こんな篠ノ之箒ちゃんはいかがですか? (妖精絶対許さんマン)
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篠ノ之箒、娘一人がいる既婚者です。

仕事してる時に思い付いた突発的作品です。


「ねえ、ママ」

 

GW初日。今年で小学三年生になった娘が漫画を読みながら、洗濯物を畳んでいた私に声をかけてきた。

 

「なに、唯?」

 

「ママってどうしてパパと結婚したの?」

 

思わず綺麗に畳んでいた洗濯物に顔からダイブしそうになった。夫曰く、「唯の性格は箒に似てしっかりしてるよね」と言われたが私もそう思う。なのにいきなり年相応のことを聞いてきて思わず動揺してしまった。

 

「ど、どうしてそんなことを聞くの・・・・・・?」

 

「んー、特に理由はないけど気になったから」

 

『特に理由はない』は学生時代からの夫の口癖だ。いつの間に夫の口癖は唯に移ったのだろうか?

 

「その・・・・・・パパには内緒ね。ママが弄られるから」

 

「はーい」

 

唯は漫画を閉じて、私の方に体を向けた。

 

「なら・・・・・・ママがパパと初めて会ったときから話してあげる」

 

私は洗濯物を畳みながら昔話を娘に話す。夫との出会いと、今に至る過程と奇跡を。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

今の夫と出会ったのは私が中学生の頃だった。当時の私は実姉の『篠ノ之束』が『ある物』を開発したせいで長く転校生活が続いていた。長くて半年、短い時は一ヶ月で転校したこともある。そんな生活が続いたからか、私は回りに壁を作っていた。

 

「えー、今日から転校してきた篠原箒だ。皆、仲良くしろよ」

 

「・・・・・・篠原箒です。よろしくお願いします」

 

当時の私の名字、『篠ノ之』は目立ちすぎるため転校する度に名字が変わっていた。『笹原』、『蒼崎』、『近衛』、転校する度に名字が変わるから途中で数えるのを止めた。ただ、偽名を使う度に『篠ノ之箒』という存在が否定されているようで辛かった。

 

「篠原の席は三神の隣だな。三神、お前が篠原の面倒を見ろ」

 

三神と呼ばれた男子生徒は垂れ目に癖毛、中肉中背の優男といった男子生徒だった。

 

「よろしく、篠原さん」

 

「ああ・・・・・・よろしく頼む」

 

今思い出しても当時の私はなんて無愛想だったんだろう。転校してきたばかりの私に気を使ってくれた三神ーーーーーー後の夫は無愛想な私に気分を害した様子もなく、今と変わらない優しい笑顔を浮かべていた。

 

「分からないことがあったら何でも聞いてね」

 

私は夫の言葉を無視して席に座った。正直に言うと煩わしかった。当時の私は転校しても挨拶だけで、喋りかけられても無視していた。そうしていれば他のクラスの人間は私に近づかないからだ。当時の私は夫もその一人だと思っていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「へー、ママって無愛想だったんだ」

 

「・・・・・・うん、今思い出しても無愛想だったね」

 

そう思うと私は大分変わった気がする。昔は常に不貞腐れたような顔をして、頑固で融通が利かなくて料理も下手で嫉妬深かった。夫ともよく結婚できたと思う。告白したのは私からだったが。

 

「でも、ママが無愛想だったって信じられないなー。友達の間だと優しくて落ち着いた人って言われてるよ?」

 

「・・・・・・昔の私は自暴自棄なところがあったから。私が中学生の頃が一番荒れてたかもね」

 

畳んだ洗濯物を直しながら自分の一番の黒歴史を思い出す。夫と当時の話をする時はいつも弄られる。

 

「パパと会えたのが私が一番変われた理由かな?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「篠原さん。次は移動授業だけど何を選んだの」

 

「・・・・・・書道だ」

 

幼い頃から剣道をしていた私はその流れで書道もしていた。図工や家庭科などが他にあったが、やりなれている事もあって書道を選んでいた。

 

「そうなんだ!俺も書道なんだ。教室まで案内するよ」

 

「・・・・・・頼む」

 

今思い返すと転校生活をしていた私が多く会話したのは夫が初めてかもしれない。どうしてなのかは今の私にも分からない。ただ、疲れていたのかもしれない。

 

「書道室はこの校舎の二階にあるんだ。他にも図工室に音楽室、被服室と調理室も二階だね」

 

夫が通っていて、私が転校した学校は校舎が三つある。一つは夫と私が在籍していた二年の教室がある旧校舎。旧校舎には書道室に音楽室、被服室、調理室がある。二つ目は一年と三年、職員室がある新校舎。三つ目は図書室と資料庫がある別館。

 

「あ、昼休みは屋上も開放されてるから行ってみるのも面白いよ」

 

「・・・・・・・・・・」

 

私が転校した中学は珍しいことに屋上が開放されていた。屋上には花壇が設置されていて、園芸部が手入れをしていた。春にはチューリップ、夏には向日葵、秋にはコスモス、冬は次の春に向けて土の整備をしていた。

 

「あ、はは・・・・・・」

 

夫は頬を掻きながら苦笑いを浮かべていた。自分が振る話の悉くを無視する私に当時の夫はどう思ったんだろうか?今夜、唯が寝たあとに晩酌のつまみに聞いてみるのもありかも知れない。

 

「あ、ここが書道室だよ。席も決まってるんじゃないかな?」

 

「・・・・・・そうだといいな」

 

席が決まっていたとしても、すぐに転校するのだから無意味だと思っていた。私のそんな胸の内を知らない夫は書道室の扉を開けた。




・箒ちゃん

既婚者。一夏ではなく中学生時代の同級生と結婚した。料理本を出したら大当たりした。口調も侍のような口調から落ち着いた女性らしい口調になった。

・唯ちゃん

箒ちゃんと旦那さんの間に産まれた一人娘。容姿は箒ちゃんに似ている。


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篠ノ之箒、昔を思い出しています。

一話投稿して評価が五・・・・・・驚きです。


書道室ではまたも夫と隣の席だった。当時はどうも思わなかったが、今思い返すと教師陣の方でも連絡を取り合っていたのか私と夫が同じ選択授業なら隣の席になるように話をしていたのかも知れない。

 

「三神ー、もう少し綺麗に書けないのか?」

 

「・・・・・・筆とシャーペンは感覚が違うんです」

 

当時の夫は筆で書く字はとにかく汚かった。辛うじて読める程度の文字だった。シャーペンで書く字は綺麗に書けるのに筆で書く字は汚い・・・・・・謎だ。

 

「篠原さんの字って綺麗だね」

 

「・・・・・・・・・・」

 

隣から覗きこんで来た夫は私が書いた字を綺麗だと言ってくれた。今の私なら『綺麗だね』などと言われたら娘には見せられないほど表情は緩んでるだろうが、当時の私は夫にこれと言った感情は持っておらず、聞き流していた。

 

「・・・・・・・・・・」

 

再度、夫は苦笑いを浮かべながら頬を掻いていた。ずっとそうだった。どれだけ話しかけられても無視をして、周りを拒絶していた。仲良くなれば別れる時が辛くなるから。もう、あんな思い(・・・・・)をするのは嫌だったから。夫は私と話すのを諦めたのか黒板の方を向いた。

 

(そうだ、それでいい・・・・・・。私に構わないでくれ)

 

当時の私は自分のことを世界一不幸な人間だと思っていた。姉が発明した物によって、一家離散に追い込まれ、初恋ーーーーーー今思えば私が『彼』に抱いていたのは『恋心』じゃなくて『憧れ』だったのかも知れないーーーーーーの相手と離ればなれになり、『篠ノ之箒』という人間を否定されていたのだから。思い上がりも良いところだ。昔の私に会えるのなら説教したいぐらいだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「マ、ママの説教・・・・・・?」

 

「どうかした、唯?」

 

「う、ううん・・・・・・何でもないよ?」

 

洗濯物を直し終わり、昼食の用意をしながら昔の話をしていると唯の声が少し震えていた。どうかしたのだろうか?

 

「ねえ、ママ。話に出てきた『彼』って誰?パパのこと?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

唯の言葉に鍋をかき混ぜていた手が止まってしまった。『彼』とは学園を卒業して以来会っていない。いや、会おうとしていないの方が正しいのかもしれない。夫との結婚式の時は『彼』にも招待状は送ったが、『彼』の姉だけが参加した。正直、来なくて安心した自分がいた。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「ママ?」

 

「・・・・・・また、今度話してあげる」

 

夫と結婚して、唯も産まれたが未だに『彼』に対する負い目のような物が棘のように私に突き刺さっている。夫を好きになって、愛して、結婚して、唯を産んだことを後悔なんてしていない。ただ、それでも、初恋の『彼』を忘れられない自分がいる。

 

「・・・・・・どこまで話したっけ?」

 

「えっ?えーと、書道室でママがパパを無視したところまでかな?」

 

・・・・・・思ったより話していなかった。ま、まあ、この頃の私は夫のことをどうも思っていなかったからしょうがない。・・・・・・自分で言っていておいて辛い。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

私が夫と同じ中学に転校して二週間が過ぎた。この頃になるとクラスの生徒は誰も私に話しかけなくなった。・・・・・・ただ、一人を除いて。

 

「篠原さんは昨日の番組見た?あの芸人面白かったよねー」

 

「・・・・・・・・・・」

 

ーーーーーー夫だ。転校初日に徹底的に無視をしたのに、夫はこの二週間ずっと私に話しかけてきていた。正直、煩わしい。あれだけ無視したのに私に話しかけてくる夫の神経を疑った。

 

「でさ、その芸人が『押すなよ!絶対に押すなよ!』って言いながら、自分で足を滑らせて熱湯の中に落ちたのが本当に面白くてさ!」

 

私の胸の内など知らずに夫は楽しそうに話している。楽しそうに話している夫に苛立ち、私は無意識の内に机を叩いていた。教室が水を打ったように静かになった。

 

「少し・・・・・・黙ってくれ」

 

気がつけば私は夫を睨んでいた。夫には悪いことをしたと思う。

 

「・・・・・・ごめん」

 

夫は目に見えて意気消沈と言った風だった。私は夫を一瞥し、外を見る。当時の私はここまですれば夫はもう話しかけてこないと思っていた。

 

「・・・・・・何あれ、感じ悪」

 

「ホント、転校してきたからって調子に乗ってるんじゃないの?」

 

教室の端の方からそんな声が聞こえてきた。心が麻痺していたのか、そんなことを言われてもどうも思わなかった。・・・・・・転校する度に周りから孤立するような態度をとっていれば当たり前だ。

 

(・・・・・・・・・っ)

 

それでも、その言葉は刃物のように鋭く、当時の私の心を切り裂いた。私だって本当は他の生徒と話をしたい。友人も作りたい。だが、当時の私の周りがそれを許してくれなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「・・・・・・ママってボッチだったの?」

 

「べ、別に友達が一人もいなかった訳じゃ・・・・・・!」

 

・・・・・・ないとは言えなかった。友人と呼べる人間が出来たのは夫と打ち解けた後だし、結婚してからも付き合いがあるのは中学校時代の友人は五人、学園時代の友人は三人、大学からの友人は皆無。

 

(私・・・・・・友達少なすぎない?)

 

自分の交遊関係の狭さに内心ショックを受けた。・・・・・・学園時代にもっと友達を作る努力をしておけば良かった。



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篠ノ之箒、昔夫を怒鳴りました。

遅くなってすいません。進撃の巨人とこのすば!にはまってました。


夫を怒鳴った次の日。前日と同じように学校に通い、教室に入った。夫はまだ登校していなかった。

 

「・・・・・・・・・・」

 

席に座り、窓の外を見る。別に空が好きだからとかではない。クラスの生徒と関わりたくないだけだ。

 

「あ、おはよう、篠原さん」

 

「・・・・・・・・・・ああ」

 

一応は返事をした。昔から母に挨拶は大事だと言われてきた。いくら不満がある相手とはいえ、挨拶は疎かにできない。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・?」

 

昨日までの夫なら朝の時点で話しかけてきた。なのに今日は話しかけてこない。何となく気になった私は夫の席の方を横目で見てみた。

 

「えっと・・・・・・この問題がこの方程式だから・・・・・・」

 

夫は机にプリントと数学の教科書を広げて問題を解いていた。プリントは三日前に教師から配られた物だ。

 

「・・・・・・あれ?この方程式じゃない?」

 

確かに違う。夫が開けているページより二ページ後ろのページに方程式が載っている。

 

「・・・・・・・・・・貸してみろ」

 

私は夫から教科書をひったくりページを捲り、夫に返す。夫は驚いたような顔をしていた。

 

「・・・・・・・・・・何だ、その顔は」

 

「いや、篠原さんの方から話しかけてくれたのって初めてだなって思って・・・・・・」

 

・・・・・・何故か負けた気がした。別に競いあってた訳ではないが、何故か負けた気がした。

 

「その、また分からないところがあったら教えてもらっていい?」

 

「・・・・・・・・・・気が向いたらな」

 

半ば軟禁状態だった私が出来たことなど勉強と『彼』との唯一の繋がりだった竹刀の素振りぐらいだった。自ずと勉強が出来るようになっていた。

 

「ありがとう、篠原さん」

 

夫はそういってプリントに向き合った。どうやら分からなかったのは私が開いたページだけだったようだ。そのあとは順調に進んだのか、HRが始まる前に終わっていた。

 

「篠原さん」

 

一時間目が終わり、夫が話しかけてきた。昨日怒鳴ってしまった手前、反応しずらい。

 

「・・・・・・なんだ?」

 

「これ。勉強教えてもらったお礼」

 

夫は机に缶コーヒーを置いた。

 

「また、勉強教えてね」

 

夫はそういって教室から出ていった。教室の外には五人の男女がいた。夫は五人の輪に入ると楽しそうに話していた。

 

(・・・・・・・・・・)

 

私は楽しそうに話している夫を見て、羨ましく感じた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「五人って静寐ちゃん達のこと?」

 

「こーら。静寐ちゃんじゃなくて静寐さんでしょ?」

 

「えー、静寐ちゃんが良いって言ったんだよ?」

 

静寐ちゃん。中学、高校と同じだった同級生、鷹月静寐のことだ。今でも親交がある私の数少ない友人の一人だ。唯は静寐にとてもなついている。静寐も静寐で唯のことを可愛がってくれている。静寐も結婚して子持ちだ。

 

「ママ。明日だよね、静寐ちゃん達と遊ぶのって?」

 

「ええ。明日は早めに家を出るから今日は早めに寝ないとね」

 

「うん。静君元気かなー」

 

静君とは静寐が産んだ子供だ。静君は唯の一つ下で唯は静君のことを弟みたいに可愛がっている。・・・・・・唯も大きくなったし、そろそろもう一人産んでも良いかも。出来れば男の子。夫が帰ってきたら相談しよう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「佑樹ー!帰ろうぜー!」

 

その日の授業が全て終わり、HRも終わると教室の扉が勢いよく開いて学ランを着崩した男子が入ってきた。朝に夫と話していた五人の内の一人だ。男子の後ろから残りの四人も入ってきた。

 

「恭介。声が大きい」

 

「別に良いだろ?授業はとっくに終わってんだ!放課後は俺たち子供の時間だぜ!」

 

恭介と呼ばれた男子を茶髪の女子が注意した。今思えばこの二人が結婚したのも納得できる。何だかんだで学生時代から仲が良かった。

 

「お!そいつが前に転校してきたって奴か!」

 

男子生徒は私の存在に気がつくと近寄ってきた。

 

「そうだよ。篠原さん、こいつは三笠恭介。隣の二組の生徒で俺の幼馴染みなんだ」

 

「よろしくな!」

 

三笠恭介。私が夫と和解というか、打ち解けてから一緒に行動していたグループのリーダー的存在だった。恭介が遊びの予定や内容を決めていた。私と夫を合わせた七人で海水浴や山登りによく行っていた。

 

「で、恭介に注意してたのが小鳥遊立花。立花も俺と恭介の幼馴染みなんだ」

 

「よろしく」

 

小鳥遊立花。夫や恭介とは幼馴染みで、私に出来た初めての喧嘩できる女友達だ。常に冷静で飾らない性格で、恭介のツッコミ役だった。私が夫への恋愛感情に気がついてからは一番警戒していた相手でもある。・・・・・・私の思い過ごしだったが。

 

「後ろの三人が鷹月静寐、斎藤当麻、斎藤和樹。三人は去年からの付き合いなんだ」

 

「ねえ、私たちの紹介だけ適当じゃなかった?」

 

「・・・・・・佑樹だし」

 

「佑樹だもんな」

 

静寐は言わずもながら、当麻と和樹は双子で見分けるには死んだ魚のような目をしているのが当麻、目付きが鋭いのが和樹だ。

 

「よし!篠原だったな!お前も一緒に帰らないか!?」

 

「結構だ。私は一人で帰る」

 

「えぇー!何でだよ!?お前、佑樹の友達だろ!?」

 

当時の私は恭介の言葉に腹を立てた覚えがある。

 

「私はそいつと友人などではない!!勝手に決めるな!!」

 

夫には本当に悪いことをしたと思っている。当時の私に会えるなら本気で怒鳴りたい。

 

「・・・・・・あっそ。なら、好きにすれば?行きましょう」

 

今も立花のあの顔は忘れられない。人間があんなに冷たい表情を出来るということをその時初めて知った。

 

「あっ!待てよ、立花!じゃあな、篠原!」

 

恭介は先に教室を出ていった立花を追いかけていった。静寐達三人も苦笑しながら恭介の後を追っていった。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・えっと」

 

残された夫と私の間に重たい沈黙が流れる。

 

「・・・・・・それじゃあ、篠原さん。また、明日」

 

今も憶えている。ーーーーーーあの時の夫の顔は、とても寂しそうな顔をしていた。




・三神佑樹

三話目にしてようやく名前が出た。恭介と立花以外にもう一人幼馴染みがいる。

・三笠恭介

旦那さんの幼馴染み。イメージ的にはリトバスの棗恭介。自由奔放、楽しいことが大好き。旦那さんと立花以外にもう一人幼馴染みがいる。

・小鳥遊立花

旦那さんの幼馴染み。常にクールで裏では『氷の女王』なんて呼ばれている。隠れファンが多い。恭介の奥さん。旦那さんと恭介以外にもう一人幼馴染みがいる。

・中学時代の箒ちゃん

抜き身の刃物。旦那さんへの好感度はマイナスよりの0。今はカンスト。ツンデレのデレしか残っていない。


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篠ノ之箒、昔の知人に会いました。

FGO、アガルタの女が配信されましたね。レジスタンスのライダーの笑い顔を見て何故かラフムが思い浮かびました。

不夜城のキャスター、だいぶとピーキーな性能ですね。

シンフォギアXDも配信されましたね。

翼(イグナイトモジュール)、調(イグナイトモジュール)、奏(限定解除)切歌、調が当たりました。やったぜ。

今回は短めです。


「唯。買い物に行ってくるから留守番お願いね」

 

「えー。話の続き聞かせてよー」

 

「帰って来てからね」

 

家事も一通り終わり、夕食の材料の買い出しに行こうとすると唯に話の続きをねだられた。

 

「約束だからね!帰って来たら絶対に聞かせてね!」

 

「はいはい。留守番お願いね」

 

私は唯に留守番を任せて家を出た。家から近くのスーパーまでは歩いて十分ほど。品揃えも良くて値段も安いのでよく利用している。十字路に近づくと、前から見知った人物が歩いてきた。

 

「・・・・・・千冬さん」

 

「久しぶりだな・・・・・・篠ノ之」

 

織斑千冬。姉の幼馴染みで、学園時代の私の担任で『彼』の姉だ。夫との結婚式以来だが、心なしか窶れている気がする。

 

「・・・・・・買い物か?」

 

「はい。あの・・・・・・今日は一体?」

 

千冬さんは私が右肩から下げているカバンを見ながら聞いてきた。千冬さんとは結婚式以降は音信不通で今は何をしているのかも知らない。

 

「少し話があるのだが・・・・・・」

 

「歩きながらで構いませんか?」

 

時間は有限だ。家の家事を預かる者として時間は無駄に出来ないし、小学三年生になったとは言え唯を一人家に残しているんだから。

 

「構わない」

 

千冬さんは私の隣に並んだ。

 

「・・・・・・何年ぶりだろうな、お前と会うのは?」

 

「そう・・・・・・ですね。結婚式以来になるので、八年ぶりぐらいになりますね」

 

私と夫が結婚したのは私達が二十五歳になった時だ。結婚の時点で私は唯を身籠っていた。身籠っていたことに気がついたのは結婚式が終わった後だった。結婚当初は夫の給料もそこまで高くは無く、私の両親が住んでいる家に同居していた。

 

「子供は・・・・・・産まれたのか?」

 

「はい。今年で小学三年生になりました」

 

「そうか・・・・・・お前が羨ましいよ」

 

千冬さんの顔は、まるで眩しい物を見るような顔をしていた。

 

「・・・・・・私はIS学園をクビになった。いや、退職したと言った方が良いな」

 

「えっ!?」

 

私は千冬さんの言葉に思わず驚きの声を上げてしまった。

 

「私の教え方はもう古いそうだ・・・・・・。実際、私も内心では気がついていたんだよ、私は古い人間だと。・・・・・・ISは競技用の物からアイツが・・・・・・束が目指した宇宙探索用に変わっていったからな」

 

・・・・・・私達が結婚する前、世の中は大きく変化した。私自身、姉が開発した物には一切関心がなく、世の中の変化にも興味はなかった。・・・・・・本当のことを言えば夫との結婚式が待ち遠しくて、そこまで余裕が無かった。

 

「・・・・・・本題に入ろうか。篠ノ之、一度で良い、一度で良いから一夏に会ってくれないか?」

 

私は思わず足を止めてしまった。何となくは勘づいていた。千冬さんが私に会いに来るとしたら、一夏に関することだけだ。

 

「一夏も一度お前に会えば、少しは立ち直れる筈なんだ」

 

「それは・・・・・・」

 

一瞬、学園を卒業する時に起きたことを思い出してしまった。

 

『箒!俺は、お前が好きだ!』

 

学園から出発するモノレールに乗るとき、私の後を追ってきた『彼』ーーーーーー幼馴染みの織斑一夏に告白された。だが、私はーーーーーー

 

 

『ありがとう、一夏。でも、すまない。私にはもう・・・・・・好きな人がいるんだ』

 

 

ーーーーーー一夏の告白を断った。私は呆然としている一夏を残してモノレールに乗り込んだ。最低だと思われるかも知れないが、一夏の顔を見ていたくなかった。振った相手とすぐに話せるほど当時の私は強くなかった。

 

「少しだけ・・・・・・考えさせてもらえませんか?」

 

「構わない。元々、断られることを前提に来たんだ。そう言ってもらえるだけ助かる。アイツのスマホのアドレスは変わっていない」

 

千冬さんはそう言うと去っていった。

 

「・・・・・・はぁ」

 

正直、考えるとは言ったものの一夏と本当に会うべきなのか分からない。もし、一夏と会ったら私はどんな顔をすれば良いのだろうか。

 

「ーーーーーー箒」

 

「あっ・・・・・・佑樹!」

 

延々と一夏のことを考えている内にスーパーについていた。そしてーーーーーー私の最愛の夫が目の前に立っていた。

 

「買い物?」

 

「うん。佑樹は今日は早いんだ」

 

「元々、今日は祝日出勤だからね。早めに終わるのは決まってたんだ」

 

夫が勤めている会社はそこそこ有名な会社で、何度かテレビや雑誌に取り上げられたことがある。

 

「唯は?」

 

「家で留守番中。もう、三年生だしね」

 

「そっか。なら、久しぶりに二人だけの買い物だね」

 

唯が産まれてからは三人で買い物に行くことが多くなり、夫と二人だけで買い物に出かける機会が減った。だから、今日のような夫との二人だけの買い物の時間はとても貴重だ。

 

「ふふっ・・・・・・♪」

 

「何か良いことでもあった?」

 

「うん。ちょっとね」

 

私は夫の手を握る。学生の頃に比べて大きくなった夫の手。今は一夏のことは忘れて、帰ってから相談しよう。だから、今は夫と二人だけの短い買い物を堪能しよう。




ちょっとした時系列整理


1、箒ちゃんと旦那さん結婚式直前にどこかの兎があることを発表。

2、世界情勢が大きく変動。箒ちゃん、そんなことは気にせず結婚式を心待にする。この時、箒ちゃんは唯ちゃんを身籠っている。

3、どこかの世界最強、学園からのリストラ勧告を了承。退職して後を後輩に譲った。今は職につかずにフリーター状態。

4、箒ちゃん、久しぶりにどこかの世界最強と会う。幼馴染みに会うように頼まれる。返事は保留。

5、箒ちゃん、旦那さんと二人だけの短い買い物を堪能中。←今ここ。

だいぶと大雑把な時系列整理でした。


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篠ノ之箒、酔います。

お久しぶりです。


「・・・・・・織斑さんがそんなことを」

 

「うん・・・・・・どうしたら良いと思う?」

 

夜11時。唯を寝かしつけてから夫に千冬さんとのことを話す。

 

「箒はどうしたいんだ?」

 

夫はグラスに少しだけ残っている日本酒を飲み干した。夫も私もお世辞にもお酒には強くない。だが、グラス一杯二杯ではすぐには酔わない。

 

「私は・・・・・・もう一度会うべきだと思う。この気持ちにも蹴りをつけないといけないから」

 

胸の内に燻るこの気持ちにも決着をつけなければいけない。

 

「そう。なら、会ってきなよ」

 

「むっ・・・・・・」

 

夫の素っ気ない反応にイラッとしてしまった。だからか、思わずグラスに注がれていた日本酒を飲み干してしまった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

夫を怒鳴ってからというもの、私と夫との間には微妙な空気が流れていた。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

夫はずっと私のことをチラチラと見てくるが、話かけてこない。私も外ばかり見て夫を見ようとしなかった。当時の私はすぐに転校するものと思っていたが、中々転校先の話が私のところに来なかった。

 

「佑樹ー!昼飯食おうぜー!」

 

「恭介。声が大きい。何度も言わせないで」

 

昼休みということもあり、恭介と立花が夫を誘いに来た。

 

「お、篠原もいるじゃねえか。昼飯、一緒にどうだ?」

 

「結構だ。私は一人で食べる」

 

私は鞄から財布を取り出して購買に向かった。私が通っていた中学校は珍しいことに購買があった。

 

「・・・・・・・・・・鮭弁当一つ」

 

「はいよ」

 

購買のおばあさんは棚からプラスチックの弁当箱を取って、渡してきた。私は代金を払って校舎の裏に向かう。校舎の裏には古いベンチが設置されていて、今までここで弁当を食べているが誰も来なかった。

 

「・・・・・・・・・・」

 

とても静かで・・・・・・とても寂しい。ずっとそうだ。一人で食べる食事は美味しくない。

 

「はぁ・・・・・・」

 

私は一人、小さく溜め息を吐いて箸を進めた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「佑樹は私が一夏と浮気しても良いって言うの!?」

 

「い、いや・・・・・・そんなことは言ってないけど」

 

まったく!佑樹はまったく!私は佑樹にデレデレなのに、佑樹は唯が産まれてから唯に構いっぱなしだし!!

 

「まったく!佑樹はまったく!」

 

私はグラスに並々と注がれている酒を飲み干す。

 

「だいたい佑樹は唯に構いすぎ!唯が可愛いのは分かるよ!?だって私と佑樹の子供だもん!」

 

頭がふわふわする。目も回って来た。何だか変なことを口走ってる気がする。

「ほ、箒?飲み過ぎだよ?そ、そうだ!明日も早いんだしそろそろ寝ようか!?」

 

夫が立ち上がって日本酒が入っている瓶とグラスをシンクに持っていこうとする。私は夫の腕を掴む。

 

「座れ」

 

「・・・・・・・・・・はい」

 

夫は大人しく椅子に座った。

 

「だいたい佑樹はーーーーーー」

 

変なことを口走ってる気がするけど、この際だから言おうと思ってたことを夫に打ち明けよう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一人で昼食を食べ終えた私は教室に戻り、次の授業の用意をする。

 

(・・・・・・あれ?)

 

次の授業は国語なのに教科書が無い。朝は確かに机の中に入れた筈だ。私は鞄の中も確認するが入っていない。すると、教室の後方から小さな笑い声が聞こえてきた。笑い声がした方を見ると、三人の女子生徒が素知らぬ顔で談笑し始めた。

 

「・・・・・・・・・・っ」

 

今までも何度もあった。軽いものでは教科書や筆箱、靴が隠され、酷い時は机が無かったり、体操着が破かれていたこともある。

 

「日直、挨拶」

 

「起立、礼」

 

結局、教科書を探すのを諦めた。今までの経験から隠した本人が持っているか、ゴミと一緒に捨てられているかだ。

 

「ん?篠原、教科書はどうした?」

 

「・・・・・・すいません。家に忘れました」

 

「今回は初めてだから多目に見るが、次からは減点だからな」

 

「・・・・・・・・・・はい」

 

教師はそう言って教科書を読み進めながら歩いて行った。教科書が無い私は外を眺めることにした。この時点でクラスには私と親しい人間は居ない。夫とは私が一方的に嫌っていて教科書を見せてもらうのも癪だった。

 

「・・・・・・篠原さん」

 

私が外を見ていると小声で夫が話しかけてきた。無視する訳にもいかず夫の方に顔だけ向ける。

 

「これ、使って」

 

夫は私の机に教師が読んでいるページを広げて置いた。

 

「・・・・・・何のつもりだ?」

 

「教科書無かったら困るだろ?俺は見せてもらうから、篠原さんは俺の教科書を使ってよ」

 

夫はそう言って自分の右隣の男子生徒の机に自分の机をくっ付けた。

 

「・・・・・・・・・・」

 

他人の好意を無下にする訳にもいかず、仕方なく使わせてもらった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ゆーきは私のことすきー?」

 

「もちろん好きだよ。箒と結婚できて幸せだよ」

 

「えへへっ・・・・・・私もゆーきのこと好き。愛してる」

 

私は夫に抱きつきながら、夫の首元に顔を埋める。夫がくすぐったそうに体を動かす。私は夫が逃げないように更に強く抱き付く。

 

「ゆーき」

 

「何、箒?」

 

「子供、もう一人欲しい」

 

「・・・・・・そうだね。唯も大きくなったし、もう一人ぐらい考えても良いかもね」

 

「・・・・・・・・・・うん」

 

夫の言葉を聞いた私に眠気が襲ってきた。酔いも相まって抗いがたい。この際だ、夫にベッドまで連れていってもらおう。

 

「ゆーき。ベッドまでつれてって」

 

「はいはい」

 

私は夫の膝から立ち上がって、しゃがんだ夫の背に体を預ける。夫は私を背負って寝室に歩いていく。夫の背が暖かく、夫が歩く度に生じる微かな振動が私を心地よく、私は夫の背に頭を預けて眠りについた。




・酔った箒ちゃん

コップ一杯半ぐらいで酔う。酔ったら旦那さんに甘えまくる。抱き付く、膝枕をしてもらう、キスマークをつけまくる等。凄いときは旦那さんの寝込みを襲ってにゃんにゃんする。

この作品の箒ちゃんの分岐点は中学校で旦那さんに会ったこと。旦那さんに会ったことで精神的成長があって、超良妻賢母系ヒロイン箒ちゃんが誕生、旦那さんと会わずに精神的成長が無ければ暴力系酷インモッピーが生まれます。


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篠ノ之箒、寝てる夫に抱きつきます。

お久しぶりです。ちょっとスランプ気味です。あと、今回は短めです。


「・・・・・・・・・・」

 

私は夫から貸してもらった(押し付けられたとも言う)教科書を前に固まっている。

 

(借り受けた物なのだから返すのは当然だ・・・・・・だが、何て言って返せば良いんだ?普通に「ありがとう」って言えば良いのだろうか?)

 

夫は教科書を私に貸したまま何処かに行ってしまった。何も言わないで机に置いておくのは礼儀に欠ける。

 

(やはり本人が戻ってから返すのが筋か・・・・・・)

 

私は教科書を机の中にしまい、下足室前にある自動販売機に向かう。とは言っても自動販売機にはたいしたものは置いていない。お茶と水、スポーツドリンクに申し訳程度のジュースだけだ。

 

「・・・・・・・・・」

 

私はお茶と水で悩んだが結局はお茶にした。買ったお茶は緑茶で少し苦い。だが、昔から私は緑茶が好きだったから苦にはならなかった。

 

「あれ、篠原さん・・・・・・だったよね?」

 

財布をブレザーの内ポケットにしまい、ペットボトルの蓋を開けようとしていたら後ろから名前を呼ばれた。静寐が財布を片手に立っていた。立花が喧嘩できる女友達なら、静寐は相談事が出来る女友達だ。

 

「この学校、自販機置いてくれるのはいいんだけど種類が少ないんだよねー」

 

静寐は愚痴のようなことを言いながら自販機に小銭を入れ、数少ない炭酸飲料を買った。

 

「それにしても意外だなー」

 

「・・・・・・・・・・何がだ」

 

「篠原さんって自販機で飲み物とか買うイメージがしないから」

 

「私とて喉が渇けば自販機で飲み物ぐらい買う」

 

確かに自販機のお茶より家で淹れたお茶の方が好きだが、自販機のお茶も味は悪くないので嫌いではない。

 

「あはは、確かにそうだよね」

 

静寐は笑いながらペットボトルのキャップを開ける。

 

「んー、苦い!でも、癖になる味なんだよねー」

 

静寐は苦い苦いと言いながらもジュースを飲んでいる。

 

「・・・・・・一つ教えてほしいことがある」

 

「何を教えてほしいの?あ、私のスリーサイズは秘密だからね」

 

静寐は出会った当初から冗談をよく口にしていた。

 

「・・・・・・そんなものには興味は無い。私が聞きたいのは、なぜアイツが私に構うのかだ」

 

「アイツって・・・・・・佑樹君のこと?」

 

私は頷く。

 

「佑樹君かー。私は佑樹君とは中学に上がってから一緒に行動するようになったからよく知らないけど、佑樹君は世話好きなところがあるから。あ、もしかしたら一目惚れだったりして?」

 

このときは内心で冗談だと思っていたが、結婚してから夫に聞いてみたらあながち間違いではなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「んっ・・・・・・あ、れ?」

 

少し視界がぼやけている中、私はベッドの脇に置いてある机の上の時計を見る。時刻は深夜一時半。隣を見ると夫の背中があった。

 

「むっ・・・・・・」

 

私は一度ベッドから出て、夫が向いている方に回り込む。掛け布団を捲ると一人分のスペースが空いていたので寝転ぶ。

 

「・・・・・・・・・・」

 

夫の顔を至近距離で見つめながら頬に触れる。今でも私が見ている世界(モノ)は夢で、現実では私は一人なんじゃないかと疑う時がある。

 

「佑樹・・・・・・愛してる」

 

私は寝ている夫の頭を胸に抱え込み、抱き締めながら目を閉じる。夫の体温、夫の呼吸、夫の鼓動、夫の匂い、全てを感じながら眠ることで私はちゃんと夫の隣(ここ)にいると、実感できる。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「篠原さん・・・・・・ちょっといい?」

 

放課後。夫は複雑そうな顔をして声をかけてきた。

 

「ここじゃなんだから・・・・・・ついてきて」

 

夫は辺りを一度見回して、鞄を持って教室から出ていった。本意ではないが、仕方なく夫のあとについて行く。夫を見失わないようにしながらついていくと屋上に出た。

 

「・・・・・・いったい何の用だ?」

 

私も夫に用事があるのに、冷たい口調になってしまう。

 

「これ・・・・・・篠原さんの教科書だよね?」

 

夫は鞄からぼろぼろの教科書を取り出して渡してきた。私は教科書を受け取り、裏表紙を見る。名前を記入する欄に私の今の偽名が書いてあった。

 

「・・・・・・校舎裏のゴミ捨て場に捨ててあったんだ。篠原さんが捨てた・・・・・・わけじゃないよね?」

 

夫も薄々はわかっていたんだろう。私に苛めの矛先が向き始めていることに。私としてはまた転校することになるのだから、苛めの矛先が向こうが気にしていなかった。

 

「・・・・・・教科書を見つけてくれたのには感謝する。だが、これ以上私に関わるな」

 

私は夫に教科書を押し付けて、私は屋上をあとにする。この時の私は余りにも人の悪意に敏感になりすぎていて、他人と関わるのが怖くて、本当は寂しいのに人を遠ざけ続けていた。




・箒ちゃん2

中学生時代の箒ちゃんは気丈に見えて内心は脆い。友達が欲しいけど、作れない。誰かと食事を一緒にしたいけどできない。現在は旦那さんにデレデレ。基本的に寝るときは同じベッド、お風呂も旦那さんが入っていると稀に入ってくる。



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篠ノ之箒、寝過ごしました。

新年明けましておめでとうございます。(超遅い)

アズレンにはまってしまいました。


――――――その日は雨だった。ことわざに『雨降って地固まる』という言葉がある。ある意味、運命的な日だったのかも知れない。

 

「・・・・・・・・・・」

 

その日、私は傘を持ってくるのを忘れていた。天気予報でも一日中雨だと言うのにすっかり失念していた。

 

「・・・・・・はぁ」

 

雨の勢いは弱まるどころか強くなっている。護衛兼監視の黒服の中で比較的年齢が近い女性に電話をかけ、迎えを頼んだ。

 

「あれ、篠原さん?まだいたんだ」

 

傘を持った夫が教室に入ってきた。何か忘れ物をしたのだろう。夫は自分の机からノートを取り出すと、鞄に直した。

 

「篠原さんは帰らないの?」

 

「・・・・・・傘を忘れた」

 

無視するのも気が引けるため、聞かれたことに答えた。

 

「ふーん、そっか」

 

夫はそう言って私の前の席に座った。

 

「・・・・・・どうして私の前に座る」

 

「どうしてって、話をするのに横で話すのも変だろ?話すなら話し相手の顔をしっかりと見ないと」

 

「・・・・・・私はお前と話すことなど無い」

 

「篠原さんに無くても俺にはあるんだよ」

 

早く迎えが来ないだろうか。私は今までの人生で迎えを心待ちにしたのはこの時が初めてだ。

 

「どうして――――――お前は私に話しかけてくるんだ」

 

私は窓の外を見ながら聞いてしまった。聞くつもりなど無かった、聞きたくもなかった。だが、聞いてしまった。

 

「――――――私は周りから浮いている。なのに何故、お前は私に構う。何故、私に話しかける?」

 

夫は後頭部に手を回して、背もたれにもたれ掛かりながら天井を見上げていた。

 

「――――――特に理由はないかな。俺が篠原さんと仲良くなりたいと思ったから、篠原さんに話しかけ続けただけだし」

 

「理由がない・・・・・・だと?」

 

「うん、理由はない。・・・・・・敢えて理由をつけるなら、篠原さんと似た雰囲気の子を知ってるから・・・・・・かな」

 

夫は何かを思い出すように目蓋を閉じた。

 

「そんな理由で・・・・・・そんな理由で私に関わってきたのか!?」

 

私は机を叩き、立ち上がった。腹が立った。私のことを何も知らないくせに、私のことを助けてくれないくせに(・・・・・・・・・・)

 

「私のことを何も知らない人間が勝手なことを言うな!!」

 

今思えば、何て自分勝手な子供だったんだろう。とんだシンデレラコンプレックスだ。自分から進んで知ってもらうことをせずに、何が『何も知らない人間』だ。

 

「――――――ならさ、これから知ってくように努力すれば良くない?」

 

「――――――」

 

夫は無邪気に笑いながら、そう言った。その笑顔には一切の悪意も、何の打算も無い――――――笑顔だった。今まで夫がしたような笑顔をしてくれた人はいなかった。政府の役人は姉の機嫌を損なわせないようにおべっかを使い、転校先の教師も誰一人として私と目を合わせようとしなかった。

 

「篠原さんと『友達』になれるまで、俺は諦めないから」

 

『友達』――――――私には縁遠い言葉だ。友達と言えたのも一夏だけだった。だからこそ――――――夫が言った一言がとても甘美に聞こえた。

 

「――――――お前と仲良くするつもりは無い」

 

私には『友達』がどう言ったものかわからない。だから私は――――――

 

「――――――だが、『知り合い』にならなっても構わない」

 

――――――最大限の譲歩をすることにした。たぶん、この時点で私は夫に少しばかり心を開いていたのだろう。

 

「―――――うん。それでも一歩前進した」

 

夫はそう言うと立ち上がった。

 

「なら、もう一回自己紹介しよっか。転入してきた時はクラス全員にしてたし。今回は三神佑樹と篠原箒としての挨拶を」

 

夫は手を出してくる。

 

「三神佑樹です。これからよろしくお願いします」

 

「・・・・・・篠原箒だ。よろしく頼む」

 

私は夫の手を握った。・・・・・・誰かと握手をしたのはこの時が初めてだった。

 

「あっ・・・・・・晴れてきた」

 

話し込んでいると、いつの間にか雨は止んでいた。雲の隙間から太陽の光が見えている。

 

「じゃあ、俺は帰るね。篠原さんも雨が降る前に帰った方がいいよ?」

 

夫は傘と鞄を持って教室から出ていった。夫は何と言うか、引き際を察するのに長けている。

 

「・・・・・・・・・・」

 

私は鞄から携帯電話を取り出して、迎えを頼んだ黒服の女性に電話をかけた。・・・・・・何となく、この時は歩いて帰りたい気分になったからだ。私の胸の内は未だに曇ってはいるが、少しだけ、ほんの少しだけ晴れた気がした。

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

ピロピロ!ピロピロ!

 

「んぅ・・・・・・・」

 

朝。私は携帯電話の着信音で目が覚めた。夫の体を跨ぐように腕を伸ばして、携帯電話を取り電話に出る。

 

「・・・・・・もしもし?」

 

『あ、箒?私だけど。もう、起きてる?』

 

電話をかけてきたのは親友の鷹月静寐だ。

 

「・・・・・・今、何時?」

 

『何時って、もう七時半よ?』

 

「七時半・・・・・・?」

 

未だ完全覚醒していない頭で静寐の言葉を反芻する。そして、私の頭は完全に覚醒した。

 

「・・・・・・えっ!?もう七時半!?」

 

『もしかして・・・・・・今まで寝てたの?』

 

「う、うん!すぐに用意するから!!」

 

『ゆっくりでいいよー』

 

電話が切れた。

 

「起きて佑樹!!」

 

佑樹の体を揺すり、起こす。

 

「・・・・・・なに?」

 

「もう七時半なの!!私はお弁当の用意してくるから佑樹は唯を起こしてきて!!」

 

私は髪留めで学生時代よりいっそう長くなった髪を結う。懐かしきポニーテールだ。この髪は私の自慢だったりする。最後に髪を切ったのはもう、何年も前だ。



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