魔法少女育成計画とかどうでもいいから平凡に暮らしたい (ちあさ)
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本編
魔法少女はじめました


僕が僕であることを自覚したのは中学1年頃。

その日も蒸発した母の代わりに義父に散々汚された後の事。

この身体の元の人格の精神が耐えられなくなり、僕と言う存在が生まれることになった。

 

 

正直に言えば本当に勘弁してほしい。

 

 

生まれて初めてみた光景が血塗れで奇声をあげている全裸のおっさんとか。

そのうえ自分も全裸で凶器の包丁を持っているとか。

人格交代するならせめて刺す前にして欲しかった。

あまりにあまりの地獄絵図を前に呆然と立ち尽くしている僕は駆けつけた警官に取り押さえられて逮捕された。

あ、待って、トドメ刺してない。

 

 

 

 

その後のことも結構記憶は曖昧だ。

だけどなんとなく覚えていることをあげるとこんな感じ。

捕まった後の検査で、僕の身体にこびりついた義父の体液から、虐待されていたことが発覚した。

そして残念ながら義父が一命を取り留めたことと、そして一言もしゃべれないコミュ障な僕を、虐待が原因で精神的に病んでしまったと精神科医が診断したことにより、僕は罪に問われることはなく、入院&保護観察処分となった。

まぁ結局とどめはさせてないし、入院させられるし、今考えてもろくでもない結果だろう。

 

 

 

その後、結局コミュ障は治らなかったけど、なんとか高校には進学でき、N市のアパートで一人暮らしをすることになった。

このまま静かに暮らせていければよかったんだが、どうやら僕はほとほと平凡な人生とは無縁らしい。

 

 

蒸発した母は親からも勘当状態で、その親もとうの昔に無くなり、親戚筋は事件を起こした僕に関わりたくないらしく連絡もつかないし、義父はそもそも塀の中。

そんな僕に大学進学など望むべくもないので就職を考え手に職付けようと工学系高校に入ったのは良いけど、男だらけの中の少数派女子な僕。

ただし僕的には男性人格な上、事件の噂とコミュ障が祟って数少ない女子コミュニティにも混ざれず、ボッチ生活満喫中。

そもそもクラスメイトのことだって殆ど覚えてないしね。

なんかみんな顔が塗りつぶされたようにしか思い出せないんだよ。

やっぱり糞義父の件で人間不信になっているのかな、僕。

現状一人暮らしの僕は行政からの生活保護金とスズメの涙な奨学金のビンボー生活をしている。

最近の役所って親切だよね。僕がコミュ障だって分かっているんだろう

生活保護費をわざわざうちまで届けてテーブルの上に置いていってくれるんだ。

バイト?

無理無理、そんな知らない人と話さないといけないバイトとか本当に無理ですから。

将来は林の中の象のように暮らしたい。

 

 

そんな貧乏生活を送っているから娯楽にもあまりお金をかけられない僕は、いつからか基本料金無料のスマホゲーをやっていた。

なんかよく分からいけど、女の子のキャラで敵と戦い続けるゲームだ。

こんなのどこが面白かったんだろう。

こうやって僕もやってるけど未だに楽しさがわからない。

ある日のこと、僕が1人黙々とやり込んでいたその『魔法少女育成計画』というゲームから白黒の謎生物が出てきた。

そしていきなり魔法少女になるポンとか言い出した時に無言で包丁を投げつけた僕は悪くない。

絶対ゼッタイ悪くない。

 

 

いやさ、この消臭剤みたいな名前の謎生物からはなんかクセェ臭いがプンプンするんだよ。

絶対ココで殺しておかなきゃ後で後悔するって僕の包丁が囁いているんだ。

ほら、某聖杯奪い合うゲームだって最後聖杯アボーンでご覧の有様だよってなるじゃん。

美味い話には裏がある。

LUK値がマイナス方向に振り切っている僕のことだ、どうせろくでもないことに巻き込まれるのは目に見えているからな。

 

 

結局、包丁を5本ダメにしたところで、現時点でやつを殺すことは無理と判断。

魔法少女になってしまった。

 

 

名前はリップル。

「包丁を投げれば百発百中だよ」というふざけた名前の魔法を使う魔法少女が誕生した。

 

 



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魔法少女に会いました

僕の魔法は「投げたものが狙った場所に命中する」と言う極めてシンプルなものだ。

ただし投げる時に狙う場所を"視認"していなければならない、という制約があるけどね。

 

 

-----

 

 

魔法少女になった僕は確か消臭剤みたいな名前の謎生物(名前忘れた)の案内で教育係の先輩魔法少女に会うことになったんだが。

 

 

絡みたいなんたら(名前を覚える気がない)とかいう義父みたいなクセェ臭いをプンプンさせたガンマンに出会い頭、包丁を投げつけた僕は悪くない。

 

 

投げつけた包丁はあっさり銃で撃ち落とされ、そのまま殺し合いに突入しようとしたところで、トップなんたらさんに拉致られました。

離して、あいつ殺せない。

 

 

絡みたいさんを振り切った後、トップなんたらさんに散々怒られた。

なにこの理不尽。

魔法少女と言ったら愛と正義のマジカルヒロインでしょ。

だから町のゴミはすぐかたづけないと。

あんなクセェそびえ立つクソを放置するのはどうかと思うのよ。

そう説明しようと思ったけど、結局思っただけ。

コミュ力が壊滅的でクッと唸ることしかできない僕は今流行りのくっころ系魔法少女。

 

 

結局、トップなんたらさんは僕の教育係をやってくれることになった。

彼女はまだ何も知らない僕に、こうしたらいい、ああしたらいいと甲斐甲斐しく世話は焼いてくれる。

でも自分のことを俺と呼んだり、正義っていうのゆうのはだなあーだこーだと、やたら熱いのでクーリングオフってできませんか?

まぁ、まだ一言も喋れてないんですけどね。

結構頑張ったんだがコミュ障な僕には喋るのは無理なのが再認識できた。

それでも会話が一方通行なのは頂けないってことでたどたどしく魔法端末を使ってチャットすることで交流始めました。

 

 

そしてトップなんたらさんの魔法を教えてもらったんだが、猛スピードの魔法の箒を扱うことができるって魔法少女っていうか魔女ですよね?

それをチャットで指摘したら殴られました。解せぬ。

そして少しずつ付き合って分かったのだが、この人もなんか色々おかしい。

どこの戦闘機だってぐらいの音速飛行でご機嫌に奇声を上げて飛び回る姿は、きっと色々溜め込んでいるのかなって心配になってくる。

いやはや魔法少女関連は謎生物とトリガーハッピーとスピード狂と、今のところキチガイ率100%とかどうかしている。

きっとマトモなのは僕だけだろう。

染まらないように気をつけないと。

 

 

そのあとトップなんたらさんに魔法少女の集まるチャット広場を教えてもらい、入ったらなんかいっぱいいたので即切りしました。

ほら、人って3人いたら派閥ができるっていうでしょ。つまり3人いたら必然的に僕がボッチになる。

そして、もしこんな僕にもよくしてくれるトップなんたらさんに目の前でハブられた日には、包丁を投げてしまうかもしれない。

そんな不幸な事故を回避するためにはあそこには金輪際行かないことにする。

 

 

その日以降、トップなんたらさんは呼んでもいないのに僕を見つけ出しては、魔法の箒に載せてあっちこっちに連れ回してくれた。

ただ僕がチャット広場の件で対人恐怖症だと勘違いしたのか他の魔法少女に無理に会わせたりはしなかったのは助かった。

いや僕はちょっとコミュ力が足りてないだけの普通のシャイボーイなんだよ、勘違いしないでよね。

 

 

それに僕の魔法の仕込みも彼女の連れ回しのおかげでだいぶ捗った。

僕の魔法はシンプルだけど、それ故に事前の仕込みで性能が大きく変わると思うのだ。

絡みたいなんたらさんみたいなのにいつ何処で絡まれるか分からないから、準備は常に万全にしておかなきゃ。

今度会ったら、ちゃんと殺そう。

 

 



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魔法少女を知りました

魔法少女になってから早数ヶ月、包丁の消耗が激しくて困る。

魔法と言っても別に投げる包丁が強化されるわけではないので、刃こぼれもすれば撃ち落とされれば折れてしまったりもする。

元々持っていた包丁はちょっとこだわって買った物が多く、使い捨てにするには勿体なく、ネットショップで格安の包丁を探してはまとめ買いしている。

そんな僕の部屋は溜め込んだ包丁が所狭しと並べられている。

これだけ集めているとやっぱり貧乏生活の身としてはかなり辛い。

何故か最近役所の人が生活保護費を持ってきてくれないんだよね。

だから僕はヤクザ屋さんのケツを蹴り上げることでお金を稼いでいる。

また今度、絡みたいさんがいない時にでも街のヤクザ屋さんを回って集金してこよう。

・・・このアパート、警察に踏み込まれたら色々アウトだな。

 

 

トップなんとかさんは聞いてもいないのに他の魔法少女のことをペラペラペラペラ喋ってくれる。

絡みたいさんには喧嘩を売らないほうが良いとか

移動呪文みたいな女王さまが派閥を作ってるだとか

キマシタワーを絶賛建設中の脳内お花畑さんとぬりかべさんの話だとか

聞いてて頭が痛くなるぐらいマトモなやつがいないのは魔法少女の仕様なのだろうか。

本当に魔法少女は地獄だぜ。

 

 

でもそれぞれの固有魔法も色々喋ってくれるのは非常に助かった。

こいつには個人情報保護法とかそういう概念はないんだろう。

無駄に世話焼きでおしゃべりで顔も広い、なんだか近所の世話焼きおばちゃんみたいな人だ。

いつの間にかコンビ扱いされていたけど、おかげでチャットを一度もしないのに他の魔法少女の動向を知ることができるので良しとしよう。

付き合う上ではこいつが一番マシみたいだしな。

そういえば鉄腕少女が最近行方不明だそうで、見かけたら連絡が欲しいとのこと。

・・・あれは悲しい事件だった。

彼女は本当に良い奴だったよ。

せめて彼女の未来がより良いものであることを祈っておこう。

それに彼女の魔法をより活かせるあの二人なら粗末に扱うこともないだろうし、

生活水準も劇的に良くなっただろうから案外喜んでるかもしれないしな。

 

 

なにはともあれ彼女の献身のおかげで僕の魔法はより使い勝手がよくなった。

おそらくトップなんとかさん経由で包丁を投げることしか能がない駄魔法と広まってるだろうから、

何かあった時のために弱点は潰しておかないといけない。

何しろ僕は他の頭のおかしい魔法少女と違ってごく平凡な一般人なんだ。

というか、話を聞いただけでも他の魔法少女の能力が豪華すぎて泣けてくる。

武器を強化する魔法とか、僕ならとりあえず米軍基地からナパーム弾でも拝借してくる。一発でN市が蒸発するだろう。

なんでも命令を聞かせる魔法も、条件は厳しいだろうけど、一度決まれば即死確定だ。

デフォルトで空を飛べて物体ならどんなものにでも変身できて重量すら再現する?月落としでもされたら宝石な某魔法爺さんでも異世界から呼ばない限り対処不能だろう。

あとどこでも穴が掘れるって能力もやばいだろう。近接戦闘ですべてが致死攻撃になりかねない。

直接戦闘じゃなくても変身を解いて家で寝てるときに街全域の地下を空洞化させてダイナマイトあたりで爆破して地盤沈下でもさせられたら余裕で死ねる。

おかげでここ数か月恐ろしくて変身解除もできず学生生活は泣く泣くあきらめた。

魔法少女でいる間は寝なくても大丈夫なのが救いだ、というより少しでも寝たらエルム街の悪夢がいつ襲い掛かってくるかわからないからな。

彼女が好戦的ではないって聞いて、それだけが本当に救いだった。

 

 

そんなこんなで情報収集と地道にN市を縄張り化する作業に従事していると、

久しぶりにマジカルフォンが強制起動し謎生物が陽気な声でイベント開始を宣言してきた。

 

 

どうやら魔法少女を半分殺さないといけないらしい。

 




鉄腕少女は売り飛ばされました。
魔法少女に人権はないからしょうがないね。


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魔法少女は予定をたてました

謎生物が言うには、このN市の魔法少女が多くなりすぎたから半分の8人を間引くそうだ。

 

 

なんか人助けをしてなんちゃらキャンディを集めろということだけど、別に倒してしまっても問題ないだろう、と聞いたらOK貰えた。

・・・あれ、このセリフって死亡フラグだっけ?やだやめてよ、とりあえず、まだだ!まだ終わらんよ!と叫んでおいたので生き残れるだろう。

なにはともあれ、ちまちま人助けするより厄災じみた魔法少女を殺して回るほうがよほど人類に貢献してると思うわけよ。

 

 

それに僕の経験にこういうのはたいてい碌なことになりかねない。

誰だって自分の便利な魔法少女生活を捨てようなんて考えないだろうし、遅かれ早かれ殺し合いになる。

 

 

 

そうなるとまず考えなくてもいけないのは誰を生かして誰を殺すかだ。

 

 

まずトップなんとかさんは足代わりにもいいし、基本的にお人好しだから後回し。

能力の相性も悪いので、まともに戦うと強いしな。

ただ、正義感は人並に強そうなので、僕が積極的に殺しに回ることに気づかれないようにしないといけないだろう。

 

絡みたいさんは個人的には非常に殺したいのだが、無法者を気取ってるから黙っていても他の魔法少女とぶつかって潰しあってくれそう。弱ったところをおいしく頂くのが効率的だろう。

 

 

お花畑さんは簡単に殺せそうだけど、そっちから手を出すとぬりかべさんが犯人絶対殺すマンになるだろう。

キマシタワーをやるならまずぬりかべから。

ここ数週間監視していたところ、毎晩のように同居しているマンションの一室で、カーテンも閉めずに変身といてにゃんにゃんしてるので狙撃するのは非常に簡単そうだ。

個人的にはお花畑さんは簀巻きにしてでも魔法活用したいんだが、性格的に協力は到底望めないだろう。

他の市の洗脳魔法持ちにでもかっさらわれる前に殺しておこう。

 

 

ルーキーの白いのと、コンビ組んでるナイト様は自身の魔法をうまく理解してないようなので、本質に気づく前に殺しておいたほうがいい。

特に白いの、貴様はだめだ。

ありとあらゆる事件現場をひたすらはしごできる魔法。

現れたばかりで詳細までは掴めなかったけど、最悪の場合未来予知とかそんな魔法の可能性もある。

そうじゃなければマッチポンプで事件を起こしてるとしか思えないレベル。

どちらにしても災厄極まりないので育ち切る前に殺しておかないと。

 

 

女王様一味は5人と人数は多いけど、女王様を潰さない限り暴走しないだろう。

女王様は能力は強いので常に監視はしているけど、自信過剰気味でわきがあまいのでいくらでも付け入るスキはある。

妖怪水着女はどことなく不気味すぎるし、僕とは魔法の相性が悪いので狙うなら変身解除したところがベストだろう。

双子も能力は極悪だけど基本馬鹿だ。でもこいつらもキマシタワーみたいに片割れだけを殺すとカタストロフィ化しそうなので気を付けないといけない。

犬は迂闊に近寄らない限り大丈夫だろうが、穴を掘って地下に逃げられると監視は難しくなる。足元には常に警戒だ。

 

 

鉄腕少女は利用価値がある限りはあの二人が首輪つけてキャンディ集めさせるだろうから生き残りはほぼ確定だ。

N市まで出張ってこないでキャンディ集めれるかどうかは知らないけど。

 

 

気になるのは森の妖精さん。

あいつは不気味すぎる。

どうやら森の中に住んでるみたいだが、どう考えても誘ってるとしか思えないし、

音楽家という限り、音に関する魔法を持っていそうなので、迂闊に近寄るのも危険だ。

僕の包丁が奴を早く殺せと囁いてくるのが何よりの証拠。

あいつとはいつかやりあうことになりそうだが、少なくても奴のテリトリーである森の中だけは回避しないといけないだろう。

 

 

そういえば来週さらに一人増えるらしい。

どんな能力か全く情報がないのがさらに増えるのか。

そいつに関しては出てからじゃないとわからないので、対策のしようがないか。

 

 

結論。殺しやすさから考えるとルーキー、キマシタワー、あと女王様に双子と犬で7人ってところか。

絡みたいさんや森の妖精さんがどう動くか分からないから予定はあくまで予定ではあるが。

怪しまれずに殺せるタイミングがあるならチャンスは有効に活用していこう。

 

 

この第一週目は初っ端からバトルロワイアルにならない限りは順当に引きこもりのエルム街さんがおさらばするんだろうけど、警戒しておくに越してことはない。

何か動きがあったらすぐにでも対処できるようにアンテナは高くしておかないと。

でもチャット広場だけは行かないけどな!

 

 




見直して推敲を重ねても誤字が見つかりぐんにょりします。


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魔法少女は覗いてます

魔法少女の魔法というものは非常にあいまいなものであり、使用者の精神的なものに影響されるものなのだろう。

魔法名はあくまで、その魔法の特徴を端的に表したものであり、能力の全貌を示すものではない。

そして、魔法の効果は予め明確に定められている制約はあるものの、その制約以外の効力の限界はその使用者の精神力などに依存するのだろう。

つまり、使用者の常識や知識が能力の上限を決めてしまっていることが往々にして見受けられるように思われる。

 

 

例えば双子の片割れ。

好きな生命に変身できるのであれば、草木など植物にでも細菌にでもなれるだろう。

さすがに肉眼で見えないほど小さい細菌にでも変身されて体内に潜り込まれでもしたら対処のしようがなくなる。

なのに彼女は鳥だの他人だのに変身してばかりだ。

ただこれは知性の問題なのかもしれない。馬鹿っぽいし。

 

 

またトップなんとかさんの魔法もそうだ。

彼女の魔法の箒は、最高速度は現代の戦闘機を凌駕するらしいのでマッハは余裕でこえるし、その速度でぶつかっても壊れない頑丈性を持っている。

本来彼女の魔法は、その箒を自在に使うことができる魔法であり、その箒に乗って移動することではないはずだ。

なのに彼女の決め技は、その箒に乗って最高速度の体当たりだという。

僕から言わせるとどうしてそうなったと。

本来の正しい運用方法なら、その箒は乗らないで音速で敵にぶち当てる質量兵器だろう。

避けられてもソニックブームだけで十分なダメージを叩き出せるはずだ。

どうやら魔法少女の箒は乗るものだっていう彼女の中の常識が、能力の上限を決めてしまっているとしか思えない。

もし敵に回ったとしたら厄介なので指摘することはないだろうが、勿体ない使い方だろう。

 

 

-----

 

 

第1週目は予想通りエルム街さんがさよならバイバイしたようだ。

2週目はまだそこそこキャンディ集めをしないといけないだろうから、いつもニコニコ現金払いしてくれるヤクザ屋さんのケツを蹴り上げて「人助け案件」をもらってる。

どうやら他の組で絡みたいさんがケツ持ちやってるらしく、営業成績が芳しくないらしい。

なので他の市の方に縄張りを移したいらしいのだ。

ただ僕はコミュ障なのでやれることが少ない。

せいぜい魔法を使って、現地のヤクザ屋さんを物理的に潰して回るぐらいだ。

でも悪いヤクザ屋さんを掃除するのは正義の魔法少女としては正しい姿だろうから問題ない、キャンディ溜まるし。

 

 

 

そして今夜も包丁抱えてルンルン気分で隣の市に向かおうとしたところ、トップなんとかさんが血相変えて現れた。

彼女が持ってきた最新情報によると、どうやら脱落した魔法少女は死んでしまうらしい。

いろんな人から延々とコールが来てたのはその呼び出しだったのだろう、いつも通り無視したけど。

それにしてもどこまでテンプレなんだろう。

これはきっと、8人から更に減らすっていう展開も想定しておかないとダメかもしれない。

最悪1人しか生き残れないとかになると鉄腕少女の買い戻しに苦労しそうだ。

就活本を買って自己アピールについて勉強する必要が出てくるな。

 

 

 

延々と文句を言って気炎を上げているトップなんとかさんを横目にそんなことを考えつつ、暇つぶしにモバイルノートでいつもの鉄塔にいる白いのを監視していたら、唐突に事態が動き出した。

双子がナイト様を引き離していったと思ったら、一人になった白いのを女王様が魔法で動きを止めたのだ。

あっさり誘導に引っかかったナイト様の評価は下方修正、いくら馬鹿の双子でも何も考えずにお前に突貫するはずないだろうに。

 

 

動けない白いのを狙撃するチャンスだろうかと包丁を取り出したところで、水着が白いののマジカルフォンを操作しだした。

あれは先ほど追加された譲渡機能でもつかっているだろうか?

白いのが脱落してくれるならそれに越したことはないので傍観させてもらった。

これで不確定要素が一つ消えるとほくそ笑んでいたら、謎生物から二千近くのキャンディがいきなり届いた。

どうなってるんだ?

 

 

訳が分からなくて頭をひねっていたら、結果発表の時間になった。

今週のボッシュートは女王様らしい。あ、これ、クーデターだ。

この絵を描いたのは馬鹿の双子と気弱な犬ではないな。

やっぱりあの不気味な妖怪水着女がダークホースだったようだ。

早めにストーカーしてやつの家を探しておいてよかった。

きっと数日後の深夜にでも、彼女の家には不幸にも燃料満載のタンクローリーが数台突っ込んで大爆発でも起こすことだろう。

本当に悲しい事件だ。




原作はrestartまでしか読んでいません。
なので魔法の解釈は独自のものです。


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鉄腕少女

鉄腕少女との出会いは「ドキッ魔法少女だらけのバトルロワイアル~首がポロリもあるよ!」が起こる2か月ほど前のこと。

 

 

あの頃は街への仕込みの為にお金がなくて、ヤクザのケツを蹴り上げてお金をもらう代わりに色々仕事を手伝ってやっていた。

ここ最近はもう筆談で会話もスムーズになっていた。

会話用スケッチブックの最初のテンプレ3ページ、「金出せ」「仕事やってやる」「死にたいのか?」だけで会話が進むのは話が早くていい。

やっぱりコミュニケーションって大事だね。

そして彼らからの仕事の一つに借金取り立てがあった。

その日も借金抱えてとんずらした野郎を探してホームレスの溜まり場をしらみつぶしに潰していた時に彼女に出会った。

 

 

えっと、怯えるホームレスと包丁を持った怪しい女。

どうみても僕ってギルティ?

人助けだから魔法少女的には問題ないんだろうけど、通報されて動きにくくなるのも厄介だよな。

トップなんとかさんとかの耳に入るのも困る。

可哀そうだけど見逃してやるわけにもいかないな。

それに程よく見た目がいい黒髪美人だし、とりあえず捕まえてヤクザ屋さんらに売ればいいや。

悲しい事件だ。

 

 

僕は素早くホームレスを蹴りつけて気絶させて、彼女を取り押さえようとした。

ところが取り押さえる寸前に彼女はなんと鉄腕ア〇ムに変身したのだ。

そして彼女は逃げつつバッグから何かを取り出した。

武器かと思い身構えてしまったが、彼女はそれを見て使えないですと叫びながら地面に叩きつけつつ、空に飛んで行った。

僕ってほら親切だから、それを拾って空飛ぶ彼女の後頭部目掛けて忘れ物ですよーっと投げつけクリーンヒット。

その道具は思ったより頑丈だったらしく、彼女はそのまま落下していき、無事確保できたのだった。

 

 

逃げられないように入念に彼女の両手足を折って頭を踏みつけつつ、

スケッチブックを突き付けて優しく事情を聴く。

彼女の名前は・・・なんだっけ?とりあえず鉄腕少女とする。

どうも僕は人の名前を覚えるのが苦手なんだ。

それに同じことを何度も聞くのって恥ずかしいしね。

鉄腕少女によると、彼女の魔法は1日に1個だけ未来の便利アイテムをランダムで使うことができるとのこと。

それでさっき武器になるものを出そうとしてハズレを引いたらしい。

 

 

その道具は探し人GPSといって、その人の役に立つ人を探してくれて、場所や会い方などの情報を教えてくれるらしい。

確かに目の前にあるピンチには役に立たないだろうが、存外に便利そうだ。

試しに使ってみたところ、ちょっと遠い場所だけど僕の魔法の死角を補ってくれる魔法少女がいるらしい。

その人のメールアドレスと、その人から協力を引き出す方法もご丁寧にも表示してくれた。

どうやらこの人には鉄腕少女を売り飛ばせばいいらしい。

 

 

こうして僕は情報戦に特化した超改造を施された「象が乗っても大丈夫」な頑丈モバイルノートを手に入れることができた。

これはもう鉄腕少女の方角に足を向けて眠れない、方角忘れたけど。




主人公はコミュ障で人前だと全くしゃべれないため、コミュニケーションには筆談を使ってます。
きっとトップなんとかさんには「興味ない」「死ねば?」「もう帰る」の3つのテンプレが用意されてるでしょう。
日本の識字率の高さって素敵ですよね。

あと鉄腕少女はきっとお屋敷でペット兼魔法の材料として可愛がられているでしょう。


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魔法少女は準備します

僕のような絵に描いたような平凡な人間が生き残るには最大限の努力をしなければならない。

 

 

凡人でも岩にかじりつくような努力をすれば天才に勝つことができると言う人もいる。

だが考えてみて欲しい。

それならば天才が岩にかじりつくような努力をしだしたら凡人はどうすればいいのかと。

特に今のような命の掛かった戦いでは。

誰だって死にたくはないから最大限の努力をしてくるだろう。

綺羅星のような魔法を持った魔法少女たちの中で僕のような凡人一体どうしろというのだろう。

だが幾ら才能の差を感じても僕だって死にたくはないのであがくしかない。

天才と戦うなら同じ土俵で戦ってはダメだ。

例え卓袱台返しをしてでも、戦いの外で戦うしかないのだ。

幾ら卑怯だの、イカサマだの言われようが、それを恥じることができるのは生者だけ。

死んでしまっては後悔すら出来ないのだから。

 

 

 

そのような訳で凡人の僕は魔法少女になって、トップなんとかさんから他の魔法少女のことを聞いてから、ひたすら情報収集と事前準備に専念してきた。

今が平和でもいつまでもそれが続くわけなどありはしない。

"平和とは次の戦争への準備期間なのだから魔法少女殺るべし慈悲はない"と確か古事記にも書いてあった。

特に僕のような前科持ちなど不当に誤解されて排斥されるのが関の山だ。

なので何かが起きてしまう前に準備だけは十全にして起きたかった。

そしてこんな僕と付き合ってくれたトップなんとかさんは面倒見がよくて顔が広いので情報収集の手間が大幅に省けた。

もし今後トップなんとかさんに裏切られたら僕は人生すべてに絶望し単身渡米して核の発射ボタンを押してくることだろう。

 

 

その情報収集のひとつに魔法少女の観察がある。

大抵の魔法少女には一般人としての日常生活も存在する。

そして変身していないと魔法は使えないし、能力だって一般人と変わらなくなるのだ。

故に必勝を期すなら魔法少女のリアルを暴き、そこを突くのが一番簡単である。

もしそれができれば魔法の性能差などあっさりひっくり返る。

より多くの情報を集め、より多くの事前準備をする。

それで敵が土俵に上る前にその外で決着をつけるのが凡人の勝利の方程式だ。

 

 

もちろんすべての魔法少女の情報を集められたわけじゃない。

高速で空を飛ぶトップなんとかさのリアルは未だつかめていない。

鉄腕少女とだって初対面時に運良く捕獲できたが、そうじゃなければあの飛行速度とホームレス生活ではリアルを割るのは難しかっただろう。

他にも森の妖精さんは森に帰っていくぐらいしか情報が分からないし、白いのは時間が足りないのと、能力が不明すぎて迂闊に近寄れずにリアルを特定できていない。

そういえばナイト様がネカマならぬ女装魔法少女だったと知ったときには大いに笑わせてもらった。

あの年齢であの趣味はなかなかに業が深い、流石日本の男の子だと思った。

この前の様子だと期待薄だが無事に生き残ったらお祝いにドレスでも贈ってやろうか。

とにかく割れる範囲でリアルを割り、可能なら侵入して寝室などに隠しカメラを設置してある。

家人と同居でも一般人相手には魔法少女状態なら目撃されても認識されにくいので堂々と潜入して設置まで余裕であった。

常に施錠されていて潜入ができない場合は窓から部屋の中が見られる位置に隠しカメラを設置してある。

 

 

妖怪水着女の場合も家人と同居だったため、彼女が出かけているすきに部屋にカメラを設置させてもらった。

そしてまだ小学生だと知った時は多少安堵したものだ。

これなら女王様の教育で改善されるのを期待してもいいし、そうじゃなくても暴走を抑えてくれれば見逃すこともできるだろうと。

だが残念なことに彼女は生粋のサイコさんだった。

本当に魔法少女の選考基準について問い詰めたい。

僕以外にマトモな魔法少女が希少価値すぎる件について。

特にヤバイやつほど魔法が強力な気がする。

きっと人間から外れれば外れるほど魔法適性が高いのだろうな。

だから僕みたいな平々凡々な一般人の魔法はこんなにシンプルなのだろう。

誇って良いのかが悩ましい。

だとするとあの犬もきっと大きな闇を抱えているのかもしれない。注意しよう。

 

 

そのような事情であの妖怪水着女には早期退場してもらうべく、燃料満載のタンクローリーを用意してもらっている。

タンクローリーはどっかの魔法少女も切り札にしそうなぐらいの火力を叩き出せる便利アイテムだ。

これを3台ほどぶつけてやれば、いくらサイコな水着だとしても焼却可能だろう。

ただ、ここ最近N市を追い出されそうな勢いの懇意のヤクザ屋さんでは直ぐには用意するのが難しいらしい。

しょうがないので来週ぐらいまでに期限を伸ばす代わりに他の魔法少女にも打ち込めるよう予備も用意するように言いつけておいた。

もしかしたらキマシタワーや森やはたまた鉄塔に打ち込むことになるかもしれないからな。

弾数が多ければ多い日も安心だ。

 

 

そんな地道な活動をしていたらトップなんとかさんが組事務所に尋ねてきた。

彼女もすでにこのヤクザ屋さんでは周知されていて、なんだか僕より歓迎されている。

彼女がいると僕が大人しくなるから?

お前ら後で覚えておけよ。

 

 

どうやらキマシタワーが僕に会いたがっているらしい。

それこの前も断ったよね?

何が悲しくてボッチの僕がラブラブお花畑劇場を観覧しないといけないというのだ。

ただでさえ監視中に吐き気を耐えるのに苦労していると言うのに、肉眼でそれを見ろと。

その上、話し合いとか僕にできるわけ無いでしょ。

あんなリア充の前じゃ萎縮してしまい高いツボだって余裕で買わされる自信がある。

羽毛布団だってもう3セットもあるのだぜ、全部ヤクザ屋さんにローン押し付けたけど。

それにきっとお花畑さんのことだ、世界の平和がどうのこうのとかいいながら皆でお手々繋いで乗り切ろうとかそんなことを言い出すに決まっている。

そしてそれを否定するとぬりかべさんに敵対フラグが立つまでがテンプレという。

かといってその場限りの同盟を結んでもヤクザ屋さんとの関係や妖怪水着女暗殺計画などで大幅に足を引っ張られる可能性が高い。

まさに百害あって一利なし。

せめてもっと動向がつかめない白いのとか森の妖精とかに突っ込んで威力偵察がてら華々しく散って欲しい。

などと色々脳内で行けない理由をトップなんたらさんに懇々と説明しているあいだに強引に連れて行かれて、結果お花畑劇場を観覧していました。

話の内容も想像通り。

そしてキョドりまくっていた僕をトップなんとかさんがフォローしてくれて、対人恐怖症なので直接会うのは無理なのでせめて文通からはじめましょうと伝えてもらい、メアド交換だけはした。

フリーの捨てメアドだけど。

帰ってから寝る前に恐る恐る覗いてみたらもう30件ぐらいメールが入っていた。

後ろの20通ぐらいからはもう病んでいるとしか思えない内容。

どうして返信してくれないのですか返信待っています返信して返信しろ返信返信へんしん変死…

あれと付き合えるぬりかべさんをちょっと尊敬したそんな夜のことでした。

 

 




結構頑張っても3000文字にも届かず、1話で1万文字近く書ける人を尊敬します。
しかもメモ帳で書いてたら途中フリーズして消えて泣けたので、自動保存されるOfficeのワードで書くようにしました。
本当に凹む。


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魔法少女は観戦します

キマシタワーが森の妖精さんに誘われて行ったなう。

 

 

お花畑さんから届くぬりかべさんへの愛がたっぷり詰まった惚気メールや新興宗教的魔法少女平和同盟への熱心な入信案内メールなどに紛れて、森の妖精さんが是非とも今後の魔法少女の在り方に付いて話し合いたいと誘いが来たからよかったら僕も一緒にどうかという内容のメールが届いていた。

チェーンメールですら届いたらちょっと嬉しくなって中身を確認してしまうぼっちの習性にもたまには感謝したい。

お陰で森の妖精さんの情報が何かつかめるかもしれない。

会合場所は監視カメラの設置されていない場所だったので、ちょっと高くて勿体なくしまいこんでいた業務用ドローン使うことにする。

手早くセッティングして、会合時間に間に合うように空へと飛ばす。

このドローンは報道用にも使われるため夜間飛行も想定されてあり、カメラも報道用の高性能の物を積んでいるため、夜だと言うのに望遠機能も合わせて鮮明に見ることができる。

これならばいざという時に僕の魔法もしっかり発動するだろう。

だが撃墜されると本当に懐的にダメージが痛いので基本見つからないように遠方から覗き見るようにしないと。

そして本格的な魔法少女の戦いを初めて目にした。

 

 

なんだあれは。

どちらも人外過ぎる件について。

ぬりかべさんマジぬりかべさん。

壁の大きさが明確に決まっているとは聞いていたから、多少は対応できるかと考えていたのだが、壁から壁を更にどんどん生やしていって実質限界なんてないじゃないですかヤダー。

この一人万里の長城め、あれでなかなかあの壁の耐久力は高いらしいし、僕の魔法との相性悪すぎるぞ。

1枚ならタンクローリーぶつければ問題ないけど何枚も重ねられると流石にきつい。

それにピラミッド型に強固に覆われるとビルなどを倒壊させて押しつぶしても耐えられそうだ。

その後は視界が悪くなったところで背後を取られてザックリ殺られる未来が見える。

地味目な魔法でもしかしたら同類なお友達になれるかもしれないと考えていた僕の純情を返してくれ。

そして防御的な能力を攻撃に転用できる戦闘センスも問題だ。

格闘もなかなか様になっていてナイト様よりナイトしているよこのベル薔薇め。

ぬりかべさんはぬりかべーとか言いながらぬぼーと突っ立っている所を妖怪下駄で蹴飛ばされていればいいのに、何をそんなに活躍しているのだ。張り切りすぎかっこ悪い。

 

 

そしてそんな攻撃を喰らっていながらも余裕の笑みを浮かべて応戦している森の妖精さんもガチだ。

見ただけでは何の魔法か分からないが一撃で強固な壁を破壊している。

詰まりやつのパンチはタンクローリー以上の豪腕ということか?

いや、よく見れば破壊ではなく粉砕している?

幾ら豪腕だとしても殴ったら殴った所から蜘蛛の巣状に割れてしまうはずだが、実際はまんべんなく粉々に砕けている。

それにぬりかべさんが時々変な方向に気を取られている。

 

・・・音か?

 

もし音を自在に操れる魔法だとしたら、超音波を叩き込んで対象を粉砕し、さらに音を自在に発生させて気を反らせたりするということも可能だろう。

確かに森の妖精さんの正式名称は音楽家がなんたらだったからそれっぽい魔法なのかもしれないと予想はしていた。

だが音などどうやって対処しろと。

音叉でも買い占めろというのか?

真空状態を作り出して音を遮断しても発生場所を離れた所に設定できるのならば意味がないし、そもそもそんなことをできる能力など僕にはない。

これは要注意事項だ。絶対殺す帳に花丸マークを付けておかねば。

 

 

二人の能力について考察している間にぬりかべさんがお花畑さんをお姫様抱っこして逃走に成功したようだ。

森の妖精さんもここで決着をつける気はなかったのか追撃はしないみたいだ。

そこに謎生物が現れた。

もしやこの戦闘は謎生物公認なのか?

何やら森の妖精さんと謎生物の関係について疑問が湧いてくる。

確か森の妖精さんはN市で最初に魔法少女になったと聞いている。

その関係で謎生物との交流が一番深いのかもしれないが、それで不正に便宜を図られても厄介だ。

これは今後の謎生物への対応も注意しておかねばならない。

いっそマジカルフォン廃棄するべきなのかもしれない。

要検討だ。

 

 

さて見るものも見たし撤収しよう。

そう思ったときだった。

 

 

目があった。

 

 

森の妖精さんがこちらをしっかりと見て背筋も凍る微笑みを浮かべていらしゃった。

 

 

もしかしてロックオンされちゃった?

 

 

ドローンはそのまま絡みたいさんの塒のビルの屋上に破棄し、鉄腕少女を預けた二人組に保存されたデータと対処方法の相談及び就職願いをまとめてメールしました。

いざという時のためにと絡みたいさんの懇意にしている組の名前を書いたステッカーをドローンにデカデカと貼っておいたが撹乱できていることを祈ろう。

今月も塩ご飯だ、とほほ。

 




文字数少ない上にあまり進んでいない…。


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魔法少女は盗みました

どうもホームレスデビューの僕です。

 

 

森の妖精さん経由で絡みたいさんにドローンのことが伝わったようで、組事務所が砲撃され命辛々逃げ出してきました。

組員に死者が出なかったのは幸いですが、N市にこのまま止まるのも危険ということで縄張り移転計画を繰り上げ隣の市に逃げてきました。

どうやら隣の市で活動しても数は減るけどキャンディ貰えるっぽいですね。

ただこっちにはこっちの魔法少女が居るはずなので時間を見つけて挨拶しておいたほうがいいのかも。

後、新聞に組事務所砲撃の関連で僕のアパートも砲撃された事が書かれてました。

暴力団の抗争でアパートは幹部の隠れ屋だったのではと書かれてたけど。

どうやら他人のリアルを割るのに夢中になってて僕のリアル隠すのが疎かになっていた件。

そう言えば不意を突かれるのが怖くてもう何ヶ月も変身解除してなかった。

つまりアパートでも魔法少女姿で出入りして、届いた宅急便とかもそのまま受け取ってたよ。

隠す気ないじゃないか僕。

お陰で集めに集めた至高の包丁コレクションが全てなくなってしまい呆然としてしまったよ。

不幸中の幸いだが本命の武装は倉庫街に分散して保管していてそっちの方は無事だった。

もとより素直に包丁投げつけるだけで倒せるなんて甘い魔法少女がいるとは思っていない。

ただ僕の包丁コレクションを破壊したのは許せない。本当に許せない。

久々にキレちまったよ。

こうなったら戦争だ。

 

 

そんな怒りが有頂天の僕が今いるのは陸上自衛隊駐屯地。

その装備保管庫だ。

そして顔面真っ青で付いてきている組員たち。

警備の隊員たちは悲しい事件でした。

絡みたいさんが襲ってきたと血でダイイングメッセージを残したから問題ない。

包丁じゃなくドスで狙撃したし、絡みたい組の下っ端から巻き上げた名刺を現場に適当に落としておいたしアリバイはバッチリだ。

流石に米軍基地に乗り込んで外交問題にする勇気はなかった。

そして魅惑の倉庫だが、10式戦車とか欲しかったんだけど流石にないか。

あっても持って帰れないしな。

組員に爆発物や小銃などを掻き集めさせる。

おっと銃剣は忘れるなよ。

おいおい銃だけで弾持っていかなくてどうするんだ、しっかりしてくれ。

こっちは警備システムへのハッキングに忙しいんだからちゃんと頼むぜ。

 

 

改造モバイルノートは肌身離さず持ち歩いてたし、あの程度の砲撃で壊れるほどヤワじゃない。

警備システムを乗っ取り欺瞞情報を流し別の場所に誘導してはいるが、ある程度自動で処理してくれるが、こういうのが専門ではない僕だとプロ相手にはさすがに厳しく、何人かはこっちに向かおうとしてくる。

それを乗っ取った警備カメラで確認しては持ってきたドスを投げつけている。

魔法少女以外だとホーミングドスは結構有効だなぁ。

ミサイルが発展した理由がよくわかるよ。

もし就活に失敗したら傭兵をやるのもいいかもしれない。

愛と平和のために世界から紛争を無くしちゃうぞキラッ的な。

今回の行為について謎生物は反則スレスレだポンとか言ってたけど。

武器は自給自足なんだからしょうがないじゃない。

某魔法少女もやってたし包丁使ってないから誰も僕の犯行だってわからないだろうし大丈夫大丈夫。

積み込み終わった?

んじゃ逃げよう。

 

 

翌日の朝刊で謎の忍者が指名手配されてました、解せぬ。

 




深夜テンションの勢いでやってしまった。
もしかしたら消すかも。

隣の市の魔法少女とかキャンディ貰えるのかとかは捏造設定です。


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魔法少女の戦いはこれからだ

はじめてのかたははじめまして、いつものかたはこんにちは。絶賛指名手配犯の忍者です。

 

流石の魔法少女も国家権力には勝てず、強制捜査で組員たちは逮捕されて、逃亡した僕も直ぐに事件を知ったトップなんたらさんに捕まり自首させられ有罪確定。

重大なテロ事件として判決は全員当然の死刑でした、ですよねー。

第1部完!

 

魔法少女たちのこれからの活躍は次回作をご期待ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はっ!何かとんでもない夢を見ていた気が。

これが有名な夢オチですね。

 

 

どうやら砲撃で家と事務所を失ったショックで寝込んでいたようです。

エルム街さんがお亡くなりになったお陰で眠れるようになったのは精神衛生的に助かりました。

たださっき夢の中でエルム街さんがこんなに取り返しがつかないことになるんだからそんなことしちゃダメだぞーって言ってきた気がするけど、見殺しにした罪悪感的な何かかな。

ほら僕って優しい魔法少女だし。

 

 

でも夢の中で色々新情報解禁してしまったな。

特に半自動ハッキング能力付きのモバイルノートと包丁以外にもホーミング機能はまだ隠しておきたかったのになテヘペロ。

え?一体誰にバレたんだって?

それは決まっているじゃないか。

 

 

この物語を見ている君にだよ。

 

 

この世界を上の次元から覗き見ているのはもう気づいているのだよ。

僕の包丁が囁いているのだ。

お前見られているぞと。

そもそも魔法少女なんて存在がいることが科学的にありえないじゃないか。

はっきり言ってオカルト過ぎる。

この世界はきっとどこかの次元で作られた物語に過ぎないのだと。

そうであるのなら、その次元の存在とコンタクトを取り僕の優位な展開になるように交渉するのがベストだろう。

そう君に交渉しているのだ、ブリックヴィンケル君。

時間軸上を自由に移動することができる4次元存在の君ならばこれからの戦いの趨勢を見ることも可能だろう。

それをこう、ちょこちょこーって教えてくれれば良いのだ。

なに、君のことは秘密にしておくよ、僕のゴーストが囁いているのさとか嘯いてれば、きっと周りは電脳ハックで予知しているのだと常識的に判断してくれて魔法少女二等兵から少佐へ華麗にランクアップさ、僕は戦争が好きだ。戦争が大好きだ。

さて、それで君は僕に何を望むのだい?

今なら世界の半分を君にあげたっていいよ。

 

 

TVモニターに映ったアルカパに向かって、そんな事を筆談していた僕を見つめる組員たち。

やめてよね、そんな可哀想な目で見るのは、泣いちゃうだろう。

あぁ動物番組は心が癒されるなぁ。

僕はもう疲れたよ、パトリオット。

あれパトレイパーだっけ?なんでもいいかデカイ犬。

 

 

それにしても自衛隊基地で装備調達はいい案だと思ったんだけどな。

組員たちが泣いてそれだけはやめてくれと懇願されてしまった。

でも指名手配犯の忍者ですってのいうのはないと思う

確かに僕の魔法少女の衣装は忍者だ。

ゲームでは何故か最初から装備していたんだよ、この衣装。

そうそう、名前もアバターも最初から決まっていて決定権が全くなかったクソゲーだったんだぜ、これ。

まぁその割には敏捷度と回避へのボーナスが非常に高く防御力も最終装備クラスだったためボッチソロとしてはそのままずっと愛用していたけど、こんな目立つ格好で魔法少女活動なんてしたらダメだろう。

でもなんか脱げないのだよ、この衣装。

シャワーとか浴びるときは脱げるのだけど、それが終わってさぁ着替えるかと思ったらこの格好に戻っている。

きっと呪いのアイテムみたいなものだろう、魔法少女だってやめられないみたいだしな。

そんなわけで外に出るときは通販で買った旧ドイツ軍のロングコートと軍帽を衣装の上に着用して目立たないように忍んでいる。

これで忍者と特定される恐れはないはずだ。

 

 

自分のアイデンティティについて考えていたら今週の結果発表の時間になりました。

なになに?いいニュースと悪いニュースだと?

 

 

どうやらナイト様が不幸な事故でお亡くなりになったそうです。

 

 

ヤベッ何かイベント見落とした気がする。

 




どうも、作品中1回なら許されると言われている伝家の宝刀"夢オチ"です。
某大御所漫画家も顔が残念な5人組の学園コメディの最終回で使ってたから許されるはず。
ゴメンナサイ。

しかも全く話が進んでないというね。
今度から寝ぼけながら話を書くのはやめます。
でも深夜のテンションって何故か筆が進むよね、朝起きて見直したら悶絶するけど。


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魔法少女は開けました

ナイト様の死の真相にすぐに判明した。

町中のいたるところに設置してある監視カメラのデータはこの改造モバイルノートへと常に転送されている。

ここ数日の映像を遡って検索していくと、倉庫街の監視カメラに森の妖精さんとの戦闘が記録されていた。

 

 

この時間ってキマシタワー戦のすぐ後、僕が砲撃されてわたわたと逃げ回っているころじゃないか。

あの後にはしごするとかどんだけバトルジャンキーなんだ。

血を見るまで止まらないって幻朧魔皇拳でも食らっているんじゃないのか?

それにしても絡みたいさんはピーピングトム対策にうまく利用されたわけだ。

でもさすがに監視カメラまでは把握できていなかったらしい。

各陣営の溜まり場だけではなく魔法少女が人目を忍びやすい廃墟や倉庫街なんて重点的にカメラ設置済みだ。

どんなお宝映像が撮れるか分からないからな。

おかげで他陣営を焚き付けらえそうな面白映像を手に入れた。

これで白いのには敵討ちで華々しく散ってもらおう。

 

 

今回ナイト様が死んだことにより新たな事実が判明した。

誰かが死んで枠が空くとその分キャンディのリタイヤが免除されるそうだ。

そして新しく魔法の国のアイテムが販売されることになった。

無料ゲーにありがちの課金アイテムで俺Tueeeeができるアイテムで、販売数は残った魔法少女13人に対してたったの5個。

ただし購入に必要なのがリアルマネーではなくリアルの寿命という悪辣さ。

最大で25年も寿命が削られるがその分効果は凶悪だ。

今回判明した事実と追加アイテムによって見えてくる悪意。

運営は僕たちに直接殺しあえと、そう唆している。

 

新アイテム:四次元袋(10年)、透明外套(25年)、武器(5年)、元気が出る薬(3年)、兎の足(6年)

 

ちなみに僕は買いませんよ。

だって僕は150歳まで生きる予定なので。

流石にそれ以上は生きられると思っていないので1年だって寿命を削る気はありません。

それにこの中で僕の魔法的に一番役立ちそうなのは10年も削らないといけない四次元袋。

一人で持てる物という制約はあるがサイズ・重量を無視していくらでも入るのは投げる物を大量に携帯できるというメリットがある。

だがいくら便利でも10年はないよねー。

それにこのアイテムを買いそうな人に心当たりがある。

僕と同じように武器を用意して持ち歩く必要のある魔法を使う者…つまり絡みたいさんだ。

向こうもこちらがこのアイテムを必要としているというのは認識しているだろう。

つまりここで無理して僕が購入したとしたら、これ幸いとばかりに僕を殺して奪い取ろうとするだろう。

つい先日這々の体でN市を逃げ出した身で、更に火に油を注ぐとかどれだけ自殺志願者だよ。

仏の顔も三度までというが、絡みたいさんはそこまで心広くはないので次は僕が仏になっちまう。

それにいざとなれば投げるものなどそこら中に転がっている。

持ち運べるサイズの物ならわざわざ持ち運ぶ必要などない。

これが持てないような重さやサイズでも自在に出し入れできるのなら無理してでも僕が買っただろうけどね。

 

 

あと厄介なのは透明外套か。

これを買ったやつは問答無用でタンクローリーだ、慈悲はない。

 

 

どれもこれも厄アイテムや屑アイテムばかりだが、鉄腕少女がうさぎグッズの兎の足を購入しないように妖怪車椅子女にメールしておいた。

聡明な彼女がこんな物を買わせるとは思えないが念のためだ。

売り飛ばした僕が言うのも何だけど、彼女には悪いことをしたとは思っているんだよ。

また来週にでも彼女の好きな兎のぬいぐるみを送ってあげよう。

 

 

そうこうしているうちにアイテムは売り切れたようだ。

みんなどれだけ殺る気マンマンなんだよ。

さて誰が何を買ったのか少し覗いてみるとしよう。

鉄塔、寺、廃墟、キマシタワー、倉庫街に絡み組と魔法少女がたむろってそうな場所の映像を表示させていく。

絡みたいさんは予想通り四次元袋をご購入あざーっす、いつか殺して有効活用してやるからな。

チーム寺はなんと3つも購入してるよ、どんだけガチだよ。

双子が薬に、犬が武器で妖怪水着女が透明外套か。

そして妖怪水着女が犬とアイテムを交換している。なに?フォルムが気に入ったのん?

うっとりした目で槍を見つめる水着さん、ヤバイわーマジヤバイわー。

やっぱりあいつが一番わけわからねーよ、未来に生きてんな。

それとも透明外套を持っていたらやがて来る空飛ぶタンクローリーでも幻視したかい?

残念だがお前は何も買わなくてもタンクローリー確定だから。

寂しくないように家族と一緒に火葬してやるから成仏してくれ。

犬は…まぁご愁傷様です。

付き合う相手を間違えたよね、この娘。

友達はちゃんと選びなさいって教わらなかったらしい。

 

 

あと1個兎の足が見当たらないな。

まぁ能力もかなり微妙だったからどうでもいいのだが。

それにしても白いのと新人が見当たらないなー、何処彷徨いているのだ。

新人ってまだ見てないのだけどもうポップしているはずだよね?

でも今夜にも遅れていたタンクローリー一式が届くから焦る必要はない。

タンクローリーさえ届けばみんなまとめて吹き飛ばしてやるぜ。

例えどんな能力を持った新人だろうとほむ印のタンクローリーの前には無力無力!!!

どっからでもかかってこいだよ。パイセンが胸貸してやらぁ。

 

 

ぴんぽーーーん

・・・あれ?誰か来たようだ、はいは~い、今開けますよ~どなたですか~、ガチャッ!

 




平日はお仕事があるからそろそろ1日1話ぐらいになるかも。


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魔法少女は実感しました

投げるというのは結果ではなく行為であり、能動的な意思の発露である。

そして僕の魔法は投げる物が標的へと正確に向かっていくと言うもので、

結果として飛んだ物に魔法の効果が発揮されるわけではなく、投げるという意思によって初めて魔法の効果が発揮される。

 

 

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モバイルノートに映し出された彼女の寝顔は本当に汚れを知らないただの小学生だ。

後生大事に槍を抱いて眠っているので多少物騒ではあるが。

 

 

本来なら彼女のような子供がこんな争いに巻き込まれるのは間違っていると思う。

だが彼女は殺しを覚えてしまった。

もうどうしようもないぐらいに道を踏み外してしまったのだ。

 

 

大人になってから人を殺すのと何も知らない子供が人を殺すのではその意味は全く異なってくる。

八方手を尽くし他には何処にも道を見いだせなくなり苦悩の末に人を殺す人間は将来に渡ってその罪の重さを背負っていく。

だが殺しという意味も理解していない無垢な子供が、本来持ち得ない力を持ってしまい人を容易く殺せてしまうようになると、

邪魔な人は殺して排除するという手段がその子供の中の当たり前になってしまう。

本来なら成長するにつれ他者と衝突し、自分の力の無さにより痛みを味わい、どのようにすれば上手く付き合っていけるのかを身に着けていく。

その過程をふっ飛ばして人を容易にねじ伏せれる力を手に入れ、殺すと行為に疑問を持たず誰にもそれを止められない彼女の行き着く先は化け物と呼ばれるそれだ。

絡みたいさんなんて鼻で笑えるぐらいどうしようもない無垢なる化け物。

そんな彼女が一番美しい今、どうしようもない化け物に落ちきる前に殺してやるのが大人の勤めと言うものだろう。

彼女の母親には子殺しなどという物をさせるのは忍びない。

僕のような人でなしこそがその役に相応しいだろう。

 

 

ここから彼女の家まで300メートルほど。

万が一直前で気づかれた場合を考え3台のタンクローリーを用意した。

魔法で1台目の直撃を免れたとしても2台目、3台目と着弾して大爆発を引き起こす。

もし爆風をも透過させられたとしてもその後には急激な酸欠が襲いかかることになる。

そして今まで彼女が透明になったことがないことから推測するなら光や熱などの波長は透過できないはずだ。

爆風に熱と酸欠で二重三重とチェックメイトだよ。

 

 

最後に僕は死に行く彼女にしばし黙祷を捧げ、タンクローリーへと手を添える。

手で触れることで投げることができるので、これもまた僕の魔法の制約なのかな。

 

 

彼女の顔を視て、彼女の存在する場所を認知し、タンクローリーを押し出しながら自分はこれをそこに投げるのだと強く思う。

そして魔法はその意思を感じ取り、一ミリも動かせなかったその車体を空へと、そして彼女へと向かって飛ばしていく。

2台目、3台目と飛ばしていく。

その間、片時も彼女から目を逸らさず、モニターへ映る彼女が無残にも車体に押しつぶされる様を見て、そして遠くから大爆発の音を聞き、僕は彼女を殺したのだと実感した。

これでもう戻れない。

こんな手ではもう  を抱いてやることはできない。

ふいに頭に浮かんだ言葉を振り払う。

何を考えているんだ、もうも何も僕には最初から何もないじゃないか。

僕はとっくにいらない人間なんだから。

 

 

ただやっぱり気持ちいいものではないな。

今度はもっとスッキリするやつを殺したいものだ。

 




あぁまた短い。

そしてさようなら水着。


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物心つくまえから私には父に関する記憶がなかった。

写真もなければ母が語ることもなかったので当時はそれが当たり前のことなのだと漠然と考えていた。

ただ母は私に父親がいないことで不自由をしないようにと仕事と子育てを両立させ、私を寂しがらせることはなかった。

 

 

母はなんでもそつなくこなす器用な人でだったが、やたらと影響を受けやすく、凝り性な人だったように思う。

私が見ていた漫画やアニメも、最初は横目で見ていただけなのに、最後には私よりもハマって、部屋中漫画だらけになった事もあった。

夏休みの自由工作も私より熱中していて、毎年クオリティが上がり続け、どこからか工学知識や旋盤技術などまで仕入れてきて、私一人だけ明らかに大人作と分かる機械工作品を提出することになり恥ずかしい思いをしたこともある。

そんな多才な人ではあったが、何故かプレゼントのセンスはなかった。

小さい頃私が好きだったウサギのぬいぐるみをいつまでも好きなのだと思い込んでいたのだろう。

誕生日やクリスマス、何かのお祝いの度に新しいウサギのぬいぐるみを渡され、その度に私はもう子供じゃないんだよ、と母に怒って困らせていた。

 

 

だがそんなドタバタで楽しい日常は小学3年の頃、母子家庭を理由に私がいじめられだしてから壊れ始めていった。

いじめをしていた子たちは、自分の家庭とは違う私に対する興味本位で無邪気にからかっていたのかもしれない。

ただ子供の無邪気さというのは相手の痛みを理解できない分、非常に残酷であった。

それまで悪意というものを受けたことが無かった私の心はどんどん鬱屈していき、その矛先は母へと向かうことになった。

どうして、どうして私にはお父さんがいないの、と。

 

 

しばらく思い詰めていた母はある日何処かから新しい義父を連れてきた。

新しいお父さんだよ、これでもう寂しい思いをすることはないからね、と私を抱きしめてくれた母の顔はとても辛そうだったのを覚えている。

 

 

だがその義父はありていに言ってロクデナシだった。

働きにも行かず毎日酒やパチンコばかりしていて、やがて母や私に暴力を振るうようになって離婚することになった。

母は私に何度もごめんねと謝り、そして今度はもっと優しいお父さんを探すからねと私にいった。

だが次の義父も、またその次の義父も、同じような繰り返しでいつからか私は義父だけでなく母に対しても憎しみを抱くようになった。

 

 

そして中学に入った頃、私は何人目かの義父に性的虐待を受けた。

その人は母の前では優しい義父を演じていて、表向き短時間だが仕事をしていて母の目を巧妙に欺いていた。

今度こそは大丈夫と母は仕事で夜遅くまで帰らない日が多くなっていた。

義父は毎日母が帰ってくるまでの間、私の体をただただ貪るように穢していったのだ。

私の誕生日だったあの日も…。

 

 

 

 

その日のことは断片的にしか覚えていない。

ただ気づいた時は裸の私は義父を包丁で刺していた。

 

 

 

 

そして誕生日の為に早く帰ってきた母が義父の血と体液で汚れた私を見て――――

 

 

 

 

母にこれまでどれだけ穢されたのかを淡々と語り。

 

 

 

 

もう、お父さんなんていらない。

お母さんなんていらない。

 

 

 

 

私はその包丁を母へと振りかぶり。

 

 

 

 

誕生日プレゼントのウサギのぬいぐるみが赤く染まり。

 

 

 

 

その日、私の母はいなくなった。

 




アクセス数を見ていると何故か10話が11話より閲覧者少ないんだよね。
10話の1時間後に11話投稿したからお気に入りの最新話リンクから10話を見ずに11話に行った人が結構いたのかなって思ったり。

今後続けて投稿する時は本日何話目ですって書きますね。


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魔法少女はハイテンションです

もう、―――――なんていらない。

 

 

 

―――――なんていらない。

 

 

 

わたしなんていらない。

 

 

 

 

 

んん…

窓から差し込む強い日差しで目が覚める。

なんか夢を見ていた気がする。

内容は思い出せないが何故か悲しい気持ちが溢れて自然と涙が流れてくる。

最悪の目覚めだな。

昨夜の事がそんなに堪えているのだろうか。

 

 

昨夜、妖怪水着女を殺ったあと、タンクローリー3台の火力は思いの外高くて水着宅の周辺一帯を火の海に変えてしまった。

流石の僕もちょっとやり過ぎたと反省しおっとりがたなで救助に向かったのだが。

たった300mの所にいた僕が駆けつけるよりも先に白いのがどんどん助けていっているのはある意味ホラーな光景だった。

早い、早すぎるよ。

やっぱり未来予知なのん、ニュータイプ系魔法少女なのん?

それともタイムリープでもしてきたのん?

私の戦場はここじゃない方なのかそれとも鳳凰院的な方なのか。

ニュータイプでも未来星人でもヤバイ魔法を持っているのには変わりないだろう。

折角マッチポンプでキャンディボーナスタイムに突入だとちょっと張り切ってたのに、白いのが中にTASさんでも入っているんじゃないのかっていうぐらいに無駄のない動きで的確に救助者を見つけていくので、結局数人しか助けられず大損だよ。

タンクローリーって高いんだぞ。

しょうがないので消火活動も手伝って少しでもキャンディ稼ぎをしていたら、白いのが何故かキラキラとした目で僕を見つめていた。

何やら盛大な勘違いが彼女の中で生まれている気がする。

百合とかキマシタワーだけでもうお腹いっぱいです。

それに白いのみたいにセーラー服のロリっ娘アバターとか使っているのって絶対中身おっさんに違いない。

ネットゲーで女性キャラオンリーギルドのオフ会とか行ってみ?大抵地獄絵図だから。

とりあえずせっかく会えたのでナイト様の最後の勇姿を収めた僕渾身の編集を施したVHSを渡したら、この箱ってなんですかとか言われた。

冗談かと思ったらマジでVHSを知らないらしい。

普通テレビやビデオはどの家庭でもあると思うのだが…。

断捨離サバイバル系家庭なのかと思ったらテレビはあるらしい。

しょうがないのでTU○YAで再生機器レンタルしてこいってメモを渡しておいた。

 

 

昨夜の収穫としてはキャンディ数百個と焼け跡から見つかった傷一つない魔法の槍。

水着と一緒にタンクローリーが直撃していたし、大爆発後の大炎上で回収は無理かなと諦めていたのだが、どうしてなかなかに頑丈じゃないか。

それにしても・・・

 

どうして女王様の名前が書いてある?

 

もしかしてあれか、撃墜マークなのか?

やべーよ、水着さんマジやべー。

こりゃ早めに殺っておいてよかった。

ヘタに躊躇っていたらここに僕の名前も書かれることになっていたかもしれない。

しかも撃墜マークが印とかマークとかじゃなく、殺した相手の名前を書いていくスタイルなのが余計怖い。

つまりお前のことを念入りに下調べして殺してやるぞってことでしょ、どんだけ怨念籠めているんだよ。

これ、このまま殺した魔法少女の名前を書き続けていたら、どんどん怨念的な信仰心みたいのが溜まっていって、将来は魔法少女に致命的な威力を誇る概念武装とかになったりするかもしれない。

試しに僕も水着女の名前を書いておいた。

うん、不気味さがちょっと上がった気がする。

よし、この槍をケダモノの槍と命名しよう。

ちょうど僕は黒髪ロングなので持ち主的にピッタリだな。

照り焼きバーガー好きの相棒はいないけど代わりに配下の組員たちはいる。

よしお前ら、練習しておいたキメ台詞を言ってみろ。

さぁ始まるザマスよ、いくでガンス、フンガーと棒読みで返す愉快な組員達。

なんかその色々と諦めたような達観した目が雰囲気あってステキだね。

後はいつアニメ化されても良いようにキレッキレのEDダンスを練習するぞ。

プリティでキュアキュアな魔法少女と三人の厳ついマスコットで覇権を取るのだ。

デイリーだかヤマザキだか忘れたが、そんな惣菜パンみたいな名前のビームだけが取り柄な魔法少女なんてもうオワコンだ。

これからはあなたのハートを愛のタンクローリーで撃ち抜いちゃうぞ的なハードでキャッチな魔法少女の時代ですよ。

これで将来は左団扇な印税生活確定ですわ。

ガハハ、勝ったな。

 

 

妖怪水着女を無傷で倒せた僕のテンションはとどまることを知らなかった。

何かから必死に目を背けるように。

 

 




ちょっと鬱っぽい回が続いていたのでギャグ回です。
ええ、全くストーリー進んでいませんよ、しかもやっぱり短いし。
でもプロット的には折り返し地点のはず。
挫けずに頑張ります。


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魔法少女は土下座します

これからは僕の時代。

妖怪水着女を無傷でパーフェクトゲームした後は怒涛の活躍で絡みたいさんや森の妖精さん、ついでに謎生物を蹴散らして最強の魔法少女として未来永劫語り継がれることになる。

 

 

そう思っていた時期が僕にもありました。

 

 

 

 

今日のテーマは土下座です。

すがるような目つきで一気に後ろへと5歩下がり、地面へと思いっきり頭を叩きつけるアレです。

 

 

 

 

怒髪天を衝くというのを体現したような怒りのオーラを発するトップなんとかさん。

箒の上で器用にガイナ立ちして見下ろしてくるトップなんとかさんはマジで怖かったです。

思わず新しい扉を開きそうになったよ。

 

 

結論から言うとどうやら色々と黙っていたことがバレてしまったようです。

いきなり組事務所の窓をぶち破って現れた時は絡みたいさんや森の妖精さんの襲撃かと思って思わず便器に頭突っ込んで隠れちゃったじゃないですか。

でも付き合いの長いトップなんとかさんの目を欺くことはできず、便器に隠れた僕のケツを月まで蹴り上げてお説教モード。

最終的に今まで隠し撮りしていたデータとか暗躍する水着さんや森の妖精さんのことなど知っていることを洗いざらい説明させられました。

 

 

 

事の発端は白いのが先日渡したVHSを再生できずトップなんとかさんに相談したこと。

なんでも最近のTU○AYAではもうVHSを取り扱っていないそうで、再生機器もレンタルできなかったのだとか。

しかもVHSとか今の10代とかはまず知らない遺物になってるってマジか。

うそーん、だって普通に組事務所の倉庫にあったよ、ダビング編集できるダブルデッキ。

 

え?AVをダビング販売のしのぎ用だって?

組員曰くそれももう古くて使ってなかったやつだそうです。

今のしのぎはエロDVDの時代だとか。

 

そういえば僕の家もDVDや古いアニメ視聴用のLDはあったけどVHSなんて見たことなかったな。

あっれー、んじゃ僕ってどこでVHSの使い方なんて覚えたんだ?

でも確かにダビングや編集するならVHSっしょ、昔取った杵柄の編集技術を開帳してやるぜって具合にサクサクっと操作していたよね僕。

僕の前人格さんの謎の技術ですね。

 

 

それはともあれ、VHSの事を知ってるってトップなんとかさんって結構お歳を、とスケッチブックに書いたところで天井まで蹴り上げられました。

なんでもまだピチピチの19歳だそうです。

VHSは旦那の実家の部屋でいかがわしい内容のVHSを見つけたことがあって知ってたそうです。

トップなんとかさんご結婚されていたのですね。

ッチ、リア充とか爆発すればいいのに。

 

 

話を戻すと、トップなんとかさんは旦那の実家からVHS再生機器を持ってきて白いのと一緒に見たそうです。

そして事故だと思っていたナイト様の死の真相を知り、このキャンディ集めの裏で起こっている殺し合いに気づいたと。

僕がコソコソと何かを調べていたのは気づいていたけど、こんな大事になっていることを黙っていたのが許せないのだとか。

いや、だってあなたに喋ったら直情的になって直接止めに行っちゃうでしょうが。

絡みたいさん相手だってかなり綱渡りだったのに、完全にイッちまってるバトルジャンキーな森の妖精さんに話し通じるわけないじゃないですか。

それに水着女の方も何考えてるか分からないサイコさんだしさ。

これでも僕、なんだかんだとあなたのこと結構気に入ってるんですよ。

トップ何とかさんの魔法だと逃げるのならともかく正面から止めに行くとかマジで無理くさいですよ。

それこそ逃げないのなら最弱クラスの僕の魔法でもいい勝負できちゃうでしょ。

だからわざわざ死にに行くような真似とか、トップなんとかさんにはさせたくないんですよ。

そう伝えると、あと半年は死ぬ気はないから無茶はしない、ただ襲われてるやつをさらって逃げるぐらいならなんとかなるから相談してくれって言われました。

あと半年って、そうですよね、あと半年もたてば俺ガ○ルの最終巻でるかもしれないですしね。

涼宮ハ○ヒやH×○の新刊の方は期待できないですけど。

 

そう言ったら微妙な顔されました。

 

 

 




何ていうか言い訳すると、仕事って大変ですよね。
花金とかの時代に生まれ変わりたい。
中途半端な内容でゴメンナサイ。


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魔法少女はやっぱり何かを隠しています

前回のお話。

拙者忍者ハッ○リくん、白いのの陰謀により今まで愛と平和のために魔法少女たちをストーカーしたり、水着を焼却したりしていた事がトップなんとか氏にバレたでござるよ、おかげで拙者のケツは真っ赤に燃え上がっているでござるよニンニン。

 

 

水着の事については確たる証拠はないが馬鹿の双子と主体性のない犬には無理なので消去法的に女王様暗殺を主導していたであろうこと、魔法アイテムを積極的に購入していたことにより対処が必要だったとなんとか納得はしてもらった。

一緒に準備していた組員達の証言やフォローもあり、いわゆる執行猶予ということで、今後トップなんとかさんにしっかり報連相するようにとのご命令。

ともあれ、今後どうするかだが。

僕の事前計画では、この後随時届くタンクローリーを犬、双子、絡み組に撃ち込んで、最後森の妖精さんに関しては米軍基地辺りからナパーム弾を数発拝借してきて森ごと焼却するしかないだろうと考えていたのだが。

どこのテロリストだと却下されました。

 

 

ちなみに話し合いの過程で僕の魔法が実は包丁以外にも作用すること、重量やサイズなどに一切制限を受けないことなどを説明することに。

 

なになに?大きいものを飛ばすとその分魔力を多く使うんじゃないのかって?

なんで魔法がそんな物理的束縛をうけるのだ?

 

元々魔法なんて物理的要素が全くない、リリカルマジカル不思議ちゃんの謎現象であって物理学者に全力で喧嘩売っているようなもので、質量保存の法則なにそれな代物だ。

物理世界という紙に書かれたグラフのx軸とy軸に新たに魔法というz軸を足すのではなく、まったく新しい魔法世界という紙を用意して自由にそれぞれの個性的な絵を書くのが魔法だと僕は認識している。

なので本来その効果は個人の精神性に依存していて、重量やサイズ、距離などの物理的現象について束縛されることはないと考える。

あえて束縛されるとしたら僕の魔法の"投げる"という魔法の発端となる行為は僕の常識では"投げる"のは手で行うことであって、それを足で行ったら投げるのではなく蹴る行為になってしまうし触らないとそもそも投げられないから手で触れた物じゃないと発動しないという魔法の内容に対する自身の常識や認識が足かせ、というより制約になっているのではないかと思う。

つまり本来なら投げることは物理的に無理な重さやサイズでも、魔法という物理的要素に束縛されない物なら、関係なく投げることができるだろうと僕は今までそう思っていたので魔法が発動しているのではないだろうか。

難点は僕の魔法はあくまで「投げたものが標的まで飛んで行く」という効果であるため、威力を強化したりはできず、火力は投げたものに依存してしまうということか。

 

 

また水着へのタンクローリー狙撃のことで、対象を視ていて、いる場所が分かればモニター越しでも発動して観測し続ける限り目標まで誘導することが可能だと伝えたら反則だと言われた。

いや、そもそも視界が悪かったり隠れられたりして対象が見えないと当たらないのでそんなに便利じゃないし、当たる前に破壊されると容易に誘導が解除されてしまうんだよ。

なので絡みたいさんや森の妖精さんあたりだと余裕で迎撃されちゃうし、ぬりかべさんや穴を掘る犬みたい視界を遮られるとあっさり誘導切れちゃうんですけどね。

 

 

飛ばすものに威力を依存していたり誘導能力も確実性がなかったりと、やっぱり使えねーなこの魔法。

奇襲を駆使してなんとか騙し騙し使っていくしかないみたいだ。

 

 

とりあえず今後の方針的にはなるべく戦闘を回避すべく、まず話が通じそうなキマシタワー、そしてリーダーが欠けて脅威度の下がった犬と双子を交えて話し合うことになった。

白いのについては魔法が不明なのとマジカルフォンを使うことによって謎生物に気取られるのを危険があるので、たまり場や家に僕の魔法で直接手紙を投げ込むという連絡手段を使う理由から現在のたまり場や家がわからない以上今回は外してもらうことにした。

 

 

 

 

 

 

それに今届いたメールによると、なんとか時間さえ稼げばあと1週間かそこらでこの試験は中止されそうだしな。

 

 




もう開き直りました。
私の魔法少女育成計画SSのSSはサイドストーリーやショートストーリーではなく、更に短いショートショートです。
一日に一度、ほんの5分ぐらい何かの作業の合間に読める小説に似た何かです。


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魔法少女は会合します

二日後、夜の倉庫街、とある倉庫の中に呼びかけた魔法少女たちが集まった。

 

 

会合に集まったのは僕とトップなんとかさん、キマシタワーと犬さん?だけだった。

まぁあのお馬鹿な双子が素直に参加するとは思っていなかったんだが予想通りだな。

とりあえずそのことは後回しにして会合をはじめることにする。

 

 

今回の目的は森の妖精さんに対する警告と対処方法の相談、そしてお互いの持っている情報の交換だ。

森の妖精さんに関してはキマシタワーも以前襲われたことで不信感があったそうだが、今回ナイト様を襲った映像を見せることで対処が必要だと改めて認識してもらった。

それでもお花畑さんはもう一度話し合いたいと言っていたが、流石にぬりかべさんが危ないからと止めていた。

人死にが出ているのにまだ話し合いとか言い出すお花畑さんはやっぱりお花畑さんだ。

是非とも中東やアフリカ辺りで平和のために活動してきて欲しい。

 

 

森の妖精さんの能力に関しては、ぬりかべさんからの情報で、やはり音を操っていることに確信が持てた。

となると奇襲も難しく、連携も声掛けなどが信用できなくなるので難しいであろう。

また打撃の際に非常に高い衝撃を感じたそうで、お花畑さんの強化が無かったら耐えられなかったとのこと。

まさに近接無双だな。

対処としては音を出さないトラップなどを駆使するか遠距離攻撃で戦うかだろう。

やっぱり森ごと焼却するのが一番安全な気がするな。

双子の物質変身の能力なら気づかれることなく近寄れるのではないかと尋ねたら、犬さんが双子の能力なら何にでも完璧に変身できるから奇襲ならお手の物と自慢げに教えてくれた。

だけど物に変身しても心音などは消せないので小さい音も聞き分けられるなら難しいであろうとも。

確かに良い情報だが本当に残念だ。

 

 

他の魔法少女の情報としては、

白いのに関してはトラブルなど危険を知ることができる魔法らしい。

やっぱり未来予知っているのかな、奇襲とか感知されそうでやっぱり僕とは相性が悪いな。

なるべくなら敵対しないように動きたいが。

また新人に関して魔法は不明だが黒系の衣装で人付き合いの苦手そうなタイプ、そして白いのの情報を求めていたそうだ。

おそらく白いのと因縁があるのだろう。

お互い潰し合うのはいいが、せめて森の妖精さんをどうにかしてからにしてほしい。

 

 

今後の方針としてはお互いにマジカルフォン以外の携帯かスマホに連絡先を交換しておき、襲われた時はお互い連絡を取って逃げることを優先するということになった。

 

 

最後に犬さんが透明外套を僕に渡してくれた。

これからお互い助け合うのだから友好の証として使って欲しいとのこと。

 

 

へー、友好の証か。

これって確かなんていうんだっけ、そうトロイの木馬っていうんだよね。

 

 

僕は貰った外套をケダモノの槍で切り裂いた。

案の定、外套は上半身と下半身が泣き別れになった女性の姿へと変わっていった。

だってね、さっきから僕の持っているモバイルノートにさ、映っているんだよね。

お寺で心配そうに空を見上げている女の子がさ。

 

 

事態に気づいたぬりかべさんが犬さん?を押さえつけようと飛びかかる。

だが犬は変身を解いて元の小さい姿に代わり、鬼のような形相をした彼女が隠し持っていたナイフで僕を刺そうと飛びかかってくる。

やめてよね、本気でケンカしたら、僕が君にかなうはずないだろう。

間一髪、ぬりかべさんの魔法が発動して彼女の凶刃が僕に届くことはなかったけど、本当に怖かった。

振りかぶられたナイフを視た瞬間、恐怖で体が全く動かなくなったんだ。

おかしいよね、今まで絡みたいさんに散々撃ちまくられたり、僕の方も包丁を投げつけたり平気でしていたのに。

あのままだとあっさり再起不能(リタイヤ)していたことだろう。

 

 

助けてくれてありがとう、ぬりかべさん。

お礼に警告するけど、そいつにばかり気を取られるより、そろそろ他への警戒をしたほうがいいよ。

おそらくすぐに次の攻撃が来るからね。

 

 

僕が警告をしたすぐに、倉庫の中へ銃弾の雨が降り注ぐ。

あらかじめこうなる可能性があることを伝えていたトップなんとかさんは魔法の箒で障壁を張り、お花畑さんを掴んで外へと飛び出していく。

不本意ながら不意な銃撃について僕はもう慣れてしまっているので、危なげなく用意していた鉄板を盾にして抜け出す。

ぬりかべさんもなんとか逃げ出しているようだが、双子の生き残りが避けきれず、銃弾でズタズタに引き裂かれていった。

 

 

外にまろびでると、やっぱりいました絡みたいさん。

何処から仕入れたのか重機関銃でこちらを銃撃してきています。

色々と準備しやすかろうと、二日後に会合をセッティングしたところ、双子さんが絡み組をご訪問していたのを確認したのです。

恐らく庇護を求めたのだろうけど、絡みたいさんがタダで守ってくれるわけないじゃないですか。

恐らく、会合で僕か誰かを殺してくるように言われたのでしょう。

そして混乱している所に絡みたいさんが襲撃をかけると。

でもそんなことをして失敗した時や、成功したとしても自分の身が危ないということに気づかない所が双子の残念さだ。

変身をすれば逃げれるとでも思ったのだろうか。

せめて犬さんの援護があれば逃げられたのだろうが、流石の犬さんも今回の件は協力しなかったのだろう。

 

 

ぬりかべさんが壁を駆使してなんとか耐えているが、お花畑さんの魔法がない状態だと攻めにまで転じることはできないようだ。

だとするとやはり僕がなんとかするしかないか。

絡みたいさん、この会合は僕がセッティングしたもので、場所だって僕が決めた。

つまり、地の利は僕にあるのだよ。

ましてや二日もあったのだ、色々準備しているに決まっているだろう。

僕は隠れて移動しながら倉庫街に設置してある監視カメラで絡みたいさんを視て、隠してあった刃物や鈍器を次々と投擲していく。

絡みたいさんはそれを銃撃で次々と撃ち落としていく。

何度か弾切れになるが、四次元袋から追加の弾倉を取り出しリロードしている。

さすがそれなりにやりあった仲、手の内は読めているということか。

だがこれならどうだ。

僕は倉庫の中に積んであった袋を複数抱え上げ一気に投げつける。

案の定、彼女は袋を銃撃で撃ち落とそうとするが、僕が投げたのは”袋”じゃなくて”その中身”だ。

銃撃で切り裂かれた袋から飛び出した小麦粉が彼女に向かって殺到する。

そこに僕が火を付けたライターを投げ込んでやる。

本来は密閉された室内でないと拡散してしまい、起こらない現象だが、僕の魔法によって、彼女がいる場所へと殺到する小麦粉には十分な密度があった。

彼女を包み込んだ小麦粉がライターの火で一気に燃え上がり、いわゆる粉塵爆発を起こした。

 

 

だが小麦粉が覆ったところで視界が外れていたせいで、誘導が中途半端だったため、絡みたいさんはダメージを受けつつもなんとか爆炎の中から転がり出てくる。

だがそれも想定範囲だ。

準備していた切り札を彼女へと投げつける。

彼女はそれを銃撃しつつ逃げようとする。

それの中身もまた、小麦粉のように銃撃で破壊されるようなものではない。

また、それは透明な液体なので彼女への視界が切れることもなく、誘導が切れること無く彼女へと命中する。

 

 

それを浴びた彼女は苦悶の声を上げて体が凍結していく。

その液体は液体窒素という。

某未来から来た最強ロボットすら凍結させることができる危ない液体だ。

良い子は絶対真似しちゃいけないぞ。

体の半分以上が凍結して満足に動けない彼女に僕は容赦なく最後の武器を投げつける。

 

 

喰らえ!ロードロー・・・タンクローリーだッ!!!

 

 

倉庫街に紅蓮の炎が立ち上がり、絡みたいさんは再起不能(リタイヤ)していった。

まったく汚い花火だぜ。

 

 




後半に向かって動き出しましたよ。

あとやっぱり色々と捏造しています。

あっさりと勝てたように思えるけど、おそらく絡みたいさんは油断していたのではないかと。
特に最後の方に関してはターミ○ーター2をみてやりたくなったとかそんなことは多分ないと思いたい。


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魔法少女は忘れていました

夜空を赤く染め上げる燃えあがる炎。

そこに突き立つタンクローリーはさながら絡みたいさんの墓標のよう。

 

 

それを見つめていると戦いの興奮が冷めてきて、今回も無事に切り抜けれたという安堵感と共に、呵責じみた思いも湧いてくる。

たしかに彼女は唾棄するほど不快な存在だった。

だがそれはどこか同族嫌悪のような感情があったのではないか。

初めて会った時に感じた感覚。

かけられた彼女の声は、どこか人生に対して興味を失ったような投げやりな響きがあった。

確かに彼女は義父のような暴虐性を感じたが、それと同時にその声から感じた彼女の在り方はありえたかもしれないもう一人の自分の姿のようにも思えて堪らなく嫌になった。

その思いは後で彼女について調べるにつれてどんどんと募っていった。

それと同時に僕もまた、彼女と同じく家族を苦しめ、そして捨ててきた存在なのではないかという想いも。

だが僕のそれを認めたくない想いが、彼女への苛烈なまでの攻撃衝動となって現れたのではないか。

しょせんは仮初めの人格であり、魔法少女になるまでの記憶すらも曖昧な僕にはそれを否定することはできない。

しかしだからこそ、彼女とは決着を付けなければ失った過去を取り戻すことはできないとも感じていた。

 

 

結局、僕は彼女と何も変わらないのではないのだろうか。

これではタダの八つ当たりだな。

 

 

未だ燃え続ける炎の前で佇むそんな僕の元にトップなんとかさんが戻ってきて、警察が来る前に連れ出してくれた。

そういえば、ここ最近は魔法少女関連の戦いの余波で街中大荒れだな。

市長と警察と保険会社の胃に穴が開く前に終われば良いのだが。

 

 

 

 

 

 

 

僕達が飛び立つのと入れ違いに警察と消防が駆けつけたらしく、今日もTVのニュースは大騒ぎです。

現場には絡みたいさんが使っていた銃火器や僕の刃物類が散乱しているだろうし、彼女や双子の死体なども放置したままだから話題性抜群だろう。

そういえば魔法少女って指紋とかどうなっているのだろう。

僕の衣装は手袋しているから良いけど、素手の魔法少女とかの場合、指紋採取とかされちゃうのかな。

 

 

それはそうと、今回の撃墜マーク書いておかないとな。

えっとまずは双子の片割れーって、あれ?そういえばあいつって名前どっちだっけ。

まぁもう片方も僕がはめ殺したようなものだから二人の名前書いておけばいいか。

あとは絡みたいさんの名前を書き加えて。

合計5人分の名前がケダモノの槍に書かれていることになった。

ゲーム風に言うならこうかな。

 

名前:ケダモノの槍+5

説明:魔法少女の恨みを募らせた呪いの槍。

   魔法少女を殺して名前を書き込む毎に殺した相手の怨念が宿り、

   他の魔法少女を道連れにしようという呪いにより、攻撃力が強化される。

   ただし魔法は尻から出る。

 

っていうか尻ってなんだよ。

でも今回の魔法少女全員倒せば強化値+15とかになって、ネットゲームとかだと超強そうだな。

やっぱりなんだか不気味さが上がったようだし、だんだんと魔槍化している気がする。

ちなみにトップなんとかさん、そんなに可哀想な子を見るような目で見ないでよ。

これは水着さんがやり始めたことだし、彼女の意思を勝手に受け継いだ気になっている僕としてはやり遂げないといけないことなんだよ、たぶん。

 

 

そういえば四次元袋回収し忘れたけど、流石に燃えているのではなかろうか。

残っていたとしても焼け跡から証拠品として警察が押収しているだろう。

能力的に残念だが諦めよう。

さて、今日はもう疲れたし休もうかな。

 

 

だが僕は大事なことを忘れていた。

今回のような騒ぎの中、トラブルを見たら30匹は出てきそうな白いのが現れなかった訳を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トップなんとかさんも帰って、一人で魔法少女物のアニメを視聴していたとき、いきなり兎の足が現れ、僕の中へと思考が流れ込んできた。

 

 

“誰かたすけて!このままだとあの娘が死んじゃう”

 

 

そして脳裏に浮かんだ光景は、ボロボロになった白いのと、彼女の前で森の妖精さんに立ち向かう血塗れの黒髪の少女の姿とそばに転がる血に濡れた兎のぬいぐるみ―――

 

 

それを見た僕はもう何も考えられなくなり絶叫をあげて窓から飛び出し、路駐してあった車の上に飛び乗り、脳裏に浮かんだ場所へと魔法を発動していた。

 

 




前半部分は前回のラストにつけるべきなのかもしれなかったんですが、
鬱々としたラストよりスカッとしたところで終わらせたほうがいいかなって思って別けました。
あと兎の足の効果が現れるところってこんなんでもいいですよね?
もし違っても捏造設定ということで勘弁。
あとラストは桃○白先生に敬意を示しました。


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魔法少女は起こされました

ユルセナイゆるせない許せない!

私の華乃を傷つけるやつは許せない!

 

 

ノイズ混じりの声が頭の中に響き渡る。

今も続いている森の中での凄惨な戦闘の情景が脳裏に浮かんでいる。

足でもやられたのか、倒れたまま動けない白いの前で、彼女を守るかのように黒髪の少女が森の妖精さん相手に戦っている。

だが黒髪の少女の攻撃はかすりもせずに、森の妖精さんの攻撃ばかりが当たり、その度に鮮血が飛び散る。

そしてその度に僕の頭の中の声は金切声を上げる。

 

 

ああ、華乃が、華乃があんなに・・・殺してやる!絶対に殺してやる!

 

 

もはや体の制御は僕から離れ、彼女の意思のままに森の妖精さんの元へと突き進む。

 

 

"誰か!早く誰か助けて!あのままだと本当に死んじゃう!"

 

 

この声は白いのの声か。

脳裏に浮かぶ白いのの握られた手には兎の足があり、それが光を放っている。

まさかここに来て出てくるか最後のアイテム。

あのアイテムのせいで眠っていた彼女が叩き起こされたってことか。

 

 

華乃を早くタスケナイト!お母さんが今助けにいくから!

 

 

その黒髪の少女、略して黒いのは腕がちぎれ飛び、胴体に穴を開けられ、頭が半分弾け飛んだりともはやスプラッター状態でも、なおも構わず戦い続ける。

あれなんのん?もしかして白いのの新魔法?

ネクロマンサーなのん?

 

 

だがそんな惨劇を見た彼女は

 

 

殺してやる殺してやる殺してヤル殺し殺して殺しテやる殺して殺して殺殺殺

 

 

どう見ても狂気です。本当にありがとうございました。

ていうかアレはお前の  じゃない!

  なら安全なところにいるから早く正気に戻りやがれ!

 

 

何度も彼女に怒鳴り返したが一体誰のことを言っているのか自分でも分からない。

しかしこのまま彼女の制御で突っ込んでいったらヤバイことは分かる。

だが、そんな説得も功を奏さず、僕の乗った車は森の妖精さんへと突っ込んでいく。

っていうか白いのさん、なんでこっち向いてキラキラした目で見てるんですか、折角の奇襲がバレるじゃないですか。

 

 

そんな白いのの様子を見た森の妖精さんは間一髪こちらに気付いて・・・ウホッ車ごと殴り飛ばされた!

 

 

殺してやる!!!!!

 

 

 

だが車から飛び降りた僕の体は、彼女の意思のまま森の妖精さんに殴り掛かり、

 

 

はい、普通に蹴り飛ばされました。

 

 

ただ蹴り飛ばされたとは思えない臓腑をかき回されるような衝撃に僕の意識が飛びそうになるが、

体は無理やり体勢を整えて着地し、再度殴り掛かる。

 

 

そして殴り飛ばされたり蹴り飛ばされたりとポンポンよく跳ねる僕の体。

その間も黒いのは体をネクロマンサーな魔法で再生させたのか、先程よりは見た目人間に戻って森の妖精さんに攻撃を仕掛けるも、

僕と二人がかりでも有効打を与えることはできなかった。

 

 

何?もっと楽しめると思ったんだけどなって?

 

 

そりゃ彼女は正気じゃなくただ我武者羅に殴りかかってるだけだもんな、魔法のことなんてもう頭から消えて無くなってるんじゃねーか。

ていうか未だに  、  と煩いんだよ。

よく見れば黒いのと  は長い黒髪と兎のぬいぐるみしか共通点ないじゃねーか。

それなのにこんなに猛り狂ってるのはどう見ても兎の足に幻覚見せられてるとしか思えない。

何がラッキーアイテムだよ、どうみてもアンラッキーな呪いのアイテムじゃねえか。

というか本物の  に会った時は出てこないで僕にすべて押し付けておきながら、今更こんな幻覚で取り乱してるんじゃねえよ。

やべぇ、はやく兎の足をなんとかしないともうマジで死ぬ。

 

 

"この兎の足があると死んじゃうの!?"

 

 

ああ、どうみてもそれが元凶だよ。

だから早くどうにかしてくれってばよ。

 

そんな脳裏に聞こえた言葉にヤケクソに返すと、白いのが兎の足を放り投げた。

 

 

 

ああ、私の華乃………

 

 

 

それと同時に体の制御が戻ってきたのを感じる。

だがそれももう手遅れかもしれない。

制御を取り戻したときには僕の体は森の妖精さんによって岩に叩きつけられていた。

これが乙女が夢見る壁ドンか。

いやはや全くときめかねーぞ、恐ろしすぎて違う意味で夢に見そうだが。

なんとか抜け出したいが、全身が焼けるような痛みでピクリとも動きやしない。

 

 

本当は僕はメインディッシュだったって?

こんなところで終わるなんて興ざめするって言ってくれるじゃねえか。

 

 

そりゃ僕だってお前とやりあう気なんてなかったよ。

後数日で労せず僕の生き残りが決定してたんだがなぁ。

 

 

黒いのは足を砕かれ、再生途中で助けに入るのは無理そう。

そして白いのは未だに立ち上がれないのか這いつくばりながらこちらに向かってきてるが間に合うわけないな。

せめて死ぬ時はなんじゃこりゃとジー○ン刑事の真似をしたかったんだが、もう指一本動きやしねーよ。

 

 

 

そして、正気の僕と戦いたかった、本当に残念だと、森の妖精さんは僕へと告げて、左手を僕の頭へと伸ばしてきた。

 

 




上手く表現できなくて文才の無さに愕然としそうです。
あと鉄腕少女が死ななかったため、今作では白いのと黒いのはトラブル無く合流でき、兎の足も無事渡せていたようです。

あと文字化けはわざとなので文字コード確認しなくても大丈夫です。


☆次回予告☆
やめて!兎の足の特殊能力で元人格が狂わされたら、このSSで元人格とつながっている主人公の精神まで燃え尽きちゃう!お願い!死なないで主人公!あんたが今ここで倒れたらトップなんとかさんや鉄腕少女との百合展開はどうなっちゃうの!魔力はまだ残ってる、ここを耐えれば森の妖精さんに勝てるんだから!次回「主人公死す!」デュエルスタンバイ!


明日も更新できればいいな。だんだん辛くなってます。


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魔法少女は死にました

森の妖精さんはもう終わりだとばかりに笑みを浮かべ、僕の頭に左手を伸ばしてくる。

痛みで動けない僕にはもう避けようがなかった。

ああ、ここで終わりか。

結局僕は  に謝ることすらできなかった。

そして彼女の手が僕の頭に触れようとした直前

 

左腕が斬り飛ばされた。

 

彼女がとっさに後ろへと飛び退り右へと視線をやる。

はたしてそこには刀をもった着流しの少女、いな魔法少女がいた。

その少女は凄絶な笑みを浮かべて刀を構え、そして振り抜く。

森の妖精さんはそれより早く回避行動を取った。

 

あれは斬撃を飛ばしているのか?

 

更に森の中から飛び出した魔法少女がビームを放ったり、いきなり現れた巨大なハムスターみたいな魔法少女が岩を投げつけたりしてきた。

その攻撃に森の妖精さんも僕へのトドメを諦め、回避に専念している。

 

 

おお、あの魔法少女、昔のアニメで見たことあるぞ。

たしかマジカルなデイリーヤマ○キだったかな、惣菜パンみたいな名前の魔法少女だったはず。

その彼女のビームに当たったものはどんどん消滅していっている。

アニメだともっとマイルドな表現だったが実際見るとトンデモナイ破壊力の魔法だ。

 

 

彼女達以外にもどんどん森の中から何人もの魔法少女?が現れて森の妖精さんへと攻撃をはじめる。

中には下半身が馬のようなケンタウルスみたいな魔法少女や登場と同時に決めセリフを言っている頭の残念そうなマスクをした魔法少女などもいて、まさにビックリ人間コンテストを開催できそうな顔ぶれだ。

流石の森の妖精さんもこの人数相手だともうお終いだろう。

 

 

そして放置気味になった僕のそばに青い宝石が投げ込まれ、そこに一人の魔法少女が現れる。

彼女は僕に助けに来たともう大丈夫だから安心するように告げ、僕を抱き上げて駆け出す。

どうやらここから僕を連れて離脱するみたいだ。

その青い魔法少女に抱かれている僕に並走する形で、白いのを抱きかかえた黒いのが追いかけてきた。

そして白いのが僕に彼女たちは何なのかと聞いてくる。

 

 

実は僕は森の妖精さんのナイト様殺害映像を見た後、鉄腕少女を預けた二人組、正確にはその主人である妖怪車椅子女にその動画を送ると同時に運営への対応をお願いしていた。

彼女も森の妖精さんに何処かであったことがある気がすると調べていてくれたらしく、今まで彼女の試験では事故で死ぬ人が多く、何やら不正な試験を行っている可能性があるという噂があり、だが今まで証拠が見つからなかったため動けないでいたらしい。

だが僕の渡した動画や試験のこれまでの内容があれば魔法の国へと働きかけることができる、否、動かしてみせると彼女が請け負ってくれた。

 

 

その後、森の妖精さんと謎生物を鎮圧するべく、複数の魔法少女達が派遣されることになったと、メールが来たのがこの前のトップなんとかさんに僕のストーキング活動がばれた頃だ。

それも森の妖精さんの魔法や戦闘力を勘案して、戦闘能力の高い魔法少女を選抜したそうだ。

今僕を抱いて運んでくれている魔法少女も、そんなベテラン魔法少女の一人なのだろう。

 

 

だが聞いていた話だと連携の確認などの準備で早くても後数日はかかるはずだが。

そのことを聞いてみたら、今夜集合したばかりで話し合っていたらいきなりここの戦闘の光景と助けを求める声が聞こえてきたそうで。

そして森の妖精さんを見たこの子以外の魔法少女が何故か騒ぎ出して我先にとここに向かっていったので仕方なく追いかけてきたそうだ。

おそらく兎の足が僕だけじゃなく彼女たちにまで作用していたのだろう、流石呪いのアイテム、連鎖的に感染して狂気をばらまくらしい。

それにしてもやっぱりベテランだけにバトルジャンキー度は高いのだな。

きっとマトモなやつだと生き残れない過酷な世界なんだろう、アイドル業界みたいな感じで。

 

 

 

 

僕の案内で彼女に組事務所まで送ってもらったらトップなんとかさんが来ていた。

なんでもいきなり飛び出していった僕を心配した組員さんが連絡したらしい。

彼女たちに僕を運んでくれた魔法少女の紹介をしようとお茶でもどうかと誘ったら、これから戻って森の妖精さんへの鎮圧へと急いで合流するからと断られた。

そして念のために、と彼女は僕に青い宝石を渡してきた。

あの戦力なら大丈夫だろうけどと言っていたが、そのセリフなんかフラグっぽくて嫌ですよ。

なにやら冷や汗をかいた僕はそれでもその宝石を受取り、ポケットにいれておく。

そして彼女は何らかの魔法なのだろう。現れたときと同じように一瞬で消えてしまった。

 

 

白いのは早々に変身を解除してソファーで眠っている。

中身おっさんじゃなかったんだね、白いのさん。

僕もトップなんとかさんに現状を説明した後、事件解決まで念のためここで待機してもらうことにした。

それで怪我の治療をしていたらトップなんとかさんが変身を解除するように薦めてきた。

どうやら変身を解除すると怪我がある程度治るらしい。

 

だが断る。

 

僕が今こうしてマトモに思考できているのは恐らく魔法少女になっているからだろうし。

魔法少女になった頃は気づかなかったし、僕も確信を持てたのはついさっき、元人格が強制的に起こされたときだったのだが、どうやら僕の魔法少女になる前の記憶はどうやら妄想とかそういうたぐいの代物みたいなんだよね。

学生として学校に通ったりしていた僕の記憶はどうやら現実を受け入れられなかった彼女が見ていた夢みたいなものらしい。

一言で言うなら狂っていたんだな。

それが魔法少女になったことによって狂った妄想が、魔法少女という殻を与えられて初めて一つの人格として確立したのではないかと僕は考えている。

なので僕が変身を解除したら、元の幸せな夢を見ているだけの状態に戻ってしまう可能性がある。

せめてさっきの覚醒で元人格が正気を取り戻していれば僕もお役御免となれたのかもしれないのだが。

 

 

僕はもう何度も読んだ週刊誌を開く。

特集でここ最近N市で連続して起こっている事件などを扱っていて、僕のアパートへの砲撃についても詳細が書かれていた。

砲撃されたアパートの部屋に住んでいたのは”二人”だったらしい。

僕が知っている記憶だと”一人”のはずなんだけどね。

その雑誌には住んでいて未だ行方不明になっている”二人”の名前が書いてあるが・・・。

僕の名前はさてどっちだったんだっけ、今の僕には確信が持てないでいた。

 

 

それもこれもまぁこの騒動が終わってからゆっくり考えるとしよう。

あんなに魔法少女の援軍がいるんだ、きっと速攻で片付けてくれる。心が軽い、こんな幸せな気持ちで寝るのは初めて、もう何も怖くない、僕一人ぼっちじゃないんだもん。

 

 

そう思っていたのがフラグになったのだろうか。

 

 

とりあえずできる範囲の治療をしてもらってベッドで寝ていたら、僕の上に青い魔法少女が転移してきた。

空から落ちてくるヒロインはもう間にあってます。

そう苦情を書いていたら、彼女が告げてきた。

 

 

 

どうやら彼女以外の魔法少女は全員殺されたそうです。

 

 




殺っちまったのでもうrestartできません。

広げすぎた風呂敷を上手く畳めるか心配です。


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魔法少女は鍛えます

青い魔法少女、長いので青い子と呼ぼう。

なんだか恋愛運が全くなさそうな呼び方だけどこの際置いておこう。

 

 

その青い子が援軍の魔法少女達の所に戻ったときには、ほぼ半壊していたそうだ。

魔法少女たちは森の奥深くまでおびき寄せられ各個撃破されていったらしい。

事前の話し合いも殆どできておらず、お互いの魔法ですら殆ど把握できていなかったので連携など全くできていなかった。

その上、派遣された魔法少女の殆どが森の妖精さんに手の内を知られているように対処をされたらしく、中には同士討ちを誘発されて味方に斬り殺された魔法少女も数人いたそうだ。

青い子は数少ない手の内がばれてなかった魔法少女だったらしく、持ち前の戦闘技術を駆使して善戦していたが、他の魔法少女が全滅したことで情報伝達を優先して離脱したそうだ。

 

 

現在、とっぷなんとかさんと白黒コンビの他にもキマシタワーに来てもらって、現在森の妖精さん以外のN市に残ってる魔法少女は全員集合している。

森の妖精さんには左腕の他にもそれなりの手傷を追わせたので、すぐこちらに来るということは考えにくいが、もしもの場合を考えてバラバラでいるより良いだろうとのことだ。

誰か忘れてる気がするけど・・・ああ、鉄腕少女はN市にはいないから大丈夫か、気のせいだった。

幸い、ここはN市の外でそれなりに離れているし、組の縄張りということもあって監視網はバッチリだ。

現在はモバイルノートに複数のモニターを外付けして交代で監視している。

今のうちに僕たちは森の妖精さんの対策について話し合う。

 

 

森の妖精さんの固有結界と化している森の中で戦うのは自殺行為なので、戦うなら一般人への被害も覚悟して市街地戦だろう。

妖怪車椅子女からの連絡では今回の魔法少女隊全滅について、派遣されてきた魔法少女を選抜する際に強く推薦してきた魔法少女が更迭されたらしく、次の派遣まで時間がかかるらしい。

だが森の妖精さんと謎生物の権限は凍結されたので、いきなり魔法少女の力を奪われて死亡したり、こちらのマジカルフォンにアクセスしたりはできなくなっているので、なんとか耐えてほしいらしい。

ちなみにN市から遠く離れた異国の地とかに逃げるのはどうだろうと提案したら、それをした場合、森の妖精さんがN市から離脱して行方がわからなくなる恐れが有るので許可できないらしい。

ちなみに今僕達が潜伏している隣市にいたはずの魔法少女は全員一身上の都合により引っ越していったのでもしこの事件が解決したら隣市もまとめて縄張り化していいそうです。

うん、ちっとも嬉しくない情報をありがとう。

やっぱり籠城しかなさそうだ。

 

 

そんなわけで、なんとか生き残れる可能性を少しでも上げるべく、バトル物の王道である修行をしている。

例え付け焼き刃でも竹光よりはマシである。

ぬりかべさんと黒いのは青い子に近接技術を仕込んでもらっている。

 

 

そして僕は…

 

 

魔法の使い方を教えてくれだって?

 

 

何故か一番自分の魔法を上手く使いこなしているのは僕と評判になっているらしく、

白いのに魔法の使い方をレクチャーすることになってしまった。

どうやら白いのは自分の魔法を使いこなせていないそうなのだ。

どんな魔法かと聞いてみたら困っている人の声が聞こえる能力だそうです。

ほうほう、読心系能力ですか。

 

 

んなわけねーだろ。

 

 

白いのがただ困っている人の思考を読むだけの単純な能力の訳がない。

おまえ、今まで何をやってきたのか思い出してみろ。

車に轢かれそうになった子供とか助けてるだろう。

それに僕が水着を焼却した時だって、あれお前何処で困った声を聞いた?

ほう、家で宿題をしていたら聞こえてきたのですか。

これでも僕は魔法少女でね、300メートルぐらいの距離なら走って10秒もかからないんですよ。

それを言うに事欠いて家で宿題してたら声が聞こえたので助けに来ただと。

更に僕が到着する前に数人助けましただと。

もしかして光の速さで動けるんですか。

そうじゃないとしたらどう考えてもお前の能力は未来予知系だ。

近い未来で起こりうる困った人の声をあらかじめ受信する能力だろう。

だとしたらだとしたらお前の能力をきちんと理解して成長させれば、どういう動きをしようとしたら相手が困るかを事前に察知できるようになるはずだ。

これによって常に相手が不利になる行動で先手を取り続けて気がついたら詰みとなっている恐ろしい魔法だ。

となるとその能力を開花させる最適な修行といったらこれしかないだろう。

 

 

僕はその修業道具を倉庫から引っ張り出して事務所に設置した。

 

 

そう、その修業とは…

 

 

 

 

 

 

 

 

麻雀だ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして白いのは修羅雀姫への道を歩み始めた。

 

 

 




白いの「お姉さんの当たり牌・・・これでしょう?カン!」
トップなんとかさん「なん・・・だと・・・」


白いの「ジャラジャラジャラ(うん、このタイミングで洗牌を終えれば・・・みんなの最大限の困った声が聴こえる)・・・・・・・・・パタッ。天和です」
お花畑さん「なん・・・ですって・・・」


次回からタイトルが『魔法麻雀列伝 白』に変わりません。


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忠犬

犬の救済シナリオ


 

 

 

 

“今日はみんな、帰ってくるかな…”

 

 

 

 

 

 

N市にある廃寺にひっそりと犬のキグルミを着た少女の像が建てられている。そこはいつからか少女たちの密やかな参拝スポットになっていた。

 

 

B級観光スポット番組のTVクルーは現地の住人にこの少女像について取材していた。

 

 

今から60年ほど前、このお寺には夜になったら女の子が遊びに集まっていたんです、そう言って教えてくれたのはもう80になろうかというお婆さんだった。

その女の子たちはそれはもう仲が良くて、毎晩遅くまで笑い声が絶えなかったんですよ。近所の方達もみんな微笑ましく見守っていましたね。ですがその頃…お婆さんが何かを思い出すように悲しげに続きを語った。

その頃、このN市で暴力団の抗争が激しくてね、市中でテロみたいな爆発や事故が多かったんですよ。そしてルー…いえ、お寺に来ていた女の子が一人、変死体で見つかった事が始まりでしたね。その子の後を追うように一人、また一人と抗争に巻き込まれたり不可解な事故に遭ったりして亡くなっていったんです。

そして最後に残されたのが、この像、犬のキグルミをいつも着ていた女の子だったんです。

その女の子は亡くなった友達がいつか戻ってきてくれるのではないかと、毎晩、毎晩とこのお寺で待っていたんですよ。それも10年も、20年も、そして40年経っても…。

その間、彼女の容姿は変わることなくずっと少女のままだったんです。いつしかその少女も実はひっそりとどこかで亡くなっていて、それでも幽霊になってまでみんなの帰りを待ち続けているのではないかと噂がたつようになっていました。

そして、当時の事件を知る人達がその噂を聞いて、みんなでお金を出しあって少女たちの魂を鎮めるためにこの像が建てられたんですよ。

私たちに教えてくれた後、お婆さんは一度その少女像を見つめ首を振って帰っていきました。

 

 

その像の名は"忠犬タマ公像"と言って、未来永劫変わらない友情を祈願する少女たちが今日も参拝に訪れています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光あれば闇もある。

くるりくるりと因果は廻る。

夢と希望の魔法の国は、恐怖の奈落へと落とされる。

すべての記録が抹消された惨劇の夜が始まる。

これは決して語られることのない物語。

 

 

“ル【検閲済】ちゃんも、ス【検閲済】ちゃんも…ミ【検閲済】ちゃんも、ユ【検閲済】ちゃんも戻ってこない…誰も…誰も戻ってこない…誰も…”

 

一人殺せばル【検閲済】ちゃんのため

 

“なのに…なのになんで貴方達はそんなに幸せそうなの”

 

二人抉ればス【検閲済】ちゃんのため

 

“ゆるせない…リ【検閲済】も…スノ【検閲済】トも…魔法少女はみんなみんな許せない!!!”

 

不可視の犬が爪を振るえば、誰であろうと掘り殺す

 

“みんな貴方達に・・・魔法少女に関わったせいで殺された!貴方達に殺された!!!”

 

まさに鬼をも食らう夜叉の道

 

“魔法少女は誰も生かせてはおけない・・・彼女たちのためにも魔法少女は根絶やしにしてやる”

 

全ては友への鎮魂歌

 

“もう、誰も悲しませない為に・・・”

 

それはあり得たかもしれない一人の魔法少女の復讐劇

 

深い絶望と悲しみが、忠犬を凶犬へと変えた

 

『魔法少女怪奇譚 狗神伝』

 

“ねえ?あなた、魔法少女?”

 

 

 

2017年夏執筆開始…しません。

 

 

同時執筆

『岸辺颯太がラ・ピュセルのままガチムチ系乙女ゲーの逆ハーレムヒロインとして転生しました』

 

こっちも嘘です。




犬があまりにも出番がなく、とうとう主人公にすら存在を忘れられてしまったので可哀想になって救済シナリオを番外編として投入しました。
これで本編後は主人公格にランクアップだよ、やったねタ○ちゃん出番が増えるよ!
主人公どころか作者も忘れてたんですが、犬ってまだ透明外套持ってるんですよね。
あとはまぁ・・・分かるだろう?
そんな感じで魔法少女達の約半数が犠牲になった血の惨劇、そんなハートフルストーリーが開幕します。





嘘です、書きません。
ホラーとかかけるほど文才ありません。

誰かこういうおどろおどろしいホラーが得意な方書いてください。
できたら乙女ゲーの方も。


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魔法少女は跳ね起きます

訓練の合間に仮眠を取っていた白いのが飛び跳ねるように起き出して、玉が暴走してとかナイト様の貞操が危ないとか、なんか卑猥な事を言いだした。

いやいや、傍目から見るとお前のほうがよっぽど危ない。

 

 

ここ3日ほど魔法に慣れさすために寝るときさえも変身解除を禁止にして常に意識して魔法を使わせながら、48時間耐久麻雀とか能力バトル対策のJ○JO全巻読破をさせたお陰で、ある程度未来の困った声を選別して聞けるようになった。

だが、精神的疲労も蓄積しているのだろう、たまに夢と魔法で聞いた声を混同しているのだろうかおかしなことを言い出すのだ。

この前だって魔法で料理をしたら初デートで殺されるとか言っていたな。

魔法で料理なんてするわけないだろう、食材を鍋に魔法で投げ込んだりするの?

それとも魔女みたいに大鍋でぐつぐつと怪しげな色のスープとか作ったりするのだろうか。

いやはや、これぞまさしく電波ゆんゆん、懐かしいなこのワード。

そもそも今回のだってナイト様はもうお亡くなりになっただろう、それにやつは玉無しだ。いや変身解除したら玉有りか?それにしては根性の方は無かったみたいだが。

ガチムチがー、爪がー、とかまだ訳がわからないことを言っているので、無意識に未来予知したって言うよりただ単に疲労のせいで悪夢をみちゃっただけだろう。

かいきーかいきーってお前、貝○泥舟は作品違うぞ。

確かに彼が出てきたら持ち前の詐欺力でおおいに力になりそうだ。

森の妖精さんだって手玉に取ってくれるだろう。

全く、アニメの住人を頼りにしだすとかもう末期症状だな。

なんもかんも政治が、いや森の妖精さんが悪い。

とりあえず腹パンして落ち着かせてから麻雀卓に投げ込んでおいた。

しぶしぶと麻雀を始める白いのと組員3人衆を見ながら白いのの仕上がり具合を考える。

確かに白いのは時折電波系だがいい感じに仕上がってきた。

卓に座る前もどの席に座ったほうが困った声が多く聞こえるかとか、座ってからも洗牌の際に卓を叩いたり他人の手とわざとぶつかったりとしきりにTASさんばりの乱数調整をしている。

それもはじめはいかに自分の手牌を良くするかの乱数調整だったが、ここ何局からかは如何に相手がもがき苦しむかを考えた絶妙的な配牌になるように調整している。

臆病だった彼女がだんだんとサディスティックに成長しているのを見るとなんとも背徳感でゾクゾクしそうだ。

今や彼女は息をするかのように常に他人が困った状況に陥る行動をとることが癖づいてきていて、僕も他のみんなも白いのの口がニヤリと釣りあがるのを見るたびにこれから何かが起きると戦々恐々とする、そんな毎日だ。

 

 

白いの以外の訓練だが、ぬりかべさんは近接技術をある程度高めたが魔法の力は伸びしろがない。

元々能力制限が厳格に決まりすぎているのが原因だ。

高さ2m・幅1m・厚さ30cmの壁と形が決まっているのが致命的。

材質に関しては作り出した場所によるからビル街ならばコンクリ効果で多少は頑丈になるだろうが、魔法少女の力なら問題なく破壊できる程度だ。

あとはもう使い回しでどうにかするしかない。

なので近接技術が多少なりとも高くなってくれたが、基本は壁を応用した撹乱戦や遅滞戦闘を主眼に置いたほうが良さそうだ。

 

 

黒いのに関しては…ダメだこりゃ。

格闘センスがないとは言わない。

だが致命的なまでに動きがトロくてぎこちない。

元々のアバターが幼女タイプで手足が小さいのも関係しているのだろうが、これは魔法の影響もあるのだろう。

彼女はどれだけダメージを喰らい体をバラバラにされようが死ぬことはなく再生できる魔法を持っているのだが、反面痛覚がないのだとか。

痛覚がないということは同時に触覚もないということ。

どうやらこのアバターの設定は死体とかゾンビとかそのたぐいなのだろう。

故に全く無い触覚ほどではないが、他の感覚についても他の魔法少女と比べて鈍いようだ。

なので、気配を感知するという能力が劣ってしまっている。

そのせいで相手を捉えるのが遅れて、動きがどうにもズレてしまっているのだろう。

相手の動きが早ければ早いほどそれが顕著になっている。

青い子にも肉壁にしかならないッスねって太鼓判押してもらった。

その代わりと言っては何だが、本来体が損壊しないように脳からブレーキがかかっているフルパワーも、痛覚がないのでブレーキがかからず出力最大で振り回せるというメリットもある。

彼女の馬鹿力はそういう類なのだ。

実際には殴る度に腕とかの骨や筋繊維はボロボロになって、そしてすぐに魔法で治ってしまっているのだろう。

だが当たらないと意味のない馬鹿力なら当てればいいだけの話だ。

僕の魔法と組み合わせればちょっとおもしろいことが出来るだろう。

 

 

トップなんとかさんの魔法については矯正できませんでした。

自分の愛車を敵に体当りさせるなら自分も乗っていないと筋が通らないと。

こんなところで変なゾッキー精神出さないでください。

まぁ一撃必殺の体当たりと後は救助要員かな。

音を置き去りにする彼女のスピードなら森の妖精さんの魔法にも対抗できなくはないだろう。

 

 

そして僕なのだが、戦場想定場所へのカメラ増設と同時に妖怪車椅子女からの最後の支援物資であるスマートグラスを付けての訓練中だ。

今までモバイルノートを片手に魔法を行使していたが、そのモバイルノートに映し出したカメラ映像を眼鏡型のデバイスに映し出すことによって両手が完全フリーとなっている。

ロックした相手を映し出したカメラに自動で切り替えてくれたりドローンで自動追尾したりなど至れり尽くせりのアプリが入っていて非常に便利だが、いかんせん動きが早い相手だとガメラがどんどん切り替わったり、ドローンが高速で動くために酔いやすい。

いかに改造ナースさんと言っても短時間での調整は実際使う人がいないと厳しかったのだろう。

だがこれのお陰で僕も近接戦闘をしながら俯瞰視点で魔法を使うことが可能になった。

 

 

その数日後のお昼頃。

慰労を兼ねて組事務所でたこ焼きパーティをしているところにやってきました森の妖精さん。

 

 

事務所に飛び込んで来て早々に隣の市に隠れているなんて反則だろうと言われたが、

ルールとは破るためにある。

というわけで折角のご来訪申し訳ないが時間と相成りましたので組事務所をビルごと爆破させて頂きました。

 




白いのが順調に魔改造されていっています。


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魔法少女は舞い降りました

本日2話目です。
見てない方は前話から見てください。


耳がいいのも考えもの。

事前に察知できた音なら遮断も可能だろうが、戦闘する気マンマンで警戒して音を拾おうとしていたのなら、音響爆弾はさぞやよく効いただろう。

 

 

森の妖精さんがこちらに向かってきていることなど監視モニターや白いのの魔法でとっくに分かっていた。

なので彼女対策で覚えさせたハンドサインで事前に作戦を立てていた。

白いのがベストタイミングで爆発するように爆弾を設置していたのだ。

音でバレないように時限式じゃない爆弾使ったようなのでどうやって爆破させたのかは分からないが、きっとまた乱数調整でもしたのだろう。

彼女は順調にテロリストへの道を歩んでいるみたいだ。

そして僕達が呑気にたこ焼きパーティーをしていたのも彼女に気付いていないように思わせるためのタダのポーズ。

いや、普通に仲良くパーティー出来るならそれが良かったよ。

彼女のたこ焼きに混ぜるための魔法少女にもかろうじて効く猛毒も用意していたからね。

 

 

白いののハンドサインで作戦開始を理解した僕たちは爆発直前に隠しておいた遮音ヘッドホンを装着し、ぬりかべさんの壁で爆風の指向性を調整しつつビルから離脱。

森の妖精さんは爆発とビルの崩壊に巻き込まれたようだがあれで倒せているなんて楽観視していたらすぐにでも安楽死してしまう。

監視カメラやドローンを起動しながら次への戦場を設定する。

 

 

表通りへと出た僕は白いののハンドサインを確認して路駐車両を飛ばしてから、崩壊したビルの方を注視する。

そして飛ばした車両は狙ったとおり僕の”背後へ”と飛んできた。

まず僕を仕留めようと思ったのだろう、森の妖精さんがこっそりと近づいてきたその足元めがけて車は着弾した。

まだ音響爆弾の効果が残っているのか、直前になって気付いた彼女はギョッとしながらもなんとか迎撃する。

そのスキに僕は彼女を掴んでビルに”投げ”つけた。

僕の魔法は途中で破壊されることがない限り百発百中だ。

彼女は体をひねりながら受け身を取ろうとしたがそんな程度で弾道がズレるはずもなく、背中からビルの側面へと叩きつけられる。

そこにトップなんとかさんが十分に加速を付けたぶちかましを食らわせた。

当たる直前にキーンと音波による障壁を張ったようだが、彼女の加速力を殺し切ることはできずに苦悶の声をあげる。

だが殺しきれなかったのは確かだ。

トップなんとかさんが急いで離脱しようとしたところを殴りつけられて漫画みたいに吹き飛ばされる。

あれはもう戦闘不能だな。

箒の障壁はあったみたいだが、障壁内部に音の衝撃波を浸透させられたようで、トップなんとかさんは倒れたままピクピクしている。

まさに出オチ大将軍、出番があっただけマシだよね。

そんな犬の遠吠えが聞こえたような気がした。

 

 

体勢を立て直した森の妖精さんに青い子とぬりかべさんが近接戦を仕掛けるが、どうやら以前のぬりかべ戦の時はだいぶ手加減していたのだろう、お花畑さんの勇者満開魔法で強化されているはずのぬりかべさんが早々に殴り飛ばされてピクッてます。

付け焼き刃どころじゃなかったね。

青い子は純粋な近接戦闘技術は森の妖精さんを上回っているようだが、音による障壁や衝撃波、更に打撃の際の音波相乗攻撃を警戒して非常に戦いにくそうだ。

 

 

白いのに今後の展開について指示を仰いだらこのまま時間を稼げとサインが返ってきた。

どうやら時間さえ稼げばあっちが不利になる展開が待っているのだろう。

そういうことならやってやろうじゃないか泥仕合。

僕はぼうっと突っ立って戦闘を眺めていた黒いのの首を掴んで、

 

そーれぇ、ゾンビミサイル発射!!

 

森の妖精さんへと投げつけた。

そう、どうしても当たらないパワーキャラなら僕の魔法で当ててやればいいのだ。

ふんがーと飛んでくる黒いのを見て森の妖精さんは殴りつけて迎撃する。

一撃でバラバラになった黒いのは、しかしバラバラになったまま森の妖精さんへと命中する。

僕の魔法は”破壊”されない限り誘導は切れない。

車とか岩とかなら砕かれた時点で僕は破壊されたと無意識で判断してしまい誘導が切れてしまうが、そもそもゾンビは死なないのでバラバラにされたって”破壊”されたとは言えない。

せめて火で焼かないとゾンビは死なないだろう。

手だけになっても襲い掛かってくるゾンビ映画をここ何日かでたっぷり鑑賞したからバッチリだよ。

更に黒いのは体がバラバラにされても各箇所を動作させることは可能という変態っぷり。

口で、手で、足で、臓物で森の妖精さんへと噛みつき、爪を立て、絡みついて、締め上げる。

まさにスプラッター。

それを見たお花畑さんがヒギィといいながら気絶していったところまで様式美。

流石の森の妖精さんもそれは嫌がって何とか取ろうと格闘しているが、そんなスキを見逃す青い子ではない。

怒涛との連撃で確実に森の妖精さんにダメージを与えていく。

僕も援護をしようとしたら、ここで白いののサインが。

 

 

え?マジですか?

しょうがない、覚悟を決めてタンクローリーだ。

 

 

近くの駐車場へと走り、駐車してあるタンクローリーを魔法で飛ばす。

絡みつく黒いのと近接戦を繰り広げている青い子を巻き込んでタンクローリーは狙いどおりに森の妖精さんへと炸裂する。

立ちあがった爆炎は凄まじく、周りの野次馬たちをも巻き込んであたり一面は阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。

黒いのは流石に死なないだろうが青い子の姿が見えない、まさか一緒に吹き飛んだのか?

どう見ても援護としては最悪の一手だろう、そう非難の視線を白いのに向ける。

 

 

そして白いのの口角は最大級に吊りあがっているのを見て僕は悟った。

まさか・・・ブルータス、おまえもか。

 

 

あまりのショックに一瞬狼狽えていた僕に爆炎から抜け出してきた森の妖精さんが殴りつけてきた。

本当に頑丈すぎるよこの人!

先日の再来のように全身を抉られるような痛みとともに地面へと叩きつけられ何度もバウンドする。

白いのの口はまだまだ吊り上がっている。

これは本気でヤバい。世界がヤバい。

更に意味不明に手を振ったりジャンプしたりと乱数調整までしはじめた白いのを見て、僕はさすがに死を覚悟した。

 

 

森の妖精さんもそれについてはなんか残念そうな目を向けていたが、僕を殺す方が先と判断して止めを刺そうと飛びかかってきた。

 

 

 

そこに彼女がやってきた。

 

 

 

なんでおまえがここにいる!

 

 

 

彼女は間一髪僕を抱き上げて助け出し、空を駆け━━

 

 

 

おまえは、おまえだけはこんなところに来ちゃいけないのに。

おまえのことだけは私が、いや僕が守ってやるって。

もう苦しませたりはしないって。

なのに、なぜ。

 

 

 

鉄腕少女は戦場へと舞い降りた。

 

 




今まで出番がなかった真打ちが満を持して登場です。
あと準備していたものが確実に役立つかなんていったら現実にはそんなことありません。
折角用意した武装も殆ど使えずじまいでした。

さて盛り上がってきたところ申し訳ありませんが次回は番外編です。

ですがつい先程、最終話まで書き終わったんで明日も複数回投入するかも。


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本日1話目です。

昨日は2話分投稿したので見逃した方は前話から読んで下さい。




やっぱり行くのかい?

 

 

玄関を出るところで、マスターに声をかけられた。

彼女にはここ数か月本当に世話になった。

戦うための知識、魔法に関して、そして彼女のパートナーには私に戦うための牙を与えてもらった。

 

 

私は本当にどうしようもない人間だった。

 

 

中学の頃、私は家庭内暴力で一年ほど少年院に収監された。

そのことについて、私は今でも悪いとは思っていない。

ただ、私は母に対して無理解だったのではないかと後悔することもある。

もっと理解していればあんなことにはならなかったのではないかと。

だがあの頃の私にはそれを考える余地などなかった。

少年院から出て家に戻った私には居場所というものがなかった。

 

 

パートナーさんが私の体の最終調整をしてくれている。

もはやこの痛みもだいぶ慣れてきた。

 

 

私の魔法は毎日1個だけ未来のアイテムを取り出すことができる能力だ。

だけど1日経つとそのアイテムは壊れてしまう。

だが彼女がそのアイテムを他の物の素材として改造するとそのアイテムの効果が永続的に引き継がれて、壊れることなく使い続けられることが実験で分かった。

そしてマスターの車椅子を強化するための素材を提供する代わりに私はここで保護されていた。

そしてある日私は試しに未来アイテムを私の体への改造素材にできないかと聞いてみた。

マスターは面白がって許可してくれた。

私の体は機械でできているロボットという設定だ。

なんとなくできるんじゃないのかという想像はあった。

そして結果、想像通り私の体の素材にされたアイテムの効果は私の固有能力として定着した。

ただし、その改造は想像を絶する痛みでもあった。

麻酔なしで体を切り刻まれて異物を組み込まれる。

たとえ魔法少女となって痛覚が和らいでいるといっても流石にこのレベルになると耐え難いものがあった。

しかも意識が途切れないのだ。

本来意識を失うと変身が解けてしまうが、改造中は魔法の効果なのか意識が途切れることなく私の変身解除もできなくなる。

更に、強力なアイテムであればあるほど改造時間は長時間になる。

酷いときには一日中私の悲鳴が途切れることがなかったほどだ。

苦痛の施術のさなかに失神することもできない混濁した私は走馬燈のように何度も過去の記憶を見た。

 

 

暴言を吐いてそして傷つけ少年院から戻ってきた私は母にとってはもういない存在だった。

いくら話しかけても反応すらしない、ただ一日無気力に座っているだけの母。

母が精神を病んでいるのはわかっていた。

それでも娘の私のことは分かってくれる、いつか思い出してくれると。

ただそれだけを願って毎日母に学校であったことを話しかけていた。

だが母の容態はおかしくなる一方だった。

ふらっと出かけて行っては包丁を買ってきて一日中それを見ている母。

学校に来ては私の隣席に座ろうとして先生に連れていかれる母。

何度も同じアニメを繰り返し繰り返し見る母。

そんな母を介護するストレスを私はスマホゲームなどをやって解消してはいたが、とうとう耐えられなくなり中学卒業と共に私は家を出ることにした。

幸い別居している義父は生活費だけは振り込んでくれるし、そのお金を定期的に母の目につくところに置いておけばなんとか自分で食事などを買ってくることはできていた。

だから私は家を出て、少年院時代の友人に仕事を紹介してもらったりして半ばホームレス生活をしていた。

 

 

魔法少女になった切っ掛けはほんの偶然だ。

友人の部屋に泊めてもらう代わりに、彼女が男目当てでやっているゲームのレベル上げを頼まれたのだ。

そのゲームは私が昔やっていたゲームと同じだったので懐かしさもあり引き受けた。

そうしたら私は魔法少女になっていた。

 

 

名前も見た目もすべて本当の私ではない借り物の私。

母を捨てた私にはおあつらえ向きだとすら思った。

だが魔法少女になって少しして彼女に会ってしまった。

 

 

初めて見たときは心臓が止まるかと思った。

いつも良くしてくれるホームレスのおじさんに差し入れを持っていったら、

出ていく際に捨てていった私のアバターがそこにいたのだ。

何故そのアバターが眼の前にいるのか。

考えると恐ろしくなって逃げてしまった。

何か無いかととっさに出した魔法のアイテムも使えないものだったので投げ捨てて空へと飛んで行ったら、彼女はそれを私へと投げつけてきた。

捕まって押さえつけられた私は彼女に自分の名前を言ったら、それを聞いた彼女は一瞬泣きそうな顔をした。

だが彼女は結局その名前を聞かなかったことにしたらしい。

そのまま私をここへと連れてきて、二人に預けて帰っていった。

 

 

捨てた私は、今度は捨てられる立場となったわけだ。

 

 

置いて行かれた当時は諦めと悲しみしかなかった。

マスターに言われるままにアイテムを差し出すだけの人形だった。

きっと私にいらないと言われて病んでしまった母もこんな気持だったのだろう。

それを思うと更に悲しみと後悔で押しつぶされそうになった。

 

 

だがその後、キャンディ争奪が始まってから、彼女は毎日少数だがキャンディを送ってくるようになった。

そしてウサギのぬいぐるみも。

私は捨てられたわけじゃないのだと気付いた。

魔法少女たちの殺し合いが始まってると聞いて、私をそれに巻き込まないように守ってくれているのだとやっと気付いたのだ。

そして、やっぱりプレゼントはこれしか思いつかないのかと思ったら少し笑えるようになった。

 

 

最終調整が終わった。

ならば行くだけだ。

今度こそ間違わない。

いつまでも守られているだけの私じゃいられない。

胸を張ってただいまって言えるように。

 

 

マスターが頑張って来いと、柄にもないことを言ってくる。

ありがとう、でもねマスター、私はもうそんな名前じゃないよ。

その名前は他人が付けた名前だ。

私にはもう新しい名前がある。

 

 

 

私は鉄腕少女、母に貰った大切な宝物(なまえ)だ。

 

 




前々回の番外編「母」の続きです。


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魔法少女は嘲笑います

本日2話目です。

前話を見逃した方はそちらからどうぞ。


鉄腕少女は今、戦場に降り立った。

 

 

だがその姿は以前みた姿とは違っている。

愛らしいフォルムに色んな物が外付けされているのが分かる。

そして鉄腕少女は後ろから見ても分かるぐらいに怒りに震えている。

 

 

僕をそっと下ろした後、鉄腕少女が唐突に腕を振る。

森の妖精さんは咄嗟にジャンプして避けるとその背後にあったビルが輪切りにされた。

更に鉄腕少女の胸が開き、中から無数のミサイルが飛び出して森の妖精さんへと飛んでいく。

オッパイミサイルとは随分と分かっているじゃないか。

森の妖精さんもそれには少し驚いた顔をしたが衝撃波を出しなんなく撃破した。

鉄腕少女が一言加速とつぶやき、目にも止まらない速さで森の妖精さんへと接近。

腕からビームサーベルを出して斬りつける。

それを森の妖精さんは余裕を持って避け、逆にカウンターとばかりに鉄腕少女を殴りつけるが彼女は当たる直前に森の妖精さんの背後へと転移して蹴りつける。

 

 

すごい。

なんだあれは。

鉄腕少女の魔法はアイテムを1個だけ出せる能力だったはずだ。

改造ナースが車椅子へと組み込むことによって能力だけ取り出せるようになったとは聞いていた。

だがそれも元の魔法アイテムがあってこそだ。

鉄腕少女にはその魔法アイテムを持っていないはずだし、妖怪車椅子女も魔法アイテムはなかなか手に入らず余分な物は持っていないと言っていた。

だからこそケダモノの槍は貴重品として確保したのだ。

鉄腕少女は今色んなアイテムを使っているが、それは体の別々の場所から使用されている。

そんなにいっぱいの魔法アイテムなんて何処に…。

 

 

まさか、まさか自分の体を改造したのか!

いかに機械の体だからと言っても痛覚はあるのは初めて再会した時に分かっていただろう。

何故そこまでして強くなろうとするんだ。

何故そこまでして僕なんかを助けようとするんだ。

 

 

“娘だから”

 

 

彼女がこっちを向いて微笑んだ。

この距離で聞こえるはずがない、だが確かに彼女がそう言ったのが聞こえた。

 

 

それを聞いて()の記憶がどんどん溢れ出してくる

 

 

そんな…そんな理由はないだろう。

だって僕のことなんか(私のことなんか)いらないと言ったじゃないか!

だからこそ君の負担にならないように僕が生まれたのに。

君を傷つける”私”なんていらなかったから。

僕は、君を傷つけないように、もう君に捨てられないように、ただ同じ空間で平凡に暮らせればそれだけで良かったのに。

なんで魔法少女になんて、こんな戦場へと来てしまったんだ。

僕も、君も…。

 

 

嘲笑の声が響き渡る。

森の妖精さんが嘲笑っている。

そんな弱いやつらが勝てるわけがないと。

真に強い魔法少女だけが生き残れるのだと。

必要なのは強い魔法少女だけなのだと。

僕たちは出来損ないなのだと。

 

 

鉄腕少女がそれに反抗するように斬りつける。

だがそれまで防戦一方だった森の妖精さんが胸元から瓶を、その中から丸いものを数個取り出して口に放り込む。

 

あれは…もしかして元気が出る薬?

 

視界の端に廃寺で何かを探している犬の映像が映し出される。

奴め、双子のアレを回収していたのか!

気をつけろと伝える前にもう効果が発揮されていた。

音の衝撃波を使って縦横無尽に空を駆け鉄腕少女を何度も殴りつける。

鉄腕少女の装甲がどんどんと剥がれていきオイルが飛び散る。

 

 

そこに青い宝石が投げ込まれ青い子が現れる。

どうやら生きていたようだ。

だがその体はあちこちが焼け爛れていて、動きも精彩を欠いていた。

2,3回交差しただけで吹き飛ばされて意識を失い変身が解けてしまった。

この娘も中身おっさんじゃなかった、なになにッスとか言っていたから男だと思っただが。

 

 

森の妖精さんは鉄腕少女を優先すべきと考えたのだろう、倒れた青い子には見向きもしない。

鉄腕少女は最後の賭けに出るようだ。

バッグへと右手を突っ込んで…取り出した。

 

 

使えねええええとばかりに投げ捨てる。

 

 

やっぱりここ一番の引きに弱いらしい。

腹を据えた彼女は斬撃、ミサイル、サーベルに加速を使い森の妖精さんへと突撃する。

斬り、殴り、爆発、蹴りつけ、叩きつける。

空中を舞台にド派手な戦闘が繰り広げられる。

 

 

だがその戦闘も数分も続かなかった。

ミサイルも無限に撃てるわけではなかったのだろう、ビームサーベルを持つ腕も折られてしまっている。

見えない斬撃は予備動作が大きすぎて当たらないし、転移能力も回数制限があるのか途中からは使っていなかった。

加速をしようにもランドセルのバーニアは片方潰れて、もう片方も不規則な噴射でかろうじて体勢を整えるのに精一杯だ。

 

 

楽しかったけどそろそろお開きにしよう、そう森の妖精さんは嗤った。

 




ちなみに、昼間の町中です。
周りのビルにも人がいっぱいです。
きっと魔法の国は情報隠蔽に大変苦労するでしょう。

さて次回は最終回。
ハッピーエンドといけるでしょうか。
夜に投稿します。


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魔法少女はとんでもないものを投げていきました

本日3話目です
前回前々回を見逃した方はそちらから読んで下さいね。

今回が最終話です。
ハッピーエンドで終われるでしょうか。

そして可愛いあの子もチラッと登場するので最後まで見てくださいね。
さて一体誰でしょう。


上空には今にも落ちそうなぐらい傷だらけになった鉄腕少女の姿。

森の妖精さんはビルの上からそれを嗤いながら見上げている。

もう終わりとばかりに森の妖精さんは元気が出る薬を追加で飲む。

 

 

なんでだ。

 

なんで僕はこんなに弱いんだ。

 

大事な娘が目の前でボロボロにされていっているというのに!

 

また守れないのか。

 

彼女を守れないなら何もいらない。

 

彼女を守ってくれないこんな世界、どうなろうが構いやしない。

 

やってやる。

 

誰に迷惑をかけようか知った事か。

 

 

森の妖精さんが鉄腕少女にとどめを刺そうとビルの上から飛ぶ。

鉄腕少女はフラフラと未だ飛んでいられるのも不思議なぐらいの状態で上空に浮かんでいる。

あのままだと確実に殺されるだろう。

 

 

だがやらせない。

 

 

横になって立てない僕が投げられるものなんてもうこれだけだ。

今までだって投げようと思えばいつだって投げられた。

だがそれをしたときの被害が余りにも大きいからやらなかっただけ。

何が何でも倒すという決意が足りなかっただけだ。

 

 

視界の端で白いのが恍惚とした笑顔で思いっきりやれとサインを送ってくる。

 

 

ああ、やってやるさ、もう遠慮なんてするもんか。

全てを壊してでも守るんだ。

 

 

 

落ちろと叫ぶ森の妖精さんの声が聞こえる。

 

 

 

いいや、お前が”堕ちろ”

 

 

 

魔法を発動した途端、空中にいた森の妖精さんが地面へと叩きつけられる。

 

 

 

 

 

彼女は最期まで何が起こったのか分からなかっただろう。

叩きつけられた彼女は今までの頑丈さが嘘だったかのように潰れたトマトみたいになって、原型すら全く残っていなかった。

 

 

 

 

 

僕の魔法は重さも大きさも関係ない。

手で触れているものならなんでも投げられる。

そう、どんな巨大なものでも触っていさえすれば投げられるんだ。

当然”地球”だって投げられる。

一方○行さんだってできたことが僕にできないわけがない。

つまり森の妖精さんは地面に叩きつけられたんじゃなく、"地球"が森の妖精さんへと叩きつけられたのだ。

 

 

流石の森の妖精さんも地球なんて破壊できるはずもなく、その膨大な総重量をその身に受けて汚い染みへと変わってしまった。

今頃森の妖精さんだけじゃなく発動時に地面へと触れていなかった地球上の全ては叩きつけられるか上空高く舞い上がっているだろう。

鉄腕少女もいきなり高度が下がって取り乱しているが、森の妖精さんより上空にいたため叩きつけられることはなかった。

だがその被害は数十万人以上確定だ。

その上、たった4~50メートル程度だといっても確実に公転軌道が変わる。

これがどういう自然災害へと影響するか分からない。

上手くいったからいいが、発動した途端太陽の公転から外れて太陽系からはじき出される可能性もあった。

故に今まで躊躇して試せなかったんだ。

 

 

白いのを見るともう蕩けそうな笑顔で悶えている。

今すぐにでも救助に行きたいから巻きでお願いとサインを送ってきている。

 

 

結局白いのは自分のサディスティックな嗜好を満たすために一番多くの被害が出る解決策へと誘導してきたんだろう。

つい殺意が湧いてくるがああいう風にしたのは僕だった。

 

 

僕は鉄腕少女が支えてくれてなんとか立てるぐらいまでに回復した。

他の面子もみんななんとか生きているみたいだ、流石魔法少女、G並のしぶとさだ。

しかし確かまだ一つ残ってるんだよな。

グロい血染みになった辺りを探すとやっぱりあった魔法端末。

謎生物がそこから出てきて新しいマスター誕生おめでとうとかクソふざけたことを言ってきている。

 

 

白いのがこれなら壊せますよとケダモノの槍を持ってきてくれた。

だが壊してハイそれまでってなんか違うよな。

そんなんじゃ僕達の恨みは晴らせない。

こいつの嫌がることはないだろうか?

なに?こいつは退屈するのが一番困るって?

ほう、ちなみにこいつは権限凍結されているけど、この状態で動いたりは?できない?

なら決まりだろう。

 

 

僕は謎生物の入った端末を持つと空を見上げた。

ああ、一番星見つけた、あそこでいいや。

 

 

振りかぶって魔法を発動、一番星へとそれを投げつけた。

 

 

適当なところで誘導を切ってやるし、そのまま一人孤独に宇宙を彷徨っていればいいだろう。

寿命のない機械だし、魔法の国製で頑丈だから、永遠に楽しめるだろうよ。

今思いついたが最初からこれで森の妖精さんも宇宙へと投げてればよかったんじゃ。

白いのがテヘッっとしているからわざと気づかないように誘導してやがったなこいつ。

 

 

これで魔法少女騒動も終わりか。

 

 

で、僕はと言うと、漫画じゃあるまいし全てが簡単に円満解決とは行くわけがなく。

元人格は未だに引きこもっているし、これから魔法の国相手の交渉や被害賠償とかももしかしたらあるかもしれない。

今まで先払いで支援してもらった車椅子女へ労働力での返済もある。

一体何をやらされるのか今から不安でいっぱいだ。

あいつも水着女と同類の"妖怪"だしな。

しかし利用価値があるうちは大事にしてくれるので精々頑張って尻尾を振るしかないか。

 

 

まさに問題はマウント・フジも真っ青の山積み状態だ。

だけどそれもこれも一つずつ解決していけばいい。

だってもう僕は一人じゃない。

僕に寄り添っている鉄腕少女を見る。

 

 

おいおい、そんな顔するなよ、ロボットって泣けたのか。

もう離れたりしないからさ。

 

 

これからは一緒に取り戻していこう、僕達、いや私達の失った時間を。

なら当然最初に言う言葉はこれだな。

 

 

 

 

「おかえり、華乃」

 

 

 

 

魔法少女育成計画とかどうでもいいから平凡に暮らしたい-完-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年後、某市

 

“─県N市にあるマンションの一室で二人の女性の遺体が発見されました。女性は二人共上半身が消失していることから爆発物を使われたのではないかと───所持品から被害にあったのはこの部屋に住んでいる羽二──々さんと亜──”

 

 

朝から嫌なニュースやってるなぁ。

準備をしながら聞いていたTVから流れてきたニュースを聞いてため息をつく。

今日のお天気を聞こうと思ったのに…折角のデート気分がこんなのを聞いたら盛り下がっちゃうよ。

 

 

そう、今日は念願の初デート。

 

 

といっても魔法少女の姿でなんだけど…。

デート相手の彼は野球部のエースで四番、本当なら私みたいな子が付き合ったりできる人じゃない。

私はそんな彼に魔法少女の姿でお弁当を差し入れしました。

そうしたら彼からお弁当のお礼を言ってくれて、これからも作ってきてほしいって。

最初は話すだけでも本当に緊張した。

でも今まで役に立たないと思ってきた魔法が、実は今日の日のためにあったんだって、そう思えてきて本当に嬉しかったのを覚えている。

その後も彼にお弁当を渡して食べてもらい、そしてだんだんお話もできるようになって。

彼に告白したの。

彼はびっくりしていたけど、はにかんだような笑顔でよろしくって言ってくれた。

もちろん、魔法少女の私にだけどね。

でもいつの日か本当の私のことも知ってもらうんだ、頑張れ私っ。

 

 

今日のお弁当は今までより奮発したんだもん、きっと喜んでくれる。

やっぱりいつも通り魔法で作ったんだけどね。

いけない、もう待ち合わせ時間になっちゃう。

 

 

手早く準備して家を出る。

 

 

時間がないのですぐに魔法少女に変身して全力で走った。

魔法少女になってお料理魔法以外で得したことは身体能力が上がること。

普段の私なら絶対こんな早く走ったりできない。

周りの風景がどんどん変わっていく。

 

 

今日はまさにデート日和みたい。

雲一つない空、春の日差しが気持ちいい。

まるで今日という日を祝福してくれているみたい。

 

 

私、最高に幸せ。

勇気を出して告白してよかった。

 

 

待ち合わせ場所の駅が見えてきた。

もう待ってるかな?

彼の姿を探して駅を見渡す。

 

 

あ、彼だ。

手を振ってくれている。

 

 

私も笑顔で手を振り返す。

待っててね、今行くからね。

 

 

 

 

そして駆け出そうとしたところで後ろから誰かが私の肩を叩いて来た。

も~、一体誰?

そう言ってちょっと膨れて振り返ったら…

 

 

 

 

彼女は何もないところから浮かび上がるように現れた。

羽織っていた外套を脱いで、首を傾げながらこちらを見つめる"犬のキグルミ"を来た女の子。

濁った目が、深淵のような目が私を見つめていた。

 

 

 

 

“ねえ?あなた、魔法少女?”

 

 

 

 

“うん、わたしは魔───” 言い切る前に彼女の腕が振り下ろされた。

 

 

 

 

走り出した(いぬ)は止まらない

 




最後は開催されないrestartの主人公を友情出演させました。
この子は原作の表紙絵が可愛くて好きなんです。
原作ではリタイヤしてしまい結局付き合うことは出来なかったので夢を叶えてあげました。


ハッピーエンドって良いですよね。
"主人公"の"仲間"には最後まで誰も犠牲者出なかったし。
あととんでもないものを投げていきましたがやっぱり捏造です。
でももし重量制限とか無かったら投げれるんじゃないかなってやってみたかったんです、ゴメンナサイ。
あっさり死にすぎ?まほいくは死ぬ時はあっさり死ぬんですよw


あと主人公の魔法は"破壊されない限り誘導が切れない"という設定にしてあるので、
相手を掴んで魔法で投げると自力で誘導から抜け出せなくなり、超強いと思うので白いのさんがそれを思いつかないようにと思考誘導してました。
あの夕日に向かって投げろ!=必殺になっちゃいますからね。
ブ○リーさんをも倒した太陽最強ということで。
決してサブタイは問題解決とかを丸投げしたとかそういうものじゃないです、たぶん。


犬に狗の字を当てたのはネットで字を調べたら
"狗=犭勹口=勹(つつむ=天岩戸の立ち)に殻田(獣本能)で対処する、神を居ぬとする愚者=傲慢者=てんぐ"
"狗=犭(犬)+句(神は居ぬ)=天(神)を完全に無視すること"
とヤフー知恵袋
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1227610792
に書かれていたので
神様へ毎日お祈りしていた彼女が一年を経て"神様は誰も救ってはくれない"と悟ってしまった為に"狗"へと変わったと、そういう意味合いで付けました。

"神様が誰も救ってはくれないのなら、私が神様に代わって魔法少女を殲滅しないと"
そんな彼女の今後の活躍に期待です。


最後にこんな会話文が最後の最後まで出てこないような読みづらい小説に付き合ってくれてありがとうございます。
どうすれば表現できるかがなかなかに難しかったです。


次回作はまだ決まってませんがもしできたらもっと上手くかけるようにしたいです。


ではまた会う日まで。


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アフター番外編
白いの様がみてる


超蛇足なアフター番外編です。

捏造たっぷりだし、最終回の余韻も吹っ飛ぶギャグ展開もあります。

なので感動や世界観を壊したくない方はブラウザバックでよろしくです。

ちなみにまだ原作はrestartまでしか読んでません。

一応続きは買ってきたんだけど時間が…。

内容的には感想で読みたいって言われたトップなんとかさんの赤ちゃんの話と、
あとは今まで動向が不明だったメルヴィルさんとの対決です。

ちなみにメルヴィルさんの訛りは再現できませんでしたのであしからず。

ではどうぞ


───神様が誰も救ってはくれないのなら、

 

 

私が神様に代わって魔法少女を殲滅する───

 

 

 

 

“見つけた…トップスピード…やっと見つけた…”

 

その日、外套で身を隠しながら街を徘徊していたたまは偶然赤ん坊を抱いたトップスピードが空から降りてくるのを見かけた。

先日殺した二人と比べて彼女はいつも箒で移動しているので居場所が掴めない。

なのでこのチャンスを逃すわけにはいかない。

夢中で追いかけるとトップスピードが魔法少女姿のまま喫茶店に入店するのが見えた。

たまは気づかれないように変身を解除して一般人のふりをして喫茶店へと入り、何食わぬ顔で近くの席に座る。

トップスピードは見知らぬお姉さんと同席して歓談していた。

 

“ルーラちゃん達が死んだっていうのに、なんであんなに楽しそうに話せるの”

 

“ルーラちゃんもスイムちゃんも貴方達がいなければ死なないで今でも笑っていられたのに”

 

トップスピードは自分の娘だと、赤ん坊をお姉さんに見せている。

まるで世界には幸福しかないかのようなそんな輝くような笑顔だった。

 

“ルーラちゃん、スイムちゃん、あとミ…ミナ…ユ…エ…エ…えっと………………三つ子ちゃんの恨み、みんなの恨みを今こそ晴らさないと”

 

でも同席しているのは誰だろう?

そんな疑問が浮かんだ。

 

生き残っている魔法少女であんなに年上のお姉さんとか居なかったはず。

シスターとウインタープリズンはもう殺したし…。

だとしたら一般人なのかな?

もしかしたら知らない魔法少女かもしれないけど…。

でも私はあんな街をめちゃくちゃにして一般人を殺してきたあいつらと違う。

私の標的はあくまで魔法少女。

一般人を巻き込むなんてことは絶対しない。

私は自分の幸せのために魔法を使って他者を顧みない、そんなあいつらみたいな非道な魔法少女を根絶やしにするんだ。

だからお姉さん、早くどっかに行ってよ。

 

たまは殺意を押し殺しながらトップスピードが一人になるのを待ち続けていた。

 

そして彼女達の会話を聞いていたら。

 

「結構悩んでいたみたいだけど、その子の名前決まったのか?」

「ああ、早苗って名前にしたんだ」

 

その言葉によってたまの中でルーラとのとある記憶が呼び起こされた。

 

『早苗…さんですか?』

『どうせ私には似合わないって言うんでしょ。分かっているわよそんなこと』

 

それはルーラちゃんの名前。

連絡ってどうする?って話になった時にルーラちゃんが条件反射で差し出してしまった携帯を私も反射的に出してしまって、お互いの本名が交換されてしまったときの会話。

マジカルフォンでお互い連絡できるのにルーラちゃんって時々抜けてるから。

確か私はあの時こう答えたんだ。

 

『ううん、優しい響きでルーラちゃんらしいって感じがします』

そう言ったら

『優しさなんてリーダーたる私には不必要なものよ!』

そんな風に怒っていたけど、でもその時のルーラちゃんの口はちょっとだけ嬉しそうに笑んでいたのを覚えている。

 

そんなルーラちゃんの名前…。

 

「小雪がこの名前が良いんじゃないかって教えてくれてさ。あんなことがあったから、この子には散っていった子たちの想いを受け継いで大地に根ざしてほしいって。私だったら学がないからこんな良い名前思いつかなかったよ」

 

“ルーラちゃんやスイムちゃんや…えっと…他の人たちの想いを…”

 

それを聞いて私のやろうとしていることは間違っているんじゃないかって。

一瞬そんなことが頭を過ぎったけど。

すでに賽は投げられている。

もう後には引けないんだ。

でも…

 

たまは静かに席を立ち、店を出て行く。

振り返ると喫茶店の窓から赤ん坊を抱くトップスピードの優しい顔が見えた。

 

“トップスピードさん、あなたはまだ見逃してあげます。その子が巣立つまでは…”

 

たまはそっとその場を後にした。

 

 

+++++

 

喫茶店の向かいのビル屋上で去っていくたまを見送るスノーホワイト。

 

「私もあなたをまだ見逃してあげます。だからもっともっと楽しい”声”で満たされる世界にしてくださいね」

 

陶然とした笑みを浮かべて呟き、そしてリップル達が待つ喫茶店へと入っていった。

 

+++++

 

約束の時間を30分も遅れて白いのが喫茶店へと入ってきた。

 

「小雪ぃ遅刻だぞ」

 

トップなんとかさんは早速白いのに絡みだした。

 

「ごめんね、ちょっと野暮用を片付けてて。えっと、その子が?」

「ああ、小雪が考えてくれた早苗にしたんだ」

それを聞いて白いのが何か面白そうに笑う。

「ふふ、感謝してくださいね、トップスピードさん」

「ん?ああ、良い名前だからな。感謝してるぜ」

 

確かに中は真っ黒の白いのが考えた割にはまっとうな由来の名前だ、だが…

 

「僕も名前考えてやったのにな、ともえとかマミとかクラッシャー伊東とか」

「いやそれはないっす姉さん。なんだかそれボッチだったり早死しそうな感じがするし、そもそもクラッシャーって何?伊東って?」

 

良い名前じゃないか、クラッシャーって強そうじゃね?

 

「リップルさんに名前を考えてもらうこと自体が間違ってますよねー」

「姉さん、センス無いからなぁ」

 

失敬な。僕のハイセンスを理解できないなんて、なんて残念な奴らなんだ。

 

トップなんとかさんは僕が年上だと分かってから姉さんと呼ぶようになった。

組員みたいにアネさんと呼ばないだけマシだが、それでも男性人格の僕からすれば不本意である。

 

「それにしても、やっぱりこの格好は落ち着かないよ、変身解除なんて何ヶ月ぶりだっけ」

「姉さんのその姿ってレアだよな」

 

そう、今僕は変身を解除している。

娘と和解した後、恐る恐る解除したのだが狂ったりせずに戻ることができた。

だが年頃の娘の姿ならなんとか慣れていたが、それがいきなりおばさんとかハードル高すぎる。

それになんか組員の目が怪しいんだよな、やたらとジロジロ見るし。

きっと何このババア、キモイんだよとか思っているのだろう、泣きたい。

 

「いやさ、白いのがどうしてもこの姿で来てくれって。じゃないと夕飯抜きとかいうんだぜ。まったく、こんなおばさんと喫茶店とか誰得だよ」

「いやいや姉さん、何言ってるですか?めちゃくちゃキレーじゃないですか。これで18の娘がいるとか詐欺ですよ」

「それに確かまだ34歳ですよね、おばさんなんて年齢じゃないと思いますけど」

そう、確かに15の時にレイプされて華乃を産んだから、まだそんなに歳は行ってないんだっけ、そこら辺はあんまり思い出せないんだよな。

でも美人とかはないだろ、お肌ケアとか化粧とかそんなのやったことねーぞ、少なくとも僕になってからは。

 

「リップルさん、そんなに嫌なら、もう”聞こえなく”なったから変身していいですよ、感謝してくださいね」

「いや意味分からないから」

 

白いのがまたニヤニヤしてる。

こいつがニヤついてるときは大抵何かあるんだよな、くわばらくわばら。

 

「話は変わるけどさ、華乃達はやっぱりこれなかったんだな」

「ああ、車椅子からの依頼で青い子と黒いのの3人で、えっと、み・・・みたき・・見滝なんとかってところに調査に行ってる。なんでも魔法の国製じゃない野生の魔法少女が集まっているらしくてな」

 

魔法の国ができる前から存在している自然発生した魔法少女がいるらしい。

魔法の国のシステムで補助されてないから大した力は無いって聞いてはいるけど、魔法の国を作ったのは野生の魔法少女だって眉唾の伝承もあるぐらいだし、正直どんなのか想像付かない。

それに今回のそいつらは結構手練らしく、魔法の国が送り込んだ魔法少女一個小隊が未帰還になっているとか。

車椅子女はそいつらをなんとか取り込んで独立勢力を作るって息巻いていた。

 

本当は行かせたくなかったんだが、最近華乃に対して過保護すぎるって周りから言われて泣く泣く見守ることにした。

 

確かにあの子はちょっと直情的なところがあって危なっかしいんだけど、何かあれば青い子と黒いのが首に縄つけてでも引っ張って帰ってくるって言ってくれたし信じてるぞ。

でも何かあってみろ、タンクローリー1000台飛ばしてやる。火の海で戦争だ。

 

「大丈夫ですよ、今も到着早々に楽しそうな”声”が聞こえてますし、それに”本当”に危ない時は私が”調整”しますから」

そう言って口を吊り上げる白いの。

 

いやマジで怖いよお前。

絶対被害が大きくなるまで放置する気だろう?

こいつなら一人で行ってもすぐに解決できるんだろうけどなぁ。

 

「それに…このまま行けば…あぁ”聞こ”える!いっぱい、いっぱい”聞こ”えてくるよ!…ハァハァ………んんっ…ちょっとトイレに行ってきますね」

 

そう言ってのぼせた顔に蕩けるような笑みを浮かべた白いのは、下腹部を抑えながら本来魔法少女には必要のないトイレへと小走りに向かっていった。

 

駄目だこいつ、早くなんとかしないと。

 

僕とトップなんとかさんの心はその時確かに一つになっていた。

 

 

 

 

++++++++++++++++++++

 

おまけ。

【メルヴィル様もみてる】

 

 

“今回の候補者はちょっと手強い”

“一人異常なやつがいる。もしかしたら手を借りるかもしれない”

 

 

それがクラムベリーからの最後の連絡になった。

 

 

その後、クラムベリーは管理者権限を凍結され連絡が取れなくなってしまい、N市へと駆けつけたときには全てが終わっていた。

 

 

“世界が堕ちてきた日”

 

 

その日はそう呼ばれている。

突然飛んでいる物は落とされ、または吹き飛ばされたり跳ね上げられたりと、そんな現象が世界同時に起こった。

 

 

それを起こしたのがクラムベリーが言っていた”異常な魔法少女”らしい。

 

 

らしいとした理由は、その日、その災害で宇宙ステーションが重力に引かれて落下、魔法の国日本支部データセンターに直撃して消滅させたことに起因する。

その結果、当時見習いだった魔法少女のデータや試験のデータベースが一切消失してしまったのだ。

折しも魔法の国へのデータバックアップがある前日の事だったらしい。

 

 

その影響は多岐にわたり、また災害で見習いたちを導いていた管理者権限の魔法少女も何人も亡くなってしまい、何処にどんな見習い魔法少女がいたのかすら分からなくなったため、一旦全員を正規魔法少女へと繰り上げとした。

そして自己申告で魔法の国へ固有魔法の詳細登録をするように通達したが、未だに申告しない未登録魔法少女も多い。

そして申告はするが、実演の際にわざと力を抑えて能力を過少報告するものなどが多数出てくることになった。

 

 

なのでクラムベリーの試験の結果や魔法少女のデータは参加した魔法少女達の自己申告と当時音楽家討伐に派遣されていた魔法少女部隊の唯一の生き残りであるラピス・ラズリーヌの証言だけであった。

 

 

生き残った魔法少女はリップル、鉄腕少女、スノーホワイト、トップスピード、ハードゴア・アリス、キマシタワーの6人。

いや、キマシタワーは確か2人で1人の魔法少女だから7人か。

クラムベリーはその中のリップルが最後に放った大規模魔法によって倒された。

そして大規模魔法の余波で地球が揺れ、あらゆる航空機が墜落し、人工衛星や宇宙ステーションが地上へと降り注ぎ、世界中で数千万人もの被害者を出す大惨事へと繋がった。

 

 

そのリップルの魔法は”包丁を狙った所に当てる”という平凡な魔法だが、彼女には封印された人格が存在し、クラムベリーとの戦いでその封印が解け、その人格の固有魔法が放たれたのだとか。

今はその人格は再封印が施されて眠りに付いていると報告されている。

だが封印されたその人格の力は凄まじく、今でも本体に害が及ぼうとすると一部力が漏れ出して、実際に彼女を危険視して殺そうと襲いかかった魔法少女たちをその力で宇宙の果てまで弾き飛ばしている。

今や彼女は庇護者であるプフレの働きもあって、魔法の国ではアンタッチャブルな存在になっている。

だが…。

 

 

おれはクラムベリーを超える。

だから奴が本当にクラムベリーより強いのならそれを打ち倒すのみ。

 

 

リップルが住処としている鉄腕組のビルへ、そして魔法で体を透明にして開いている窓から組事務所へと入り込んだ。

 

 

メルヴィルの魔法は触れたものの色を自在に変えられる魔法だ。

これによって自分の体を見えないように偽装することも可能である。

そしてその隠蔽能力と持ち前の戦闘能力でクラムベリーからも認められる力を誇っている。

その能力によって誰にも気づかれることなく組事務所に入ることができた。

 

 

リップルがいた。

窓から入った場所はちょうどリップルが座る席の後ろだった。

聞いていたとおりの軍服姿。

だが彼女はだらしなく机にもたれかかりながら座って何かを弄っている。

その姿はスキだらけで到底クラムベリーを倒した猛者には見えなかった。

周りには組員もいるが、所詮は一般人。物の数には入らない。

 

 

見た目で実力がわからないなら。

ならば一当てして見るのみ。

それで死ぬならばその程度の存在だったってことだ。

 

 

そっと背後から近寄ろうとしたときだった。

 

 

「貴様っ見ているな!!!!」

 

 

リップルがいきなり立ち上がり、首をこちらへ向けそう叫んだ。

事前に気付いた素振りも、気付かれるようなヘマもしていない。

なのに何故?

そんな疑問で一瞬体が凍りついた。

 

 

「ふふふ・・・ふははははは!!貴様のようなエルフ風情が、この我を出し抜こうなんぞ100年早いわうつけ者が!」

 

 

そしてリップルはまっすぐと私の顔を指差してきて恫喝してきた。

 

 

更に彼女は左目を抑え、地の底から聞こえてくるようなおぞましい声で語りかけてきた。

 

 

「ぐふう…まだだ、まだお前が出てくるような”刻”ではない。静まれぇい、我が半身よ…。貴様も命が惜しければ封印されし魔人が開放される前に疾く去るが良い。貴様ごとき虫けらを殺しても何の誉れにもなりはしないわ、未熟者が」

 

 

その言葉におれは恥ずかしさに顔が真っ赤になり一目散に逃げ去った。

 

 

おれは馬鹿だ。おれは強くなったと勘違いして、ただただ魔法の力だけに頼っていた大馬鹿者だ。

しかも奴はそんな薄っぺらい魔法なんて簡単に見透かしていた。

驕っていたのはおれの方だった。

 

 

完敗だ。

あの方とおれは器そのものが違う。

こうなったら修練のやり直しだ。

一から鍛えなおして、恥ずかしくないおれになって、そしてあの方に仕えよう。

山ごもりだ。

 

 

そしてメルヴィルは山の奥深くへと帰っていった。

 

 

+++++

 

 

「アネさん、なんすかいきなり?」

 

 

怪訝な顔をした組員が問いかけてきた。

全力でやりきった僕は今更ながら恥ずかしくなった。

 

 

「いやさ、白いのがいきなり今すぐ『DI○様のモノマネとその後にファンタジー系中二病な魔王さまの即興劇』をやってくれってメールが来てだな」

 

 

それで考える限りの全力をつくしてみたんだが、今更考えると何を馬鹿なことをやってるんだろう。

 

 

「そもそも、小雪様って見滝なんとかってところへ人命救助に行ってるのに見れるわけないじゃないっすか」

 

 

まぁそうなんだけどね…一体何だったんだ?

 

 

“貴方のハートにピロリンパ~”

 

 

おっと早速白いのからメールだ、なになに?

 

 

『お疲れ様です。もう聞こえないんで大丈夫ですよ。感謝してくださいね』

 

 

何が!?

今日もそんな何事もなく平穏な一日でした。

 




白いのさんは本当にいい仕事します。

もし何か思いついたらまた書きますね。

ではでは。


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正義の魔法少女

とある人の魔法の能力がかなり捏造強化されてます。

考えるな、感じるんだ。

ギャグ小説に理論とか論理とかそんなもん最初から無い。

派手なら良いんだよ派手なら。

そんな感じでよろしくです。


「おめでとうぽん!あなたは魔法少女に選ばれたぽん!」

 

流れ星が落ちた夜、私たち5人は魔法少女になった。

 

これでなれるんだ、あの人と同じ正義の魔法少女に。

 

私の胸は期待に満ち溢れていた。

 

 

+++++

 

私は幼い頃から魔法少女の話を聞かされて育ってきた。

 

 

怖い思いをした時には”正義の魔法少女が守ってくれるから大丈夫”と、

悪いことをした時には”そんな子は悪い魔法少女に攫われてしまうよ”と…。

 

 

同じ魔法少女なのに正義の魔法少女と悪い魔法少女がいることが不思議で母にどう違うのか聞いた。

自分のために魔法を使って他人を傷つけるのが悪い魔法少女で、

自分が傷つくのを恐れずに他人のために魔法を使うのが正義の魔法少女だと。

 

 

小雪お姉ちゃんは良く魔法少女のお話をしてくれた。

お気に入りのお話は犬の魔法少女のお話だ。

 

 

それは私が生まれるちょっと前の出来事。

()()()()()()()()()()()()()が生み出した悪の魔法少女クラムベリーと()()()の正義の魔法少女達の戦いのお話。

クラムベリーは自分の欲望の為に破壊の限りを尽くし、多くの魔法少女が彼女の前に敗れていった。

そのクラムベリーがN市へとやってきた。

だけど当時N市には14人の正義の魔法少女たちがいて、力を合わせてクラムベリーに立ち向かった。

しかしクラムベリーは狡猾でとても強かった。

クラムベリーに騙されて正義の魔法少女同士で戦わされた子たちがいた。

卑怯にも寝ている所を家族ごとタンクローリーで押しつぶされて殺された魔法少女もいた。

だけど正義の魔法少女たちはどれだけ傷ついても諦めずに最後まで街の人たちの為に戦った。

そして最後に残った名前を捨てた犬の魔法少女、リーダーの魔法少女ルーラ、水を司る魔法少女スイムスイムの3人がクラムベリーに最後の戦いを挑んだ。

戦いは激しく、何度もやられそうになりながらも、最後にはルーラとスイムスイムの命をかけた魔法でクラムベリーの動きを止め、犬の魔法少女がとどめを刺した。

そして、一人生き残った犬の魔法少女は仲間たちの死を悼み、死んでいった仲間たちが寂しくないように自分の名前をそこに残して名無しになって何処かへと旅立っていった。

魔王リップルと、生み出された多くの悪の魔法少女を倒すための旅へと。

もし彼女達が命を賭けてクラムベリーを倒さなければ、お母さんも小雪お姉ちゃんも死んで、そして私も生まれることはなかった。

だから私も彼女たちのように誰かのために戦える、そんな正義の人になりなさいと小雪お姉ちゃんは言った。

 

 

幼い私はその犬の魔法少女のお話に夢中になって将来は正義の魔法少女になるんだとはしゃいでいた。

 

 

だけど、小学校にあがり、大きくなるにつれ、少しずつ現実というものを理解していった。

魔法少女なんて空想の存在。サンタクロースと同じでそんなものはいないのだと思うようになっていった。

 

 

12の夏、あの事件が起きるまでは。

 

 

その夏はおかしな夏だった。

母や母の友人、そして組員のみんなが毎日何かに恐れ、ピリピリしていた。

変わらないのはいつも笑顔の小雪お姉ちゃんだけ。

いや、いつもよりちょっと顔が火照っていてニコニコというよりニヤニヤしていたので夏風邪を引いていたのかもしれない。

 

 

そして私の小学校生活は大転換期を迎えた。

若頭のマサさんが毎日登下校を送迎するようになったのだ。

それが問題にならないわけがない。

考えて見てほしい、マサさんの格好はパンチパーマにサングラスをかけた強面に黒服姿。

頬には大きな刀傷でどこから見てもヤクザだと全身で主張している。

そんなマサさんが同じ黒服の舎弟さんたちを連れて黒ベンツで校門に待っているのだ。

しかも舎弟さんたちは襲撃を警戒して常に右手をスーツの中、左脇の下へと入れている。

こうなったら誰も校門を通ろうなんて考えない。

みんなの注目を一身に集めるその中に私が歩いて行く。

彼らは一斉に「お勤めご苦労様ですお嬢様」と大声で叫んで頭を下げるのだ。

どこの大親分の出所シーンだろう。

どんなに止めてほしいと言っても

「お嬢様に少しでも失礼があっちゃ、うちらアネさんとつばめ姉さんに血達磨にされてしまいます、あんな死ぬかと思うようなのは二度とゴメンです」と聞いてくれない。

 

 

それまで私は融通がきかないけど真面目で優等生な学級委員長として同級生や先生の信頼を得ていた。

その評判がひっくり返るまで3日もかからなかった。

私を頼りにしていた先生は、ビクビクして目を合わせようとせず敬語で話しかけてくる。もちろん直立不動だ。

口さがない同級生はヒソヒソとヤクザの娘、殺し屋の娘などと有る事無い事言ってくる。

私の家がヤクザと懇意があるのは事実なので何も言えない。

だがそのヤクザ、鉄腕組はヤクザと言っても世間一般的に知られる暴力団ではなく、任侠道を重んじる一家だ。

非道なことはせず、街の御用聞きや私的なボディーガード、最近では人小路の警備部門を外注されたりしている。

どちらかというと何でも屋や民間警備会社みたいなものだが、そんなことを説明しても普通の人は区別なんて付けてくれない。

故に私の今までの努力による評価は地に落ちて、私のストレスは天をも貫きかけていた。

だからだろう、あんな無謀なことをしたのは。

 

 

その日もマサさんたちが校門で待っていた。

しかも何故か今日は更に人数が多く、アネさんこと組長・華菜さんの専属ボディーガードにして鉄腕組の最終決戦兵器とも言われているメルヴィルさんまで来ていて周りにひたすら殺気を放っていた。

これはもう耐えられない。

私はコッソリと裏門から逃げるように学校から離れていった。

そして探しているであろう組員に見つからないように人気のない路地を通っていたら、いきなり誰かに抱え上げられて車に押し込められた。

そして連れてこられたのは西門前町にある廃れたお寺だった。

 

 

古いもう誰も管理していないように思えるお寺。

そこに大勢の色んな格好をした女の人達がいた。

 

 

「このガキが例の?」

「ああ、鉄腕組に出入りしているのを情報屋が確認済みだ。こいつの情報だけで500も取られたよ」

 

 

みんな奇抜な格好で、中には空を飛んでいる人もいた。

お寺の屋根の上、木の上、鐘の下に寝そべっている人もいる。

見えているだけで30人以上いるかもしれない。

そんな中、私は両肩を抑えられて座らされていた。

 

 

「こいつを生贄にして魔法を使えば、その血縁や懇意にしていたやつらに最大級の呪いを撒ける」

 

魔法使いみたいなローブと大きな杖を持った人が不吉なことを言う。

 

「白き災厄は本当に大丈夫なんだよな?」

「ああ、なんでも魔王パムとやりあったらしくて、半死半生なんだとよ。魔法が一切使えなくなったらしいぜ」

「これで夢見た革命がなるかと思うと興奮してくるぜ。あいつの仇、ここで取ってやる」

 

 

この人達は何を言っているんだろう。

 

 

話している意味はよく分からないが、それでも分かったこともある。

母さんたちがあんなに警戒していた理由。

彼女たちがおとぎ話で聞いた悪い魔法少女たちなのだということ。

そして、私はここで彼女たちに殺されるのだということを。

 

 

「さて、お嬢ちゃんには特に恨みはないが、まぁ、生まれる家を間違えたってことで死んでくれや」

「首から下は良いけど、上は呪いで使うんだから傷つけるなよ」

 

 

大きな鎌を持った魔法少女が私の前に立ち、その大鎌を高く振りかぶる。

 

 

もう私は死ぬんだ。

不思議と涙は出なかった。

お母さんの言いつけを守らなかったから、自業自得だ

だけどマサさん達が私のせいでお母さんに血達磨にされるかもしれないと考えると申し訳ない気持ちになった。

私では彼女たちには敵わない。

それでも私を殺そうとする人相手に怯えながら死にたくはない。

その一心で私は必死に恐怖を押し殺しながら大鎌の魔法少女を睨みつけた。

 

「良い目だ、生まれ変わったら来い。部下にしてやるからよ」

 

彼女が嗤いながら大鎌を振り下ろそうとしたところに小さな紙片が数枚飛んできて彼女の体に付いた。

そう見えたときには彼女の上半身と下半身はねじれて穴に吸い込まれるように消えていた。

 

 

その光景に周りの魔法少女たちが誰何の声をあげて辺りを見回す。

 

 

声が聞こえてきた。

 

 

『生者の為に施しを

死者の為に花束を』

 

 

「この文句…まさか…」

そう言った者の首が爆ぜた。

 

 

『正義の為に爪を研ぎ

悪漢共には死の制裁を』

 

 

「い、狗神よ…奴が来たのよ」

その名前を言った者の上半身が消失した。

 

 

『しかして我等聖者の列に加わらん』

 

 

もはや魔法少女達は混乱の極みで、無闇矢鱈と武器らしきものを振り回している人もいる。

「ば・・・化け物・・・」

「探せ!どこかにいるはずだ、探し出せ!」

彼女たちは必死になって声の主を探すが、何処にもその姿は見られない。

だけど着実に一人、また一人と体の各所を消失させて息絶えていく。

そして最後に残った魔法少女たちを包み込むように紙吹雪が舞った。

 

 

『ルーラちゃんとスイムちゃんの名に誓い、全ての不義に鉄槌を』

 

 

そしてその紙吹雪一枚一枚が魔法少女たちを巻き込むように穴を開けて全てを消失させていった。

 

 

たった1分も経たずに悪の魔法少女達は全員死に絶えていた。

 

 

いつの間にか私の前には一人の魔法少女が立っていた。

おとぎ話で聞いた犬の魔法少女が立っていた。

 

 

彼女は魔法少女たちの返り血が私にかからないように、その身で受け止めてくれていた。

その体は全身傷痕だらけで、顔の左半分には焼けただれたような痕があった。

普通ならそんな見た目の人を前にすると悲鳴を上げたりするのだろう。

だけど私にはそれを恐ろしいとは何故か思えなかった。

きっとそれは悪の魔法少女たちとの過酷な戦いの勲章なのだろう。

組員のみんなが傷痕を見せながら、これは誰と戦って付いたとか、これを付けたやつは強かったとかそんな話をしていた。

それを聞いた時は馬鹿じゃないのかなって思っていたけど、今なら分かる。

きっとこの傷こそが彼女の生きてきた道なのだと。

名前を捨てた彼女の人生なのだと。

 

 

「大…丈夫?怪我は…ない?」

彼女は訥々とした口調で聞いてきた。

「大丈夫、です。あの…貴方は…正義の魔法少女さん…ですか」

彼女はその言葉にちょっと驚いた顔をして、

「あたしは…正義の魔法少女なんかじゃないよ………もう正義なんてない」

そして悲しそうに笑った。

 

 

それがなんだか腹立たしく感じて。

「ちがう、あなたは私を助けてくれた!正義の魔法少女だよ!」

そしてその勢いのまま

 

 

「私は…私は貴方みたいな正義の魔法少女になりたかったの!!」

 

 

そう言っていた。

魔法少女なんていないと、つい30分も前にはそう思っていたのに。

 

 

驚いた顔をした彼女はため息を付いて優しく私の頭を撫でてくれた。

「あたしは…あいつらが言っていた狗神なの。復讐に狂った…ただの化け物。あなたはあたしのようにはならないでね」

 

 

その後、家の近くまで送ってくれて、そして彼女は去っていった。

彼女は今もまだ悪の魔法少女と戦っているのだろう。

それがどれだけ過酷で孤独な道なのか私には想像もつかない。

きっと一人で悪の魔法少女を倒すには正義だけでは足りず、狂気へと身を落とさなければならない時もあるのだろう。

だけど、それでも彼女は私にとって真の正義の魔法少女だ。

その日から私の夢は彼女の隣で戦い支えられる、そんな強い正義の魔法少女になることになった。

 

 

ちなみに帰ったらお母さんに血達磨にされたマサさんが土下座姿勢のまま他界しかけていました。

 

 

+++++

 

 

その事件から4年。

高校1年になった私は、未だ魔法少女にはなれていなかった。

どうやってなるのかすら分からない。

物知りの小雪お姉ちゃんに聞いても「なれたら良いね」って笑うだけ。

きっと夢見がちな子だと思われている。

華乃お姉ちゃんやメルヴィルさんは困ったような顔をするだけ。

でも彼女たちは代わりに護身術の訓練をしてくれるようになった。

 

 

そんな夢半ばな高校生活のある日、生徒会選挙立候補の準備をするために遅くまで学校に残っていると、学校裏の林の中に流れ星が落ちてくるのを見た。

いや、本当に流れ星だったら衝撃とかで大惨事になっている。

何かが起きている、そんな予感に誘われて落ちた場所へと向かっていた。

校舎を抜け、林に入り、未だに光を放つその場所へ無我夢中で走った。

 

 

はたしてそこには不思議な光景があった。

一言で言うなら少女アニメに出てくるマスコットキャラクター。

真ん中で黒と白に色分けされた、マスコットキャラクター以外に表現の仕方が分からない謎の生物がそこにいた。

私の他にも同じ学校の生徒が4人駆けつけていた。

何人かは見覚えがある。

彼女たちもその謎の生物を見て戸惑っている。

そしてその謎の生物は私達に話しかけてきた。

 

 

「ファヴだぽん。助けてほしいぽん。実はファヴは悪い魔法少女たちに狙われているぽん」

 

 

悪い魔法少女。

それを聞いて、私はやっとチャンスが来たんだと思った。

 

 

「それって!私、魔法少女になれるの!」

思ったときには口から出ていた。

周りはまだ自体が飲み込めてないようで、私に怪訝な顔を向けている。

 

 

「………そうだぽん。ファヴは魔王に力を封印されて今まで宇宙に飛ばされていたんだけど何とか抜け出せたぽん」

 

 

魔王!きっとおとぎ話にあったあの魔王のこと!

 

 

「その魔王って魔王リップルのことでしょ!やっぱり本当だったんだ」

「魔王って?室田さん一体何言ってるの?」

同級生が貴方頭おかしくなったんじゃないと呆れた声で言ってくる。

 

 

「魔王は魔王よ。昔、この街を襲った悪の魔法少女クラムベリーを生み出した魔王リップルっていうのがいるの。私は正義の魔法少女になって魔王を倒すのが夢なの!」

私は興奮したようにまくし立てた。

いや実際にこれ以上無いほど興奮していた。

 

 

「なんか…どうしてそうなってるのか分からないけど…そうだぽん!その魔王リップルが僕の敵だぽん。そこでこの魔法少女育成キットだぽん。これを使えば魔法少女になれるぽん…なぜか落下した所に落ちてたんだけど、不思議ぽん」

 

 

そしてファヴが取り出した5つのスマホ?が光ったかと思ったら、私たちの姿は一変していた。

 

 

「おめでとうぽん!あなたたちは魔法少女に選ばれたぽん!」

 

 

私を呆れたような目で見ていた彼女はフリフリのロリータファッションの少女になっていた。

他にも全身に目玉が付いている姿の少女、体が炎のようになっている少女、何故か裸に亀甲縛りのように縄を巻きつけている少女。

 

 

そして私の体は犬をモチーフにした魔法少女になっていた。

あの人と同じだ。

私の胸はもう喜びで弾けてしまいそうだった。

 

 

「この魔法少女育成キットは使った後、魔法少女をサポートする魔法端末になるぽん。そこにあなたたちの魔法少女名と魔法が書いてあるぽん。ちゃんと確認するぽん」

 

 

ファヴからスマホみたいな魔法の端末が渡される。

そこに私の名前が書いてあった。

 

『ユスティーツ・フント』

 

ドイツ語で正義の犬。

私はなれるんだ、正義の魔法少女に。あの人と同じ正義の魔法少女になれるんだ。

 

 

この日、私、室田早苗は念願の魔法少女へとなった。

 

 

もう一人の犬が今、走り出した。

 

 

+++++

 

 

その光景を少し離れた木の上で見ている一人の少女がいた。

 

「ふふふ。やっぱり”聞こえて”いたとおり、面白くなってきた」

 




???「喜べ少女。君の願いは、ようやく叶う」


さて誰のセリフでしょう。

なんだかんだ全部アイツのせいです。

続き?それは知らない日本語です。ヤッパリニホンゴムズカシイネー。



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尻の穴

タイガーマースークー!

を見てちょっと思いついただけなので短いです。

ギャグです。たんなるギャグ回です。
なので深く考えないように。


追記:とあるシーンの表現を変えました。


鉄腕組の対魔法少女戦では平均的な魔法少女1人に対し、組員が12人で1個小隊を作り、組所属の魔法少女が援軍に来るまで遅滞防御戦闘を行えるクオリティを求められています。

それを可能とする戦闘員を作り上げるために小雪様の鶴の一声で作られて運営されているのが、この戦闘組員養成機関『尻の穴』です。

『尻の穴』はスイス村からほど近いこの日本北アルプス山中に本拠を構えています。

鉄腕組組員はここで新人研修を受け、正組員になった後もローテンションを組んで定期的にここで研鑽を積むことになります。

 

 

「このクズ共ぉ~トロトロ走るんじゃないッスゥ~。えーと、まったく、なんたるざまだー、貴様らはぁ最低のぉーえーと、アリスちんこれなんて読むんッスか?ありがとうッス、うじむしだー!ダニだー!この宇宙でもっともげふっごほっ…むせったッス、えっと、劣った生き物だー」

手帳に書かれたセリフを棒読みでかったるそうに喋っているのはラズリーヌ軍曹様です。

彼女は近接戦闘のプロで、また魔法少女では珍しい極めて実践的な訓練を受けた経験があるので教官としては最高であります。

 

 

だが彼女の声を聞かされている組員の形相はまさに般若の如きで鬼気迫る勢いで走り続ける。

それもそうだろう。

彼らが今走っているベルトコンベアの背後には巨大なノコギリが水平に据えられて、少しでも速度を落とせば腰から二つに切り分けられることになる。

 

 

あのベルトコンベアの速度は時間が立つにつれ少しずつ上がっていき、終了時間はランダムとなっています。

これによって速度と持久力と精神力を鍛えるというのが考案者である小雪様の主張です。

この修業が終わる頃には大体半分の組員は物理的に半分になっています。

とってもシャレが効いていて小雪様は大満足だそうです。

 

 

その近くで別の修行を監督しているのが幹部のハードゴアアリスさん。

彼女の監督する修行はシンプルですね。

首の下まで土に埋めて動けなくなった組員をひたすら殴るだけの魔法少女なら誰でもできる単純作業です。

単純作業故に殴る作業は魔法少女になったばかりで力の加減が上手くできない見習いがやる場合が多いです。

この修業も優しい小雪様が考えたので30回殴られるだけで終わります。

ですが、殴られた時に目を瞑ってしまうと回数がリセットされます。

ゴスッ…ゴスッ…ゴスッ

「あ、目を閉じちゃダメですよぉ、殴っている私のノルマもリセットしちゃうんですよぉ」

 

 

この修行では組に入ったばかりの新人組員の矯正にもってこいです。

組に入るまでは喧嘩や暴走でオラオラ言わせていては自分は最強だと思いあがっているガキがたった3発も耐えられずに泣き出して、自分の立場ってものを強制的に教え込まされます。

これを30発耐えられるようになった暁にはどんな魔法少女を前にしても目が据わっている真の戦闘員か、もしくはどうしようもないM男の出来上がりです。

 

 

ちなみにどんなに痛みに耐えられるようになっても…

ゴスッ…ゴスッ…ゴキャンッ!…ゴロゴロゴロゴロ…

「ああーまた力加減間違えちゃったー、衛生兵さーん!首取れちゃいましたー!」

「はいは~い、お注射しますよ~」

こうしてやむを得ない理由で目を閉じてしまってもカウントはリセットされて最初からになります。

なので、最低でも100回ぐらいは殴られることになる、そんなとても思いやりのある修行です。

 

 

え?死人が出ているんじゃないかって?

大丈夫です。

この施設には、とりあえず生きてさえいれば”どんな状態でも”回復させられる魔法少女が常駐しているので。

だから例え頭が吹っ飛ぼうが、脳天から真っ二つになろうが直ぐ修行に復帰できます。

 

 

他にも素手で冬眠明けのヒグマと戦わされたり、時にはメルヴィル先生と鬼ごっこをしたりと楽しいレクリエーションを挟みながら、実践的な訓練を楽しめる。

そんな福利厚生の行き届いた魅力的な施設です。

これを考えてくれた小雪様は本当に女神のようなお方です。

 

 

そんな説明を若頭のマサさんが能面のような顔でする。

上司の命令で赴任したばかりの7753はこの地獄絵図を前にしてただただ呆然としていた。

 

 

「えっと…色々言いたいことはあるんですが…」

「はい、なんでも聞いてください」

7753はとりあえず手帳を見ながら罵っているラズリーヌ軍曹を指差す。

「あの手帳ってなんですか?」

「ああ、あれはツバメ姉さんが用意した、高校デビューのなんちゃってヤンキーを何処に出しても恥ずかしくないゾッキーへと育て上げるために現役時代に作った罵り手帳だそうです」

 

それを聞いて、分かったのかどうか微妙な顔をした7753は次にある人物のことを指差す。

 

「えっと、あそこでヤケクソ的に竹刀を振り回しながら訓練するぞーと荒ぶってる女の子は?」

 

マサさんはよくぞ聞いてくれたと笑顔になる。

 

「あの方こそ小雪様自らスカウトしてきたこの尻の穴に無くてはならない方です。のっこちゃん様といって、彼女があのように荒ぶるだけで、みんな率先して修行をしてくれるのです。彼女が来てから逃亡者は一人もいません」

 

 

そして「うおおおおもう我慢出来ーん」と叫びながらマサさんは修行をしに駆け出していった。

 

 

7753の本日の報告

「そろそろ引退したいです」

 




limited前編読みました。

7753可愛いですね。

これから後編読むんですが、是非生き残って欲しいです。
でも死んだらこっちの出番は増えるかも。


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スノーホワイトという少女

みんながスノーホワイト真っ黒だよとか汚い流石スノーホワイト汚いとか言うので、
その誤解を払拭するために綺麗なスノーホワイトさんのお話を書きました。

ついでに7753の話とか、鉄腕組についても。

時系列的には前回の翌日です。


鉄腕組

組長・”魔王”リップル

危険度SSS

 

“クラムベリーの子供たち”が多数所属していて、その中で組長を務める”魔王”リップルはクラムベリーを一撃で殺して地球に壊滅的な被害を与えた超大規模破壊魔法を使う危険人物である。

リップルの異名”魔王”はその想像を絶する超大規模破壊魔法から付けられたと言われいている。

魔王パムもこの異名については異存ないとコメントしている。

 

暴力団としての規模としては中堅どころだが、完全に独立した組織であり、構成員の総数は多くはない。

だが多くはないというのは一般人として数えた場合であり、所属する魔法少女の数はなかなかの人数を有している。

所属している魔法少女は名のしれた凄腕が多く、また新人の見習い魔法少女のスカウトと教導も積極的に行っている。

鉄腕組と”魔王”リップルの教育を受けた魔法少女はどんな平凡な魔法や能力であっても一流の魔法少女へと成長していくことは有名である。

今では”魔王”リップルの薫陶を受けた魔法少女達は”リップルの子供たち”と呼ばれ畏怖の対象となっている。

 

 

+++++

 

 

7753は赴任前に見せられた鉄腕組の資料を思い返していた。

これからそんな人外魔境が裸足で逃げ出すような場所に赴かなければいけない自分の身の不幸を呪った。

もし生きて帰れたら辞表を出そう。

貯金もある程度溜まったし、こんな命がいくつあっても足りない任務をやり続けるよりハローワークへと通うほうがほうがよっぽど建設的だろう。

介護職とかキツイらしいけど死なないだけマシかな?

そんな考えすら浮かんできた。

 

 

昨日見た鉄腕組の訓練所を思い出すだけでどれだけ異常な組織なのか分かるというものだ。

調査対象者の都合で本来昨日会う予定だったのがダメになり、暇になった所を若頭のマサさんに訓練所の視察へと誘われたのだ。

 

 

そのマサさんが今日も案内をしてくれている。

淡々と説明していたからクールな人なのかなって思っていたけど、他の人の訓練を見て我慢できなくなって参加するなんて子供っぽいところもあるのね。

パンチパーマも最初は怖かったけど、見慣れてくるとちょっと可愛いく思えてくるし、何より逞しくてイケメンなのよね。

マサさんの厚い胸板に抱かれたりとかしちゃったら…

いけない、なんてこと考えてるの私。まだ仕事中なのに。

魔法少女を長くやってると男性と疎遠になっちゃうのよね。

このままだとあっという間に歳を取って『ポ○ーテールの四十』とか歌っちゃうことになるかも。

今度婚活ってのに行ってみようかな。

 

 

そんな現実逃避をしていたら鉄腕組の本部ビルに着いていた。

本部ビルがあるこの街はクラムベリーが最期に戦った場所です。

激しい戦いで周辺のビルは軒並み倒壊して、路面もめくれ上がり荒れ果てていたのを覚えている。

その影響で当時のここの市はN市へと統廃合され、鉄腕組と縁のある人小路の援助によって復興されていった。

今ではN市の市長と市議会は人小路の息がかかった議員で占められていて、人小路家の飛地とまで言われている。

街並みも当時の荒廃した面影は無く、近代的なビルが立ち並ぶ一大商業地区へと生まれ変わっていた。

7753がその差を感じられたのは、ここに来たのが初めてではないからだ。

 

 

クラムベリー騒動後、私は人事部門の極秘調査として、”魔王”リップルと生き残りの魔法少女たちを見に来ていた。

だけど何故か来る途中も街に到着した後も、どんどん不運なトラブルばかり発生して誰一人見つけられなかった。

それでもなんとか彼女達が住処にしている鉄腕組仮事務所へとたどり着いた時には、

彼女たちは魔法の国へと登録申請をしに出かけた後でした。

それを聞いて急いで戻ろうとしたら今度は革命家気取りの反体制派魔法少女グループに追い掛け回されることになった。

みっともなく泣きながらもなんとか命からがら逃げ延びて来たときには、リップル達はもう登録審査も魔法の実技も終えて帰った後でした。

私はその後、神社で人生初の厄払いをしてもらいました。

 

 

そんな波乱万丈な前回と違い、今回はすんなり来られたので少し安堵しました。

鉄腕組のビルは街の復興時に建てられたから築6年ぐらいかな。

外見は8階建てと地方都市としてはそこそこ大きいけど、普通のビジネスオフィスビルに見える。

だけど見た目こそ普通のビルに見えるけど、魔法少女の攻撃に耐えられる防御力に改造してあるとマサさんが説明してくれる。

なんでもクラムベリー騒動の時に、魔法少女からの砲撃や襲撃で何度も組事務所を焼け出された経験が活かされているそうです。

マサさんなりのジョークなのかな思ったけど、どうやらマジらしいです。

そんな経験、魔法少女になってからでも早々出来はしないだろう。

クラムベリーの試験の恐ろしさを改めて感じるエピソードです。

 

 

ビルの中は全てが組事務所というわけではなく、3階までは関連会社のテナントや食事処なども入っており、組事務所のエリアは4階より上のフロアでした。

私が今回会う約束をしている調査対象者は7階に専用部屋を持っているそうです。

ただ、このビル…食事処で働いているあの個性的な格好のウエイトレスや…廊下で頻繁にすれ違う個性的な服を着た可愛い少女たちって…。

どうやらやっぱり彼女たちは全員魔法少女だそうです。

何でしょうこの人数は。

しかもみんな常に変身状態で、いつ何が起きても大丈夫なように気を抜いている様子もない。

まるで魔法の国の軍事施設にいるみたい。

 

 

いつもこんなに魔法少女がいるのかをマサさんに聞いてみたら

「いえ、今日はアネさん、いや組長と一緒に出掛けているので大分人数は少ないですよ。残っているのは非戦闘系魔法少女ばかりですし」

 

非戦闘系魔法少女でこの練度なのに驚いていると

「”備えよ、常に”、”常在戦場”、”変身シーンを待ってくれるのは特撮番組の中だけ”が組長の訓辞ですから」

と誇らしげに話してくれた。

非戦闘系の方達でも良いので人事部門に別けてくれませんか?

 

 

そしてやってきた7階。

今回の調査対象者はスノーホワイトさん。

巷では”白き災厄”、”鉄腕組の白い悪魔”、”高きより見下ろす白”など、様々な異名で呼ばれる災厄の魔女。

彼女を害そうとした者は尽く不幸な目にあって自滅していくこと。

そして、ありとあらゆる災害現場やテロ現場で彼女の姿が目撃されていること。

彼女の異名はそうした理由から付けられたのでしょう。

この鉄腕組では組長の右腕にして脳筋が多い鉄腕組の実質的な頭脳なのだとマサさんが教えてくれた。

そんな相手にこれから私は魔法をかけないといけない事を思うと気が重くなります。

 

 

私の魔法は魔法のゴーグルを付けて相手を見ると、その相手の情報が全て詳らかにされるという能力です。

戦闘力から性格、趣味にこれまでどんな人生を送ってきたのかすら。

本人ですら気付いていないことでも全て調べることが可能な能力。

その魔法の有効性から私はお給料が貰える魔法の国の人事部門で働けるようになりました。

反体制派に所属していたり、反社会的な趣味や嗜好を持った魔法少女を私の目で暴いて事件やテロなどを事前に防ぐというお仕事。

人事部門の人員としては理想の魔法だそうです。

今までにも新人研修や調査任務で要注意魔法少女の情報を覗き見ることも経験してきましたが、危険な相手に対しては当人に知らせずに見ていました。

ですが今回は上司がスノーホワイト当人に魔法の効果を教え、それを使用して調査する許可を取ってきたのです。

災厄とも言われる怖い人相手にそんな許可を取ってこられる上司が一番謎です。

………もしかして、魔法を使った後に口封じで殺されたりしないですよね?

 

 

「小雪様、マサです。お客人をお連れしました」

マサさんがノックをして中へと声を掛ける。

すると無言で中から扉が開けられました。

 

 

開けてくれたのは昨日訓練所で見かけたハードゴアアリスさん。

確か調査書によると、”不死者”や”パーフェクトゾンビ”とか言われている特殊な魔法少女です。

どんなにダメージを受けようが、マグマに放り込まれても再生する死なない魔法を使う代わりに、脳が腐敗していて知能がまったくなく、簡単な命令しか受け付けず、命令がなければ一日中ボーッと立っているだけ。

そのせいで未だ一度も変身を解除できずにいる可哀想な魔法少女らしいです。

話す言葉も「フンガー」だけだとか。

そのせいで、魔法は強力でも脅威度はまったくなく、人事部門でも無視していいと言われました。

その彼女は生前?スノーホワイトを好きだったらしく、ゾンビになった後でも、いや魔法少女になった後でもずっとスノーホワイトの側にいるそうです。

彼女の健気さに少し涙が出てきます。

 

 

スノーホワイトさんのお部屋ですがピンクを基調とした可愛らしいお部屋です。

ヌイグルミとお花、そしてフリルで飾り立てられたお部屋に一瞬ここがヤクザのビルの中だということを忘れそうになりました。

ここがスノーホワイトさんの専用仕事部屋だそうです。

その部屋の主はソファに座り、女の子に絵本を読み聞かせています。

 

 

「………こうして犬の魔法少女さんは魔法料理で男の子を誑かして頭からマルカジリしようとした悪い魔法少女をやっつけたのでした。

早苗ちゃんは知らない人に美味しいものがあるからって言われてもついていっちゃダメだよ」

 

 

女の子は話を聞きながら犬の魔法少女さんはやっぱり凄いね、と目を輝かせています。

これは魔法少女にするための英才教育なのでしょうか?

どちらかと言うと洗脳かしら。

そして話が一区切り付いたスノーホワイトさんは女の子を帰宅させるようです。

 

「アリスちゃん、早苗ちゃんを家まで送っていってあげて。”ちゃんと家まで”ね」

 

女の子は私に気付いてトコトコとやってきて

「はじめまして、むろたさなえ、6さいです」

と可愛らしくお辞儀をしてきました。

「7753よ。よろしくね、早苗ちゃん」

「ななこさん、もっとおはなししたいけど、きょうはもうさようならなの。ごめんなさい、バイバイ」

と手を振ってアリスさんと一緒に部屋を出ていきました。

その間もスノーホワイトさんはニコニコと笑顔でこちらを見ていました。

 

 

+++++

 

 

やっと今日のハイライト、スノーホワイトさんとの対談です。

お互い向かい合ってソファに座っているんですが、スノーホワイトさんの背後と私の背後に目が据わっている黒服さん達がいるのがちょっと怖いです。

本当に、口封じとかされないですよね?

スノーホワイトさんはずっとニコニコと笑っていて内心が読めません。

 

 

「あの、うちの上司から話は行っているかと思いますが、今回は私の魔法でスノーホワイトさんの調査をさせていただきます。

私の魔法を使うとどんな情報も隠すことは出来なくなりますがよろしいですか?」

「はい、伺っております。私には人様に隠し立てするような行いはありませんのでどうぞなんでも見ていってください」

やはり表情は変わらずニコニコとしている。

こうなったら本当に魔法を使わないと何も成果は出ないだろう。

せめて口封じに対して牽制だけはしておかないと。

 

「警告しますが、私の魔法を使うとリアルタイムで人事部門の上司にデータが送信されます。不都合な情報を見られたからと言って口封じをしても意味が無いことをお伝えしておきます」

スノーホワイトさんが頷くのを見て魔法を使った。

 

 

スノーホワイト。本名、姫河小雪。21歳。

趣味、「人命救助」「人間観察」「人間賛歌を謳うこと」…人間賛歌ってなに???

趣味で変なのが出てきたけど、こんなのはどうでもいい。

大切な項目に絞ってデータを呼び出す。

 

 

戦闘力はっと……………あれ?ハートマークがゼロ?いや微かに欠片みたいなのがある。

これって周りの組員さん達どころかなりたてホヤホヤの非戦闘系見習い魔法少女よりも弱いんじゃないのかな?

あれ?いくら非戦闘系の見習い魔法少女でも一般人の10倍ぐらいは強かったはずだけど。

周りの黒服さん達が怖くなるので深く考えないようにしよう。

 

 

それじゃ、今まで殺した魔法少女の人数。ハートマーク、ゼロ。

 

 

おかしい、今まで殺した一般人の人数。やっぱりゼロ。

 

 

ええと、それじゃ大抵の魔法少女はやったことがある、無賃乗車の数………ゼロでした。

 

 

どういうことなの?

彼女は本当に”白き災厄”のスノーホワイト?

テロリストや反体制派魔法少女たちを恐怖のどん底に叩き落とした災厄の魔女じゃないの?

でも確かにスノーホワイトって名前が表示されている。

 

 

えっと、彼女を恐れている人で検索…ハートマークで埋め尽くされました。どうやら本人のようです。

だとしたらどうして?

 

 

疑問に思った私は先程の趣味を思い出し、『助けた人の数』で検索したら。

さっきよりも多くの数のハートで埋め尽くされました。

もしかして、彼女は噂されているような魔法少女ではなく、誤解されているだけなんじゃないのかな。

彼女の魔法を見てみると”困っている人の心の声が聞こえるよ”という彼女の異名からは程遠い優しい魔法が表示される。

その魔法を使って災害現場や事故現場で困っているみんなを助けているよ、と表示される。

それを見てもし冤罪ならば彼女の汚名を晴らしてあげないといけないという謎の使命感に燃えて、私は更に彼女の人生の軌跡を辿っていく。

 

それによってわかったこと。

彼女の転換期はクラムベリーの試験にあった。

 

 

スノーホワイトの行為は全てが善意によって成り立っていることが分かった。

現在の彼女には悪意という感情が全く存在しない。

否、悪意という感情を持つことが出来ないのだ。

 

 

その原因はクラムベリーによって植え付けられたトラウマ。

彼女はクラムベリー試験の際に幼馴染をクラムベリーに殺された事を知り、恨みと怒りを晴らすために"悪意"をもってクラムベリーへと戦いを挑んだ。

だが彼女はクラムベリーに返り討ちにされて、危うく死ぬのところまで追い詰められ、それがトラウマとなり"悪意"という感情を持つことができなくなった。

 

 

また、その後リップルからクラムベリー対策として魔法訓練を受ける際にも問題が発生した。

当時、リップルは"怒ることも泣くこともできなくしてやる"といった教育方針でひたすら精神を追い詰める訓練を5日間受けることになった。

どれだけ不満を爆発させても、涙を流そうとも終わることのない闘牌。

常に魔法を使うことを強要され、すべての行動の結果を魔法で計測できるようになり、息をするように魔法を使えるようになるまで吐いても呻いても訓練は終わることがなかった。

その結果、彼女の感情は喜怒哀楽のうち怒と哀の感情が消失してしまった。

 

 

故に彼女は常に善意で行動し、未来への愉しみと日々の悦びだけを感じ生きているのだ。

 

 

彼女以上の白く正しい魔法少女は他にはいない。

故にスノーホワイトという名前が与えられたのだろう。

7753はゴーグルに映し出されるそのデータから彼女に危険性はないと感じていた。

彼女につきまとう不吉な評判は、すべて不運による自業自得、因果応報というやつであろう。

この情報を上司に伝え、一刻も早く冤罪を払拭すべきであろう。

それがこの人を救うことだけを常に考えている彼女に対する私達魔法少女の誠意であると感じる。

 

 

スノーホワイトさんは確かに精神を病んでいるのでしょうけど…。

だがそれで何か害をなすという事がないのなら、問題はないわね。

むしろ人命救助の実績を見る限り、ちょっと可愛そうだけどこのまま治らないでいたほうがいいのかも。

 

 

魔法を使って少し疲れた私に、部屋の隅で待機していた可愛いメイドさんがお茶を差し出してくれた。

とても美味しいお茶だ。

開いた窓から吹き込む風も心地よく感じる。

彼女のようなステキな魔法少女に会えたという嬉しい気持ちがそう感じさせるのだろうか。

 

 

お茶を飲んで一息つき、スノーホワイトさんに向き直る。

「調査は完了しました。スノーホワイトさんにはなんの瑕疵も見られませんでした。正直何故貴方のような方がここにいるのかが不思議なほどです」

「いえ、私は常に現場にいたいのです。ここには助けを求めている方がたくさんいますので」

「貴方のような方には是非魔法の国で働いてもらいたいですけどね」

「ふふふ、考えておきます」

 

 

和やかに対談は終わろうとしていた。

 

 

していたのだが、そうはいかなかった。

いつの間にか窓に一人の魔法少女が立っていた。

 

 

「見つけた、白き災厄!!魔法結社「こだわりのある革命家の集い」の仇、今ここで討ってやる!」

 

 

「こだわりのある革命家の集い」、聞いたことがある。

確か白き災厄を襲おうとして何故か魔法の国外交部門の慰安旅行のバスに襲撃をかけて、結果魔王パムさんに蹴散らされた馬鹿ゲフンゲフン、おっちょこちょいの集まりだったはず。

 

 

刺客が動き出す前に黒服さん達が銃を抜き、彼女へと躊躇いなく銃撃する。

しかし、弾丸は彼女の体をすり抜けていき、薄っすらと消えていった。

 

 

「対魔法少女戦、ケースB!魔法は実態のない迷彩系!近接戦闘開始!魔法の武器を出せ!各員目に頼るな気配をさぐれ!メルヴィル先生との鬼ごっこを思い出せ!」

マサさんがすかさず指示を出し、メイドさんから禍々しい黒い槍を受け取る。

「アネさんのケダモノの槍、使わせてもらいます」

 

 

私の前に立っていた黒服さんがいきなり吹き飛んだ。

そのまま水平に飛んでいき壁に叩きつけられる。

あれは不味い、あんな叩きつけられ方したら確実に死んでしまう。

私が付いていながら一般人に被害を出させるなんて。

一瞬血の気が引いたが

 

 

「怪我はないか?」

「平気ですよ。肋骨が何本か折れただけです。アリスさんの腹パンに比べたら蚊が刺したようなもんでさ」

「ハハッ確かにそんなもの怪我のうちに入らんな」

と笑いあって何事もなく戦線に復帰した。

 

 

それを見て唖然としているとマサさんにいきなり抱き寄せられた。

「7753あぶねぇ!」

そして強い衝撃が彼の胸板ごしに伝わってくる。

 

 

刺客の攻撃を抱き寄せてかばってくれたのだ。

その行為に戦闘中だと言うのに不覚にもキュンと来てしまった。

 

 

マサさんは目を瞑って意識を集中している。

これはキスをすべき場面ではないだろうか。

視界の隅でメイドさんが、やれっブチュっとやっちまえ!とジェスチャーしてくる。

恐る恐る唇を差し出していたら。

 

 

「見つけた!」

とマサさんが目をカッと見開いて、

右後ろに槍を突き出した。

 

 

断末魔の声とともに、魔法が解除された女性が現れた。

槍は心臓を穿ったようで、彼女はもう虫の息です。

 

 

「7753、こいつの名前、視てやってもらえますか?」

マサさんが痛ましそうにその女性を見ている。

スノーホワイトさんも「どうして?どうしてこんなことに?何でみんな仲良く出来ないの?」と表情の抜け落ちた顔で言う。

哀の感情がなくなった彼女には涙を流すことすら出来ないのだろう。

 

 

「彼女の名前は────です」

マサさんに伝える。

 

 

ちょうど事切れた彼女にマサさんは手を合わせ黙祷して、そして槍に彼女の名前を書く。

その槍はよく見たら黒いのではなく、びっしりと名前が書き込まれて黒くなっているのが分かる。

 

 

「この槍は、アネさんがクラムベリーとの騒動のなかで他の魔法少女を殺して手に入れた槍でさ、自分が殺していった子達の名前を書いて、せめて殺した自分は彼女たちの事を忘れること無く罪を背負っていくって、そうやって今でもこの槍で殺めた人の名前を書いていってるんですよ」

そういって、サングラスから流れた涙を部下の人たちに見えないようにそっと拭う。

 

 

「俺はそんな不器用なアネさんに一生ついていくって決めてるんですよ。例えアネさんが誰に恨まれようが疎んじられようが」

それを聞いて、マサさんの信じるアネさん、リップルさんを私も信じてみたくなった。

きっとスノーホワイトさんも同じ気持ちなのだろう。

 

 

スノーホワイトさんと同じようにリップルさんもまた言われているほど悪い人じゃないのかもしれない。

マサさんの言うように不器用なだけなのだろう。

何故かそう思えてきた。

そして、そんなリップルさんを支える彼のことは私が支えたいとも。

ふと見るとメイドさんがガッツポーズをして、スノーホワイトさんがニヤニヤと笑っていた。

どうやら私の淡い恋心は見透かされてしまったようだ。

思わず顔が赤くなって、逃げるように鉄腕組から立ち去ってしまった。

帰り際にこれからの連絡先と言われて渡されたマサさんの名刺を胸に抱いて。

 

 

 

 

7753の本日の報告

「寿退社しようと思います」

 




どうでしょう、スノーホワイトさんは単に誤解されていただけなんですよ。
全部善意の気持ちなんです。
ただ単に人を救いたいだけなんですよ。
ところで部屋にいたメイドさんって誰なんだろうなー謎だなー。

ところでまだ後編読んでません。
7753は一体どうなるんだー。

追記:アリスの扱いですが、意思がないって思われてるのはただ単に魔法が強力なので警戒されないように嘘申告してるだけです。
自由意志ないですよーだから安全ですよーって。
それに騙されてホイホイ近寄ってきた馬鹿はアリスちんに腹パンされて死にますので注意。


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仇討ち

limited後編読みました。

トットポップが可愛くて可愛くて、彼女にも幸せになって欲しいと書いていたのですが…
なんかマサさんと7753の話になってました。
そういうのがお嫌いな方はブラウザバックよろしくです。

今回までの3話分で7753三部作ということにして次回から魔法少女同士のお話にもどりますので、ご容赦を。


魔法の国の変革を目論む反体制組織は派閥などの兼ね合いでいくつも存在している。

中には同盟関係などもあるが、派閥や利益、思想の関係でお互い信頼しあっている組織などは稀である。

 

 

トットポップの所属する"素材にこだわる解放戦線"はそんな稀に当たる同盟を結んでいた。

だがその同盟相手は先日壊滅してしまった。

同盟相手の最期の生き残りである魔法少女が鉄腕組へと殴り込みをかけて死亡したしたのだ。

 

 

だがたった一人で鉄腕組の本部ビル、しかも白き災厄の目前まで迫った彼女の存在は裏業界に驚愕を与えた。

鉄腕組、しかも白き災厄を狙おうと画策して行動を起こしたものは多いが、

だが大抵ろくでもない目にあって、白き災厄の目の前にたどり着くことなど出来たものはいない。

 

 

そんな災厄のような存在に目の前まで迫れた彼女の強運と実力を後から知った各組織は、

どうして生前に勧誘できなかったのか。

せめて彼女が仇討ちに出る時に協力できていれば成功したのではないか。

と悔やむ声があちこちからあがった。

同盟を組んでいたトットポップたちの組織では特にその声が大きく、

連絡を取り合っていたトットポップの班への責任追及は苛烈であった。

 

 

+++++

 

 

「トット達だけで仇討ちですか」

その命令を聞いてこれは見せしめだなと感じた。

 

 

「そうだ、聞けば件の魔法少女の死因は一般人だと言うではないか。

いかにそいつが魔王の槍を使ったとは言え、魔法少女が一般人に敗れるというのは外聞が悪いと上は考えている。

なのでそのイレギュラーの一般人を早急に排除する必要がある」

 

 

トットたちなら仇討ちという理由で襲撃をしてもおかしくはない。

そして殺した後からそいつは魔法少女だったということにするらしい。

それにトットたち複数人が襲撃すれば当然向こうも魔法少女を出してくるだろうし、やっぱり彼女が死んだ理由も魔法少女が支援していたからだということにするそうだ。

トットが考えるだけでもかなり穴がある計画に見えるけど、

上層部が作戦の素材にこだわり机上の空論を振り回すのはいつものことだ。

その作戦に振り回される生贄の順番が回ってきたに過ぎない。

“外人女性に弱い日本ボーイを捕まえて憧れの結婚生活”という雑誌の特集に騙されてホイホイ日本に来た結果がこれだよ。

いくら楽観主義のトットでも流石に今回ばかりは死ぬなーという思いを振り払えなかった。

せめてイギリスから付いてきてくれた部下たちはなんとしても生きて返さないと。

 

 

+++++

 

 

今日はマサさんと念願のデートです。

あの上司が交渉してセッティングしてくれるなんてケダモノの槍でも降るのでしょうか。

もし降るならデートが終わってからにしてください。

 

 

先日のスノーホワイトさんへの調査の後、寿退社を申し出たのですが、

せめて実際に結婚してから言えと却下されました。

でも私の一週間に及ぶ説得にあの上司もとうとう折れ、

鉄腕組への長期的な監査及び交渉窓口という名目での赴任を得ることが出来ました。

ですが、折角同じ職場にいるのにマサさんには組の仕事や訓練で忙しく、お食事を一緒することすらなかなかできずにいました。

更にマサさんは何気に女性人気が高く、一般人からだけじゃなく魔法少女たちからも慕われていることがわかりました。

その事の愚痴を毎日報告書に延々と書き連ねていたら、上司が今度はデートをセッティングしてくれたのです。

といっても、正確にはデートというわけじゃなく、

マサさんの新しい武装への習熟訓練に監査という名目で同行するということなんですけどね。

 

 

でもこのチャンスを逃す訳にはいきません。

是非とも今回で勝負を決めてみせます。

そのための勝負下着もバッチリだし周期によると今日は的中率が高いはず。

妊娠しない魔法少女だからと油断しているところに、タイミングよく変身を解除すれば既成事実を作ることが可能なのはできちゃった婚に成功した元同僚から確認済みです。

天国のお父さん、お母さん、小鳥は見事やり遂げてみせるので応援していてください。

 

 

ちなみにその元同僚の変身解除後の姿はちょっとアレで、トラウマになった旦那さんがその後、勃たなくなったそうです。

とりあえずヤル前に化粧はしておこう。

 

 

そんなわけでやってきました富士の樹海。

磁場の関係で良い感じに方向感覚が狂って格闘練習には最適だそうです。

デートには向いているかどうかは知りません。あ、また仏さん見つけた。

とにかく、この際ムードはどうでもいいです。

少しでも好感度を高めるために何かできないでしょうか。

魔法のアドバイスとかなら自信があるんですが、格闘技術は専門外なんですよね。

 

 

しばらく歩いて少し開けた場所に来たので、私はレジャーシートを敷いてお弁当の準備。

マサさんは早速持ってきた少し短めの二本の刀を使って訓練をしています。

あの刀、禍々しい気配を放っていますね。

きっとリップルさんの槍みたいに曰く付きの武器なんでしょう。

一体どこからあんなものを探してくるのか。

 

 

それにしても、訓練に励むマサさんとご飯の準備をしながら見守る私。

将来はマサさんの隣に息子と私の隣に娘が…なんてステキな未来でしょう。

とちょっと現実逃避をしていました。

というのもさっき考えた魔法のアドバイスの件。

実は先日お会いすることができたリップルさんに提案したんです。

マサさんの将来の妻として、少しでも役立つアピールをしたくて、私の能力で魔法のアドバイスができることを。

私のゴーグルで魔法の詳細を見ることによって、その人の魔法の限度、制限、効果範囲など事細かな情報を得ることが出来ます。

それを新人魔法少女に伝えることで効率よく魔法を使うことが出来ることができるベテラン魔法少女へと一気にステップアップすることが出来るのですが、それをリップルさんにお伝えしたら、

 

 

「全く使えん能力だ、特に新人には絶対それを教えるんじゃないぞ」

と言われてしまいました。

 

 

自分の魔法の性能をきちんと知ることはベテラン魔法少女になるためには大事なことだと思っていたので反論したら

 

 

「人間っていうのは成長するんだ。

そして成長するには努力が必要で、それには頑張れば出来るんだという希望が必要だ。

お前はテストで60点しか取れない人間だから、その60点で行ける学校を探せって言われたら勉強なんてする気がなくならないか?

魔法少女っていうのは今ある性能に妥協して無難にこなしていく仕事なのではなく、自分の個性を信じてどこまでも育て伸ばし表現していく芸術だ。

お前のその魔法は魔法少女というものを侮辱するものなんだよ。

限界なんてもんは突き抜ける為にあるが、新人なんてもんはベテランにそうだって言われたらそうなのかって思って成長が止まっちまうんだ。

まぁそれを聞いて反骨精神むき出しで伸びるやつもいるが、そもそもそんな奴にはアドバイスなんて不要だしな。

特に魔法っていうのは精神的なものだ。

思い込みや常識ってのが足かせになる。

だからこそ僕は新人に対して魔法ってのは自由なものだ、常識なんてものは捨てちまえって教育をしてるんだよ。

自分というものをまだ何も分かっていない新人に、お前の性能はこうなんだってドヤ顔で言える今のお前には人を育てる才能はない。

悔しかったら何が悪いのか考えて努力しろ。

それが出来なかったらお前はいつまでも便利に使われる機械のままだ」

 

 

そして目障りだからもう顔を出すなと言われました。

ちなみに呼び名は”スカウター”に決まったようです。

まさにピンポイントで捻りがなくどれだけ私に興味が無いかが分かります。

それにリップルさんが魔法少女教育で優秀なのは彼女の元に集まる魔法少女たちを見れば分かること。

マサさんの妻として認めてほしいと焦って、ドヤ顔で釈迦に説法を説いてしまった私の株は今や大暴落です。

マサさんにも失望されてしまったかもしれません。

 

 

「考えるのをやめるな。

ありとあらゆる可能性を常に模索しろ。

これで大丈夫と考えたときが死ぬときだ。

アネさんにいつも口酸っぱくして言われています」

マサさんが刀を振りながら話しかけてきました。

 

 

「悔しかったら何が悪かったのか考えて努力しろ。

それはアネさんがいつも期待している人にかける言葉です。

アネさんは本当に駄目だと思った人には何も言いません。

ただ忘却するだけです。

7753ならきっと乗り越えてくれる、そう信じているんですよ」

 

 

でも、もう顔を出すなって言われました。

「きっと7753の魔法で見透かされるのが怖いんですよ。

あの人はたしかに強いけど非常に臆病でもありますから。

知ってますか?

あの人、7年前までは人前では恥ずかしがって喋ることすらできなかったんですよ」

組長がそんなことでどうすると娘さんに矯正されたんですけどね、とマサさんは面白そうに笑っている。

 

 

「そもそも7753が必要じゃなきゃ、あの小雪様が監査なんて許す訳ありませしね」

とも言ってくれた。

 

 

マサさんは少し喋りすぎて照れたのかそれ以降話しかけてくることはなく、私もどのように魔法を活かしていくかの思考に没頭していきました。

今更ですがこれってデートと言えるのでしょうか。

いえ、元々監査でしたね。

 

 

そのように没頭していたからでしょう、いつの間にか囲まれているに気づかなかったのは。

いきなり森の中から音符の群れが飛んできて、あわやのところでマサさんに助けられました。

マサさんは大分前から気付いていたらしく、一体どちらが一般人なのかと恥ずかしい限りです。

木々の中から3人の魔法少女が出てきました。

真ん中に立っているギターを持ったロックミュージシャンのような魔法少女がリーダーなのでしょう。

勝ち気な表情で笑いながら名乗ってきました。

 

 

「トットは“素材にこだわる解放戦線”、略してソザ解、第三部隊リーダーのトットポップ。盟友”こだわりのある革命家の集い”の仇討ちきたのね」

日本語に不慣れなのかたどたどしく名乗ってきました。

 

 

ソザ解、聞いたことがあります。

元々無謀な作戦ばかりで自滅することが多く脅威度は低いとされて、不満派のガス抜きとして放置されていた組織です。

ですが最近になってイギリスからベテラン魔法少女が多数合流したとかで話題に上がっていました。

彼女の自信に溢れた物腰や不慣れな日本語から、そのイギリスの魔法少女なのだろうと想像がつきます。

その魔法少女が3人も。

前線に出て来る以上、彼女もその後ろの2人も当然戦闘ができる魔法少女なのでしょう。

非戦闘型の私ではマトモに戦っても瞬殺されるだけ。

でもここは方向感覚の狂いやすい樹海の中です。

私のゴーグルを使いながら逃げに徹すれば何とか逃げ切れるでしょう。

そして逃走ルートを考えていましたが、

 

 

「森の中でトットの仲間たちが囲っていてねー、逃げれば大丈夫と思うのは甘いのね」

万事休すのようです。

今から応援を呼んでもそれまで耐えることが出来るでしょうか。

せめてマサさんだけでも逃がせないと。

 

 

私が悲壮な覚悟を決めていたら、マサさんが大丈夫だと頭を撫でてくれます。

「こういう時アネさんならこういうんでしょうね。

飛んで火に入る夏の虫、出オチご苦労様と。

おたくらの頼りの仲間たち、とっくにお寝んねしてるようですよ」

 

 

その声とともに、森の中から何人もの魔法少女達が次々と私達の前に投げ飛ばされてきました。

みんな一様にうめき声をあげて気を失っているみたいです。

「これで全員です。小雪様から承ったとおり殺さずに捕らえました」

森の中からメルヴィルさんが更に二人担いて現れました。

何故か敬語です。

 

 

それを見てトットポップたちがおののくのが分かった。

「メルヴィル…鉄腕組の切り札、クラムベリーの再来。

彼女がいるってことはどうやらトット達は本当に切り捨てられていたようなのね」

そう言って悔しそうに地面を蹴りつける。

そして覚悟を決めた顔をしてマサさんを睨みつけた。

 

 

「鉄腕組のマサ、決闘をしてほしいのね。

トットにも意地があるからここまで来て引き下がれないのね。

だけど勝ってもトットはその後投降するのね。

だから負けてもトットの部下たちは見逃してほしいの」

 

 

マサさんはそれを聞いて楽しそうに笑う

「そこまで言われちゃ引けねえわな、いいぜ、かかってきな」

そう言って二本の刀を抜く。

 

 

私はトットポップの魔法をゴーグルを見てマサさんにそれを伝えようとしたら

「7753、そいつはいけねぇ。

男が女相手に命かけたタイマン張るんだ。

なのにそんなハンデなんて付けてもらっちゃ勝っても恥ずかしくて生きていけねぇよ」

と遮られてしまった。

 

 

「トットはトットポップ、勝負なのね」

「鉄腕組若頭、永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術、不破雅次、推して参る」

 

 

先手はトットポップだった。

すごい速さで突っ込んできた。

そして蹴りつけようとしたがマサさんはそれを読んでいたのか危なげなく避ける。

トットポップは持っていたギターをかき鳴らすと音符が飛び出し避けたマサさんに襲いかかる。

「そいつはさっき見たぜ」

そう言いつつマサさんは1つずつ丁寧に刀で逸らしていく。

 

 

「魔法少女ってのは見た目や名前がそのまんま魔法や能力へと反映されていることが多い。

水着なら水や泳ぎに関する能力だったりパティシエなら料理で男を誑かしたりな。

そしてそっちの二人は包帯ミイラ女にボクシング女。

さっき飛んできた音符とは全く縁のなさそうな姿だ。

それに比べておめえさんのはギターと随分とわかりやすいじゃねーか」

そういって次々と飛んでくる音符を斬り逸らし、カラダをひねって避け、屈んでやり過ごしていく。

トットポップも音符を飛ばすだけではなく、間々に蹴りを放ったりギターで殴ろうとしているが当たらない。

 

 

「魔法少女ってのは確かに力もスピードも破格だ。

だけど最初っからそういうものだと分かって訓練していれば避けれないわけじゃねえ。

魔法少女も人間である以上、動くからには関節にそって動くし、筋肉の伸縮が必要だ。

勢いをつけるには予備動作だってでてくる。

足運びや目の動きでも次の動きがわかる。

武術の達人にもなればそれらを修練で無くすことが可能だが、魔法少女ってのはどうも魔法と与えられた常人以上の力に奢ってその手の技術の蓄積が浅いんだよ。

手に取るように動きがわかるぜ」

 

 

トットポップはたまらず距離を取り音符を大量にだして数で押しつぶそうとする。

「それにしてもおめえさんの魔法、分かりやすくていいね。

どんだけ一杯飛んでこようがきっちりリズムよくビートを刻んでくれるんで避けやすいぜ」

そういってマサさんが納刀したと思ったら一瞬でその姿が見えなくなる。

 

 

あっと気付いたときにはもうトットポップの目の前に居て刀を振り抜いていた。

「御神流奥義之肆・雷徹」

マサさんがポツリと呟き、構えを解く。

その一撃でトットポップが崩れ落ちる。

だが峰打ちだったのだろう。

トットポップに出血は見られず、しかし打たれた衝撃で起き上がれずに呻いている。

マサさんはこれでおしまいだとばかりに刀を収めてしまう。

 

 

トットポップはまだやれるとばかりにマサさんを睨みつけるが、指一本動かせないようだ。

「もう決着は付いた、おめえさんの首なんかいらねぇからとっとと帰りな」

その言葉にトットポップは悔しげに声を上げる。

 

 

「トットが…トットが女だからトドメを刺さないのか。

馬鹿にするんじゃないのね。

これでもトットはピティ・フレデリカの一番弟子ね、とっくに覚悟は出来てるのね」

 

 

マサさんはタバコに火を付けながら言った。

「あぁ…女だから、じゃないな。

いい女、だからさ」

 

 

その言葉にトットポップの顔が一瞬で赤く染まる。

「部下思いのおまえさんを殺しちゃ、その部下が大人しく帰るわけないしな。

おめえさんのその思いに免じて見逃してやるよ」

マサさんはそんなトットポップの様子に気付くこともなく、早く帰れと手を振る。

 

 

トットポップは部下に肩を借りて立ち上がり、

「絶対、絶対トットを見逃したことを後悔させてやるのね………また会おうね」

そう言ってチラチラとマサさんの事を何度も振り返りながら部下たちと帰っていった。

 

 

「まったく、魔法の世界も世知辛いね」

一言呟き、マサさんはタバコの煙を空へと吐き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

7753の本日の報告

「またライバルが増えました」

 

 

 

+++++

 

 

 

車椅子に乗った女性がその報告書をゴミ箱に叩き込んで深くため息をついた。

 

 

 




まずはお詫びを。
番外編だからと好き勝手しててすいません。


そして何故かマサさんがさすおに化していってます。


主人公は今や伝聞でしか出てこなくなりました。
一体何処に行ったリップル。


7753とマサさんのお話はとりあえず今回までということに。
もし希望があればまた今度書くかもしれないけど、
このまま魔法少女同士のキャッキャウフフが出てこないと怒られそうなので。


次回からは鮮血飛び散るキャッキャウフフがお送りできるように頑張ります。
といってもいつ書くかは分かりませんが。


ああ、今回の話で"白い魔王"がでる魔砲もとい魔法少女ともクロスできるようになったのかな。
そういうわけで今更なんですが他作品のネタとか出てるんでクロスオーバータグを念のため付けておきました。


追記:
車椅子さんはこう思ってます。
「だれだ、やつに報告書の書き方を教えたやつは!更迭してやる!」


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unlimited編
ろくでもない事


limited序章的な?
時系列的にはクラムベリー騒動から2~3年後ぐらい。

今回は短いです。


「マサー、マサーいないかー」

 

 

リップルさんが部屋でマサさんを呼んでいるのが聞こえる。

たしかマサさんって一昨日お兄さんに鍛えなおしてもらうって言って海鳴ってところに行ったんじゃなかったっけ。

 

 

「リップルさん、マサさんなら今は休暇中ですよ」

小雪さんが代わりにリップルさんの部屋に入っていくので私も一緒についていく。

 

 

「……私もそう聞いてますよ」

マサさんは遠出するときはいつも"お土産買ってきてやるから良い子にしてるんだぞ"って頭撫でてくれます。

これでももう高校生だし子供扱いされるのは不満なんですが、それでもなんだか嬉しくなってしまいます。

あんな人がお父さんだったら幸せになれたんでしょうか?

詮無いことですがつい考えてしまいます。

 

 

小雪さんについて入ったリップルさんの部屋は相変わらず雑然としている。

漫画本やアニメのDVD、食べかけのお菓子で足の踏み場もないくらいに散らばっている。

たしかマサさんが出かける前に掃除していったはずなのに1日でこれだけ散らかすのは才能なのではないだろうか。

 

 

「白いのと黒いのか、おまえらいつもセットだな」

リップルさんはソファに座ってTVで流れているアニメから目を離さずこっちに手を振ってくる。

 

 

「車椅子から依頼が来てさ、なんかどっかの馬鹿が馬鹿やったらしくてさ」

そう言ってタブレットをこっちに投げ渡してくる。

こちらを見もしないのに正確に投げてくるのは流石だと思います。

魔法を使わなくても忍者っぽいことは出来るんですよね、いつも軍服ですけど。

 

 

「………へぇ、やっぱり面白そうになってますね」

小雪さんがちょっと楽しそうに言います。

この人が楽しそうにしているのを見るのは嬉しいけど、でもこういう時は大抵ろくでもない事が起きるんですよね。

横からタブレットを覗き見ると、魔法の国の偉い人を暗殺している魔法少女とマスコットを捕まえるか倒してこいって依頼のようです。

その暗殺者とマスコットは何も知らない中学生を騙して魔法少女にしたそうで、

派遣された魔法の国の捜査チームと戦わせて、捜査チームに殉職者が出ているそうです。

そして色々政治的な理由で外交部門が横槍を入れたので、人事部門も人を出すことにしたそうです。

でも適当な戦闘要員がいないので、私達を代わりに傭兵として投入すると。

それにしてももう結界を張っていて入れないって、ここに行くときはやっぱり彼女の魔法使わないといけないのでしょうか。

 

 

「新米魔法少女6人を適当に揉んで暗殺者1人捕まえる簡単なお仕事だ、何人か選んで適当に処理しておいてよ」

リップルさんは適当に言ってくるけど本当に小雪さんに任せる気ですか?

どうなってもしりませんよ。

本当になんでこんな時にマサさんいないんだろう。

 

 

「ああ、あんまり派手にしないでね。見滝原んときも、その後の友枝町の時もすっごい怒られたんだから」

たしかに街を全壊させたり、東京タワーぶっ壊したりと最近は派手にやりすぎている気がします。

どうせ怒られるのは私じゃないからいいんだけど。

 

 

「リップルさんは来ないんですか?」

「んー、一応僕もこのアニメ全部見終わったら行こうかな、アッシー君は部屋で待機させておいて」

アッシー君、あの人私嫌いなんですよね、いつも誰かの髪の毛しゃぶってて気持ち悪いです。

小雪さんは便利だし、慣れれば可愛いペットですよって良く椅子代わりにしています。

でも小雪さんが何処かから拾ってきてからもう2年ぐらい経ちますけど未だに慣れません。

というか拾ってきたときよりどんどん奇行が酷くなっているようなんですよね。

でもあの人の魔法を使えば、色んな所に人を送り込めるし、逆に人をこっちに連れてくることも出来るので確かに便利なんですよね。

そういえば今日の彼女の餌まだあげてなかったっけ、あとドックフード出してあげなきゃ。

………それにしてもなんで魔法少女なのにドックフード食べさせるんでしょうね、小雪さんの指示だから毎日無理やり詰め込んでますけど。

 

 

それじゃ行ってくるねと小雪さんと一緒に部屋を出る。

小雪さんはもう満面の笑みで今にもスキップしそうなぐらい楽しそうにしている。

 

「こういうのって大抵マサさんが仕切っちゃうから一度やってみたかったんですよね」

 

そう言ってどうしようかなーだれにしようかなーってタブレットでみんなのスケジュールを確認しています。

そして通信室にやってきました。

ここから魔法の端末や組員の通信端末に連絡が可能です。

 

 

小雪さんは少しの間考えて…

そして"良いこと思いついた"とポツリと呟き、通信を開始します。

 

 

 

「全魔法少女及び全組員傾注。組長から最優先の任務を通達する」

なんだかいきなり不穏な空気が…。

最優先任務?たしか適当に処理する任務だったはずでは?

 

 

 

「B市にて特S暗殺者が見習い魔法少女を使いクーデターを画策中。

鉄腕組は全魔法少女を投入してこれを阻止する。

目標は暗殺者1人とマスコットキャラクター"トコ"の抹殺、見習い魔法少女6人の拉致もしくは抹殺。

全魔法少女は現時点で遂行中の任務を全凍結。

ピティ・フレデリカの魔法による強制招集をかけるので準備をしてその場に待機。

 

組長からのオーダーはただ一つ。

 

"蹂躙せよ"

 

現地には魔法の国の捜査チームが入っている。

ただし共闘などはしない。

もし立ちふさがるなら全て叩き潰せ。

それでは各員の奮闘を期待する」

 

 

 

どうやらやっぱりろくでもない事になりそうです、フンガー。

 

 

 




続くのだろうか。

追記:誰の視点か分かりにくいという意見があったので、最後にフンガー付けておきました。


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私では止められません

limited編?いいやこの話はunlimited編だ。

もう開き直ってとことんまでやってやる。

原作?そんなものどっかに捨ててきた。

今回は初っ端から残虐でグロい描写があります。
苦手な人は注意してください。


引き続きアリス視点なのでロリコげふんげふんアリスファンの皆様、楽しんでください。


クチュ・・・クチュ・・・

 

 

            あっ・・・あっ・・・

 

 

「ではこの人は誰ですか?」

 

 

クチュ・・・クチュ・・・

 

 

「あっ・・・あっこの人は・・・魔王パムっああっ・・・」

 

 

クチュ・・・クチュ・・・

 

 

            あっ・・・あっ・・・

 

 

薄暗い部屋の中で水晶球がほんのりと光り、その中に映像が浮かんでいる。

 

 

クチュ・・・クチュ・・・

 

 

「あっ・・・魔王パムは・・・あっ四枚の羽を・・・自在に使う魔法で・・・あっ・・・」

 

 

クチュ・・・クチュ・・・

 

 

水晶球に映っているのはB市内にいる捜査チームの面々。

どこかのカラオケルームの一室のようです。

小雪さんがその3人の魔法少女について質問しています。

 

 

「他の二人のことは知ってますか?」

 

 

クチュ・・・クチュ・・・

 

 

「あっ・・・知って、あっ・・・ます、だか・・・ら・・・あっもう、やめ・・・」

 

 

クチュ・・・クチュ・・・

 

 

小雪さんがアッシー君ことピティ・フレデリカの頭をお箸のようなものでクチュクチュとかき混ぜています。

頭をかき回されているピティは白目を向きながら絶望的な顔で魔法を行使しつつ、映っている人たちのことを説明していきます。

まったく何度見ても夢に出てきそうな気持ち悪い光景と臭いです。

小雪さんは「魔法少女は頑丈だから大丈夫」といつも言っていますが、どうみてもその人もう壊れかけていますよ。

普段は気持ち悪くて嫌いなこの人ですが、流石にこんなことをされているのを見ると同じ女性として同情したくなります。

魔法少女には人権もジュネーブ条約もないらしいのでしょうがないですけどね。

 

 

「ねぇアリスちゃんもやってみる?結構面白いよ」

 

 

こっちに振るのは止めてください、小雪さん。

流石に魔法少女になったといっても、人間まで止めたつもりはありません。

アッシー君もそんな泣きそうな怯えた目で見ないでください、やりませんから、私は。

 

 

楽しいんだけどなぁ、と小雪さんはまたクチュクチュやりはじめました。

 

 

            あっ・・・あっ・・・

 

 

それにしても本当に便利ですよね、このアッシー君。

水晶球による移動魔法に覗き見魔法、除いた先の物や人を引き出す魔法。

それらを覗く対象の髪の毛を指に巻くだけで出来るんですから。

そしていままでの覗きの成果による魔法少女への深い知識。

有名人は大抵網羅しているし、他にも今日の捜査チームみたいな魔法の国運営関係者の髪の毛と情報も持っています。

更にそれだけではなく、魔法の国のお偉いさんたちの人には言えない情報も押さえています。

それをネタに鉄腕組の存続を認めさせたり、色々と派手に動いても揉み消したりすることが出来ています。

そうじゃなきゃ、東京タワーをぶん投げて街を崩壊させたりしたのにお説教だけで済むわけがありません。

組への貢献度でランキングを決めるなら十分トップ争い可能ですよね。

よくよく考えてみれば、この人、小雪さんにだけは確保させちゃいけない人材ですよね。

確保させちゃった結果がご覧の有様ですよ。

でも便利なので殺されないで三食昼寝付きに悠々自適の生活なんだから噂に聞く魔法の国の監獄に入るよりはマシかもしれないですよ。

食事って言ってもドックフードなんですけどね。

 

 

それにしても魔王パムさんですか。

リップルさん以外にもいたんですね、自分のことを魔王なんて呼ぶ中二病を拗らせた痛い人。

いえ、リップルさんは別に自分では呼んでなかったっけ?

まぁ、彼女は違う理由でも色々と痛い人なので変わりませんが。

この魔王パムさんは4枚の羽を”自由自在”に操るそうです。

この場合の自由自在とは本当に自由自在で、人型にして自動で戦わせたり、炎を出したり、冷気を出したりと、どんな性質にでも出来るそうです。

なんかチートですよね、羨ましいです。

対抗手段としては4枚の羽でカバーしきれないほどの手数や人数での飽和攻撃か、羽が反応できないスピードだそうで、どちらも私には無縁ですね。

 

 

他の人、ニコニコ笑顔にうさぎ耳の下克上羽菜さん。

彼女はその柔らかそうなイメージに反して生粋のグラップラーで、感覚を上昇させることができるそうです。

高めた感覚で近接格闘能力や回避力を高めるだけではなく、彼女から半径3m以内の敵にも魔法を使うことが可能。

怪我をした相手の痛覚を上げて悶絶させることも出来るし、さらに迂闊に近寄った相手の視覚や聴覚を急に大幅に上げることによってマトモに戦えなくすることも出来ると。

私には幸い痛覚はないですが、それでも目や耳は使えるのでやっぱり相性が悪いです。

 

 

最期にメガネをかけたちょっとキツそうなマナさん。

彼女は魔法少女ではなく魔法使いだそうです。

魔法少女のようなパワーやスピードはないですが、魔法少女と違い、儀式や呪文を唱えることで様々な魔法が使えるそうです。

さくらさんみたいなものでしょうか?

でも彼女は指揮官タイプでこの中では一番戦闘力が低いそうです。

スッと近づいてフンガーと殴れば勝てそうです。

でもこういうタイプは言葉を弄してこちらを翻弄してくる場合もあるから注意。

 

 

リップルさんによると私は洗脳や支配されないかぎり無敵だと言われました。

なので私は洗脳や支配系、催眠術系の魔法や能力への対策を重点的に訓練されてきました。

洗脳や支配系の能力は強力ですが、それを発揮するときには条件がある場合が多いです。

私は会ったことはありませんが、クラムベリー騒動の時のルーラさんのように。

なのでやたらと言葉を投げかけてくる人や、不自然な動作をする人、特定の武器やアイテムでの攻撃にこだわるタイプは要注意だそうです。

戦闘中だと言うのに話しかけてくる人がいたら「フンガー」とでも言って言葉が通じないアピールをしておけばいいと言われました。

又、魔法少女が服装にあった固有の武器を持っている場合、魔法もその武器に関係すると考えたほうが無難だそうです。

特に私の場合、回復力は高いですが回避力がないので特殊効果付きの武器持ちは危険だとか。

あれ・・・私って相性が悪い相手が多くないですか?

もしかして私って弱すぎですか、そうですか、フンガーーーーー!!!

 

 

ところでもう情報も集まったことですし、そろそろ行きませんか?小雪さん。

 

 

クチュ・・・クチュ・・・

 

            あっ・・・あっ・・・

 

 

「ふふふ、”聞こ”えますよ。ここをこうされると、(クチュクチュ)もっと困るんですよね?ふふふ・・・」

 

 

駄目です、小雪さんトリップしちゃってます。

 

 

こうなった小雪さんを止められるのってマサさんか・・・

 

 

「小雪ぃいいい!食べ物で遊ぶんじゃないっていっつも言ってるでしょうが!!!」

 

 

やっと来てくれました。

一気に走り寄って小雪さんのお尻を蹴り上げるつばめさん。

 

 

「イタタ・・・トップスピードさん、いつも使い終わったらちゃんと残さず食べてますって、アッシー君が」

 

「いやいや可哀想じゃえか、それは。

そもそも何でいつも納豆を頭にかけて掻き混ぜてんの。

ほら、こんなに頭ネバネバになっちゃって、大丈夫か?」

 

「そこはそれ、このSSの作者が茨城県民だから、納豆ネタを一度は入れないとって」

 

「そんなメタな発言はやめな!

ピティ、あんたいつも大変だな。

あーあー、泣くのは良いけど頭をこすりつけてくるのはやめてくれねーか、納豆がつくからよ」

 

 

頭を納豆まみれにされて掻き混ぜられていたアッシー君がつばめさんに縋り付いています。

アッシー君の方が随分と年上だったはずですが、幼児退行でもしているんでしょうか?

 

 

「でも確かにそろそろ良い時間帯ですね、準備は・・・まだやってるみたいですが」

 

 

トップスピードさんがドアを開けっ放しにしているので外の喧騒が聞こえてきます。

 

 

「いいか見習い共!現地での人命救助は小雪様がやってくださる。だから人的被害なんて考えずに全力でぶっ放せ!」

「倉庫から魔法の武器ありったけかき集めてこい!」

「動くやつは全部殺すの。逃げるやつは魔法少女なの。逃げないやつはよく訓練された魔法少女なの。小狼くん頑張るからお空で見守っててね」

「孵化可能なグリーフシードは全部持ってくるんだよ!街中にばら撒くんだ、そんだけじゃ全然足りねーんだよ!」

「戦略自衛隊から対地N2ミサイルかっぱらってきました!」

「ばかやろう!そんなもん使ったら地図の書き換えだぞ!そんなのは一番最後に使え!」

「ジュエルシードの封印をもう一度確認!暴発したら日本が丸々吹き飛ぶわよ!」

 

 

なんだか廊下や階下からやたらと物騒な声が色々と聞こえてきます。

これって間違いなく後でリップルさんが怒られるパターンですよね。

喋られないって事になってるから私では止められません。

 

まったくもってしょうがないですよね、フンガー。

 




次回ぐらいから戦闘に入れればいいな。
次回がいつになるかわからないですが。


ちなみに時系列がわかりにくいそうなので説明を。

本編(クラムベリー騒動)

(騒動から)
1年後、アフター1『白いの様がみてる』

3年後、『unlimited編』

7年後、アフター3&4&5『7753襲来三部作』

17年後ぐらい、アフター2『正義の魔法少女』

という流れです。
もう行ったり来たりで何が何やらですよね、ゴメンナサイ。


7753が今回投入されなかったのは、
リップルたちを7753のゴーグルで見られて上司との繋がりがバレると色々と面倒そうだったのと、
鉄腕組が介入したら7753じゃ先ず生き残れそうになかったからです。


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笑って死んでやる

なんとか今日も書き上がりました。

今日は可愛い眼鏡のあの娘が登場ですよ。

今回もアリスちん視点だと思ってた君、残念、マナちゃんでしたー。
ゴメン待って物投げないで。

大丈夫、アリスちんは今後も活躍あるはず。

ではどうぞ。


「捜査中止!?ふっざけるんじゃないわよ!」

マナは激怒していた。

 

 

上が捜査の中止を決定した。

速やかに結界内の端まで退避、結界解除後に撤収するように通達が来た。

だが私たちはもはや引くことが出来ないところまで来ている。

仲間が奴らに殺されたのだ。

ここで引いたら彼女は何のために死んだのか分からなくなる。

外交部門からの横槍すら我慢ならないというのに。

それを事件の解決の為、彼女の仇を取る為にとなんとか不満を飲み込んだ。

カラオケルームで合流して、今後の捜査方針を話し合っているところに中止の連絡が来たのだ。

 

 

今回の捜査対象である暗殺者は魔法の国の上層部や、上層部にとって都合の悪い人物を狙って殺害していた。

考えたくもない事実だが魔法の国の何処かの部門が飼っている暗殺者なのだろう。

そして今回の事件はその暗殺者をトカゲの尻尾と切り捨てた結果起きたのであろうと推測していた。

非常に腹立たしいことではあるが。

 

 

なので外交部門が結界を張ったのも、切り札の魔王パムを派遣したこともまだ納得できる。

捕まえて政治的な駆け引きにするのか、それとも知られたくない情報ごと暗殺者を葬り去るか、魔王パムの戦力からして恐らく後者だと思っていた。

考えるだけでテーブルを蹴り飛ばし何度も踏みつけてしまいたい衝動に駆られるが、それでも奴らはこちらの顔を立てようと多少は配慮しているのが分かるだけマシである。

好き勝手動かないように手綱を握りしめておこうと自分を納得させようとしていた。

外交部門ができることなんて精々この程度だと思うことで心の平衡を取ろうと努力していた。

 

 

だが今聞いたことは何だ?捜査中止?どういうことだ!

部門はそれぞれ独立していて明確な上下関係はないとは建前上なっている。

なので監査部門の捜査に途中から割り込むならまだしも、実際捜査チームが動いて被害が出ているにも関わらず中止させるなんて権限や大義名分など存在しないはずだ。

 

 

いや、こいつはただの連絡係。

こいつに怒鳴ったってしょうがない。

落ち着くんだ私。

荒れてしまった声を何とか鎮めようと心のなかで素数を数えてから聞く。

 

 

「これはまだ顔を出していない人事部門の差し金ですか」

 

「いえ、今回の件に関してはもっと上からの通達です」

 

「上?どういうことだ?」

もしかして暗殺者を飼っていたのは想像以上に上の人物なのか?

だが現実はもっと酷かった。

 

 

「先程、あの鉄腕組から今回の事件に対して武力鎮圧するという通達がありました。

その際、現地捜査員がそれを阻んだ場合、生命の保証は出来ないとも。

それを受けて現在各部門の上層部が緊急会議を開き、捜査の中止、そしてB市の地図の書き換えと情報操作の準備に入っています」

 

 

あの鉄腕組って、あの魔王の?

なんであんなヤクザ共が介入してくる!

それに上層部もなんであんなヤクザ共の言いなりになってる!

ダメだ、頭の血管が切れそう。

薬を飲んで素数を数えよう。

精神を強くする錠剤を無理やり飲み込む。

 

 

「鉄腕組の言い分として、暗殺者は鉄腕組が封印管理していたグリーフシードとジュエルシードを強奪して逃走。

その後、逃走途中で戦略自衛隊から戦略級広範囲破壊兵器であるN2ミサイルも強奪してB市に立て籠もった。

逃走を許してしまった責任を取って所属する全魔法少女を投入してでも鎮圧すると。

そういうことになっているわ」

「なっている?」

「介入するための建前と上層部は考えています。

今回の暗殺者がそんなことが出来るなんて誰も信じていないようよ。

だけどそれらの名前を出してきたってことは、今回それらを使うつもり。

そして使った際の被害を全部暗殺者に擦り付けるつもりなんでしょうね。

都合のいい火力演習とでも考えているんじゃないかしら。

そういうわけで私達も貴方達を無駄に死なせる気はありません。

どうにかやり過ごしてください」

 

 

あまりもスケールの大きい展開に呆然としていると通信は終わっていた。

グリーフシード?ジュエルシード?

どちらも街一つ壊滅させる可能性のある兵器だ。

それを使って火力演習?

聞いていて頭が痛くなってくる。

発想が常人のそれを超えている、だからこその魔王なんだろうが。

目の前の自称魔王とは頭のネジの吹っ飛び加減が何段も上だ。

 

 

「でも今は結界が張っているはず。

一体どうやってB市に入る気なのよ」

 

 

そう、現在B市は外交部門が張った結界で魔法関係は人も物も出入りが出来なくなっている。

この結界は24時間しか保たないが性能は折り紙付き。

どんな強力な魔力があろうと全て弾き飛ばしてしまう。

それが例え魔王の攻撃であろうと。

 

 

「それは私が説明しますよ」

いつの間にか部屋の奥に白い女の子、いや魔法少女が立っていた。

羽菜も魔王パムも気付かなかったのか驚いた顔で身構えている。

 

 

「はじめまして、鉄腕組のスノーホワイトです。

皆さんには”白き災厄”と言ったほうが分かりやすいですか?」

白い魔法少女が自己紹介をしながら一礼する。

 

 

こいつが?

白い災厄などと呼ばれているからもっと化け物みたいなやつを想像していた。

だがやつはセーラー服のような可愛いコスチュームを着て、少女のようなあどけない顔にニコニコと笑顔を浮かべている。

見た目からはそこらへんにいる普通の女子中学生のように見える。

だがこいつ、一体どこから現れた?

振り返ってこの部屋唯一の出入り口であるドアを見る。

ちゃんと”閉まって”いるし、そもそも今奴が立っているのは部屋の奥、ドアから反対側だ。

ドアから入って私達の前を通り奥まで行く?

バカバカしい。

そんなことをしたら羽菜や魔王パムどころか私ですら気付かない訳がない。

 

 

スノーホワイトは私達を見て笑っている。

こちらを見透かすような嫌らしい笑い方だ。

思わず激高しそうになるのを必死で押さえつけて睨みつける。

 

 

「ふふふ、移動手段については優秀なアッシー君がいますので。

貴方達3人がいる場所ならいつでも来られますよ」

そう言って羽菜をちらりと見て指を振るスノーホワイト。

 

 

「ピティ・フレデリカの魔法か。奴め、生きてやがったのだな」

魔王パムが得心いったとばかりに頷いている。

スノーホワイトが今度は魔王パムを見て左右に指を振っている。

一体何の動作だ?

 

 

それにしてもピティ・フレデリカか。

確か2年ほど前に失踪した有名なスカウト兼試験官だった魔法少女だったか。

彼女の失踪は突然で、何故か上層部の面々が顔を青褪めて四方八方捜索していたのを覚えている。

結局見つからず誰かから恨みを買って殺されたのではないかと風のうわさで聞いていた。

だが真相は魔法の効果を買われて鉄腕組で優雅に左団扇の生活って言うことか。

あの時はまだ下っ端だった私はドブ川の底まで潜らされて捜索していたんだぞ、ふざけやがって。

 

 

「貴方が魔王パムさんですか」

スノーホワイトが魔王パムに微笑みかける。

相変わらず指をあっちこっちに振りながら。

 

 

「お噂はかねがね聞いています。

随分強いらしいって、会うのが楽しみだったんですよ」

「ほう、お前のような強者に言われるとは面映いな」

魔王パムにとってスノーホワイトは結構な評価らしい。

私には強そうには見えないのだが強者なりの判断方法というものがあるのだろうか。

 

 

「偉大なる大魔王リップル陛下からの伝言です。

“どちらが魔王に相応しいか雌雄を決しようじゃないか自称魔王殿。とはいっても所詮ロートル。どうせ勝つのは我の方だろうがな。ああ、もし万が一、何かの奇跡でも起こって一撃でも入れることが出来たなら『魔王を名乗ってもいいで証』を発行してやろう。ありがたく受け取るが良いぞ。どうせそんなことは起こるまいがな”

ちゃんと伝えましたよ。

頑張ってくださいね」

しきりに指を忙しそうに振りながらもニコニコと楽しそうに笑っているスノーホワイト。

それとは対象的に魔王パムは凶悪な笑みを浮かべて身構えている。

今にも衝突しそうな圧力を感じて、私は再度精神を強くする錠剤を口に放り込んだ。

 

 

「それにしても挨拶に来て良かったです。

いくら私でも深層心理まで”聞く”には直接合わないといけませんから。

その隠している2枚の事、分からなかったら事故が起きるところでした」

そう言って指をビシっと魔王パムの背中へと指し告げた。

 

 

スノーホワイトのその言葉に魔王パムがぎょっとして一瞬固まる。

そして魔王パムは突然振り返り、羽をドアの方へと飛ばした。

羽は”開いて”いたドアをくぐり抜けて飛んでいく。

 

 

「スノーホワイトの言葉で魔王パムさんが動揺した隙に誰かが現れてドアから出ていきましたよ。

姿が見えなかったので迷彩系の魔法を使っていたと思います。

噂に聞くメルヴィルさんかと」

羽菜が説明してくれた。

 

 

「バレちゃいましたか。

でも挨拶したかったのは本当ですよ」

スノーホワイトがクスクスと笑う。

というかこいつ、現れてからずっと笑ってばかりいる。

本当にムカつく女だ。

 

 

「ふふふ、そろそろマナさんが怖いので用件だけ言いますね。

鉄腕組は偉大なる大魔王リップル陛下の命により、暗殺者一味を月の裏側まで吹っ飛ばすことに決まりました。

我ら鉄人組魔法少女、全48人による蹂躙の始まりです。

例えB市を灰燼に帰すことになろうが我らは止まることはありません。

それを阻止するものは誰であろうと叩き潰せと命じられていますので邪魔はしないでくださいね」

その言葉を聞いて私は思わず立ち上がってふざけるなと怒鳴り散らしてしまう。

羽菜も険しい顔をしているし、魔王パムは頭に血管を浮かべて無表情になっている。

 

 

「そうそう、逃げる際に街中を通るのならば注意してください。

もうしばらく経ったら暗殺者共をあぶり出すためいえいえ暗殺者共が私達をあぶり出すためにグリーフシードを街中にばら撒くでしょうから。

ばら撒かれた程度では危険はありませんが、魔力を持った魔法少女や魔法使いが側に来ると反応して一気に孵化しちゃいます。

どんな魔女が出るかは孵化してからのお楽しみ。

大当たりのウルトラレアは”ワルプルギスの夜”ですよ、楽しみですねー。

みなさん頑張って良い声を”聞かせて”くださいねー」

そう言って笑い声を上げながら彼女は空中に出現した手に引かれて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっちゃいましたね」

羽菜が力尽きたとばかりにぐったりとソファに座り込み、深く息を吐き出した。

 

 

「外のやつにも逃げられたな。

なかなかの手練だ、それにしても気付いたか?

スノーホワイト、想像以上の化け物だぞ。

一撃でもマトモに入れられる気が全くせん。

あいつが魔王だと言われても納得が行くぐらいだな」

 

 

化け物?一体何のことだ?

確かにムカつくし、言っていることは無茶苦茶だったが、それほど強いとは感じなかったのだが。

訝しげに思い羽菜を見る。

 

 

「あー、あの人はですね、私も魔王パムさんも最初から何度も攻撃しょうとしていたんですよ。

でも行動を起こそうと思う度に目線を向けてきて、

こちらがどういう攻撃をしようとしているかを指でなぞってきていたんですよ。

全部が全部、こっちの行動を恐ろしいぐらい見透かしていたんです。

もう格が違いすぎて泣きたくなります」

 

 

「読心系の魔法と聞いてはいたが、あれほどのものとは。

面白い、まだまだ強いやつが野にはいるのだな。

そしてあんな狂人を従える魔王リップル。

とんでもなくデカイ器の持ち主か、何も気づけない大馬鹿者か。

相まみえるのが愉しみだ」

魔王パムは一転してご機嫌のようだ。

私はもう錠剤の飲み過ぎで胃が痛くなってきた。

 

 

「今後の方針だが…」

なんとか心を落ち着かせて私が話し始めると。

 

 

「何をしている、とっとと行くぞ」

魔王パムは話も聞かずに立ち上がりドアへと歩きだす。

 

 

「ど、何処へ行く気だ!まだ話は…」

「既に撤収命令が出ただろう。

だが結界の端とは言っても何処の端かは指定されていないな。

ならばB市の真ん中を突き進んで反対側の端に行こうではないか。

そのついでに暗殺者もあいつらも全部叩き潰せばいい。

グリーフシード?

面白い、魔女如きで魔王パムが止まると本気で思っているとはな」

 

 

唖然とした。

だが、たしかに面白い。

このまま指を加えて終わるのを待つのか?

冗談じゃない。

そんなのは私ではない。

あんなやつらに怯えて小さく生きるより、何処までも突き進んで笑って死んでやる。

今に見ていろ、吠え面かかせてやる。

鉄腕組も上層部もみんなまとめてくそったれだ!

私はマナだ、舐めるなよ。

 

 




ちなみにリップルは今も何も知らずにアニメ見ています。

今回から戦闘に入ると言ったな?
アレは嘘だ。

いや、マナマナ達のシーンを書いていたら思いの外ノッてしまいました。
ノリにノッてしまってなんか酷いことになっています。
これがキャラが勝手に動き出すっていうやつですね、ゴメンナサイ。

さて次回こそは戦闘に入れるかな?
いつ書き上がるか分かりませんが。
どうか気長に待っていてください。


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女の子同士、仲がいいのは良いことだ

なんとか戦闘に入れました。

今回は特に決まった視点とかはないです。
コロコロコロコロ状況が変わります。

戦闘シーン難しい…。



「誘導されているな」

逃走する魔法少女を追いながら魔王パムは結論づけた。

今までのパターンならそろそろまた魔女が沸く頃か。

そう思った直後、一行はまたもや魔女結界の中に囚われた。

 

 

+++++

 

 

カラオケルームから出発してB市中心部へ向かっていた魔王パム一行は道中で出現した魔女を危なげなく退けながら進んでいた。

幸いばら撒かれたグリーフシードの密度は高くなく、現れる魔女はそれぞれ単体。

強力な魔女も今のところ出現せず、魔王パムの羽だけで倒せているので羽菜とマナの消耗は少なくて済んでいた。

 

 

しかし魔王パムが上空を飛ぼうとするとたちまち遠距離から強力な銃撃が飛んでくる。

威力からするとアンチマテリアルライフルを魔力で強化しているのだろう。

油断したら羽を撃ち抜かれそうになって思わず感心してしまった。

だが魔王パムは黙って狙撃を許すほど甘くはない。

何度も狙撃手を撃退しようとした。

狙撃手も巧妙に隠れていたが3回目の狙撃で補足できた。

黒い服装で左腕に円形の盾を付けている魔法少女だ。

だが補足して羽を投げつけるとその姿はたちまち掻き消えてしまう。

そして次の瞬間には違う場所に現れて狙撃してくる。

それを今まで何度も繰り返していた。

恐らく転移系の魔法だろうと魔王パムは当たりをつける。

反応も早く狙撃ポイントや狙い、引き際の状況判断なども正確で彼女の実戦経験の豊富さが伺えた。

そして私を見るあの目。

忍耐強く、強い敵を前にしても常に冷静さを保ち、見極めようとするあの目。

あれはよほどの地獄をくぐり抜けてきた者の目だ。

一体あんな人材を何処で見つけてきたのやら。

 

 

「ゴメイサマ!」

他にも隙きを見つけては剣を連続して飛ばしてくる青い魔法少女。

彼女には赤い魔法少女が同行していてこちらの羽を槍で迎撃したり結界を張って止めたりしている。

青い方はまだまだ粗いが、赤い方との連携はなかなかのもの。

流石鉄腕組、”リップルの子供たち”と恐れられているだけはある。

もし私でなければとっくに全滅させられているだろう。

今度魔王塾に誘ってみるのも良いかもしれない。

 

 

そんな彼女たちの攻撃と頻繁に出撃する魔女への対応で、魔王パムも上空を一気に抜けるということはできずにいた。

いや、マナたちを見捨てればできなくはないが。

だが鉄腕組の層の厚さ、人数、そしてこの情報不足の中で単独行動するまずさはよく分かっている。

如何な魔王パムとはいえ、相性の悪い魔法少女というのは存在するし、あれらの練度を持つ魔法少女が連携して数で押してくると厳しいだろう。

なのでいざという時に背中を任せられる彼女たちを守るのは大事なことだ。

マナが相変わらず騒がしいのは多少閉口するが。

だが、この時点では魔王パムは未だ慢心していた。

 

 

地上では羽菜達が何度か散発的な襲撃を受けるようになっていた。

羽菜の魔法を把握されているのか、どいつも距離を取った攻撃での一撃離脱。

追撃しようとすると巧みにグリーフシードに引っ掛けられる。

その都度、上空の魔王パムが援護に入らなければならず、結局どんどんと市街地中心部へのルートから外れていく。

そして誘導されていると確信した頃には既に市街地からだいぶ引き離されていた。

 

 

+++++

 

 

しつこく湧いてくる魔女を倒し、魔女結界を抜けた先は田園地帯だった。

少し先には山が望める開けた場所。

ここが誘導先だったのだろう、魔王パムたちを囲むように現れる多数の魔法少女の姿。

そして…

 

 

「おいおい、やつら戦争でも始める気か?」

あまりにもありえない光景に唖然とするマナ。

 

「そういえば去年、装備品の大量消失で防衛大臣の首が飛んでましたよね。

まさかこんなところにあったなんて」

冷や汗をかきながらも視力を魔法で強化して敵の配置を確認する羽菜。

 

「現代兵器と魔法のコラボレーションか。

ここまで盛大なおもてなしとは初めてだ」

不敵に笑う魔王パム。

 

 

田園地帯に展開して砲塔をこちらへ向けている10式戦車の群れ。

操縦者もいないのに空を飛ぶ攻撃ヘリが多数。

山の斜面には多連装ロケットシステムを搭載した自走車両が何台も見える。

何故かそれぞれに人形をくくりつけられて、機体にスプレーで『これも人形の一部』と大きく書かれている。

他にも重機関銃やRPG、迫撃砲でこちらを狙っている魔法少女やヤクザたちの姿も見える。

 

 

そして、黒い魔法少女が前に出て

「最終警告です。

ここで投降するならば命の保証はします」

 

 

答える必要を認めないとばかりに魔王パムは4枚の羽を展開し飛び上がる。

黒い魔法少女がため息を付きながら手を振り下ろした。

 

 

そして農家の方達が丹精込めた田畑は鉄と爆薬の雨で豪快に掘り返されることになった。

 

 

+++++

 

 

絶えず飛んでくる銃撃と爆撃の中を命からがらといった状態で羽菜は逃げ出すことに成功した。

彼女の背には爆風でもみくちゃにされて気を失っているマナが背負われている。

大部分の狙いは魔王パムのようで、こちらには2人の魔法少女が追手に付いただけなのは救いだった。

だけどそう簡単に私達を逃がすつもりはないのだろう。

2人の魔法少女はなかなかしつこく追いかけ回してくる。

羽菜も建物の中や路地などを抜けたりしているが引き離せない。

このままだと援軍を呼ばれる可能性もある。

せめてどちらか1人でも何処かで撃退できれば…。

羽菜は聴覚を強化して2人が離れるタイミングを探っていた。

 

 

「──は先回り、」

「あのビルの──」

 

 

どうやら片方が先行して前後で挟み撃つつもりらしい。

ここはこちらから逆に奇襲をかけて各個撃破するチャンスだ。

未だに目覚めないマナをビルとビルの間の細い路地に隠して、ビルの中を抜け、青い魔法少女の横合いから一気に接近戦に持ち込んだ。

直前で気付いた青い魔法少女が両手に持った2本の剣を投げつけてくるが、視力を強化していた私には飛んでくる剣を掴み取ることも可能。

掴み取った2本の剣で逆に斬りつけることに成功する。

袈裟懸けで斬りつけ、血が飛沫を上げる。

これだけでも十分だろうが念には念を入れ、彼女の痛覚を最大まで引き上げる。

彼女は気を失っ…ってない!

まるで痛覚など感じていないとばかりに獰猛に笑いこちらへ殴りつけてきた。

その勢いでビルに叩きつけられ、飛んできた剣で手足を壁に縫い付けられ、何度も殴られる。

私は彼女の感覚を狂わせようと視覚聴覚触覚などを上げるが、一瞬ぐらつく程度ですぐに回復してしまう。

 

 

「いやぁ悪いねー。

あたしたち魔法少女にとって体なんて外付けのハードでしかないんだよ。

慣れちゃえば全ての感覚を自在に操ることが出来るのさ」

 

 

「おい、さやか。

こっちはもう処理終わったぜ」

 

 

そう言って赤い魔法少女がマナを担いで歩いてくる。

処理?終わった?

その言葉に目の前が真っ暗になった。

 

 

「安心しな、あんたもまた直ぐに彼女に会えるさ」

 

 

赤い魔法少女がそう言いつつ私の頭に手を伸ばしてきて…

そして私の意識は闇へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

+++++

 

 

高町家の朝は早い。

 

 

御神流を極めんとする恭也は妹の美由希と共に日が出る前から修練を積んでいる。

父・士郎は体を壊してからは修練をあまりしていなかった。

だが今年になって死んだと思っていた弟の雅次さんに会って試合で負けてからは、

 

「ヤクザものになった弟に敗けるなどありえん。それになんだあの非常識な打たれ強さは」

 

といって御神の剣士としてプライドを刺激されたのか、全盛期を取り戻さんとばかりに修練している。

確かに雅次さんは凄かった。

剣士としての技量は美由希よりも低かったが、とにかく頑丈なのだ。

奥義がモロに入ったのに平気な顔で反撃をしてくる。

使ったのは真剣でこそないが、木刀で奥義がまともに入ったら普通は骨が折れるだろう。

あの時は父もまさかまともに入るとは思っていなかっただけに動揺していた。

だけどその後も何度も打ち込んだが結局雅次さんが止まることはなかった。

 

 

雅次さんは

「毎日のように頭部がもげたり、体を上下に斬り分けられたりしていたら嫌でも痛みに慣れます」

なんて冗談を言っていたが。

武闘派の任侠一家らしいからきっと命がけの戦いが多いのだろう。

 

 

そして3人で朝の修練をしていたら朝食の時間になった。

高町家はとにかく住人が多いので朝食はとにかく賑やかだ。

別に子沢山というわけではないが、居候の人数が多いのだ。

父と母、俺と美由希に末っ子のなのはの5人。

居候はフィアッセ、蓮飛、晶に”ハナ”と”マナ”。

 

 

ハナとマナの2人は3ヶ月前からうちに住むようになった。

雅次さんが初めてうちに来た時、一緒に山に修練に行ったら森の中で彼女たち2人が倒れているのを発見した。

彼女たちは名前とお互いが姉妹だということしか覚えていないそうで、記憶を取り戻すまでうちで預かることにした。

可哀想ではあるが、流石に門外漢の俺ではどうしようもない。

せめてここにいる間だけは辛いことがないようにしてあげたい。

他のみんなも同じ気持ちのようで3ヶ月経った今では女の子同士ではしゃぎあう仲になっている。

 

 

「恭也くーーん、学校に行こー」

玄関から同級生の姫河が呼ぶ声がする。

姫河小雪、俺と同じ私立風芽丘学園2年生で2年連続同じクラスの同級生だ。

無愛想な俺の何処が良いのか分からないが、よく話しかけてきたり、こうやって朝迎えに来たりするんだ。

こいつはいつも笑顔で優しく、クラスでも密かに人気もあり、結構やっかみを受けたりもする。

だが、俺も悪い気はしないので止めさせたりはしないのだが。

 

 

学校に行く俺と美由希を見送りに来たハナとマナに姫河が挨拶する。

 

 

「ハナさんもマナさんもおはようございます。

今日もお元気そうですね。

ふふふ、感謝してくださいね」

「はい、おはようございます。小雪さん」

「感謝ってなんのことだか分からないけど、おはよう小雪」

 

 

姫河は彼女たちとも仲が良い。

女の子同士、仲がいいのは良いことだ、眼福だしな。

姫河が今日も変わらずニコニコと笑っている。

それを見て俺もなんだか嬉しい気持ちになってくる。

 

 

さて、今日も良い一日になりそうだ。

 




白いの「遠距離通学を支えているアッシー君に感謝の納豆をあげましょう」


高町恭也が2年生、なのはが1年生。
つまり来年と再来年だ。
何がかは分かるよな。


ちなみに次回もいつになるかは…。


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完成していたの?

シリアス展開が長いと疲れますよね。

今回はちょっとキャラが崩壊している可能性があります。

まぁしょうがないね、ギャグだしね。


「はっぴーまほーではじけちゃおー」

 

暗い部屋の中、大型TVモニターに映し出された二人の女の子の踊りと音楽に合わせてリップルが踊っている

 

「リップルはEDになると嬉しくなってつい踊っちゃうんだ」

 

独り言を呟きながら踊り続ける。

その動きはキレッキレで動画投稿サイトのニヤ動にアップすれば再生回数爆上げ確定だ。

リップルのヲタ友達であるDaSH氏や疾風迅雷のナイトハルト氏、そしてきりりん氏も絶賛するだろう。

今度東京オフ会で自慢しよう、リップルはそう思いつつ踊り続ける。

 

それだけ上達したのも今見ているアニメが現在30話だからだ。

つまり30回も踊っているのである。

魔法少女の身体能力でその回数踊り続ければアマチュアでも相当なレベルになるのも分かるだろう。

ブロント的に言うならば確定的に明らかである。

まさに魔法少女の無駄遣いと言える。

 

「きゅあっぷらぱぱ!明日よ良い日になーれー」

 

さて残り20話である。

 

 

+++++

 

 

空へと飛び上がった魔王パムへと容赦なく銃撃の雨と対空ミサイルが襲いかかる。

重機関銃での銃撃と対空ミサイルはそもそも魔法少女でもまともに直撃すれば即死である。

どちらも人に向けて撃つものではないのだ。

 

 

魔王パムは羽を1枚をヘルメット付の全身スーツへと変化させ、残り3枚でミサイル等を防いでいる。

例の黒い魔法少女が転移を繰り返して狙撃しているからだ。

機関銃やミサイルはどこから発射されるか分かっているので防ぎやすいが、転移を繰り返す彼女の狙撃は防ぐのが難しい。

衝撃までは殺せないが弾を止めるだけなら問題ない。

予期せぬ方向からの銃撃で即死しないように必要だった。

 

 

魔王パムが空で回避と迎撃を続けている際、羽菜がマナを背負い這々の体で逃げるのがチラリと見えた。

羽菜ではこの戦場は荷が重いだろう。

流れ弾で無駄に死ぬよりはせめて何人かの魔法少女を引き連れて逃げていってくれたほうがありがたいと魔王パムは考えた。

 

 

飛ばしている3枚の内、1枚を割いてまずは戦車を片付けることにした。

どうやら魔法で操縦しているらしく、統率した動きをしているため、射程である地表へ近づくのが危険だからだ。

装甲も魔法で強化しているようだが魔王パムの羽は容易く切り裂き、または叩き潰していく。

戦車部隊が軒並みスクラップとなるのにそんなに時間はかからなかった。

これで高度を下げることができ、上下左右四方八方から撃たれ続けるということは避けられる。

 

 

同じように今度は戦闘ヘリを落として、最期に山の斜面に展開している多連装ロケット砲搭載の自走車両に攻撃を加える。

だが自走車両が展開している場所は結界の向こう側らしく、羽が弾き飛ばされた。

結界は魔法的な物は全て弾くので、魔法がかかっている自走車両自体は通り抜けができないが、発射しているミサイルには魔法がかけられていない純粋な物理兵器だった。

同じく重機関銃や迫撃砲を発射している魔法少女たちも結界の向こう側に展開していた。

おそらく彼女たちは非戦闘系の魔法少女なのだろうと魔王パムは考察した。

外交部門が突発的に張った結界を作戦へと組み込み後衛への防御壁として使い、非魔法の現代兵器で攻撃する。

そのためにキルゾーンまでの緻密な誘導を行って。

考えて直ぐ実行できるようなことではない。

今回のようなケースを想定していたのだろうか?

いや、こんな特殊な状況など早々無い。

おそらく普段からどんな状況になっても対応できる訓練を積んでいるのだろう。

酷くシステマチックで狡猾だ。

 

 

「素晴らしい研鑽だ。

魔法少女がここまで連携して戦うとは。

これだ、これが見たかったのだ」

 

 

個人主義の多い魔法少女らしからぬ統率の取れた戦い方に魔王パムは感嘆の声をあげる。

そして次の瞬間にはその嬉しそうな笑顔は凶悪な笑みへと早変わりする。

 

 

「そしてそれを叩き潰してこそ魔王というものだ」

 

 

戦いはまだ始まったばかり…。

 

 

+++++

 

 

「まどか、浄化をお願い」

主戦場となっている場所から少し離れたビルの中にある戦闘指揮所。

そこにほむらが弾薬補給とソウルジェムの浄化のために戻ってきた。

ここでは斥候からの情報を処理したり、各地の戦闘をモニターして相互に連絡を取り合っている。

また、下の階では救護班が詰めており、負傷した魔法少女や戦闘に巻き込まれた一般市民が搬送されてきている。

まどかはここでソウルジェムの浄化をしていた。

 

 

「ほむらちゃん、あまり無茶しないでね。

ほむらちゃん達は私達と違って魔力を使いすぎると魔女になっちゃうんだから」

まどかは注意を促しつつ、ほむらのソウルジェムを手に取り魔法を行使し始める。

魔法によって穢へと向かう魂の流れを変え、浄化していく。

 

 

「まどかこそこの戦いが終わったらばら撒かれた魔女をグリーフシードに戻す仕事があるのだから、ちゃんと休んでおきなさい」

その魔法を見つつほむらはまどかの事を考える。

 

 

2年前、彼女が魔女にならない魔法少女になることによってほむらの長い戦いは終わりを告げた。

だがそれは新たなる戦いの幕開けでもあった。

まどかこと魔法少女「円環の理(マドカ・マギカ)」の魔法は強力だった。

 

"流れを操ることができる"魔法。

 

現状では手で触れた対象か、彼女が弓で撃ち抜いた対象の状態の流れを操作する魔法だ。

魔女から魔法少女に戻すような相転移までは起こすことはまだできない。

それでも汚れたソウルジェムを浄化したり、魔女をグリーフシードの状態に戻したりはできる。

だが彼女の身の内に秘めた膨大な魔力はそれに見合う精神力さえ身につければ魔女を魔法使いに戻すどころかありとあらゆる流れ、それこそ運命という流れすら制御できるようになる。

スノーホワイトはそう言っていた。

 

 

『私の魔法が"運命から選び取る"魔法と表現するなら、あの娘の魔法は"運命を作り出す魔法"なんですよね。

今はまだあの膨大な魔力を持て余していますが、いずれ成長して精神力が追いつけば彼女は世界を作り変えることができる、そんな魔法少女になるでしょう。

その時、私は彼女の魔法に抗うことが出来るのか。

彼女の作り出した運命の流れから望む未来を掴み取れるのか。

今から本当に楽しみです』

 

 

それが本当ならまさに奇跡を起こす魔法だろう。

だがそれだけに彼女の魔法は危険だと言えた。

彼女が作る幸せな未来が不都合な人間などいくらでもいる。

他人の不幸から利益を得ているものなど掃いて捨てるほどいるのだ。

特に大きな組織の権力者と呼ばれる者の中には。

そんな権力者から彼女を守るためにほむらは鉄腕組へと所属している。

スノーホワイトはワルプルギスの夜やきゅうべえが可愛く見えるほどに邪悪な存在だが、

幸いなことにまどかが成長することを願っている。

お互いの目的が一致している間は利用し合うのも悪くはなかった。

 

 

そして何故かまどかはスノーホワイトに上手く騙されているようで心酔してしまっていた。

きゅうべえに簡単に騙されるまどかを言いくるめるなんてスノーホワイトにとっては赤子の手をひねるが如くだったのだろう。

だがまどかの魔法のお陰で鉄腕組はソウルジェムやグリーフシードを安全に運用できるようになった。

もし彼女がいなければ無茶ばかりする美樹さやかなどとっくに魔女化してしまっていただろう。

 

 

考えているうちにソウルジェムの浄化は終わっていた。

ひとまずは今回の任務を遂行する。

報酬品であるまどかのムービー集は是非とも手に入れねば。

 

 

「魔王パムは手強い。

確実に倒すならそれこそワルプルギスの夜をぶつけるべきだけど。

………そもそも任務内容は殲滅ではないからな」

蹂躙と言ったからにはスノーホワイトが楽しめるような白熱した戦いをしないと達成とは言えない。

 

 

戦闘をモニターしている魔法少女に他の部隊はどうなっているかを尋ねる。

「兎と杖は既にさやかさんと杏子さんによって捕縛されています。

今は兎の記憶改ざん中ですね。

補給部隊はリオネッタさんの新型武装が届いたので発進準備を進めています。

本隊の方は…さすがエースばかりですね、もう殆ど終わっていますよ。

今、スノーホワイトさんが最期の1人と対峙中です。

それが終わり次第援護に来てくれます」

 

 

それを聞いてほむらは若干不機嫌になる。

何かと自分とキャラがかぶるあの忌々しい根暗ゾンビ女がほくそ笑むのを想像してムカムカしてくる。

 

 

「援護なんて不要、そろそろ本気を出そうと思っていたのよ。

まどか、アレを使わせてもらうわね」

それを聞いて「え…ほむらちゃん正気?」とドン引きするまどか。

 

 

ほむらは円盾の中から綺麗に飾り付けされた宝箱を取り出す。

この中にほむらの最終決戦用の装備品が入っているのだ。

幾重にもかけられた厳重な鍵を、ほむらは丁寧な手つきで一つづつ解除していく。

そして中に入っていたアレを大事そうに取り出し、

そして身につけた。

 

「フォォォォッォォォーーー!!!」

 

ほむらは全身から魔力をほとばしりながら戦場へと駆け出していく。

 

それをまどかは頭痛をこらえながら見送っていった。

 

 

+++++

 

 

魔王パムは困惑していた。

 

 

結界内の魔法少女を蹴散らしていたら雄叫びを上げながら黒い魔法少女が向かってきたのだが。

いや、あれは本当にさっきまで緻密な狙撃をしていたあいつなのだろうか。

コスチュームは同じだ。

手にはさっきまで使っていたアンチマテリアルライフルが握られている。

それだけ見るならばなるほど同一人物なのだろう。

だが今の彼女をこの魔王パムをして油断ならないと評した黒い魔法少女と認めるのは彼女の沽券に関わることではないだろうか。

百歩譲って同一人物だとするなら何処かで洗脳魔法でも食らったのか?

攻撃をするのすら忘れ、「おまえ、正気か?」と呟いてしまっていた。

周りの魔法少女たちも同様に唖然としている。

今この瞬間、世界が凍りついていた。

 

 

「あの・・・ほむら先輩です・・・か?」

仲間であろう魔法少女の1人が声を掛ける。

 

 

「笑止!いまの私は暁美ほむらではない。

私はまどかの愛に包まれて真の姿を取り戻した。

今の私は愛の狩人・HK(ほむら仮面)だ!」

パンツを顔に装着した変態がいかがわしいポーズを付けながら名乗りを上げた。

 

 

とりあえず全力で殴りつけた。

 

 

HK(ほむら仮面)とやらはそのまま結界へと突っ込んでいき弾かれて地面を数度バウンドし、ピクピクしている。

 

 

「あの…見なかったことにして再開しますか?」

先程問いかけた魔法少女が申し訳なさそうに声をかけてくる。

 

 

「その方が精神衛生上良さそうだ」

了解し、とりあえずお互い距離を取って戦闘を再開することにした。

 

 

さて再開するかと思ったところで、空から音楽が流れてきた。

 

 

<───に帰りなさーい、───を辿り>

 

 

上空を見上げると槍を持ったロボットのようなものが9機、円を描くように旋回していた。

それぞれにスピーカーが搭載されているらしく、そこから音楽が流れてきている。

 

 

「鉄腕少女量産型…?」

それを見た魔法少女が唖然として言った。

 

 

「まさか………鉄腕シリーズ、完成していたの?」

 

 

<ルフラーーーーーーーン!!!!>

 

 

そして鉄腕少女量産型たちは魔王パムへと向かって襲いかかった。

 

 

 




「星来オルジェル」と「星くず☆うぃっちメルル」の参戦フラグがたちました。

なに?どっちも劇中劇ではないかって?

何を言っている、片方はギガロマニアックスで創造して、もう片方は加奈子を魔法少女にすればいいじゃないか。
余裕余裕。

それにしてもこの世界線の地球は思いの外頑丈だな。

そろそろスーパー魔女っ子大戦ができそうだ。



あとチラッとrestart組の生き残りが出ました。
結構頑張って戦ってたみたいだけど裏方だからしょうがないね。


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ジェバンニが一晩でやってくれました

本当は冒頭だけで、のこりは戦闘シーンの続きを書こうと思ってましたが
あの娘が最近出てきてないのでどうしたのかなって思われているようなので
閑話として出してみました。

時系列的には前回の後です。

あとアクセス数を見るとここ最近になってもはじめて読んでくれる方がいるみたいなので、
作品説明のところに色々注意書き書いておきました。

では楽しんでください。




「イッヒ フンバルト デル ウンヒ!」

 

 

鉄腕組、トイレの個室にて旧ドイツ軍服を着た女性が踏ん張っている。

 

 

「ハイル! フンデルベン! ミーデルベン! ヘーヒルト ベンデル!

フンバルト ヘーデル! ベンダシタイナー!

フンデルト モレル ケッツカラデルド! フンベン モルゲン!

モーデルワ イッヒ アーデル ゲーベン! ワーデル」

うほっ!僕のケツからニュルンベルクと立派なブツが排出された。

 

 

いかに魔法少女がトイレに行かなくても良いからと言っても、変身解除時に食べたものが消えてなくなるわけではない。

アニメも佳境に入ってきたので少し気分をリフレッシュしようと変身を解いた僕は溜めに溜め込んだブツが催してしまった。

それにしても本当に立派なブツだ。

たしか前回変身を解いたのは半年前だったっけ。

あの時はたしかラザニア食い放題で元を取ろうともう死にそうになるまで食べまくったんだよな。

実際腹が膨れすぎて動けなくなったので変身したんだった。

あれからずっと半年間も腹の中で熟成されていたわけだ。

そのためか、そのブツは色、形、硬度、量のどれもが理想的だが、何よりも匂いが凄かった。

発酵に発酵を重ねたその臭いはもはや人の身で嗅いで良い代物ではなかった。

言うなれば天国の臭い、いや嗅いでいると天国に行きそうになる臭いだ。

これを砲弾に詰め込んで撃てば化学兵器として使用できるのではないだろうか。

今直ぐに学会に提出すべきだろうか本当に悩んでしまう。

あまりの凄さに僕はお尻を拭くのも忘れて見入ってしまっていた。

おっといけない、パンツぐらいは履いておかないとお尻が丸見えではないか、ぐちゅ。

そして僕はためつすがめつ色々な角度から鑑賞し、スマホで撮影してインスタにあげて、ツイッターで呟いて。

とりあえず味は酷かったことを確認して、さて流そうかといった段階で「流す」ボタンを押そうとした時、その隣に新しいボタンが外付けされているのに気付いた。

 

【注意!N2M発射ボタンです。危ないので押さないでくださいね。絶対押しちゃダメですよ。とっても可愛い小雪ちゃんより】

 

注意書きが書かれた付箋がボタンのところに張ってあった。

 

「ふむ」

 

とりあえず深く考えず僕はその新しいボタンを押してみた。

………建物の外でなんか爆発音とか飛んでいくような音がした気がするけど、特に何も起きないな。

なら問題ないだろうと僕は納得してトイレから立ち去った。

なんかお尻がぐちょぐちょして気持ち悪かったけど変身したら感じなくなったし気のせいだろう。

 

 

+++++

 

 

さて部屋に戻ってアニメの続きを見るかというところで、ただいまぁ、っすー、と二人分の声が聞こえてきた。

娘の華乃と青い子が帰宅したようだ。

 

 

華乃と青い子は今年から高校に通っている。

もともと華乃は大検を受けて大学進学しようと考えていた。

そして僕が華乃の勉強について現役高校生の白いのに相談してみたら、翌日に入学通知を用意してくれて、華乃は折角だしと言って通うことになったのだ。

入試もしていないし今年成人なのに問題なく入学できるなんて白いのは一体どんな魔法を使ったのやら。

そういえば僕の口座から1億ほど消えていたけど、高校の入学金って結構高いのね、世間の親御さんの苦労が分かってしまいました。

 

 

高校入学について華乃はずいぶん喜んでいたが、でも僕も最初は渋っていたんだ。

なんでも通う学校がちょっと遠いのだ。

冬木市の穂群原学園というところで電車でも数時間かかるということで、何か会った時に

救助にいけなくなる。

華乃は魔法少女の中では特殊なロボットタイプ。

なので他の娘みたいに変身してコスチュームの上から服を着て誤魔化すという手が使えない。

魔法少女と人間の身体能力の差は激しく、仮に敵が目の前で変身しようとしたって変身が終わる前に僕なら10回は殺せる自信がある。

なので鉄腕組では基本的に変身解除は私生活中でも極力しないように通達している。

黒いのだって変身したまま通学しているぐらいだからな。

変身もせずに歩き回れる剛の者なんて白いのぐらいだ。

華乃も変身後の目立ち加減はよく分かっていて、変身せずとも戦えるように透明エロフや青い子に戦闘方法や武術を習ったり、足繁く尻の穴に通ったりしている。

だがそんなのはベテランの戦闘魔法少女相手では誤差範囲だろう。

 

 

なので危険ではないかと白いのに相談したら、翌日青い子の入学通知と私服登校許可を用意してくれた。

前回と同じく一晩でだ。

白いのさん、なんて優秀なんだ。

これはあれだな、ジェバンニだ。

「ジェバンニが一晩でやってくれました」

まさにその現象を僕は見たね。

白いのに今度からジェバンニって呼んでも良いかを聞いたら、ふふふって笑って何かの乱数調整をし始めたので土下座して謝りました。

ちなみに後日口座を確認したら更に1億減っていました。

青い子の入学料ぐらい経費で落としてよ…。

 

 

そんなわけで、華乃は毎日冬木市まで通っている。

高校入学とともにバーニアを強化したらしく、加速装置を併用すると本気のトップなんとかさんを振り切る速度が出るようになったので冬木市まであっという間らしい。

そのうち自衛隊にUFO扱いされるんじゃないかな。

華乃が現地まで青い子の宝石を持っていって、青い子がそこまで転送するという通学方法を取っている。

なので行きも帰りも二人一緒だ、ゆるゆりだ。

だけどキマシタワーはこの作品では死亡フラグらしいので建築しないでほしいね。

ちなみにどうしても遅刻しそうな時はアッシー君を使っている。

最初はわがままだったアッシー君も白いのが毎日お話をすることで従順になった。

白いのには新人教育も素質があるらしい、まさに多才だな。

 

 

そんなわけで華乃と青い子は毎日楽しそうに青春している。

学校では白いのの薦めで弓道部に入ったらしく、毎日遅くまで練習している。

友達も増えて充実しているらしく、母としても嬉しい。

だけど1人、同じクラスのなんとかっていう女子が入学時から華乃と青い子のことを敵視しているらしく、ずっと殺意の籠もった視線を向けてきて困っていると相談を受けた。

僕の可愛い華乃にガンたれるとはいい度胸じゃないか。

いくら華乃が優秀で美人で優しくて、そして世界で一番可愛い娘だといっても嫉妬して華乃に嫌な思いをさせるなんて許せるわけがない。

それを聞いた僕は瞬間湯沸かし器の如く一瞬で激高し、

「戦争だ!蹂躙だ!全魔法少女出撃!冬木を灰に変えろ!」

と叫んでいた。

華乃が止めていなかったら今頃冬木市は存在していなかっただろう。

みんなもノリノリで出撃準備していたしな。

 

 

そんな事を思い出していたら華乃がやってきた。

 

 

「母さん、ただいま。

なんか事務所に誰もいなかったけど何かあった?」

 

 

はて?なにかあったっけ?

僕はずっとアニメを見ていただけだし、仕事なんて見習い魔法少女を数人可愛がるっていう簡単な物しかなかったはず。

あんなの透明エロフあたりを派遣すれば直ぐ終わるだろうし関係ないか。

 

 

「うーーーん、今日ってノー残業デーだったっけ?

それともプレミアムフライデー?」

 

 

「どっちもうちには導入されてないよ、それ」

 

 

「失敬な、鉄腕組は健全なホワイト企業だぞ。

完全フレックスタイム制だし、残業もしっかりお金出るし、ハローワークで求人もだしてる。

しかも初任給30万だ!

大学を卒業したら華乃もうちに就職すればいいさ」

ドヤァと胸を張る僕。

 

 

「たしかうちって36協定も入ってないよね。

それに30万って人小路グループ内だけで使える独自通貨の30万ペリカのことじゃなかったっけ。

流石にそんなところに就職するのちょっとね…」

華乃が呆れた顔で突っ込んできた。

 

 

「うぐ…だが今度のN市市長選でヤスが当選したら、N市内ではペリカが使用可能になるし問題ないさ」

そう、鉄腕組は地方行政にも積極的に参加しているのだ。

鉄腕組初期メンバーの三馬鹿マサ・サブ・ヤスの1人、ヤスを市長選へと出馬させているのだ。

僕が書類を書いて出したので、本名が分からず名前は「犯人はヤス」としておいた。

たしか出身地にはナメック星とか書いたっけ?

それでも車椅子が改名手続きしてくれたしすんなり立候補できた。

そんなかんじで人小路家も全面バックアップしてくれている。

車椅子には秘策があるようで当選確実だと言われた。

その秘策のためにうちからも人を手伝いで出しているのだ。

たしかえっと、の、の、のんちゃん?名前忘れたけど白いのが連れてきたメイドちゃんが街頭演説や投票会場でお手伝いするんだって張り切っていたっけ。

 

 

その事を話すと

「不正の匂いしかしないよ、母さん」

とこれまた失敬なことを言われた。

 

 

華乃がそういえばとついさっき帰ってくる時にこっちからなんか飛んでいったけど何か知ってるか聞いてきた。

何かって何が飛んでいったんだ?

 

 

「ミサイルみたいに見えたんだけど…またなにかやらかしてるんじゃないの?

マスターに怒られたって知らないよ」

 

 

いやいやミサイルって華乃さん何を言っているんだい。

そんなものうちにあるわけないでしょうが。

どこの軍隊の話をしているんですか。

鉄腕組は極々一般的な平凡な企業ですよ。

 

 

「そもそも僕は何事にも慎重に石橋を叩いて渡るタイプだからね。

だから車椅子に怒られるようなそんな迂闊な真似なんてしないよ」

 

 

華乃が疑わしげな目で見てくるけど、僕だって成長しているのだ。

常に社員の行動に目を配って、危険なことはないか、辛い目にあっていないか、無茶なことをしたりしていないかと日々観察している。

福利厚生にだって気を配ってるし、それに「私にとってリップルさんはとっても理想的な社長です」って白いのだって太鼓判を押していた。

きっと今頃、みんなは楽しく飲みにでも行って僕のことを賛美しているに違いない。

 

 

「やっぱり平和が一番だよな」

 

 

さてアニメの続きでも見てくるかな。

 

 

+++++

 

 

後日、当選したN市市長・犯人はヤス氏はその後国政にも打って出て、寿命を迎える80年後まで、痴呆症になろうが寝たきりになろうが、それでも当選する謎の政治家として日本政治史に名を残すことになる。

 




華乃「くっさ!なにこれくっさ!母さん!なんかトイレがすごく臭いんだけど!」
青い子「ぶくぶくぶくぶく(他界中)」


そんな感じで箸休め編です。
コピペを考えた原案者に畏敬の念を籠めて。


あと白いのって優秀ですね。

そして作者は無能なので回収できるかどうかわからないのにどんどん話を広げていきます。
生暖かく見守ってください。

では次回もまたいつか何処かで会えることを願って気長に待ってください。




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ジェバンニが一晩でやっちまいました

日曜ということで頑張っちゃいました。
9000字オーバーと遅筆の私にしてはかなりの長さ。
どこで切るのが最適か悩んでいたんですが、
どこで切っても中途半端な感じがして。
ここまで来たら繋げちゃったほうがいいかなって。
いや、こんな短い文で待たせるんじゃねーよっていう厳しい意見は重々承知しています。
1万文字オーバーが基本の上位ランクの方達は本当に尊敬します。
もっと上手く書けるようになりたい。


さて、今回も状況がコロコロ変わって落ち着かない感じですが。
頑張って読んで下さい。



逃げていく暗殺者を見送るスノーホワイト。

だがその顔はこれから起こることを知っているかのように楽しそうに歪ませていた。

 

 

「私はまだハートマークを増やせないので後始末、おまかせしますよ」

 

 

+++++

 

 

妖精トコに魔法少女にされた海達7人は同じ中学校の生徒たちだった。

1人先生や動物も混じっていたが。

魔法少女になった後、妖精トコから悪い魔法使いに追われているから助けてほしいという依頼を受けた海たち。

海達は一度、その悪い魔法使いと相対して何とか退けることができたが、倒すことはできなかった。

海達が魔法少女になったばかりで連携どころか仲間の魔法すらよく分かってない状態だったからだ。

そのため一度海の所有している無人のアパートで作戦会議を開くことになった。

そこで、学級委員長である結屋美祢ことウェディンがリーダーになることを宣言して海と喧嘩になったり、仲間の魔法少女テプセケメイの正体が理科実験室で飼われていたエジプト陸カメだと分かりびっくりしたり。

また繰々姫こと姫野希先生が責任感に押しつぶされそうになっていたり、1年生2人、

レイン・ポゥとポスタリィが頼りなかったりと前途多難を感じさせる作戦会議を行っていた。

やっぱり頼りになるのはこのキャプテン・グレースだけだと海はまだ見ぬ冒険への日々に思いを馳せていた。

 

 

そんな会議中、海達はいきなり奇妙な空間に放り出された。

 

 

「なにこれ!まさか悪い魔法使いの魔法!?」

ウェディンが困惑して辺りを見回している。

1年生2人は顔が真っ青だ。

佳代も怯えているのかあたしの服を掴んでいる。

先生は「とにかくみんな落ち着いて」と叫んでいるが、先生こそ少しは落ち着いたほうがいい。

メイは相わからず無表情で浮かんでいる。

 

 

「なんだか知らないけど、おもしろそうじゃない」

海は持ち前の冒険心が擽られているのを自覚する。

周囲の景色は見たこともない、それこそ子供が無秩序に落書きした絵の中のようになっている。

 

 

「これは…まさか魔女?初めて見るけど、こんな現象は他にはないだろうし」

トコがが何かを知っているようで考え込んでいる。

 

 

「魔女って?魔法少女とか魔法使いじゃなく?」

新しく聞く単語に海は好奇心を擽られた。

 

 

「魔女っていうのは魔法の国が管理できていない自然発生するモンスターのことで、えっとたしか、今感じに結界に獲物を捉えて人間を食べちゃうらしいわよ。眉唾だったんだけど実在したなんて」

 

 

モンスター!いいじゃないか!

まさに大冒険だ。

キャプテン・グレースの冒険にモンスターは欠かせないだろう。

 

海はたまらず飛び出してモンスターを探しに行く。

それを佳代ことファニートリックと先生こと繰々姫が追いかける。

 

 

「まって!まってよ海!1人でいくなんて危ないって」

「そうよ。まずはみんなで相談して………あー、もう先生の指示に従いなさい!」

 

 

そんな制止の声が聞こえるが海を縛るものなんて存在しない。

なぜならこれは海の、キャプテン・グレースの物語なのだ。

主人公は自由で強くて、そして正しいんだ。

 

 

襲い掛かってくるなんか小さいのを縦横無尽に切り刻みながらキャプテン・グレースは楽しそうに笑い声をあげる。

いいぞ、たのしいぞ!やっぱり魔法少女って最高だ!

後ろをついてきている2人も難なく迎撃してる。

さながらキャプテン・グレースと子分たちの大進撃。

今までしていたごっこ遊びが霞むぐらいの楽しさだ。

 

 

キャプテン・グレース、芝原 海は小さい頃から冒険が大好きだった。

いつか物語の主人公みたいに世界を股にかけた大冒険をすることが夢だった。

しかし、現実の世界に冒険なんて存在しない。

だけど海にはそんなことが我慢ならず、同じ趣味の佳代を連れて色んな無茶をやってきた。

どこそこに強い格闘家がいると聞いたら道場破りをして叩きのめす。

ヤクザ相手だって海にとっては遊び相手だ。

近場のヤクザ事務所に襲撃をかけてまわり、ボコボコに殴り飛ばすのは爽快だった。

最近話題になってるヤクザ、鉄腕組へと殴り込んたこともあった。

家にあったトラックを運転して鉄腕組ビルに突っ込んでいったときは最高の気分だった。

突っ込んだトラックに跳ねられた陰気な幼女が何事もなく起き上がって来た時は驚いたし、その後、その陰気な幼女に手も足も出ずにボコボコにされたのはいい想い出だ。

佳代と一緒に半年も病院にお世話になったけ。

佳代なんて1ヶ月も意識不明で大爆笑した。

やっぱり佳代は私が付いていないと危なっかしいな。

 

 

そんな海だからこそ、魔法少女になれた時は驚きよりも嬉しさのほうが強かった。

これでもっともっと冒険ができる。

しかも海の姿は女海賊で、魔法は海賊船を出すことだ。

これはもう冒険に出ろって言ってるようなものでしょ。

そしてトコが悪い魔法使いに追われているから助けてほしいって言ってきた時は興奮した。

まさに正義の味方の海にとって最高のシチュエーションじゃないか。

 

 

そんなことを考えながら不思議な空間をひた走っていたら一際広い部屋にでた。

そこには足の長いテーブルみたいなものが乱立している場所だった。

海達3人は油断なくあたりを見回す。

こんな広い部屋、如何にもボスがいそうではないか。

 

「や・・・やっと追いついた」

その声に後ろを振り返ると一年生2人組もこちらに追いついていた。

メイがいないけど、飄々としているからどっかに浮かんでいるだろう。

海は特に気にしないことにした。

 

 

唐突にそいつは現れた。

そいつは小さいやつだった。

トコが「そいつが魔女だ!」と警告しなければ今までの道中で出てきた雑魚と同一だと思ってしまったほどだ。

なんか小さい人形って感じの魔女。

どうみても弱そうだった。

試しに海が斬りつけてみたら、意外とすばしっこいのかひょいひょいと避けられる。

でも何度か動きを見ていたらパターンもわかったので動きを捉えることができた。

そして最期は剣で串刺しにして仲間の方へと投げ飛ばす。

こんな雑魚だとは思っていなかった。

これでは弱い者いじめではないか。

弱い者いじめをする主人公なんてかっこ悪い、全然冒険じゃない。

なのでトドメは仲間にさせることにした。

特に1年生はおどおどしていて未だに慣れていない。

ここで実戦経験を詰めば少しは使えるようになるはずだ。

 

 

「もう死にかけだから、そうだなポスタリィだっけ。

あんたがやりなよ」

 

 

そう海に声かけられたポスタリィはビクッとして私が?と指で自分の顔を刺している。

隣のレイン・ポゥも頑張って、大丈夫、怖くないよって声をかけている。

ポスタリィもそれを受けて覚悟を決めたのか、串刺しにしているキャプテン・グレースの剣を握り、持ち上げ、魔女を地面に何度も叩きつけた。

何度目かで魔女はぐったりとして動かなくなった。

 

 

さて終わったか、んじゃ帰ろうとみんなで元来た道を引き返そうとした時に悲鳴が聞こえた。

見ると魔女の口からでかい芋虫のようなものが出てポスタリィの頭を丸呑みにしていた。

 

グシャ、ボキッ、ゴキッ、グチャ………

 

ポスタリィの頭を咀嚼する音が響き渡る。

そして頭部を失った体が地面に落ち、先生の悲鳴が上がった。

 

 

その悲鳴で硬直していたキャプテン・グレースも我に返り、芋虫?いや新しい魔女に向かって斬りかかる。

だがその動きは先ほどとは比べ物にならない速さで当てることができない。

魔女はその巨体で押しつぶそうと駆け回る。

突っ込んできたウェディンたちが避けようとして弾き飛ばされ、硬直していた佳代は魔女に飲み込まれてしまった。

それをみて激高したキャプテン・グレースは咀嚼していて動きが止まっている魔女に斬りかかるも、容易く避けられ跳ね飛ばされる。

壁へと叩きつけられ、あまりの衝撃に息がうまくできない。

こうなったら海賊船を出して押しつぶすしかないか。

でもこんなところで出したらみんなも避けれずに潰されてしまうかもしれない。

どうすればいいと悩んでいる間に魔女は咀嚼を終え、また動き出そうとしていた。

 

 

そんなとき、何かがものすごい速さで魔女へと体当たりした。

衝突の威力は凄まじく、魔女の体を容易く突き破り、広間を揺るがせた。

それは箒に乗った魔女のような格好をした魔法少女?だった。

 

「いやー、魔女空間っていつ来ても順路がぐちゃぐちゃで迷っちゃうよ。

あれ?人数足りないけど、もしかして遅刻しちゃった?」

 

その魔法少女は悪い悪いと頭をかきながら陽気に声をかけてくる。

その背後で魔女がまた鎌首をもたげてその魔法少女を飲み込もうとしている。

 

 

「おい、あんた…」

海が警告しようと声を上げかけた時、魔女の頭部が弾け飛んだ。

いつの間にか銛を持ったエルフみたいな魔法少女が立っていた。

動きが全く見えない。

おそらく手に持った銛で攻撃したんだろうけど、それが全く見えなかった。

 

 

周りの景色が歪んで、立っている場所がアパートの外へと変わっていた。

そして、周りには何人もの魔法少女らしき女性たちが囲んでいた。

 

 

エルフがこちらを向いて声を上げてきた。

「警告します。

大人しく投降するなら命の保証は致します。

今直ぐ変身を解いてうつ伏せになってください」

 

 

「みんな逃げて!そいつらが悪い魔法使いよ!」

トコの声でレイン・ポゥがトコを掴んで弾けるように逃げ出していく。

ウェディンも困惑しながらも走り去る。

先生は何がなんだかわからないようでオロオロとしている。

あたしは…。

 

 

「あたしの名はキャプテン・グレース!お前らのような悪に敗けるあたしじゃない!みんなやっつけてやる!」

剣を持ってエルフへと斬りかかっていた。

この程度の困難、冒険物語では定番だ。

ピンチのときこそ活路は見出される。

今こそあたしの隠された力を発揮してこの強敵を倒すときだ。

見よ!このキャプテン・グレースの勇姿を!

みんなあたしのことを見て唖然としているじゃないか。

先生も敵の魔法少女にリボンで簀巻にされてこちらへ泣きそうな顔を向けている。

そしてあのエルフだってあたしの体へと銛を突き出してこちらを見上げている。

なんだその残念そうな顔は、まだまだ勝負はこれからだぞ!

キャプテン・グレースの冒険はこれからだ!

 

 

それがキャプテン・グレースが思考できた最後の瞬間だった。

 

 

+++++

 

 

トコの声で反射的に逃げ出し、道路へと飛び出したウェディンの前に兎のヌイグルミを持った黒い魔法少女が立っていた。

 

 

身の丈は私よりも大分小さい。

少女というより幼女と言ったほうがいいかもしれない。

 

 

なんかちょっと不気味だけど、戦闘が出来そうな感じじゃないし後衛タイプなのかもしれない。

ならば私でも倒せるかも。

どちらにしろこんなところで足止めされてちゃ他の魔法少女達が追いかけてくる。

あのエルフっぽいのとかが来たら私では手も足も出ないだろう。

キャプテン・グレースがどこまで戦えるか分からない今、時間は宝石よりも基調なのだ。

よし、まずはこいつを倒して逃げ切る。

その後は先に逃げたレイン・ポゥとそしてどっかにいるだろうメイと合流して体勢を整えよう。

もしかしたらキャプテン・グレースだって助けに行けるかもしれない。

 

 

そんな楽観論は一撃で物理的に粉砕された。

 

 

間一髪避けれた彼女のパンチは背後のビルを粉砕した。

3階建ての鉄筋ビルが一撃で崩壊したのだ。

スピードは私でも避けれる程度の速度だったが、

その威力はキャプテン・グレースをも遥かに上回る。

 

 

「ね、ねぇ、貴方達の要求は何なの?

降伏したとして、本当に命の保証ってされるのかしら?」

 

 

近接戦闘であんな馬鹿力相手に勝てるわけがない。

こうなったらなんとか相手から"約束"を引き出すしかない。

私の魔法は相手に"約束"をしたことを強制させる力。

これで相手の行動を縛ることができたら、まだ勝機はつかめる。

 

 

「…………?」

 

 

黒い魔法少女は首をコテっと倒してこちらをじっと見る。

 

 

「ねぇ私達って魔法少女続けられる?」

 

 

さらにコテっと反対側に首をかしげて、こちらへと近づいてくる。

 

 

「ね…ねぇ?もう抵抗しないからさ、攻撃しないでくれない?」

なんか様子がおかしい。

とりあえずジリジリと私は後ろへと下がりつつ再度声をかけたのだが。

 

 

 

「………ふ、」

 

 

 

彼女はピタリと動きを止めて口を開く。

 

 

 

「ふ?」

そして彼女は腕を上げ…

 

 

 

 

「フッ」

こちらへとにじり寄って…。

 

 

 

 

「フンガーーーーーー!!」

こちらへと飛びかかってきた!!!

 

 

「ちょっ!抵抗しないってばさ!やめてよ!攻撃止めて!」

なんども制止の声を上げるが、彼女は困ったような顔をしながらも攻撃を続けてくる。

その強大な腕力を振り回し、辺りは瓦礫の山へと変えられていく。

 

 

「フンガ---!!」

 

 

「もう本当に!止まって!止まってよ!」

彼女はそれを聞かず、しつこく私を捕まえようとする。

何度も話しかけるけど、返答は変わらずフンガーだけ。

彼女は壁を叩き割り、道路を陥没させ、電柱柱を引き抜いて振り回す。

まさにバーサーカーと言った感じだ。

バーサーカー?

飛んでくる電柱柱を避けながらふと思いついたことがあった。

いやいやまさか。

えっと…いやでも。

フンガフンガと暴れまわる彼女を見て考える。

 

 

やっぱり…これってもしかして…

 

 

「なんで話せない魔法少女なんているのよ!!!!!!」

 

 

そして数分後、私は見事取り押さえられてしまいました。

 

 

「フンガーーーーーーー!!!!…なのです」

 

 

+++++

 

 

メイは上空で箒にのった魔法少女と戦っていた。

相手はメイでも追いつけないぐらいの速さで何度もメイに体当たりをしてきた。

メイの魔法は体を風にすること。

相手の攻撃をすり抜けてどこまでもとんでいける便利な魔法。

なのでそいつの攻撃も体を風にしてすり抜けようとした。

だけどメイがその箒に触れた途端弾き飛ばされた。

 

 

どうやら相手も風を纏っているようで、メイの風とぶつかるみたい。

大した痛みじゃないけど、食らうとバラバラにされちゃうから、戻るのが大変。

 

 

お返しに風の弾をぶつけてるけど、それも相手の風に阻まれて当たらない。

 

 

相手は上空から何度も何度もしつこくぶつかって来ようとしてくる。

メイはぶつかるのは嫌なので下に逃げる。

 

 

また上空から飛んでくる。

嫌なので下に逃げる。

 

 

上から来る。

下に逃げる。

 

 

何かがおかしい。

さっきから相手は同じ方向から飛んでくる。

まるでメイを何処かに連れて行こうとしてるような。

 

 

そう思った時だった。

 

 

「風よ!戒めの鎖となれ!ウィンディーーー!!」

 

 

その言葉とともに下方より拭き上げてきた風がメイを縛り上げる。

 

 

下方を見るとビルの屋上に棒を持った魔法少女が立っていて、その子の前に浮かんでいるカードから風がどんどん吹き付けてくる。

 

 

その風はメイを下へと引っ張ろうとしてきたので、風と同化して抜け出そうとするけどできない。

今までメイの意思で自在に動いていた風が全く言うことを聞かない。

メイの体を風にして抜け出そうとするけど、そうすると風になった体までメイを縛りはじめる。

メイにはもう何がどうなってるのか分からない。

もがけばもがくほど抵抗する力がだんだんと無くなくなっていき、どんどん地面が迫ってくる。

メイは負けたのだ、ただそれだけは分かった。

そして失意のまま地上へと落とされてメイの意識は暗転した。

 

 

+++++

 

 

何でだ、何で当たらない。

 

レイン・ポゥは困惑していた。

どれだけ虹を打ち出そうともまるで当たらない。

相手のスピードが早いわけでも手数で迎撃されているわけでもない。

ただ当たる直前に体を少し傾けただけで全て避けられる。

まるでどのタイミングでどう良ければいいか最初から分かってるみたいに。

 

 

「ふふふ、ねぇどうしたんですか?

この程度なんですか?

やっぱり奇襲じゃないと殺せないんですか?

得意みたいですものね、何も知らないって顔で後ろから刺すのが」

 

 

白い魔法少女が挑発するように嘲り笑う。

相手は既に私が暗殺者だと分かっているようだ。

私の魔法は自在に実体を持った虹を発生させる魔法だ。

その虹を使って敵を切り刻むのを得意としている。

虹の射出には音も気配も発しないので暗殺向きである。

ただし虹を発生させてそれを伸ばすまでにタイムラグが有り、ほぼ直線にしか伸ばせないという欠点もある。

なので戦闘能力に長けた相手と真正面からぶつかれば迎撃されやすいのは理解している。

敵に気取られず奇襲で殺しているのはその特性を理解しているからだ。

だがそれでも今回のように簡単に躱せるほど甘いものでもないはずだ。

発生させられる数に限度がないので手数で押せば大抵の相手は迎撃しきれずバラバラに切り刻める。

そうか、ならば避けれないようにスペースを無くしてしまえばいい。

私は彼女の周囲を囲むように配置し、躱せるスペースを無くして虹を発射させる。

 

 

「あらあら、そんなに密集させちゃったら」

 

 

白い魔法少女が右手を前に差し出し、指弾を放つ。

指弾は伸びようとしている虹へと当たり射出角度が変わって、他の虹へと激突する。

激突された虹も角度が変わり別の虹を巻き込んで…

連鎖反応的にそれが続き、射出角度を変えられた虹が逆に私へ襲い掛かってきた。

予想外の虹の動きに躱すのが遅れ右腕が斬り飛ばされる。

 

 

「ほらーこんな感じに衝突事故が起きちゃいますよ。

ふふふ、痛そうですねー、"聞こえて"きますよ貴方の心の悲鳴が」

 

 

またもや無傷の白い魔法少女が顔に恍惚とした笑みを浮かべて立っている。

 

 

ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ…

こいつヤバすぎる。

レイン・ポゥは恐怖で体が震えている。

 

 

「いやいや、まさか貴方みたいな未熟な人にあの魔王パムさんが殺される可能性があったなんて。

魔王パムさんって結構面白いんですよ。

私、もっともっと彼女で遊びたいです。

だから今回は介入させてもらったんですよ」

 

 

訳のわからないことを言っている白い魔法少女。

それにレイン・ポゥが戦慄していると、魔法端末から声が聞こえる

 

 

「そいつは白き災厄だにゃん。

関わるととんでもないことになるにゃん。

今は逃げ切ることが最優先にゃん。

早く逃げるにゃん」

 

「そうよレイン・ポゥ、そいつ、さっきから攻撃してこないじゃん。

きっと攻撃系の魔法は持ってないってば、早く逃げるのよ」

 

 

胸元に隠れているトコも逃走を促してくる。

白き災厄、たしかヤクザものだったはず。

ならば運営に通達されても情報の信用度は低いはず。

外の協力者ならばもみ消すことも可能だろう。

レイン・ポゥは素早く思考を巡らせ、脱兎の如く逃げ出す。

トコの言うとおり攻撃系の魔法がないのか、何故か追撃はなかった。

 

 

 

 

 

+++++

 

 

翌朝、アニメを見終わったリップルはB市へとやってきていた。

 

 

いや、元B市と言ったほうがいいだろうか。

そこにはデカイ爆発跡だけが残されていた。

 

 

B市の半分はその爆発で跡形もなく吹き飛んでいて、

残った部分も爆風や衝撃波で無事な建物など存在していなかった。

空には自衛隊やマスコミのヘリが見える。

ここまで大々的に破壊されてしまえば魔法の国でも情報操作は不可能ではないだろうか。

 

 

幸い住人や魔法少女たちは爆発の直前にほむほむとアッシー君の魔法で回収されていたので無事らしい。

 

 

「えっと…一体どうしてこんなことに…たしか適当に処理してって言ったよね」

 

 

その声に白いのが嬉しそうに答える。

「ええ、だから適当に処理しました。

敵暗殺者と捜査チームにいた魔王パムの力を勘案し、全戦力を投入するのが適当だと判断しましたので。

結局魔王パムは最期のミサイル攻撃も耐えきったし、暗殺者には逃げられちゃいましたけどねーテヘペロッ」

 

 

殺したいこの笑顔。

 

 

「なんていうか…

ジェバンニが一晩でやっちまいました」

 

 

白いのは爆発跡にあるでかいクレーターを指差して、あそこに水が溜まったら鉄腕湖ってつけるのもいいかもしれませんねー。

いっその事、街作って鉄腕市ってのもいいかも。

夢が広がりますねーと言っているが、僕にとってそんなのはどうでもいい。

もっと差し迫った危機があるのだ。

 

 

「これはもしかして車椅子に怒られるパターンじゃないだろうか」

 

 

白いのの隣りにいる黒いのを見る。

やれやれと首を振っている。

白いのに任せるからこうなったんだと言わんばかりに。

 

 

さて、しばらく自分探しの旅に出るか。

チベット辺りまで逃げれば車椅子だって追いかけてこないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

成田空港で早速捕まりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++

 

 

レイン・ポゥは解除時間まで結界側の古びた山小屋で息を潜めて隠れていた。

待っている途中、街中の方で巨大な爆発が起きた時は魔法の国が強硬手段に出たのかとも思った。

だがそれ以降何も起きず、結界解除後にB市から逃げ出すことができた。

 

 

 

 

そして協力者が指定した隠れ家へ向かっている。

目立たないように変身を解除して電車での移動なので時間がかかるのは仕方かない。

切り落とされた右腕は山小屋にあった救急箱に入っていた包帯で無理やり止血して、コートを羽織ることで隠している。

 

 

 

 

失った血液と痛みで頭が朦朧とする。

まだか、まだつかないのか。

痛み止めの薬のせいか目が重くなる。

まだ目的の駅まで時間がかかる。

 

 

 

 

少しだけ眠って体力を回復すべきか。

少しだけなら、電車もそれほど混んでいないし、だれも私には目を向けていない。

血もなんとか包帯とコートで隠れて見えないので声をかけられることもないだろう。

少しだけなら。

大丈夫、追手もかかってない。

あの白き災厄が手下を使って無茶したせいで魔法の国は対応に追われてるって。

さっき協力者からも言われた。

大丈夫、安全だから。

だから少しだけ。

少しだけ寝よう。

少しだけ………………。

 

 

 

 

 

 

眠りに落ちる直前。

 

 

"全ての不義に鉄槌を"

 

 

そんな声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

そして私の意識は永遠に闇に閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

+++++

 

 

 

 

 

 

 

「あたしだよ、プフレちゃん。

ちゃんと悪い魔法少女を始末できたよ。

…うん、大丈夫、怪我はないから。

ありがとう、また悪い魔法少女がいたら教えてね。

あたし、頑張るから。

あと、魔法の教本ありがとう。

あれ凄く分かりやすくて………うん、お陰で遠距離攻撃とかできるようになったよ。

決め台詞集もかっこいいのばかりだし。

著者のクラッシャー伊東先生って尊敬しちゃう。

え?サイン本手に入るの?

うれしい。

これでリップルやスノーホワイトを殺せるかも。

あいつらの情報、手に入ったら教えてね。

………………うん、やっぱりまだ見つからないか。

ううん、いいの。

あいつらが狡猾だってことあたしが一番よく知ってるし。

プフレちゃんも危険なことに巻き込んでごめんね。

………ありがとう、じゃあまた連絡するね」

 

 

 

+++++

 

 

鉄腕組の白き災厄でも倒せなかった凄腕暗殺者レイン・ポゥが狗神に殺された。

そのニュースは魔法の国を戦慄させることになる。

こうして狗神の伝説が加速していく。

 

 

【unlimited編 完】

 

 




白いの「計画通りですね、欲しかったあの2人も確保できましたし、オマケの中学生と先生もついてきたし」
車椅子「うむ、ミサイルも時間通りだったしな。まったくあいつはいい仕事をする」


他人の不幸で飯がうまい。
そんな彼女らの物語。

そういえば主人公って誰でしたっけ。

続きのJOKER編はまだ読んでません。
読もうと思ってるんだけど時間ががが。

一区切り付いたし読もうかな。


そんな感じでまた次回もいつになるか分かりません。
いつもおまたせしてしまい申し訳ない。
予定は未定が座右の銘なので。

だからいつかどこかで会えるといいね。


追記:キャプテン・グレースのことを周りの魔法少女たちが唖然として見ていたのは
威勢よく突っかかってきたのにあの程度の攻撃すら避けられなかったのにびっくりしていたからです。
同じくメルヴィルさんも殺す予定なんてなかったけど、牽制のつもりで行った攻撃で死んじゃったので残念そうに見上げてました。

それにしてもサブタイトルが3文字違うだけで凄く印象が違いますね。


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アフター番外編2
第三の男


さて今日は誰も望んでないオリキャラを掘り下げた番外編ですよ。

limited編の中学生チームをあんなにあっさり始末しておいてふざけるなという無言の抗議がビシバシ感じられますが挫けません。

大丈夫、きっとねむりんが異世界とかに誘ってくれてますよ。
乙女ゲーみたいになって幸せに悪役令嬢やってると信じましょう。

あとおまけに鉄腕少女の話も後ろの方に書きました。
オリキャラとか興味ないって方は前半部飛ばしちゃってください。


ちなみに時系列はクラムベリー騒動の8年後ぐらい、7753やトットポップが登場した後の話です。
時系列がぐちゃぐちゃなのはもはやこの作者の仕様なので諦めてください。


我が輩はサブである。

名前はまだ無い。

 

 

何処で人生を間違ったのかとんと見当がつきません。

ただ誰も私の人生になんて興味が無いであろうことは見当がついています。

 

 

これだけでは皆さん私が誰だか分かりませんか。

いやはや私はどうも影が薄いようで。

 

 

私は昔、アネさんにケツを蹴り上げられていたヤクザ、マサ・サブ・ヤスの一人になります。

アネさんが昔考えたキメ台詞、「さぁ始まるザマスよ」「いくでガンス」「フンガー」の真ん中、いくでガンスをやったのが私ことサブになります。

あの時の組はいわゆるクラムベリー騒動の際に無くなってしまいましたね。

その後出来た鉄腕組にマサさんとヤスさんが入社されました。

ですが私は存在を忘れられていたらしくお呼びがかからず、鉄腕組ビルの向かいにあるコンビニでひたすらレジを打つバイトを1年ほどやっておりました。

 

 

その後、たまたまコンビニに来たマサさんと再会し、経理や事務仕事をする人間を募集していると言うことで雇ってもらえました。

不況の最中、とてもありがたいことです。

経理や事務なら任せてください。

私は中卒のマサさんやヤスさんと違って東大法学部卒のインテリヤクザなのが密やかな自慢で、以前の組の時も経理から法律関係まで全ての業務をやってましたので。

何気に弁護士資格も持ってるんですよ、誰にも知られていませんが。

ただあまりにも影が薄くて書類審査すら通らずこんなヤクザものになっちまいましたが。

 

 

その後も何かと皆さんが活躍している中、人知れず黙々と業務を続けていました。

B市が壊滅した晩も私は一人で組事務所に詰めていたのですが、華乃お嬢様に気付いて貰えない始末。

ですがそんな影の薄さは私にとって幸運でもありました。

影が薄い、それだけで色々なトラブルから身を躱せているのですから。

 

 

ほら、今、TVに映っているヤスさんなんて目をつけられたばかりに酷いことになっています。

 

 

「犯人はヤス市長!説明をお願いします!」

 

「コスプレ特区の強引な推進、アニメ業界や服飾業界との癒着があったという見方もありますが本当なんでしょうか!」

 

「特区になったことで街中には奇抜な格好をした女性、いや率直に申しますと淫らな格好をした若い中高生が増えていますが、治安や風紀的に如何なものでしょうか?」

 

「これは明らかに市長の個人的な趣味による政策ですよね!

これによって未成年者に性的被害が出たらどう責任を取るのですか?

説明してください!」

 

「名前通りやっぱり全ての犯人は市長なのでしょうか?」

 

「選挙の時に常にそばにいる若いメイド!

彼女は愛人なんですか!

あの子は明らかに未成年ですよね。

説明してください市長!」

 

 

TVの中でヤスさんが多数の記者に囲まれてひっきりなしに質問を浴びせられています。

ヤスさんの目はもはや死んだ魚のようで、市長になる前はフサフサだった髪が今や見るも無残なバーコードになっています。

まだ市長になって5年しか経っていないのに、もう20は歳をとったかのように老けこんでいます。

そんな人生に疲れきった男の顔がそこにはありました。

 

 

「今や“疑惑のバーゲンセール”といわれているN市市長・犯人はヤス氏ですが、これらの質問に対し“記憶にない、自分は知らない、自分被害者だ”などと意味不明な釈明を———」

 

 

画面がスタジオに戻り、有識者らによるコメンテーターたちが「けしからん」「なんでこんな犯罪者が当選する」「元ヤクザだっていうじゃないか」などと勝手なことを言ってヤスさんを非難している。

もしこれが私だったらと思うと身の毛がよだちます。

でも少なくともメイドさんとの関係が誤解じゃなく真実なんだからいいじゃないですか。

知ってますよ、ヤスさんがのっこちゃんさんのご家族にお付き合いのご挨拶に行ったのを。

羨ましいですね、本当に死ねばいいのに。

でもきっと長生きするんでしょうね、上にとって使える人材なので。

 

 

そしてもう一人のマサさんはというと。

目の前で女の子たちに囲まれてベットで寝ています。

別にエッチな場面ではありませんよ。

ここはマサさんが入院している病室です。

先日、マサさんが盲腸で入院してしまったのです。

そして私が身の回りのお世話をしているのですが、部屋の片隅で座っている私の事なんて誰も気づいている様子もなくかしましそうに騒いでいます。

みなさん、そんなに大声上げないでください、ここは病院なんですよ。

 

 

「マサさんのお世話はこの妻(予定)である7753がやりますので皆さんは速やかにお引き取りください」

 

「いやいや何言ってるのかな?

マサちゃんの世話はこのトットちゃん以外にいないでしょ。

さぁさぁマサちゃん、美味しい手料理を作って来ましたよ」

 

「イギリス人が手料理とか何の冗談でしょうね。

マサさん、翠屋の特製ケーキを持って来ましたよ」

 

「おい、下克上羽菜!この魔法の国の回し者が!

マサちゃんは鉄腕組なんだ!

ここはお前みたいな部外者が来ていい場所じゃないんだってば!」

 

「元テロリストのトットポップさんが言えた義理じゃないと思いますけどね。

それに私はもう魔法の国とは縁を切っていまして、名前も高町羽菜なんです。

近々不破羽菜になる予定ですが」

 

「あらあら、ずいぶん面白いことを言う兎ですね。

その腹黒い性根、私のゴーグルで確認しましょうか?」

 

「覗きが趣味の7753に腹黒いなんて言われるとは心外ですね」

 

「ごめーんねぇ、マサさぁん。

私のお注射では怪我は治せてもぉ、病気までは治せないのぉ、グッスン」

 

「肝心な時に役に立たない魔法ですね、ぶりっ子ナースさん」

 

「あぁ?やんのかてめぇ?

もう殺してくださいってお願いするまでマミられたいのか、このぼっちリボンが。

てめぇは一人で紅茶でも啜ってろボケが」

 

「私の名前を拷問みたいに使わないでほしいわ。

それにもうぼっちじゃない…ぼっちじゃ、ないですよね?マサさん」

 

エトセトラエトセトラ…

 

 

本当にかしましい。

女三人寄れば姦しいと言いますが、それが十人近く集まればカオスを通り越して地獄ですね。

マサさんが入院した時に小雪様がこのとにかく広いVIP用の個室を手配したのを不思議に思いましたが、今のこの光景を見れば納得です。

広くて防音が行き届いているこの部屋じゃなければとっくに追い出されていますよ。

 

 

それにしてもマサさんはこんな状況になっても誰一人手を出してないそうです。

それどころか自分はからかわれているだけとしか思ってないようで。

どこのエロゲーの難聴系主人公でしょう。

そのうち「え?なんだって?」とか言い出すんでしょうか。

それでもハーレムを作り出すよりはマシですがね。

いや、彼の甥っ子も確か真面目な顔をしてハーレムを形成しているそうだし、血は争えずいつかは致しちゃうんでしょうけど。

このまま腹膜炎でも起こしてリア充爆発すればいいのに。

 

 

マサさんたちのことをぼうっと見ながらそんな取り留めのないことを考えていたら、私の前にスッとお茶が差し出されました。

ハードゴア・アリスさんです。

彼女は寡黙ですが何かと気が利く人でして、私が一人で事務仕事をしている時もお茶とかを差し入れてくれるのです。

本当に心優しい方で、なんでこんな人が小雪様を慕っているのか。

それは鉄腕組の七不思議の一つとして有名です。

そのアリスさんがコテっと可愛らしく首を傾げています。

本当に何気ない仕草が可愛らしいお方です。

 

 

「どうかしましたか、アリスさん?」

 

 

そう聞くとアリスさんは更に不可思議な顔をしています。

本当にどうしたのでしょう?

何かトラブルでもあったのでしょうか。

そう考えていたらアリスさんがおずおずと申し訳なさそうに聞いてきた。

 

 

「えっと…お客さん…ですか?

マサさんに用があるのでしたら伺いますが。

あ、はじめまして、鉄腕組のハードゴア・アリスなのです。

あっえっと………フンガー…なのです」

 

 

どうやらアリスさんにまで顔を覚えられていなかったようです。

そしてフンガーと言った後に恥ずかしそうにする仕草もとてもとても愛おしいです。

 

 

でもここは私、流石に怒ってもいいところですよね。

 

こんちくしょう、おわりでガンス!

 

 

+++++

 

 

おまけ:鉄腕シリーズ

 

(これはunlimited編のほんのちょっと後のお話です)

 

 

人小路家所有の地下超科学研究所。

 

 

ここでは日夜、シャドウゲールの魔法によって新しい改造アイテムが作られている。

特に最近、力を入れて開発されているのが鉄腕少女を模した戦闘人形「鉄腕シリーズ」である。

 

 

鉄腕少女が毎日生み出す未来のアイテム。

そのうち有効なアイテムはプフレの車椅子や鉄腕少女の体に組み込まれるが、そうでないハズレアイテムの方が圧倒的に多い。

そしてそれを捨ててしまうのは勿体無いというリップルの意見で一旦それらを鋳潰して未来合金へと作り変え、それを材料に作られたのが鉄腕シリーズである。

元々未来のアイテムだけあって、素材的には申し分なく強度が高い。

そして人形を思い通りに操る魔法を持つリオネッタが操ることで高い戦闘性能を発揮できるというわけだ。

 

 

その実戦量産型として華々しくデビューしたのがB市蹂躙戦で魔王パムに対し投入された「鉄腕少女量産型」である。

未来素材の合金製による高い耐久度、おっぱいミサイルやドリルも装備し、ビームサーベルを展開可能な隠し腕も搭載し、噛みつき攻撃すら可能なハイスペック量産機。

しかも武器は同じく未来合金製のケダモノの槍レプリカ『ピクミン』。

更には士気を高めるために組長リップル氏の熱唱する歌が流れるスピーカー付きである。

ちなみに胸はオリジナルをリスペクトし、真っ平らである。

おっぱいミサイルを内部に内蔵しているにも関わらず大平原である。

大事なことなのでもう一度言おう、絶壁であると。

ミサイルをあんなに大量に内蔵しているにも関わらず、無駄に超技術である。

だがそんな高性能な量産型だが、魔王パムには通じなかった。

 

 

その結果を聞いたシャドウゲールと実際に自信満々で戦いに挑んだリオネッタのプライドは大いに損ねられ、より高性能な機体の開発を開始した。

 

 

「これが鉄腕少女ブリッツですわ。

ステルス機能搭載で謎の未来粒子で透明化も可能ですわ。

しかもピアノを演奏して下々の者たちの心を癒す特殊機能を搭載したエレガントさ。

もちろん胸の絶壁度は完備しておりますの」

リオネッタが新型の鉄腕シリーズを紹介している。

 

 

「こちらは鉄腕少女フォッカー。

戦闘機へと変形可能で全身に小型ミサイルを多数搭載して、主に戦闘機形態での高速戦闘が得意なんですの。

“戦勝祝いに私の大好物のパインサラダでも作っておくんだな!”という自信に溢れる出撃ボイスがかっこいいのですわ。

やっぱり胸は大平原ですが」

それを鉄腕少女オリジナルの華乃が震えながら聞いている。

 

 

「最後に鉄腕少女カミナですわ。

鉄腕少女の頭部を巨大化させて手足を付けた斬新なデザインが特徴ですわね。

ピンチになったら“おまえを信じろ。わたしが信じるおまえでもない。おまえが信じるわたしでもない。おまえが信じる、おまえを信じろ!”と励ましてくれますのよ。

しかも胸の部分は目になっているので抉れているという計算され尽くされたデザイン。

素敵過ぎますわ」

どうです、凄いでしょうと胸を張ってドヤ顔のリオネッタ。

 

 

ぶっちん

 

 

そんな何かがキレる音が確かに聞こえた。

華乃がゆらりと顔を上げた時、そこには鬼がいた。

「ふっざけるなぁぁぁぁぁぁ!!!!

なんだその死亡フラグの塊のようなラインナップは!

それに胸!そんなに胸ばかり強調するな!

喧嘩売ってるのか、売ってるんだな、全部買ってやる!

今すぐかかってこーーーーーい!!!!」

 

 

新型の3機はその日スクラップになりました。

 




はい、というわけで今まで出なかったサブさんのお話です。
誰も期待してませんでしたよね。

なんとなく書きたかっただけの自己満足回です。

次からは真面目に書くかもしれないので許してください。

あとアリス可愛い。

ではまた次回、いつになるのかなぁ。


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内容はないようだ

エイプリールフール企画です。

え?もう4月1日過ぎちゃったの?
ちょっと待ってよ、今何日よ、23日?
どうやら時計の針が遅れていたようです。




2022年11月6日。

第三新東京市、特務機関NERV本部の一室。

 

 

怪しげな3人?が会合を行っていた。

 

「かつて絶望を約束された世界をあらゆる魔法や不思議が織りなす何でもありなサーカスのような素敵な世界にしたいと願った魔法少女がいたのさ」

 

白い陰獣がすべての始まりを語る。

 

「おかしいとは思わないかい?

君たち魔法の国の魔法使いと魔法少女。

僕たちが作り出した魔法少女。

神話の時代から血脈とともに紡がれてきた魔術師と聖堂教会。

それともまた違うイギリス清教や聖堂協会とは並行して存在するキリスト教会系魔術師とそれに対立する科学に特化した学園都市。

更にはイギリスと香港から派生したまた違う系統の魔法を使うカードキャプターさくらの存在。

いくつもの次元世界を管理するミッドチルダ時空管理局の魔導師。

君たちの魔法の国とは違う数多ある魔法の国の戦士、プリキュア達。

その他にも探せば探すだけ出てくる違った系統の魔法や魔術に不思議な現象。

科学だって学園都市以外にも光子力研究所のマジンガーZとか1999年に飛来した恒星間宇宙船の存在、ここでは怪しげな人造人間なんて作ってるし、戦略自衛隊の方ではバスターマシン開発計画なんてのも出てきている。

更には秋葉原にはタイムマシンなんてものすらあったらしいじゃないか。

いくらなんでもあまりにも節操がなくてちゃんぽん過ぎだとは思わないかい。

こんな狂った世界なんてあり得ないと」

 

 

「それを現実にした魔法少女の成れの果てがワルプルギスの夜というわけか。

あらゆる世界の可能性を統合させることによって成り立たせた世界だが、その反動でそれらを吹き飛ばす強大な魔女へと一気に変貌させた。

彼女はその世界の望みながら、その世界を楽しむ間もなく滅ぼす存在へと変わることになった、なんとも皮肉な話だの」

 

あらゆる並行世界を運営する宝石の翁は、自身の魔法をも超える並行世界の統合という力を使った少女の末路に感じ入るものがあった。

 

「ゆえに、それぞれの世界で起こりうる破滅の可能性をもこの世界は内包しているというわけじゃな」

 

 

「だからといって管理局の支配やBETAや宇宙怪獣の襲来なんてものを唯々諾々と受け入れる理由にはなりませんね。つい最近も第三次世界大戦の勃発を阻止したばかりですし」

 

白い少女は花の咲いたような笑顔で答える。

 

「300人委員会はすでに掌握済み、ゼーレの老人達には涅槃へと旅立ってもらいました。世界はすべてこの鉄腕会議の元で統制され、未来とは我々裏鉄腕会によって決定されるべきなのです」

 

そして少女は机の下から二つのヘルメットのようなのを取り出しました。

 

「それはそうと今日はちょっと面白いゲームを持ってきましたよ。

大学時代の後輩が作ったゲームでソードアート・オンラインっていうんです。

リップルさんも先ほど12時からマサさんとヤスさんを巻き込んで3人で早速ログインして遊んでいますよ。

品薄で2個しか手に入らなかったのですが余興としてやってみませんか?

いえいえ、私はβテストで遊んだのでお二人ともお先にどうぞ楽しんでくださいね」

 

 

白い陰獣は流されるまま、宝石翁は好奇心の赴くままそれを被ってゲームを始めました。

白い少女は他の人には見せられないような素敵な笑顔でその様子をみて愉しんでいました。

 

 

そんなトラブルメーカー3人?の様子を、部屋の片隅で護衛している黒い少女は呆れたような目で見ながらつぶやきました。

 

 

「フンガー」

 

 

世界は今日も平和です。

 

 

+++++

 

 

時代は過去、2010年12月に遡る。

 

 

牧瀬紅莉栖の死を悲しむ間もなく、8月17日から31日の2週間を原因不明なまま15532回も繰り返すことになった岡部倫太郎の精神は常軌を逸しかけ、一時は狂人になる可能性もあった。

だが、まゆり達ラボメンの看病、そしてダルの友人リップルが手配してくれたメイド少女のっこちゃんの民間医療により何とか正気を取り戻していた。

 

 

ただ未だ紅莉栖を忘れられずにいる岡部は定期的な治療を受けにAH東京総合病院へと通っていた。

 

 

かつてマッドサイエンティスト鳳凰院凶真を名乗っていた岡部倫太郎はもういない。

そこにはコミュ障ながらも懸命に一般人たろうとする大学生岡部の姿があった。

 

 

今日も大学で入ったゼミの関係からヴィクトルコンドリア大学のセミナーで受付をしていた。

本来なら一人でやる所を、中学生ながら特例でゼミに勉強しに来ている少女、姫河小雪も手伝ってくれている。

流石に中学生が頑張っている手前、少しは良い所をと気張っては見たが、逆にどもってしまったりしてからかわれてしまう。

 

昔ならもっと尊大な態度で

 

「フワーハッハッハッハ!姫河小雪!いやいつも白い服を来ているから、そうだな、スノーホワイトとでも呼ぼうか!この程度の仕事などこの狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真にとっては造作も無いこと!造作もなさすぎて逆に一般人レベルに合わせてやったのだ」

 

とでも言い返していたんだろうな、と考え苦笑してしまう。

 

 

特に比屋定真帆という背の低い女性を子供扱いして怒らせてしまったときなど、小雪がフォローしてくれなかったら一体どうなっていたことやら。

 

 

そんな少しのトラブルを経て、セミナーは始まった。

 

 

そして岡部倫太郎はまた狂気なる世界へと足を踏み入れていく。

 

 

白い少女はそれを笑顔で見つめていた。

 

 




今季のアニメはガンゲイル・オンラインとシュタインズ・ゲートゼロが面白いです。

ずっと更新がなかった理由?
いやはや私もバトルフィールド1っていうゲームをやりだしたら、ログアウトボタンが見つからなくてゲームの世界から戻ってこれなかったんですよ。
デスゲームって怖いですね。

続きですか?
最初に書いたでしょエイプリールフールネタだって。
みんなの冒険はみんなの心の中にありますよ。
それに投げっぱなしとか今更でしょう。

大丈夫、きっといつかまた会えるよ。



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ソードアート・オンライン編
導かれし者たち


何故続いた?


仕事中になんとなくネタが思い浮かんできてしまって、
いやサボりじゃないよ、サボってるんじゃないよ。


ただ暇だっただけなんだよ。


ネタなので続くかどうか分からんし、そもそも面白いかどうかも…。





2022年11月6日12時

某国 鉄腕市 鉄腕組総本部内 国政部門 鉄腕党の事務所一室

 

 

 

「姐さん勘弁してくださいよ。来週から総裁選で忙しいんです」

 

 

 

気苦労で髪が非常に可哀想な"犯人はヤス"内閣総理大臣がリップルにヘルメット型ゲーム機を押し付けられて困惑していた。

どうやら来週の総裁選に向けて新調したスーツを試着していたところをリップルに捕まったようで、

周りには『35億円』の値札が付いたスーツが大量に並んでいた。

全身にダイヤモンドなど宝石類が散りばめられている上にラメがキラキラと施されていて非常に目に痛い成金趣味なスーツばかり。

事務所内では何人もの週刊誌記者がパシャパシャと並べられたスーツと値札を撮影していてまたもや炎上案件必至である。

これらのスーツは当然小雪がヤス名義で鉄腕金融に借金させて揃えさせた物である。

でも大丈夫、ヤスは『アーガス』というゲーム会社の筆頭株主、これぐらいの借金は今日発売の新作ゲームによって上がる株価で返済可能であろう。

内閣総理大臣まで登りつめた男の経済力は格別である。

しかも唸るほどの資産をそのまま眠らせるのではなく、財テクによって増やすことも忘れない。

その資産を大ヒット間違いなしの新作ゲーム「ソードアート・オンライン」を発売する『アーガス』の株に一点集中したのだ。

これでまた資産倍増間違いなし。

ちなみにこれも小雪からのアドバイスである。

 

 

 

「だいじょーぶだいじょーぶ、ちょっとの息抜きぐらいしないとうまくいくものだってうまくいかないぞ。

内閣支持率だって悪くないんだろう、また明日から頑張れば続投間違いないって。

それに議会じゃあんた『その件については記憶にございません』以外喋ったことないじゃん」

 

 

 

心配するヤスにリップルは気楽な感じで返す。

 

 

 

その通り、常に炎上しマスコミや野党に叩かれない日はないヤス氏の支持率は全く下がる気配はない。

この前も野党に漢字テストを受けさせられて見事0点をたたき出したり、

首相夫人ののっこちゃんによるSNSでの大暴走が報道されて全部見事に炎上している。

更には国会前では首相夫人のっこちゃんが『内閣続投』のプラカードを持って5万人の指定暴力団員たちによるデモを連日先導しているのも報道され問題視されているが、

それでもなぜか支持率は上がる一方である。

 

 

 

「そりゃあ、私なんて小学校ですらまともに行ったことないですし。

無理やり政治家にされてからも議会や取材でカンペ通りに喋る以外に仕事なんてないですし。

カンペには『すべては部下に任せています。なのでその件については記憶にございません』しか書いてないですし」

 

 

 

相も変わらず言い訳がましいヤスだが、そんなことで止まるリップルはこの作品にはいない。

 

 

 

「白いのも何があっても問題ないって言ってたし、全部部下に放り投げて今日はソードアートオンライン死ぬまで楽しもう!」

 

 

 

そう言って、リップルはヤスの頭に無理やりナーブギアを装着させ、

小雪に用意させたヤスの「リンクスタート」という合成声を再生し、ゲームを強制開始させた。

 

 

 

その一部始終を見ていたマサはこのゲームは小雪案件だと悟り、

部下に何かあった時の対処を指示して諦めたように自分からナーブギアを被りゲームを開始した。

 

 

 

+++++

 

 

 

同日

国連軍横浜基地

 

 

 

白銀武中尉は自分の所属するA-01中隊宛に届いたゲーム機を子供のようなキラキラした目で見つめていた。

 

 

 

「各員傾注!

本日の任務は副指令の研究協力者より依頼されたこのゲーム、ソードアートオンラインのタイムアタックである。

このゲームはリアル志向のゲームであり、普段使いなれない刀剣類の訓練と今後現れると予測されている地球外生命体への対応力を養うためのものである。

故に、ゲームだと侮らず真摯に攻略にあたり、一度の死亡も許可しない」

 

 

 

中隊長である伊隅みちる大尉の説明が続く。

 

 

 

そんな中でも白銀武大尉の内心は

『バルジャーノンみたいにロボットは出てこないだろうけど、世界発のVRゲームを仕事で楽しめるなんて最高だろう』

とテンション最高潮であった。

 

 

 

なぜか今回のループではBETAは存在を予測されてはいるが未だに飛来していないし、

年代も大幅にずれているという謎の展開を迎えて困惑のまま数年の軍隊生活を送っていた白銀武。

無数のループによる習慣でまじめに訓練は続けているが、

案外今回はこのまま平和に終わるんじゃないだろうかと期待もしていた。

 

 

 

だが残念、この世界はもっと愉快であった。

 

 

 

+++++

 

 

 

他にも…。

 

 

 

渋谷にて疾風迅雷のナイトハルト氏が知り合いの白い少女から渡されたナーブギアとソードアートオンラインをウキウキしながら始めていた。

 

 

 

種子島にて「ガンヴァレル キルバラッドON-LINE」の1位に上り詰め、3年前にとある事件を解決に導いた八汐海翔。

その彼は「実物大ガンヴァレル」制作スポンサーになってくれた白い少女に渡されたナーブギアを手に、

VRという新しいゲームジャンルでも全一を目指すと意気込んでいた。

 

 

 

米花町ではなぜかずっと小学生の名探偵な少年と友人たちが『おもちゃの鉄腕屋』のくじ引きで人数分当たったナーブギアとソードアートオンライン一式を手に楽しくプレイを開始していた。

 

 

 

海鳴市在住、戦闘民族高町家の面々は高校時代からの友人の白い少女から全員分プレゼントされたナーブギアと(以下略)していた。

 

 

 

更に全国津々浦々、数奇な運命を辿ってきた幾人ものツワモノたちが謎の白い少女に導かれてソードアートオンラインへとログインしていくのであった。

 

 

 

ソードアートオンラインは今まさに人外魔境、伏魔殿へと化しつつありました。

 

 

 

+++++

 

 

 

NERV一室にて、アーガスをハッキングし、ソードアートオンラインのサーバに直結したモニターを白い少女は愉しそうに見ています。

その顔には恍惚とした笑顔を浮かべ、どこからか聞こえてくる無数の声に身悶えしながら歌うように賛美します。

 

 

 

「ふふふ、茅場晶彦君、もっともっと面白くなるようにしてあげましたよ。

努々見つからないように気を付けて行動してくださいね。

それと本来英雄になるはずだった誰かさん。

必至で頑張らないとモブのまま終わっちゃいますよ。

あなた達の因果律が強いか。それとも私の用意した者たちの力が勝つか。

さぁさぁ皆さん、楽しい楽しいゲームの時間ですよ。

どんな最後でもすべて私が受け止めてあげますので、どなたも好い声で哭いてくださいね。

あぁ、本当に素敵な娯楽ですね、ソードアートオンラインって」

 

 

 

まさに外道。

 

 

 

白い少女とは一体誰なのであろうか。

 

 

 

謎は深まるばかりである。

 

 

 

+++++

 

 

 

後日、総裁選直前に現職の内閣総理大臣がデスゲームに巻き込まれたと世界中でトップニュースになり、これでは再選は無理かと思われたが。

 

 

 

「こういう展開とは、いやはや彼には勝てませんな」

「やっぱり私など器ではなかったってことです!すべては小雪様の御心のままに!」

 

 

 

と鉄腕党の対立候補たちはそれぞれ自主的に辞退し、

心配されていた内閣支持率は9割上回り、世論は"茅場晶彦は冤罪!犯人はヤス!"一色で染まり、

デスゲームに囚われ意識不明のままでSAO事件首謀者として逮捕されても首相を続投するという、

全く意味が分からない展開の疑惑満載な内閣総理大臣が誕生するのでした。

 

 

 

 

「全く…日本は平和ですね………フンガー」

 

 

 

 




本当にカオスになってきたなぁ。


まぁこの適当感がこの作品の味ということで。


というかこれを許容できない人はここまで読んでないだろうと開き直ってみる。


続き?


いつかまた会えるよ。


追伸
投稿後色々修正しました。
久々の更新だからキャラ設定とか忘れてること結構あってw


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神話からお笑いへ

この章のサブタイトルは考えるのが難しい。


前話で「導かれし者たち」なんて有名タイトルを勢いで決めた自分をぶん殴りたい。


というわけで何故か知らないけど続いています。


こういうのは勢いで書いてるので滑ってても笑って許して。





俺の名前はキリト。

このソードアートオンラインのベータテスト経験者にして、このデスゲームを最速で駆け抜けるプレイヤーだ。

 

 

 

自慢じゃないが、俺はこのゲームでは最高の実力者だと自負していた。

ベータテストでは相棒のスノーホワイトと一緒に常に最前線を駆け抜け、最終的に16層まで到達して、

誰も攻略できなかった数々の難関クエストもクリアしてきた。

 

 

 

だからここがデスゲームになったとき、少なからず期待してしまった。

このゲームをクリアするには俺の力が必要だって。

誰よりも早くレベルを上げて、常に最前線を駆け抜けるのは俺だって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今まさに俺の伝説が幕を開ける!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなふうに考えていた時期が、俺にもありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実はそう甘くはありませんでした。

 

 

 

 

第一層がクリアされたのはたったの5日後の事。

 

 

 

 

謎のA-01という戦闘集団、伝説のネットゲーマー疾風迅雷のナイトハルト、ソードスキルも使わずに二刀のナイフや棍や空手で戦う高町家。

たまたま見つけた迷宮区入り口でその集団たちと偶然出会って、ついでだからとホイホイとついていった俺。

途中の安全地帯で寝ていたフードを被った少女『アスナ』を保護しつつ、向かった先は1層のボス部屋。

とりあえずはボスの様子を見て、一旦引くのかと思ったが。

 

 

 

実際に起こったのはガチバトル。

 

 

 

隙のない連携でボスを追い詰めていくA-01集団、多数のボスの取り巻きを最適化された動きで最速で倒していくナイトハルト。

高町家はまだレベルが足りていない俺とアスナをボスの取り巻きから完全に守ってくれている。

その後、俺の目の前に吹き飛ばされてきた死にかけのボスにソードスキルが当たりラストアタックは取れたが、もはや俺の自信は木端微塵に吹き飛んでいた。

 

 

 

そんな彼らの活躍は、

 

「任務故に目立ちたくない」

「知らない人に声をかけられるのが怖い」

「御神流の剣士は弱きものを守ることが当たり前で誇るほどのことではない」

 

と、それぞれ秘密にしておいてほしいと言い去っていくことで誰にも知られることはなかった。

 

 

 

 

 

故に1層のボスはいつのまにか俺とアスナの二人でクリアされたことになり、

『黒の剣士キリト』と『閃光のアスナ』の伝説は俺らの知らないところで勝手に独り歩きを始めてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、攻略会議もされずに人知れずボスが倒されることが何度もあり、その都度、

 

 

 

「まーた『腹黒のキリト』と『お閃光さん』ですか。お二人だけで抜け駆けしてボス倒すやなんて、ボス戦をデートか何かと勘違いしてんると違うんか」

 

 

と集団行動第一主義の『トゲヘッドのキバオウ』にネチネチと嫌味を言われたり、

 

 

「ははは、仕方ないな二人とも、でも今度は、こ・ん・ど・は、僕の分も取っておいてね」

 

 

と英雄願望が強い『自称ナイト様(笑)のディアベル』に嫉妬の視線を向けられたり、

 

まさに傍迷惑極まりない言いがかりをつけられることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

+++++

 

 

 

 

 

 

第一層の始まりの町、そこの中央にギルド『鉄腕組』本部がある。

 

 

鉄腕組というギルドはこのソードアートオンラインでは人によって評判の変わる非常に微妙な存在だった。

 

 

ギルドマスターのリップルはリアルでも有名な広域指定暴力団である鉄腕組の現役組長。

その性質を一言で表す彼女の二つ名は『愛すべき馬鹿のリップル』

彼女は常に何をするのか予測がつかない。

 

 

目隠しをして迷宮区のボス部屋まで辿り着けるかに挑戦したり、

ゲームマップ端からバンジージャンプをしてみたり、

NPCに延々と矛盾する問いかけをしてNPCのAIシステムをフリーズさせたこともある。

 

 

一番酷かった出来事はあれだろう。

 

 

 

「そうだ、迷宮区を通らないで次の層まで行こう」

 

 

 

そう言いだしたリップルはSTRとDEXを上げているプレイヤーを大量に集めて、

みんなで肩車をして次の層の外端から入ろうとしたのだ。

 

 

 

結果、見事の次の層にたどり着きアクティベートしたのだが、

そのすぐ後にGMに始まりの広場へ全プレイヤー強制転移させられた。

 

 

 

システムの想定外の出来事で、今回は認められたが、次からは層の間に進攻不可の壁を設定されることになり、

その際にリップルと鉄腕組は名指しで馬鹿な真似は辞めるように警告され、その知名度を大いに高めることになる。

まぁその程度でやめるような彼女ではないが。

 

 

 

 

故に鉄腕組は馬鹿の巣窟であると認識されていた。

 

 

 

 

天才茅場晶彦も、まさかそんな方法を思いつき、なおかつ実行する馬鹿達がいるとは想像もしていなかったようだ。

他にも気づかないような穴がないか、総点検する必要性に迫られることになった。

 

 

 

その晩、徹夜してプログラミングを修正する羽目になった涙目の茅場晶彦というレアな姿を見て、非常にご満悦な神代凛子がいたとかいなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

鉄腕組は他にも慈善団体という一面を持っていた。

 

 

 

サブマスターのマサ。

弱きを助け強気を挫くを地で行く彼の二つ名は『天然ジゴロのマサ』

 

 

 

この事件に巻き込まれた年端のない少年少女たちを保護し、教会で孤児院を開いていた。

そして同じように巻き込まれ途方に暮れていた女性に支援金を渡して子供たちを託していた。

 

 

 

「俺みたいなヤクザが世話してもガキどもの教育に悪いだけでさあ。

ヤクザの金なんて汚いと思うかもしれねーが、金は金。

あんたみたいな人が使ってくれれば少しは綺麗になるんじゃねえか」

 

 

 

などと言い、事あるごとに金やアイテムなどを差し入れるマサ。

そんな彼を見つめるその女性の目はガチな捕食者の目であった。

 

 

 

 

 

 

 

鉄腕組はすべての元凶という一面も持っていた。

 

 

 

もう一人のサブマスターである犯人はヤス氏は、現役の内閣総理大臣である。

だが世間では彼こそが『このデスゲームを起こした本当の真犯人』という根も葉もない噂がまことしやかに囁かれていた。

 

 

 

情報屋である鼠のアルゴは"ヤス氏が犯人なんてそんなことはない"と、噂の真偽を否定していたが、

人の口に戸は立てられぬもので、この噂を消すことなんてもはや不可能であった。

 

 

 

その噂が広まったきっかけは、デスゲーム開始の際に広場でGM茅場晶彦が映した現実のニュース映像であった。

 

 

 

デスゲームが事実であることを知らしめるためにリアルで流れているニュースがいくつも同時に映し出された。

その中に、「デスゲームの真犯人は内閣総理大臣"犯人はヤス"氏で確定!まさに世紀のスピード逮捕!」というテロップと共に、

ナーブギアを被って意識不明のまま、手錠をかけられ担架に乗せられ連行されるヤス氏の映像がデカデカと映ってしまっていた。

その上、ゲームを止めるにはゲーム内でヤス氏を倒すことが最善策ではないか、とニュースで報じられていたのが決定打だった。

 

 

 

故にヤス氏は絶対安全圏である宿屋の個室、そして鉄腕組本部が出来てからは、そこのプライベートルームから一歩も出れなくなった。

もし少しでも外に出ようなら速攻で捕まって安全圏外まで連れ出されてPKされてしまうだろう。

 

 

 

彼についた二つ名は当然のごとく『魔王はヤス』

 

 

 

そしてヤス氏が隠れている鉄腕組本部は心無い人達に『魔王の城』と呼ばれることになった。

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに鉄腕組トップの3人は例えゲーム内で死んで脳がこんがり上手に焼けましたーとされたとしても、次の瞬間にはお注射されて完治することだろう。

 

 

 

 

ただヤス氏はそんな事実に気づかずにゲームがクリアされるまで部屋の中に籠り続け、恐怖で精神を擦り減らしていくことになる。

 

 

 

 

+++++

 

 

 

 

 

 

 

ゲーム開始から3ヶ月が経っていた。

クオーターボスである25層の強力なボスがまたもや人知れず倒された、そんなある日。

 

 

 

 

 

 

 

今や奇々怪々な魔境と化したソードアート・オンラインを見て回っていた一人のプレイヤー、名前をヒースクリフという人物がいた。

 

 

 

 

 

そんな彼は今、一見猫のような、犬にもイタチにも見える謎のマスコットキャラクターの形をした白いプレイヤーに話しかけられていた。

 

 

 

 

 

「君、なかなかの因果の量だね。

普通の男性はここまで素質を持った人はなかなかいないんだけど。

ねぇ君、僕と契約して、魔法中年になって欲しいんだ」

 

 

 

 

 

 

そんな白い淫獣を見て、

 

そして、彼が夢見た世界から明後日の方向に吹っ飛んでいくこの世界に思いを馳せ、

 

彼は一言こうつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

「どうしてこうなった」

 

 

 

 

 




ヤスさんの使いやすさは半端ない。

というよりヤスさんの所が書きたかっただけという説もある。
他は全部オマケに過ぎません。


というわけで次もいつか会えたらいいね。


あと、キリトさんとヒースクリフさん頑張れ!


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妖怪大魔境

シンデレラガールズ総選挙は北条加蓮さんに全力投球しています。
中間発表で3位になったのを見て職場で小躍りして心配されたどうも私です。



前回の話で、外側から乗り越えるってのは原作でキリトさんキリッが既にやって失敗していたそうです。


初めてですよ…ここまで私をコケにしたおバカさんは………

ぜったいにゆるさんぞキリトさんめ!

じわじわとなぶり殺しにしてくれる!


まぁ仕事中に勢いで書いてるので原作読み直しとかしてないし、ウィキでキャラ設定確認してるだけなのでこういう事も出てくるよね。


そもそも原作もGGO編までしか読んでないから
今日出演するキャラのこともウィキで確認したらマジかーこんな裏設定がーとビックリしました。


ちなみに有名なあのセリフ以外、どういう口調だったか記憶にないから、
今回も完全に捏造設定です。


名前だけ似た別のキャラって思ってください。


そもそもこの世界は魔法少女まどか☆マギカの世界であって、ソードアート・オンラインの世界ではないんですよね。
ゆえに別人ってことで。





あれ?魔法少女育成計画ってなんでしたっけ?




時間は少し遡り、ゲーム開始から1ヶ月ほど経ったある日

NERV本部の一室

 

 

 

「今回の任務は内閣総理大臣"犯人はヤス"の暗殺です」

 

 

 

"ガブリエル・ミラー"と名乗る白い少女は任務について恍惚とした笑みを浮かべながら説明します。

 

 

 

「彼は本来常に鉄腕組の特殊部隊に守られていて手出しができません。

だが今はソードアート・オンラインというゲームに囚われていて、そのゲーム内でなら接触、殺害が可能です」

 

 

 

ヴァサゴ・カザルスは直立不動のまま微動だにせずその話を聞く。

もし少しでも無礼な態度をとろうものなら、白い少女の後ろに立っている陰気な黒い少女に血達磨にされるのは経験上良く理解していたから。

 

 

 

「そのゲーム内で死亡したプレイヤーは、リアルでも脳が焼かれ死亡します。

故にヴァサゴさんにはそのゲームにログインして、ターゲットを殺害してもらいたいのです。

本来なら『暗殺の証拠を残さぬようにターゲットを間接的な手段で殺害する』という制約がありますが、

今回の任務に関しては例えゲーム内といえど難易度が高いため、その点は問いませんし、成否も問いません。

それよりも面白おかしくド派手にやって欲しいと考えています。

彼の暗殺に失敗しても、ゲーム内を引っ掻き回して右往左往する彼とゲームプレイヤーたちを見られればきっと彼女にも楽しんでもらえますので」

 

 

 

白い少女の顔は口角が吊り上がり、目はより細められ、今やまさに悪魔の笑みと形容すべき物へと変貌しています。

それを見ているヴァサゴの背筋には冷たい汗がとめどなく流れていました。

 

 

 

「今はもうソードアート・オンラインのサーバへの新規アクセスはブロックがかかっていますが、

なんと、素敵なことにここにソードアート・オンラインのメインサーバに直結されているPCがあるんですよ。

なので、ヴァサゴさんにはここからログインしてもらいます」

 

 

 

そのPCの傍の床にはナーブギアを被った老人と白い動物が倒れていて埃が積もっています。

延命機材などが付いていないことから恐らく死んでいるのであろうと彼は考えました。

どうやらその埃の量からゲーム開始時から放置されているようです。

それを見て、同じようにゲーム内で死んでしまい、そのままここで朽ちていく自分を想像し震えが抑えられません。

 

 

 

「あぁその二人に関しては気にしないでいいですよ。

今もきっと愉しく遊んでいることでしょうし。

大丈夫ですよ、あなたはちゃんと生きている間は延命機材とかで面倒を見ますので」

 

 

 

役立たずはあの世で楽しく遊んでろってことかよ、糞ッ。

こんな厄介ごとに巻き込まれるなんて俺もほとほと焼きが回ったものだ。

まぁ成否を問わずなのが救いか。

死なないように気を付けて、ゲーム内を掻きまわしてクライアントを満足させることが第一だな。

その程度ならいつものように平和ボケしたチョロい一般人を煽って盛り上がらせればいいだけだ。

 

 

ヴァサゴはなんとかそう考えるようにして、自分を奮い立たせ、ソードアート・オンラインへとログインしていきました。

 

 

 

 

 

 

だけど、彼はログイン後知ることになります。

ソードアート・オンラインには平和ボケした一般人の方が少ない人外魔境だということを。

 

 

 

 

 

 

そもそも、デスゲーム開始から1か月経つというのに未だに死亡者数が数十人程度なのですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲーム内へ降り立った彼は…

 

 

 

「国連軍の秘密部隊A-01!」

「戦闘民族高町家だと…」

「なっ…範馬勇次郎までいやがる」

「あそこでナンパしてるのはシティーハンター冴羽リョウなのか…」

 

 

 

絶対にケンカを売ってはいけないアンタッチャブルな存在があちこちをウロウロしているこの光景を見て呆然としていました。

 

 

彼は普段から任務成功率を上げるため、情報部から上がってくる情報は欠かさず目を通し、生真面目に勉強していたのです。

NERVの情報部"7753機関"はとても優秀なのです。

なのでこの光景がどれだけ異常なことなのか良く理解できていました。

 

 

故にすぐさま裏路地へと姿を隠し、装備を整える間もなく街から脱出しました。

持ち物であるストレージ内にある手鏡、それを使う前だったので命拾いしていました。

手鏡はストレージの中を確認することで自動的に取り出されて発動されて、アバターから現実の姿へと戻されてしまいます。

そうなれば、彼の素顔を知っている者たちに捕まっていたことでしょう。

今までNERVの暗殺者として活動していた彼は、組織の知名度故にそれなりに顔が割れているのです。

特に護衛を生業としていた高町家の父や、シティーハンターの冴羽リョウには間違いなく顔を知られていて、ゲーム開始直後に牢獄へと直行するところでした。

 

 

彼は必死に街の外にある森の奥深くへと逃げながら自問自答していました。

 

 

 

 

 

「どうしてこうなった」

 

 

 

 

 

ヴァサゴ・カザルス、プレイヤー名PoH、本来なら稀代の殺戮者・レッドプレイヤーの頂点として名をはせるハズだった彼の喜劇は始まったばかりです。

 

 

 

+++++

 

 

 

同時期

国会議事堂

 

 

 

国会ではソードアート・オンライン事件で多額の賠償を支払い倒産した運営会社『アーガス』から、そのサーバの管理と運営をどこが引き継ぐのかの議論がされていました。

 

 

野党は総合電子機器メーカーである『レクト』に任せるべきだという意見で統一されていました。

鉄腕党は首相が『アーガス』の株を買い占めて、筆頭株主としてこの事件を起こすように圧力をかけたという疑惑から逮捕されている負い目があるため反論はできず、このまま決まるかと思われした。

 

 

『レクト』社員にして同社のフルダイブ技術研究部門の主任研究員である須郷伸之は、国会中継を見て舌なめずりしています。

彼はとある人体実験を行うために『アーガス』からサーバの管理を引き継ぐ必要があり、

会社の金で野党へ多額の献金をし、裏工作をしていたのです。

もしこれが失敗したら、献金したお金を回収できずに、一気に身の破滅となります。

これは彼にとって一世一代の大勝負なのです。

本当なら、ここで無事に『レクト』へと管理が移り、彼の野望へと一歩近づくはずでしたが…。

 

 

決を採る直前、事態は動きました。

ナーブギアを被り席に座って微動だにしない首相の介護で付き添っていた首相夫人が発言を求め、許可されます。

 

 

 

「夫は確かに犯してはいけない大罪を犯したのかもしれません。

ですがだからこそ、ここで放り投げるわけにはいかないのです」

 

 

 

首相夫人は目に涙を溜め体を震わせながらも頑張って話します。

見た目は非常に愛らしい12歳前後のメイド服少女。

某ネット掲示板や動画サイトでは「ロリコン大歓喜」とか「流石に違法だろう常識的に考えて」などと話題になっている美少女夫人です。

 

 

 

「なのでサーバの管理をどうか夫の鉄腕党に任せていただけないでしょうか。

被害者たちが無事に戻ってこれるように全力で取り組みますのでお願いします」

 

 

 

普通はお願いなど海千山千の政治家達に通じるわけがありません。

実際テレビで見ている須郷伸之は茶番だと鼻で笑っています。

だが、実際に同じ場所にいる政治家や書記官、カメラマン、誰一人例外なく目から滝のように涙を流しています。

 

 

そして満場一致で鉄腕党に管理を一任することが決まりました。

なんと可哀想な須郷伸之君。

口を顎が外れそうなぐらい開けた間抜け面で、放心したままポツリと呟きました。

 

 

 

 

 

「どうしてこうなった」

 

 

 

 

 

ちなみに本来は『レクト』が開発するはずだった『アルヴヘイム・オンライン』

 

白い少女の

「妖精さんになってお空が飛べるゲームがやりたいです。ほら、私って可愛いものが好きな普通の女の子ですし」

の発言により、

 

鉄腕組にて、史実通りソードアート・オンラインのサーバのコピーをベースに開発されたそうです。

 

 




ノリと勢いで書いてるから書ける。


原作読み直しとか設定の粗探しとかしながら書いたらきっと毎日書けない。


だけど明日もちゃんと投稿するなんて一言も言っていません。


ゆえにまた何処かで会えたらいいですね。






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きらきら道中~僕がダンサーになった理由~

今回の話はサブタイトルが先に決まってました。


前々回の話の時にサブタイトルを探していた際に、今回のサブタイトルを見つけ、
「何これ超使いたい!」となってしまい、
そのサブタイトルを使うにあたってどういう話を書こうかとなった結果、
今回の不可思議な話が出来上がりました。


なので原作キャラのファンの人に謝ります。


トンデモナイことになっていると。


まぁしょうがないね、作者の頭がちょっとアレなので。




ゲーム開始から3ヶ月程のある日。

低層の森の中。

 

 

 

PoHは男2人と女1人のパーティを見付けて密かに後をつけていました。

数時間ほど彼らの会話を聞いていましたが、どうやらこの3人密かに痴情がもつれかけているようです。

名前が分からないので『エイジ』『ビイタ』『シイコ』と仮名をつけて得意のプロファイリングで人間関係を整理してみました。

 

 

 

『エイジ』と『ビイタ』は小さい頃からのリアルからの幼馴染で仲が良く、

シイコはゲームが始まった当時に彼らと知り合い3人一緒に行動するようになりました。

 

『ビイタ』はどうやら可憐で女らしい『シイコ』が好きでたまらなく常に気にかけている様子で、イケメンである『エイジ』を密かにライバル視しています。

だが『シイコ』は面食いでイケメンな『エイジ』が好きなようで、それが理由で彼らと行動するようになったものの『エイジ』と仲がいい『ビイタ』が邪魔なようです。

そして『エイジ』はどうやらゴリラ顔の筋肉質な『ビイタ』が好きな同性愛者で、『ビイタ』に好意を寄せられている『シイコ』の事を妬ましく思っているのです。

 

 

 

まさに完璧なまでのトライアングル。

これはほんの少し焚きつけるだけでお互い殺し殺される素敵なパーティへと変貌するだろう。

是非とも隙を見つけて近づいて煽らねば。

そう思っていた隠れていたPoH。

 

 

 

 

 

そんな彼へ誰かから声がかけられます。

 

 

 

 

 

 

「真実はいつも一つ…」

 

「じっちゃんの名に懸けて…」

 

 

 

 

 

 

小学生ぐらいの眼鏡をかけた男の子と高校生ぐらいのぼさぼさ髪の男がPoHの背後にいて、

ボソボソとPoHの耳元で囁いてきます。

 

 

 

「また会ったね」

 

「今度は一緒に解決するか?」

 

2人はニタリと嗤いながらPoHへ声をかけてきます。

 

 

 

そう、この2人と会うのは初めてではありません。

今回と同じように、ちょっと煽れば刃傷沙汰になりそうな危ういパーティを見つけては、

さぁどうしてやろうかと考えていると、

いつの間にか彼らが後ろにいて同じセリフをボソボソと繰り返しているのです。

一体どんな怪奇現象なのでしょう。

 

 

 

そんな彼らは行動を起こそうとしないPoHをニヤニヤと嗤いながら、

 

 

PoHの背後から左右の肩へそれぞれ手をかけ、

 

 

「「別に君が真犯人でもいいんだよ」」

 

 

PoHの顔を肩越しに覗きこんできました。

 

 

 

森の木陰の為に暗くなっている中で、見開かれて爛々と輝く目と三日月のような笑みを作る口だけが浮き上がってよく見えます。

 

 

「ヒギッ」

 

 

思わず喉から悲鳴が出そうになるのをなんとか堪え、転びそうになりながら必死で這ってPoHは逃げ出すのでした。

 

 

 

「チキンだね…」

 

「冷やかしかよ…」

 

 

 

そんな侮蔑の言葉をかけられ、PoHのメンタルは既にボロボロになっていました。

だがそれも仕方がないことなのかもしれません。

あの2人はこのゲームの中ではかなりの有名人なのです。

 

 

 

眼鏡の少年はプレイヤー名コナン。

ぼさぼさ髪の男はプレイヤー名キンダイチ。

 

 

 

共にこのゲーム内では死神扱いされていました。

 

 

 

現在、ゲーム開始直後の騒ぎで死んだ数人以降、未だに死者は100人を超えていません。

何しろモンスターとの戦闘で死ぬような手緩い人生を送ってきた一般人は少ないのですし、

戦えないからといって自殺するほどこのゲーム世界を悲観している人もいません。。

魔法少女に魔術師や妖怪、悪霊、ゴジラから秘密結社ショッカーまで数多の不思議がまかり通るこの世界の日本、

例え戦うことが出来ない何の力もない一般人でもメンタルだけは一級品なのです。

朝起きたら隣の市が物理的に消滅していたなんてことが起こっても「日本では日常茶飯事だぜ」の一言ですまされるので。

逆に言うならそのような摩訶不思議アドベンチャーなリアルに比べれば、

安全圏のあるこのゲームはダラダラ過ごすのには最適なのでしょう。

 

 

 

故にゲーム内で死ぬ人間の死因は、同じ人間相手の他殺がほとんどでした。

やはり、最後の敵は同じ人間です。

 

 

 

そして事故や正当防衛以外の事件性のある殺害現場には必ずこの2人の姿が目撃されています。

いや、正確に言うならば彼らの向かう先で殺人事件が起きるのです。

 

 

 

リアルでも彼らが赴く先には常に殺人事件が発生していました。

日本の殺人事件の8割がコナン少年が住む町・米花町で発生しています。

コナン少年はそんな危険な街で最低でも1日3件以上も起こる殺人事件をハシゴするのを趣味としていました。

 

"殺人事件が多発するからコナン少年がいるのか、コナン少年がいるから殺人事件が多発するのか"

 

まさに永遠の謎です。

 

 

 

そんな三度の飯のように殺人事件と戯れるコナン少年に対して、遭遇する事件数では勝てませんがキンダイチ君も大概異能者です。

 

 

 

彼はコナン少年にように一つの町に留まらず、全国各地様々な場所へ旅行しています。

いつも面倒くさそうにしているわりにはフーテンの寅さんのように一つのところに留まらず、あっちこっちへとふらふらと出かけているのです。

そして旅行先で必ず殺人事件が起きています。

しかもそのほとんどが連続殺人事件です。

単発殺人が多いコナン少年と違い、彼は連続殺人に特化した名探偵なのです。

これだけ行く先々で連続殺人事件が起きると、まるで予知してその場所に向かっているように思えてきます。

 

 

 

こうして日本各地で起きる殺人事件の多くの場所で彼らの姿が目撃されているようなのです。

噂によると同日同時刻に別々の複数の場所でコナン少年やキンダイチ君が同時に存在していたという証言まで…。

 

 

 

『名探偵は遍在する』

 

 

 

これは裏社会でほぼ常識になりつつある事象なのであります。

 

 

 

"悲惨な運命に遭う被害者を救済しよう"

そう考えたとある白い魔法少女が自身の魔法を駆使して運命を変えようと何度もしました。

ですが、彼らが現れた場合、如何に運命を改ざんしても殺人事件は起きてしまいました。

『殺人事件』という事柄に関しては彼らの能力は"神上の領域(レベル6)"に達しているようです。

今回、彼らがこのゲームに招かれた理由が、一時的であれ日本から殺人事件を減らそうという試みでもありました。

 

 

 

結果、殺人事件を減らすことは出来ず、何故かゲーム内にいるはずの彼らが未だに日本各地の殺人事件現場で目撃されているそうです。

 

 

 

話はゲーム内の彼らについてに戻ります。

 

 

 

彼らはゲーム内で起きた殺人事件へと遭遇すると、

いや、発生するのを近くで見守り、

発生後にまたたく間に犯人を決めつけ、監獄送りにするのです。

 

 

 

彼らがそれぞれ持つエクストラスキルである【少年探偵】と【名探偵】

 

 

 

このスキルを発動すると一時的にその場は"推理フィールド"という安全圏となり、

推理が終わるまであらゆる戦闘行為や暴力行為が出来ず、

また不可視の壁が出現してその場からの離脱も不可能になります。

そしてスキル所持者に"論破されて犯人と断言される"と強制的に監獄へと転移されるのです。

その発動に証拠や真相など関係ない所が彼らが恐れられている最大の要因でしょう。

 

 

 

PoHもその光景を何度と見ていて、いつ自分が犯人として監獄送りにされるのか恐怖に震えています。

 

 

 

『コナンとキンダイチを見かけたら全力で逃げろ』

 

 

 

これは全プレイヤーの共通認識と成りつつありました。

 

 

 

+++++

 

 

 

暗殺対象の"犯人はヤス"は常に引きこもって出てこない。

"犯人はヤス"に悪意をもたらす煽動も、なぜかゲーム直後に達成されている。

ゲーム内を掻き乱すために殺人事件を起こそうとしても、振り向けば名探偵がいる。

 

 

 

もはや八方塞がりのPoHさんがその後どうなったのか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッツ・ショウ・タイム」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉を合図に今日も狂乱の宴が幕を開けます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポンチョを着たピエロ化粧のギルドマスターが始まりの街の広場で大玉に乗って踊り歌っています。

周りには"スキル"でテイムされたモンスターたちが火の輪をくぐったり、ボールや空中ブランコで芸をしています。

他にも同じギルドに所属する芸人や歌い手そして踊り子達がそれぞれの自慢の芸を披露して盛り上げます。

 

 

 

「「「「L・O・V・E!ラブリーユナたーーん!!うほーーーラブリー光線いただきましたーーー!!!」」」」

 

 

 

今日の演目では最近話題沸騰中アイドル『ラブリーユナちゃん』のライブもありました。

最前列では『狂乱のノーチラス』と呼ばれる少年が、毎日鍛え上げエキストラスキルにまで発展させた【オタ芸】で狂ったように応援しています。

彼以外にも観客であるプレイヤー達は殺伐としたゲームを一時的に忘れ、大いに楽しんでいます。

鉄腕組のマスターであるリップルさんなんて常連になるぐらい通い詰めています。

彼らサーカス団の存在を知らない人はもういないと言われるぐらいの人気です。

 

 

 

しかも彼らはサーカス芸だけじゃなく、オリジナルの歌や演劇を記録結晶で販売したり、

そこから人気が出たアイドルや俳優のグッズで大儲けしたり、

それらの資金を元に漫画家や芸術家を集め娯楽雑誌などを発刊したりと、

多岐にわたる事業展開で今後どんどんと規模を増やしていくのです。

 

 

 

始まりの街には今まで戦闘ができないことでお荷物扱いされ、やる事もなくダラダラと過ごしていたプレイヤーたちが大勢いました。

娯楽が増えることによって、そんな彼らの戦闘以外の才能が注目を集め、他にも運営や販売などの仕事にも人手が必要とされていき、

結果、それがゲーム内の活気へと繋がっていきました。

 

 

 

だけどその活躍は良い面ばかりではありませんでした。

それらのムーブメントは今までストイックに攻略に専念していた人達すら巻き込んで次々とオタクへと変貌させていったのです。

結果的に攻略速度を半分までに落とし、

リアルへと帰還しても『一般人には戻れなくなった重度のオタク』を量産したことが「これは一種のPKである」とまで言われ、

「ある意味で最も残虐なPKギルド」と言われることになります。

 

 

 

ギルド『ラフィン・コフィン(笑う棺桶)

 

 

 

それは運命に翻弄されたギルドマスターPoHに【道化】のスキルが生えたことにより結成された娯楽ギルド。

ピエロ化粧で顔を隠し、ゲーム内を娯楽にって"掻き乱す"という任務に適合する、これが彼に残された最後の生き延びる術だったのです。

それこそ大衆の心の機微に詳しく煽動活動に精通したPoHにとって天職ともいえたのです。

 

 

 

ゲーム内にて幾人もの才能あるプレイヤーを発掘して支援育成し、

巨大化したギルドの運営を指揮することで経営者の才能をも開花させました。

そしてリアル帰還後、彼はゲーム内で培った経験と人脈を生かし『総合芸能事務所7753』を立ち上げることとなります。

 

 

 

伝説のプロデューサー『道化師のPoH』はこうして誕生したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「リップルさんも喜んでるし及第点をあげましょう」

 

 

ゲームをモニターしていた白い少女は満足気でした。

 

 

 

 




本当に酷いことになってますよね。


キャラ設定とか冥王星まで吹っ飛んでますよ。


でもSAO劇場版のキャラも登場させれたし、原作ファンへのサービスが出来たかな?


そして明日から待望のゴールデンウィーク。


今回まででやりたい事はやったし、やっちまった感もありますし、
これ以上やるとSAOファンに刺されかねないかなって気もするし、
それに別に期待もされてないだろうし、


ってことで連休中は思い切って英気を養うことにします。


そして来年のゴールデンウィーク明けまでには投稿できるようにしたいと思います。


いつか来世で会えるといいね。



正直な話、月夜の黒豹団(決して黒猫団とか言う可愛い存在ではない)とかの話も考えたけど、アレをやるとマジで激怒される。
もし続けるとしても今後の展開はもっとマイルドにして「流石キリトさんカッケーー」な内容に作り直さないと。


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月下の夜想曲

GWは休むと言ったな。アレは嘘だ。


結局ずっと連日更新してたとか、どうしてこうなった。




俺の名前はキリト。

このソードアートオンラインのベータテスト経験者にして、このデスゲームを最速で駆け抜けるプレイヤーらしい。

 

 

自慢じゃないが、俺はこのゲームでは最高の実力者だということになっている。

ゲーム序盤では相棒の"閃光のアスナ"と一緒に常に最前線を駆け抜け、現在に40層まで到達、

誰も攻略できなかった数々の難関ボスもクリアしたことになっている。

だから俺が英雄と誤解されたとき、少なからず嫉妬されてしまった。

このゲームをクリアするには俺の力が必要だって。

誰よりも早くレベルを上げて、常に最前線を駆け抜けるのは俺だって。

 

 

 

 

 

 

そんな有りもしない事を俺が吹聴しているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

「おい、あいつが例の"黒の剣士キリトさん"だぜ」

 

「ああ、あのボスをいつも勝手に倒してお宝を独り占めしてるやつか」

 

「皆が力を合わせてやっていかなきゃいけないっていうのに」

 

「しかもアスナっていう可愛い子を侍らせているんだろう、噂ではレアアイテムや金で女を釣ってるらしいぜ」

 

「どれだけ強いって言っても人間としては最低だよな」

 

 

街を歩けばこういう陰口はもはや風物詩と成りつつある。

一体俺が何をしたというんだ。

いや、分かってるさ、お前らの中では俺はボス独占、レアアイテム独占、女の子独占のチート野朗だって事になってるんだよな。

でも違うんだよ、俺はボスを独占なんてしちゃいないんだよ。

そんな事を言っても、誰も信じちゃくれない。

だって、毎回のように俺がアスナと2人でボス攻略後の階層アクティベートをしているのを見られてるんだからな。

 

広められているルールでは、

『ボス部屋を見つけたら、各ギルドに通知し、ギルド間で人員を出し合ってボスの偵察をする。

そしてボスの情報が出揃ったら攻略会議を行い、討伐パーティーを組んで攻略する』

 

そういう流れになっているらしい。

ギルドに入っていない、いやどこのギルドも入れてくれない俺は人伝で聞いただけだが。

だが俺とアスナはそんな流れ知ったこっちゃないとばかりに、ボス部屋を発見したら誰にも言わず2人だけで攻略して自慢げに2人だけでアクティベートしている、そういう風に思われている。

 

 

いやいや、常識的に考えてくれ。

お前らだって数は少ないけどボス討伐はしているだろう?

だったらボスの強さは身に沁みているんじゃないのか?

あれはどれだけレベルが高くても2人だけで攻略出来るわけ無いだろう。

ボスによっては取り巻きだっているし、特殊なギミックがあったり、単純に被弾するとほぼ即死みたいな攻撃力のやつだっているだろう。

2人だけだとスイッチだけで手一杯でポーションの回復時間も取れず、どう考えてもクリアは無理だ。

「だから誤解なんだよ!」と伝えると

 

 

「へー、雑魚どもだと無謀だけど、キリトさんとアスナさんのお二人はそれが可能だっていう自慢ですか」

 

「お宅ら2人以外、見たこと無いんですけどね。そこまでいうなら連れてくればいいじゃないですか、自慢のお仲間を」

 

 

と、俺が自慢していると取られてしまうんだ。

いや、本当なんだ。

俺とアスナが毎回アクティベートしているのは、「アクティベート役が必要だから、お前らには1層で姿を見られているからな」という理由で毎回ボス部屋まで引きずられていくんだよ。

俺だって何度か、誤解を解くために説明してやってくれと頼んだが無理だった。

1層でお互い偶然知り合った彼ら、

ギルド"A-01"は疾風迅雷のナイトハルトとギルド"高町家"はそれぞれ同盟関係を結んでいた。

A-01は1層攻略時に、部隊単体での攻略は難しいと判断し、一緒に攻略したナイトハルト氏と高町家にゲームを迅速にクリアするための協力を持ちかけた。

どうやら俺とアスナ以外は全員裏社会でかなり有名らしく、A-01のお眼鏡に叶ったそうだ。

高町家は誰かを助けるためになら協力を惜しまず、

ナイトハルト氏もこんなアニメも見れないクソゲーは早くやめたいからと協力的だった。

ちなみに俺等はアクティベートだけしてくれればいいと、強制的に参加が決定した。

 

 

そんな訳で、俺とアスナは毎回ボスが凄まじい勢いで攻略されるのをボス部屋の隅で体育座りをしてぼーっと眺めた後、死んだような目でアクティベートをする。

そしていきなり開通した門を慌ててくぐり抜けてきたキバオウや自称攻略組達に、「まあぁぁぁたおまえらかあぁぁぁぁ!!!」とどやされるのがお決まりのパターンになったのだ。

 

 

最近は部隊内の精神的な負担を鑑みて福利厚生の面から攻略速度を落とすことに決まったようで、呼ばれる頻度は下がっていた。

それでももう"俺達の噂"は"常識"へと進化を遂げて、俺とアスナのイメージは覆すことは出来なくなっている。

だから俺は誰にも相手をされなくて、ギルドに入れてくれるやつもいないんだよな。

アスナはいいよな。

 

「キリトくんキリトくん!私、スカウトされたんだよ!最近できた"血盟騎士団"ってギルドなんだけどね。団長のヒースクリフって人が君には素質がある、僕と契約して団員にならないかって言ってくれて。白い猫みたいなテイムモンスターをいつも抱いてる変な人なんだけど、それでも嬉しかったんだー。噂に流されないで私のことを見てくれる人が居てくれたんだって。入団?もちろんしたよ。これであの人たちから足抜け出来るわ」

 

そう言って小躍りしていたんだよな。

でもそんな事はまったくなく、ボス部屋に俺と一緒に引きずられていったんだが。

ギルド団長のヒースクリフにはその事を知らされていたらしく、ハイライトの消えた目でドナドナされる俺等へ笑顔で手を振っていたっけ。

ところであの白い猫?

あれって俺の索敵スキルだとプレイヤーっぽい反応だったけど何なんだ?

まぁテイムモンスターなんて見たことなかったから、ああいうものなのかも知れないけど。

 

 

俺は今、11層まで降りてきていている。

最前線に近いところでは心が休まらないんだよな。

攻略組やそれに近しい連中は全員俺の事を知っているし。

あいつらは俺のことをレベルが超高くて、プレイヤースキルも神がかってると思い込んでるんだろうけど。

実際はまったく逆で、レベルなんて他の攻略組とどっこいだろうし、プレイヤースキルも普通なんだよな。

ラストアタックとかで出るレアアイテムは、A-01達が使わない装備ならタダで貰えるので装備品は整っているけど、攻略自体には参加していないしな。(他の人達のボス討伐戦には当然ハブられてます)

だから、普通のザコ敵をソロでえっちらおっちら倒してると

 

「英雄様、何そんなに手こずってるんですかーボスみたいに瞬殺してみせてくださいよ」

 

「バーカ、英雄様は俺等には手の内見せないんだよ」

 

なんて揶揄られたり、酷い時はあからさまに敵を横取りされたりされたりもするんだ。

そんな毎日に俺は疲れてしまった。

癒やされたい。

この11層は比較的癒し系な動物モンスターが多くて疲れた時はよく来てるんだ。

あー、このうり坊可愛いなぁー、(ナデナデナデナデ)

ダメージ蓄積されたら怒りマックスで超強化イノシシになるけど、攻撃さえしなきゃ安全なノンアクティブだ。

こうして可愛いモンスターをナデナデしていると荒んだ心が癒やされるよ。

最近は1層にサーカス団とかができてるらしいけど、

俺が行くと他のやつらにあからさまに嫌がられるからなぁ。

なかなか行く機会がないんだよな。

それにああいうところに一人で行くってのも寂しいものがあるしな。

アスナ?コンサートもあるらしいから行こうって一度誘ったらキモオタを見るような目をされた。解せぬ。

 

 

うーんそれにしても、なんだかこう、今日は誰かから見られているような気がするんだよな。

でも索敵スキルには反応してないから敵意は無いんだろうけど。

 

 

不思議に思いながらナデナデしていると、森の奥から女の子の悲鳴が聞こえた。

「なんだ!」と俺は悲鳴の聞こえた方へと注意を向ける。

するとタイミングを測ったかのように「可愛いサチちゃんが敵に襲われてる!」と男性の声が聞こえてきた。

可愛いという単語におもわず体が動いて声が聞こえた方に走り出す。

「俺は他の敵と戦ってるから助けられない!」「俺も他の敵を牽制しているから無理だー」「俺は昔膝に矢を受けてしまってな!」「えっと俺は…とにかく誰かサチちゃんを助けてくれー」

森の奥から助けを呼ぶ悲痛な叫びが聞こえてくる。

 

 

これはマズいと急いで森の中を進むと、凶暴なモンスターたちを押さえてる男たちと、うり坊に攻撃されている黒髪の女の子が居た。

その子は片手剣と盾を持ってペシペシっと可愛く攻撃してくるうり坊相手に「いやー、こわいー」と何故か棒読みに聞こえる叫びを上げている。

なんとか間に合ったか。

うり坊は、まだダメージ蓄積されてないし、凶暴化する前で助かった。

 

 

「今助けるぞ!早く逃げろ!」

 

「はい。スイッチ」

 

 

女の子は巧みにシールドバッシュのソードスキルを当ててうり坊をスタンさせ、俺はそこに全力のソードスキルで凶暴化する前にうり坊のライフを削りきった。

ふぅ、このうり坊は可愛くて最初は攻撃力も低いけど、凶暴化すると手がつけられないからな。

こうやって一気に倒さないと厄介なんだよ。

 

 

「あのー、危ない所をありがとうございました」

 

 

振り返ると女の子がおずおずと俺の服の裾をつまみお礼を言ってきている。

黒髪のセミロングで右目の下に泣きほくろがあり、その目には薄っすらと涙がたまっていて、正直に言おう。かなり可愛い。

勝ち気なアスナとは正反対で何処か儚げであり、幸薄気な雰囲気がなんだか守ってやりたいってそんな気にさせる。

そんな彼女が俺の服をつまみ、そしてそそそっと近寄り、「私…本当に怖かったです」と俺の胸に顔を埋める。

なんだこれは、夢か?夢なのか?

 

「私、サチって言います。どうか私のことをこれからも守ってください」

 

そういって少し頬を赤くして上目遣いに俺のことを見上げてくる。

なんだこれは。よく観察すると彼女の背は俺と同じぐらいで、今は膝を屈めて目線を下げているようだ。

可愛い、確かに可愛いけど、なんだこれは?

 

「いや、俺は…そんな…成り行きでだな」

 

急に彼女に迫られて狼狽えていたら。

 

 

「このゲーム世界も決して悪いもんじゃないさ」

 

 

ふと、誰かの声が聞こえた。

 

 

「ゲーム世界は悪いもんじゃないかも知れない、でも自分が嫌いだ」

 

 

俺の真後ろから俺の声音を真似した誰かの声が聞こえる。

 

 

「ゲームを悪く嫌なものだと捉えているのは君の心だ」

 

 

また違う方から別の男の声がする。

いつの間にか先程まで凶暴なモンスター相手に戦っていた4人の男たちが俺の周りに居て次々と話していく。

 

 

「ゲームを真実と置き換えている君の心さ」

「ゲームを見る角度、置き換える場所、これらが少し違うだけで心の中は大きく変わるよ」

「真実は人の数だけ存在する」

「だが君の真実は一つだ。狭量な世界観で作られ自分を守るために変更された情報。歪められた真実だ」

「まぁ人一人が持てる真実なんて小さいものさ」

「だけど人はその小さなものさしでしか物事を測れないさ」

「与えられた他人の真実でしか物を見ようとしない」

「晴れの日は気分良く」「雨の日は憂鬱」「と、教えられたらそう思い込んでしまう」

「雨の日だって楽しいことはあるのに」

「受け取り方一つでまるで別物になってしまう脆弱なものだ人の中の真実とはな」

「人間の真実とはその程度の物さ。だからこそより深い真実を知りたくなるね」

「ただ、お前は人に好かれることに慣れていないだけだ」

「だからそうやって人の顔色ばかり伺う必要なんてないんだよ」

 

 

なんだか訳がわからない。

 

 

「でも、みんな俺のことが嫌いなじゃないのか?」

4人のうち、俺の後ろに立った一人がやはり俺の声音を真似して喋る。

 

 

「君は馬鹿かい。君が一人でそう思い込んでいるだけだろう」

 

「でも、俺は俺が嫌いなんだ」

 

「自分を嫌いな人は他人を好きに、信頼するようになれないよ」

 

「俺は卑怯で、臆病で、ずるくて弱虫で」

 

「自分がわかれば優しく出来るだろう」

 

「俺は俺が嫌いだ。…でも好きになれるかも知れない」

 

「俺はここに居てもいいのかも知れない」

 

「そうだ。俺は俺でしか無い。俺は俺だ。俺でしか無い」

 

「俺はここにいたい!」

 

「俺はここにいていいんだ!」

そう叫んだ俺の代弁者?はスッと離れ、そして4人はパチパチパチパチと拍手をする。

 

 

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」

 

 

俺が無言で立っているとずっと「おめでとう」といいながら拍手を続ける。

 

「…ありがとう」

 

しょうがなく俺がそう答えたら

 

「父にありがとう。母にさようなら。そして全てのチルドレンにおめでとう!」

 

そう叫んで、そして一仕事終えたと言うように4人と女の子は肩を叩きあって喜んでいる。

 

 

「ようやく君も吹っ切れたな。そうだ、俺達は仲間だ」

 

 

一人の同い年ぐらいの男が前に出て手を差し出してくる。

俺はつられて握手をしてしまった。

 

 

「俺達は月夜の黒豹団。リーダーのケイタだ、よろしくな」

 

「俺はテツオ!筋肉担当だ!」「キング・ダッカーさ」「俺はササマルだ!」「サチです。末永くよろしくおねがいします」

 

おいそこ、最期のサチ。なんで三つ指付いてるんだ!

 

そしてケイタは何気ない動作でスッと俺にギルド加盟要請を送ってきた。

俺はそれを見て慌てて

「おい、今あったばかりの、おっ俺にっそんな気軽にいいのか!」

と思わずキョドってしまった。

 

 

「大丈夫、難しいことは筋トレした後に考えようぜ」テツオがポージングをしながら笑顔で答える。

 

「俺の名前はキリトだ!このゲームをやってるならこの名前の意味分かるだろう!」

その屈託のない笑顔に何も分かってないくせにと思わず声を荒げてしまう。

 

 

すると

「知ってるさ、黒の剣士キリト。先程の剣戟、スピード、そしてその格好。噂でしか知らなかったけどね」

ケイタは落ち着いた顔で言う。

 

 

「でも、噂通りなら俺達を助けようとはしないだろ。噂なんて当てにならんってことだよな」

ニコニコとした笑顔を浮かべるササマルは馴れ馴れしそうに俺の肩を抱いてくる。

 

 

「それに人見知りのサチちゃんがあれだけ気に入ってるんだ。ちくしょう羨ましいぜ」

ダッカーが悔しそうに言うが、それでも何処か嬉しそうだ。

言われたサチは顔を赤くしてモジモジしている。

 

 

「俺達は楽しめればそれでいいんだ。だから気楽に付き合ってくれないか?」

 

 

いつも毛嫌いされている俺は、そのケイタの言葉に何故か泣けてきて、そしてギルドへと加盟した。

 

 

 

 

そして俺は前線から退き、彼らと行動をともにすることにした。

彼らはリアルでの友達同士でこのゲームに巻き込まれたらしい。

最近までは始まりの街に籠もっていたけど、これじゃ駄目だと一念発起して戦いだした駆け出しプレイヤーらしい。

11層にいた時はランス使いのサチが片手剣へと装備変更するために訓練に来ていたそうだ。

リーダーのケイタは棍使い。テツオは脳筋らしくメイスや斧を主武装にしたタンク兼アタッカー。

ササマルはランスを使っているし、ダッカーは剣を持ってはいるがどちらかというと距離を開けて戦う遊撃手だ。

なのでサチが片手剣と盾を持てば確かにバランスが良くなるだろう。

ケイタは片手剣が使える人がいないので、俺にサチを指導して欲しいと頼んできた。

サチも俺から教わるのが嬉しいと言ってきたので、俺はちょっと照れつつも指導をすることにした。

 

 

サチは戦闘のセンスは微妙だが、それでも真面目で教えたことを何度も反復して吸収していく。

そして見た目に反して意外に胆力があり、怖気づいたりせず敵へと向かっていく。

この分だと結構早く使いこなせるようになるな。

あれ?出会ったときうり坊相手に怖がってなかったっけ?そういえばあのときスイッチするとき凄い自然だった気が。

なんかおかしい気がしないでもないが気のせいだろう。

あんな素直で優しく真面目なサチがね…。

2人で訓練する関係、必然的に二人っきりになることが多くなり。

俺とサチの関係はどんどん近くなっていった。

今ではリアルでの話をしたりするまでに。

おそらく、俺はいつの間にかサチに惹かれていたんだろう。

 

 

そしてある夜。

 

 

「キリトさん…少しいいですか」

 

 

今日はもう寝よう、そう考えて寝間着へと着替えてベットに横たわっていると。

ガチャガチャガチンっとドアが開かれ、サチが顔を出した。

あれ?確か鍵かけてたような?解錠スキルを使えるのってダッカーだけだったはずだよな?

頭の中が疑問符でいっぱいになって返事が返せない俺に、了承と取ったサチがスススっと入ってきて。

そしてするりと布団の中に潜り込んできた。

 

 

「ありがとうございます、キリトさん」

 

「いや、俺はいいとも悪いとも「なんだか私、怖いんです」

 

 

俺の言葉を遮って、サチが抱きついてくる。

 

 

「なんだか、このまま私達現実に戻れないでここで死んでいくんじゃないかって」

 

 

サチは胸に顔を埋め、震えていた。

いくら順調に見えても、彼女もまだ俺と同じ子供だ。

不安に思っても仕方ないか。

 

 

「いや、そんなことはない。ゲームってのは攻略されるものだ。それに俺も君も、そう簡単にやられるほど弱くないよ」

 

 

そうやって俺は彼女に安心するように言うと、

サチは目に涙を溜め、俺の顔を覗き込んできた。

 

 

「キリトさんは…私を守ってくれますか?私のナイト様になってくれますか」

 

 

その表情はとても綺麗で、窓から入ってくる月の光に照らされて神秘的にも思えてきて。

更にムーディーなBGMが何処からか流れてきて。

いつの間にか彼女の装備が全て外れていて…………致してしまいました。

 

 

翌朝。朝チュンを迎えた俺とサチが部屋から出ると。

ケイタたち4人は血の涙を流しながら、「やぁおはよう。どうしたんだ2人とも」と何も気付いていない風を装っていた。

血の涙って、そんなエフェクトあったんですね。流石茅場さん。

 

 

そんな訳で、俺とサチは結婚をすることになりました。

何しろ、何かある度に、下腹部を手で撫でながら、「ねぇキリトさん、そろそろね」とか「うっなんだか気分が…つわりでしょうか」とか言われてね。

逃げられないんですよ本当に。

既成事実って怖いですね。

ちなみに毎晩騎乗位で絞られています。

鍵?そんなもん何故かいつも開いてるんですよ。

サチが入ってくる時にたまにダッカーらしき人影が見えるのは気のせいだろうか。

 

 

でもなんだかんだ受け入れつつ、俺は彼らと一緒にいる。

可愛い恋人と愉快な仲間たち。

今まで欲しかった、そして手に入れることができなかったものがここにはあるんだ。

それは幸せといってもいいんじゃないだろうか。

いやこれが幸せでないなら何が幸せなんだろう。

 

 

そう俺は考えながら、今日も森のなかでみんなとレベル上げをしていた。

すると茂みから可愛い子犬が出てきた。

あれ?こいつって?

 

 

「どうしたキリの字ー?」

 

 

茂みの前で座り込んだ俺にダッカーがおどけながら聞いてきます。

俺は出てきた子犬の前に座り込んでそいつをよく見る。

たしかこいつ…えっと名前は。

ファニードックと表示されている名前を見てようやく思い出した。

こいつは【テイム】スキルがないプレイヤーでもテイムが出来て、育てると【テイム】スキルが生えるレア中のレアモンスターだ。

 

 

「おい、みんな見てくれ!レアモンスターだ!」

 

 

俺は子犬を抱きかかえてみんなに見せました。

すると、

 

「ゲッ!!犬!」

「ヤバイ!そいつはヤバイよキリトさん!」

「サチちゃんこっち来ちゃ駄目だ!」

 

となぜだかみんなが慌てだした。

 

 

「いやいや、こいつノンアクティブでよっぽどじゃなきゃアクティブ化されないから大丈夫だよ」

 

 

そう伝えた所で、子犬が俺の腕から飛び出し、トトトッと走り出し、その先にいたサチの足元に擦り寄りました。

 

 

サチは、その子犬へと視線を移し。

そしていつもの儚くも綺麗な笑みを、邪悪な笑みへと歪め、

 

 

「このクソ犬があああああ」

 

 

そう叫び、子犬を踏み潰しました。

そしてストレージから取り出した剣で、

 

 

「死ねええええええええええ!犬ぅぅぅぅ!!!!!」

 

 

何度も何度も何度も何度も何度も切り刻みました。

その速度、俺の目でも捉えきれないような速度で。

ソードスキルでもないのに何でそんな速さでふれるのか。

いや、なんだこの豹変は!

 

 

「犬!犬!犬!犬!!!!!私の全てを奪っていったクソ犬がアアア!!!!!」

 

 

狂乱するサチを前にして俺は固まったままで、

ケイタ達4人がサチを抑えて、そして落ち着くまでただただ呆然と眺めているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね、サチちゃん、犬がトラウマでね。特に子犬は駄目なんだよ」

 

 

ケイタがジュースを俺に差し出しながらあやまってくる。

 

 

「いつか伝えようとしてたんだけど機会がなくてね」

 

 

他の3人はサチを落ち着かせに行ってるんだろう、ここにはいない。

彼女はあの後、我に返り、泣きそうな顔で俺を見てから自室へと逃げていった。

 

 

「どういうことなんだ?一体サチに何があったんだ?」

 

俺はケイタに聞いたが

 

「それはサチちゃん本人の問題だからね。俺が勝手に言っていいことじゃない。でも君ならサチちゃんは話してくれると思うよ。でも、覚えておいてくれ」

 

ケイタは今までにないぐらい真面目な顔で忠告してきた。

 

「サチちゃんは本当に良い子だ。そして、重い過去を持ってる。それを聞くからには覚悟をしてくれ。それを聞いて彼女を突き放すようなことはしないと」

 

「もしサチちゃんを泣かせたら…その時はキリト、俺達が許さないぞ」

いつの間にか、3人が戻ってきて、そして真剣な顔で立っていた。

 

サチに一体何があったのか。

あそこまで取り乱すんだ、きっと本当に辛い事があったんだろう。

だが俺はそんな事でサチを見捨てたりはしない。

確かにサチには押し倒されて流されて来たが、それでもサチを愛しく思う気持ちは本当だ。

俺は彼らに力強く頷くと、サチの部屋へと入った。

部屋には鍵がかけられておらず、中ではサチがベットへと腰掛けて外を眺めていた。

外にはあの夜と同じく、月が光を照らしていた。

 

 

「キリトさん、どうぞ、ここに座ってください」

 

 

俺は促されるままに彼女の隣へと座った。

 

 

「私、昔、大事な人をなくしたんです」

 

 

彼女は月を眺めながら話しだした。

 

 

「大事な、本当に大事な人でした。あの人は私の全てだって、そう言えるほど大事だったんです」

 

 

そう語る彼女の顔はとても儚げで、今にも消えてしまいそうな表情だ。

 

 

「でも、あの人の誕生日を祝ったあの日に、あれはやってきました」

 

 

「あれって」

 

 

「『狗神』…そう呼ばれているそうです。子犬の形をした悪魔。いえ、死神ですね。それが私と大事な人の命を奪っていったんです」

 

 

子犬の形?狗神?良く分からないが

 

 

「お伽噺みたいですよね?でも本当のことなんです。私はその日から、14年間、その狗神の行方を探しています」

 

 

「探して…どうするんだ?」

 

 

「さぁ、多分復讐したいんだと思います。でも私には力がない。ケイタさん達はそんな私を支えてくれるって言ってくれていますが、それでもアレに対抗できるかどうか…」

 

 

そしてサチは俺の手を取り、

 

 

「お願いします。もしゲームからリアルに戻った後も、私を支えてください。少しでもいいですから力を貸して頂けないでしょうか?」

 

 

祈るように頼み込んできた。

狗神、大事な人が殺された、そして復讐。

あまりにも現実離れしていて混乱しそうだ。

でも彼女は泣いている、今泣いているんだ。

そんな泣いている女の子一人助けられないで何が男だ。

惚れた女は何があっても守り抜く、それが男ってものだろう。

そう思ったらもう何も難しいことを考える必要はなくなった。

ただ守ればいい。

 

 

「俺は守るよ。君を。例えその狗神って奴が来ても俺は君を守る」

 

 

俺はサチを強く抱きしめながら、そう決心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サチのステータス欄には【誘惑】スキルがひっそりと発動していました。

 

 

 




というわけでみんなのアイドル薄幸のサチちゃん登場です。


がんばれキリトさん!狗神をやっつけろ!


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もうひとつの英雄伝説

注意:捏造設定満載です。

今回の語り部は戦闘民族高町家のお父さん、高町士郎です。

一人称とかも完全捏造なのでとらハファンの方怒らないんでね。

ちなみにとらいあんぐるハートシリーズは1作目が一番好きで、出た当初は猿のように何度も繰り返しやってました。



やべぇ年がバレる。





ソードアート・オンラインについて改めて考察してみる。

 

 

 

このゲームの世界では割り振られたステータスと取得したスキルに応じて現実世界では出来ないような身のこなしや戦闘が可能になっている。

 

 

STR(筋力)を上げればより重いものを持ちあげる事が可能になる。

さらに武器攻撃やソードスキルなどの威力が上がる。

 

VIT(耐久)を上げればよりHPが上がり頑丈になる。

攻撃を受けた際の衝撃も減らすことができる。

 

AGI(敏捷)を上げればより素早く動く事が可能になる。

足の速さだけではなく、武器を振る速さも関係してくる。

 

DEX(器用)を上げればより細やかで正確な動作が可能になる。

武器で攻撃する際や、投擲をする際に狙った場所へと当てることができる。

 

LUK()を上げればより幸運になる。

これは敵を倒した際のドロップアイテムの確立、そして索敵や隠密、料理や鍛冶などのスキルを使用した際の成功率や失敗率に関係する。

ただし、スキル熟練度の方がより優先されるので、よほど特化したい場合以外は無視してもいい。

 

これらのステータスによって肉体的な能力が決定され、

身体を使う動作はこのステータスによって制限されている。

 

 

 

そして実際の戦闘や補助的な行動はスキルというものを取得し、自身のスキルスロットへと装備することで使用可能になる。

例えば、片手剣を使って戦闘したり、ソードスキルを使いたいならば【片手剣】スキルを装備する。

これを装備しないで片手剣を使ってもまともにダメージを与えることは難しい。

 

 

【索敵】や【隠密】なども同様に、装備してそのスキルを発動させることにより敵の位置を探ったり、敵から身を隠すことが可能になる。

スキルを使用せずに隠れても、足音や草木への接触で音が鳴りすぐ見つかってしまうだろう。

 

 

他には特殊な【料理】や【鍛冶】などの職人スキルだ。

これは実際に料理の仕方や鍛冶のやり方をリアルで知っていてもスキルがないと全部失敗するようになっている。

 

職人スキルが"特殊"とした理由。

それは実は職人スキル以外のスキルはあくまで"補助的"なものであるからだ。

 

 

この世界は実によく出来ている。

まるでもう一つのリアルのように。

リアルで出来る事はこの世界ではほとんど再現可能なのだ。

 

 

例えば先ほど片手剣の戦闘を行うには【片手剣】スキルを装備すると言ったが、

実はそんなことをしなくても片手剣での戦闘は可能だ。

もちろんスキルがないとソードスキルは使用できない。

だが、ソードスキルを使用さえしなければ、スキルが無くても攻撃できる。

スキルなしで攻撃してもダメージが与えられないのは、片手剣の正しい使い方を知らないからである。

 

 

もし、普通の人がリアルで剣を渡されたとして、イノシシを倒せるか。

はっきり言って無理だろう。

剣というのはただ振ればいいだけではない。

ちゃんとした持ち方、振り方、体重移動から刃の使い方。

これらがしっかりしていないと、斬ることはできず、単なる鉄のこん棒と変わらなくなってしまう。

だが、剣道などの竹刀ではなく、真剣で相手を斬ることを練習、もしくは実践している人なら、

中世の剣と普段使っている剣の違いで多少の戸惑いはあるだろうが、すぐ使いこなせるようになるだろう。

 

 

つまり、"スキル"とはリアルで経験したことがない人でもスムーズに使用できるようにシステムが補助するためにあるのだ。

そしてソードスキルとは、あらかじめ決められた動作を素早く自動的に行い、威力に補正をかけ、派手なエフェクトを付加したものである。

なので、スキルが無くてもその速度を出すのに必要なAGIさえ満たしていれば、自力でソードスキルを再現することが可能だ。

ただし、ソードスキルとして発動した際の威力補正がなく、エフェクトもないので派手さにはかけるであろうが。

だが、その反面、ソードスキルのデメリットである途中で行動をキャンセルできないこと、発動後にソードスキルごとに設定された硬直時間があること、これらが自力ソードスキルには存在しないのである。

まぁ、威力補正がないのならあえてあんな隙だらけな技を使おうとは思わないが。

 

 

【索敵】もスキルとして使用すれば自動でできるだけで、そんなものを使用しなくてもリアルで常に敵の気配などを察知することができるのであれば可能である。

いや逆にリアルよりもこの世界のほうが気配を掴むのは容易である。

リアルでは雑多なノイズが多すぎるからだ。

空気の流れ、常になる様々な音、大小さまざまな生物に多種多様な匂い。

この世界ではそれらはスペック的に省かれているため、よりシンプルに音と振動を探知すればいい。

そしてそれ以外にもこうなにやら感じる気配、おそらくキャラクターやモンスターに設定されているデータ量が読み込まれる際にでるほんのわずかなラグ。

注意深く探ればこれを感じられるようになる。

 

『より強いキャラクターやモンスターはより大きい数値のステータスや多くのスキルを保有しているから、その分データ量が多くなり、より顕著にラグが感じられるね。

そのラグがプレッシャーとして生存本能を刺激して、ボスモンスターやより強いプレイヤーと相対したときにプレイヤーたちがひるんでしまう原因になってるんじゃないかな』

 

娘のなのははそう推測していた。

 

 

【隠密】スキルは移動の際の音や振動を軽減させるだけではなく、それらのデータを圧縮してラグを少なくしているのではないか。

これも娘の推測である。

 

 

故に、これらのラグをより感じやすくするために、心を無にして瞑想するといい。

そう指摘され、実際に行ってみると、データのラグというものを感じ取れるようになってきた。

これを【システム外スキル】と娘が名付けていた。

 

 

次にはステータスについて。

 

 

LUKという検証が難しいステータスは別として、実はあまり理解されていないのがAGIというステータスだ。

これは足が速くなる、動作が速くなると理解されている。

実際そうである。

だが、どれだけ早くなるのかというのは上位のプレイヤーにも理解されていないことが多い。

AGI特化型と言っていた情報屋『鼠のアルゴ』に最高速で走ってくれと依頼した際、彼女は実に素早く時速30キロほどの速度をだした。

だが、彼女よりAGIの低い僕はそれよりも早く動くことができる。

これは恐らく脳による制限であろう。

人間はこれだけ早く動ける。つまり、これより早く人間は動けない。

そういう思い込みがあるのだ。

実際30キロというのは原付並みの速度だ、一般人だとこれに追いつくなんて考えない。

だが、100m走のオリンピック選手は9秒台で走る。

これは時速40キロ近くあるのだ。

それに裏社会ではもっと短い距離ならそれよりも早く動く人間をもっと見てきている。

実際、僕も奥義である"神速"を使えば時速100キロ程で動作可能だ。

改めて言おう、この世界はリアルでできることは再現が可能だ。

AGIを比較的多めに振っている僕は、神速最高速度の100キロは再現できなかったが、80キロ近い速度で移動ができた。

これからのAGIへと振っていけばいずれ100キロを超え、それより更に早く動けるようになるだろう。

しかもスタミナや肉体への負荷という要素がないこの世界では、その速度が永続可能なのだ。

 

 

恐らくこのステータスを設定した茅場は僕たちのような脳のリミットを外せる人間を想定していなかったのだろう。

武器を振る速度はソードスキルがあるために、脳がこれならできると学習し、動きを速めれるが、

身体全体がそうだということまで理解しているプレイヤーはまだ少数であろう。

A-01の人たちは僕が指摘して初めて気づいていた。

彼女らは連携や身のこなしから軍属なのであろうが、それゆえに自分のできる動作というのを熟知しすぎていて盲点になっていたのだろう。

そして、僕が指摘するよりも前から理解していたのがナイトハルト君とキリト君、アスナ君である。

ナイトハルト君は出会ったころからより効率的に最適化された動作をしていた。

彼は妄想力なら誰にも負けないと言っていた。

娘によると彼の事を伝説のネットゲーマーであるそうだし、そして裏社会では最強のギガロマニアックス能力者であり、

300人委員会に敵対する組織『ワルキューレ』の一員としても知られている人物だ。

ならば強くても理解ができた。

 

 

だけど、キリト君とアスナ君は一般人らしい。

キリト君を見かけたのはゲーム開始初日の事だ。

茅場の演説の後、混乱する始まりの街を素早く抜け出した僕と家族は森の中へと爆走しながら敵を倒す彼を見た。

当時はそんなにレベルが高くないだろうに、なぜあそこまで早く動けるのか。

これがAGIに疑問を抱く最初の切っ掛けであった。

そしてその後片手直剣『アニール・ブレード』を取得するクエストで森の中で一人猛烈な勢いで敵を狩る彼を見かけてその戦闘ぶりに感心していた。

なので迷宮区入り口で出会った際に同行させる気になったのだ。

アスナ君はその後、迷宮区内の安全地帯で発見し、ボス部屋に辿り着く間に観察していたが、

彼女もまた一般的な常識を超えた動きをしていたので、このまま連れて行っても大丈夫と判断したのだ。

その判断は正しく、レベルが足りないであろうに取り巻き相手によく奮闘していた。

彼らならこのまま経験を積んでいけば強くなるであろう、そう確信させる働きだった。

まぁその後アクティベートを頼んだ結果、英雄にさせてしまったのは少しは悪いと思っているがね。

それでもキリト君とアスナ君はまだ一般人の領域だった。

 

 

このゲームでは意外に裏社会に名の通っている人間が多い。

鉄腕組などその筆頭であろう。

まさか弟の雅次がこんなゲームをやるなんて思っていなかったが。

その裏社会の人間が対人で強いのは理解できる。

ステータスがある程度あればリアルの動きが再現できるのだから。

 

 

ただ、裏社会の人間以外にも化け物がいるなんてね。

本当に想定外の事ってのはあるものだ。

 

 

さて、ここらで脳内考察を終えて、今差し迫った現実に思考を戻そう。

 

 

+++++

 

 

 

「俺はササマルだ」

 

 

今、僕の前に立つ少年。

僕は今日、ボス討伐のためにキリト君を迎えに11層へとやってきた。

転移門を抜けて街を出て、キリト君が滞在している村に行こうとしたとき少年が現れた。

僕の前に立つこの少年は化け物だ。

ササマルと名乗る少年は剣を無造作に持って何気なく立っているだけ。

だが、下手に動けば次の瞬間には僕は斬り殺されているだろう。

見た感じではキリト君とほぼ同じぐらいの少年だ。

なのに彼の気配は熟練の剣士のそれだ。

剣術などを習っているわけではなく我流なのだろう、無造作な構え。

だがそこに隙は全く感じられなかった。

 

 

「キリトさんはとても疲れていてね。少し休養が必要だと思うんだよ」

 

 

彼の雰囲気からは濃密な血の匂いがする。

けっして道場で鍛えられた剣ではない。

彼の剣は実践で鍛えられた剣。

幾多の血と命を吸って鍛え上げられた魔剣だ。

彼を退けてキリト君を連れていくなら、御神流の剣術全てを使い、本気で彼を殺す気で戦わねばならないであろう。

 

 

「まさか、君ほどの実力者がいるなんてね。世界ってのは広いね」

 

「俺は仲間と違って剣を振るしか能がないからな。で?どうする?」

 

「やめておくよ、いくら死は覚悟しているって言ってもこんなところで死ぬのは流石に無意味すぎるからね」

 

 

このゲームで死ねば現実でも死ぬ。

そんなのは全く気にならない。

現実でも命を懸けた斬りあいなんてのは何度も経験しているから、このゲームもリアルも違いなんてないから。

だけど、無意味に死にたいってわけじゃない。

まだまだ愛しい奥さんや可愛い娘と一緒にいたいし、あの朴念仁なバカ息子の結婚式っていうレアなものがリアルに戻れば見れるんだしね。

僕は彼の気が変わる前にすたこらさっさと逃げさせてもらった。

 

 

でもあの若さであの強さ。

リアルに戻って成長していけば、一体どれぐらいの強さになるか。

彼がこのまま実践を積んでいけば、幕末の伝説の剣客『魔法少女殺しの姫斬り抜刀斎』の領域にまで至れるかもしれない。

弟に負けた後、死ぬ気で鍛えなおしてみたけどやっぱり上には上がいる。

最強の御神流を名乗っている身としてはまだまだ現役は引退できそうにないな。

本当に人生ってのは面白ね。

 

 

 

 

『魔法少女殺しの姫斬り抜刀斎』…幕末に活躍した伝説の剣客。

幕末、討幕軍は江戸幕府お抱えの魔法少女部隊(当時は『妖姫(あやかしひめ)』と呼称されていた)に苦戦していた。

抜刀斎という剣客はその討幕軍に加わり、幕府の魔法少女を執拗に狙って斬って斬って斬りまくった変態。

明治時代以降は討幕側の魔法少女も関係なく斬りはじめ、のちに北海道に渡っても斬り続け、それにも飽き足らず中国大陸にまで渡って老衰で死ぬまで斬り続けたまさしく変態。

『姫斬り抜刀斎』の異名は当時の魔法少女世界を震え上がらせた。

彼の使っていた刀は1000人を超える魔法少女の血を吸ったことにより、魔法少女に対する致命的な概念武装へと進化を遂げ、紆余曲折を経て鉄腕組の台所にあったりなかったり。

口癖は『働きたくないでござる』

 




こういう設定とか考えるのって結構面白いですよね。

脳汁垂れ流しながらスルスルかけました。

今日は19時に黒豹団の方も更新します。


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