白義蒼仁~浅井長政伝~ (楽一)
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序章

私歴史上(戦国時代)人物で一番好きな人物です。ただ展開は完全オリジナルです。


序章 

 

 

 その日オレこと浅井(あさい)良一(りょういち)は確かに事故にあった。

 

 そして救急車に運ばれていたオレは意識がだんだん遠くなって終(しま)いにはもう二度とこの景色を見ることが無いと思っていた。

爺ちゃんから教わっていた剣術や武術、弓術ともお別れ。墓には享年16と書かれるんだろうな~、と思っていた。

 

 だが、そう思っていたときに再び眼覚めるとそこには何にもないただ真っ白な世界が広がっていた。そしてオレもなぜか真っ白な服を着ていた。そして目の前には同じ顔をオレと同じ身長の人がいた。ていうかも一人のオレがいた! なにこれ!? いわゆるドッペルゲンガー!?

 

 

 

――違ぇよ、バカが。それよりお前、生きたいか?

 

 

 

 するともう一人のオレがオレにバカ呼ばわりした後、そう言った。

 

 

 

『なんだ?』

 

 

 

――もう一度聞く。お前に問おう。生きたいか?

 

 

 

『あぁ! 無論だ! オレは生きたい!』

 

 

 

――・・・そうか。なら生きろ。そしてお前が知る歴史を変えてみろ。

 

 

 

『歴史?』

 

 

 

――だがお前が向かう世界はお前の知る世界ではない。

 

 

 

『どういうことだ?』

 

 

 

――お前の知る言葉で言うなれば異世界、もしくはパラレルワールドとでもいっておこう。

 

 

 

『はぁ!?』

 

 

 

――お前が生きたいならそこにお前をつれて行こう

 

 

 

 そういってオレを指差すオレ。

 

 

 

『生きられるんだよな?』

 

 

 

――無論だ。

 

 

 

『なら生きたい!』

 

 

 

――そうか。一つだけ言っておこう。ならお前の力で歴史を変えてみろ。

 

 

 

『どういう意味だ』

 

 

 

――言ったはずだ。お前がこれから生きる世界は異世界。ならその世界をどうするのもお前次第。

 

 

 

『そうか。なら変えてやるよ! その世界と言うのを!』

 

 

 

 オレがそういうと、もう一人のオレがニカッと笑い。

 

 

 

――それでこそお前だ。なら行け。お前の進むべき道を。

 

 

 

 もう一人のオレが指差す方向には一つの扉があった。

 

 

 

 オレはそこへ向かうとゆっくりその扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてオレが目を覚めると見知らぬ天井があった。

 

「・・・・・」

 

 その天井はオレの実家の近くにある復元された城の天井とよく似ていた。

 

「あぁ、あぁ」

 

 それにオレは声が発せられない。さっきから赤ん坊が泣くような声しか出ない。

 

「でかしたぞ! 小野(おの)! 男(お)の子じゃ! 儂に後次ができたわい!」

 

「はい。おめでとうございます」

 

 小野? どちらさん? というか男の子? オレは16歳のバリバリ現役の高校生ですぜ? 教えてやりますか。

 

「オギャーオギャーオギャー」

 

・・・・あっれ~? 声がでねぇ!?

 

「はっはっはは。元気のよい男児よ! そうでなくてはならぬ。お前は将来近江浅井家をしょってたつ子なのじゃからな!」

 

 待て。今なんつった? 近江? 浅井家? それにこのおっちゃん平成の世になんでちょんまげ? コスプレっすか? いい年こいて。んで、その隣のお嬢さん。オレと結婚し直しませんか? そこのおっさんよりオレの方が絶対良いって!

 

「お前の名は、そうじゃな。お前の名前は猿(さる)夜叉(やしゃ)丸(まる)じゃ!」

 

「あらあら、そんな大層な名を?」

 

「あぁ。ようやくできた子じゃ! そう簡単に死んでもらっては困る! それにこの瞳! 何とも輝かしい! なんとまっすぐな! この子は将来大物に! 天下を取る!」

 

「まぁまぁ、期待が大きいですわね」

 

「うむ!」

 

 こうやってオレは新たな命を手に入れた。

 

 幼名猿夜叉丸。

 

 のちに浅井長政と名乗ることになる戦国時代の武将だ。だが、この時オレはそんなことを知る由もなかった。

 

 



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第一章 長政誕生

 

 

第一章 長政誕生

 

 

「しかし、まぁ、あれから何年になるんだ?」

 

 オレの名は浅井猿夜叉丸。と言う名をもらって早何年になるのだろう。

 

 以前のオレの名は浅井良一(りょういち)。オレの名字に『浅井』とあるからといってオレは浅井家となんら所縁(ゆかり)も関係も無い。理由は簡単だ。オレが住んでいた場所は近江、今の滋賀県ではなくそこから遠く離れた場所北海道札幌に住んでいたからだ。まぁ、過去を探れば何らかの関係があるかもしれないが。

 

 あと、はっきりしていることはオレがこの時代の人間ではなく未来から来たということだ。

なぜかって? 簡単だ。現代知識、まぁこの時代から見れば未来の知識を持っているからだ。

 

 だったら徹底的に歴史を変えてやろう! と志している。まぁ、もう一人のオレとも約束したしな。

 

 だが、ここではオレが知っている知識が通用しないみたいだ。

 

「猿夜叉丸様! 猿夜叉丸様~!」

 

「ん? あぁ、綱(つな)親(ちか)。どうした?」

 

 水色の髪のショートヘアーにルビーのような紅い瞳。そしてどこかまだあどけなさが残る女性武将の名前は海北綱親(かいほうつなちか)。浅井家の重臣の一人で猿夜叉丸ことオレの重臣中の重臣だ。といっても、

 

「その、『様』と呼ぶのはやめてくれないか?」

 

「いえ、猿夜叉丸様はいずれ浅井家を継ぐ方。そうおいそれとは」

 

「その後継者に兵法のなんたるかを教えている海北先生が何をおっしゃいますか」

 

 そう。綱親はオレに対し戦(いくさ)の兵法をしえている先生。そしてオレはその生徒と言う関係だ。上下関係で言えば主君であるオレなのだが、モノを教えてもらう立場でもあるため、そういった『様』付けでは何かと不便だから呼び捨てでいいと言っているのだ。

 

「い、いえ! 本来であれば私ではなく赤尾様が教えるのが筋なのですが、あの方は・・・」

 

「まぁ、そうだろうな」

 

 そういって、二人揃ってしんみりした顔をしていた。だって赤尾こと清綱は先の戦で――

 

「まて、御館様よ。儂なら生きとるぞ!?」

 

「知ってるよ。と言うか先の戦でけがをしたと聞いているが大丈夫なのか?」

 

「無論じゃ!」

 

 そういっていつの間にか自分が知らない間に亡き者にされそうになっていることに驚いているのが赤尾(あかお)清(きよ)綱(つな)。祖母浅井亮政(すけまさ)から使える老将にして重鎮だ。若くしてその才を認められ祖母に登用された。だが父である久政には天下はおろかこの北近江すら治める力はなく自らオレの下に来てくれた。

 

「しかし赤尾様。軽傷で済んだとはいえ、まだ動かぬ方がよろしいのでは?」

 

「馬鹿を言うな! そんなことをすれば清貞や直経に戦の手柄を取られるではないか! 儂はまだ若いのじゃからな!」

 

 とはいえ、祖母の代から使える武将。さらに一人称が儂ときた。オレが推測するに彼女はかなりいいと――

 

「御館様よ。余計なことを考えるではないぞ? とくに歳のこととかな」

 

「・・・ハイ・・ワカリマシタ」

 

 あまりの恐怖にオレは片言になってしまった。だって、怖いもん。彼女の顔。いや~女の年齢については語るもんじゃないな。

 

「しかし前回の戦はすごかったですね。六角氏の命令じゃなければさらに良かったのですが」

 

 そう。今の北近江浅井家は六角の配下、もっとひどく言えば六角の傀儡みたいなものだ。

 

 父が六角氏に戦で負けて以来、浅井家は六角氏の思うように使われてきている。浅井家の独立はいわば悲願ともいえよう。

 

「で、その清貞と直経はどこじゃ?」

 

 清貞とは雨森清貞(あめのもりきよさだ)のことでオレに対し武術を教えている。見た目は黒色の長髪に黒色の瞳をもつ。まぁ、典型的な日本人である。

そして直経とは遠藤直経(えんどうなおつね)のこと。彼女は伊賀の忍びを指揮している武将で浅井家にとって貴重な諜報部隊を任されている。見た目は金色の瞳を持ち、長い黒髪をツインテールにしている。

 

「直経さんは本家小谷城にもどり、清貞さんは六角氏に呼ばれて今は確か観音寺城にいます」

 

「直経もかわいそうにな。またあの四翼に何か言われとるわい」

 

 四翼とは浅井四(あさいよん)翼(よく)といって磯野員正(いそのかずまさ)、野村定元(のむらさだもと)、大野木(おおのぎ)国重(くにしげ)、三田村(みたむら)秀俊(ひでとし)といった浅井家の重臣達のことで祖母の代から仕えている。だが、彼らはなにぶん頭が固くオレの言うことを無視している。

むしろ母である小野殿によく従っている。

 

 なぜここで父久政ではなく母小野殿かというと、この世界がオレの知っている歴史とは大きく異なっているからである。まぁ簡単に言うとパラレルワールドとか性別変換など言われている世界に来ている。これがオレの知っている日本史の知識が生かせない理由の一つだ。だってオレが知っている日本史は出てくる武将全員が男でおっちゃんだぜ? それがオレと同じか少し上のそれも極上の美人さんの女性ときた。

 

 だが、この世界では男尊女卑(だんそんじょひ)の逆、女尊男卑(じょそんだんひ)という社会風潮もある。そのため男のオレの言うことをいくら家臣とはいえ聞く耳を持たないという現状である。

オレの母親である小野も妹が生まれると父である久政と対立していた。

 

 そのため歴史のところもちょくちょくおかしな部分が産まれている。

 

 浅井家は基本分裂するのは織田信長の妹と婚姻するときに朝倉からの独立か朝倉との同盟維持で別れる。だが今もうこのときに小野派かオレ派かですでに分裂している時点でもうおかしくなっているのだ。

 

「しかし、あの四翼、どうしたものかな」

 

「無理もありますまい。猿夜叉丸様のお考えは今までにない考え方故、混乱しているだけと思われます」

 

「それに男性の地位向上と言われてもあの頑固者たちは男の中から自分たちの地位を脅かす連中が現れては困るとも考えとるんじゃろ」

 

 そういってフンっと清綱は鼻で笑った。そう、浅井家の重鎮の中で唯一オレの考えに共鳴したのは清綱のみなのだ。

 

「子は女のみでは作れぬ。男と女がおってようやく一人の子をなす。さらに言えば戦をするときになれば将は女、兵は男。数が必要になるのは必然的に男だ。それを卑下にすればどうなるかぐらい考えればわかるだろう」

 

 そういうオレだが、今オレがいるのは六角氏が治める領土内にある一つの寺だ。そこに自分が最も信用する将四人と暮らしている。

理由としてはこの時代では珍しくない人質だ。かの江戸幕府を開いた徳川家康も織田家と今川家に人質に出されたことがあると言われている。

 

「(そう考えると信長や家康、秀吉も女性なのか?)しかし月日が流れるのは早いですな~。かれこれ十四年。来月でオレも十五ですか」

 

 オレがしんみり目を細めて空を見ていると、寺の縁側に忍び姿のものが一人現れた。

 

「お帰り。直経」

 

 そこにいたのは黒髪に金色の瞳。そう遠藤直経だ。

 

「・・・ただいま戻りました猿夜叉丸様」

 

 そういって静かに直経は言った。彼女は本当にクールだな。この冷静さはオレも見習わなければ。

 

「ん。本家はどうだった?」

 

「・・・はい。やはり猿夜叉丸様の案は聞き入れないといっています。それにかなりきつい一撃が」

 

「なんじゃ? もったいぶらずに申してみよ」

 

 そう清綱が言うと、

 

「唯一の抑え役だった久政様が竹生(ちくぶ)島(しま)に追放され隠居を強要されたと」

 

「・・・・」

 

 そのことを聞いたオレは何も言わず澄んだ青空を見上げた。この世界に来て真っ先に思ったことはオレが知っている現代と違って空が広い。昔は空が嫌いだった。だって狭いじゃん。あこがれも何もなかった。だがこの世界の空は遮るものが無い。広く、すんだ色。初めてこの世界の空を見たとき感動すら覚えた。だからオレはこの世界の空が好きだ。

 

「さ、猿夜叉丸様?」

 

 急に黙ったのを不思議に思ったのか綱親が声をかけてきた。

 

「いかがなされた御館様?」

 

「時がまた動いた―――か」

 

 そうまた歴史が変わった。本来なら長政となるオレが父である久政がこれを行うはずだった。

 

「時はもうすぐこちらに動く。その時までの辛抱だ」

 

『はっ』

 

「それよりも遅くないか、清貞のやつ?」

 

「言われてみれば確かに」

 

 そういうと廊下からドドドドッとまるで騎馬兵がこちらに向かってくるような音がした。

 

「どうやら戻ってきたみたいですね?」

 

 と、音の鳴る方を見て苦笑する綱親。

 

「みたいだな」

 

 オレは直経の頭をネコか犬の頭をなでるように撫でていた。

 

「・・・ん~~~」

 

 それを直経は気持ちよさそうに目を細め幸せを味わっていた。そのためかその足音なんぞは右から左に聞き流していた。

 

「うむ。じゃが、あのバカめ、何度言えば分かる・・・・」

 

 小さく「はぁ」とため息をつく清綱。

 

「あ~る~じ~!!!」

 

 すると、その足音の主は縁側にたどり着くとキキィーと急ブレーキをかけるようにオレの目の前で止まった。

 

「あ、主よ! い、一大事ですぞ!?」

 

 彼女が雨森清貞でオレにとって武術における師範だ。見た目はさっきも言ったが典型的な日本人だ。だが、ここにいる四人はみんな美人の部類に含まれるだろう。

 

「清貞! あれほど廊下を走るなと何度もいっとるのが分からんのか!? このバカ者が!」

 

 と、まぁポジション的にオレたちの母代理の清綱が清貞を一括する、

 

「それどころではありません! 母さん!」

 

「誰が母だ!?」

 

 おや、オレの心を清貞に詠まれた?

 

 まぁ、それはさておき彼女は、はぁはぁ吐息を切らせながらオレの前に膝をつくと、一枚の書状を渡した。

 

「なんだ、これ?」

 

「六角(ろっかく)義(よし)賢(かた)からの書状です」

 

「義賢から?」

 

 そういってオレはその書状を読み始め、その書かれた内容に憤りを感じた。

 

「・・・・清貞」

 

「は、はい!」

 

「義賢は他に何か言ってきたか?」

 

「い、いえ。ただこれを主に渡せとしか」

 

 ギリッ

 

『ひっ!?』

 

 オレが立てた歯音にその場にいた全員が小さく悲鳴を上げその表情に恐れさえ抱いていた。だが、この時オレはそんな事なんぞ全く気付いていなかった。なにせその内容に憤りを感じていたからだ。

 

「(何たる覇気。これが齢わずか十四の男が出す覇気か!?)い、いか、いかがなされた、御館様・・・」

 

 すると、オレがなぜこうも不機嫌なのかを重鎮である清綱が訪ねてきたのでオレはその原因を作った書状をそのまま何も言わず清綱に渡した。

 

「? ・・・・・!?」

 

 すると、清綱もオレ同様に憤りを感じたのを不思議に思った残りの三人もその書状を見た。

 

「こ、これは・・・」

 

「巫山戯ている!」

 

「・・・こんなの浅井家を侮辱している!」

 

 綱親も清貞この書状の内容に怒りを感じ、珍しく直経も声を荒げて怒っていた。その書状の内容とは、

 

 

 

 

 

 

 

『――猿夜叉丸

 お前も来月で十五。元服である。

 そこでだ、我が名の一文字である賢を取り賢政を用意した。

 あと、我が重臣の平井定武の娘をお前の正室として向かえよ。

六角義賢』

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、そうだな。オレも浅井家に生を新たに受けた身。何らかの形で親孝行したいと思ったさ。だが、毎回親父もお袋も考えるは越前の朝倉だの六角からの独立だの言っているものの実行に移さない。そんな姿を見てオレは両親に失望した。だからオレは両親には何にも期待をせずただオレに忠誠を誓ってくれたこいつらのため、近江の民のために武を振るうと決め必死にあがいてきた。この書状はそれを侮辱するようなものだ。

 

 さて、この状況をどう受け止めるか。オレは恐らくこのまま歴史が『オレの知っている

歴史』通り動いてくれるのであれば織田信長の妹お市と婚姻するはずだ。

だが、オレはすでに歴史を一つ変えている。さてはて、どうするか・・・・お!

 

「・・・・あぁそうだ、そうすれば。ふむ。試してみる価値はある」

 

 ニヤッ

 

「・・・(主が笑っている?)」

 

(猿夜叉丸様。なぜ笑っているのですか?)

 

(なんかいやな予感がする・・・)

 

(・・・不気味すぎる。こういう時に限って何かを起こす。だが、)

 

『(それは必ず良い方向に導くのがこの方だ)』

 

「綱親!」

 

「は、はい!?」

 

「すぐに使者として後藤(ごとう)賢(かた)豊(とよ)の元へ行け」

 

「後藤の元へ・・・ですか?」

 

「そうだ。それから清綱は礼服の準備をしろ」

 

「え?」

 

「これより義賢の元へ赴き今回の礼を言う」

 

『・・・・・』

 

 すると、四人はこの発言に呆気取られていた。

 

 おいおい、そんなに口をあけていると美人が台無しだぞ?

 

「なにをしている? 支度をしろ」

 

『ハァアアアーーー!?』

 

 そして四人の叫びがその場に広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

観音寺城(かんのんじじょう)

 

「いやぁ、しかし猿夜叉丸殿が直々に義賢様にお礼を申し上げるとは」

 

 この老将は六角家における重臣後藤賢豊。唯一六角家における男の武将で知将でも知られている。しかも部下や同僚からの信頼も厚く主君である義賢からもその信頼の度合いは群を抜いている。

 

「さて、つきましたぞ。義賢様。猿夜叉丸様がおこしになりましたぞ」

 

「うむ、通せ」

 

 そういって襖をあけると、そこにいたのは大人の艶とでもいうのだろうか。清綱とはまた違う大人の魅力を持った女性がそこにいた。

見た目は清貞と同じ典型的な日本人だ。

 

「お久しぶりです義賢様」

 

「うむ。久しいな猿夜叉丸、いや、賢政。それに綱親」

 

「はい」

 

 そういってオレと綱親と静かに頭を下げた。そして、オレは、

 

「義賢様もご機嫌がよろしいようで」

 

「そうじゃな。して、なにか私に用があると後藤からきいているが?」

 

 そういって蛇が蛙を睨むようにオレを睨みつける。だが、所詮はその程度。別に大したことではない。

 

「はい。何でもこの賢政の名をオレの元服のために用意してくれたとか」

 

「あぁそうじゃ。お前の活躍には我が六角家でも大助かりじゃからな」

 

「(だったら少しは兵をよこせよ。一揆が起こっている理由を本当にこいつ知ってんのか?)あと、平井定武様のご息女までオレのために用意してくださったと」

 

 いま南近江では一揆衆が武器を持ちオレや六角との内戦が続いている。そのほとんどの理由が六角による重税と圧政。まぁこのご時世だから何かと金がかかる。だが、こいつのは、あまりにも酷すぎる。しかもその鎮圧にオレとオレが率いてきた少数の兵士でやらせるから苦戦する。結果浅井家の力をそがれると言うわけだ。

 

「お前も来月で十五。となれば妻の一人や二人おらねばおかしいじゃろ。だから私が用意してやった」

 

「そのことなのですが平井定武様の御息女との婚姻の儀はお断り致そうかと」

 

「なに?」

 

 おやおや、やはり怒りましたか。まぁ予想の範ちゅうですがね。

 

「いえいえ、決して嫌がっているわけではございません。恐れ多いと思ったことです」

 

「ん? どういうことじゃ?」

 

 義賢はどうやらオレの言っている意味が分かっていないのか「なぜじゃ?」と聞いてきた。

 

「平井様は後藤様と並ぶ六角家において重鎮中の重鎮。そのような方の御息女をオレのような若輩者、ましてやオレは浅井家の人質。元服の名を義賢様から頂けただけでも恐れ多いことなのにさらにそこに平井様の御息女までいただくわけには恐れ多くて成りませぬ」

 

「ほぉ。そこまで思っておったのか」

 

 その言葉を聞いて気分を良くしたみたいだ。

 

「はい。平井様の御息女はオレのようなものよりも、もっとふさわしき者が想われます」

 

「では、その者の名を申してみよ」

 

「蒲生(がもう)賢(かた)秀(ひで)様などがよろしいかと」

 

「賢秀か。うむ、確かにあ奴はこれから楽しみな奴よ。では賢政よ。我が名だけで元服の祝いは良いのじゃな?」

 

「はっ」

 

「うむ。良い返事じゃこれからも期待しておるぞ」

 

「ははっ。ありがたきお言葉」

 

 猿夜叉丸改め賢政は部屋を後にし、寺に戻っていった。

 

 そしてその道中。

 

「お見事です。猿夜叉丸様!」

 

「いや、その幼名で呼ぶのはやめてくれないか。オレももう来月で元服だ」

 

「ですが、六角からもらった名で呼ぶのは少し抵抗があります」

 

「ふむ、そうだな。なら」

 

 ここで歴史を動かすのもまた一興か。なら、

 

「それなら今後オレのことは長政と呼べ」

 

「長政ですか?」

 

「あぁ。以後オレは浅井長政だ」

 

「はい!」

 

 その後、賢政をさらに改め長政と名乗ったオレは何もすること無くてらに戻った。

 

「なるほど。主はだから義賢と出会ったわけですか」

 

「・・・しかし、なぜ元服の名はそのまま拝命したのですか?」

 

「うむ。そうじゃな。じゃがおそらく御館様のことじゃ何か考えたのじゃろう」

 

「さすが清綱だ。理由は主に二つある」

 

「二つですか。一つは?」

 

 そういって綱親が真剣なまなざしで聞いてきた。

 

「綱親。オレと義賢の関係は何だ?」

 

「失礼ながら申し上げると勝者と敗者です」

 

 この勝者と敗者とは浅井家は何度も六角家と戦を広げ最終的に父の代に浅井家は六角家の従属となることで滅亡を逃れた。

 

「そうだ。そして今オレは人質だ。そして、義賢が今一番恐れているのは?」

 

「えっと、そうか! 謀反!」

 

「そう。おそらくだが重臣である平井氏の娘にこう言い含めていたかもしれない。『長政が変な動きをすれば迷うことなく殺せ』とな」

 

「確かにありうる話ですな。主は間違いなく浅井家をしょってたつお方。つまり義賢からすれば目の上のたんこぶ」

 

「・・・それだけではない」

 

 珍しく報告以外で口を開けた直経。それに皆ちょっと驚いていた。だが、それだけ直経はオレのことになると真剣になる。

 

「・・・おそらくここ最近の長政さまの武功をみて焦っているのだと思う」

 

「どういう意味だ?」

 

 それはある意味オレが一番びっくりした言葉だった。

 

「・・・長政さまの武功はおそらく近江一、いや天下一といっても過言ではない。家臣ならこれほど心強いことはない。だが敵とすればこれほど恐ろしいものはない」

 

「でも、あれはたしかオレの武功ではなくお前らの武功にしているはずだが?」

 

 そう、オレは寺にこもり酒を飲む怠け者だと報告している。そう報告し相手を油断させて独立戦争の際にこちらが有利に運ばせるようにさせておかねばならない。

 

「確かにそうじゃな。じゃが御館様は近隣諸国からは近江の鬼神とまで言われとるほどじゃ。六角はどうかは知らんがおそらく頭の切れる奴ならもうすでに御館様の実力は周知のことだと思うぞ」

 

「それマジなの?」

 

「はい。御存じなかったのでございますか?」

 

 そう。オレは産まれたときから人殺しの戦国時代に来ていた。最初こそ恐怖を覚えた。だがその時に実の祖父影(かげ)雅(まさ)爺ちゃんに言われた言葉を思い出した。

 

『良一よ。世界は広い。お前はおそらく人殺しをすることはなかろう。じゃが、そういった世界に行った時、自分の決意を表すためや志を貫くために命あるものを殺(あや)めたなら、後悔をするな。だが、もし後悔をするのであればその者の命をたたえ黙祷をせよ。そしてその者たちに誓え。己が殺めた者たちの分まで生き、その命の価値をまっとうすると!』

 

 影雅爺ちゃんはオレに武術の全てを教えくれた恩師だ。その知識と体術を覚えていたからオレはここまで強いのだろう。さらに言えばそれに清綱や清貞の武術を教えてもらった。最強の師範三人にみっちり教えてもらったからオレは戦場で死なずに済んでいる。

 

 だが、戦場では殺すか殺されるかだ。だが、オレは自分たちを殺そうとした者、他者を、弱者を何人も殺した者。そのどちらにも当てはまるもの。その者たちに頭を下げる。

オレは人を殺めたことに後悔しないなんてことはできない。だからその人たちの分までオレは命をまっとうする。そう誓うためにオレは頭を下げ黙祷する。

 

「それに、長政様の死者への心遣いは民衆の心もつかんでおります。心優しき鬼神とも言われています」

 

「ん~、それ矛盾してねぇ?」

 

「あたしはしてないと思います!」

 

 そういって元気よく手を挙げたのは清貞。それを見たオレ心の中で「学校の優等生みたいな挙手の仕方だな」と思ったことは内緒だ。

 

「なぜだ?」

 

「戦場では心を鬼にして戦い、死んだ者には慈悲の心で弔う。最初に言った心を鬼にすることは簡単ですが、後者は誰にでもできることではありません!」

 

「うむ。そうじゃな。よう言った、清貞!」

 

「はい!」

 

 そういって二人して何かを分かりあっていた。

 

「長政様。話がそれましたが二点目は?」

 

 そういって脱線していた話を修正する綱親。ん~、やっぱり最低こういう人間が一人は必要だな。その点綱親はよく気がつく。

 

 オレはその褒美に綱親の頭をわしゃわしゃと撫でながら、

 

「二点目は浅井家と六角家の主従関係をはっきりと明確にすることだ」

 

「なに!?」

 

「・・・そうか。長政様の妻になられる予定の方は義賢様の家臣の娘。となれば家臣の娘と婚姻したら・・・・」

 

「結果的にオレも家臣と言うわけだ。となれば浅井家がそうは思っていなくても北近江の民は浅井家が六角家に完全服従したのだと思うだろうな」

 

「なんと卑劣な!」

 

「まぁ、よくある話だ。だからオレは断った。だが、明らかに言ってしまえばオレはそこでこれよ」

 

 そういって自分の首が切られるという様を見せた。

 

「だから、ああやってごまかしたのですね」

 

「ん? 綱親よ。長政様はどうやってごまかしたのじゃ?」

 

「はい、実は――」

 

 そういって城であったことをそのまま言うと。

 

「ふふっ、ははははっ!」

 

 すると、清綱は腹を抱え、手を床にバンバンと叩きながら大笑いしていた

 

「あ、あの、六角は、愚かか?」

 

「そこまで笑うことか?」

 

「い、いや、その、じゃな」

 

 まだ笑っている。

 

「・・・長政様の知略はさすがですな。この直経感服でございます。それに人質の身でありながらそのような知略を振るうとは長政様は怖いもの知らずですね」

 

「そうでもないぞ。オレにだって怖いと思う者ぐらいいる」

 

「ほぉ。御館様が恐れる人物とは誰じゃ?」

 

「全部で三人。一人は甲斐の虎、武田信玄だ」

 

「おぉ。となるもう一人は越後の龍上杉謙信公か」

 

「ご名答」

 

「しかし、そうなるとあと一人が分かりません」

 

「確かに。信玄公と謙信公は予測していましたが、あと一人は」

 

「・・・今川? 違う。・・・まさか!?」

 

「お、直経は分かったみたいだな」

 

「・・・い、いや、でも。ありえない」

 

「本当か!? だ、誰じゃ!」

 

「直経さん! 教えてください」

 

「確かに、あたしも気になる!」

 

「・・・尾張のうつけ」

 

「・・・あの織田じゃと!?」

 

「長政様! それはまことですか!?」

 

「あぁ。もうじき時は動く」

 

『・・・はぁ』

 

 そういって四人はオレの言ったことをあまり信用していなかったのかそれはないみたいな感じでその話は終わった。その後今日あったこと談笑しながら一日が過ぎて言った。

 

 翌日オレたちの運命を大きく動かす早馬がくるとは知らず。

 

 



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第二章 近江の鬼神

 

第二章 近江の鬼神

 

 

「なに、それはまことか!?」

 

 翌日、北近江から来たという使者がオレにであって伝えたことは、

 

『小野様危篤状態。猿夜叉丸様は至急北近江に戻られたし』

 

 と、伝えられてきた。

 

 そのことを義賢に伝えたが、まぁ帰ってきた返事は予想通り。

 

『お前は人質なのだ、例えどのようなことがあってもだ! それが生みの親であろうともな!!』

 

 と怒りの表情で使者を送り返したという。

 

「さて、どうしたものか」

 

 空を見上げそうつぶやいた。まがいなりにもオレを産んだ産みの母親。これが母か家臣たちが画策した策なのか、はたまた真実なのかは定かではない。だが、これがもし本当なら。

 

「いかがいたしますか?」

 

「う~ん。今回は難しいぞ・・・。なにせオレを北近江に戻せば六角はオレが軍を率いてくるとも考えるだろうしな」

 

「でしょうな。しかし、小谷に戻る絶好に機会ですしな」

 

「ん~・・・」

 

 すると、

 

「長政様、六角からの使者が来ました」

 

「六角から? はて、どのような用だろう。とにかく通せ」

 

 そういってオレも部屋に向かうとそこにいたのは後藤賢豊だった。

 

「おや、後藤殿ではありませんか。今日はどのような用で?」

 

「うむ。実はな―――」

 

 後藤の話によると、どうやら織田信長が今川を桶狭間で破ったらしい。さらに美濃で道三と義龍が家督をめぐり、戦を起こすと信長は義母である道三に加担し、その勢いそのままに斎藤義龍治める美濃を平定し岐阜と改名した。

 

「勢い任せだな」

 

「うむ。だがその勢いは計り知れぬぞ。事実斎藤道三は義龍と戦かったさい敗北はしたものの生き残った少数を率いて尾張に逃げ込んだそうだからな」

 

 え、今何って言った?

 

「ご、後藤殿? 道三が尾張に逃げ込んだというのは本当か!?」

 

 あまりのことにオレは驚愕し声を大にして叫んでしまった。

 

「あ、あぁ・・・。そうじゃ。戦った場所が美濃と尾張の国境際じゃったらしくてな。どうやら信長が知恵を働かしたのか、あの美濃のマムシが入れ知恵をしたのかはわからぬ」

 

 バカな。斎藤道三は長良川の戦いで息子である義龍に敗れ死んでいる。にもかかわらず今生きているだと? それに歴史が動く速度が速すぎる。本来なら信長が桶狭間で戦ってすぐに美濃平定は行っていない。家康と同盟を組み4年後ぐらいにようやく平定しているのに、歴史が変わりすぎだ。

 

「それに、今このままだとわしらも危ういのだ。賢政」

 

「どういう意味ですか?」

 

「信長がその勢いのままこの近江を平定しようとしているのだ」

 

「! ・・・・なるほど。その信長討伐の指揮をオレに、と言うわけですか」

 

「そうじゃ。信長を討てばそのまま美濃、尾張を平定できる。なぁにただのうつけだ。今までの功はまぐれ。美濃平定は道三がおったからじゃろ」

 

 そういって高らかに余裕と言わんばかりに大笑いをしている後藤。だがオレはその笑いをみて、あぁ、六角家は終わったなと思った。

 

「分かりました。ですが、兵力はどれぐらいでしょう?」

 

「五千といったところじゃな」

 

「ん~・・・」

 

「どうした、賢政」

 

「いやそれだと少ないと思いまして」

 

「少ないだと?」

 

「はい。仮にも相手は信長。いえ、正確に言えば美濃のマムシ道三。五千と言えど相手も策を用意しているはず」

 

「確かに。ではどうすれば?」

 

「浅井家に救援を要請してください。ですが六角家ではなくオレの名を使って」

 

「なるほど。初陣を飾るには家族にも見せておかねばと言うわけか。良いじゃろ」

 

 なぜここで初陣と言う言葉が後藤から出てきたかと言うとオレは六角に対し一揆鎮圧は全てオレの家臣が行いオレは寺で酒を飲んでいたという嘘の情報を送り、オレの力をごまかしていたのだ。故に六角家でオレの実力を知る者はいない。

 

「あと、一度本家に戻ってもよろしいでしょうか?」

 

「それはならぬ!」

 

「ですが、後藤殿。策も立てず闘うことこれ即ち無謀。その名の通り謀(はかりごと)もなく闘うことは意味の無いことです。浅井本家との連携もなしに道三に勝てるとは到底思いません」

 

「・・うっ、確かにそうじゃな」

 

 オレは後藤が考えどうするかを考える姿を見て、止めの一言を言いたす。

 

「それにもし浅井家との連携なしに織田が勝てば北近江はむろん南近江も危うい。なぁに御安心くだされ後藤殿。本家との戦の終了の確認が終わり次第すぐにこちらに戻って報告いたしますので」

 

「そ、そうか? なら安心じゃ。よし、わしから義賢様に言っておこう」

 

「ありがとうございます」

 

 そういって後藤は寺を後にした。

 

「ははっ・・・・」

 

 思わずオレは笑いがこみあげてきた。なぜかって、理由は二つだ。一つはこうも歴史が変わりすぎていること。そして、もう一つは

 

「ハハハッハッハ! ようやくここまで来た。もう少しだ。もう少しで浅井家の再興の時は近い!」

 

 誰かに見られていたらドン引きだろう。だが、幸いにもここにはだれも――

 

「主よ。いくら嬉しいとはいえ、それは・・・」

 

・・・あれ?

 

「あぁ、そうじゃな。儂でも引くぞ」

 

・・・おっや~。おかしいな。オレの目に四人が・・・・

 

「長政様。おいたわしや」

 

 まて、綱親、なぜそこで泣く!?

 

「・・・長政様。ないわ~それ」

 

 直経!? お前戦国の人間だよな!? なんで現代風に言う!?

 

 そういってオレは顔を赤面させ、床にのの字を書きながらかなり落ち込んだ。その後、四人に慰めながらもオレの態度は部屋の隅で膝を抱え子供みたいにツ~んとすねた態度でいたが、いつまでもこうしているわけにはいかず、すぐに話し合う態度に戻った。

 

「しかし、驚きました。主よ」

 

「何がだ?」

 

「以前お話ししたではありませんか。主が今恐れている人物三人を!」

 

「あぁ、確かに話したな。だがそれがどうかしたか?」

 

「儂も驚いたぞ。唯(ただ)のうつけと世間も思ってた者が、かの有名な海道一の弓取り今川義元率いる大軍を破るなんぞ誰が想いましょうか!」

 

「あれは完全に今川のバカが油断していただけだ」

 

「い、今川をバカとは・・・」

 

 オレが完全に今川のことをバカと言うとそこにいた全員が引いていた。

 

「考えても見ろ。獅子(しし)は兎(うさぎ)を狩るにも全力を尽くすというし、油断大敵ともいうだろ」

 

「え? どういう意味ですか?」

 

「簡単に言えば獅子のような猛獣でもたかが兎を狩るときでも全力をつくす。と言うわけです」

 と、分かっていなかった清貞に対し綱親が横から説明の補足をする。

 

「今川は織田を弱小だと侮り油断した。結果がこれだ。それに今回は織田には斎藤道三もいる。油断をすれば完全に織田に噛み砕かれるのは目に見える」

 

「確かに。ではどうすれば」

 

 オレはその言葉を待っていたかのように、手で、四人をオレの近くに来るように指示を出した。

 

「そこでだ。オレにはある考えがある」

 

「ほぉ。で、その策とはなんじゃ?」

 

「それはな、・・・を・・・すれば・・・・・だろ?」

 

「えぇ!? で、ですが!」

 

「それでは・・・・・が・・・・・に・・・・ですよ!?」

 

「・・・でも、試してみる価値はある」

 

「直経は賛成みたいだな。では直経には・・・・の・・・・を・・・くれ」

 

「・・・御意。必ずやってみせます!」

 

 すると直経は目を光らせ急いでどこかへ出かけていった。

 

「しかし、国友村であれを生産させてどうするのですが? まぁそのような部隊は浅井軍にもありますが」

 

「信長は歴史や伝統をいとも簡単に壊すやつだ。となれば?」

 

「今回も・・・なるほど、それを凌駕し扱える者を今から鍛えさせれば!」

 

「とりあえず当面は織田の近江進行を食い止めること。そしてもう一つの方だ。そして、明日にでもここを去り小谷に戻る」

 

『御意!』

 

 そして、翌日。

 

 オレたちは六角の許可をもらい浅井家の本拠地小谷城に戻って来た。

 

 そしてそこの門前で待っていたのは。

 

「お帰りなさいませ。兄上」

 

 身長は一五〇前半ぐらいだろうか。少し茶色がかったショートヘアーに紅い瞳をもつ女の子。それはオレの妹の浅井(あさい)政元(まさもと)だ。

 

 文武両道でかなりできた妹だ。だが、やはり女尊男卑の社会。先に産まれ長男たるオレよりも後に産まれた政元を浅井家の当主に置こうと四翼の連中が動いた。そしてオレは六角家の人質に出された。

 

「戻った。皆もよく政元を支えてくれた」

 

 そういってオレは門をくぐる。

 

 その後オレたちは小谷城の広間に呼ばれた。

 

 その広場にいるのはオレと妹の政元、そして清貞、綱親、清綱、直経。そして四翼の磯野員正、野村定元、大野木国重、三田村秀俊。全員がもう典型的な日本人で、歳は大体清綱と同じぐらいだ。

そして、政元の家臣の二人だ。ちなみにこの二人の名前はまだ聞いていないため知らない。

そして、この評議の内容とは・・・

 

「巫山戯(ふざけ)るな!」

 

「今の世が分かっていないのか! 賢政!?」

 

「小野様が無くなった今当主になるのが誰かなど既に決まっている!」

 

 そう。オレが浅井家を引き継ぐといった。まぁ簡単に言うとオレが浅井家当主になると宣言したのだ。あと、母が死んだことは事実だったらしい。

 

「分かっていないのはお前らじゃないのか四翼?」

 

 オレに対し異論を申し出てきたのは、まぁ当然のことながら四翼の連中だ。

 

「ぬかすな! 今の御時世男は女の下。にもかかわらず男である賢政が当主となれば浅井家は終わる」

 

「然(しか)り。今の御時世ならば当然のごとく浅井家の当主につくのは政元様だ!」

 

「なら聞くが磯野、その浅井家は今どのような立ち位置にいる」

 

 静かに、冷たく、それは羽虫を見てうざったがるようにオレは四翼を見下した。

 

 ちなみに上座にはオレと、妹の政元が座っている。

 

「・・・なに?」

 

「浅井家の独立だ、六角からの離反だといってなぜ行動を起こさないとオレは聞いているんだ!?」

 

 その発言と同時にオレは覇気と殺気を周りに飛ばし、その場にいた家臣団全員が息をのんだ。ただその気に慣れていた赤尾や海北といったオレの傍にいた人間はすがすがしい顔でその光景を見ていた。

 

「そ、それは、賢政様が・・・・・」

 

「ほぉ、磯野。お前、前言と矛盾していないか?」

 

「・・・!?」

 

 そう、磯野は前言で女が上といったような発言をした。だが、今の発言はそれと明らかに矛盾していることをオレが指摘すると、金魚のように磯野は口をパクパクしていた。

 

「都合のいい時だけ様呼びか。さっきまでオレを呼び捨てにしていたやつが。いいか、よく聞け。オレは人質出された身。それに浅井家の悲願のためなればオレの命など考えずに行動を起こすのが普通。お前らの主張を借りるのであればその後政元を当主におけば何ら問題ない。しかしお前らは行動を起こさなかった。なぜか。簡単だ、己の保身に走ったゆえだろうが!?」

 

 すると、四人とも焦りはじめ、違うだの誤解だのと弁明をし始めた。何ともみっともない。しかし、国重が何かに気付き、反論し始めた。

 

「だ、だが、お前だって保身に走っただろうが!?」

 

「ほぉ。申してみよ」

 

「お前が元服をしたとき元服の名を義賢からもらったそうではないか! それにお前はどうやら義賢の重臣である平井定武から娘をめとったと聞くが!?」

 

 すると、妹がオレの方をジトーとなにか汚物を見るような感じで見てきた。

 

「では聞こう国重。その平井殿の娘はオレが城に戻って来たときにいたか?」

 

「・・・・いや。だが、あっちにおいてきたと」

 

「ほざけ!?」

 

「ひっ」

 

「平井定武は六角の家臣。その娘を娶(めと)るという意味が何を意味するかオレが分からなぬと言うか!?」

 

「だが、結果は娶ったのだろうが!」

 

「否! 平井の娘は娶らずそのまま返上したわ」

 

「なら、なぜ賢政と名乗る!」

 

「このバカ者が! そうでもしなければこの浅井家がどうなるか分からぬというか!」

 

 そうオレが言うと、政元の隣にいた狐目で白色の髪を後ろで団子にして縛っていた女性が、何かに気付き、

 

「なるほど。賢政様は秀才ですな」

 

 と、いってきた。ちなみにもう一人は金髪のショートヘアーの子で身長は政元と同じぐらいだ。

 

「お前は何かを分かったようだな。して、名は」

 

 すると、その女性はオレの前に来て頭を下げてこう言った。

 

「ウチの名は藤堂(とうどう)高虎(たかとら)言います。今は、妹君である政元さまの下で働かせていただいております」

 

 と、少し関西弁交じりで言う。しかしオレはそれよりも名前の方で驚愕した。

 

「(と、藤堂高虎と言えば有名な築城家じゃないか! そんな奴が・・・。あ、そうか。最初は浅井家に仕えてたんだっけ)そうか。ではお前の考察を聞こう、高虎」

 

 と、半ば冷静に言うが心の中ではかなり焦っていた。オレはいずれこいつに築城命令でも出そうかとも悩んでいた。

 

「はい。では説明させてもらいます。まず、先ほど言ったように浅井家と六角家は明らかに対等ではありません。無論浅井家の方が立場は弱い。おそらく義賢もさらにそれを強固なものとするため賢政様の元服の名前、さらには妻を用意したのでしょう。ですが、六角家の家臣の娘をめとれば我々は六角家の家臣とほぼ間違いなく位置づけられるでしょう。名だけならまだしもこのようなことになれば浅井家は終わりです。独立という悲願は夢物語で終わりましょう」

 

 と、すらすらと高虎はオレの実行したことをまるでその場にいてみてきたかのように言い続けた。

 

「それにそれだけではありません」

 

 そういって金髪の子も何やら話し始める。

 

「高虎様の説明に補足を加えるなら、もし賢政様がこの両方を拒否すれば六角は間違いなくこのことを理由に北近江に進軍してくると思います。ですから賢政様は平井の娘は娶らず名だけをもらったと推測します」

 

 その内容にオレは、「ほぉ」と思わず感心してしまった。

 

「それに賢政さま。あなたは赤尾さま、海北さま、遠藤さま、雨森さまに対し別の名で呼ばれているのではありませんか?」

 

 そういって高虎は左に座らしているオレが信頼する人たちを見た。うっすらとその狐目を動かして。

 

 その発言と光景にオレは思わずニヤッ笑ってしまった。さらにいうなればその光景に政元やオレの家臣、四翼の連中は気味が悪かったに違いない。

 

「政元」

 

「は、はひぃ!」

 

 いきなり自分が呼ばれるとは思っていなかったのか声が裏返っていた我が妹。

 

「よい者を引き入れたな」

 

「は、はい!」

 

 その顔は本当にうれしかったのか満面の笑顔だった。やべぇ、オレの妹超可愛い! シスコンと言われようと知ったことか!

 

「ふん。そんなでた―――」

 

 そう、定元が言おうとしたとき清綱が、

 

「長政様よ。そろそろ結果を言ってはいかがかの?」

 

「長政? 誰のことだ清綱」

 

「はぁ、定元、お前、とうとうそこまで落ちたか」

 

「な、なにぃ!?」

 

「長政様とは我らが御館様のことよ!」

 

 その言葉に全員が黙った。

 

「オレの名前は浅井長政。この名の意味分かるな。我らはこれより六角から独立する戦をしかける。お前らが行動しなかった分、オレがそれを夢物語から実現させる!」

 

 だが、それを聞いた磯野はあることを聞いてきた。

 

「なら先日書状で国友に鉄砲五百丁用意せよ言ったがあの予算はどこから出す!? 無謀なことに金を使う愚かな当主など――」

 

「簡単だろ」

 

 オレはそのまま四人を見下しこう言った。

 

「お前らの給金を鉄砲の料金が支払い終わるまで当分半分以下に抑える」

 

「なに!?」

 

「貴様今までの我らの武功を――」

 

「黙れ!」

 

 その一言で四人は再び跪いた。

 

「今までの武功に胡坐をかき、さらには今の状態で良しと成すものは浅井家に要らぬ! それだけでなくお前らが推挙した候補である政元を支え戦を起こすわけでもなく今の今まで何もしなかった者に拒否する権利があると思うな!」

 

「だが、それはお前を助けるために戦力を温存・・・」

 

「ではなぜオレが出陣する戦の再三の援軍要請に対し全て無視をした!?」

 

『・・・・・』

 

 すると四人は黙り込んだ。

 

「本来ならここでお前らを討ち首にしてさらすものとしたいが現状はそれを許さん。時に助けられたな」

 

『・・・・・』

 

「よいな。お前らはこれよりオレの家臣だ。オレへの絶対の忠義を誓え。もし裏切りでもしてみろ」

 

 そういって刀を鞘から抜き四人の前にさらけ出す。

 

「分かってるだろうな?」

 

『ぎょ、御意!!』

 

その後浅井のすべての家臣を呼びオレが浅井当主となったことを言った。

 

そしてその後、オレに用意された部屋はオレが人質に出されるまでオレが使っていた部屋だ。

 

「懐かしいな。この部屋も。机、書物、へぇオレがよく使っていた木刀もまだある」

 

 その部屋はオレが出ていったときのまんまだが、よく清掃が行き届いていた。

 

 すると、襖があきそこにいたのは、

 

「・・・・・」

 

 政元と高虎、そしてもう一人の政元の家臣だった。

 

 そして、政元は、

 

「お帰りなさいませ! 兄上!」

 

 オレの懐に飛び込んできた。

 

 それをオレは受け止め、抱きしめ、頭をなでた。

 

 昔に戻ったみたいだった。

 

「あぁ、ただいま。政元」

 

 そう。オレが政元を怨めなかったのはこの性格ゆえだろう。

 

 この女尊男卑という社会風潮のなか例え兄とはいえ『男』と言う存在。

 

 たとえ武の才能、軍略の才能があろうとも『男』である以上は家督を継げない。

 

 そして母である小野と家臣団はこういう。

 

 

 

 

 

――あぁ、なぜこの子は男として産まれたんだ。

 

 

 

 

 

 と。

 

 そして次に産まれたのが妹である政元。彼女は武の才能はオレに勝らずとも劣らない軍略、政務はオレを抜く勢いだった。家臣団からも次期当主と声が高かった。

 

 だが、父久政はオレに後を継がせたかったらしく政元を次期当主と置く家臣や母と何度もぶつかった。

 

 結果オレは六角家に人質と出された。

 

 だが、それまでの間政元はオレになついてくれいつも『兄上、兄上』とオレの後ろから来て共に遊んだ。

 

 その笑顔に何度助けら、オレも笑顔でいられたか。そのおかげでオレは妹をうらむことはなく、むしろ感謝している。

 

「しかしオレがいない間より一層甘えん坊になったな」

 

「兄上以外に甘えません。兄上の胸の中はあったかくて落ち着きます」

 

 そういってまるで猫が主に甘えるかのような姿だった。

 

「それに高虎と、そう言えばお主の名を聞いていなかったな。貴殿名を」

 

「石田三成と申します。以後お見知りおきを長政様!」

 

「へぇ、三成・・・・・三成!!!??」

 

「は、はい」

 

 オレのあまりの驚きように他のものもどうしたものかと思っていた。

 

「(三成って豊臣の家臣じゃなかったか? 確かに産まれは近江だけど)あ、いや。気にするな。しかし高虎に三成よ。なぜ政元に仕官しようと?」

 

 そういうと二人が顔を見合わせ何をいまさらとい感じで、

 

「我らは浅井家に仕官したんですよ?」

 

「長政様の武勇。近江だけでなく北は奥州、南は九州まで轟いております」

 

「んな、あほな」

 

 と、二人を少し小馬鹿にした。

 

「え? 自分の名を知らないとおっしゃるのですか!?」

 

「この方、大物なんか、バカなんか分からへん」

 

 三成はオレ自身のことなのにその本人が知らないことに驚愕し、高虎は小さくため息をつき、やれやれといっていた。

 

「おい。当主に向かってバカはないだろバカは」

 

 と、いったが、オレも少し気になる。

 

「さっき言ったことは冗談抜きでそう思っただけだ。考えてもみろ。オレが戦ったのはこの近江一帯だ。なのになぜ奥州や九州まで響く」

 

「はい。ですからボクも驚いたのです」

 

「長政さまの武勇は『心優しき鬼神』だの『近江の真の守護者』とも言われています。民からの名声は何者よりも信憑性が高い。せやからウチらも信用してるんです」

 

「民がねぇ」

 

「それに、政元さまのその態度を見ればお優しきお方と思います」

 

 そういって三成は政元の方を見た。

 

「して、長政さまよ。ウチらは今後どのような行動を起こすんで?」

 

 そういってキランと目が光ったようにオレを見る高虎。

 

「織田が今川を討ったことは知っているな?」

 

「はい。その後義元は確か駿河にある寺に封じられたとか」

 

「まぁ姫武将だったから殺されることはないと思うがな」

 

 そう、この時代の武将は敗れても殺されるのは男。女は尼になったり、血筋が良いと養子、あるいはある程度の国土を保たれ封じられるかだ。

 

「兄上は織田がこちらに来ると?」

 

「あぁ。六角の家臣、後藤からきいた話によると織田はその後の勢いを持って美濃を平定。美濃のマムシこと斎藤道三を傘下に置いたとか」

 

「あ、あの美濃のマムシを!?」

 

「え、えらいこっちゃ!?」

 

 その話を聞いた政元、三成、高虎はかなり驚いていた。

 

「まぁ策が無いわけではない。綱親、説明よろしく」

 

「御意」

 

 そういうと綱親は寺でオレが策をこの場にいる皆に教えた。

 

「なんと・・・・」

 

「すごい。ボクもそんな策があるなんて思いつきませんでした」

 

「なに三成は若い。綱親、三成に兵法とはなんたるかを叩きこんでやれ」

 

「い、良いんですか!?」

 

「あぁ。お前はもう浅井家の家臣だ。と言うよりかは家族だな」

 

「え?」

 

「良いか。オレと政元、そしてこの場にいる全員が家族だ。オレはそれを護るために武を磨いて知を磨いて、そして戦場(いくさば)で振るっている」

 

「家族のため・・・」

 

「そうだ」

 

「し、しかし、長政さまと政元さまは当主! 我々は家臣ですぞ!?」

 

「いかにも。だが、家臣、当主、それを除けば我らは『人』。喜怒哀楽があり、ときには悲しみ、憎しみ、怒り。また時には喜び、楽しみ、幸せ。オレはそう言ったものを分け合いたい」

 

「と、いいますと?」

 

「その者が悲しみ涙を流すというのであれば、それを共有し共に悲しみ共に泣く。さすればその者の悲しみも多少はいやされる。また、嬉しいことがあれば共の喜びあえばその喜びは倍となる。と言うことだ」

 

「おぉ。素晴らしいですね」

 

 そういって三成は感激したのか目をキラキラと輝かせていた。

 

「そう言えば長政様」

 

 そういってきたのは清貞だった。

 

「ん? なんだ?」

 

「前々からききたかったのですが戦に出かけるときにかげていたあの明の旗をまねした旗は何なのじゃ?」

 

「あぁ~、あれ」

 

 オレがいつも戦場で掲げている旗。それは、

 

「・・・確か青い旗に『仁』。白い旗に『義』」

 

「あれは以前からどういう意味だったのか気になってな。良い機会じゃから聞いてみようかと」

 

「あ。それはあたしも気になっていました」

 

「確かに私にもあの意味は理解できません」

 

 すると今までオレと共に戦場を経験したことがなかった三人はどんな旗? と聞いてきているようだった。

 

「百聞は一見にしかず、持ってくるか」

 

 そういってオレは倉庫から一本ずつ旗を出してきて再び部屋に戻った。

 

「これだ」

 

 そういって旗を見せた。

 

「確かに明のような旗」

 

「ですが、これにはいったいどのような意味が?」

 

「それはな、何にも染まらない白き心を持つ者には義の心が。海のように広く青空のように澄んだ青い心を持つ者には仁の心が宿る。と言う意味からもらってきている。それが白(はく)義(ぎ)蒼(そう)仁(じん)と言う言葉の意味」

 

「あ。だから青い旗に仁。白い旗に義と書いているんですね」

 

「そう。これを御旗にオレは戦っている」

 

 この言葉もまた爺ちゃんに教えてもらった言葉だ。

 

「それから三成」

 

「は、はい!」

 

「綱親から軍略を学んでおけ。お前は前線で戦うよりも軍師の方に向いている」

 

「・・・はい」

 

 そういってシュンっと少し小さくなる。まぁそりゃそうだろうな。軍師より花のある武将として前線で活躍した方が目にも見える。

 

「はぁ、三成よ」

 

 そういってオレは席から立ち三成ものとへ行きポンと頭に手を置いた。

 

「前線で活躍することが戦ではない。策を考えより損害を少なくし相手に打撃を与えるかが重要だ。その仕事担う者、つまり軍師の八雲目も重要だということ分かるな?」

 

「はい。それはむろん。ですが――」

 

「結果は目に見えにくい。確かに武将の活躍によって戦果は左右される。だがそれ以前にその武将たちも策なしでは戦えない。これもわかるな」

 

「はい」

 

「つまりみっちーよ」

 

「み、みっちー?」

 

「仇名や、仇名。長政さまはな、互いに互いを補わなければ戦はできんといっとんねん」

 

「ボクも役に立てるでしょうか?」

 

 そういって真剣でまっすぐな目でオレを見てきた。

 

「何とも言えん。だがお前の頑張りしだいでそれは分かれる。サボれば当然破滅。頑張れば上に上に、さらなる高みに行ける。どちらかを選ぶかはお前だ」

 

「ならボクは高みを目指します!」

 

 三成がそう言った瞬間オレは少し乱暴に三成の頭をなでた。

 

「ならやることはわかるな?」

 

「はい!」

 

 そういって三成は綱親の方を見て、

 

「海北様。ボクに兵法を教えてください! 絶対に浅井家の役に立って見せます!」

 

 すると、綱親は。

 

「綱親でいいですよ。三成さん。良いでしょう。私も頑張って教えますね!」

 

「はい!」

 

「しかし主よ。一つ気がかりもあります」

 

「なんだ、清貞?」

 

「織田が斎藤だけを率いて北近江に来るでしょうか?」

 

「どういう意味じゃ清貞?」

 

「確かに気になる発言やな。でもいっとることはわからんでもない」

 

「確かに。道三が下ったとはいえ所詮少数の兵だ。となると」

 

 そういって列島の地図を出しあることに気付いた。

 

「(歴史が動くのが早すぎる気もするが、もうオレの知る歴史はここにはない。となると)松平か」

 

「松平ってあの三河の?」

 

「・・・あり得ます。今川を討ち、独立を手助けしたようなもの」

 

「つまり従属先を今川から織田に?」

 

「だが、厄介じゃな。軟弱な尾張兵と違って三河兵は精強ぞろいじゃ」

 

 だが、オレは逆にそれが愉しみで仕方なかった。

 

「そうか。精強な兵士か。三河武士とは」

 

「は、はぁ・・・!?」

 

 その場にいた全員の背中におそらく冷たいものが流れただろう。なぜならオレは空を見ながら気味の悪い笑みを浮かべていたからだ。

 

「(強者と戦える。なんだか嬉しい。なんだかんだ言ってオレもバトルマニアか)織田の知雄と三河武士。これほど心躍るものはない」

 

 そしてオレは再び政元たちを見て、

 

「いいか。この戦いに浅井の命運がかかっている。絶対に勝ち、北近江に再び三つ盛亀甲の旗を掲げる」

 

『御意!』

 

 

 



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第三章 鬼神VS魔王

久々の投稿
歴史的事実など全くの無視です。


 

第三章 鬼神VS魔王

 

 

 オレが小谷城に戻って早一か月が過ぎた。

 

 だがこの一カ月の間、北近江と美濃の国境際に織田の軍勢は一度も現れていない。だからこそこの時間を無駄にしないために、来るべき織田との戦いに備え兵の強度を上げる必要性があった。だがオレと政元率いる軍勢以外はかなり負抜けていた。

 

 それにキレたオレは模擬戦を行うことにした。結果四翼とオレと政元の軍勢との戦いだが結果は言わなくてもわかると思うが四翼の軍勢の大敗。

 

 そこでオレが四翼の軍勢を没収しオレの部隊に組み込んだ。

 

 そして今。

 

「なにちんたら走ってんだ! オレの新兵より遅いってどんだけ下手な訓練行ってんだ!? それで近江を護ろうなんて馬鹿か!?」

 

 そういって訓練場を見るとオレが率いていた兵士より一周遅れで四翼の兵士が走っていた。

ちなみに言うとオレの兵士は人質の時から率いている軍勢とその後極秘で六角の領土から志願してきた兵士を合わせているため経験で言うと入隊して日は浅いが実戦経験でははるかに四翼を上回る。

 

「やめ! 次、腹筋五百! 背筋五百! その後腕立て五百!」

 

『はい!! ありがとうございます!!!』

 

 と、まぁどこかの某大国の軍事訓練の光景を想像させる声に対し、

 

『は、はい!』

 

「・・・四翼の軍勢だけ全てに五百追加!」

 

『!?』

 

「返事はどうした返事は! それでも近江武士か!? これぐらいで弱音を吐くようじゃ戦場では真っ先に死ぬぞ!?」

 

『は、はぃいいいい!!』

 

「やりゃあ出来るんなら最初っからやれ!!!」

 

 まぁ、スパルタなんて生易しいような訓練を広げていた。時には浅井が治めている範囲で琵琶湖の端から端まで競泳させたり、時には近江城の城下町の端っこから小谷城の天守閣までの距離を五十往復させたりと。

 

だが、オレが一番感心したのは。

 

「へぇ、脱落者無しか。やればできる連中だってことは分かった」

 

 これが一番の収穫だった。

 

 その後違うメニューで訓練していくにつれ兵士たちも強くなり、騎馬隊はおそらくあの武田騎馬隊より強いんじゃね? と自負するぐらいまで強めた。

 

 あと、ついでにもう一つ言うと銃剣を作ってみた。銃剣とは簡単に言うと日本が帝国時代によく使っていたライフル銃に小さい剣をくっつけたようなもの。それを参考に火縄銃の銃口の下に小太刀に近い刀を作らせ合体させてみたらこれが良い具合に行き歴史をまた一つ捻じ曲げてしまったのだ。

 

 だがもうそんなことは言ってられない。あの戦いを避け生き残るためには最終的に歴史を捻じ曲げることだ。ならここで一つや二つ捻じ曲げないとならない。そう思ったのだ。

 

 そして、時は来た

 

「・・・長政様。横山城より美濃方面から木瓜の紋に三つ葉の葵の紋、あと二頭波の紋を確認したと報告が」

 

「来たか。しかし大軍だな。織田、松平、斎藤。まぁ良い。当初の予定通りに動け」

 

「・・・御意」

 

 そういって直経は下がった。

 

「さて、オレも行きますか」

 

 そういってオレは寺から持ってきた鎧を着た。青と白を基調とした鎧。白義蒼仁を連想させるためそう作らせた。

 

「さて、行きますか」

 

 そういってオレは馬にまたがって横山城に向かった。

 

 その後ろについてくるのは清綱、綱親、清貞、直経を筆頭に政元、三成、高虎。そして小谷城には四翼を配置した。

 

 あいつらを本城においてきて大丈夫なのかって。大丈夫だと思いたい。まぁ裏切ればどうなるかはあいつらが一番分かってると思うけど。

 

「さて、では報告してもらおうか」

 

 そういってオレはこの城の城主阿閉貞征(あつじさだゆき)に聞いた。

 

「はい。ここより東に織田家の家紋を確認しました。兵数はおよそ二万」

 

「こっちは六千だっつうのに。まあいい。ここの地形の特徴は」

 

「はい。これを見てください」

 

 そういって阿閉は襖をあけるとそこには濃い霧が広がっていた。

 

「ここは地理上この時間は濃い霧が発生しております。織田軍はこれに乗じ攻めてくると思われます」

 

「厄介だな」

 

「いえ、そうとも言えません」

 

 そういってきたのは綱親だった。

 

「というと?」

 

「はい。織田方はおそらくここら辺の地理に詳しい者はいないと思われます。故、この街道を通って小谷あるいはこの横山を攻め落とすものかと」

 

 そういって綱親が指してきたのは一本の街道。確かにその街道を使えば小谷、横山はむろん六角のいる南近江にも攻められる。

 

「なるほど。ある意味定石だが常識破りの織田に通じるか?」

 

「おそらく」

 

「ならばこの街道を囲むように布陣。霧に乗じて織田を攻める。ただしオレたちの目的を忘れるな」

 

『御意』

 

「なお、横山には阿閉、政元、三成、高虎を残し兵三千預ける」

 

「え・・・」

 

 それに一番驚いたのは作戦を知らない阿閉だけだった。

 

「政元、時が来たら兵を率いて中山道を通り脇坂秀勝と合流し作戦を決行せよ」

 

「はい。兄上の御期待にこたえてみせます」

 

「あの、いったいなにが?」

 

 阿閉がおどおどと手を挙げて聞いてきたのでオレはただ一言、

 

「悲願の時」

 

 といったら阿閉は泣きそうな顔をして、

 

「勝ちます!」

 

 そういった。いやぁ~。いい家臣を持ったね。オレ。たった一言でここまで分かってオレのほしい一言をいっちゃうんだもん。これだけでもオレ泣けるよ。

 

「では行こうか。我らの悲願を達成するために!」

 

『応っ!!!』

 

 そして、城門を出るとそこには青を基調とした鎧で身を包んだ兵士たちがいた。

 

 一人ひとり見渡すとその顔には不安、恐れがある。そりゃそうだ。初陣の時オレもうだったんだ。

 

「聞け! 勇敢なる浅井の兵士たち!」

 

 オレがそういうと兵たちは気をつけをして背筋をぴんとさせた。

 

「気楽に聞け。お前たちの気持ちオレもわからんでもないぞ。オレも初陣の時は怖かった。途中でちびりそうになった」

 

 オレがそういうと兵たちは信じられないという顔で周りと話し始めた。そりゃそうだろ。近江の鬼神と畏れられているオレがそんなことで恐れるわけがないと思っているのだから。

 

「おいおい。オレだってお前らと同じ人間だ。だが、オレはその考えをふりはらった。なぜか? 簡単だ。オレが死ねばオレの守るべきものたちが泣くからだ!」

 

 その一言に兵士たちはピクッと反応した。

 

「お前たちにも大切なものがいるだろう。家族、そして愛する者たちが。お前たちが死ぬと思うということはその者たちが泣くということだ! オレはそいつらのそんな顔を見たくない! たとえ死んでもだ! だからオレは戦い勝ち残った!」

 

 兵士たちの真剣な表情を見てオレは確信した。

 

 

 

――勝った

 

 

 

 

「だから生き残れ! 戦い勝ち残ろう! お前たちの明日のため! お前たちの大切な者たちのため! その者たちの笑顔のため! 戦い生き残ろう!!」

 

『オォオオオオオオウウウウ――!!!!』

 

「全軍進軍!」

 

 そういうと足並み揃えザッザッと道を進み横山城を後にした。

 

 

SIDE???

 

 

「御館様。ここを超えれば北近江です」

 

 長い黒髪をしている女性。だが、その華奢な体格に反して明らかにごっつい日本の甲冑に身を纏った武将。柴田勝家。

 

「ここからだと横山城かと思われます」

 

 そういうのは細い体だがそれなりに体はしっかりとした女性。明智光秀。

 

「しっかし、ここまで来ているのに北近江の将は何をしているのでしょうな?」

 

 明らかに元気っ子と見て取れる明るい性格をもった女の子。木下藤吉郎。

 

「これこれ、秀吉。そのようなことを言ってはなりません」

 

 おっとりとした性格の女性。丹羽長秀。

 

「ししししして、姐(あね)様(さま)。こ、ここからどのように?」

 

 おどおどしているがその腹では何を考えているか分からないタヌキ娘。松平元康。

 

「元康さま。もうすこしシャキッとしてください」

 

 と、柴田勝家と酷似する部分が多いが髪はすこし茶髪がかっている女性。本田忠勝。

 

「これより先、北近江。浅井領。お気を付けください」

 

 忍び姿に狐の仮面。声からして女性なのは間違いない。服部半蔵。

 

「ほっほっほ。賑やか、賑やか」

 

 そういっている白髪のおばあちゃん。斎藤道三。

 

「で、あるか」

 

 そして彼女らを纏め、世間に魔王と畏れられている者。髪は焔のように真っ赤な髪をポニーテール状にくくっている。瞳は金色。

 

 そう、彼女こそ、魔王・織田信長。

 

「して、光秀。近江の総大将はどうなったのだ?」

 

「はい。結果政元公が家督をつがれたと」

 

「面白くない」

 

「はい?」

 

「面白くないといっているのだ」

 

「しかし油断召されないように。政元さんも武ではわたしたちには及びませんが策では我らより上回っています」

 

 そう元康が言うと、信長は鼻でそれを笑って、

 

「まぁ、その浅井も、南近江を収める六角も私の手でつぶすがな」

 

 そういって自信満々に兵を進めた。

 

「しかし、霧が濃くなってきたな」

 

 すると、

 

「伝令! これより先に人影らしきものあり!」

 

「なに!?」

 

「浅井か?」

 

 そういって信長達は兵を進めると、確かにそこに人影があった。

 

 隣にはおそらく足軽だろう。二人いて明の旗を掲げていた。

 

「白い旗に義、青い旗に仁? 何なんだ?」

 

「まぁいい。貴殿の名はなんと申す!?」

 

 

END

 

 

「貴殿の名はなんと申す!?」

 

 オレはその人物を見てこいつが信長か。と思った。紅い髪に金色の瞳、さらにその覇気たるものはまさに魔王と言うにふさわしい。

 

「我が名は浅井長政! 浅井家当主にして北近江の守護者なり!」

 

 まぁここは多少大げさに言っておかねば相手の勝機をそぐことはできない。

 

「光秀。浅井家当主は政元ではなかったのか?」

 

「え、えぇ、そのように聞いています」

 

 おぉ。信長さんいきなりお怒りモードですぜ。おぉこわっ。

 

「あぁ、それオレの策略。政元は前線で戦う将と言うより作戦とかの立案する軍師だから」

 

「たが男であるお前の策とやらはどういったものだ?」

 

 恐らく力で劣る男が唯一女に勝つには策を用いるしかないと考えたのだろう。

 

「鉄砲五百で狙い撃つ!」

 

「・・・はは、ハハハハッハハハッハ!!」

 

 すると信長は大笑いをし、オレを指差して、

 

「我々でも百五十が限界にもかかわらずお前らにそのようなことはできるはずがない!」

 

「では聞こう信長。お前はなぜ義元を破った?」

 

「なに?」

 

 すると獅子が獲物を睨みつけるかのようにオレを見る信長。確かにこれは怖いな。まぁこんなところで怯んでいられないんだがな。

 

「誰もがこう思っただろう。『二万にも上る今川の軍勢に尾張のうつけが勝てるはずもない』とな。だがお前はその予想を裏切り勝利した。そんなご時世だ。なぜ、お前に出来ないことがオレにもできないといいきれる?」

 

「・・・」

 

「それにオレがお前らに武で劣るとでもいうか? 戦ってもいないのになぜそう言い切れる?」

 

 すると、信長の前におそらく柴田だろう。前に出てきて。

 

「御館様。私にあいつを」

 

「良いだろう。あと忠勝」

 

「はっ」

 

「お前もいけ」

 

「御意」

 

 すると、忠勝と勝家が馬から降り、槍を持って前に出てきた。

 

「さて、どうします? 勝家殿、忠勝殿」

 

「何がだ?」

 

「一対一か二対一。お好きな方をお選びください。オレはできれば後者で」

 

「なぜだ?」

 

「簡単だ。『オレが負けるはずがない』」

 

「「!?」」

 

 簡単な性格だ。挑発に乗って来たか。

 

「良いだろ。その挑発に乗ってやろう」

 

「我が槍の錆にしてくれよう」

 

 そういってオレに槍を向けてきた。

 

「・・・・」

 

 オレは黙って刀を抜いた。オレの刀は少し変わっていて鞘の部分に金属製の取っ手を付けている。なぜか、それはこの勝負で分かる。

 

「いざ!」

 

「参る!」

 

 二人がオレに向かって走って来た。

 

「「ウォオオオオオオオ!!」」

 

 勝家の槍がオレの胸を貫こうとしたときオレは刀でそれを弾き、

 

「弱い。それでも鬼の柴田か?」

 

「くっ」

 

「遅いわ!」

 

 右から横やりを指そうとするのは忠勝。

 

「はぁ。見え見え」

 

 ここでその鞘に取っ手を付けた理由が活躍する。それは、その鞘で勝家の槍の柄の部分を弾き軌道を変えた。そしてそこに生まれる忠勝の隙。そう、腹の部分に。

 

「お前ら、武人として何も知らなさすぎるな!」

 

 思いっきり蹴りをかます。

 

「ぐっ?!」

 

「勝家も武人なら、女ならオレに力で勝ってみろ!!」

 

 オレの時代なら絶対に禁句だよこれ。

 

 まぁ、それ無視してオレは鞘の部分で勝家の横腹を叩く。

 

 すると、勝家もまたごろごろと地面を転がり間合いが産まれた。

 

「オレらにとっての武器は何だ?」

 

「なに?」

 

「人にとっての武器とは武具のことではない。五体全てが武器だ。頭は頭突き、腕は拳、足は蹴り。全てを使い全てを有効に使う。だがお前たちは武器に頼りすぎそれを怠っている。それがこれだ」

 

 そういってオレは二人を見下す。そして、

 

「男に負けた武将。末代まで言われるだろうな」

 

 そしてオレは信長を睨み、

 

「さて、どうする信長さんよ。お前の御自慢の将は敗れた。そしてお前らの命もオレの手中にある」

 

「なに? ・・・!?」

 

 そして霧が晴れていくと信長はその光景に驚いた。

 

 なぜか?

 

 それはオレの後ろには二列に並んだ鉄砲兵が銃口を信長の軍勢に向けていたからだ。

 

 織田軍の先方には総大将である信長を筆頭に各有力な将が並んでいた。

 

「さて、信長公に質問だ。ここでオレが『放て』と言えばお前らはどうなる?」

 

「・・・・」

 

「答えは『死』だ」

 

 すると信長は軍配を上げかかれと言わんばかりの姿勢をする。だがオレはそれを停める一言を言う。

 

「あとそれと」

 

 信長は軍配をぴたりと止めた。

 

「お前らの足軽共、もう戦う気力ないみたいだぞ?」

 

「・・・ばかな」

 

 そういって信長は恐る恐る後ろを見た。

 

 足軽たちは口々にこういっていた。

 

「勝家さまと忠勝さまが破れた・・・・」

 

「あの無傷の忠勝さまが男に・・・・」

 

「あ、あいつ、近江の鬼神だ!」

 

「鬼神ってあの、鬼のように戦う武将か!?」

 

「わしら死んじまう!?」

 

 あの三河武士ですらおそれを感じ震えていた。この状態で戦えといってもむだだろう。

 

「さて、どうする?」

 

 すると、オレの隣に直経が来た。

 

「・・・六角来たり」

 

「当初の予定通りに動け。もう直ぐ再び霧がかかる」

 

「・・・御意」

 

 すると、信長は馬から降り刀を抜いた。

 

「・・・フフ、フハハハハッハアアハ!」

 

「?」

 

「是非もなし! なら長政! 私と戦え! そしてお前の力私に見せよ!」

 

「はぁ、あんたもバトルマニアか」

 

「なんじゃそれ?」

 

「戦闘をこよなく愛する者のこと。戦いを愉(たの)しむ奴のことだ。まぁオレも言えた義理じゃないがな!」

 

 そいってそのままオレは間合いを詰めた。

 

「ハァアア!」

 

 そのまま刀を振り下ろし、鞘で信長が左手に持っていた鞘を弾き飛ばした。

 

「くっ」

 

 そして刀を鍔迫りに持っていくと、そのまま力任せに信長を弾き飛ばした。

 

 これって第三者から見たら弱い者イジメじゃね?

 

「いいぞ、良いぞ長政! これだ、これを私は求めていた!」

 

「・・・いじめじゃなかった。よかったぁ~」

 

 オレ一安心。だが、今は一騎打ち。少しでも油断はできない。

 

 すると、天がオレに味方したのか再び霧が濃くなってきた。

 

「・・・さて、信長殿。どうする? このまま戦うか?」

 

「いやよい。お前の勝ちだ。長政」

 

「おや? 潔いいな」

 

「お前、この腕でまだ戦えと?」

 

 オレは信長の腕を見ると多少震えていた。おそらくオレの剣戟に耐えられなかったのだろう。

 

「お前は私をどうする。こうも簡単に――」

 

「なら退け」

 

「なに?」

 

「だから美濃に戻れ。オレたちの目的はお前を倒すことじゃない。オレたちにはオレたちの成すべきことをやる」

 

「情けか?」

 

 オレを睨みつける信長だがオレもそれをにらみ返し、

 

「なら、死ぬか?」

 

 そういってオレは刀を信長の首元に持っていく。

 

「くっ」

 

 だが、

 

「冗談だ」

 

 そういって刀を鞘にしまった。

 

「お前はここでくたばる器ではない。もしこの北近江を欲するのであればまた来い。相手になってやる」

 

 そういってオレは馬に乗り、

 

「ではまたな」

 

 そういって去った。オレかっこいい!

 

 

SIDE信長

 

 

 負けた。初めての敗北。だが、

 

「圧倒的だな」

 

 武勇、知略、全てで負けた。それも男に。あの者が言うように末代の恥だろう。

 

 だが、

 

「ふふっ、ハハッハハッハハハ! いい。良いぞ! これほどの力を見せつけられたのはいつ以来だろうか!?」

 

 すると、遠くから光秀が来た。

 

「信長様! 追撃しましょう! 今なら―――」

 

「黙れ。私は敗者だ。おとなしく岐阜に戻る」

 

「しかし!?」

 

「兵を見よ。これでお前はあの鬼神に戦えと?」

 

「・・・・」

 

「不可能だな。忠勝、勝家の二人をあいつはたたった一人で倒したのだ。それに鉄砲五百。それにあ奴の鉄砲見たか?」

 

「い、いえ」

 

「あ奴の鉄砲は小太刀と合体させ槍の能力も加えられていた。そのような私以上に掟破りの発想をする者に勝てるわけがない。今以上に力を入れ再び北近江に来る。今はそれだけだ」

 

「で、では」

 

「戻るぞ。上洛(・・)はまた次だ!」

 

 その時は確実のお前を手に入れる。

 

 




正直言おう。当時の鉄砲ひとつで結構な予算がかかっていた。それを五百・・・・破たんだね。でもそこは無視してください。うん。お願いね。


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第四章 独立

第四章 独立

 

 

「兄上!」

 

 オレが綱親と共に佐和山城から少し離れた野良(のら)田(だ)に来るとそこには政元を筆頭にかなりの将と兵士たちがいた。

 

 そして新たにオレの馬印とでも言うべきもの『白義蒼仁』の旗が掲げられた。それを見た兵士たちはおぉおおと歓声を上げていた。

 

「ごらんください。六角に不満を持つ民兵はむろんですが、我ら浅井に力を貸そうとする将たちもいます」

 

「数は?」

 

「およそ一万と千」

 

「ふむ」

 

「ですが残念なお知らせもあります」

 

 そういうのは三成だった。

 

「先ほど斥候を放って物見をさせたところ六角の軍勢はおよそ二万五千。倍の開きがあります」

 

「そうか。直経。いるか?」

 

「・・・ここに」

 

「六角の動きは?」

 

「・・・これより少し先で休息」

 

「勝ったな」

 

「どうしてですか?」

 

「相手は完全に油断している。おそらく織田が負けたということ。浅井が六角を裏切るはずがないと思い込んでいる。この二点に完全に胡坐をかいた」

 

 兵士たちはオォとあちこちで称賛しているが、オレは後ろを振り返り兵士たちにこう言った。

 

「だが油断するな! これは大きな賭けである! この戦に負ければ我ら浅井は完全につぶされる」

 

 それを聞いた皆は息をのんだ。

 

「それだけじゃない! オレたちには守らねばならない者がいる! もしここでオレたちが朽ちるということはお前らの守りたい者の命が奪われるということだ! なにがなんでも守り通すぞ! 意地でもだ!」

 

『オォオオオオオオオオ!!!』

 

 その意気にオレは呑みかけられた。だが、ここで飲まれてはならない。オレたちはここで六角に勝たねばならない。その後ならいくらでも飲まれよう。

 

「全軍構え!」

 

 兵士たちは覚悟を決めた目をして、その先にいる敵を見据えた。

 

「我らは勝ちにいく! 我が旗、白義蒼仁に続け! 全軍突撃ぃ!!!!!!」

 

『ウォオオオオオオオオ!!!!!!』

 

 それはまるで津波のように相手を飲み込もうとしていた。

 

 六角軍の方でもどうやらこの状態に気付いたものたちが武器を取り対応していた。

 

「浅井軍など所詮は寡兵! 数で勝る我らの方が有利! 突撃!」

 

 そういってなにも考えていない六角軍がこちらに向かって突撃を開始し始めた。

 

「バカが。敵の先方の軍の種類は?」

 

「騎兵! 後方、少し離れた場所に歩兵!」

 

「ならよし。鉄砲隊構え!」

 

 すると、横一列に鉄砲隊が鉄砲を構え待機した。鉄砲隊の布陣は立って構えるもの百人、かがんで構えるもの百人の計二百人による二段構え。

 

「撃てぇええええ!」

 

 ドドォオオオン

 

 一斉に発射された鉛玉はそのまま敵騎馬隊の胸、頭、体のどこかに命中。人に当たらなくても馬に当たり馬が倒れ、人が落馬する。こうなれば騎兵はただの歩兵だ。つまり機動力が落ちればこちら側に来るまでの時間が稼げる。

 

「鉄砲は弾込めに時間がかかる。そこに突っ込め!」

 

「ばーか。何のために鉄砲を五百も用意したと思ってる。二段目構え!」

 

 すると一団目はすぐに後ろに下がり次の弾込めを開始した。そして一団目と同様の数が再び鉄砲を構える。当然狙いは六角軍の騎馬隊の残りと歩兵隊。

 

「てぇええええ!」

 

 ドドォオオオン

 

「ぐわぁ」

 

「な、なんであんなに早く鉄砲を放てる!?」

 

 この鉄砲の乱射の速さに六角軍は驚き、もはや統率がとれないでいる。そしてとどめの一発。といっても三段目は残りの百人だから威力は多少下がるものの現状では十分だ。

 

「撃てぇえええ!」

 

 ドォオオン

 

「三回も、三回もあんなに早く撃てるなんて・・・・」

 

それを数回繰り返し、六角の騎馬軍勢は壊滅、歩兵隊もかなりの大打撃を受けていた。

 

 すると、オレの後ろには清貞と清綱、政元が待機していた。

 

「兄上、馬です」

 

 そういって政元はオレの愛馬『蒼穹(そら)』を持ってきた。まぁ産まれたときから共にいる愛馬でその毛並みはとても美しい。鬣(たてがみ)は雪のように白く、体毛は黒い。その黒さは黒真珠にもひきを取らないほどの黒さである。

 

「んじゃ行きますか。浅井騎馬隊構え!!」

 

 オレの一言によって騎馬兵は槍を前に構えた。

 

「恐れるな! 勝利は我らの手にある! 我らは我らが護る者たちの明日のために戦うのだ! 勝利を! 勝利を我らの手に!」

 

『オォオオオオオ!!!』

 

「全軍突撃!」

 

 その勢いは本当に騎馬隊で有名な武田騎馬軍団を凌駕する勢いだった。

 

「なんなんだあれ・・・」

 

「あれは、本当に浅井軍なのか!?」

 

「退け、退けぇええ!」

 

「どけぇ!」

 

 オレは六角軍を指揮をしているものを斬りつけた。その後、ある者には首を刎ね、ある者には足を、ある者には腕を、徹底的に斬りつけて行った。

 

「全軍このまま六角本陣に突撃!」

 

 その勢いに六角軍はもろくも崩れ去った。

 

 

SIDE六角

 

 

「ははっは。賢政め、織田を蹴散らしたか」

 

「さすがはと言うべきでしょう。これからも我らの下でこき使ってやらねば」

 

「左様。我らの天下のためうつけを蹴散らし、京へ上洛しましょうぞ」

 

 その場にいるのは義賢、賢豊、平井の三人だ。

 

 彼らは長政が織田を蹴散らしたことに胡坐をかき酒宴を開いていた。

 

 だが、

 

「なんだ、外が騒がしいぞ?」

 

「喧嘩でしょう。酒の取り合いでしょうぞ」

 

「気にすることはないでしょう」

 

 しかし、その場に来た伝令によって完全にそれは覆った。

 

「て、敵襲です!!」

 

「家紋は? どうせマムシが仕掛けた伏兵じゃ。我らが出るまでもなかろう」

 

「しかり、うつけなど――」

 

「家紋は三つ盛亀甲の紋と白義蒼仁の旗! 浅井でございます!」

 

「・・・なにぃい!?」

 

「浅井賢政率いる浅井軍! 謀反と思われ――ぐはっ」

 

 すると、伝令に来た兵を斬り殺す将が一人、

 

「誰が謀反だ。謀反とは家臣が主君に仇なすこと。オレはもとより六角に仕えていた気はない」

 

「あ、浅井!」

 

「賢政!?」

 

 

END

 

 

 オレが本陣に突っ込み六角義賢を見つけると、その場に伝令兵と共に後藤、平井の三名がいた。

 

「賢政、貴様!」

 

「六角の恩義あだで返すつもりか!」

 

「ふっ、ハハッハッハハ!」

 

 恩義? 仇? 笑わしてくれる。

 

「黙れ糞どもが。なにが恩義だ。オレをこき使い今回の戦もオレたち浅井の連中に回す。それを恩義と感じる奴が言ったらそいつはバカだ。残念ながらオレはバカじゃない」

 

 そういって刀を構えた。

 

「オレたちがお前に感じているのは憎しみ、怒り、怨みの三つだ。怨みこそあれど恩義など感じん!」

 

「や、やめろ! 賢政!」

 

「あと、オレの名は賢政じゃない。長政だ!!」

 

 そう言ってオレは刀を振り下ろした。

 

「ひぃいい」

 

 ちっ、外したか。まぁいい。

 

 オレはそのまま義賢に追いつき、そのまま首元に刀を当て、

 

「お前に生かせる条件を出す。返答次第では首が宙を飛ぶ」

 

「わ、わかった、わかった! な、何でも聞く!」

 

 その脅しにあっさりと応じる義賢。オレはこんな奴のために武を振るっていたのか。自分で言っておいて何だがなんか情けないな。そしてこんな奴のために尻尾振っていた四翼が憎い。

 

「なら浅井の独立を認め、北近江に二度と攻めてくるな」

 

「な・・・」

 

「それができないというのであればオレらはこのまま観音寺城まで攻め六角家を攻め滅ぼす」

 

「バカな、そんなこと!?」

 

「できないとでも思うか? お前の軍勢は総崩れ。観音寺城にこもっている者たちにこのことを伝えればどうなるかわかるか?」

 

「くっ、卑怯者!」

 

「卑怯者? 誰がその言葉を吐くか!!」

 

「ひっ」

 

 あまりのことにオレも意識しないでここまで覇気を出してしまった。

 

「お前が父のいない間に小谷城に忍びをしのばせ妹を誘拐した。それを阻止したオレが代わりに身代わりとなったがお前が仕組んだ罠としった。その後浅井家はやむをえず降伏、従属した! 貴様らの方が卑怯者だろう!」

 

 そういって昔を思い出した。

 

 父久政と母小野が戦場に出向いていたとき留守を頼まれていた磯野がその手をさぼったときに六角の忍びが本丸に入っていた。そしてその時に妹をさらおうとしたがあらかじめ予期していたオレは女装をし妹に化け妹を救った。

 

 いや~、女装はあれを最初で最後にしたいね。

 

「・・・思い出したら腹立ってきた。やっぱお前殺そうかな」

 

「!? ま、待て! 独立を認める! だから命だけは!?」

 

「本当だな」

 

「あ、あぁ」

 

 すると、オレはにやりと笑い。

 

「直経!」

 

「・・・ここに」

 

「こいつをしばれ。縛り方はお前に任す」

 

「・・・御意」

 

「まて、降伏した者にこの仕打ちちか!?」

 

「・・・長政様。こいつうるさい」

 

「だな。ていっ」

 

 オレは軽くこいつの首元に手刀をかまし静かにさせた。

 

 そして直経に縛らせ、そのまま野良田にいる六角軍に、

 

「六角義賢、浅井家当主浅井長政と我が家臣遠藤直経が召し捕った! 六角軍に告げる!大人しく武器を解け! さもなくばお前らとまだ戦うことになるぞ!」

 

 そう告げると六角軍は大人しく武装を解除した。

 

「よし。このまま観音寺城に向かうぞ」

 

「・・・御意!」

 

 その後オレたちは義賢を捕え観音寺城に向かった。

 

「うわっ、なにこれ・・・」

 

 そこにはある意味近代的な城が建っていた。それこそ復元された清須城や彦根城のような感じだ。だが、

 

「年貢の無駄遣い」

 

「農民がかわいそうだ!」

 

「兵役に年貢」

 

「・・・苦労するのは民」

 

 そう言いつつもオレは観音寺城にこもっている六角軍に対し、

 

「我は浅井長政! 我らは六角義賢を捕えた! 抵抗する気が無ければ降伏し開門せよ!」

 

 そういうとギギギッとゆっくりだが、城門が開いた。そして出てきたのは。

 

「やっぱり」

 

 鉄砲を構えた六角軍だった。

 

 だか、あらかた予想していたオレたちは、すぐに、

 

「おい、てめぇら、これが見えねぇのか? あん?」

 

 そういって義賢を見せる。

 

「!!」

 

「義賢様!」

 

 そこにいたのは蒲生氏だった。

 

「大人しく降伏しろ。命だけは助けてやる」

 

 そういうと蒲生氏は大人しく武器を下ろすように指示をし、無血開城をした。

 

 そして、今はといと。

 

「お目覚めかな、義賢殿?」

 

「なっ! ここは!?」 

 

「あんたの居城、観音寺城だ」

 

 オレは観音寺城の上座に座り下座に縛り付けた六角義賢とその家臣団どもを座らせていた。

 

「な、何が目的だ! 独立なら認めたはずだ!」

 

 そういうと思っていましたよ。でもオレって用心深い人間でね。

 

「これに調印しろ」

 

 そういって義賢の前に一枚の紙を出した。

 

「なんだこれは?」

 

「まぁ、読んでみろ」

 

「・・・・・!?」

 

 そこに書かれていた内容はこうだ。

 

 

 一つ、六角家は無条件で浅井家の独立を認める

 

 一つ、六角家にある武器、武具、鉄砲の四分の一を浅井家に無償で譲る

 

 一つ、六角家は浅井家当主浅井長政に備前守の官位を認める

 

 一つ、六角家の蔵にある現金四分の一を賠償金として支払う

 

 一つ、六角家は金輪際浅井家の内政干渉を行わず浅井家の領土に侵略しない不可侵を約束

 

 一つ、前項目全てのうちどれか一つでも違反するものであれば南近江を浅井家に譲る

 

 

 

「巫山戯るな!?」

 

 まぁ、そういうだろうな。

 

「敗者が吠えるな。負け犬が」

 

「なっ・・・」

 

「お前らに残っているのはこれを認め南近江を統治するか、認めずこの場で死ぬかどちらがお前らにとって得かは分かっているだろう」

 

「・・・・」

 

「選べ! 六角義賢! これはお前が浅井家を愚かにも見下していた結果だ! それが浅井家の怒りに触れ戦になった! そしてお前らは負けたのだ! 浅井家にな!!!」

 

 そういうと、義賢は、

 

「わかった」

 

 といったため縛っているひもを斬らせ、調印させた。

 

「お前らにもこれに調印してもらう」

 

 そういって六角家家臣並びに六角家一族にも調印させた。

 

 ここに浅井家は六角家から完全な独立をしたのだ。

 

 そして、このうわさは全国に一気に波及した。

 

 

 

――近江の鬼神浅井長政、六角家から完全独立

 

 

SIDE信長

 

 ここは岐阜城。以前は稲葉山城と呼ばれ義母である斎藤道三が居城として利用していた。

今宵は良い月が出ている。何かに惹かれるように酒を持って縁側に来ていた。

 

「よい月だ。じゃが、私みたいなものがなぜ・・・」

 

 その月を見ながら私は一口酒を飲んだところに、

 

「御報告申し上げます」

 

 光秀が来た。

 

「なんだ」

 

「浅井長政、六角より独立! 北近江を平定いたしました!」

 

「なっ・・・」

 

 私が、利用された・・・

 

「・・・それはいつだ」

 

「はっ。報告によりますと今日の正午ごろには六角は降伏し、浅井家の独立を認めたもよう!」

 

 と言うことは私が北近江から撤退してすぐに反転、六角を討ったと言うのか・・・

 

「その攻撃は過激。鉄砲隊を上下に分けそれを三段に分け六角隊を壊滅させたところに武田騎馬隊に勝らずとも劣らない騎馬隊で突撃・・・。六角はそのまま敗北」

 

 浅井長政、あ奴何者だ。

 

「敵に回せば恐ろしい男、いや人間だな」

 

「はぁ」

 

「光秀、あやつをここに呼べ。長政をこちら側に引き寄せる」

 

「そ、それはつまり・・・」

 

「なにをボケっとしている。行け!」

 

「は、はい!」

 

 浅井長政、お前ほど私を愉しませてくれる人間がいるとはな。

 

END

 

 

SIDE???

 

 

 ところ変わって川中島

 

「はぁあああああああ!」

 

「でやぁああああああ!」

 

 川の中にある島の上では二人の女性が互いの武器を持って戦っていた。片や風林火山と書かれた軍配を楯に刀を振るい、片や身の丈ほどある槍を振るう。

 

「ふわあぁあ~」

 

「むにゃむにゃ」

 

 そしてその者たちの家臣であろう二人はその川に架かる橋の上で欠伸をかみしめていた。

 

「幸村殿」

 

「なんでしょう、兼継どの」

 

「これで何度目でしょうな?」

 

「さぁ?」

 

 片や六問銭の家紋を背に書いた赤い甲冑に十文字槍をもった若い女性。見た目はショートの紅い髪に同様の色をした瞳。真田幸村である。

 

そして、片や雪のように白い甲冑に兜に愛とデカデカと書いた文字を掲げ女性。見た目は瞳は黒いが、髪はピンクがかった長い髪。直江兼続だ。

 

 そして二人の使える主君はと言うと。

 

「「うぉおおおおおおおお!!」」

 

 片方はおなじみ武田信玄。そしてもう一人は上杉謙信だ。

 

「いい加減ここまで来ると仲が良いとしか」

 

「ですな」

 

 川中島で武田、上杉がぶつかった最初こそこの二人も仲が悪かったがいざ合戦ではなく一騎打ちがメインになるとただの観戦者となり、たがいに苦労する主君を持ったという共感できる部分から仲が良くなった(?)のだ。

 

「幸村様! おや、これは兼続殿も」

 

 そこに武田の赤い甲冑を来た兵士が幸村の元へ来てその場にいた兼続にもあいさつした。

 

「どうした?」

 

「はい。北近江で動きが!」

 

「北近江?」

 

「六角が浅井をつぶしたか、あるいは織田か」

 

「ほぉ。面白そうな話をしているな」

 

「我らも混ぜてくれないか?」

 

「お、御館様!」

 

「謙信様!」

 

 橋の手すりの部分に二人が建っていた。

 

「話せ」

 

「はっ。北近江の動きは浅井軍が織田を破り、さらに六角軍をそのまま撃破。北近江からの独立を果たしたと!」

 

「「!?」」

 

 信玄と謙信はかなり驚いていたが、幸村と兼続は。

 

「浅井が」

 

「やりますな。政元公の軍略は――」

 

 つまり彼女たちは浅井の総大将は政元であり、男である長政がそのようなことができるわけがないと思っていたのだ。だが、

 

「兼続、これは政元公ではない」

 

「では誰が?」

 

「北近江の鬼神」

 

「浅井長政だな」

 

「「・・・・」」

 

 すると、二人は唖然とし、そして。

 

「「えぇえええええーーーー!?」」

 

 

END

 

 

 さてところもどってここは小谷城。

 

「さて、四翼よ、何か言うことはあるか?」

 

 そういってオレは六角とその家臣団が調印、並びにわざわざ頼んでいないのに血印まで押した書状を四翼の前に突き出した。

 

「いや~、お前らが独立だなんだの騒いで何年かかっても成し遂げれなかった独立をこうも簡単にできるなど、オレもすごいな~」

 

 わざとらしくいって四翼の顔を見るとスゴイ悔しそうで、磯野なんか苦虫を噛んだみたいな顔をしていた。

 

 そして、その後ろの庭には六角から押収した武器、武具、現金、鉄砲の数々。

 

「さて、これでもオレが当主にふさわしくないと?」

 

 オレは屈み磯野達の視線に合わせる、

 

「他のものたちはどうだ?」

 

 すると、無論四天王(清貞、清綱、綱親、直経のこと。今日からオレがそう呼ぶようにした。四翼に対抗して!)はむろん。

 

『長政様(御館様・主)で問題なし!』

 

 政元や三成、高虎も問題なしといった。

 

 それを皮切りに他のものたちも長政を当主にするといった。

 

「どうするんだ、お前らは?」

 

 だが黙りきっている四人に、

 

「答えろ! さもなくばお前らにはこの北近江から出ていってもらうぞ!?」

 

『問題ないです!!』

 

 脊髄反射のごとく素早くこたえてくれた四翼であった。

 

「では認めるんだな?」

 

『はい!』

 

 その時後ろに待機していた家臣たちもなぜがガタガタと震えていた。

 

 その後政元たちにその時オレはどんな顔をしていたのかと聞いてみると全員一致で、

 

『般若の仮面が後ろに見えた。それもこっちを睨んで、私たちを喰らおうとしていた』

 

 と答えてくれた。

 

 オレって怒ると怖い?

 

 否! そんなことない! ・・・・と思いたい。

 

 



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第五章 人探し

なんかこっち久しぶりに更新したと思う・・・・・。


 

第五章 人探し

 

 

 朝食時、オレと政元、そして家臣御一行はのんきに朝飯を食べている時に直経のある一言から今日は始まった。

 

「竹中半兵衛?」

 

「・・・はい。かの稲葉山城で謀反を起こし、そのまま稲葉山城を奪いあの道三すらをも苦しめた天才軍師です」

 

「何と言うか、むちゃくちゃだな。で、我が天才軍師こと綱親先生はどお考えで?」

 

「ふぇ!?」

 

 いきなりオレに話しかけられ驚いたのか、はたまたオレに天才だの、先生だのと言われたことに驚いたのか、両方なのか。だが、なんと言うか顔真っ赤であたふたしている綱親は可愛い!

 

「これ、落ちつかんか」

 

「そうやな。つっちーは多少なりと落ち着きと言う物を持つべきやとウチは思うで」

 

 そういって高虎と清綱落ちつくように促す。というか高虎よ、つっちーって色々とまずいような気がするんだが(芸能界の方で)。

 

「は、はひぃ。えっとですね、その半兵衛さんについてでしたよね?」

 

「あぁ」

 

「そうですね。できれば浅井軍に加わっていただけるのであればぜひそうしてほしいですね」

 

「理由は?」

 

 すると綱親は箸を盆の上におき、目線を合わせるため上座に座っているオレの方に向きなおした。

 

「はい。我が浅井軍の軍師と言えば私や三成ちゃんのように後方で指揮を執る軍師はおれど、前線指揮をし、かつ武を振るえる軍師はおりませぬ」

 

「確かに」

 

「どういう意味ですか? その前線指揮なれば主が執れば?」

 

 清貞がもっともな意見をしてくる。

 

「まぁそうなんだが、オレは最前線で武を振るっている。つまり策にまで頭を割る余裕はない。となれば引き際を見極めたり、撤退する敵の追撃をやめさせるための軍師が必要となってくる。ということだ」

 

「なるほど」

 

 そういって清貞はお味噌汁をズズッーと飲む。いや~朝飯はやっぱり和食だよ。洋食だと腹もちが悪い。

 

「あ、綱親も食って話していいぞ」

 

「あ、はい」

 

 そういって綱親は再び箸を取り食事を取り始めた。

 

 すると、お茶を啜っていた三成が、

 

「あと、ボク達の軍の増強にもなりますからぜひとも欲しいですね」

 

「? というと」

 

「ボク達の周りには敵が多いということです」

 

『あぁ~』

 

 このことに全員が納得してしまった。なぜかというと南には独立を許したとはいえ依然油断ならない六角。東に目をやればうつけから魔王となった織田。甲斐の虎こと武田、越後の龍上杉がいる。まぁ、北には古くからの盟友朝倉がいるが、武田、織田、上杉が上洛を目指すとすれば盟友の朝倉を撃破してこなければならない。だが簡単に撃破され北近江に侵攻されるのは目に見える。

だからオレたちの周りには敵が多い。

 

「都に近いからでしょうかね?」

 

 そう、最大の理由は近江のすぐ隣には山城こと京の都がある。故に東の勢力は必ず近江を突破しなければならない。

 

 するとそのことに高虎が、

 

「そう言えば長政さまよ。なぜ都が近いのに上洛しようとなさらなかった? 六角との戦から早日にちがたつというのに」

 

 そう、オレはその後上洛をしようとしなかった。まあ理由は、

 

「それは我らが御館様は天下に興味がないからじゃ」

 

「「・・・はぁあああああああああああ!?」」

 

 そりゃ驚くだろうな。

 

「なぜですか!?」

 

「理由は簡単だ。オレは北近江で満足している」

 

「ですが!?」

 

「なら聞くが今北近江はこの地にすむ人間が全て満足に暮らしていると思うか?」

 

「それは・・・」

 

「ここは昔から農地には向かない。その結果湖岸にすむものたちの漁業によって北近江の経済は成り立っている。だが、それではならん。開墾やそう言ったことをして豊かにしていかねばならない。問題は山積みだ」

 

「・・・・」

 

「あと、北近江と言う小さい国を満足に治められていない人間が天下の政を取り仕切ろうなんて無理だ。天下なんかはやれるやつに任せればいい。だが、その者が北近江の民を泣かすのであればオレはそいつを斬る」

 

 少しの静寂。そして。

 

「やはり長政さまは素晴らしい御人だ!」

 

「そやな、ウチの目に狂いはなかった!」

 

 そういって二人は満足しいた。その時オレはと言うと、

 

「竹中半兵衛か。では会ってみるか・・・・」

 

 オレは誰にも聞こえないようにそう言った。

 

 数日後、オレは小谷城を抜け竹中半兵衛がいる場所を目指して歩いていた。

 

「聞いた場所だとここらへんか。と、その前に少し休憩するか」

 

 そういって近くの茶屋にたちより、茶と団子を注文した。

 

「おや、誰かと思えば長政様じゃありませんか」

 

 笠を脱ぐと、ここの店主がオレのことを言った。

 

「オレのことを知っているのか?」

 

「えぇ、そりゃもう。北近江の独立を助けた英雄じゃからの。こりゃ失礼、勘定は」

 

「普通でいい。今日は一人の旅人として寄っただけだよ。それよりもばあちゃん。無理はするなよ」

 

「へぇ。ありがとうございます」

 

 そういってお茶と団子を置くと再び店内に戻っていった。

 

 オレは出された茶を啜り、今日の空を見上げていると。

 

「お隣、よろしいかな?」

 

「どうぞ」

 

 傘で顔が分からなかったが声から察するに女性だろう。

 

「おや、十兵衛(じゅうべい)さん。いらっしゃい」

 

「あぁ。いつものを頼む」

 

「あいよ」

 

 そういって笠を脱ぐとそこから出てきた顔にオレはびっくりした。長い銀色の髪にルビーのように紅い瞳。今の日本人からは想像できない姿だった。といってもウチの家族の家内もいるけどね。

 

「はいよ」

 

 そういって店主が持ってきたのは一つの酒瓶。どうやら酒らしい。

 

 女性はその酒をそのままラッパで飲んだ。

 

「・・・・・」

 

「ぷっはぁ~。ん? おい、そこの御人」

 

「あ、あぁ! なんだ?」

 

「さっきから見ているがどうした?」

 

「なに、良い飲みっぷりだと思ってな」

 

 事実だ。だがほかにもその飲みっぷり以前にこんなまだ昼ごろにも関わらず酒を飲むとは。

 

「あんた北近江の鬼神、浅井長政だって?」

 

「えらい話の道を変えてきたな。まぁそうだ。なんだ。さっきの話でも盗み聞きしていたのか?」

 

「まぁそんなところだ」

 

 そして十兵衛といった女性は再び酒を飲み、

 

「その一国一城の主がなぜこのような場所に?」

 

 なぜそんなことを聞いてくるのだろう。と思ったがどうせ話してもいいことなので話すとしよう。

 

「竹中半兵衛と言う名軍師を探してここまで来た」

 

「ほぉ。そのような軍師が。ではその者を勧誘しに?」

 

「んにゃ、そりゃ違うな」

 

「? どういう意味だ」

 

「その者の人と成りを見に来たまでだ。そいつがどのような思いをして稲葉山を攻撃したのか。なぜこの北近江に逃げてきたのか。まぁその辺を聞きにな」

 

「ふむ、ではその竹中と言う人が住んでいると思われる場所を案内しよう」

 

「知っているのか?」

 

「なに、ここに住む者は少ない。よそ者が来ればすぐわかる」

 

「なるほど。では頼もう」

 

 そういって彼女の案内をしてもらい来た場所はと言うと、

 

「ここか?」

 

「うむ」

 

 周りを見渡すと一面竹。そしてその竹林の中にぽつりとある古民家。

 

「では、明日また来よう」

 

「なぜじゃ?」

 

「家を見てみろ。明かりがともっていない。これほど薄暗い場所だと火の一つはともすだろう。だが、明かりがついていない。それどころかオレたち以外の気配を感じない。だからだ」

 

「そうか」

 

「ではオレはこれで」

 

 そういってオレは城に戻った。

 

 翌日、またオレはその屋敷に向かうと先客がいた。

 

 その姿は見るからに元気っ子で野山をかけ海を泳ぎ、地を這う! ・・・最後のなんか違うな。まぁそんな元気っ子だ。だが、その子がこっちを向いたときにオレはその子をどこかで―――

 

「お、おまえは浅井長政!?」

 

 見たことあるらしい。だってあっちが知ってんだもん。

 

「・・・・だれ?」

 

「藤吉郎じゃ! 木下藤吉郎! 織田家家臣の!」

 

「あぁ。猿で――」

 

「キーッ猿言うな!」

 

「じゃあ藤吉郎」

 

「気安く名前で呼ぶな!?」

 

「じゃあとうちゃん」

 

「あたしは女だ! てかお前のような子を産んだ覚えはない!」

 

「・・・いやん」

 

「やめろ! 気持ち悪!」

 

「じゃあ吉坊」

 

「どっかの坊主か! てかさっきの話は完全無視!?」

 

「木下」

 

「・・・よし」

 

 木下は「はぁー」、と盛大に溜息をついた。オレこいつ好き。なんつうか初めて息が合うやつに出あった。

 

「なんじゃ、騒がしいな」

 

「おや。あんは昨日の」

 

 そこにいたのは昨日の茶屋であった女性だ。ただ寝起きなのか寝ボケ眼をこすりながら煙管をくわえて出てきた。

 

「貴様が竹中半兵衛か!」

 

「いかにも」

 

 へぇ、あんたがねぇ・・・・えぇえええええええ!?

 

「ん? 気付いておらかったんか?」

 

「え、えぇ、まぁ」

 

「して、小娘。お前の名は?」

 

「織田家家臣木下藤吉郎。竹中半兵衛どの、織田家の家臣となれ!」

 

「とにかく邪魔するぞ~」

 

「おぉ。どうぞ上がれ」

 

 そういってオレは半兵衛の許可をもらって家に上がっていった。

 

「ま、待たぬか!」

 

 その後を追うように木下も来た。

 

 

 

 

 

 

 

「と言うわけで織田家はお主を欲している」

 

 と、木下は言う。まぁざっくり言うと浅井家と同じ理由らしい。

 

「はぁ、我ははっきり言ってそういうのは嫌いなんじゃがな」

 

 どうやら半兵衛は他の家からもスカウトされているらしい。いやぁ人気者はつらいね。とまぁ言っているがオレは家の中を見ていた。

 

「へぇ、この本持ってんだ。うぉ! この槍なかなか・・・」

 

 そういってオレは半兵衛の家の中を物色していた。

 

「イライラ」

 

「しかし本の数はすごいな。それに巻物も多い。種類からして兵法、政(まつりごと)、経済。律令まであるか!? 何ともまぁ」

 

「えぇい! 長政! 貴様少しは落ち着きを持たぬか!」

 

「えぇ~、気にならない? こういう家」

 

「どういう意味じゃ?」

 

 そのことに以外にも半兵衛が食いついてきた。

「だって隠れ家的で、なおかつこう言った落ちつける場所。人と言うのは心のどこかで安らぎを求める。だが世は戦国。それは望まれぬ世界よ」

 

「ほぉ、ではお前が望む世界とはなんじゃ?」

 

「オレは天下には興味ない。ただもし望むのであれば皆が笑って暮らせる世を作りたい。それだけだ」

 

「・・・・なぜそう思う」

 

 以外にもその問いを出したのは藤吉郎だった。

 

「今の世は誰かが死に、その死に泣くものばかりだ。ならば戦など無くなり、皆が笑って暮らせる世を作るべきだとオレは思う」

 

「だがそれは難しいぞ? 例え世が泰平となっても人は必ず長くも短くも死ぬ。そして残されたものは泣く」

 

「あぁ、そうだな。なら医術を改良し人の寿命を延ばす方法を考えればいい。餓死する者がいれば農業のやり方を考え直し餓えをなくせばいい。従来の考え方で人が困るのであればそれを壊せばいい。それで笑顔が増えればそれでいい。オレの夢は皆が笑える夜を作ることだ」

 

「ならなぜ天下をねらわない!」

 

 その答えに怒声でオレに木下は問う。

 

「簡単だ。北近江で手こずっている者が日の本を統一してみろ。政(まつりごと)はうまく機能せず再び戦乱が訪れるだけ。なら天下の政を担えるだけの人間が天下を仕切りオレはそれに従う。だが、人々悲しませるようであればオレは兵を率いてそいつを斬る」

 

 すると、また静寂が・・・って城でもあったよ。ていうか昨日とおんなじことしてるよオレ!?

 

「ふふふっ、ははっははは!!」

 

 その笑い声の本を見てみると半兵衛が腹を抱えて笑っていた。

 

「お、男と言うのは、よ、欲の塊と聞いていたが、お主は違うようじゃ!」

 

「そうか? これも欲と言えば欲だぞ?」

 

「あぁ、そうじゃな。だが、誰もが望む欲、いや夢だ」

 

 すると半兵衛はオレの方を向いて頭を下げ、

 

「我が名は竹中半兵衛、この才、この武。近江の鬼神浅井備前守長政さまに捧げましょう」

 

「なぁあにぃいいいいいい!?」

 

 あ、この声はオレじゃないぞ。とうちゃんだ。

 

「誰がとうちゃんだ!?」

 

「うぉい、読唇術でもあんのかお前!?」

 

「黙れぇえええええええ!!」

 

 すると木下は見事なライ○ーキックをかましてきた。それは見事オレのは鳩尾に決まり後ろに吹っ飛んだ。

 

「あぁー! どう御館様に報告すればいいのだ!?」

 

「信長のことか・・?」

 

「貴様が来やすく御館様の名を口にするな!?」

 

「ま、まて、話し合おう! そのために人には言葉と言う物が――」

 

「問答無用! 言葉で解決すれば戦は起きんわ!」

 

 ごもっともなご意見。再びオレは○イダーキックを食らった。おまえ、アクションスターとかスタントマンの方があってる。後、生きてくる時代間違えてるってお前。

 

 その後、木下はトボトボと岐阜城に戻るといって戻っていった。

 

 そして半兵衛は荷支度をして、小谷に行くといってオレの後ろについてきた。

 

「おや、長政様、どこかにお出かけでしたか?」

 

「ん、ちと野暮用に」

 

「長政の旦那! 良い武器入ってるぜ?」

 

「後で見に行く!」

 

「長政の兄ちゃん。遊ぼうぜ!」

 

「お、良いぜ!」 

 

 と、オレは城下の人々は成している姿を見て半兵衛は目を点にしていた。

 

「あ。主! ここにおいででしたか」

 

 そういってこっちに向かってくるのは清貞だ。

 

「そちらのお方は?」

 

「半兵衛」

 

「今日より世話になる竹中半兵衛と申す。以後お見知りおきを」

 

「半兵衛・・・ま、まさか!?」

 

「そう。あぁ、あとあいつら呼んでくれない?」

 

「ぎょ、御意!」

 

 そういって清貞は城に戻っていった。それを確認すると。

 

「よーしガキども! 遊ぶぞ!」

 

『おぉ!』

 

 そして日が沈みだすと子供を帰しオレは再び半兵衛の元に戻った。

 

「ここは変わっていますな」

 

「そうか?」

 

「そうじゃありませんか。普通君主は城にこもり政を行う。民から見れば恐れ多い方だ」

 

「そうだな。だが、それじゃあ面白くないだろ?」

 

「え?」

 

「民は何を望みどのような政を必要とするか。それを知るためにはオレも城下行き自分の目で見て耳で聞く。書類で出されたものは所詮他人から見聞きしたものだ。百聞は一見にしかず。民の生活が苦しいと書類上で書かれていてもどのように苦しいのか、病? 金銭? 食料? それは自分で見なければ、確かめなければ意味がない。だからオレは交流を大切にする。簡単にいえばここの民はオレの家族のようなものだ。家族を大切にするのはふつうだろ?」

 

「ふふっ。やはりお前は面白い」

 

 それから数時、どろどろの状態でオレは城に戻ると、門番の兵に。

 

「また遊ばれたのですか?」

 

 と聞かれるがその顔はまるで子供を見守る親のような優しい笑顔で出迎えてくれた。

 そして半兵衛を綱親に任せオレは少し早いが風呂に入って身支度を整え半兵衛の元へ行った。

 その場にはいつものメンツが顔をそろえていた。

 

「しかし驚きましたぞ」

 

「はい。私もまさか本当に引き連れてくるなんて」

 

「いやぁ、長政さまには驚かされてばかりやな」

 

「ボクもいつかあの長政みたいな」

 

 と、口それぞれに語っていた。

 

「では、紹介しておこう。これより浅井家に新たに加わる家族竹中半――」

 

「お待ちくだされ長政さまよ」

 

「ん?」

 

「今家族と?」

 

「あぁ、オレは上下関係とか嫌いだ。家臣とか言うのはあくまで表向き。こう言ったメンツだけの場合は家族という」

 

「し、しかし」

 

「諦めなされよ半兵衛殿」

 

「・・・長政様はこういうお方。でも優しい」

 

「兄上は我々が帰る場所を護ってくれる方。そして私たちが帰える場です」

 

「その中に我を加えてくれると?」

 

「あぁ」

 

「良い方ばかりですね。しかし厳しいことを言えば――」

 

「ならその闇オレがすべて背負ってあの世に行こう」

 

「!?」

 

「お前が言わんとしていることは分かっている。光があれば闇もある。ならこいつらには光を見せてやりたい。なら闇はオレがすべて背負う。当然お前の分もな」

 

「・・・・感謝します」

 

 そういって再び礼を取り、

 

「竹中半兵衛、これより浅井長政様に対し一生の忠義を尽くします!」

 

 ここに新たに浅井家の家族が増えた。

 

 名は竹中半兵衛。オレの知っている歴史であれば今孔明と名高き軍師だ。だが、オレは彼女を一人の軍師としてではなく、家族の一員として見よう。そしてその家族が背負う主にはオレも背負い共に歩もう。

 

 そう再び決心する日であった。

 

 



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第六章 同盟と婚姻

 

第六章 同盟と婚姻

 

 

 オレたちは再びある者たちとにらみ合いをしていた。

 

「・・・・」

 

「はぁ、また侵攻ですか?」

 

「今回は違うぞ?」

 

「ほぉ。どのように?」

 

「長政、共に私と上洛しろ」

 

「・・・・はぁあああああああああああああああああああああ!?」

 

 時を数時間前にさかのぼる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は小谷城。

 

「平和ですね~」

 

「そうだな~」

 

 ずずずー

 

「いい天気ですね~」

 

「せやな~」

 

 ずずずー

 

 今ここにいるのはオレ、政元、清綱、清貞、直経、綱親、高虎、三成、半兵衛だ。

 

 ちなみにここ最近賊討伐も終わり北近江一帯はいっときの平穏に包まれていた。

 

 そして今は久しぶりの休みを満喫している。ちなみにさっきから音を立てて飲んでいるのは緑茶。どうやら生産に成功したらしい。

 

「で、綱親。常備兵はどれぐらい集められた?」

 

 ずずずー

 

「はい。全部で五千です」

 

 ずずずー

 

 これは信長が行った兵農分離をオレがパクらせてもらった。こういうとき常時動かせる兵がいるといないとでは違う。だが、数が少ない。

 

「ん~。我が領土ではこれが限界じゃな」

 

 ずずずー

 

「そうですね。主、もともと我が領土は多いですが人口が少ない。やはり農地改革に力を入れるべきかと。直経殿御茶のお代わりなどはどうかな?」

 

「・・・ありがとう。清貞の言うとおり。田畑が増えれば人も増え蔵も潤う」

 

「ん~。そうだな。そろそろ本格的に動く――」

 

 そういって農地改革に力を入れることを宣言しようとしたとき、

 

「な、長政様ー! い、一大事ですぞー!」

 

 そこに来たのは阿閉だった。確か今は脇坂と横山城警備で織田の監視を指していたはずだが。

 

「おぉ。どうした阿閉? お前も茶どうだ?」

 

「あ、いただきます。ってそれどころじゃないんです!」

 

 おぉ、関西出身でもないのに、ノリ突っ込みを習得していまか!?

 

「ん? あれ、お前なんで甲冑・・・まさか!?」

 

「そのまさかです! 織田が動きました!」

 

「ついにか。清貞、直経すぐに常備兵を動かせ。横山に向かうぞ」

 

「御意に」

 

「・・・わかった」

 

「お前らも準備をしろ。政元、高虎、三成は小谷をまもれ。良いな?」

 

「「「御意」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、今に至る。

 

「それでどうしてオレとあんたが? それに我が盟友である朝倉氏とお前らは敵対関係。下手すればオレはあんたと戦うことになる。後ろからグサリなんてない話じゃないと思うが?」

 

「するつもりか? 義と仁の旗を掲げるお前が?」

 

「・・・さぁ? 時と場合による」

 

 またにらみ合い。そこの空気は気らかに重く冷たく、ひしひしと痛い。

 

「だからだ。お前に私の妹を嫁がせる」

 

「・・・・・信長よ」

 

「なんだ?」

 

「風の噂で聞いたがお前は妹大好き野郎。失礼。お前は男じゃなかったな。大好きっ子だろ。その大切な妹をオレにと継がせると?」

 

 まぁ史実ならそうだろう。市と長政の結婚は明らかに政略結婚だ。だが、それでも中睦まじいと書かれている。まぁオレがそのとおりにするとは思えんがな。

 

「そうだ。目に入れてもいたくない手塩にかけた我が最高の宝をお前にやるのだ!!」

 

 その目は輝きに満ちていた。あれ、信長ってこんなにシスコンだったの?

 

「その妹を貴様にくれてやるのだ。どういう意味かわかるな?」

 

 お、おぉ。信長さんの目が戦の時より怖いってどういうこと!? 戦の勝利より妹ですか!?

 

「・・・いかがなさいますか?」

 

「はぁ、仕方ない。おい信長」

 

「なんだ?」

 

「お前は今この北近江を攻めることはないんだな?」

 

「あぁ、無論だ。これが嘘でもし攻撃しようものなら私の首くれてやる」

 

 そういって信長は自分の首を指した。

 

「仕方ないか。全軍小谷に戻る! 先行は清綱! 全員回れ右!」

 

 すると兵士は一糸乱れず回れ右をし、

 

「全体、小谷に向け進め!」

 

 ザッザッザッとこれまた一糸乱れず足を前に進め真横から見てもおそらく乱れず右、左と行進しているだろう。

 

「さて、信長殿。なら我が居城小谷まで御案内しよう」

 

 そういってオレも後に続く。

 

 

SIDE信長

 

 

「光秀、元康。あいつらをどう見る」

 

 私は目の前にいる行進している軍勢を見て唖然とした。

 

「一糸乱れぬ動き、どのような訓練をすれば・・・」

 

 光秀はどうやら訓練方法に秘訣があると考えているらしい。だが私も同じ考えだ。

 

「あの動き、あの時もしあのまま浅井と戦になっていたと考えるとゾッとします」

 

 元康が言うように確かにあの時の軍勢がこれならば数が多いと言えどおそらく我が軍は負けていただろう。事実あの後数で勝る六角と長政は戦をして勝っているのだ。

 

「敵にすれば怖いが味方に回せばこうも頼もしいものはない。最低でも敵味方どちらにもつかない中立にさせておかねば」

 

「確かに。あれで逆に攻められていたら尾張、美濃、三河がどうなっていたことか」

 

 だが、それよりも気になっていたことが私はある。それは、

 

「光秀、元康、猿」

 

「はい?」

 

 すると後ろから駆け足で猿こと木下藤吉郎が来た。

 

「あの旗の意味はわかるか?」

 

 そう、青い旗に仁、白い旗に義と書かれた旗の意味。何かの暗号なのか? いやあの旗は常に長政の下にある。と言うことはいわば馬印だ。

 

「明の旗を用いていますが意味までは・・・」

 

 となると本人に聞くまでか。

 

「私は長政の下に行く。はっ!」

 

 急いで馬を長政の隣まで行かせる。

 

「お、御館様!?」

 

「あ、姐様!?」

 

 その後に続くのは秀吉と元康。光秀はどうやら予測していたらしく兵士たちに指揮を出していた。

 

「ん? おやこれは信長殿。それに後ろからは松平殿に木下」

 

「ぜぇ、ぜぇ」

 

「はぁ、はぁ」

 

「なにやらお疲れのようですな。どうぞ」

 

 そういって長政は後ろの二人に水筒を手渡した。

 

「それで何が用か?」

 

 渡し終えると目をこっちに移す。しかし、立派な馬だ。

 

「で、なんです?」

 

「あの旗の意味は何だ?」

 

「あぁ、白義蒼仁のことですか?」

 

「なんだそれは?」

 

「あの旗の意味は白き純粋な心に義の心が宿り、海のように広く青空のように澄んだ青い心には仁の心が宿る。それを我が旗印として戦っているのです。っとお話はまた別の時に。小谷につきましたよ」

 

 周りを見ると確かに小谷の城下町だ。だが、岐阜などと違い、いや全国津々浦々探してもこのご時世にこれほどにぎわっている町など無い。民たちに笑顔があり、市場には活気にあふれている。そしてそれを買う側、売る側ともに笑顔だ。

 

「これが本当に戦国の世の町なのか?」

 

「す、すごい・・・」

 

 元康と秀吉が言うようにこれは私でもできない。光秀なんかは鋭い視線で街を観察している。おそらく情報を纏め岐阜で実現させようとしているのだろう。

 

「お帰りなさいませ長政様。おやそちらは?」

 

「美濃の信長殿だ」

 

「おや、あの」

 

 私を見てなに思わないのか?

 

「信長さまよ。ここでの戦を起こせばこの民すべてを敵に回すことだということお忘れなきように」

 

 そいってくるのはおそらく政元だろう。

だが周りを見ると確かに政元の言うにこの街は長政やその家臣たちによってここまで成長したのだろう。もしそれに刃を向ければここにすむ全てを敵に回す。それがどれほど恐ろしいか。

 

「あと、ここでは兄上であろうと我々であろうとただの一人の人。皆一つの家族なのです」

 

 そういうと政元は私に向け微笑んだ。『家族』。そんな言葉を聞いたのはいつ以来だろうか。私もこの輪の中に入りたい。

 

 

END

 

 

 さて、場所は小谷城の大広間。そして上座にはだれも座らず左右に分かれ織田・松平と浅井と別れていた。

 

「さて、詳しい話をお聞かせ願いましょうか信長殿。なぜ我らと共に上洛を?」

 

「その前に一つ聞かせろ」

 

「はい?」

 

「なぜ上座に座らない。そして座らせない?」

 

「簡単です。小国であれ大国であれ一国の領主と言う立場には変わらない。背負っているのは人の命。なれば立場は対等でしょう?」

 

「なるほど。納得した。それから先ほどのお前からの質問に関してだがそれは簡単だ。お前は北近江だけで終わる人間ではない」

 

「左様で」

 

 そういってオレは茶を啜る。

 

「興味ないのか天下に?」

 

 すると、煙管を吸っていた半兵衛が、

 

「我が主君は天下には興味がないそうだ」

 

「お前は。竹中半兵衛か」

 

「いかにも」

 

「しかし長政殿。天下に興味がないとは?」

 

 光秀聞いてきた。おそらく理由は半兵衛が聞いてきたように男は慾深いということからだろう。

 

「半兵衛。説明よろしく」

 

「分かった。実はな―――」

 

 と、説明し始めた。いや~茶がうまい。茶の生産させようかな。でも茶よりもまず農地改革だな。

 

「なるほど。長政殿、あなたは欲が無い方ですね」

 

 そういってきた元康だが、この問答も以前したな~。

 

「そうか? オレも人間で男だ。人並みにはあるぞ?」

 

「色欲とかか?」

 

「ぶふぅー」

 

 飲んでいた茶を吹き出してしまったじゃないか! て言うかなにいってんの!?

 

「で、何人に手を出したんだ? 妹とかそこの家臣とか?」

 

「バカか!? 第一こいつらは家族だ」

 

「家族? あぁ、政元のことか」

 

「違う。ここにいる浅井家のものたちだ」

 

「半兵衛たちのことか?」

 

 勝家殿がそう聞いてきたのでオレは素直に首を縦に振り布で口と床をふく。畳にカビが生えたらどうすんだ。

 

「こいつらは家来だろ? なぜ家族と?」

 

「血のつながりなど関係ない。どれだけ相手を理解し、どれだけ相手の子と思い、互いに助け合い、相手の欠点を補いあうかが問題だ。その点から言うと家臣とは四翼たちみたいなことだ」

 

「ほぉ。ではその家族の一員に我が妹を加えてくれないか? 市、市!?」

 

 すると信長殿は部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我が家族たちはあまりの信長殿の性格の変わり振りに目が点となっていた。

 

「気にしないでください」

 

「姐様はいつもこうです。それより長政殿!」

 

 するとずずっと元康殿がこっちに来た。

 

「なんでしょう?」

 

「あなたのその兵法はどこで学んだのですか!?」

 

「え? というと? あぁ、半蔵にでも聞いたか?」

 

『!?』

 

 そういうと、オレは、

 

「そこだ! て、いるわけ――」

 

「見事」

 

 でてきたのは恵比寿の仮面をかぶった忍者。あれ、こないだは狐じゃなかったか?

 

「種類、多い方がいい」

 

「なるほど。あと勝手に人の心を読むな」

 

「?」

 

「あぁ、もういい。と言うか、まさか勘で言ったのがあたるとは」

 

「ならばなおさら見事」

 

「と言うか長政殿はあそこに半蔵がいたのを知っていたのですか?」

 

「まぁなんとなく。それこそあそこに異質が一人でもいれば感じる」

 

「異質?」

 

「あそこには浅井家の人間と六角連中しかいない。にも関わらず別の家のものがいれば異質だろう。それを感じ取っただけだ」

 

「はぁ」

 

「兵法について聞きたかったんだっけ?」

 

「はい!」

 

「簡単に言うと兵法の書はあくまでも知識とし学びそこからの応用は自分の頭で改造、改築した。つまりオレ一人の策だ」

 

「なんと!?」

 

「元康殿もそれができれば信玄公にも勝てるかもな」

 

「本当ですか!?」

 

「あくまでも相手の策にはまらなければな。あと、時間をかけて戦うことぐらいか」

 

 そういって元康にいろいろとアドバイスしていると、廊下からドドドドッと誰かさんに引きを取らない足音を鳴らしてこっちに来た。そして襖をスパンと勢いよく開けると、

 

「これが私の自慢の妹だ!」

 

 そういって連れてきたのは茶色がかった短い髪に青空のように澄んだ青い瞳。一言で言うなら綺麗だ。

 

「その方がお市殿ですか?」

 

「そうだ!」

 

「・・・・・」

 

 だが肝心のお市殿はだんまりだ。

 

「お市殿。一つ聞かせて下さい」

 

 そういって笑顔でお市殿に話しかけた。

 

「なんでしょう」

 

 おやおや警戒心マックスだ。

 

「あなたはオレと婚姻の儀をするのは嫌ですか?」

 

「な!? そんなことはないよな市?」

 

「信長殿少し黙っていてください。オレは信長殿の妹としてお市殿に話しかけているのではないのです」

 

「?」

 

 お市殿も信長殿も、そしてその場にいた人間全員が頭に?をつけていた。

 

「オレはお市殿と言う一人の人に聞きたいのです」

 

「!」

 

 するとお市殿はその口を開いた。

 

「私は嫌です」

 

「市!?」

 

「だって私は姉さんと共に岐阜にいたい! 私は姉さんから離れたくありません!」

 

 おやおや、姉思いに妹思いですか。美しき姉妹愛。あぁ。茶がうまい。

 

「だが、この儀がかなえば・・・」

 

「姉さんは天下と私どちらを取るのですか!?」

 

「・・・・」

 

 すると今度は信長殿が言葉に詰まった。

 

「はぁ。信長殿婚姻の儀は無かったことにしましょう」

 

「長政!?」

 

 ちょうど茶が空になったし時間としてもちょうどいいか。

 

「ただし同盟の件は御受けしましょう。清綱と高虎、半兵衛は兵の食料準備を。直経は六角の動きを探れ。残りのものは兵を集めよ。信長殿の上洛を見るとしよう」

 

「え?」

 

 そういってオレはその場を去ろうとしたとき、

 

「待ってください!」

 

「ん?」

 

 お市殿が声をかけた。

 

「なぜですか? なぜ、婚姻の儀をしないのに姉さんと同盟をするのですか?」

 

「ん~。いいものを見せてもらったことかな」

 

「?」

 

「姉妹愛とでも言うべきかな。家族を大切に思うのであればそれに越したことはない。あなたが信長殿を思う気持ちを見れただけでも十分ですよ」

 

 そういってオレはお市殿のもとへ行き、そっと頭をなでた。そしてなるべく優しい声で相手を落ちつかせるように、

 

「お市殿。あなたにとって信長殿は大切な姉。その気持ちはよくわかります。オレにも妹がいますからね」

 

「ですが、それでは理由になりません!」

 

「無理に好きでもない相手と婚姻しても先は破局という未来。ならあなたの好きな相手と結ばれ未来永劫誓い合った方がいいのではありませんか?」

 

「・・・・」

 

「それはオレでもなければ信長殿が進める相手でもない。自分自身で見つけなければならない。あなたの未来は誰ものでもない。あなたのものなのですから」

 

「しかし、時代は――」

 

「ならオレが時代を変えてみせましょう」

 

「え?」

 

「時代が許さないなら変えればいい。歴史がそれを阻むのであればそれを壊せばいい。伝統が邪魔するのであれば伝統と言う物を無視してもいい。新しい理を作ればいい。それだけです」

 

『・・・・』

 

 その言葉に皆が驚いていた。

 

「所詮そんなものは飾りにすぎません。人の人生はその者の物です。誰かによって阻まれてはいけません。誰かによって奪われてはいけません。市の人生は市のですよ」

 

 そういってお市殿の頭から手を離した。

 

「・・・長政様」

 

「どうした?」

 

「・・・六角条約破棄」

 

「・・・バカが。すぐに戦の準備だ。徹底的にたたきのめす」

 

 そういってオレも戦の準備をするために甲冑着替えようとしたとき、後ろから服を引っ張る感覚を感じた。

 

「ん? どうかいたしましたかな、お市殿?」

 

「・・・・」

 

 お市殿の顔を見ると顔が耳まで真っ赤だった。

 

「あ、あの~、お市殿?」

 

「市でいいです。長政様」

 

「では市!」

 

 さっきまで落ち込んでいた信長殿がいきなり復活した。

 

「私の名は市。未来永劫、長政様の妻として恥じぬよういたします」

 

 そういって頭を下げる。

 

「え、あ、はい。こちらこそよろしくお願いします!」

 

 そういってオレも勢いよく頭を下げた。なにこの恥ずかしいシチュエーション。

 

「いやぁー! 今日はめでたい日よ!」

 

 信長殿がそういうが、オレは結構焦っている。

 

「信長殿一応――」

 

「長政よ。私は今日からお前の姉だぞ?」

 

「へ?」

 

「お前は妹の市を娶った。つまり?」

 

「はぁ、姉上とでもお呼びしましょう」

 

「うむ。よきにはからえ」

 

 かなり満足げな顔をしていた。

 

 その後はと言うと浅井・織田・松平三国同盟が締結された。

 その後オレは急いで甲冑に身を纏い攻めてきた六角を徹底的にたたきのめし来た近江から追い出した。

 その後、戻って来たオレは同盟国と今後の予定を話し合う会議を開いた。すると広間には日本列島の地図が中央に敷かれていた。

 

「さて、では今後どうするかと言うところですね。姐様」

 

「うむ。当分の目標は六角と伊賀か」

 

「伊賀は問題ないかと。こちら側に多くの仲間がいます。それよりもまずは六角と延暦寺と本願寺。まぁ、本願寺は傭兵集団である雑賀衆を金でこちらに引き込めば怖くはないですね」

 

「となると問題は延暦寺か。だがなぜだ?」

 

「一向宗としては大きく敵に回せば恐ろしい。仏を背に戦っていますから」

 

「信仰者がそのままそっくり敵になるというわけか」

 

「策はあるのか?」

 

「半兵衛」

 

「うむ。我が考えるにまず六角を倒し上洛を果たす。後はなるべく帝に取り入れば万事解決よ」

 

「なぜだ?」

 

「いくら一向宗とはいえ帝に逆らえばどうなるかぐらい分かる。鶴の一声がかかればいくら敵対している各大名と言えど逆えまい。逆らえば朝敵よ」

 

「なるほど。となるとどれだけ素早く上洛するかが問題」

 

「なぜですか?」

 

 オレの意見を完全に疑問形で聞いてきた元康。いやこっちこそなぜって聞きたくなるのがわからん。

 

「武田、上杉、北条がどう動くかがわからん」

 

 東にはこの三傑がいる。一角でも動けば姉上不在の岐阜はたやすく落ちる。そう考えたのだが上回る回答がすでに撃たれていた。

 

「ん? それなら大丈夫だ」

 

「は?」

 

「武田とは同盟を済ませた。北条、上杉は武田が抑えよう」

 

「た、武田と同盟をしたんですか!?」

 

「あぁ」

 

 あの甲斐の虎と? 信長、いや姉上すげぇ。

 

「なら明日にでも」

 

「あぁ」

 

「では今宵は小谷の客室を貸しましょう。半兵衛、綱親、三成皆を部屋に」

 

「「「御意」」」

 

 夜、酒宴も終わりオレは天守にて一人月見酒を愉しんでいた。

 

「おや、客人か?」

 

「よっ」

 

「お邪魔します」

 

 そこにいたのは姉上と市だった。

 

 姉上は片手をあげ軽く挨拶し、市は少し頭を下げた。

 

「ほぉ、ここから見る月はまた格別だな」

 

「今宵は満月。美味い酒と月があればそれで十分。余計な肴があったら壊します」

 

「おひとつ」

 

「済まない」

 

 市はオレの御猪口の酒が無いことに気付くと酒を注いでくれる。本当に気の利いた娘だ。オレにはもったいない。

 

「姉上もいかがですか?」

 

「いただこう。初めての弟からの酌だ」

 

 そういって杯に酒を注ぐ。

 

「市も」

 

 そういって市にも注いだ。

 

「しかし、綺麗ですね。ここの月は」

 

「もっと綺麗なのはあそこだ」

 

 そういって二人を手招きして琵琶湖を指す。そこにあったのは湖面に浮かぶ満月。

 

「ほぉ」

 

「きれい」

 

 そういってオレは酒を飲む。

 

「なぁ長政」

 

「はい」

 

「お前は本当に天下に興味はないのか?」

 

「理由は先ほどお話ししたと思いますが?」

 

「そうだが、お前ほどの人間なら」

 

「なら天下は姉上にお任せします。オレはそれを支えるとしましょう」

 

「ほぉ。言うな。なら私はお前の夢をかなえる。お前の夢は何だ?」

 

「皆が笑って暮らせる世を創る。それだけです」

 

「ほぉ。変わった夢だな。あと敬語やめろ。私たちは姉弟なのだから」

 

「そうですね。ではお言葉に甘えて。コホン。これでいいか?」

 

「あぁ。それでなぜお前はそのような夢を語る?」

 

「簡単だ。この日の本で笑っているのはごくわずかだ。民が笑って暮らせる世を創る。簡単そうで難しい。だが、叶えられるなら叶えてやりたい。唯それだけだ」

 

「本当にお前は欲がないな」

 

「本当に。でも皆さんが言ったようにお優しい方です」

 

「・・・だが、結果は矛盾している。オレは何人もの人間を殺め悲しみを増やしている。結果的に守れた者もいれば、殺めた者もいる」

 

「分別をつけろ。お前が護りたい者のために。そしてお前が護りたい者を守り続けるためにな」

 

「あぁ。だからオレは闇を背負って生きていくと決めた。たとえこの手が血に染まっても」

 

 そういってオレは空に孤独と浮かぶ月を見た。

 

「オレにとっての闇夜を照らす一つの光。それが姉上と市なのかもしれんな」

 

 そういって二人を見た。

 

「なっ・・・」

 

「軟派野郎と思われても結構。ですがそれが事実なのかもしれない。闇とはすなわちこの戦乱の世。光とはそれを終焉に導く者」

 

「・・・ならなってみせよう。その光とやらにな」

 

 そういって杯を交わした。

 

 翌日市はオレによく甘えるようになった。まるで政元が二人いるようだ。なぜかわからないが政元とも意気があっていた。

 

「ん~。御館様よ。それはどうかと思うぞ?」

 

「主よ。あたしも清綱さまと同じです」

 

 周りからの視線がいたい。ただ、姉上と半兵衛は大笑いで腹を抱えていた。なぜかというと、オレが胡坐をかいていると(比喩じゃないよ)その中に政元と市がすっぽりと収まっているのだ。

 

「あの、お二人さん。そろそろ?」

 

「ん~」

 

「ふにゃ~」

 

 二人ともオレの胸に猫が甘えるようにほほをなすりつける。なにこの可愛い生き物。

 

「はぁ、好きにしてください」

 

 こうして一時の平和な時間が流れる。本当に一時の家族団らんだ。

 

 



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第七章 上洛

久しぶりのこちらの更新


 

第七章 上洛

 

 

 それから数日後浅井・織田・松平連合軍は六角が居城構える観音寺城を攻撃。数、質共に勝る連合軍の前に六角軍は成すすべもなく敗北。その後六角家は断絶され近くの寺で尼になり隠居するよう命じられた。ここに南近江六角家は消え、南近江は織田領となった。

 

 そして今は京を目指して行軍中。

 

「どうした長政?」

 

 オレの隣には姉上がいた。

 

「いや~、今日はいい天気だと思いまして」

 

「そうだな」

 

 姉上もオレにつられ空を見る。それは雲ひとつない青空が広がっていた。

 

「このような日の空をなんというかご存知ですか?」

 

「バカにしているのかお前は? 青空、蒼天(そうてん)などだろ」

 

「もう一つあります」

 

「ん? なんだそれは?」

 

「蒼穹(そうきゅう)」

 

「蒼穹とな?」

 

「蒼穹の【蒼】は青色のこと、【穹】は空を指します」

 

「だからなんだ」

 

「姉上のような心をした空模様だと思いましたな」

 

「ばっ、バカかお前は!?」

 

 すると姉上の顔が耳まで赤くなっていた。

 

「報告いたします! 前方に三好軍!」

 

「はぁ。またか。今回はオレにまかせてもらいますよ」

 

「好きにしろ」

 

 ある意味すねた感じで言う。

 

「聞け! 浅井の兵(つわもの)達よ! これより我らは死地に向かう。だが恐れるな! 来るものを殺せ! 逃げる者も殺せ! さもなくばお前らが守りたい者の笑顔が、そして、その者の明日がないと思え! これは我らだけの戦ではない! その者たちを守る戦だ! 我に続け! 勝利を我らの手に!」

 

 そういうと浅井軍の兵士は一気に三好軍の兵士に飛びかかった。

 

 

SIDE信長

 

 

 長政は相変わらずいい鼓舞をして兵士たちの士気を高める。そして浅井軍の兵士たちもそれに応えようとしている姿は頼もしいばかりだ。そして前線で戦う浅井軍総大将はもう言葉で語ることができない。いや彼を言葉で語ること自体がおこがましい。

 

 だが、

 

「なぁ元康」

 

「は、はい。何でしょう姐様」

 

「私のことを世間では魔王と呼んでいるよな」

 

「え、えぇ」

 

 そう私は魔王と呼ばれている。だが、ここ最近長政率いる浅井軍の戦振りを見て私は最近こう思い始めた

 

「私の率いる軍は確かに苛烈と自負している。だが長政率いる軍はなんというか・・・」

 

「苛烈を通り越してすさまじいといか言いようがありません」

 

 そう。それは織田や元康の軍の兵士ではまずあり得ないほど壮絶だった。

浅井軍の連中はある者は剣を迷わず相手の顔に刺し、ある者は腕を切り裂き、ある者は足を、我らが軍、いや古今東西探してもこれほどの軍勢はまずあり得ないほど強烈なものだった。

 

 もともと尾張の兵は東海一の弱者などといわれている。一方元康の三河武士は東海一二を争うほどである。

 

 そして浅井が治める北近江の兵は江北の雄といわれるほどの強者ぞろいだ。そんな兵を率い宮古湖近辺の兵が勝てるわけもない。

 

「で、魔王と言われているが、私よりも長政の方が似合っているんじゃないのか?」

 

「いえ、姐様。長政様の二つ名を思い出してみてください」

 

 元康がそう言ったので私は長政の二つ名を思い出した。

 

「北近江の鬼神」

 

「はい。鬼です。しかも鬼の神様。つまり最強と言うわけです」

 

「鬼のようにか。確かにその二つ名に恥じぬな」

 

 だが私はもう一つの彼の二つ名が分からなかった。

 

 それは心優しき鬼神。なにが? この戦を見てどこが優しいのか?

 

 毎回戦を終えると先に行っているためその後のことはよく知らない。だが、毎回長政は戦が終わるたびに遅れて追いついてくる。

 

「(ふむ。今回はその様子見てみるか)長政? 終わったのか?」

 

「あぁ、先に行っていてくれませんか?」

 

「いや、今回は私も残る」

 

「そうですか。全軍気をつけ!」

 

 すると、浅井軍は一斉に背を伸ばしそして、

 

「死者へ黙祷!」

 

 すると、長政はむろんそれまで戦っていた浅井の兵士皆が頭を下げ黙祷をし始めた。

 

 これには私はむろん織田、松平問わず驚いていた。

 

 それからどれ位経っただろうか長いような短かったようなそのような時間に、

 

「止め」

 

 すると、兵士たちも一斉に頭を上げた。そして次に出した指示は、

 

「穴を堀り、死者をそこへ!」

 

 それに従い口に手拭いを当てた兵士どもが大きく掘られた穴へ死者を次々と入れていく。また別の兵士は近くの寺へ赴き坊主を呼びお経を読ませる。死者すべてを穴へ入れると火をつけ、火葬を行う。なぜそこまでするのか。

 

 

「では参りましょうか」

 

「まて」

 

 私はそういって長政の襟元をつかむ。すると、

 

「うげぇ」

 

「あ、すまん。と言うよりあれは何なのだ?」

 

「黙祷ですが?」

 

「違う。なぜ敵対して、殺し合っていた者に黙とうをささげたのかとい聞いているのだ」

 

「死んだ者に罪はない。その生きざまに敬意を示し、この兵士の生きざまを後世につなぐため生きるはずだった命、オレが代わりに生きると伝えたまでだ」

 

 その言葉を聞いて私は全てを理解した。あぁ、そうか。私はこいつの武士としての生きざまに惚れたんだ。私はそう思わざる得なかった。彼こそ真のもののふだ。

 

 私は彼のような本物の武士として生きたい。そう思った。

 

 

END

 

 

 その後連合軍の邪魔をするものはなくすんなりと上洛を果たした。

 

 だが、オレが最初に見た京は、

 

「これは酷い」

 

 あちこちが破壊されていた。もはや雅(みやび)な都と言う美しい響きの物ではなく廃墟と言う荒んだものでしかなかった。

 

「応仁の乱か」

 

 さて、ちなみに言っておくが信長は用意も何も無く上洛を果たしたのではない。室町幕府十三代将軍足利義輝が三好三人衆と松永弾正に殺害された。たまたま京にいた明智光秀がまだ幼さが残る足利義昭を連れ岐阜に戻るとこれを好機とみた信長は帝に上洛することを決意。さらに帝から綸旨(りんじ)(簡単にいえば上洛して帝を助けろという命令書)を大義名分にし、上洛した。

 

「まぁこれを見たらそりゃそうなるわな」

 

 さて、今オレたちがいるのは姉上が京の時によく使う寺。そうあの有名な本能寺だ。

 

 そのご連合軍は京復興の部隊として治安維持や建造物の建築などやることを急がせた。ちなみに資金などは朝廷、貴族から無理やりださせた。

 

 そして今オレはと言うと、

 

「まさか貴族衣装に身を包むことになるとは」

 

「しかし御似合いですよ。兄上」

 

「はい。政元の言うとおりです長政様」

 

 市と政元もどうやら仲良くしているらしい。共通の話題はオレらしいが。

 

「ほぉ、なかなかにあっているじゃないか」

 

 そこに来たのは姉上だった。と言うか姉上、あんた反則だ。

 

「きれー! 姉さん!」

 

「はい。姉上、おきれいです」

 

 姉上は十二単を来ている。簡単に言うと御雛様みたいな恰好。

 

「そ、そうか?」

 

 なんかオレの中の信長像が音を立てて壊れていく。だが、オレはこっちのほうが好き!

 

 すると、姉上がこちらをチラチラと目線を向けてきた。

 

(ほら、兄上。姉さんに何か言ってあげてください)

 

(だ、だが、オレはそういのに・・・・)

 

(思った子を言葉にすればいいのですよ)

 

「(そうなのか?)あ、姉上?」

 

 オレも緊張のあまり声が裏返ってしまった。

 

「そ、その、お、おきれい、ですよ。何と言うか、その、それ以外の言葉が出ないぐらいに・・・」

 

 すると、姉上と政元、市も唖然としていた、すぐに姉上以外が、

 

「兄上もこういう姿を見せるのですね」

 

「なんか新鮮です。近江の鬼神も女性の前では唯のとこというわけですか?」

 

「お、お前ら!?」

 

 その言葉にオレは驚愕したが、姉上は、どこか浮ついた状態だったが、その直後すぐに立ち直り。

 

「で、では行くか!」

 

 オレも姉上を追って廊下に出ると、その後ろ姿はかなりの上機嫌であった。

 

 さてオレたちが向かったのは天皇がいる御所。といっても女尊男卑の世界のため天皇も女性らしい。だが、貴族の中には男もいるらしい。

 

 どうせ金で買った冠位だろうがな。

 

「こちらになります」

 

 そういって案内された場所はさすがに小谷城とは比べ物にならないほど広い大広間だった。左右両方には男女ほぼ同じぐらいの貴族たち。ていうかお歯黒に白化粧って気持ち悪!

 

 上座には簾がかかっているが影だけだが天皇もまだ幼いみたいだ。

 

「織田弾正よ、浅井備前守。此度の活躍御苦労だった」

 

 すると一番帝に近い人間がそう言った。

 

「いえ。私なんかにはもったいないお言葉」

 

「織田弾正よ。貴殿に正一位太政大臣の座を与える」

 

「要りませぬ」

 

 姉上は何ともきっぱりと答えた?

 

「では、義昭公を助け副将軍か管領にでも?」

 

「いいえ。私は今のままでいいです。今のままで成すべきことをするまでです」

 

「成すべきこと?」

 

 帝が珍しく問いを投げかけたのか周りの人間が困惑している。

 

「はい。家族を大切にしたいと思います」

 

「!?」

 

 姉上の言葉にオレは驚いた。おそらくオレの言葉を借りたのか、はたまた、オレが彼女に影響したか。まぁどちらにしてもうれしい。

 

「家族?」

 

「はい。ここにいる長政は我が弟です。そして妹、家臣。全てを守れるものになりたいのです」

 

「ほぉ。立派な」

 

 オレは姉上の言葉に心底感心している。だが、だからこそ怖い。なるべく早くあの出来事回避せねば。

 

「して、長政よ」

 

「は、はい」

 

 まさかこっちに振られるとは予想外。

 

「男の身でありながら北近江一国を収める力。立派よ。そしてこれだけの立派な姉を支える男もそうはいまい」

 

「ありがたきお言葉。オレなんかにはもったいない」

 

 その後堅苦しい会議も終わりオレは本能寺に戻るとその場にいたのは織田家最強の柴田勝家と松平家最強の本田忠勝がいた。

 

「おや、これは御館様に長政殿」

 

 勝家殿はこちらに気付くと一礼し、忠勝殿も一礼した。

 

「そうじゃ長政。お前二対一であいつらと勝負しろ」

 

「・・・・はぁ?」

 

「良いから早く早く!」

 

 まるで駄々をこねる子みたいにせかす。

 

「では、少しお待ちください」

 

 そういってオレも着替えを済まし身動きが取れやすい服を選んできた。

 

「では、はじめ!」

 

 そして今日一日忠勝、勝家との勝負に付き合わされた。

 

 そして翌日、朝の始まりは不機嫌な顔をした姉上からだった。

 

「いかがなされた姉上?」

 

 だがその問いの答えは帰ってこなかった。代わりに長秀殿が、

 

「朝倉が信長様の上洛し従属の意を示すように申しつけたのですが返事が」

 

「まぁ、大体予想はした。ですがもし越前を攻めると言うのであれば我らはこのまま小谷に戻ります」

 

「なんで?」

 

 そう怒った顔しなさんなって。

 

「我らと朝倉は盟友。されど織田家とも同盟を結んでいる身。なればどちらかに加わるより中立を貫いた方がどちらの義にも叶います」

 

「なるほど」

 

 そのことを聞いた信長は少し考え、

 

「仕方ない。若狭攻めだけで済まそう」

 

「ほっ」

 

 しかしもう一つ大きな問題が残っていた、

 

「延暦寺はどうします?」

 

「あの糞坊主どもか。だれか何かいい案があるか?」

 

「ふむ。なら正覚院(しょうかくいん)豪(ごう)盛(せい)を呼びじかに話し合うべきかと」

 

 オレの出した結論に誰もが仰天した。なぜなら、

 

「それは無理だな。あ奴らと私たちは敵対関係。どうやっても――」

 

「なら仲介役にオレが行こう。あと近衛殿にも来てもらうか」

 

 そういってオレは今日にある近衛邸に向かい豪盛を本能寺に呼んでもらった。

 

「本当に来たんだ」

 

「近衛殿と浅井長政のお呼びなら仕方あるまい」

 

 そこにいるのは一人の尼さんだった。

 

 そこから今すぐ武器を捨て、普通に念仏唱えてろと姉上が言うと、豪盛は身を護る上で絶対に必要といいはる。どっちもどっちだが、いい加減あきた。

 

「ふわぁああ~」

 

 オレが大きな欠伸をすると、二人がこっちを睨んできたので。

 

「お前らはガキか」

 

 と言ってしまった。

 

「なに!?」

 

「長政どういうこと?」

 

 豪盛は完全に切れ、姉上は笑顔でこっちを見る。

 

「豪盛、異教徒であるお前らがなにほざいてんの?」

 

「異教徒だと!? 由緒正しき――」

 

「ほざくな!」

 

 オレは覇気を込め豪盛に言い放った。

 

「我が国の元来の宗教は八百万の神々に感謝する神道! にもかかわらずその教えを解かず大陸の渡り宗教を広めるとは何事か!? ましてや信長公はその神道における天照大御神様の御子孫である帝の命を受けた方! その方の命を背くことどのように思うか!?」

 

「うっ・・・」

 

「キリシタンを異教徒と呼ぶのであればお前らも異教徒であろう! それ以前に仏の教えに人を殺めることは禁止行為であろうが!? それを行う武器を僧が持つとはその教えに反する! 延暦寺を創った創設者に現状を見たら嘆くぞ!? なぜこのように人道離れた弟子を持ったのかとな!」

 

 その言葉に豪盛は何も言わずただただ反省ばかりしていた。

 

「今すぐ武装を解き仏の教えを説くことのみに集中せよ!」

 

「だ、だが?!」

 

「い・い・な!?」

 

 するとオレの周りの気温が一気に下がりまだ冬になっていないにもかかわらず皆震えていた。

 

「はい!!」

 

「なら早々に戻り武装を解け!」

 

 そういうと豪盛は急いで延暦寺に戻りといた武装をすべて連合軍に寄贈したのはこののちの話。

 

「お前、容赦ないな」

 

「この世で一番怒らせたらいけないのはもしかしたら姐様より長政殿だったりして・・・」

 

 そう思うと織田家家臣たちは浅井家家臣たちを見て、

 

『お前ら苦労してるんだな』

 

 と、憐みの目で見たらしい。そしてそれに反してオレたちの家族は、

 

『もう慣れました』

 

 と言わんばかりの眼をしたらしい。

 

 その後、市が加わり市の特等席(オレの膝の上)に座り、再びのんびりとお茶の時間が来た。

翌日、夜明けと共に浅井家臣と織田家臣が姉上の一言によっておこされた。そこには一枚の報告書が姉上のもとに書状を渡されていた。

 

「ふむ。やはり朝倉は邪魔だな。排除しよう」

 

「・・・え?」

 

 姉上? 昨日に言った言葉と矛盾していませんか?

 

「朝倉は私の再三の上洛を拒否した。これは十分宣戦布告に値する」

 

「お、お待ちください! 姉上。同盟条約では我らの盟友朝倉を攻めることはないと!」

 

「そうも言えんなった。朝倉が私が占領していた若狭の城を攻撃した。これは明らかな宣戦布告だ」

 

 姉上は京上洛後若狭にいる一揆衆を攻めるため昨日京を出立後一夜にして若狭一国を占領した。その後朝倉と国境を交えることになったためオレは急遽、朝倉とは戦を起こさないよう懇願し姉上はこれをよしとした。

 

「・・・・」

 

 にもかかわらず朝倉は織田を攻撃した。オレは朝倉と言う人間が分からなくなった。今織田の持っている城を攻撃すればどうなるか分かっているはずだ。下手をすれば浅井を敵に回す。

 

「長政。お前は中立でいろ」

 

「・・・というと?」

 

「小谷に戻れ。そして私が良しと言うまで兵を動かすな。良いな」

 

「御意」

 

 姉上がそう言うなら仕方ない。オレはそう思い翌日兵を整え北近江、小谷城に向かい出立した。

 

 



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第八章 金ヶ崎追撃戦

先にこちらが出来上がったのでこちらを投稿します。
久しぶりのリハビリのため若干おかしなところもあるかと思います。


 

 

第八章 金ヶ崎追撃戦

 

 

 オレが小谷城に戻るとすでに夜だった。だが、それにしては小谷城は明らかに静かたった。

 

「なんだこれは? 開門せよ! 浅井家当主浅井長政だ!」 

 

 するとゆっくり城門が開きオレは入城する。

 

「ん? おい」

 

「はっ! なんでしょうか?」

 

 オレは明らかに城の兵士が少ないことに疑問を抱き近くの兵に聞くと、

 

「はい、木之本に連れていかれましたよ?」

 

「木之本に? 誰が?」

 

「四翼と久政さまです」

 

「はぁ!? 誰が親父を竹生島から呼び戻した!?」

 

「え、長政様じゃないんですか? 長政様の命で四翼が・・・」

 

「ま、まさか、あいつら・・・」

 

 その言葉を聞いてオレは嫌な予感がした。この時期姉上は朝倉が若狭を攻めたことを皮切りに朝倉に宣戦布告をし一乗谷に向かった。そして父久政は木之本へ。これから予測されること、

 

「金ヶ崎・・・」

 

「いかがなされた御館様?」

 

「直経、すぐに木之本へ行け」

 

「・・・どうしてですか?」

 

「いいから行け! そこに親父の陣がある。そこから情報を持ってこれるだけ持って帰って来い!」

 

「・・・ぎょ、御意」

 

 そういって直経はすぐに向かった。

 

「オレたちはこのまま小谷に残る。場合によっては父と合流する。武装はこのままだ。良いな!」

 

『応!』

 

 オレは一室に籠もり直経の帰りを待った。今宵は冷えた風が出ていたので市は自室で早めに眠らせた。だが、恐らく起きているのだろう。

 

「・・・長政様」

 

「どうだった」

 

「・・・久政様、義景と共に信長公を挟撃するものかと」

 

「・・・・」

 

 オレは苦い顔をしていただろう。歴史が動いた。それも最悪の形で。

 

「・・・今なら間に合います! 止めに――」

 

「もう遅い。親父はおそらく動いただろう。場所はここからだと金ヶ崎。あそこの地形は大軍で行動するにはきつい」

 

「・・・で、ですか!」

 

「浅井の不始末はオレの不始末。当主であるオレが甘かったからだ。・・・!」

 

 オレはふと外を見るとそこに一つの影があった。おそらく市だろう。

 

「やむ無しか」

 

 そういってオレは二つの書状をかきとめ、それを持って市の部屋に行く。

 

「市、いるか?」

 

「!」

 

 市は後ろに何かを隠しているようだった。おそらく袋の両端を縛った小豆袋だろう。おそらくそれを陣中見舞いに送り挟み撃ちの危機を伝えるつもりだろう。

 

「市、これを姉上の元へ届けてくれ」

 

「これは?」

 

「浅井と朝倉が姉上を挟撃しようとしていることを書き留めた書状と、そこからの退避路だ」

 

「!?」

 

「オレは浅井家の不始末にけりをつける。おそらく二度と織田と肩を並べることはできんだろう。最悪どちらかが負ける」

 

「そんな! もう一度話し合えば!」

 

 そんなことも考えた。だがオレは首を横に振った。

 

「無理だ。オレがそうでなくても浅井家と言う家は織田に対し刃を向けた。もうその時点でオレがとる道は決められている」

 

「そんな・・・・」

 

「市、最初で最後の命令だ。お前は織田に戻れ」

 

「い、いやです!」

 

「市!」

 

「!」

 

 思わず大声を出してしまったがここで引いたらいけない。例え嫌われてもいい、たとえもう二度度会いたくないと思われてもいい。お前は生きてくれ。

 

「お前はもう浅井家の人間ではない! お前は織田の人間だ! オレの敵の人間だ! ならお前の帰る家はここではない!」

 

「そんな・・・」

 

「お前との婚儀は破談とする! 早々にここから―――」

 

「そ、それでも嫌です!」

 

「!?」

 

 どうしてそんなことを言う。オレは嫌われる言葉を言ったのだ。嫌うはずだ。嫌ってくれ。そしてそんな目で見ないでくれ。

 

 

SIDE市

 

 

 長政様にひどいことを言われた。浅井の人間じゃない。敵の人間だ。

 

 でも、その目からはそんなことを思わせる色が出ていない。

 

 

 むしろ苦しそうだ。

 

 

 悲しそうだ。

 

 

 なんでこんなにも優しい人がこんなことをしなければならないのだろう。

 

「お前との婚儀は破談とする! 早々にここから―――」

 

 イヤ! そんなのぜったいに嫌!

 

「そ、それでも嫌です!」

 

 長政様と離れ離れになるなんて嫌! 絶対に離れたくない!

 

「私は浅井の人間です! 例え長政様がそう言おうとも私はあなたの妻です」

 

「・・・・まだ、そんなこといってくれるか・・・・」

 

 長政様のほほから涙がこぼれる。あぁ、この人もやはり辛いんだ。なんでこんなことになったのだろう。

 

「頼む、頼むからお前だけでも生き延びてくれ」

 

 長政様が抱きしめてくれる。あぁ、あったかい。この人のぬくもりだ。

 

「・・・許せ。市」

 

「え・・・」

 

 すると私のお腹に衝撃が走る。

 

「な・・・が・・・まさ・・・・・さ・・・」

 

 そこで私の意識が飛んだ。

 

 

END

 

 

「済まない市。清綱、直経、綱親、清貞」

 

『ここに』

 

「市を織田方まで引き渡しに行け。そしてお前らは二度とここに戻ってくるな」

 

「え・・・」

 

「・・・いまなんと?」

 

「もう一度言ってやろう。二度とここに戻るな。これは命令だ」

 

「御館様! 我らも共に!」

 

「ならぬ!」

 

 オレも辛いんだ。だからさっさと行ってくれ。嫌ってくれ。

 

「これは命令だ。お前らは織田のために忠義を尽くせ!」

 

「あたしは主の家臣です! 他の者になんて!」

 

「私もそうです!」

 

 オレは拳に力が入る。それは手のひらから血が出るほど力が入ってしまうほどに。

 

「誰かいるか!」

 

「こ、ここに」

 

 そこにいたのは阿閉だった。

 

「この者たちは謀反人の疑いがある。そこの四人と市をこの北近江から追放しろ!」

 

「え・・・・」

 

「これは命令だ! さもなくば!」

 

「ぎょ、御意! おい、こいつらを連れ出せ!」

 

「お、御館様!?」

 

「・・・・すまない」

 

 オレは一言そう言った。

 

 その後兵士たちに連れられ五人はその場から去った。

 

「・・・ははっは。オレも悪人になったものだ。それに、オレは」

 

 

 

 

 

 

 

 

――歴史を変えれなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 この先に待つことは予期している。だがせめてあいつらだけでも生き残ってほしい。

 

 乾いた声しか出なかった。だが、その場にいた人の気配に感じ、

 

「政元達も城から出て行け。罪を背負うのはオレだけでいい」

 

「いいえ。私も浅井の人間。兄上と共にします」

 

「政元さまがそういう以上ボクも」

 

「せやな。ウチもこれ以上の主君はもう二度度現れんと思うし」

 

「我も付き合うぞ。共にあの世にも行ってやる」

 

「ありがとう。そして済まない」

 

 その後オレは城の正門に来ていた。

 

「これより我らは我が一族の恥をはらしに行く!」

 

 すると兵士たちは「何だ」という顔をしてた。

 

「我が父久政と四翼が朝倉と共に我が姉信長を討ちに行った!」

 

 兵士たちはその言葉にざわめき始めた。

 

「我らは四翼と父を討ったのち一族の恥を払しょくするために朝倉と共に織田を討つ!」

 

『え・・・・』

 

「これはオレたちにとって不義の戦い。オレは織田と朝倉に不義を通すことになる。そして両方に浅井の義を見せつける! 皆、オレについてきてくれるか?」

 

 すると、やはり戸惑いもあるだろう。困惑もするだろう。軽蔑する者もいるだろう。オレは罵倒されることを覚悟した。だが、

 

「オレたちは長政様と共にある!」

 

「長政様のためにならこの命なんぼのもんじゃ!」

 

「あ、ありがとう!」

 

 そういってオレは頭を下げる。そして、

 

「全軍進撃する!」

 

『応!』

 

 

SIDE(元)四天王

 

 

 長政に追放されてしまった四天王は小谷城の裏門から城外に出された。

 

「なぜ、なぜなんですか、主?」

 

「・・・長政様」

 

 清貞と直経はなぜ長政がこのような行為に及んだのかが分からなかった。

 

「綱親よ。お前は何かわかるか?」

 

「おそらくこれが原因かと」

 

 そういって取り出したのは長政が市に渡した書状だった。清綱も綱親からその書状を見ると、

 

「なるほどな。御館様。やはりあなたはお優しい。自分の命よりも我らの命を大切にするなど普通なら考えれまい。だが、それがあなた様のよさでしたな」

 

「え? どういうことですか?」

 

「これを見ろ」

 

 そういって二人にも見せた。

 

「・・・長政様、あなたと言う人は」

 

「ど、どうします?」

 

「なら、お市様を信長公の元へ連れて行くまで」

 

 

END

 

 

 

SIDE信長

 

 

 許せ長政。これも我が天下布武のため。

 

 私は一乗谷にいる朝倉に向け進軍を続けていた。そして今は日が暮れてきたため行軍をやめ野営の準備をしている。

 

「お、御館様」

 

「なんだ光秀?」

 

「は、はい。信長様にお会いしたという方が」

 

「? 誰だ」

 

 すると、天幕に入って来たのは長政の家臣四人と市だった。

 

「なんだ、お前ら。朝倉の進撃をやめよと長政が送って来たのか?」

 

「いいえ、長政様がこれを姉さんに」

 

 そういって手渡したのは二枚の書状。しかしそれを受け取ると市はボロボロと涙を流していた。それを見た私は驚いた。

 

「まさか!?」

 

 私は市の様子を見て嫌の予感が走った。奪うようにその書状を受け取り読み始めるとやはりその予感は当たった。外れてほしかった。心から本当に外れてくれと願ったのはいつ以来だろうか。

 

「・・・長政」

 

 私はあまりにも信じがたいことに驚愕した。

 

「御館様?」

 

「市、これは本当か?」

 

「はい。これを姉さまにお渡ししようとしたとき長政様が来てこの書状をと」

 

 そやってみせるのは両端をしばった小豆袋。つまり挟撃の意味だ。

 

「なぜだ、なぜだ長政!?」

 

 私はあまりのことに混乱した。

 

「こ、これは・・・」

 

「!?」

 

 光秀や秀吉もあまりのことに衝撃を受けていた。

 

 その内容は。

 

 

 

 

 

 

 

『姉上へ

 此度の不義と姉上に牙をむけることお許しください。此度の不始末は当主であるオレが家を監視できていなかったことにあります。この罪オレがすべて背負います。故に市と浅井家の家臣においてはなにとぞお許しください。あなたと暮らした日々楽しかったです。

 

 

 

追伸 もう一枚の方にその場からの撤退路をかいてあります。そこにいる浅井家はオレが信用できるものです。これを見せ京へお戻りください。

                                    長政』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すると、兵士が一人来て、

 

「御報告! 後ろに三つ盛亀甲の紋! 浅井家謀反!」

 

 嘘じゃなかった。嘘であってほしかった。長政が、長政が!

 

「・・・全軍京へ撤退! 浅井と朝倉の挟撃がくる! 急げ!!」

 

 長政、なぜだ、なぜなんだ!? 私が朝倉を攻めたからか!? 私が天下に名をはせようとしたからか!? なにがいけなかったんだ? 教えてくれ、長政!

 

 私はその場にいるはずもない長政に向け何度も何度も問いただした。だが当然帰ってくる答えはない。

 

 

 

 

――次は敵

 

 

 

 

 その言葉だけが重くのしかかった。今までそんなこと気にしたこともなかった。向かってくる敵は蹴散らすだけ。だが、今これほどこの言葉が重くのしかかったことはなかった。

 

 

END

 

 

「姉上は撤退したか?」

 

「はい。殿は秀吉どのみたいです」

 

「そうか」

 

 オレはその場に縛った五人の姿を見た。一人は父久政、そして残りの四人は四翼だ。

 

「なぜ勝手な行動を取った?」

 

「我らが浅井家の盟友を放っておけるか!?」

 

「織田など伝統ある朝倉の前では露程でもないのだ!」

 

 あまりにも惰弱すぎる。誰が見てももう朝倉は滅びるしかない。織田は地位と名声をほしいままにし今なお駆け上がる。それこそ龍のごとく。だが、朝倉義景は酒におぼれ金におぼれた。そんなものに天下など来ない。ましてや義昭様をかついで京へ上洛するチャンスもあったにもかかわらずそれを見逃した。そのようなものにこの世は任せれない。

 

「だがお前らは当主であるオレの命令に背いた。これがどういうことか分かるな?」

 

「・・・・どういう意味じゃ」

 

 そうか父は知らないのか。

 

「オレは朝倉と織田の戦いには不参加、中立の立場を取った。だが、それをお前らが破った。こうなった以上浅井は嫌でも織田と戦わねばならない」

 

 そういうと、オレは刀を抜く。

 

「ならば戦神に捧げものを捧げねばらならない」

 

「ま、まさか!?」

 

「や、やめ―――」

 

 そしてそこに大きな血だまりができた。

 

「我らは織田と戦う! だが当初の予定通りに進める。いいな!」

 

『応!』

 




さてはて、金ヶ崎撤退戦の次はと聞かれると・・・・・・みなさんご存知ですよね?
なるべく早く上げれるといいなと思っていますが、まぁ頑張ってみます!


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