No likeness and Sameness (細胞男)
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1.それはまるで磁石のように

初めまして。あまり上手い文章ではありませんが、楽しんでいただけたのなら幸いです。


 昼の少し前くらい。街を歩く人は少ない。きっとほとんどの人は、学校や職場で自分の仕事に励んでいるのだろう。

 そんな人通りの少ない街の中を、私は全力で走っていた。

 

「バカバカバカ!目覚まし3つもかけたのに!」

 

 何を隠そう、現在絶賛遅刻中。起床して時計を見たら入学試験が始まっている時間。幸いなのは、入試会場が家からまぁまぁ近いところ。今から走れば、試験が終わるまでには間に合うはず……!

 

「急げ……急げ急げ!」

 

 猛スピードで駆けていく私に視線が集まる。こんな時間に走っている人間なんて珍しい。しかもそれが、両目で色の違う少女だったらなおさらだ。

 右目は赤、左目は青。おまけに髪は金髪なので、三原色をコンプリートしたこの見た目。

 ……何だか少し気恥ずかしくなって、私は目線を下げたまま走り続けた。

 

「……あった!海馬ランド!」

 

 私が受験するのはデュエル・アカデミア。攻撃力が3000くらいありそうなドラゴンのモニュメントが人々を見下ろしている。入学試験の会場は、この海馬ランドの中にあるデュエルドーム。そこで試験官とデュエルを行い、自分の実力を示すのだ。

 ……実はデュエルを始めてから1ヶ月も経ってないけど。

 

「すみません!まだ受け付けてますか!?」

 

 会場の入り口に居た、試験を手伝っているらしい女子生徒に声をかける。

 

「はい。受験番号を見せていただけますか?」

 

 優しげな笑みを浮かべた女子生徒に、100番と書かれた受験票を見せる。

 女子生徒はパソコンを操作して、受験番号と私を見比べる。

 

「受験番号100番ですね。この扉から入って右側の通路を使って会場に向かってください」

「ありがとうございます!」

 

 会場では受験番号2番のデュエルが終了したようで、かなりの熱気に包まれていた。

 

『それでは、受験番号1番と受験番号100番の方は、デュエルフィールドへお越しください』

 

 そして席に着く間もなく呼ばれる。私は両腕で小さくガッツポーズを作り気合いを入れると、観戦席を降りてデュエルフィールドに向かう。

 

「あらあら、入学試験当日に遅刻だなんて度胸ありますのね、貴女」

 

 気づけば隣には銀色のツインテールが特徴的な1人の少女が居た。デュエルフィールドにいる受験生は私と彼女の2人だけ。つまりこの子が、受験番号1番……!

 

「本来ならわたくし1人が注目を集める筈でしたのに。貴女のお陰で台無しですわ。何でわたくしが受験番号3桁(ドロップアウト・ガール)なんかと……」

「あ、あはは。目覚ましが3つも壊れてなければ私も遅刻しなかったんだけどね……」

「……貴女もしかして、相当運が悪いのかしら?」

「そんなことはないと思うんだけど……」

 

 自分で言うのもあれだが、私は相当運の良い方だ。だから受験日に、3つもかけた目覚ましが同時に動かないなんてあり得ない。……きっと、誰かが勝手に目覚ましを止めたのだ。

 

「……そんな貴女にこれ以上文句を言うのは可哀想ですわね。まぁ頑張りなさいな。注目を集めるのはわたくしですけど」

「うん!頑張ろうね、受験番号1番さん!」

「リゼで構いませんわ」

「じゃあ、リゼさん!私の名前はね」

「貴女の名前には微塵も興味はありませんわ。それでは、そろそろ試験が始まりますので」

 

 リゼさんと話しながら歩くうちに、デュエルフィールドに到着していた。私を待っていたのは、少し暑苦しそうな男性の教師。

 

「まったく。大事な実技試験の日に遅刻とは。君は何を考えているのだね」

「ご、ごめんなさい……」

「いいか?今後遅刻は許されないと思え。……それでは、入学試験を行おう。デュエルディスクを構えたまえ」

「は、はい!」

 

 デュエルディスクを構え、試験官と相対する。

 

「では始めるぞ」

 

「「――デュエル!」」

 

 

試験官 VS 少女

 

 

 ライフポイントはお互いに4000。このデュエルでは、受験生であるあたしに先攻のターンが譲られる。

 

「いきます!私のターン、ドロー!」

 

 私の手札は【磁石の戦士γ】、【磁石の戦士β】【マグネット・フィールド】【磁石の戦士マグネット・バルキリオン】【ユニオン・アタック】……そして、『お気に入りのモンスター』。

 試験官は、トリッキーな動きををあまり使用しない力押しのデッキを使ってくることが多い……らしい。なら、守備力の高いモンスターで様子を見ようかな。

 

「私は、【磁石の戦士γ】を守備表示で召喚!」

 

DEF1800 LV4

 

 私のフィールドに現れたのは、今手札にいるマグネット・ウォリアーの中では最も高い守備力を持つモンスター。1800の守備力は易々と越えられるものじゃない。

 

「でも、油断はしないよ。フィールド魔法、【マグネット・フィールド】を発動!」

 

 私の足元から磁場が広がり、それがデュエルフィールドを覆っていく。

 

「なるほど、【磁石の戦士】デッキか」

「あたしはこれでターンエンド!」

 

 

少女 LP4000 手札4

モンスター:

磁石の戦士γ

魔法・罠:

マグネット・フィールド

 

 

「それでは私のターンだ。ドロー!私は、【ラヴァルのマグマ砲兵】を召喚」

 

ATK1700 LV4

 

 地面が赤熱し、ドロドロに溶けた床からモンスターが這い出す。その攻撃力は1700。磁石の戦士γの守備力には100ポイント届かない。

 

「【ラヴァルのマグマ砲兵】の効果を発動。手札の炎属性モンスターを墓地へ送ることで、相手に500ポイントのダメージを与える。この効果は1ターンに2回まで発動出来る。私は【ラヴァル・ガンナー】と【ラヴァル・キャノン】を捨て、君に1000ポイントのダメージを与える!」

 

 マグマ砲兵から放たれた2発の火炎弾が私を襲う。

 

「きゃっ!」

 

LP4000→3000

 

「さらに魔法カード【炎熱伝導場】を発動。デッキから【ラヴァル】と名のつくモンスターを2体墓地へ送る。そして私が墓地に送った【ラヴァル・フロギス】の効果を発動。このカードが墓地へ送られたとき、自分フィールド上の【ラヴァル】と名のついたモンスターの攻撃力は300ポイントアップする」

 

ATK1700→2000 LV4

 

「【マグマ砲兵】の攻撃力が、【磁石の戦士γ】の守備力を越えた……!」

「それだけではないぞ!墓地に存在する【ラヴァル】が3種類以上の時、手札の【ラヴァルバーナー】は特殊召喚出来る!」

 

ATK2100 LV5

 

「攻撃力2000以上が、2体も……!」

 

 僅か1ターンの間に、上級モンスター並みのステータスか2体並んだ。

 デュエルを観戦していた中等部の生徒や他の受験生の視線のほとんどは、隣でデュエルを行っているリゼさんに向けられている。でも、少ないながらも私のデュエルを観ていた生徒達が可愛そうなものを見る目でこちらを見つめている気がした。

 

「あれは……無理だな」

「攻撃力が高い訳じゃないけど、あのモンスターは効果ダメージを与えられるんだろう?」

「ま、中等部組の俺達には関係のないことだけどな!こんなのよりもあっちのデュエル見よーぜ、何てったって受験番号1番だからな!」

 

 彼らは私の事を笑いながら、もう1つのデュエルを見に向かっていった。それにつられたのか、元々少なかった観戦者はどんどん減っていく。

 

「行くぞ!【ラヴァルのマグマ砲兵】で、【磁石の戦士γ】を攻撃!」

 

 攻撃力が上昇したマグマ砲兵の攻撃を受け、磁石の戦士が砕け散った。

 

「っ!でもこの瞬間、【マグネット・フィールド】の効果を発動!【マグネット・ウォリアー】との戦闘で破壊されなかったモンスターを手札に戻します!反発障壁(マグナ・ウォール)!」

 

 この磁場の中では全てのモンスターが磁力を持つ。同極の磁力は反発しあい、互いに吹き飛ぶ。

 

「ほう、この効果で私のフィールドをがら空きにするつもりだったんだね」

「いやぁ、そのつもりだったんですけど……」

「そう、私のフィールドにはもう一体のモンスターがいる。行け、ラヴァルバーナー!相手プレイヤーにダイレクトアタックだ!」

 

 燃え盛る炎を纏う岩肌の巨人が、私を殴り付けた。

 

「ぅぁっ……!」

 

LP3000→900

 

 残りライフは900ポイント。マグマ砲兵の効果を使われれば一瞬で消え去ってしまう風前の灯だ。

 

「私はこれでターンエンドだ」

 

 

試験官 LP4000 手札2

モンスター:

ラヴァルバーナー

魔法・罠:

無し

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 私はドローしたカードを確認すると、笑顔で頷く。

 

「【磁石の戦士β】を攻撃表示で召喚!」

 

ATK1700 LV4

 

「フィールド魔法、【マグネット・フィールド】の効果を発動!自分フィールド上にレベル4以下の地属性・岩石族モンスターが存在している場合、1ターンに1度だけ、墓地から【マグネット・ウォリアー】を特殊召喚出来る!おいで、【磁石の戦士γ】!」

 

 βの発する磁力が強化され、墓地から磁石の戦士γが引き上げられる。

 

ATK1500 LV4

 

「そしてこれがマグネット・コンビネーション!私は魔法カード、【ユニオン・アタック】を発動!自分フィールド上のモンスター1体の攻撃力は、他のモンスターの攻撃力の合計分アップするよ!【磁石の戦士γ】との連携で、【磁石の戦士β】の攻撃力は急上昇する!」

 

ATK1700→3200

 

「攻撃力、3200……!?」

「いっけー!【磁石の戦士β】で、ラヴァルバーナーを攻撃!」

 

 2体のモンスターのコンボにより、炎の巨人が破壊された。

 

「【ユニオン・アタック】の効果を受けたモンスターは相手にダメージを与えられず、自分の他のモンスターは攻撃宣言を行うことができない。私はカードを1枚セットして、ターンエンドだよ」

 

 

少女 LP900 手札2

モンスター:

磁石の戦士β、磁石の戦士γ

魔法・罠:

マグネット・フィールド、セット1

 

 

「中々やるじゃないか。私のターン!」

 

 試験官はドローしたカードを確認すると、そのカードをそのままデュエルディスクに叩きつけた。

 

「来い、【爆炎集合体 ガイヤ・ソウル】!」

 

ATK2000 LV4

 

 現れたのは、今にも爆発してしまいそうな炎の塊。レベル4にしては高い攻撃力を持つモンスターだ。

 

「そして魔法カード、【紅蓮の炎壁】を発動!墓地の【ラヴァル】と名のつくモンスターを任意の数ゲームから除外することで、【ラヴァル・トークン】をその数だけ特殊召喚出来る!墓地の【ガンナー】【キャノン】【フロギス】【バーナー】をゲームから除外し、現れろ、4体の【ラヴァル・トークン】!」

 

 4つの火柱が試験官のフィールドを覆い、炎の壁を作り出す。その中から、可愛らしい火種の様なモンスターが現れる。

 

DEF0 LV1 ×4

 

「【ガイヤ・ソウル】の効果を発動。自分フィールドの炎族モンスターを2体まで生け贄に捧げる事で、生け贄にしたモンスター1体につき1000ポイント攻撃力をアップさせる!【ラヴァル・トークン】1体を生け贄に捧げ、その攻撃力を1000ポイントアップだ!」

 

 火種を飲み込んだガイヤ・ソウルは、膨大なエネルギーをはち切れんばかりに充満させ、巨大化する。

 

ATK2000→3000

 

「この攻撃力で攻撃されたら……!」

「君とのデュエル、中々興味深かったよ。【ガイヤ・ソウル】で【磁石の戦士γ】を攻撃!」

 

 爆炎の塊が磁石の戦士を飲み込もうとしたその時。

 

「お願い!」

『クリクリィー!』

 

 小さな虹が、ガイヤ・ソウルを包み込んだ。

 

「これは……一体……?」

「ありがと!【虹クリボー】!」

 

 ガイヤ・ソウルを包み込んだ虹。それを作り出していたのは、球状の体を持つ小さなモンスター。

 

「【虹クリボー】の効果。相手モンスターの攻撃宣言時に、手札のこのカードを装備魔法扱いとして攻撃したモンスターに装備できる。そして【虹クリボー】を装備されたモンスターは、攻撃を行えない!」

「あの【クリボー】と似たモンスター……始めて見るカードだな。攻撃が止められてしまっては仕方がない。私はこれでターンエンド。【ガイヤ・ソウル】はその効果と攻撃力の代償に、エンドフェイズに自壊する」

 

 虹のベールを突き破るように。ガイヤ・ソウルが大爆発を起こした。

 

 

試験官 LP4000 手札1

モンスター:

ラヴァル・トークン×3

魔法・罠:

無し

 

 

「……私のターン、ドロー!」

 

 きっと来てくれる。私はそう信じてる。目をつむって祈るように、デッキからカードを引き抜いた。

 

「――来たっ!先ずはリバースカードオープン、【岩投げアタック】!デッキから岩石族モンスター……【磁石の戦士α】を墓地へ送り、相手に500ポイントのダメージを与える!」

「500ポイントのダメージ、か」

 

LP4000→3500

 

「だがこのライフを、どのように削るつもりだね?」

「今から見せてあげますよ!私の最高の相棒を!【マグネット・フィールド】の効果を発動!蘇れ、【磁石の戦士α】!」

 

ATK1400 LV4

 

「この3体のモンスターは……まさか!」

「そのまさかですよ!フィールド上の【α】【β】【γ】を墓地へ送り、変形合体!」

 

 3体のモンスターがバラバラのパーツになり、互いに引き寄せあって合体し、巨大なモンスターを造り出す。

 

「磁力纏いし剣を掲げ、我が眼前の敵を薙げ!これが私の切り札だっ!【磁石の戦士マグネット・バルキリオン】!」

 

 α、β、γ。ステータスは高くなく、何の効果も持たないモンスター達。だけど彼らには秘められた力がある。

 マグネット・バルキリオンは全てを守る要塞のごとく、私を背に立ちはだかる。

 

ATK3500 LV8

 

 そのステータスは、伝説の白竜をも超える。マグネット・バルキリオンは伝説のデュエリストが使用したカードの1種。α、β、γの3体はノーマルカードであり入手は容易だが、このカードは易々と手に入れられる物ではない。

 でも、その伝説のカードの降臨にも会場が沸き上がることはなかった。もう私のデュエルを見ている人なんて居ない。居たとしても、よっぽどの物好きだけだ。

 

「あの決闘王の使ったモンスターと、同じカード……!」

「行きますよ!私は【マグネット・バルキリオン】の効果を発動!このカードを墓地へ送り、【α】【β】【γ】の3体を呼び戻す!」

「何!?」

 

 合体した磁力の戦士が分離して、元の3体へと戻る。

 

ATK1400 LV4

ATK1700 LV4

ATK1500 LV4

 

「何を考えているんだ?」

「今にわかります!3体の【マグネット・ウォリアー】で、【ラヴァル・トークン】達を攻撃!」

 

 火の粉達は磁石の戦士達に掃滅され、試験官のフィールドはがら空きになる。

 そして私は、このターンにドローしたカードをデュエルディスクに置く。

 

「これで終わりです!手札から速攻魔法、【マグネット・リバース】を発動!私の墓地、またはゲームから除外されている私のモンスターの中から、岩石族又は機械族で通常召喚できないモンスター1体を選択して特殊召喚する!」

「君の墓地にいる、通常召喚できないモンスターは……!」

「再び現れろ、私の切り札!【磁石の戦士マグネット・バルキリオン】!」

 

ATK3500 LV8

 

「いっけー!【マグネット・バルキリオン】でダイレクトアタック!マグネット・ソード!」

 

 バルキリオンの攻撃力は3500。そして試験官のライフも……3500。

 

LP3500→0

 

 磁力を持った剣は、試験官のライフポイントを残すことなく消し去った。

 

「……見事なデュエルだ。合否判定は1週間後に封筒で送られる。このデュエルなら、期待しておけば良いだろう」

 

 私は試験官を打ち破った。でもその光景を、殆どの人は見ていなかった。見ていたのは1人だけ。中等部の制服を着た赤紫色の長い髪の少女。

 

「そう言えば、君の名前を聞いていなかったな」

「あ、はい!私の名前は」

 

 出会いは何時だって突然で。

 

 出会いとも言えない出会いの中で。

 2人の少女は、やがて引き寄せ合い、触れ合っていく。

 

「牧音マキナです!」

 

 それはまるで磁石のように。




牧音マキナ
明るくポジティブな性格をしている。戦術はだいたいゴリ押しでプレイングはお世辞にも上手いとは言えないが、それを圧倒的な引きでカバーする運特化型。また直感も鋭く、色々なことに気づいて対応できる。入学試験では遅刻してきた。
デュエルを始めて1ヶ月弱の初心者。
金髪のショート。瞳は右が赤色、左が青色のオッドアイ。
使用デッキは『磁石の戦士』。



投稿ペースは遅めですが、また次回もお会いできたら嬉しいです。


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2.キリング・プランツ

他のGXの二次創作眺めてたんですけど、このテーマ使ってる人多いですよね。私も使うんですけどね!


 私とリゼさんが最後だったようで、実技試験はデュエル終了後そのまま解散という形で終わった。

 終わった終わった、と言わんばかりに背伸びして帰っていく受験生や、居残って友人達と共に今日のデュエルの復習をする中等部の生徒達。

 

「私も帰ろっかな」

 

 中学校の友達でデュエル・アカデミアを受験する人はいない。だからここに残っても話す相手もいないしすることもない。私はデュエルディスクとデッキを鞄にしまい、海馬ランドを後にする。

 

「喧嘩売ってんのかお前っ!?」

「……そのつもりは無いわ。勝手に突っかかってきて勝手に怒らないで貰えるかしら」

「何だとこのアマ……!」

 

 海馬ランドを出てすぐ、そんな2人の声が聞こえる。

 声のした方では、赤紫色の髪をした女の子が、金髪にサングラスをかけたいかにもな男性に絡まれていた。

 

「ちょ、ちょっと!何やってるんですか!」

 

 考える前に体が動き、気づけば私は2人の間に割って入っていた。

 

「なんだこのガキ……?」

「怖がってるじゃないですか!」

「……いいえ、怖くなんて無いわ」

「話をややこしくしないでください!」

 

 そんな女の子の態度についにキレてしまったようで、男が私を突き飛ばして女の子の胸ぐらをつかむ。

 

「いいからとっとと俺から盗った金を返せよ!」

「……だから、盗んでいないって言っているでしょう。貴方の不注意を私のせいにしないで頂戴」

「え、えっと、お金を盗んだ……っていうのは?」

 

 男は少し冷静になったようで、事の発端を話し始める。海馬ランドに入ろうとしたらポケットの中にあるはずの財布がないこと。周囲を見渡してみたらこの女の子が自分の財布を持っていたこと。

 

「だからこれは私の財布よ。たまたま貴方のものと同じってだけ。中に学生証も入っているわ」

「んなもん後で入れれば良いだろうがよ!そいつは俺のに決まってる!」

 

 男は女の子の言葉に納得いかないようで、なおも怒鳴り続けている。

 叫びすぎて喉が乾いたのか、鞄の中から未開封のペットボトルを取り出して飲み始める。

 

「ペットボトル……」

 

 私はふと、海馬ランド入り口の近くにある自動販売機に目を向けた。

 一見何も落ちていないように見えたが、よく調べてみると自動販売機の下に何かが見える。

 

「あ、あの!」

「何だよしつけーなぁ!」

「あっちの自動販売機の下に何かが落ちてるみたいなんですけど、あれじゃないんですか?」

「はぁ?」

 

 男はあまり気乗りしない様子で自動販売機の下に手を突っ込み、何かを取り出す。それは女の子のものと同じ、黒色の財布だった。

 

「……それで、何かいうことはあるかしら」

「す、すみませんでしたっ!」

「私じゃなくてこの子に謝りなさい。貴方、この子の事突き飛ばしたでしょ」

 

 男は心底恥ずかしそうに、私に向けて頭を下げた。

 

「本当にすみませんでしたっ!」

「い、いやぁ大丈夫ですよ!怪我してないですし!」

 

 男は何度も頭を下げながらその場を去り、私と女の子だけがその場に残された。

 

「……変わらないのね。貴女は」

「変わらない?」

「……こっちの話よ。助かったわ。ごめんなさいね」

 

 この子と出会うのは初めてな筈なのに、何故かどうしようもなく懐かしい気がして、考える前に言葉が飛び出ていた。

 

「『ごめんなさい』じゃなくて、『ありがとう』だよ!」

 

 そう言うと、女の子はほんの少しだけ笑みを浮かべて呟いた。

 

「……ありがとう。助かったわ」

「うんうん!その制服から見るに、あなたって中等部の生徒だよね?」

「……えぇ。あなたは遅刻魔さんだったわね」

「あ、あはは……それなら同級生って事かな!?アカデミアではよろしくね!」

 

 もっとも、私の合格は確定じゃない。試験官の先生は期待してて良いと言ってくれたけど、万が一もありえる。それでも結果には自信がある。大きなミスはしてないし、バルキリオンも出せたのだから。

 

「あ!ねぇねぇ、中等部の人って、デュエルが強いって聞いたんだけど」

「……そう、なのかしら?あんまりそんな気はしないけど……」

「でも、私よりはデュエル出来るよね!私、デュエルは始めたばっかりでさ、入学する前に色々教えて欲しいんだ!」

「デュエルを始めたばかりで試験官を倒せるとは思えないわ……」

 

 女の子は少しだけ考えるように視線を下げると、小さくうなずいてから言った。

 

「……まぁ、いいわよ。さっきのお礼というのは何だけど、少しだけ付き合ってあげるわ」

「いいの!?ありがとう!」

 

 女の子の手を取ってぶんぶんと振ると、迷惑そうな瞳で見られた。

 

「ぁ、ごめん」

「いいわよ、そのくらい。それで、何が聞きたいの?」

 

 デュエルを教えてくれる人も居なくて、雑誌とかしか見てこなかったから、そもそもルールにも不安なところがある。他にもカードの種類やデッキの立ち回り。注意した方が良いカード。気になることは色々あるけど、今1番知りたいのは――

 

「そう言えば自己紹介してなかったね!私、牧音マキナ!あなたの名前は?」

「……そうね、自己紹介しなくちゃね」

 

 女の子は長い髪をかきあげると、悲しそうな笑みを浮かべながら言う。

 

初めまして(・ ・ ・ ・ ・)。私は黒野遊里。よろしく、牧音さん」

「遊里ちゃんだね!これからよろしく!」

 

 今度は優しくゆっくりと。お互いに手を握った。

 

「それで早速なんだけどさ、この後時間ある?あるなら私とデュエルしない?」

「今?」

 

 遊里ちゃんはしばらくなにかを呟きながら俯くと、やがて顔をあげて頷いた。

 

「……いいわ。一戦だけね」

 

 遊里ちゃんのその言葉が嬉しくって、つい私は彼女の手を取って走り出してしまう。

 

「わーい!それじゃ、早速デュエルできる場所を探そー!」

「ちょっと、引っ張らないで……!」

 

 目指すは広くて人気の少ないところ。……ずっとここに住んでるのに土地勘は無いけど、今日ならすぐに見つかりそうな気がする!

 

 

 1時間後。何とか人気の無い公園にたどり着く頃には、遊里ちゃんの顔は真っ青になっていた。

 

 

「はぁ……はぁ……良くそんな、走って、いられる、わね……」

「ご、ごめんね……私方向音痴なんだよねぇ、この町に住んでるんだけど……」

「でしょうね……はぁ……。少し、休憩させて貰えるかしら……」

 

 ぐったりとした様子の遊里ちゃんをベンチに座らせて、近くにあった自動販売機でお茶を買ってくる。

 

「これ、飲む?」

「いくらだったの?」

 

 そう言ってサイフを取り出そうとする遊里ちゃんを止める。

 

「これはお詫び的なものだから!相当付き合わせちゃったし、これからデュエルも教えてもらうからね!」

「……いえ、でも……」

「気にしない気にしない!ささっ、それ飲んでちょっと休憩したら、デュエルしようね!」

「……そう。ごめんなさいね」

「もう、『ごめんなさい』じゃないよ!」

 

 さっきやったようなやり取りが滑稽だったのか、遊里ちゃんが少しだけ吹き出す。

 

「ふふっ、そうね。ありがとう、牧音さん」

「お!笑った!」

「ぇ、ぁ……わ、笑ってなんかいないわ!」

「遊里ちゃんが照れてる!かーわーいーいー!」

 

 遊里ちゃんは顔を真っ赤にすると、視線をそらして拗ねたように呟く。

 

「デュエル、教えてあげないわよ?」

「ご、ごめんなさい……」

「……ん。仕方ないわね」

 

 お茶を飲んで汗を拭いて。遊里ちゃんはゆっくり立ち上がると、デュエルディスクを装着する。

 

「それじゃあ、始めましょうか」

「もう疲れてないの?」

「疲れてても平気よ。お手柔らかにね、牧音さん」

「それはこっちの台詞だよ!……よーし、それじゃあ頑張っちゃうよ!」

 

 町の外れにある小さな公園。夕焼けが私たちをオレンジ色に染め上げている。

 ここにあるのは静寂だけ。観客も実況もいない、2人だけの決闘。

 

「「デュエル!」」

 

 

マキナ VS 遊里

 

 

「私の先攻っ!ドロー!」

 

 さすがに1ターンでは揃わない、かぁ。最初からバルキリオンを召喚出来たらすごく格好良いと思うんだけど……。

 とりあえずここは、攻撃力の高いモンスターを出しておこう。

 

「私は、【磁石の戦士β】を召喚!」

 

ATK1700 LV4

 

「そしてフィールド魔法、【マグネット・フィールド】を発動!」

 

 私の足元から磁場が広がり、フィールド上の全てのモンスターに磁力を宿す。

 磁場の中ではテンションが上がるようで、磁石の戦士βは普段よりもキリリとした目を遊里ちゃんへと向けていた。

 

「さらにカードを1枚セット。ターンエンドだよ!」

 

 

マキナ LP4000 手札3

モンスター:

磁石の戦士β

魔法・罠:

マグネット・フィールド、セット1

 

 

「私のターン。ドロー」

 

 遊里ちゃんは手札を一通り見ると、迷うことなく1枚のカードをデュエルディスクにセットする。

 

「私は【捕食植物(プレデター・プランツ)フライ・ヘル】を召喚」

 

 地面を割り、小さな植物が遊里ちゃんの足元に生える。その姿は食虫植物のハエトリグサに良く似ている。

 

ATK400 LV2

 

「攻撃力400のモンスターを攻撃表示……?」

「……そうね。まず最初に良いことを教えてあげる。このゲームにおいて、レベル・ステータス・モンスターの見た目だけを見て侮るのは愚の骨頂よ。ステータスの低いモンスターには、それを補ってあまりあるほどの効果を持つモンスターもいる」

 

 この子みたいにね。と、遊里ちゃんはフライ・ヘルの頭(?)を撫でる。

 フライ・ヘルは嬉しそうに身じろぎすると、大きな口を磁石の戦士βに向けて開く。

 

「【フライ・ヘル】の効果を発動!1ターンに1度、相手のモンスターに【捕食カウンター】を1つ乗せるわ」

 

 フライ・ヘルの口から放たれた小さな種子は、磁石の戦士βにぶつかるとすぐさま成長しその体に絡み付く。

 

「さぁ、バトルよ。【捕食植物フライ・ヘル】で、【磁石の戦士β】に攻撃」

「そんな、攻撃力が低いのに……!?」

「この瞬間、【フライ・ヘル】の効果を発動。このモンスターが自身よりレベルの低いモンスターと戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わず相手モンスターを破壊する」

 

 フライ・ヘルのレベルは2。でも磁石の戦士βのレベルは4の筈……!

 

LV4→1

 

「そんなっ!どうして!?」

「【捕食カウンター】の乗ったレベル2以上のモンスターは、全てレベル1になる」

 

 磁石の戦士βは抵抗しようともがくが、絡み付いた蔦がその動きを封じる。

 フライ・ヘルは自分の元の大きさの数倍大きく口を開け、磁石の戦士βを丸呑みにした。

 

「っ!でも、【マグネット・フィールド】の効果が発動!【磁石の戦士】との戦闘で破壊されなかったモンスターは手札に戻るよ!」

「いいえ。【フライ・ヘル】にその効果は通用しないわ」

 

 フライ・ヘルの体内で磁力が反発しあう。しかしフライ・ヘルはそれを気にすることなく遊里ちゃんの足元に戻る。

 

「【マグネット・フィールド】の効果は、戦闘を行ったモンスター……つまりダメージ計算を行ったモンスターにのみ働くわ。【フライ・ヘル】はダメージ計算を行わずに相手モンスターを破壊した。よって【マグネット・フィールド】の効果では除去できないのよ」

「まるで意味がわからないよ!?」

 

 さらに、磁石の戦士βを飲み込んだフライ・ヘルが巨大化していく。あっという間に遊里ちゃんの身長を越え、上級モンスターでも飲み込めるほどのサイズに。

 

LV2→6

 

「【捕食植物フライ・ヘル】は喰らったモンスターのレベル分自身のレベルを成長させるわ。やがてこの子は、【捕食カウンター】すら必要としなくなる」

 

 相手モンスターを破壊する度に破壊できる範囲が増えていくモンスター。今のフライ・ヘルを倒すには、レベル7以上のモンスターがいなければならない。

 

「もっとも、どれだけレベルが高くても【捕食カウンター】が乗ればレベル1になってしまうけどね。私はカードを1枚セットしてターンエンドよ」

 

 

遊里 LP4000 手札4

モンスター:

捕食植物フライ・ヘル

魔法・罠:

セット1

 

 

「【フライ・ヘル】を倒せないようじゃ、デュエルを教える意味もないわ」

 

 さぁ、この壁を乗り越えてみなさい、マキナ(・ ・ ・)

 得意気な表情を浮かべ、心底楽しそうに遊里ちゃんはそう言った。




黒野遊里
マキナとは対照的な、物静かで何事にも冷淡な少女。そのプレイングはプロデュエリストにも匹敵することで、中等部ではトップクラスの成績。アカデミアで1度も負けたことがなく、他の生徒からは戦っていてもつまらないと思われている。そのため彼女と戦おうとするものは少ない。
基本的に常に冷静だが、思い込みが激しい部分がある。
赤紫色のロングヘア。瞳は暗い緑色。
使用デッキは『捕食植物』。


はい。名前から察せられる通り捕食植物です。彼女がヒロイン(予定)です。1話に出てきたリゼさんの出番はもう少し先かと。

今回は前編という形になるので、次回はこのデュエルの決着(予定)になります。

投稿ペースはそんなに早くないですが、次回も読んでいただけたらうれしいです。

それではー


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3.グリーディ・キマイラ

遊里戦決着です。この作品では普通に二枚三枚積みとかあります。


「私のターン!ドロー!」

 

 ……待ってたよ。バルキリオン。マグネット・バルキリオンのレベルは8。このモンスターならフライ・ヘルを撃破できる。

 

「私は、【磁石の戦士α】を召喚!」

 

ATK1400 LV4

 

「そして【マグネット・フィールド】の効果を発動!自分フィールドにレベル4以下の岩石族・地属性モンスターが存在するとき、墓地から【マグネット・ウォリアー】を特殊召喚出来る!蘇れ、【磁石の戦士β】!」

 

ATK1700 LV4

 

「折角倒したのに。そのフィールド魔法も厄介なカードね」

「私のデッキの要だからね!そしてまだまだ私のターンは終わらないよ。私はフィールドの【α】【β】と、手札の【γ】を生け贄に捧げ、変形合体!」

 

 私の手札から飛び出す3体目の磁石の戦士。3人は体に流れる磁力を操り、その形を変え融合し、最強の戦士を作り出す。

 

「磁力纏いし剣を掲げ、我が眼前の敵を薙げ!これが私の切り札だっ!【磁石の戦士マグネット・バルキリオン】!」

 

 地響きと共に私のフィールドに降り立つ巨大な戦士。バルキリオンはその体躯に比べると少し小さめの剣を掲げ、その切っ先をフライ・ヘルへと向ける。

 

ATK3500 LV8

 

「そして【バルキリオン】の効果を発動!このモンスターを墓地へ送ることで、墓地の【磁石の戦士】達へと分離する!」

 

 バルキリオンの体がパーツごとに吹き飛び、元の3体へと戻る。

 

ATK1400 LV4

ATK1700 LV4

ATK1500 LV4

 

「さらにさらに!【マグネット・リバース】を発動!墓地から、通常召喚できない岩石族モンスター……【マグネット・バルキリオン】を特殊召喚する!」

 

 3体の影が変形して混ざり合い、その中から再び巨人が姿を表す。

 

ATK3500 LV8

 

 私のフィールドには4体のモンスター。攻撃力の合計は8100。ライフポイントを2回も削りきる事のできる数値だ。まずはバルキリオンでフライ・ヘルを撃破して、3体のモンスターでダイレクトアタック。それで遊里ちゃんのライフは0!

 

「バトル!【マグネット・バルキリオン】で、【捕食植物フライ・ヘル】を攻撃!」

「【バルキリオン】のレベルは8。【フライ・ヘル】じゃ敵わないわね。まさかこのターンで出してくるとは思わなかったわ」

 

 その言葉に、私はガッツポーズして叫ぶ。

 

「どうだっ!これが私の、【マグネット・リバース】コンボだよ!」

「……けど、甘い。甘いわ。相変わらず(・ ・ ・ ・ ・)。私はリバースカードを発動、【捕食生成(プレデター・プラスト)】。手札から【プレデター】カードを任意の枚数見せる事で、その数だけ相手のモンスターに【捕食カウンター】を置くわ」

「そんなっ!」

 

 捕食カウンターの置かれたモンスターは、レベルが1になってしまう。まさか他のカードでも捕食カウンターを置くことが出来るとは思わなかった。

 遊里ちゃんの使うデッキは、捕食カウンターを軸にしているのだろうか。

 

「私が公開するのは【捕食植物(プレデター・プランツ)スキッド・ドロセーラ】【捕食植物(プレデター・プランツ)モーレイ・ネペンテス】【プレデター・プランター】の3枚」

 

 遊里ちゃんの背後に3枚のカードが浮かび上がり、その1枚1枚からあの種子が放たれる。

 

「私がカウンターを乗せるのは、【マグネット・バルキリオン】【β】【γ】の3体よ」

 

LV8→1

LV4→1

LV4→1

 

 既に攻撃宣言はしてしまった。バルキリオンは止まらない。フライ・ヘルは巨人を受け止めるように大きな口を開き、マグネット・バルキリオンを飲み込んだ。

 

LV6→14

 

 レベル14。デュエルモンスターズでの元々のレベルの最大は12。つまり今のフライ・ヘルは、いかなるモンスターをも食べてしまう完全体。

 更なる成長を遂げ、まるでファンタジーの世界に出てくるような『世界樹』を彷彿とさせるサイズにまで巨大化したフライ・ヘルが、私たちを見下ろす。

 

「ば、バルキリオンが……」

 

 私のデッキのエース。あのモンスターがいるからこその磁石の戦士デッキ。切り札を失った今、私のデッキに強力と言えるモンスターは居ない。

 

「っ、カードを1枚セットしてターンエンドだよ」

 

 

マキナ LP4000 手札0

モンスター:

磁石の戦士α、磁石の戦士β(捕食)、磁石の戦士γ(捕食)

魔法・罠:

マグネット・フィールド、セット2

 

 

「私のターン、【捕食植物フライ・ヘル】の効果を発動。【磁石の戦士α】に【捕食カウンター】を乗せるわ」

 

LV4→1

 

「レベルでは勝ってるのに、カウンターを……?」

「なにもレベルを下げるだけが【捕食カウンター】じゃ無いわ。これはある種のマーキング。次の一手のための……ね」

 

 遊里ちゃんは意味深な言葉を呟くと、手札のカード1枚を墓地へ送る。

 

「私は、手札の【捕食植物スキッド・ドロセーラ】の効果を発動。このカードを手札から墓地へ送ることで、自分のモンスター1体はこのターン、【捕食カウンター】が乗った全てのモンスターに攻撃出来る」

「っ!その為にカウンターを!」

「そして私は【捕食植物モーレイ・ネペンテス】を召喚」

 

ATK1600→2200 LV4

 

「【モーレイ・ネペンテス】は【捕食カウンター】1つにつき200ポイント攻撃力を上昇させるわ」

 

 今フライ・ヘルは私のフィールドを全滅させることが出来る。そうなると捕食カウンターは減るからネペンテスの攻撃力は下がるだろうけど、ダイレクトアタックを受けてしまう。

 私のセットしたこのカードに頼るしかない……。

 

「バトル。【捕食植物フライ・ヘル】、牧音さんの全てのモンスターを喰らい尽くしなさい!」

 

 フライ・ヘルがその巨大な口で磁石の戦士達を丸呑みにする。

 

LV14→18→22→26

ATK2200→1600

 

「私のモンスター達が……一口で……」

「【モーレイ・ネペンテス】でダイレクトアタックよ」

「……っ!私はリバースカード、【ピンポイント・ガード】を発動!墓地からレベル4以下のモンスターを特殊召喚する!」

 

 私を守るために。墓地から磁石の戦士は舞い戻る。

 

「お願い、【磁石の戦士γ】っ!」

 

DEF1800 LV4

 

 磁石の戦士γの守備力は1800。モーレイ・ネペンテスよりも高いから破壊されることは無いし、そもそもピンポイント・ガードの効果で特殊召喚したモンスターは、そのターン破壊されることは無い。

 

「なるほど。モンスターを盾にして攻撃を防いだのね」

「……そうだね。私は仲間を盾にした。戦術的には正しい事でも、仲間に対する扱いとしては間違ってる」

 

 磁石の戦士γがこちらを見つめているような気がした。……あくまでも気がするだけでソリッドビジョンに動きはない。だけど磁石の戦士γを見ていた遊里ちゃんの眉がピクリと動く。

 

「でも。【磁石の戦士γ】は……私の仲間達は、私の呼び掛けに答えてくれる。私を信頼してくれている。……何度でも、私の手札に来てくれる」

「……信頼、ねぇ」

「だから私は、この子達が体を張って守ってくれたターンを無駄にはしない。……そんなにデュエルやったこと無いけどさ、皆とはずっと一緒に戦っていくんだ。この先何度も盾にすると思う。そのまま負けちゃうこともあるかもしれない。でも、私は絶対無駄にはしない!必ず一矢報いて見せるよ!それが私の相棒達への恩返しだから!」

 

 遊里ちゃんはしばらく黙って、自分のモンスター達を見つめる。そしてほんの一瞬だけ、優しげな笑みを浮かべた。

 

「……本当に変わらない。貴女は何時だって優しくて、気負いすぎて、潰れてしまう。でもそんな人間だからこそ、『貴女の仲間達』も惹かれるのでしょうね。……カードを1枚セットしてターンエンドよ」

 

 

遊里 LP4000 手札1

モンスター:

フライ・ヘル、モーレイ・ネペンテス

魔法・罠:

セット1

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 ……来たっ!このカードがあれば、フライ・ヘルを倒すことが出来るかもしれない。でもこのカードは罠カード。発動できるのは次のターン。先ずは次のターンをしのぐために、相手モンスターを1体減らす……!

 

「【マグネット・フィールド】の効果を発動!【磁石の戦士γ】の磁力で、墓地から【磁石の戦士β】を引き寄せる!」

 

ATK1700 LV4

 

「バトル!【磁石の戦士β】で、【捕食植物モーレイ・ネペンテス】を攻撃!」

 

 その差は100ポイント。数値にすれば僅かな値だが、それはひっくり返ることの無い絶対の数値。βの磁力を込めたパンチがモーレイ・ネペンテスの茎を穿ち、破壊する。

 

LP4000→3900

 

「私の方が先にダメージを受けた……?」

「どうっ!?遊里ちゃん!早速一矢報いて見せたよ!」

「……見事なものね。少し本気を出してあげようかしら」

「そ、それはちょっと怖いかな……?」

 

 それでも。磁石の戦士γが繋いでくれたターンで、遊里ちゃんのライフを削ることが出来た。全体の40分の1しか減らせていないけど、それでも大きな前進だ。

 

「カードを1枚セットしてターンエンドだよ!」

 

 

マキナ LP4000 手札0

モンスター:

磁石の戦士β、磁石の戦士γ

魔法・罠:

マグネット・フィールド、セット2

 

 

「私のターン、ドロー」

 

 遊里ちゃんは手札を見ると、不満げにため息をつく。

 

「……まだ温存しておくべき、ね。私は【フライ・ヘル】の効果を発動。【磁石の戦士γ】に捕食カウンターを乗せるわ」

 

LV4→1

 

「そして【磁石の戦士β】に攻撃。噛み砕きなさい」

 

 再びフライ・ヘルに飲み込まれていく磁石の戦士β。成長ペースは遅くなったものの、フライ・ヘルは大きくなっていく。

 

LV26→30

 

 そしてレベルは驚異の30。カードに書かれていたらイラストの半分くらいが星で埋まってしまいそうだ。

 

「これでターンエンドよ」

 

 

遊里 LP3900 手札2

モンスター:

捕食植物フライ・ヘル

魔法・罠:

セット1

 

 

「私のターン!」

 

 うん。悪くない、かな。このカードが無くてもライフポイントは削り切れると思うけど、それでも使っておくべきだろう。

 

「【マグネット・フィールド】の効果で【磁石の戦士β】を特殊召喚。さらにリバースカード、【マグネット・コンバージョン】を発動。このカードは墓地の【マグネット・ウォリアー】を3体まで選択して手札に戻す。私は【磁石の戦士α】を手札に戻して、そのまま召喚」

 

ATK1400 LV4

ATK1700 LV4

 

「凄い持久力ね。何度倒してもこうして現れる」

「ふっふっふ!私、こう見えてかなりしつこいんだよ!そして私は装備魔法【団結の力】を発動!装備された【磁石の戦士β】の攻撃力は、私のモンスター1体につき800ポイントアップする!」

 

 私のモンスターは3体。よってその攻撃力は……!

 

ATK1700→4100

 

「4100……!」

「すっごいでしょ!これが私達の結束の力だよ!【磁石の戦士γ】を攻撃表示に変更して、バトル!」

 

DEF1800→ATK1500

 

「【磁石の戦士β】で、【捕食植物フライ・ヘル】を攻撃!」

「【フライ・ヘル】の効果、まさか忘れたわけでは無いでしょう?」

「もちろん!この瞬間、私はリバースカードを発動!【マグネット・フォース】!このターン、機械または岩石族のモンスターは、相手モンスターの効果を受けない!」

「……っ!」

 

 フライ・ヘルに飲み込まれた磁石の戦士βが、体内からフライ・ヘルを破壊していく。何度も飲み込まれたから、弱点だって分かってる!

 フライ・ヘルは強力な効果を持つモンスター。だけどその効果さえ無力化してしまえば、その攻撃力はたったの400。私の仲間達の敵じゃない!

 

「っ、きゃぁぁっ!」

 

LP3900→200

 

 さっきのダメージとは違う、ライフを大幅に削る攻撃。両腕を使って衝撃を防いだ遊里ちゃんの顔に、今までとは違った笑みが浮かぶ。

 

「……面白い。面白いじゃない。まさか貴女が【フライ・ヘル】を、ねぇ」

 

 今までのぶっきらぼうで、だけど優しげな表情とは違う。獲物を見つけた肉食獣のような、財宝を見つけた盗賊のような、どこか狂気染みた喜びの顔。

 

「……リバースカードオープン、【デモンバルサム・シード】。このカードは魔界の植物。私が受けたダメージを養分として花を咲かせる」

「ダメージを養分に!?」

「そう。攻撃表示の私のモンスターが戦闘で破壊された時、その際に受けたダメージ500ポイントにつき1体、【デモンバルサムトークン】を特殊召喚するわ」

 

 遊里ちゃんが受けたダメージは3700。モンスターの最大数は5体だから、召喚されるのは5体のトークン。

 遊里ちゃんの全身から吹き出した血が集まり、同じ色の大きな花を咲かせる。

 

DEF100 LV1 ×5

 

「……っ!【磁石の戦士α】と【磁石の戦士γ】でトークンを攻撃!」

 

 何の効果も持たずステータスも低い花は、抵抗する素振りもなく磁石の戦士達に破壊されていく。だけど200しか無いライフポイントは削ることができない。

 

「あと一歩なのに……!」

 

 手札は0枚。伏せカードも無い。これ以上何をすることも出来ない。

 

「ターンエンド、だよ」

 

 

マキナ LP4000 手札0

モンスター:

磁石の戦士α、β、γ

魔法・罠:

なし

 

 

「私のターン」

 

 遊里ちゃんは何をするか決めてあったかのように、迷うことなく手札のカードを発動させる。

 

「私は永続魔法【プレデター・プランター】を発動。このカードは自分のメインフェイズ時に一度、墓地の【捕食植物】を蘇生させる。蘇りなさい、【捕食植物フライ・ヘル】!」

「っ!せっかく破壊したのに!」

 

 遊里ちゃんの足元に現れた栽培容器から、にょきっ、とハエトリグサが生えてくる。

 

ATK400 LV2

 

「安心しなさい。この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効になるわ」

「それじゃあ、モンスターを破壊する効果は使えないってこと?」

「えぇ。でも、それ以外ならなんだって出来るわ。私は魔法カードを発動。【融合】!【フライ・ヘル】と【デモンバルサムトークン】を融合するわ!」

 

 融合。手札またはフィールドの2体以上のモンスターを融合させ、新たなモンスターを召喚する方法。融合でしか召喚できないという制限から、通常よりも強力な効果を持っているモンスターも多い。

 

「でも、トークンを融合素材になんて聞いたこと……!」

「あるのよ。カード名ではなく、【闇属性】を素材として要求するモンスターがね。開け、地獄の花よ!美しき二輪の花を糧として、相対する全てを呑み込め!融合召喚ッ!【捕食植物(プレデター・プランツ)キメラフレシア】!」

 

 地響きと共に、遊里ちゃんの後ろに巨大な花が咲き誇る。

 花の名前はラフレシア。世界で一番大きな花。何本もの触手が獲物を品定めするように蠢き、花の中心部からは花粉を含んだ黄金色の空気が吹き出している。

 

ATK2500 LV7

 

「さらに魔法カード【融合回収】を発動。墓地の【フライ・ヘル】と【融合】を手札に加え、もう一度【融合】を発動するわ」

 

 再び現れた『融合』の渦に、フライ・ヘルとトークンが飲み込まれていく。

 

「現れなさい、2体目の【キメラフレシア】!」

 

ATK2500 LV7

 

 巨大な2体の植物が私の前に立ちはだかる。

 

「【キメラフレシア】は1ターンに1度、自分よりレベルの低いモンスターを捕食し除外する。消えなさい、【磁石の戦士β】【γ】!」

 

 触手に絡め取られた2体のモンスターは、キメラフレシアの黄金色の花粉に触れた途端ドロドロに溶解し、ジュースとなって呑み込まれてしまう。

 

「そんな……!」

「これで終わりね。【キメラフレシア】で【磁石の戦士α】を攻撃!」

「……いや。まだチャンスはあるよ。この2体の攻撃を受けても、私のライフポイントは」

「残らないわよ。【キメラフレシア】は全てを溶かす強力な花粉を持っているわ。戦闘を行う相手も例外ではない。【キメラフレシア】と戦闘を行う相手モンスターの攻撃力は1000ポイントダウンし、替わりにこのモンスターの攻撃力は1000ポイントアップする」

 

ATK1400→400

ATK2500→3500

 

「攻撃力の差が開いた……!」

 

 触手に噛み砕かれたαの破片が飛散して私を襲う。

 

LP4000→900

 

「きゃっ!!」

 

 マグネット・フィールドの効果でキメラフレシアは融合デッキへと戻っていくけど、遊里ちゃんのフィールドにはもう1体、同じモンスターが残っている。

 

「【キメラフレシア】でダイレクトアタック。紫炎の棘(サポート・ソーン)!」

 

LP900→0

 

 キメラフレシアの触手からトケが生え、私の体を串刺しにする。

 

「ま、負けちゃった……」

 

 衝撃で尻餅をついた私に、白い手が差しのべられる。

 

「やるじゃない。フライ・ヘルが突破されたことなんて殆ど無いのよ。やっぱり、貴女には才能があるわ」

「え、そ、そうかなぁ……えへへ」

 

 その手をつかんで立ちあがり、少し気恥ずかしくなって頭をかく。

 

「これから色々教えてあげるわ。デュエルの事を」

「わーい!ありがとう!遊里ちゃん!」

「!?ちょ、ちょっと何するの!?」

 

 感極まって遊里ちゃんに抱き付くと、彼女は顔を真っ赤にして私を突き飛ばす。

 

「いてっ」

「ぁ、ごめんなさい」

「いやいや、行きなり抱きついた私が悪いから。……本当にありがとう!これからよろしくね!遊里ちゃん!」

「えぇ。よろしくね。牧音さん」

「マキナで良いよ!」

 

 その後はお互いの連絡先を交換して、アカデミアに向かう飛行機でも隣の席に座ろうと約束した。

 

 デュエル・アカデミア。

 これまでとは何もかもが違う世界。でも遊里ちゃんと仲間達がいれば、どんな世界も怖くない、そう思えた。

 

 

 

「……そう。貴女はいつまでも変わらない」

 

 あの笑顔を、声を、私は何度夢見たことか。例え貴女が覚えていなくたって、私は貴女を覚えている。

 

 ずっとずっと、私は貴女に救われていたんだから。




マキナは最強ではないので、負けることは多々あります。デュエル始めたばかりですからね。
さて、お楽しみいただけだでしょうか。投稿ペースがカタツムリレベルで申し訳ありません。次回の投稿もちょっと遅くなると思います。

次回、『銀色の海―マーメイドステージ―』。1話に出ていた彼女の出番になる予定です。

それではまた次回もお会いできたら嬉しいです。


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4.銀色の海―マーメイドステージ―

生存報告がてら更新です。急ぎだったので後々修正があるかもです。


「中でも魔法の筒(マジック・シリンダー)はかなり強力よ。マキナのバルキリオンの攻撃を反射されれば、3500ものダメージを受けてしまうわ」

「へぇー。効果ダメージへの対策も大切なんだね」

 

 デュエル・アカデミアへ向かう飛行機の中で、遊里ちゃんに効果ダメージについて教わっている。火の粉やファイアーボールと言った分かりやすいものから、魔法の筒のように実際のデュエルで重要なカードについて。

 

「これら効果ダメージを与える効果をバーンと言うことが多いわ」

「バーン!……鉄砲?」

バーン(擬音)じゃなくてBurn。燃えるって意味よ」

「たしかに炎属性ってそんな効果多いかも!」

「そうね。炎属性に限らずダメージを与える効果は多いけど、昼夜の大火事って言う魔法カードのように炎=ダメージとされている節もあるわね」

 

 飛行機は段々と高度を下げ、雲の下へと降りていく。

 

「おい!あれがアカデミアじゃねぇか?」

 

 そんな男子の声が聞こえる。窓から外を見下ろすと、白亜期や中生代のような、鬱蒼とした森に包まれた孤島が見えてくる。

 勿論森だらけという訳じゃない。赤青黄色、それぞれの寮や、最先端のテクノロジーを感じさせる校舎。おそらく火山なのだろう、草木の影すら見えないような大きな山も見える。

 

「うわぁ!凄いね、遊里ちゃん!」

「……えぇ」

 

 語気は大人しく、小さい声だったけど、彼女の表情は明るかった。

 私も楽しみだ。あの島でどんなことを学ぶのだろう、どんな先輩に出会うのだろう、どんな先生に出会うのだろう。

 

 私達を乗せた飛行機は今、決闘者の聖地へと降り立った。

 

 

「ふぁぁぁ……っ。やっぱり校長先生の話は長いよぉ」

「そうね。私も途中から聞いてなかったわ」

「そうなの?遊里ちゃんも居眠り?」

「考え事、とだけ言っておくわ」

 

 上手くはぐらかされてしまった。遊里ちゃんって思ってたより真面目じゃないのかな?

 入学式を終えた私達は、これから私達が住むオベリスク・ブルー女子寮に向けて歩いていた。

 

「生意気、生意気生意気生意気よっ!」

「あら、先輩が相手でも手加減はいけませんわ。だってそれが決闘。わたくしはそう考えておりますわ」

 

 オベリスク・ブルーの寮の目の前で、言い争うような声が聞こえる。背の高い女子生徒と、あの入学試験の日に出会った女の子、リゼさんだ。

 

 

先輩女子 LP4000 手札0

モンスター:

複数の頭を持つ蛇のモンスター

魔法・罠:

なし

 

リゼ LP4000 手札 2

モンスター:

人魚のようなモンスターが5体

魔法・罠:

セット1

 

 

「……フン!でも有利なのはアタシ!いくらモンスターを並べようと、アタシの【邪龍アナンタ】の前には無力!さぁ【アナンタ】、あの醜い人魚共を噛み殺せ!」

 

ATK3600 LV8

 

 攻撃力3600。私のバルキリオンの攻撃力を上回る大型モンスターが、5体の人魚にその牙を向ける。

 

「モンスターの攻撃力だけは貴女の方が上だけれども、それ以外で有利なのはわたくしですわ」

「何ですって!?」

「カードは可能性。1枚のカードから他の何枚ものカードを呼ぶこともある。つまりは……戦いは数なのですわ!リバースカード、オープン!」

 

 リゼさんが発動した罠カードから、それはもう膨大な水流が現れる。それは渦潮のようにアナンタを取り込み先輩までも飲み込んでいく。

 

「そんな、何が起こって……」

 

LP4000→0

 

 満タンだったライフポイントが一瞬にして消え去る。

 渦潮が消え去りデュエルが終わると、先輩はリゼさんを睨み付け何処かへ走り去っていく。

 

「……ふぅ」

 

 デュエルで乱れた髪を整え、一息ついているリゼさんに話し掛ける。

 

「おーい、リゼさーん」

「貴女は……そう、合格できた様ですわね。受験番号3桁(ドロップアウト・ガール)

「もう!私の名前は――」

「貴女のような弱者の名前に興味ありませんわ」

 

 また遮られてしまった。

 

「……その言い方は無いんじゃないかしら。貴女が想像しているよりずっと、マキナは強い子よ」

「……そういう貴女はどなたでして?」

「私は」

「……いえ結構。聞いたことありますわ。アカデミア中等部の化け物とは貴女の事でしょう?」

「化け物とは随分な物言いね?」

 

 ……あれれ?

 何やら2人の間に火花が散っている。

 

「ちょ、ちょっと遊里ちゃん、リゼさん!喧嘩は……」

「「ちょっと黙ってて!」」

「えー……」

 

 余程相性が悪いのか、言い争いはさらに激化していく。

 

「ふん、わたくしは事実を言ったまでですわ。受験番号は100番台、試験には遅刻してくる。そんなドロップアウト・ガールの名前なんて覚える必要もありませんわ」

「受験番号=強さじゃないわ。あくまでも受験番号は筆記試験の順位。そんな数字で人を見下す貴女より、マキナはずっと強いわよ」

「……貴女、自分が中等部で負けなしだったからって、調子に乗るんじゃ無いですわよ……!」

「調子に乗ったつもりはないわ。事実を言ったまでよ」

「この……っ!」

 

 怒りで顔を真っ赤にしたリゼさんが、私を睨み付けて啖呵を切る。

 

「なら見せてもらいましょうか、貴女の強さとやらを。明日はデュエルの実技授業があると聞きましたわ。その時に決着をつけましょう?」

「えっ、ちょっと」

「それではわたくしはこれで。生憎と今日は忙しいんですの」

 

 それだけ言い残して、リゼさんは森の中へと消えていった。

 

「ちょ、ちょっと遊里ちゃん……」

「……その、言い過ぎたと思ってるわ」

 

 相手がいなくなったことで冷静になったのか、遊里ちゃんは目を伏せながら謝った。

 

「これって、デュエルの誘いなんだよね……」

「誘い、なんて生易しいものなら良いのだけど」

「遊里ちゃん?」

「ご、ごめんなさい……」

 

 そう。お誘いなんて生易しいものじゃない。これは所謂果たし状だ。

 

「私を庇ってくれたのは嬉しいけど……遊里ちゃん、ちょっと怖かった」

「……そう。ごめんなさい」

 

 それにしても。大変なことになってしまった。

 さっきのデュエルでも見たけど、4000あったライフポイントが一瞬で消えてしまう。最後に発動したカードの効果だと思うんだけど……。

 

「あのカード、どんな効果なんだろう」

「あのカード……最後に発動してた、あの罠カード?」

「うん。デュエルするからには勝ちたいからね。あんまりメタ戦法は好きじゃないんだけど、対策はしていきたいんだ」

「……あのカード、攻撃宣言時に発動していたわね」

「うん。じゃあ魔法の筒みたいに攻撃反応系なのかなぁ?いつでも発動できるカードをあのタイミングで使っただけなんじゃないかな?」

「それは考えにくいわ」

 

 遊里ちゃんは真面目な顔で腕を組み、呟く。

 

「フリーチェーン……いつでも発動できるカードなら、それこそ相手のターンに回った瞬間に発動すれば良い。攻撃したときにカードの発動を封じるモンスターもいるから、そっちの方が確実よ。でもわざわざあのタイミングで発動したのは、それが条件だったからじゃないかしら」

「なるほど……でも、攻撃したらあんなダメージ与えられるなんて、怖くて攻撃宣言できないよ……」

 

 そして攻撃しなければいつまで経っても勝てない。効果ダメージを防ぐ方法は……。

 

「……そうだ!確か……」

 

 鞄の中からカードケースを取り出し、デッキに入っていなかった1枚のカードを取り出す。

 磁石の戦士デッキを作るために集めた、汎用性の高い岩石族モンスター。

 

「遊里ちゃん!この子なら行けると思わない?」

「……?」

 

 遊里ちゃんは受け取ったカードをよく読み、頷く。

 

「えぇ。あのカードが効果ダメージを与えるカードなら、このモンスターで何とか出来ると思うわ」

 

 

 

 翌日。デュエルの実技授業の前に講義が行われていた。この講義を担当しているのはアカデミアの実技指導最高責任者、クロノス・デ・メディチ。

 

「……と、言うことで攻めるだけでなく、守る戦い方も重要ナノーネ。とくにこだわりがないのなら、攻撃から身を守る罠カードはデッキに入れておくべき、というのが一般的な考え方デスーノ」

 

 変な語尾が付くことを除けば、とても分かりやすい授業だ。実技指導最高責任者というだけあって、凄い先生なんだろう。

 

「それデーハ、攻撃反応系のカードにはどんなカードがあるのかを聞きたいのですが……えー、シニョーラキャン――」

「リゼとお呼びください!」

 

 バン!と机を叩き、リゼさんが立ち上がる。突然の音に皆驚き、リゼさんに視線が集まる。

 『キャン』までしか聞こえなかったけど、それがリゼさんの名前なのかな。

 

「え、えー、ではシニョーラリゼ。攻撃反応系の罠カードにはどんなカードがあるのか、3つほど挙げて欲しいノーネ」

「魔法の筒、くず鉄のかかし、聖なるバリア-ミラーフォース-ですわ」

「ふむ。素晴らしいノーネ。他にも炸裂装甲や万能地雷グレイモヤなどが挙げられるノーネ。諸君らには是非、自分のデッキにあった防御カードを見つけて欲しいノーネ」

 

 それからも授業は続く。一通りカードの種類について話し終わった後、クロノス先生が言う。

 

「それでは早速デスーガ、これから皆さんにはデュエルしていただきたいんデスーノ。お互いの実力を知り、親睦を深める為に。またアカデミアとはどんな場所かを知るために。お互い気に入った相手とデュエルしてくださイーノ」

 

 でた。伝説の『二人組つくってー』。殆どの生徒達はだらだらと回りの人間に話し掛け、対戦相手を探す。そんなざわめきの中、コツコツと足音を響かせながらリゼさんがやってきた。

 

「それでは昨日の約束通り、デュエルいたしましょう?受験番号3桁(ドロップアウト・ガール)

「……むぅ。私が勝ったら、私の名前を覚えてもらうからね!」

「万が一にもあり得ませんわ。そもそも貴女、わたくしにダメージを与えられるのかしら?」

「な、何を……!」

「ならマキナがダメージを与えたら、貴女の名前を聞かせてもらえる?キャン……何とやらさん?」

 

 キャン、と呼ばれただけであの反応。リゼさんは自分の名前が嫌いなのかな。ちょっと私も気になるけど、嫌なことを無理やり聞くのは……。

 

「ふ、ふん!構いませんわ。1ダメージでも与えられたら、わたくしの名前を教えて差し上げますわ」

「え、良いの?」

「良いですわ。結果には報酬を与えるべきですもの」

「それじゃあ頑張ってね、マキナ」

「うん!」

 

 遊里ちゃんを席に残して2人でデュエルコートに向かう。教室を出る時にチラリと、筋肉もりもりのマッチョマンに話し掛けられる遊里ちゃんが見えた。

 

「……さて、この辺りで勝負しましょうか」

 

 リゼさんとやって来たのは体育館。床には線が引いてあり、いくつかのデュエルコートに別れている。他にもこういったデュエル出来る場所が各地に用意されているようで、そこは流石デュエルアカデミアといったところだ。

 

「さて、覚悟は良いですの?」

「うん!負けないよ、リゼさん!」

 

「「デュエル!!」」

 

 

マキナ VS リゼ

 

 

「先攻は譲りますわ」

「いいの?なら遠慮なく!私のターン!」

 

 手札にはαとβの磁石の戦士、そして私の相棒バルキリオン。

 昨日のデュエルから考えるに、リゼさんに対して何の考えもなしに攻撃はしにくい。まずは一旦様子を見てみよう。

 

「私は、【磁石の戦士α】を守備表示で召喚」

 

DEF1700 LV4

 

 私の手札に罠カードは2枚ある。1枚はピンポイント・ガード、もう1枚はマグネット・コンバージョン。コンバージョンはデュエル中盤以降に使って行きたいから、温存しておこうかな。

 

「カードを1枚セット。ターンエンドだよ」

 

 

マキナ LP4000 手札4

モンスター:

磁石の戦士α

魔法・罠:

セット1

 

 

「わたくしのターン、ですわ!」

 

 リゼさんは、まるでダンスでも踊るかのように軽やかな足取りでカードを引く。

 

「貴女は悪く無い。けれども貴女のお友だちが悪いのですわ。わたくしを愚弄した罪に、貴女の敗北と言う刑を下しましょう。わたくしはフィールド魔法を発動しますわ!」

 

 リゼさんが魔法カードを発動すると、地鳴りと共に体育館が姿を変えていく。

 辺りは一面の青。屋内だった筈なのに空には燦々と太陽が輝き、海を照らしている。

 そして私達が立っている場所は、その海にぽつりと浮かんだ古代神殿。リゼさんはその中心に移動すると、両腕を広げ芝居がかった口調で言う。

 

「そう。ここは忘れ去られた都市。かつて深き水の底にて繁栄し、やがて滅びた古代の神殿。そして、わたくしの人魚(モンスター)達の舞い踊る舞台。フィールド魔法、【忘却の都 レミューリア】!」




デュエルもほんのちょっとだけで申し訳ないです。
デュエル構成は出来てるので今回よりは早く投稿できると思いますが、次回も気長にお待ちしていただけたら幸いです。
……こんなタイトルにした手前レミューリア発動しましたけど、今回はそんなに活躍しません。残念ながら。


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5.銀海の主―マーメイドクィーン―

随分と遅くなってしまって申し訳ないです。ペースはゆっくりですが、まだ失踪はしてない(はず)です。
それではVSリゼ後編、どうぞです。


「それでは、わたくしのモンスターを見せて差し上げましょう。おいでなさい、【水精鱗(マーメイル)-アビスパイク】!」

 

 水飛沫と共に、リゼさんの足下からモンスターが飛び跳ねる。上半身は金髪の男性、下半身は魚。おとぎ話にはあまり出てこない、男性の人魚が現れた。

 

ATK1600 LV4

 

「人魚……それがリゼさんのモンスターなんだね。でも、私の【磁石の戦士α】の守備力は1700だよ!」

「当然、知っていますわ。【忘却の都 レミューリア】は水属性モンスターを強化するフィールド魔法。【アビスパイク】の攻撃力はその効果により、200ポイントアップしますわ!」

 

ATK1600→1800

 

 地の利……いや、水の利を得た人魚は輝く海を優雅に泳ぎ回る。

 

「【α】の守備力を越えた……!」

「それだけではありませんわ。【アビスパイク】の効果を発動。このカードの召喚に成功したとき、手札の水属性モンスターを墓地へ送ることで、デッキからレベル3以下の水属性モンスターを手札に加えることが出来ますわ。わたくしは【キラー・ラブカ】を捨て、【水精鱗-アビスグンデ】を手札に加えますわ」

 

 手札を入れ換えた……だけ?確かにサーチは戦術を確実にするために大切だけど……一体何を狙っているんだろう?

 

「行きますわ、【アビスパイク】で【磁石の戦士α】を攻撃!」

 

 アビスパイクの突進に対し、αは即座に防御姿勢をとる。しかし一向にアビスパイクからの攻撃が来ない。

 

「あれ、【アビスパイク】が……いない?」

 

 と、思ったのもつかの間。

 

「ダイビングスパイク!」

 

 αの背後の海から飛び出したアビスパイクが、その拳でαの無防備な背中を殴り付ける。

 

「【α】っ!」

 

 αが守備表示だったからダメージは無い。でもあの防御力が突破されるなんて。これがフィールド魔法の力……!

 

「どうかしら?わたくしのモンスター達は。サレンダーは何時でも受け付けますわ」

 

 銀髪のツインテールをかきあげ、得意気な笑みを浮かべるリゼさん。まさに余裕綽々と言った様子だ。

 

「まだまだ!倒されちゃった【α】の為にも、サレンダーなんてしないから!」

「そう。まぁ、足掻けるだけ足掻いてみれば良いですわ。わたくしはこれでターンエンド」

 

 

リゼ LP4000 手札4

モンスター:

水精鱗-アビスパイク

魔法・罠:

忘却の都レミューリア

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 良し!磁石の戦士γが来てくれた!それならマグネット・コンバージョンをセットすれば、次のターンにバルキリオンを召喚出来る。このターンにやるべき事は……。

 

「私は、【磁石の戦士β】を攻撃表示で召喚!」

 

 私の前に現れる2体目のマグネット・ウォリアー。そのステータスはαやγと違い、攻撃に重点をおいた分配だ。

 

ATK1700 LV4

 

「そっちがフィールド魔法で強化するなら、こっちは装備魔法で強化だよ!私は【団結の力】を【β】に装備!その攻撃力は私のモンスター1体につき、800ポイントアップする!」

 

ATK1700→2500

 

「これで【アビスパイク】の攻撃力を上回ったよ!バトル!【磁石の戦士β】で、【水精鱗-アビスパイク】を攻撃!」

 

 団結の力のオーラを纏った磁石の戦士βがアビスパイクに殴りかかる。その拳がアビスパイクに届く直前、水中から飛び出した何かが、その間に割って入る。

 

「え、な、何!?」

「墓地の【キラー・ラブカ】の効果ですわこのモンスターは自身を墓地から除外することで、魚・水・海竜族モンスターへの攻撃を無効にし、攻撃してきたモンスターの攻撃力を500ポイントダウンさせますわ!」

 

 ラブカの決死の体当たりによって弾き返された磁石の戦士βは海に落ち、溺れてしまいそうにジタバタしている。

 

ATK2500→2000

 

「ぐぬぬ……なかなかダメージを与えられないよ」

「そう簡単に与えられると思いまして?」

「ううん!強いんだね、リゼさん。私はカードを1枚セットして、ターンエンドだよ」

 

 

マキナ LP4000 手札2

モンスター:

磁石の戦士β

魔法・罠:

団結の力、セット2

 

 

「わたくしのターンですわ。ドロー!……ではそろそろ、本格的に攻めていきますわ。わたくしは魔法カード【アームズ・ホール】を発動!デッキの一番上のカードを墓地へ送り、デッキから装備魔法……【魔界の足枷】を手札に加えますわ」

「モンスターだけじゃなくて装備魔法までサーチしてくるなんて……」

「そしてわたくしは、手札の【水精鱗-ディニクアビス】の効果を発動。手札の水属性モンスター1体を墓地へ送り、手札から特殊召喚できますわ!」

 

 渦潮の中から現れたのは、巻き貝の槍を持つ亀の様なモンスター。

 

ATK1700→1900 LV7

 

「さらに、【ディニクアビス】召喚のために捨てられた【水精鱗-アビスグンデ】の効果を発動。このカードが墓地へ送られたとき、墓地の【水精鱗】と名の付くモンスターを特殊召喚できますわ!おいでなさい、【水精鱗-メガロアビス】!」

 

 再び渦潮が現れる。先程よりも大きく、強い渦の中から現れたのは、サメの頭を持つ半魚の巨人。

 

ATK2400→2600 LV7

 

「そ、そんなモンスター、いつの間に……」

「【アームズ・ホール】の効果で運よく墓地へ送られた様ですわね。ふふ、貴女は運にも見放されましてよ?」

「くっ……」

「そして、まだわたくしのメインフェイズは終了してませんわ!【ディニクアビス】の効果により、特殊召喚に成功したときデッキから【水精鱗】1体を手札に加える事が出来ますわ。私は【水精鱗-アビスディーネ】を手札に加えますわ」

「またサーチ効果……」

「わたくしのフィールドに【水精鱗】が存在する場合に効果によって手札に加わった【水精鱗-アビスディーネ】は、特殊召喚できますわ」

 

 今までとはうってかわって、可愛らしい小柄な人魚が飛び出す。人魚は私の顔を見ると、ビクリと跳び跳ね、メガロアビスの後ろに逃げ込んだ。

 

DEF200→400 LV3

 

「そして【アビスディーネ】が【水精鱗】の効果で特殊召喚されたとき、墓地から【水精鱗】を特殊召喚できますわ。来なさい、【水精鱗-アビスグンデ】」

 

 カクレクマノミの様な下半身の、快活そうな人魚が海から現れ、私に向けて手を振る。

 

DEF800→1000 LV3

 

「モンスターが一気に……5体も」

 

 サーチと特殊召喚を繰り返し、一気にデュエルが展開する。これがリゼさんの、先輩を倒すほどの戦略……!

 

「ふふ、さぁ、お待ちかねのバトルですわ!【水精鱗-メガロアビス】で、【磁石の戦士β】を攻撃!ディープシー・スラッシュ!」

 

 メガロアビスは巨大な剣を大上段の構えから振り下ろし、ジタバタと慌てている磁石の戦士βを真っ二つに切り裂く。

 

「きゃあっ!」

 

LP4000→3400

 

「続けて、【ディニクアビス】でダイレクトアタックですわ!」

「くっ……させないよっ!罠カード、【ピンポイント・ガード】を発動!相手モンスターの攻撃宣言時に墓地のレベル4以下のモンスターを特殊召喚して、破壊耐性を与える!来て、【磁石の戦士α】!」

 

DEF1700 LV4

 

 私の足下の地面が割れ、磁石の戦士αが這い出てくる。磁石の戦士αは私に向けて飛んでくる巻き貝の槍を受け止め、ディニクアビスへと投げ返した。

 

「……なるほど。特殊召喚されたモンスターはそのターン、戦闘で破壊されなくなるのですわね。これではいくら攻撃しても無駄ですわ。わたくしはカードを1枚セット。ターンエンドですわ」

 

 

リゼ LP4000 手札2

モンスター:

アビスパイク、メガロアビス、ディニクアビス、アビスディーネ、アビスグンデ

魔法・罠:

忘却の都レミューリア、セット1

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 ……来た!リゼさんの罠カードへの対策カード。元からデッキに入っていたけど、このカードなら行けるはず!

 

「ここから逆転だよ、リゼさん!私は手札の【磁石の戦士γ】を捨て、このカードを特殊召喚!」

 

 手札が1枚、光の玉へと変わっていく。泡のようないくつもの光が集まり、形を変え、宝石で造られた巨人が現れる。

 

「おいで、【パワー・ジャイアント】!」

 

ATK2200 LV6

 

「【パワー・ジャイアント】……?」

「このカードは手札のレベル4以下のモンスターを墓地へ送ることで特殊召喚できるモンスター。そして特殊召喚された場合、コストとなったモンスターのレベル分自身のレベルが下がるよ」

 

LV6→2

 

「簡単な条件で特殊召喚できる上級モンスター。いいカードですわね」

「ふっふっふ!まだまだ!私のメインフェイズは、終了してないよ!」

 

 私のそんな意趣返しに、リゼさんはクスリと笑って見せる。

 

「私はリバースカード、【マグネット・コンバージョン】を発動!墓地の【磁石の戦士β】と【磁石の戦士γ】を手札に戻すよ。そしてフィールドの【α】と、手札の【β】【γ】を墓地へ送り、変形合体!」

 

 私の前に現れた3体の磁石の戦士が、その体を分離、変形、合体させ、1つの巨大な戦士になる。

 

「これが私の切り札だっ!【磁石の戦士マグネット・バルキリオン】!」

 

ATK3500 LV8

 

「攻撃力、3500……」

「えっへへー。すごいでしょ、リゼさん!」

「ええ。まさか貴女がここまでやるとは思っても見ませんでしたわ」

 

 攻撃力を3500。それは当然低い値じゃない。だけどリゼさんはバルキリオンを前にして、余裕の笑みを崩さない。

 ……リゼさんのフィールドには、モンスターが5体……まさか。

 

「あら、随分と白熱してるようね」

「遊里ちゃん!デュエルは終わったの?」

「ええ。中等部の人よりも全然強かったわ。今年の編入組は優秀みたいね」

 

 遊里ちゃんはそういうと、デュエルフィールドの近くにあるベンチに腰掛け、私たちのデュエルを見始めた。

 

「中断させてしまってごめんなさい。続きをどうぞ」

「それじゃ遠慮なく!バトルだよ!【パワー・ジャイアント】で、【水精鱗-ディニクアビス】を攻撃!パワフルパンチ!」

 

 パワー・ジャイアントは高く飛び上がると、槍を持つ亀に向けて拳を突き出し流星のように落下する。

 そしてリゼさんは、その宣言を待っていたように笑った。

 

「あははっ!これで終わりですわ!リバースカード、【ポセイドン・ウェーブ】を発動!」

 

 巨大な渦潮が巻き起こり、それが三叉の槍を持つ海神へと姿を変える。

 

「【ポセイドン・ウェーブ】は相手モンスターの攻撃を無効にし、さらにわたくしのフィールドの魚・水・海竜族モンスター1体につき800ポイントのダメージを相手に与えますわ!」

「1体につき、800!?」

 

 えっと、いまリゼさんのフィールドには5体のモンスター……つまり。

 

「4000ポイントのダメージ……なるほど。これがあの先輩を一撃で倒したカードなのね。さて、どうするのかしら?」

 

 海神は人魚たちから力を集め、巨大な水球を作り出す。水球は際限なく脹らみ、私達を飲み込んでいく。

 

LP3400→3400

 

「……!」

「ふ、ふっふっふ!計画どーり!」

「一体、何が起きて……!」

 

 私は水球に飲み込まれた。けどその直前、パワー・ジャイアントが私を抱きかかえ、その膨大な質量から庇ってくれた。

 

「【パワー・ジャイアント】が戦闘を行うとき、私はカードの効果によるダメージは受けないよ。だから私に4000ダメージは通らない!」

「これは……してやられましたわね」

「攻撃は無効になるけどね。でも、【磁石の戦士マグネット・バルキリオン】で、【水精鱗-メガロアビス】を攻撃!マグネット・ソード!」

 

 電磁力を纏った剣が、一瞬にしてサメ巨人を断ち切る。

 

「くっ……!」

 

LP4000→3100

 

「……どうして、【バルキリオン】で先に攻撃しなかったのかしら?」

「リゼさんは、ダメージを受けたくなさそうだったから。それなら一番最初の攻撃で使ってくる。そう思ったんだよ」

「……まぁ、当然ですわね」

 

 リゼさんは深くため息をつくと、嫌そうな顔で話し始める。

 

「仕方ありませんわね、約束ですわ。……わたくしの名前、一度しか言いませんわよ?」

「……うん」

 

 リゼさんは恥ずかしそうに、私から目線をはずし呟くように言った。

 

「……キャンデロロ・キャロル・キャラメリゼ。それがわたくしの名前ですわ」

「……?その名前のどこが嫌なの?可愛いよ?」

 

 リゼさんはあきれたような顔で再びため息をつく。

 

「キャンデロロ……それで名前を気に入っていないのね」

「あら、貴女は分かりますのね」

「……?2人共何言ってるの?」

 

 キャンディみたいでかわいい名前だと思うんだけど……もしかして、可愛いのが気に入らないのかな?

 

「はぁ……このカードが決まっていればデュエルは終わっていましたのに。ダメージを受けないことに固執しすぎましたわね。反省ですわ……さぁ、まだ貴女のターンですわよ」

「うん。といってももう手札は0枚だし、なにもできないけどね。ターンエンドだよ」

 

 

マキナ LP3400 手札0

モンスター:

パワー・ジャイアント 磁石の戦士マグネット・バルキリオン

魔法・罠:

なし

 

 

「わたくしのターンですわ」

 

 リゼさんは手札を見て頷く。

 

「ダメージを受けたとはいえ、わたくしの勝ちは揺るぎませんわ。わたくしは【水精鱗-アビスラング】を召喚しますわ」

 

 水しぶきと共に現れる、2枚の盾を持つガタイのいい男性の人魚。彼は自分よりも大きなモンスターすらも守るように、バルキリオンの前に立ちはだかる。

 

DEF1800 LV4

 

「【アビスラング】の効果によって、わたくしの水属性モンスターの攻撃力は300ポイントアップしますわ」

 

ATK1900→2200

ATK1800→2100

 

「そして装備魔法、【魔界の足枷】を【マグネット・バルキリオン】に装備しますわ!」

「えっ、装備魔法を、私のモンスターに!?」

 

 私のマグネット・バルキリオンを強化してどうするつもりなんだろう。プレイングミス……では無さそうだし……。

 

「なにもモンスターを強化するだけが装備魔法ではありませんわ。このカードのように敵に装備させることによって効果を発揮するものもありますの。【魔界の足枷】は装備モンスターの攻撃を封じ、攻撃力・守備力を100にし、さらにわたくしのスタンバイフェイズに装備モンスターのコントローラーに500ポイントのダメージを与える装備魔法なのですわ」

「で、デメリットだらけだ……」

「だから貴女のモンスターに装備させるのですわ」

 

ATK3500→100

 

 バルキリオンよりも巨大な足枷が現れ、バルキリオンを海の底へと引きずり込んでいく。

 

「バトル!【水精鱗-ディニクアビス】で【磁石の戦士マグネット・バルキリオン】に攻撃ですわ!」

 

 元々の攻撃力で勝っていても、絶大な有利を得たディニクアビスが負けるはずはない。ディニクアビスは深く深く潜っていき、巻き貝の槍でバルキリオンを突き上げる。

 

「きゃぁっ!?」

 

LP3900→1300

 

「そしてカードを1枚セット。ターンエンドですわ」

 

 

リゼ LP3100 手札0

モンスター:

アビスパイク、メガロアビス、ディニクアビス、アビスディーネ、アビスグンデ

魔法・罠:

忘却の都レミューリア、セット1

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 ……来た!マグネット・リバース!このカードでバルキリオンを蘇生すれば!

 

「私は速攻魔法、【マグネット・リバース】を発動!墓地から通常召喚できない岩石族モンスター……【マグネット・バルキリオン】を――」

「いいえ。貴女の負けですわ」

 

 直前のターンにセットされたカードが発動する。快晴の空には暗く厚い雲が広がり、気温はぐんぐんと下がっていく。

 海は凍りつき、風は強くなり、飛ばされる氷の刃がフィールドのすべてを傷付ける。

 巻き上げられた氷の欠片が僅かな光を反射する。それはまるで、

 

「銀色の、海……!」

「罠カード、【ダイヤモンド・ダスト】を発動しましたわ。その効果によりフィールド上の水属性モンスターは全て破壊され、その数1体につき500のダメージが貴女に降りかかりますわ!」

「そんなっ!?」

 

 5体の人魚達が凍り、砕け、刃となって私に突き刺さる。

 

「破壊されたモンスターは5体。さぁ、2500のダメージをお受けなさい!」

「っ……きゃぁぁっ!!」

 

LP1300→0

 

 モーターが減速するような音と共に、凍りついた海が消えていく。

 リゼさんはへたりこんだ私に近づき、手をさしのべた。

 

「……謝罪いたしますわ。確かに貴女は、ドロップアウトでは無かったですわね」

「……ありがとう、リゼさん。凄い綺麗なデュエルだったね。私、感動しちゃったよ!」

 

 私はその手を借りて立ち上がる。リゼさんは私に背を向け、少し照れ臭そうにツインテールをいじりながら言う。

 

「まぁ、その……同じアカデミアの生徒として、分からないところは教えてあげても良いですわよ。……ルーキー(・・・・)

「あら、随分と丸い言動ねキャンデロロさん?」

 

 観客席から降りてきた遊里ちゃんがリゼさんを挑発するような口調で言う。

 

「わたくしをその名前で呼ばないでくださる?」

「私は親しみを込めて、ファーストネームで呼んでいるだけよ?キャンデロロさん?」

「いい度胸ですわねこの化け物。ひょっとして嫉妬しておりますの?あらあら、これだから友達のいない人間は」

「あなただって居ないでしょう!」

「わたくし、今日親友が出来ましたの」

 

 リゼさんはニンマリと笑って私の手をつかみ、腕を組む。

 

「今日からよろしくお願いしますわね?ルーキー」




修羅場。

カタツムリはおろかナガツエエソレベルの更新速度で申し訳ないです。
お久しぶりですみなさま。今回でリゼ戦は決着となりました。以下はキャラの設定とかになります。

キャンデロロ・キャロル・キャラメリゼ
常に尊大な態度を見せる少女。その態度が反感を呼ぶことは多い。順位や点数など、目に見える形での評価を好んでいる。「キャデロロ」は男性の名前であるため自分の名前が気に入っていないようで、相手からは「リゼ」の名で呼ばれようとする。
トップクラスよりは少し下あたりの実力を持つが、それでも並みのデュエリストと比較すれば圧倒的な実力を持っている。また負けず嫌いで努力は怠らない。
明るい銀髪のツインテール。瞳の色は水色。
使用デッキは『水精鱗』。人魚姫というおとぎ話が大好きな彼女が努力の果てに構築したデッキ。


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