ダンジョンに出会いはある・・・? (ろとまる)
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はじまりのしょう
白兎来る。


初投稿です。
どこかで見たことある上等です・・!!

6/2
修正致しました。報告ありがとうございます。

6/5
修正致しました。


(最初の印象って、大切なんだなぁ・・・)

 

本日、35軒目のファミリアのホームに、向かう途中で軒先のガラス越しに映った自分の姿をまじまじと見る。

 白い髪に赤い瞳。どう見ても力とかないんです!と主張している細い体。そして何より。

 

(もうちょっと身長は、欲しかったなぁ・・・。おじいちゃんは、

あんなにおっきかったのになぁ)

 

 少年は、溜息をつきながらも、紙に書いてあるファミリアのホームを目指す。

 

 

 

 

 新しい世界。新しい社会。新しい関係。・・・そして、初めての冒険。ほとんどのものが心躍りながらここ、≪迷宮都市オラリオ≫にやってくる。さきほど、溜息をついていた少年も例外ではない。きっと、ここでならあの時誓った思いを、夢を叶えれると意気揚々と門をくぐったのだ。

 だが、誰かが言っていたが現実は甘くない。まさかの少年も冒険が始まる前に、こんな羽目になるとは思っていなかっただろう。少年は、自らの頬を叩き気合いをいれてから、

目の前の扉をノックした。

 

「お前が?何が出来んのよ? ・・・くっ!!

 そんなウサギみたいな面でなにができるんだよ!

 ・・・だがよぉ? 男娼としてなら考えてやってもいいぜ」(ニヤニヤ)

 

本日、35回目のノックと24回目の容姿に対しての、いいがかり。だがダンショーとは?と、すこしだけ疑問を残しつつも、ベル・クラネルはすぐさま

 

「し、失礼しました」

 

と、その場を離れる。

 

この街≪迷宮都市オラリオ≫を訪れてから(正しくは昨日の夜から)、

やけにウサギ、ウサギと言われる自分の顔を、店のショーウィンドウで改めて確認する。

 

 

(ここに来るまでそんなこと、言われたことなかったんだけどなぁ・・・)

 

ベルは深い溜め息を吐きながらも、昨日の夜立ち寄ったキルドで渡された

 

『必見!! 初心者でも入れてくれそうなギルド一覧表』

 

に最後のバツ印を入れる。

 

(全部、だめだったなんて・・・。 エイナさんになんていえばいいんだろう)

 

昨日のよるヘトヘトになりながらも到着した街で、見ず知らずの自分にこの街のイロハを丁寧に教えてくれた美人な女性。エイナ・チュールの顔が浮かぶ。

 

もう一度溜息をつきながらもバベルを見上げるベル。

 

(でも、あそこに入るにはファミリアに入らなきゃいけないんだし・・・)

 

(だけど、ファミリアに入れてもらえないなんて一体どうしたら)

 

まさに、やってきた世紀末である。しかし、ベルはしばらく考えた後ルビーのような瞳を輝かせながら

 

 

走り出す。

 

・・・そう。

バベルに向かって。

 

冒険者にとって最初の難関はバベルに入ることである。という言葉を誰かが残した。

バベルは来るものは拒まない。だが、入ってきた冒険者(えもの)を逃がさまいとする暗い暗い闇で冒険者を迎える。

これは入り口に立った者にしかわからない。

 

だが、ベルはあっさりとバベルに入っていった。

これは彼が勇気を持つものだからだったのか、まだ、恩恵も受けてない

白兎を、バベルすらも冒険者として認めなかったからなのかは、誰も知る由もない。

 

(そうだ。みんな僕のことが弱っちく見えるから相手にしてくれないんだ!)

 

(きっとダンジョンで力をつけてからならきっと何処かのファミリアに入れる)

 

暴走気味の発想である。ベルにもっとダンジョンとはなにか。そんな一朝一夕で臨めるものなのかという説明はきっと、ファミリアの人がしてくれるだろうと思っていたエイナに死ぬほど説教されるフラグは、丁寧にたっていた。

だが、さすがにベルとて丸腰でダンジョンに入るほどネジは緩くない。祖父の家に置いてあった、祖父曰くよく切れるナイフを片手に慎重にダンジョンを進んでいく。

 

(えっ?! いま・・・なにか?)

 

ベルの右後ろから痛烈な音と共に棍棒が振り落される。目前の何かに気を取られていたベルは避けれるはずもなく、右腕を強打される。

 

(しまった!!おじいちゃんのナイフが!!)

 

目の前から・・・壁からゴブリンが生み出される瞬間を見慣れぬベルは、思わず見入ってまったのだ。無知ゆえの失態である。

 

(に、逃げなきゃ・・・・)

 

幸いゴブリンは後ろに一体と先ほど壁から出てきものとで、2体。

ベルは2体に背中を向け無いようナイフ拾い後ずさるように、後退していく。

 

当然のようにゴブリンは追いかけてくるのだが、ベルとて生まれてから14年野原を駆け回っていたわけではない。息を切らしながらも、どうにか逃げ切れていた。

 

今回逃げ切れたのも、ダンジョン入口付近であったことと、まだベルに体力が残っていたからこそ、成し遂げることが出来た生還である。もし、あと、もう少しでもダンジョンの奥に入っていたならば、ベルは間違いなくその命を絶やすことと、なっていただろう。

 

「・・・っ!!はぁ・・・はぁ・・・。」

 

(肺が痛い・・・。足も・・でもなにより・・・・)

 

ゴブリンに殴られた右腕を初めてみるベル。ムラサキに変色し指を少し動かすだけでも

激痛だった。

 

 

 

ザザザザザザ――――――――――――

ザザザザザザ――――――――――――――

 

 

 

 

崩れるように座り込むベルに、土砂降りの雨が叩きつける。これが、誰からも、冒険者と認めてはもらえなかった少年の痛々しい初陣だった。

 

「・・・・・・!!!!」

 

(だれかの・・・声が聞こえる)

 

ここで白兎の意識は一旦落ちる――――。

 

 

 




如何だったでしょうか?
拙い文章で申し訳ありません。

感想などありましたらお気軽にお願い申し上げます。


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白兎食す。

6/1
誤字・脱字報告ありがとうございます。

6/2
修正しました。

6/5
修正しました。


いきなりの大雨に駆け出す群衆。そんな中に、鮮やかな緑のエプロン姿の女性が、押し車を押しながら息を切らして走る。

 

(・・・とんでもないもの・・・・拾っちゃった・・・)

 

台車の上には本来の用途とはかけ離れたものを乗せている。

 

買い出しを頼まれて、意気揚々とでてきた彼女だったが、少し量が多かったので友人の手伝おうか?との申し出にも、これで行くわ!と張り切って、押し車を持って出たものの。

 

(最後のお店でまさか、お米20kgとは・・・)

 

店主に心配されながらも、いつもの営業スマイルでその場を後にする。

 

(やっぱ、リューに手伝ってもらえばよかったなぁ・・・。)

 

そんなことを思った矢先に、突然の大雨である。

 

「もう!!!」

 

と、普段穏やかな彼女もこの三重苦に耐えかねたように愚痴を漏らす。もうこの際、濡れるのは仕方がない。雨宿りできる場所に行こうと、彼女――シル・フローヴァが雨宿りできる場所をみつけ空を見上げて目を向けた先に

 

「えっ?」

 

シルは見つけたモノをジーッと見た後、

 

(大変!!あれ・・人じゃない!!!)

 

シルは急いで駆け寄り

 

「大丈夫ですか?!息してますか?」

 

と声をかけるが、大声をかけようが叩こうが一向に反応しない。

 

 

うつむいた顔を持ち上げると・・。

シルの目に入ったのは、雨に滴る純白の髪に、透き通る白い肌。

 

(これは・・・!不謹慎ですが・・・なんとも!!)

 

まさに体に電気が奔るとはこのことだといわんばかりにシルは、それまで押し車に乗っていた荷物をすべて降ろしてその人を乗せる。・・・紐でグルグル巻きにして。

 

ようやく彼女の帰る場所、豊饒の女主人がみえた。軒先には、この大雨のなか買い出しに行った友人を心配して待っているエルフの姿が見えた。

 

「リュー!ちょっと手伝って!!」

 

「?」

 

この雨の中、泥だらけになりながら極上のスマイルを浮かべて。何故か、買い出しにいって荷物が山積みであろうはずの押し車には人が。

 

「あなたという人は・・」

 

そんなシルをどこか嬉しそうにリューも雨に濡れながら迎えに行く。・・・余談ではあるが置きっぱなしの荷物はリューが回収し、シルはしっかりと豊饒の女主人であるミアにお説教されたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~豊穣の女主人 客間~

 

「っっ!!」

 

痛みと共に目が覚める。そんなベルの額に、そっと濡れタオルが置かれる。

 

「・・・おきたようですね。」

 

ベルが何かをいう間なくタオルを置いてくれた女性が、部屋から退室していく。

そんな姿を見送りベルは、天井を見ながら

 

――――悔やんでいた。

心のどこかでどうにかなるだろうと、思っていた貧弱すぎる自分を。

何の考えもなしにただ、ダンジョンに入ってしまった自分を。

そして、ここにきても。弱者である自分を。

 

こんな自分なんてコミュニティに入れてもらえなくて当然だと。

ベルは、手のひらをギュッと握った。

 

「お目覚めと聞いて・・・大丈夫ですか?」

 

遠慮がちに開いた扉からひょっこりシルが顔をのぞかせる。ここでようやくベルも自分が、知らないところへいるという自覚が出てきたようだった。

 

「あっ。あのっ!すいませんでしたっ!」

 

頭を下げるベルに、シルは経緯を説明した。

 

 

 

「重ね重ねすいませんでした。・・・・その、貴重なポーションまで、使わせてしまって・・。」

 

「いいんです!その、基本的に冒険者は冒険者を助けませんし・・・。

私が助けたかったんです!」

 

バー―――ンと

豪快に扉があく。

 

「起きたんだね!もう動けるのかい?」

 

「あっ!はい!」

 

ベルは直立不動でベッドの上に立つ。目の前の女性は大きく・・大きい。

およそ自分より何倍もあるだろう。自分もこれくらい大きかったら・・・とベルが陰った顔を見せると

 

「なら、働きな!働き手はいくらいてもたらないんだから!」

 

と、ベルの背中をたたく。

 

「後、食いな!たくさんだ!いいね!」

 

そう言うと女性は豪快に来て豪快にでていった。

 

「えっと、さっきのがミア母さん。

この豊饒の女主人の店主だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~豊穣の女主人 ホール~

 

田舎育ちのベルでは想像がつかないくらいの人であふれかえっていた。この都市に来た時も多いとは思っていたが、室内に集まるとなると熱気、喧騒でより人の多さを実感させられる。

 

「クラネルさん、あそこのお皿を下げてきてください」

 

「はいっ!」

 

「白頭~そこのジョッキにエールをいれるにゃ」

 

「はいっ!」

 

「坊主!洗い物がたまってるよ!!」

 

「は、はいぃぃぃぃぃ!!!」

 

(すごい!僕もお手伝いくらいはできるかとおもったけど全然追いつかない)

 

ベルは早速、手伝いを申込み現在に至るわけだが。人、人、人。

やはり、なれてなさすぎるベルはいろんなところにぶつかり、皿を割ったりと失敗しながらも助言を乞い働いていた。

 

「あの子いいわね」

 

「私がつれてきたんですもん」(えっへん)

 

「っていうか、かわいくない?」

 

「それ、思った~」

 

ウェイトレスたちが思い思いの感想を言い放つ。

少しシルはドヤ顔をしながらも、大盛況の中夜は更けていく。

 

 

「おつかれさん!!あがりな!!」

 

ミアの声と同時に

「「「「おつかれさまでした」」」」

 

と、各自思い思いの行動をしていく。そんな中、ベルは「で、あんたは結局何しにこの都市に来たんだい?」と、体格の大きいミアに、少しどすの利いた声で問いかけられる。しかし、不思議と怖くはなかった。まっすぐとベルを見るミアの瞳に、ベルは少し目をつむり

 

「冒険がしたかった・・・・んだと思います。でも。今は・・・・、今は、誰もが振り返るようなみんなが紡いできた英雄譚に登場するような英雄になりたい!」

 

答え終わる頃にはにはまっすぐと、真紅の瞳をミアに向けていた。

 

「そうかい。なら、とりあえず未来の英雄につけってことにしといてやるよ。くいな!」

 

どん!

 

とテーブルの上に置かれた食材。ベルはモグモグと食べながら、

シルやリュー、ウェイトレスたちの質問攻めに答えながらもに今日の出来事を話した。

 

「じゃあ、ファミリアが見つかるまでここで働いたらいいじゃん!」

 

「いえいえいえ!でもそこまでお世話になるわけには・・・!!」

 

「・・・私もそれがいいと思う。」

 

「ミア母さんに聞いて来れば?」

 

と、あれよあれよと話が進んでいく。ベルの周りには女気がなかったのでこの話の速度にはついてこれずベルは終始頷くことしかできなかった。

 

 

そんな、ベルの様子をミアと赤い髪の飲んだくれが見て会話をしていた。

 

「おもろいやっちゃな・・」

 

「面倒みてやってくれるのかい?」

 

「うちは気に入った。せやから明日、またくるわ」

 

「ああ、そうかい・・・」

 

簡素ながらもまさか白兎もこの会話で自分の運命が決まるとは夢にも

思わないだろう。

 

 




とりあえず書き留めていた分放出です。

個人的には日常パートすごく苦手です。

早く血沸き肉躍るような戦闘シーンかきたいです。


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白兎洗う。

6/1
誤字・脱字報告ありがとうございます。
6/2
修正しました。
6/5
修正しました。


「今日、飲みに行くで」

 

 

団長室に入ってくるなりロキ・ファミリアの主神のロキは団長のフィン・ディムナにいい放つ。フィンは怒るでも笑うでもなくその言葉の意図するところを測る。

 

「分かったよ。どこに行くんだい?」

 

だから、あえてフィンは聞かなかった。なぜとも。どうして?とも。測るだけ無駄。思いつきには通用しない。それがかつて、邪神とまでもいわれたロキばならなおさら。

 

「いつものとこや。・・・・ああ、幹部は全員よんできいや。おもろいやつがおんねん」

 

出ていく間際そんな言葉を口にした。

 

フィンは、思わずにやける口元を抑えながら窓からバベルを眺める。

 

(さてさて。今度はどんな面白いものを見つけたんだろうね)

 

「はぁ~」

 

溜息を深くつく。そこには勇者(ブレイバー)と呼ばれる勇ましい団長の姿はなく、これからロキが、まきおこすであろう事態に巻き込まれることに対してのあきらめの表情であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~豊穣の女主人~

 

豊饒の女主人の朝は早い。何故なら昼・夜ともに大盛況だからだ。単純に仕込みの量が半端ではない。ベルも先ほどからやっている果物の皮むきが100を超えたあたりから、そんなことを思い始めた。

 

(お、終わらない~)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~豊穣の女主人 中庭~

 

そうして、昼の営業が終わった後、ちょっとした休憩時間がある。ベルは裏庭で短剣を握り昨日の出来事を思い出す。

 

(きっと戦い方っていうのがあるんだ。)

 

(ナイフを握ってれば自動で倒せるわけじゃない)

 

ベルは、自分なりに相手を倒す方法を考えていた。

 

(まず背中は見せない・・・)

 

(それから、体を開かない・・・)

 

ぶつぶつと言いながら動くベル。先ほどから襟足がチリチリする感覚を感じる。

ベルは数回襟足を左手で払いながらまた、ぶつぶつと動き出す。

 

(なんだ・・・さっきから、襟足に感じる・・・)

 

(これは・・・気のせいじゃ・・・ない?!)

 

そう思うベルが、襟足がチリチリする感覚を捉えようと、動きを止めて集中し、

 

「そ――――こ?」

 

後ろにはリューが立っていた。

 

「・・・・クラネルさん。それではまた、折れてしまいますよ」

 

自分が一人で、無様な練習をしているところを見られていたのかと思うとベルは思わず

 

「リューさん?!いつから?!」

 

と、テンプレ台詞もいとも簡単に、出てきてしまうのである。

 

リューもまさかあなたを試そうとした・・・とは言えず、

 

「・・・・先ほどからです」

 

と、お茶を濁しながら返答した。

リューは果物ナイフをスカートの中から出しベルに構える。

 

「・・・クラネルさん。あなたは少しだけ知るべきだ。」

 

「な、なにをですか?」

 

「・・・・・・・・敵意と・・・いうものを・・・」

 

 

ベルは動けなかった。息すら忘れてしまった。

 

先ほどの襟足の感覚などの比ではない。

 

そう、初めてゴブリンに襲われたとき・・・。

いや、それ以上に―――――。

 

怖い。

 

これから何をされても自分は何も言えない。

今この場には強者(リュー)と弱者(ベル)しかいない。

それでもベルはしっかりとリューの方を見ようとした。

動こうとした。

――――――逃げるために?

 

「くっ!!」

 

(僕はなんて・・・なんて・・・)

 

ベルにとっては何十分と、経っただろう。

「・・・これが・・・敵意です・・・。」

 

と、次にリューが言葉を発したときベルは座り込んでしまっていた。

 

「・・・たてますか?」

 

リューが手を差し伸べるとベルは大丈夫です!と自分で立ち上がる。

 

「・・・クラネルさん。今のが

私が貴方に向けた敵意です。ダンジョンに入るということはいかに

恐怖に打ち勝ちこの敵意にいち早く気づき行動するか・・・・」

 

 

と、言い終わる前にリューはベルを正面に見据える。

 

 

「そして、敵意に気付いても戦い方を知らなければまた怪我をする」

 

 

そしてまた、ベルはリューの敵意に襲われる。

 

 

「・・・・わたしはいつもやりすぎてしまう・・・」

 

リューがそういった後ベルは裏庭の大きな木に激突していた。その音を聞いた従業員たちが裏庭に集まってくる。特にシルなどは、まるでどこかで見ていたかのごとくベルに駆け寄る。

 

そんな彼女に対して

 

「・・・シルまだです。」

 

とリューは冷静に制止の声をかける。シルは一番の友人が何を言っているのか理解するまで時間が掛かったが、彼女自身もこの状況に無関係ではない。なにせ、ベルを死なないようにしてほしいとリューに頼んだのはシルだからだ。

 

 

(痛い・・・。)

 

(怖い・・・・・。)

 

 

(でも、きっと手加減してもらってる・・・)

 

ベルは混濁する意識の中考えた。

 

どうすれば逃げなくて済むのか。

どうすれば怖くなくなるのか。

どうすれば痛くなくなるのか。

 

どうすれば―――――――――強者になれるのか。

 

(たたなきゃ・・・・。)

 

(だって、僕は・・・・・。)

 

 

「え、い、ゆ・・・う・・・に、なるんだ!」

 

ベルは先ほどとは違い、しっかりと構えリューを見据える。

その姿を見てリューは

 

「・・・・次は、夜に。」

 

と告げる。気が付けば夜の営業開始時間が迫っていた。

 

 

少しばかりシルに手当してもらったベルは、そんな傷だらけで店にだせないねっ!とミアに言われたこともあり、なるべく露出が少ない―。

 

 

 

「なんで、スカートなんですかぁぁぁ」

 

豊饒の女主人のウェイトレスの恰好をしていた。

 

「だって、露出の少ない服はこれしかないんですよ?

そ・れ・に!とってもお似合いですよ?」

 

シルはどさくさに紛れて猫耳をベルに着ける。

 

「え?ベルくん?かわいい!!!」

 

「やっぱ、かわいいじゃん!」

 

「もうこのままうちにいようよー」

 

とそれぞれの返答が返ってくる。

ベルは真っ赤になりながら

働くのであった。

 

 

 

 

慣れないスカートに戸惑いながらもベルは奮闘していた。昼にリューから敵意の話を聞いてから、いろんな視線があることに気付いた。

 

あの人は、ここに行きたいんだ。僕はあそこに行きたいから少し退けなきゃ。

 

あ、あの人エールの方をみてる。注文かな?等々

 

そのおかげで動きにくい姿のわりに昨日よりは、スムーズに動いていたベルだった。

 

「すまないね!今日はこの後貸切でね!」

 

閉店時間2時間前、ミアのその一言を皮切りに、ぞくぞくとお客が帰っていく。

 

「邪魔すんでー」

 

と、お気楽な言葉と共に、この都市最大のファミリアの一つであるロキがはいってくる。続いてファミリアの面々が入店し、店内は(一階のみだが)ロキ・ファミリアで埋め尽くされた。

 

「さて――――――そろそろ教えてくれるかな?ロキ。」

 

と、フィンがロキに迫っていた頃。

我らが白兎はひたすら皿洗いに励んでいた。

 

 

 




今、だいたい2000字後半で書かせてもらってますがどうでしょうか?

読みづらいところなどありましたらどしどしご指摘おまちしておりますのでよろしくおねがいします!

次は第一の山場になるかな?なったらいいなと思います。


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白兎決意する。

今回は少し長めにかいてみました。

5/26 
リヴァリエ→リヴェリアに訂正。
ご指摘ありがとうございました。
・・・思い込みって怖い・・・です。

6/2
修正いたしました。

6/5
修正しました。



「さて――――――そろそろ教えてくれるかな?ロキ。」

 

フィンがロキににこにこと迫る。

 

「うち、おすすめの子がおんねん。せやからみんなにもみせとーてなぁ」

 

ロキはキョロキョロと白兎を探すが見慣れたウェイトレスと自分の子どもたちしか

見えない。

 

「なら、わたしたちがここに出向くより来てもらった方がよかったのではないか?」

 

美しいという言葉では短慮すぎる。もうすこし相応しい表現があるのではないかと、そう思わせるようなエルフの女性、リヴェリア・リヨス・アールヴ。彼女は、ロキのいつもの気まぐれに頭を抱えながら口を挟む。

 

「みんなで、見た方がはやいやん!」

 

ぶぅとホッペを膨らませながら反論するロキに

 

「・・・・ロキ?おまえ、ただ飲みたかっただけだろう?」

 

静かにリヴェリアの冷たい視線が刺さる。さすがはこの大所帯をしきる副団長である。

 

「おーこわっ。これ以上睨まれると、ウチの酒まで取り上げられてまうからな!」

 

ロキはおもむろに立ち上がり

 

「今日は、みんなに紹介したい奴がおんねん!!どるるるるる(巻き舌ができない)

じゃん!白兎ちゃんです!!!」

 

 

と宣言し、主神であるロキの言葉どおりに、彼女が指差す方へ団員が、身体を向ける。

その視線の先には――――。

 

「え?」

 

当然のように何も知らず先ほどようやく皿洗いを終え、次の仕事をシルたちに仰ぎに来ていたベルがいた。

 

「え、な、なんですか?」

 

思わず視線に耐えきれずカウンターに下がるベル。

 

「また、かわいいどころが増えるな」

 

「戦えるのか?かわいいからいいけど」

 

「ん・・・?この匂い・・?」

 

口々に感想を漏らすファミリアの面々たち。

 

「“紹介”か。ロキは彼をファミリアへ入れたいのかい?」

 

そんな雑音など、気にも留めずフィンはロキに話しかける。

 

「せや?あかんか?」

 

「少なくとも常に人手不足であるうちのファミリアでは歓迎すべきところだ。」

 

フィンは立ち上がりベルの近くに行き

 

「まだ、当人の言葉は何も聞けていないからね。」

 

と、笑いかけるでもなく、おこるでもなく無表情でフィンは

ベルに問いかける。

 

「君はどうして―――――冒険者になりたいんだい?」

 

昨日からの2度目の質問。

(大丈夫。今なら、はっきり言える。

弱者でなんていたくない。

強者でありたい。

そして、いつか僕は昔、本で読んだような・・・。)

 

「英雄になるためです。」

 

ベルの発言に周囲は大爆笑。大半が馬鹿にしていた。

罵倒し、罵り、蔑み、誹謗し―――――。

 

そんなことを言えばこうなる結果くらい誰でもわかる。

だから、誰もが言わない。

かつて、一度は憧れたものだというのに。

フィンはジッとベルの顔を見た後告げる。

 

「なら、入団試験をしよう。ロキが勝手に期待を持たすようなことを言っていたら

申し訳ないんだけど、これは団の決まりだ。・・どうかな。4日後。うちのホームへおいで。

内容は・・・」

 

「はいっ!!!」

 

これにはさすがのフィンも、さきほどまで作っていた表情を崩しかけた。

 

「うれしいのかい?」

 

思わずそう聞かずにはいられないほどベルの顔は綻んでいた。

 

「はい・・・!せっかくチャンスを頂けるのなら!僕は、やってみたいです。」

 

「そうか、なら4日後待っているよ」

 

フィンは言い終わると席に戻り、、ベルも仕事の続きに戻る。

 

皆は先ほどの英雄になる発言をつまみにさらに盛り上がっていた。

 

「・・・どうして、あんな嘘を?」

 

君らしくもないとリヴェリアがエールを渡してくる。

 

ロキ・ファミリアにも入団条件は存在するが、入団試験などかつて行ったことはない。

 

「当てられて・・・しまったのさ。」

 

「私も、思わず笑いかけたが・・・」

 

「ああ、彼は本気だ。」

 

「思わず君が戦いたくなるくらいにかい?」

 

「そんなにわかりやすかったかな?」

 

「フィン。今の君は、団長でも勇者でもなく、冒険者の顔をしているよ。」

 

そんな子どもたちの会話ニヤニヤとしながら聞いていたロキだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~豊穣の女主人 バックヤード~

 

「大丈夫なんですか?きちんと試験内容聞いてなくていいんですか?」

 

「・・・え?」

 

シルのそんな一言に思わず真っ青になるベル。

入団試験を――――この都市有数のファミリアが自分を試してくれる

ということで頭の中はいっぱいだった。

 

「ど、ど、どうしましょう!!!!!」

 

それに応えるように、おまかせあれ!といった具合で離れるシル。

 

ベルが再び皿洗いに戻り、彼女から試験内容を聞き、お皿を割る枚数を更新してしまうのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~豊穣の女主人 中庭~

 

「・・・・ロキ・ファミリアの団長、勇者フィン・ディムナとの一騎打ちですか。」

 

夜、裏庭で現状をしっかりと言葉で伝えてくるリューに、うろたえるベル。

 

(しかし、単純に考えて恩恵もうけていない・・レベル1ですらないクラネルさんとの

一騎打ちなんて成り立つ訳がない・・ならば・・・。)

 

「・・・クラネルさん。もし、よろしければ私と戦いましょう。」

 

「え?」

 

「・・・夜、続きをするといってしまった手前です。」

 

「ほんとですか?!」

 

「しかし、私は・・・教えることに向いていない。

それでも、構いませんか?」

 

ベルは二つ返事で構えを取る。

 

「・・・クラネルさん。今日はもう終わりにしましょう。」

 

最初は、なにがおきたのかすらわからなかった。

基本的にけられて大樹にぶつかって失神する。このパターンが続いた。

 

2日目にはリューがまず、蹴ってくることが分かった。

・・・何処からかはわからないが。

一番怖かったのはリューのけりの威力がだんだんと強くなってきたことだった。

 

3日目最終日。

「・・・終わりですか?」

 

また、リューが視野から消えて何処からか蹴りが来る。

(このままじゃあ・・・また一緒だ)

 

((「敵意を知るべきです――――」))

 

(敵意―――。リューさんが僕に向ける敵意)

 

突如肌がちりちりする感覚に襲われる。

 

「ここ・・だっ!!」

 

ようやくリューの蹴りを捉えることができた。

 

リューの最初の蹴りが7割がた防げるようになったときに

 

「明日に備えてやすんだほうがいいでしょう。」

 

と、リューから終了の声がかかった。

ほとんどお店の手伝いをしていたか気絶していた気もするが、リューによる特訓は無事に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ロキ・ファミリア ホーム前~

 

(お・・・・・大きい!!)

 

さすがはこの都市で名を馳せるギルドだな。と、そんなことを思っていると門番が

 

「よう!英雄!ちゃんときたんだな」

 

と話しかけるが、ベルは

 

「は、はいっ!よろしくおねがいします!!」

 

と、緊張しすぎて門番の嫌味すら聞こえてない。そんなベルの肩に

 

「まってたよー!私がフィンの所まで案内してあげるね」

 

アマゾネスの少女がベルにくっつく。

文字通り。

アマゾネスの少女は露出が高く、ここ数日豊穣の女主人で、大分女性になれたとはいえここまで近距離で近付かれると、

 

「え?いやっ!?あのっ」

 

まるでいつかの再来である。

 

「あ。そーいや、自己紹介がまだだったね!私はティオナ・ヒリュテよろしくねー」

 

ぶんぶんと握手しながらニコニコするティオナ。

 

「あ、ベル・・・ベル・・・クラネルといいます」

 

真っ赤にしながら答えるベルが面白かったのかティオナは、道中ベルにちょっかいをかけまくっていた。そのおかげもあってかフィンが姿を現した時もそこまで緊張はしなかった。

 

「ありがとうティオナ。戻っていいよ」

 

「ほーい。じゃあ、えいゆうくんがんばってね!」

 

ベルの肩をたたきながら思い出したように

 

「今日は、コレつけてないんだね~」

 

と、頭に手を置きウサギの形を作るティオナ。

 

「~~~っ!!」

 

ベルは思わず恥ずかしくなって下を見る。

 

(でも、ティオナさんのおかげで全然、緊張してない。)

 

ゆっくり顔をあげるとそこには、数日前に見たときとなんらかわりない、勇者 フィン・ディムナが立っていた。

 

「さぁ、始めようか。」

 

まるでこれから、お昼ご飯を食べるかのようにフィンは、言葉を発した。

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

ベルが構えるとフィンは消えた。ベルの右後ろから敵意よりもっと激しい感覚に襲われる。

たまらずベルは転がりながら避ける。

 

「へぇ?」

 

これにはフィン含め見ていた幹部たちも感嘆の声を上げた。

 

「こいつはなかなかやるのう。」

 

「確かに。フィンの一撃めをかわすのはレベル2でも厳しい。」

 

「ベルたん、がんばってやー!」

 

ドワーフのガレス・ランドロック、リヴェリア、ロキ、ティオナの横にはティオナと顔だけはそっくりなティオネ、そして金色の髪を靡かせる少女がこの戦いを見守っていた。

 

「避けてるだけでは勝てないよ?」

 

何度か木槍でベルを攻撃した後にフィンが言葉を発する。

 

(確かに。攻撃を当てなきゃ倒せない。

でも、思えばリューさんにも一度も攻撃あてれなかったな・・・)

 

 

 

最終日にしてようやく気付いたのだが、リューの動きには一貫性があることに。

最初に、視界から外れ、蹴りを入れる。そこを防御したら、ナイフで牽制しながらまた視野から消える。

 

彼女の素性は、なんら知らないがおそらくこんな強い人が素人の自分を倒そうとすればいくらでも手段はあるはずだ。

 

(そうか!きっとリューさんは!!)

 

ベルは走った。フィンに向かって。・・・・真っ直ぐに。

眼の光がより一層紅くなって何をするかと思えば、真っ直ぐに走るだけか、と。フィンは槍の先を下げ穿ち上げて終わらそうとしていた。

 

(これは少し期待しすぎたかな?)

 

そもそもフィンの中では、自分の攻撃が避けれた時点で

合格点を出すつもりだった。

しかし、あまりにもあっけなく避けてしまった為、ベルの様子をもう少し見ようと

おもい続けていたが―――。

 

ベルを最大限の殺意を放ち穿ち上げようと矛先を上げるフィンだが。

矛先は空を切る。

 

「なっ?!」

 

一瞬だけベルの姿を見失うフィン。

まさか小人族である自分が構える槍の下をくぐってくるなんて――――。

 

 

 

(視線が外れた!!!いまだ!!)

フィンから発せられているものはもはや敵意ではない。

――――殺意だ。

でも、場所はわかる。どうすればいいのかもリューさんに

教えてもらった。

 

(英雄になるなら・・・逃げれないっ!!)

 

ベルは姿勢を低くしフィンの槍の下をくぐり、その勢いで

立ち上がる。

 

 

頭突き。

 

 

といわれる技である。

 

とっさに下がったフィンだったがさすがに避けきれず、

槍を上に投げ下手でもっていた手でベルの頭を打つ。

 

「げふっ・・・!!」

 

という鳴き声と共に白兎は、倒れこんだ。

 

 

 




次回はいよいよアイズたんとベルが会える・・!!かな?

感想、ご指摘などなどお持ちしております。


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白兎家族ができる。

今回から書き方を変えてみました。
少しずつ上達していきたいなと思います。

5/26
リヴァリエ→リヴェリアに訂正。
ご指摘ありがとうございました。

6/1
誤字・脱字報告ありがとうございます。

6/2
修正しました。

6/5
修正しました。


「・・・起きた・・?」

 

頭がガンガンと鳴っているのでは、ないかというくらい痛い。

先ほどの戦いの後、自分はどれほどねむっていたのだろうか。

 

いや、そもそもまだ夢の中なのかもしれない見ず知らずの

金髪美少女が自分の顔を覗いているのだから―――。

 

 

「まだ、おきて・・ない?」

 

ベルの前髪を掻き揚げる少女。

 

「ぅ・・・。」

 

 

「う?」

 

 

「うぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ベルはベッドから横転がりに落ち器用にベッドの下に隠れる。

その姿はまるでベッドの下から呻き声をあげる

お化けのように。

 

「なんや、なんや!アイズたん、どないかしたか?」

 

「おきた・・。」

 

指差す方を向くロキだったが本来寝ているはずの人物は

おらず、ベッドの下から謎の呻き声が聞こえてくる。

 

「な、な、アイズたんー!怖いー!」

 

きゃぴきゃぴ(死語)と自分に抱き着こうとする

ロキを躱すアイズ。

 

「もう、ほんまイケズなんやからぁ~」

 

「ほら。ベル・・・やったけ?でてきぃな。」

 

ロキに促され、ベルはようやく顔を覗かせる。シーツから

ちょこんとのぞかせる顏はM・O・Eの一言に尽きた。

 

このとき、誰かの心の中で何か弾けたのは、言うまでもないだろう。

 

 

「そんなんにくるまっとらんと、自分聞かなあかんこと、あるんちゃうんか?」

 

 

ベルはようやく自分が何故ここにいるのかを、思いだし冷静になりながら

 

「・・・・あの、結果は・・?」

 

と切り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<アイズside>>

 

「英雄になるためです。」

 

そういった少年が、入団試験を行いフィンに一撃を、入れて気を失って早数時間。

 

リヴェリアにしばらく見てやってくれといわれ、先ほどから寝顔をみているアイズ。

 

寝顔を見てる分にはとても大勢の前で、無茶な啖呵をきったり、団長の攻撃をよけて

いた姿には結びつかない。

 

(きれいな白い髪――――。)

 

自然と手が伸びる自分自身に驚くアイズ。驚いたがその手は止まることなく、

ベルの指で簡単に梳き通る髪を、サラサラと懐柔していく。

 

(思ったより。柔らかい・・。)

 

愛しい・・・とまではいかないが、今までに感じてこなかった感情が、アイズを襲う。

 

(なんだろう。ずっと、ずっと。こうしたかった気がする――――)

 

少し、少年の眼が開いたところで声をかける。

 

すると少年は少しの間の後、絶叫しながら、ベッドの下に隠れてしまったのだ。

少し、膨れるアイズ。おそらくここ数年、誰もみたことがないアイズの表情だった。

ロキが入室してきた後、少年がシーツに包まって顔を覗かせる。

 

 

(か、か、かわいい・・・!!)

 

 

かわいいなどと。そんなことで心を揺さぶられることが、自分にもあっただろうか。

そんな自問自答を瞬時に行い。改めて、アイズはここ数年、したことのないであろう表情になる。

 

しかし、今度は間が悪く―――。しっかりと抜け目のないロキに見られていた。

 

<<アイズside end>>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、まっていたよ。」

 

ニコニコとベル、ロキ、アイズを出迎えるフィン。ベルにしっかりと視線を向けるとフィンは告げる。

 

「合格だよ。ベル・クラネルくん

――――ようこそ、ロキ・ファミリアへ」

 

「ちょっ!それ、うちの台詞ちゃうん?」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

他の冒険者に比べて見れば長い道のりだったが、ようやく彼は最初の一歩を踏み出したのだ。

 

彼は、冒険者と、なったのだ。

 

「ほな、最後の儀式やろか」

 

ベルは思わず身構える。

実はさっきのは一次試験で・・・とか、ありえてしまいそうなのである。

 

 

「そんな、びくついた顔せんでもええわ。恩恵刻みにいこか。」

 

 

ロキの部屋に通されるベル。

上半身を脱がされるベル。

ベッドにうつ伏せにされるベル。

 

「あの~」

 

「こうせんと恩恵刻めんのや、我慢しい。」

 

もちろんそれも気になっていたが、それよりも先ほどからずっとついてきている

金髪の女性の方が気になるベル。

 

「ああ、アイズたん?気になるなら出てってもらおか?」

 

「いや、そういう訳では・・・。」

 

「ほんならサクッと刻もうか。」

 

<<この子を託す。導いてやってくれ。>>

ベル・クラネル

 

Lv.1

 

力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

 

《魔法》

 

【】

 

【】

 

【】

 

《スキル》

【???】

・発動の時期は近い

 

【英雄願望】

・目前の敵が強ければ強いほどその

行動にたいしてステイタスを上昇

・終わりはないベル・クラネル

 

Lv.1

 

力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

 

 

「はぁっ?!」

 

思わず声を上げるロキに不安げに振り返るベルと

ロキの奇声に興味なさそうなアイズ。

 

 

「な、なんでもないわ。これ、自分の

ステイタスな!ま、初めはみんなここからや」

 

と、用紙を渡す。

ロキは名前の上文・スキル・魔法の欄を消し、

アイズと、ともにベルを部屋から出す。

 

ベルはたいそう凹んでいたようだが

ロキにとっては、喜んでいいのか、

悩みの種が増えたことを悲しむべきなのか。

 

なぜなら。

この上文の神聖文字の書き方

に心当たりがあるからだ。

 

 

(・・・おそらく最初の文章はゼウスのおっさんやろ。

なんであのおっさんが一枚かんどんねん。

それにしてもスキル所持者で魔法スロット3つもあるなんて

普通にありえへん)

 

(ほんでなんやねん。おわりはないて)

 

(こらぁ、おもろいが・・。ちょっと大変かもしれんな)

 

ロキは糸目を少し開きながら、

恐らく食堂で始まるベルの自己紹介へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽◆▽◆▽◆▽◆▽◆▽◆

フィンから簡単に紹介されたベルは

自分で1人1人挨拶に回っていた。

 

主に、豊穣の女主人での、獣耳スカート姿のことや、英雄宣言のことをいじられたりはしたが、概ねロキ・ファミリアの面々は快く迎えてくれた。

 

団長に認められて入った、という功績が大きいのは、もちろんだが、ベルの献身的な挨拶に対して、悪い印象を持つものは多くはない。

 

ようやくあらかた挨拶を終えたベルは、ロキに呼び出され幹部たちが座るテーブルに

招かれていた。

 

「ごくろーさん。どや?うちのファミリアは?」

 

「はい!すっごく・・・みなさんやさしいです!」

 

「これからみんな家族やでぇ?ほんまこれからがんばりぃなベル坊」

 

「そうだね。ロキ・ファミリアに入ったからにはね。共に笑い、泣き、そして戦い。多くの喜びや悲しみを分かち合う。それが、ファミリアだよ。」

 

(家族かぁ・・・。)

 

フィンの言葉を聞いて胸が熱くなる。

かつて、自分にあったもの。

そして、奪われたもの。

もう、あきらめたもの。

 

 

「ベルくん?君・・ないて?」

 

フィンが気付くとベルはボロボロと大粒の涙を流していた。

 

「団長の言葉に感銘をうけたのね!!なんて、いいこなの?!」

絶賛するティオネ。

 

「ベル~!これから強くなろうね!」

抱き着くティオナ。

 

照れるベルを見て照れるアイズ。

 

そんなアイズをみて驚くリヴェリア。

 

酒をあおるガレス。

 

こうして、晴れてベル・クラネルはロキ・ファミリア

に入団することができたのだ。

 

「はっ!オカマ野郎が入ってきたところで

なんの役にもたたねぇだろうが!!」

 

一部、 ベルの入団に疑問を持つものも

少なくはなかったが。

 

 

 

 

~フィンの部屋~

 

「それで?やはりなにかあったのかい?」

 

「まぁ、これみぃな。」

 

フィン・ガレス・リヴェリアはロキの出した

ステイタス用紙を見る。

 

「・・・イレギュラーばかりだな。」

 

「最初からスキルもちとはね。僕の予感も捨てたものでもないね」

 

「がはははは!こいつは面白い奴だわい」

 

「まぁ、思う所はそれぞれあるやろうが、

いっちゃん気をつけなあかんのは名前の上の

一文やな」

 

「託す・・・か。」

 

「誰の言葉なのかは想像、ついているんだろう?」

 

「ああ。ゼウスや」

 

「「「・・・・っ!」」」

 

三人とも絶句だった。かつて、この都市で最大の規模を誇ったファミリア。その主神。

 

「うち、とんでもない奴を引き入れたとおもっとる。」

 

「ああ・・・だが、入ってきた以上は、この文章に言われるまでもない。」

 

「そうじゃな。ワシらで強くせにゃならんな!!」

 

「ほんでな。隠そかな、思うとる。下手に開示して、ちょっかいかけられるんもおもろないし。あの子どう考えても嘘とか下手そやし。」

 

「賛成だな。」

 

「スキルも未知数だな。彼にはしばらくだれか、つけておいた方がいいと思うんだが?」

 

「アイズかい?」

 

思惑を言い当てられたことをリヴェリアはなんら気にせずに言葉を続ける。

 

「ああ。少しはあの娘の緩和剤に、なってくれればいいんだがな。」

 

こうして、また、白兎の知らぬまま、

決定された結果がでたまま夜は更けていく。

 

 



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白兎飼われる。

6/1
誤字・脱字報告ありがとうございます。

6/2
修正しました。

6/5
修正しました。


<<アイズside>>

 

「しっ!!」

 

いつものように朝の鍛錬を行う、ファミリアのホームの中庭。

アイズは誰もいないこの時間、この場所が、好きだった。

 

「はぁぁぁぁっ!!!」

 

いったい何度頭の中に描いた敵を、切り刻んだのだろうか。

 

何度も。何度も。アイズの武器は空を切る。

まさに剣姫。剣に魅入られた少女。

 

「アイズ、すこしいいか?」

 

「・・うん。」

 

「アイズ、君にあの新人くんの指導役を頼みたい。」

 

「ほんとにっ?」

 

今までリヴェリアがみたことのないアイズの表情だった。さきほどまでの剣姫は、一体どこへいってしまったのだろう。

 

「ああ。フィンも了承済みだ。時間が空いたら挨拶にでもいってやるといい。」

 

言い終える頃にはアイズの姿はもう見えない。

 

「訓練を途中でやめるほどにか。それがなんの感情かはわからないが、君にとっていい感情だと、私は思っているよアイズ。・・・・ただ彼もまだ寝ているとは思うがね」

 

くすくすと笑いながらリヴェリアは、その場を後にした。

 

 

(勢いで来ちゃったけど・・・どうしよう・・)

 

アイズはベルの部屋の扉の前にいる。

悩んでいても仕方がないと扉をそっと開ける。

 

(・・・・?)

 

違和感に少し遅れてから気づく。

 

昨日のことを思い出しベッドの下を見てみるがいない。

 

アイズは、リヴェリアの所までUターンした。

 

 

「・・・・いない。」

 

「そうか。さすがに行きそうな場所に心当たりはないな。」

 

「・・探してくる。」

 

「アイズ、昼までに戻ってこなければ私も探すのを手伝おう」

 

「ありがとう。リヴェリア」

 

(どこにいったの・・・?白兎くん・・・)

 

朝、街中を金色の風が駆け巡った。

 

<<アイズside END>>

 

 

大まかに恩恵の話を聞いたベル。

こっそりと準備し、こっそりとホームを抜け出す。

 

(心なしか体が軽い・・・!)

 

ベルはぴょんぴょんとウサギさながら走っていく。

 

・・・・・ダンジョンへ。

 

(前とは違う・・・!)

 

少しダンジョンの前でたじろぐベル。リューやフィンとの戦闘で敵意というものを

学び、冒険者となったベルをようやくダンジョンが迎えいれるかのようだった。

 

(でも!強くなるんだ!!!)

 

ベルは少し躊躇したのち、勢いよくダンジョンへ入っていった。

 

 

第一層では主にゴブリンの生息地帯。それでも昨日ようやく恩恵を授かった冒険者が軽視できる相手ではない。

 

(・・・あれ?ふつうに倒せる・・?)

 

ベルの刃は避けられる訳でもなく、はじかれるわけでもなく、ゴブリンの体を刻んでいく。

 

そしてベル自身一番驚いたのが

避けれるということだった。

 

 

(左かっ・・!)

 

ゴブリンの視線はリューほど鋭くなく、フィンほど怖くなく、今のベルにとって最も成長を感じられるものであった。

 

ベルは何体も、何体も、周りが魔石だらけになるまでゴブリンを倒した。

 

「魔石って確か、換金してもらえるんだっけ?」

 

初日にエイナに言われたことを思い出して、魔石を拾い、戻るベル。

 

 

そして入口を出ると

(換金してミアさんの所へ行こう)

 

出世払い!と言われた豊穣の女主人の支払も含めベルにしてみれば、早々にダンジョンへ行きたかった理由の一つだ。

 

 

「おい?あの入口の剣姫じゃなかったか?」

 

「っていうか九魔姫もいたぞ・・」

 

「また遠征でもいくのかね?」

 

すれ違いざまに聞きなれた言葉を耳にする。

 

「わぁっ!まぶしっ!」

 

太陽の光に思わずそんな声を上げるベル。

彼がダンジョンへはいったのが真夜中。

そして今は昼下がり。

 

まぶしいのも当然である。

 

目的の場所まで体を向けた瞬間、激しい衝撃がベルを襲った。

 

「・・・・え?」

 

端的にいうと抱きしめられたのである。

剣姫アイズ・ヴァレンシュタインに。

 

その温もりに、最初こそは戸惑いを隠せないベルだったが、なにも言わない抱擁に、さすがのベルも申し訳なくなってくる。

 

 

「まさか・・本当にダンジョンにもぐっているとはな。」

 

アイズ越しにリヴェリアが呆れた顔で話しかけてくる。

 

「ベル、君にはいろいろなことを教えなくてはいけないようだ。」

 

「え・・?そのぉ・・・」

 

ベルは顔を真っ赤にしながら、ひとまず教えてほしいのはこの状況です!と、言えずしばらくリヴェリアに睨まれながらアイズに抱擁されるという、良くわからない状態が続いた。

 

「まったく。どれだけ心配したことか。」

 

ようやく抱擁から解放されリヴェリアから事情を聴くベル。

 

アイズは朝から町中を駆け巡っていた。

それもエアリエルを使い精神疲弊寸前まで。

 

そして、リヴェリアとの約束通りホームに戻ったアイズはリヴェリアの助言もあり、こうしてダンジョン前で待っていたのだった。

 

リヴェリアが口を開くたび小さくなっていくベル。

 

「本当に・・・ごめんなさい!!」

 

自分を心配してくれる人がいる。ベルにとっては、これだけでも喜ばしいことだ。

もう離れてしまった温もりを感じながら。離れてしまったアイズの顔を見ながら。

 

この人に・・。こんな顔をさせた

自分を恥じると同時に。

 

もう二度と眼前の少女に、こんな顔をさせたくないと。させないようにする。と、固く心に決めた。

 

「まったくだな。・・・・だが、まぁ、いい経験にはなっただろう。・・お互いにな(ボソッ)」

 

リヴェリアはアイズに視線を移しながら

つぶやく。アイズの顔はリヴェリア側からは見えないが、恐らく、また自分が知らない

表情をしているのだろうと、微笑ましくなるリヴェリアだった。

 

「・・・ついでという訳でもないが、ギルドに顔を出しておくのもいいだろう。」

 

話も終わり立ち上がりながらリヴェリアがベルたちを促す。

 

「まだ、君はギルドに登録もしていないのだろう?それに、昨日の話を聞く限り報告しなければいけない人もいるのではないか?」

 

ベルがようようと担いでいた魔石をあっさりとアイズが持ち、く・・訓練ならいいよね?

と心に決めるベルだった。

 

 

~ギルド会館~

 

「そうですか。ロキ・ファミリアにお入りになられたんですね!」

 

笑顔が怖いと。心底怖いと思ったのは初めての経験のベル。ギルド会館に入るなり、エイナを見つけ手を振りながら駆け寄っていったのだがエイナは怒るでもなく心配するでもなく。ただ・・・笑顔なのだ。ベルの今までの経緯を聞きながら、段々と笑顔が引きつっていくエイナ。

 

「クラネル氏?なにかいうことはありませんか?」

 

「えっとぉ・・・そのぉ・・ご、ごめんなさい」

 

なんとか苦笑いで乗り切ろうとするベルに

 

「そのくらいにしてやってくれ、先ほど灸を据えたばかりでな。」

 

「り・・・リヴェリア様?!ど、どうして?!」

 

「先ほどからいたのだがな。エイナ、随分と世話を焼いてやってくれていたのだな。」

 

「いえいえ・・・。これからは安心して眠れます。クラネル氏?これからはちゃんとギルド会館に顔を出してくださいね?」

 

「わ、わかりました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ホーム~

 

「・・・経緯は分かった。報告ありがとう。・・・それで?」

 

「片時も見逃さないようにする為・・・だそうだよ」

 

「ふふふっ。アイズもあんなことするんだね。」

 

「ああ、私も驚いた。彼が来てから驚かされるばかりだ。」

 

「それにしても・・・ふふふっ。」

 

「ああ、あれではまるで・・・な」

 

本日の出来事をフィンに報告するリヴェリア。

二人はベルとアイズの姿を見ながらお互いに破顔一笑。

 

「あ、あの、アイズさん。これはやはり恥ずかしいというか、その・・・。」

 

「私は君の教育係だから一緒にいる必要がある・・・・と思う。」

 

「で、でもですね。その。視線が・・・。」

 

「私は気にならない大丈夫。それにいきなり引っ張ったりしないから安心して。」

 

不安そうに自分の首元に手を当てるベル。誰がどう見ても首輪である。そしてリードがアイズの手に握られていた。

 

「それに・・・また急にいなくなるのは・・・・いやだ・・・。」

 

先ほど首輪をつける時もアイズのこの切なげな表情にゴリ押しされたのである。

ベルは顔を赤くして、

頷くことしかできなかった。

 

散々、ファミリア全員にからかわれた後。

ロキに呼び出され、ひとしきり大爆笑され、なじられたあとで

 

「おし、ステイタス更新しよか?」

 

「は、はい!・・・・あの、コレがあると脱げないんですけど・・・・」

 

「・・・・・わかった。外すね。」

 

「ぷぷぷぷぷぷ。」

 

「お願いします。神様!」

 

「おっしゃ、まぁ、期待せんとリラックスしぃや」

 

<<この子を託す。導いてやってくれ。>>

ベル・クラネル

 

Lv.1

 

力:I12

耐久:I8

器用:I6

敏捷:I20

魔力:I0

 

《魔法》

 

【】

 

【】

 

【】

 

《スキル》

【???】

・発動の時期は来た。

 

【英雄願望】

・目前の敵が強ければ強いほどその

行動にたいしてステイタスを上昇。

・終わりはない

 

「ど、どうですか?」

 

「う~ん」

(伸びは悪ぅないトータルで50くらいか?せやけど気になるんわ発動の時期はきたんか?

ほんなら、なんで顕現せーへんねん。・・・・謎すぎるなぁ)

 

ロキは魔法以下を消しベルに渡す。

 

「す、数字が0じゃなくなってます!!」

 

「せ、せやな!がんばれな!言いたいけど。

今日みたいなことはさすがに見過ごせれへん。

ベル坊は暫くダンジョン禁止!ええか?」

 

「わかりました・・・。」

 

「ん。」

 

「え?」

 

「つけてあげる。」

 

 

(これ、ま、前からつける意味はあるんだろうか・・・?)

 

 

~通路~

 

「ア~イズ!ちょうどいいところに!明日、ダンジョンいこうよ~」

 

「しばらくは・・・行かない」

 

「え?アイズが?」

 

「うん。・・・その・・指導役になったから・・。」

 

「え?アイズが?えいゆうくんの?」

 

ちなみにティオナは先ほど食堂で笑い転げて、うさみみもつけようよとかいっていた張本人である。

 

「ふ~ん。それでなにやんの?」

 

「・・・なに・・・を・・?」

 

「え?指導役なんでしょ?なに指導してあげんの?」

 

「そりゃ、アイズなら戦い方でしょう?バカティオナ。」

 

「バカっていうなぁ~!そっか!それならあたしも見に行こうかな?」

 

「戦い方・・・知りたい?」

 

「は・・・はい!ぜひ!お願いします!!」

 

ちなみにこの夜、ベルは自分の部屋ではなく、一緒に寝ると言い出したアイズを説得する羽目になり、リヴェリアが24時間誰かが居るフロアで寝るといいと代案を出してくれたため、なんとか事なきを得た。

 

「・・・じゃあ、また明日ね」

 

そう、アイズが言い終わる前にベルはソファの上で

眠りに落ちる。

 

「・・・・。」

 

アイズはリードを近くのテーブルにくくりつけて

 

「・・・ちゃんと・・いてね?」

 

その場を去った。

 

 




感想などお待ちしております!


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白兎慕う。

6/1
誤字・脱字報告ありがとうございます。
6/2
修正しました。
6/5
修正しました。


思いの外ベルは自分がつかれていたことに気づかされた。

この都市に来る前は、

 

くるまえは・・・・。

く、く、るまえは?

ザ―――――――

ザ、ザ――――――――

                    手、?ザ――――――――

ザザ―――― 赤、、、、、、、、????

                  赤かかかかかっかか閣下悪化かあ

 

 

そう農園の手伝いをする為に起きていた為、朝が早いのだ。そんな自分が朝日のまぶしさで目が覚めたことにベルは驚いていた。

 

起き上がり、動こうとするとなんなく動ける。

 

さすがのアイズとて、寝ている最中まではリードをくくりつけなかったのだろうと

ベルは思う。

 

「それにしても、おっきいホームだな。」

 

改めて見回すベル。思えばきちんとホームを見て回る、というのはこれが初めてだった。

 

「訓練はどこでしようかな・・。」

 

おあつらえ向けの中庭をみつけ

ベルは―――――――――。

 

(きれいだ。)

 

素直にそう思った。

 

少し霜がかった空気に朝日が散りばめられ、幻想的といっても

過言でもない。

 

まるで、踊っているような。

ダンス相手を待っているような。

だが、手に持っているのはレイピア。

 

そんなアンバランスさがより、美しさを助長させているかのようだった。

 

(こんな人に。僕は心配をかけて。あんな顔をさせて・・・・。)

 

(僕は・・・・僕は・・・・!この人をもう不安にさせたくない!!)

 

(だから・・・強くなりたい。この人の隣に・・・違う。

この人の前に立てるくらい・・・。強く!強く!)

 

 

「おはよう。白兎くん」

 

「へ?」

 

「・・・そんなジッと見られてたら・・・恥ずかしい・・・」

 

「あ・・・あ・・・・ご、ごめんなさいいいいい」

 

まさに脱兎のごとく逃げようとしたベルのリードをアイズがつかむ。

 

「ぐぇっ!!」

 

「逃げちゃ・・・嫌だよ・・。」

 

照れながら話すアイズは、美少女であるし、男という男が惚れてしまうのもなっとくができる。しかし、どうもリードがミスマッチし、今の二人の距離感を窺わせる。

 

「えっと・・・・」

 

「アイズさん!」

 

「?」

 

「僕に戦い方をおしえてもらえませんか?」

 

「ん。私は君の指導役だから。」

 

「ありがとうございます!」

 

「でも、私は・・・教えるの下手ってみんなに言われてるから・・。戦おう」

 

「え?」

 

「とりあえず実戦形式で戦ってみよう」

 

二人は中庭の少し隅の方へ移動し、アイズは持っていた短剣をベルに渡す。

 

「よいしょっと。」

 

パキッ

 

「それで・・・やるんですか?」

 

「うん。今日は君がどれくらい動けるのか知りたいし防具もつけてないから。木の枝で充分。」

 

「でも、僕、ナイフですよ?アイズさんだって防具つけてないから危ないんじゃあ・・」

 

「君の攻撃が、私にあたることなんてないから大丈夫。」

 

アイズは金眼でベル見据えながらはっきりと口にした。お前の攻撃は私には通用しない・・と。

 

「・・・構えて。」

 

少なからずショックを受けていたベルだったが言葉と共にアイズから発せられる敵意は、

先ほどまで感じていた慈愛にみちたものではなく

明らかに殺りにきている視線だった。

 

そんな殺意とも呼べるものに瞬間的に反応し構えるベル。

 

「うん。構えはそれで・・いいかな?」

 

アイズが消えた。リューや、フィンと戦った時も思ったが、あの二人は本当に視界から消えたのであってこの表現は間違っていない。

 

だが、アイズは消えたのではなく。見えなかったのだ。彼女はベルに対して真っ直ぐに突きを放っただけなのだから。

 

「白兎くん?」

(起きて・・・こない?)

 

ベルは突きによる衝撃で気絶していた。

 

「まったく・・・口を出すつもりはなかったんだがな。」

 

「リヴェリア・・・起きない・・・。」

 

「訓練の初っ端に本気で行くやつがあるか。」

 

「ごめん・・・なさい。」

 

「そう思うなら・・そうだな。」(ごにょごにょ)

 

「え?そんなことをすればいいの?」

 

「ああ、試してやれ。」

 

「うん。」

 

 

(いい匂い・・・・。それに・・・。懐かしい気がする・・・。)

 

「おかあ・・・さん」

 

「残念だけど、私は君のお母さんじゃないよ。」

 

「」

 

「大丈夫だった?」

 

「」

 

「次からはちゃんと手加減するね」

 

「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

自分の膝の上から、転がりながら逃げようとするベルのリードをギュッと引き寄せるアイズ。

 

「逃げちゃ、嫌。」

 

「ご、ごめんなさい」

 

結局その後も数回立ち会ったが、ベルがアイズの突きを見切ることも、防ぐことも、反撃することも出来なかった。

 

「んー。動きが少し・・・ぎこちない?」

 

訓練の最後にアイズが木の枝を捨てながら、ベルに話しかける。

 

「そ、そうですか・・・。」

(ぎこちないも何も、すぐにふっとばされて気絶してただけだからなぁ・・・。)

 

「ご飯・・食べに行こう」

 

「あ、はい」

 

 

~食堂~

ロキ・ファミリアでは、よほどのことがない限り、ホームにいるメンバーは朝、夕一緒に食べるようになっている。ベルの横でアイズはずっと難しい顔をしながらパンを食べていた。

 

「ア~イズ!どうしたの?難しい顔なんてしちゃってさ!」

 

「バカティオナ!食べながら席に着くのやめなさい!」

 

「バカってゆーな!」

 

「それで、アイズ?指導役は順調なのかい?」

 

「団長♡♡♡」

 

「・・難しい・・・。」

 

アイズは今朝から感じているベルの戦い方に、関しての違和感をフィン・ティオナ・ティオネに話す。

 

「僕と戦っているときにはあまり感じなかったけど、恩恵を受けたことで何かベルのなかで変わったのかもしれないね。」

 

「全種類使ってみれば?」

 

「あんた、ほんとに馬鹿ね?一体誰がそんな武器用意するのよ。」

 

「え?うちの地下にあるじゃん?」

 

「・・・・そういえばそーね。」

 

「地下の武器は好きに使うといい。壊したりしてだれも文句は言わないよ。ただ、ベル、今日は体を休めることになると思うけどね。」

 

「?」

(どういうことだろう?)

 

「あ、だんちょーう!私も行きます~」

 

「じゃあ、地下に・・いってみる?」

 

「はい!ぜひお願いします!」

 

フィンとティオネが席を立ち、これからの目的を決めた二人だったが、

 

「いや、地下に降りるのは少し待て。ベル、君は私と勉強してもらおう。アイズはティオナと少し買い出しに行ってくれ。」

 

「べ、勉強ですか?」

 

「そんなに身構えたものじゃない。ダンジョンに関する基本的な知識を教えるだけだ。・・・昨日のことが今後あってはこまるからな。」

 

「は、はい・・・。」

 

「じゃ、リヴェリア・・・はい。」

 

アイズがリヴェリアにリードを渡してくる。

アイズもリヴェリアが言ってることがきちんと理解できているから、こそなんの文句も言わずに従うのだ。だから、このリードはまかせた!と言わんばかりに手渡してくるアイズ。

 

「・・・・・・・・・・。

持っていなくてはいけないか?」

 

「うん。」

 

「そ、そうか・・・・。

で、ではいこうか。ベル」

 

「は、はい」

 

 

(な、なんだ。これは・・・。恥ずかしいという度を越えているぞ。

しかも(ちらっ)アイズがはまってしまうのもわからんでもない

あたり困るな・・・。)

 

アイズからリードを渡されたリヴェリア。その姿はアイズ以上に異常であり、どこか

はまっていた。

 

~資料室~

「これが10層までのMAPと生息モンスターになる。

どうだ?」

 

少し、リヴェリアからの勉強かと億劫になっていたベルだったが内容は本当に目から鱗の内容だった。魔石を回収する意味。モンスターそれぞれの弱点。

ちょっとだけ休憩できる穴場。本来なら何度も何度もダンジョンに挑み経験を積み

ようやく自分のものとなるような内容を、こうやって安全な場所で、しかも経験者から聞ける。

 

ベルは懸命にリヴェリアの言ったことをメモし、質問し、知識を深めていった。

 

「ここまで懸命に聞いたのはレフィーヤ以来だな。私も、教えがいがあって楽しい。」

 

「え?そうなんですか?リヴェリア様のお話は面白いですし、それに声がすごく落ち着くっていうか、安心できるっていうか・・・。」

 

「声か・・。気にしたこともなかったな。まぁ、そういってもらえると無理に連れてきた甲斐があったというものだ。」

 

「はい!ほんとにありがとうございます。」

 

「コホン。私は朝食後から昼くらいまでだいたいここにいる。また何か質問があるとくるといい。」

 

「はい!じゃあ、明日もおねがいします!」

 

「いや、質問があればいいのだが。」

 

「・・・?明日は、いけませんか?」

 

「・・・・・大丈夫だ・・。」

 

「はいっ!」

 

(全く・・・。私も年甲斐もなく・・・。アイズのこともいってられんな・・・。)

 

 

「それで、リヴェリア様。少し街を歩きたいのですが。その・・・。」

 

「そうか、ならばいこうか。」

 

「え?」

 

「リードが寂しかろう。私もついていくとしよう。」

 

「ええええええええ?!は、外してくれないんですか?!」

 

「ふふふ。ああ、アイズに任されたからな。無下にもできまい。」

 

そういうリヴェリアの顔もまたここ数年みたことのないような意地の悪い顔をしていた。

 

 

 

 

 

~街中~

「じょ・・・冗談にしてもびっくりしたな・・・。」

 

リヴェリアには条件をだされ、それを守ることを前提にリードだけは外してもらった。

・・・・首輪は戒めだそうだ。

 

・夜ごはんまでには戻ってくること。

・知らない人にはついていかないこと。

・ダンジョンには決して潜らないこと。

                 etc…

 

たくさんあったがざっくりまとめるとこれぐらいだった。そして上記を破ったとリヴェリアが判断した場合は、今度は檻に入れる。と、結構本気の顔で言われ、恐怖で身を震わすベルであった。

 

白兎は豊穣の女主人へと足を向けた。

 




感想、ご指摘などお待ちしております。


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白兎借金を返す。

5/31
ヘファイストスのしゃべり方が情緒不安定だったので修正致しました。
ご指摘ありがとうございます。

6/1
誤字・脱字報告ありがとうございました。

6/2
修正しました。

6/5
修正しました。


「あの、これ、足りるかどうかわからないんですけどお返しさせて下さい!」

 

ベルは昨日ダンジョンに潜って換金した、魔石分のお金をミアに渡していた。

 

「そうかい。それで?ファミリアには入れたんだね?」

 

「はいっ!ありがとうございました。その、ほんとに何から何まで・・・」

 

「男が女々しいこといってんじゃないよ!それに、こんなお金じゃ足りやしないよ!」

 

「そ、そうですよね!今は禁止されてますけど、またダンジョンに潜ったときに稼いできたら払いにきます!」

 

「そん時はちゃんと営業時間においで!わかったかい!」

 

「はい!」

 

ベルはミアとのやり取りを終えてお世話になった従業員一人一人に挨拶をして回った。

 

「そっか、でもよかったね!」

 

「また、もどってくるにゃ!!」

 

「ああああ、私の潤いがおあしすがぁぁぁぁぁ」

 

などなど三者三様だったが。

 

「ベルさん?ファッションかえたんですか?」

 

「いや、これはそのぅ・・・なんといいますか。」

 

シルとリューにことの顛末を教えるベル。

シルは少し怒ったように、リューはかなり呆れぎみに

 

「「あなたというひとは・・・」」

 

と、苦言を呈す。

 

「クラネルさんもこれで立派な冒険者ですね。・・・また、いつでもお越しください。」

 

「と、いうか、すぐにきてくれてもいいんですよ?」

 

「はい!でも、ファミリアのルールでなかなかこれないかもしれないんですけど・・・。できるだけ!」

 

「それに、リューとの特訓もまだ終わってないですよ」

 

「・・・シル。それはクラネルさんに失礼だ。もう彼は一人前の冒険者だ。そんな彼に私が教えることなどもうありません。」

 

「い、いえ!ぼく、もっと強くなりたいんです!リューさんさえ良ければまた、お願いします!」

 

去っていくベルの背中を見ながらリューは思う。いままで、リューはベルのことを根気はあるが少し頼りないと思っていたが、今の彼にはほんの数日前までにはなかった光が宿っていた。

 

「・・・・クラネルさん・・・。なにか見つけられたのですね。」

 

「リュー?うれしそうじゃないですか?」

 

「・・・シルほどではない」

 

そういって二人は夜の仕込みに戻っていく。白兎がまたここに戻ってこれるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ホーム~

「ほんで?なんのようやねんな。」

 

あたまをボリボリかきながら思いがけない来客・・・来神を前にめんどくさそうにしゃべるロキ。

 

(こいつ、ほんま何の用や?ベル坊のスキルがばれたとしてこいつがそんなことに興味あるとは思われへんし・・・。)

 

「率直にきくわね。ロキ、あなた最近ゼウスにあったんじゃないかしら?」

 

「は?あのおっさん今は行方不明ちゃうんか?なんぞ、用でもあったんか?ヘファイストス?」

 

「特に用があった訳・・・ないわけでもないんだけれど。昔、彼に頼まれて武器を打ったことがあったのよ。その武器の波動を感じたのが、あなたのホームの中だったのよ。」

 

「おっさんのちゅうか、おっさんの子どもらに打った武器があるっちゅーんか?」

 

ヘファイストスはコクリと頷く。

 

「だから、ここ最近入った子どもとか、あなたに心当たりがないか聞きにきたのよ。」

 

(まぁ。ベル坊のことやろ。けどそんな凄い武器なんてもって・・・。)

「・・・あ。」

 

「なんなのよ、その「あ」は。」

 

(そういえば、おじいちゃんのナイフです~えへへってなんか見せられたことあるなぁ?あれのことか?)

いや、心当たりあるんやけど、もしその武器があったとしたらどないするんや?盗るんか?」

 

「いいえ。打ち直してあげたいのよ。あの武器間に合わせで作ってしまったから。・・・・それに・・。」

 

「?」

 

「私が・・・私が下界に来る前に少し打ってるから、加護とかがちょっときつめなのよね。それもあって打ち直したいのよ。」

 

「はぁ?それ、まじか?天界で打った武器とか持ってきたらあかんやろが。」

 

「ちゃんと聞きなさいよ。少しっていってるでしょう?・・・・材質は天界のものよ。」

 

「・・・・それ、魔剣とかのレベルちゃうやん。」

 

「ええ。だから、ゼウス・ファミリアなら大丈夫かな、と思って渡したのよ。」

 

「信頼して預けたゼウスがおらんのに、自分が打った武器の波動だけを感じるのはおかしい・・・と。」

 

「そう。だから、教えてほしいの。少なくとも私にはそうする責任があるわ。」

 

「・・・・わかった。その代り細かいことを聞くんわ無しって条件つけさせてもらうわ。」

 

「ええ。わかったわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~食堂~

 

(少し早めにきちゃったな・・・。)

「あの・・・なにか手伝うことありますか?」

 

「え?・・・あ、ああ。じゃな、そこの果物の皮むきをお願いしていいかい?」

 

「はい!」

(皮むきとは縁があるな・・・・。)

 

「おーーーい!ベル坊おるかぁぁぁっ!」

 

「神様っ?!」

 

「あいつや。あの白頭。」

 

「そう・・・・きみが・・・・。」

 

「へ?」

 

「その果物剥いてるのは・・・。」

 

「え?ああ、これ、おじいちゃんがなんでもよく切れるんだぞーっていってた自慢のナイフです!」

 

「・・・・・・・・・・・。」

(私の・・・私の短剣が果物ナイフ・・・。)

 

「おーい!ヘファイストス?起きとるかぁ?」

 

「だ、大丈夫よ。それ、少し貸してもらえないかしら?」

 

「は、はい。どうぞ」

 

「間違いないわね。・・・それによく手入れされているわ。・・・・ナイフとしてだけど。」

 

 

「えへへへ。ありがとうございます!おじいちゃんが大切にしろっていうから、

ずっと大切にしていたんです。初めてダンジョンに潜ったときもこのナイフで・・・」

 

ヘファイストスはかつて自分が打った短剣をじっくりと観察する。柄の部分に見たことのない模様が刻まれている。

 

(これは・・・。封印されてるのかしら?)

 

ヘファイストスが模様を指でなぞると、短剣はかつての色と形を取り戻す。

 

「なるほど、・・・・そういうことなのね。」

 

「お、おじいちゃんのナイフがぁぁぁっぁ・・・・。」

 

「あ、ごめんなさいね。白頭くん。なら、弁償として、私が君にこの短剣を打ち直してあげるわ?それで、どうかしら?」

 

「え?」

 

「ベル坊かて、名前くらいは聞いたことあるやろ?この麗しのお方は武器のことならなんでもござれヘファイストス・ファミリアの主神!!ヘファイストス様やで?!」

 

「ロキ、その言い方はひどく恥ずかしい気がするから止めてちょうだい。・・・それで?どうしようかしら、白頭くん?」

 

「・・・はっ?!そ、それはお願いしたいのですが・・・その、弁償としては・・あまりにももうしわけなくて・・・」

 

ベルとて、一度はショーウィンドウに飾られたヘファイストス・ファミリア

の武器を文字通り穴が開くほど見ている。そして、金額の0が見たことのない数であることも知っている。

 

「君が申し訳なく思うのは勝手なんだけれど、これは弁償よ。

・・・価値観というのは、個人で違うのだから。他の人からみれば只のナイフでしか

ないでしょうけど、きみにとっては祖父の大切なナイフだし、私にしてみればそんな

大切なナイフを勝手に変質させてしまった訳だから。そのことに対して、私が後悔するよりは、良いと思ったから申しださてもらったのよ。」

 

ヘファイストスの諭すような話しかけにベルもそれならとナイフの修繕を

お願いした。その間、ロキは・・・ひたすらニヤニヤしていた。

 

~ホーム入口~

 

「・・・なにかしら。」

 

「なーんも。」

 

「・・・・なら、いいけど。じゃあ、預かるわね。完成したら持ってくるから。」

 

「“持ってくる”な。ほな、まっとるわ。」

 

「・・・・だから、なんなのよ。」

 

「せやから、なーんもあらへんて。」

(こいつ、自分がどんな顔してベル坊と話しとったんか自覚ないんか。今もやけど、

普通、取りに来させるやろ。なんで神がわざわざもってくんねん。)

 

ロキのなにか含みのある言い方にヘファイストスは、呆れながらもロキ・ファミリアを後にする。

 

 

 

 

 

 

~食堂~

 

「ちゃんといた。」

 

ご満悦のアイズの手には再びリードが持たれていた。ベルは、アイズたちに今日あったことをたどたどしく話しながら、食事を終えるのだった。

 

夕食後、リヴェリアがアイズにさすがにリードはもういいだろうと持ちかけてくれ、ベルからようやくリードがなくなった。

・・・首輪は・・・戒めだそうだ。(二回目)

 

「リヴェリア様!!あの、お願いがあるんですけど・・・」

 

「なんだ?昼間聞きそびれたことがあるのか?」

 

「あ、いえ・・・その。外出をしたいんです・・・けど・・」

 

「まだ、リードは必要だったか?」

 

「ええええええっ!ダ、ダンジョンには決して行きません。その・・・。

訓練する約束をしてるんです。」

 

「ほう・・?うちのファミリア内なら訓練する相手に困ることはないと思うが?」

 

「えっと・・・見られたくないんです・・・。」

 

「ふふふふっ・・・はははっははっ!なるほどなベル、君も立派な男の子だった

ようだな。よかろう。だが、一人ではまだ駄目だ。監視として・・・・おい、ティオナ。」

 

「ほへぇ?」

(食べものを口いっぱい頬張っている)

 

「ベルの散歩に付き合ってやってくれないか?」

 

「ふぃふぃほぉ~」

(食べものをほっぺたにためていってる)

 

「なら、いってくるといい。・・・・あと、アイズにはうまいこといっておいてやる。」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

「なに、そう思うなら強くなってくるのだな。」

 

「よし!行こうか!!・・・・・ん!」

 

口の中のものを消費しベルに左手を差し出すティオナ。

 

「えっと?」

 

「え?リードは?」

 

「もしかして、食事中の会話まったく聞いてなかったんですか?!」

 

かなりの近場までではあるが、前途多難なベルとティオナの夜のお散歩が不安なまま開始された・・・。

 

 

~ヘファイストス自室~

 

先ほど、ロキ・ファミリアから持ってきた短剣を専用の器具で材質などを調べる。やはり、何を調べてもかつて自分が打った武器そのものだった。

 

(今になって出てくるなんて・・・。)

 

この短剣に使われていた材質・・・。

かつて、ゼウスが纏いていた雷を粒子上に分解して物質へ変質させたものだという

ことは誰にも口外できないと、ひとつ溜息をつく。実は先ほどヘファイストスが、

ロキのホームで模様をなぞってから放電という言い方が正しいのかは定かでは

ないが、ずっと彼女の手の中でビリビリしていたのである。

 

(あの、模様の細工はおそらくあの、白頭の子の為のようね・・・。)

 

模様の下から出てきた神聖文字を改めて読み直すヘファイストス。

 

≪重ねて、無理を言うのは承知だが、使えるようにしてやってほしい。≫

 

重ねて・・・ていうのは、この短剣を打ち直した時のことか、はたまた別の

ときのことか。無茶な老人であったことを思い出しながらヘファイストスは

作業にとりかかった。

 

 

 




感想、ご指摘等々お待ちしております。


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白兎戦い方を知る。

5/31
ヘファイストスの話し方の修正と言い回しを少し変更しました。

6/1
誤字・脱字報告ありがとうございました。

6/2
修正しました。


「・・・・発動しおったか・・・。」(ボソッ)

 

先ほど、ティオナに肩を借りながら、帰ってきたベル。

そのステイタスを確認する為に、ロキはベルのステイタス更新を

しながら複雑そうにつぶやく。

 

<<この子を託す。導いてやってくれ。>>

ベル・クラネル

 

Lv.1

 

力:G280

耐久:F312

器用:G215

敏捷:E450

魔力:I0

 

《魔法》

 

【】

 

【】

 

【】

 

《スキル》

【憧憬一途】

・早熟する。

・相手を想う心に比例して成長する。

 

【英雄願望】

・目前の敵が強ければ強いほどその

行動にたいしてステイタスを上昇。

・終わりはない

 

ボロボロの背中を優しくなでながら

 

「憧憬一途な・・・。まぁ、アイズのことやろーけど。こないにボロボロになるまで

か・・・。あのおっさんが一枚かんどるだけあってさすがの伸び方や・・。

呆れるわ・・・。こんな純粋な子に何させようとしとんや・・・。」

 

既に爆睡してしまったベルに布団をかけロキは部屋を去った。

(明日、なんて言ってごまかしたろかなぁ・・・。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~1週間後~

 

 

夜。月明かりが眩しく感じられるほど。

もう、ほかの明かりが消える中。

 

「――――かはっ?!」

 

今日も今日とて豊穣の女主人からは、風流とは程遠いなんとも季節感

のないうめき声が漏れていた。

 

「はぁ、はぁ、ふ――――っ。」

 

倒されながらも、構えて起きる速度は数段に早くなった。

そんな構えの様子を見ながら、

 

「・・・クラネルさん?たしか、いろいろな武器を試したと聞きましたが?」

 

「うん!ファミリアにある武器全部試したけど、アイズが頷かなかったし、

えいゆうくんもしっくりこなかったって。」

 

ティオナが月見をしながら答える。その横には団子とまでは行かないが、

ベルのお散歩付き添い料として、提供された食料が積まれていた。

 

「・・・クラネルさん。これを・・。」

 

「え?でも、僕、もう一本持ってますよ?」

 

「・・・はい。ですから、二本。・・・二本持ってみてください。」

 

「ええっ?!」

 

リューの咄嗟の思いつきであることには違いないが、構えたベルの姿は、

 

「へぇ?」

 

「なんか、格好いいですね!!」

 

「・・・では、いきますよ。」

 

視界から消えたリューの蹴りを左手の短剣を使い防御し、

右手の短剣を横から振る。

リューが少しニヤリと笑ったのがみえたのが、気が付くとまた、意識が暗転していた。

 

「・・・今日は、ここまでにしましょう。」

 

リューが一言そういうと、シルとティオナが二人に近寄ってくる。

 

「これ、夜食です。帰りながら食べて下さいね。」

 

「あはははっ。今日もボロボロだねぇ~。えいゆうくん♪」

 

「・・・クラネルさん、先ほどの戦い方は今までで一番あなたに向いている。」

 

リューはベルの瞳を見据えながら断言した。それにベルもいろいろな武器を使ってみたが

この形が一番しっくりとくる。

 

「はい!僕もなんだか・・・心が落ち着くっていうか・・・うまく言えないんですけど

身体を上手に動かしやすかったです!」

 

「では、また明日。」

 

「ベルさーん!お気をつけて!!」

 

手を振り豊穣の女主人から離れるベルとティオナ。

 

「ティオナさんも毎晩すいません。その・・・付き合ってもらっちゃって・・・。」

 

「うん?いいよぉ~。えいゆうくんが戦ってるのみてて楽しいし。気持ちいいくらい

ぼっこぼこにされてるもんね」

 

「いったぁぁぁぁ」

 

ティオナは傷口にそっと触れる。

 

「えへへへ。」

(でも、本当に強くなってる・・・。今日のリューの最後の動き、

私もちょっと見逃しちゃったもん。・・これがロキやリヴェリアのいってた成長期なのかな?)

 

「でも、いよいよ、明日からだね」

 

「はい!楽しみです!」

 

「私も一緒に行きたかったけど、まぁ、もっと楽しみにしてる人が

いるからねぇ。次は一緒にいこうね♪」

 

「は、はい・・。」

 

ティオナはベルに抱きつきながら話しかける。

相変わらず真っ赤になるベルをからかいながら。

 

ベルがダンジョン禁止令を出されて早1週間。

朝はアイズと訓練。

昼はリヴェリアと勉強。

夜はリューと訓練。

 

こんな生活が続いていた。

 

「でも、さ。格好良かったよ?」

 

「え?」

 

「二刀流♪」

 

「そ、そういわれると・・・。」

 

「しししっ。明日へましないようにねっ。・・・まぁ、アイズも一緒だから

へましようにもできないかもだけど」

 

「が、頑張ります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~朝~

 

昨日のリューの助言通り先日ヘファイストスから渡された短剣とリューから

もらった短剣を構えるベル。

 

アイズは少し驚いたように目を見開きながら

 

「いくよ。」

 

と、突きから入る。

ベルは左手の短剣で攻撃を流す。

そこから右手の短剣で攻撃しようとしたところに回し蹴りをくらう。

 

「・・・っつ!!!」

 

「・・・・誰におしえてもらったの?」

 

「え?いや、これはそのぅ・・・・。」

 

「夜・・・どこに行ってるの・・・?」

 

「へっ?!いやぁ、そのぅ・・。」

 

汗をだらだらと流すベル。この間にもアイズの猛攻は止まらない。

自分が指導役をしている相手が強くなるのは喜ばしいことだ。

だが、明らかに行動の節々に違うだれかの仕草を感じる。

これは、アイズにとって・・・少し・・・・かなり面白くはなかった。

 

ベルのこの戦闘スタイルだってそうだ。できれば自分自身で教えて

あげたかった。気付けなかった自分が悔しいとすら思った。

でも、向き不向きもあるだろう。そもそも自分は教えるのに向いてない。

だから、自分にできることは徹底的に・・・・。

 

「かはっ?!」

 

戦闘の経験をさせるだけ。決して、目の前の少年が

挫けてしまわぬ様に。

死という恐怖がからみついても動ける様に。

 

「・・・・?!」

 

突くと大抵吹っ飛ぶか膝をついていたベルが、動かない。

左の短剣を盾にして自分から突進することで、アイズの攻撃の衝撃

を殺したのだ。

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

そのままレイピアを弾き右手でアイズの胴を狙おうとするが、

 

「甘いよ。」

 

アイズの膝蹴りが飛んできた。

 

「狙いが分かりやすすぎるかな?もっと、駆け引きをしなきゃ。君のはわかり

やすすぎる。・・・でも。今のはよかったよ。」

 

この言葉だけでベルは頑張れる気がした。

今は全然まったく足元にも及ばないが、いつかきっと・・・。

届くと信じて・・・!!

 

「っていうか、ベルくん気絶してない?」

 

「毎朝恒例になってきたな・・。」

 

「おーい。だれか水もってきてやれぇ。」

 

朝食の少し前まで続くアイズの訓練・・・とういうかしごきというか。

ボロボロになるベルを見ながらファミリア皆が

 

(((ふつう、続かないよな・・・)))

 

と、誰しも思っていた。

 

朝食を頬張っているベルに

 

「いよいよ、今日からだね。思う存分堪能してくるといい。」

 

「アイズ、張り切り過ぎてお前が前にですぎるなよ?」

 

団長とリヴェリアから激励をもらった。

 

「そういえば、ベル。その短剣、名はなんというのだ?」

リヴェリアがベルの腰についている白い短剣を指す。

先日、ヘファイストスが持ってきた例の短剣。

 

「へ?あの、それが・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~回想~

 

「少し待たせてしまったかしら?」

 

「と、とんでもないです!ありがとうございます!ヘファイストス様っ!」

 

ベルの目の前に刀身は真っ白で刃の中心が心なしか少し黄色がかった

短剣が置かれる。

 

(ゼウス・・・のことは、ロキも言ってないみたいだし私から言う必要もないわよね。)

「白頭くん。この武器は少し・・・いえ、かなり特殊よ。・・・・まぁ、私が打ったからには普通の武器なんてないんだけれどね。」

 

「わぁー!すっごく、きれいですね!・・・おじいちゃんのナイフがこんなに

きれいになるなんて・・・。さすがヘファイストス・ファミリアの神様ですね!」

 

「んん。白頭くん。話は聞いてくれるかしら。」

 

「はっ?!す、すいません・・・。」

 

「それで、この短剣なんだけど。・・・・まず、もってみてどうかしら?」

 

「軽いです。それに・・・。なんだか、懐かしい感じがします・・・。

変ですね!たった数日持っていなかっただけなのに・・・。」

 

(やはり、短剣自体から発する魔力の影響を受けていないみたいね。)

「ならば、問題はないわね。後、武器の名なんだけどね・・・。」

 

「はい!!」

 

ベルは身を乗り出してヘファイストスの声に

耳を傾ける。

 

「いずれ・・・いずれ君の中できっと名が思い浮かぶ時が来ると思うわ。」

 

「へ?」

 

「その時が、この武器の名前が決まる時よ・・・・・・そういう武器なのよ。」

 

「そんな武器があるんですね!やっぱりまだまだ知らないことがたくさんあるんですね!」

 

(やっぱり、ちょっと心が痛むわね。前回のときは勝手にゼウスが付けていった言った訳だし。本来なら私が命名すべきなんだけど。まぁ、いいわよね。きっと。)

「いつか、君からこの武器の名前を聞かせてもらえる日を楽しみにしているわ。

白頭くん。・・・・・・ロキ。さっきから視線がうるさいわね。」

 

「せやから、なんもいってへんやん!!」

 

~回想終了~

 

「ほう。ならば、まだ名無しの短剣なのだな。」

 

「はい!いつかこの子の名前を呼んであげれる日がくるといいなって思います!」

 

((((この“子”?))))

 

「そろそろいこうか。白兎くん。」

 

「はい!」

 

団員に見送られ、ベルとアイズはダンジョンに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ダンジョン内~

 

 

「今日は後ろにいるから君は、前の敵だけ気にしてて。」

 

「はいっ!」

 

いま、ベルが倒したモンスターはウォーシャドウ。

6階層では最も戦闘力が高く、2,3体まとめて出てこられるとレベル1ならば

苦戦は必至。しかし、ベルは。

 

「ふぅ・・・・。」

 

先ほどからウォーシャドウとの連戦を強いられていたが、

決して慌てることなく対処していた。アイズも特には驚くことはなかったが、

少し、釈然としないところもあった。

 

(本当に出番がない。)

 

しかし、今日はあくまでベルのサポート。ピンチの時だけと決めた彼女の剣はいまだに抜かれていなかった。そして、10階層を降りる階段を前にして、アイズは戻ることを

ベルに伝えた。

 

「・・・そうですね。」

 

(あ、この顔は。)

「今日は、ここで終わりにしようか。次、またこよう。」

 

「次ってお昼ですか?」

 

「」

 

「へ?」

 

「少なくとも・・もうお昼は過ぎてるから明日かな?」

 

「え?」

 

ベルの体内時計は少しばかり狂っていた。それもそうだ。憧れの人と一緒にいるということも忘れ、ひたすら目の前のモンスターを刻んできたのだから。

 

少しばかり、不完全燃焼な思いで白兎と剣姫のダンジョン探索は終わりを告げた

 




感想、ご指摘ございましたらお待ちしております。


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白兎お祭りへいく。

6/1
ベートくんのドM描写を修正しました。
助けを乞う冒険者のレベルを下げました。
誤字・脱字報告ありがとうございました。

6/2
修正しました。

6/5
修正しました。


げっそりとしたロキと、心なしか落ち着かなそうなアイズが店から出てきた。

 

「すまんなぁ。付き合ってもろて。」

 

「大丈夫。」

 

「うーん!やっぱ、アイズたん、ぐぅかわやでぇぇぇ・・・・」

 

「さすよ?」

 

「なんやねん。ベル坊やったらええんか?ベル坊なら抱き着かせてくれるんか?」

 

「それは・・・嫌じゃない。」

 

「うわー。なえるわー。やる気なくなるわー。」

 

 

普段でも人通りの多いメインストリートなわけだが、今日はより、人であふれかえっていた。

 

「せやけど、ベル坊と約束してたんちゃうか?」

 

「してない。今日は、なにか用事があるみたいだった。」

 

「・・・・・女か?!」

 

「・・・知らない。」

 

(これまた、随分と“女の子”みたいな表情するようになって。まったくベル坊には感謝しきれんなぁ・・・。)

 

「・・・・・騒がしいな?」

 

「うん。」

 

二人の姿をみてギルドの制服を着た女性が必死に駆け寄ってくる。

 

「神ロキ!ヴァレンシュタイン氏!!お願いが・・・お願いがあるんです!」

 

 

 

 

 

 

 

~豊穣の女主人~

 

「へ?お財布をですか?」

 

「シルは、意外とそそっかしいにゃ。リューもいにゃいし、白髪頭お前がとどけてあげるのにゃ。」

 

「いつも、お世話になってますし行ってきます!」

 

「よろしくにゃ!」

 

(それにしても、すごい人だな・・・。早くシルさんに届けてあげなきゃ!)

 

人ごみの多さもさることながら、なにか異様な空気をまとっているオラリオ。

今日は年に1度のモンスターフィリア。

ベルにとってはオラリオにきてから、初めてのイベントである。

 

昨日の夜、ティオナ達から一緒にモンスター調教をみるように誘われたベルは、お腹が空いて待ちきれなかったティオナに置いて行かれ、

こうして急いでいる訳である。

 

(でも、先にシルさんをさがさなきゃ・・・。)

 

 

 

 

 

 

~出店周辺~

 

「おじさーん!これ4つ下さいなっ」

 

「はいよっ!」

 

「・・・・・・・・・・・あれ?」

 

「どうしたい?シルちゃん?」

 

「いや・・・そのぅ・・・。お財布忘れてきたみたいで・・・あはは。」

 

「そうかい。なら、こいつはサービスだ!いつもミアさんにはお世話になってるからな!」

 

「いえいえ!後でお支払にきますので!・・・ありがと・・」

 

「シ~~ル~~さ~~ん!」

 

「「え?」」

 

「はぁ、はぁ。お財布!届けにきました!」

 

「ベルさん!!ありがとうございます!」

 

「いえいえ!全然平気です!あの、お祭り・・・楽しんで下さいねっ!」

 

「えっ?!ちょっ、ベルさっ――――――」

 

「いやぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

「「?!」」

 

「僕、ちょっと見てきますね!」

 

叫び声に反応し、ベルは有無を言わさず走りだす。ベルの表情はいつもの頼りなさそうなものでも、ニコニコしているものでもなく、立派な冒険者のものだった。そんなベルの背中に向けてシルは

 

「気を付けて下さいねっ!」

と声をかける。

(ずるいなぁ。・・・でも、お腹が減ったらまた戻ってきてくださいね。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~街中の一区画~

 

「お、おい!あんた・・・・!ロキ・ファミリアの凶狼だろう?!あいつ俺の妹なんだ!!

助けてくれ!!」

 

「はぁ?」

 

ベートは頼ってきた男に対して、

 

「てめぇ、冒険者だろうが!身内の面倒ぐらいテメェで見やがれ!」

 

そう怒鳴った。

 

「頼む!あれ、シルバーバックだろ?!あんなモンスター、駆け出しの俺じゃあ、とても・・・」

 

「はぁ?・・・そうだな。てめぇがあのサルに挑んで死んだら助けてやってもいいぜ!」

 

「くっ・・・・!!」

 

男は、必死に歯を食いしばって自分の武器を構えた。だが、一歩がでない。

もう自分の妹とシルバーバックの距離は5メートルもない。

そんな、男が涙を浮かべながら足元がガクガクと震えている姿をみて、

 

「っち!」

 

忌々しげにベートは舌打ちしながら、構えた時だった。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!」

 

ベートからは完全に死角だった方向から声が聞こえる。

その声の主はシルバーバックを背中から切りつける。

恐らく家から飛び降りながら切ったのだろう。その少年は着地もままならない様で

転がりまわっていた。

 

「くっ・・・!こっちだ!」

 

白頭の少年はシルバーバックに対して挑発するように声をかける。

 

「あいつ・・・。」

 

ベートもさすがに驚きを隠せなかった。先ほど横の男が言った通り、

シルバーバックはレベル1では荷が重い。おそらく今切りかかった白頭もそれくらいのことは分かるだろう。だが、挑んだ。

 

「ふん。・・・・おいっ!」

 

シルバーバックがベルに気を逸らされているうちに気絶していた少女を男に

渡すベート。

 

「ありがとう!ありがとう!」

 

「あぁ?!てめぇ、何見てやがる?!礼をいう相手が違ぇんだよ!」

 

ベートはまた、男を一喝し、近くの家の屋根に一蹴りで飛び上がり、その場から離れようとした体を向き直し。・・・・観戦することを選んだ。

・・・臨戦態勢のままで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~シルバーバック戦~

 

うまいこといったな。と、内心ベルはほっとしていた。

少女と、シルバーバックの距離は自分が走っていったって間に合うかわからなかった。

だから、少し高い場所から助走をつけて飛んだのだ。

それで、気を逸らせればと思っていたが。

よもや、刃が届くとは思ってもなかった。

 

シルバーバックと戦うこと自体は初めてだが、リヴェリアからどういったモンスターなのかはあらかた教えてもらっていた。

・・・・まだ、一人で遭遇してはいけないモンスターとして、だが。

 

確か、リヴェリアから教えてもらったことは、と全力で内容を思い出す。

確か・・・。シルバーバックのやっかいなところは。

 

(早い・・・!)

 

初見殺しともいわれるシルバーバックの初撃の洗礼を受ける。

ベルはシルバーバックの爪の攻撃を避けそこね、もろに喰らってしまう。

経験と知識の差である。だが、知識があった分まだ生きている。

 

(後で、リヴェリア様にお礼言わなきゃな・・・・!)

 

シルバーバックに先ほどから一方的に攻撃を続けられるベル。

長い腕がやっかいでまともに本体にたどりつけない。

避けては切り、避けては切り。

 

(アイズさんの突きより全然遅い・・けど!!)

 

刃が通らないのである。シルバーバックは全身毛で覆われており、その毛が刃を通さない。

毛がないのは胸の部分と顔のみである。

今は伸びてきた腕を躱し攻撃しているが、この攻撃の仕方では先にスタミナが切れるのは

自分だということはベルも感じていた。

 

(魔石があるのは胸の位置・・・・!)

 

しかし、懐に入り込んで果たして刃が通るかという懸念がベルによぎる。

 

(もし、失敗したら――――僕は・・・・。)

 

その油断をシルバーバックは見逃すことなく、ベルを掴み上げ地面に叩きつけた。

 

 

・・・・何度も。

 

口からは血が止まらず、体中の骨がきしんでいるのが分かる。

身体がもう痛みを受け付けようとしない。

 

「がはっ・・・・・!!!」

 

しかし、普段のアイズとリューの熱烈な訓練のおかげで

どうにか意識だけは途切れずにいた。

 

 

(痛い・・・。痛いけど・・・。まだ、立てる。アイツの場所も何とか

見える。・・・あはは・・・なんだまだ、全然戦えるじゃないか・・・。)

 

よろよろと立ち上がる。

 

ベルは、その時ベル・クラネルは。

 

(倒したいなぁ・・・。アイツを・・・。

こんなところで。止まってる訳には行かない・・・んだ。

いつか・・・なるって決め・・・たんだ・・・。)

 

 

 

 

 

 

ザザザザザ―――――――。

                    何処で???

                      昔???いつ???

ザザッ――――――

                  ソコニハナニガアルノ?????

ザザザザザッ―――――――

               ち?手?血血地血血?!

ザザザザ――――

ザザ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あの人を・・・守るって・・・」

 

シルバーバックに対して正面に立ち構えをとる。

 

「今度は、笑って・・・・・もらうんだ・・・。」

 

シルバーバックはベルを挟みうつように両手で襲いかかる。

今までのように死角に避けるのではなく、

 

「だから、僕が、死ぬのは、ここじゃない!!!」

 

襲いかかるシルバーバックの右腕にのり、走る。

シルバーバックが振り払おうとするが、今のベルにとって

それすら遅い。

 

「いくよ!!!【シィア】」

 

そう、口にしながら

右肩から胸にかけて切り裂く。

 

ヘファイストスによって鍛えなおされた純白の短剣は

いま、産声をあげた―――――。

 

獣の無様な咆哮がいつもは人々が賑わっている区画に響く。

 

ベルは、自身の最速のスピードで、シルバーバックを切り刻んでいった。

短剣であるが故に切り落としたり、貫いたりはできないが、小回りの利くベルとシィアの攻撃は血管や、肉などを断ってゆく。

 

眼前のシルバーバックは膝をつき、もはや動くことも叶わない。ベルは少し距離を取り、

 

(魔石は胸の―――――――!!!)

 

最後の疾走の一撃でベルはシルバーバックを貫いた。

 

大歓声がベルを迎える。その歓声を耳にしながら、ボロボロにされたベルは歓声に答えられる筈もなく。その場に倒れこんだ。

 

「ありがとう!ありがとう!」

先ほどの男がもう聞こえないであろう、倒れんこんだベルに

ひたすら頭をさげ続けていた。

 

「のけっ!!ったく。なんで、俺が・・・・!!!」

 

ベートは倒れこんだベルをホームまで運ぼうと服の襟足を掴む。

そこに、金色の風が舞い降りた。

「遅かった・・・。」

 

「アイズっ?!いやっ!!これは・・・」

ボロボロになったベルとそれをめんどくさそうにつまむ自分。

さぞアイズには妙な光景に見えただろうと思い、言い訳に走ろうとするベート。

 

「・・・?私が運ぼうか?」

 

「ちぃっ!・・・ほらよ。」

しかし、アイズはベートに詰め寄るわけもなく普通に返答していた。

自分のひとり相撲だったことにベートは急に恥ずかしくなり、

ベルをアイズに預けて去っていった。

 

「・・・・?どうしたんだろう?」

アイズはベートの不可解な行動に首をかしげながら白兎をホームに運ぶのだった。

 

 

 

 

 

 




感想、ご指摘、お待ちしております!
・・・切実に!


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白兎冒険する。

6/1
誤字・脱字報告ありがとうございました。

6/2
修正しました。


「たまらないわぁ・・・」

 

その恍惚の表情は、全ての命あるものなら魅了されてしまうだろう。そして、彼女の声に、匂いに、仕草に逆らえなくっていく。そんな、そんな・・・彼女ですら、今は魅了されているかのように一人の少年を見つめる。

 

「ふふふ・・・。ロキはもう感づいちゃってるみたいだけど。仕方がないわよね?

見つけたのは、私の方が先なのだもの・・・。」

 

指先を口に当て、感情の高ぶりを自分で感じる。

そんな姿ですら絵になる。彼女は―――――フレイヤ。

美の化身たる彼女が、高ぶり、吐息を荒くし、欲しがるモノ・・・。

 

「もっと、もっと、私を満たしてくれる筈よ。あの子は。そうね。次は、貴方にまかせてみようかしら?・・・オッタル?」

 

「・・・・・・御意に。」

 

 

~ロキ・ファミリア ホーム~

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

「・・・!!!」

 

一方的にベルが攻め続ける。だが、ここぞとばかりの一撃が入らない。

アイズは一度距離を取ろうとするが、下がろうとすればすぐに追いつかれ。

逆に距離を詰めればベルの射程に入ってしまう。

 

「くっ・・・!!!」

 

ベルの視線がわずかに下がった。

それを見たアイズは防御姿勢を取る。

 

「なっ・・・!!」

 

ベルは急に下がり短剣を投げてきたのだ。そして短剣とともにアイズに迫る。

アイズもかなりギリギリで短剣を躱してベルに回し蹴りを当てる。

 

「おわりにしよっか。」

 

「はぃぃぃ・・・・。」

 

二人が顔を洗っている横に、リヴェリアが来て話しかける。

 

「大分、強くなったのではないか?ベル。」

 

「そ、そんなことないです・・。もっと強くなりたいです!」

 

「どうなのだ?アイズ?」

 

「・・・・うん。強いよ。また、誰かに教えてもらったみたいだけど。」

 

アイズは少し頬をふくらましながら食堂へ行った。

 

「ベル、君は今、何階層だい?」

 

「えっと、12階層です。」

 

「12階層か・・・もっと降りれるのではないか?」

 

「そ、その・・・。ミノタウロスが・・・。怖くて・・・・・。」

 

「ミノタウロス?確かに強いが冷静に戦えばそう問題ないだろう。

・・・・ん?ダンジョンで遭遇したのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザザザザザ―――――――――。

ザザザ―――――――。

                         むかし?ムカシ?

                          イツ~?

                        アレハ、ド、コ?

ザザザザザザザザザザザザザザ――――――――――

((今はいいんだよ))

               ダッテ、ダッテ、ソコニハ・・・・・

 

((いいんだよ・・・。思い出さなくて・・・))

 

                       ナニモ・・・・。

 

((大丈夫・・。私がいるから・・))

 

ザザザ――――。

ザザ――――――――。

 

 

 

 

 

「えっと、昔、ミノタウロスに追いかけまわされてから・・・。怖くて・・・。」

 

「まさか、それでずっと12階層付近をうろうろしていたのか?!」

 

「・・・・・はい・・。」

 

「しかし、ダンジョン外のミノタウロスか。確かに、あれが突然出てきたら

心の傷にもなるだろう。」

 

リヴェリアはベルの髪をそっと掻き揚げながら

 

「だが、いつかは越えなくてはな。・・・遠征についてきたいだろう?」

 

「は、はい!」

 

「充分な知識は教えた。戦い方も様になってきている。なら、あとは、」

 

「「経験だ」ですね!」

 

「そうだ。私たちは今日から遠征だが、決して焦るなよ?ベル。

・・・死ににいくのではないぞ?」

 

最後の言葉はベルの耳に届くかどうかぐらいの大きさで呟いて

リヴェリアはその場を去っていった。

 

今日から、ロキ・ファミリアは43階層への遠征へ出る。

大規模なファミリア合同で挑む為、集合場所であるダンジョン入口周辺は

異様な空気を纏っていた。

 

「ロキ・ファミリア団長のフィン・ディムナだ!皆、今日は集まってくれて感謝する!

我らの目標達成のため、いざ!向かおう!」

 

そんな空気を一掃するかのようにフィンが声を張る。

 

周囲からは雄叫びが聞こえる。

 

そんな中。

 

「ダンジョンに入る時は、必ずこれと、これとを持っていくこと。」

 

「は、はい」

 

「あと、調子にのって魔法使い過ぎちゃだめだよ?また倒れちゃうんだから。」

 

「あの、すみません。」

 

「だから、これも、これも・・・あと、これと。」

 

「アイズ・・・。まさか、何も持たずに遠征に行く気ではあるまいな?」

 

さすがに見かねたリヴェリアが口を出す。

 

「これ以上、アイズの所持アイテムが減らされるのは敵わないからな。」

 

そういって、何故かリヴェリアも貴重であろうポーションなどを渡していった。

 

「じゃあ、いってくるね。」

 

「ではな。」

 

ファミリアのみんなを見送った後、ベルはその場に一人だけ残り、とりあえず大量に渡されたアイテムをホームに持ち帰るのだった。

 

~ダンジョン内~

 

モンスターとて、冒険者に狩られる為に生存している訳ではない。彼らも自身が生存する為に生きている。そのために思考し、徒党を組み、冒険者たちに牙をむくのだ。

そう。思考がある故に。彼とてわかるのだ。――――――死の恐怖が。

 

先ほどまで20体近くいた同胞・・と意識しているかは分からないが。

同じフロアにいたミノタウロスは半数まで数を減らされていた。

 

彼らにとってほんの一瞬のことだったこともあり、動けぬ個体、逃げる個体と、

反応は様々だった。

 

「・・・ほぅ・・・。」

 

そう、同じ個体でも生存本能が強烈に高いもの。生まれてすぐ同個体の中では強者だと、決められているもの所謂――――強化種。彼らに恐怖はない。なぜなら、生まれながらにして強者であることを知っているからだ。

 

「・・・・こんなものか。」

 

たとえ、角をへし折られたとしても、彼らに逃げはない。何故ならそれが強者であるからだ。目前の相手に敵わぬと理解はしているが、彼はひかない。それが、強者の矜持。

 

「・・・ふん。・・・貴様にするか。」

 

肉弾戦で戦っていた男は、急に剣を彼に向けて投げつけてきた。

彼は、使い方を知っている訳ではなかった。だが、手にもった。それが、当たり前である様に。随分前から知っていたかの様に。

 

「・・・そうだ。それで、いい。」

 

再び目の前の相手が襲ってくる。剣を握りしめ、振り下ろす。

一体いつになったら終わるのか。

彼は体力の限界を感じながら。目の前の敵を淘汰しようとする。

怒りを・・・。怒りを覚えた。

目の前の男は自分と命のやり取りをしていない。

彼は強者である自分が弱者として扱われていることに憤りを覚えた。

 

そして。

 

「Woooooooooooo!!!」

 

吠えた。

 

「・・・これくらいだろう。」

 

目の前の男は彼を突き飛ばし、去っていく。

彼に残ったのは、強者である自分に縋り付く願望と、弱者と決めつけられた絶望と。

なにより、この溢れかえる怒りの矛先を探して彼は再びダンジョンを這いずる。

 

 

 

 

 

 

~豊穣の女主人~

 

「え?じゃあ、ベルさんしばらくひとりなんですか?」

 

「は、はい。でも、この間に少しでも強くなろうと思ってダンジョンに潜ろうかと思ってるんです!」

 

「んー。じゃあ、お弁当!作るのでちゃんと毎日この時間には顔をだして下さいね?」

 

「え?!いや、悪いですよ!」

 

「いいんです。私との約束ですよ♪」

 

「じゃ、そのときに、り」

 

「・・・・クラネルさん。私はその時間買い出しに出ているのでいない。」

 

「は、はい・・。」

 

「じゃあ、いってらっしゃーい!」

 

言い出そうとした言葉を引っ込めるベル。じゃあ、その時にリューさんにも訓練してほしいとはとても言いづらくなんとも微妙な気持ちで、ダンジョンに向かっていった。

 

~ダンジョン内~

 

「よっと。」

 

フロッグ・シューターによる、一斉の舌での攻撃をなんなくよける。

基本的にベルは遭遇したモンスターとは、逃げずに戦っていた。

以前は、逃げ方も分からなかったが、今では逃げる必要がないくらいには強くなっていた。

ここ数日間一人で、ダンジョンに挑み続けていたベルは、スキルの効果もあいまって、

ロキが多少引くくらいには、強くなっていた。

 

(今日は、これくらいで帰ろうかなぁ・・・)

 

こんもりと膨れ上がった魔石入れを確認しながら、いつものように上層へ上がっていく。

ベルにとってみれば慣れた道である。

 

(・・・・・・・?なにか・・・・いま・・・・)

 

微かに感じる気配。だが、モンスター襲ってくるときのものではない。

かといって近くに冒険者がいる訳でもない。

 

(気のせい・・・だよね。それに、早く帰らないと。ファミリアのみんな――――)

 

「はしれぇぇぇぇぇ!!!」

 

ダンジョン内に男の叫び声が響く。なにも珍しいことではないが、ベルにとってみれば

初めての経験だった。思わず臨戦態勢を取り、そのまま、声のする方へと向かう。

荒い息遣いはどんどんと近づいてくる。それも複数。必死に、逃げるように。

 

 

「・・・・くっ!いい!そのまま走れ!!」

 

手負いの女性を担いだ男が、ばっちりと目があったベルを見るなり、言い放った。

走りながら、何か口論していた様だが、ベルにとっては、それどころではなかった。

彼らの後ろから追ってきたモノ。

鳥肌が立ち、全身の毛という毛が逆立つんじゃないかというくらいに、

体中が警報を鳴らしている感覚。

この感覚は知っている。

そう、これは。

これ・・は。

 

ザザザザザザザザ――――――――――――。

ザザザザ――――――。

 

アレハ、イケナイ。

・・・・ドコ?・・ドコ?

 

ザ―――――――

 

コノ手hは???

 

((大丈夫だよ))

 

マタ???tいgあ??

 

((大丈夫。もう、しっているでしょう?))

 

ザザザザザ―――――――――

ザザザ――――――

 

 

先ほどから、指示を出している男から、怪我をしているのか、

少し遅れながら走っていた女性に、アレが剣を振りかぶる。

女性は、叫ぶことも、抗うことも出来ず。ただ、ただ涙を浮かべながら、

死を受け入れようとしていた。

 

「・・・・【ライジング】」

 

ベルは、魔法の詠唱と共に走りだしていた。ここで、彼ならば逃げることは容易い。

だが、彼には目標がある。夢もある。そして、果たさなくていけいない■■もある。

こんなに、怖いのに。こんなにも、涙が出そうなのに。

 

(ここは、逃げちゃ―――――駄目だ。だって。僕が、僕だけが知っている・・・。僕だけの英雄はこんなところで震えて泣いて、何も出来ないままな筈なんてないじゃないかっ)

 

無慈悲にも咆哮と共に振り下ろされた大剣は地面を抉った。

本来あるはずの、感触を味わえなかった原因を、すぐに見つけ、片角のミノタウロスは

怒号を上げる。

 

「早く逃げて下さい。」

 

「え?!で、でも!!!」

 

「僕が、僕が足止めしますから。早く!」

 

そういわれた女性は、涙を流しながら走る。口ではごめんなさいを、繰り返しながら。

少しだけ広い、空間の中にまるで闘技場のように、向かい合う白兎と片角。

ベルは、深く息を吐き出しながら向かっていく。

 

圧倒的強者を相手に。

 

(僕は、今日。冒険をするんだ!)

 

 

 

 




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白兎魔法を使う。

6/5
修正しました。


~ロキ・ファミリア ホーム~

 

幹部たちが遠征へと出発する数日前の出来事の話。

ロキ・ファミリアのホームにも、修練場と呼ばれる場所がある。

ここでは、中庭ではできない訓練が、メインに行われている。

 

「え、ええで?唱えてみ?」

 

ロキはガレスの後ろから顔を覗かせながら話しかける。

他のメンバーも出口近くや、窓際、魔法防御のできるリヴェリアの近くにいる。

魔法を取得したメンバーのほとんどは、ここで試し打ちを行う。

ダンジョンに挑むにあたって、分からない、ことは只の死の確率を上げる要因にしかならないからだ。

 

「ええっと。じゃあ・・・。」

 

ましてや、今から発動しようとするのは、あのベルだ。異常なほど早いステータスの伸びや、レアスキル2個所持。幹部たちとはいえど緊張がはしる。

そんな異様な緊張感のなか、本人は今からでも小躍りをしたいくらい(実際、魔法が顕現した時は踊った)テンションは上がっていた。

ベルは手を握ったり開いたりを繰り返しながら、手を前に突き出し、そっとつぶやく。

 

「【ライジング】」

 

そう唱えた。手から魔法が発動するわけでもなく。周囲に魔法陣が展開するわけでもなく。

本人にしてみればなんとなくいつもより、

 

「なんか、パチパチしてるだけじゃないですか?」

 

と、感想を漏らす。周囲も緊張を解きベルの観察を行う。

念願の魔法が、夢にまで見た魔法が、ちょっと違う感じで発動してしまった。

少し肩を落とすベルにティオナが、近づく。

 

「・・・・光ってるだけ?なんか、きれいだねー?綿菓子みたい!!んと・・・ちょっと、温かいかな?」

 

光の粒子のようなものは温かいらしい。ベルは改めてかたを落としながら、

「神様・・・・リヴェリア様・・・。この魔法は一体、何に使えるんでしょうか?」

 

「なんや!ええ魔法やんか!」

 

ロキはあっけらかんと

 

「ダンジョンでも松明いらずやん!いやぁー、経費削減やでぇ」

 

バシバシとベルの背中をたたく。

 

ロキとしては、仮にもゼウスの関係者であるっぽい子どもの魔法の発動なのだ。

本当に何が起きてもよいように準備はした。幹部をわざわざ呼び出したし、実は、

この修練場の周囲にはかなり高位な結界を張っている。いざとなれば、自分が掟を破る覚悟もあった。

(いやぁ~。ほんまに良かったわぁ~。ベル坊は残念そうやけど、まぁ、あてが外れてくれてよかったわぁ)

 

ロキが心底嬉しそうな顔で自分の背中を叩く理由なども知る由もなく、ベルは少し落ち込んでいた。ここでようやくロキ・ファミリアの魔法部門担当者が口を開く。

 

「・・・ベート。ベルを攻撃してみろ。」

 

「はぁ?」

 

ここにいる全員が、ベートと同じような言葉を漏らした。

 

「いいのかよ?おれぁ、アイズみたいに加減をしらねぇぜ?」

 

やる気満々のベートに対して、凍りつくベル。二人はあまり接点はなかったもののお互いに意識はしていた。ベルは恐怖の対象として、ベートは恋敵として、とかなりのズレはあるが。

 

「ああ。構わない。」

 

そんなベルの心中を察しているのか、いないのか。リヴェリアがそういうとベートはベルに向かって突っ込んでいた。

 

「ねね!大丈夫なの?アイズ?えいゆうくん、やばいんじゃない?」

 

「大丈夫だよ。最近、攻撃するときは手加減してないから。」

 

「「えっ?!」」

 

そこの感想なのかと、双子芸が珍しいティオナとティオネが声を重ねる。

 

 

ベートは高揚していた。正直自分でも驚くくらいリヴェリアの一言で闘争心を掻き立てられた。豊穣の女主人で見たときは只のオカマ野郎だったし、入団した時も全然、納得はしていなかった。ロキ・ファミリアの面汚しとさえ思った。毎朝、毎晩気が付けば女にボロカスにやられ、情けなく、弱く、脆いだけでへらへらしているだけの弱者だと思っていた。

 

だが、こいつは立ち上がった。何度も。何度もだ。リンチみたいな訓練に耐え、毎日泥だらけになりながらも逃げないこいつをみた。シルバーバックの時だって、本当は見てみたかったのだ。こいつが戦う姿を。期待してしまったのだ。昔、自分が口癖のようにいっていた言葉をあの時、あの場所で言い放ったこいつに。

 

だから、ベートは本気で行く。試しなど一切ない。本気で。

 

「らぁぁぁぁっ!!」

 

リヴェリアの言葉を聞き終えたベルに向かってくるベート。

 

(怖い・・!よ、避けないと・・・!!!)

 

ボコォ――――――。

 

鈍い音が部屋に響く。

ベートの攻撃がベルに直撃することはなく、ベートは先程までの攻撃対象を目を見開いて見つめる。

 

ベルは、ガレスの盾に直撃していた。・・・というより、凄まじい速度で壁に衝突しそうなベルをガレスが庇ったのだ。

 

「がははは。まさか、ワシのたてに傷をつけるとはのぉ・・・。」

 

盾のへこみをガレスと見ながら、

 

「なるほど。アイズと同じ強化系ということかな?」

 

先ほどから成行きを見守っていたフィンがリヴェリアに問いかける。

 

「ああ。どうやら、そうらしいな。しかし、まさかベートの攻撃がかわせるほどの速さがでるとは思わなかった。」

 

「なら、いろいろと試していかなくていけないようだね。」

 

フィンとリヴェリアは気絶するベルを見ながら、笑っていた。

 

 

~ダンジョン内~

(・・・この魔法の持続時間は5分。その間に・・・倒すんだ!)

 

ミノタウロスは、自分の獲物を奪った相手を凝視した。大振りながらも素早い一撃をベルに当てようとするが、かすりさえしなかった。

 

(大丈夫。この魔法を使っている間なら避けれる!)

 

ベルは、ミノタウロスの攻撃が避けれると確信した後、急速に近づきミノタウロスの胴体を切った。切った短剣・シィアの真っ白い刀身が赤く染まる。ベルはその勢いのまま壁を蹴り、背中から同じように胴体を切った。この攻撃を何度か繰り返した。ミノタウロスは反応が出来ているが、一動作ずつベルから遅れていた。

 

(これなら・・・・いける!)

 

ベルは、更に速度を上げミノタウロスを切りつけていく。だが、ミノタウロスは屁でもないようにベルの姿を追う。まるで、小うるさいハエが疲れて止まるのを待つように。

 

(まだ、なのか?!)

 

何度切り付けても倒れない敵に、ベルも困惑し始めた。自身がこの状態を保てる時間もそう長くない。なにか、なにか決定的な一撃を―――。

視線の先には魔石のある上半身。そこを突き貫こうとした、その時。

 

「なっ・・・・・!!!!」

 

ミノタウロスは、今までの怒りをバネにしたかのように突進してベルとの距離を詰める。

急な行動にベルは、反応できずにミノタウロスと壁の間に挟まれる。

 

「ごふぅっ・・・・。」

 

必死にミノタウロスの角を掴み、この状態から逃げようとするが、逃れることは出来ない。

もがけばもがくほど自分の体が壁にめり込んでいく気がした。もしかしたら、このまま潰されるのではないかと、思ったとき、不意に体が軽くなる。

ミノタウロスは、一瞬ベルを解放すると、躊躇なく、持っていた大剣を、ベルの左足に突き刺した。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

もはや、魔法は解け、動きすら封じられた。血は止まらず、骨は軋み、意識は遠のく。

薄れゆく意識の中でだが、ミノタウロスが薄く笑っているのが見えた。

・・・その、笑い方が、いつだったか・・・どこか、見覚えがある気がした。

 

ザザザザザザ―――――――。

ザザザ―――――。

 

(うるさい!今は・・・ダメなんだ!)

 

頭の中を手でぐちゃぐちゃと、こねられているような感覚がベルを襲う。気持ち悪い。いつも、少しだけ気持ち悪くはなるが、その気持ち悪さを飲み込めば通常通りに戻れる。だから、飲み込もうとするが、

まるで飲み込むという動きを身体が忘れたのではないかと思った。

気がついてみれば身体が動かない。

 

(あれ?何が・・・ダメなんだっけ?)

 

ザザザザザーーーー。

ザザザザザーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ダンジョン内 13階層付近〜

 

「アイズ?それ、何に使うの?」

 

ティオナはアイズが担いでいる甲殻のようなものを指さす。

 

「お土産にしようかと思って。ガレスが、いい盾の素材になるって言ってたから。」

 

「アイズ、盾なんかつかうっけ?」

 

「バカティオナ。お土産っつってんでしょ?」

 

「バカっていうなー!!・・・そっか。えいゆうくんにか。」

 

「うん。盾は・・・ちょっと重いかもしれないけど、籠手くらいにはなるかなって。」

 

アイズは少し照れくさそうに二人に話した。

そんな姦しい様子を後ろから見ていたリヴェリアがフィンに声をかける。

 

「大分、おとなしくなったな。」

 

「そうだね。まだ、少しチームワークというものを理解してない節があるけれど、以前みたいに勝手にモンスターの群れのど真ん中に突っ込むことが無くなっただけ、良しとするとしよう。」

 

フィンは少しため息をついてから、ここにはいない団員の顔を思い浮かべる。

 

「これも、ベルのおかげ・・・なんだろうね。」

 

「だろうな。・・・今頃、無茶してないといいがな。」

 

「はははは。気苦労が絶えないね?おかーさん?」

 

「誰がおかーさんだ!誰が!」

 

突然、先頭を歩いていたベートが

 

「匂うな。」

 

そう言って歩みを止める。それにならい皆、足を止めて武器を構える。

 

「モンスターかい?」

 

「いや・・・こいつぁ・・・。」

(あのバカの匂いが少し・・・混じってやがる・・・?)

 

フィンからの問いにどこか煮え切らない返事を返すベート。

彼らの前に、女性が泣きながら飛び出してきた。

 

「助けて!助けてください!!お願いします!!!」

 

彼女はフィンたちに懇願する。その服は汚れ、身体中も傷だらけでボロボロだった。

明らかに何かに襲われ、逃げてきた後だった。

 

「話が、見えないな?君は、どこのファミリアだい?僕たち冒険者は互いに不干渉。そう、教えてもらってないのかい?」

 

フィンの突き刺さるような視線にも一歩も怯まずに、彼女は尋常ならぬ様子で、言葉を続ける。

 

「私を助けるために、男の子がっ!ミノタウロスにっ!!」

 

「あぁんのぉぉぉぉっ!クソ兎がぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

彼女の言葉を皮切りにべートが駆け出す。ベートの咄嗟の行動にその場にいた全員が一瞬固まっていたが、すぐにフィンが、

 

「君?もしかしてその男の子というのは、もしかして・・・兎みたいじゃなかったかい?」

 

「はい・・・白い頭で・・・赤い瞳の・・・方でした・・・。」

 

ベートの激高ぶりに驚き、彼女は少し落ち着きを取り戻していた。

 

「フィン!私も先に行く!」

 

「あったしもぉ~!」

 

アイズとティオナもその場を離れる。

 

「ガレス?後は頼んでもいいかな?」

 

「おう!行ってこい。儂らも後からおいつくわい!」

 

二人を追うようにフィンとリヴェリアも駆け始めだす。

 

(白兎くん・・・!無事でいて・・・!)

 

このアイズの祈りが届くには少しだけ遅かったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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白兎ちょっと壊れそうになる。

その光景が目に入った時、思わずよろけてしまった。

自分がキレイだと触った真っ白い髪は薄汚れ、男の子にしてはキレイな肌も真っ赤に染まっていた。左足にはベルの身長より長い剣が突き刺さっていた。そして、一番好きだった紅い目は薄く開かれているだけだった。

ベートは、先に着いていたが手を出すことなくその場に留まっていた。

 

「あれ、生きてる・・・の?」

 

ティオナが思わず指を指しながら声を発する。その声色はいつもの、はつらつしたものではなく、震えていた。

 

「助ける。」

 

アイズが助けに入ろうと、レイピアに手をかけた時、後ろからフィンの声が聞こえてきた。

 

「ダメだ。」

 

アイズは信じられないようなものを見る目でフィンを睨む。

 

「どうしてっ!早くしないとっ!!」

 

これほど感情的になったアイズを見るのは一体いつぶりだろうかと。

フィンは感傷に浸りながらも

 

「これは、彼の戦いだからだ。」

 

「でも、もうあの子はっ!!!」

 

「アイズ。キミがベルの限界を決めるのかい?誰よりも何よりも強さを求めていたキミが。」

 

アイズは、フィンの言葉に耳を貸さずにベルのもとへ走っていこうとする。そんなアイズの前にフィンと・・・ベートが立ちふさがった。

 

「のけ・・・てよ。」

 

「いいや、だめだ。団長命令だ。大人しくするんだアイズ。」

 

ベートは何も言わなかったが、よく見れば彼のつま先は地面にめり込んでいた。アイズは目に涙を浮かべながらレイピアから手を放す。いくらアイズといえどフィンとベートを退け、ベルを助けに行くのは不可能に等しい。

だから、祈ることを決めた。もう、泣きながら祈ることの無意味さを知り、剣を取った少女が、力を求めた少女が、再び祈る。目の前の少年の為だけに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かが来たのは分かった。でも、誰かは分からなかった。

誰でもいいと思った。もうなんでも良かった。考えると、またさっきの痛みが苦しみが襲ってくる。だから、何も考えたくなかった。そうしていると、気づけば白い空間にただ一人。

今にも死にそうな誰かを見下ろしていた。血がドクドクと流れてとても痛そうだと思った。可哀そうだと思った。小さいし、細いし、ああ、やられているのは弱者なんだと、そう思った。

弱者なら、仕方がないよね。だって、弱いんだもの。だから、何も出来ずに死んでいく。

 

((あなたは、どうしたいの?))

 

「だれ?」

 

((・・・私のことはいつかわかるわ。ねぇ■■■?あなた、どうしたいの?なんで、ここにいるの?))

 

「分からない。でも、ここは・・・気持ちいい気がする。」

 

((・・・そう。なら、あなたはもうアソコに用はないわけね。))

 

知っているような、知らないような人たちが心配そうな顔や泣きそうな顔で何かを見つめている。でも、あまり自分には関係がーーーーーーー。

 

金髪の・・・少女が見える。少女は胸の前で祈るようなポーズをとりジッと見つめている。その目には・・・。

 

「僕は・・・。あの人を泣かしたままにしておくのは、いけない気がする。あの人を・・・あんな顔にさせたままには・・・したくない。」

 

((ふふ。そう?じゃあ、もう一度やり直すわよ?))

 

 

 

((あなたどうしたいの?))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミノタウロスが仰向けになっているベルの顔面をめがけて拳を振り上げる。さすがにここまでか、とフィンが槍を構える。

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

ベルは振り上げた腕めがけて切りかかった。

先ほどまで、絶命寸前だったとは思えぬ素早い動きに翻弄されたミノタウロス。しかし、すぐに態勢を直しベルに襲い掛かる。

そんなミノタウロスの攻撃を交わしながら、

 

「【ライジング】、【ライジング】、【ライジング】、【ライジング】

【ライジング】、【ライジング】、【ライジング】、【ライジング】!!

 

ベルは詠唱を止めない。しかし、ベルの周囲に光は纏ってなく、やけくその魔法詠唱だと誰もが思った。

 

リヴェリアがだけが魔力の高まりを感じていた。

(何故だ。魔力は確かに放出されている。だが、魔法が発動していないのは、一体・・・・。)

 

リヴェリアは目を凝らしベルの体を観察する。

 

「まさか、重複詠唱だと?!」

 

「詠唱?だけど、ベルの魔法は発動してないんじゃ・・・。」

 

「いいや。魔法は発動している。ベルの左手を見てみろ!」

 

「「「なっ!!」」」

 

「・・・・きれー。」

 

思わずティオナはそう漏らしていた。

ベルの魔法は身体を強化するだけでなく、体の一部に魔力を貯蔵することが許された魔法。

 

「【ライジング】、【ライジング】、【ライジング】、【ライジング】

【ライジング】、【ライジング】、【ライジング】、【ライジング】!!

 

ベルは自らの魔力許容量を超える魔法を行使する。本来ならばどんなに魔力があろうが不可能な芸当である。放出するなら未だしも留めておくことなど魔法に長けたリヴェリアにすら不可能なことだ。

それを可能にしているのは------。

 

「シィア!!【穿て】!!!!」

 

純白の短剣が伸びてミノタウロスの左肩を貫く。突然の攻撃に怯むミノタウロス。しかし、ミノタウロスはすぐに冷静さを取り戻し再び大剣を構える。

 

「はぁ、はぁ、・・・・ふーっ。」

 

アイズとの朝の練習中満身創痍で追い詰められたベルが、巻き返すときにする呼吸。彼女だけが知っている彼の癖。いつしか、アイズは祈りのポーズを止め彼の戦いを見つめていた。

 

ミノタウロスは突進力にものを言わせて突撃してくる。

 

「リューさんよりも遅いんだよぉっ!!【抉れ】ぇぇっ!」

 

ミノタウロスの突進力を利用して、回転をしながらミノタウロスの左側を

文字通り抉る。先ほどまで槍のような形状をしていたシィアは元の刀身から複数の鋸を出した姿に変質していた。

 

「GAAAAAAAAAAA!!!!」

 

ミノタウロスは絶叫する。今までおそらく経験したことのない痛みだろう。膝をついているミノタウロスにベルは切りかかる。

 

「若いな・・・。リヴェリア。」

 

フィンが指示すると、リヴェリアは

 

「フィン。帰ったら、ベルと再戦してみるといいだろう。」

 

リヴェリアの言った言葉の意味がフィンには分からなかったが、

すぐに理由は理解できた。

 

飛びかかったベルにミノタウロスは自らの使えない左腕をもぎ、投げつけてきたのだ。流れるように大剣を握りしめベルに襲いかかる。

ベルは冷静に投げつけられた腕の上に乗り、ミノタウロスの目をめがけて

 

「【穿て】ぇぇぇぇっ!!」

 

ベルは目を穿ってからミノタウロスの前に立つ。

珍しくダンジョンに風が吹く。シィアから発光する光はベルの全身を包み暗いダンジョンを照らすかのようだった。

 

 

「・・・・アルゴノゥトみたいだ。」

 

そんな光景を見ながらティオナが呟く。

 

「【裂け】そして、」

 

今度のシィアは、日本刀のような長さになりミノタウロスの右腕を落とす。

 

「【穿て】ぇぇぇぇ!!」

 

シィアはミノタウロスの魔石を穿つ。ミノタウロスは消える間際。

 

『オレガ、ジャクシャダッタ・・・カ。』

 

確かにそう言って消えていった。

崩れ落ちるベル。そんなベルを受け止めるようにアイズが走る。

 

(どうして、どうして、キミはそんなに強くなれるの?)

アイズはギュッとベルを抱きしめる。

 

「そういうのは起きているときにしてやるといい。まずは治療だ。」

リヴェリアはアイズの頭を撫でながらベルに回復魔法をかける。

 

「ベート。キミもよく我慢したね。」

 

ポンポンとベートの肩を叩くフィン。

 

「・・・うっせ。」

 

ベートはその場に座り込んだ。

 

「あ、ティオネ達だぁ!おっそいよぉ!!!もーすっごかったんだからぁ!」

 

まるで自分のことのように話をするティオナ。

そして、ベルはガレスに担がれてダンジョンを後にする。

 

こうして、ベル・クラネルの初めての冒険は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 




一部完ってところです。
暫くまた書き溜めたいと思いますので、
お待ちいただければ幸いです。


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白兎起きる。

((おはよう。気分はどう?))

 

白い靄が濃過ぎて喋っている相手の顔は全く分からないが、声は可愛らしかった。いつか、来た場所。安心だと思える場所。そして、本当の声の主を僕は知っている。

知っている?

シッテ・・・??

 

((まだ、思い出さなくて平気だよ。・・・それよりもおめでとう!■■■!!これでやっと二つだね!あなたならきっと成し遂げることが出来ると信じてるよ。))

 

やはり、どこか、聞いたことのある声だった。それに、匂いもどこか懐かしい。・・・懐かしい?なんで懐かしいなんて思ったんだろう。だって、僕には■■が無いのに。なにが無いのだろう?なんだっただろう。なんで、こんなにポッカリと胸に穴が開いてる感覚を想像してしまうのだろう。やっぱり、僕は何か欠陥・・・しているんじゃないだろうか。

 

((こらっ!ちゃんと今は私の声だけを聴いてなさい!!他のことなんてどうせいつかは、考えなくてはいけない時が来るのだから。今は、・・・今回は、私の声だけ聴いていて。))

 

その怒り方すらも何か、胸にくるものがある。・・・そんなことを考えていたら、その声は、いつしか鼻歌に変わっていた。僕は、その鼻歌に揺られる。とても、とても気持ちがいい。

 

 

((次は、きっと、もっと・・・))

 

彼女の鼻歌交じりの言葉を、僕は、最後まで聞くことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ロキ・ファミリア ベル個室~

 

(どうして、キミは・・・こんなになるまで・・・)

 

アイズはベルの左足を見つめながら、髪を撫でる。あの戦いから既に4日。アイズが好きな真紅の瞳は、開かずに瞑ったままだった。

 

(一体、何が君をそんなに強くしたの?)

 

アイズはミノタウロス強化種との戦いぶりを思い出す。あんなのルーキーの戦い方ではないし、やろうとして出来るものではない。そもそも自分の命をベットして戦う相手でも無いのではないかとアイズは思うが、それは下世話というものだ。

 

(自分の限界か・・・。)

 

ダンジョンでフィンに言われた言葉を思い出す。アイズとて強さを求めた。誰よりも何よりも強くあろうとした。その為には無茶もしたし、怒られたりもした。だが、

 

(君のは・・・見ていて本当に怖かった・・・だけど・・・)

 

経験値の少ないベルの戦闘は危なかったし、滅茶苦茶な動きもあった。先なんて考えてないんだろうか?という動作なんてしょっちゅうだった。

 

(本当になんでかは分からないけど、うらやましかった。私も、君の強さの秘訣が分かれば、強く・・・なれるかな?)

 

アイズはベルの額に自分の額をくっつける。いつの日だったか、母がしてくれたこと。

アイズは願う。早く、声が聴きたいと。

アイズは願う。ぴょんぴょん跳ねる元気な姿が見たいと。

アイズは願う、また真紅の瞳にうつる自分の姿が見たいと。

 

アイズはそのまま目を閉じて、寝息をたてていた。

 

「こりゃ、流石に茶化せんなぁ・・・。」

ロキが半開きの扉の外からフィン・リヴェリアにそっと呟く。

「そもそも茶化すつもりだったのかい?」

 

フィンは呆れながら答える。

 

「呼吸があるだけで奇跡的だ。・・・というか、私にはまるで誰かがベルを死なせたくないかのように、何か特別な力を行使しているように感じる。」

 

「「・・・。」」

 

リヴェリアの言葉にロキとフィンが黙る。恐らく二人の頭の中には一人の主神が思い描かれていることだろう。二人の顔を見ながらリヴェリアは更に言葉を続ける。

 

「あの時の動き、魔力量、スピード、攻撃力・・・どれをとってもとてもレベル1だとは思えなかった。そして、あの武器。・・・全くもって例外だらけだな。」

 

溜息を吐きながら、治療中も全くベルの左手から離れなかった純白の短剣を見る。ヘファイストスに言わせると、魔力の逆流が原因ではないかと言うことだ。その理由はロキでも分かる。肝心なのは、なぜそんな事態が起きたのか・・・ということだ。ヘファイストス自身もそんな効果を付与した覚えはないとのことだった。つまり、結論から言うと・・・。

 

「・・・原因不明・・・か。さっきリヴェリアが言っていた特別な力に関係はありそうだね。」

 

「せやかて、作った張本人かて分からんて言うとるのに・・・かぁぁぁぁぁ!あのじじぃ今度会ったら、絶対にしばいたる!!」

 

ロキは頭を掻き毟りながら身悶えていた。

 

「明日は、目覚めてくれるといいのだがな。」

 

リヴェリアはベルと、ベルに覆いかぶさるように眠るアイズを見て祈ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

(あれ?身体が重い・・・?)

 

ベルは自分の体の上の重みで目が覚める。目は覚めているが、なかなか上手く体が動かない。痛みはないが、何処か足りない様な・・・そんな感覚に襲われた。

 

ぐぅぅぅぅ~~

 

(そうか、お腹が減っているのか・・・)

 

その、お腹の音で

 

「・・・・ベル?起きた?」

 

急に体が軽くなったのを感じたのと同時に聞きなれた声が耳に馴染む。

 

「ア、 アイズさん?!」

 

急接近してくるアイズに戸惑うベル。だが、アイズはそんな戸惑うベルに遠慮などせず抱き着いていた。

 

「え?!えーーーっ?!」

 

突然の出来事にどう反応したらいいか分からないベル。しかし、アイズから伝わってく温かさに

 

「・・・えっと、ただいま・・・。」

 

その言葉に無言で涙をこぼすアイズ。抱きしめる腕にも力が入る。

 

「あ、いや、でも、おかえりなさいですよね?!アイズさんたち遠征から帰って来たばかりなんですしっ!」

 

あたふたと喋っているベルの声だけでも、愛おしいと感じてしまうアイズ。

アイズは抱きしめていた腕を解き、大好きな真紅の瞳をみながら、

 

「ただいま。おかえり。ベル」

 

極上の笑顔でそう言った。

そんな二人のやり取りを一部始終見終わったかのようなタイミングでロキが入室してくる。

 

「お?お?なんやぁ~?なんやぁ?ええ感じですなぁ?せやけど、アイズたんはうちの嫁やでぇ!!」

 

「ロキ、そういう悪ふざけは後でいくらでもしてくれ。・・・ベル、身体に異常を感じるところはあるか?」

 

ロキの言葉を制しながらリヴェリアが話かける。リヴェリアとしてもベルが寝込んでる数日気がきではなかったのだろう。

 

「リヴェリア様!神様!その、大丈夫・・・だと思います。」

 

両手を広げて自分の体を触ろうとするベルの姿に違和感を持ったリヴェリアが

 

「おい、ベル。それは、どうやって持っている?」

 

「へ?」

 

手を広げているのにも関わらず左手の短剣は落ちずにベルの手の中にあった。ベルは、不思議そうな顔でシィアを左手から外そうとするが

 

「なんか・・・くっついてるんですけど・・・。」

 

リヴェリア・ロキ・アイズが差し出された手のひらを見る。確かに、ベルの左の掌にくっついていた。

 

「・・・それ、うごいてへん?」

 

ロキが、薄目をさらに薄くしベルの左手と武器を見る。確かに、動いている。鼓動している。脈を―――――――うっていた。

 

「無理に外さないのが正解だろうな。なに、そのうち解決策も出てくるだろう。」

 

リヴェリアはあっさりとその状態を受け入れた。これ以上ベルの不安を煽るのはよくないと彼女なりの優しさだったのかもしれない。

 

「まぁ、分からんことは考えてもしゃーないしな!ほな、飯食いにいこか?」

 

ぐぅぅぅ・・・

 

「腹の音で返事するとはよっぽど減ってたんやな!ええこっちゃ!」

 

ロキは嬉しそうにベルの頭を撫でた後に、耳元でそっと

 

「ほんま、無茶せんといて。・・・ええね?」

 

そう告げていた。

 

「ベル、立てる?」

 

アイズがベルの手をひき体を起こし、そのまま立とうとするがよろけるベル。

 

「あ、あれ?」

 

結果的にアイズにもたれ掛る形になってしまったが、張本人であるアイズは気にもせずに、

 

「このまま、行こうか。」

 

「え?!さすがにそれは・・・!!」

 

ベルがアイズの言葉を拒否しようとしたのだが左方向からも

 

「では、私も手伝うとしよう。」

 

リヴェリアがベル左側から腰に手を回し支える。

 

「異論は・・・ないな?」

 

「えっ?!いや、そのぅ・・・お、お願いします・・・。」

 

右には剣姫、左には九魔姫、そんな、誰もが羨む状態で食堂へ向かっていく。

ちなみに、ロキは後ろからその様子をニヤニヤと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

~食堂~

 

「べぇーーーーるぅーーーーー!!」

 

食堂に入ってから数秒もしないうちにティオナが後ろから抱き着いてきた。

彼女は爛々と目を輝かせながら、

 

「起きたんだね!・・・?ねぇ、なんで剣握ったままなの?」

 

「えっと、僕にもよく分からないんです。」

 

ベルは周りの視線を恐れていたのだが、ふと周囲をみると嫉妬に満ちた視線などなかった。

食堂にいたファミリア全員がベルの目覚めを祝っていた。

 

「はぇ~~・・・・。なんか、よく食べるようになったねぇ・・・。」

 

ティオナは感嘆の声を上げながらベルの食べっぷりを見る。いつものベルならおおよそ成人男性の1食より少し少ないくらいでお腹がいっぱいと言っていたのだが、

 

「なんか、(もぐもぐ)お腹、(もぐもぐ)減ってる、(もぐもぐ)みたいで。」

 

ベルは喋るのも惜しいと言わんばかりに食べ物を口に運ぶ。

 

「片手じゃあ、食べにくいよね!じゃぁ・・・・はい!あーーーん!」

 

ティオナが自分のお皿の上にあった煮豚をベルの口に運ぶ。

 

「あん。あふぃがとうごふぁいまふ!」

 

ベルは照れることもなく口にした。

 

「ほい!これも!じゃあ。こっちは?」

 

と、ほいほいベルの口に運ぶティオナ。

あまりにもの光景に両脇の二人は固まっていたが。

 

「す、スープは食べずらいから・・・。」

 

最もな理由でスプーンをベルの口に運ぶアイズ。

 

「これはいいな。どれ、ベルこれも食べるといい。」

 

くすくすと笑いながらリヴェリアもベルの口元に食べ物を運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご馳走様でした!」

 

「まさか・・・だな。あの量を平らげるとは・・・。」

ティオナでも難しいだろうな。とリヴェリアはチラッと目線を移しながらつぶやく。

同時に先ほどは軽く流したが、やはりどこか異常があるのではないかと懸念してしまう。

まさに、なにか失ったものを補給するように感じた。それならまだいいが、この補給が失ったものの代用で補給されているのならば・・・。と、リヴェリアは少し顔を曇らせた。

 

「ベル、いっぱい食べたねー!!!」

 

ティオナはベルに抱き着きながらほぺったをプ二プ二と指でつつく。

 

「ベル。一度神ヘファイストスの所へ行かないか?」

 

リヴェリアがベルの握られている短剣に目を移すと、

 

「・・・・・。ベル、短剣はどうした?」

 

「へ?あれ・・・?そういえば・・・。」

 

辺りを探すベル。その場にいた全員で探したが短剣は全く見当たらなかった。

 

「ますます行かなくてはいけなくなったな。」

 

少し溜息を吐いた後、リヴェリアは白兎を連れてホームを出た。

 

 

 

 




これでひとまず一部完結、ということで。
続きは2期アニメながら書いていこうかな(はーと


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にばんめのしょう
白兎と・・・?


 街ではちょっとした“噂”が広まっていた。

 

 レベル1の冒険者が異形の魔物を倒した。

 レベル1というのは嘘で最強のギルドから派遣された冒険者がこの町に来ていて査定をしている

 レベル1の冒険者がミノタウロスの集団を食い散らからした。

 

 あくまで“レベル1”という言葉が主張されていた。

 主語は“意図的”に隠されているかのようだった。

 

 

 ~ロキファミリア 玄関~

 

 

「うわー! 太陽がまぶしいですねー」

 

 呑気に手で日陰をつくりながらベルはリヴェリアに話しかける。

 

「そうだな。キミにとっては久しぶりの太陽だ。少しでも日光を

 摂取しておくべきだな」

 

 リヴェリアは今一度ベルの体を観察する。

 あの戦いを最初から見ていた訳ではないが一体この小さいな体のどこに

 異形の魔物を1対1で下す力があったのだろうと。

 

(しかもこの子は入団してから……オラリオにきてからまだ二か月も経っていない)

 

 そんな子が自身の命までも犠牲にして戦いに挑んだのだ。

 リヴェリアにとってみればどんな魔法より不可思議極まりない状態だった。

 

「おっとっと……。えへへまだ少しうまくあるけませんね……」

 

 リヴェリアがベルを眺めながら思考に耽っているとベルの足がもつれたらしい。

 

「やはり、起きたばかりで辛いんじゃないか? 別の日でもいいんだぞ?」

 

 ベルを抱えながらリヴェリアは優しく問いかける。

 

「いえ! 大丈夫です! ……その。部屋にいるとどんどん体が鈍っていきそうで……。

 なので……大丈夫です!」

 

 ほぼ全く根拠のない理由ではあるが、そのベルの表情からリヴェリアはそうかと一言だけ答えベルとともに

 ヘファイストスのファミリアを目指す。

 

 …………後ろからの人影にため息をつきながら。

 

 

 

 ~へファイトファミリア 私室~

 

 リヴェリアはあまり“ヘファイストス”という神に詳しくはない。

 良いファミリアを作り、そこで武器を作っているという程度だ。悪い印象はない。

 だがこの光景で彼女の印象は変わりそうだった。

 

「これ……?! どういうことなの……!! 

 ねぇ! 何がどうなってるのかしら……? 

 どうなったのか! ねぇ? 聞いてるの?!」

 

 部屋に入ってきた直後冒険者の左手をまさぐりながら早口でまくしたて

 はぁはぁしていた赤髪の麗人がそこにはいた。

 

 

 

「コホン。失礼したわ。九魔姫にも……そのとんだ姿をみせてしまったわ。

 ……そのロキには言わないでおいてくれると……うれしいわ……」

 

 本来あるべきの席に座り、さも何もなかったように二人にそう話しかける。

 

「ヘファイストス様、ご安心ください。私たちは今、この部屋に入ってきました。

 なんの問題もありません」

 

「……あっ!!! はい! 今! 入ってきました!」

 

 左手どころか全身レベルでもみくちゃにされたベルが顔を赤らめながらリヴェリアの横で

 答える。

 

「では、改めて……話しを聞かせてくれますか?」

 

 ベルに聞かせたくないことだけを伏せてリヴェリアは端的に話した。

 武器の名前のこと。

 武器の形状変化のこと。

 ……その武器が初めて刻んだ魔物のこと。

 

 その話をじっくりと聞きながらヘファイストスはぽつりと

 

「まるで……ケラウノスね……」

 

 そう呟いた。

 

「ちなみに白頭くん? 目が覚めてからその武器の名前って呼んだのかしら?」

 

 一呼吸置いた後急にベルに話が回ってきた。

 

「え……? 名前ですか……? そういえば一度も読んでない……です」

 

「左手をかざして呼んであげなさい」

 

「は、はい……。シィア!」

 

 ベルは両目をつむり左手を差し出しはっきりと口に出した。

 

「解決ね」

 

 そうヘファイストスは言ってリヴェリアのほうを見る。

 

「これは、どういう……」

 

 リヴェリアの方は今の現象が一体何なのかが理解できないといった顔だった。

 

「そうね。簡単に言うとその武器、白頭くんと一体化してるのよ。

 収納魔法でもなければ召喚魔法でもない。自分の指先が少し伸びる感覚じゃないかしら?」

 

「は、はい。確かにそんな感じがします!」

 

 ベルはシィアと名を付けた短剣をにぎにぎしながら返答した。

 

「……魔法では説明がつかない……というのは分かりました。

 ヘファイストス様、ありがとうございました」

 

 ヘファイストスの私室をさろうとする二人に

 

「そうそう。その武器……シィア……ですっけ? なにか変化があればまた教えて頂戴ね」

 

 そういってヘファイストスは私室の奥に消えていった。

 

 

「これ……どうやって戻すんだろう……」

 

 ベルは未だにシィアをにぎにぎしていた。

 

 



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おわりのしょう
決別。


~注意~

あれ?話全然繋がって無いじゃんと、お思いの方。正解です。
いきなり最終章をUPしてます。こんな上げ方も面白いかなって。
全て妄想で補完してます。
後書きに少し設定じみたものを書いておきますのでご参考までに。

消化不良満載です。モヤっとしたくない方はブラウザバックがおススメです。


「だけど!助けてって!そう、言ったんだ!」

 

ベルは体に回転をかけながらアイズに切りかかる。アイズはベルの攻撃を躱すでもはじく訳でも左手でなんなく受け止めた。

 

「アレは魔物だ!魔物はみんな倒さないといけない!!・・・アイツらはみんな壊す!だから壊される前にっ!私がっ!私がっ・・・!!」

 

アイズの真っ白な手から血がダラダラと垂れる。かつては自分を撫でてくれた。いつだったか握りしめるのが当たり前になってしまった愛しい手。ベルは力を抜かずそのまま押しきろうとする。

 

「僕にはっ!とても、あの子がアイズの言うようなモノには見えない!一緒に笑って、泣いて、今だって・・・!!きっと助けてって叫んでる!」

 

ベルはアイズの後方でリヴェリアの魔法によって捕縛されているクロを見る。

 

「その・・・その為に・・・。ファミリアが・・・家族がたくさん傷ついたんだよ?私は私の居場所を自分で守る!ベル!!これ以上訳の分からないことを言うなら君だって倒す!」

 

アイズはベルの剣を押しのけレイピアに手をかける。

 

「あんなものに・・・・。あんなやつらに・・・私は出会わなければ・・・よかった。」

 

アイズは目をつむりながら呟く。

 

「フーガ・エアリアル・・・・・ブラスト!!!」

 

風・・・暴風を纏ったアイズはすべてを傷つける。

彼女がこれまでの冒険で得た最大の技・・・・必殺の魔法。

そんな暴風の中心でアイズ自身も無事な訳ではなくアイズの白い肌は傷だらけになり、髪も少しずつ切れ風は赤と金を交えた色に変色していく。

 

「・・・・っつ!!」

 

ベルは吹き飛ばされながらも、目の前の彼女を倒すことだけ考えていた。和解でもなく・・・。

倒すことだけを。

 

「・・・シィア。行くよ。」

 

「あら?もしかして、戦うの?さっきのバカ狼みたいに眠らせてしまえばいいのに。」

 

「うん。・・・本当はそれでもいいのかもしれない。だけど、アイズだけは止めたいんだ。

自分の手で・・・・自分の力で。」

 

「ふふっ。ええ、了承したわ。・・・これから後、また後悔するようなら今度こそ愛想を尽かすからね?」

 

「厳しいなぁ・・・。ありがとう。」

 

ベルはスッと目をつむり感覚を呼び起こす。あの時。赤竜と白龍を相手にした時の感覚を。

 

「「我は、英雄―――――最後の希望。メシアとなりて星を砕くもの!!」

 

ベルのくるぶしあたりからは羽が生えシィアが全身身にまとったような状態になる。

 

 

「アイズ。今のあなたは間違ってる。・・・出会いを。クロやファウスたちの出会いすら否定するようなあなたを正しいだなんて思わない。だから、僕は今できることを。今の僕の全力でアイズ、あなたを倒す。」

 

「ベル!!私は・・・!!」

 

アイズが高速でベルに突きを繰り出す。

その突きはかつてベヒーモスさえも退けた時の威力と速度だった。

ベルは、高速の突きシィアを纏った左手で弾いた。

 

「いったぁ!!ちょっと!ベル!この魔力の放出の仕方はまずいわ!

早めに勝負・・・決めちゃいなさい!」

 

弾くために触れただけでシィアの鎧は抉れていた。何よりも、触れた個所から風がシィアを蝕んでいるようにも見えた。

 

「わかった・・・けど・・・!」

 

アイズの猛攻は続く。その突きを躱す・・・にはあまりにもアイズの突きは早すぎる。

ベルは防御に徹することしか出来なかった。攻撃が当たるたびにシィアの鎧は蝕まれ、ベルにはまるで龍の一撃なみの衝撃が加えられていく。また、攻撃していたアイズも一撃を入れる度にその体は傷付き、息も上がっていた。

 

「アイズ!ベル!これ以上は持たん!!」

 

拮抗状態の二人にリヴェリアの声が響く。クロはまるで何かの痛みから逃れるようにもがき暴れていた。その体は先ほどベルがアイズ越しにみた姿よりより一層禍々しく、醜悪なものへと変貌していた。

 

「あの魔物は私が倒す。君を倒して。アイツ相手ならいつかの・・・君のように。強く!強く!ツヨク!!」

 

アイズの目には魔物しか映っていなかった。アイズはまだ早く動けたのかというくらいのスピードで真っ直ぐ正面からクロに向かっていく。アイズの体は摩擦熱に耐えきれずボロボロになっていた。

 

「あ・・・あ・・・!」

 

魔物は、クロは、飛び込んでくるアイズに向かって両手を広げていた。まるでいつかの。

お互いに恐れながらも近づいたあの時のように。この子の温かさを知ったあの時のように。

クロは、アイズという―――――死を受け入れようとしていた。

 

「駄目だっ!!クロォォォォ!!」

 

後ろからベルがアイズを追うが高速が光速に追いつける訳もなく。

 

クロはベルの方を一瞬だけみて

 

 

 

微笑んだ。

 

 

 

 

アイズの剣はクロの魔石を貫いて、その巨大な体が消失していく様をジッと見つめていた。

ふと、自分の掌を見つめるアイズ。かつて、この手で撫でられるのが気持ちいいだなんて言ってくれたものがいたのかと、疑いたくなるくらい汚れていた。

 

「あははは!!随分面白い展開になってるじゃあないかぁ!!いいね!アイズ!君はやはり汚れてるべきだ!そうあるべきだ!だって君は、もっとも君が妬むモノから生み出されたモノなんだからねぇ!」

 

バベルが腹を抱えながら笑い、アイズの目の前に立つ。そして、クロの魔石を拾いながら

 

「アイズ・・・?君ぃ・・・

 

 

お腹が減ってるんじゃないかい?」

 

その言葉にアイズは疼きながらも、バベルを睨み付けていた。その姿を楽しそうに見つめるバベル。アイズは今、三度目の同類食衝動に駆られていた。膝をつき嗚咽をあげるアイズ。

 

「いいじゃないか素直になっても。だって、君、あの魔物がいた時に思ったんだろう?近くにくる度に感じていたんだろう?―――――美味しそうって。考えたこと・・・あっただろう?」

 

アイズの耳元で囁くバベル。アイズはバベルの言葉でどんどん正気を失っていくように頭を掻き毟っていた。

 

「ち・・・違う!!魔物は・・・倒すっ!それだけ・・・。魔物は倒す・・・、ただそれだけ・・・魔物は・・・」

 

―――――オイシソウ?

 

わなわなと震えだすアイズ。ベルがようやく追いつきバベルを一瞥してから、アイズに近寄る。

 

「アイズっ!・・・・アイズ・ヴァレンシュタイン!君は、僕の憧れた剣鬼、アイズ・ヴァレンシュタインなんでしょ!」

 

ベルは震えるアイズの両肩を持ち前後に揺らしながら叫んだ。しかし、その言葉は彼女に耳に届くことなく―――。

 

「あははっ!最高のステージだよっ!ゼウスのジジィの最後の希望の前で究極の絶望を見せられるのだからなっ!!」

 

バベルはアイズの頭を持ち上げる。ベルはバベルに向かってシィアによる攻撃を放つが、バベルの自動魔力演算による防御で防がれる。そんなベルを尻目にバベルは彼女の口に魔石をねじ込む。

 

「かはっ・・・ゴホッ・・・おぇっ・・・・」

 

アイズは苦しみ交じりに抵抗を試みたがもはや体力・魔力ともに限界寸前の彼女の力が通じる訳もなく。ベルもその様子を唖然と見ていることしかできなかった。

 

「バァァァァァァァベェェェェェェッルウゥゥゥ!!!!!!」

 

「いいねぇ!その顔!!最高だよ!彼女が拘った訳だよ!私ですら興奮というものを覚えるよ!!!」

 

バベルは、シィアごとベルを貫いた。

 

「殺さないよ・・・君にはまだやることがあるんだからねぇ・・・。差し詰め13回目の試練って訳だ!!」

 

バベルはアイズを抱えながら空高く飛び上がった。

 

「それでは、また後日!せいぜい絶望しながら希望にすがるといい!!」

 

英雄白兎の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




設定

バベル・・・名の通りバベルに封じられていた悪魔。

クロ・・・街の外であった魔物。簡単な言葉は理解でき話せる。名づけ親はロキ。

神は?・・・バベルが発動した天岩戸により神は封じられた。

フィン・ガレス・双子・姉は・・・もういません。



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決意。

声が・・・。

声が聞こえる・・・・。

 

 

「へぇるっ!!」

 

「クロっ?!」

 

真っ黒でふさふさしたウサギのような姿。紛れもなくベルやファミリアのみんなと過ごしてきたクロがそこにはいた。

 

「へぇる・・・。あいす・・。」

 

悲しそうな顔でベルに寄り添うクロ。

 

「たすける・・?たたかう・・・の?」

 

首を傾げながらベルに問うクロ。言葉は稚拙だが、お前にそんな覚悟があるのか?と。

聞かれている気がした。

 

「そうだね・・・。僕は、僕はきっと・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベル!!!ベル・クラネルッッ!!!起きるんだ!!!!」

 

「リヴェリア様!落ち着いて下さい!まだ、起きれるような体じゃないですからっ!」

 

レフィーヤが普段からは想像できないような鬼の形相でベルを叩き起こそうとするリヴェリアを制止する。

 

「お前が!お前が変えてくれるんだろう?頼む・・・ベル・・・起きて・・・起きてくれ。」

 

段々と涙声になるリヴェリアにつられレフィーヤの目にも涙が溢れてくる。

 

「副団長っ!!大変です!!最終防衛ラインまで近づかれましたっ!・・・・なんでっ、なんで・・・・。」

 

報告に来た団員は泣いていいのか怒っていいのかも分からずにただ衝動に身を任せてテーブルの上に拳を叩きつける。

 

「・・・ベル。私は行かなくてはならない。ロキや、フィン。ガレスが守ろうとしたものがここにはたくさんある。私には責務がある。

 

だけどな。

 

お前は、お前でいいんだよ・・・。」

 

リヴェリアはそっとベルの額に口づけをし、レフィーヤ達とともにその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いっ!止まってぇっ!!止まってよぉ!!!」

 

歯を食いしばりながら大剣を振り回し威嚇するティオナ。

赤く染まっていた刃も黒く濁っていた。

無尽蔵に湧き出る魔物。姿かたちはとても歪でまさに魔物だった。

他のファミリアの冒険者たちも必死で足止めするが、数で圧倒されていた。

 

「ティオナ!・・・これは酷いな・・・。」

 

到着したリヴェリアが思わず口をこぼす。惨劇、という言葉こうまで合う状態を恐らく彼女は見たことこがないし、これから先見ることもないだろう。

 

「ベルは?!」

 

「・・・期待・・・しない方がいいだろうな。」

 

リヴェリアは少し顔を俯きながら歯を食いしばる。ティオナはそんな普段見ない顔のリヴェリアに驚きながらも顔を上げる。

 

「でも。来るよ。」

 

「どうしてそう思う?何か根拠でもあるのか?」

 

「だって。英雄はどんなピンチでも来てくれるし、なにより・・・」

 

ティオナは魔物群れの中心にいる金髪の少女に目を向ける。

 

「お姫様だって・・・。待っているんだから」

 

ティオナは再び大剣を構え魔物の群れを切り裂いていく。

 

「ティオナ・・・お前は信じるのだな。ならば私も。・・・聞け!!迷宮都市オラリアの冒険者達よ!!神たちは今はいない!!だが、私たちには頂いた恩恵がある!今までの絆が、思いである!それをあの魔物たちに喰い荒らされたままでいいのか?!我はリヴェリア・リヨス・アールヴ!!あの、根源を打ち滅ぼす物の名だ!!!」

 

リヴェリアは金髪の少女に向かって杖を向ける。

 

(アイズ・・・、アイズ・・・、私の声は届くのだろうか?私は、いま私が出来ることをする。その結果、お前をたお・・・・殺すことになろうとも・・・)

 

リヴェリアの啖呵に冒険者たちはどよめいていた。何しろ、根源というのがかつて剣鬼といわれた少女。そして、その少女とリヴェリアの仲を知らぬ者の方が珍しいだろう。

そんな彼女がアレは敵だと。そう言い放ったのだ。

 

まさしく戦場と化したかつての町は怒号と悲しみに満ちあふれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・起きなさい。傷は癒したわ。

・・・ふふっ。それにしても、たった数ヶ月みない間に益々立派になって。

・・・これはそろそろ食べ頃なのかもしれないわね。

・・・目覚めなさい・・・純粋で愛おしく、神に愛され、人に愛され、永遠に戦い続けること臨む子よ。

 

ベルは聞きなれた声がした気がして目を開ける。

 

「全く、天岩戸に封じられているのにどうやって顕現したのかと思ったらそういうことね。」

 

シィアは消えかかる前の虚像に声をかける。

 

「ふふ。内緒ですよ?」

 

彼女が消えてから暫くしてベルは目を覚ます。

 

「シィア・・・?」

 

ベルはシィアの声にゆっくりと応じる。体は痛くない。むしろ、調子が良いくらいだ。

 

「全く、嫌なのに貸しを作ってしまったわね。ベル。町は大変よ。どうするの?」

 

「行くよ。僕。」

 

ベルらしからぬ即答にシィアは驚きを覚える。いままで彼がすぐに決断したことは本当に数えるくらいしか記憶にない。シィアはそれを成長と喜んでいいのか、褒めてもいいのか分からず、いつもの口調で

 

「あら、迷わないのね?いいの?何も残らないかもしれないわよ?」

 

「それでも行かなきゃ。だって。きっと、みんな待ってる!それに・・・あの人の前でだけは僕は・・・英雄でいたいんだ!」

 

その言葉に偽りはないのだろう。彼は、やっと彼が望んだ場所に行こうとしている。

シィアは残り少ないであろう自身のすべてをかけて今度こそ、後悔しない、後悔されないように傍でとげようと。そっと心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざんけんなっ!湧き過ぎだろうが!害虫どもがっ!!」

 

ベートは豊穣の女主人の軒先から一歩も引かずに戦っていた。

ここが最終防衛ライン。ベルが寝ている場所がこの戦いの本陣だった。

 

「あのくそベル!!起きたらぜってぇ泣かす!!!」

 

「泣かされるのあなたの方だと私は、思うが?」

 

 

「ま、そうですよね!なんせ、ベルさんはラスト・ヒーローなんですからね。」

 

ベートの悪態にリューとシルが返答する。

 

「ミアかあさんが張ってくれたアイギスのおかげでまだ大丈夫ですが、いずれは・・・。」

 

シルは不安そうに周囲を見回す。そんなシルをリューが

 

「大丈夫。・・・それに、私は、今日くらいやり過ぎてもいいはずですから!!」

 

そういって励ました。

最終戦線を維持する冒険者たちは終わりの見えない戦いを続けていた。

そんな中、一匹の魔物が咆哮を上げだした。すると咆哮は瞬く間に広がり

 

「くっそ!!やかましい!!!」

 

ベートたちはその五月蝿さに耐えきれず退いてしまう。

アイギスとて、耐久値というものは存在する。こんな猛攻に耐えられるはずもなく。

 

「あ・・・アイギスが。」

 

ヒビが入っていた。全員が絶望に満ちた顔になる。

そんなシルの方をポンと叩き、

 

「ありがとう。シルさん。ちょっといってきますね!」

 

まるで、いつものように。

ダンジョンに潜るように、ベルは挨拶をしていった。

 

「え、あ、ちょっ!!ベルさん!!」

 

シルは、パンパンとスカートを直し、

 

「いってらっしゃい!」

 

と、極上のスマイルでベルを見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと・・・限界・・・。」

 

大剣を地面に突き刺すティオナ。

他の冒険者たちも立ってるのがやっとだった。

誰もがもういない、高レベル者たちの不在を嘆いた。

 

そして、願わずにいられなかった。

 

希望を――――。

英雄を―――――。

 

 

金髪の少女は魔物の中心から皮肉にも風を撃って攻撃してきていた。

そこに意志などはなく、ただそこに標的があるから撃つ。その姿はかつての幼いアイズのようだと。リヴェリアは少し思い出していた。

 

(そうだな・・・。そんな時期もあったな。だが、お前は変わったのだよ。アイズ。

だから、もう・・・。)

 

リヴェリアが残りの魔力を振り絞り、魔法を放つ。

それに呼応するかのように金髪の少女は急にリヴェリアの方へ近づき――――

 

 

刺した。

 

 

「最後に、見る・・・お前の顔がこんな・・・こんな顔とは、流石に思わなかったぞ・・・。」

 

リヴェリアはそっと頬を手で撫でる。金髪の少女は、止めの一撃を構えて

 

貫いた。

 

 

かつて最愛だと思った人を。

自分にいろんなことを教えてくれた人を。

なんの感情もなく。なんの感想もなく。

 

「アイズぅぅーーーー!!!!!」

 

激昂したティオナがアイズに切りかかるが無残にも返り討ちにあう。

 

「アイズ!!目を覚ましてよ!!!こんなのやだよっ!!!みんないなくなっちゃうよ!

フィンもガレスも、ロキも・・・ティオネだって!やだよっ!!アイズ・・・。」

 

ティオナの絶叫が届くことはなく、金髪の少女・アイズはティオナの首筋を狙って切りかかる。

 

「もう・・・終わりにしよう!!」

 

一つの影が二人の間に割って入る。

纏うのは純白の鎧。左手首にはいつだった送られた緑色の防具。そして、足首から生えた3対の翼。右手には【撃滅するもの】。

小柄ではあったが、その場を圧倒していた。

戦場の喧騒が一時的に止まる。

 

「ベル・・・?」

ティオナは急に目の前に現れた少年に声をかける。

 

「うん。・・・もう、タイミングを逃したりはしないです!」

 

ベルはティオネの時を思い出しながらティアナに答える。

彼女は涙ぐみながら、

 

「う、ん・・・。うん!」

 

いつもの笑顔になるティオナに安心し、

ベルは振り返る。

 

最愛の最強にして非情。バベルにいわすならベル・クラネルの13番目の試練。

 

そして。

 

 

そして。

 

ベルにとっての未来の道しるべ。

 

「もう、ここで終わらせよう・・・アイズ。」

 

白兎は彼女に対して初めて笑顔を作りながら、アイズ・ヴァレンシュタインに刃を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




補足

撃滅するもの・・・黒い短刀です。素材は3回目の登場のミノタンの角です。


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決着。

~アイズside~

 

(・・・渇き。)

 

      (いつもあった。)

 

(・・・飢え。)

 

        (満たされなかった。)

 

 

(だけど・・・十分だった。幸せだった。ロキがいて、フィンがいて。リヴェリア、ガレス。ファミリアのみんながいてくれた。私に与え続けてくれた。私は貰ってばっかりだった。そのうち私は、嬉しいを覚えた。笑うを覚えた。美味しいを覚えた。)

 

カノジョは真っ赤に染まった手のひらを見つめながら思う。

 

(恋を。恋を教えてくれた。キラキラとした世界を教えてくれた。少しだけど私は“ワタシ”を忘れることが出来た。)

 

カノジョはうな垂れる。

もう、何を■しているのか分からなかった。

何かが分からないものをレイピアでプスプス刺し続けた。

 

(楽しかった。戻りたいよ。でも・・・デモ・・・ワタシハ)

 

カノジョはワラウ。なぜなら—ーーー。

 

「もう、ここで終わらせよう・・・アイズ。」

 

最も最愛の人が自身が最も嫌う作り笑顔を浮かべて立ちふさがっているからだ。

 

~アイズside end~

 

 

 

「おやおや、英雄ご到着ですか・・・?覚悟は決まりましたか?

世界か?彼女か?あなたの決断で決まるのですよ・・?」

 

バベルが心底嬉しそうに笑う。

 

「決めたからここにいるんだ!バベル!お前に教えてやるよ!可能性を!!」

 

ベルは神速でバベル・アイズの方へ飛んだ。

 

「早いだけであなたは・・・!結局それですか!!」

 

アイズ・バベル共に防御姿勢を取るがベルは突っ込んで来なかった。

ベルは二人を無視して目的地に飛ぶ。

 

「貴様!!!!!」

 

目的地に気付いたバベルがいつもの道化の姿勢を崩しベルを追う。

だがベルに追いつくはずもなく。

 

「フレイヤの名のもとに制限を解く。すべてを消滅させる雷となれぇぇぇぇ!!!」

 

【撃滅するもの】とシィアの先端から雷が発生する。

その強大な雷はバベルの塔を一瞬で消失させた。

 

「なぜだ・・・・なぜ神の力が行使できる・・・・。やはり・・・化け物か・・・」

 

バベルはそのまま炭となって消えた。

塔が消えたことにより塔から発生していた異形の魔物たちも姿を消した。

 

「そっか・・・。バベルの塔そのものが消えれば・・・!

私たちやったんだ。やったよ・・・!みんなぁ・・。」

ティオナは周囲の冒険者たちと勝利の勝鬨をあげていた。

 

バベルの魔物は消失した。バベルは消えた。

故に天岩戸の結界も壊れて神々がこのオラリオに戻ってくるだろう。

 

そんな安堵と歓喜の声が木霊するなか、この戦いに終止符を打った

“英雄”は。

 

 

うな垂れている剣“鬼”アイズ・ヴァレンシュタインに―

 

 

「え・・・?ちょっとベル・・・?なにしてんのさ・・?」

 

 

ベルは後ろからー

 

 

「おい!!!!てめぇぇぇ!!!ふざけんじゃねぇぞ!!!!」

 

 

二対の刃で彼女を抱きしめるように―

 

「ベルさん・・・・?」

 

「ベル・・・それがあなたの答えなんですか・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次でラストです。


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