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スタート地点:新約とある魔術の禁書目録(9)

@新約とある魔術の禁書目録

 

 

 学園都市第七学区は、ある日突然に消滅した。

 いや、その事象を正確に表現するならば、消滅したのは世界そのものだった。

 全てが真っ暗な闇に包まれ、空も大地も地平線も存在しなくなった無に、その少年はぽつんと残された。

「なんだ、これ……?」

 彼は事態が掴めず困惑する。小柄な体躯に小学生のような童顔をしているせいで幼く見えるが、彼はれっきとした学園都市の高校に通う学生だった。

 凡庸な容姿かつ困っている人を放っておけない性格だが、結果が出せないことにコンプレックスを抱いている。

 どこにでもいる、そこそこ正義感のあるけれど無力さに挫折する、ありふれた男子高校生だ。

 いや、『だった』と過去形にするべきか。

 とある少女との出会いを経て、彼は個性を花開く。それは外見でも性格でもなく、その能力にあった。

 『幻想片影(イマジンシャドウ)』。

 科学も魔術も関係なく、いやむしろ異能ですらない『事象』をも複製して自身へ取り込むコピー能力だ。

 元々は無能力者(レベル0)だった彼だが、とある研究者の少女から譲り受けた道具によって飛躍的に能力が向上したのだ。自分自身、未だに『幻想片影(イマジンシャドウ)』が学園都市製の超能力なのか、はたまた魔術なのかも分かっていない。

 とはいえ、少年は特に自分の能力に疑問を持っていなかった。

 使えるから使っている。それだけだ。

「痛ててて……オイ、無事か?どうやらオティヌスによって世界が壊されたようだな」

 真横から聞こえた声に、ビックリした彼はわっと驚いた。声の主は、ピンク色の大きなウサギ耳のヘアバンドを着用している白衣の少女だった。紫色の髪に一筋だけ入っている白髪や青い右目と赤い左目のオッドアイ等、奇妙な格好をしている。

 少女の名は、ウサミミ。少年の『幻想片影(イマジンシャドウ)』を覚醒させた張本人である。

「あ、ウサミミもいたんだ。気が付いたら世界が真っ暗になってたんだけど、一体なにがどうなっちゃったの?」

「たった今説明した。オティヌスが世界を壊したんだよ」

「……オティヌス?」

「チッ……つまりだな、『上条当麻が失敗した』んだ。『物語』が正史から逸れて『外史』のレールに切り替わったんだ」

「?」

 何やら物知り顔なウサミミだったが、少年はちんぷんかんぷんだった。

「……前から疑問だった。アレイスターの『プラン』に必要のないお前が、一体何のために存在するのか、とな。たった今分かった。お前は『物語の修正者』なんだ。『物語』が正史を外れた際、主人公に成り代わって本来の役目を遂行する二次創作主人公(メアリー・スー)。それがお前だったんだ」

「全然よく分かんないよ。なんか上手い例えないかな?」

「そうだな……世界の基準点としての役割を負う『幻想殺し(イマジンブレイカー)』があるだろう?お前の『幻想片影(イマジンシャドウ)』の役割は、平行世界にいくつも存在する『物語』としての基準点なんだ。超能力や魔術のみならず物事の現象までコピーするのもそれが理由だ。そもそもお前の真髄は、『異世界の異能をコピー』する事にあったのだ」

「……話が難しいんだけど。異世界で僕の助けを待ってる人がいるってこと?」

「今はそういう解釈で良い。ただし、救済対象は個人ではなく世界だがな」

 世界を救う、なんて大仰な事を言われても、少年はピンと来なかった。

「具体的にどうすればいいか教えて欲しい」

「今私達がいるこの『物語(セカイ)』は、主人公が失敗した事で正史から外れた。おそらく、この『物語(セカイ)』以外の平行世界も何かしら『主人公が失敗して正史を外れている』はずだ。私達は異世界へ飛んで主人公に成り代わり、事件を解決して『物語(セカイ)』を正史へ修正する必要がある」

「異世界へ飛ぶ、って言われても……僕、そんなことできないよ?」

 少年は、右腕を前腕まで覆っている機械仕掛けの手甲を見る。

 ウサミミによって開発された、暗示作用で『幻想片影(イマジンシャドウ)』の効果を増強するブースターだ。

 手は黒地だが、指先には幾何学的に白線が印されており、赤い三角形の矢印が上腕方面に向かって描かれている。前腕部分には安全ピンのような形状の金属板がつき、甲の中心には六角形の窪みがあった。

 少年は二、三度手を握ったり開いたりしたが、違和感に顔を顰めた。

「ブースターに貯蔵されている『異能』の気配がない……ストックが0になってるよ。今の僕は、正真正銘の無能力者だ」

「『物語』が崩壊したんだ、当然だろう。もう一度地道に蒐集するしかないな……うん?」

 そこでウサミミは足元で何かを見つけたのか、一枚のカードを拾い上げた。

「こいつは……ククク、なるほどな。ほら、切符なら用意されているぞ?」

「?」

 ウサミミの渡してきたカードを受け取る。

 そこに描かれていたのは、小学生ですらなさそうな男子少年だった。金髪である事から外人に見えるが、そもそもファンタジー世界に住んでいるかのような衣装を纏っている。

 カードに表記された名は、

「『異界またぎ』……?」

「それで異世界漂流しろって事だろう。どうやら、この『物語(セカイ)』の上条当麻が失敗したのには裏で手を引く黒幕がいそうだな。そいつからの挑戦状だ」

「……よく分かんないけど、困ってる人がいるなら助けるよ」

 右手のブースターに『異界またぎ』をセットする。

 すると、目の前に光の扉が出現した。

「クククク……楽しみだ。今度はどんな敵が立ち塞がるのか。お前の経験値にしてやろう」

「悪い顔してるなぁ」

 二人は扉に足を踏み入れた。

 世界が純白の光に包まれる。

 真上に落下する奇妙な浮遊感に襲われ、二次元平面にプリントされるようなのっぺりとした圧力で胸が詰まる。

 一分か一〇分か。

 時間の感覚がないその世界での一息の後に、世界が色を取り戻し始める。

「ここ、は……」

 真っ白な雪原。

 視界を切り裂く猛吹雪。

 凍てつく極寒の戦場に、そびえ立つのは50mを超える威容。

 

 

 

 異世界漂流。

 

 辿り着いた『物語(セカイ)』は、『ヘヴィーオブジェクト』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ヘヴィーオブジェクト:A面

『異界またぎ』のカードは、『ヴァルトラウテさんの婚活事情』に登場する主人公(ヒロイン?)の少年ことジャック=エルヴァン君です。


「さ、寒い!!寒いよウサミミ!!」

「何でもかんでも泣きつくな!私は某シミュレータのシステム管理エージェントではないんだ」

 気温を思い出したかのように、氷点下の猛吹雪でガクガクと体が震え始めた。

 それもそのはず。

 少年は学校の夏服姿で、ウサミミは白衣姿だ。防寒どころかウェルカム凍死な出で立ちであった。

 よって、突然の雪原やら地平線の先にある巨大な物体やらに注目するよりも、

「あ、あっちで焚き火してる!行こう!」

「……あれは焚き火というか、建物が火事で燃えているだけじゃないか……?」

 とりあえず暖を取るためにその場を移動する方が先決だった。

 ズサズサと雪を踏みしめ、爪先の感覚がなくなっていくのが分かる。下手したら『気付いたら足の小指がなくなってたんすよアッハッハー』な登山家あるあるを体験する羽目になってしまう。

 ヒイヒイ言いながら件の焚き火(もとい火事現場)に着いた二人は、そこで目の前の惨状にようやく思い至った。

「し、死んでる……!?」

 ざっと見ても数百人はいるんじゃないかという人間が、あるいは半身がなく、あるいは焼け焦げ、あるいは倒壊した瓦礫に埋もれて圧死していた。

「こいつら軍人だな。ラッキーだ。服を奪うついでに装備も頂戴しておくぞ」

「え、そんな、だって……」

「何言ってる?死人からアイテム入手なんて今時のRPGじゃ基本だろう?」

「そういう問題じゃ……」

 死人に対する冒涜だ、なんて言おうとしたけれど言い淀んでしまう。ウサミミに押し付けられた防寒着のコートや銃器を少年は受け取ってしまった。

 我ながら意思が弱い、と自嘲気味に嘲る。

 どこまでも状況に流されてしまう。

「……僕の正義って中途半端だなあ……」

「だからこそ二次創作主人公(メアリー・スー)に成り得るんだ。読者目線の、とってつけたような場当たり的な正義欲って奴だよ。お前はそれぐらいで丁度良い」

 フォローされたのか罵倒されたのかいまいちよく分からないウサミミを踏まえ、改めて現状確認。

「ねえ。ここってどこなんだろう?そもそもいつなんだろう?」

「異世界に飛んだ癖に暢気な頭で今日もお花畑が満開だな、お前は。どうでもいい、大事なのは『誰が敵で誰が味方か』だ」

「ここにいる人達は、みんな『敵』に殺されたのかな?……あれ?」

 そこで、瓦礫に埋もれる死人のすぐ傍に、光輝くカードが落ちている事に気づいた。

 近づいて拾う。

 金髪の中性的な容姿の少年と短い茶髪の少年の絵が描かれていた。傍にある二つの死体も、この絵と同じ人物である。

「この人達のスキルなのかな?…あ、あれ?カードに名前が記載されてない。不良品?」

「そんな訳あるか……と言いたいところだが、ここは異世界だしな。試しにブースターにセットしてみろ」

 ウサミミに促されるままに、少年はブースターのリーダー枠にそのカードをセットした。

 直後だった。

 

 

   ベイビーマグナムと戦うウォーターストライダー。

   不意打ちで主砲を受け大破したベイビーマグナム。

   そして、こちらを向けられた下位安定式プラズマ砲。

   逃げ惑う兵士。

   そして、頭上から飛来する巨大な瓦礫に、俺は――――

 

 

 ズキリ、という頭痛と共にフラッシュバックする誰かの記憶。

「ッ、痛っ……なんだ、これは!?」

「ウサミミも見たの?な、なにこれ!?」

 咄嗟に説明を仰いだが、聞くまでもなく既に知っていた。

 いや、違う。

 『彼ら』の記憶が挿入され、この世界の全ての知識に自分自身が同期した。初めからこの『物語(セカイ)』に生まれてこの『物語(セカイ)』で育ったかのように、この世界の常識を熟知していた。

 記憶の上書き保存。

「つまり、これって、死んだこの人達の記憶……僕らは、死んでしまったこの人達の人生の続きをやれって事なのかな?」

「だろうな……ったく、呆気ない。無慈悲とも言えるな。主人公が失敗した『物語(セカイ)』なんだから一体どんな過ちを犯したのかと期待していたのだが、その原因が『ただ運が悪かった』だけだと?つまらん」

「もしかしたらそういう世界なのかもね、この『物語(セカイ)』は。ちょっと運が悪いだけで死ぬ。冗談みたいに人が軽く死んでいく。別に選択肢を間違えたとか力が足りなかったとかじゃなくて、ゲームの乱数みたいに偶然死んでる。そういう『物語(セカイ)』のルールなのかも……」

 今更怖気づいてしまうが、少年に帰り道はない。

 元より自分の『物語(セカイ)』は壊れてしまい、復元するための旅路の最中だ。

「敵は多分、ウォーターストライダー。あれを倒すのが僕らの目標なんじゃないかと思う」

「氷雪地帯特化型第二世代……難しいな。こちらもそれ相応のオブジェクトを用意する必要がある」

「え、お金持ってるの!?五〇億ドルだよ!?日本円だと……五百万円?」

「馬鹿かお前は。算数が間違ってるし、そもそも奪うに決まっているだろ」

「ナチュラルに犯罪だぁ……」

「学園都市であれだけ暴れておいて今更何を言ってるんだ」

「だからこそウサミミの口車に乗るのは怖いの!で、でもほら、あの、えーと……そだ!手に入っても操縦できないじゃん!」

「そのためのお前の『幻想片影(イマジンシャドウ)』だろうが」

 ポカンと首を捻る少年の足元で、金髪の少年の死体の傍に落ちていた携帯端末に信号マーカーが点灯した。

「ふん、都合が良い。答えが向こうからやって来た」

「どういう事?」

「移動しながら説明する。とりあえず何かスノーモービルみたいな乗り物を瓦礫の中から探し出して来い」

 

 

 

 

 

 『正統王国』第37起動整備大隊に所属するその少女の名は、ミリンダ=ブランティーニといった。

 彼女を囲う三人の男達は下卑た笑みを浮かべながら、アサルトライフルの銃口で彼女を小突きながら先を歩けと促していた。

 彼女の敵対勢力『信心組織』の軍人であり、彼女は拘束されているのだ。

 絶賛捕虜、と言えば聞こえはいいが、戦時協定を無視した野蛮な男達の頭の中を鑑みれば、むしろ奴隷と表現した方が適切かもしれない。

 つまり、そういう類の話で盛り上がり、彼女をレイプするためにはナニが凍えないような暖の取れる近くの洞窟に移動するべきだろうという考えに至った次第である。

 チンパンジーみたいね、と軽口を呟いたら、銃床で後頭部を思い切り殴りつけられた。衝撃で舌を少し噛んでしまい、口内に鉄錆臭い味が未だに残っている。

 このまま自分は男達の玩具になるのか。溢れそうになる涙を必死に堪える。

 後悔が募る。味方なんて助けなければ良かった。

 自分を戦場に追い出し頼るだけ頼っておきながら、いざとなればトカゲの尻尾切りのように自分を捨て置く連中だ。あれを味方だと思っている自分も歪んでいるなぁと今更ながら悲しくなった。

 いや、だからこそエリートの『エレメント』に適合したのか。

「おい、あそこ、女が倒れてるぞ!」

 その時、男の一人が声を上げながら前方に駆けていった。

 見やれば、奇妙な恰好の少女が雪原のど真ん中で倒れていた。

 ピンク色の大きなウサギ耳のヘアバンドを着用し、紫の髪に白のメッシュを入れ、右目が青く左目が赤い。

 防寒コートは『正統王国』軍の支給品ではあるが、そんな恰好の人間を自分は見たことがない。

「動かねえけど息はしてるぞ。どうするよ?」

「え、そいつも混ぜてヤるってこと?」

「えー、ガキじゃん。大丈夫かよ」

「エリートと歳は変わんねえだろ」

「バッカ、このぐらいのガキは一、二年で全然違うんだよ」

(……さいていなやつら……)

 思わず目を伏せた、その瞬間だった。

 

「敵を前に余裕だな。それでも本当に軍人か?平和ボケ共!!」

 

 ウサギのヘアバンドを付けた少女が突如目を開け、懐から取り出したハンドガンで近寄る男の頭を打ち抜いた。

 ズガン、という乾いた銃声に、遅れて男達は構え出す。

 こちらは残り三人、対して相手は少女一人。弾幕を張れば勝てる戦力差だと算段をつけたのだろう。

 事実、戦況を見ればその通りでその分析に間違いはない。

 しかし、ミリンダの足元の雪がボコリと盛り上がった。

 それは人型のシルエットしていて、よく見れば東洋人の少年だった。

 なんと、自分の体の上に雪を被せて、ミリンダ達一行がこの場所を通るのを待ち伏せしているのだろう。

 男達は遅れて少年に気づく。

「、あぶない!?」

 少年は丸腰で、武器らしい武器を持っていない。

 唯一とも入れる右手に嵌めた手甲を、あろう事か『信心組織』の男達ではなくミリンダへと伸ばしてきた。

 男達は少年にアサルトライフルの銃口を向け、引き金を引く。

 その直前に、少年がぼそりと呟いた。

 

「――――ちょっと複製(かり)るね、その力」

 

 ミリンダの肩に触れた手甲が、いつの間にか光輝く一枚のカードを手にしていた。

 一瞬見えたカード名は、『エリート』。

 少年は慣れた手つきでそれを手甲にセットする。

 同時、銃弾が煌いた。

 三方向から同時に迫りくる銃弾を、少年は()()()()()()()

「――――は?」

 人間離れしたその動きに、男達はギクリと硬直する。

 その一瞬を見逃さない。

 少年は不敵に笑いながら、

「すごいな、このスキル。人間どころか銃口の動きまで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 2本しか手のないノロマな人間の挙動など、普段100門以上の砲門を同時に相手取り予測回避を行っているエリートにとっては朝飯前にすらなってない。スマホでソシャゲをやりながら片手間で躱せるレベルの雑事に過ぎない。

 まるで銃口から伸びる射線が目に見えているかのように頭を下げながら男の一人の懐に飛び込み、股間へ渾身の正拳突きを放つ。

 呻く男からアサルトライフルを奪い、B級映画の中でしか実現できないような横構え射撃で残った男達を横凪ぎに撃ち殺す。

「ヒ、あ、ぁ……!?」

 股間を押さえて悲鳴を上げる背後の男へ向けて、少年は振り返り様にアサルトライフルを殴りつけた。

 野球バットみたいに握り締め、ゴギン!と頭蓋骨を凹ませるレベルのフルスイングを受けて男が昏倒する。

「終わったよ、ウサミミ」

「作戦通りだな。どうだ私の采配は。完璧だったろう?」

「……雪の中で寝そべってるの、寒くて寒くて死ぬかと思ったんだけど……」

「生きてるからいいだろうが」

 陽気に談笑する二人を前に、ミリンダは茫然と語りかけた。

「あなたたちは、だれ……?」

 二人は顔を見合わせると、ウサミミバンドの少女は真顔でこんな事を言ってきた。

 

 

「貴様ら腑抜けた『物語(セカイ)』の後始末担当、私はご当地ヒロインのウサミミだ。こいつは電話一本で駆けつけるレンタルヒーローの二次創作主人公(メアリー・スー)

「……よく分かんないと思うけど、多分味方です。あなたを助けに来ました」

 

 

 




今ふと気づいたんですが、仮面ライダーディケイドにめっちゃ似てますね。
各シリーズの世界に飛んで歪みを解決。
しかもカードをセットしてコピーしたスキルを使用するとこまで似てる……

もうこれはファイナルベントするしか……(使命感)



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