ソードアート・オンライン――紅の聖騎士と白の剣士―― (焔威乃火躙)
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出会い後再会
本日より『ソードアート・オンライン――紅の聖騎士と白の剣士――』が投稿されました。皆さまにご愛読して頂けるよう頑張りますので、本日より宜しくお願いします。度々、アンケートをとることもありますので、ご協力お願いします。
以上、ニュースアート・オンラインでした。
2022年11月6日、とある一軒家の一室でベッドに仰向けになって眠っている人がいる。いや、正確には『ナーブギア』を被って仰向けになっているだけで眠っているわけではない。では、その者は一体何をしているのか?ただ茫然としているのではなく、来るときに備えているのだ。
そして、13の刻を指すと同時に口元から溢れんばかりの笑みを浮かべ、暗闇の先にある世界に向けて叫んだ。
「リンク・スタート!」
ゆっくりと目を開くと、そこは縦横約4メートル高さ約2メートルの一室ではなく、正面には石畳の広場で数十人の人々が会話しているようだ。その奥には通りがあり、端を埋め尽くさんばかりの露店が出ている。一通り辺りを見回したら、視線を落とし自分の右手を見つめた。2,3回動かすと、大きく深呼吸する。
「ついに、来たんだ。この世界に……」
込み上げる歓喜をその顔に浮かべ、静かに呟いた。
此処は世界初のVRMMORPG『ソードアート・オンライン』、鋼鉄の浮遊城を己の剣技で攻略していく世界。そして、俺は『
まず、右手の人差し指と中指を合わせ上から下に降り下ろすと鈴のような効果音と同時に《メインメニュー》が現れる。少しそれを見ていると、後ろから声をかけられる。
「君、この世界は初めてか?」
驚いて勢い良く振り返って見ると、そこには銀色の髪を持った赤服の男が立っていた。巨大な壁が佇んでいるかのような威圧感に襲われたか後ろに飛び退いた。
「お前、誰だ?」
神経を張り巡らせ警戒しながら、声を低くして問い掛ける。銀髪の男は慌てた様子で答える。
「いや、何も君に危害を加えようとしているわけではないんだ。ただ、良ければレクチャーしてあげようかなって思ったのだが……」
質問の答えになってないと思いながらも、一つ溜め息をつく。
彼の装備を見て襲われる危険が無いことを確認すると、警戒を解き、さっきの答えについて聞き返す。
「『レクチャーしてあげようかな』って、何で俺が初心者だと?」
「……何と無く、かな」
今の回答にイラッとしたのか、さらに口調を悪くして問い詰める。
「『何と無く』で人を初心者呼ばわりかよ。確かに、プレイヤー10000に対してベータテスターは1000人ほどだから、10%の確率だがよ。そうだとしても、初めて会った人に向かってそれはないだろ」
すると、彼は失笑し、
「いやいや、これは失礼した。しかし、なかなか良い見解だが、1つだけ間違いがある」
「間違い?」
「君は初めて会ったと思っているようだが私達は以前に会ったことがあるのだよ」
彼の発言に少し動揺した。無理もない、たとえ現実で会っていたとしても此処はゲームの中、アバターを自身の現実の姿と同じにする人はほとんどいない。そんな中で知人かどうかを見分けるのは至難の技。にもかかわらず、彼は会ったことがあるというのだ。普通なら誰でも驚く。
「お前と会ったことがあるって、一体お前は誰なんだ?」
「フッ、君とは長い付き合いではないか。霧谷君」
その言葉を聞き、レイは動揺を隠し切れなくなった。
「何で、その名を知っている?……まさか、茅場先生!?」
彼は無言で頷いた。
茅場明彦、『ナーブギア』及び『ソードアート・オンライン』を作り出した人であり、レイの恩師である。
「しかし、何故私だとわかったのですか?あなたにプレイヤー
「私は
それからもGM権限で出来ることをいろいろと説明していく茅場。正直、反則だろうと思いながらも聞いている。
一通り話終えると、本題へと移行する。
「さて、どうするんだね?」
「では、お願いします」
「うむ、では改めて、ヒースクリフだ。この世界では上下関係は無しでいいね?」
「わかりま……んんっ!あぁ。俺はレイ。宜しくな、ヒースクリフ」
咳払いをし言い直す。慣れない感じではあるが……こうして、2人はフィールドに向けて駆けていった。
あれからどのくらいの時間が経っただろうか。ひたすら、モンスターを切り裂いては《ソードスキル》の練習台にして、モンスター達にとって見れば散々なものであろう。俺もだいぶ様になってきたがまだまだ至らぬものも多い。
夕陽が差し、鮮やかな緑色の草原をきれいな茜色に染めていた。そのすぐ近くの丘に先生が夕陽を見つめ佇んでいるのが見えた。俺も開いていた《メインメニュー》を閉じて、先生のいる丘に向かった。
「先生~!」
「レイ君、此処では上下関係は無しだよ」
「あ、すまん。つい……」
こんなやり取りを何度繰り返したことか。やはり慣れない……
「それよりもレイ君、見たまえ」
そう言って顔を 西の方角へ向けた。つられるようにして見てみると、そこには夕陽をバックにして天高くそびえ立つ塔が茜色に輝いていた。それはまるで燃え盛る巨大な火柱のようだ。
「どうだい?この世界は」
「最高。その一言しかない」
「そうか……」
先生はしばらくあの塔を見つめていた。でも俺には先生が塔を見ているようには見えなかった。何処か遠くを見ているように見えた。あの塔の遥か彼方を……
『……すまない……』
不意に先生が何かしゃべった気がした。 そして、フィールド全域に、いや、この世界全域に鳴り響く鐘の音がこの世界にダイブしたプレイヤー全ての常識を覆すものと知るのは、このすぐ後のことだった。
DATE
《rei》
主人公、一人称は『俺』、身長170前後、何処にでもいそうな顔立ちのアバターで髪と瞳は白、左腰に片手直剣を装備している。茅場明彦とは
ゲームの世界で再会を果たした2人
そんな彼らに告げられるのは残酷な事実
この世界の真の姿を目にしたとき
彼らは何を思うのか
次回『全ての始まり』
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全ての始まり
主人公のレイの容姿で何か参考になる意見・要望を募集しています。何かいい案のある方は感想の欄に書き込んでください。可能な限り意見・要望を取り込むことできるよう努力します。たくさんの意見・要望をお待ちしております。
以上、ニュースアート・オンラインでした。
鐘の音がフィールドを包んだと思ったら、今度は俺の体が青白い光に包まれた。
光が消えると、そこは茜色に染まっていた草原から石畳の広場にいた。俺はいつの間にか《はじまりの街》の広場にいた。
辺りを見回すと、いくつかの青白い光からプレイヤーたちが出てくる。その時初めて転移させられたことに気づく。
すぐ近くにいる先生……この世界ではヒースクリフに一体何が起きているのか聞こうとした。だが、なにやらそわそわしている様子だったので気が引けてしまった。
何故こんなことになったのか理解できずに困惑していたとき、誰かが空を指差し叫んだ。ふと見上げると、夕焼けの空を埋め尽くす赤いウィンドウ、そして、巨大なローブ姿の顔無しアバターが現れた。
『プレイヤー諸君、私の世界へようこそ。私の名は茅場明彦、今やこの世界を制御できる唯一の存在だ』
茅場明彦、奴ははっきりとそう言った。
つまり、あのアバターは先生だということであり、同時にこの状況を造り出した張本人でもある。しかし、今俺が把握しているのは、俺たちは先生によってここに集められたことと先生以外の者はこの世界をコントロールすることができないということだけだ。
そんなことを考えていると、巨大なアバターが再びしゃべり出した。
『すでに
俺は唖然とした。ログアウト不能?現実世界に戻れない?HP0になったら死ぬ?一体、先生は何を考えているのか?理解できない、先生は何を考えているか全くわからない。今にも頭がパンクしそうになる。
だが、この状況を確かめる方法はある。それは、ログアウトしてみることだ。もし奴の言うことが事実だとすると、ログアウトしようとすると何らかのトラブルが起きるはずだ。俺はすぐに《メインメニュー》を開きログアウトボタンに指を運ぶ…………ことができなかった。
理由は単純だ、
そして、奴の言うことは事実であると証明されたのだ。俺たちはこの世界で死ぬのかと思った。そして、内心読んだかのように奴は口を開く。
『だが、この世界から脱出する方法は1つだけある。それは、この鉄の城、《アインクラッド》を攻略しゲームクリアすることだ』
《アインクラッド》の攻略、奴はこれを脱出の条件とすると言った。《アインクラッド》は全100層の階層でできている。そして、各層の最終エリア、迷宮区の最深部には強力なボスモンスターが存在するという。それを100回も繰り返さなければいけない。プレイヤーたちは口々に文句を放つ。だが、現状ではそれ以外の方法はない。
『では、最後に私からのプレゼントだ。アイテムストレージに送ったので確認してくれたまえ』
そして、アイテムストレージを開くとそこには〈手鏡〉があった。何故これを?と思い先生の方を見た。先生は周りを見回していた。すると、誰かの声と同時に青白い光が現れた。それはみるみる広がっていき、『はじまりの街』は青白い光に包まれた。その眩しさに俺は目を閉じた。目を開いて周りを見回したが何も変わってない気がした。だが、何やら騒がしい。よく聞くと、現実の体になっていると言ってる。その時、俺は先生の現実世界で言ってたことを思い出す。
『これはゲームであっても遊びではない』
俺は今やっと、先生がこの世界を造り出した意味を理解した。この世界は単なるゲームではなく、
『これで『ソードアート・オンライン』の正式チュートリアルを終了する。諸君らの健闘を祈る』
と言い残し、奴は赤いウィンドウと共に消えていった。
プレイヤーたちの大半は取り乱し、怒り、嘆き、荒れ狂っていた。他の者たち早々にこの場を離れて行く。
俺と先生はしばらくその場に立ち尽くしていた。《はじまりの街》の広場には俺たちしかいなかった。
「……先生……」
「何かな?」
「……これから、どうするつもり何ですか?」
「そうだねぇ、取り敢えず狩りをしてアバターを強くするかね」
「そう……ですか……」
話が続かない。
無理もない、いきなり死の宣告をされたのだ。しかも、俺が一番慕っていた人から告げられたのだから、動揺しない方がおかしい。
「君はどうするんだい?」
「私は……」
「君も来るといい。歓迎するよ、レイ君」
答えを出せずにいた俺に先生が手を差し伸べてくれた。
あの時のように……
「はい……よろしく、ヒースクリフ」
こうして、2人の旅は始まりを告げたのだ。
DATE
《heathcliff》
メインキャラ、茅場明彦のアバターであり
突然告げられるデスゲームの始まり
そんな世界で2人は何を描くのか
そしてこの世界の真実を求め
ボスに立ち向かう
次回『ボス攻略戦』
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ボス攻略戦
新たに新キャラクターが登場することが決定しました。キヤラネーム、容姿、性格、役職、CVは後日情報が入り次第お伝えします。
以上、ニュースアート・オンラインでした。
デスゲームが開始してから、もう1ヵ月くらい経った。その間に約2000人ものプレイヤーがこの世界から去り、階層は未だに第1層だ。そしてついに、第1層ボス攻略戦の作戦会議が開催される。
〈トールバーナ〉、ボス攻略会議が開かれる場所だ。俺は1人でこの会議に出席するだ。先生改めヒースクリフは『今回のボス戦は遠慮しておこう。私は全てのモンスターの攻撃パターン、ウィークポイントを全て知っている、そんな奴が現れたとなると正体がバレかねないからね』なんてとこを言って今回は参加しないようだ。
会議の行われる噴水広場にはすでに人が集まっている。ざっと見て40人ってところか。
ゲーム開始してからようやく次の階層への兆しが見えてきたのだ。そのため多くのプレイヤーがこの茨の道を切り開かんと集まっていたのだろう。あるいは、私欲の為に闘いに身を投じる者もいるだろう。
ここに来る道中、ヒースクリフから聞いた話によると、ボスを倒す際に『ラストアタックボーナス』というシステムがあり、超がつくレア級アイテムをドロップできるらしい。最も、それを知るのは『βテスター』ぐらいだとも言ってた。
そんなこんなしてるうちに会議が始まった。指揮を執るのはディアベルというプレイヤーで青髪の片手剣使いだ。彼は話に入る前にパーティを組むように言う。俺を含め片手剣使い2名、斧使い1名、槍使い3名の6人構成のパーティに入る。
だいたい組み終わったところで本題に入ろうとすると1人のサボテン頭のプレイヤーが前に出て叫ぶ。
「わいはキバオウ。こん中におる奴らで死んでいった2000人に謝らなアカン奴おるやろ!あの日、『ビギナー』を見捨てて自分らはええ狩場やアイテムを独占して自分らだけ強くなりよった『βテスター』共に土下座さしてアイテムや武具を全部吐き出して貰わな、共に闘う者として命を預けられへんし、預かれへん!」
そのプレイヤーの言う事もあながち間違いではない。だが、あまりにも度が過ぎる。アイテムはおろか武器も全て渡すなんて、そんなことをすればボス攻略に行くなんて出来るわけないし、自殺行為同然だ。
「発言いいか?」
同じパーティの色黒男が出る。
「なんや、お前!」
「俺はエギル。このガイドブック、あんたも知ってるよな?」
そう言い、手帳サイズの小さな本を取り出す。
「あぁ、それがどないした」
「これを配っていた奴は
この一言で会場はざわついた。
「誰でも情報は手に入ったにも関わらず多くの人が死んだ。俺はそうならないための会議だと思うのだが?」
その言葉に反論できないのか、サボテン頭のプレイヤーは黙って席に戻る。エギルというプレイヤーも席に戻ると会議を再開する。
その後の会議の話を要約すると、ディアベルのパーティがボスを発見し、その情報とガイドブックを頼りにボス攻略の作戦をたてた。そして、明日のボス戦に向け各自準備ということで解散した。
俺はフィールドに出て、右手に持った剣を振るう。近くにいる《フレンジボア》を斬り倒し、片手剣ソードスキル[バーチカル・アーク]を解放した。
「……なんかすっきりしない……」
会議の間ずっと感じていた違和感、その正体がわからないままずっと気になっている。
「浮かない顔をしているが何かあったのね?」
ヒースクリフが街の方から歩いて来る。
「それが分かれば苦労はしないさ」
「ふっ、違いない」
そう言って空を見上げる。今は星が綺麗に輝く夜中だ。そんな星空を眺め、ふと思い出したかのようにしゃべり出す。
「だが、その悩みの存在に気付いているということは君には何かが見えているのであり、同時に見落としているものがあると気付いているということでもある」
「何かが見えていて何かを見落としている?」
「そう、違和感というのは脳が無意識に矛盾点、不可解な点があると認識しているが故に起こる現象。つまり、何か不可解な点に気付いている反面、それを裏付けるものあるいは繋りに気付いていないからこそ起こるのだ。それを忘れると、いつかきっと後悔することになる……」
そう言い残して、彼は闇の中に消えていく。
翌朝、俺たちは迷宮区に向けて歩いている。最終確認のためにガイドブックをチェックする。
そして、ふと死んだ者たちのとことを思う。これを持っていながらも、『βテスター』含め多くのプレイヤーが死んだということに悔やまれるものがある……あれ?
何か引っ掛かる。『ビギナー』はともかくとして『βテスター』がこんなところで死んだということが不可解に思えた。不意をつかれた、あるいは油断が招いた悲劇、だが
この間、ヒースクリフと共に黒鉄宮に訪れたとき、死者の記録『生命の碑』を見たとき、ヒースクリフが死んだ『βテスター』は100人くらいだと言ってた。今の可能性で死んだとしてもせいぜい20人だろう。
「何で……ここまで?」
「お~い、何やってんだ!置いてくぞ!」
50メートルくらい先にいるパーティメンバーに呼ばれ、慌てて駆けた。
『まぁいいか、大したことじゃないのかもしれないし』
しかし、俺はこのときまだ気付いていなかった。この判断の先の結果に後悔にすることを……そして、このデスゲームの本当の恐ろしさに……
DATE
無し
ついにボス戦開始
頭に残る靄を抱えながらも戦場にて剣を振るう
しかし戦況は
思いもよらない結末を迎えようとしていた
次回『違和感』
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違和感
近々アンケートをとる予定をしています。内容は原作死亡キャラの生存あるいは復活の希望調査を行う予定です。詳細は後日改めてお伝えします。もし、希望キャラがいる場合、この作品の感想にお書きください。
以上、ニュースアート・オンラインでした。
俺たちは今、第1層ボスが待ち構える迷宮区最深部のボス部屋に向かっている。昨日の会議とガイドブックでボス共の大方の情報を頭に叩き込む。そして、最速かつ最小限の被害で終わらせるよう策略を練る。ディアベルの策もあるが一応のために考えておくのだ。
そして、ボス部屋の扉前にたどり着く。ディアベルが扉を後ろにメンバー全員に告げる。
「みんな、ここまで来たら俺から言えることはただひとつ。勝とうぜ!」
「おぉ!」
ディアベルの言葉に続きメンバー全員も士気を上げる。
そして、扉は重々しい音をたてゆっくりと開く。
「行くぞ!」
ディアベルの掛け声に続き、ボス部屋へ雪崩のように攻め込む。
部屋の中央で《イルファング・ザ・コボルドロード》と《ルイン・コボルド・センチネル》 がポップし、プレイヤー軍とモンスター軍が激突する。俺も目の前の《ルイン・コボルド・センチネル》と対峙する。
センチネルはそこまで強くはない、一撃一撃を油断せず正確に躱し、一撃ずつ打ち込んでいく。どのくらい攻撃を躱したか、その隙に攻撃した確実にHPを減らす。そしてHP0になった瞬間、センチネルの体は青白く薄れていき、破裂音と共にポリゴン片へと砕け散った。
《イルファング・ザ・コボルドロード》もHPバー2つはすでに尽きて、残るHPバーもレッドゾーンに差し掛かる。
情報によれば、ここで武器をタルワールに持ち換えるはず、そこからは攻撃を躱してダメージを与えていけば勝てる。
ここまで死者は1人も出ていない。あとはボスを撃退するだけであり、油断しなければ死ぬことはない。みんなで押しきれば、犠牲者は1人も出ないだろう。
だが、ディアベルは単独でボスに向かっていく。俺は彼の行動が理解できない、全員でいけば確実に仕留めれるにも関わらず、単独で挑むメリットなんて何も無い……わけでもない。
しかし、俺は自分の目を疑った。視線の先にはコボルドロードに向かっていくディアベル、そして武器を持ち換えたコボルドロードがいる。武器はきれいな曲線を描いたタルワール……いや違う!あのまっすぐ伸びきった刀身、あれは野太刀、刀だ!ディアベルは気づいていないのか止まる気配がない。
「ダメだ!全力で後ろに飛べ!!」
後方で必死になって叫ぶ声もむなしく、野太刀の軌跡はディアベルを切り裂き吹き飛ばす。さらに、無慈悲に襲いかかるソードスキル[浮舟]を食らいディアベルは空を放物線を描き倒される。
「ディアベルはん!!」
「くそっ!!」
まともにソードスキルを食らって無事なはずがない。ディアベルはすぐ近くにいたプレイヤーに何か言い残し、彼はポリゴン片へと変貌した。
「そんな……」
「……ディアベルっ!」
戦況は、はっきり言って最悪だ。ディアベルの死でメンバー全員が動揺している。ここまではさらに犠牲者が出かねない。だが、ここから立て直すのも困難だ。
そんな状況の中、2人のプレイヤーがコボルドロードに向かっていく。コボルドロードも2人に突進し長い刀を振り上げる。
黒髪の片手剣使いは降り下ろされる刀を弾き上げ、後方のフードを被った
しかし、奴も黙ってはいない。体勢を立て直すとフードプレイヤーに向かって刀を振り下ろす。
「アスナ!」
黒髪の剣士が叫ぶ。ダメージを受けなかったが、フードは攻撃により耐久値を切らし消滅する。
その中からは栗色のロングヘアに容姿端麗でありながら敵を睨むその目は凛々しく勇ましさを放つ女性プレイヤーが現れる。
そして黒髪剣士とスイッチし同じことを何度も繰り返す。着実にHPを減らすがそう何度も上手くいくわけもない。
コボルドロードは[幻月]で2人を吹き飛ばす。黒髪の方は攻撃を受け、すぐに立つことができない。コボルドロードは2人に近づき、刀のゆっくりと持ち上げる。
2人のプレイヤーに向かって振り下ろすそのとき、エギルが2人の前に出る。両手斧ソードスキル[ワールド・ウィンド]で奴の武器を弾く。コボルドロードは飛び退き、体勢を立て直す。
俺たちも前線に出る。エギルは黒髪剣士たちに向かって叫ぶ。
「あんたたちが持ち直すまで俺たちが支える!」
「2人だけで無茶するな!今は任せろ!」
コボルドロードの攻撃をことごとく防ぎ、少しでも時間を確保する。2人の体勢が整えば大方どうにかなるはず。
だが、さすがはボスモンスター、ガードを崩され無防備な状態になってしまう。
追い討ちを駆けるようにコボルドロードは上空高く飛びソードスキルの構えをとる。
「危ない!」
絶体絶命のピンチに黒髪剣士が駆けつけるがこのままではあとわずか届かない。そう悟った彼は[ソニック・リープ]でスキル発動寸前のコボルドロードの背後をとり切り崩す。
不安定になり地面に叩きつけられたコボルドロードに追い討ちを駆ける2人の剣士。
奴の攻撃を黒髪剣士が弾き、スイッチし細剣で攻撃する女剣士。再びスイッチし[バーチカル・アーク]を発動させてボスのHPを消し飛ばし、コボルドロードは断末魔をあげ青白い欠片へと変貌した。
俺たちは勝ったのだ。第1層ボス攻略戦はプレイヤー軍の勝利で幕を閉じた。
「やった~!勝ったぞ!!」
「これで次の層に行ける」
歓喜の声が絶えることなくボス部屋に響き渡る。俺もエギルやパーティメンバーとハイタッチを交わす。そして、窮地に陥った攻略隊を救ってくれた2人のプレイヤーの元にいく。
「congratulation!素晴らしい戦いだった。この勝利は君のものだ」
「ありがとう。エギルだったか、助かったよ。そっちの君もな」
「この隊を救った君に比べたら大したことじゃないさ」
「お疲れ様、なんとか次の層へ行けるわね」
アスナと呼ばれていたプレイヤーも話に混ざって来た。
「おう。しかしアスナ、すごい手慣れだったが何かやって……」
「なんでや!!」
黒髪剣士の話を割って、キバオウは叫んだ。
「なんでディアベルはんを見殺しにした!お前はボスの使う技知っとたやないか!」
「そ、それは……」
「きっとあいつ元『βテスター』だ!だからボスの技を知ってて隠してたんだ!」
ガヤが騒がしくなっていく。便乗や嫉妬といったひん曲がった感情が見える。
「ちょっと待って!ここにいるプレイヤーを救ったのは彼よ」
「別に隠すつもりもなかっただけかもしれねぇじゃねぇか!」
「うるせぇ!ベーターを庇うってことはお前らもベーターなんだろ!他にもいるはずだ!隠れて奴出てこいよ!!」
アスナとエギルの言葉でさらに過激になってしまった。もう和解なんて望めない。そう思った矢先、不気味な笑い声が響く。
「『βテスター』?俺をあんな奴と一緒にしないでもらいたいなぁ。『βテスター』当選者の大半がレベリングも知らないド素人だったよ。お前らの方がまだマシだ。そして、俺は誰も到達できなかった層まで登ったんだ。刀スキルは上の層で刀を使うモンスターとさんざん闘って知ったんだ。もっと知ってるぜ?情報家なんて問題にならないほどにな」
嘘だ。ヒースクリフは10層すら到達されなかったって言ってた。彼が嘘をつく理由、彼は1人で背負っていくつもりなのだろう。
「なんやそれ……そんなんチートや、チーターやん!」
「そうだ!ベーターでチーター、『ビーター』だ!」
「ふん。『ビーター』か、そうだ、俺は『ビーター』だ!これからはベーターごときと一緒にしないでくれ」
彼は
「キリトくん!」
アスナが彼を呼び止める。
その後の会話までは聞こえなかったが、キリトがたった1人で第2層へ行くのをただ見届けることしかできなかった。
俺はしばらくボス部屋に残ったままでいた。あのボスに殺されたディアベルのことを考えていた。
あの時、奴の餌食にならず共に討伐できたのではないか?俺は誰よりも早くに違和感に気付いていた、それを言ったからといって何か変わるというわけでもない。それでも、少しくらい警戒心が上がったのだろうと思うと後悔でいっぱいになった。
ヒースクリフがいってたことが今になって理解できた。
もしそれで、ディアベルを死なせずに済んだなら、こんなギスギスした状況にならなかっただろう。そしたら、キリトも1人で背負い込むこともなかっただろう。
それができたはずの自分に怒りを覚え、悔やんだ。
それでも、進まなければならない。死んでいった者たちのためにも……
DATE
《kirito》
全身黒ずくめで片手剣、盾無しという一目で区別がつくほど分かりやすい特徴を持ったプレイヤー。元『βテスター』で第1層攻略後は『ビーター』という二つ名を持つ。ソロでの活動を主とする。
第1層攻略から1年
攻略の最中、思い返すはあの日の惨劇
激闘の末に刻まれし意思と共に
彼が動き出す
次回『血の盟約』
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血の盟約
今作はオリジナルソードスキルが出てきます。実際にどのようになるのか確認して書いたので、言葉通りに体を動かす方がわかるかも知れないので是非やってみてください。
以上、ニュースアート・オンラインでした。
第1層攻略してからもう1年が経つ。この鋼鉄の城も半分近く攻略し折り返し地点に来た。このままのペースで行けば、あと1年ほどで100層目までいけるだろう。だがそれは、あくまでこのままのペースで行けばの話だ。
そう思い始めたのは25層ボス攻略のときだ。
2023年3月31日、第25層『クリーゼリット』、迷宮区ボス部屋前、その日はクォーターポイントのボス攻略のため30人弱の部隊できた。この頃はヒースクリフはまだ攻略に参加していなかった。それでも、被害を最小限まで抑えてあの層までやって来た。
この頃攻略を指揮していたのは『アインクラッド解放隊』と呼ばれるものだった。第2層から攻略の主戦力を担う団体と言っても過言ではない。
その他、『ビーター』と罵られながらも攻略隊の中でも片手の指に入る実力の持ち主であるキリトやそのパートナーのアスナ、さらには少数とは言えど有力候補と言えようギルドのメンバーも参加している。もちろん、ソロプレイヤーとして俺もボス攻略に参戦する。
これまで24層も攻略してきたからかみんな少し落ち着いているようにも見える。しかし、そんな中でもいざ攻略となるとやはり強張ってしまう者もいる。そして、今回のボス攻略戦は苦戦を強いられると予想されているのでなおさらだ。
今までも5の倍数の階層は他の層のボスより厄介だということもこれまでの経験で頭に刷り込まれている。
かといって、ここで引き下がるわけにもいかない。結果、やるしかないのだ。そう意を決しボス部屋の前に佇むプレイヤーたち。
鋼鉄で出来た扉は先頭プレイヤーにより重々しい音をたてながらゆっくりとボス部屋への口を開く。ガコン!と大きな音と共に扉は止まる。
プレイヤーたちは中に恐る恐る入っていく。そこはオレンジの光に照らされ、壁に彫られた紋様は古の大戦を連想させる地獄絵図のように禍禍しいもの。
そして、その部屋の守護神と言わんばかりの覇気を纏ったモンスターが1体、俺たちは愚か今まで戦ってきたボスとは比べ物にならない巨体に豪腕の握り締める物はこれまた、えらい優れものの斧2種類をフロアに突き刺している。全身を固そうな皮膚で覆いその胴体の上には首元から2つに分れ、紅い瞳の右頭と青い瞳の左頭が仲良く並んでいる。そいつの頭の上あたりに3本のHPバーと《The bicephalic giant》という表示が現れる。ザ・ディサファリック・ジャイアント、双頭の巨人それが奴の名なのだろう。
「ゴキャャャャャャ!」
奴の咆哮がこの部屋を、いやこの迷宮区全域を振動させる 。
「怯むな!行け!」
奴の咆哮に続き、攻略組の何名かが奴に向かって突進する。タンク隊が前方で攻撃を受け止め、スイッチやサイド、バックから攻撃をする手はずになっている。
「さぁ、こい!」
「グォォォォォォ!」
ディサファリック・ジャイアントの右腕の赤色の柄の斧を横一線に凪ぎ払う。
「な!?」
ディサファリックの下段の一撃でタンクの体勢を意図も容易く崩す。攻撃部隊はその一瞬を目の当たりにし立ち止まってしまう。
完全に無防備な状態のタンク隊に無慈悲な一撃が放たれる。あまりに一瞬の出来事で理解が追いつかない。気づけば、タンク隊のほとんどがイエローゾーンに突入していた。中には、攻撃に耐えきれず光の欠片となり、2度と帰らぬ身となるものも少なからずいた。
限界近いタンク隊にさらにもう1発強力な一撃が飛んでくる。
「させるか!」
キリトが猛ダッシュでディサファリックの左腰を捉える。そのおかげでタンク隊へ攻撃は届かなかった。
「一旦下がれ!!回復するまで大人しくエリア外にいろ!」
俺はタンク隊を下げさせる。さすがにアインクラッド解放隊の統括者のキバオウもここまで呆気なくやられたのを見て動揺している。
「俺がこいつの攻撃を引き受ける。その間にサイドから攻撃を!」
キリトがそう叫ぶと同時に奴は両方の斧をキリトに向け振り下ろす。上手くかわしダメージは受けていないようだが、1人でどうにかし続けれるほどのものでもない。
なら、俺も奴の攻撃を何とかしよう。
「左の斧は俺が引き受ける。右の方を頼む」
「あぁ、任せた!」
ディサファリックの左上から青い柄の斧が降ってくる。その程度なら難なくさばける。ズガン!とフロアを叩き割る勢いで斧が地面にのめり込む。チャンスと思った俺は奴の左腕を狙う。
あと5センチぐらいのところで、赤斧が左より下段水平斬りが炸裂する。攻撃があたる瞬間、武器で防御したためダメージは抑えられたが、直撃していたらHP半分は持っていかれただろう。
ダメージを抑えたとはいえ、吹き飛ばされ地面に4,5回ほど体を打ち付けられた。めちゃくちゃいてぇ。だが、のんびりしている暇なんてない。
さっきの攻撃は元々キリトに向けて放たれたもので俺は巻添えを食らっただけだが、今俺がいない状況ということはキリトは2つの斧を相手にしているということだ。早く戻り応戦しなくては。
「おらぁぁ!!」
怒号と共に片手剣ソードスキル[ヴォーパル・ストライク]を発動。俺の愛剣はオレンジの光に包まれキリトに向け振り下ろす青斧に突進する。
その衝撃で奴に隙が出来る。その隙にキリト[ホリゾンタル]、しばらくして硬直がとけた俺は[シャープ・ネイル]を打ち込む。
みごとに決まったがそれでも今やっとHPバー1本目の半分くらいだ。今のでその内の半分を削ったってことはサイドの方はどんだけ硬いんだよと思った時だった。
「なぁ、投擲スキルとってるか?」
そう問うと、
「とってるがどうした?」
「俺が時間を稼ぐから奴らのどっちかの両目を潰してくれないか?」
「……わかった」
キリトはそう言って、バックステップで奴らから距離をとる。
その間、俺が時間を稼がなけばいけない。左右上下より飛んでくる斬撃をことごとくかわす。
そして、遥か上方でドス!ドス!と音がする。すると、青斧を手放し左手で左頭の目を抑えいる。
だが、奴も黙ってはいない。右斜め後ろから半円を描くように広範囲攻撃を繰り出す。あれは片手斧ソードスキル[クラッシュ・スイング]、その名の通り凄まじい威力を誇る一撃が襲う。それに巻き込まれ消滅したプレイヤーも少なくない。そのほとんどが『アインクラッド解放隊』メンバーだった。
俺も片手剣ソードスキル[ヴォーパル・ストライク]で迎え撃つ。互いの武器は大きく跳ね上げられ大きな隙が生まれる。
「スイッチ!」
キリトが後ろからトップスピードで入り込む。
硬直が解けると同時に全力でバックステップする。キリトの剣は綺麗な青いエフェクトを放つ。片手剣ソードスキル[バーチカル・スクエア]、4つの軌道が奴の胴体に刻まれはっきりとした四角形を残す。
それを食らったディサファリックは大幅に体力を失いHPバー1本の消し飛ばした。全員一旦退避する。俺は奴が動く前に手短に話す。
「あいつの弱点は胴体部分だ、俺たちがあいつの体勢を崩す。みんなであいつを仰向けにしてくれ!」
「だがよ、あいつの斧2本をたった2人でやれるか?強力なソードスキルが来たら……」
プレイヤーの1人がそう言う。
「あいつはそれぞれの頭で片腕しか動かない。それなら、2人でも対応はできる。もしソードスキルが来たら、どっちか一方の頭を突けば2人でもう一方の相手ができる」
もちろん、根拠もろくに聞かされないですんなりと理解するなんて出来るわけもない。しかし、そんな時間は俺たちにはない。ぐずぐずしている中、1人の言葉が響く。
「もう迷ってる暇はない!この作戦に掛けよう!」
アスナだ。彼女の言葉で何とか纏まった。その時にはもうすでにディサファリックがすぐそこまで迫っていた。
「いくぞ!」
おう!とキリトの掛声に答える。
ディサファリックが両サイドよりソードスキル発動の体勢をとる。そこへキリトがピックを取り出し投擲スキルを発動。キリトの手より放たれた2本のピックは右頭の目に一直線に向かっていく。スキル発動する頃には両目に着弾しスキルは中断した。
しかし、左腕の青斧はライトグリーンに染まり、俺に向かって左下段水平斬りを放つ。片手斧ソードスキル[グランドスライス]という下段水平斬りからの垂直斬り下ろしの2連攻撃。威力は[クラッシュ・スイング]のように強力ではない、俺は[シャープ・ネイル]を発動し奴の攻撃を弾き、残った一撃を打ち込む。
そこへメイス使い4人がかりで奴の膝を叩き折る。たちまち、奴の背は地に打ち付けられ仰向けの状態になる。
「今だ!」
キリトがそう叫ぶと雪崩のようにプレイヤーたちが押し寄せる。容赦なくソードスキルを叩き込む。
みるみるディサファリックのHPは減り、あっという間に2本目のHPバーも消滅した。ラスト1本となるとさすがに奴は体を起こす。
「よし、下がれ!」
「キリト、いけるか?」
「あぁ」
俺とキリトはすぐに構える。
ディサファリックは大きく左右に斧を振り上げる。今の奴らは互いに通じ合ってるように攻撃体勢に入る。先に動いた方が負ける、俺たちはただ時を待つ。
痺れを切らしたか振り上げた斧を勢いよく叩き落とす。それを2人がかりで受け止める。あまりの重さに腕が悲鳴をあげそうだ。それでも、ここで奴らの攻撃を許せば勝ちは遥か遠く離れてしまう。筋力パラメーター限界まで力を振り絞り押し返す。バギン!!と鼓膜が破れそうな金属音がボス部屋に響く。
ディサファリックは大きく体勢を崩す。そこへアスナが飛び込んでくる。疾風の如く横をすり抜けると、首元に向かって突進する。[フラッシング・ペネトレイター]、その一撃はディサファリックを一瞬宙に浮かせた。
ドドド!!と大きな音をたて倒れるディサファリックにまたしてもスキルの雨が降り注ぐ。最終的には俺が[シャープ・ネイル]を発動し体力を消し飛ばした。その瞬間、ディサファリックは光の欠片となり四散する。
ディサファリック・ジャイアントを倒したことに歓喜の声が上がる。
「おつかれ、ナイスアイディアだったぜ」
疲れ切り座り込んでいたところにキリトがやってきた。
「サンキュー。君のおかげで何とか倒し切ることができた」
「そう言う君の案がなければ確実に敗走を余儀なくされていたよ。そう言えば、あいつの弱点いつ気づいたんだ?」
その質問をしてきた時、ボス部屋は静まり返っていた。
「あいつらが片腕しか動かせないと思ったのはあまりにも動きが悪かったのに気づいたからだ。あいつら、片方が作った隙に気づいていないことがあったからもしかしてと思ってな」
「なるほどな、中々やるな」
「そうでもないさ、さぁ、下らない話は終わりにしてそろそろ行こう。もうくたくただ」
「フッ、全くだ」
そう言って、26層のアクティベートに向かう。
あの後、『アインクラッド解放隊』は攻略組から脱退した。あのボス戦で大きな痛手を負い、攻略を続けるのは難しいと判断したのだろう。あの日のことをヒースクリフに話すと、さすがの彼も唸った。
「多分、この先攻略ははかどらなくなる」
「そうだな……そろそろ私も動くとしよう」
「どうするつもりだ?」
うむ~、と唸るといつもの冷静な声で予想外のことを口にする。
「ギルドを作ろう。無論、私が団長だ」
声には出さなかったが内心とても驚いた。プレイヤーとの接触は極力避けていた彼が自らギルドのリーダーとしてゼロから作ると言うのだ。もちろん、異論はないが疑問に思ったことを聞く。
「いいと思うが、何でまた?」
「他人のRPGを傍から見ているほどつまらないものはない。私も参加したくなったのだよ」
帰ってきた言葉に呆れたことは今でも覚えている。
これが後に最強ギルドと呼ばれることなるのだ。彼方の解放の日を訪れさせると己が血に誓い戦う。それがこの『血盟騎士団』だ。
ふと、あの日のことを思い出した。クォーター・ポイントに来たからか、あるいは別の要因なのか分からないがただひとつ言えることがある。それは今回のボス攻略もただでは済まないということだ。
DATE
《The bicephalic giant》
第25層ボスモンスター、体長3メートル、双頭の巨人と呼ばれ両腕に赤い柄、青い柄の斧を装備しており、振り下ろされる斧の威力はフロア床を貫通させることもできるほど凄まじい豪腕の持ち主。脇腹から背中は固い皮膚と筋肉でダメージを激減するが正面の攻撃は並以上に効く。それぞれの頭でそれぞれの一方の腕しか動かせないと言う特殊な神経回路を持つ。
全プレイヤー解放の重荷を背負い戦う日々
そんなある日の休暇
戦友と共に向かった先には
思いがけないものが……
次回『一時の休息』
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一時の休息
本作では新たにプレイヤーが登場するとの情報が入っています。中層戦の重要な戦力ということで期待の声が高まっています。ここでそのプレイヤーさんの有力な情報が入りました。え!?『とてつもなく残念なお方』……とのことです。ま、まぁ、実力に関しては素晴らしい方なのでしょう。……多分……
い、以上、ニュースアート・オンラインでした。
第50層『アルゲード』主街区、 転移門前である人を待っている。
「……遅いなぁ」
待ち合わせ時間はとうに過ぎている。
「ごめんごめん、遅れた」
転移門を飛び出して綺麗に着地し、後ろから顔の前で手を伸ばして歩いてきた。
「30分オーバーだぞ。何やってたんだよ」
「わりぃ、思いのほか狩りに手間取ってな」
「全く、時間くらい守ってくれよな」
「わりぃわりぃ、じゃあいくか!」
まだいろいろ言いたいことがあるがきりがないので押し止め代わりにため息をつく。
「わかった……けど、暴走だけは勘弁してくれよ。ガーネス」
「安心しろ、おまえが抑えられる程度が限界だ」
「はぁ……暴走する気しかないのかよ……」
ガーネス、彼の名である。同い年くらいで好奇心旺盛だ。片手剣使いで第32層でパーティを組んだ1人。紅い瞳が特長で彼の名を象徴するものでもある。
「しかしあれだな。おまえ、相変わらず友達が少ないな」
「な!?そ、そんなの今関係ないだろう!」
「えぇぇぇ?だって、先週もおまえと一緒に狩りに行ったろ?大抵オレっちとしか行ってないみたいだしよ」
「いやいや、どこ情報だよそれ!」
まぁ、ある程度は予想はつくが……
「ん?アルゴに決まってんだろ」
やっぱり……なんて情報を売りさばいているんだ。それ以前になんでそんな情報を持っているんだか……
そんなことに振り回されているようでは正直に言ってきりがない。冷静に対処できるように態勢を立て直す。
「そろそろ行こう。日がくれる前にある程度は終わらせなきゃいけないからな」
「あいよ!」
そう言い、フィールドへと足を運ぶ。
ここのフィールドモンスターは大して厄介ではない。安全マージンはしっかりとっているし手馴れ2人もいれば軽く叩き潰せる。よほどのことがない限り、死にはしない。
「大分減ったな」
「あぁ、結構疲れはしたがな。おまえが暴走しなかったらもっと苦労せず行けるはずだっただろうがな……」
そうか?と言いガーネスは大笑いする。人の苦労も知らないで……
「っ!おい、あれ見てみろよ」
何かを見つけ少しばかり緊張感が漂う。
「なんだ?」
彼の隣で姿勢を低くし視線の先に目をやる。
そこには今まで見たことないモンスターが現れていた。全身銀色に輝き、鋭い眼光は獲物を狩る狼そのものだ。研ぎ澄まされた鉤爪は全てを切り裂くと言っても過言ではない。〈シルバーウルフ〉、あのモンスターにふさわしい名だ。
「やるか?レイ」
「それ以外の選択肢があるとでも?」
「そう思った。じゃ、いきますか」
低い姿勢を保ちながら戦闘準備する。左腰の剣の鞘を握りしめ、様子をうかがう。溢れだしそうな殺気を押し殺しつつ警戒を怠ることのないよう細心の注意をする。
奴が一瞬の隙を見せた瞬間、飢えた獅子の如く駆け出す。奴が気づく頃には既に懐に飛び込み疾風の如く首、胴、腰に赤い筋が等間隔かつ平行に刻みつける。片手剣ソードスキル[シャープ・ネイル]、奴に放った技の名前だ。
まぁ、ただ無防備のまま殺られてくれるわけもない。シルバーウルフはすぐ体勢を立て直し鋭い牙をこちらに向け飛んでくる。スキル発動による硬直で回避はできない。俺の左肩に牙が届くその直前にガーネスの剣がシルバーウルフの牙を弾く。
「サンキュ!」
「どういたしまして!」
硬直が溶けた直後、隙だらけになったシルバーウルフに数えきれないほどの斬撃を浴びせる。その間にも牙や鉤爪の傷痕が数を増やす。
「はあぁぁぁ!」
「グワァァガッ!」
2体の唸り声が交差し、互いの武器が火花を散らしぶつかり合う。無数に飛び交う攻撃の嵐、切傷は増え次第に
こいつの強さははフィールドボスクラスだ。さすがにきついと思ったとき、後ろから走る音が聞こえてくる。鋭い鉤爪を振り被って襲いかかるシルバーウルフ、その右前足を弾くと後方の剣士に向け叫ぶ。
「スイッチ!!」
その言葉と同時にバックステップする。シルバーウルフの真ん前ががら空きになった所へ俺の脇を猛スピードですり抜け、シルバーウルフの腹部に深々と剣を突き刺す。シルバーウルフは悲鳴を上げ地に身を落とす。
「うし!」
ガーネスはやりきった感丸出しにしているが、まだ息はあり油断しているガーネスを狙っている。立ち上がる前に四肢を切り落とす。止めに頭に一撃いれると力なく地面に突っ伏した。そして、ピクリとも動かなくなったその身体は青白い光に包まれ四散した。
もう疲れきってこれ以上の連戦は危険と判断し、近くの安全エリアに移動する。そこにはひときわ大きな樹木が悠々と立っている。その木に2人して身を預ける。
「お疲れ」
「おうよ!おまえもな。しっかし、やたらと強ぇ奴だったな。さっきの奴、会ったことあるか?」
「いや、初めてみた……」
首を横に振って答える。
「それより、おまえ油断し過ぎだ!あいつの攻撃をまともに受けてたらどうするんだよ!」
「いや~、あん時は助かったわ。ありがとな」
「『ありがとな』じゃねぇよ……」
彼の答えに呆れ溜め息をつく。予想通りとはいえ、かなり疲れる。
「そう言えば、何か出たか?」
「あぁ、とんだ上等品だ」
そう言ってウィンドを可視化状態にし見せる。
「なっ!?こ、これって……」
ニヤリと笑いながら右目をウインクして答える。
「あぁ、S級食材『シルバーウルフの肉』だ!まさか、ここでゲットできるとは思ってなかったがな」
『シルバーウルフの肉』、情報屋でもそのアイテムのドロップ場所は不明だった代物。臭いがキツいのと少々固いが味は一級品とのこと、実際に食べた者はいないという。
「よし!じゃあこれを今夜のご馳走にしようぜ!」
「どうせ、料理するのは俺だろうがな……」
「そうだ!あの2人も呼ぶか?よし呼ぼう!てか、もう誘っちまったけどな」
「なら聞くなよ!」
やっぱり疲れる。そして、さらに増えるのかよ……内心そう思ったこと、今まで何度あっただろうか。
第29層《ルゲネイド》、薄暗い街並みで通りに人が溢れ返ることはほぼない。物静かなこのエリアはときに極度の緊張を引き起こす。ちなみに俺のホームもこの層にある。
「しかし、いつ来ても慣れないな。この不気味なところは」
まぁ、この層の攻略のときもこの不気味な威圧感に支配された者は少なくはない。まぁ、5ヶ月もここに住んでいればある程度の耐性はつく。
「どうする?ここらでお開きにするという手もあるが?」
「な、何を言うか!これくらい、別に、怖くねぇし」
あからさまに怖がっている。 無理もないが、いつ見ても面白いというのもまた事実。正直、日頃の恨みと言えば大袈裟だが仕返しとしてこれほど効果的なものはない。
「ついたぞ」
目の前に建つ一軒家、象牙色の石材造りで見た目通りの頑丈さと落ち着きを持ちこの層で上位を争うほどの良質物件だ。おまけに、家賃は一般的なものとほぼ同額という奇跡の物件を奇跡的に見つけたという超ラッキーな体験をしたということもあり、ここには思い入れがある。
中は生活に必要最小限の物しかなく、客人をもてなす際はその都度、必要なものをストレージからオブジェクト化する。
「こんなものかな。まぁ、ゆっくりしてて」
そう言ってダイニングを離れる。武装を解除し私服へと着替える。と言っても、ただ《ステータスウィンドウ》の装備フィギュアを操作するだけでそう時間がかかるものではない。
「さ、2人がくる前にある程度やっちゃいますか」
ダイニングに戻り、その奥のキッチンへ向かう。
「2人もこの層に着いたってよ」
ソファでくつろいでいるガーネスがウィンドウを眺めながら言う。
「了解。で、何か要望は?」
「お任せで」
「かしこまりました!」
そう言うと作業に取りかかる。
手早く下準備し調理し始める。とは言えど、料理も簡略化されステータスさえあげてしまえばすぐに終わる。あっという間に終了し食事の準備も大方できた。
ピ~ンポ~ン、ピ~ンポ~ン
丁度いいタイミングで2人がきた。
「は~い」
料理の支度が出来たのでエプロンを外し玄関まで迎えに行く。
「よっ、お邪魔しま~す」
「久しぶり、入るわね」
黒パンツにグレーのシャツ、それを覆うベージュのコート、秋を象徴するような季節外れの装備に身を包んでいる、年上ではあるが容姿はまだ幼さを残している。彼はリグレス、攻略組でもトップクラスの片手剣使い。
その左隣の少女は全身薄水色一色装備で背は俺たちよりやや低い。年は俺の1つ下だという。セーレ、彼女の名でお気に入りのキャラ名だそうだ。
2人とは第44層でちょっとした騒ぎを解決した時、共に調査したのがきっかけでフレンドになった。今ではガーネス含め4人でパーティを組むこともある。
4人集まり、食事をするのは久々だ。最後に集まったのが前の層のボス攻略のときだ。
「いや~、やっぱレイのメシは格別だ。売り出したら結構儲かるんじゃねぇ?」
「何を言うかガーネス。レイの料理は我々のものだ。他のやからに渡すものか!」
「2人共何言っているのよ」
「そうだ」
俺はもともとそんなつもりで料理スキルを上げてたわけじゃない。それをわかってくれているのは女子力のあるセーレだけだと思った。
「彼の料理は私の商売道具よ!」
わぁーわかってくれてなかったぁー。
「人のスキルを金稼ぎに使うな!」
そう言うと男2人揃って、
「「え?ダメなの?」」
「ダメに決まってるだろ!」
バァンとテーブルのたたき立ち上がった。
「ふふふ、冗談だって。あなた、いつものせられ過ぎなのよねぇ」
セーレ……
「言っていい冗談と悪い冗談があるだろ……」
呆れた声はいかにも弱々しかった。
「それより、最近進んでるのか?」
「おぉ~、そうだよな!リグレス!それ気になるよな!な、教えてくれよ」
それよりって、まあいいや。あぶり返すような真似はしたくないし……
「多分、ボス部屋前まで来てる。もしかすると、明後日ぐらいには召集されると思う」
昨日最前線で剣を振るっていたとき、マッピングは3分の2は行っていた。そのあと、団長ことヒースクリフから休暇をもらった。
「そうか。ギルドの方はうまくいってんのか?」
……
「……そうか。この話はもう終わりにしよう。悪いな、こんなこと聞いちまって……」
「いやいいよ、気にしなくて……相変わらず、人の考えてることはお見通しなんだな」
「へっ、まあな」
リグレスはいつものばつが悪いと感じたときどうにかしてくれる。からかい上手な癖して、いざとなったら便りになるんだよな。
「さ、そろそろお開きにしますか」
そう言って夜会は幕をひいた。
DATE
《garnes》
一人称は『オレっち』、紅い瞳の持ち主で片手剣使いの攻略組プレイヤー、性格はあまりにもおおらか過ぎで好奇心旺盛、すぐに暴走するトラブルメーカー、 剣技は一流だがそれ以上に残念な人柄、愛称は『クレイジーセイバー』
50層ボス戦、待機となったレイ
今回もボス戦に参加しない彼の元へ
そこで聞く、彼の真意とは
ハーフ・ポイント攻略戦、開戦
次回『地獄を焼き尽くす炎』
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地獄を焼き尽くす炎
本編は前編・後編の二段構成となっております。本編を読んでくださる方は是非次回作もお読みください。なお、前編・後編は同時投稿ではないのでご了承下さい。
以上、ニュースアート・オンラインでした
あの夜会の日から2日後、攻略組のプレイヤーが召集された。今回の第50層ボスは一面四臂のモンスター。一度に何発も攻撃してくるという厄介者。そいつに挑むメンバーは血盟騎士団副団長《閃光》のアスナとトッププレイヤー団員4名、聖竜連合から5名、風林火山から6名、そして《黒の剣士》キリト、その他ソロプレイヤー4名の計20名で望むことになり、今作戦では夜会メンバー全員が待機ということになった。
彼らを見送るとギルドに戻る。ギルドは転移門から30分くらい歩いたところの湖畔のもう少し先にある。ギルドに戻るとさっそく団長室に向かう。
団長室の扉は年期の入った木材で出来ており、コンコンと心をくすぶるような音が鼓膜を伝わって脳に直接鳴り響いているようだ。まぁ、電子信号で脳に直接伝わっているのだから当然と言えば当然だ。ここでの生活に慣れてきているんだろうな。中から『どうぞ』と落ち着いた声が聞こえる。
「失礼します」
キィィと音をたて軽い扉を開く。
鉄製の長机に両肘の突き立て身を乗り出す姿勢は少なからず緊張感を与える。
「彼らの様子はどうだった?」
「少々緊張している様子ではありました。しかし、全員覚悟を決めたようです」
そうか、と組んだ手に顔を近づけ言う。
「今回の攻略はどうも心配でねぇ、いささか不安になるのだよ」
「そのわりには、随分落ち着きがあるように感じられるのですが……」
「そうだね。私だけでも平然と装わなければ、他のプレイヤーたちも不安になってしまうだろう」
「確かに」
こんなところで恐怖に縛られてしまえば、その時点でゲームオーバーだ。現在世界に戻るためにも弱音は吐いていられない。それが軍隊のトップともなると尚更だ。そう考えたときふと疑問が浮かび上がってきた。
「団長はどうするつもりなんですか?」
「どうするつもりとは?」
団長は顔色1つ変えずに聞き返す。
「あなたがこのゲームをクリアに導いた先の話です。あなたがこの世界のラスボスとなり立ちはだかるおつもりなのですよね?その場合、立ち向かうプレイヤー全てをねじ伏せ神として君臨するのか、あるいは、あなたの死を以てこの世界の終焉を……」
「レイ君」
落ち着きがある表情の奥にそれとは別の表情が見えた。その表情は怒り、憎しみ、喜び、憂い、哀れみ、多彩な感情が入り交じっているように見えた。その中でも一際はっきりとした感情がある。真っ直ぐに貫く眼光、透き通った瞳に一片の曇りもなく迷いもない、その眼は覚悟を示している。
「私は
そのときの彼は凛々しく悠々としていて、血盟騎士団団長《聖騎士》ヒースクリフではなく、SAO開発責任者の茅場晶彦の姿だった。久しく見るその姿は、攻略組として最前線で戦う者として重くのしかかる。
「この先……」
うつ向いていた頭を上げ言葉を発する彼を見る。
「この先、私にもしものことがあったら、君に託してもいいかな?」
「託すって、そんなっ……」
溢れる思いを口にしようとしたとき、彼の眼に寂しさが映っていたのに気づく。俺は団長の望むものが分かってしまった気がする。こういうときほど、自分の鋭さを恨むことはない。
「分かりました……その代わり、いつか教えてください。あなたの求める答えを……」
「うむ。約束しよう」
ダンッ!!
「団長!!」
扉を勢いよく開く音と共に団員の一人が駆け込んできた。
「何かあったのかい?」
「ボス討伐隊がボス部屋までたどり着いたようなのですが、死亡者、撤退者続出で危険な状態のようです!」
「なっ!」
迂闊だった。いくら25層以降死者0とは言え、ここは50層、ハーフポイントだ。そんな易々とクリアできるはずがない。
「よし、残った人員を50層転移門に集めろ!出来るだけ多くだ!我々も行くぞ!」
「わ、分かりました!」
彼はそう言って団長室を駆け出していった。
「団長、私も行きます!あと3人は確保できます」
「うむ、すぐに頼む。準備出来次第出発する」
「了解!」
そう言って、ウィンドウを呼ぶと3人にメッセージを送る。
『ボス討伐隊の加勢に行く。すぐに準備して50層転移門に来てくれ!〈レイ〉』
送って10秒も経たない内に返信が来た。
『OK!〈セーレ〉』
『承知〈リグレス〉』
『りょ〈ガーネス〉』
20分もしない内に15人も集まった。中には、先ほど撤退した者もいるようだ。俺もギルドから俊敏力全開ダッシュでついさっき着いた。勿論、3人も来ている。
「ハァ、ハァ、皆、準備、は、ハァ、大、丈夫、か?」
息を切らした声で聞く。
「君以外は問題ないと思うよ。全く、転移結晶使えばいいのに、そうやって無茶するのは得意だよねぇ」
「いいだろ、別に。ハァ~」
だいぶ呼吸が落ち着いた。あそこから全力ダッシュはゲームの中とはいえど、とんでもない疲労感がのし掛かる。
「大丈夫か?オレっちが腕貸してやろうか?」
「『腕』じゃなく『肩』だろ。相変わらずのドジっぷりだね」
「どんな間違いだよ……まぁ、ありがとな」
ガーネスと遅れてリグレスが差し伸べてくれた手を掴み立ち上がる。・・・あれ?『手』?
「『手』じゃねぇかよ!」
「まあまあ、どっちも同じようなものだし。君もツッコミを入れる元気があるようで安心したよ」
何いい雰囲気でまとめようとしているんだよ。
転移門から真紅の甲冑に身を包んだ聖騎士とその後ろに白装備の騎士5人が出てきた。勿論、真紅の騎士はヒースクリフで他は血盟騎士団の者だ。
「時間がないので手短に言おう。これより、ボス討伐隊と合流し攻略に参戦する。道中現れるであろうモンスターとの戦闘は極力避けるように、では行くぞ」
『お~!』その声は主街区全域に轟いたであろう。
50層迷宮区を稲妻の如く駆け、流星の如くモンスターの攻撃を押し退け、ただ真っ直ぐにボス部屋に向かって進撃する。一度も止まることなくボス部屋の真正面にたどり着く。
ボス部屋に踏み込む直前、大半のものは足を止めた。踏み込もうとした俺は何かあったのかと思いつつ合間を縫いボス部屋に飛び込む。
ボスの姿を捉えたとき、目を見開き驚愕した。目に映ったのは
「な、嘘……だろ」
「なんなの、あのモンスター……」
「マジかよ、あれ」
3人も呆気に取られている。ボスにフォーカスを合わせると、《The arbiter of inferno》と出た。《地獄の審判》、その名の通りに全身から禍々しいオーラが溢れ出ている。胴体から10本の黒腕が対になって左右に伸びている。両肩から2本ずつ、さらに背中から6本と死角がない。
「攻撃に使ってくるのは正面の4本だけだ!他は反撃に使ってくる!」
こちらの到着に気づいて、敵の攻撃の隙をみて伝えるキリト。
「了解した!……団長」
彼に視線を送ると、何も言わずに頷く。
「行くぞ!」
その言葉と共に先頭にいた俺たちは矢の如く飛び出す。
リグレスは彼の右肩からひょっこりと飛び出している愛用『ブレイブグリッター』を、セーレは右腰に蒼い刃の短剣『リーグレイト』を右手に構え、リグレスは左の、セーレは右の足を切り裂く。俺たち4人の中で、俊敏力は2人が上だ。
体勢が崩れかけたボスの胴体のど真ん中を目掛けて片手剣ソードスキル[ヴォーパルストライク]を放つ。たちまち、奴の体は浮き上がり反撃が出来てもダメージは防げないはず。俺はすぐに奴のから離れる。空中では避けることは不可能。そんな奴にガーネスの片手剣ソードスキル[スタ-・Q・プロミネンス]が襲い掛かる。重低音の悲鳴が大気を震わせる。残りのHPバーが4本目に突入した。よし、いける!そんな余裕な感情は今はしまっておこう。ここからは攻撃パターンが変わるだろう。体勢を整え、次の攻撃に構える。ボスはゆっくりと立ち上がり部屋中に怒号を轟かせ殺気を滾らせている。
「来るぞ!」
神経を尖らせ、鋭い目線はしっかりと奴を捉える。
その目に映った光景に俺は後退りそうになった。理由は単純で奴の後ろに生えた腕が戦闘体勢をとっていたからだ。10本の剛腕はその先にある黒い拳をこちらに向け突進してくる。
「はあぁぁぁ!!!」
キリトが団体から抜け出し一直線に駆けていく。
「全部体、迎え撃て!」
団長の命に応じ声をあげるプレイヤーたち、そして、ボスに突進していく。
少し前の方でキリトが攻撃を捌いている。その彼に無慈悲に叩き込まれる拳が擦る。彼のHPバーを見ると1割方、減少していた。
「気を付けろ!まともに食らえば命は無いと思え!」
キリトが攻撃を捌きながら叫ぶ。
「セーレ、あれでなんか出来るか?」
「はぁ……分かったわよ、後でなんか奢んなさいよ!」
そう言って、短剣を右腰に戻し、左腰に手を回す。その手に握られたものは見事な刀身に綺麗な光沢を放つ刀『氷刀ユキシグレ』。
第2層のクエストで、偶然遭遇したレアモンスターを倒して、偶然ドロップした魔剣クラスものだ。それまでは短剣一筋だったが、『この刀に出会えたのはまさに“運命”。あたしに使ってくれって言ってるようなものよ』と言って刀スキルを採るところから始めたと言う。
「行こう、ユキシグレ」
そう言って、俊敏力MAXで走り抜ける。キリトに襲いかかる拳のひとつに白い一線が走る。次の瞬間、その拳はポロッと切り落とされ、地に着いた瞬間、青白い光の欠片へと変貌した。またひとつ、さらにもうひとつと切断され、気づけば3本の腕の先から黒い塊が消えていた。
「よし!攻撃開始!」
そのひと言と共に剣撃の嵐が巻き起こる。容赦なく切りつけるが、鋼鉄のような筋肉と拳の切り落とされた腕を合わせ10本の鞭が、ことごとく攻撃を防ぐ。あと1本のHPバーがなかなか減らない。連撃を叩き込むことで疲れてきたか、攻撃が緩んでいく。それを狙っていたかのように奴は全力に近い力でプレイヤー達を吹き飛ばす。ユニークスキル[神聖剣]を持つ団長、剣で受け流すキリト、地面に剣を突き立てる俺、お得意の俊敏力で躱したリゼルト、セーレ、アスナ、そして、驚異の力で耐えきったガーネスを除く者たちは壁際まで飛ばされ、イエローゾーンを切っているものが大半だった。俺たちも少なからずダメージを受けた。
「ヤバいな、もう一度あれが来たら10人は持ってかれるぞ」
キリトの言う通り、次にあの攻撃が来たら、確実に何人か死ぬ。
「俺たちで何とかする、それしかないか」
そう呟く。
「……レイ」
後ろからガーネスが声をかけてきた。
「なんだ?」
振り返らずに聞き返す。
「少し、時間を稼いで。1分もあればいける」
「な、何をするつ……」
俺の言葉を遮るように拳が落ちてくる。ギリギリのところで躱すが奴の追撃はまだ続く。
「頼む!」
「ちょっ、ガーネス!」
その言葉を残しガーネスは少し下がる。
「ああ~、もう!1分だの2分だの何とかしてやる!」
そう言って、剣を振り回す。他の皆も攻撃を捌いて、空いた人が隙を突くの繰り返しだ。勿論、全然減る様子はない。だが、この間に奴が一定時間内に攻撃させた場合、あの攻撃は来ないということはわかった。ガーネスが準備している間、適度に攻撃させ、隙を突いて攻撃をしていく。
そして、1分ちょっと過ぎたくらいにガーネスの声が耳に届く。
「避けろ!!!」
反射的に全員、ボスから離れていく。そこへ俺の横をすり抜けガーネスが飛び込む。彼の剣は煉獄の炎のように光っていた。
「っ!!ダメだ!」
あのライトエフェクトをみた瞬間、悪寒がした。あのスキルについて、前に聞いたことがある。
片手剣ソードスキルの最上剣技、片手剣ソードスキルの中で最強のソードスキルであり、同時に使用者のHPを大量に削る、諸刃の一撃。そしてそれは、[ユニークスキル]に匹敵する究極奥義である。それを習得できたものは未だ存在しなかった。
そんなスキルを使ってしまえば、自分のHPを吹き飛ばしてしまいかねない。必死に止めようと叫ぶ声も虚しく、スキルは発動する。
「食らえ、これが俺の全力だぁぁぁ!」
目映い光がフィールドを照す。その光は紅蓮の炎のように、ガーネスの瞳のように紅かった。
「やめろ!」
「[ストライク・ブレイザー]!!!」
DATE
《seale》
一人称は『私』、短剣と刀の併用プレイヤー、俊敏力はアインクラッド内で5本の指に入る実力の持ち主、22層のクエストで手にした刀『氷刀ユキシグレ』を持つ以前は短剣一筋だった、たまにジョークがきついことを言う。
ガーネスの究極奥義が炸裂
劣勢に立たされつつあった戦況は
果たしてどちらへ転ぶのか
ハーフ・ポイント攻略戦、決着
次回『黒き魔剣』
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黒き魔剣
ガーネスのCVが決まりました!(独断と偏見です)ガーネス役を務めていただくのは、鈴木達央さんです!イメージとしては〈七つの大罪〉のバンが優しい雰囲気になった感じです。これからは、そんなイメージで読んでくださると嬉しいです。勿論、皆さんのイメージCVでいきたい方はその通りに読み進めていってください。
以上、ニュースアート・オンラインでした。
「食らえ、これが俺の全力!」
「やめろ!」
その言葉は彼に届かなかった。
「[ストライク・ブレイザー]!!!」
辺りが紅蓮の光に包まれ、仮想の肌に獄炎のような熱が伝わってくる。
[ストライク・ブレイザー]、敵を一刀両断する単純且つ強力な一撃。しかし、それは単なる物理的攻撃の話だ。[ストライク・ブレイザー]には、魔法の存在しないこの世界で唯一の炎付加が掛かっている。それを合わせれば、恐らく、フロアボスくらいなら1撃で消滅させることも出来るだろう。だが、そんな大技を誰でも使えるようであれば、ほとんどのプレイヤーが1度でも耳にしているはずだ。そうではないので、[ユニークスキル]とか、そういった類であろう。そこに関しては、聞かされていない。
しかし、そんなソードスキルが周りになんの被害も出ないわけはない。現に、それによって発生した熱風と衝撃に身体は押し飛ばされた。
だが、被害が大きいのは発動者の方だろう。あのソードスキルは発動者のエネルギーを奪い、それを膨大な威力として放つ。つまり、発動者のHPを大量に削り放つ一発限りの大技、それが[ストライク・ブレイザー]。
暫く、高温の風が吹き付け、目を開けることが出来なかった。熱が収まると、長い沈黙が続いた。恐る恐る目を開けると、遥か遠方でボスがピクピクしていた。ちょうどその間に、力を使い果たし倒れ込んだガーネスの姿が……急いで身体を起こし、駆け寄る。彼の上半身を起こしてみると、彼はもう虫の息で、HPバーはみるみる縮んでいく。
「しっかりしろ!今回復してやるから……」
ポーチからポーションを取り出そうとした腕を弱々しく肘を左手で押さえ、何も言わずに首を横に動かす。
「そんな……」
彼の反応を見てすぐに察した。
あぁ、もう、助からないのか……
「……あ、そうだ……」
彼は、不意を突くように喋りだした。
「もし、あのせかいにもどれたら、いもうとのめんどう、みてやってくれ……」
「何言ってんだよ……まだ他に方法が……」
再び、首を横に動かす。やっぱり、もうダメなのか……
「さいたまの……」
詳しい住所、本名を耳元に囁きそれを終えると、彼のタイムリミットはあと数秒まで迫っていた。最後に、メニューを操作して何かをしていた。その時は、視界が少々歪んでいてよくわからなかった。
「これ、おまもり、だいじにして、くれ……」
そう言って渡してきたのは、彼がいつも装備していた紅いブレスレットだ。それを受け取ると、満足気に笑っていた。
「たのんだ……ぜ…………」
その言葉を最後に、彼は二度と帰らぬ者となった。
気づけば、頬を伝うものがあった。結局、最後まで手のかかる奴だった。それでも、共に戦場に命を燃やしていた戦友だった。戦場で命が尽きるのは本望だったのだろうか……
「……勝手に先行くなよ……」
かすれる声でブレスレットに言葉を投げる。
目線を上げ、真っ直ぐ前を見ると未だに伸びているボスの姿があった。HPはまだ残っているが、イエローゾーンまで落ちていた。彼の決死の一撃で半分近く削れた。
しかし、逆に言えば、彼のあの攻撃でさえ
「勝てるのか……あいつに……」
無意識に出てくる弱音、小刻みに震える指先、あまりの強さを見せつけられたじろぐ体、もう逃げ出したくて仕方がない。
だが、それと同時に体の中から煮えたぎるような轟音が聞こえる。それは1秒ごとにどんどん増してくる。次の瞬間、頭に何かが過った。
…………ああ、
その時、俺の中の何かが砕けて消えていく音がした。そこからは、ただ怒りのままに剣を振り回していた。その時の記憶は曖昧で、ただひとつ覚えているのは……俺はあいつを殺さなければならなかったということだ。
ガーネスが消滅した後の彼はただ怒りのままに剣を振るっている。
「キリト君!」
アスナの声で唖然としていた心は戦場に戻ってきた。
「あぁ、俺たちもいくぞ!」
そう言って駆け出す。
「HPが半分以上残っている者はレイ君のカバー・サポートを重視。他の者は待機、場合に応じて戦闘に参加せよ。突撃!」
ヒースクリフも全プレイヤーに指示を出し、ボス目掛けて進撃する。攻撃に回るプレイヤーは少ないとは言えど、雄叫びは一番増していた。
駆けていく中、ボスと対峙するレイにフォーカスを合わせる。彼はノーガードで攻撃を叩き込むだけで徐々にHPを減らし続ける。続いて、ボスの方に合わせる。驚くことにHPは大幅に吹き飛んでいた。しかし、さらに驚いたことに見るからにHPが減っているのがわかる。ガーネスのあの攻撃のせいか、先ほどよりもHPの減りが早まっているようだ。あれには防御ダウンのデバフがあるのだろうか。そうこう考えている間に、どちらもHPはレッドゾーンに突入する。
「グゴォォォォォォ!」
けたたましい咆哮を上げる。思わず耳を塞ぎそうになる。
「はあぁぁぁ!」
レイも雄叫びを上げ、彼の剣は青白いライトエフェクトに包まれる。あの技を俺は知っている。[ノヴァ・アセンション]、既知の片手剣ソードスキルの中でも最強のソードスキルだ。10連撃のスピード重視型で、速さは片手剣ソードスキル中最速で
流星の如く、降り注ぐ連撃が次々と体に吸い込まれていく。ボスのHPゲージは1撃ごと左端へと縮んでいく。
「はあぁぁぁぁぁぁ!!!」
徐々に増していく声には威圧感があった。それにつられるように攻撃は重くなっていくように感じた。あと5センチ、あと3センチ、あと1ドット、そして、左端に達しボスは消滅する。
しかし、一向に残り1ドットが消えることはなかった。視線をレイの方へ戻すと、スキルは終了し、硬直状態になっていた。動けない彼に拳が振り下ろされる。あれを食らってしまえば、彼のHPは0になってしまう。しかし、ここからでは間に合わない。
「させない!」
隣からそう聞こえた。アスナの声だ。
声の方を見ると、目にも止まらぬ速さで飛び出していった。細剣ソードスキル[フラッシング・ペネトレイター]を振り下ろされる拳にぶつける。互いに強力な攻撃を打ち合ったため、大きくノックバックしている。恐らく、二度とないチャンスだろう。この機を逃すわけにはいかない。
オレンジ色に輝く剣は真っ直ぐに標的へと向かっていく。片手剣ソードスキル[ヴォーパル・ストライク]を発動し、最後の一撃を叩き込みに突進する。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」
無意識に鼓膜が破れそうなほどの雄叫びを上げていた。ドスッ!と鈍い音が耳に入り込んでくる。その音と共にHPはきれいさっぱり消え去り、ボスは光の欠片となって四散した。
換気の声が巻き起こる中、俺はアスナとパチン、と無言のハイタッチを交わす。そのときの顔は恐らく、沢かやな笑顔だっただろう。その後、ドロップアイテムを確認する。そこには『エリシュデータ』というものがある。多分、
背後でドサッと音がした。振り返ってみると、レイが倒れていた。
「おい!大丈夫か?」
「……」
疲れきっていたからか、応答することもなく静かに眠りについた。やれやれと思いながら彼を運ぼうと手を伸ばす。そのとき、彼の手に握られていた剣はもうボロボロでひと目見れば耐久値はギリギリまできていることがわかるほどだ。その後、彼が目を冷ますまでそっとしておいた方がいいと判断し、10分くらいそこに留まることにした。
DATE
《regless》
片手剣使いの俊敏型プレイヤー、攻略組ギルド非加入プレイヤーの中でも5本の指に入る強さを持つ、悪ふざけが過ぎるところもあるが他人への気遣いは人一倍ある、基本的セーレとのコンビ活動を主流とする。
50層攻略から数週間
フィールドを彷徨い続けるレイ
ただひたすら孤独の戦いを続ける
そんな彼の前に現れるは……
次回『2人の剣士』
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2人の剣士
セーレとリグレスのCVが決定しました。セーレ役は名塚佳織さん、リグレス役は梅原裕一郎さんです。イメージは赤紙の白雪姫の木々が感情豊かないじりキャラ追加でミツヒデがボケキャラになった感じです。
これからも2人のことを応援してくださいね。勿論、他のキャラたちも……
そして、本編より『白の剣士 放浪編』となります。最後までよろしくお願いします。
以上、ニュースアート・オンラインでした。
ここは……ボス部屋か?
「やっと気づいたか?」
声の方に顔を向けると、リグレスとセーレ、キリトにアスナ、そして団長がいた。
「……あの後、どうなったんだ?」
「……ボスは倒した。いや、最終的に俺がに止めを刺しただけだ」
意味がわからなかった。ボスを倒したのではなく、止めを刺しただけと言った。どちらも同じではないのかと思った。そこに団長が口を開く。
「完結に説明すると、君はあのボスモンスターを完膚無きまでに叩きのめしたのだ。だが、奴が戦闘不能となったとき、君は倒れ込んだのだよ」
え?理解できなかった。俺が、あいつを倒した?そんな記憶は無いが故、困惑した。上体を起こし、辺りを見回し、不足している情報をかき集めた。そして、ふと自分の手に目線を落とす。その目に映ったものを見て気が動転しそうになった。
「君は……その剣と共に倒れたんだ」
刃はボロボロになり、刀身はヒビだらけになった剣が右手の中で脆弱していた。
その時、俺はあいつとの闘いで剣も殺意もへし折られたのだと悟った。
あれから、俺はギルドに行かず階層を回っている。明け方から真夜中まで、フィールドを彷徨っては狩りに明け暮れた。たびたび、新聞を読んでみると、『50層ボスを叩きのめした『白の剣士』、未だ行方つかめず』と一面を飾っている。
「……なんだそれ……」
あきれの声か、嘆きの声か、思わず心に思ったとおりの言葉が現れた。
2023年1月30日、第32層『ユギレオン』東の外れのフィールド『無名の丘』、そこで風に吹かれながら寝転がっている。そこに一人のプレイヤーが寄ってくる。
「よっ、隣いいか?」
「キリトか、別にいいけど……」
目線を合わせるとすぐにそらしてしまう。キリトも同じように寝転がって風に吹かれている。
「……」
「……」
暫く、長い沈黙が続く。気を緩めると、眠りにつきそうだ。
「なあ」
「ん?」
すると、彼の口からとんでもない言葉が飛んできた。
「
「……わかった」
彼の言葉に驚いたが、それ以上に平然と承諾した自分に驚いている。決闘ということは命を掛けて戦うようなものだ。下手すれば、本当に死ぬことだってあり得るのだ。
「何を掛ける?」
そう聞くと、
「じゃあ、1つだけ何でも言うことを聞くってのは?」
「別にいいけど、死ねって言われても文句は言うなよ」
そう言って、決闘を初撃決着モードで承諾する。
互いに、武器をとる。静けさの中、始まりの鐘がなる。
動き出しはほぼ同時、10メートル離れていた距離は一瞬の内に消え去り、俺と彼を隔てるのは2本の剣のみとなった。ジリジリと音をたてる剣は互いの力を互角であると認識させる。
バックステップで体勢を崩そうと飛び退くと、ちょうど同じタイミングで彼も同じ行動をとった。
「やるな……流石だよ、『黒の剣士』!」
「そりゃ、どうも!『白の剣士』さんよ!」
その言葉と同時に猛突進してくる。気づけばもう目の前だ。咄嗟に両手で受け止めるが、あまりの勢いに吹き飛ばされた。[ヴォーパル・ストライク]の衝撃で多少HPが減る。
「やってくれたな。お返し……」
薄緑色の光が刀身を包み込む。
「だぁ!」
今度はこちらが突進する。剣の軌道は真っ直ぐ後ろをついてきた後、しなやかに進行方向を変え右から襲いかかる。片手剣ソードスキル[ソニックリープ]、この技の名前だ。
しかし、簡単に倒されてくれるわけもない。彼は右回転し剣を左からぶつけ、[ソニックリープ]を受け流した。
ガギィン!その音と共に俺の剣は刃の半分が消え去っていた。背後でドスッと音がした。振り返れば、消えた半刀身が地面に突き刺さっていた。
「あ!」
彼もその事実に気づいた。
真二つに折れた剣はポリゴン片へと姿を変え、空中に消えていった。
「あ、その……すまん……」
「いや、元々そんなに保たなかったんだ。あの時点でもう役目は果たしたんだよ」
そう言って空を見上げる。何か少しスッキリした感じが懐かしいと感じた。そして、大きく息を吸い込み吐き出すと、
「さてと、リザイン」
そう叫ぶとウィンドウが出てきた。『本当にリザインしますか?』に対して『YES』と回答する。
「さ~て、勝ったのは君だ。何でも1つ聞いてやるよ」
「あ、あぁ」
俺は何故ここにいるのか?
第1層『はじまりの街』、ここに来るのは3ヶ月前に団長の指示でアインクラッド解放軍の調査に来たとき以来だ。
「………………」
「………………」
転移門の前で沈黙する俺たち、正直に言って俺はこの世界で一番面倒なことに会っているのかもしれない。
理由は至ってシンプル、
「いい加減吐いたらどうなんだ!お前らの目的なんて分かりきっているようなものなんだからな!」
今俺たちは、軍の連中にしつこく事情を聞かれているのだ……
たった数分前、キリトから1つクエストの協力を依頼された。勿論、拒否権は無効だ。剣が折れたとは言え、敗けは敗け。仕方ないことではある。
そのクエストとは、第1層の迷宮区前の狼狩りで報酬として、黒の片手直剣がゲットできるというものだ。 彼はその報酬に惹かれ挑もうと思っていたようだが……そのクエストは
「さっきから黙りっぱなしで、言えない理由でもあるのか?あ!?」
「……なあ、俺が率直に思ったことをいうぞ。それを聞いたところで何になる?」
とうとう堪忍袋の緒が切れたのかキリトが半分睨んで言う。
「き、貴様……ここは軍の管理下と知っていってのことか!」
逆ギレとはまさに彼のための言葉だなと、内心思う。俺は憐れみの目で彼を見る。一瞬、殺気が向けられたがその矛先はすぐキリトに戻る。
「お前らにこの地にたつ資格などない!さっさと立ち去れ!」
「言いたい放題言ってくれるじゃないか、なら
「ならば、こっちは慰謝料全額をおいて帰ってもらう」
2人の間にはカウントダウンが出ていた。軍の奴は腰に刺した剣を取る。長いこと戦闘に身をおけば、ひと目見ただけで大体の質はわかる。あれは攻撃特価の良質な両手剣だ。彼はそれを中段に構え、静かに時をまつ。
0になり先に動いたのは軍の奴だ。彼の両手剣は空高く掲げられ、勢いよく落下してくる。未だに剣を取らないキリトは右足を左斜め後ろにスライドし最小限の移動でかわす。
「なに!?」
思わず声を漏らす彼は今にも目が飛び出しそうな顔をしている。
「こんな程度か?さっきの威勢の割には対したことないな」
「この、クソガキが!死ね!」
再び、剣を振り上げる。キリトは背中の剣に手をかけ反撃体制にはいる。そんなこともお構い無しに渾身の一振りを放つ。次の瞬間、キリトは柄と刃の境の部分を1ミリたりともずらさず自身の剣の刃をあてる。耳障りな金属音が響き、ジリジリと擦れ会う音がする。両手剣はキリトの額ギリギリで止まっている。彼がいくら力を入れてもその事実は不変のままだ。
「軽い」
そう呟き、両手剣を弾く。両手剣は彼の手から離れ、10メートル後方に突き刺さる。
「こ、この……」
「俺の勝ちだ」
そう言うキリトの目はあまりにも恐ろしいものだった。
勝負の結果により、俺たちはなんとか通り抜けることに成功した。こんなことは二度とごめんだ。
そんなことを思いつつ、クエスト地点に到着する。
「おお~!この老いぼれのために力を貸してくれるものが来ようとは、神よ、ありがたき祝福」
いやいやいやいや、まだ引き受けるともいっていないのにも関わらず、何言ってるんだこの爺さんは……内心呆れるのを通り越して泣けてくる。
白髪ローブの爺さんは俺たちに依頼の詳細を説明する。まだ何も言ってないのに……
「実は、お主らにとってきてもらいたいものがあってのぉ。このくらいの石なんじゃが……」
爺さんの表現によるとリンゴくらいの大きさのようだ。
「この森の奥にあるのじゃか、ワシでは取りに行けそうになくてのぉ、お主ら頼まれてくれぬか?」
「あぁ、いいぜ」
「即答!?」
あまりにも気が進まないが仕方がない。
「分かりました。その依頼、俺たちが引き受けましょう」
今の今までクエストに興味を持たなかった俺は、今日初めてクエストに挑戦するのだった。
DATE
『白の剣士』
レイの二つ名、血盟騎士団の白装備からその名が生まれた、50層でボスを圧倒したことで名付けられた、『黒の剣士』と同じ時期に出てきた。
初のクエストに挑むレイ
このクエストにて待ち構える野獣たち
2人の剣士のたどり着く先には
思いもよらないものが……
次回『太古の遺産』
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太古の遺産
クエストに挑戦する2人の剣士。波乱の冒険の先に待つものとは?そして、2人は無事クエストクリアできるのか?
前回引き続き、『白の剣士 放浪編』第2弾、お楽しみください。
以上、ニュースアート・オンラインでした。
「せあぁぁぁ!」
ガキィン!その音に合わせ《ブラットウルフ》は仰け反る。
「よし、スイッチ!」
俺はバックステップで飛び退く。がら空きのブラットウルフにキリトの[バーチカル・スクエア]が炸裂する。
たちまち、HPは消滅しポリゴン片となり四散する。
「うし!大方片付いたな」
「多分、このエリアにはもうポップしないだろう」
「そうだな」
その言葉と同時にキリトは黒剣を背の鞘に収めようとする。
「……さっきから思ってたけど、その黒い剣って……」
「あぁこれか?50層ボスの
そう言って鞘に納めかけていた黒剣を両手で刀身を支え俺に見せる。
『エリシュデータ』、一切の曇りのない漆黒の
「これ、魔剣か?」
そう聞くと、
「あぁ、そうみたいだ」
返した剣を軽々と持ち上げ、鞘へと滑り込ませる。
かれこれ10分くらいだろうか。ひたすら狼を斬り続けてはいるが、未だ森の奥にたどり着く気配がない。
「どこまで進めばいいんだか……」
つい、出てきた素朴な疑問を口にする。
「多分、そろそろだろうけど……」
辺りを見渡しながらキリトは言う。この辺りは深い森になっていて、周囲は木々に囲まれている。今いる位置さえも分からなくなりそうだ。
「……この木、切れないかな?」
「へ?」
彼の言葉に呆気をとられた。
「何言ってるんだ。基本的に破壊不能オブジェクトに設定されてるだろうから傷ひとつ付けられないだろ。仮に解除されていたとして、一体何をする気だ?」
「まぁ、見てればわかるさ」
そう言って、ソードスキルの構えを取る。片手剣ソードスキル[エアロスラッシュ]、水平に横薙ぎるシンプルな技。しかし、このソードスキルはそんな単純なものではなく、薙ぎ払うと同時に鎌鼬を放つことができる。しかし、威力が低いため、使う人は少ない。
「っ!せい!!」
緑白色の鎌鼬がみるみる広がっていく。次々と木の幹に吸い込まれ抜け出す。破壊不能オブジェクトではないようだが、切れているのかはわからない。鎌鼬が見えなくなったのを確認し、剣を背中の方に戻す。カチン、と音が響き漆黒の刃は姿を消した。
それとほぼ同時に、木々は奥に傾いていく。バタァン、と音をたて、バッサリと斬り倒されていった。
「こんなもんか……」
キリトはそう呟いた。あまりの出来事に状況についていけなくなりそうだ。
「すっげ……」
「さ、行こうか」
そう言って歩き出す。あ、ちょっと待ってよ~、と彼を追いかける。
その後、大分奥に進んだだろう。たびだびモンスターに遭遇したが、難なく斬り倒した。周りの木を切り倒したことにより、戦いやすくもなったし、視界が開けたため進みやすくなった。
「そろそろか」
キリトの言う通り、密林地帯が開け、やがて小さな建物が見えた。徐々にはっきりと見えてくる光景に息をのんだ。
「こんなものがあったなんて……」
「あぁ、驚いたな……」
俺とキリトの視線の先に映るのは、古びた遺跡が佇んでいた。何百年……いや、何千年の歳月を渡りここに存在してきた姿は、大自然と一体になり、それは絵画の作品に並ぶものだろう。俺たちはその美しさに唖然とした。その姿を前に息をすることさえ忘れてしまいそうだ。
そう言えば、以前団長から第1層に太古の世界より取り残され大自然に身を包んだ古代の文明誕生の地があるとかないとか……そんな事言ってた。恐らく、ここがその地なのだろう。
屋根と壁の一面が無くなった石造建造物を大量の植物が覆い、その下には文明誕生の痕跡が残されていた。人の文化も包み込む大自然の壮大さが表れている。
ここに依頼の品があるということは、探している石ってのは……そう思いながら遺跡を調べる。古代文書などいろいろ出てくる。この世界では古代文書も読めるようになっている。つい、それに見いっていたとき、
「あったぞ!これじゃないか?」
その文書を仕舞い、声のした方へ駆ける。
「どれ?」
そう問いかけると、彼はそれを指さす。
「これ……石っぽいけど……」
「え?これじゃないのか?」
彼はそう言ってくる。無理もない、触れられた形跡はなく、数百年はずっとこのままだっただろうから遠目に見れば石に見えなくもない、と思う……
「とりあえず、持っていくか」
そう言ってそれを持ち上げる。
すると、石?は光を放ち、辺りは青白色に染まる。目を開けると、そこにはいなかったはずのモンスターが現れていた。
「グワァァガ!」
けたたましい雄叫びとともに、2本のHPゲージが出る。その上には《メタルバイトウルフ》という名、このモンスターの名だろう。
俺たちは戦闘準備をすると、一瞬の内に目の前まで飛んできた。
「伏せろ!」
反射的に体を動かす。狼は俺の頭の上をミリ単位ですり抜けていく。通りすぎると同時に体を半回転させ右後ろ足を斬る。しかし、ダメージはさほど与えられてはいない。
「俺が弾くからあとは頼む!」
狼に向かって駆けながらキリトは言う。
「了解!」
そう言って、ソードスキルの構えを取る。グワッ!、と襲いかかる牙を弾く体勢に入ったのを見て同時に発動させる。タイミングはほぼ完璧に近い、相当なダメージを与えられる。そう思っていた。
「せあっ!」
パリィをするキリト。しかし、狼の方がやや強かったのか押し返されている。キリトに牙が届きそうだ。
「伏せろ!」
キリトに向かって叫ぶ。彼はその言葉通りに動く。向こう側からして見れば、いきなり標的が消えたというところか。それはさておき、キリトが伏せたことで[ヴォーパル・ストライク]が直撃し、大分ダメージを受けた。それにより生まれた隙で俺たちは一端距離を取る。
「あいつの攻撃は多分流す方がいいだろう」
「わかった。なら、俺に任せろ」
彼は頷くと、 早くも襲いかかってきた狼から飛び退き攻撃準備に入る。俺は剣を構え真っ直ぐ敵を捉える。
あと数ミリのところで、剣の切っ先を後ろに向け刃に手を添え敵の軌道に合わせる。そして、牙に当て軌道をずらしていく。
「ふっ!」
確かに重い攻撃だが、攻撃を逸らすぐらいなら問題はない。たちまち、メタルバイトウルフは攻撃は逸れ体勢を崩した。そこへ、キリトの[バーチカル・スクエア]が直撃。HPバーの一本が消し飛んだ。
その後も、ひたすら攻撃を逸らしてはソードスキルを打ち込み。あっという間にHPは消え去り、メタルバイトウルフは消滅した。
「よし、じゃあ戻るか」
「あ、あぁ」
キリトがさっきの石を持っていく。もう石じゃなく水晶玉にしか見えないけど……
依頼主のところまで戻ると、爺さんは大喜びしている。
「いやはや、ありがとう。まさか、本当に倒してくるとは……さ、報酬を渡さねばな」
そう言って、後ろのでっかい袋に手を突っ込む。
「その前にひとついいか?」
「なんじゃ?」
爺さんは手を止め俺に問い返す。
「何でわかったんだ、これを触った瞬間にモンスターが出ることが」
俺は水晶玉を指し聞く。キリトは、摩訶不思議そうな顔を浮かべる。
「何を言うか、知ってて当然であろう。すでに触っているんだからのぉ。」
「いや、恐らく最後に触れられたのは数百年も前だ。人間がそんなに生きていられるとは思えない。なのに、あんたはついさっき『本当に倒してくるとは……』といった。どういうことだ?」
キリトは俺の言葉についていけなくなりつつある。爺さんは黙り込んだ後、観念したかのように溜息をつく。
「わしが事前に知っとった理由、それは……」
「トレジャーハンターなんだろ?」
その言葉に2人はギョッとする。
「……何故……わかった」
「普通の爺さんがこんなところでその後ろに隠してるでっかい袋を持ってる方がおかしいわ。ま、多分変装なんだろうけど……」
「でも、それが仕掛けを知ってた理由にはならないんじゃ?」
ようやく言葉を発したキリトのいうことは事実だ。だか、
「それが遺跡専門だったら話は別だ。古代の遺跡はその存在を守るため、守護モンスターが存在する。それを知っていれば誰でも分かる」
そう言って、仕舞った古代文書を取り出す。
「これにはそれが記されていた。守護モンスターや制御装置についてもな、その水晶が制御装置だと知り撤退した。違うか?」
「……完敗だ。奴を倒したお前らに勝てる気はしない。そいつは諦めるとするか」
その言葉を残して、トレジャーハンターは去っていった。
その後、俺たちは水晶を遺跡に戻し、その瞬間、クエストクリアの表示が現れる。多分、軍の奴らがやけにピリピリしてたのも、報酬の剣が入手できなかったからだろう。トレジャーハンターの正体を見破れなければ、クエストクリアにはならなかっただろうし……あの人も面倒なことさせるなぁ、と内心思った。
こうして、俺の初クエストは幕を閉じた。
第32層『ユレギオン』、再び『無名の丘』に戻ってきた。朝方の白い光に包まれた黄緑の草原も、夕暮れ時には燃えるような茜色に染まっていた。最近、1人フィールドを彷徨っていたせいか、誰かといることが心地よく思えた。
「そう言えば、何でここに俺がいると思った?」
ウトウトしかけているキリトに問いかけると、
「ん~?何となく……」
「そんなわけないだろ」
半分予想していた通りの答えが帰ってきた。でも、どうしてわかったのか気になるから、もう一度聞いてみる。
「……アルゴ……」
「情報家頼りってことかい……」
「……そう…………」
その言葉を残して、彼は夢の世界へと行ってしまった。しかし、ここは圏外。仮に安全エリアとはいえ、絶対に死ぬことのない場所ではない。小さい溜息をつき、少しの間、彼が目覚めるまでここにいることにしよう。
50層ボス攻略から毎日ここに来ている。ここはガーネスと俺だけが知る絶景スポットだ。情報家でも知らないであろうこの場所にいると彼がどうやって知ったのかはわからないが、それとは別に誰かに見つけて欲しかったのかもしれない。ここで立ち止まっていた自分を……
DATE
無し
レイの明かすガーネスとの過去、
そこに刻まれた思いは50層で儚く散り去り、
後悔と罪悪だけが彼に残された、
そこへキリトが自分の罪を打ち明ける、
次回『黄昏の記憶』
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黄昏の記憶
いよいよ明かされるレイとガーネスの過去、回想に映る情景は懐かしき日の記憶、ついに2人の出会いの秘話が明かされるようです。
『白の剣士 放浪編』最終節、心行くまでお楽しみください。
以上、ニュースアート・オンラインでした。
「こんなところで寝て、お前危機感ある?」
「ここは安全エリア、おまけに情報家も知らない秘境だぜ?神経質になる必要なんてあるか?」
緑に包まれた草原に身をゆだね、完全に無防備状態で答える姿に少し頭に血が上る感覚があった。当時のピリピリしていた最前線にこんなに無神経でマイペースな奴が混ざっているなんて言われてブチ切れるな、と言っても無理がある。実際、その状況に高ぶっている感情をやっとのことで押さえつけていたのだ。
溢れる感情を抑えながら無防備な剣士のまがい者に訪ねた。
「お前、何でここで寝てるんだ?」
「ん~?こんな昼寝時に最適な草原にいるのに眠らない方がおかしいだろ」
彼はすごい気持ち良さそうな表情をしていた。
確かに、頬を撫でるような爽やかな風が吹き、足裏からも伝わる絨毯のようにふかふかした草原、耳に残る風や草の安らかな
「とりあえず、横になってみろよ。騙されたと思ってさ」
俺は彼の言われるままに横になった。俺の体を支える草原はそこら辺の安っぽい宿の寝床よりも快適だ。横になってすぐに、意識は遥か彼方の世界へと誘われた。
目を覚ますと、すでに起きていた彼が顔を覗き込んでいた。
「やあ、随分よく寝てたな」
その言葉を聞きギョッとした。弾かれたように体を起こすと、辺りはオレンジ色に染まっていた。
「ここは最近見つけたんだが俺のお気に入りでな、情報家でも知らないんだぜ」
自慢気にしている彼を見て思わず吹いてしまった。あまりにも緊張感が無さすぎて、気を張り続けていた自分が馬鹿らしく思えた。
「お前のような奴もいるんだな、ある意味尊敬するわ」
「いや~、そんなこと言うなよ。照れるだろ」
「いや、この場合って誉めてないから……」
なんか誉めてもいないのに勝手に照れてるし、こういう奴は大抵が面倒な奴だ。
「オレっちはガーネス。ま、よろしく」
「……レイ……」
彼にも聞こえにくいほど小さくあきれた声で自分の名を言う。
「レイ?お前の名前か?いいねぇ~、よろしく!レイ」
……もう、勝手にしてくれ……
それが、俺とガーネスの出会いだった。
それから1週間後、32層ボス攻略当日、俺はいつも通りギルメンとパーティを組み、ボスに挑む。そのつもりだったが……
「レ~イ!頼む、俺とパーティを組んでくれ!あぶれちまって1人なんだよ。お前しかいないんだ、頼む!」
出発の10分前に唐突に言われ、ふざけているのかこいつ……と思いはしたが、1人でも多く人材が欲しい。無理を言ってパーティメンバーに納得してもらい、彼とパーティを組むことになった。
いざボス攻略に挑むと、彼の実力は当時の『閃光』のアスナにも引けを取らないものだった。
それからは度々コンビを組むようにもなった。ギルドの合間を縫って彼と仮に出た回数は優に100は超えているだろう。
彼とはこの世界で2番目に長い付き合いだ。勿論、1番は団長ことヒースクリフだが……その半分くらいはあるだろう。それだけ長ければ、コミュ症の俺でさえ並々ならぬ感情を抱く。彼はこの世界でも類のないトラブルメーカーだったが、何気に良き友だったのだと今なら思える。
元々、
そんな彼をつい先日亡くしてしまったのだ。いや、俺が死なせてしまったんだ。1番彼を救えたはずの俺が……彼を見殺しにした。
「お~い、生きてるか?」
…………いつの間にか夕焼けは地平線の彼方へ消え去り、後には漆黒の闇夜が残っていた。
「生きてなければ、今ここに俺はいないだろ……」
「それもそうだな」
キリトは柔らかな笑顔で微笑む。
「いつから起きてたんだよ……」
「ついさっき」
「そうか……」
寝起きでまだ目覚めきっていないせいか、話がなかなか続かない。多分、このまま横になっていればまた眠りにつくだろう。
「……なあ」
「ん~、何?」
今にも消えそうな意識の中、彼の言葉を聞き取ろうとする。
「ガーネスってどんな奴なんだ?」
「…………お前は聞いて良いことの区別さえつけられねぇのか?」
「悪い……ついさっきの聞いちまったもんで……」
彼のふざけた質問で眠気は姿を消した。彼の言おうとすることもある程度は察しがつく。
「チッ……聞いてたのかよ」
「悪い……」
「別に、昔っからみたいだから気にはしねぇよ」
それはさて置き、あの話は前半はともかく、彼の死については気分の良い話ではない。それをたまたまとは言え盗み聞いてしまったとしたら尚の事だ。それが例え、既に知っていたとしても……
「……俺もさ、死なせちまった奴がいるんだ」
沈黙を破るようにキリトは話し出す。
「ずいぶん前にな、中層プレイヤーのギルドに入ったんだ……その頃はプレイヤーと関わるのは避けてたんだけど、彼らのアットホームな感じに惹かれてな、ギルドに誘われたときは心の底から嬉しかったんだ」
その言葉に俺は驚いた。あの、プレイヤーとは接触を極力避け続けていたキリトがギルドに所属していた時期があるとは思っていなかったのだ。
「でも……俺は彼らを死なせちまったんだ。いや、違うな…………俺が殺したんだ」
その言葉は俺の心を写し出したようなものだった。彼がこんな話し始めたのも、俺と同じような感情を抱いたことがあると言いたいのだろう。
「俺、ギルドの皆には嘘のレベルを言ったんだ……もし俺が『ビーター』だって知られたら、彼らも拒絶するんじゃないかって……そう思ったら、本当のことが言えなくて…………」
「そう……」
彼の言葉は俺の中に何度も深く突き刺さる。勿論、彼に悪意はない。ただ、彼への申し訳なさが勝手に胸を締め付けているだけだ。
そもそも、彼を『ビーター』と罵倒されるようになったあの出来事は俺が未然に防げたはずなのだ。にも関わらず、俺は彼1人にプレイヤーたちの恨みを背負わせ、孤立させてしまう結果を招いてしまったのだ。
そして今も、その事実を言えずにいる。
「でもな……」
そう言って、彼はストレージを開いて何かを探す。そして、1つのアイテムをオブジェクト化する。彼の手には既に使用された記録結晶がオブジェクト化される。
「それは?」
「メッセージ録音クリスタル、ギルドにいたやつから貰った。と言っても、時間指定で送られたものだけどな……」
記録結晶にはメッセージを録音するもののほかに、写真を撮るものやメッセージを書き残すものもある。その中でも1番値が高いものが、メッセージ録音クリスタルだ。
「それには、なんて……?」
躊躇いを引きずりながら彼に聞いてみた。
「……『がんばって生きてね。生きて、この世界の最後を見届けて、この世界が生まれた意味、私みたいな弱虫がここに来ちゃった意味、そして君と私が出会った意味を見つけてください。それだけが、私の願いです』って」
その時の彼の顔は懐かしそうだった。
「サチは、俺に生きる意味をくれたんだ」
「サチ?」
聞き覚えのない名前を復唱する。
「俺のいたギルドの、『月夜の黒猫団』のメンバーだった。結局、守れなかったけど……俺はこの世界に来た意味を見つけなければいけないんだ、サチのためにも……」
振り絞る声で最後の言葉を発する。彼の目には後悔の色が映っていた。しかし、その奥には決して折れることのない強き意志があった。黒の剣士を象徴する黒き魔剣『エリシュデータ』のような固く、真っ直ぐな意志がそこにはあった。
「だから、俺は生きなくちゃいけないんだ。それが、サチの、最後の願いだから……」
そう言い残して、彼はここを去っていった。俺は挨拶も彼にかける言葉も言うことができなかった。
気づけば、空には転々と輝く光が現れていた。その光は、後悔の闇に落ちた俺を照らしてくれた。正確に言えば、キリトが暗闇に落ちた俺を見つけ出し、追随して天の輝きが救いの手を差し伸ばしてきたのだ。そのとき、俺は悟ったように内心呟く。
……俺1人じゃない。苦しんでるのは、俺1人じゃないんだ……
ここから立ち上がるんだ。励ましてくれた彼のためにも、あいつのためにも……
心にそう誓い、ストレージから2つのアイテムを武装する。彼と共に手にした『セルメントサーブル』左腰に、あいつの形見、『スカーレットアイズ』を右腕に……
DATE
『スカーレットアイズ』
ガーネスが常に装備していたブレスレット、紅色の玉石が特徴的で未だに1つしか見つかっていない超レアアイテム、真紅の宝玉はガーネスの瞳のようだった、ソードスキル威力が大幅にアップする。
74層攻略が進む中、レイは久々の休暇を貰う
SAOで暮らす人々、仲間、戦友、
彼らがこの世界に生きる姿は
果たして何処へ行き着くのか
次回『この世界に生きるものたち』
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この世界に生きる者たち
皆さんこんにちは、『ソードアート・オンライン――紅の聖騎士と白の剣士――』も終盤。いよいよ決戦!の前にこの世界の様子を見てみましょう。アインクラッド最終戦前、どうぞお楽しみください。
以上、ニュースアート・オンラインでした。
2024年10月下旬、最前線、74層の迷宮区、現在骸骨剣士『デモニッシュ・サーバント』と交戦中……
「っ、せい!」
右斜めから切り下ろす剣撃を左のバックラーで防ぐ骸骨剣士、ダメージは通るものの微々たるものだ。
デモニッシュ・サーバントは2mを越える長身で右に長剣、左にバックラーを持ち合わせ、高い筋力パラメーターで設定されている。攻略組でもパーティ全員で1体を仕留めに行くのが定説になるほどだ。
とはいっても1人で倒せないわけでもない。パターンを全て記憶し、その攻撃ひとつひとつ捌いては隙を突いていく。中にはパリィ攻撃もあるので、それは100%パリィを成功させ硬直時間の短いソードスキルを打ち込んでく。それを続け、気づけば骸骨剣士のHPバーが残り1割に突入した。
「ゴォグヮァァァ!」
耳障りなサウンドエフェクトを発し、長剣を青白いライトエフェクトが包み込む。片手剣ソードスキル[バーチカル・スクエア]を発動させる。デモニッシュ・サーバントはこのソードスキルの使用頻度が比較的高い。それさえ見切ってしまえばほぼダメージを受けない。4連の斬撃をひとつひとつ躱し、歪な四角形は空を斬って発散する。硬直している今がチャンス、と渾身の一撃を込め片手剣ソードスキル[ノヴァ・アセンション]を発動。
「はあぁぁぁ!」
鼓膜が破れそうになるほど声を震わせて深々と剣先をはしらせる。スキル発動中、悲鳴に似た断末魔をあげていたようだが俺の耳には届かない。スキルが終わる前に、ポリゴン片となり四散する。最後の一撃はモンスターの体ではなく、何もない空間を切り裂いた。
「はあ、はあ、はあ……ふぅ~」
張り詰めた緊張感から一気に開放され、安堵に包まれ息をつきフィールドに腰を落とす。無理もない話、さっきのモンスターは単身で倒せないことはないが、10分以上ぶっ通しでやらなれればならない。それに加え、最近アルゴリズムの変わってきた敵の攻撃を全て避けるか捌ききり、尚且つ一瞬の隙を逃さず手早く攻撃を与えるための効率のいい立ち位置、速攻の一撃を正確に撃たなければならない。
何より、それを延々と続ける集中力の持続が一番の問題。一瞬でも手を誤れば、死は免れない事態となりかねない。連戦をするようなら、それは自殺行為そのものだ。
そんなギャンブルをする理由はないはずだが、ここ数日はそれを繰り返している。 強力な敵に
第50層『アルゲード』主街区、とある店で今日ドロップしたアイテムを売りに来た。目的の店の前に着いた。
「ともかく今日はここで帰りなさい!副団長として命令します」
突如、中から声が聞こえた。普通なら扉越しに話を聞くことはできない。だが、例外はある。扉をノックしてから10秒の間なら中からの声を聞くことができる。他にも聞き耳スキルをあげるなどいろいろあるがその中のひとつに、中のプレイヤーの声が一定音量を越えたとき外のプレイヤーにも聞こえるなっている。中のプレイヤーに危険が迫っているとき、助けを呼ぶという意図で設定されたと言う。
しかし今では、口喧嘩の声も通ってしまうと言うリアルでもよくあるような現状が起きている。実際に危機と言っても、ハラスメント防止コードで大方どうにかできるのでたいした需要は今のところない。
ドンッ!!と勢いよく扉を開け白コートに身を包んだ男2人組が出てきた。あの2人は副団長護衛隊、とか何とかいったものをやっている奴らだ。確か名前は………
「ちょっと、待ってよクラディールさ~ん」
「今機嫌が悪いのはわかってんだろ!話しかけてんじゃねぇよ、ルドリッヒ!」
俺に気づきこともなく、2人は去っていった。副団長ことアスナは護衛なんて要らない、とは言っていたが万が一に備えておくべきだと言う意見に渋々承諾したのだ。無論、俺も護衛は1人でも置いておくべきだとは思うが……クラディールの素行とアスナへの執着心はあまりにも目に余るものだ。
しかしまあ、今そんなことを気にしても仕方ない。とりあえず中に………
「ああ~もう!何なのよあいつ!だから護衛なんていらないって言ったのよ!」
「おいおいアスナ、俺とラグー・ラビット置いて行ってどうすんだよ~!」
再び勢いよく開く扉から出てきたのは、アスナとキリトだった。彼女らも気づくことなく店を後にしていった。
嵐の後の静けさとなった店内に入る。
「大分静まり返ったな」
「ん~?あぁ、レイか……どうした?なんか用あんのか……」
「どうしたんだよそのどん底空気は……」
いつもはバカみたいにプレイヤーの売るアイテムを安く仕入れて高笑いしているような漢が、こうも意気消沈するとは余程のことがあったのだろう。まあ、大方察しがついている。
「ラグー・ラビットか?」
「その話は止してくれ……」
さらにへこんでしまいそうなので止めておく。
さて、本題に戻るとしよう。
「こいつらを買ってくれ」
そう言って、メニューを操作しアイテムウィンドウを開く。エギルはそれを覗き込んでしばらくすると、いかつい顔を緩め金額を提示する。
「23点合わせて1万コルだな」
1万コルと聞いて大分高く着いたと思うものもいるだろう。実際そうでもない。俺の売るアイテムの中にはレアアイテムも含まれている。一番高いのでさっきの半分は軽く越える。その他にも1,000コルオーバーの物はいくつかあるが、それら全てで1万は明らかに安すぎるのだ。
しかし、俺は金に困っているわけでは無いし、何より彼の目的を知ってる。それもあって、最近は全く気にしてない。
「わかった。じゃあ、さっさと済ませようか」
そう言って、アイテムをトレードウィンドウに入れる。エギルもコルをトレードウィンドウに入れ、トレード開始のボタンをタップする。一瞬のうちに売却は終わった。
「毎度!いつもすまねぇな」
「気にするな。まあ、有効に使ってくれよ」
「応!……そうだ、あの2人……なんかあったのか?」
「あの2人?」
記憶を遡るように思考を巡らす。そして、ある2人のことに行き着いた。
「ああ~、あの黒白コンビか。最近仲いい感じになってきたからな」
「へぇ~、キリトのやつが俺に黙って……」
少し嫉妬しているのか、彼の顔はモンスターも怯む恐ろしさで溢れかけた。
「でも、エギルも向こうに奥さんいるんだろ?そんな様子知られちゃまずいんじゃないか」
「ま、まぁな……」
その一言で強張った空気が解放された。
以前、エギルから聞いた話では、リアルでは喫茶店をやっていて奥さんと2人で切り盛りしていたそうだ。2年前、例の事件発生する直前の日……ソードアート・オンラインを入手したものの1人分しか用意できずどっちが先にやるかという話になった。結果は見ての通りエギルが先にナーヴギアを被った。今では俺が先にこの世界に来ていて、奥さんをこの世界に閉じ込めることにならなくて良かったと言っている。ここまで来ると2人の仲は余程良いというのは俺でなくともわかる。
あの2人も早くそうなればいいのに……そんなことをふと思う。
翌朝、今日は休養をもらったのでのんびりと過ごす予定。のはずだったが……
「なんで君たちがいるのさ?」
「いや~、なんたって珍しく休暇だって言うから久々に一緒に行動しないか?ってこと」
「そうそう、最近『仕事あるから』ってギルドに籠りっぱなしじゃない。もう少し付き合い多くても良いと思わない?」
リグレスとセーレはそう言っているが、彼らの目的はわかっている。
「今日はNPCレストランで済ませるつもりだから」
「「え!?作ってくれないの?」」
「そのだけのために人の家に押し掛けてくるな!」
どうやら、のんびりすることは叶わないようだ……この2人のせいで…………
そんなこんなで、結局自分で作ることになった。恐らく今日1日中居座るだろう。2人が訪れたのは昼前、朝食時に来なかったのが幸いだ。それはさておき、気になったことを聞いてみる。
「休暇だってどうやって知った?」
ギルドのメンバーならまだしもアルゴも知らないはずだが……
「ヒースクリフが教えてくれた。丁度昨日呼び出されてな、その見返りにって」
なぜあの人はそういったことを他人に安々としゃべってしまうのか……
呆れつつもその感情は押し殺し、代わりに1つため息をつく。
その瞬間、メッセージ着信を知らせる鈴の音が鳴る。何事かとメッセージを開くとそこには団長からの呼び出しが短く書かれていた。──至急、私のところに来てくれ──と必要な情報だけを的確に記されていた。
「すまないけど、団長に呼び出されたから行くわ。2人も今日は……」
「(俺/私)たちついていく!」
「却下!!!」
部屋に轟音が響き渡った。ひさびさに出す自分の怒号だ。
第55層『グランザム』、KoBギルド。団長室に向かう途中何人か話し掛けてくる。
「おや、レイ殿!今日はいないと聞いておりましたが……」
「団長に呼ばれたんだ。それより物資の補充は済ませた?」
「勿論!と言いたいところですが少々ボーダーに届いておらず、調達を急がせておりますが……」
「わかった。そちらは追々にして君たちもレベリングに行くといい」
「了解しました!ではすぐ他の者にも」
そう言って彼は駆けていった。彼はモルガンティス、物資管理の責任者でギルドのアイテム等の管理は勿論、調達も彼らの仕事だ。
「あ、レイさん。丁度いいところに、中層プレイヤーの強化は順調、このまま行けばあと2ヶ月程で攻略組に入れることができそう」
「了解、引き続き頼む。しかし、無理だけはさせないように」
彼女はシーナ、中層プレイヤーの強化担当。ギルド、攻略組の中では一二を争う指導者としての天性を発揮している。
他にも多くの責任者、担当者が進捗報告に来る度に適格な指示を出す。そんな繰り返しを何度したことか、気がつけば団長室だ。
カンカン
「失礼します。ただいま参りました」
重たい鉄の扉を開くと、奥に配置された長机を挟んで団長が椅子に腰掛けている。
「すまないね、わざわざここまで来させてしまって」
「それはお構い無く、して何事ですか?」
団長は長机に重心を乗せるとうむ、と一言ついて話始める。
「今日、クラディール君が問題を起こしてね、詳細はさておきアスナ君直々に護衛任務の解雇を言い渡されたとのことだ。あとの処理は……」
「『私に任せる』といったところでしょう」
「すまないね、君に押し付けてばかりで」
「ご心配なく、この程度のことをこなせないようでは団長の側近などになっておりませんよ」
そう言うと団長は重荷を下ろしたように軽やかに身を起こす。
「そうか、ご苦労。今日はもう休んでくれ」
一言返事をし扉の前まで戻る。そして、出ようと扉にてをかけるその瞬間。
「あ、そうだ。機会があれば、また君の手料理を食べさせてもらっても?」
「えぇ、勿論」
そう言って部屋をあとにする。
帰路を急いでいるとき、鍛冶屋からメッセージが届いた。メンテに出した武器を取りに来い、と言うので寄ることにした。
第48層『リンダース』、街中を流れる水路はそこら中に張り巡らされて、この層の建物は水車付きのものが多い。その中の1つ、大きな水車が目印の職人クラス用プレイヤーホームが見えてくる。ここが目的地だ。扉を開けると鈴の音と共に、
「リズベット武具店へようこそ!」
と張りのある声が出迎える。
「すまないねリズ、お客じゃなくて」
「な~んだ、あんたね。注文の品、工房からとってくるからちょっとここよろしくね♪」
思うことはあるが取り合えずわかった、と返す。
彼女、リズベットはマスタースミスであり、マスターメイサーでもある。鍛冶屋としてもプレイヤーとしても文句なしの称号の持ち主だ。しかし、彼女はあくまで鍛冶屋、攻略組と比べるとその差は歴然。しかし、鍛冶屋でありながらも中層プレイヤーにも劣らぬスキルの高さはかなりの時間と労力を伴ったものであろう。
その彼女が1分もしないうちに工房から戻ってきた。まあ、この店の奥が工房だから何ら不思議なことでもないけど……
「はい、注文通り研磨は終わらせたわよ」
運ばれてきた4本の剣はガシャンと大きな音をたて目の前の台に並ぶ。ありがとと、一言言ってアイテムストレージに収納する。
「しっかしねぇ、あんたこの1週間で4本もへばらせるって、どんだけフィールド彷徨ってんのよ!」
「じゅ、15時間ぐらい……」
その言葉を聞いた瞬間、彼女は石化した。意識が戻ったのは、その5秒後だ。
「あんた……死に場所でも探してるの?」
ただ苦笑いすることしかできない自分に呆れてしまう自分がいる。実際そこまで攻略が切羽詰まっているわけでもないし、10時間以上フィールドに潜っている必要はない。
「でも、理由は……」
「わかってるわよ、別に言わなくても」
一度リズには話したことがある。その内容は今は置いといて、彼女は一息おいて飛びっきりの笑顔で言う。
「その代わり、アスナとキリトのこと頼んだわよ」
「あぁ」
その言葉を残し、店を出る。
ホームに帰った時にはもう18時を回っていた。のんびり休暇を過ごすことは叶わなったが、別に悪い気はしてない。
この世界に来て2年近く、プレイヤーたちはそれぞれの生き様を見つけこの世界で生きている。初期に比べれば大分落ち着いたと言える。それを見れただけでも今日に意味があったと思う。ゲームクリアまであと26層、
そう考えながら前線に戻るための英気を養うことにした。
DATE
《Agil》
第50層『アルゲード』で店を出している、レイとは第1層のボス攻略で同じパーティのメンバーでタンカー兼アタッカーという頼りになるプレイヤー、しかし店ではがっしりした図体と恐ろしいほどの顔で多くのプレイヤーが安値でアイテムを買い取られている。
遂に始まる最強同士の闘い
決闘する2人のプレイヤーは
何を思い、何を挑むのか
今、2つの意志が衝突する
次回『神聖剣VS二刀流、2人のトッププレイヤー』
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神聖剣VS二刀流、2人のトッププレイヤー
皆さん明けましておめでとうございます。
いよいよ始まる最強プレイヤー同士の対決。これには多くのプレイヤー(読者)が目を光らせていることでしょう。本編はその状況に至るまで一部始終を収めております。ぜひ、お買い上げくださいね。(本当に売ってはいませんよ)
では、本編をお楽しみください。
第55層『グランザム』KoB団長室、その空間には4人の名の通る人物がいた。
赤いローブに身を包み、威風堂々ととした姿は威圧感を放つ。彼はKoB団長、『聖騎士』ヒースクリフ。その戦闘力の高さと類いなきカリスマ性で全プレイヤーの頂点に君臨したSAO最強の男。彼の伝説は多々あり代表的なのは、今まで1度もHPバーがイエローになることがなかったという、正に最強の証明するものがある。
彼女はKoB副団長であり、SAOで指折りの美少女だ。しかしその可憐な容姿とは裏腹に、攻略では驚異の強さを発揮し刺々しい態度でものを言うため、周りからは『狂戦士』だの『攻略の鬼』だの数々の異名がある。その中で彼女の代名詞と言えようものはトップクラスの攻撃の速さと正確さからとられたもので、『閃光』アスナが通り名だ。
もう1人KoBメンバーがいるが、自分のことなのでざっくりと説明する。KoB団長補佐、『白の剣士』レイ。これ以上は流石に恥ずかしいので知りたくなったら適当に資料をあさってほしい……
そして、この場で見るのは珍しい者が1名いる。その者は全身黒装備、2本の剣の柄が両肩から飛び出て見える。SAO最強のソロプレイヤー、『黒の剣士』キリト。この世界で
「さて、君とボス攻略以外で会うのは初めてかな、キリト君」
「いえ、67層の対策会議で少しばかり」
団長の問いに対して、ツンとした態度で返したキリト。
「そうだね、あのときは厳しい戦いだったな。危うく死者を出すところだった。トップギルドとは言われても戦力はギリギリなもんだからねぇ……困るんだよ、我々のギルドの有力者を持っていかれるのは」
「そう思うのなら護衛の人選くらい気を使うべきじゃないのか?」
護衛、クラディールの件のことだ。俺が有休をもらったあの日、クラディールの行き過ぎた態度で問題を起こしたと報告を受けた。その件のことを彼は言っている。
「確かに、彼の件については詫びなくてはならんな。しかし、我々とて引き抜かれておいて、はいそうですかという訳にはいかないな」
事態はますます悪化する一方で、こちらはただ黙って見ていることしかできなかった。戦場と化す中、決定打を打ち込んだのが団長の方だった。
「キリト君、君が勝てばアスナ君を連れて行くがいい。しかし、君が負けたときは……血盟騎士団に入って貰う。どうかな?」
「「なっ!?」」
俺とアスナは唖然とした。一瞬この人何言ってるんだと思った。
「欲しいのなら、その剣で………その[二刀流]で、奪うがいい」
団長に抗議しようと口を開こうとしたとき、
「いいでしょう、剣で語れと言うのであれば受けてたちましょう」
俺たちは絶句した。そして、意識が戻った時には2人して文句の詰まった一言が飛び出していた。
「「何言ってる(んだ/のよ)(あんたら/あなたたち)は!!」」
あの後、キリトはアスナに団長は俺に散々言われる事態が起きた。
決闘するといっても命まで取り合うことは基本はない。しかし、当たりどころが悪ければ最悪のケースを招きかねない。それがソードアート・オンラインのトッププレイヤー同士の闘いとなるとなおさらだ。したがって、決闘なんてホイホイやっていいようなものではない。
団長とキリトは、以後あのような行動は控えるようにするということで今回の件は見逃すことになった。
その後、キリトとアスナはギルドを去り、俺と団長はギルド内攻略会議の行われる会議室に移動する。
「今回は主街区周辺のモンスターの情報に基づき対策の思案を予定。その後、フィールド探索範囲の拡大に伴い先鋒としてでるメンバーの決定、ですね」
「うむ、メンバー構成は君に一任する。いつものことだかね」
「了解しました。しかし、念のため確認等にはお付き合い願います」
よかろうと団長は信頼の目を向け言う。
気づけば、会議室前まで来ていた。扉を開けようと手をかけた瞬間、
「しかし驚いた。あのキリト君があぁもすんなり決闘を承諾してくれるとは思っていなかったからね」
「…………団長。何故このタイミングでそれを?」
「ん?不意に思い出しただけだが、どうしたんだね?」
「それが偶然なら、あなたは元から事をかき乱すタイプなのでしょうね……」
団長は一瞬理解できなかったようだがすぐに察した。今の話は完全に先に来ていたKoBの名だたるプレイヤーの耳に吸い込まれてしまった。もう、 俺たちだけの話ではなくなった。
いつもはピリピリしていた空気が団長の一言で一気に緩まった。会議前にも関わらず、団長とキリトの
「会議の予定、先送りになりそうだな」
ため息混じりにそう呟いた。
その後、団長とキリトのデュエルの話を根掘り葉掘り問い詰めてきた。
翌日、75層『コリニア』、主街区には古代のローマをモチーフとした造りの建物が並び、太古の時代を思い描かせる雰囲気になっている。
その中で最もプレイヤーの目を引くものが転移門前に佇むコロシアムだ。まさに街のシンボルと言えようここで、大イベントが開催されようとしている。
俺たちが
「…………何でここまで大騒ぎになっているのか……」
「ハハ、こうも集まって来るとはな」
コロシアム前では最早お祭騒ぎと化している。
元々は穏便に、秘密裏に、誰にも知られずにと考えていた。いや、動いていたはずだ。あの日、あの場所にいた4人だけで納めていた。少なくとも、あの時までは……
団長の挑発を受け、それに乗ったキリトの対決は隠密に行うことを話し合った。勿論、キリトは即承諾し団長も、それは任せようと、一言言っていた。
それであまり他のプレイヤーに知られないよう、75層のコロシアムを選んだ。
コロシアムは外からでは中の様子は知ることが出来ない。例え知られたとしても極少数で止められる。ましてや、デュエルするために造られたようなここにそうそう来る人なんていない。デュエルで初撃決着だとしても死ぬ可能性はゼロではないからだ。
故にここを選んだのだが、そこには大きなリスクがあった。それは事前に知られたとき、大勢のプレイヤーが集まるということだ。
収容できるのはざっと500は軽く超えるだろう。今、コロシアム前でさえ道に人が溢れかえって中々進めなくなっている状況だ。
なんとか人込みを掻き分け中に入ると、観客席へ通じる階段が左右の道にある。正面には選手が待機するような控え室、そしてその先にはコロシアムのリングが一直線に並んでいる。俺と団長はそこから正反対の方へ回り込み、もう1つの控え室に入る。
控え室とは言えど、ただ長椅子が2つサイドに並んでいるだけのシンプルなものだけど。団長は迷うことなく右の椅子へと腰掛ける。俺は団長とは反対側に座る。そこからはただ沈黙だけが続いた。
気づけば開始時間は残り僅か。装備の確認をするとリングに向かって歩き出す。
「団長!」
俺はたくましい背中を呼び止めた。振り向いた顔はまさに覇者そのものの威圧感があった。
「どうかお気をつけて」
「あぁ、では行ってくる」
そう言って、『聖騎士』は戦場へと躍り出た。
私はこの世界で初めてデュエルする。加えてその相手は私を除いた6000のプレイヤーの中で唯一のユニークスキル保有者、『黒の剣士』キリトだ。
彼はこの世界でも一二を争う実力者だ。無論、私も同様だ。そんな私たちが決闘という形で勝者を決するのだ。これほどまでに心踊る
そんな期待を中に押し止め、この戦場に身を踊らす。
対戦者はすでにスタンバイしていた。その顔には嫌悪が表れている。
「すまないね、こんな状況になるとは」
「……出演料と慰謝料、たんまり貰わないとな」
「いや、明日からは私のギルドの一員だ。さすれば、任務として扱えよう」
他愛ない会話でも緊張感は解れるどころかいっそう増している。彼の場合、それは私の比ではないだろうが。
彼から10m離れた辺りまで移動し、なれた手つきでデュエルメッセージを送る。最も、実際に操作したのは初めてなのだがね。
彼の下にウィンドウが出現すると、私と同じかそれよりも手早く操作するとカウントダウン始まった。互いに戦闘体勢に入る。
DUELの合図とほぼ同時に駆け出す。それは彼も同じだ。一瞬で距離は縮小し、互いの武器は交差する。
蒼白い剣と十字盾の衝突で火花が散り、一瞬時間停止した感覚が伝わるはずのない全身の神経を刺激する。
そこからは私たちだけの世界となった。飛び交う剣撃の攻防は、最早プレイヤーの域を超えるものだ。恐らく、この試合を観ている多くのプレイヤーは目の前で何が起きているのか正確に理解できたものは指の数もいないだろう。
互いにクリティカルを取ろうと力の限りを尽くすが、流石はデスゲームを勝ち抜くだけあって中々通らない。ソードスキルも互いに見切り、その隙を突かんと頭をフルに回転させる。
ヒートアップする中、彼は『二刀流』上位ソードスキル[スターバースト・ストリーム]を発動させる。素早い剣撃で敵を灼き尽くさんばかりの威力とスピードを持ったスキル。それは星屑の如き輝きを放ち、天を焦がす数多の流星の如き剣技だ。
だが、
正確には、あのソードスキルを作り出した私にはどのような攻撃か分かるのだ。それに対する防御姿勢もまた然り。
しかし、それが可能なのはGMのみ。今ここでそれは使えない。したがって、ただ構えることしか出来ない。[スターバースト・ストリーム]は一撃一撃が強力な訳でなく、その手数と速さが大きな武器となる。後半に差し掛かれば、耐え凌ぐことも困難なのだ。そして、15撃目で盾は弾かれ守りが崩れた。このソードスキルは16連撃、次の一撃が決まればHPがイエローゾーンに突入し、彼の勝利となる。
だが、ここで問題が生じる。私のHPは何があろうと
システム的不死、それがある限り私はイエローゾーンまで減ることはない。そして、それが公となれば、私がGMだという証拠の1つになる。それは何としても避けなければならない。いや、私は彼に負けるものかと思ったのだ。
彼の剣が私の額を捉える寸前、私はGM権限の1つを使用した。額を剣が真っ二つにするその瞬間、弾かれた盾が割って入る。カァァンと最後の一撃が防がれたキリトは驚愕の顔を見せた。
彼に大きな隙が出来、それを逃す前に一撃を彼の左脇腹に撃ち込む。彼は左に飛ばされ、HPバーがイエローに変わる。
それを以て、この試合は終了し勝者を告げるウィンドウが空に現れた。
控え室に戻ると、レイが待っていた。
「何やってくれちゃってるんですか」
「いや~、つい負けじと力が入って『オーバーアシスト』を使ってしまったよ」
『オーバーアシスト』とはその名の通り、プレイヤーの能力をアシストする補助機能のようなものだ。
「これでバレても知りませんよ」
「ハハハ、そうだな。まあ、それもネットゲームの醍醐味だがね」
そんな呑気なこと言ってる場合ではない、と一言彼は言うと、控え室を後にした。
キリト君、か。この世界で10存在するユニークスキルの中で『二刀流』を手にしたプレイヤーか。
次にやるときは最後の戦いになるだろう。そこで、決着を着けよう。
DATE
ユニークスキル
ソードアート・オンラインに存在する10の特異スキル、それぞれ1つずつあり、その所得方法は不明、現時点で知られているのは『神聖剣』と『二刀流』の2つ、どちらも並のスキルを遥かに超えるスキル補正とソードスキルを持つ
団長とキリトの決闘から時が経ち
いろいろ落ち着いた頃合いでついに
最終クォーター・ポイントボスに到達
しかしそこで待ち受けるのは……
次回『絶望の扉』
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絶望の扉
今日より『ソードアート・オンライン フェイタル・バレット』発売です!予約された方はお忘れの無いように、また興味のある方はぜひお買い求め下さい。それではショッピング情報はここまでにして本編をどうぞ。
キリトと団長の決闘から数日後、ゴドフリー率いる訓練隊で事件が起きた。
隊員の1人がゴドフリーを含む3人の隊員を麻痺、そして手をかけた。それにより隊員2名が死亡、1人がレッドまで減らされたという。2人の命を消し去った張本人は同じ隊のキリト、最後の隊員を殺そうとした。
そこへアスナが駆け付け、からくもキリトを保護。その後、裏切りを謀った隊員はキリトによって消滅。そして、2人は帰還した。
この件により、ゴドフリー、ルイン、そして……クラディール、以上3名の死亡を生命の碑にて確認。
「以上の報告で間違いはない?」
「あぁ……」
質問に答えたキリトは見るからに疲弊していた。プレイヤーの死は実感が薄いのに対し、責任感・罪悪感が濃く鮮明に刻みつけられるというギャップがある。それがまた彼を大きく苦しめる要因だ。
しかし、それは彼に限ったことではない。俺もその1人なのだから……
この事件を引き起こしたクラディールは、以前副団長護衛で問題を起こし、護衛の任を解かれたばかりだった。その者の処遇は団長より任された。そして、彼を副団長への接触を固く禁じることのみとした。
あの時、彼を除名処分にしていたなら、こんな事件は起きなかったかもしれないのだ。そう思うと、ゴドフリーたちを死なせた罪悪感が首を絞める。とてつもなく息苦しい気分だ。
「成る程。しかし、話はそれだけではないようだが?」
「……私とキリト君の一時退団の許可を」
「ほう、理由は?」
団長が尋ねると、アスナはギルドに対する不信感と答える。そうか、と団長は一言漏らした。数秒の沈黙ののち、団長が口を開いた。
「良かろう。だが、君たちはすぐ戦場に戻ってくるだろう」
その言葉を最後にキリトとアスナは団長室を去った。
あの後、俺はギルドを離れたアスナの指揮ていた小隊の面倒を少し見ることになった。今回の事態を伝えると、それぞれ思うものはあったようだ。しかし、いつまでもうなだれているわけにもいかない、とサブリーダーの言葉にその小隊は任務を再開した。
その後は執務をこなしていた。内容はギルド内の人員の調整。近頃こればかり行っている気もする。それもそのはず、なにせキリトの入団決定後から今までずっと続いているのだ。今日もアスナたちの退団に応じて調整しなくてはならない。そのせいか、最近は疲労が溜まりつつある。
夕刻にはギルドでの活動は基本的に終了。俺も日が暮れる前にホームに帰った。この日はすぐに眠りについた。明日は団長より休暇をいただき、ゆっくりできるだろう……
翌朝、ベルの音で目覚める。寝起きの目に映ったのはメッセージ受信のウィンドウ。送り主は……
「ki・ri・to…………キリト!?」
驚きのあまり飛び跳ねる。急いで支度し、ホームを出る。
第50層『アルゲード』主街区、エギルの店に呼び出された俺。渋々中に入る。
「客じゃない奴には『いらっしゃい』とは言わねぇぞ」
「それって遠回しに言ってるのと同じだろ。例の人は?」
そう聞くと、エギルは無言で奥の部屋を指す。
奥の部屋にはキリトとアスナがいた。
「いきなり呼び出してどうしたんだよ?」
「あ、あぁ……」
「それが、その……」
2人してどうした、と思いながら2人が話すのを待つ。
「レイ!」
「っ!おう……」
急に名前を呼ばれ驚く。そこへ間髪入れずキリトの口から飛び出す。
「俺たち……け、結婚するんだ」
「え!?ほんとに!?おめでとう!」
やっとか、という思いは胸の奥に押し込みお祝いの言葉を送る。
しかし、結婚とは思い切った決断だ。一般的には付き合ってから結婚に至るもので、いきなり結婚という結末はいくら彼らの仲とはいえ唐突なのだ。おまけにこの世界での結婚とは手続きは驚くほど簡単なのに対し、リスクは途轍もなく大きいのだ。何せお互いの情報とアイテムの共有することになり、それは相手に生命線を預けるのと同意だ。
それ故に、結婚までに至るものはこの世界にはほとんどいない。
「いつかこうなるとは思ってはいたのになぁ。いざ聞いてみると結構驚くものだな」
正直、こっちまで照れ臭くなってきた。恥ずかしさでどうかしてしまいそうだ。
「ま、まぁ、2人とも、お幸せに……」
「あ、ありがとな」
だんだんぎこちなくなり、今にも心臓が破裂しそうだ。
「そ、そうだ!これから2人はどうするのさ?」
「そうだな、22層で2人静かに暮らそうと思ってる」
「へぇ~22層かぁ」
あの層は大した難所ではなかったため、1週間ほどで制覇したので記憶としてはうっすらとしか残っていない。
「あそこの南西エリアに小さな村があってな、そこのログハウスに引っ越して……ふ、2人で過ごすんだ…………」
正直、2人の関係がここまで急展開を迎えるのは驚きだが、まさか2人下層でのんびり住むなんて予想だにしていなかった。
「そっか、何にせよ元気で」
「あぁ」
「ありがとう」
2人が攻略組から去り、はや2週間。攻略も順調に進み、最前線75層の迷宮区も終盤。いよいよ核心のボス部屋への門が遥か彼方に佇んでいる。
「……いつ見ても、この威圧感には圧倒されるな」
「そうですな。しかし、立ち止まるわけには行きませぬ!そうですな?」
そう言ってモルガンティスは覗き込んできた。
「あぁ、ここで立ち止まってしまえば解放の日は遠退く。我々が切り開かなければならない」
「流石は我らが団長殿の右腕、『白の剣士』レイ殿だ!あなたなら我らを勝利へ導いてくれましょう」
「そこまで大層な者ではないさ」
他愛ない会話でパーティの雰囲気は少し和らいだ。
今回のパーティはギルド合同20人の部隊で挑みに来た。そして、その相手は……この先にいるのだ。
今までクォーター・ポイントのボスとは死線の狭間を彷徨う戦闘を強いられてきた。今回はその大玉、恐らくこれまでとは比べものにならない奴が出てくるだろう。
そこで今回の偵察は過去に類を見ない大規模なものとなったのだ。そして、その統率の役を任されたのが俺だ。
今日は偵察隊としてボスに挑む。しかし、敗北の決まっている戦いに参加するのは些か奇妙な感覚だ。まるで、自ら死にに行くような……そんな感覚だ。
いや、そんな考えでこの戦いに身を投じるわけにはいかない。これは生きて帰るための試練なんだ。そう自分に言い聞かせる。
そんなこと考えているうちに巨大な扉の目の前に来た。
「これより、当初の予定通り作戦を実行する!まず、タンカー部隊が先に出る。その後アタッカー部隊が突入。中は恐らく下層同様結晶無効化エリアだと推測される。回復は攻撃範囲内から離脱し各自のポーションで。油断だけはしないように!」
事前に打ち合わせたこのを再度確認し、これ以上無い準備をして来た。いよいよだ……
「よし!では、俺が戦線で指示を出す。タンカー部隊は俺のあとに……」
ついてこい、と言おうとした瞬間、急に力が抜けていった。
「おぉっと」
倒れる直前、モルガンティスが支えてくれた。
「レイ殿よ、最近まともに休めてないでしょう。ここは私目にお任せを、レイ殿はゆっくり休んでください。ほんの少しでも、英気は養っておくものですぞ」
「すまない……なら、任せた」
「というわけだ。私が戦線に出る!作戦は変更せずこのまま行くぞ」
息の合ったパーティの声を聞くと、少しホッとしたのか肩の荷が降りた気がした。
モルガンティスが扉に手を押し当てる。
「準備はよいな?行くぞ!」
そう言って、硬く重い扉はギィィと音をたててゆっくり開いていく。全開になると、タンカー部隊がぞろぞろと入っていく。
本来、モルガンティスがいるところに俺がいたのかと思うと、アタッカー部隊の2人の肩を借りて力なく立っている自分が恥ずかしくなってきた。
部屋の中央まで進んでいったが、何も現れる気配がない。
何事かと思ったそのとき、扉が独りでにギィィと閉じていく。
「っ!!戻れぇぇぇぇぇ!!!」
扉が閉まっていくことに気づいたモルガンティスたちは全力で駆けてくる。が、時すでに遅し。扉は完全に閉ざされ、中に入ったものは閉じ込めりてしまった。
「急いで開けるんだ!」
愕然としたアタッカー部隊は我に返ると、扉を再び押す。しかし、硬く閉ざされた鉄の塊はびくともしない。
「ダメです!我々の力では……」
「どけ!!!」
非力になった体に鞭打ち、鉄塊目掛けて振り下ろした。
しかし、鉄塊は切れるどころか傷ひとつ残ってない。これじゃ全く歯が立たなかった。
だか、そんなことを考えられる程の余裕は存在してなかった。ただ、ひたすらに剣を振り回しているだけ。
「た、隊長!どうかここは落ち着いて!方法は他にもあるかもしれません」
そのとき、彼らの声は微塵も届かなかった。残っているのは野獣の如き怒号と剣を弾く鉄の音だけだった。
そう、あのとき俺は怒りにとらわれていたのだ。こんな不条理な状況と、彼らを救えなかった自分に……
あの後、どれだけ切りかかり続けていたのか、中の者はどうなたのかはハッキリとは覚えていない。ただ、無情な結果だけが押し付けられていた…………
「いじょうが、こんかいのほうこくです」
「そうか……まさかここまでとはな。やはり彼らを呼び戻す必要があるようだな……あ、報告ご苦労。もう上がって良いぞ」
「はい…………」
そう言い残して団長室から立ち去った。
この日の夜はなにもすることなく、ただ、眠りについた。そう、ただ、ただ……
DATE
《morgantis》
血盟騎士団のギルドメンバー、片手棍使いの剛漢、ギルドでの役割は物資管理の責任者、エギル並のマッチョだが心優しい性格、メンバーへの気遣いがとても評価されている
75層攻略最後の砦、敵の情報はゼロ
対するは、最大勢力を揃えた攻略組
どちらかが死ぬまで終わらないデスゲーム
過去最大の戦いの扉が開かれる
次回『命刈り取る骸』
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命刈り取る骸
『ソードアート・オンライン――紅の聖騎士と白の剣士――』も残すところあと2話となります。
ここまで読んでくださった方々、誠にありがとうございます。そして、今作、次回作もどうかお楽しみください。
偵察の翌日、団長の召集により、退団中だったキリトたちが呼び戻された。そして、団長室に呼び出された2人は驚愕の事実を耳にした。
「偵察隊が壊滅!?」
団長から告げられた残酷な現状はキリトたちを唖然とさせた。さらに団長は話を続ける。
「そうだ。昨日、レイ君とその他19名のギルド合同偵察隊にボス部屋へ向かってもらった。今回のボス戦は困難を極めると予測されるため、最大規模で行った。まずは10名のタンカー部隊が先に踏み込んでもらった。しかし、彼らが中央に到達した途端に部屋の扉が閉まったようだ」
「と、扉が、勝手に!?」
アスナは驚愕した。
「外からはその扉をどうすることもできず、再び開いたときにはプレイヤーはおろか、ボスの姿もなかったようだ」
「なるほど、完全なるブラックボックスか……つまり、俺たちを呼び出したのはそのブラックボックスに突入する戦力になれ、ってことか」
「そのとおりだ」
「……わかった。だが、もし危険な状態になった場合、パーティ全体よりもアスナの身を最優先に守りますからね」
その言葉に微かに笑みを浮かべ、団長は了承する。
「よかろう。何かを守ろうとするものは強いものだ。期待するとしよう。君たちを含めた32人のパーティで挑む。75層のコリニア市ゲート前、3時間後に集合だ。では、健闘を祈るよ」
そう言って、団長と俺は部屋を去る。
部屋の扉を閉め、少し先を歩く団長を追いかける。ほんの小走り程度で。
団長室を後にしてから2時間と30分が経過した。あのあと、何をすればいいか分からず彷徨っていた。気付けば集合場所に1人ポツンと立っていた。ほんの10分前の話だ。あれからここを動かずいるが、未だ誰も現れない。
そこへ2人の影が目に入る。リグレスとセーレだ。
「あれ?レイじゃん!こんな早くにどうかしたの?それともうっかり時間を間違えたとか?」
「いや、そうじゃない。時間は、ちゃんと、覚えてる……」
セーレの質問にキョドりながら答える。
「いつ頃に来たの?」
追い撃ちをかけるが如く、リグレスが問い掛けてきた。
「つ、つい……10分前に着いたところで……」
「10分前に?」
「……おう」
「1人で?」
「…………ぉぅ」
「ずっと?」
「………………」
セーレがう~んと唸り、終いにはこう言う。
「友達、いないの?」
「そこまで可哀想な人に見える!?」
そう聞くと2人揃って首を縦に振る。けっこうへこむ……
あれから、かれこれ数十分経つ。あまりの事実に驚愕したのか、自分自身驚くはほどヘコんでた。
その間にも続々とプレイヤーが集まりつつある。その中には、エギルもいる。
そしてそのとなりには、侍を連想させるコスチュームと刀に、一際目を引く赤いバンダナを額に巻いた男性がいる。以前にキリトやエギルから話を聞いたことがある。名は確か……
「なんだ、クラインたちも呼ばれてたのか」
「おお、キリト!おめぇも相変わらずだな」
「まあな、しかしエギルまで召集するとはな」
「フン!今回ばかしは苦戦するって言うから、こっちは店を投げ打って来てやってんだ。この無私無欲の精神が理解できないとはなぁ」
「そうかそうかよ~くわかった。じゃあお前は戦利品の分配からは除外しておくよ」
「い、いや、それはちょっと……」
視界の右端から現れたキリトの発言にエギルは焦りを見せる。しかし、アスナの姿は?と思った矢先、
「レイ君」
後ろから右肩をつつかれ、その方を向くと彼女がいた。
「どうしました?」
「今回、貴方にも指揮官として手伝ってほしいの」
「それは、副団長としての命令でしょうか?」
そう聞き返すと、彼女は耳元に囁く。
「貴方の友人の恋人としてのお願いよ。彼、多分私がついてないと危なっかしいことするだろうから」
予想もしていなかった答えに少し驚いたが、妙に微笑ましく思えた。
「わかりました、彼のことはお願いします。彼の数少ない友人として、ね」
それを聞くと、アスナはフフッ、と笑みをこぼし、任されました、と返す。
お~いとキリトに呼ばれ、俺たちは彼らの所に行く。
「アスナ、用は済んだか?」
「うん。バッチリ」
「おい、キリの字、そこのお三方は?」
赤いバンダナの彼がキリトに言う。
「初対面か?なら、紹介するよ。こっちはクライン、悪趣味なバンダナ着けたオッサンみたいだが、これでも最下層からの付き合いだ」
「んだよ、もっとしっかりした紹介してくれよ~」
「で、こっちが右からリグレス、レイ、セーレだ」
「どうも、ソロのリグレスです。自分で言うのもあれですが、片手剣の腕は一級品だと自負しています。以後、お見知りおきを」
「私はセーレ、短剣と刀使いよ。あとは……」
「せ、セーレさん!お、俺、クラインと申します!24歳独身恋び……」
「変なこと口走るな!」
キリトはそう言ってクラインの腹に1発入れる。彼は腹を抱え悶えた。しかし、そんなこともお構いなしに自己紹介する。
「KoB団長補佐のレイです。攻略では何度か目にしたことあると思いますが、この場を借りて紹介させてもらいます」
「お、おぅ……」
今にも吐きそうな声で答える。
そうこうしている内に、団長とその他数名のKoB団員が現れた。
「欠員はいないようだな。皆、よく集まってくれた。状況は知っての通り、過酷な戦いになるだろう。だが、諸君の力なら切り抜けられると信じている。──解放の日のために!」
団長の力強い言葉にメンバー一同の士気はより一層高まる。団長はキリトに視線を向け何か話していた。それを終えると、再びメンバー一同に声をかける。
「では行こう。ボスモンスタールームまでコリドーを開く」
言った後、
あれは
そのため入手するには迷宮区のトレジャーボックスか、強力モンスターからドロップするしかないのだ。
そんな代物を躊躇なく使う団長に、正直どのモンスターよりも恐ろしく思えた。実際、団長の行動には誰もが驚いた。
そんなことお構いなしに、団長は結晶を掲げ「コリドー・オープン」と言い放つ。濃紺色のクリスタルは散り散りになり消え去る。それと同時に団長の目の前の空間が歪み始める。それは次第に水面に浮かぶ波紋を描き、転移ゲートとなる。
団長を先頭に次々とゲートをくぐり抜けていく。
光の門を抜けた先には巨大な扉が静かに佇んでいた。
周りは、綺麗に磨かれた漆黒の壁と隙間なく敷き詰められた純黒の石畳で埋め尽くされていた。さらには冷たく湿った空気が肌を刺し、|靄
「なんか……やな感じだね……」
現に誰かがそうつぶやいた。決戦前に緊張と不安でどうにかなってしまいそうだ……
そんな中でも団長だけはしっかりしている。装備を整えるとパーティの方に振り返る。
「準備はいいか。今回のボスは姿・攻撃パターン等一切不明だ。基本はKoBが前衛で攻撃を食い止める。君たちは可能な限りパターンを見切り、柔軟に反撃してほしい」
団長の話を聞き、頷く者、固唾をのむ者、それぞれいた。
「レイ君、後衛の指揮は君に一任するよ」
「了解しました」
「うむ。では、行こうか」
そして、扉を押す。ゴゴゴ、と開く間にも緊張感は激しさを増す。
全開になり、団長が十字盾から剣を引き抜くと合図を唱える。
「戦闘、開始!」
雪崩のように突入し、一気に中央まで入り込む。全員が飛び込んでからしばらくしてから扉が閉まった。これで脱出する方法は、ボスを倒すか、死ぬかに絞られた。
扉が消え、暗闇の中を見回す。
しかし、ボスの姿は見当たらない。他のプレイヤーも探すが、未だにボスの姿は確認されない。
痺れを切らした者が声を出した瞬間、
「上よ!!!」
叫び声につられ上に視線を向けると唖然とした。天井にいたからではない。目に入ってきた姿があまりにも悍ましかったからだ。
全身骨で、百足を連想させる足に、胴はどことなく人の胴にい似ていた。しかし、頭蓋骨は現存する生物とは全く異なる。2対4つの下顎と本物の鬼の形相と禍々しいことこの上ない。これだけでも恐ろしいのに、両腕に大鎌付ときた。さらに驚くことに全長10mという超大物だ。おまけに《The Sukull Reaper》という名のすぐ横に5本のHPバーがある。ここまでくると、もうこれが最終ボスじゃないのかと思いもした。
その姿を目にすると、恐怖のあまり体が震えだした。スカルリーパーは天井に突き刺さった足を抜くと、そのままパーティ頭上に落下し始める。
「固まるな!!距離をとれ!!」
団長が叫ぶと、我に返ったプレイヤーたちはすぐに中央から離れる。
しかし、3名がまだ動けずにいる。
「こっちだ!!!」
キリトの叫び声に気づきこちらを向いた。
「走れ!!」
やっと状況を理解した3人がこっちを目掛け走り出した。
だが、時すでに遅し。3人の背後に落ちた超巨大骸骨は地震のような振動をまき散らし、体勢を崩した。直後、取り残した稲を刈るように鎌が3人を捉える。その勢いで宙に舞った3人は、地に着く前に光の欠片へと成り果てた。
一瞬の、出来事だった……
「そんな……」
「嘘だろ!?」
「無茶苦茶だ……」
たった一撃で消滅させた事実は全プレイヤーを絶望に叩き込むには十分すぎた。次の獲物に突進しだすと、ターゲットされた者たちは悲鳴を上げ逃げ惑う。
逃げ遅れたプレイヤーに向かって鎌を振り下ろす。切り裂く瞬間、団長が[神聖剣]で防いだ。
しかし、もう1本の鎌が恐怖に陥ったプレイヤーを無慈悲に刈り殺す。
そしてまた、次の獲物に進撃する。
「まともに近づくこともできねぇのかよ!」
あまりの危険にそう嘆く声もあった。
止まることを知らない死神列車は逃げ回るプレイヤーの目の前に現れると鎌を振り上げ狙いを定める。恐怖に絶叫が響く中1人の声が割って入る。
「下がれ!!!」
キリトが2本の剣で鎌を受け止める。しかし、ジリジリ肩に押し込まれていく。さらにもう1本の鎌がキリトに向けられる。だが、追撃は団長が止め、押し込まれていた鎌をアスナが弾いた。スカルリーパーは後ろに跳ね除け、やっと止まった。
団長、キリト、アスナはリーパーと正面に向き合う。容赦なく降り注ぐ連撃を捌きながらキリトは叫んだ。
「鎌は俺たちが食い止める!みんなは側面から攻撃してくれ!!」
「わかった!よし、反撃開始!!」
それを合図にプレイヤーたちが攻撃を始める。ついにダメージを与えることができた。
だが、無抵抗でいるはずがない。「あばれんじゃねぇ!!」という怒号を無視して反撃してきた。何が起きたのか見てみると、先端が槍状の尻尾で近づいてきたプレイヤーたちを薙ぎ払ったようだ。数名がこの餌食になった。これ以上犠牲者を増やすわけにはいかない。
「尻尾はどうにかする!みんなは攻撃を続けるんだ!」
縦横無尽に襲ってくる槍を躱し、弾けるものは逃さず、隙が出来れば反撃を繰り返す。
このモンスター、もしくは自分の命が尽きるまで……
DATE
無し
長きに渡る激闘はプレイヤーの勝利に終わった
しかし、それも束の間
新たな敵の出現に一同騒然
誰も予測出来ない闘いが2人によって始まる
次回『最後の決闘』
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最後の決闘
ここまで続いた『ソードアート・オンライン――紅の聖騎士と白の剣士――』もいよいよ最終話です。ここまで愛読していただいた読者様、本当にありがとうございました。最終話は、5000字オーバーの過去最大作となりました。是非、最後までお楽しみください。
以上、ニュースアート・オンラインでした!
激闘を繰り広げること1時間、幾度となく鎌を弾き返し隙を見ては一撃与えるの繰り返した。その間にも他のプレイヤーたちによる側面からの攻撃でじわりじわりと減らしていく。
ソードスキルでも喰らったのか、死神の如き骸骨は悲痛の叫びをあげる。HPを確認すると最後のHPバーも残り1cmにも満たない。
「全員、突撃!」
このチャンスで一気に押しきるべく、パーティ全メンバーに呼び掛ける。
無抵抗の骸を総員で袋叩きにする。無論、ソードスキルも遠慮なしに放つ。それぞれ最大の力をもって死神を冥界に送り戻さんと。
死神は徐々に縮こまり最終的には残った命を切らし、青白い光と共に爆散した。
パーティ全員はボスの消滅と同時に、フィールドに座り込んだ。誰1人として歓喜をあげることもなかった。まあ、あれだけの強敵相手に健闘したのだ、無理もない。
ふと気になったのか、クライン君が疲弊した声で呟いた。
「……何人、やられた?」
誰もが気になることであった。その問いに答えたのはキリト君だった。
「……14人死んだ」
そして同時に、知りたくないとも思うようなことだった。それを聞いた他のプレイヤーは驚愕の声を漏らす。
「嘘だろ……」
「……これがあと25層、俺たち、本当にてっぺんまでいけるのか……」
私自身もただのプレイヤーだったなら、ここで攻略を放棄していたかもしれない。
だが私を含め、諦めてはならない。我らが求めるもののためにも……
とは言え、ここまで圧倒的な強さを目の当たりにし叩きのめされては、幾ら豪胆なプレイヤーでも死の恐怖には敵わないだろう。そんな中にいる彼らを私は憐れんだ。
そんな感情を抱いたが故に、私はこの世界に生まれて初めて
突如、視界の端から何かが飛んでくるのが見えた。咄嗟に盾を構えるが、それをすり抜けて突進してくる。
「ちょっとキリト君!何を…………」
アスナ君は驚愕した。それはキリト君が私を目掛けて剣を突き刺したことにではない。そもそも彼は突き刺そうとしただけだった。
漆黒の剣の切先は私のほんの少し手前で止まっていた。切先は透明な障壁に阻まれていた。その障壁にはもうひとつ、
『Immortal Object』
「システム的不死……って、団長、どういうことですか?」
アスナ君の問いに私は無言で答えた。その答えをキリト君が代弁する。
「この男のHPはどんなことがあろうとも絶対にイエローまで落ちないようにシステムに保護されているんだ。不死属性なんて、一般プレイヤーにはありえないし使えるのも管理者ぐらいだよ。でもこのゲームには管理者はいない。そう、ただ1人を除いては……」
私の正体を知った彼と彼の言葉を聞いている私は異様なほどに落ち着いていた。そして、遥か遠き記憶を思い出すかのように彼は話を続ける。
「この世界に来てからずっと疑問だった。あいつは今、どこから俺たちをみて、この世界を調整しているのか、ってな。でも単純な心理を忘れていたよ。『他人のやっているRGBを傍から眺めるほど詰まらないものはない』……そうだろ?茅場晶彦」
全員の視線がこちらに集まる。私はキリト君に訪ね返す。
「何故気がついたのか参考までに教えてもらえるかな?」
それを聞いたプレイヤーたちは愕然とした。ただ1人を除いては……
「最初におかしいと思ったのはあんたとのデュエルのことだよ。あんた、最後のあの瞬間だけあまりに速すぎたよ」
「やはりそうか。あれは私としても痛恨時だったよ。つい、システムの『オーバーアシスト』を使ってしまってねぇ。君の強さには圧倒されたよ」
そして、唖然としたプレイヤーたちを見回し鼻を鳴らすと、渾身の演技力を込め絶望的な宣言をする。
「確かに私は茅場晶彦だ。付け加えるなら、最上層で君たちを待つはずだったこのゲームの最終ボスでもある」
冷たく静まり返っていた空気は一気に騒然とした。そんな中でも、キリト君は冷静に言葉を返す。
「……いい趣味とは言えないぞ。最強の騎士が一転、最悪のボスモンスターとはな……」
「いいシナリオだろう。本来なら95層まで明かすつもりはなかったがね。その頃には、私と戦える程に君たちを完全に育て上げるつもりだったんだが……」
そう言って、キリト君の方をじっと見つめる。
「そりゃ悪かったな、先にネタバレしちまって」
「まあいいさ、これもネットワークRPGの醍醐味だ。しかし、最終的に私の前に立つのは君だと思っていたが、まさかここまでやってくれるとは……やはり、君は『勇者』として相応しかったようだ」
「『勇者』?」
「『二刀流』スキルはこの世界全てのプレイヤーの中で反応速度が最も速いものに与えられるものだ。その者は『魔王』に対抗する『勇者』の役を担うのだよ。キリト君、君は選ばれたんだよ。英雄としての挑戦権を」
「我々の忠誠心を、希望を、貴様はよくも、よくも!よくも!!」
後ろを見ずとも、誰が何をしようとしているのがわかる。私はそれよりも速く、手元のメニューを操作しGM権限の1つを発動させる。
「うぐっ!」
切りかかろうとしたKoBメンバーの1人が力なく地に伏せた。『ステータスコントロール』で麻痺させたのだ。もっとも、不死属性を解除していないこの状態で私を斬り倒すことは不可能だが。その後も流れるようにプレイヤーたちを麻痺させていき、遂にはキリト君を残す全てのプレイヤーが動けなくなる。
「……どうする?このまま全員殺して隠蔽するか?」
「まさか、そんな理不尽なことはしない。こうなっては致し方あるまい、私は最上層の『紅玉宮』にて君たちが訪れるのを待つとしよう。その前に……」
麻痺状態になったアスナ君を抱える彼の方を向き続きを語る。
「キリト君、君にはひとつチャンスを与えよう。これから私と1VS1を行う権利を与える。無論、不死属性は解除しよう」
私の言葉にキリト君は揺れ始めた。
「どうする?強制はしないが、私を倒せばこの世界に残る全プレイヤーを解放しよう。まあ、『今は引いて、対策をたてる』と言っても止めはしない」
「ダメよキリト君。今は、引いて……」
アスナ君の意見は最もだ。プレイヤーとしてのステータスが上回っているとは言えGMと戦うことになるのだ。例え彼でも、システムには勝てない。
しかしそうであろうとも彼は、キリト君なら挑みにくる。
「……いいだろう。決着をつけよう」
アスナ君の制止も虚しく、キリト君は挑みにきた。正直、私も少々驚いた。
彼らが何を話しているかは聞き取れなかった。それを終えると彼女を静かに寝かせ、剣を構える。
「キリト!!」
「やめろキリト!」
キリト君の後方で倒れるエギル君とクライン君が叫ぶ。振り替えり、2人に向け話しかける。
「エギル、今まで剣士クラスのサポート、サンキューな……知ってたぜ、お前が儲けた分を中層プレイヤーにつぎ込んでたこと」
彼は呆気にとられた顔を見た後、隣のバンダナ侍の方へ視線を移す。
「クライン、あの時……『始まりの街』でお前を置いていって悪かった。ゴメンよ」
「な!?て、てメェキリト!謝んじゃねぇ!今謝ってんじゃねぇよ……許さねぇかんな。
「わかった。むこうでな」
涙を見せながら叫ぶクライン君に向け、キリト君は何処か遠くを指し答えた。
そして、最後にアスナ君の方へ視線を向けると、柔らかな笑みをおくる。彼は私に向き直ると、
「悪いが、頼みがある」
「何かね?」
「簡単に負けるつもりはない。だが、もし俺が死んだら少しの間でいい……アスナを自殺できないように計らってくれ」
その言葉につい、ほぅと感嘆を漏らす。少女の悲痛の声は我々の耳には届かない。
不死属性を解除しHPを彼に合わせる。そして、剣を抜く。最早、誰も止めることはできない。
一秒、一瞬がとてつもなく遅く感じる。彼の姿を真正面から捉えることはそう多くはない。それ故に、緊張感、圧迫感、そして躍動感が沸き上がる。これが本当に遊びだったら……と思うことは今まであっただろうか。
しかし、これはゲームであっても
彼は烈風の速度で駆け出し、黒剣を振るう。それを十字文様の刻み込まれた盾で防ぐ。次は私が十字剣で斬り込む。キリト君はもう一方の剣で弾く。
流れるように一撃、また一撃襲い掛かる。悉く防いでは斬るの連続だ。カァン!キィン!と金属音がけたたましく鳴り響く。他の者からすれば、この剣戟は超人同士による異次元対決に見えるだろう。
だが、私とて手数は彼に勝るものではない。気がつけば、防戦一方になっていた。次第に彼の剣撃は速度を増し、疾風怒濤の連撃が押し寄せてくる。
しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。彼は今、最上級まで高ぶっている。ならば、彼にソードスキルを誘発させればよい。
そう考え、起死回生の1手を下す。私の剣の切先は彼の頬掠め、キリト君の集中力を欠く。
その瞬間、彼はなんの躊躇もなくスキルを発動させる。これには流石に笑みを抑えきれない。それを見た彼はどうにかしてスキルをキャンセルしようとするが、ソードスキルは1度発動すればそれが終わるまで止まらない。更にはスキルの反動である硬直でしばらく動けなくなる。この好機を除いて、私には他に勝ち目はない。
ソードスキル[ジ・イクリプス]、二刀流最上位ソードスキルで縦横無尽に飛んでくる軌跡は太陽のコロナに酷似している。そして、この剣技を編み出したのは他でもない、茅場晶彦だ。
最終奥義に匹敵するその大技は、見るも無残に十字盾を叩くのみ。太陽と同じ色の火花を散らし、派手な金属音を鳴らし、空を斬る彼は神秘の剣舞に身を包む。私はこれを見るために、この《二刀流》スキルを造り出したのかもしれない。
そんな夢のような一時が終わりを告げようとする時、最後の一撃が流星の如く盾を突く。だが、ライトブルーの剣は砕け、破片は星屑のようだ。
絶望的な硬直時間を課せられたキリト君めがけ、剣を振り上げる。
「去らばだ、キリト君!」
真朱色に輝いた刃は振り下ろされ、左肩から右腰まで切り裂く。これで充分、彼のHPを消失させることができる。
だが、思いもよらぬことに斬られたのは、キリト君を庇ったアスナ君だった。
アスナ君はよろけながら、キリト君の腕の中に身を寄せる。彼女のHPは左端まで縮小し、バーを空にした。
「うそだろ?アスナ……」
震える声で話しかけるキリト君に笑顔を見せると、二言を残した。
ごめんね さよなら
アスナ君は光の欠片へと変貌し、散り去った。
「これは驚いた。自力で抜け出す方法はなかったはずだが。こんなことも起こるものなのかな……」
彼はそんな呟きに答えるわけもなく、彼女の残した
振りかざした無意の剣を弾き飛ばし、戦う意志を失ったキリト君を突き刺した。HPは徐々に減り、彼は抵抗することもなく死を受け入れた。
『こんなものか?キリト君、君はこの程度のプレイヤーなのか?』
そう問いかけたくなるが、彼はもう消滅する。これは胸の内に留めておこう。
「…………まだだ……」
突如、この世界の根底を覆すことが起きた。消滅するはずだった彼がそれに抗い私の前に立っているのだ。本来なら、すでにアバターは消滅し存在することも不可能なはず。
しかし、彼はここにいる。今も私を殺そうとし、左手に握るレイピアの柄を強く掴む。
そして、金色の瞳が私の姿を捉えたとき、私は彼の力を見た。システムの枠を超え、抗う力を……
――見事だよ、キリト君――
レイピアは私を貫きHPを削り取る。HPが完全に尽き、敗北を示す『You are dead』というメッセージが出る。
私は負けたのだ。
そう裏付けるようにアインクラッド最終ボスは、『聖騎士』ヒースクリフはポリゴンとなり、空に消え行く。
私が消滅すると同時に、アナウンスが流れる。
――11月7日14時55分、ゲームはクリアされました――
夕焼けの空の中、私は立っていた。『
気付けば、遥か下で浮遊城が崩れていくのが見えた。そして、それを見つめる2人の剣士が……
「なかなかに絶景だな」
2人の数m横に並び立ち、呟いた。彼らはこちらに視線を向けた。互いに、暫しの間沈黙が続いた。やっと口を開いたのは黒衣の剣士だった。
「あれは、どうなるんだ?」
あれとは、崩れ行く城を指していると言うのは、彼を見なくてもわかった。
「……現在、SAOメインフレームの全記憶装置でアーガス本社に残るデータを消去している。あと10分もすればこの世界の全てが消滅する」
「……あそこにいた人たちは?」
今度は白衣の剣士が尋ねた。
「心配には及ばない」
ウィンドウを呼び出し、それを眺めながら答えた。
「先程彼処にいた全プレイヤー、6147人のログアウトが完了した」
「死んだ4000人の連中はどうなんだ?俺やアスナがここにいるなら、あいつらも……」
それはキリト君もわかってはいるだろうが、あえて答える。
「死んだ魂は帰っては来ない。何処の世界でも同じことだよ。命は、そう軽々しく扱ってはならないよ」
「そうか……」
「君たちとは少し話がしたかったものでね、この時間を作らせてもらった」
普通、怒りを露わにしてもおかしくはない。だが、彼らはそうしなかった。その代わり、キリト君の口からはこの事件の発端を尋ねる言葉が出てきた。
「なんで、こんなことをした?」
「何故、か……長い間忘れていたよ。私がこの世界を、この城を造り出した理由…………幼い頃からの憧れだったんだよ」
遠き過去の日の事を思い浮かべ、話を続けた。
「現実世界のあらゆる枠や法則を超越したあの城を追い求めることが、私の最大の欲求だった。そして、私の造った世界の法則を超えるものも見ることができた」
そう言うと、キリト君の方へ眼を向けた。それはすぐに鋼鉄の城に戻った。
「私はね、今でも信じているんだよ。何処か別の世界には、あの城があるのではないか、と…………」
「あぁ、そうだといいな」
キリト君たちが頷いたあと、再び沈黙が続いた。
ふと、彼らにかける言葉を思い出した。
「……言い忘れていたな。ゲームクリアおめでとう。キリト君、アスナ君」
不意を突かれた顔をした2人を見つめ、別れの言葉を告げた。
「さて、私はそろそろいくよ」
その言葉を残して、私は霧のように消えていった。
Congratulations.
DATE
『茅場晶彦』
フルダイブマシン『ナーヴギア』の基礎設計者にして、ソードアート・オンラインの開発ディレクターという超が付くほどの天才量子力学者、若くしてマスコミに引っ張りだこだかメディアに出てくることは滅多にない、SAOリリース開始時からは悪魔のゲーム機を作った犯罪者として世間に知れ渡る、そして彼が見つけられたのはゲームクリアから4ヶ月後で、そのときすでに亡くなっていた。
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