勇者「えい、えい」魔王「…」 (めんぼー)
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旅に出よう

時は遥か昔!

 

人類と魔族が存在する戦乱の世!

 

人類は魔王軍の猛攻に疲弊し窮地に陥っていた!

 

だがそこに一筋の光… 【救世主】 が現れた!!!

 

 

―始まりの国・謁見の間―

 

 

王様「…」

大臣「…」

神父「…」

王様「…わしの聞き間違いか?」

 

 

神父「いえ、王様聞き間違いではありません」

王様「おちょくっておるのか?」

神父「滅相もございません。人でなしと呼ばれ、この首飛ぶ覚悟で参りました故」

王様「この者が…神より天啓を受けし勇者だと…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者「おーさま~おひげかっこいい~!」チマ~ン

王様「オーマイゴッド」

 

 

神父「先日神のお告げにより…その…この子が勇者だと…」

大臣「…まだ10もいっておらぬような子供ではないか…」

王様「これこれ、おヒゲを引っ張ってはならんぞホッホッホ」

勇者「わ~い!」キャッキャッ

 

 

王様「ぼうや、歳はいくつじゃ?」

勇者「としってなに?」

王様「あ~…今何歳なのかな?」

勇者「ななさい!」にぱっ

王様(はい、エンジェル。恐ろしく可愛い笑顔。わしじゃなきゃ見逃しちゃうね。)

 

 

王様「仮にこの子が勇者だとしよう」

神父「はぁ…」

王様「送り出せると思うのか?」

神父「いえ、しかし…」

王様「送り出せると思うのか?」

 

勇者「おもうのか~!しんぷさま~!おーさまの椅子柔らかいよ!」

 

王様「この笑顔の前にお主は送り出せるのか?」

神父「無理ですな」

王様「この子に何かあったらと思うと…わしは…わしは…」

大臣「おぉ…民を相手になんと慈悲深い…」グスッ

神父「王様…」ホロリ

 

 

 

王様「王道RPGなんぞクソくらえみたいに他国と連携して魔王軍を数で圧倒して 大臣「王様ァー!!!!!それ以上はなりませぬ!!!!!」

勇者「おうどうあ~る…なに?」

神父「王道アスパラガスだよ、野菜の名前だ」

勇者「やさいきらい」

神父「好き嫌いはいけません」

 

 

 

神父「神よ…貴方は何故この子を…」

王様「ううむ…これでは国は…いや…」

大臣「しかし王様、魔王を倒せるのは勇者の一太刀のみと…」

 

勇者「おーさま」

 

王様「なんじゃ?」

勇者「ゆうしゃは勇者だから大丈夫!だってゆうしゃだから!」

王様「あーもう可愛いなぁ、孫にならない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~魔王城・魔王の間~

 

 

 

側近「報告します」

魔王「うむ」

 

 

側近「勇者が人間の国に誕生した模様、現在旅立ちに向けて準備をしているとのことです」

魔王「まじか」

側近「まじです」

 

 

魔王「闇あれば光あり…時代は変わっても世界の本質は変わらぬ」

側近「如何致しましょう」

魔王「先代達は勇者を甘く見て旅立たせてしまい、最期には討ち取られていた」

側近「はい」

 

 

魔王「勇者が旅立つ前に殺せ、事故に見せかけよ」

側近「仰せのままに」

魔王「では、その役を担う者であるが」

側近「四天王の水の魔神に行かせてはどうでしょう」

魔王「ほう、旅立つ前とはいえ相手は勇者だ。大丈夫なのか?」

側近「水の魔法に長けておりますし、水難事故に見せかけることも可能かと」

魔王「よい、ならば側近に一任する。吉報を待っているぞ。」

側近「失礼します」ガチャッバタン

 

 

魔王「…行ったか?」

??「はい」

魔王「そうか」

??「続きをご覧になりますか?」

魔王「無論だ」

 

水晶が 輝きだし 人間の国が 映し出される !

 

魔王「…」

 

 

側近「ということだ、頼めるな?」

水魔「いいのですか?私がその役を仰せつかっても」

側近「万が一負傷しても治癒魔法を持つお前だから頼むんだよ。人間には化けられるな?」

水魔「わかりました、そういう事でしたら。…ふふっ♪勇者の御命頂戴してきますわ♪」

側近「これで勇者も終わりだなぁ、はっはっはっは!」

 

 

 

 

~始まりの国・噴水広場~

 

 

僧侶(水の魔神)「さて…」(聞けば勇者とは子供のようですね。どうやって探しま…ん?)

 

 

勇者「わーい!」タタタタタ み゛------------ん゛!!!!!!!!!!!

大臣「勇者どのォーーー!!!!!!!」ドドドドド

兵士「それはクワガタじゃございません!!アブラゼミです!!!」ダダダダダ

 

 

僧侶「いたよ」

 

 

勇者「あ、そうりょさんだー!」ん゛み゛ーーーー!!!

僧侶「ひぃっ!虫ぃ!!」

勇者「こんにちわー!見てみてークワガター!」み゛み゛ん゛み゛ん゛み゛---wwwwwwww

僧侶「むっむっ虫っ!虫を遠ざけて下さいまし勇者様ァ!!」

 

 

大臣「勇者どの、女性に虫を向けてはなりませぬ」

勇者「え?なんで?」

兵士「女性は虫を嫌うからです、触れないのですよ」

僧侶「できれば視界からも無くして頂けると…」

 

勇者「おかーさん…おかーさんじゃなかったんだ…おとーさんだったんだね」

 

大臣「えっ」

兵士「えっ」

僧侶「えっ」

 

勇者「おかーさん家に出てきたゴキブリを手で潰してたんだ…男の人だからなんだね」

 

大臣「いやあのえっと」

兵士「それはなんというか…」

僧侶(虫を素手で…?流石は勇者の母親といったところですわね…)

 

 

大臣「例外もあります故、あまり気にしないでもよろしいかと…」

勇者「れーがい?」

大臣「あー…つまり…」

僧侶「女性でも触れる人は少しだけいるという事です、勇者様」

 

 

勇者「そうなんだ…よかった…」

僧侶  クルリ(ちょろいですね、さてこの後勇者様には死んでいただk 勇者「そうりょさんっ!」

 

僧侶「なんですか?」クルッ

 

勇者「ありがとう、そうりょさん!」にぱっ☆

 

僧侶「」ズキューン

 

兵士「落ちましたな」

大臣「あぁ、間違いない…即落ち一行だ」

 

僧侶「…」(え?なんですかこの可愛い生物、小悪魔?プチデビル?こんな可愛い子を殺せと仰るのですか魔王様?あぁそれにしてもや~ん…かわいい…持って帰りたい…勇者としての使命忘れさせて一生一緒にいてくれや~してもいいのでは?)

 

大臣(ふむ…勇者どのについて行くと言って聞かぬ輩が多いからどうしようと考えていたが…これは)

 

 

僧侶(今すぐ連れて帰ろう)ピラメキーン

大臣(今すぐ僧侶に仲間となって旅立ってもらおう)ヒラメキーン

 

 

僧侶「あの、勇者様」

勇者「なに~?」

大臣「待たれよ僧侶殿」

僧侶「はい?」(まずい、ばれましたか…!)

 

 

大臣「いきなりの不躾な物言い許されよ、勇者殿の仲間となり、共に旅に出てくれぬか?」

僧侶「はい勿論、喜んで」

兵士(はやっ)

 

 

僧侶「かの憎き悪逆非道な魔王を討ち滅ぼすべく私もお供いたします」

大臣「すまんな、急な話で」

僧侶「こうしている間にもきっと多くの方々が苦しんでいらっしゃいます…」

大臣「では…」

 

 

僧侶「はい、『今すぐに』旅立ちます」

大臣「よし、その言葉待っておった!兵士ィ!!」

兵士「馬車なら既に城の門前に待機させております!!」

大臣「善は急げだ!勇者どのぉ!!参りますぞ!!」

勇者「どこいくの~?」

 

 

僧侶「魔王退治ですわ、勇者様」

勇者「まおーたいじ?!いくー!!」

 

兵士(可愛すぎか)

王様(そうじゃろうそうじゃろう)

兵士「はい…って王様ァ!?」

 

 

大臣「チィッ!気づかれたか!」

王様「大臣貴様ァ!!!」

大臣「ここは私に任せてお前達は早く行け!手遅れになっても知らんぞーーー!」コブラツイスト 

王様「ぬわーーーーーっ!!!」ガシィッ

 

 

僧侶「勇者様、こちらです!」グイッ

勇者「おーさまいってきまーす!」

 

 

王様「勇者ァァァァァー!!!」グイグイ

勇者「おみやげ買ってくるねー!」

王様「いい子じゃなぁぁぁあああ!!!!」ダバーッ

大臣「王様…お許しを」パッ

 

 

王様「大臣…よくもわしの可愛い勇者を…」

兵士(ねぇ今さらっと『わしの』って)

大臣「ここを通りたければ私と兵士を倒してからにしてもらいましょうか」

兵士「え、ちょっ」

 

 

王様「ぐぬぬぬ…兵士長!!」

兵士長「はい」

兵士「!?」ブッー

王様「お主はそこの兵士を頼む!」

兵士長「わかりました」チャキッ

兵士「兵士長…」チャキ

 

 

兵士「え?俺も?」

 

 

王様「当たり前じゃろ!!王様悲しませ罪で2日間黒板を爪でギィーの刑じゃ!!」

大臣「うわきっついわ」

兵士「めちゃくちゃ嫌な拷問じゃないですか」

 

 

王様「そういえばお主は元兵士長だったな」

大臣「先代といえどまだまだ若いものには負けませんぞ」

王様「わしも老いたが武の国の王じゃ、引き下がれぬ」

大臣「何を、昔訓練で一度も私に勝てなかったではありませんか」

王様「キィィーーーーーー!!昔は関係ないじゃろうがァー!!」

大臣「すぐそうやってお怒りになられるところ、変わりませんな、ふふっw」

 

 

王様「おだまれっしゃい!」

大臣「王様キャラぶれすぎです」

 

 

王様「 行 く ぞ ォ !!!!」

大臣「お覚悟!」

兵士長「来い!兵士!」

兵士「やだぁぁぁ!!やあああだあああああやめてええええ!!!」ブンブン

 

~なぜか始まりの国で勇者をかけたよくわからない戦いが幕を開けた~

 

 

 

 

 

 




5/25追記:誤字報告いただいたので修正しました、ありがとうございます。


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勇気をだして!

勇者とは勇気ある者。


~始まりの国・謁見の間~

 

 

王様「最後かもしれないだろ…?だから、全部話しておきたいんだ」ボロッ

大臣「王様、それ違う作品の名言です。」

兵士「…」

 

王様「これ終わったら俺…消えっから!」

大臣「どこへですか」

 

王様「さよならってこと!」ダッシュ

大臣「王様は通さない!!!!」ジャーマンスープレックス

王様「ぐわああああ!!!」ゴシャァ

兵士「うわ顔からいった」

 

王様「額がああああああ!!!」ゴロゴロ

大臣「問題ありません、角なしです」

兵士「あんたも大概だよ」

 

 

 

 

 

~始まりの国・平原~

 

 

僧侶(つい勢いで走ってきましたけど…馬車乗るの忘れましたね…)

勇者「まおーたいじまおーたいじ♪」

僧侶(まぁ、のんびり出来ていいかもしれませんね♪)

 

僧侶「勇者様」

勇者「なに~?」

僧侶「ここからは魔物が出ます、気をつけていきましょうね?」

勇者「だいじょうぶ!ぼくがそうりょさん守るから!」

僧侶「まぁ!ふふ、ありがとうございます♪(ここが楽園ですか…)」

 

僧侶「!」テロリロリン _√

 

スライムがあらわれた!

 

 

僧侶「勇者様!魔物です!」(最下級の魔物ですか…これならば勇者様でも)

勇者「まっまかせてっ…!」

僧侶(あぁっ、何故でしょう、凄く助けないといけないのに巣立ちを見ている気分…)

 

勇者「えい、えい」プニプニ

スライム「ギエピー!」

僧侶(頑張って下さい、勇者様!)

 

~5分後~

 

勇者「わーい♪」プヨンプヨン

スライム「ピキー♪」プヨンプヨン

 

僧侶「まじかよ」

 

勇者「ばいばーい!」ブンブン

スライム「ピキキー!」ぷるぷる

僧侶(ま、魔物使い…?)

 

勇者「そうりょさん、見て見て!あのスライムさんがくれたんだ!」

僧侶「なんですか?」

僧侶(スライムが落とすのと言えば薬草…ふふ、はしゃいで可愛いですね)

 

 

 

勇者「えっへへ~」毒針

僧侶「ちょっと待って」

 

 

 

勇者「これぼくが持っててもいい?」

僧侶「え、えぇ…いいですけど、間違って自分を傷つけないでくださいね?」

勇者「はい!せんせー!なんちゃって…」挙手

僧侶(早く魔王殺そう、可愛すぎる)

 

 

 

~魔王城・魔王の間~

 

側近「…ご報告します」

魔王「うむ」

側近「水の魔神が魔王軍から離反…勇者と共に此方へ向かっている模様です」

魔王「ほう?」

 

側近「申し訳ございません!!必ずや勇者を!!」

魔王「もうよい、過ぎた事だ。気にするな。」

側近「は、ははぁっ!!ありがたき幸せ…っ!!」

魔王「次の手は打ってあるのか?」

側近「はっ!火の魔神めに出陣させようかと!」

魔王(焦っておるのか?水と火など最悪の相性ではないか)

 

魔王「側近よ」

側近「は、はい!」

魔王「期待している」

側近「も、勿体なきお言葉っ!!!!!」

 

側近「必ずやかの勇者の首、魔王様のお膝元へとお届けします!それでは!」ガチャッ

魔王「…行ったか?」

??「はい」

 

魔王「よいのか?」

??「まぁ問題ないでしょう、あの子ならば」

魔王「大した自信だな」

??「ふふっ♪…続きを?」

魔王「無論だ」

 

始まりの国・平原の様子が映し出される!

魔王「…」

 

 

~魔王城・火の間~

 

側近「というわけだ、必ず何とかしてくれ」

火魔「まじかよ、水の魔神か~…俺じゃ相性最悪なんだよな…」

側近「問題ない、水は沸点を超えると蒸発する」

火魔「言うのは簡単って知ってるか?」

 

火魔「まぁいいぜ、俺も退屈してたんだ。水魔とやりあうのなんざ何百年振りか」

側近「それでこそ魔王軍四天王だ」

火魔「あぁ、期待して待ってな!!」ガチャッ

側近「あ、おい!そこは窓…!」

火魔「ヒャッハー!」ダダダダダダ

 

側近「ここ、4階…聞けよ。壁を垂直に走り降りてるし…」

 

 

 

 

~始まりの平原から隣村へ来た勇者達~

 

 

勇者「あれからまものさんたち出なかったねぇ…」

僧侶「え、えぇ…まぁ…聖水をまきましたので」

僧侶(毒針なんて振り回させるわけには行きません…!ひのきの棒ならまだしも!)

 

勇者「歩いてぼくへとへとだぁ…」

僧侶「まだお身体が小さいのですもの、ここまで半日で来れただけ凄いですわ」

勇者「ごめんなさい、そうりょさん…」

僧侶「大丈夫です!私も疲れてますので!聖水撒きすぎて腕痛くって!」

勇者「ありがとう!せーすいでまもってくれたんだね!」にぱっ

 

僧侶(カハッ…小悪魔…)キュン

僧侶「や、宿屋に行きましょうか?」

勇者「うんっ!」

 

僧侶「ぐふふ…」

 

 

~隣村・宿屋の前~

 

戦士(火の魔神)「ふゎ~ぁ…眠い…」

 

戦士「勇者達もまだこねーし、少し寝るかぁ…zzZ」

宿屋の主人「おい、あんたうちの宿の前で寝ないどくれよ」

 

戦士「zzZ」

宿屋「か~…だめだ熟睡してやがる…おいあんt「おぉい宿屋の~」

 

宿屋「ひっ!」

盗賊「あぁん?人の顔見てビビるこたねぇだろうよ」

宿屋「す、すいません…」

 

盗賊「悪いんだが、場所代払ってくれよ」

宿屋「そ、そんな!今月の分はもう…」

盗賊「あぁ?追加料金だよ、払えねぇってのかぁ?」

宿屋「ひぃぃぃ…」

 

勇者「こらー!」

盗賊「あん?ンだこのガキ」

勇者「わるいことしたらいけないんだぞ!」

宿屋「ぼ、坊や!あっちへ行きなさい!関わっちゃダメだ!」

 

盗賊「は?うるせぇなすっこんでろや!」

僧侶「いいえ、見過ごすわけには行きません」

盗賊「お?なんだよねーちゃんべっぴんじゃねーか、なぁ?俺とイイコトしねぇ?w」

僧侶(ゲスが…)

 

勇者「そうりょさんに手を出すな!」

盗賊「ひゃはははは!ナイト気取ってんじゃねぇぞガキがぁ!!!!」

 

勇者「うっ…」ジワッ

盗賊「泣きゃあ許されるとでも思ってんのか!?あぁ!?」

 

僧侶(こいつ殺す)

勇者「そっ…そうりょさ…にげてぇ…」ボロボロ

 

僧侶(はぁぁぁぁーーーーーーんかわいいいぃーーーーーーーーprprprpr)キュンキュン

 

盗賊「邪魔しやがって!!一人増えたところでかわんねぇ!!しねやぁ!!」ナイフ

勇者「ひっ…!」ギュッ

 

僧侶「!?しまっ…!」

 

ギィン!

 

盗賊「あ…?」

 

 

 

戦士「勇者がどんなもんか見に来たが…子供じゃねぇか…」ドカッ

盗賊「うげっ!」

 

僧侶「勇者様!もう大丈夫ですからね…すみませんでした…」

勇者「ひぐっ…う~っ…」ダキッ 

僧侶(ぐぅぅぅっど…役得…)ギュー

戦士(とか思ってんだろうな、この顔は)

 

僧侶「あなたは…?いえ、先に勇者様を助けて頂いてありがとうございます」

戦士「いいってことよ、気にすんな」

勇者「あっ…あ゛り゛がどう゛…」

戦士「…勇者って言ったか?」ギラッ

 

僧侶(あれは、魔力!?)「勇者様!!一度離れますよ!!」

戦士「待ちな、気が変わった」

僧侶「え?」

 

戦士「そのちっこい身体でよく勇気を出したな。みず…女を守ろうとした。良い、イイぜぇ…熱いじゃねぇか!燃える、燃えるぞ!!」

 

僧侶(あ、こいつまさか)

 

戦士「俺は熱い奴が大好きなんだ!!!!!敵でもなぁ!!!!」

 

僧侶(火の魔神ですか…)

 

勇者「…あついって…?」

僧侶「おばかってことです」

勇者「ぼく、おばかなの?」

僧侶「いえ、勇者様は違いますよ~?」

 

戦士「勇気があるって事だよ!!!おめぇさんは!!!」

勇者「ゆうき!?」キラキラ

僧侶(あ、これアカンやつです)

 

勇者「ぼくゆうきある!?」

戦士「ったりめぇだろ!!おめぇ程勇気があるやつはそうはいねぇ!!」

僧侶(意気投合しちゃったし…はぁ…)

 

盗賊「てんめぇ…何しやがる!!」

戦士「あぁ…?」

盗賊「何しやがんだって言ってん…ひっ!?」

 

戦士「子供相手に凄むクソ野郎が偉そうに説教垂れてんじゃねぇぞ」

 

戦士の剣は炎を纏った!

 

盗賊「ま、待て!俺が悪かった!!謝る!謝るから!!金も返す!!なぁ宿屋の!!」

宿屋「え、えぇ…」

 

盗賊「ほら、これでいいだろ?な!な!?」

戦士「つまんねぇ野郎だ…死にな」

盗賊「あ…ぁ…」

僧侶(よし殺せやれ殺せ)

 

 

「だめーーーーーっ!」

 

 

勇者「ひとごろしはだめ!このひとにもかぞくがいるからだめっ!」

盗賊「ぼ、ぼうず…」

戦士「…チッ、熱すぎるぜ…お前…」ニカッ

僧侶「チッ…」(勇者様…)キュン

宿屋(あの僧侶さん今舌打ちしたよな…?)

 

チャキッ

 

戦士「勇者に免じて今回は無しだ、消えろ。だが次はねぇぞ」

盗賊「すまねぇ…すまねぇ…!ありがとう!」ダッ

 

僧侶「はぁ…説明していただけます?熱いのがだ~いすきな『火みたいな人』」

戦士「あぁ、その前に勇者を宿屋に運んでやれ。立ったまま気絶してる。」

僧侶「ゆ、勇者様っ!ご主人、部屋は空いてますか!?」

宿屋「一番いい部屋を使って下さい、2階の角部屋です!もちろん御代は要りませんからね!」

僧侶「ありがとうございますっ!」グイッ

 

戦士(俺の剣気の前で仁王立ちしやがった…)

 

~パーティ~

 

勇者Lv2

僧侶Lv?

 

冒険の書に記録しました。

 




がんばったね、ゆうしゃ


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勇者を守れ!

~始まりの国・謁見の間~

 

 

王様「大臣、話があるのじゃが」

大臣「なんでしょうか」

 

王様「ワシらは5時間前、(大臣)を壊して勇者を迎えに行こうとした。ワシが鎧の王様で、こいつが超大型兵士長ってやつじゃ。」タトーエバー

兵士長「…何を言っているのですか王様。」

 

大臣「壁ぶっ壊し系漫画でも見ました?」

兵士(盛大な茶番の予感しかしない)

 

王様「ワシ『ら』の目的の為には、大臣に大人しく寝ててもらいたいだけなんじゃ。」オレーガー

兵士長(ワシ『ら』…?)

兵士(今さらっと嘘ついたな)

 

大臣「兵士よ」コソコソ

兵士「はい……アッハイ…わかりました」ダッシュ

 

王様「じゃが…そうする必要は無くなった…大臣…お主が見逃してくれるなら、ワシらはもう、(大臣)を壊したりしなくていいのだ、わかるじゃろ?」オレージャーナイトシテー

大臣「王様…おま 貴方は…疲れてるんですよ…」

 

兵士長(今おまえって言いかけましたな絶対)

兵士「アチチ…持って来ました。」

大臣「ご苦労、下がっていろ。」

兵士(すげー普通にわしづかんで…あ、砕いた)

 

王様「もうワシには…何が正しいことなのかわからん…ただ…ワシがすべきことは…王として、最後まで責任を果すことだ!!」ガバッ!

 

兵士長「王様…やるんですね!?今…!!ここで!!」

王様「あぁ…!勝負は今!ここで決める!!」ダッシュ

大臣「そぉい!!」ベシャァッ

兵士「えっ、そういう使い方?」

 

王様「熱っ顔!あっつ!くっついてとれあっついなんじゃこりゃぁぁぁ!!!!」ゴロゴロ

大臣「蒸かした芋ですけど?」

兵士「段々手口がエグくなってません?」

大臣「王へ心臓を捧げた身ゆえ」ビシッ

兵士長「大臣様、そちらは右です」

 

 

~隣村・宿屋裏~

 

 

僧侶「はぁ…」

戦士「勇者の状態はどんな感じだ?」

僧侶「…敵なのに変な事聞くんですね、火魔さん」

戦士「なんだ、気づいてたのか。」

 

僧侶「水魔と言いかけましたし、あれほどの魔力を持った上であの無駄に熱い性格は貴方しかいませんからね。」

戦士「ははっ!そりゃ確かにそうだな!俺ほど熱いやつはいねぇ!わかってんじゃねぇか!」

僧侶「遠まわしに暑苦しいって言ったんですけど。」

 

戦士「それで?どうなんだ?」

僧侶「…あの小さい身体です、始まりの国から半日ほどでここまで来た疲労と、先程の一件の後で緊張の糸が切れたのでしょう。今はよく眠っていますよ。」

 

戦士「そうか、大事にならなくてよかったな。」

僧侶「…先程の件については礼をいいます。」

戦士「いやなに、俺が勝手にやっただけだ、気にすんな。」

 

僧侶「ただし勇者様を手にかけようというのであれば話は別です、数百年前の決着を今ここで着けましょうか。」

 

僧侶の周りにいくつもの水の槍があらわれる!

 

戦士「僧侶なんてやってるくせに物騒だなおい。」

僧侶「戯言を…構えなさい。」

戦士「お前さっきの話もう忘れたのか?気が変わったって言ったろ?」

僧侶「信用しろと?」

戦士「俺が寝首をかくような卑怯な真似をすると?」

僧侶「…いえ、死んでもしないでしょうね。」

戦士「わかって貰えて何よりだ。」

 

僧侶「それで、気が変わったなら早々に立ち去って頂きたいのですが。」

戦士「そう邪険にすんなよ、同じ四天王の仲間だろ?」

僧侶「『元』四天王です。」

戦士「はっはっは!確かに元だったな!」

 

僧侶「…あなたがここにいるという事は」

戦士「とっくに側近や魔王様にばれてる、俺が戻ってもいずれはまた違う四天王が来るだろうな。」

僧侶「…はぁ」

 

戦士「俺は勇者の事が気に入ったから手を出さなかった。それにもし戦ったとしてもお前さんには勝てなかっただろうな。」

僧侶「当然です、何度返り討ちにしたと思ってるんですか?」

戦士「ははっ!昔の話は忘れちまったぜ!」

僧侶「都合のいい頭ですね。」

 

戦士「ただよぉ、お前の苦手な土魔だったら話は別だ。」

僧侶「…先遣隊があなたでよかったと思ってますよ。」

戦士「へっ、惚れんなよ?火傷じゃすまねぇぜ?」

僧侶「勇者様が人類を滅ぼすくらいの確率でありえないです、ご心配なく。」

戦士「お前ほんとに思考が危ねぇよ。」

 

戦士「これからどうするんだ?」

僧侶「どうも何も、勇者様についていくだけです。」

戦士「それで魔王様を倒すってか?」

僧侶「そうなるでしょうね、勇者様の使命ですから。」

戦士「…出来んのか?長年付き従った魔王様だぞ?」

僧侶「…」

 

戦士「出来んのかって聞いてるんだよ。」

僧侶「…」

戦士「だんまりか?」

僧侶「…」

 

戦士「魔王様の件は置いておくとして、さっきの野郎みたいな事があったらどうすんだ?」

僧侶「もう二度と起こさせません。」

戦士「あのなぁ…」

僧侶「命に代えても守ります。」

僧侶(こんなにも可愛い…ハァアァァン…勇者様を失うわけにはいきませんので…!)

 

戦士「とか思ってんじゃねぇだろうな?」ジトー

僧侶(ギクッ)「別に…」

戦士「お前がショタコンなのは今に始まった事じゃねぇけどよ」

僧侶「はっ…はぁっ!?誰がショタコンですか!?にゃに、何を言い出すかと思えば…!ばっかじゃにゃいですか!?」

戦士(思いっきり噛んで動揺して…あ、こいつなかった事にしてんな、アレ)

 

 

~150年前・魔王城・水魔の部屋~

 

水魔「にゅふふふふ…可愛いですねぇ…」

魔族の男の子(魔子)「あ、あの…水魔様…近いです…」

水魔「あらあら、ふふっどうしたのですか~?照れてるんですかぁ?」ハァハァ

魔子「ひっ…あのっ…会議の伝言を頼まれてて他の四天王様達にも…」

水魔「少し遅れても大丈夫ですから。私が責任とりますから、ね?」ハァハァ

魔子「や、あの…」

水魔「ついでにあなたの事も責任を持ってうふふふふふふ」

魔子「…うっ」ジワッ

水魔「いけねっやりすぎた」

 

ガチャッ

 

火魔「おーい、みんな集まってん…ぞ…」

 

水魔「あっ」

魔子「…グスッ」

火魔「…」脳みそフル回転

 

ベッドの上で押し倒されて涙ぐんでる魔子

  ↓

顔を紅潮させて押し倒してる水魔

  ↓

 事 案

 

魔子「火魔様ぁーーー!!うぇぇーーん!!!」ぶわっ

火魔「………ちっ…痴女だァーーーーーー!!!!」ズガーン!

水魔「ちょっ!?…水 槍 魔 法(アクアランス)!!!!!」ドドドドドドドドド

 

ガシャーン  ドガーン  ギャァァー!!

 

魔王「何事だァーー!!!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

戦士(結局バラしたらお前を(バラ)すって言われたんだったな。笑えねぇ駄洒落で。)

僧侶「こほん…今の私は昔の私とは違います。」

戦士(あ、覚えてら)

 

僧侶「これからの旅、勇者様をお守りする仲間として勇者様のど……道程をお導きするのですからね。」

戦士「お前今何言いかけた?犯罪だよ?わかってる?」

僧侶「なんのことでしょう?」ニッコリ

戦士「まじかよこいつ」ドンビキ

 

戦士「二人だけで旅すんのか?」

僧侶「そうなりますね、まぁ…いざとなったら仲間でも募ります。」

戦士(それまで勇者と僧侶が二人きり…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦士(あれ?もう既に勇者が危機的状況じゃね?)

 

戦士「…決めた!俺も行くぜ!」

僧侶「却下で。」

戦士「即答かよ!」

僧侶「当たり前です、敵の幹部が勇者様と一緒に旅ですって?ご自分が何を言ってるのかわかってます?恥を知りなさい。」

 

戦士「刺さってる、お前それ特大ブーメラン刺さってる。」

 

僧侶「それに勇者様の許可もなく同行するなんて許されるわけがないでしょう。」

戦士「…勇者がいいって言ったらいいんだな?」

僧侶「自分に剣を向けた相手を、同行させると思ってるんですか?」

戦士「いーや、あいつはナリは小さいが熱い男だ。話せばわかるね。」

僧侶「はっ!どうぞご勝手に。」スタスタ

 

 

 

~翌日~

 

 

 

勇者「わーい!せんしさんも、なかまー!せんゆうー!」ビシッ

戦士「つーわけで、よろしくな!『僧侶』!」ビシッ

僧侶「ぬえぇーい!!これだから男って奴は!!」壁殴り ドゴォ

 

 

パーティ

 

勇者Lv2 僧侶Lv? 戦士Lv?




ゆうしゃパーティに あたらしいなかまが くわわった !


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早歩きで行こう!

パーティ
 勇者   戦士   僧侶
性格
ゆうかん ねっけつ へんたい

僧侶「納得いかないんですけど」
戦士(間違ってないんだよなぁ…)


~始まりの国・謁見の間~

 

王様「のう大臣」ヤッフー

大臣「なんでしょうか」

王様「勇者に会いたいのじゃが」マンマミーヤ

大臣「ですから何度も申し上げておりますが…」プユィ

王様「お主に勝ったら…じゃろ」ウワァアァァア

大臣「まぁ…そうですね」プリプリ~

 

 

 

王様「ええ加減にせえよお主!!さっきから満塁バット使いおって!!」

大臣「早い者勝ちですので」カキーン

王様「あぁっ!?またっ!!」GAMESET!

大臣「はいこれで私の4連勝ですな」

王様「ぐぬぬぬ…もう一回じゃ!!次はメカチュウじゃ!!」

大臣「いいですけど、ここからは1機だけにしますよ」

 

 

兵士「兵士長…あのお二人、昨日の夜からぶっ続けでクラッシュブラザーズしてますけど」

兵士長「…言うな」

兵士「しかもなんでか99機でやってましたけど」

兵士長「ある意味集中力は凄まじいと私も思う」

兵士「はぁ…」

 

 

―その時、王様にお子様的閃きが走る―

 

 

王様「のう大臣」

大臣「なんでしょう」

王様「『勝てば』よいのじゃな?」ニヤニヤ

大臣「はい、勝てばよろしいですよ。(ゲームだからノーカンだけど)」

 

王様「そこの2人ィ!こっちゃ来い!今すぐ!はりあっぷ!」

兵士長・兵士「えっ」

 

王様「チーム・キングの3人で大臣をめった打ちじゃ!」

兵士「うわぁ…」

兵士長「王様…それは流石に…」

王様「勝ちゃぁいいんだよ勝ちゃぁ!!!!!」

大臣(一国の王がしていい発想ではないんだが…ま、いいか)

 

王様「よいな!大臣!わしら3人を相手にしてもらう!」

大臣「いいですよ」

兵士「えっいいの?」

王様「よぉぉぉーーーし!!!お主などしゅんころじゃ、しゅんころ!!!」

大臣「漢字は正しく使いましょうね」

 

兵士「じゃ、自分マルオでいきます」

兵士長「…プルンで(可愛い)」

大臣「キャプテン・ハト使いますぞ」

王様「殺せ!メカチュウ!」

 

 

3・2・1 GO !

GAMESET!

 

 

兵士「一瞬ですら生ぬるかった」

兵士長「これはひどいな」

王様「バカな…こんな…」

大臣「はい5連勝」

 

兵士「開始直後に大臣様が俺と兵士長をふっ飛ばした後、パンチ連打で王様を壁際に拘束」

兵士長「救出に向かうも二人仲良く吹き飛ばされ…」

兵士「以下ループで1分半の決着。」

兵士長「王様も途中でガードするも割れてピヨられ」

兵士「これ幸いと大臣様のアピールの嵐、嵐、嵐」

 

大臣「勝てばいいんだよ、勝てば」

王様「この卑怯者!」

大臣「王様、鏡をご覧になってください」

 

 

 

 

 

 

~魔王城・魔王の間~

 

魔王「…側近」

側近「…はい…」

魔王「火の魔神が離反した、そう言ったのだな?」

側近「……はい」

 

魔王「わずか1日で2人もの四天王を」

側近「…も、もうしわけ…」ガクブル

魔王「…よい、お主もよくやってくれている」

側近「次こそ…必ずや!」ダダダガチャッバタン

 

??「あらあら、主からの(ねぎら)いの言葉に脇目も振らずに行っちゃったわね」

魔王「もう敬語はやめたのか?」

??「えぇ、別に魔王『様』なんてガラじゃないもの」

魔王「昔から変わらんな」

??「ふふっ」

魔王「お主はどうするのだ、『風の魔人』よ」

 

風魔「どうもこうもないわ、私は風が吹くまま気の向くまま」

魔王「そうか」

風魔「ただ、私の出番は最後。土の魔神が行きたがっていたしね」

魔王「土魔か…」

 

風魔「心配?」

魔王「…少しな」

風魔「大丈夫、あの子は私の親友の娘だもの」

魔王「あぁ…他の四天王とは『違う』のであったな。」

 

風魔「それで?今日も私とイケナイ事…する?」

魔王「言い方を考えんか、ただの監視だ」

風魔「悪く言えば覗きって言葉ご存知?」

魔王「…」ジロッ

風魔「冗談よ、そんな睨まないで?」

 

 

~四天王の間~

 

 

土魔「おっそい!やっとワシの出番か!」チマ~ン

側近「あぁ…水魔も火魔も離反した…頼めるな?」

土魔「ふんっ!あんな弱小共と一緒にするな!」

側近「…」

 

土魔「中間の国で迎え撃つ、精々吉報を待っておれ」ガチャッバタン

側近「あぁ、頼んだ。」(子供のナリで相変わらず恐ろしい魔力量だな…魔王様程ではないが…魔王様を抜けば魔界随一か…)

 

土魔(勇者を倒せば…勇者を倒せば…!)スタスタ

 

 

 

 

 

~始まりの国・隣村の街道~

 

戦士「次はどこに行くんだ?」

僧侶「中間の国へ向かおうかと」

勇者「ちゅーかんのくにー?」

 

僧侶「はい、貿易が盛んな国なので、装備も充実するかと」

勇者「ぼうえき…?」

戦士「いろんな国と売買…つまり武器やら食べ物やら売ったり買ったりすることだな」

勇者「ほえええ!たべもの!」キラキラ

僧侶(はいかわいい)

 

勇者「あのねあのね!!おいしいっごはんとかたべられる!?えっとね、あとね?!」

戦士「待て待て勇者、落ち着け。気持ちはわかるがあんまりはしゃぐと…」

 

僧侶(オォン!かわいいいいいいい)鼻血

勇者「そうりょさんだいじょうぶ!?」フキフキ

僧侶(もう死んでもいいです)ドバッシャァァァ

勇者「わぁぁぁぁ!!虹だぁぁ!!」キラキラ

戦士「あーあーまったく…」

 

~それから~

 

僧侶「失礼しました…」

勇者「つかれてない?だいじょうぶ?」

僧侶「大丈夫です!」キリッ

戦士(勇者がショタコンに憑かれてそうだがこれ)

 

僧侶「ひとまず、中間の国を目指して歩きましょうか?」

戦士「だがかなり距離があるぞ、どこかの村で中継したほうがいいんじゃねぇか?」

僧侶「それも考えましたがあなたの件もあります、あまりのんびりしていると…」

戦士「…そうだな、だが子供の足じゃきついだろう」

僧侶「一度馬車を借りに始まりの国へ戻りましょうか?」

 

 

~始まりの国・謁見の間~

 

王様「勇者に会える気がする」

大臣「気のせいです」カキーン

王様「ちょっ」GAMESET!

兵士「23連勝…」

 

~~~~~~~~~~~~~

 

 

戦士「いや、そんな暇はないな、おい勇者!」

勇者「なに~?わっ!」グイッ

 

戦士は勇者を 肩車した!

 

僧侶「ちょっと!うらyゴホン何してるんですか!危ないですよ!」

戦士「早歩きなら危なくねぇだろ、行くぞ!(今羨ましいって言おうとしたなこいつ)」

 

勇者「わぁあぁぁ!わぁぁぁぁ!たかーい!!せんしさんすごーい!」

僧侶「ぐぬぬぬぬ…わかりました、行きましょうか…」

戦士「いくぞー!戦士号発進ー!」ノッシノッシ

勇者「わーい!はっしーん!」キャッキャッ

僧侶(ちくしょうぐうかわ)

 

 

パーティ

 

勇者:Lv2 状態:楽しい

戦士:Lv? 状態:肩車

僧侶:Lv? 状態:嫉妬




じつははしるとはやいぞ!せんしごう!

【お知らせ】
前回と今回王様達の話が長くなってしまったので、次回の王様達はすぐに終わらせます。

5/25 一部訂正しました。


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約束だよ!

少しだけ、シリアスな部分もあるかもしれません。


~始まりの国・謁見の間~

 

王様「大臣よ!!話がある!!」

大臣「オーラオラオラオラオラ」ビンタビンタビンタビンタビンタ

 

王様「はぶっ!いっ!ちょ待っ!まだっぶぁ!なにも言ってなっっぶぇ!」

兵士長「王様ァーー!!」Σガーン

兵士「胸ぐら掴んでもう片方の手で…あれが往復ビンタか…」

 

王様「え、何?いきなりなんなの?わし何かした?」ヒリヒリ

大臣「国へ帰るんだな、あなたにも家族はいるでしょう」

王様「いやわし、ここの…王様なんじゃけども…」ドサッ

兵士「武の国の大臣が強すぎてやばい」

 

 

 

~中間の国・街道~

 

戦士「お?あれじゃねぇか?」

僧侶「あぁ、見えましたね。中間の国です。」

戦士「…勇者がはしゃぎ疲れて、途中で寝ちまったからおんぶにしたはいいがよ」

 

勇者「すぅ…すぅ…」zzZ

僧侶(はい、マイメモリー永久保存版ベストショット)

戦士「聞けよ」

 

戦士「ある意味、寝てくれて助かったな」

僧侶「そうですね、寝てる間なら私が魔法で魔物たちを蹴散らせましたし」

戦士(仮にも【僧侶】の発言じゃねぇんだよなぁ)

 

僧侶「何より」

戦士「ん?」

僧侶「…なんでもないです」

戦士「言いたいことはわかる。だがよ」

 

戦士「いつか言わなきゃならない時が来るぜ?」

僧侶「わかってますよ、あなたに言われなくても…」

戦士「ならいい。だが『その時』までには覚悟を決めるこった」

僧侶「はい…」

 

~中間の国・門前~

 

戦士「さて、ご到着…っと」

僧侶「もう日が沈みかけてます、買い物とかは明日に回して、宿を探しましょう」

戦士「そうだな…って、金あんのか?」

 

僧侶「先程の魔物の群れから少々…14,000G(ゴールド)しかありませんけど」

戦士「14,000Gもあって『しか』ってお前…」

僧侶「生活環境が違ってたからですかね」

戦士「あぁまぁ…なぁ…俺らはな…人間で言えば貴族みたいなもんだし」

僧侶「まぁ、慣れていくようにしますよ」

 

僧侶「とりあえず、勇者様をきちんとベッドで休ませてあげましょう」

戦士「そうだな、いつまでもおんぶじゃ可哀想だ、だがその前にメシも食わせてやらないと。あぁ、風呂も入れ…何じっと見てんだよ?」

 

僧侶「…ふふっ」

戦士「おかしな事言ってるか?」

 

僧侶「いえ、【灰塵(かいじん)】の火の魔神も…子供の前では形無しだなと」

戦士「そんな古臭い通り名忘れちまったよ。ほら、行くぞ」

 

 

~翌日~

 

~中間の国・商店街~

 

 

少女賢者(土の魔神)「さて、着いたはよいのじゃが」

ぐぅ~~~

 

賢者(勇んで出てきたから…お金忘れた…)

ワイワイ ガヤガヤ

賢者(今から戻ったらカッコ悪いし…しかも勇者の特徴聞くの忘れたし…うぅ…お腹すいた…)お腹抑え

 

子供「パパーママー、フランクフルト食べたい!」

父親「なんだ、家に帰るまで待てないのか?」

子供「買ったばかりで熱いのが美味しいんだよー!」

母親「ふふっ、はいはい一本だけよ?」ボロン

子供「わーい!」

父親「子供の前でその擬音やめなさい」

 

 

賢者「あ…(いいなぁ…)」

 

賢者「はぁ…」トボトボ

 

 

~中間の国・公園~

 

 

キャー アハハハ

賢者(公園…人も魔族も、変わらないんだ…)

男の子「あっ!」ポーン

賢者「む?」ポスッ

 

男の子「あ、ごめん…ボール…」

賢者「気にするな、ほれ」ポイッ

男の子「ありがとう!」タタタタ

ワー ナンパだー ちっちげーよ!

 

賢者(みんな楽しそうに遊んでる…友達、かぁ…)テクテク

 

~中間の国・河川敷~

 

賢者「はぁ…(お腹空いたなぁ…)」

賢者「…ぐすっ」

「どうしたの?」

賢者「え…?」クルッ

 

勇者「ないてるの?だいじょうぶ?」

賢者「な、泣いてなんかいないのじゃ!」ゴシゴシ

勇者「でも、めがあかいよ?」

賢者「こ、これは…その…砂埃が目に入っただけじゃ…」

 

賢者「というかなんじゃお主!どっからわいた!」

勇者「えっへへ~」

賢者「な、なんじゃ…」

勇者「みち」

賢者「へ?」

 

勇者「かえりみち、わかんなくなっちゃった…」

賢者(え~…)

 

~回想~

 

~中間の国・宿屋~

 

戦士「勇者、俺は情報収集と買い物に行ってくるから、僧侶とここで待っててくれるか?」

勇者「えっ、なんで?」

僧侶「戦士さんには、国内が安全かどうかも見て頂くのです」

戦士「そうだ、前みたいに盗賊がいたら、この人混みじゃ碌に守れないからな」

 

勇者「でも…せんしさんだけだと、せんしさんがたいへんだよ」

戦士「ははっ、ありがとよ。だが一応体力には自信があるんだ。それに大丈夫そうなら明日一緒に町を回ろう、どうだ?」

僧侶(保育園の先生みたいですね)

 

勇者「うーん…わかった…まってりゅ…」

戦士(あ、噛んだ)

僧侶(はぁぁぁーーーーんきゃわいいいいprprprprpr)

 

戦士「それと勇者」

勇者「なに?」

戦士「これから先、自分が【勇者】である事はなるべく喋るなよ」

 

勇者「どうして?」

僧侶「【勇者】様を騙す悪い人もいるかもしれない、ということです。」

戦士「そうだ、念の為に僧侶も残ってもらうが、何かあったらすぐ逃げるんだぞ」

勇者「う、うん…わかった…」

 

戦士「特に僧侶には気をつけろよっ!!わかったなっ!?」肩ガシッ

勇者「えっえっ」

僧侶「おい」

 

~回想終了~

 

勇者「えっとね、おかいものにいこうとしたの」

賢者「買い物って…お主ここ、商店街からかなり離れておるぞ?」

勇者「…うん」

賢者「迷子か…だがわしには関係…はぁ…それで?」

勇者「え?」

賢者「道を言ってもわからんじゃろ?一緒についてってやる、どこに行きたいのじゃ?」

勇者「いいの!?」パァ

 

賢者「まぁ…わしも暇だったから…暇つぶしじゃ」

勇者「わーい!ありがとう!」ピョンピョン

賢者「いや、そんな飛ぶほど喜ぶことじゃ…ふふっあははっ!変な奴め」

 

~中間の国・商店街~

 

賢者「ほれ、ここじゃ。」

勇者「わぁー!!おみせがいっぱーい!!」

賢者(あれからいろんな話して…もう帰っちゃうのかな)

勇者「すごいね!んー!おいしそうなにおいがする!」

賢者「そうじゃな、お店いっぱいじゃ(少し名残惜しいけど…)」

 

賢者「そ、それじゃわしはここでな。もう迷うなよ」

勇者「あ、まって!」

賢者「ん?」

勇者「ちょっとここでまってて!」

賢者「なんなんじゃ一体…」

 

勇者「はいっ」

 

【熱々のフランクフルト】

 

賢者「え?」

勇者「あげる!いっしょにたべよ?」

賢者「これを…わしに?」

勇者「うん!」

 

賢者「じゃが、わしは金を持ち合わせておらんのでな…」

勇者「もちあわせて?」

 

賢者「あぁいや…じゃから…家に金を忘れたのじゃ」

勇者「おかねなんていいよー!ともだちだもん!」

賢者「なぁっ…!?と、友達…?」

勇者「あれ…いやだった…?ぼく、としのちかい…ともだちいないから…ごめん」

 

賢者「(あ…私と同じ…)ふ、ふんっ!お主がど~~~~してもと言うならば 勇者「わーーい!!ともだち!!」

賢者「聞けよ!!…ふふっ」

 

~中間の国・公園~

 

賢者・勇者「「ごちそうさまでした」」

 

勇者「おいしかったねぇ~」

賢者「すまんな、馳走になって」

勇者「ちそー?」

賢者「あぁ~と…ごはん、ありがとうなのじゃ」

勇者「えへへ、どういたしまして…そろそろもどらなきゃ」

 

賢者「むぅ…そうじゃの、もう日も暮れる。」

勇者「キミも、かえらないとだめだよ?」

賢者「ふふ、お主よりはちゃんと帰れるよ」

勇者「ねぇ、またあえるかな?」

賢者「…もちろんじゃ」

勇者「そうだ、ちょっとまってて!」ダダダダダダダダ

賢者「なんじゃまたいきな…脚早っ!!」

 

~5分後~

 

勇者「ただいまー!」ダダダダダダダキキーーッ

賢者「おかえ…馬車かお主は…してどうしたんじゃ、いきなり走り出して」

勇者「これっあげるっ」ハァハァ

賢者「そんなに息を切らして…ん?これは…二つあるが」

 

【赤いスライムのアクセサリー】 【青いスライムのアクセサリー】

 

勇者「うん、おそろいの『あくさそりー』」

賢者「いや、色違いなんじゃが…というかアクセサリー…」

勇者「すきなほうあげる!ぼくがもういっこで、ともだちのしるし!」

賢者「おうふ」

 

賢者「じゃ、じゃあ…赤をもらおうかの」

勇者「はい!」チャリ

 

賢者「…」ジー

勇者「あっ!かえらなきゃ!」ダッシュ

賢者「あっ…」

勇者「そうだ!」キキーッ

賢者「え?」

 

勇者「ぼくのなまえはっ

 

 ~戦士『自分が【勇者】である事はなるべく喋るなよ』~

 

勇者「あ…えっと…」

賢者「ストップ!」

勇者「ふぇ?」

 

賢者「…その、次に会ったら教えてくれぬか?」

勇者「え、うん。いいけど」

賢者「じゃから次に会う【約束】じゃぞ!次に会ったらわしも教える!」

勇者「うんっ!」

 

賢者「あっあとっ!その…次に会ったらっ…あ、遊びに行くのじゃ!」

勇者「わかったー!【約束】だよ!」

賢者「絶対じゃからなー!」

勇者「うん!!またね!!」タタタタ

賢者「また!…の…」フリフリ

 

【赤いスライムのアクセサリー】

 

賢者「…」ジー

賢者「えへへっ…」ギュッ

賢者(魔王城じゃ四天王だから…周りがみんな大人ばかりで、近い歳の子がいなかった…)

賢者(私の、初めての友達…なんて名前なんだろう)

 

~中間の国・宿屋~

 

戦士「何か言う事は?」

僧侶「申し訳ございません…」

戦士「はぁ…ったくよりによって鼻血出して気絶してただぁ!?」

僧侶「返す言葉も…」

戦士「ございませんよなぁ!?」

僧侶「うぅっ…」

 

~回想~

 

勇者「せんしさんおそいね~」

僧侶「恐らくまだ町の中を見て回っているのでしょう、しばらくかかるかもしれませんね」

勇者「むぅ~…」プクー

僧侶「(はぅぅぅぅぅぅんむくれて可愛い…ちょっとだけ愛でてもよいのでは…?)勇者様」

勇者「なに~?」

 

僧侶「そうむくれずとも明日になれば一緒に町の中を歩けますよ、それよりもにゅふふ」

勇者「そうじゃなくて…」

僧侶「え?」

勇者「そうりょさんと、せんしさんがいつもたいへんだから…ぼくもおてつだいしたかった…」

僧侶「勇者様…(自分が恥ずかしいですね…)」

 

 

 

 

僧侶「(まぁ、愛でますけど)勇者様?」

勇者「なに?」

僧侶「ちょっと、『お姉ちゃん』って呼んでみてもらえませんか?」

勇者「どうして~?」

僧侶「少し、弟の事を思い出して、寂しくなってしまって(弟なんていませんけど)」

勇者「…」スタスタ

僧侶「あ、あの勇者様?なぜこちらへ?」

 

勇者「むー!」ギュッ

僧侶「so good...」キュン

 

勇者「…ぼくがいるからがんばろうね、おねえちゃん」にぱっ☆

 

僧侶「なん…だと…(くっ…やはり小悪…魔…)」

―その瞬間、僧侶の意識が飛んだ―

 

~回想終了~

 

 

戦士「『くっ』じゃねぇよ、バカだろお前。絶対バカだろ、えぇ?」

僧侶「だ、だってまさか抱きついてくれるなんて…」

戦士「だめだこいつ…あぁもう探しに行く!」

僧侶「あ、私も!」

 

ガチャッ

 

勇者「ただいま~!」

戦士・僧侶「あ」

 

勇者「そうりょさん!きがついてたんだね!もうだいじょうぶ?」

僧侶「え、あ、はい。大丈夫です。」

勇者「よかったー!せんしさんも、おかえりなさい!」

戦士「あ、あぁ…ってどこいってたんだ!?」

 

勇者「えっとね…そうりょさんがたおれちゃったから…おいしいものたべればよくなるかなって…これ」スッ

 

【冷めたフランクフルト】【冷めたホットドック】

 

戦士「勇者…」

僧侶「勇者様…」

勇者「かってにそとにいって、ごめんなさい…」

 

戦士「お前、僧侶のために?」

勇者「うん…」コク

僧侶「」ズキューン

 

戦士「お前…見てみろよ…この穢れの無い真っ直ぐで、熱い志を持った勇者を…えぇ?」

僧侶「うっぐすっ…眩しくて見れません…すみませんでした…っ」ダバーッ

 

戦士「勇者」

勇者「え?」

戦士「明日いっぱい町の中回ろうな!美味しいもの、3人で一緒に食べよう!」

勇者「っ!うん!!」パァァ

僧侶(人間の言葉を借りるなら…そう…天使…これ天使です…)

 

戦士「僧侶やっぱ留守番してろ」

僧侶「ちょっと待って」

 

 

~中間の国・街道上空・飛龍の背中~

 

(羽の生えた)魔物「以上が、勇者の特徴になります。報告が遅れてしまい、申し訳ありません。」

 

土魔「……………ご苦労…お主は帰還せよ……わしと飛龍だけで十分じゃ……」

魔物「はっ、それと話にありました、お金をお持ちしました。」

土魔「いらぬ」

 

魔物「と、申しますと?」

土魔「もう『必要なくなった』、お主にくれてやる。」

魔物「あ、ありがとうございます!」

土魔「行け…」

魔物「はっ!」

 

【赤いスライムのアクセサリー】

 

少女は出会った少年との友達の印を見つめる。

その印は、少女の手のひらの中で月に照らされる。

 

飛龍「グル…」

 

自分の背に乗る主を心配するように小さく唸る飛龍。

 

土魔「大丈夫…なん…でもない……………どうして…」ギュッ

 

そう呟くと、友達の印を両手で包み、胸へ当てる。

そして飛龍の背へ、少女は膝から崩れ落ちてしまう。

身体を震わせる少女の頬には小さな滴が流れ、月が優しく照らしていた。




はじめてのともだちは ― …

次回、一旦まとめ回です



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ここまでのまとめ!

勇者「ここまでのまとめだよー!」キャッキャッ
賢者「まとめなのじゃー!」キャッキャッ
王様「孫2人とまとめじゃまとめー!」キャッキャッ


大臣「ふんっ!」ドゴォ
王様「ノっただけじゃろぐぼぉ!!」


ある日、始まりの国の教会の神父が神のお告げを聞く。

町に住む7歳の少年が天啓を受け、【勇者】となるのであった。

神父と共に王様に謁見する勇者であったが

王様は、まだ幼い彼に魔王討伐の任を命じる事をためらう。

 

同時期、魔王城で側近が勇者の誕生を察知。

これを【魔王】に知らせ、魔王は側近に勇者暗殺を命じる。

 

側近は

魔王軍四天王の一人であり傾国の美女と名高い【水の魔神】に白羽の矢を立てる。

 

変化の魔法で人間に化け、単独で始まりの国へ

勇者を暗殺しに向かった水の魔神であったが

幼い勇者を見て、子供を相手に四天王を送り込む魔王軍に嫌悪感を抱き、魔王軍から離反。

後に【僧侶】として、勇者の旅に同行する。

 

旅の途中、魔物と心を通わす勇者に驚く僧侶。

その後戦闘を避けつつ、隣村へ移動することになる。

 

時を同じくして、水の魔神が離反したことを魔王に伝える側近。

その後、側近は【灰燼(かいじん)】の異名を持つ【火の魔神】へ

水の魔神と勇者の討伐を命じる。

 

数百年前からの仲間であり、自身が苦手とする水の魔神を相手取る事になった火の魔神は

隣村にて勇者達を待ち構える事に。

 

隣村へ到着し、疲れを癒す為に宿屋を探す事にした勇者達。

宿屋の前で、隣村一帯を根城にしていた盗賊が

宿屋の主人から金品を巻き上げようと、恐喝しているところを目撃する勇者。

 

盗賊を窘める勇者であったが一蹴され、僧侶に目を付けた盗賊は僧侶に絡む。

勇者が身体を盾に僧侶の前に立つも、腹を立てた盗賊が勇者をナイフで切りつけようとするが

そこに、人間へと姿を変えた火の魔神が現れ、勇者の窮地を救う。

 

感謝を述べる僧侶であったが、火の魔神から魔力を感じ取り

勇者を連れ一時撤退しようとしたが

その必要はない、と火の魔神が話す。

 

盗賊の悪行を恐れずに窘めようとした事と

幼くも女性を守ろうと、その身を盾にした勇者に感服した火の魔神。

魔神である事を伏せ、勇者の旅について行きたい旨を話し、勇者はこれを快諾。

その後、【戦士】と名乗る事になる。

 

中間の国へ目指す事になった勇者達は

徒歩で向かうも、睡魔に落ちた勇者を戦士が背負って歩いていた。

2人は勇者の前では話せない事を話しながら

いつか話す時が来るであろう『その時』に向けて覚悟を決め始める。

 

同時刻、四天王の離反に次ぐ離反に焦りを見せる側近。

魔王からの労いの言葉を受ける間もなく、魔王の間を後にする側近。

 

魔王の傍らには四天王の【風の魔人】が常に座し、魔力で何かを魔王に見せているのであった。

 

後がなく感じた側近は、力なく【土の魔神】へと勇者一行の討伐を命じる。

子供であるも、翁言葉を使う彼女は膨大な魔力を有しており

魔王を除けば魔界随一と称されていた。

 

人に化け、中間の国で勇者を迎撃する事にした土の魔神は

河川敷で迷子の勇者と出会う。

しかし勇者の特徴を聞かずに来た土の魔神は、勇者とわからず道案内をする。

 

送る途中、他愛のない会話に花が咲き

自然と土の魔神から笑みがこぼれていた。

 

商店街へ連れて行くと、土の魔神は名残惜しそうに帰ろうとするも

勇者はそれを制し、お礼に食事を提案する。

彼女は持ち合わせがなく、断ろうとするも

『友達だからいい』と言う勇者の言葉に驚く。

 

それから時間が過ぎ、帰ろうとした勇者であったが

ふと、何かを思い立ったように、土の魔神に待つように言い、走り出す。

戻ってきた勇者の手には、赤と青、二つのアクセサリーがあった。

 

赤を渡し、【友達の印】と言う勇者。

去り際に名前を名乗ろうとするも

戦士に旅先で名を明かすなと言われていたのを思い出し、口を(つぐ)

 

土の魔神は勇者を制止し、次に会えたら互いに名乗る事を提案する。

そして次に会う【約束】を、取り付けたのだった。

 

再開したら遊ぶと話した2人は別れ、帰路につく。

土の魔神は、魔王城にて歳の近い者がいなかったため、【初めての友達】と喜ぶ。

あの少年はどんな名前なのだろうと、期待に胸を膨らませ【友達の印】を眺めていた。

 

 

 

魔王城へ勇者の特徴を聞く為に使いを出していた土の魔神は

僕である飛龍の背で伝令の魔族から話を聞く。

 

先程の少年と一致する特徴

彼女は魔族に帰還するよう命じた後

【友達の印】を手に涙を流すのであった。

 

 




戦士「ひどい捏造を見た」
僧侶「そんなところありました?」

>>子供を相手に四天王を送り込む魔王軍に嫌悪感を抱き、魔王軍から離反。

戦士「これ」
僧侶「これのどこがですか」

>>可愛いショタを見て、魔王軍よりショタを選ぶ事を決意。魔王軍から離反。

戦士「こうだろ」
僧侶「おい」

勇者「しょたってなにー?」
賢者「ショタってなんじゃろうな?」
大臣「子供は知らなくていいんです、ほらハンバーグ出来てるからね~」
勇者・賢者「わーい」

王様「わ、わぁ…い…」ピクピク
兵士長「王様…」
兵士「哀れ(笑)」


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のじゃ!

ど、どうしよう…シリアスなんて書いた事ないよぉ…ふえぇ…


~翌日~

~中間の国・宿屋~

 

勇者「そういえばね!きのう、ともだちができたんだ!」

戦士「ほぉー、もう友達が出来たのか」

勇者「うんっ」

僧侶「お、男の子ですか?女の子ですか?」ハァハァ

戦士(こいつ…)

 

勇者「おんなのこ!」

僧侶「あ、そうですか」スッ

戦士「露骨に興味なさそうな顔すんのやめろ」

 

僧侶「それじゃそろそろ買い物に出かけましょうか」

戦士「あぁ、装備は揃えたし、後は勇者が欲しいもの買ってゆっくりしたら、出発だ」

勇者「うんー!いくのじゃー!」

 

僧侶「ふふっ、王様の真似ですか?」

戦士「まーた変な言葉お前が教えたんだろ」

僧侶「失礼ですね!そんな事しませんよ!」

戦士「はいはい、犯罪係数インフレインフレ」

僧侶「塵も残らず消えろと?」

 

勇者「きのうあった、ぼくとおなじくらいのおんなのこがね、こうやってしゃべってたのじゃ!」

戦士・僧侶「ちょっと待ってその話詳しく」

 

 

 

 

~魔王城・魔王の間~

 

風魔「あの子達は接触したみたいね」

魔王「そうだな、互いの素性を知らぬ故、会話を楽しんでいた」

風魔「違う種族の子供達。笑い合い、手を取り合う未来。見てみたいとは思わない?」

魔王「だが片や人に化けた魔族だ」

 

風魔「そんなの、取るに足らない問題だと思うのだけれど」

魔王「…勇者は拒絶するかもしれぬぞ」

風魔「拒絶するかもしれないし、しないかもしれない。先の事なんて誰にもわからないでしょ?」

魔王「確かに先の事など誰にもわからぬ。だがな…」

 

風魔「魔王のくせに懐が小さいのね、だからアレも小さいのよ。このチャイルド魔王」

魔王「見たことも無いくせに誤解を招くような発言をするな!なんだチャイルド魔王って!」

風魔「何ってそりゃナ 魔王「貴様もう黙れェ!!!!」

 

風魔「それにね」

魔王「今度はなんだ」

風魔「勇者はそんな事で友達を捨てるような子じゃないわ」

魔王「…それはお主が勇者の 風魔「ストップ」

 

風魔「外ならまだしも、魔王城でその話はしないって約束じゃなかったかしら?」

魔王「…そうであったな」

 

風魔「とにかく、私は親友との約束を果たしたいの」

魔王「親友…【龍姫衆(りゅうきしゅう)】の一人、【陸戦姫(りくせんき)】か」

風魔「彼女は『母親として』最期まで土魔の事を心配していたわ、人間に恐れられる相手がよ?信じられる?」

魔王「何度も聞いた…言葉こそ荒々しかったが、慈愛に満ちた、よき将であったな」

 

風魔「まぁ、今の土魔とそう変わらない『どチビ』だったけどね」

魔王「お主まだそんな事を…その発言が元で一時犬猿の仲になったではないか…」

風魔「いやーあの頃は若かったわぁ♪」

魔王「一騎打ちまでしておいて…若かったでは済まされんぞ」

 

風魔「けれど私達は【親友】になった」

魔王「…」

風魔「あの頃があって、今があるの。私の大切な思い出、誰に指図されるいわれはないわ」

魔王「わかったわかった…口ではお主に勝てぬ」

 

風魔「思い出ついでにそういえば」

魔王「なんだ」

風魔「陸姫から伝言を預かっているの」

魔王「奴が死んだのは何年も前だぞ…なんと言っていたのだ?」

 

風魔「『魔王の玉無し野郎』」

魔王「…」ピクッ

風魔(あらあらこめかみに青筋立てちゃってまぁ)

 

風魔「冗談よ」

魔王「あやつならば言いそうでな…」

風魔「(まぁ言ってたんだけど)伝言があるのは本当、でもまだ教えてあげない」

魔王「なんだと…?」

  「…」

 

風魔「『娘が幸せになったら伝えてくれ』だってさ」

魔王「…解せぬ、何故今ではダメなのだ」

風魔「土魔が幸せじゃないから、以上」

魔王「…」

 

魔王「そういえば、よいのか」

風魔「何が?」

魔王「お主の乗っていた【飛龍】のことだ。今は土魔が乗っているのだろう?」

風魔「…飛龍の方からあの子の傍にいてあげたいって言われちゃね。私はそれが嬉しかったけど」

魔王「流石【空戦姫(くうせんき)】と言ったところか。龍の言葉がわかるとは」

 

風魔「『元』でしょ、今の私は風の魔人」

魔王「今一度、龍姫衆を結成するというのはどうなんだ?」

風魔「却下、陸姫がいない龍姫衆なんて私には必要ないの。…話の続きだけど」

魔王「あぁ、すまんな」

 

風魔「あの飛龍は元々、陸姫のところから譲り受けたのよ。陸姫が土魔を乗せて飛んでいた時期もあってね」

魔王「ほう、それは初耳だ」

風魔「だから飛龍は、陸姫の娘である土魔を慕っているの」

魔王「なるほど…合点がいった。およそ龍とは、力を示さぬと従わぬからな」

 

風魔「そうよ~、私の時なんて大変だったんだから」

魔王「お主でも手を焼く龍とはな」

 

 

~回想~

 

風魔「うっ…っく…!」

飛龍「ふん、これしきも避けれぬとはな。その程度の力で我を従わせるなど、片腹痛いわ」

風魔「まだ勝負はついてないでしょ…!」

飛龍「凡愚が、これほどの差をどう埋めると言うのだ」

風魔「チッ…これで…どうよ!」

 

 

 

 

【トグゾーこうら】

飛龍「 な に ぃ ! ? 」

魔王(現代)『ちょっと待て』

~回想終了~

 

魔王「なんで龍が【マルオカート】を」

風魔「結果、バナナを食らった私は12位へ落ちたけど、1位へと返り咲いたわ」

魔王「聞けよ、龍って何なんだよ、おい」

 

風魔「そして私達は、【戦友】になったの」

魔王「いや、いい話っぽくしてるが過程が酷すぎるからな?」

 

風魔「ただ、飛龍の息子はバトルが強かった」

魔王「やっとまともそうなのが」

 

 

風魔「【クラッシュブラザーズ】とか無敗だわね、キャプテン・ハトを使わせたら右に出るものはいないわ」

魔王「もうやだ」

風魔「冗談よ(旅に出て、今頃どこで何をしてるのかしらね…)」

 

~それから~

 

風魔「まぁそれはそれとして」

魔王「ようやく元の話に」

風魔「今、土魔はこれからの人生の分岐点にいるの」

魔王「ほう、というと?」

 

風魔「勇者と共に歩めるか、否か」

魔王「最初に勇者を殺す気で、四天王を放ったのだがな」

風魔「彼らの性格上、絶対に出来ないと踏んだ上で止めなかったの」

魔王「もし読みが外れていたらどうしたのだ」

 

風魔「いいえ、外れることはない。絶対に」

魔王「…」

風魔「本気よ、『元』空戦姫の【先見の明】、舐めないでもらいたいわね」

魔王「いくつもの拠点を単独で掌握したその力…侮るものかよ」

 

 

 

~中間の国・宿屋~

 

勇者「っていうことがあったんだー」

戦士「そうか…」

僧侶(まず間違いないですね…土の魔神ですか)

 

戦士「勇者」

勇者「なに?」

戦士「ちょいと部屋で待っててくれるか?僧侶とこれからの事を話してくる」ガチャッ

勇者「りょうかいなのじゃー!」ビシッ

僧侶(はい天使、添い寝しよ)

 

バタン

 

戦士「…外で話すぞ」

僧侶「はい」

 

~中間の国・宿屋裏~

 

戦士「さて…どうしたもんか」

僧侶「土魔ですか…」

戦士「であれば、まず間違いなく飛龍がいるはずだ」

僧侶「でしょうね、恐らくは街道に陣取っていると思います」

 

戦士「下手に動けば上空から恰好の的か…」

僧侶「魔王城へ向かう街道は平原沿いですからね」

戦士「戦闘になっても、俺達は本気を出せば問題ないが」

僧侶「勇者様…ですね」

戦士「あぁ…正体を晒す事になる」

 

戦士「そういえば土魔は【勇者】っていうモノに執着してたな、なんでだ?」

僧侶「龍姫衆という部隊、ご存知ですか?」

戦士「あぁ、話には聞いたことあるな。龍に乗って戦う戦闘部隊だとか」

僧侶「魔王様直属の部隊ですからね、ほぼ隠密に近い部隊なんですよ」

戦士「ほぉ」

僧侶「彼女の母親がその龍姫衆の陸戦姫だったんですよ」

 

戦士「へぇ…『だった』?」

僧侶「何年か前に亡くなったんです、陸戦姫は」

戦士「それが【勇者】と、どう関係があるんだ?」

 

僧侶「【勇者】の末裔と名乗る者に闇討ちされたらしいです」

戦士「なんだそりゃ?本当なのか?」

僧侶「末裔なのかどうかはわかりませんが、闇討ちされたのは本当みたいですよ」

戦士「龍姫衆がそんな簡単に闇討ちなんぞ…油断しない限りは…待てよ?」

 

僧侶「あなたが考えている通りですよ」

戦士「俺だって元は人間に灰燼(かいじん)と恐れられた火の魔神だ、敵には容赦しなかった。だが…」

僧侶「そう、もし闇討ちしたのが『仲間』だったら話は別なんです」

戦士「…仲間には気を許すからってか」

 

僧侶「確証はないんですけどね」

戦士「勇者に矛先が向くわけだ。親を殺された子供が、手口なんぞ気にかけるわけがねぇ…犯人が【勇者】の末裔だと信じているなら尚更ってとこか」

 

僧侶「誰にぶつければいいかわからない怒り、今の【勇者】である勇者様へ向けてしまうわけですね」

 

僧侶「まぁ、今ここでそんな話をしても仕方がないですから」

戦士「………今後の方針を決めないとな、戻るぞ」

僧侶「はい」スタスタ

 

戦士「…僧侶」チャキ

僧侶「なんです…」クルッ ドスッ

 

 

僧侶「……え?」

 

 

~中間の国・上空~

 

 

飛龍「グルルルルル…」

土魔「…行こう」スッ

 

 

【赤いスライムのアクセサリー】は 静かに地へ落ちていった

 

 

 

 

 

 

 

 

飛龍「 ヴ オ オ オ オ オ ォ ォ ォ ! ! ! ! ! 」 




ともだちのしるしが、あかいなみだとなっておちていく ―



~始まりの国・謁見の間~

大臣「王様!!大変です!!」ガチャッ
王様「なんじゃ騒々しい」
大臣「……オラァ!!」ダダダダダダ ビンタ
王様「なんでこっちに走ってぇばらぁ!」ビターン


王様「なんでじゃ…なんで今わしをぶった…」
大臣「本編で忘れられたので、つい!」
王様「きさま…本編の目を盗んでぶったのか…なぜだ…なぜ今ぶった…?」
大臣「…?それは、人は何ゆえ王様を殴るのかということでしょうか…?」
王様「会話の…ドッヂボールって…知って…る…?」ガクッ

兵士「進撃の大臣(笑)」


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ともだちがいるんだ…!

義を見てせざるは勇無きなり







竜は2本足に翼を持つ西洋のイメージ
龍は蛇のような身体に4本の手足を持つ東洋のイメージ

今作で【龍】と名がつきますが、【竜】として扱います


~始まりの国・城の屋上~

 

大臣「…」

 

―おーい―

 

王様「なんじゃ、こんなとこにいたのか」

大臣「少し外を見ていました」

王様「勇者に会いたくなったか?」

大臣「一緒にしないでください」

王様「ほっほっほ」

大臣「褒めてませんけど?」

 

大臣「いつものように勇者殿に会いたいと、駄々をこねないのですか?」

王様「いやなに、その気になればいつでも会えるわい」

大臣「その気になっても、一歩も通れなかったくせによく言いますね」

王様「お主最近、発言にトゲが増してない?一応キングじゃぞ」

大臣「ハリボテキングですな」

王様「そろそろ泣くよ?」

 

大臣「王様」

王様「なんじゃ」

大臣「毎日毎日、王様を止めるのに疲れてしまいます」

王様「しょうがないじゃろ、勇者に会いたいだけじゃもん」

大臣「もん、て」

 

大臣「風が出てきました、そろそろ戻りましょう」

王様「のう大臣」

大臣「なんでしょうか」

王様「疲れておるのなら、今日くらいは職務を休んでもよいのだぞ」

大臣「疲労の元凶がよくいいますよ」

王様「ごめんね」

 

王様「まぁ、とにかくわしは今日、大臣を休ませたからのう。城にはおらぬ」

大臣「今目の前にいる私はなんですか、えぇ?」

王様「わしゃお主なぞ知らん、よく似た誰かじゃろ」

 

                       ・・・・・・・・  

王様「じゃから城の兵に大臣を探したりはさせん、国外へ行こうともやつの好きなようにさせるまでじゃ」

大臣「…(…本当に掴めんお人だ)」

 

 

 

グオオォォォォォ!!

 

~中間の国・宿屋裏~

 

魔物「がっ…!うぐっ…!」ガクッ

 

僧侶「なぜ…こんなところに魔物が…」

戦士「危なかったな、話に夢中になりすぎてたようだ」

僧侶「…」

戦士「中にいるのは…今のやつだけか、他は東側の街道に集まってるな」

僧侶「一匹だけ送り込んで…挑発のつもりですか…索敵してみます…」スゥ

戦士「するだけ無駄だと思うが…数がよ」

 

―魔王城方面・東側の街道を魔物が覆い尽くす―

 

僧侶「ちょ、ちょっと!かなりの数なんてもんじゃないですよ!」

戦士「…完全に殺す気で来てるな」

僧侶「で、でも確か土魔は1対1でしか戦わないはずでは?」

戦士「チッ…側近の差し金だな…」

 

 

~少し前~

~中間の国・街道・上空~

 

土魔「わし一人でよいと言ったのが…伝わらなかったようじゃの」

側近「万が一にもだ、お前まで離反されたらかなわん」

土魔「くだらぬ、するわけなかろう」

 

土魔(…どうしてあの2人は、勇者について行ったんだろう)

土魔(それに勇者、2人と旅するの楽しいって…)

 

側近「あいつらのところへ一匹だけ送っておいた、直に此方へ来るだろう」

土魔「そうか」

側近「忘れるな、【勇者】はお前の母の仇だと」

土魔「貴様なんぞに言われんでも…わかっておるわ…」

側近「(餓鬼が…)だといいんだがな」

 

側近「魔物約2万、預けるぞ」

土魔「預ける?わしを監視するの間違いであろう?」

側近「ふん、そう思いたければそう思え。失敗は許されない、わかったな?」

土魔「誰にモノを言っているんじゃ?貴様、調子に乗るなよ」

 

側近「…活躍を期待している」チラッ

魔物「…」コク

 

側近「それではな」スゥー

土魔「去ったか」

魔物「土魔様、これから如何致しますか?」

土魔「全軍待機、地上へと向かい地上部隊へ伝えよ。追って飛龍の咆哮で、進軍の合図を送る。」

魔物「はっ!」バサバサ

 

~現在~

 

土魔「飛龍」

飛龍「どうした?」

土魔「お願いがあるの…」

飛龍「申してみろ」

土魔「中間の国の上空に行って」

飛龍「心得た、我にしっかり掴まれ」バサァッ

 

~中間の国・上空~

 

飛龍「ここでよいか?」バサッバサッ

土魔「うん、ありがとう」スッ

 

【赤いスライムのアクセサリー】

 

飛龍「それは確か人間の童子にもらったと」

土魔「私がこれを捨てたら、進軍の合図を」

飛龍「もう、よいのか?」

土魔「…うん」ギュッ

 

土魔(さよなら…私の、最初で最後の…大切な友達…)

 

飛龍「グルルルルル…」

土魔「…行こう」スッ

 

【赤いスライムのアクセサリー】は 静かに地へ落ちていった

 

飛龍「 ヴ オ オ オ オ オ ォ ォ ォ ! ! ! ! ! 」

 

魔物「進軍せよ!!!!」

 

―オオオオオオオオオオオオオ!!!!!!―

 

 

~中間の国・宿屋裏~

 

戦士「あれは!?」

僧侶「飛龍ですね…もうこんなところまで…」

戦士「東に集まってた魔力が動き出した…今のが合図か」

僧侶「向こうへ引き返していきましたが…」

戦士「あぁ、乗ってるだろうな…土魔が」

 

~中間の国・宿屋~

 

 

勇者「まものさんのさけびごえ…」

 

~賢者『じゃから次に会う【約束】じゃぞ!次に会ったらわしも教える!』~

 

勇者「まもらなきゃ…ともだちがいるんだ…!」ガチャッ

 

 

~宿屋・受付~

 

宿屋「おぉ坊主、大変だ!」

勇者「おじさん!まものさんがくるよ!」

宿屋「あぁ、今それで町の中が大混乱になってるんだ!」

勇者「おじさんはいそいでにげて!」

 

ワー キャー にっにげろー!

 

宿屋「おじさんは…って、坊主何言ってんだ!」

勇者「ぼくは…【勇者】!!だから…まものさんをとめるんだ!!」

宿屋「はぁ!?【勇者】!?」

 

勇者「ぜったいにみんなをまもるから!」ガチャッ

宿屋「お、おい待て坊主!!死んじまうぞ!!!おい!!!」

 

 

~裏口の戸~ ガチャッ

 

戦士「おい!宿屋の主人!大変だ!」

宿屋「あぁもう知ってるよ魔物だろ!?それよりおたくらのとこの子がよ!」

僧侶「勇者様が…?なんですか!?早く答えなさい!!!」グイッ

 

宿屋「うっ…ぐっ…はな…」

戦士「僧侶落ち着け!離さないと喋れないだろ!」

僧侶「はぁっ!はぁっ!」パッ

 

宿屋「げほっ…い、今…あの子…自分は【勇者】だからっつって正面玄関から出ちまったんだよ!」

僧侶「なんですって…!?…くっ!!」

 

戦士「おい待て!僧侶!…あの馬鹿っ!」

 

宿屋「待てよ!お前らも逃げ…行っちまった…あの僧侶…なんつー馬鹿力だよ…げほっ」

 

 

 

~中間の国・商店街~

 

 

勇者「はぁ…はぁ…っ」

 

 

「自警団は何やってんだ!」

「馬鹿野郎!自警団でどうこうなるわけねーだろ!」

「おかーさーん!」

「急いで西門から脱出するんだ!」

 

 

勇者「みんなむこうから、はしってくる…むこうにいけば…!」

僧侶「はぁっ…はぁっ…待ちなさい!」ガシッ

勇者「そうりょさん!?」

僧侶「何をしているのですかあなたは!!」

 

勇者「まものさんが…まものさんがきてるんだよ!」

僧侶「そんな事百も承知です!何をしているのですかと聞いているんです!」

勇者「みんなをまもるんだ!はなして!」

僧侶「魔物とまともに戦えない未熟者が人々を守れるわけないでしょう!犬死にですよ!」

 

勇者「でもぼくたちしか 僧侶「いい加減にしなさい!!!」

勇者「っ!」ビクッ

僧侶「あなたには魔王を倒すという使命があるのを忘れたんですか!?」

勇者「…でもっ」

僧侶「でもじゃありません!ここは引きますよ!」

勇者「そしたらみんなしんじゃうよ!」

 

僧侶「【勇者】様の命には代えられません!多少の【犠牲】は『仕方ない』んです!」

 

勇者「どうして…そんなこというの…」

僧侶「…どうしてもです」

 

~賢者『あぁ~と…ごはん、ありがとうなのじゃ』~

 

僧侶「ほら、行きますよ」

勇者「…」

 

~賢者『あっあとっ!その…次に会ったらっ…あ、遊びに行くのじゃ!』~

~勇者『わかったー!【約束】だよ!』~

~賢者『絶対じゃからなー!』~

 

勇者「…はなしてよ」

僧侶「まだ言うんですか、いい加減に 勇者「そうりょさんなんてだいっきらい!」バシッ

 

僧侶「あっ!勇者様!待ちなさ…だいきら…え?」

戦士「だ~~~やっと追いついたと思えば勇者が行っちまったか…」ゼェゼェ

僧侶「…」カハッ

戦士「人が流れてくるもんだから苦労したぜ…お前はなんで口から血を流してんだ?」

僧侶「キラワレタ キラワレタ キラワレタ…」ブツブツ

戦士「はぁ…」

 

 

戦士「前に話した、今が『その時』なんじゃねーのか」

 

 

僧侶「」ピクッ

戦士「人化魔法を解けばすぐにでも東門の前に行けるぞ、勇者より先に」

僧侶「旅…一緒に出来なくなるかもしれませんよ…」

戦士「だが勇者は守れる…潮時かもな」

僧侶「…行きましょうか」

 

戦士「楽しかったな…ここまで」

 

~戦士『いくぞー!戦士号発進ー!』~

~勇者『わーい!はっしーん!』~

 

僧侶「…」

 

~勇者『ごめんなさい、そうりょさん…』~

~僧侶『大丈夫です!私も疲れてますので!聖水撒きすぎて腕痛くって!』~

~勇者『ありがとう!せーすいでまもってくれたんだね!』~

 

 

~商店街・外れ~

 

勇者「はぁっ…はぁっ…」タタタタ

 

ピタッ

 

勇者(そうりょさんにひどいこといっちゃった…あとであやまらなきゃ…)

 

グッ

 

勇者(はやくおわらせてかえらなきゃ)

 

浅い川が流れている

 

勇者「かわ…ぬれたらそうりょさんにおこられちゃうけど…」

 

勇者「はしはとおいから…このままむこうに…もんがあるはずだから…わたらないと…あれ?」

 

 

【赤いスライムのアクセサリー】が川上から流れてくる

 

 

勇者「あっ!まって!」ザブザブ

 

勇者「よいしょ…んしょ…」ザブザブ

 

勇者「なんで、これが」ザバッ

 

 

勇者が手にした瞬間、誰かの残留思念が頭に流れる!

 

 




もうちっとだけ、この国の話は続くんじゃ
だれるかもしれないけど、シリアス書いたことほとんどないので許して下さいのじゃ


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水の魔神 火の魔神

東門・外部での戦い。


~中間の国・東門外部~

 

戦士「一時的に人化を解いてここまで来たはいいがよ」

僧侶「…」

 

戦士「まだあちらさんは、ご到着までに時間がかかりそうだな」

僧侶「ですが間もなく…気を抜かないでくださいね」

戦士「それを俺に言うか?」

僧侶「…杞憂でしたね」

戦士「なーんだよ元気ねぇなぁ」

 

僧侶「そりゃ元気もなくなりますよ…勇者様に嫌われたんですから…ハァ…」

戦士「まぁまぁ、やっぱあいつは熱いヤツだったってわけじゃねーか」

僧侶「はぁ?」

戦士「あいつ、また自分の身体を張ろうとしてるんだぜ」

僧侶「…」

戦士「『にげようー!』なんて言う勇者、見たくないだろ?」

僧侶「まぁ…ってか似てないですよ」

戦士「ははっ、そいつは悪かったな!」

 

 

―ォ    ォォ―

 

 

戦士「まだあんなとこにいんのか、さっさと来いってんだ」

僧侶「あまり煽らないでいただけます?門を超えられたらどうするんですか」

戦士「俺らがいるからそれはねーだろ」

僧侶「…大した自信ですね、ほんと」

戦士「惚れんなよ?やけ 僧侶「火傷じゃ済まないんでしょう?」

戦士「お、おう」

僧侶「まぁ、ありえませんけど…その自信が、今は心強いです」

 

僧侶「策はあるんですか?」

戦士「各個撃破!殲滅あるのみ!」

僧侶「あなたに聞いた私が馬鹿でした…ハァ」

戦士「他にあるってのか?」

僧侶「どうせ人間達は避難してるんですから、勇者様も避難させます」

戦士「それで?」

 

僧侶「魔物が中へ全部入ったところを私が水攻めするなり、あなたが火攻めするなり、色々あるでしょう?」

 

戦士「恐らく勇者がそれを望まない、知ってて言ってるだろ」

僧侶「…まぁ」

戦士「だからお前、東門までついてきたんだろうが」

僧侶「『ヒャッハー!』なんて昔は言ってたのに、そう冷静でいられるとむかつきます」

戦士「そんな事一言も言ったこと…あったわ…若気の至りか…」

僧侶「最近言ったような気がするのは、私の気のせいでしょうか」

 

 

―ォォ   ォ ォ―

 

 

戦士「さて、そろそろ準備するか」

僧侶「嗚呼…神よ…」

戦士「なーに人間の真似事なんかしてんだ」

僧侶「うるさいですね、【僧侶】なんですよ?」

戦士「お前みたいな僧侶がいてたまるか」

 

 

―オォォォォオォォ―

 

 

戦士「おーおー!うははっ!いるいる!」

僧侶「ギガンテス、トロール、オーク、大魔導…醜悪な上級魔族ばかり…悪趣味ですね」

戦士「(やっこ)さんは相当、勇者を殺したいと見える」

僧侶「まぁ…」スッ

戦士「させねぇけどなァ!!!」スッ

 

 

パリィン!

 

 

 

 

 

僧侶を 清浄なる水が包み込む!

戦士を 燃え盛る炎が包み込む!

 

水魔は みずのはごろも を纏った! 水の槍を手にした!

火魔は ほのおのよろい を纏った! 炎の剣を手にした!

 

水魔「ここから先に行きたければ」ザバァッ

火魔「俺達を倒してから行きな!行くぜェェェェっひゃははぁー!!!」ゴォォ

 

―オオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!―

 

 

 

 

 

 

~街道・上空~

 

飛龍「はじまったようだな」

土魔「…そうだね」

飛龍「あれは、水と火の力を感じるな」

土魔(2人とも…やっぱり勇者を守って…)

 

魔物「ほ、報告します!」バサバサ

土魔「なんじゃ」

魔物「水魔様と火魔様が突如として戦場に!我が軍が次々と倒されていきます!」

土魔「それで?」

 

魔物「は…?いえ、ですから…」

土魔「お主らは側近が連れてきた精鋭であろう?わしと勇者の一騎打ちの邪魔をしておいて何を今更」

魔物「なっ…!土魔様とはいえ言葉が過ぎますぞ!側近様は!」

飛龍「黙れ、羽虫風情が」

魔物「うっ…龍が喋った…?」

 

飛龍「我が主に口説(くぜつ)にて牙を向くならば、その身を噛み砕いてくれる」

魔物「ひっ…」

土魔「止めよ、飛龍」

 

土魔「とにかく、わしらはまだ出ぬからな。貴様らだけでなんとかしろ」

魔物「くっ…!」バサバサ

 

飛龍「雑魚が」

土魔「いいよ、ほっといて。それよりも」

飛龍「どうした?」

土魔「…ううん、なんでもない」

 

飛龍「そうか、ならば深くは聞かぬ故」

土魔「うん…ありがとね」

飛龍「しかし、水と火はなかなかだな、未だに誰も通れずにいる」

土魔「…」

 

 

~東門・外部~

 

 

火魔「おらおらおらおらおらおらぁ!!!どうしたァ!!!!!!もっと骨のあるやつはいねぇのかぁ!!!てめぇら魔王軍だろ!?丹田に力入れろ!!!もっと熱くさせろよ!!!」

 

 

「挟撃しろ!対角から死角を狙え!」

「攻撃の隙を与えるな!数で押し切れ!」

 

 

火魔「聞こえてんだよ…オラァ!!【紅蓮爆回剣(ぐれんばくかいけん)】!!」

 

火魔は燃え盛る剣を逆手に持ち回転する!

火魔を中心に炎の渦が巻き起こる!

 

 

「チッ…近づけない!」

「うろたえるな!魔法だ、狙え!」

 

 

水魔「させると思ってるんですか!」ザバッ

 

ドドドドドド

水魔は水の魔弾を放った!

 

 

「なん…がはっ!」ズドォ

「水魔様だ!先に水魔様を狙え!」

 

 

火魔「馬鹿が!でけぇ声で喚いてんじゃねぇよ!オラッ!」ズバァ

 

火魔は袈裟斬りを放った!

 

 

「ぐぁぁー!」

「なんなんだ…畜生!全然崩せねぇじゃねぇか!」

 

 

火魔「泣き言ほざく暇があんなら戦えってなぁ!」

 

 

ズババババババ

火魔は五月雨斬りを放った!

魔物の群れに飛び込んでいく!

 

 

水魔「そもそもこいつらが来なければ…勇者様に嫌われることもなかったのに…フザケヤガッテ」

 

 

水魔は詠唱を始めた!

千を超える水の槍が水魔の周りに漂う!

 

 

火魔「やべっ、あいつキレてら」

水魔「火魔!どきなさい!」

火魔「どきなさいってお前その位置でそれぶっ放したら俺も巻き添えに」

水魔「構うものかオラァ!!!」

火魔「だーーーっ!構えよ!!!」

 

水魔「【水 槍 魔 法(アクアランス)】!!」

火魔「あっ!てめっ撃ちやがっ…あーもう!【炎 壁 魔 法(ファイアウォール)】!!!」

 

 

槍の雨が 魔物達に 襲い掛かる!

ドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!

 

 

 

「うわああああ」

「ぎゃああああああああああ」

火魔「ぬわーーーーーっ!!!!」

 

 

 

水魔「母なる海よ…我が力となりて、全てを浄化する荒波と化せ!」

 

火魔「ゲェーーーっ!!!おま、おい馬鹿それはやめろ!!!」

水魔「……うるせぇ死ねオラァ!!!」

火魔「お前今俺見て死ねっつったか!?共闘の意味わかってる!?」

 

 

 

 

 

 

水魔「【大 海 嘯(タイダルウェーブ)】!!!」

 

火魔「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」ダダダダダダダ

 

水魔が作り出した大量の水が 津波となって魔物達を吞み込む!

 

水魔「【大 渦 潮(メイルシュトローム)】!!!」グッ

 

水魔が拳を握ると、水は魔物達を包んだまま浮かび上がり回転する!

 

水魔「墜ちなさい!【大 瀑 布(ウォーターフォール)】!!!」

 

魔物達を包んだ水は、激しく大地に叩きつけられる!

魔王軍残り15,000は壊滅状態になった!

 

 

「うっ…だめだ、逃げろー!」

「あんなの聞いてねぇぞ!」

「あっという間に…全滅…」

 

 

火魔「はぁ…はぁ…し、死ぬかと思った…」ゼェゼェ

水魔「あら、そんなとこで何をしてるんですか?」

火魔「おめーが無茶な呪文使うから逃げて来たんだよ!!」

 

水魔「残りの魔物達は退きましたか」

火魔「あぁ、これでようやく…」

水魔「大将のおでましですか」

 

 

 

~上空~

 

土魔「強いね、やっぱり」

飛龍「双方が互いの手の届かぬところを補っているな、いいコンビだ」

土魔「火魔が近距離戦闘で時間を稼いで、水魔が中・遠距離から一掃かぁ、作戦なのかな」

飛龍「楽しそうだ、疼く」

土魔「…戦いたいの?」

飛龍「闘争は我が愉悦、龍の本能よ」

 

土魔「いいよ、私を門の上に下ろして」

飛龍「心得た」バサァッ

 

 

~東門・外部~

 

水魔「来ましたか…」

火魔「なぁ、【僧侶】」

水魔「なんですか?」

 

 

 

 

火魔「この戦いが終わったら勇者連れて、一緒にメシ食いに行こうな。仲直りしによ」

 

 

 

 

水魔「…そういうのは終わってから言いなさい」

火魔「ははっ、ちげぇねぇ!」

 

 

 




相対する、譲れぬ想い ―


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俺の名は【戦士】!

熱く燃える焔の如く。
戦場にて灰燼と呼ばれる悪鬼の類。
その者、名を火の魔神と申す。

紅蓮の命を燃やし戦う姿、正に修羅―




~東門・外部~

 

 

東門の上に土魔を降ろすと、一度街道の方へ大きく旋回する飛龍。

そのまま2人の下へ飛んでくる。水魔と火魔の前に下り立つや否や

 

「先の闘争、実に見事。賞賛を送ろう、勇者の仲間よ。」

 

どこか楽しげな、声の抑揚。

2人は驚きを隠せなかった。

龍が人の言葉を話す…そんな話は聞いたことがない。

 

「こいつは驚いた…。」

「龍が喋るなんて初耳なんですけど…。」

 

およそ、普通の反応。

飽き飽きするほど、飛龍には見慣れた光景。

 

「龍とは知性を持つ優れたる種族。魔物のような劣等種族とは違う。長命な個体であれば人の言葉を喋るなど、造作もない。」

 

流暢に、ただ淡々と。

先程の楽しそうな抑揚は消え、道端に落ちている小石を蹴るような―

極端に言えば興味がない、そんな雰囲気を醸し出していた。

 

「そいつは…悪かったな…。」

「…。」

 

平謝りする火魔と、押し黙る水魔。

 

2人を睨み、大きく目を見開く飛龍。

 

―圧倒的威圧感(プレッシャー)が、2人を襲う!―

 

(こりゃぁ…)

(まずいですね…強さの桁が違う…)

 

気圧される2人。

だが、闘志だけは絶やさなかった。

 

(腹ァ…括るか…。)

 

ふと、火魔が飛龍の前に踊り出る。

 

「俺は火の魔神…『元』魔王軍四天王の一人、【灰燼(かいじん)】の火の魔神だ。土の魔神の盟友、飛龍とお見受けする…手合わせ願いたい。」

「我の名を知りながら、それでも尚、挑もうとするその意気や良し。元よりそのつもりだ、火の者よ。」

 

2つの猛々しい命の間を、風が吹き荒ぶ!

剣を正中線に構え、炎の剣は激しく燃え上がる。

そして火魔は飛龍を見据え、構えを解くことなく―

 

「水魔!一騎討ちだ…邪魔するなよ!」

「なっ…はぁっ!?何馬鹿な事言ってるんですか!!殺されますよ!?」

 

水魔は声を荒げ、火魔の発言に猛反発する。

しかし火魔は一向に構えを解かず、無言を貫く。

火魔が易々と、その身を噛み砕かれるイメージが沸いてくる威圧感。

当然だった、魔王に次ぐ魔力量を持つ、土の魔神よりも強いのだ。

むしろ、魔王に匹敵すると言っても過言ではなかった。

 

―勝てるわけがない―

 

とうとうその言葉を口にする事は出来なかった。

かつて自分に何度も、腕試しと称して挑んできた火魔。

水と火という最悪の相性であるにも関わらず、果敢に挑んできた勇将である事を、水魔は覚えている。

 

(あぁ…そうでしたね、あなたはそういう人でしたね…。)

 

同じ『元』四天王である前に、勇者の『仲間』である前に、一人の『武人』

 

「わかりました。好きなだけ戦いなさい、でも―」

 

これだけは言っておかねばと、握った拳に力が入り、叫ぶ。

 

「死んで勇者様を悲しませたら…今度こそ私がぶっ殺しますよ!!」

「ははっ、お前の魔法は怖いからなぁ…殺されねぇようにしねーとなぁ。」

 

 

そう言い終えると、火魔は右肩まで両手で握る剣の柄を持ち上げ、刃先を飛龍に向けた構えに変える。

そして飛龍に語りかけた。

 

「さっきの口上、やっぱ取り消すぜ。」

「なんだ、怖気づいたか?」

「いや…俺は―」

 

顔を伏せる火魔。

 

 

 

 

―勇者との出会いから、今まで旅の記憶が蘇る!―

 

『あっ…あ゛り゛がどう゛…』

 

『ぼくゆうきある!?』

『ったりめぇだろ!!おめぇ程勇気があるやつはそうはいねぇ!!』

 

『だめーーーーーっ!』

『ひとごろしはだめ!このひとにもかぞくがいるからだめっ!』

 

『わーい!せんしさんも、なかまー!せんゆうー!』

『つーわけで、よろしくな!【僧侶】!』

『ぬえぇーい!!これだから男って奴は!!』

 

『あのねあのね!!おいしいっごはんとかたべられる!?えっとね、あとね?!』

『待て待て勇者、落ち着け。気持ちはわかるがあんまりはしゃぐと…』

 

『いや、そんな暇はないな、おい勇者!』

『なに~?わっ!』

戦士は勇者を 肩車した!

『わぁあぁぁ!わぁぁぁぁ!たかーい!!せんしさんすごーい!』

『いくぞー!戦士号発進ー!』

『わーい!はっしーん!』

 

『そうだな、いつまでもおんぶじゃ可哀想だ、だがその前にメシも食わせてやらないと。あぁ、風呂も入れ…何じっと見てんだよ?』

『…ふふっ』

『おかしな事言ってるか?』

『いえ、【灰塵】の火の魔神も…子供の前では形無しだなと』

『そんな古臭い通り名忘れちまったよ。ほら、行くぞ』

 

『えっとね…そうりょさんがたおれちゃったから…おいしいものたべればよくなるかなって…これ』

『お前、僧侶のために?』

『うん…』

 

『勇者』

『え?』

 

 

 

 

~『明日いっぱい町の中回ろうな!美味しいもの、3人で一緒に食べよう!』~

~『っ!うん!!』~

 

 

 

 

――――――――――――――

 

(約束…したもんな。)

 

顔を伏せたまま優しく微笑む戦士。

ふいに顔を上げ飛龍を睨み、突き刺すような殺気を放つ!

 

「俺の名は【戦士】!勇者の仲間の…【戦士】だ!ガキのお守りが好きでなぁ!もう一人の仲間のアホな暴走も、俺が止めてんだ!あいつら俺がいねぇと、ほんとどうしようもねぇからよ!だから!俺は死ぬわけにはいかねぇ!」

 

 

飛龍の目がギラリと鋭く光った!

その刹那、翼を広げ、落葉が舞い上がるほどの突風!

 

「よく言った!我が前で屍を晒さぬと!そう申すか!」

「ったりめぇだろ!俺にはまだやる事があんだよ!」

 

龍族を前に一歩も引かない戦士を相手に高揚し、飛龍は叫ぶ。

ぶつかる剣気と覇気。

 

「ならば来い!貴様の紅蓮の命…我が灼熱の業火で吞み込んでくれる!!!!」

 

舞い上がる落葉が乾いた破裂音と共に2つに裂ける!

 

「ヴ オ オ オ オ オ オ オ ォ ォ ォ ! ! !」

「いくぜぇぇぇぁあああああああ!!!!!!!」

 

飛龍は咆哮を上げ、その声を合図に走り出す戦士。

 

衝突する、2つの命の炎。

―戦士はその日、生涯で最も命を燃やす戦いに臨む―

 

 




いかがでしたでしょうか?

色々とお粗末な文章お恥ずかしいですが
温かく見守って頂ければ幸いです。

台本形式じゃないと結構難しいんですね…
普通に書ける方々が凄いと思いました。

長い文章を半分に区切ったので
次回まではこのまま台本形式無しになります。


コメディどこいったんでしょうね、王様?


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まものさん…だったんだ。

ネタ・コメディは台本形式に
シリアス展開時は台本形式なしで書いてみることにしました。


~中間の国・川~

 

少女に渡したはずのアクセサリーを、川で見つけた勇者。

手にした瞬間、誰かの記憶が流れ込む。

「なに…これ…。」

 

 

~魔王城・中庭~

 

『お母様…どうして…』

 

一人の少女が墓石の前で膝を付き、泣いていた。

どこか見覚えのある少女の顔、勇者にはすぐにそれが誰だかわかった。

 

(あのこだ)

 

昨日、中間の国で出会った少女。

独特な言葉を使うその少女の事を思い出す勇者。

 

―風景が、変わる!―

 

―魔王城・廊下―

 

『可哀想に、母親を殺されたんだと。』

『あぁ、まだ小さく…甘えたい盛りだろうに…。』

 

廊下の曲がり角で、2匹の魔物は神妙な面持ちで会話をしていた。

オークと大魔導である。

2匹の死角である柱の裏には先程の少女がいた。

ふと、オークがきょろきょろと周りを見回し始める。

少女に気付いていないのだろう。人気が無い事を確認すると、小声で―

 

『なんでも、殺した犯人を側近様が見たって話だ。』

『だから犯人が【勇者の末裔】だとわかったのか!』

 

オークの話に大魔導は驚きを隠せない様子で声を大きくする。

馬鹿!声がでけぇ!―と窘め、またも周囲を確認し、話を続けるオーク。

 

『殺害する現場を見たんだと。即死だったらしい。』

『惨い事を…。人間というのは益々生かしておく価値がないな。』

 

そう言いながら、わなわなと拳を握り締める大魔導。

オークはまったくだ―と返し、会話を続ける。

 

『その後すぐに風魔様達がご到着なさったそうだが…ショックの余り風魔様は、地に座り陸戦姫様を抱きしめ独り言を呟いてたんだとよ…。』

『なんと言っていたのだ?』

 

『それが小声でブツブツと聞き取れんかったそうだ。だがふと聞こえてきたのは龍の言葉だったらしい。結局は何を言っているのかわからんかったと。』

 

『戦友が死に、気が触れられたか…おいたわしや…。』

 

そこまで聞くと、少女は―

 

『勇者の…末裔…』

 

と呟き、魔法で音もなく姿を消す。

 

―風景が、変わる!―

 

最初の風景に出てきた、魔王城の中庭の墓石の前に座る少女。

突然風が吹き、芝生がざわめきたつ。

次の瞬間、巨大な黒い影が少女を覆う。

 

『お主が、陸姫の娘であるか?』

 

声のした方を見やる少女。

その声の主は、全長10mはあろうかという、翡翠色(ひすいいろ)の巨大な龍であった。

圧倒的な威圧感を持つ龍は、ゆっくりとはばたきながら、地に足をつける。

普通の魔物ならば、たちまち萎縮してしまうであろうその姿に、少女は睨みを利かせ―

 

『だったらなんじゃ…貴様もわしを哀れむか…噂話に耳を貸し、わしに同情したクチならば―』

『母親と同じ…その翁言葉、久方ぶりに聞いたぞ。』

 

そう語り翼を畳むと、少女の横へと体を落ち着かせる龍。

地に頭を伏せ、先程の威圧的な雰囲気とは打って変わり、優しい声色で少女に語りかける。

 

『大きくなったな…初めて会った時は、まだ赤子であったか。』

『わしを知っておるのか…?』

 

怪訝な顔で龍を見る少女。

 

『知っているとも、我の背に…お主と、お主の母を乗せて空を翔けた。』

『私と…お母様を…?乗せて飛んだの?』

『そうだ、お主は赤子だった故、覚えておらぬだろうが。…それがお主の本来の喋り方か?』

『あっ…。』

 

からかうように指摘してきた龍に、しまったと顔を赤くする少女。

 

『よいではないか、歳相応の言葉で。』

『…うるさい。そもそも、お前は何者じゃ。』

 

未だどこの誰ともわからない龍に、少女は警戒しながら問いかける。

 

『我としたことが、懐かしさのあまり名乗るのを忘れておったわ、許せ。』

『…?』

 

首をかしげ、龍の言葉に耳を傾ける少女。

 

『我が名は【飛龍】。お主の母とは『元』主従の関係にあった。我は…『ある者』との約束でお主に会いに来た。』

『私に…会いに来た…?ある者との約束って…誰?』

『今は言えぬ、だが直にわかるだろう。知りたくば…強くなれ、娘。魔王軍の四天王の頂に上るほどの力を得るのだ。』

『魔王軍…四天王…頂…』

『知らずに変わらぬ日々を過ごすのもまた、一興ではあるが。どう生きるもお主の自由だ、好きにしろ。』

『好きに…生きる…。』

 

知りたければ強くなれと言ったり、好きにしろと言ったり。

いきなり意味がわからないといった顔で、呆気にとられた少女は、龍の話した言葉を繰り返す。

無意識に自分に言い聞かせるように。

 

『頂を目指すならば…これより先、我がお主の支えとなろう…。我が翼で空を翔け、我が灼熱の業火でお主に仇なす敵を葬ろう。』

『…いらぬ世話じゃ、わしは一人で生きる。』

『ふははっ!強情なところも母親に似たか!』

 

突然笑い飛ばす龍に、少女はカァっと顔を赤らめる。

しかしすぐに怒りで恥ずかしさは消え、怒号を飛ばす。

 

『わしを笑いに来たのか!お母様に似て何が悪い!馬鹿にするなよ!』

 

気丈に振舞おうと必死なのか、翁言葉を使おうとするも、素が出てしまう少女。

ひとしきり笑い終えると、龍は静かに語りだす。

 

『怒り方も、よく似ている。顔を赤らめるところもな。』

『…お母様の事、どれくらい知ってるの。』

 

いじけたように座って膝を抱えると、龍に母親である陸戦姫の事を聞く少女。

 

『お主よりも知っておる。そうさな…魔王をアゴで使っていた。魔族の王を『玉無し』呼ばわりだ、笑ってしまう。』

『それ…家でもよく言ってた…どういう意味なの?』

 

ううむ、この歳では知らぬのも無理はないか…さて、どう説明したものか―

龍はらしくない反応をとり、少し思案すると。

 

『んん…?ん、うむ…まぁ…あだ名と似たような物だ。』

『そうなんだ…今度から『玉無し様』って言ってみようかな。』

『たまなっ…ふはははははっ!それはやめておけ、死人がでるぞ、はっはっはっは!』

『なんでそんなに笑ってるの…?おかしいこと言った?…ふふっ。』

 

先程よりも大声で豪快に笑い飛ばす龍に驚くも

変な事を言ったかと気になるが、釣られて笑う少女。

 

『…やっと、笑ったな。』

『あっ…』

『その方が可愛げがある。子は感情を殺さずに生きよ。』

 

そっぽを向く少女。

優しく少女を見つめる龍。

さながら、種族は違えど親子のような暖かい雰囲気が、場を包んでいた。

 

 

―風景が、変わる!―

 

『すごい!速ーーい!』

『振り落とされるなよ!我が背にしっかりと掴まっておれ!』

『うん!』

 

少女を背に乗せた飛龍が、青く澄み切った大空を翔ける!

風を切る音が大きいせいか、大声で会話をする一人と一匹。

ふいに、前のめりに飛龍の背に倒れこむ少女。

 

 

『あったかい…。』

『何か言ったか!』

『ううん!なんでもなーい!ね、龍に乗ったら言ってみたかった言葉があるのー!』

『なんだ!』

 

 

『サラマンダーよりはや『やめなさい!』

 

ある意味、放送禁止用語をすんでのところで止める飛龍。

 

『あははははは!』

『まったく…とんだじゃじゃ馬ではないか!最初の頃の大人しさはどこへ行ったのだ!』

『感情を殺すなって言ったのは誰ー!?』

『ええい!口八丁なところまで母親に似おって!』

 

そう話す飛龍であったが、どこか楽しそうであった。

 

―風景が、変わる!―

 

どこまでも続く、穏やかな平原。

一つだけ目立つ大岩の上に、少女と飛龍はいた。

 

『私…四天王を目指すよ。魔王軍に入る。』

 

どこか覚悟を決めた面持ちでそう話す少女。

 

『道程は長く険しい。血反吐を吐くような辛い思いをするぞ。』

『いいの、もう決めた事だから。』

『そうか…。』

『私は―』

 

『私は、お母様の仇を…勇者の末裔をこの手で…。』

 

握った拳を震わせ、それを見つめる少女。

 

 

 

 

 

 

 

―それから、数多の記憶が流れ込む!―

 

 

 

 

 

 

 

―風景が、変わる!―

 

―中間の国、街道上空―

 

 

飛龍の背に乗る少女と、その近くにいる羽の生えた魔物。

 

『以上が、勇者の特徴になります。報告が遅れてしまい、申し訳ありません。』

 

魔物が少女に申し訳なさそうに話す。

 

『……………ご苦労…お主は帰還せよ……わしと飛龍だけで十分じゃ……。』

『はっ、それと話にありました、お金をお持ちしました。』

『いらぬ。』

 

『と、申しますと?』

『もう『必要なくなった』、お主にくれてやる。』

『あ、ありがとうございます!』

『行け…。』

『はっ!』

 

【赤いスライムのアクセサリー】

 

少女は出会った少年との【友達の印】を見つめる。

その印は、少女の手のひらの中で月に照らされる。

 

飛龍『グル…』

 

自分の背に乗る主を心配するように小さく唸る飛龍。

 

土魔『大丈夫…なん…でもない……………どうして…』

 

そう呟くと、友達の印を両手で包み、胸へ当てる。

そして飛龍の背へ、少女は膝から崩れ落ちてしまう。

身体を震わせる少女の頬には小さな滴が流れ、月が優しく照らしていた。

 

 

―風景が、変わる!―

 

 

―中間の国・上空―

 

 

『それは確か人間の童子にもらったと。』

『私がこれを捨てたら、進軍の合図を。』

『もう、よいのか?』

『…うん。』

 

(さよなら…私の、最初で最後の…大切な友達…)

 

『グルルルルル…』

『…行こう。』

 

【赤いスライムのアクセサリー】は 静かに地へ落ちていった。

 

 

 

―中間の国・川―

 

 

「まものさん…だったんだ。」

 

浅く穏やかな川の中で、アクセサリーを見つめ、一人呟く勇者。

 

「魔物とは少し違うかのう。『魔族』と言った方が正しい。」

 

ふいに誰かが声をかけてくる。

声のした東門への道に、顔を向ける勇者。そこには黒いローブを着て、フードで顔を隠している者がいた。

声からして女性であることは伺える。

 

「だれ…?」

「さて、誰じゃろうな?それよりも童子、お主にはそんな事を聞く暇があるのか?随分と悠長な物だ、【伝説の勇者様】とやらは。」

 

土魔と似た喋り方であったが、声と体躯は全く異なっていた。

 

「なんでぼくが、【勇者】ってしってるの?」

「…お主、ワシが今言った事、聞いていたのか?時間に余裕などありはしないのだろ?」

「あっ…ごめんなさい!ぼくいそいでるんだ、またねおばさん!」

「おばっ…!?」

 

言い終え、川の中からザブザブと水をかきわけ渡りきり、ローブの女の横を走りぬけようとした勇者。

しかし―

 

「ちょっと待て、訂正しろ。ワシは―」

 

おもむろにフードを脱ぐ女。

 

「永遠の【おねーさん】じゃ!娘は一人いるがおねーさん!復唱!はりあっぷ!クソガキめ!」

「なにこのひと…。」

 

勇者はドン引きしていた。

 

「ええいそんな事はどうでもええんじゃ!」

「じぶんからいったのに…。」

「 ア ァ ン ! ? 」

「ひっ…。」

 

顔を真っ赤にして怒る女。しかしよく見ると―

 

「おばさんは…まものさん?」

「だからおば…あーもうそれでよいわ!魔物ではない!何度言わせる!【魔族】じゃ!覚えておけ!」

「まぞく…。」

 

女は額から角を2本生やし、目は深紅の色をしていた。

人間ではない事が見て取れる。

女は自らの顔の前で人差し指を立て、話し始める。

 

「よいか?今からお主が行くべき場所は東門の外ではない、魔物はもう来ん。ここまではよいな?」

「え?だってまものさんが」

「 よ い な ? 」

「はい…。」

 

重圧、ひたすらに圧迫感。

母親に叱られている子供そのものであった。

ふいに立てた人差し指を東門の上に向ける女。

 

「行くべきは、あそこじゃ。」

「あそこって…もんのうえだよ?あんなとこにいっても…あれ?」

 

飛んできた飛龍が、門の上に土魔を降ろしている最中であった。

出会った時の恰好が違うとはいえ、顔が見えた為、勇者はすぐに気付いた。

 

「あそこへ行って、あの娘につたえてもらいた―「あのこだ!」

「聞けよ!!」

 

ごほん、と一つ咳払いをして、話を再開する女。

 

「あそこへ行き、あの娘に伝えてもらいたい事がある。」

「なにをつたえればいいの?」

「それはな―」

 

 

―魔王城・正門―

 

「どきなさい!私は、中間の国に用があるの!」

 

小さな言い争いが魔王城の正門で繰り広げられていた。




誰かに似た面影の、その女性は―


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…死者は、蘇ったり、など、しません…

人間界は青、青い空、旅立つ青の世界

魔界は赤、赤い空、迫り来る赤の世界


二つの色が一つに混ざる

混沌より生まれ出たモノ

天使と呼ばれ













人と魔の身体を食らい、世界を殺し始めた。


~魔王城・正門~

 

「いいえ、どきません!風魔様でもここは通せません!」

「…どうか、ここは、お戻り、下さい…。」

 

シールドオーガと死神貴族が、身を挺して風魔の外出を阻んでいた。

鬼気迫る勢いで2人につっかかる風魔。

 

「ふざけないで!私の…【大事な親友】が今!あの国にいるのよ!」

「ふざけてなどいません!貴女様は気でも触れたのですか!幻覚を見ているのです!土魔様を見て勘違いなさったのでしょう!お戻りください!」

「私は正気よ!」

「…死者は、蘇ったり、など、しません…。」

 

時と場合ならデスジョークと笑い飛ばせるような死神貴族の洒落は

風魔には煽りにしか聞こえなかった。

 

「死んでるやつがよく言うわよ…っ!」

「…そういう、種族、ですので…。」

 

「騒がしい、何をしている。」

 

城の中から魔王が現れる。

 

「魔王様!」

「…日々の、お勤め、ご苦労様、です…。」

 

咄嗟に魔王に向きを変え、敬礼をする2人。

 

「気持ちは嬉しいが、【ご苦労様】というのは本来、自分より上の立場に使っては失礼に当たるぞ、死神貴族。」

「…申し訳、御座いません。…以後、気をつけ、ます。」

「うむ、それで?この騒ぎは一体何事だ?」

 

軽く部下を窘めると、魔王は騒ぎの原因を聞きだす。

 

「現在!側近様より風魔様の魔王城からの外出禁止令!及び!監視命令が出ており!こちらで足止めをしていた次第です!」

「側近が…?何故だ?」

 

訝しげにシールドオーガの話を聞く魔王。

疑問に思い質問を投げる。

代わりに死神貴族が口を開いた。

 

「…我々にも、わかりません…。ただ、城外へ、出すなと…。」

「気に入らないわね…。私が何をしたって言うのよ。」

「ふむ。」

 

納得がいかず、今にも怒りが爆発しそうな風魔に対し

魔王は落ち着いた様子で顎に手を当て、側近の出した命令の意味を考える。

しかし、わからない。なぜ風魔の行動に制限と監視を設けたのか。

 

(…何を考えている、【先代】の息子よ。)

 

_______________________

 

【先代】とは、先代魔王の事を指していた。側近はその息子である。

先代が崩御した際、王位を継ぎ、王族としての権力だけで魔王軍の猛者を手中に収めようとした。

 

しかし、誰も側近に着いて行く者はいなかった。

圧倒的な力を持つ先代魔王がいたが故、崇高、恐怖、敬愛、と様々な忠誠心を保ってきたのだ。

 

魔王城に押し寄せる魔族を前に王族としての権力などなんの意味も持たなかった。

逃げ延びた側近は、魔界をあてもなくさまようことになる。

 

およそ、魔界とは実力社会であった。

人間界の王位継承とは異なり、力のある者が次の魔王となる。

崩御から数十年後、現代の魔王と側近は、次期魔王の座を巡り魔界全土から猛者が集まる、【魔界闘乱】にて最後まで闘った者同士であった。

 

力こそが全て-

己の力を試したい者、魔界を統べようとする者。

女を侍らせ勝手気ままな生活を夢見る者。

様々な者達が集まる。

 

勝者の命令は絶対―。敗北を喫した相手への絶対服従の呪いをその身に宿す。

それこそが魔界闘乱の参加条件だった。

命であろうと、愛した者であろうと、差し出さなくてはならない。

しかし、魔王が側近に提示したのは、自分に仕え、魔界統一の手助けをしてくれという、なんとも魔王らしからぬ言葉であった。

_______________________

 

 

考え事をやめ、顎から手を離した魔王は

門を守護する2匹に向きを変え―

 

「…シールドオーガ、死神貴族。余が許可する、風魔を通せ。」

「…魔王!」

 

魔王の発言は3人を驚かせた。

 

「しかし!魔王様!」

「…命に、代えても、門を、守護せよと…。」

「そんな命令守らんでよい、部下の命あっての軍であろう。命を無碍にするな。」

「…失礼ね、私が殺してでもここを通ろうとしたみたいじゃない。」

 

風魔の方へ向きを変える魔王。その顔は少しだけ笑っていた。

 

「否定できるのか?」

「…さぁ…どうしてたでしょうね。」

「お主のそういう素直な感情、嫌いではない。さっさと行け、陸戦姫がいるのだろう?」

「ありがとう、行ってくるわ。」

 

そう話すと同時に、風魔は地を蹴り出し走る。2匹の門番の間を通って正門から出ると、【移動呪文(ルーラ)】を唱え空を飛んで行った。

 




魔王軍四天王、集結!



わかる人はそろそろドラゴンクエスト以外にも
ある作品に強く影響されてるのがわかる頃合かもしれません。
ギャグ路線に戻せないのォ…でへぇへぇへへ…どうしよまじで…。


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ごめんね―

勇者とは、勇気ある者。


時は少し遡り―。

 

~東門上部への階段~

 

「はぁっ…はっ…はぁ…!」

 

黒いローブの女と話し終えた勇者は一人、息を切らし東門の横に併設された建物の中にある、螺旋階段を駆け上がっていた。

 

―あの娘に伝えてもらいたい事がある。―

 

ローブの女からの伝言を、土魔に伝えるために走り出した勇者。

しかし頂上までの道のりは、かなり険しかった。

 

中間の国は、国とは呼ばれているものの、軍隊を保持せず対人の自警団のみが巡回している。そのため、魔物に対しては別に自衛する手段を用いなければならない。

 

かといって武器を持とうものならば、敵対意思とみなされ殲滅される。ではどうするか?

 

民衆が出した答えは、高い壁で国を囲い、外敵から身を守るというものだった。

結果は良好、魔王は不要な争いを避けよと襲わずにいた。戦わずして身を守る事を成し遂げたのである。

 

 

しかし皮肉にも国民を守るために建てた壁が今、勇者を苦しめている。

 

その高さ、およそ30メートル。大人ですら駆け上がる事を尻込みする事は自明の理。

わずか7歳の身体でそれを駆け上がり、しかも敵である土魔と対面しなくてはならない。

 

しかし土魔に伝えなければならない事がある。先程のローブの女の言葉だ。

伝えればこの戦いは幕を下ろす、と言い残し女は消えた。

 

『幕を下ろす』という言葉の意味はわからない勇者であったが、恐らく『終わる』という事をなんとなく察知したのだろう。

女が消えるや否や、はじける様に走り出していた。

 

「あっ」

 

駆け上がる途中で足を滑らせる勇者。派手に転び、5段ほど元来た道を転げ落ちる。

顔を擦りむいてしまい、右頬には擦り傷が出来てしまう。

 

「いたっ!……っはぁ…っはぁ…いたくない!」

 

すぐに立ち上がり、走り出そうとする勇者。しかし―

 

「あぅ…っ!」

 

突如右足の脛に激痛が走る。たまらずしゃがみこむ勇者。ズボンの裾を捲ると、右足の脛が腫れ上がっていた。恐らく―

 

 

骨折。

 

 

だが勇者には骨折という状態を理解するには幼すぎた。

強靭な精神―。戦士に『熱い』と言わしめた勇者の心は、勇者の身体を容赦なく引きずっていく。

 

「いかなきゃ…いかないと…」

 

動かせない右足を庇いながら手すりに掴まり、片足で登り始める勇者。そして―

 

「あ…」

 

頂上への出口へと辿り着く勇者。ここを出れば土魔と対面する事になる。もしかしたら戦闘の可能性も十分に考えられた。

 

「うん、うん…だいじょうぶ…いこう」

 

鉄の扉のドアノブに手をかけ、ゆっくりと開く勇者。開ききると、落下防止用の柵で囲まれ整備された道の先、門の上付近に佇む土魔がいた。

金属音を伴って開いたため、土魔も勇者に気付いている。

 

「勇者…」

 

勇者を見つめる土魔。その手には杖が握られていた。

鉄の扉から離れ、ゆっくりと…一歩ずつ土魔に近づく勇者。

土魔まで残り5メートル程になった時、そこで止まれと土魔が喋り、勇者の足が止まる。

 

「…こんにちは。またあえたね」

「勇者…その足…」

「ちょっところんじゃった…えへへ」

 

捲られた右足の裾。紫に腫れ上がった脛の部分を見て、素人目に見ても骨折だとわかる。

大人でも叫ぶほどの激痛。それに耐え笑顔を作り歩み寄ってきた勇者。何が少年をそうさせるのか。

 

「ぼくのこと、しってるんだね」

「あぁ、伝説の勇者様じゃろ」

「そっか…」

「そのような演技はやめよ。わしは全て知っておるぞ」

 

土魔は勇者を睨み、今にも飛び掛ろうとするのを堪えている。

 

「3年前、わしの母も、そうやって油断させて殺したのであろう?」

「そんなことしてないよ」

「嘘をつくな!お主が、勇者の末裔が殺したという話も出ていた!決定的じゃろうが!」

 

「ねぇ、きいて!きみにつたえたいことがあるんだ!」

「黙れ!!!友達と言って近づいたり、名を明かすのを躊躇ったり!わしを…馬鹿にしおって!」

 

「ばかになんてしてない!」

「一人座って腹を空かせた小娘が、哀れだと思ったか!?食べ物や小道具なんぞで釣って飼いならそうとでも思ったんじゃろ!?」

 

「ちがうよ!」

「何が違うんだよ!だったらなんで…っ」

 

土魔の赤い瞳から涙がこぼれる。

 

「なんでキミが【勇者】なの…」

「あ…」

 

勇者は返す言葉が見つからなかった。

何故、自分なのか。考えたこともなかった。およそ数ヶ月前、始まりの国の教会へお祈りに行ったところ、神父に呼び止められた。

 

神父曰く、神のお告げでキミが勇者だ―。と。

嬉しかった。物語に出てくる英雄、人々から感謝される正義の使者。

雲の上の存在である王様にも会えた。僧侶と出会えた。戦士と出会えた。何より―

 

目の前の【初めての友達】に出会えた。

そして今、その友達を泣かせているのは自分だった。思考が完全に止まりパニックを起こす。たどたどしく口を開く勇者であったが―。

 

「お、おねがい…はなしを…」

「うるさい!!」

 

土魔は激昂し、話を聞ける状態ではなかった。

 

「ゆるさない…許さない!!初めて友達が出来たと思った!人間でも!私にとっては初めての友達!!そう思ったのに!!!」

 

【土魔を中心に魔方陣が展開される!】

 

「構えろ!!!今ここでお母様の敵を討つ!!!」

「まって!はなしを―

 

 

「茶番はそこまでだ」

 

2人は声のした方へ振り向く。

一人の魔族の男が宙に浮いていた。

 

「お主は…側近か…なんの用じゃ」

「…ふん」

「このひとが…」

 

側近と聞いて勇者が反応する。

側近と呼ばれる男は、土魔の問いかけに鼻で笑って返し、右手を天に掲げた。

次の瞬間―勇者と土魔を囲うように一つの魔方陣が展開される。

 

「なっ…!貴様、何の真似じゃ!」

「【魔封呪文(マホトーン)】」

 

側近がそう唱えると、魔方陣は光り出し、勇者と土魔に電流が走る!

 

「うわぁぁぁあああっ!」

「う…っぐ…側近…キサマァ…ッ!」

 

電流が止まり、地に膝をつく勇者と土魔。

しかし勇者はそのまま倒れこんでしまう。

 

「うぁ…あし…いた…」

 

電流が勇者の骨折した部位に流れ、痛みを更に悪化させる。

土魔は立ち上がるも、身体に力が入らない状態になっていた。

 

「なんじゃ…?魔力が…うまく操れん…」

「ほう、私の【魔封呪文(マホトーン)】を食らってまだ立つか」

「今のが【魔封呪文(マホトーン)】じゃと!?攻撃を伴う【魔封呪文(マホトーン)】など聞いたことがないぞ!!」

 

本来【魔封呪文(マホトーン)】とは、相手の魔力の流れを乱し、呪文を封じる。

攻撃呪文ではないので、ダメージを受ける事などない―はずだった。

 

「私のは特別でね、貴様らのような貧弱な代物ではないのだよ。それにしても…」

 

勇者の方を見る側近。足を抑えてうずくまっている勇者を見ると―

 

「軟弱、且つ脆弱。弱い、弱すぎるな。伝説の勇者とやらもこの程度か。」

 

側近は右手を勇者に向ける。火球が現れ勢いを増す!

 

「貴様…わしらの一騎討ちを邪魔するか…」

「甘いんだよ、お前ら親子は。そうやって正々堂々としているから、碌でもない目に合う」

 

「なんじゃと…?」

「いいだろう、教えてやる。お前の母親は後ろから討たれたのさ、こんな風にな」

 

側近は勇者にかざしていた火球を土魔に向ける。

火球は更に大きさと威力を増していく!

 

「【極大火球呪文(メラゾーマ)】」

「なぜ貴様がそんな事を知っている…」

 

火球が土魔の眼前に迫る。

赤き紅蓮の炎が、土魔を焼き尽くさんと近づいてきたその時だった―。

 

「わあああああああああぁぁぁ!!!」

「勇者!?」

 

咄嗟に土魔を押し倒し、一緒に倒れこむ勇者。

火球は2人の上を通り、後ろの落下防止柵を破壊する。

 

「馬鹿者!何をしておる!離せ!」

「にげて!」

「なんじゃと?」

「あのひとがやったんだ!きみのおかあさんをおそったのは、あのひとなんだ!キミのおかあさんがいってたんだよ!」

 

「…は?」

 

まるで意味がわからない、理解できない。

 

きみのおかあさん?

 

お母様?

 

お前が殺したんだろう?

 

 

 

 

 

「あの女が生きているわけないだろう。肺を貫いたのだ、ほぼ即死のはずなのだがな」

 

 

 

 

 

あれ、なら何故勇者は生きている?

 

今よりも幼い勇者が、お母様を手にかけるところを側近が見かけたのならば、易々とその場で殺すことはできたはず。

 

そして何故今、勇者に殺し方を教えた?

 

勇者は知らなかった?

 

正々堂々としているから…後ろから討たれた…?

 

何故側近が、自分がしたように語る…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか―

 

 

「側近…貴様がお母様を殺したのか…?」

「だったらなんだ?」

 

即答する。

 

それも無表情で。

 

当たり前だとでも言うような口調で。

 

頭の中が真っ白になる。

 

勇者の末裔が殺したのではなかった。

 

勇者ではなかった。

 

【友達】が殺したのではなかった。

 

「ゆう…しゃ…」

 

勇者の方を向く土魔。勇者は足を抱えうずくまっている。

 

「知ったところでどうもできんだろう。安心しろ、貴様も母親の下へ送ってやる」

「あ………」

 

次の火球を手に側近は土魔を狙っていた。しかし土魔は思考が停止し、次の行動が取れない。

 

およそ子供の情報処理能力というのは大人よりも少ない。

一度に大量の情報が土魔の脳に流れ、次の行動を制限してしまった。ただ―

 

「ごめん…なさい…」

 

止まらない。とめどなく溢れる土魔の涙。

後悔の念が押し寄せてくる。親の仇を目の前にして動けない。 

 

【側近の手から、火球が放たれる!】

 

「うっ…く…!」

 

【勇者は、土魔の前で仁王立ちした!】

 

「ゆうしゃ…」

「おねがい、にげて」

「ゆう―

「ごめんね―」

 

【火球は勇者に直撃する!】

 

「勇者ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「ちっ!しぶといやつめ…邪魔をしおって!」

「あ…っ…ゅ…ゆうしゃ…」

 

【火球が直撃し、勇者は吹き飛ばされる!】

 

「今度こそ母親の下へ行け!土魔!」

「だ、誰か…勇者を…」

 

【側近の手に、火球が現れる!】

 

「死ねェ!」

「お願い…助けて…」

 

【側近の手から、火球が―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「させねぇ!!!!!!」

 

上空から突如、何者かの斬撃が、側近の腕を切り落とす!

 

「なっ…ぐあああああああああああああああああ!!!!!」

 

断末魔にも等しい悲鳴は、東門一帯に響いた!

 

「勇者!しっかりしろ!おい!聞こえるか!」

「勇者様!聞こえますか!勇者様ぁっ!」

 

上空から降りてきた火魔と水魔。

そしてその上空には飛龍と風魔がいた。

 

「ぁ…ぅ…」

「よし、聞こえるな!今から水魔に回復をかけてもらう、堪えろよ!」

「…だ……れ…?」

 

誰だかわかってないという様子の勇者。それに構わず火魔は指示を続ける。

 

「水魔、回復魔法をかけ続けろ!いいか!絶対に諦めるな!」

「わかってるわよ!もうやってる!命に代えても…!」

 

「ぁ…のこは…?」

 

息も絶え絶えに必死に声を絞り出す勇者。

 

「あの子…?土魔のことか!大丈夫だ、向こうで座ってる」

「ょか…た…」

 

そう一言漏らすと、勇者は深い眠りに落ちた。

 

「勇者っ!?」

「大丈夫、眠ったみたいです。…疲労がピークに達したんでしょう。あと一歩でも遅れていたら…」

「間一髪ってわけか…ひやひやさせやがる…」

 

火傷している身体を治癒しながら、勇者の足を見る水魔。

 

「こんなになるまで…子供のくせに…馬鹿ですね…ぐすっ」

 

泣きながら足へも回復魔法をかける水魔。

紫色に腫れ上がった右足の脛は、あっという間に元の肌色へと回復する。

 

「熱い熱いとは思ったが…俺より無茶しやがる…」

 

優しい顔でそう話す火魔の後ろから―

 

「裏切り者の四天王がおめおめと…貴様らァァァァァ!!!!!!!!」

 

右腕を切り落とされ、激昂した側近が叫ぶ。

 

「残念だけど、四天王は全員あなたに敵対する事になるわ。それと、飛龍もね」

 

飛龍から降りてきた風魔はそう話し、土魔に歩み寄る。

しゃがんだ風魔は、優しく土魔を抱き寄せ―

 

「よく頑張ったわね」

「ぁ…………ぅぇ…風魔…ゅ…勇者が…」

「あの子はもう大丈夫、泣きたいときは泣いていいの、まだ子供なんだから」

「ひっ…ぅ…うわぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」

 

風魔にしがみつき号泣する土魔。我慢していた感情が決壊する。

 

「とうとう尻尾を出したな、下種が」

 

土魔と風魔の横に降り立つ飛龍は、憎悪に満ちた目で側近を睨んだ。

 

 

 




集結する四天王、その背には傷ついた勇者―!


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中間の国の戦い

短いですが、色々ストーリーを考えながら書くので
文章力は無かったり、ありきたりな話等ありますが、よろしくおねがいします。


~東門上部~

 

集結した四天王により、勇者と土魔の危機は去り、形勢は逆転した。

 

敵は、側近。今の側近には、四天王全員と飛龍を相手取る事は不可能に近かった。絶好の機会ーー

 

「貴様ら…同じ魔王軍であるくせに裏切るのか!」

 

側近は切断された片腕を止血するために回復魔法をかけ続け、対する四天王達に罵倒を浴びせる。

それに対し風魔は――

 

「よく言うわ、先に仲間である陸戦姫を裏切ったのはあなたじゃない」

「あの女はいずれ魔王様に仇なす敵となりえた!早い内に芽を潰して何が悪い!」

 

「それで殺したのかしら?魔王の側近が聞いて呆れるわ。それに本当のところ、彼女を殺したのは自分のためだったのでしょう?」

「なんだと…?」

 

返答するも、幼稚且つ嘘に塗れた側近の回答に、風魔は呆れる。

風魔は全てを知っているような様子だった。

 

「側近、あなた…先代魔王の息子なんですってね」

「なぜそれを…っ!」

 

知ってるのだといわんばかりに側近は驚愕した。

 

「先代魔王の息子だと!?」

「初耳なんですけど…」

 

火魔と水魔は気絶した勇者の傍にいながらも、話を聞き驚く。

 

当然よね――

風魔はそう言い、抱いていた土魔を離し立ち上がる。

 

「勇者に敗北した魔王の息子だなんて知られたら、反感を食らうに決まってるもの。実際、過去に魔王城で反乱を起こしたのでしょう?やり場のない怒りを持った魔族達が」

 

「チィッ!……そこまで…!だったらなんだ!」

 

「哀れね、側近」

「私が…?哀れ…だと…?」

 

眉間に深い皺を作り、わなわなと身体を震わせる側近。

怒りが今にも爆発せんとしているのが見てとれた。

 

「魔界を統治しようとしたけど、あなたにはその力が無かった。次の魔王の座を狙う反逆者達を前に、やむ無く逃げたのよね?」

 

「黙れ…黙れっ!貴様に何がわかる!父上を失った後、残った家族と住む地を奪われ、泥水をすすって生きてきた気持ちが…貴様なんぞにわかってたまるか!!」

 

とうとう我慢の限界と言わんばかりに側近が怒号を飛ばした。

回復を終え、片腕だが戦闘を継続することは恐らく可能。だがまともにやりあえば側近の敗北は目に見えている。

 

撤退

 

普通ならここでその発想が生まれる。しかし、頭に血が上っていた側近は、そんな事を考える節も見せなかった。

 

(かかったわね…。もう少し冷静な男かと思ってたけど、杞憂だったかしら)

 

思考する風魔。これまでの発言は全て挑発であった。少し安っぽい内容だったかと不安もあったが、上手くいった。あとはーー

 

(絶対に逃がさないわ。なぜ陸姫を殺したのか、本当の理由をその身体に聞いてあげる)

 

一部始終を見ていた他の四天王。皆、唖然といった表情であった。

 

「事情はよくわかんねぇけどよ…」

 

そう言いながら火魔は横たわっている勇者の傍から離れ、風魔の隣へ並び立つ。

そして――

 

「側近、テメェが実はどこの誰だったかなんて、そんな事はどうだっていい。だがな――」

 

火魔は炎の剣を側近に向けて構えた!

 

 

「勇者を傷つけた、土魔を殺そうとした。…テメェは許さねぇ、許されねぇよ。」

 

「……。」

 

押し黙る側近。

しばらく沈黙が続いたが、次に口を開いたのは風魔であった。

 

「黙っていても何にもならないわよ?とにかく側近、貴方は陸姫を殺した張本人としてこれから魔王軍の軍法会議にかけられる、詳しい話はそこで聞かせてもらうわ。」

 

「ふっ……。」

 

不意に沈黙を破り、側近は笑い出した。

 

「ふははははっはっはっは!!!!!」

 

突如として笑い出した側近を見た風魔と火魔は、側近を警戒する。

 

「何がおかしいの?」

 

怪訝な顔をして側近を問い詰めようとする風魔に、火魔が呼びかけた。

 

「風魔!!上だ!!」

 

「上…!?あれはっ…!!」

 

 

中間の国の国土全てを覆いつくす程の巨大な魔方陣が、空に展開されていた。

 

 

「ゲームオーバーだ、諸君。」

 

冷たく、ただ淡々と側近は言い放った。

 

 

 



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闇の衣

見づらかったりしたら教えて頂けると励みになります。


「側近様。」

 

気づけばバサバサと羽音を鳴らしながら、空を飛ぶ人型の魔物、ガーゴイルが側近のすぐ横まできていた。

 

「首尾はどうだ。」

 

「整っております。」

 

「ご苦労、では西は任せる。」

 

「はっ!」

 

会話を終えると、ガーゴイルは西門へと向かって飛んで行った。

 

「今のは先程の羽虫か…どこへ行かせた?いや、それよりもあの魔方陣は如何様なものか、答えよ側近。」

 

飛龍が鋭い眼光で側近を睨み、問い詰める。

 

「ふん…いいだろう、冥土の土産に聞かせてやる。」

 

肩を竦め、勝ち誇ったように側近は勇者達の陣営へと話し始める。

 

「我ら魔族が原初の頃より使っていた魔法という神秘の力、いくつか種類があるが、代表的なものは5つの種類があるのは知ってるな?」

 

「えぇ、それがどうかしたのかしら。」

 

怪訝な顔をして風魔が答える。

ふいに側近が自身の顔の前に手を差し出し、人差し指を立てた。

 

火球魔法(メラ)系。」

 

続けて2、3と指を5本まで立てていく。

 

氷結魔法(ヒャド)系、真空魔法(バギ)系、火炎魔法(ギラ)系、爆裂魔法(イオ)系。」

 

「何故今になってそんな話をする。」

 

飛龍は怒りを抑えているように見えた、主殺しの男を目の前にして冷静でいなくてはならないのは歯痒いだろう。

その胸中を察した火魔が飛龍に声をかけた。

 

「飛竜、気持ちはわかる。俺もこいつを今すぐにでもたたっ斬ってやりてぇ。」

 

「火魔…。」

 

「だがよ、今は我慢しようぜ、こいつの口からたっぷりと言い訳を聞くまではな。水魔、土魔と勇者を頼む。」

 

気絶した勇者と水魔を背に、火魔は水魔に2人を守るよう頼んだ。

 

「わかりました。土魔、こちらに来てください。」

 

「う、うん…。」

 

先ほどまで泣きじゃくっていた土魔であったが、今は落ち着き、勇者と水魔のいるところまで駆け寄っていく。

 

「勇者…。」

 

「大丈夫、今はただ眠っているだけです。」

 

「うん…。」

 

心配そうに勇者の顔を見る土魔に、水魔が優しく微笑みかけた。

 

「貴様らは――」

 

側近が話を続ける。

 

「貴様らはおかしいとは思わなかったのか?激しさを増す戦場、魔王軍が押しているにも関わらず、この中間の国に手を出さなかったこと、疑問に思わなかったか?」

 

「…?そりゃ人間達が壁を作って、侵攻を防いでいたからじゃないのか?」

 

火魔が答えると、側近は口元を大きく歪ませ笑った。

 

「はっはっはっは!!侵攻を防ぐ?笑わせるな。そもそもこのような壁を作ったところで我らが魔王軍の侵攻を止める事など出来るわけがないだろう。」

 

「魔王が無駄な争いを避けよと軍に命令したからであろう、我にもしばし駐留せよと命があったが。火魔よ、斥候として一匹の魔物をそちらに向かわせたのを忘れたか。」

 

「……あぁ…。」

 

苦虫を噛み潰したような顔で火魔が呟いた。

 

「そう、表向きにはそういう事にしてあるのさ。」

 

「表向きには?それは一体どういうことかしらね、あの魔王が嘘をついてたって言うの?」

 

風魔は一歩前に進み、側近の答えを待っていた。魔王軍の長である魔王が嘘をついていたとすれば、大幅な士気の低下に繋がる。

そうすると当然、魔王軍の中に不信感を持ち始める者や、離反・謀反を企てる者が出てくる。それだけは避けたい…はずなのだが。

 

(この男…自分の言っていることがわかってるのかしら…。自分で自軍の士気を下げるような事を言ってることに気付いていない…?)

 

風魔はしばし思案したが、すぐにそれは中断することになる。側近が話を再開したのだ。

 

「嘘などついていない、魔王様は実に魔王様らしくない、お優しい方だ。そう――」

 

 

 

 

 

「反吐が出るほどにな。」

 

 

 

 

側近が言い放つと、残った左手で黒く光る玉を掲げた。

すると途端に頭上の魔方陣が光り輝きだす!!

 

「あ、あれは…闇の衣ではないか!!側近、貴様が何故そんな物を持っている!!」

 

「闇の衣…?知っているのか?」

 

驚愕する飛龍に、火魔が問いかける。

 

「歴代魔王の魔力が封印された黒玉だ、魔王の力が無い物には触れることすらできぬはず…。」

 

「歴代魔王って…それ、かなりまずい代物なのでは…?」

 

飛龍の答えに水魔は背筋が凍りつく感覚を覚える。

土魔も同様に、禍々しい魔力を目に身体を震わせていた。

 

「水魔…あれ、怖い…。」

 

土魔は水魔と勇者の傍に座り、水魔の手を握る。

 

(魔王様に次ぐ魔力量の土魔がここまで怯えて…。あれ、どんだけやばいんですか…?)

 

水魔は土魔の手を強く握り返し、眠っている勇者と土魔の前に立つように前に出る。

 

「…。」

 

風魔は1人思考を巡らせていた。魔王城の書物をよみふけっていた時に、何かで見たことがある。

魔方陣を敷いているという事は、恐らく側近が掲げた闇の衣を使って何か魔法を使うということだろう。

 

黒玉から無尽蔵に湧き出る魔の力。恐らくただの【火球魔法(メラ)】でも【極大火球魔法(メラゾーマ)】を軽く陵駕しかねない、油断はできなかった。

 

「順を追って説明してやる。太古の昔、まだ人間も魔族も存在しない、天使と呼ばれる種族がこの地を支配していた頃の話だ。」

 

 

側近は掲げていた闇の衣を降ろし、話を続けた。その内容とは――

 



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魔法障壁

遥か昔、人も魔も存在しない、争いのない世界。

天使と呼ばれる種族のみが生きていた時代があった。

 

人の身体に白き翼を生やし、赤子の姿と無邪気な心を持つその天使達には、人間や魔王軍でいうところの、王族が存在していた。

 

その者は、神。

 

神は天使達と平穏な日々を過ごしていた。しかし、ある日天使達の中に異端児が現れる。

本来成長しないはずの天使の中で、赤子の姿であった1人の天使が、突然言葉を発し始め、成長を始めたのだ。

 

神は不気味に思いつつも、その時はただ静観していた。

しかし次の日、同じような天使が2人に増える。

 

神はこの2人の天使を穢れとし、2人から翼を奪い、天界から追放したのであった。

 

人の身になった2人は、今の人間界に。

奪われた翼は、今の魔界に。

 

2人は成長し男と女に

翼は2つの命として異形の姿に

 

その後は落とされた地で繁栄を続けていき、人間界と魔界、そして天界という3世界が誕生したのであった――。

 

 

「神は人間と魔族の祖に恨まれ、大昔に戦争が起きた。」

 

 

淡々と話をしていく側近。

東門の上の勇者陣営は黙って話を聞いていた。

 

 

「天界と地上界との天地聖戦だな、おとぎ話程度には貴様らも知っているだろう。これは、実際に起きた過去の出来事なのだ。」

 

「そんなことはどうでもいいわ!!」

 

ついに痺れを切らした風魔が声を荒げる。

 

「そんなおとぎ話に耳を傾けるほど、私達が暇に見えるの?さっきも言ったけれど、あなたは重罪人。これから魔王城へ連行させてもらう。」

 

「確かに…。だがどうしたんだ風魔?らしくないじゃねーか。」

 

側近に食って掛かる風魔に、火魔は内心驚いていた。

 

「嫌な予感がするの…。」

 

「…上の魔方陣か?」

 

「えぇ、一刻も早く側近を拘束しないといけない気がして…。」

 

こんな風魔は見たことがない。

恐らく彼女の勘が警鐘を鳴らしているのだろう。

火魔にとっても聞きたい事は山積みであったが、ここは風魔の判断を尊重することにした。

 

「…だな。側近!妙な真似はするなよ、これから俺も一緒に魔王城についていく、逃げられねぇぜ。」

 

「…逃げる?」

 

剣を握りなおした火魔に、側近は問いかけ、そして――

 

 

「逃げられないのは貴様らの方だ。」

 

 

側近が言い終えた途端に、東門の内側に浮いていた側近の姿が消えた!

 

「何!?」

 

「後ろよ!」

 

突如姿を消した側近に驚いている火魔を横目に、風魔が東門の外側を睨む。

火魔が後ろを向くと、先程と同じように宙に浮いた状態で、魔法を詠唱している側近の姿があった。

 

「愚か者共が!やはり人間に与する者は等しく愚かだな!」

 

側近の姿を捉えた瞬間、弾けたように1人と1頭が飛び出した!

 

「いけない!!火魔、飛龍!!」

 

「チィッ!!」

 

「ゴァァアアア!!」

 

火魔は燃え盛る炎の剣を一瞬で猛らせ、炎の斬撃を放った!

飛龍は口から灼熱の炎を吐き出した!

 

しかし、見えない壁にぶつかり、2つの炎は遮られた!

 

「言っただろう、ここでゲームオーバーだと。」

 

頭上の魔方陣が上下垂直に分かれ、5つの魔方陣になる!

5つの陣は1つを残して、中間の国を五芒星になるように回りを囲んだ!

 

「火魔よ!我に乗れ!強行突破だ、至近距離から奴に向けて今一度放つぞ!」

 

「あぁ!!背中借りるぜ!!」

 

飛龍は火魔を背に乗せ、翼をはばたかせる!

 

「駄目よ!待ちなさい!」

 

風魔の制止を振り切り、東門から側近へ近づこうと空へ飛び出した瞬間――

 

 

「ぐっ…なんだこれは…!?」

 

「なんなんださっきから…魔法障壁か…?」

 

 

金属音のような甲高い衝撃音をたてて、行く手を阻んだ!

ならばと飛龍は一度、東門の内側へと旋回する。

 

「掴まっておれ!」

 

十分に距離を取った後、飛龍はまたも大きくはばたいた後、翼を畳み側近へ向けて一直線に加速した!

 

「飛龍っ!私も!」

 

頭上を通り過ぎようとして突進してくる飛龍の進路の下へ、土魔は駆け出した。

 

「土魔まで…もう!」

 

土魔は既に進路の下に着き、魔法の詠唱を始めている。

 

「水魔!勇者の傍で結界を!」

 

「わ、わかりました!」

 

風魔は水魔に勇者を守るように叫ぶと走り出した。

勇者を抱き抱え、水魔も結界を張る。

 

「【攻撃強化魔法(バイキルト)】!!」

 

土魔が唱えると、頭上に向かって飛んでくる飛龍と火魔の身体は赤く光りだした!

火魔は炎の剣を構え、刺突の体勢に入った!

 

「【速度増加魔法(ピオリム)】!!」

 

同じくして駆け寄ってきた風魔によって飛龍と火魔に速度増加魔法がかけられる。

更に加速した飛龍はそのまま東門と2人の頭上へ突進する!

 

「ヴォオオオオオオ!!!!!」

 

またも甲高い金属音と衝撃が起こり、飛龍の頭部は阻まれる!!

ぶつかった衝撃を利用し、火魔は飛龍の背を蹴った!!

 

「貫けぇぇぇぇ!!!!!!」

 

魔法障壁に飛龍と火魔の一撃が刺さる!!

 

「無駄な事を。」

 

その様子を、側近は無表情で見つめていた。

 

 

 




炎の一撃――!!


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心の火傷

中間の国での戦い

 

強烈な、強化魔法をかけての一撃。即席のコンビであったが、完璧なタイミング。威力も申し分ないはずだった。

しかし…

 

「ギャウアアアアアアア!!」

 

「ぐっ…!うおぉぉぉぉっ!」

 

飛龍と火魔が結界を抜けることは叶わなかった。魔王に匹敵するのではないかと言われている飛龍渾身の一撃を、強化をかけ、火魔という協力者がいるにも関わらず、それを跳ね除けた結界壁。

飛龍と火魔は衝撃で門の内側へ吹き飛ばされ落下してしまった!

 

「火魔!飛龍!」

 

「うぁ…っ!…っあぅ…」

 

その余波ですぐ下にいた土魔も巻き込まれ、飛ばされた拍子に頭を壁にぶつけ気絶してしまう。

 

「土魔!!」

 

風魔は土魔の元へ駆け寄った。幸い、出血はしていないようだった。

少しだけ回復魔法の心得がある風魔は、土魔の後頭部へ回復魔法をかけ、壁に寄り掛からせた。

 

「よかった…無事ね。」

 

気絶している土魔の頭を優しく撫でる風魔。そこへ、水魔の声がかかる。

 

「風魔!」

 

水魔の声にはっとした風魔は、すぐさま声の方へ振り向く。

 

「一度撤退しましょう!少しなら転移魔法の心得があります!だから――」

 

「無駄よ。」

 

「え…?」

 

一度態勢を整える為に撤退を提案するも、風魔がそれを否定する。

 

「思い出したわ、あれは…あの五芒星に展開された魔方陣は――

 

「【究極魔法(マダンテ)】」

 

風魔が話している横から、側近が魔法の名称を教える。

その言葉に水魔は目を見開いた。

 

「【究極魔法(マダンテ)】ですって…!?」

 

 

 

究極魔法(マダンテ)

 

全ての魔力を解き放ち、森羅万象一切を、消滅させる究極の魔法。

一度条件を満たすと、詠唱中は外界の干渉を受けない結界を展開する古の魔法。

 

 

おとぎ話の中だけだと思っていた魔法の存在に、水魔は驚きを隠せなかった。

風魔は失敗したと、うなだれ、心の中で嘆き続けていた。

 

(何が先見の明よ、何が約束を果たす、よ…。)

(闇の衣を取り出した時点で退くべきだった…ごめんなさい…陸姫…約束、守れそうにないわ…。)

 

心が折れかけていた風魔を、水魔が叱咤する。

こんな風魔は初めて見る、けれど今はそんな事を気にしている暇はない。

 

「風魔!何してるんですか!あれがほんとに【究極魔法(マダンテ)】だと決まったわけじゃありません!土魔を抱えてください!飛龍と火魔の元へ行きますよ!!」

 

勇者を抱きかかえた水魔は、風魔に土魔を連れて来るよう促すが――

 

「…あれは…本物よ。」

 

「今…なんて…?」

 

「水魔、【究極魔法(マダンテ)】についてはどれくらい理解してるのかしら。」

 

ふと、風魔が水魔に質問を投げる。

 

「え、えぇと…確か全てを破壊する究極の魔法で…詠唱中は外界との……まさか…」

 

「その、まさか。」

 

風魔と土魔の元へと駆け寄って来ていたが、話を聞き、その場でへたり込んでしまう水魔。

 

「で、でも…まだ他に方法はありますよね!?」

 

「ごめんなさい…、あなた達だけでもこの場から離れるように言うべきだったわ…。」

 

「そんな…それってつまり…。」

 

「……魔王に匹敵すると言われている飛龍の力でも砕けない以上…何も、ないの…。偽の魔法ならばとっくに砕けているはずだから…。」

 

次の瞬間、空に五芒星の点として中間の国の周りに展開された魔方陣の1つから、違う魔方陣へと光りの線が繋がる!

結界は振動を始め、地鳴りが起こる!

 

「貴様らはよくやった、全ての魔方陣が繋がった時、【究極魔法(マダンテ)】は結界内に放たれる。せめて束の間の時間を安らかに過ごせ。」

 

既に詠唱を終え、ただ魔法の発動を待つのみとなっていた側近が勇者陣営に賞賛の言葉を贈る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふざけんじゃねーですよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水魔はぼそりと吐き捨てると、勇者を風魔の元へと連れて行き、風魔に託した。

 

「水魔?」

 

「私は諦めません、諦めない。どんな圧倒的不利な状況でも、絶対に諦めない。」

 

話しながら、水魔はその歩を進めて行く。

 

「魔王軍として新兵になった私には、馬鹿が付きまとってました。傾国の美女だなんて、私も女ですからね、そう呼ばれて嬉しくて舞い上がってた時期もありました。」

 

「ですが、戦場ですら魔王軍の兵士達は皆下心が見えました。四天王になった時、部下すらも、誰も私を仲間としてではなく、女としか見ていなかった。」

 

「でもあの男は、私を見て下心どころか、水の力を持つ私に闘志を抱いていた。傷つきますよね、女としての自信なくします。」

 

「水魔…あなた…」

 

話し始めた水魔を見て、風魔は気が狂ったのかと心配する。

 

「別に気が触れたわけではありませんよ。」

 

風魔の心配を悟ったのか、水魔がそれを否定するように諭す。

 

「水と火なんて最悪の相性なのに、果敢に挑んできて、正直鬱陶しかったんですよね。」

 

「でも、諦めない心を教わりましたよ、火魔に。ばかですよね、ほんと。」

 

 

 

 

 

石畳に、【炎の剣】が突き刺さっている。

 

 

 

 

 

水魔は炎の剣の前でその歩を止めた。そして左手で具現化させた水の槍を持ち、右手で炎の剣の柄に手をかけた。

 

「…熱いですね。」

 

 

 

 

(熱い…。)

 

 

 

 

(ふふ…本当に、火傷じゃ済まなさそうですよ、火魔さん。)

 

水魔は炎の剣を引き抜いた!

 

 

「水魔!?何をする気なの!!」

 

「私がこの結界をこじあけます、風魔はみんなを一箇所に集めてください!」

 

「そんな、こと…」

 

「出来ないかもしれません。でも、やらなければこのまま死ぬだけです!」

 

水魔は、炎の剣と水の槍を天に掲げる。

2つの武器は水魔の手から離れ、宙へと浮いていく。

 

 

 

―光の線が、3つ目の魔方陣へと繋がった!―

 

 

 

炎の剣は赤い球体へと、水の槍は青い球体へと姿を変える。

更に2つの球体は炎と氷のエネルギーに変わり、水魔の両手へと誘われる。

 

「2人を…!」

 

風魔は【飛翔魔法(トベルーラ)】を下にいる飛龍と火魔にかけ、門の上へと運んだ。

飛龍は流石強靭な龍族なだけあり、意識はあるが身体が反動で動けずにいただけであったが、火魔の方は気絶してしまっていた。

 

「風魔…か…ぐっ…!」

 

「飛龍、動かないで、微弱だけれど連続して回復魔法をかけるわ!」

 

風魔は横たわる飛龍の鼻先に手を当て、回復魔法をかける。

 

「我よりも…火魔を先に回復してやれ…奴には厳しい反動だったはずだ…。」

 

「大丈夫、2人とも同時に行ってるわ。両手から同時に………同時に…?」

 

風魔はふとそこで言葉を止める。

 

「どうした…?それより、水魔は一体何を…?」

 

横たわっていた首を起こし、水魔の方をみやる飛竜。

天に掲げた水魔の両手には2つのエネルギーが落ちる。右手には炎の力が、左手には氷の力が。

 

 

水魔は手を合わせ、2つの力を合体させた!

 

 

「何故水魔が火の力を使える…?いや、それはともかく…あれでは力が半減されるどころか、相殺されてしまうのではないか…?」

 

「相殺…まさか…っ!」

 

飛龍の言葉に風魔はポツリと呟く。そして水魔へやめるように叫ぶ。

 

「だめよ水魔!!!!やめなさい!!!!」

 

「やらなければ、ごほっ…!はぁ…はぁ…みんなこのまま死ぬんですよ…!」

 

 

熱い、身体が焼けつくように熱い

 

寒い、身体が凍りつくように寒い

 

口から血が吹き出す。

 

魔力の奔流で身体が悲鳴をあげる。

 

怖い、けど、ここで止めるわけにはいかない。

 

止めたら、ここまでの全てが無駄になってしまう。

 

子供達には未来がある。

 

風魔と飛龍にも2人を見守っていてもらいたい。

 

火魔は…、どうしてだろう。

 

火魔、あなたは死なせたくないと思った。

 

不思議な感覚です。

 

あぁ…そうか、私は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「火傷、しちゃったじゃないですか…ばか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

―光の線が、4つ目の魔方陣へと繋がれる!―

 

 

 

 

焦げていく右手を、必死に抑え込む作業と共に眺める。

 

多分、私の旅はここまでなんだろう。

 

勇者様、勇者様。

 

可愛い勇者様。

 

ほんとに、短い間でしたが…姉弟みたいでした。

 

ふふ、喧嘩したままでしたね…。

 

「うっ……っぐ…ふぅぅぅ……っ!」

 

これを放てばきっと、私は…。

 

だから、心の中でだけですが…直接伝えられなくてすみません、勇者様…。

 

ごめんね…。

 

 

「うぁぁぁぁ!!!!」

 

 

水魔は声を上げ、合わせていた両手を離し、弓を引き絞る姿勢をとる!

 

魔力は黄金の弓矢のような形状へと姿を変えた!

 

その様子に、側近の顔色が変わった!

 

 

 

「貴様、その魔法は…まさか…!貴様如きが何故使える!!!!!」

 

 

 

「火魔、起きて!起きなさい!水魔が!!水魔を止めないと!!!!!!!」

 

 

 

―光の線が、5つ目の魔方陣へと繋がる!―

 

 

 

時間が、ない…です、ね…。

 

5つ目の魔方陣から最初の魔方陣に繋がれたら…。

 

「風゛魔゛ァ゛!!」

 

「水魔…その声…っ」

 

そんな反応しないでくださいよ、傷つきますね、私だって女なんですよ…。

 

もう、喉が焼けて声を出すのも精一杯なんですから…。

 

「はや゛…っく…ごほっ…!…転移魔法の゛…じゅ…準備を゛!!!」

 

「…っく!うぅっ…」

 

ボロボロと涙を流しながら風魔は転移魔法の詠唱を始める。

しかし側近はそれをさせまいと攻撃を開始してくる。

 

「万が一にも抜けられたりしたら支障が出る!!貴様らはここで死ね!!」

 

「させると思うか!!」

 

側近の放つ【極大火球魔法(メラゾーマ)】から身を挺して風魔を守る飛龍。

 

「ぐっ…!外からは攻撃が届くとは…厄介極まりない結界だな…。」

 

「ふん、結界は反転させてある。遮断するのは内側からの攻撃だけ、貴様らのためにあつらえたのだ。苦労したぞ。」

 

「貴様は一体何が望みだ…!」

 

「間もなく死に行く貴様らに教えてやる義理はない、ここで散れ!」

 

側近は無数の【極大火球魔法(メラゾーマ)】を唱えた!

 

「この数…今の我だけでは…ぐっ…!」

 

大きな振動と音をたてて、飛龍は倒れる。

 

「転移魔法…準備完了よ…水魔…。」

 

風魔の言葉に、水魔は顔を振り返らせ、目を細めて優しく微笑む。

その頬には汗が、口元には血が滴っていた。

 

「水魔……声が…。」

 

はい…もう…出ないんです…。

 

相反する魔力、対消滅エネルギー、それを…放つ。

 

 

~~~~~~

 

『あんたが【傾国の美女】って名高い水魔か?』

 

『そう呼ばれてても普通本人には言わないと思うんですが、あなたは?』

 

『俺の名前は火魔ってんだ、よろしくな!』

 

『はぁ…なんですか?ナンパですか?』

 

『なんだよ、ばれたか?』

 

『魔王軍に入ったときから日常茶飯事なので。』

 

『へぇ、じゃあヤり慣れてるってわけだ。』

 

『…っ、人を色魔みたいにっ!』

 

『勝負しようぜ!』

 

『は?勝負?』

 

『ヤり慣れてるんだろ?戦闘!』

 

『何言ってるんですかこの人。』

 

『聞こえてるぞ。』

 

~~~~~~

 

『お!水魔!お前もこの戦地にきたのか!』

 

『魔神違いです、帰ります。』

 

『おいおいおいおい!!なんだよ!!』

 

『はぁ…なんであなたと同じ部隊に…。』

 

『つっても上からの命令だしなぁ。』

 

『…さっさと終わらせて帰りますよ。』

 

『おう!その後勝負だな!』

 

『ここでお前を終わらせてやろうかこの火達磨野郎。』

 

~~~~~~

 

『いやーまさか2人とも同時に四天王に昇進とはなぁ。戦闘経験がどうのって魔王様言ってたけど。』

 

『非常に不服ですけど、●●期入隊者は今やあなたと私だけですからね、非常に不服ですけど。』

 

『なんで2回言った?ひどくない?』

 

『大事なことなので。』

 

『ん、そうか…なぁ水魔。』

 

『なんですか?』

 

『昇進おめでとう!』

 

『まさか気の利いた言葉が吐けるとは。』

 

『かーっ!可愛くないやつ!』

 

『ひ、火魔も…。』

 

『ん?』

 

『その…お、オメデトウゴザイマス。』

 

『ははっ!初めて名前呼んでくれたな!ありがとうな!』

 

『ふふっ、そこですか?』

 

『昇進祝いに勝負すっか!』

 

『感動返せよ戦闘馬鹿。』

 

~~~~~~

 

『…決めた!俺も行くぜ!』

 

『却下で。』

 

『即答かよ!』

 

~~~~~~

 

『まだあんなとこにいんのか、さっさと来いってんだ』

 

『あまり煽らないでいただけます?門を超えられたらどうするんですか』

 

『俺らがいるからそれはねーだろ』

 

『…大した自信ですね、ほんと』

 

『惚れんなよ?やけ 『火傷じゃ済まないんでしょう?』

 

『お、おう』

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火魔、きっと私はあなたの事が――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

究極消滅魔法(メドローア)

 

 

 

 

 

 

 

 

 




その胸には、戦友への――


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私の名前は【僧侶】

究極魔法【マダンテ】 究極消滅魔法【メドローア】

 

どちらも究極と名が付く魔法ではあるが、名を安売りするような生半可な威力ではなかった。

 

広範囲を破壊し、焦土へと変える威力を持つマダンテに対し、メドローアは一点集中の文字通り消滅魔法である。

 

古い文献等に記されていただけの古の魔法であったが、神の悪戯か、この日2つの魔法が中間の国にて目撃されることに、いや―

 

 

 

 

 

 

 

 

揃って発動するところを目撃する事は叶わなかった。

 

「ぐっ…………?」

 

側近は詠唱中だったが、左手を咄嗟に顔の前にかざしていた。

極大火球魔法(メラゾーマ)】は詠唱破棄の為消失し、ブスブスと燃え尽きる音が聞こえる。

 

「発動…しなかったのか…?」

 

そう呟き、かざしていた左手を下ろし水魔へと視線を向ける側近。

 

その視線の先では―

 

 

 

 

「っ…ぅ…ここは…?」

 

気絶していた火魔の意識が戻る。

 

(そうだ…俺達は中間の国に来てて…。)

 

気絶した事による軽度の記憶障害が火魔には起きていた。

横になったまま周りの状況を確認する。

 

(なんだ…?風魔と土魔がここに…?それに飛龍まで…。)

 

(勇者…なんでお前も床で寝てる…。)

 

「火…魔…?」

 

(風魔が気付いた、が…何故泣いているんだ…?)

 

涙を流す風魔が、火魔から視線を外し、離れたところを指差す。

 

(何を指差して……っ!?)

 

 

 

 

水の羽衣がところどころ焼け、口から大量に出血している水魔が立ち尽くしていた。

 

火魔の記憶が正常に戻る!

 

 

「水魔ァァァァァァ!!!!!」

 

 

それと同時に声を上げ、よろめきながら水魔の下へ向かう火魔。

そして、そのタイミングで

 

 

「う…んん…せんしさんのこえ…?」

 

勇者が目を覚ました。

 

 

 

ゆっくり、ゆっくりと

 

「う…っぐ…畜生…!水魔…くそっ…待ってろ、今すぐに…!」

 

水魔へと向かう火魔

 

そしてたどり着いたところで、水魔の身体が倒れかけるが、火魔が支え、共に座る。

 

「……ヒュ……ヵ……」

 

「なに…やってんだよ…おい…!自分に回復魔法かけろよ!早くしろ!!!」

 

「………フフ…」

 

水魔は優しい笑顔で、火魔の頬に手を当てる。

その手を握り、火魔は強く叫ぶ。

 

「笑ってんじゃねぇよ…早く回復を…!」

 

「……ド…」

 

「なんだよ…?聞こえねぇよ…!」

 

水魔は、指先から水の魔法を発動する。

 

「何を…?」

 

発動された水の魔法は、小さい文字列を作っていく。

 

 

 

ご め ん の ど や け ど し ちゃ た

 

 

 

火魔の目から涙がこぼれる

 

「なんでこんな無茶……ばかやろう………っ!!」

 

水魔の目からも涙がこぼれる

そして先程の文字列を動かし文字を形作る。

 

け い ご は ぶ く ね

 

「仲間だろう!!いつもいつも…敬語なんていらねぇよ!!それに…お、俺は…」

 

火魔の声が震え、言葉に詰まる。

 

 

 

ひ ま ? そ れ と も せ ん し さ ん ?

 

「今は、火魔だろう…なんでそんな事…」

 

あ な た の せ い で や け ど し た よ

 

「…すまない…守ってやれなくて…すまない…」

 

「…フフッ」

 

水魔は苦笑いをする。そして水を動かし始める。

 

そ う じゃ な く て

 

「……?」

 

 

 

 

辺りが振動を始める。

5つ目の魔方陣が光りだし、間もなく五芒星の線が完成しようとしていた。

 

2人のまるで逢瀬にも似た雰囲気を、邪魔することなく、側近はただ見つめ、佇む。

最後の情けか、勝利を確信した余裕からか、その場の誰もがわからずにいる。

 

(対消滅エネルギー。恐らくは水魔が炎の剣の力をうまく制御できなかったのだろう。博打で出来る魔法じゃない…。)

冷静に不発の原因を探る側近。

 

自身が得意とする水の力に対して、炎の力を制御できず、強くなりすぎてしまい、身体を一部焼いていたのが証拠だった。

 

 

も う じ か ん が な い ね

 

水魔が再度水を動かし、文字を作り始める

 

「そう…だな…負けちまった…。もう間に合わない…。」

 

あ き ら め る な ん て ら し く な い 

 

「……そうか…。」

 

ひ と つ お ね が い

 

「…言ってくれ。」

 

さ い ご に そ う りょ っ て よ ん で ほ し い

 

僧侶は…僧侶だった私の事は、他の誰も知らない。

勇者様と…戦士さん、貴方達だけが知ってる特別な名前。

 

「最後なんかじゃ………僧侶…。」

 

う れ し い で す

 

「こんな時に何言ってんだ…。」

 

さ っ き の や け ど

 

あ れ は か ら だ じゃ な く て

 

わ た し は あ な た の こ と が す き で す

 

「火傷じゃすまないって…あれか…。」

 

「フフ…。」

 

い ま ま で あ り が と う

 

水魔が笑う。

 

「俺も……俺も、水魔の事が―

 

 

火魔が話す途中で、水の魔法は、地に落ち、音を立てて弾け散った!

力なく項垂れそうになった水魔の手を、優しく、力強く握る火魔。そして―

 

「…………好きだよ。」

 

 

5つ目の魔方陣から、1つ目の魔方陣に光線が伸び、五芒星が完成する!

 

 

 

 

辺りには風を切る音が響き、中間の国の空は紫色に染まっていた。

 

 




近づく終焉の音――


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反撃開始

「そうりょ…さん…なの…?」

 

2人の下へ近づいてきた勇者が呟く、それは火魔にも聞こえていた。

 

「……そうだ。」

 

震える火魔の声、後ろからは風魔がすすり泣く声が聞こえ、飛龍が低く唸るのが聞こえる。

 

 

仲間である僧侶の死、悪鬼の類である火魔が戦士である事を悟った勇者。

そして恐らくは僧侶もそうである事を悟る。

 

 

 

勇者の頭の中の情報処理能力は限界を迎え、1つの感情が生まれる。

 

 

 

怒り―。

 

圧倒的なまでの怒り。

 

何も出来なかった自分への怒り。

 

仲間を救えなかった自分への怒り。

 

仲間を傷つけた敵への圧倒的な怒り。

 

 

「そうりょさん、ぼくは…。」

 

何かを言いかける勇者。

 

まだ、謝ってない。まだ一緒に冒険し足りない。

みんなでご飯食べに行ってない。みんなで笑えてない。

 

許さない、ユルサナイ、ゆるさない!!!!!!

 

仲間を殺した敵への殺意、殺意、殺意!!!!!!!!!

 

憎い、憎い!憎い!!!!!!!

 

 

 

 

 

「ぼくは……おれ……俺は…俺は…っ!」

 

勇者の口調が変わり、身体を纏う気配が変化する。

 

 

 

「勇者…!?」

 

驚いた火魔は水魔を抱えながら勇者の方を振り向くと、そこには―

 

 

先程までと違い、身体的な変化はなかったものの、いや

正確には人間である部分には変化はなかった。

 

勇者の背中から服を突き破り白い翼が生えている。

 

「あれは…。」

 

「なんと…あれは古より伝え聞く天使そのものではないか…。」

 

風魔と飛龍が少し離れたところから勇者を見つめる。

変わらず土魔は気絶したままで、飛龍が守るように身体を移動させていた。

 

「馬鹿な…なんなのだお前は…!」

 

驚愕した側近は驚きのあまり声を荒げ勇者を問い詰める。

 

「お前か…お前が…。」

 

勇者はゆっくりと側近へ身体の向きを変え、翼をはばたかせ空へと飛び立つ。

側近と勇者の間に結界を隔てて、互いに向き合う形となった。

ふと勇者が戦士に叫ぶ。

 

「戦士!!」

 

「…?」

 

幼い喋り方であった勇者が、今こうして自分を呼び捨てにしている。

驚いて返事を返すことが出来なかった。

 

「僧侶を安全なところへ。」

 

「安全なところ…?何言ってるんだ…僧侶は…。それにもう俺達は…。」

 

戦士の弱気を吹き飛ばすように勇者が叱咤する。

 

「勘違いするな、僧侶はまだ死んでない。それに俺達もまだ負けてねぇ!」

 

「死んでない?何言って…?」

 

「命の炎はまだ消えてない!心臓の音を聞け!」

 

 

はっとした戦士は僧侶の胸に耳をあてる。

まだ、弱々しくも鼓動する心臓の音。

まだ、間に合う…!

 

 

「風魔ァ!!頼む!!ありったけ回復魔法を!!!」

 

火魔の声に風魔は弾けるように飛び出した!

たどり着くと、風魔は詠唱を始め水魔の回復を行う。

 

「私の回復魔法じゃ一時的に凌ぐだけしかできない…いいわね!」

「…俺が諦めて水魔を死なせるところだった…。頼む!まだ、まだ…生きてる…生きてるんだ…!」

 

 

『あきらめるなんてらしくない』

 

 

「そうだな…らしくねーな…!」

 

火魔の心に火が灯る。

 

 

「ふ、ふはっ…くはははははっ!!一瞬にして、まるで閃光の様に士気を覆しおった!!」

 

「おい、そこのトカゲ野郎。笑ってんじゃねぇ、お前も力を貸せ!」

 

「くく…面白い!我を爬虫類呼ばわりした事、我の力を示して撤回させてやろう!」

 

 

龍族とは元来、崇高な思想を持ち、自身へ力を示した者のみに従う。

 

その龍族である飛龍が、勇者に対し、戦わずして「力を示す」と言った事は即ち

 

服従、感服の意であり、龍族の歴史において初のことであった。

 

 

「その口の悪さ…土魔の母を思い出すな。」

 

飛龍がゆっくりと立ち上がり、勇者を見据える。

 

「どこぞの誰かと比べるのは構わん、だが今はこの結界をぶち壊すぞ。」

 

「…お主は見ていなかったからわからんだろうが、この結界、火魔と我の全力に、土魔と風魔の補助を加えても微動だにしなかったのだぞ、どう覆す?」

 

「…。」

 

飛龍の問いに勇者は黙り込み、辺りを見回す。

中間の国の上空に五芒星の点として展開されている魔方陣。

 

「まさかただの大見得ではなかろうな?」

 

「黙ってろ。」

 

飛龍の催促に勇者は辛辣な返答を返す。

 

(情報が足りない、何かいい方法は…。)

 

見回していた視線の先で、風魔の姿が目に入る。

 

(あいつは…。)

 

はばたきながら風魔のすぐ傍まで飛んでくる勇者。

 

「ババァ!!」

 

勇者の会心の一撃、風魔に即死級のダメージ!

 

「バッ…!あんた水魔の回復が終わったら覚えておきなさいよ!!!」

 

「久しぶりだな、お袋の葬式以来か?」

 

風魔の殺気などものともせずに勇者は続けた。

 

「…そうね、それくらいからかしらね…。」

 

「面識があったのか…?」

 

火魔は不思議そうに2人を見つめる。

 

「…まぁ、昔ちょっとね…。勇者、その翼…」

 

「話は後だ、聞きたい事がある。」

 

勇者が風魔に質問を投げかけたその時

 

「勇者!!前だ!!」

 

飛龍の声が響く、見れば側近が【極大火球魔法】(メラゾーマ)を唱え、勇者達を焼き払わんとその手から発動させた直後だった。

 

しかし、水魔を寝かせた火魔が勇者達の前に仁王立ちし、拳で火球をはじき返した。

火魔の怒りの一撃に、火球は更に勢いを増し跳ね返るが、結界にかき消される。

 

 

 

事はなかった、なんと

 

「ぐおああああああ!!!」

 

側近に火球が直撃する!

 

 

これには勇者陣営、更に言えばはじき返した火魔自身が一番驚いていた。

 

 

「通った…?通ったのか…!?」

 

「そうらしい、なるほど1つ憶測の域ではあるが試す価値がある。」

 

「試す…?」

 

勇者は笑みを浮かべながら説明を始める。

 

「まぁ単純だ、こちらの魔法が通らないんだったら、あいつの魔法を跳ね返せばいい。」

 

「しかし何故側近の魔法は通るんだ…?」

 

火魔の質問に勇者が怪訝な顔をして答える。

 

「理屈なんぞ知るか、目の前で起きたことが全てだ。やられたらやり返す、倍にしてな。」

 

「…ははっ…。」

 

その答えにたまらず笑い出す火魔。

 

「気でも狂ったか?」

 

「まさか、随分頼もしくなったと思ってよ!!」

 

そう言うと踵を返し、側近の方へと向く火魔。そして胸の前でゴツリと両拳を突き合わせ―

 

「お前らは俺が守る!飛んでくる球は全部殴り飛ばす!だから策を頼んだぜ!勇者殿!」

 

「当たり前だ、ここにいる仲間は誰一人死なせない、全員で生きてここを出るぞ!」

 

「応!」

 

 

火魔は徒手空拳での迎撃の態勢をとった!

 

 

「まずはあの娘のところまで下がるぞ、散らばっててはやりづらいだろう。それに、あの龍も貴重な戦力だ、守りに徹するだけは惜しい。」

 

「あの娘って…あんたも子供でしょう…。」

 

「うるっせぇんだよババァ!こまけーんだよババァ!おめーはほんとババァだな!だからババァなんだよババァ!!!!」

 

「ハッハッハッハッハ!!かつての空戦姫をババァ呼ばわりとはな!!フハハハハハ!!」

 

先程まで漂っていた劣勢の雰囲気を全て消し飛ばした、これも勇者のなせる業かと、飛龍は大きく声を上げて笑い飛ばした。

 

「~~~~~!!あんた、終わったら覚えてなさいよ!!」

 

「余裕が出たのは結構だが、飲みの席でやってくれよ!」

 

「俺はまだ7歳だぞ、酒なんぞ飲めるか。ババァじゃあるまいし。」

 

「クソガキ…っ!昔は可愛かったのに…。」

 

そのやり取りを、静かに見つめながら飛龍は心の中で呟く。

 

(終わったら…か…。お主ら一度心を砕かれたであろうに、もう無事に帰る気か…。ならば…!)

 

スゥと鼻から息を吸い込み、口を大きく開く飛龍。

 

「ヴォオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

 

ビリビリと空気を震撼させる程の雄叫び、飛龍による己への活。

 

「我が名は飛龍!勇者よ!今ひとときお主に助力する!我が翼で空を翔け!我が爪にて敵を裂き!我が灼熱の業火でお主に仇なす敵を葬ろう!」

 

「…魔王軍にしておくには勿体無いな、ならば俺を乗せて飛んでくれ、飛龍。お前の翼が一番速い。」

 

「心得た!」

 

そこへ側近が火球を放ってくる。

 

「させねぇよ!もう…もう諦めねぇ!ここは死守する!抜かせねぇ!」

 

先程とは別人のように火魔の闘志が熱く燃え盛っていた。

 

「この…死にゾこないガァァァァ!!!!」

 

何度も何度も、【極大火球魔法】(メラゾーマ)を放つ側近。

その度に火魔にはじき返されている。ただし、最初の反射以降はなかなか当たらずにいた。

 

「くそっ…流石に当たっちゃくれないか…!」

 

その様子を冷静に見守りつつ、勇者は飛龍の顔を近づけさせ、3人だけに聞こえるように話す。

 

「ババァ、1つ聞きたい事がある。」

 

「…はぁ、何よ?」

 

水魔への回復の手を緩めずに会話を続けるあたり、流石魔王軍四天王といったところであった。

 

「この五芒星の魔法はなんだ?どんな特徴がある?」

 

「名前は【究極魔法】(マダンテ)詠唱中は全ての攻撃を跳ね返し、広範囲にわたって破壊する古の魔法よ。」

 

淡々と回復を行いながらも説明をする風魔。

 

「実際に、我らの攻撃を全てあの結界で遮断してきた。が、本来の結界とは違うようだ。反転させ、内側からの攻撃が通らないようにしたらしい。」

 

「反転…ね。なるほど詠唱中は全て跳ね返すと。」

 

「それに、五芒星の魔方陣が全て繋がったら、さらに強化されるはずなのよ…それなのに反射はされなくなった。これは一体…?何か策は?」

 

風魔が真剣な眼差しで勇者を見つめる。

顎に手をやり、視線を落として考え込んでいた勇者はそれに気付くと

 

「策、というよりもう既に結果が出ているかもしれない。」

 

「結果が出てる…?」

 

「今あいつは【極大火球魔法】(メラゾーマ)を連発する事に夢中になっているな?」

 

「え、えぇ…それが?」

 

「…なるほどな。」

 

勇者の出した答えに、飛龍がニヤリと笑みを浮かべ頷き、考えが伝わったことを示す。

 

「俺は勇者だ。だが、戦う力は無い。翼が生えたからと魔法が使えるわけでも、身体能力が飛躍的に向上したわけでもない。だから、力を貸してくれ。」

 

先程までと違って殊勝な態度に、風魔と飛龍は少し驚いたが―

 

「…そのつもりよ、水臭いわね。」

 

「そういうことだ、元より従うつもりだった。」

 

「すまないな、それじゃ―

 

 

「んん…う…あれ……?私…。」

 

土魔が傍で目を覚ました。

 

「おう、目が覚めたか?」

 

「え…?う、うん…勇者…?」

 

「言いたいことはわかる、だが時間がねぇ。力を貸してくれ。」

 

「…怒ってないの…?」

 

おずおずと勇者に質問をする土魔、それに対しての勇者の答えは―

 

「友達だろ?怒ってねーよ。」

 

「あ……。」

 

ぶっきらぼうに答える勇者を見て心がちくりと痛む、しかしまだ、友達と呼んでくれる勇者が、土魔にはかけがえのない存在に見えた。

 

「だけどそうも言ってられなくなってきた、一緒に戦ってくれ。」

 

「…うん!」

 

横になっている土魔を起こそうと、手を伸ばす勇者、その手を取り、土魔は起き上がる。その様子を、風魔は優しく見守っていた。

 

人間と魔族、今の勇者の姿が人間のものでないとしても、心は人間。だから、今こうして人間と魔族が手を取り合う姿は、いつか来る和平への架け橋なのだろうと、風魔は心の中で思ったのだった。

 

(水魔、貴女が守ろうとした子供達、未来は…きっと…!)

 

「恐らくだが時間がない、手短に話す、よく聞け。」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「作戦は以上だ、健闘を祈る…行くぞ!」

 




さぁ、反撃開始―!


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