上手くいかないみたいだ。

これで友達なんて作れるのだろうか。

 

「お昼になったら買い物に行きますから、それまで寝ておきましょう」

「……それは寝過ぎだと思う」

「お互いあの後殆ど眠れてないんですから、ちょうどいいと思いますよ」

 

どうやら、昨日はめぐみんも眠れてなかったらしい。

普通は眠れないものだと思うけど。

 

「いいお兄さんですね」

「……うん」

 

再び会話は途切れ、その後眠りについた。

 

------

 

ふと、目が覚めた。

目の前には誰もいない。

もう彼女は起きたのだろうか。

そう言えば、寝る前は彼女に背を向けていた気がする。

私は寝返りでもうったのだろうか。

 

ここは彼が寝ていた場所。

 

我ながらよくこんなことをしたなと思う。

出会って間もない人と、それも年の近い男性と寝るなんて。

ゆんゆんと再会した時に自慢しよう。

顔を真っ赤にしている姿が目に浮かぶ。

ついでに私も顔を真っ赤にしそうな気がする。

 

そう言えばこめっこは元気でしょうか。

私より魔法を使えるようになっていたとしたらさらに帰りづらくはなるんですがね…

 

……なんと言うか、彼はいい人でしたね。

無理矢理パーティを組んで貰いましたが、他の方と違い嫌な顔はほとんどされませんでしたし。

いい人ですね…

 

「何をしているの?」

 

何をしているとは見ればわかるでしょう。

寝ているのです。

 

「兄が寝ていた場所で大の字になっている理由がわからない」

「え、今そんな感じになってます?」

 

無意識のうちにとんでもない状況に。

とりあえず起きましょうか。

 

「おはようございます。今はもうお昼ですか?」

「もう昼過ぎ」

 

寝すぎてしまったようだ。

買い物に行かなければ

 

「では、昼食を探しつつ、買い物に向かいましょう」

「…うん」

 

いくら貰ったかは知らないが、ある程度服を揃えることはできるだろう。

残りのお金で昼食でも食べましょうか。

 

ある程度の支度をして二人は宿を出た。

 

------

 

今は服屋にいる。

別に昼食を探さなかったこととか、無言で気まずい空気が漂っていたこととかはいい。

だが…

 

「これは?」

「私のセンスにビビっときた服ですね」

 

…渡された服は黒色の痛々しい服。

いや、これを着る人なんていないはず。

目の前のこれ以外は。

 

「やっぱりあなたのセンスは当てにならない」

「おい、私のセンスに文句があるなら聞こうじゃないか」

 

黒マントに黒ローブ、そして三角帽子を被った服は黒一色で帽子に少し赤が入っているだけのような、そのセンスからして私と合いそうにない。

身長はそんなに変わらないし美人なことには変わりないが、センスは壊滅的なのではと思う。

 

「あなたは黒ばかりしか選ばない」

「他にも選びますよ」

 

取ってくる服は黒を基本とした服ばかり。

少し赤があったりはするが基本黒。

 

「やっぱり黒」

「おかしいですね。気がつくと黒しか取っていませんね」

 

そう言いつつまた他の服を探しに行く。

…正直、私としては視界の端に映る着ぐるみのような服が気になる。

それを見に行こうかとそわそわしていると

 

「ふふふ、これならどうですかっ!」

 

赤色の服を持ってきた。

あとベルト。

 

「……これは?」

「何かどこかの世界で私が着ていそうな服があったので持ってきました」

 

…何を言っているのかよくわからないが、これも彼女の好みということなのだろう。

しかし、先程までと違い、黒の要素がない赤。

これならいいかな、と少し思ってしまう。

先程まで黒ばかり渡されたから、違う色を基準とした服を見ただけでいいと思えてしまう。

 

「…赤は合わないかな」

「だと思ったので、青と水色も持ってきました」

 

そう思っているなら、何故それを先に渡さない。

ただ、折角選んでもらったものだから、受け取る。

受け取るのを見ためぐみんが

 

「早速試着しましょう!」

 

と、試着室まで押された。

 

数分後、着替えて出てきた。

言いたいことがある。

 

「この格好はプリーストというより…」

「はい、魔法使い系ですね。私とお揃いの帽子とマントですっ」

 

これで杖を持っていたら、プリーストと名乗っても信じてもらえない程の格好だった。

マントと帽子は返してきてもらうことにした。

 

その後も、何やらやる気が出たのか、様々な服持ってきてくれた。

 

「この服どう考えても、男の人用にしか…」

「十字架のアクセサリーで聖職者みたいに見えるので、そんな細かいことは気にしなくていいと思います」

「黒鍵か麻婆豆腐を持ってる方があってる気がする…」

 

「この服ならどうでしょう!」

「……」

「いたっ、ちょっ、お札を使って無言で叩くのやめてくださいっ」

 

「ヘヴンズフィール、起動…」

「何かダメなものが開きかけてませんかっ⁉︎」

 

------

 

なんてこともありつつ、買い物を終えた。

 

「…何だか疲れた」

「途中からノリノリでしたからね」

「……」

 

途中からノリノリで彼女はよくわからないことばかり言っていた。

色々な姿を見れたので私としては楽しくていい買い物だった。

 

「色々と服も買えましたし、服で困ることはありませんね」

「流れで買ったけど、外で着れそうな服があまり無い気が…」

 

因みに今は1番初めに試着したあの服を着て貰ってますが、赤なら爆裂魔法を撃って撃って撃ちまくるカッコいい魔法使いっぽくなれたと私の中の何かが囁いています。

着たことはないはずなのですが、不思議なこともありますね。

 

「…めぐみんの服は暑そう」

「私からすれば、美遊さんの服装は寒そうに見えますね」

 

黒ローブで黒マントな人と比べると極端過ぎる気もするが、普通は美遊のような格好をする方がいいのかもしれないと自分でも思う。

 

「この後どうするの?」

「そうですね、少し街の外へ行ってもいいですか?」

「?私は構わない」

 

このローブを着ている限り問題はないが、ただ一日一発は放ちたくなるものだ。

爆裂魔法を。

 

宿に服を置き、街の外へ。

昨日行った平原あたりまで歩いていく。

 

「ここへ来るとカエルが…」

「だとしても、我が爆裂魔法を撃てば圧勝です」

「それで昨日、下から更にカエルが湧いていたような…」

 

そんな細かいことは置いておいて、杖を構える。

彼より爆裂魔法を強く放てるようになっていなければ、爆裂魔法使いとしての私のプライドが許さない。

だから、敵を倒し、レベルを上げ、彼を超え、圧倒的な爆裂魔法を見せる。

 

「行きます、『エクスプロージョン』ッッッ!!!!」

 

杖の先から光が放たれる。

それは、何もない平原のど真ん中へと。

その光が地面に触れたと同時に爆発が起きる。

 

(昨日よりかは、上手くいけた気がしますっ!)

 

そんなことを思いつつ、倒れる。

土煙が晴れるとそこには大きなクレーターが出来ていた。

多分昨日よりかは大きいはず。

動けないから、よく見えないがそれでも昨日よりかは撃てたという自信はある。

まぁ、そんなことより

 

「やっぱりカエル出てきましたね」

「だから、言ったのに」

 

カエルが何匹か出てきた。

こちらには気づいていないようだが、じきに見つかるだろう。

なので

 

「背負って貰ってえませんか?動けないので、そうしてもらえないと食べられてしまいそうで」

「食べられて反省すればいいと思う」

 

なんて言いながらも「筋力強化」と、自身の筋力の強化をし、私を担いでくれた。

 

「背負ってはもらえませんか」

「走りにくい」

 

担がれたまま、カエルから逃げつつアクセルへと帰っていった。

 

------

 

「「ただいま」」

「おかえり、二人とも」

 

お兄ちゃんの方が先に帰っていたみたいだ。

本来なら、お兄ちゃんより先に帰って置くつもりだったのに、担いでる人のせいで帰るのが遅れた。

 

「どこ行ってたんだ、二人とも。荷物は置いてあるのに、いなかったから心配したぞ」

「すみません、シロウ。少し爆裂魔法を撃ちに…」

「外に出てたのか…危ないだろ」

 

確かに危なかった。

途中、筋力強化が切れた時は本当に焦った。

もう少し持続時間が長くてもいいのではないかとも思うが、それはレベルが上がってから考えよう。

 

「何とか逃げ延びましたね。ギリギリでしたけど」

「あなたのせいだけど」

「未だに地面の下で眠ってるあれが悪いんですよ」

 

担いでいためぐみんを下ろしながら、言い合う。

それを見ていたお兄ちゃんが

 

「二人とも仲良くなったみたいだな」

 

なんて言ってくる。

そうだろうか?

仲良くは…けど、めぐみんのことは色々と知れた気がする。

それに一緒にいて楽しかった。

 

「仲間であり、友です。友達ですよね?」

 

めぐみんが少し不安そうに見てくる。

少し可笑しく思えた。

 

「……うん」

 

今日、私に初めて友達ができた。

変な名前で、変わった魔法を使ってすぐに魔力切れを起こす変な人。

でも、一緒にいると、とても楽しいと思える人。

そんな変わった初めての友達。

 

------

 

私が友達ですよね?と聞くと、彼女は満面の笑みで応えてくれた。

私だけが楽しいと思っているわけじゃないと分かって安心した。

と、言うより私たち以上に喜んでいそうな人がいた。

 

シロウだ。

 

妹に友達が出来たのが泣くほど嬉しいことですか。

いえ、ここへ来る前の世界で彼女が友達を作ることも出来ないような環境であったのは知っています。

それでも泣くほどなんでしょうか?

 

「あ、そう言えば家はどうなったんですか?」

「ん、ああ。見つかったよ。大通りから少し外れた所だが、意外と安くてな。ギルドは遠いが、特に困るほどの距離でもない」

「今からそこへ移動ですか?」

「ああ、ある程度のものならもう買ってあるから心配ないと思う。服が思った以上に多かったが…」

 

家具も購入済みとなると、相当早く交渉は終わっていたようだ。

しかし、どんな場所に買ったのだろうか?

 

「不便な場所だったりしませんか?」

「近くに変な店があるくらいだから問題はそんなにないと思う。そこの店の人以外と有名らしいんだが、何かと問題があるとか何とか…」

 

それは果たして大丈夫なんでしょうか?

色々と不安はありますが、とりあえず荷物を持って準備ですね。

 

「では、行きましょう。シロウ」

「ああ。あと、これぐらいの荷物なら俺が持つよ」

 

…多分、この人は根っからのいい人なんでしょう。

荷物を持ってもらったぐらいで心がどうとかなったりはしませんが。

私の心は鋼です。

 

「ありがとうございます、シロウ」

「ああ。行こうか」

 

そう言えば、すっかり忘れてましたがこれだけは聞いておかないと。

 

「ところで、シロウ。美遊を見て何かないんですか?」

「ん?」

 

シロウは美遊の方を見る。

 

「…少し肩を出しすぎな気もするが…」

「あれはそう言うものですよ」

「…似合ってるぞ、美遊」

 

そう言って美遊の頭を撫でるシロウ。

顔を真っ赤にしながら、嬉しそうにしている美遊。

私が選んだのだから、私も褒められてもいいと思うのだが、どうだろうか。

 

「私が選んだんですよ」

「黒以外を頼んでようやく選んできたけど」

 

撫でられながらそう言って来る美遊。

事実だから特に何も言えない。

 

「そうなのか…だけど、ありがとうな。めぐみん」

 

私も撫でられた。

いや、全然嬉しくもないですが、頬が緩みかけているような気もしないでもないですが嬉しくなんてないですよ。

 

「にやけてる」

 

美遊に指摘され、気を引き締め直す。

直した気がする。

 

「そ、そろそろ行きますよ」

「ああ、そうだな」

「うん」

 

私たち三人は宿を後にし、家へと向かった。

 

大通りから少し外れた所にある二階建ての一軒家。

意外と広く、三人が住んでもまだ余裕があるほどだった。

近所の変な店とはウィズ魔道具店だった。

あそこは常に赤字だという。

買う人がいないような魔道具ばかり置くのが原因だとか。

 

その後、シロウが美遊に「パジャマもいるかと思って」と着ぐるみパジャマを買ってきていた。

つい笑ってしまったので、顔を真っ赤にした美遊に枕で叩かれた。

あとシロウも叩かれた。

 

こうして、何だかんだ楽しい1日が終わった。




はい、買い物回でした。
アレだ。めぐみんのあの赤い服なんて言うの?文庫の方読んだら黒いローブとか書いてあったけど、赤じゃん。あれ赤じゃん。黒いローブはwebみんのでしょう?
えーと、ほのぼのしたのとか、美遊視点、めぐみん視点がとても苦手だと言うことがよくわかったので次回から士郎視点です。すみません。読みにくくて。


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7話 彼との出会い

彼ですよ、彼

UA10000越えには驚きです。
ありがとうございます。
泣きます。

読んでいただけていると分かるのでとても嬉しいですね。
これからも頑張って書いていきます。

というか、士郎ってこんな話し方だっけ


 拠点を購入した一軒家にしてから数日後。

 

 俺は今、荷物運びをしている。

 

 ------

 

 あの後すぐに俺は仕事を探した。

 意外とこの街では、人が足りていたらしく、あまりいい仕事がなかった。

 俺一人で働く分にはいいが、美遊も一緒に働くとなると別だ。

 

 最初は俺一人で働くつもりだったのだが、美遊を置いて家を出ると必ずめぐみんと美遊が外で爆裂魔法を撃って帰って来る。

 何でも、こうやって爆裂魔法を撃ちに行くことで、めぐみんは不調にならず美遊と仲良くなれるとのことらしい。

 仲良くしてくれるのは正直嬉しい。

 嬉しいが。

 いつもカエルを爆発音で起こしているらしく、逃げ遅れでもすれば危険すぎる。

 前衛のいないパーティで行くべきではない。

 昼間にめぐみんが一人になれば行かないだろうということで美遊と働ける場所を探していた。

 

 しかし、見つからなかった。

 なので、最近仲良くなったウィズ魔道具店の店主、ウィズに話を聞いてもらった。

 

「この街で俺と美遊が働ける場所はどこかないか?」

「それでしたら、ここで働いてみませんか?お給料もちゃんとお支払いしますから…!」

 

 ------

 ということで、現在は美遊とともにウィズの店で手伝いをしている。

 商品運びのために、今はこれを運んでいるんだが…

 

「こんなもの何に使うんだ?」

 

 基本、何かと爆発するポーションばかり仕入れている気がする。

 それにこの街ではほとんどの人が必要としないアイテムばかり仕入れるから赤字になるんだと思う。

 美遊が今もウィズに必要なものと必要ないものについて話してくれているとは思うが、それだけでどうにかなってくれるのだろうか?

 

 こうして、働いて変わったことがある。

 

 一つは美遊と仲良くなのかはわからないが、話相手になってくれる相手が出来たこと。

 ウィズといつもこの商品はいらない、この商品は買うべきなんて商売の話ばかりな気がするが、それでも二人は仲良くしているように見える。

 時折、店に来て何も買わずに帰る客や、外から眺めてる奴がいるが…

 もう一つは、めぐみんとのことだ。

 彼女とはパーティを解消することにした。

 昼間は俺と美遊は働くことになった。

 そうするとめぐみんとクエストを受けるということができなくなる。

 とは言え、めぐみんはクエストを受ける気しかないようなので、渋々パーティを解消した。

 家にはめぐみん用の部屋もあるので、いつでも家に遊びに来ていいとは言ってある。

 まぁ、本当に毎日のように遊びに来ている。

 晩飯の時から賑やかで美遊もよく笑うようになった。

 めぐみんは今でもパーティを探しているらしい。

 

 そして、あと一つ。

 仕事を終え、美遊が寝たことを確認したあとに俺とめぐみんでクエストを受けることにした。

 パーティは解消している状態だが、だからと言って同じクエストを受けてはいけない、なんてことはなかったので夜に受けることにした。

 めぐみんは爆裂魔法を放つ為、俺はこの身体が鈍ることのないようにする為に、という理由でだ。

 ただ、このクエストもそろそろやめた方がいい気がしてきてはいた。

 俺はスキルで夜だろうとしっかりと敵が見える。

 しかし、めぐみんの方は何も見えていないらしい。

 めぐみんを危険な目にいつ合わせてしまうかわからない。

 なので、一先ずめぐみんがパーティを見つけるまでは続けることにした。

 そういうことでクエストも一応こなしている。

 そして、めぐみんのレベルは9まで上がった。

 しかし、何故か俺は未だに2で止まっている。

 美遊の聖杯だけが理由ではないと思うが、ここまでレベルが上がらないと多少の不安を覚える。

 

 というように、少しずつ変化が起きていた。

 

 ここの生活にも慣れてきているという証拠であり、俺の願いが順調に叶い始めているということだと思う。

 そして、この街に親しみを持ったからこそ衛宮士郎の正義も少しずつだが、憧れた正義に戻り始めてもいた。

 切嗣が目指した十を救う正義に。

 自分が目指す一を救う正義も混ざりながら。

 

「おーい、ウィズ。これ持ってきたぞ」

「お兄ちゃん、それ返品してきて」

「すみません、シロウさん。美遊がもうそんなもの必要ないと…」

「………」

 

 これで大丈夫なのか、この店は。

 冒険者としてやっていく方が安泰なんじゃないか?

 

 ------

 

「辛いでしょうがあなたの人生は終わったのです」

 

「情けなく死んだあなたには、いくつかの選択肢があります」

 

「なんかもー適当に選んじゃってー。はやくしてーはやくしてー」

 

「じゃあ、あんた」

 

 この日、再び新たな転生者が現れる。

 その男は平々凡々ですらないような人間だった。

 その男が何を成すか。

 今はまだ誰も知らない…

 

 ------

 

「返品の交渉するのは俺なんだぞ…」

 

 店長(自分の妹)と副店長(真店長)に返品してきてくれと言われたので、返品しに先程の商人を探している。

 色々な人に聞きながら探すも、未だに見当たらない。

 

「返品するものがまさか二種類もあったなんて聞いてもいなかったんだが…」

 

 追加で渡された返品する商品。

 これも爆発するものらしい。

 この世界の人間は爆発させないと気が済まないのだろうか。

 それよりまともなマジックアイテムとか売ってないのか。

 疑問しか出てこない。

 そうこうしているうちに商人を見つけた。

 交渉は何とかなったし、金も戻ってきたがこれを果たしてウィズの元に返して大丈夫なのだろうか。

 

「また無駄遣いしそうだ」

 

 美遊に渡しておいたら何とかなるだろうけど、気がついた時にはウィズ魔道具店から美遊魔道具店に変わってるんじゃないだろうか。

 それにしても、ウィズは俺よりも、当然ながら美遊よりも年上だというのにあまりにも商売を知らなさすぎないかと思う。

 それと、騙されやすい。

 よく赤字止まりで潰れないなと感心する。

 多分借金とかもあるんだろうが、流石にそこは知らない。

 あっても流石にそれは手伝えない。

 

 返品も終わり、少し暇が出来たので昼食と夕食分の食材を買いに行くことにした。

 資金面ではまだ困る程にはなっていないが、夕食分だけ三人分になるから食費が意外とかかる。

 三人分になっている理由の人物が朝と昼を食べずにいるせいで夜にがっつり食べるからだ。

 アレだけ美味しそうに食べてもらえるから、飯を作っている俺としてはとても嬉しい。

 嬉しいがタダ飯ばかり食いに来るなとは思う。

 

 今日は何を作るかな、と考えながら食材を選ぶ。

 物価もそこまで極端に高過ぎると言うことがないため、色々な食材を買えるのだが、キャベツのようなものとかが無いため栄養価的には心配だったりする。

 色々と食材を見ている時、ふと後ろで

 

「おいおい、本気で異世界だ。え、本当に? 本当に、俺ってこれから冒険者とか?」

「あ……ああ……ああああああああ」

 

 驚いてる一人の男の声と何かとても絶望しているような声が聞こえた。

 しかし、とりあえず買うものは買っておこう。

 特に大変そうというわけでも無い。

 片方は。

 

「これとこれで」

「あいよ、500エリスだ。毎度あり」

 

 ここで買うものは買ったので移動しようかと思ったが

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 なんて叫ぶ声が聞こえた。

 流石にこれは無視出来ない。

 俺はとりあえず声のする方へと振り向く。

 

 そこには、黒のジャージを着た一人の男と、何処かで見たことあるような女性が頭を抱えていた。

 叫び終えたと同時に男に掴みかかっている。

 

「帰ってくれて構わないから、もういいよ。後は自分で何とかするから」

「帰れないから困ってるんでしょ!私これからどうしたらいい⁉︎」

 

 とりあえず事情でも聞いてみよう。

 俺は二人の元へと近づく。

 

「何やってるんだ、こんな時間に」

「あー、いや、俺は何もしてない。ただこいつが勝手に泣き叫んでるだけだ」

「はぁ⁉︎何言ってるのよ!あんたのせいで私は帰れないって言ってるでしょ!」

「仮にも女神名乗ってるなら帰れるだろ!」

「女神の力の殆ど無いわよ!だから、帰れないって言ってるんでしょ!ねぇ、バカなの!あなたバカなの⁉︎」

 

 …話に混ざらない方が良かったかもしれないな、これは。

 でも、聞いたからには最後まで話を聞こう。

 

「とりあえず二人とも落ち着いてくれ。昼前の大通りで叫んでたら変な目で見られるぞ」

「お、おう。その目で見られるのは勘弁して欲しいところだな」

「あんた元の世界で散々変な目で見られてた可哀想なニートですものね、プークスクス」

「また騒ぐならもう放っておいて帰るぞ」

 

 困っていそうでこうして声をかけたが、こうも話が進まないなら聞かなくてもいい気がしてきた。

 

「待ってくれ。じゃあ、一つだけ教えてくれ。冒険者のギルド的なものは何処にあるかを」

「それならすぐ近くだ。俺が案内する。騒がれると周りに迷惑だろ」

「あ、ああ。案内してくれるなら助かる。こいつと二人きりだと何を言われるか」

「そういうこと言うからだろ」

「うっ…」

「プークスクス。初めて会った人にまでこんなこと言われるなんて」

「あんたもだ。少し静かに出来ないのか?」

「はい、すみません」

 

 とりあえず二人を静かにさせ、冒険者ギルドへ案内する。

 

「あ、こんにちは。シロウさん。お昼に顔を出すなんて珍しいですね。今日はどうかされました?」

「後ろの二人がここを探してたみたいだから、案内していただけだ」

「ウィズさんのお店のお手伝いはいいんですか?」

「返品後で今はやることがないんだ」

「また返品ですか、大変ですね」

 

 全くだ。

 ここ最近、運んでは返品というのが多い気がする。

 

「では、後ろのお二人が登録するということでいいんですね?」

「はい、田舎から来たばかりでよく分からなかったので…」

「そうですか。登録には手数料がかかりますが大丈夫ですか?」

「おい、アクア。金持ってる?」

「持ってるわけないでしょ」

 

 どうやら、金に困っているらしい。

 こういう面で助けるのはあまり良くないのは分かっている。

 しかし、放って置くわけにもいかない。

 

「登録手数料なら、今回は俺が出すよ」

「もう、ほんと何から何までありがとうございます。いつか返しますんで、ほんとありがとうございます」

 

 頭をひたすら下げる男と、こちらをじっと見る女性。

 この女性何処かで…?

 

「あ、思い出したわ。この間、ここに送ったばかりの!」

「とすると、あんたはあの時の女神か」

 

 胸ぐらを突然掴まれた。

 なんでさ。

 

「いや、本当なんでさ⁉︎」

「あんたのせいでお説教されたじゃない!あの後!渡しすぎだって!」

「それは確認しなかったあんたの責任だろっ…!」

 

 とりあえず解放された。

 というより、筋力強くないか、この女神。

 

「そ、そうね。確認ミスね」

「理解したなら何よりだ。それと、ほら。二千エリス」

 

 表彰状でも貰うかのように受け取る女神。

 

「じゃあ、俺はこれで」

「ああ。この借りは何かで返すよ」

「別に返さなくてもいい。冒険者として頑張れよ」

 

 俺はその場を後にし、食材を買いに戻った。

 

 ------

 

 その日の仕事も終わり、家に帰る。

 そこには、リビングでダラけているめぐみんの姿があった。

 

「あ、おかえりなさい。シロウ、ミユ」

「ただいま、めぐみん」

「ただいま、めぐみん。何してるんだ?」

「今日新しく冒険者になった人がいるらしいんですが、凄いアークプリーストが現れた。という話題で盛り上がっていたんです」

 

 多分彼らのことだろう。

 まぁ、女神がいるならそれもそうだろうな。

 

「だからと言って、めぐみんがごろごろすることはないと思うんだが」

「あれなんですかね、アークプリーストって意外と誰にでもなれるんですかね」

「えっ…」

 

 美遊が驚いていた。

 今の話からすると多分女神がアークプリーストだったんだろう。

 いや、まぁ、女神なんだからそれが普通か。

 

「爆裂魔法を覚えようとするものが全く現れなくて落ち込んでます」

「そこだったのか…」

 

 爆裂魔法は普通は覚えたがらないだろう…

 

「まぁ、それはいいが、めぐみんはパーティ見つかりそうか?」

「まだ見つかりませんね」

 

 意外と難航しているらしい。

 やっぱり爆裂魔法だけの魔法使いは…

 

「明日も探してみますね」

「ああ」

 

 食事を終え、美遊が寝た後、クエストへ。

 そして、また今日が終わる。

 

 明日は

 また、少し変わり始める。




かじゅまさぁぁぁぁん

とのことで遭遇しました。
これからこのすばがはじまる…!

ある程度無理なく書いていきます。よろしくお願いします


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8話 カエルのクエスト再び

士郎、お腹が空きました。

カズマさんが登場したので続々とと言うほどでもないですがキャラが現れてきます。
その予定です。

評価とか貰えて喜びの舞をしてます。優しさに泣いた。


「代わりにクエストを受けて欲しい?」

 

 翌日、ウィズの店に行くとそう言われた。

 

 理由としては、元々気分転換にクエストを受けようとしたらしいのだが、美遊にそんなことをしている暇はないと止められたそう。

 しかし、その時にはもうクエストを受注済みでやるしかないらしい。

 だが、離れられないので戦える俺に頼んだということらしい。

 

「俺はいいが、運ぶものとかはないのか?」

「私は色々と仕入れようとしていたんですが、ミユさんに全部却下されてしまって……」

「まぁ、そうなるだろうな」

 

 何を仕入れるつもりだったんだ、ウィズは…

 一応これで無駄な出費は無くなったし、俺の仕事も無くなったと。

 

「けど、いいのか?ウィズが受けたクエストだろ?俺がやっても意味がないような」

「それでしたら大丈夫です。私の代わりにシロウさんが受けるということはギルドの方で了承済みです」

 

 断る道はなかったようだ。

 いや、元から断るつもりなんてなかった。

 衛宮士郎という人間はとんでもない無茶でない限り断ることはない。

 

「了承済みなら、受けてくる。どんなクエストなんだ?」

「ジャイアントトードを一週間で十匹討伐というクエストです。何故か、今年のジャイアントトードの繁殖期は例年以上に盛んなようで…少し前から何故か外に出ている姿も確認されていたそうで」

 

 多分、原因がわかった。

 原因を察した美遊は俺と目が合うと目を逸らした。

 この反応からしても間違いない。

 原因はめぐみんだ。

 

「原因もわかった。それには少し説教しておくから、多分これ以上は酷くならない筈だ」

「私も言っておきます…」

「???」

 

 一人だけ分かっていないウィズは首を傾げていた。

 

 ------

 

 その後、ウィズの店を出た後、ギルドに向かった。

 了承済みだろうと一応言っておかないと。

 

「金がないと装備も買えない。そうなると、クエストさえ受けられないってどういうことだよ…冒険者に優しくないな、この世界」

「装備がタダでもらえたりするわけないじゃない。バカなの?もしかしなくてもバカなの?」

 

 なんて騒がしい二人組がギルドから出てくる。

 こちらには気づいていないようなので、此方からも何もせず、すれ違う。

 普通は装備品も買わないとダメだったんだな、と当たり前のようなことを考えながらギルドに入る。

 

「シロウさん、こんにちは。今日はどうかされましたか?」

 

 夜にクエストを受けるとき、何度か話し仲良くなった受付の女性、ルナさん。

 多分ここの制服を着ているだけなのに、眼福、いや、目に毒だ。

 

「ああ、今日はウィズのクエストを代わりに受けるっていう話を一応しに来た。聞いているとは思うんだが」

「はい、それでしたら聞いています。一週間で十五匹のジャイアントトードの討伐ですね」

 

 聞いていたのより五匹ほど多くはないだろうか、ウィズさんや。

 

「あ、ああ。それなんだが、勝手に承諾するのはどうかと思うぞ…」

「えっ、確認も取らず、シロウさんに代わりに受けてもらうなんて言っていたんですか。ウィズさんは」

 

 勝手に俺まで承諾していることになっていた。

 なんでさ。

 

「ということは、このクエストでパーティを組んでいることも聞いてませんか?」

「初耳だぞ、それ!」

 

 そういう話は先にしてくれ。

 クエストを代わりに受けたりするのは構わないが、重要なことぐらいは伝えてもらいたい。

 

「キミがウィズの言っていた代わりの人だね」

 

 ふと、横から声が掛かった。

 振り向くとそこには頬に傷のある銀髪の少ね…いや、少女がいた。

 そして、その横に硬そうな装備を身に纏う金髪の女性がいた。

 

「あんた達がウィズのパーティか?」

「一時的なパーティだけどね。わたしはクリス。盗賊だよ。こっちはクルセイダーのダクネス」

「俺は衛宮士郎。アーチャーだ。」

 

 俺が名乗ると少し驚いていた。

 しかし、そんな素振りもすぐにやめ、笑顔になった。

 

「後衛職が代わりでよかったよ。わたしはどちらかというと前衛職、ダクネスは完璧なまでの前衛職だからね。後衛職が欲しかったんだ」

「なるほどな。けど、盗賊ならこんなクエスト受けるべきではないんじゃないか?」

 

 盗賊と言えばイメージ的に率先して戦うような職とは思えない。

 どちらかというと宝探しとかをする非戦闘員のイメージだ。

 

「本来なら探索ダンジョンに行くつもりだったんだけどね。ジャイアントトードが出過ぎたせいで探索ダンジョンへ向かう道にも現れて、全部中止された。だから、他のクエストを受けたんだ」

 

 それでこれしかなかったと。

 …後衛として働くけど、最悪前衛で戦う羽目になるかもしれないな。

 このパーティだと。

 

「わかった。よろしく、クリス。ダクネス」

「うん、よろしく」

「…ん。よろしく頼む」

 

 ------

 

「えっ⁉︎レベル2なの⁉︎」

 

 街から少し離れた場所でどんなスキルとかを持っているのかと聞かれたのでカードを見せることにした。

 1番初めに目につくのはレベルだろうから、この反応は仕方ないと思っている。

 

「そんなに驚くことか?」

「ウィズからは優秀なアーチャーだって聞いてたからね。レベル2だなんて思わないよ」

「レベル2であれば、私たち二人で戦うのと変わらん」

 

 流石にそれには少しムッとした。

 

「あのな、レベルだけが全てとは限らないだろ」

「基本はレベルだよ。スキルの種類も豊富になるにはレベルが高くないと」

 

 確かにこの世界はレベルを上げ、スキルを取得することも大切だ。

 だが、経験が一番だと思う。

 

「…それによく見れば、君は装備すら持って来ていないのだな」

 

 今更なことをダクネスが言う。

 最初見たときに気がつくと思うが…

 

「本当だ」

 

 クリスもか。

 

「武器ならある」

「弓も矢も隠し持つことは不可能だろう」

「何か、隠し持っているのかな」

 

 クリスは俺の方へと手を向ける。

 

「『スティール』ッ!」

「っ⁉︎」

 

 クリスが叫ぶ。

 すると、下半身が涼しい。

 まるで、ズボンを履いていないかのように。

 

「あのさ、どうやったのか知らないがズボンかえーー」

「わあああああああああああ!なんてもの取らせるのさぁぁぁぁぁ!」

 

 悲鳴とともに叩かれた。

 なんでさ。

 

 ------

 

「ごめんね、本当に何も持ってなかったとは思ってなくて…」

「街の外に何も持ってないとは普通思わないだろうからな。説明不足で悪かった」

 

 ズボンを履き直した俺はクリスの謝罪を受けていた。

 ダクネスは顔を手で覆っていた。

 

「窃盗スキルはランダムだから…」

「ランダムなものを使おうとするなよ…」

 

 正直、目的地に着く前にここまでのんびりとしていたら今日どれだけ倒せるか分からないので早く行きたいところだが

 

「すまない、ダクネス。見たくないものを見せてしまうことになった」

「…ああ、此方こそ取り乱してすまなかった。もう大丈夫だ」

 

 俺が謝ることかどうかは疑問ではあるが、一応謝っておく。

 そして、ようやく目的地へと再び歩き始めた。

 

「そう言えばどこに向かってるんだ?」

「元平原、かな」

「元?」

 

 元平原なんて言葉聞いたことないぞ。

 

「元々は本当に単なる平原だったらしいんだけど、最近見たらクレーターだらけだったらしいんだ」

 

 めぐみんのせいだな。

 爆裂魔法を撃ちまくったりしない限り、クレーターが平原を無くすほどに埋め尽くせるわけがない。

 

「そこに十五匹もいるのか?」

「それ以上いるかもしれないね。その時のためのキミだよ」

 

 狙撃して数を減らせ、と言うことだろう。

 

「どうやって狙撃するのか、興味がある」

「武器も無しに狙撃なんて出来ないと思うけど」

 

 まぁ、普通はそうだろうな。

 

「着いてからのお楽しみだな。別に教えてもいいんだが、実際に見せた方が早い。意味のないところで出すぐらいなら着いてからだ」

 

 今使っても魔力が減り続けるなんてこともないから出してもいいが、なんとなく出し渋っておこう。

 

 それから、数十分後。

 ようやく目的地に着いた。

 なるほど、元平原というのも分かる。

 

 そこは凸凹だらけでカエルだらけだった。

 

 正直あまりにもカエルが多く気持ちが悪い。

 クリスも引いている。

 ダクネスは恍惚な表情を浮かべている。

 

「ダ、ダクネス?」

「あ、あれだけのジャイアントトードの中に放り込まれれば、踏まれ蹴られ、そして舌で弄ばれた後食べられてしまうっ…!」

 

 何故それを嬉しそうに語る。

 こんな前衛でいいのか?

 

「ダクネスのことは放っておいていいから、ほら狙撃狙撃」

「あ、ああ。ーーー投影、開始(トレース・オン)

 

 前回と同じようにイメージする。

 片手に黒い弓。

 片手に螺旋状の剣。

 

 螺旋状の剣は、矢のように細い。

 

 それを見たクリスは理解が追いついていないような顔をしている。

 

「ど、どこからそんな大きな弓が…それより、それは矢というより」

「ああ、これは剣だ」

 

 螺旋剣(カラドボルグ)

 これは、ケルトの戦士が使っていたとされる剣。

 本来のものであれば、圧倒的な攻撃範囲と圧倒的な威力を誇る剣とされている。

 しかし、投影したものは本物とは違い、矢として使えるような形になっている。

 しかし、ただ矢として放ったとしても簡単に敵を貫通するほどの威力を誇る。

 あのカエル程度なら簡単に。

 

「それはただの剣というより、神器に近いーー」

「これは宝具と呼ばれていたものだ。かつての英雄が使っていたとされる武器。俺はそれを劣化品としてだが投影出来る」

 

 クリスはその剣をずっと眺めている。

 

「神器や宝具という言葉が聞こえたが、それはそれ程に凄いものなのか?」

「凄いなんてものじゃない!劣化品とは言ってもこんなものを簡単に作ってしまうなんて、あり得ないことだよ!」

「そんなに騒ぐとこっちに近づいてくるぞ」

 

 とりあえず、騒ぐクリスには静かにしてもらいたい。

 俺は軽く深呼吸をし、構える。

 

「---I am the bone of my sword.(我が骨子は捻れ狂う)

 

 螺旋剣に魔力が篭る。

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)

 

 剣を放つ。

 その剣は吸い込まれるようにカエルの集まる場所へと飛ぶ。

 そして、カエルの一匹に触れたと同時に爆発が起きる。

 

 壊れた幻想(ブロークンファンタズム)

 

 宝具に篭った魔力を爆発させるもの。

 偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)ほどの宝具を爆発させるとAランク程の威力を出すことができるとされている。

 

 カエルの殆どを今ので仕留められただろう。

 威力はクレーターとカエルの死体が物語ってくれている。

 

 それを見たクリスとダクネスは驚きのあまり放心していたようだが、ハッと意識を戻しこちらを見て問いかけてくる。

 

「い、今の神器に近いものなんだよ⁉︎あんなに簡単に爆発させてどうするの⁉︎」

「あ、あれは投影したものだから、気にするようなことじゃ…」

「あ、あれを私目掛けて撃ってくれ!」

「なんでさ⁉︎」

 

 クリスには説教を、ダクネスにはあれを放ってくれと頼まれる。

 クリスのことに関しては確かに分かるが、ダクネスの言うことはさっぱり理解出来ない。

 

「劣化品でも、もっと他の使いかひやぁっ⁉︎」

「クリスっ⁉︎」

 

 それは突然の出来事だった。

 倒しきったと油断していたからだろう。

 こちらへと伸びてくる舌に気がつくことができなかった。

 クリスはそのままカエルの口へーー

 

 口の中へと行く前にカエルはクリスを宙に放り投げた。

 何故なら

 

 舌に深々と刺さった二本の剣。

 それがカエルに痛みを与えたからだった。

 

 俺はクリスが掴まれたと同時に干将・莫耶を投影した。

 それをカエルへと投げた。

 

 干将・莫耶は夫婦剣。

 二本が揃うことによりあらゆる効果が生まれる。

 そして、この剣の特性上、引き離されることはなく、互いに引かれ合う。

 それにより、投げた二本の剣が同じ場所へと突き刺さる。

 その為に舌の根元目掛けて、この二本を投げていた。

 考えて行った行動なんかではなく、身体が勝手に動いていた。

 

 宙に放り投げられたクリスを両腕で受け止める。

 

「大丈夫か、クリス!」

「は、はいっ」

 

 そのまま離れて距離を取ろうとするが

 

「こいつともう一匹いたのか…!」

 

 このまま下がってクリスを置いたところで、一体倒してる間に食われるのがオチだろう。

 なら

 

「クリス、落ちないように俺に掴まれ」

「えっ、あ、はいっ」

 

 クリスが落ちないよう俺に抱き着く。

 もう少しあっただろうとも思ったが、そんなことを考えている場合じゃない。

 

 干将・莫耶を投影する。

 それを投げ、再び投影し、投げる。

 数回投げつけると身体のいたるところに干将・莫耶が突き刺さったカエルになっていた。

 

「弾けろ…!」

 

 魔力を一気に流し込み、干将・莫耶を爆発させる。

 

 これで一匹…!

 

 もう一体の方を見ると…

 

「ああっ…!これから、カエルに食われてしまうのかっ!ゆっくりとだが飲み込まれていくっ……!くっ…!やるならひと思いにっ…!じわじわと飲まれていくのもまたいい…!」

 

 恍惚な表情を浮かべたダクネスが食われかけていた。

 

「あれ、助けなくてもいいか…?」

「一応、あれでもわたしの友人だから助けて貰えないかな」

 

 クリスは食われかけの友人から目を逸らしつつも、頼んできた。

 

 

 こうして一週間でジャイアントトードを十五匹討伐するというクエストはクリアした。




はい。クリスとダクネスの登場でした。

クリスとウィズの絡みは無かったと思うし、あるはずもないと思うんだ。だって、クリスってあれだし、ウィズはあれだし。
お互い話す機会とかもないと思うんだ。

今回のクエストは元々ウィズが受けたものでしたが、ダンジョン探索を中止させたジャイアントトードに対して怒りの鉄槌を下そうとしたクリス(とおまけのダクネスの二人)が受けようとしたクエストでもあり、被ってしまった流れでパーティに的な感じです。

クリスはヒロインでもいいと思う。


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9話 衛宮士郎

UA15000超え、お気に入りも300。
ありがたやぁありがたやぁ、泣きますぞ。泣いてますぞ


「大丈夫か、二人とも」

「わたしは少しだけべとべとしてるだけで何ともないよ」

「私も硬さだけが取り柄だからな…このぬめぬめした粘液をつけたままの状態で街を歩かされ、周囲からなんだあいつと冷たい視線を浴びてしまうのか…っ!」

 

 どうやら二人とも大丈夫そうだ。

 ただ、その姿のまま歩かれると誤解されそうな気がした。

 というより、ダクネスが受けるつもりでいる視線が俺に突き刺さる気しかしない。

 

「街に帰って風呂にでも入った方がいい。それまでの間はこれでも羽織っておいてくれ」

 

 投影した白い布を二人に渡す。

 

「あ、ありがとう」

「…ん。感謝する」

 

 二人が羽織ったことを確認し、街へと戻っていく。

 カエルを一匹引きずりながら

 

 ------

 

「い、一日で終わらせてしまったんですか⁉︎」

 

 自分でも何匹倒したか、把握していなかったがどうも終わっていたらしい。

 というより、流石にこのパーティで再び行くつもりはない。

 二人の実力を見ることは出来なかったが、ダクネスがいる分、戦闘とは違う意味で疲れそうだったからだ。

 

「どうやらそうみたいだな。丁度カエルが平原の真ん中にうじゃうじゃと集まっていたから、それを一掃しただけだが」

「しかも、一人でね」

 

 クリスが自慢気に言っていた。

 何故、クリスが自慢気なのかよく分からないが、まぁいいか。

 

「ですが、レベルは一つしか上がってないみたいですね…」

「なんでさ…」

 

 あれだけの数を倒しても一つしか上がらないレベル。

 流石に不思議だ。

 美遊に経験値の少しを魔力として取られているのは知っている。

 聖杯というスキルの効果だ。

 だが、それにしてもレベルが上がりづらい。

 

「あれじゃないか?才能が無さすぎるものだったりするとレベルは上がりやすい。つまり、彼はその逆だということ」

「それならあり得ますね。これだけレベルが低い中で圧倒的な戦闘を繰り広げることができるのでしたら、不思議ではありません」

 

 それはどうだろうか。

 俺の身体は、別の世界の俺の成れの果てが置換されつつある。

 俺自身の才能がそこまであるとは思えない。

 

「なんであれ、レベルが全てじゃないってことはよく分かったからそれでいいんじゃないかな」

 

 そう言いだしたのはクリスだった。

 

「だから、彼のレベルのことは気にしなくていいと思うよ」

 

 クリスは俺に微笑みかける。

 まるで君のことは分かっているよと言っているような感じだ。

 

「何が一日で終わったって?」

 

 突然、後ろから声をかけられた。

 なんというか、荒くれ者という言葉が似合うような男だった。

 あと、レベルの話をしていて気がつかなかったが、周りは何やらざわついていた。

 多分、ルナさんの驚きの声でだと思うが。

 

「こちらのクエストをたった一日で…」

「何、ジャイアントトード十五匹の討伐だと?……十五匹⁉︎」

 

 更にざわついてきた。

 そこまで異様なことなのだろうか?

 いや、まぁ、一週間かけてクリアするクエストだから当然か。

 

「今のレベルじゃ、三日で五匹倒すクエストでさえ苦労するっていうのに」「今、ジャイアントトードは殆ど外に出ているんじゃなかったのか?」「動きの止まったあれを倒すのも少し苦労するんだが…」

 

 なんていう声が聞こえてきた。

 どうやら、ここまで簡単にクリアできるクエストではないようだ。

 いや、簡単なものじゃないっていうのは理解している。

 していたが、ここまでのものとは思っていなかった。

 

「あのクルセイダーさんがやったのか?」

「いや、全てあのアーチャーだけだ。私は何も倒していない。」

 

 ダクネスが俺を見る。

 ギルド内の人間がこちらを見てくる。

 

「アーチャーだけでだと…?」

「…ああ、俺一人でやった。疑うっていうならカードを見せてもいい」

 

 冒険者カードには、その日に倒したモンスターの数、種類といったものも記載される。

 これがある限り嘘はつけない。

 

「私が確認しましたが、規定数ちゃんと倒していますよ」

 

 それに受付をやっている人が言うなら信じない人はいないだろう。

 

「そのクエストがクリアされたってことは、つまりダンジョン探索のクエストが…」

「はい、再開されます」

 

 盗賊だと思わしき人たちが喜びの声を上げる。

 そして、そのパーティメンバーだと思わしき人達も。

 一気に賑やかになってきた。

 

「やるじゃねぇか、兄ちゃん。飲もうじゃねぇか!」

「おう、どんどん飲んで食ってけ!」

 

 まるで宴のようになり始めたギルド内。

 わいわい騒ぐのが嫌いな訳じゃないが、この格好だと騒ぐ気にもなれない。

 

「とりあえず、風呂にでも入りに行こう。この調子だとまだまだ続きそうだ」

「そうだね。じゃあ行こうか」

 

 ダクネスとクリスを連れ、ギルドの外へ。

 外に出ても声が聞こえるほど賑わっているみたいだ。

 当分終わらないだろうし、酔い潰れるまで飲みそうなやつばかりだったな。

 

 ------

 

「こっちはウィズの店しかないよ?」

 

 歩いているとクリスが不思議そうに言ってきた。

 風呂に入るという話だったのに、ウィズの店のある方には大衆浴場などはない。

 

「ああ、大衆浴場に行っても服は汚れたままだろ?だから、俺の家の風呂に入って貰おうかなって」

 

 この時間なら誰もいないだろうし、二人はのんびりと入れるだろう。

 その間に俺が服を洗っておこうかと考えた。

 

「い、家に風呂まであるのか…」

「少し大きめの単なる一軒家だけどな。一応風呂付きだ」

 

 ダクネスは意外そうだった。

 クリスは小声で

 

「覗いたりするのはダメだからね?」

「俺をどういう目で見てるんだ…」

 

 誓って覗いたりなんてしない。

 そんなつもりはない。

 そうこうしているうちに家に着いた。

 

「ただいま」

「おかえりなさい、お兄ちゃん」

「あ、お邪魔しています。シロウさん」

 

 家でのんびりと寛いでいる美遊とウィズがいた。

 

「この時間帯に帰ってるなんて珍しいな。それにウィズまで」

「もうそろそろ帰ってきそうでしたので、ミユさんと待っていました」

 

 なんでも今日のクエストのお礼に食事を美遊と一緒に作っていたらしい。

 なんだかんだ、美遊とウィズは仲がいい。

 

「そうだったのか。悪いけど先にこの二人に風呂に入ってもらってからでいいか?」

「二人?」

 

 ダクネスとクリスに入って来てもらった。

 粘液でぬめぬめした二人を見て、ウィズは二人を見て驚き、美遊は俺を睨んで来た。

 

「ウィズ、ここにいたのか」

「パーティメンバーのことぐらい伝えておいてよ」

「ご、ごめんなさい。すっかり忘れひゃっ⁉︎あの、そのぬめぬめした状態で、あ、それ以上抱きつかないでくださいっ!あと、クリスに触れられていると何故かピリピリします!」

 

 とても楽しそうにしている三人の横で

 

「お兄ちゃん何してたの…?」

「美遊、俺はただクエストをだな…」

 

 妹に正座させられ、説教を受けていた。

 

 ------

 

 隣で楽しそうに暴れていた三人は今、風呂に入っている。

 一番粘液だらけのダクネスにも色々されたウィズも相当酷いことになっていたので、風呂に入ってもらうことにした。

 その間、俺と美遊は服を洗っていた。

 

「あのカエルに丸呑み…」

 

 どうにか俺が何もしていないということを納得してもらえた。

 …ダクネスが呑まれそうになっている時に喜んでいた、なんてことは教育上良くないと思ったから言ってはいないが。

 

「油断していたとはいえ、まさか外にずっと出ていたアレがそこまで出来るとは思いもしなかった」

「土の中で眠っているものが外に出て、それから起きたままなら活動が活発化してもおかしくないよ」

「それもそうだな」

 

 寝起きじゃないなら、活発化してても不思議じゃなかったなぁ…

 起こした本人には本当にきつく言っておかないと。

 

 美遊はここの生活にも慣れて来たのか、前と変わらない生活を送っていた。

 人にものを教える美遊なんて、前の世界じゃ考えられないようなことをしていた。

 ずっとあの武家屋敷にいて、俺は中途半端なまま育ててきて、ジュリアンに連れ去られたあとどんな生活をしたかは分からないが、それでもいろんな人と接するような生活は送ってない。

 そんな美遊が今ではいろんな人と話したり、外を歩き回ったりしている。

 兄として妹が成長してくれて、願ったものとして願いが叶いつつあり、嬉しい。

 

「美遊は今、楽しいか?」

「…うん」

 

 笑顔で応えてくれる。

 俺はこうした幸せを求めてきたんだ。

 こんな本物を…

 

 ------

 

 三人が風呂から上がってきたらしい。

 彼女たちの服は洗濯を終えたばかりなので、着替えは俺の服を置いておいた。

 それが、間違いでもあったと気づいた。

 

 目のやりどころに困る。

 

 ダクネスとウィズは、胸部という出っ張りがとても目立つ。

 それに、おろした髪が先ほどまでのイメージを変える。

 なんというか、色気というものか。

 それを感じてしまう。

 

 クリスはスレンダーな体型なのでそういうことはないのだが、少し大きめの服だったのか、腰のあたりで服をくくってとめている。

 先程よりかはマシだがまだ少年っぽさがあるクリス、なはずなのだが、クリスを女の子と知っていることと少年っぽさがマシになったからこそ更に可愛さが表に出てきたというか。

 

 そんな感じでとても目のやり場に困った俺は、目を逸らしながら風呂に入ることにした。

 クリスのせいで粘液ついてたからな。うん。

 

 ------

 

 今日は色々と疲れた。

 家に帰ってからもあまり落ち着けないとは思ってもいなかった。

 

「美遊とかめぐみんの服しかないのが原因だな…」

 

 何がとは言わないが小さい子しかこの家にいなかったから俺の服を貸したが、大変よろしくない。

 

「こんなことになるとは思わないからなぁ…」

 

 ぼやきながら身体を洗う。

 少し褐色の肌が混じった傷だらけの身体。

 少しずつだが、置換されている部分が増えてきている。

 幸いなのが、服で隠せる部分ばかりだというところだ。

 

「突然、顔の色が変わったら流石に、な」

 

 俺の身体に何か起こると分かれば、美遊に何を言われるか。

 あまり心配はかけたくない。

 身体を洗い終えたあと、湯船に浸かりのんびりしていた。

 眠気が不意に襲ってきた。

 

(風呂に浸かりながら寝るのは…)

 

 危険だとわかっていても抗えず、意識が途切れた。

 

 ------

 

 夢を見た。

 

 何故夢かと分かったのか。

 

 目の前に小さい頃の俺と、親父がいたからだ。

 

 縁側に座り、二人で話している。

 

 この日、俺は親父が正しくあろうとしたことを間違いになんかさせないと誓った。

 

 正しくあろうとして間違え続けたと話していた親父。

 

 俺はそんな親父を正義の味方だと信じていた。

 

 しかし、目の前の会話は俺の知ってるあの日の話ではなかった。

 

 

『僕はね、正義の味方になりたかったんだーー』

 

『誰かを助けるという事は、誰かを助けないという事。正義の味方っていうのは、とんでもないエゴイストなんだ』

 

 知っている。

 

 それは俺の知る衛宮切嗣もそうだった。

 

 大勢を救うために美遊を道具として扱った。

 

 道具として扱った美遊が縛られ続けることを知っていても。

 

 それが間違いだと言った親父。

 

 それを間違いにさせないと誓った俺。

 

 目の前にいた小さい俺は

 

『しょうがないから俺が代わりになってやるよ』

 

『任せろって、爺さんの夢はーー』

 

 その俺も親父の夢を受け継いだ。

 

 あの時の俺は泣いていた。

 

 目の前の俺は笑っていた。

 

 そんな小さな違いだが、それが大きな違いだった。

 

 純粋に正義の味方を信じた男と正義に迷いを生んだ男の違い。

 

 そして、場面は変わる。

 

 そこはーー地獄だ。

 

 いくつもの死体の山。

 

 戦場の跡。

 

 彼はそこに一人で佇む。

 

 その瞳には、その表情には何の感情もなく。

 

 殺した分、多くの命を救っていた。

 

 親父の正義。

 

 完成した正義の味方。

 

 

 ー俺はこんなものを求めていたわけじゃない。

 

 あの日、背を向けた正義。

 

 あれを正しいと思い続ければこうなっていたかもしれない。

 

 だが、俺はそれを捨て、美遊を救う兄になった。

 

 今は、美遊の周りを、その幸せを守りたいと思う。

 

 前の世界()を捨て、美遊のいる世界()を救う。

 

 ーーそれではまるで今の世界を救うと、そう言っているように聞こえるな。

 

 その通りだ。

 

 ーーそれはあまりにも傲慢だ。

 ーーそんな大きなものを捨てた貴様に、次であれば救えるとでも言うつもりか。

 

 全てを守る正義の味方になろうとしているんじゃない。

 美遊を、美遊の幸せを守る兄でありたいだけだ。

 

 ーーでは、幸せに必要のない人間は切り捨てると言うことか。

 

 そんなものはない。

 誰かがいなくなっていい世界なんかじゃない。

 

 ーーやはり、貴様も『衛宮士郎』でしかない。

 ーー正義などという呪いで縛られた『衛宮士郎』でしかない。

 

 俺は正義なんかじゃない。

 俺はたった一人を救う『悪』でしかないんだーー

 

 --------

 

 目が覚めた。

 

 知っている顔が見えた。

 

 めぐみんだ。

 

「俺は今風呂に入ってるんだが」

「電気が消えていたのでいないと思っていました」

 

 入っているのに気がついたなら出ればいいんじゃないか?

 

「お風呂で寝ると最悪死にますよ」

「起こしてくれたのか」

「そうですよ。感謝してください」

「ああ、ありがとう」

 

 動かないめぐみん。

 出られないんだが

 

「めぐみん?」

「少し場所空けてください。入りますから」

 

 言われるがまま場所をあける。

 そこへめぐみんが入ってくる。

 

「お風呂はいいですね。疲れが飛びます。それに落ち着きます」

「そうだな」

 

 落ち着かないが。

 

「疲れているならしっかり休んでください。みんな心配しますから」

「……そうする」

 

 

 その後、一緒に風呂場から出てきたところを美遊に見つかり説教を受けた。

 

 バラバラでいいのにわざとめぐみんが一緒に出てきた気がする。

 

 なんでさ

 




思いつくまま書いてちゃダメだと思う。
なんかよくわからないものになった。
次回は二週間ほど飛び、カズマさんの活動が始まる気がする。

始まれ


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10話 パーティ

さて、これからカズマさんが冒険者として働く日々が始まるのです。

クズマさん書けない


 あの夢を見てから二週間。

 あの日以降、あの夢を見ることはなかったし、特に変わったこともなく、いつも通りウィズの店の手伝いをしていた。

 

「なぁ、ウィズ。これ爆発ポーションなんじゃ」

「ち、違います、違います!ああっ、ミユさん、違いますから捨てようとしないでください〜…!」

「お兄ちゃん、返品」

「またか…」

 

 本当にいつも通りの変わらない日々。

 朝からめぐみんはギルドへ、俺と美遊はウィズの店へ、ウィズは要らないものばかりを買って、ダクネスは何をしているかは知らないが、クリスは時折家にやってきて、何かと金目のものを取ろうとする。

 そんな日常だった。

 

「あ、シロウさん。今日は配達もありませんから、それを…返…品…してもらえれば…自由にしてもらって構いませんよ」

 

 明らかに返品と言った時、落ち込んでいた。

 そんなに返品したくないのか…

 赤字の原因を。

 

「あのなぁ、ウィズ。そろそろこういう要らないものを買おうとするな」

「親切な方がお安く売ってくださったので」

「あっちの在庫処分に付き合わされてるだけだな…」

 

 あっちもあっちで返品されることを学んでくれ。

 

「じゃあ、返品してくる。ウィズを頼むぞ、美遊」

「うん、行ってらっしゃい。お兄ちゃん」

「お願いします、シロウさん……」

 

 二人に見送られ、店を出た。

 

 ------

 

 その後、いつも通り商人を見つけ、返品する。

 あちらも商売が大変なのもわかるが、ウィズに売り付けるのはやめてくれ。

 たまたまギルドのすぐ近くだったので、少し中を覗いてみたがめぐみんの姿はなかった。

 いつもなら落ち込んでる姿を見かけたりするのだが、今日はパーティが見つかったのだろうか。

 

 ギルドを後にし、家に帰る。

 そろそろ昼だったので、家で昼飯を作って食べる。

 

 この世界はどうも、キャベツとかレタスとかの野菜が少ない気がする。

 栄養はこれで取れてる、よな?

 なんて、思いながら昼食を終えた。

 

 その後、再びギルドへと行ってみたが、特にクエストを受けるでもなく買い物をして帰ることにした。

 どうも、専門職でのクエストが増えた気がする。

 剣の指導や魔法薬の実験台なんてものも多く、受ける気にはならなかった。

 というより、受けようにもアーチャーのクエストがない。

 だから渋々買い物をして帰ることにした。

 

「今日は何を作ろうか」

 

 食材にゲテモノがあったりするが、向こうとあまり変わりがないため、困ることは特になかった。

 食材が足りないことの方が困る。

 あと、カエルの肉が多すぎる。

 そんなこんなで買い物も終え、家に帰る。

 途中、ウィズの店を覗くと誰かが商品を買っていた。

 前より買ってくれる客も増え、赤字でも前よりマシなものになっている。

 ウィズと美遊の美人仲良し親子が人気だそうだ。

 

 特に何の変哲もない、日常。

 

 ------

 

「そろそろ美遊が帰ってくるな」

 

 家に帰って少しのんびりしていると夕方になっていたので、エプロンを着けて夕飯を作ろうとしていた時、玄関の扉が開く音がした。

 

 美遊だろうか?

 

 それにして早すぎる気もするが。

 気になって玄関に行くと

 

「あ、シロウ。すぐにお風呂入れますか?」

 

 粘液まみれのめぐみんとたまに見かける何時ぞやの女神がいた。

 

「流石にこんな時間にそんな格好で帰ってくるなんて思ってなかったから少し待ってろ」

 

 あの格好のまま家に入って来られても困る。

 タオルを持って二人の元に。

 

「シロウ、ついでに洗濯もお願いします」

「分かってるよ。飯も食べていくか?」

「勿論です」

 

 とりあえずめぐみんの帽子を取って、軽く拭いてやる。

 もう一人の方にもタオルを渡しておく。

 受け取りつつ、じーっと俺の顔を見たあと

 

「あ、あの時の!」

「そんなに見ないと分からないのか?めがむぐぅ⁉︎」

「アクアよ。アクア。女神なんかじゃないけど、神々しいオーラが滲み出てしまっているだけのアークプリーストのアクア様よ」

 

 多分、女神ということは秘密なんだろう。

 誰も信じないだろうけど。

 とりあえず、手を離してくれないだろうか。

 鼻ごと塞がれてそろそろ息苦しい。

 

「ぷはっ…分かった。アクア」

「アクア様と呼んでもいいのよ」

「呼ばない」

 

 顔がなんかぬめぬめする。

 よく見れば二人とも全身粘液まみれだった。

 あとで顔洗おう…

 

「じゃあ、風呂沸かしてくるから、もう少し待っててくれ」

「あ、手伝いますよ」

「粘液まみれのまま動き回られる方が後々面倒になるんだから大人しくしててくれ。あと何を手伝う気なんだ」

 

 粘液まみれのめぐみんが動こうとしたので、制止する。

 掃除する範囲を広げないでくれ。

 

 中世風の雰囲気が溢れるこの世界なのだが、魔法だけではなく、ある程度は科学も発展していたようだ。

 いちいち薪でどうのとする必要はないらしい。

 薪を集めておく場所とかもあるが、何に使うんだ。

 

 風呂が沸くまでの間のんびりしていると、二人の話し声が聞こえた。

 

「めぐみんはどうしてこんなところに来たの?大衆浴場の方がすぐ入れるわよ?」

 

 こんなところって。

 まぁ、単なる一軒家で別段大きいってわけじゃないが…

 

「ここならタダですから」

 

 食費以外にもめぐみんから金取った方がいいかもしれない。

 食費が一番かかるのはめぐみんだ。

 あの体で意外と食べるから、食費が…

 

「なるほどねぇ、それ以外にも理由あったりするんじゃないの?」

「他の理由ですか?まぁ、ここ私の家でもありますし」

 

 めぐみんの帰ってくる家ではあるが、その言い方だと家主がめぐみんにならないか?

 一応家主は俺だと思うんだが…

 

「じゃあ、あの人は?」

「私の元パーティメンバー兼ここの大家さんです」

 

 言いたい放題言われている気がする。

 あとで家賃滞納について話し合った方がいいと思う。

 

「元、ねぇ。なんで元パーティメンバーなの?パーティに入ってくれたのは嬉しいけど、カズマのパーティより元パーティメンバーのなんたらさんの方が絶対いいわ」

 

 名前は完全に忘れられていたようだ。

 

「いえ、彼は彼で忙しいそうなので。クエストでは確かにカズマよりかは圧倒的に役に立ってくれますが」

「助けてくれたのは嬉しいけど、そうなる前に何とかして欲しいわね!」

「そうですね。カズマのおかげでカエルに食べられるなんて経験をしてしまいましたから」

 

 言いたい放題言われてるな。

 多分、あの時会った奴のことだろう。

 しかし、他力本願過ぎないか、君たち。

 多分そのパーティで一番戦い慣れてるのはめぐみんのはずなんだが。

 

「色々と大変でしょうけど、これからよろしくお願いします。アクア」

「ええ、こちらこそ。あなたの爆裂道、応援しているわ!」

 

 この二人仲良いな…

 アクアは簡単に仲良くなれそうではあるが、美遊に口で負けそうな気がするのは気のせいだろうか。

 

「あ、ここ私たちの拠点にしない?」

「いいですね。賛成です」

「…毎月家賃払ってもらうからな」

 

 拠点になる話は無しになった。

 

 ------

 

「やっぱりここを拠点にしましょう!」

 

 風呂から上がった二人は、報酬の受け取りをしているカズマという男の元へと走っていった。

 その後、カズマを連れて来た。

 まぁ、飯を食べていくかって聞いたのは俺だし、食べてもらえるなら作り甲斐もある。

 ウィズの店に少し顔を出したが、何かまだ忙しいらしいのでとりあえず先に食べてもらうことにした。

 

 で、食べ終わったと同時にまたここを拠点にしようなんて話になっていた。

 

「さっきも言ったが、そうなった場合、家賃払ってもらうからな。部屋もそんなに空いてないんだ」

「や、家賃っていくらなんだ?」

 

 そう聞いてくるのは連れてこられた男。

 佐藤和真。

 黒のジャージを着ていて、どうやら少し違うが日本のことも知っている。

 名前や顔からしても日本人だと言える。

 

「特に決めてないが、この二人の食費がどれだけかかるかにもよるな。あと、酒代が一番かかりそうなんだが」

「日に何本も開けそうだからな、あいつ。あ、おいこら、バカ!それ俺のだぞ!」

「いいじゃない!ちょっとぐらい!」

「…賑やかなのは構わないんだ。ちょっと賑やかすぎるけど」

「いや、ほんと、うちのバカと俺が迷惑かけてすいません」

 

 アクアが酒を振り回しながら、どんどん食べていく。

 和真はそのアクアを抑えつつ、酒を飲んだり。

 めぐみんは無言で食べている。

 

「今日は静かに食うんだな」

「私までいつものノリで食べてしまうと、流石に迷惑でしょう」

 

 めぐみんはいつも美味そうに食ってくれている。

 初めて食べた時も突然立ち上がったりなんだで、賑やかだった。

 美遊は引いていたが。

 

「アレだけ暴れられると少し迷惑だけどな。めぐみんはリアクションが大きいってだけで、美味そうに食ってくれているから俺は嬉しいぞ」

「…そうでしたか」

 

 そう言ってまた無言で食べていく。

 今日のは口に合わなかったか、とも思ったがそんなことはなく、結構食べていた。

 

「ここで故郷の料理が食えるとは思ってなかったなぁ」

「食材は似たようなものがあるし、作ろうと思えば作れるもんだぞ?」

「これだけ美味しくは作れないだろ」

「料理スキルでも取ってるのかしら。あれさえ習得すればどんな料理でも作れるはずよ!」

 

 当たってるでしょ!と言いたそうな顔で俺の方を見てくるアクア。

 隣の和真はスキルという言葉に食いついたようだが。

 

「スキルはここに来てから一つも取ってないぞ。元からスキルが色々あったし。料理もずっと前から作ってたしな」

「最初からスキル持ち?そんなことあり得るのかよ、アクア」

「料理スキル無しでこれほどの料理を作ってしまうなんて…才能よ。これはとんでもない才能よ!」

 

 和真の言葉など無視して一人盛り上がるアクア。

 めぐみんはその間もずっと食べてる。

 …食べ過ぎじゃないか?

 

「もう料亭とかレストランとか開いても大丈夫よ!それぐらいのレベルよ!」

「アクアー、スキルって最初から持ってるもんなのか?」

「シロウの料理は絶品ですからね。ワフウだとかヨウフウだとか出来るそうですよ」

 

 和真の言葉などガン無視の二人である。

 

「家事をする為にしていることだから、そういう商売とかは興味ない。でも、そうやって料理を評価してくれるのは嬉しい」

「シロウの料理は毎日食べてても飽きませんからね。毎日食べたいです」

「もう毎日食べてるだろ…」

 

 そう言いながら食べ続けているめぐみん。

 和真はようやくアクアに聞けたらしい。

 

「前の才能がこうやってスキルになることあるんだな…」

「多分ね、詳しいことは知らないわ!まぁ、お礼としてから貰っておくわ」

「ああっ!おまっ、最後の最後に食べようとしてたものを!」

「残してるあんたがいひゃいいひゃいいひゃい!」

 

 この二人は仲がいいのか悪いのか…

 わいわいと騒ぎながら食べていても意外とすぐに料理は無くなるものだ。

 気がついた時には平らげられていた。

 

「久々に食べるといいもんだな、和食とかも」

「これを食べてしまうと、あれね。ギルドのご飯なんて食べれたもんじゃないわね」

「いつも美味そうに食ってた奴が言うな」

 

 食べ終わった後もアクアと和真はすぐに騒ぐ。

 賑やかと言うより騒がしいんだな、この二人は。

 そう思いながら、皿を洗っていると

 

「シロウ。今週の食費です。これで今週もお願いします」

「毎回言ってるが、これだけ渡すなら朝も昼も食いに来ていいんだぞ?というか、これ以上は払わなくても作ってやるから…」

「いえ、夜だけで構いません。お世話になってるのでこれぐらい渡すんですから」

 

 正直、金銭的には困ってはいない。

 だが、毎度毎度ただ飯を食わせるわけにはいかないということで、食費をある程度払ってもらっている。

 夜だけでいいというから、あまり貰わないようにしているが、毎回多めに渡される。

 

「カズマさん、カズマさん。食費を払えば、毎日このご飯が食べれるわよ!」

「いや、毎日食べにくるのは流石に迷惑だろ。毎日食べられるのは魅力的だが」

 

 …なんだか食材を多めに買っておかないといけない気がして来た。

 

「朝とか昼に来られても困るが、夜ならいつでもいいぞ。食費は取る」

「「お願いします」」

 

 食材を多めに買うことが決定した。

 

 ------

 

「お兄ちゃん、ただいま」

 

 和真が玄関の方へと勢いよく振り向いた。

 

「カズマはヒキニートでロリコンだから、ああいう台詞で振り向いちゃうのね!」

「ロリコンじゃない。子供が好きなだけだ」

 

 口でそうは言っていたが、なぜだがそれが全く信用ならなかった。

 目は口ほどに物を言う。

 和真の目がそれを物語っていた。

 

「お前だけ食費倍払いだな」

「ちがっ、本当に子供が好きなだけだから!ロリコンじゃないっ!」




カズマはロリコン

本来この回でカズマにスキルをと考えていたというより、原作ここら辺でスキルを手に入れるんだよね。
うん、失敗した。


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11話 スキル

スティールっ!
以上!

cccコラボは終わりを告げましたね。
メルト引いたけどまだレベル3で放置することしかできない。
新茶とか土方さんとか育てきれてねぇ……!


 翌日の朝、和真が

 

「なぁ、スキルの習得ってどうやるんだ?」

 

 と、言い出したのが始まりだ。

 

「スキル習得ですか?それなら、冒険者カードに書かれた習得可能なスキルを……あ、そう言えば、カズマは冒険者でしたね。それでしたら、他の人から教えてもらうんです。教えてもらうことによって習得可能なスキルとして出ますので、スキルポイントを使って習得するだけです。それに、習得したスキルは使うほどにスキルレベルが上がりますから、どんどん使って強くなることもできますよ」

 

 めぐみんがカズマにスキルの習得方法を教えていた。

 冒険者は他と違い、教えてもらうことで様々な職のスキルを覚えることが出来る。

 その代わり、消費するスキルポイントが1.5倍ほど多くなっているとか。

 それに職業にはそれに応じたボーナスが付いているらしい。

 それにより、その職業のスキルはさらに特化したものになる。

 しかし、冒険者にはそれが無いため、器用貧乏で終わってしまうそうだ。

 

「つまり、めぐみんに教えて貰えば、俺も爆裂魔法を使えるようになるのか」

「その通り!」

「うおっ!」

 

 めぐみんがその一言に食いついた。

 まぁ、爆裂魔法を覚えるような人がいないと嘆いていたから当然か。

 

「その通り、その通りですよカズマ!スキルポイントはもうバカみたいに使いますが、冒険者はアークウィザードを除き唯一爆裂魔法を覚えるクラス!爆裂魔法なら幾らでも教えてあげよう。というか、それ以外に覚える価値のあるものなんてない!さぁ、供に爆裂道を歩もうじゃないか!」

「落ち着け!つーか、スキルポイントが60しかまだないんだが、これで覚えられるもんなのか?」

「その程度で覚えられるわけないじゃない。冒険者で爆裂魔法を習得するならポイントを使わずにレベル50になれば使えるかもしれないわね」

「待てるかそんなもん」

「!」

 

 和真の一言で机に突っ伏すめぐみん。

 まぁ、何となくそうなんじゃないかと思ったが…

 

「シロウと供に爆裂道を歩むしかないようです」

「俺のは爆裂魔法じゃないんだが…」

 

 元気がないと思ったが、多分結構元気だと思う。

 ショックだったのは確かだと思うが。

 

「なぁ、美遊ちゃんはアークプリーストで色々と覚えてるんだろ?うちの駄女神より」

「悪いけど、ちゃん付けで呼ぶのはやめておいてくれ。美遊が俺の背後に隠れて震えてるから」

「俺はロリコンじゃないのに……」

 

 何を感じたのか知らないが、美遊が本能的に何かを感じ取ったのか、背後に隠れていた。

 あいつ自身は多分悪い奴じゃないとは思うが、子供好きすぎるのが…

 

「じゃあ、アクア。お前もうちのアークプリーストなんだから何か色々覚えてるんだろ。その中で手軽でお得なスキル教えてくれよ」

「うーん。そうね。私のスキルは誰にでも教えるようなものじゃないんだけどね。半端無いわよ?」

 

 そんなスキルを覚えているのか。

 いや、まぁ元々女神らしいからそういうのもあって不思議じゃ無いか。

 なんて、思って見ていたら

 

「まず、この水の入ったコップを頭に乗せる。落ちないようにね」

 

 この時点でもはや期待するべきものじゃ無い気がしてきた。

 

「そしてこの種を指で弾いてコップに入れる。すると、あら不思議。コップの水を吸ってにょきにょきと…」

「誰が宴会芸スキルを教えろっつった!」

「ええっ!」

 

 アクアも机に突っ伏した。

 宴会芸のスキルなんてとったところで何の役に立つんだろうか…

 というより、何でとったんだ、アクアは。

 美遊はアクアの元へと行き、さっきの宴会芸でのことを聞いている。

 最初は嬉しそうに教えようとしたがすぐに縮こまっていく。

 ああ…多分、美遊にさっきの宴会芸の原理を聞かれたが、自分でもさっぱりだったんだろう。

 教えられず、ひたすら聞いてこられて困り果てて、ついには机に再び突っ伏し泣き出した。

 

「美遊、そろそろやめてやらないとアクアがもう限界だ」

「さっきのことが聞ければ、野菜の栽培に活かせるかと思ったのに…」

 

 急成長した野菜をお兄ちゃんは使う気ないぞ。

 栄養とか味が心配でしかない。

 

「あっはっは!面白いね、キミ!スキルが欲しいんだろ?盗賊スキルなんてどうだい?」

 

 背後から声が聞こえた。

 振り向くと当たり前のように玄関から入ってきたクリスの姿があった。

 その後ろから申し訳なさそうにダクネスも入ってくる。

 

「おかしいな、ちゃんと鍵かけてたはずなんだが…」

「あの程度の鍵なら簡単に開けられるよ」

 

 開けられるよ、じゃないんだ。

 開けて入ってくることがおかしいんだと言いたい。

 というより、そろそろ警察に突き出そうか。

 ものは一切盗まれてないが、不法侵入で。

 

「すまない。流石にこれはダメだと言ったのだが…」

「入ってきたのはもう仕方ないから、気にしない。今後不法侵入しないようにしてくれればいい」

 

 その後何度か謝った後、クリスの元へ行くダクネス。

 何か話した後、クリスは和真と話をし始めた。

 

「盗賊スキルはおすすめだよ。かかるスキルポイントは少ないし、敵感知だったり、潜伏に窃盗。鍵開けもお茶の子さいさい。今ならシロウくんの朝ご飯で教えるよ?」

「ということなんだが…士郎さんお願いします」

「はいはい…全員分作るよ。そんなに食材買ってなかったから少なくなるけど我慢してくれ」

 

 机に突っ伏した二人が勢いよく起き上がった。

 飯で元気になるとは、単純だな。

 困らないな、この二人。

 

 ------

 

 食事を終えた後、それぞれ行動を始める。

 和真はクリスとダクネスを連れて何処かへ。

 スキルを教えてもらいに行くのだろう。

 

 アクアは一人ギルドへ。

 何をしに行くのかはさっぱりだが。

 

 美遊と俺とめぐみんはウィズの店へ。

 めぐみんは色々と手伝うと言って付いてきた。

 

 ウィズの店に入ると、何時ぞやの商人と話しているウィズがいた。

 

「あ、シロウさん。おはようございます。今日は少しゆっくりでしたね。あ、聞いてください!この幸運値を上げるポーションがこんなにお安く…あ、あの、ミユさん?目が笑ってない…あ、やめ、やめてください〜!ま、まだ買っていませんから〜!」

「買いませんから帰ってください。もっとこの街に合った品があった時だけ来てください」

 

 美遊が乱暴に取り上げ、商人を追い返す。

 逞しくなったなぁ…

 原因は全てウィズのせいなんだが。

 

「…もう少し早く来るべきだったな」

「うん」

「そうみたいですね」

 

 ウィズを一人にした状態で店を開店させるわけにはいかない、と改めて思った。

 

 その後、俺はめぐみんと配達に行くことになった。

 何でも美遊に教わってる姿を見せたくないとか何とか。

 今更なような気もするが、配達は大事なので行くことにした。

 

「…おかしいな。もう結構教わってるはずなのに、一向に赤字から黒に変わらない…!」

「不思議なものです。次から次へと赤字にしていきますからね、彼女は」

 

 この商品も何か赤字になる理由がありそうな気がする。

 いや、そんなことはないと信じていたい。

 

「それにしても、こうしてシロウと朝から一緒というのは久しぶりですね」

「確かにそうだな。それに夜も、もう一緒にクエストに行くことは無くなるからなぁ…」

 

 こうしてめぐみんと一緒に歩くのも最後かもしれないと、今更ながら思う。

 いや、この街にいる間ならたまにはあるか。

 

「そうですね…パーティも組めたことですし、これで夜のクエストは終わりですね」

 

 そう告げる彼女の顔は、何だか少し寂しそうに見える。

 

「ああ、そうだな。まぁ、今生の別れってわけでもないんだから、そんな顔するなよ。可愛い顔が台無しだぞ」

「…突然何を言っているんですか。それにどんな顔ですか。そんなひどい顔していませんから」

 

 耳を赤くし、俯くめぐみん。

 顔を見ようと覗くも顔を逸らされる。

 覗くのをやめ、再び歩き始める。

 

「クエストに行けなくなったところで、この街にいる間なら会えるだろ。それに家でいつでも会えるだろ?」

「分かってます。ですから、何も思ってないです」

 

 それならいいんだが。

 とりあえず、これ以上はやめておこう。

 

「とりあえず、この配達を終わらせよう」

「…そうですね」

 

 その後、お互い話すことなく歩き続けた。

 時折視線が合うも、すぐに目を逸らす。

 配達を終えた後もそんな感じで、言葉を交わすことなく帰った。

 

 ------

 

「いらっしゃーーお兄ちゃん、おかえりなさい」

「ただいま。美遊、ウィズ」

「おかえりなさい、シロウさん。あれ?めぐみんさんは?」

「途中でギルドに行った。アクアのことを見てくるらしい」

 

 帰り道にギルドの近くを通りかかった時、めぐみんは一人でギルドへと向かって行った。

 実際、何をしに行ったかは知らない。

 

「そうでしたか。めぐみんさんのお手伝いして貰った分のお給料を…」

「後で渡しておく。こっちには戻ってくるだろう」

 

 家の方を見る。

 多分だが、帰ってくると思う。

 

「他にすることないか?」

「ありません。今日の配達はあれだけですから」

「お兄ちゃんは今日の分の食材を買いに行かないと。家にはほとんど残ってなかったから」

「あ」

 

 そう言えばそうだった。

 朝に殆どを使い切っていたんだった。

 

「食材買ってくるよ。美遊はウィズの監視、頼んだぞ」

「うん。いってらっしゃい、お兄ちゃん」

「あの、私って監視されるほどなんですか…?」

 

 ウィズが何か言っていたが、気にせず買いに行くことにした。

 

 いつもの市場へと行く。

 いつもと変わらない市場。

 

「さてと、何を買うかな…」

 

 食材を手に取り、見ていく。

 そうしながらも別のことを考えていた。

 先程のめぐみんのことだ。

 

(求めていたパーティに入れたんだから、これでいいんだよな)

 

 彼女は爆裂魔法のみを使う魔法使い。

 扱いづらいということでパーティに入れず、空腹で倒れるほどお金にも困っていた。

 そんな彼女とともにパーティを組み、初めてのクエストを終えた。

 その後はパーティを解消するも、夜にはまためぐみんとクエストに向かう。

 そんな毎日だった。

 確かに楽しかった。

 だから、少し寂しくもなる。

 だが、いつでも会える。

 あんな顔しなくてもいいじゃないか。

 ーーあんな寂しそうな顔

 

「…とりあえず、食材を買おう」

 

 このことは頭の隅に追いやり、今夜の食材を買う。

 追加で来るのが二人なのか、四人なのか。

 どちらにせよ、多めに買っておかないと。

 

 騒がしいギルドには近寄ることなく帰ることにした。

 

 ------

 

「新たにスキルを覚えてきた、これで冒険者としてもっと何とかなる筈だ!」

 

 和真がダクネスとアクア、めぐみんと供に帰ってきた。

 

「何とかって何でそんなに微妙なんだ」

「覚えたスキルは充分使えると思うんだけど、あとは使い方を考えていかないと意味がないからなぁ」

 

 どう扱おうかと悩む和真。

 

「クリスの下着を剥ぎ取り、有り金全部巻き上げるような使い方ができるならすぐに応用も利くだろう」

 

 ダクネスがとんでもない発言をする。

 

「待て、間違ってないけどちょっと待て」

 

 間違ってないのか。

 それはそれで問題だぞ。

 

「何やってんだよ…」

「スティールを試しに使ってみた結果、手には布切れが…」

 

 クリスならそれの対策もするだろう。

 なぜよりによってそんなことになるんだ。

 

「ということで、新たに覚えたスキル、見せてやるぜ!『スティール』っ!」

 

 ここで、いくつかの偶然が重なってしまった。

 一つ、彼の幸運は俺よりか、いや、この場にいる誰よりも高かったこと。

 一つ、たまたま美遊の帰宅時間だった。

 一つ、狙った相手のめぐみんが玄関のある方にいたこと。

 その三つが偶然重なったことにより、最悪な展開となった。

 

 和真の手には二枚の布切れがあった。

 黒と白の小さな布切れが。

 

 めぐみんと美遊が何かに気がつき、頬を朱に染め、めぐみんはそのまま俯き和真に手を伸ばす。

 美遊はその場で和真を睨む。

 

 和真の手にあったのは二人のパンツだった。

 

「…なんです?レベルが上がって、ステータスが上がったから冒険者から変態にジョブチェンジしたんですか?…すーすーするのでパンツ返してください」

「和真、ちょっとばかりいいか。話がある」

 

 めぐみんと美遊にパンツを返させる。

 めぐみんはそのままパンツを受け取ったが、美遊は受け取ったあと和真から逃げるように距離をとった。

 そして、パンツを返した和真を連れ、俺は路地裏へ向かった。

 

 

 正直これで気が済むことはなかったが、和真が何度目かの土下座をしたところで許すことにした。

 後ろでアクアが和真を指差して腹を抱えて笑っていたからだ。

 

「これ以上は流石に、女の子の前で続けるのも良くないからな」

「ありがとう、アクア!助かった!流石に改心するまで殴るのをやめないって言われながらフルボッコにされていた時はもうダメかと思った…」

「歳下にさえフルボッコにされた挙句土下座してしまうカズマさん、プークスクス!感謝しているっていうなら私の分の食費も払いなさい」

「それいいな」

 

このままただ許すつもりはなかった。

何かしら罰は必要だ。

 

「和真にアクアの分の食費も払って貰う。あと、昨日の倍にさらに倍で、だ。払えない限り、ウィズの店と俺の家があるこの通りに来るのは禁止だ」

「おいおい、それは流石に多すぎないか…?」

「警察に突き出されるか、改心するまで働く。どっちがいい」

「アクアぁ!明日から死ぬほど働くぞ!」

「カズマさんだけ頑張れば?いひゃいいひゃいいひゃい!わらひもはららくからはなひへ!」

「何言ってるかわからんが働くならよし」

 

これで改心しなかったらどうしようか。

最悪、警察に突き出せば何とかなるだろう。

 

 

とある収穫…緊急クエストが迫っていることも知らずにそう考えていた士郎だった。




路地裏へ言って説教しただけです。多少ジャージがボロボロになったけども説教しただけです。物理で説教しただけです。

良い子のみんなはスティールは時と場所を考えて行おう(そうじゃない


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12話

サブタイトル思いつかないの、許してください。

更新が少し遅れたこともすみません。とても忙しくて、これを書く暇がほとんどなかった状態


なんてことは全くなくてね。ホロウしたり、グラブったり、fgoのハンティングクエストに愚痴こぼしたり、つり乙2.1やってエス豚って誇り高いじゃん、なんて思って過ごしてました。
あとつり乙2.1出したと同時に2.2制作中とか言うの卑怯だと思う。

そんなこんなで遅くなった更新。途中まで書いて放置してたのでどんな内容だったか、はっきり覚えてません。

あと600ものお気に入り登録ありがとう、500なんて一瞬ですぎたね、驚いてるよ。
あと評価が連続で低評価に入れられてて、現実の厳しさを知りました。
低評価でも評価してくれることは嬉しい。ありがとう。けど、どこが悪いか教えてもらえるとなお喜んじゃうよ。

と言うわけでドウデモイイ前置きはスルーして本編どうぞ


「くっ、何でこんなにキャベツが美味いんだ」

「なんであんな緊急クエストがあるんだ」

 

 和真を含む和真のパーティと供に家で食事をとることになっていた。

 和真がここにいる理由?

 なんと和真は食費を払ったのだ。

 あの説教から数週間後、少し時期がずれたらしいが飛んでくるキャベツを収穫するなんて馬鹿げた緊急クエストがあった。

 そして、そのキャベツが意外と高く買い取られるのだ。

 

「俺はキャベツを食べるために異世界に来たわけじゃないんだ…」

「この家に上がらせないって決めた方が良かったか、これ」

「流石に社畜の如く働いたからな。賢者となり果てた俺は何もしない。もし何かしたらアイアンクロー決めて、家の外に放り出してくれていいぞ」

 

 そんなことを言いながらもキャベツの炒め物をひたすら食う和真。

 何かしたら本当に投げ捨ててやろう。

 

 しかし、和真が真剣に働いていたのは知っている。

 爆裂魔法を撃ち終えためぐみんをギルドに置いて外壁修理などの仕事をこなしていた。

 クエストだけでも相当キツそうだが、これだけこなしていたらバカなことしてる暇もなくなってなんとかなるだろう。

 そう思った矢先の緊急クエストだった。

 因みにアクアはレタスばかり取ったせいでほとんど金がないとか。

 あと、俺もほとんどがレタスだった。

 なんでさ。

 

「それにしても、なんでダクネスがいるんだ?」

「あー、それは……」

 

 和真が言い淀む。

 言いにくいことでもあるのか?

 

「クリスがダンジョン探索のクエストを受けている間だが、よろしく頼む。名はダクネス。クラスはクルセイダー。器用度が低すぎて火力は期待されるようなものではない。壁としてなら任せてくれ」

 

 なんと ダクネス は 和真 の パーティ に 入っていた。

 

「…あれをパーティに加えたのか?一度パーティを組んだが…その、助ける気を無くしたんだが」

「俺だって入れたくねぇよ!けど、アクアとめぐみんが意気投合して、いつの間にかパーティに…」

 

 大変だな。

 

「上級職なのはいい。文句なんてない。けどなんで誰も彼もが色々とおかしいんだよ!爆裂魔法一発しか使えない魔法使いに!知能がもう見てられない自称なんたら!おまけに攻撃の当たらないクルセイダー⁉︎どう戦えっていうんだ…」

「む?そこのアーチャーはパーティではないのか?」

 

 わざわざギルドへと寄った後、こっちへ来たんだからパーティメンバーだと思われても仕方ない。

 

「ああ、士郎は単なるパーティの料理長だ」

「おい、パーティに入った覚えなんてないぞ」

 

 いつの間にかパーティの料理長になっていた。

 いや、なんでさ。

 

「最近ウィズの店に行ってないんだろ?なんでパーティに入らないんだ?」

「いつ配達があるかもわからないのにか」

「その時はその時で。暇な時は俺たちとパーティ組んで助けてくれると助かる。それにめぐみんがなぁ…」

 

 めぐみんの方を見る。

 ここ最近めぐみんの元気が全くと言っていいほどに無い。

 聞いた話じゃ爆裂魔法の威力も低いとか。

 

「一番めぐみんとか仲が良いのは士郎だろ?なんとかしてくれると」

「そう言われてもな…」

 

 俺にめぐみんを元気付けてやれと言うのか。

 元気が無くなったのはあの日を境に。

 

「分かった。そのことに関してはなんとかする」

 

 なら、俺がなんとかしよう。

 それにこのままだと美遊も心配しそうだしな…

 いや、結構心配していたな。

 

「よし、じゃあ、あとはよろしく。行くぞ、自称なんたらとダクネス」

「なんたらって何よ!アクアよ!水の女神アクア様よ!」

「女神…?」

「そう自称してる可哀想な子なんだ」

「ああ…」

「違うから!本当に女神なんだからー!」

 

 騒がしい三人組が出て行き、部屋にめぐみんと俺だけが残された。

 突然これはどうかと思う。

 

「めぐみん」

「何ですか」

 

 見るからに不機嫌だ。

 声が不機嫌だ。

 …そんなに嫌だったか。

 

「いつもの元気はどうしたんだ。最近元気ないんだろ」

「そんなことはありません。我が爆裂魔法は健在です」

「その爆裂魔法も威力が低いって和真が言ってたぞ」

「………スキルレベルからしてそんなことはありません」

 

 合わない視線。

 何度目を見て話そうとしても、めぐみんは顔を逸らす。

 最終的には俯いた。

 顔を合わせたくないのだろうか。

 

「…いつでも会えるから、それで良いなんて私は思いません」

 

 めぐみんが少し顔をあげる。

 

「確かにいつでも会えます。この家で、夜も朝も、お昼にだって会おうと思えば会えます。私はそれでも嬉しいです。ですが、その…クエストに行くときも一緒がいいと言いますか…」

 

 ちらりとこちらを見ながら続ける。

 

「忙しいのはもちろん知っています。それにミユさんが大事なのも知ってます。それであまりクエストに行かないことも」

 

 それでも、と

 

「私はシロウと一緒に………一緒に…ぼ、冒険へ行こうじゃないかっ!」

 

 突然、顔を真っ赤にしながら立ち上がる。

 杖を押しつけるように頬に当ててくる。

 

「も、文句があるなら聞こうじゃないかっ!」

「文句なんかあるはずないだろう」

 

 文句なんて何一つない。

 

「そ、そうでしたか。それでしたら、人は多いですけどカズマのパーティに入って冒険しましょう」

「ああ、一応美遊も…いや、入れない方がいいか…」

 

 ただ、俺は

 

「いえ、ミユも入れないとダメです。カズマからは私が守りますから」

「魔法撃ったあとはどう守るんだ」

 

 めぐみんを彼女と重ねてしまう。

 

「その時はシロウが守るんです」

「それなら、最初から俺だけでいいんじゃないか…」

 

 俺は、めぐみんの前でなら悪としての衛宮士郎でもなく、兄としての衛宮士郎でもない。

 ただの衛宮士郎としていられる。

 めぐみんといる時は、一人の俺としていられる。

 彼女といる時だってそうだった。

 だからこそ、重ねてしまう。

 

 それはめぐみんに対しても、彼女に対しても酷いことをしているということは分かる。

 最低な人間だということも自覚している。

 

「それもそうですね。一緒のパーティなんですから、みんなでカズマから守りましょう」

「ダクネスからも守らないとダメなんだが…あれは見てはいけない」

 

 ただ、だからこそ思うこともある。

 今度こそ守ろう、と。

 

「改めてよろしくお願いします。シロウ」

「こちらこそよろしく頼むよ。めぐみん」

 

 たとえ、この守ろうという想いが目の前の彼女に向けられたものではない偽りだったとしても。

 

 ------

 

 数時間後、和真たちが戻ってきた。

 

 どうやら、防具を買いに行っていたようだ。

 皮の胸当て、金属製の籠手と脛当て。

 めぐみんやダクネス曰く、ようやく冒険者らしい格好になったようだ。

 あと所持金が底をついたそうだ。

 

「クエスト報酬の殆どが食費に飛んだ」

 

 和真がそう言っていたらしい。

 そんなに食費で困るなら、ここ以外で食えば安く済むんだが…

 

「しかし、士郎がパーティに入ってくれるならクエストも楽に済みそうだな!」

「あんまり手助けしないようにする。経験値が和真の方にいかなくなるだろ」

「このパーティのレベル最下位が言うことじゃないんじゃないのか…」

 

 和真が帰ってきて、すぐにめぐみんが報告していたので俺と美遊は一応、和真のパーティに入ることになった。

 基本的には俺と美遊は仕事優先、飯優先でいいらしい。

 暇があるときにクエストについてくるだけでいいと言うことらしい。

 美遊はウィズの為にもクエストに行けない。

 クエストにいけるのは俺ぐらいだろう。

 

「めぐみんの調子も戻ったみたいだし、手頃なクエスト探しに行くぞ。士郎は?」

「仕事はないぞ」

「なら、こっちだな。じゃあ、行くぞ。めぐみんにダクネス、士郎。あと、駄女神」

「ちょっとカズマ!私だけその呼び方とか納得いかないわよ!」

 

 そうこう騒ぎながらもギルドへ。

 着いてからクエストを見てみるといつものカエルのクエストが目に入った。

 

「カズマ、手頃なクエストでいいなら、このジャイアントトードのクエストなんてどうだ」

「「カエルはやめよう」」

 

 めぐみんとアクアが全力で嫌だと意思表示をしてくる。

 

「ん。なぜだ?カエルは刃物は通り易く倒し易いし、舌による捕食攻撃しかしてこない。それに肉は売れて稼ぎになる。めぐみんやアクアは軽装備だから狙われ易いだろうが、その時は私が守る」

「あー……この二人はカエルに一度食われてるから、それがトラウマになってるんだろ。しょうがないから他のを狙おう」

「…あのカエルに…ん…」

「想像して興奮してないだろうな」

「してない」

 

 和真、多分それは想像ではなく、思い出してだと思うぞ。

 とりあえず、カエル以外に討伐クエストを探さないといけないのか。

 出来るだけ手頃なもの……

 

 と、探していると隣でアクアが何か見つけたようだ。

 

「これいいんじゃないの?冬牛夏虫の討伐クエスト!牧場の家畜が寄生されたんだって。報酬は一頭三万エリス。それに倒した後の家畜の肉は好きにしていいみたいよ?」

 

 その目には焼肉食わせろと書いてあった。

 寄生された家畜の肉は…焼けばなんとかなるのか?

 

「冬牛夏虫?冬虫夏草みたいな寄生するキノコとかそういう?」

「冬牛夏虫は寄生した生き物の脳に侵食していき、他の生物を襲わせ、死体に卵を植えるものですよ。家畜に寄生した程度のものでしたら、大して強くありませんので大丈夫です」

「それなら安心だな。家畜以外に寄生したのもいたら厄介だけど」

 

 そこが少し不安だった。

 もしかしたら、なんてこともあるだろう。

 何にせよ、慢心は禁物だ。

 

「家畜相手なら何とかなりそうだな!よし、サクッと行くか!寄生された家畜の肉って所が少し引っかかるが、今日は焼肉だ!」

 

 多分、和真はアクアと変わらない頭してる気がしてきた。

 少しマシだろうけど。

 

 その後、ギルドへと来た美遊を見て、テンションを上げた和真にアイアンクローを決め、ギルド近くの路地裏へ投げ捨てたあと、牧場へと向かった。

 

 ------

 

 現在、俺たちは走って逃げていた。

 

「ひいあああああああああああああああああああ! 助けて、助けて、怖い怖い! 神様ー! 神様ああああああああ!」

「うわあああああああああああああああ! こ、こっちくんな! こっちに来るなああああああああ! ダクネスー! クルセイダー様、助けてくれえええ!」

「あわわわわわ、わ、我がば、爆裂魔法で、け、け、消し飛ば、消し飛ばして……! ひいっ! 目が合いました! せせせ、先生! お、お願いします!」

「もう少しまともな見た目かと思ってたが、何だあれ!グロテスクとかそんな一言で表せないぐらい奇妙なものがついてるんだが!」

 

 頭に、猿ほどの大きさのエイリアンのようなものをつけた山羊に追われていた。

 思っていたのと違うどころか、あまりのグロテスクさについ逃げ出してしまった。

 振り向いて撃とうとしても、意外と早くてそんな暇もない。

 

 すると、走って逃げる俺たちとすれ違うかのようにダクネスが山羊の前へと出た。

 山羊もダクネスへと狙いを定めたようだ。

 迷うことなくダクネスへと突進して行く。

 そこで俺はようやく止まる。

 ダクネスが止めている間にーー

 

「お前たちは、私が守る」

 

 つい、かっこいいとか思ってしまった。

 

 山羊が体をくねらせ、触手をダクネスへと伸ばした。

 その触手は迷うことなく、ダクネスの耳や口へと向かっている。

 ああやって寄生するのだろう。

 そうはさせるか。

 干将・莫耶を投影する。

 和真もショートソードを片手にダクネスの元へと駆け寄る。

 

「ああっ、カズマ、シロウ! こんな、こんなグロテスクなモンスターによる触手プレイだなんて私は、私はどうすればっ! 私は、このままきっとこのグロテスクな生き物に脳を侵され、抵抗虚しく触手で純潔を散らされ、あちこち弄ばれてしまうのだろうっ! やがて私はこのモンスターに操られ、身も心もこのモンスターを主と崇める奴隷に! だが気にするな、お前は私は気にせず先に行けっ!」

 

 助ける気を失ったのは果たして俺だけなのだろうか。

 

「行けるか! つーかどこへ行くんだよ! これは討伐クエストなんだ、倒さなくてどうする! どこの世界に触手プレイに期待して頬を火照らせる女騎士がいるんだよ、このド変態が! おらっ、これでも喰らええええ!」

 

 俺だけのようだ。

 和真はそのままショートソードで触手を斬る。

 触手を斬られた冬牛夏虫は、痛がるように触手を引っ込ませる。

 その姿を見たダクネスが「ああっ!ジェスター様っ!」なんて言ってる。

 和真が説教をしているうちにとどめを刺しておこう。

 これはアレのせいで厄介な気がする。

 

「カズマ!シロウ!冬牛夏虫は寄生体から離されれば力を失うと聞いています!」

「アレを切り落とせばいいんだな」

「根を切ればいいんだな!」

 

 俺と和真は各々の武器を振り上げる。

 狙いを定め、斬りかかるーー!

 

 と、斬りかかろうとした時、殺気に怯えたのか、冬牛夏虫は逃げ出した。

 

 二本足で。

 

「「は?」」

 

 見事なまでの二足歩行での猛ダッシュ。

 100m何秒台だろうか。

 

 隣で和真がショートソードを落として呆然と眺めていた。

 俺はもうどうでもよくなり、本業に勤めることにした。

 黒い弓を投影する。

 今回使うのはただの矢。

 あれ一匹に宝具など使うなんてことは流石にしない。

 

「ナニコレ?」

 

 和真が呆然と眺めたまま、アクアに尋ねる。

 俺も様々なクエストを受けたが、何だあれ。

 

「いい?ここは異世界よ?キャベツやレタスだって飛べば、山羊だって走って逃げる。必死に生きてるもの。常識なんて通用しないわ」

「異世界って言えば、何でも許されると思うなよ!」

 

 和真の台詞に共感しつつ、矢を射る。

 引き剥がすというか、吹き飛ばすというか、そんなカタチで一匹は仕留めた。




めぐみんはヒロインだ。異論は認めん。

webみんだからね、ヒロインにしたくなるのだ。
ドライの桜へのアサシンアタック許さんからな…

デュラハンのところの構想だけが固まって行く今日この頃。早くそこまで書きたい。


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13話

通信量がそろそろ限界だ。
誰だ、外で動画見たの。

というわけで13話です。討伐の続き。
出来る限り原作寄りのまま進んでいきます


「アレは士郎が倒してくれたが、他にもあるんだろ。敵探知スキルで見つけた方がいいよな?」

 

 何とか立ち直った和真が提案する。

 あれ一匹では三万にしかならないから、俺としては賛成だ。

 それにまだまだいるなら放置ということはできない。

 しかし、アクアは嫌そうな顔をしている。

 

「自分で持ってきたクエストだけど、またあんなの相手にするの?というより、あんな見た目とか聞いてないわよ!無理、怖い、キモい。それに、攻撃手段はカズマとシロウだけで、ダクネスは単なる壁でめぐみんは一発撃っただけでお荷物よ?その状態でこれ以上相手するの?あと、威力的には文句無しなんだけど、吹き飛ぶ瞬間なんてもう見たくないんですけど。他に弱点とかないの?」

 

 正直、俺も吹き飛ぶ瞬間なんて見たくない。

 なんか中身から色々と飛び出してきたし。

 汁とか。

 

「寄生系のモンスターは水が弱点ですよ?私は水なんて持ってませんし、魔法でも出せませんが」

 

 と、めぐみんが答えている。

 流石にそれは俺にも出来ない。

 誰か出来る奴は…

 

「なら、俺の出番だな。ふふふ、この間のキャベツのお陰でレベルも上がって、更には初級魔法も教えてもらった俺に抜かりはない。『クリエイト・ウォーター』!」

 

 見せびらかすように。

 その魔法を大声で叫び、空中に大量の水を出現させる。

 アクアの真上に。

 

「おいクソニート。私に何か言うことはあるかしら?」

 

 唐突に真上に現れた水を避けることなんて出来ないアクアはびしょ濡れだった。

 

「……水も滴るアクアさん。今日はとびきりいい女ですね……」

「ううっ……。普段の私への扱いの酷さの所為で、そんなあからさまな懐柔のお世辞でもちょっと嬉しい自分が悔しいっ!」

 

 半泣きで羽衣の裾を絞るアクアとぺこぺこ謝る和真を尻目に周囲に意識を向ける。

 ここまで大声を上げているんだ。

 近づいてこないとも限らない。

 まぁ、普通は近づく。

 格好の獲物だと思って、一斉に襲いかかってきてもおかしくなんてない。

 

「俺がその服乾かしてやる!『ウインドブレスト』!」

 

 和真が叫ぶと突風が巻き起こった。

 それは、アクアに直撃し

 

 アクアの下着が目に入った。

 

 あと、俺の目に指が突き刺さった。

 なんでさ。

 それとすごく痛い。

 

「必殺のゴッドブローを食らわせてやるから、あんたちょっとそこになおりなさい」

 

 アクアの怒った声が聞こえた。

 

「何見てるんですか。そんなにアクアの下着が見たかったんですか」

 

 あとめぐみんの怒った声も聞こえた。

 耳元で。

 

「た、たまたま目に入っただけなんだ…!あと、目が、目がぁぁぁ…!」

 

 両手で目を覆いながら、痛みのあまり転がる。

 そんな時

 

「悪かった!悪気はなかったんだ!……ん?おい、近くに敵がいるぞ!」

 

 と、和真が声を上げる。

 敵感知に反応があったのだろう。

 痛みが引くまで俺は何も出来ない。

 見えないしな。

 

「またあのキモいの⁉︎」

 

 アクアが嫌そうに叫んだ時、近くの茂みから音がした。

 どうやら、そこにいるようだ。

 そこから離れるためにめぐみんの肩を借りて歩く。

 目が開けられないぐらいの痛みなんだが、おふざけレベルではないんだが?

 

「そこにいるな!家畜じゃない!さっきの冬牛夏虫だ!めぐみんとアクアと士郎は下がれ!ダクネス、アレはご主人様でもないからな!血迷うなよ!」

「私はモンスターをご主人様なんて呼んだりしない」

「お前さっきジェスター様とか呼んでただろ」

「……言ってない」

「言ったろ」

「言ってない……来るぞ」

 

 めぐみんに肩を借りながら急いで下がる。

 下がったあと、アクアにヒールをかけてもらった。

 あとゴッドブロー(弱)も食らうことになった。

 なんでさ。

 

「先手必勝!『クリエイト・ウォーター』!」

 

 和真は茂みに狙いを定め、水を出す。

 敵が出て来るまで待つと確実に面倒なことになるからな。

 ようやく目が見えるようになった俺は周囲を確認する。

 

「ヒギイイイイイイイイイイイイイイ! ギイイイイイイイイイッ!」

 

 と、茂みから叫び声が聞こえる。

 冬牛夏虫の叫び声だろう。

 痛みに悶えながら、茂みから出て来る。

 それと同時に少し離れた茂みが動いたように見えた。

 どうやら、この叫び声に引き寄せられたモノがいるのだろう。

 

「おおっ!最弱クラスのカズマが活躍しているわ!クソニートのくせに生意気ね!」

「うっせ!アークプリーストなら支援魔法の一つでも…めぐみん?」

 

 和真の視線につられ、めぐみんの方を見る。

 なんだか涙目になってる。

 

「べ、別にカズマが初級魔法を覚えてしまったので、シロウだけでもわたしの存在意義を奪いつつあるのに更に奪われたとか思ってませんから!……我が爆裂魔法こそ最強ですから……!」

 

 多分、俺と和真の思ったことは同じだろう。

 

 なら、他のスキル取ろうか。

 

 和真はすぐに冬牛夏虫の方へと意識と視線を向ける。

 俺もそちらへと意識を向ける。

 すると

 

「キイイイイイイイイイイイイイイイイイイ! キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」

 

 と、突然叫び出す。

 叫びだしただけで動く気配はない。

 そしてそれと同時に、先程より周囲から聞こえる茂みの音が大きくなってきた。

 

「何故動かないか知らないが、今なら私でも攻撃が当たられる。今のうちに袋叩きだ」

 

 ダクネスはそういうと剣を抜く。

 和真は何かを察したのか

 

「おい、待て。こういう時は何かあるぞ……ん、何か聞こえないか?」

 

 ようやく和真にも聞こえてきたようだ。

 そう、茂みを掻き分ける音とともに聞こえる、この目の前のモンスターと同じ声が…!

 

「「「キイイイイイイイイイイイイイイイイイイ! キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」」」

 

 敵感知なんてスキルは持ってないので聞こえるだけの数しか分かっていなかったが、目の前に現れたのはそれよりも多い数の家畜の群れ。

 

「「いっぱい来たぁぁぁ!」」

 

 アクアとめぐみんの叫び声。

 和真の何かもう諦めた顔。

 ダクネスの喜びに満ちた顔。

 

 最後なんかおかしくないか?

 

 なんて思っているとダクネスは和真より前に出る。

 そして、先ほど抜いた大剣を地面へと突き立てる。

 その剣の柄に両手を置き、仁王立ちをしたまま叫ぶ。

 

「かかってこおおおおおい!! 『デコイ』ッッッッッ!」

 

 クルセイダーの囮となるスキル。

 こちらへと敵意を向けていたはずの家畜までもがダクネスへと敵意を向ける。

 そして、その敵意を一身に受けても微動だにしないダクネス。

 

 先程の顔と性格を知らなければかっこいいと純粋に思えたんだけどなぁ…

 ただ単に、自分のためにしているだけだからなぁ…

 かっこつかない…

 

 その姿を弓を構えながら見ていると

 

「めぐみん!めぐみーん!魔法の準備しとけ!爆裂魔法で吹き飛ばすぞ!アクアは支援魔法!ダクネスの防御を固めさせろ!その間に士郎は援護射撃を頼む!」

 

 和真の指揮により、アクアとめぐみんが少し冷静になる。

 

「ふ、ふふふ…アークウィザードとして頼られたとあっては…引き下がれません!あ、ちょ、シロウ!お願いですからそんなにいっぱい破裂させないでくださいっ!集中できません!」

「し、支援魔法ね!防御を高める魔法と…芸達者になる魔法って」

「んなもんいいからお前ら早くしろやぁぁぁぁ!」

 

 頼むから早くしてくれ。

 そうでないと

 

「ダクネス、俺はただ援護射撃しているだけだからな」

「一発ぐらい誤射しても構わん。むしろ、当ててくれ」

「味方に当てる援護なんてあるか!」

 

 手元が狂ってダクネスに当ててしまう可能性がある。

 

 当てなくてもこれだけの数、何故か捌いても捌いても出て来る。

 それに早くしないと色々と不味い。

 

「っ…!」

 

 腹部から焼けるような痛み。

 投影の力を使うたびにほんの少しずつだが、置換されていく。

 その影響だ。

 

 和真が何か思い付いたのか

 

「ダクネス!ちょっと我慢しろよ!」

 

 そう叫ぶと、ダクネスへと手を向ける。

 

「『クリエイト・ウォーター』!」

 

 全力で叫ぶ和真。

 それに比例するかのように先程より広範囲で大量の水が現れた。

 

「…不意打ちでこのようなことを…!この火照った体をどうしてくれる!」

「「お前ちょっと黙ってろ!!」」

 

 和真と声を揃え叫んでしまった。

 ダクネスはさらに恍惚な表情へと。

 

「色々台無しだ!こんちくしょう!『フリーズ』!」

 

 成る程、考えたな。

 足元の大量の水を凍らせ、動きを鈍くさせるつもりか。

 そして、それと同時にダクネスが淡く光る。

 魔法が発動したのだろう。

 つまりは

 

「爆裂魔法の詠唱終わりました!いつでもいけますよ!」

 

 決めポーズ取ってるめぐみんがそう告げる。

 俺と和真はそこから少し離れる。

 

「ところで、ダクネスまで範囲に入ってますが…」

「高レベルの魔法耐性スキルを取っている。構わん、ドンと来い!」

 

 なかなかかっこいい感じだが、頼むからその顔をどうにかしろ。

 

「体さえ残っていたら蘇生してあげるから!気合い入れなさい!」

 

 アクアが何か叫んでいた。

 蘇生も出来るのか。

 というより、気合いで耐えれるものなのか?

 

 めぐみんが爆裂魔法を放つ少し前に気がついた。

 おそらく範囲外のところにまだ多く残っていることを…

 

「---I am the bone of my sword.(我が骨子は捻れ狂う)

 

 気付いたと同時に投影し、構える。

 威力は低くてもいい。

 数は少ない。

 速く速く、ただ速く。

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)

 

 爆裂魔法の範囲内の冬牛夏虫の間をすり抜け、範囲外へと。

 

「『エクスプロージョン』ッッッッ!!!」

 

 めぐみんの爆裂魔法と同時に宝具を爆破させた。

 

 ------

 

 俺はダクネスを担いで街へと向かっていた。

 

「意外と重いんだが…」

 

 あまり言いたくないんだが、プレートメイルの分があるにしても重い。

 それに気を失っているというか、寝ているというかと言った状態で俺の背中で背負われている。

 爆裂魔法の威力の一撃を耐え切ったもののプレートメイルは使い物にならなくなり、ダクネス自体はボロボロだった。

 因みにめぐみんはレベルも上がり、倒れることがなくなったそうだ。

 ただし、一発しか撃てないことには変わりがないとのこと。

 背負う必要がなくなった分は戦闘が楽になるだろう。

 

「やー、しかし何匹だっけ?めぐみんとシロウの冒険者カード、もっかい見せて!……シロウとめぐみんの分を合わせて六十匹!えーと、一匹三万だったから…百八十万エリスよ!冒険者なんてちょろいわねー」

「ダクネスのフルプレート代と食費で殆ど飛ぶんだが…」

「儲け殆どないじゃない!お肉は!カズマさん!お肉は!」

「あんな肉食べたいか?」

「……やっぱりいらない」

 

 しかし

 

「ダクネスの耐久力は凄いな。冬牛夏虫は何も残ることなかった威力なのに、それをアクアの支援魔法があったとしても耐えれるなんて思いもしなかったぞ」

 

 アクアの回復魔法を使ったとはいえ、体の一部が吹き飛ぶなんてこともなく耐え切った。

 偽・螺旋剣ほどの威力を誇る爆裂魔法を耐え切るなんて、まるであのセイバーのようだ。

 とはいえ、あれは執念で耐えたという面も大きい。

 至近距離だったから、あまり威力を出せなかったこともある。

 だとしても、あれに近い威力を受けてなお耐えたセイバー。

 アーサー王の防具とダクネスの硬さはほぼ同じだということだ。

 

 英霊ほどのものになり得ることも可能なのか…。

 

 正直この世界は色々とおかしいとは思ったが、これほどまでにおかしいと思ったことはない。

 俺もうかうかしていると和真やめぐみんにあっさり抜かれてしまうかもしれない。

 

「様々な防御系スキルのみを取っているのでしょう。そうでなければ耐えられるとは思えませんし………我の存在意義がなくなりそう…」

 

 めぐみんが落ち込んではいるが、死ななくてよかったと言う嬉しい気持ちが混ざり合った複雑な顔をしている。

 

「それにしても、上がらないわね。レベル」

 

 アクアが俺の冒険者カードを見ながら言う。

 そう、あれだけ倒したと言うのにまだレベル4である。

 

 このチーム内最下位を独走中だ。

 あまりにも上がらない。

 呪いでもかかってるじゃないかと思うほどに。

 

「ん……ここは?」

 

 どうやらダクネスが目を覚ましたようだ。

 

「起きたか、ダクネス。お前のおかげで誰も死ぬことなくクエストを終わったぞ。囮にしたり、魔法叩き込んで悪いな」

 和真のその言葉に

「ん…そうか、皆無事でよかった。……シロウも背負ってもらって悪い。……ありがとう」

 

 もしかしたら、ダクネスの認識を変えた方がいいかもしれない。

 ただの変態っていうわけではないってことは今回のクエストで理解した。

 

 なんて考えながら、街の前まで着くとそこには見たことのある顔があった。

 

 クリスだ。

 

「ダクネスがなんでそんなことになってるの!」

 

 ボロボロのダクネスを見れば、クリスのことだから心配するに決まっている。

 そしてたまたま、クリスのパーティと遭遇してしまった。

 

「クリス、私はただ彼らとクエストに行っていただけだ。その際、カズマに罵倒されたり、頭から水をかけられたり、モンスターもろとも爆裂魔法で吹っ飛ばされたぐらいだ。…うん、楽しかった」

「あんたわたしの相方に何してくれんのよぉぉぉぉ!このぱんつ脱がせ魔がぁぁぁぁぁ!」

「ダクネスの言ってことは大体合ってるが、大体違う!」

 

 和真がクリスに殴られていた。

 ついでに俺も叩かれた。

 なんでさ。




宝島編飛ばしていいですか()

大事なのは知ってるけど、ベルティアまでの気力が持ちそうにない。
だって、あれ二部だし?今まだ一部の中身だし?
というより、宝島って彼ら儲けるだけだし?


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14話 リッチー

久々の更新。
中間テストで忙しいのであって、決して決して決してイバラギン討伐が忙しいとかoh my リュミエールとかそんなんじゃないから。
つり乙2.1を2周3周してわけでもないですよ。

ベルディアさん辺りでオリジナリティ加えていきたい方向でござんす…一応、考えはまとまりつつあります。スマホのメモ帳便利…

様々なアドバイスを貰いました。
読みやすさを出来る限り出そうとしてたんですが、まさか読みにくくなっていたとは…あと、濁点打つところとかも間違えていたとは…恥じゅかち

今後ともアドバイス等頂けると神として崇めるのでよろしくお願いします


 ダクネスが正式にパーティに加わった。

 

 あの後、クリスはレベルに合ったクエストへ行けと怒り、ダクネスは返してもらうよと言ってきた。

 俺と和真からすれば願ったり叶ったりだったのだが、何故かダクネスはカズマのパーティに残りたい、私が守らなければと意気込んでしまった為に正式にパーティに加えることになってしまった。

 

「どうしてこうなった」

「クリスとダクネスの二人で話が勝手に進んでいってしまったんだから仕方ないだろ」

 そのクリスは別のパーティと組むことになったそうだ。出来ればこちらのパーティに来てダクネスを抑えて欲しかったんだが…

 あの日の夜にクリスはいつも通り家に来たが「あのぱんつ脱がせ魔にダクネスが何かされないようにしっかり見ててね」と言って帰っていった。だから心配ならこちらのパーティに、と思ったがクリスはクリスで合うパーティに入ったのだから仕方ないかと諦めた。あと窓から入って来るのはそろそろやめてもらいたい。

 

「この際ダクネスのことなんてどうでもいいが、金が欲しい。それも大量に」

 今度クリスが窓から入って来たらどうしようかと考えていた時に和真が真剣な顔で話を切り出した。

 そんな和真を小バカにするようにアクアが

 

「今更何言ってんの?カズマだけじゃなくみんな欲しいわよ。バカなの?所詮ヒキニートなの?」

「お前が欲しいのは散財する金だろ。元なんたら。俺が欲しいのは安定した生活を手に入れるための金だ。元手が欲しいんだ。本来ならチート能力貰って何一つ不自由なく過ごせるはずだったんだろ?チート能力の代わりにお前を選んだのは確かに俺だが?そのチートの代わりとして役に立っているのかと問いたい。泣くまで問い詰めたい。どうなんだ?最初は偉そうで自信たっぷりだった割に、あまり役に立ってない元自称なんたらさん?」

 

 和真が言ってることはアクアには大きなダメージを与えるものらしい。アクアがもう涙目だ。

「うう…元じゃなくて……今も一応女神です…」

 

「女神⁉︎女神ってアレだろ⁉︎勇者を導いたり、勇者が一人前になるまで魔王を封印したりして時間を稼いだりするものだろ⁉︎昼間っからビール飲んだりしてるだけのお前が女神名乗っていいのか⁉︎カエルに頭から食われるしか脳のない、宴会芸しか取り柄のない穀潰しが!」

「わ、わあああああっー!」

 

 机に突っ伏して泣き始めた。

 それを見た和真は満足したような顔をしている。泣かせておいてそれはどうかと思うが、アクアだから仕方ないと思ってしまう自分もいた。

 しかし、アクアもやられっぱなしとはいかなかった。

 

「私だって回復魔法とか回復魔法とか回復魔法とか時折支援魔法で一応役に立ってるわ!何よ!クソニート!何のためにお金が必要なのか言ってみなさいよ!」

 

 そう言い放ったアクアに、その言葉を待っていたと言わんばかりに和真が答える。

「今の所、俺が日本から来た事を全く活かせていないだろ。そこで、俺達にも簡単に作れそうでここの世界に無い日本の製品とかを、売りに出してみるってのはどうかなって思ってな。ほら、俺は幸運とやらが高くて、商売人とかでもやったらどうだって受付のお姉さんに言われた事があるだろ? だから、冒険者稼業だけで食っていく他にも生きていく道はあるかなって思ってさ」

 冒険者としての収入では割に合わないから知識を活かして商売をしていくということだろう。

 美遊の分は必要ないとはいえ、今回のクエストの報酬もダクネスの装備代と食費で大半がなくなっている。それを分けるとなるといつもより多いが、微々たるものだ。とても和真の言う安定した生活の為の元手にはなり得ない。

 とはいえ、元手を集めるためにも冒険者としてもう少し働かないとな

 

「そんなわけで昼間から酒飲んでる暇があるなら、お前も何か考えろ!儲かる商売を考えろ!あと、お前の最後の取り柄の回復魔法。さっさと俺に教えろよ!」

「嫌ーっ!回復魔法だけは嫌よおっ!私の存在意義を奪わないでよ!クソニート!それに儲かる商売がしたいならシロウに料理作って貰えばいいじゃない!人の存在意義を奪う前にシロウと交渉しなさいよ!」

「オーケー、分かった。回復魔法は後でな」

「え、あの、カズマさん?後で本当に奪うつもりなの…?」

 

「え、冗談ですよね、カズマさん?カズマさぁぁぁぁん!」と叫ぶアクアを放置して此方へと来る和真。

「さっきのアクアの提案を一応聞いてみるが、その気は?」

「悪いがない。商売をする程の料理人ってわけじゃないんだ。これで商売はしない。それに日本の知識活かすとか言ってなかったか?」

「楽が出来るならそれに越したことはない」

 

 なんて話をしていると

「アクアが何かに絶望したような顔で机に突っ伏してますが、カズマが何かしたんですか?無駄に口撃力高いんですから、言いたい放題言ってしまうと大抵の女性が泣きますよ」

「ストレスが溜まっているというなら私にぶつかるといい。クルセイダーたるもの、誰かの身代わりになるのは本望だ」

 めぐみんとダクネスの二人がやってきた。

 めぐみんはいつもの格好だが、ダクネスは違っていた。目のやりどころに困る格好だ。

 いつもの装備ではなく、タイトな黒いスカートに黒いタンクトップと皮のブーツ。

 鎧によって隠された肉体が見える。

 それが何とも言えないほど眼福であり、目のやりどころに困る原因だ。

 

「こいつのことは気にしなくていい。ダクネスの鎧がまだ出来てないから安全なヤツを受けよう。安くてもいい…から…………ダクネスさんは着痩せするタイプなんですね……」

 ダクネスの方へと振り向いた和真は敬語で話していた。笑ってしまった。

 しかし、目はしっかりとダクネスの全身を捉えていた。

 

「む、今、私のことをエロい身体しやがってこのメス豚がと言ったか?」

「言ってねぇ」

 和真の表情がコロコロと変わる。

 何かとこの二人は合っている気がする。尚更、この二人を美遊に近付けてはいけない。

 

「クエスト受けるんだろ。どれにするんだ」

「アクアのレベルを上げることが出来るクエストにしましょう」

 俺が和真に聞くと意外なところから即答された。めぐみんだ。

 

「アクアの?」

「先日クリスさんが言っていたようにクエストを受ける際のレベルが大事です。基本的にレベルは周りと同じぐらいなのが望ましいんです。それは色々と理由がありますが、それよりアクアのクエストについてですが。プリーストは攻撃系はありませんのでレベルがなかなか上がりません。攻撃出来ませんからね。その為、唯一倒せる敵を倒してレベルを上げていきます。それがアンデットです。彼らは回復魔法で死にます」

「分かった、アンデットを倒すクエストを受けるんだな」

 

 レベルが上がればスキルポイントが手に入るから、アクアももう少し活躍する機会が増えるかもしれない。宴会芸を取らなければ。

 そんなことよりレベルが大事なら俺のレベルも上げなければいけないのではないのだろうか。

「シロウはレベルとスキルの量や戦闘力が比例しませんからね。レベル上げは必要ないかと」

 と言うことらしい。俺のレベルは多分最後まで一番下なんだろうな。

 

「…あ、悪い。今日はウィズの手伝いだった」

「このクエストは夜からですから」

「夜まであるから無理だ」

 残念そうにするめぐみんに次のクエストは一緒に行くから、と言って機嫌を直してもらった。

 ウィズにクエストを受ける日は出来るだけ仕事がないようにしてもらっている。ここ最近は店に行くことよりギルドに行くことの方が増え、ウィズの店での給料が減った。美遊に食べさせてもらって生きる日が来るかもしれない。

 しかし、今回の仕事は流石に断るわけにはいかない。ウィズは一人で大丈夫だと言うが一人にするのは心配だ。

 

「今から店に戻るよ。元手集め頑張れよ。和真」

「食費さえ安くしてくれたらすぐに集まるんだよっ!」

 食費が一番な原因らしい。だが断る。

 

 ------

 

 店に戻ったあと、すぐにウィズと店を出た。

「一人で大丈夫ですからミユさんの元に…」

「俺から言い出したことだからウィズは気にしなくていいんだ。それに今から帰ったら…それこそ、美遊に顔向け出来ない」

 

 そのまま話しながら、俺とウィズは共同墓地へと向かった。

 そこは街から離れた丘の上にある簡易的な墓地。

 この世界では埋葬方法は土葬らしい。

 なので、埋められた死体はその形を残し、魂はその肉体から離れることがない。それがアンデットというものの正体だ。

 ウィズはそのアンデットの中でも王、ノーライフキングと呼ばれる不死の王であるという。

 そして、魔王軍の幹部の一人らしい。

 このことに関してはウィズから聞いたが、未だに信じられない。

 ウィズ自体の力は相当なものだが、性格からして魔王軍とかそういう役には向いていない気がする。あと、金の使い方からして魔王としても置いておきたくないと思う。資金難待った無しだ。

 今は結界を維持する日々らしい。

 

 そうこうしているうちに目的地まで着いた。

 ウィズは墓地の近くで魔法陣を作り始める。この魔法陣にアンデットや魂が入ることにより、浄化していくらしい。

 英霊も浄化できるのだろうか、なんて考えていると、近くの墓石の下からヒトの形をしたものが現れたり、人魂のようなものが集まり始めた。

 そしてそれらは、ウィズの魔法陣へと向かっていく。

 完成した魔法陣に触れたそれは、青い光を放ち天へと昇っていく。

 

「こうやって迷える魂たちを送っているんです。肉体が残っているアンデットたちは私の魔力に反応して出て来てしまうので、よくギルドでアンデット討伐の依頼が出たりするんです」

「魂を送る、か。こういうのって教会の人間とかがやるべきことじゃないのか?あと、そのアンデットはなんで浄化しないんだ?」

「お金のない人たちは後回しにされていますから…アンデットもちゃんと浄化しています!ただ、こうやって送っている場面に出くわしてしまって、それを見た人がギルドに依頼してしまうそうなんです…」

 

 それならば仕方ない。

 冒険者でもない人がアンデットなんてものを見てしまっては何をされるか分からないと恐れるものだ。

 それにここではモンスター、討伐される対象としてしか見られないのだから依頼してしまうのも無理はないだろう。

 依頼したところで、ここまで来ると何もいないから失敗になるだろうけど。

 

 そんな時、ふと、音がした。

 

 ここまで来るのに意外と時間がかかったこともあり、今はもう深夜だ。

 別のところで目覚めたアンデットか、他のモンスターか。

 どちらにせよ、警戒しておかなければ…

 

「シロウさん。冒険者の方かも知れませんから、落ち着いてください」

「……そう言えばそうだった」

 

 警戒を緩め、その音がした方を見る。

 こちらも見られている。

 微かに声のようなものも聞こえる。何を話しているのかはさっぱりだが。

 互いに合わない視線。見えない姿。風で揺れる木の葉の音が止むと夜の静寂に包まれる。

 彼方も動かず、こちらも動かない。

 

 そんな状況を全く気にせず、大声をあげる者がいた。

 

「あーーーーーっ‼︎」

 

 それは見ていた場所とは違う場所からした声。何処かのうるさい空気の読まない奴の声だった。

 先程までの視線も消えたから、俺はゆっくりとその声がした方へと向く。

 そして、そこから現れた、和真の言うところの駄女神目掛け

 

「リッチーがノコノコこんな所に現れるとはふととぎゃふっ!」

 

 玩具の矢を放ってやった。

 矢をもろに受け、盛大に転んだアクアの後ろから見知った顔が現れた。




カズマさんとアクアがウィズと遭遇する回です。次回へ続く。

投影って便利((

果たして作者の早めに投稿という願いは叶うのか。睡魔に勝てるのか…


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15話

お久しぶりです。バイト探しが忙しい

遅れた割には字数は少ないですが、次を早く書くつもりなのでお許しを………


 和真達がアクアをスルーしてこちらまで来る。

 せめて拾ってやれとは思うが、射った本人が言うことではないから何も言わず来るのを待つ。

 

「おや、シロウではないですか。隣にいるのはウィズですか?」

 第一声を放ったのはめぐみんだった。

 こちらからは見えていたが、彼方からはよく見えてなかったようだ。ある程度近付かないと分からなかったらしい。

 

「ああ。ウィズとここに用事があったからな。他のアンデットとかも気にしなくていい」

「シロウが言うのでしたら大丈夫でしょう。しかし、ウィズは単なる商人ではないと思ってはいましたが…」

「…ん。ウィズはアークウィザードではなかったのか?クリスからはそう聞いていたが…」

 ウィズに対して色々と疑問があったりするだけのようで、別に敵視していることはなかった。一安心だ。

 ただ、これが起きた後はどうしようか。

 

 女神としてのアクアにとってリッチーは許しがたい存在だろう。

 何せ、神からすれば自然の摂理から逃れたもの、許されざる者だ。

 このアクアにそんな認識があるかどうかはさておき、リッチーと言いながらこちらへ突っ込んできたのだから敵視しているのだろう。

 どう説明するか考えていると

 

「三人とも知り合いなのか?その、リッチーでいいのか?」

 

 一人、全く面識のない和真が状況を掴めていないようだった。

「そういえば、アクアがリッチーと言ってましたね。ウィズは商人の皮を被ったリッチーだったのですか」

「はい。一応リッチーです。商人の皮は被ってはいませんが、リッチーのウィズと申します」

 和真に敵意はないと微笑みかけるウィズ。

 和真よりめぐみんが警戒している気もするんだが…

 

「えっと、ウィズ。ここで何をしてたんだ?見るからに…アンデットとかを浄化しているようにしか思えないが。リッチーってアンデットの王だろ?親玉が手下を浄化するとは思えないんだが」

「私はノーライフキングなんてやってますから、迷える魂たちの声が聞こえるんです。お金がなくここで彷徨う魂たちをアンデットの王として、私がこの墓場の魂たちを天に還してあげているんです」

 

 アンデットの王なんて呼ばれているのが本当か怪しくなるぐらいにウィズは優しい。

 自分の店が赤字だというのに仕事に困ってる俺たちを雇う時点で相当なお人好しでもある。

 

「そんなお人好しなウィズをそこまで警戒しなくてもいいだろ。めぐみん」

「分かってはいますが、リッチーはとても強いですからね。警戒もしますよ。アクアがあの状態ですし。わ、我が爆裂魔法の前では手も足も出ないと思いますがっ!」

 自分に言い聞かせるように声を上げるめぐみん。杖の先はウィズに向けたままで。

 しかし、めぐみんの爆裂魔法でさえ倒せないとなると、リッチーは相当な強さも誇っているようだ。

 アンデットの王で魔王軍幹部なんてものだから強いだろうとは思っていたが、そこまで強いとは思ってもいなかった。

 ダクネス以上の魔法抵抗力に、多分物理は通じないだろう。何せノーライフキング、不死の王。死なない王ではなく殺さない王といったところなんだろう。

 

「立派なことだし、良いことだとは思うんだが…。そう言うのって普通はプリーストの仕事じゃないのか?」

 和真が未だに倒れてるアクアを見ながら聞いていた。

 

「この街のプリーストさん達は、その…拝金主義の方が多くて、貧しい人たちは後回しに……」

 

 未だに倒れたままのアクアに視線が集まる。

 というか、アクアさんや、さっきからいびきかいてないか?

「それなら仕方ない。けど、ゾンビを呼び起こすのはどうにかならないか?俺たちがここに来たのはゾンビメーカーを討伐してくれってクエストを受けたからなんだが」

 昼間に言っていたクエストのことか。

「あ……そうでしたか……。その、呼び起こしている訳じゃなく、私がここに来ると、まだ形が残っている死体は私の魔力で勝手に目覚めちゃうんです。……その、私としてはこの墓場に埋葬される人達が、迷わず天に還ってくれればここに来る理由も無くなるんですが……。…………えっと、どうしましょうか?」

 

 その言葉を聞いた和真はいびきをかきながら腹を出して寝ている駄女神に全てを押し付けることにした。

 

 ------

 

「あの、みなさんをこのまま返しても良かったのでしょうか…?」

「どういう意味だ?」

 和真達はウィズを討伐なんて出来ないと言って、アクアを引きずりながら帰っていった。

 それを見送った後、何かを思い出したように少し慌ててウィズが言ってきた。

 

「いえ、その……ゾンビメーカーはどんなに弱い人でも倒せてしまうようなものでして…。上級職ばかりのパーティが失敗したなんてことになったら…笑いものに」

「明日から数日間、パーティのことは忘れることにしよう」

 

 和真達が笑いものにされるとなるとパーティメンバーの俺や美遊にまで被害が来そうだったので、数日間はウィズの店の仕事に専念しようと心に決めた。

 心優しいウィズによって、その決心が無駄なものになってしまったが。




次回、和真さんがパーティを貸し出す。ハーレムなんてどこにあるだぁ!許さん、の巻

その濁った目玉に何が映っているのか…


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16話

早めに投稿するといったな。あれは嘘になった。
活動報告の一言も嘘になった。
ほんとずびばぜん…

ズバババーンが出るアプリ出るから…上位帯キープしてるから…

新しいアプリ出過ぎ…アガルタは出たその日に終わらせた。簡単だったよパトラッシュ…

ということで、遅れました。読んでいただければ喜びます


「シロウ、カズマをよろしくお願いします。私達はあのよくわからない人とクエストを受けることになりましたので。カズマやシロウ達に私達の強さと有り難みというのを教えてあげましょう」

 そう言ってめぐみん達は、戦士風の男、ダストの元へと行き、掲示板の依頼を確認していた。

 俺は断ることは出来ず、和真とダストのパーティメンバーのいる席へと向かった。

 

 どうしてこうなったんだ…

 

 ------

 

「今日は配達するものもないですから、ギルドの方へ…」

「断る」

 

 和真達と墓地であった次の日、被害から逃れるために仕事をしようとしていたのだが、仕事はないと言われてしまった。

 

「どうしたの、お兄ちゃん?」

「いや、今から行くと嫌な予感がするというか、最悪笑いものにされる気がするんだ…」

 美遊には和真達のクエストについては話さないでおいた。被害は最小限にとどめておきたい。

「私はこの店が潰れないようにすることが精一杯だから、お兄ちゃんはめぐみん達の手助けをしてあげてほしい」

「美遊…」

 

 前半ウィズに対する文句しかなかった気がするが、めぐみん達の心配はしているみたいだし、一応仲良くしてはいるようだ。

 行きたくはない。行きたくはないが、何かあっても困る。

 

「わかった。行ってくるよ」

 

 2人に見送られてギルドへと向かうことになった。

「まだギルドにいるよな…」

 

 ------

 

 そして、ギルドに着くとめぐみんに和真をよろしくと言われて今に至るわけだが……

 

「なんでこうなったんだ、和真」

「代わってくれって言われたから、喜んで代わってやっただけだ。どうも俺が上級職におんぶに抱っこで楽してる苦労知らずに見えたらしい」

 ダストの方を見ながら和真は話してくれた。

 始めはからかわれていたが耐えていたらしい。が、苦労知らずだので耐え切れなくなったところで代わってやるとなったらしい。

「大丈夫なのか?」

「大丈夫だろ。ハーレムとやらを楽しむらしいからな」

 和真が「あれをハーレムだと言い張るあいつの綺麗なビー玉が欲しい」なんて言いながらダストを見ている。

 相当苦労することは目に見えてはいるが、彼の自業自得だろう。頑張ってくれ。

 

「もう1人増えたってことでいいのか?そろそろ自己紹介もしておきたいんだが」

 大剣を背負った男の一言で他のパーティと組むということを思い出した。ダストという男の哀れさを感じている必要はなかった。

「和真の監視を頼まれたから仕方なくだけどな」

 和真が文句を言いそうだったので、それを遮って互いに自己紹介をすることにした。

 

「俺はテイラー。大剣が得物のソードマンだ。一応このパーティのリーダーをしている。成り行きとはいえ、今日1日はパーティメンバーになるんだから言うことは聞いてもらうぞ」

「勿論だ。いつもはリーダーやってるから指示されるなんて新鮮だな。よろしく頼むよ」

 和真の言葉に驚く一同。

 それもそうだ。最弱職がリーダーなんて普通はあり得ない。最弱職のみのパーティならまだ可能性はあるだろうが、和真は上級職だらけのパーティだ。信じられないという感想を持つのが普通だろう。

「えっと、私はリーン。中級属性魔法までは使えるウィザードよ。まぁ、よろしくね。私が守ってあげるわ、駆け出しクン達」

 和真よりかは年下だと思われる幼さを残した青マントの女性、リーンがにこりと笑いながら自己紹介をしてくれた。

 めぐみん程のウィザードではないにしても、使える魔法が多いのであれば和真も動きやすいだろう。

「俺はキースだ。アーチャーだ。狙撃が得意だ。よろしく頼むぜ」

 弓を背負った男が続けて自己紹介をしたが…

 被った。クラスが被ってしまった。

 後衛に魔法使いだけだとは思っていなかったが、アーチャーがいたとは。俺は何もしなくて済みそうな気がしてきた。

「じゃあ、改めてよろしく。名はカズマ。冒険者だ。…俺も何か言った方がいい?」

「いや、別にいい。カズマは荷物持ちでもしてくれ。戦わないとしたもクエスト報酬はちゃんと分けるから安心してくれ」

 それより、と俺の方を見るテイラー。

「俺は衛宮士郎。クラスはアーチャー。この中で多分一番レベルが低いから和真の代わりに荷物持ちは俺がやる。」

 何も持ってないからと手を振りアピールしながら、荷物持ちを率先してやることにした。

 後衛三人よりも和真に前衛をしてもらっての前衛二人、後衛二人の方がいいだろう。

 それに和真のずる賢さが何かと役に立つはずだ。

「そうだな。アーチャーはキース一人でも充分だ。シロウに荷物持ちをしてもらう。カズマは邪魔にならない程度にしていてくれ」

 和真が楽させろと言わんばかりの目で睨んできていたが、最弱職でもバカにされないだけの実力はあるんだ。それを見せなくてどうする。主にずる賢さだが。

「今日のクエストは山道に住み着いたゴブリンの討伐だ。今から出れば深夜には帰れるだろう。それじゃ新入り二人、早速行こうか」

 クエストの貼ってある掲示板で未だに騒いでるアクア達を横目に俺たちはギルドを後にした。

 

 ------

 

 ゴブリン。

 それはこの世界でも知らない者はいないメジャーモンスターで、ゲームに出てくる様な雑魚モンスターではなく、実は民間人には意外と危険視されている相手らしい。

 個体の力はそれほどでは無いが、基本的に群れで行動し、武器を使い、しかも衛生観念が無い為に扱う武器が非常に汚い。

 小剣で獲物をさばき、その血が付いた武器をそのまま手入れもしない。

 当然、サビや雑菌だらけのその武器は、傷を負わされると簡単に破傷風になるそうな。

 普通は森などに住むらしいが、今回、隣街へと続く山道になぜかゴブリンが住み着いたらしい。

 俺達は山へ向かう途中の穴だらけの元草原を歩いていた。

 この周辺で一度クエストを受けただろうか。なんて考えながら歩いていく。

 道中特に何ごともなく、山道の目の前に着いた。

 そこでテイラーは足を止め、地図を広げる。

「ゴブリンはこの山道を登って少し下った場所に現れたらしい。住みやすい洞窟か何かがあったのかもしれない。気を引き締めていこう」

 その言葉に頷く一同。

 和真がなんだか、これだよ、こいうのを求めていたんだよと言いたいような顔をしていた。分からなくもない。

 

 装備を少し整え、山道を進む。

 少し山道を進んだ時、何かが見えた。距離はかなり離れていたが、俺にはその姿がはっきりと見えた。

 俺が見えたのと同時に何かを察知したのは和真だ。

「何かが山道からこっちに向かって来る。敵感知に引っかかった。でも、一体だけだな」

 

 和真のその言葉に驚きと疑問を浮かべるテイラー。

「…敵感知なんてスキルを取っているのか、カズマは。しかし、一体だけだと?それはゴブリンじゃないな。そこまで強いモンスターはいないはずだが……。山道は一本道だ。迎え撃つしかないだろう」

 と言うテイラーに

「あの虎みたいなモンスターに勝ち目はあるのか?見掛け倒しかもしれないが、あの牙に噛まれればひとたまりもないぞ」

 俺は見えた姿を教える。

 それを聞いたテイラー達が顔を硬ばらせる。

「そ、そそそれって…」

「恐らくそれは初心者殺しだろう。キースは見えるか?」

「今ようやく見えたな。確かに初心者殺しだ。こっちに来るぞ!」

 慌てる三人に和真が

「とりあえずそこの茂みで隠れてなんとかやり過ごせば良いんじゃないか?潜伏スキルがあるから見つかる心配はないはずだ」

 その言葉に一瞬驚く三人だが、すぐに和真に触れながら茂みに隠れた。

 全員で茂みに隠れて息を潜めていると、目の前をそれは通っていく。

 リーンが声を漏らしかけていたが、なんとか抑えられたようだ。流石先輩冒険者。

 

「本当に初心者殺しだった…こ、怖かったぁ…」

 通り過ぎた後、リーンが涙目で言っていた。

「だから、初心者殺しだって言っただろ」

「それにしても初心者殺しがここにいるとは…。ゴブリンがここに来たのは初心者殺しに追われてたから来たんだろう」

 キースやテイラーも口々に言っている。

「あれってそんなにヤバいやつなのか?」

 初心者殺しに遭遇したことのない和真がテイラーに問う。

 なんで知らないんだ、と驚きはしつつも教えてくれた。

 

「初心者殺し。あいつは、ゴブリンやコボルトと言った、駆け出し冒険者にとって美味しい部類の弱いモンスターの傍をウロウロして、弱い冒険者を狩るんだよ。つまり、ゴブリンをエサに冒険者を釣るんだ。しかも、ゴブリンが定住しない様にゴブリンの群れを定期的に追いやり、狩場を変える。狡猾で危険度の高いモンスターだ」

 知能の高いモンスターもいるらしい。俺も多くのモンスターと対峙したが、そこまで知能の高いものとは遭遇していない。

 迂闊に手を出さなくて良かった。

 そういうタイプのモンスターならアーチャーとも戦ったことはあるだろう。それで矢に対する対処の仕方ぐらい学習しているだろう。

 

「とりあえずゴブリン退治を済ませよう。アレがいたってことはゴブリンはすぐそこだって言うことだろ。それにすぐにでも倒さないと帰れなくなる」

 俺はそう進言した。

 テイラーは無言で頷いてくれた。どうやら、テイラーもそう考えていたようだ。頼りになる。

「シロウの言う通りだ。ゴブリン退治を急いでに済ませるぞ。カズマの敵感知で初心者殺しが近づいてくることを戦闘中でも確認出来る。戻ってきたときは途中だろうと逃げる。距離を置くことができたらカズマの潜伏で逃げ切る」

 俺たちは茂みから出ながら、テイラーの指示を聞く。

 そして、テイラー達は和真に頼りにしているなどと言っていた。単なる最弱職じゃないことは理解され始めていたようだ。

 

 ------

 

 その後テイラーを先頭に進んでいく。

 特に何か起こることなくゴブリンの目撃された場所に着いた。

 テイラーは和真に

 

「……敵感知はどうだ?反応あるか?」

「この先に沢山あるな。しかし、普通これだけ大量にいるもんなのか?」

 

 和真はテイラーに答えるも、不安げだ。

 そこまで多いのだろうか?

「ゴブリンは大量にいるものだ。だからそれはゴブリンだな」

「それにしてこんなにいるものか?数え切れないぞ…」

 敵感知って便利だな。眼は良いが、死角なんかだと見えないからそういうスキルがあればもっと確実かもしれない。

 しかし、数え切れないほどの集団では誰も寄り付かないだろう。戦いは数だともいう。それさえも吹き飛ばすような火力があっても持続出来るようなものなど限られる。

「そ、そんなに居るの?何匹居るか確認してからの方が…」

 リーンが不安になったようで、そう言いかけたそのとき

「カズマばっかに活躍されちゃたまんねぇ!行くぜ!」

 キースが我先にと飛び出す。

 それに続きテイラーも飛び出して行った。

 アーチャーなんだから、前衛職より先に飛び出すなよ…。

 そう思った時

「「ちょっ⁉︎多っ!!!」」

 二人が同時に叫んでいた。

 そしてその場に俺たちも向かった。

 

 そこには四十はくだらないほどのゴブリンの群れが居た。

 サイズは小さいものの錆びついた剣や弓矢を装備したゴブリンが声を上げたこちらを見るや否や、武器を構えた。

「だから数えてからにしようって言ったじゃん!」

 リーンが泣き声をあげる。

 その間に和真とテイラーが前へ、キースは下がり弓を構える。

「多くても十匹程度がいいところだぞ!なんだってこんなに!逃げたところで初心者殺しが来る!やるぞ!」

 テイラーが叫び、臨戦態勢をとる。

 ゴブリン達はこちらへと突っ込んで来る。

 突っ込んで来ないゴブリンは弓を構える。

 

「リーン!風の防御魔法を!」

「詠唱しているが間に合わねぇ!テイラーと和真だけでもかわせぇ!」

 

「『ウインドブレスト』ッッッ!!」

 和真が叫んだ初級魔法。咄嗟の判断で風魔法である程度の矢を吹き散らした。

 しかし、このゴブリン達の狙いは元から前衛の二人ではなかった。

 和真達へと飛来していた矢は約10。後衛の元へと飛来しているのは約20。後衛を先に潰し、援護のなくなった前衛を仕留める算段だったのかもしれない。もしくは退路を立つために後方にも放っていたのかもしれない。

 キースは飛来する矢の中でも当たりそうな矢だけを射抜く。

 しかし、リーンは詠唱中。このままでは当たる。

 

投影(トレース)ーー」

 

 イメージをする必要はない。

 ただ矢を払うだけでいい。

 当たりそうな矢は三本。

 俺は荷物を投げ捨てながら、リーンの前へと出る。

 

「シロウ⁉︎」

開始(オン)ッ!」

 

 干将莫耶を振るい、飛来する三本の矢を瞬時に斬りふせる。

 それと同時にゴブリンは次の矢を放とうとしていた。

「リーン!」

「『ウインドカーテン』!」

 俺たちを包むように周囲に風が吹き出した。その風は和真達をも包んでいた。

 ゴブリンの第二射はその風により防がれた。

「よし、今度はこっちの番だ!こういう手はどうだろうか!『クリエイト・ウォーター』ッッッ!からのーー『フリーズ』ッ!」

 和真がゴブリンの足元へと水を出し、それを凍らせる。

 以前に冬牛夏草に使った手だ。

 冬牛夏草にはあまり有効打にならなかったが、ゴブリンには足を滑らせたり足ごと凍らせたりと充分な効果を発揮した。

「これならゴブリンが幾らいようと関係ねぇ!さっさとやっちまうぞ!」

 テイラーの言葉を合図に俺たちは一斉に畳み掛けた。

 

 ------

 

 ゴブリンの群れを討伐した帰り道。

「……くっくっ、あ、あんな魔法の使い方、聞いた事もねえよ! 何で初級属性魔法が一番活躍してるんだよ!」

「ほんとだよー! 私、魔法学院で初級属性魔法なんて、取るだけスキルポイントの無駄だって教わったのに! ふふっ、ふふふっ、そ、それが何あれ!」

「うひゃひゃひゃ、や、ヤバい、こんな楽なゴブリン退治初めてだぜ! いや、俺はあのゴブリンの群れを見た時終わったと思ったね!」

 俺達は山道を街へ向かって帰りながら、先ほどの戦闘を振り返っていた。

 

 次第に話題は和真のことから俺のことに変わっていった。

「それにしてもシロウには助けられたな。まさかリーンが無傷で済むなんてな」

「死ぬかもしれない!って思ったところにシロウが両手に剣を持って現れて降って来た矢を斬り伏せて行くなんて…」

「剣を使う姿なんて見たらアーチャーってなんだよって話だぜ!俺なんて当たりそうな矢だけ矢で弾くので精一杯だったってのに」

 笑いながら仲間の無事を心から安堵していた。

 

「リーンを救ってくれてありがとう、シロウ」

 

 テイラーが三人の代表をするかのように礼を述べてきた。

 こうして面と向かって感謝されたことなどあっただろうか。初めてだったかもしれない。

 

「仲間なんだから当然だ。助けが必要なら助けるさ」

 

 当たり前のように口にする。だが、何故だかこの言葉が自分ではなく誰かの言葉のように思えてしまった。

 

 その後、すっかり忘れていた初心者殺しに追いかけられそうになったところを和真の知恵で逃れることができた。

 レベルや職業が全てじゃないんだな、なんてテイラーが呟いていた。

 

 ------

 

 街へと戻ることが出来たのは夜中だった。

 クエスト完了の報告と初心者殺しの報告をしなければならない。

 初心者殺しに関しては餌場を探しに何処かに行くとのことだが、念のためだ。

「つ、着いたああああ!もう大冒険した気分だよっ!」

 俺たちは笑いながら、ドアを開けギルドの中へ……

 

「うっ……ぐずっ……。ふぐっ……、ひっ、ひぐう……っ……。あっ……、ガ、ガズマあああっ……」

 

 泣きじゃくったアクアを見ると同時に何事もなかったようにドアを閉める和真。

「気持ちは分かるが開けてくれよ!頼むから閉めないでくれ!」

 半泣きでドアを開け、めぐみんを背負った男が飛び出てきた。

 和真にパーティの交換を求めていたダストとかいう男だ。

 

 アクアはあらゆるところが歯型だらけで、めぐみんはダストに、ダクネスはアクアに背負われている。

 だいたい何があったかを俺と和真はすぐに察した。

 

「……えっと、なにこれ。いや、大体分かる。何があったかは大体分かるから聞きたくない」

「聞いてくれよ! 聞いてくれよっ!! 俺が悪かったから! 俺が悪かったから聞いてくれ! いや、街を出て、まず各自どんなスキルが使えるのかを聞いたんだ。で、爆裂魔法が使えるって言うもんだから、そりゃすげーって褒めたんだよ。そしたら、我が力を見せてやろうとか言い出してよ、普段使う以上の全魔力を込めた爆裂魔法とやらを、いきなり何も無い草原で意味も無くぶっ放して……」

 

 泣きながら訴えてくるダストの言葉を、和真は耳を塞いで聞こえないフリをしていた。

 

「おい、聞いてくれって! そしたら、初心者殺しだよっ! 爆発の轟音を聞きつけたのか初心者殺しが来たんだが、肝心の魔法使いはぶっ倒れてるわ、逃げようって言ってんのにクルセイダーは鎧も着けてないくせに突っ込んでいくわ、それで、挙句の果てに……」

 

 初心者殺しはそっちにもいってたのか。それは御愁傷様だが、ダストの自業自得でもある。

 

「おい皆、初心者殺しの報告はこいつ等がしてくれたみたいだし、まずはのんびり飯でも食おうぜ。新しいパーティ結成に乾杯しよう!」

「「「おおおおおっ!!」」」

 和真の言葉に、テイラーとキース、リーンの三人が喜びの声を上げた。

「待ってくれ! 謝るから! 土下座でも何でもするから、俺を元のパーティに帰してくれぇっ!」

「飯は士郎のお手製だからな。そこいらの料亭よりも美味いぞ」

「「「おおおおおっ!!」」」

「なんでさ…いや、作ること自体に文句はないんだが…」

「待ってくれ!頼むから待ってくれぇぇぇ!」

 

 泣きついてくるダストを無視していた和真が、ダストの方へと振り向くと一言

 

「これから、新しいパーティで頑張ってくれ」

 

 

「俺が悪かったからっ!! 今朝の事は謝るから許してくださいっ!!」




ダストのパーティってまともすぎる。和真のパーティが異常すぎるだけなのかな…
のんびりと更新していきます。よろしくです


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17話

前回の話は和真さんがメインです。ここで言うのもなんですが。
一応今回も和真さんがメイン、な気がする。多分きっとそのはず

今回は早めに書き終えた…!


 ある日、珍しい客が来店した。

 

「いいか、アクア。絶対喧嘩とかするなよ?暴れるなよ?」

「私は女神よ?なんでそんなチンピラみたいに扱われてるのか不満しかないんですけど?カズマは私のことなんだと思ってるの?」

 

 店の前で話す二人の声がよく聞こえてくる。近所迷惑まではいかないだろうけど、ボリューム落としたほうがいいんじゃないか?とりあえず、オモチャの弓の準備でも…

 隣で弓矢を準備している俺を見て不思議そうにする二人。ウィズはこの後どうなるかぐらい気付いてもいいと思うんだ。

 カランカラン、と小さな鐘の音がなる。ドアを開け、二人の男女が入ってくる。

 

「いらっしゃ……ああっ⁉︎」

「あの時のクソアンデット!見つけた後どうなったかなぜか全然覚えてないし、目が覚めたら馬小屋だったけど!今日こそ成仏させてやるわ!私があんな馬小屋で寝ているのにこんな店開いてるなんて生意気よ!神の名の下にこの店を燃やしぃたいっ⁉︎」

 

 入店と同時に暴れたアクアを和真がダガーの柄で後頭部を殴り、俺が矢で前頭部を射る。

 頭を押さえて店の中で踞るアクアを無視して

 

「ようウィズ。久しぶり。約束通り来たぞ。美遊ちゃんも久しぶごふっ⁉︎」

 

 第二射目は和真の前頭部に命中した。来店した客二名は来店と同時に店の中で頭を押さえて踞っていた。迷惑極まりない。

 

 -----

 

「この店は人の頭に矢を射るのが当たり前なのか…」

 

 未だに踞るアクアをよそに和真は立ち上がり、文句を言ってくる。

 因みに美遊は店の奥に逃げていった。和真は苦手なようだ。

 

「美遊が嫌がること分かってるんだからそろそろその呼び方やめたらどうだ?俺もいちいち射るのは面倒になって来たんだから」

「面倒なら射らなきゃいいだろ。俺だっていちいちこの店入るたびに射られちゃ前頭部に穴開くわ!」

「美遊が嫌がるようなことさえしないなら何もしないんだって。和真はいちいち美遊を怖がらせるだろ」

「そんな覚えは…この紅茶美味いな。士郎が淹れたのか?」

「最近日本茶っぽいものより何故か紅茶を淹れる方が上手くなってきたんだ」

 

 和真とのんびりと話しているとウィズが

 

「そう言えば、カズマさんはどうして今日はこちらに?」

「ああ、そうだった。ウィズに何か使えるスキルを教えて欲しくてさ。リッチーならではのスキルとかあるんだろ?」

 

 そう和真がウィズに問いかけた時、背後で何かを感じた。

 殺気とも取れそうな雰囲気を感じ、振り向くとそこには

 

 -ーー頭を押さえたまま涙目で和真を睨むアクアがいた。

 

「どういうことよ、カズマ!リッチーよ、リッチー!こんなの薄暗くてジメジメしたところが大好きな、いわばなめくじよ!」

「ひ、酷いっ⁉︎」

「店長泣かせるな」

 叩いて黙らせる。言いたい放題言ってもらっては困る。

「うぅ……シロウもシロウよ!こんななめくじいたいっ!リッチーのいるような店で働くなんて!なめくじになるわよいたいいたいっ!」

「とりあえずウィズをなめくじ扱いするのはやめてやれ。泣きかけてるぞ…」

 なめくじと言うたびにビクッと震えるウィズ。その度にアクアを軽く叩いていた。この馬鹿は口で言ってもやめないということはよく知っている

 ウィズはよく見るともう泣いてるんだが…。

「リッチーのスキルは普通は覚えられないから覚えておいて損はないだろ?それに今のままじゃ強い相手に勝てないんだ。士郎がいない時にクエストに行って、危険な目にあって助かるとは限らないだろ?戦力アップのためにウィズから教えてもらおうと思ってるんだ」

 和真が頭を押さえているアクアにスキルを覚えようとする理由を説明する。アクアは納得したらしく何も言わなくなった。

 

「一通りのスキルをお見せしますから、覚えていってください。これは見逃して頂いたお礼です」

 そう言った後、何か気が付いたかのように、俺と和真とアクアを見ながら困りだした。

「ウィズ?どうしたんだ?」

「私のスキルは、その、相手がいないと使えないものばかりで…つまり、誰かに試さないといけなくて…」

 成る程、そういうことか。

「成る程な、ならアクアに……」

「いや、俺がその相手になる」

 和真の言葉を遮り、ウィズの前に立つ。

 和真がここはアクアに痛い思いしてもらうべきだろと言いたそうだったので

「アクアにやらせたら絶対に何かするだろ。それに一通り見るならアクアで時間取る方が勿体無い」

 成る程と頷く和真と舌打ちするアクア。分かり易すぎないか、アクアは。

 まぁ、そんなことはどうでもいい。今はとにかく和真にスキルを覚えてもらう。

「いつでもいいぞ」

「まずはドレインタッチなんてどうでしょう。では、失礼します」

 

 ウィズの手が俺の手を包む。すると同時に身体の中から何かが吸われていき、少しだけ身体が重くなっていく。

 触れていたのは十数秒に満たないが、それでも相当吸われた。これが相手の体力と魔力を吸い取るドレインタッチか。

 

「はい、これがドレインタッチです。シロウさんは少し休んでいてください」

「ああ、すまない。意外と吸っていくんだな」

 

 ウィズが「すみません!ドレインタッチは久しぶりで加減が、今ポーションを持って来ますねっ!」と店の裏へと駆けていく。

 すぐに戻って来たが、回復系のポーション以外も持って来ていた。

 

「ウィズ、他のポーションは何に使うんだ?回復だけならこれで十分だと思うんだが…」

「いえ、あの…他のスキルをお見せするんですが、次はどうなるのかがランダムで…」

 

 次に使うスキルは『不死王の手』というスキルらしい。

 直接もしくは間接的に触れた相手にランダムで状態異常を付与するというスキル。状態異常を引き起こす確率は幸運依存なので和真にとって持っておいて損はないスキルだ。

 

「どの状態異常が付与されても対処出来るよう、ポーションを持ってきたんです」

 

 毒以外の状態異常は放置してても大丈夫な気もするが…。

 とりあえず回復用のポーションを飲み干し、体力が戻ったことを確認する。魔力は今も自動的に戻っているので問題はない。

 

「よし、いつでもいいぞ」

「では、いきます」

 

 ウィズの手が俺の体に触れる。違和感はすぐに来た。

 身体に何かが染み渡っていく。それは身体中を蝕み、焼けるような痛みを与える。

 そういえば、運が低いんだったと思い出す。

 引き当てた状態異常は毒だった。

 

「ウィズ、解毒ポーションを…」

「はいっ!えーとえーと、あっ、これです…っ⁉︎」

 

 一番最悪な状態異常が付与されたことに焦るウィズ。こういう時に焦るとろくなことがない。そして、運がない俺が被害を受けるとなるとどうしようもなく大変な目に。

 まず、ウィズが慌てて解毒ポーションを取った時にその他のポーションが机から落ちた。高いポーションも混ざっていた為、少しばかり赤字だ。

 そして、その音に驚いたウィズは開けかけていたポーションを俺の方目掛け投げてしまった。そのポーションを取ろうと手を伸ばすウィズだが、その手は空を切る。

 

 中身の液体は俺の---目に

 

「なんでs目がぁ、目がぁぁぁぁ⁉︎」

 

 毒が消えていく感覚と目がとんでもなく染みる感覚が同時に来る。毒が消えていくことが気にならないほど目が痛い。

 そんな痛みを受けている中、それを眺めていた二人は

 

「おい、アクア。こういう時なんて言うか知ってるか?」

「ええ、もちろん知ってるわよ」

 

「「バ○ス」」

 

 遊んでいた。

 

「お兄ちゃん、大丈夫⁉︎」

 

 俺の目がぁぁぁと叫んだ声が聞こえたのか、慌てて美遊がこちらへと来たようだ。

 

「ひっ、ミユさん⁉︎あっ…」

 

 ポーションをほぼ全て落として割ったということを知られるとまずいウィズは美遊が来たことに驚き下がろうとして、滑った。

 

「ごふっ」

 

 鳩尾にウィズの頭が勢いよくぶつかって来る。なんでさ、本当になんでさ…

 足を引っ掛け、俺も倒れてしまう。が、倒れたというのに痛みはなかった。硬い床ではなく、柔らかい何かに…

 

「ねぇ、カズマさん、カズマさん。やっぱりカズマさんよりシロウの方がよく私のことをわかってるわ。私の魅力に惹かれてこっちに倒れて来たのよ」

「おーい、士郎。そんな奴にラッキースケベみたいなの決めても頭上からバカな声しか聞こえないんだから、嬉しくもないだろ。さっさと離れないとその馬鹿がもっとつけあがるぞー」

「おに……士郎さん……?」

 

 どうやらアクアの方へと倒れてしまったようだ。

 正直に言うと上からの馬鹿な発言がなければ、これでもいいと思えるんだが。

 それと美遊が後退りしながら複雑に感情が混ざったような声で俺のことを呼ぶ…あれ、おかしいな、兄妹になる前の呼び方に戻ってないか、美遊…

 

「なん……でさ……」

 

 ちなみに呼吸させてくれないアクアのせいで俺は気を失った。

 

 その後、美遊は3日間ずっと士郎さんと呼ぶようになった。意外と辛かった。

 あと和真は不死王の手を覚えたらしい。




和真さんはチートスキルを手に入れたっ!
あとこれ以上ネタっぽいものは書けないと思った。酷いわこれ…

次回から、オリジナリティ…来る?


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18話 ある日の衛宮士郎

はい、更新がとても早い。
昨日書き始めて書き終えてしまったよ。

幕間の物語がなんかいっぱい来ましたね。アストルフォきゅんが超強くなってしまった。最弱とはもう呼ばせない。

今回はオリジナリティ溢れさせようとした感じの話。細かい内容はまた別のお話で書きやす。

では、第18話、楽しんでもらえたら嬉しいです


「シロウさん。今日はこれを八百屋のおじいさんのところまで配達お願いします」

「分かった。っと、意外と重いな」

「おじいさんが何故かポーション系統を買ってくれた。黒字になるならって思って売ったけど…」

 

 買った理由が検討つかないからか、不安げにしている。確かにあそこの爺さんはもう家の中を歩くだけで精一杯だった筈だ。不思議に思うのも無理はない。

 

「理由はそれとなく聞いてみる。美遊はウィズが変なもの買わないように見張っててくれ」

 

 そう言いながら頭を撫でる。

 美遊は突然撫でられたからか、表情をコロコロと変えていたが最後には笑ってくれた。

 

「それじゃ、行ってくる」

「行ってらっしゃい、お兄ちゃん」

 

 笑顔で見送ってくれる美遊。

 店の外に出て持ちやすいよう荷物を持ち直す。

 持ち直しながら、あることを考えていた。

 

「さっきの美遊の表情…」

 

 確か「変なものを買わないように」と言っていたあたりか。あの時の美遊の表情。あれは---

 

「ウィズは何を買ったんだ?」

 

 不安だ。

 

 -----

 

「八百屋の爺さん、いるかー?注文したポーション持って来たんだが」

 

 シーンと静まり返っている八百屋。この時間帯なら商売している時間だと思うんだが。

 

「留守なのか?とりあえず置いておかないと腕が…」

 

 何も置いてない場所に箱詰めされたポーションを置く。爺さんが帰ってくるまで待っておいた方がいいのか、と悩んでいるとき、ふと後ろから

 

「ここの爺さんなら二、三時間は戻らねぇぜ。今は仕入れ中だ」

「おわっ⁉︎」

 

 唐突に声をかけられた。

 慌てて振り返るとそこには青髪のアロハシャツを着た長身の男がいた。配達に行く際、色々な人の顔を見てきたが目の前の男は見たことのない顔だった。他所から来たのだろうか?

 

「親切に教えてくれるのは有難いんだが、あんた見ない顔だけどここの爺さんとは知り合いなのか?」

「今はこの店で世話になってるんでね。オレのことは…あー、気軽にランサーとでも呼んでくれや」

「ランサーって…偽名だろそれ」

「細けぇこと気にしてるとモテねぇぞ、坊主」

 

 ランサーと名乗る目の前の男は、とても話しやすい男だが、なんというかどこか知っている雰囲気がある。だが、見たことは無い。

 

「ま、のんびりしていけよ、坊主。なんなら茶でも出してやろうか?」

「いや、また後で代金取りに来るよ。二、三時間もここにお邪魔するのもあれだろ?」

「おう、邪魔だな。ナンパした時に女連れ込めねぇじゃねぇか」

「そのナンパ、成功するとは思えないんだけどな」

 

「違いねぇ」と笑うランサー。ランサーが来たのはつい最近なのだろうか?こんな男が来たのならギルドや街で少しは話題にもなりそうなものだが。

 

「そういや、名前聞いてなかったな。覚える気はないが名乗らないってのは不公平だろ」

「不公平って、覚えないなら公平もあるかよ。でも、名乗らないのは失礼だな。俺は衛宮士郎」

「ん?…どっかで聞いたことのあるような名前だな。ま、思い出せねぇからその程度の奴だったんだろうよ」

「何気に失礼だよな。お前」

 

 俺が睨むもランサーは笑って済ませる。

 ふと「おー、そういや」と部屋の奥へと歩いて行く。

 すぐに戻って来たかと思うと、エプロンをつけて戻って来た。

 

「何してるんだ、あんた」

「何って店番だ、店番。ここで世話になる分は働かねぇとな。で、だ。何か買って行くか?安くはしていかないが、安いぜ?」

「あー、そうだな。今日の夕飯の食材買ってないんだった」

「ん?なんだ、坊主が作んのか?」

「そうだよ。悪いか?」

「悪かねぇよ」

 

 話しながら色々と買っていく。

 む、意外と質のいい野菜を選んで渡してくれるんだな。

 ついつい買いすぎてしまったが、数日で使いきれるだろうか。

 

「む?そこにいるのはシロウ」

「めぐみんか、珍しいな。こんなところにいるなんて」

 

 いつも通りの黒ローブにとんがり帽子なめぐみんが店前でかっこいい(?)ポーズを取っていた。

 

「ええ、シロウらしき声が聞こえたので寄ってみました。最近食事時しか会えないのでたまにはこうしてお昼間に会おうかと」

「そういえばそうだな。クエストも行かなくなってきたからな…たまには顔出すよ」

「そうしてください。ところでそちらは……あっ、あなたは⁉︎」

 

 めぐみんがランサーの顔を見るやいなや後ろへと下がる。

 

「ん?おお、何時ぞやの頭のおかしな嬢ちゃんじゃねぇか!今日もぽんぽこ撃ってんのか?」

「頭のおかしなと失礼ですね。爆裂魔法撃ち込みますよ」

「街中でそんな物騒なもの撃つんじゃねぇよ。だから、頭のおかしな爆裂娘って呼ばれてるんだぜ?嬢ちゃんよ」

 

 ランサーはどうやらめぐみんのことをある程度知っているようだ。

 

「もしかしてナンパしようとしたのか?」

「あー、いや。オレでもこれには声かけねぇよ。美人っちゃ美人だが、中身がこれじゃあ、なぁ…?」

「それも、そうだな」

 

 確かに声はかけないか。めぐみんだし。

 なら、どこで出会ったというのだろうか?

 

「働く先でこの嬢ちゃんとはよく会うんだわ。何の因果かは知らねぇが、行く先々で会うんじゃ色々あるんだよ」

「成る程なぁ、因みにここの前はどんなところに行ってたんだ?」

「飲食店」

 

 懐にある程度余裕のあるめぐみんなら色んな飲食店に行ってても不思議ではないか。この男にも運がなかったのか。

 

「何か失礼なことを考えてないですか」

「いや、何も」

 

 じっと睨んでくるめぐみんの視線が俺の手にある野菜の入った袋に。

 

「シロウ、それは何でしょうか?」

「何って、今日の夕飯の食材。買いすぎたんだけどな」

 

 大量に野菜の入った袋を両手に合わせて4袋。買い過ぎたとしても本来なら問題ないのだが、こちらの冷蔵庫は向こうと違って性能が悪いらしく、長く鮮度を保つことが難しいので買い過ぎは少し問題なのだ。

 

「あ?なんだ?買い過ぎなのか?色んな献立考えてたじゃねぇか」

「1週間分の献立を考えようと思えば考えられるんだけどな。鮮度が持たないんだよ」

「そりゃいけねぇな。なんなら、ここで少し使っていくか?そして食わせろ」

 

 ランサーからのまさかの提案。多分最後のが一番言いたかったことだろうけど。

 めぐみんがさっき言っていたがもう昼飯時だからな。台所借りてもいいなら使わさせてもらおう。

 

「時間帯的にも丁度いいし、台所借りるぞ?」

「おう、手伝いが必要なら手伝ってやろうか?細けぇことは苦手だがよ」

「細かいことはほとんど無いけど、手伝う必要はないぞ。ランサー。野菜だけならさっと作れるものも限られてくるし」

「そうかよ。なら、のんびり待たせてもらうぜ」

「私も待ってますから、三人分よろしくお願いします」

 

 めぐみんとランサーは居間へと向かう。

 今更ながらここは一応めぐみんにとって赤の他人の家なんだが、なんでそう簡単に入っていくんだ。

 

「まぁ、いいか」

 

 俺も知り合い程度の相手の家の台所借りるんだし、言えた立場じゃ無いからな。

 

 -----

 

「おーい、出来たぞ」

 

 両手に皿を持って居間へと向かう。

 そこにはだらけきっためぐみんとランサーがいた。まるで自分の家のような過ごし方だ。

 

「お、待ってたぜ。坊主」

「待ちわびましたよ、シロウ」

「ダラダラと寝てただけだろ」

 

 文句を言ってくる二人を無視して皿を置いていく。

 作ったものは野菜炒めと野菜スープのみ。野菜しかないのとこの家の台所に何があるのかも把握してなかったから、すぐに見つかるような場所にあった調味料とで作ることにした結果がこの二つだ。

 

「見事に野菜のみだな」

「肉を所望します」

「文句があるなら食うなよ」

 

 なんだかんだ言いつつ食べ始める。

 二人とも表情が分かりやすくていいな。

 

「ほう、うめぇじゃねぇか、坊主」

「シロウの作るものはやっぱり美味しいですね」

 

 表情通り好評だったようだ。作った側としてはこれ以上に嬉しいことはないな。

 

「けど、アレだな。主食が欲しくなるな、これは。米無いのか?」

「あっても時間かかるし、流石にそれを使うのはどうかと思うぞ…」

 

 流石に米まで使うのはどうかと思うので諦めてもらう。とは言え、やっぱり主食は大事だな。うん。

 

「あ、そろそろ私はクエストがあるので。晩御飯期待してますよ」

 

 そう言って立ち上がるとそそくさと出ていく。クエストがあるなら初めから言ってくれればいいんだが…。

 ランサーは残った野菜炒めと野菜スープを一人食べていた。俺の分まで

 

「おいおい」

「食われたくなきゃさっさと坊主も食うこったな」

 

 それもそうだ。言葉を返す前に自分の分だけは食べる。思ったよりランサーが食っていたので少なく感じたが。

 

「美味い飯はいい!また頼むわ!」

「また会った時にな。今度はもう少し凝ったものにするよ」

 

 -----

 

「で、いつまでいるんだよ。坊主」

「爺さん戻ってくるまで帰れないんだが」

 

 あれから五、六時間ほど経っただろうか。まだ帰ってこない。そろそろ帰った方がいいんだが、代金もらわない限り流石に帰れない。

 

「なぁ、ランサー」

「何度も言ってるだろ、坊主。俺からは払える金がねぇよ」

 

 このランサーが金欠で店番の為、待つしかできないのだ。

 誰か来てくれれば動けるようになるかもしれないんだが…

 

「おお、ランサーや、かえったぞぉ…」

 

 何か今にも死んでしまいそうなよぼよぼの爺さんが帰ってきた。ここの爺さんこんなに死にかけだったか?

 

「お、ようやく帰ってきたか。ポーションは届いてるんだが、代金支払ってこの坊主がよ」

「そうじゃった。わざわざ持ってきてもらってすまんの…」

 

 代金を受け取る。

 しかし、と考える。流石に老化をポーションで治すことはできない。ならば、何故この爺さんはポーションを……?

 

「それについてはオレから話してやるよ」

 

 代金を支払い終えて「もう、むりぃ、立てんー、ランサー」と言っている爺さんを居間へと運び込むランサーがそう言う。

 つまり、あの爺さんにポーションを買うよう言ったのはランサーってことなのか…

 

 爺さんを居間へと運び込み寝かしつけたランサーが戻って来る。

 

「あのポーションを買い込んだ理由は簡単だ。どの規模になるかは知らねぇが戦になる。それだけは確実だ」

「戦?なんだってそんなものに…」

「ほう、まだわからねぇか?つまりな---」

 

 俺はその次に言われる言葉がなんとなくわかった気がした。そして、それを聞いては戻れない、聞かなくても戻れない。

 

「‪——‬‪——‬」

 

 その一言は忘れかけていたものを思い出す。

 それは幸せへの弊害。

 逃れることが出来ない運命(fate)

 

「それで…あんたはどうするんだ」

「オレは見てるだけだな。何せ、マスターが不在ときた。戦う気は起きねぇよ」

「マスター…?」

「ああ、そうか。坊主は坊主でもオレの知る坊主とは違うんだったな。軽く説明しておいてやるよ」

 

 -----

 

 その後、俺は帰路へとついていた。

 話の内容はわかった。何が起きているのかも、そして何が起きるのかも。

 

「いや、それもそうか。よく考えれば不思議なことはないじゃないか…」

 

 スキルと化して消えていない彼女の能力。

 それが残っているならば、不思議なことはない。

 

「情報が少ないのと、今はまだ始まっていないのか、何も起きていない。後手に回ることになるが、動き出しては意味がない」

 

 今はとりあえず普通に過ごしていこう。

 始まってしまったなら…。

 そんなことを考えながら歩いていると、大通りに大きな檻に入れられてドナドナされているアクアを見かけた。その周りにはいつものメンバーが。また何かやったのか、と近づいていく。

 

「女神様⁉︎女神様じゃないですか!」

 

 他に近づいていた奴もいた。見たことがあるようなないような。

 ああ、また面倒なことに巻き込まれてるんだな。

 そう思いながらも和真達の方へと歩みを進める。その後のことはまた別のお話。




はい、と言うわけでオリジナリティ溢れる?溢れろ。なお話でした。

考えるの疲れた。次回更新も早いんじゃないかな?と言うわけで次回は美遊の表情7変化の原因が…?ウィズは何を買ってしまったのか。


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19話 ある日の衛宮美遊

早く書き上げると言ったな。あれは嘘だったようだ。

今回は美遊のお話。ウィズが何手に入れたのか、美遊のあの顔の原因は何か…ちょっと短めだけども。

適当すぎるぞバーカって思ったら感想で言ってね。書き直すから


「ミユさん、ミユさん!見てください!この商品!きっと売れます!あ、これも」

「………」

 

 目の前の光景に絶句するしかなかった。

 目を輝かせながら、この街では買い手のつかないような商品ばかりを見ては買おうとする魔道具店店主。赤字を抜け出すためにそういったものは買わないようにと散々と言ってきた結果がこれである。

 

「あなたは赤字を抜け出そうとする気がないようにしか見えない」

「あ、あの〜、なんだか初めて話した時のように他人行儀になってきてませんか、ミユさん…?」

 

 言っても聞かない相手にどうしろと。

 正直に言えば、ウィズの手に取る商品は適した場所で売れば儲かることができる商品ばかりだ。そう、適した場所であれば。

 王都と呼ばれるような場所ならまだしも、アクセルのような初心者でお金も少ない人相手にこんな高い商品を売ろうと努力したところで買い手がごく僅かに限られてしまい、赤字にしかならない。買っても一つ二つがいいところだ。

 初心者が買いそうな安いアイテムを仕入れて売りさえすれば赤字にはなる筈がない。立地が悪いのと高い商品しか置いてない赤字店主という噂さえ広まってしまっていることを除けばだが。

 

「このままだとわたしやお兄ちゃんが暮らしていけなくなる」

「その時は私の爪を売れば、数日はなんとかなります…」

 

 ウィズは元凄腕冒険者で現リッチーらしい。このことは黙っていようとしていたウィズがつい口を滑らせてしまったことで知った。それとウィズの爪が高値で売れるということもついでに。

 

「そんなことをすれば、リッチーの知り合いがいるかリッチーの仲間として扱われる。そうでなくてもこの街の近くにリッチーが現れたなんてことが話題になればあなたもここに居づらくなる」

 

 お兄ちゃんでさえまだレベルは一桁。わたしは2しかない。そんな低レベルでリッチーは倒せるはずがない。たとえ上級職であっても。

 それに街の近くにリッチーが居たとすれば、王都から何か来るかもしれない。そうなれば、いずれウィズのことがバレる。同じ店で働いている私やお兄ちゃんにも何かしら厄介なことが起こり得る。

 

「だから今するべきなのは黒字を目指すためにも安いアイテムを探して買うこと。わたしは向こう側を見て来るから、ウィズは反対側を見てきて」

「わかりました。あちらの方を見てきますね」

 

 少し、ではなく、かなり不安しかないが今は信じておくしかない。お金はわたしが持っているから多分大丈夫。

 そう考え、ウィズとは反対側へと歩みを進める。

 

「それにしても、ここまで多いとどこが一番安いのかわかりづらい…」

 

 歩いて行く先には100を超える行商。

 月に一度、王都などの街で売れ残った商品を売るためにアクセルの街の近くで行商達の市場が開かれる。ここではいつものように買うより安く手に入ったり、珍しい品が出回ったりするため、様々な客が来る。私とウィズのような魔道具店経営をしている者や冒険者、珍しい物を探しに来るコレクターなど。

 そして、行商は約200ほど集まっている。品の種類は豊富で値段は様々になっており、安いところもあれば高いところもある。それでもほとんどは定価ギリギリの最安値で売り出されている。

 

「ポーションがこんな値段で……」

 

 いくつか買っておかないとと色々と買っていく。こうして買って回っているからこそ思う。

 

「どうすればこの中から異様に高いものだけを見つけられるの…」

 

 今まで見てきた中で異様に高い商品は両手で数える程しか見当たらない。だというのに、ウィズは次々と高い商品を見つけて来る。ある意味才能なのだろうか。

 ウィズの無駄な才能について考えている時、ふと前から何かを感じた。それは似ても似つかないが、とても似たようなもの。

 顔を上げると前から黒い影のようなものが近づいて来る。それは近づくたびにはっきりとしたカタチに変わっていく。

 

 そのカタチはまるで見知った誰かのようで。

 それはまるで自分を汚染していくナニかのようで。

 

 顔には一見落書きのように見える刻まれた模様が描かれている。それは身体にも刻まれているようで腕にも見える。

 近づくたびに私わたしの中のナニかが叫ぶ。

 

 駄目。

 来ないで。

 やめて。

 

 目の前のそれを拒絶する。

 それは怯えたわたしを見てニヤリと笑う。

 彼のような顔で、彼のしない顔を。

 悪意に満ちた、顔を。

 

 それは真横を通り過ぎていく。

 触れることなく、傷付けることなく。

 ただ、通り過ぎていくときに何かを呟いた。はっきりとは聞こえて来ない筈だった。周りはとても賑やかなのだ。あのような小さな呟きが耳に届くはずがない。されど、その一言は耳に残る。呪いのように。

 

 通り過ぎた彼はこう呟いたのだ。

 

 ーーーさぁ、聖杯戦争を続けよう---

 

 それは前の世界で終えたはずのもの。兄が幾度もの死闘を超えて終わらせた戦い。

 しかし、アレはそれを続けようと呟いた。終わったものは続けられない。ならば、アレは何を続けるのか。それとも本当は終わってなどいなかったのか……?

 

 そんな疑問を抱いたのは一瞬だ。身体はすぐに動いた。振り返るがいない。そんなことはわかっていた。もうここにはいないだろうというのはわかっていたがそれでも探さなければならない。

 身体は自然と走り出す。

 

 -----

 

 結局見つけることはできなかった。

 見つけることはできないと分かってはいた。が、見つけておきたかった。

 

「あれが本当なのか…わたしの聞き間違いなのかどうか…」

 

 いや、こんなことは聞かなくても分かる。嘘偽りのないものだろう、と。

 嘘であってほしいと、こんなことを知ればお兄ちゃんは自分の体のことなど気にせずに無茶な戦いをするだろうと。そんな不安を打ち消したかっただけなのかも知れない。

 

「…出来るだけお兄ちゃんに知られないようにしよう」

 

 兄の願いは『わたしの幸せ』。その為にはその兄がいなくては絶対に手に入らないものなのだ。

 

「あ、ミユさーん!ようやく見つけました…はぁ、はぁ…」

「何かあったの?」

「はい!凄いものを見つけまし…あの、その握りこぶしは…」

 

 この人はどうして高いものとか凄いものを見つけて来るんだろうか。実は赤字になろうとも別にいいと思っているんじゃないだろうかと思ってしまう。

 

「赤字に繋がらないので安心してください。何故かタダで頂いたものですから」

「タダで…?」

 

 ウィズ程の人が凄いと言ってしまうものをタダで?何故そんなことを?いや、何故そんなものを持っているのだろうか?

 

「それで、その凄いものは何?」

「それはですね…」

 

 ウィズが取り出そうとしたとき、嫌な予感がした。見てはならない。それを見てしまっては、本当に戻れない。

 

「これですっ!」

 

 ウィズが取り出したそれは見覚えがある。無いなんてことはあるはずがない。そしてそれは、先ほどのアレの呟きを事実だと認識させるには充分すぎるほどのものだった。

 

「…それはお兄ちゃんには決して見せないで」

「え?」

「絶対に見せてはダメ!」

 

 ウィズは声を荒げたことに驚きつつも頷いてくれた。ただ何故見せてはいけないのか分からず首を傾げていた。知らなくていい。それがどのようなものであるかなんて……

 

「これが…わたしの運命……」

 

 ウィズの手には、剣を持つ騎士の絵が描かれ、Saberと刻まれたカードが握られていた。

 

 -----

 

「こっちの聖杯もあっちと見た目変わってなくて見つけやすかったぜ?ただこっちの聖杯の方が人間らしい。あれだ。育った環境が違うんだろうな。あっちはもう単なる人形だったからな。珍しいもん見たって感じだ」

 

 それは教会の片隅で語りかける。

 その教会で一人、祈りを捧げる者に。

 

「別に祈りを捧げるようなもんじゃないだろ?それ。崇めてるものがまともじゃない。こんな奴を教会に入れるような神なんてロクでもないもんなんだからさ」

 

 祈りを終えたのか立ち上がる少女。

 

「あの人混みの中、殺そうとするのを耐えるのはキツかったんだぜ?労いの一つもないのかよー」

「あたしの傀儡候補を減らさなかったことは褒めてやるよ。けど、外に出るなって言った筈だよな?信者でも傀儡でもないにしろ、言ったことぐらい聞けよな。…一応あたしがマスターな筈なのに…」

 

 ぶつくさと言いながら教会の外へ出る少女。機嫌が良くないようだ。俺を置いて宿へと帰っていってしまった。

 

「ま、何はともあれ……聖杯戦争を続けよう、朔月ーーいや、衛宮美遊。聖杯である限り、これは逃れられない運命(fate)だ。せいぜい楽しもうぜ、ひひひ」

 

---影は夜の闇へと消える。




聖杯がある限り、戦いは、続く。

細かなことはおいおい書いてきます。あとこれは前の話の数日前の話ってことです

色々と出てくるからこれはもうタグ変えた方がいい気がしてきた。いや、増やす方がいいのか?うーん?


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20話 聖杯戦争について

まず最初に謝罪すると、シリアス抜けるのは無理でした。

月姫とかfateとかデモンベインなんてのが好きになるとね、どうしてもね、こうね、なっちゃうみたいなんだ…

今回は読み飛ばしても良いんじゃないかなぁーって感じでもある。あとここの話は独自解釈満載です。おかしなところがあれば指摘してほしい。考え直す。

あと活動報告で書いたとおりです。言いたいことは以上!読みたきゃ読んでけぇ!


 ここ数週間で和真達に色々とあったらしい。和真が家を買ったり、スキルレベルが上がったり、初心者殺しに殺されたり。

 アクアの力で生き返ることができたらしいが、意外と凄かったんだな…

 本当なのかは俺も知らない。その現場にいなかったからだ。

 

 俺はその間ランサーの元へと行き、情報を集めていた。聖杯戦争に関すること、他のマスターやサーヴァントの動き、どうすれば聖杯戦争が終わるのかということなどについてだ。

 

 聖杯戦争に関することだが、思っていた以上に俺の知っている聖杯戦争と似ている部分があった。

 まず聖杯戦争で用いるものはクラスカードだった。それを夢幻召喚(インストール)することでカードに宿った英霊の力を身に纏わせ、正確には英霊の本質を置換させ使用者が戦う。それは俺の世界でも同じだ。だからこそ、俺の身体にはアーチャーの魔術回路や技能があるのだ。

 

 ただ、一つだけ違うものがあった。それはこのランサーを見て分かる通り、カードを使って英霊そのものを召喚できるということだ。

 

 親父から聖杯戦争のことは聞いている。英霊そのものを召喚し、その英霊とともに最後の一人になるまで戦う。そして座へと戻る魂が通る孔を開き、そこから根源へと至るための儀式。それが俺が参加する前までの聖杯戦争だ。その時に当時のエインワーズの当主が死亡、他二家の壊滅によりその聖杯戦争は幕を下ろしている。そしてその後の聖杯戦争はカードを使って座へと接続、英霊の力を纏うというものに変わっている。

 

 だが、ランサーが召喚された世界のカードでは前までの聖杯戦争と同じように召喚ができ、俺の参加した聖杯戦争と同じように身体に宿すこともできるということだ。

 

「けど、ランサー。それだと色々とおかしいんじゃないか?英霊を召喚できるっていうことは英霊の魂が座から来ているっていうことだろ?カードのままでこっちに来ていたなら召喚出来ないはずだ」

 

 英霊は座から召喚される。英霊の魂を降霊させ、魔力によってこの世界で肉体を与え、とどまることが出来る。それも聖杯の力あってこそだ。そう考えるとランサーがこの世界にいるということ自体がおかしいのだ。

 座とは地球の抑止力である英霊の魂が存在する場所だ。しかし、ここは地球ではない別の場所だ。座を介さずに召喚できるとでもいうのか…?

 

「あー、そっちじゃどういうシステムだったかは知らねぇがな。こっちは第四次聖杯戦争だったか聖杯大戦だったか、その時に召喚された英霊の魂をカードの中にある魔力の一部に置換された。だから、こっちに来てからだろうと魔力さえあれば召喚出来る。まぁ、相当な魔力は消費するがな」

 

 魔力を魂へと置換していく…だと。それは本当に置換魔術なのだろうか?いや、もはや置換魔術の域を超えている。それにカードに関してもだ。俺の知るエインワーズ…ジュリアンの置換魔術は人形に魂を置換させたが欠損だらけだった。そしてカード自体も英霊の力をこのカードを通して座へと接続、その力を術者に纏わせる、英霊になるというものだった。

 このランサーが言っていることを信じるならそれは…

 

 カードそのものがサーヴァント一騎分の擬似的な座と変わりがないということではないのだろうか。

 

「そっちのエインワーズは相当なものなんだな…」

「腕だけは一流だな。あの置換魔術使いは」

 

 そうなるとこっちに存在するカードは召喚が可能な贋作の英霊がいると言うことだ。英霊そのものと戦うとなると俺だけでは確実に負ける。今までの相手は何か欠損していて、それで互角の戦いを制して来たのだ。贋作とはいえ英霊そのものとでは力量の差がありすぎる。

 

「なぁ、ランサー。それは…俺でも勝てるのか?」

「まず無理だろうな。相手は英霊そのものと変わらん。英霊に置換されかけているだけの坊主には厳しいんじゃねぇか?」

「やっぱりそうか…」

「一つ言っておくがな、あの嬢ちゃんの幸せを願うってんなら別にこの聖杯戦争、勝たない方がいい。時間切れで終いにしちまうのが一番だ」

「えっ?」

 

 それは意外な言葉だったが、それもそうだと思い出す。美遊の聖杯という機能は ージュリアンに何かされたかもしれないがー 一時的なものだ。時間が経てば消える。しかし、それでは彼らは願いを叶えることはできない。

 

「それで、いいのか?」

「ああ…何せ、どうせ勝ったところで願いを叶える願望機としての機能は残るはずがねぇからな…」

「どういう…」

 

 その疑問は最もだな、とランサーは茶を飲み干し答える。

 

「ここにいるサーヴァントはオレを含め七騎だ。その内の一騎が聖杯にとっての毒となる。その毒は聖杯を蝕み、願望機ではなく人類を滅ぼす兵器になる」

「な……」

「サーヴァントは消滅するとともにカードの中の魂も魔力に戻り聖杯に注がれる。その魔力さえも毒となる。だから、この聖杯戦争に勝つとなると聖杯はまともなものではなくなる」

 

 ランサーの言うことが本当なのかは半信半疑だが嘘をつくとも思えない。だからこそ、それは真実なのだと思わざるを得ないのだ。

 

「ま、そういうことだ。聖杯に勝とうとは思うな。挑んでくるやつがいるなら倒せばいいが、黒い影には気をつけな。アレが毒そのものだ」

「黒い影か…まぁ、影は黒いけどさ…」

「真面目な話をしてるんだがな、聞く気あるか、坊主?」

「分かってるよ。忠告はちゃんと聞いておく。気をつける」

 

 黒い影のようなサーヴァントに気をつける、か。それがアサシンならどうしようもないが、アサシンが毒ならば今頃美遊は…ならば、あの七騎以外にクラスが存在する、ということになるのか。

 

「おっと、そうだ。坊主」

「なんだよ」

「街外れにある廃城だがな、あそこに魔王軍幹部が来てるらしいぞ」

「それがなんだよ」

「サーヴァントカード、クラスカードは魔王軍が一度全カード持ってたわけだが……」

 

 それはつまり……

 

「街外れに来た魔王軍幹部は…」

「サーヴァントカード持ちだ。あとそのサーヴァントは一番好戦的だな。あの野郎は何処ぞの騎士様のお守りが大好きらしいんでな」

 

 そう語るランサーの顔はどう見ても戦いたくてうずうずしているように見えた。一番好戦的なのはお前じゃないのか?

 

「まぁ、魔王軍もそこまで願望機には期待してないから大丈夫だろ。願望機の存在は知ってはいるが使い方を知らないからな。奴らにとってサーヴァントは他の兵より役に立つなんか凄いものって感じだ」

「聖杯戦争なのか、それは…」

 

 こう連日ランサーに情報収集する必要があるようなものじゃなかった気がする。いや、美遊のためにも情報は必須なのだが…

 

「とりあえずこれやるよ」

「っと…ってこれ」

 

 ランサーから投げ渡されたそれは一枚のカード。

 

「オレのカードだ。よろしく頼むぜ、マスター」

「いや、なんでさ」

 

 サーヴァントが一人仲間になるのはいい。いいんだが、何故今なんだ。

 

「そっちにつく方が何かと楽しそうじゃねぇか。あとそろそろ魔力切れもあるんだが、爺さんに頼むのもな」

「関係者の俺なら問題ないってか…」

「そっちにつけば魔力切れはなさそうだからな。坊主も相当魔力あるみたいだしな。ま、そういうこともあるが何より美人な女がいる方につくもんだろ」

「…美遊とめぐみんには手は出すなよ?カードに魔力を通すだけでいいんだな?」

「手は出さねぇよ。安心しろ坊主。カードの使い方もそれで合ってるから大丈夫そうだな」

 

 ランサーがつくとなれば美遊を守りやすくなったと考えられる。そこはいいんだが、ランサーがやらかさないことを信じるしかない、か。

 

「不安はあるが、よろしく頼む。ランサー」

「おうよ、マスター」

 

 握手を交わしたあと、俺たちは八百屋の店番に戻った。

 何故今、八百屋の店番させられているのか、それは俺自身全くわかってない。




少しばかり説明をば。
士郎の世界の聖杯戦争はカードを通じ座へと接続するというものになっています。そして独自解釈としてザカリーの死ぬ前の聖杯戦争は通常のカードを使用しない聖杯戦争を行なっていた。ということにしています。カードの研究は他二家に隠れて秘密裏に行なっていたということに。その後、美遊を見つけたため魂を召喚するような必要がなくなったのでカードを用いた聖杯戦争へと切り替わった。

ランサーの世界の聖杯戦争も第四次聖杯戦争時にザカリーがカードそのものに聖遺物を埋め込み、魔力を魂へと置換させるという技術を使用したということに。これをすることで屑カードが生まれないようになるかという実験でもあった。結果としては成功。願いを実現させる宝具を持つサーヴァントの聖遺物を探すもその第四次聖杯戦争時にザカリーは死去。他二家も壊滅している。その後、ランサーの世界のジュリアンが美遊を見つけ、そのカードを用いた聖杯戦争を行うことに。その後、次元が裂けるということが起きたため、七騎のサーヴァントのカードがこのすばの世界の魔王の元へ流れ着いた的な感じみたいな??

そんな感じです。書いててちょっと、ん?となった部分があるようなないような…疑問は感想で答えます。あとこんな感じにシリアスしつつもネタに…走りたいなぁ!


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