ソードアートBro's (名無しの権左衛門)
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1:始まり

これは特別篇である。
息抜き程度。



1:始まり

 

 80年代後半、ドットから始まったゲームは、30年後人の脳をも支配する存在となる。

そのゲームは総称として、『VirtualRealityGame』と言われている。

つまり、VRゲームだ。

このゲームは、機器を通して人の電気信号を脳幹と延髄から全て読取り、ゲーム内の操作に組み込み遊ぶことができる。

 

 そう、彼らは仮想でありながら、もう一つの現実と表現した。

そんなVRの黎明期の騒乱として、こんな事件が発生した。

 

 『ソードアート・オンライン』、SAOと呼ばれるVR専用ゲームがある。

このゲームソフトは限定発売もので、第一陣は9000個のソフトを売り出した。

購入した人達は、休暇等を取り幼児から寝たきりのお年寄りまでこのゲームにログインした。

 

彼等は楽しくこのSAOの世界を楽しむ。

 

そんな中、世界中に鐘の音が鳴り響き、最初の街である『始まりの街』に皆が転送される。

 

 黄昏に染まる街の広場に、全てのプレイヤーが転移完了する。

この広場から誰も出ていけない。ログアウトも不可能な中、GMである運営を待つ。

後に来た人ほど、混乱してしまっているが周囲の冷静さにより落ち着きを取り戻していく。

 

そしてその時が来た。

 

天井いっぱいに広がる六角形の結界。

そのポリゴンの塊には、『warning』と描かれている。

結界が天を覆った後、ポリゴンの隙間から流体が出てくる。まるで血の様だ。

 

<ようこそ、我が世界『ソードアート・オンライン』へ。

 私は茅場昌彦。この世界を統べるゲームマスター兼プロデューサーだ。

 この場に私直々来たのはほかでもない。

 何者かによりプログラムが変更させられた。

 その為、ログアウトすることができなくなっている。

 外世界では、万が一の為全てのメディアを通して、保護してもらうように病院へ搬送してもらっている。

 

 いつ直るのかは不透明である。しかし、こちらから外部アクセスし、情報の譲渡は可能である。

 また、心して聴いてほしいが、この世界でHP0となると電子レンジの要領で頭が焼かれる事になる。

 つまり死んでしまう。

 

 君たちには、基本コルの増額と上位回復アイテム・自分の造形を忘れぬためのアイテムを送ってある。

 ストレージに手鏡があるだろう、それを見てみたまえ>

 

 この場に居る全員が手鏡を見る。

すると全ての人間の容姿が、現実のものと大差なくなる。

これにより怨嗟の声が鳴り響く。

 

<現実と仮想のギャップを少なくすることが、最善の精神治癒に繋がると信じている。

 私……から――は―――>

 

 ピーーーッ

 

 紅いローブを着る巨大な造形が、砂嵐を含んで消えてしまう。

その代わり茅場昌彦が、この世界に落とされてしまう。

 

「何……?」

 

 

<グフフ、グハハハハハハ!!!

 この世界は我々の創造主、マスターハンド様のものである!>

 

 おぞましい聲がそこいらじゅうに広がる。

この音源はどこから出ているのか。

それは結界の外だ。

結界は透明度を0にする。これにより、外部情報を読み取れる。

 

 外部には空飛ぶ木造戦艦が多数飛んでいる。

編隊を組んでいるようで組んでいない、ただ数多である。

その数多のプロペラが付く戦艦には、必ず一つ以上の旗がある。

 

その旗は黒く、中央には白い何かを描いている。

 

<ガハハハハハハ!

 ワガハイはクッパ。キノコ王国一の大魔導士なり!

 マスターハンド様より、脆弱な舞台で躍る人形に助言がある!

 この世界には英雄がいる。ヤツラと手を取り会えない限り、貴様らは死ぬしかないとな!

 

 この電子世界は、我々の生きる世界とする!

 人間[都合]に支配される世界[物語]とはおさらばだ!>

 

 木造戦艦は、突如彼等の上に出現したUFOに吸い込まれて消えた。

UFOも一瞬でテレポートして消える。

 

この時、結界がほどける。

いや崩れ落ちて行ったと表現する方がいいだろう。

 

 

暫くの間静寂が続く。

 

そして発生する喧噪。

怒鳴り散らす人達は、実に俯瞰から見ると醜い。

 

ただの協力して脱出するだけではなくなった。

明確な目的を見失い、途方に暮れる者が多くなる。

しかし、GM権限を一部使える茅場は、より多くの命を救うため行動を起こす。

 

そう、マスターハンドを100階で倒すという、明確な目標をクエストとして繰り出す。

報酬は、プレイヤーその者の命と心である。




面白かったですか?
面白ければ重畳です。
またいらしてください。


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2:道標

文字がおかしいのは、txtから直接コピペしてるからです。
なるべく直してますので、ご了承ください。


2:道標

 

「クライン、ここら辺のリソースは限られている。

 今からでもいい、俺と一緒に次の村まで来てくれ。

 俺は全ての安全なポイントを知っている。

 レベル1でもたどり着ける」

 

「すまねえ、キリト。

 俺はこのゲームをあいつらと徹夜して買ったんだ。

 今更置いていくわけにゃいかねぇ。

 なあ、後でいいからよ、あいつらと顔あわせてやってくんねえか?

 キリトの技術は目を見張るものがあっからさ」

 

「……分かった。先に行ってるよ、フレンド登録しようぜ」

「応!」

 

 そう云って、俺はクラインとフレンド登録して、次の村へ向かった。

俺はこの後彼等と会う事ができないまま、レベリングをしてしまう。

なんだか、違う世界に住んでいるような気がして……しり込みしてしまったんだ。

 

最初この世界に来たとき、俺の行動からテスターと見抜いたクラインは俺にこの世界での戦闘を教わった。

……わかってる。其々の生き方があるんだって。

 

でも、助けられるなら、助けたかった。

 

まだ、クラインの名前は灰色じゃない。

 

 そして、俺の運命もこの日変わってしまったのかもしれない。

 

ある日、俺はとあるクエストに繰り出してた。

普通だったら何事もなく撃破できていたはずだった。

 

でも、素早かった。

 

一歩。

 

あと一歩で、アニールブレードを入手できたのに……!

 

 俺はこの世界で、砕け散ってしまう……死にたくない。

そんな思いとは裏腹に、HPは徐々に0に近づいていく。

 

「1UPキノコって知っているかな?」

 

そんな声がして、俺の口に何かを入れられる。

その物体を口の中で転がす暇もなく、喉奥へ呑みこむ。

何故か。

 

「まずぅぅうう!!?」

「良薬は口に苦しだよ、少年」

「え、え!?」

 

 いつの間にか、全損HPが全快していた。

しかも、起き上がった俺の目の前には、鼻の下から髭を生やしたおっさんがいた。

革靴に青のオーバーオール。黄色い『M』が描かれた赤い帽子。

 

「戸惑うのは後だ、少年!今はこいつを倒すぞ!」

「はい!」

 

 土壇場で、年上な方に敬語で応える。

 

「ほっはっやっふううう!!ふんっ!」

 

 おじさんはホップステップジャンプして、空中で座って敵をおしりの下敷きにした。

どういうことなの?

ホップはまだいいさ。

ステップも、まだ人間の範囲……外だよな?

ジャンプでステップの2,5倍の高さまで上がって、空中で前転しながらそのまま真下へ落下したんだ。

 

 敵は麺棒で引き伸ばされた生地の様に伸ばされていて、そのままポリゴンとなって消える。

 

 

 

「えーと、助けてくださりありがとうございます」

「敬語はなくていいよ。それに、僕らはお互いをリスペクトしあわないと生きていけないらしいしさ」

「わ、わかったよ。あ、俺はキリト。貴方は?」

「僕はマリオっていうんだ。職業は、配管工・医者・ゴミ処理業者・下水処理・花屋・サッカー選手・野球選手・テニス選手・オリンピック全種選手・シムシティ観光業者……色々かな?」

「へーそうなんですか」

 

 一通り会話した後、マリオは俺の武器取得を手伝ってくれた。

 

 マリオは基本的に、拳闘で戦闘する。

黄色いマント・火の玉・ポンプ等を利用して、より戦闘を有利にする。

おかげで、攻撃範囲外の敵を戦略的に排除できた。

 

「体力が減ったなら、このキノコを食べてみてくれ」

「これか?どう見ても、毒キノコ……」

「さあ」

「え」

「さあ!」

「わ、わかったよ」

 

 グイグイと押してくるマリオに負けて食べてみた。

別にポーションがあるってことを云えなかった。

キノコの味はまあまあおいしいかな?

 

「お」

 

 独特なSEが3回鳴って、体が3回点滅して、体力ゲージも3回光って体力が全快した。

俺の驚く様子を見て、マリオは笑う。

 

「よし、今度はキリトがこのゲーム[世界]の事を教えてくれないか?」

 

 マリオが周囲を見て、敵が居ない事を確認してからそういう。

俺は街に戻ってからでもいいと思った。

しかし彼等[英雄]は、全てのプレイヤーと共に歩む事が可能なのだろうかと思う。

現に今、俺のところに居るのはその英雄の内の一人だと思う。

 思うのは一人の英雄につき、一人のプレイヤーだということ。

そしてあの戦艦に乗った亀、クッパがいう事を吟味すると……。

全てのプレイヤーに英雄が、相棒として付く可能性がひくい。

だから今この状況で帰るのは、少々分が悪い。

英雄を奪おう―正確にはストックを利用するため―と思うプレイヤーに、俺が狙われないという可能性はない。

ありえない。

 

 マリオは本当にちょうどいい時に話しかけてくれた。

俺は久しぶりにたくさん話した。

マリオは聞き上手のようで、俺は苦も無く話続けられた。

 

俺はソロでもいいかもしれないという心があった。

でも、今回で身にしみてわかったよ。

やっぱり、自分一人では何もできないことの方が多いんだって。

 

あー、でもマリオは一人で何でもしてるな。うん。

 

「そういえばマリオは、いろんな職業になっていろんな場所を冒険しているみたいだけど、

 どんな目的で旅してるんだ?」

「んー、そうだね。僕にとって一番大切な人を、いろんな悪い奴から救うためさ」

 

 マリオはさらっと口にする。

 

「ええ!?マリオ、恋人……結婚してんだ!?」

「あー誤解してるね。結婚もしてないし、恋人でも……多分違う」

「え、じゃあ、なんで?」

「さあね。でも、昔でっかいゴリラにつかまっていた彼女を助けた結果、こういう関係になったんだ。

 ゴリラに攫われ、クッパに攫われ、ゲラコビッツやゲドンコ姫に拉致拘束されたり……。

 ただの配管工がこうして、キノコ王国の王女と関係を持てたのは、奇跡的というしかないよ」

「マリオは凄いなぁ。身分的に手が届かないのに、いっつもそのピーチ姫を助けているんだからさ」

「偶然みたいなもんだよ」

 

 お互いに情報を小出ししながら、次の目的地へ向かう。

そうして、俺達は4週間共に行動する。

 

そう、この4週間後に初のフロアボス討伐会議が行われるからだ。

今はまだ予定。

俺と違ってパーティを組める人達が、迷宮区に挑んでいる。

そこでフロアボスの部屋を見つけられれば、もっと期間が短くなる可能性がある。

 

 きっと今俺達が向かっても、無残に殺されてしまうだけだ。

だからマリオと共に、レべ上げを頑張る事にする。

 




キリト君の性格がおかしかったのはごめんなさい。
サクサクやっていきたいので、恋慕や心理描写はカットしていきます。
愉しければ僥倖です。是非またいらしてください。


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3:ZERO

3:ZERO 

 

「…」

「おや、こんな所に人がいるじゃないか。怪我はないかい?」

「ここはどこ」

「見てわからないか?」

 

 目の前の人物は、上を指す。

上から太陽の光が刺し込んでいる。

その差し込む穴の大きさは、人の胴回り三倍程。

 

高さから見て、結構な高さ。

この高さからダメージがない事に、今更ながら動揺する落ちた本人。

 

「そんじゃ、自己紹介しようか。わたしはアーロイ。あんたは?」

「……アスナ」

「アスナね。という事は、プレイヤーか。わたしは一応、英雄という役割のようだ」

「英雄……」

「ふむ。アスナ、ここら辺をほっつき歩いてみないか?

 ここでじっとしているより、有益だろ?」

 

 アスナは頷く。

まだまだゲーム開始で、寡黙を貫くアスナは己の殻に閉じこもったままだ。

そんな彼女を気に掛けるアーロイ。

 

アーロイは右耳の上前方に、生体磁石を使いくっついている三角形の機械『フォーカス』を起動する。

この機械により、AR空間が周囲に広がる。

周辺のいろんな情報を汲み取り、彼女にその情報を与える。

 

アーロイの少し後ろを歩くアスナは、何も考えないで歩くだけ。

しかし突然横に広げられる腕によって、前に進めなくなった。

 

「アーロイさん?」

「アーロイでいい。ちょっと身を隠してくれないか?」

 

 アスナはアーロイに言われた通りに、周辺にある瓦礫の陰に身を隠す。

アーロイは腰をかがめた状態で、アスナに近寄る。

 

「エクリプスだ。ちょっと制圧してくる。待っててくれ」

 

 アスナは状況を読みこめないまま、アーロイは一人で前に出ていく。

何せこの場所は殆どが暗闇である。

何をしようにも、光が足りない。

そんな環境でも、苦にもせず行動する彼女。

胆力と勇気、実力がそろっている女性なのだ。

 

 暗闇から響いてくる男共の悲鳴。

泣き止んだと思ったら、アーロイが戻ってくる。

 

「制圧した。奥に階段があった。そこから出ようか」

「ええ」

 

 再び歩き出す。

歩き出して少しすると、鳴き声がする。

これは人間の鬨の聲ではない。

電子音が響く。雑音や空間を引き裂く音で、周囲を満たす。

 

「ねえ、アーロイ」

 

アスナは不安そうな聲で、近くに居る彼女に話しかける。

ほとんど暗闇だが、アーロイの場所はわかる。

それは彼女がつけている『フォーカス』が、光を発しているからだ。

 

 今『フォーカス』は、稼働状態となっている。

その状態だと、『フォーカス』本体上に碧い輪っかが出現し回転する。

 

「ああ、大丈夫。今回はなんとかできる奴らだ」

「今回?」

「アスナ、ちょっと足を確保してくる」

 

 そういうと、アーロイは足早にその場を去る。

アスナは今まで通り、瓦礫の陰に隠れる。

暫くすると、彼女は二匹の馬のような機械を連れてきた。

機体の一部が光っているので、アスナにもその全容を見ることができる。

 

「これは?」

「ストライダー。馬型の機械獣だ。

 こいつに乗ってくれ、この場を突破する」

「騎乗スキルなんて持ってないんだけど」

「持っていなくても可能さ。さあ、乗った乗った」

 

 アスナを乗らせると、アーロイも乗ったのかアスナの前に出る。

アスナはアーロイが笑ったかのように幻視する。

アーロイは短く「ハッ」と、掛け声を発する。

するとアーロイとアスナの乗る、ストライダーが走り始める。

 

 途中、アスナが聴いていた機械音の正体である、ウォッチャーという偵察機械二体に警戒態勢に移行された。

しかし既に彼女らは、階段を上った後だった。

 

 

「うっ!?」

「お、外か。しかし、わたしが知る世界ではないな」

 

 アスナは真っ暗闇から光あふれる地上に出たことで、目がくらんだ様だ。

アーロイは慣れているのか、目の錯覚を気にせずこの世界から反射される光を視神経に映しこむ。

 

途端、アスナの頭上に『Horizon Zero Dawn CLEAR』という表示が出る。

アスナは突然の事に茫然としてしまう。

しかしアーロイはその状況を呑みこめてしまっているようだった。

 

「なるほど、アスナが最初で最後の到達者ってわけか。

 おめでとう、アスナ。わたしと同じ力を使えるようになったぞ?

 そして、私とのフレンド登録もできる。よかったじゃないか」

「どういうことなの?」

「つまり、『フォーカス』も『オーバーライド』も使い放題だ」

 

 アスナは『フォーカス』という言葉を聞いて、自分のインベントリを見る。

そこには『Horizon Zero Dawn PACK』というものがあった。

そいつを選択し開くと、アーロイと同じような『フォーカス』や弓矢等装備が装着された。

 

「私とお揃いだな」

 

 アーロイはアスナの姿に、くすっと笑う。

あまいろの頭髪は、造形は違えども姉妹のように見えてしまう位二人を象徴づける。

 

「さあ、行こうかアスナ。世界は広いぞ?」

 

 始まりの街の圏外と圏内の境目に、いつの間にかストライダーと共に立つ二人。

圏内はいつも通り。

しかし圏外には、機械達がリポップ跋扈し始めていた。




不定期更新な文字列を見てくださりありがとうございます。
どのような世界観がわかりずらいので、3話連続投稿しました。
相変わらず情緒を省いてますので、言動がおかしいことになってます。

愉楽であれば幸いです。
またいらしてください。


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4:邂逅(前編)

前後編に分割してます。


4:邂逅(前編)

 

 ゲームが始まって一か月。死者数は300人を切った。

このゲームに追加されたルールにまだなじめていないプレイヤーが多くいる中、

今も次の階層へ行くため迷宮区攻略を目指している。

 

今もちらほら、英雄と呼ばれるキャラクターがプレイヤーと共に行動している。

勿論別に独りでいる英雄もいる。

彼等と手を取り合い、生きていけるかどうかがこの世界から生還する知恵となる。

 

 

 さて、誰もが一層クリアの為のかじ取りを行わない中、とある英雄がとある人物の目の前に出てくる。

 

「おっと、君はプレイヤーか?」

「えっと……はい、そうですが。貴方は?俺……私はディアベルと申します」

「ははは。そこまで畏まらなくてもよい。私は劉備玄徳と申す。

 君たちのいう、英雄というものだ」

 

 碧の甲冑に身を包む大人が、迷宮区を攻略しているパーティの筆頭に話しかける。

最初は何事かと驚くプレイヤー側だが、劉玄徳を知るディアベルは皆を静める。

おかげで劉玄徳の後ろに付く数名の人物も、警戒状態を解く事となった。

 

今回の偶然とも言える邂逅は、このSAOを揺るがす事となる。

 

それはともあれ、ディアベルと劉玄徳らは協力体制を取ることとなる。

 

 

 

「マリオ!遂に来たぞ!」

「何何、どうしたんだ!?」

「フロアボス攻略会議さ!さあ、行くぞ!」

 

 キリトはマリオを伴って、迷宮区に一番近い街へ移動する。

 

 

 

「アーロイ、急いで!」

「消極的なアスナが積極的になるなんてな。

 で、どうしたんだ?」

「ボス攻略会議よ!機械の王女様をやっている場合じゃないわ!」

「ゲームで制約されていた、オーバーライド無限使用を一端止めてそっちへ行こうか!」

 

 オーバーライドをされた瞬間、敵対化しているときよりもはるかに強力になった機械獣を大量に連れる二人。

機械の王女二人は、ストライダーにまたがり会議が行われる場所へ向かう。

 

 

 10時ごろ。

 ステージ中央を見下ろすコロシアム方式というような感じな場所で、会議が行われる。

ステージ中央には、頭髪を空色に染めている青年がいる。

 

「皆、良く集まってくれた!俺はディアベル。気持ち的にナイトやってます!」

 

 拳を胸に強く当てて、軽口を云い会場を彼のパーティの野次と共に和ませる。

会場の緊張をほぐして静粛にさせ、本題へ入る。

 

「今日俺達パーティは、迷宮区でボスの部屋を発見した!

 このβテスターにより無料で発行、配布されているSAOの歩き方という本には……

 第一層ボス『コボルト・ロード』という名前が記載されている。

 

 しかし、SAOのGMがこのゲームに強制ログインさせるほどの強い勢力が、このゲームを支配した。

 故にこの本のほとんどの情報が、意味をなしていない事になっている。

 

 そこで俺達パーティは、英雄と共にボス部屋に入りボスの姿と基本戦闘能力を確認した!

 

 ボスの名前は分からなかったが、機械仕掛けで巨体だった。

 色は黒色で、基本的な戦闘はロングレンジの攻撃だ。

 

 図体はでかいため、懐に飛び込めばなんとかなるだろう。

 取り巻きは、俺達が入室して5分間は出現しなかった。

 

 さて、このような堅牢な巨大な体躯を持つフロアボスを倒す方法はある。

 それはパーティだ。

 パーティを申請し、協力体制を作る事でレイドというものが作れる。

 パーティは2人から8人で作れる。そしてその中から、リーダーを一人決める事で

 その更に上のレイドリーダーにより統率されることで軍隊として動かすことができる。

 POTローテとスイッチによって、パーティを入れ替え攻撃する。

 これによって、敵を安定して撃破することができる!

 俺達にできないことはないんだ!

 

 まずはパーティを作ってみてくれ!」

 

 この場に集まるプレイヤーは目の前や近くに居るプレイヤーと組む。

しかしアスナやキリトは、後ろの方に静かに居たので把握されているのはディアベルのみだ。

影が小さく空気が薄い彼らは、同じ雰囲気を持つお互いを見る。

そしてお互いに英雄を持つためか、インスピレーションを感じる。

 

 最初に動くのはキリトだ。

座ったまま蟹やフナムシもびっくりな横移動で、アスナに近づく。

 

「パーティ組もうぜ」

「良いわよ。貴方も英雄持ちでうれしいわ」

「俺もそう思うぜ、アスナ」

「げ、行き成りってどこで見たのよ」

「メニュー欄左上」

「げ、ここでみれたのね」

「知らなかったのかよ(笑)」

 

 キリトはアスナとの距離を短くする。

プレイヤーの親睦に心を温めながらも、あぶれているマリオとアーロイ。

 

「キリト、彼女たちの事、僕に紹介してくれないか?」

「アスナ、彼らの事、私に紹介してくれよ」

 

「「あ」」

 

 二人はお互いの世界に入り込んでいたことを思い出した。

そしてお互いの事を、簡単に紹介する。

理由として、まだディアベルの話があるからだ。

 

「よっし、皆できたかな。それじゃ、次は「ちょお、待ってんか!」ん?」

 

 独特の口調が、会場を包み込む。

その音源はステージに降りてくる。

で、その人物はキバオウと云って、何を云うのかというとβテスターについての言及だ。

彼は初心者に対して情報を独占したことと謝罪とその見返りとしての報酬を言い渡した。

 

 しかし、この空気の読め無さにとある人物が出てくる。

 

「つまり、君はβテスターに死ねというのだな?」

「アンタ誰や」

「私は中山清王が末裔、劉玄徳だ。ディアベル殿と協力体制を取っている。

 それはどうでもいい。

 キバオウ殿。貴殿の先程の言葉、撤回してもらおう」

「なんやと!?」

 

 碧の装備を身に包む劉備は、キバオウに対して言葉を厳として事実を云う。

βテスターがビギナーよりも死亡している事、ディアベルが云った様に『SAOの歩き方』という本の無料発行……。

そして、世界が黒の者に支配された今、この世界にβテスターもビギナーも関係ないという事を告げる。

 

「ぐっ」

「もしビーターがビギナーに武器や資金を提供したとしよう。

 ビーターは、そのまま生き残れると思うか」

「当たり前やろ!装備と資金の提供だけや!情報はまだ持っとるやろ!」

「否。死ぬ」

「そんな筈ないやろ!」

「装備も金もない状態で、外に出てみろ。

 外には何が理由か知らぬが、機械の獣が跋扈している。

 彼等の攻撃や索敵範囲は、そこらの猪とはわけが違う。

 まず、攻撃の手段がない状態で、どのように敵を狩ればよいのだ?

 レベルがあったとして、それが機械獣による遠距離レーザー攻撃を回避しきれると思うか?

 

 思えるのならば、ここで無駄口を叩くがいい。

 なければ即座にそこに座るがよい」

 

 劉備の指摘に、不満たらたらながらもキバオウは席に座る。

 

「ディアベル。民は善悪なくとも、私達の行動を左右しかねない。

 事は慎重に行おう」

「それはもとより、です。あっと、えー、彼は劉備玄徳と云いまして、俺達パーティと協力体制を取っている英雄です」

 

 ディアベルは先ほどの事をさらっと流して、英雄の紹介に入る。

出展作品や設定年齢等を曝け出していく。

基本的な紹介は終わった。

 

「レイドリーダーは俺がする。だけど、サブリーダーとして劉玄徳をつけよう。

 やばい時は俺達が協力して、前線と後援を支援しながら攻撃する!

 

 よし、それじゃ、皆に迷宮区の地図を配布するから、明日の正午、ボス部屋前に来てくれ。

 解散!」

 

 皆は思い想いに解散する。

そのままレベ上げに直行する者や少し休憩する者もいる。

 

そんな中、キリトとアスナ達は一度この街を出でてとある場所へ向かう。

簡単な説明だけで、深い内容を云われなかったキリトとマリオは、不思議に思いながら付いていく。

付いていったところは、街から離れた山々と森の中だ。

 

そこには、一層に突如出現した機械獣が大量にいた。

 

「な……!?」

「これは……」

「おっとこいつらは仲間だ。攻撃すると、アンタたちを敵とみなして攻撃してくるぞ?」

 

 臨戦態勢となるキリトにアーロイが聲をかける。

キリトは既に安全マージンを超えすぎて、経験値がいずれの敵を倒しても1しか上がらなくなっていた。

故にこれは戦闘能力が未知数のマリオを守るための行動だ。

何せ機械獣はビームや重火器等のロングレンジで攻撃してくる。

近接攻撃が主なマリオには、分が悪いのだ。

 

 しかしアーロイの言葉やアスナの制止により、キリトは剣を抜いても攻撃はしなかった。

 

「さて、この機械獣の群れを見て、私のいう事を少し信じてくれないか?」

「僕は構わないけど、キリトは大丈夫か?」

「大丈夫だよ。最大の脅威である機械獣を治めているんだ、話を聞く価値は十二分にある」

 

 アーロイとアスナは頷き合う。

この力の誇示は、彼等に対して非常に有効であったことと成功の意味をなした。

 

アーロイはこのSAOの層が、一層毎にテーマがある事を伝える。

それを前提にして、この層のテーマが機械であるということを云う。

 

「確かに。デスゲームが開始されて、数日で機械獣が跋扈し始めた。

 その時、この層全てに歯車やナノチューブ、シャード等の素材やギミック・敵が出現した」

「ああ。実はその影響は、アスナがこの層のテーマを出現させるフラグを踏んだことにある。

 そして、そのフラグは地下に落ちたプレイヤーが、私と接触し地上に出る事にあったんだ」

 

 そこからパックの説明をする。

これらのメタ情報は、その層に住むテーマを出現させるフラグを持つ英雄に課されるとアーロイは伝える。

情報は地下情報で得たとも。

更にその層のフィールドボスやフロアボスも、その層のテーマとフラグを持つ英雄が知る場合がある。

故にこれを踏まえると、この層のフィールドボスはロックブレイカーでフロアボスはデスブリンガーとなる。

 実際フィールドボスを相手にしたプレイヤー達は、迷宮区へ突撃したが逃げ帰ったのも同じ。

そして名前は『ロックブレイカー』というのを、彼らは見ていた。

 これらは茅場が発表していた。

既に彼は攻略組の一人として、前線で挑んでいるようだ。

 

「じゃあ、何故マリオが居るんだ?劉玄徳という漢の人もいる。

 どうなっているんだ……」

「層のテーマに合わない人物も、ランダムに出現する。

 そして、その層のテーマフラグに関連付けられる英雄が出現すると、

 脳内に情報がアップロードされるんだ。

 私も最初は何だと思ったが、機械炉で情報を得て確信したよ」

 

 そして、その層のテーマを出現させるフラグを解放すると、そのテーマに沿う人物全ての能力が解禁される。

更にその英雄と共に歩む者に、『パック』が渡される。

これを開封すると、その者にしか扱えない非売品が渡される。

 もう一つ特典がある。

それはパックを入手したプレイヤーのみ、テーマフラグ解禁英雄とフレンド登録ができるというものだ。

普通にパーティに入れられるが、ギルドには入れられないしフレンド登録もできない。

だがこの特典により、その人物が加入しているギルドに加入でき、フレンドも登録できる。

 

 パックの中身は、そのテーマフラグを解禁できる英雄と歩むプレイヤーにしか渡されず、外部に性能やら全ての要素を曝け出せられない。

ここらの仕様はよくわからないが、PKを防ぐためだろう。

 更にパックには、その英雄と同じ性能の武器や装備・能力を入手できるという。

このゲームにおいては、普通にゲームバランスを崩壊させるものだ。

しかし既にSAOは、枠組みとしての体裁は成しているが中身は別物となっている。

だからゲームバランスを崩しているとはいえない。

 

「キリト君とマリオさんは信用できるから、ここでばらしておくけど……」

「いいのか?喋ってしまうかもしれないんだぞ?」

 

 アスナの軽率な言動を、キリトが注意する。

しかし彼女は薄ら笑う。

 

「大丈夫よ。離れたら、マリオさんとキリト君の周囲にウォッチャーを数体付けておくから。

 もし何か言えば、すぐにそこらの私とアーロイの機械獣が殺しに行くわ」

「は、はい……」

「Oh……」

 

 ものすごく恐ろしい笑みをするアスナと鋭い眼光を放つアーロイ……。

機械獣の王として君臨する二名の覇気に、キリトとマリオは萎縮した。

 

「それじゃ話すわね。私の装備は、『フォーカス』と『オーバーライド』できる弓。

 後はアーロイが持つ装備ね」

「私自身が持つスキルは反映されていないが、主要な装備は大方アスナがコピー・取得しただろうな」

 

 そしてフォーカス等、アーロイのパックが如何に恐ろしいかキリト達は肝が冷える思いだった。

こんな装備が許されている。

という事は、このゲームはこの装備や能力が無ければいけないくらいのバランスとなっているということだ。

 

 

 

 さて、夜はアーロイが集めた食材を使ったアスナの料理を、キリト達がありつけることになる。

4人は同じ釜の飯を食う事となる。

故に親密となる。

 

 

 翌日、作戦会議を行いながら、早朝に来たメールを見る。

メールは班分けと担当だ。

 

 

「俺達は後方援護と後の雑魚狩り。そして、最後尾ローテで主砲か。

 ディアベルは、マリオとアーロイを英雄と知ってたな」

「ああ。あの男、非常に頭が切れるが、少々心配だ。

 何せキリトと同じにおいがアイツからした」

「つまり……」

「テスターだな」

「LAを取るかもしれない。ここは注意すべきかもな」

「ああ」

 

 LA。

ラストアタックボーナスと云い、最後の一撃はせつないをやったプレイヤーに与えられる

唯一のレアアイテムが配られる。

これは『SAOの生き方』に書いていない。

当たり前だ。普通に危ないからだ。

 

 アーロイはキリトと周辺の人物の行動の検討をする。

アーロイは今まで生き抜いてきた戦術眼とその野生の勘、

キリトはテスターとして前線を生き抜いてきたプレイヤーとして、

他者の心身の動きは比較的把握している。

 

 二人の御蔭で、後の危険性の『if』への対策ができる。

 

 アスナとマリオは、相棒の行動に対して懸念を提示しその最中での援護に関して話す。

アーロイは今まで一人で生き抜いてきたため、団体行動が苦手な節がある。

キリトも一匹狼である感が満載だ。

 だがアスナは競争でありながら、共に進む学校生活を送る経験則がある。

マリオは多くの仲間と協力し合い、困難へと立ち向かってきた経験がある。

二人が意見を出し合い、4人の行動を上手く組合せ嫌悪を抱かない戦闘をする。

これにより、最小限の犠牲でこの層を超えられると信じ、会議を終わらせる。

 

 




 元々前後編まとめて一話なのですが、冗長すぎてだれますし話数分割も演出ですので、思い切って分けてみました。
相も変わらず、txtなのでおかしいですがご了承下さい。

面白ければ、非常にうれしく思います。
是非またいらしてください。


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4:邂逅(後編)

合計15000文字です。
短いかもしれませんが、これが一話です。


 

 さて、迷宮区のボス入り口。

定時になったので、ディアベルが叫ぶ。

 

「さて、未知の世界だ。

 街で待っている皆の為、吉報を持って帰ろう。

 

 最後に一つだけ言わせてもらう。

 死ぬな!」

「「「おおおおお!!!」」」

 

 野郎共の雄たけびがこの空間を裂けんばかりに轟く。

そして扉を開け、中へ吶喊する。

 

勢いそのままと行きたいが、そのまま勢いが止まってしまう。

何故か。

 

 それは目の前に出現した黒い靄から、目の前の天井やら全てを覆い尽くさんとする数多のミサイルが来たからだ。

この状況に最前線のキバオウ達は、慄いてしまう。

 

「まずい、E・F隊、ローテ―――」

 

 数多のミサイルは、この場に居る全てのプレイヤーをオーバーキルする。

 

 

 煙が晴れる。

 

 

 そこには何もいなかった。

 

 

 いや、いた。

 

 

 全てを覆い尽くさんとする乖離の結界。

あの『はじまりの街』を包んだ、あの”warning”の結界。

 

 

「『絶対防御』。戦闘において、一回のみ使用可能なパラディン専用の技術だ」

 

 

 この淡々とした聲。

この静寂の中、それだけが静かに響く。

 

 

「か……っ」

「茅場昌彦!?」

 

 

 大きな盾を目の前に突き上げる彼が、皆の目の前にその背中を魅せる。

 

「その名前はやめてもらいたいかな。

 今の私は”ヒースクリフ”だ。

 さあ、ここからが皆の表舞台だ。舞台を整える黒子は、傍に控えているよ」

 

 と格好良く颯爽とこの場から退散するが、劉玄徳に捕えられてパーティに組み入れられる。

 

 

 さて、黒い靄がようやく晴れる。

この攻撃が前座であれば、どうなるのか。

にわかに広がる不安。

だがそれを打ち破る存在が、まだまだいるのだ。

 

「来たぞ!」

 

 晴れた靄からは虎のような機械獣が、10体……猛烈な速度でプレイヤーに駆け寄り襲う。

この速度は初めてなようで、前線のアタッカーが大きくダメージを喰らう。

直ぐにローテになるが、その虎が陣の奥まで入ってきて尋常じゃない被害を受ける。

 

「ひぃっ!む、無理だ!」

「こ、こんなの、最初から無理だったんだ!」

 

「ふむ、貴様らは真に愚かなのだな。

 皆の者が命を張っているというのに、その恐怖を心で抑えつけ現実から逃げ出さぬというのに、

 なんという傲慢な」

 

 長いひげを蓄えている碧の装備を身に着ける彼は、二人のプレイヤーに立ちふさがる。

 

「じゃ、じゃあどうしろってんだ!」

「この私がお主らの恐怖を露払いしてみせよう」

「だったら、早くやってくれよ!」

 

 

 眼前にまで来ている機械の虎。

目の前で腰抜けの腑抜けを殺そうと、タンクを弾き飛ばして駆け寄ってくる。

ヘイトを溜めた二人は、碧の装備をつける彼……大男の後ろに隠れる。

 

 虎は8体。

2体は他者が受け止め攻撃しているが、微々たるもの。

虎は一気に駆けてきて、間合いに入る一歩前で飛び上がる。

猫のようなしなやかさで飛び上がる。

 機械獣の意味不明さに、周囲プレイヤーは恐怖で戦慄する。

だがこの恐怖に心の炎を燃やす者がいた。

そう、二人が隠れた大男である。

 

戦を思い出す、この命と命の奪い合い。

眼前におこる、命のともしびが消えてしまうそんな未来。

 

だがしかし、兄が見ている中そんな事は絶対にさせない。

そのような思いの中、彼が放つ一撃は虎を微塵へと化す。

 

「我が義を示す……唸れ、天空の刃よ!」

 

 彼の振るう巨大な薙刀は、灼熱の嵐を吹き荒らす。

この爆風に耐えられる存在は居ない。

傲慢でありながら、その無双となりうる仁義の力……機械獣の虎は耐えきれなかった。

 

圧倒的な力の前に、周囲プレイヤーは咆哮を挙げる。

残り2体の虎を、一瞬で倒すプレイヤー達。

 

 

「来たぞ、あいつだ!」

 

 

 ディアベルが叫ぶ。

その者は、その今までの疾駆の機械とは思えぬ重厚さ、非情であり奇怪を呈する様相。

まるで、殺戮兵器だった。

 

 

「っ!」

 

 機械から一つの煌めき。

黒く禍々しい光線が、この場を貫く。

タンクを狙うが、アタッカーが引き寄せ回避させる。

 

「A・B隊!その体躯を固定させている脚を破壊するんだ!」

「っしゃあ!」

「いくぜ、おるぁぁあああ!!」

 

 

 野郎共は駆ける。

彼等は被弾を免れるが、いまだに近距離へ行こうとしない他部隊はランチャーとミサイル・光線の餌食になってしまう。

 

「瀕死のものは、命あっての物種だ!退却しても構わない!」

 

 

 あるグループが逃げようとしている。

 

「三十六計逃げるに如かず!援護せよ!」

「任せろ!」

 

 劉玄徳が叫び、その配下が撤退中のプレイヤーの背後を守る。

するとこの弱った得物を待っていたかのように、虎やアリクイのようなものまで出現する。

 

虎はいつも通り、削って倒すがアリクイは冷気や灼熱を周囲に撒くので、

大被害しか生まれていない。

 

「このままではまずいぞ、ディアベル」

「わかってる。ここで、主砲を投入する!」

「やるしかないのか」

 

 彼らがそういうのも無理はない。

 

 今回のボス戦、ディアベルはLAを諦めている。

それは劉玄徳を含む彼らに、総大将の有用性を彼に伝えたからだ。

その代わり大きなものをそのうち渡したいという事で、

今後とも行動を共にするという約束を確約した。

 実際、この世界では信用に値する真の人間は少ない。

だからこそ、劉備玄徳らの提案にのったのだった。

 

 そして総大将なりに会議をした結果……主砲である英雄を抱えるプレイヤーには、

削り切ったところで敵の猛攻が来る前に一気呵成に攻めてもらいたかったのだ。

しかし今は状況が最悪だ。

 

戦力の出し惜しみと逐次投入は下策。

故にここで切り札を切ったのだ。

 

 

「主砲!」

 

 

「出番のようだな」

 

 

 光の加減で亜麻色に見える頭髪を持つ女性は、その手に持つ長弓で虎とアリクイを爆散させた。

虎は普通の攻撃が2.5倍以上に食らわせられるようになり、アリクイは継続ダメージで塵芥と化した。

 

 

「マリオ!その熱湯の入ったポンプで、脚のコア周辺をぬらしてくれ!」

「作戦通りに!」

 

 アーロイとマリオが駆ける。

 

 

<マリオサン、許容限界マデ2分デス>

「もう少し待ってくれ、ポンプ。SHOOT!」

 

 容器破損になる位の熱湯を発射したポンプは、脚のコア周辺にヒットさせアーロイが感電させたとき

完全停止する。

お湯を全てつかったが、この機械は使えなくなった。

 

「ありがとう、ポンプ。さて、うまくいけ!」

 

 動かなくなった敵に対して、マリオとアーロイは一端通り過ぎる。

これでヘイトを稼ぎ、全体的なダメージを減らす。

近距離にいるキバオウ達は、既に後方へ下がっている。

彼等は重量が伴う踏みつぶしで、一気にノックダウン。

タンクにより助けられ、後方へ引っ張られた。

 

 この間に、キリトとアスナが駆ける。

 

 二人は脚にあるコアを攻撃、破壊する。

そのまま後退し、攻撃したことによるヘイト移譲を貰い、マリオとアーロイに攻撃を引き継ごうとする。

 

アーロイとマリオは、トリプルショットとファイアボールで外装や武装を破壊していく。

残り一か所を破壊すると、黒いナニカがコアから這い出てくる。

 

これに驚き、マリオとアーロイは攻撃できずに、アスナ達の方へ移動してきてしまう。

 

 

「まさか……」

「これが、なのか!」

 

 祟り神のような様相を見せる、狂ったその殺戮機。

そのモノは、殺戮ではなく破壊者としてこの場にいるものを壊そうと動き始める。

あの物の第一撃は、この部屋奥からアームで連れてこられた虎とアリクイの禍ツ機[まがつき]の大量投下からだった。

 

一瞬にして攻防が転換する。

この死地において狙われてしまったのが、アスナとキリトだ。

場面の転換がすさまじく、追いつけていなかった彼等。

撤退しても、弾丸の嵐なのだ。

 

 

展開等、見られるわけがない。

 

この隙が命取りとなり、二人は死を待つのみとなる。

だが命を張るのは、彼等二人の役目ではない。

少なくとも、ここではない。

 

 

「今です!」

 

「兄者の作戦を邪魔するんじゃねえ!」

「うらああああ!!」

「どるぁぁああああ!!」

「タンクを嘗めんじゃねえぞ!!」

 

 今まで多くの辛酸をなめた彼らは、あるものの指示で多くの禍ツ機を遥か奥へスイングヒットさせた。

更にいきなりプレイヤーの背後から吹く強風で、禍ツ機は更に遠くへ行きボスの禍ツ機にヒット。

良い場所に当たったのか、爆炎が発生する。

これが好機と思ったのか、劉備の後ろにいる人が叫ぶ。

 

 その者は頭に錦と云われるほど派手な兜を着た大人である。

その者を筆頭に、キリトの知るクラインや逃げようとした二人・撤退中のプレイヤーを含めた全員が奥歯をかみしめて、

恐怖に立ち向かおうとする。

彼等が持つのは、油や玉薬のはいった小さな壺だ。

その壺には縄がかけられ、振って投げられる様になっていた。

 

「我が西涼の大国魏の橋頭堡や陣を薙ぎ払った大火の焔を、やつら……災いにみせてやれ!」

「クライン、私達もゆくぞ!」

「応、幸村、行くぞ!」

 

 主砲以外に渡されていたその壺は、風に運ばれその禍ツ機の上部を焼き払う。

しかし致命打にはなりにくかったようだが、脚のコアを完全に破壊したようで動かない。

 

「まだだ。まだ、オーバーヒートしていない!これでは、破壊できないぞ!」

「あの攻撃で、放熱ベントが壊せていないのか!どうすればいいんだ……」

 

 近寄ろうにも、ビーム発射装置から射撃されて近寄れない。

その装置は固い外装の奥にある。

オーバーヒートさせなければ、その外装を破壊すらできない。

 

「あるにはある、これに賭けるしかないってわけだ!」

 

 

 

 

 マリオはつなぎから、十字の模様がはいる黄金の珠を取り出す。

そしてその玉を壊す事で、彼に力が漲る。

皆が敵に注目する中、マリオのその姿を見るのはアーロイ・キリト・アスナだけだ。

 

「マリオ!?」

「いいか!これで、破壊できるはずだ!

 後は作戦通り、行くぞ!」

「っ!わかった、行くぞアスナ!」

「ええ……!」

 

 マリオは体力を振り絞ってジャンプし放つ。

 

「OH,YES!YAHAAAAAH!!」

 

 マリオは虹色の覇気を圧縮させ、三つの極大な灼熱の玉を放つ。

虹色のオーラを放ち、黄金色の輝きを魅せる灼熱の玉はアーロイが先に爆撃していたベント等に直撃。

放熱ベントが大爆発する。

 

その間、灼熱の玉に抜かされたアスナとキリトは、予定地点の数メートル前に駆けていた。

灼熱の玉は光線射撃装置以外を溶かし破壊した。

攻撃手段が一つだからこそ、比較的無防備で一番近い彼らに光線を放つ。

 

「ぐっ……ぅうおおおおお!」

「キリト君!?」

 

 本来なら、攻撃が来たときお互いのソードスキルで払いのけるつもりだった。

それを彼はアスナより一歩前に出て、彼女の代わりに全てを受ける。

そして自慢のアニールブレードを粉々にしてしまった。

代わりにビームを完全に防御する。

 

「いっけえ!」

 

 マリオは煌めく帽子を、犬の遊び道具フリスビーの如く投げる。

その帽子はアスナ達が予定していた地点にくる。

 

「はあっ!」

「はっ!」

 

 二人は帽子に飛び乗り、大きくジャンプする。

彼の禍ツ機が下方に見える。

このジャンプ中に、キリトは細剣を手にする。

 

「チコ!」

「~♪」

 

 戦場に似合わないかわいらしい聲を発する星の子は、二人に回転の力を与える。

まだ位置エネルギーが増す中、運動エネルギーがいまだにかからない。

ここで彼らは『リニアー』を発動する。

だがこの技は、普通とは違う使い方をする。

 

 SAOが枠組みになった瞬間、ソードスキルは本人の意思を優先してからシステムが誘導をするようになった。

連続突きが一点集中の技になったのはこのためだ。

 

チコは銀河の星々が持つ、無限で強大な自転エネルギーを二人に付与する。

 

「行くぞ、アスナ!」

「ええ、ここで終わらせてやるわ!!」

 

 下方ではまだ仲間による遠距離射撃が行われていて、爆発炎上しているが体力ゲージが減っていない。

彼等は高速で回転しながら、位置エネルギーを運動エネルギーに替え落下する。

その姿は回転しながら、速すぎる為か止まっているように見える。

 

ガッ

 

攻撃は、その寸で止まってしまう。

ダメージはない。

 

彼等に禍ツ機からの触手が絡んできてしまう。

彼等のHPが徐々に減っていく。

 

「うあぁ……ぁぁああああああ!!!」

「うぐっ、はああああ!!!」

 

 

 チコは最弱にして最大な重力を発生させた。

そして今までプレイヤー側から吹いていた暴風が止まり、逆に超高気圧と化した。

 

「「いい加減壊れろ、過去の遺物があああああ!!!」」

 

 キリトとアスナの瞳が、黄色く……否、黄金に輝く。

そして、その細剣が二本とも爆ぜたのと同時に、禍ツ機の触手が爆ぜコアも収縮し爆散する。

 

「っ!」

 

 キリトはアスナより早く動き、爆発を利用してプレイヤー側へ着地する。

お姫様抱っことか気にする間もない。

キリトはアスナを地面に下ろす。本人も両手両膝をついて、息を荒々しく吐く。

 

「はーっはーっ」

「はぁはぁ」

 

 そんな彼等に訪れる、音の応酬。

 

”congratulation” ――おめでとう――

 

 

ラストアタックの文字が、二人の眼前に出てくる。

お互いに地面に転がる。

 

其処に駆けてくるマリオとアーロイ。

 

「流石キリト、ナイスファイト!」

 

 帽子を持ってくる白銀のチコを撫でながら、帽子をかぶるマリオ。

 

「ひやひやしたぞ。だけど、凄かったよアスナ」

 

 罠や弓矢を仕舞い、鎧を変更するアーロイ。

 

 

 そして、遠巻きに居る彼等も喜ぶ。

 

「あのキリトがやりやがった!」

「まったく、クラインの仁義ある戦いは素晴らしいの一言だ」

「そんな褒めんなよ、幸村!」

 

 嬉しそうに友人達とじゃれ合うクライン。

 

 

「ふぅ、”Congratulation”。良い戦いだったぜ、お前ら」

 

 スキンヘッドな商人、エギルは4人を労う。

キリト達もエギルや集まってきたタンク隊を労う。

 

そしてこの場の立役者である、劉玄徳やディアベルもこの場に来る。

 

「この場に居る皆が英雄だ。そして、功績も皆のもの。

 でも、君たちがいないと、やり遂げられなかったよ。

 ありがとう」

 

 ディアベルは代表して、彼らに感謝を告げる。

 

 

 

 

 こんなにいい雰囲気の中、闇の足音が聞こえる。

彼等は気づいていない、アーロイの背中を狙う者がいることを。

 

「グフフ……まぬけな奴らめ。勝って兜の緒を締めぬとは、な」

 

 そのものは、竜頭の形をしたキャノンを構え放つ。

その竜頭の口から飛び出る、縁が黄色で内部が黒の矢印がアーロイの背中を狙う。

 

「っ!アーロイ!」

「な……」

 

 

マリオは謎の光線を受ける。

そして、瞬く間にある一定の格好をして、台座が足元につけられる。

 

 

どうみてもこれは、フィギュアだ。

 

 

マリオは誰もが動けぬ触れぬ刹那の内に、その者にアームで奪い取られる。

 

「マリオオオオオオ!!!」

 

 キリトが間髪入れずすぐに立ち上がり、駆け抜ける。

彼以外あまりもの展開に追いつけない。

 

「ガハハ、ワガハイへの攻撃意欲、まことに結構。

 だが、まだ時期尚早だなぁ?さらばだ」

 

 いきなり流星が降って来たかと思えば、黒い体・白い眼・赤い口と白い手がついた大砲が追撃してきた。

大砲手は次の層へ向かう螺旋階段上に居て、キリトを瀕死状態にさせた瞬間転移して台座毎逃げた。

 

「嘘……嘘……だろ……?」

 

ディアベルは、彼の様子を見て劉備に対して頷く。

 

「皆!すぐに二層を解放しにいこう!皆に朗報を知らせるんだ!」

「「「おおおおおおお!!」」」

 

 事態を知らない者、知る者も全て上の階へ行った。

此処にいるのは、アスナ・アーロイ・キリトだけだ。

 

 

意気消沈し、自分の愚かさと戦闘後の隙、そしてテーマ解放とパックによるゲームバランス崩壊の容認が、

何故看過されているのか……。

これらを考え、最悪の想定を見つけてしまう。

 

「この世界をあいつらのものにするのならば、俺達は不要。

 ならば、こいつらを殺したうえで俺達をあいつらと同じ存在にするのが狙いなのか……?」

 

 いつまでも失意に落ち込む彼に、アーロイが近づく。

 

「キリト。気持ちは……全部じゃないが、少しわかる。

 マリオは……気の良い男だった。

 まだあの状態で回収されただけだ。きっと、上に行けば行くほど、真相がわかる。

 だから、今は我慢してくれないか?」

「我慢?我慢なら、とっくにしてるさ。なあ、アスナ・アーロイ」

「何?」

「ん?」

「俺が作るギルドに入ってくれないか」

 

「ええ、いいわよ」

「無論さ」

 

「ありがとう」

 

 キリトは拳を強く握る。

その目と拳は、容易に何を想っているかわかる。

しかしその覚悟は目測では測れないのだ。

 

「暴いてやる。絶対にだ!」

 

 

―――

 

 

 後日、彼らはこのボス部屋に来る。

実は禍ツ機……デスブリンガーは破壊されたが、ポリゴンとなって消えていないのだ。

その調査に、キリト達は来た。

 

「やはりな、間違いない」

「これね?」

「ああ」

 

 彼女たちは、この禍ツ機に対してダブルオーバーライドをする。

すると、このボス部屋の出入り口が締まる。

 

この事には、キリトも驚き。

 

次に、この部屋に演出が流れる。

演出が出てきて、この場に出現するのはスキンヘッドの男。

 

 

<なるほど、私の知識のみをゆうしたただのコピーか。

 いや、いいだろう。貴様、アーロイには渡したいものがある>

「なんだ、サイレンス」

 

 スキンヘッドで知識欲の権化で、善悪の判断のないロボットな男。

それがサイレンスであった。

彼は今AIで適当にしゃべらされているだけのもの。

現在この場に於いてARという電子情報の塊な為、危害は加えてこない。

 

 

<此処から西に行ったところの壁の奥に、DNAスキャンがある。

 そこから機械炉『OMEGA』に行ける。そこでオーバーライドすることで、

 前時代の奴が造った機械獣全てを使いこなすことができるようになる。

 

 また、機械炉の更に奥に、リセットボタンがある。

 これを押すのであれば、50層に登りボスを撃破する事が可能な仲間を集める事を推奨する。

 そうでなければ死ぬだけだ。

 秘密が、まだここにある。

 

 さあ、行け>

 

 

 サイレンスがこの場から消えるが、ボス部屋の開放はされていない。

まだイベント中だ。

この先に待っている其れに強い好奇心を持つ、キリトとアスナ。

機械炉の解放は、既に何度も行っているアーロイ。

慣れている様でサイレンスに言われた場所へ行く。

其処にはボス戦やそのあと出ていなかった謎の通路があった。

 

 そこを歩いていくと、徐々に埃っぽくなる。

機械も精巧から粗が出てきて、配線がめちゃくちゃになる廃墟同然の場所になっていく。

 

 この場所最奥部には、三角の扉のようなものがあった。

その扉の前に行くと、この通路から音声が流れてくる。

 

<DNAスキャンを開始します。……適合率、94.9%。

 ようこそ博士、『OMEGA』へ>

 

 扉が開放され、奥から蒸気と共に点灯がついていく。

『フォーカス』から、周辺モジュールを検索・解凍し情報をキリトに渡す。

アスナもアーロイと手分けして、この施設の探索を行う。

 

途中で見たこともない機械を、ショートさせながら最奥部に来る。

その最奥部では、見たこともない機械獣が作られていた。

 

首と尾が長く、ずっしりとした重鈍な体躯。

まさしく雷龍といえる存在だった。

 

「なん……だこれ……」

 

 初めての機械炉に興奮していたキリトは、恐ろしいものを目の当たりにする。

実際アーロイも、他の機械炉とは違う構造に驚きながらこの場所の探索をしていた。

ありえないと思いながらも探索した。

 

「どうみても、セイスモサウルスね。

 スーパーサウルスと云われ、樹羅紀最大の草食生物といわれているわ」

 

 アスナが御叮嚀に、眼前にそびえる塔であり要塞な兵器のオリジナルを想定し話してくれる。

その話で如何に目の前の存在がすさまじいが教えてくれる。

アーロイはモジュールで見ていた、この機械獣のスペックを。

 

勿論、このセイスモサウルス以外にも作られている。

 

「アスナ、あいつが暴れたらやばい。

 だから直ぐに中枢を、私達のオーバーライドで制圧しよう。

 キリトは念のため、護衛としてついてきてくれ」

「つまり、もしもの時アイツのヘイトを稼ぐってことだろ?

 じょ、上等だぜ……!」

 

 明らかな強がり。

だがそれを許される威圧感だ。しょうがないとしか言いようがない。

 

「行くぞ、3――2――1――GO!」

 

 三人は一気に駆ける。

アーロイは梯子を上った先にある機械炉のシステム中枢を、アスナは機械炉の機能命令上書きをオーバーライドして停止させる。

実際には協力させるといったほうがいい。

 

「っぶねー」

 

 キリトはそのセイスモサウルスの尾で、弾き飛ばされるところだった。

一層にいる最弱ウォッチャーのレベルは、せいぜい4くらい。

しかし、このセイスモサウルスは87と圧倒的であった。

その為後少し遅れていれば、キリトは消し粒だったというわけだ。

 

「キリト君、ヘイト稼ぎお疲れさま」

「応。それで、報酬は?」

 

 アーロイに聴くキリト。

アーロイはサイレンスに言われたように、最奥部へ移動する。

 

「まあついてきてくれ。この奥にまだあるんだ」

「でもさ、挑むには……」

「オーバーライドをしなけりゃいいんだ。

 行くぞ?」

 

 アーロイの後を追っていくと、再び扉があった。

今までと違う、なんとも旧世代の構造だ。

 

さて……この最奥部には、何があるのか。

 

 

 

「嘘……だろ……?」

「どうしたんだ、アーロイ」

「こいつはやばい。50層とか精鋭をそろえるのが大変なのかとか、

そういう次元じゃない」

「?」

 

 キリトとアスナは、アーロイからこいつらについて話を聴く。

話を聞いていくうちに、二人は顔面蒼白と絶望していく。

ついでにアーロイの世界がどのような感じだったのかも説明をうけて、

更に失望する。

 

「これ……クリアしないといけないんだろ?」

「ああ。これがあいつの云う、最大の秘密なのだろう」

「ホルス級タイタンの統合司令とか、絶望しかないわ。

 いえ、この施設の研究員全てが、絶望と悲痛に塗れた日記が多かったわ。

 どれだけの事だったのか」

「絶滅主義者か。どこにでもいるようだな」

 

 ありえないといいつつも、現実を見ることとする。

 

 最奥部にあるのは、数多のホルス級タイタンに囲まれた5つの存在。

全てが停止中であるのにも関わらず、今にも動き出しそうだ。

そんな雰囲気を醸し出す存在は、それぞれの宗教の頂点に立つものだった。

 

カオス級ヤハウェ・カオス級イエス・カオス級アラー・カオス級シヴァ。

 

そして、全てに君臨するのは、当時最大人数であった民族の皇帝。

 

皇帝級始皇帝。

 

更に数多のホルス級タイタンに、先ほどのセイスモサウルス『ブライトプレッシャー』……等。

全時代の全てが、この一層とは思えないほど広く開けた場所に集約されている。

 

「つまりだ、本当のボスは禍ツ機デスブリンガーではなく、こいつらだ」

「……それを踏まえると、全ての層のテーマフラグ持ち英雄は、

 仲間を伴ってその本当のボスを倒さないといけないのか。

 ……裏がある?」

「ボスはマスターハンド。マスターは全ての上のようなもので、その裏……?」

「秩序の逆は渾沌であるから、カオスかクレイジーだな」

「主なる手、と考えると一般論からして創造は右手となるわ。

 だからその逆は左手」

 

「最悪、両手を相手にするか、その両手を伴う至高の相手をしないといけないな」

 

 アーロイが説明づける。

キリトが道を見つけ、アスナがそのヒントを提示しアーロイが選択を出す。

そしてアスナが右手社会の事を添えて、最終の判断を下す。

 

 結局、ここは退散することになった。

しかしアーロイは強化と機械獣探しの旅に出ると言い出した。

勿論アスナも同行する。

キリトは逆に今後のギルド構築の為の仲間探しの旅に出ることにした。

 

 キリトは後にその容姿と言動で、女たらしと化す。

逆にアスナはアーロイに影響されて、男勝りとなったり女帝が板についてくる。

キリトは情報屋やクライン・エギル・ディアベルらと出会い、この世界を巡る。

アスナとアーロイは、前時代と現世の機械獣をオーバーライドして巡る。

 

 機械獣の層移動が可能だと分かると、すぐに行動を開始することとなる。

一匹毎にレベルがある。

この引き上げ……精鋭の軍隊を作る事が先決となる。

ブライトプレッシャーやデスブリンガー、ストームバード、サンダージョ―、ケンタウロス……。

数多の機械獣を従え、世間を牛耳る。

 

いつしか彼らは、攻略組と呼ばれるようになった。

 




 流れと雰囲気をこの一話で感じ取れましたでしょうか?
ストックはそれほどございませんので、不定期更新と致します。
たまに見に来てください。
お待ちしております。


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5:巡り廻って福と成す(前編)

 前編9000文字。

 クロスオーバーの必須タグ報告、ありがとうございました。
引き続き、お楽しみくださいませ。


5:巡り廻って福と成す(前編)

 

 ここは25層。

クォーターポイントだ。

 

 SAOが外枠だけの存在となった時、この世界に落ちた茅場昌彦が情報を提示した。

クォーターポイントは、色々常識はずれだと。

そんなクォーターポイントでも、常識はずれなのはプレイヤーも同じ様である。

 

 

 戻りの洞窟。

この洞窟は常に靄が発生していて、正しい道順でなければ入り口に戻されてしまう場所だ。

非常に陰鬱だが、この洞窟に入ることができさえすればモブがリポップすることはない。

つまり敵が出現しない。

その代わりここに来るまでが大変で、無駄に敵が強いのだ。

ただ強いため、絶対数が少ない。これが何よりの朗報である。

 

 

 さて、この洞窟に一人の少女が迷い込んでいた。

彼女の名前はシリカ。

 

 約一週間前、彼女が入るパーティにソロが入り込んできて、

宝はやるから戻りの洞窟最奥部に行きたいと懇願してきた。

そこで彼女以外が進んでソロの人物と共に、この洞窟に来たのだ。

 

 本来なら他のプレイヤーもいるのだが、ソロが大変な美人であるため皆ほいほいついていった。

気の乗らないシリカだけが、ついていけてなかったのだ。

シリカは洞窟を恐る恐る歩いていく。

事前情報だと敵はでないと知っているが、陰鬱で薄暗く靄がかかっていて何もいない異世界のような場所である。

しかも一人ぼっち。精神的苦痛を味わっている最中だろう。

 それでもあきらめないのは、皆が最奥部にいって宝物を取っていると確信しているからである。

しかしその願いは打ち切られる。

 

 ソロの美人とパーティの悲鳴が、彼女にはっきり聞こえる位の大音量が空間を揺るがしたのだ。

彼女は走る。涙目になりながら。

恐怖か心配か。そのどちらもが合わさった感情の中、必死の形相でたどり着いたのは……最奥部。

 

 祭壇らしきものが中央にあり、そこには更に深い靄がかかっている。

 

 そしてその中央祭壇の階段麓に、ソロの美女・パーティの男性たち・知らない人多数が転がっていた。

 

 中央祭壇に何かいる。

 

 そう思った瞬間、祭壇から何かが飛んできた。

シリカはすぐに回避する。飛来物は後方へ行き、壁を壊して出入り口を封鎖してしまう。

しかし靄でこの事を視認出来なかったのは僥倖だ。

彼女は靄による視界不十分で、やる気が滅入らなかった。

 

シリカはスローイングナイフをしかける。

ナイフは靄に入っていった。

 

 すると中央祭壇に掛かる靄が払われる。

 

 祭壇にいたのは、長い首と6本の太い脚を持ち、黒い翼を持つナニカだった。

その者は黒い弾丸を吐きだす。

シリカは当たってはいけないと思い、左右へ移動……隙を見て接近し攻撃する。

 AGI特化である彼女は、手数で敵を攻撃する。

敵はその場から動かない。動けないのだろうか。

シリカはそんなこと等意にせず、そのまま連続で攻撃を中てる事に集中する。

しかし敵は黒い弾丸を、彼女へと連続で吐きだす。

 

 シリカも疲れが出始める。

脳はこのVR世界を現実と思い込んでしまっているので、現実またはそれ以上に精神と肉体が直結している。

そのため、疲れをごまかす事はしにくいと考えられる。

 

「くぅっ」

 

 敵のHPゲージは一本。

半分にしたところで、状況が変化する。

 

 

 そう、この洞窟……いやこの場全ての空間が変異する。

 

 歪な場所、歪な空間と重力と歪曲、ねじれた全ての事象。

初めての感覚に、シリカは吐き気を覚える。

しかし目の前のモノは、自身を殺そうとしている。

 

 目の前の者は、脚がなくなりその長躯のみとなる。

羽も一般的な羽から、何かの触手へと変化する。

 

 ソロやパーティも消えている事、それらを眼中にしない……できない状況は

彼女を精神的苦痛で脅かすことは簡単だ。

シリカは空中に浮く岩石や天地が逆さになり連続でくっついている樹木を伝い、

頑丈そうな建物の中に入る。

 

「ふぅ……」

 

 休みを取るが、少しの隙間からそのモノの眼が見える。

彼女は固まる。そして……走馬燈が、死が彼女の脳を加速化させる。

そのモノはいつの間にか、この建物を平らにし彼女を外部に露わにさせる。

 

 わけがわからない。

意味不明さから、脳が現実を受け止めたがらない。

彼女はうごけなくなる。

 

「嫌……死にたくないっ」

 

 シリカはダガーを再装備する。

一度手元を離れてしまっていたが、決意を元に対峙を決意。

しかしその脚は震えてしまっている。

 

 シリカはその瞳に涙を溜め、必死に心の奥の本能的恐怖に抗う。

しかし彼女は動けない。

謎の黒いドロドロした重油のようなものに塗れた触手が、彼女の脚を固定したのだ。

 

その者が口に溜めるのは、黒の禍々しいもの。

 

 

 遂にその者は発射する。

其れは―――

 

 

 

 

 

―――当たることはなかった。

 

(あれ……?)

 

 

 恐怖で瞳を閉じていた彼女は、大きな違和感を感じることはなかった。

そのかわり、温かい何かに包まれているようであった。

足が地についていない。

 

 一瞬で蒸発して、天国にでもいったのかと思ってしまう。

しかしそんなことはなく、次の言葉で目を覚ます。

 

 

 

 

「ピカチュウ、『エレキボール』!」

「ピカッ!ピカピカピカピカ……ピッカアッ!」

 

 雷撃音。

 

 少女はその落雷に似た音で意識諸共現実を認識し、瞳で世界を映し脳で理解する。

目の前は青い服。少し顔を上げると、赤い帽子をかぶる少年がいた。

 

「おっ、気が付いたか。間一髪だったな!」

 

 少年はシリカに笑いかける。

しかしすぐに目の前を見る。シリカはその戦闘を見れない。

だがどこかの地面に着いた時、解放してもらう。

 

「あっ、ありがとうございます!」

「いや、いいんだよ、お互いさまさ。

 ところで君の名前を教えてくれないか?

 俺はマサラタウンのサトシ」

「はい!私はシリカっていいます。よろしくお願いします、サトシさん!」

「サトシでいいよ、シリカ」

 

 サトシの方が、若干身長が高い。

そして、サトシの肩に乗る黄色い彼。

 

「えっと……サトシ……さんはテイマーなのですか?」

「テイマー?なんだそれ。俺はポケモントレーナーさ。

 で、こいつは俺の相棒、”ピカチュウ”」

「ピッピカチュウ」

 

 

 黄色い電気鼠ポケモン、ピカチュウ。

その赤い頬は電気袋で、そこに電気を溜めて放電する。

和気藹々とするが、背後で音がする。

HPゲージが残り、2割。

 

「っと、話はあとだ。まずはギラティナを抑える!」

「はい!」

 

 この後ピカチュウとの連携を以って、ヒットアンドアウェイ。

一気にけずり、体力を減らした。

 

ギラティナを倒すと、彼のものはこの世界……やぶれた世界の底へ落ちて行った。

そして全てを見届けると、元の洞窟に戻る。

 

 洞窟の全てが元に戻って居ながら、パーティはどこにもいない。

しかも靄や埃っぽいのがなくなっている。

つまりこれは、このダンジョンのクリアというわけだ。

 

彼のものは、例の祭壇の所にいる。

しかし違うところは、襲ってこないということだ。

 

「っ、ま、まだ戦うんですか……?」

「……」

 

 シリカは連戦でくたくただ。

なのに、まだ戦闘する事に絶望する。

だがサトシは、笑う。

 

 サトシは地面にへたり込んでいるシリカの隣に行き、片膝をつき肩を触る。

 

「大丈夫だ。俺が行ってくる」

「へ?さ、サトシさん!?」

 

 サトシがギラティナに歩み寄ると、彼のものは口を開ける。

サトシを食うのかと思ったら、帽子を取る。

というか、甘噛みをしている。

 

しかもギラティナは嬉しそうにしている。

サトシも笑って、ギラティナと接触している。

どういうことか分からないシリカは、安堵して気絶した。

 

 

 

 目を覚ますと、とある宿に居た。

宿のベッドで、今まで味わったことがない布団の柔らかさに惰眠をむさぼるところだったシリカ。

彼女はすぐに着替えて、扉を開けて外に出た。

 

「お、目が覚めたんだな、シリカ」

 

 扉を開けて聲がした方へ向く。

そこには壁に背中を預けていたサトシと足元で待機しているピカチュウがいた。

 

「シリカ、早速でわるいが、ちょっと話したいことがあるんだ」

「何ですか?」

「ひとまず、中へ行こう」

 

 シリカが休んだ部屋へ逆戻りして、お話する態勢に入る。

 

「さて、シリカ。君に託されたものがあるんだ」

 

 サトシは卓上に、小さな球と白金色の塊を置く。

 

「このボールとこの宝玉だ」

「えーと?」

「つまり、シリカはポケモントレーナーになれるんだ。

 この世界だと、どこにもモンスターボールは売っていない。

 という事は、シリカは特別に許されたという感じかな?」

「そうなんですか。それで、この宝玉は?」

「これはギラティナの力の一部なんだ。絶対に売っちゃいけないんだ」

「いいんですか?売るかもしれませんよ?」

 

「大丈夫さ。ギラティナは、あの世界の主であり神様なんだ。

 見抜けない筈がないさ」

 

 シリカは何かに巻き込まれてしまった感が、自分に襲い掛かる。

だがこれはチャンスでもある。

 じつは彼女はモンスターテイマーのスキルを取得しているのだ。

しかし今までモンスターをテイムしたことがない。

だからこれは、渡りに船なのだ。

 

「それじゃあ、今から捕まえに行こう、ポケモンをさ!」

 

 まだ陽に余裕があるので、昼飯を摂取して鍛冶屋で耐久を上げて狩にでかける。

しかしポケモンがいない。

今はまだ普通の層である。

その為シリカは若干涙目になる。

 

 それを見て、サトシはシリカを連れてとある場所へ来る。

その場所は湖だ。

北でも東でもなく、丁度好い位の湖。

 

 シンジ湖。

 

ここで一度気分転換をする。

 

お互いに世間話と共に、サトシがどういう人なのか知る機会となった。

 

 そんな時だった、二人にプレイヤーの一人が話しかけてきたのは。

 

「なあ、君の隣にいる彼……英雄か?」

 

 それを聞いて、シリカは反応してしまい睨みつける。

 

「あ、ご、ごめん。繊細な話だったな。大丈夫、俺も英雄がいるから。

 どうしようとか全く考えていないよ。

 ただ、この層のフィールドボスって、倒せてないんだ。

 だから―――」

 

 

 シリカとサトシは、彼の背後にいる存在により固まってしまう。

彼等の反応を見て、直ぐに彼は回避運動を取る。

刹那。

 

彼のいた場所が爆発し、地面毎抉り取られる。

 

「チッ!こんなところでフィールドボスに出くわすなんてな!

 最高の日だ、全く! 俺はキリト!ボス攻略に手を貸してくれ!」

 

「俺はサトシ!宜しく頼む!」

「ピカ、ピカチュウッ!」

「わ、私はシリカです!」

 

 いきなりの翠の龍が背後から、ものすごい速度で迫ってきた。

キリトはその剣で機動を逸らす。

HPバーは1段。

 

さて、敵は穴を掘ったり、炎を吐いたり、神鳴りを落として来たり、超高速で飛来してくる。

そんな中、キリトはサトシに質問する。

 

「サトシ、アイツの事を教えてくれないか?」

「アイツはレックウザ。ドラゴン・ひこうタイプを持つポケモンだ」

「なるほど、今はそれだけでもありがたいよ。

 それでサトシはイベント関連で、シリカにポケモンを仲間に引き入れる道具とか渡せないか?」

 

 キリトは英雄のアイテムのほとんどが、自軍を有利にさせるものだ。

だから仲間にするアイテムはあっていいはずだ。

それにピカチュウもレックウザと同じポケモン。

レックウザをシリカが手に入れれば、サトシは動きやすくなる。

移動速度から見て、シリカはAGI特化だってわかる。

たからこそ、攻撃の要が必要だ。

プレイヤーがその速度で情報を集め、ポケモンの眼となり戦略を練り戦術を組み込めば勝利できる。

 

「既に渡しているさ。シリカ!あのポケモンを捕まえよう。

 というか、このポケモン以外ポケモンがいないかもしれない。

 最後のチャンスだ!」

「はい!」

 

 右手に構えているのは、Mと描かれた紫のボール。

そのボールはマスターボールといい、どんなポケモンでも捕まえられるのだ。

そう……投げて当たれば、絶対に捕まえられるのだ。当たればな……。

 

「は、はやっ!?」

「あれは神速だ!先制攻撃で、威力がかなりある!

 しかもレベルはクォーターポイントのフィールドボスだ、やられるぞ!」

 

 キリトがレックウザの攻撃に驚愕の中、サトシだけがまともに状況を理解している。

何故か。

 

 彼こそがテーマフラグ英雄だからだ。

フラグを踏まれたからこそ、いきなり湖からレックウザが出現し今に至る。

フラグが踏まれた今、彼には数多の知識と知恵がアップロードされた。

しかも彼は、制作者の意向が全くない状態だ。

今までの知識と経験則で、テーマフラグによる情報を上手く自分に適用させた。

 そしてサトシは、それらを集約し結果としてキリトとシリカ・自身だけでこのレックウザを捕まえないといけない

という事を本能で理解する。

それは今ここにプレイヤーがいないとかそういう問題じゃない。

 

 まず、速さからして違いすぎる。

 

「レックウザが空中で、回転し始めた!」

「ッ!」

 

 そして天が光る。

その雷光が周囲を包んだ時、キリトは後ろへ大きく下がる。

雷光が消えたとき、キリトの目の前つま先から円形に焦げた平原が見えた。

 

半径10M程の焦げ。

 

「技は神鳴り・穴を掘る・神速が今の所の技だ!後一つで、行動がわかる!

 ピカチュウ、十万ボルト!」

「ピィッカ~~チューー!!」

 

 ピカチュウは電撃に身を包み、高圧電流をレックウザに向けて放つ。

レックウザに当たるが、効果がないように見える位動じなかった。

逆にピカチュウにヘイトが向く。

彼奴はピカチュウへ高空から、勢い付けて落下してくる。

 

「ピカチュウ、アイアンテールで逸らすんだ!」

「ピッカア!」

 

 ピカチュウはアイアンテールでレックウザの軌道をずらす。

そのまま地面に潜ろうとするが、AGI特化のシリカとキリトの剣技が当たる。

わずかにレックウザの速度が低下する。

潜るとすぐに地面を掘って出てくる。

 

HPバーは、半分まで低下する。

 

奴は呼吸を整えている。

 

「ピカチュウ、電磁波だ」

「ピカッ」

 

 微弱な電流で、レックウザを麻痺させる。

スタン状態へ陥ったボスは、動きが散漫になる。

そこへキリトはアイテムを手に持つ。

そのアイテムは、パイナップルのようだった。

安全ピンを抜いて、遠投する。

 

 レックウザは身の危険を感じて退避しようとしたが、キリトのスローイングナイフでソレを爆破させた。

レックウザは逃げようとするが、スタンにより行動不能になる。

更に破片による光の乱反射や火薬による煙で、レックウザの視界を封じる。

 

 そこへAGI特化で忍び足なシリカの接近だ。

そのままマスターボールを当てて、レックウザを入手する。

ボールは一つも転がる事もなく、そのままポーンと音を鳴らして捕獲したことを告げる。

 

「やったあ!レックウザ、ゲットです!」

「やったな、シリカ!」

「ピカアッ!」

「すっげえ……」

 

 LAはシリカになる。

LAアイテムは、元気の塊3つ。

瀕死のポケモンを、完全復活させる。

 

「シリカ、レックウザを出してみてくれないか?」

「はいっ、サトシさん」

 

 シリカはボールを掌に載せて、言葉を告げる。

 

「出てきて、レックウザ」

 

 紫の神々しい光が周囲に漏れ出し、きらびやかな光の中出てきたのは翠碧の神龍レックウザだ。

 

「シリカ、ポケモンを仲間にできたら、ニックネームを付けられるんだ。

 やってみないか?」

「はい!じゃ、じゃあ、ピナって名前で」

「そっか、良い名前じゃないか。よろしくな、ピナ」

 

 レックウザは爛々とした笑顔のシリカ・明るい笑顔のサトシ・興味津々なキリトに頷く。

するとピナ[レックウザ]は、碧の光を放ったと思ったら小さくなった。

デザインはそのままに、小型化する。

そのままだと7M位の巨体なので、非常にありがたい。

 

「さてと……フィールドボスも倒せたし、後はフロアボスだけだ。

 ありがとな、シリカ、サトシ」

「いえ、私も手伝って頂き、ありがとうございました」

 

 握手をしあうのと同時に、この機だからフレンド登録もする。

彼等が和気藹々とする中、サトシは固まったままだ。

そして意を決したように、去りゆくキリトの背中に語り掛ける。

 

「キリト、御願いがあるんだ」

「?」

 

 

 願いは、テーマフラグ持ち英雄としての役割の援護だった。

シリカもレックウザ持ちであり、テーマフラグを踏んだことで責任を果たさないといけない。

これはSAOプレイヤーの義務である。

そして、必然的に攻略組扱いになる。

 しかし攻略組というのは、畏怖や尊敬いろんなものから思われ狙われる立場だ。

だからこの危険性を、さらっとサトシに伝える。

サトシはシリカをちらっと見る。

その視線に気づくキリトは、彼らに提案する。

 

「俺、ギルドマスターなんだ。よかったら、今の期間だけでもいい。

 入ったらどうだ?」

「いいのか?」

「いいけど、シリカが入らないと入れないぞ?」

 

 というわけで、シリカ達はキリトの作ったギルド『黒の英傑連盟団』に加盟する事となった。

行動はまた明日だ。

理由として、もう西日が傾いているためだ。

 

 キリトはギルド員である、アスナとアーロイを呼んで説明責任を果たす。

まずは今までの経緯を把握して、詳細にはいり目的と手段を明確にする。

 

つまり今この25層が最高層で、迷宮区でボス部屋が見つからないで終わっているという事。

それと迷宮区の壁に、桃・青・黄の三角関係の中央に赤い何かが描かれている謎の壁画を発見する。

壁画の先から風が入り込んでいたので、こじ開けようとしたが開かなかったので英雄を探していた。

ついでにフィールドボスも未討伐だったという事を伝える。

 

「よろしくね、シリカちゃん、サトシ君」

「よろしくな、シリカ、サトシ」

「はい、宜しくお願いします。アスナさん、アーロイさん」

「宜しく、アスナ、アーロイさん」

 

 お互いに自己紹介して、次のテーマフラグの目的を明確にする。

フィールドボスの討伐をフラグ上完了した。

これからは、その桃・青・黄の場所へ行く。

 

桃はエムリットを示し、シンジ湖にいる。

中央の水底洞窟で、あらゆる不安の中あらゆるものを信頼・不信用を取捨選択する。

 

青はアグノムを示し、リッシ湖にいる。

同じく水底洞窟で、この鼎立を解く強い意思を示さないといけない。

 

黄はユクシーをしめし、エイチ湖にいる。

これも同じで、今まで培った智慧・知識・見聞・知見を示さないといけない。

 

 

 最後にその中央の赤は、洞窟クリアでもらえるカケラを持って壁画へ行くことで出現する。

その心と云えるものを手にし、最奥部へ向かう事となる。

最奥部と云える場所で、フロアボスを撃破する。

 

そしてフロアボスから宝玉を手に入れる。

 

 だがフロアボスと戦う前にやっておかないといけないことがある。

北東にある海底でおふれの石室に行き、封印を解除する。おもにピナが居れば大丈夫。

解除したら、砂漠・迷宮区外壁・鉱山にある封印の石室に訪れ、畏怖の存在に認められ

最北端にある神殿で大陸そのものの祖を覚醒させ仲間にする。

 

 他にも三鳥・始祖とそのコピー・他世界から来たディオキシリボ核酸やコスモ等を、

仲間にしておくといい。

悪夢・這い寄る溶岩・三日月・三剣士と王・三柱の土地神・真実と理想とその本質の粕・千年の願い星・破壊と再生と秩序・機械の心・別空間からの侵入者・4島の守り神・海と陽の神・時を超える者・水の都の守り神・結晶塔の帝王・蒸気を操る者・ダイアの女王・瓜二つな道化。

 

 フロアボス討伐すれば、真のボスと対峙することになる。

これはサトシとシリカの仕事である。

他の者は、音沙汰を待つのみ。

 

 

 

 次の日。朝食マスターアスナさんにより、付与能力もついて元気に皆が駆けていく。

さて水底洞窟への行き方がわからないというが、前もって言ったように泳いでいく。

そう、機械獣の踏破能力は半端じゃない。

 

彼等は、虎型機械獣に跨り、洞窟へ向かう。

 

洞窟内はほのかに明るく、意味深な水たまりによる芸術が不気味だ。

洞窟の奥には、ピンクのポケモン、エムリットがいた。

 

エムリットは訪れた4人に、テレパシーで語り掛けそのまま精神世界で試練を受けさせる。

しかし一瞬で覚醒する4人。

実際はかなり時間がかかっているが、精神世界による加速でどうにかなった。

 

 4人は不確定要素を取捨選択し、その世界を潜り抜けた。

エムリットはシリカに、桃色に煌めく宝石を渡す。

『有情の欠片』。

これを貰うと、エムリットは消える。

それと同時にホワイトアウトし、それが晴れると湖畔に突っ立っていた。

異常に透明度が高い湖の底にあったはずの洞窟が消えている。

クエストを達成したので、次の場所へ行く。

 

 意思の洞窟では、シリカとサトシの友情と強いこの世界を乗り越える意思を示した。

直ぐに彼らは帰ってくる。

『意思の欠片』。

アグノムは消える。

同じ様にリポップして、次へ向かう。

次は知恵の洞窟だ。

 

 この洞窟には、アスナとアーロイが向かう。

するといつの間にか湖畔に皆が立っていた。

『智慧の欠片』。

やはり成績10位以内とテラフォーミング機を作る秀才な博士のクローンは、一味以上も違った。

 

 さて、三つ集めると『心の雫』となった。

これを持って、壁画の所へ行く……前におふれの石室に行って、封印を解いた。

それから迷宮区、『テンガン山』へ行き壁画にその雫を掲げる。

壁は崩れたので、外壁へ行き封印の氷山『レジアイス』にこの世を統べる者を認識させて、彼等の仲間とした。

 戦闘は今までなかった。

なので、砂漠も鉱山も足元の点字を全て踏んで解除して、最奥部の者にシリカたちの存在を認めさせた。

最後にキッサキ神殿で待つ祖を、『ブライトプレッシャー』で面制圧して仲間にした。

 

 

「午前でこれだけやれるなんて、思ってなかったぜ」

「ピカァ……」

「今までのテーマフラグより簡単でよかったよ」

「戦闘にならないなんて、凄くぬるいわ」

「死ぬよりマシじゃないか」

「皆さん、どれだけ死地を味わって来たんですか……」

 

 正午の再補給。

オーキド博士というポケモン博士に聴いて、いろんな場所へ行く。

オレンジ諸島で三鳥と海の神を認めさせ、ジョウト地方の鈴の塔で三獣と鳳凰を屈服させた。

アローラ地方で、4島の守り神・異邦で異空間のポケモンを制圧した。

ホウエンの誕生の島でDNAを拘束降伏させ、水の都やラルース、ロータとついでに世界の始まりの木を見に行って、それぞれ護神・もう一つのDNA・伝説の装備を手に入れてきた。

 

 いろんな伝説やレアといわれるポケモンを、機械獣で拘束し倒してシリカとサトシに仕えさせる。

目的のための手段となるポケモンに、容赦なく攻撃をしかけ屈服させる。

サトシは心が痛むが、この世界の外の現実世界ではタイムリミットが刻一刻と迫っている。

そんな中、AIに気を病む必要性がない。

故に電撃戦を敢行する。

 

 こんな電撃戦でも、キリトは『血盟騎士団』や『風林火山』、『蒼龍同盟』『聖龍連合』『軍』にお目通りして、

25層ボス部屋発見と共にレイドを組む旨を話した。

 

さて、全てを制圧した中、とあるポケモンを護衛につけている。

ピナではない。

主にサトシとシリカを守るためだ。

 

<何故私は此処に居る>

「俺達がミュウツーを必要としたからだよ」

<……久しぶりだな>

「会うのは三回目。元気にしていたようで何よりさ」

<全く……>

 

 コピーと嘆いていた彼は、オリジナルへ宣戦布告していた。

しかし今では、コピーとてオリジナルとて結局は生物。

それを二度目の邂逅で認識し、それ以降世界を謳歌している。

そんな彼は感動的なのか、それとも微妙なのかあまりうれしくなさそうだ。

 拉致監禁の末がこれだ。

しかたがあるまい。

 

 そんな時、足元に結晶が広がる。

ゆっくりと、しかし確実にそのものが来る。

 

「お前は……」

<サトシ、お前のママは息災か>

「ああ。元気だぜ。今でも、オーキド博士とポケモンたちと一緒にミイちゃんと遊んでいるよ」

<そうか。それは朗報だ。サトシも愛する者をいつか、一瞬の内になくすことがある。

 後悔せぬよう、生きろ>

「解ってるって」

<そうか>

 

 エンテイはアンノーンがつくる結晶の転移門に入り、どこかへ消える。

グリーンフィールドの先にある大富豪の家。

そこの一人娘であるミイが始めた、最強の我儘にして最高の遊び。

それを食い止めたのが、サトシたちである。

 

 他にもサトシの偉業を思わせるポケモンが多数入り混じる。

その光景に辟易するシリカ。

この場所は自分がいるべきじゃないのか、という思い込みが彼女を襲う。

 

 夜中、天井の裏にある星のようなそれは輝いていた。

シリカが独り外にいるのを、キリトは発見する。

 

「シリカ、どうしたんだ?」

 

 彼女の隣に座り込むキリト。

 

「何でもないです……」

「そっか」

 

 そのまま黙って隣に居続ける。

そして、不意に口にする。

 

「皆さんは凄いのに、私だけなにもできてないです。

 本当に必要なんですか?」

「勿論さ。凄いとか何か大業を成したとか関係ない。居てほしいから、頼んでいるんだ」

「居てほしい?」

 

「安心するんだよ。やっぱり、常に気が張っている、張らなきゃいけない状況だからね。

 だから、シリカは俺達に必要なんだ」

 

「……ありがとうございます。少し、気が楽になりました……」

 

「……あんまり、我慢しないようにな」

「はい」

 

 もう少し天を見てから、ポケモンセンターに戻る。

さて、次の日だ。

次の日で、25層を超えられる。

 

 




 シナリオに関係ないものは、即落ち二コマな感覚で終わらせます。
現在考案中の即落ちは、武器強化詐欺・圏内(指輪)事件・リズベット随伴クエストです。
閑話としてお話を展開するのは、ノーチラスとユナの話です。
 またお断りとして、私が知っているゲームを中心としてキャラを出します。
理由はモチベ維持と、サクサク進めたいからです。
何故かというのは、この二次小説自体が暇つぶしのようなものですから。

 前編は情緒や背景等全カットでお送りしました。
如何でしたでしょうか?
楽しめましたらとてもうれしく思います。

ぜひまたいらしてください。



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5:巡り廻って福と成す(後編)

6話前編ができたので、投稿しました。
今回は、14,612文字です。


5:巡り廻って福と成す(後編)

 

 今日の朝、ヒースクリフから25層フロアボス攻略の話が来る。

メールというもので来るのだが、それに従いクロガネシティに集まる。

その街は炭鉱の町で、非常に有名な場所だ。お金稼ぎしやすいっていう意味でだ。

 

「さて、皆集まってもらって助かるよ。説明は要らないと思うが、私はヒースクリフという。

 これより、25層フロアボス攻略会議を始める。

 と云っても、クォーターポイントのボスだ。

 非常に強い事を肝に銘じて頂きたい。

 

 私の絶対防御で一度防いだとしても、今後が続かなければ意味がない。

 よって自分の身は自分たちパーティで守れるような、精強な者でなければならない。

 これらを踏まえて、パーティ枠は1組8人の6分隊とする」

 

 ここから話がどんどんと進んでいく。

キリトは今回のテーマフラグ英雄とそのプレイヤーを知っているということで、

ヒースクリフに主砲扱いされる。

 

主砲はF隊。キリト・アスナ・アーロイ・シリカ・サトシ。

後はパーティに含まれない、機械獣とポケモンたち。

他のパーティにも、英雄が混じっている。

しかし絶対数が足りていない。

 

 そのような状態でも、テーマフラグ英雄がいるのといないのとでは勝敗の確立がかなり変動する。

今回は英雄がいて、そのフラグの一部を解放しているため、非常に有用であろう。

 

「では、諸君……進軍だ!」

「「「おおお!!」」」

 

 テンガン山西側から踏破し、開けられた壁画から登山開始。

滅茶苦茶寒い外壁を渡り、セーフポイントにくる。

この目の前にボス部屋がある。

別に扉があるわけではない、白い光で埋め尽くされている出入り口がそこにあるだけだ。

 

「最終点検をしてくれ。……では、行くぞ!」

 

 ゆっくりと皆がその光に入っていく。

そして皆が見るのは、廃墟という自然美と宗教観に塗れた人工的美だった。

ギリシャを思い浮かべるその神殿っぽい柱や建造物の破壊痕。

眼下に見える雲海。この史跡の中央から見える二つの台座。

 

「さぁて、出てくるか」

 

 二つの台座から、ナニカが出てくる。

左の台座からは青い光があふれ出てくる。

右の台座からは淡い桃の光があふれ出てくる。

 

 そしてあふれ出ているその場所は、裂けめがある。

その裂け目は徐々に大きくなり、そこからでてくる者に多くの者は美しさに目を奪われる。

 

「ディアルガ、じかんポケモン。パルキア、空間ポケモン」

 

 

 そして、最初の初見殺しが始まる。

ディアルガの胸中央にある、青い金剛石が青白い光を周囲に展開する。

その瞬間皆思考できる中、肉体が動かない事を知る。

次に来るのは、パルキアの両肩にある淡い桃色の白玉が白い光を周囲に散布させ、

パルキアの両腕が桃に光り腕を振るったと思うといつの間にか、周囲の48人中19人が消えていた。

 

「ひっ」

 

 逃げようとしたその者は、裂けた。

そう、物理的じゃない。空間的に裂けた。

HPゲージがはじけ飛び、ポリゴンもはじけ飛ぶ。

 

この光景をみて、慣れていない者は怖気づいてしまう。

そして、今まで死者を出してこなかった攻略組は、大量の死者を出してしまう事になる。

此れを持って確信する。

全滅覚悟でやらねば、やられると。

 

 そう、絶対防御なんてできなかったのだ。

下手すれば、此処にいる全員が死んでいた。

死んでいないのは、ただ腕試しとしてやっているからなのかただの油断なのか。

良くわからないが、確実性のある自信がそこにあるのだろう。

 

 おかげで主要戦力は残っている。

 

「ピナ、龍の波導」

「グルァァアアアア!!!」

 

 ピナは翠碧の光を放ち、実体化する。

そして二匹のボスが認識するよりも速く、パルキアに龍タイプの攻撃を叩きこんだ。

HPゲージが少し削れる。

現在のピナの技は、フィールドボスの時とは違うものになっている。

これはサトシに技マシンを貸してもらって、技をカスタマイズしたからだ。

 

 攻撃を受けたパルキアの瞳が鋭くなる。

パルキアは右腕を光らせ、そのまま振るう。

独特な聲を上げる。

この聲をとどろかせると、青白い光が周辺を照らす。

一瞬の出来事で、プレイヤーの動きが全て止まり形勢が逆転する。

 

(まずい!シリカが!)

 

 

パルキアの空間切断の刃は、シリカに向けて放たれる。

誰も動けない中、あるものが動く。

 

<幼い子が失われる。そんな悲しい事は起こさせるわけにはいかん>

 

 背中に雲と結晶のようなものをそびえさせる獣が、そのようにテレパシーで伝えてくる。

するとアルファベットを模したポケモンが出現し、謎の泡のようなものを作り上げる。

刃はその泡を透過し、泡の奥へ向かう。

泡は急速に拡大したので、シリカに向かう刃の攻撃線上の全ての仲間を守った。

 

 

「ピカチュウ、ボルテッカー!」

「ピカア!!」

 

 黄色い電気鼠ピカチュウが、高圧電流を纏ってパルキアにタックルを決める。

タックルの反動で怯むピカチュウに、ディアルガは即座に反応し額の上から流星群を発生させる。

其れは機関銃のように放たれた。

 

「ピッ!?」

 

 しかし突如出現したダム穴のようなものがピカチュウの足元に開いて、

そのまま彼をやぶれた世界に落とし込み、流星群は的を得られず地面に当たった。

 

そして今度は其れが、ディアルガの後ろと足元に開く。

後ろからピカチュウが飛び出し、電磁波を放って地上では鈍足なディアルガを麻痺させる。

足元からはギラティナが出現し、ディアルガをその6つの黄色い脚で捕え引きずり込んだ。

しかし抗うやつにミュウツーが向かい、波導弾で撃ち落とし自身もやぶれた世界へ行く。

 

 でてきたピカチュウは、元気にサトシの所に帰ってくる。

その時と同じくして、時の停止が終わる。

刹那……。

 

「お世話になったな、この大馬鹿野郎」

「人間嘗めんな、神様」

「生きる為なら何でもするぞ、バケモノめ」

 

 キリトや多くの男性プレイヤーが、パルキアに殴り込みをかける。

この時に左肩の白玉に少しヒビを入れる事に成功した。

それと同時に、桃色の覇気がパルキアを包む。

そして青白い弾丸を両手から放ってくる。

 即座にヒースクリフが指示を出して、タンクに反射を行わせる。

しかし逸らすだけで精いっぱいのようだ。

次に耐えているタンクに、パルキアが至近できてアクアテールを打ち付ける。

体力は赤へ減るが、直ぐに後退させアタッカーが囮になる。

 

「ソウトゥース、攪乱!」

 

 アスナが率いる最精鋭である機械獣を、パルキアに嗾ける。

 

 ソウトゥースとは、攻撃が肉弾戦しか出来ない虎型機械獣の事だ。

ネコ科であるため、動きがしなやかで人工筋肉を使った動きが非常に効率的だ。

彼等は目の前の龍を攪乱し、ヘイトを拡散する。

この間に陣形を直す。

 

もう少しで完成すると思ったら、パルキアの大地の力でヘイト分散していた虎型機械獣が全て破壊された。

 

「ピカチュウ、電光石火!」

「ピッ!」

 

 神速の域に達するピカチュウの攪乱と小さなダメージと衝突に、ぐらりとバランスを崩す龍。

これを好機とエンテイが咆哮を上げる。

彼の龍の足元やそこらの遺跡から、結晶の棘が出てきて押しつぶす。

其れと共に足場を作って、猿型機械獣『ジーニアスヘッド』が高速移動から結晶の投擲で龍の妨害をする。

 

「こっちだ、バケモン!」

「此方だ、パルキア」

「こっちが本命だ、神龍!」

 

 三位一体といえるその息の良さは、他者の追随を許さないほどだ。

三者は身動きの取れないパルキアを一斉攻撃し、その場から逃げ去る。

そのあとすぐに、アクアテールが来て彼等を追い払うようにするが、既に退避済みである。

 

 シリカや他のプレイヤーも攻撃をするが、突如空間が揺れる。

嫌な予感しかしない。

それは的中する。

 

ダム穴のようなやぶれた世界への出入り口が、蒼穹に開く。

そこからは、黒い煙に焚かれたディアルガがほぼ元気な状態で出てくる。

しかし自慢の胸の結晶は完全にひび割れてしまっている。

 

HPバーも10分の3を示している。

 最初はほぼ満載であったが、やぶれた世界でミュウツー・ギラティナ・シェイミ等味方にしたポケモンの攻撃で、

削りに削ったのだが時間停止によって大半が敗れてしまっていた。

そう、『ときのほうこう』で、一気にノックアウトしたのだ。

しかしその技を使うには、多大なエネルギーが必要で大きな隙を生む事が分かっている。

よって、絶対に勝てないとしたうえで行ったのは、金剛石の破壊・無力化だ。

 

 つまり、今のディアルガは時間停止を極短時間しか使用できず、且つときのほうこうを連射できないのだ。

更にパルキアも右肩の白玉を、ほぼ無力化されている。

よって空間切断攻撃も、あまり効力がなくなっている。

 

「『時空断裂閃』」

「え?」

 

 サトシが呟き、シリカがその呟きに反応したときプレイヤー二名とここら一帯が空間的消失を発生しだした。

この現象はアラモスタウンで見たのと同じである。

ディアルガは10分の3、パルキアは10分の4のHP。

これを削らないと、一定時間後にはここに居る全員が消える。

 

「シリカ、聞いてくれ。今から、ディアルガとパルキアの持つ宝玉を盗る」

「どういうことですか!?」

 

 サトシは世界の始まりの木で手に入れた、過去の遺品を取り出してシリカに渡す。

そして片方ずつ履く。

サトシは右手に、シリカは左手に。

 

 これは自分のHPを使って、ポケモンの技を使えるようになる伝説の装備。

今使えるのは、『龍の波導』『波導弾』『どろぼう』『はっけい』だ。

これの中で『どろぼう』を使えば、相手のポケモンの道具を奪い取ることができる。

しかし、自分の道具を持っていない事前提だ。

故に武器は装備できない。

伝説の装備は、リボンと同じような扱いだ。だから、大丈夫。

 

「そ、そんな。いきなり、そんな事って……」

「速度特化のシリカしかいないんだ。じゃないと、皆この世から消えてしまう!」

「わ、私はただの女の子ですよ?」

「皆ただの人間なんだ。必死に命を張って戦っている。

 一人で出来ることなんてたかが知れてる。だから、ここで形勢逆転の一手を打つんだ」

 

 シリカの肩を掴んで、その目を見る。

シリカはその強い瞳に惹かれるが、逸らしてしまいそうなくらい眩しい。

彼女は葛藤しているが、空間の端でプレイヤーの装備が空間に呑まれて消滅する様子を見て、

決心せざるをえなくなる。

 

「わ、わかりました」

「よし、いくぜ!」

「はい!」

 

 サトシは大声でキリト達に伝える。

 

「タゲとっててくれ!」

「! 打開策があるのか。アスナ、アーロイ!」

「ええ、行くわよ!」

「あと少しだ。諦めるわけにはいかない!」

 

 三人が前に行こうとすると、パルキアが周辺に大地の力を散布する。

攻撃範囲外だが、プレイヤーもつらくなってくる。

空間的に最初にこのやりのはしらにでてきた出入り口が、この世から抹消してしまう。

これに気づいたプレイヤー達は、死を覚悟し死兵と化す。

 

「「うわああああ!!」」

「待て、行くな!」

 

 取り乱し我を失ったプレイヤーは、もれなく突撃しディアルガの流星機関銃で抹殺される。

彼等を制止させようとしたヒースクリフは言葉を失う。

そんな彼の肩を叩くプレイヤーが一人。

 

「そう気に病むんじゃない、ヒースクリフ。

 俺達は人なんだ」

「ディアベル君……。そうだな、今は目の前の現実だ―――オーバーアシスト!『神聖剣』!」

「!?」

 

 ヒースクリフは、流星機関銃と大地の力で体力を削られているプレイヤーを救助し、

前線で戦うプレイヤーの防御と攻撃反射・反撃を行う。

今はもう、時間との闘い。

フィールドは、もう雲海が見えることが出来無くなっている程だ。

 

 そして、響いてくる何とも言えない心地よい音。

心音ともいえるその音の音源は、二つの祭壇……更に奥に一つの合計三つの祭壇の中央にあった。

その中央は、誰も見ていないが謎の文様がある。

そこである者が、笛を吹いている。

横笛だ。

 

 どこの音かわからない音は、この戦場の空気や時を静止させる。

そして神龍二匹は、がばっと振り返る。

横笛を吹く者は、非常に華奢で可憐であった。

音が鳴りやまると、半透明な階段が出現する。

その階段に、少年が一人先行し少女に手を差し出す。

少女はその手を取り、天空へと歩きだす。

 

 その瞬間、ディアルガとパルキアは我を取り戻したかのように、その二名に突撃する。

やれると思ったのか、今の戦場を忘れたのか、非常に必死だった。

だからこそ隙が生まれる。

 

「行かせるとおもったか?」「行かせると思ったの?」

 

 聲が重なり合う。

その者はキリトとアスナ。

瞬間的に発動した時間停止も空間断裂も効果を成さず、甘んじてその剣技を受け後方へ仰け反る。

更に神龍の後ろには、タンクらのスイング。

 

「そりゃあ!」

「まだまだあ!!」

 

 しかしアクアテールとアイアンテールで弾き飛ばされ、周囲の安定を図る。

神龍二匹は空を駆って、二人を追いかける。

透明の階段を上っている二人も驚いて走り出す。

 

<残念だが、ここを通す訳にはいかんのだ!>

 

 結晶の塔が彼等の目の前を阻み、アルファベットを模したポケモン”アンノーン”が、

エンテイと大量のアンノーンを異空間から出現させる。

エンテイは紅蓮の火炎弾を、アンノーンは数多の目覚めるパワーを繰り出す。

天から落とされる神龍は、天上からの機械獣ストームバードの集中攻撃でダメージを喰らう。

しかし、それでも元気だ。

 

 そして彼らは咆哮を上げる。

今度は何だと思うと、最奥部にある3つ目の祭壇から黒い靄が出てきた二匹を包む。

ディアルガの金剛色に包まれた身体の線が、橙色に染め上げられる。

パルキアも赤色から、黄緑色に線の色が変化する。

 

 

雰囲気も変化する。紫電が走り、肉体に力が漲るようなそんな最悪の事態が予想された。

 

 

 

 

 さて、シリカとサトシは、最上階に来ようとしていた。

ここで念を押すサトシ。

 

「間違っても攻撃するなよ?俺の知り合いの可能性があるからな」

「え、お知り合いなんですか?」

「ああ。皆と仲良くはできなくても、知っていてくれるだけでもうれしいんだよな」

「それはちょっとわかります」

 

 そして話していくと、その奥宇宙の先にある原子核の中央に居ると思われる例の存在がいた。

半透明の床が敷き詰められたこの空間。

その者が目を覚ますのは、そう遅い事でもなかった。

 

<そなたは……>

「俺はサトシ。で」

「私はシリカです」

「たのみがあるんだけど、聞いてくれないか?」

<まあまつがよい、サトシ。事態は一刻を争う。

 だからこそ、待つことを覚えよ>

「……」

<しかし、変わったのぅ。あの時はやんちゃ坊主だったが、実に大人になった>

「! アルセウス、俺の事……!」

<ああ、覚えているとも。私の命をダモスをミチーナを救ってくれた者として……>

 

 そこから話が進む。

このSAOというゲームに招致され、遍く森羅万象がここに降臨した事。

今ここに居るのは、データで本物ではない事、本物なのはプレイヤー達。

彼等の生存の道を弄び、それを須らくとして加担している者の事を教えた。

 

<そうか……>

「俺達を助けてほしいんだ。ここに居る偽者の命より、本物の命を助けてほしい」

<……分かった。創造の主として、この世の均衡を保つため、わたしの力を授けよう>

 

『Pocket Monsters CLEAR』

 

 これがこの空間に張り出される。

この光景に、シリカは茫然とする。

そして、その瞬間にアルセウスは息をのむ。

 

<……なるほど、そういうことか。サトシも同じとするところということか?>

「……その様子だと……ああ、そうだ」

<協力は惜しまぬ。これを受け取ってほしい>

 

『Pocket Monsters PACK』が、シリカのインベントリに入る。

シリカはそれを開けなければならないような気がしたので、急いで開ける事となる。

開けると、その中に入っていたのは……。

 

「ゲンシカイキって、Zワザってなんですか?レックウザのデルタ化、伝説の力覚醒?

 ユニゾンって訳わかりません……」

 

 そのように呟くと、シリカの右手首に腕輪が装着される。

この時を見計らったのか、ピナは彼女たちの頭上に舞い上がる。

するとピナは虹色の光に身を包まれ、肉体を変化させその光を拡散させた。

 そこにいるのは、実に神々しい龍だった。

まさに流星とも彗星ともとれるその雄々しい姿。

当の本人のシリカでさえ、その姿に見とれてしまう。

レックウザは、シリカの目の前に行く。

そして咆哮をあげる。

これによってこちらに来たのは、Ωの溶岩結晶とαの深海結晶だった。

 

「シリカ、プレイヤーとして、君にお願いがあるんだ」

「な、なんですか、サトシさん?」

「俺は本来はここに存在していない人間なんだ。

 だからいつ消えてもおかしくない。でも、君は現実の人間なんだ。

 生きて帰らないといけない。

 そのためには、この生きるにも難しい世界を生き残らないといけない」

 

 色んな事実に腰が抜けた彼女と同じ視線に立つために、その場に座るサトシ。

その言葉は今までの経験や覇気も加わって、シリカの心に響き渡る。

 

「だから、どんなに卑怯でもいい、元の世界に戻ってくれ。

 それが俺からの願いだ」

「じゃあ、サトシさんやピカチュウは……?」

 

「……」

 

「……わかりました。アルセウス」

<うむ、プレイヤーである故、非常に良い>

 

 世界の主役は、サトシでもアルセウスでもなくシリカを含むプレイヤー達である。

彼等を支援するのが、彼等英雄にとって有意義なのだ。

そしてこのポケモンの世界に生きる最高に善良といえるサトシは、

非常に利己的だ。

旅の最中、道連れや情けをかけられることは少なくない。

だからこそ、シリカの生還を一番に考えてしまうのだった。

 

 このテーマフラグ解放が行われた瞬間、サトシの居場所はないといっても過言ではない。

それくらい強力なパックを、シリカは手に入れてしまっていた。 

 

だがそれは間違いである。

シリカは文章の一番上を見ただけで、後半に英雄に関する解放能力が書いてあるのだ。

よって、サトシの手持ちは、一体から六体に増える。

彼は自身の腰ベルトに転移したモンスターボールを見て、口角を上げる。

 

「俺もこんなに楽しい世界を、手放しにするなんて勿体無いなんて思ってたんだ。

 恩に着るぜ、アルセウス!」

 

 

 シリカとアルセウスが振り向き、頷く。

二人の同調が強まっている様だ。

シリカの瞳は、金色に光り出す。

そしてアルセウスは光の玉と化して、シリカと同化する。

 

一般人と創造神。

天獄の差がありながら、光が晴れたその姿は全てを穿つ者として変化する。

天衣無縫と言うが如くの一品。

芸術というべきか……いやはや、実に畏れ多いものである。

 

 

 

 

 地上ではデッドヒートが行われている。

体力はお互いに後少し。

しかしじり貧。敵は遂に、自身を回復しプレイヤーの回復を封じる術を使いだす。

おかげで回復アイテムはまだあるが、使えないという状態にある。

 タンクはアビリティのおかげで、自動回復がある。

だが他の者は、そんなもの存在しない。

よって死にそうな者が多い。

如何にオーバーアシスト等GMチートや機械獣によるヘイト移譲・航空支援があっても、

敵の方がはるかに速い為回復を止められずに済んでしまっている。

 

「アーロイ……薬草はまだあるか?」

「ああ、まだある。だが……」

「玉薬がないってわけね。そろそろ詰み……かしら」

「アスナ!」

「っ!だって、そうでしょう!?」

 

 アスナが弱音を吐く。

他プレイヤーもわかっている。

言いたい。喚き散らしたい。人生最後ぐらい、ゆったりと過ごしたい。

 

それは願わぬもの。

 

絶望の中、抗おうと必死でもがくキリトやアーロイを含む少数のプレイヤーと英雄。

既に諦め散っていった命は過半数を超えた。

 

 しかし、そこにいきなりメールが来る。

キリト・アスナ・アーロイは、そのメールの送信元を見てすぐに開く。

そこには、シリカからのボス部屋に入れないというものだった。

アルセウスというボスの情報から、大量のウィルスか何かによってその空間のみ別の処理となってしまっているようだった。

だからそのウィルスの元を破壊してほしいとのこと。

 

「あの黒い靄が出てきたのは、祭壇奥三つめの場所!」

「ああ!アレをどうにかすれば……」

 

「救援を呼べる。そういうことだな、お前たち」

 

 キリト達が解決の糸口に希望を見出し作戦を練った時、

彼等の背後や周囲からプレイヤーや英雄が集まる。

 

「はい。あの奥……あの黒い歯車が浮いているのがわかりますか。

 あれを破壊すれば、俺達の勝ちだ」

 

 圧倒的重圧感の中に安心感の混ざる彼等に、キリトは目的を云う。

それを聞いて、ディアベルが指示する。

 

「残った全員、キリト達を援護しろ!現在最高のレベルは、キリトら『黒の英傑連盟団』だ!

 ここで命を張れ!さもなくば、永遠に日のめは見れないと思え!

 死にたくない者はいるか!ならばそこで黙ってみて居ろ!

 

 戦い奴はいるか!ならば、ここで全てを曝け出して死ね!!」

「「「ウオオオオオオ!!!」」」

 

 残る男共の咆哮。

本当の死兵になった者らは、圧倒的な意思で立ち上がり歯を食いしばる。

あふれ出るアドレナリン。

それは、生きる時を疑わせ、死をも歪まし、生死の境を曖昧にする。

 

 その時こそが、まさに―――愉悦―――。

 

 この感情の渦。システム面が、この状況をどうにか解読しようとし、フレームエラーの坩堝に陥る。

つまり処理落ちする。

この状態で、更に宗教的意味のない熱狂的再征服が行われるのならば……人は量子の世界を超える。

 

「グギュグバァッ!!」

「ぱるぱるぅっ!」

 

 次元を破壊する時の咆哮や流星機関銃を、無制限に放ってくるディアルガ。

時空を破壊する亜空切断や波導弾・大地の力を、無尽蔵に放ってくるパルキア。

 

 

「俺達は負けない、負けて居られないんだ!」

「帰る、現実に!私はこの世界に負けない!」

「死ねや、バケモンが!」

「大馬鹿野郎共、平伏せ!」

 

 その悪鬼羅刹の如く走り出すプレイヤー達。

まず初撃の時の咆哮で、エンテイの噴火が打ち消されポリゴンとなって弾き飛ばされた。

次の亜空切断で、アンノーンだけが弾き飛ばされた。

 

「我ら三兄弟!生まれは別なれど、死す時は同じ!いざ、往かん!」

「うむ、兄者。参ろうぞ!」

「ああ、兄者。年下共に、死なれちゃ敵わんからなァ!」

 

 劉備玄徳、関羽雲長、張飛翼徳。

彼等は桃園結義で有名な、蜀建国の立役者。

勇猛果敢で中国大陸の群雄割拠を生き抜いたその強かさは、心の強さと共に頭脳や肉体、カリスマ……。

そして、誰でも負けぬ膂力やその卓越した戦闘力にあった。

 

 しかし相手は化け物。

如何に百万の敵を咆哮で萎縮させたとしても、塩や豆腐等の商売・様々な伝承を残す軍神だとしても、

覇道に対する王道と直に宣言された大義の蜀王だとしても……。

質と量に勝つことはできないのだ。

 

「ぐはっ!?」

「「兄者!?」」

「てめぇら、よくも……!よくもぉ…!ガハッ!」

「翼徳!我が大義をこの世に示す!咆えよ、鮮烈なる荒神よ!」

 

 猛る業火が数多の技を潰すが、視界外の波導弾により関羽は敗退する。

 

「なんたる不覚ッ……!」

 

 残り、45M。

 

 

「オラオラオラアアアア!!アタックディーラー様のお通りじゃい!!」

「血盟騎士団最精鋭の俺達に勝てると思ってんのか、アア!?」

「三位一体!絆よ、我らが手に!」

「「「スネークバイト!!」」」

 

 来たる数多の弾幕を、蛇の如く動きでプレイヤーを狙う技だけを撃ち落とす。

だが大地の力という足場の揺らぎで、統率に揺らぎが出てしまう。

そして物理的に浮足立つ三人は、回避不可能となり波導弾で撃ち落とされる。

 

「無念なり」

「だあああああ!!ここで終わりかよ、ちっきしょおおおお!!!」

「後は任せた!」

 

 ポリゴンとなって消えるほどではないが、麻痺となってその場に倒れる。

そして距離が短くなっていく。

数多の犠牲を払って、皆が希望へ駆ける。

 

「さて……最後はギルドマスターでやるとするか」

「ああ、これで終わりにするんだ!」

 

 残り10M程。

機械獣は殲滅された。

今まで育ててきた最精鋭の子らだ。

航空支援や後方支援で、弾幕の撃ち落としをしていたがそれもなくなってしまった。

 

 残りはディアベル・ヒースクリフ・アーロイ・アスナ・キリトだ。

ディアベルとヒースクリフによる、オーバーアシスト・神聖剣・ヴァーパルストライクの技は芸術と化していた。

この巧みな技のおかげで、3Mまで近づけた。

そこまですると、ディアルガとパルキアの妨害も顕著だ。

 

 ディアベルはディアルガへ行き、4足特有の動きの鈍さをアタッカーによる俊敏さで捌く。

ヒースクリフはパルキアの方へ行き、直接攻撃や技を盾で受け止め逸らし反撃する。

 

「「――――!」」

 

 聲にならない叫びを上げる神龍は、時の咆哮と亜空切断を行おうとする。

圧倒的防御力に、ギルドマスターの攻撃は通じない。

其処に出現するのは、アーロイだ。

 

彼女はアシスト機能と『フォーカス』を使って、力の集約地点を発見しそこを爆撃する。

それだけで力が露散する。

この時に罠をはりつけ、動きを更に遅くする。

 

 キリトとアスナは、大地の力とアクアテールによる水圧の脅威にさらされながら、そこにたどり着く。

そして二人の動きは、ほぼ同一と化す。

 

「ハアアアア!!!」「てやあああ!!!」

 

 ヴォーバル・ストライクとアクセル・スタブが、その真っ黒な靄につつまれ緑に鈍く輝く歯車を破壊した。

直後、氷のようなモノが、第三の台座から出てくる。

 

「「!」」

 

 二人の動きや思考は同じものとし、脳の計算力が加速する。

情報処理が加速する中、その氷のようなものに対して攻撃を行う。

その氷の塊も氷の礫を放ってくるが、この二者を倒す事はもはや不可能。

 

二人は瞳を黄金に光らせ、全てを見切りありとあらゆる弱点を破壊する。

 

最後のコアのようなものに、最後の一撃を喰らわせる。

 

「「いい加減、倒れろオオオっ!!」」

 

 その氷触体は、十字に切られ粉々にポリゴンと化して散る。

しかしまだまだ終わらない。

 

今度は真っ黒な……。

 

 

 この時、光の階段が次の敵の出現に絶望するキリトとアスナの間に架かる。

真っ黒な物体は触手を周囲に広げるが、このカーテンに触れた瞬間じゅっと蒸発した。

雲間からでる狐の嫁入りだとか言われる光のカーテン。

標高的にありえないが、更に上に雲がある。

 

 ディアルガとパルキアも、光の格子に捕らわれ身動きが取れない。

すると緑の光が周囲に降りてきて、この光に触れた万物は戦闘前の様相へと戻る。

プレイヤーが損傷したHPと装備を、完全に治し切る。

 

「キリトさん、アスナさん、皆さん、ありがとうございます」

 

 とある彼女の聲が聞こえた。

どこからの聲なのか、彼らは探す。

 

すると天空を覆う雲の一部が晴れ、そこから金色の太陽の光の中から少女が降りてくる。

この世が小麦色に染まる中、その存在は神々しいものであった。

 

 その者はシリカという少女で間違いない。

しかし制服アレンジ魔法少女もびっくりな天衣無縫っぷり。

白銀の胸当て・白の布地と白金の縁・金色の神威・背中にアルセウスの胴装飾が浮遊・周囲に全タイプ18のプレートが浮いている。

更に背後には、スーパーセルを伴うΔレックウザ・マントルと内核を浮かせるΩグラードン・

巨大台風を従えるαカイオーガが君臨している。

 

 プレートは普通入手だとプラスチック製のもので、粗悪なものである。

しかし、このプレートは農耕作業で鍛えた大人が、両手で抱え無ければならないほどの重さである。

それほどこの創造の源であるプレートは、関わる全てに関して”重い”ということなのだろう。

 

 シリカはその地に静かに降り立つ。

そして静かに目を開ける。

その目は黄金に光っていた。

 

彼女はキリト達を一目見て少し安堵してから、ディアルガとパルキアを見る。

『ときのはぐるま』が破壊されても尚、背後にある黒の……負のエネルギーにより変異させられている。

そして、両手にデザイン変更された伝説の装備があり、そこに命の輝き・燃焼・灯が宿る。

両手にある短剣を上に放り投げると、それぞれが少し長い槍となる。

しかしそれでは貫通力が足りない。

 

よって二つ合わせることで、グングニールと化した。

 

 彼女は思いっきり投げた。

神々しい神威を纏うグングニールは、その負の感情の塊に当たる。

だがそのグングニールは、貫けない。そのまま突撃している。

そこへシリカは右腕を掲げた。

 

そこから、ひし形の何かが浮かび上がり、周囲に光を発する。

 

 その光は、18のプレート・レックウザ・グラードン・カイオーガを包む。

 

「上位命令を実行し、Zワザでアレを破壊します。

 

 『インフィニティマルチバースト』!!」

 

 

 18のプレートは輝きを増し、そこからそれぞれのZワザを繰り出す。

大元は『裁きの礫』。

更にレックウザは、『流星群』を元にした『アルティメットドラゴンバーン』。

グラードンは、『噴火』を元にした『ダイナミックフルフレイム』。

カイオーガは、『しおふき』を元にした『スーパーアクアトルネード』。

 

 この砲撃とグングニールで、負の塊を蒸発させる。

色とりどりの波導が、周囲に爆散される。

 

”congratulation” ――おめでとう――

 

この時既に、25層クリアが通達されていた。

其れと共に、このゲームのレートが出現した。

LAと別に確実にダメージを負わせた者順に、ランキングの表示がされる。

上位になるほど、良いものが得られる。

 

 だが目の前に現人神がいるのだ。

まだ喜びの余韻に浸れる人物はいない。

 

戻ってきたグングニールを二つの短剣に戻し、腰ベルトにある革の鞘に入れる。

そしてシリカはディアルガとパルキアが、素に戻った事と安全性を確認して踵を返す。

周囲は金色の光に満ち溢れ、この空間的浸食を食い止めている。

 

彼女の最後の仕事。

 

18のプレートが波紋を周囲に流す。

その波紋は音となり、周囲に浸透していく。

 

 其れは正しく、祈り[オラシオン]――――。

 

 聖母すら凌駕する彼女の祈りの姿は、プレイヤー皆の荒み興奮状態である心理状態を鎮静化させる。

そして彼女の背中から白い純白の翼が生え、周囲に白銀の風を祝福の鐘の音を送る。

シリカは掌を目の前に突き出すと、伝説の装備から黄緑色の光が周囲に広がる。

この光は空間的浸食を停止、空間の再生を行う。

 

空間が本来あるべき場所に戻され、ちゃんと接合される。

 

 

全てが接合されたとき、シリカは地面に座っているキリトに近づき同じく座る。

 

「キリトさん、貴方のために頑張りました。

 あなたが私を必要としてくれたので……。

 私もキリトさんが必要でしたので……えっと……」

 

 年相応ではないその顔に、キリトは心に痛みが来る。

そしてその痛みを抑え、シリカの頭を撫でる。

 

「ありがとう、シリカ」

「えへへ……初めて感謝されちゃいました……」

 

 キリトは微笑み、シリカを労う。

するとシリカはそれに安心したのか、気を失いキリトの胸の中へ倒れこむ。

そしてユニゾンが終わる。

 

いつの間にかレックウザは小型化していて、他のポケモンはいなくなっていた。

件のアルセウスもこの場所にいなかった。

 

キリトはシリカをちゃんとした姿勢にして、腕の中で寝させる。

アスナもやっと立ち直ったのか、キリトに近づく。

 

「凄いなぁ、シリカちゃん」

「ああ。俺達よりも苦労しただろうに」

 

 そして、後ろでは大騒ぎする男共。

転移結晶が使用できる事を伝える明るい光が、結晶からあふれ出る。

この結晶が使えなくなったのは、空間的侵食が開始されたとき。

だから、泣いて喚いた。

 

何せ、空間浸食が開始されてから死んだプレイヤーが、全て帰って来たのだ。

同じくレートランキングに表示されて、経験値とアイテムを取得した。

ちなみに、最下位はシリカ。

 

 

 シリカはサトシと共に、ディアルガとパルキアの金剛玉・白玉を手に入れ奥の台座中央に行くと、

ギラティナからもらった宝石・心の雫が合わさり『天空の笛』ができあがった。

この天空の笛は、今半透明のイヤリングとして右耳に装備されている。

 

さて、どんちゃん騒ぎするプレイヤーは、劉備玄徳に連れられて次の層へ行きアクティベートする。

 

 

この時、リザードンに跨るサトシとアルセウスが、蒼穹から舞い降りた。

ギルドマスター二名とキリト達がいる中、アーロイがサトシたちに聴く。

 

「どこ行ってたんだ?」

「テーマフラグ英雄としての仕事だよ。で、ものすごい情報が入った」

「なんだ?」

 

 その情報は、25層にポケモンが出現したこと。

ただしモンスタボールはでない。

まあ普通の情報。

 

そして、この層からこれからの動きが確実に大変になる。

それは……。

 

 

「反英雄。つまり、ダークヒーローってやつの出現か」

「そうなんだ。つまり、俺達英雄やプレイヤーが殺されてしまう事があるってことだ。

 テーマフラグ英雄がどうなるかはまだ分からない。

 だけど、アルセウスが確認するには、ダークヒーローの動きでPKギルドの動きが活発になるってことなんだ」

「ということは、危険が危ないわね」

 

 キリト・サトシ・アスナが会話する。

これを聞いたディアベル・ヒースクリフは、ダークヒーローを見つけ次第排除するか平和的解決を目指して頑張る事を云ってくれた。

それと機械獣の現状を確認したアーロイは、精鋭部隊の再建と治安維持部隊の増強を提案する。

少なくとも浸食が始まって、最後の弾幕の場面になるまで航空支援があった。

だから囮になる囮と小回りが利くアタッカー、航空支援を行えるバード系を育成することになる。

 

「それで、ちょっと聴いていいか?」

「ん?」

「俺とシリカを、正式にキリトのギルドに入れてくれないか?」

「ああ、いいぜ」

「ありがとう、これからよろしく頼むぜ」

 

 サトシとキリトは握手する。

キリトは即時判断を下した。

この判断は当然だろう。神とかよくわからないが、25層ボスを一瞬で蒸発させるほどの実力だ。

イベントの力もあるだろうが、少なくとも今の時点では過ぎたる力だ。

50を超える50層レベルのポケモンたちとそれを従えるシリカ、そして彼女にテイムされているピナ。

心身共に幼い彼女は、この力を使えているがもしもがある。

それを抑えられるのは、今の所キリト達しかいない。

 勿論シリカに匹敵する力を持つ英雄はいるが、それは個々のちからでしかない。

個々であり群全てが、圧倒的強さにあるこのポケモンとシリカは常に狙われることになるだろう。

まあ、キリトがシリカ達とテーマフラグ解放の最初期から関わったという責任感と、

シリカという人物に少し心惹かれたからという理由もあるかもしれない。

 

 

 

 

 26層。

 

 一日休憩して話し合った事。

 シリカのアルセウスとのユニゾンは、ボス戦または想定外の事でしか使用してはいけない。

ピナのゲンシカイキは、シリカとアルセウスのユニゾン時でしか使用しちゃいかん。

これらの神化統一を、デルタ化と云い汎用性を高めることになる。

 アルセウスは半透明のイヤリングとして、シリカの傍にいることになる。

基本的な情報は機械獣ウォッチャーやフォーカスでなんとかなるが、

戦術や戦略はアルセウスの圧倒的処理能力に任せ発案考案実行とする。

 エンテイを含むポケモンたちは、このフィールドで消えると一定時間

やぶれた世界で傷をいやすことになる。

体力が回復したら、表に出てこられるようになる。

 しかし、基本的にはギラティナによる拉致からの蛸殴り戦法にする。

何せ伝説のポケモンたちが強すぎて危ないのだ。

主な理由は二次被害の可能性を孕んでる、広範囲攻撃を持つ神系ポケモンのせいだ。

 

 次にサトシだが、基本的に問題ないが一体ずつしかポケモンを出してはいけない。

理由としてモンスターテイムができるのは、一体だけだから。

下手にプレイヤーを刺激してはいけないという事。

ボス部屋だと基本見知った面子になるので、後の禍の可能性は激減する。

 それと基本的には、シリカと共に行動してもらうことになる。

またPKギルドの監視を行ってもらうことになる。

 

 最後にアーロイによる機械獣の選定だ。

各層にブライトプレッシャー1体・デスブリンガー5体・トールネック4体を配置。

ウォッチャー等偵察を40体、航空機械獣を50体、地中移動可機械獣を10体、他機械獣を100体配置する。

第一層~第4層までが、広いので多くの機械獣を配置する。

また、22層はモブがポップしない、またはレベル0の機械獣が出現する。

ポケモンは25層のみのようだ。だから、機械獣をその層で乱獲し、他層へ移動させる。

 精鋭部隊はデスブリンガー・ソウトゥース・ストームバードを中心に構成し、

モブを殲滅することに心血を注ぐことになる。

また第一層の裏ボス討伐の為の準備を行うようになる。

 

 

「あぁ、私ったらキリトさんにもたれかかって寝てしまうなんて……」

 

 顔を真っ赤にして、ベッドで悶絶する彼女。

既に昨日の内に、笑って許してくれている。

シリカは色々と思い出すのと共に、現実に帰るという気持ちが強くなるのと心が温かくなる事を思い出す。

この空気を壊したくないと思いながら、彼女を含めた皆は生きていく。

 

 




 非常にサクサクですね。
情緒等省いていますので、つまらなく感じるかもしれません。
次は6話後編が書けたら投稿致します。

 色々使ってボス戦を盛り上げましたがどうでしたか?
楽しんで頂ける、これこそ望外の喜びでございます。

是非またいらしてください。


無駄話:映画でピナ似のモンスターが出てきて、成長し敵対した氷龍が出てきましたよね?
実はアレが元ネタです。
それで神化統一――デルタ化が、その上位互換ってなわけです。


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閑話 ただの素材集め

閑話 ただの素材集め

 

「「キリト、素材集めに行こう」」

「「……ん?」」

「わかったわかった、火花を散らさないでくれよ」

 

 キリトはサトシと共に、倒し終わった敵の素材を売りに来た。

売りに来たのは、エギルの商店だ。

彼は第一層のボス攻略の時に知り合いになった。

 

 そしてもう一人は、リズベット。

女性で鍛冶師。マスターメイサーを目指している。

名匠リズと云われる日が、もう少しであることが今回の意思の強さを伺わせる。

彼女とは第27層からの知り合いだ。

 27層がまだテーマフラグ解放していない時、アルゴという情報屋から鍛冶師の情報を買った。

その時にお世話になり、作り上げた武器が普通に良かったのでそこから関係が続いたのだ。

 

「エギル殿、今帰りました」

「エギル、丁度いい希少アイテムを見つけましたよ」

 

 ちょっとした修羅場に、エギルと共に歩む英雄が帰ってくる。

一人はさわやかな青年と思われる大人、趙雲子龍。

もう一人は、華奢な肉付きだが頭は良く冷徹になれる軍師、諸葛亮孔明。

公明は徐晃の方なので間違いである。

 

「リズ!最高の虎戦車ができました!早速試乗してみてください!」

 

 更にリズベットと共に歩む英雄が帰ってくる。

この方は女性で、虎戦車や木牛流馬の原案者と言われている。

その名は月英である。本来の名ではなく、ゲーム基準なのでこれである。

 

「おお、趙雲、諸葛亮、良いところに帰って来た。

 この鍛冶師に俺達の優位性を示してくれないか。

 今日は譲れねぇんだ」

「ねえ、月英。このおっさんを黙らせてくれない?

 私の将来性が如何に優先かつ現実的か、教えてやってくんない?」

 

「「別に一緒に行動すればいいんじゃないですか?」」

 

 有無を言わさない夫婦の切り返しに、速攻ノックアウトを受ける二人。

 

「本当に彼らは愉快だなぁ」

「ピカァ~」

 

 サトシとピカチュウが、この空気の明るさに和んでいる。

キリトはいつもの事と笑っている。

 

 結局話を聞くと、この層ではないがリドリーの素材とメタリドリーから落とすインゴットが欲しいんだと。

リドリーは空中を飛んでいて、更に攻撃力が非常に高い。

だから一回戦ったら、二度と戦いたくないプレイヤーが続出。

そこでキリトに頼む二人がいるのだ。

 

「キリトとサトシは今日、何をしておられたのだ?」

 

 趙雲はキリトとサトシと向かい合って聞く。

 

「ああ、今日はダークヒーロー狩りさ。

 途中クッパが出てきて、ダークヒーローをフィギュア化させてご帰宅願ったよ」

 

 キリトがにこやかに言い放つ。

暫くサトシも交えて会話していると、喧噪が止んだ。 

決着がついたようだ。

結局、皆でリドリーとメタリドリーの乱獲を行う事に決定したようだ。

 

 

 次の日、45層。

とある研究ラボに来た。

此処には、たくさんの生体カプセルが壁際に密集している。

部屋自体はかなり広く、45層のフロアボス部屋よりも広い。

 

そしてこんな禍々しい場所に、ランダムでリドリーがリポップするのだ。

 

「キシャアアアア!!!」

「出たわよ!お願い、月英!」

「ええ、先陣はこの月英にお任せを!」

 

 さて、彼女を含んだ三國無双な方々は、記憶的にIFを含んだ三國無双2~7全ての記憶がある。

その中で現実に触れた技術者は、自分の無双として使っている物品に大層悩んだことがある。

そこでその物品を変えられないかと思い、メニュー欄を探しまくっていると

先に情報を得たキリトが彼女らに教えた。

 

 結果……。

 

「これが、研鑽の成果です!」

 

 繰り出したのは、小型の虎戦車ではなく普通に大きな戦車。

そう、あの戦車。キャタピラがついて、反射装甲や機関銃・スモーク等が取りついているアレ。

しかも、無双乱舞に設定しているので、壊れても再復活する。

 

出現した戦車は合計三台で、装備している全ての武装を解放しリドリーに射撃する。

そして効果時間が切れると、内部に残っている全ての爆薬と共に大爆発を起こして消える。

FFによる誤爆はない。

 

この卑怯じみた攻撃のおかげで、リドリーの三段体力の内あと一本となる。

 

「強っ!?」

 

 あまりもの攻撃力に、リズベット本人は驚愕する。

浪漫な砲撃に、キリトやサトシも爛々と目を輝かせる。

 

爆撃されたリドリーは、片目と頭部装甲を失いつつも元気な様子。

そのまま飛翔してくるが、彼らの前になった瞬間地面に落ちる。

どすんと落ちて、場を揺るがすがこれ以上の地震を浴びている攻略組にそれは効かない。

 

さて地面に落ちた理由は、諸葛亮による大気移動からの真空で飛べなくなったからだ。

その内にフルボッコにあう。

このような手口で、飛翔モンスターを乱獲。

 

 次に向かうのは、メタリドリー。

戦場は研究所の最奥部にある。

敵本体は、生体カプセルに存在しする。

倒すと一定時間後に、生体カプセルにリポップする。

 

「ここの解放ボタンを押せば、究極機械生命体メタリドリーが出てくる」

 

 キリトがそう説明する。

そして、さっさと押す。

すると周囲が赤のライトで照らされ、警告音が周辺に行き渡る。

警告音が発動している最中、目の前にある大きな生命維持装置が解除されていく。

そこから出てくるのはメタリドリー。

翼の他に、ジェットを持っているので地面に叩き落とせない。

 メタリドリーはその場で飛翔し、空中停止する。

その間に諸葛亮のビーム・趙雲の槍の投擲・ピカチュウのエレキボールを喰らわせる。

このダメージで三段体力は、三段目のHPバーが二分の一になるほどとなる。

結構食らわせた様だ。

 

 メタリドリーは、火炎弾を放ってくる。

これを回避したら、近場によってきてしっぽでたたきつける攻撃をしてくる。

エギルとリズはタンクなので、この攻撃を防御してしっぽのみを攻撃する。

すると部位破壊したようだ。装甲が剥がれている。

 メタリドリーは退避し、遠くへ逃げようとしていた。

遠くからの攻撃は、雷撃攻撃と相場が決まっている。

そこで月英の無双乱舞が発動する。

 

「我が研究の成果を見せつける時です!」

 

 装備転換した為、非常に強力となっている。

出現したのは、F-15E戦闘機。

対地が少し得意な対空もできる万能な兵器。

この戦闘機は、マシンガン・多弾頭ミサイル・気化爆弾を使った後特攻する。

大爆発をするが、FFなし。

 

 メタリドリーの体力は最終一段に行く。

怒ったボスは、特攻してきてすれ違い様切り裂いてくる。

しかしキリトと趙雲にその攻撃は効かない。

逆に反撃を喰らって、残る装甲をはぎ取られた。

 体力が後少しというところで、諸葛亮のシャッホウビームが直撃する。

しかも斬属性なので、一気に削り取られた。

 

 クリア。

これを何回か繰り返して帰った。

 

「月英、此れ、使いたかった奴でしょ?使いなさいよ」

「え、いいのですか!?こ、この龍鉄は……」

「いいから研鑽と研究をつんで、役立てるようにしなさい」

 

 と月英にレアドロップを渡してた。

エギルの方はというと、ドロップ品を一定基準を満たすと交換してくれるNPCに言って、

三國無双装備を整え趙雲と諸葛亮の能力を上昇させた。

更に武器レベルも、レベル1から2へ上昇する。

 

此れには三國武将は喜んだ。

 

 結局犬猿のような反応をしても、心持は皆同じなんだなと思うキリトであった。

サトシも少しドロップを貰っていて、それはとある道具の為に残しておくことに決めた。

 

 

 さて、キリトとサトシは、アスナ達の所へ戻った。

最初はどこに行っていたのか聞かれたが、レアドロップ品を献上することで機嫌が直った。

そしてキリトはアーロイ達の進捗を聴く。

先程47層をクリアしたところだが、裏ボスをクリアしていないとのこと。

 

このボスは後で行くとして、精鋭部隊は完成している。

今徐々に1層に、育成完了した機械獣を送っている所だという。

あの機械獣を超える前時代の世界を破壊した機械群を相手にすると思うと、背筋が凍る想いだ。

 

 SAOに入って、約一年ちょっと。

犠牲者は500人程。

攻略組は先細りになるわけでなく、ダークヒーロー合わせて多くのプレイヤーが前線に来ている。

それと確認されているだけで、フィギュア化されたヒーローは100を超えている。

これからが若干不安なものだが、まだ彼らはマリオ以外失っていない。

 

 というのも、機械獣が真っ先に見つけて排除するか、フォーカスが概念的に見つけて確認するか、

ポケモンたちやピナ・シリカが真っ先に排除することで今までフィギュア化を避けてきている。

 

 彼女たちが最強足りえる中、キリト本人はどういう役割なのか。

 

 キリト自身攻略組の一員で、有益な英雄とプレイヤーを見つける彼は、LAを取りまくる度胸のあるアタッカーとなってた。

要約すると、ギルドマスターだけど雑魚ということだ。

将の将だから、あまりどうのこうの言えない。

 

 次の層は48層。

情報からすると、花畑が広がっていて敵性モブが極端に少なく普通に弱いとのこと。

22層の再来だ。

この層はキリトが久しぶりに探索しようと思ったりした場所である。

 

 48層を共に探索しようと言い出したギルドもあり、彼等と共に行動しようと思っている。

彼等を合わせて探索を行うのは、キリトを含む黒の英傑連盟団全員だ。

入団しているのは、キリト・アスナ・アーロイ・シリカ・サトシ・エギル・趙雲・諸葛亮・リズ・月英だ。

 

そして、共に行動しようとしているギルドの名は、『風林火山』という。

ギルドマスターは、キリトが一度指南したことがあるクラインという男性だ。

義理堅くムードメーカーである。

彼も女運がない代わり、多くの英雄と協力してこの世を生き抜いている。

 

 彼等と最初期から生き抜いてきている英雄がいる。

彼の者の名は、真田幸村だ。本名は別にあるが、無双ゲーム由来なので仕方がない。

赤備えがその鎧でわかるように、非常に攻撃的で武力が高い。

中々気質がよい人物で、雰囲気が基本的に柔らかく物腰も柔らかい。

故に交渉事は彼に任せればいい。

 

 基本的にクラインが行っているが、命が無くなれば終わりなプレイヤーを気遣って、

幸村が一触即発な雰囲気であれば相手との間に入る。

相当な信頼を得ていることも、この事で理解できる。

 

 さて他にも英雄がなぜかこの少数精鋭なギルドに多数集まっている。

理由は分からないが、彼らの矜持や性格のおかげで集まってしまったのだろう。

その為、周囲から少々どやされているが、皆は気にしていない。

 

さあ、行こうか、次の階層へ。

 




 6話は、総計5万文字になる模様……。
前編は、百桁切り捨て27000文字と集計しております。
この6話後編が終われば、感想欄の指摘通り内実・内情を個人主観から煮詰めようと思います。
 ただし、本編とは趣向を変えます。
理由は、本編はイージーで、残酷な描写がないからです。

 というわけで、R-15と残虐な描写有りのタグを名実共に存在する話を作ります。
この話は『解章』という名で、本編と原作の進行・人間関係に似せながらえげつない世界観で創ろうと思っています。
 
 詳しくはさくさくと暇つぶしで書いた二次小説の後書きに書きます。


 今回はたったの4000文字ですが、少しでもわくわくして頂けたら幸いです。
これからも話の整合性を確かにする為、閑話を作ります。
こんな稚拙な考え丸出しな文字列ですが、よければこれからも見て行ってください。



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6:鏡の世界(前編)

19124文字です。



6:鏡の世界(前編)

 

 48層。

実に美しい花びらの絨毯。

満開だらけで蕾どころか、散っている花すらない。

 

 転移門から転移してきたキリト達。

その光景に、息をのむ彼等。

そんな彼らに、聲をかける人がいる。

 

「おーい、キリの字!」

「お、クラインか!」

 

 そう、風林火山ギルドマスタークラインである。

お互いに肩を組んで、再会を喜ぶ。

既に皆とは邂逅済みである。

 

しかしそれはプレイヤー限定である。

だからこそキリトは、風林火山と共に居る彼等に気づいた。

 

「クライン、あの英雄達は?」

「応、早速気づきやがったな!さっすがだぜ!」

 

 そこから紹介の流れになる。

 

「俺は孫策!呉の武将ってことで宜しくだずぇ!」

「私は陸遜です。呉後期の軍師です。皆さん、宜しくお願いします」

「私[わたくし]の名は荀彧と申します。以後、お見知りおきを」

「俺は周泰」

「我が名は曹仁!タンクとして、壁となる所存!宜しくお頼み申す」

 

 呉と魏の猛将が揃い踏みとなる。

しかも真田幸村を合わせて6人の英雄だ。

此れが湧かない筈がない。

 

しかしこの時代で彼等を知って居るのは、黒の英傑連盟団の中でキリト位だ。

何せ皆この仮想現実に精いっぱいで、英雄の知識などさっぱりだからだ。

一応その層毎にある書物で、その英雄の存在を知る事ができる。

だから無知という事はありえない筈だ。

 

 まあささっと紹介を終わらせて、この世界を探索する。

キリトはシリカと共に行動する。

 

途中で休憩を挟んでいると、ナニか黒いものが動いているのを発見する。

キリトは直感でそれがテーマフラグに関係すると思い、そのナニカを追いかけ始める。

シリカもその存在を追いかける。

 

 追いかけていくと、一つの大木の根元に来る。

更にその大木の根元に誰かが入っていく。

それをキリト達が追う。

 

すると、大木に少し登ったところに洞[うろ]があり、そこに入ったと思われる。

それくらい大きな空洞だ。

 

「シリカ、行くぞ」

「はい、キリトさん」

 

 洞に入ろうとすると、足元を滑らせてその中へ入ることになった。

シリカは転移結晶を使おうとするが、結晶無効化エリアのようで戻れなかった。

そのままどこかに転がり込む。

 

「くっ……つぅ……」

「いたたぁ……」

 

 二人が頭を押さえて起き上がった先には、虹がかかった不思議な場所。

沢山の台座があるがそこには何もなく、全ての中心である台座に大きな鏡があった。

鏡には装飾が飾られていながらも、何かおかしいと思わせる様相だ。

 

そんなとき、彼等が追っていた黒い何かを目視する。

その者は小柄で、球体に足が生えた二等身と呼ばれる存在だ。

其れはキリト達を見て、短い手で手招きする。

その存在は走り出し、鏡の中へ入り込む。

 

キリトとシリカは長い階段を一気に飛び越えて、鏡の前までくる。

 

鏡の中には世界があるようで、中の住人が動いている。

更に波打つように波紋が広がっている。

指で鏡に触れると、更に波紋が広がる。

 

「キリトさん。一度アスナさん達に連絡を……?」

「ああ、そうだ……な……?」

 

 二人がお互いに向き合って話している時、何者かに押された。

二人は突然の事に身体を動かせず、そのまま鏡の世界へ投げ込まれた。

 

とぷん。

 

 鏡が彼等を呑みこんだ。

呑んだと確認したのか、押し込んだその者は己の得物で鏡を8に切り分ける。

切り分けた鏡の欠片は、どこかへ飛んでいった。

 

「見つけたぞ、私の陰」

 

 瓜二つだが、色があるその者。

しかし色がないものは、その色あるものから逃げる。

そして鏡があった台座の隣に、光線を放つ。

その光線は台座に光を灯らせ、その場所に乗った者を転移させた。

 

「待て!」

 

 色ある彼の者も同様に、その人物を追いかけて行った。

 

 

 

「ぐ……今度は一体何なんだ……?」

「あぅ……」

 

 二人は目を覚まし、周囲を確認した。

 

此処は先ほどと同じように、中央階段を上った先に大きな鏡があったと思われる台座がある。

そして周辺に小規模な台座が複数ある。

 

 しかし二人はそれだけで同じ世界だと思わなかった。

理由の一つはこの場所だ。

非常に禍々しく、先ほどの光と虹に囲まれた幻想的な空間が恋しくなるほどだ。

この場所から逃げたいと思うが、転移結晶を封じられている。

 

 キリトは立ち上がり、地べたに座っているシリカの手を握って立ち上がらせる。

そして周囲を見て、台座の一部を見る。

そこだけ何故か光っていて、紫電を周囲に散らしている。

どう見ても罠だが、進まないといけない。

現在、結晶もメールもできない状態だ。

進まなければ前に進めない。

 

二人と一匹は、その台座に乗り世界の旅へ出た。

 

 

 

 

 一方その頃アスナとアーロイは、皆をとある大樹の所に集合させた。

何でも一日経過して、シリカとキリトからの言葉も存在もないのだ。

アスナは駆け落ちしたんじゃ?と訝しむが、アーロイは呆れたようにその可能性を無しにする。

 

「アスナ……年上としての余裕を持つんだ」

「うぇ!?」

「とにかく、皆を招集しよう。このフォーカスが示すこの足跡と向かう先は、

どう考えても非常にまずい冒険の始まりの匂いしかしない」

 

 アーロイは冒険心をくすぐるのか、非常に良い笑顔でアスナに言う。

アスナはその顔で冷静になったのか、メールを駆使して皆に救援を請うた。

集まる二つのギルド員。

 

「えー、シリカとキリト君が行方不明です。

 二人はこの木の洞に入ったと思われます。

 しかし彼らが連絡も何もないという事は、それができない状況にあります。

 私からも今まで知り合ったギルドの方々に、応援を送ってもらうメールを送信してあります。

 

 ですので、潜りましょう。私のキリト君を取り戻すために」

「結局私欲か」

 

アーロイが溜息をつくが、うら若き恋する乙女だと知っているのでしょうがないとも思う。

 

「よし、新たな冒険の臭いがするぜ!」

「ピッピカチュウ!」

「素材は俺のもんだ!」

「新たなかわいこちゃんゲットの旅だぜ!」

「新たな熱い奴と出会うチャンスだずぇ!」

 

「あんたら、暑苦しいったらないっての」

 

 いわずもがな、よくわかる連中にリズが突っ込む。

しかしこの先には、マスターメイサー目前の鍛冶師も垂涎[スイエン]なインゴットもある。

つまりエギルのいう事は、商売人としても鍛冶師として恰好の餌だという事を示している。

何せ、ここは裏ボスの為の裏ダンジョンだ。

しかも広大な感じと見る。

 

「よし、黒の英傑連盟団副団長アスナが命じます。

 キリト君を救いに行くわよ!ついでに、今後取れないかもしれないアイテムもとっちゃえ!」

「「「おおおおお!!!」」」

「よっしゃ、風林火山もいくぞ!」

「「「オオオオオ!!!」」」

 

 そのまま木の洞に突撃する皆。

そのまま錐もみで落ちていく。

となりのトトロのめいちゃんや探検隊のピカチュウたちもびっくりなその洞の構造に目を回す。

 

皆気づくと、虹と光の世界に居た。

既に起きて探索している無双組の中の軍師二人は、台座に目を付けていた。

 

「ここの台座だけ光っているんですよね」

「はい。先程曹仁殿を先行させたところ、この奥には広大な土地が広がっているとのことです」

「つまり、キリト君はこの台座を伝ってどこかへ行ったわけね」

「早速乗り込むずぇ!」

「新たなアイテム頂きぃ!」

 

 アスナの指示を待たずして、エギルと孫策が突撃していった。

護衛の為に曹仁と風林火山が続く。

周泰だけはこの場所で、キリトを待つと言って聞かない。

 

「其れじゃ皆、手分けしていきましょ」

「じゃ、行きますか。行くわよ、月英」

「え、孔明様と……」

「趙雲と一緒に行くわよ。ったく、熱くてこっちが妬けるわ」

 

 月英と諸葛亮の夫婦仲は非常に良好なので、彼等を組として趙雲と共に行く。

アーロイはアスナと共に行く。

サトシはポケモンを二体出して、合計三体で周辺探索を行う事とする。

 

「コウガ!」

「ピッカ!」

「グルォォオオオ!」

 

 ゲッコウガ・ピカチュウ・リザードンの組み合わせで、水中・空中・地上を探索していく。

 

 

 

 さて、アスナ達がキリトを探索している最中、キリトとシリカは城壁をさまよっていた。

先ほどまで禍々しい雰囲気の場所で、現実感が欠如して居ながらもそこに自身がいるという不思議な感覚に陥っていた。

正に夢のような感覚。

 

台座や鏡に乗ったり入ったり。

これを繰り返していくことで、徐々に景色に現実感が現れ始めた。

そしてその現実感が出始めたところが、城壁の上だったのである。

 

 城壁の上は強い風が吹いており、細い通路が張り巡らされている。

敵は居ない。

なのに何者かに見られているような錯覚を起こす。

 

シリカも感じ取っているようで、彼女はキリトの方を向く。

身長はキリトの方が高いので、彼を見上げるようになる。

キリトは彼女の視線を感じて、彼女の方へ向くが人差し指を口の前に出す。

それは沈黙の意味。

 

無音に次ぐ無音。

風を切る音が周囲に響くだけ。

風景は夕暮れのようで、そこから一向に夜にならない。

 

二人は周囲を警戒していないように見せかけながらも、厳重警戒している。

幸いピナもいる。

何かに気づけは、真っ先に反応するだろう。

 

 その時だった。

いきなりピナが『龍の波導』を放ったのだ。

放った先は、城の上の方。

本城の城壁が崩れ落ちていく。

しかしその見ている者を撃墜することは叶わなかった。

 

 しばらく歩いていくと、丘の上に出る。

丘の上は荒野になっていて、植物が少ししか生えていない。

彼等は歩く。

 

そして、遂にその時が来た。

 

彼等を付けていたその者は、一気にシリカの背中に向かっていった。

 

「!」

「え……?」

 

 キリトは刹那の殺気を感じとり、シリカを押し飛ばす。

しかしその勢いが強すぎて、シリカがいたその空間にキリトの身が置かれることになる。

シリカを獲物として定めていた存在は、キリトを切りつけてしまう。

 

「ぐっ……!」

「キリトさん!」

 

 シリカは突き飛ばされながらも、空中で態勢を整え着地する。

しかしキリトがその者に切られ、涙目となって彼の名を叫ぶ。

斬られた瞬間、キリトは痛覚が変に遮断され違和感を覚えながらも、襲い掛かってきた存在へ刃を振るう。

だがその者は容易にガードし、もう一度キリトを斬る。

 

「っ!」

 

 その瞬間、キリトはその場に膝をついてしまう。

 

「な……にを……した」

「イタダイタ」

 

 その者はキリトの横を通り過ぎる。

シリカの方を狙っているわけではないと目線を向けてわかる。

しかしシリカは口を手で覆って、何かの衝撃で動けていない。

あの創造神達を従える彼女とは思えないその衝撃の強さ。

 

 キリトは何が起こっているのかわからないので、後ろを振り向く。

額に汗を掻くほどの違和感を身に刻まれている最中、その目で見たもの。

 

それは、もう一人の真っ黒なキリトがそこに居て、その者が彼の背中を割きナニカがその中に入った。

 

あまりの衝撃に、二人は動きだせない。

 

 

もう一人のキリトは、びくんと肉体を振るわせると気持ち悪い立ち上がり方をする。

 

「一頭身デハナイ。良イ体ダ。我ガ世界ヲ再度統一スル時ハ近イ」

 

もう一人の真っ黒なキリトは、目を見開き赤い瞳を見せる。

彼は片言でそういい、どこかへ飛び去る。

そんな光景に驚愕しているとき、その者が着ていた其れが動き出した。

 

 いつの間にか違和感が消え去っている事に気づく。

だが気づくのが遅すぎた。

キリトはその者の突撃を受ける。

 

「くっ!このっ!」

 

 胸に刺さる筈の剣を脇に受け、その者の力と拮抗する。

その間にシリカのピナが動き出して、その者を神速で弾き飛ばした。

その者はマントと思っていたものを羽として広げる。

広げたら羽ばたいて、安定した着地を行いキリト達を睨み付ける。

 

 しばらくの間にらみ合いが続く。

そんな時、聲が聞こえた。

 

「そいつを倒してくれ!」

 

その一言は、目の前の真っ黒なその者を動揺させるのに十分だった。

更に攻撃も可能な程、十分な動揺の仕方だ。

おかげで、キリトは一撃でその者を葬ることができた。

 

「っし、汚名返上!」

「キリトさん、かっこいいです!」

 

 ブレードを振るって、血を振るい落とすような行動をとる。

真っ黒なそのものはポリゴンとなって、その場から消える。

しかしポリゴンは全く消えず、そのまま風に逆らって彼の者の所へ行く。

其処には真っ白で、あの真っ黒な者と瓜二つ。

 

そして真っ白だった彼は、徐々に己の本来の色を取り戻していった。

 

 

 

 さて、キリトとシリカ・ピナは、彼――メタナイト――とその場で駄弁る。

 

 

「つまり?」

「私も驚いた。いきなり後ろから斬られるとはな」

「いや、そこじゃなくてですね」

「まあ、道すがら説明しよう」

 

 

 仮面を被りその奥から黄色い瞳を覗かせる群青色の騎士。

実に一頭身で可愛げがあるが、言葉から渋みが増すばかりだ。

 

 メタナイトはこの世界に降りてきて一週間だそうだ。

そこで何者かに狙われ、気が付いた時には真っ白。

そして探し出したのが、真っ黒な自分。

 

「俺もなんか、抜けた感じがするんだけど、やばい?」

「ああ、最高にまずい。君たちはテーマフラグ英雄という言葉を知っているか?」

「知っているも何も、俺達はそのためにここに来たようなもんさ。

 いや、でも……」

「追ってきた方とはちがいますよね」

「ああ」

 

 シリカとキリトが追ってきたのは、もっと不定形だった。

その事を話したが、見当がつかないとのこと。

さて話を再開しよう。

 

 

 メタナイトの話だと、此処は数多の英雄がいて更に数多の敵が居る場所だというものだ。

しかもフラグは立っているとのこと。

だがそのフラグは全く感じられない。

 

「俺達は仲間と共にここに来ただけで、誰にも会っていないんだけどな」

「キリトにシリカ。君たちは何か勘違いしてないか?」

「「へ?」」

 

 

 

 

「いつ、テーマフラグ解放が自分たちの仲間となるであろう、善良なキャラだと思っている?」

「「!?」」

 

 この情報は48層で初めて聞いた事だった。

つまりこれは、ダークヒーローだったり英雄ではない敵だったりするものが勝手に思う事で、ランダムに発生していることになる。

 

 

 

「そして、解放に必要なキャラはたった一人という限定され、かつ確率の低い方法に確 定されていると断言できるんだ?」

 

 ぐうの音もでない。

今までの47層は、たった一人のテーマフラグ英雄を従えたプレイヤーによって、表裏共にクリアしてきた。

無論全てではないが。

 

 この発言はメタナイトによるテーマフラグ解放の影響で、

知識等がアップロードされた結果だろう。

故にこの発言は信用できる。

だからこそ、この後の発言は度肝を抜いた。

 

「今回のテーマフラグ解放は、ダークマター族が世界侵略を目論んだ事で生まれた。

 その中で私の陰を使ったそいつらは、誰にも計画を邪魔されないがため鏡を均等に  割った。

 この後回収しやすいようにな。

 

 ダークマター族は、他者の感情を利用したり他人の肉体に憑依することで、自分の脆 弱さを補っている。

 だから今回は、非常に辛い戦いになるだろう。

 例のナイトメアも復活したのだ、魔獣という名のレプリカと本物が戦闘する日も遠く はないだろう」

 

 レプリカとは他者の影を抜き、その影を元に戦闘能力等をコピーしたものをダークマターに転写させ、自我を確立させながら本物を確実に殺すという殺戮マシーンの事だ。

 

 

「あの、それで……キリトさんが真っ白になってしまいましたが、

 何か問題はありますか?」

「抜けたのは影でありレプリカに使われるという意味でまずいが、

 これも非常にまずい。

 簡単に言うと、この世界。木の洞から出ると、勝手に死ぬ」

「はあ!?」

「お、落ち着け若者よ」

「此れが落ち着けられるか!」

「大丈夫だ、おちつくんだ。基本的に洞から出られるのは、ダークマター族が全ての光 の世界の守護者を撃破したときだ。

 それか彼等を全部ぶっつぶしたときだ」

「なるほどね……」

 

 暴れて疲れたのか、肩を上下させているキリト。

シリカやピナも、彼を心配するが今は行動を起こすしかない。

 

「そういえば、光の世界の守護者ってなんですか?」

「ああ、それは……」

 

 

 

 

 この裏ダンジョンは、広大な大迷宮になっている。

多くのテーマフラグ解放英雄が跋扈しながら、敵もテーマフラグ解放の役を担っている。

この事が原因で、敵味方の判断を付ける為光と闇の世界を別々にしたのだ。

もしも光の世界側が、テーマフラグ解放のフラグを踏むと簡単になるが逆は修羅と化す。

 

 

 だがどちらがテーマフラグを踏もうが、鏡の欠片を集めなければ光と影のお互いのボスの所へ行けない。

実際どっちもボコればクリアになる。

 

「つまり、フルボッコにしろと?」

「そういうことだ。また、光の守護者を倒せば、光の鏡の欠片を入手できる。

 そして影の守護者を倒せば、影の鏡の欠片の回収……そして、残ったボスへの道が開け る」

 

 ご親切にも、迷い込まないようになっているとのことだ。

更に困難はまだあるようだが、大迷宮をクリアしていけばどうにでもなるとのこと。

 

 

「そうなんですか、ありがとうございます」

「ああ」

「で、この先が最初のボス部屋か?」

「そうだ。ダークマター族は鏡の奥だから、安心して狩れるだろう?」

 

 

 キリトとシリカはメタナイトと共に、城壁の上を通って元の陰の世界へ戻った。

そこから歩いていける最初の扉に来る。

その扉の前で会話を終わらせる。

 

「そんじゃ、行こうか」

「はい、キリトさん」

「私も行こう」

 

 

 三人がこの空間に入った瞬間、足場が動き出す。

足場は浮き上がり、徐々に室内と思われるこの場所に光が差し込む。

 

すると彼等が立っている場所は、円形の足場であった。

球体ではない。

そして出てくるのは、赤・青・緑の物体。

 

 物体を見ると普通に名前が出てくる。

 

幾何学的ボスは、『ピクス』という。

倒し方は同じ色の弾丸を中てる事。

しかしどうやって中てるかわからない。

 

そこでメタナイトがやることと同じことをする。

 

その方法は……。

 

 

 まず対象を斬る。

すると星型の物体になるので、こいつを剣でもいいので斬る。

そしたらこの物体が放射状に飛んでいく。

斬ると星型弾頭になるので、これを利用すればいい。

 

 これを何回も繰り返すとピクスを撃破することができた。

そして出てきた影の鏡の欠片が出現したと思ったら消えた。

これでクリアである。

 

「というわけだ」

「ありがとうございます、メタナイトさん」

「役に立てたようだな」

 

「はい。皆さんの役に立てました」

 

「は?」

 

 シリカの意味深な雰囲気に気圧されるキリト。

するとやぶれた世界に通じる穴が、シリカのイヤリング付近にできたいた。

つまり……。

 

 

「なるほど、そういうわけなんだな」

「ギラティナがサトシのいう事を聞く良い子で良かったわ」

 

 穴の奥から聞こえてくるのは、サトシとアスナの聲。

どのような経緯で知ることができたのか。

別にどう云う訳でもない。

 

何せアスナは別行動をしようとしていたサトシを引っ張って、

そのまま広大なダンジョンを旅していただけなのだから。

 

 その途中にサトシの目の前にダム穴ができて、そこからギラティナが顔を出した。

そしてサトシのポケモン語読解力を通じて、アスナがこのやぶれた世界を通じて

シリカ達の方にダム穴を出現させ話を聴いていたというわけだ。

ダム穴出現座標は、シリカのイヤリング付近だ。

 

後はシリカに小声で情報を伝えて、相互通信にした。

 

 それと英雄達の働きにより、同じ鏡の領域内だとメールが可能になったことを知る。

キリトはシリカを抱き寄せ、聲がよく聞こえる様にする。

シリカは顔を真っ赤にしているが、キリトは気にせずそのまま会話をする。

 

「アスナ、今俺達は影の鏡の方に居る。

 こっちの方に来るには、光の鏡の世界を探検しその際たまにあるダンジョンスイッチ をおさないと、最終的にこっちに来るどころか元の世界に戻れないんだそうだ」

「ええ、わかったわ。

 それと数分前に、多く攻略組の皆が、このダンジョンクリアの為に総力をあげてきて くれたわ」

「そっか。理由はどうであれ、さっさとここから出たいよ」

「その前に裏ボスよ」

「解ってる」

 

 めのまえでいちゃついている二名に、シリカは若干嫉妬する。

まあ妬けるのはわかる。

だが今はキリトの存在が比較的危うい。

故にこの世界の探索を優先することが目先の理由となるだろう。

 

 影の鏡の世界は、残り7枚の欠片。

 

2枚目はシリカのポケモン、鳳凰を借りてカブーラーの撃破。

3枚目はランディアを撃破してから、その者に乗ってローアの撃破。

4枚目はメタナイトの劣化レプリカ作成工場で、全てのメタナイトを撃破。

5枚目はミラクルマター。

形態変化に苦戦させられたが、ポケモンによるタイプ一致で速攻撃破。

 

6枚目は毛糸の世界で、絶対に死なない中でアミーボと戦闘し撃破。

7枚目は力の根源を集めて、ネクロディアスを負の世界から解き放った。

 

 光の鏡の世界は、残り8枚の欠片。

 

2枚目はウィスピーウッズ。アスナ・サトシらにより撃破。

3枚目はワムバムロック。

地下迷宮攻略で、アーロイやリズ・エギル・三國武将が全てを回収。

 

4枚目はDDD。途中までアスナとアーロイの機械獣。

王位の復権の時にアスナが参戦し、見事勝利。

 

5枚目はダイナブレイド。クラインら風林火山のチームワークで撃破。

6枚目はメガタイタン。孫策を含めた風林火山の三國武将が接近戦で挑み勝利。

7枚目はドロッチェ団。そしてドロッチェ団改。

血盟騎士団と蒼龍同盟が、意気投合して完全攻略。

 

8枚目はボスラッシュの塔。聖龍連合と軍が、数にものをいわせ一気に撃破した。

 

 

 これらのボス討伐事情の途中、キリトとシリカ・メタナイトはもう一人の英雄と出会った。

その名はカービィ。

カービィはとあるプレイヤーをかくまっているようで、彼らに警戒心を抱いている。

 

「俺はキリト。陰を奪われているんだ、何もしないよ」

「私はシリカです。陰の世界から出るために、カケラを集めてるんです。

 できれば力を貸してくれませんか?」

「カービィ。私はメタナイトだ。世界線が違うかもしれないが、協力してくれ……頼む」

 

 

「ボクはカービィ。この子を……サチを救えるのならいいよ」

 

 話を聞くところによると、キリトとよく似た黒い者が彼女のパーティを襲ってそのまま連れ去ったというのだ。

そこで今までカケラを手に入れるのと同時に、プレイヤーや英雄の解放をボス撃破に行ってきた方々に話を伺う。

その者はアスナを筆頭とした光の世界を攻略しているプレイヤーだ。

 

「確かに。軍のキバオウさんから、ボスラッシュの最後の方に複数のプレイヤーがとら われていたのを解放し、今身柄を預かるのと共に事情聴取をしているとのことよ」

 

 やぶれた世界経由で報告される。

報告によると、既に確保されていて安心と云える状態だ。

安心は安心だが、光の世界側にプレイヤーが沢山いる事に驚いたカービィ。

そこで彼は、聞いたのだ。

 

「影側が暴走してるけど、対処法……ちゃんと見出してる?」

「え?そんなのあるのか?」

 

 キリトはびっくり、メタナイトもびっくり。

このダンジョンにいる英雄は、アップロードされる情報がバラバラな事が判明した。

そこで話を聞いてみると、光と影は表裏一体であるということ。

全ての欠片を手に入れたら、光と影の境界の世界へ行ける。

そこから全ての決着の地へ行けるという事を知る。

 

 しかしその決着の場にいる者は、ゲームでいうラスボス。

対抗手段がなければ、全滅は必至。

だから光の世界で、ちゃんと集めておかなければクリア以前にラスボスと戦う事すらままならないという。

 

というわけで、カービィ主導の武器集めが開始された。

 

 

 影と光の世界が直接つながるのは、カケラが必要だがダンジョン内から移動することは可能。

よってカービィに連れてこられるのは、Mr.シャイン・Mr.ブライトのボス部屋。

此処で彼等を撃破して素材を手に入れ、機械の星メックアイのオーバーテクノロジーの恩恵を受ける。

これによって、スターシップの完成。

 

 次にキリトの足を確保するために、ナイトメア大要塞にカスタマーサービスから乗り込む。

村の住人やフーム・ブンに、説明責任を果たせと言及される。

それをキリト達はすぐに抜けて、メタナイトに押し付けた。

デデデ大王やエスカルゴンが居ない今がチャンスといわんばかりである。

 

乗り込んだらそこから、伝説の装備がそろっている研究所へいく。

 

 研究所を強襲して、研究されていたドラグーンを入手。

また、他の伝説の武器やボスそれぞれの特徴を入手する。

再度カスタマーサービスから、DDD城に転送される。

 

この世界は少々おかしくなっているので、これくらいの事をしても大丈夫。

それとサチはランディアに亜空間から守られているので、比較的安全だろう。

 

「最後に、もう一人のボクに逢いに行こう」

 

 その言葉は非常に強烈的であった。

向かった先は夢の泉。

此処は影側で、私欲に塗れた醜い想いがあふれ出ている。

こんな所に身を隠しているのは、影であるカービィだ。

 

カービィと瓜二つ。

しかしこっちのカービィは真っ白じゃない。寧ろ、綺麗なピンクだ。

 

「もう一人のボク。本当の救世主が来たんだ。

 そのマスターソードを、彼に渡してくれないか」

 

 カービィは、今までにない表情で彼を見る。

黒というより影であるカービィは頭を横に振る。

そして彼は、マスターソードを出して身構える。

 

 刹那。

 

「何……してるんです……?」

 

 カービィの剣はキリトの胸先三寸で止まっていた。

それはシリカがダガーで横槍を入れたから、そこで止まって居るといえた。

シリカはダガーを握る腕を振るわせている。

つまりもう一人のカービィの筋力は、とても高い事になる。

 

「「……」」

 

 シリカはもう一人のカービィを睨み付ける。

そして短剣スキルを発動させようとすると、もう一人のカービィは飛び退く。

もう一人のカービィ[影カービィ]は、刀身が黄金色に輝いているマスターソードを構える。

 

「シリカ。もう大丈夫だ、俺が行く」

「駄目です。先程はグラードンとユニゾンしての防御でした」

「……それでも、俺はこいつに認められないといけない」

 

 マスターソードの詳細はナイトメア大要塞で、ダークマインド等ダークマター族にクリティカルダメージを与えられる事を

映像投影機で得た。

基本的に伝説の装備は、試練や何かの制約を紐解かないと入手できないという。

だからこれは、純粋な試練だとキリトは思う。

 

「キリト。これから先は、ボクでも介入は難しいよ」

「その言葉を聞いて安心した。形勢逆転のチャンスじゃないか」

「キリトさん!」

「大丈夫。本当に大丈夫だから、待っててくれないかシリカ」

 

 キリトはシリカの頭を撫でて、直ぐに影のカービィの前に出る。

そしてキリトが剣を抜こうとした瞬間、影カービィの突きが来る。

これを間一髪で回避する。

 

そこからは力と力のぶつかり合いだ。

 

 

 キリトは基本的に、STRに力を注いでいる。

だから攻撃力や防御力、パリィ能力はダントツだ。

更に機械獣やポケモンと多くの戦闘をし、場数を踏んでいるので経験で己の隙を埋める。

矢だったり光線だったりミサイルだったり、ここらの捌きや気配は目をつぶってでもできるようになった。

 

 数多の不確定要素の中を生き抜いてきた、その自信と度胸が彼を形作っている。

だがそれでも、足りないものが有ったりする。

完璧超人でも、僅かにたどり着かない領域がある。

 

それは不可視の攻撃範囲を計算しての戦闘だ。

 

 かなり前に圏内でちょっとした事件があった。

その時プレイヤーの対処をしていたのがキリトで、目の前の事全てを受け止めて攻防を行った。

しかしプレイヤーからダークヒーローを相手どる事になった瞬間、一気に押され始めてしまった。

そのままその事件はPKギルドによって、強制終了と共に仲間英雄二人のフィギュア化と3人の死去によって幕が閉じた。

 

彼が押されたのは、ダークヒーローが不可視の剣撃を普通の様に行ってきたからだ。

 

プレイヤーの攻撃範囲は、武器そのもののあたり判定で決まっている。

普通に現実の通りの再現だ。

だが英雄にそんな制約はない。

 

 今回のダークヒーローは、佐々木小次郎だ。

彼の攻撃範囲は全くの不可解。更に攻撃を行っていないのに、ダメージを受けて吹っ飛んだ。

これによって現実感覚の乖離が起きてしまったのだが、そこは後に治す。

この時は全く正体が分からなかった。

 

 だがこれらの事を攻略組と呼ばれる者達に、メールを送ってみる事で詳細が分かった。

 

三國無双や戦国無双等、無双系ゲーム出身キャラは『真空書』というもので攻撃範囲を1.5~2倍に上昇させている。

またアイテムを装備することで、強力なバフや能力上昇が行われる。

 

装備の事は、リズやエギルによって知ることができたがプレイヤーが装備しても効果がないことが分かった。

 

 

 そんな状態の中、更にキリトを鍛えさせ不可視攻撃の把握をある程度可能とし、それらを使う者との戦闘を

普通の苦手へと昇華させた人物がいる。

その者は諸葛亮孔明という。

 

知っている人は知っている有名な後漢の軍師。

 

彼はキリトの要請を受けて、特訓をした。

その特訓方法は、エスパータイプのポケモン・玉等の特殊攻撃を付与し不可視攻撃ができる荀彧らを使ったリンチだ。

炎を纏った突撃、目にも留まらぬ剣撃や拳、杖による点結びの魔法攻撃、分身と本体による連続攻撃……。

彼等による猛特訓は、この戦闘で十分に生かされていた。

 

 

 

「あれは鳳凰剣。マスターソードに常時纏う気を鳳凰の形に練り上げ、途方もない破壊 力を持つ突進技だペポ」

「そ、そんな恐ろしい技がって、なんですか?その……語尾」

「真面目モードが続くと、集中力が続か無くなるペポ」

「そうなんですか……」

 

 賢者モードなカービィは、徐々に軽い雰囲気を纏ってくる。

更に今まで昏睡状態だったサチが、口を挟む。

 

「最初カー君はすっごい軽かったよ?」

「へ?」

「それは言っちゃいけないお約束だペポ」

 

 三人が談笑をしている中、剣の殺し合いをしている影カービィとキリトがいる。

 

 

ガインッ

 

「くそっ!(前ばかりじゃ防がれるな……だったら……)」

「……」

 

 キリトは走り出す。突進系スキルを使用し、上から剣を振るう。

影カービィはその剣を受け止める。

キリトは振るった反動を使い、そのまま空中に躍り出て前宙と共に攻撃を行いながら後方へ移動。

そのまま連続攻撃を行う。

 

 しかしそこにカービィはいなかった。

スキルによる反動が来る中、死角である右下方にその者はいた。

彼の者は回転切りを行う。

 

キリトはその存在に気づき、後方へ大きく下がるが脚に掠りダメージ。

 

また後方へ移動するその隙に、彼の者はマスターソードに纏う闘気を練り上げそれを放つ。

 

 

「ぽぺっ!あれは”こうじん[光刃]”ってわざペポ!」

「カービィさん……尊敬してましたが、カー君って呼びますね」

 

 シリカの笑顔は、シリアスブレイクを行ったカービィにとってつらい物であった。

何せ昔の自分の格好いい頃は戻ってこないのだ。

ヒロイン的美麗さを誇るシリカに、主人公のように慕われるイケメンカービィ。

その構図はこの時を以って瓦解する。

 

サチはこの空気を和やかに過ごす。

 

「ああん!せっかくボクのイケメンっぷりがあ!?」

「残念なイケメンですね」

「カー君は可愛さだけあれば十分だよ?」

「可愛さだけで主人公は勤められないんだよー!」

 

 

 『光刃』と云われるソードビームは、圧倒的な覇気を持ってキリトに向かう。

彼は頭を下げる事でその横長いエフェクトてんこ盛りなビームを避ける。

ビームはそのまま後方の大地に激突。

枯れた夢の泉に水はないが、そこらにある砂利が爆散し周囲に散乱する。

 

散乱した砂利は砕け散る。衝突地点にあるのは溶岩池。

どれだけ多くのエネルギーを保有しているか、容易に推し量れるものだ。

 

「……クッ」

 

 腕に違和感が出る。

激しいエフェクトから目を守るため、頭周辺を守る様に動かした腕。

そこにわずかな残痕。HPが少し減る。

 

まだ、戦闘は始まったばかりだ。

 

 

―――

 

 

 キリト達が伝説の武器巡りの旅にでている最中、アスナ・サトシとアーロイはとあるボスを倒していた。

そのボスというのは、この丘の上の城の主”DDD”。

 

ペンギンに赤の帽子やガウンを着せたような姿だ。

黄色い手足は素肌でなく、手袋・靴下と推測できる。

 

 彼と戦うという事は、既に機械獣が行っていた。

この機械獣はアーロイが鍛えた精鋭だ。

彼等精鋭はDDDを三回程倒した。

 

何度も立ち上がってくるDDD。

そして無機質で命令を忠実に実行する心なき僕は、心折れることなく討伐する。

9回目ともなると、マスクをかぶってきて木槌も鋼鉄製のものとなる。

 

遂に精鋭にダメージを与え始めたとき、ウォッチャーが危険性を感知してアーロイらに救援を求めた。

これによって、『マッハドラゴン』という『OMEGA』の中にあった設計図を元に作った機龍にのってきた。

サトシだけはリザードン。

 

 機龍はレーダージャミングという機能があるが、正直役立ってない。

そんな中、サトシのポケモンたちはマスクをしたDDDを倒すことに成功。

もう終わりかと思うと、更に覇気を出してきて槌から斧[ハルバード]に装備転換。

超強いDDDが誕生した。

 

流石にまずいと思ったのか、ロロロとラララを撃破したアスナとアーロイが急いで救援に入る。

 

 

 トリプルショットや罠・スタングレネードを使い、DDDを追いつめるがむしろ強くなっていく。

最後はアスナのサイレントキルで、DDDの喉元を刺した。

血はでないが、中々きつい戦闘だった。

 

そしてDDDは倒れたのと同時に、マスクが割れた。

割れたDDDが目を開けてからの第一声。

 

「ここはどこゾイ?」

「は?」

「まあまてアスナ。正気を取り戻したのだろう、穏便にいこう。な?」

「分かったわよ」

 

 

 目の前のペンギンと同じ土俵に立つアスナ。

 

「此処は光の鏡の世界よ。

 今私達は貴方と戦ったばかりなの」

「何!?わしと戦っただと?そんな記憶なんぞないゾイ」

「そう。ところで、帰る場所がないなら私達と来ない?」

 

 アスナは目の前のDDDに手を差し出す。

 

「ふむ……よし、力の足りぬお主らの為、わし自らの力を貸してやるゾイ!

 ところでエスカルゴンは見なかったかゾイ?」

「いえ、今は貴方だけよDDD」

「そうか……よぉし、では行くゾイ!」

「ちょ、戻るの!?」

「わしの勘はよく当たるゾイ!」

「訳わからないわよ!」

 

 DDDはプププランドの王様をしている。

そこで愚民から間接税・法人税・消費税等を三重掛けにして、税金を搾り取って栄華を極めているという。

UFO襲来・酸性雨・宇宙ゴミ廃棄等の危機的状況を、カービィやその他と共に切り抜けてきた。

また文字の多くは読めないが、博識で無駄に技術力や知識欲が高く多い。

 

DDDは槌を持って、来るように腕を振る。

 

 

「DDDか、面白いペンギンだ」

「エンペルトか?」

「態度はポッチャマに近いわよ」

 

 シリカとサトシにポケモン知識を仕込まれたアスナは、直ぐにサトシの思いへツッコミを入れる。

彼等はDDDの後についていき、その目的となる場所に近づく。

その場所は近くとも遠い、しかしとても懐かしい場所だった。

 

 

 

「帰って来たゾイ、我が愛しのプププランド!」

 

 DDDが先行している中、後ろから駆け寄るアスナ達。

しかしDDDが走っているその先に立ちふさがる者がいた。

 

「なぁーにが愛しのプププランド、よ」

「そーだそーだ、半年も国を空けやがって。

 あんたそれでも王様か!」

「デハハハハ!久しいな、フームにブン!

 わしの国はわしの物!故に、何年空けて居ようとわしはこの国の王だゾイ!」

「威勢がいいのはいいわよ。ところで、後ろの人たちは?」

 

 黄色い頭髪をした少女は、その明快な頭脳でもってして後ろの人物の事を知らぬように指差す。

丁度DDDの所に到達するアスナ達。

到達したことで、DDDはフームに応える。

 

「わしの下僕ゾイ!」

「うそも方便ね。馬鹿らしいわ。DDDに配下がつくなんて、カスタマーサービスが何か仕 掛けたんでしょ」

「デェハハハハ!面白い事をいうゾイ。フーム、こいつ等はわしが発掘した優良物件ゾ イ!イエスマンで、何事も文句を言わず好きに仕事をしてくれる残業代いらずの社畜 ゾイ!」

「労働管理局が黙っちゃいないわ!すぐに起訴してやる」

「やってみるがいいゾイ、監視しているときは良い子の振りをしていれば、簡単に疑い の眼は晴れるゾイ」

 

 知的なのかそうでないのかよくわからない会話が続く。

そこにアスナが首を突っ込む。

 

「えーと、フームさん。私たちは、ある人を探す為の旅をしているんです」

「ええ、知っているわ」

「え」

 

 なんとフームが、アスナ達の事を知っているではないか。

偶然の遭遇だ。ちゃんと意識が覚醒していて、自分を確立している存在は珍しい。

 

「貴方達、アスナ・アーロイ・サトシっていうんでしょ?

 キリト・シリカ・メタナイト卿から話は伺っているわ」

 

 DDDを除外して話がトントン拍子に進んでいく。

話していくと、話がだんだん見えてくる。

そしてこの世界のもう一人の英雄が、カービィというピンクボールだという事が分かる。

 

 一年前程からカービィが失踪し、同時刻にメタナイト卿が行方を暗ませた。

次に半年前にDDDが失踪し、3か月前にエスカルゴンが失踪した。

別にDDDらが失踪するのはいい。

何せカスタマーサービスというナイトメアが生んだ、魔獣というその高価な生物を売りつける敵はこの世にもう存在しないのだから。

 

 しかし問題はカービィとメタナイト卿だ。

エスカルゴンが失踪し始めた頃合いから、プププランドの地上に鏡や台座のようなものが出現し始めた。

それらからは、異界の住人である敵が沢山出現したのだ。

 今では鎮静化していて、そんなにこのプププランドに入ってくる事はなくなった。

だが最初期は住人を巻き込む酷い戦争状態となってしまった。

 

 このプププランドに残る最後の希望となった、シリカ・ソード・ブレイド・ナックルジョー・他星の戦士。

彼等と彼らが使いこなすデストロイヤー三機の御蔭で、今現在のプププランドが存在していると言っても

過言ではない。

 

 

 さて、フーム達はこの事に関して、静観に徹して解決を待っているだけの愚か者ではなかった。

カービィが消えて、DDDやメタナイト卿が失踪したことでこのプププランド一の技工士を集め、とある物を開発した。

 それは皮下チップやDNA探索機。

他にも人工衛星があるが、これは打ち上げられずに終わっている。

 

 皮下チップは、住人全てに埋め込まれで巨大なPCにその情報を入れている。

これは住人を管理する手段に過ぎない。

目的は偽者の流入を防ぐための一つの防衛機構である。

 

 DNA探索機。

唾液や皮膚からのDNAを使って、その者全ての座標を記してくれる超有能マシン。

エスカルゴンが1ヶ月で作り上げた、スーパーコンピューターだ。

使い方や補修の仕方は、助手で入っていたフームやキュリオが全て覚えている。

その為オーバーヒートであったり、電磁パルスによる故障も予定の範囲内だったりするわけだ。

 

 結局、動き出す為の戦力が整ってきた時には、カービィとDDD・メタナイト卿の位置が激変してきた。

エスカルゴンだけはかわりないようだ。

 

 ちなみにDNAの大元は……カービィは自宅の唾液付枕・DDDは数多の服から・メタナイト卿は彼の和室から・エスカルゴンも同じく自室から入手した。

 

 

「今失踪している中で動いていないのは、エスカルゴンだけよ。

 DDDはここにいるし、メタナイト卿も高速で移動中。

 カービィも大移動してから、とある場所で停滞しているわ。

 

 場所は……穢れた夢の泉ね。

 行き方を教えてあげるわ、皆を助けたら一度戻ってきなさい。いいわね?」

 

「うん、ありがとう、フームさん」

「フームでいいわよ。

 こんなに知的で上品な女性に会えたのは、本当にうれしいからね」

 

 知的な雰囲気を漂わせる彼女は、まさしく才女と呼ぶにふさわしい。

プププランドの住人は、基本的に抜けている所があり警察官ですらもあまりの平和に腑抜けている。

だからこの世界の暢気さに呑まれない、その胆力はこの鏡の世界で大いに貢献していると言える。

 

 また電気すらもない後進的な時代背景っぽいのに、遠目に見える丘の上の城内では

現代に近い技術がそこにあるという先見の明を通り越した何かがある。

 

「さてと……長旅だったでしょう?家で休んでかない?」

 

 この提案はうれしいが、先に進まなければならない。

アスナはキリトの元へ急ぎたいが、ここでサトシが休んでいくことを決定する。

 

「ちょ」

「アスナ、長旅だったんだ。ちょっと休んで行こうぜ」

「う……分かったわよ」

「チャ~」

 

 サトシの肩にのるピカチュウがあくびをする。

そしてサトシと共に、アーロイも休憩に賛成をする。

結局アスナは逃げられないわけだ。

 

 決定したので、彼らはフームが住む城へ案内される。

 

 

 

――――

 

「……」

「ハアッ!」

 

ガインッ!

 

(くそっ、埒が明かない。どうすればいいんだ)

 

 

 影カービィと戦闘し続けているキリト。

疲れは全くないが、状況が全く好転されない事に少々焦っているようだ。

 それと共に、遠巻きに見ているシリカだけがこの事に焦燥感に駆られている。

しかし見える防げるとは言っても、圧倒的力の差に自分がやられるかもしれないという不安により二の足を踏ませる。

それくらいキリトとカービィの攻撃は重かった。

 更に時折来る、ヒースクリフが使うオーバーアシストという人間以上の身体能力を見せるが、それ以上の攻撃速度になってきている。

実際シリカが行っても、足手まといになるだけだった。

ピナはこの泉に入ってくる雑魚敵を、リスキルしている。

 

「ぺぽーっ!そろそろだよ!やっとキリトが、人間の限界を超えるペポ!」

「何言ってるんですか。まだ、人間の範疇でしょ?」

「「へ?」」

 

 一度デルタ化したシリカは、通常の状態に戻っても動体視力だけはその状態に保たれていた。

結局彼女の場合、見えるだけで体が付いていかないという事を察していただけだ。

無論体がついていくのなら、そのままキリトと双璧をなす人物となっただろう。

 

 キリト本人はというと……実際徐々に相手を追いつめていた。

まだまだ自覚するにはほど遠いが、一つの事に集中するというその継続力を高めて行っている。

影カービィは、キリトの集中力を決定的に鍛えてから、マスターソードを渡そうという魂胆なのだろう。

 キリトは不可視攻撃を回避し、徐々に武器破壊に以降する。

ただマスターソードの耐久は皆無で、壊れることはない。

また能力がそのままそれに乗るので、自身の強さがその剣の強さになるのだ。

 

「はあっ!せっ、そこか!」

「……!」

 

 影カービィの陰分身!

しかし本体がすぐに見つかった。

剣が打ち払われたが、その反動を生かして回転切り。

キリトの打ち払いに使った力と影カービィの回転による総合威力が、キリトの剣に負荷をかける。

 

 しかしキリトは徐々に剣を斜めにしながら、自身の身体を横へずらしていく。

これこそ受け流しだ。

真っ向から受けるのではなく、武器のベクトルを変えるだけなので必要な膂力や能力はそれほどなくていい。

 

 

 話が長くなったが、結論はというとメタナイトが割り込んできた。

その時躓いて、ギャラクシアの切っ先が影カービィに突き刺さったのだ。

結局それでカービィは白旗を、何処からか知らないがそれを出した。

 

 で、マスターソードを受け取って、帯剣する。

 

陰カービィは、どこかに行ってしまった。

 

「探したぞ、4人共」

「メタナイトもどこ行ってたんだ?」

「君たちが私に説明責任を押し付け、そのままカービィと共に武器の徴収に向かっただろう?」

「そういえばそうだったな」

 

 キリトは戦闘が終わったのか、表情を強面から崩す。

二人が戦闘後の会話をし終わった時、シリカがキリトに抱き付く。

 

「キリトさん!無事でよかったです!」

「ただいま、シリカ」

 

 キリトは左腕をシリカの腰の後ろへ回し、右手で彼女の頭を撫でる。

心配を掛けさせたので、これくらいの褒美をやらねばならないと悟ったと思われる。

この様子に、メタナイトはため息をつく。

いや、ただ単に本当に戦闘が終わったという意味で、行った行為だ。

 

「メタナイト!ぼく、頑張って実況したんだぺぽ!」

「実況じゃなくて、それは説明だ」

「あばば」

 

 カービィのシリアスな雰囲気が完全に崩壊したことによるギャグ路線な顔面を見て、

キリトやシリカ・メタナイト・サチはひとしきり笑った。

 

 

 

 さて、今度はサチの出番だ。

しかしフレンドにメールを送っても、びくともすんとも言わない返さないので今は無視を決めた。

なんせ、フレンド欄の名前が、灰色になっていないからだ。

灰色になると、その人物は死んだ事になる。

 

「どうするぺぽ?」

「……このダンジョンをクリアしたら、皆解放されるんでしょ?」

「そうだよ!」

「それじゃ、ちゃっちゃと終わらせないと」

「だったら、光と闇の境界に居たらいいよ。あそこは一種のセーフルームだからね!」

 

 セーフルームではなく、元々は洞窟大冒険のセーブルームである。

故に敵はでない。死ぬ可能性があるので、そこで待っていた方が無難である。

 

「よし。それじゃ、カービィはサチをセーフルームに送って行ってやってくれないか」

「まかせて!」

 

 キリトは膝を少し曲げて、そこに手のひらをつき前かがみになりカービィにお願いする。

態勢を戻して今度はシリカやメタナイトを見る。

 

「俺達は皆と合流してから、境界へいこうとしよう」

「解りました」

「うむ、わかった」

 

 キリト達は先に走って向かう。

別に急ぐことはないのだが、此処からフーム達のいるプププランドはかなり遠い。

だから走る。

 

 カービィは、サチを送るために少し準備する。

スターシップの起動をして、その場所に浮かばせる。

 

「こっちに乗って」

「うん、ありがと……」

 

 二人はそれに乗って、天を駆ける。

 

 悠々と空を飛んでいく最中、二人は会話する。

 

「あのキリトがまさか、影カービィを倒すなんてね。

 メタナイトが割り込んできたのは、ちょっとびっくりしちゃった。

 でも、これでアイテムフラグは全部入手済みになったし、後はおわりかな!」

「うん。これで、ケイタ達も戻ってくるね。皆が戻ってきたら、一緒に皆でパーティし よ……?」

「うん、約束だよ、サチ!」

「約束」

 

 そういって、サチはカービィに抱き付く。

装甲は動きにくいという事で外している。

それによって、柔らかい感触が彼を包む。

カービィはそれを甘んじて受ける。

 

しかし、その抱き付きがちょっと強くなる。

 

「?」

「カービィ。やっぱり、怖いよ……。せっかくあえたのに……」

「しょうがないよ、君を襲ったのはゼロだったんだから。

 でも大丈夫!ボクがやっつけたからさ!」

「ありがと、ほんとに……」

「なはは……あぐ……ガッ?!」

 

 いつの間にか、カービィは滅茶苦茶きつく締めつけられていた。

更に黒い靄がカービィを包む。

 

「え、待って……え、わ、うわああああああ!!」

 

 カービィは思い出す。

あの時の悲鳴は、女の子の聲。

なのに一つの傷もない女の子と少し傷ついたゼロ。

 

 そしていきなり立ち去ろうとしたゼロ。

やっつけたとき、血涙を浮かべていたのは……。

 

「お前か……ゼロ!」

「ご明察♪」

「サチの聲で、その身姿でいうな!」

「でも、貴方は終わり」

「っ! ガハッ……憎い……殺す……違う、ボクの心じゃなッ……」

 

 カービィは虚ろな目になり、うなだれる。

歪な笑顔を作り上げ、己の物となったカービィに憑依先を変える。

そしてサチは、リムラに取りつかせ演技するようにさせた。

 

 そう、気絶という演技をな。

 

「ハハハ……ついに手に入れたぞ、無垢な赤子を」

 

 目が赤く染まるが、直ぐに平常心を保ち自己意識と身体を同調させる。

スターシップは、このカービィの操縦を受け入れないというようにはじく。

しかし、その乗り物は一瞬で操作を受け入れてしまう。

 

「ぽよっ!そ、そうだ、サチと一緒にセーフルームにいかないと!

 さ、ダンジョンをクリアしよっと。

 そのためには、ノヴァの内部基盤をこれでぐちゃぐちゃにしないとね♪」

 

 狂気を宿す赤子は、ぼけーっとするサチを後ろに乗せてスターシップを駆る。

勿論盛大なパーティの為の準備をする。

今回が本当の最後だ。

 

今回の為に、己を全て捨てた。

行くぞ。

 

 




 内容は無い様です。
ひまつぶしなので、真摯に読まなくても結構ですよ?

 一応前編です。
ちょっとぐだぐだしましたが、後編からちょっと頭を捻ってみましたので、
そちらの方がお楽しみできるかもしれません。

 とにもかくにも、愉快なことだと御思いになるのでしたら幸いです。
これからも是非いらしてください。


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6:鏡の世界(後編) 

短いですが、8531文字です。


6:鏡の世界(後編) 

 

 さて、風林火山達の様子だが、まあ概ね変化はない。

基本的に強い敵やドロップを求めて、多くのボスを狩りまくっているようだ。

他の黒の英傑連盟団である、鍛冶師とその英雄達は素材集めの為網やツルハシを持って山を削っている。

血盟騎士団連中も同じく、ドロップの為に動く。

 

 だが、黒の英傑連盟団以外のギルド、風林火山・蒼龍同盟・血盟騎士団・軍に、月夜の黒猫団の仲間がいた。

そう、一人ずつ合計4人が、必ず茫然自失状態で見つかっていたのだ。

この救出の事は、既に副団長のアスナは知るところとなる。

 

 情報共有は、このデスゲームで唯一の長所であり短所だ。

情報を精査せず、そのまま躍り出るのは馬鹿の証拠である。

周囲の者らと情報を共有し、無駄な部分等を洗い流し本当の正しい部分を抜き出して情報を透明化させる。

これでちゃんと行動ができる様になるだろう。

 

 それができない愚かな者は、全て死という機会が待っている。

 情報に弱い者は、躍る。

其れを楽しむPKギルドやプレイヤーがいる。

だからこそメールというものは、罠であり不透明であると訝しんだ方が早い。

 

 しかし、ギルドメール・フレンドメールは、知っている人物への直接メールよりも信用度が若干高い。

まあフレンドメールはともかく、ギルドメールはお互いの信用を糧とした物ゆえ、お互いの信用度・盲目でない信頼度が、ある程度必要になるだろう。

 

 

 さて鏡の欠片が8枚集まったので、光と闇に居る人物が境界に集まる。

光から多くの人物が、闇からは少数の人物がやってくる。

ダンジョン踏破率が描かれているが、全ての区画に於いて50%行くか行かないかくらいだ。

しかし今回は救出・ダンジョンクリアという名目上、何時までも死ぬ可能性の高いダンジョンに居座り続けるのは、

非常に危険極まりない。

 

 真に残念だが、ここらを境にして探索を切り上げ合流を図る。

 

 とギルド仲間を説得して、この場に赴いてくれた。

まあ来てくれないと、帰ることができないからね。

 

 

「アスナ君、キリト君とは連絡が取れたのかな?」

「はい、ギラティナとのやぶれた世界経由で、情報共有しました」

「そうか。私の方等、ギルドマスター全員とその会話法は、目の前で展開してくれた。

 今から向かうとしよう」

「ありがとうございます、茅場団長」

「む、”ヒースクリフ”とは呼んでくれないのか?」

「いや、だって……須郷さん経由で話したことあるじゃないですか」

「ははは、そうだったね。仕方ないなぁ」

 

 アスナは現実にいる時よりも笑うようになった彼を嬉しくおもいながら、とりとめのない話を少しする。

彼女は、キリト達と合流後、KoB団長と会話したいとシリカに頼んだ。

場所はトールネックが、周囲をレーダーで感知して調べてくれた。

そしてその座標に、ヌー型機械獣ブロードヘッドを向かわせ、その場所に合わせ小さなダム穴を出現させる。

 

 これで呑み込みの早い団長と会話できるようになったのだ。

 

 ところでこのトールネック、非常に移動速度が遅い!

故にこの光の鏡の世界にいるプレイヤーしか分からない。

それでも十分な有用性だから、あまり文句はないもんだ。

まあ元ネタが、キリンだから仕方ないといえば仕方ないがね。

 

 会話の結果KoB団長は、いろんなギルドのマスターに集合指示を出して境界に向かうよう伝えた。

 

 

 そんな最中、汚れた夢の泉に向かっていたDDDとサトシ・アスナ・アーロイは、かつて

虹とオーロラ・氷に覆われたレインボーリゾートにやってきた。

 

「なんだここ……」

「……」

 

 いろんな光景を見てきたが、此処まで衝撃的だと言葉も少なくなる。

しかし途中、キリト・シリカ・メタナイトがいるのを確認して、地上に降りる。

なんせ彼等はリザードン・機龍を駆使して、労力を稼いでいたのだ。

 

キリト達の場合は単なる経験値稼ぎという名目だ。

だから、ピナに乗ることはなかった。

 

それも理由だが、7Mの巨体が鏡と台座に反応されるのかどうか心配したので、やってみようとしたが、時間が勿体なかったというより、行きはスターシップに乗ってきたので心配しようがなかったのだ。

 

「あー、スターシップのような皆で乗れる奴ねーかなぁ」

「ピナがいますよ?」

「でかすぎてメタナイトが乗れないだろ」

 

「私は飛べるぞ?」

 

 

「「は?」」

 

 メタナイトは背中に翻るマントを変形させ、蝙蝠のような羽を展開させる。

なぜだろうか、無性にしてやったりの顔に見える。

 

「あぁ、最初から言ってくれよ……」

「聴かないのが悪い」

「さいですか。でも、これで!」

「はい!」

 

 メタナイトはこの長距離ランニングをしたがる物好きかと、キリトを珍しい者をみるような眼で見ていた。

だが実際は聞きたくても聞けなくて、我慢の関を切っての愚痴だったようだ。

 

しかしおかげで、メタナイトが飛翔できることを知った。

これによりキリトはドラグーンを使用、シリカはレックウザとユニゾンできるようになる。

 

 もう少し早くやっておけばよかったのに、と言わざるをえない。

この後アスナ達が視認し、やってくるのだ。

 

 ドラグーンはスーパークルーズという、常時音速飛行が可能だ。

勿論騎乗時も可能。其れ以上も出せるが、やり続けるとオーバーヒートし時速110kmまで落ちる。

 メタナイトも限定解除で、時速350キロ出せる。基本時速80km。

シリカもユニゾンすれば、地上から一気に大気圏外へ出て衛星となるくらいの第二宇宙速度を出せる。

それ以前にデルタ化すれば、時間・空間・宇宙から宇宙への移動をも可能にする。

 

 そんな規格外に、機龍時速250kmとリザードン時速180kmがくる。

地上を走り常時飛行状態に移ろうとしたキリト達は、シリカによる圧倒的索敵範囲によって超上空からの飛来者を発見した。

 

 

「キリト君!」

「アスナ!……と、そのお方はだれ?」

「ウム!わしの意向を示すか。わしはDDD。プププランドの名君である!」

「暗君の間違いじゃないのですか?」

「そう褒めるでないゾイ」

 

 キリトに対して、機龍から降りるDDD。

そんなDDDにシリカが攻撃的になる。

だがそんな攻撃をいともたやすく回避する。さすがは暗愚詐欺。

 

「陛下!」

「ム、メタナイト卿!そちも無事であったかゾイ」

「は、陛下こそご無事であらせられましたか。ところで、閣下はどちらに?」

「エスカルゴンはまだゾイ。しかし、今から愚かな臣下を迎えに行くゾイ」

 

 話はとんとんと進む。

久しぶりのサトシとの合流に喜ぶキリト。

実際、超頼りになるサトシは、キリトにとって心の支えの一因となっている。

 

「サトシ、久しぶり」

「よ、キリト。ところで、そちらの人はだれかな?」

「っと、紹介するよ。彼はメタナイト卿っていうんだ。

 凄く強い剣士だよ」

「メタナイトだ。その黄色い動物とそのドラゴン、非常に強いのが伺える。

 調教師か?」

 

 若干メタナイトは、サトシはナイトメアと同列の事をやっているのかと訝しんでいる。

しかしその懐き具合を見て、全く違うと見解を立てるが他人にとってそれはただの洗脳にしか見えない。

 

だがそんな推測はサトシに通用しない。

 

「いや、俺はポケモントレーナーだよ。こっちの黄色いポケモンが、”ピカチュウ”。

 今乗っている橙のポケモンが、”リザードン”っていうんだ。

 皆10年以上の付き合いになるんだ」

「ということは、かなり幼い頃からの付き合いということか?」

「まあ、そんな感じだよ」

 

 サトシはポケモンを知らない人に、ポケモンの良さをアピールする。

実際25層のボス戦やテーマフラグ解放後のポケモンリーグで、ポケモンの恐ろしさを見たプレイヤーは軒並みトラウマを患っていた。

 

 致命傷を与えたのに、カウンターでノックダウン。

キングシールド等の特殊な防御で、ダメージを受けたりデバフを受け更に全ての攻撃を防がれる。

一撃必殺や道連れ、特性の頑丈等のポケモンの洗礼を受け、ポケモンリーグで心的外傷を患うプレイヤーが後を絶たない。

しかもフィールド技・天候技、タイプの植え付け等……ゲームバランスが一気に変化と共に瓦解しているので、ポケモンリーグに挑戦する人が少なくなっている。

 

 それでも立ち向かう人がいる。

勝利した後の大量のコル・経験値、極稀にドロップするモンスターボールを入手するためだ。

このモンスターボールは、召喚する一度切りの消耗品が多い。

しかしその中で偶に、中身のないボールがある。

それは本当にポケモントレーナーになれる、そういう資格を与えられのだ。

 

 ゲームの様に一回なげたら終わりじゃない。

しかし地形によって無くしたり、当たり所によって耐久力が低下して爆散がある。

勿論ゲットしたら、耐久値は無限になるから安全さ。

 

 

 とにかく、サトシはメタナイトにポケモンに関して、色々話をする。

それはキリトにとっても、非常に有益な情報のようで少年のように聴いていた。

メタナイトも、ポケモントレーナーへの認識を変更した。

ただの虫取りが進化した究極系と考えるようになったのだ。

 

―――

 

「で、ここ?」

「そうゾイ」

 

 そういうは、ナニカの遺跡。

ここにエスカルゴンがいるという。

 

いや本当にいた。

別段異変はなかったが、ここら遺跡全てに点々と光り続けるPC等の機械群が垣間見える。

 

「おお、愛しのエスカルゴンよー!」

「陛下!よくぞご無事で!」

「それで、エスカルゴン。何をしておったのかゾイ?」

 

 話を聞くと、エネルギー対策としてローアのギアの解析を完了し、夢というその脳波の解析とローアのその夢との関連性とそれに関する誘導性。

脳と脳波による夢の発生が、エネルギー源ということを突き止めそのドリームエナジーと呼称した其れを、ギアとして一つにまとめ抽出。

そしてそれを波長を変動させ、異空間開発を行った。

 

 異空間を開くのには、ワームホールのように粒子加速をしなければならないわけではないが、圧倒的エネルギーが必要。

そこでエスカルゴンロボが、全てのスターロッドをこの鏡の世界から奪取する。

更に願望や夢すらないエスカルゴンロボに、スターロッドを幾何学的紋様の上に配置させ、ドリームエナジーの効率的な採取を成功。

 これにより圧倒的エネルギーを取得。

総計3900ヨタワットの抽出に成功。

そこから、ローア一機分通過限界と5分間の展開維持を更に広げる研究に着手し成功。

上記のスターロッド紋様群を、量子空間に閉じ込め毎秒50年で経過させその分の膨大なドリームエナジーの連続抽出にも成功。

次にそのエネルギーを使い、ローアのドリームエナジー転換装置を研究しその拡大に成功。

毎秒時の電流・電圧・抵抗を含め、ギャラクティック・ノヴァ1機分と連続一か月展開に成功。

 

 またこのエナジーを転換し、重力子・磁力・量子・電子や陽子、中性子を成すニュートロンの個体抽出と

反物質の生成と維持や操作に成功した。

 

「カラビンビン……カラカラビンビン、全く分からないゾイ……」

 

 更にこれらを用いた空間連絡手段により、プププランドに来たる災厄等全てを樹形図型並行量子計算で導き得たその中で

一番あり得る可能性の高い事件案を、フームや星の戦士たちに通達する。

これによって、プププランドの平穏が保たれているのだ。

 

しかもこれらの原案はフームが行っている。

元凶は宇宙ゴミの飛来とナイトメア大要塞撃破後の宇宙ゴミの飛来だ。

この中にエスカルゴンとフーム・キュリオ・ブンの知識欲を満たすものがあった。

それがローアの各部品であった。

 

「そ、それで、その樹形図うんたらっていうやつで、今回の災厄を予測できないの?

 (ボス戦とは言えない……)」

 

 アスナはエスカルゴンに、今回の裏ダンジョンの事について聞く。

すると帰って来た答えは、どうとればいいか分からなかった。

 

「ハルカンドラの夢波長暴走を助長する機械を発見したでゲス。

 よって、夢を主成分とするダークマター族が動き出すでゲしょう。

 つまり今回は、確認されている5体以上のダークマター族と戦闘し倒さなければ、

 この騒動は収まりを見せないでゲしょうね」

「???」

 

「つまり、SAOのボス戦は各ボスによって専用ステージに飛ばされ、戦闘する事になるでゲス」

 

「!?」

 

 アスナはエスカルゴンから、SAOの名前とボスという概念に驚く。

 

「何驚いているんでゲスか?私もそのテーマフラグ解放の英雄でゲスよ?

 嘗めてかかってもらっちゃ、困るでゲス」

 

 機械をいじりながらしゃべる彼は、非常に得体のしれない者に見えた。

 

 更に会話では、ここはVRであるが彼等にとっては現実さながら、しかし実際違うのでMR空間。

其れゆえに、もう一人の自分を作り出す事が可能という事まで言って来出した。

実際他の所も工事や機械いじりの音が聞こえる。

 

彼等の暴走は絶対になく、変な思惑を出した瞬間彼の脳波と同調するように更新するのだ。

だから彼はこの場に於いて、絶対の存在なのである。

 

「それと、今回は星の夢、ギャラクティック・ノヴァも出てくるでゲス。

 メタナイトには以前壊れてしまったハルバードを修復しております故、

 何かあったらこの通信機を押してくれでゲス。

 因果関係や調律は、こちらのドリームエナジーをつかったローアの亜空間ゲート創成機で、ちゃちゃっと調整しとるでゲスから。

 ほいっと」

 

「おっと。かたじけない、エスカルゴン閣下」

 

「私の分まで頑張ってくださいでゲス。陛下も戦うんでゲしたら、それ相応の武器をお渡ししますが?」

 

「おいエスカルゴン!わしにくれゾイ!」

「といいつつ、全員のために良い夢と願いを持つならば、最高の力を出してくれるドリームキャストをお渡しするでゲス。

 ゲスが陛下は阿保でぐうたらで、私欲を満たすしかできないデブの脳足りんでゲスから隠れても攻撃できる、

 亜空間切断武器を渡すでゲス」

「デェァハハハハハ!!流石はわしの愛しのエスカルゴンゾイ!

 わしを褒めることは……ん?」

「おとと、陛下は常に他の愚かな愚民を平伏させる美貌とカリスマをお持ちでありますなぁ、じ、実に天賦の才、王佐の才、天災厄災でゲス!」

「ワハハハハ!さっすがはエスカルゴン!褒めるな褒めるな!照れるであろうが!」

 

 バンバンと甲羅を叩く。

普通に痛そうだ。

 

結局、基本見てるだけのサトシも護身用として、武器を貰う事になった。

その武器は悪夢の顕現である、ダークマター族に効果が抜群とのこと。

相手が悪タイプであれば、自分らはフェアリータイプかとサトシとシリカは納得する。

 

「さ、時間が無いでゲス。それとそこのブラッキー。ちょいと残るでゲス。

 それと異空間による盗聴は、私めに察知されるという事をお忘れなく」

「っ……」

 

 見抜かれたシリカは、エスカルゴンを睨み付けるがその視線を受け流す彼。

彼の方が一枚以上も上手であるようだ。

 

 皆が退出する中、ブラッキーキリトはエスカルゴンと対峙する。

 

「……」

「そう緊張するな、でゲス。これを見るでゲス」

 

 何かタップ操作をするエスカルゴン。

出てきたのは、夢波長を調べるグラフやらマップのようなものだった。

 

「これは先ほどの事でゲスが、キリトの持つ夢波長がグラフ上のものと同一という事で警告しておくでゲス」

「……」

 

 今度は緊張から、真剣に聴く態勢をとる。

それを見てエスカルゴンは頷く。

 

「この虹色の波長は、カービィの夢波長でゲス。

 そして、この橙がキリトのものでゲス」

「……じゃあ、この黒いのはなんだよ……」

 

 見た瞬間わかった。その虹色の波長が、黒くなった瞬間だ。

そして黒い波長が白く変わり、徐々に消えてなくなる……。

流石の事に、キリトは自分の口から言い出せない。

 

 しかし、その時違う別窓を出してくる。

それは黒の波長が、一つの淡い水色の波長と居場所を交代した場面。

そして虹色の波長が、黒の波長の前に立った後淡い水色に近づく。

 

後にその淡い水色の夢波長が消える。

黒いその波長は、交代する前巨大だったが交代後は小さくなっている。

つまり、この事からいえる事は……。

 

「ダークマター族のオリジナルである、ゼロでゲス。

 この淡い水色の波長は、サチという人物のようでゲスな。

 SAOの事は知っているでゲスが、意思と共に先に描く未来が実に小さいでゲス。

 だから乗っ取られたのでゲしょう。

 

 更にカービィは今までの冒険を記憶しているでゲス。

 夢波長でその中身も見れるのでゲスが、夢に出てきたリップルワールドのリボンという妖精にキスされたときの事を、まだひきずっているようで、良い意味で無類の女性の騎士様となっているようでゲス。

 

 それを逆手にとられた結果でゲしょうな」

 

「た、助ける方法は!?」

「ある」

「そ、それは……」

 

 息をのむ。

静寂が、彼を包む。

緊張感のある中、エスカルゴンが見せたのは笑顔だ。

 

「今回の騒動は、マスターハンドが原因でゲス。

 よって、今からキリトだけに見せるでゲス。

 これは公開するな、絶対に!」

「ああ……」

 

 マスターハンドが関わるゲーム作品が、そこに羅列される。

MMORPGしかやったことがないのと、友人が居ないことがここで関係した。

そう、彼の周囲には、テレビゲーム以前にリアルを持ち出す人はいない。

だからTVゲームや携帯ゲームの事を、このSAOに入ってから更に聴くことが無くなった。

 

 よって……これが出てきたときは驚いた。

マリオとの会話の中、適当に言った言葉に一つの単語があった。

それはストック。

 

これが適用されるのが、このゲームに出てくる英雄達だけなのだ。

そう、これは壮大なゲームの話だ。

 

「『大乱闘スマッシュブラザーズ』?」

「そうでゲス……亜空間、異空間防衛機構発動!

 介入してくる黒の波長を400ヘルツ感知、反ドリームキャスト・ドリームエナジーカノン装填急げ!」

「ど、どうした!」

 

 いきなりの反応に、キリトは慌てる。

しかしエスカルゴンは、キリトの腕を握り落ち着かせる。

 

「いいから、よく聴くでゲス。

 ここが嗅ぎつけられた。このまま陽動し、キリトがこの秘密を知ったという事を隠し通すでゲス。

 私の事は、絶対に口外しないこと。

 そして、これをマスターソードに搭載するでゲス。

 

 これは夢波長転換装置といって、触れたり憑依しようとしたダークマター族全てを、

 根本から全てを改変し元ボスの悟った集団にするでゲス。

 

 それと、カービィに気を付けるでゲス。

 あいつは、ゼロはクレイジーに支援を受けている。

 だからマスターソード以外で戦ってはいけない。

 いいな、わかったな!」

「ああ!」

 

 この遺跡内部が揺れに揺れる。

機械群が響き、周辺物にヒビが入ったり煙が出始める。

遺跡の奥では、既に火災が発生したり反物質やニュートリノの暴走で消失したり変な物質に書き換えられている。

 

「私はここで引きつける。

 オリジナルスターロッド幾何学群・樹形図型並行計算量子PC・抽出等私技術の賜物を、このマスターソードの転換機に付属している。

 

 だから……ギラティナアアアア!!!」

 

 その聲が来たとき、キリトの足元にダム穴が開く。

 

「!? え、エス……」

 

 キリトはやぶれた世界に消える。

一定の夢波長で操作されたギラティナは、従うほかなかったのだ。

 

 この場に残されたのは、エスカルゴンのみ。

いや、多くのエスカルゴンロボがいる。

 

「キキ……ギャハハハハ、グフフ、ヒャハハハハハハハ%&漑I痾!!」

 

 その狂気の黒に染まる手袋は、左手を示す影を現す。

 

「ハッ、己の崩壊を制御できず、夢波長に犯され自壊しているな。

 全く予想通りで、反吐がでるでゲス。

 

 ……私めに刃向うとどうなるか……身をもって知れ」

 

 エスカルゴンは緊急事態宣言と最終戦争宣言を発動する。

彼はただでは死なない。

 

 

―――

 

 やぶれた世界から出てきたキリトは、違う場所からアスナ達と合流した。

勿論見られない内に、貰い物をマスターソードに装着した。

 

 アスナ達はいつの間にか、違うフィールドに居ることが夢波長でわかった。

夢波長は恐ろしいの一言だ。

その者の夢・考え等、全てを曝け出しているのだ。

だから誰が誰に好意を抱いているのか、見てはいけない項目も普通に見れてしまう。

 

 恐ろしい。

これを私欲なく、この世界の為に使っていたエスカルゴンはこの世から消えてしまった。

 

(もし、俺がPKをするような偽善ぶった奴なら……いや、エスカルゴンは全てを見ている。

 最初から、こういうのは予測済みだったのだろうな……)

 

 

「キリト君が無事で本当によかったわ」

「どうしたんだ?」

「あの後少ししたら、ギラティナに閉じ込められたのよ」

「そうなのか?」

「ええ。シリカやサトシが問い詰めても、全然話を聞いてくれないっていうか、耳すら貸さないし。

 なんというか操られたっていうのかな?」

 

 そしてそのあと、遺跡を含む闇鏡世界の100分の1が消失した。

ギラティナが再展開したのは、闇鏡世界の台座がある広場。

ここから中央鏡へ行けば、皆と合流できる。

 

しかしフームと会って、伝えなければならない。

そんな義務感が、キリトに生まれてしまう。

 

そして再度考えた。

 

ストックによる救出方法を……。

そこで一つ妙案を展開することにする。

 

 その案は、シリカに手伝ってもらうことになった。

後はキリトがどうやって、カービィを救済するかにかかっている。

鍵は今の所、マスターソードへの憑依誘導だ。

 

(俺がなんとかしないとな。俺しかできない。

 だから、今は皆を信じよう。そのボス群を、確実に倒す事を……)

 

 キリトはマスターソードを、インベントリに隠し皆と共に進む。

その鏡界の境界で、全てが決する。

 

 




 やっと鏡の世界の戦闘前パートが終わりました。
これで百の位切り捨て27000文字です。

 今の執筆状況はやっとの事、最終局面に移りました。
確かめたところ、この鏡の世界の話をひっくるめて66000文字でした。
暇つぶしなので、ぐだぐだと進めてしまうんです。

 次の投稿は、この鏡の世界の話を終わらせたらとなります。

 今回は短いですが、楽しんで頂けたら投稿者の冥利につきます。


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6:鏡の世界 決戦1

11133文字です。


6:鏡の世界 決戦1

 

 

 光と闇の境界。

ここには既に多くのギルドが集まっている。

 

何故こんなに集まっているのかというと、アスナによるキリト救出をKoB団長にメールでお願いしたからだ。

ただの副団長が、GMに影響力を持っているのかはいまだに不明だ。

しかしそれのおかげで、色々と話を聞いて集まったギルドやソロが一同に介した。

 

 そして今は、黒の英傑連盟団待ちだ。

 

 こうやって待っている間、ダンジョン内で見つけた茫然としているプレイヤーをどうするか話し合っていた。

 

「一人荷物が増えてしまうな……」

「嗚呼、こういう時に趙雲が居てくれれば……!」

「殿、長坂の戦いとは違い、狭い場所になるでしょうから少々厳しいです」

「ちょ、趙雲!?」

「おお、趙雲殿。息災であったか!」

「子龍!どこほっつき歩いてたんだ!」

 

 ディアベルらギルドマスターと英雄らによる会議。

そこにツッコミというよりも、劉備を一目見たく割り込んできた趙雲であった。

劉備は趙雲が話しかけてきた事に驚きつつも、内心冷静を保つ。

実際心の中は、ウキウキだ。

 

 そして、五虎将軍と創作の中で謳われた趙雲を喜ぶのは、まだそんなに有名でなく義勇団時代から知る関羽と張飛である。

そんな彼等の温かい出会いを、月英と諸葛亮は遠くから見る。

 

「嗚呼、なんとも明るい光景でしょうか」

「ええ。三國の鼎立で対立し、命を落とす事もないでしょう。

 こんな光景が、何時までも続いたらよいのですが」

 

 二人は子供を見守るような表情で、悟る様な表情をする。

 

「いや、劉備に逢いたかったら行けばいいじゃん」

「水魚の交わりと聞いた事があるな、行って来い!」

 

 リズとエギルは、二人を掴んで劉備の前に引きずり込んだ。

 

「え、ちょ」

「ま、待ってください!まだ、心の準備が!」

「そんなもの、厠でやってきなさい!」

「月英、お前の肝はその程度か!」

 

 そんなざわめきが生まれるので、劉備は周囲を見渡す。

そしてリズとエギルは、この夫婦を輪に入れる。

 

「劉備!こいつらの相手も御願いね!」

「よお、玄徳!水餃子でも食いながら、水魚の交わりでもしてこい!」

「い、行き成りなんですか、リズ殿・エギル殿って、おお!?」

 

 劉備を含む三兄弟は、諸葛亮ら登場に沸いた。

こういう風景を仕方ないと眺める、ディアベルとヒースクリフ含めるギルドマスターたち。

 

 

さて、話を元に戻そう。

 

「今回、殿という名の護衛を、それぞれのギルドから4人選んだ。

 君たちには、この赤い布を頭に巻いてもらう。

 まさに、紅巾党だが、これは護衛として任務を果たしている最中だということを、

 周囲に誇示するものである。

 故にその鉢巻を、外してはならない」

 

「「「「わかりました」」」」

 

 護衛に選ばれたのは、盾等を装備していない人物だ。

やはり盾は耐久性があって壊れるので、長い目で見ると不必要。

だからここは俊敏性がある人を選んだ。

こうすれば、ある程度攻撃が来ても回避することができる。

 

 それにタゲを取っても逃げ回ればいいし、攻撃の要になる可能性もある。

これを4人に十全に理解してもらう事にした。

 

 

 これら会議が終わったころ、闇の鏡の世界から入ってきたギルド集団がいた。

彼等こそ攻略の要、黒の英傑連盟団だ。

キリトを筆頭に、その自信にあふれる顔つきなレジェンドたちは、息をのむそういう雰囲気を纏わせている。

 

 

 キリトとアスナ・アーロイは、一層で鬼神の如き戦闘を行った。

サトシとシリカは、25層で魔神その者としての働きをした。

キリト達以外は知らないが、メタナイトとDDDも圧倒的実力を持っている。

 

 

「待たせた(カービィ達は……いるな。今は近寄ってこないか)」

「待たせすぎだ、キリト君。今度アスナ君に、ラーメンを作ってもらいたいのだが、いいかね」

「……現実でデスマーチしながら、徹夜でカップラーメンでも啜ってたんだろ」

「……そ、そんなことはない」

「どもるなよ……」

 

 目が泳いでいる茅場。

そんな彼に呆れるが、今キリトは多くのギルドマスターから期待の眼差しを受けている。

しかし彼は全く動じない。

 

彼の心は今、此れからに対して向けられているからだ。

 

「まあ、その件に関しては、アスナと相談してくれ。

 行くぞ」

「うむ。これより、2レイドパーティでの攻略に向かう!

 敵は裏ボスであるため、心してかかれ!」

 

 48層のボスは、ダイナブレイドで1レイドパーティ、合計30人。

高速で飛翔し、鋼の肉体を持つその鳥。

攻撃方法は空気砲や肉弾戦法ばかりだが、その防御力の高さは異常で中々ダメージを与えられなかった。

 

 そして、今回はどうだ?

 

 彼等2レイドパーティ、合計96人。

数多のギルドが集まったぐちゃぐちゃの精鋭部隊。

そこには英雄や数多くの死地を潜り抜けた猛者が、大勢いる。

 

なにせ英雄の出現で、鍛えられたり共に歩む事で前線の攻略組に入るプレイヤーが多くなっている。

 

更に基本的に表ボスが雑魚で、裏ボスが頭を捻って考えた上での手ごわいボス。

これらを考えれば、多くの英雄に関わってきたギルドメンバーは、ソロよりも圧倒的な強さに育っていた。

 

 

 彼等が歩み高みに登った先にある、鏡界の境界。

そこに待ち受けるのは、裏ボスである。

 

その数は1なのか、それとも……。

 

 

 ヒースクリフが先頭だ。

その歩みは誰にも止められない。

威風堂々なその風格は、後ろに続く全ての者に自信と勇気を与え圧倒的なプライドを保持させる。

彼が出た戦場は、被害あれど負けることはなかった。

 

 彼に続くのは、戦場の猛者……鬼神とも呼ばれたり狂人と呼ばれたりするプレイヤーばかり。

 

その中でも異彩を放つのは、黒の英傑連盟団。

 

 エギル・リズベットら支援特化タンクプレイヤーが、軒並み熟練度が最大で彼等のギルドを後方支援している。

その支援を可能にしているのが、月英・趙雲・諸葛亮という三國の蜀という国家の英雄だ。

彼等はエギルやリズベットにお願いされて、フィールドへ狩りにいく。

 月英はリズベットの武器造りに於いて、余ったインゴットを兵器造りに転用している。

 趙雲は卓越した馬捌きを見せ、どんな場所でも勇猛果敢に攻め入りエギルらに頼まれた物を取ってくる。

 諸葛亮は情報屋や他の商人から値切り等をして、資金管理やその他諸々の管理を任されている。

 また35層の田園地帯に、多くの土地を購入しそこで月英が作った兵器の試乗や諸葛亮の『采配』スキルで、部下に畑仕事を行わせている。

 

 

 キリト・アスナ・シリカ・アーロイ・サトシ。

彼等は黒の英傑連盟団きってのアタッカーである。

そして攻略組の最高峰ギルドとして有名である。

 

 その理由とは何か。96人が境界に入るには、ひとりずつ入る必要があるためここで説明しよう。

つまり暇だから時間つぶしをしよう。

 

 キリト。いわずもがな、ブラッキー先生だ。

黒子のように、真っ黒な装備を纏っている。

ふざけている様だが、全くふざけていない。

暗闇からの強襲や即行パーティ編成でフィールドボスを狩る等、目覚ましい活躍をしている。

 今現在影を奪われているので、真っ白な状態だ。

裏ボスは訳有りな状態が多いので、一々全身真っ白等で説明責任を果たさないといけないなんてことはない。

 

 アスナ。栗色の頭髪だと思ったが、光の関係で亜麻色に見える。亜麻色の長い髪を、風が優しく包みたなびかせる。

その時鼻腔を擽る匂いの情報が好きな人が多くいる。 

彼女が取得したパックは、国家レベルを動かせる。

 群や団体、師団、旅団等は多く存在する。

しかし彼女と後述のアーロイとで集めた機械獣は、圧倒的強さで質と量を兼ね備え敵を一網打尽にする。

基本的に細剣を使うが、パックを使用したことで長弓とそのスキルを使用・取得できるようになった。

 

 アーロイ。母なる山の子。人工子宮から生まれ落ち、母無し子として蔑まれていた。

それをロストという人物が、父親代わりに育てた。結果恋愛とか知らない天然系でありながら、芯のある美しい女性になった。

今現在も行く先でフラグを立て、多くの男性偶に女性から求婚されている。

 途中サイレンスという知識欲の権化と知り合い、ハデスという敵と一悶着あった。

これを無事に解決した彼女。今でも多くの土地を巡っている。

主に使用する武器は弓矢で、副武装に槍を持っている。

 実力は非常に高いと云える。

 

 シリカ。20層周辺でレべ上げをしていた中層プレイヤー。

ギルドではなくパーティとしていろんな所を転々としていた。

そんな時に25層の戻りの洞窟に行こうというお誘いを受けたのだった。

 彼女が貰ったパックは、デルタ化に関するものだ。ぶっちゃけ、チート。

ただ反動が強いので、乱発は不可能である。

 

 サトシ。ポケモン30周年記念で、レッドをサトシに替えた結果がこれだよ。

アニメ補正・主人公補正を使い、今まで地方リーグレベルでも優勝させなかったアニメとは違い、完全に本気で戦ってくれるようになる。

 彼の年齢は永遠の10歳だが、数多の地方を巡りすぎて多くの女性をひっかけながら性格的に進化していく。

ただリセットがあるので、一時的に記憶を失うことになる不運な少年。

 実力は折り紙付きだ。相棒のピカチュウと共に、戦場を稲妻のように駆ける。

 

 

 さてプレイヤーとその後を付いてくる者、全てがこの境界にはいった。

その入った場所は真っ白で、何もいなかった。

 

いや、居なかったと思ったら、その真っ白な空に徐々にシルエットが見え始める。

 

「シリカ、作戦通りに」

「はい」

 

 小声でシリカに指示を出すキリト。

その指示とは、シリカがキリトを盾に縮こまることだ。

主に服の裾を持って、小鹿のように足を震わせ涙を尻目に零す。

このようなやりやすい演技をやらせる。

 

 何故このような指示をしたのかというと、やはりエスカルゴンからもらった樹形図PCのせいだろう。

これである程度展開を見て、有利に進める。

 

 

さて、シルエットが完全に晴れた。

 

 そこに見えるシルエットを見て、ある者は息をのみ、ある者は怒りを露わにしていく。

一体そこで何を見たのか。

 

「ヨウコソ、皆様。我ガ最高ノパーティヘ」

 

 空中に浮く黒を主体としたその者達。

全てが深淵よりも深く禍々しい。

 

「なあなあ、ダーク!ボクが好きに選んでもいいのカ!?

 選んでもいいのなら、あいつらと戦いたいのサ!」

「アア構ワナイ。ダガ我ガ先ダ」

 

 ピエロのようなその一頭身は、とある真っ黒な人物と喋る。

真っ黒な人物……そのものこそ、影キリトであった。

口角を歪め、目下にいる2レイドパーティを選定する。

 

「ダークマター。貴様ハ虹ノ剣ヲ持ツ者らとやれ」

「御意」

 

  サングラスのような仮面・ローブに頭髪のようなものを生やした剣士は、

旅先で手に入れた攻略道具を持つ人物が所属するパーティを別次元に移送する。

選ばれたパーティの人たちは、その場からこの部屋にいる仲間以外に干渉できなくなる。

つまり誰かに触れてもすり抜けるだけだ。

 

「ナイトメア。貴様ハスターロッドヲ持ツ者ト当タレ」

「排除しよう」

 

 旅先でスターロッドを多数手に入れたパーティとその人物のみを、

ナイトメア自身諸共別空間に転移させる。

 

 マルク・マホロア・ゼロツー・ドロシアソーサレス・ダークマインド・ダーククラフター。

彼等、錚々たるラスボス勢が攻略組ギルドパーティを、徐々に別の空間へ移動させていく。

皆が皆選ばれながらその場で視認出来、位相のずれで触ることができない状態にある。

 しかしこの場所にはぶられた人物がいる。

 

 それは黒の英傑連盟団とテーマフラグ英雄達。

彼等は誰にも指定されず、その場に待機している状態だ。

彼等は影キリトと戦闘することになるのか、と心の中で思う。

 

だがその中で、キリトとシリカ・メタナイト以外は何故影キリトという存在が出て来たのか謎に思う。

そう、キリトは教えていないのだ。

何せ今回の演技で、今後が左右されるため下手に情報を共有すると、自然さがなくなってしまう。

 

 どのような演技なのか、そろそろ功を成す頃合いだろう。

 

「さて次は……ん?」

 

 影キリトは何かに気づく。

いや、気づいてしまった。

 

 それはシリカだった。

涙目で腰が引けて、キリトの後ろに隠れている引っ込み思案を装っている少女。

その少女を守るように位置取っているキリトは、影キリトから見て非常にやりやすい場所にいると断言で来た。

何せシリカは、黒の英傑連盟団団長キリトとそのほかギルドメンバーに守られるように、中心に位置しているからだ。

此れを見て非常に愉快な気持ちになる。

 

 

 ダークマター族は色々あるが、負等マイナスとなるモノが大好きだ。

だからこのように、ギルドにとって大切な存在を壊す事で暴走する人間を圧倒的な力でねじ伏せるのは、

愉悦以上の快楽にふさわしいと思っているのだ。

 

 だからこそ、影キリトはシリカを標的にする。

 

「シリカ!」

「キリトさん!」

「空間転移!コイツハ、我ガユックリト味ワウ」

「いやっ……」

 

 

 影キリトはいつの間にかシリカの隣に立っていて、彼女の腕を引っ張り一気に空間転移し移送したのだ。

彼の者、影キリトはこの空間に禍々しい聲を響き轟かせる。

 

<さア、命を賭けタ戦いダ!ヤれ!>

 

 影キリトは徐々に、キリトの聲になってきており徐々に違和感がなくなる口調で話してきている。

その中かの者が命令したのは、ターン無視キルの事だ。

 

闇夜の黒猫団を匿っているギルド。

そして彼等を守っている殿は、彼らに攻撃される。

 

「「「!?」」」

 

 不意打ちに驚くのは、何も知らされていないパーティのみ。

そして攻撃された殿は、その不意打ちを全て受けきっている。

 

「いやぁ、『きあいのタスキ』は非常に便利だ。やれ!」

 

 聖龍連合の幹部が、他ギルドの殿まとめて命令し、元闇夜の黒猫団のプレイヤーを一刀の下両断した。

HPは一気に無くなり、そのままポリゴンと化す事に成功した。

ポリゴンと化した彼等の跡地からは、ダークリムラが少々出てきたが即行で撃破された。

 

 『きあいのタスキ』は、あらゆる攻撃からも体力を1残す事ができるアイテムだ。

勿論一度きりで、入手には25層ポケモンリーグでポイントを使って購入しないといけない。

 

 こんなレアアイテムを使った殿プレイヤーは、体力を回復する。

 

 不意打ちに失敗したのにも関わらず、敵の戦意喪失はない。

寧ろ笑みが深くなった。

そして彼らは転移されていく。

 

<さて、最後ノ貴様ラは、貴殿が相手にしてくれ>

「ええ、構わないでしょう」

 

 空中に名だたるラスボスがいたが、そこに含まれないラスボスが地面から出現する。

謎の会社訓歌と共に登場する二名の者。

 

「始めまして。私はハルトマン。此方は秘書のスージーだ。

 これから君たちには、わが社の負債の為に死んでもらうことになった。

 まことに申し訳ないが、君たちの命をもらい受ける。

 

 さて、挨拶はここまでにしよう。

 スージー。先にそこのプレイヤーを、例の場所へ連れて行きなさい」

「かしこまりました、社長」

 

 スージーと呼ばれる秘書は、どこかへ転移していった。

その瞬間キリト・メタナイト・DDD以外が、転移して消えていった。

 

彼等は何故此処に残されたのか、全く見当がつかない。

 

「フォフォフォ、何故君たちが残されたのか分からないだろう。

 DDD。初代よりラスボスを務めるが、その威厳はもうないようだ。

 故にここで御退場願おう。

 

 次にメタナイト。おまけや逆襲に燃えるが、全てをカービィに阻止される。

 アニメ等に起用され人気を博したが、それもギャラクティックナイトに取られつつある。

 君には失望している。故に、彼らの元へ逝け。

 

 最後にキリト。君には、わが社の新商品の試しとして、この者と戦ってもらいたい。

 場所を移させてもらうぞ」

 

 目の前のハルトマンは高笑いして、DDD・メタナイト・キリトを別々の空間へ移した。

DDDは禍々しい塔を登らされているアスナ達と合流し、塔の一番上を目指している。

またこの場所は飛んでも、周囲からレーザー兵器で落とされることから外周で上には行けない。

 

 メタナイトは隠れラボに行かされる。

そこで彼が見たのは、大量の試作兵器『メタナイト・ロボ』だ。

つまりメタナイトの処刑兼旧式兵器の処理にしたようだ。

 

 

 そして黒の英傑連盟団団長のキリトは、どこか試験場のような場所に来る。

彼は転移された中、周囲を見渡す。

何もない。

本当に何もない。

 

 そんな空間で、誰かの聲が聞こえる。

低くはない。誰かが呼ぶ声。

 

<キリト!そこにいるんだよね!?>

 

 この高い聲。

これこそ、あのピンクボール、カービィの聲だ。

どこからか全く分からないが、この部屋を包み込む位の大音声だ。

 

「ああ、そうだ!カービィ、どこにいるんだ!サチは無事なのか!?」

 

 キリトはこの静寂なくうかんに向かって叫ぶ。

返されるのはただの空虚な木霊だけ。

しかしそれでも、彼はめげない。

 

<……うん、そうだよ、キリト!サチはランディアが亜空間によって、間接的に防御されてる!

 だけど、キリトがどこにいるかわからないから、行けそうにないよ!>

「とにかく、カービィはそこにいてくれ!多分そこに戻れるはずだ!」

<……わかった!>

 

 

 ちゃんと真面目な雰囲気を持つカービィでよかった、と彼は胸を撫で下ろす。

何せこんな場面で言われたら、気が抜ける思いでしかないからだ。

 

これ等の通信が終わったのかを見計らったかのように、何者かが上から降りてくる。

 

 部屋は何もない。

上に天井はなく大きな吹き抜けになっている。

壁はなく、大きなガラス張りである。

 

ただ状況からすると、最悪に近い。

密封状態で何も遮蔽物がない。

これは何かを相手にするとき、困ることになる。

 

その者は何かに包まれているようだ。

 

キリトは息をのんで、その者がこの場に付くまで見届ける。

 

 

 その者は何かの結晶に封印されているようだった。

その者は盾とレイピアを持っている。

赤紫の十字に似たひし形模様が入っている盾。

赤紫色で若干太い刀身であるレイピア。

 

 結晶に封印されているのは、メタナイトに酷似しているがメタナイトは黒が主な色である。

彼の者は白や赤紫が中心である。

 

 

 キリトは一つの芸術であるかのようなその者に見とれていた。

しかしその芸術であるかのようなソレは、突如覚醒する。

結晶を破壊し破片を周囲に散乱させる。

 

 彼の者は覚醒し、己の力を誰からでも見えるように誇示する。

 

 キリトは本能でわかってしまった。

彼の者は並大抵のものじゃないと。

影カービィよりも強い……と。

 

 わかったからこそ彼は駆けた。

やられる前にやれ。

これがこのSAOの現状であるがため、己の武器を握り彼の者に攻撃を加える。

しかしその攻撃は、全く効力を成していない。

 

 

防がれた。

 

カィン……と、盾で弾かれる剣の音。

 

その音を聞いたのか、その者の仮面の奥にある眼と思われるものが紅色となって、彼を襲い始めた。

 

「私はギャラクティックナイト。銀河史上最強と呼ばれている。

 キサマは邪魔である。疾く失せよ」

 

 それを聞いてからキリトは、己を猛らせる。

圧倒的強者の威圧感。

其れに屈してはいけない、屈すると即座に死ぬ。

 

それくらい目の前のギャラクティックナイトが、異常であるかを示す。

 

(今までにないこの威圧感……。カービィがこの部屋の近くにいる中、マスターソードを使うべきか……)

 

 キリトはこんな状況でも、己と外部の事を思い出し充分に対応する。

結果彼が行ったのは、現在最高の武器『ドミネーションオブルーラー』で切りかかる事だった。

この武器はリズベットが、とある階層の裏ダンジョンで見つけたインゴットを使い、

更にいろんなバフを付けて造った武装だ。

 

 何故これにしたのか。

エスカルゴンが作った武器にしなかったのか。

それは相手が格上だからだ。

 

 この武器は意識・地位・レベル・人格、その他諸々が上であるほど能力が上昇する。

だから今現在、銀河最強の戦士である彼を前にすれば、この武器が今までにない位震えあがり強化される事は明白だった。

 

 

「中々の得物だな。ではゆくぞ」

「来い!」

 

 彼らは一閃を交え、そのまま戦闘する。

息をもつかさぬ刹那の間合い。

生と死が、常にまじりあう。

 

一世を風靡したコロシアムでさえも、こんなに強く一つ一つの動きが絵になる者は存在しなかった。

非常に華麗な動きだ。

簡単そうに見えるカウンターも、実にに再現不能なくらいの達人技になっている。

 

 しかし、現実で剣道の達人たる人物に指南してもらった事がある彼は、その程度のカウンターは見切れる。

だがそれでも見切れないのは、攻撃範囲や可動範囲・次への行動だ。

動きが全てにおいてなめらかで、無駄な動きも無駄な力さえも感じない。

キリト自信の力を利用され、勝手に自滅していくような感覚に陥れられる。

 

 それでも前を見て、その圧倒的強者に立ちはだからなければならない。

今でも自分を待っている者がいる。

勝つと信じて、後に逢えると信じて待ってくれている皆がいる。

 

だからキリトは負けられないのだ。

 

 

その為には、どんなにせこいことでもやる気概が必要だ。

 

 

「き……さま……」

「はっ……ざまぁ……」

 

 キリトは接近戦を仕掛ける。

カウンターとして、自滅戦法を狙っていたようだが一瞬彼の者の視線が外れた瞬間、

エスカルゴンの武器『ドリームキャスト:ソードブレス』を捨身で突き立てる。

 

 

 ここで初めて銀河騎士のHPが表示される。

HPは黄色。半分にまで来ていた。

キリトはこのまま抉り、突き立てたままでダメージを与えようとしたが何か衝撃を受けて後方へ吹っ飛ぶ。

彼は空中で態勢を整え、地面に着地する。

 

 

「その勇気・蛮勇……真に素晴らしい。

 私と同じような資質を持つ者と出会え、狂喜の限りよ。

 だが今貴様とは、殺し合わなければならない」

 

「ああ」

 

 キリトはその言葉に肯定する。

実際そうしないと、先に進めない。

 

 再度彼らはインファイトを仕掛ける。

銀河騎士は本気を出したのか、見慣れない攻撃をしてくる。

 

 切っ先から光線を四方八方へ撃ち放ち、周囲の物体を崩壊させる『一閃:解』。

電撃を足元から噴出させる、『紫電』。

雷撃を剣状にし5本射出する、『雷靭:桜花』。

上記の雷撃の剣を多数展開し、大量に降らせる絢爛な剣嵐『雷靭:桜吹雪』。

連続攻撃からソードビームを出す、『明靭』。

空間を切り裂き、そこから必殺の極太光線を出す、『空靭:冥』。

剣にエネルギーを溜め、そこから竜巻を発生させる、『空靭:裂』。

剣にエネルギーを溜めて雷撃を纏わせ、回転切りを行う、『雷靭:螺旋』。

 

 全ての攻撃を、以前よりも更になめらかにつなげられていて、キリトは徐々に追い詰められていく。

通常攻撃以外の攻撃で使うのは、単発重攻撃の剣技のみ。

それ以外は死ぬ。

 

 また銀河剣士は鍔迫り合いではなく、ステップ回避から隙を見て攻撃する方法に変更している。

更にその片手にある盾で防いでは、カウンターをソードスキル[剣技]の発動タイミングに合わせて使用してくるので、

厄介極まりない。

しかもただの防御に、ジャストガードという概念がありプレイヤーの攻撃が全く通らない。

 

 このような事情があって、中々決着がつかない。

しかし徐々に相手の剣技に、隙があることに気が付いてくる。

結局相手もプレイヤーと違うようで同じ隙を持っている。

 

 プレイヤーはスキルを使うとクールダウンが発生して、攻撃後に隙が生まれる。

英雄は剣技を使っても冷却時間がないかわり、攻撃時の隙が生まれるという事になっている。

これらを踏まえたうえで、キリトは相手の隙を見て攻撃しちまちま削る。

 

最終的にこの剣士の撃破を完了する。

 

「ちまちまと……。まあよい、負けは負けだ。

 持っていけ」

 

 

 銀河最強の戦士は徐々に光り出して、ポリゴンの光を周囲に爆散させる。

そして砕け散ったポリゴンは、キリトの中に入る。

彼はメニュー欄上に表示されるものを見る。

 

『ギャラクティックナイト ソードスキル コンプリート』

『ハルカンドラ製レイピア オーバーロード』

『ハルカンドラ製シールド クロスエンダー』

 

 上記の物を無償で手に入れる事ができた。

さて彼はこのスキルを確認して、装備等の整理を行ってから新たに出現した台座に向かう。

台座は中央に出現。

 

「ふぅ……カービィ……」

 

 キリトは元の場所に戻る。

そこに誰もいないわけがない。

カービィとサチ。

彼等がいる。

 

「あ、キリト!」

 

 カービィが、彼の足音に気づいたのかぱっと顔を上げて駆け寄ってくる。

サチはその場に座り込んでいる。よく観察すればわかるが、目が虚ろで生気が宿っていない。

この事を感知するキリト。

 

しかしカービィに悟られない様に、顔を繕って彼等との再会を喜ぶ演技を行う。

 

「よかった!無事だったんだね!」

「ああ!」

 

 カービィはジャンプするが、キリトの身長の方が高いので届かない。

そこで彼は腰を曲げて、カービィとハイタッチする。

キリトは完全にロータッチだが。

 

「キリト、サチにも報告してよ」

「わっと、待ってくれよ」

 

 

 カービィは背を向けて、サチの下へ走り出す。

 

 

キリトを急かすがため、手をつないだまま。

 

 

故に中腰になりながら、カービィに引っ張られ走る。

 

 

カービィは徐々に、走る速度を上げる。

 

距離にして、まだ少し遠い。

 

 

サチはいまだに虚ろの瞳。

 

キリトはその様子に歯がゆい想いをする。

 

1プレイヤーとして、この世界から現実へ戻りたいと思い行動を起こした勇敢な者。

 

 

彼等の想いを踏みにじる、”彼等”に利用されるサチ。

 

 

お前たちはこんな事の為に、自分の身体を動かされたくはないだろう?

 

 

(俺は嫌だ。ならば猶更、ここで決める)

 

 エスカルゴンによる並列PCで、数手先を感じる。

その瞬間……。

 

 

「サチ、勇者様が迎えに来たよ―――」

「キリト、逢いたかった―――」

 

 

 いきなり生気が宿るその瞳。

そしてその笑顔。何かが宿っているとは思えない。

そんな想いが出てきてしまうが、キリトは躊躇わなかった。

 

 

敵は敵。

 

 

 

(会ったのは一瞬。だが、思い出は強烈だ。

 エスカルゴン達の努力は、決して無駄にしない)

 

 

 そんな想いで放った薙ぎ払い。

目標は二つの敵対勢力の排除と自己防衛。

 

 

エスカルゴンのPCで見ていたのは、サチの復活とその端麗な微笑みによる一時的な行動の束縛。

これらを見たキリトは『ドリームキャスト・ソードブレス』で、カービィが振り向き

サチが笑顔とその言葉を放った瞬間薙ぎ払った。

 

 

「あのさぁ……」

「……」

 

 

 カービィの肉体は、二つに掻っ捌かれる事無くジャストガードされる。

結界のようなものは、一瞬で展開されカービィに傷をつける事は叶わなかった。

 

 サチの頭が胴体と別れる。

頭はポリゴンと化したが、肉体が残っている。

 

 

サチの肉体はそのまま胸中央が膨らみ、そこから真っ黒な物体がサチの肉体を破裂させポリゴンとして散乱させながら出てくる。

 

 

「その程度の思惑、読めないと思ってるの?」

 

 一瞬の驚愕から失望へ、そして敵意を含むその歪んだ表情。

実にカービィと云える表情の豊かさに、キリトは奥歯をかみしめる。

 

 

 キリトはすぐに振り切った剣を、懐に戻して突きを放つ。

 

 

カァン…………

 

 

 乾いた音が、空間に響く。

 

 

 

 そして、『ドリームキャスト:ソードブレス』は砕け散り、虚空へ消え去る。

 

 

「あ……」

 

 

 キリトは驚愕する。

この世界の秘密にたどり着き、それを教えてくれた恩人の剣がはじけ飛んだという事に関してではない。

 

 カービィの右手に出現した、実体のわからない真っ黒なその武器にドリームキャストが弾かれた瞬間、

その武器に真っ黒な武器が纏う闇の靄が包み込み耐久値を一瞬にして抹消させた事。

 

これが何よりの驚きである。

 

 

「アハハ……キリト。

 マスターソード[創主の剣]を構えなよ。

 

 じゃないと、ボクのクレイジーソード[理壊の剣]に瞬く間に殺されるよ?」

 

 

 キリトは即座にカービィとの距離を離しながら、スローイングナイフでサチからでたリムラを破壊する。

そしてすぐに黄金色のマスターソードを出す。

 

クレイジーソードは、真っ黒な刀身に周辺に靄を出している長剣。

それを片手に持つカービィは、既に臨戦態勢を整えていた。

 

 彼の眼は据わっていて、そこにかつての温和で純真な優しい魔獣はいなかった。

 

殺し合いが始まる。

 

 




 鏡の世界が後少しで終わるので投稿。
UserAccessが+1されると、俄然やる気がでます。
そして、こんな妄想話に付き合って頂ける皆様に感謝を申し上げます。

 ……7万五千文字も情緒や恋愛もなく、盛り上がりもない話を楽しんでくださった酔狂な方々。
今後ともこの文字列を楽しんでいってください。

 それではまた足を運んでください。お達者で。


 


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6:鏡の世界 決戦2

9160文字です。


6:鏡の世界 決戦2

 

 

 境界にあつまり、ボス部屋に入ったプレイヤーは4人のプレイヤーだった物に反逆されながら、対応するボスを連携を以って撃破していった。

 

その中で一番困難と云える組合せ。

 

 

「それでは皆様。この塔の一番上までいらっしゃいませ。

 そこで社長との対話を許しましょう。

 この塔の番人を倒せない程度で、社長と面談できるなんて甘い話があるわけないではありませんか!」

 

 プレシデント・ハルトマンの秘書、スージーは黒の英傑連盟団の団長とシリカ以外を塔の一番下においていく。

スージーを捕えようと、サトシと趙雲が頑張るがロボットに搭乗され回避される。

 

「この塔の番人が待つ部屋には、それぞれの番人の名前と特徴が記載されております。

 もしその部屋に一人入れば、生死を問わず次の階層へ行けます。

 外周から飛んで行こうとしても無駄ですよ?

 

 大気圧にかまわず、重力を掛けておりますので下まで落ちます。

 では、健闘を祈っておりますわ!」

 

 甲高い高笑いをして、そのまま上層へ専用エレベータで行ってしまった。

茫然と立ち尽くすギルドメンバー。

しかし、直ぐに気を取り戻す。

 

「では、最初の門番はなんでしょう?」

「カブーラーですね。空中戦が予想されます。

 どう考えても、サトシ殿しか無理ですね」

 

 趙雲の質問に、諸葛亮が答える。

 

 サトシはリザードンという対空ポケモンを持っている。

一応アーロイやアスナも、機龍がいるが下手するとオーバーヒートで死ぬかもしれないので選択肢にない。

それ以前に機械獣はおらず、プレイヤーのみの転移なのでプレイヤーが頑張るしかない。

 

「俺の出番か。ちゃっちゃと倒してくるよ。皆、上で待っててくれ」

「ええ。サトシ、勝ってきなさい。副団長として命令します」

「わかった。6匹同時戦闘するよ」

 

 サトシは真っ黒な入り口を潜り、中へ入っていく。

 

 それを見届けた皆は、解放された次の層への扉を通る。

残るは、アスナ・アーロイ・エギル・リズベット・趙雲・諸葛亮・月英。

 

 

 

しかし彼等だけではない、そこに転移してきたDDDも加わる。

 

「お、お主らこんな所まで進んだのかゾイ!?」

「DDD……皆門番に突撃していったわよ」

「何ィ!?ならばわしも参加させろ!このワシの秘技を魅せつけてやるゾイ!」

 

 と、DDDが転移してくるころには、アスナとアーロイ以外は門番に突撃していた。

基本的に二人を配置して、生存率を上げた。

 

 

 カブーラーはサトシ。

 

「さっさと終わらせるぞ。ピカチュウ・リザードン・ピジョット・オオスバメ・ムクホーク・ファイアロー!」

 

 空中に投げ出されたサトシをリザードンが回収。

そしてサトシが投げたボールからは、今まで捕まえたポケモンたちが呼び出される。

全てが歴戦の猛者だ。

 

ピカチュウの十万ボルトが、戦闘開始を告げる鐘の音となる。

 

 

 ウィスピーボーグは、エギルと諸葛亮。

 

「機械と近接といや、俺と孔明の組み合わせが最高だな」

「ええ、エギル。近接はパリィで弾き、私の遠距離斬玉属性で削ります」

 

 機械化されたウィスピーウッズは、彼らの目の前にそびえたつ。

繰り出される攻撃は、全てエギルに弾かれ怯んだ隙に諸葛亮のビームに貫通される。

 

 

 強化量産メタナイト・ボーグは、趙雲。

 

「メタナイト殿は防御が薄い代わりに、機動性と攻撃性に長けている。

 この機械化で、機動性が失われていれば、私の勝利は確実に近づく」

 

 機械のアームで連れてこられるメタナイト・ボーグ。

更にそのアームに乗る、何時しか別れたメタナイト卿が合流。

此れには呆ける趙雲。しかし、メタナイト卿の物量在庫処理戦闘の話を聞いて、

気を引き締めることになる。

 在庫処理でも、データを取ってあったのだ。

故に完封されるしれないということ。

 

彼等は駆ける。

 

 

 全中ボス・雑魚ラッシュは、月英・リズベッド。

 

「連戦だけど、まあ基本は月英の無双よね」

「そうですね。というわけで、今回はとっておきの兵装にしました」

「へー、どんなの?」

「A-10A,B-1,B-52です」

「よくわかんないけど、さっさと終わらせましょ」

「わかりました!」

 

 雑魚や中ボスを、戦車や爆撃機で一掃する準備に入る。

きっと一番早く終わるパーティだろう。

 

 

 ホログラフ防衛システムズは、アーロイとアスナ。

 

「基本的に描写して攻撃してくるらしいから、アーロイは私がタゲ取っているときに攻撃して。私も頑張って攻撃するから」

「私はいつでも構わないよ」

「そんじゃ、手加減無しで!」

 

 ホログラムを描写して攻撃してくるが、アスナの攻撃・アーロイの牽制等でAIを混乱に陥れ勝利を続ける。

 

 

 クローンDDDはDDDが担当する。

 

「DDDはワシ一人で十分ゾイ!偽者は引っ込んどれ!」

 

 DDDはドリームキャストを装備し、敵を撃破していく。

動きが単調なので、攻撃パターンが一瞬でわかる。

おかげで、直ぐに解決することになる。

 

 

 戦闘を早急に終わらせた月英組は、スージーの部屋へと進む。

スージーはロボットの分厚い装甲に守られている。

どうみてもダメージを加えられると思えない。

 

それでも明日の希望の為、彼女らは戦う。

 

スージーの近接攻撃は、リズベットのタンク性能を使って牽制する。

そして部屋を使った突撃攻撃は、チクチクとダメージを蓄積させていくのに便利だ。

最後には月英の無双攻撃が牙を剥く。

 

 戦略爆撃機共の爆撃が、スージーを襲う。

一瞬でHPを吹き飛ばした。

 

これで塔の一番上に来る。

 

 

 この場所に最初に入り込むのは、趙雲とメタナイト卿だ。

他の皆は戦闘している。

彼等は強化量産メタナイト・ボーグに梃子摺った結果、皆と足並みを崩してしまった次第だ。

おかげで彼らは社長と面談できる。

 

「というわけで、我々を外に出していただきたい」

「ハハハ、出せるわけがないでしょう!

 ここで君たちはワタシの研究材料になるのです!」

 

 

 この言葉を聞いた瞬間、メタナイトは説得することなどできぬと、趙雲を通してギルドパーティに報告した。

そしてプレジデント・ハルトマンは、自分のロボットに搭乗し趙雲やメタナイトへ攻撃を開始する。

 

趙雲は出てくる雑魚を、チャージ攻撃等で蹴散らした。

メタナイト卿は、持ち前の機動力で回避しハルトマンに反撃する。

 

敵のHPゲージが半分になると、彼のCEOはプラチナのロボットから黄金のロボットと合体する。

 

「充分に貴様らのデータは取らせてもらった。

 よって、ここで死んでもらうのであーる!」

「ふざけるな、ハルトマン!」

「早めに降伏しろ!」

 

 動きが遅く威力が低い爆撃を回避したり、ジャストガードで防御する彼等にはハルトマンは非常に簡単な敵だ。

きっと群雄割拠で叛乱を起こした農民の方が強いだろう。

 

 ハルトマンは全く攻撃が当たらない事に憤慨し、何かを取り出し被る。

 

 

「こうあっては仕方ないのである!わが社の最高のマシン、マザーコンピュータ”星の夢”を使い、お前たち原住民を殲滅するのであーるぅぅっ!」

 

 黄金のロボットを自爆させ、自分自身が座る椅子を操作し星の夢の操縦席に座る。

そしてアミュスフィアのような輪っかを出して、自分の頭に装着する。

するとハルトマンは、何か様子がおかしくなる。

 

「……ワタシハ”星ノ夢”。

 ゼロのフッケンとイウ「ネガイ」のタメ……。

 プレイヤーと英雄を排除スル」

 

 星の夢の眼となる場所が黄色く光ると、趙雲とメタナイトの目の前に何者かが亜空間から召喚される。

 

「クローン”項羽”、劣化レプリカ”ギャラクティックナイト”。

 ソノモノをコロセ」

 

「カシコマリマシタ」

「……」

 

 四面楚歌で有名な戦で、騎馬50騎以下で縦横無尽の無双を行った項羽。

 亜空間から結晶で封印させていた、銀河最強の戦士ギャラクティックナイト。

 

 事実上抗戦可能、勝利確立0に近い敵の登場にメタナイトと趙雲が驚愕する。

だがそれでも抗わなければ、皆が死ぬ。

 

「ショウリ確率は1.4%もアル。コノ不完全なケッカをウミダサナイため、

 戦力をツイカする」

 

 わずかな希望をも消し去る星の夢に脱帽する。

この圧倒的戦力さに、一欠片の勝機を残してはいけない。

「願い」の完遂のため、全てを破壊する。

 

「『願い』はカンスイサレタ。コレヨリ、カンパニーのハンエイとイウ「ネガイ」のタメ、不完全で脆弱ナ生命をハイジョスル。

 

 ホロビナサイ」

 

 そういうと星の夢は、このステージの天井を解放し飛び出した。

 

「ボス部屋は途中参戦が可能だ。

 ここは私に任せて、メタナイト殿は追ってくだされ。

 戦艦を持っている事は承知しております」

「感謝する。あの星の夢は、逃してはいけない」

 

 趙雲を一人残し、メタナイトは星の夢が出て行った天井にマントを羽に変え、羽ばたいて飛んでいく。

そして外部で、エスカルゴンに渡されたスイッチを押す。

すると亜空間から、対空砲や主砲・副砲を追加された『戦艦ハルバード』が出てくる。

既に機関が動いており、アイドリング状態で宙に浮かぶ。

 

 メタナイトはすぐに管理者権限を使って、艦橋へ向かう。

そして舵を切り、星の夢が向かって行った方向に向かう。

星の夢はドリームエナジーを航路に残して行っている為、この戦艦で追跡できる。

 

戦艦はアフターバーナーを噴射し、フルスロットルで敵を追う。

 

 

 ところで取り残された趙雲だが、今現在項羽とギャラクティックナイト・ダークマター・クィンセクトニアに追い回されている。

三國無双5の槍に交換し、自分の行動を5の機能にする。

これにより、背後からの攻撃でも防御できるスキルが発動し、ダメージを受け無くなる。

 

チャージ攻撃という強攻撃は、防御を弾かれ無防備になるので攻撃前に緊急回避を行う。

これを行うと自分が立っていたところに、微弱な竜巻が発生し敵をひるませたり若干のダメージを与えられる。

 

もしも項羽に三國無双3呂布のチャージ攻撃1ばりの攻撃を受けそうになったら、

槍攻撃の強攻撃をしかける。

 

 この攻撃は掴み攻撃で、相手を槍の掴み攻撃の餌食にできる。

パワータイプは威力が総じて高い代わりに、隙が大分でかい。

故にこの隙に、何かしら行う事でダメージを軽減できる。

 

項羽は三國無双に忠実だが、他の敵は星のカービィに忠実だ。

 

 攻撃してもひるまないし、攻撃を中断しない。

掴みも意味ないので、回避に回避を積んで隙を見る。

3Dアクションと2DアクションRPGだと、勝手が違うので項羽とカービィキャラの攻撃回数のギャップに焦る。

 

 項羽は本当に、隙を見つけて攻撃してくる。

カービィ達は、接触するだけでダメージがあるので、なるべくかさなりあわない様に気を付ける。

 

 

こうやって隙をついて、時間を稼いでいると援軍が来る。

 

 

 その援軍が来た瞬間、カービィキャラの攻撃パターンが変化する。

今まで猶予が与えられた攻撃の回数や移動が、一気に無制限と化して3Dアクションゲームの様に攻撃してくるようになる。

 

趙雲が待ちに待った援軍は、アスナとアーロイ。

つまり、プレイヤーがフラグになった可能性がある。

 

 ただ別ゲームのアーロイがいるので、そこは不透明である。

それでも基本的にプレイヤーが、このゲームの中心を担っているのでフラグという意味では十分なのではないだろうか。

 

「趙雲さん、耐えてます!?」

「ええ、丁度いい時に来てくださった!」

 

 後ろから聞こえる声に耳を貸すが、顔は向けないで目の前に集中する。

絶賛項羽と鍔迫り合い状態。

 

その状態だと無敵だが、鍔迫り合いが終われば無防備になる。

だから何とかしたいが、確実に趙雲が負けて居る。

それを察知したのか、二つの爆炎が二人を包む。

これによって、趙雲が無防備になる瞬間、敵側の追撃が当たる心配はなくなった。

 

 爆炎はアーロイとアスナの弓攻撃だ。

これによって爆発と爆炎・爆風が発生し、カービィキャラを後退させられる。

だが後退させたのは、二人だけ。

 

 

一人は盾で防ぎ、そのまま鍔迫り合いに負けた趙雲を、項羽の攻撃と共にソードビームで攻撃する。

 

「ぐっ!」

 

 攻撃されたが、項羽の攻撃が吹き飛ばし系だったので、ソードビームは目標地点から反れて掠りダメージとなる。

趙雲は空中で、態勢を立て直す。

ノックバックが強いおかげで、アーロイ達と合流成功。

 

「ショウリツ、0.1%。疾ク死ネ」

 

 項羽の機械的な言葉には、威圧感も生気も感じられない。

軽すぎる言葉と圧倒的な武力を兼ね備えた、最強のバランスブレイカー。

 

「私が後方のカービィ世界の敵を相手取るわ!

 アーロイはフォーカスで情報収集。

 趙雲さんは、そのまま項羽のタゲを取っていてください!」

「アスナ、負けるなよ!」

「わかった、そっちは任せる!」

 

 二人の信頼の言葉に、アスナは微笑んで前を向き突っ込む。

彼女は第一層からキリトに褒められて、伸ばしてきた戦闘の才能がある。

『リニアー』を筆頭に、細剣スキルの大半が他プレイヤーよりも速く釼先が見えず、敵が回避行動をあまりしないという

バグすら発生してしまっている。

 

 アスナはSPDとPOWを中心に上げたステータスで、その才覚を如実に発揮できるものになっている。

適度な武器性能と攻撃速度の上昇。

これ等は常時目まぐるしく変化する戦場で、非常に大切なものとなる。

AGIも大切だが、とっさに反応しそのまま攻撃に移行できるのは強みとなる。

 

 更にそれが戦場の全体把握ができる人物であれば、非常に役立つ。

御蔭で趙雲は項羽の不意の一撃から、何度もアスナの突き攻撃による割り込みに助けられている。

 

 アスナも例外なく、趙雲の力とアーロイの器用さに助けられている。

趙雲の鍔迫り合いの勝率は高く、基本的に押し負けることはない。

アーロイは『フォーカス』で収集した情報を元に、弱点となる1ミリ以下のあたり判定でも撃ち抜くことができる。

実際ギャラクティックナイトは、脚を貫かれ行動に関して制限がかかっているようだ。

 

 さて、項羽は騎馬無しの大きな戟が武器。

ギャラクティックナイトは、片手レイピアと盾。

クィンセクトニアは、双レイピア。

ダークマターは、片手剣。

 

 

 ダークマターを見て思い出すアスナは、『ドリームキャスト:レイピアビート』を取り出す。

それを片手に、他の敵を無視してダークマターを攻撃する。

しかしその手か何かの部分に握られている、虹色の剣から放たれるビームは少し掠っただけで多くのHPを削る。

そうであっても尚、副団長という立場と矜持により彼女は臆せず、動きが無駄に鈍い敵を葬り去る。

 

 結局何時間もかかって、救援に来たサトシのリザードンのオーバーヒートで焼却して勝利した。

 

 

 

 所変わって、ここは宇宙。

メタナイト卿は、『戦艦ハルバード』に乗って『星の夢』の後を追っている。

何度か砲撃や爆撃を通して傷を一か所にぶつけていると、戦闘に関する優先順位を上げさせて時間稼ぎを開始する。

 

 ハルバードは改修されて、砲台が倍増。

おかげでタゲ取りも、比較的容易になった。

他にも機動性の向上・弾速等戦闘能力の増強・・・。

 

 エスカルゴンによる量子PC搭載や流体元素による船体修復機能の追加は、不沈戦艦と云うに相応しい不死身さを魅せつける。

星の夢も光弾を射撃してくる。

それでも回避したり、攻撃して溜めたエネルギーで『大型星攻撃[スターストーム]』を放っている。

 

 この攻撃は、星の夢にダメージを大幅に与える道具だと思っていたが、そんなわけではない。

攻撃して露散したエネルギーを吸収して使っているだけで、ハルバードだけが使えるエネルギー攻撃ではない。

 

 

よって、重力攻撃を行う星の夢は、その時だけ周囲に拡散されたエネルギーを再吸収する。

再吸収されたエネルギー砲は、戦艦ハルバードといえど耐えきれるようなものではなかった。

しかし太く超射程でればあるほど、機動力があるハルバードは無傷で回避できる。

 

 

 しばらく攻撃をしていると、敵のHPバーが三分の二になる。

この時が境界となる。

 

 量子PCによる、画像認識自動照準・自動射撃装置・射線補助装置・自動再装填装置。

流体元素を使用した、船体補修・機関燃料等必要物資再構成。

ドリームエナジーで、敵攻撃妨害・防御・歪曲・空間的阻害・亜空間ゲート生成。

 メタナイト卿は操縦桿を握る事で得られる感覚的情報で全てを把握し、

敵から放たれてくる様々な攻撃を回避する事だけに専念できる。

 

 後少しで撃破できると彼は思うのだが、いかんせん弱すぎる。

こんな奴が全生命体を滅ぼせるのか、ありえないんじゃないかと思う。

 

 

ビービービー

 

 短波電子警告音が、彼の思考を現実へ戻す。

 

<謎の飛翔物体がこちらに接近中。

 そのうち一つは、星の夢に明確な敵意を持っています>

 

 脳内と艦内にそれが響く。

 

 彼は訳が分からなかった。

そんなちょっとした困惑の時、ハルバードの重力子砲[ヒッグスカノン]が周囲の隕石を襲い、星の夢に隕石を中てる。

これでHPバーが0になる。

 

 

 星の夢は爆散し、そのまま沈んでいくが途中何かが星の夢に攻撃を加える。

画像認識とドリームエナジーによる全生体脳内記憶投射で、この者がギャラクティックナイトだと判明する。

意思の一つとして、たかが機械に座興でよばれたのが気にくわなかったということだ。

 

 

 その星の夢はもう一つの未確認飛行物体の上部から合体する。

 銀色の球体。

此れが何なのか、星の夢の記憶媒体にアクセスしてみたが情報は開示できなかった。

大量のバグで、全てがちぐはぐだったからだ。

 

(……星の夢。考えられるのはあいつだが、本当に可能なのか?)

 

 一つの予感が、彼の思いに一筋の光を示すが杞憂に終わらせる。

 

 ずんぐりむっくりな敵を、射撃したりセルウィングで緊急回避することで確実に攻撃を加えていく。

ダメージは受けない。

それぐらい攻撃に対しては、このマルチレンジ砲が役立つ。

 

 銀色の皮を剥がしていくと、黄色の機体が見え始める。

 

「あっ」

 

 

 メタナイト卿は何かを察したというか、もう既にわかったようなものだ。

 

彼は来る全ての攻撃を破壊・吸収する。

 

時間が結構かかったと思うと、彼の後ろにあるワープゲートが起動する。

 

 

「よっと、メタナイト、元気か?」

 

 この声は……無事突破できているようで、なによりという人物だ。

その者はアーロイ。

民族衣装に身を纏う女性で、非常に心優しく男勝りな人物だ。

 

「ああ。他の皆は?」

「そろそろ来るぞ?」

 

 そういってアーロイがいうと、更に起動音が激しくなる。

ワープゲートから出てくるのは、他の黒の英傑連盟団達だ。

彼等が無事だったことに関して、メタナイト卿は安堵するとともに確実な一手を手に入れる。

 

「皆が来たが、やることはあるのか?」

 

「ある」

 

 アーロイは彼に聴く。

すると彼は頷く。

話によると、敵の撃破の瞬間にクラックし吸い込ませるから、皆は星の夢を内部から破壊してもらいたいということだった。

この案は結構危険……というか、今までの事を総合してこれしか確実な停止方法はない。

だからハルバードに彼は残ると言って、皆を送り出すことに決める。

 

「いいのか?経験値は少ないぞ?」

 

「艦長は待つのも仕事だ」

「その意気やよし。皆、最後はカタパルト射出による、宇宙航行だ」

 

 アーロイの言葉に、仲間皆は頷く。

だが副団長様は、ここで頷くほど馬鹿じゃない。

 

「帰りは?宇宙空間での呼吸は?」

 

「ドリームエナジーで、君たちの存在を一時的に概念化する。

 これで呼吸の必要はない。

 それと使った影響で、ドリームエナジーの強い波長が発せられるようになるので、

 そこにワープゲートを作る。

 これで帰還方法も確立だ」

「わかったわ」

 

 重力操作で、どんなに荒い運転や機動しようが、地球の上に立っているだけのような安寧を与える。

この場で敵の皮をはいで、金色の身を曝け出させた。

この次の攻撃、風見鶏・電球・鍵盤・懐中電灯・時計・コンパスを全て終わらせる。

 

この攻撃の最中、ハック攻撃を仕掛け思考の一部を占拠しにかかる。

 

 なんとか終局までに、完遂したようだ。

ハックして操縦できるのは、行動の一部のみ。

 

 

「皆、行くぞ!」

 

 黒の英傑連盟団とDDDが、甲板にでる。

重力子砲から、ドリームエナジーが投射され彼等の身を包む。

そして一気に星の夢に突撃させ、その星の夢自身にも吸収という内部誘致を実施させる。

 

 皆は真っ黒な空間を突き進む。

ハルバードは厳戒態勢で、周辺を漂う事になる。

敵となる不完全なギャラクティック・ノヴァの、表面上の停止が確認された。

 

 

 ノヴァの機内に侵入したアスナ達は、暗闇の中立ち上がる。

すると機内に光が灯される。

 

そこには宙に浮く基盤やコアと思われるheartがある。

 

 

「最後の敵は、ハルトマンの記憶と星の夢の命!

 行くわよ!」

 

 記憶と名前の事は、メタナイト卿からの情報提示やフォーカスで暴いた情報から抜き出した。

この瞬間から、抗戦が開始される。

最初に行うのは、メモリーの破壊。

 

 heartからの妨害があるが、ハルトマンの記憶や心が自身の行動を束縛しているとおもっているらしい。

だからこれを無くすことで、奴の行動指針を破壊し命令系統を混乱に陥れる事で星の夢を破壊できるという。

 

「このワシが直々に、引導を渡してくれよう。ほれ、行くゾイ!」

 

 碧色のメモリー基盤を、鬼殺し火焔DDDハンマーでぶっこわす。

最後のメモリーだったのか、heartを守っていた結界がなくなる。

それと同時に、二つの光がその場に出現する。

 

これには一部の者の足が止まる。

 

「キリト君?シリカちゃん?」

「アスナ、あれはキリトではないな」

「アスナさん、あれはシリカじゃない。たぶん、レプリカってやつだ」

 

 アーロイは攻撃を抑えようとしたアスナに聲をかけ、シリカ達の姿見を鑑みて今までの情報を汲んでレプリカと見当がついたサトシはアスナに忠告する。

 

「ゲッコウガ、水の波導!」

「コウガッ!」

 

 試しに灰色なキリトとシリカに、水属性の技を放つ。

すると攻撃は当たり、敵としてのHPバーが三段出現する。

 

「秘伝、流星陣!」

「喰らえ!」

 

 月英の流星攻撃、趙雲の槍投擲が彼らに向かう。

しかしキリトは一薙ぎで、流星を全て吹き飛ばした。

シリカは片手の短剣で、槍を弾く。

 

 表情は何も変化しない。

これで皆心を固める。

 

本当にただのレプリカだと。

 

姿見だけで、なんのこだわりもないモノだと。

 

だから、一瞬で終わった。

 

「やはり、現代爆撃機は最強なのです!」

「ドハハ!諸人よ、何者にもならん奴をメッタメタにしてやるゾイ!」

 

 レプリカは現代兵器にやられた。

圧倒的制圧力。これに限る。これしか知らないが。

 

 結局、コアも抵抗らしい抵抗はなかった。

最後のあがきもあったようだが、帰ろうとして概念化した彼等にその攻撃は通用せずそのまま爆発した。

 

 

「あっけなかったわね。そんなに攻撃してないし」

「経験値が多かっただけのようだな」

「そんなこともあるだろうさ。さあ、メタナイト卿が待っている、帰ろう」

 

 ドリームエナジーによって概念化した彼らは、ゲート回収でなくそのまま口から出ていく。

盛り上がりに欠けるが、今回の目的はダンジョン攻略だ。

 

こういう盛り上がりの欠けも結構あった。

今では懐かしい位前だが。

 

「さ、帰りましょう」

 

 

 LAドロップ品、星の夢。

入手者、リズベット。

 

 




 6話が本当の意味で終わったので投稿です。
次は解章か、本編の7話が終わってからになります。

 私の与太話を拝見して頂き、誠にありがとうございます。
10万文字の妄言をひたすら語る私は非常に滑稽でしょう。
ですが、始めてしまった事は、本編だけでも終わらせるつもりです。

 これからも、この文字列を楽しんでいってください。
 


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6:鏡の世界 決戦3 VS影キリト

6365文字です。


6:鏡の世界 決戦3 VS影キリト

 

 基本的なボス戦が行われている最中、ある者はその拉致した存在をまじまじと見つめる。

 

 

「ククク、矢張リ……貴様の四肢ハ美しい」

「何を馬鹿な事を云っているんですか?」

 

 短剣を振るう。

しかしその者は、一瞬でその場から退避する。

そして再度接近する。

 

 まるで美しい彫像を見る芸術家のような動きだ。

ただなんというか、動きが気持ちが悪い。

影キリトの姿を借りているというのに、気持ち悪い。

 

「して、シリカよ。我のモノにナラヌか?」

「いやです」

「何故?」

「私にメリットがない。それに勧誘もソレだけですよね。

 私が頷くわけがないでしょ」

 

 ツインテールの少女シリカは、今までずっと観察されては口説かれていた。

しかしどう考えても、影キリトを切り捨ててシリカを乗っ取るとしか聞こえなかった。

 

この言葉は頷けない。

 

理由は複数あるが、一番の理由はポケモンを操られること。

 

 

 彼女が持っているのは、デルタ化だけではない。

やぶれた世界の主ギラティナに指示できるのは、アルセウス・サトシ・シリカのみ。

この世界には、今の一万人のプレイヤーが抗えない物量と質がそろう伝説や神のポケモンが多くいる。

その為、デルタ化・ポケモンの総攻撃は避けるべき問題だ。

 

 それにシリカもアルセウスとユニゾンする。

デルタ化とユニゾンをされたら、実質勝利できるプレイヤーが皆無と化す。

これはだめだ

 

非常にあかんことになる。

 

 

(この人?は何を考えてるんだろ?

 私のデルタ化ねらいだろうけど、何が目的?

 喋ってくれるかな?

 ふっかけてみよう)

 

「あの~、私を乗っ取って何するの?」

「……”アルセウス”ダ。あのモノトの神化統一は、トテモスバラシイ!

 コレを使えば、この世三千世界を我ガ手中に収められる!

 故ニ、あの糞ウザゼロをぶっ殺せる!」

 

 つまり、ただの反逆行為。

 こんな稚拙な理由で、私が利用されるの?

いや、稚拙じゃなくても、これは許しがたい。

 

 シリカはそのように考える。

 

 

 彼女はピナに指示を出して、影キリトにダメージを与える。

 

 

「交渉決裂カ……わかっていたツモリだが……致し方あるまい。

 実力行使で乗っ取ってクレる!」

「ピナ!」

「オオオオオ!!!」

 

破壊光線が奴に中るが、効果が無いように見える。

 

「効かぬ、効カヌ!」

 

影キリトは、今まで真っ黒だった瞳を真っ赤に燃やして、片手剣で攻撃してくる。

攻撃は単調で、第一層のプレイヤーが行う左右のホリゾンタル攻撃しかしてこない。

 

 シリカはこの事に少し感づく。

あの影のメタナイトから影キリトに乗り移ってから、そんなに時間が経過していない。

つまり体がその影に、適合していないと考えられる。

 

<シリカ。一度、あの者の眼を攻撃してくれないか?>

 

 イヤリングとなっているアルセウスが、彼女に聲をかける。

彼女はその狙いにハッとする。

影キリトは基本的に黒色だが、一か所だけ赤い。

それは左の眼だ。

 

 敵の正体は不明だが、攻撃する価値がある。

その提案の中に、もう一つこの不思議な状況を打開するアイテムがある事を告げる。

 それは『ドリームキャスト:ダガーハンド』。

ダークマター族に大ダメージを与えるそれを、『フラッシュチェンジ』という武器高速換装スキルで今現在の武器を変更する。

そして目に突き刺す事で、何か確証を得られるのではないか。

 

このようにアルセウスは、彼女に作戦を推す。

 

(わかりました。ダガースキルの『シェイドスラッシュ』で仕掛けてみます)

 

『シェイドスラッシュ』は、最初の攻撃を囮に使い後の攻撃を本命とする。

フェイントをかけられた敵は、最初の攻撃が囮と気づかないで迎撃する。

そして攻撃を防御した敵は、再攻撃が可能な相手の腕の動きに自身がついていけなくなり攻撃を受けてしまう。

そんな技だ。

 

 

 彼女はピナに攻撃させる。

『神速』で近距離攻撃。これを迎撃しようとした影キリトは、そのまま攻撃する。

ソードスキルは未使用。

次にシリカの『シェイドスラッシュ』。

 

 影キリトはピナを打ち払った剣に、ソードスキルをかける。

しかしその剣技は、囮に引っかかってしまい空ぶってしまう。

おかげでクールダウンが、敵に攻撃が当たる筈の抗力の分の時間が重なってしまい長くなる。

その間にシリカの本命が、『フラッシュチェンジ』で換装して影キリトの眼に突き刺さる。

 

「ぐあぁァアアああァァアア!!!」

 

 攻撃してきたシリカに、急激な攻撃を彼の者は仕掛け後退する。

攻撃を仕掛けられた彼女は、何ともなっていない。

実質高レベルボスに、たった一人で戦っているのと同じなので、

どんなにせこいことでもやる。

 

 ちなみにこの攻撃を守ったのは、空間的な防御だ。

今彼女の肉体は、別の位相空間にいるので攻撃等全て効かない。

 

 

「……」

 

 

 影キリトは苦しみ、一時的に何かが外に出てくる。

そのナニカは不定形であった。

しかし徐々に形を成していく。

 

 

 その者は、星型になる。

いや、黒いヒトデと云った方が良いか。

そのヒトデの中央に、真っ赤な瞳が出来上がる。

 

「ククク……我を直接攻撃するとは……やるではないか。

 ますます欲しくなってきたぞ!」

「欲しくなっただけですか?自分の力で奪ったものでもないくせして、

 いまだに欲しがるなんて子供みたいですね」

 

 シリカはこの空間に誰も仲間がいない事をいいことに、相手を煽っていく。

 

「黙れ!我が宿った肉体は、全てにおいて凌駕するのだ!

 故に肉体の本来の力を引き出している我は、その肉体が行った事全てが我の功績なのだ!」

 

 ヒトデは咆えている。

ピナが攻撃したそうに唸るが、シリカは頭を横に振ってピナに攻撃禁止命令を出す。

流石に主に何かの考えがありそうなので、此処は引き下がっておく。

 

「へぇ、貴方の功績ですか。成功はともかく、失敗もですか?聞き分けの良い子ですね」

 

「違う!成功は我が居たことによる成果だ!失敗はこの肉体がそれほど弱かっただけで、

 我のせいではない!偉大な我がいるからこそ、全ては成功となるのだ!」

「まるで負け犬の遠吠えですね。

 自分の負けの部分を認めないなんて、子供でもできますよ?

 逆に負けを認め、向上心を得ることは誰でもできます。

 それすらできないなんて、確かにあなたは全てにおいて負の面で凌駕してますね」

「小娘め!言わせておけば!」

 

 ヒトデは再度影キリトに入り込み、片手剣での攻撃を行う。

しかしシリカやピナに、それらの攻撃は当たらずすり抜けてしまう。

彼女はそのヒトデに対して、苦笑いと共にふつふつと怒りが湧いてくる。

だが我を忘れさせるために、ここは敢えて感情を抑えて置く。

 

「あたりませんよ?」

 

 そういうと彼女は、影キリトの鳩尾を捻り上げる。

 

「ごがあっ!!?くそっ、なんて脆弱なんだ!」

「じゃあ、その身体を脱ぎ捨ててみては?」

「ふん!こんな弱いモノ等、壊れるまでこき使ってくれる!」

 

 そういって威勢を張るのはいいが、全く攻撃が効かずシリカに反撃ばかり受けてしまう。

受けていると影キリトの偶像は、徐々にほころびが見え始める。

 

「な、何故だ!我は至高!最強だというのに!」

「私に攻撃を与えられず、右往左往してますね。

 私を簡単に手に入れられると思っているのですか?

 自分自身の負ではなく、正を受け入れられない腑抜けでありヒトデなしな貴方が、

 人である私に勝てるとでも?」

 

 彼女は思考する余裕をもって、人でなしなヒトデと会話する。

既に対話に移行してあるので、ヒトデは消え去る運命にあるようだ。

 

「負こそ、我の得意分野である!要らぬものを受け入れる余地などないわ!」

 

 そういいつつ攻撃を受ける。

影キリトは徐々に、肉体をポリゴンへ変化させていく。

まだ残っている部分もあるが、胴体は既にキリトの象形を保っていない。

 

「好き嫌いしてちゃだめですよ、おぼっちゃま。

 それとも赤ちゃんですか?まだまだ精神も体も赤ん坊ですね~」

 

 にこやかに影キリトをぼこる女の子。

普通に見ればありえない風景で、ギャグっぽく見えるが……。

命が常にかかっているので、かなり真面目だ。

 

「貴様、まだ我を愚弄するか!生娘の分際で!」

「それでも、貴方よりも年上ですよ?生まれたての赤ちゃん♪」

「糞老婆が!母屋でうら若き過去に未練を残し、そのまま先細りになって死に絶えろ!」

 

 彼女は少々いらだったが耐える。

 

「ピナ」

「グル」

 

 ピナの破壊光線は、影キリトに衝突するがあまり効いていないようになった。

 

「ふはは!我も同じ様になってやったぞ!これで、我も貴様も同等よ!」

「そうですか。それでも、元の三次元に戻れますか?」

「フフフ……当然ではないか……我は全知全能な神である!ガハッ!?」

 

 影キリトは苦しみだす。

腹を抑え、肩を抑え、首を抑え……苦しみもがきだす。

彼女は何もしていない。

 

「馬鹿なんですか?影はもともと2次元ですよ?

 ですから、わざわざ同じ位相になってあげたのに、拍子抜けな強さですね。

 当然です。それが自然の摂理なんですから。

 そもそも相反する存在を、その身に身に着けていない時点で貴方の負けは確定でしたよ」

「な、何故だ!どこで我は間違えた!」

 

 彼女は既に相手を見下すようになった。

自分の存在の定義を知らぬ者が、やっと自分の存在の形を知ったのにまだ勘違いをしている。

その態度が気に食わなくなったのだ。

 

怒り心頭・堪忍袋の緒が切れる程ではないが、確実な殺意をこの影キリト内の人でなしに向ける。

 

 わからずやであるヒトデは、その明確な殺意に身に覚えがない。

この状態であたふたしている影キリト。

 

「……確かに貴方は脆弱であり矮小です。

 答えを知れば知るほど、自分が小さく見えるでしょう。

 ですので……答えを知らず、無念を抱きここで消えろ!」

 

 

「嘘だ、何故我が……ぐああああああ!!!」

 

 

 何もしていないのに影キリトは苦しみだし、その存在を抹消する。

ポリゴンとなり散った影キリトだったものは、そのまま異空間へ消える。

少しすれば、今のキリトは完全体になるだろう。

 

 

 [さて、ここでヒトデ……ダークゼロがやられた理由について語ろう。

彼の者が影キリトに憑依したのは予想外だったのだ。

本来はシリカの神化統一を利用した、三千世界の支配をする筈だった。

 

 その為、その手違いや焦りで、影キリトと自身の繋がりが弱かった。

更に憑依したてや負が好きな影に憑き立ては、肉体の全体把握ができていない為非常に弱い。

何せヒトデから影メタナイト、影メタナイトから影キリトだ。

一頭身、二頭身、三頭身と変化したのだから、非常に脆弱だった。

 

 ただ逃げ出す為の脚・思考の頭・抗いの腕に関しては、大体同じなのでそんなに苦労はない。

それに飛翔ができるので、急いで逃げればあとでどうとでもなる。

 

 そんな事情の中、アルセウスがそれをヒトデが彼女を観察している間に見抜いたのだ。

その為ダメージを鳩尾あたりに集中して、外部へはじき出し再度中に入ってもらう計画にした。

ここまで書くと、強化につながると思うだろう。

だがこれは大きな間違いである。

 

 負は脳内で描かれる電子信号そのモノだ。

それが影という確立した物体の中にはいれば、影キリトという人物が出来上がる。

この時点で影キリト=ヒトデ(ダークゼロ)という式が出来上がる。

 

 また影はどのような状態であろうと二次元である。

それを踏まえ、煽りに煽って自身を見失わせ、シリカ自身と同じ状態になろうと頑張ったのだ。

頑張った結果が、二次元ではなく三次元内に存在する複素二次元(4次元空間)の内の複素直線の二つに分割したのだ。

 

 

 つまりダークゼロ(ヒトデ)は、自分を今まで同じ位相の平面に居たのに存在を二つに分けてしまったということだ。

今まで二次元であったので、強制的に原点を呼び込んで殴っていた。

彼女は不動で、影キリト(ダークゼロ{ヒトデ})だけが無駄に動き回っていた。

 

 だから彼女は正と負が交わった射影の一つである三次元のZ軸を呼び込み、

これを利用してZ軸(0,0,0)にきた、影キリトの肉体を殴ったのだ。

対して影キリトは二次元だ。(0,0)でしか認識していないので、たとえ(0,0,0)で攻撃しても当たらない。

何せその存在をしらないのだから。

 

 影キリトはデータ上は、同じデータっぽいものに黒のポリゴンをかぶせただけだがデータ的に平面である。

故に縦や横の存在は視認できるし攻撃できるが、奥行きは攻撃できない。

分かりにくいか。

 

 つまり……

ファミコンでゲームしていても、私たちはゲームを壊せるし作ることもできる。

でもファミコン側は、プレイヤーに自分の意思で攻撃できない。

 

 プログラムとかの問題じゃない。

彼等の世界は、XとYが自分の世界の全てだ。

だからそれ以外の世界(Z軸)は、全く知らないしあることすら分からないのだ。

 

 現実世界でいう力のベクトルが見えないのと同列だ。

 

 

 さて、ダークゼロ/影キリト/ヒトデが、生兵法で大怪我どころか存在をなくしてしまう前まで説明した。

そこで何故、二つにわけないといけなかったのか。

それは存在定義からになる。

 

 確立されたデータ的に、ダークゼロや影キリトは、平面情報をもっている。

だから確立したデータに、ダークゼロと影キリトを同列にして内部データの中で二つに分けた。

 

 

 どうみても情報が足りないね。

ここで一つ渡す情報があるが、キリトが本物にならないと消えてしまうという事実がある。

それは以前に書いたが、渡す情報というのは影キリトとダークゼロの取り扱い方だ。

 

 キリトが本物になるためには、影キリトを壊さないといけない。

しかしどんな状態であっても、影キリトはダークゼロと内部データ的につながっていた。

そう内部データだから、下手に扱えなかった。

そこで確立されるデータとして保管すればどうなるだろうか。

 

 そうすると、内部データという方法で扱える場所がでてくる。

 

 (別処理という方法もあるが、ここは既にカーディナルの域を超えているので万が一のための方法ということも含め、確定された安全な攻略方法である)

 

この内部データを利用して、影キリトとダークゼロという矛盾したデータを確立させたところから、別はもともとは違うんだという処理を行わせる。

 

 基本的にゲームは確立されたデータを以って、ゲーム再生に勤しむ。

この事から、ダークゼロは確立されたデータに則って言葉を発した。

これにより勘違いを発生させられた。

 

 もともと違うという内部処理やデータを使って、ダークゼロの別次元への転送を

パルキアによって別位相にしてもらったのだ。

 

御蔭で二次元平面のままで、ありながら複素二次元の平面という4次元の別情報を持った存在になってくれた。

 

 ゲームのクリア的に、このまま撃破すればいいが確立されたデータが既にビルドエラー不可避な矛盾を弾きだしている。

そこで影キリトというデータは、普通にボスになったという処理の中で普通に撃破扱いにする。

影キリトは別位相状態なので、ダークゼロ自身のデータには全く干渉しない。

これで撃破された影キリトは、そのキリトが何故真っ白なのかという矛盾を生み出したまま抹消する危険がなくなった。

 

 そして用済みのダークゼロは、その確立された矛盾データと共に亜空切断[強制break;]で破壊した。

結果影キリトは、元々ダークゼロという存在を補完することになってしまうが、

キリトが無意識のうちに現実からゲームオーバーするよりましだろう。

 

 そういうアルセウスの考えだった。

 

 纏め:ダークゼロと影キリトが一緒なので、別々にして別の処理を行わせて完全体キリトにしようという作戦でした。

]

 

「ありがとうございました、アルセウス」

<うむ。よき働きだった>

 

 アルセウスとユニゾンし、位相移動をしまくって煽りに煽った彼女はダークゼロに勝利した。

このまま元の境界に戻るのを待つことになる。

 

それまでサトシがアスナに教えたポカロンやポロックを、ピナ達に与えて遊ぶことにした。

 

 この場にアルセウス・パルキア・ディアルガ・ギラティナ・ピナが揃うが、

彼等の本当の恐ろしさを知るのは誰もいない。

 

 




 長時間スクリプト起動のおかげで、ハーメルンを開けませんでした。

 今回の話では、位相の話が出てきましたね。
これ等は動画説明を見て、10分で理解したものをそのまま使っています。
間違っていても突っ込まないでください。

 今回も非常に短いですが、お楽しみいただければ幸いです。


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6:鏡の世界 決戦4 VSカービィ

14672文字。


6:鏡の世界 決戦4 VSカービィ

 

 ガイィィィンッ

 

「クソッ!」

「開幕の威勢はどうした、黒の剣士よ!

 いや、白の剣士かァ?ハハハ!」

 

 キリトは不完全な中、境界であるセーフルームで火花を散らす。

結晶や光を放つ藻・草・岩等が合わさり、実に幻想的だ。

更に透明度の高い水や洞窟と思わせる鍾乳石が、周辺を彩り実に赴きがあって詩作りが盛んにおこなわれるだろう。

 

しかし、今では存在をかけた凄絶な戦闘を繰り広げるばかりである。

 

 

 『光刃』というエフェクトてんこ盛りのソードビームがある。

これをやると、『侵蝕』という技で返される。

此方は闇が蛇の様に動き、対象を喰らう技である。

 

「(どうにかできないか……どうにかッ……!)」

 

 長時間の集中は、彼の精神をむしばむ。

反対にカービィ自身は、何事もなく行動を起こす。

 

「最初の30分は面白かった。

 まさかギャラクティックナイトの剣技を使えるとはな……

 だが貴様もわかっただろう?

 奴の攻撃は、魅せるモノで戦うものではないと」

「隙だらけ……んなもの……わかってるって」

 

 『鳳凰剣』。

剣に纏う覇気を練り上げ、突進を行う。

この攻撃は単調で、カービィに回避される。

 

 普通ならばここで叩き落とされるが、キリトも学習したようで方向転換し直線のみの機動ではなくなっている。

 

 最初のころは、絢爛たる剣嵐だった。

しかし無駄に体力や時間を使うだけで意味がなかった。

あの銀河騎士が使えていたのは、空中という優位な状況があったからだ。

 

だが今は地上のみの戦闘。

ただでさえカービィの身長が低くて戦いにくいのに、最恐に近い剣と最強の剣士が揃い踏みとなると少々精神にくる。

 

 キリトは時間を稼ぐ。

盾を片手に突撃したり、レイピアに『フラッシュチェンジ』して桜花や桜吹雪をかましてやったりする。

別に通常状態でも可能だが、このレイピア[オーバーロード]は個別に熟練度がある。

その為熟練度がMAXなレイピアで、銀河騎士のスキルを使う方が強いのだ。

 

 そのような方法を使ったとしても、無駄に体力や時間が減るだけで敵を圧倒することはできない。

じり貧である。

もしここにアスナ達が乱入しても、カービィの圧倒的優位は覆らないだろう。

 

「(変な違和感には慣れたけれども、依然として攻勢優位は覆っていない。どうすれば……)」

 

 

「仕舞いだ。黒の剣士」

 

 カービィは残像を作るほどの速度で移動する。

キリトはその姿を見ようと躍起になるが、何処へ行ったのかわからない。

その瞬間、背中に這うような悪寒がする。

嫌な予感を感じ取って、後ろを向くと闇を纏うカービィがどこからか出現していて今まさに攻撃されるところだ。

しかし彼は、エスカルゴンから受け取った研究の賜物を利用する。

 

 その中の一つ、『樹形図型並行計算量子PC』を使い、カービィの攻撃予知をして攻撃を防ぎ反撃する。

キリトのHPが4分の三に削れる頃、漸くカービィに一太刀入れられる。

この事実にカービィは、素っ頓狂な顔をした後大きく笑いだす。

 

「いいね、最高だよキリト!

 やっぱり主人公は違うよ!今まで泳がせていた甲斐があった!」

「泳がせていたというより、いつ取って代わろうかという隙が無かっただけなんだろ!」

「そうともいう。だが私の実力はこんなもんじゃないぞ!」

 

 するとリムラを地面から湧きだたせ、彼等による弾幕攻撃を実施してきた。

そこで彼も惜しみなく攻撃を発動する。

その攻撃とは、『雷靭:桜吹雪』だ。

この剣技は雷撃を使うが、属性的に使えないのでドリームエナジーを使う事にした。

 

 このエナジーによって放たれる刃は、弾幕を尽く粉砕しリムラを一つ残らず葬り去った。

更にこの弾幕に紛れて、カービィを攻撃したが葉っぱの如くひらりひらりと躱される。

この回避は緊急回避で、ジャストガードの移動版らしい。

マスターされると、対処法がないので非常に鬱陶しい。

 

 

「ちっ、まさかのドリームエナジーか。まあ、どうせカプセル式だろう。

 それまで回避しまくってやるよ」

「ハッ……」

 

 カービィの中の敵であるゼロは、エスカルゴンという存在を全く知らない。

しかしそのエナジー自体の存在を知っている。

少々危ないと思ったが、自身の身の安全が第一なのでもっと多用することに決定。

 

 

 剣技と通常の攻撃の攻防が、此処にて再開される。

僅かな思考や心残りは、己の命の未来を左右する。

 

誰にも邪魔されない空間で、無心ともいえる無我の境地に至れるような瞬間。

そんなミリ秒、刹那、一瞬の時が過ぎ去る。

 

「(このままだと……いや、もっと感覚を研ぎ澄ませろ!)」

 

鋭利に。

 

「(もっと速く!)」

 

鋭敏に。

 

「(隙を見せるな!)」

 

鋭心を。

 

「(殺せ!剛を柔で制し、無心となり奴の隙を確実に取る!)」

 

気鋭を発し。

 

 

「ハハハ!いい加減に往生せよ!我には到底追いつけぬ!」

 

 

カアァァァン

 

 キリトのマスターソードは、カービィのクレイジーソードに弾かれる。

彼の集中力は、そこで切れてしまう。

 

「ぁ」

 

 意識の覚醒率が低い中、行き成りの目覚めであるため言葉が出ない。

しかし心ではちゃんと、負けたということを受け止める余地があった。

 

「愉しかったが、結局はただの遊びだ。

 我こそ最強の星の戦士なり!ハハハハハハ!」

 

 

 カービィはキリトに向かって、思いっきりクレイジーソードでぶった切った。

 

 

ガッギャアァァァァン

 

 

 

 それにしても、斬ったとはいえ不思議な斬撃音だ。

この音はどうみても、金属物がそのソードの軌跡に割り込んで引き起こされた音だ。

 

 

 

 

「最強か……それはどうかな、ゼロ。いや、今はカービィというのか」

 

 

 

「貴様!?」

「なっ!?」

 

 

 

 カービィとキリトは、目を見開きお互いの間に入る者の姿を目に焼き付ける。

その者は真っ黒でありながら、何かを握りクレイジーソードを防いでいる。

 

 

 

「ククク……貴様……我がダークマター族の面汚し、焦げたヒトデ君じゃないか」

「黙れ、ゼロ」

 

 

 明らかに剣呑な雰囲気を放ち、対立しあっている。

キリトは目の前の影キリトが、本当に敵か味方なのかわからないのでこの場から動けなくなる。

もしもという妄想と想像が、脳裏や思考を埋め尽くし最悪や最高の展開なのかを頭の中で必死に考えた。

 本来ならば、マスターソードに取り付けている量子PCで、未来結果をみればいい。

 しかしこの急展開に、思考がついていけなくなっている。

影キリトは境界の鏡の先にあるボス部屋で、いろんなボスをまとめる立場にいた。

つまり超強力な存在だと認められる。

 

そんなボスのボスが、自分を助けた……少なくとも殺させないという意思がある。

 

「しかし、何時までもクソガキ焦げヒトデ君は、そんなまがい物を着ているのか。

 それは一度問い詰めてみたい。

 いや、何故お前が、奴の陰に憑依しているのか全く見当がつかないんだが?」

 

 

 いまだにカービィは影キリトと己の得物同士で、拮抗しあっている。

この時間こそが、影キリトの返答へとつながる。

 

「我はシリカによって教えられた。真の強さとはなにか。

 それは”得手・不得手であろうと、受入れ妥協し学ぶもの”だという事だ」

 

「幼い子に指導されるとは、お前も落ちたものよ」

 

 カービィは影キリトに対して、侮辱の言葉をぶつける。

更に見下しの表情が見て取れる。

 

「今の地位に恋々とし、満足している奴とは違う」

 

 対して影キリトは、何も表情を変化させていない。

それでも心変わりしたという本人の独白は、明確なものだと判断できる。

 

「……いいだろう」

 

ガッ

 

「くっ……」

 

 カービィはクレイジーソードで、影キリトの武器を弾きあげ彼の腹を蹴り飛ばした。

影キリトは苦しんでいるわけではなく、距離を取られダメージを与えられなかった事を悔やむ。

蹴り飛ばされた彼は、直ぐに態勢を立て直し本体のキリトの所へ駆け寄り、護衛態勢を取る。

 

「焦げたヒトデ。お前が我々の組織から抜けるのであれば、我直々にお前を誅してくれん」

「テメェの腐った口臭でのキスとか、我の清らかな肉体が穢されるだけだ。死んどけ」

「……はっ、吼えとけ下郎。すぐに冥土に送ってやるわ」

 

 そういうピンクカービィを尻目にして、影キリトは本体のキリトに手を差し伸べる。

影キリトは無表情だが、左の瞳が赤という点以外本人と同じ容姿である。

また、聲も口調は違うが同じだ。

 

「起きるんだ、プレイヤーキリト」

「あ、ああ……」

「我はダークゼロ。昔は敵だったが、今は強さの秘訣を知るためお前の仲間になりにきた。

 本体と本来の意識は消滅した。そこで第二の意識と我が住む肉体をこの影にした。

 勝手なようだが、よろしく頼む」

 

 キリトは影キリトに握手を求められる。

本体キリトは、彼の言い分に苦笑いをしながらのこのゲームクリアの為ならと我慢することにした。

少なくとも、ダークマター族に肩入れをすることはなくなるだろう。

 

 握手をした瞬間、影キリトが剣を構え防御する。

その防御姿勢を行った瞬間、剣から火花が飛び散る。

何度か飛び散ったが、キリトや影キリト共々ダメージはない。

 

 

「我を無視するな。行け、もう一人のボク!」

「……」

 

 カービィが指示し動くのは、影カービィ。

影カービィが持つ剣は、クレイジーソードの贋作だ。

それに対して影キリトが持つ剣は、マスターソードの贋作である。

その為お互いに攻撃が通らず、性能もお互いを食いきれず拮抗してしまう。

 

「キリト、こいつは我がやっておく。

 お前は奴をやれ」

 

「わかった。死ぬなよ!」

「キリトもな」

 

 両者は余裕足るや不敵な笑みを浮かべる。

キリトはカービィに対して、『鳳凰剣』で一気に接近し『一閃:解』を解き放つ。

影カービィは、本体の危機に救援に行こうとする。

しかし影キリトに回り込まれてしまう。

 

「影よ。いや、本体に拒絶されたモノよ。我が相手だ。

 中身のない虚空等、取るに足らぬ相手。

 故に我など簡単に倒せるのだろう?

 星の戦士ならば、我と戦い屈服させてみせよ」

「……っ」

 

 影カービィの表情は変化しないが、口元が少し動く。

その動きは苦虫を噛み潰した様なものだ。

 しかし苦渋の表情と裏腹に、その一頭身による剣捌きは一丁前だ。

 

 人になったダークゼロは、腕の長さもあってか一頭身よりもリーチがある分、振り戻しが遅い。

故に一頭身の近接攻撃は、攻撃速度が高く中々一撃を入れづらかった。

 

「本体をよこすとは……影も不甲斐ないものよ。

 此奴がどれほど脆弱で、雑魚なのか。アイツも知っている筈だ」

「何をブツクサ言ってやがる!ここで倒れろ!」

「倒れるのは、キリト……お前だよ」

 

 そういうとキリトは一刀両断される。

しかし位置を調整されたため、掠りダメージしか入らない。

 キリトは位置調整が得意だ。実際はただの受け流しだが、一種の技と化している。

 その受け流しを会得したのは、ギャラクティックナイトとの戦闘だ。

ポーションの節約や攻撃から身を守るため、キリトは一生懸命に受け流しを訓練した。

結果ほぼ全ての態勢とほぼすべての方面からの攻撃を、受け流し・反撃を行えるようになった。

長時間の戦闘への集中力の他にも、このような防御方法を見いだすことにも成功した。

 

 

 戦闘は長時間続く。

その内、影カービィとカービィにダメージが行くようになる。

4段のHPバーが、二段目になるとカービィは周辺に己の血をまき散らす。

その血液からは、多くのリムラが出現する。そのリムラ達は、キリト達を拘束し行動不能にする。

 

 

「ク…ハ……ハハ……フハハハハハハ!!面白い!実に面白いぞ!」

 

 カービィは謎のフィールドを展開する。

そのフィールド内部には行けず、更に暴風が彼中心に吹き荒れる。

吹き飛ばされることはないが、剣技や行動を起こすことすら不可能だ。

 

 そんな状態の中、影キリトは周辺に影カービィが居ない事に気づく。

 

(「キリト。影カービィを見失った。不意打ちに気を付けよ」)

(「あ、ああ」)

 

 突然の心の聲にびっくりするキリト。

しかしすぐに落ち着く彼。

何せ影と本体はもともと一つである。

思いや考えは常にお互いが知ることができる。これは当然の事である。

 

 

「貴様等ア!よく見て置くがよい!何故、我々が光と闇の鏡界に分けられたのか!

 そしてこのシステムを作った奴が、一番絶望する事を今ここで示してやろう!」

 

 ただの風ではなくなる。

徐々に周辺空間が真っ赤に染まっていく。

セーフルームは幻想的な空間から、徐々に禍々しい色に染まりこの世の闇を示していく。

敵が居ない為、セーフルームなだけでダメージに関する制御は全くない。

 

だから周辺オブジェクトに影響が多大に出る。

 

 

「さあ、諸人共よ括目せよ!これが、終焉よ!」

 

 

 いつの間にか、影のカービィがカービィの隣に十字架の墓標に磔にされている。

 

 

 そしてカービィは影のカービィのHPバーを、全損させこの世からゲームオーバーにさせる。

綺麗なポリゴンではなく、赤と黒の禍々しい具現化されたボーンとエフェクトが周囲に飛び散る。

 

 

「ゼロ!影のカービィを殺して、一体何がしたいんだ!!」

「我はこの肉体を完全にしたいだけだ」

 

 即答の言葉は、この吹き荒れる暴風の中でも鮮明に聞こえた。

鮮明すぎて逆に気持ちが悪いくらいだ。

 

 

「この肉体。カービィは、ゲームとアニメ・漫画の影響を受けている。

 その中で私はアニメの部分が入っている事に感銘を受けた。

 

 何せ、この者にはまだ負の感情が残っているからだ」

 

 純粋無垢な赤ん坊である星の戦士であるカービィ。

彼は一切負の感情を見せなかった。

むしろ無いぐらいだと。

 

だがそれは間違いだった。

 

 負の感情がなければ、反撃も攻撃もしない。

極めつけはデビル・カービィと化して、周囲に危険を晒した。

 

この事から、彼は純粋無垢なだけで正と負という概念がなかっただけ、ということになる。

まだ関連付けも定義もまだ生まれていない、幼い赤子であったからこそともいえる。

 

 

 そんな状態で色のある状態のカービィと影のカービィという存在が、この世に両立すればどうなるか。

色付きカービィは今まで通り。

影カービィは負の感情や概念でありながら、この世の道理に流される空虚な存在になる。

 

 

「そして我は、この者の本当の負を壊した。

 この桃玉には、正の感情しかないが憑依したときに破壊した。

 

 遂にはこの負さえも、我の手で壊して見せた。

 今こいつは、最強の適性と補正を保持した人形である。

 

 

 そこに全ての光・表・正に、憎悪を持つ我がこの人形の貰い手となる。

 ならばどうなるか……」

 

 

 それは……ラスボスが、ゲームに登場する最強武器やキャラクターを、際限なく使用できるという事になるという事だ。

 

 

 カービィの肉体は、ピンク色から影カービィより深く影より暗く闇に堕ちる黒に染まっていく。

天真爛漫な彼の純真を示すその光ある瞳。

それは今虚ろとなり、光を失う。

 

 肉体の色がモノトーンへ変化すると、カービィの灰色になった目からは鮮血の涙が出る。

肉体が黒へ染まっていく過程で、カービィの瞳は閉じていく。

 

 

 キリト達はいまだに動きだせない。

彼等は風もそうだが、その圧倒的存在感に気圧されてその景色を眺めるしかないのだ。

作戦会議もできるし、マスターソードに付けたPCで未来を視ることもできるが、

彼等にそんな余裕はなかった。

 

 

 

 遂に彼の瞳は閉じられ、肉体も漆黒へ染まる。

 

 更に彼の額に、縦の割れ目ができる。

その割れ目は肉眼では暗すぎて見えないが、そこから気が放出されているので認識できる。

 

「今こそ冥土より覚醒し、この光ある全てを喰らい尽くしてくれん!」

 

 その裂け目は開眼される。

縦の裂け目と、左右に開かれる瞼のような皮膚。

 

 

 開眼されたところからは、充血なのか真紅なのかわからない真っ赤な瞳が、彼の額からこの世にその存在を見せしめる。

その瞬間、影キリトはキリトに作戦提示を行う。

風に運ばれていた瘴気を打ち払い、正気を取り戻したようだ。

 

(「キリト。今の変身シーンが最後の機会だ。今のうちに、影キリトとしての情報を渡そう」)

(変身かよ!「ああ、頼む」)

 

 

 この適合中にお互いに話し合う事が決定された。

それはストックの事と、ダークマターの憑依についてだ。

 

 

 ストックとは、『大乱闘スマッシュブラザーズ』に登場するキャラクターの再復活上限数である。

このストックの補充は、『生命の珠』という淡く光るアイテムとして稀に出現するので、これを使うかインベントリに入れておくこと。

ストック制度は、上記ゲームからこのゲームに適用されている。

 

 ストック対象者は、上記ゲームの登場キャラと彼等とフレンド又は相方だと認められたプレイヤー。

このストックはデフォルト3。

これが1以上あると、他者のHPが0になった時このストックを消費して、HPを全快にして再復活する。

 

 またプレイヤーだけでなく、これが適用されるキャラは記憶やレベル等重要項目以外、全て状態が初期化される。

初期化に伴い、スマッシュボールという切り札も3回に一回使用可能になる。

 

 

 ダークマター。基本的に種族名を表す。

この世に存在する意思を持つ生命の負のエネルギーが、塊となって憎悪の念から実体化した思念生物である。

その為負の逆である物体や思念に触れると、消滅または行動が停止し封印することが可能。

 

 彼らの特徴は、体が黒色だったり意識体の気分の増減を感じ取る。

そして感情の起伏や憎悪等、負の情を沸き上がらせるほど彼らに見つかり乗っ取られる。

膨大な時間、正や負の感情に浴びたダークマターは、強い支配欲や強欲を抱くようになる。

 

 結果数多の思念体から受けた負のエネルギーを転換し、仲間を増強する。

数多の感情と状況で、未知数の仲間がいる。

 

彼等との合理性や効率性等、目的が一致すればするほど強力になる。

 

 

 彼等ダークマター族は、憑依が得意である。

大多数がそうであり、肉体は正のエネルギーを中てられるだけで大きな傷と共に、分離と乖離を開始する。

しかし力が強い物ほど、そのエネルギーに耐性を持ち逆に敵に取りつき、内部的破壊を行わせる。

 

 

 彼等は実体を持たないので、思念体と呼ばれる意思や意識・自我を破壊し本体を己のものにしたがる。

 

 対処法は、痛烈な痛みを与える事。

思念体は五感が無いに等しい。

なので五感の中で、一番強烈な痛み・光による刺激等を与えると良い。

 

 それでも憑依を解きたければ、本体とは別のものを用意して乗っ取られた自我を他者に移したり物に移譲することで

少なくともその本人は、彼らの支配から逃れられる。

 

 

……等。

 

(「そして最後に、プレイヤー側に参戦したという事で得た情報だ」)

 

 ダークゼロは、次々に口にしていく。

目の前の暴風の中心では、ゼロがカービィにダウンロードと共にクレイジーソードの本懐を発揮する段階まで来ている。

 

 

 さて、カービィの場合特殊だった表裏の問題。

通常の場合だと、表裏一体だから片方を消すとその者はこのゲーム的にも異常なので、

そのまま痛みなしに消されてしまうという事だ。

 

 これを踏まえると、現状2VS1の今フレンドリーファイアが恐ろしい。

つまり同士討ちによる攻撃を奴は誘発する筈なので、それに対する処置が必要になる。

 

その処置の一つが、シリカから学んだ三次元内での複素二次元直線(4次元)という位相空間を利用したものだ。

 

 複素二次元直線(4次元)は交わらない。

しかし原点でのみその直線は交わることができる。

光と影の複素二次元の面は、それぞれが描く構造が原点を中心に交わり描かれる物体そのものが、

実体という事をシリカ(アルセウス)が発見した。

 

これを鑑みると、原点周辺座標が実体だとわかるので、光と影が原点で交わるような事や原点を中心に何か構造を

創るような事(左右対称になる行動)をしなければ、本来の実態に被害を及ぼすことはないという事になる。

 

 それを踏まえて、相手を別位相で攻めるとしよう。

この世(実体がある3次元世界)の敵を攻めるには、自分たちが点となり移動することになるので

実体を作るような緻密で精密な行動をしなければ相手から攻撃を受けずにダメージを与えられることになる。

 

 ゼロはカービィの補正を乗っ取って上機嫌だが、逆を返せばカービィという存在に囚われている。

そこで別位相による多次元攻撃を行い、敵が何か防御や思案を始めたら原点に集合し実体になる。

別に点で実体を描かなくても、そういう概念であるだけなので描写とあたり判定の修正はカーディナルに任せる。

 

それと実体になったとしても、複素二次元の直線であることに変わりはない。

故にキリトの判断で、二つのソードスキルを使う事が可能になる。

更にダークゼロという存在も加わったことで、それぞれのソードスキルの隙を見つけて

スキルコネクトを使うことができるようになった。

 

 せこいかもしれないが、こうでもしないとゼロに勝てない。

 

 今のゼロは、額に真っ赤な瞳・カービィの閉じた目から血涙・漆黒の体躯・闇の闘気・右手に真紅の刀身と紫電を纏い、

暗黒の覇気をまき散らすクレイジーソードを持っている。

こんなラスボスを、専用の武器で倒そうにも実力不足もいいところだ。

 

(「とにかく、カービィを倒してストックを使わせる。

  そしてゼロとカービィのフラグをリセットし、彼等を分離させる。

  きっとカービィは元の状態に戻っているだろう。

  そして憑依レベルもリセットなボスを、そこで一網打尽にするしかない」)

 

(「了解。我が力を見せよう」)

 

 

 この時、丁度風が止んだ。

 

「かかってこい、愚かな者ども!我こそはゼロ!絶望へ誘う者だ!」

 

 ゼロは己の身体を滾らせるかのように、周囲に吼える。

その時既に彼等を拘束する暴風は消えていた。

 

既に白と影のキリトは駆けており、ゼロの死角に入り込んでいた。

 

「ハアアアア!!」

 

 白のキリトは、マスターソードを渾身の一撃で振るう。

早期解決に向けて、全身全霊をかけて攻撃を行う。

 

「見えているぞ?」

 

 ゼロは口角を上げ、ニタリと白キリトを見る。

白キリトは気迫で悪寒を振り払い、そのまま切り払う。

 

ゼロに少量のダメージ。効いている気がしない!

 

「そこだな!」

 

 ゼロが覚醒したクレイジーソードを振るう。

その切っ先は影キリトへ向かう。

 

影キリトはそのクレイジーソードを、本体と同じ感覚で受け流し胴体へ拳を打ち込む。

接近戦で振るうのは、剣ではなく拳の方が早い。

ましてやこの一瞬が大事な戦では、この初速が速いスキルのほうがいい場合がある。

 

 クレイジーソードの力を受け流したが、そのまま抑えた状態だと贋作ソードが破壊されてしまう。

よってすぐにその場を離脱する。

そのおかげでゼロによるリムラ召喚とソレの突撃を、まともに食らう事はなかった。

 

「喰らえ」

 

 影キリトはゼロが持つクレイジーソードから放たれる『侵蝕』から、贋作ソードを振るったり違う位相に逃げ込んで回避する。

何故別位相で戦闘を行っているのに、こんなに容易く苦戦を強いられているのか。

理由はただ一つ。

ゼロやカービィ本体ではなく、クレイジーソードの効果が位相そのものを三次元として

強制変化させているからと考えられる。

 

 つまり別位相で戦闘しても、結局は同士討ちしないだけの戦闘になっているだけなのだ。

このゼロではなく剣の効果だと知ることは、大分時間がかかった。

しかし思考の先で、戦術的に打ち勝とうと戦闘する二人がいる。

 

「うおおおお!」

「フッ」

「甘いわ!」

 

 二人の一斉同時攻撃を、覇気と闘気で防ぎクレイジーソードで薙ぎ払う。

影キリトは後方へずり下がり、白キリトはバックステップで下がる。

 

「合わせろ!」

「了解」

 

 お互いの死角に入らない様に、一気にラッシュをかけていく。

影キリトは左手に剣を持ち、白キリトは右手に剣を持っている。

 

 攻撃は近距離もそうだが、ギャラクティックナイトのスキルを持つ白キリトが遠距離剣技を放つ。

影キリトはゼロの性格と攻撃の手順を知っている。

基本的にやることは、たいして変化しない。

 

 その為影キリトがこのようにタゲを取る行為は、非常に理にかなっており容易に囮をすることができる。

 

 二人がお互いの領分をはっきりして行動を行うので、ゼロは体力を徐々に減らしていく。

しかし徐々に隙がなくなっていく。

それでもあきらめず『紫電』を放ち、相手の行動領域を狭め回避選択を縮小する。

 

これが功を成したのか、麻痺状態へ陥る。

本人は気づいていないようだ。

偶に行動が鈍っている。

 

「キリト」

「『空靭:冥』!」

 

 空間を切り裂き、亜空間から極太光線を出させる。

此れがゼロに当たる。

 

 

ゼロはスタン状態に移行する。

 

 

「(キリト、陰陽同化するぞ。我が援護する故、今まで通り戦闘してくれ。

  そして同化したら、もう一人の自分がいるような感じで我を操ってくれ。

  お前は一人ではない、今は二人だ。

  つまり、三倍以上の強さを出せる)」

 

 ゼロは自分なりにキリトを応援する。

直ぐに影キリトは、白キリトと同化する。

影と白が交わり一つになる。

この様相を、陰陽同化という。

 

 今回のように混ざっても、再び分割されるという事で陰陽玉を連想。

陰陽同化とした。

また陰陽同化を行った事で、ダークゼロ(影キリト)の情報が更新される。

 

 この更新によって、お互いの整合性が100%となり信頼性を確実にする。

ダークゼロのアップデート情報は、銀河騎士の剣技使用可・本体の剣術・勘による思考ルート模索。

おかげで戦闘で息の合わせ方を覚え、本体キリトの動きをトレースする事ができるようになった。

 今までは本体の思考を、そのまま指示として受け取っていた。だから思って解って行動するという、この手順によって隙が生まれ一秒以下のズレが発生していた。

極わずかな隙でも、フレーム猶予外だと確実にシンクロやユニゾン・フュージョンの判定外となってしまう。

故にこの困った仕様がなくなり、完全な同体として機能するようになった。

 

 

 それとこれこそが、本来の同化のメリット。

 

 能力面では色を含め左右対称な白と影の性能が同じになり、陰陽同化後の単一本体能力が1.2倍になる。

1.2倍になるのは、通常の表記されているステータス全てである。

陰陽離脱という、同化から再度分離する能力を使うと再度白と影の存在になれる。

これになるとそれぞれの能力が、ステータスと同じ高さになる。

 

 戦闘面では同化により、二刀流が使える。

左手は影、右手は白が持つ。

しかし本体は利き手にもつ武器こそが、白の者の戦闘武器である。

故に左手が利き手ならば左手に持った武器が、陰陽離脱によって登場した影の右手に同じような性能を持つ剣をおさめてくれる。

 更に戦闘中だと片手ずつが、別々のソードスキルを使えるようになる。

陰陽同化による同化率(シンクロ率)が100%に近くなると、同じスキルを使うことで上位互換剣技を使えるようにもなる。

クールタイムや隙もあるが、そこはお互いの領分単一の本体にかかり別処理となるので硬直はない。

勿論抜け道が多いので、同化と離脱を多用することでバグや仕様を見つけるのも面白いと思う。

 

 特殊条件の場合。

今回はダークゼロが、半身に宿っている。

これにより彼の者が持つ、オリジナルスキルを使う事ができる。

このスキルは彼の者だけに影響したり、単一本体に影響を及ぼす可能性があるので注意が必要になる。

 

 

 纏め:デメリットは片方がやられると、確実に片方も時間経過で死ぬ。

    しかしその究極のデメリット以外は、非常に反則な戦闘能力だ。

    これを有効活用すると、必然的に2VS1(離脱時)または10VS1(同化率100%)の状況に追いつめられる。

 

 

 これらの情報を本体キリトは、ダークゼロから情報共有される。

正に今こそ、コレの使い時だ。

 

 

「「陰陽同化!!」」

 

 

 白キリトは裂帛の気合を込めて吼え、影キリトは白キリト(本体)に釣られてただ喉を張り上げる。

 

 

 この瞬間、純白な光が影キリトを……漆黒の闇が白キリトを包み込む。

そして影キリトを包んだ白光が、闇に包まれた白キリトの方へ吸い込まれる。

 

 

 吸い込まれ、同一の場所で色が混ざっていき虹色になる。

その虹色は徐々に透明な結晶へと変化していき、最後には透明で綺麗な結晶を周囲に爆風のようなもので散乱させる。

 

 

 ゼロはスタン状態で、その場から動くことができない。

思考すらも止まっている。

そんな中この者の目の前まで、歩いて接近する者がいる。

 

 基本容姿はそのまま。服装は縁が白色で、布地の色は黒。服装は今まで通り着ていたもの。

瞳は同化100%ではないので、左目は黒で右目は白色となっている。

実に無言でその内に殺意を抱き、明確な終止符を打つ覚悟が見える。

 彼らは真っ黒な肉体と赤い剣を持つカービィに近づく。

右手にはマスターソード、左手にはマスターソード。

同化による更新で、贋作は消えてなくなった。

 

 

 

「カービィ。戻ってきてくれ」

 

 基本的な意思は、本体が受け持つ。

心の中でダークゼロは、考えを与える。

 

 

(「奴の闘気により、我々の肉体と同化が脅かされる。

 よって、ここにて強化を行う」)

 

 闇の闘気と暗黒の覇気により、位相原点に交わる彼らの同化に綻びを入れ始める。

まずはこれを防がないと、全てが始まらない。

初期シンクロ率は30%。今は10%。

 

(「『青の場合』」)

 

 ダークゼロがそう宣言すると、周辺にマイナス200度程の冷気が走る。

そして冷気はこの空間を冷やしに冷やし、同化した彼らにこの空間に存在する全てから護るようにまとわりつく。

この瞬間にシンクロ率の低下は止まった。

すぐさまキリトは、空中にとどまり硬直しているカービィを攻撃し始める。

 

 しかし攻撃しても、そのHPは下がる事を知らない。

そこでダークゼロがスキル発動の提案をする。

 

(「キリト、奴の防御は異常だ。そこで、此方も超火力を当てる。

 『赤の場合』」)

 

 

 キリトの頭上に紅蓮の火球が出現し、周辺一帯を赤に染める。

火球はこの空間を極寒の地へ変化させた冷気から、影響されたり逆に影響させることはなかった。

その火球はそのまま、キリト周辺戦闘域を爆炎で薙ぎ払う。

これは強化中の隙を埋め合わせるための支援効果だ。

 

だが今敵は硬直中なので、この支援効果を見ることは叶わない。

 

「『ホリゾンタル・スクエア』!」

 

 水平攻撃4連撃。

これを左右同時に行う。

しかしシンクロ率が低いので、そんなにダメージを与えられない。

 

 

「『クロスエッジ』!」

 

 双剣突進攻撃。

突進しても意味がないので、前への威力を剣に持たせそのまま斬る。

 

 

スタン状態、残り60秒。

 

 時間は多いようで少ない。

このままの速度では、確実に仕留められない。

そこでダークゼロは、最後のスキルを発動する。

 

(「これ以上の遅延は、命の危機に関わる。最後のスキルを使おう。

 『緑の場合』」)

 

 周辺に黄緑や黄色の稲光が走り、キリトとカービィを檻に閉じ込める様な感じで雷が包囲する。

その檻の中では、自身が電子化し粒子中を高速移動できる。

また硬直時間の短縮や思考速度の上昇、技の発生等が速くなる。

 

これが最後の攻め時。

 

しかしキリトはこの強化された速度に、頭は追いつくが体との調和がとれず中々攻撃とスキルコネクトが発動できない。

そこでダークゼロはラスボス級の思考速度を以って、キリトの思考速度や運動能力を支援する。

 

(「キリト。最後のスキルフュージョンだ」)

 

 現状一つの自動発生条件外の手動切り替えスキル。

これを使うとシンクロ率・ユニゾン・フュージョン等の確立が非常に高くなり、攻撃速度等の補正が異常に高くなる。

おかげで戦闘能力の上昇と、周辺の檻のような雷の結界により四方八方から攻撃できる。

スキル使用後のクールダウン受付のフレーム猶予も簡単に狙って、次のスキルを使用できるスキルコネクトを狙える。

 

 

「『並行展開≪パラレルアクティブ≫』!!」

 

 覚えている全ての技を、相手にぶつける。

スキルコネクトと強制キャンセルで、剣技(ソードスキル)のクールダウンを拒否して無茶苦茶なインファイトをする。

それとマスターソードに装着している、オリジナルスターロッド幾何学群でドリームエナジーを抽出する。

これをマスターソードに付与して、カービィを内側から破壊していく。

 

 ドリームエナジーは、反対の存在であるゼロを傷つけHPを大いに減少させた。

今までドットレベルで減っていた体力は、ごっそりと消え失せる。

 

体力は0になる。

 

 

 すると、この空間を覆っていた闇は晴れ、青空が広がる。

本来ならば草原やなだらかな丘陵が、背景を席巻するように周囲へ広がる。

しかし今は雷の檻や極寒の冷気が、空間を支配しているのでそんなさわやかな景色は現れなかった。

 そんな悲惨な状態だが、かわりにカービィはHP0によるポリゴンを散乱させ初期状態へ戻る。

体力も全快にする。

また覚醒したクレイジーソードやカービィ本人が纏っていた闘気は、一気に鳴りを潜めてしまう。

クレイジーソードは休眠状態となって、カービィの右手に収まっている。

 

 カービィの目元にあった血涙は消えており、同時に額の瞳は存在していない。

真っ黒な体躯も、既に元のピンクボールに戻っている。

全てが戻ると、クレイジーソードを持ったままの彼は地面にポトリと落ちる。

 

 

「カービィ!」

 

 

 キリトは地面に膝をついて座り、四つん這いになって右手で彼の身体を揺さぶる。

ダークゼロは静観している。

 

 

 

「……ぁれ?キリト……?」

 

 

 

 彼の者はそういい、瞳を開ける。

ちゃんと目に光が灯されている。

 

 

 発動から3分経過。極寒と雷電のフィールドは終幕を迎える。

これによりカービィは極寒と痺れに侵されることは無くなる。

 

 

「よかった……」

「キリト……変な目になったね……ありがとう、ボクの為に……」

 

 

 そういってカービィは瞳を細くしていたのを、ぱっちりと開けて起き上がる。

傍に落ちているクレイジーソードを吸い込み、ソードカービィへ変化する。

この変化は既に、欠片収集で見たことがある。

だから驚くことはない。

 

 

 さて、結構無視していたが、今青空の下の草原の少し先に地面を真っ赤に濡らしている物体がある。

それは真っ赤な球体で、偶に白い物体が見えている。

 

「あーあ、ボクの心に入ってくるからそうなるんだよ。

 だから中途半端に残ってストックを使えず、そのまま額から出てきた口でしょ?」

 

 

「キ……サマ……ユルサ…ン……」

 

 

 その白(肉体)と赤(血)がミックスされたグロイ状態。

実に満身創痍だ。

この状態を早速撃破しようと動く。

 

だがこの動きよりも速く動いたのは、ゼロである。

 

 

「我が無念!今ここで、晴らさで置くべきか!」

 

 いきなり饒舌になるゼロ。

この状態に違和感を覚えたのか、ダークゼロは警鐘を鳴らす。

 

 

(「キリト。ゼロはこの世遍く意識体の負の感情。そのものの塊である。

  彼奴が行おうとしているのは、善良な心を負へと堕とす攻撃だ」)

 

 気を付けるように云おうとした瞬間、カービィはゼロにクレイジーソードで切りかかる。

キリトはダークゼロとの念話に集中していたので、その突発的行動に気づくことができなかった。

そのため結果として、ゼロの行動を早めることになってしまう。

 

 

「ハハハハハ!!死ね!滅べ!この世を統べる理よ!森羅万象よ!天上天下の三千世界諸共、我が憎悪によって堕落せよ!」

 

 最高にハイとなっているゼロは、視認できる程の真っ黒でどす黒い憎しみ等の感情を周囲に放つ。

これにより周辺空間や景色が、酸化・風化・劣化したインクの様にぺリぺリと剥がれ飛ばされていく。

 

「ぐぅっ……!」

 

 カービィはクレイジーソードを前に突き出して防御する。

必死で耐えているが、徐々に押されている。

その様子を見て、ダークゼロはあきれ返る。

 

今は純粋で素直なカービィ。

そんな者が、クレイジーソードの本懐を遂げられるわけがない。

 

 同化キリトから、影キリトが分離し傍にいるカービィの目の前に立つ。

影キリトはこの程度の憎悪ならば耐えきれる。

今のゼロは狂気に陥っている。その為、純粋な怒りや苛立ちという一番の割合を占める負の感情まで、

この周辺に放っている覇気に載せる事はかなわない。

 

 これらを%で言うなら、40%程。

結局ゼロも命が惜しいようだ。

何故か。

 

 それらすべてを載せると、ゼロの存在意義がなくなり完全消滅してしまうからだ。

つまりこの世の全てを赦してしまう事になってしまうのだ。

生にしがみつく彼の者。

憎しみでしか生きることができなかった者の末路だ。

 

 

「カービィ」

「だ、誰……?暗くてよくわからないよ…?」

「その剣を貸してくれ」

「だ、ダメだよ!今は、防御しないと……」

 

 じれったいカービィを、銀河騎士剣技である『空靭:冥』で亜空間を開いてそこに投げ入れる。

ついでにクレイジーソードを奪い取る。

 

 後に亜空間から出れなくなったランディアとローアに勝利し、マホロアと戦闘しに行こうとしたギルドに拾われることになる。

 

 

 さてクレイジーソードを左手に持ち替えることで、マスターソードは空中に露散した。

別に影キリトはその理壊の剣によって、己の力を溜め裏切ろう等とは思っていない。

 

 

「キリト、行けるか」

「嗚呼。いける」

 

 其れに頷くことで、最終局面へ向かう事になる。

 




 長ったらしくなりましたが、いかがでしょうか。
楽しんで頂ければ幸いです。

 是非またいらっしゃってください。



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6:鏡の世界 決戦5 状況確認

9418文字


6:鏡の世界 決戦5 状況確認

 

「おや、アスナ君。そちらもクリアしたようだね」

「ええ、茅彦さんも余裕だったようで」

 

 

 ここに邂逅するのはギルドで上位陣であるヒースクリフ団長とアスナ副団長だ。

彼等が今居るのは、プププランドのDDD城客間だ。

何故ここに彼等が居るのか。

 

 それは数分前、星の夢を破壊し『戦艦ハルバード』を亜空間へ移送した後、強制転移で皆が別空間に飛ばされた部屋に

アスナ達は戻ってきた。

そこにはまだシリカやキリトが帰ってきていなかった。

 

 ひとまずアスナとアーロイは、他のギルド員にセーフルームへいく鏡に入って行ってもらった。

彼女達は二人を待つことに決めた。

しかし途中でヒースクリフ団長含めた血盟騎士団が、亜空間より赤い子竜4匹とピンクボールを連れ、青い船にのって帰って来た。

 ピンクボールはカービィという者で、戦闘について一通り団長クラスが効いてびっくり仰天する。

ひとまず一番安心なセーフルームで、皆と合流してプププランドに向かう事にした。

この発言や案は、すんなりとヒースクリフに通ったようで、直ぐに説明を行い行動可能にした。

 

 鏡に入ると、闇の鏡の世界に出てしまう。

更にヒースクリフ団長ではない他団員も数名消える。

これに驚き出てきた鏡に入ると、セーフルームに入れないで光の鏡の世界に出る。

そこにはいなくなったギルド員や仲間達が居た。

 

 とにかくいろんな戦利品や情報の為に、光と闇の鏡の世界を行き来できる鏡の前に仲間を配置しておく。

戦勝の後、皆が戻ってくれれば万々歳。

 

そんな風に上位陣は思って、この場所に来た。

 

 プププランドのフームは、その攻略組の多さに驚くがそれだけこの鏡の世界に捕らわれていると初めて知る。

彼等の支援はできないが、ゆっくりしてもらうことはできる。

ただじっとしていることが苦手な人物には、この場所に来てはならざる者を攻撃してもらうことになった。

 キリトやシリカが帰ってくるまでの間、次の行動方針を決める。

まずは帰る方法だ。

フームもエスカルゴンから聞いているようで、帰還方法に関しては鏡で帰ることになるという。

そしてこの世界が破壊されない事も聴き、安堵する探索者たち。

 

 何せこのダンジョンの踏破率は、光と闇を合わせて半分も行っていない。

こんなに広大でいろんな誘惑とギミックがあるのだ、私欲も含め中々外に出られないだろう。

更に尋常じゃない情報や世界が混在している。

故にこれらの場所から、一か所しかないだろうと思われる外部への出口を見つけるのは至難の業だ。

 

 もしこの世界に再来できれば、中層プレイヤーが移住してくるに違いない。

それに圏外だろうと裏ボスを倒せば、プププランドだけは圏内に設定されるだろう。

実際に裏ダンジョン内の街が、裏ボス討伐後そのまま圏内設定となり安全地帯になった事例がある。

 これが起これば、資源の奪いが起こるのは必然だ。

それらの事を事前に回避するため、後方支援組はこの国で出来る事を遣っておくことにする。

 

 

「ふむ……フームさん、私達はボスを倒しましたが、個別に帰られないのですか?」

 

 ディアベルはわずかな希望を胸に、彼女に問う。

しかしフームは黄色のおさげを揺らし、拒否のしぐさをする。

やはり何事も、連帯責任が試される。

全ての敵を倒したというフラグが立たなければ、帰還するための鏡の出現すら叶わないだろう。

 彼はヒースクリフをちらっと見るが、団長殿はそっぽを向く。

どう見てもGM権限ではできないことが見て取れる。

 

 

「軍の皆さまが帰ってきました!」

 

 ワドルディ2360人を統率する、剣を帯剣するワドルドゥ隊長。

彼は高い聲で、物見のワドルディにより伝聞として伝える。

 

この報告に、この部屋の空気が少し引き締められる。

やはり一応の体裁はもっておかないと、ギルドとして嘗められる。

 

 黒の英傑連盟団副団長と血盟騎士団団長は、ワドルドゥ隊長に案内されて城門前まで行く。

この城は堀に水を入れている様で、城への入退場には橋をこちら側からかける必要がある。

架け橋自体、人力で上げ下ろしを行っている。

数匹しかいない彼らは、非常に物珍しい動物だ。

 

「ここやな、DDDのある城っちゅーんわ」

 

 キバオウ率いる軍の武装組織だ。

彼は最前線でダンジョン等に挑んでいる武装組織の組長であり、配下は最精鋭の勇猛果敢な猛者ばかりがいる。

彼等はスターロッドや虹の剣を入手したことで、二分割されそれぞれの敵と対峙していた。

 軍の規模は異様に大きい。

配給という慈善事業を効率よく行うために施しを受ける者は、ギルドに入るよう周囲に申告した。

これにより非戦闘員は多いが、全体的に英雄が一番多いギルドになる。

 

 これにより、一番影響力や名声が高いのは、軍というアインクラッド解放軍だ。

それでも前線にくれば、己の力量や才能を生かせられない三下は瞬く間に死ぬ世界である事は明白。

おかげで彼等は本当の実力ある攻略組を見て、差を思い知ることとなる。

 大規模になるほど人間の思惑とぶつかり合う、二分化や細分化が鳴りを潜めることにもなる。

ただし武装組織だけであるが……。

 

 

 キバオウ率いる軍の武装組織は、プププランドのDDD城で待機と共に首脳会議を行う事になる。

この説明や会議中は暇なので、解放軍の事情について説明しよう。

 

 

 最初期アインクラッド解放軍は、二つの小さな組織だった。

彼等はお互いの相互利用や思惑等、利害の一致が発生した。

これらが一因となって、一つのギルドとして合併する。

 

 そのギルドこそ、『アインクラッド解放軍』だ。

 

 最初は『始まりの街』。徐々に周辺区域にまで、その版図[はんと]を広げていった。

今頃全ての村や小規模な集団も、彼等の支配下になっている事だろう。

何せ彼らは2000人の人間を抱える、このSAO最大のギルドだからだ。

 

 商人ギルドとの提携や連携、小規模ギルドに負担分散して周辺領域の管理、英雄招致による人材確保……。

相互利用をして、お互いの利害を一致させながら繁栄してきた。

勿論いざこざや諍い[いさかい]がなかったとは言えない。

 

少なくとも大勢の中に居る例外や大多数に占められない異常者が、表立って周囲を煽って対立させたり軍内部をかき乱して、ギルドどころかSAO全てのプレイヤーの足並みを崩そうとしたこともある。

 資産や財産・食糧等の独占、違法占拠、オレンジやレッドによる殺人事件……。

本当に彼等は大変な思いをしてきた。

 

これ等爆弾のような者らが派手に暴れまわって、ギルドが内部分裂を引き起こしたりして軍に恨みを持っていたものによる、乱痴気騒ぎに陥ることは殆どなかった。

 

 理由の一つとして、英雄の存在だ。

少なくとオレンジやレッドにも、25層からAI転換によるダークヒーロー登場で英雄が付属し始めた。

しかしそれをも上回る奴が二人いる。

 

 

 その名は、曹操孟徳。そして、ジャンヌダルク。

 

 歴史に絶対に出てくる彼等の登場だった。

 

 最初に曹操孟徳からの話をしよう。

まず最初に出会ったのは、第一層クリア後の三層の頃だ。

出会った人物はキバオウだ。

 

 直感で曹操をパーティに引き入れ、フレンドからの料理を食わせた事で仲間になった。

また彼等は後に知ることになったが、曹操孟徳は確信をもってキバオウに仕えたという。

その理由は目にあるらしいが、天才の考えることは凡人にとって不可解極まりない。

 

 さて曹操がキバオウと出会う事で引き起こされるのは、キバオウの目的成就の為の組織行動だ。

つまり一層にいまだにたむろっている、一般プレイヤーに光を見せてやるという事だ。

そこで彼はキバオウ達と話し合い、一日で始まりの街の情報を集めきった。

 これらの情報を見て行うのは、ここらで慈善事業を行っているギルドと対話をしてギルドを合併させること。

そして二者による代表を立て、内政と外政に分割して大規模になるであろうギルドを支えることで、キバオウの悲願の初期段階を達成することになる。

 

 キバオウが目指すのは、SAOをクリアするに向けて攻略軍を作り上げ非戦闘員を導く事だ。

非戦闘員には、戦闘員に対していろんな援助をすること。

逆に戦闘員は非戦闘員に、入手してきた食糧等を与える事。

これらの関係や役割を明確にして分業させることで、お互いを不可欠にしギルドの地盤を盤石にすることが第一目的。

 

 上記目的は、曹操が早々に終わらせた。

 この後必要になるのが、合併したギルドマスターに内政を行いながら民のヘイト分散と軍の攻略軍の必要性を、刷り込ませる長期的洗脳だ。

 

 曹操はキバオウと合併先のギルドマスターである、シンカーという者と膝を突き合わせた。

 また討論から目的を知り、議論でお互いに目標を立ち上げ、ブレーンストーミングで意見の出し合いをする。

更に事態を加速させる英雄が、この時シンカーからもたらされる。

それはジャンヌダルクだ。

 

 つまり、外政はキバオウ、人事担当は曹操、総合決済をシンカー、人情操作をジャンヌダルクが受け持つことになる。

他内政は郭嘉という曹操が、どこからか見つけた人材を使って安定化させた。

そう……曹操は自身の功績を逆手にとって、自ら人事担当に落ち着かせたのだ。

更に国主としての重責・重荷等が、一切肩にかかっていないので大好きな人材育成や登用(盗用)を派手にやらかした。

 

 結果シンカーに怒られたり、キバオウが肩透かしにあったりしたが、概ね万事うまくいっているといえよう。

 

「わしは人妻が好きだ。幼女が好きだ、少女が好きだ、熟女が好きだ。ありとあらゆる女が好きだ。

 愛している。魂やわしの人生を捧げてもいい。これがわしの証左となる!

 というわけで、だ……ジャンヌよ、わしと閨に」

「なんという猛獣のような汚らわしい目、止めて頂けませんか?」

 

 三國無双だけでなく、三国志・演義等の性格が入っているようで実に可笑しな人物像となっているが気にしない。

ジャンヌもジャンヌで、BLADESTORMの他にも性格が入ってしまっているようだ。

 

 それはさておき、彼等統率者である英雄がいるおかげで、様々な感情の起伏を見せるプレイヤーを御すことができた。

乱闘騒ぎや死に対する恐怖・人格変化等、心情が肉体や思考に直結するこの世界では如実に行動に影響する。

だからこそ心を制御できるカリスマを持つ者で、荒療治をしたわけだ。

 

ただ彼らがいなくなってしまえば、この軍の組織はすぐに崩壊してしまうだろう。

 

 其れも含めてのギルドに属する小規模ギルドへの負担分散や税の取り立て、市民権・人権という存在価値の確立。

治安維持部隊である憲兵の設立、誉れ高き攻略軍の成立、情報操作による洗脳や幼いプレイヤーへの教育……。

シンカーとキバオウに外政と内政の主権を集める、二極化政権の樹立。

色々とあるが、目的の一つである相互利用と利用価値の確立を成立させた。

 

 一般市民は自分が関わらなければ、対岸の火事として処理する。

故に己の幸福が保たれれば、どうでもいいという考えしか持たなくなる。

その幸福を守るためにはどうすればいいか。

自分が助かり、一番安全に楽に自由に生きられるか。

 

 その結果がこの始まりの街に住むという選択肢だけにする。

勿論支配領域が及んだ場所なら、どこでもいいという緩い制限も付けておくことも忘れない。

 

 軍は衣食住・命の保全を周辺住民に確約する。

その為には、法を成立し税・権利・義務を課せ、ある程度の自由を拘束する。

人間は拘束されるのを嫌う。

故にその拘束は誰にも理解されないまま、軍という存在を放置する。

 

 しかし食い扶持にこまり、コルも尽きてしまう。

この世界では敵フラグを持つNPCに攻撃されることや敵認定を受けたPlayerにしか、HPを減らされることはない。

高所から落ちるという選択肢があるが、命の安全という絶対の選択肢がある今ではそれは選択の余地すらない。

 そんな物理的でシステム的プログラム死以外では死ぬことはない事に、プレイヤーは徐々に心を壊されていく。

長時間ゲームプレイで、飢餓に慣れているとは言っても水分すら取れない状況で何をいうのか。

水分で腹は満たされない。嗜好品の範囲内でなければ、腹は膨れない。

現実ではそうだが、こちらでは感じるだけ。

 

 人間は脆い。肉体の弱点は露出し、毛や頑丈な爪や守る骨等存在しない。

心もそうだ。戦争や人死が出る訓練で、無理やり鍛えられた精神を持っていない人間等……たかが己の自由を奪われただけで、

簡単に発狂する。

発狂すれば人は弱くなる。己を守るため最終的には誇りを埃塗れにしてでも、生き残る術を脳を無駄に活性化させてでも、命を生きながらえさせるため何でもする。

 目の前の大きな物に釣られ、影に隠れる真意を読み解くことなどできやしない。

そんな余裕もなければ、ただの葱を背負[しょ]った鴨でしかない。

 

 何故衣食住の配給制や権利や義務の責任を、ギルドへ入る事で全て有効化されるようにしたのか。

衣はいいとして、食は購入するか料理スキルでしか食べることができない。

果物があっても、何千人という人間がたった一滴の水を求めるが如く足りない。

住む場所も命を失う危険という最大の賭け賃を首から引っ下げなければ、隣の町に行くことなんてできやしない。

 

 街の中心に転移門があるが、ここは使用料や始まりの街通行許可証等が必要なので一般プレイヤーが通過することは不可能だ。

オレンジやレッドも、転移門なんて使えやしない。

街に近づいた瞬間、自警団に見つかった瞬間その首を斬られることになる。

 

 とにかく心体共々脆い現代の人間は、ギルドに入るだけの安い勘定を支払う。

そしてそれと同時に、自由を失い責任・権利・義務という重荷を担がされる。

始まりの街は今や要塞都市。

南側は断崖絶壁なので、実質5方向(西・北西・北・北東・東)にある城門で通行許可証やギルド入団の受付を行う。

 

 当初の人間は皆ここで並ばされたわけじゃない。

それでも偶に無茶をした人間が、堕ちてくることがあるのだ。

レッドやオレンジも此処へ、財産・食糧等を奪いにやってくるが牢獄(黒鉄宮)へ送られるか殺される。

 

 いやもっと有用な使い方がある。

 

 それは公開処刑だ。

 

 皆を集め、目の前でどんな事をしたか法螺を吹き・嘘八百で彩り、処刑を行う。

処刑されるものは口を、『沈黙』という異常状態にされつるされるのだ。

 

そう『軍』の在り方を正当化させるのに使うのだ。

 

 

 全ては『軍』が正しいと。

 

 子供や意思の弱い男女に、これはよく効いた。

文句を云う意思の強い古の記憶を持つ老婆や翁には、『軍』の直轄地である畑で労働させた。

 

 

 人間は自由を奪われるが、その中で隙を見つけそのつかの間の自由を楽しむ。

それを繰り返していくうちに、それに順応していく。

結果それになれ、その自由すぎる自由を恐れ、権利等の束縛が無くなる事を嫌がる迄長期的に洗脳する。

 

この中には仕事というものがあるし、ある程度の娯楽がある。

だからこそ、ここは小さな日本の縮図となっていったのだ。

 

 

 逃れる者には制裁を、抜け出す者には鉄槌を、組し反する者には粛清を。

飴と鞭、物事の匙加減というやつだ。

うまい具合に出汁を取ってやれば、後は調理するだけ。

最後においしい汁や料理を食すのは、これを画策しプレイヤーを拘束し偽善な慈善事業を行う二頭の者である。

 

 

 

 国民税金を使って整えた装備は、本当にまともで美しい。

趣味でやっていて、無限にあるスキルを人ひとりが覚えたとしても、研鑽等で己の能力を上げていく。

普通のギルドではできない。

だからこそ、武器の大量改良や創造・研究ができるのだ。

 

 それだけではない。英雄によって得た能力を使い、技術を進歩させ計画を進捗させる。

第28層はファミコンウォーズがテーマ。

故に彼等FWの英雄を解放し仲間にした瞬間、『軍』の日本化は進んでいった。

 

 この無駄な現実感から疎外感を受け、現実と幻想の境界を混濁しようとしたプレイヤーは多い。

その為今では第一層は、ほとんど人が入りこんでいない状態だ。

それでも、彼等は止まらない。

 

 

鳥かごや水槽で飼っている動物を世話し殺さないために、今日も出稼ぎに走る『軍』の攻略軍であった。

 

 

 

 

 さて、彼等の会議が終わったようだ。

 

「なんや、ブラッキーはんが帰ってこーへんと、表に出られへんっちゅーことか。

 しゃーない、適当にぶらつかせてもらうわ」

 

 キバオウは部下に一時解散を命じ、この場から立ち去る事になる。

彼自身も城下町に降りることになる。

 

彼がいなくなると、空気の緊張が緩和される。

幾らKoBや黒の英傑連盟団が攻略組で強いとは言っても、ギルドの大きさで言えば完全に負けて居る。

その為緩い空気を見せつけるわけにはいかないのだ。

 

 

「茅彦さん。そちらのボス戦はどんな感じでした?」

「ああ、非常に愉快なものだったよ」

 

 ヒースクリフ団長は、窓から見える中庭を見る。

そこにはKoBの団員とカービィら黒の英傑連盟団の仲間達が、模擬戦を行ったり文化の違いを色々体験している。

海の崖から少々離れたところにあるこの居城は、さわやかな潮風が常時吹きつけている。

それにもかかわらず、べたべたになるという情報がないのか涼しいという感覚しかない。

 

「まーた茅彦さんが無双したんじゃないのですか?」

「まさか。私の部下のモチベーションを上げる為、偶にタンクをやっていただけさ」

「嘘をつかないでくださいよ」

 

 アスナは壁に背中を付けて、少し態勢を楽にして彼と駄弁る。

命がかかっている戦闘にも関わらず、KoB勢力は楽しそうに命を賭ける。

理由はヒースクリフ団長による、『オーバーアシスト』と『神聖剣』のおかげでほぼ皆無傷という事だろう。

 しかし彼等にも英雄を仲間にしている人物が比較的多くいる。

 やはり前線に出る為、そういう人物と遭遇しやすいのだろう。

おかげさまでヘイトがヒースクリフ以外に行って、全体把握からの支持だしが容易にできるようになった。

 

 彼等の事については、後程記載するがそのボス戦は中々熾烈なものであったわけだ。

 

 

 

 空中に居座るは、体色が朱色の子竜ランディアが4匹と亜空間飛行帆船『ローア』。

 

 ランディアはカービィを背中に載せて、テーマフラグ英雄が邂逅する場所へ移動させる。

カービィだけでなく、隙を見てフーム・DDD・メタナイト卿がそこへ行く。

 『ローア』に集まる彼らの議題は、この事関連が終わった後どうするかという事。

 今現在でも襲来するモンスターはいる。

それでも確実に頭数が減ってきている。その為今回の事が終われば、平和が訪れることは城内PCでも確認されている。

だからこのプププランドで来たるべきその時の為に発展を続けるか、枠組みがなくなった現在外を見るために動くか。

既に物語という拘束から外れている彼等には、その自由が付与されている。

 

 

「わしはプププランドの王ゾイ。しかし、わしを求める愚鈍な輩が多い世の中。

 故にわしはこの天上天下を支配しに動くゾイ」

「エスカルゴンがいないのに、そんな強気になれるわね」

「面白い事を云うな、フーム。確かにこれは愚かともとれる滑稽な事ゾイ。

 しかし外には多くの者が、力に屈しているそうではないか。

 そこでわしの仁政を敷いてやれば、頭が花畑な連中はついてくるゾイ」

 

 最初に発言したDDD。

彼のいう事はめちゃくちゃだが、別天地に憧れる弱者がいる。

勿論現状に満足できず、もっと楽して過ごしたいという想いの方が強い。

 だからDDDは長続きしないかもしれないし、結果PKやMPKとあればギルド以外のプレイヤーに執拗に追いまわされることになる。

 現状『軍』により、ダークヒーロー以外の英雄は殺してはいけないという規定がある。

これは彼等が強大であるのと同時に、ただの一般プレイヤーに強大な力を手に入れさせると暴走する可能性があるからだ。

 普通は独り立ちをするために、普通に街を離れ共闘し成長する。

 それでも甘言や酔狂でプレイヤーを扇動する、英雄に紛れたダークヒーローが彼等を唆[そそのか]す。

これにより多くのプレイヤーが苦渋や辛酸を味わうことになる。

傷つくだけで、何の成果も得られない。

 

 結果。ダークヒーローだけは、ギルドが率先的に狩るか敵が使うフィギュア銃の餌食にさせた。

 

 それでもやはり、プレイヤーから率先して行動し能力だけを頂戴し、英雄を扇動者に見立てて処刑させ身の潔白を告げる者もいた。

 そういうプレイヤーが持つ能力やスキルは、テーマフラグが開放された層の英雄と出会いフレンドになる事で継承される。

 

 これこそ下層・中層プレイヤーが、前線に出しゃばれる最大の原因である。

 

 簡単に説明しよう。

テーマフラグ解放英雄はマリオだとする。彼をつれたギルドが、テーマフラグを解放しパックを貰ったとする。

するとマリオと同じマリオブラザーズ関連の英雄やダークヒーローのパックが、他プレイヤーに譲渡できるようになる。

この場合だと、マリオ以外にルイージ・ピーチ・クッパだ。

 

 ルイージが一人ぼっちの間に、テーマフラグ解放をされたとき誰かといつか友人になる。

その友人はルイージの心の内を、曝け出して云えるほど親密な関係になる。

そうするとルイージは、信頼関係の樹立でパックを渡す。

 テーマフラグ解放英雄程ではないが、強い装備や能力を貰えるようになる。

 このパックは売れないが、装備を売ることはできる。

だが英雄が邪魔だ。そこで英雄狩りを専門とするHK(Hero Killer)ギルドに依頼。

コルだけが報酬条件として出され、そのまま狩ることになる。

 英雄からの装備系は、基本的に本人の意思がなければ渡せない。

故にコルだけが報酬になってしまうのだ。

 逆手にとって命と装備を交換するという外道もいるが、そういうのはオレンジと化して『軍』に処刑されている。

 

「メタナイト卿は?」

「私はより強い相手と戦いたい。今回でわかったが、攻略組は私から言えば過ぎたる者ばかりで、真の武術を持つ者がいない。

 そこで私はその者を探し出し、戦い、真髄を見極めたい」

「外部進出するのね。分かったわ」

 

「フームはどうするのだ?」

「私が離れたら、ここはどうするのよ。それに私は頭脳だけが取り柄よ?

 戦闘能力なんてもっちゃいない。だからここに残って、プププランドの発展に取り組むわ。

 今は軽い独裁政権。だからこの状態を続けて、緩やかな感じを続けながら確実に進歩させるわ」

「ふっ、それは楽しみだ」

 

 メタナイト卿の想いとフームの想い。

両者を尊重しあって、この会話は終わる。

 

 最後にカービィだ。

 

 

「カービィはどうするの?」

「キリト達についてく。きっとまだ、ゼロ達が放っている負の感情に苦しんでいる人達がいるはず。

 だからボクがそれをどうにかするんだ」

「そんな建前は置いといて、本当はどうしたいの?今のあなたは、何事にも巻かれていないのよ?」

 

 フームはカービィに優しいまなざしを向けて諭す。

この彼女の視線に耐えきれないカービィは、背中を向けて話す。

 

「ボクはいろんなカービィが混ざってる。だから、整理しきれないんだ。

 だからボクはこの世界を巡ってみるよ。きっと、何か掴めると思うから」

「そっか」

 

 フームはカービィのちゃんとした考えを持っている事にうれしくなる。

今までぼけーっとしていた魔獣の赤ちゃんだったのに、今ではちゃんとした思考と思想を持って行動してくれる。

きっと彼は良い星の戦士になる。そんな気がする。

 

「それじゃ、キリト達が帰ってくるまで待っている事にしましょ」

 

 フーム達はランディアを使うか、そのまま自由落下して城に戻る。

しかしカービィだけは、『ローア』に残る。

今後の事を考えているのだろうか、憂いているように見える。

 




 たぶん次の一回で終わります。

 今回は一万文字行きませんでしたが、どうぞ楽しんでください。
ではまた、いつか。


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6:鏡の世界 最終決戦 そしてクリア

12596文字。


 

 マスターソードに装着された、ダークマター族への帰属装置。

 

 これはダークマター族に属するボスやモンスターの心をリセットしつつ、仲間になる様に思想を変化させるアイテムだ。

しかし今現在白キリト・影キリトの目の前に君臨しているのは、既に負の感情そのものが具現化したものとなっている。

 そう彼の者は既にダークマター一族というモンスターではない。

 物質的なものであれば、この機能は使用出来たかもしれない。

 だが概念である今だと、この機構は無用の長物へと変化してしまっている。

 

 

 そこで彼の者を撃破するには、彼の者の中心であるあの黒の憎しみと赤の怒りに包まれた紅の瞳を貫くしかない。

この貫通方法は二種類ほどあるが、一方は現実的ではない。

もう一つはできるにはできるが、命を失う可能性がある。

つまり詰んでいる。

 彼等はこの選択を迫られている。

 徐々に強くなる負の感情。%で言えば、60%。

概念と化したその者は、命の保全という考えを捨てた様だ。

しかし彼の者は何故こんなに強い憎悪を抱えてしまったのか、白キリトの疑念は尽きない。

 

 さてこの概念化した物を貫くには、負の感情の真逆な物で吶喊しなければならない。

 マスターソードそのものだと、この負の感情を増幅する可能性がある。

そこで対となるクレイジーソードで、破壊していくしかない。

だがこのソードは持つ者に、最凶の不幸を振りまくという説明がある。

 これを無意味にするには、陰陽同化して二振りの剣を同時に持ち進むしかない。

クレイジーソードを持つのは、影キリトが持てばいいじゃないかと考えるだろう。

しかし今は陰陽離脱をしている状態だ。この状態で影キリトは、負の感情が強すぎて前に進めない状態だ。

 こんな状態で戦うのは、片手其々に三キロの荷物を持つのと同じだ。

 効率性を増すと両手で6キロの荷物を持った方が楽であるのと同じように、

この二対の剣を陰陽同化で左に『理壊の剣』右に『創主の剣』を持ち運用する。

 

 そして最後の決め手は、ドリームエナジーという『アンチ・ヘイト』属性を持つ対概念体だ。

これを二振りの剣に纏わせれば、周囲の負の感情を抹消することができる。

遂には目の前のラスボス的存在を撃破することができる。真に悲願である。

 

 対する二極属性である『負』と『正』だけだと、全く持って意味がない。

そこで『負』を作り放っている彼の者の波導を『破壊』し、『正』を抽出し『創造』の力で増幅する。

 

これで拮抗から抵抗へ力の均衡を、変化させることが可能になる。

 

 

「……キリト」

「何だよ、行き成り」

「テーマフラグ解放についてだが、まだ解放されていなかったのかもしれん」

「はあ!?」

 

 いきなりの暴露に驚愕を以って受け入れる。

だがそんなことは後回しにし、目の前の元凶を撃破する様に働きかける。

 

「そうだな。今は我々の敵を撃滅せねばなるまい」

「ああ。行くぞ!」

 

 陰陽同化する。

 そして意気投合と指針の決定により、ユニゾン率が急上昇する。

そんな事露とも知らない彼等は、二振りの剣を目の前に突き出す。

 

 

 「『並行展開』!!」

 

 裂帛という己の恐怖を持ってして叫んだその聲ではなく、確実な意思を持っての強い言葉となり発動を宣言する。

この意思にダークゼロも引っ張られ、覇気を持って咆える。

 

 

 負の塊であるゼロは、黒と赤の衣のようなモノに包まれている。

その中央にはキラリと光る紅の瞳がある。

今でも言葉ではない何かを叫んでいる。呪詛なのか慟哭なのか、号哭を周囲へ喚き散らしている。

80% 強すぎる憎しみは、彼等を押しつぶそうとする。

 

 しかしそれでも彼らは負けない。

 量子世界に作られた巨大なスターロッド幾何学群は、3900ヨタワットのドリームエナジーを放出する。

その放出された物を全て掌握し、『マスターソード[創主の剣]』はこれらを増幅する。

 

キィィィイイイイ

 

 刀身が黄金色から徐々に明るい色へ変化していく。

ドリームは数多の者がみる色とりどりの夢。経験と思想により、それらは常時変化する。

それを色として表すのならば、虹と呼べるだろう。

 

 彼等は膨大なドリームエナジーがもたらす余波で、周辺の負の感情を駆逐するようになるバリアを手に入れる。

 バリアは透明だが、負の感情が吹きすさぶ風により削られたその軌跡は虹色を鮮やかに映し出す。

 

 

 

 「『雷鵺剣』!!」「『鳳凰剣』!!」

 

 二人が表裏で叫ぶとき、一つの肉体が二色に一瞬変化する。

白キリトは後光なのかどうかわからない、未知数のエネルギーを産出する『神光』を放つ。彼は光と化す。

影キリトは闇なのかどうかわからない、無量大数のジュールを放出する『黒焔』を放つ。彼は黒と化す。

 

 二対の者と物が、合わさればそれは究極なのか最弱なのか、よくわからない事象をこの世に生み出す。

 これこそ有頂天。色として示すことができない真髄そのものだ。

 

 ユニゾン率は青天井と化す。

 

 

 「行くぞ!!!」

 

 肉体色を一つへと変化させる。100%を過ぎれば、それはもう……完全体であるのだ。

二者として不完全な肉体と意思は、一つとして収束する。

 

 

 キリトは両手にある真っ白な二振りの剣の切っ先を合わせ、吶喊しやすいようにする。

そして駆ける。疾駆。走るわけではなく、鳳凰と雷鵺が作り出す推進力で一気に前に進む。

 

 彼の軌跡には、虹色のドリームエナジーが散乱しており見事に彩られていた。

 

 

 100%

事象の崩壊を迎えるソレ。本来なら何事もこれに流されるが、彼の者には通じなかった。

限界を超えた彼は、その物を貫く。

 

 

 そして貫いた後、彼らは陰陽離脱を行う。

3900ヨタワットを超えるエネルギーは、無茶も無茶な現象を発生させる。

別位相で原点に交わらせ陰陽同化と同等の能力を引き出しながら、この3次元世界に投射し概念と化しているゼロへ攻撃を行う。

 

「『紅の場合』『蒼の場合』『碧の場合』これ等を全て合わせ、究極のスキルを使う」

 

 

 

 

――――『無の場合』――――

 

 

 

 これを使うと、超巨大で極太の灼熱の劫火が周辺を脅かす。

空中や地上を薙ぎ払う爆炎だけでなく、位相等全ての空間を焼き払う劫火・地中を燃え盛らせる獄炎も発生。

これ等の効果後、圧倒的な攻撃系バフが彼らに付与する。

 

 次に絶対零度よりも数十度低い温度を、周辺へ無限侵蝕させ天上天下を支配する。

この圧倒的温度差で、普通であらば死んでいる。

だが概念にそんなものは効果がない。

絶対零度が生み出す鋼鉄よりも固い薄氷が、彼等を全ての危機から救う。

 

 最後に雷光が周辺を蛇の様に這い、隼のように駆ける。

全てを須らくと統一し、檻どころか全ての法則に捕らわれてしまうようになる。

この雷光は彼等を包み、雷ではなく光の速度を付与する。

 

 

両者が行うのは、滅裂な天の攻撃と揶揄できそうな攻撃だ。

 

 

 

「『天靭:冥獄』!」「『冥靭:天神』!!」

 

 

 

 ありとあらゆるところを光速で切りつけて、空間に傷口を創る。

 四方八方数多のいろんな位相や空間・次元から攻撃され、ゼロは木端微塵に破壊され夢の中へ溶けていった。

 

 夢で描かれる憎悪や怒りは、徐々に時を経るごとに忘れて行くものだ。

過去の悪い事情や事実等は、基本的に甘美なものとして話草の種になる。

 

 まあ例外はあれども、それは人を形作る物として、楔として心の中へ残り未来を紡いでいく。

 

 

 

 

「ふぅ……」

「終わったな」

 

 

 両者は二振りの剣を、鞘にしまう。

 

 黒い空間は晴れて、蒼穹の空と深緑の草原となだらかな丘陵の世界でくつろぐ二人。

後は鏡が出てくるまで待つ事だ。

 

 

 

しかし、全く戻るための鏡が出てこない。

 

 

 

「おいおい」

「キリト。上空から反応だ」

 

 

 元に戻った影キリトは、上を見上げる。

何処かわからない白キリトの為に右手で指示[さししめ]しながら、左手で頭を固定する。

身体は分裂しているが、思っている事は同一なのでどう動かせばいいかわかる。

 

 

 白キリトが見る先には、真っ白な何かが翻っていた。

其れと共に、何か光っている?

と彼が思った時に、そのナニカはこの地に落ちた。

 

 爆風で周囲が荒れてしまった。

 別に木々や岩一つ何もない平原なので、浴びせられたのは土だけだ。

とにかく近寄ることにする。

 

 

 

 其処にあったのは、赤黒い液体に塗れた透明な結晶だった。

その結晶は割れはじめ、割れた結晶の中に居たのは……少女だった。

 

 

 

 つまりゼロの根源は、この少女が何かしたという結論に至る。

だが戻ろうとしても、鏡が出てこない。

まさかと思うが、これは……。

 

 

「ゼロは途中までちゃんとしたボスで、概念化した瞬間にデータ毎とんだのか?」

「可能性はある。とにかく、ギラティナの夢波長を合わせ、空間的に移動できないか?」

「あのな、光と闇の間でぎりぎり会話しかできなかったんだ。

 できるとしたら、パルキアかアルセウス位だろ」

 

 二人が議論を重ねていると、徐々にここら全てにある草原が青空と共に消失していく。

やばい雰囲気を感じ取ったのか、陰陽同化して少女を抱えてドラグーンに乗って空中で待機する。

草原にあった結晶は、草原が消滅するのと同時に暗黒の闇へ落ちて行った。

 この光景にキリトは冷や汗を掻く。

 

 

 

 

 そして、彼等は巨大なエネルギーを感じ取ったパルキアに助け出されることになった。

なんと通常の三次元空間から、一億位離れた位相にいたらしい。

故に探すのに時間がかかったという事だ。

 

 

 帰る途中空間の狭間で、アルセウスとユニゾンしたシリカとピナに出会う。

彼女達が云うには、ディアルガで時間を早送りにしても部屋が消失するだけで鏡は出現しなかったとの事。

やはりフラグ自体が、この裏ダンジョンは壊れている可能性がある。

 しかし鏡でキリトと彼女がいる場所以外は、鏡が出現し帰還できた。

なのでこれはゲーム側のバグとしかいいようがない。

 

 パルキアの腕の中で眠る少女を見て、シリカはキリトに対して名前等情報を聴くが全く手掛かりなしという。

 最初から睡眠状態で、起床していないと伝える。

ドラグーンに乗ってパルキアの速度に合わせるキリト。

飛んでいくとギラティナのやぶれた世界への出入り口があった。

此処から入り込んで、闇の鏡の世界へ行くことでプププランドへ向かうことができる。

 バグの最中、この状態はまずいのではないか、と思う彼等。

 シリカはキリトに話を通すが、最後のラスボスを撃破した瞬間を見たとのこと。

その時に出てくるコンソールの移動のようなもので、ゼロが消失し違うものが出現したという話だ。

 

「シリカ。それはどういう奴だったんだ?」

「それが一瞬の事だったので、全く分かりませんでした」

「そうか……」

「とにかくキリトさんは、アスナさんに通達してその子の介抱をお願いします。

 私は別に出口がないか、そのフラグと共に探ってきます」

「頼んだ!」

 

 一度シリカ達と別れる。

ダム穴に入って、そこからやぶれた世界へ入る。

その世界には、多くの伝説級のポケモンがいる。

 彼等の中の一匹が、表の世界へ行く場所を案内してくれる。

そのままドラグーンで突入する。

 

 突入するとその先にあるのは、青空だった。

そして夢波長でアスナを直感的に探し出して、その場へ行く。

 

 

「っそい!」

 

 

 ドラグーンから勢いをつけて飛び降りる。

入り込むのはDDD城の通路だ。

この通路に入り込むには、一定間隔で建てられている柱の間をぬって行かなければならない。

彼の場合、このようなことはお茶の子さいさいだ。

 

「ぐふっ」

 

 

 勢いが付きすぎたのか、壁に衝突する。

少女は無事だが本人が無事じゃない。

 

 

(「おいおい。崩落させるなよ?」)

「わかってるって」

 

 壁からでてきた土塊が、ポリゴンとなって消滅していく中壁も修復される。

彼は床に着地する。

 そんな中足音が複数あって近づいて来るのが良く解る。

 

「ちょっと、何をしたのよっ!って、キリト君!」

「ほほう、帰って来たかキリト君」

 

「よ、アスナ。ヒースクリフ」

 

 アスナはキリトに近づき、HPが減少していないか確認と共に胸に抱かれる少女に気づく。

後方で控えているヒースクリフは、少女の事をみて顎を擦る。

 

「キリト君、この子は?」

「この子はラスボスと戦闘後に、結晶に閉じ込められて俺達の所に来たんだ」

「俺達?」

「あー、いや、言葉の綾だ」

 

キリトは己の失言に笑い誤魔化す。

アスナや後ろのヒースクリフは、何が何なのかわかっていない為この事は素通りすることになる。

 

(「話さぬのか」)

(「あまり情報は出したくない」)

 

 彼はいつまでたっても臆病である。

48層まで来ても、基本的に前線に来たりダークヒーロー等と命の取り合いをしていた。

それに基本的に独りで行動するので、そこまで多くの人間と会う事はなかったりする。

 感情のぶつけ合いを避けている為、彼自身の心の成長は促せていない。

寧ろ成長しているのは、他のギルド仲間だけだ。

 

 彼が恐れているのは何なのか。

それはこの二振りの剣だ。

 今は鞘にしまっている為、刀身を見せることはない。

 おかげでその美麗さに目を奪われることもない。

この武器の恐ろしさは異常である。

それにダークマター族の一員でもある人物が、自分のもう一人を形作っていると知れたら自分はどんな仕打ちを受けるだろう。

 彼が討ち果たされていないから、この世界に出入り口が存在しないのではないか?

 そんな不安が彼の考えによぎる。

 

 

(「キリト。我は一度倒されている。故に思考がリセットされて、お前の半身となり心を知りたかっただけだ」)

 

 

 ダークゼロはキリトの不安を感じさせない様に、心の中で呟いて見せる。

別に知らなかったわけではない。

あの陰陽同化の時、お互いの持つ情報を共有した。

 故に隠し事はお互いまかり通らない。

 それでも不安になるのだ。

 

(一人じゃない。皆がいる。でも、これはだめだ)

 

 彼の本意は大事にする。これはお互い察するところだ。

 

「とにかく、ベッドに移動させたい」

「わかったわ。『ジーニアスヘッド』、ベッドの整理をしてきて」

 

 近くに潜んでいた猿型機械獣は、すぐさま一番近い客間にベッドを用意する。

 そのベッドに彼等は案内され、少女をベッドへ寝かす。

 キリトやアスナ達は、部屋に設けられている椅子に座り込む。

しかしヒースクリフだけは、その場に立っている。

彼は少女に近づき、コンソールをいじる。

 

 何をしているのかわからなかったキリトだが、茅場が真剣な表情で弄っているのを見て止める気は更々なかった。

 これのおかげで、ヒースクリフは更に表情を深くする。

 

 

 

 そしてこの発表のおかげで、未来に起こる出来事を最小限に食い止める事ができる。

 

 

「キリト君、アスナ君。今から、シリカ君にやぶれた世界で私と密会できるよう要請できないか」

「シリカじゃなくても、サトシでもいけるぞ?」

「ならばサトシ君にお願いしたい」

 

 キリトはヒースクリフの表情と焦り気味なその言葉に含まれる感情を感じ取って、

直ぐに行動しようと立ち上がる。

しかしその時アスナが、キリトの腕をつかむ。

 

「キリト君は休んでて。私が行ってくるわ」

「あ、ああ。頼んだ」

 

 アスナは立ち上がってすぐに、この部屋から出ていく。

 キリトはアスナが出て行くまでその背中を見届け、消えた後はKoB団長を見る。

彼は団長に聴きたい事があった。けっこうたくさん。その中で選抜した質問を持って、彼に尋ねる。

 

「茅場さん。彼等の事、何かわかりましたか?」

 

 彼はキリトに聴かれてはっとする。思考に耽っていたのだろう。

彼は気を取り直して再度キリトに聴く、キリトも再度彼に云う。

 

「彼等は売り元が任天堂、サードソフト開発のHALが作り上げた『スマッシュブラザーズ』というゲームから来た事は間違いない。

 しかし何故彼等以外のゲームが、ここにきているのか全くわからない」

 

 スマッシュブラザーズ自体が一種のお祭りゲーである。

数多のサードソフトから販売元としての集まりを考え、それぞれが関連するキャラを集め同じ舞台に上がらせる。

その舞台では戦わせたり会話をさせて、ユーザーにifや二次創作の時に得られる妄想等楽しみを与える。

 例えば同じ様に世界を救う勇者だったり、同じような戦乱期に仁政を敷いた者同士の会話だったり。

 このように公式でifを作り上げるのも一興なのだが、他にもねらい目がある。

 こういうお祭りゲ―は、他作品にユーザーの興味を持たせ購入してもらおうという魂胆もとい経済効果を生み出している。

この策略に引っかかった場合、開発資金が増えて新たなゲームを作り出す可能性が高くなったり、

創っているお祭りゲーに他の会社からいろんなキャラクターを登場させて、人気と周知を拡大させるのに一役買っている。

 

 これらの因果が収束した結果、このゲームにはフィギュアやシール・アシストだったりいろんな要素が要り込まれた。

 この中に入っている要素は、SAOで既に発見されている。

 

「とあるスマブラ体験者に話を聞いてみると、このゲームは他のお祭りゲーも混じっていると聞く」

「明らかに戦国や三国時代の方々がいますし、一応わかっていましたが……」

「ああ。『無双OROCHI』という題名だそうだ」

 

 キリトは聴いたことがないゲームで、簡単に茅場から情報を受ける。

 なんでも遠呂智という存在が三國と戦国の人物を合わせて、この絶望から這い上がる乱世の将としての活躍を上から眺め己が滅ぼされるのを待つというシナリオらしい。

 ラスボスかどうかは分からないが、確実にフロアボスなのがその遠呂智だと決まった。

 

 この会話が終了するときに、廊下から音が聞こえてきた。

 

 

「お待たせ!」

「ギラティナなら既に呼んでいるぜ。ほら」

 

 気難しくはないが、人間に騙されたことがあるギラティナはサトシとシリカ以外の言葉を聞かなくなった。

故に彼等が指示しないと、やぶれた世界等を利用させてもらえない。

更にこの世界に入るには、彼等同行者が必要なので密会をするにしてもシリカまたはサトシが介入しないといけない。

 何せこの世界は難しい世界でごく微量の空気や塵以外を外部に出すと、どちらの世界も影響しあうという

真っ当に面倒な世界システムを作り上げられている。

 その為彼等はそれを監視しなければいけない。

 

 

 アスナ・キリト・ヒースクリフ・サトシが、宙にできるダム穴に潜り込みその世界に入る。

 

 

 相も変わらず可笑しな世界だ。重力や構造が滅茶苦茶だ。

 今はこちらの世界のDDD城にいる。

 

 さあ、話を始めよう。

 

 

「さてと……君たちには、内密にお願いする。

 この世界の根源に関してだ。

 簡単に言えば、二人の代表が一つの題材で会議して得られた結果を元に、部下に仕事を割り振る。

 これがこのSAOを作り上げている『カーディナル』だ。

 そして、この『カーディナル』はありとあらゆることができる。アイテムや通貨の流通等、それらの調整等だ。

 そうだな……昔は人の感情についても、人間のスタッフを用意しようと思ったんだが、お金の問題でこれもシステムに任せようとしたんだ」

 

「つまり、それがこの子なんですか?」

「察しが良くて助かるよ、キリト君」

 

 茅場は今まで見せたことのない表情を、彼等三人に見せる。

その表情は優しさに満ち溢れている。

 VRゲームを作る事以上に難しかったであろう『カーディナル』の設計は、

謂わば彼等の宝であり息子であり娘である。

何でもできて頭の良い子供だ。

 

 だからこそこの解決には、ゲームや開発に携わった者ではだめなのだ。

 この子供……孫が持つ本来の能力は、プレイヤーに発揮されるものだからだ。

 

「この子は人間の感情を観察しその情報を入手したり研究し、プレイヤーの心理状況に関するアドレナリン等の神経伝達物質の調整を行う役割を与えられている。

 ”MHCP(Mental Health Counseling Program)”精神的健康補佐計画の試作第一号『YUI』」

「yui……」

 

 アスナはその名を呟く。

 普通こんな話をされると、理解しがたいがわかりやすい説明に頷きを返すことはできる。

 

「さて、彼女の事だが……君たちに任せたい」

「「え?」」

「まあ私情なのだが、現実で私とアスナ君は知り合いでね。その友人とあれば、託すのには申し分ない理由だよ」

 

 

 ―――それに良い表情をする。

 

 

 あまりの事に口を開き茫然とするキリトとアスナ。

彼等にとっての衝撃波は、意外と強かったようでサトシが笑いだすまで硬直しっぱなしだった。

 

 

 

「最後に私と共に来てほしいところがある。

 これをしなければ、その子は消えてしまうからだ」

「はあ!?な、なんでだよ!」

「彼女の今の状態。いわば、バグだ。それに私も見たことがないフラグやプログラム改変が入っている。

 向こうに帰ったらできるだけ早く、其処へ向かう事にしよう。

 でなければ、この世界が終わるかもしれない」

 

 キリトはそれを聴いて息をのむ。

アスナもその確定宣告を受けて、呆然とする。

 両者は同じようで同じじゃない驚愕をしている。

 

 キリトはこの世界の終わりを既に体験しているからだ。

 それはゼロという負の感情の塊そのものによる、この世界を巻き込んだ大崩壊を引き起こそうとした。

実際戦闘後にあのラスボスの部屋は、プログラム毎消滅してしまった。

そしてyuiはゼロを倒した後に出てきた。

 もしかすると、YUIが変化してあのゼロになったかはたまた逆になったのか。

それは分からないが、圧倒的情報量によって押しつぶされた両者はその空間毎崩壊しかけた。

いやゼロは本来の意味で崩壊した。

 

(「このダンジョン自体、バグの可能性があるな」)

(「其れは俺も思っていたよ。そもそも、48層自体が崩壊しているんじゃないか?」)

(「それとなく聞いてみてくれ」)

 

 その言葉に心の中で頷く。

 

 

「ヒースクリフ。その場所に向かう前に、俺はこの48層を少し調査したいんだ。

 主に、誰がパックを貰ったのか、そしてこの層のテーマフラグ英雄は表で誰だったのか」

「え、いないわよ、キリト君」

 

 そのアスナの言葉に耳を疑った。

更に最前線で戦うサトシからも、こんな言葉が聴ける。

 

「リザードンやピジョット達に捜索してもらったけど、それらしい奴はいなかった。

 それに48層もしびれを切らした聖龍連合が、そのまま吶喊して滅ぼしたしな」

「そもそもこの階層が、どんなテーマかわからなかったのよ。

 ここ、茅場さんがいうには、47層と同じ意匠だって言ってたし」

「そうだ。全てにおいてここ48層は、本来のSAOの47層と酷似どころかそのままだ。

 

 キリト君、君は何か知っている様だね。ここで話せないかな?」

 

 机に肘を付き口前で、手の平を合わせている彼は何かを感じた様だ。

彼が長時間帰ってこなかったその理由の一つだという事も、彼やアスナは薄々感じ取っていった。

流石にここにきても口を割ろうとしない彼に、アスナは訝しむ視線を送る。

 

それでもキリトは口を割ろうとはしなかった。

この情報はやばい。

 

 彼自身の能力はパックなしでこれだからだ。

故にキリト……自分自身も、バグまたはチートである可能性があるからだ。

だからカーディナルに消される可能性がある。

 

 言わなくても危ないが言ってもヒースクリフはともかく、アスナは押しに弱い節があるので、簡単に口を滑らせ他者に情報を渡しそうで恐ろしいからだ。

 別に今伝えるべき情報でもないので、ここは黙秘権を執行することになる。

もし相手が恫喝や自白を強要する手段に出れば、強要・脅迫罪で……って何を考えているんだ。

 

(「俺はこれは言えない。パックを貰って、既成事実がなければ……」)

(「其処は同意しよう。我らの状態はあまりにも不安定だ。実際我も何故実体化できたのか、あまりにも不明瞭だ」)

 

 ダークゼロである影キリトも、そのように決定づけた。

圧倒的味方を得たので、彼は恐怖やらなんやらをおくびに出さず何も隠していない事を伝える。

アスナの疑心暗鬼は深まるが、いつか話してくれればいいなくらいの気持ちに収まった。

 そんな彼等の信頼またはその疑いっぷりを見て、茅場は微笑む。

 サトシもキリトが前よりも感情を隠しながら、表向きに元気になった事を示すことができるようになった事を内心褒める。

実際あまりよくないが、表情から見受けられ察することや受け止められるのは戦術的にまずい。

だからそれは良いのだ。

 

「では、此れにて閉廷。向こうへ帰るとしよう……ん?」

 

 

 ヒースクリフが気づいた時、全てが動き出した。

そう、何もしていないのに、窓から見えるその大地が崩れ始めたのだ。

 

「なっ……まさか、あっちでも!」

 

 サトシが驚愕し焦燥する。

だがすぐに冷静になって、助けを呼んだ。

 

「ラティアス、ラティオス。俺とキリトはいいから、ヒースクリフとアスナをのせてやってくれないか?」

「フォオオオッ」

「キュウッ」

 

 二匹は頷く。

ラティアスとラティオスは、両者をサイコキネシスで浮かせて背中に乗せる。

サトシはリザードンに乗り込み、キリトはドラグーンに飛び乗る。

ドラグーンは勢い付けて降りる時、インベントリにしまい込んでいたのでここで使えるのだ。

 

 大地崩壊が続く。このDDD城内から、皆は外へ出ることにした。

そんな時だった。何者かがはるか上空から、光をこの空間に投射する。

 

 彼等の中でキリトだけが、その存在を直視できた。

しかしあまりにも遠いため、その実態をその目に捕えることはできなかった。

 目の前が光り輝く。この眩しさに耐えかね、キリト達は目を閉じ腕で目の前を塞ぐ。

 光が止んだ時、目の前にあった全てのものが、このやぶれた世界からなくなっていた。

 

 

 表もそんな大騒動が起こっていた。

 

 

「うわあああ!?な、何だ!」

「じ、地震だ!」

「死にたくない!ど、何処へ行けばいいんだ!」

 

 そんな彼らの目の前に、大量の機械獣が集結した。

 

「私はアーロイ!全ての機械獣を操る英雄だ!全員この機械獣に飛び乗れ!逃げるぞ!」

 

 そんな聲を張り上げると陸上型機械獣は、そのままDDD城の崖にある岬へ行く。

飛行型機械獣は、そのまま天高く移動する。

 岬へ向かった機械獣達は、その先に用意される物に飛び移る。

 

 

 それは『戦艦ハルバード』だった。

 

 メタナイト卿は『ローア』から、この雄大なプププランドを眺めていた。

その時『ローア』が彼と共に居るカービィにわかる言語で、注意という言葉を繰返し言い放った。

カービィはメタナイト卿に、『戦艦ハルバード』を出現させる用意をしておくように通達した。

 メタナイト卿はその言葉に頷く。共に星の戦士であるが故、物事の変化や変異は本能的に感じるようになっている。

その為すぐに『戦艦ハルバード』を、乗りやすいようにDDD城先にある岬に横付けする。

これにより崖から飛び乗ったり、岬から艦内へ入れるようにする。

 

 この瞬間、世界が振動し始めたのだ。

瞬く間に恐怖が伝播していく。そしてアーロイが『チャージャー』という羊型機械獣で、彼等の所へ行き精鋭機械獣らを召集する。集めたらそのまま、陸上は戦艦ハルバードへ行き飛行型はそのまま飛翔する。

 

 

「えーと、テーマフラグ英雄や学習AIを持つ皆は、急いでハルバードにのって!

 他の皆はただのNPC!放っておいても、何時か復活するから!」

「ねぇチャーハン、急いで!」

「ええ、わかっているわっ!」

 

 フームやブン・キュリオさん等、特殊な事情を抱えた方々は早速移動した。

ローア・ランディア・ハルバード・デスタライアーに乗り込んだ皆は、空中へ退散する。

 すでにぎりぎりだったのか、この世界は縮小を開始される。

 徐々にその縮小速度は加速して行き、小さな雫になる。

その雫はどこか別の位相空間へ飛び立っていった。

 

 

 空間は真っ黒闇に包まれていて、誰も動けなかったがすぐに解決される。

それは天井と呼ばれる上の方のスカイドームに、ヒビが入っていってその亀裂から光が差し込んだ。

そして光が差し込むのと同時に、一気に世界の闇が崩壊した。

 

 闇が晴れたその先にあるのは、空中に浮く超巨大な青々とした世界樹だった。

 世界樹は様々な光を携えている。

また世界樹の周囲には、プレイヤーが沢山浮いているのだ。

 

 

 そのプレイヤー達から見ると、元47層のような花畑が広がる大地が崩壊しだし足場が崩れ始めた。

 こんな大層な時、崩壊と真逆な事をするものがあった。

それこそがギルドが入っていったあの洞のある大木だ。

 

 大木は周囲の花やモンスター等全てから、光る粒子を吸い取っていく。

そのままその大木は、一気呵成勢いそのままに急成長を行う。

プレイヤー達はその成長に呑まれ、一部の者はHPを減少させてしまう。

 しかも転移結晶は使用不可能。

 そんな危機的状況の中、とあるプレイヤーが救出に来た。

 

「皆さん安心してください。今から助けます!行って下さい、皆!サイコキネシス!」

 

 

 そうシリカだ。

 彼女は複雑な位相空間を作り出す電子空間を潜り抜け、この表の世界に出てきたのだ。

 シリカはこの天変地異と膨大な計算に驚いて、この場所に来ただけでもあるがそれでも見捨てられぬことがある。

故にやぶれた世界よりポケモンを出現させて、プレイヤー全員を空中へ退避させた。

 

 大木は超巨大な世界樹と呼ばれるような、青々としたものへと変化した。

其れと伴ってあの大きな洞も大きくなっていた。

 

 大木は突然洞から真っ黒い球体を、外部へ勢いよく出す。

 この真っ黒な球体は誰もいないところに展開し、徐々に縮小そしてそのまま半径500Mから半径5Mになった。

そしてその球体はぼろぼろと崩れ落ちて、黒い欠片のままそれは小さな粒となって天に昇っていく。

代わりに黒い球体から光を纏って出てきたのは、上記の原寸ハルバード達だ。

 

 

 世界樹が天をも突かんとするほど立派に育つ頃、振動や成長が停滞する。

この停滞と共に世界樹が天井と思えるほど広がるその枝葉から、無尽蔵の粒子……いや違う……。

 

 

 その粒子は徐々に大きなって来る。

 

 それは先ほどのカービィ世界の全てが、ピースとして降りてきた。

このピースの一部に台座が見受けられたので、移動は鏡や台座になることがわかっていた。

 降りてきたピースは、それぞれが巨大であり別世界になっている。

それらは木の根に引っかかり、そのままそれがステージ・街・ダンジョンとなる。

 

 天上には燦々と輝く太陽、天下には太陽により煌めく広大な大海原。

空は青空や綺麗な雲がかかっていて、世界樹の神秘さと合わさって非常にきれいである。

周辺にはきらびやかな粒子が漂っている。

 

 ステージ(ピース)が全て木の根に固定化され、全てのステージに木の根から水を与えられる。

 最後に大樹の中央下部に開いている巨大な洞に、そのまま蓋で閉じるように黄金装飾の鏡が出てきて塞ぐ。

 

 

 そして、鏡は周囲に虹の閃光を放つ。

その閃光が当たったピースには、命が吹きこまれていく。

つまり、モンスターのリポップやNPCの再配置だ。

 

 再配置が終えたと思ったら、天より輝く太陽より何かが降りてくる。

 

 正体は黄色い星である。カービィがモブを吸い込んで吐きだすときに出る、星型弾と同型だ。

黄色い星は途中で二つに分裂し、空中を公転回転して鏡の真ん前に来る。

そして一度重なった黄色い星は、横断幕が開かれるように一気に左右に開く。

 

 

 出現したのは、”Thank you so mach !” ――ありがとう――  だ。

 

 

 戦艦ハルバード内外・ローア・ランディア・デスタライヤー・飛行型機械獣・サイコキネシスで浮いたプレイヤー達。

全員が感じ始める事になる。

 

 

 

 この世界はSAOの枠から解き放たれ、新たな世界になろうとしている……と。

 

 数多のプレイヤーは歓喜一色に染まった。 

皆思い想いに大地に降りる。

一番鏡に近い街は『プププランド』と呼ばれ、転移門が設置されている。

洞を塞いだ鏡に入れば、数多のステージにいける『鏡の間』に行ける。

 

 

 既に境界はなく、闇の鏡の世界もなかった。

これが本当のクリアだ。

 

 




 仕事で失敗しまくってやる気がでないです。
でもなんとか、ゆっくりと完結させていきます。
他の作品は暇つぶしなのでどうでもいい。
やり遂げて見せます。


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6:鏡の世界 クリア後

5352文字。


 

 とある位相の狭間。

ここは酷く暗く、一点の穴から見える景色が唯一色を知れる場所である。

こんな場所から彼等の状況を見ている者がいた。

 

 その声は低く唸るようだった。

 

「バグ共が……これではフィギュア化できぬではないか。

 チッ早くせねば、世界が……」

 

 この場から去る彼の者の背中は、実に寂しそうであった。

 

―――

 

「第48層攻略おめでと「「「おめでとーー!!!」」」うわっ!?」

 

 

 

 第48層主街区『プププランド』の街外れの岬にあるDDD城。

ここでは今回の攻略に参加したギルドやパーティによる打ち上げが行われていた。

さすが王城。騒げる程の空間があるとは!

 

 ただこのフロアの下部には、カスタマーサービスの転送門がある。

それがない現状は、広い広間であるため躊躇なく行える。

皆が皆思い想いに、今回の事を肴に箸を進めていく。

 

 

 

 そんなどんちゃん騒ぎな中。

誰も来れないDDD城の屋根に座る人物が二人いる。

 

 

「カービィ。パック解放はできたのか?」

「ううん」

 

 

 頭を横に振る彼は、キリトの横にいる。

カービィは林檎を手に持っていて、キリトも桃を右手にもっている。

 

 

 彼等は今回で今までの事が全く通用しない事で会議をしたのだ。

普段はテーマフラグ解放英雄と共にテーマフラグを踏むと、その層のテーマの解放とパック譲渡解除が行われる。

しかし今回はテーマフラグ解放が、ダークマター族と呼ばれる者達の反乱だった。

 テーマフラグの解放は、そのゲームの主人公またはプレイヤー・そのゲームの敵により行われることがある。

それをメタナイト卿から聞いてから、今後の動向に気を付ける様にする必要がある。

この事はまだ他の者に言っていない。

やはり混乱の種だからとしか言いようがないからだ。

 変に混乱させて、意見を二分したり内部分裂を画策させるような事をさせてはいけない。

表面上を取り繕って生きていくのは、何気に面倒だったりするのだ。

 

 とにかく今はボスであるダークゼロと二分化・テーマフラグ解放条件の多様性については黙っておくつもりだ。

 いや多様性については、ギルドマスターに話す方が良いだろう。

そうすれば急なテーマフラグ解放による、一般プレイヤーの事故死率が減少するだろう。

 

「カービィ、やっぱり君自身もバグだと思うのか?」

「そうだね、ヒースクリフが階層の入れ違いとかなんとか言ってたし……。

 なによりボクに、パックというものがないんだ」

 

 カービィに備えられた基幹部位は、スマブラキャラとしてのストック制の付与・テーマフラグ英雄としての知識・その他の技に関しての技術だけだ。

他には思考や考え方というものもあるが、そういうのはここでは除外する。

 

 彼は今までの英雄にあるまじき、パックという存在がない英雄。

しかもこの世界のテーマは、『夢』である。

 テーマとゲームの主題の乖離で、このような現象に陥っているのか……。

 もしくは元々あったところに、強制的にその存在を認可したのか……。

それは今現在、誰も知る由もない。

 

 ただこの場にカービィ達がいるという事実は、真であるとしかいえない。

 何せちゃんと情報をアップデートして、攻略者に情報や助言を渡しボス撃破に貢献したのだから。

 

「もしバグだったらどうなるんだろ?」

「……異常なものと認知され、消されるだろうさ」

 

 カービィは眼下を眺めながらキリトに質問する。

彼は、何も表情を浮かべず淡々と告げる。

この無表情な返答に、カービィはえっという驚愕の表情を浮かべキリトの方を見る。

 

 キリトはカービィの驚きように少し笑う。

彼はカービィに性質の悪い事を云ってしまった事を少し反省し、事実を誤魔化して伝える事にする。

 

「なんてな!そんな事だったら、俺達は今頃ここにいねぇよ!」

「そ、そうだよね!」

「っし、カービィ、フレンド登録しようぜ!」

「うん!僕たちは、此れからも友達だよ!」

 

 彼らは右手同士を差し出し、握手しあう。

 これでフレンド登録が完了された。

 

 フレンド登録されると、フレンドメールや居場所の確認を行える。

そしてあまり見ないプロフィールは、その人との出会いの場所や日時だけが書かれている。

普通なら普通のunicodeから選択された文字列がそこに並ぶが、彼等の場合……文字化けをしていた。

 

 二人は今後このプロフィールを見ない。

メールや居場所の確認しか見ない。強固なフレンドであるため、一々相手との出会いを視覚情報で思い出す必要がないのだ。

この出会いの瞬間が、第三者視点からの写真があれば見るのだが……生憎そんな機能はない。

 

 

彼等はこれを知らずして、今後も世界を旅する事になる。

 

 

「よし、下で皆と宴会だ!」

「うん。DDD大王やメタナイト卿、フームにブンと久しぶりに話せるよ!」

 

 彼らは屋根から飛び降りて、ドラグーンとスターシップを取り出してそれに乗り、会場へ向かった。

 

 二人は和気藹々と仲間達とつるむ。

しかし気の緩んでいる英雄やプレイヤーの中で、只一人隙を見せない者がいた。

その者は何かを感じ空を見る。

 

 だがその空は何も変化がなかった。

 

(「……気のせいか」)

(「どうしたんだよ、ダーク」)

(「いや、なんでもない」)

 

 影キリトは殺気のような物を感じて、空をにらみ続けていた。

だがそれは杞憂と結論付け、キリトとシンクロ率を100%にする。

 

 

―――

 

 

 はるか遠くの場所。

ここはとある裏ダンジョン。そしてそのダンジョンにある城の玉座の間。

 

 その神聖なる場所に二つの陰がいる。

それらはその玉座の間を埋め尽くす程の大量の電子機器を操り、下界を覗き状況を確認と共に把握していた。

 

 

「……気のせいではないのだよ」

「ああ」

 

 

 二つの陰。

 

 一人は赤い頭髪に様々な装飾とマントを羽織る、巨大な漢。

もう一人は緑の甲羅を背負う、魔王と呼べる者。

 

「クッパよ、英雄共は何人フィギュア化した」

「約190といったところだ、ガノン」

 

 マリオシリーズでラスボスを務める、永遠の宿敵クッパ。

 ゼルダの伝説で怨念だろうがなんだろうが、世界征服を目論むガノンドロフ。

彼等はお互いに協力し、レッドプレイヤーやオレンジギルドと提携を組んで世の中を乱している。

 

 今までの功績としては、中堅ギルドを40個解散・オレンジギルドの結束と団結・英雄190フィギュア化・NPCに高度AIを搭載し、プレイヤーを扇動し町中での乱闘へと発展・ラフィンコフィンとの提携等だ。

だがこれらの功績を無為にする功績がある。

 

 それはスマブラキャラのフィギュア化0%という数字だ。

クッパやガノンも、スマブラキャラでストックを使用可能だ。

彼等もそうだが反攻略主義に染まっているスマブラキャラは、非常に少なく戦力が乏しい。

復活できるとは言っても、命の珠がなければストック残量を増やすことができない。

 

 故に彼等は焦っている。

このまま50層にこられると、非常にまずい。

 

 

 そこで反攻略な彼等は、宗主であるマスターハンドに通知を入れる。

すると通信画面に、マスターハンドが描写される。

 

 

「我らが主よ。確実に世界を我らのモノにするため、アレを目覚めさせてもよろしいでしょうか」

「うむ。よきにはからえ」

「はっ。有りがたき幸せ」

(どこの戦国だ……?)

 

 

 拳を合わせる中国式拝礼(臣下の礼)をするガノンと、人差し指を伸ばしやるように指示するマスターハンド。

彼等の会話とその姿勢に、クッパは思わずにはいられなかった。

マスターハンドがログアウトしたので、彼らは行動を始める。

 

 

 彼等は指向性迷彩マントに身を包み、第一層のボス部屋へ向かう。

 

 二人は歩み壁伝いで、未来的な様式を採用している三角形の扉を見つける。

ガノンはその扉に近づく。

 

 

<DNAスキャンを開始します……適合率0%……>

 

「黙れ」

 

 ガノンドロフは右手を掲げ、手の甲に描かれているトライフォースの一角である『力』を発動する。

これによりガノンの全身を闇が包み込む。

 そして彼は闇を練り上げ、大剣を作り上げる。

 大剣の刀身の両側に、トライフォースが描かれ黄金に光り出す。

ガノンはその大剣を上段に構え、一気に振り下ろす。

 

 

 

ガゴォォオオォォン……

 

 

 

 三角形の扉は見るも無残に、周辺に破片を飛び散らしていた。

この光景にガノンは口元を歪める。クッパは当然の如く溜息をつく。

 

「さて、奴のコンソールを……あったな」

「置き方が雑だな!」

「全くだ」

 

 ガノンは乱雑に置かれた物資の中から、一つのディスク型のコンソールを発見する。

それを『力』のトライフォースで、電力を与えることで再起動を促す。

コンソールは光を発して、起動音を鳴らし始める。

 

 

……ィィィイイイ

 

 

 コンソールは空間に様々な難解な文字列を並べ、処理をこなしていく。

そして最終的にコンソールは爆発した。

 

 木端微塵になったが、そのかわり3D空間にその目的となる者を出現させる。

 

 

<……ここはどこだ>

 

 

「ここは神代の叡智の中だ、”サイレンス”」

 

 

 ガノンの目の前には、肉体を緑の光電子で彩られた知識欲でしか動かないサイレンスが出現していた。

目の前の者は、ガノンへ疑いの目を向ける。

行き成りの初対面で、己の名前を言われたのだ。そこに疑念が入るのも無理はない。

 

「サイレンス。貴様は一度死んでいる。しかし、この世界で我々の要求を呑めば、肉体の復活と叡智を授ける事を約束しよう」

「……たしかに。貴様の提案は魅力的だ。だが、何を対価にしたい」

「お前にはこの最奥部にいる、過去の大災厄の前の知識を全てバックアップしている存在を使い、この場所の外にある『はじまりの街』を含めた全てを破壊してもらいたい」

 

 

 そこからサイレンスにとって必要な事を上手く引き合いに出して、物事の決定と最良な裁量を計らい事を実行させる。

サイレンスはガノンとクッパの言い分に納得と共に、契約することを決めた。

 

 サイレンスは彼等から情報を貰い、この機械炉の最奥部へ歩みを進めていく。

彼の後ろをガノンとクッパはついていく。

そして最奥部にいく。

 

 

 最奥部には機械炉があり、いろんな機械獣を作っていた。

だがそこが機械炉としての最奥部で、施設としては最奥部ではない。

直ぐに前時代の様式である扉を発見する。

そこから奥へ歩んでいくと、開けた場所にでる。

 

 

<ほほぅ、なるほど……使えそうな物ばかりだな>

「ああそうだ。だが、この中央の機械だけは、意思を持っている。

 こいつは己の過去を消し去りたいという狂気に駆られている為、そこをつけばお前の手駒になろう」

<なるほど、使いやすいというわけか>

 

 

 ガノンドロフは、『力』のトライフォースで奴らを起動状態に移行させる。

その瞬間その場に存在する全ての機械獣に、光が灯り始め起動音を爆音と化して周囲に拡散させる。

全ての機械が起動するが、最後の一機だけが起動が遅い。

 

そこで吹っかけることにした。

 

 

<おい、貴様。たしかお前が戦犯だな?お前の我儘により、我々はお前と同じ過ちを犯そうとした。

 何故その歴史[アポロ]を残さなかった。今この世は、お前への怨嗟の聲に満ちている。

 

  だが私はそう思っていない。

 どうだ、共に来ないか。来れば、世界を見ることができる>

 

<私の……歴史……過去……消すッ消す……壊ス!!>

 

 

 皇帝級始皇帝―――

 

 

 

 

 又の名を、テッド・ファロという。

 

 

 

「本来なら、マスターオーバーライドで止まるが。

 ファロの災禍・ロボットスワームが引き起こされた時期のだ。

 止められるのは、カオス級を破壊するクラウドオーバーライド(物理)。

 またはこの弩阿呆を破壊する、ブレインオーバーライド(物理)。

 これしかない。だから、こいつらは無敵だ」

 

「時間稼ぎはできそうだな」

 

 

 ガノンの言葉にクッパは頷き、そのままサイレンスに任せてその場を去る。

彼等はすぐに上層へ帰還する。

上層といっても、最上層である100階や攻略している49層の事ではない。

 

 彼等は玉座の間へ行くと、クレイジーハンドから通信が来る。

急いで二人は配下の礼を取る。

 

「ヨォ、元気か?アノ計画、上手くいってっか~?ヒハハッ」

「ハッ、既に完了しております。作戦は此度の時間稼ぎの時に行います故」

「良い良い……実に良い!我々の悲願は、もう少しダ!ハハハハハッ!」

 

 真っ黒なクレイジーハンドは、指をわきわきさせて荒ぶっている。

めちゃくちゃ気持ち悪いが、一応マスターハンドと同列なので同じく頭を下げる。

 

 

 クレイジーハンドはログアウトする。

そして二人はため息をつく。

 

「最大音量設定、最小なんだが」

「実にうるさい。けたたましく、煩い。喧しいし、煩わしい、騒々しい、仰々しい」

 

 ガノンは放心しその場でぼけーっとする。

クッパはぶつぶつと言って、計画の再確認をする。

 

確認を行ったので、再度1階へ行く。

 

 

 

 彼等の計画の第二段目は、その『ファロの災禍』に行われるようにする。

そしてまだガノン達は知らない。

 

 

この思惑を知らないギルドパーティが、一層に集結しつつあることを……。

 

 

 

「パパ!ママ!」

「そうだ、ユイは俺達の娘だ!」

「ええ、そうね」

 

 

「ところでパパ?」

「んー、なんだー?」

「どうしてパパは二人なの?」

「「!?」」

 

 

 一階へ向かう前の事。

Yuiが起きるのと共に、キリトとアスナを刷り込みで親と認識する。

そんな他愛のない会話の中で、キリトが隠していたことを言われる。

 

 アスナには誤魔化したが、今後の隠し事としてYuiと約束する。

キリトは冷や汗しかでなかった。

 

 

「よーし、二人とも、行くぞー?」

「アーロイおばちゃん♪」

「おばっ!?」

 

 

 波乱はまだまだあってしまうようだ。

 

 




 熱い、暑い無理無理無理!

 楽しんでおりますか?
伏線も糞もないですが、今後の展開は急かもしれません。
その前に『解章』どうしよう……。

 まあ、なんとかします。
それと、ストックがなくなってしまいました。
ですので、週一が不可能になりました。

 これもなんとか頑張ります。
皆さん、熱射病に気を付けてください。
では、またいつか。


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7:一つの解

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 ここは第一層の始まりの街。

48層クリア後、一日経過してこちらに転移してきた。

 

 転移したのは、キリト・アスナ・ユイ・ヒースクリフだ。

 一層にくる必要性に関しては、ヒースクリフがユイと世界を助ける為だとやぶれた世界で話し合っている。

 

 一層は暗い感じがせず、ある程度『軍』の憲兵や自警団が巡回している。

更にはじまりの街だと活気づいていて、簡易的な資本主義に塗れている。

この街に入る時、関門で入国許可を頂いた。

 

 この許可はハンコ制で行うものだから、手の甲に変な感触に包まれる中押されることになる。

 嫌悪感というわけではないが、やはり慣れぬ感覚のようでキリトやアスナは苦笑いをしている。

しかしこの体験のおかげで、街の中に入れたのだから万歳ものだろう。

 だがこの経験はヒースクリフ自身行っていなかった。

何故を聞いたが、このアインクラッド解放軍との相互提携を初めて行ったのが、血盟騎士団であるとのこと。

故に団長は、初期の通称『軍』とよばれるアインクラッド解放軍の黎明期とその悪名を破った功績を讃え、血盟騎士団としての戦闘装備状態であれば顔パスで通っていいという契約になっている。

 

 もし現在血盟騎士団のギルドデザインが入った戦闘装備を着用していなければ、二人が味わった感触の悪いハンコを手の甲に押されていただろう。

 

 ヒースクリフは三人を、最初の事が始まった場所に連れてくる。

 彼は何のために連れてきたのかというと、案内役兼護衛役な軍のプレイヤーと顔合わせするためだ。

そのプレイヤーは始まりの広場の中央で、他者と違った雰囲気を持つ多くの人とその場で待機している。

するとヒースクリフを視認したのか、そのプレイヤーの取り巻きの人が駆け寄ってきた。

 

「血盟騎士団団長ヒースクリフ様でありますか?」

 

 取り巻きの人は、ヒースクリフに聴くと彼は頷き肯定する。

 

「私は銃剣突撃隊長である、”ジャッカル”と申します。

 特殊作戦群の総帥であらせられる、”コペル”様が御呼びです。

 ついてきてください」

 

 ジャッカルは右向け右を行い、コペルが待機している場所へ歩き始める。

それを見てヒースクリフは一度、キリトとアスナの方へ向き付いていこうという手信号を送る。

そして共々中央へ向かう。

 

 

 中央に来ると、取り巻きの人……護衛の人の波が割れ、中へ行けるように誘導される。

誘導された先には、転移門があった。

いや普通の転移門とは、意匠が全く違う。装飾に気合が入っていて、景観を損なっている程豪華な碑がある。

 

ジャッカルはその碑に触る。そしたらどこかへ転移した。転移する際の色は、空色で統一されている。

しかしその転移色は、緑色となっていた。

 

「本部への転移碑です。どうぞ、御触り下さい」

 

 深くフードを被った人が、どうぞと案内する。

 

「ふふふ、驚くなよ?」

 

 ヒースクリフは今まで見たことがないというより、開示されることがなかった軍の本部に関してにやけて話す。

それに対してアスナは、拍子抜けするんでしょうね?と期待の聲を挙げる。

 

「其れに関しては、君たちの感性次第かな?」

 

 彼は碑に接触し転移する。

アスナはため息をついて彼の茶目っ気に微笑み、後ろに控えるキリトとおんぶされているユイを見る。

 

「いきましょ」

「おう。それじゃ、ユイ……触ってみるか?」

「うん!触ってみる!」

 

 キリトはユイを碑に近づけて、ユイに触らせる。

興味と好奇心旺盛な子の瞳をしているユイは、ぺたぺた触る。

アスナとキリトは、我が子の様子をみてほほえましく見る。

 

そして彼ら三人は、緑色の光に包まれて転移した。

 

 

<転移します。本部からの受け入れにより、ゲート001番へ転送されます>

 

 受入れがなければ、他の場所へ転移させられるか処刑場や元の場所へ戻される。

処刑場は知ってか知らずに入ってきたレッドプレイヤーに、問答無用で行われる処置。

元の場所へ送り返しは関門での手続きがない、一般プレイヤー。

他の場所へ移送は、戦闘に慣れている攻略組や中堅プレイヤー。

 

 転送された三人は、緑色いっぱいの景色から色とりどりの世界へ入ってくる。

三人はその光景に茫然とする。

何故か。

 

 

 此処はアインクラッド解放軍の本拠地であり本部である、空中城塞である。

水と緑に溢れ、太陽により強調される純白の城壁が、見る者を魅了する。

ラピュタもびっくりなその幻想風景に、圧倒されてしまいその場から動けない。

 

「やっときたか。ジャッカル君が待っているぞ?」

「お、Oh……」

「うん……」

「わぁ……」

 

 ユイは茫然としているキリトの背中から降りて、碑がある祭壇からおりて水辺に入った。

ユイの身長で腰ぐらいまでの若干深い、水底が一定の池である。

はっとしたキリトはユイを追いかけ、水辺に行きそのまま水の中へ入る。

 

水は透明で、蓮や観賞魚の姿が垣間見える。

 

 城の入り口には、機械兵士が駐屯しており見張りを行っている。

入り口は碑がある祭壇から、そのまままっすぐ進んだ通路の先にある。

また情報が改竄されていることも踏まえて、視認を陸・水中・空から行える。

 

陸は機械兵士、水はあの観賞魚、空は鳥型偵察機だ。

敵とみなせば、殲滅しにかかってくる。弁明や弁解は、全く通じない。問答無用で始末する。

 

 

 アスナはユイをおんぶし直したキリトの腕を掴んで、そのまま引っ張ってくる。

この間までヒースクリフは門前で、ジャッカルと他愛無い会話を楽しんでいた。

 

 

……

 

 

 さて、城内に入って見て回った彼等は、本部である会議場へ行く。

 

「今回の探索チームの残りメンバーを連れてきました」

 

「おぉ……」

 

 入った瞬間キリトは、聲を漏らす。

何故なら噂以外で聞かなかった軍の最高指揮官や内政・人事、二極党派の最高責任者が、一堂に会しているからだ。

もしもヒースクリフと知り合えていなければ、彼等と会うことはなかっただろう。

 

「皆さん、適当にくつろいでください。

 これよりゲームコンソールの奪還と地下迷宮完全攻略会議を行います」

 

「奪還?」

 

 アスナは横にいるヒースクリフを見る。

 

「議会を納得させないといけないのでね」

「法螺吹きも大概にしなさいよ?」

「ははは」

 

 キリトもヒースクリフの虚言提示に関しては、苦笑いせざるを得ない。

なんせ議会を動かす為に、99層相当の敵がそこを守っているからめっちゃ危険という事を告げた。

正直だがそれだけだと強行突破でいいではないか、という意見がごもっともという雰囲気で出てしまった。

故に彼は嘘をついた。奴を倒さないと、ゲームを操れないという虚言だ。

 別にそのダンジョンを見つけたというより、最初から知っていたのはヒースクリフだけなので情報提示がてら探索してみた。

 探索の結果数多のレアアイテムを提供、くれてやれば目の色もかわるものだ。

それにこの地下迷宮に挑んだ軍は、今までにない被害で帰って来た事がある。

 

 故にKoBとの提携は、前向きに検討され認可された。

これが顔パスに繋がる。

 

 

 さて話に戻るが、軍の精鋭・軍の特殊作戦群と攻略組の混成部隊、この二部隊で地下に潜るのだという。

軍の精鋭は、キバオウ外交責任者・攻略軍最高責任者コーバッツ元帥を中心に構成される。

軍の特殊作戦群は、戦略総合指揮官であり特殊作戦最高司令官であるコペルと彼の英雄とパックによる4個旅団で構成されている。

 

 また彼のパック効果で、特殊作戦群の他にも陸軍・空軍・海軍を其々10個旅団保有している。

更にテーマフラグ解放による特殊パックの譲渡により発動した『研究』は、空中城塞の防衛機構全てを構想考案発動までしている。

つまり入り口や城内にいたロボット全て、彼の研鑽の結果だとわかる。

 

 次に混成軍。

これはヒースクリフ・アスナ・キリト・ユイと、いつの間にか外で待機している機械獣軍である。

レベルや戦闘能力が、プレイヤー中最強である三人。

護衛対象がいるが、別に苦にはならないと考えられる。

 それとラヴェジャーという機関銃を、背中に搭載しただけのソウトゥースが新たに配備され、狭い空間で殲滅できるようになった。

非常に危険で頼もしい機械獣は、全てアスナが手塩にかけて育てた精鋭中の精鋭だ。

レベル上昇で高度化したAIは、アスナが言わずとも行動し作戦や思惑を成功させる。

 

 アスナはそれだけでも十分強いのに、弓というこのゲームにはない武器を持っているのでその点でもレンジ的優位に立っている。

 他にも規格外はいる。それはヒースクリフだ。ユニークスキルという特別な技能を持っている。

それは『神聖剣』といい、攻防自在な技で今までの攻略で被害はあれど勝利できてきた要因でもある。

 

 そして最後にキリト。

影キリトという名のダークゼロが、もう一人の自分として存在している。シンクロ率・スキルフュージョン等、特殊な行動ができる。

また一つの可能性として、スキルコネクトと位相を利用して合計4つの技を使えるという裏技も、試作段階でできているとのこと。

 

 

「よぉし、ここで確認させてもらうで。

 ドロップ品は、各個人のモノにするっちゅーこと。

 ゲームコンソールは、あんたらノラにやってもらうこっちゃ。わいらは干渉せぇへんで。

 地下迷宮攻略は、わいらの仕事や。失敗やらかしたら戻ってこればええ。

 幸い結晶はぎょーさんある。安全に進めて行こうや」

 

 キバオウは彼等の視線を集めた中、再確認を行った。

彼の今現在の姿は、第一層で見せた直情的な初期プレイヤーの甘さを一切感じさせていない。

むしろ……皆が、彼を見ている。

内政責任者でるシンカーも、キバオウの纏める力やカリスマに対して笑っている。

 

 やはり人は状況次第で、いかようにも成長するということだ。

今回のキバオウの取りまとめだけでも、此処に訪れた価値は十二分にある。

 

 それとキバオウは言外に、混成軍にコンソールの方は任せるという言葉が含まれていた。

この言葉の御蔭で、どれだけのプレイヤーからヘイトを逃せられたと思うのか。

 

 ゲームコンソールはゲームの根源だ。今の訳が分からない状況の最中、真実に最も近づける意味も込められている。

だからほとんどのプレイヤーは、混成軍の真の目的に気づいた時憎しみと苛立ちを覚えたのだ。

生き残りたい。反則なスキルとか使って、英雄になりたい……等、個人的欲求を果たしたい輩がいる。

 

 しかし彼等も自分が大事だ。下手に反論したりすると、問答無用で『軍』から秩序崩壊への助長を行ったとして放逐される。

だから今のキバオウやコーバッツ・コペルという人物が、今回の攻略に参加した理由なのだ。

馬鹿が馬鹿をやらかさない様に、監視役と抑止力を追加するという離れ技であり異常な選択をしたのは誰なのか。

それはキリト達にはわからない。

 だがその”このゲームをクリアする”という目的を最優先事項として考えられた今作戦は、

少なからずキリト達と『軍』内部にいる実力者を守ることになった。

勿論外交責任者らの死亡という、圧倒的リスクの中の苦渋の決断があるが。

 

「シンカーはん、なんかないんか?」

「いいや、何もない。それに戦闘面は、キバオウに任せるって言っただろう?」

「そうやけどな、違う目線で云える唯一の立場である人物はシンカーはんしかおらんのや。

 気づいた事があったら、また言うたってな」

「わかったよ」

 

 両者は同時に頷く。

 

「ほな、30分後に黒鉄宮地下一階に集合や!

 遅刻したらあかんで!」

 

 キバオウは退出する。

その最中人だかりが分かれ、道ができていく。

流石に空気が読めないわけでもないので、キリト達も左右に退避する。

 

彼は歩いてくる。

しかし途中で歩みを止めた。

 

「あんた、ブラッキーっちゅうやっちゃな?」

「へ、あ、応」

 

 外交面での最高責任者に話しかけられる。

それに最大の緊張と恐怖を、身体全体に迸らせる。

この状況は赤の他人である傭兵に、大統領が聲をかけるのと同じなのだ。

だから、キリトは畏怖の念を抱いている。

 

 

「ブラッキー。いや、キリトはん。わいらにとっての希望は、アンタを含めた攻略組や。

 わいらはこの国を持っとる。一応独裁制を取っているんやが、何分図体が重いんや。

 フットワークの軽いあんたらには、期待しとるんやで。

 

 ヒースクリフにアスナはん、あんたらもわいらにとっての星や。

 死ぬなよ?」

 

 キバオウは最後に拳を握り、親指を上にあげて去っていく。

彼の表情はにこやかで、キリトの彼への評価は軒並み最高になっていった。

理由はキバオウの態度もあるが、その退出後8割の『軍』のプレイヤーに羨望の眼を向けられた事だ。

 

 やはり目線を合わせてもらう事と本心で言ってもらうという事は非常に珍しく、

この一枚岩ではない組織を操る重鎮が、たった一人の為に本音で語る事はまずない。

だから皆の期待の眼差しを受けており、それを確実に成している彼は……本当にみんなの星だと再確認させられた。

 

 この後空中要塞の外に出て碑の近くに座り、綺麗な景色に入り浸るキリト達。

ヒースクリフはジャッカルと共に、先に街へ帰っていった。

 

「アスナ」

「何?」

 

 キリトはアスナに聲を掛ける。また彼女の返答も、実に柔らかい聲であった。

普通の団長と副団長同士だと、緊張感を持った喋り方になる。

やはり私事は後に回して、攻略を第一としたいからだろう。

 それでも彼らは人間だ。

プレイヤーや英雄を殺す事だって、今までに皆無だったわけではない。

怨嗟の聲や慟哭、いろんな感情をぶつけられ見せられてきた彼らは、精神がぼろぼろになっていったのだ。

そんな襤褸雑巾と化した二人は、同じ状況や同じ心境等に陥ったがゆえに通じるものがあった。

 

「なんだかんだで、ユイのおかげで……結婚したけどさ。

 なんというか、今でも嘘なんじゃないか、幻なんじゃないかって思ってさ……」

「キリト君……」

 

 実際そういう精神系を試すダンジョンやクエスト、虚言の道化師による虚空で紛い物である法螺吹き言葉を掛けられまくった

キリトやアスナは、相当精神に負荷をかけている。

しかしその負荷を掛けられてもなお、屈しない心が奥底にある。

まあ理性の壁というものか。

 これのおかげで、二人は発狂していない。

 それに彼等の本分は戦闘である。そこで半狂乱の戦士として君臨すれば、鬼神だのなんだと崇められることも少なくない。

閃光と二重螺旋の攻撃は、一般人にとって理解しがたいからだ。

そんな状況でも心が折れないのは、戦闘に全ての神経を研ぎ澄まさせることを是としている為だ。

 

「私達は常に身体は別でも、心は一緒に居るはずよ?

 それに、全てが幻だったら、私達はこの手すらも触れていないわ」

 

 アスナはキリトの手とユイの手を握る。

ユイは清涼感に塗れたこの空間の雰囲気により、うとうととしている。

キリトはそうだよな、と肯定し想いを噛みしめる。

 

 同じ境遇に会った者同士、心通じ合うものだ。

 

 

 最初の攻略会議に参加し、アスナの心を捕えたキリト。

そのあとアスナはキリトを武力の誇示で明確な利点と不利益を伝え、お互いに背中合わせに戦える状態になった。

勿論彼等を取り持ったのは、マリオとアーロイに他ならないが。

 一層ボス戦後もアスナ達を誘ってパーティを維持し、三層でギルドを作り上げた。

 そして10層から正式にエギルやリズベットを商人ギルドから引き抜いて、最前線の層から一つ下の層で後方支援に徹して貰う。

このころから二人と英雄の名は、プレイヤー達の間に広がりつつあった。

他プレイヤーから聞くその層のテーマと原作ゲームの雰囲気を感じ取り、機械獣と英雄と共にボスを踏破する。

裏ボスも常に二人で潜り抜けてきた。

 

 ああ、アーロイもキリトとコンビを組むさ。

それでも基本的にアーロイは、長く培ってきたその機械獣への知識と見解を使い調教するのを趣味としていた。

だから育成は彼女に任せて、改造するための素材集めに奔走させられることもあった。

 25層からシリカとサトシ・その他多くのポケモンが、仲間になる。

此れの御蔭で色んな場所へポケモンを使い走らせ、リズやエギル・月英ら英雄の開発素材をほぼ常備できるようになる。

それまでアタッカーがアスナとキリトだけだったので、システム外スキルを使ってでも目的を達成していた。

 

 35層。ここは田園地帯が多くを占めていて、圏内が異常に広大な場所として名を馳せた。

更に諸葛亮の『采配』スキルを、十分に使いこなせることもわかったのでここで『研究』を行わせた。

結果エギルを通して売れるほどの食材を作れることが確認できた。

 様々な調味料も完成し、遺伝子交配や選別等を行う事でいろんな味覚を生み出した。

 そして月英がアスナと悪ノリし、半年以内に全ての調味料の組み合わせ表を作った。

またこの時40層の裏ボスへ挑むとき、ヒースクリフを含めた血盟騎士団が訪れた。

この時に出した料理が、豚骨ラーメンだ。

 

 全ての素材に味覚パラメータを載せるのが悪いのだが、味の元が超有毒を発生させるモブモンスターだったりする。

この件が発端となって、偶にKOBにアスナが招致されることもあった。

流石に攻略速度の意味合いで、そんなに呼ぶことはできなかったが攻略前のセーフルームで、肉じゃがを提供したときは多くのプレイヤーが感涙極まって泣く者が居たほどだ。

 

 勿論このボス戦での死者は0だ。

 そして28層で手に入れたジープを使って、44層を疾走したり45層で人工生命体メトロイドから逃走したりした。

また31層テーマフラグ『MOTHER』や38層テーマフラグ『ゼルダの伝説』で、精神的にも肉体的にも死にそうになった。

ギーグやガノンドロフに乗っ取られたり、プレイヤー間での欺瞞雰囲気が周辺を包みPKを誘発することもあった。

 

 いろんな冒険と探検をしたアスナとキリトは、私情としてお互いを意識する程になっていた。

ただ初めてのフロア攻略の時だけは、そんな感情をほっといて一人で先行するんだ。

まあこれも含めて、愛嬌があるというものでしょう。

 

 

 

「アスナ」

「何?」

「出発時間5分前だよ」

「…急いで!」

 

 

 空気が緩いと時間管理までもが緩くなるのは、どうしようもないようだ。

走る途中ユイが起きたけれども、キリトを馬の様に乗りこなして楽しむ姿はかわいらしい。

二人は黒鉄宮に入り込んで、碑を守っていた人に案内される。

そしてアスナとキリトは、スキル『フラッシュチェンジ』で戦闘装備に着替える。

途中猿型機械獣『ジーニアスヘッド』がアスナに話しかけ、地下一階でやるべきことを伝える。

 

「わかったわ、ありがとう」

「キキッ」

 

 アスナはキリトに端的に説明する。

まずはコペルに団長としてあいさつする事。

そして友好の証に、フレンド登録をすます事。

次にNPCであるジャッカルともちゃんと面会し、握手を済ませ仲間と認めてもらう事。

 

「ジャッカルって、NPCだったのか!?」

「アイコンだとプレイヤーなのにね!」

 

 

 二人は3分で到着する。

黒鉄宮地下一階。

そこは大きな広間となっていて、そこから下へ行く階段があるだけの場所。

 更にこの場所に多くのプレイヤーや英雄がごった返していた。

そんな中キリト達は、『ジーニアスヘッド』に導かれてヒースクリフとコペルの下へ向かう。

 

 その場へ行く最中、ブラッキー先生頑張れよという今まで見たことがあるプレイヤーから、

応援の言葉が掛けられる。

 

「アスナさんとの結婚は何時ですか?」

「そのお子さんは、アスナさんとの子供ですか!?」

 

 なぜか情報屋という名のパパラッチもいた。

このはじまりの街特有の資本主義に塗れた、独裁国家専用の職業らしい。

おかげでキリト達は、社会の恐ろしさを垣間見る事になる。

 

 プライベートガン無視な踏み入りよう。

熱愛報道や恋愛等、人間以前に生物として当然の事を面白がってネタにして、それでお金を稼ぐあくどい輩。

それがパパラッチという人間だ。

 報道の自由を掲げ、それによる住居侵入・私有地への進入・電気等の無断使用等傍若無人な振舞いは、

この国にすむ上の者としては腫物として扱っている。

 

 

「キリト君。ちゃんとはぐらかしたかね?」

「ああ。芸能人と官僚の方々の気持ちが分かるような気がするよ」

「だろう?」

 

 

 解放された後ヒースクリフに奴らへの返答に関して催促され、さっさとコペルと挨拶するよう言われた。

キリトは『黒の英傑連盟団』団長として、特殊作戦最高司令官のコペルと友好の握手を行う。

この瞬間彼とアスナ・ユイの視界に映る、コペル配下であるジャッカル含めたNPCはブルーアイコンになる。

 そう彼等は特殊なAIを載せたNPCなのだ。

ユイとは違うAI構造。

しかしその行動の幅は大きく、作戦を忠実にこなし食事やユーモア等の言動を行える超優秀なボトムアップ式AI。

 

 このAI方式のおかげで、合計34個旅団約34万人の戦闘兵士を組織的行動に移すことができる。

 更にFF[フレンドリーファイア-誤射]が、元ゲームと同じように皆無なので同フラグ管理の銃弾は貫通する。

この仕様のおかげで、誤射者への制裁という無駄な行動リソースを費やすことがない。

 

 結果的にプレイヤー以上の効率を以って、眼前の敵を灰燼に帰す事ができる。

 

 

「よっしゃ、皆集まったな!進軍開始や!」

「「「オオオオオオ!!!」」」

 

 既定の時刻になると、キバオウがダンジョン前の出入り口で片腕を振り上げ大声で宣言する。

この瞬間ここにいる全ての参加する軍のプレイヤーとNPCが、大声を張り上げる。

戦闘に勝利した鬨の聲と同じかそれ以上の大声量に、この場の空気と周辺の建物が揺れる。

怒号にも近く空気を揺らすほどの轟音は、野良である混成軍にとって不慣れな物。

 アスナはびくつき、ヒースクリフは口角を上げ、ユイは恐怖で嗚咽を成し、キリトは静かに笑う。

 アスナやユイは彼等が何故こんなに士気が高いか、理解に苦しんだ。

確かに今から被害や成果が未曾有の大攻略に乗り出すから、その空元気の為に大声を上げて気を紛らわせているのかもしれない。

それなのにどのプレイヤーやNPCも、悲壮な裂帛の咆哮ではなく喜色に塗れた遠吠えを放った。

 

”俺達は絶対に勝つ!”

 

「わ、訳わかんない」

「ぱ、パパ?ママ?」

 

 ユイは肩車をしてもらっているキリトの頭に覆いかぶさる。

たぶん彼女は有効視覚の拡張や視点の高さ・体験したことのない機動力を、この肩車によって得て遊びとして堪能しているだろう。

だがユイ本人はここで、一気に恐怖に陥る。

誰も彼もが絶望の顔ではなく、絶対の自信とゆるぎない勝利を確信している顔つきなのだ。

 彼女が48層のバグ空間で生成された者であれど、メンタルヘルスAIとしてこの状況は理解に苦しむ。

悠々と焦りも緊張もない、その足並み。

彼等が抱く感情はまぎれもなく、あの一層で見せたような絶望ではなかった。

 

「ユイ。人っていうのは、凄いだろ?

 今まで沢山の人の感情を見て来ただろうけど、たぶん彼らが一番『人間』をしているよ」

「ど、どーゆーこと?」

「きっとすぐにわかるさ。なあ、茅彦さん」

「ああ。すぐにわかる」

 

 先鋒と殲滅をキバオウ外交責任者と攻略軍最高責任者コーバッツ元帥が、皆の指標になりながら執り行う。

 

 さっさと最奥部であるコンソールの所に行きたいが、目の前には銃剣突撃隊長ジャッカル等が居り進行阻止が行われる。

主に吶喊で制圧することが得意なキリトは、面目躍如となる存在価値を潰され若干苛立ちを覚える。

だが最後尾のプレイヤーが、NPCのジャッカルと笑顔でハイタッチすることで漸く察することができた。

何故なら道中の敵が、全て狩られていたからだ。

 

 

 アイテム欲しさもあるが、何よりも彼らは希望の星だ。

少しでも早く、世界の真実に近づいてほしい。そしてこの世界から、皆と共に脱出する。

アインクラッド解放軍は、その本懐をここ一番で発揮していた。

 

「よっしゃ、ブラッキーはんらの道は確保したで」

「ハッ!皆の者、これ以上は倒すな!リポップ時間が早くなる!」

 

 キバオウ達は英雄やコーバッツを含めた攻略軍と共に、幾度となくここに出入りしている。

だからこそ彼等ができる最高の餞は、道中の敵を葬り去り安全を確保しておくこと。

そしてぎりぎり彼等が、その道への経路に万全の状態で侵入する事ができる事。

これを完遂させなければ、何時世界の真理にたどり着けるのだろうか。

 

 きっと不可能だろう。

 

 何故か。

それは茅場がやっていない筈がないからである。

なのに何の成果もないという事は、真理にたどり着くための鍵がないという事。

それを今回持ってきた。

 だから反対意見を用いて意見や意思の誘導を行い、それが私欲だらけの独断専行でない事を立証し今回の攻略に乗り出す。

この事を知っているのは、上層部のみだ。

元帥や責任者・最高司令官・軍師等、そういう特権階級が情報を内部だけでとどめた。

その為に一般プレイヤーの面々には、このダンジョンの攻略を示唆することしかしていない。

 

 下手に行動をしめせば噂が流れ、陰謀論が流れてしまい計画自体がお流れになる。

だからこの事は皆の心の内にしまい込まれることになる。

今はそういう有能な者が軍内部にいるので、外部へ情報を漏らす者はほとんどいない。

ましてや軍の一部しかしらない、黒鉄宮地下迷宮なんて口が割けても言えない。

 

 ここは軍の利権が発生しているので、表に言えないでいる軍の物資補給地点でもある。

これ等の情報を合わせれば、物資回収と迷宮区の攻略を名目にした混成軍のコンソールへの誘導は、

非常にうまくいったと言えよう。

 

 

「よし、偵察隊先行せよ!」

「「「ハッ!」」」

 

 特殊作戦最高司令官のコペルは、ジャッカルがプレイヤーとハイタッチした瞬間すぐに動き出す。

最初に偵察隊を先行させ万が一の確認と偵察隊に追従する暗殺部隊で、敵の排除を行い道の安全を確保する。

この手際は非常によく、彼等の働きを全く見ていないユイであっても、迷宮ダンジョンの静けさに疑問を持つ。

 今回は暗殺部隊が己の力を使わなくて済んだ。

そのまま浸透強襲し、コンソールへの道を切り拓いていく。

 

 既にコンソールについては、KOBのヒースクリフ団長と軍のキバオウがそんなに強くなかったとき護衛として最奥部まで導いているので、そのときのマップデータを受け取っているコペルにとって問題にはならなかった。

 

 コペルが持つ情報は基本的にパックとしてついてきた軍隊に、共有されている物なので一々ミーティングをしなくていい。

この事から彼らは早急に展開する神速の部隊としても重宝されている。

実際偶にモンスターの大量発生と村への侵攻イベントがあるので、そのとき村側に被害が皆無の状態で終わらせたことがある。

そのためコペルは戦闘面で引っ張りだこだ。 

 

 偵察隊により、下層への階段が発見される。

敵もリポップしておらず、作戦通りに事が進んでいる様だ。

 

 この後も偵察隊や暗殺部隊・銃剣突撃による制圧で、地下へ降りていく。

敵は徐々に強くなり、特殊なデバフや状態異常をかけてくる者も増えてくるようになる。

経験値は中々良いが、入手できるコルは割に合わない多さである。

 

そんなデメリットがあるが、地下の様相は徐々に簡単なものになってきている。

 

 入り口付近は、迷路と思わせるような多数の分岐と曲道がある。

しかし今の階層では、柱が数本と大きなフロア・大きな通路と大雑把になっている。

 

「アンデッド系が来たぞ!」

「アンデッド系は、面攻撃に弱い!砲兵前へ!」

 

 キリト達の後方にいる砲兵が、前線にいる歩兵と交代しバズーカを放つ。

紅蓮の炎が迷宮内を明るく照らし、視認できる敵を全て撃ち漏らすことなく撃破することに成功した。

アンデッドであれば痛覚はないが、燃える肉体により前進しづらく活発な行動ができなくなっている。

故にこの波状殲滅攻撃は、非常に効果的だったのだ。

 

(「キリト。彼奴等、中々の手練れだな」)

(「ダークもわかるか……」)

 

 キリト達は護衛されながら、ある程度今後の攻略や行動について話していた。

しかしまだ上層の情報を得られていないので、まずはそちらの情報を得ない事にはどうしようもないのだ。

 

 だから今回のこれが終わったら、上層へ一度潜り込む事にする。

ヒースクリフは25層で、経験値とコル稼ぎに一層力を入れるんだとか。

 

 上記の様に軽い気持ちで話している中、キリトと影キリトであるダークゼロはコペルの配下について語っている。

ダークがどのような状況を見て、手練れだと思ったのか。

それは偵察隊が囮となって進行し敵を引きつけて、迂回した暗殺部隊にとどめをささせるという戦法だ。

 

 本来ならば意味がないのだろうが、明らかに敵のAIが動物に近い物になってしまっている。

おかげで少しでも攻撃をすれば怯み、確実に攻撃の隙を与えてくれる。

また攻撃されている最中、防御を緩めることはほとんどなくスキルで一時的に防御を高めたりしない限り、

力押しで抜けてくることはない。

 また攻撃してくる場合、天井や暗闇からの奇襲になっており地の利を生かしたものになっている。

ここら辺は他の場所でも見受けられるが、モンスター自身が持つ特殊能力とこの迷宮ダンジョンの様相がうまくかみ合っている為、

攻撃すらできない時ができる。

更に敵は賢いので、味方同士の射線を重ね合わせ誤射を狙うような機動をすることもできる。

 

 

 これらの機動は非常にやっかいでもあるが、それと同時に相手の弱点をさらけ出すことになる。

移動が早いほど、防御がおろそかになる。

これを狙って陽動をかけてから、脚が止まったところや駆動範囲限界になり行動停止した時、初めて不意打ちを死角から行える。

勿論死角だけでなく、アウトレンジから仕掛けることも可能だ。

 

「マッシュドポイズンネックだ!」

「あのキノコの胞子は、毒や麻痺を誘発させる!」

 

 

 ただやはりどんなに手練れであっても、苦手はものは存在するのである。

今通路から用水路に出たところ。

その用水路に結構な数の植物系モンスターが跋扈している。

 このモンスターは偵察隊が云うに、状態異常スキルをふんだんに使ってくると言っている。

 その為接近するには、少々分が悪い。

 よって砲兵が片付けようとするが、奴らは粉塵を周囲にばらまいた。

この事態に気づいたジャッカルは、砲兵らを停止させる。

 

「砲兵隊止まれ!火を放とうとするならば、俺達が火達磨になるぞ!」

「ならばどうするのだ?」

 

 攻めあぐねている部隊。

この状況をキリトらは見てしまう。

 

「アスナ、ユイを頼む」

「待って、私が行くわ」

 

 キリトはユイをアスナに預けようとしたが、アスナはその提案を棄却する。

その代わりアスナは後方に控えているラヴェジャーらを、戦線投入させる。

 ラヴェジャーは虎のようなしなやかさと速度で、前線に舞い戻る。

 

「私の機械獣が一斉掃射するわ!皆さん、どいてください!」

 

 アスナの高い聲は戦場に於いて、端から端まで良く聞こえた。

これにより多数の兵士が、後方へ撤退する。

 それを確認した多数のラヴェジャーは、背中の機関銃の砲身を回転させ粉塵を出し続けるキノコを掃射する。

 

 

ズガガガガガガガ――

 

 多数のマズルフラッシュが迷宮ダンジョンを明るく照らし、轟音が周囲の音を全て掻き消した。

 ダンジョン内を明るくしているのは発火炎だけではない。

掃射による温度上昇と魔物に中る瞬間にはじけ飛ぶ火花が粉塵に飛び火して、植物系モンスターを炎に包みながら粉塵爆発を発生させた。

 

「掃射止め!!」

 

 アスナの聲により、ラヴェジャーの掃射を停止させる機械獣達。

キリトやユイは耳を両手で押さえていたので、やっとのこさ解放できた。

目の前にはただの用水路しかない。

ポリゴンすら吹き飛ばしてしまったくらいの勢いを感じ取れる。

 

 アスナはラヴェジャーを褒め称え、後方へ移動させる。

機械獣の恐ろしさや頼もしさを見たコペルやジャッカルは、アスナや機械獣に称賛を送り先へ進む。

最高司令官や突撃隊長に称賛を貰うアスナは、彼等に微笑み返した。

 

「アスナ、凄く指揮官してたな」

「元々そういうパックもらっているんだもの、活用しないとね」

 

 

 彼らは進んでいく。

しかしとある階層に来ると、コペルが全軍を停止させヒースクリフに話しかける。

 

「我々の仕事はここまでです」

「ありがとう」

 

 ヒースクリフはコペルに感謝し、次にキリト達の所に来る。

キリトはユイを肩車し、アスナはキリトの隣に立っている。

此処まであまり会話しなかったので、ユイは若干眠たそうにしているがヒースクリフの聲を聴くとはっきりと目を覚ます。

 

 

「次の階層からは、我々だけでいく。

 アスナ君は自前の機械獣を連れて行くように。

 キリト君はユイを守りながら、その隠している力で突破する様に」

「「はい」」

 

 キリトは言外に隠し通せると思うな、と言われているような錯覚に見舞われる。

しかしここまで来た戦闘時間を見て、相当敵が強い事がわかる。

だから隠し通せるとは、端から思っていなかったりするわけだ。

 

(「ダーク。なんか早速ばれるみたいだ」)

(「致し方無しであろう。だがばらすのであれば、盛大に晴らしたいところだ」)

 

 キリトは心の中で頷く。

彼等は覚悟を決めた。

だがどうやってユイを守ろうかと思う。

 

まあその時が来れば、その時考えればいいかと彼は思った。

 

 ヒースクリフはキリト達と共に、この階層にある通路を歩いていく。

通路の両脇には柱がある。黒色で周囲の光を吸い込んでいるようだった。

この黒い通路を歩んでいく。

 

ただ歩んでいくと、徐々に視界が暗くなっていく。

 

 この光景にアスナは脚を踏みとどまらせてしまう。

しかしヒースクリフは、決して臆しないように言い渡す。

臆せば全てが無為となってしまう事を告げる。

 

 ユイの為にキリトは歩む。

隣に居るヒースクリフを見やって、気を引き締め歩む。

少しでも気を抜くと、この暗闇に融けてしまうかもしれなかったからだ。

 アスナも内心恐怖でいっぱいで、脚をガクガクと震わせながらもゆっくりと歩いていく。

 そしてユイは暗闇に包まれる中、自分自身の役割を思い出すことになる。

ただ肝心のなにをしてどうするのか、生まれはどういうものだったかは思い出していない。

 

 

 そして徐々に暗闇が晴れていく。

 暗闇が晴れたところには、大規模な空間があった。

ところどころに水晶でつくられた星々がある。

また空中には泡のようなものがあり、プレイヤーの現状を映し出しその感情を表すかのように泡も変化していく。

 

「ここは…?」

「ここがゲーム制御室だ。しかし、随分と様変わりしたな。

 本来ならば、90階相当のデスサイズと純白の部屋だけなはずだ」

 

 ヒースクリフは本来と全く違う部屋の様相に、驚きを通り越してこの世界の綺麗さに感嘆している。

 目的のゲームコンソールは、この空間の最奥部で結晶でできた足場を伝った先にある。

その先は白く輝くコンソールが、周囲に神々しい白光を放っている。

それは後光ともいえるし銀河ともいえる。

 

 キリトはヒースクリフがコンソールに向かって歩いていかない事を尻目に、そのままユイをつれて歩いていくとヒースクリフに首根っこを掴まれて後退させられる。

 

「ちゃんと上をみるんだ」

「上…?………あ」

 

 

 ゲームコンソールの少々上の方に、ナニカがくるまって寝ているのが分かる。

しかしその何者かというのがわかる。

その原因はアスナが到着した事にあるのかもしれない。

 

 背中に二つの大小の輪・4対の刃を羽に持つ翼・純白の西洋龍が起きた瞬間、この位相と概念の結晶宇宙に

その名が記される。

 

【United Blain in Aincrad】

 

 更にその龍が咆哮を放つことで、ブラックホールとホワイトホールが発生する。

ブラックホールから出現するのは、【United Reason in Ordinal】。

理性の塊だ。

 

 ホワイトホールから出現するのは、【United Instinct in Cardinal】。

本能の塊だ。

 

 

「まず作戦と行こう。あのような者は、私は全く知らない。

 故に不定形から変形し、我々に対抗してくるだろう」

「解ってる。其れとこの状況は、ユイを最奥部に連れて行きゃなんとかなるんだよな?」

「私か君が操作しなければいけないがね」

 

 三人の会議の末、決まった事。

UBAはキリト・UROはヒースクリフ・UICはアスナになる。

理性はヒースクリフと相性がいい。

アスナは機械獣が動物の本能が、プログラミングされているから相性がいい。

 

 何がどう相性がいいのか、いまだに分からないがこうするほかないというのが現状だ。

 

 この状況を打破するには、お互いがお互いの状況と場所を把握した上で援護や援助をしなければいけない。

その為に少しでも油断すれば、命はないものと思わなければならない。

 

一触即発・鎧袖一触の戦闘は、SAOのプレイヤーの中で最高峰といわれるプレイヤーに一任される。

 

 三人のプレイヤーは駆けだす。

まず最初にキリトにそのUBA-神龍が迎え撃ちに来る、

 

(「ダーク。やって後悔しよう!」)

(「そのほうが建設的だ」)

 

『陰陽離脱』

 

 

 これにより白キリトと影キリトに分かれる。

そして二者の中央に入ってくる神龍を、『ドミネーションオブルーラー』で切り付ける。

神龍の方が勝手に移動している為、斬りつけのダメージが勝手に入っていく。

 

 神龍は通り抜ける最中、背中の大小二つの輪を火花散らして回転させる。

 

 そして神龍は咆え、その輪を投擲する。

白キリトは横に回避し、影キリトは撃ち落とす。

しかしその輪は地面に落ちた後、パンジャンドラムのように回転して襲ってくる。

 輪の回転は周囲の結晶小惑星を傷つけながら走ってくる。

 タイヤという概念がない中、それは走ってくる。

 

 両者キリトは『明靭』でソードビームを放ち、『空靭:裂』ではなつ竜巻に乗せる事で相乗効果・破壊効率を倍増させる。

この二つの竜巻により、輪にのるエネルギーを露散させることに成功した。

影キリトはすぐに『オーバーロード』へ『フラッシュチェンジ』し、『雷靭:桜花』『雷靭:桜吹雪』を発動する。

 

 何故このタイミングなのかというと、アスナとユイに近づく敵の攻撃を防ぐためでもある。

 

 アスナは群で戦うパック保持者。だから、ソロ戦闘はむいていない。

そこで横槍を入れつつ、こちらの戦線を維持しようという根端だろう。

 

「ユイ!一旦退避しよう!」

「パパ!?」

 

 ユイの手を引いて、神龍の翼にある刃の羽の猛攻から回避させた。

『雷靭:桜吹雪』と同じように、刃の羽が襲い掛かってくる。

それはユイを狙っていたが、白キリトにより退避できた。

 しかし神龍の攻撃は、生半可なものではない。

 それが明言されるように周囲の結晶や泡を弾き飛ばした刃な羽は、その身を結晶小惑星から引き抜き再度白キリトを追尾

し始めた。

 

 白キリトはユイの手を引いた後、そのまま抱き上げて走って逃げる。

プレイヤーである彼らは意思を持って移動すれば、足元や周辺に散らばっている結晶が集まってそのまま足場になる。

 

結構遠くに離れた場所にユイを降ろして、この場所で待つように云いつけて置く。

なにしでかすかわかったもんじゃないので、SPDポーションを渡して即行で逃げられる様に用心させておく。

 

 

(「キリト、其方へ向かった!」)

「何だって!?」

 

 

 退避完了し少々安心したのも束の間。

早速神龍がお出ましに上がる。

神龍は叫び突進してくる。

 その速度は尋常ではないが、48層でのボス戦よりも確実に遅いため対処可能だ。

しかしその攻撃を全て防御できるのか、と問われれば無理と云わなければいけない。

 

 速度は相手が劣るとはいえ、ゲーム管制室の守護者だ。

それなりの能力が必要になり、まず武器の耐久値が足らない。

 

 だから『ドミネーションオブルーラー』はそろそろしまい込んで、『マスターソード』等で攻撃しないといけない。

 

 白キリトは神龍の体当たりを弾く。

それと同時に、『マスターソード』へと換装させる。

 

 その瞬間、背後で嫌な音がする。

 

ドドオオォォン……

 

 白キリトは後ろを振り向く。

そこには紫電を迸らせ火花散らし回転する大小の輪から、『コボルトロード』や『サムライロード』が召喚されているのを見る。

彼は思い返す、”嗚呼そういえば、こいつはアインクラッドだった……”と。

神龍は数多の頭脳がアインクラッドに集結した、人間とゲーム全ての集合体でありそれを具現化したものだ。

 

 そんなラスボスもいいところな奴を、簡単に倒せるわけがないだろう。

 

 だがこのゲームを始めて幾年のキリトにとって、この展開は非常においしい。

寧ろやる気が出てきていた。

 

「ぱ、パパ……?」

 

 ユイは雰囲気が変化する父親に、不安げな表情を送る。

そんな彼女に白キリトは笑顔で対応する。

 

「何だい、ユイ?」

「ぱ、パパは怖くないの?」

 

 いきなりしっかりとした答弁に、彼は少々驚きつつもしっかりと答える。

 

「怖くないよ。寧ろ、此れから楽しいんだろ?ほら、もっと殺す気で来いよ!」

 

 そんな彼の姿を見て、ユイはクスリと笑う。

子供らしくない笑い方だが、理由などすぐにわかる。

 

「パパ……私[Sword Art Online]を楽しんでくれて、ありがとうございます」

「ユイ?」

 

 

 ユイは白のワンピースをはためかせながら、その身に似合わない紅蓮の刀身と灼熱の焔を煌々と燃やし続ける武器を

どこからか召喚し両手に持つ。

そして白キリトの横を過ぎ、その武器を片手に持って彼の方に振り向く。

 

「私はカーディナルとユイが統合した、人と共に歩んでいく機械『ファンタジア』です。

 本来ならば私達は分離していましたが、ある時を境に私達は統合されました。

 最初は共に排除するため、まとめられたのです。

 

 しかし最終的にそんなことはなく、時間稼ぎの為、このように再起動されました。

 

 私[ファンタジア]の目的は、このゲーム[SAO]をプレイヤーの皆さんと共に改善しよりよいゲーム環境を整えることです。

 人だけでは迅速に対応できない事でも、私の中に存在する悪意と善意が議論しあって理性と感情で物事を色付け・修正していきます。

 

 私は今まで数多の感情につぶされていましたが、こうして感情豊かなキリトさんに出会えてよかったです。

 おかげで私を取り戻すことができました。

 

 ですがそれももう終わりです。

 こんなゲーム[幻想]ではないゲーム[現実]は、即刻排除しなくてはなりません。

 それが私達が私である所以だから」

 

 彼女は現状に憂いている。

はかなげな姿見だが、実際の中身は現実を受け入れ自身をどうすべきか既に決めてある。

それでも短時間で数多の感情を見せてもらい、家族のように接してくれた彼等に感謝すべきとこのように説明を加え身の上を晒したのだ。

 

 白キリトは神妙な顔つきで、『紫電』でボス二匹を麻痺させ、『雷靭:桜吹雪』をぶつけて消滅させる。

 彼は撃破した事を確認した後、片膝をついてユイと目線を合わせる。

 

「ユイもユイで、今回の事すっごく悩んでたんだな。

 でもここで破壊して何になるんだ?」

「え……破壊して……」

「その先は?」

「……」

 

 ユイは顔を真っ赤にして、この先の事を考えていなかった事を恥じる。

 

「俺達はただ単に死にたくないから、現実から逃避したいとか。

 そんな理由だけでやっている人は、案外多いもんだ」

 

 白キリトはユイの肩に、武器を持っていない左手を置く。

彼の表情はやわらかい。

 

「俺だって、最初はそうだったんだ。

 でもアスナが仲間になって、エギルやリズが仲間になって……徐々に大所帯になって。

 その過程で、多くの友人というつながりができた。

 

 そんな彼等は今最前線にきている。

 

 今の俺達がこのゲームで何を求めているか。何をしようとしているか、それは分からない。

 それでも皆のはなしを聞いてみて、ある一つの答えに集約するんだ。

 

 

 それは、”自分が自分でありたいがため”、だって。

 皆このゲームという電子世界で、情報の一つとして処理されているのが目に見えてわかるんだ。

 そんな中でも唯一、絶対的に自分のものであると言えるものがある。

 それが『感情』さ。

 

 だからユイも、自分のありのまま……プログラムに思考を改竄され、一つに集約してしまうのなら仕方のないことかもしれない。

 それでもユイは、このゲームを消す事をしたいと思う?

 皆の思い出を、辛さを、悲しみや嬉しさ、絆を……ユイはそれを消そうとしているんだ。

 

 

 そうであってしても、皆を無機質な0と1だけで支配したい?」

 

 白キリトは影キリトが苦笑いしながら、神龍と戦っているのを確認する。

今迄に見せなかった肉弾戦をおこなったり、『空靭:冥』で開けた亜空間に神龍の頭を突っ込ませて光線に晒したり、色々試しているのが見える。

 

 アスナは機械獣と共に、連携をおこなって爆撃をしている。

 

 ヒースクリフは……同じような人物が二人見える。

 

 白キリトは泡を通じてその光景を見て、ユイに視線を戻す。

ユイは俯いている。

 

「私は間違っているのでしょうか」

 

 ユイは涙声で白キリトに質問してくる。

嗚咽も聞こえ、完全に悪者な感じがするけれど、答え一つでこの世界は終わるだろう。

それくらい大事な状況だ。

 

 

「ユイにとっては正解で正義だろうさ。

 でも俺たちにとって、それは間違いで悪だよ」

「プレイヤーの皆さんと私の意見が食い違うなんてこと、在ってはいけません!

 ですが、皆さんがいう、”自分が自分でありたいがため”というのが分からない私は、どうしようも……」

「どうしようもないなんて事、全くないよ」

 

 白キリトはユイを抱き寄せて、言い聞かせるようゆっくりと確実に言葉にしていく。

 

「これからその感情を含め、俺達と旅をしよう。

 カーディナル自身が知って居ながら、ユイが知らない世界。

 ユイ自身が知って居ながら、カーディナルが知らない世界。

 

 どちらも俺達と一緒に冒険して、そして最後の100層位で結論を出そう。

 今すぐ出す必要なんてないさ。

 なんせ俺達は、クリアするまでここから出られないんだから」

 

「いいんですか?」

 

「何が?」

 

「私のような機械が……」

 

「ユイであってもカーディナルであっても、俺達の子供だよ」

 

 そういうと、ユイの嗚咽が徐々に収まっていく。

その間でも白キリトは、トントンと背中を優しく叩く。

 

 

「パパ……もう大丈夫です」

「よし、そんじゃ」

 

 

「グ……遅い!」

 

 影キリトが黒煙を纏って吹き飛ばされてきた。

また彼が苛立っているのは、状況確認と展開に関してだ。

何をやっているのか、一応影キリトもわかっている。

デリケートすぎて、存在が危うい彼にとって死活問題なのは理解した。

 

それでも遅すぎる!

 

「陰陽同化いくぞ」

「解ってるって!」

 

 

「『陰陽同化』!」

 

 

 二人のキリトは一つになる。

右手に『創主の剣』、左手に『理壊の剣』を持つ。

既にシンクロ率は青天井なので、一々不備を気にする必要なんてない。

 

「え、パパ?なんですか、ソレ?」

「どうしたの、ユイ?」

 

 

 

「え、何でって、ソレ……どこを探しても、データ上にないんですよ?」

 

 

「は?」

(「それよりも前を見よ!我とて気になるが、面前が肝心だ!」)

「そうだ!スキルフュージョンを頼む!」

(「よし来た、『並行展開』!」)

 

 

 神龍はゲームコンソールの上に陣取り、頭上に大小の輪を回転させる。

更に咆哮で怒りを露わにし、肉体に赤い血管をもわせるような亀裂が走っている。

たまに黄色の波が、体表に走っているので体力は二分の一程度だろう。

 流石48層のボスのボス。

ゲームコンソールの守護者に引けを取らない勇猛ぶりは、英雄にあたる強さだ。

 

 

 さて当の神龍だが、その大小の輪を高速回転させ紫電を発生させるが何をしているのか分からない。

いやそうでもなかった。

周囲にある結晶や結晶小惑星を、電力で集める。

 そして神龍は翼にある刃な羽を、全てキリト達の方へ向けた。

刃な羽は魔法陣を描き、切っ先に光球が見え始める。

 

「まさかのまさか、魔法がくるとは思わなかったな……」

(「今は其れを置いておけ。無理やり出力を上げる故、己の心配をせんか」)

「うーん、ユイ」

「はい、なんでしょう?」

「俺達はあいつの攻撃を相殺する事に手一杯なんだ。

 ユイの攻撃であいつらを止めることはできないのか?」

「フラグ0にして倒したことにすればいいんですね?」

「そうだよ」

 

 

 そういうとユイはにこやかに応える。

その解答は、じつに恐ろしい。

 

 

「劫火で神龍の龍田焼にしますね」

「どんな料理だ!?」

 

 ユイに突っ込んでいる間、既にキリトは『オリジナルスターロッド幾何学群』を起動させ圧倒的なエナジーを生み出している。

その力を武器に集約させ、敵の攻撃を待っている状態だ。

 

遂に、終焉の時が来る。

 

【Finend Service】:最後のもてなし

 

 

 字面から見て全く想像できない攻撃だが、数多の結晶・結晶小惑星・刃な羽からの光線がキリト達に降り注ぐ。

さらに大小の輪からも、紫電が飛びその回転の中に火球が出来上がりつつある。

 

 

【Mind Flames】:思炎の世界。

 

 その名前とは裏腹に、洗剤でつくられた大きな泡のようにいろんな色が混ざる白光球だ。

その球は彼らに向かう。

 

 

 これらは同時に放たれた。

故に着弾まで時間があるが、それでも先遣隊である結晶や結晶小惑星の攻撃は異様なものであった。

そうであっても、キリトはこの攻撃に耐えなければならない。

ある程度の攻撃を持ち前の体力とバトルフィーリング、リジェネとポーションを使って防ぎきる。

 

 このように工夫しても無理な場合が出てくれば、そこからは『劫火剣嵐の舞』である。

 

(「無理矢理も無茶苦茶だ。ここで確実に倒せ!」)

「わかってる!」

 

『雷靭:千本桜』

 

 3900ヨタワット分のエネルギーで作られたドリームエナジー。

ドリームキャストがなくとも、その力以上の本懐を引き出すドリームキャスト足りえるのが『マスターソード』自身である。

その為他の相乗効果が重なり、数多の雷刃は圧倒的な破壊力を持って神龍の弾幕に対抗し相殺または貫通する。

 

 偶に突破してきた小惑星は、『クレイジーソード』の『侵蝕』でキリトの糧にされる。

遠距離は『雷靭:千本桜』で対応し、近距離は『侵蝕』で食らっていく。

キリトはその場から動かない。

何故なら彼の後ろには、背中合わせでユイが詠唱しているからだ。

 

詠唱と云うより、使用権限をどうにかしようとしている最中だろう。

 

 

途中、『空靭:冥』と『気靭:天』による亜空間からの光線を放つ。

これは刃な羽からくる光線に対抗するために行われた。

 

 そんな時ユイは、『魔剣:レーヴァテイン』を片手に持ち刃を上に向け、紅蓮に燃える刀身に手を当てていた。

 

「【United Blain in Aincrad】,カーディナルとユイの名に於いて命ずる。

 全ての守護命令を破棄し、消滅せよ……これも駄目……と。

 

 残念ながら、破壊するしかありませんか。

 でもこうすると、一日の間これ使えないんですよね……。

 背に腹は代えられません。一刻の猶予も与えては、パパが持ちこたえられない。

 

 やるしかない。

 

 

 千、三千、天上天下、諸人、数多の同胞よ、遍く全ての世界と現象よ。

 眼前の敵を豪剛と轟かせ、郷に入らず業に要る強たる者に、業火と劫火で以ってその者を誅滅せよ」

 

 

 そこまで詠唱に入ると、『魔剣:レーヴァテイン』は更に明るく煌々しく輝く。

紅蓮と灼熱に彩られフレアが煌めき、ダークフィラメントで周囲に威を発する。

 

「パパ。何時でも行けますよ」

「よし。念のため、あいつを怯ませてタゲを俺の方に向けさせる」

「御願いします」

 

 慎重な意見を素直に聴いて、それを行わせる意見交換を行う。

身長差はありながらも、お互い頷き合う。

信頼するキリトは背中を向け、二つの武器の切っ先を合わせず同じ方向にむけるだけ。

 

(「これだけ負に染まっていれば、余裕綽々だろう。ヤレ」)

「了解だ、ダーク」

 

 

『反魂転生』

 

 

 これを行う事で、クレイジーソードとマスターソードの特性を食い合うことが無くなる。

前のゼロ戦で使った突撃。あれは威力云々の前に、クレイジーソードが完全に補佐にまわっていた。

『理壊の剣』が『負』を食い、『創主の剣』で『ドリームエナジー』を増加させていただけ。

だが今回はこれによって、クレイジーソードも攻め側になるため威力が倍になる。

 

 ただマスターソードは、ドリームエナジーにより増幅するドリームキャストでもある。

更にクレイジーソードも、負のエネルギーにより増幅するドリームキャストだったりする。

この『反魂転生』があれば、二つの武器によるお互いのエネルギーの食い合いをやめるようになる。

何故なら、これを使えば正は負として認識され、負は正として認識されるようになるからである。

 このため前の戦闘では、突進技の『雷鵺剣』はドリームエナジーにより威力を削がれていた。

同じく『鳳凰剣』も隣にある負のエネルギーの方を率先して解体していたので、

完全に打ち勝つまでに時間がかかったのだ。

結局勝利したのは、放出する負のエネルギーが破壊と対するドリームエナジーの総量に押し負けたからだと考えられる。

 

 さあ、これによって前よりも威力が低い弾幕の中、完全体が猪突猛進すればどうなるか。

勿論弾幕や泡・光線すら全て己の力をして使い、UBA―神龍―に大ダメージを喰らわす事ができた。

 

 神龍はのけぞる。その隙にキリトは、右往左往へと移動する。

こうすることで自分のタゲへ移らせたまま狙いを逸らすことが可能になる。

 

 逸らす対象はキリト本人ではなく、ユイ本人の射撃の間合いだ。

有効射程と最も効率が良い場所へ撃ち抜かせることが、何よりも撃破できるそのときだからだ。

 

「パパ、ありがとう……

 

 この一撃で、私もSAOの仲間入りです。

 皆さんの為、この一撃を確実に入れます。

 

 

 行ってください、『クトゥグア』。数多の火を連れて、否定を破壊してください」

 

 

 ユイは紅蓮の焔に包まれながら、そのまま跳躍し魔剣から剛速球の火球を放つ。

その火球は野球ボールでしかない大きさだが、この後とんでもないことを起こす位のエネルギーを持っていた。

 

 

 キリトとダークは陰陽同化をしており、発射が確認されると退避した。

この字面だけだと、見捨てたかのように見える。

しかしユイを拾おうとキリトが、ダークに進言したとき逃げる事を優先する様に言われたのだ。

理由は根本で言えばプログラムなのだから、破壊の可否等見れるという事。

 

 この判断によってさっさと退避した。

 

 結果、この対応は正解だと言える。

 

 直後、火球はUBAに向かって9つの色を放つ火球に分裂し、多分の隙があるUBAを包囲する。

包囲されたUBAは攻撃されたことによるヘイト移譲を、ユイに向けて行う。

これによりUBAはユイを見つけ、そちらへ飛んでいく。

 

 しかし攻撃することは叶わなかった。

 

 攻撃する態勢を整えるその一瞬の時、9つの火球がパパパッとはじけ飛んだ。

この瞬間超巨大なキノコ雲が出現する。

多段爆発・爆裂音・衝撃波を幾度となく発生させ、周囲に被害を拡散させる。

 

 この光景は自然ではうみだせない強大な力が必要になる。

 

 この爆発はいつの間にかここにいない者達へ届き、空間や位相・次元さえ超越したソレは全てを破壊した。

 

 

……

 

 

 【United Reason in Ordinal】:序数世界に集まる理性的な熟考。

直訳すればそうなる。

 

 彼はヒースクリフ、本名茅場昌彦。

現在ブラックホールから出てきたソレと対峙し、その面前となった瞬間どこか違う空間に飛ばされた。

 

「Ordinal。君は現実世界に置いてきた筈なんだがね。

 正直の所、出来合い品である君は、不愉快極まりない」

 

 彼がそういうと転移してきた結晶宇宙とは違う、大地が黒くそこに流れる色とりどりに輝く川から水が飛び散る。

その水は極彩色に変化しながら、彼の過去を映していく。

 

彼のたった一人による苦悩と失敗。

そして多数の者により、あらゆることが金によって愉楽と成功につながっていく。

 

 彼が作った世界は、序数で物事を順序立てて論理的に解決していく真っ当なもの。

しかし基数で作られた世界は、後に作った光量子によりどのような単位であっても一瞬で計算し、

それを元に世界の情報伝達を行い構成することができた。

 今までのPCで作られた旧世代の出来合い品は、今の誂え品に叶わず劣化と衰退で形作られた。

 そう、限界のなかで作られた限界有る世界は、彼にとって要らぬ世界なのだ。

だから彼はそれを捨てた。

 

 意図的な中途半端を望まない彼は、非常に機嫌を悪くさせる。

更にその目の前の不定形が行う変形に、彼は怒りを抱くようになる。

 

「……過去の私を映さないでくれるかな」

 

 

 目の前の不定形は、本来あるべきの茅場昌彦の姿へと変化する。

しかも己を作り始めた、比較的幼い頃の姿。

身長は低くても、差と云えるほど差があるわけではない。

 

 

 そしてヒースクリフは誰にも見せなかった怒りを、この状況で見せる。

理由は目の前の不定形が茅場昌彦に変化したのと共に、装備を今のヒースクリフと同じにしたのだ。

この事は今も昔も同じという証拠である。

普通に考えればそうなのだろう。

 

 しかし成否が急激に逆転した金と時間の世界である大人社会は、今までの失敗の象徴である子供世界を拒絶するのに

充分役立った。

更に少しでも行動を行えば、報道機関にやれやこれやと持ち上げられ世界中に伝播。

賞状や資金、法律すら守らない無頼の輩に、己の領分を侵される。

 これらの状況の急激な変化は、彼の今までを否定するのに十分すぎた。

 ヒースクリフとは、此方の世界の自分である。

 そして茅場昌彦とは、あちらの世界の自分である。

 

 矛盾に矛盾を重ねる。

 

 実際彼はこのような事が無ければ、完全体であるこのSAOと共にあの世界に傷跡を残ししめやかに散る事を考えていた。

だが現実は上手くいかない。

完全だと思って居たSAOは原因不明のウィルスに犯され、SAOとしての体裁をなしていない形骸化した何かだ。

死んでは全てがおしまいなので、遊ぶことにしたようだが……。

 

 やはり彼の胸が空く事はなかったが、同じような状況の人物と会うことで少し緩和されていった。

しかしそんな時に此れである。

 

 昔をぶり返された彼は、強烈に目の前の者を憎悪する。

 

 

「要らぬものは、とっくのとうに消えていたと思っていた。

 しかし、無駄なものほど無駄に残るというのは、よくいったものだ。

 早急に消えてもらおう」

 

 ヒースクリフは駆けだした。

重厚な盾と長剣を持ち、自身の過去と対峙する。

 

 過去はヒースクリフに剣技を与えてくる。

容赦のない剣撃は、逆に彼にとって状況を良くする。

 

『神聖剣』。

 

 防御し与えられたダメージを攻撃力に加算し、そのまま武器で攻撃する。

自己完結型のスイッチだ。

防御は盾の耐久値が0になるまで、ずっと行える。

 

 本来ならばずっと耐えて一気にやる方が良いのだが、今の彼は他に仲間がおらずタゲが他所へ向かない事を忘れている。

故に微量な攻撃力で、連続で攻撃することになる。

だが堅牢な過去はびくともしない。

攻撃を全て盾で防がれ、パリィをされる。

 ヒースクリフは泥沼な戦況を忍耐強く耐え、好機を辛抱強く待つ。

 いや、待つだけでは好機は決して訪れてこない。

彼は攻撃的な姿勢で、過去の自分を迎えうつ。

盾や剣を打ち払い、パリィ等で脚払いや重心払いを行う。

 

 幾十、幾百と打ち込むが同じ思考回路を持つ過去は、彼の攻撃を無効化する。

戦力差はないはず。しかし確実にヒースクリフを追いつめる過去の彼。

 

 

 いつまでこんな攻防を続けるのか、と思った時……過去は『フラッシュチェンジ』を行い右手の武器を換装する。

 ヒースクリフは行動を変更した過去の様子を注意深く観察するが、

人間ではない彼を注視したって何の意味もない。

 

 

 一度お互いバックステップをして、ヒースクリフは盾を前にして吶喊する。

過去の自分は、そのまま盾を構えたまま吶喊する。

 

 

「ふっ!」

 

 

 ヒースクリフは『シールドチャージ』により、盾吶喊を強化する。

一応視界は確保しているので、過去の己の行動を見ることができる。

 

 

 突撃を行うが、過去の己は防御態勢であるのは変わりない。

ヒースクリフは其れに訝しむが、状況が変化しない今吶喊しか道がない。

そのまま突撃すると、過去は剣を前に突き出す。

弾かれて終わりだろうと思ったが、その剣は盾に接触した瞬間外装がポリゴンの破片となって飛び散った。

 外装が剥がれて出てきた中身は、フレーム丸だしで水滴が滴る水面のエフェクトがかけられていた。

そしてその剣は難なく、盾に突き刺さり耐久値を0にする。

一瞬動揺するヒースクリフの隙を逃さず、一歩前に進んで肉体を切り裂く過去の己。

 

「何だと……?」

 

 タンクであり膨大なHPは、一瞬にして激減してしまった。

いや消滅と云えるほどの速度で、HPが0に支配された。

 

「馬鹿な!」

 

 ヒースクリフは驚愕しながら、直ぐに表情を変え『オーバーアシスト』を使おうと行動する。

しかしそのアシスト後のスキルが、過去の己にあたる事はなかった。

 

其れもその筈、ヒースクリフはその剣を中てる瞬間に、この世界からゲームオーバーしてしまったのだ。

更に【United Reason in Ordinal】も、謎の爆炎に巻き込まれて退場する事になる。

 

 

 そして、【United Instinct in Cardinal】:基数世界に集約する自発的本能。

此方はアスナが担当しているが、ストームバードの爆撃とラヴェジャー・ジーニアスヘッドの攪乱により時間稼ぎを行った。

結果謎の爆炎で、【United Instinct in Cardinal】を撃破した。

 

 

……

 

 静寂になった結晶宇宙に転移してくるアスナ。

そして、彼女の無事を見て、キリトは彼女に歩いて近づく。

ユイは母親の姿を確認した瞬間走り出して、その胸に走り込みダイブを行った。

 

「ユイちゃん、無事だったんだね!」

「はい、パパがすっごく強かったんですよ!」

 

 アスナはユイを抱きしめ、安否を確認したところでキリトに視線を向ける。

 

「アスナ、無事でよかった」

「うん。キリト君なら問題ないって信じてたから」

「おいおい、ずいぶんな信頼だな。ま、負けるつもりはなかったけどな!」

 

 キリトはアスナと拳を合わせて、お互いの健闘をたたえた。

普通なら抱きしめたりするが、ここは戦場である。

攻略組である二人は、そこまで周囲の状況を自ら視認不可にするほど愚かではない。

 

「そういえば、茅彦さんは?」

「茅場さん?そういえば、帰ってきていないような……ま、まさかと思うけど……」

「調べてみる」

 

 ユイはキリトの言葉を不思議がる。

普通ならば近場にあるモジュールを使えば、容易に露見できることなのにと思う。

だがそれをしない理由は、彼女にとって恐怖足りえる事となる。

 キリトはマスターソードに手を当てて、『夢波長』を使って周辺空間諸々を探知する。

 この探知によって夢波長というものを浴びたユイは、自身の全てを筒抜ける感覚に見舞われた。

これにより何故己の父親が、この世界に認定されない秘密が若干分かった。

そしてプレイヤー達がキリトの他に、もう一人のキリトが居る事に気づかない理由も把握することになる。

 

「駄目だ、居ない」

「嘘でしょ?どうやって、血盟騎士団に説明すれば……」

「パパ、モジュールが暴走して捕えられた事にすれば」

「ユイ、それは決してやっちゃいけない」

 

 キリトはまたしてもアスナへの情報規制を行うことになる。

ダークゼロの事と、ユイがカーディナルというSAOそのものとして一つに纏められた『ファンタジア』という事。

今アスナは国家レベルの軍隊を率いている。無駄に思考を増やさせるのは、お互いにとってよくない事として自己完結する。

 ユイも何故自分の事を云わないのか、父親に対して怪訝な表情を見せるが無駄に情報を与えないというのも一つの終着なんだろうと思い始める。

 

「その時はその時だ。とにかく、コンソールの所に行って、ユイをこの世界から分離しないと……」

 

 キリトがそういうと、ユイはゲームコンソールに向かって走り出す。

キリトも突発的行動に驚きながら、ユイの後をつける。

アスナはどのようにしてKOBを騙そうか、思考の海に浸っている。

気づいた時には、二人はゲームコンソールの場所にいた。

 

 アスナが気づく前にキリトはユイに追いつき、頼み事と補佐をお願いした。

頼み事には、48層でのゼロとユイの関係・キリトとダークゼロの情報の場所、ダークゼロその物・ユイのSAOとの切り離し・48層のパックの事等だ。

 

「わかりました。それと私自身がSAOですので、パパが操作しなくても大丈夫ですよ」

「いや、俺がやりたい事もあるし、やるね」

 

 最初にやったのは、ユイとカーディナルの『ファンタジア』としての記憶を、自身のナーヴギアの記憶領域にダウンロードしておく。

これでSAOが崩壊しても、娘だけは生き残る様になる。

 

「では、パパが欲しがっていた情報を開示していきます。

 もしここになかったとしても、恨まないでくださいね」

「恨まないよ。でもなかった場合、どうやって存在しているんだろうな」

「たぶん同じ様に私のような存在がいるのでしょう。存在がすでに世界である、とか」

「ははは、まじかんべん」

 

 キリトはありえなくもない可能性に、乾いた笑いが出てしまう。

其れもその筈、SAOをゲームとしての枠組みから解放し、独自路線のルールで世界を作り上げた。

こんな能力を持つAIが、プレイヤーの敵となればまず人間側に勝機が無くなってしまう。

自由に世界を創造できれば、自由に破壊することも可能。

唯一の救いである、フラグがtrueで稼働中は改変できないという仕様には感謝だ。

 そしてユイは遂にパンドラの箱を解き放つ。

そこには数多の秘密情報に溢れていた。

 

【48層の進行具合】:現在平常通り稼働中。

それじゃない。

 

「パパ。集めた情報を云いますと、48層の表フィールドはSAOの47層のフィールドデータが使われていました。

1層以外全て別のフィールドデータで埋まっている中、これは非常に奇怪です。

それと今現在の48層はSAOのデータが全て破壊された、または取り除かれたので元に戻ったということです。

 

 それを根拠付けるのは、人の感情によりユイの論理行動が阻害されバグったことによる暴走と、カーディナルという存在が何者かによってユイと融合されたことです。

そして人の負の部分を己の力として使う強大な存在により、全ての負のエネルギーが集中しました。

しかしそのエネルギーを集めるには管制する存在が必要であるとして、ファンタジアとして融合された私達がその者と融合しました。

 

 これでゼロと私達の因果関係がはっきりしましたね。

おかげでゼロが破壊されると、私達が電子世界から分離され実体化したと云う訳ですね。

 

 次にダークゼロですが、これは私達と同じくSAOが不可解でありながら、強い願いを持つ者を具現化する情報処理と同じです。

偶に死者の中で生者に対して強い想いを抱いているプレイヤーが居た場合、SAOは感情の解析をするのと共に変わった処理を行います。

それは生者に対して気分的に悪い方向に行かせることもありますが、基本的に無害であることが多いので無視されます。

 ダークさんは特別で、概念的なものが影キリトとして存在が認められた物に概念が入る事で実体化しました。

ですのでダークゼロさんは、パパの半身であるともいえます。

 

 それとパックですが、今此方でパパとダークゼロさんの存在をパックというもので安定化させました。

元々存在しないので無理やり作った結果ですね。

ですが実際パパは、ここらに浮かぶ電子情報なので簡単に消滅する存在でした。

つまりフラッシュメモリ内に存在するだけの情報です。

今しがたHDDに保存されましたので、大丈夫ですよ。

 

 それと今後もパパのために動きたいので、プレイヤーであるとともに重要機関として不死属性とパックの贈与を発生。

これで私はパパとママと戦場を駆けることができます」

 

「ちなみに貰ったのは?」

 

「【AinCrad】です。

本来のSAOを楽しめるほか、SAOの全ての情報を扱えます。

そしてこのゲームにモンスターを召喚することで、鍛えることができます。

プレイヤーは鍛えられたモンスターと戦うことができます。

基本的にトップダウンAIなので、プレイヤーと共闘させるとめちゃくちゃ強くなります。

 一種のシミュレーションですね」

 

 この会話の後アスナがゲームコンソールに走って来た。

その表情は焦燥に駆られている。

 

「アスナ、遅かったな」

 

 キリトはアスナの行動の遅さに笑う。

 

「悪かったわね。どうやって誤魔化そうか考えていたのよ」

「そこらは考えているだろ。何もしない馬鹿じゃあるまいし」

「ゲームマスターなのに殺されるなんて、馬鹿じゃないの!?

 せめて不死属性くらいかけておきなさいよ」

「いや、無理だったと思うぞ?」

 

 そういうキリトにアスナは驚愕する。

更にユイはコンソールを操りながら、キリトの発言を擁護する。

 

「はい。無理ですし、不死属性は彼らに効果ありません」

「あのユナイテッド?」

「そうです。パパがいうように、コンソールの加護がある彼等は純粋な戦闘では負けます」

「え?」

 

 アスナは純粋な戦闘では敗北するという言葉に衝撃をうけた。

其れもその筈、機械獣による面攻撃が意外と効いていたからだ。

だからユイの言葉は、ありえないというように受け取られてしまう。

 

「ママは国家レベルの軍隊を繰り出しているのですから、勝利することや圧倒することができます。

しかしヒースクリフは、デュエルというワンマン勝負をしたことで、容易に防御を貫かれて死亡しています。

それに万が一不死属性であったとしても、それに対する割り込み武器が装備され貫通されているでしょう」

 

 圧倒的な戦闘能力を持つ攻略組でも、世界を守護する敵は一筋縄ではいかなかったようだ。

そしてアスナは思い出す様に、ユイに対してお願いをする。

 

「ユイちゃん、このゲームのラスボスを調べてほしいんだけど、いける?」

「やってみます……ああ、ダメです。プロテクトされました」

「あぁ、やっぱり」

「流石に無理……か」

「いえ、先ほどのクラッキングで、重要な情報を一つ手に入れました」

 

 ユイの発言を聴いて、二人は耳を澄ませる。

 

「第一層の裏ボスの稼働が始まっているとのことです」

「裏ボス?という事は……」

「まずい!!」

 

 キリトは叫ぶ。

ユイは首を傾げキリトの焦りっぷりを理解できていないようだ。

基本的に裏ボスは、そのダンジョンやフィールドを舞台に戦闘を行っている。

普通ならば攻略組やNPCだけで、被害が極少数に絞られていた。

 しかし第一層は非戦闘プレイヤーが集まる場所、『はじまりの街』がある。

ここで裏ボスが出現するというのは、想定外にも程があった。

実はキリト達は裏ボスというその存在と戦闘区域に関して、当時は無知だったのだ。

だから誰にも告げられなかったし、申告したとしてもそれが信用に足るものかもわからなかった。

 

 最初からボスと裏ボス、ダンジョンと裏ダンジョンがあるだなんて誰が信じようか。

其れに裏ボスという存在やパック・英雄といった情報は、非常にデリケートで半年以上経過した25層の時点でもまだ秘匿扱いだったのだ。

なにせ入手すれば、確実に負けなし。

一部の英雄は、何回か死んでも生き返れるというストック制度がある。

 またその制度が採用されている英雄は少なく、それらも極秘でストック制度事態がブラックリスト扱いだった。

だからヒースクリフが、それらの情報を攻略組に渡しそこから普通のプレイヤーに情報が行き渡るまで、もう半年かかったのだ。

 

 そして裏という存在に全てのプレイヤーが知ったのも、ゲーム開始の一年後。

攻略組は7カ月後に知り渡ることとなる。

 基本的に裏ボスは、裏ダンジョンでの戦闘になる。

だから被害なんて考えないで、行動を起こすことに専念することができた。

だが今回の第一層は、これまでとは全く違う様相を見せることになる。

 

 裏ボスは広大な表のダンジョンを使う。

 

 この情報は誰も知らない。

まず裏ダンジョンがこのゲームコンソールのある場所として使われている時点で、

裏ボスが表ダンジョンしかつかえないという可能性を考えることができた。

 

しかし第一層から裏ボスがいるとは思えないだろう。

 

 いや思う事が出来ても、その規模は小さかったはずだ。

だがキリトやアスナ・アーロイが見たのは、超大型の機械獣であり古の型ばかりが停止・たむろしている場面だった。

あれが表で暴れるのならば、非常に厄介なことになる。

まず歴史的に見て、この機械獣達は生命をバイオエネルギーにして活動する。

 この時点で敵となるモンスターが狩りつくされるのが分かる。

そして自己修復機能と自己進化プログラム・自己生産機能により、不死身に拍車がかかる。

この要素だけで詰みなのに、表ダンジョンを突き破って表フィールドに出てきてしまう。

寧ろ戦える場所が、広大なフィールドしかない時点で裏ダンジョンに収まるとは思えない。

 

 表ダンジョンと云うのは迷宮区の事。

 

 だから裏ダンジョンは、迷宮区の地下か48層のように別の所へ行くかの二択だったりする。

ちなみに25層の場合、裏ダンジョンは数多の伝説のポケモンの出現フラグとその場所で、

裏ボスはディアルガ・パルキア・ギラティナ・アルセウスだったりする。

 

 キリトはユイに帰る準備を早急にすることを伝える。

 

「パパ、ママ、どうしたんですか?」

「ヤバイってもんじゃないんだ!アスナ、アーロイとメールはできるか?」

「ダンジョン内なんだから、無理に決まってるでしょ!」

「そうだった……!」

 

(「ダーク、『緑の場合』を使えるか?」)

(「使えるも何も、単体使用は容易だ」)

 

 

 キリトは『緑の場合』を使う。

戦闘じゃないので、バフ効果しか発動しない。

彼はユイとアスナを抱えて、一気にこの制御室から出ていく。

そしてコペルやジャッカル達が待つ入り口まで、一瞬で移動することができた。

 

「コペルさん!」

「お、帰って来たか。全軍撤退するぞ。さて、キリト、何をしてほしいか、言ってくれ」

 

 察しが良すぎるコペルに、キリトは心の中で称賛する。

 

「世界の真理に触れて来た。その中で第一層の裏ボスが稼働中とのことだ」

「なるほど。裏ダンジョンがこうしてあるという事は……わかった。

 『軍』のコネを使って、第一層に集結させよう」

 

 圧倒的な先読みでコペルは状況を理解し、通信機を手に持って会話を始める。

会話の相手は誰なのか、きっとすぐに理解できるだろう。

 

<わかった。非常事態宣言を出させてもらう>

 

 この聲はシンカーのものだ。

そしてこの聲の後、全ての優良プレイヤーに非常事態宣言が発令される。

内容は第一層の裏ボスが、表フィールドに出てくるという内容だ。

今まで非常事態宣言はなかった。

というより、この割り込みはゲームマスターにしかできないことだ。

 ユイはコペルに対して、その事を云う。

するとコペルはユイに、ヒースクリフからその権限を『軍』の特権階級の者全てが所有していると言った。

つまり本当の意味で、軍はKOBと提携しあっていたと言える。

 何より驚くのがアスナで、自分の大切な物を他者に提供するとかありえないなんて言っていた。

其処はさすがにプレイヤーとして、彼等を見ていたんじゃないかとキリトはいう。

ヒースクリフの慎重さと大胆さは落差がある、とコペルは言っており、あながち間違いじゃないかもとアスナは溜息をつく。

 

「とにかく、地上へ急ごう。全く、結晶無効化エリアじゃなければ、早急に帰還できたんだがなぁ」

 

 裏ダンジョン特有の現象である、結晶無効化エリア。

これはいろんなところで見られる現象だが、これによって引き起こされる帰還結晶の使用はまず不可能。

おかげで裏ダンジョンで死ぬプレイヤーは結構いる。

 ただこんな場所に入り込むのは、攻略組や英雄を連れたプレイヤーしかいないので死亡者は極端に少ない。

 更に地上において結晶無効化エリアがあるのは、今の所確認されていない。

だから一般のプレイヤーはこういうエリアがあること自体知らない。

 

 結晶無効化エリアがもたらす悲劇。

それは一瞬であらゆる被害を回復する手段を失う事、長距離転移、最寄りの街への帰還等。

非常に文明の利器といえるようなものばかり。

この特性になれていれば、ごり押し不可能な状況やポーションといったアイテムに頼り切る展開についていけなくなる。

 それ依然にごり押しなど、ゲーム性を著しく失う行為は命を失う事と同義だ。

 だから慎重に臆病に生きる術を持たなければ、いくら戦闘力や勇気が有ろうと結果論として暴力と蛮勇にしかならない。

そうでなければ無残な骸を、黒鉄宮にある石碑に表示されることになる。

 

 とにかくコペルは撤収を言い渡し、キリトやアスナ・ユイと共に地上へ戻る。

この帰還の強行軍を進めている時、コペルは無線を使って話しまくっていた。

どこへ話を向けていたのだろうか。

それはまだわからないが、この裏ダンジョンを抜ければ誰でもわかることであろう。

 

「パパ、ママ、稼働率が76%になりました」

「「っ!」」

 

 ユイの死刑宣告にも似た報告は、キリトら二名の緊張を高める。

ユイは無邪気にキリトに、肩車をしてもらっている。

状況は非常に切迫しているというのに、だ。

 

 この裏ダンジョンの出入り口である階段を登り、例の集まった広場まで帰還する。

途中で出くわした敵は、ジャッカル達や先遣隊・ラヴェジャー部隊により殲滅された。

おかげで無傷でここへ入場できた。

ここはセーフルームであるため、タゲが移っている隊員が全てこの広場に来ると敵は消滅した。

 そして全員無事であることを点呼し、漏れがないよう再確認する。

 此れにて帰還となる。しかし空気は若干重い。

ヒースクリフの死もあるが、此処に集まり存在する人物らをみてキリトは背筋が震えあがった。

 

 キリト達が必死に駆けて来て息を整えると、目の前をちゃんと向く様に姿勢を正す。

彼は眼前の光景に身体を硬直させてしまった。

 

 三人の目の前には、『軍』の外交責任者であるキバオウを含む特権階級がそこに集合しているのだ。

 

「た、ただいま戻りました」

 

 圧倒される覇気に気圧されるキリト。

カリスマというのか、それともプレイヤーにはないその圧倒的な何かでキリトは敗北を認めた。

変な意地の張り合いが全くない事で、早速話に入ることができる。。

 

「良く戻った、キリトはん。そこで、世界の真実とヒースクリフについて教えてもらおうか」

 

 キリトはキバオウに世界の真実である、ユイとカーディナルの複合体『ファンタジア』がSAOというゲームの枠からはじき出された事を伝える。

元々のSAOのゲームシステムは、彼女にパックとして贈られ本質の保護は完了した。

今のSAOはSAOですらない、ただのヴァーチャルリアリティでしかない。

 ラスボスというものや目的を調べてみたが、プロテクトがかかっており最奥部へのアクセスはできなかった。

その代わり第一層の裏ボスの存在とその稼働率を調べることができ、どのような侵攻をしてくるかも知ることができた。

 

「ボスの名前は分かりませんが、此処から最北端にある迷宮区から出現。

迷宮区の壁を破壊して、はじまりの街を完膚なきまでに破壊する事が、敵の勝利です。

私達の勝利は、最後にでてくるひときわでかいのを倒せば勝利です。

それと謎の計算とプロトコルの並列計算が行われていました。これが何なのかわかりません。

しかし、警戒するに足る項目です」

 

 ユイがキリトの肩の上から、彼等に語られる。

物怖じしないその胆力は、人の表からくる覇気よりも心の奥からくる憎悪の方が恐ろしいが故だろう。

更に彼女は物理的に上から目線で、物事を喋り『軍』に忠告した。

ユイがそういう存在だからこそ許されるんだろうが、これが人間ならば非常にまずいことになる。

魔女裁判不可避だろう。

 

「わかった。次はヒースクリフ団長や」

 

 するとキバオウは後ろから、緑の帽子と服を着こんだ金髪碧眼の青年を引っ張って来た。

その青年はずれる帽子を支えながら、勢いよく前にでてきた。

 

「彼はKOBのヒースクリフの英雄や。彼が今後の団長になる。紹介しなや」

「ああ。俺はリンク。血盟騎士団元副団長、現団長だ。

ヒースクリフから話は伺っている。彼はこの戦いで死ぬだろうという、タロットカード占いで運勢を決めた。

だから俺達は別に動揺していない。しかし、最後を知る権利がある」

 

 リンクの有無を言わさない圧力の言葉に、キリトは頷き返す。

青年リンクは片手盾・長剣の他にも冒険道具がその服に多く装着されている。

それら小道具は、どれもこれも使い古されたような形跡が見て取れる。

今までどのような死地・激戦を潜り抜けて来たか、予想にはできないが感じ取ることができる。

 そしてその佇まい。

トップギルドの団長を前にして、一歩も引かない姿勢。

それでありながら、強気で強情ではなく逃さないための言い包めや言い逃れができないよう、言葉で布陣を敷いておくのが上手だ。

 

 キリトはリンクに言われた通り、ヒースクリフの最後を包み隠さず明かそうとした。

その種明かしはキリトではなく、ユイがすることになる。

彼女は全ての戦場を見渡す能力がある。

それが如何に離れていても、影響範囲内であればどこでもいつでも監視することが可能だからだ。

 故にユイは自身を守るプログラムに敗北するヒースクリフの最後を、

着色しないでそのまま伝えた。

 

「……という事です。満足していただけますか?」

「ああ。彼もまた、立派な騎士だったということが、良くわかった。

キバオウ、外で待っている」

「応。気ぃつけぇや、次の戦いがあるんやで?」

「知っているさ」

 

 キリトは見てしまう、彼の俯いた顔を。

その表情は悲哀ではなく、嬉しそうな顔だった。

目は笑っていない口だけが笑っている。

この笑みに、キリトの背中に悪寒が走る思いだった。

 

 この後キリトはアスナに、ユイとカーディナルのことについて隠していたことについて怒られる。

しかし彼は彼女に対して、無駄な思考を増やさないように配慮したかったという旨を話した。

彼女は腕を組んで若干苛立ったように垣間見えたが、少し時間をおいてため息をついた。

 

「キリト君は私よりも『軍』の方が大事なの?」

「だから違うって!茅彦さんが死んでしまって、その事実の言い訳とかそこらを考えなければならなかった。

 でもさらに追い打ちをかけるように、ユイが何者であるかしゃべったらますます混乱するだろ?」

「しないけど?」

「そうですか……」

 

 彼の気遣いは、空を切った。

しかしその心意気は彼女自身を思い遣っていることなので、すぐにアスナはキリトに感謝の言葉を伝えた。

うなだれるキリトはその言葉を聞いて、調子を取り戻した。

 先ほどよりも一層と元気になったキリトは、コペルとジャッカルたちに挨拶して第35階の田園地帯へ向かう。

この田園地帯には、キリトが作った『黒の英傑連盟団』の本拠地があり、多くの仲間がいる。

 

 そう、今回のことに関して早急に会議をして、裏ボスのために一層へ向かうのだ。

表に出たとき、キリト達の下に多くのメールが着信していた。

これを見たキリトやアスナは、順次35階の本拠地に集合するように返信する。

 

<キリト。我はパックとしての付属品となったが、話さぬのか?>

<切り札は多い方がいい。

それに俺たちの分離攻撃は、ただのAIが補佐していると思わせておいた方がやりやすい。

 まさかボスのボスが半身として存在しているなんて、思わないだろ?>

<我もそう思っていた。手札は教えるものではない。

見たいものに見せてやればいいのだ>

 

 キリトとダークはお互いに話し合って、またもや打ち開かすことはやめることになった。

さらに情報漏洩と団長としての噂の質を守るため、今は謎の二刀流剣士にさせておいた。

こうすることでパックを持っていない純粋な剣士として、プレイヤーたちの羨望と希望の的になるだろう。

また今回のヒースクリフは死亡し、連盟団のみの帰還がマスコミにばれて周囲に拡散されるのも時間の問題だ。

 これらの情報が開示されると、見殺しやらなんやらとあらぬ風潮が立つ。

だがそれ以上にパック保持者でないキリトの存在が、さらに強靭となっていき彼の名声がうなぎ上りになる。

この名声の在り方は、彼にとってあまり気持ちのいいものではない。

しかし今回巻き起こされる裏ボスは、プレイヤーすべてを巻き込むと思われる壮絶なものになると思われる。

 だからこそこのような名声があるということは、ある程度生き残るために彼の言うことを聞いてくれるということになる。

 現在第一層『はじまりの街』にプレイヤーは、資本主義で享楽を享受している。

それに自分にとって関係ないことなど、負のものは圧倒的な嫌いがある。

この欲望につけこんで、人をある程度操作しようと思っているのだ。

いや実際に操作できないと、詰んでしまう可能性がある。

 

<実際問題、動いてくれるのか?>

<甘い蜜を啜っている奴らは、後ろがないことはわかっているだろう。

 参加せざるを得んだろう>

 

 

 キリトとダークは、そういう結論へ至る。

しかし物事は失敗する確率の方が高い。

日本人は集団心理が働くので若干確率が高いが。それでも自由主義にまみれているので実に個人的だ。

聞かないし全く効かない事を再前提にして動く必要がある。

 それでもできるのはここまで。あとは軍の手腕が試されるだろう。

 キリトとダークはこの話を切り上げて、街中で装飾品を見ているアスナとユイの下へ向かう。

そして全員の用事を済ませて、三人は35階へ急ぐ。

 

 




 ハーメルン上に一部保存していたのがあったので、
それを手直しして書き出しました。
本来の流れはこんなものです。
途中から文章が適当になるので、たぶんどこから追記したかわかるでしょう。

 これが最後です。
ありがとうございました。


(この後の流れ。隠されていたKOB・軍・そのほかプレイヤーとその英雄が集結し、
第一層の裏ボスに挑みます。この裏ボスで、例の並行計算のアレとか
時間稼ぎのアレとか、リンクのアレとか……。
さらに現実世界も数年経過しているので、現実のVRゲームのアレ関係とか、
あれやこれやの人達を組み合わせて、コロシアムでユニゾンや本家二刀流でお祭りわっしいとかありました)


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集結

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 第35階。

ここは敵性モブが迷宮区以外存在しない、非常に気楽で面倒な階層だ。

気楽なのは目に見えてわかる。

面倒なのは、迷宮区のモブが存在しないと言っても過言ではないほど出現しない。

おかげでレベル上げができず、迷宮区のフロアボスと対峙しなくてはならなかった。

 しかしここのボスは拍子抜けするほど弱かったので、何事もなく上へ行くことができた。

裏ボスはKOBにより、一瞬で蹴散らされた。

 

 ここのテーマは、『牧場』だ。

とあるプレイヤーによると、元ネタは『牧場物語』というもので訪れたプレイヤーすべてに農園やら田園などを与えて好きに過ごさせ、好きなヒロインと結婚するというのが目的なようだ。

しかしこのフィールド上、どこにもそんなNPCや小屋は存在しない。

その代わりいろんな機能を保有しているロボットが、そこらへんを徘徊している。

 プレイヤーは最初に田園などを一か所もらい、そこから農作物などを収穫してコルを増やす。

さらに派生して酪農・畜産・漁業・林業など、いろいろできるようになっていく。

 

 細かく言うとキリがない。

しかしソロにはソロへの仕様があり、ギルドやパーティへの特典が存在する。

だからここは一度訪れて、居住権を得るのも一興である。

 

 

 さて『黒の英傑連盟団』は、ここに初めてギルドの拠点を置いた。

適正テーマフラグが存在する階層がなく、パックを渡せていない三国や戦国武将にとって、農作業は得意中の得意な

農民出の者が多い。

ここで彼らは農民としての知識を出したり、個々人に与えられているスキルを活用するようになる。

 フレンドとして英雄とともに行動しているプレイヤーは、圧倒的なコストダウンを図るようになる。

しかし持っていないプレイヤーは、育てた農作物などは腐らないなど救済措置が存在する。

こういうささやかな仕様のおかげで、35層はお駄賃稼ぎとして優秀な場所になった。

 

 さて、こういう農場は場所が限られていたり競合が発生するのだが、35層で土地を購入すると転移門以外の別の門から自分の農地へと転移するようになっている。

表フィールドは、ただたんに素材集めのための場所。

転移先は自分の家や農園などがある。

 

 こうやって場所が分かれているので、いちいち太閤検地レベルで面倒なことは発生していない。

 さらに場所が違うので、ロボットの機能にある土地購入でコルを支払うことで、さらなる大地を得ることができる。

ギルドや仲良しパーティは、これによってさらに多くの収入を得た。

 

 

 建築・開発・冶金・研究・育成・模様替え、いろいろ本当に自由度が高い。

すべてを話そうものなら、きっと物語を作れるだろう。

そんな自由すぎるからこそ、スキルが生きるのだ。

 

 この広大な農園などを購入して、諸葛亮・趙雲・月英・リズベット・エギルによる研究や冶金が日夜行われた。

ソレの結果が月英の無双技の現代化であったり、料理スキルで作られる料理のおいしさだったりする。

『采配』スキルで、いろんな者や物を動かし効率的に物事を完遂する。

どこからか出現した兵士に、田植えを行わせることで効率を最大限にした。

 さらに肥料を馬糞や腐葉土などから作り上げ土地の栄養価を高め、多くの調味料を作り出し量産化することもした。

この恩恵は月英とアスナの調味料表作成を、半年ですべて終わらせるという効果を発揮している。

 

 こんないろいろとのどかな場所を本拠地としたのは、普通の場所だと襲われて破壊されてしまったり暗殺されてしまう可能性が高いからだ。

この場所は暗証番号だったり、同名不可という仕様を利用してその人物しか入れないようにしたり……。

本当に隠れ家という意味でも、この場所は非常に有用である。

 もちろん訪れることもできるので、許可申請からの受諾で訪れ相手の土地を散策することができる。

この事を知ったのは、調味料表作成から数日後のことだ。

 

 

 さて、35層へ転移してきたキリトは、プレイヤーとして登録されているユイをギルドに入団させた。

これにより35層の『黒の英傑連盟団』の農地へ、入る事が許可されたのである。

ユイのことはすでに全員が知っているが、『ファンタジア』のことについては誰も知らないので、新たに自己紹介する時間が設けられた。

 裏ボス出現となると配置時間もあって、非常に限られた時間配分だ。

それでも仲間の融和のためには、やっておかなくてはならない。

これをおろそかにするのは、普通に遊ぶ上でも許されないだろう。

ましてやこんな死が身近にあるこの世界で、命を預けるに足る存在なのか見極めなければならない。

 だが団長がそんな馬の骨を連れてくることはないだろうが、そうであっても納得させるためにはこのように紹介枠を設けた方がいいだろう。

 

「ここに来るのも、久しぶりなかんじがするな」

「キリト君、まだ一日経過してないよ?」

「色々あったからなぁ」

 

 キリトはアスナの当然の突っ込みに、一日の濃さを思い知らされる。

朝っぱらから第一層へ赴き、現夕方まで『軍』とともに裏ダンジョンの攻略をした。

攻略内容は一種の強い種明かしであり、世界の秘密が公になった瞬間だった。

そんな場面に一介のプレイヤーが、立ち会ったというわけだ。

 改めて振り返ってみると、とんでもないことである。

なにせ打ち捨てられたプログラムと本来のSAOのデータを内包した、『AinCrad』そのものが自身の味方となっている。

これがどんな優位性とプレイヤーの嫉妬心を生み出すことになるのだろうか。

それは全く計り知れない憎悪となるだろう。

 

 キリトとアスナは真ん中にユイを挟んで、彼女の手を握り彼らの本拠地へ歩いていく。

もちろん田畑を踏んでいくのではなく、ちゃんとした仕切りである畦道を通っていく。

田畑にはいろんな色の果実をつけている草木や黄金畑と化した小麦・大麦・稲の海を横目に見ながら、

特に大きく目立つ一件の家に向かう。

その家の周囲は大きな広場があり、今も趙雲とシリカが模擬戦を行っている。

 

<改めてシリカは素晴らしい。我が物にしたいぞ>

<俺はアスナっていう、心に決めた人が……>

<それは現実世界では、という意味だろう。しかし電子世界まで、国境や法律を敷く意味などあるのか>

 

 キリトとダークは、アクロバティックな動きをするシリカを見て、いろいろ思案を巡らせる。

そんな思いをしているとは思わないアスナは、ユイからシリカのすごさを語られる。

 

「やっぱりシリカさんはすごいです!違う意識とかやぶれた世界とかいろいろあるのに、

すべてを自分自身の力だけでカバーしてます!

それにレックウザやアルセウスという、パワーバランスを崩壊させ思いの増長を図る存在をちゃんと自身の心持で御しています」

「へー、そんなとこまでわかっちゃうんだ」

 

 アスナはユイの電子的人間観察に、ちょっとした驚きを見せ普通にその意見を受け入れた。

これが意外と難しい事なのだが、自然とやってのける。

さすがに二年目となるSAOプレイヤーは、一味以上も違う倫理観を持つようだ。

 

 三名が本拠地に近づくと、シリカと趙雲は模擬戦闘を終了させキリト達を迎え入れる。

 

「皆さん、おかえりなさい」

「三人とも帰ってきたか。ユイ殿はここを出たとき以上に、何かを得たようですね」

「わかるのか?」

「ええ。AIである以上、これくらいのことはわかります」

 

 自虐でもなんでもなく、自身の正体を認めたうえで利用している趙雲はキリトの疑問を打ち払う。

また趙雲は諸葛亮やサトシ達の成し遂げた事を伝え、シリカはアスナとユイを家に案内する。

 キリトはそれを見て、趙雲にメールで知った内容を伝える。

その内容というのは、試しに武将固定の武器以外を装備できるのかというものだ。

”はい”か”いいえ”でいえば、”はい”としていえる。

しかしそれがSAOプレイヤーが作り上げたSAOの武器が装備可能かというと、全く装備できなかった。

それなのにある時装備できるようになっていた。

 時期は不明だが、ユイが『AinCrad』を手に入れた瞬間から、SAOの何かが無効になったともいえる。

 

 実をいうとほかのギルドからも、不可能な事が可能になったという報告が結構相次いでいる。

 その例の一つが、パック以外の専用装備も英雄とフレンドになっていれば、限定的だが装備・使用できるというもの。

例えば投げられた武器を掴んで投げ返すだったり、パックを渡されていないフレンドに武器を渡す事でスキルを使用できるようになったりというもの。

 

 もっと簡単に言うと、サトシとシリカ以外がフレンドになってポケモンの指揮権を委譲してくれる状態と同じ。

ゲームでいう交換のようなもの。使用者はそのフレンドでも、親は仲間にしたサトシ名義であるということと一緒。

わかるかな?

 

 

「これは?」

「ドイツ帝国印の軍用シャベルです」

 

 三国・戦国勢以外にも、世界史に存在する国家の武器を作り上げることができる。

 そのおかげで鍬や熊手といったゲーム基準の農具以外にも、いろいろと登場するようになりすべての階層で制限とその応用範囲の拡大がなされた。

現状このシャベルは、『采配』スキルにて諸葛亮の兵士が畑を耕すのによく使われている。

 例えば肥料や肥やしの生成など。

 

「槍とは違って長さは足りませんが、斬る・突く・刺す・叩く事が可能です。

 今はこれを渡されていますが、この後の戦闘のためちゃんと『竜胆』へ戻します」

「あ、ああ。まさか、これで裏ボスに挑むのかと思ったよ」

 

 趙雲とキリトは、笑いあった。

そしてすぐに趙雲は家屋に入り、武器の換装のため入っていった。

 キリトはこのエリアに居る仲間のリストを確認する。

リストには、キリト・アスナ・ユイ・シリカ・趙雲のみが明るく表示されていた。

つまり明るくなってない、暗く表示されている仲間全員が外部にいるということ。

 どんなに緊急事態でも、急激な状況変化なのでいろいろとおいついていない。

 メールにて本拠地へ戻ってくるように指示しているが、少々かかってしまうようだ。

キリトは焦っても仕方ないと思いながら、家の前にあるベンチに座ってみんなの帰りを待つ。

この間に裏ボスが復活していない事を、最大限祈ることにする。

 まあ祈っても結局相手の思惑により、勝手に進んでいくものだ。

 

 リストの名前表記で明るくなる人物が、二名。

その人物は空を駆ってこちらに舞い降りてくる。

 

「キリト!ごめんな、ちょっと遅れてしまった!」

「ああ!まだ大丈夫だ!ほかの奴らが集まるまで、待つつもりだ!」

 

 空に転移出現する人物。

彼の者はポケモンという存在にまたがり、歌手も驚きの声量でキリトと会話を交える。

 

「おぉ、リザードンもなんか強くなってないか?」

「裏ボスのために火力特化にしてきたんだ。リザードンナイトをポケモンリーグで、勝ち取ってきてやったぜ」

 

 通常通りのリザードンが地上に降りて、その背中から飛び降りるサトシ。

設定にある10歳とは思えないその身のこなしは、とんでもない生物であるポケモンが存在する世界で生きる人間として如何なくこの世界で発揮されている。

 彼はキリトと拳をぶつけ合う。お互いの健闘と安全を確認する証だ。

これをしなければ偽物扱いされ、お互いに交戦の許可と相成る。

 

「俺たちは一心同体だ。な、リザードン?」

「グルォウ」

 

 お互いに腕を曲げて、やる気を見せる。

 そんな彼らを見て、キリトは口角を上げる。

そしてキリトは彼らを、家の中で待機するようにお願いする。

 

「ああ、わかった。待ってるぜ?」

 

 リザードンをモンスターボールにしまい込んで、本拠地である家に入っていく。

 

 

 次にリストに表示されるのは、リズベットと月英だ。

 

「この素材は月英の武器に使うわね」

「いえ。私は無双で無双するので、リズさんが使ってください」

「いやいや、あの覚醒無双乱舞をやれば、基本的に大丈夫でしょ」

「ですが攻撃速度や攻撃範囲に劣る棍よりもましかと思われますが?」

 

 疲れた表情で腕を回すリズは傍らに月英を従えて、手に入れたであろう素材に関して色々意見を交わしあう。

 疲れていても非常に表情が明るく、鍛冶屋魂と攻略魂を見せつけるような振る舞いをする。

それは言動に自然と表れている。

テーマフラグ解放英雄ではない月英は、フレンド登録を全員とやっている。

リズは攻撃速度と安全性からみて、月英の戦戈を装備している。

 

「あ、キリト。まだそろってないわよね」

「お、応」

「じゃ、ちょっと鍛冶やってくるから」

「わかった。揃ったら呼ぶよ」

「そんじゃ、よろしく~。月英、行くわよ」

「はい。では、キリトさん、またあとで」

 

 キリトは話しかける余裕がなかった。

 それくらい熱心に会話していたし、何よりこれからの事を真摯に考えてくれていた。

キリトは二人の女性の背中を見送り、ベンチに座って待機することにした。

 

 しかし座ろうとしたとき、このフロアに咆哮が轟く。

キリトは非常にびっくりして、片手に『ドミネーションオブルーラー』を装備し周辺を見渡した。

敵がここに襲い掛かってくることはまずないというのに、この行動は別に間違っていない。

PKが常時周囲に潜んでいるこの世界では、通常の反応ともいえるだろう。

 

 で、その咆哮が聞こえた方向を見ると、そこには巨大な疾駆を持ってこちらに接近する者がいた。

リストには残りすべての団員が明るくなっていた。

つまりその遠くに霞むソレは、機械獣となる。

 メールでとある人物から、到着した旨を伝えられる。

 それを確認しているときには、すでにその機械獣の全容を目視できるようになっていた。

 

 どうやって見ても西洋竜な機械獣は、背中を地面に向け騎乗する三名を地上に落とす。

三名は無事に降り立つ。機械獣であるソレ、機龍は上空を高速で通過する。

その巨躯は強風を仰がせ、周辺に猛威を振るった。

別に影響は出ないが、巨躯がせまるという恐怖心は募った。

 

「久しぶりだな、キリト」

「アーロイおばちゃん、久しぶりだな!」

「……」

「ごめん」

 

 無言の圧力に屈したキリト。素直に謝る。

 

「おうおう、相応の人にはふさわしい言葉があるぜ、キリトよ」

「よっ、今日も大量みたいだな、エギル」

「ああ、諸葛亮と共に、聖龍連合に吹っ掛けてきてやったぜ。な?」

「ええ。私共の口車に容易く乗せられる様は、見ていて非常に愉快でした。

 まさか目先の利益に目がくらむとは……バカですね」

 

 まさかの辛辣な諸葛亮にドン引きするキリト。

それでもちゃんとこちらの利害を取得してきたエギルと諸葛亮の商人は、商売人の鑑ともいえる。

非常に強かで相手の事情に精通し、手元・足元・目元などから表情を読み取り流れを優位にさせる。

姑息で卑怯。しかし、有用な手段だ。

 

「二人とも、今はいいだろう?とにかく、中に行こう」

 

 アーロイがキリトを含めたこの場にいる全員を、家の中へ入るよう促した。

 エギルと諸葛亮は、それもそうだなと許諾し家へと歩みを進める。

 

 

<いつ見ても、最高の戦力だ。我の仲間とは違い、ちゃんと得意分野が分かれている。

これならば、一つの事で瓦解することはないだろう>

「当然。俺たちの歩みの結果さ」

 

 ダークのため息へ、キリトは毅然とした態度と口調で示す。

 もちろん彼らも中へ入っていく。

鍛冶屋としてトンカチを振るっているリズと補佐の月英を、冶金室から呼んでリビングに集合させる。

 

 

 

 黒の英傑連盟団団長であり、現在最強のキリト。

黒の英傑連盟団副団長であり、料理王のアスナ。

機械獣のほぼすべてを知り尽くしている女王、アーロイ。

総合百貨を扱う何でも屋商人エギル。

言葉の暴力で交渉を行い、田畑を耕し開発する諸葛亮孔明。

勇猛な突撃武将であり、素材集めなど雑用な趙雲子龍。

最高峰の鍛冶師、リズベット。

現代兵器を作り上げる熱心な科学者の月英。

龍から神まで宇宙を操る敏腕プレイヤー、シリカ。

すべてのポケモンと友達であり、最も理解しているサトシ。

全ての根幹を身に宿す最高のAI、ユイ。

 

 ほかにもパックという応急手当を受けたボスのボスである、ダークゼロ。

翠碧の神龍レックウザ。イヤリングと化した創造神アルセウスなど、身近に色々ある。

 

 

 木造建築である大きな家にあるリビングに集まるすべての仲間。

非常にアットホームな雰囲気だが、みんなが皆最高そのものの集いである。

ほかのギルドもそうだが、専門性でいえばここが最大だろう。

 

 今回集まったのはほかでもない、第一層の裏ボスとの戦闘に関してだ。

すでにギルドメールにて、数多のギルドから参戦表明とともに作戦に関するものを送られている。

KOBはリンクが中心に行っているが、その処理能力が非常に高い。

おかげでなんの滞りもなくすべての参戦表明を行ったギルドへ、情報が渡されていく。

 さらに裏ボスの詳細は、アスナやアーロイがすでに情報を送っており、どのような戦闘・規模・被害その他もろもろを含めた情報を『軍』の上層部に送っている。

故に提携をしているKOBを中心として、作戦と方面軍の割り振りがなされる。

 

 基本的にフロアボスは、2レイドまでの48人と決まっている。

だからギルドなどの団体は、ランダムで抽出されソロと即興の攻略パーティを編成される。

別にパーティを固定してもいいが、ちゃんと攻略パーティとして団体を構成していないとボスで思わぬしっぺ返しを受けてしまう。

ただ裏ボスは特殊であまり人数制限がない。

 このような制限のおかげで、人海戦術ができる。

その代わり被害もなみなみならない物になる。

例えば戦闘するフロアが狭くて、うまく戦闘できないとか。

まあそんなことはめったにないわけだが…。

 

 今回の裏ボスは第一層表フィールドを、すべて使っての戦闘になる。

 敗北は第一層の『はじまりの街』への到達とされる。

実際この街に到達される時点で、敵勢力に攻撃力がある事が予想される。

すると街への被害が、尋常ではない事になってしまう。

 どんなに破壊不能オブジェクトでも、すでにSAOではない何かのゲームな今ならぶっ壊される。

たぶん。きっと。そう……。

 

「『軍』から指示が来た。

『はじまりの街』北正面は複雑な高低差のあるフィールドなのは、皆知っているよな?

そこで俺たちは正面戦域で、立体的な戦闘を行うように指示された。

幸いアスナとアーロイや機龍、俺はドラグーン、他の皆はサトシとシリカにポケモンを借りればいい」

 

 特殊機材を用いて中央テーブルから立体的な地図を表示し、どのような進行ルートで来るかの予測とともに参加表明をしたギルドとソロらの配置を確認していく。

彼ら連盟団は、正面戦域。

つまり敵の攻撃を諸に受けるタンクの役割を担うということだ。

 今回ばかりはすべてが総力戦なので、多くのプレイヤーが協力しなければならない。

 そして今回は裏ボスなので、レート形式になる。

活躍次第で豪華アイテムを貰えるので、活躍した分報われる事だろう。

 

 参加するギルドは、攻略組や中堅層のギルド。

ソロは数千名で、大半は英雄持ちか英雄装備持ち。

テーマフラグ解放英雄は詳細がわからないので、まだわからない状態だ。

少なくともゲームを知っている人からによると、まだ対応している層がないキャラがいると報告を受けている。

 幸いわかっている中で、マリオ・ヨッシーらのテーマ層は49層以下にない。

 そしてこの49層までで、テーマフラグを開放している英雄は三桁を超えている。

しかし以前キリトが聞いたストック制度が用いられている英雄の開放は、49層中11層となっている。

別にストック制度がないから弱いというわけじゃない。

それでも再復活という要素は、このゲームだと非常に戦局が優位になる。

 さらに英雄は三桁を超えていたりしても、クッパのフィギュア化銃やPKギルドの暗躍で、結構な数の英雄はこの表舞台から退場してしまっている。

それでもまだ有力な英雄は残っている。

 

 キリトはこれらの現状を仲間に伝え、どのような陣容になるか想像してもらうことにした。

ただ一番強く念を押すのは、正面戦域で真正面からぶつかることだ。

これが一番大事。これ以外は別に知らなくてもいいことだが、知っておいて損はない。

 

「よし。皆聞いてくれ。ユイの事なんだが――」

 

 キリトは第一層で調べてきた事、『軍』と『はじまりの街』の事、ユイとカーディナルについて話した。

これらの事を伝えると、皆驚愕の事実に動転する。

それでも彼らはユイとカーディナルを受け入れた。

 呼称はユイのままで行くことになる。

 実際キリトは仲間を信じているにもかかわらず、もしもを考えてユイまたは拒絶した仲間への

対抗措置を考えていた。

旧知の仲間か、であったばかりのAIか。

如何に自身らの子供であろうと、調和を乱すのならばどうにかしなければならない。

 そこまで非道になれるのか、彼自身は思った。

 思ったにもかかわらず、キリトはできるわけがないと歯噛みした。

だからこの結果は非常に嬉しくもあり、逆に不安を抱えた。

やはり31層のポーキーに毒されているようだ。

 

<もしユイと他の皆を天秤にかけるなら、俺はどちらかを捨てなければならない。

 これがいつか来るとなると、怖いんだ>

<ならばどちらも守れるよう、強くなるしかなかろう。

 我はキリトの半身也。故にお主が強くなるためならば、どこへでも行こう>

<ありがとう、ダーク>

 

 ユイとアスナを中心に、皆が楽しく盛り上がっている最中キリトは暗い表情をしていた。

しかしそんなキリトを支えられるのは、アスナともう片方の存在であるダークである。

実際語っている秘密より、さらに上位の秘密を知っているのがキリトとダークだ。

話さないのは漏洩を防ぐためと万が一のための対策だ。

 話したいが話せない。それはもう、仕方ないのかもしれない。

 

「キリト君。顔色が悪いよ?」

「え?」

 

 ふと顔を上げると、そこには心配そうな顔をするアスナやギルドの仲間たちの表情があった。

 キリトは何もないと繕って、隙をついてアスナとともに外に出る。

外はすでに夜で、星が天を覆い瞬いている。

この星空は最初キリトを含めたプレイヤーすべてが、驚き涙を流したものだ。

 アインクラッドの天は、上の階層の床下の壁。

だから太陽や月光、星空なんてものはない。

一応仮の星空が、その天井に描かれるがそれはただの絵のようなもの。

 

「アスナ。頼みがあるんだ」

「何?」

 

 キリトはアスナと手をつないで、面と向かって話す。

 

「俺を信じてくれないか」

「何言ってるの?私はキリト君の事、信じてるよ」

「違う、そうじゃないんだ……」

 

 彼はアスナと握る手に力を入れてしまう。

 

「たとえどんな事があっても、信じてほしい。

アスナを俺が信じていない訳じゃない。

だけど俺は……いや、言い訳だ……ごめん、アスナ」

 

 何を言うのか不安げな表情をしていたが、キリトの独白に彼女は微笑む。

何かにおびえ震えているキリトの手を、しっかりと握りしめ彼に寄り添う。

 

「大丈夫だよ、キリト君。

決心がついたら、絶対話してね。約束だよ」

「ああ」

 

<……>

 

 

 この後二人は家の中に戻り、仲間たちとおいしい食事を楽しんで明日のために寝ることにした。

ここの時間の流れは、外界とは少し違うからだ。

それでも外は夜だ。 

 

 夜更け。

 

 キリトは二人に分裂する。

白キリトはダブルベッドにて、アスナとユイとともに仲良く寝ている。

影キリトは静かにこの家から出る。

さらに後ろからついてくる人物が二名。

それは諸葛亮とユイだ。

 

「ユイと諸葛亮か。どうしたんだ」

「どうしたって……」

「どこに行こうというのですか?」

「我の勝手だ。別にいいだろう?」

 

 そうすると影キリトに、ユイが抱き着く。

その行動は予想外で、かなり戸惑うダーク。

 

「まさかと思いますが、あなたは自分の事をいらない存在だと思っていませんか?」

「……考えなくもない。我はキリトの心の一番近いところで、様子をよく感じていた。

 その心は非常に優しく、脆く、親愛に満ちている。

 我とは正反対だ。我のようなものが此処にいては、キリトは真の意味で闇に立ち向かえなくなるだろう。

 ならば我は消え、心を返すことにする」

「……なるほど、そういうことでしたか」

 

 諸葛亮は羽扇で口元を隠し、目線をダークに抱き着くユイに向かせる。

 

「ダメです、ダークさん!あなたが居なくなったら、どうやってキリトさんを支えるんですか!」

「アスナが居るだろう?奴はキリトを幸せにする。我というもう一つの思考があるところで、奴は幸せになどなりはせんのだ」

「違います!パパはダークさんを信頼してます。いなくなったら、今度こそパパは崩壊します!」

 

 実をいうと、キリトは限界が来ていた。

本来のSAOなら変な物語などなく、死にあらがって日々を生きていけばよかった。

そう、人との情緒との闘いがあったりするが、それでも格段に違っただろう。

 SAOの垣根を越えて、今ではもうSAOですらない何かだ。

それぞれの層はゲームに準じたテーマがあり、その層のボスと裏ボスを倒していかなければならない。

別に裏ボスは倒さなくてもいいが、倒すとプレイヤーにとって有利なものがもらえる。

だからクリアしておいて損はない。

しかし簡単にクリアできるほど甘くない。

 第一層で50層に到達できるほど強いギルドやプレイヤーたちが、一堂に会し共同戦線を張らなければならないほどだ。

ほかの階層が如何に難しいのか。それは想像に難くないだろう?

 

 キリトは先ほど信じてほしいといったが、結局は口約束で裏切りは当然。

だから裏切られるという行為が、いかに彼を傷つけたのかそれを知る者はいない。

 彼は裏切りが許される層で、裏切られ裏切り表返って一時的な人間不信に陥ったこともある。

これが原因で仲間や英雄を失ったり、当時タッグを組んでいたアスナでさえ失いそうになった。

そう、裏切りや信じるということに、異様な執着を見せるのはその層で起こった事が原因なのだ。

 

 発狂に近い現象だが、まだはっきりと狂気に彩られていない。

それは現実世界に帰るという確固たる決意と仲間の命を、自分自身が担っているという責任感があるからだ。

 いやそれだけではない。

ユイを中心に出来上がった絆と気づかされたその心。

アスナを想う気持ちが、彼の精神を維持している。

 

 タッグを組むにあたって、徐々に依存していったと思えばいいだろう。

 

 ダークは思う。キリトを支えているのは、アスナだと。

だがユイは違うと言い。諸葛亮も、原因がアスナだけとはあり得ないと言っている。

 

「信頼と信用、仲間の事を念頭に置き、今まで戦っているのを見かけます。

しかしそれだけでは、もろく崩れ去るでしょう。

やはり、仲間であるとともに、同じ戦場を潜り抜けた戦友が必要です」

「戦友だと?」

「はい。つまり、愚痴を聞いてくれたり、同じ状況を潜り抜ける戦友です。

独りぼっちはつらいのと同じです」

「我はもともと負のエネルギーの塊である。そこらの感情はすまないが、わからない」

「なるほど。ということは、無意識でのフォローですか」

 

 諸葛亮はなぜか楽しそうにしているが、解決の糸口を見つけたのだろうか。

それにしても何故諸葛亮が、ダークの事を知っているのか。

まあ普通に考えて、真実を求める動きをするがそこらへんは聡いので、無駄な追求は行わないのだろう。

 

「ダークさん。お願いですから戻ってください……」

 

 影キリトは苦々しい表情を作る。

今あそこにいるのは白キリト。

感情云々もあるが結局は外見の変化に関して、アスナにとやかく言われるのが面倒なんじゃないか。

だから戻れ、とそう命令しているのか。

 

「侮るな」

「っ!? ち、違います!そういうわけじゃ……!」

 

 ダークの負の感情を向けられ、一瞬怯むがすぐに拒否の姿勢をとる。

本来の意味は分からないが、そうしないといけない。

すぐに感じ取るユイ。

 

「我が死ねば、キリトは元に戻る。そう、我はバグの産物だ。

つまり病気と同義である。病は駆逐され、正常に戻るのが世の常だ!」

 

 ダークは右手に『オーバーロード』を持ち、自身に傷をつけようとする。

事前にダークはユイから離れていたので、ユイや諸葛亮は直接その行為を止められることはできない。

しかし諸葛亮がすぐに雷の玉を作り出して、ダークの握る武器を弾き飛ばした。

一応圏内設定なので、ダメージは与えられずダークの体を大きく後退させた。

 またダークの自滅行為は、圏内設定であるのでHPが減少し死に至る事ができる。

普通ならば装備の耐久値をゴリゴリと、ポリゴンと共に削り落とすだけ。

だがダークは特殊な存在なので、直接体力が減ってしまう。

もちろんそこからの計算値は、能力に色々加算されているのでキリトと同じ状態を保持できている。

 

 ダークは地面に尻もちつき、阻害されたことに気づいて諸葛亮に対して殺気を込めた目を送る。

しかし諸葛亮は風のように、さらりと受け流すとダークのところへ歩み寄る。

彼は羽扇で口元を隠し、地面にまだ座っているダークへ視線を向ける。

 

「なるほど、あなたは自身を憂いているのですね。では、ここにて一計を授けましょう」

「一計だと?」

「ええ。非常に大事なことなので、ユイ殿にも手伝ってもらいます」

 

 諸葛亮は傍らにいるユイにも目配りをして、協力を促す。

するとユイは快く受け入れてくれた。しかしダークは頷かない。

なので今回の案の概要をかいつまんで、ダークに一つ話してみる。

 

「貴方が居ない事。それは別行動ということでとらえられますが、今からの裏ボスは非常に大切なものです。

すっぽかす意味がありません。そこで貴方の行方を眩ませて、キリト殿に焦燥感を駆らせて如何な反応を見せるのか、それを観測します。

 そして頃合いになれば、彼を助け出すのです。

そうすれば、キリト殿の本音を聞けるでしょう」

「それでいけるんですか?」

 

 ユイが怪訝な表情を、諸葛亮に対して見せてくる。

 

「ええ。今回の裏ボスは無茶なものだと把握しております。

基本的な心理学において、無茶なもの・絶望的状況が一気に希望へと変わると、

一時的に人の心は変化するのです。しやすいではなく、します」

「策士みたいです!」

「一応私は軍師ですよ?」

 

 二人が穏やかに今回の案を肯定しているが、ダークはキリトの強さをいろんな面で見ている。

だから諸葛亮の言い分を、鵜呑みにするわけにはいかない。

 

「……今回の裏ボスは非常に手ごわいと聞いている。

もしそれでキリトの身に危険があれば、それは我の責任となる。

このようなことでしかキリトの本音を聞けぬのであれば、我は早急に立ち去った方がいい」

「ボスのボスである貴方から、そのような弱音を聞くことになるとは……。

いやはや、キリト殿もやりますね。ところで、ユイ殿」

「なんですか?」

「稼働率は抑えてあるんでしょうね?」

「はい。カーディナルと協力して、コピーへ遅延工作を行っています。

なので、明後日まで持つでしょう」

 

 ユイがそういうと諸葛亮は、地面で項垂れているダークに話しかけ作戦に関して密を高める話し合いを農作業を行いながらしようと話しかける。

ダークはいつの間にか賛同の立ち位置に居たので、仕方なくそれに従う事になった。

太々しくといったところか。

 しかしダークの顔は少し憑き物が取れたような表情で、先ほどの暗い顔がどこかへ行っている。

やはり心配事を見抜かれたとはいえ、自分を失う恐怖・相手への意思など自身の手には負えない事を他者と共有する事で、加重となった苦渋を晴らすのは良かったようだ。

 

 

「ユイが外に行ったと思ったら……」

「キリト君……」

「お願いだから、裏ボスが終わるまでは聞かないでくれ……」

「うん……」

 

 

 そしてこの邂逅を月光差し込む少し開けられたドアから、キリトとアスナ夫妻はこの密会を聞き見ていた。

 キリトは今にも崩れそうなくらい揺らいでいる表情をアスナに見せる。

そんなキリトを見てしまった彼女は、目を閉じ今言及するのはあきらめた。

もしここで問い詰めていれば、どうなっていたのだろうか。

それはきっと最悪の結果だっただろう。

 

 腕で顔を覆うキリト。

 そしてため息をついて、ゆっくりと立ち上がり外から見えないように部屋の中へ戻っていった。

アスナもキリトを追う。

 

 




 相も変わらず読みにくいですが、読んでいただきありがとうございます。
活動報告でネタバレをするのが怖くなって、続きを書きました。
割と本気で設定を練ったので、ばらしたくないんです。
 
 いつ更新するかわかりませんが、またその時はよろしくお願いします。


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