既に頂に座す者が、ダンジョンに向かうのは間違っているだろうか? (昼夜米主義)
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プロローグ、あるいは鮮血にまみれた前日譚
あとがきにもありますが、心の赴くまま書いてるのでプロットがありません。
書き直す可能性もあるので、そこはご注意を。
あと今回、自分で書いててちょっと引くグロ描写あるんで、お気を付けください。
とある村から少々離れた小屋で、一人の老人が机に向かって物書きをしていた。
眩しいと、愛おしいと、尊敬を抱く者たちの物語を記す。
それは、老人の趣味だった。
そして――その背後に忍び寄る影
「…ばあ!」
老人は、驚愕と共にその場を飛びのく。
もしも、もしもだ、背後に忍び寄った者が、自分の想像通りならば。
そうしなければ背後から刺されると思ったのだ。
そうして飛びのき、自らの背後に忍び寄った者の姿を見て、安堵のため息とともに言葉を絞り出した。
「――ッ! ああ…なんだ、ヘルメスか」
「ははっ! ヤンデレな君の奥さんかと思ったかな?」
「心臓に悪いからもうやめろ、送還されてしまったらどうするのだ」
「それはそれで面白そうだね。『大神、ヤンデレに見つかったと思い、心の臓が止まる』…っと! オラリオの神々は笑いすぎて何人か死ぬんじゃないかな?」
「ははは、こやつめぇ(憤怒)」
閑話休題
少々の時間経過後。
ありていに言ってボロ雑巾となった、ヘルメスと老人が呼んだ青年は、こほんと一息入れて、自らの疑問を問いかけた。
「それにしても、これまで貴方はいったいどこで何をしていたので?」
「は! そんなの決まっているだろう」
問われた老人は、輝かんばかりの笑顔と共に青年へと言った。
「とびっきりの“英雄”(おのこ)を、育てていたのさ!」
その言葉に、青年は歓喜の声と共に笑った。
自らを育ててくれた人が、逝ってしまった。
……それは唐突な話だった。
ここ最近、ゴブリンによる農作物の被害が多くなっていた。
流石に、これ以上被害が大きくなるとマズいとなり、ゴブリンの駆除を行うことになった。
そんなわけで彼は、ゴブリンを駆除するため、村の若者たちと共に戦いに出たそうだ。
件のゴブリンたちは問題なく駆除できたが、その帰り道の事。
彼は、不注意で崖から落ちてしまったらしい。
遺体は、崖の下に流れる川に流され見つかっていない。
「ギギィ!」
「ギギャ!」
「――ッ! ラァ!」
それを伝えてくれたのは、彼の親友であった村の長だった。
「あいつの最後の言葉だ」
「……」
「カッコ良く生きろ! だそうだ……」
「……はい」
彼は、顔を伏せていた。
強く握ったこぶしは小刻みに震え、床にはぽつり、ぽつりと、音をたてて水滴が落ちていた。
「すまない……これで失礼する」
そして、最後までその顔を見せず、村長は去っていった。
「フッ! ハッ!」
「ギャギィイイ!」
「ギギッ!?」
まあ、どうせウソ泣きなんだろうが。
というかそもそもだ。
崖から落ちて死んでしまったのに、遺言とかどういうこっちゃ。
崖に掴まった状態でそれを言ったのかもしれないが、あのジジイがその状態でくたばるハズもない。そんなこと言っている暇があるのなら、とっくに上がっているはずである。
それに、あの村長(クソジジイ)のウソ泣きに何度煮え湯を飲まされたか!
もう数えるのも億劫である。
うちの爺さんが姿を消した理由は、大方、爺さんの話によく出てくるヤンデレに見つかりそうとか、その辺だろう。
あとは……。
出不精の自分を、外に出すためか。
前者の理由が大半を占めていそうだが、まああの爺さんの事だ、俺の事も考えてくれていたのだろう。爺さんのおちゃらけた点は尊敬できないが、そういうところは尊敬している。
まあ、だからどうだって話なのだが。
……。
……まあ、なんだ。
ここまでしてくれたのである。
外に出るのも吝かではなかった。
そんなわけで、場面を現在にもって来よう。
「――シッ! っと」
「ギ――ギィイイイイイッ!」
「このナイフじゃちょっと短すぎだし、ちょっくら武器になってくれや」
背後からの跳躍と共に、薄汚れた緑をした小汚い小人……ゴブリンの首の皮をナイフでくるりと一周。
再びの跳躍、後ろ手でゴブリンの眼孔ごと頭をつかみ、着地と共に両足でそのゴブリン踵をつぶすように踏みつけ、そのまま頭蓋を引き抜いた。
ずるるるるるッ!
といった感じで、頭と共に背骨が引き抜かれる。
“持ち手”からの刀身? は、ちょうど片手剣ほど。
良い感じである。
ちょっとしなりがあるが、十分使えるレベルだ。
「よっと!」
「ギ」
「 ギ」
「 ャ」
「 ?」
びゅん! という風切り音と共に、同族の残虐な死にざまに呆然としていたゴブリン四匹の首を刎ね飛ばす。
切れ味も、使い心地も、クソみたいに悪いが、まあストックはいっぱいある。
敵の数だけ。
そんなわけで、不要になった武器…刃がボロボロで、今にも折れそうなナイフを捨てて構える。
「さて、もう赤字になり様もないし、気楽だね!」
つまり、ヤケクソである。
「……はぁやっと終わった」
目を覆うような残虐ファイトが終わる頃には、あたり一面は真っ赤に染まり、鉄さびのような臭いが立ち込めていた。
“原型”を留めいているだけでも、千や二千では足りないほどの死骸。
そのすべてがゴブリンだった。
「……ああ、武器どうしようか。ゴブリンなんて噂に聞く迷宮産でもない限り、お金にならないのに…武器全部だめにしちゃったし、なに? 素手プレイなの?」
現在の所持金635ヴァリス也。
これから自分が向かう都市での相場的に、安宿で一週間泊まれるか泊まれないか。
しかも、商売道具である武器は、持ってきた剣3本と、獲物を解体する用のナイフはもう使い物にならない。
そうして狩った獲物は、1ヴァリスにもならない生ゴミ。
如何ともし難い状況である。
正直、お金に興味もないし、執着もないけれど、お金で買えるものには興味も執着もあるのだ。
具体的にはおいしいご飯は外せないのだ。
「……はぁ」
前途多難だ。
そもそも、こんな状況になった話をしよう。
よく爺さんが話す話には、よくある都市の話が出てくる。
迷宮都市オラリオ。
世界で唯一、ゴブリンの様なこの地上に蔓延るモンスターたちが生まれた場所、地下奥深くに続く穴……ダンジョンが存在する都市だ。
爺さん曰く、「ダンジョンには全てがある、金も、名誉も…女もだ!」とのことだ。
最後については、女という神秘、そしてハーレムがどんなに素晴らしいかを熱く語る爺さんであるので、気にしない方向で。
爺さんが執筆した、数々の英雄譚。
“見てきたように”語るその物語は、爺さんが英雄と呼ばれる人たちをどれ程に慕い、尊敬し、愛しているのかが伝わってきていた。
かなり困った爺さんだが、少なくとも、彼の語る英雄譚は好きだった。
まあ、その程度の理由で、そのオラリオへ向かうことにしたのだ。
旅支度を整え、村の人たちに別れを告げ、オラリオへ向けて出発した。
そこまでは良い、問題はその道中である。
村を出て一週間ほどたった頃である、
村とオラリオを繋ぐ道の関係上、山を大きく迂回しなければならないのだが、面倒くさがった自分は、ここで大きな選択ミスをした。
山を突っ切ろうとしたのである。
いや、この選択をしなければ後悔をしていただろうから、振り替えって思うには幸運だったが、この時の状況からは選択ミスだった。
村の周囲の山で慣れていたし、山を歩くのは問題なく、方向も日や星の向きで把握できるため、問題ないと高をくくっていたが、その半日後、その選択を深く悔やむことになる。
そこには、ゴブリンの巣があった。
百や二百何てちゃちな数ではない。
いやまあ、通常の村には十分に脅威な数なのだが、その数はケタが違った。
少なくとも、三千は超える群れがあったのだ。
ちょっと放置したレベルの話ではなかった。
たしかに、ゴブリンの繁殖速度は尋常ではない。
どんなに遅くとも、十匹の群れが居れば一週間で1.5倍は増える。
そうすれば、一月で4週として約五十匹になる。
二ヵ月なら約二百五十匹。三ヵ月なら約二千匹である。
そのため、周囲の村はゴブリンを見かけたらこまめに狩るし、手に負えないほどの数が居るならば、オラリオへ使いを出し、冒険者を雇い入れる。
そのはずが、これはどうだ。
三千を超えるゴブリンの大集団。
確かに、この辺りは田舎だ。
オラリオから見てこちらの方角は、特に目立った国もないし、交通もそれほど悪いわけじゃない。けれど、この道は行商人などが通る関係上、週に数度は必ず人が通る道だ。
その道に沿うようにしてある山に、三千を超えるゴブリンの群れ?
アホか!
それしか言い様が無い。
通りでここ最近、村でゴブリンの被害が増えていたわけである。
村に現れたゴブリンたちは、ここから分かれた集団だったのだ。
この山一つで、ウン千と増えたゴブリンの食い扶持を稼ぐには無理がある。
一部のゴブリンどもは群れから抜け、他の場所へ移っていった。
それが、答えだ。
『このゴブリンの群れを見なかったことにして、オラリオへ向かう』
OR
『戦う』
さあどうするベル・クラネル。
「まあ、戦うんだけどね」
少なくとも、コレを放置したらどうなるか。
冒険者を呼ぶのは絶望的だ。
まず、お金がない。
ゴブリンウン千という数の討伐のための金なんて、持っているわけがない。
ダンジョンのモンスターと違い、ダンジョンから地上に出たモンスターは、地上の環境に適応するため、自らの体内の魔石を使ったんだそうだ。
例として出すなら、ダンジョンから文字通り“誕生”するモンスターが、繁殖を行うための器官を得るためだとか、なんとか。
そのため、ダンジョンのモンスターは倒すと魔石を残して消滅するが、地上のモンスターは死体が残る。それはそれで、様々な素材として使用できるらしい。
ただしゴブリン以外は。
オラリオの冒険者からすれば、うまみが無さすぎるのだ。
地上のモンスター…特にゴブリン相手には。
そのため、少々お高目なお金を払い、冒険者を雇うのだ。
ウン千のゴブリン討伐の報酬なんて、そこらの村が払える金額ではない。
そして、ウン千というゴブリンを倒せる冒険者は雇い難い。
レベル1や2の冒険者を見たことがあるが、この群れを倒すとなると最低でも二十人は必要だ。その数をそろえて、冒険者を使いつぶせばもしかしたら削り切れるかも知れない。
安全に倒そうというのなら、この数相手だと、少なくともレベル3が複数人必要になる。
そんな高レベルの冒険者は、そもそもオラリオから出ない。
もしお金が何とかなったとしても、ゴブリン程度に数週間という時間を使う冒険者なんて、知る限り存在しない。
他にも理由を語るなら、いくらでも出せる。
つまりは、ここでコイツらを見過ごせば、山でとれる“食い物”はウン千という群れを餓えさずにすむ限界を超え、“溢れる”ことになる。
奴らは学習しているだろう。
オラリオの方角からは、強大な敵が現れる。
ならば、どちらへ向かうか。
……無論、故郷(オラリオの反対)の方へである。
ならば、選択肢は一つに絞られる。
幸いにして、蛮勇ではない。
十分に、摘み取れる。
俺しかできないのなら、逃げる事はしない。
ならば、やるだけの事だ。
決意と共に少年は駆け出す。
少なくとも、代償(赤字)は支払う覚悟を決めて。
特に評価が欲しいわけではありませんが、文章力向上のため、修正点やご指摘などがあれば積極的に感想などに描いていただけると幸いです。
偶に、というか何度も、ダンまちの設定を間違えて覚えていることがあるかもしれませんが、それを見つけた際には教えていただけると助かります。
結構読み込んでるつもりですが、つもりなんで…。
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第1話、それは帰る場所を見つける出会い
書く気はあれどもやる気が出ないという…
ゴブリンとの戦いから、二週間ほどたった。
あれから、山を無事に下山することができ、一週間ほど使用してオラリオにたどり着くことができた。
ただ、オラリオに到着したころには所持金が心もとなく、一発、ダンジョンで稼いでやろうと、ダンジョンに向かったのだ……が、ここで詰まってしまった。
冒険者でないと、ダンジョンに入っても利益なんて出ないということだ。
より詳しく言うならば、モンスターを狩ることで得ることができる主な収入源である魔石を、お金(ヴァリス)に換金するにはダンジョンを管理? しているギルドで行わねばならない。
これは、重要な資源である魔石の管理という理由と、魔石をエネルギーとして利用した道具がオラリオの主な収入源となっているからという理由の二つ存在する。
つまり、ギルドに睨まれてでも魔石を裏で売買することによる利益では、割に合わないのだ。
ここで問題点が存在する。
ギルドで魔石を換金するには、ギルドに冒険者として登録されていることが必須条件となっているのだ。
そして、ギルドに冒険者として登録するためには、神に恩恵を賜らなければならないのだ。
つまり、現状の自分ではお金なんて稼げないということだ。
ドロップアイテム(固形化したモンスターの部位)だったら、商業系のファミリアで売買できるのだが、魔石を持てるだけ(30匹)ほど狩っても、一個も落ちなかったことから、それで生計を立てることは難しいというしかない。
……というわけで、ギルドの受付で冒険者になる眷属を募集しているファミリアを幾つか教えてもらい、行ったのだが……。
「一昨日来やがれィ!」
「……はあ、これで20件目か」
見事に、門前払いをくらったのだった。
いや、3日前に受けたファミリアでは、採用一歩手前のファミリアがあったな。
ソーマ・ファミリアというのだが、所属している眷属の雰囲気に不穏なものを感じ、一旦出て話を聞くと、中々に問題の多いファミリアで、周囲の評判は最悪だった。
ここに入ると、まず周囲の反応、評判がマイナスから始めねばならなくなるので、辞退したのだ。
そんなわけで、オラリオにたどり着いてから一週間。
そろそろ所持金が底を付きそうになっている。
……まあ、なぜ自分がファミリアに入れないのかは分かっている。
見た目である。
これが、武器防具をきっちりと揃えているのならまだしも、ひょろそうな、14歳のヒューマンをファミリアに入れたとしても、戦力になりそうにないのだ。
恩恵を持っていないということは、つまり入団した段階でレベル1(最初っ)から始めるということで、そんな人間を育てる手間なんて出せないというわけである。
ならば、門が広く、育ててくれそうなファミリアに入るしかないのだが、そんな所は基本的に大手ファミリアであり、そんな大手は現在ファミリアを募集はしていなかった。
というかそもそも、そういう大手は主神だったり幹部によるスカウトがほとんどらしい。
ただ、ロキ・ファミリアの眷属募集があったらしいのだが、それは1日前に終了しているとの話である。自分の中のゴブリンに対するヘイトが上がった瞬間だ。
「ミィシャさんから貰った、冒険者志望の眷属募集しているファミリアは……って、さっきので終わりか……」
どうしたものだろうか……。
頭を下げて、ソーマ・ファミリアに入れてもらうしかないのか……。
そうして座り込んで黄昏ていると、さっと、影が差して沈みかけの日光が遮られた。
「……ねえ君!」
「……? ああ、僕ですか」
一瞬、その言葉が誰に向けられているのかと、周囲を見回すが、自分と、その陰の元である綺麗な黒髪をツインテールにした少女しかいなかった。
「そうさ、君さ。君はなぜそんなところで黄昏ているんだい?」
「いや、ダンジョンでお金を稼ぐためにファミリアを探していたんですが、見事に門前払いでして……」
「ああ、まあそうだろうね……」
少女は自分の格好を見て、納得したように言葉を漏らした。
防具なんてなく、武器もぼろっちいナイフが一本。
ほぼ着の身のままである。
一応言い訳させてもらうと、ぼろっちいナイフは、まあまあいい品だったのだ。
他の武器は全部折れるか曲がってしまい、もう使い物にならない中、このナイフだけはきちんと原型をとどめていたのだ。まあ、ゴブリン二百匹目あたりで芯に罅が入ってしまって、もう修復不可だが……。
「ねえもしも、もしもだよ? 何の実績もなくて、眷属一人いない神様が眷属を募集していたら、君はそこに入るかい?」
「それって……」
その言葉で、気が付いた。
目の前にいる少女が、この地上に降り立った神々(デウスデア)の一柱だということに。
「……もし、そんなファミリアがあるんだとしたら喜んで入りますよ」
「そう……ボクは、ヘスティア」
少女の姿をした神は、夕日を背に、その表情に微笑みを浮かべて言った。
「もし、もしだよ? 君に帰る場所がないんだとしたら、ボクの――」
「――そこからは、自分に言わせてください」
そこまで行ったところで、神の少女――ヘスティアの口に手を当て、次に紡がれるはずだった言葉を止めた。
その言葉は、ヘスティアに言ってもらうのではなく、自分が、言うべきだと思ったからだ。
「もしよかったら、あなたのファミリアを自分の帰る家にさせてくれませんか?」
「……ああ! もちろんさ!」
そうして、自分はこの世界の中心で、自らのファミリアを見つけたのだった。
「それにしても君、結構キザだね」
「……そうですか?」
爺さんの癖が移ってしまったのかと、そんな笑えない言葉が脳裏によぎるも、ニコニコと笑みを浮かべながら先を行くヘスティアの姿を見たら、まあ、いいかと思った。
なんか、三点リーダーって偶数で使うらしいですね。
正しくは、作者ごとの表現技法で違うらしいですけど、とりあえずオーソドックスなやり方を基本にやっていきたいと思います。
三の丸さま、誤字報告をありがとうございました。
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