マクロス Infinity Rumble (天羽々矢)
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STAGE1 日常 と 兆候

1つの部屋のさらにその一角、

そこはまるで1つの作業場のようだ。様々な色の絵具に接着剤、筆からエアブラシまで揃っている。

 

その部屋のベッドに布団に包まり身体を沈めている1人の少年がいる。

少年がベッドの上で寝返りを打ち、

 

「おーい俊樹!」

 

外から幼さが残る少年の声が響き、その声を聴き布団から少年が起きる。

銀色にも見える白色のショートヘアに整った顔立ちの目がゆっくりと開き、金に近い黄色の瞳を覗かせる。

1つ欠伸をし眠そうな顔のまま窓を開ける。

 

「大きい声出してどうした直人?」

 

俊樹と呼ばれた少年が外にいるどこか興奮した様子のシアンのショートヘアの少年、直人に返事を返す。

 

少年、宮本俊樹(みやもととしき)はある事で身体が弱いことを除けば模型店を実家に持つ普通の男子高校生だ。

そして外から俊樹に声をかけた少年は黒江直人(くろえなおと)

俊樹の2歳年下にも関わらず彼を兄のように慕う、俊樹の親友だ。

 

直人の特徴として、15歳にしては小柄な体型だ。

 

「やっと買えたんだよ!見せてやるから待ってろよ!」

 

そう言うや否や、直人は堂々と俊樹の家へ入っていく。

 

そんな俊樹の部屋の棚には、身体が弱いこともあり彼なりに楽しむために集めたフィギュアや模型が飾ってある。

 

とあるメカ美少女SFアニメのキャラクター「ハイデマリー」「服部静夏」。

他にもアニメ・ゲーム登場キャラクターの「アーンヴァル」「スバル」、そして人気戦闘機アニメの「VF-0D」「VF-25F」「VF-11B」などがある。

統一制こそ無いが、俊樹は本気で気に入ったもの以外は滅多に購入しない。

 

だが、棚の1番下に「直人の」と書かれた箱がある。直人関連の物なのだろうが中身は本人と俊樹しか知らない。

俊樹が棚を軽く眺めていると、ドタドタと階段を駆け上がる音が響いてくる。

 

「おいっす!」

 

「いらっしゃい」

 

堂々とドアを開け部屋に入ってくる直人。何回も訪問しているからか遠慮がない。

入室するや、肩にかけているバッグを漁り始める。

 

「じゃーん!」

 

バッグから取り出したのは、これもアニメの登場キャラクター「スザク」と「ユーフェミア」のフィギュア。

どうやらこれを見せたかったようだ。

 

「なるほどな。じゃあ並べてみるか?」

 

「もちろん!」

 

直人の返答に俊樹は頷き、棚の下の箱を持ち運び、直人の側に置く。

 

「元気にしてたかい、みんなぁ!!」

 

直人が意味不明な言葉と共に勢い良く箱を開ける。

中には「ハルトマン」「シャーロット」「SV-51」「VF-27」等と、これまた多くの模型やフィギュアが入っていた。

 

箱を開けた直人は鼻歌を歌いながら模型とフィギュアを並べていく。それ故か俊樹の異変に気付かない。

突然、俊樹が胸部を抑え苦しみ始めた。額には玉のような汗もかいている。

 

「よーし、どうだい君たち、遂に一緒に並べた感想は!」

 

そんなことは知らず、返答しないと分かっていながら模型に問う直人。

 

「俊樹も・・・俊樹!?」

 

「直、人・・・」

 

背後を振り返り漸く俊樹の容態に気付いた。

胸部を抑え過呼吸になり始めている。

 

「あぁ・・・、おじさん、おばさん、俊樹が!!」

 

驚愕と不安に支配され、直人は俊樹の両親がいる下の階へ駆けていく。

だが、それは必要だった物かもしれない。

 

 

 

 

・・・与えられた物語への。



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STAGE2 宣告 と 異分子

直人が伝えに行き、俊樹は病院に緊急搬送された。

 

俊樹は幼少期から心臓疾患を患っており、他と比べて身体が弱い。

それにより時折発作を起こしてしまうのだが、今回は一際強い物が起きてしまったようだ。

 

今、俊樹は呼吸器、点滴、心電図モニターなどが繋がれた状態だが、現実は非情であった。

 

「・・・私達も最善を尽くしましたが、持って3日かと・・・」

 

担当医からの宣告に、母は両手で顔を覆い泣き出し、父は顔こそ背けるがその肩は震えている。

直人は驚愕と絶望が混ざりあった表情をし、視界が歪んでいく。それ程までにショックが大きかったのだ。

俊樹の余命、残り3日。

その言葉は3人の耳から離れなかった。

 

 

その夜、病室に運ばれた俊樹の胸部から蛍のような小さな銀色の光が発し、窓から外へ。

さらに俊樹の部屋に置かれているフィギュアからも小さな光が発し、銀光のもとへと飛来する。その数は6。

 

6つの光は銀光を中心にゆっくりと回り始め、徐々にその速度を上げやがて連れていくかのように銀光と共に天へ飛翔する。

 

 

 

とある銀河系。

そこでは1つの軍事勢力が戦闘を行っている。目を引くのは1方の勢力にある「NUNS」の表記。それはこの世界で治安維持を担っている軍隊だ。

しかしそれは戦闘よりは蹂躙に近い形で、明らかに規模の小さな勢力を一方的に撃破していく。

 

その中で戦域を離脱していく1つの影。それは民間で使われているシャトルであった。

そしてそれを追尾する4機、「バルキリー」と総称される可変戦闘機の1つ「VF-171 ナイトメアプラス」。

シャトルは上下左右に移動しナイトメアプラスの機関砲を回避していく。

 

「これより砲撃を開始する、航空隊は直ちに退避せよ」

 

ナイトメアプラス編隊にその通信が入り散り散りに回避。そして比較的先行しているステルスフリゲート艦2隻が砲塔を旋回させる。

 

「照準良し、撃て!」

 

号令と共にフリゲートからビーム砲が放たれシャトルに迫る。

 

「マズい、つかまって!!」

 

シャトルの操縦手の少年は操縦桿を思い切り左に倒すも、回避に間に合わず砲撃がシャトル右側を掠める。

その衝撃で少年は機器に身体を打ち付け気絶。シャトルも態勢を崩し近くの惑星へ落下していく。

 

「そんな!しっかりして!」

 

「お兄様!!」

 

後部座席にいる2人の少女が駆け寄る。その間にもシャトルは速度を落とさずに落下、少女の1人が叫ぶ。

 

「しっかり、死んじゃイヤッ、“     ”ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

「ん・・・」

 

とある部屋で、5歳もいかない少年が目覚めた。

少年は天井を見た後、両手を顔の目の前に動かし握り開きといった動作をする。

 

「・・・生きて、る・・・?」

 

呟くようにそう言った少年は、偶然近くにあった鏡を見る。

それは、少年にとって覚えのある物。銀色に見える白のショートヘアに、瞼から覗かせる金に近しい黄色の瞳。

 

「・・・俺・・・?」

 

少年はその鏡が自分ではないかと思った。

 

「あ~、起きた!パパ、ママ、起きたよ~!」

 

そんなとき、球体の胴体に4本の脚と2本のマニピュレーターをつけた機械が喜びの感情を含むような音声を出しその場で何回転か回った後どこかへ行く。

 

そして少しして、まだ若さの残る男女が部屋に入ってくる。

 

「よかった・・・、気がついたのね」

 

「あぁ・・・、心配したよ・・・“トシキ”」

 

「・・・え?」

 

目の前の男は、確かに自分のことを俊樹と呼んだ。

そう、少年は倒れたはずの、俊樹だったのだ。




OP:DAYBREAK'S BELL/L'Arc~en~Ciel


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STAGE3 現実

OP:DAYBLAKE'S BELL/L'Arc~en~ciel


トシキはその後、自分の父母だという男女、宮本ジンとエイカ・M・ルマールに自分が置かれている状況を聞いた。

 

現在は西暦2053年。自分がいるこの地は地球ではなく、ララミス星系のセフィーラと呼ばれている惑星である事。

そして、母親であるエイカにある白い猫耳と尻尾、そして顔にある模様。

話によると、母はブリージンガル球状星団の惑星ヴォルドール出身だという。それを聞きまさかとトシキは思い自分の体を改めて鏡で見たが、自分に獣耳と尻尾はなかった。

 

さらに男女の後ろにいる機械。

青いボディに4本の脚、3本指のマニピュレーター付の腕が2本ついた球状のロボット。トシキはそれに覚えがあった。

 

それは此処に来る前に自分が持っていたフィギュア、『攻殻機動隊』シリーズに出てくる「タチコマ」だ。

話によれば、新統合軍の中佐であるジンがL.A.I社に注文し、特注で作らせたらしい。

 

最後に、何故この時期に目覚めたのか。

どうやらトシキの肉体は3歳の時に大事故に会い、2年間もの間意識を失くしていたそうだ。

それを聞いた時にふと感じた。あの時起きた今までより強い発作。

もし神という存在があり、あれが仕組まれたものだとしたら、どれほど気まぐれな者だろうか。

 

 

一通り状況を聞いたトシキ。本音を言えばまだ現状整理できていない状態ではある.

だがそれでもジンとエイカは、自分を息子だと言ってくれた。この世界で生きていくにはそれで十分だった。

 

その後、道を決める大きな出来事もあった。

2059年、トシキ達親子が住む惑星セフィーラがはぐれゼントラーディの襲撃を受け壊滅的な被害を受けた。

トシキと両親は無事だったが、その襲撃により多数の死傷者が発生し、S.M.Sとセフィーラ駐屯の新統合軍はそれの対応に追われた。

 

その光景に心を痛めたトシキは、両親を手伝い共に救助作業を行った。この世界に来た影響からか、今までの身体の不調が嘘のようだった。

救助を手伝ったトシキはジンに、自分もジンとエイカのようになりたいと言い出した。それを聞き2人は複雑な心境だったが、それでも止めはしなかった。

 

 

 

 

 

A.D.2065

 

エデン3と呼ばれる惑星の衛星軌道で、同型の戦闘機2機がドッグファイトを行っている。

その2機の外見は、主翼中間部に置かれている物と主力を合わせた4発のエンジン。中翼は前縁がV字、後縁がΛ字の形状。外翼は菱形状になっている。

1機は純白。もう1機は藍色と漆黒の組み合わせだ。

しかし純白の機体の方は、その機体の特徴でもあろう大型のビーム砲が無い。

そのせいか、純白の機体はただ漆黒の機体が放つ銃弾、ビーム、ミサイルといった攻撃を全て回避しなければならない様子だ。

 

そして衛星軌道の小惑星帯から抜け、エデン3がその視界に入った。

純白の機体のコクピットに居る金髪の少女は、その海の星に見とれたがそれが致命的なミスとなった。

 

バトロイドに変形した漆黒の機体が直上から接近してくる。

そして左腕のシールド先端からナイフを突出させ、

 

「はっ!!」

 

そのまま切り付けてくる。

金髪の少女は咄嗟に純白の機体をバトロイドに変形させ、左腕のシールドで防ぐがバランスを崩し大きく後退。

その隙に右手のBGP-01β 55mmビームガンポッドを構え連射。

その内の1発が純白の機体のコクピット付近に着弾し、

 

「くぅっ!!」

 

キャノピーを破りコクピット内に爆風がダイレクトに伝わる。

その時に重要な箇所をやったのか、眼の光が失われノイズがかかり始める。それが次の動作を起こすまでのタイムラグを生み、漆黒のバトロイドが純白のバトロイドの両肩を持ち推し戻すようにゆっくると加速する。

 

「世話をかけさせるな」

 

漆黒の機体のパイロット、水色の髪の少女は金髪の少女にそう言う。

 

「わっ!?」

 

だが、純白のバトロイドは漆黒のバトロイドを強引に振りほどき、ファイターに変形させエデン3へ真っ直ぐ向かう。

 

「行くな!」

 

水色の少女が叫ぶが時すでに遅し。

純白の機体の左メインエンジンがスパークの後に爆発を起こし、減速せずに黒煙を吹きながら落下していく。

その様子を水色の少女は歯を食いしばって傍観する事しかできない。

 

そして純白の機体はそのまま地面へ急降下を続け、金髪の少女は操縦桿を引き機首を引き起こそうとする。

機首は起き上がるも速度が乗りすぎているため減速しきれずそのまま大気圏に突入。

熱圏を突破し地表が迫りくる。そして陸地に胴体着陸し、そのまま何メートルか滑り、近くの岩に激突。

 

「うぅっ!」

 

衝撃を殺しきれずパイロットの少女がキャノピーを破り外へ放り出される。

金髪の少女は何とか起き上がろうとするが、

 

「ぁ・・・」

 

少女の胸部辺りがスパークを起こし、少女の眼にノイズがかかりそのまま意識を失う。




ED:Waiting for the rain/坂本 真綾

今回はあまり自分で納得できる出来ではないですね、申し訳ないです・・・
あと、ドッグファイトやってた金髪少女は、この小説の1話既読済みの人は分かると思いますよ?


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STAGE4 少年 と 少女 と 怪奇

OP:DAYBLAKE'S BELL/L'Arc~en~Ciel


エデン3での戦闘から1夜明けた日。

その戦闘の事を調査するため、セフィーラからジンとエイカをはじめとした調査員が派遣される事となった。

 

「フォールド・アウト」

 

そのエデン3調査隊の水先案内人として、トシキともう1人が選ばれた。

 

「前方にエデン3を確認。無事に着いたようです」

 

そのもう1人、トシキの隣を飛行しているグレーの可変戦闘機(バルキリー)「VF-22 シュトゥルムフォーゲルⅡ」のパイロットの少女、「ハイデマリー・W・シュナウファー」がトシキにそう告げる。

 

「よしマリー。このまま降下フェイズに入るぞ」

 

「了解です」

 

トシキはハイデマリーの事を「マリー」と渾名で読んでいるが、これは本人が名前で呼んでほしいと頼んだ時にそのままでは長いため略称でマリーと呼ぶ事にしているのだ。

ちなみにトシキの乗る白銀の下地に黒いラインの機体は、ジンが発見した幻の可変戦闘機と称される「VF-0 フェニックス」のD型の残骸を基にレストア・改修された特注品「VF-0X ガルーダ」だ。

 

そのまま2機は機体を水平にし大気圏への突入を開始する。その時に機体下部の装甲が赤くなるが可変戦闘機に搭載されているSWAG エネルギー転換装甲の効果で燃え尽きる事はない。

 

熱圏を突破し地表へ接近ギリギリのところで2機はガウォークへ変形し滑るように着陸する。

 

「あとは俺達の信号を拾って、味方が来るのを待つだけだな」

 

「はい」

 

お互いヘルメットを脱ぎ顔を外気に晒し、トシキの銀に近い白髪ショートヘアが風になびく。それはハイデマリーも同じ、彼女の銀髪と赤い瞳が露わになる。

トシキは持ってきていた携帯端末を出し、ヘッドホンを繋ぎ自分のお気に入りの曲『Baby's Tears』をかける。

最初は自分の持っていたスマートフォンのデータと何も変わりない事に一瞬驚きもしたが、もう慣れたようだ。

 

しばらく待っていると、セフィーラ新統合軍のノーザンプトン級ステルスフリゲート艦が到着し、ジンとエイカの「VF-19S エクスカリバー」を先頭に「VF-19F エクスカリバー」が4機、「VF-171 ナイトメアプラス」が4機合流する。

 

「では、これより調査を開始する。何か判明次第直ぐに報告するよう!」

 

『了解!』

 

ジンの号令と同時に整列していた調査員達が散り散りになる。

 

「服部軍曹、少し良いか?」

 

「は、はい!」

 

その中、ジンに呼び止められた黒髪ポニーテールの少女「服部 シズカ」がジンの下に駆けよる。

 

「君は、今回は私の息子と行動しろ」

 

「・・・はい!?」

 

まさかの発言に静夏が素っ頓狂な声を上げる。

今確かにジンは息子、つまりトシキと共に行動しろと言ったのだ。

 

「な、何でですか宮本中佐!?彼といるハイデマリー准尉でしたら分かりますが、彼は軍人ですらありませんよ!!?」

 

「だからだ。たまには軍以外の人間とも関わりを持ってほしい」

 

「く・・・!」

 

実はシズカ、トシキに対しあまり良い感情を抱いていない。

父親であるジンの影響でチヤホヤされたり媚びつらわれたりしていて、碌な実力も持っていないと思い込んでいる。

 

「・・・分かりました」

 

しかし上官の命令には逆らえず、渋々トシキと合流する。

トシキは既にハイデマリーと共に調査を開始しており、シズカもその調査活動に加わるが、トシキと距離を置いている。

 

(見てなさい、貴方が宮本中佐には不釣り合いだって事を・・・!)

 

シズカが裏で黒い感情を燃やしている時だった。

 

「マリー!」

 

「トシキさん?」

 

突然トシキがハイデマリーを呼ぶ。

そこにあったのは、何か大きな物が引きずったような地面がえぐられた跡だった。

 

「これって・・・」

 

「間違いありません、この先に何か・・・」

 

2人は跡を辿り歩いていく。

その先には岩に激突し大破に近い状態の可変戦闘機「VF-27」があった。

さらにその先には、意識を失っている金髪の少女が倒れている。

 

「こいつは・・・、マリー!オヤジ・・・ジン中佐にすぐ連絡を!」

 

「はい!」

 

トシキに頼まれ、ハイデマリーはジンに連絡を入れる。

慌ててシズカがトシキ達に追いつくが、既にハイデマリーがジンに連絡を入れており、結果としては見落とした自分の失態だと勝手に思い込んでしまいトシキを睨むように見るが、その目線に本人は気づかないまま少女の救命行動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

そこは完全に荒れていた。

散らかされているペットボトルや菓子の袋、そんな場所で唯一綺麗に整理されている場所、そこには某アニメのキャラフィギュア「バルクホルン」「ハルトマン」他多数、さらに可変トイの「SV-51」や「VF-27」「YF-29」等も飾られている。

 

そしてその場所の主は、現在ベッドに倒れこみ顔を枕に埋めている。

 

シアンカラーのショートヘアで、歳に不釣り合いな小柄な体系の少年、黒江 直人だ。

 

彼は自分の親友、宮本 俊樹が突然他界してしまった事を聞き、何処かに穴が開いたかのような空虚感を感じていた。

それから彼は学校に通う時も、大好きなフィギュアを買いに行くときも、何か虚ろな感じだった。

 

「俊樹・・・」

 

ポツリと親友の名前を口にする。

その脳裏に浮かぶは、俊樹と過ごした日々。身体こそ弱かったが模型やフィギュアを買いに行った時に見せた顔は、自分と同じような笑顔を見せていた。

 

―――――――望むかい?

 

「っ!?」

 

突然、直人の頭に響くように声が聞こえ、思わず飛び起きる。

 

「誰だ!?」

 

―――――――僕?何でもないかな?それより君、大好きな親友に会いたいんでしょ?

 

「!!」

 

まるで自分の心を読んだかのような発言に、直人は言葉を詰まらせる。

 

――――――だから、僕が彼に会わせてあげるよ。

 

「だから、あんた誰なんだよ!?何言って・・・っ!!」

 

突如、直人を強烈な頭痛が襲う。何か鋭利な物に刺されたかのような鋭い痛みだ。

 

「なん、だよ・・・!!?」

 

痛みにより、視界が歪む。平衡感覚が無くなる。徐々に意識が薄れていく。

 

(だ・・・、駄目だ・・・もう・・・)

 

身体から全てが抜け落ちていくような、そんな感覚だった。

そして・・・、ついに直人はその場に倒れこむ。




BD:Waiting for the rain/坂本 真綾

また別キャラ参戦です、段々タグ通りクロスオーバーっぽくなってきましたよ。
さて、読者の皆様は何処の原典かお分かりですよね?


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STAGE5 ファースト・フライト ACT1

OP:DAYBLAKE'S BELL/L'Arc~en~Ciel


「あの、大丈夫ですか?」

 

「う、ん・・・?」

 

気が付いたら、直人はそこにいた。

そこは何処か皇族じみた佇まいの病室だった。

 

「よかった・・・。あなた、ここに倒れてたのですよ?」

 

そして目の前には車椅子に座っている栗色の髪の少女。直人は見覚えがあったが確証がないために言葉にできなかったが、少女は確かに言った。・・・自分の名を。

 

「私、ナナリー・ランペルージと言います」

 

「・・・ファッ!!?」

 

 

 

 

 

セフィーラ宙域。

デフォールドしたノーザンプトン級ステルスフリゲート艦内の医務室で、トシキが発見した金髪の少女のメディカルチェックが行われていた。

 

「どうだ、この͡͡娘の状態は?」

 

室内で様子を見ているジンが船医に問う。

 

「意識はまだ回復する見込みはありませんが、バイタル自体は安定しています」

 

「そうか」

 

ひとまず一息つくジン。

 

「しかし、彼女の身体から金属反応が検出されています」

 

その船医の言葉に一瞬、耳を疑うジン。本来なら肉体から金属反応が出るなどあり得ない。

・・・()()()()を除けば。

 

「まさか、この娘は・・・」

 

「・・・恐らく中佐の推測の通り、彼女は・・・機装強化兵(サイバーグラント)でしょう」

 

その言葉に、ジンは右手を強く握り締める。

認めたくはなかったが、これで何故エデン3にVF-27があったのか辻褄が合ってしまう。

 

「VF-27 ルシファー」は今は壊滅したとされる船団、「ギャラクシー」が開発した機装強化兵専用の可変戦闘機だ。

最大の特徴はその操縦系統。パイロットの脳と機体のセントラルコンピュータを光学回路で接続する事で完全な思考制御を可能とする。

 

しかし機装強化兵には倫理的問題も大きく、あまり量産には至っていない。

そうなれば、VF-27などという機体を運用する組織は限られてくる。

 

しかし、今のジンにその心当たりは無い。

 

「中佐?」

 

「ん?あぁすまない、考え込んでしまった。彼女に何かあった場合には報告するよう」

 

「はっ!」

 

ジンはそう言い残し医務室を出て、艦内格納庫へ向かう。

ジンの機体は青いVF-19S エクスカリバー。その尾翼に自分のパーソナルマークである隼が描かれている事から、The Blue Falcon(青い隼)という異名が付いた。

 

ちなみに妻のエイカと会ったのも、新統合軍と惑星ヴォルドールとの小さな紛争時。

当時、反統合軍派だったエイカは当時の乗機であった「VF-11B サンダーボルト」で出撃したが、当時大尉であったジンに撃墜された。

その時のエイカはプライドが高かった為、撃墜地点でジンと遭遇した時はジンを殺そうとし、失敗した時も自分を殺せと申し出たが、ジンはそんな事はせず捕虜収容所に収監されても変わらない態度で接してくるジンに次第に

惹かれていきゴールインしたそうだ。

 

ジンが整備しに声をかけようとした時だった。

 

「宮本トシキ、貴方はジン中佐に相応しくありません!」

 

そんな声が響いた。それは、間違いなくシズカの声だった。

 

「相応しくない?」

 

「はい、私は貴方が気に入りません。ジン中佐の事で媚びへつらわれている貴方が!そもそも、貴方には態度も実力も・・・」

 

その言葉に、トシキの中の何かが切れた。

 

「そういうお前だって、バルキリー乗れる以外は取柄無いだろ?見たぜ?お前の作ったメシ食って医務室に運ばれてる奴」

 

売り言葉に買い言葉。その言葉に今度はシズカが反応した。

 

「なっ・・・な・・・っ!!」

 

「それにあんた軍人家系の娘で、当時の教官がオヤジだった。あんたこそオヤジに媚びへつってんじゃないのか?」

 

その言葉で、シズカの怒りが沸点に達した。

 

「決闘ですっ!!」

 

トシキを指さし発言する。

トシキは口端を吊り上げる。

 

「いいぜ、口より分かりやすくていい!」

 

一触即発の雰囲気が漂う中、艦内に警報が鳴り響く。

 

「警報!?」

 

「これは・・・緊急発進(スクランブル)警報です!」

 

 

 

「状況を報告!」

 

「現在、セフィーラ基地が所属不明勢力の空襲下にある、との事です!発進可能な機は順次発進を!」

 

「了解!」

 

艦長から状況聞いたジンはすぐさまVF-19Sに搭乗するが、ここで面倒事が起こる。

 

「トシキさん、危険です!」

 

ハイデマリーの静止を無視しトシキがVF-0Xに乗り込む。

それに続くようにシズカもVF-19Fに搭乗し、エンジンに火を入れる。

 

「いい機会です、撃墜数で勝負を決めましょう!」

 

「OK、乗った!」

 

2人は完全に臨戦態勢。そのまま発艦位置まで機体を動かしスタンバイする。

 

「いいのかトシキ?これは遊びではなく実戦だぞ」

 

「分かってる・・・分かってるさ。でも、もうあの時とは違うんだ!」

 

ジンの忠告も振り切り、カタパルトからVF-0Xが発艦する。

 

「負けるか!!」

 

触発されシズカのVF-19Fも発艦、2機は先陣を切り突撃していく。




ED:Waiting for the rain/坂本 真綾

また別シリーズのキャラが参戦です。


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STAGE6 ファースト・フライト ACT2

OP:DAYBLAKE'S BELL/L'Arc en~Ciel


大気圏に突入しセフィーラ基地へ降下していくVF-0XとVF-19F。

トシキとシズカ、両者の目が合い2機はすれ違う。それが勝負開始の合図となった。

 

セフィーラ基地を襲撃していたのはVF-171 ナイトメアプラスが10数機。中にはミサイルの代わりに爆弾を搭載した爆撃仕様の「VB-171」もいた。

 

「敵性勢力機に爆撃仕様の機体も・・・やらせるか!」

 

VB-171を識別するや否や、シズカはVF-19Fを加速させる。

その中で、トシキのVF-0Xにはハイデマリーからの通信が来ていた。

 

「トシキさん、敵性機の中には爆装している機の存在もあります。彼らの目的は恐らく基地自体の破壊です」

 

「目的が分かってるならやりやすい、爆撃機からやる!」

 

「分かりました。背後は私に任せてください」

 

ハイデマリーの言葉に?マークが浮かぶトシキだが、キャノピーの上を見て納得した。

ジンの青いVF-19Sを先頭に発艦した部隊が次々と降下してきている。

当然その中には、ハイデマリーのVF-22もあった。

 

「分かった、背中は任せるぞマリー!」

 

「了解」

 

ハイデマリーのVF-22がVF-0Xのバックアップに入る。

まずは地上に降り攻撃しているバトロイド形態のVF-171。トシキは機体をバトロイドに変形させ、VF-25から流用したGU-17A 58mmガンポッドを撃ちながら降下。敵バトロイドのガンポッドと両手を撃ち抜き勢いそのまま脚部にピンポイント・バリアを展開。敵バトロイドに突撃しかかと落としを食らわせ行動不能にする。

 

「無茶苦茶ね・・・。ジンにそっくり」

 

「心外だなエイカ。私もあんな無茶をするか?」

 

ジンのVF-19Sに並走するエイカの黄色く塗装されたVF-19S。ジンとエイカはこの状況でありながら夫婦のやりとりをしていた。そんな中でも的確に敵機を息の合った連携で着実に撃墜していく。

 

「すごいですね」

 

「ああ・・・、自慢のオヤジと母さんだよ」

 

ハイデマリーと簡単なやりとりをしているトシキは、気合を入れ直す。

 

「よし、負けてられるか!マリー!」

 

「はい」

 

トシキとハイデマリーは機体をガウォークへ変形。空に戻る。が、上空のVB-171が基地に向け爆弾を投下した。

 

「マズい!」

 

「トシキさん!」

 

トシキは機体をファイターへ変形。投下された爆弾に向かう。

 

「間に合えぇぇぇっ!!」

 

ファイターの状態で腕を出し、投下された爆弾を回収。すぐさまガウォークへ変形させ爆弾を基地のない方上空へ投げる。

直ぐに爆発が起きトシキは僅かに煽られるが、直ぐに立て直す。

すると近くのVB-171がガウォークへ変形し、トシキにガンポッドを向けるがトシキが先にVB-171のガンポッドを破壊。敵はファイターに変形し逃走。すかさずトシキもファイターに変形し追撃する。

 

 

 

 

「あいつ・・・私だって・・・!」

 

シズカはトシキに触発され追撃しようとするが、

 

「くぅ・・・!」

 

機内に衝撃が奔る。見れば左主翼から煙が出ている。

後方からシズカを仕留めんとばかりにVF-171が3機接近してくる。

 

 

 

 

「見失った・・・!」

 

トシキは辺りを見回し、逃したVB-171を探す。

その時、通信が入る。

 

「メーデー!メーデー!!」

 

「救難・・・!?っ、あいつ!!」

 

トシキは3機のVF-171に追い詰められているシズカのVF-19Fを発見する。

ガンポッドを壊され、余裕を見せるVF-171のうち1機が別方へ行く。

 

「バカにして・・・!!」

 

何とか反撃しようとするが、武装もなく相手は2機。逃げられる訳もなくシズカは2機から集中攻撃を受ける。

両腕にピンポイント・バリアを展開し防いでいるも、機体エネルギーも徐々に低下。これ以上は持ち堪えられない。

 

「やらせるかぁぁぁっ!!」

 

トシキが駆け付けガンポッドをVF-171に向け乱射するが、それ故に見えてしまった。

弾丸の大半は敵機に命中し敵パイロットが脱出するが、間に合わず機体の爆発に巻き込まれた。

 

「・・・!!」

 

見ていたもう1機のVF-171は貯まらずファイターに変形し逃走を図るが、追いついたハイデマリーのVF-22に右主翼を撃ち抜かれ地上へ落下していく。

 

その後残った敵機は基地破壊を断念し撤退していく。

 

「逃げたか・・・」

 

「ええ、これでひと段落ね」

 

「どうかな・・・」

 

「え?」

 

ジンの返答に疑問を感じるエイカだったが、ジンのガウォーク形態のVF-19Sが指さす。

その先にはトシキのVF-0Xがあり、それでエイカは納得した。いや、してしまったの方が正しいだろう。

この日、トシキは生まれて初めて、人を殺したのだ。

 

 

 

 

戦闘終結後、トシキが撃墜した機体の真下は落下した残骸で2次被害が発生していたが、その被害は小さな物だった為お咎め無しだったが、

 

「・・・ぅっ!!」

 

その現場を目の当たりにしたトシキは、急に気分が悪くなり口元に手を当てるが、堪えきれず胃の中の物を戻してしまった。

 

その様子をシズカは遠くから見ていた。

 

「礼は言わないのか?」

 

「中佐・・・」

 

隣にジンがやってくる。あの場にいたジンも分かっていた。トシキが人を殺した代わりにシズカは助けられた事を。

 

「覚悟もないのにしゃしゃり出て、いざ戦った後はあの様ですか。呆れますね・・・」

 

「そうでもない。トシキも覚悟こそしていたが、思いの外きたんだろう」

 

「え・・・?」

 

「君は、トシキの事を少し誤解しているという事だ」

 

その後ジンは、トシキの事を話した。

2059年、はぐれゼントラーディのセフィーラ襲撃事件でトシキが心を痛め、民間人でありながら救助作業を手伝った事。ジンに頼み可変戦闘機の操縦技術を学んだ事。

その事を聞いたシズカは呆然としていた。

 

「すぐにとは言わない。少しずつ、あいつの事を分かってやって欲しい」

 

シズカにそう告げジンは立ち去る。

その時彼女には、トシキを見ている事しかできなかった。




劇中曲:First Flight/ACE COMBAT 5 THE UNSUNG WAR

ED:Waiting for the rain/坂本 真綾


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STAGE7 和解 と 名付け

OP:DAYBLAKE'S BELL/L'Arc en~Ciel


「ごめんなさい!」

 

例の金髪の少女の見舞いに来ていたトシキに待っていたのは、シズカからの謝罪だった。

トシキは勿論、同行しているハイデマリーも少し困惑している。

 

「私は貴方の事を少し誤解していました。ジン中佐から聞きました、貴方が・・・」

 

「あ~ストップ。まず顔上げろよ?」

 

頭を下げたまま言葉を続けるシズカを一旦止める。

いきなり態度を変えられるのは、トシキとしても違和感しかなかった。

 

「いきなり謝られても気持ち悪いし、少しずつ慣れてこうぜ?」

 

トシキにそう言われると、シズカは難しそうな顔をする。ついでに頬も少し朱に染まっている。

 

「分かりました・・・宮本、さん・・・」

 

(名字呼びか・・・オヤジと母さんも入るんだけどな・・・。仕方ないか)

 

内心微妙に思いながらも仕方なくトシキは納得する。

その後はシズカと別れ、少女のいる医務室に着く。

担当医はおらず、例の少女がベッドで横になっているだけだ。

 

「まだ目、覚ましてないのか・・・」

 

「そうみたいです・・・かわいそうですね・・・」

 

ハイデマリーの言葉に小さく頷き、少女の手をそっと取った時だった。

頭部の1部が軽いスパークを起こした後、少女の目がゆっくりと開きその奥の青い瞳が見える。そして少女はゆっくりと起き上がる。

 

「トシキさん・・・っ!」

 

「ん・・・?わっ!?」

 

一連の動作に気づいていなかった2人は、少女の行動に驚く。

 

「再起動シーケンス、オールクリア。通常モードを起動します」

 

少女の口から淡々とした言葉が出るも、少女は目覚めた。

その事実にトシキ達は歓喜しそうになるが、少女の言葉でその思考は停止する。

 

「・・・始めまして、マスター」

 

「・・・へ?」

 

少女の言葉にトシキはおろか、ハイデマリーもポカンとなる。

〝マスター〟。確かに少女はそう口にした。・・・トシキに向け。

 

「マスターって・・・俺か?」

 

「肯定です。今後の行動を円滑にする為私に個体識別名称の登録をお願いします」

 

「??」

 

「名前をつけて欲しい、という事ではないでしょうか?」

 

少女の言葉に理解が追いつかないトシキの為か、ハイデマリーが解説する。

 

「そういう事か?」

 

とりあえず理解したトシキは何か良い名前を捻り出そうとするが浮かばない。

そんな中ふとよぎった。自分が過去に呼んでいた小説に登場した、少女と同じ金髪青眼の少女の名・・・。

 

「・・・アリス。アリスはどうだ?安直だけどな」

 

「・・・個体識別名称を認識、登録しました」

 

そう少女は言うと、ゆっくりとベッドから起き上がり、トシキに頭を下げる。

 

「私はあなたの従者として務めを果たしていく事を誓います。これからよろしくお願いします」

 

「あぁ・・・こちらこそよろしく・・・」

 

アリスと名付けた少女から挨拶を受け、思わずトシキも挨拶を返す。

トシキとアリス、主人と従者という奇妙な関係がここに誕生した。

 

その後に担当医が部屋に入り少女が起きていた事を慌ててジンに報告。

アリスの検査が行われその時にアリスがトシキをマスターと呼び、関係を疑い問い詰める者やその発言に笑う者で、トシキが赤面し悶えたのは別の話。

 

 

 

 

とある惑星、某所・・・。

夜空に舞うシアンカラーの細長く曲線的な形状の可変戦闘機。

その開発を任されていたであろう男たちがその可変戦闘機のデータを取っていたところに、黒いマントを纏った青年がやってくる。

 

「どうだ、準備の方は?」

 

「順調ですよ閣下」

 

開発者のリーダーであろう男がそう返答し、再び上空の可変戦闘機に目をやる。

 

「VF-27と同型のFF-3011/Cを搭載し、スーパーパックも装備できます。更にISC、リニア・アクチュエーターも装備。現行機にも引けを取らないどころか負けるところが想像できませんよ。ウチの〝SV-51λ ネヴァン〟は」




ED:Waiting for the rain/坂本 真綾


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STAGE8 新調 と 失意

OP:DAYBLAKE'S BELL/L'Arc~en~Ciel


金髪青眼の少女、アリスが目覚めてから1週間が経った。

最初は感情表現が乏しかったが、トシキやハイデマリー達と過ごしていく内に凄まじい早さで感情表現や日常での生活を覚えた。

 

今日はハイデマリーとシズカはジンとエイカの任務に参加する為に不在。トシキとアリス2人でセフィーラの首都ハイドシティに来ている。

アリスの格好は一時期に人気を博したらしい女子用スクール水着のような白いボディスーツ。いつまでもその格好ではマズいのではと思ったトシキの計らいで来たのだ。

 

2人はハイドシティのショッピングモールに着き、その中の女性服店に寄る。

アリスは目を輝かせ店内の服を見る。恐らく普段見る機会がなかったのだろう。

 

「アリスはどれがいい?」

 

「私は、マスターの選んでくれた物でしたら何でもいいですよ」

 

その返答にトシキは困る。

自分が女子の服を見繕う事などないと思っていた為、そういった知識がない。

過去に呼んだ小説の記憶を頼りに、女子がどのような服を好むかを考える。

結果選んだのは、彼女の金髪に合いそうな白いワンピースと黒いボレロショール。

 

「わぁ・・・素敵です!」

 

「なら、そこで着れるから着てこいよ」

 

取った服をアリスに渡し、トシキはアリスが試着室から出るのを待つ。

少し経ち、試着室のカーテンが開く。

その奥の光景に、トシキは思わず言葉を失う。

 

「ど、どうでしょうか・・・?」

 

少し恥ずかしそうにモジモジするアリスが、より雰囲気を引き立てている。

白いワンピースからスラッと伸びる白い足。丈は膝より少し上で太ももが僅かに見える。

その上から黒いショールを羽織っている。

 

「綺麗・・・」

 

無意識にそんな言葉が出ていた。

 

「ま、マスター・・・?」

 

「あ、悪い・・・、あんまり綺麗なもんで・・・」

 

「そ、そうですか・・・?」

 

2人とも顔を赤く染め、お互いに顔を反らす。

トシキは首を振り意識を改める。

 

「他に何か見繕ってくるよ」

 

「あ、いえっマスターにそんな・・・」

 

「女の子が大して服持ってないなんて、同年代じゃ笑われるぞ?センスは無いけど何着かは持っておけよ」

 

そう言いトシキは店の奥に消える。

 

(なんか、彼女に服をプレゼントする彼氏みたいだな・・・)

 

心のどこかでそう思いながら、店内を物色するトシキ。

それからまた数分が経った。

 

「悪い、待たせた!」

 

何やら色々と持ってトシキが戻ってきた。

ノースリーブ、青のスカート、前開きの白いアウトスカート、黒の編上げショートブーツ等といった物。

 

「こ、こんなにたくさん・・・私の為に・・・、ありがとうございます!」

 

「お礼は買うもの決めてからにしようぜ?」

 

持ってきた服と靴をアリスに渡し、再び試着室のカーテンが閉まる。

 

「えへへ・・・」

 

カーテンが開き、着替えたアリスが現れる。

今度は白いノースリーブのトップスに青のスカート、丈は膝より少し上だ。

更に前開きの白いアウトスカートを黒いベルトで留めている。

足にはトシキが選んだ黒い編上げのショートブーツ。

 

嬉しくなったアリスはアウトスカートをつまみ上げ、その場で1回転する。

アリスはトシキを見て。トシキは笑顔を浮かべ軽く拍手。アリスもトシキに笑顔を返す。

結果、後に試着したノースリーブとスカートのセットをそのまま着て帰る事とし、支払いはトシキが済ませる。代金はそれなりに高くついたが、普段使うような機会のないトシキは小遣いを貯金していた為支払えた。

 

「マスター、今日はありがとうございました!」

 

「いいって。一応主人なんだから多少の面倒見くらいはな」

 

帰り道、荷物を持つトシキにアリスがお礼を言う。途中で統合軍の艦隊が戻ってきた為トシキはジン達に労いの言葉でもかけようと思い軍の基地に寄る事にした。当然アリスも同行する。

軍は既にトシキの活躍を知っている為、特に怪しまれずに通してくれた。

格納庫でハイデマリー達を見つけたが、どういう訳か全員浮かない表情だ。エイカに至っては目元に影がかかっている。

 

「トシキさん・・・」

 

ハイデマリーがトシキに気づくが、やはりどこか暗い。

 

「どうしたんだ?何かあったのか?」

 

「・・・本来はトシキさんには話せないのですが・・・」

 

ハイデマリーがゆっくりと真実を告げる。

 

「・・・作戦行動中に所属不明の軍と交戦し、私達を撤退させるためにジン中佐が殿に・・・。撃墜、されました・・・」

 

「・・・なんだって・・・!?オヤジが・・・?」

 

告げられた真実を飲み込む事ができず混乱、持っていた袋を取り落とす。

トシキはハイデマリーの両肩を握り詰め寄る。

 

「どういうことだ!?なんでそんな事に!?」

 

「落ち着いてくれ、トシキ君」

 

トシキとハイデマリーの間に割って入った金髪の初老の男性、統合軍艦長マリク・シザースが止める。

 

「すまないが軍規があるので詳しくは話せない。しかし宮本中佐、君の父は勇敢だった。気をしっかり持ってくれ」

 

マリクがトシキに慰めのような言葉をかけるが、それでもトシキは俯いたままだ。

 

(オヤジが・・・負けた・・・)




ED:Waiting for the rain/坂本 真綾


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STAGE9 開戦

OP:DAYBLAKE'S BELL/L'Arc~en~Ciel


ジンが撃墜されたという報告から1日が経とうとしていた。

 

あの後トシキはエイカに自分を軍に入れろと、父であるジンの仇を討たせろと詰め寄ったがエイカは良しとしない。実はジンとの別れ際に約束していた。

 

「もしトシキが私の仇を討とうと軍に入ろうとしても、それは止めてくれ」

 

ジンは軍に入り、今では多数の部下に慕われているがその前までは後悔や挫折を繰り返してきた。

トシキには同じようになって欲しくないと思いこの言葉をエイカに遺していた。

 

その言葉を聞き、トシキは自分が何をすればいいのか分からなくなってきた。

いままでジンの背中を追い訓練を重ねてきた、その目標がなくなってしまったのだ。

その失意を、バイトや訓練で紛らわそうとしたができなかった。

 

今日もトシキはハイドシティに来ていた。今回はハイデマリー達も共にいる。

しかし同行している3人とも、失意に沈むトシキを見ていられなかった。

 

「・・・皆さん、私はどうすればいいでしょうか・・・」

 

「アリスさん・・・」

 

「私、今のマスターをこれ以上見ていられません・・・今にも壊れそうで・・・」

 

震える声でアリスが言う。

その言葉の通り今のトシキはステンドグラスのような触れたら粉々になりそうなほど繊細な物。

どんな言葉をかけていいのか分からなかった。

 

「・・・ダメですね私。マスターから色んなものをもらってるのに、私は何もお返しができなくて・・・」

 

「そんな事はないと思いますよ」

 

アリスの自虐とも取れそうな言葉にシズカが帰す。

そのまま言葉を続けようと口を開きかけた時だった。

 

突如ビルのモニターにノイズがかかり始める。

市民はモニターの故障かと疑うが、そうでない事はすぐに証明される。

モニターに黒いマントを羽織った黒髪の青年の姿が映しだされる。

 

「全銀河の新統合政府に告げる!私は新生マクロス・ブリタニア軍総統。ルルーシュ・ランペルージである」

 

「ブリタニア!?第18船団マクロス・ブリタニアの・・・!?」

 

青年、ルルーシュの言葉にハイデマリーとシズカが驚愕する。

13年前、反乱を企てていたと報告され新統合軍が内部紛争という名目で粛清を行った船団だ。

しかし何名かが逃亡に成功し反撃の機会をうかがっていたのだ。

 

「大儀もなく同胞を葬った新統合軍から、手始めに惑星エリュシオンを解放した!」

 

「エリュシオン・・・!」

 

「どうしたんだ!?!何が!?」

 

「・・・エリュシオン、私達が先の任務で向かった惑星です・・・」

 

「っ!!」

 

ハイデマリーの言葉にトシキは理解し、画面に映るルルーシュを憎々しげに見つめる。

 

「こいつらが・・・オヤジを・・・!!」

 

「そして我等新生マクロス・ブリタニアは、ここに統合政府に対し宣戦を布告する!!」

 

 

 

 

 

 

 

「凄い騒ぎになってるよ、ルルーシュ?」

 

「当然だろう。自分達が潰したと思っていた反乱分子が生き残り、ましてや宣戦布告なんてしたんだ」

 

応接室のような部屋で2人の人物が話している。

1人は先ほど新統合政府に宣戦布告をした黒髪の青年ルルーシュ。

もう1人は茶髪の青年、ルルーシュの友人であり新生マクロス・ブリタニア軍佐官の〝枢木 スザク〟だ。

 

「ここまでやったんだ、もう止まれないよ?」

 

「そのつもりはないさ。そうでなければ・・・」

 

「2人を・・・ユフィとナナリーを幽閉なんてしなかっただろ?」

 

2人の会話に、新たに部屋に入った低身長のシアンカラーの髪の少年が加わる。

 

「・・・そうだな。これから俺達は銀河に戦争を仕掛けるんだ」

 

「「イェス、ユア ハイネス」」

 

ルルーシュの言葉にスザクともう1人が答える。

ふとルルーシュがシアンカラーの少年の方を向く。

 

「お前の力はスザクも認めている。期待させてもらうぞ・・・ナオト」

 

「ありがと、ルルーシュ」

 

ルルーシュの期待の言葉にシアンカラーの少年・・・黒江 直人が返答する。




ED:Waiting for the rain/坂本 真綾

いよいよ本格的なクロスオーバーですね。
キャラもおさらいしないといけませんので、ここから先はペースも遅くなるかもしれませんのでご了承ください。


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STAGE10 セフィーラ 侵攻

OP:DAYBLAKE'S BELL/L'Arc~en~Ciel


新生マクロス・ブリタニア総統ルルーシュ・ランペルージからの宣戦布告から3日。

 

事態を重く見た統合政府はセフィーラ駐屯の新統合軍に惑星エリュシオンへの進攻を命じた。

トシキも参加すべく基地に行ったが、エイカに止められた。

 

「貴方が何て言っても、絶対に戦闘には連れていかない」

 

そう言い残し、エイカは進攻部隊の艦船に乗り込み艦隊は出発した。

 

「クソッ!」

 

自棄を起こしトシキは右手で近くの壁を思い切り殴る。

それでも吹っ切れる事はなく、殴った右手からは軽く出血を起こしていた。

 

「痛って・・・」

 

「マスター・・・」

 

見ていられなかったのか、後ろからアリスが心配そうな顔をしながら声をかける。

 

「お母様と、喧嘩されたのですか・・・?」

 

「・・・」

 

そこからはお互い、無言の時間が続いた。

アリスも何か言おうとするが、何故か口が閉じてしまう。

だからか、先に口を開けたのはトシキの方だった。

 

「・・・俺さ、最初は人助けのつもりだったんだ」

 

「え?」

 

「バルキリーに乗る理由が、最初はセフィーラがはぐれゼントラーディに襲われて沢山の人が怪我したり死んだりして・・・それを見てられなかったからオヤジと母さんにバルキリーの乗り方を教えてもらってたんだ」

 

「オヤジはすげぇバルキリー乗りで色んな人に慕われててさ・・・。そんなオヤジは俺の誇りだったし、憧れだったんだ。だからオヤジが撃墜されたって話を聞いたとき、どこかで認めたくないって思ったんだ」

 

「はい・・・」

 

「・・・母さんが、俺がオヤジの敵討ちをするのを望んでないって分かってるつもりだった・・・それなのに敵討ちをさせろなんて生意気言って・・・」

 

トシキの告白にアリスはただ黙るだけ。

 

「あ・・・ごめんな、アリスに何言って・・・」

 

「いえ・・・うれしかったです。マスターの事をまた知れて。普段のマスターは前向きですから・・・」

 

アリスにそう言われ急に恥ずかしくなり顔を朱くするトシキ。

その時だった。

 

「急げ!スクランブルだ!!」

 

基地に残っていた兵士が駐機している可変戦闘機に乗り込んでいく。

トシキはっその中の1人を止め状況を聞く。

 

「何があった!?」

 

「トシキ君か!セフィーラの衛星軌道にデフォールド反応があった!ここは危険だ!」

 

兵はすぐに停めてあった可変戦闘機に乗り込み滑走路へ移動。離陸する。

トシキは少し立ち尽くすが、右手を握りしめ駐機中のVF-0Xへ駆けこむ。

 

「マスター!!」

 

「アリスはすぐに逃げろ!」

 

すぐにキャノピーを閉め滑走路へ移動する。

 

《トシキ君!?何してるんだ!?すぐに避難しなさい!!》

 

「できるかよ!ここをやられたら母さんやマリー達が帰れなくなるんだ!!」

 

管制塔の静止も振り切りトシキはVF-0Xを発進させる。

トシキが上がった事で軍の指揮系統に若干の混乱が現れる。

 

《・・・防空任務に上がった全機へ。トシキ君はエイカ大尉達の家を守りたいそうだ。お前達もそうだろう?》

 

管制官の言葉に軍のパイロット達は一瞬黙るが、すぐに「そうだ!」「礼儀知らずを叩き出してやる!」等の声が出てくる。

 

《民間人に気概で負けるな、俺達も俺達の家を守るぞ!》

 

『おー!!』

 

管制官の声に新統合軍の兵達が雄叫びを上げる。

戦闘のセフィーラ新統合軍のVF-171が機体を翻したのを皮切りに他の機体も機体を翻して不明勢力へ突っ込んでいく。

トシキもその例に漏れず不明勢力との戦闘を始める。

不明勢力の編成はVF-11、VF-171と量産機がほとんどである。

 

《こちら第14飛行隊所属ラナー。敵は広範囲に展開中》

 

セフィーラ軍の女性索敵員が全機に連絡。

その報告通りデフォールドした勢力はハイドシティのほぼ全域に展開している。

 

《敵の所属が判明した。現在交戦中の勢力は宣戦布告で騒ぎになっている、新生マクロス・ブリタニア軍だ》

 

《ブリタニアが!?》

 

《宣戦布告早々に侵略とは、随分な大喰いだな》

 

敵の所属が分かりながらも軽口を叩けるという事はまだ余裕があるという事だろうか。

しかし事実、新生マクロス・ブリタニア軍の可変戦闘機部隊は練度が低そうな機動だ。

 

練度ではセフィーラ新統合軍が勝っているようで、1機、また1機と着実にブリタニア機を撃墜していく。

 

《挨拶も無しに人ん家に入り込みやがって。許されると思ってるのかブリキ野郎!》

 

「そうだな。帰す前に礼儀を教えてやろうぜ」

 

兵士の言葉に軽口をこぼすトシキ。

トシキもまたブリタニア機のを墜としていく。

ただし先に人を殺した事への恐怖からか、コクピットは狙っていない。

 

《ブリタニア軍の脅威レベル低下。持ち堪えられそうだ》

 

管制官からの連絡に兵士達は更にペースを上げる。

 

《ブリキ野郎の動きが鈍ってきた。もう息切れか》

 

確実にブリタニア軍の可変戦闘機の数が減ってきた。

もう1息で完全にブリタニア軍を排除できる。

 

《ブリタニア軍の脅威レベル更に低下。セフィーラから叩き出せ!》

 

この時は誰もがセフィーラ軍の勝利を確信していた。

 

 

 

***

 

 

 

《アースガルズよりウィッチーズ、発射準備が整った》

 

その宙域に鎮座しているのは全通式飛行甲板を持った艦船。

全長はおよそ600メートル以上はあるだろう。

 

「こちらアイネアス1、了解!斉射後はすぐに行動に入る!」

 

幼さの残る少年の声が初老であろう男性の声に返答し、艦船の後方から可変戦闘機の編隊が合流する。

 

VF-11B,MAXLがそれぞれ1機ずつ、VF-17Dが2機、VF-19Aが1機,F型が2機、VF-22が2機、S型が1機、

・・・そしてその編隊の先導機は、シアンカラーのSv-51。

 

《全機に告ぐ。これよりフレイヤを射出する》

 

《カウントを開始しろ》

 

艦船の艦首に位置するVLS発射管が開放される。

中には発射体勢の大型ミサイルが多数。既にミサイルのブースターには火が入っている。

 

《発射まで5秒、4、3、2、1、ファイア!》

 

合図と同時に多数のミサイルが一斉発射され、艦船を追い抜いた可変戦闘機編隊を追い抜く。

 

「フレイヤが着弾したら、皆好きなようにやってくれ。仕上げにかかろう!」

 

『了解!』

 

少年の声に、編隊のパイロット達であろう少女達が返答する。

そして彼らは、ハイドシティ上空に突入する。

 

 

 

***

 

 

 

《何だこれは?・・・ミサイル!?》

 

管制官でさえ気づくのが遅れ、それが致命的な隙となった。

 

突如飛来したミサイルが起爆。

・・・その瞬間大きな光が発生した。何も知らずそれに触れた統合軍の戦闘機は跡形も無く消滅。

更に光が消えると、その発生源に向け突風が吹き荒れる。それにより他の統合軍機も被害を受けた。

 

《3番機の無線が途切れた、3番機は何処だ!》

 

《多数の巡航ミサイルが空中で炸裂!味方の反応が消えた!?》

 

《どこから来た!?》

 

先程のミサイルで指揮系統は混乱している。

しかもミサイル炸裂時の閃光現象はある物と酷似している。トシキはジンにそれを僅かながらも教わっていた。

 

「まさか、反応弾か!?」

 

《敵巡航ミサイル飛来!》

 

《ただの巡航ミサイルじゃない!死にたくなければ避けろ!!》

 

追い打ちをかけるかのように先程と同型の大型ミサイルが多数飛来。

着弾し光球が発生、その後に吸い寄せられるような突風が吹き荒れる。

 

「街は・・・、街は大丈夫なのか!?」

 

トシキは無線機に向け叫ぶが、軍は混乱している為誰も返答しない。

更に畳みかけるような事態も発生する。

 

《警報!レーダーに新たな敵影!なんて数だ・・・》

 

ブリタニア軍の増援が到着する。

その群の先頭は、ミサイル発射直後にセフィーラに突入したあの編隊だ。

 

《捉えた、皆始めるぞ!》

 

《はい!》《ああ!》《おう!》《うん!》

 

会敵した瞬間編隊を崩し各自戦闘を開始する。

今まで相手にしてきたブリタニア軍の兵士とはレベルが違い、次々とセフィーラ軍の戦闘機が墜とされる。

 

《全機へ、防空司令部より撤退命令が下された。セフィーラを放棄する。進路を西にとり当戦域を離脱せよ》

 

管制官から信じがたい言葉が放たれた。

今確かに、セフィーラを放棄する。・・・つまりはこの星の人たちを見捨てるという事に等しい。

 

《何を言ってる?その命令には承服できない》

 

《戦力的不利は明白だ、命令に従え。進路を西にとり撤退せよ》

 

管制官は撤退を強要。しかし軍の一部は渋っている。

 

《こちらウィンドホバー、俺達も残る》

 

《聞け!我々は一時撤退し、その後各方面の統合軍と合流し反攻に転じる。お前達を失う訳にはいかない、命令に従ってくれ!》

 

管制官の願意にセフィーラ軍の全員が黙り込む。

先に口を開けたのはトシキだった。

 

「・・・オヤジだったら、ここは絶対に退く!皆行こう!」

 

トシキの声に、他のセフィーラ軍機もやむを得ずハイドシティ上空から撤退していく。

それでも尚巡航ミサイルが追撃し、何機かが餌食となったが、残った機はからがら撤退に成功する。

 

《全機戦域を離脱。合流地点を送信する、そこで落ち合おう》

 

これが管制官からの最後の通信となった。

通信を切ったトシキは遠ざかっていくハイドシティを見やる。

 

「・・・絶対に、戻ってくるからな・・・」




劇中曲1:INVASION OF GRACEMERIA/ACE COMBAT 6 解放への戦火
   2:Overture/ARMORED CORE 4

ED:Waiting for the rain/坂本 真綾


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STAGE11 誓い

OP:DAYBLAKE'S BELL/L'Arc~en~Ciel


見渡す街には、火の手が上がっている。

私がこの現状を理解するのにそう時間はかからなかった。

 

マスター、・・・宮本トシキさんが行ってしまい、突然空が光ったと思ったら沢山消えていく飛行機。

そのままセフィーラの飛行機は遠くへ飛び去った。

つまり・・・セフィーラは、負けた。

 

「うそ・・・そんな・・・マスタァァァァ!!!」

 

私が悲鳴のような声を上げている事を、どこか遠くで聞いていた。

 

 

 

***

 

 

 

ほんの少しの間だけど、マスターと過ごした思い出は私の中に大きく残っていた。

いつも前を向いて少し行き過ぎな所もあるけど、だからこそ楽しかったし、嬉しかったのかもしれない。

お父様がいなくなって、意外と不安がる事も分かった。

でももう彼は・・・帰ってこない。

 

私は歩いた。

宛てもなく、何かを考えることもなく。

ただただ、人の流れに従って。

今の私は、他の人から見れば抜け殻のような人と思われているだろう。

でも、マスターがいなくなった日から何も考えることができなくなってしまっていた。

 

鉄橋のたもとには、味方の兵士とゼントラーディがいた。

 

「急げ、急げよ!」

 

「この先にはまだ生きてる鉄道が走ってて、港までちゃんとつながってるレールがある。この橋は敵が来る前に落とさなきゃなんねぇんだ、ほら急いで歩くんだよ!」

 

兵士とゼントラーディが、ハイドシティから逃げてきた人たちを急がせる。

でも、私はそれでも急ぐ気にはなれなかった。

もう・・・帰る場所も、待つ人もいないのだから・・・。

 

私は電車に乗ってセフィーラの宇宙港にたどり着く。

そこでは逃げて来た人たちを宇宙船に乗せて、セフィーラの外へ逃がそうとする軍の人たちがいる。

名簿も張り出されていたが、そこに私の知る名前は無い。

本当に私は、何もかもを失ってしまった。

 

その後宇宙船は発進しセフィーラから離れていく。

私たちは・・・戻れない。

 

「・・・アリス?」

 

私は確かに聞いた。その名前を。

アリス・・・私の名前を知っているのは、ほんの少しの人しかいない。

私は後ろを振り返る。そこにいたのは銀色の髪と金色の瞳を持っている、私の大切な人。

 

「マス、ター・・・?」

 

 

 

***

 

 

 

軍と共に撤退してきたトシキは、セフィーラの宇宙港へ逃げてきた難民たちに行われている炊き出しを手伝っていた。

そこでトシキは見知っている人影を見る。

長い金髪。服装は自分がプレゼントした白いノースリーブとアウトスカート。

不意に声を漏らした。

 

「・・・アリス?」

 

聞かれていたのか、少女・・・アリスはトシキの方を見る。

とたんにアリスの顔が驚愕に染まっていく。

 

「マス、ター・・・?」

 

「アリス!よかった、無事で・・・」

 

アリスが無事な事にトシキは一先ず安堵する。

しかしアリスは、目尻に涙をためる。

 

「マスタァーッ!!」

 

「うおっ!?」

 

感極まったアリスは溜まらずトシキに駆け寄り、そして抱き着いた。

突然の事にトシキは整理が追いつかず、更に女子に抱き着かれた事で顔を朱くするが、アリスの肩が震え嗚咽している事を理解すると静かに受けいれた。

 

「マスターッ・・・マスター・・・」

 

「悪い、心配かけたな・・・」

 

自分の突っ走った行動でアリスを不安にさせてしまった。その事を痛感した。

 

「失礼。君がトシキ君、ジン中佐の息子かな?」

 

そう言いながらトシキとアリスに近づく人物が3人。

その人物達は身なりから統合軍の人間である事は分かるが、その内の1人は胸に勲章と階級章をつけている。

恐らくは上級将校だろう。

 

「そうですけど・・・」

 

「私は新統合軍のアンドレアス・マルコフだ。民間人でありながら今回のセフィーラ防空任務に参加してくれた事にお礼を言わせてほしい」

 

「俺は自分にできる事をしただけですよ。それにおめおめと逃げてきたし・・・」

 

自嘲気味に笑うトシキに、アンドレアスと名乗った初老の男は首を横に振る。

 

「あれは私達としてもやむを得なかった。君が気に病む事はない。突然ですまないが君に話がある」

 

アンドレアスはそう言うとトシキに背を向け歩き出す。

そしてアンドレアスについていた兵士がトシキを案内しだす。

アリスは突然の事で立ち尽くすが、トシキの背が見えなくなった時に我に帰り慌ててトシキの後を追う。

 

 

 

***

 

 

 

トシキが案内されたのは将校の執務室。

アンドレアスは執務席に座りトシキはそのアンドレアスと向かい合う形となる。

 

「話というのは他でもない。現在、新生マクロス・ブリタニアと名乗る勢力によりセフィーラだけでなく他の星系の惑星も侵略を受けている。各惑星の統合軍もギリギリで奮戦しているがいつまで堪えられるか分からない状況だ」

 

アンドレアスの言葉にトシキは思わず言葉を失う。

セフィーラだけでなく他の惑星も同様に侵略を受けているという事は敵の力はそれだけ強大だという事になる。

 

「今の我々には戦力が大きく不足している。急にで申し訳ないのだが君には今後も統合軍と共に作戦に参加してほしい」

 

「それって・・・!」

 

「すぐに答えてくれとは言わない。決まったら教えてくれ」

 

そう言われると、トシキは部屋から出される。

部屋のドアのすぐ隣にはアリスが立っていた。

 

「マスター・・・」

 

「アリス、さっきの話聞いてたか・・・?」

 

トシキの問いにアリスは静かに頷く。

彼の心は、もう決まっているような物だ。

 

「・・・俺、さっきの話受けるよ」

 

「!・・・どうして、また会えたのにまたいなくなってしまうんですか!?」

 

アリスの涙ながらの言葉にトシキは首を横に振る。

 

「いなくならないさ。いつか絶対に帰ってくる、このセフィーラに。そしてまた皆で暮らすんだ」

 

その誓いは固く、曲げる事はできない事をアリスは理解してしまった。

アリスは顔を下げた後、決意した表情で再び顔を上げトシキを見る。

 

「マスター、私も一緒に行きます!」

 

「アリス?」

 

「またマスターが遠くに行っちゃいそうで・・・。お願いです、私も一緒に行かせてください!」

 

目を潤ませながらそう言うアリス。

アリスの願意に一瞬トシキは呆気にとられるが、すぐに笑顔を浮かべ右手親指を立てサムズアップする。

その表情に、アリスも徐々に笑顔を浮かべる。

 

「取り戻そうぜ、俺たちで!」

 

「はい!!」

 

トシキの言葉にアリスは力強く答える。

そうと決まれば後は分かっている。先程出た扉に再び入る。

 

「トシキ君?話は終わったはずだが・・・」

 

「その事で話があります、アンドレアスさん。

 

 

 

 

・・・俺を、俺たちを軍に参加させてください!!」




ED:Waiting for the rain/坂本 真綾


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STAGE12 雪下 の 翼姫

OP:明日へのキズナ/HIMEKA


「マスター、服、おかしくないでしょうか・・・?」

 

「よく似合ってるよ、変じゃない」

 

ある惑星の統合軍基地の1室、アリスとトシキは至急された仮の軍服を着ている。

トシキは水色の上着に白いズボン。アリスは白い長袖のミニワンピース調の服。

お互いに服装のチェックを終えたところに招集のベルが鳴る。

 

「よし、行くぜ!」

 

「はい、マスター!」

 

2人のセフィーラを取り戻す戦いは、ここから始まる。

 

 

 

***

 

 

 

セフィーラの新統合軍は、雪に覆われたヨーク系第3惑星エンデバルドまでの撤退を余儀なくされた。

この惑星は平坦な地表が少ない為、撤退してきた新統合軍はエンデバルド各所に散り散りとなった。

 

そしてそのエンデバルドにも新生マクロス・ブリタニア軍が侵攻を開始。確実に新統合軍を壊滅させる算段のようだ。

しかし彼らも大人しくやられるはずもなく、残った戦力を再編成し反攻を始めようとしている。

 

そしてその防空戦に参加する部隊の中には、“彼ら″の姿もある。

 

「降ってきちゃいましたね」

 

そう言ったのは現在VF-0Xに乗るトシキの後ろにいる少女、アリスだ。

元々VF-0XはVF-0Dを原型としている為、後部座席を使えばパイロット以外にももう1人乗る事ができる。

あの後アンドレアスに話を通し、トシキとアリスは志願兵という形で軍任務に参加できるようになった。

その際、2人は正規の軍人ではないので報酬が発生する。つまり志願兵という形式でも実際は傭兵と何ら変わり無い。

 

そしてアリスが言った通り、既に雪が降り始めている。

 

《こちらマジックミラー司令部、全機上がったようだな》

 

ガルーダの通信機器からアンドレアスの声が響く。

余談だがアンドレアスは准将。それを知ったトシキは慌てて頭を下げたが許すどころか笑って気にしていないといったそうだ。

 

《セイレーン、現在の方位を維持せよ》

 

「こちらセイレーン、了解」

 

作戦参加にあたりトシキに与えられたコールサインは“セイレーン”。

その名に肖ったのか今のVF-0Xの尾翼には、足から羽根が伸びた女性のマークが描かれている。

 

《方位315。ブリタニア軍の爆撃機接近》

 

「こんな雪山で機体から放り出されるのは悲惨でしかないな」

 

「止めてくださいマスター・・・」

 

トシキの言葉にアリスが困ったような口調で返答する。

しかしトシキの言う通り、この雪山で脱出装置を使う事態になれば悲惨な目に会うのは間違いない

だろう。

 

《各機、迎撃態勢を取れ》

 

「よし行くぞアリス。背中の警戒は任せた!」

 

「はい!」

 

《健闘を祈る。君たちが頼りだ》

 

そのままVF-0Xはセフィーラ軍と共にブリタニア軍の編隊へ突入する。

 

《レッド1よりセイレーン。護衛機は俺達が仕留める。足の遅い爆撃機は任せたぞ》

 

「了解!」

 

セフィーラ軍のVF-171はブリタニア軍爆撃機の護衛を務めている可変戦闘機「VF-5000 スターミラージュ」との交戦を開始。

その隙にVF-0Xは低空を抜け、ブリタニア軍の攻撃機「VA-3 インベーダー」とVB-171の編隊の真下につける。

 

「抜けた、攻撃開始!」

 

VB-171とVA-3を2機ずつロックし、主翼下に搭載されているミサイルを発射。

多少身軽になったVF-0Xは一旦翼を翻し追撃を防ぐ。

 

《直下に敵!峡谷を抜けてきたのか!?》

 

放たれたミサイルにVB-171とVA-3は慌てて振り切ろうと加速するが遅かった。

ミサイルはエンジン部に命中しパイロットは脱出。

 

《やられた、脱出する!!》

 

《敵爆撃機、4機同時撃墜を確認。残りは6機だ》

 

「了解!」

 

「マスター、後ろです!」

 

アリスの警告を受けトシキはVF-0Xを加速させる。

背後から追尾するのは2機のVF-5000。

 

「・・・そのままついてこい・・・!」

 

トシキはひたすらに高度を上げ、VF-5000もそれに追従しようと加速する。

 

「・・・ここだ!!」

 

雲を抜けたところでVF-0Xが急減速と同時にバトロイドに変形。

突然の事にVF-5000は対応しきれず、すれ違いざまにトシキはVF-5000にガンポッドを斉射。主翼に直撃する。

主翼をやられたVF-5000は地表へ落下。追撃はしてこないだろう。

 

「つかまってろ!」

 

「はい!」

 

再びファイターに変形し爆撃機編隊を追撃する。

 

上空ではセフィーラ軍の戦闘機がまだブリタニア軍の護衛機を足止めしている。

急降下したままで爆撃機編隊を補足。後方のVB-1712機、VA-32機をロックし残っていた主翼下のミサイルを全弾発射。降下時の運動エネルギーも乗り更に加速するミサイルを回避する術は無く爆撃機4機を撃墜。

そして勢いそのままにトシキはガンポッドを後続のVB-171に向け斉射。エンジンに直撃し火を噴き出し、パイロットを排出した後に空中で爆散した。

 

《おい、俺以外攻撃隊は全滅か!?》

 

「残り1機!」

 

地表ギリギリのところでガウォークへ変形し滑走。その後に再び上昇しファイターへ変形。VA-3へと一直線に向かっていく。

 

《ヒッ!メーデーメーデー!!追われてる、誰か来てくれ!!》

 

VA-3のパイロットは救援を求めるが、ブリタニア軍機はセフィーラ軍機に足止めされ援護に行けない。

VF-0Xが急接近する。

 

「もらった!」

 

照準を合わせガンポッドを斉射。

右主翼の根本に命中し、その影響で耐久力が落ちた右主翼は根本から折れ分解。

 

《主翼がもげた!墜ちる!!》

 

右主翼を失ったVA-3は錐揉みしながら落下。

護衛対象を失った護衛機も全速で離脱を開始する。

 

《敵攻撃編隊全滅。どうにかしのいだな》

 

《敵攻撃機編隊の全滅を確認。皆よくやってくれた》

 

《逃げ帰ったブリキ連中が上に戦果報告する様を見てみたいもんだ》

 

ブリタニア軍を追い払い一息つくセフィーラ軍。

トシキも例外ではなく、バイザーを上げシートにもたれる。

 

「大丈夫だったか、アリス?」

 

「私は大丈夫です。マスター、お疲れ様でした」

 

「さすがに少し疲れたかもな。帰って休もう」

 

「はい!」

 

VF-0Xはセフィーラ軍機と合流し、基地への帰路につく。

 

 

 

***

 

 

 

セフィーラ軍は帰還後、すぐにデブリーフィングに招集される。

 

「今回の君たちの活躍でセフィーラ新統合軍の壊滅阻止、及び周辺域の敵勢力弱体化に成功した。我が軍はこれを好機と捉え反撃の手筈を進めている」

 

ここからセフィーラの反攻が始まろうとしている。

デブリーフィング後、トシキはアンドレアスに呼び止められる。

 

「准将?」

 

「トシキ君、君のところにいるお嬢さんの件だが」

 

アンドレアスは懐から1部の資料を出しそれをトシキに見せる。

それは、アリスの可変戦闘機パイロットの適正評価の資料だった。

それに記載されているのは、アリスはパイロットとしては十分すぎる素質を持っている事。

 

「これって・・・」

 

「彼女はバルキリーパイロットとしては才能があるが、それを遊ばせておく余裕は今の我々にはない。そこで私の判断で彼女にもバルキリーを用意させてもらった」

 

その可変戦闘機の資料がアリスの適正評価の下にあった。

それは特徴的な前進翼。ジンやエイカ、シズカの乗っていたVF-19Fと同じだがその機体にはカナードがついている。




ED:吹雪/西沢 幸奏

中々戦闘描写って難しい物ですね・・・


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STAGE13 宙 の 魔女

OP:明日へのキズナ/HIMEKA


先のブリタニア軍の基地攻撃編隊の壊滅により、エンデバルド宙域のブリタニア軍勢力は一時的な弱体化を余儀なくされる。

これを好機と捉えたセフィーラ軍は、エンデバルド各方面に散らばった友軍と合流し、エンデバルド衛星軌道にあるブリタニア軍の基地を攻撃する作戦を立案する。

 

 

 

***

 

 

 

「先の迎撃作戦は成功し周辺の敵戦力は一時弱体化。我が軍はこれを最大の好機と捉え全軍での反攻作戦開始を決定した。エンデバルド衛星軌道のアステロイドには、エンデバルドにおけるブリタニア軍戦力が終結。破棄された反統合勢力の基地を利用し強固な防空態勢を整えている。本作戦はセフィーラ新統合軍のデストロイド部隊による攻撃により基地の防御力を低下。その後航空戦力により敵基地を攻撃する。必ず作戦を成功させろ。他の惑星で決死の抵抗を続けている友軍にとって、勝利こそが支援になる!」

 

 

 

***

 

 

 

衛星軌道のアステロイドに潜むブリタニア軍は、破棄された反統合勢力の基地を強化しそこを根城としている。

そしてそこに迫る為に大気圏を突破してくるセフィーラ新統合軍の機体。今回の作戦の要となる「VB-6 ケーニッヒモンスター」とそれらを護衛するアーマードパック装備のVF-171。

そしてその編隊の中で異彩を放っているのは2機。共に尾翼には足から羽根が伸びた女性のマークが描かれている。

 

「アリス、機体の調子はどうだ?」

 

「問題ありませんマスター。バッチリです!」

 

トシキのVF-0Xの左後方を飛行するのはアリスが乗る機体、前進翼が特徴の「VF-19EF カリバーン」だ。

これは同系列の「VF-19E エクスカリバー」のモンキーモデルではあるが前進翼故の高機動は健在だ。

アリスのVF-19EFは白地に黒いラインと黄色のワンポイントが入っている。そしてVF-0XとVF-19EFは宇宙戦である為ファストパックを装備している。

 

《こちら第31航空隊のライーサ・ペットゲン、敵はこちらに気づいたようです。皆さんはデストロイドの護衛をお願いします!》

 

《こちらレッド1了解。RVF、後ろからちゃんと見ててくれよ》

 

ブリタニア軍が動き出しセフィーラ新統合軍も迎撃すべく散開する。

 

「よしアリス、行くぞ!」

 

「はい!」

 

《セイレーン1、作戦行動中に名前は出さないでください!》

 

「あ、すみません・・・」

 

ライーサ管制官に注意されつい萎縮してしまう。そんなトシキにアリスのクスクスと笑う声が聞こえる。

 

「あ、アリ・・・セイレーン2、笑うなよ!」

 

「あっ、ごめんなさい!」

 

だがこのやり取りで無駄な緊張も解けた。

ブリーフィングで言われた通り自分達はブリタニアの護衛機を食い止めるだけだ。

2人は自分達の機体を加速させ戦線に加わる。

 

ブリタニア軍の戦闘機はスーパーパック装備のVF-11BやVF-171もいる。

 

《クソ!ディアバーン4が墜ちた!》

 

《宇宙に放り出されたくないが、死ぬよりマシか!クロノフォス2脱出する!》

 

ブリタニア軍の何機かが撃破されるもセフィーラ新統合軍も無傷ではない。

放たれたミサイルを回避しきれなかった何機かが撃墜かベイルアウトを余儀なくされた。

 

《各機へ、デストロイドを先に!?》

 

「やらせるかよ!」

 

ブリタニアのVF-171がセフィーラのVB-6に迫ろうとするが、先にトシキのVF-0Xにエンジンを撃たれ撃墜される。

 

《ナイスキル、助かった!》

 

「間に合ってよかった!」

 

「さすがですマスター!」

 

すぐに機体を翻してブリタニア機の迎撃に向かう。

既に混戦状態ではあるがIFFでしっかりと識別できている。

 

「もらいました!」

 

後ろでアリスのVF-19EFがブリタニアのVF-171のエンジンにガンポッドを直撃させる。パイロットは脱出。

 

「やるな、アリス!」

 

「負けられませんから!」

 

お互いに敵機を撃墜。

他の味方機もブリタニア機を着実に墜としていく。

 

《こちらコング1!全機、砲撃予定ポイントに到達!待たせたな、敵基地への砲撃を開始する!》

 

《コング1了解!デストロイド全機へデータリンクを開始します!》

 

セフィーラのデストロイドがポイントとなるアステロイドに着地からすべく、シャトルからガウォークへ変形。

その大柄な機体をアステロイドの地表に降ろす。

基地への砲撃が始まり、中にいたブリタニアの勢力が発進。

ほとんどは迎撃に向かうも一部には離脱を行う者もいた。

 

《!!全機へ、高速で接近する機影を4機確認!警戒してください!!》

 

ライーサからの報告を受け、トシキ達セフィーラ軍は警戒する。

 

 

 

***

 

 

 

味方からの救援要請を受け、彼女達はその宙域へ向かっている。

VF-11B、MAXL、VF-17D、VF-19Fがすべて1機ずつ。それらの尾翼には、箒で形作られた1つの星のマークが描かれている。

 

「確認するぞ。今回の任務はエンデバルド基地を攻撃しているセフィーラ軍の迎撃だ。用意はいいな!」

 

「「は、はい!」」

 

「準備できてますわ、少佐!」

 

戦闘の緑カラーのVF-11MAXLのパイロットである黒髪の女性が列機に向け吠える。

返答に聞こえたのは少女達の声。

 

「よし、私に続け!」

 

「「「はい(了解)!!」」」

 

4機はそのまま戦域へ突入する。

 

 

 

***

 

 

 

「こちらセイレーン1、敵増援と思しき編隊を視認!」

 

《了解、デストロイド部隊への接近を阻止してください!》

 

「了解!」

 

「一緒に行きます、マスター!」

 

例の4機を確認したトシキは接近を阻止すべく加速。アリスもそれに続く。

4機編隊を真正面に捉え、ガンポッドを斉射するが敵は機体を傾ける事で回避。そのまま両者はすれ違う。

だがトシキは、すれ違いざまに4機の尾翼のマークを見た。

 

「箒でできた星のマーク!こいつらセフィーラを襲った奴らだ!!」

 

《たった4機だ、今ならやれるぞ!》

 

セフィーラ軍のVF-171が4機に群がり撃墜を試みる。

だがガンポッドはことごとくかわされ、ミサイルもフレアを投下され回避される。

 

《何!?》

 

《速い!》

 

回避後、すぐに敵のVF-11MAXLがレッド1のVF-171の背後につく。

 

《クソ、ケツに付かれた!》

 

「待ってろ、すぐ行く!」

 

「マスター!」

 

トシキはVF-0Xを加速させレッド1の援護に行く。

レッド1は右往左往しVF-11MAXLを振り切ろうとしているができない。

何とかトシキがVF-11MAXLの背後を取る。

 

「やらせるか・・・!」

 

狙いを定めトリガーを引こうとした瞬間、VF-11MAXLがバトロイドに変形。

上下反転しVF-0Xのコクピットにガンポッドを向ける。

 

「やべっ!!」

 

自分と同じ手を使われたトシキは寸でのところで脚部を展開して急減速し上昇、ガンポッドを回避する。

しかしこれで攻守逆転。VF-11MAXLはファイターへ変形しVF-0Xを追撃する。

 

「待っててくださいマスター!今行きます!」

 

アリスがトシキの援護に向かおうとするが、突然上方からのグレー迷彩VF-19Fのガンポッド斉射を受け回避を余儀なくされる。

 

《少佐はやらせませんわ!!》

 

「もう少しなのに・・・!」

 

あと一歩で援護に行けない事を悔やみながらもVF-19Fとの戦闘を余儀なくされるアリス。

他のセフィーラ軍機も奮戦している中、突然セフィーラ軍のVF-171の1機がパイロットを排出した後に爆散した。

 

《ディアバーン3が脱出!どこから撃たれた!?》

 

それはアステロイドに潜伏している、カーキ迷彩の塗装を施されたVF-17D。

その機体は通常のガンポッドではなく、VF-25のロングレンジパックに装備される「SSL-9B ドラグノフ・アンチ・マテリアル・スナイパーライフル」を装備している。

つまりはセフィーラ軍機のエンジン部を精密狙撃したのだ。

 

《今だ宮藤、突撃しろ!》

 

《は、はい!》

 

セフィーラ軍が苦戦を強いられる中、4機の内の1機、白い塗装でスーパーパック装備のVF-11Bがデストロイド部隊に向け加速する。

 

《敵機がデストロイド部隊に接近!誰か迎撃を!!》

 

オペレーターのライーサが悲鳴に似た声を上げるも、全機があの星マークの部隊に釘付けにされて迎撃に向かえない。

そんな中でトシキは主翼下のミサイルを投下。

しかしブースターには着火しない、つまりは投下ではなく投棄。

 

《ミサイルを捨て少しでも機体を軽くするつもりか。だが!》

 

VF-11MAXLのパイロットはアステロイドを踏み台に着実にVF-0Xに接近。

そして再びコクピットを照準に捉える。

パイロットの女性がトシキに止めを刺そうとトリガーを・・・

 

《うわあぁっ!?》

 

「!?宮藤っ!?」

 

列機の少女からの悲鳴が聞こえた。

その方には、トシキが投棄したはずのミサイルがVF-11Bに向けブースターを点火し機体上部のマイクロ・ミサイルランチャーを兼ねたブースターに命中。VF-11Bは上部ブースターをパージし離脱した。

 

つまりトシキは、意図的にミサイルの点火を遅らせていた事になる。

そして意識を取られた一瞬だった。

先程やられた事と同じようにバトロイドに変形し上下反転。さっきのようなシチュエーション程でないにしろVF-11MAXLのエンジン部に照準を合わせ発砲。

 

「くっ!!」

 

回避しきれず左エンジンに命中。速度が落ち始める。

 

《少佐っ!?》

 

アリスと交戦していたVF-19FがVF-11MAXLの被弾を受け離脱。

ファイター状態で左腕だけだし離脱を支援する。

 

《ご無事ですか少佐!?》

 

《少しぬかったか・・・!》

 

VF-11MAXLとVF-19Fの事実上の戦線離脱により流れも変わる。

 

《きゃあ!》

 

《見つけたぜスナイパー!》

 

セフィーラ軍がスナイパー装備のVF-17Dを発見。

パイロットは溜まらずファイターに変形し離脱。

 

《リーネちゃ、わぁ!?》

 

VF-11Bもセフィーラ軍の追撃にあっている

今の2機は逃げるので手一杯な状況であろう。

 

《やむを得んか、撤退だ!》

 

《撤退ですか!?》

 

《これ以上は消耗戦になる!》

 

VF-11MAXLのパイロットが撤退と口にした瞬間、基地のブリタニア軍も共に撤退を開始していく。

 

《こちらコング1、敵が撤退を開始。基地の防衛能力はほとんど奪った!》

 

《了解。全機、作戦成功です!》

 

作戦成功の方を受けセフィーラ軍から歓声が上がる。

トシキも強敵との戦闘を終え普段以上に疲れたか、大きな溜め息を一つ。

左後ろにアリスのVF-19EFが付く。

 

「やりましたね、マスター!」

 

「ああ。これでエンデバルドからブリタニアは追い出せたんだよな?」

 

《セイレーン1、その通りです。皆さん、ここからが勝負ですよ!》

 

オペレーターのライーサが言う通り。まずはエンデバルドからブリタニアを撤退させたに過ぎない。

セフィーラ奪還への道は、ここからは本番だ。




劇中曲1:EARTH/PSYVARIAR REASSEMBLE
   2:Skyburn/ACE COMBAT 3D CROSS RUMBLE

ED:吹雪/西沢 幸奏


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STAGE14 ニューナイル 攻防戦 ACT1

OP:明日へのキズナ/HIMEKA


エンデバルドからブリタニア軍が撤退して1週間。

遂にセフィーラ軍は反攻に転じる事を決定した。

まずはエリュシオン進攻から撤退し惑星クラストラニアに籠城しているセフィーラ軍との合流を決定した上層部はクラストラニアへのフォールド航法の準備を通達する。

 

 

 

***

 

 

 

惑星クラストラニアに向けフォールド準備の艦内で、トシキとアリスはアンドレアスから自分達の部隊の正式名の話を聞いてていた。

資料の記載欄に書かれているのは、「義勇独立遊撃戦隊 セイレーン」。

 

「部隊名はトシキ君のコールサインから使わせてもらった。本当であれば“VF-R"とも入れようと思ったんだが、私の副官カーチスに止められてな」

 

「VF-R?」

 

「そうだ。Rはローグの頭文字。ならず者という意味だ」

 

「ならず者って・・・」

 

「心配しなくていい。君たちはならず者どころかセフィーラ奪還に貢献してくれている功労者だ」

 

アンドレアスの話にトシキとアリスは苦笑いを浮かべる。

 

《フォールド開始まであと10秒!》

 

艦内に放送が響き、セフィーラ軍は気を引き締める。

 

《5、4、3、2、1、フォールド!!》

 

 

 

***

 

 

 

「クラストラニアのニューナイル一帯では、エリュシオン進攻から撤退し退路を断たれた友軍の大規模部隊が籠城。包囲されたまま全滅の危機に瀕している。籠城する友軍部隊との合流が実現すれば、我々にとって多大な戦力強化となる。今回の諸君の任務は、敵に包囲された友軍部隊を救出しニューナイル一帯に広がるブリタニア軍を殲滅する事にある。一刻を争う状況だ、直ちに出撃せよ!」

 

 

 

***

 

 

 

クラストラニア宙域にデフォールドしたセフィーラ艦隊から可変戦闘機部隊が発進。

次々と大気圏に突入しニューナイルへ向かう。

 

《全機へ、友軍部隊が広域に渡り包囲されています!》

 

「急がないと、皆さんが危険です!」

 

《その通りです。部隊はギリギリで守り続けています!一刻も早く救援に向かってください!》

 

アリスとライーサの言葉を受け、救援を急ぐべくセフィーラ軍機は速度を上げる。

遂にブリタニア軍とセフィーラ軍籠城部隊の前線が見えた。

 

《こちら航空管制官のフランです。全機交戦開始!手当たり次第にお願いします!》

 

「行くぜアリス!突っ込むぞ!」

 

「はい!」

 

トシキとアリスは機体を更に加速させ、それを皮切りに他のセフィーラ軍機も加速する。

 

《新統合軍のロゴ・・・友軍機だ!》

 

《来た!来たぞ!全軍に知らせろ、援軍だ!》

 

《天使のお帰りだ!!》

 

セフィーラ軍の戦闘機部隊が来た事で地上部隊から歓声が上がる。

 

《レッド1よりセイレーン、おっ始めるぞ》

 

「ああ!」

 

《セイレーンと言うのか!頼むぞ!》

 

地上からの応援を受けトシキも気合を入れる。

今回の装備は主翼下に対地戦用のミサイルとミサイルポッドを搭載。そしてガンポッド装備。

大気圏内の為ファストパックは装備していないが地上戦を行うには十分だろう。

 

最初に標的にしたのは地上のデストロイド・シャイアンⅡ部隊を攻撃しているブリタニアのVA-3編隊。

 

《こちら“ポーラー”デストロイド大隊、敵に囲まれている。助けてくれ、完全包囲だ!》

 

「了解、待ってろ!」

 

救援を受け駆け付ける。

地上ではバトロイドに変形したブリタニアのVA-3がシャイアンⅡに攻撃している。

それらをロックし主翼下のハードポイントに搭載されている対地ミサイルを発射する。

地上のVA-3は気が付きミサイルを撃ち落とそうと試みるが遅かった。飛来するミサイルはVA-3に突っ込み木っ端微塵にした。

 

「まだ上にいるな」

 

トシキは一旦上昇し、上空からポーラー大隊を狙っているVF-171に狙いを定める。

照準がVF-171のエンジン部に合いトリガーを引く。ガンポッドから弾が吐き出されVF-171のエンジン部に直撃、パイロットを排出し爆散した。

他のVF-171はその様子を見て先にトシキを仕留めようとしたか、3機がVF-0Xに群がる。

しかしトシキは兵装をマイクロミサイルに変え3機のVF-171をロック、ミサイルを発射。

VF-171は回避を試みるもミサイルを引き剝がす事はできず3機とも撃墜された。

 

《航空部隊に告ぐ。ポーラーデストロイド大隊は無事後方へ移動した、感謝する》

 

《俺達にかかれば朝飯前だ、なぁセイレーン?》

 

「これが終わったら昼だろ?昼飯前の間違いじゃないか?」

 

《はは、クロノフォスに真面目にツッコミ入れる奴ぁ初めてだ》

 

クロノフォス戦闘機隊のメンバーと軽口を叩き合うトシキ。その時再び通信機から悲鳴が聞こえる。

 

《こちらメガロドン機甲大隊、聞こえるか!支援を頼む!》

 

《戦闘機隊、我々だけでは歯が立たない。支援を頼む!》

 

メガロドン機甲大隊からさほど離れていないデストロイド大隊からも救援要請。

そちらにはブリタニアのバトロイド形態のVF-171が前衛で牽制し長距離砲撃型デストロイドが砲撃を行っている。

 

《コンドロックビーツだな。長距離デストロイドと前衛のバトロイド、どちらを先に叩くか・・・》

 

トシキ一先ず上空を軽く旋回し戦況を見る。

メガロドン機甲大隊とコンドロックビーツにはブリタニアの砲撃が飛んできている。あれでは前進した瞬間撃破されるだろう。

そう判断したトシキは砲撃支援を行っているデストロイド・モンスターを狙う。

モンスターは重武装で火力は随一だが、その重量故に機動性は劣悪な物となっている。

そんな中で機動性に優れる可変戦闘機に接近でもされた暁には、射線変更が間に合わない。

 

トシキはモンスター部隊のほぼ中央上空で機体をバトロイドに変形させ降下。

それに気づいたモンスターは撃ち落とそうとするが、旋回が遅く狙いをつけられない。

その隙にトシキのVF-0Xが懐に飛び込み、脚部にガンポッドを斉射。脚を撃ち抜かれたモンスターは起き上がる事も出来ず伏せっているしかない。

他の7機のモンスターも同様に攻撃し、機体を破壊せずに無力化に成功した。

 

《やるなセイレーン!長距離デストロイドの無力化を確認。これでイーブンだ!》

 

砲撃支援がなくなった事で、セフィーラ軍の地上部隊が前進を開始。

勢いに押され後退、数も減らされる。

 

《片付いてきたぞ》

 

「マスター、セフィーラの皆さんが巻き返してきましたよ!」

 

「油断するなよアリス。まだブリタニアは諦めてないぞ」

 

《戦闘機隊聞こえるか!?敵地上部隊が迫っている、支援を頼む!》

 

再び援護要請。今度は更に東側の大部隊がブリタニアの攻撃にさらされているようだ。

しかし他の機は航空優勢を確保すべく大半が上空制圧に行ってしまっている。

 

《誰か、〝カイマン”ゼントラーディ大隊の支援に行ける機はありませんか!?》

 

「こちらセイレーン。フラン管制官、カイマン大隊の位置情報をくれ!支援に向かう!」

 

《宮本さん!?・・・分かりました、カイマンゼントラーディ大隊の情報を転送します!》

 

フランからカイマン大隊の位置を受け取り、その方向へ機首を向け向かわせる。

カイマン大隊のリガード、グラージの部隊に向かうブリタニアの攻撃部隊の中には、撃破した物と同型のデストロイド・モンスターもいた。

 

《敵の長距離デストロイドを確認。あんなもんで砲撃されたらひとたまりもないぞ!空から頼む!》

 

「任せろ!」

 

上空からモンスターを確認したトシキは、まずは周囲の護衛であるバトロイド形態のVF-11B4機をロックし、マイクロミサイルを放つ。

VF-11Bは回避する為ファイターに変形。ミサイルは曲がり切れず地面に激突するが上がった事に関してはトシキにとって都合が良かった。

すかさず上がったVF-11Bの背後を取りエンジン部にガンポッドを斉射、両エンジン部に命中しパイロットは脱出。

そのトシキの背後から別のVF-11Bが接近するが、アリスのVF-19EFがVF-11Bの主翼を撃ち抜き落下する。

 

「大丈夫ですかマスター!?」

 

「ああ、助かった!」

 

アリスに感謝を述べ、後は2人で連携し残った2機のVF-11Bをパイロットを殺さずに撃墜。

あとは地上を進むモンスター2機だけ。トシキはすかさず2機をロックし残っている4発の対地ミサイル全弾を投下。モンスターはミサイルが向かっている事を知り、何とか回避しようと速度を上げる。しかしそれでも鈍重なモンスターに回避などできるはずもなく、ミサイルが突き刺さり爆散した。

 

「カイマン大隊、長距離デストロイドは無力化した!」

 

《こちらからも確認した、ありがとよ!》

 

長距離デストロイドが消えた事でカイマンゼントラーディ大隊は勢いを取り戻し、ブリタニアのシャイアンⅡを撃破していく。

残っていた支援機らしきVB-171がカイマン大隊に迫るが、それはセフィーラ軍のVF-171に阻まれる。

 

《当エリアの敵勢力はほとんど排除。戦闘機隊、支援感謝する》

 

どうやら無事カイマンゼントラーディ大隊は無事に後退できたようだ。

 

《セイレーン、俺達って中々いいチームじゃないか!?》

 

《ディアバーン2、調子に乗るなよ》

 

「ああ、まだブリタニアは持ち堪えてる。これからだ!」

 

これで残るは上空のブリタニア軍の戦闘機隊だけだ。

まだ援護が必要な部隊は多数いる。




劇中曲:Rush/ACE COMBAT ASSAULT HORIZON

ED:吹雪/西沢 幸奏


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STAGE15 ニューナイル 攻防戦 ACT2

OP:明日へのキズナ/HIMEKA


地上部隊から北上した先でも大規模戦闘が行われている。

野戦飛行場を奪おうと攻撃を仕掛けるブリタニア軍と防衛するセフィーラ軍。

 

《クソ、これ以上待てない!私は先に出るぞ!》

 

《危険すぎるカイゼミーネリーダー!まだ待ってくれ!》

 

地上には離陸待ちの戦闘機も多数いるが、上空のブリタニア軍機から見れば的同然だ。

上空のセフィーラ軍機はそれらを援護しながら戦わなければならない。

 

「准尉、軍曹、残弾は?」

 

《30%を下回ってますが、まだ戦えます》

 

《ミサイル、ガンポッド共に残弾ゼロ。ごめんなさい、補給に戻ります!》

 

「了解。服部軍曹、援護するわ!」

 

そこにいるのは尾翼に蜂のマークをつけた黄色のVF-19S。そしてその僚機と思われるグレーのVF-22と深緑カラーのVF-19F。

それはエイカ・M・ルマール、ハイデマリー・W・シュナウファー、服部シズカの乗機である。

 

エリュシオン進攻に失敗し撤退した彼女達もこの籠城戦に参加していたのだ。

しかしいくらエースと呼ばれているエイカでも、2人を庇いながら戦う事は難しい。何とかハイデマリーと連携して敵機を墜としていくが、

 

「っ!?弾切れ!?」

 

無補給で継戦し続けた為、遂にガンポッドの弾とミサイルが尽きた。

ハイデマリーも他の敵機の相手で援護に向かえない。

そして、それを見逃さなかったブリタニアのVF-5000がエイカを突破し補給に向かっているシズカのVF-19Fを追撃する。

 

「ごめんなさい服部軍曹!抜かれたわ!!」

 

《!!》

 

背後を確認したシズカは振り切ろうと機体を加速させるが敵もそれに追従する。

そしてVF-5000の照準がシズカを捕捉し、敵パイロットがガンポッドを発射しようとする。

終わりを予感し、シズカは恐怖のあまり目をつむった。その時だった。

 

敵の5時下方からVF-5000にガンポッドの射撃が放たれ、VF-5000のエンジン部を撃ち抜く。

撃たれたVF-5000は黒煙を吹きながら落下していく。

 

「な、何が・・・」

 

何が起きたか確認しようとするシズカ。すると先程ガンポッド射撃があった方から1機の可変戦闘機が上昇していきシズカの頭上を飛び抜けていく。

その機体を見た瞬間、シズカの表情が驚愕に染まる。それは彼女にとっても見覚えのありすぎる機体だ。

ドッグトゥースを持った大面積クリップドデルタ翼に上下2対のカナード。そして白銀の下地に黒いラインカラーリング。

不意に言葉が漏れる。

 

「宮本、さん・・・?」

 

 

 

***

 

 

 

「間に合った・・・」

 

VF-0Xのコクピットの中で一先ずトシキは安堵していた。

シズカのVF-19Fが敵機に撃墜されそうになっており、無我夢中でガンポッドを撃ったのだ。

 

「マスター、ブリタニアが飛行場を襲ってます!」

 

「見えてるよ、あのままじゃ飛行場を奪われちまう。行くぞ!」

 

「はい!」

 

上空制圧にトシキとアリスも加勢する。

既にエイカ達の活躍で4割は撃墜できているようで比較的優勢だ。

だがまだ飛行場上空にVF-5000が群がっている為味方機が離陸できない。トシキは兵装を機体上部のミサイルポッドに切り替え飛行場上空のVf-50005機を同時ロック、マイクロミサイルを発射。

VF-50005機のうち4機は回避に失敗しミサイルが命中。撃墜されるが1機はフレアを投下しミサイルを回避。しかしトシキが背後を取り左主翼にガンポッドを撃ちこむ。主翼を失ったVF-5000は錐揉みしながら落下。

 

「よし。管制、飛行場の制空権は確保した!」

 

《こちらでも確認した、感謝する!カイゼミーネ、上空の掃除が終わった、上がれ!》

 

《待ちくたびれたぞ。これより離陸する!》

 

尾翼にジガバチのマークを付け、機首には黄色で14の番号が入った黄色のVF-5000と、後続のVF-171が飛行場から離陸する。

これで更にセフィーラ軍に戦力が加わり航空優勢確保に近づいた。

 

《撤退急げ!全滅はできない!》

 

突然ブリタニアの部隊が退いていく。

恐らくは戦力的不利を悟り、これ以上の損耗を避けるべくの行動だろう。

 

《こちらフラン、作戦本部より入電です。〝撤退を開始したブリタニアの部隊を追撃せよ”》

 

《追われるより追っかける方が得意だ!》

 

遂に形勢逆転。今度はセフィーラ軍が攻める側となった。

勢いに乗り待機していた地上部隊も大挙し前進を始める。

 

《全地上部隊は散開してブリタニアの部隊を追い詰めろ。容赦するな!》

 

《コンドロックビーツ了解した、チークタイムだ》

 

《カイマンゼントラーディ大隊、確認した。オールキャストだな》

 

《カイゼミーネ飛行隊了解した。散々退屈させたんだ、憂さ晴らしさせてもらう!》

 

しかしブリタニアも黙っている訳がなく、着実に地上部隊に攻撃を続ける。

意地でもここを攻め落とすつもりなのだろう。

 

《クソ、こいつら調子に乗るなよ!》

 

《エンデバルドでウィッチーズを撃退した奴らだ、気を抜くな!》

 

しかし勢いに乗るセフィーラ軍を残存戦力で止める事は難しく、航空部隊の支援も乏しい状態では前進を遅らせるので手一杯のようだ。

 

《パーティーの会場はここか?遅れちまったよ!》

 

続々と地上部隊が集結し、ブリタニア地上部隊への総攻撃が始まる。

 

《E-5地区、もう無理だ!セフィーラ精鋭部隊の総攻撃だ!》

 

《貴様らの命はブリタニアの命だ、逃げずに戦え!》

 

崩壊寸前の敵前線。武器を捨て逃亡を図る者、捨て身で攻撃を仕掛ける者など荒れている。

 

《ミサイル発射!貴様らには地獄の舞踏会がお似合いだ!》

 

追い打ちをかけるようにセフィーラ軍の攻撃が迫る中、トシキもブリタニア軍地上部隊にマイクロミサイルを撃ち込む。

 

「上部ランチャー弾切れか・・・!」

 

少しでも身軽にすべく機器を操作し弾切れとなった機体上部のミサイルポッドをパージ。

今度は主翼下のミサイルポッドに兵装を切り替えブリタニア軍地上部隊のシャイアンⅡ4機をロック、ミサイルを発射。

4機のシャイアンⅡはミサイルを迎撃しようとするが、何しろミサイル自体が小型な為に捕捉が難しく、脚部にミサイルが直撃し行動不能になる。

まだシャイアンⅡは1機残っているが、弾切れのミサイルポッドをパージしバトロイドに変形し地上戦へ移行。

シャイアンⅡはトシキに向け両腕のガトリング砲を撃ちながら突撃してくるが、トシキはレバーとペダルを器用に操作し踊るかのような動きで攻撃を回避。脚部にピンポイントバリアを展開しシャイアンⅡの脚を蹴りつける。バランスを崩したシャイアンⅡは転倒し、トシキはそのシャイアンⅡの両手両足をガンポッドで撃ち抜く。完全に行動不能にされたシャイアンⅡはもうどうする事もできない。

 

トシキがシャイアンⅡを撃破した時に丁度通信が入る。

 

《作戦区域の敵性勢力を排除。パーティーは終わりです。帰りましょう》

 

どうやらニューナイル一帯のブリタニア軍は壊滅したようだ。

 

《もう少しバカ騒ぎしたかったとこだがな》

 

《私はもうしばらく遊ばせてもらう。先に帰っててくれ》

 

《言う事を聞きなさい。良い子は寝る時間ですよ》

 

《おっかないママがお怒りだぞ。さぁ、艦隊へ帰ろう》

 

フランの言葉にセフィーラ軍が帰還準備を始める。

 

「マスター、私たち勝てたんですよね!」

 

「ああ。こっちが負った被害も小さくないだろうけど無事みたいだ、よかったよ」

 

《何がよかったよ、よ?》

 

突然アリスとの通信に割り込んだ声にトシキは驚愕する。

そしてトシキとアリスに黄色のVF-19Sを先頭とした3機編隊が近づく。紛れもなくエイカ達だ。

これでトシキはもう一仕事しなければならなくなってしまった。




劇中曲:Rush/ACE COMBAT ASSAULT HOLIZON

ED:吹雪/西沢 幸奏


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STAGE16 急行

OP:明日へのキズナ/HIMEKA


その後は衛星軌道のセフィーラ艦隊が降下し、部隊が籠城していたニューナイルを拠点に被害状況の確認や船体、機体の整備を行っている。

だが1ヶ所だけは穏やかではない。VF-0Xから降りたトシキを待っていたのはエイカ、ハイデマリー、シズカ3人の視線。

やはり説明しなければならないようで覚悟を決めた、その時だった。

 

ハイデマリーがトシキにゆっくりと近づき胸にすがりついた。

突然の事でトシキは反応できず顔を朱くするが、ハイデマリーがすすり泣いている事に気づく。

 

「無事で・・・よかったです・・・」

 

彼女達もエリュシオンから撤退した後にセフィーラ陥落の報を受け、トシキの身を案じていたのだ。

そして望まない形とは言えこの地で再開できた。その事に3人は心から安心していた。

 

「心配かけた、悪かったな・・・」

 

トシキはハイデマリーの頭にそっと手を置き静かに撫でる。

しかし状況はまだ解決していない。

 

「・・・トシキ、どうして貴方が軍にいるの?私は入れてないはずよ」

 

エイカの言葉にトシキは言葉を呑む。

確かにセフィーラではエイカはトシキを軍に入れていない。そのはずが軍に入っているのだ、訳を知りたいのは当然の事だろう。

どう説明したらいいか言葉に詰まっている時、

 

「その事については、私から説明しよう」

 

今のトシキにとって強力な助っ人が来た。

 

「アンドレアスさん!」

 

「マルコフ准将!?」

 

エイカはアンドレアスの登場に驚愕する。

 

そして、アンドレアスはエイカに事の経緯を説明した。

セフィーラ撤退戦で戦果を挙げたトシキに勝手ながら協力を申し出、アリスと共に義勇兵として現在は軍に協力している事。

 

「その・・・勝手に軍に入ってごめん母さん!」

 

説明を終えたエイカにトシキは深々と頭を下げる。

そんなトシキに、エイカは静かに歩み寄り、静かに手を頭に乗せる。

 

「・・・頑張ったわね、トシキ」

 

そう言葉を発し、そのまま静かに頭を抱き寄せる。

トシキは強張った表情をゆっくりと緩めていく。

 

「何だ?」

 

不意にVF-0Xを整備していた整備士が声を漏らす。

トシキはエイカを離し整備士に近づく。

 

「どうしたんだ?」

 

「ミヤ坊か。いやな、機体が救難信号を拾いやがったんだよ」

 

「救難信号?」

 

トシキは1部の軍人からは“ミヤ坊”と呼ばれている。

そしてVF-0Xのレーダーが緊急回線でSOS信号が発せられている事を伝えている。

位置は現在セフィーラ軍が駐屯しているエリアから北西へ進んだ場所だ。

 

「失礼します准将」

 

アンドレアスの副官である女性“フランチェスカ・バッティ・カーチス”がアンドレアスに耳打ちをする。

 

「どうやら救難信号の発信元はブリタニア軍からすればお尋ね者のようだ。多数の地上戦力が救難信号の発信元に向け移動している」

 

アンドレアスの言葉に一同が言葉を呑む。

そんな中で行動を起こしたのはトシキだった。

 

VF-0X(こいつ)の武装は?」

 

「はぁ?まだガンポッドしか補給が」

 

「ガンポッドがあればいい、出してくれ!」

 

「あ、おい!」

 

トシキがコクピットに飛び込み機器を立ち上げ、エンジンに火を入れる。

VF-0Xが滑走路に移動し許可を待たずに離陸する。

 

「マスター!」

 

「あの子、また勝手に・・・」

 

トシキの行動にエイカは溜め息をつくが、反対にアンドレアスはどこか微笑ましくしている。

 

「准将?」

 

「私達の役目はきっと、重要な局面で背中を押してやる事くらいなのだろう。カーチス中尉、出撃可能な機は救難信号の捜索に回せ」

 

「了解しました」

 

アンドレアスの指示を受けフランチェスカが司令室へと走る。

 

 

 

***

 

 

 

「間に合えよ・・・!」

 

トシキは全速で峡谷内を飛ばしている。

今のペースで飛行を続ければブリタニア軍よりは先に辿りつけるだろうが、それでも救援は少しでも早い方がいい。

 

《アンノウン捕捉!繰り返す、アンノウン捕捉!迎撃しろ!》

 

しかし運悪く先行していたブリタニア軍の地上部隊に発見されてしまう。

もし放っておけば他の部隊に連絡され警戒網が強化されてしまう。そうなったら救援は困難になる。

トシキは機体をガウォークへ変形させガンポッドで地上部隊を攻撃する。

 

《主力部隊のエアバンドはいくつだ?325・・・バカ野郎、聞こえない!こっち来い!》

 

「悪く思わないでくれよ!」

 

ガンポッドだけとはいえど相手は地上部隊。可変戦闘機相手は分が悪かったようだ。

一帯で遭遇した敵地上部隊を撃破しポイントへ向け再び加速。

 

一足遅れエイカ、ハイデマリー、シズカ、アリスが各々の機体で来る。

トシキによって壊滅した地上部隊を捉え、全機がガウォークへ変形し確認する。

 

「これは・・・」

 

「ブリタニア軍の地上部隊。小規模とはいえ全滅してます・・・では、マスターは!」

 

何かを理解したアリスは自機のVF-19EFをファイターに変形させ一気に速度を上げる。

 

「あの突っ走りよう、どこかの銀髪息子に似たわね」

 

「それはトシキさんの事ですか?」

 

ハイデマリーの言葉にエイカは分かりやすく吹けていない口笛を吹く。

気を取り直し、先行していったアリスを追う為エイカ達は機体をファイターに変形させる。

 

もうすぐ峡谷を抜ける。そこからはとにかく低空で飛行しブリタニア軍に探知されないようにするしかない。

 

「マスター!」

 

通信機にアリスの声が響く。

後ろを見れば、峡谷を抜けたアリスのVF-19EFがトシキに追いついてきている。

 

「アリス!?追いついてきたのか!」

 

「一緒に行くって言いましたよね!?」

 

アリスはまた置いてけぼりにされた事に少し腹を立てているようだ。

また突っ走った事を今になって少し後悔したのか少し頭をかくが、気を取り直しアリスに向き直る。

 

「一気にポイントまで行くぞ、離れるなよ!」

 

「はい!」

 

 

 

***

 

 

 

だが、そこに向かっているのはトシキ達だけではなかった。

上半分グレー、下半分は白のツートンカラーのVF-19A、黒い下地に赤いラインのVF-25F、そしてシアンカラーのSV-51。

 

「わざわざ3人で行かなくとも私がいれば十分だろ?」

 

「そうかな?あたしはシャーリーといても楽しいけど皆と一緒の方がもっと楽しいかも!」

 

「大丈夫だよシャーリー、ナオト君もいるんだから間違いないよ!」

 

「プレッシャーかかるからやめろよ・・・」

 

VF-19Aのパイロットらしき少女2人、VF-25Fのパイロットの少女、そして先頭・・・SV-51λのパイロットであるナオトが会話している。そして3機のレーダーが発せられている救難信号を捉えた。

 

「お、レーダーに反応。この先だ」

 

「こっちにも反応出たぞ」

 

「私のにも来たよ!」

 

「よし、シャーリー、ルビー、遅れんなよ!」

 

「ナオトこそ、私の背中みて吠えるなよ?」

 

「行っけぇ~シャーリー!」

 

「あぁ、待ってよ皆!」

 

3機は反応のポイントへ向け機体を加速させる。

 

 

 

・・・邂逅の時は近い。




劇中曲:Chapter03-信念-Faith/斑鳩

ED:吹雪/西沢 幸奏


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STAGE17 望まぬ 再会

OP:明日へのキズナ/HIMEKA


救難信号の発信元が近づいてきた為、トシキとアリスは機体をガウォークへ変形させ低高度を滑走するように移動している。

一刻も早く救難者を見つけ保護しなければ。今のトシキの頭の中はその事で一杯だ。

 

「あれは・・・!」

 

トシキが何かを見つけた。それは煙を出しているRVF-25の近くでトシキ達に向かって両手を大きく振っている人影。

 

「見つけた!アリス、救助隊に連絡してくれ!俺は要救助者に怪我がないか見てくる!」

 

「はい!」

 

連絡を取る為アリスが一時離脱しトシキは要救助者の下へ向かう。

 

《クソ!敵のバルキリーが目標を発見した模様!》

 

ブリタニア軍の地上部隊が全部隊に向け通信を放つ。

報を受け全部隊が速度を上げる。

 

トシキは要救助者の近くにVF-0Xをガウォーク形態で着陸させ安否確認に行く。

 

「怪我は無いか!?」

 

救難信号を発していたのはまだトシキと歳の離れていない、金髪のダウンテールの少年。

更に、動けなくなったRVF-25の後部座席にはもう1人。トシキより年下らしき赤髪の少女が気を失っている。

 

「あの、軍の方ですか?」

 

「ああ、俺はセフィーラ軍遊撃戦隊の所属だ。まず怪我がないか・・・」

 

「待ってください!僕より彼女を優先してあげて」

 

少年は自分より赤髪の少女の方を診て欲しいと頼む。だがここにいるのであれば彼女も要救助者の1人だ。

トシキは頷き何とかコクピット後部座席から少女を降ろそうとした、その時だ。

 

VF-0Xのレーダーが敵機の接近を知らせるアラートを鳴らす。

 

「クソ、このタイミングでか!」

 

トシキは作業を中断しVF-0Xへと走る。

コクピットに飛び込み機器を起動させる。全システムオールグリーン。問題なく動ける。

 

「頭を低くしてくれ!」

 

エンジンを吹かし上昇。ある程度上ったところでファイターに変形させる。

そして接近している3機編隊を捉えるが、その機体を見て驚愕する。

 

「・・・SV-51、VF-19AにVF-25!?統合戦争時の機体にVF-19の本国型と現行主力機まで持ってるのか!」

 

だが今は敵だ、気を引き締めガンポッドを撃つべくまずは射線上のSV-51に狙いを定める。

だが敵との相対速度も考え断念。VF-0XとSV-51λは互いにコクピットを見せる形ですれ違う。

だがそれ故に見えた。

 

「な・・・!?」

 

「え・・・!?」

 

お互いにパイロットの顔が確認できた。それは2人にとってもよく知っている。

だからこそこの状況が理解できず、2人はほぼ同時に叫んだ。

 

『どうして・・・お前がここにいるんだ、直人(俊樹)!!』

 

 

 

***

 

 

 

どれだけこの現実が夢であって欲しいか。

白銀のVF-0Xを見てナオトはそんな感情になっていた。

 

「何の冗談だよ・・・俊樹が相手だなんて・・・!」

 

そんな中で通信機が鳴る。ナオトが使用しているブリタニア軍の回線でだ。

 

《直人!お前なんだろ、それに乗ってるのは!?》

 

「俊樹・・・」

 

聞こえたのは今は敵である親友の声。

明らかに困惑の色が混じっている。向こうもナオトと同じ心境なのだ。

 

《どうしてお前がブリタニアにいるんだ!?テロ同然の事してる奴らだぞ!》

 

「分かってるよ!この戦争だってブリタニアが勝手に始めたんだ」

 

《なら何で!!》

 

「・・・世話になったお礼のつもりなんだよ」

 

《直人!》

 

「お前には関係無いだろ!!」

 

癇癪を起し、通信機を殴りつけて無理矢理通信を終わらせる。

今はトシキの声は聴きたくなかった。

 

 

 

***

 

 

 

一方的に通信を切られ、また通信を入れようとするが繋がらない。

完全に遮断されたようだ。

胸の内で悪態をつき、現状打開を目指す。1対3という劣悪な状況ではあるが今アリスが連絡しに行っている。戻るまで持ちこたえれば良いだけの話だ。

 

だがそうも言っていられない。1機に集中しすぎれば他の2機から奇襲を受けるか、要救助者に被害が出る可能性がある。

まずはすれ違ったナオトの編隊を追うためにピッチアップし180度ループ。その途中に機体を水平に戻す。

狙いをつけたのは黒いVF-25F。

 

兵装でミサイルを選択しようとしたが、現在使える兵装はガンポッドだけだという事を思い出し苦虫を嚙み潰したような顔をした後に背後を取る。

トリガーに指をかけた時、VF-s5Fが脚部を展開し急減速と上昇を同時に行う。そして天の光を背にした瞬間にバトロイドに変形しVF-0Xにガンポッドを発射する。

 

咄嗟に機体をロールさせガンポッドを回避するトシキだが、今度はVF-19Aが迫る。

 

「これじゃキリがない・・・なら・・・!」

 

スロットルレバーを叩きこみ機体を加速させる。

 

《逃がすかよ、行くぞ!》

 

当然VF-19Aもそれに追従。VF-25Fもファイターに変形し2機を追う。

ミサイルをロックされないよう左右に機体を揺らしながら高度を上げる。

 

「ここなら・・・!」

 

雲を抜けた空域でも高速でのドッグファイトは続くが、仕掛けたのはトシキ。

操縦桿を手前に引き倒しペダルを踏みこむ。それに伴いエンジンの推力偏向ノズルも上を向く。そうなればどうなるか。

VF-0Xの機種が跳ね上がり、機体全体をブレーキとする急減速が可能になる。

 

《コブラか、乗った!》

 

VF-19Aも同様にコブラ機動に入る。

 

《あれぇぇ!?》

 

追従しようとしていたVF-25Fはそのまま2機をオーバーシュート。

スピードが乗りすぎていた為復帰にもかかるだろう。

 

「ぐうぅぅ・・・!」

 

《うぅ・・・!》

 

《うじゅぅ・・・!》

 

コブラ機動の凄まじいGの中での我慢比べだ。

我慢しきれなくなり先に体勢を崩された方の負けだろう。

 

「うおぉぉ・・・!」

 

トシキはほぼ意地で操縦桿を左に倒し、左足のペダルを更に強く踏む。

その結果VF-0XがVF-19Aの左に滑り込みガンポッドの銃口を向け斉射する。

 

《シャーリー!》

 

《何!?》

 

後部座席の少女ルッキーニからの警告でパイロットの少女シャーロットは更にペダルを踏む。

VF-19Aの機首が更に持ち上がり、減速しガンポッドを回避。

今度はVF-19Aが背後を取りガンポッドを発射するが、トシキも同様に機首を持ち上げ減速し回避。

ただひたすらにそれが繰り返され、2機はほぼ錐揉み状態のままでドッグファイトを続けている。

そんな中でトシキは計器に目をやる。眼前では止めを刺さんとばかりにVF-19Aが接近しているが、

 

「今だ!!」

 

VF-19Aが接近しガンポッドを発射する瞬間、トシキは機体をバトロイドへ変形。

 

《うわっ!?》

 

このままでは回避不可能。咄嗟に判断したシャーロットは機体をガウォークへ変形させる事で回避しようとするが、反応が遅れ右エンジン部とガンポッドをやられた。

 

《シャーリー、大丈夫!?》

 

《悪い、右エンジンとガンポッドをやられた!》

 

ガンポッドをやられたVF-19Aは事実上戦力外。

雲を降り地表が見えてきたところでトシキは再びファイターに変形させる。

そこに背後からシアンカラーの機体、ナオトのSV-51λが迫る。

 

「直人・・・!」

 

撃ちたくはないが撃たなければ自分がやられる。

しかし武装を破壊すれば・・・。その考えに至ったトシキはまず機体を加速させる。当然ナオトのSV-51λも追従するが、得意の戦術である高速度からのバトロイドでバトロイドに変形し上下反転。ガンポッドの照準をコクピットでなくガンポッドに向ける。

しかしSV-51λは脚部を展開し急上昇。再びファイターに変形させトシキはSV-51λを追う。

 

高度を上げながらSV-51λを追いガンポッドの照準を合わせる。

トリガーを引く、まさにその瞬間だった。

SV-51λが機首を持ち上げ急減速。ここまでは先程トシキがやったコブラ機動と同じだったが、ナオトは更にもう90度・・・つまり機首を180度反転させた。つまりはガンポッドとミサイルを同時に向けられる事だ。

 

「なっ・・・!」

 

咄嗟にロールし回避を試みるが、ナオトがトリガーを引く方が早かった。

ガンポッドの弾丸数発がVF-0Xの右エンジンを貫く。

 

「のわっ!!」

 

コクピットに衝撃が奔り警報が鳴り響く。

見れば被弾した右エンジンは黒煙を吹いており無理はできそうにない。

しかし追い打ちをかけるかのようにナオトのSV-51λがVF-25Fを従え戻ってきた。

止めを刺すために残っているミサイルを撃ちこむつもりだろう。

それでも撃ちたくないナオトはトシキに通信を入れる。

 

《直人!?》

 

「俊樹!今ならまだ間に合う!統合軍を抜けて俺たちと一緒に来いよ!」

 

《ふざけんなよ!お前達のしてる事はテロだろ!好き好んでテロリストに手を貸すなんざ・・・!!》

 

「・・・分かった」

 

その一言で通信を終わらせ、ナオトはVF-0Xをロックする。

 

「恨んでもいい・・・トシキ・・・ごめんよ!!」

 

ナオトの指がミサイルの発射ボタンを押そうとした時だ。

 

《マスター!!》

 

《トシキ!!》

 

《トシキさん!》《宮本さん!》

 

背後からガンポッド斉射を受け機体をロールし回避。

見ればVF-19EF、VF-19S、VF-22、VF-19Fが迫っている。

他にもセフィーラ軍の戦闘機が多数向かっているのをレーダーが捉えた。

 

「増援か・・・!」

 

《ナオト。これ以上は消耗戦になる、撤退しろ》

 

「ルルーシュ!?」

 

《今お前たちを失えば今後の行動に大きな支障が出る。命令に従え》

 

「・・・分かったよ。シャーリー、ルビー、撤収だ!」

 

《クソ~惜しかったな、あとチョイだったのによ!》

 

《シャーリーはいいでしょ?私なんか全然役に立ててないよ・・・》

 

ナオト達は再び編隊を組み戦闘空域を離脱していく。

今回のセフィーラ軍は救助作業の為深追いはしない。

 

トシキのVF-0XにVF-19EF、アリス達が来る。

 

《マスター、大丈夫ですか!?》

 

「悪いアリス、右エンジンにもらっちまった・・・。機体は制御できるけどパワーが上がらない」

 

《分かったわ。救助作業は私達が引き継ぐからトシキ艦隊に戻りなさい。ハイデマリー准尉と服部軍曹はトシキについてあげて》

 

「ごめん、そうさせてもらうよ」

 

《了解》

 

《一緒に行きます、マスター》

 

トシキ達は救助部隊から離脱し先に帰投する。

 

基地に戻り着陸体勢に入る。今のVF-0Xでの長時間の飛行は危険だろう。

 

《宮本さん、何があったんですか?機体から黒煙を確認しました》

 

「少ししくじってこの様さ。笑えないよな・・・」

 

《誰も笑いませんよ。無事でよかったです。宮本さん、着陸を許可します》

 

「了解」

 

《マスター、すぐ後ろにいますから安心してください》

 

先に損傷の大きいVF-0Xから着陸に入る。

ギアダウンしロック。着陸用の車輪が出る。

そしてゆっくりとタッチダウンし、ノーズギアもタッチダウン。

あとは減速すればいいだけだが、ここで異常が起きる。機体が揺れ始め軋み音が聞こえる。

そして右車輪が外れて機体が右に傾き主翼が地面を擦る。火花を散らし回転しなから何メートルか滑りようやく止まる。

 

「クソォォォォッ!!!」

 

計器を思い切り叩き、天を仰ぎながらトシキが叫んだ。

それが機体を壊した自分への憤りからか、親友が敵である事への困惑からか。

それは本人にしか分からない。




劇中曲:邂逅/マクロス30 銀河を繋ぐ歌声

ED:吹雪/西沢 幸奏


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STAGE18 少年 の 業

OP:明日へのキズナ/HIMEKA


飛行場に不時着したVF-0Xからトシキが降り、機体は基地のクルーが格納庫へ運んでいった。

トシキはナオトがブリタニア軍にいる事をまだ信じたくないようで、戻ってからは部屋に閉じこもり考え込んでしまっている。

まるでジンを失った時に戻ったようだ。

 

《宮本トシキさん、至急尋問室へお越し願います》

 

放送で呼ばれ、トシキは命令通り尋問室に向かう。

 

「あ・・・」

 

そこにいたのはついさっき会った要救助者の金髪の少年。

少女の方は、今は軍医がみているようだ。

 

「さっきはどうもありがとうございました」

 

「いいよ、俺は何もできてないし・・・」

 

少年に感謝を述べられ謙遜するような態度だが、実際にトシキが見つけていなければ少年達は今頃助かっていなかったかもしれない。

 

「・・・そういや名乗ってないな。俺は宮本トシキ。セフィーラ軍の遊撃戦隊所属・・・は説明したっけ?」

 

「僕はユーノ・スクライアと言います。よろしく」

 

「・・・年もそんな離れてなさそうだし呼び捨てで、敬語も無しでいいぜ。俺もユーノって呼ぶから」

 

「そ、そんな・・・悪いですよ、トシキさんに助けていただいたのに・・・」

 

「なら恩人からの頼みって事で、頼むよ。普段から敬語で話す奴もいるんだけど何か慣れなくてな」

 

「分かり・・・分かったよ、トシキ・・・」

 

少年、ユーノの方から折れ普通に会話する事になる。

そんな時にアンドレアスが入室する。

 

「アンドレアスさん・・・」

 

「突然呼び出してすまないな宮本君。彼が君がいた方が話しやすいという事でね。確かに見知った顔がいるだけで安心感は違うだろうが」

 

「話?・・・そうだユーノ、お前がSOS信号を出してたんだろ。何があったんだ?」

 

「うん、僕はブリタニアで考古学と技術者を兼任してて・・・トシキはセフィーラがブリタニアに占領されたって事は?」

 

「知ってるも何も目の前であったんだ。まだ頭から離れないよ、あの光景は・・・」

 

ユーノの話で、トシキの脳裏に再びセフィーラが戦火に呑まれた光景が浮かぶ。

発生した反応弾の光球に呑まれ墜ちていった多数の味方。そして現れた増援により瞬く間にセフィーラはブリタニアの手に落ちた。

 

「でも、その事と何の関係が?」

 

「実は、ブリタニアはセフィーラの大深度地下から総角錐の石のような大きな結晶体を掘り出したんだ。それで僕はそれを調べて、分かったのはその結晶体が凄まじいエネルギーを持っている事と、使い様によっては超時空間変動で事象に干渉できる事」

 

「何!?」

 

ユーノの話にアンドレアスが声を荒げる。

いきなりの事にユーノはおろかトシキも驚く。

 

「おっと・・・んんっ」

 

わざとらしく咳払いをするアンドレアス。しかしトシキはいまいちピンとこなかった。

 

「あ~ユーノ、分かりやすく頼む」

 

「簡単に言えば、世界を自分の思うように創造できるって事なんだ」

 

「・・・マジかよ、そんなのがセフィーラの地面の下にあったなんて・・・。でそれをブリタニアが掘り起こしたて事は・・・待てよ、俺達皆ヤバいって事か!?」

 

「待って!ただ掘り起こしただけじゃその結晶体は使えなくて、どうやら完全な状態で使うには別のエネルギーが必要みたいなんだ。そしてそれは・・・歌」

 

「歌?」

 

つまりユーノが連れて逃げてきたあの少女も、無関係とは言えないだろう。

トシキは思い切って聞く事にした。

 

「それじゃ、ユーノと一緒にいたあの女の子も何か関係あるのか?」

 

「・・・僕のせいなんだ」

 

それからユーノは経緯を説明した。

彼女の名は“結城 ユウナ”。元は普通の少女だったがブリタニアが結晶体を見つけてからは、彼女が持っているらしい高い歌エネルギーによって家族から引き離されブリタニア軍の施設で人助けと称し実験に付き合わされていたらしい。

ユーノはそれに心を痛め、ユウナの家族をブリタニア船団から逃がし自分はユウナを助け出しあのRVF-25で逃げてきたそうだが、フォールド寸前に追撃を食らいクラストラニアに不時着したそうだ。

 

「・・・でも話を聞く限りじゃ、その子が巻き込まれたのってお前のせいじゃないだろ?」

 

「でも・・・あの結晶体を調べたのは僕だから、彼女は苦しむのを見てられなくて・・・。もしできるなら今すぐにでもあの結晶体を取り返して、あるべき場所に返さないと・・・」

 

どうやらあくまでも自分の責任だと言い張るようだ。

 

「・・・真面目なんだな、お前」

 

「え・・・?」

 

トシキの言葉に呆気に取られるユーノだが、すぐに言葉を続ける。

 

「えっと・・・助けてもらって本当に申し訳なかったけど、少し休ませてもらうだけでいいんだ。その後は1人で・・・ブリタニアから結晶体を取り返さないと・・・」

 

ユーノの言葉にトシキが軽く吹き出してしまう。

 

「悪い・・・けど、1人でブリタニアに?無謀にも程があるだろ。俺も手伝うよ」

 

「でも・・・」

 

「話を聞いたんだ、知らんぷりなんざできないよ。セフィーラと一緒にその結晶体も奴らから奪い返してやるさ!お互い頑張ろうぜ!」

 

笑顔でユーノに右手を差し出すトシキ。帰還後の憂鬱さは無くなったようだ。

ユーノはゆっくりと微笑み、瞳を潤ませながら右手を取り握手した。

 

「うん・・・ありがとう・・・」

 

そこにトシキの背後で傍観していたアンドレアスが前に出る。

 

「ではユーノ・スクライア君、君を義勇独立遊撃戦隊セイレーンへの協力者として我が軍で保護する。それでよろしいかな?」

 

「え?」

 

「そうですね、アンドレアスさんお願いします」

 

「ちょっと!軍が勝手にそんな事決めちゃって・・・」

 

ユーノの懸念はもっともだが、アンドレアスという後ろ盾が如何に強力か知っているトシキはその姿勢を崩さない。

 

「心配すんなよ。アンドレアスさんは軍には顔が利くんだ」

 

トシキの言葉にユーノは苦笑いしながら頬をかく。

 

一応の聴取も終わり自室に戻る途中トシキは聞きたい事を聞く。

 

「そう言えば、ユーノが乗ってきたあのバルキリーは?」

 

「RVF-25か。現在整備班が君のバルキリーと一緒に修理を行っている。エンジンに少しダメージがある程度だ、すぐ使えるだろうが・・・」

 

「・・・ガルーダ、俺のバルキリーは・・・」

 

「正直言えば、少し時間がかかる。今軍が保有している機体に替える方が早い」

 

トシキとしてはVF-0Xはジンから受け取った機体だ。

このまま乗り続けてはいきたいが無理して壊してしまったらジンに会わせる顔がない。

 

「・・・分かりました」

 

「少しでも君の要望は聞くつもりだ」

 

次の作戦がいつになるか分からない為、トシキは準備を整えるしかない。




ED:吹雪/西沢 幸奏

今回は会話オンリーパートなので早く仕上げられました♪
また別シリーズのキャラ参戦ですが、分かる方いらっしゃいますかね?


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STAGE19 クラストラニア 制宙戦

OP:明日へのキズナ/HIMEKA


ユーノがセフィーラ軍に救助された翌日、トシキはユーノが連れて逃げてきた少女が眠っている病室に来た。

丁度トシキが来たところで少女も目を覚ます。

 

「あ、あれ!?ここどこ!?」

 

「目が覚めたようでよかったよ」

 

目覚めた少女にトシキが話しかける。

 

「俺は宮本トシキ。よろしくな」

 

「あ、私は結城 ユウナです!」

 

「知ってるよ、一緒にいたユーノから聞いてる」

 

「ユーノさんから?」

 

少女、ユウナの自己紹介に口を挟んで悪いと思っているがユーノから彼女に関して多少の情報は聞いている。

 

「私、どうなっちゃってるんですか?」

 

「ここはセフィーラ軍の野戦基地だ。君は今ブリタニアからお尋ね者になってて、俺たちが匿ってる。それと俺の事は呼び捨てで敬語も無しでいいぜ」

 

「そっか、うん!よろしくねトシキ君!」

 

それから2人は他愛の無い話をした。

 

「へぇ~、トシキ君って軍人さんなんだね!」

 

「仮扱いの義勇兵ってだけだ。何かあれば俺の記録は全消し。トカゲのしっぽ切りさ」

 

そんな話をしている時、基地に招集のベルが鳴る。

 

「え!?何々!?」

 

「招集の号令だよ。俺も呼ばれてるからまた後でな」

 

「あ、うん!お仕事頑張ってね!」

 

トシキはユウナと別れブリーフィングルームに向かう。

 

 

 

***

 

 

 

「兵備拡充も整った。度重なる敗北からブリタニア軍の戦力は少しずつ疲労の色を見せ始めている。現在クラストラニア周辺の防備は手薄で反攻作戦には好機という教示を受けた。これより我が軍は総力を挙げ反撃を開始する。

フォールド準備中の艦隊は航空攻撃に対し極めて脆弱な状況になる。艦隊の護衛に務め、脅威があればその一切を排除せよ。緊急事態が起こった際には適時相応の対処を取れ」

 

 

 

***

 

 

 

クラストラニア衛星軌道。

そこにセフィーラ軍の艦隊が集結しつつ衛星軌道を離脱していく。そして編隊を組み随伴する護衛の可変戦闘機が多数。

そこには当然トシキ達セイレーンもいた。

 

《マスター、新しい機体の方はどうですか?》

 

「まだ少し違和感があるってのが本音だな。アンドレアスさんがセフィーラのS.M.Sから取り寄せた奴だって聞いたけど」

 

トシキが乗る白銀の下地に黒と青緑色のラインが入った機体は、アンドレアスが手配した現行機「VF-25F」。

可能な限りVF-0Xに近い機動を取れる機体としてこれが選択されたのだ。

 

尚、今回はサポートとして修理を終えたユーノのRVF-25に本人が搭乗している。これはトシキを手伝いたいと本人からの要望であり、事実上ユーノはセイレーン3人目の隊員として参加している。

 

「セイレーン1より3。ユーノ、お前はほぼ丸腰みたいな物なんだ。無理に前に出ないでレーダーに専念してくれ」

 

「うん。ごめんね、また面倒かけるような事・・・」

 

「気にするなよ、仲間だろ?」

 

エンジンを修理するだけのパーツこそあったが、どうやらユーノに回せる武装は無かったようで今のRVF-25はガンポッドの弾を補給されただけだ。

 

《各機、補給が済み次第編隊飛行に戻ってください》

 

艦隊が徐々に増えていき、他の発艦待ちの機体を待つために軽口や指示が飛び交う。

 

《まるでトイレの順番待ちだな》

 

《2番機、ちゃんと回線確認しとけよ》

 

そして、遂にセフィーラ軍が集結し準備が整った。

 

《行くぞ、ペイバックタイムだ!》

 

セイレーンを先頭にセフィーラ軍全機が艦隊から先行していく。

 

「ブリタニアは必ず来るぞ、奴らもバカじゃない」

 

トシキの言葉はセフィーラ軍の全員が理解している。

もしセフィーラ軍が進軍しようとするのであれば必ず妨害してくるだろう。

 

《警告、レーダーに敵機を捕捉》

 

言葉通りブリタニアはセフィーラ軍を阻止しに行動を開始したようだ。

しかも今回は衛星軌道付近。小惑星が所々に点在している。

 

《こちらの目的は彼らも理解しています。全機、攻撃態勢に移行!》

 

《しかもここはアステロイドもある。全機、常に位置を確認しろ》

 

セフィーラとブリタニアがお互い交戦可能距離に入る。

ブリタニアもセフィーラの目的は分かっているはず。それ故か敵機の中には対艦ミサイルを装備しているVA-3もいる。

 

「こちらセイレーン1。敵機の中に対艦ミサイルをぶら下げてる奴がいる!」

 

《レッド1よりセイレーン、こちらでも確認した。奴ら俺達をクラストラニアに押し込めたいらしいな!》

 

ブリタニアはやはり艦隊への攻撃を目論んでいるようだ。

当然セフィーラ軍はそれを許さない。

 

《こちらディアバーン、対艦ミサイルを装備してる奴を優先して狙う!》

 

敵のVA-3はアステロイドを盾にしながらセフィーラ艦隊への接近を試みようとしているが、軍備が増強されたセフィーラ軍はお構いなしだ。

 

「了解したぜディアバーン、俺たちも対艦装備の敵機を優先する!」

 

《こちらハイデマリー。トシキさん、私も同行します》

 

「・・・了解マリー。アリスもついて来いよ!」

 

《分かりました!》

 

ハイデマリーのVF-22がトシキの7時方向に、アリスのVF-19EFが5時方向に付きVA-3の迎撃を開始。

アステロイドを遮蔽物にする戦術は敵と同じだが、3人は機体をバトロイドに変形させてその陰に隠れ接近した瞬間に飛び出しガンポッドを食らわせる。

 

《こちらエイカ。敵の中に電子戦機が紛れてるようね、ジャミングでレーダーに障害が出てるわ》

 

エイカの報告にトシキはレーダーを見る。所々がノイズがかっており正常に動作していないようだ。

 

「クソ、これじゃレーダーが使えない」

 

「任せてトシキ。敵電子戦機の位置は僕のレーダーが捉えてる、データを転送するよ」

 

ユーノから敵電子戦機の情報が送られる。

ブリタニアは攪乱の為に電子戦仕様のRVF-171も混合させたようだ。その数は6機。位置はどれもアステロイドに潜んでいるようだ。

 

「助かるぜユーノ!後で何かおごるよ」

 

「気にしないで。これくらいしかできないから」

 

ユーノに感謝を述べトシキはハイデマリーとアリスを従え敵電子戦機の撃破に向かう。

 

「こちらセイレーン、これより電子戦機の撃破に向かう!」

 

《トシキ?・・・分かった、任せたわね》

 

エイカからも任されトシキは更に気合を入れる。最初の電子戦機は丁度トシキ達の正面奥のアステロイド。

ファイターに変形させアステロイドに接近。トシキ達に気づいたRVF-171はファイターに変形し逃走を図るが先にトシキがガンポッドを発射しエンジンとレドームを破壊された。

 

「よし、まず1機!」

 

《ん?レーダーが少し回復。え、宮本さんが?》

 

トシキが敵のRVF-171を破壊した事でジャミングの効力が低下。レーダーが多少だが回復した。

だがまだ5機残っている。3人で1機ずつ潰していくのは効率が悪いため、トシキはハイデマリーとアリスに敵RVF-171のデータを送る。

 

「これじゃ埒が明かない。3人で探すぞ!」

 

《はい!》

 

《了解です》

 

トシキ達は散り散りになりRVF-171を探す。先に見つけたのはトシキ、2時上方のアステロイドに潜んでいる。

反対側に回り込み背後から奇襲をかける。

奇襲をかけられたRVF-171は成す術もなくレドームとエンジンを破壊され行動不能。

 

「よし、2機目撃破!」

 

「待ってトシキ!レーダーに攻撃部隊の反応がある!艦隊に波状攻撃を仕掛けようとしてるみたいだ!」

 

「分かった!アリス、マリー、電子戦機は任せた。俺は攻撃部隊をやる!」

 

《分かりました、こちらは任せてください!》

 

《了解》

 

アリスとハイデマリーに指示を飛ばしトシキは対艦装備のVA-3の撃破に向かう。

敵は3機編隊を組みアステロイドを飛行している。

トシキは先回りし3機をロック。スーパーパック装備のVF-25Fにはインテークにマイクロミサイルランチャーポッドがある。兵装をそれに切り替えマイクロミサイルを発射。VA-33機はアステロイドが邪魔になり回避できず呆気なく撃墜される。

 

「敵攻撃機、3機撃墜!」

 

《こちらハイデマリー、敵RVFを1機撃墜》

 

ハイデマリーからRVFの撃墜報告を受けレーダーに目をやる。最初の頃と比べればノイズが軽くなっているがまだジャミングが続いている。

 

《ハイデマリーさんごめんなさい!見つけたんですけどそっちに逃げちゃいました!》

 

《了解、こちらで対処します》

 

アリスが撃ち漏らしたRVF-171がハイデマリーの方へ逃げてくる。

ハイデマリーは冷静に対処しVF-22のGV-17Lガンポッド2丁をレドームとエンジンに向け射撃する。慌てたRVF-171に弾丸が直撃しレドームがもげエンジンも煙を吹いて止まった。

 

《敵機撃破》

 

「これで電子戦機はあと2機だ!」

 

《こちらエイカ、レーダーもかなり安定してきたわ》

 

艦隊のフォールド準備完了まではまだ時間がかかる。だがこのペースでこなせば持ち堪えられそうだ。

 

《クソ、ガンポッドが弾切れだ。電子戦機の始末はまだか?》

 

一部の味方機はガンポッドが弾切れになり兵装はミサイルのみ。しかしジャミングが続いている為安心して使えないようだ。

更に追い打ちをかけるような事態に、

 

《まただ、新しい攻撃編隊!艦隊に向かってるよ!》

 

「まだ来るのか!」

 

《エイカよりセイレーン3、了解、私が向かうわ》

 

《エイカ大尉、私も行きます!》

 

ユーノからの報を受け、エイカとシズカが迎撃に向かう。

その間に何とか電子戦機を探したいが、ユーノから送られた情報の場所にはいなかった。

恐らく警戒して移動したのだろう。

 

「先に逃げられたか!ユーノ、反応は!?」

 

「待って。・・・いた!1機はトシキから見て3時上方60度!」

 

「了解!」

 

ユーノの指示通りの方向にファイター形態で向かう。

そこにはファイターで移動しているRVF-171がおり、トシキはミサイルポッドを選択。しかし狙いはRVF-171ではなくその前方の小惑星。ミサイルを撃ちこんで小惑星を破壊しその破片でRVF-171が怯んだ隙に懐に飛び込みガンポッドを撃ちこむ。被弾したRVF-171はパイロットを排出した後に爆散した。

 

「よし、電子戦機撃墜!」

 

《マスター、こちらもハイデマリーさんと一緒に見つけました!》

 

《進路的に判断しトシキさんの位置に誘導します》

 

アリスとハイデマリーは協力して最後の敵RVF-171を追い回している。

そしてRVF-171がトシキの正面に来る。パイロットは焦ったか機首を跳ね上げ上方へ退避しようとしたがその際に機体下部を見せたのが失策だった。トシキがガンポッドでエンジンを撃ち、パイロットが排出され機体は爆散する。

 

「これで電子戦機は全部やったよな?」

 

《そのはずだけど・・・》

 

《ジャミングの消失を確認、レーダークリア。よくやってくれたわ、おかげでレーダーが使える!》

 

ジャミングが消えセフィーラ軍が更に追い込みをかける。

ミサイルも安心して使えるようになり、ブリタニアの攻撃編隊は徐々戦力を削られていく。

 

《・・・了解。全軍、撤退命令だ。当宙域から離脱せよ》

 

突如ブリタニア軍が反転し宙域を離脱していく。

 

《服部シズカより全機、敵が撤退を開始!》

 

《そう何度も逃げられてたまるか!追撃して殲滅する!》

 

セフィーラ軍機がブリタニア機を追撃するために加速するが、その最中に異変は起きた。

 

《レーダーに反応。・・・これは、バルキリーより小型のが複数・・・?》

 

《何でもいい、俺が全部やってやる》

 

しかし反応はそれだけではない。そしてそれが脅威となった。

 

《更に機影・・・いえ、これは!警告!巡航ミサイル接近、全機回避!!》

 

「何!?」

 

フラン管制官が警告したのと同時にミサイルが爆発。

爆発ポイントを中心に光球が発生し呑まれた味方機が消えていく。

 

《3時方向で炸裂!全機気をつけろ、ヤバい!!》

 

《これは・・・!?》

 

「セフィーラをやったのと同じミサイルだ!!」

 

その光景をトシキはよく覚えている。高速で飛来しその光に呑まれた機体は跡形も無く消滅。更に流入する気流でも被害が発生しかねない。

今回は宇宙空間の為気流の被害は無いがそれでもその威力は桁違いだ。

 

《フレイヤに敵無しだな。アースガルズ、攻撃を続けろ》

 

《マーカーゴースト、オールアクティブ。センサリーレベル、アバーブポジティブ》

 

今でも多数のミサイルが炸裂し、セフィーラ軍に大きな被害が出ている。

このままではいずれ艦隊にも被害が出てしまう。どうするべきかトシキが考えている時だ。

 

「トシキ!今味方を艦隊まで下がらせてるから援護できる!?」

 

「援護?防ぐ手があるのか!?」

 

「あれは小型反応から誘導信号を受けて目標を破壊するタイプのミサイルみたい!それを止めれば止められるよ!」

 

「小型反応・・・」

 

トシキは回復したレーダーを頼りに反応を探す。

そして見つけた。可変戦闘機のような機動ではなく横滑りのような動きも入っている。

 

「あれはゴーストか、分かった!」

 

《私も行きます!》

 

《ご一緒します》

 

アリスとハイデマリーがトシキと編隊を組みミサイル誘導を行っているゴーストの撃破に向かう。

これまで相手にしてきた可変戦闘機とは勝手が違い直角的な機動もする曲者だ。

 

だがトシキは何とかゴーストに追従し攻撃の機会を探る。

照準がゴーストを捉えロック、ミサイルを発射する。ゴーストは持ち前の機動力で回避するが逃げた先にはアリスVF-19EF。

アリスは逃げる先を読みハイマニューバ・ミサイルを2発発射。回避先にミサイルが飛び込みゴーストを撃破。

 

「アリス、ナイスアシスト!」

 

《マスターのお陰です!》

 

ハイデマリーの方もゴーストの移動先を読みガンポッドを発射。ゴーストのエンジン部に命中し撃破。

 

《全機、間もなくフォールド開始時刻です。直ちにフォールド圏内へ退避を!》

 

フラン管制官から指示が飛びセフィーラ軍機は艦隊と合流。

だがまだミサイル攻撃は続いており被害は出続けている。

残ったゴーストは1機でトシキ、アリス、ハイデマリーは3人連携で追い詰める。

だがゴーストは自身の危機を悟ったかブーストをかけアリスとハイデマリーを引き離す。

 

《うそ!?速いですよ!》

 

《追いきれません・・・!》

 

「なら俺が行く!」

 

VF-25Fのスーパーパックに使用されているロケットブースターを吹かせゴーストに追従。逃げようとするゴーストを捉える。

 

「今度こそ・・・!」

 

VF-25Fの照準がゴーストを捉えロック。ガンポッドを発射するがゴーストは直角的な機動を取り弾丸を回避する。

だがまだミサイルが残っている。

 

《宮本さん、間もなくフォールドします!戻ってください!》

 

「こいつだけでも・・・!」

 

シズカから連絡が入るがトシキはゴーストに食らいついて離さない。

ガンポッドを回避した先にマイクロミサイルを発射し遂にゴーストを撃墜する。

撃墜を確認したトシキは機体を反転させ全速で艦隊に向かう。

 

《5、4、3、2、1、フォールド!》

 

遂にセフィーラ艦隊がフォールドを開始。

全艦がフォールド空間へ突入する。

 

《マスターは!?》

 

《・・・反応無し。間に合わなかったのかな・・・》

 

「勝手に遅刻にするなよ・・・」

 

アリスとユーノの通信にトシキの声が混じる。

それにアリスとユーノが喜びの声を上げる。

 

《マスター!!間に合ったんですね!!》

 

《トシキ!よかった・・・》

 

「何とか凌げたよ・・・」

 

トシキはコクピット内でヘルメットを取り深いため息をつく。

しかも懸念事項は他にもある。

 

「・・・あのミサイルをどうにかしないと、セフィーラへは行けない・・・」

 

クラストラニアからのフォールドには成功したが、今のままではセフィーラ軍は大きな行動制限を受け続ける。

どうにかして攻略しなければならない。




劇中曲1:SELUMNA PEAK/ACE COMBAT 6 解放への戦火
   2:Mr.Adam/ARMORED CORE 4

ED:吹雪/西沢 幸奏

今回は1回でまとめたかったので長い上に適当な箇所だらけでゴチャゴチャしてますね・・・


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STAGE20 小惑星帯 の 謎

OP:明日へのキズナ/HIMEKA


ブリタニア軍のミサイル攻撃を凌ぎ無事クラストラニアからのフォールドを成功させたセフィーラ軍は、現在は通常の宇宙空間を航行している。艦内は重力制御のため普通に歩ける。

 

そんな艦内で現在、トシキとユーノは予備パーツが大量に入った箱が載っている台車を整備区画へ向け押している。

 

「あ~あ、ゴースト追いかけて撃墜したのに母さんめ、心配かけたから罰として整備班を手伝えって・・・」

 

「エイカさんってトシキのお母さんなんだよね?心配する気持ちは分かるからフォローはできないかな・・・それにこのレベルなら軽い方でしょ?」

 

お互い会話を挟みながら整備区画まで備品を運ぶ。

 

「整備主任、パーツ持ってきましたよ」

 

「おおミヤ坊、お疲れさん!」

 

整備主任者は軍の全機体のチェックをしなければならない為多忙だ。

トシキとユーノは台車を指定された場所まで運び区画を後にしようとする。

 

“ねぇ 忘れないで 振り返れば はるか遠く ここで会った日を 懐かしみ 想いを馳せる”

 

どこかから歌声が聞こえる。

 

「この声、ユウナ?」

 

声を頼りに区画内を歩いていくと、トシキのVF-25Fの機体上部に腰掛け、ミュージックプレイヤーで音楽を聴きながら歌ユウナを見つける。

歌声を聞いたユーノは拍手を送り、それに気づいたユウナがトシキ達に振り向きトシキは右手親指を立てる。

ユウナは照れ顔になり舌をチロッと出し機体から降りてくる。

 

「いい歌だぜユウナ。綺麗だったぞ」

 

「そ、そうかな・・・?トシキ君のプレイヤーに入ってたのをそのまま歌ってただけだし・・・」

 

「トシキ、いつの間に結城さんと仲良くなったんだ?」

 

「クラストラニアを出る前に話した程度だけどな」

 

《宮本トシキさん、アリスさん、ユーノ・スクライアさんはアンドレアス准将の執務室までお越しください》

 

3人が話している時、トシキ達に招集がかかる。

 

「また俺たちか?」

 

「今度は何だろうね、行ってみよう」

 

「ああ。また後でなユウナ」

 

「うん!頑張ってね!」

 

トシキとユーノはユウナと別れアンドレアスの下へ行く。

 

 

 

***

 

 

 

「本艦隊より7時方向に存在するアステロイドにブリタニア軍の宇宙基地が存在している事が判明した。そこではブリタニアがある新兵器を開発中との情報が入っている。本来なら新統合軍の仕事なのだが、上層部は不用意に部隊を割き戦力を分散させたくないらしい。他の惑星の自治政府への刺激にもなりかねないからな。その分今回の君達への報酬は弾もう。それと本作戦には君達に同行者をつける予定だ。どう使うかは君達に一任する」

 

 

 

***

 

 

 

艦隊後方のアステロイド地帯。

低速飛行で警備中のゴーストをガンポッドで撃墜し、宇宙戦装備のトシキ達が編隊を組みながら突入していく。

しかし同行しているのはアリスとユーノだけではない。

 

《こちらエイカ、後方は異常無し》

 

《こちらハイデマリー、異常ありません》

 

《・・服部シズカ軍曹、異常ありません》

 

エイカ、ハイデマリー、シズカも同行している。3人に限って言えばもしこの任務に失敗した場合は上層部は関与を否定し記録は抹消されるらしい。

それだけ今回の件が重要なのだろう。

だがシズカに限りトシキと行動するのは複雑な心境だった。セフィーラで1度目、クラストラニアで2度目と、シズカは義勇兵扱いのトシキに2度も助けられている。

 

《こちらユーノ、ブリタニアの基地はこの先だよ》

 

「よし、皆警戒しろよ」

 

トシキが先導しアステロイドの奥にあるブリタニアの宇宙基地に向かう。

アステロイドを抜け基地に着いた・・・はずなのだが、

 

《ボロボロじゃないですか、私たちより先に誰が・・・?》

 

アリスの言う通りそこはまさに廃墟。折れたり曲がったりした鉄骨や崩れたり剥がれたりした外部壁が浮遊いているだけだ。

それでも進んでいくと、トシキ達の行く先にある基地の壁が突然突き破られそこから白い大剣のような何かが飛来しトシキ達を通り過ぎる。

 

《な、何今の・・・!?》

 

ユーノがこの場にいる全員の心情を代弁するような台詞を言う。

崩壊した基地に謎の物体と、不気味な雰囲気も出てきた。

 

《マスター・・・もしかして、幽霊さんがここを壊したなんて・・・?》

 

「バカ、宇宙に幽霊なんて・・・」

 

いない。と言いたかったが勝手に口が閉じてしまった。確証が無かったのだ。

とにかく今は調査の為に進むしかない。

 

何とか安全そうな区画を見つけその中を進むが、そこで爆発が起きる。

 

《爆発!?》

 

《残ってた火薬や燃料に引火したんだ、早く逃げないと巻き込まれるよ!》

 

爆発が徐々にトシキ達に迫り、全員何とか区画から脱出。

しかしこれでは落ち着いて調査などできない。

 

「どこもかしこもこんなんじゃ安心できないぞ」

 

《そうね、基地どころかこれじゃ廃墟だわ》

 

エイカの言う通り、このブリタニア宇宙基地は既に廃墟と化しているのだろう。

問題はその原因だが一向に理由が分からない。

 

《レーダーに反応!前方に迎撃システムがある。来るよ!》

 

ユーノが迎撃システムの稼働を確認し、同時に生きていた無人の対空砲が動き出す。

だが自動砲台などが通用する訳もなくマイクロミサイルを撃ち込まれ呆気なく破壊される。

するとトシキ達の10時方向の壁が爆発しそこから今度は黒い盾のような物が飛来。

 

「まただ・・・」

 

《一体、何が起きたのでしょうか・・・》

 

進むにつれ謎が深まるばかり。だがその謎が遂に解ける。

 

《またレーダーに反応・・・。今度は大きい!僕たちの後ろだ!》

 

ユーノが叫びに近い報告を上げる。

その時トシキ達の背後から白い人型のような物が追い越し向き直る。

全高はバトロイド形態のバルキリーの2倍近いサイズ、30メートル以上はある位だろう。

 

《あ、マスター、あれを!》

 

アリスが声を上げると、これまでトシキ達が見た白い大剣のような物と黒い盾のような物が人型に向け移動。

大剣が人型の右腕、盾が左腕側に着くと人型がそれを装備。それを見てトシキとエイカは合点がいった。

 

「そうか、こいつが新兵器が!!」

 

《そう、それじゃ基地の惨状はこれがやったのね!》

 

トシキとエイカの言葉に全員が気を引き締める。

 

《私ハ、全テノ敵ヲ破壊スル》

 

トシキ達全機にメッセージが飛ばされ人型はトシキ達に大剣を向ける。

その大剣からレーザー弾幕が放たれる。

 

《回避!》

 

エイカの指示で全員が散り全方位から攻撃をかけようとするが人型の背中についている有線接続されたゴースト程のサイズの5連装砲台が射出され攻撃を行う。

 

《これじゃ近づけないよ!》

 

「くっ!」

 

トシキは兵装をマイクロミサイルに替え、人型の大剣と盾をロック。

いくら防御や攻撃に使う物でも、それ自体には耐久性もある。

 

「全部持っていけ!!」

 

インテーク部と機体上部のランチャーからマイクロミサイルを撃ち、大剣、盾を追尾する。

ミサイルは目標を追い、そして大剣、盾に命中。レーザー発射用に充填してあったエネルギーが暴走し大爆発を起こす。

 

「やったか!?」

 

爆煙で詳細が分からない。徐々に爆煙が晴れ様子が露わになるが、

 

《うそでしょ・・・!?》

 

ユーノが信じられないといったような声を出す。

それもそのはず、あの大爆発でありながら、人型は装備を失っただけでまだ形を留めている。

人型は残っていた誘導砲台で反撃を仕掛ける。

 

《私ハ、全テの敵ヲ破壊スル》

 

先程と同じメッセージが再びトシキ達に送り付けられ、人型は右腕に内蔵されている砲台を出しレーザーを乱射する。

 

《何が破壊する、よ!完全に壊れてるじゃない!》

 

エイカも怒鳴るように声を荒げる。

その間にユーノがしゃかりきになり人型を調べ上げ弱点を割り出そうとしている。

 

《制御機構は機体の胸辺りだ、そこさえ壊せれば止められる!》

 

「分かった!」

 

ユーノが遂に弱点を特定しトシキ達はそこを重点的に狙うが重大な問題が起きた。

 

「バカ!服部、近づきすぎだ!!」

 

シズカが人型に接近しすぎているのだ。

接近すれば当然狙われやすくなる。

 

《私だって、宮本さんの助けがなくても!!》

 

自棄になっているのかシズカはトシキの警告に従わない。

人型は右腕の砲台から通常のミサイルが4発発射される。

シズカはフレアをばら撒くが釣られたのは1発だけ。残り3発が迫りシズカは機体をバトロイドに変形させガンポッドでミサイルを撃ち落とそうとするが、ミサイルその物にスラスターとAIが装備されているのかミサイルが勝手にガンポッドを回避している。

シズカはファイターに変形し振り切ろうとするがジリジリと詰め寄ってくる。

 

《どうして・・・、どうして私はこんなに・・・!!》

 

ミサイルがシズカのVF-19Fに直撃し、黒煙を上げながら落下していく。

人型は今度はハイデマリーに右腕の砲台を向ける。

 

《・・・!!》

 

恐怖したハイデマリーは急速回避に入る。

そこに人型の頭部にマイクロミサイルが撃ちこまれる。

 

《トシキ、さん・・・?》

 

ミサイルを放ったのはトシキのようだ。

頭部にミサイルを撃たれた人型は怯み、その隙にトシキのVF-25Fが懐に入り胸部にガンポッドを徹底的に撃ち込む。

スパークを起こし胸部が小爆発を起こした瞬間人型の身体全体にスパークが奔り出しトシキ達は急いでその場から退避。

人型はもがき、天を仰いで吠えるように両腕を広げた後にエネルギーの暴走により大爆発を起こした。

 

《・・・不明兵器の破壊を確認》

 

消沈した声でハイデマリーが報告する。

それもそうだ、この任務でシズカは撃墜された為この後シズカの記録は抹消される。つまりは軍からいなくなったことになるのだ。

しかしそれを分かっていても諦めたくない者がいた。

 

「・・・ユーノ、服部の位置を確認できるか?」

 

《トシキ?》

 

《今から服部の救援に行く》

 

トシキの言葉に一名を除く全員が驚愕する。

その一名とは・・・

 

《忘れた訳じゃないでしょうトシキ?これは軍の内密作戦よ》

 

当然エイカだ。エイカは正規の新統合軍兵士の為今回の件は重々理解している。

 

《服部シズカ軍曹は撃墜され、彼女の記録は消される事になるの。今助けにいっても何もならないわ》

 

エイカの言い分も分かる。この任務に失敗した彼女は既に軍にはいない事になっているだろう。

だがトシキは止まらない。

 

「反応を捉えてるなら位置を教えてくれ、ユーノ」

 

《・・・分かった。反応はこの先にある惑星スーシアだよ。でもあそこは最近の火山活動による地殻変動の活発化でかなり危ないよ》

 

《・・・ならどの道、助けに行っても無駄ね》

 

エイカのその言葉にトシキが反応した。

 

「無駄・・・?何でそんな事言えるんだよ、母さんの部下だろ!?」

 

《そうよ!本当なら私も助けに行きたいわよ、でも軍の命令は絶対なのよ・・・》

 

エイカとしてもシズカの救援に行きたいのは山々だが、軍内密作戦の命令に背けば懲罰では済まない。最悪処刑されるだろう。

シズカを見捨てるしか選択肢は無いのだろう。それにどの道危険地帯である惑星スーシアに墜落したのであればそもそも救援にすら行けない。

 

《これより艦隊に帰還するわ。トシキも変な癇癪は起こさないで従いなさい、命令よ》

 

命令。確かにそれは軍では絶対なのだろう。しかし・・・

 

《・・・いくら母さんでも、そんな人を見捨てるような命令なんざゴメンだ!!》

 

トシキはそれでも行きたかった。

機体をファイターに変形させ惑星スーシアへ進路を取る。

 

《トシキ!!この命令に背いたら貴方もただじゃ済まないかもしれないのよ!?》

 

「ああ分かってるよ。俺が勝手にやるんだ、母さんやマリーは無視して俺の責任にでもしとけばいい!」

 

《待ちなさいトシキ!そんな勝手に・・・!!》

 

《トシキさん・・・!》

 

トシキは一方的に通信を切り、惑星スーシアに向け機体を加速させる。

アリスとユーノは呆気に取られるが、アリスの小さな笑い声が聞こえだす。

 

《アリスさん?》

 

《何を言っても、やっぱりマスターは人を見捨てられないんですね!でしたら私もお手伝いします!》

 

アリスも機体をファイターに変形させトシキを追う。

ユーノどうしようか迷ったが、見捨てたくないというのが本音だ。ユーノは軽く肩を竦めた後にトシキ達を追う。

 

これからトシキ達が行うのは、危険惑星での決死の救援となる。




劇中曲1:ASTEROID/PSYVARIAR REASSEMBLE
   2:ボスA/スターフォックス64
   3:Boss#1/PSYVAIAR

ED:吹雪/西沢 幸奏

次回は(も?)イベント回収回かもです。


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STAGE21 灼熱 の 銀

OP:明日へのキズナ/HIMEKA


惑星スーシア。近年続いている活発な地殻変動の影響で所々に地割れがあり、そこからマグマが噴き出している。

中には蛇のようにマグマが噴き出している箇所もある。

 

そんな所に編隊を組んでいる3機の機影。トシキ達セイレーンだ。

 

「熱でのダメージに気をつけろよ!」

 

《はい(了解)!》

 

トシキが列機であるアリスとユーノに声をかけた時、トシキ達の背後から噴き出したマグマが迫る。

3人は各々の機体を加速させ回避。

 

3人はこのスーシアに墜落した服部シズカの捜索救難を始めるが、噴火してくるマグマの熱でジワジワ削られるように機体にダメージが蓄積していく。

 

《さすがのバルキリーでも、この熱さじゃもたないかもしれないね・・・》

 

この炎天下をも通り越すような暑さにユーノも少し参っているようだ。

SWAGエネルギー転換装甲を持つ可変戦闘機でも、熱によるダメージは防ぎようはない。

しかも機体だけでなく、パイロットの体力をも徐々に奪っていく。

この惑星の環境にトシキ達がいつまで耐えられるか分からない。しかしそれでも行かなければならない。

 

この灼熱地獄の中でシズカが苦しんでいるかもしれない。

シズカはこれまでトシキを邪険にしてきたがそれでもトシキの中では見捨てる理由にならなかった。

 

「無事でいてくれよ・・・!」

 

必死に捜索を続けるが今のトシキはただ彼女の無事を祈るしかない。

しかしもしマグマに落ちていたら、今頃彼女は・・・

一瞬最悪の想像をしてしまったトシキは頭を振り想像を払拭する。

 

《トシキ、こっちの方に何か落ちてるのが見えたよ》

 

捜索中のトシキにユーノから連絡が入る。

だがそれだけでは分からない。何かと言ってもこの惑星では噴石もあり得る話だ。

 

「ユーノ、どんな形だった?」

 

《遠くてぼんやりだったけど、飛行機みたいだったよ》

 

飛行機みたいな物。そんな物がこの惑星の環境で自然にできるとは考えにくい。

その考えが希望をもたらした。

 

「もしかして服部か!?」

 

《分からないけど・・・。僕は先に行って確かめてみるね》

 

「俺も後から合流する!」

 

ユーノとの通信を終え、トシキは連絡にあった地点に機体を向かわせる。

 

 

 

***

 

 

 

もう彼女は疲れ切っていた。

この灼熱の惑星に墜落し、何やら3本のかぎ爪のような物で機体が拘束されている。いや、それ以前にFF-2550F熱核バーストタービンエンジンの出力が上がらない。

操縦桿から手を離し、ヘルメットを脱ぎシートにもたれかかる。

既に何分も閉じ込められている為か大量の汗をかいている。

このままここで蒸されるのだろうか。

 

シズカはこれまでの事を思い返していた。

早くに父を亡くし、家庭を支える為に軍に入隊。ひたすらに努力を続けた。

だが、その努力はたった1人によって否定されてしまった。

自分が憧れ敬愛している最高のパイロットだと思っている上官の息子。その彼に2度も命を救われた。

だが彼も自分の理念の為に努力していた事を知り認識を改めようとした。が、それをどこかで許せない自分がいる。

 

「あ・・・」

 

シズカの目から涙が零れる。孤独からか死への恐怖からかは分からない。

だが、何故か嫌だった。

 

「たす、けて・・・」

 

パイロットや軍人は死と隣接している。そんな事は分かりきっていた。分かっていたつもりだったのだ。

 

「トシキ、さん・・・!」

 

思えば初めて彼の名を口にした。が今更呼んだところでもう・・・

 

《見つけた!服部!》

 

通信機に声が響く。シズカは瞑っていた目を開けてみる。

 

そこにはバトロイド形態でシズカのVF-19Fの下にいるトシキのVF-25Fがあった。

 

「み、宮本さん・・・?」

 

信じられなかった。何故彼がここにいるのか。

 

「・・・何してるんですか。命令違反ですよ、分かってるんですか!?」

 

《バカ野郎!そんなんでお前を見捨てる理由になるか!》

 

シズカの怒鳴るような声に、トシキは完全な怒鳴り声で返す。

 

《いいから脱出の準備をしろ!機体動かせるか?》

 

「・・・無理です。エンジンの出力が上がらないんです。こんなんで・・・」

 

《諦めんな!何とかしてやる!》

 

根拠もなくそんな事をトシキが言うが、何故かその声が心地よく感じた。

しかし、衝撃が突然襲い掛かる。

 

 

 

***

 

 

 

どうにかシズカを助けだそうと模索していたが、突然地震が起こる。

 

「な、なんだ!?」

 

《いけない!宮本さん、離れてください!!》

 

咄嗟にエンジンを吹かせ上空へ退避。

シズカのいる地点を中心に地割れが起き、そこから出現したのは鳥である爆撃機のような大柄な機械。

シズカを捕らえているかぎ爪のような物はその機械の尻尾のように伸長している。

 

機械は離陸後に収納されている3対6本の棒のような主翼を展開し主翼間に翼形状に光の膜が展開される。

更に離陸後に各砲門を開放しトシキにレーザーによる攻撃を開始する。

まるでアステロイドのブリタニア宇宙基地で遭遇したあの人型のように自律性がある。

 

《トシキ!》

 

「ユーノ!」

 

ユーノが合流し編隊を組むが、鳥機械は正確にレーザーを撃ってくる。

 

《そんな・・・これってまさか!?》

 

「何か知ってるのか!?」

 

《考えたくないけど、あれはブリタニアの生体触媒兵器かもしれない・・・》

 

単語にトシキは頭に?マークが浮かびユーノが説明を始める。

“生体触媒兵器”とは宇宙生物バジュラの情報を模してブリタニアが作ったた物で、生物を機械的に改造しそれに武装を搭載した物らしい。

内部組織により装甲を自己修復でき、生物を捕食する事でエネルギーを半永久的に得る事で活動するが、基が生物る為に制御が難しくその問題を示唆された事から研究・開発が中止がになったらしい。

 

「だったら、そんなのが何でここに!?」

 

《多分、実験段階のタイプをここに捨てたんだと思う。それがこの星の環境に耐えられるように進化したんだ!》

 

タチの悪い冗談だ。

ブリタニアの実験のツケを自分達が払わされる事になろうとは。

 

《どの道私はもう・・・。逃げてください宮本さん!》

 

「見捨てる訳ないだろ、待ってろ!」

 

担架を切ったはいいが、実際どうすれば良いかは分からない。

 

《マスター!無事ですか!》

 

そこへアリスが合流、再び3機に戻る。

 

《な、何ですかあれ・・・?》

 

「ユーノの話じゃブリタニアが作って捨てた兵器が自己進化した奴らしい」

 

《そんな・・・》

 

《大丈夫!生体触媒兵器の中枢はそのほとんどが頭にあるって聞いた事があるよ!》

 

「って事は生き物そのまま、頭に脳があるって事か!」

 

ユーノの分析で弱点が暫定的に判明。あとは攻略するだけだ。

当然分担は決まっている。

 

《マスター、私が囮になります!》

 

《僕もできるだけ引き付けるよ!》

 

「了解!」

 

アリスとユーノが前衛を務め、鳥機械の攻撃を散らす。

その間にトシキは機体をファイターに変形させ鳥機械の前に回りこもうとする。

 

《皆さん、何をして・・・!?》

 

「決まってるだろ、お前を助けるんだよ服部!」

 

アリスとユーノは鳥機械のレーザーをとにかく回避し隙を見てガンポッドやマイクロミサイルで攻撃。

レーザーの発射口を壊しレーザーを発射不能にする。

トシキは前方に回り頭部にガンポッドを撃ちこむが、装甲が堅く弾丸が通用しない。

 

「堅い!」

 

《この環境に適応するのに装甲の組織間結合力が強くなってるんだ!》

 

「これじゃミサイルもダメだな。なら!」

 

トシキは機体をバトロイドへ変形。左腕のシールドからガーバー・オーテックAK/VF-M9アサルトナイフを出す。

 

「行くぜ!」

 

VF-25Fが鳥機械の頭部に取り付きナイフを突き刺す。

鳥機械は機体を揺さぶりトシキを振り落とそうとする。

 

「クソ!!」

 

勢いに耐えられず振り落とされてしまうが、その際に鳥機械の装甲板の一部を剥がす事ができた。それもナイフ形状になっている。

どれだけ強固な装甲でも、自分の装甲でできた自然のナイフには耐えられないだろう。

 

「喰らえ!!」

 

トシキは装甲板ナイフを鳥機械の問い部に投げつける。

それにより中枢に致命傷を与えたか鳥機械の機能が鈍り落下を開始。

このままではシズカも共にスーシアのマグマに落ちてしまう。トシキは尻尾の方へ回る。

 

「服部、構えろ!」

 

「!!」

 

トシキの言葉に身体が反応した。シズカはスロットルレバーと操縦桿を再び握る。

中枢が破壊された事で装甲の組織間結合力が低下し、VF-25FのVF-M9アサルトナイフが尻尾を切り落としかぎ爪の拘束からVF-19Fが解放される。

 

《下のマグマがこっちに向かって爆発しかけてる!急いで!!》

 

マグマが直撃すれば流石の可変戦闘機でも無事では済まない。

トシキは機体をファイターに変形、右腕だけを出しVF-19Fを下から支える。

 

「一気にこの星から出るぞ!外れるなよ!」

 

トシキの言葉にシズカはなけなしの全推力を加速に充て操縦桿を操りVF-25Fの腕から外れないように機体を制御する。

アリスとユーノも続きスーシアから離脱していく。

そして巨大な噴火が起こり鳥機械を呑み込む。呑み込まれた鳥機械はマグマの高熱に耐えきれず大爆発を起こす。

そのままトシキ達の背後にまで噴火が迫るが、加速が勝り噴火を振り切りスーシアの大気圏を突破する。

シズカは徐々に離れていくスーシアを見やり、トシキとユーノは衛星軌道上に待機させていたスーパーパックを再装着。そのままシズカを連れ帰路につく。

 

 

 

***

 

 

 

しばらくしてセフィーラ艦隊と合流し着艦。

帰って早々にユウナから涙ながらに迎えられる。何しろ命令を無視してまで機体を持ち出したのだ。

結果としては今回の命令違反でセイレーンに入る報酬は減額されトシキは1週間の懲罰房に処された。この結果で済んだのはトシキ達が正規の兵でなかったからだろう。シズカの処分は追って通達されるそうだ。それでもトシキに後悔は無かった。

 

「こんな結果になると分かって、どうしてあんな事を・・・?」

 

十字格子の付いたドアを挟みトシキとシズカが会話している。内容は勿論今回のトシキの命令違反の件だ。

トシキは壁に寄りかかっている。

 

「不十分な装備では高確率で二次被害を起こします。最悪、貴方も死んでいたかもしれないのに・・・。本当に命令違反だらけです・・・」

 

静かに起こっているつもりなのだろう。

それでも怯むどころか言葉を続ける。

 

「・・・確かに軍じゃ命令は絶対なのかもしれない。けど、それで助けられる人まで見捨てたら俺はきっと俺自身を許せなくなるかもしれない。そんなのはゴメンだ」

 

「・・・命令よりも・・・自分よりも・・・守りたいもの」

 

シズカそっと格子に置かれたトシキの手に自分の手を重ねる。

目から静かに涙が零れ始める。

 

「・・・暖かい、ですね・・・」

 

小さな嗚咽が響く。

 

「ありがとう・・・トシキさん・・・」

 

トシキはシズカが泣き止むまで空いている手でシズカの頭に優しく触れていた。




劇中曲1:セクターY&ソーラ/スターフォックス64
   2:GOD EATER/GOD EATERシリーズ

特別ED:Aurora days/服部 シズカ(ICV:内田 彩)


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STAGE22 ベルファン 強襲 ACT1

OP:明日へのキズナ/HIMEKA


「敵ゴースト及び巡航ミサイルは、各々機能的に密な関係を持つ敵の機密兵器だという解析結果が出た。採取したミサイル及びゴーストのサンプル、その他レーダー記録等を解析した結果は次の通りだ。第1段階として自律稼働、又は遠隔操作されたゴーストが破壊対象に接近。第2段階としてゴーストが目標に誘導レーザーを照射、ミサイルを誘導する。最終段階ではゴーストに誘導された巡航ミサイルが目標に着弾。攻撃目標を破壊する。これが敵巡航ミサイルシステムの全容だ。ゴーストと巡航ミサイルは敵強襲母艦より射出され、射出後は強襲母艦からリモート操作されている。この解析結果を受け参謀本部は敵ミサイルシステム壊滅作戦の決行を決めた。これより我々は惑星ベルファンのブリタニア軍基地を強襲。これを奪取しそこに敵ミサイルシステム破壊の最前線を築く。敵は陸空に大規模展開。我々も総力を持ちこれに挑む。この作戦の成否が戦争全体に影響する可能性を秘めている。心して向かえ!」

 

 

 

***

 

 

 

あれから1週間が経ち懲罰房から開放されたトシキは、ユーノ達と共に機体のチェックをしている。

その中にもう1人。自分の機体のチェックを行っている人影が。

 

「何で私が貴方たちと組む事になんて・・・」

 

「除隊扱いで俺達に預けられる事になっちまったんだろ、服部シズカ()軍曹さん?」

 

それは惑星スーシアでトシキ達に救出されたシズカであった。

あの後、シズカは名誉除隊という扱いで軍から除名されアンドレアスの計らいで今はセイレーン4人目のメンバーとして参加している。

シズカのVF-19Fもセイレーン異動に伴い、アンドレアスの計らいとトシキが自費を出し予算を賄った事で強化改修が施され「VF-19F/X」となった。

 

この機体は外観はVF-19Fそのままだが、エンジンをVF-25と同じFF-30001Aと高機動バーニアスラスターHMM-9、脱出用パワードスーツ“EX-ギア”等が装備されている。

 

「でも今回は他の新統合軍の部隊が先行して戦ってるんだよね?」

 

「新統合軍みたいなデカい組織になると色々あるってアンドレアスさんが言ってたぜ?上手くいくって思ってないんじゃないのか?」

 

そう、トシキとユーノが話している通り今回は別方面の新統合軍部隊も参加している。

しかし新統合軍程の巨大な組織となれば一筋縄ではいかないのが常という物。実際軍内部でも確執やトラブルが起こっている話を耳にしている。

 

「ま、うまくやるつもりさ」

 

「その根拠のない自信はどこからくるんですか・・・」

 

シズカがトシキの自信にツッコミをいれた時、艦内に出撃のベルが鳴り響く。

それを受けトシキ達も身構える。

 

「仕事の時間だ。チーム・セイレーン、行くぜ!」

 

『はい(了解)!』

 

「りょ、了解・・・!」

 

アリスとユーノはいつも通り。シズカは躊躇いはあるものの返事をし各々の機体に乗り込む。

 

 

 

***

 

 

 

 

惑星ベルファンのブリタニア基地上空。

ブリタニア軍の防衛部隊と新統合軍の攻撃部隊が大規模戦闘を行っているが新統合軍が劣勢だ。このままでは全滅も時間の問題だろう。

そこへセフィーラ軍が合流し新統合軍に加勢。トシキ達セイレーンが先行し敵部隊をかき回す。

 

「行くぜ皆、新統合軍に加勢するぞ!」

 

『はい(了解)!』

 

《君がセイレーン隊長の宮本トシキ君か?》

 

「・・・そうだが、あんたは?」

 

女性の声が聞こえ、新統合軍のロゴが入った1機のVF-171がトシキの2時方向につける。

 

《リヴィ・コレット特務少尉だ。今回はよろしく頼む》

 

挨拶をした後リヴィのVF-171はすぐに戦闘に戻る。その態度がどこかアリスには面白くなかった。

 

「何なんでしょうあの人。マスターを悪く思ってるのでしょうか?」

 

「義勇兵だしな、仕方ないさ。俺たちも行くぞ!」

 

トシキ達は散開し各々自由戦闘に入る。

ブリタニア軍の主力はVF-171やVF-11B等だが中にはVF-19Fの高性能機もある。

ユーノは前線からは少し離れ、敵と味方の識別に専念する。

 

「トシキ、10時方向に2機。味方が狙われてるよ!」

 

「了解!」

 

ユーノの情報を受けトシキはその方へ機体を向ける。見れば2機のVF-11Bが新統合軍のVF-171を追い回している。

すかさずVF-11B2機の内の1機をロックしガンポッドを発射。エンジン部を撃ち抜きパイロットは脱出。

残りのVF-11Bは標的をトシキに変えたか反転し向かってくる。トシキは下へ回避しすれ違う瞬間にバトロイドに変形させVF-11Bを下から撃つ。これもエンジン部に命中し推力を失くしたVF-11Bは黒煙を上げながら落下していく。

 

「敵戦闘機、1機撃墜!」

 

「私も1機やりました!」

 

シズカとアリスも1機ずつ撃墜。セフィーラ軍が加勢した事で多少は巻き返せそうだ。

 

「アリスさん、背中に付かれるよ!」

 

「え!?」

 

ユーノから連絡が入りアリスの背後にVF-171が回り込む。振り切ろうと加速させようとした瞬間VF-171にガンポッドが撃たれパイロット排出後爆散する。

 

「チェックシックスだ、油断大敵だぞ」

 

「マスター!」

 

爆煙から出たのはトシキのVF-25F。アリスの援護が間に合ったようだ。

エイカを始めセフィーラ軍のエース達も加勢し徐々に新統合軍が巻き返してきた。

だがそううまくは行かない。

 

《全機警戒!敵基地に動きがある》

 

新統合軍全機に向けリヴィ特務少尉が通信を放つ。

その報告通り、基地のゲートが開いていく。

 

「何だ?」

 

敵の行動に若干困惑したがすぐに答えは出る。

開放したゲートから次々と敵の可変戦闘機が発進してくる。

 

「そんな!?」

 

「増援!!」

 

基地から飛び立ったブリタニア軍の戦闘機は前線に加わり、戦況は混乱状態になっている。

 

「これじゃどれが敵か味方か分かりません!」

 

「待って、識別が追いつかないよ!」

 

ユーノのRVF-25の性能を持ってしても識別が追いつけていない。

その間に新統合軍・セフィーラ軍機が次々と落ちていく。

 

「マスター、どうしましょう!?」

 

「どうするったって・・・!」

 

何とか状況を打開せねば。トシキ必死に思案。

その時閉じていく敵基地の発進ゲートが見え、それによりトシキの機転がきいた。

 

「そうだ、今回は基地の制圧・・・なら!アリス、ユーノ、服部!ゲートが開いたらお前たちは突入するんだ!」

 

「マスターはどうするんですか!?」

 

「ええ!?でも、味方の識別が・・・」

 

「いいから行け!」

 

「わ、分かった!」

 

「は、はい!」

 

「了解!」

 

トシキの気迫に押されたか2人は戸惑いながらも返答。シズカは目的が分かっていてトシキの判断が最善と思ったかしっかり返答する。

ゲートを開かせるにはある程度敵機を減らす必要がある。

その考えに至ったトシキはブリタニアの戦闘機を自分で識別し撃墜に向かう。

丁度リヴィ特務少尉のVF-171がブリタニア軍のVF-1713機に追われている。トシキはそれに狙いを定めミサイルロック。主翼下のミサイルを発射し3機を撃墜する。

 

《君か、助かった》

 

「貸しにしとくよ」

 

《ふっ、ではいつか返さなくてはな》

 

リヴィ特務少尉と簡単な会話をした時、基地のゲートが開いたのを確認する。

 

「ゲートが開いた、皆行け!援護する!」

 

ゴーサインを受けユーノ達がゲートに向け加速。

それを目撃したブリタニア軍の戦闘機が阻止しようと向かうがそれをトシキは許さない。

接近してくる敵機をガンポッドで攻撃し墜としていく。

 

そしてユーノ達を見ればゲート突入に成功したようだ。

 

「後は頼んだぜ」

 

トシキは静かに呟く。

 

 

 

***

 

 

 

アリス、ユーノ、シズカは基地内部への侵入に成功。

これからどうするかだ。

 

「どうするの?トシキに頼まれて突入したけど・・・」

 

「今回の任務は基地の制圧です。でしたら後続の為に進路を確保すべきだと思います」

 

軍人であるシズカは比較的落ち着いているか、冷静に判断する。

その後はシズカの判断通り、他の部隊が突入できるようゲートを開放する管制しつを目指す。

だが・・・、

 

「ここは・・・スクライアさん。基地の見取り図は合ってるんですか?」

 

「やってるけど、電波が悪くて読み取りにくくて・・・」

 

ユーノが何とか基地のコンピュータに侵入し全体の見取り図を入手したのだが電波状態のせいで上手く表示できないようだ。そのせいで道に迷ってしまっている。

今いるのは何処かのドッグのようだ。

 

「あ、皆さん待ってください!」

 

突然アリスがユーノとシズカを止める。

アリスが自分の右を指さし、そこの金網越しに見えるのは・・・戦艦のような物。

艦橋の前に大きなレドームがあり、外観は馬が前後足を前後に広げたような形。

 

「これは・・・戦艦・・・?」

 

「時間を無駄にできないけど、調べる価値はあるかも」

 

ユーノの言葉にアリスは頷き、シズカも仕方なく同行する。

作業員は退避しているのか誰もいない。つまりこの艦はまだ未完成という事だろうか。

それが幸いし艦内に簡単に侵入できた。

感の見取り図も取れれば良かったろうが、ユーノが言ったように電波状態が悪く読み取れない。勘を頼りに進むしかない。

勘が鋭いのか偶々運が良かったか、迷わずに艦橋へ辿り着いた。

ユーノが艦のシステムを立ち上げる。

 

「大丈夫、動かせそうだよ」

 

「動かせそうって、この人数でですか?」

 

シズカのツッコミにユーノは言葉に詰まる。

が、アリスが恐る恐る手を挙げる。

 

「あの・・・もしかしたら私、この船の動かし方分かるかもしれません」

 

「・・・正気ですか?この人数でこれだけの艦を動かせるなんて・・・」

 

シズカがアリスの言葉を疑った時、アリスは艦橋中央の席に座る。

するとアリスの瞳から光が失われる。

 

「セントラルコンピュータにアクセス。・・・発進シーケンス開始。主動力オンライン、定格まで450秒」

 

「嘘・・・」

 

アリスの口から淡々と出てくる言葉にシズカは言葉を失う。

アリスは今、自分とこの艦を光学回路で接続し起動しようとしているのだ。

 

「基地とのコンジット接続を確認。出力をアキュムレーターに接続、定格まで20秒。CICオンライン。兵装システム正常、FCSコンタクト。艦性制御及び艦重力制御システム正常。主動力コンタクト、機関異常無し。・・・全システムオンライン。発進準備完了」

 

準備完了と同時に接続が解除されアリスは凄まじい疲労に襲われる。

 

「アリスさん!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・どうですか?」

 

「凄いよ。1人で全部してくれたんだから。後は任せて休んでて」

 

「・・・」

 

ユーノが操舵席に座り、シズカはアリスに怪奇の視線を向けた後に席に座る。

 

「急いで外に出てトシキ達と合流しよう。ここを破れば他の部隊も入れるんだ!」

 

「分かってます!」

 

ユーノはコンソールを操作し艦の情報と兵装を調べる

 

「・・・艦首のこの重量子砲なら隔壁を破れそうだ・・・。行くよ、前進微速。機動戦艦イザナミ、発進!」

 

 

 

***

 

 

 

外ではまだ戦闘が続いている。

トシキがハイデマリーのVF-22の背後についているVF-1712機にミサイルを撃ちこむ。

 

《ごめんなさい、トシキさん・・・》

 

「でもさっきのでミサイルを使い切った・・・。ユーノ、アリス、服部、まだか・・・!?」

 

流石のトシキも疲弊してきている。残りの兵装はガンポッドしかない上に残弾も僅かだ。

このままでは撃墜されるのも時間の問題だろう。

 

 

 

***

 

 

 

微速でゆっくりと進む機動戦艦イザナミが隔壁へ近づいていく。

 

「重量子砲発射と同時に最大戦速。掴まっててよ!」

 

ユーノの声にアリスとシズカが座席に掴まる。

そしてチャージが完了した重量子砲がイザナミ艦首から放たれ隔壁を打ち破る。

 

 

 

***

 

 

 

突然だった。

地面の一部が大爆発を起こし付近にいたブリタニア軍の戦闘機を巻き込んだ。

 

「何だ!?」

 

トシキはおろか誰も驚きを隠せない。

そして爆煙から現れたのは白亜の戦艦。

それが見えたと同時にトシキに通信が入る。

 

「お待たせトシキ!ごめんね遅くなって」

 

「ユーノ!?じゃあその戦艦に乗ってるのか!?」

 

突如現れた戦艦にはユーノが乗艦しているようだ。

戦場は更に混乱を極める事になる。




劇中曲1:カタリナ/スターフォックス64
   2:Rules of Nature(Platinum Mix)/METAL GEAR RISING REVENGEANCE

ED:吹雪/西沢 幸奏


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STAGE23 ベルファン 強襲 ACT2

OP:明日へのキズナ/HIMEKA


ユーノ達が奪取した戦艦イザナミの出現により、ベルファン基地上空は混迷を極めている。

基地を制圧すべきか戦艦を攻撃すべきか判断できないようだ。

そんな味方機に向けトシキが一斉通信を放つ。

 

「作戦行動中の新統合軍機へ。出現した戦艦は味方だ、繰り返す、戦艦は味方だ!」

 

《その根拠は?》

 

トシキの通信にエイカが異を唱えるが、今回は根拠がある。

 

「さっきあの戦艦から連絡が来た。ユーノたちが乗ってる!」

 

説明が終わる前にブリタニア軍が白亜の戦艦に攻撃を仕掛ける。最悪破壊するつもりなのだろう。

勿論ユーノ達も黙っている訳なく、戦艦の対空レーザーでブリタニア軍機を撃墜していく。

 

「こっちには服部さんとアリスさんもいるから安心して!」

 

「・・・でもそのままじゃマズいだろ、待ってろ!」

 

トシキはユーノ達をフォローすべくユーノ達が突入したゲートに向かう。

敵部隊は戦艦への攻撃や破孔からの新統合軍の侵入の防御などで疎らになっている。

 

トシキはゲートに突入しユーノ達の機体を発見。コクピット内を見ればシートや操縦桿がなくなっている。

つまりEX-ギアで活動しているという事だ。そうと分かれば言える事は一つだ。

 

「ユーノ、服部、EX-ギアを使え!」

 

「EX-ギア?確かに今着けてるけど」

 

「それがどうしたんですか?」

 

「いいから!」

 

トシキの気迫に押された2人は言われた通りEX-ギアを起動しIFFを操作。

 

〈CONNECT SLAVE〉

 

2人のIFFを受け取ったRVF-25とVF-19F/Xは自律起動し2人のいる戦艦へ向け飛行を開始。

トシキは無人の2機が撃墜されないように護衛に付き、接近する敵機がいればすかさずガンポッドで攻撃。撃墜していく。そして2機は戦艦に着艦。

 

「お前たちの機体、届けたぜ。ヤバかったら逃げろよ!」

 

「トシキ・・・ありがとう!」

 

「・・・お礼は言っておきます」

 

ユーノは素直に、シズカはまだ慣れないのか棘のある言い方だ。

トシキは機体を届けた後に補給の為に一時離脱。

衛星軌道で待機しているセフィーラ艦隊に戻りミサイルとガンポッドの弾を補給後再出撃し再び基地上空へ降下する。

降下直後にユーノから通信が入る。

 

「トシキ、早速だけど敵増援みたいだ。数は2!」

 

「機種は分かるか?」

 

「待って・・・出た。VF-17DとVF-19Fだ!」

 

どうやら敵エースのようだ。2機だけという事はどれだけ自信があるかという事の裏返しであろう。

 

《こちらハイデマリー、これよりセイレーンリーダーのフォーメーションに入ります》

 

「マリー?」

 

《援護はお任せください》

 

「・・・助かるよ、俺の後ろに!」

 

《了解》

 

トシキの5時方向にハイデマリーのVF-22が付き臨戦態勢を整える。

 

 

 

***

 

 

 

戦域に黒下地と赤いワンポイントのVF-17D、グレーの下地と黄色のワンポイントのVF-19Fが向かっている。

 

向かっていたのは基地の援護の為。しかし最悪の場合は放棄し撤退せよ。

それが彼女達が“彼”から受けた指示だった。

 

「おいおい、ほとんどボロボロじゃないか」

 

「でも今から私たちが行けば間に合うと思うわ。急ぎましょうエイラ」

 

「当然!私とサーニャにかかれば朝飯前だもんな!」

 

VF-17Dのパイロットの少女サーニャとVF-19Fのパイロットの少女エイラ。

彼女達は任務を全うする為に戦場へ突入していく。

 

 

 

***

 

 

 

「見えた!」

 

トシキが敵増援らしきVF-17DとVF-19Fを目視。

お互いにまずはロックされない位置を取りすれ違う。その際にトシキは2機の尾翼についている箒で模られた星のマークを目撃。

 

「こいつらもあの部隊の仲間か!注意しろマリー!」

 

《了解》

 

トシキから注意喚起されハイデマリーは更に敵を警戒する。

 

《こっちも2人、ちょうどいいナ》

 

エイラ達からすれば2対2は都合が良かった。連携に関してはエイラとサーニャはかなりのレベルだ。

それに対しトシキとハイデマリーはぶっちゃけ本番。普通に考えればトシキとハイデマリーが不利だ。

 

まずVF-17Dがハイデマリーの背後を取りガンポッドの狙いを定める。

ハイデマリーは振り切ろうと機体を揺さぶるが逃げる先にエイラのVF-19Fがガンポッドを放ち退路を断つ。

下手によけようとすればエイラのガンポッドの餌食になり、だからと言って動かなければ今度はサーニャのVF-17Dに狙われる。

トシキがエイラの背後を取りミサイルロックをしようとするが今度はVF-17Dが反転しトシキの背後に回る。

後ろに気を取られた隙に前のVF-19Fがバトロイドに変形し上下反転、ガンポッドをトシキに向ける。

トシキは機体を捻らせ回避するが、今度はVF-19Fに背後を取られる。

 

「こいつら、自分のポジションが分かってる・・・!」

 

この2人はお互いがフォローし合う戦術を使うようだ。

1人が1機を追えばもう1機はそれを追いやすくなるように退路を断ち、逆に追われている時はもう1人が背後を取り2機で挟撃。基本的にスタンドプレーをしないタイプだ。

逆にトシキは基本的にスタンドプレー。編隊を組むにしても援護の為に散る事が多い。

 

撃退するには相手の裏をかく戦術が必要になりそうだ。だがそれをやるのは容易ではない。

でも、もし穴があるとすれば・・・

 

「マリー!こいつの後ろに回れ!」

 

《了解》

 

トシキの指示でハイデマリーがVF-19Fの背後を取る。そうなれば空いているVF-17Dがハイデマリーの背後に回る。

今度はトシキがVF-17Dの背後を取り、更にVF-19Fがその背後を取る。これでは鼬ごっこだがトシキはもしかしたらと踏んでいる。

VF-19Fが迫り、前のVF-17Dが減速しバトロイドに変形し上下反転・・・

 

「ここだ!!」

 

トシキは操縦桿を思い切り手前に引き両足のペダルを踏み込む。

そうすると機首が持ち上がりコブラ機動に入る。そうなれば接近してきたVF-19FはVF-25Fをオーバーシュート。VF-17Dの照準はVF-19Fに向けられる。

 

《え・・・!?》

 

《ナッ!?》

 

2人は互いに射線に来た為にトリガーから指を離してしまう。

その隙にトシキは機体をガウォークへ変形させガンポッドをVF-17Dのエンジン部へ向け撃つ。

 

《きゃっ!》

 

サーニャは機体を捻らせるが間に合わず右エンジンに数発もらう。

破損した右エンジンは煙を吹き出力が上がらない。

 

《サーニャ!!》

 

「悪いな、次はお前だ!」

 

右エンジンを破損したVF-17Dではもう追従できないだろう。

VF-19FをトシキのVF-25Fが追う。

 

《エイラ!》

 

サーニャはエイラのフォローに向かいたいが右エンジンが破損している為追いかけるので精一杯のようだ。

そこへハイデマリーのVF-22が背後を取る。

 

《嘘・・・!?》

 

サーニャはすぐに回避行動に入るが、推力が落ちている為うまく動けず狙われるのも時間の門弾だろう。

 

《離れろよ!サーニャが危ないんだから!》

 

エイラはトシキを振り切ろうと躍起になっており機体上部の対空レーザー砲をトシキに向け撃つがトシキはそれをうまく回避。

 

《しつこいっての!》

 

痺れを切らしエイラはコブラ機動を取りトシキの背後に回る。

これで攻守逆転、後は切り上げサーニャの援護に向かうだけだったが、ここでトシキが機首を上げそれと同時に螺旋を描くように回り再びエイラの背後を取る。

これは“バレルロール”と呼ばれる空戦機動だ。

 

(トシキさん・・・この瞬間でも・・・)

 

それを見ていたハイデマリーは素直にトシキの素質に舌を巻いていた。

この一瞬でもトシキはまだレベルアップをしている。

 

《本気でしつこい!!》

 

叫びに近い声でエイラが吠えた後に再びコブラ機動・・・ではなくそのまま機首をトシキに向けてくるクルビット機動だ。

トシキは機体を捻らせガンポッドを回避しVF-19Fをオーバーシュートするが、

 

《エッ!?》

 

その瞬間にトシキは機体をバトロイドに変形させ上下反転。VF-19Fのエンジン部に狙いをつける。

エイラは回避しようとするが機首がまだ逆方向に向いている為加速ができない。そしてVF-25Fのガンポッドがエンジン部に向け火を噴く。

 

《ウワッ!!》

 

コクピット内にハンマーで殴られたような衝撃が奔り両エンジンは被弾。

致命傷には至っていないがそれでもダメージにより出力が低下。無茶な機動は取れなくなった。

 

サーニャの方を見ればハイデマリーがサーニャのVF-17Dのガンポッドを破壊し戦闘能力を奪っていた。

基地防衛部隊は既に大半が離脱か撃墜を余儀なくされている。

 

《エイラ、これ以上は無理よ・・・》

 

《クソ・・・ここまでかよ・・・!》

 

やむを得ないのかサーニャとエイラは離脱を開始し、ブリタニア防衛部隊の残存機も撤退を開始していく。

 

「奴ら、また逃げる気か!今度という今度は・・・!!」

 

《トシキさん、今回は基地制圧が任務です。目的を見誤らないでください》

 

追撃しようとしたトシキだったがハイデマリーに論され踏みとどまる。

見れば基地はセフィーラ軍と新統合軍の部隊が制圧している。

 

これによりミサイルシステム破壊の目処が立った。これからが勝負となる。

 

 

 

***

 

 

 

某所、ブリタニア軍基地。

度重なる敗北でブリタニア軍の戦力は徐々に削られつつある。

それを挽回する為、ある物の最終調整が行われていた。

 

「閣下、02の最終調整が完了いたしましたよ」

 

「あの機体の方は?」

 

「問題ありませんよ、すぐに少佐にお渡しできます」

 

暗がりの部屋で責任者らしき男と黒髪の青年、ルルーシュが会話している。

その中でモニターに映っているカプセルが開き、中からは水着のようなボディスーツを身に着け水色の髪をツインテールにした少女が出てくる。

 

「ではストラーフ・・・いや、02か。早速仕事にかかってもらおう。思う存分暴れてこい」

 

「イェス。マイ マスター」

 

淡々と答える水色の少女。

そして部屋のもう1つのモニターには、黒下地に濃青色のラインが入ったVF-27γと白地に金のライン、主翼端が緑に塗られた前進翼と4発エンジンが特徴の機体・・・“YF-29"があった。




劇中曲:GELB/ACE COMBAT ZERO THE BELKAN WAR

ED:吹雪/西沢 幸奏


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STAGE24 本国 の 思惑

OP:明日へのキズナ/HIMEKA


ベルファン基地を押さえ、敵強襲母艦攻撃への目処が立ちセフィーラ軍の士気は上がっていた。

そんな中でトシキ達セイレーンは各々の機体のチェックをしている。

 

「にしてもミヤ坊、また機体に無理させたな?」

 

「すいません整備主任・・・」

 

「お前さんもとことん運がいいのか悪いのか分かんないよな。ここぞって場面で相手のエースとぶつかるんだからよ」

 

愚痴りながらも楽しそうに話す。

確かにトシキはここ1番の場面で敵のエースと遭遇してしまう事が多い。それは偶々か仕組まれた事なのかはトシキ本人も分からないだろう。

 

「トシキ、アンドレアス准将が後で執務室に来て欲しいって」

 

「アンドレアスさんが?分かった」

 

「宮本さん、どうしてマルコフ准将を呼び捨てで呼ぶんですか?正規の軍人なら不敬罪ですよ?」

 

「本人がいいって言ってたんだよ」

 

シズカは前々から何故トシキがアンドレアスを階級無しで呼ぶのかが理解できなかった為この際聞いてみたようだが、碌な返答じゃなかった。

ユーノに言われトシキはアンドレアスの執務室に向かう。

 

「まさか、何か説教かな・・・」

 

トシキは呼び出された理由を考えげんなりとなるが、それでも行かなければ余計な小言が増える事になるだろう。

少し重い足取りで執務室前に着くが、

 

「何度・・・・・・るな!・・・・・・軍の決定事項だ!」

 

「尊厳無視も甚だしい!貴方は・・・・・・を何・・・・・・いるのですか!?」

 

何やらアンドレアスが誰かと揉めているようだ。アンドレアスが敬語を使っている事から相手はアンドレアスより更に上の階級を持つ軍人か役員の線が考えられる。

やがてアンドレアスの執務室から肥満体型の大柄な男が出てきて、トシキと顔が会う。

 

「・・・お前が宮本トシキか」

 

「そうですけど・・・」

 

トシキが返答した途端、男は顔を背け溜め息をこぼす。

 

「マルコフも何故こんな奴を迎えたのか。唯の子供ではないか」

 

その言葉にトシキは触発される。

 

「・・・それってどういう事だよおっさん?」

 

「口を慎まんか。厚意で雇われた義勇兵風情が調子に乗るなよ」

 

捨て台詞に聞こえそうな言葉でトシキは顔を顰めるが男は気にする様子を見せずにその場を後にする。

そのせいかトシキはかなり不機嫌になって執務室に入る羽目になる。

 

「トシキ君か・・・」

 

「アンドレアスさん、さっきの人何なんですか?やたらと態度デカくて・・・」

 

トシキの言葉にアンドレアスはやはりといった感じの心境になる。

説明が必要だ。

 

「・・・彼はグレゴリー・ド・グレムスロワ中将。地球本国軍、セフィーラ派遣部隊司令官で役員だ」

 

「はい!?あれで中将!?」

 

思わず耳を疑った。

先程あった態度の大きい男が地球本国の中将だというのだ。

 

「言いたい事は分かるよ。私もあんな人が中将だとは。それに厄介な案件も持ち込んでいるしな」

 

「厄介な案件?」

 

「君達が敵基地から鹵獲したあの戦艦の件だ」

 

そう言いアンドレアスは3枚の書類を出しトシキはそれに目を通す。

 

「なっ・・・!」

 

思わず声が漏れた。

それはユーノ達がブリタニア軍基地から奪取したあの戦艦“機動戦艦イザナミ”の地球本国新統合軍のセフィーラ派遣部隊への配属命令書。

 

セフィーラ派遣部隊への命令、それを出せるとするのは・・・。

 

「まさか!」

 

「そのまさかだよ。グレム中将の命令さ」

 

つまり、あの男はトシキ達が立てた手柄を自分達に寄越せと言っているような物だ。

感情に任せ命令書を握り丸めてゴミ箱へ投げ捨ててしまおうとしたが、アンドレアスより上官である命令を勝手に始末すればいくら正規兵でないトシキでもどうなるか分からない。

 

「私とてこの命令、断れるなら断りたい。しかし本国でのグレム中将の権限はかなり強くてな。それに彼は君の隊員にまで目をつけている。下手に動けばどうなるか分からない」

 

その言葉にトシキは2枚目の書類を見る。

そこに書かれていたのはアリスへのスパイ容疑の可能性、そして必要であれば本国部隊へ異動し監視が必要という内容。

確かにアリスは現在は身元不明だがそれだけでスパイと判断するには軽率すぎる。

だがその気になれば容疑で本国に引き抜く事も容易だという事なのだろう。

 

「・・・ふざけてんのか、これ・・・!!」

 

力が入りトシキは資料をグシャグシャにする。それだけ資料の内容が許せなかったのだろう。

 

「それがグレム中将のやり方だ。利己的で常に自分に利益が来るよう周囲に圧力をかける。今回は彼なりの最大限の譲歩なのだろう。もう1枚を」

 

アンドレアスに言われた通り3枚目の書類を出す。

そこには今回本国部隊からセイレーンに入る報酬と備品リストが書かれている。

 

「・・・すまない。愚痴に付き合わせるような事を」

 

「いえ、そんな・・・」

 

「・・・話をする気分でなくなってしまったな、下がってくれ」

 

アンドレアスに言われトシキは大人しく執務室を後にする。

 

 

 

***

 

 

 

戻ったトシキは話した内容を仲間達に伝える。

 

「そんな、私がスパイなんて・・・」

 

「心配ないよ、お前がスパイのはずがない」

 

「そうだよ、アリスさんがスパイなんて信じられないよ」

 

最初はアリスは自分がスパイと言われ信じられない表情をする。が、そもそもトシキとユーノは疑った事は無い。

そんなありもしないスパイ容疑は信用しないだろう。

 

「それよりこれ、今回本国から受け取った装備ですよね?」

 

「ああ、俺たちから手柄を横取りして装備や資金で口封じってとこだろうな」

 

そう言ってトシキは自分の機体を見る。

 

装備されたデルタ翼と両翼端の回転式エンジンポッド、機体上部に設置された2連装のビーム砲、尾部につけられた尾のような冷却ユニット。

 

それはVF-25の追加装備でも大気圏内外両用の装備トルネードパックだ。

追加装備の中ではかなり高額な物で本来なら義勇兵に支給される物ではないのだが、今回は口封じの意も込められ送られてきたのだろう。

 

「でもそこは素直に感謝しておくべきではないですか?相手は地球本国部隊の司令官ですよ?」

 

「だからって何でも許される訳じゃないだろ」

 

「それは、そうですけど・・・」

 

シズカはまだ軍人としての規律が残っているのかトシキに注意を促すがそれでも納得はできない。

外を見れば、戦艦イザナミに本国部隊の隊員が乗り込み出発したのが見える。

 

「行っちゃいましたね」

 

「俺としては清々したけどな」

 

アリスの言葉に軽口で返すトシキ。

だが休んでばかりもいられない。まだ彼らにはやらなければならない事がある。




ED:吹雪/西沢 幸奏


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STAGE25 強襲母艦 要撃 ACT1

OP:明日へのキズナ/HIMEKA


「出撃命令だ。敵強襲母艦に関する機密情報の1部を諜報部が入手した。我々が強襲母艦と称する敵兵器の正式名称は、“プロメテウス改級強襲巡洋航空母艦アースガルズ”と判明。部隊はノーザンプトン級ステルスゲート艦とステルスクルーザー艦で構成されている。巡航ミサイルに関しての任務は指揮艦であるアースガルズが全てを担っている。入手した情報の下、我々はアースガルズ撃沈作戦を立案した。よく聞いてくれ。アースガルズの反応炉は実用化を急いだ余り不完全な状態であり定期的な電力供給が必要となっている。補給の際には複数の補給艦がアースガルズの前方に回り込む。艦体前方に複数の動体がいる補給時、アースガルズのレーダー機能は一時散漫になる。ここからが重要だ。電力供給時のアースガルズはレーダーによる前方の動体認識がほぼ不可能になる。一定の方角と高度を維持できれば敵に気づかれずアースガルズに接近する事ができる。 奴の補給時が我々にとって最大の好機となる。機密情報にはアースガルズの航行スケジュールも含まれていた。ルートの確認は集合後に行う。今すぐ出撃準備を始めろ!」

 

 

 

***

 

 

 

「いよいよですね、マスター・・・」

 

「ああ、今回の作戦が戦局を大きく左右するんだ・・・」

 

「そうだね・・・正直、心臓バクバクしてるよ・・・」

 

「奇遇ですねスクライアさん、・・・私もです」

 

整備区画でトシキ達は集まっており今回の作戦の内容を復習している。

今回の作戦の成否が戦局を大きく左右する事は言うまでもないだろう。それだけに全員の気が引き締まる.

そして出撃のベルが鳴り響く。

 

「来たな・・・行くぜ皆。ここが正念場だ!」

 

『はい(うん)!!』

 

 

 

***

 

 

 

とある宙域で可変戦闘機の6機編隊が飛行している。

前を行く3機は同じVF-22だが、先頭は僅かに形状が違うS型だ。

そして後方の3機は黒地に濃青色ラインのVF-27γとカーキ地に黄色ラインのVF-25Sと黒地に白ラインのVF-19A。

 

「はぁ~やっと終わったよ~。早くシャワー浴びたいな~」

 

「全く、少しは気を引き締めんかハルトマン」

 

1人の怠惰そうな声にもう1人の厳格そうな声が答える。パイロット2人共年端も行かない少女のようだ。

 

「何故私がお前たちに同行せねばならん・・・」

 

「まぁまぁストラーフ。同じ任務なんだし仲良くしよ?」

 

「それともチームでやっていく自信がないのかしら」

 

「フン、慣れ合う気などないぞヤン・シャオロン、ブレイク・ベラドンナ」

 

VF-27γのパイロット、ストラーフ、VF-25Sのパイロット、ヤン・シャオロン、VF-19Aのパイロット、ブレイク・ベラドンナ。

3人も軽いレベルでの会話をしている中、先頭のVF-22Sのパイロットの女性、ミーナは軽く溜め息をついた後に通信をつなげる。

 

「ミーナよりアースガルズ、哨戒任務終了。着艦許可を願います」

 

ミーナのVF-22Sが翼を翻して降下し、他の5機もそれに続く。

 

《アースガルズよりウィッチーズ、着艦を許可する》

 

管制官から許可が伝達され6機が艦体と合流。

 

「こちらミーナ、了解。誘導願います」

 

《了解。後方の乱流には注意を》

 

アースガルズからの誘導に従い6機が補給中のアースガルズの甲板に着艦する。

彼女らはまだ彼らがここに向かっている事を知らない。

 

 

 

***

 

 

 

アースガルズ正面の宙域ではセフィーラ軍の戦闘機隊が飛行。アースガルズへと接近している。

 

《航行補給時の敵強襲母艦はレーダーの探知能力が低下するという事です。・・・この情報を得る為に多くのエージェントが命を落としました》

 

フラン管制官の言葉に回りは黙り込む。

 

《・・・そのままの進路を維持し敵に接近。攻撃範囲進入後は即時攻撃行動に移行》

 

「セイレーン、了解。分かってるよな皆?」

 

「言われなくても分かってます」

 

「はい・・・ここで勝てれば・・・」

 

「ここが正念場、だよね?」

 

トシキ達も大一番という事もあり緊張している。

 

セフィーラ軍戦闘機隊は全機スーパーパック装備。

ユーノのRVF-25とシズカのVF-19F/Xもスーパーパック、アリスのVF-19EFはファストパック、そしてトシキのVF-25Fはトルネードパックを装備している。

 

《各機、警戒を怠るな》

 

他のセフィーラ軍機も交戦に備え周囲を警戒。

ただエンジン音が響く時間が過ぎる。

 

《敵との交戦(エンゲージ)に備える。高度、速度を維持》

 

ゆっくりとだが着実に接近してきているようだ。

もう少しだ。

 

《目標接近。全機、そのまま軌道を維持してください》

 

通達通り、正面に全長600メートル以上はあるアースガルズとその随伴艦隊が見えてきた。

丁度電力供給を終えたのか補給艦6隻のケーブルがアースガルズから外れゆっくりとアースガルズから離れていく。

それにつれレーダー機能も回復し、そしてついにアースガルズのレーダーがセフィーラ軍を捉えた。

 

《レーダーに影!アンノウン!何者だ!》

 

《どういう事だ!?》

 

突然の事にアースガルズ乗務員は対応できていないようだ。

 

《全機、攻撃を開始してください!》

 

「了解!行くぜ、セイレーン交戦!」

 

『はい(うん)!』

 

《カイゼミーネ、交戦!》

 

《ディアバーン交戦!》

 

《クロノフォス交戦!》

 

混乱に乗じセフィーラ軍が艦隊へ攻撃を開始。

 

《全艦攻撃態勢に移れ!ウィッチーズ、スクランブル!》

 

混乱から立ち直りアースガルズ艦隊が体勢を立て直し始める。

 

《アースガルズの援護に入る。ウィグリド1、防御圏内へ移動》

 

「ノーザンプトン級が移動を開始。防空支援専門みたいだ」

 

不思議と落ち着いているユーノが冷静に敵の動向を分析。そのお陰かセフィーラ軍は落ち着いて対処できる。

 

「全機へ、ステルスクルーザー艦は電子支援を行っています。破壊すれば目を潰せます」

 

《了解したセイレーン3、ありがとよ》

 

ユーノからの通達でセフィーラ軍はステルスクルーザー艦破壊と、アースガルズ破壊で分けられる事になる。

トシキ達は遊撃の為必要に応じ臨機応変に対応する事になっている。

 

《こちらミーナ、発進準備完了。これより発進します!》

 

《ゲルトルート・バルクホルン、出撃する!》

 

《エーリカ・ハルトマン、行きま~す》

 

《02、VF-27γ、出るぞ》

 

《ヤン・シャオロン、行きまーす!》

 

《ブレイク、出るわよ》

 

するとアースガルズの中段甲板から箒で作った星のマークをつけたVF-222機とVF-22Sが1機、VF-27γ、VF-25Sが1機、VF-19Aが1機発艦する。

 

《なっ、何!?あのデカいのからバルキリーが発進してるぞ!》

 

セフィーラ軍機からの通信を受けトシキがそれを確認。そして尾翼のマークを目視した。

 

「皆、箒で出来た星のマークだ!まとめて緒戦のお返しと行くぞ!」

 

《おうよ!》

 

《当たり前だ!》

 

全員、緒戦で良い様にやられた為鬱憤が溜まっているのだろう。

まず随伴艦を片付ければ今後の展開が楽になるだろうと判断し、セフィーラ軍はアースガルズにダメージを与えつつ随伴艦への攻撃を始める。

 

《敵に攻撃を受けている》

 

《このウィグリドに攻撃を仕掛けてくるとは無謀もいい所だ、撃ち落とせ!》

 

攻撃に伴い敵艦も反撃してくる。

だが通常艦の急所はセフィーラ軍も分かっているのか、随伴艦の兵装を攻撃しつつ推進部を狙って攻撃している。

 

当然ブリタニア軍はそれを許さず、ウィッチーズによる迎撃行動が行われているが、トシキ達が何とか足止めできている状況だ。

 

「そこです!」

 

アリスのVF-19EFからミサイルが発射され、ヤンのVF-25Sに迫る。

 

《ほいっさ!》

 

だがフレアを投下しVF-25Sは急旋回。フレアに釣られミサイルはあらぬ方向へ飛んでいく。

そして宙返りを繰り出しアリスの背後を取る。

 

「うそ!?」

 

《ほら、今度はこっちの番よ!》

 

今度はヤンのVF-25Sがアリスを追い回すが、そこにトシキのVF-25Fが来る。

 

「マスター!」

 

「援護するから先に行け!」

 

「ありがとうございます!」

 

《ちょおっ!?トルネード装備ってズルくない!?》

 

トシキのトルネードパックを見てたまらずヤンは回避を試みる。

が、トルネードパックの恩恵により通常よりも更に強化された機動性によりVF-25Sを易々と追尾できている。

そしてVF-25Sをロックし主翼下の大型マイクロミサイルポッドからミサイルを発射。

フレアは先程使った為まだ準備できていない。つまりは自力で回避するしかない。

 

《やっぱりトルネードパック(それ)、反則でしょ!!》

 

ヤンのVF-25Sは機体を上下左右に振り回しミサイルを振り切ろうとするがしつこく追従し、1発が左エンジン部に命中する。

 

《うわぁ!》

 

《ヤン、大丈夫?》

 

《大丈夫じゃないわよ!左だけって言ってもエンジンやられたのよ!?》

 

《・・・分かったわ、ヤンは離脱して》

 

そこに黒地のVF-19A、ブレイクが確認しに合流しVF-25Sの被害状態を聞き、ヤンに離脱を促す。

 

《ってブレイク!あんたも後ろ見なさいよ!》

 

《!!》

 

「今度こそは!」

 

背後にアリスが迫り回避行動に入るブレイク。それを追うアリス。

 

その様子を見ていた1機、黒字のVF-27γ。

そのパイロットの少女、02は何処かVF-19EFのパイロットを知っているような気がし独自で調べる。

そして見つけた。それは前に自分の所から逃げ出した存在。

それが分かった途端、02に笑顔が浮かび始める。だがそれは何処か狂気も混ざっているように見える。

 

「・・・見つけた、とうとう見つけたぞ、01!!」

 

そう言った瞬間、02はアリスのVF-19EF目掛け機体を加速させる。




劇中曲1:Scramble/Ace Combat 04 Shattered skies
   2:HEAVY COMMAND CRUISER/ACE COMBAT6 解放への戦火
   3:4 the Answer/ARMORED CORE for Answer

ED:吹雪/西沢 幸奏


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STAGE26 強襲母艦 要撃 ACT2

OP:明日へのキズナ/HIMEKA


ブレイクのVF-19Aを追尾するアリスのVF-19EF。

だがそのアリスの背後に更にもう1機迫ってきている。

 

それは黒地に濃青色のラインが入ったVF-27γ。

青髪ツインテールの少女、02の機体だ。

 

「くぅ、また・・・!」

 

離脱し回避を試みた時だった。

 

(やっと見つけたぞ、01!)

 

突然アリスの頭に直接響いてくるように声が聞こえてくる。

 

「え・・・何なんですか、01って何ですか!?私はアリスです!」

 

(いいや、お前は私と同じサイバーグラント、01だ)

 

アリスの戸惑いを無視し02はアリスを追尾しながら言葉を続ける。

 

(私たちはある目的の為に造られた特別な個体。だがお前は行方を眩ました。マスターの命令に背いて)

 

「私、何も覚えていませんっ!」

 

覚えも無い事を言われアリスは混乱する。

 

(お前を必要としている人々がいる。私と一緒に戻ってほしい)

 

「それは・・・できません。だって・・・今の私にはマスターがいます!私を作ってくれたマスターがいるんです!」

 

(お前のマスターの為でもある)

 

「!?」

 

02の言葉にアリスは言葉に詰まってしまう。

そこに畳みかけるかのように02は言葉を続ける。

 

(私たちは特別。普通の人間の手に負える物ではない。本来いる場所に戻るんだ)

 

その言葉にアリスは思い出してしまう。

自分にスパイ容疑がかかり、マスターであるトシキとその友人達に迷惑をかけてしまう危険があるという事を。

 

(さぁ帰ろう。私と共に)

 

「・・・」

 

アリスに言い返す気力はもう残っておらず、アリスはスロットルレバーと操縦桿を離し02に従おうと・・・

 

「アリス!!」

 

「!?」

 

通信機から聞こえた声にアリスはハッとなる。

見ればトシキのVF-25Fが02のVF-27γの背後を取りアリスから引き離している。

 

「マスター・・・?」

 

「何ボーっとしてんだ!こいつは任せて早くユーノ達と合流してくれ!」

 

「!!」

 

トシキに言われアリスは再びスロットルレバーを握り機体を加速させる。

02はそれを追おうとするがトシキのVF-25Fの機体上部に装備されている連装ビーム砲の攻撃により断念せざるを得ない。 

 

《貴様・・・》

 

「誰だか知らないが、アリスは・・・仲間はやらせるかよ!」

 

トシキは両翼端のエンジンポッドを駆使しVF-27γを追い立てるが、ミサイルロックまでは追い切れていない。

ここでVF-27γが宙返りを繰り出しVF-25Fの後方へ回る。

 

「クソッ!!」

 

《墜ちろ》

 

02のVF-27γがトシキのVF-25Fを捕捉し、BGP-01β 55mmビームガンポッドを斉射する。

それに対しトシキは両翼端のエンジンポッドを別々に向けバレルロールを行い後方へ。

 

《・・・少しはできるか》

 

「ゴチャゴチャうるせぇ!」

 

再びVF-27γを捕捉。今度はトシキがマイクロミサイルを発射。

02はこれを機体上部のマウラーROV-20 20mmビーム機銃で迎撃した後ガウォークへ変形しVF-25Fをオーバーシュートさせようとする。

そしてVF-25Fにビームガンポッドを叩き込もうと構え・・・

 

《・・・!》

 

そこで気づいた。ガウォークへ変形したVF-25Fが右手のガンポッドでキャノピーの上を越して狙っている。その時02は一瞬だが戦慄した。

トシキは、自分の行動を読んだのか、と。

そしてVF-25Fのガンポッドが火を噴き、VF-27γのビームガンポッドと右腕、更に右脚部エンジンをも破壊する。

 

《く・・・!》

 

それによりVF-27γは錐揉み状態になるがファイターに変形させる事で立て直す。

しかし主兵装と右エンジンを失った状態では、トルネードパック装備のVF-25Fとはやり合えない。

 

《・・・今回は貴様の勝ちだ》

 

明らかに憎々し気な声でそう吐き捨て02は戦域を離脱。

 

だが先程の先頭で右主翼下のミサイルポッドを撃ち尽くした為、トシキは右主翼下のポッドをパージ。少しでも機体を軽くした後にアリスと合流する。

 

「マスター・・・」

 

「・・・俺たちの事なら気にするなよ。そんな間柄でもないだろ?」

 

「うわぁ!?」

 

アリスを励まそうとした矢先、ユーノの悲鳴が響く。

見ればユーノのRVF-25がブレイクのVF-19Aに追われていた。

RVF-25はレドームとセンサー装備の為対空レーザー機銃は装備されていない。

 

「行くぞアリス!」

 

「は・・・はい!」

 

トシキの言葉に若干の戸惑いがありながらも返答しユーノの援護に向かう。

 

「俺が追い込む、アリスは先に回って仕掛けろ!」

 

「了解!」

 

即興の作戦通りトシキがVF-19Aの背後に付きユーノから引き剝がす事に成功。

 

《1番相手にしたくないのに絡まれたわね・・・!》

 

「悪いな、付き合ってもらうぜ!」

 

トシキがブレイクのVF-19Aを追尾し、機体をバトロイドに変形させたアリスはそれの逃げる先を計算しガンポッドを撃つ。

 

《くっ・・・!》

 

ガンポッドはVF-19Aの左主翼に直撃するが撃墜まではいかない。

 

「ごめんなさいマスター・・・」

 

「大丈夫、当ててくれただけでも!」

 

主翼をやられ機動性が落ちたVF-19Aにトシキが迫りロック。そして残っている左主翼下のミサイルポッドのミサイルを発射。

ブレイクはフレアをばら撒きミサイルを攪乱するが、逃げた先にトシキがガンポッドを撃つ。

弾はVF-19Aの両エンジンに命中。

 

《ここまでね・・・。離脱するわ》

 

エンジンをやられたブレイクは戦線離脱。

 

《クソ、残りは何機だ!?》

 

《各機、攻撃範囲を20%縮小。防空に専念して!》

 

現在の状況にVF-22のパイロット、バルクホルンが状況を確認し指揮官のミーナは指示を伝達。

立て続けに3機も離脱しブリタニア側の航空戦力はガタつき始めている。

そしてその影響も出始めた。

 

《推力ダウン、操舵不能!》

 

ステルスクルーザー艦の1隻が推進部に甚大な被害を出し制御不能な状態。

防御力を失くした艦船の弱点は1ヶ所。トシキはそのステルスクルーザー艦に接近し連装ビーム砲を敵艦艦橋に向ける。

発射されたビームは艦橋に直撃し船体を貫通。貫かれたステルスクルーザー艦は内部から爆発を起こし始め内部のエネルギーが暴走し爆散する。

 

《敵ステルスクルーザー艦1隻目を撃沈!その調子です!》

 

その光景にトシキは思わず心を痛めるが、

 

「同情はしないぞ、これは戦争でお前たちは武器を持ってた。被害者と加害者は紙一重なんだ・・・」

 

そう呟き敵への同情を振りほどく。

 

《被弾しました!レーダー出力ダウン》

 

もう1隻のステルスクルーザー艦も推進部と兵装にダメージを負い戦闘能力は削がれている。

そこに来たのはシズカのVF-19F/X。破孔にガンポッドを撃ちこみ中の砲弾等の火薬を誘爆させ艦を破壊する。

 

《敵ステルスクルーザー艦2隻目を撃沈!そのまま切り崩して!》

 

敵電子支援艦が撃沈されこれで互角。

左右するのは各々の腕だ。

 

《これ以上はやらせないわ!》

 

ここで残っている敵エース3機が態勢を回復。

他のセフィーラ軍機を妨害しに入る。

 

《クソ、こいつら!》

 

「星マークの奴らは引き受ける!アリス、服部、マリー、俺の後ろに!」

 

「はい!」

 

「了解!」

 

《了解です》

 

トシキの声に3人が返事し4機編隊を組む。敵は3機。数では有利だが油断はできない。

4機編隊のまま敵エース3機に突っ込み挑む。

 

「行くぞ、散開!」

 

『はい(了解)!』

 

トシキの合図で編隊が崩れ交戦開始。まずが3機を散り散りにさせ連携を断ちシズカとハイデマリーは1機ずつ、トシキはアリスを従え指揮官を追う。

 

《甘い!》

 

《!?》

 

だがバルクホルンのVF-22がバトロイドに変形しバック転の要領で回転しハイデマリーの背後へ。直後にファイターに変形し追尾体勢を取る。

 

「マスター!ハイデマリーさんが!」

 

「見えてるよ!こいっちはいいからアリスはマリーのフォローを頼む!」

 

「でも・・・分かりました・・・!」

 

アリスはトシキがこう言う時は何とかする事を分かってしまっている為、言葉に従いハイデマリーの援護に向かう。残ったトシキは引き続きミーナのVF-22Sを追尾。

だがここで敵ノーザンプトン級ステルスフリゲートから妨害が入り離脱を余儀なくされる。

 

先にステルスフリゲートを片付けようと標的を変え、推進部に向け上部の連装ビーム砲を発射。

 

《推進部に直撃を貰った、航空機を回してくれ!もうこちらはダメかもしれん!》

 

後は艦橋を破壊すればお終いだ。トシキはステルスフリゲートの前方に出て艦橋をロックし左主翼下のミサイルポッドに残っているミサイルを全弾発射。吸い込まれるように全弾が命中する。

 

《アースガルズ聞こえるか!こちら・・・》

 

敵がアースガルズに現状報告をしようとしたがその直前に爆発音が発生し通信が切れ、それを最後にノーザンプトン級ステルスフリゲートは活動を停止。

 

《敵ノーザンプトン級ステルスフリゲート艦1隻目を撃沈!》

 

残りはノーザンプトン級ステルスフリゲート1隻とアースガルズのみ。

トシキは空になった左主翼下のミサイルポッドをパージし、両翼端のエンジンポッド先端のミサイルポッドに変更。

今度はアースガルズの外部対空砲をロックしミサイルを発射する。

 

《やったか!?やった、敵の指揮艦にダメージ!》

 

アースガルズへの目に見えるダメージを確認しセフィーラ軍の指揮は上がる。

 

《アースガルズまでやらせるものか!》

 

その光景に触発されバルクホルンが機体を加速させるが、その背後にアリスのVF-19EFが来る。

 

「行かせません!」

 

《くっ!》

 

ガンポッドを放ちバルクホルンを追撃。そしてそれをハイデマリーが追う形となっている。

そこでアリスの機転が利きハイデマリーに案を伝える。

 

「ハイデマリーさんはそのまま追いかけてください!私に考えがあります!」

 

《!・・・了解》

 

アリスを信じ言葉通りにバルクホルンを追尾するハイデマリー。

アリスはハイデマリーの後方に回り別方向からバルクホルンを追い込む。

 

《これしきの事で!》

 

バルクホルンは宙返りでハイデマリーの後方を取る。

が、後ろにいるはずのアリスがいない。

 

「アリスさん・・・?」

 

《もう1機がいない・・・?》

 

ハイデマリーは理解できていないままバルクホルンから逃げ、バルクホルン本人も戸惑うが目先のハイデマリーの撃墜に専念し追撃するがそれが間違いだった。

 

「そこです!!」

 

アリスはあの後、バルクホルンが回り込むタイミングでエンジンをカットし機体を反転。バルクホルン機の裏側を飛行していたのだ。

そして隙を見せた瞬間バトロイドに変形しエンジンにガンポッドを発射。

 

《何!?》

 

至近距離からでは回避しようがない。

放たれた弾は両エンジン部に直撃。

 

《クソ、ミーナすまない、脱出する!》

 

VF-22からパイロット、バルクホルンが排出された後、機体は爆散。

 

《トゥルーデ!?》

 

《逃がしませんよ!》

 

《僕だって・・・!》

 

バルクホルンの撃墜に一瞬動揺したもう1機のVF-22のパイロット、エーリカ・ハルトマン。

その動揺の隙にシズカのVF-19F/X、更にユーノのRVF-25も背後に回る。

 

ユーノがガンポッドで攻撃するが、戦闘に関してはほぼ素人なユーノに当てられる訳もない。がその回避先にシズカがミサイルを発射する。

それに気づくのが遅れたエーリカは成す術無く、ミサイルが直撃。

 

《うわっ、やられた~!!》

 

エーリカを排出しVF-22は爆散。

 

《エーリカ!!トゥルーデ!!》

 

「皆が頑張ってんだ、俺も負けてられるか!」

 

残るはミーナのVF-22Sのみ。それは既にトシキが追っている。

ミーナは機体をガウォークへ変形させトシキのVF-25Fをオーバーシュート。左手のガンポッドを撃ち込もうと構えるが、トシキは両翼端エンジンポッドを下に向け直角的に急降下。

 

《え!?》

 

その機動に意識を取られた一瞬だった。VF-25Fがバトロイドに変形しガンポッドをVF-22Sのエンジンに向け発射。

弾は両エンジンと主翼を貫いた。

 

《く・・・ごめんなさい!》

 

ミーナも機体から脱出し離脱。

 

《ウィッチーズが全滅!?バカな、本当なのか!!》

 

航空隊壊滅の報にアースガルズ艦隊に動揺が奔る。

残るは敵艦だけ。

残っているノーザンプトン級ステルスフリゲート艦にアリスとシズカが接近し、ミサイルを叩きこむ。

ミサイルは艦橋を破壊し、砲塔に残っているビームエネルギーにも誘爆し爆発を起こす。

 

《敵ノーザンプトン級ステルスフリゲート艦に致命弾!敵艦撃沈、撃沈!》

 

《残るはアースガルズ、本丸だけだ!》

 

随伴艦は全て撃沈し、残るはアースガルズだけ。

しかし、活動制限有りとはいえ反応炉を搭載しており今のままでは攻撃は通らない。

今まで通り推進部に狙いを定める。

 

《懐に飛び込んでくる敵機を叩く。全砲門開け》

 

《砲門開放!全方位攻撃を開始する》

 

だがアースガルズも唯やられる訳がなく、隠していた対空火器を開く。

エンジン部を攻撃するには厚い弾幕を掻い潜るしかない。

 

弾幕に何機か倒れる中、トシキ達は弾幕を回避しながらアースガルズに接近しトシキが近距離で連装ビーム砲をアースガルズのエンジンにぶち込み破壊する。

 

《デカイ奴のエンジン部に命中!1機目を破壊したぞ!》

 

《エンジンブロック被弾。機関室、第3エンジン吹かせ!》

 

エンジン1機破壊によりアースガルズの体勢が僅かに崩れる。 

それが隙になり他のセイレーン機も突入しエンジン部に徹底的に攻撃を仕掛ける。

ユーノがインテーク全面のミサイルコンテナからミサイルを発射しエンジン部に直撃する。

 

《第2エンジン被弾。推力ダウン。舵を引け》

 

《まだ動ける、問題ない》

 

しかしそれでも体勢を崩すだけでまだ撃沈には至っていないようだ。

それでも残っているエンジンを破壊すればチャンスはある。

今度はシズカがエンジン部に取り付き、残っているミサイルを全弾叩きこみ3つ目のエンジンを破壊。

 

《推力更に低下、これ以上はマズイ!》

 

エンジンは残り1機。それさえ破壊すれば勝敗は決する。

その最後のエンジンに向かったのはアリス。残っているミサイルとガンポッドの弾全てを発射。

 

《エンジンユニットを全て破壊!》

 

《敵強襲母艦に致命弾、皆さん、あと一息です!》

 

これで敵の防御力は大きく低下。後は止めを刺すのみだ。

 

《ここでアースガルズを失うわけにはいかん!フレイヤを放て、攻撃を続けろ!》

 

しかしアースガルズはまだ交戦ができるようで、艦首のVLSハッチが開き、あの巡航ミサイルが

発射される。

狙いこそ正確ではないがばら撒かれてはいずで直撃を食らう。

 

《信じらんねぇ、まだ動いてやがる・・・》

 

そんなアースガルズのタフさ加減に思わず舌を巻いてしまう。

 

《トシキ、止めを!!》

 

「!!」

 

ユーノの声にトシキが反応し、機体をアースガルズの正面へ向かわせ、機首とアースガルズ艦首が向かい合う。

そしてトシキは狙いを定め、

 

「・・・喰らえぇぇぇっ!!」

 

連装ビーム砲をアースガルズへ撃ち込む。

それはまさにジャイアントキリング。

ビームは防御力の落ちた装甲を易々と貫通しアースガルズを串刺しにした。

 

《・・・やった・・・やりました!敵強襲巡洋艦隊を殲滅!大戦果です!!》

 

《セイレーン隊は本物だ・・・》

 

誰かがそう呟いた時。

アースガルズが爆発を起こし始め、艦体中央で大爆発を起こし艦体が真っ二つに折れる。

 

「・・・静かに、眠れよ・・・」

 

沈みゆくアースガルズにトシキは静かにそう呟いた。




劇中曲:4 the Answer/ARMORED CORE for Answer

ED:MIrror/安田 レイ


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STAGE27 エデン デイズ

あの後セフィーラ軍は帰還し、アースガルズ撃沈の立役者となったトシキ達セイレーンには参謀本部から特別報酬と称賛が届き、アンドレアスからは特別に休暇も受け取った。

 

それによりトシキ達は惑星エデンへの観光プランを決定。各々準備に入っている。

 

ハイデマリーは報告書を上官へ提出し終えその帰りに整備区画にトシキの姿を見つける。

 

「あ、トシキさ・・・」

 

「お待たせトシキ君!」

 

「待った?」

 

「全然、俺も今来たとこだ」

 

声をかけようとした時にユウナとユーノ、更に他のセイレーンメンバーが来て、思わずハイデマリーは言葉を呑んでしまう。

前まではトシキはハイデマリーがフォローしていた事が多かったが、今では自分がトシキにフォローされている。

そのせいか最近ハイデマリーはトシキとその仲間達に対し劣等感を感じている。ここぞという場面で機転が利き臨機応変に対応でき、自分にはそれができない。

ベルファン上空での制空戦、今回の艦隊殲滅作戦の時がその例だろう。

 

そんな自分がトシキに声をかけていいのか、ハイデマリーはそれを懸念し黙ってしまったのだ。

 

傍らで見ている間にトシキ達は出発した。

 

「貴女は一緒に行かないの?」

 

「エイカ大尉・・・」

 

結局話し損ねたハイデマリーにエイカが近づく。

するとハイデマリーは顔を伏せる。

 

「・・・行けませんよ。私に休暇は言い渡されていませんし、今のトシキさんとはいてはいけない気がして・・・」

 

静かに胸の内を開ける。

 

「トシキさんはこれまでの戦闘で、以前までのトシキさんとはまるで別人です。そんな彼に何も変わってない私なんかが・・・」

 

「そうかしら?」

 

ハイデマリーの心境にエイカが異を唱える。

 

「確かにトシキは成長したわ。でもだからって貴方を邪険にすることはないと思うわよ?」

 

「それは・・・」

 

「そんなに気になるなら、帰ってきた本人に直接聞いてみればいいじゃない?」

 

そんな言葉にハイデマリーは思わず頬を朱く染める。

 

 

 

***

 

 

 

トシキ達は惑星エデンに観光に来た。

この惑星は名前通り、開放的で自然豊かな土地がある。

 

トシキ達は自分達のバルキリーに乗りこの惑星に来ている。

今いるのはエデンの河口付近にある大都市キャピタルシティだ。

 

「うわ~!!」

 

大型ショッピングモールにユウナは興奮の声を上げる。

今のトシキは何処か引率の教員の気分だ。

 

「ねぇねぇアリスさん、シズカちゃん、あっち見てみようよ!」

 

「あ、あの!?」

 

「待ってくださいユウナさん!」

 

「迷子になるなよ~」

 

遠ざかっていくユウナと、それを追いかけるアリスとシズカに伝える。

3人が見えなくなると、トシキはモールの一角にある店を見つける。

 

「トシキ、どうしたの?」

 

「いや、何でもないよ。お前はどうするんだ?」

 

「僕はちょっと考古学の本でも買おうかなって」

 

ユーノの言葉に、トシキはユーノの本職を思い出した。

ユーノはトシキ達と会う前はブリタニアの技術者兼考古学者なのだ。

 

「トシキは?」

 

「俺はちょっと野暮用できた。悪いけどユーノ1人で大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ、気にしないで」

 

「それじゃ、後でな」

 

「うん」

 

ユーノとも別れ1人になり、トシキは目をつけた店に入る。

 

 

 

***

 

 

「~♪」

 

モール内の服屋でユウナは鼻歌を歌いながらご機嫌そうに店内を物色している。

彼女も年頃の女子という事なのだろう。

 

しかしお洒落に疎いのが約2名。一緒にいるシズカとアリスだ。

2人からしても可愛い、綺麗という認識はあるものの自分にはどれが合うのかが分からないといった感じだろう。

そんな2人にユウナが自分のと一緒に服を見繕っているといった構図だ。

 

「シズカちゃんにはこんなのとか似合うと思うな~!」

 

ユウナが手に取ったのは、白い長袖のシャツと緑のベスト、ベルトで留めた黒いスカート。

 

「え!?」

 

その服をみてシズカがギョッとなる。

今まで年頃の女子のような恰好をしたことのない彼女にその服は羞恥でしかない。

 

「い、いえ!そんな服、私には・・・」

 

「え~似合うと思うよ?ね、アリスさん!」

 

「はい!」

 

まさかのアリスもユウナ側。これでシズカは孤立した。

ユウナは既に選んだ服を試着室へ持って行っている。

 

「・・・わ、私は別の買い物がありますのでこれでっ!!」

 

シズカは2人に背を向け逃走。

 

「そ~れ捕まえろ~!」

 

「待ってください服部さん!」

 

「嫌です~!!」

 

女子3人での追いかけっこが始まった。

 

 

 

***

 

 

 

「ありがとうございました~!」

 

店内からトシキが出てきて、最後に仲間達と別れた場所にいる。

そこには仲間達全員がいる。だがシズカだけは来た時と服装が違っている。

あの後、シズカはアリスとユウナに捕まりユウナがチョイスした服を着せられたのだ。

 

恥ずかしそうに頬を染め手を後ろで組んでいる。

 

「あ、マスター!」

 

「!?」

 

アリスがトシキに気づいた声にシズカの肩がビクッとなった。

そんなシズカを後目にユウナがトシキに近づく。

 

「ねぇトシキ君!シズカちゃんの服どうかな、私が選んだんだ!」

 

「そうなのか、中々かわいいとは思うぜ?」

 

「か、かわっ!?」

 

トシキの発言にシズカはゆでだこのように真っ赤に染まった。

その後は真っ赤になったままのシズカを連れ全員でレストランで昼食を取る事に。

 

メニューは惑星エデン名産の竜鳥のステーキである。

 

「私、竜鳥は初めてなんだ!初めまして、結城ユウナです!」

 

挨拶を返す訳もないのにユウナは竜鳥のステーキに挨拶する。

それで気まずくなったトシキ達はさっさと昼食を済ませ、代金を払って退席する。

 

 

 

***

 

 

 

その後もエデン観光を続け、気づけば夕方になっていた。

観光もそろそろお開きという事で全員が自分達のバルキリーのチェックをしている。

 

「今日はありがと、トシキ君!誘ってくれて」

 

「仲間だろ、いいって」

 

ユウナは今日、自分達の休暇に誘ってくれたトシキに感謝していた。

トシキとしてもユウナの年頃の女子らしい笑顔や表情が見れて何処か安らかな気持ちになっている。

 

「そうだユウナ、手、出してくれ」

 

「え?」

 

トシキに言われた通りユウナは両手を出すが意図が分からない。

出された両手にトシキは握っている右手を出し開くと、桜の花びらを模しその根本に紫色の鉱物のような物が埋め込まれた髪飾りが落とされた。

 

「これ、髪飾り?」

 

「前まで使ってた花びらの髪飾り、壊れちゃったって言ってたろ?よかったら代わりに使ってくれ」

 

「って事はこれ・・・プレゼント・・・?」

 

にユウナは頬を朱くするが嬉しそうだ。

 

「手頃な店で買った奴だし、そんな大層なもんじゃ・・・」

 

トシキの言葉にユウナは首を横に振り、早速髪飾りを頭につける。

 

「大事にするね・・・」

 

「そっか、そう言ってくれると俺もうれしいよ」

 

「トシキ、そろそろ行くよ!」

 

ユーノの声が聞こえ、全員が準備を終えている事を確認した。

 

「それじゃ、帰ろうか」

 

「うん!」

 

トシキとユウナもVF-25Fに乗り込み、全機が離陸しセフィーラ艦隊へ向けフォールドブースターを起動させ出発。

トシキの後部座席に座るユウナは、自分の中でトシキへのお礼として歌い始める。

 

 

・・・その際、髪飾りに埋め込まれている紫色の鉱物のような物が一際強く輝いたような気がした。




特別ED:Aurora days/結城 ユウナ(ICV:照井 春佳)


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STAGE28 V の 悪夢 ACT1

OP:明日へのキズナ/HIMEKA


休暇を終え艦隊と合流し、再び通常の生活に戻る。

アースガルズを撃沈した今セフィーラ軍の脅威となる物はないと言えるだろう。

だが、ブリタニアには更なる手札がある事を知らない・・・。

 

 

 

***

 

 

 

「ニュー・エイジア偵察隊からの連絡が途絶えた?」

 

アンドレアス・マルコフ准将の執務室で、エイカはそんな話をしていた。

 

それは惑星ニュー・エイジアにおいてブリタニアが何か研究していたと判断しそれの調査偵察が任務となっていた地球本国の調査隊の連絡途絶の報があったという。

 

「そこで我が軍にその調査隊壊滅の要因を偵察し、脅威となり得ると判断した場合はそれを排除しろ。とグレム中将からの指令だ」

 

その言葉にエイカは頭を押さえた。

要は自分の部下の尻拭いをしろ、という事だ。

 

「だが、こちらとしても脅威となり得る物をを放置しておく訳には行かない。そこでエイカ大尉、君に白羽の矢が立ったという事だ。人選は君に一任する」

 

「了解」

 

任務を受けエイカは執務室を出る。

彼女の中では人選はある程度は決まっていた。本来なら気は進まないがこの際やむを得ないだろう。他の隊を割いて戦力の分散は可能な限り避けたい。

 

エイカは決めてある人に声をかけに行く。

 

 

 

***

 

 

 

惑星ニュー・エイジア。

辺り一面が砂漠でそれ以外は特に何も見られない。

 

その惑星でブリタニア軍の動向を偵察に向かい消息を絶った部隊の捜索も兼ね敵情偵察に向かったのは、トシキ達セイレーン、エイカ、ハイデマリー、そしてユウナ。

ユウナは今回は何故か嫌な予感がしたという事で同行を志願した。

 

今は7人を分割し2チームに。エイカにはユーノとシズカが付き、トシキにはアリス、ユウナ、ハイデマリーが付いた。

 

今は砂嵐に遭っている為、洞窟内でやり過ごしている。

 

「いつになったら止むのかな、この砂嵐?」

 

洞窟の中でユウナが呟く。

そんな中でハイデマリーがユウナに近づく。

 

「結城さん、その頭の・・・」

 

「これ?トシキ君からのプレゼントだよ!」

 

「プレゼント・・・」

 

ユウナからプレゼントという単語を聞き、ハイデマリーは顔を伏せてしまう。

 

(やはり、もう私は・・・)

 

「え!?どうしたのハイデマリーさん!?どこか具合でも悪くなっちゃった!?」

 

「え、いえ、そうでは・・・」

 

「ちょっと皆さん、あまりうるさくするとマスターが起きてしまいます!」

 

2人のやり取りにアリスが慌てる。

それもそうだ、アリスの後ろではトシキが壁にもたれかかり、右膝を折って右腕を乗せそれを枕にするような形で眠っている。

 

「そ、そうだね・・・」

 

「・・・ごめんなさい」

 

アリスの注意に2人は謝る。

トシキもここ最近は最前線で戦果を挙げている、その疲れが出たのだろうか。

 

 

 

***

 

 

(はっ・・・はっ・・・!!)

 

唯、何も無い草原でトシキはライフルを撃ちながら走り続けていた。

何かから逃げているのか、はたまた何かを追いかけているのかは分からない。

 

そのトシキの頭上を2~3メートル程の昆虫のような物が追い越していき、トシキはそれにも発砲する。

そしてトシキの目の前に30メートル程の体躯と6本脚を持った赤い昆虫のような生物が立ちはだかる。

それを親の仇のように睨み付け、

 

(このバケモノがぁぁぁぁ!!)

 

ライフルを乱射しながら突撃していく。

 

 

 

***

 

 

 

「マスター?・・・マスター!」

 

マスターという声でトシキは目を覚ます。

見ればアリスがトシキのEX-ギアと銃器を持っていた。

 

「よく眠れましたか、マスター?」

 

「ああ、おはよ、アリス・・・」

 

ゆっくりとトシキが立ち上がる。

 

《こちらエイカ、砂漠の真ん中に研究所みたいな施設があるわ》

 

「了解、俺たちもそっちに行く」

 

EX-ギアを装着しライフルを持ったトシキが返答する。

アリス達も装備を確認しトシキに続く。

外の砂嵐は止み、停めてあった機体も動かせる状態だ。

 

「機体異常無し。母さんたちと合流しよう」

 

『了解』

 

バトロイド形態で砂漠を走り、ハイデマリーとアリスもそれに続く。

 

 

 

***

 

 

 

エイカが発見した砂漠中央の施設はピラミッドに、周囲の施設はスフィンクスに偽装された物だった。

 

その近くに機体を隠し施設の調査を開始。

中にあったのは多数の培養カプセルと破壊された操作パネル。更に足元には青い血液のような物と人間の血液があちこちに飛び散っていた。

 

「うっ・・・!」

 

中に入って早速ユウナが気分を害され、物陰に隠れ胃の中の物を戻してしまう。

 

更に奥に進むと壁に寄りかかって多量出血している状態の本国の偵察部隊の兵士を見つける。

エイカが近づき脈を見るが、静かに首を横に振る。つまりは既に死んでいる。

 

「ここで敵と戦闘になったのかしら・・・」

 

ここでの事態を推測しつつ捜索を続ける。

最深部には何かの大型カプセルに入っている虫のような物と、操作コンソールがある。

トシキはそれに近づき電源を入れる。そして画面に文字が表示される。

 

「・・・プロジェクト・・・V(バジュラ)・・・?」

 

「バジュラ!?」

 

トシキが読み上げた言葉にユーノが反応する。

 

「どうしたユーノ、いきなり大声出して?」

 

「あ・・・ごめん・・・。でも、バジュラって、あのバジュラの事だよね・・・?」

 

「ああ・・・」

 

ユーノの言葉にトシキは曖昧ながら返答する。

 

バジュラとは、2059年に第25次新マクロス船団、通称マクロス・フロンティア船団が遭遇、交戦したとされる宇宙生命体だ。

その戦闘の後彼らは人類を理解し交配の為、別の銀河へ旅立ったとされているが詳しい事は定かでない。

 

ユーノが想像したバジュラとはまさにそれだ。しかしそれを意味するVであるのなら、一体何をするプロジェクトだったのだろうか。

 

「わあぁぁぁ!!」

 

「!?この声は、ユウナ!?」

 

ユウナの悲鳴が聞こえ、トシキはライフルを取り急ぐ。

 

そこは大広間のような部屋で、ユウナが両顎から斧のような物が生え、背中に角のような大型突起物が生えている狼のような怪物に襲われていた。

ハイデマリーは気を失ってしまっている。

 

怪物がユウナに前脚の爪を立てようとすた瞬間、トシキが怪物にライフルを撃つ。

 

「トシキ君!!」

 

「ユウナ、走れ!」

 

トシキの指示に従い、ユウナは立ち上がりその場から走る。

 

「来いよバケモノ!!」

 

怪物がトシキに飛びかかり、トシキは怪物にライフルを撃ち続ける。

その際に青い返り血がトシキにかかるがそれを気にする余裕はない。

そしてライフルが頭を撃ち抜くと、怪物はようやく止まった。

 

トシキは怪物が止まったのを確認すると、気を失っているハイデマリーに近づき肩を揺する。

 

「マリー、マリー!」

 

「う・・・トシキ、さん・・・?」

 

揺さぶられハイデマリーは意識を取り戻す。

それにトシキは安堵するが、それが致命的な隙となった。

 

グサッ!!!

 

「な・・・」

 

「!!??」

 

トシキの腹部を角のような物が貫通した。

後ろを見れば先程の狼型の怪物がそのバラの茎のように突起物の生えた尻尾をトシキの背にぶつけていたのだ。

 

「ゴハッ!!」

 

「トシキさん!!」

 

トシキが吐血し、ハイデマリーは冷静を保てていない。

 

頭部から流血を起こしながらも怪物はトシキ達に接近し、トシキを押しやり先にハイデマリーに狙いをつけたようだ。

ハイデマリーは動揺と恐怖で動けない。ここまま捕食されるのか・・・

 

「ギィアァァァッ!!」

 

突然、怪物が咆哮を上げる。

先程怪物がトシキを押しやったが這いずりながらも接近し怪物の左前脚に噛みついたのだ。

怪物は噛みついたトシキを振りほどこうと左脚を振り回す。

 

「がはっ!!」

 

振りほどかれトシキは壁に叩きつけられる。怪物は標的をトシキに変えゆっくり近づく。

そして捕食しようと口を開いた、その瞬間にトシキは傍らに落ちていたライフルを手に取り、残っている弾全てを怪物の口内へ撃ち込む。

 

それでようやく怪物は絶命したか倒れるが、トシキに覆いかぶさる形となりトシキも力を使い果たしたか気を失ってしまった。

 

それを見ていたハイデマリーとユウナは、しばし呆然としていたがすぐに我に返る。

 

「エイカ大尉!すぐに来てください!トシキさんが!!」

 

「トシキ君!目を覚まして!!」




ED:Mirror/安田 レイ


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STAGE29 V の 悪夢 ACT2

OP:明日へのキズナ/HIMEKA


そこに向かっていた黒地と白ラインのVF-19A。

そのパイロットの少女ブレイク・ベラドンナは、自分が慕っている少年と軍の総統の青年の会話を思い返していた。

 

 

 

***

 

 

 

「頼むよルルーシュ!少しでいいんだ、俺に時間をくれよ!」

 

「それは無理だ。計画は最終段階に入ろうとしている」

 

惑星エリュシオン。

新生マクロス・ブリタニアの本拠地とも言える惑星の一角で少年と青年、ナオトとルルーシュが話していた。

だが少し険悪な雰囲気だ。

 

「俊樹はもしかしたら、統合政府に良いように使われてるだけかもしれない!だから・・・」

 

「だから説得の時間をくれ、と?奴は既に多数の我が兵を手にかけている事は分かっているだろう」

 

「それは・・・」

 

「整理をつける時間が欲しい気持ちは分かるが、今は時間が惜しい。ナオト、悪いが次の任務に行ってくれ」

 

「くっ・・・」

 

ナオトは悔しそうな顔をするが、総統であるルルーシュの命令とあれば従うしかない。

部屋から退室し任務に向かう。

その時のナオトの表情が焼き付いて離れなかったブレイク。そこで彼女は悪行と分かっていながらも彼の為に行動を起こした。

 

それは、セフィーラ新統合軍からトシキを連れ出す事・・・。

 

 

 

***

 

 

 

「あそこね・・・」

 

ブレイクはニュー・エイジアの研究施設を発見し機体を向ける。

もしもの時は・・・ブレイクが忌み嫌っている“あの力”を使うかもしれない。

だが、それを知っても彼・・・ナオトは受け入れてくれた。ブレイクにはそれが嬉しかった。

そんな彼に少しでも報いたい。その思いが彼女を動かしていたのだ。

 

 

 

***

 

 

 

「う・・・」

 

施設内でトシキの意識が回復した。

とは言えど応急手当レベル。腹部を中心に負傷箇所には包帯が巻かれている。

その上トシキは狼型の怪物の血液を多量に浴びてしまっている。

 

トシキの眼前では全員が心配そうに見ていた。

 

「皆・・・」

 

「マスター!!」

 

「~っ!!??」

 

アリスが感極まりトシキに抱き着くが、重傷を負っているトシキの身体からすれば激痛以外の何でもない。

声にならない悲鳴を上げる。

 

「よかったです、マスター・・・!!」

 

「ちょっ、アリス・・・いでででっ!!」

 

「ちょ、ちょっとアリスさん、トシキ大怪我してるから!」

 

「あっ・・・!」

 

トシキの現状を確認し慌ててトシキから離れる。

トシキは立とうとするが身体が痛む上に力が入らない。

 

「まだ無理しちゃダメだよトシキ君!」

 

「結城さんの言う通りです。私たちが肩を貸しますからそれで歩けますか?」

 

「・・・悪いなユウナ、服部・・・」

 

シズカとユウナの肩を借りゆっくりと立ち上がる。

 

「トシキがこの状態だし、ここは一旦戻った方が」

 

「そうね。皆、ここはスクライア君の言う通り戻りましょう」

 

エイカが全員に指示を出し、全員施設からの脱出を目指す。

一刻も早く帰還しトシキの検査をしなければ。あの血液にどのような性質があるか分からない。

 

ユーノとハイデマリーが先行し、警戒しながら進んでいく。

 

「・・・ブリタニアの兵士どころか、僕たち以外は誰もいないんじゃないかな・・・?」

 

「そうかもしれませんが、油断は禁物です」

 

ハイデマリーの言葉はもっともだが、今は時間が惜しい。

ユーノが先行し通路に出た、その瞬間だった。

 

「うあっ!?」

 

ユーノの右脚の内側を銃弾が掠め倒れこむ。

ハイデマリーがすぐに銃弾の飛んできた方向を見ると、奥からライフルとサブマシンガンを片手で一丁ずつ持ち、腰には日本刀のような剣を差している少女、ブレイク・ベラドンナが姿を見せた。ブレイクは既に右手に持つライフルの銃口を向けている。

 

「ミヤモト・トシキはどこ?」

 

「トシキ・・・?」

 

ブレイクの言葉に全員が戸惑う。

それ以前に何故トシキのフルネームを知っているのか。

 

「私の知り合いがその人を探しているの。知っているなら教えてもらうわ」

 

ブレイクの言葉で、彼女の狙いがトシキだという事は言うまでもなかった。

厄介な事にトシキは今重傷で動けるような状態ではない。

 

それを理解しているハイデマリーはエイカ達に目配せし、シズカとユウナに見つからないよう移動するよう伝えエイカとハイデマリーはブレイクに銃を撃つ。

 

当然ブレイクは後退し身を隠すが、その時に、トシキに肩を貸して移動しているユウナとシズカが見えてしまった。

その光景でブレイクは2人に肩を貸してもらっている青年がトシキだと直感で理解し物陰から飛び出す。

 

それにハイデマリーとエイカが反応しすぐにブレイクに向け銃撃を行うが、ブレイクは壁を走るという荒技をやってのけ2人をかわしシズカ、ユウナ、トシキ3人の前に立つ。

 

「あ・・・!」

 

「く・・・!」

 

守るようにトシキの前に出る2人。

 

「その大怪我してる人がトシキね?ナオトが待ってるわ」

 

「直人・・・!」

 

ブレイクがナオトと言った瞬間トシキが反応した。

惑星クラストラニアでの事が思い返される。ナオトはトシキを説得しブリタニアへ引き込もうとしていた。

それを思い返し、やはりナオトもトシキとは戦いたくないと思っている事は分かる。それでも・・・

 

「・・・悪い2人共、もう大丈夫だ」

 

「な、宮本さん!?」

 

「トシキ君!?」

 

2人の肩から外れるトシキ。

どういう訳か、あの重傷を負いながらもう立てる程回復している。

 

「ユーノ・・・もしもの時の為に俺のメサイアを戻しておいてくれないか?」

 

「トシキ・・・!」

 

ユーノに言い残しトシキは皆が来た道を戻っていく。

 

「待ちなさい!」

 

それを見てブレイクはトシキの後を追う。

 

「マスター!」

 

アリスもトシキを追おうとしたが、シズカに右手を取られ追う事ができない。

 

「シズカさん、どうして止めるんですか!?」

 

「・・・本当なら宮本さんを止めるべきだったのでしょう。けど彼は私たちの為に時間稼ぎを買って出たのだと思います」

 

「そんな・・・」

 

「だからこそ、早くマルコフ准将へ報告して宮本さんの救援に向かうべきです!」

 

シズカの涙ながらの力強い言葉に全員が言葉を呑んだ。

確かにそうだ。1人とはいえあのまま続けていたら全員が行動不能にさせられた可能性も否めない。

 

そして全員がその言葉に頷き施設から脱出しようと再び移動を始める。

・・・たった1人、トシキを追い引き返したハイデマリーを除き。

 

 

 

***

 

 

 

「はっ・・・はっ・・・!」

 

痛む身体に鞭打って移動を続けるトシキ。

気づけば施設屋外の大型射出口らしき大穴の上の足場まで来てしまった。

 

「ここは・・・戦艦の発着場・・・」

 

「そこまでよ」

 

後ろを見ればライフルを構えたブレイクが迫ってきている。

いよいよ万事休すか・・・

 

「一緒に来てもらうわ。ナオトが待ってる」

 

ブレイクが目の前まで迫り、彼女がライフルを降ろしかけた・・・

 

「・・・!」

 

「なっ!」

 

トシキが飛び掛かり右手のライフルを奪い取ろうとする。

ブレイクはトシキを振りほどくがライフルを奪われ、トシキは残っているマガジンを装填する。

ブレイクはトシキから一旦距離を取り、トシキはブレイクに発砲。しかし今のトシキには反動が強すぎたか1発撃つ度に身体に激痛が奔る。

 

「があぁぁ・・・!!」

 

それでも自分を奮い立たせブレイクに発砲を続けるトシキ。

 

「・・・仕方ないわね。無理にでも連れていくわ」

 

ブレイクは右手で腰の刀を抜き左手のサブマシンガンをトシキに向け発砲。

その内の2発がトシキに命中。今の彼の意識を朦朧とさせるにはそれでも十分すぎだ。

トシキは霞む視界でブレイクを何とか捉えられているのも奇跡だろう。そしてブレイクがトシキに刀を向ける。

 

「これも貴方とナオトの為よ」

 

そう言ってブレイクがトシキを担ごうと身を屈め・・・

 

「トシキさん!」

 

声が聞こえ、ブレイクに弾が放たれる。

トシキがその方向を見れば、機関銃を持ったハイデマリーがいた。

その光景でトシキは自分を奮い、落ちたライフルを再び手に取る。

 

ブレイクは足場の端まで追い立てられたがまだ立て直せる、そう判断し姿勢を低くしたがトシキがある物を投げた。球体のようで赤いランプが点滅している。

それを見て一瞬でグレネードだと判断し避けようとしたが、トシキが持っていたライフルをグレネードに向け撃ち、命中した瞬間グレネードが爆発し、ブレイクは爆風で飛ばされ足場から投げ出される。

 

「がっ・・・!」

 

トシキもその爆風で飛ばされるが運よくあった手すりに背中を打ち付けて止まった。

 

「あ・・・」

 

投げ出されたブレイクの下に足場は無い。

 

「嫌・・・」

 

静かに拒否の言葉を呟くがどうにもならない。

思い浮かべたのは友人達、そして自分が想っている少年。ブレイクは叫んだ。

 

「ナオトオォォォォォッ!!!」

 

ブレイクはそのまま大穴の底へ落下していった。もう助からないだろう。

ハイデマリーはトシキに駆け寄る。

 

「トシキさん!」

 

「マリー・・・」

 

トシキは意識を保っているだけで奇跡だ。

そんな中、トシキは上着のポケットから何かを取り出す。

それは天使の羽を持った銀の剣十字のネックレス。中心にはユウナの髪飾りと同じような紫色の鉱物のような物が付いている。

 

「遅れたけど・・・これ・・・お前への・・・」

 

「あ・・・」

 

トシキの手からネックレスが滑り落ち、トシキの身体が手すりから落ちていく・・・

 

「駄目・・・」

 

ハイデマリーは手を伸ばし止めようとしたが、遂に間に合わずトシキが大穴へ落ちていく。

 

「あ、あぁ・・・!」

 

ハイデマリーはその光景を目の当たりにし、全身の血の気が引き周囲の音が遠ざかっていくように感じる。

目からは大粒の涙が零れ頬を伝い床へ落ちる。

 

「いた、ハイデマリー准尉!」

 

そこへ機体を回収しガウォークへ変形させたシズカ達が合流。

トシキのVF-25FとハイデマリーのVF-22はユーノのRVF-25から遠隔操作されている。

 

「・・・トシキは・・・?」

 

ユーノは静かに問いかけるが、ハイデマリーは動かず唯涙を零すだけ。

 

「そんな・・・」

 

「嘘・・・」

 

それで理解してしまった。

・・・もうトシキはいない、いなくなったのだ、と。

 

エイカとシズカは口元を押さえ、嗚咽を押さえようとするがそれでも泣く事をこらえる事はできない。

ユーノも顔を背けるが頬からは涙が伝っている。アリスとユウナは思い切り泣き叫ぶ。

 

 

 

***

 

 

 

だが神という物は彼女達に泣く事を許す機会さえ与えるつもりは無いようだ。

 

突然地響き音が響きだし周囲の壁が崩れ出す。

それにいち早く気づいたのはユーノだ。

 

「・・・いけない、これじゃ巻き込まれる・・・!皆!!」

 

ユーノの大声で放心状態に近いハイデマリー以外の全員が現状を理解し上空へ退避。

ユーノもガウォークの左腕でハイデマリーをそっと掴み、VF-25FとVF-22を従え上空へ逃げる。

 

・・・真の悪夢が始まろうとしていた。




劇中曲:This will be the days/Casey Lee Wiliams

ED:Mirror/安田 レイ


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STAGE30 V Infactor

上空に退避したユーノ達が見た物は全て信じられない物ばかりだった。

 

砂漠の渓谷が崩れ落ち、全てを血のような真っ赤な液体が埋め尽くそうとしている。

その血の海に呑まれる物に例外は無い。先程までいた研究施設も血の海に呑まれた。

 

「・・・どうなってるの・・・」

 

シズカはが絞り出すような声で囁く。

空も見れば赤い積乱雲のような厚い雲が覆い始めていて先程まであった砂漠が地獄のような光景に変貌しつつある。

 

トシキを失った悲しみと変貌していく光景への動揺で混乱し切っているシズカ達に、機体のレーダーが敵機接近のアラートを鳴らす。

 

「こんな時に・・・!?」

 

 

 

***

 

 

 

「この雲・・・」

 

「ブレイクの生体反応が異常波形を示している・・・!」

 

そこに急行しているのはシアンのSV-51λ、黒地と赤ラインのVF-25F、カーキ地に黄色ラインのVF-25S、先頭の機体は白地に金色のラインが入り両主翼端が緑に塗られた4発エンジンと前進翼を持つ機体・・・YF-29。

 

それぞれのパイロットの名は、黒江ナオト、ルビー・ローズ、ヤン・シャオロン、・・・枢木スザク。

 

「ブレイクが心配だ、急ごうスザク!」

 

「ああ!皆、スピードを上げるぞ!」

 

《了解!》

 

スザクの言葉にルビーとヤンが返事し、ナオトとスザクが加速するのを見て2人の機体も追従する。

 

 

 

***

 

 

 

「来る・・・!」

 

レーダーの敵機反応が急接近してきているのは明白。そして遂に肉眼で捉えた。

後ろの機体郡は見覚えがあった為驚きはしなかったが、先頭のYF-29が見えた途端に表情が驚愕に染まる。

 

「あれは、YF-29!?そんな・・・あんな物までブリタニアは!?」

 

YF-29は機体に使用される鉱物、フォールドクォーツの希少性から量産が非常に難しく出回る機体数が少ない。

それをブリタニアのような勢力が持っているのだ、驚くのも当然だろう。

 

そのまま両者は戦闘を開始するかに見え・・・

 

ドオォォォォォ!!

 

突然血の海から飛沫と共に銀色の左腕のような物が飛び出し、それが徐々に這い上がってくる。

 

それは形こそ人型だが人ではない銀色の“異形”。

全高はおよそ40か50メートルだろうか。全身が装甲で覆われ両腕には角状の物がトンファーのように肘部分に向けて伸び、手らしき物の下には機関砲のような器官がある。

狼のようだが何処か昆虫じみている頭部で額の部分から角のような突起物が生えている。

 

「オォォォォォォッ!!!」

 

異形は両腕を広げ天を仰ぎながら咆哮を上げる。

 

「何・・・あれ・・・」

 

RVF-25の後部座席にいるユウナが思わず呟く。

 

「キシャアァァァァ!!!」

 

更に銀色の異形の向いからも黒い何かが姿を見せる。

それは全高80メートル以上はありそうな上半身だけの人とは遠くかけ離れた物だった。

不気味に光る単眼と頭部に2本の角のような突起物、背部にはビームの射出口らしき物もあり、左腕は肥大化し鎌状に変化。右腕は退化したかのように縮小し3本のかぎ爪状の指に掌に機関砲のような器官があり遠隔操作兵器のように浮遊している。

 

「うぅっ!」

 

「結城さん!?」

 

突然ユウナが頭を押さえ苦しみ出す。見れば髪飾りに埋まっている紫色の鉱物のような物が発光している。

 

「・・・トシキ君・・・?」

 

「え・・・?」

 

ユウナが銀色の異形をトシキと呼び始めた。

その言葉にユーノも銀色の異形を見る。

 

「ユーノさん、あれにもっと近づけて!」

 

「え!?危ないよ!」

 

「お願い!!」

 

ユウナの願意に、ユーノが折れ銀色の異形に機体をよせる。

銀色の異形がRVF-25に気づき、右腕下部の機関砲を発砲する。

 

ユーノは機体を捻らせ攻撃を回避。

 

「ダメだ、僕たちを敵だと認識してるみたいだ!」

 

「そんな事ないよ!」

 

ユウナはキャノピー越しに銀色の異形に向け叫ぶ。

 

「トシキ君!目を覚まして!私たちだよ!」

 

ユウナは唯叫び続けるが、銀色の異形に聞こえるはずもなく再び機関砲をRVF-25に向け発砲しようとした瞬間、黒い異形がその左腕を横薙ぎし銀色の異形を殴り飛ばす。

銀色の異形は倒れるがすぐに起き上がりダッシュで黒い異形に接近。黒い異形は銀色の異形に左腕を振り下ろすが、今度はそれをテレポートとも言えるような瞬間移動で回避し右腕下部の機関砲を頭部へ向け撃つ。

 

「ヒャアァァァァッ!!」

 

頭部を撃たれ僅かに黒い異形が怯むがそれだけ。今度は左腕を血の海に叩き付け津波を引き起こす。

それを銀色の異形は上方にテレポートする事で回避し、落下しながら黒い異形の頭部に機関砲を撃つ。

 

「ヒャアァァァァッ!!」

 

黒い異形はそれを血の海に潜る事でかわし、血の海海面から不気味に光る単眼が覗いている。

潜った黒い異形は銀色の異形に向け刃状の縦波を発生させ襲い掛かる。

銀色の異形はその縦波をトンファー状に生えている角のような突起物で切り裂いて防ぎつつ右腕下部の機関砲を光る単眼に向け撃ちこむ。

 

「オォォォォォォッ!!」

 

黒い異形は頭部を押さえながら海上に再び姿を見せ、今度は浮遊している右腕を関節部に押し込んで取り付け発砲。更に背部の射出口からも紫色の光球が6つ射出されそこからビームが発射される。

ビームが発射されれば光球は消えるがその度に新たな光球が黒い異形から出され繰り返しビームが発射される。

 

それを見た銀色の異形は右腕の突起物を後方向きから前方へ回転させ、そこに電撃状のエネルギーが収束され始める。

そして右腕を黒い異形頭部へ向けるが、そこへいままで傍観していたブリタニアの編隊が攻撃を開始。

 

「ブレイク!・・・ダメ、完全に暴走してる!!」

 

その中の黒地と赤ラインのVF-25Fのパイロット、ルビー・ローズが他のパイロットに通信を放つ。

 

「スザク!」

 

「ああ!全機へ、眉間を撃って眠らせるんだ!その後本隊に連絡し捕獲する!」

 

『了解!』

 

YF-29のパイロット、枢木スザクから指示が飛びブリタニア側の攻撃が始まる。

 

「エイカさん、どうするんですか!?」

 

「・・・とにかく、ブリタニアを撃退するわよ!その後艦隊と連絡を取るわ!」

 

混乱の最中、エイカも指示を出しスザク達への戦闘を開始する。

 

「邪魔しないで!ブレイクが!!」

 

「仕方ない、こっちも応戦するぞ!」

 

「うん!」

 

ナオトとルビーが組み、編隊を組んだアリスとシズカと交戦開始。

依然銀色の異形にアプローチを続けるユーノのRVF-25にはヤンのVF-25Sが迫り、ユーノは回避行動を取る。

 

「これじゃ・・・!」

 

「何とか振り切って!トシキ君がやられちゃう!」

 

「無茶言わないで・・・!!」

 

何とかヤンを振り切ろうと機体を上下左右に旋回したり機体を揺さぶったりするがVF-25Sは食らいついて離れない。

そこへエイカのVF-19Sが迫りVF-25Sを引き剝がす。

 

「エイカさん!」

 

「こっちは任せて!」

 

そのままヤンとエイカはドッグファイトへ突入。

そこへスザクのYF-29が背後に回る。

 

「スザク!」

 

「ヤン、ここは任せて君はブレイクともう1体を!」

 

「OK!」

 

「くっ!」

 

エイカはスザクを振り切ろうとヤンの追撃を諦め上空へ逃げるが4発のエンジンを持つYF-29の機動性に敵う訳もなく易々と捕捉される。

 

「エイカ大尉!ハイデマリー准尉、大尉の援護を!」

 

「・・・」

 

シズカがハイデマリーにエイカのフォローを頼むが、ハイデマリーはVF-22のコクピット内で涙を零しながら放心状態となってしまっている。シズカの声は彼女には聞こえていながら聞こえていない。

 

「准尉!!」

 

シズカがハイデマリーに叫ぶがそれでも返答はない。

余程ショックが大きかったのだろう。

 

「これじゃ・・・!」

 

今のエイカ達は連携が全く取れていない。このままでは全滅は必至だろう。

 

「くっ!」

 

だがここでスザクが機体を反転させ突然飛んできた機関砲を回避。

見れば黒い異形に接近したヤンが攻撃を回避したがその流れ弾がスザクへの命中コースだったようだ。

 

「ゴメン、スザク!」

 

「いや、大丈夫だよ。今はブレイクともう1体を止める方が先決みたいだ!」

 

「そうみたいね!」

 

スザクとヤンが編隊を組み銀色の異形とスザクがブレイクと呼んだ黒い異形への攻撃を開始。

 

「ダメ!トシキ君!!」

 

「本当にどうしたの結城さん!?」

 

ユウナの言動に戸惑いを隠せないユーノ。

もし本当にあの銀色の異形がトシキなら何故こちらを攻撃するのか上手く説明できない。

 

そしてここで銀色の異形が右腕のチャージを終えたようで右腕上部に移動した突起物を黒い異形頭部へ向ける。

 

「あ・・・ダメぇぇぇぇっ!!」

 

その光景にルビーが叫ぶが届くはずもない。

右腕の突起物から重量子ビームが発射され、無慈悲にもそれは黒い異形・・・ブレイクを貫く。

 

「オォォォォォォ・・・」

 

ブレイクは苦しんで天を仰ぎ左腕を天に伸ばすように仰け反り遠吠えのような咆哮を上げた後、血の海に溶けるように海中へ呑み込まれていく。

 

「ブレイク・・・いやぁぁっ!!」

 

「落ち着け、ルビー!!」

 

ブレイクが消えた事で精神的ショックを受けたルビーが叫びナオトがそれを鎮めようとする。

 

「あいつ!!」

 

「ヤン、君も落ち着くんだ!」

 

一方ヤンは銀色の異形に向け突撃。スザクはそれを止めようとする。

しかし銀色の異形はスザク達はもちろん、エイカ達も敵と認識しているのか、両腕の機関砲を片っ端から撃ち接近を許さない。

 

「これじゃ近づけない!」

 

「どうするんだよスザク!?」

 

対応できない事に焦り始める。それはエイカ達も同様だ。

 

「何か手はないのか・・・何か・・・!」

 

「トシキ君・・・!」

 

そんな時、ユウナの脳裏にトシキとの会話がフラッシュバックする。

 

(私の歌なんてトシキ君のプレイヤーに入ってたのをそのまま歌っただけだし・・・)

 

(そんな事ないぜ?また聞かせてくれよ)

 

もしあの銀色の異形がトシキだとすれば・・・。

 

(お願いトシキ君、目を覚まして・・・!!)

 

そう願い、ユウナは息を吸い、

 

“ぼくは ここにいる 君は 空を見てた”

 

それはトシキが口ずさむ事もあった歌。

ユウナは自分の願いを込めそれを歌う。

 

“どこへ 行くんだろう 君の 悲しみは”

 

「・・・歌・・・」

 

その歌声に今まで放心状態だったハイデマリーが顔を上げる。

 

“吹き飛ばぬように 握りしめてた”

 

その歌声に銀色の異形の様子が妙になる。

乱射していた機関砲の攻撃が止み、混乱するかのように足物が覚束なくなってきている。

 

“わずかな命の かけらを”

 

“あげようか”

 

「動きが乱れてる・・・?もしかして歌が!?」

 

ユーノが後部座席のユウナと銀色の異形を見て歌が影響を与えているのではと仮設を立てるが、そこにスザク達がつけこむように銀色の異形に攻撃を仕掛けようとする。

 

「動きが乱れている今がチャンスだ!」

 

「分かった!」

 

「うん!」

 

「了解!」

 

編隊を組み銀色の異形へ突撃を仕掛けるが、

 

「邪魔はさせない!」

 

ユーノはRVF-25を加速させガンポッドを撃ち編隊を崩す。

 

「邪魔すんな!」

 

「そっちこそ!」

 

オープン回線でナオトから怒号が飛ぶがユーノは怯まない。

そしてそれを見て息を吹き返したようにエイカ達もスザク達と交戦を再開する。

 

今まで放心状態だったハイデマリーもトシキが落としたネックレスを握りしめユウナの歌声にシンクロするかのように口が開き始め、

 

“時が 流れたら 君も 同じように”

 

同じ歌を歌い始める。

そうしたらどうだろうか、ユウナの髪飾りとハイデマリーのネックレスについている紫色の鉱物が輝きを増し始める。

それに伴うかのように銀色の異形は更に混乱しているように見える。

 

”僕が いる訳を 忘れ 去るのかな”

 

瞳を閉じ2人は想う。

 

“トシキさん・・・”

 

“お願い、トシキ君・・・!!”

 

唯1人、そして自分が想っている青年を。

 

“君を思うほど ぼくは無力で”

 

「オォォォォォォ・・・」

 

銀色の異形は咆哮を上げるが、それは何処か弱く感じられる。

そして銀色の異形の周囲に光が収束し始め、

 

「マズイ、フォールドする気だ!」

 

スザクが列機全員に叫ぶ。

どうやら混乱による苦痛に耐えられなくなりフォールドで逃亡する腹積もりのようだ。

それを阻止すべく攻撃を仕掛けるが、

 

“小さな闇にも 消されて”

 

“しまいそうだ”

 

光が強まり全員が目を覆った瞬間に銀色の異形がフォールドにより姿を消した。

 

「く・・・逃げられた・・・!!」

 

「仕方ない。全機へ、作戦は中止。現戦域より離脱!」

 

スザク達が機体を翻しニュー・エイジアから撤退していく。

 

「トシキ君・・・」

 

ユウナは消えた消えた銀色の異形を思っている。

しかし、今の彼女達にはどうする事もできなかった。




劇中曲:Blood infactor/罪と罰 ~地球の継承者~

特別ED:あの頃へ/結城ユウナ(ICV:照井 春佳)、ハイデマリー・W・シュナウファー(ICV:植田 佳奈)


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STAGE31 決路

ニュー・エイジアから撤退し艦隊へ帰還したエイカ達はアンドレアスの執務室に呼ばれ、彼女達を待っていたのは地球本国部隊司令官のグレム中将だった。

 

「とりあえずは、ご苦労と言っておこう」

 

高圧的な態度は変わらずグレムは言葉を続ける。

 

「今回の惑星ニュー・エイジアでの一件は既に報告を受けている。実に利用価値のある物を見つけたな」

 

「利用価値・・・?」

 

グレム中将の言葉にユーノが戸惑いの言葉を上げる。

 

「そうだ。だが取りこぼしたのは失態だったな、よって逃げたもう1体を捕獲する為、これより義勇独立遊撃戦隊セイレーンは俺の中将権限により解体。今後は俺の指揮下に入ってもらう」

 

グレムの言葉に全員の表情が凍り付いた。

 

「むしろ貴様等のような成り損ないの兵士を俺の下で使ってやるんだ、むしろ感謝して欲しいくらいだ」

 

そしてグレムはアリス、ハイデマリー、ユウナに視線を向ける。

 

「特に貴様等3人は決定事項だ。異論は認めんぞ」

 

「そんな!どうして!?」

 

「報告では貴様等2人の歌声があの化物に対し有効だと報告を受けている。それを手元に置くのは当然だろう?それにその小娘もあの化物が小僧の成れの果てだとすれば必ず反応を見せる」

 

その言葉で全員が理解してしまった。

グレムは3人を戦況を有利に進める為の駒としか見ていない事を。

 

「これで話は終わりだ。貴様等と違って俺は忙しいのでな」

 

小馬鹿にしたような嘲笑を浮かべるグレム。

それにその場にいる全員が腹立たしげに握り拳を作るが、これ以上は相手にする必要もないと判断し一礼してから退室する。

もっとも誰もがグレムに対し敬意など払っていないが。

 

 

 

***

 

 

 

自室へ戻る通路をある程度進んだところでユーノが近くの壁を思い切り殴りつける。

普段の彼からすれば見られない光景だろう。

他のメンバーからも動揺が見られる。

じきにグレムから正式な通達が回りセイレーンは解体、彼の指揮下に入る事になる。

そうなればこのメンバーで行動する事はなくなってしまうだろう。

 

「ふざけるなよ・・・!」

 

ユーノから荒々しい声が発せられる。それだけ苛立っているという事だろう。

 

「僕たちは・・・セイレーンは・・・トシキが作った隊なんだ、それを勝手に自分の物にしようだなんて・・・!」

 

「でも、彼はマルコフ准将より上官です。命令に背く事はできません・・・」

 

全員が悲観的になりかけているが、ここでユーノがどんでもない事を口にする。

 

「・・・あんな人に従うくらいなら、僕はここを出る」

 

全員がユーノを驚愕の目で見る。

 

「正気ですかスクライアさん!?もしそんな事すれば、脱走どころでは済みませんよ!?」

 

「それでも出るよ!・・・結城さんの言った通りあの銀の怪物がトシキだとすれば、あのグレムって人は結城さん達を利用してトシキを兵器として使うつもりなんだ。そんな事の為に僕はここにいるんじゃない!」

 

力強いユーノの言葉に全員が息を呑む中、ユウナが両手でガッツポーズをする。

 

「そうだよ、トシキ君を兵器になんて・・・そんな事、絶対にさせないよ!」

 

ユウナも自ら軍を離反する覚悟をしたようだ。

 

「・・・ごめんなさい」

 

その2人を止めたのは、アリスだった。

 

「私は・・・軍に残ります」

 

「アリスさん・・・」

 

アリスは今までの体験、そして今回のトシキの消息不明でかなり参ってしまっている。

 

「きっと、私がいたからマスターがあんな事になってしまったんだと・・・」

 

「そんな事ないよ!アリスさんは今までトシキ君を支えてきたんでしょ?」

 

ユウナの言葉にアリスは首を横に振る。

 

「・・・私は、ただマスターに甘えてただけだったんだと思います。これ以上は・・・」

 

「・・・分かった」

 

「ユーノさん!?」

 

ユーノが肯定の言葉を出しユウナが困惑する。

 

「彼女の選択なんだ。僕たちにどうこう言える義理は無いよ」

 

ユーノの言葉にも一理ある。

ここで引き留めてアリスの意に反する。それはトシキも望んでいないだろう。

ユーノ、ユウナ、アリスは道を決めたが、シズカとハイデマリーは黙ったままだ。

 

「・・・僕と結城さんは今夜出るよ。それまでに決めておいて」

 

「またね」

 

そう言い残しユーノ達は発つ準備の為に自室に戻っていった。

 

 

 

***

 

 

 

ハイデマリーは今回の件でアリス同様にかなり参っている。

自分が慕っていたトシキがいなくなったのだ、心の支えがなくなれば当然だろう。

 

「准尉」

 

「・・・大尉」

 

ここで自室に戻る途中のエイカと会う。

息子であるトシキを失ったのに何故彼女は前を向けるのか、今のハイデマリーには分からない。

 

「どうしたいか決まったの?」

 

エイカの言葉にハイデマリーは俯いてしまう。

だからか、彼女に問いかけてしまう。

 

「・・・エイカ大尉は、大丈夫なのですか・・・?」

 

「私?」

 

「はい・・・トシキさんに・・・ジン中佐も失ってしまわれたのに・・・」

 

ハイデマリーの問いに、エイカは外を見ながら答える。

 

「そうね・・・確かにあの子やジンがいなくなってしまったのは辛いわ。でも、だからっていつまでも沈んでは、ジンやトシキ、それに同僚たちに呆れられてしまう気がしてね」

 

その言葉の後、エイカはハイデマリーを見る。

 

「大事なのは辛い出来事に対してどうするかだと思うわ。それは、貴女自身で決めなさい」

 

「私自身・・・」

 

「そう。だって、今ここにいるのも貴女自身が決めた事でしょ?」

 

そう言い残しエイカは戻っていった。

ハイデマリーも自室に戻り、エイカの言葉を考える。

 

自分が何をしたいか考え、自然と手に持っているネックレスに目が行った。

そして脳裏に浮かぶは、トシキの姿。

 

「トシキさん・・・」

 

ハイデマリーはゆっくりと、だが確かに両手で包むようにネックレスを握りしめる。

 

「・・・私は・・・トシキさんが好き・・・。それをまだ伝えてない・・・」

 

秘めている想いを口にし、ハイデマリーは遂に決心した。

握っているネックレスを首にかけ、支度を始める。

 

 

 

***

 

 

 

夜、ユーノとユウナは荷物を持ち格納庫の自分の機体に向かっている。

だがその先には誰かいる。ユーノは持っている拳銃を向けるが、直ぐに降ろす。

 

「服部さん!シュナウファーさん!」

 

その影はシズカとハイデマリーだった。2人共荷物を纏めている。

 

「2人共、一緒に来てくれるの!」

 

「トシキさんには、まだ言っていない事があります。ですからそれを伝えたくて・・・」

 

「私は、ただ今まで助けられた借りを返しに行くだけです」

 

シズカは相変わらずだが、2人共意志は確かなようだ。

 

「ありがとう、2人共!」

 

ユーノの言葉に2人は微笑み、共に機体へ向かう。

 

「やはり来たか」

 

突然声が聞こえ、全員が声の方を向く。

そこにいたのは・・・

 

「アンドレアス准将!それにエイカさんも!」

 

「貴方たちならこうすると思って、准将と準備しておいたわ」

 

エイカがユーノ達の機体を見てそう言う。

その言葉にユーノ達は首を傾げるが各々の機体上部に取り付けられているフォールドブースターを見て納得した。

 

「・・・准将、エイカさん、ありがとうございます!」

 

「私のような人間にはこんな事しかできないよ。君たちの思うように行動してくるが良い」

 

『はい!』

 

アンドレアスにユーノ達が敬礼し、機体に搭乗。

ユーノは更にトシキのVF-25Fにもアクセスし遠隔操作を行う。

ユウナはシミュレーターを受けていたお陰かアリスが残していったVF-19EFに搭乗し操縦を行う。

 

アンドレアスとエイカはユーノ達に敬礼し見送る。

 

ユーノ達の機体がカタパルトへ移動、発進準備は整った。

 

《セイレーン、発進許可は下りていないぞ、ただちに引き返せ!》

 

管制官から警告が飛ぶがユーノ達はそれを無視。強引に発艦を行う。

前方にはアステロイド地帯。そこさえ突破すればフォールド可能となり逃げきれる。

 

「皆さん、艦体に反応多数。追撃隊のようです」

 

「やっぱり来ますよね」

 

自分達はグレムの命に背き脱走したのだ。追われるのは当然だろう。

しかし大人しく捕まるつもりは彼らには無い。

 

「どの道、僕たちはもう戻れないんだ。なら強行突破しかないよ!」

 

「分かりました」

 

「了解!」

 

ユウナのVF-19EFは先にアステロイドから脱出させ、ユーノ、シズカ、ハイデマリーの3人で足止めを行う。

それに対し本国部隊の追撃戦力は全部で10機。

 

「これは、アリスさんのIFFがある!」

 

「アリスさん・・・」

 

その中にユーノ達のよく知る識別反応が。

グレムの下に移り機体をVF-171EXに変えたアリスの物だ。

 

《グレム中将の命令だ。ただちに機体を戻せ》

 

その隣のVF-171EX、リヴィ・コレット特務少尉がユーノ達に警告を飛ばす。

 

「・・・残念ですがそれには従えません。僕たちは、僕たちが正しいと思う事を成しに行きます!」

 

《・・・そうか、残念だ》

 

それで両者の会話は終了。

追撃隊のVF-171から短距離対空ミサイルが発射されるが、ユーノがフレアを投下し3人はそれぞれバラバラになりミサイルを回避。

その後はハイデマリーがミサイルを撃つ為にリヴィの後方に回るが、そこにアリスのVF-171EXが飛び入り。

 

「アリスさん・・・」

 

《どうして・・・どうしてこんな事!!》

 

アリスの悲痛な声が響く。それにハイデマリーは胸が苦しくなるがこれも自分の選択だ。

そんな甘い考えを捨てる為に頭を振る。

 

「あなたがトシキさんの為に軍に残ったのと同じ理由です」

 

《これのどこが私と同じだと言うんですか!?》

 

癇癪を起しアリスがハイデマリーの後方へ回り機体上部の30mm機関砲を発砲。

だがハイデマリーはそれを回避しつつアステロイドが密集する宙域へ誘導する。

 

「あなたは自分がトシキさんといる事が甘えだと言いましたね。でも私はそうは思いません」

 

ミサイルをアステロイドに撃ち込み粉塵を発生。

それで視界が遮られアリスは機体をガウォークへ変形させ静止。

 

「私は、私の想いを隠すのを止めたんです。だから、それを止めるというならあなたを倒します!」

 

そこへハイデマリーのVF-22がファイター形態でアリスに向け突貫。

アリスも機体をファイターへ変形させヘッドオンになる。

 

『はあぁぁぁっ!!』

 

2人は狙いすましハイデマリーはGV-17Lガンポッドを、アリスは機体上部の反重力砲を撃ち、両者はコクピットを向けすれ違う。

 

「・・・やはり、アリスさんは強いですね」

 

「ハイデマリーさん、戻って!」

 

「了解」

 

ユーノから通信が入りハイデマリーはアステロイドから離脱。

ハイデマリーのVF-22の尾翼は反重力砲が掠め僅かにスパークが起こっているがアリスは一旦ガウォークへ変形させ追撃しようとした時にエンジンが止まってしまった。

見れば左腕部の付け根部分に銃弾が直撃した痕跡が残っており、それにより内部回路が使用不能になったのだろう。

 

そしてハイデマリーはアステロイドを抜けユーノ、シズカ、ユウナと合流しフォールドブースターを起動。フォールド準備に入る。

 

「アリスさん。ユーノさんが言ったように私たちは私たちの道を行きます。あなたはどこへ行きますか?」

 

それがハイデマリーからアリスへの最後の言葉だった。

4人とユーノが従えるVF-25Fがフォールドし、追撃隊は艦体へ戻る。

 

近くにいたリヴィによりアリスも艦体へ戻されるが、コクピット内の彼女は涙を浮かんでおり嗚咽を上げていた。




劇中曲1:Deja vu/ACE COMBAT ASSAULT HORIZON
   2:Horizon/ACE COMBAT ASSAULT HORIZON

特別ED:First Pain/石川 智晶


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STAGE32 降下 エデン3

OP:First Pain/石川 智晶


新統合軍から離脱し、トシキを見つけ助け出す為の行動を始めたユーノ達。

まずは情報を集める為にデフォールドした先のアステロイド地帯にある廃棄された宇宙基地に身を潜めていた。

幸い基地の機能は死んでいなかった為機体の整備もできる。

 

シズカとハイデマリーが周辺警戒で出払っている中、ユーノはRVF-25の機能を利用し通信傍受を行おうとしている。

ユウナはやる事が無く待ちぼうけるしかない。

 

「・・・あれ?」

 

だがここでユーノが何かに気づいた。

ブリタニア空軍の航空管制通信に謎の数列が仕込まれているのだ。

そこに示されていたのは、

 

〈3'2050'90'0725'1000〉

 

これが何を意味するかユーノが頭をフル回転させている時、シズカとハイデマリーが哨戒から戻ってきた。

 

「お帰りシズカちゃん、ハイデマリーさん!」

 

ユウナが2人の出迎えに行く。

2人は機体を停めユーノの下へ。

 

「どうしたのですか?」

 

「ブリタニア軍の航空管制ラインに変な数列があって・・・」

 

ユーノの言葉に首を傾げる2人。

その数列を見て、答えはハイデマリーが出した。

 

「これは・・・もしかしてエデン3の事では・・・?」

 

「その根拠は?」

 

「惑星エデン3は環境調整されて、2050年に一部を除いて移民が始まっています。それに惑星の90%が淡水性の海です」

 

ハイデマリーの仮説にユウナ以外は納得できた。

何故ユウナが納得できていないのかは、下の2つの数字だ。

 

「じゃあ、この下の数字は?」

 

「これは日時と時刻の可能性があります。日付は明日になってますが」

 

「じゃあ、ハイデマリーさんを信じて明日エデン3へ行ってみよう」

 

ユーノの提案に全員が頷く。ユーノ達の次の行動が決まった。

 

 

 

***

 

 

 

惑星エデン3。ハイデマリー達は以前アリスの墜落を調査しに来た惑星。

彼女らは再びこの惑星へ来る事となった。だが今回は敵がいる事を考慮しどう突入するか検討する必要があった。

 

「どうやって降りるの?このままじゃ見つかっちゃうよ?」

 

ユウナも同じ事を懸念しているがユーノには無謀とも取れる策がある。

 

「衛星軌道の小惑星を爆破して、その破片が大気圏に突入した瞬間に僕たちもその破片に紛れて降下。これしかないよ・・・」

 

ユーノの作戦は確かに無謀かもしれない。下手すれば落下する破片に激突しそのまま破片と共に燃え尽きるかもしれない。

 

「・・・でも、それが最善かもしれませんね」

 

シズカは半ば諦め、ハイデマリーは分かっていたのか無言だ。

 

そして作戦決行。シズカ、ハイデマリー、ユウナが小惑星にミサイルを撃ち、その破片が大気圏への落下を開始。

それに乗じユーノ達も大気圏突入を開始する。

 

その時に凄まじい衝撃がコクピットを襲い恐怖もあるが、それでも怯まない。

 

(トシキ(君)は、いつもこんな無茶や無謀をやったんだ、僕(私)だって・・・!)

 

ユーノとユウナはトシキがやるような無茶を自分達もやってのけると決めていた。

 

4人は無事大気圏を突破し地表へ。そこからはとにかく低空で向かう。

だがその途中で大型の輸送艦を発見。

 

「輸送艦?・・・本当にここで何かあるのでしょうか・・・?」

 

だが下手につけてはすぐ見つかるだろう。そこで輸送艦から距離を置き追尾。感知されないようにバルキリーの火器管制は切っている。

そして輸送艦は倉庫街のようなエリアに着き、ユーノ達はそこから離れた場所に機体を停め倉庫街への潜入を始める。

人はほとんどおらず、警戒するに越した事はないが兵士に出くわす事はなかった。

 

だが倉庫の中にはVF-11やVF-27等の可変戦闘機が多数並んでいる。

 

「これは・・・」

 

警戒しながら進むが思わずユーノが声を漏らす。

どう考えてもそこらの反統合勢力が揃えられるような装備ではない。

 

恐らくここはブリタニアを始めとした反統合勢力の支援組織の拠点なのだろう。

 

「どういうつもりですの!?」

 

「知った事かよ!」

 

そこから聞こえてきたのは、年端も行かない女性と男性の声。

 

「野郎ども、やっちまえ!」

 

男性の影声を皮切りに銃声が飛び交い、多数の悲鳴や怒号が響き渡る。

ユーノ達は戦闘を避ける為に身を潜めるが、ここには自分達とブリタニア軍以外の第3勢力がいる事になる。

 

「僕たちの他に誰かいる・・・?」

 

やがて銃声が止み、ユーノ達は恐る恐る中へ入る。

中は弾痕や多数の死体で荒れ果てているが、まだ人の気配がある。

 

「同士討ち、でしょうか・・・?」

 

ハイデマリーは考えられる可能性を話すが、それにユーノは首を横に振る。

 

「あの取り乱し方は仲間って感じじゃなさそうだけど・・・」

 

「!!准尉っ!!」

 

突然シズカがハイデマリーを突き飛ばした後に自分もに右に転がり、その後先程の位置に銃弾が飛ぶ。

ユーノはすぐにその方へ拳銃を向ける。

 

「まだいやがったか!」

 

上の階にはアサルトライフルとシルバーのアタッシュケースを持ち、更に右寄りの白いポニーテールの少女を人質に取っているリーダーらしき男、そして周囲には武装した敵らしき人が何人もいる。

 

そしてリーダーの男はそのまま少女を人質に取ったまま屋上へ逃走。

 

「まずい、これじゃ逃げられる!」

 

「私と准尉で足止めを行います。スクライアさんと結城さんは奴を!」

 

「分かった!」

 

「気を付けてね!」

 

敵兵をシズカとハイデマリーに任せユーノとユウナは屋上へ逃げた敵リーダーを追う。

屋上は行き止まりで逃げ道など無い。

 

「観念して、もう逃げられないよ!」

 

「・・・へっ!」

 

それでもリーダーは不適な笑みを浮かべ、

 

「キャッ!!」

 

人質に取っていた少女を突き飛ばし飛び降りた。

慌てて2人はリーダーが飛び降りた所を見下ろすが、男は待機させていたガウォーク形態のVF-171EXに乗っていた。

 

「お前らなんかに捕まるかよ!」

 

男はキャノピーを閉め上昇。

だがここにいるという事は何か重要な情報を知っているかもしれない。だから逃がす訳にはいかない。

 

「どうするの!?」

 

「大丈夫。来い!!」

 

〈CONNECT SLAVE〉

 

ユーノの声に反応するかのように待機させていたRVF-25が自律起動し主人の下へ向かう。

 

自動でガウォークへ変形しキャノピーを開けユーノが乗り込む。

先にユーノが逃げた敵リーダーを追い、それを見たユウナが急いで下へ降りる。

 

 

 

***

 

 

 

エデン3上空へ逃げた敵リーダー機をユーノが追尾している。

 

「チィッ!しつけぇな!!」

 

痺れを切らしリーダー機が反転。ユーノと一騎打ちに持ち込もうとする。

それを見たユーノも操縦桿を握り直し互いにヘッドオン。

 

すれ違い直後にユーノはすぐさま機体をガウォークへ変形。上下反転しガンポッドを発射するがVF-171EXはロールしてそれを回避。

直ぐにファイターへ変形し追撃するが元々RVF-25は電子戦機の要素が強い為に戦闘には少し不向きだ。

それでもユーノは必死にVF-171EXに食らいつく。

 

しかしリーダー機は宙返りを使いユーノの背後へ回る。

 

「くたばれ!!」

 

攻守逆転。リーダーはユーノを追い回し撃墜しようとする。

だがユーノとてやられる気はない。

とにかく機体を揺さぶりVF-171EXからの攻撃をかわしチャンスを窺う。

 

「もう少し・・・!」

 

「ちょこまか動くんじゃねぇ!!」

 

男は我慢の限界なのだろう、ユーノに迫ってくるが、

 

「・・・今だ!!」

 

機体をバトロイドへ変形させ、VF-171EXをオーバーシュートさせる。

 

「何だと!?」

 

そのままRVF-25がVF-171EXの背後に回りガンポッドを発射。

VF-171EXはは両エンジンを撃たれ淡水性の海へ落下していく。

 

「クソったれがぁ!!」

 

リーダーはやむを得ず機体と共にケースを捨てる事にし脱出。

EX-ギアで既に発進していた輸送艦へ逃げる。

 

「・・・間に合いませんでしたか・・・」

 

そこへ各々の機体に乗っているシズカ達が合流。逃げたリーダーを悔し気に見る事にしかできない。

 

「相手の機体は撃墜したからもう何もできないよ」

 

確かにユーノの言う通りバルキリーが無ければユーノ達を撃退する事はできないだろう。

その為彼の選択肢は逃げの一択のみだ。

 

「あ、見てあれ!」

 

だが、そこでユウナが墜落海域にシルバーのケースが浮かんでいるのを見つける。

ユウナが回収しに向かおうとするが、

 

「待って!罠があるかもしれないよ!」

 

ユーノが静止し、代わりにユーノがケースを回収する。

表と裏をしっかり確認し何もない事が分かるとユーノはケースを開ける。

 

「・・・嘘でしょ・・・」

 

ケースの中身を見たユーノが声を漏らす。

その様子を見たシズカ達もケースの中身を見るが、それで言葉を失った。

 

そのケースはパソコン一体型となっており、その中身にはあの銀色の異形・・・トシキがバローダ3198XE第4惑星にデフォールドし、それを歌声と大多数の戦力で強襲し弱らせた所を捕獲するという作戦「オペレーション・スターダスト」の事が記載されていた。

 

「これって・・・トシキ君が危ないよ!!」

 

「待って結城さん!確かにこのままじゃどの道トシキが兵器として使われてしまうかもしれない・・・。でも、今の僕たちのままままじゃ助けられないよ!」

 

ユーノの言葉に全員が黙り込む。そう、オペレーション・スターダストに動員される兵は百単位規模。それに対しユーノ達セイレーンはたった4人しかいない。戦力差は絶望的な程にはっきりしている。

 

「ですが、これだけの人員と機材を動かすには時間がかかるはずです。それまでに今後の方針を考えましょう」

 

一先ずはハイデマリーの言う通り、ここは一旦退き今後の方針を考える必要がある。

ユーノはケースを閉じてRVF-25の後部座席に置き、シズカ達と共にエデン3から離脱する。

 

 

 

***

 

 

 

こちらも既にエデン3を脱出していた。

ユーノとの戦闘でVF-171EXを失った男はそのまま仲間の輸送艦で衛星軌道へ上がっている。

 

「災難っしたね、アニキ?」

 

男の手下らしき男がリーダーに声をかけるが、リーダーはあまり気に留めていないようだ。

 

「おかげでもう1つのお宝も手に入った事だしな」

 

リーダーに釣られるように手下の男達が笑い声を上げる。

だが、ここで輸送艦のレーダーが警報を鳴らしだす。

 

「何だ!?」

 

突然の事でパニックになる。

そこへ1機の青いVF-19Sが輸送艦を飛び越し、そこでバトロイドに変形。両腕についている大型対艦ミサイルを発射する。

 

「う、撃ち落とせ!!」

 

「間に合わねぇ!!」

 

パニックの為迎撃が間に合う訳もなく、ミサイルはそのまま艦橋へ直撃。男達はその爆炎に呑まれた。

 

そして輸送艦の沈黙後にVF-19Sがゆっくりとその残骸に近づき、キャノピーが開きパイロットが降りる。

そして艦内でユーノ達が回収した物と同じ型のシルバーのケースを見つけ、それを取る。

 

「ふっ、海賊が役に立つ事もあるんだな」

 

パイロットの男はそう言い残し、ケースを機体に載せた後にVF-19Sに乗り出発した。




劇中曲:黒瞥登場/蒼穹紅蓮隊

ED:Mirror/安田 レイ


ネタが思い浮かばず、今回は時間かかった上にかなりグダグダですね・・・申し訳ないです・・・


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STAGE33 ボルカン の 裏切り者

OP:First Pain/石川 智晶


エデン3で大規模作戦「オペレーション・スターダスト」の情報を得たユーノ達セイレーンだったが、戦力差が圧倒的な為にどうすればいいのか分からない。

 

何とか対策を講じようとしているがなかなか良いプランが無い。

とにかく何か攻略の糸口を探す為、ユーノはブリタニア軍の通信を傍受し続ける。

だが目ぼしい情報が流れる訳もなく、途方に暮れようとしていた時だ。

 

「エイカ大尉?」

 

機体調整で待機していたシズカが声を漏らした。

シズカの持っている携帯にエイカからのボイスメッセージが送られてきていた。

 

「シズカ軍曹、どうしました?」

 

「准尉、実はエイカ大尉からボイスメッセージが送られてきてまして」

 

合流したハイデマリーがシズカに問いシズカが答える。

シズカは全員を見渡し、ユウナ、ユーノ、ハイデマリー全員が頷くと頷き返し、ボイスメッセージを再生する。

 

《元気にしてるかしら?言うまでもないと思うけど、エイカ・M・ルマール。大尉よ。申し訳ないけど貴方たちに依頼があるの。惑星ボルカンに物資や機材をブリタニアに横流しした裏切り者がいるらしいわ。私とコレット特務少尉がこの任務を担当する事になったのだけど2人だけでは厳しいかもしれない。これは私の独断よ。足りないかもしれないけど報酬も用意したわ。貴方たちの答えを待ってる》

 

メッセージはそこで終わっている。

これはエイカの個人的な依頼だという事はメッセージからも分かる。だがもし裏切り者が事実なら、何か重要な情報を握っている可能性が高い。

 

「エイカ大尉・・・」

 

彼女が自分達を心配してくれていたのはメッセージの冒頭で分かる。

彼女らからしてみれば、可能ならエイカに協力したいがオペレーション・スターダストに対応できなくなる危険も孕んでいる。

 

「どうすれば・・・」

 

シズカとハイデマリーが判断しかねているが、ユーノは決めていた。

 

「エイカさんの依頼を受けよう」

 

「ユーノさん?」

 

「時間はないかもしれないけど重要な情報が得られる可能性は高いよ」

 

確かにここで情報が手に入れば、オペレーション・スターダスト攻略の糸口が見つかる可能性も出てくる。

そうなればトシキを助けられるかもしれない。

そうと決まればユーノ達は準備を始める。

 

 

 

***

 

 

 

シャーマ星系第3惑星ボルカン。

地球に似た土壌と大気を持つ惑星で、その環境から早くに移民が始まり自治政府が自立した。

 

そしてそこに降下する4機の可変戦闘機。

あの後、準備を終えたユーノ達はこの惑星の衛星軌道にデフォールドしそのまま大気圏突入を開始する。

既にボルカンは夜になっており周囲は暗闇だ。

 

降下を終え機体をガウォークへ変形。地表付近を飛行しエイカとの合流ポイントへ向かう。

ジャングルの中に機体を停め進む。

 

「真っ暗だよ・・・」

 

「ライトで道を探しながら行くしかありませんね」

 

シズカとハイデマリーは銃身の下に取り付けたライトで周りを確認しながら前進。

ユーノとユウナは普通の懐中電灯で周囲確認。ある程度進んだ所で人影を見つけ、それがエイカとリヴィ特務少尉だという事はすぐに分かった。

 

リヴィとエイカはすぐさま背後に銃口を向けるが、ユーノ達は両手を上げている為にすぐに認識できた。

 

「貴方たち!」

 

「エイカ大尉、任務依頼お受けします」

 

「ありがとう」

 

「・・・大尉、これは貴方が?」

 

「ええ、私が呼んだわ」

 

その言葉にリヴィは不満げな顔になる。

彼女からすれば軍から離反した者は信用できないのだろう。

 

更にジャングルを進むと監視所がある。

エイカとリヴィが先行し見張りのスナイパーを倒す。それに続きユーノ達も監視所へ。

 

「誰か狙撃経験のある者は?」

 

リヴィの言葉に全員が黙り込む。恐らく無いのだろう。

それにリヴィが軽く溜め息をつこうとした時、ユーノが徐にスナイパーライフルを取る。

 

「ユーノさん?」

 

「・・・やってみるよ」

 

ユーノがスナイパーライフルを構え狙撃体勢に。先にある工場らしき施設からはそこまで離れていない。

 

「見張りは5人・・・」

 

スコープを覗いた後に静かに呟き、引き金に指をかける。深呼吸し狙いを定める。

そして引き金を引き第1射が放たれる。それは敵兵に真っ直ぐ飛び命中。敵兵をダウンさせた。

 

「次・・・」

 

レバーを引き空薬莢を排出、次弾装填。

次は中段の階にいる2人。距離は比較的離れている為片方を撃っても気づかれる事は無い。

冷静に狙いすまし1人を狙撃。次弾装填しもう1人を狙い撃つ。

 

残りは上階の2人だが、こちらは会話している為に片方を撃てばすぐに気づかれる。

だが2人はユーノから見れば縦1列に並んでいる。上手く狙えば2人まとめて倒せる。

狙いすまし狙撃。惜しくも2人同時には倒せなかったが手早く再装填しもう1人も狙い撃つ。

 

「・・・ターゲットクリア」

 

「確認したわ。スクライア君、貴方スナイパーの素質あるわよ」

 

「そうですか・・・?」

 

「無駄話はそこまでだ、突入するぞ」

 

エイカに狙撃の腕を称賛されたユーノだったが、リヴィに止められ先に行く。

監視所からは直接施設に行けるようにゴンドラが用意されており、そのワイヤーを滑車を使って駆け降りる。

 

「あいたっ・・・」

 

その際にユウナが着地に失敗し尻餅をつくが、何とか起き上がる。

ゴンドラ下の非常通路を使い工場内へ。

幸いそこでは敵兵と出くわす事は無かったが、先にあるベルトコンベアーによる搬送区画で敵兵と遭遇。

柱やコンテナを遮蔽物にし敵兵を排除していく。

 

「貴方たちを見てると昔を思い出すわね」

 

「エイカ大尉?」

 

「軍に入った頃の私はジンと一緒に目の前の任務を必死でこなしてきたわ」

 

エイカの独白を聞きつつも施設を更に進んでいく。

扉に差し掛かるが、セキュリティがかかっておりエイカやリヴィでは解除できない。

 

「ダメか・・・」

 

「何とか迂回して進むしか・・・」

 

リヴィが進行できそうなルートを探していると、

 

「ここ通っていけそうだよ!」

 

「・・・私はあまり気は進みませんね」

 

ユウナがこ大型コンベアーを発見しそれに乗って進む。

ユウナは手を振り先へ。ユーノ、シズカ、ハイデマリーは肩を竦めながらもユウナを追ってコンベアーに乗る。

 

「・・・全く彼らは」

 

「ふふっ、子供たちは迷わないか」

 

リヴィは呆れ、エイカはどこか微笑ましい表情だ。

2人もコンベアーに乗り施設の奥へ。

 

「客人だ!」

 

そこでも敵兵と出くわしコンテナを遮蔽物にし銃撃戦が展開される。

敵兵をある程度排除した所でコンベアーをを降り通路を直進。

その先にはセキュリティの無い扉がありそこへ突入する。

 

「・・・意外と早かったな」

 

そこは倉庫になっており、そこに居たのは、

 

『ジン(中佐)!?』

 

そう、開戦当初で撃墜されたはずのトシキの父親、宮本ジンだった。

左腕が義手になっており左目にも眼帯が付いているが、トシキと同じ銀に近い白髪が間違いなくジンだ。

唯、今のジンは背中に刀を差し、更にシルバーのケースを持っている。

 

「ブリタニア兵では役不足だったか?」

 

「・・・生きていたの・・・?」

 

「ああ、久しぶりだなエイカ。そして服部軍曹とシュナウファー准尉」

 

ジンが生きていた事に涙を流しそうにななる3人。

だが、そこにリヴィが割り込む。

 

「感動の再開を邪魔するようで申し訳ありませんが、宮本中佐、持っているケースを渡してください」

 

「・・・すまないが、まだ渡せないな」

 

ジンはケースの引き渡しを拒否。だがリヴィはそれで引き下がるような性格でもない。

 

「3秒待ちます。その間にケースを渡してください」

 

そう言ってリヴィは右手を差し出す。ケースを渡せと促しているのだろう。

 

「3・・・2、ふっ!」

 

2のカウントでリヴィは懐からサバイバルナイフを出しジンに切りかかり、ジンはそれを背中に差している刀を抜いて受け止める。

 

「随分と、せっかちだな!」

 

ジンは刀を押し込みリヴィをどかす。

リヴィは後転し再び体勢を整えジンに突撃する。




ED:Mirror/安田 レイ


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STAGE34 真相

OP:First Pain/石川 智晶


惑星ボルカンのブリタニア軍工場施設内の倉庫で、ジンとリヴィが剣劇を繰り広げている。

エイカ達はリヴィを避けながらジンを攻撃しなければならないが戸惑いとリヴィが射線に入る事で狙いをつけられない。

 

「何故裏切ったのですか!」

 

剣劇の最中、リヴィがジンに問いかける。

 

「私じゃない!」

 

ジンは自身が裏切りに関与している事を否定。

だがリヴィはその言葉を受け入れない。

 

「貴方以外に誰がいると言うのですか!」

 

「それを知る為にケースが必要だった!」

 

あくまでジンは自分じゃないと否定するがリヴィはそれを認めない。

 

ジンはリヴィのナイフを払い回し蹴りを繰り出す。

 

「ぐぅっ!」

 

リヴィは蹴り飛ばされ木箱に突っ込む。

その後にジンは刀をしまい腰のホルスターから拳銃を取る。

 

「お前たちに恨みはないが・・・私はまだ死ぬわけにはいかない!」

 

ジンは木箱の上に飛び移り拳銃をエイカ達に向ける。

それを見てエイカ達も銃を構えるが、エイカ、シズカ、ハイデマリーはジンに対し引き金を引く事を躊躇ってしまう。

 

「はあぁぁ!」

 

だがそこにフォークリフトに乗ったリヴィがジンに突進。

ジンは飛び降り倉庫より奥の部屋へ逃げ、リヴィとエイカ達はそれを追う。

そこは工場区画になっており、製造中の可変戦闘機等が置かれていた。

 

そこの足場台の上にジンが上り、リヴィも上り再び格闘戦を繰り広げる。

ジンは台から台へ飛び移りリヴィをかわす。

 

「動かないでください!」

 

それにリヴィが追従するがその度にジンは飛び跳ねるように台から台へと移る。

それをユーノ達は狙おうとするがジンが立体的な動きをするために狙いが定まらない。

そこへジンが刀を床に置き、苦無を取り出しユーノへ投げる。

 

「ユーノさん、避けて!」

 

ユウナが叫び、ユーノは伏せて苦無を回避。

ジンは床に置いた刀を再び取り、そこへリヴィが飛び掛かる。

 

「ブリタニアと組んだ者を信用しろと!?」

 

リヴィをかわしジンは再び台の上へ。リヴィもそれに続く。

 

「私は彼らと組んではいない」

 

ジンはリヴィに足払いを繰り出しリヴィは転倒するが、後転して台から降り、台を蹴ってずらしジンのバランスを崩し落下してきた所にリヴィが拳を叩きこむ。

 

「ここはブリタニア軍の工廠でしょう!」

 

殴り飛ばされたジンはすぐに体勢を立て直し、リヴィは空の木箱をジンに向けて投げつけジンはそれを刀で斬る。

 

「裏切り者の狙いを探る必要があった。ブリタニア軍が勝手に時間を稼いでくれるからな」

 

「そんな話を誰が信じると!」

 

ジンは柱間に渡されている鉄骨の上に乗りリヴィも続く。

リヴィがナイフで突きを繰り出すがジンは柱を逆上がりの要領で駆け上がりバック転。その後に回し蹴りでリヴィを蹴り落とし、その上から飛び掛かろうとしたが、その直前に両側の壁が爆破されそこからブリタニア兵がなだれ込んでくる。

 

「チッ!」

 

ジンは舌打ちした後にスモークグレネードを足元に投げつけ、鉄骨を伝って足場へ移動。そのまま奥へ逃走する。

 

「待ってジン!」

 

エイカは呼び止めるがジンが聞く訳もない。

 

「エイカ大尉!まずはブリタニア兵を!」

 

「・・・分かったわ!」

 

ジンを追う為にもまずは周囲のブリタニア兵を排除しなければならない。

手すりにつけられた鉄板を遮蔽物に銃撃戦が展開され、エイカ達はブリタニア兵を制圧していく。

 

制圧した所で下に降り、倒れているリヴィを起こす。

 

「リヴィさん、大丈夫!?」

 

「ああ、すまない。宮本中佐を追うぞ」

 

リヴィと共にジンが逃げた奥の部屋へ。

 

最奥の部屋はコレクタールームのような部屋になっており多数の美術品が置かれている。

だがその先は行き止まり。ジンはもう逃げる事はできない。

ジンはスモークグレネードを足元に投げ、ショーケースの上へ。

そこへ再びリヴィがナイフを構えジンに向かって突撃する。

 

「あと少しで分かる。あと少しでケースの暗号解除が終わる!」

 

ショーケースから飛び降りリヴィに斬りかかるジン。

リヴィはそれを防ぎ2人は再度格闘へ。

 

「時間をくれ!」

 

「黙れ!」

 

リヴィが荒々しい言葉になる。

 

「裏切り者は処分する!」

 

リヴィが胸倉をつかみ、ジンをショーケースへ叩きつけた後に別のショーケースへ投げつける。

そしてリヴィが飛び掛かるが、ジンはそれを跳ね起きで跳び上の鉄格子に足を引っかけ逆さ吊りに。

そして飛び降りた所にリヴィが再度飛び掛かるが、ジンも飛び掛かり刀でナイフを弾く。それによりリヴィは体勢を崩され背中から落下。ジンはいち早く起き上がり、リヴィの両足を掴んで振り回し、

 

「うあぁぁぁっ!!」

 

そのまま放り投げる。

 

「ケースの中身を得る為に命を落とした者はS.M.Sにいた私の友人だった。真相は私が突き止める!」

 

そしてジンは左手に拳銃を持ち、ユーノ達に発砲。

それを床に伏せて回避した後、ジンはショーケースの上へ。そこから苦無を出し投げるが、今度はハイデマリーが拳銃で苦無を撃ち落とす。

そしてジンは刀を構えシズカに飛び掛かるが、

 

「危ない!」

 

そこにユウナが割り込み、ジンの刀を真剣白刃取り。

 

「はあっ!」

 

そのままバック転で右手を蹴り上げ刀を弾き飛ばす。

ジンは座り込み刀はジンの更に後ろの床に突き刺さる。これでジンはすぐに撃たれる状況だろう。

 

だがジンは隙を見て、落ちているシルバーのケースに飛びつき、

 

「これを見ろ!」

 

エイカ達に向けケースを開ける。

中身はパソコンで暗号解除の数字が98%から上昇していく。

 

「ケースの中身は、S.M.Sの友人が残した裏切り者のデータだ」

 

そして数字が100%に到達しデータが開示される。

 

「嘘・・・」

 

その中身にシズカが思わず言葉を漏らした。

するとと突然ジンが拳銃を構え発砲。訳も分からず発砲されたエイカ達はすぐに顔をずらし回避するが、ジンの狙いはエイカ達の背後から飛んできていたナイフだった。

2発の弾がナイフに命中し弾き飛ばす。

 

「コレット特務少尉・・・」

 

「申し訳ありません中将、准将。ケースの回収に失敗しました」

 

ナイフを投げた本人・・・リヴィが誰かと連絡している。

そして連絡を終えるとジンと向かい合う。

 

「やはり貴方は力づくでも排除しておくべきでした、宮本中佐」

 

「・・・裏切り者はグレムとアンドレアスだ!」

 

ジンの宣言に周囲が凍りつき、全員がリヴィを見る。

 

「私たちをここで始末するつもりだったのだろう?」

 

「そう命令されていましたが、貴方のお陰で計画を前倒しする事になりました」

 

リヴィはそう言った後にフラッシュグレネードをジン達に投げ、光が晴れた後にはリヴィの姿はなかった。

 

「コレット特務少尉・・・」

 

エイカの呟くような声が、虚しく室内に聞こえた。




劇中曲:伊達政宗のテーマ/戦国BASARA3

ED:Mirror/安田 レイ


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STAGE35 対決 準備

OP:First Pain/石川 智晶


ジンから真実が伝えられ、それによりリヴィは撤退。

取り残されたエイカ達はどうすればいいのか分からなくなっていた。

 

今まで信頼していたアンドレアス・マルコフ准将がブリタニアと内通していた事はやはり大きかったのだろう。

その情報を見てしまったのだ、離反したユーノ達はもちろん、エイカもまず間違いなく離反者として軍内に広まっているに違いない。

 

「どうすれば・・・」

 

何をすればいいのか、どうすればブリタニアを止められるのか分からない。

自分達は軍から孤立してしまっているのだ。

 

「まだ終わった訳ではないだろ?」

 

だが、ジンはこの状況でも諦めていない。

どうするかは決めているようだ。

 

「エイカ、子供たちと共にXGP8300600:ASR8283200に行くぞ」

 

「ジン・・・?」

 

 

今のエイカ達にはジンの言葉に従う他なかった。

言われた通りエイカ達は各々の機体を取りに行き、ジンと共に指定されたポイントへフォールドする。

 

 

 

***

 

 

 

アルファ星域XGP8300600:ASR8283200。

2051年に第2次統合戦争で地方分権を訴えた反統合勢力ビンディランスと統合軍が総力戦を行った宙域でもある。

 

そしてその残骸から成るデブリ帯に紛れるように1隻の艦船が停泊している。

ウラガ級護衛宇宙空母“リチャード”。セフィーラ軍の空母であるにも関わらずこのような場所で停泊していた事に驚いたが、ジンは躊躇無く着艦アプローチを開始。

 

エイカ達も戸惑いつつも着艦。

 

「こっちだ」

 

ジンに案内され空母リチャードの艦橋へ案内される。

艦橋で待っていたのは、

 

「お帰りなさい、ジン中佐」

 

「今は階級でなくていいと言ったぞ、マリク艦長」

 

空母リチャード艦長、金髪の初老の男性マリク・シザースだった。

マリクは苦笑いの咳払いをする。

 

「そうだったなジン、すまない。それより彼女たちがそうか?」

 

「そうだ。紹介・・・は必要ないか?」

 

「お久しぶりです、マリク艦長」

 

ユーノ、ユウナ、ジンを除いた全員がマリクに敬礼する。

 

「そのままで結構。だが礼儀として名乗らせてもらう。マリク・シザース。このウラガ級空母リチャードの艦長で少佐を務めている」

 

マリクが全員に挨拶をした後、事の経緯を説明する。

 

「エリュシオン進攻から撤退した本艦は孤立状態になり、司令部から通達が回る度に艦載機を出してはきたが、その度に帰ってこない部下の数が増えて、今ではジン1人だけになってしまってな」

 

物悲しそうに外の宇宙を見ながら静かに呟くマリク。

 

「飛行機の無い空母はお役御免という訳で、ここで昼寝中さ」

 

マリクの独白が終わり、エイカは核心を問う。

 

「マリク艦長。貴方はジンが接触する前から動いていたのですか?それとも・・・」

 

「・・・俺の艦に1隻高い傍受能力を持ったノーザンプトン級がいる。“メイオール”。地球からの暗号通信を傍受してな。アンドレアス・マルコフの内通を知ったのはその時だ」

 

エイカの問いにマリクが答えはっきりした。

今まで自分達はアンドレアスに利用されていたのか、と。

 

「・・・あの、シザース艦長」

 

「マリクで構わない」

 

おずおずとユーノが話しかけるが、マリクは気さくに対応する。

 

「じゃあマリク艦長、コレットさんは計画って言ってましたけどアンドレアスさんは何をするつもりなんですか・・・」

 

「そこからは私が説明しよう」

 

そこでジンが声を上げる。

 

ジンはエリュシオン進攻で撃墜された時、撤退の際にマリクの艦に拾われ命拾いしたのだ。

そしてリチャード艦内で眼帯と義手を付け、リハビリを繰り返していた。そして開戦からしばらく経った時に地球からの派遣部隊がセフィーラ軍に合流。その時にメイオールが地球からの暗号通信を傍受したのだという。

 

その後ジンは統合政府内に内通者がいる可能性を考え、マリクから許可を受け独自に調査を行っていたのだ。

 

「アンドレアスの目的は、統治体制を第2次統合戦争以前の状態である地球一極主導体制に戻す事だ」

 

ジンの説明にエイカ達は言葉を失くす。

もしそうなれば、辺境惑星の統治体制に圧力が掛かるだけでなく軍備拡充も滞る事になる。

だが未だに地球至上主義の意見が根強いのも事実である。

2059年にフロンティア船団がバジュラと遭遇・交戦した際に第53次超長距離移民船団、通称マクロス・ギャラクシー船団の幹部らが全人類を支配しようと陰謀を企てていたという記録からその声はまた1段と強くなっている。

 

だがそれを実現する為には何処かの自治政府を標的にする必要があった。

そこで標的になったのがマクロス・ブリタニア船団。アンドレアスはクリティカルパス・コーポレーションCEOであるグレムと結託してブリタニアに軍備や資金等を提供し、ある程度の軍事行動が可能になった所で新統合政府に対し反乱を企てているとでっち上げ攻め込む。それが13年前の内部粛清の真実だった。

その結果再び統合政府は地球主導になるはずだったのだがそこで誤算が生じた。

 

ルルーシュを始めとした幹部の子息が生き残っていた事により生じた反乱により、唯彼らの不満を煽っただけなのではとアンドレアスの行動を疑問視する声が上がり始めたのだ。

その為にアンドレアスは再びブリタニア軍を討伐し名声を得て地球至上を説くのだという。

 

その為にブリタニアが手に入れた、あの総角錐の結晶体を奪い自分が望む地球至上の世界を創り上げるつもりなのだろう。

だが真相を知ったジンを惑星ボルカンで仕留め損なっただけでなく、その真相をエイカ達にも知られた為にその計画を急ぐ事になったらしい。

そしてまずその前座として、グレムの部隊と共にバロータ3198XE第4惑星にて行われるブリタニア軍のオペレーション・スターダストに便乗し、銀色の異形となったトシキを制御下に置くのだという。

 

「だが、天の女神はまだ俺たちを見放してはいないようだ」

 

「え?」

 

マリクの言葉にエイカが戸惑いの言葉を上げた時、リチャードのレーダーがデフォールド反応を捕捉。

全員が身構えるがすぐに警戒を解いた。

デフォールドしてきたのはS.M.Sセフィーラ支社の旗艦でもあるマクロス・クォーター級戦艦、フォル・ブランニルだった。

 

「あれは!」

 

「俺たちの救援要請に応えて駆けつけてくれた援軍だ。それに・・・」

 

マリクが右前方を見ると、そこには停泊中の輸送艦があった。

 

「クリティカルパスがブリタニアに密輸しようとしていた所を拿捕した。機体も装備も選り取り見取りだ」

 

エイカとユーノ達にとっては大きくかつ心強い戦力強化となった。

フォル・ブランニルと合流後にマリクはフォル・ブランニル艦長であり自身の友人でもあるカーツ・ベッセルに挨拶に行った。

そして、ジン、マリク、カーツの3人によりオペレーション・スターダスト攻略の準備が整い、マリクのリチャード、カーツのフォル・ブランニルを中心に艦体を再編。更に拿捕した輸送艦から必要な装備を入手し対決姿勢は整った。

 

「空母リチャード艦長マリク・シザースより総員へ。セフィーラ新統合軍はブリタニア軍の作戦に乗じ強大な戦力を手中に収めようとしている。更にセフィーラの指揮官アンドレアス・マルコフ准将はその戦力によりブリタニア軍を殲滅し、再び地球一極主導体制による統治を築き上げようとしている。しかしセフィーラ全軍が彼の指揮下にある以上、救援を見込む事はできない。我々に残された可能性は、結城ユウナとハイデマリー・W・シュナウファー両名の歌声により銀の怪物とのコミュニケーションを行い無力化する事。総員、戦闘配置!」

 

「これより、本艦隊は緊急フォールドに入ります!」

 

マリクの言葉に全員が気を引き締める。

 

リチャード艦内ではユーノ達もスタンバイ。

特にユーノのRVF-25は対決に備え大幅な衣替えを果たしている。

目を引くのはデルタ翼でカバーされた主翼と両翼端に付いているエンジンポッド。それはトシキのVF-25Fに装備されているトルネードパックの物と同じだった。

今回の作戦に際し全員の機体にカスタムや改修が施されており、ユーノのRVF-25もその1つだ。

 

「エイカさん、ユーノさん、シズカちゃん!」

 

準備中のエイカ達にユウナとハイデマリー」がやってくる。

今のユウナは桜色にスパッツ状の衣装をハイデマリーは黒縁の白いマントと濃紺の軍服調の衣装を着ている。

 

「結城さん、ハイデマリー准尉、何ですかその衣装?」

 

「これ?私たちのイメージ衣装だよ!」

 

シズカの問いにユウナが答え、衣装を見せるようにその場で一回転。

それにエイカとユーノが微笑み返し、シズカは肩を竦める。

 

「私、絶対にトシキ君に歌を届けるからね!」

 

「うん。絶対にトシキを助けよう、僕たちで!」

 

「そうね!」

 

『うん(はい)!』

 

皆トシキを助けると団結し、艦体は対決の地、バロータ3198第4惑星へのフォールドを開始する。




ED:Mirror/安田 レイ

次回辺りは少し凝りたいと思うので、少し遅れるかもしれません。


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STAGE36 オペレーション・スターダスト

OP:First Pain/石川 智晶


バロータ3198XE第4惑星。

かつて第37次超長距離移民船団、通称マクロス7船団がエネルギー生命体“プロトデビルン”の勢力バロータ軍と最終決戦を繰り広げた氷の惑星だ。

 

銀の異形となったトシキがデフォールドし闊歩しているその地にマクロス・クォーター級戦艦“スノー・ホワイト”を中心としたブリタニアの大艦隊が接近していた。

 

《オペレーション・スターダスト、作戦開始30分前。各員は指定された配置にて待機》

 

艦内放送が響き、乗組員は全員持ち場へ。

その中に1人の少年と3人の少女がいる。

少年の名は黒江ナオト。この作戦に親友であるトシキを助け出すチャンスを見出しているのはユーノ達と同じだ。

そしてそれに同行する3人。1人は肩に届く長さの毛先が赤い黒髪の少女ルビー・ローズ。1人は少しボサボサの長い金髪で頭頂部にアホ毛のように飛び出ている逆毛の少女ヤン・シャオロン。もう1人は少し右寄りの白髪ポニーテールを氷柱を模ったティアラで留めた少女ワイス・シュニー。

 

ナオト、ルビー、ヤンは各々のパーソナルカラーを基調としたパイロットスーツを着ているが、ワイスは胴体部分に縦2列で4つ付いた黒いボダンで黒いエッジの入った太腿の中程の丈の純白のドレスを着ている。スカートの内側には黒いフリルが付いており、白いハイヒールブーツとそのブーツよりやや上までの丈のフリル付きの黒いストッキングを履いている。

 

「ワイス、分かってると思うけどお前は作戦の要なんだ。無理はするなよ?」

 

「ご心配なくナオト。(わたくし)の歌で必ずや勝利を差し上げますわ」

 

「ワイスって私にはキツイのにナオト君には優しいよね~・・・」

 

「なっ!どういう意味ですのルビー!」

 

ルビーの言葉にワイスが顔を朱くしながら声を荒げ否定。

それをナオトは微笑ましく見ているが、後ろにいるヤンが真剣な表情でナオトを見る。

 

「ナオト、これはあたしたちにとってはブレイクの弔い合戦でもあるの。もし上手くいかなかった場合は・・・」

 

「大丈夫さヤン。・・・その時は覚悟決めるから」

 

そう、惑星ニュー・エイジアにてトシキにブレイクをやられたルビー、ヤン、ワイスからすれば今回の作戦はブレイクの無念を晴らす好機でもある。

もしワイスの歌で銀の異形と化したトシキを止められなければ最悪仕留めても構わないという判断である。

 

そして4人は格納庫へ。

ナオトのSV-51λは主翼中間の可動ヒンジ上に設置された2基のQF-5100Dを基に独自開発されたFF-203Cブースターエンジンを装備。大気圏外ではエアインテークをカバーで覆い先端にミサイルポッドを装備。ノズルは可動ノズルを使用し高い機動性を与える。

更に主翼ハードポイントにマイクロミサイルランチャー4基を搭載している。

 

そしてルビーのVF-25FとヤンのVF-25Sにはスーパーパックが装備され、更にあの箒で模った星のエンブレムの部隊も全員集まっている。

 

《戦闘要員は順次出撃せよ》

 

「・・・ルビー、ヤン、ウィッチーズの皆、行くぞ!」

 

『うん(はい/おう)!!』

 

ナオトの声に少女達全員が返答し各々の機体へ搭乗。

誘導員の誘導に従いカタパルトへ。

 

先に白いVF-11B、宮藤ヨシカが発艦しその後に順にリネット・ビショップ、ペリーヌ・クロステルマン、坂本ミオ、シャーロット・E・イェーガー&フランチェスカ・ルッキーニ、エイラ・イルマルタ・ユーティライネン、サーニャ・V・リトヴャク、ゲルトルート・バルクホルン、エーリカ・ハルトマン、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケが発進していく。

 

《ミーナ機、発艦!》

 

《アイネアス1、カタパルトセット》

 

ナオトのSV-51λがカタパルトへ移動し終え、計器に異常はない。

そしてルビーのVF-25FとヤンのVF-25Sも甲板上へ。その横にはステージのような物がせり上がってくる。

 

《フォールド・サウンド・ステージ、スタンバイ!》

 

そしてそのステージ上には先程の服装ではなく、太腿の中程の丈のペールブルーのドレスとボレロを着ているワイスがマイクを手に立っている。

ナオトはワイスを見て右親指を盾サムズアップ。それにワイスは優雅に手を振って答えた後ナオトのSV-51λが発進。それに続くようにルビーのVF-25FとヤンのVF-25Sも発進する。

 

《アイネアス1、レッド、イエローの発艦を確認!》

 

そして発艦した全機が大気圏突入を開始し、銀の異形であるトシキも降下してくるブリタニア軍に気づいた。

 

《総員へ告ぐ。オペレーション・スターダスト発動!繰り返す、オペレーション・スターダスト発動!》

 

指揮官から作戦の開始が告げられ、全軍がトシキに対し総攻撃を開始する。

トシキは攻撃を鬱陶しがっている様子で、両腕の機関砲を片っ端から発砲しブリタニア軍機を撃墜していく。

 

「アイネアス1よりスノー・ホワイト、ワイスの準備を!」

 

《こちらスノー・ホワイト、了解。全軍へ、これよりフォールド・サウンド・ステージを起動します!》

 

スノー・ホワイトからの連絡が入り、ステージ上のワイスが気を引き締める。

 

“Mirror,tell me something"

 

遂にステージが起動しワイスが歌いだす。

それはワイス自身の孤独な生き方を詠うような静かなメロディ。

 

“Tell me who's the loneliest of all?"

 

ワイスが歌い出すと、トシキの動きがニュー・エイジアの時と同じように少しずつだが鈍り始める。

 

《歌が効いてる!》

 

《今の内だ、全機攻撃再開!出来るだけ弱らせろ!》

 

好機とばかりにブリタニア軍機がトシキを袋叩きと言わんばかりに攻撃を仕掛ける。

それに呼応するかのようにワイスの歌もテンポとボリュームが上がる。

 

“Mirror,tell me something"

 

"Tell me who's the loneliest of all?"

 

「オォォォォォォ・・・」

 

トシキは一方的に攻撃を受け続け少しずつだが弱り始めている。

機関砲による攻撃も片っ端からでなく徐々に覚束なくなり始めていた。

 

「いいぞ、いい調子だ!」

 

「このペースならイケるわね!」

 

ナオトもヤンも行けると読みペースを上げる。

 

“Fear of what's inside of me;"

 

“Tell me can a heart be turned to storn?"

 

ワイスの歌も大詰め、畳みかけようとした時だった。

 

ドオォォォォッ!!!

 

「きゃあっ!!」

 

「ワイス!?」

 

突然スノー・ホワイトが被弾し歌と曲が止まってしまった。

それに伴い覚束なかったトシキが回復し首を振った後に再び機関砲による攻撃を再開。

 

「ちょっと、何があったのスノー・ホワイト!?」

 

ヤンが無線でスノー・ホワイトに怒鳴りかける。

 

《衛星軌道上にデフォールド反応多数、新統合軍です!!》

 

「こんな大事な時に!」

 

新統合軍の乱入にナオトは悪態をつく。

これにより作戦に大きな綻びが生じてしまった。

 

「アイネアス1より各機、スノー・ホワイトを死守。ワイスの邪魔をさせるなよ!」

 

「うん!」

 

「分かってるって!」

 

ナオトの指示にいち早くルビーとヤンが行動。

衛星軌道にでスーパーパックを再装備し新統合軍の迎撃に向かう。

 

 

 

***

 

 

 

バロータ3198XE第4惑星にデフォールドしたセフィーラ新統合軍は既に戦闘準備を整えていた。

 

「准将、全機発艦可能です」

 

ウラガ級空母の艦橋にて副官の言葉に、アンドレアス・マルコフ准将が無線機を取る。

 

「全軍へ。この作戦の鍵となる銀の怪物は戦局を決定する力になり得る。何としても敵より先に我が軍の制御下に置くのだ。全機発進せよ!」

 

アンドレアスの言葉に、待機していた可変戦闘機が発艦を開始。中にはAIF-7S(ゴースト)も混じっている。

随伴する艦も戦闘態勢を整えブリタニア軍との真っ向勝負の構えだ。

 

早速ブリタニア軍のVF-171の20機以上の大編隊がセフィーラ軍に向かうが、その4分の1はセフィーラ軍のAIF-7Sに撃墜される。

しかしそのAIF-7SをルビーのVF-25FとヤンのVF-25Sが撃墜。

 

「ゴースト、3機撃墜!」

 

「無人機なんて、私らも嘗められたものね!」

 

ルビーとヤンが先陣を切りセフィーラ軍の編隊へ突っ込む。

それにより編隊を乱されセフィーラ軍はトシキへの接近ができない。

 

「敵戦闘機により、バルキリー部隊が降下できません!」

 

「全艦対空戦闘準備。艦体を降下させる」

 

アンドレアスが出した指示は、戦闘機隊が交戦している間に艦体を降下させ、その火力でトシキを無力化する物であった。

だがブリタニア軍もそれを見逃す訳がない。

 

《新統合軍が大気圏に突入。艦船の火力で怪物を無力化する気です!》

 

「俊樹を渡す訳に行くか!こっちも艦体を降ろしてくれ!」

 

再びナオトの指示が飛びブリタニア軍もスノー・ホワイトを中心に艦隊の降下を開始。

 

「ワイス、大丈夫か!?」

 

「この程度、問題ありませんわ!」

 

無線からワイスの声が聞こえナオトは一先ず安堵する。

だがスノー・ホワイトが被弾した影響で歌が止まり、トシキは再び攻撃的になってしまった。

この先は新統合軍を押さえつつトシキも止めなければならない。

 

それに更に追い打ちがかかる。

 

《衛星軌道上に更にデフォールド反応!!これは、新統合軍とS.M.Sの混合艦隊です!!》

 

戦局は混迷を極めていた。

 

 

 

***

 

 

 

惑星の衛星軌道上にデフォールドした空母リチャードとクォーター級フォル・ブランニル混合艦体。

リチャードとフォル・ブランニルの甲板上ではトシキを助けるべくエイカ達がスタンバイしていた。

 

《これよりバロータ3198XE第4惑星に降下し銀の怪物と歌によるコミュニケーションを行う。作戦名(ミッションコード)・惑星を懸ける歌声!!》

 

マリクからの通達が入り全員が気を引き締める。

 

《宮本ジン、VF-19S/A、参る!》

 

先陣を切ったのはジンの青い機体。VF-19Sを更に改修した「VF-19S/A アドバンスド・ブレイザー」。

2050年代後半から現代の技術による改修が施され、更にVF-25のスーパーパックから流用した大型ブースターを両翼に装備している。

更に機首に新たに描かれた隼の眼(ファルコン・アイ)が存在感を際立たせている。

 

《エイカ・M(ミヤモト)・ルマール、行くわよ!》

 

ジンに続くはエイカの黄色いVF-19S。

エイカの機体も改修が施され以前より性能が向上している。

 

《セイレーン3、4、カタパルトスタンバイ!》

 

ジンとエイカの発進後に、ユーノのRVF-25とシズカのVF-19F/Xがカタパルトに移動。

更にスノー・ホワイトと同じようなステージにいるユウナとハイデマリーがユーノとシズカの位置からは見える。

2人はそれぞれユウナとハイデマリーに敬礼。それに2人は手を振って答える。

 

「ユーノ・スクライア、行きます!」

 

「服部シズカ、発進します!」

 

ユーノとシズカが同時に発艦し先に発った編隊と合流。

トシキを今度こそ救うべく大気圏へ突入していく。




劇中曲:Mirror Mirror/ワイス・シュニー starring Casey Lee Williams

ED:Mirror/安田 レイ


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STAGE37 惑星 を 懸ける 歌声 ACT1

OP:Frist Pain/石川 智晶


バローダ3198XE第4惑星へ突入したユーノ達。

そこでは既に銀の怪物であるトシキとブリタニア軍、更にセフィーラ新統合軍も交え三つ巴の戦いになっていた。

 

《全機へ、フォールド・サウンド・ステージの準備ができた。フォル・ブランニルへの敵機おより敵艦の接近を許すな!》

 

『了解!』

 

マリクからセフィーラ・S.M.S混合軍全機に通信が放たれる。

ジン達からすればここからが勝負だ。

 

《結城ユウナ、ハイデマリー・W・シュナウファー両名、スタンバイ!》

 

フォル・ブランニル上のステージには、衣装に身を包んだユウナとハイデマリーがマイクを持ち準備している。

そして曲のイントロが流れ出し、2人のステージが始まる。

 

“静けき森の中 いま目覚めた花たちよ”

 

“この世に何を思い 何を感じてる”

 

ユウナとハイデマリーによるデュエット。

そして歌うはトシキもよく聞いていた曲。

唯トシキに届けと想うだけだ。

 

“ああ 真実ほど人を魅了するものはないけど”

 

その想いが通じたが、トシキが衛星軌道上のフォル・ブランニルを見た途端に再び様子がおかしくなり始める。

 

“ああ 真実ほど人に残酷なものもないのだろう”

 

だが、ジン達はブリタニアや新統合軍とは違い、トシキを攻撃しようとはしない。

目的は捕獲ではなく、歌によるコミュニケーションなのだがら。

 

“咲き誇れ 想いのままに”

 

“この瞬間 全てを賭けて”

 

だがそれを良しとしない者もいる。ブリタニア軍だ。

 

「またお前たちか!いつもいつも!」

 

「邪魔はさせない!今度こそトシキを助ける!!」

 

ナオトのSV-51λとユーノのRVF-25が交戦に入る。

 

“無限の星すらも霞むように”

 

“勇気 心に溢れ”

 

“いかなる時も 生きて”

 

ユーノに続き他の機体も交戦を開始。

 

《全機交戦開始!トシキとフォル・ブランニルには弾1発も当てるな!》

 

《了解!貴方とまた飛べるなんてね》

 

ジンはブランクこそあれど、エイカとの息の合った連携は健在なようだ。

 

《ウィッチーズは降下中の新統合軍を攻撃!レッド、イエローはアイネアス1の援護を!》

 

『了解!!』

 

管制官からの指示でルビーとヤンがウィッチーズと入れ替わりナオトの援護へ。

ナオトを追い回すユーノのRVF-25の背後に回る。

 

『ナオト(君)の邪魔はさせないよ!』

 

「ニュー・エイジアにいた・・・!」

 

流石に2機に追われてはたまらない。ユーノはナオトの追撃を諦め回避行動を取るが当然ながらルビーとヤンはそれに追従。

 

“花びらひとひらに 情熱宿し始めた”

 

“瞬くその瞳 何を映してる”

 

《セイレーン3!》

 

そこへ上空からガンポッド射撃が放たれ、ルビーとヤンはこれを回避。

回避した2機をジンのVF-19S/AとエイカのVF-19Sが個別に追う。

 

「エイカさん!ジンさん!」

 

《トシキは世話の焼ける友人を持って幸せだな》

 

《そんな言い方ないでしょ、ジン?》

 

ジンとエイカがルビーとヤンを追撃。状況は2対2だ。

 

“ああ 土に埋めた小さな種 密やかに割れて”

 

“ああ 芽を出したらやがて空と向かい合っていくのだろう”

 

《こんな時に、もう!》

 

《ごめんナオト!》

 

離脱を余儀なくされルビーとヤンはナオトに謝罪。

だがナオトのSV-51λが見当たらず、辺りを探していると上方からガンポッド斉射が降り注ぐ。

 

「上!?」

 

ユーノはすかさず回避するが、上空から急降下してきたナオトのSV-51λに背後を許す事になった。

 

「今度こそ!」

 

「く・・・!」

 

ユーノのRVF-25にしっかり追従してくるナオト。

 

“輝けよ 眩い程に”

 

“一瞬に 思いを込めて”

 

だがここで2人にとっても予想外な事が起こる。

 

「なっ!?」

 

「くっ!」

 

ユーノは機体に装備されている両翼のエンジンポッドを上へ向け急上昇。ナオトは機体を捻らせる。

すると先程まで2人のいた場所に重量子ビームが放たれる。

見ればトシキが左腕の突起物を構えていた。どうやらニュー・エイジアの時と同じように苦しんでいるようだ。

 

「トシキ!!」

 

“その願いが世界を導く”

 

“カラダに力満ちて”

 

ユーノが追撃を止めトシキへ接近。機体をガウォークへ変形させキャノピーを開けヘルメットを脱ぐ。

 

「トシキ、もう苦しまなくていいんだ!僕たちがいるよ!」

 

「オォォォォォォ!!!」

 

トシキは雄叫びを上げるだけだが、心なしか悲しんでいるように聞こえた。

 

“ヒカリまとって走れ”

 

「トシキ!」

 

「離れろよ!!」

 

ユーノが呼びかけていた時にナオトが戻ってきてガンポッドを斉射。

 

「くっ!こんな時に!」

 

直ぐにキャノピーを閉め一旦トシキから離れる。

ナオトのSV-51λが飛来し2人は再びドッグファイトへ移行。

 

「絶対に負けない!トシキを兵器になんてさせるもんか!!」

 

「今度こそ墜としてやる!!」

 

2機がすれ違いそれがドッグファイト開始の合図となった。

2人の意識が研ぎ澄まされていく。互いにバレルロールや宙返りといったマニューバでの後方の取り合いだ。

トシキと、セイレーンの仲間と共に戦ってきたユーノは今ではパイロットとして十分に成長している。だがそれはナオトも同じ。ウィッチーズやルビー達と数々の修羅場を抜けてきた。

 

だが、ユーノのトシキを皆でトシキを助けるという強い思いが何かを覚醒させた。

ユーノの腹部が一瞬僅かに光り、ユーノの瞳からハイライトが消える。

 

「この感覚・・・見える、相手の動きが・・・!」

 

SV-51λがRVF-25の上方を取りガンポッドを斉射するが、ユーノはロールし、更に機体を揺さぶってそれを回避。

 

「かわした!?」

 

その機動にナオトは驚くが、すぐに思考のギアを切り替え背後に回りガンポッドを斉射するが、そこでRVf-25がバトロイドに変形しバック転の要領で回転し回避、そのまま後方に回る。

 

「クソ、こいつ!!」

 

思わず悪態をつき背後に回ったRVF-25を見やる。

 

“咲き誇れ 思いのままに”

 

“この瞬間 全てを賭けて”

 

「速い!」

 

2人の高速ドッグファイトを見ていたシズカが思わず言葉を漏らす。

 

“無限の星すらも霞むように”

 

“勇気 心に溢れ”

 

ナオトとユーノは依然高速でのドッグファイトが続き、ここでユーノがガンポッドを発射。SV-51λの右主翼上部のエンジンポッドを射抜いた。

 

「ぐっ!?クソったれ!!」

 

ナオトは損傷した右エンジンポッドをパージしドッグファイト継続。

 

“輝けよ 眩いほどに”

 

“一瞬に 思いを込めて”

 

「しつこいな!・・・なら!!」

 

ナオトは操縦桿を思い切り手前に引き、機首を持ち上げると共に急上昇。

それと同じくユーノも機首を上げ上昇。同じ位置でガウォークへ変形。

 

『うおぉぉぉぉぉっ!!』

 

“その願いが世界を導く”

 

“カラダに力満ちて”

 

2人がほぼ同時にガンポッドを発射。

ナオトの弾丸がRVF-25機体上部のレドームを、ユーノの弾丸は残っている左主翼上部のエンジンポッドをそれぞれ撃ち抜いた。

そして損傷した左エンジンポッドはそのまま爆発。SV-51λのバランスを大きく崩した。

 

「くっ!!うあぁぁぁっ!!」

 

〝ヒカリまとって 走れ”

 

ユーノが雄叫びを上げ一心不乱にガンポッドを斉射。

放たれた弾丸は左脚部エンジンからコクピット至近距離にかけて射抜く。

 

「ぐあぁっ!!」

 

キャノピーが破れ強い衝撃と破片がナオトに襲い掛かりそのまま気を失う。

左エンジンと制御するパイロットを失ったSV-51λは体勢を崩し落下していく。




劇中曲:ホシトハナ/結城ユウナ(ICV:照井 春佳)、ハイデマリー・W・シュナウファー(ICV:植田 佳奈)

ED:Mirror/安田 レイ


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STAGE38 惑星 を 懸ける 歌声 ACT2

OP:First Pain/石川 智晶


彼女達の前で信じられない事が起きた。

 

「そんな・・・ナオト君!!」

 

「嘘でしょ、ナオト!!」

 

ルビーとヤンが、墜ちていくSV-51λに向け叫ぶ。

そしてその光景はマクロス・クォーター級戦艦スノー・ホワイトにも届いていた。

 

「あ・・・そんな・・・」

 

ワイスが蚊のような細い声を絞り出しその場に膝をつく。

 

SV-51λが撃墜された。それは即ち、ナオトが負けた事を意味していたのだ。

慕っていた少年がやられた事にルビーとワイスが失意の底に落ちそうになるが、そんな中でヤンはただ操縦桿を血が滲み出る程に力いっぱい握りしめていた。

 

「・・・あいつらぁぁぁぁっ!!!」

 

「お姉ちゃん!?」

 

雄叫びを上げ、ヤンがユーノに向け突進していく。

 

 

 

***

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・!」

 

ユーノは極限の機動を行った為に既に疲労し切っていた。

だがその対価にナオトを撃墜する事ができた。

だが安息の時間はない。

 

「よくもナオトをぉぉぉっ!!」

 

「!!」

 

ヤンのVF-25Sが突撃してきてユーノは咄嗟に機体をファイターに変形させ回避。

すぐさま回避行動を取るが疲労し切っているユーノにはヤンは手強すぎた。

 

「く・・・身体が思うように動かない・・・!」

 

疲労し切っているユーノの肉体は本人の命令を受け付けない。

操縦桿を握る手足が固まったかのように重く、機体を思うように動かせない。

 

「覚悟しろぉ!!」

 

「っ!!」

 

遂にユーノは顔を背け目を瞑り、自らの撃墜を覚悟した。

だが、VF-25Sの上空からガンポッドの弾が降り注ぎヤンは回避を余儀なくされた。

 

ユーノが後ろを見れば、シズカのVF-19F/XがヤンのVF-25Sの背後を取っている。

 

「服部さん?」

 

「スクライアさんは戻って機体の応急修理を。あいつは私が引き受けます!」

 

そのままシズカはヤンとのドッグファイトへ移行。ユーノはシズカに言われた通りにフォル・ブランニルへ一時帰投する。

 

〝終わらない無限のヒカリ”

 

ユウナとハイデマリー、2人のデュエットの2曲目のイントロが流れ出す。

銀の怪物であるトシキはもはや動く体力も残っていないのかただその場で佇むだけのような状態となっている。

 

〝空回るリング すれ違う運命(さだめ)

 

〝残されてた 楽園の幻”

 

元から強化改修が施されたVF-19F/XはVF-25Sに食らいついていく。

 

「離れろ、この!」

 

「スクライアさんもやったんだ、逃がさない・・・!!」

 

〝悲しみのメロディ 鳴りやむ時”

 

〝そこに咲いてた小さなBaby's Tears"

 

「く・・・うぁぁぁ・・・!」

 

ヤンは機体を揺さぶってシズカを振り切ろうとするが、身体にかかるGで意識を持っていかれそうな中シズカは意地で食い下がる。

 

〝空と海が繋がる地球(ほし)

 

〝繋いだ手を振り切った”

 

「くそ、このっ!!」

 

ここでヤンがコブラ機動から脚部を展開しバック転しながらシズカの後方へ。

シズカはVF-25Sからのガンポッド攻撃を回避していく。

 

〝明日の輝きを取り戻す為に”

 

〝願いをのせて解き放つ”

 

「く・・・!」

 

シズカはヤンのガンポッド攻撃を回避しつつ、機体上部の対空レーザー砲でヤンを攻撃するがそれらはことごとく回避されている。

 

〝終わりを知らない美しき羽根に”

 

〝降り注ぐ無限のヒカリ”

 

「オォォォォォォ・・・」

 

そこでトシキが力尽きるような弱弱しい遠吠えを上げ両腕が静かに降りる。

 

「!宮本さん!?」

 

そこでシズカがトシキを見るがヤンに追い回されている為に様子を窺えない。

 

「このっ!!」

 

シズカは機体の脚部だけを出しコブラ機動へ。

凄まじいGが襲い掛かるが、歯を食いしばって耐えヤンの後方へ回る。

 

「うっそ!?」

 

後方へ回った瞬間にVF-19F/Xがガンポッドを斉射。

回避しきれず右エンジンに被弾する。

 

「あ~もうっ!!」

 

やむを得ずヤンは機体から脱出。VF-25Sはしばし黒煙を吹いた後に爆散した。

それを見たシズカはすぐに機体を翻しトシキの下へ。

 

 

 

***

 

 

 

「トシキ君!」

 

「トシキさん!」

 

その光景はフォル・ブランニルのユウナとハイデマリからも見えている。

歌でコミュニケーションを取るはずが、逆にダメージを与えてしまっていたのか。

 

「ユウナさん!?」

 

曲の途中であるにも関わらずここでユウナがステージから降り格納庫へ。

残っていた自分のVF-19EFに乗り込み発進してしまった。

それと同時に応急修理を終えたユーノのRVF-25がカタパルトへ。

 

「ユーノさん!ユウナさんがステージを降りて行ってしまいました!」

 

「え!?」

 

ハイデマリーからの連絡に驚き、急遽ハイデマリーを乗せ彼女を連れ戻そうと機体を発進させる。

 

ユウナの機体は既に大気圏突入を開始しておりブリタニア軍の何機かが迎撃に向かっている。

ユウナは機体を揺さぶって回避しようとするが意外としつこく離れない。

 

だがそこで後方からミサイルが迫りユウナを追撃していた3機が撃墜される。

見ればそこからユーノのRVF-25が来ていた。

 

「ユーノさん!」

 

「結城さん、何で飛び出したりなんかしたの!?」

 

「ごめんなさい・・・でも、どうしても!」

 

「後方、敵!」

 

ユウナが言い訳している途中で再びブリタニア軍のVF-171が3機接近。

2機はバラバラになって回避しようとした瞬間、何処からか機関砲弾が飛来しVF-171を撃墜した。

 

「え・・・?」

 

「誰が・・・」

 

ユーノ達が弾の飛んできた方を見ると、そこにはトシキが。

 

「トシキ君・・・」

 

ユウナは機体をトシキの方へ向け接近した所でガウォークへ変形させる。

それをトシキは攻撃するどころか、まるで分かっているかのように右手をゆっくりと差し出す。

 

「トシキ君、もしかして私が分かるの?」

 

「オォォォォォォ・・・」

 

ユウナの言葉にトシキは呻き声のような声を出すだけだが、攻撃の意志はないようだ。

それを見たシズカ、ユーノとハイデマリーもトシキに近づく。それをトシキは両手ですくい上げるかのように両手を差し出す。

 

「トシキ、僕たちが分かるの!?」

 

「トシキさん!」

 

「宮本さん!」

 

「オォォォォォォ・・・」

 

皆の声にトシキは呻き声のような声ではあるが、確かに返答した。

 

「トシキ君・・・!」

 

〝飾る愛はもう意味を持たない・・・”

 

〝揺れる気持ち閉じ込めて今日も笑うの”

 

トシキに自分達の言葉が通じた事を嬉しく思い、ユウナは歌を途中から再び歌い出す。

それに釣られるかのようにハイデマリーも共に歌う。

 

〝懐かしかった”

 

〝アナタの香りがした”

 

〝息をひそめ静かに散る花ビラ・・・”

 

《全機へ緊急連絡!ブリタニア軍のクォーター級がマクロス・キャノンの発射体勢を取っている!標的は間違いなくトシキだ!直ちに退避しろ!!》

 

ここでジンから怒号が飛ぶ。

上空を見れば降下したスノー・ホワイトが強襲形態へと変形しており主砲をトシキへ向け発射体勢を取っていた。

どうやらオペレーション・スターダストの継続は困難と判断し殲滅の選択肢を取ったようだ。

 

〝愛に咲く花は気高く強く”

 

〝誰のために戦うの?”

 

「マズイ!皆急いで逃げよう!!」

 

「でも、宮本さんが!」

 

「オォォォォォォ・・・」

 

ユーノが離脱を促す中、その様子を見たトシキが声を上げる。

そしてユーノ達を庇うかのように自分の身体に寄せる。

 

「トシキ・・・?」

 

〝終わりを知らない美しき羽根は”

 

〝限りない青い空へ”

 

ユーノ達を寄せた後、トシキの周囲に光が収束し始める。

それはニュー・エイジアの時と同じ物。

 

「これは、フォールド!皆!!」

 

ユーノが声を上げ、全員が各々の機体に乗りキャノピーを閉じる。

 

〝lalala・・・どこまでも!”

 

〝lalala・・・いつまでも!”

 

そしてスノー・ホワイトがマクロス・キャノンを発射しトシキはフォールドを開始。

周囲の光が一気に強まり、それが収まった時にはトシキはおろか近くにいたユーノ達は機体ごと消えていた。

 

発射されたマクロス・キャノンは虚しく空を切り、その背後にあった雪山に直撃し大爆発を起こしただけだった。




劇中曲:Baby's Tears/結城ユウナ(ICV:照井 春佳) ハイデマリー・W・シュナウファー(ICV:植田 佳奈)

今回は暑さですっかりダウンしてしまい、遅くなってしまいました・・・


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STAGE39 再会 の 地

OP:First Pain/石川 智晶


心地よい小波の音が耳をくすぐる。

 

「ん・・・」

 

その音色で少年、ユーノは目を覚まし身体を起こす。

その傍らには、気を失っているユウナの姿が。

 

「結城さん、結城さん!」

 

「・・・ん・・・」

 

ユーノに揺さぶられユウナが目を覚ます。

身体を起こし周囲を見渡す。辺りは渚が迫る浜辺だ。

 

「ここは・・・?」

 

「分からない・・・。トシキのフォールドでどこか別の惑星に飛ばされたみたいだけど・・・」

 

ユーノも周囲を見渡すと、遠目に何かが見えた。

それは人型の上半身のような物で都市の中央に鎮座している。それが何かは何となくだが分かった。

 

「・・・マクロス」

 

「え?」

 

「ほら、あれ・・・」

 

ユーノに促されユウナもその方向を見る。

 

「ホントだ。じゃあここって・・・」

 

「グルルルル・・・」

 

突然背後から唸り声が聞こえた。

2人が振り返るとそこには空腹の狼が3匹、2人を見ていた。

 

「うそ!?」

 

「走って!」

 

2人は逃れるべく走り出すと、当然狼もそれを追う。

だが2人がいるのは海岸の波打ち際の浜辺。逃げ場など無い。

やがて2人は浜辺の奥にある岩場に追い込まれた。

 

飢えた3匹の狼は涎を垂らしながらゆっくりと迫る。

そして狼が飛び掛かり2人は目を瞑った。

 

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

重い発砲音が鳴り響き、3匹の狼が撃たれ吹き飛ぶ。

何が起きたのか一瞬分からなかったが、2人が銃撃が飛んできた方を見る。

 

そこにいたのはフード付きの白いボロボロのマントを羽織り、襟に緑のラインが入った白いアンダーシャツと黒いカーゴパンツを着用し大型ライフルを持った青年。

特徴的なのは銀に見える白髪と金に見える黄色の瞳。2人にはすぐ分かった。

 

『トシキ(君)!!』

 

ユーノとユウナは歓喜の声を上げる。

自分達のリーダーとも言える青年が戻ってきたのだ。

 

だが今までと違う所もある。

両手と両足が怪物の時のような体表に変化しているままだ。

 

それでもトシキは2人を守るように背にしライフルを構える。

見れば他の野生動物もユーノ達を狙っているようだ。

 

「2人とも援護する、走れ!」

 

トシキの強い言葉を聞き、2人はトシキを背に走り出し、その2人を後目にトシキはライフルを撃ち野生動物を追い払いつつ後退。

3人は堤防を駆け上り上の荒れた道路へ。

 

「見て、建物がある!」

 

ユウナが建物を見つけそこへ駆け込む。

ユーノもそれを追って建物へ。トシキも背後の野生動物を片付け2人を追う。

 

建物のドア前に付き、トシキがドアを蹴破り中に敵や棲みついている動物がいないか確認。

確認を終え2人を先に中に入れ、その後に侵入がないようドアを閉め鍵もかける。

 

中は比較的広くそこまで暗くもない。更に多くのコンテナもあった。どうやら過去に廃棄された倉庫のようだ。

 

「一先ずは、これで安心だな」

 

「・・・トシキ君・・・」

 

何とか一息つける状態になり、突然ユウナが泣きそうな声を出し何事かと振り返った途端にユウナがトシキにもたれすすり泣き始める。

トシキは自分がどれ程心配かけたか分かっていたので、落ち着くまでそのまま泣かせ、かつ頭に手を添え撫でていた。

 

 

 

***

 

 

 

その後、何とか落ち着いたユウナと、ユーノ、トシキ3人で腹ごしらえをする事に。

幸いトシキが仕留めた動物の中には猪もいた為食材には困らなかった。ユーノが使えそうな燃料を持ってきてトシキが猪を捌き火を起こしてそれを焼いて食べるという構図だ。

 

食事の最中、ユーノはトシキにこれまで起こった事を全て話した。

 

「・・・そっか、ユーノ達は軍を抜けてアリスは残ったんだな」

 

「うん・・・。もう、トシキには甘えられないって」

 

「・・・甘やかしてたつもりなんてなかったんだけどな」

 

トシキも思う所があったのか声のトーンが落ちる。

それに気がかりなのはそれだけでない。

 

「それにユーノの言った事が本当なら、この戦争もアンドレアスさんが引き起こしたって線が太くなるな・・・」

 

「それもグレム中将と結託して、ね。トシキには信じられない話かもしれないけど・・・」

 

そう、今回のブリタニア軍の戦争は13年前にアンドレアスがでっち上げ行った内部粛清が発端になっている可能性が高い。

もし本当にそうならアンドレアスに付いていたとしても無事にセフィーラを奪還する気だったかも怪しくなる。

だがそれだけでは済まないのも事実だろう。

 

「それに、俺のこの身体の事も、聞きたい事だらけだ・・・」

 

そう言いトシキは自分の身体を見渡す。

今のトシキの肉体は一部が怪物の時のように変化したままである。人間に戻っているはずが何故中途半端な状態なのかそれが知りたかった。

だがそれよりも先に片付けるべき問題がある。

 

「・・・でも、まずはここより安全な建物を探そう」

 

「・・・そうだね、ここじゃ野生動物がいつまた襲ってくるかも分からないし。もうすぐ日も落ちそうだったし今夜は徹夜での警戒になりそうだね」

 

そう言いつつもユーノが外を見る。

トシキは残っている貯蔵品のコンテナから何か使えそうな物を探す。その際に埃を被っていた文字部分の埃を払うと、そこにはここが何処かを示すコンテナの納入先が書かれていた。トシキはそれを読み上げる

 

「A、laska、・・・アラスカ?」

 

そう、それはここが地球のアラスカである事を示していた。

つまり今トシキ達がいるこの惑星は、第1次星間大戦の戦場ともなった地球なのだ。

 

だがそれを今教えれば混乱を招くかもしれない。そう考えたトシキはその考えを一先ず頭の片隅に追いやりコンテナに残っていた毛布等を出す。

 

「ほら、使えそうなの持ってきたぜ」

 

「ありがとうトシキ、ごめんね、僕も戦えればトシキに負担かける事なかったのに・・・」

 

「気にすんなよ、俺こそ迷惑かけたんだし・・・」

 

トシキが言葉を続けようとしたところで、また別の動物の唸り声が聞こえだす。

 

「近くにいるぞ・・・」

 

そう言い、トシキは置いてある大型ライフルを再び手に取る。

 

「・・・さっきの道路のとこだな。俺が見てくる」

 

トシキはそう言って倉庫から出て確認に向かう。

 

「・・・本当、トシキは強いな・・・」

 

ユーノはその言葉の後に今までの疲労が出たのか大きな欠伸を一つ。

そのまま横になり眠りについた。




劇中曲:Wait soon ripe/罪と罰 地球の継承者

ED:Mirror/安田 レイ


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STAGE40 孤立

OP:First Pain/石川 智晶


あの後に戻ってきたトシキと共に、ユーノとユウナは移動を再開。

だが2人共体力の限界もあり、トシキが見張りを務め2人を先に寝かす事にした。

トシキは薪を拾ってきて火を起こし、2人が身体を冷やさないように見ている。それを穏やかな目で見ていた後にトシキも欠伸、そのまま木に寄りかかり眠りについた。

 

 

 

***

 

 

 

惑星エリュシオン。

マクロス・ブリタニア軍の本拠地でオペレーション・スターダストから帰還した部隊が整備を受けていた。

 

そしてその中には、診察台のベッドで眠っているナオトの姿もあった。

彼を慕っている少女達はガラス越しに涙を流している。

 

「どうして・・・ナオト君が、こんな・・・」

 

ガラス越しで見ていたルビーが言葉を漏らす。

その少女達の中で1人、ヤンだけが拳を握りしめ怒りを露わにしていた。

 

「あいつら・・・許さない・・・!」

 

 

 

***

 

 

 

トシキ達はユーノが見たマクロスを目指し未だ森林の中を歩いていた。

そして少し開けた所に出る。だがそこには何かがあった。

 

デルタ翼に両翼のエンジンポッドに壊れたレドームの機体と、白地に黒ラインと黄色のワンポイントが入った機体。

 

「僕のRVF-25(メサイア)に結城さんのVF-19EF(カリバーン)!こんなところに・・・」

 

それはフォールドの際に行方不明になっていた自分達のバルキリーだった。

これではぐれてしまったシズカとハイデマリーに連絡が取れるかもしれない。そう考えるに至ったユウナは真っ先に機体に向かう。

それを見たユーノとトシキは互いに肩を竦めその背を追う。

トシキが周辺警戒をする中、ユーノとユウナはシズカとハイデマリーへの通信を試みる。

 

「シズカちゃん、ハイデマリーさん!聞こえてたら返事して!」

 

ユウナが通信機に向け吠える中、トシキは穏やかだった。

 

実は怪物になっていた時、僅かに保たれていたトシキの自我は夢を見ていた。

それはトシキがこの世界に来る以前。心臓疾患を持っていて身体が弱かった頃に集めていたキャラクターフィギュアの数々。

トシキはそのフィギュア達をを大切に管理していた。綿棒で埃をこまめに拭き取ったり、簡単な布で拭いたり色落ちした所には新たに自分で色を作り塗り重ねていっていた。

 

そのような事を小さい頃からしていた為かフィギュアに対してはかなりの愛着があり、当時の母親がうっかり捨てそうになった時にはゴミ袋の中を漁ってまで探したくらいだ。

 

そして、あの出来事が起きた。トシキが急に起きた強い心臓発作で他界する時、そのフィギュア達が泣いていたような光景を見た。

そこに年老いた男の声が聞こえフィギュア達はトシキを助けて欲しいと願った。それを男は聞き入れ、更に誰かを共に連れていってくれるという。その誰かがトシキが持っていたフィギュア、「タチコマ」「ハイデマリー・W・シュナウファー」「服部静夏」「結城友奈」「アーンヴァルMk.2」「ユーノ・スクライア」だったのだ。

 

(一緒に来てくれてありがとな・・・)

 

トシキはまだ通信を試みている2人を見て、心の中で感謝していた。

 

《結城さん?結城さん!》

 

そこへユウナのVF-19EFに通信が入った。声からしてシズカだろう。

 

「その声、シズカちゃん!よかった繋がったよ・・・」

 

《それはこちらの台詞ですよ、ようやく繋がりました・・・》

 

声の様子からしてシズカも相当に連絡を取ろうと必死になっていたのだろう。

そんな中ユウナがトシキを手招きする。真意を理解したトシキは苦笑いを浮かべつつもユウナの下へ。

 

「シズカちゃん、大ニュースだよ!!」

 

《何ですか、ニュースって?》

 

シズカが真意を分かりかねるシズカは質問を飛ばす。そしてユウナが退きトシキが通信機の前に顔を出す。

だがトシキも心配をかけた身、どう声をかけようか迷ってしまうが、とりあえず普通に声掛けする事にした。

 

「あ~・・・心配かけたな服部」

 

《嘘・・・その声は、宮本さん!?》

 

トシキの声を聞き、通信機越しからでもシズカが驚いている事が分かる。

だが少し声をかけた後にすぐ通信が切れてしまった。

 

「あれ、切れちゃったよ!?」

 

突然の通信途絶にユウナがパニックになるが、切れ方から察するに恐らく向こうが意図的に切った可能性がある。

少しの間待っていると、飛行機のエンジン音が聞こえてくる。上空には1機のVF-19F、それも見覚えのあるカラーリングだ。

 

「シズカちゃんだ!おーい!!」

 

それに気づいたユウナがVF-19F/Xに向け手を振る。

するとVF-19F/Xがユウナを見つけたか、ガウォークへ変形し降りてくる。

 

やがてVF-19F/Xが着陸しキャノピーが開きシズカが降りてくる。

だが、シズカの表情は涙ぐんでいる。

 

「あ、あれ・・・?」

 

「服部・・・?」

 

その様子にユウナとトシキは戸惑っている。

そして、シズカがトシキに寄り胸に縋りついた。

 

「えっ・・・!?」

 

普段の彼女からは考えられない行動にトシキはおろかユウナと、通信を行っていたユーノも呆気に取られたが、

 

「よかった・・・無事で・・・」

 

嗚咽を上げトシキの胸で泣いていた。

それを見たトシキは落ち着き、ユウナの時と同じように泣き止むまでそのままにした。

 

 

 

***

 

 

 

「・・・すみませんでした・・・」

 

泣き終えたシズカは顔を真っ赤にしてトシキから顔を背けていた。

しかし依然までの棘のある態度は鳴りを潜めたようである。

 

これでシズカも合流したが、最後に1人、ハイデマリーがいない。

 

「シズカちゃん、ハイデマリーさんは一緒じゃないの?」

 

それに気づいたユウナがシズカに問うが、シズカは俯き首を横に振る。

 

「准尉は、一緒じゃありませんでした・・・」

 

つまりハイデマリーはまた別の場所にいるという事になる。

 

「なら急いでマリーを探さないと!」

 

ハイデマリーを探すべくトシキが真っ先に立ち上がり、それを見た3人は微笑や苦笑といった表情を浮かべトシキは顔を捻った。

 

「どうした?」

 

「・・・やっぱり、変わりませんね宮本さん」

 

「うん。変わらないね、トシキ君!」

 

「そうだね、何か安心したよ」

 

3人の言葉に尚更頭に?マークを浮かべるトシキ。

 

そして行動を起こすべく3人は各々の機体に乗り込みバトロイドに変形。

ユーノはバトロイドに変形させたRVF-25の首元にトシキを乗せシズカ、ユウナと共に移動を始める。




ED:Mirror/安田 レイ


ネタ切れな感じで、文がかなりいい加減ですね、申し訳ないです・・・


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STAGE41 暗青 の 騎士(ナイト・オブ・シアン)

OP:First Pain/石川 智晶


エリュシオンで体勢を立て直しているブリタニア軍。

その一角に建つ病院の前で、茶色の青年がリムジンの後部座席で誰かを待っている。その青年の名は枢木スザク。

 

そして、スザクの待つ人物が病院から出てきた。

その姿にスザクは笑みを浮かべる。

その人物がスザクの待つリムジンに乗り目的地へ向かう。

 

「怪我はもう良いのかい?」

 

目的地への道中、スザクが向かいに座る人物に問う。

 

「大丈夫。・・・心配かけて悪かった」

 

「その言葉は彼女たちにかけてあげたらどうだい?ずっと君の事を心配してたんだよ?」

 

スザクの言葉に向かいの人物、・・・シアン色のショートヘアが特徴的な少年ナオトが僅かに笑みを浮かべる。

だが、その顔はスザクから見て左を向いている為に顔の右側はどうなっているか分からない。

 

「・・・もう少しで、計画は果たされる。ナオト、君はもうここにいなくたっていいんだ。僕がルルーシュに・・・」

 

「何度も言ったろ。行き場のなかった俺を拾ってくれたんだ、最後まで付き合うよ」

 

スザクの勧告とも取れる言葉に、ナオトは拒否と最後まで共に行動するという意を示した。

 

「そうか・・・ありがとう」

 

その決意にスザクは静かに感謝を述べた。

 

 

 

***

 

 

 

リムジンが辿り着いた先はブリタニア軍の総司令部らしき宮殿。

そこではエース部隊であるウィッチーズの少女達ともう2人、ルビーとヤンが待っていた。

 

リムジンからスザクが降り、それに続きナオトも降りる。

 

『・・・!』

 

それを見た少女達の表情が驚愕に染まる。

 

「ナオト君・・・」

 

絞り出すようにルビーが声をかける。

それが向けられたナオトの顔には、・・・右眼に黒い眼帯が付けられていた。

 

「皆・・・心配かけてごめんな。それと、ただいま」

 

僅かでありながら、ナオトは待ってくれていた少女達に微笑む。

それを少女達は目尻に溜まっている涙をぬぐい、

 

『おかえり(お帰りなさい)!』

 

微笑み返してナオトを迎えた。

 

 

 

***

 

 

その直後に、宮殿から銀河中の全てのネットワークへ放送が流される。

 

「私は新生マクロス・ブリタニア総統ルルーシュ・ランペルージである」

 

青年ルルーシュは、訴えるかのようにスピーチを続ける。

 

「あの日、我々マクロス・ブリタニアは統合政府に偽りの罪を着せられ粛清された。あの日の痛みと屈辱を忘れた事はない。この13年もの間、我等は耐え力を蓄えた。そして遂に我等は立ち上がった!」

 

「今、我が覇道を阻む物は無い。各銀河の新統合軍も既に我等と戦い続ける力は残されていない。それでも抗うというのであれば我等の力を思い知る事となるだけだ」

 

「今、この時刻を持ってマクロス・ブリタニアはこの惑星エリュシオンを母星とし、ブリタニア皇国と改名。そしてその初代皇帝はこの私、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとなる!」

 

その宣言に宮殿内にいる全民が歓声を上げる。

それ程マクロス・ブリタニアの住民は統合政府に対し憎悪を抱いているのだろう。

 

「銀河よ、我に従え!!」

 

ルルーシュが右腕を横薙ぎし高々と宣言。

 

『オール・ハイル・ルルーシュ!!』

 

『オール・ハイル・ブリタニア!!』

 

その言葉に続くかのように観衆がコールを上げる。

そのコールの片隅で、スザクが部下から連絡を受けていた。

 

《枢木少佐》

 

「どうした?」

 

《新統合軍の艦隊、接近中です》

 

 

 

***

 

 

 

先の作戦で大きく戦力が削られたブリタニア軍を打倒すべく、その宙域に彼らはいた。

 

「ふん。何が我に従えだ、反逆者どもめ」

 

ルルーシュのスピーチを聞き、その艦隊の旗艦であるウラガ級空母の艦長席に座る男、グレム中将がそう吐き捨てた。

 

彼らは今が好機と踏み、惑星エリュシオンへの強行突入を慣行しようとしている。

そこに管制官の1人が声を上げる。

 

「フォールド反応確認!何者かがデフォールドしてきます!」

 

「構うもんか。全軍迎撃態勢を取れ!」

 

グレムの指示に発艦した40機を超えるVF-171がそれぞれ5機ずつの編隊を組み迎撃態勢を取る。

そしてその中には彼女の姿もあった。

 

《初の大規模作戦だが無駄に気負う事はない。自分のすべき事をすればいい》

 

「・・・分かりました・・・」

 

編隊の先頭を飛行するVf-171EXのパイロット、リヴィ・コレット特務少尉の言葉に同じVF-171EXを操縦する少女、アリスが返答する。

 

グレムの艦隊の前方にフォールドゲートが現れ、そこから出現したのは10を超える可変戦闘機の編隊。

その編隊の多くを占めるのは箒で模した星のエンブレム、ウィッチーズだ。

そして彼女らを先導するかのように先を飛行する4機、ルビーのVF-25F、ヤンのVF-25S、02のvf-27γ。

 

編隊の最前を行くは左右外翼に1発ずつエンジンが載せられ、計4発のエンジンを持、前進翼の機体。

機首と主翼前部がシアン、残り部分が白のカラーリングが施されている。

 

《敵強行偵察艦体、捕捉!》

 

《やってやるわよ、鬱憤溜まってんだから!》

 

ヤンが憂さ晴らしを宣言し機体を加速させようとした時、ヤンの頭上を前進翼を持つシアンと白の機体が飛びこす。

 

《ナオト!?》

 

その機体に向けヤンが声を上げる。

そう、シアンと白の前進翼の機体・・・YF-29Bに乗るのは復帰したばかりのナオトであったのだ。

そのままナオトのYF-29Bは速度を落とす事なく新統合軍の艦隊へ突撃していく。

 

「1機が限界想定速度を超え急接近!」

 

「身の程知らずめ、撃ち墜とせ!」

 

グレムの号令でVF-171全機がナオトに向けミサイルを一斉発射。

ナオトは目を閉じ集中。再度目を開き確実に直撃するであろうミサイルだけをHPB-01A 重量子ビームガンポッドとES-25A 25mm高速機関砲で迎撃しその他は全て回避。

 

《敵機AAMM回避、来ます!》

 

《馬鹿な、あれだけの数を!》

 

新統合軍のパイロット達はナオトが凄まじい数のミサイルを回避した事に驚きを隠せない。

その隙にYF-29Bが更に急接近、ビームガンポッドでVF-1711機を撃墜。

 

《何っ、ぐあぁぁっ!!》

 

更に続き4機を撃墜し前線を突破し艦隊へ。

 

《抜かれた!》

 

《全機反転(リバース)!必ず墜とせ!!》

 

《了解!》

 

VF-171全機がガウォークへ変形し、後退しつつGU-14B ガンポッドで攻撃。

だがYF-29Bはバレルロールからガウォークへ変形し、右ローリングしつつバトロイドへ変形。

 

「へへっ・・・!」

 

ナオトは軽く上唇を舐め、巧みなペダルと操縦桿操作で攻撃を回避しつつビームガンポッドで周囲のVF-171を撃墜していく。

そのまま編隊を突破しステルスクルーザー艦1隻の上部を取り、ビームガンポッドを展開しバースト出力で艦橋を撃ち抜いた。

 

《すごい・・・!》

 

《あれだけの相手を一瞬で、すごいよナオト君!!》

 

後方で見ていたヤンを始めとする少女達がナオトに称賛の声を上げる。

 

《右眼を失い、感覚重視で飛ぶナオトの感覚が更に研ぎ澄まされたか・・・!》

 

中には冷静にナオトの動きから今どういう過程にあるかを分析する人物もいる。

 

その間にもナオトは攻撃の手を緩めず外翼エンジンポッド、肩、両脚のミサイルポッドからマイクロミサイルを発射。

艦体を護るVF-171ともう1隻のステルスクルーザー艦の艦橋を破壊。

そこへ編隊を飛び出し追撃の体勢を取る2機のVF-171EX。アリスとリヴィだ。

 

《私が追い込む。回って仕留めろ》

 

「はい・・・」

 

やはり何処か戸惑っているのかアリスの声に生気が無い。

それでも命令通りナオトの先を取り、そこでガウォークへ変形しガンポッドを叩きこもうとする。

 

が、そこでYF-29Bがバック転しながらアリスの後方へ。

 

「!?」

 

「隙あり!」

 

すかさずYF-29Bがシールドからアサルトナイフを取り出し、VF-171EXの右脚部を切断。

 

「きゃあぁ!!」

 

更にビームガンポッドを左手に持ち替えアリスのガンポッドを破壊した後に蹴り飛ばす。

 

「アリス軍曹・・・だが!」

 

そこへアリスに気を取られている今が好機と見たリヴィが急接近し、装備されているアーマードパックの30mm重機関砲を叩きこもうとするが、それを右捻り回転させ回避しそこへ右手持ちで展開されたガンポッドをリヴィへ向ける。

 

「・・・!!」

 

一瞬の事でリヴィは反応できず、YF-29BのビームがVF-171EXを貫き、VF-171EXは黒煙を噴いた後爆散した。

それを確認したナオトは再び艦隊へ急接近。

 

「えぇい、たかが可変戦闘機の1機ごときさっさと叩き落とせんのか!」

 

ウラガ級空母にいるグレムは、未だにYF-29Bを墜とせていない事に苛立ちを隠せない。

だがその間にもYF-29Bは新統合軍のVF-171を撃墜しながらグレムの乗る空母へ接近。

 

「対空迎撃!」

 

「間に合いません!!」

 

空母の対空砲撃をかわし、射程内に艦橋を捉えビームガンポッドを展開しバースト出力での発射体勢。

放たれたビームは迷う事なくグレムのいる艦橋へ。

 

「ふざけるな・・・こんな結末、俺は認めんぞおぉぉぉぉ!!!」

 

グレムの叫びが虚しく響き渡り、艦橋を一閃のビームが貫いた。

 

それに間髪を容れずにマイクロミサイルを空母へ叩きこむ。

空母は各所で爆発を起こしYF-29Bはその場から退避。その後に空母は中央から爆発し轟沈。

そこからはまさに蹂躙劇。指揮官を失った新統合軍は指揮系統が崩壊し機能しなくなりそこに付け込まれ一方的に撃破されていった。

 

 

 

***

 

 

 

戦闘が終わったその宙域には彼女、アリスを除き誰もいなかった。

 

たった1機のYF-29Bにより部隊は蹂躙され壊滅した。当然救助など来るはずもない。

ただ宇宙の暗闇だけが彼女の視界を埋め尽くす。

 

宇宙を漂う中、アリスはもう何も考える事ができない程に疲れ切っていた。

 

「マスター・・・」

 

アリスが絞り出すように声を出した。

彼女は主人に甘えられないと感じ自ら軍に残った、だが現実はあまりにも無慈悲であった。

主人であるトシキとすごした日々が酷く懐かしく感じられた。

 

(マスター。できるなら・・・もう1度会いたいです・・・)

 

静かに涙を流し始めるアリス。

だが、その思いはもう叶わない。このまま朽ちると思い瞳をゆっくりと閉じる。

 

そこへ飛行機のエンジン音が近づいてくる。

それは前に見た黒地に濃青色のラインの塗装を施したVF-27γ。それに誰が乗っているかはすぐに分かった。

やがてVF-27γがガウォークへ変形しその場で留まる。そしてキャノピーが開きパイロットが姿を見せる。

 

「ここにいたか、01」

 

それは水色ツインテールの少女。

アースガルズ要撃戦で遭遇した少女、02であった。

 

「あなたは・・・」

 

「これで分かっただろう。お前を分かる事ができるのは私たちしかいない」

 

今の彼女に02の言葉に反論する気力が残っているはずもなく、唯言葉を聞くだけ。

 

「さぁ、私と共に帰ろう」

 

02が手を差し伸べ、アリスは一瞬躊躇い・・・その手を取った。




ED:Mirror/安田 レイ

劇中曲1:All Hail Britannia!!!/コードギアス 反逆のルルーシュ
   2:The Mother Will Comes Again/ARMORED CORE VERDICT DAY


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