IS〜愛しき貴女へ捧げる我が人生〜 (TENC)
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KARTE.1 セシリア・オルコット
episode.1


「はぁ、何でこんな事になったんだよ」

 

 ため息を付く俺は、もう一度周りを見渡して、またため息を吐く。

 

 俺の周りにいるのは、女、女、女、女。見渡す限りの女に、今にも姿を隠したくなるが、逃げ場なんて無いのは知っているので、諦め、何度目か分からないため息が漏れる。

 

 と、自己紹介がまだだったな。

 俺は、(くろがね)双刃(ふたば)。去年、高校を卒業したのに、もう一度、高校に入学させられた馬鹿な18歳だ。

 

「(それにしても、何でISなんて動かせたんだ?まぁ、大方俺の知り得ない事なんだろうけどなぁ)」

 

 

 インフィニット・ストラトス。通称“IS”とは、宇宙空間での活動を想定されたマルチファーム・スーツだ。

 

 だが製作者の意図とは別に宇宙進出は一向に進まなく、とんでもないスペックを持っている機械は兵器へと変わってしまった。戦略兵器と呼ばれるほどに。だがそれは各国の思惑によりスポーツへと落ち着いた飛行パワードスーツとなっている。俺から言わせれば表向きの口上だがな。

 

 最強の起動兵器として名を挙げたISだが、たった一つだけ、欠点が存在した。

 

 ISは、女性にしか扱えない。

 

 最強の起動兵器を女性にしか扱えないと言う事実は、世界を一気に変えた。

 国際連合は、ISを動かせる女性を優先する制度を作り、ISを作った開発者が日本人だった事から、日本にISについて学ぶ学園が作り挙げた。

 

 まぁ、そんな事はこの際どうでも良いが、女性が優先される世の中で、女尊男卑なんて俺ら男性には生きづらい世の中になった。

 

「(まぁ、俺が此処にいる元凶の()()は、俺より居た堪れないだろうな)」

 

 そして、俺が今いる場所は、そのIS学園だ。

 何故、男である俺が、ISを学ぶ場所に居るのか。理由は簡単だ。

 

 ISを動かせる男が現れた。

 

 名前は、忘れたが、俺より3歳下だったな。いや、この学年の学徒は、全員3歳下だったな。

 

 世界初の男性IS操縦者が、現れた事で、全国の15から18歳の男子を対象にした一切、適正調査が行われた。

 其れで、見つかったのがこの俺。

 まぁ、見つかった時は、キレたね。調査が行われた時期は、大学や専門学校を受けた奴らが、合格通知だったり、何だったりと自分の道を進んで行く最初の時期だ。

 

 俺も、先生や俺が希望していた大学の知り合いの人とかに、勉強を教えて貰いながら、やっとの事で手に入れた合格通知が、適正が見つかった事で、無くなって、卒業した高校生活をもう一度、送らなければならなくなったのだ。

 

 まぁ、俺の事をニュースで知った女権利団体(バカ共)を、しばいたり、解剖しようとした研究者(アホ共)の研究所のある事ない事言って、潰したりしたから、一応は落ち着いたがな。

 

「皆さーん!入学おめでとうございます!私は、この一年一組の副担任の山田真耶です。一年間ですが、宜しくお願いしますね!」

 

「(おっと、考えに浸っていたら、先生が来たことに気付かなかったみたいだな。それにしても、かなり幼い感じの先生だな)」

 

 元気な女性の声が聞こえ、考える事を一先ずやめて、前を向くと眼鏡を掛けた緑髮の先生らしき女性が立っていた。

 雰囲気から、先生何だと思ったが、身長と顔が幼い所為か、中学生が、無理して専門学校して居るようにも見える。

 本人に言ったら、落ち込むか怒られるだろうな。

 

「あ、あれ?」

 

「(おっと、女子の皆さん方は、前方のファーストに夢中の様だ。て、泣かないで下さいよ。余計、幼く見えますぜ)」

 

 男子に目がいっている女子達は、山田先生の言葉に反応を返さず、山田先生は、予想していたのと違っていたのだろう。惚けた顔して、慌てている。それと、涙目になっている。

 

「うぅ、其れでは窓際の席から自己紹介をして下さい」

 

 涙目の山田先生は、何とか進行しようとして、自己紹介を始めさせる。

 俺の席は、真ん中の列の後ろ側だ。

 

 自分の番になるのを、自己紹介している女子達の顔と名前を覚えていく。

 そして、真ん中の列の奴の番となり、真ん中のど真ん前にいるファーストの番になった。

 けど、ファーストは、何か考え事をしているのか、山田先生の言葉の反応を示さない。

 

「織斑くん?織斑くん?織斑くん!」

 

「は、はい!」

 

 何回か、山田先生が呼ぶと漸く気づいた様で、声を挙げて立ち上がった。

 にしても、織斑か。んー、下はなんて名前だったっけ?

 

 その後は、織斑一夏の名前だけ言って、終わったファーストこと一夏の自己紹介と、その自己紹介に異議(物理)を唱えて、入って来たこのクラスの担任であり、一夏の姉の織斑千冬の登場とかで、騒がしくなったが、織斑先生の鶴の一声で、何とか静かになった。

 

 はぁ、先が思いやられるぜ。

 



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episode. 2

おまけ設定ですが、主人公より主人公の友人が、チートです。


「ああ、忘れていた。鉄。自己紹介しろ」

 

「あ、はい」

 

織斑姉弟のコントを傍観していたら、織斑先生に自己紹介する様に言われたので、席を立つ。

おおう。この好奇の視線の筵にされるのは、流石に慣れないな。まぁ、こんな事で狼狽えるぐらいでは、個性的過ぎた俺の高校は、生き残れないぜ!

 

「えーと、鉄双刃です。年は、18歳で君達の3歳上です。特技は、瞬間記憶。三年間居れるか、分からないが、よろしくな」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

俺の自己紹介の後に、元気な声で、返事を返してくれる。うん、元気な子は嫌いじゃないぜ。

 

「いいか、織斑。自己紹介とは、こうやるのだ」

 

「そんな事いってもよ。千冬姉ヘブゥッ!」

 

「織斑先生だ!何度言えば分かるのだ貴様は?」

 

うわぁ、痛そうだな。

ううん、俺としては余り好ましく無いけど、何かを言うより、一夏が名前で言うのを辞めさせれば、問題は無くなるな。

 

「さてと、席に着け鉄。さあ、SHR(ショートホームルーム)はもう終わりだ。あまり時間が無いので、諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらうぞ。その後実習だが、基本動作は半月で身体に染みこませてもらうぞ。いいか、いいなら返事をしろ。文句があっても返事をしろ、私の言葉には絶対に返事をしろ。いいな?」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

横暴とも言える織斑先生の言葉に、何の疑問を考えていないだろう女子達は、俺の時よりも大きな声で、大声を挙げて返事を返す。

うーん、個人的に物事を強制されるのは好きじゃ無いけど、一応、この人なりの考え何だろうけどな。

ただ一つ言わせてくれ。此処は軍隊か?

 

 

「〜〜♪」

 

「あ、あの、ちょっと良いですか?」

 

「ん?」

 

SHRが終わり、鼻歌混じりに次の授業の準備をしていたら、ファーストの一夏から声をかけられた。

 

「おお、一夏くんだね?何か、俺にようか?」

 

「えと、男子は俺と双刃さんだけなので、仲良くしたいかなって」

 

「ああ、良いよ。まぁ、確かにこんな状況だもんな」

 

そう言って、周りを見渡すと腐海の波を感じたので、即座に頭の中から、振り払う。

そっち系の事には、理解は出来るけど、自分に向けられるのは絶対に嫌だからな。

 

「其れで、何か俺に聞きたい事でも有るのか?」

 

「い、いえ、挨拶した方が、良いかなって」

 

「うん、良い心構えだな」

 

挨拶は大事だ。

年上の人でも、年下でも挨拶から始めるのが大事だ。

まぁ、年下でしない奴は、それ相応の対応をするがな。

 

「ちょっと、良いですか?」

 

「ん?」

 

「あ、箒」

 

一夏と話をしていたら、ポニーテールの女の子が、俺らの話の輪に入って来た。

 

「ちょっと、一夏を借りて良いですか?」

 

「ん?ああ、良いよ。それじゃあ、一夏を宜しくな」

 

「はい。行くぞ、一夏」

 

「お、おい!待てって!箒!」

 

箒?と呼ばれた少女に、腕を引っ張られて、教室を出て行った一夏を見送った後、次の準備を手早く終えて、自分の腕を枕に俺は、眠りに着いた。

 

 

 

 

『歯ぁ!食いしばれぇ!!!!』

 

「はっ!」

 

バシッ!

 

「目は覚めたか?鉄」

 

「ええ、バッチリと」

 

寝ていたら、夢に出て来た俺の友人の言葉に、ハッとなって顔を上げて、迫っている出席簿を真剣白刃取りをする。

受けた後、俺の前には、我らが担任の織斑先生が、出席簿を振り下ろした状態で、立っていた。

さ、流石は世界最強(ブリュンヒルデ)。受け止めた両手が、未だにヒリヒリするぜ。

 

「言い訳良いですか?」

 

「聞くだけ聞こう」

 

そう言っても、未だに出席簿にチカラを込める織斑先生。いや、どんだけ人の頭を叩きたいんですか、言っときますけど、何が何でもやらせませんぜ。

 

「昨日、少し徹夜してまして、其れで殆んど寝てないんですよね」

 

「ほう?では、徹夜してまで何をしていた?」

 

「勉強ですよ。動かした所為で、行く筈だった大学に行けなかったんですから」

 

「そうか。なら、次からは気をつけるんだな」

 

そう言って、出席簿に加える力を止めて、前へと戻って行く。

あ、授業は山田先生がやるんですね。

 

はぁ、何か疲れたなー。

 




前書きの続き

チートのレベルを言うと、織斑先生並みの身体能力に高さです。


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episode. 3

主人公に専用機あげようか悩んでます。

訓練機にすると、主人公のチート加減が出るかもだし、専用機だと多分最強だし。

困った。


「ーーーですので、ISには注意が必要なんです」

 

山田先生の話しを聞きながら、いや、正確には流し聞きしながら、(一夏)は、焦っていた。

 

「(やべぇ!何言ってるのか、全く持って分かんねぇ!てか、今何処やってんだ?!)」

 

パラパラと自分の教科書を、めくりながら、山田先生が今、何処の話しをやっているのか探すが、全然見つからない。

 

「それじゃあ皆さん、分からないところがあったら挙手して質問してくださいね~」

 

不意に、山田先生のそう言っているのが聞こえ、恐る恐る手を挙げる。

 

「あの、先生」

 

「はい!織斑くん!」

 

「全部分かりません!」

 

「はい!‥‥へっ?え、ええぇぇぇ!!??」

 

ガタタタタ!!!

 

俺の言葉に、ワンテンポ遅れて驚く山田先生と、机から転げ落ちる女子達。

え?其処まで?

 

「え、えっと……。他に分からない人はどれくらい居ますか……?」

 

「「「「「‥‥‥‥」」」」」

 

山田先生が、少し涙目で、他の皆んなに聞くが、誰も手を挙げる気配は無い。勿論、双刃さんもだ。

マジで?

 

「……織斑、入学前の参考書は読んだのか?」

 

呆れた感じの千冬姉が、聞いてくる。

参考書‥‥‥?あ、もしかして、あのめちゃくちゃ、分厚いやつか。確か、あれなら。

 

「タウンページと間違えて、捨てましたヘブッ!?」

 

真面目に答えたら、出席簿を振り下ろして来た。理不尽だ。

 

「予備を渡す。一週間で、覚えろ」

 

「いや、流石にあの量を一週間では‥‥」

 

「やれと言っている」

 

「‥‥はい」

 

千冬姉の言葉に、渋々ながらも頷き、山田先生にやっているページを聞いて、また授業を再開してもらう。

はぁ、先行きが不安過ぎて、着いて行けない。

 

 

一限目の授業を終え、教室を開いて行こうとした織斑先生を呼び止める。

 

「あ、織斑先生。話したい事が有ります」

 

「ん?なんだ鉄?」

 

織斑先生を呼び止めた事で、背後から、視線が痛いほど感じるが、無視して要件を伝える。

 

「普通教科とかある訳ですよね?」

 

「そうだな」

 

「IS関連の授業は出ますので、普通教科は出なくて良いですか?」

 

ガタッ!と後ろで音が聞こえる。

自己紹介にも言ったが、俺はお前らよりも3歳年上なんだよ。

 

「‥‥確かに、貴様なら問題無いだろうが、私一人では、決めかねる。学園長と話して置くから、今日はちゃんと出ろ」

 

「分かりました」

 

そう言って、織斑先生と別れて、自分の席に着くと、一夏が話しかけて来た。

 

「あ、あの、サボっても大丈夫なんですか?」

 

「おう、大丈夫大丈夫。だって、俺高校卒業してるからさ」

 

「あ、そういや3歳年上でしたね」

 

「序でに言うと、大学に合格してた」

 

「あの、なんか、ドンマイです」

 

「言うなや一夏」

 

哀れみの目を向けてくる一夏を軽く叱って、次の授業が始まるのを待っていると、誰かが近づいてくるのが、分かった。

 

「ちょっと、宜しくて?」

 

どうやら、今日は面倒くさくなりそうだ。

 



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episode.4

「ちょっと、宜しくて?」

 

「ん?」

 

「え?」

 

 その言葉に振り向くと、金髪の女子が、如何にも「私は、貴方より位が高いのよ」と言っている様な状態で、立っていた。

 

「まぁ、何ですの。そのお返事は!私に話しかけられるというだけでも光栄だというのに、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

 

 その一言で、俺は彼女が、女尊男卑。今の世の中を表している人間だと言う事を判断する。

 俺の面倒くさそうな気持ちを他所に、彼女は言葉を続ける。

 

「悪いけど、俺、君が誰か知らないし」

 

 ちょっと興味無さそうに答える一夏。まぁ、此奴の感じ的には、女尊男卑は好きじゃ無いみたいだな。

 其れと、一夏の言い分は、最もだ。何せ、自己紹介は途中で終わったのだから。

 

 しかし目の前の金髪女子には俺達の答えは気に入らなかったらしい。

 

「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生にして、入試主席のこの私を!?」

 

 金髪女子もといセシリア・オルコットは、あからさまに腰を引いて驚く動作をする。

 てか、ISに興味がある奴なら兎も角、全く持って無関係の奴らが、国家代表ならまだしも、その国の候補生まで、分かるわけが無いだろうが。

 はっきり言って、ウザい。

 

「なぁ、質問良いか?」

 

「ふん。下々のものの要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

 

 貴族ねぇ。もうなんか、俺の頭の中では、貴族は皆んな傲慢で、態度がデカイって印象が出来始めている。ちゃんとした、貴族がいる事を望みたいが、難しそうだ。

 其れと一夏。こんな奴に聞きたい事なんてあるのか?

 

「代表候補生ってなんだ?」

 

 ガタガタガタッ!

 

 抜けてるって思っていたが、まさかここまでとはな。逆に感心するぜ。

 

「あ、あ、あ……」

 

「あ?」

 

「あなたっ、本気でおっしゃってますの!?」

 

 一夏に突っ込み(物理)をしようとしたら、オルコットが、代わりにやってくれた。

 さっきのは、同意するぜ。

 

「おう!」

 

 そして、オルコットの言葉に、自信満々に答える。何とも清々しい。顔面をぶん殴りたくなるほどに。

 

「信じられない。信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ、常識。テレビがないのかしら……」

 

 未開の地って、何時の時代の話だよ。

 其れに、その常識は、IS関係者には常識だが、俺や一夏みたいな一般人からしたら、常識じゃねぇよ。

 てか、テレビぐらいあるわ。

 

「あ、あの、代表候補生って?其れに、常識なんですか?」

 

 流石の一夏も、オルコットと周りの女子の反応を感じて、拙いと思ったのか、俺に聞いてきた。

 仕方ない。教えてやるよ。

 

「心配すんな。ISしか頭に無いバカなら、常識だが、普通知らなくても問題無い。其れと代表候補生は、書いた字の如くだが、分かりやすく言うとエリートだ」

 

「バ?!んん!そうエリートなのですわ!本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……幸運ですのよ。その現実をもう少し理解していただける?」

 

 俺のバカという言葉に、少し反応したが、咳払いをして、先ほどまでのように、返してきた。

 ああ、面倒くさ。

 

「そうか。それはラッキーだ」

 

「……馬鹿にしていますの?」

 

 馬鹿には、してないと思うぜ。多分、興味の無いだけかもな。

 

「大体、あなた方はISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。男でISを操縦できると聞いていましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたけど、期待はずれですわね。まあそこにいる人は多少あなたよりマシですが」

 

「俺に勝手に期待されても困るんだが‥‥」

 

「確かにな」

 

「ふん。まあでも? わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ。ISのことでわからないことがあれば、まあ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

 

 お前に聞くぐらいだったら、先生に聞くわ。チラッと聞いたが、先生達もエリートらしいからな。

 其れに、山田先生なら、教えるの上手いからな。

 

「入試って……もしかしてあれか? ISを動かして戦うってやつ?」

 

「そうだと思うぜ」

 

「それ以外に入試などありませんわ」

 

 俺とオルコットの返答に一夏は思い出した顔になる。

 てか、そんなのあったんだな。確か、試験の時、俺はキレてたから、そん時に来た奴の誰かが、学園の人だったのかもな。

 でも、ケガさせて無いから、大丈夫だよな?

 

「あれ、其れなら俺も倒したぞ?」

 

 てか、倒したんかい。

 先生方、何やってんすか。

 

「わ、わたくしだけと聞きましたが?」

 

「女子だけって、オチじゃ無いか?」

 

「つ、つまり、わたくしだけではないと……?」

 

「そんな事、俺に聞くなよな」

 

 気持ちを抑えきれていないオルコットに対して、どうでも良い風に答える一夏。

 まぁ、一夏よ。どうでも良い事は分かるが、其れはお前に限っての話しだ。

 

「貴方!貴方も教官を倒したっていうの!?」

 

「いんや、俺はやってないぜ?」

 

「其れより、落ち着けって」

 

「此れが、落ち着いて入られーー」

 

 オルコットが、喋っている途中で、次の時限の始まりの鐘が、なったので、捨て台詞を残して、去っていったオルコットに、何とも言えない表情の俺は、取り敢えず、一夏を自分の席に戻してから、授業に集中する。

 



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episode. 5

「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」

 

 

 チャイムが鳴ったから、気持ちを切り替えようと思ったが、チャイムが鳴って間もないのに担任の織斑先生と山田先生が既に教室にいた。

 早くないすか?

 

 其れと、この時間は、一限目と違って山田先生じゃなくて、織斑先生が教壇に立っている。この人が教壇に立つのは何か大事な事なんだろうか、山田先生までノートを手に持っていた。

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

 そう言う織斑先生の言葉に、教室が少し色めき出す。なんか、嫌な予感がするな。

 そして、一夏は相変わらず分からない顔をしているが。

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差は無いが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更は無いからそのつもりで」

 

 いや、そんな事、言わなくても分かる‥‥‥ああ、一夏の為ですね。流石は、織斑先生。こんな、小学生でも分かる事を分からない一夏の為に、説明する。

 何と、弟想いの姉なのだろうか。

 

 はっ!もしや、織斑先生ってば、ブラ‥‥!!

 

 バシッ!

 

「鉄。お前、失礼な事を考えていなかったか?」

 

「いいえ?そんな事は、ありませんが?」

 

 殺気を感じて、意識を現実に戻すと、織斑先生の出席簿が飛んで来ていたので、白刃取りの様に掴む。

 そして、俺の事を睨む織斑先生。いや、別にそんぐらいで、殺気飛ばさないで下さいよ。彼奴じゃ、あるまいし。

 

「さて、鉄のせいで話の腰が折れてしまったが、誰が代表者になる?」

 

 勿論、誰もクラス委員長に成ろうと、立候補する者は居ない。当然だろうな。

 花も恥じらう高校生だ(実際どうかは、知らないがな)。友人達と遊んだり、部活に精を出したりして、楽しみたいのに、クラス委員長になんかなったら、その時間が無くなるから、しょうがない。

 まぁ、かと言って俺もやる気は無いがな。

 

「自薦他薦問わないぞ」

 

「はいっ。織斑くんを推薦します!」

 

「私も!」

 

「え?えぇ!?」

 

 他薦しても良いと言われた女子達が、直ぐさま一夏を推薦する。うん、何と無く予想してたわ。後、多分だが、俺も他薦されるな。

 そうなったら、直談判と行こうか?

 

「はい!私は、鉄さんを推薦します!」

 

「私も!」

 

「はぁ、やっぱり‥‥‥」

 

 その後も、俺と一夏以外に推薦される者は居らず、時間は進んで行った。

 

「では、候補生は織斑と鉄の二人だな」

 

「ちょ、ちょっと、待ってくれよ!俺は、やらな」

 

 織斑先生は、そのまま話しを続けるようとするが、一夏が其れを止めようとする。

 だが‥‥‥

 

「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」

 

 デスヨネー。シッテタ。

 

 そうやって、俺と一夏の二人で、決戦投票しようとなった時、誰かが其れに待ったをかけた。

 

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 

 机をバンッ!と叩いて立ち上がった生徒は、さっきの時間に俺と一夏に絡んで来たセシリア・オルコットだった。

 



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episode.6

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 

 待ったをかけたオルコットは、そのまま言葉を続ける。

 

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥晒しですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

 だったら、自薦すれば良いやん。まぁ、負けると思うぜ?このクラスの女子達は、面白そうと言う理由だけで、俺と一夏を他薦したんだからな。

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

 まぁ、前半の言い分は、賛同するけど、後半の棚に島国については、イギリスも島国だろと、言い返しそう。

 てか、オルコットの奴、自分の立場分かって言ってんのか?

 

「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

 

 ますますエンジンが上がっているオルコットは怒涛の剣幕で言葉を荒げる。

 代表にはなりたくないが、ここまで言われると頭にくるな。一夏も苛立ってそうな顔をしてるし。

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で――」

 

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

 

「なっ?!」

 

 俺が、理性で我慢してたが、どうやら一夏は、我慢の限界だったようだ。

 けど、一つ言わせろ。不味いのは認めるが、其れってISと関係あるか?

 其処は、お前の姉を出せよ。引退したとは言え、世界最強(ブリュンヒルデ)だぜ?下手な言い分より、良く聞くと思うぜ?

 

 その後も、まるで子供のケンカの様な口論をする一夏とオルコット。いや、俺らは、まだ子供だったな。ここは、小学生(ガキ)みたいなだな。

 よし、ここは先輩として、現実を叩きつけてやる。

 

「だいたい、貴方はーー」

 

 バンッ!

 

「うるさいぞ、二人とも。ケンカするぐらいだったら、外でやって来い。其れを聞かされるこっちの身にもなれ」

 

「なっ!貴方は、年上だからなんだって言うんですか?!」

 

 机を思いっきり叩いて、騒がしさをかき消して、一夏とオルコットに文句を言うと、オルコットが文句を言い返して来た。

 

「ああ、その前に一夏ー。頭に来たのは分かるが、もうちょっと、理性的になるんだな」

 

「‥‥すいません」

 

「よし。んじゃ、聞くがオルコットよ。ISを作ったのは何処の誰だ?」

 

「そんな事!」

 

「初代世界最強は?この学園は、何処にある?このクラスは、何処の奴が多い?」

 

 知っていると言いそうになったオルコットのセリフ被せて、質問を畳み掛ける。

 呆然とする一夏を置いといて、俺はオルコットに文句の言われない様に、言葉を繋ぐ。

 そして、トドメに一言。

 

「この全部の質問に、答えて貰おうか?()()()()()()候補生、セシリア・オルコット?」

 

「あ、あ、ああ‥‥?!」

 

 イギリス代表と言う所を強調させて、聞き返すと、俺の意図が分かったのか、顔を青くして、震えだすオルコット。

 まぁ、無理もないか。

 イギリスと日本の戦争の火種を、生み出そうとしたんだからな。

 だが、落とすだけでは、人の上には立てん。チャンスを与えてこそのリーダー。

 

 あれ?なんで、リーダーに成ろうとしてんだ俺?まぁ、良いか。

 

「だが、お前の言い分も最もだ。時に、織斑先生。俺と一夏、そして()()()()オルコットの三人で、決闘と言うのは、如何でしょうか?」

 

 さてと、見ときな。此れが、年上に出来ることだ。

 



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episode. 7

「あ"あ"あ"あ"ぁぁぁ!!!!づがれだぁぁ〜〜」

 

 クラス代表決めの騒動を、何とか丸く収めた俺は、昼休み屋上で、寝っ転がって居た。

 なんか、そんな緊張感なかった筈なのに、身体がだるいわ〜。昨日、徹夜し過ぎたが?

 

「さて、当日は何をしようかな」

 

 俺が、織斑先生に提案したのは、俺と一夏とオルコットとの三人での、代表決定戦だ。

 投票じゃあ、オルコットが納得しないのは目に見えている。なら、戦えば問題無い。

 勿論、俺と一夏が、勝つことなんて頭に入れて居ない。クラス代表に、オルコットをさせる為だけに、決定戦を提案した。

 

「勝っても、一夏に任せれば良いし。負けたら、負けたで、マッドサイエンティストに頼んで、ISに反応する遺伝子を取り除けば大丈夫だろな」

 

 そしたら、俺は本来通りの大学に進む事が出来る。何て、すっぱらしいのでだろうか。

 

 因みに、オルコットの事は、出来る限り、障害無いように先生に提案した。

 織斑先生、一夏達にはバレて無かったが、殺気が漏れてたしな。

 けど、あの人外野郎と一緒に居た俺からすれば、感じ取れる量の殺気だった。

 

「にしても、一週間か‥‥‥」

 

 決定戦の日時は、来週の今日。つまり、月曜日となった。

 期限は、一週間。けど、訓練機を借りて、練習しようにも予約で一杯らしく、使う事は不可。

 まぁ、一夏には専用機が貰えるらしい。うらやま。

 

「けど、なんか、きな臭いな。世界に476個しか無いISコアを、最強の弟とは言え、素人に渡すなんてな。裏があるとしか思えないな」

 

 身体を起こしながら、どんな事があるか考える。

 考えた中で、一番可能性が大きいのは、一夏の生体データだろうな。

 なんせ、世界に二つしか無い生体データの片方だ。得ようとしない時点で、可笑しい。

 

「さてと、おい。其処で、隠れてる扇子持った水色髪の二年生。ストーカーとは、余り、穏やかじゃ無いなー」

 

「な、何でそうなるのよ!其れより、何で其処まで知ってるのよ!?」

 

 屋上に繋がるドアの影の方を向いて、そう問いかけると、『驚愕!』と書いた扇子を広げ、本当に驚いている二年生が出てきた。

 バレバレだ。

 

「内緒さ。其れに一年とは、言え年上だぜ?」

 

「あら、私は生徒会長ですよ?」

 

「なら、尚更、言葉には気をつけろよな会長さん」

 

 自分の事を生徒会長と言う彼女の笑顔に、俺は違和感を感じた。

 誰にでもよく捉えられるだろう、当たり障りない笑顔。だが、何処かは知らないが、違和感の感じる。

 

「さてと、茶番を終わっといて俺に何か用かい?会長さん」

 

「‥‥‥単刀直入に言うわ。貴方何者?」

 

 俺の問いに、さっきまでの人当たりの良い笑顔から、鋭いナイフ切っ先の様な視線を送る会長さん。

 なるほど、違和感の正体は此れか。

 

「何者?はて、俺は鉄双刃以外の何者でも無いぜ?」

 

「そう」

 

「聞く事が無いなら、俺は降りさせて貰うぜ。授業は、残ってるからな」

 

「そうですね」

 

 そう言って、後ろに手を振りながら、俺は屋上を去って行く。

 けど、何で会長の奴は、俺にあんな事を聞いたんだ?俺の経歴は、別段珍しく無かった筈、何方かと言えばあの二人‥‥‥

 

博斗(はくと)の野郎の仕業か。あの野郎、面白さだけで、人の経歴隠蔽すんなよ‥‥」

 

 その後、博斗の奴に電話を掛けて文句を言うと、ケラケラと笑いながら「なかなかじゃ無いか?年上の経歴不明の青年ってさ」と言われた。

 彼奴のやってきた事、バラしてやろうか?

 

 




博斗とは、双刃の悪友の一人です。
因みに、チートキャラの一人。


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episode. 8

「ふぅ、初日からハードだったなー」

 

 授業を全て終え、山田先生から貰った、寮の鍵を持って、寮の廊下を歩きながら、今日1日を振り返る。

 

 自分と、一夏以外の男子は居らず、360°女子に囲まれ、好奇の視線に晒される。

 そして、面白さだけで、面倒な事に立候補させられ、そしたら、オルコットがキレて、余計面倒な事になる。

 

「てか、1日に詰め込み過ぎじゃね?」

 

 何だろうか。あの二人と一緒に居て、多少の事では、疲れないつもりだったが、人生侮る無かれ。まさか、あのバカ共と一緒にいるよりも濃い1日をするだなんて、思って無かったなぁー。流石は、IS学園。ある意味、世界一濃い学園だな。

 

「さてと、俺の部屋は‥‥‥‥此処だな」

 

 取り敢えず、考え事をやめて、自分の部屋を探す。

 部屋番号は、1059で、真ん中辺りなんだが、いかんせん周りの女子からの視線がキツい。

 俺は、上野のパンダかよ

 

 そんなこんなで、自分の部屋を見つけて、取り敢えずノックをする。

 一応、此処は女子校の様なもんだ。もしかしたら、同室の奴が、一夏じゃ無いかも知れないからな。

 

「反応無し。一応、もしもの時も考えて、構えとくか」

 

 ノックを数回したが、部屋からは声が聞こえて来ないので、多分大丈夫だろうと思いつつも、もしもの時の為に、構えをしたまま扉を開ける。

 

「人が居る気配は無し。まぁ、当たりかな?」

 

 山田先生から、鍵を貰った時に確か、俺か一夏の何方かが一人部屋って言ってたからな。

 一人部屋が良いと思ってたら、本当に一人部屋だった。

 一夏よ。強く生きるんだぞ。

 

「ん?メールと不在着信?誰からだ?」

 

 荷物を軽く纏めて、スマホの電源を入れると、メールと不在着信の通知が来て居た。

 はて、今日は何かあったっけ?

 

「取り敢えず、不在着信の人は‥‥‥来夏先生?何で?」

 

 来夏先生とは、俺が行く筈だった学院の教授の一人で、俺の目標の為に必要な事を教えてくれたり、一緒し考えてくれたりしてくれた人だ。

 IS学園に強制入学する事になった時に、頭下げて謝ったら、笑顔で許してくれた。本当に良い人だよ。

 

『あ、もしもし、双刃くん?』

 

「はい。そうです。あの、来夏先生。俺に何か用ですか?」

 

『そうだよ。IS学園に行っちゃったから、勉強に困るだろうから、教科書とか、君が見たがってた医学論文のコピーを送ったんだけど、貰ったかなって』

 

「え!マジですか!?あ、そう言えば!」

 

 来夏先生と電話で話しをしながら、終わりのSHR終わりに貰ったでっかいカバンを開くと、『神経外科』『神経内科』を始めとする様々な医学教科書が、入って居た。

 

『どうやら、届いていたみたいだね。それじゃあ、頑張ってね。それで、もし分からない所があったなら、メールなり電話なりで聞いてくださいね』

 

「ありがとうございまーす!」

 

 来夏先生との通話を終えて、スマホと貰った教科書を駆使して、勉強を始める。

 俺が、普通教科をサボって良いかと聞いた理由。それは、俺が行き学ぶ筈だった医学の勉強の為だ。

 

 

 そして、次の日の朝、織斑先生から了承を得た俺は、実技の時とIS理論の授業以外は、サボり、来夏先生から貰った教科書や医療論文のコピーを使って、勉強を始めた。

 

 そして、来週末には、メールの送り主で、かなり有名な病院の医師の人の所に行って、技術指導だ。

 よし、頑張りますかね。

 

 それと、勉強中に、廊下ぎ騒がしくなってたが、そんな事気にせず、俺は勉強を進めた。

 あれ?なんか、一夏の声が聞こえるな。

 まぁ。気の所為だろ。

 




来夏先生。本名佐崎来夏。医学界の天才。チートキャラの一人。
医者の癖して、ドライビングテクニックが半端ない。頭文字Dと湾岸の主人公を足して二乗したぐらい。


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episode. 9

 一週間後の日曜日。

 

 とうとう、クラス代表決定戦が始まる前日となった。

 そんな中俺は、織斑先生と一緒に整備室に来ていた。

 

「いや〜、すいませんね。面倒なお願い聞いて貰って」

 

「そう思うんなら、私が、納得する結果を残すんだな」

 

「まぁ、やるだけやってやりますよ」

 

 明日の決定戦。専用機持ちで、イギリス代表候補生のオルコットと戦うのだが、一夏には専用機が渡される。

 別に不満も文句も無い。一夏の奴が、俺よりも早く見つかっていて、俺が遅くに見つかったのだから、仕方がない。それに、コアは、世界に500とない貴重な物。

 其れをポンポン、人に渡すのはバカがやる事だ。

 

「さて、チェックを始めますかなー」

 

「少し待て、聞きたいことがある」

 

「ん?何ですか?」

 

 目の前に佇むフランス製IS『ラファール・リヴァイヴ』の内容を確認しようとしたら、後ろで仁王立ちしている織斑先生に呼び止められた。

 其れに、聞きたい事とは?

 

「二つだけ、聞かせろ。クラス代表になりたく無いと言いながら、こんな願いをした?」

 

「そうですね‥‥‥」

 

 そう言って、数瞬考える。

 一番の理由は、負けるのが嫌だから。けど、そんな理由じゃ納得しないだろうな。

 

「先生には、俺の夢を話しましたっけ?」

 

「‥‥‥君の両親から聞いている」

 

「そうですか。俺の夢は、“人を救う”けど、今の俺には、人を救う技術も知識も経験も無い。でも、ISは、凄いですよね。操縦者を守る為の機能が、沢山ある。生命維持装置なんて、一番良いですね」

 

 でも、と一呼吸置いて、続きを言う。

 

「でも、それじゃあ、ダメなんです。人の身で、救い。人の手で、救い。人の心で、救う。俺は、精神的にも肉体的にも弱いんです。だから、見栄でも建前でも、靡かない力が必要なんです」

 

 勿論、全ての命を救うなんて事は出来ない。けど、こんな俺でもこんな俺だからこそ、救える命があるとするならば、俺はその命の為に強くありたい。

 三年前に、()()に初めて会った時の誓いを思い出す。

 

「そうか。お前は、医者志望だったな」

 

「ええ、まぁ、その夢も少し難しくなりましたけどね」

 

 皮肉混じりの笑みを見せると、織斑先生が苦い顔をする。あれ?何か、ダメなこと言ったかな?

 

「それじゃあ、あと一つとは?」

 

「ああ、最後に聞かせろ。お前の信念は、何だ?」

 

 

 

 

 

 

 ワーワーと、騒がしい観客席を見ながら、今回限りのパートナーをチェックする。

 

「よし。準備オーケー」

 

『おい、鉄』

 

「ん?」

 

 準備を終えた所で、織斑先生から通信が入る。どうやら、一夏の専用機が届いて無いらしい。其処で、準備が終わっているのなら、俺に出てくれないかと言う事らしい。

 うーん。本当に、胡散臭い。

 

「あー、大丈夫ですよ。丁度、終わったので」

 

『そうか。すまないが、出てくれ。オルコットは、既に準備を終えて、フィールドに出ている』

 

「了解です」

 

 織斑先生との通話を終えた俺は、ラファールを起動し、身に纏う。

 そして、そのまま、ピットに立ち、フィールドへと飛び立つ。

 

 そして、試合の舞台へと、入り込んだ。

 



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episode. 10

オルコットvs双刃!

けど、今回では決着は付きません!すいません!


「あら、逃げずに来ましたのね」

 

フィールドに出ると、オルコットの奴が、ふん、と鼻を鳴らし腰に手を当てたまま俺の事を見下す。

 

けど、そんなオルコットの言葉を無視して、俺は目を瞑りイメージを固める。

 

「最後のチャンスをあげますわ」

 

反応の無い俺に構わず、オルコットは言葉を続ける。

因みに、試合開始の鐘は既に鳴っている、

 

「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら、許してあげないことも……って聞いていますの!?」

 

反応を見せない俺に、痺れを切らしたのか、ツッコンで来るオルコット。

仕方ない。

 

「‥‥一つ言わせて貰うぞ、オルコット」

 

「っ!な、何ですの!」

 

何故か、言葉を詰まらせるオルコット。

だが、今度は俺が其れを気にせず続け、両手にグレネードランチャーを呼び出す。

 

「戦闘において、無駄口叩いていたら、お前“死ぬぜ”?」

 

「っ!?」

 

発言を終えると同時に、右手のランチャーの発射させる。だが、勿論、其れを避けるオルコット。

けど、そんな単純な先手を取るようじゃ、相手を倒せるわけが無い。

間髪入れずに、左手のランチャーをオルコットが居る場所からすこしズレた場所に打ち込む。

 

普通に考えれば、当たる訳が無い攻撃だが‥‥‥

 

「まさかっ!?」

 

どうやら、オルコットは気付いたのか、寸で進行方向を変えると、両手に抱えたライフルを俺に構える。

けど、既に俺の両手には、グレネードランチャーではなく、自動装填式のショットガンが構えられて居る。

 

「時に、オルコット。お前、射撃戦闘何時からやってやがる?余裕があるんだろ?」

 

「くっ!好き勝手、言わないで下さいまし!」

 

俺の質問に、顔を軽く歪めながら、ショットガンの弾丸を両手のライフルで撃ち落とす。

レーザー?いや、光学兵器と見た方が無難か。

 

「因みに、俺は小六の頃から、やって居る。時間にするなら、四万はあるぜ」

 

「くっ!貴方こそ、そんな無駄口叩いてよろしいんですの?!」

 

「無駄口は、無駄な事を言うから無駄口だ。其れに、俺が言いたいのは、お前はどれだけ、射撃をして来たんだよ?」

 

まぁ、射撃って言っても、ゲームのガンシューティングゲーだけだけどな。

けど、ゲームだからと侮ったらいかん。オープンワールドのガンシューティングゲームのプレイヤーの中には、600m先の敵を狙撃したり、殆んど見えない起爆機に弾丸を撃ち込む何て、バケモノじみた事をする人が居るのだ。

人間慣れれば、簡単だ。人を助けるのも。‥‥‥殺すのも。

 

「此れでは、埒があきませんわ!ブルー・ティアーズ!」

 

俺とオルコットの射撃が、対抗して、決め手に欠けて居たが、オルコットが叫ぶと、バックパックの幾つかの部分が、四つに分離し、其々が、別の起動をしながら、俺に向けて攻撃を仕掛けて来た。

 

俺は咄嗟に、ショットガンを収納しシールドを二つ展開する。

 

「(ビット?!いや、確かBT兵器だったか!成る程、厄介だ!)」

 

頼りたくなかった博斗から得た、ISの武装情報を頭から捻り出し、内心悪態を吐く。

厄介だと、思っていたが、まさか此れほどとはな。

 

「どうしましたの!?先程の威勢は!」

 

さっきまでの拮抗した対戦とは、打って変わって、オルコットに追い詰められる形となった。

今は、シールドで防いでいるが、後どんくらい持つかは知らない。

 

「(いや待てよ!確か、シールドは、四つ入れて居た筈。だったら、やるしかねぇ!)」

 

シールドの持ち手を変え、ブーメランの様に持つと、そのままオルコットの方へと投げつける。

突然の行動だったが、オルコットは一瞬だけ対応に遅れたぐらいだったが、飛んで来たシールドを軽々躱す。だが、俺の本来の目的は、当てる事じゃねぇ。

 

「チェック!」

 

BT兵器が、ファングの様に遠隔操作式で、あるならば、一瞬だけでも操縦者の意識が、自分の事に集中できれば、止まる。

その結果に至った俺は、さっきのシールドを投げる行為をした。俺の思惑通り、BTは動きを止めた。

その先に、アサルトライフルを展開し、四つのBT全てに当て、爆散させる。

 

「ブルー・ティアーズが!?」

 

「さてと、次はお前だ。オルコット」

 

シールドを片手に呼び出し、もう一方の片手には、装填済みのアサルトライフルを展開する。

 

「さぁ、第二ラウンドと行こうか」

 

 



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episode. 11

今回は、織斑先生視点です。

其れと、お気に入り50件突破しました!ありがとうございます!
此れからも、出来る限り頑張るので、読んでいって下さい。


 弾幕の戦場。

 

 今、アリーナで行われている鉄双刃とセシリア・オルコットの戦闘を表すのに、此れほど適した言葉はないだろう。

 モニターには映る戦闘を眺めながら、私は、黒方に感嘆の息を漏らした。

 私は、前日に楽しませてくれと言った。だが、此れほどの事は、期待しては居なかった。

 

「特筆すべき点は‥‥」

 

「鉄くんが、訓練機を使って、専用機を持っているオルコットさんに、有利に戦いを進めている事ですね」

 

「確かに、そうだが」

 

 隣で、モニターを見ている山田先生が、私の言葉の後に続く様に答える。

 確かに、訓練機と言う枷を抱えながら、専用機と言う格上相手に、互角どころか、有利に戦っているのだ。

 だが、見るべき点は、其処では無い。

 

「鉄の戦い方をよく見ろ」

 

「え?‥‥‥まさかっ!?」

 

 私が、ヒントを与えると、モニターをジッと見る山田先生は、数瞬後に気付いたのか、驚きの声を上げる。

 

「特筆すべき点は、鉄の技術だ。だが、其れと同時に戦術も入る。鉄は、スタート地点から5m四方の範囲でしか動いて居ない。そして、攻撃の()()()()()()()()()()()

 

「た、確かに。そ、そうですね」

 

 鉄は、BT兵器の最初の攻撃のみ後手に回ったが、それ以外は、オルコットが行動を起こすよりも早く、攻撃を繰り出している。

 私と彼奴が戦って、何処まで行けるだろうか。負けない事は、無いだろう。いや、彼奴がもし数多ある行動パターンを予測して、()()()()()()()()()()ならば、如何だ?

 良くて、辛勝。悪くて、引き分けか?いや、もしかしたら負けるかも知れない。

 

「末恐ろしいな」

 

「全くです」

 

 こんな戦い慣れした事をするのに、医師にしか興味が無いのだ。勿体無い。

 いや、だからこそか。

 

「そろそろ、決着ですかね」

 

「ああ、そうだな」

 

 フィールドを映したモニターの横にある、二人のSEを示したモニターには、オルコットのSEが0に近くなっているのに対し、3桁も残っている鉄を映す。

 

『おい、オルコット。お前は、あの時年上に何が出来ると言ったな?』

 

 オープン・チャネルで、話す鉄の顔は、信じられないくらい感情が無かった。

 

『コレが、年上に出来る事さ』

 

『っ!?』

 

「なにっ?!」

 

「うそ!?」

 

 そして、次に発せられた言葉と、その後に起きた事に、戦っているオルコットとモニターで、眺めている私と山田先生は、驚きを露わにした。

 

 彼奴が、今手に持っているのは、自動装填式のショットガン。其れは、オルコットの持っている様なスナイパーライフルの様に、狙って撃つよりも散弾して、全体的に攻撃するものだ。

 だが、鉄が先程やったのは、散弾では無く一発の弾丸を銃口から打ち出し、展開されて居なかったオルコットの二基のBT兵器を狙い撃ちし、爆散させる。

 

 あり得ない。あり得る訳が無い。

 

 そうとしか言えない光景に、山田先生だけで無く、私も開いた口が塞がら無かった。

 

フィーネ(終わり)だ。ミス・オルコット。悔やむなら、己の慢心を悔やむんだな』

 

『っ!!!!』

 

 鉄は、ショットガンをアサルトライフルに帰ると、イギリス語で終わりを意味する言葉を放つと、姿がブレた。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 

「知識としては、教えていましたが、まさかやって遂げるなんて」

 

 私達の呟きを他所に、オルコットの懐に潜り混むと、アサルトライフルの銃口を腹に当てると、引き金を引く。

 

『チェックメイト』

 

『きゃあああああぁぁぁ!!!!』

 

『セシリア・オルコット。シールドエネルギーエンプティー。勝者、鉄双刃』

 

 そして、オルコットの悲鳴と爆発音と共に、鉄の勝利が、告げられた。

 



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episode. 12

「ふぃー」

 

オルコットとの勝負に決着を付けた俺は、怠い身体に鞭を払いながら、ピットへ戻り、一息吐く。

 

「やっぱ、戦うのは怠い。てか、頭がガンガンする‥‥」

 

試合中ずっと、頭を動かしていた所為か、身体が怠いのと頭の頭痛が、酷い。

ああ、何でこんな事に本気になったんだか。

 

「けど、この後如何なるんだ?まさか、もう一試合する訳じゃ無いよな?」

 

一抹に不安を抱きながら、ラファールを解除して近くの壁にもたれかかる様に、地面に座る。

そうした所で、織斑先生から通信が入った。

 

『鉄。時間あるか?』

 

「え?あ、えと、はい。疲れて、動けませんけど」

 

『そうか。今回は、次のオルコットと織斑の試合を終えたら終わりだ。明日、やれるか?』

 

「えと、遠慮します。代表には、なりたく無いですけど、一々戦って、こんな状態になるんなら、やりたく無いっすね」

 

『そうか。分かった。なら動ける様になったら、寮の自室で休む様に』

 

「了解です」

 

織斑先生との通信を終えた俺は、身体が動ける様になるまで、念のために持ってきていた医学書を読みながら、ピットに常設されたモニターに映されているオルコットと一夏の戦いを眺めていた。

 

「雪片弐型ねぇ‥‥」

 

ISに、全く興味の無い俺でも分かるのは、織斑先生が、現役の頃使っていた武装と同じ名前と言う事。

そして、弐型と言う事は、原型を改良して作られたと考えられる。

最強の武器(姉の剣)新型の武器(弟の剣)として、持たすのは、側から見れば、面白い物だが、裏から考えれば、絶対に何かあるに違いない。

 

「はっ!結局は、何処かで見ている天才(バカ)の掌の上ってか‥‥‥」

 

面白くねぇなぁ。

 

 

 

次の日。

 

 

 

「……という訳で、一年一組のクラス委員は織斑一夏君に決まりました。あ、一繋がりで丁度良いですね」

 

わぁーと盛り上がる教室の中に混じり、俺は睡魔と戦っていた。

余り褒められた事じゃ無いが、俺の居る一年一組は、かなり五月蝿いイメージがある。

だが、そんな五月蝿い中に居ても全く眠気が取れない。昨日は、疲れで、其処まで遅くまで起きて無かった気がするが、まさか、まだ疲れが取れて居ないのか?

 

「あの、質問良いですか?」

 

「はい!何ですか、織斑君」

 

騒がしいクラスを眺めて居たら、今の一組の騒がしさの原因である一夏が、手を挙げ質問をする。

 

「あの何で、俺がクラス代表になってるんですか?俺は、試合に負けたのに。なるなら、双刃さんやセシリアじゃ無いですか?」

 

ああ、その事については、俺も気になってた。

最後まで見た訳じゃ無いが、あの後織斑先生から聞いた限りでは、一夏はオルコットに負けた筈だ。

それに、俺は代表を辞退した。だから、オルコットが代表になる筈なのだが、まぁ、また何かあったんだろうな。

 

「それは‥‥‥」

 

「それはわたくしが辞退して、一夏さんを推薦したからですわ!」

 

「うぅ‥‥」

 

一夏の質問に答えようとした山田先生の言葉を遮り、オルコットが勢いよく立ち上がり、大きな声で宣言する。

そして、自分のセリフを遮られた山田先生は、涙目で落ち込んでいる。

それにしても、一夏“さん”か。青春だねぇ〜

 

「其れと、一週間前の発言で皆様の気持ちを不快にさせてしまい、すいませんでした!」

 

立ち上がったオルコットは、他の生徒たちの方を向くと、腰を90度曲げて、一週間前の事を謝罪した。

誠意を

 

「まあ確かにあなたは負けましたが、それは考えてみれば当然のこと。このセシリア・オルコットが相手だったのですから仕方のないことですわ」

 

「双刃さんには、負けたのに」ボソッ

 

「何か言いまして?」(黒笑)

 

「い、いえ、何でも無いです」

 

余計な事を口走った一夏に対して、黒い笑みを見せるオルコット。そして、その笑みにに気圧され一夏はオルコットから顔を背ける。

 

「それで・・・・まあ私も大人気なく怒ったことを反省しまして、一夏さんにクラス代表を譲ることにしました。IS操縦には実践が何よりの糧。代表となれば戦いには事欠きませんし」

 

オルコットの説明を聞いて、諦めたのか机に突っ伏する一夏。

 

「いや~、セシリアわかってるー」

 

「だよね~!せっかく男子がいるんだから持ち上げないと!」

 

「私たちは貴重な経験を積める!他のクラスの子に情報が売れる!一粒で二度おいしいね織斑くんは!」

 

「クラスメイトを売るなよ‥‥」

 

顔を挙げた一夏はがっくりと頭を垂れた。流石に気の毒とは思うがもうどうしようもないな。

 

「そ、それでですわね。私のように優秀かつエレガント、華麗にしてパーフェクトな人間がIS操縦を教えて差し上げれば一夏さんもみるみる・・・・・」

 

バンッ!

 

山田先生の言葉を遮ったオルコットを今度は、机を叩いて遮る奴が出た。

 

「・・・・・生憎だが一夏の教官は私一人で足りているのでな。必要ない」

 

「あら?あなたはISランクCの篠ノ之さん。Aの私に何かご用かしら?」

 

「なっ?!ランクは、関係ない!」

 

そうして、言い争いをする篠ノ之とオルコット。だが、余りにも騒がしくした所為か織斑先生から、制裁の餌食となった。ドンマイ。

 

「ともかく、クラス代表は織斑一夏に決定だ。依存はないな」

 

この織斑先生の言葉で、朝の騒がしい時間は終わった。

 

そして、時間は進み放課後となった。

 



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episode. 13

オリジナルヒロイン。登・場!

やっと出せた。




「「「「「カンパーイ!!!」」」」」

 

 IS学園の食堂で、賑やかにパーティーが開かれているのを、ベランダで眺めながら、俺は医学書を読み耽っていた。

 

「鉄さーん!」

 

「ん?おーう」

 

 時々、中の女子達に声を掛けられたら、手を振り返して対応する。そんな事を繰り返していたら、一際賑やかな声が聞こえ、意識を食堂内に向けると、ネクタイの色が周りと違う女子が居た。

 確か、あの色の学年は2年か。

 二年生が、何の為に来たんだ?まぁ、俺に話し掛けて来なければ、然程如何でもいい事だがな。

 

「そういや、今週末は予定がなかったなー。久々に彼奴らに会いに行くか」

 

「双刃さーん!双刃さんに、話しがあるって人がー!」

 

「おう、分かった」

 

 今週末の予定を決めた俺は、手に持っていた医学書を閉じると、不意に一夏に呼ばれ、賑やかな食堂内へと入って行った。

 

 

 

 

「ちょっと、来ないだけで物凄く来ていない気持ちになるなー。まぁ、家や学校に次いで居る時間が長かったからな」

 

 一夏がクラス代表となってから、一夏の事が好きな箒とセシリア(パーティー後から、名前呼びになった)の面白煩い言い争いや、実技での織斑先生のスパルタ何かが、あってからの一週間を終えた俺は、とある病院に訪れていた。

 

 “東都総合病院”高校時代(今も高校時代だが)で、家と学校の次に俺の居る時間の多かった場所だ。

 

 懐かしさを感じつつ、俺は病院を中へと入って行く。

 

「やぁ、お久しぶり双刃くん」

 

「如何もです。来夏さん。いや、急なお願いだったのに、聞いてくれてありがとうございます」

 

「いやいや、()()にその事を言ったら、喜んでたよ」

 

「其れは、嬉しいですね」

 

 受付で、手続きを済まして、目的の病室に向かおうとした時に、前に居た人物から声を掛けられる。

 その人は、中性的な形をしているが、列記とした男性で、俺の先生でもある佐崎来夏(しざきらいか)さんだ。

 

「にしても、こんな所で油売って大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫だよ。午前のオペは、二時間後からだからね」

 

「そうですか」

 

 来夏さんは、所謂天才の部類で、二十歳足らずで医療免許を取って以来、医療機関のトップをひた走っている凄腕の医者だ。

 だから、本来病院でこうして、来夏さんに会うなんて事は殆んど無いが、今日は早めに来た為か、会えた様だ。

 

 その後は、時間のある来夏さんと一緒に目的の病室へ向かう。

 

「彼奴、個室に移ったんですね‥‥」

 

「母親のご意向でね。こればっかりは、仕方ないさ‥‥」

 

 来夏さんに、受付で知った事を言うと、不意に奥歯を噛み締め自分の拳を握り締めてしまう。

 来夏さんは、慰めの言葉を掛けてくれるが、力を弱める事が出来ずに、病室に前に着いた。

 扉に手を掛ける前に、深呼吸して呼吸を整えて、表情を戻して扉を開ける。

 

「あ!おはよう双刃」

 

「おう。久しぶりだな杏奈(あんな)

 

 個室にある一つベッドの上に上半身を起こして居た彼女は、扉が開かれて俺が来た事を確認すると、笑顔を向けてくる。

 

 樋之上(ひのうえ)杏奈(あんな)

 

 俺が、医者を目指したキッカケであり、俺の目標の原点であり、一目惚れした少女の名だ。

 




最後が、ちょっとおかしいかもですね。でも、自分的には、此れで良いんです!此れが良いんです!


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KARTE.2 凰・鈴音
episode. 1


鈴が登場!

この小説の鈴は、乙女と言うよりも悪友ポジです。



週を開けた月曜日。

 

土日に色々と大変だった俺は、今朝方帰って来たばっかなので、未だに眠気が取れて居なかった。

けど、他の皆んなはそんな事御構い無しに騒いでいる。

元気なのは良い事だが、元気過ぎるのも考え物だな。

 

「あ、そう言えば鉄さんは、聞きました?」

 

「ん?何をだ?」

 

「二組に転校生が来るそうですよー」

 

「へぇ、転校生ねぇ‥‥‥」

 

まだ4月も終わっていないっていうのに転校生か。

事情があって入学に間に合わなかってのだろうか。というか、そもそもIS学園って転入条件が、かなり厳しいはずだった。

それに試験自体国の推薦がないとできないし。となると転校生は・・・・

 

そんな事を考えていたら、前の方で同じ事を聞かれていた一夏や一夏ラヴァーズの二人が、また賑やかな事を話していた。

そして、クラスの誰かが、専用機の事を言うと教室に扉が勢いよく開かれた。

 

「その情報古いわよ!」

 

扉の所には、背の低いツインテールの女生徒が、腰に手を当ててポーズを決めて居た。

 

「彼の娘が、転校生みたいだねー」

 

「しかも、一夏の知り合いみたいだな」

 

転校生の顔を見て、親しそうに話す一夏を見て、周りにいるクラスメイト達と話しを広げる。

にしても、仲が良さそうだ。けど、箒達みたいな感じがしない。親友なだけか?

 

「それじゃあね一夏」

 

「おう」

 

颯爽と去っていくツインテ。そして、一夏に詰め寄る箒とセシリアの二人。

恋は盲目。命短し恋せよ乙女なんて、色々言うけど、たかだか好きな異性が見も知らぬ同性と居るだけで、何もあそこまで血眼になる必要が、あるんだよ。

杏奈が、男子と話してる時も俺は、あそこまで気にしなかったぜ。いざとなれば、そいつよりも告白すれば済む事だからな。

 

「「一夏(さん)!!!!」」

 

「五月蝿い!」

 

「ヘブッ!」

 

「「ひゃあ!」」

 

SHRの開始の鐘が鳴ったのに一夏に詰め寄っていた為か、教室に入って来た織斑先生の一撃で沈められた。

それと、一夏もとばっちりで一撃貰っていた。

 

 

 

 

「お前の所為だ!」

 

「貴方の所為ですわ!」

 

「いや、自分らの所為だろ」

 

午前の授業を終えてお昼時になると、一夏が一緒に食堂に行かないかと聞いて来たので特に用事は無かったので着いていくと、転校生の事で頭が一杯になっていて織斑先生からの一撃を沢山貰っていた箒とセシリアが文句を言ってきた。

間接的には、一夏は関わってるが別に一夏だけの所為な訳があるか。

 

「所で、彼女は誰なんだ?」

 

「そ、そうだ!まさか、彼女か!?」

 

「そんな訳無いでしょ。強いて言うなら、悪友よ」

 

「お、鈴」

 

「はーい一夏。今朝方ぶりね」

 

俺が、気になっていた事を一夏に聞くと、箒が慌てたように詰め寄りながら、一夏を問いただすが、その行為は話題の人物に一瞬にして解決される。

 

「凰・鈴音よ。気軽に鈴で構わないわ」

 

「そうか。そんじゃ、俺も。鉄双刃だ。鉄でも双刃でも何方でも構わない。あ、因みに歳は18だ」

 

「ん?年上?」

 

「大学受験後の全国調査で、見つかたったんだよ」

 

「それは、災難ね」

 

フレンドリーに自己紹介する鈴に対して、俺も軽く自己紹介をする。

惚けている箒とセシリアを置いて、一夏と鈴と一緒に注文の列に並ぶ。

 

「て事は、箒が転校した変わりに鈴が来たのか」

 

「そうですね。それから、中二の最後まで鈴とは、交流がありました」

 

「一夏と居たら、殆んど退屈じゃ無かったわね。色々とやってくれたし」

 

「てか、鈴。双刃さんは、年上だぞ?フレンドリー過ぎないか?」

 

「ああ、気にすんな。別に何とも思わないからな」

 

「そうですか?」

 

注文も終えて、三人で他愛ない話しをしながら、空いてるテーブルに座ると、箒達が遅れてやって来た。

 

「そう言えば、あんたクラス代表なんだってね」

 

「まぁ、成り行きでな」

 

「あ、私二組の代表だから試合で当たった時は、容赦しないわよ」

 

「はは、お手柔らかに頼むぜ」

 

それから、世間話をしながら昼食を終えて、午後の授業まで時間を潰した。

にしても、クラス対抗戦か‥‥‥‥。アホどもが、来そうな感じがする。

 



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episode. 2

鈴編書くの難しい!もしかしたら、文字数、話数共にかなり少ないと思います。すいません!



『あははは!!マジ!?こりゃ、傑作だわ!!』

 

「笑い事じゃねぇーよ。こっちは、大変だったんだぜ?」

 

『そんな事言っても、僕と統真には関係無いじゃん』

 

「知ってるわそんな事」

 

1日の終わり、自室のパソコンから流れる二人分の声と会話を続ける。

 

気怠げな俺の声とは反対に、画面の向こうに座るアホ二人の声は、面白い物を見つけたように明るい。

 

画面を通じて会話ししているのは、俺の高校時代での悪友二人。一人は、俺の個人情報を面白そうと言う理由だけで隠蔽したマッドサイエンティストの海原博斗(うなばらはくと)

そして、人外の武神統真(たけかみとうま)

 

『それで?決定戦は、どうだったのさ?』

 

「聞くまでも無いだろ?どうせ、モニターハックして観戦したくせに」

 

『あ、やっぱり知ってた?』

 

「当たり前だ。お前とは、一番の付き合いだろうが」

 

『あはは、それもそうだったね』

 

統真とは、中学の中頃からの付き合いだが、博斗とは幼稚園からの幼馴染だ。

彼奴が、俺の考えることが分かるように、俺も彼奴のやることが分かるのだ。

 

此奴らは、あれが偶に話す一夏に事とか、一夏ラヴァーズの行動を聞かせば、爆笑して面白がる。

此奴らとしては、自分達の知らない事だから気になるんだろうが、其れを身近に感じている俺個人としては、其処まで面白く無いものだ。

 

一頻り笑いながら話しながら、時間の潰していたら、博斗の奴がクラス対抗戦の事を切り出した。

 

『そう言えば、来週辺りにはクラス対抗戦があったよね?』

 

「ああ、確かな。其れが、どうしたんだ?」

 

『大した事じゃ無いけど、一つアドバイスしておくよ。空からの光を気をつけな』

 

『其れじゃあな。また、面白そうな話して期待しておくぜ』

 

博斗が、珍しく真剣な顔つきで、そう言うと二人は手早くログアウトした。

二人との会話を終えて、椅子にもたれかかって、天井を見上げる。

 

「バカが。其れは、アドバイスじゃなくて、警告って言うんだよ」

 

博斗の意味ありげな言葉に、頭を抱えながら俺は、1日を終えた。

 

 

 

 

 

「んんーーー」

 

仄暗い部屋の中で、明るい光を放つパソコンの画面の前に座る人影が一つ。

彼の名前は、海原博斗。天災と謳われる篠ノ之束に負けず劣らずのマッドサイエンティストだ。

 

「刃の奴、意外と楽しんでたなー。久々に呆れ笑い見たなー」

 

さっきまで、悪友であり世界で二人目の男性操縦者であり、幼馴染の鉄双刃と二人から人外と呼ばれる武神統真の三人で、ライブチャットをしていた。

 

「さてと、僕は僕の方で頑張りますかー」

 

そう言って椅子から立ち上がり、奥の方に行くと其処には薄く発光する球形の機械。

此れから始まるのは、凡人に成し得ない事。

 



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episode. 3

鈴編三話目ですが、物凄く難しいです。
もしかしたら、5、6話目で鈴編が終わるかもしれません。


ハーレム苦手だからって、鈴を外さなければ良かった‥‥‥


「ーーーであるからして、このような事が可能なのです」

 

鈴が転校して来てから、数日が経った。

鈴の事をライバルと思っていた箒とセシリアは、落ち着いたのか通常どおりに戻っていた。

 

そして、今日も普通の授業を受けながら、博斗のアホが言った事を考えていた。

 

「(彼奴は、大抵は事じゃ警告をしない。けど、あの時の彼奴の表情からしてふざけている訳ではないのは、確実)」

 

面白そうな事には積極的にやろうとする性格に博斗は、前にも俺の慌てた姿が見たいと言う理由で、ある事ない事俺に言って大変な目にあったが、一番の付き合いである彼奴の表情一つで、其れが本当か嘘か分からない訳が無い。

 

「(可能性としては、来週辺りにあるクラス対抗戦だが、まさかその時にどっかの武装集団が、襲撃にでもくるのか?)」

 

山田先生に偶に当てられ、目の前の数学の問題を片手間に解きつつ、博斗の言葉の真意を測る。

 

「(空からの光、か。あり得るとしたら、光学兵器を用いた空襲。そして、其れが可能な技術を持つ所となると限られてくるが、此処を狙うメリットが分からない)」

 

第一に挙げられるのは、イギリスの技術の持った組織。この世界で、光学兵器運用に成功しているのは、イギリスだけだ。

そして、第二に統真から聞いた様々な国に根を生やしているテロ組織。

あと考えたくも無いが、全てのISの生みの親である篠ノ之束。

 

「(イギリス関係組織は、有ったとしても自国にメリットになる事をする筈が無い。テロ組織の方は、態々昼に開催されるクラス対抗戦を襲撃した所で、面倒のなるだけだ)」

 

其処まで考えた所で、山田先生に指名されて手元の教科書の内容を読む。

ISを学ぶ学園と言えど、普通の高等学校と同じように普通科目も学ぶ。俺はサボっても良い訳だが、来夏さんに貰った本は、殆んど読み覚えたので、時間が勿体無いので出席している。

 

「(篠ノ之束に関しては、単純的に考えて国が用意した名誉博士達が、幾人挑んでも解析出来なかったISコアを作り上げたんだ態々此処を襲ってまで、知りたい事なんて‥‥‥‥)」

 

其処まで考えた時に、ふと一夏が目に入った。

 

「(いや、待てよ!確か織斑先生は、篠ノ之束と知り合いだった筈!其れなら一夏と篠ノ之束が、知り合っていない訳が無い!)」

 

其処まで考えた俺は、授業がもう少しで終わるのと次の授業を確認して、先生達に気付かれないように荷物を纏める。

そして、終業の鐘が鳴ると同時に教室を飛び出して、寮に自室へ駆け込む。

 

「(もし、もし一夏がISを動かせたのが偶然なかったら!可能性としては、十分にあり得る!)」

 

詳しく知らない。けど、人格が破綻しているような事は、知っている。

少数人しか認識出来ず、常識を知らないのであれば、一夏を巻き込んだのはISを動かせると言う事で、世界中から自分に大切な他人(もの)を一箇所に集め、尚且つ妹である箒が一夏に惚れている事を考えれば!

 

「やり兼ねない。メリットは、一夏の実力を測るためだろうな。アリーナには、シールドが張ってあるが其れを打ち破る兵装を造る事は、可能な筈だ」

 

考えつく考えたくも無い篠ノ之束にとってのメリット。そして、可能性を思いつけば付くほど、頭が痛くなってくる。

 

「対策をしようにも、天才どころか天災である篠ノ之束に対抗できる物がある訳が無い。有った所で、俺には其れを扱う力は無い。はぁ、八方塞がりだなぁ‥‥‥」

 

考える事は出来ても、何も出来ない自分に悪態をつきたくなるが、久しぶりに頭をフル回転させた所為で、疲れて椅子にもたれかかる。

 

「リミットまでは一週間もねぇな。一夏が、やってくれることを祈る事しか出来ねぇなぁ‥‥」

 

その後、体調不良と織斑先生に伝えて、次の日の朝まで眠った俺は、自分の無力を嘆いた。

 

ああ、強く。なりたいなぁ‥‥‥

 



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episode. 4

今日は、双刃視点ではなく統真視点で行きます。

統真と博斗が登場する回は、人が一人は死ぬと思います。この二人は、それくらい過激です。



双刃が、篠ノ之束の行動に頭を悩ましている頃、とある国のとある場所で、機械駆動音や爆裂音などが鳴り響いていた。

 

 

「ちっ!面倒くせぇなぁ!!」

 

『我慢しな。其奴ら殺らないともっと面倒になるよ』

 

「わかってるわ!」

 

耳元のインカムから、今一番聴きたくない声を聞きつつ目の前の機関銃をぶっ放しているISに、足元に落ちていた手頃な石を掴んで投げつける。

 

「消し飛べぇえ!!!」

 

バゴンッッ!!!!と轟音立てて、ISに直撃する。そして、けたたましい爆裂音を立てて、地面に落下した。

 

『一機撃破。次、来ます』

 

「おうよ!」

 

博斗の奴とは違う女の電子音に頷き、背後に迫っていたIS三機と対峙する。

 

『わたし達の仲間は、どうした?!』

 

「さぁな、何処かで死んでるか気絶してるんじゃねぇのか!」

 

『くっ!男の癖に調子に乗るなぁ!!!」

 

女尊男卑に染まった女ならではの言葉を発したIS乗りに、物陰に置いていた爆裂弾を込めたショットガンをぶっ放す。

ショットガンから撃たれた爆裂弾は、そのIS乗りの前で弾けその一機だけでなく残りのニ機の視界を塞ぐ。

 

『ちっ!逃すかぁ!』

 

『男の癖して、女性(私達)に歯向かってんじゃ無いわよ!』

 

『隠れてないで出て来なさい!』

 

何故かイライラしている三人を他所に、三人から距離を取り博斗の奴が俺の為に転送した武装を取りに行く。

 

Anti()Unreasonable(IS)Weapon(武装)』博斗が創り上げたISと言う理不尽並みの兵器に反する兵器だ。

そして、俺が使うAUW(頭文字を取って)は刀の様な形でをしているが、その刀身や柄は機械的な構造をしている。

 

接続開始(リンク・オン)

 

俺の言葉と共に、刀身の部分が淡く光りだす。

其れを確認して、鞘に戻すと俺はそのまま近くで暴れ回っているISと乗りの所まで走り抜ける。

 

『見つけた!さっさと姿を現せば、殺さず半殺しになったってのに!』

 

態と姿を見せたら、三人の内一人が、俺を見つけて予想通りの言葉を吐くと、銃口を俺に向けると三人一斉に乱射をする。

全てが俺に当たる訳では無いが、大多数の弾丸が俺に直撃するコースを進んでいる。

普通に避けても良いのだが、それじゃあつまんない。

其処まで考えた所で、俺は腰に帯刀している刀の柄に手を翳し、掴むと同時に俺のAUW専用の機能を発動させる。

 

自由断絶。

俺専用AUW『稲叢神楽』が持つISの単一能力(ワンオフ・アビリティー)と同じ様な力だ。

斬撃を360度視界に入らずとも飛ばせ、展開出来、断ち切れる。

 

俺が抜いて刀を振るったのは、1秒足らずの刹那の時間。だが、神楽にはそんな刹那の時間が有れば事足りる。

 

カチンッと、刀身を鞘に納める音が静かに響くと、止まっていた様な時間が動き出し、俺に向かっていた弾丸は全て粉微塵に斬られ、俺を襲っていたIS乗り三人は、何が有ったのか理解出来ず爆発と共に墜落した。

 

「刹那の時間かぁ。持ち手の俺としては、永遠に感じらぁ」

 

『ご苦労様。アリア送るから待機しといてね』

 

「おう」

 

仕事を終えて、近くに有った岩の上で座り込む。

 

『お疲れ様です。統真様』

 

メイド服を身に付けた少女。アリアが、二人乗りのバイクの様な乗り物に乗って現れた。

 

「お、アリア。早かったな」

 

『はい。博斗様が、急ぎの用事があるそうで』

 

「OK。んじゃあ、宜しく頼むわ」

 

そう言って、俺はバイクの後ろに座る。

そして、前にアリアが座ると神楽を使う時と同じような感覚になったと思ったら、いつも見慣れた広間に居た。

 

「本当、どんな構造なんだよ、これ」

 

「君に言って伝わるかい?」

 

「無理だな」

 

「それより、早く部屋に入りな。話あるから」

 

「おう」

 

そして、その後博斗のラボに俺の叫び声が響き渡った。

 



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episode. 5

鈴編はepisode7.8ぐらいで終わると思います。
にしても本当に難し過ぎだ!


「あんた、相変わらず主夫スキルの高さは健在ね」

 

「そ、そうか?俺としては、此れが普通だったんだが」

 

「あんたの家は、普通じゃ無いでしょ」

 

「まぁ、言われてみればそうか」

 

クラス対抗戦を来週に控えた週末。俺は、鈴と一緒に食事を作って学園の屋上で日向ぼっこをしながら、久々に会った友人との時間を満喫していた。

 

「俺の家は、両親が居なかったし、千冬姉も仕事とかで殆んど居なかったからなぁ」

 

「多分、あんたは普通の高校生よりも壮絶な家関係を持ってると思うわね。誘拐もされたんでしょ?」

 

「まぁな。てか、何で代表候補生になった事あん時に言わなかったんだ?」

 

「あんたに言っても、「代表候補生って何だ?」て言葉が返ってくるでしょ」

 

「うっ!」

 

俺の疑問に、まさに一度あった事を的確に返されて言葉を詰まらせる。

 

「てか、あんたセシリアだっけ?彼奴に初めてあった時、そう答えたんでしょ?双刃さんから聞いたわよ」

 

「は、ははは。まぁ、な」

 

「あんたは、口に出す前に頭で考えなさい。それで、一度大変な目に遭ったでしょ?」

 

「やめろ。アレは、思い出したく無い」

 

鈴の言葉で、中学時代のトラウマが蘇りその場で悶え出す。そんな俺を見て、笑いをこらえて居るのか肩を上下に撼わす鈴にムッとなるが、このトラウマの原因は俺にもあるので、何も言い返せない。

 

「確か、家が少し金持ちなだけの顔が残念な奴が高飛車って「私の様な綺麗な存在を観れた事に感謝しなさい」なんて言って、あんたが「何処が?」って言い返したんだったわね」

 

「言うなぁー!!!アレが、何気に一、二番目ぐらいに千冬姉に苦労掛けたんだよ!」

 

「まぁ、呼び出された時の千冬さん何とも言えない顔には、流石に同情したわね」

 

あの後、千冬姉には怒られたが、その時の千冬姉の言葉は何か歯切れの悪い感じだった。

 

「それより、いよいよって感じね」

 

「お前は、大丈夫なのかよ?」

 

「ふん。一年足らずで、代表候補生に選ばれた実力を舐めないで頂戴」

 

「そう言えば、そうだったな。まぁ、お互い頑張ろうぜ」

 

「ええ」

 

そう言い、二人立ち上がり拳を合わせて自分達の練習場所へと向かう。

対抗戦での相手は、その日に発表されるが誰が来ても全力でやるだけだ。

 

 

 

「統真。君には、アリアと一緒に対抗戦に行って貰うよ」

 

木陰で昼寝して居たら、近くに来た博斗が突然そんな事を言ってきた。

 

「そりゃ、突然だな。でも良いのか?あのヤブ医者に見つかったら、どやされるぞ」

 

ヤブ医者とは双刃の事だ。彼奴は、俺の事を人外と呼ぶ。

 

「そうなったら僕が何とかしてみるよ。けど、昨日言った事が本当に起きたら‥‥‥」

 

「その為の対抗策って事か。引き受けた。それで、何処までやって良いんだ?」

 

ISに対抗するんなら、AUWを使うだろう。なら、何処までやって良くてこれ以上はやってはダメの基準がある筈だ。

 

「生徒の人たちに被害が無ければ、好きにやって良いよ」

 

「随分軽いな」

 

「まぁ、その代わりに姿を隠して貰うよ。色々と面倒になるからね」

 

「了解」

 

さてと、そうと決まれば、筋トレでもして来ますかね。

 

 

 

 

「‥‥‥ん、寝てたのか‥‥‥」

 

昨日夜遅くまで考えていたら、いつの間にか寝ていた俺は、窓から入った日光で眼を覚ました。

椅子の背もたれにもたれかかって居た背を起こし、机に置かれたノートに眼を落とす。

 

「この数式だと確率は6割。この部分を4にすると7割9部。どれもこれといった決定的な物では無い」

 

無数に書き連ねられた数式を見て、頭を抱える。首謀者が、普通の人であるならば8割以上は予測出来るが、今回の相手はあの天災博士だ。

俺の頭で測れる訳が無い。

 

「けど、何もやらないだけマシか」

 

クラス対抗戦は来週だ。今日は早く寝よ。それに、何か物凄く嫌な予感がする。

まぁ、それに関しては予想できないでも無いな。

 

望むなら、誰も傷つかない事を願うばかりだ。

 



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episode. 6

この小説の一夏は、原作よりも本能が鋭いです。


「とうとう来たなぁ」

 

「そうですねぇ」

 

週を開け、とうとうクラス対抗戦の日にちとなった。

俺は、一夏や箒、セシリア達と一緒に対戦表を見に並んで歩いていた。

対戦表が張り出されている所までは、此処から少しだけ長いので四人で世間話をしながら歩く。

 

「それで、調子はどうだ?」

 

「上々ですかね。それに箒やセシリア達と頑張って来たんだ。二人の為にも頑張らないといけませんよ」

 

「其れは、良い心構えだな」

 

「ありがとうございます」

 

漫画の主人公みたいなセリフを言った一夏に、後ろの二人が顔を赤くするが一夏は其れに気付かず進む。

交流して分かった事だが、一夏の奴は所謂鈍感の類いなのか分からんが、異性の恋愛的感情に疎い様だ。他の事には、勘が鋭い癖にな。

 

そして、暫く歩いていたら少し人だかりになっている場所を見つけ、人を掻き分けながら、対戦表の紙の前に立つ。

其処には、こう乗せられていた。

 

1-1 織斑一夏

VS

1-2 凰鈴音

 

どうやら、最初っからクライマックスの様だ。

 

 

 

「もう一度聞くが調子は、どうだ?」

 

「大丈夫ですよ。全く持って問題無しです」

 

鈴との対戦が決まって、ピットで白式を纏った俺の激励の為に来ていた双刃さんの返しに答える。

鈴とは、中学の頃から何度か口喧嘩したり殴りあったりもした。

鈴とは、良い意味でも悪い意味でも沢山の思い出がある。

 

「鈴は、どのくらい強いでしょうか」

 

「そうだな。お前と別れて転校していったのは、一年ほど前何だろ?そして、僅か一年足らずで代表候補生になって専用機を持っているんから、セシリアと同レベかそれ以上かもな」

 

「そうですわね。悔しいですが、代表候補生になるのも一朝一夕で成れる物ではありませんが、鈴さんの才能は凄まじい物だと思って下さいませ」

 

「そうか」

 

そうだな。

セシリアは、血のにじむ様な努力の上に今の地位を確立している。其れは、代表決定戦で十二分に理解している。

其れだからこそ、鈴の凄さが分かりやすい。

 

『1年の部。第一回戦を開始します。対戦する人は準備して下さい』

 

「呼ばれたな。行ってきな」

 

「はい!其れじゃあ、行ってくる!」

 

「うむ!」

 

「頑張って下さいませ!」

 

三人の激励を受けて、ピットからアリーナのフィールドに飛び出る。

 

「よう鈴。お前とまたぶつかるとはな」

 

「ええ、そうね。でも、今回はISよ。力の有利はこっちにあるわよ」

 

「そんなの関係ねぇだろ」

 

「それもそうね」

 

フィールドに出ると丁度、鈴もフィールドに出ていた。

カウントが始まるまでの間、俺と鈴は少し会話をしながら戦う準備を整えていた。

 

「そうだ一夏」

 

「ん?なんだ」

 

カウントが始まると何かを思い出したように聞く鈴に言葉を返す。

 

「この勝負、勝った方が負けた方に何か命令出来るってのはどう?」

 

「良いぜ!乗った!」

 

鈴の提案を受けたと同時に、試合開始の合図が鳴り響く。

試合が始まったと同時に俺は、鈴との距離を一気に詰めて雪片を振るうが、鈴の持っていた青龍刀で防ぐ。

 

「流石ね一夏!あんた、本当に素人?」

 

「お生憎様、初心者のペーペーだよ!」

 

軽口や皮肉を言いつつ、接近戦を繰り広げる俺たち。

俺は全力だが、鈴は多分まだ余力を残している。

 

「俺は皆んなからスタート位置が遠いからな!俺は、人一倍頑張らなきゃいけねぇんだよな!だから!」

 

「強くなってなきゃ意味ないって事かしら?!」

 

「そう言うことだ!」

 

ガキンッ!と音を立てて、青龍刀ごと吹き飛ばす。

吹き飛ばされた鈴の顔は、獰猛に口角を上げて笑っていた。その顔を見た瞬間に、俺はその場から反射的に飛び退いた。

 

「へぇ。今の分かるんだ」

 

「何かは知らんが、受けたら駄目な気がしたんだよ」

 

鈴が何かをしようとしたのは分かった。けど、そのままあの場所にいたら確実にヤバいのは分かった。

 

「其れじゃあ一夏。さっき打ち損じたから、今度は当たるわよ」

 

「ッ!」ゾクッ!

 

そんな鈴のセリフと一緒に悪寒が、全身に走った。

そして、さっき同じように全力でその場から飛び退くが‥‥‥

 

「此れは、ジャブだからね!」

 

「ガハッ!!!」

 

突然、背後から衝撃が俺を襲った。

 



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episode. 7

今回は、一夏vs鈴の後半戦です。
が、殆んど双刃とセシリアの解説回です。

この回の箒は、少しアホの子だと思う(唐突)。
悪意は無いよ。善意も無けど。


「‥‥‥衝撃砲ってとこか」

 

「わ、分かるんですの?!」

 

「具体的な事は知らんがな」

 

一夏が、何か分からない攻撃を受けてから思考をフル回転させて出た答えを呟くと、観覧席で隣に座っていたセシリアは驚きの声を上げる。

 

「視覚的に捉えられないと言う事は、空気砲のように大気中の空気を使った強烈な風圧の様な物。此処まで考え切れれば、兵装としては衝撃砲が一番考えられる」

 

「前々から思っていましたが、双刃さんってかなり頭の回転が早いみたいですわね」

 

「まぁ、此れでも三年間学年一位を維持してたからな」

 

自慢する事じゃないが、学力は高いのだ。まぁ、あのマッドサイエンティストの野郎が本気出したら俺なんかよりもずっと頭良いんだがな。

 

「其れで、セシリアはアレが何か知ってるんだろ?」

 

「資料でなら見た事がありますわ」

 

セシリアの説明を聞くに空間自体に圧力をかけ砲身を生成、余剰で生じる衝撃をそのまま砲弾化して打ち出すと言う物らしい。

 

「特徴は、砲身も砲弾も全てが空気で出来ているため見えないと言う事と360度死角無しの射角ですわ」

 

「成る程ね。つまり一夏は、正面の鈴本体からの攻撃に加え360度何処から来るか分からない衝撃砲を警戒しながら戦わなきゃいけないって訳か」

 

「そ、そんな!」

 

絶望的なまでの不利に箒が、嘆きの声を上げる。

 

「対処は無い訳じゃ無いんだが、一夏に其れが出来るか分からねぇな」

 

「常に動き回ると言う事では無くてですの?」

 

「其れだと、エネルギー消費が激しいだろ。衝撃砲って言っても、空気で出来ているなら僅かにでも空間に歪みがあるはずだ。其れと、鈴は天才型の人間みたいだが流石に扱い慣れていないんだろうな。彼奴の視線の先に衝撃砲が放たれている」

 

多分、あの武装を使えこなせる熟練の操縦者。山田先生クラスだったら、態と視線で誘導させてから死角からの攻撃なんて事をしそうだが、鈴は代表候補生と言えど成ってからは日が浅い。

そんな奴が、癖のある武器を使いこなせるとは思えない。

 

「成る程、その様な手がありますのね」

 

「って言っても一番良いのは、俺がセシリアにやったみたいにやりたい事をやらせないだがな」

 

「あ、あの時の事を振り返らないで下さい!」

 

隣にいるセシリアを揶揄いながら、試合の様子を眺めると鈴には目立った外傷は無いが、さっきから避け続けていたのだろう一夏には、疲れが見えた。

一夏。こっからが正念場だ。お前の意思を見せてみろ。

 

そう思っていた時だった一夏が、攻勢に出た。

その行為は、前と同じだったが違った要因が一つだけあった。鈴が、一夏が前に飛び出ると同時にさっきまでの様に衝撃砲で打ち返すのでは無く。上に避けたのだ。

何も知らない奴から見たら其れが如何した。と言われそうだが、鈴の性格を考えればあり得ないのだ。

 

そこまで考えた所で、一つの要点に気づいた。

 

「一夏の奴。零落白夜(切り札)を態とバラしたな」

 

「なっ!?な、何故一夏はそんな事を!」

 

俺の言葉に箒は驚愕の声を上げる。

 

「零落白夜は、確かに強力だ。デメリット付きの諸刃の刃だとしてもそのデメリットを払拭する圧倒的なまでの力を持っている」

 

そして、そんな強力なまでのモノを持っている奴が突っ込んで来たら、人は如何する?

 

「‥‥成る程。だから凰さんは、先程の突撃に避けたのですね」

 

「?どういう事なんだ?」

 

俺が内心で呟いた言葉は聞こえていない筈だが、セシリアは如何やら気付いた様だ。流石は代表候補生。

けれど、箒を含めた周りの一組の学徒達は首を傾げている。如何やら、気付いていないらしい。

 

「分かりやすく言いますと。相手が、何でも貫く槍を持って突撃したら箒さんは、如何しますか?一般的な考えで」

 

「其れは‥‥当たりたくないから避け‥‥そうか!」

 

セシリアの言葉で、箒も他の人達も気付いた様だ。

 

「相手が圧倒的なまでのモノを持っていたら、人が咄嗟に取る行動は其れが当たらない様に避けるだ。織斑先生も言ってただろ?試合で一番の弱点は、無意識にする行動だって。世界最強と言われた織斑先生でさえ無意識の行動には、如何しようもない」

 

「そして、一夏さんは知ってか知らずか。零落白夜と言う最強の矛を態と晒すことにより、相手に無意識の行動させたと言う訳ですわ」

 

そして、無意識の行動の後ってのは多分、かなり人に余裕が無い状態。そんな状態で、ISは勿論の事。武装をマトモに使えるはずも無く。

 

内心でそう思っていたら、隙を見せた鈴に一夏が雪片弐型を払い一閃した。

 

「お見事」

 

「素晴らしいですわ!」

 

一夏の行動に、俺とセシリアが賞賛していると一夏と鈴を隔てる様に極光がアリーナに放たれた。

 

 

本当に博斗の警告はよく当たるものだ。

 

 

極光が止むと、アリーナの上空にはアンバランスな身体と腕のISが一機、佇んでいた。

 



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episode. 8

同日。数十分程前。

 

 

第一アリーナの屋根の上で、二つの人影が下の賑やかさを他所を静かに風に当たっていた。

 

 

「そんでアリア。もう一度確認するが、敵さんは何体だ?」

 

「四体です。篠ノ之博士の事ですから、他にある事もあり得るかと思います」

 

「そうだな。おい博斗」

 

アリアに確認を取った後、俺は今着けているバイザーから博斗に通信を繋がる。

 

「一応もう一度聞いとくが、どんぐらいまでやっていいんだ?」

 

『人を殺さなきゃ好きにやって良いよ。刃は、怪我までは許容できるから』

 

「了解。まぁ、無人機なんだろ?」

 

『何とか手に入れた情報ではね』

 

俺とアリアがこうしているのは、博斗が偶々見つけた篠ノ之束のラボから、俺とアリアが暴れて生まれた数秒の隙に手に入れた無人機ISの情報を見つけたからだ。

ISの無人化は全く開発されていない技術だったが、そんな事で驚いてはいけない。

あのヤブ医者の事だ。篠ノ之束が襲撃する事も知っているだろう。昔喧嘩した悪友と言えど中高共に過ごした仲間だ。

そんな奴が、危険になるかもしれないんだ。阻止するに決まっている。

 

『僕は、アリアのサポートはするけど君にはいるかい?』

 

「いや問題ない。神楽を発動させれば、通常時間の通信じゃあ意味ないからな」

 

『了解。それじゃあアリア。君が守ってもらう事を伝えるよ。一つ、学徒達を危険に晒さない。二つ、やる事をやったら直ぐに撤退する。以上だよ』

 

「Yes.MyMaster」

 

俺とアリアと博斗の準備が整うと、アリアは目を瞑り俺は神楽を腰に構え精神を統一する。

 

接続開始(リンク・オン)

 

戦闘形態(バトルモード)移行(スタンバイ)

 

二人同時にそれぞれの掛け声を言う。

俺の神楽は、刀身が初期動よりも蒼く光り。アリアは、メイド姿からISの様に機械的だがスマートな感じへと変化する。

 

「確認した四体は、俺が相手になる。けど、取り逃がしたら様子を伺った後に自分で判断して対処」

 

『了解いたしました。此れより任務を執行します』

 

機械音となったアリアの言葉と共に、俺はアリアが確認した敵の方へと大きく跳躍して突撃した。

 

「さぁ、開戦と行こうか!」

 

 

 

“Anti・Unreasonable・Weapon”通称AUWの仕組みを簡単に説明すると、先ず使い手になる者の細胞にAUWと適合する半電子体内機能増進細胞を組み合わせ身体と適合させる。

そして、接続開始の掛け声と同時にその細胞とAUWが合致すると、AUWは内臓された半永久機関が起動し、使い手は体内機能増進により身体が活性化する事で、人智を逸した力を手に入れられる。

 

「そう言えば刃が言ってたなぁ‥‥」

 

圧倒的な身体能力を持ち人外と呼ばれる統真だが、事戦闘に関しては刃の演算処理戦闘を上回る程の実力を持つ。

 

「人間離れした反射神経と身体能力、そして無意識の行動をコントロールする。そんな統真にAUWを与えたら‥‥‥」

 

細胞によって活性化されたのは、何も筋肉や神経だけではなく脳もだ。

そして、統真の唯一の弱点と言えば頭が残念だと言う事。

けど、活性化される事で人並み以下の情報処理能力である統真でさえ、人並み以上の処理能力を得られる。

 

「僕のAUWが凄いのか、其れを使いこなせている統真が凄いのか」

 

目の前のモニターで戦っている()()()()()()()()統真を前にして、ため息を吐きながら頬づえをつく。

 

 

「複合抜剣術!蛇頸雲!」

 

鞘から抜かれると同時に斬撃を飛ばす。飛んだ斬撃は、蛇の首の様にしなりをつけると一気に伸び、無人機に一撃を浴びせる。

 

一機に一撃を浴びせた所で、別の一機からの砲撃を避ける。

 

「差異の目!」

 

一定テンポで斬らず、態とずらして斬りつけ更に脚のバネを活かして後ろに軽く跳躍する。

 

「はっはっー!バレてるぜ!」

 

にしても、やっぱ一対一なら兎も角として多対一じゃあ、通常だと無理があるな。

仕方ない。篠ノ之束が見ているかもしれないからあんまり使いたくなかったが、やるしかねぇな。

 

「自由断絶」

 

小さく呟くと同時に、俺の眼に入る世界全てがスローモーションになる。

俺以外が感じる時間は、僅か一秒足らず。だが、使用者の俺からすれば約その60倍。時間にして1分!

 

切り抜き、居合、唐竹、閃光、頭取。時間の許す限りありとあらゆる剣技を放つ。

 

「僅か1分。されど1分。達人は、刹那の時間に4度斬り伏せる」

 

カチンと刀身を鞘に収めると、スローモーションの様にゆっくりと動いていた時間が、徐々に元の時間へと動き出す。

 

「どうだ。魔法みてぇだろ?」

 

その呟きが誰に聞こえたかは知らないが、目の前に佇んでいた四体の無人機は、抵抗する暇もなく斬撃の嵐に見舞われ爆散する。

四体のコアが、完全に停止したのを確認して、一息ついた時だった。後方のアリーナの方から、眩い光りが見えた。

 

「クソが!もう一機隠していやがった!」

 

『接続を解除して!これ以上やったら、細胞が壊死するよ!』

 

「ちっ!アリア!」

 

『お任せ下さい』

 

クソッタレ。此処で、退場か。

まぁ、アリアと博斗の奴があっちに行ったんだ。大丈夫だろ。

頼んだぜ。

 



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episode. 9

ゴーレム戦は今回で終わりですが、あと1話ぐらい続きます。

其れと今回は、双刃と博斗の二重視点に挑戦しました。読みにくかったらすいません。




「きゃあああぁぁぁ!!!!」

 

不気味な姿を見せた乱入者の登場に、観覧席が一気に騒がしくなる。そんな中横のセシリアにアイコンタクトをして、織斑先生と通信を繋げる。

 

「織斑先生!今、どう言う状況ですの!?」

 

『オルコットか。分からん。唯一つ言えることは、今アリーナに乱入してきたやつが敵だと言う事だけだ』

 

「わ、私達もそちらに!」

 

『無理だ。観覧席のシールドレベルが4になって扉が開かない。現在、三年の精鋭がクラッキングを行なっている』

 

織斑先生がそう言うと同時に、乱入者が現れてすぐさま扉から出ようとした学徒達の嘆きの声が聞こえた。

ちっ、面倒な事をしやがるぜ。

 

 

「セキュリティ掌握とか巫山戯んなよ自己中博士が!」

 

アリアのサポートに回ろうとして、IS学園のデータベースやセキュリティシステムやらを除いたら、アリーナに進入した無人機によってハッキングされていた。

 

「何処までも自分中心かよ!気にいらねぇ!」

 

アリーナの観覧席には、刃も居る。もし、刃を狙いでもしたらタダじゃおかねぇ。

 

 

『なに?!システムが、復帰した?!分かった!オルコット!鉄も居るのだろ?序でに篠ノ之も連れて、管制室に来い!』

 

「りょ、了解ですわ!」

 

織斑先生の動揺を見る限り、多分三年の精鋭達って奴らが苦戦して居るはずのクラッキングが、知らずのうちに完了されていたって所だろ。

相手を篠ノ之束と仮定して、ハッキングが確認してされてからのクラッキングまでの時間は僅か数十秒。

それが可能な奴。可能性のある奴は、博斗の馬鹿野郎しか居ない。

 

「‥‥‥あの馬鹿野郎。見てやがるな」ボソッ

 

周りが騒がしく、俺の小さな呟きは誰の耳にも入らなかった。

 

その後、三人で急いで管制室に着くと沢山のモニターを前に沢山の人が、慌ただしく動き回って居た。

 

「先生! わたくしにIS使用許可を! すぐに出撃できますわ!」

 

管制室に入り、セシリアは開口一番にそんな言葉を吐く。

 

「却下だ」

 

だが、当然の如く織斑先生に却下される。

そして、これ又当然の如く反論するセシリアだったが、天才型のそれも世界チャンピオンという地位に座していた織斑先生のダメ出しを含めた問いかけにしな垂れる。

こればっかりは、しょうがない。

 

「戦況は先生?」

 

「‥‥二対一だが、織斑達が不利だ」

 

「そうですか」

 

一夏と鈴は、多分山田先生に退くように言われたんだろうが、無視して戦闘をしているんだろうな。

さっきから、山田先生の慌てっぷりが半端じゃない。

 

「あれ?そう言えば、箒さんは何処へ行ったのでしょう?」

 

不意に呟かれたセシリアの言葉に、俺と織斑先生は顔を見合わせて、アイコンタクトを取る。

 

「山田先生!篠ノ之を見つけろ!」

 

「俺探して来ます!」

 

「まて!これを持っていけ!」

 

山田先生に指示を飛ばす織斑先生を見やり、管制室から出て探しだそうと思ったらそう織斑先生がインカムを渡して来た。

投げ渡されたインカムをキャッチして、片耳に着けて管制室から飛び出す。

 

「(多分、苦戦している一夏を見て激励の言葉でも送るつもりなんだろう。それなら、考えられるのは放送室かピットだろう)」

 

『鉄!篠ノ之が、ピット方面に走るのを見つけた!急げ!』

 

「了解!」

 

箒の行き先を考えていたら、織斑先生からの通信で行き先が決まり、スピードを上げるとピットの中に篠ノ之が入っていくのを見つけた。

直ぐに開けて、箒を捕まえようとしたが扉が一向に開かない。

 

「クソが!どうなってやがる!」

 

バンバンと叩くが、開く気配のしない扉に拳を突き立てていたら、バチッと静電気の様な物を感じ咄嗟に手を離すと、扉に電流が流れる。

 

 

 

「此処までやるか。クソシスコン自己中博士が!」

 

口調が崩れているが気にしない。

すぐさま扉のシステムにハッキングして、通常のシステム以外全て破壊する。

 

「アリア!無人機が、あのピットに砲撃したら片腕消し飛ばせ!」

 

『承知しました。マイマイスター』

 

「統真!動ける?!」

 

『ああ、通常通りにはな』

 

「それじゃあ、アリアが片腕消し飛ばすから。粉微塵に斬り刻んで!」

 

『あいよ!』

 

覚えとけよ篠ノ之博士。何れあんたの最高傑作を超えてやる。そして、見返してやる。

 

 

「!?電流が止まった?はっ!博斗の奴か。助かった!」

 

電流が流れたと思ったら、直ぐに止まった事に博斗の奴がこの状況を見ている事を再確認するが、今はそんな事を置いといて、ピットの中に入る。

 

そんな時だった。

 

「一夏ぁ!!男なら……男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

 

箒の大声が聞こえた。

 

「(あのバカ!後先考えず行動し過ぎだ!)」

 

人外のアホでも後先考えず行動し過ぎるが、彼奴はその後どうなっても対応できる能力がある。けど、残念だが箒にそんな能力は無い。

 

箒の背後まで近付いた所で、乱入者の黒いISが此方に砲撃を放った腕を向けている。

だが、箒は全く動こうとしない。

 

「何したんだバカが!」

 

「ひゃうっ!」

 

光りが放たれた瞬間、箒の手を掴み右に投げる。

そうしたおかげで、此方には当たらずに済んだ。

 

「あ、ありがとーー」

 

「このアホンダラ!」

 

「むぎゃあ!」

 

俺に礼を言おうとした箒の言葉を遮り、頭突きを当てて気絶させる。

 

「織斑先生。箒を無事確保しました」

 

『そうか。なら、お前も篠ノ之を連れて此方に』

 

「いや、必要ありません。敵はもう負けて居ますから」

 

そう呟きながら、フィールドを見ると謎の兵器に片腕を消し飛ばされた乱入者。

そして、次の瞬間には突然現れた人影に料理の千切りの様に斬り刻まれた。

 

爆散する乱入者を他所に、乱入者にトドメを刺した謎の兵器と人影は、此方を一瞥するとその場から霧の様に消えて行った。

 

「統真のアホ。やり過ぎだ」

 

こうしてクラス対抗戦は、波乱を巻き起こし終わりを告げた。

 



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episode. 10

鈴編最終回です。


クラス対抗戦の日の夜。とある場所で、奇妙な頭飾りをした人影がディスプレイの光り当てられてつまんなさそうに座って居た。

 

「もうなんなのさ彼奴は?!箒ちゃんの邪魔はするし、挙げ句の果てには頭突きをするなんて、解剖してやろうかな!」

 

人影の正体は、世界各国から指名手配されて追いかけ回されている天災。篠ノ之束だ。

自分が気に入っている織斑千冬の弟であり、世界で一番目の織斑一夏の実力をIS学園の学徒達に見せつけようと思って居たら、自分の思い通りに事が運ばなかった事に悪態をついているのだ。

 

「其れも何で、私のハッキングが直ぐに解除されちゃうんだよ!」

 

「そんなの僕が許さないからに決まってるじゃ無いか」

 

不意に呟かれた自分の疑問に答える声に、バッと振り返る篠ノ之束。

後ろには、血濡れた白衣をコートに着込みポケットに片手を入れてもう片方の手を腰に当てて立っている灰色髪の青年。

 

僅か数人しか見分けられず、其れ以外の人をクズと見下している篠ノ之束だったが、その青年が見た直後本能的にその場から飛び退いた。

飛び退いた後の篠ノ之束の顔は、冷や汗が流れている。

 

「お前誰だよ」

 

「あんたの無人機五機。其れと計画を潰した研究者さ」

 

危機感を研ぎ澄ましている篠ノ之束とは反対に淡々とした態度の青年。

 

「それにしてもあんたの行動は、僕には理解出来ないね」

 

「当たり前だ。お前に理解出来る訳ないじゃない。私は天災何だから」

 

自らを天災と言う篠ノ之束に対し、青年はーー海原博斗は外に出している手で顔を抑え、明らかに不機嫌になる。

 

「あんたが創り出したISってのは、宇宙を自由に羽撃く為の物じゃないのかよ」

 

「!?」

 

不機嫌になった博斗の言葉に、目を見開く篠ノ之束。

其れもそのはずだ。親友の織斑千冬にしか言っていない筈のIS制作の理由。其れを目の前の自分が見下した博斗が、当然の様に答えたのだから。

 

「けど、其れも仕方ないよな。あんたは、自分の夢が馬鹿にされ暴走した。そして、何の枷無く無限に続く星海を飛び続ける筈のISを兵器としての利用価値を見出させた」

 

吐き捨てた様に、ISが世に出た世紀の大事件と言っても良い『白騎士事件』を語る。

 

「考えれば、誰でも分かることだ。13カ国の弾道ミサイルの発射システムを同時に、掌握出来るのはあんたぐらいだからな」

 

「お前に、お前なんかに何が分かるってんだよ!」

 

「分かる訳ないじゃないか。僕は、貴女じゃないのだから」

 

感情的になって反論する篠ノ之束に、博斗の口調は少し穏やかになる。

 

「貴女は、同じ科学者として尊敬するし憧れだ。でも、あんたは。あんたなら、誰かに認められなくても自分でやってのけるぐらいの事は出来たんじゃないか?!」

 

「五月蝿い!そんな事だけじゃダメなんだよ!あの娘達を認めさせなきゃ意味がないんだ!」

 

子供の喧嘩の様な言い争いを続ける二人。

言い争いを続け、暫くして肩で息をする二人の内、博斗の方が俯かせていた顔を上げて人差し指を篠ノ之束に向けて宣言する。

 

「僕は、何れ貴女を超える!今は、束の間の頂点を満喫する事だな!」

 

「ふんだ!望む所だよ!この束さんに勝てると思わない事だね!」

 

不敵な笑みを浮かべる二人の天災科学者。

篠ノ之束は、自分に己の土俵で喧嘩を売ってくる人間なんか居なかったが、目の前にその人間がいる事の嬉しさ。

博斗は、目標だった人を前にして何時か超えると言う目的の再確認と、自分の中に生まれた新しい価値観への喜び。

 

この場に、二人の親友である三人が居たらまた世界が大変な事になると呟くだろうが、今は居ない。

 

満足した様な雰囲気の二人は、各々のやり方でその場から消えていった。

 

 

 

「はぁ、疲れたなぁ」

 

クラス対抗戦の日の夜。俺は、学園の屋上で風に当たって居た。

門限はとっくに過ぎているが、部屋に戻る気は殆んど無い。織斑先生にもちゃんといっているから問題ない。

 

「其れで、何の用だ統真?」

 

「やっぱり、気付いてたか」

 

鉄柵にもたれながら、後ろの入り口の上に座っている悪友に声をかける。

 

「まぁ、用って程の事じゃないんだが、取り敢えず何時もの気まぐれだ」

 

「そうか。其れより、今日は助かった。ありがとな」

 

「そ、そっちも気付いてたか」

 

「当たり前だ。博斗の奴が見てるのは分かったし、其れなら必然的にお前が居るって分かったからな」

 

「流石だな」

 

当たり前だ。何年お前らとバカやって来たと思ってるんだ。

 

「‥‥‥これだけは言っとくがよ。お前らが、何をしようがお前らの勝手だが、俺の許容範囲を超えたら俺も行動を考えるぞ」

 

「‥‥‥ああ、分かってるさ」

 

統真の奴は、そうとだけ答えるとその場から消えていた。

明日からは、面倒な日常がやってくる。

 

ああ、憂鬱だ。

 

そう思う俺の顔は、何処か楽しげだった。

 

 



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KARTE. 3 シャルロット・デュノア
episode. 1


今回からシャルロット編ですが、双刃のお陰でこの小説の一夏は、原作よりある程度鋭いのです。

恋愛に関しては、気付きにくいだけで鈍感ではございません。




クラス対抗戦があの乱入者の所為で中止になり、特にイベントが起こるわけでもなくそのまま週末となった。

 

休日は、何処かで身体を休めた方が身の為って双刃さんから言われたので、箒達との練習を取りやめて休日を満喫している。

 

「所で一夏。どうなんだ?」

 

「いや、何がだよ弾」

 

自分の家に帰っても良かったんだが、久しぶりに親友との時間も悪くないと思い、中学の時に鈴と一緒につるんで遊んでいた五反田弾(ごたんだだん)の所に遊びに来ている。

 

「IS学園の事だよ。お前のメール見てわかるぐらいの楽園じゃねぇか」

 

「其れは、実際に体験していないからだろ?実際に体験したら色々とくるもんがあるぜ。主に精神に」

 

「マジか」

 

そんな話しをしながら、俺が今使っているゲームキャラの技を使って、弾にトドメを刺す。

 

「ぐわっ!負けたー!」

 

「危なかったー」

 

取り敢えず、一戦終えて一息ついて他愛ない話しを続ける。

そうしていたら、ドタドタと階段を駆け上がってくる音が聞こえた。

 

「お兄! さっきからお昼出来たって言ってんじゃん!」

 

扉を蹴破って入って来たのは、弾とおんなじ赤い髪にバンダナを巻いた弾の妹の五反田蘭だった。

 

「さっさと食べに来なさ――」

 

「あ、蘭。久しぶり。邪魔してる」

 

取り敢えず声を掛けておく。

 

「え、い、一夏……さんっ!?」

 

なんか、スゲェ驚いてるな。そんなに俺が居るのが、珍しいか?

 

「あの、一夏さん、いや、その……来てたんですか……? 全寮制の学校に通っているって聞きましたけど……」

 

「ああ、まあな。でも今日は休日だしちょっと外出と思ってな」

 

「そ、そうなんですか」

 

俺の言葉に何処か戸惑って居る様な雰囲気の蘭。何かあったのかな?

 

「……お兄。ちょっとこっち来て」

 

するとだんを呼びつけて、奥の方で何か会話をして居る。

気になるが、何か嫌な予感がするから辞めとこう。

 

「あ、あの、よかったら一夏さんもお昼どうぞ。まだ、ですよね?」

 

「ああ、其れに元から此処で取ろうと思ってたから」

 

「い、いえ‥‥そ、それじゃ!」

 

バタンッとまた勢い良く出て行った蘭を見て少し考える。

 

「なぁ、弾」

 

「ん?どうしたんだよ」

 

「蘭ちゃんって、何か俺に思うことでもあるのか?」

 

「はぁ?はあぁぁ!!!!???」

 

「な、何だよ。そんなに驚いて」

 

失敬な奴だ。何で、こんな事だけで驚くんだよ。

 

「い、いや。おま、お前。ほ、ホントに一夏か?」

 

「何言ってんだよ。俺は一夏だぜ」

 

「そ、そうだよな。あははは」

 

驚愕の様な雰囲気の弾は、乾いた声で笑う。不思議に思っていたが、取り敢えず厳さんが待ってるだろうから、さっさとお店の方へと降りる。

 

「おう、久しぶりだな一夏」

 

「此方こそお久しぶりです。厳さん。相変わらず元気そうですね」

 

「はっはっは!当たり前だ!って、どうしたんだ弾。惚けた顔しやがって」

 

「い、いや何でもないよ。いや、あるか。後で話すよ」

 

「お、おう」

 

お店の方に降りる。因みに、このお店の名前は『五反田食堂』と言い、この辺りに居る人の中ではかなり名の知れた食堂だ。

経営して居るのは、勿論弾の家族なんだが、弾と蘭の祖父の五反田厳さんは、八十は超えている筈なのだが筋骨隆々とした腕を使って、豪快に中華鍋を振るって居る。

 

俺と弾と、服装を変えた蘭で一つのテーブルを囲んで座って、定食の余りを食べていた。

 

「そういや、一夏の他にも男の人が居たよな」

 

「ああ、双刃さんの事か」

 

「そうそう、その人。どんな人なんだ?」

 

昼食を食べ終わった後、弾が双刃さんの事を聞いて来た。

 

「簡単に言うと、多分天才の部類に入る一つだと思う」

 

「そんな凄い人なんですか?」

 

「そういや、その人高校卒業後に見つかったんだっけ」

 

「ああ、頭良いし。優しいし。運動も出来る。ISでの模擬戦とか何回かやった事あるけど、全敗中だぜ」

 

俺に勝つのは分かる。俺と同じ素人の筈なんだが、代表候補生にセシリアや鈴にも勝ち越しているのだから、驚きだよ。

 

「ああ、後鈴が来てたぞ。代表候補生で」

 

「マジかよ。彼奴、何時のまにエリートになりやがったんだ?」

 

「俺らを見返す為だったりしてな」

 

「あいつならあり得るなぁー」

 

その後もそんな話しをしながら、お昼時を終えた俺は弾と一緒にベランダで風にあたりながら、黄昏て居た。

 

「そういや。何で、あん時に蘭の反応に気になったんだ?」

 

「?ああ、その事か」

 

そんな時に弾にそう聞かれて、双刃さんのあの言葉を思い出す。

 

「双刃さんがさ、こう言ったんだよ。「様々な事に疑問を持て」ってさ。今までは、気にして居なかった事に疑問を持ったら、色々と気付く物があったんだよ」

 

「マジかよ。その人に会って見たいわ」

 

「じゃあ、夏休み辺りに誘ってみるぜ」

 

「おう。それと一夏頑張れな。一親友として応援してるぜ」

 

「?お、おう」

 

何か含みのある言葉だったが、どうせこいつの事だ。誤魔化して言わないに決まってる。

さてと、来週からまた頑張りますか。

 



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episode. 2

週明けの月曜日。朝の眠気に打ち勝ちながら女子達の賑やかな会話を聞き流しして居た。

 

「諸君。おはよう」

 

何事も無く過ぎる時間を満喫していたら、教室の扉が開き織斑先生と山田先生が入ってきた。

 

「今日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように」

 

 ISの使用、という織斑先生の言葉に反応する生徒たち。

 

「各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うことを忘れないようにな。忘れたものは代わりに学校指定の水着を訓練を受けてもらう。それもないものは、下着で構わんだろう」

 

因みに俺や一夏のは、もう既に届いて居る。

それより水着だろうが下着だろうが言い訳ないでしょ。俺や一夏といった男子が居るのですから。

 

「では山田先生、HRを」

 

「は、はい。突然ですが、皆さんに転校生を紹介します! しかも二名です!」

 

やけにテンションの高い山田先生の言葉によって、さらにざわつく生徒たち。しかし、二名か。しかもこんな時期にか。

珍しいなぁ、何かあるとしか思えないなぁ。

 

「それでは、入ってきて下さい!」

 

「失礼します」

 

「‥‥‥」

 

教室に入ってきたのは、シルバーとブロンドの二人。その内のブロンドの姿を見た瞬間、教室は驚きに包まれた。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

 鮮やかな金髪。人懐っこそうな顔。礼儀正しく頭を下げる華奢な姿。金髪の転校生の「男子」は、にこやかに笑って言った。

 

「お、男?」

 

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国から入国を……」

 

「き‥‥‥」

 

そう、デュノアが言い掛けた所で女子達の一人が小さく呟く。一度体験した俺と一夏は、この後の事に想定して耳を塞ぐ。

だが、デュノアは何か分からないと言う様な表情を浮かべて居る。アーメン。お前の骨は拾ってやる。まぁ、死なせる気ないけど。

 

「「「「「きゃあああああああああああああーーーー!!」」」」」

 

耳を劈く様な女子達の黄色い叫び声。耳を塞いでいたにも関わらず、キーンッ!と耳鳴りが酷い。

 

「男子! 三人目の男子!」

 

「しかもうちのクラス!」

 

「美形! 守ってあげたくなる系の!」

 

「地球にうまれてよかった~~!」

 

それぞれ喜びの声を上げる女子達。いや、男子が好きなら何故IS学園に来たのだろう。

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

騒がしくなる一組の教室。だが、我らが織斑先生の一言により、一瞬で静かになるクラスメイトたち。この切り替えの早さはもはや名物と呼んでいいのではなかろうか。

 

「み、皆さんお静かに。自己紹介はまだ終わってませんよ」

 

そんな山田先生の言葉に生徒達は、もう一人の転校生に方を向く。

その少女は輝かしい銀髪を流し、ただただ立っていた。目には眼帯が添えられている。放つ雰囲気は、明らかに普通の高校生の冷たさではなかった。恐らく軍人だろう。クラスメイトたちはこちらの生徒を不気味な存在なように感じているのか、少し震えて居る子が何人か居た。

だが、俺はその少女に途轍もない嫌悪感を感じた。何故だ?

 

「‥‥‥‥‥」

 

沢山の視線が集中するなか、そいつは何も言わなかった。

 

「‥‥‥ラウラ挨拶しろ」

 

「はい教官」

 

そんな時間に堪らず織斑先生が指示すると、ラウラと呼ばれた銀髪の少女は、間髪置かずに返事をした。

にしても教官か。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「え、あ、あの以上ですか?」

 

「以上だ」

 

愛想ない言葉に困惑した山田先生が質問を投げかけるが、それにも愛想無く答えるボーデヴィッヒ。

 

「貴様が――!」

 

そんな時に一夏の顔を見ると激昂した様に声を上げて、平手打ちしようとするが一夏は咄嗟に身体を引いて其れを避ける。

 

「何しやがる!」

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であることなど、認めるものか」

 

意味不明な言葉を残して、自分の席に座る。

暫く気まずい時間が流れるが、織斑先生によって次の準備を促され動き出す。

まぁ、流石は織斑先生と言いたいが

 

「それと、織斑、鉄。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」

 

此れは無いでしょ?

デュノアどう見たって彼奴“男”じゃなくて、“女”でしょ?

 




双刃は、親友の二人と来夏それとギリ千冬は大丈夫ですけど、束の様な人外や原作読者がいるのでラウラの様な人工的な人間の事を、本能的に毛嫌いしています。
慣れれば、大体大丈夫です。


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episode. 3

最近、この小説がどんな風に終わらせようか迷っています。
此れ次第で、最終話が60〜80ぐらいまで変動するかもです。

其れから、活動報告にも書きましたが、二、三ヶ月ほど更新を停止します。



「えっと、織斑くんと鉄さんだよね。僕はーーー」

 

「あー、そんなの後にしてくれ」

 

「‥‥‥一夏。俺は、次サボるから織斑先生に言っておいてくれ」

 

「え?!!何でですか?」

 

「ちょっとした用事だ」

 

デュノアが絡んできたが、今の俺は何知らぬ嫌悪感に見舞われていた為一夏にサボると伝えて教室から出ようとした。

 

「見つけた!」

 

多分デュノアの事で来たであろう他のクラスの奴に入り口を塞がれた。

 

「おい、退けよ」

 

「ひぃ!」

 

口から出たそんな言葉は、自分でも驚くぐらい抑揚がなくドス黒い物だった。

怯えて震える生徒達を他所に、屋上へと足を運ぶ。

 

「あー、イライラするわー」

 

何が原因だってんだ?

取り敢えず、反省文の事を考えとかないとなぁー。

 

 

 

「珍しいな。お前が其処まで嫌悪感を出してるなんて」

 

「‥‥‥何の用だ統真」

 

壁にもたれかかって流れる雲を眺めていたら、上から統真の声が聞こえた。

其れも俺の今の状態を的確に指してくる。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒの事か?」

 

「‥‥彼奴は何者だ?普通の人間じゃねぇだろ」

 

俺は、悪人善人問わず人間である限りその人を嫌いになった事は殆んど無かった。

そして、俺が嫌いになる奴は決まって人の道から外れた下衆や統真の様な人外ばかりだった。

 

「彼奴は、所謂試験管ベビーだ」

 

「成る程な。其れともう一つ聞くが。何の用だ?」

 

俺の視線を受けても統真は、そんな事意にも介さず只々さっきまでの俺と同じ様に空を見上げたまま風に当たっている。

 

「はぁ、どうせ言っても聞かんだろうがお前ら。もし、俺の感に触ったら殺すぞ?」

 

「はは!お前は、俺らの事を何と思ったんだよ」

 

「は!俺の悪友のウザったい人外どもに決まってるだろ」

 

俺の言葉に偽りは無い。統真や博斗とは長い付き合いだが、彼奴ら見たいな人外を嫌うのは変わらない。

いつだったか、博斗の奴が俺のことを人間博愛主義者なんて言ってたが其れはちがう。俺は、少人数信愛主義者で其れ以外の人間には何をしようがどうでも良いと思っている人間だ。

 

「なぁ、刃」

 

「なんだ」

 

「お前は、この世界が崩れ去って消えるとしたらお前はどうする?」

 

「そんなの決まってるだろ。杏奈の病気を無くして、消えるまで世界中を旅する」

 

「ブレないな」

 

「ブレてたまるか」

 

こればっかりは、揺るがしたく無い俺の信念であり覚悟であり俺そのものだ。

 

「お前、俺に何の用か聞いたよな?」

 

「ああ、そうだが」

 

「博斗からの伝言だ。人工神経を後少しで出来るそうだ。俺には、さっぱりだったがな」

 

「そうか」

 

博斗の奴、未だにあの事を覚えていたのか。

此れは、俺の方でも頑張らないといけないな。来夏さんに頼んでみるしかないな此れは。

 

 

 

 

「其れより、二時限目始まってるぜ?」

 

「‥‥‥いきなり現実に叩き落とすなよ人外」

 

「はは!言ってろヤブ医者」

 

その後、俺の頭に制裁の一撃が振り下ろされた。

 



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episode. 4

個人的に嫁さんにするなら、鈴が一番だと思うこの頃。いかがお過ごしですか?

お久しぶりです。店長です。

色々と話しを纏められて来たので、投稿を再開します。
それと、久々に書いたのでちょっとストーリーを把握出来て居ない状態という情けない状況ですが、読んでいって下さい。



午前の授業を受け終わった後の昼頃。

俺は、箒やセシリア達と一緒に学園の屋上を来ていた。

 

「双刃さん。なんか、ISの授業に出なかったわね」

 

「ああ、其れになんかキレてたしな。何かあったのは分かるけど、さっぱりだぜ」

 

「そう」

 

昼食を取る為に地面に座った俺たちの話題は、朝の一限目をサボった双刃さんの話題になった。

あの人とは、まだ会ってから数ヶ月ぐらいしか経ってないけど、真面目で面白い人だと思う。

なんか、勉強してる見たくて放課後とかは忙しそうにしているけど、クラスメイトの人達が勉強を教えに来たら、嫌な顔しないで分かりやすく教えていた。

 

「其れより、あんたまた面倒事に巻き込またんだって?」

 

「あ?ああ、アレか。まぁ、俺の方にも原因があるのかもな‥‥」

 

「はぁ?何よ其れ」

 

作って来た弁当を食べながら、鈴が今朝のボーデヴィッヒに引っ張叩かれそうになった事を聞いて来た。

其れに対する俺の言葉に、近くにいた箒やセシリア、シャルルがこっちを向いて来た。

 

「其れは、どう言う事だ?」

 

「そうですわ。何故、一夏さんにも原因があるのですの?」

 

「そもそも、ボーデヴィッヒさんと一夏って知り合いなの?」

 

三者三様の問いかけをしてくる三人に、俺に聞いてくる。

 

「ほら、彼奴が俺の事を千冬姉の弟となんて認めないって言ったろ?多分、千冬姉が前回のモンドグロッソの決勝戦を不戦敗した理由が、俺だからかなってさ」

 

俺が誘拐された事はぼかして言うが、あんまり分かって居ないのか鈴を除いた三人が首を傾げる。

 

「あんた前々からバカだと思ってたけど。此れほどとは思わなかったわ」

 

「どう言うことだよ。鈴」

 

鈴は呆れた様に手で頭を抑える。そんな鈴に疑問の言葉を投げかける。

 

「あんたを引っ張叩いた奴と千冬さんがどんな関係かは知らないけど、あんたは誰が何と言おうが千冬さんの弟で大事な家族であると言う事には変わりないのよ。他人が勝手にごちゃごちゃ言ってるのなんか気にしなければ良いのよ」

 

「鈴。ああ、そうだな。ありがとう」

 

「ふん。どういたしまして」

 

そう言ってハイタッチをする俺と鈴になんかキツイ視線を送っている箒とセシリア。

俺なんか、感に触る事でもしたか?

 

 

 

 

「そうだ。一夏、あんた早めに降りたら?次時間掛かるでしょ」

 

「あ、そう言えば。すまん。シャルル急ごうぜ」

 

「う、うん」

 

一夏に適当な事を言って屋上から帰ってもらって、さっき私に殺気を飛ばした二人に視線を向ける。

 

「そう言えば気になってたんだけど、二人は何で一夏の事が好きになったの?」

 

「な?!」

 

「なななな何故、其れを?!」

 

「そんなの一夏レベル鈍感じゃなければ、誰でも気付くわよ」

 

カマを掛けたつもりは無かったが、私の言葉にあからさまに動揺して顔を赤らめる二人。

私も前は、あんな感じに顔を赤くして弾に文句とか言ってたのかもね。

 

「お前はどうなんだ」

 

「ん?何のこと?」

 

「一夏の事だ。お前は、私達よりも親しそうにしてるじゃ無いか」

 

「そ、そうですわ!其処んところどうなんですの?!」

 

「私?私は、諦めたわよ。確かに彼奴はカッコいい。人も良い。けど、私にはあいつを振り向かせる事は出来なかった。其れだけよ。悔いなんて無いわ。私は、私の生きたいように生きるもの」

 

中二の中頃。中国に行くのが決まってダメ元で告白してみたけど、彼奴は今までの娘達と同じような勘違いをした。

其処で私の初恋は終わっている。悔しかったけど、其れは自分に魅力が無かっただけだと思っている。

 

「な、何故そう簡単に諦められるのですか?!本当に好きならば、たった一度で諦めたりしない筈ですわ!」

 

「そうね。もし、そうだとしたら私は一夏の優しさだけに惚れてそれだけを見て来たのかもね。好きな人の一面だけしか見ない奴なんて、その人を振り向かせる事なんて出来ないでしょ?」

 

其れにその後の半年ぐらいは、何処か気楽に過ごせた気がする。

 

「あ、其れと彼奴は食べ物に好き嫌いは無いから、出された物はしっかり食べるわ。けど、セシリア。あんた料理の時にはちゃんと味を確認したら?私、あんたの持ってるサンドイッチに嫌な予感がするんだけど‥‥」

 

「そ、そうでしょうか」

 

私の言葉にちょっと驚きながら手に持ったサンドイッチを食べると、セシリアの顔が青くなる。

 

「ねぇ、大丈夫?」

 

「え、ええ、大丈夫ですわ。ですが、アドバイスをありがとうございます」

 

「そ、そう。其れじゃあ、私達も降りましょうか」

 

「そうだな」

 

まだ青い顔のセシリアを気遣いながら、自分達の教室へと戻った。

それにしても、あのシャルルって三人目なんか怪しいなぁ。双刃さんに何処と無く聴けば、なんか分かるかも。

 




それと、鈴の相手書いた方が良いかな?一夏以外で。
案があったら欲しいです!


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episode.5

「おい、こんな所で何をしている。鉄」

 

「どーも、織斑先生。別に何もしていませんよ。ただ、突っ立っているだけっすよ」

 

「そうか」

 

授業終わりの夕方。俺は、学園の敷地内の木陰で木にもたれながら考え事をしていたら、織斑先生から声を掛けられた。

 

「お前、何かあったのか?」

 

「何かって例えばなんすか?」

 

「そうだな。ラウラの事とかな」

 

「‥‥‥」

 

多分この人は、知ってて言っているのだろう。ボーデヴィッヒの名前を出されて黙っている俺を見て、腰に手を当て呆れたようにため息を吐く。

 

「お前が、如何して彼奴の事を嫌悪してるのかは知らないが、異常だぞ?確かに彼奴は、周囲との関わりを持とうとしない奴だが、お前が表に出すような奴じゃないだろ」

 

「ええ、確かに其れだけなら問題ないっすね。けど、其れを受け入れきれるのは普通の人間だけっすよ」

 

「‥‥‥鉄。お前、其れを何処で知った」

 

俺の事に関して少し説教混じりに話す織斑先生の言葉に、考えてた事をそのまま口に出すと、さっきまでの織斑先生の声とは思えない程低い声で聞き返された。

 

「‥‥俺の高校の友達にそう言う事を調べるのが得意な奴がいるんすよ。そいつから聞きました」

 

「そうか」

 

「此処で織斑先生に言っておきますが、俺は人外と言ったものに本能的に嫌悪を抱くみたいで、ボーデヴィッヒは典型的な奴だからこんな状態になってるんだと思います」

 

「そうか。だが、お前は直す気があるのか?その性質を」

 

「あるにはありますよ。唯、其処まで重視してないだけで」

 

何れこの性質の所為で面倒くさい事になるのは分かっている。其れに絶賛そうなってる気がする。

 

「其れより、お前はいつまで隠れているんだ?ボーデヴィッヒ」

 

「そうだぞ。私に用か?」

 

「何時からお気づきに?」

 

「最初っからだ。其れより鉄。お前も気付いていたか」

 

「まぁ、闇討ちされそうになった事あるんで」

 

俺と織斑先生からの指摘の後、俺がいる木陰とは別の場所からボーデヴィッヒが出てきた。

統真から身体を鍛えろと言われてから軽くではあるが、運動だったりしてるし、何故か子供の時から人の気配には敏感だったからすぐ気付いた。

因みに闇討ちされそうになったってのは、本当だ。

 

「其れじゃあ俺は」

 

「ああ」

 

ボーデヴィッヒが来てから俺は、その場を離れて帰路に着く。

そう言えばデュノアの事を調べるのがまだだったな。まぁ、何れにしても何か隠してるだろうな。

 

 

 

「あの男は何者なんですか?」

 

「お前の唯のクラスメイトだ。年上だがな」

 

鉄が去ってからラウラが、鉄について聞いて来た。

 

「其れでどうしたのだ」

 

「はい。では教官。何故このような所で教師などをしているのですか!?」

 

「はぁ、其れは無理だ。私には私のやるべき事がある」

 

予想はしていた言葉に私は頭を抑えて少しだけため息を吐く。

 

「お願いです教官。我がドイツで再びご指導を。ここではあなたの能力は半分も生かされません」

 

「ほう?」

 

続いて出たラウラの言葉に目を細めて圧をかけると、ラウラはビクッ!と身体を震わして顔を強張らすが、直ぐに元の顔に戻して口を続ける。

 

「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている。そのような程度の低いものたちに教官が時間を割かれるなど――」

 

「――そこまでにしておけよ、小娘」

 

「っ!!」

 

黙って聞いていれば、こればっかりはしっかりと言わせてもらおう。

 

「少し見ないうちに偉くなったな、十五歳で既に選ばれた人間気取りとは恐れ入る」

 

「わ、私は‥‥‥」

 

その後ラウラは、言葉を続けきれなくなったのかその場から走り去っていった。

 

「さて、盗み聴きとは、異常性癖は感心しないぞ」

 

「いや!何でだよ!」

 

ラウラが去った後、木に隠れて盗み聞きしていた一夏に指摘すると慌てたように飛び出て来た。

 

「其れよりボーデヴィッヒが、俺の事を嫌っているのって‥‥」

 

「お前の所為では無い。其れにお前が周囲にどう思われても私はお前の姉だ」

 

此奴の頭の中にあるのは、第2回モンド・グロッソで誘拐された事と其れにより失われた二連覇と言う私の栄誉の事だろう。

だが、此奴は一つだけ勘違いをしている。私が、本当に栄誉が欲しかったのなら自分がどうなっていたのかを。

 

「其れよりもうそろそろ帰れ。門限前だぞ」

 

「あ、うん。分かった」

 

そう言って一夏が帰らす。誰も居なくなり、一人になった所で気持ちを出す。

 

「一夏。お前は強い。私とは別の意味で強い。鉄のような実力とも鈴音のような天才的な感覚ともセシリアの知識とも違う力を持っている。其れは、私にも匹敵する」

 

その後の言葉は、言わない。誰かが聞いているやもしれないのだからな。

だが、一夏これだけは言っておく。

 

「強くなったな」

 

 



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episode. 6

「あ、アレは」

 

千冬姉と別れた後、寮に向かって歩いていたら寮の入り口に双刃さんが制服のままが電話をしていた。

 

「ん?ああ、後で掛け直す。分かったら教えてくれ。ああ」

 

双刃さんは、俺に気付くと電話の相手に断りをいれて電話を切ってこっちに歩いて来た。

 

「どうした一夏。何か考え事か?」

 

「あ、いえさっき千冬姉とボーデヴィッヒの事を聞いていたので‥‥‥」

 

「そうか」

 

入り口で話していても邪魔になるだけなので、自室に向かいながら話しをする事になった。

 

「俺正直言ってどうやったら良いのか分からなくて」

 

「そうか。お前はバカか?其れに一夏お前は一つ勘違いしてるぜ」

 

「え?」

 

俺の呟いた声に双刃さんは、頷くといきなりバカかと言って来た。

唐突にそう呟かれた俺は素っ頓狂な声が不意に出てしまう。

 

「お前が今悩んでるのは、自分の存在が織斑先生にどんな影響を与えているのかとか、織斑先生に迷惑を掛けないためには、どうすれば良いのかだろ?」

 

「え、あ、あのそうですけど、其れが如何してバカに繋がるんですか?」

 

双刃さんが言ったことは本当に今悩んでいる事で、けど何で其れが双刃さんのさっきの言葉に繋がるのか余り分からなかった。

 

「一つ目は、俺からはどうしようもないが。二つ目に関しては言っておくぜ。家族ってのは、迷惑を掛けたり掛けられたりするものだ。其れで、邪険に扱うんだったら其れは上っ面な家族だ」

 

疑問に思っていた俺に気にせず双刃さんは言葉を続ける。

 

「お前は一度でも織斑先生に邪険された事はあったか?」

 

「‥‥いえ、無かったはずです」

 

俺が間違いをしたりした時は叱ったりしたが、雑に扱われたり疎遠になった事は一度もなかった。

 

「其れにあの人は強い人だ。単純な力もそうだが心が強い」

 

「心が‥‥」

 

自分の胸を叩く双刃さんに合わせて、自分の胸に手をかざす。確かに千冬姉は、何時も俺の前では弱い所を見せなかった。多分、上手くいかなかった事はあった筈なのに、家に帰って来た時の千冬姉は何時も通りの顔のままだった。

そんな千冬姉が一度だけ俺の前で泣いた事があったな。

 

「俺強くなってるんですかね」

 

「其れを決めるのは俺じゃない。自分で実感しないと分からないだろ?」

 

「そうですね」

 

「一夏。お前は何を持って戦っているんだ?」

 

「え?」

 

まだイマイチ分かっていない俺に双刃さんは、分からない事を聞いてくる。

 

「質問が悪かったな。お前は俺らと戦う時、お前はどんな信念を持って戦っているんだ?大切な人を護るなんて他人のための想いじゃなくて、自分に対しての想いなんか無いのか?」

 

「自分に対して、ですか?」

 

そう言えば俺はISで戦ってる時、皆んなを守ろうとする事以外何を考えているのだろうか。

 

「俺は己の実力を示す為だ。こんな世の中だからな。あんな風に強くなくちゃ意味ないからな」

 

「俺は‥‥‥」

 

「ピンと来ないんならじっくり考えれば良いさ。今決めても決めなくてもこのまま順調にいけば三年間は、此処にいる訳だしな」

 

「それも‥‥そうですね」

 

双刃さんと話して何か少しだけ分かった気がした。

その後は、俺の部屋の方が近いので双刃さんはとは別れて部屋の中に入る。

 

「え、いち、か?」

 

「え?シャ、ルル?」

 

シャルルと同じ部屋だという事は聞かされていた。

だが、此れは聞いていない。

 

「きゃ」

 

「ま、待てシャルル!」

 

「きゃあああぁぁぁ!!!!!」

 

シャルルが“女子”だなんて聞いていない!

 



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episode. 7

一応シャルロット編終了です。
自分なりの終わり方でしたので賛否両論あるかないかも知れませんが、次からはラウラ編です。



「え、えっとシャルルで良いんだよな?」

 

「う、うん」

 

衝撃の瞬間が終わった後、取り敢えずシャルルにはジャージを着てもらいベッドに腰掛けながら話す事にした。

 

もう一度シャルルの身体を確認するが、やはり胸の辺りには女性の証である物がはっきりと分かる。

けど、今はこんな事を考えている場合じゃない。

 

「取り敢えず、説明してくれないか?何でこんな事をしたのか」

 

「うん、分かったよ」

 

二人とも落ち着いた所で俺は話しを切り出した。

今日の実技でも思った事だけど、シャルルは良い奴だと思う。そんな奴が男装までしてくるなんて、何かあるに決まっている。

 

「僕がこうやって来たのはね。僕のお父さんのほら、デュノア社って知ってるでしょ?」

 

「ああ、今日の実技にも出てたな」

 

「うん、其れでね僕は中性的な顔だからって事で、一夏の専用機のデータを取って来いって理由で送り込まれたんだ」

 

シャルルから言われた事に俺は、開いた口が塞がらなかった。

 

「何で、そんな事シャルルにやらすんだよ!お前の親なんだろ!?」

 

「そうだね。でも、僕は愛人の娘なんだ」

 

「なっ!?」

 

最早意味が分からなかった。

愛人の娘とは言え、実の娘を道具のように親が扱う何て間違っている。

 

「引き取られたのが二年前。ちょうどお母さんが亡くなったときにね。父の部下がやってきたの。それで色々と検査をする過程でIS適応が高いことがわかって、非公式ではあったけれどデュノア社のテストパイロットをやることになってね」

 

 バレてしまったとは言えこんな話はしたくないのだろう、シャルルの顔は暗かった。けど、其れを俺は黙って聞いている。

 

「父にあったのは片手で数えられるぐらい。会話は数回ぐらいかな。普段は別邸で暮らしているんだけど、一度だけ本低に呼ばれてね。あのときはひどかったなあ。本妻の人に殴られたよ、『この泥棒猫の娘が!』ってね。参っちゃうよね、本当」

 

あはは、力なく笑うシャルル。そんなシャルルの姿はとても痛々しかった。

その後はシャルルがデュノア社の経営状況を説明してくれた。

それから少し経って、デュノア社は経営難に陥ったらしい。量産機では世界第三位でも、第三世代型のISの開発が遅れていたため、欧州連合からの総合防衛計画『イグニッション・プラン』から外され、その結果政府からの援助が大幅にカット――そして今に至る。

 

「それで、僕は世間から注目を浴びるための広告塔としてここに入学して、あわよくば特異ケースである二名の男性IS操縦者及びその専用機のデータの採取を命じられたんだ。と、まあこんなところかな。一夏にはバレちゃったし、僕はきっと本国に呼び戻されるだろうね。任務には失敗したわけだし」

 

「‥‥‥」

 

先ほどの力無い痛々しい笑顔を見せるシャルルに俺は、我慢の限界だった。

 

「シャルルはどうなるんだよ」

 

「どうって……本国に戻ったら、フランス政府も黙ってはいないだろうし、僕は代表候補生から降ろされて、良くて牢屋行きかな?」

 

「其れは世の中が決めた事だろ。お前は如何したいんだよ!如何なりたいんだよ!」

 

「ぼ、ぼくは‥‥‥」

 

前までの俺だったら、こんな時は多分自分勝手に物事を進めたんだろうけど、今の俺は双刃さんやセシリア達と会って色々な人を見て来た。

だからこそ、こんな聞き方をしたのだろう。

 

「ぼくは、此処にいたい!もっと、一夏や皆んなと過ごしたい!」

 

「なら、そうすれば良いさ。俺も協力する」

 

泣き噦るシャルルを慰めつつ俺は話しをする。

 

「そう言えば、シャルルの本当の名前ってどんなんだ?潜入するにしても本名のまんまじゃないだろ?」

 

「シャルロット‥‥‥シャルロット・デュノアだよ」

 

「そうか。じゃあ、シャルだな」

 

シャルロットじゃあ長いし、シャルなら別に問題ない。

 

「ねぇ、一夏。我が儘言ったけど如何するの?」

 

「ああ、IS学園特記事項第二十一を知ってるか?特記事項第二十一項ってのは、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意が無い場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとするっていう奴だ」

 

つまる所、学園に居る三年間はシャルは大丈夫だって事だ。

如何やるかはゆっくり考えれば良い。時間はある。

 

「けど、二人だけじゃ大変だよ?如何するの?」

 

「双刃さんとか千冬姉に頼んでみるよ。あと、鈴も。三人なら信用できるし、多分気付いてるかも」

 

千冬姉は兎も角、双刃さんとか鈴は何気に勘が鋭い。

 

「でも、今日は寝よう。詳しい事は明日にでも考えようぜ」

 

「‥‥‥うん。そうする」

 

その後、眠る準備をして二人とも寝床へと入った。

 

「おやすみ」

 

「うん。おやすみ」

 

そう呟き眼を閉じ眠けに身を委ねる。普通なら朦朧とする意識の中、はっきりとは分からない筈だが‥‥‥

 

「ありがと、一夏」

 

小さく呟かれたシャルのそんな一言はしっかりと聞こえた。

 



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KARTE.4 ラウラ・ボーデヴィッヒ
episode. 1


ラウラ編始まります。

では、どうぞ!


「今日の放課後の練習に付き合ってほしい?」

 

「はい。それに色々と言いたい事が‥‥‥‥」

 

「ふぅん。まぁ、やる事ないし良いぜ」

 

「ありがとうございます!」

 

シャルとの一件から数日後、色々と落ち着き始めてシャルと双刃さんが馴染みだした時に最近は参加して貰えなかった放課後の練習に付き合ってもらう事にした。

 

「貴様ら席に着け」

 

「皆さん席に着いてくださーい」

 

そんな事をしていたら千冬姉と山田先生が教室に入ってきたので、俺たちは自分たちの席に着いて授業を受ける。

 

 

「双刃さん!是非わたくしに、射撃の指南を!」

 

「指南ってお前なぁー。何事も経験だぜ?それにそんな事をして欲しいなら、俺に連勝しろよな」

 

「それだと指南しなくても良いな。って言うに決まってますわ!」

 

「お?分かってるじゃねぇか。つまり、やだね」

 

「そんな仰らずに!お願いいたします!」

 

放課後になって双刃さんと約束した第2アリーナに着くと、双刃さんが参加すると聞いた瞬間に、物凄く詰め寄って射撃指南をしてもらおうとするセシリアと其れを軽く嗜める双刃さんと言う光景が出来上がった。

 

「ねぇ、鉄さんってそんなに強いの?」

 

「強いわよ。私やセシリアは勝てるけど連勝はした事ないわね。しかも、大抵勝てるのは一番最初の模擬戦が多いわね」

 

「そ、そんなになんだ」

 

「もう一人の転入生がどんなかは知らないけど、少なくとも一年現行トップって所ね」

 

セシリアと双刃さんの光景を見ていたシャルが、隣にいた鈴に疑問を投げかける。

鈴も呆れた感じにストレートに答える。

 

それにしても双刃さん訓練機で、専用機持ちの俺や鈴、セシリアの三人に勝ち越してるんだな。

俺は仕方ないけど、鈴やセシリアは経験も技術も凄いから本当ビックリだな。

 

「へい一夏」

 

「うわぁ!な、なんスカ双刃さん」

 

三人で話してたらセシリアから離れた双刃さんが、豪快に割り込んで来た。

 

「俺を誘った理由は‥‥‥」

 

慌てた俺らとは反対に双刃さんは、平然とした顔で話しを変えて来た。

そして、言葉を途中で途切らすと視線をそのままシャルの方を向く。

 

「へえ?」

 

「やっぱりね。そう言う事」

 

「‥‥えっと、まぁそう言う事です」

 

その動作でシャル以外の俺と鈴は分かったので、白状する。何となくだったがやっぱり鈴も気付いてたみたいだ。

 

「織斑先生にも伝えるつもりなんでしょ?如何すんのよ?」

 

「そっちは俺が口裏合わせとくよ。一夏だけじゃキツイだろ?」

 

「ま、まぁ、そうですね。頼みます」

 

双刃さんの言葉に苦笑いを抑えきれなかったが、本当の事なので潔く認めて双刃さんに頼む事にする。

その後は、セシリア達と一緒に自主練を始めた。

 

 

「ええとね、一夏がセシリアや鈴に勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握してないからだよ」

 

「やっぱり、そうか?分かってはいるんだけどな‥‥」

 

「分かってても、対応出来なければ意味ないだろが」

 

銃火器相手が苦手な俺にシャルが、数分前に終わったセシリアとの模擬戦を見ての感想を述べた。

横でセシリアからの指導の懇願を軽くあしらっている双刃さんも、シャルの言葉に乗っかってくる。

 

「銃火器が白式に無いからって使って見なきゃ分からない事もあるだろう。シャルル貸してみたらどうだ?」

 

「最初からそのつもりでしたよ?其れじゃあ、一夏此れを使ってみて?」

 

双刃さんのアドバイスにシャルは、自分も同じ事を考えていたと賛同すると銃火器を呼び出して、何か操作をした後、其れを俺に渡してきた。

 

シャルから渡された俺は、的に向かって銃を構えて引き金を弾く。

 

ダァーンッ!

 

「如何?何か、思ったことはある?」

 

「えっと、とても速いって感じだな」

 

「そう、速いんだ。ISの瞬時加速(イグニッション・ブースト)もかなり速いけど、弾丸は面積が狭い分もっと速い。軌道予測さえできれば命中させるのは簡単だし、外れても牽制になる。一夏は特攻するとき集中してるけど、それでも心のどこかでブレーキをかけてるしね」

 

「はは、まぁ、分かってはいるつもりなんだけどな」

 

瞬時加速は、クラス代表戦の時に千冬姉に教えて貰った技術で、俺が零落白夜以外に持っている武器だ。

 

「僕も基本銃撃戦を主にしているけど、教えて貰うなら双刃さんが良いんじゃないかな?」

 

「まぁ、俺もそう思って何度か教えて貰おうと思ったけど、軽く流されてるのさ」

 

「はん。何のことだか」

 

「あはは、じゃあ、セシリアの動きを参考にしてみたら?バランス重視の僕の機体や鈴の遠近併用型の機体と違って銃戦重視のセシリアの機体はとても良い見本だよ」

 

シャルから此れからの事を言われていた時、アリーナが騒がしくなった。

 

「‥‥‥‥」

 

後ろを振り返って見たら、其処にはISを展開したボーデヴィッヒが、無言の形相で立っていた。

 



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episode. 2

「ねぇ、ちょっとアレ‥‥‥」

 

「ウソっ、ドイツの第三世代型だ」

 

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど……」

 

そんな周りの騒がしい言葉に乱入して来たのが誰か分かった俺は、一気に自分が不機嫌になるのが分かった。

 

「おい」

 

 ISでの開放回線(オープン・チャネル)で声が聞こえてきた。

 

「‥‥何だよ」

 

渋々といった感じで一夏は、その言葉に反応を返した。

 

「貴様も専用機持ちのようだな。なら話は早い。私と戦え」

 

「イヤだね。理由がねぇ」

 

「貴様には無くても私にはある。――貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様を――貴様の存在を認めない」

 

ボーデヴィッヒの怒りを含んだその言葉に俺は、何故彼奴が一夏に対して嫌悪を抱いているのか合点がいった。

第2回のモンド・グロッソで織斑先生は、決勝まで進んだが何故か決勝には出ず準優勝と言う結果で終わっている。

博斗の奴がボーデヴィッヒの事を教えてくれる序でに知った事だが、第2回の時に一夏は何処かの組織に誘拐されて、織斑先生は一夏を助ける為に不戦敗をした。

 

その時に織斑先生をサポートしたのが、ドイツ軍で織斑先生はその時の恩を返す為に一年ぐらいか教官をしていたらしい。

ボーデヴィッヒは、その時の教え子で。彼奴は、織斑先生の事を狂信しあの人に成りたい思っている。

だから、ボーデヴィッヒは織斑先生の意思とは関係なく二連覇を無くした一夏の事を恨んでいる

だが、俺はあの人が栄誉なんかに興味があるとは思えない。

モンド・グロッソだって、本当は出る気は無かっただろうけど、多分賞金で一夏を養える為だろう。

 

「また今度な」

 

「ふん、そうか。――戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

ボーデヴィッヒはその漆黒の機体を戦闘状態へシフトさせ、肩に装備された大型の実体砲が一夏に照準を合わせた。

その行為で、唯でさえボーデヴィッヒ自体にイラついていた俺の心の中は煮えたぎっていた。

 

「……ちょっと待った」

 

そんな時シャルルが今にも戦闘を開始しそうな一夏とボーデヴィッヒの間に盾を展開して割り込んだ。

 

「こんな密集地帯で戦闘を始めるほど、ドイツの人は沸点が低いんだね。ビールだけでなく頭もホットなのかな?」

 

「貴様……」

 

シャルルの挑発に簡単に乗るボーデヴィッヒ。此奴、本当に軍人か?だが、此れではっきり分かった。

此奴は俺の大っ嫌いな存在だ。

だが、そんなシャルルの言葉で俺は頭がさっと冷えるのを感じた。

 

「フランスの第二世代型(アンティーク)ごときで私の前に立ちふさがるとはな」

 

「未だに量産化の目処が立たないドイツの第三世代型(ルーキー)よりは動けるだろうからね」

 

二人のにらみ合いはその後も数秒続いた。

 

『そこの生徒! 何をやっている! 学年とクラス、出席番号を言え!』

 

アリーナのスピーカーから教師の声が聞こえた。大方騒ぎを聞きつけたんだろう。

 

「……ふん。今日は引こう」

 

何度も横槍が入って興がそがれたのか、そう言ってボーデヴィッヒはアリーナのゲートに戻っていった。

 

「‥‥‥一夏、悪いが俺は帰る」

 

「‥‥‥分かりました」

 

俺の不機嫌な言葉に納得しているのか、少し間が開いたが一夏は了承したので俺はそのままアリーナから去りとあるものの所へと向かう。

 

「あー、久々だ。こんなに気持ちが昂ぶってるのは」

 

そう言えば、前回こんな感じになったのって何時だっけ?まぁ、いいや。どうせ、俺には関係ない事だ。

 

「よお、ラウラ・ボーデヴィッヒ。いきなりで悪いが」

 

「ッ!?貴様は‥っ!」

 

アリーナから出て行ったボーデヴィッヒの前に立って、数十センチの間隔を開けて対面する。

そして、いきなり現れた俺に反射的に襲い掛かったボーデヴィッヒに対応する。

 

「死ねよ」

 

「ガハッ!」

 

拳を軽々と避けて、鳩尾の部分に思いっきり殴りつける。

殴りつけた後、俺は止めずに回し蹴りを頭に当てて隣の壁に叩きつける。

 

「ガッ!き、さまぁ!!ぐっ!」

 

「てめぇ、自分が何やったか分かってんのか?まぁ、分かってねぇよな。分かってねぇからやったんだよなぁ?」

 

やり返そうとするボーデヴィッヒを思いっきり押さえつけて、感情のままに言葉を出す。

アリーナでは、我慢出来るぐらいにはなったが、流石に長くは続かないよな。

 

「何をしている鉄!」

 

「ちっ」

 

「きょ、う、かん‥‥‥」

 

「ラウラ!答えろ鉄!お前は、何をしていた!」

 

言葉を続けながらもう一発顔面に入れようかと思ったが、織斑先生が来たのでボーデヴィッヒを解放する。

そして、怒りを露わにしている織斑先生に向き直り何時もの雰囲気で話す。

 

「見て分からないっすか?このクソッタレをぶっ飛ばしているだけですよ」

 

「何でそんな事をしている!お前は、人を救うんじゃなかったのか?!」

 

「は、人?何言ってるですか織斑先生。此奴は、人じゃない。この世で俺が一番大嫌いなものが人外(クソッタレな奴ら)だ!人は救うだが、人外(此奴ら)を救う気なんて鼻からない!寧ろ、ぶっ殺したいぐらいだ!」

 

お互い感情的になるが、俺の放った言葉に絶句する織斑先生。

 

「興醒めだよ。織斑先生、此奴がやったことはもう知ってますよね?もし、此奴が彼奴らに害意を加えたら分かってんでしょうね?」

 

「‥‥‥ああ、分かっている。鉄。後で話しがある寮長室に来い」

 

「分かりました」

 

そう言って織斑先生とボーデヴィッヒと別れた。

 

その晩、織斑先生の居る寮長室に行って、色々と話しをしたが俺のボーデヴィッヒに対する価値観は変わる事は無く。

余計に無関心な物へとなった。

 

 

 

 

 

「この世で、一番大嫌いなもの、か。ふふ、じゃあ僕はどうなんだい?君と最も長く過ごした人外(クソッタレな奴ら)だよ?」

 

俺の寮部屋のベランダで呟かれた彼奴の言葉に対して、俺は何にも言わなかった。

いや、何も言えなかった。

博斗(此奴)が、俺の人外嫌いの価値観に全く当てはまらないから。

 

ああ、本当に今日は一日中最悪だ。

 

 



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episode. 3

「教官」

 

「何だ。門限までにはちゃんと部屋に帰るんだぞ」

 

「いえ!待ってください!少しだけ教えて下さい!」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ達が、IS学園に転入してきてから一週間が経った。

転入してきた二人の学徒達は、お互い共に何かしらの問題を抱えていた。が、ラウラ・ボーデヴィッヒではないもう一人のシャルル・デュノア。本名 シャルロットデュノアは、二人の男子学生のお陰で、事なきを得て、今は年相応な学園生活を送っている。

 

だが、ラウラ・ボーデヴィッヒは、そう簡単では無かった。

 

「はぁ、言っておくが軍には戻らないぞ。私には此処でやらねばならない事が有るからな」

 

「何故ですか?!此処の生徒達は、ISの事をファッションか何かかと勘違いしている様な半端者ばっかです!そんな者たちに構ってばっかでは教官の能力は半分も活かせません!」

 

自分がIS学園(此処)に向けられた事が、自分の教官であり今の担任である織斑千冬の軍の教官への再勧誘だと思っているラウラ・ボーデヴィッヒのそんな言葉に、千冬の纏っている雰囲気が変わる。

 

「ほう?言う様になったな」

 

「っ!?」

 

学園での通常の凜としたオーラでは無く。国家代表時代の試合で纏っていた猛々しい獲物を狙う猛獣の様なオーラを発するラウラは、怯え怯んでしまう。

 

「確かに学園にいる生徒達の大半は、ISがもたらす影響を違う形で認識している。だが、それは当然の事だ。奴らをちゃんと正すのが教師の仕事であり、私のやるべき事だ」

 

現役時代、誰一人自分の場所へと至らなかった。至った者と戦えなかった事が、引退する時の唯一の心残りだった。

引退した後、学園長から学園で教師をしないかと誘われた時、最初は断ろうと思った。

その時の千冬は、今のラウラが言ったようにISの事をちゃんと知っていない者たちに教えるのは、何処か抵抗があった。

 

「其れにな。私に届き有る奴らが居る。其奴らが、これからどうなって行くのかを見てみたくなった。長年待ち続けた機会が生まれそうなんだ」

 

学園長が、その時の言葉が未だに千冬の脳裏には残っている。

 

『誰も貴女に届かなかった。貴女は、強過ぎる自分に飽き飽きしていた。貴女に届く者が“今”居ないのなら“未来(さき)”に作れば良いのです。世界最強である貴女自身が教えて』

 

そうだ。居ないのなら作ればいい。私が持てる技術と経験を生かし、私に届く奴を。

その言葉がIS学園で千冬が教師をしている理由であり、ラウラの誘い受ける気の無い理由でもある。

 

「其れと言っておくが、ラウラ。今のお前では、私を満足出来るのか?全力の私を満足出来るのか?私が、見てる奴らの中の一人は居るぞ。誰とは言わないがな」

 

強く凛々しい千冬に憧れ、そんな千冬に成りたいと思っていたラウラは、今の自分の本能を出している猛々しい千冬に驚きを隠せなかった。

そして、そんな顔をさせる奴のことがとても憎く感じた。

千冬の弟の一夏の事を目の敵にしている理由と同じ気持ちを感じながら。

 

「教官は、何故そんな者達に囚われるのですか!?見込みがあるとは言え、一般人である筈です!そんな平和ボケした奴らなんかより、私の方が!」

 

「一般人?平和ボケ?可笑しな事を言うなラウラ。私は、軍人でも無ければ、元々はお前の言う平和ボケした一般人だぞ?」

 

「え、いえ、そのような事は‥‥‥」

 

千冬の言葉にさっきまでの威勢が嘘の様に無くなっていくラウラ。

 

「ふっ、まぁ、今はもうどうでも良い事だがな」

 

怯えるラウラに対して、千冬は何時もの雰囲気に戻りそのまま自分が向いていた方へ歩いて行く。

重圧から解放されたラウラは、其処にへたれこんだ。

 

「織斑一夏‥‥‥!お前を倒せば!お前が居なくなれば!」

 

今までよりも深い憎しみを身に纏いながら。

 



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episode. 4

『敵捕捉。数、三機』

 

「了解!」

 

耳のインカムからのアリスの声を聞き、稲叢神楽経由で表示されるレーダーサイトを頼りに其処へと駆ける。

 

「ゴーレム?いや、彼奴の固有能力か」

 

抜け出て俺の前に現れた敵は、博斗の奴が誘った新入りが持つAUWの固有能力で造られたであろうゴーレム達だった。

成る程、だからアリスが三“機”って言ったのか。

 

「まぁ、さっさと片付けますか」

 

未だ納刀したままの神楽の柄に手を掛け、接続する。

 

「んじゃ、散れ」

 

只今俺は、絶賛模擬戦中である。

 

 

「ーーーーッ!」

 

「言語能力は無い訳か。まぁ、んな事関係ねぇがな」

 

俺を視認したゴーレム達は、言葉になっていない叫びを上げて俺に拳を振りかざす。

いくら神楽でも、余り硬い物を切れば刃毀れするし折れる事だってあるのだ。だから、避けられる物であれは避ける事を優先するし、硬すぎる物だったら、出来る限り切ったりはしない。

 

ただ、其れは博斗の頭の中での戦い方だ。

 

「オラァ!」

 

バァンッ!

 

あのヤブ医者が俺の事を人外と言うのは、並外れた身体能力があるというだけではない。普通の人間とは比べ物にならないぐらいの身体の強靭性と言う事も入っているのだ。

一体目の拳を、自分の拳で殴り返して弾け飛ばし、すぐ様跳躍して距離を取る。

 

「さぁて、彼奴らは何をどんな風にやって来るのやら」

 

この時の俺は、ヤブ医者の野郎と喧嘩した時並みの高揚感が俺を包んでいた。

 

 

 

「見ました?今の?可笑しく無いですか?幾ら、強化されてるからって、原爆以上の衝撃でもビクともしなかったゴーレムですよ?其れを片手で殴り返して弾け飛ばすなんて、人じゃないですよ」

 

「落ち着け。あの人が言ってただろ。人外だって」

 

統真が暴れている場所から少し離れた場所で、三つの人影は先ほどから確認できる人外の所業に、驚かされてばっかりだった。

 

「博斗さんが言ってた。この模擬戦実力を測ると同時に、他の意図があるのだと」

 

「個人的には、他の意図ってのが物凄く気になりますが、あの人の事だ。分かる訳が無いですね」

 

落ち着きのない女性の声と、何処か呆れたような口調の男の声。そして、最初の女性とは違う落ち着きのある男の声。

そんか声の持ち主達は、此れから如何するのか話しを始める。

 

「先ず、目的の確認をしましょう。今回は、別に勝つのが目的ではなく。我々の実力の示す事です」

 

「て事は、玉砕覚悟で行くよりも如何やってあの人の裏を書くかって事か?」

 

「そうなります」

 

冷静に作戦を会議をする男二人に対して、女の方は二人の会話の内容をイマイチ分かっていないようで、頭の上にはハテナマークが、飛び交っているようだ。

 

「加奈さん。仕事しますよ」

 

「え!?う、うん!任せて!」

 

いきなりの呼びかけに慌てて応じ、冷静な男から内容を簡単に聞いて実行する。

目指すは、一撃。

 

 

『敵沈黙。彼方は、時間稼ぎのようです』

 

「ああ、言わなくて良い。分かってて時間掛けた。そこんとこ、減点されるのか?」

 

『博斗様から“多めにみる”だそうです。其れから“存分にやれ”です』

 

「はっはっ!アリアからそんな風に聞くと色々と、気が狂うわ」

 

抑揚の無い冷たい言葉をインカムから聞き流しながら、来るであろう襲撃に備えてAUWの力を最大限に使って五感を限界まで研ぎ澄ます。

 

「アリア。感覚同調と制限解除。それから、六感の解放よろしく」

 

『了解しました。統真様』

 

眼を閉じ、腰にこさえた神楽の柄に手をやる。

六感。と言っても、簡単に言えば直感が鋭くなるってだけだが、ヤブ医者や博斗曰く感覚派の俺には、其れがあるか無いかで変わって来る。

 

『敵行動に移しました。会敵まで5秒』

 

「了解!」

 

殆んど無音の世界の中で、ほんの微かに聞こえる音などに神経を研ぎ澄まし、アリアが宣言した5秒から3秒経った瞬間に、神楽を抜き居合斬る。

一瞬の内に三度ほぼ同時に。

 

「獣爪」

 

三つに飛んでいった斬撃は、血を切り裂くように木々を切り裂いて行く。

 

「外した?いや、明らかに手応えはあった。‥‥‥成る程、て事は、此れは如何だ?!」

 

抜き身になっている刀身を横薙ぎに払う。円と言う一対多用の技だが、此れは弱点がある。

射程の短さ。威力が徐々に減っていく。次の技への繋ぎが難しい。など、連続攻撃を主とした俺の剣術には合わない物だが、神楽と言うバケモノを持てば其れは、全て解消される。

 

「拡張斬撃」

 

円を描かれた斬撃は、俺の呟きと同時に大きさを変え、幅を広げ超速で、周りの殆んど木々の根元を斬り捨て、見晴らしの悪かった一面から、障害物の無い更地へと変えた。

 

「策は悪かねぇ!けど、こちとら常識外れの人外って言われたんだ。普通の策が通じると思うな!」

 

突然の事で戸惑っている新人三人に対して、俺は高々と声を上げた。

 

「自由断絶+拡張斬撃」

 

その後、俺の必殺技が放たれ、この模擬戦は俺の勝ちで終わった。

 

 

 

「お疲れ様です皆様。ドリンクをお持ちしましたどうぞ」

 

「あ、ありがとうございます?」

 

「何故、疑問形なんだよ」

 

「まぁまぁ、僅か数日前まで、こんな事は無かったんだ。戸惑うさ」

 

模擬戦を終え、神楽の手入れをしていたら俺のサポートをしていたアリアが、栄養ドリンクを持ってきて、ぶっ倒れている三人に渡した。

 

「それにしてもお前ら詰めが甘いな。特に加奈は、咄嗟の事に対応しきれて無いな。其れと策は、悪く無いが其れは普通の奴にしか通じんな」

 

俺の指摘に加奈は、「うっ!」と声を上げ、策を考えたであろう四郎は、顎に手を置き考えしだす。

だが、まぁ此れならちゃんとやっていければ、ヤブ医者のクソッタレぐらい超えられるだろうな。いつか。

 

「其れにしても、最初の奴で辺り一面更地にした技ってなんですか?」

 

「ん?なんだ海斗。知りたいのか?って言っても、ありゃ技じゃなくて神楽の能力だよ」

 

「拡張斬撃と言う。放たれた斬撃を威力そのまま、大きくするというものです」

 

「おい、アリア。何人のセリフ取ってんの?」

 

「行けませんでしたか?」

 

「ダメじゃねぇけどな」

 

アリアの奴にセリフを取られたが、別に拘っていないので、スルーする事にしたが、何故か海斗や加奈の奴があんぐりと口を開けていた気がするが今はどうでも良い。

 

「よし。休憩終了だ。各自、自由時間!」

 

「「「は、はい!」」」

 

なんか、胸騒ぎがするな。

危ないと言うよりも、メンドくさい方面で。

 

 



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episode. 5

「ねぇ、一夏は、トーナメントに出るんだよね?」

 

「ああ、何処まで行ける分からないし、自分の実力がどんなぐらいなのか分からない。けど、知りたいじゃん。俺は何処まで行けるのかってさ」

 

「そうなんだ。まぁ、でも。当たっても手加減なんかしたやん無いからね」

 

「望む所だ」

 

俺の隣を歩くシャルと、何気なく話題を出たトーナメントで思い出すのは、千冬姉達とシャルの此れからについて話した時、千冬姉が言った。

 

『此奴の事を守って見せると言う意思を実力で示せ』

 

そんな千冬姉の言葉に俺は、力強く頷いた。

その後、シャルの家の問題は、大丈夫だ。任せろと千冬姉に言われ、シャルは、元気にやっている。

 

「其れにしても、やっぱり双刃さんは出ないんだね」

 

「あの人は、ISよりもやりたいことが多いから仕方ないさ。其れより、今日も模擬戦してくれないか?」

 

「いいよ。今度も打ち負かせてあげるよ」

 

「うっ!今度こそ勝ってやるからな!」

 

そんな風に談笑をしながら、今日の練習場の第三アリーナに来てみたら何処か騒がしかった。

 

「なんか、アリーナの方が騒がしいな」

 

「そうだね。どうしたんだろ‥‥‥」

 

シャルと二人して、その状況に対して怪訝に思いながらフィールドの方へと足を進める。

 

「誰か戦っているみたいだね。アレは‥‥‥」

 

「セシリアと鈴と‥‥‥ラウラ?!」

 

フィールドへと目をやった俺たちの前で戦っていたのは、セシリアと鈴とラウラの三人だった。

セシリアと鈴の二人対ラウラの一人だったが、明らかにセシリア達の方が不利であった。

 

「どうなってるんだよ‥‥‥!」

 

「多分、セシリアと鈴が、ラウラと二対一で戦ってるってのは分かるけど、明らかに二人の方が不利だね……」

 

「いや、そんな事は俺でも分かる!聞きたいのは、何でこうなってるのかだ!」

 

気持ちが高ぶっているのか、悪気は無いけどシャルに向かって、強く当たってしまう。

 

「くそっ!」

 

「あ、ちょっと待ってよ一夏!」

 

居ても立っても居られなくなった俺は、その場から駆け出してアリーナのピットへと走る。

 

 

 

 

「アリーナが何か騒がしいな」

 

散歩をしていて、第三アリーナ辺りに差し掛かった時、アリーナの外からでも聞こえるぐらいアリーナの中が、明らかに騒がしかった。

 

「‥‥‥確認だけして行くか」

 

そんな俺の言葉とは違って、俺は駆け足でアリーナへと向かう。

 

「ん?!こりゃ、どう言う事だ?何で、セシリアと鈴の奴がボーデヴィッヒと戦っているんだ?!」

 

思わず身を乗り出しそうになったが、取り敢えずフィールドへと向かう。その途中、訓練機を使っていたクラスメイトからラファールを借りて、ピットから飛び出す。

 

「セシリア!鈴!退がれ!」

 

「双刃さん?!」

 

「ふん!もう一人の男か。専用機でも無いくせに!」

 

「其れは、どうかな?!」

 

このラファールの装備は確認している。

俺は、ブレードを展開するとそのままボーデヴィッヒへと投げつける。

だが、そのブレードはボーデヴィッヒの目の前で止まった。

 

「ふん。そんな物このAICの前では、無意味だ!」

 

「はっ!だから、言っただろ。どうかな?ってな?!」

 

ブレードを止めたボーデヴィッヒは、冷徹な笑みを見せるが、俺は其れを意に関せず、ショットガンで射撃する。

そして、その攻撃をボーデヴィッヒは、止めようとするが、放たれた弾丸は止められる直前に爆裂を起こした。

 

「調子に乗るなぁ!!!」

 

「其れは、こっちのセリフだ。ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

 

怒りを露わにして俺に突撃してくるボーデヴィッヒに対して、ショットガンからマシンガンに変えた俺は、距離を保ちながら射撃を続ける。

にしても、このラファール俺が使ったラファールと同じ装備じゃ無いか?何で、こんな設定になったんだ?

 

「おいおい、どうしたよ!?言っとくがな!お前の動きは、全部読みやすいんだよ!」

 

「くっ!貴様ぁ!!!」

 

俺の挑発に簡単に乗るボーデヴィッヒ。はは、もっと乗れ。そしたら、お前の動きはもっと分かりやすいのだからな。

 

「今だ!」

 

「ふっ!何をすると思えば、私の前で接近戦を選ぶなど愚策中の愚策だ!」

 

「はっ!お前は、見聞が狭いな!其れは、一対一の時だけだぜ!」

 

「もらったぁ!」

 

「なっ!ガハッ!」

 

急に突撃した俺に対して、自慢げにAICを使うボーデヴィッヒに対して、俺は余裕を持った笑みを浮かべると、ガラ空きの背後に一夏からの一撃をモロに受けた。

 

「ナイスタイミングだぜ一夏」

 

「そんな事は後にしてください」

 

「そうだな。どうしたよラウラ・ボーデヴィッヒ。お前、俺の事を睨みよって」

 

「き、貴様が何故!」

 

「はっ!言っとくが、此れは俺とお前との一対一じゃ無い。お前と俺たちとの多対一だ。俺にだけ、集中したお前の失態だ」

 

一触触発と言った雰囲気の中、ボーデヴィッヒと一夏が同時に飛び出した。

俺も構えようかと思ったが、視界の端に見えた人影を確認して武装を解除する。

 

そして、二人の間合いが重なった時、ボーデヴィッヒのプラズマ手刀が誰かによって受け止めらた。

 

「……やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

 

「きょ、教官?!」

 

「千冬姉?!」

 

現れた織斑先生は、IS用の近接武装を、ISの補佐なしで扱っていた。織斑先生がぶうん、と刀を振ってボーデヴィッヒを退けた。

 

「模擬戦をやるのは構わん。――が、アリーナのバリアーまで破壊する事態になられては教師として黙認しかねる。この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」

 

「教官がそう仰るのなら」

 

「分かりました」

 

織斑先生の言葉を聞いて、二人ともISを解除する。俺は、借りたクラスメイトの方へと飛び抜ける。

返して、お礼をして寮室に戻ろうとして、ふと思い出した事を聞くことにする。

 

「そういや、このラファールの装備、俺がセシリアと戦った時と同じ装備だけどなんで?申請しないと搭載されない奴が盛りだくさんの設定なのに」

 

「え、えっと、あは、あはは‥‥」

 

「OK、聞かないでおくよ」

 

かなり気になったが、多分知ったところで俺には意味のない事だと完結して寮室への帰路へと着く。

 



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episode. 6

「「‥‥‥‥」」

 

先ほどの第三アリーナでの一件から一時間が経った。保健室ではセシリアと鈴がの二人は何処か不満そうな表情でベッドの上にいた。

模擬戦を始めてから其処まで経っていなかったからか、鈴は打撲や切り傷程度で、セシリアは痣や打撃痕と二人の体に巻かれている包帯の量は、大袈裟にする程の物では無いと語っていた。

 

「別に助けてくれなくても良かったのに」

 

「あのまま続けていれば勝っていましたわ」

 

「いや、強がんなよ‥‥‥」

 

大袈裟な事にはなっていないが、明らかに怪我をしていながら強がる二人に対して、一夏の奴が呆れているが、今度はその呆れている一夏に対して当たり始めた。

はぁ、鈴は唯たんにこう言う事が嫌なだけで、セシリアは好きな奴に醜態を晒したのが嫌だったんだろうな。

 

「其れより、何であんな事してたんだ?お前らとボーデヴィッヒは、繋がりが無いだろ」

 

「そう言えば、どうして何だ?」

 

「そ、それはですわね‥‥‥」

 

「はぁ、私たちが彼奴の挑発に乗ったのよ。ああ、思い出しただけで、イラついて来た」

 

俺と一夏の問いに対して、言いづらそうにしているセシリア見かねてか、鈴の奴が説明するが、その時のボーデヴィッヒの言葉を思い出したのか怪我しているにもかかわらず、ベッドを叩いている。

その光景に、多少呆れるが、直ぐに意識を戻す。

 

「お前ら、何てその時に言われたんだ?並大抵の挑発には、あんまり乗らないだろ」

 

「そう思いたいんだけどね。あの時はイロイロと冷静じゃなかったかも」

 

「そうですわね。わたくしも、やはり冷静で入られませんでしたかもしれませんわ」

 

具体的な事は、言わなかったが二人のしだれ具合で大体は予想出来た。

大方、ボーデヴィッヒの奴は一夏の事を目の敵にしているから、一夏と親しい此奴らに対して、一夏の事を誹謗中傷したんだろうな。

ほんと、気に入らねぇ事しやがるな。

 

其処まで考えた所で、何か音が近付いてくるのが分かった。

 

ドドドドドドドドドドドドド!!!!

 

はっきりと騒音が聞こえたと同時に病室のドアがバタァン!と勢い良く開かれて、というか蹴破られて、大量の女子が雪崩れ込んできた。怪我人に悪いことこの上ない。

 

「織斑君!」

 

「デュノアくん!」

 

「鉄さん!」

 

「「「「「これ!」」」」」

 

状況がいまいち飲み込めない俺たちに、女子一同がいっせいに差し出したのは、緊急告知が書かれた申込書だった

其れを受け取った一夏が、朗読し始める。

 

「『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、二人組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』――」

 

「ああ!其処までで、良いから!」

 

其処まで言った所で、大体の流れは分かった。つまり、此処に来た女子達は、男子である俺や一夏と男子と認識されているシャルルと組みたいと言う訳か。

 

「悪いな。俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」

 

詰め寄られる一夏の口から出た苦し紛れの一言は、シャルルの奴と組むと言うことだった。

 

「まあ、そういうことなら…」

 

「他の女子と組まれるよりはいいし……」

 

「男同士っていうのも絵になるし……ゴホンゴホン!」

 

一夏がシャルルと組むと聞くと、残念がっていたが何処か安心したような様子だったが、最後はちょっと許し難いなぁ。

そして、一夏達の方を見ていた女子達は、顔を俯いていたが俺を見た途端に、獲物を見つけたハンターの様に詰め寄って来た。

 

「あー、俺は出ないぞ?」

 

期待に満ちた目をしていた所為か、物凄く言いづらかったが、此処はきっぱりと断る。

まぁ、仕方ないんだよな。

 

 

「あ、そう言えば何で双刃さんは、出ないんですか?」

 

「んー、あー、其れ聞いちゃう?」

 

コクコクと、俺の言葉に頷く一夏達に降参と言った方にして、椅子に腰掛けて理由を話す。

 

「一夏とかには、言ったが俺の志望職は医者な訳だ。此処に来ると決まるまでは、大学の医学部目指してたからな」

 

まぁ、合格したけど、こんな状況だ。と皮肉りながら、話しを続ける。

 

「IS学園に居る今でも、その目標を諦めちゃいない。だから、トーナメントは出ないで、そっち方面の事をするんだよ。あ、因みに織斑先生には、ちゃんと許可貰ってるから」

 

俺の言葉に納得したのか、其々の話しをし始める。

悪いな。彼奴らが、来るかもしれないんだ。俺が、引き受けないといけねぇんだよ。

 



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episode. 7

日常回だけど、書き終わって何を書きたかったのか分からなくなりました。



トーナメント前日

 

IS学園の屋上で、二つの人影がそれぞれ柵にもたれかかって、風に当たっていた。

 

 

「良かったんですかー?前日とは言え、いきなり休日にして。幾ら、織斑先生とは言え発言力は其処まででしょう?」

 

「ふっ、心配要らない。この事を考えたのは、学園長だからな」

 

「成る程、其れなら納得です」

 

柵にもたれて、風に当たっていた俺は、隣に居る織斑先生に急遽休日となった今日の日の事について聞くと、この学園の学園長自ら考えた事の様だ。

何とも、裏がありそうな内容だ事だ。

 

「其れより、お前はこんな所で何をして居るんだ?トーナメントに出ないとは言え、一夏やその他の連中に教える事ぐらいは出来るだろ?」

 

「教えるって、俺は先生みたいには出来ませんよ。一緒にやって相手になるなら未だしも師事するなんて、俺では技量が足りませんよ」

 

「ふっ、何を言うか。この前やらした山田くんとの模擬戦も勝ったでは、無いか。皮肉か?」

 

「違いますよ。アレは、山田先生のミスですよ。俺の実力じゃあ、単純な戦闘だったら完敗ですよ。あの時だって、辛勝でしたから」

 

「其れこそ、皮肉であろう。戦いに置いて単純なモノが何処に有るか。様々な事を戦いと言う枠に当てはめて相手を屈服させるのが戦いだ。過程はどうであれ、大事なのは勝ったのか負けたのかだ。そして、お前は山田くんに」

 

「勝った。そんな事わかってますよ。でも、俺は、自分が認められる様に出来なきゃダメなんすよ」

 

「面倒だな」

 

「親友達にも言われましたよ」

 

他愛ない話しをしながら俺は、隣に居る織斑先生や話題に出た山田先生の事を考える。

織斑先生は兎も角、山田先生はクラスメイトの連中にかなりの頻度で、舐められて居る。

 

けど、戦った俺は山田先生がどれほど凄いのか分かる。

両方が乗ったのは、同じ装備のラファールだ。そして、俺は何時も通りに模擬戦やらをやる時と同じ様に戦った。

 

山田先生の行動パターンを幾多も考えて、その全てのパターンに対する対応策を考えて、行動した。

でも、実質アレは負けだ。

 

「自分が優れて居る何て、一度も思った事はない。でも、目指し続けるのは、何時も最善を尽くせる自分だ。か」

 

「ん?誰の言葉だ?」

 

「ん?あ〜えと、俺の親父の言葉です。親父は、外交官であんまり会いませんけど、会えた時は何時も色んな事を教えてくれるんです。其れで、勉強で行き詰ってたり、色々と上手くいかなかった時には、良くこの親父の言葉を思い出すんです」

 

「‥‥良い父親だな」

 

「ええ、親父の所為で、医者か外交官どっちなろうか悩みましたよ」

 

そう答えるが、織斑先生の顔に何処か影が見えた。

其処まで、考えてシャルルの事を解決した時の事を思い出す。

 

「(そうだった。一夏達織斑姉弟には、親が居ないんだったな‥‥)」

 

人間誰しも居るはずの親が織斑姉弟には、居ない。いつだったかは知らないと一夏は言って居たが、まぁ、多分十年前以降の一~二年だろうな。

まぁ、でも親が居ないっていう共通点としては、ボーデヴィッヒの野郎も含まれるな。

けど、織斑姉弟は捨てられて彼奴は造られたって言う違いがあるがな。

 

「鉄。お前は、何故強いのかと聞かれて何と答える?」

 

「また唐突に何ですか?まぁ、そうですね。俺だったら、強く居られるモノがあるからですね。いつだか言いましたよね?医者になって、救いたい奴が居るって」

 

「ああ、だからお前は此処に居ようとも医者になると言う事を諦めなかったからな」

 

「ええ、其れと織斑先生にもあるんじゃ無いですか?強く居られるモノが」

 

「‥‥ふっ、そんな事勘のいいお前なら分かるだろ?」

 

「こりゃ、愚問でしたね。じゃあ、今度は俺から。強さって、何だと思いますか?」

 

「‥‥‥」

 

今度は、織斑先生の質問に答えた俺が質問しする。

そして、俺の質問に織斑先生は押し黙る。

 

「‥‥鉄、お前はどう思うんだ?」

 

「俺ですか?そーですねー」

 

質問しているのに質問を返してくるが、何故そうするのか分かっているから。

 

「心の在り方。過去。言葉ですね。力が強さなんてそんな訳が無い。強い心の在り方の人は、どんな物にも屈しない。過去は、その人の成し遂げた事、やり遂げた事を語る。言葉には、その人の今までの重さが乗る。まぁ、何が言いたいか完結しますと、人其々が持っているモノで、強弱は無く。その人の持っている今までがその人の強さなんだと思います」

 

「‥‥‥‥」

 

長々と語る俺に、何も言わない織斑先生にため息を吐いて、聞く。

 

「‥‥織斑先生。貴女は自分がして来た今までの事をどう思っているんですか?」

 

「‥‥‥‥」

 

問い掛けに対しても無視。けど、柵を握る拳には力瘤が浮かぶ。

鉄柵がミシミシ言ってる何て、俺は知らない。

 

「‥‥私は‥‥‥分からないのだ。今までやって来た全てが良いことでは無い事や悪い事ではない事は分かる。だが、其れが果たして自分にとって正解だったのかわな‥‥」

 

「‥‥‥はぁ」

 

ようやっと吐き出された織斑先生の言葉に、思わず呆れの溜め息が出てしまう。

 

「何を当たり前の事を言っているんですか織斑先生」

 

「‥‥‥何?」

 

「自分がやって来た事が、果たして自分にとって良かった事なんて誰も分かる訳が無いんですよ。人間は間違う生き物です。何度も間違いをし、何度も失敗をする。けど、其れと同時に進化出来るんです。貴女が、此れまでに何をして来たのかは知らないですけど、人生の半分も生きて居ない人が、自分の今までが正解だったのかなんかで、悩まないでくださいよ」

 

そんな言葉を残して、俺は屋上を去っていく。

あれ以上、()3()()()()()()()カッコつけたくねぇからな。

 

「当日まで、後半日かぁー。はぁ、憂鬱だぜ‥‥」

 

今回、お前らが何をしようとするかは知らんが、見逃してやるよ。

精々、良い結果を出せる様に頑張れよ。博斗、統真。

 

 



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episode. 8

ざわざわと次第に賑やかになって行く観客席の一角で、俺はクラスのメンバー達と談笑しながら時間を潰していた。

 

「そう言えば、何で双刃さんは出なかったんですか?」

 

「はは、それ聞かれるの2回目。まぁ、単に興味がなかったからかなぁー」

 

「えー、本当ですかー?」

 

「おうおう、マジも大マジだぜ」

 

他愛ない会話をしながら俺は、此れから起こるであろう不測の事態がどんなものなのか出来る限り考えていた。

だが、考えつくものはどれもあのアホどもが出向いて解決しようとしなくてもいいものばかりが思い浮かんで来た。

 

「‥‥‥所詮、俺にはあいつらの考えは分からんか」

 

「?何か、仰いました?」

 

「いや、何にも気にしないでくれ」

 

「?そうですか。分かりましたわ」

 

誰にも聞かれないと思って呟いた言葉を隣に居るセシリアに聞かれたかと思ったが、どうやら上手く誤魔化せたようだ。

そして、隣に座るセシリアの容態を今一度見る。

 

「それより良かったのか?お前も出なくて。身体の方は大丈夫だろうが、色々とお前に取っても良いことがあるんじゃ無いのか?」

 

「そうですわね。確かに、私が出場したら私にとって沢山の経験を得られるのでしょうけど、ボーデヴィッヒさんと戦い己の弱さを実感しましたわ」

 

そう言うセシリアの顔には、何かを覚悟したような確固たる強い意志を見て取れた。

今まで傲慢とも取れるほど自分にかなりの自信を持っているセシリアにとって、ボーデヴィッヒと言う同い年で本当に強いと思える存在は意志を確立させるには十分だったんだろうな。

 

「私の今の目標は、私の強さを見つける事ですわ。出来るでしょうか?」

 

「出来るさ。なんせ‥‥いや、やめとくわ」

 

「何ですの?かなり気になりますわよ?」

 

「はは、気にすんな」

 

俺の言葉に訝しそうに顔を向けるが、少しして諦めたようにアリーナのフィールドへと視線を戻す。

 

「(心配する事はない。なんせ、お前はもう既に自分の強さを見つけているのだから)」

 

そう心で思いながら、第一回戦の組み合わせが発表されそこに目を向けて思わず呆れた。

 

「あいつは運が良いのか悪いのか分からんな」

 

「ええ、全くですわ」

 

第一回戦

織斑一夏&シャルル・デュノア

vs

ラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之箒

 

 

 

「いよいよだな。シャル」

 

「そうだね。でも、凄い偶然だね。初戦の相手があのボーデヴィッヒさんだなんて」

 

「はは、確かにな。でも、どの道戦う相手なんだその時が早まっただけだからな。俺としては、色々と都合は良かったな」

 

トーナメントの選手室で俺は、次の相手に選ばれたボーデヴィッヒの事を考えていた。

ボーデヴィッヒは多分、専用機持ちの中で最も強い奴だと思う。

双刃さんが応戦していた時もあいつは、殆んどの攻撃を防いでいた。

双刃さんは、代表候補生であるセシリアや鈴を相手にしても高確率で勝つ人だ。そんな人の攻撃を訓練機とは言え全て防ぎきるのだから、ボーデヴィッヒの実力は相当な物なのだろう。

 

「一夏。作戦の内容は覚えている?」

 

「ああ、大丈夫だ。双刃さんの言葉を借りるなら「力の強さと試合の結果は同列じゃない」って感じた」

 

「ふふ、意味分かんないけど何となく言いたい事は分かったよ」

 

「そろそろ行くか」

 

「そうだね。頑張ろうか」

 

「おう!」

 

そう言葉を返し、俺とシャルはISを展開してフィールドへと飛び立った。

さてと、始めますか!

 



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episode. 9

トーナメント当日。学園サイドの話です。



「まさか、一戦目で当たるとはな。待つ手間が省けたというものだ」

 

「そりゃあ何よりだ。こっちもお前と全く同じ気持ちだぜ」

 

アリーナのフィールドで向かい合いながら、獰猛な雰囲気の一夏とラウラは開始の合図を今か今かと待ち望んでいた。

そして、その空間をアリーナの観客席に座る観客達は固唾を飲んで見守っていた。

其れもその筈だ。世界で三人しか居ない男性IS操縦者のペアとドイツのIS部隊の隊長とIS開発者の妹のペアが戦うのだ。世界各国のIS関係者や政府関係者が集まっているのだ。様々な思惑があるが、注目度は一年の部で一番と言っても良いだろう。

 

ピリピリと緊張が走るアリーナのモニターにカウントが始まった。

 

そして、カウントがゼロになると同時に一夏とラウラはスラスターを吹かして一気に接近して言った。

 

「「叩きのめす!」」

 

意地と高慢のぶつかり合いが始まった。

 

 

 

「ハアァァ!!」

 

「甘い!」

 

ラウラと一夏のぶつかり合いで、先手を取ったのは意外にも一夏であった。

だが、ISを動かして数ヶ月の一夏の攻撃などベテランの操縦者であるラウラはいとも容易く受け流す。

 

「貴様の様な攻撃が当たると思うな!」

 

「くっ!其れが、どうしたぁ!!」

 

一夏の攻撃をいなしたラウラは、プラズマ手刀を展開するとそのまま一夏へと斬りかかる。

だが、その攻撃を一夏は雪片二型で受け止めると後方へとラウラを吹き飛ばす。

 

「少しはやる様だ、な!」

 

「そりゃどうも!」

 

一連の攻防から一夏の評価を少しだけ上げるラウラだったが、すぐさま体勢を整えると先ほどよりもスピードを上げた連撃を与える。

その連撃を一夏は、多少のダメージを受けてはいるものの受けきっていた。

 

そして、場面は変わり箒とシャルロットの対決。

 

「はあぁ!!」

 

「おおぉぉ!!」

 

ラウラと一夏の戦いと違い派手さや緊張感は無かったが、二人の気迫は注目を集めるには十分なものであった。

 

「やるね!」

 

「私は、お前な様に器用では無いのでな!」

 

ラファール・リヴァイブの汎用性の高さを生かして、あの手この手で攻めるシャルロットと剣道の頂点に達したと言う実力を発揮して、己の強みを活かして攻め立てる箒。

何方が有利かと言えばシャルロットであったが、拮抗した対戦を見せる箒に世界の名のある者達は目をつけていた。

方向は違えど、篠ノ之姉妹は二人して天才だったのだ。

 

「一夏っ!」

 

「ああ!」

 

二つの戦いが拮抗を続けていたが、突如として流れは変わった。

 

シャルロットの呼びかけで、一夏は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動してラウラを箒の方へと斬りとばすと勢いそのまま突っ込む。

そして、一撃必殺であり尊敬する姉の切り札でもある零落白夜を発動する。

当たれば必殺。此れは決まるか。観戦していた一年生の誰もがそう思った。だが、其れは間違いだった。

 

「舐めるなよ!AIC発動!」

 

「くっ!?止まった?!何でだ?!」

 

手を前へと突き出したラウラによって、一夏の突貫は瞬く間に止まった。

 

『AIC』慣性停止能力(Active・Inertial・Canceller)簡単に言えば、ISが動いている根源である『PIC』慣性中和装置(Passive・Inertial・Canceller)を停止させる。つまり、ISの動きを止める事が出来るのだ。

 

「はあぁ!!」

 

「ぐはっ!」

 

「一夏ぁ?!」

 

停止した一夏に対して、レールカノンで吹き飛ばすラウラは先ほどの間に堕とされた箒の事に目を向けずワイヤーブレードを展開して一夏とシャルロットの二人へ攻撃をする。

 

「っ!シャル!仕方ないがあの作戦で行くぞ!」

 

「うん!そうだね!」

 

ワイヤーブレードを避けながら作戦を決めた様子の一夏とシャルロットは、別方向に別れると一夏は雪片二型でシャルロットは多彩な銃火器でラウラを攻め立てる。

 

「くっ!舐めるなよ貴様らぁ!!!」

 

「今だシャル!」

 

「任して!」

 

二人の目障りな攻撃に業を煮やしたラウラは、一夏を先に堕とそうとするがその時に生まれた一瞬の隙の間にシャルロットに迫られていた。

 

「なっ!瞬時加速(イグニッション・ブースト)だと?!」

 

「今、初めて使ったけどね!」

 

そして、そう言うシャルロットの片腕には一つの武装が展開される。

性能では第三世代のラウラのシュヴァルツァ・レーゲンと第二世代のシャルロットのラファール・リヴァイブ・カスタムⅡではラウラの方が長けているが、たった一つ第二世代武装の中で第三世代にも引けを取らない物が存在する。

 

盾殺し(シールド・ピアーズ)‥‥‥っ!」

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

第二世代最強の矛が、ラウラのシュヴァルツァ・レーゲンへと突き立てる。

勝負は決まった。今度は一年生だけでなく全ての観客がそう思った。その時だった。

 

『汝、自らの変革を望むか……? より強い力を欲するか……?』

 

「うあ"あ"あ"あ"ぁぁぁ!!!!」

 

「うわぁ!!!」

 

Damage Level……D.

Mind Condition……Uplift.

Certification……Clear.

 

《Valkyrie Trace System》………boot.

 

ラウラの絶叫の後、其処にはシュヴァルツァ・レーゲンでは無く。嘗て、世界の頂きにたった者の姿があった。

 



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episode. 10

「そういえば、何故この日にIS学園に行くんだろう?」

 

「確かにな。それで統真さんは聞かされているらしいから、聞いて見たんだけどはぐらかされた」

 

「海斗さんもですか。私もです」

 

上空の雲よりも高い場所を飛行する未だに見慣れない飛行船の甲板で、加奈さんと海斗さんと会話をしながら博斗さんからの指示を待つ。

 

博斗さんたちと出会って一ヶ月が経って、色んな事を知ることが出来た。

死ぬしかなかった自分に役目を与えてくれた。戦える力を与えてくれた。

まだ分かり合えていないし少ないけど、友達も出来た。

 

私は私が大切に思えるものを守ってみたい。利用されたり命令に従うしかなかった今までだったけど、一回ぐらいは自分の意思でやりたい事を成し遂げてみたい。

そう思い、そう告げた時の海斗さんの顔はどこか呆れている様な雰囲気でしたが、その後に静かに強く頷いてくれた。

 

昔の事を思い出しながら私は、二人へと視線を向ける。

 

そして、作戦を伝えようとした時加奈さんによって塞がれてしまった。

 

「それじゃあ四郎!作戦とかどうなのよ?!」

 

「いや、なんでちょっとキレ気味なんだよ。落ち着けよ」

 

「ははは、まぁ加奈さんのそれは何時もの事なのでスルーでいきます」

 

「ちょっと、何窘めちゃってるのよー?!」

 

わーっ!と抗議をする加奈さんを海斗さんと一緒に無視しながら、冷静に作戦を伝える。

作戦立案が、私がこの二人から任せられた事だ。しっかりとやってみせる。

 

「では、作戦を伝えます。加奈さん。ちゃんと聞いて下さいよ?」

 

「いつもちゃんと聞いているわよー?!」

 

またも反論する加奈さんを海斗さんと二人笑いながら何時もの様に会話を始める。

これから戦うかも知れない亡霊たちの情報を伝えながら。

 

 

 

「彼らは張り切っているみたいだね」

 

「当たり前だろ。全員が利用されるだけの人生だったんだ。それが誰かから頼りされているんだ。張り切らない訳が無いだろ?」

 

「まぁ確かにそうだね。それより、試合の方はどう?」

 

甲板で真剣に話し合いをする四郎たちを見やり、頑張りを認める風に言う博斗にモニターの前に座りながら四郎たちの今までを思い出す。

けど、その後の博斗からの質問に答えるべくIS学園のカメラを映し出す。

 

「どうやら、試合はまだ始まって無いみたいだな」

 

「そうみたいだね。今の速度だと7、8分程で着くけど相手方がどう動くかで変わるからアリアと統真は目的地から少し離れたところで降りてくれる?」

 

「あぁ、任せろ。それに今日のメインは彼奴らだしな。アリア、サポートよろしくな」

 

「了解しました」

 

四郎たちの作戦会議が終わった所で、俺たちの内容も粗方終わった。でも、やっぱこう言うのはヤブ医者のアホの方がすっきりした考えが出せるな。

まぁ、あいつは自分の信念やら目的やらで候補にすら挙げんかったんだけどな。

 

そう内心でため息を吐きながら考えていたら、博斗が唐突に「あっ!」と声を挙げる。

 

「新しいオートマタ。アリアの妹型が出来たから君たちの所に送ってもいいかい?」

 

「新型ですか?」

 

「まぁそうだね。でも、アリアの妹だよ」

 

どこか心配そうに呟くアリアに対して、博斗は何時もの態度を崩さず話す。

まぁ旧型になっているアリアからしたら、主人に捨てられるとでも思ってるんだろうな。

博斗の奴が自分の生み出したものを簡単に捨てる訳ないから大丈夫だがな。

 

それから時間は進み、IS学園の付近まで辿り着いた所でそれが起きた。

 

「統真!敵さんが来たよ!手筈通りに頼むよ!」

 

「了解。行くぞアリア!」

 

「Yes.」

 

この日俺たちは、世界的なテロリストに喧嘩を売った。

 




四郎、海斗、加奈
誘拐されて人体実験やら何やらをやらされた国籍を消された少年少女。
実力的にはラウラと同じか少し劣る。



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episode. 11

タッグマッチ双刃サイドラストです。



「うあ"あ"あ"あ"ぁぁぁ!!!!」

 

叫び上げるラウラに会場中から不安の声が彼方此方から聞こえ出す。

だが、そんな声は次の瞬間には絶叫へと変わっていた。

 

「な、何だよ一体?!」

 

「分かんないよ!本当に!」

 

何が起きているのか全く分からない俺とシャルは、次の瞬間起きた現象に驚き固まってしまう。

ラウラの専用機が、ゲル状の何かに変わったと思ったら表に見えていた電撃を浴び叫び続けているラウラを飲み込んだかと思ったら徐々に形を変えていく。

 

異形の物へと変わったそれは、掌を握り何か武器のような物を作り出す。

作り出されたその武器は、一振りの刀だった。そして、その刀にはとても見覚えが合った。

 

「ゆ‥‥雪片‥‥?」

 

“雪片”千冬姉の専用機の武器であり、千冬姉が世界一に輝いた理由の一つであり、千冬姉を示す物の一つである。

つまり、あの異形の物は千冬姉を偽ったのである。

 

「‥‥ぁ」

 

そう考えた瞬間俺の中で何かが弾ける音が聞こえた。

 

「‥‥ぉぉおおお"お"ォォォォォ!!!!!」

 

「ちょっと、一夏?!」

 

シャルの制止の言葉を耳に入れず、その手に雪片を強く握り千冬姉を偽った奴に突っ込む。

 

「グハッ!」

 

「一夏?!!」

 

だが、彼奴は剣を握った片手で俺を吹き飛ばす。

 

「クソッ!」

 

ただ、無力な自分に腹が立った。

 

 

 

「‥‥‥セシリア」

 

「は、はい?!」

 

フィールドでの光景を見た俺は、自然とセシリアを呼んでいた。

そして、何故か怯えているセシリアに伝えたい事を伝える。

 

「織斑先生に繋いでくれ‥‥」

 

「わ、分かりましたわ!」

 

そうして織斑先生に通信をするセシリアが数秒後に繋がったのか俺に通信機を渡してきた。

 

『どうした鉄』

 

「俺がフィールドに行きます。ラファールの準備は」

 

そこまで言いかけたところで織斑先生はフッと少しだけ笑うと俺の言葉を遮って要件伝えてきた。

 

『こちらもそのつもりだ。何故かその通路の出入り口は開いている。そこから此処まで来い。ラファールはあの時と同じ設定している。すぐに来い!』

 

「了解しました!」

 

織斑先生からの指示を聞き入れ、通路を駆け抜ける。

何故此処の出入り口が開いているのか、俺はその理由を知っている。あのマッドサイエンティストは、ボーデヴィッヒの機体について知っていた筈だ。

そこに俺が関わっているならば、後は簡単だ。

 

今現在進行形で起きている出来事を予想しての対策なんだろう。

なんて事を考えていたら織斑先生の待っているピットへと着いた。

 

少しの注意と激励を受け、ラファールに乗り込みフィールドへと飛び出る。

 

「ぶっ飛びやがれぇ!!!!」

 

飛び出るや否や俺はランチャーを展開し、あの黒い何かへぶっ放す。

 

「無傷か。いや、自己再生ってとこか」

 

ランチャーの煙が晴れたそこには、ゲル状の何かが蠢いて欠損した部分を再生していく。

 

「ちっ、ダメージは皆無ってとこか」

 

「双刃さん!」

 

先制攻撃での結果を簡単にまとめて未だ俺の事を観察しているように向かい合っている異形を睨んでいたら、フィールドに出ていたシャルルたちが声を掛けて近寄ってくる。

そんな時、ふと一夏が目に入り作戦を考え着いた。

 

「一夏!俺が彼奴を引きつけてやるから一瞬の隙を見つけてお前の零落白夜でぶった斬れ!ボーデヴィッヒを包んでるアレは多分エネルギーを使った流体金属だ!」

 

「分かりました!」

 

液体の様な感じだったが、形状を維持できる程の強度を持っている。確証は無いが、可能性としては流体金属が一番近いと思う。

 

「シャル!お前はまだ動けるな!?」

 

「は、はい!」

 

「だったら、あいつをロックオンして射撃し続けろ!心配すんな俺が合わせる!」

 

「はい!」

 

それぞれのやる事を決めた俺たちは、俺を先頭に一夏、シャルの順で立ち並び戦闘を開始する。

 

 

 

「堕ちろ!」

 

ブーストを吹かして一気に加速して近づく俺に対して、アレは手に持ったブレードを振り下ろす。

俺はその攻撃に対して、左手にシールドを展開して思い切り振りかぶりシールドバッシュをぶち当てて機体を仰け反らす。

崩すと同時に俺は右に避け、右手にサブマシンガンを展開して発泡する。

それと同時にシャルからの援護射撃が合わさり、アレに十字砲火(クロスファイア)で嵌る。

 

「ちっ!流石に一筋縄じゃいかないか!シャル!交替(スイッチ)!」

 

「はい!」

 

俺とシャルの十字砲火を食いながら多少ダメージを負った様だが、直ぐにまたあの黒い何かが損傷を補う様に集めながら俺にブレードを振り下ろそうとしている。

だが、俺がそのまま居っとく筈もなく。直ぐにシャルと交替して攻撃のテンポを変える。

 

「はあぁ!!!」

 

「身体を左に反らせ!!」

 

「はい!」

 

パイルバンカーでアレの左手を吹き飛ばすシャルに指示し出し、空いた右側にマテリアルライフルの銃口を向けて引き金を引く。

 

「今だ一夏!」

 

「行って!一夏!」

 

「オオォォォォォ!!!!!」

 

俺の攻撃で一瞬だけ動きが止まるアレの隙を見逃さず飛び出す一夏に俺とシャルの言葉が飛ぶ。

一夏に反応したアレだったが、その時には零落白夜を発動した雪片二型はその漆黒の体を振り抜いていた。

 

眩い光の後、そこにはボーデヴィッヒを横抱きした一夏の姿だけが残っていた。

 

 




流体金属ってのは、自分が見て思ったものです。
間違ってたらすみません。


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episode. 12

「死ねぇ!!!」

 

「だらっしゃあ!!!」

 

雄叫びを上げ何度目か分からない剣戟の交わりの中、俺の心はあの時の様に滾っていた。

 

 

十分前‥‥‥

 

 

「お姉さん方、何やってんのー?」

 

「「「?!」」」

 

アリスのサポートのお陰で無駄な労力を使わずに、俺たちの目的である世界的テロリスト亡国機業(ファントム・タスク)の構成員の連中と出会う事が出来た。

 

あいつらは、突然の俺の登場に一瞬だけ焦ったがその後にはISを展開してこちらに武器を向けている。

 

成る程、腐ってもエリート達。対応はバッチリと言う訳か。

 

「てめぇ、ガキ!何者だ?!」

 

「いつからそこに居やがった!?」

 

銃口を向けながら俺の事を脅す。そんな構成員たちの目はいつでも俺の事を殺せると思わせる様な雰囲気を纏っていた。

まぁ、普通ならその脅しに反応して逃げたりするかもしれないが、俺は生憎と普通の感性を持ち合わせていないので力には力で答える事にする。

 

「さぁ、何者なんだろう‥‥‥なっ!」

 

抜刀の仕草をすると同時に虚空から神楽を呼び出し接続せずに刀身を抜き、構成員たちの銃火器を粉微塵に斬り刻む。

 

「くっ!距離を取って展開しろ!」

 

「「了解!」」

 

リーダー格の女が、他の構成員たちに指示を出すと俺から数メートル程離れてからISを展開した。

リーダー格はラファールのカスタム機。他の二人は普通の打鉄。打鉄の方はどうにか出来るが、リーダー格の方はちょっと苦戦するかもな。

 

『アリア。隙を見て分断するぞ。俺はリーダー格をやる。お前は他の二人をやれ。出来るか?』

 

『YES.只今私、非常に昂ぶっています。戦闘形態・移行』

 

「はは、ノってんな」

 

通信での指示を受けてのアリアの言葉に少し引きながら、俺は相手がISを展開したので神楽と接続する。

 

抜き身になった刀身を三人に向け高らかに語る。

 

「さぁ、始めようか。IS(ヒト)人外(ヒト)の喧嘩を」

 

俺の言葉を受けた三人は、先ほどまで俺の事を警戒はしていても殺気は感じられなかったが、言葉の後は常人が臆する程の濃密な殺気が受けた。

はは、こりゃ凄いな。でも

 

ヤブ医者(あいつ)に比べれりゃ小せぇな」

 

 

 

 

『二人は交戦したよ。それより自分達のやる事は大丈夫かい?』

 

「問題ありません」

 

四郎の言葉を聞きながら僕は、彼らが動きやすい様に周りの目を自分の力を使って最大限に誤魔化す。

でも、僕自身が得意としているのは隠密よりも破壊だ。バレる可能性は十分にあると四郎くん達に伝えて彼らの頑張りを見る。

 

「AUWの攻撃と耐久のある四郎の『笹目叢雨』を戦闘にして、攻防何方にも対応の取れると言った感じかな」

 

今回三人に頼んだのは、今IS学園で行われているタッグマッチトーナメントに乗じて忍び込んでいる亡国の連中の排除または殲滅だ。

 

「相手にダメージを与えられたら最高。撃破まで行ったら御の字だね」

 

彼らに期待はしている。でも、期待したところで彼らが必ず答えてくれるとは限らない。

なにせ、期待せずともやり遂げてくれるあの人外(統真)大天才()の二人とは彼ら三人は全く違うのだから。

 

 

 

 

「見つけた‥‥」

 

博斗さんの予想通り学園の中は何故か混乱の雰囲気が見られた。出入り口を見張りながら、博斗さんから渡された小型モニターを眺めながら明らかに他の観客とは別の行動をしている人物を見つけ、二人に指示を出して出てくるのを待つ。

 

「あら、あなたたち何者かしら?」

 

三人で陣形を崩さずに待っているとその人物が俺たちを見て、明らかにさっきまでの雰囲気とは別の空気を醸し出していた。

 

「早速で悪いが手負いで帰ってもらうぜ!」

 

「あら、それは困るわね?!」

 

海斗さんが手甲型のAUW『忌切宝華』を展開して突貫する。

金髪の女性はそんな海斗さんの攻撃に対して、周りに炎を撒き散らして防ぐ。

炎が晴れた頃には金髪の女性は金色のISを身に纏っていた。

 

「ゴールデン・ドーンですか‥‥‥」

 

「ええ、そうよ。それにしても知っていたのね」

 

「情報は大事ですから」

 

俺の言葉に口角を上げる女性を相手に俺たち二人は、AUWを展開する。

 

「あなたたち面白い物を持っているわね?如何かしら私に着いて行く気は‥‥」

 

「生憎だが、今の所属で十分何でな。遠慮させてもらうぜ!四郎!」

 

「接続開始!」

 

「無駄よ!」

 

海斗さんの攻撃を防いだ様に炎を此方に放つが、俺の『笹目叢雨』にはその攻撃は相性最悪である。

 

「水態変化!」

 

空気中の水分を吸収、放出して炎を消す。

 

「ほんと面白そうな物ね。余計欲しくなったわ」

 

「そりゃ良かったよ!」

 

未だに余裕を見せる女性に海斗さんの拳撃が放たれる。

そんな攻撃も女性は想定していた様に尻尾の様な物で防ぐが、海斗さんのAUWの能力を相手にその程度は無意味だ。

 

ダアァン!!!

 

「くっ!」

 

「俺の攻撃はぶつかった瞬間に爆裂が起こる!」

 

「加奈さん!」

 

「任せて!」

 

海斗さんの攻撃で少しだけ怯んだ女性に対して、さっきまで隠れて準備をしてもらっていた加奈さんに指示を出す。

 

「くっ!しくじったわね!」

 

「海斗さん!合わせますよ!」

 

「おう!」

 

加奈さんのAUW『土塊形無』の能力で、ゴールデン・ドーンを拘束すると海斗さんと前後からの攻撃を当てた瞬間爆発が起こる。

 

『皆んな無事かい?』

 

「博斗さん?!」

 

『無事みたいだね。相手はさっきの爆発で逃げちゃったけど、作戦は成功したよ。統真とアリアはもう帰ってるから君たちも早く帰ってき‥‥乱入者の登場だね。時間を稼ぎな。統真たちを向かわせる』

 

「あなたたち何者かしら?」

 

突然の博斗さんからの通信驚くが、それよりも先ほどまで戦っていた場所にはゴールデン・ドーンの姿は無く。

代わりに水色の髪を靡かせながら此方を威嚇するIS学園生徒会長にして現ロシア代表が立っていた。

 

 




此れで博斗たちサイドも終わりです。
この後、如何なったかは次話で説明したいと思います。


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episode. 13

「先輩。大丈夫ですか?」

 

「麻耶か。ああ、大分落ち着いた。お前も大丈夫なのか?」

 

「はい。それにしても何なんでしょうね今年は。問題や事件が次から次へと‥‥」

 

「さぁな。だが、分かるのは此れからもその可能性は十分にありえると言うことだ」

 

千冬と麻耶以外居なくなった職員室で、二人は今日の予想外のトラブルや生徒会長 更識楯無からの報告を受けての対応などで馬車馬のごとく動き回ったお互いを互いに励ましあった。

 

「世界の敵の敵であり、味方では無い、か。更識の奴が言うにはそう奴らは言ったんだろう?」

 

「はい。でも、本当に何が目的なんでしょうか?それに生徒の中で一番の実力者である筈の楯無を相手にして、無傷で居られるだなんて」

 

「しかもそいつらが使っていたのは、全く未知の武装とまで来た。本当に何者なんだろうな」

 

未だ正体が掴めない存在に、頭が痛くなるがそれを麻耶に見せようとはせず千冬は、砂糖の入っていないブラックコーヒーを口に入れた。

 

 

 

「お前らはそれで良いと思っているのか?」

 

「何を今更。お前は俺の性格知ってるだろ?一度決めたならば、どんな手を使ってでも成し遂げる。今も昔も変わらねーよ」

 

「ははは、夢を簡単に諦めてたまるかよって事だよ」

 

IS学園とは別の屋上で、双刃は博斗と統真と三人で星空を眺めながらちょっとしたパーティーをしていた。

 

「それより良いのかい?刃は、門限あったでしょ?」

 

「心配要らん。織斑先生には言ってある。夜更かししてくるってな」

 

「それで良いのかよ学校主席」

 

「IS学園で学ぶ事なんかねぇからな」

 

鉄双刃という人物が良く知る人はとても少ない。

知っているのは、この場にいる人外二人と双刃の両親、恩師である来夏そして初恋の相手である杏奈の六人だけである。

付き合いのあまり深くない者は、彼を優男や優等生と評するが上記の者たちはそれぞれの感性で様々な評価をする。

 

博斗は、どうしようもない程のバカ。

 

統真は、憎たらしい程に尊敬出来る同期。

 

 

「それでどうなったんだ?その、デュノアだっけか?週明けに女だって事バラすんだろ?」

 

「君から手を回すように言われた時は驚いたけど、良いのかい?彼女の親も人だよ?」

 

「ああ、俺は人の負傷を治すんだ。負傷してなきゃ悪人は罰するだけだ」

 

そう言って下に置かれている料理を口に入れる。

 

「‥‥それで、臨海学校の時に来るのか?」

 

「そうだねー。まぁ、そん時に決めるよ」

 

「興味ねーわ」

 

「そうか」

 

そうして何気ない会話をしながら夜は過ぎていった。

 

 

 

日が明けての朝のSHR。

 

女子たちの大半は何時ものようにしているが、男子二人や一部の生徒の中にはどこか歪な空気が漂っていた。

 

「ええとですね……今日は皆さんに転校生を紹介します。転校生というか既に紹介は済んでたり……えっと……」

 

妙にやつれた感じで教室に入って来た山田先生の突然の言葉にクラスが騒然とする。

 

「見てもらった方が早いですね……入って下さい」

 

「失礼します」

 

扉の奥から聞こえたのは、クラスメイトには聞き覚えのある三人目の男子の声。

だが、そこから現れたのは男子服を身につけたシャルル・デュノアではなく。シャルル・デュノアそっくりの女子生徒だった。

唖然とする女子たちを他所にシャルは口を開く。

 

「理由があって男として過ごしていましたが、それが解決したので改めて自己紹介します。シャルロット・デュノアです、皆さんよろしくお願いします」

 

「デュノア君はデュノアさんでした、ということです。はあぁ……また寮の部屋割りを組み立て直さなきゃ……」

 

時間が止まったような静けさの教室に山田先生のため息が響く。

 

そして、徐々に時間が動き出す、

 

「え?デュノア君って女……?」

 

「この真夏のサマーデビルの目を持ってしても見抜けなんだ……」

 

「おかしいと思った!美少年じゃなくて美少女だったのね!」

 

そして、一気に騒然とする教室の中とある女子生徒の言葉で、混沌としたこの場が地獄に変わる。

 

「ちょっと待って!昨日って確か、男子が大浴場使ったわよね!?」

 

「織斑くん同室だし、気付かなかったってことは無いわよね!?」

 

そんな爆弾投下の瞬間、教室に殺気が漂った。

 

「一夏さん?私一夏さんに聞きたいことがございました」

 

専用機を展開するセシリア。

 

「一夏!貴様と言う奴は!!」

 

何処から取り出したのか分からない真剣を抜刀して構える箒。

 

正に絶対絶命といった状況の一夏の前に突然黒い影が現れた。

 

「ら、ラウラか。すまん、助かった」

 

登場したのはISを展開したラウラだった。

そして、ラウラの登場と教室に織斑先生が入って来た為、騒ぎは一応止まった。

 

「ら、ラウラ。そろそろ席につこ、んむっ?!」

 

「き、貴様を私のパートナーにする!異論は認めん!」

 

だが、どうやら騒ぎは続いてしまうようだ。

 




本来、嫁にすると言うセリフですけど此処を変更しました。


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KARTE.5 織斑一夏
episode. 1


臨海学校編突入!

それと、前回の投稿はミスで最終編を投稿してしまいました。すいません!




「臨海学校ねぇーどうしようかなー」

 

「どうしたんだよ。何悩んでんだ?」

 

「やぁ、統真。いや何。さっき思いついた面白い事と刃の臨海学校が重なってるんだよね」

 

「ふーん。それでどうしたものかと思っている訳か」

 

「まぁね」

 

はぁ、それにしても本当にどうしよう。

これが出来れば、刃的には少なからず助かるだろうけど、刃の奴が貰うかどうかも不安なんだよなー。

はぁ、本当に困ったよ。

 

「それより四郎くん達は、どうしたの?」

 

「ああ、あの野郎の臨海学校の時に俺たちもそこに行くだろ?」

 

「成る程、買い物か」

 

「そう言う事だ」

 

納得した僕は、取り敢えず研究を進めるためにその日の夜遅くまで研究室に篭り、気がついた時には次の日の昼になっていた。

 

 

 

「で?なんで、俺の部屋に来たんだよお前は‥‥‥」

 

「い、いやぁー、此処しかなかったといいますか。何と言いますか‥‥‥すいません!」

 

「いや、まぁ、別に構わないが、朝っぱらから騒がしいんだよ。お前は」

 

「本当、すいません」

 

学年別トーナメントの数日後、シャルロットの正体やら何か知らんが言い寄ってきた各国政府の連中やらがひと段落してやっとぐっすり眠れると思った日の朝に、いきなり一夏がかなり慌てた様子で部屋に入れてくれと懇願して来た。

幸いな事に今日は連休中だ。寮にはあまり人が居ないため、あまり騒がれなかった。

 

「それで、何でそんなに慌てたんだよ」

 

「え、えっと、ラウラがですね‥‥」

 

何とも微妙な面持ちの一夏の言葉を聞きながら、俺はあの銀髪女郎に内心頭を抱えたくなった。

一夏言うには‥‥‥

・トーナメント開けてから毎日ラウラが布団の中に入っている。

・服を全く付けず全裸で横に居るらしい。

・事あるごとにキスやらなにやらを求めてくるらしい。

・それを箒たちに見られて襲われているらしい。

 

「アイツらは全く」

 

「はは、でも、箒たちもラウラも悪い奴らじゃないんです」

 

「んな事は知ってるんだよ。常識的に考えておかしいだろって事が言いたいんだよ。と言うかシャルロットまで、参戦しているのかよ」

 

アイツは理性的な考えが出来る奴だと思ったんだけどな。

まぁ、恋は人を変える。と言うしな。実際俺は、小中と変わった訳だから、別に可笑しくないがな。

 

「それより、お前は今日予定は無いのか?」

 

「まぁ、これと言って無いですね」

 

「んなら、ちょっと買い物に付き合え。序でに鈴も呼べ、ゲーセン寄るから」

 

「はい。分かりました」

 

今日の予定を一夏に伝えた後、俺は一人になった部屋で出掛けの準備を済ます。

日常用品が無くなってるから、割と多目に買わないといけねぇな。

 



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episode. 2

「おーい。鈴ー!」

 

「あら、一夏じゃない。どうしたのよ?」

 

「いや、双刃さんが買い物に付き合ってくれって。それで、遊びにも行くから鈴も一緒に行こうぜ!」

 

「いいわよ。丁度、私も暇して居た所だしね」

 

朝の騒動から逃れる為に、双刃さんの下へ行った後俺は双刃さんの誘いの為、丁度見つけた鈴に声をかけて三人でショッピングモールへと出掛ける。

 

「それで、何を買うんですか?」

 

「あー、食材とかだな。勉強してて腹減ったら作るから最近冷蔵庫の中が少ないんだよ。後はノートやら参考書だな」

 

「あ、そうだ。一夏、あんた水着持ってるの?」

 

「ん?何で、必要なんだ?」

 

「忘れたの?そろそろ臨海学校があるからでしょ?」

 

鈴の声を聞いて最初は訳が分からなかったが、臨海学校と聞いて納得した。

そういえば、そんな事をやるって千冬姉が言ってたな。すっかり忘れてた。

 

「まぁ、序でに買えばいいだろ?急ぎじゃあ無いんだからな」

 

「そうね。そうしましょ」

 

鈴のその言葉の後、臨海学校の話しを一旦終えて本来の目的の双刃さんの買い物に付き合う。

それより、さっきから付けて来ている奴らは誰なんだ?

 

 

「はぁー」

 

「どうしたのよ?いきなり、ため息ついて。らしく無いわね」

 

「まぁな」

 

さっきから気づいていたが、害がなかったから放置していたがそろそろウザくなって来たな。

 

「一夏、鈴。取り敢えず、お前らだけで選んでこい」

 

「双刃さんは、どうするんですか?」

 

「少ししたら、合流する」

 

「分かりました」

 

取り敢えず、口を出すために二人と別れてさっきから後を付けて来ている連中の下へと赴く。

一夏は、微妙なところだったが鈴は俺が何をしに行くか、何となく気づいているようだ。流石は一年で、候補生になっただけはあるな。

 

「はぁ、お前らな。隠れるなら、もうちょっとちゃんと隠れろよ。鈴ならまだしも一夏に勘づかれるとかバカじゃねぇの?セシリア?シャル?んで、なんでお前も居るんだよボーデヴィッヒ?」

 

「ふ、双刃さん?!」

 

「え、えと、これは、そのー、あは、あはは‥‥」

 

「この二人に巻き込まれた。成り行きでな」

 

「「ちょっとラウラ(ラウラさん)!」」

 

物陰に隠れていたセシリア、シャル、ボーデヴィッヒの三人に後ろから声をかけるとセシリアは驚き、シャルはしどろもどろになり乾いたラウラ笑い声を出し、ボーデヴィッヒは正直に言ってくる。

いや、ほんと何でお前まで居るんだよ。

 

「はぁ、どうせ朝の騒動からいきなり俺と鈴との三人で出掛けたから、気になって後つけたってのが建前で、本当は一緒に居たいけど朝の事があるから素直になれないってのが本音だろ?」

 

「「は、はいその通りです(その通りですわ)‥‥」」

 

「ああ、そうだな」

 

はぁ、全くこいつらは。朝の事を気にして居るんだったら一夏にちゃんと謝れば済む話だろうに。変にプライドが高いセシリアは兎も角、シャルはそういうのは出来る筈だろうに。

 

「はぁ、まぁいいや。行くぞ。あっちもなんか変化あったみたいだしな」

 

そう言って、二人が行った場所を指差すと其処には、二人と織斑先生と山田先生の二人が一緒に居た。

セシリア達がぎこちない歩き方で其処に向かうのを確認してから、俺も向かおうとして、足を止めて振り向きそのまま拳を振り抜いた。

 

「おいおい、振り向きざまにそのまま正拳突きとか、物騒だな?」

 

「てめぇ、言われたかねぇよ。統真」

 

拳を受け止めたところには悪友が、憎たらしい顔で笑って居た。

 

 



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episode. 3

「何のようだ」

 

「釣れねぇな。今日はお前と同じ理由で来てんだぜ?」

 

「ぶちのめすぞ?」

 

「今日は何時も以上に辛辣だな」

 

偶に会って居るとはいえ、中高の友人との会話とは思えない会話をしながら、統真と双刃の二人の顔は笑っていた。

 

「当たり前だろ?お前みたいな危険人物が、居るんだからなぁ?」

 

「はっ!言うじゃねぇかヤブ医者が」

 

ピリピリとした空気に周りにいた少数の人々は、二人から距離を取る。

それは、有能な判断だ。

 

「死ねぇ!」

 

「消えろぉ!」

 

触れ合って居る片手を離し、両者捻りを加えた左ストレートを相手の顔面目掛けて振り抜き‥‥‥

 

ガーン!

 

「イッテ!」

 

「ーっ!?」

 

何故か鋼鉄の鉄板を叩きつけた。

そして、二人の拳の間に鉄板を挟んだ第三者は恨みがましい視線を二人に送る。

 

「君ら、ここがショッピングモールだって事忘れてない?喧嘩するなら、他所でやりなよ。危ないじゃん」

 

「「一番の危険人物が何言うか!?」」

 

二人からの理不尽な言葉を受け、第三者ーー博斗はただただ引きつった笑いしか出せなかった。

 

 

「自己紹介をしようか。僕は海原博斗。それで、こっちが武神統真。刃の友人さ。よろしくね」

 

先程の騒動から小一時間ほど経った後、なにやら騒がしくなり始めたと思って三人が振り向いた所には、ショッピングモールに来ていたIS学園の専用機持ち組と1組担任、副担任がなんとも言えない表情で立っていた。

 

なんやかんやあって今は、学生組で近くのファーストフード店で自己紹介も含めた会合をする事にした。

 

「よ、よろしくお願いします。俺は‥‥」

 

「織斑一夏くんだろ?知ってるよ」

 

「え?」

 

「金髪ロングの子はセシリア・オルコット。茶髪ツインテの子は鳳鈴音。金髪ショートの子がシャルロット・デュノア。それで銀髪眼帯の子がラウラ・ボーデヴィッヒ。皆んな知ってるよ」

 

自己紹介をされ、自分もしようとした一夏の言葉を先回りした博斗の言葉に遮られ、ほかの 4名を順に言われる。

一夏たちは最初こそ、不思議に思ったが双刃の友人ならば双刃経由で、自分たちの事を知っていてもおかしくないなと、自己完結して話しを終える。

 

「あ、あのお二人は今何をして居るんですか?」

 

「んー?まぁ、今は統真とかの知り合い数人で、放浪の旅みたいに世界中を旅行してるよ」

 

「え?大学行ってないんでか?」

 

双刃と同い年という事は、高校は卒業している筈だ。

統真は第1印象から何となく分かるが、博斗に関しては双刃と似たような雰囲気を持っているから、頭は良いのだろうと思っていたシャルロットは少し予想外の答えに疑問を感じた。

 

「統真は兎も角こいつに大学は無理だな。ちゃんとすれば俺より頭良いから」

 

「まじそれなー。てか、俺は兎も角ってどう言う意味だ?ああん?」

 

「そのまんまだ。分かれバカ」

 

「君たちバカなの?死ぬの?バカやってないと死んじゃうの?」

 

自分たちが見ていた双刃は、何処か大人びた感じのクールな感じだったが、今目の前にいる双刃は中学の時の自分に似ていて何処か安心したような一夏を尻目に博斗は言葉を続ける。

 

「今日はたまたま通りがかったから、寄ってみたら刃に会ったって訳。まぁ、すぐに出るんだけどね」

 

「今度は何処行くんだよ?」

 

「うーん、後で決めようかなーって」

 

「ほんと、無計画だな。お前は」

 

その後、和やかに会話を楽しみ数時間ほど時間を潰した後、博斗と統真は双刃たちと別れ、離れて貰った海斗たちと合流する。

 

「帰りますか?」

 

「うん、そうだね。今日は久々に楽しめたよ」

 

そう言って、前に進む博斗を見やり海斗はとなりにいた統真に声をかける。

 

「博斗さん。双刃さん?に会って楽しんでましたね。あれが心友って訳なんですね」

 

「いや、それはちょっと違う」

 

「え?」

 

自分が思っていた答えと違う答えが返ってきて、海斗は疑問の声を上げる。

 

「確かに、あいつと博斗は小学校からの付き合いでお互いのことをよく知っているが、共感や同調はしてもあいつらが互いの考えが一致した事は俺は()()()()()()()()()()()()()

 

そう確かに呟かれた言葉に、海斗はただただ呆然とする事しか出来なかった。

 




双刃と博斗の考えかたを簡単に言いますと
双刃は人類賛歌を土台にした、人を成すのも人を討つのも人でありそれ以外の存在からの救済も討伐も否定する考え。つまり、進化し成長し続ける人こそが最高。
博斗は無限に広がる可能性を持った機械こそが、全てを超える存在である。つまり、双刃とは逆の機械こそが最高。
という感じです。


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episode. 4

「海見えたー!!!」

 

1組の全員でバスに乗り、数時間後。

少し長いトンネルを通る事、数分。抜けた其処には今の季節にぴったりの景色が広がっていた。

その光景を見た女子たちがキャーキャーと騒ぎ立てる。

 

少しどころかかなり騒がしくなった車内の中で、俺は何気ない気持ちで窓から景色をただただ眺めていた。

 

『君の願いを叶える。でも、チャンスは一度だ。これを逃せばもうチャンスは無いよ』

 

今日の朝、来夏さんによって唐突に告げられた希望と絶望のメッセージ。

普通、医者になるには資格と免許を取った後も途轍もない期間と労力が必要になる。だが、来夏さんからの推薦、高校の職業体験の時の俺の実績から期間をすっ飛ばし、医者として認めると言う事を教えてもらった。

だが、この破格のメリットの反対のデメリットは、その時に免許を取れなかった場合、二度と受ける事が出来ないと言うものだ。

 

出来れば望みが叶う。

 

出来なければ望みが絶たれる。

 

出来れば彼奴をこの手で救える。

 

出来なければ彼奴を見捨てる。

 

出来れば親父との約束を果たせる。

 

出来なければ親父との約束を破る。

 

不安と嬉しさが飛び交う今の俺には、バスの中で楽しんでいる女子たちの様には出来なかった。

 

「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ」

 

呆然と外を眺めていたら織斑先生の言葉に気付き、全員がささっと自分の席に戻った。にしても相変わらず素晴らしい指導力である。

その後織斑先生の言葉通り、数分後には目的地に到着し、皆んなバスから降りた。

 

「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」

 

「「「「「よろしくお願いしまーす!」」」」」

 

織斑先生の言葉の後、旅館の女将さんらしき人に向け全員で挨拶をする。

 

「ふふ、こちらこそ。今年の一年生も元気があっていいですね」

 

この女将さんのいる旅館は、毎年お世話になっているらしく織斑先生が何処か申し訳なさそうにしていた。

そう考えていたら、女将さんと目があった。

 

「あら、こちらの方々が噂の‥‥」

 

目があったので、俺と一夏は取り敢えず会釈を返しておく。

女将さんもそれに合わせて軽く会釈してくれた。

 

「ええ、まあ。今年は男子が二人いるせいで浴場分けが難しくなってしまって申し訳ありません」

 

「いえいえ、そんな。それにいい男の子たちじゃありませんか。しっかりしてそうな感じですし」

 

「一人は兎も角もう一人は感じがするだけです。無礼者です」

 

織斑先生の酷い言われ様に流石に苦笑いを浮かべながら、列へと戻る。

 

「それじゃあみなさん、お部屋の方へどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられるようになっていますから、そちらをご利用なさってくださいな。場所が分からなければいつでも従業員に訊いてくださいまし」

 

そんな女将さんの言葉に返事を返して、旅館の中へと入っていく。

その道中で、今悩んで答えが見つからない、と割り切り楽しむ事にした。

 

 

 

部屋へと向かおうと思ったが、俺と一夏の部屋がない。

それで気になり、織斑先生に聞いて見た。

 

結論から言うと、俺たちの部屋は織斑先生と隣の部屋になった。またも一人部屋である。織斑先生曰く、「私の部屋の隣なら多少の牽制になるだろう」とのこと。確かに隣の部屋でドタバタと騒いでいたら織斑先生も気付くだろう。

 

それよか、今日一日は出来るだけ楽しみますかー。

 



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episode. 5

「あ、織斑くんと鉄さんだ!」

 

「う、うそッ! 私の水着変じゃないよね!? 大丈夫だよね!?」

 

「わ、わ~。体かっこい~。鍛えてるね!」

 

「織斑く~ん。あとでビーチバレーしようよ~」

 

着替えを手短に済ませた俺と一夏がビーチに出ると、周りが騒がしくなった。

自惚れる訳じゃないが、そこまで興味惹かれるか?鍛えてるって言っても、簡単な事しかしてないぜ?

にしても、慣れたつもりだったがこの好奇の視線には本当に慣れんな。

 

「お、おう。分かったよ」

 

そして、ちょっとあたりの激しい女子たちに一夏は戸惑いながらも準備運動をし始める。

まぁ、どんなに遊びたくても準備運動をちゃんとしなければ大怪我になるかもしれないからな。

そんな事を考えながら、俺も準備運動をする。

 

「い、ち、か〜〜!」

 

「うわわぁ!!??誰だ?!」

 

「私よ!」

 

一夏が丁度準備運動を終えたところで鈴が走ってきて、一夏に飛びついた。ちょうど肩車みたいな構図である。

年齢やらを考えれば、カップルみたいな構図だが側から見れば仲の良い兄と妹のじゃれつきである。

本当、楽しげだな。こいつらは。

 

「おい、お前ら余りはしゃぐなよ」

 

「分かってるわよ!何せ、私の前世は人魚姫なのよ!」

 

「何処を根拠に言ってるんだよ」

 

二人して海に飛び込み競争し出そうとした為、一応注意しておくが鈴から意味不明の返しが返ってきた。

というか、人魚じゃなくて人魚姫かよ。

 

 

 

「で、前世はなんだっけ?」

 

「う、うるさいわね!きょ、今日は調子が悪かったのよ!」

 

「準備運動しないで、あんな泳ぎするからだ。怪我したらどうすんだよ」

 

競争の結果を言うと、鈴が途中で溺れかけたので無効試合になった。

今は、海から上がり鈴の事を揶揄いながら手当てする。

 

「んじゃあ、安静にしてろよ。治っていない状態で、動いたら余計に悪化するからな」

 

「分かってるわよ!」

 

そんな会話をしながら、クラスメイト達の方へと向かい時間になるまで一日を楽しんだ。

 

 

 

「やぁ、また会ったね」

 

「えぇ、おひさしですね」

 

刃が来ていた浜辺の近くで、僕は篠ノ之束博士と会っていた。

束博士の格好は、いつか会った時と変わらないワンピースにエプロンと機械のウサギ耳と言うなんともミスマッチで、ファンタジーな服装で立っていた。

 

「何をしに来たのかな?」

 

「さぁ、何でしょうね。もしかしたら、起きるかもしれないトラブルを止めるかもしれません」

 

「そうなんだ。起きたら大変だね」

 

「えぇ、大変ですね。博士は何をしに?」

 

「さぁ、何だろうね。色々なものを見に来ただけかもよ?」

 

「そうですか。良いものが観れると良いですね」

 

「そうだね」

 

言外に自分達が此処に来た理由を述べる。

 

「いつか、言いましたね?貴女を超えると」

 

「そうだね。けど、どうやってとは言ってなかったね」

 

「えぇ、ですから此処で宣言しておきます。貴女の生み出したISを超える存在を作ると」

 

「へぇー、出来ると良いね」

 

「出来ますよ。貴女は、大天災なだけで人なだけだ。だったら、僕は超えられる。人の域を外れて人外と言われようとも、そこに人の一字がある限り、僕は超えられる」

 

どこかバカにした様な表情の束博士に向けて、しっかりとした気持ちを持って言う。

刃と僕は何処か似ていて、決定的に違う。いつか統真が、僕と刃に言った言葉だ。

刃は言った。

“人が人であるならば人は、誰にも勝て誰にも負ける”と。

僕は言った

“人は変わっても人だ。だから超えられる”と。

僕も刃も人の人としての可能性を信じている。けど、僕はそれよりも機械の無限性を信じている。

だから、僕と刃は決定的に違うのだ。

 

「本当、君()は面白いね」

 

俺の言葉を聞いた後、束博士はそんな言葉を残して姿を消した。

 

「統真。帰ったら準備だよ。明日は、大仕事だ」

 

「ああ、分かった」

 

()()()()()()()()()()()()()統真に話しかけ、拠点へと戻る。

明日は、色んな意味で楽しみだなぁー。

 



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episode. 6

「さて、ようやく集まったか。――おい、遅刻者」

 

「は、はいっ」

 

臨海学校二日目。

一日全てを自由時間に使って遊んだ1日目と違って、二日目は朝から晩までIS操作の実習、各種装備試験運用と、データ取りの一日だ。特に専用機持ちは各国から専用のパッケージが送られてきているので、大変なはずだ。

とは、言っても俺には専用機が無ければ何処かの国のパイロットでは無いから全く持って関係ないんだがな。

 

そんな事を思いながら、たった今断頭台に立たされたボーデヴィッヒを見やり、少なからず同情する。

 

「そうだな、ISのコア・ネットワークについて説明してみせろ」

 

「は、はい!」

 

ボーデヴィッヒの言葉は続く。

コア・ネットワークとは、広大な宇宙空間での通信システムとしてISのコア間でネットワークを形成しているシステムで、基本的に全てのISが持っているものだ。オープン・チャネルやプライベート・チャネルなどの機能もこれの一部だ。操縦者同士の意識が共鳴し、相互意識干渉(クロッシング・アクセス)――言ってしまえば二人だけの空間のようなものを作り出すこともあるという。

何処ぞのニュータイプ会話だよ。

 

まぁ、実際に体験した訳じゃないから何とも言えないが、正直言うと全く興味無いな。

 

「以上です」

 

「ふむ、流石に優秀だな。今回のことは不問にしよう」

 

織斑先生のその言葉に胸を撫で下ろすボーデヴィッヒ。

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員迅速に行え」

 

はーい。と元気に返事をして、各々の班に分かれて作業を始める。俺も加わろうと思ったら、織斑先生に止められた。

 

「ああ、篠ノ之と鉄。お前たちはちょっとこっちに来い」

 

「はい」

 

「あ、はーい?」

 

何か、あったのか全く分からなかったが一応指示に従って、一夏たち専用機持ちの所に集まる。

と言うか、マジで俺何かあったか?

 

「篠ノ之、お前には今日から専用――」

 

「ちーちゃ~~~~~~~~~~~~ん!!!」

 

全員が集まり、箒について告げられた織斑先生の言葉を遮る様に何処からかキーの高い声が聞こえてくる。

その声の方向を探すと、ドドドドドッ!と言う効果音と共にこの海辺にはとてもミスマッチな女性が崖を直下に駆け下りて来た。その光景に、織斑先生は頭を抱える。

そして、俺は直感的にその人が俺の大嫌いなタイプだ。

 

「いやっとぅ!」

 

坂を駆け降りた反動で大きく跳躍すると、ある一点に向かって飛び込んでいく。同時にゴキッという関節をならす音が聞こえた。

 

普通なら関節を鳴らした時になるような音ではない。

 

だが俺ははっきりと聞いてしまった、見てしまった。こちらに飛び込んで来る獲物をジッと睨みつけながら、左手を鳴らし殺気を露わにする織斑先生の姿を。

 

「やあやあ! 会いたかったよちーちゃん! さあハグハグしよう! 愛を確かめ――ぶへっ!?」

 

飛んでくる人物を射殺さんばかりに睨む織斑先生に飛び込んだかと思うと、狙いを定めた織斑先生が眼にも止まらぬ速さで手を伸ばして相手の頭を掴む。すると間抜けな声をあげて、その人物は止まった。

 

「ふっ、相変わらず容赦の無いアイアンクロー……ちょ、ちょっと待ってちーちゃん! 本気で痛くなってきたよ!」

 

「ふっ、そのままお前の脳内お花畑を潰してやろうか」

 

「おおう、脳内変革ってやつ? いいねぇ、束さんすごく興味があるよ。ちーちゃんのお堅い頭も一度あばばばばばば!?」

 

明らかに危険な状況であるが、俺には全くもって助けようとは思わない。

簡単な話だ。あの女性はただの人じゃない。

 

「た、束さん?」

 

束と言う名前を聞いて、この世の中で思いつくのはたった一人。

篠ノ之束。稀代の天才にして天災。この世に究極兵器、ISを生み出した張本人。

 

そして、俺が最もこの世で関わりたくない化け物(人間)だ。

 



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episode. 7

箒や一夏、織斑先生と言った人たちに何とも変なスキンシップをする兎博士の登場に周りの生徒たちは唖然としていた。

 

「おい、束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒たちが困っている」

 

「えー、めんどくさいなぁ。私が天才の束さんだよ、はろー。終わり」

 

極めて簡潔、というか手抜きとも言える自己紹介であった。

だが、この世界で最も有名と言っても過言ではない天災、篠ノ之束の登場に一般生徒たちが騒がしくなるが、織斑先生によって静かにされる。

 

「ほら、お前ら。こいつのことは無視して作業を続けろ」

 

「うわ、そいつは酷いなぁ、ちーちゃん」

 

「黙れ」

 

「そ、それで頼んでいたものは……?」

 

そんな中、何故呼ばれているのか何となく分かっていたが躊躇いながら、箒はおずおずと篠ノ之束に話しかけた。

 

「うっふっふ。それはすでに準備済みだよ。大空をご覧あれ!」

 

篠ノ之束の言葉と共に、空から金属の塊が飛来してきた。

ズズーン、と派手な音を立てて砂浜に落下したそれは、形を変えると、中からあるものを出現させた。

 

「じゃじゃーん! これこそが箒ちゃん専用機こと『紅椿(あかつばき)』! 全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」

 

そこに立っていたのは、名にある通りの紅色のISだった。

だが、全スペックが現行ISを上回る機体か。あのうさ耳野郎は、それが何を意味するのか分かってない。いや、興味が無いのか。

 

「さ~て、すぐにパーソナライズとフィッティングを始めようか、箒ちゃん!」

 

「……お願いします」

 

紅椿の装甲が左右に開き、操縦者を受け入れるスペースを作る。

そこに箒が乗り込むと、各種装甲が箒に取り付いていくと篠ノ之束がコンソールに目にもとまらぬ速さで情報を入力していく。

開いては閉じる画面を尻目に俺は、一般生徒たちの方に眼を見やる。

やはり、何処か妬みを孕んだ雰囲気が漂っていた。

 

「ねえねえ、篠ノ之さんって、あれがもらえるの? 身内ってだけで」

 

「だよね、ちょっとずるいよねぇ」

 

そして、とうとうそんな言葉が聞こえて来た。

すると、篠ノ之束は作業を一旦止めるとその言葉を発した生徒たちの方を向くと口を開いた。

 

「おやおや、可笑しい事を言うね。歴史を勉強したことがないのかな? 有史以来、世界が平等であったことは一度もないよ」

 

そんな言葉を放った篠ノ之束に、俺は我慢の限界が来た。

 

「お前こそ歴史の勉強してねぇのか?最新鋭機は、時に戦争を生むぞ。そして、今のこの世界を平等にぶっ壊したお前に言われたかない」

 

「へぇ‥‥」

 

「こっち向いて息すんじゃねぇよ。と言うか消えろよ」

 

なんか知らんが、一夏たちが驚いているが気にしない。と言うか興味無い。

ああ、なんか昔に戻った気分だ。

統真と始めて会った時の俺みたいだな。

 

「そうそう、君にも用事があったんだ。いっくんは無理だから、君を()()()()()

 

()()()()()()()()()

 

「カハッ!」

 

 

 

「そうそう、君にも用事があったんだ。いっくんは無理だから、君を診させてよ」

 

「てめぇは早く死ねよ」

 

ただちょっと、イラっとしたから懲らしめてあげようと思っただけだった。

細胞レベルでオーバースペックな私が、本気になればこんな奴痛い目に合わせるのなんて簡単だ。

簡単なのに、簡単なはずなのに

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「カハッ!」

 

そこまで考えた所で、私は砂浜に打ち付けられた。

 

「おい、お前らそこまでにしろ。鉄。お前は少し落ち着け」

 

「‥‥すいません」

 

「そして、いつまで寝転がってるつもりだ?」

 

「あ、ごめんごめん。早くやるよ」

 

何でだろう。

普通だったら、何か感じるのに何も感じないんだろう?

 

 

 

「――やれる! この『紅椿』なら!」

 

自身に満ち溢れた声の箒を無視して、俺は岩場に座り込む。

 

「全くつまんねぇな。お前らもそう思うだろ?」

 

「お、織斑先生っ! 大変ですっ!」

 

そんな中、山田先生が焦燥した様子で駆け寄ってきた。

 

どうやら、この臨海学校でもハプニングは行われるようだ。

 




一応、言っておきますが自分は束さんは嫌いじゃないですよ。あくまで、双刃は人外が嫌いなだけです。


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episode. 8

何か起こるだろうと思っていた。

 

だから、別に驚きはしなかった。

 

だが、こればっかりは憤る他なかった。

 

「自国の失敗を子供に任すんじゃねぇよ‥‥ッ!」

 

花月荘の屋根上に胡座をかいて悪態を吐く。

専用機を持たない俺にはあの場にいられなかった。だが、何故一夏達が集められたのかだけは教えてもらえた。

何とも言えない表情の織斑先生から言われた事はたった一つ。

 

『軍用ISが暴走した』

 

たったそれだけ。だが、俺にはそれだけで十分だった。

暴走したのならば止めれば良い。だが、それは本来暴走した機体の所属国が対処すべきだ。

けど、それがこちらに回ってきた。

必然的に対処に回るのは、専用機を持ち自由に動ける一夏達専用機持ちだ。

 

「ほんと、ままならねーぜ人生は」

 

「そうだね。僕もそう思うよ」

 

何となしに呟いた言葉に返ってこない筈の返事が、聞き慣れた声で返ってくる。

 

「‥‥‥何の用だ」

 

「いや、別に大したことじゃないよ」

 

いつものヘラヘラとした笑みを浮かべながら、博斗はどこかを向いている。

 

「人生は思い通りにいかない。簡単にならない。上手く回らない。だからこそ、人生は面白いでしょ?」

 

「うるせぇよ。俺はお前みたいに困難愛好家でも楽観的でもねぇんだよ」

 

「ちょっと待ってよ。え、困難愛好家って何それ?初耳なんだけど」

 

「当たり前だ。今から思い付いたからな」

 

時々、博斗や統真のことが羨ましく感じる。

こいつらは俺に無いものを持っている。こいつらは俺に出来ないことが出来る。こいつらは俺に成れないものに成れる。

どこが違うのか、そんなのははっきり言って分からない。

 

人が好きだ。人外が嫌いだ。

 

中学のの頃の俺が、統真と喧嘩した日に言った言葉だ。

これには嘘偽りは無い。

だが、どこまでが人で。どこからが人外かと聞かれてもはっきりとは言えないのも確かだ。

 

「難しいことだらけだな」

 

「むしろ、簡単なことなんてないんだよ」

 

思考の海に落ちていた俺の言葉に博斗は、立ち上がり頭上に広がる空を指す。

 

「鳥はこの広い空を飛ぶ。でも、僕たちは鳥のように飛ぶことは出来ない。けど、鳥は僕たちのように何かを作り発展させる事は出来ない。何か出来るを見つければ、どこか出来ないが分かる。出来るか出来ないどっちが多いかじゃないんだ。出来るも出来ないもどっちも多くて、どっちも少ないんだ±0なんだよ」

 

だから、と言葉を切り博斗はこちらを見やる。

その顔は何時もの見慣れたイラつく最高の(クソッタレな)笑顔だった。

 

 

 

「織斑先生」

 

「鉄か」

 

「あいつらは行きましたか?」

 

「ああ、先ほどな」

 

博斗と別れた俺は、花月荘の廊下を歩いていたら一室の前で織斑先生が立っているのが目に入った。

話しを聞いた感じ、一夏達はもう行ったようだ。

 

「鉄。ひとつだけお前の意見が聞きたい」

 

「応えられる範囲でなら」

 

織斑先生の少し力のない言葉にそんな言葉を返す。

だが、織斑先生が何を聞きたいのか何となくだが分かる。

 

「成功すると思うか?」

 

今、行われている作戦の成功か失敗かだ。

 

「はっきりと言っても?」

 

「ああ、構わない」

 

「では、はっきり言いますが十中八九失敗しますね」

 

「そうか‥‥」

 

そう、呟く織斑先生の手は力強く握られている。当たり前だ。たった一人の家族の一夏が危険な事に巻き込まれているのだ。心配する筈がない。

 

「ただ、その敗北と失敗で得られるものはたくさんでしょうね」

 

「だが、それらは今は許されない」

 

「許されない?そんなの相手に言ってやればいい。一夏や箒は兎も角、セシリア達は代表候補生であってもまだまだ未熟でしょ?貴女が四、五月ごろに言ってたじゃないですか」

 

「ああ。だが、今回の作戦は織斑と篠ノ之だけだ」

 

「え"?」

 

一瞬何を言っているのか分からなくなり呆れるが、何とか気を取り直して聞き返す。

 

「え、いや、何であの二人なんすか?いや、確かにあの二人の機体は篠ノ之束の技術が組み込まれてますが、操縦者は未熟者どころかど素人ですよ?」

 

「ああ、私もわかっている。だが、彼奴言い出したら止まらないんだ。済まない」

 

「はぁー、ホント嫌になりますよ」

 

織斑先生の言葉を受けて頭を抱えたくなるが、ため息を吐いて落ち着きを取り戻す。

 

「それじゃあ、織斑先生。医療室少し借ります」

 

「ああ、済まない。本来ならば私が‥‥‥」

 

「大丈夫ですよ。慣れてますんで」

 

そう言って別れた俺は、運び込まれてくる一夏の処置の為に準備を始める。

 

そして、準備を終えたと同時に作戦失敗の知らせが届いた。

 



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episode.9

「一夏の容態はどうだ?」

 

「ISの保護システムで目立った怪我は無いですが、問題は意識が回復するかですね」

 

「そうか‥‥」

 

花月荘に設置された臨時会議室にて、織斑千冬と鉄双刃の二人は先ほどの作戦失敗の後から変わらない雰囲気で相対していた。

 

「このあとは、どうなるんだ?」

 

「鈴たちのことだから、一夏の仇を取りに行くでしょうね」

 

「そうだな」

 

「それじゃあ、俺はこれで」

 

「まて鉄。お前はどうするつもりなんだ?」

 

伝えることを終えて部屋に戻ろうとした俺を織斑先生が呼び止める。

トラブルや何かがあった時は、俺は必ず俺は動いていた。だが、今回は違う。

俺は何かやる必要がないのだから。

 

「どうもしませんよ。今回は俺が動く必要も動機もないんですから」

 

「そうか。呼び止めて済まなかったな」

 

「いえ」

 

そう言葉を交わし俺は、自分の部屋へと足を進める。

だが、その途中で懐から携帯を取り出す。

 

『やぁ、どうしたんだい?』

 

携帯の向こうから聞こえてきたのは、何時もと変わらない博斗のあざとい声にイラつきながらもそれを表に出さないように会話をする。

 

「単刀直入に言うが、やり過ぎるなよ」

 

『あはは、何に対してかは知らないけど注意しておくよ』

 

側から見れば何を言っているのか分からない会話だが、俺と彼奴の中では十分なのだ。

 

『要件はそれだけかい?』

 

「いや、あと一つだけある」

 

『ヘェ〜、それは何だい?』

 

一年前の俺ならば、死んでも出ない事を俺は今から口に出す。だが、そんな事今はどうでも良かった。

 

「頼みがある」

 

 

 

『いや、あと一つだけある』

 

「ヘェ〜、それは何だい?」

 

別に大したことでも無いと思っていた。

心の変動も何もない状態で、刃の言葉を待っていた。

 

『頼みがある。お前にしか頼まない』

 

は?と無意識に声が出た事に気付くのに約数分掛かった。

その数分の間に刃からの通話は既に切れており、代わりに刃からのメールが1通だけ送られていた。

そのメールの内容を見て、生まれて初めての高い高揚感を感じた。

 

「分かったよ。任せなよ。最初で最後であろうと構わない」

 

御託はいい。そこに刃から頼られたという事実がある限り、他の理由なんて要らない。

 

「やってやる。やってみせる。やり遂げる。そのかわりちゃんと通ってくれよ?」

 

じゃなきゃ、僕のこれは意味ないからね。

 

 

 

「作戦内容は覚えてるかい?」

 

「ああ、バッチリだ。アリアとアリア妹の方はどうだ?」

 

「整備も調整も終わってる。海斗たちには、福音の相手をしてもらうとして君には亡霊たちを相手にしてもらうから、ちょっとしんどいから気をつけてね」

 

「ああ、任せとけ。んじゃ、接続開始」

 

小さく、だが響く声と共に統真の身体を青い光が包み込む。

そして、そのまま大地を蹴り上げると統真の姿はそこから霧のように霧散した。

 

『目標補足』

 

『戦闘形態・移行』

 

統真が博斗と別れるよりも先に先行していたバトルタイプオートマタ一号機アリアとその二号機リーアの二人は、対象を見つけると戦闘形態へと変化する。

 

『『発射(ファイア)』』

 

「「ッ!?」」

 

重火器を展開し、対象の敵ISをロックするとそのまま射撃を開始する。

そして、敵のパイロット達はそこで自分達がロックされている事と攻撃を受けている事を知る。

普通のパイロットであるならば、最初のこの射撃で堕ちていただろう。だが、今回のパイロット二人は適正が高い上に戦闘を既に幾度か繰り返している強者である。

 

「ちっ!何もんだよてめぇら。俺たちの邪魔してタダで済むとでも思ってるのか?」

 

一瞬の判断で、最低限の動きでその砲撃を回避する。だが、完全には交わしきれず装甲の一部を掠っていた。

 

「サマー。どうする?」

 

「任務を遂行したいところだが、残念ながら既にロック済みで正体不明の高性能機だ。それは、得策じゃねぇ」

 

「てことは‥‥‥」

 

砲撃が交わされ、次の行動に移そうとしていたアリアとリーアの二人はアリアを前衛にリーアを後衛に起き、フォーメーションを組んでいた。

そして、敵パイロットも作戦が決まったように武装を展開して、それをアリア達へと向ける。

 

「威力解析といこうかぁ?!」

 

準備(スタンバイ).OK(アンド).(アタック)!』

 

『状況解析、思考修正、武装全展開(フルオープン)

 

「行くぞ、シグレ!」

 

「了解‥‥!」

 

そんな言葉の後、その周囲一帯は激しい閃光光る音速の戦場へと変わった。

そして、両者の関係が拮抗していた時それを断ち切るように空間が割れた。

 

「楽しそうだな。俺も混ぜてくれよ!」

 

マサカリ(稲叢神楽)担いだ金太郎(統真)が、狂笑を浮かべながら現れた。

そこから戦いは、激化して行く。

 

そして、福音の相手をしていた海斗達はIS学園の専用機持ち達が出撃した事を聞き、歯痒い状況であったが撤退せざるを得ない状態となった。

 

主人公(織斑一夏)の登場まで、あと十分。

 

「自由断絶」

 

音を超え、光を超え、事象を超え、限界を超え、理を超え、境地を超えた正真正銘の人外な化け物の統真は、今のこの戦場を決めに掛かっていた。

一秒にも満たないそんな時間の中にそぐわないスピードと剣技で、目の前に在る物を切る。ひたすらに斬る。

 

「チェックメイトだ」

 

そんな言葉を呟き納刀する統真に合わせるように色褪せていた世界に、色彩が戻って行く。

 

「ガハッ!!!!!」

 

「‥‥‥っ!!!!!」

 

そして、それと同時に血飛沫を上げるパイロット二人。

普通なら、死んでもおかしくない怪我を負っていても未だに意識を保つ二人。

そんな中、一人が澄まし顔をして此方を向いている統真に向けて、掠れた声で叫ぶ。

 

「この、ばけ、ものが!!!!」

 

「ああ、よく言われるよ。主に親友からね」

 

恨み言のように吐き捨てられた言葉のあとに、パイロット二人は海へと堕ちそのまま幕を閉じた。

 

「ああ、そういや、やり過ぎるなよって博斗とヤブ医者野郎に言われてたんだったわ。まぁ、でももういいか」

 

人を二人殺したというのに、何時もと変わらないような態度の統真は、インカムを通してアリアの声を聞く。

 

『任務完遂です。帰投します』

 

「りよーかい」

 

『YES.MY.SISTER』

 

統真達が、戦闘を終えたと同時にそれは起きた。

 

世界は一夏を見捨てる事も助ける事もしなかった。

 

旅館の医務室には、目醒めた主人公(織斑一夏)がただ一人いた。

 

そして、作戦は成功した。




ここで、今更な補足。
アリアやリーアの戦闘形態のイメージは、アスタリスクのリムシィです。


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episode.10

一夏編?終わりです。
一夏の出番とかあんまりなかったですけど、一夏編終わりです。
次回から最終編です。


「専用機持ち帰投します!作戦成功です!」

 

一夏達の帰還を知らせる山田先生の声に部屋の中が湧く。まぁ、表に出してないが俺も安心している。

織斑先生と山田先生は、一夏達を迎えに部屋を出た。

さてと、俺も用事を済ませてくるか。

 

 

 

「命令違反に独断先行。言いたい事は山ほどあるが、今は総員、ご苦労だった…………そして、よく帰ってきたな」

 

海岸で一夏達を迎えた千冬は、箒達が起こした違反行動を咎める前にしっかりと無事に帰ってきた一夏達六人に優しげな言葉を返す。

そんな千冬の言葉に何処か気が緩む専用機持ち達だったが、いきなり千冬の雰囲気が変わった事に気付いて飛び退いた。

 

「お前たちは良く帰って来てくれた。だが、違反行動を見逃す理由にはならない」

 

実質の死刑宣告に、顔を青ざめる一夏達だったが思わぬ形で救われた。

 

「まぁ、今回は()()()()()()()()があったから良かったが、次は容赦しないからな。いいな?」

 

「「「「「は、はい!」」」」」

 

謎は残ったが、一夏達は疲れた身体を癒すために旅館へと戻って行った。

そして、二人だけ残った千冬と麻耶の二人は何となしに会話をする。

 

「それにしても凄いですね」

 

「ああ、私にはあいつがどの程度予測出来てるのか分からないな」

 

「鉄くんの作戦変更のメールが無ければ、織斑くん達には何らかの罰を与えなくてはなりませんでしたから」

 

「そうだな。指導者としてパイロットとして実に良い人材だが」

 

「自主退学。何処までも自分の夢を目指し続けられるなんて、凄いですね。私は、諦めちゃいましたから」

 

一夏達がお咎めなしなった理由は、一夏が突如として目醒め飛び立っていく直前に双刃から作戦室に一通のメールが送られた。

その内容は、今から出撃する織斑と既に交戦中の専用機持ち達と福音を堕とす。という作戦の内容を記されたものだった。

それと、同時に自主退学の四文字だけが書かれていた。

 

その自主退学を語るように旅館には、既に双刃の姿は忽然と消えていた。

 

「夢は見るから夢じゃない、か」

 

「誰の言葉ですか?」

 

「鉄だ。あいつは、この言葉の後に叶えたいから夢なんだ、と言ったな」

 

「鉄くんらしいですね」

 

「全くだ」

 

優等生のように見えて、どこか問題児のような双刃のこれからを考え千冬と麻耶の二人は、退学申請や事後報告、対応などが残っている旅館へと戻って行った。

 

そして、朝日は昇り臨海学校も終わりとなり最後のレクを終えてIS学園に帰るため学徒達が、バスに乗り出す。

 

その後臨海学校の終わりから、IS学園の学徒が双刃の姿を見ることになったのは約5年後の事だった。

 



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KARTE.6 鉄双刃
epilogue. 1


最終編は、双刃編です。
というか、こっからもうISとは別物のストーリーになる可能性大ですが、それとなく入れていくので、読んでいってください。


「お久しぶりです。来夏さん」

 

「うん。この前杏奈に会いに来てからかなり期間が会いちゃったからね。それで、準備は大丈夫かい?」

 

夏休みに入り、臨海学校前から誘われていた試験を受けに俺は東都総合病院へ向かうと入り口のところで来夏さんに会った。

そこで軽く談笑しつつ、来夏さんが最終確認をしてくるが返事は決まっている。

 

「えぇ、もちろん。じゃなきゃ来ません」

 

「うん。君ならそういうと思ってたよ。それじゃあ、始めようか」

 

「お願いします」

 

頭を下げた俺は、病院の中に入る来夏さんの後をついて行き、集中力を高めていった。

 

来夏さんについて行くこと約数分、個室に連れられた俺はそこで試験官や監督者の話しを聞きつつ、冷静に情報を整理していった。

杏奈、親父、博斗。お前らに誓った俺の願い。絶対に叶えてみせるからな。

 

 

 

「刃の試験、始まったみたいだね」

 

「まぁ、大丈夫だろ。あいつなら」

 

「そうだと良いけどね。なんせ、人生上手くいかない事の方が多いんだからが、口癖だった刃だからね」

 

「それもそうか」

 

総合病院へ入って行った刃を、小型ナノマシンで追跡しながら試験の開始を確認する。

受かるだろうとは、僕も統真も思っているけど何が起こるか分からない。だから、こうして何かの時の為に僕と博斗が待機しているのだ。

まぁ、無駄足になって欲しいんだけどね。

 

『俺はお前の事が嫌いだ。けど、お前が親友で良かった』

 

「本当、矛盾が好きだね。刃は」

 

何故か、中学の頃一度だけほんの少しだけ刃に手を貸した。

そんときに刃に言われたことを思い出し、思わず呆れ笑が溢れる。

 

僕の事が嫌いな癖に、僕の事を親友と言った。

 

とても臆病な癖に、自ら進んで道を切り拓く。

 

何も出来ないという癖に、何でも出来てしまう。

 

平凡に見えて、僕や統真、織斑千冬(世界最強)篠ノ之束(大天災)のように非凡な才覚を発揮するのに、そんな僕らを嫌っている。

 

言うことと、行動が釣り合わない。

 

でも、それを一々気にしたことは無い。気にする気なんか全くなかった。

刃が、僕らのように自分の信念で動いていたのを知っていたから。

 

「統真。君は刃に会えて良かったと思ってる?」

 

「何を当然の事を言ってんだよ。当たり前だろ?そんな事。今までの俺もこれからの俺には、どこかしらであいつのお陰ってのが絶対にある。あいつのお陰で、お前と一緒に楽しんだり出来てるからな」

 

「僕もだよ。刃のお陰で出来たものはたくさんある。刃のお陰で生まれた事はたくさんある。刃には、かなり感謝している」

 

二人して、刃に対して同じように感謝している。

当たり前だ。歪と言われようと、僕ら三人は今まで互いを良く知りながら過ごして来た。

だから、信用も信頼してるけど、疑っていたりする。

 

「いつか、刃と三人で宇宙を飛んでみたいね」

 

「いいな。それ、嫌がっても連れてくか!?」

 

「はは、殴られる未来が見えるよ」

 

そこから、刃が部屋から出てガッツポーズをするまで、僕と統真の二人は互いに談笑を交わした。

あ、こうなったら人生に頼まれていた奴準備しなくちゃ。

 

 

 

「おめでとう、と言っておくよ。双刃くん」

 

「ありがとうございます」

 

「杏奈ちゃんの手術は、表向きは僕がメインで君はサブだ。ここは分かるね?」

 

「はい。それで、いつになるんですか?」

 

「まぁ、そう焦らないでよ」

 

試験に無事合格し、第1段階を超えた俺は来夏さんにまた案内されて、病院のまた何処かの部屋に案内された。

 

「杏奈ちゃんの症状は、下半身不全に神経遅延、異常。それによる細胞や神経の炎症。特に脚の神経は断裂している。君が考えて僕が練り直した方法ならば、杏奈ちゃんを救える。でも」

 

「でも、俺の経験が少なすぎるんですよね?」

 

杏奈の症状を聞かされ、所々冷静じゃいられなさそうになったが、気合いで持ちこたえる。

そして、来夏さんの言葉を予測して答えると来夏さんは笑みを浮かべて頷きを返してくれた。

 

「手術は一週間後だよ。それまで、僕やほかの医師の人と一緒に君の経験を増やして貰うよ。いいね?」

 

「はい」

 

「よし!じゃあ、始めようか」

 

そこから俺は、死に物狂いで学んだ。

色んな先生の色んな言葉を聞いて、実践して、技術を吸収した。

物覚えは元々良かった方だ。

 

そして、医療について学んでいくといつのまにか手術の前々日になっていた。

 



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epilogue. 2

今回は双刃の両親が登場。
自分が思うかっこいい親を書いて見ました。
かっこよく思えたなら幸いです。



「久しぶりだな。家に帰るのも」

 

杏奈の手術を明日に控えた今日。

俺はほぼ徹夜状態だった身体を休める為、約半年ぶりに俺の住んでいた家へと来ていた。

 

久しぶりに訪れた我が家は、去年末と全く変わらない出で立ちで俺を迎えてくれた。

 

「療養に来たのに肩意地張ってたら余計に疲れるな。前と同じ何時も通り良いんだよな」

 

我が家に帰ってきたというのに、なかなか中へと入りづらかったが意を決して扉を開ける。

それで、中に入ったらこう言っとかないとな。

 

「ただいま」

 

家の中は、半年前と変わらない様子で俺を待っていてくれた。

 

「おかえりなさい。双刃」

 

「ああ、ただいま。母さん」

 

着物を着た美麗の女性。

彼女が俺の母で、今までの俺をつくり上げた恩人。

鉄桔花(くろがねきっか)その人だ。

 

 

 

「それじゃあ、明日には杏奈ちゃんの手術があるのね」

 

「ああ、それで今日は療養序でにこっちに帰省して来いって来夏さんが」

 

「ふふ、そう。なら、ちゃんと休めるようにしなくちゃね」

 

玄関から上がり、軽く風呂に入った後学校帰りに何時も居た居間で寛ぎながら、今日来た理由を母さんに説明すると母さんは夕食の準備をし始めた。

 

「双刃」

 

「なに?」

 

「あなた、ちゃんと出来てるの?」

 

トントンとリズム良く包丁とまな板の鳴らす音の中、母さんからの問いかけに俺は何のことか一瞬分からず固まってしまった。

 

「あなたは、命を預かるのよ。自分じゃない他人の命をね」

 

「分かってるよそんなこと。じゃなきゃ、目指してねぇよ」

 

「そう言う事を言ってるんじゃないのよ。私が、言いたいのはあなたが医者(それ)を目指した理由は、杏奈ちゃんでしょ?もしあなたは、杏奈ちゃんを救ったとしてもその後は、如何するのかしら?」

 

母さんが言いたいのは、杏奈の事を救ったとしてその後の俺の人生は、如何していくつもりかだ。

俺が杏奈が助かった事で、やる気を無くすんじゃないのかと思っての言葉。当たり前だ。杏奈を救いたいなんて理由は、本音の一部分に過ぎない。

本音は杏奈の事が好きだと言うただそれだけだ。

 

「私たちは、あなたが信じた道を歩んで欲しいと思ってるわ。そこに苦難や問題があるんだったら、手伝ってあげる。助けてあげる。存分に頼りなさい。その為に私たち親は居るんだから」

 

母さんなりの励まし、だけどあの時のように心に響く言葉だった。

 

『誰かを救いたいとかどうでもいい良いんだ!ただ、あいつが苦しんで欲しくねぇんだよ!』

 

『なら、あなたが救うしか無いわね。大丈夫。あなたは、私たち親の子で私たちの自慢の息子なんだから』

 

信じてる。たったそれだけの言葉だった。

ほんと、ウチの親は俺を精神的に殺す気である。ホント、敵わない。

 

「んな事当たり前だし、知ってる。“やると決めたらやり遂げる”でしょ?」

 

「ふふ、そうね。そうだったわね」

 

「ちょっと部屋に居とく。出来たら言って」

 

「分かったわ」

 

顔を合わせないまま、居間から出ようと扉に手を掛けた時言い忘れた事を思い出す。

 

「ああ、それから」

 

「うん?何かしら?」

 

俺の言葉に母さんは手を止め、顔をこちらに向ける。

 

「もし何てifの話しじゃねぇから。救うんだよ。俺は」

 

それだけ言い、そのまま扉を開け居間から出て行く。

だから、最後に母さんが呟いた。

 

「分かってるわよ。何たってあなたはあなた何ですもの」

 

そんな言葉は、俺の耳には届かなかった。

 

 

「双刃ー。出来たわよー」

 

「わかったー」

 

自室で、時間を潰していたら母さんに呼ばれ食卓へと向かう。

するとそこには、母さんと仕事から帰ってきていた俺の親父鉄柚月(くろがねゆづき)が着替え終わった状態で椅子に座って待っていた。

 

「ただいま」

 

「ああ、おかえり」

 

久しぶりの家族三人揃っての食事は、ぎこちない雰囲気は無く他愛ない話しをしながら過ぎていった。

 

「双刃。こっちに来なさい」

 

「んだよ。親父」

 

夕食を終えて、居間で流れるテレビを見ていたら縁側に座っていた親父に呼ばれた。

 

「少し晩酌に付き合いなさい」

 

「んだよ。唐突に」

 

そうは言うが、拒まずに親父の隣に座り母さんが作ったであろう炙りチーズを食べる。

丁度いい塩味が口の中に広がる。

 

「樋之上さんの手術、明日なんだとな」

 

「ああ、俺はやり遂げてみせるよ」

 

「そんな事は分かっている。私が、言いたいのはそう言う事ではない」

 

親父の意図が全く分からず、内心で頭を傾げていると親父が真剣な顔つきで俺の方を向いて来た。

 

「私はお前と同じ時に夢描いた夢を捨てた。無理だと言って諦めた。だが、お前はその時の私よりも十分過ぎるほどに夢に向かって進んだ。だから、お前は」

 

そこで言葉を切った親父は、空に昇った月を見上げこう言った。

 

「休んでも良い。逸れても良い。挫けても良い。それでもしっかりと前に進みなさいよ」

 

「‥‥‥分かってる。それで、もし大変になったら迷惑かけるかもしれないけど‥‥」

 

「心配要らないさ。子供は親に迷惑をかけるものだから」

 

「ああ、お願い」

 

ホントに、敵わないんだよこの二人には。

 



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epilogue. 3

時間は経ち双刃が、彼女の手術を行う日となった。

 

「やぁ、刃。待ってたよ」

 

「ああ、俺もだ」

 

病院の前で待っていた僕は、今しがた来た刃と少しだけ話をして要件を済ませる。

 

「はい、これ。頼まれてた物だよ」

 

「ああ、すまんな。助かる」

 

今までの刃ならば、返ってこなかった返事。

もともと、自分の信念を持ってはいるけど、自分が成し遂げたいと思った事に関わるなら信念を捨てる事も厭わないのが刃だ。

でも、そんな光景を何度か見たことあったけど、今日の刃は今までの刃よりも何処か希薄だった。

 

「刃、もしかして怯えてる?」

 

「‥‥はぁ、やっぱお前にはバレるか」

 

「当たり前でしょ?僕は君とは、割と長い付き合いなんだから」

 

そう返す僕の言葉にもう一度息を吐いた刃は、ポケットに入れていた右手をだしてその手のひらを見つめる。

 

「今まで、何度か人を救うやら助けるなんて言ってたが、実際に他人の命を預かると思うとやっぱ、普通じゃあ居られねぇなぁ」

 

そう言う刃の顔は、何処か皮肉るような雰囲気だったが、次の瞬間には何時もの覇気を纏った刃へと戻っていた。

 

「そんじゃあ、行ってくるわ」

 

「あ、ちょっとまって。白衣って持ってる?」

 

「いや、まだだが?」

 

病院へと行こうとする刃を呼び止め、もう一つ持っていたバックを渡す。

 

「前祝いだよ。僕と統真は信用してるよ。何たって僕らは親友なんだから」

 

「ふっ、ありがとな。遠慮なく貰っとくわ」

 

二つのジェラルミンケースを引っさげて中へと入っていく刃の後ろ姿は、何時もの刃よりも随分とカッコよく見えた。

 

 

 

「お待たせしました。来夏さん」

 

「うん。大丈夫だよ。それよりもアレはどうだい?」

 

「はい。ちゃんと持ってます」

 

来夏さんと会った俺は、博斗から貰ったジェラルミンケースを見せる。

 

「それじゃあ、始めようか。準備はいいかい?」

 

「えぇ、大丈夫です。じゃなきゃ、居ませんよ」

 

「そうだね。行こうか。僕らの仕事は人を救う事だよ。それだけは忘れちゃダメだよ」

 

「分かってます。それを今まで習って来たんですから」

 

杏奈。お前は、お前の望んだ世界を俺が見せてやる。

だから、今は不甲斐ない俺が頑張るのを見守ってくれ。

 

俺はお前を絶対に助ける!

 

 

 

「やっぱり、あんたは来たな」

 

「誰だ。お前は」

 

博斗が用事を済ませ、双刃が自分の夢を叶えようとしだしている頃、俺は目の前に佇む天災(篠ノ之束)と相対していた。

 

「知らないなら、知らなくて結構だ。どうせ忘れるだろ?」

 

「ふん」

 

会話になってない会話をしながら、俺は敵意剥き出しの篠ノ之束の眼を見据える。

 

「そんな事より、退け」

 

「嫌だ、と言ったら?」

 

「死ね!」

 

敵意から殺意へと変わり、俺をやりに来た篠ノ之束を空気投げの応用で、いなして流して組み伏せる。

 

「ガハッ!」

 

「おいおい、物騒だな?そこまでして、あのヤブ医者を殺したいか?まぁ、俺らがさせねぇがな」

 

それにしても俺も随分と甘くなったものだ。

殺されそうになったら、無力化じゃなくて撃退でもなくて殺ってたのによ。

 

『イテェか?統真(バケモノ)。はっ!ざまぁみやがれ、人間を俺を鉄双刃をなめんじゃねぇよ!』

 

自分よりもボロボロで満身創痍で、明らかにこっちの有力なで俺が勝つのは目に見えているのに、あいつは双刃は、自分の信念を揺らがずに立っていた。

あの時の俺とあの時の双刃。何が違ってたのかは、今でも分からない方が多い。けど、一つだけ分かったことが言えることがある。

 

「離せ!私に触れるな!わたしの邪魔をするな!お前ごときが、私の(進化)を阻むな!」

 

「断るぜ。いや、言破(ことわ)る。何たって、俺たちは他人に迷惑ばかりかける成り損ないの馬鹿(人外様)だからぁ?!」

 

篠ノ之束を掴み上げて、宙ぶらりんにする。

そして、拳を構えて呼吸を整える。

篠ノ之束は、尚も俺に何か言葉を放つが聞こえない。聞く気がない。

 

『お前が、馬鹿で助かった。あの野郎のように頭良くなくて助かった。感謝してるぜ、バケモノ。お陰で俺は今までより強くなれた!』

 

「あんたが、来てくれて助かった。あんたが、ただの人じゃなくて助かった。感謝感激だ、篠ノ之束。あんたのお陰で俺は自分を知れた」

 

あいつとの最初で最期の大喧嘩の果てに、あいつのトドメの一撃を放つ時に言われた言葉を俺風に篠ノ之束へと放つ。

そして、そのまま渾身の力で拳を振り抜く。

 

「ごはっ!」

 

「俺の勝ちだ」

 

バタッと地面に倒れて気絶する篠ノ之束を尻目に、博斗からのサムズアップのサインを視界に入れる。

 

「はは、言ったろ?俺らが組めば、俺らの(運命)に障害はあっても困難は無いってな?」

 

そのサムズアップは、双刃の野郎があの女を救ったってことだ。

だが、あいつはこれから手術よりも大変になるだろうな。

 

「樋之上家、旧姓“火之神(ひのかみ)家”日本きっての上層旧華族の本家の一人娘だからな。樋之上杏奈は」

 

もう一波乱ありそうだ。

 




篠ノ之束が、双刃を殺そうとした訳。
・手を抜いているとは言え、自分を組み伏せられた相手に何も感じなかった。
・感じなかったという事を感じた脳は、双刃に対して一種の恐怖を感じた。
・それにより、始末する事を選んだ。

以上です。

次々回で、終わると思います。
最後まで読んでいってください。


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epilogue. 4

「ここか‥‥」

 

「うん、そう。ここが私の家」

 

杏奈を救い、色々なドタバタがあったりしたが、今俺は杏奈の実家である『樋之上家』へと杏奈と共に訪れていた。

 

「大丈夫?お父さんは分からないけど、お母さんは、多分物凄く反対するよ?その‥‥」

 

「将来性の無いクソガキだからだろ?知ってるよ、そんな事。何度か会ってるからな」

 

「でも‥‥」

 

「けど、諦めねぇよ。反対するなら認めさせるだけだ」

 

「うん、そうだね‥‥」

 

そう、言葉を返す杏奈の言葉はどこか力を感じられなかった。

 

俺たちは、今から何をしに行くのか。簡単に言えば、杏奈の両親に娘さんをくださいと(ご挨拶を)言いに行くのだ。

だが、病院で何度か会った程度だが杏奈の母親は、なんて言うか若干ヒステリックな感じがする。

序でに、女尊男卑な思考は持っていないが、かなり面倒な人というのは分かる。

 

「お帰りなさいませ。お嬢様」

 

「うん、ただいま。それで、彼が‥‥」

 

「事情は伺っております。旦那様方の方へと案内致します」

 

「お願い」

 

門をくぐると其処には、いかにもな格好のお手伝いさんが俺たちに頭を下げて待っていた。

杏奈が、その人と会話を少し交わした後、俺たち二人は来客室らしき和室へと案内された。

 

「旦那様。お連れしました」

 

『ああ、入りなさい』

 

「「失礼します」」

 

厳格な雰囲気の言葉の後、障子を開け和室の中へと入る。

其処には、先程の厳格な声の主であろう男性と俺に対して明らかに敵意を向ける和装の女性が、卓を挟んで並んで座っていた。

 

「話しをする前に先に名乗っておこうか。私は、杏奈の父親の樋之上燈亞(ひのうえとうあ)だ。隣の彼女が母親の‥‥」

 

「‥‥樋之上明乃(ひのうえあけの)です。言っておきますが、私はあなたのことを認めませんからね!」

 

燈亞さんの言葉に不承不承ながらも答えた明乃さんは、何故かヒスって俺のことを指差して認めない宣言をしてきた。

杏奈がそれを見て、止めようとしたが意外な人が止めてくれた。

 

「よせ、明乃」

 

「あなた?!」

 

「私たちは、彼を一方的に否定する為に来てもらったのでは無い。杏奈の将来を共に歩んで行けるかを知る為に来てもらったのだ」

 

「そんなものダメに決まってるわ!?杏奈には、ちゃんとした相手が相応しいわ!こんな、普通で将来性の感じない人がなんて!」

 

「静かにしなさい」

 

「っ!‥‥‥」

 

そこまで言いかけたところで、燈亞さんが今度は、口では無く視線と怒気を孕んだ口調で静止させた。

明乃さんが、黙ったのを見て燈亞さんは今度は杏奈を見やる。

 

「杏奈。悪いが、席を外してくれないか?お前が居ては、話しづらい事もあるだろうからね」

 

「はい」

 

燈亞さんのその言葉を聞いた杏奈は、立ち上がり、和室から出て行った。

 

「それじゃあ、早速話しをしようか。私のたちが聞きたいのは、さっき言ったように杏奈と共にこれからを歩んで行くのに君が、相応しいかだ。君は、君自身はどう思ってるんだい?」

 

人を試すような視線を向けたままで、いきなり俺に質問してくる。

成る程、流石は杏奈の親だな。

 

「相応しいか、どうか言われれば。どっちでも無いと言います」

 

「どっちでも無いと?何故?」

 

「誰かと誰かが、相応しいなんて誰かが言うべき事じゃ無いからです。相手が自分と相応しいかを考えてから一緒に行くんじゃ無く。相応しいかを知る為に一緒に行くと俺は考えていますから」

 

親父や母さんを見てきた俺は、そう思ってる。

俺の言葉を聞いた燈亞さんは、軽く笑うと俺の目を見てこう言った。

 

「君が言いたい事は分かります。私自身、そう思ってるのだから。杏奈が選んだ人だ。これからを決めるのは私たち親じゃない」

 

そう言う燈亞さんの顔を苦虫を噛み潰したような顔で睨み今にもヒステリックになりそうな明乃さんだったが、燈亞さんの軽い睨みで押し黙る。

 

「だけど、一つだけ聞いていいかな?」

 

「はい。何でも」

 

そう言う燈亞さんは、一息吐くとこちらを見やり言葉を続けた。

 

「君は、杏奈に何をしてやれる?」

 

一瞬何を言っているのか分からずかたまっている俺を他所に燈亞さんは、眼を閉じて語り出した。

 

「明乃は色々としていたようだが、私は杏奈に対して何かをしてやれなかったダメな親だ。だから、教えてほしい。君は、杏奈にどんな事をしてやれる?こんなダメ親の元に育ったあの娘の為に、何かをしてやれるのか。教えてほしい。これが親としての私のワガママだ」

 

そう言う燈亞さんの真剣な視線に答えるべく、真っ直ぐに向かい俺は口を開けた。

 

「貴方があいつに、やれなかった事全部です」

 

「過言や戯言ではないかね?」

 

やんわりと否定してくる燈亞さんの言葉に、首を横に振り否定する。

 

「いいえ。俺は、杏奈と会って色々と助けられました。目指すものが無かった俺には目指せる物をくれました。様々な物を知りました。だから、俺は杏奈にその分のお返しをしなきゃいけない。する義務がある。だから、貴方がやれなかったであろう事。あいつが望んだこと。その全てを叶えてやる。それがあいつと共に歩みたい俺のすべき事です」

 

静かに眼を閉じて俺の言葉を聞いていた燈亞さんは、ゆっくりと眼を開けて俺の事を見据えて静かに()()()()()

 

「娘を頼みます」

 

「‥‥っ!任せて下さい‥‥!」

 

静かに言われた言葉を聞いて、俺はお辞儀を返した。

この日、俺と杏奈は両家公認で付き合うことが出来、二人が二十歳になると同時に結婚する事が決まった。

 

 

 

 

そして、それから5年の時が過ぎた。

 



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episode. 5

最終回!
相変わらずの速さであるww

では、どうぞ!


一人の男の話をしよう。

 

何て、言って見たけどこれはそんな仰々しい物じゃない。これは、刃と杏奈ちゃんが結婚した後の話。

 

何の変哲も無い後日談だ。

 

語り手は、この僕、海原博斗が務めさせていただくよ。

 

 

 

 

僕らが二十歳になると、刃と杏奈ちゃんは早々に結婚式を挙げた。一応、僕と統真も呼ばれたけど実際には行く事は出来なかった。

まぁ、僕は小型動体カメラを送ったからリアルタイムで観てたんだけどね。

 

統真の場合は、インカムからの音声を聞きながらテロリスト達を嬉々としてぶった切ってたから、結構引いたけど。

 

ああ、そんな話しは良いか。

結婚式から少しした後には、刃は自分の小さな病院を持ったらしく色々とバタバタしていた。

 

そんな時に、ちょっかいをかけたら明らかに人間をやめたスピードの拳が僕の頬を掠めた時は流石に驚いた。

 

「杏奈助けたから、人間である事に拘り持つのはやめた」

 

なんて、言った時はあの時の頑固さはどこにいったのかと思って、壮大な肩透かしを受けた。

まぁ、好きにやってるみたいだから気にしないけどね。

 

拘りを捨てた刃だったけど、信念は変わっていないらしく逃げ込んできた負傷した逃亡犯や重症のテロリスト達が来た時は普通に治してたな。

まぁ、治した後は拘束して刑務所にぶち込んでたけど。

僕が渡した超高性能白衣“鋼鉄の白衣(フローレンス)”も十分に役立っているようで、科学者としては結構満足している。

 

刃の事はこれぐらいにして、今度は僕たちの事について語ろうか。

 

結果から言うと最強の兵器の称号をISから分捕った。

 

AUWとISを解析、改良、進化させて完成させた多状況対応型装甲機人“アーマード・フォートレス”の誕生によって、テロリスト組織である亡国の勢力を六割削れた。

束博士からは、物凄いキラキラとした表情で沢山語り合った。

 

って言っても、女尊男卑の風潮が無くなったわけじゃない。

裏の世界じゃあ、アーマード・フォートレスは認知されてるけど、表の世界じゃあ全く知られていない。

まぁ、そんな事は目的じゃあ無いからどうでも良いけどね。

 

そんなこんなであっという間に5年が過ぎた。

 

世界は変わらず、表では女尊男卑が蔓延り続け、裏では最高の兵器の登場により世界情勢を変えようと躍起になった。

 

さて、新しくも古い物語は、ここで一旦お終いだ。

 

だが、また新しい物語は語られる。

 

それが、この世界の物語なのだから。

 

 

 

何処かで世界が変わろうと、人一人が出来ることは少ない。

 

人は、出来ることが少ないからこそ出来ようと手を伸ばす。

 

当たり前が、当たり前である内に成し遂げたいと思うから。

 

これは、一人の少年が一人の少女を助けたいと願った後の物語である。

 

 

IS〜愛しき貴女に捧げる我が人生〜 ー完ー




捕捉
鋼鉄の白衣(フローレンス)
博斗制作の耐弾、耐刃、耐熱、耐水、耐雷、耐衝の全ての機能が既存する全てのパワードスーツや防護服の遥か上を行く白衣型のパワードスーツ。
ISの攻撃も無力化出来る。


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