俺以外の男性IS操縦者が軒並み強いんだが by一夏 (suryu-)
しおりを挟む

一話 蓮視点

しゅーがく氏からこちらに来られた方は、まずはじめまして。いつも私の小説を見てくださっている方はありがとうございます。

さて。唐突ですがこの小説はコラボとなっております。また、各視点により作者が違うという、あまり無い試みからこの小説は、始まります。

正直な話、自分は知名度が低いためにしゅーがく氏に釣り合うかと言われるとそう思えません。今でも恐縮な部分があります。
それでも、ここまでくる事が出来たのはしゅーがく氏のお陰なので、私は本当に感謝をしております。

まずは私の蓮視点から始まります。それではご歓談下さい。


インフィニット・ストラトス。略称IS。それは女性の夢、象徴であり世間には女尊男卑という考えが広まっていた。

それは醜くも愚かな女性を多く生み出した考えであり、兵器であるISはスポーツと名称を変えて代理戦争の様なものをされている。という事を有識者は考えている。

 

「女子高って辛いんだなぁ……」

 

見渡す限り女子女子女子。一人だけ同い歳の織斑一夏という男子が居る辺り、せめてもの救いなのだろうと少年は結論付けた。が、だ。流石に動物園のパンダの様な気分は彼は味わいたくなかった。

そんな馬鹿な思考をしていると、教室に先生が入る。緑の髪だなぁと彼は思ったもののツッコまない……と思った矢先、凄くツッコミしたいという思いに駆られた。

 

「だって、たゆんとゆれる大きな果実がそこにあるんだ。肉まんなんて比じゃない。あれはメロンだ。大きいしメガネ美人だし凄く柔らかいんだろう」

等と、先程より馬鹿な思考を回し続ける。現実逃避ともいうのだが。

 

「み、皆さん。自己紹介をしましょう! 出席番号順で! あ、から初めて下さいね!」

 

「はーい、相川清香。ハンドボール部希望でーす!」

 

さて、こんな感じで挨拶が始まる。自己紹介の途中にあっても見られている彼はやはり希少価値なのだ。

そう、彼は男ながらにインフィニット・ストラトス。通称ISを起動させた。それは彼だけじゃない。幼馴染みである天色紅という少年もなのだ。全くもってこんな所まで、奇妙な縁だと彼は思っている。

それにしても、自己紹介は長く続く物なのだが彼は退屈はしない。

 

『その人それぞれの特徴を最初に知る事が他人と仲良くする方法だって、おばあちゃんが言ってた』

 

とは彼の談。おばあちゃんの知恵とやらは大事だと彼がよく口にするのはこの為なのだろう。

さて、そんなこんなを考えている内に件の織斑一夏になったのだろう。よく見ると教師は涙目だった。可愛い。彼は確信した。先生と言えども可愛いは可愛い物なのだ。

 

「あ、あのー……あ、で始まって今お、だから織斑君なんだけど……そ、その……自己紹介してもらっていいかな?」

 

「えっ……あっ、す、すいません!」

 

一夏は立ち上がると、周りを見る。さあ、彼は一体どんな自己紹介を……

 

「織斑一夏です! ……以上です!」

 

ーズルッ、ステン、どんがらがっしゃーん!ー

 

等と、少年が思考したが答えはこれ。クラスの全員が転けたのだ。まるでドリフだと彼は考える。そりゃあそうだ。教室全体の皆が転けるなんて、ドリフのコントしか誰だって思いつかない。綺麗すぎるくらいな総崩れに一夏はあ、あれ? といった顔をしているのだが、君のせいなのは確実なんだよね。と内心少年は呟く。

すると、教室にもう一人教師が入ってきた。

 

「全く、何をしている」

 

「げえっ、ミッ○ーマ○ス!?」

 

ースパァン!ー

 

一夏がボケかと思うような発言をした途端出席簿が火を吹いた。

 

『……本当に火を吹いたように見えたんだけど気の所為だよね?』

 

そんな威力を目の当たりにした彼は驚くが、ともあれ、叩かれてうずくまる……いや、それはそうなるだろうが。そんな一夏を見ていると、その叩いた張本人は呆れた顔をしている。

 

「誰がハハッと鳴く下手すると黒服を追わせてくる色々な意味で黒い鼠だ」

 

ツッコミ完璧過ぎるだろ!? と誰もが思ったのは悪くない。

 

『あれかな、世界最強って何でもできるのかな。まあ、多分きっとそうなんだろう。恐らく、めいびー』

 

一同はそんな意識を共有せざるをえなかった。

 

 

「ち、千冬ね……あいだっ!?」

 

「学校では織斑先生と呼べ。それとついでだ、金澄。お前も自己紹介しろ。どうせ『か』行だからこいつの次だがな」

 

すると、こんな状況の中で彼にお鉢が回ってくる。なぜ今呼んだんだ。と彼は考えるも逆らえる気はなく、自己紹介する事を決めた。

 

「金澄蓮です。僭越ながら男子で入学という普通なら考えられない状態ですが、仲良くして頂けると嬉しいです。趣味はピアノで細々とやっています。宜しくお願いしますね」

 

そんな自己紹介をしたかと思えば、クラスが静まる。そして、失敗したかと焦りが出そうな時に……

 

「イィィイイイヤッホゥ!」

 

「貴重な男子キター!」

 

「黒髪に白髪の半分半分。これはテライケメン! これで勝つる!」

 

「織×金!?」

 

「いや、金×織よ!」

 

自己紹介をした彼改めて蓮は、声の大きさに戦慄を覚える。まるで某CMのように発狂してるのではないかという懸念もあれば、最後のふたりは若干腐ってるのではないか。等と身の危険すら感じた。だが、それでも縁は大事にしなければと考え直す。

何故か? ……それは生き残る為だ。蓮はバックヤードが無いに等しいからこそ縁を作らねばならなかった。正直 特記事項 もあるのだが、それをアテにすることは出来ないだろうと考える。

……だが、もしかしたら。ここなら、自分は守る力を手に入れる事が出来るかもしれない。それならば。と、蓮はこの修羅場を生き抜くことを決める。きっとそれが彼の信じる道に繋がる筈だからと思い。

 

「中々良い挨拶だった。もういいぞ……私が、この一年間担任を務める織斑千冬だ。諸君等をこの一年で、叩き直すのが、私の役目だ。逆らっても良いが反抗はさせん。いいな?」

 

……ただ、この場所で生きていけるかは、激しく不安であるのは間違いなかった。

 

「キャァアアアア!」

 

「ブリュンヒルデの織斑千冬様!」

 

「罵って! もっと、蔑んで!」

 

「踏んでくださいお姉様!」

 

……精神的な意味でも。本当に此処は蓮にとっての魔境だった。

 

 

 

そんなこんなで、蓮はこの中で生きて行くことに盛大な不安を感じたからか、幼馴染みでありながら親友の天色紅に助けを求めようかと思ったものの、自分と同じ事になっているだろうからと考え、メールも送れず質問攻めをされていた。

 

「……なぁ、同じ男が居て助かったぜ。俺は織斑一夏……一夏って呼んでくれ」

 

「……僕は金澄蓮。蓮でいいよ」

 

取り敢えず男同志の友情が生まれた所で、蓮はこの状況に溜息を吐く。本当に疲れるのだ。パンダは辛いのかもな。と今更ながらに彼は感じた。

 

「大丈夫~? れんれん~」

 

「……確か、布仏さん?」

 

そんな彼にいきなり声を掛けてきた少女は、布仏さんという名前だったかと彼は思い出す。自己紹介をしていたから当然なのだと彼は思うのだが。

それにしてもだ。初対面の人にも仇名を付けるあたり、ほんわか。ぽわぽしていると感じるものがあった。等と彼が考えていると一夏がお嬢様に絡まれていた。それを、今現在は放置を決め込む蓮。理由は代表候補生でもあればどう考えても女尊男卑に染まりきってるというものだった。

 

「ふふ、私の名前を覚えててくれたんだ~」

 

「うん。なんだかのほほんとしてるしね」

 

「えへへ、ありがと~」

 

彼女はどこからとも無く現れたかと思えば蓮に最高の癒しを与える。それは今まで視線やら何やらにより摩耗していた精神を少しずつ回復させるのだ。これは重畳だった。

この状況での癒しは大切だなぁと蓮は思っていると。「逃げないで下さいまし!」と言いながらお嬢様は自分の席に戻る。チャイム鳴ったんだと、蓮の理解は早かった。

 

 

そんなこんなで蓮は座学をなんとかこなした。やはり入学前に勉強しておいて正解だと漸くなのだが感じてしまう。今までインフィニット・ストラトスという単元に触れる事のない一般人だったからこそ勉強しないとどうにもならなかったと納得するものだった。

因みに一夏はどうなったかというと、だ。電話帳と間違えて参考書を捨てるあたり、彼は相当な馬鹿でもあるんだな。と蓮は理解する。まぁ、必読とでかでか大きく書かれていたのだから当然なのだが。

 

 

で。

 

 

「お前達、クラス対抗代表戦があるのは知っているだろう。そこで代表を決めようと思う。自己他問わず推薦が有るなら提案しろ」

 

世界最強織斑千冬先生が唐突に生徒達にクラス代表を決めると宣言した訳だ。確かに決めないと後々面倒になる事は蓮は重々承知なのだが、そんな唐突でいいの? とは思っていた。だが、今は流す。

 

「それじゃあ織斑君を推薦します!」

 

「私も!」

 

「お、俺!?」

 

ただ。そこで違和感を感じる。気付けば、多数の視線が彼を見つめていたのだ。

 

「じゃあ私は金澄君!」

 

「私もれんれんにしようかな〜」

 

気付いた時には既に遅しというべきか、あっという間に蓮のクラス代表推薦は確定していた。

あの織斑千冬が担任だから拒否などは出来ないと認識して、蓮がどうしようかと呑気に考えていると、あの先程の代表候補が立ち上がり……

 

「納得いきませんわ!」

 

否定の第一声をあげる。蓮はやっぱりな。と内心呟いた。

 

「こんな後進的な極東の地まで遥々来て、それなのにこのイギリス代表候補生の私、セシリア・オルコットが名指しされず、何処ぞの馬の骨と知れない猿までもが推薦されるなど……!」

 

「イギリスだってそんな事を言ったら……」

 

そこで、蓮は一夏の言葉を手で遮って止める。というかそうするべきだった。一夏がどうしてだという顔をするが、蓮は彼にだけ一瞬笑みを見せた後で、少し鋭い目を意識した。

 

「……一応聞くけど、セシリアさん。君は日本と外交問題を起こしたいの?」

 

「……え?」

 

どうやら彼女は分かっていない。いや、厳密には今気付いたのかもしれないのかもという事を蓮は感じる。だからこそ、蓮は彼女に。そしてクラスにその事を教える。

 

「そもそもISを作ったのは日本の篠ノ之束博士だし、織斑千冬先生はブリュンヒルデ。そして一夏はその弟で……これは立派な侮辱をしてるよね?」

 

「あっ……!?」

 

「……!」

 

二人の顔がハッとした表情を見せたから、蓮はこれで畳み掛ける事にした。早い所この空気を終わらせたい一心で言葉を紡ぐ。

 

「まぁだからそんな日本相手にそんな言葉を言うなんて……Have a declaration of war on Japan(日本に宣戦布告している)……ok?」

 

「っ!?」

 

千冬や最初の緑髪の山田先生も驚いている辺り、蓮がこのような発言をすると思わなかったのかもしれない。代表候補生のセシリアは顔を蒼白にさせている。やはり英語で言い放った事はインパクトがあったようだだ。

だからこそ、蓮は反撃が無いとは思ったのだが……

 

「……っ、決闘ですわ!」

 

この通り彼女は諦めなかった。やるしかないと分かったからこそ、蓮はなるようにしようと決め込む。

 

「よし、貴様等は一週間後アリーナにて戦え。そこで決めろ」

 

全くもって、世は常々僕達に厳しいらしい。それでも戦う。そして抗うんだ。と彼は誰にも聞こえないように呟く。そして、内心で僕はまだ止まれない。彼女の為にも、絶対にと続ける。

 

「……分かりました。先生、少しでも僕は抗います。それが今僕に出来ることだと思ってますから」

 

「……分かった。相手が相手だが頑張るといい」

 

こうして、蓮の入学初日に大きな戦いが決まった。それが、今後の彼の運命を決めたのかもしれないという事はまだ誰もが分からなかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1話 紅視点

今回はしゅーがく氏執筆の紅視点です。私とは書き方が違う為に違和感もあるでしょうが、そこも楽しんでいただけると幸いです。

それではお楽しみください。


冷や汗をだらだらと流しながら、俺は自らが置かれた状況を整理する。

1つ。あの織斑 一夏とかいう同い年の"お陰"で、せっかく合格した高校を辞退することになったこと。1つ。俺の意思が全く尊重されないまま拘束されて、身体の隅々まで調べられ、行動の制限がされたこと。1つ。現状、胃が痛いこと。

そう。俺は女性しか扱うことができないISが、織斑 一夏にIS適正が発見されたことによる全国調査によって発見された織斑 一夏に続く男性IS適正者なのだ。そして政府の要人保護プログラムかなにか知らないが、以下省略。

IS学園に強制入学させられ、3組に配属になった俺は、クラスメイト(全員女子生徒)に穴が開くほど凝視されているのだ。

 

「皆、初めまして。私はこのクラスの担任を任された、山吹 ゆきです! よろしくね~」

 

 なんか周囲の人を笑顔にできるような性格をしているな、この人。

 そんなことを考えつつ、学園での生活やなんやかんやを一通り説明した山吹先生は、自己紹介に移ろうと言い出した。

 俺は自己紹介が嫌いだ。何が嫌いかというと『好きな食べ物は~』とか『趣味は~』とか、わざわざ公言する必要ないだろう。後者はコミュニケーション上必要かもしれないけども。とにかく、俺は自己紹介が嫌いだ。

だが担任がやろうと言い出したのだ。やらざるを得ない。俺は何を言うのかを考える。

皆、出席番号順で自己紹介をしていくが、内容はまちまちだ。

やはり趣味などを言ったり、IS学園入学の意気込みやら、出身中学やらどこから来たとかそんなものだ。一般的な自己紹介。

そして俺の順番が回ってくる。

 

「次、天色 紅くーん」

 

 呼ばれて立ち上がる。口を開こうとするも、山吹先生に遮られてしまった。

 

「さぁ、お待ちかね! 男性操縦者3人のうちの1人っ!! いやっふー!!」

 

 心配になってきた。大丈夫か。この担任。

 

「えぇと、天色 紅です。よろしくお願いします」

 

「うんうん!」

 

 なんでこの人、他の女子生徒の時よりもがっついているんだろうか。

まぁ、仕方ないと言えば仕方ないことだ。男性操縦者3人のうちの1人が、自分の持つクラスのメンバーになったのなら。

とは言うものの、特段俺に何があるという訳でもないだろうに。その辺に転がっている石ころと同じ気がするが。

 

「なんとか頑張っていきますのでよろしくお願いします。」

 

 無難だと思う。そう考えながら席に着くが、山吹先生の視線は俺から外れることはなかった。

 

「それだけ?」

 

「えぇ……じゃあ……。男性操縦者として特別入学しているので、よければ勉強を教えて下さい」

 

「うん。じゃあ席に座ってねぇ~」

 

 どうやら及第点だったらしい。俺は椅子に座り、一息吐く。

 後は前でも同じだったが、全員の自己紹介を聴いて名前を覚えるくらいはしないとな。

そんなことを考えながら聴いていること、数分後。あることが起きた。

 

「ほい、次ぃ~。お、代表候補生だねぇ」

 

「は、はいぃ。オランダから来ました。アンネリーセ・デ・フェルメールですっ……」

 

 どうやらこの自己紹介初の外国人の様だ。

俺はそんな風に思いつつ、話を聴く。

 

「先ほど先生も仰っていた通り、私は代表候補生ですが、皆さんが思っている程の者でもありません。はい」

 

 薄いブラウンの髪を揺らしながら、フェルメールさんは自己紹介をする。

その様子を見て、ふと思ったことがあった。

なんだか見ていて癒される。そんな風に俺は感じていた。

 フェルメールさんが醸し出しているオーラがそうさせているのかもしれない。

そうだろうな。多分。

 

「本国に居た時から皆から影が薄いと言われていましたが、ここではそんなことを言われないように頑張りますので、よろしくお願いしましゅ」

 

 あ、噛んだ。

 

「はい。じゃあ次ぃ」

 

 そしてスルーしたよ。この担任。

優しさかもしれないけど、あえて突っ込んであげようよ。

 

「あうぅ……噛んじゃったっ」

 

 顔赤くしているけど、誰も反応してないじゃないか。

 そんな風に過ぎて行った自己紹介の時間はすぐに終わり、休み時間に突入した。

次の時間の準備をするように山吹先生に言われてすぐ、教室を脱出しようかと思っていたが、そんなことは叶わなかった。

俺の席の周りに人だかりが出来ていたのと、出入り口も封鎖されていたのだ。人で。

 

「ねぇねぇ、天色くんって1組の織斑くんや金澄くんと仲良いの?」

 

「本当にIS動かせるの? というか、専用機もう持っているんだよね?」

 

「寮の部屋番号は何?」

 

他にも色々言われているが、回答しようにも次々と言われるために返答できずにいた。それよりも、回答に困るようなものもあったんだが……。

 それはともかくとして、この状況はどうすれば良いのだろうか。

 ちなみに織斑とは顔は見たことがないが、金澄 蓮とは入学前から知っている仲だ。

親友とも言って良いだろう。

そんな親友も同じような状況になっていると思われるので、携帯電話で助けを呼ぶことも出来ない。どうしようかと悩んでいるが、結局休み時間は女子たちに囲まれたまま過ごすことになったのだった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 次の時間は授業をする訳でもなく、クラス内の役員決めを始めた。

山吹先生は黒板に書き出す前に、あることを先に決めようと言いだした。

クラス代表だ。

クラス代表とは、クラスを代表する生徒のこと。言えばそのままだが、様々な役割が充てられており、かなり重要な立ち位置にもなる。

 

「じゃあ最初にクラス代表を決めようかなぁ」

 

 そんな風に言いながら、山吹先生は俺の顔をジッと見てくる。

どうして俺の顔を見てくるのだろうか。そんな時間が数秒過ぎ、山吹先生はクラス全体に指示を出す。

 

「立候補も推薦も自由にしてねー。後で選挙やら何やらやるからさ」

 

 また俺の顔を見てきた。

 そして、そんなことがどうでも良くなるようなことが起こる。

 

「はーい! 私、天色くんが良いと思いまーす!」

 

「私もー!」

 

「だよねぇー!」

 

 なんで俺を押してくるんだろうか。

 ここで声を挙げて、『どうしてだよ』とは言う気にもなれず、そのまま俺は黙って聞いていた。

その後も続々と俺を推す声が挙がったが、一貫して言えることは俺をクラス代表にすることを面白がっているようにしか思えない。

そもそも、クラス代表なんて面倒な役職に着く気等なかった。今後出てくるであろう、楽な役職にしようかと思っていたのに。

多分、山吹先生が『推薦』なんて言うからこんなことになったんだ。

 

「じゃあ、満場一致で天色くんで決ってーいっ! はい、当選した感想を! 早くっ!」

 

 何やら発言する時間さえも与えられずに、そのまま進行してしまった。

ここで嫌だとか言うと、空気が読めない奴みたいに思われてしまうかもしれない。そんなことを気にしながら、俺は意気込みを言う。

 

「推薦でクラス代表になった天色 紅です。……程々に頑張って行きますね」

 

 そう言って座ろうとするが、あっと思い、そのまま下げた腰を上げなおして一言。

 

「どうして俺になったのか、そこのところ詳しく。以上です」

 

 と言うと、チラホラと『男子が居るからさぁ。盛り上げないと』とか言う声が出てきていた。男子だからなのか。男子だからなのか。

 そんな周りの言葉に『えー』と返していると、山吹先生から呼ばれる。

 

「天色くん」

 

「はい」

 

「ちょっと」

 

「はい?」

 

 手招きされて、俺は立ち上がって山吹先生のところへ向かう。

理由は分からないが、この数十分の経験則から言えば面倒なことに違いない。

 

「はい、これ」

 

「何ですか、これ」

 

「このクラスで決定した委員の名簿の作成資料」

 

「は、はぁ?」

 

「頑張ってねぇ~」

 

 ぶん投げられたらしい。この仕事を本来、誰がやるのかは知らないが俺は頭を垂れながら席に戻る。こういった仕事は嫌いだ。頼まれるのは嫌ではないが。

 

「ちょっと、まだ仕事はあるよ」

 

「仕事って言っちゃったよ、この人。……はいはい、何ですか?」

 

 あ、素が出た。まぁ良いか。出てしまったものは仕方ない。

俺は書類を自分の机に置いた後、山吹先生のところへ戻る。

そして指示を貰った。

 

「今後の進行は任せたっ! 私はあっちに行く」

 

 そう言って山吹先生は立ち上がり、俺の席に座った。そして手を挙げる。

教壇の上に1人残された俺は、どうして良いのか分からない。そんな俺に向かって、手を挙げてアピールする。これは当てて欲しいということなのだろうか。

 

「はい。山吹先生」

 

「はーい。早く進行してくださーい」

 

 イラッと来たが、俺は進行をぎこちなく進めることにした。

 

「それでは、これからクラス委員を決めていきます」

 

 クラス委員を決めるのは案外早く終わった。というか、ものの10分足らずで終わったのだ。そして35分程時間が余っている。この時間、俺が教壇から降りることはなかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二話 蓮視点

今回は私suryu-の蓮視点にございます。今回もお楽しみくださいませ。


セシリア・オルコットの決闘宣言により教室が一時騒乱となったその少し後。放課後にて蓮は机にぐったりと倒れ伏していた。

 

「さ、流石に女子高恐るべし……」

 

「俺もそう思ったぞ……」

 

隣には織斑一夏。こちらもやはりぐでっとしている。やはりというべきか、二人は貴重な男子な為に質問攻めという事象。仕方ないよね。と蓮は割り切ることにして、取り敢えずは。といった形で机から起き上がる。

すると、そのタイミングで教室の扉から山田真耶というあの巨乳で童顔な翡翠色の髪をした女性の先生が現れた。

はっきりいって蓮の好みにぴったりなこの女性だが、今はその事を頭の片隅に追いやりつつ、蓮は彼女に問いかけをしようと思った時に、真耶はにこやかに笑った。

 

「金澄君。織斑君。お二人の部屋が決まりました!」

 

「……えっ?」

 

「あ、漸くですか。荷物をフロントに預けたままなんですよね」

 

一夏。彼は何事かと分かっていない様子で驚きを見せているのだが、蓮は対照的に落ち着き払っている。どうやら、事前に情報があるかないかがここではっきりしたのかもしれない。と、いうのも。

 

「先生、俺は一週間自宅からって聞いたんですけど!?」

 

「あれ、一夏は何も聞いてなかったの? ほら、政府のお偉いさんが僕達を守る為に早めたってこと」

 

「なにそれ初耳なんだが。というか蓮は知ってたのかよ!」

 

この様に会話から察する事が出来るのだが、一夏はまだブリュンヒルデという後ろ盾があるからなのか一週間は自宅通学と聞かされていた。のだが、そんなものなどありはしない。という一般人の蓮は前もって通告されていた為に、寮で暮らすための用意をしている。

この事から一夏は盛大に混乱するハメになるのだがそんなことはお構い無しなのか天然で気づいてないのか。真耶は鍵を二人の前に出す。

 

「はい、織斑君はこっちの1025室ですよ。金澄君は1016室です。二人共、女の子と同じ部屋ですから気をつけて下さいね。出来るだけ早く部屋割りを考えますから」

 

「……マジで?」

 

真耶が申し訳無さそうにしながらする説明に、一夏は驚きの一言をこぼす。そんな彼に本当に気付いていないのかは分からないが真耶は説明を続ける。

 

「あと、大浴場があるんですが、今はお二人は使えないので自室のシャワーで済ませてくださいね」

 

「え、なんでだ?」

 

だが、その説明の意図すら分からない鈍感が居るためか蓮は苦笑いを隠すことは出来なくなった。正直言ってこれは酷いと感じ始めた一歩だったりする。

 

「阿呆かな一夏。女の子と入るの?」

 

「れ、蓮!? ち、ちが……」

 

「そ、そんな!? 一夏君は女の子と……」

 

蓮がツッコミをすると上手い具合に一夏は否定しようとする。だがそれを遮り真耶が顔を赤くしてあたふたとする。蓮は少しながらこの弄りを楽しく思ってしまった。

 

「今女の子と入るのを否定しようとしたけどまさかホモだったりするの?」

 

「おい、蓮。楽しんでないか!?」

 

「そ、そんな!? で、でも先生はそうであろうと生徒ですから……」

 

「……お前達、何をやっている」

 

そんな漫才をしていると、どこからか現れたブリュンヒルデこと織斑千冬が現れる。無論、呆れた顔で。というか、この状況を呆れずに見るのは今ここに居ない他の高校生くらいでなかろうか。いや、実際この学校の生徒である彼彼女等は高校生なのだが。

ただ、一夏にとってはこの事態から抜け出す好機である事から思った事を千冬に問いかける事にした。

 

「千冬姉! 俺の荷物とかは何処に!?」

 

「学校では、織斑先生だ。衣服と携帯だけ……と言いたい所だったがな、五反田と出くわしてゲーム等も持ってきた。有難く思え」

 

「ありがとう! ……弾、ナイス」

 

どうやら荷物等は千冬が持ってきたようで、一夏の安堵する姿に少しばかり弄りが足りないな。と感じてしまった蓮は内心で苦笑いしてしまう。ただ、そんな暇もないので提案をする事にした。

 

「取り敢えず、寮に行こうか」

 

「あ、そうだな。蓮」

 

「あ……そ、そうでしたね。長く引き留めてごめんなさい……あっ、でも金澄君。……いえ、蓮君は残って下さい」

 

一夏は快く乗ってこれで漸く寮に入れると思った矢先、真耶は思いがけない言葉を蓮にかける。どうしたものだろうかと考える隙に「蓮は話があるみたいだから俺は行くぜ!」と一夏はこの場から去ってしまう。そして先程場を収めた千冬も頷いた。

 

「これは私が関わるべき話ではないからな。取り敢えず、山田君。今はゆっくり話すと良い。今思い出せなかろうとな」

 

「……え?」

 

千冬の言葉には流石の蓮でも驚きを覚えた。真耶は自分に何か関わっているのかという事で狼狽えるのを隠すことは不可能だった。だが、そんな事はお構い無しに千冬は去っていく。結果、二人きりの空間が出来上がってしまった。

 

「……やっぱり髪が半分白くなってるけど……優しげな目や、かっこいい所。それに少しばかり達観した雰囲気を纏っているところは変わってませんね。蓮君」

 

「や、山田先生……?」

 

いつの間にか近づかれまじまじと見られているために、蓮は顔を少しばかり朱に染めると真耶が「すいません」と苦笑いすれば漸く顔を離した。

 

「覚えていませんか? 私、近所に住んでいたんですよ。真耶さんって呼んでくれていたのを私は覚えてますから」

 

「……ゑ!?」

 

「あ、あれ。覚えてませんか?」

 

蓮は記憶を辿るもそれらしき人物を、思い出せずにいた。というよりかは、欠損部分があってそれにより思い出せずにいるのではないかと思考する。

ともあれ。やはり彼女の事を思い出せない事から少し悩んだ後で、正直に話す事にした。

 

「……すいません。山田先生。実は色々あって昔の記憶に欠損が有るんです。親友の紅位しか昔の記憶は……」

 

「……そう、でしたか。やっぱりまだ引き摺っているんですね、色々と」

 

その事を受け入れた真耶は少しばかり遠い目をした後に、優しく蓮を撫でる。急な事で蓮は「うわっ!?」と素っ頓狂な声を出すと真耶は優しげな笑顔を見せていた。

 

「懐かしいですね……こうしていると昔を思い出します」

 

「あ、あの……先生?」

 

「ダメです。真耶さんって呼んで下さい。思い出せるかもしれませんから」

 

撫で続けられる蓮は少しばかり恥ずかしそうにするも、真耶は撫でることを止めはしない。むしろ、これは満足するまで止めないのではなかろうかということを蓮は悟った。故に決意する。

 

「……や、さん。」

 

「い、今なんて?」

 

「真耶……さん」

 

「……蓮君!」

 

だが、現実は無常である。優しく抱きしめられて結局は抜け出せなくなってしまう。真耶のその大きな大きなたわわに実った果実は蓮に押し付けられ、柔らかさを否が応でも堪能してしまう。心地よいと思ったのは悪くない。と、現実逃避をする事にした。

 

 

 

程なくして。

 

 

 

「ふふ、久々の蓮君でした」

 

「……頑張った。僕は耐えた」

 

たわわな果実の精神的攻撃から耐え抜いたかと思えば、ゆっくりと息を整える。以前もしかしたらこんな事がらあったのかもしれないなぁ。と、記憶の欠損が少しばかり埋まった気がした。

ともあれ、次は自分は寮に行かなければならないと思考を回した。というか、そのように考えれば今は忘れられるのだろうと信じて。

 

「そ、それじゃあ真耶さん。寮に僕は行くので」

 

「はい。分かりました……あっ、何かあったら私の部屋に来ていいですよ! 一緒にお風呂に入った仲でもありますから!」

 

「今必要でしたかねその情報!?」

 

過去の自分は何をやっていたんだ。と小一時間程問い詰めたかったが、こればかりはどうにもならないという結論に無理矢理至らせて、その事を考えるのはやめる。寮に向かおうそうしよう。とする。

そんな時、真耶は蓮の事を優しく撫でる。突然の事にどうしたのだろうかと思いつつ振り向けば、彼女は暖かい笑みを浮かべていた。

 

「蓮君。これから辛い事も有るかもしれないけれど、頑張ろうね」

 

「あ……うん」

 

「ふふ、それじゃあ寮の人と仲良くね」

 

久しぶりに感じたこの暖かな感情に、蓮は有り難みを感じつつも今度から少しばかり甘えてしまいそうだな。と暖かさに身を寄せる事を今の時点で悟る。だが、悪い気分では無かった。「ありがとう」と一言告げれば、照れくささを隠す為に寮へと走る。

 

「……久々の会話はどうだったか?」

 

「あ、先輩……ええ、やっぱり蓮君は蓮君でした」

 

ゆっくりと影から現れたのは、千冬だった。真耶に簡単な問いかけをすると、真耶も懐かしそうな顔で返す。少しだけ昔を考えてしまった千冬は、遠い目をした後に現状を話す事にした。

 

「そうか。……既に企業は目をつけた。不知火鳳社という会社が蓮の能力を買ったようだ」

 

「最近第四世代を開発したあの……大丈夫なんですか? 蓮君は高い空間把握能力とマルチタスク。イメージの強さがありますし、男性です。被検体なんて考えていたら……」

 

美味しい話には裏がある。だからこそ真耶は心配を隠せない。だが、千冬はそんな真耶を安心させるためにも彼女らしく笑った。

 

「なに、私が居るから悪いようにはさせん。彼は私の生徒である。無論彼の親友にも手は出させんさ」

 

「……わかりました」

 

そんな言葉を受けたからか多少安堵した真耶は、蓮が走り去った方向をじっと見つめていた。

 

 

 

「えっと、ここが寮か……流石にこの学園。なんでも規格外だな」

 

寮に着いたはいいものの、流石の大きさには蓮も驚いた。これ程の大きさがあるなんて普通では考える事は出来ない。だが、何時までも黙って見つめているわけにはいかないからには、自分の部屋へと進むため、中へと入る。

 

「えっと、1016だよね……」

 

内装はホテルのように豪華なものであるが程よい感じにシックなもので居心地がいい。これなら部屋には期待出来ると少しばかり楽しみながら、自分の部屋の前へと着いた。そして、そのドキドキを胸に、彼は部屋の鍵を開けて戸を開く。

 

「あ、ルームメイトだね~。私は布仏ほん…ね……」

 

「……うぇい?」

 

そこにバスタオルを巻いたほぼ裸の美少女が居るということは思いもよらなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話 紅視点

今回はしゅーがく氏の書く紅視点です。それでは今回もお楽しみください!


1・2限は授業には割り当てられずに自己紹介やらになっていた様だ。他の時限はちゃんと授業を行う。

ホログラムで表示される黒板に、指示棒を使いながら授業を行うのは山吹先生だ。授業内容はIS。歴史やら何やら云々かんぬんである。面倒なので省略。

俺は事前に配布された真新しい教科書を開きつつ、ノートに板書や要点を書き取っていた。

内容に関しては、辞書並みに分厚い入学前必読本を勉強していれば問題ないものだった。だがその必読本が厄介だった。

専門書であることは分かっていて覚悟を決めていたが、それでもうんざりする様なものだった。辞書片手でないと読めない。そんな内容を1ヶ月で意味まで理解して読破しなければいけなかったのだ。

 

「……ということで、皆も知っている内容を復習したけど、質問はあるかな?」

 

山吹先生はそんなことを全体に訊いた。ここで質問が出ればそれはあの必読本にない内容か、あったものを発展させたものだろう。

 

「ISと一心同体ということは、操縦者とISは彼氏彼女的な関係なんですかー?」

 

「キャー! いいなぁいいなぁ!!」

 

「彼氏持ち許すまじ」

 

これは……俺もよく知らないが、女子校ノリという奴だろうか。

 

「いいよねぇ彼氏持ち! 私も欲しいッ!!」

 

クラスメイトの盛り上がりに、山吹先生は悪ノリしていく。そんな中、空気を読めてないのは俺は勿論、もう1人いる。

 アンネリーセ・デ・フェルメール。

オランダの代表候補生、らしい。なんだか胡散臭い。

その理由はとても単純だった。肌の色や髪色では”かなり”目立っているが、雰囲気がそれをも跳ね返す薄さを持っている。

というよりも、本当に専用機を持っているのだろうか、という疑問さえ浮かんでくるのだ。

 とまぁ、こんな感じだが、この空気を読めていないのは彼女も同じだ。

ノリについていけれてないのだろう。となると、することは一つ。

 

「あ、こらそこ! 寝るなっ!」

 

 顔を伏せるのだ。ノリについていけないし、俺に寝て欲しくなくばちゃんと授業をして貰いたいものだ。

俺は顔を伏せたまま、意思を主張する。

 

「俺には女子校的なノリが分かりません。誰か助けてッ!!」

 

 なんだか、『そういえば……』みたいな空気が流れている。皆、どうやら俺の存在を忘れていたらしい。そりゃ、高校生になったから彼氏の1人くらい作りたいだろうに。

……まぁ、頑張ってくれ。

 シーンとまではいかないものの、さっきまでの大騒ぎとは違い、静かになった部屋に突然鈍い音が響く。

ゴンッとなった音源の方向に、皆が視線を集中する。もちろん、俺も顔を上げてその音源の方向を見た。

 

「あう……痛いっ……」

 

どうやらフェルメールさんが、机に90度の垂直ヘッドスライディングをかましたらしい。

額に手をあてて絶賛悶絶中。

 

「ふ、フェルメールちゃん? どうした?」

 

「い、いやぁ、私も女子校? の、ノリというのが分かりませんので……」

 

つまり、女子校的なノリが分からなかった俺の行動を真似たということらしい。

 

「な、なるほど……。大丈夫?」

 

「平気ですっ……」

 

 そう言って顔を上げたフェルメールは、額から手をどかしてそのままノートに手を添えた。何もなかったかのように振る舞っているが、フェルメールの前のクラスメイトの様子がおかしい。

 

「ぷっ……ぷふふっ! フェルメールさんっ! 額がっ!! 額がぁぁぁ!!」

 

 と言ってからすぐ、そのクラスメイトは笑いだした。

何があったかは分からないが、多分額になにかあるのだろう。その笑いを聞いた、他の前方のクラスメイトもフェルメールの顔を見て笑い出す。中には心配しているのもいたが、五分五分だろう。

 

「まぁ、若いからすぐ治るよ! ……チッ」

 

 うわ、今この人舌打ちしたよ。

山吹先生は舌打ちをした後、すぐに表情を変える。

 

「はい、じゃあ授業に戻りまーす」

 

と言ったものの、残念である。

そのタイミングでチャイムが鳴ってしまったのだ。

 

「な、ん……だとっ?!」

 

「はーい、きりーつ。礼っ!!」

 

 そんな山吹先生を放置し、俺はクラス委員の仕事でもある授業の開始と終了の挨拶を強引にやってやった。

 

「ちょ……まぁいいか。じゃあねー、皆ー。次の授業は私じゃないから、代わりの先生に失礼がないようにねー」

 

なんというか、やっぱり適当な先生なのだろうか。

そんな捨て台詞を置いて、山吹先生は教室から出ていったのだった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 次の授業は一般科目。一般科目は一般科目だ。何らその辺の高校生とやっていることは変わりないだろう。強いて言えば、難しいことくらいだ。

 そんな4限は普通に進んでいき、昼休憩になる。

昼休憩とは言うが、実際はこれで今日の授業は終わり。これからは自由時間。

 全寮制のIS学園に下校の文字はない。これから夕食までの時間は、各々好きなように時間を使う。だが、今日に限ってそれはなかった。

入学当日ということもあり、部活動が新入生の勧誘を行うのだ。その辺のシステムはよく知らないが、先ほど部活動紹介が行われた。各部活動の活動内容を口頭もしくは実演して勧誘活動を行う。もちろん、手元には生徒会が制作したパンフレットも配布されている。

それで今は、気になる部活動を見学に行ったり、興味が無ければ自室に戻っても良い時間なのだ。

 

「部活動かぁ……」

 

 教室に一旦戻り、荷物を鞄に入れながらそんなことを呟く。

 

「天色くんは部活決めた?」

 

 隣の席の女の子がそれとなく話しかけてくる。

 

「うーん、変なのじゃなければ良いんだよなぁ」

 

「そうなんだぁ。……去年までは何をしていたの? 自己紹介の時にはそういうの話さなかったし」

 

 隣の席の女の子は片付け終わった鞄を机に置き、そのまま椅子に座ってこっちを向く。

俺も片付けが終わっていたので、そっちの方を向いた。

 

「色々。運動部も文化部もやってた」

 

「へー。例えばどんな?」

 

 自然と話が進んでいく。なんだかこの人、人当たりが良いな。

名前、なんて言ってたっけ。

 

「バスケとか、柔道」

 

「文化部は?」

 

「一般的にありがちな文化部は放送部と家庭科部以外はだいたい」

 

「へぇー。いっぱい兼部できたんだぁ」

 

「ん。年毎に部活変えてた。俺自身は別に良かったんだけど、他の部員同士で揉めたりとか、空気が悪くなって居辛くなったから」

 

 思い出した。名前は確か垣谷 実(かきや みのり)さんだったかな。

 

「垣谷さんは?」

 

「私? 私はライフル部」

 

「は?」

 

 何それ。怖っ。こっわ。

 

「ライフルで撃っちゃうぞー!」

 

 そう言いながら、ライフルを構えるようなポーズを取る。

そんなのに乗ってみたりもする訳だ。両手を挙げて降参ポーズをする。

 

「ライフル部とは言うけど、実弾は撃たないよ? もちろん空砲も。使うのはトリガーを引いたら赤外線レーザーが照射されるおもちゃ。全然危険はないよ」

 

「そ、そうなんだ」

 

「うん。でも、凄い重いよ。それに集中力とか体力とか居るし、もう大変」

 

 そう言って、ライフル部秘話みたいなのを話してくれた。

ライフルを持って走ったり、『ライフルは己のつがいと思えっ!』と言われて合宿中にライフルと寝たり、『10発真ん中に当てなければ帰れません』をしたり……。

聞いててとても新鮮な話だった。

 

「IS学園にもライフル部はあるみたいだから、そっちに入部しようかなぁって思ってる。天色くんもどう?」

 

「うーん。新しいのを開拓するのも良いなぁ」

 

「でしょ? それにIS学園のライフル部が使ってるライフルはとっても良いやつだし、実弾射撃もやらせてもらえるみたいだよ?」

 

「実弾……。男としてはロマンがあって良いが、それってもはや軍隊では?」

 

「さぁ? でも、良いと思わない?」

 

「考えてみる。IS学園って思いの外、色んな部活があるから」

 

「それもそうだねぇ。まぁ、考えてみてよ。じゃあ私はライフル部に行ってくるから! また明日ねー!!」

 

 そう言って垣谷さんは教室を出ていってしまった。

 なんだか急に静かになって寂しく思うが、俺もそろそろ廊下に出よう。教室もほとんど人は残ってないしな。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 ぶらぶらと歩いているが、無茶苦茶話しかけられる。

 

「陸上部とかどう? 入らない?」

 

「ボルダリングとか興味ない?」

 

「アーチェリーとか面白いですよ。やっていきますか?」

 

「文芸部、どうですか? 読み書き両方やってますよ?」

 

「戦術研究部……。IS戦闘における有効な攻撃方法を、考えてる……」

 

「ボランティア部だよ! だいたい掃除してるかな?」

 

 なんというか、勧誘が激しい。俺の気の所為ではないはずだ。

だって俺の周りにだけこうして上級生が集まっているんだ。どうしてだよ。他にもそうなりそうな奴に検討はあるが、そっちに是非行って欲しいものだ。

 

「囲まれても困ります、先輩方」

 

 そう言いつつ、内心移動できずに少しイラッとしていた。

ここまで押しが強いと、悪質なセールスのように思えて仕方ないのだ。おそらく彼女たちにその自覚はないだろうが。

 まぁ、こうやってこのまま寮まで行っても仕方ないので、俺はあることをする。

何かを思い出したかのように立ち止まり、少し黙って遠いところを見る。もちろん演技。

 

「どうしたの?」

 

何故止まったか分からない、周りの勧誘組を無視して行動を開始。

 

「あ」

 

と一言言って、そのまま走り出す。

 

「ちょっ!!」

 

「ま、待てー!!」

 

待てと言われて待つ奴はどうかしているっ! 俺はそのまま全力疾走し、IS学園の中を走り回る。ある程度撒けたら、そのまま寮へと向かった。

何処かに寄り道しようものなら、さっきの繰り返しだからな。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 寮に到着し、俺は割り当てられた私室へと入る。既に荷持は運び込まれているので、特に何かしなければならないことはない。

強いて言えば、荷解きをするくらいだろう。そんなもの、1時間くらいあれば十分だろうな。

 それに山吹先生からは『寮室はね、一応2人部屋ではあるけど天色くんだけだからー。寮で1人部屋って贅沢だなぁ! 私と交換しない?』とか言っていたから、1人なんだろうな。俺はてっきり蓮か織斑 一夏と一緒になるか、全員押し込められるかのどっちかだと思っていたんだが、まぁ1人は至高だろう。自由に過ごせる。気を使わなくても良いしな。

蓮だったら気を使わないが。

 

「さてさて、入ってとっとと荷解きをー」

 

 そんなことを口ずさみながら、俺はカードキーを刺して部屋に入る。

部屋は共通と聞いているが、他の部屋もこうなっていると考えると凄いなIS学園。どれだけ金あるんだよ。

 それはともかくとして、部屋の片隅に俺の荷が鎮座している。ダンボール2つ分だ。

本やら漫画やらは置いてきた。衣類とお菓子、ゲーム等などが入っている。他は別にこっちで買えば良いだろうし。文房具とかな。

 

「ビリっと(封を)破いてタンスにシュート!!」

 

 とか言いつつ、投げる訳ではない。ちゃんと持って入れに行く。雑にも入れない。

まぁ、その辺はしっかりしておかないとな。寮生活とはいえ、一応一人暮らしに該当する訳だし。

 一通り荷解きを終え、すぐに使うものだけを自習用テーブルと思われるところに置いておき、鞄もついでにそこに置いておく。

今日復習する必要のあるものはない。なら、別に今から勉強する必要もないだろう。そう思い、俺はそのままベッドに転がった。

 ふんわりとしたマットレスに一抹の安心感と共に、掛け布団の柔らかさに幸せになりつつも、ある違和感を持つ。

俺の飛び込んだ布団、なんだか温かいのだ。

そして耳を澄ますと、隣の部屋から物音がしている。隣の部屋というと、洗面所。そして浴室。何か居るのか、と思いつつも俺は『どうせ気の所為』だとか誤魔化す。幽霊とかだったら嫌だし。

 とか考えていると、その物音は気にしていなくても聞こえてくる。

そして遂にそれは確信へと変わり、その部屋に誰かがいることを直感で感じ取った。

俺は寝転がっていたベッドに腰掛け、その部屋の出入り口を睨む。そうすると、タイミングを見計らったように扉が開かれた。俺が開いた訳ではない。

 

「ふんふふ~ん。はぁ~、温まったなぁー」

 

 タオルで髪を梳かしながら、こちらに気づかないそれは歩いてくる。

下着姿で細くて白い四肢が湯気を纏って火照っている。なんというか色っぽい。そして梳かしていたタオルを取ったその時、俺と目があう。

 

「あ”っ」

 

「ん”っ?!!」

 

 とっさに逃げれば良かったのに、俺は逃げなかった。馬鹿なのか。馬鹿だな。

 タオルを地面に落とした下着姿の少女に、俺は一言。

 

「顔が、赤いぞ……」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三話 蓮視点

今回は、私suryu-の蓮視点となります。よしなに頼みます!


IS学園。女だらけの園で、日々少女達が夢を見るため切磋琢磨している場所。そしてその寮はやはり男子等は居るわけがない。

ただし、今年度は例外がある。IS適正のある男子が三人も発見されたのだ。それは日本という国に大層な利益を齎すというのはまた別な話だが、今その男子のうち一人は綺麗な土下座をしていた。

 

「う、ぅう……どうしようかな~。乙女の柔肌を見られちゃった~……」

 

「誠にすいませんでした」

 

どうしてこうなったのか。自分はただ部屋に入ったら、目の前に裸に近い美少女が居たという事態は今まで経験した覚えはないはずだった。多分。きっと恐らくMaybe。と当本人は考える。

ともあれ、こんな状況を打破すべく彼の親友である天色紅。もう一人の男性適正者にメールを送ることにする。早速送ってみた。すると、だ。

 

 

 

【件名なし】

 

[そっちどう?]

 

【Re:紅】

 

[土下座中]

 

【RE.Re】

 

[お前もか!]

 

 

 

助けを求めようとしたら、親友すらも同じ状況である事にどうしようかこれ。と頭を悩ませる。だがしかし具体的な解決方法が浮かびすらしない。遠くの部屋で扉が壊れる音がするが、そんな事を気にする余裕は無かった。

兎にも角にも現状打破を目論んでいると、いきなり部屋の扉が開かれる。何事かと蓮が振り向けば、そこには一夏が居た。

 

「蓮、助けてくれっ! 箒が!」

 

いきなり飛び込んできたかと思えばそんな事を言い放つ一夏に何事かと思えば、答えはすぐに分かった。

 

「そこになおれ、一夏!」

 

「うぉっ!?」

 

木刀を持った箒が入ってきたかと思えば木刀を振り下ろす。一夏はそれを避けるが、その先に居たのは蓮で……

 

「ゑ?」

 

「れんれん!?」

 

木刀が脳天にクリーンヒットするという事態になってしまうのは、仕方なかったのだろう。蓮は意識がゆっくりと途切れて……

 

 

 

 

「ダディャ-ナザン、ナズェミテルンディス! ……はっ!?」

 

「やった! れんれんが起きた!」

 

「蓮君大丈夫!? 心配してたんですからね!」

 

「大丈夫か、蓮! 箒のあれが当たったろ!」

 

蓮が目を覚ませばベッドの上で一体何があったんだろうかと考えると、そういえば一夏の後ろから現れた箒に木刀で殴られたのだ。と思い出す。

というか何があったら木刀で殴られるんだとか、思う事は色々あるが今気にしている場合ではないな。と理解した上で、取り敢えずは周りを安心させるためにも起き上がる。

 

「れんれん、大丈夫なの!? 気絶しちゃってたけど!」

 

「蓮君はいくら丈夫だからって心配なんですよ!」

 

「流石の俺でもあれはヤバイと思ったぞ……本当に大丈夫か?」

 

そこにいる三人は三者三様の心配を向けていて、当事者の篠ノ之箒は遠目から申し訳なさそうに蓮を見ていた。

 

「取り敢えず大丈夫。頭もへこんでないしこれ位の衝撃は慣れてるからさ」

 

「そういう問題じゃないですよ! 蓮君はすぐに無理するんですから!」

 

「れんれんが気絶したからすっごく心配したんだよ~!」

 

「そうだぜ。千冬姉が見てるのを許してくれた位だからな。何せ三時間は気絶してたぞ」

 

蓮は三人の言葉からそれなりに自分が気絶していたのかと理解すると、確かにそれは心配されるだろうな。と内心で苦笑いする。そして遠目から見ている箒を見るや彼は笑った。

 

「まああれだよ、一応大事はないからさ。安心してね」

 

「な、なっ!?」

 

「ほら、この通りだから部屋に戻っていいよ」

 

蓮は明るく箒に無事だと述べる、その意図は安堵して部屋に戻っても大丈夫。という事を優しく伝えるというものだった。

その姿を見た真耶は、切なさを覚えていた。どんな事があろうと、蓮は蓮なのだ。頭に浮かぶその言葉。『そう、あの時も……』

真耶が一瞬暗い顔をしているのを蓮は見逃さなかった。だが、ここで追求してこの状況を何時までも続けてはならない。箒がこのままでは罪悪感を覚えると蓮は考えれば、弁を使うのは当たり前だった。

 

「ほら、取り敢えず僕は怒ってないからさ。大丈夫」

 

「……わ、わかった。すまない」

 

「まあ、今度から気をつけてね? 僕じゃなければ死んじゃうかもしれないから」

 

「っ……あ、あぁ」

 

箒をとにかく納得させようと蓮がまくしたてる。それにより少なくともこの場を納得するしかなく、箒は目を伏せながら部屋を出る。

これは少しばかり失敗したかもしれないな。と蓮は内心で考えるが、その次に自分の周りにいる三人も安心させねばと三人に向き直る。

 

「蓮君、良いんですか? だって貴方は何もしてないのにいきなり殴られて……」

 

「れんれんも下手したら大怪我しちゃうかもしれなかったんだよ~……?」

 

「もし怪我してたらどうすんだよ!」

 

三人はやはりかなり心配がある為か、それはすごい剣幕で蓮に詰め寄る。どうやって皆を説得すべきかと思うと、その時救世主らしき人物が現れた。

 

「お前達、程々にしておけ。金澄も困るぞ。それに明日が有るだろう」

 

「あ、織斑先生……ですが!」

 

「そうだよ、織斑先生!」

 

「千冬姉、怪我は不味いだろ!」

 

三人は何処からか現れた千冬に抗議をしようとするも、千冬は手で制す。何故かと真耶が問いかけようとした時に、千冬は溜息を吐いた。

 

「……金澄は彼奴の為も思ったからこそ彼処で留めたんだ。お前達も少しは考えろ。金澄の意思を無視することになるぞ」

 

「……分かりました」

 

「あっ……」

 

「れんれんはしののんを助ける為に~……」

 

千冬の言葉を受けると真耶は渋々と。一夏は気づいたように。そして本音は納得した様子で頷く。それらを見届けた千冬は「よし」と一泊をおく。

 

「さて、今晩は部屋に戻れ。明日の授業があるだろう」

 

「分かりました。織斑先生」

 

「そうだな……じゃあな、蓮!」

 

千冬の鶴の一声により、真耶と一夏は自室に戻ることになる。そして本音と共に部屋に残り蓮は再び寝ようと考えた時に、千冬は少しばかりの諦めか溜息を隠さない。

 

「とんだお人好しだな、お前は」

 

「……別に、手に届く範囲の物は守りたいだけです」

 

「……そうか、明日もきっちり起きろよ」

 

交わした言葉は少ないが、千冬はそれにより蓮がどういう人物かという事を把握する。彼女が感じた達観しているという印象は此処から来ているのだと理解した。

理解したからこそ、今後も自分の生徒として守らなければ。それは千冬の決意であった。

 

 

 

 

翌日。蓮はきっちり目も覚めて朝食をとり、遅刻などもせずにHRに余裕のある時間で参加する。やはりというか昨日の今日だからか、箒は話しかける事がなく気まずそうにしているために、蓮はケアをどうするか考えていた。その最中に、一夏がISを渡されるという事を聞くが、自分には縁遠いと聞き流す。そんな時だった。

 

「金澄、お前も織斑同様専用機を渡されるぞ」

 

「ゑっ?」

 

いきなりの爆弾発言に間の抜けた声を出しては千冬に向き直る。蓮のその様子に、少しは少年らしい所もあるのだな。と親のような表情になったが、すぐにきりっとした真面目な顔にするとディスプレイを表示させた。

 

「専用機の会社説明のついでに授業をするとしよう。不知火鳳社。最近第四世代を作ったという噂をお前達は知っているか?」

 

「はい、知ってます! 三世代の開発を主流にする中で誰もが驚く四世代が出来たって噂に……」

 

「よし、及第点だ。ISの情報自体は秘匿されている為詳しくは話せないが、ビーム兵装という話だ」

 

生徒と千冬の問答には、蓮は違和感を覚える。なんとなく想像はつくのだが、それでも問わずには居られなかった。故に問いかける。

 

「あの、その不知火鳳社と僕の関係って?」

 

すると、千冬はきっちりと蓮を見据えた。

 

「決まっている。お前にその不知火鳳社の第四世代が渡されるからだ」

 

「……ぇぇええええ!?」

 

「凄い。凄いよ! 」

 

「れんれんすごーい!」

 

「……な、なんですって……!?」

 

この事実には蓮どころかクラスの皆が驚く。あのセシリアは憎々しげに蓮を見ているが、蓮はその視線を意識から追い出し気にしないことにした。

そして真耶は蓮の手をとるとにこやかに笑った。

 

「という訳ですから、蓮君は放課後残って下さいね。少し教える事があります」

 

蓮はその魅力的な表情を断る事はなく、蓮は真耶の言葉に頷くと放課後どうなるだろうかと少しばかり胸を踊らせる。後ろから本音が見つめている事には気付かずに。

 

 

そして放課後。

 

 

教室にて、真耶に呼び出された蓮は講義を受けるかのように机に座っていた。そしてその当の真耶は何故か白衣を着ている。何故かとは思ったが、蓮は似合っている事からツッコミをするのはやめた。

 

「それでは蓮君には今から今回送られる専用機の説明をしましょう。アリーナは使えないと思うのでセシリアさん曰く決闘の日までフィッティング出来ないでしょうから、今公開されている情報を教えますね!」

 

「分かりました。先生」

 

蓮の言葉に満足したのか、うんうんと頷く真耶は、ディスプレイに素早く公開されている情報を映し出す。それは黄色や金にも見える機体だった。

 

「近年第三世代へと各社が以降する中、第四世代という異質を作り上げた不知火鳳社のこの機体は、ビームを撃ち出すライフルやビームのサーベルなどを使う事が出来ます。後々届いた時に詳しい説明がありますが……」

 

「な、なんというか綺麗な機体ですね」

 

蓮の感想に、真耶はくすりと笑うと「そうですね」と頷く。そしてディスプレイの表示を閉じると真剣な顔付きになった。蓮も釣られて引き締まる。

 

「蓮君。これから大変な事になるかもしれません。何せ男性操縦者です。けれど、私達が守るので安心して下さいね。先生としても、近所のお姉さんとしていた私でも」

 

「……分かったよ、真耶さん」

 

「……よし。それではこれから一週間後まで、沢山勉強しましょうね!」

 

真耶は蓮の返答に納得すると、一週間後の決闘に向けて意気込む。蓮もサポートは欲しかったために、「勿論です」と強く意志を持って答える。

 

かくしてその一週間で、蓮は様々な訓練をする事になる。その練習や勉強が代表候補性の物とは、蓮はまだ知らなかった。

 

「ふふっ、沢山練習しますよ、蓮君」

 

「まぁ、頑張ってみようかな」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話 紅視点

今回はしゅーがく氏の紅視点です。中々見て頂けていない中、まだ頑張ります。

それではお楽しみください!


 可愛らしい下着姿で立っている少女と、俺との間に変な空気が流れる。

何なんだ、この空気は。今しがた首からタオルが落ちたからそれを拾うべきじゃないですかね、この少女は。

そんなことを考えつつ、俺は目線を反らしていく。

 

「あ、あのさ」

 

「は、はい」

 

「服、着ような」

 

 そう言うと、少女はババッと動き始める。俺は顔を俯かせていたので、状況は全く見えてないが音でなんとなく分かる。

鞄から服を引っ張り出して、洗面所に戻っていったのだ。

 洗面所に入っていったのが音で分かったので、俺は顔を上げる。

 一体どうしたものか。これは不味いことになったようだ。

2人1部屋というのは分かっていた。が、1人部屋だと山吹先生は言っていた。だが、もしミスで2人で1つの部屋だったならば、そこは蓮か織斑 一夏となるのが普通だろうが。どうしてクラスメイトの女子生徒になるんだ。

しかも、相部屋の相手はアレだ。代表候補生。アンネリーセ・デ・フェルメール。

 程なくして、フェルメールは戻ってきた。顔を真赤にしながら。

荷物を持ちながら、俺の前で立ち止まったのを見て俺はベッドから降りる。そして床に正座をした。

 

「え?」

 

そしてそのまま俺は手を添えて、腰から折れるように頭を下げる。

土下座だ。まぁ、不可抗力ではあるが、ここは謝るのが普通だろうからな。

 

「と、取り敢えず謝っておく。ごめんなさい」

 

そんな俺を見て慌てているのは、床しか見てない俺からしても分かることだ。

頭を上げて欲しいというまで、俺は上げるつもりはない。なんだろう。皇帝か何かと謁見でもしているのだろうか。

 

「顔を上げて下さい!」

 

皇帝陛下から顔を上げてもいいとのお言葉を頂いたので、俺は顔を上げた。

フェルメールは少し頬を赤くはしているものの、怒っているようには見えない。どちらかと言うと、恥ずかしがっているように見える。

 

「その、事故だというのは分かっていますので、気にしないで下さいっ」

 

「仰せのままに」

 

「えっ?!」

 

あ。頭の中で考えていた言葉が出てきてしまった。

俺はすぐ後に言葉を言い換える。

 

「なら良かった。本当にごめん」

 

「いいえっ」

 

俺は立ち上がり、自習用の椅子を引き出して腰掛けた。ベッドに腰を掛けても良かったが、そこで話す気にはなれそうになかったからだ。

 話を変える。

取り敢えず、色々と決めなければならないことがあるだろう。風呂の時間や着替えをどうするか。まぁその程度だが、もしフェルメールがそうことにこだわるようなら、俺が下手に出れば良い話だ。

 

「それでさ、どうするよ」

 

「ん? 何が?」

 

 俺は話を切り出した。

 

「残念ながら異性と同室なんだ。色々と決めておいた方が良いだろう?」

 

俺はそう言って、あれこれを決めることを言う。

 

「風呂の時間や着替えをどうするか、とかな。フェルメールが気にするようなら、なんなら俺は廊下に住む。そうなったら荷物だけは置かせてくれないか?」

 

「ろ、廊下ぁ?! そんなことしないですよ!」

 

「はははっ、なら良かった。入学1年目で同学年に凍死者が出たら嫌だもんな」

 

「凍死する前提っ?! そんな薄情な人に見えるのかなぁ?」

 

「見えない」

 

ふざけて言ったところもあるが、だいたいは本音。流石に真冬で暖房がない廊下に寝たら凍死はしなくても、風邪は引くだろうな。

 

「まぁ、そういう訳だ。着替える時は俺が出ていくとか、そういうのを決めよう。決めとかないと後々面倒事になりそうだ」

 

「そう……かな? う~ん。……そう言ってくれるのなら、決めようかな?」

 

「ありがとう」

 

この後、相談をして時間を決めていった。

着替えは俺がベッドのところで着替え、フェルメールは洗面所ですることに。風呂は自由。これを決めるにあたって、あるものを買う必要が出てきた。

洗面所の壁に掛ける『使用中』というような看板。使う時には『使用中』にして、使ってない時は『空き』にしておく。そうすれば、どちらかが入ってる時に入らないで済むだろうということだ。

 一通り決めるのには、そこまで時間は掛からなかった。精々5分が良いところだろう。

ここまで決めたら、あともう1つ決めることがある。ベッドだ。

どちらのベッドを誰が使うのか、それを決める必要がある。

 

「ベッドはどうする? って言っても、さっき洗面所側の方には飛び込んだけど」

 

ん? 何だかフェルメールがまた顔を赤くしてる。これはやらかしてしまったらしい。

俺はすぐにまた謝る。知らなかったとはいえ、気分を害したのなら謝るべきだからな。

 

「重ね重ねごめん!」

 

「い、いいえ……そこで少し寝ていたから……」

 

だからあんなに温かかったのかー!! と内心叫びつつ、俺は顔を上げる。

 

「じ、じゃあ、どうする?」

 

「……私がこっちで、天色くんは窓側に」

 

「そう? 分かった」

 

と言われて、俺は何だか申し訳ない気持ちになりながら、今までそっちに向けてなかった頭を向けた。そこには、ダンボールが3つ程積み上がっていた。

女の子なのに荷物は少ないのな。

 

「あ、まだ荷解きしてなかった……」

 

「え”? 俺、先にタンスに仕舞った。すまん。また」

 

「いいよ。うん」

 

そう言ってくれるのは有り難いのだが、内心でどう思っているかなんて分からない。もしかしたら『っち。男のくせに』とか思われているかもしれない。なにそれ怖い。

 それはともかくとして、フェルメールは立ち上がって、ダンボールを運び始めた。

どうやら荷解きをするみたいだ。本当なら手伝いたいところではあるが、ああいうものは男が触れてはいけないものが入っている気がする。否。絶対に入っている。

だから俺は触れないようにするし、手伝いも自ら言い出さない。頼まれたらやるけどな。

 俺はそのまま、言われた方のベッドに座る。

ベッドとベッドの間にある衝立の向こう側で、フェルメールは荷解きをしている。俺は何をしようかと考え、ポケットに手を入れた。

取り出したのは携帯電話。誰かに連絡でも取ろうかと思ったのだ。別に携帯電話で遊んでも良いだろうが、どうせ連絡の1つや2つ、入っているだろう。

 携帯電話の液晶に電源が入ると、通知がいくつか入っていた。メール受信が3件。SNSの通知が2件。多分SNSは別に何のこともないが、メールは違うだろう。

メールの本文を確認すると、2通はアプリからのメールだ。もう1つは蓮から。内容は『そっちはどう?』ということだけ。

そんなメールの返信に『土下座中』と返しておく。今はしてはいないが。

 俺はそのままフェルメールと話をした後、床に就いた。

真新しい部屋に今日会ったばかりの美少女外国人と同じ部屋に寝るのは、やはり誰でも緊張するものだ。少しドギマギしつつも、やっとのことで寝ることが出来たのは午前2時を過ぎた頃だった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四話 蓮視点

今回は私suryu-の蓮視点です。詰め込んでありますが楽しんでみてくださると幸いです!


IS -インフィニットストラトス-

世界には467個しかコアがない、スポーツとは名ばかりの戦いをする為の兵器と世の有識者は認める女性専用のそれ。その専用機を持つ事は、企業の信用を得るということでありあらゆる地位と名誉が確立されている。

そんな専用機を新たに持つ人物がいる。それも、今まで考えられる事のなかった男性が、だ。彼はその専用機を渡されるということから、何をしているのかと言うと……

 

「ま、真耶さん……あとどれ位走れば……」

 

「一週間で体力をつけますからね。あと一キロは休憩しつつやりますよ! ほら、姿勢も良くして!」

 

「真耶さんが元代表候補性なんて聞いてない!」

 

ひたすら第三アリーナをランニングである。搭乗者となる事が確定した蓮は、一週間後に勝手に決まってしまった決闘とやらに対応する為にひたすら訓練をしているのだ。

指導者は山田真耶教諭。そう。普段天然ドジのこの人が訓練となった途端、そのイメージをぶち壊された蓮は戦慄を覚えていた。

 

「代表候補性って、こんな……練習してるんだね……っ!」

 

ランニング周回の度に重なる披露のためか息は少し絶え絶えになってしまう。だが。筋肉痛や乳酸が溜まりきらない程度の所で真耶が要所要所の休みをいれるために、否が応でも一日目からかなりの体力が着くことが初心者の蓮でも感じられた。

というかランニング周回をいきなり五キロ程もするなんて。と思わなかった訳でもないのだが、流石は元代表候補性。やはりというか匙加減が上手い。そして漸くノルマも終わり、蓮はその気疲れからかアリーナのグラウンドに倒れ伏した。

 

「ゔぁあ……きっつ……」

 

蓮が絞り出した声を聞いて真耶はゆっくりと近寄りながらスポーツドリンクを手渡す。ゆっくりと一滴一滴吸い込むように飲むそれは、ふだん飲む時と違った美味しさがある。染み渡るとはこの事だと実感する蓮に、真耶は優しく微笑みをかける。

 

「はい、お疲れ様です。それじゃあこの後は休憩したら座学ですよ」

 

「いや、寮の門限過ぎますよ!?」

 

「大丈夫です。織斑先生に許可をとりました」

 

「嘘でしょ!?」

 

だが、その微笑みから出てくるのは死刑宣告にも似たソレで。まさかブリュンヒルデ公認だとは思わなかった。と蓮は内心呟くも許可されてしまったものは仕方ない。故に諦める事にした。

だが、そこで気になることが一つ。

 

「そうなると、何処で寝るんですか?」

 

蓮にとってはこれは大きな問題だった。だが、そんな事は気にすることじゃないと真耶は蓮にとっては考えられない一言を放つ。

 

「あ、私の部屋ですよ」

 

「……Pardon?」

 

「私の部屋ですよ。ええ、私の部屋です。大事な事ですから二度言いました!」

 

「……ぇえ!?」

 

蓮は思わず問いかけ直すが、現実は非情(?)である。まさかの年上天然ドジ童顔巨乳美人との同じ部屋なのだ。おまけに蓮は覚えていないが近所の幼馴染みだったと聞いたことからどうしてこのようなことが起きるのか。と数ヶ月程前の自分に問いかけたかった。所謂、これはなんてゲームなのだろうか。と自問する。

ただ、何時までもそんなことを考えているわけにもいかないことからとにかく動こうとした時、真耶の手が蓮の脚に触れられる。

 

「あ、あの。真耶さん?」

 

「ダメですよ。一度ちゃんと冷やしてマッサージしてから動きますよ」

 

「あ、はい……」

 

確かにその指摘はごもっともな理由であるから、蓮は抵抗しなかった。どこからか冷却スプレーを取り出した真耶は、蓮の脚に当てて冷やした後にゆっくりとマッサージを始める。

マッサージを今までに受けた事はない蓮だが、その行為は疲れた身体にとても心地よい事だと感じた。真耶もその様子を表情で察した為に、少しばかり満足気だ。

 

「私、昔からこういう事をしてみたかったんですよね……ほら、恋人とかって、やるみたいですから」

 

「あぁ、それは分かります……僕も一度されたいとは思ってましたから。……まさかその事を知ってた訳じゃないですよね?」

 

「……さぁ、どうでしょう? 蓮君は覚えてないんですよね?」

 

「今の間は何だろう。僕は何をしてたんだ!?」

 

ただ、思いっきり蓮が不安になってしまったことは仕方ないのかもしれない。主に黒歴史についてなのだが。

 

 

 

 

 

「……で、このPICはISが飛ぶ原理でイメージインターフェースと同時作用して頭の指令を感じ取り思った通りの飛び方をする訳です」

 

「なるほど……凄くわかりやすいな」

 

所変わり真耶の部屋に居る蓮は、今度はISについての講座を受けていた。真耶は普段がドジっ娘という点ばかり浮き上がるのだが、この時の真耶はしっかりと教師をしている。

それを裏付けるかのように蓮はすらすらと講座の内容が頭に入ってきた。真耶は教師としても優秀な事がこれによりはっきり分かる。

 

「因みにイメージインターフェースは武装にも直結します。身体部分についている兵装や所謂第三世代の固有武装。単一能力発動にもこれは含まれます」

 

「おお、なるほど……」

 

「因みに飛ぶ時は進みたい方向に円錐を想像しろと書いてはありますが、それ以外に自分が鳥になることなど色々想像して試行錯誤するのが上達の近道ですよ」

 

そして今座学で行っているのは翌日からあるISの基礎訓練の事。真耶の座学は具体的な説明が多い。これは翌日から活かせると早速蓮はノートに纏めた。

そしてふと、時計を見る。時間は夜の十一時程であった。

 

「あ、こんな時間ですね。そろそろ寝ましょうか。蓮君」

 

「分かりました。真耶さん。それじゃあ僕は床で……」

 

そして蓮はこの後どうなるかを察していたために逃げの一手を取ろうとしたのだが、真耶はそれを見逃さなかった。蓮の腕をがっしりとホールドすると、にこやかに笑みを見せる。

 

「ダメですよ。床でなんて疲れが溜まります……一緒に寝ますよ」

 

「……あ、はい」

 

その大きな大きな果実に腕を挟まれては既に抵抗する事は出来ず、蓮は頷く。すると嬉しそうな真耶が、蓮の手を引いてベッドに連れていく。

 

「それじゃあ寝ましょうね。……ふふ、昔を思い出します」

 

「……確かになんだか初めてな気はしません」

 

「! ……ふふ、そうですか、おやすみなさい」

 

「はい。おやすみなさい……」

 

この状況に何らかの既視感を覚え始めていた蓮は頷きで相手に同意すると、ゆっくり目を閉じる。この状況が状況だから、容易には寝る事は出来ないと考えていたのだがそんなことは無かった。

疲労により眠気が夢の世界へと誘うかのようにゆっくり。ゆっくりと浮遊感が蓮の体を包むと、そこで意識は途絶えた。

 

 

■■■

 

 

随分と懐かしい夢を見ていた。緑。いや、翡翠の色をした髪の近所の優しいお姉さんと、一人の少女。そして自身。その懐かしさが心地よく。そして怖くて。けど、隣に感じる暖かさに、その夜怯えることは無かった。

 

 

■■■

 

 

翌日。筋肉痛は幸いにもなく、朝起きて真耶とランニングをこなし、授業もきっちりとって放課後になった頃。またもや第三アリーナへと出向いていた。すると、そこには昨日は見なかった顔がある。

 

「やっほ〜。れんれん」

 

「あれ、布仏さん?」

 

「今回訓練機のラファールを整備してくれるとの事で、私が頼みました」

 

同室となり、蓮が初日にほぼ裸の状態を見てしまった布仏本音がそこには居た。整備なんて出来るのだろうかと蓮は少しばかり引っかかったが、そこは本音自身が笑って教えてくれた。

 

「ふふ〜。これでも私は整備課だからね〜。大船に乗ったつもりで任せてね〜」

 

「それでは蓮君。ラファールに触れてください」

 

これには蓮もなるほどと納得の意を示す。そしてその本音の隣には訓練機のラファールが二機。何故か打鉄もあるが、これから自分と真耶が使うのだなと脳内思考で纏めれば、真耶の指示通りに早速ラファールに触れた。

全国適性検査の時に感じたあのデータが頭に入るような感覚をまた覚えつつも、訓練機のラファールを身に纏う自分に少しばかり違和感を覚える。やはりこれで二度目故に、まだ慣れてないようだ。隣を見ると真耶も既にラファールを纏っていた。その姿は様になっている。

 

「それじゃあ蓮君。まずは歩く事からはじめましょう」

 

「は、はい」

 

自分の足の延長線上であるからか、しっかりとイメージを固めた後に一歩踏み出す。ズシリと音が鳴る。二歩目。これまた、重い音が鳴り響いた。おおよその感覚を掴めた為に次は三歩四歩と続けて歩く。成功だ。

 

「本当に手足に近いんだなぁ……」

 

「そうですね。けど、訓練機ですからまだ専用機と違ってラグはあるかもしれません。ですが、少しだけでも慣れておいた方が損はありません。では、次は走ってみましょう」

 

「はい! ……うぉっ!?」

 

またもや、指示された通りに走ってみる。すると予想外の加速に驚くも、壁には寸前で踏みとどまった。確かにパワードスーツなんだな。と、今更ながらに凄みを感じる。これで訓練機なのだな。と恐れもあるのだが。

 

「ふふ、やっぱり最初は怖いですよね。」

 

「そうですね。いきなり壁に激突するかと思ってました」

 

慣れるのには時間がかからないかもしれないが、蓮は走るだけでもこれなら、飛ぶことは。ましてや戦う事はどれほど大変なのだろうかと想像する。

だが、考えている暇はない。今はこのISという存在に慣れるべきだと真耶の訓練を受けることにした。

 

 

■■■

 

 

ISの訓練にて二日目の事。真耶は今日はライフルを手に持っていた。恐らく、だが武器を扱う事になるのだろう。蓮はそう認識すると、確かにその日を含めなければ残り四日という中で全てを終わらせるには詰めるしかないな。と結論に至り頷く。それ故に武器の把握のために前もって動画を見ておいた。

そんな蓮を見た真耶は、もう理解したのだな。と頭の回転の早さに内心は驚くも、直ぐに何時もの笑みを見せる。

 

「蓮君。今日は出来れば飛行訓練まで出来るようになりたいですが。まずは、その前に武器を扱えるようにしましょう」

 

「分かりました。……あ、今日も布仏さんが整備してくれるんだね」

 

「やっほ〜れんれん。それじゃあ頑張って〜!」

 

今日も本音はラファールのそばに居る。恐らくまた整備をしてくれたのだろうと納得すれば、その助力に蓮は感謝した。

それと同時に、彼はラファールに触り昨日と同じくその身に纏う。やはり、乗った時間が少し長くなったからかISに抵抗がなくなった。訓練機とはいえ感覚に慣れるのは必須と考えていたから、先ずはそれをクリアした事になる。

 

「それでは、武器をイメージして下さい。不知火鳳社が公開している情報にはライフルが有りました。先ずはライフルをイメージして下さい」

 

「分かりました。真耶さん」

 

真耶の具体的な言葉に、蓮はライフルを頭の中に浮かべる。刹那、その手にはライフルが握られていた。

やはり、というかインフィニット・ストラトスという物はイメージにより動くものなんだな。と再認識しつつも、ライフルのロック解除方法を探す。すると真耶が目の前に立った。

 

「ほら、ここをこうするんですよ」

 

「あ、これなんですか……」

 

真耶はライフルのロック解除の手ほどきを蓮にすると、真耶は本音に合図する。本音も分かっていたようで、頷くと、ターゲット……つまり的が射出された。

現れた的を見詰める蓮の肩を、真耶は優しく叩く。そういう意味だ。

 

「それでは蓮君。実際にやってみましょう。発射後弾道予測線の補助等もありますが、兎にも角にもやってみましょう。脇をしっかり閉じてくださいね」

 

「わ、分かりました!」

 

初めて手に持つ銃火器は思ったよりかは重い訳ではなく、これもIS故の特徴なのだろうか。と蓮は考える。

ゆっくりと構えれば、発射後この様に飛ぶであろうという弾道予測線が自分のロックサイトに写り、それを目標が動く中で中心に当てられるように移動先の場所に向きを修正。そして、ターゲット目掛けて引き金を引く。

 

-パァン!-

 

弾けるような大きな音とももに、コンマの差でパリンと的の割る音が聞こえる。だが、着弾点は中心から外れていた。

やはり、動くものという事とあくまでも予測線は補助なのだな。と脳内思考の更新をすれば、気を取り直しもう一度中心に当たるよう移動先を狙う。

二発目。またもや銃声が響けば的は割れる。だが、今度は中心からやや右程に当たる。タイミングが少し遅かったのだ。

 

「難しいな……」

 

「いえ。最初でこれくらい出来たのなら上出来ですよ。ちゃんと当たってますから」

 

「れんれん。落ち込んじゃダメだよ〜」

 

二人は優しく微笑むと、蓮に労いの言葉をかける。二人の存在は蓮にとって有難いものだった。

 

そして一時間程射撃の練習をして漸く中心近くに当たるようになってきた所で、真耶はよし。と頷きまたもや本音に合図してターゲットを仕舞う。

 

「では、ここで今日の本題です。飛んでみましょう。まずは浮く事からです!」

 

「はい!」

 

真耶の言葉を受けて飛ぼうと蓮は意気込む。だが、ふと思った。

 

『飛ぶってなんだ?』

 

そもそも、である。人間が飛ぶという概念はインフィニット・ストラトスを扱う女性はまだしも、一般人。さらに男性である蓮が持ち合わせているわけもなく、明らかに焦っていた。

軽く返事はした。したのだが。そもそもどうやって飛べば良いのかと。というか浮かべるのか。等と、ずっと纏まらない思考を続ける蓮に、真耶は苦笑した。

 

「蓮君。教科書には角錐や円錐って書いてありますけど、何をイメージしてもいいんですよ。例えば鳥からマンガやアニメのヒーローでも。最初は慣れなくても後で無意識になりますから」

 

「……何を、イメージしても」

 

今回ばかりは真耶も完全な具体的な説明はすることが出来ず、少しばかり抽象的な考えを示すもそれでも蓮にはないよりかは幾何かはマシだった。

アニメやマンガは非現実的……いや、言ってしまえばISもそうなのだが、その事に気付かず脳内からその選択肢は排除して考える。答えは出ない。

次に鳥。鳥をイメージするも自分の手は翼ではない。スラスターはあるものの、それは翼とは違うのだ。第一に鳥のような飛行をするのならば、細かいターンなどが出来ないしやはり選択肢から却下する。

思考を切り替えるとその次は戦闘機。だが、戦闘機は走って加速してから飛ぶためにやっぱりというものか、論外だった。先ず、敵がその隙を見逃さない。

あとは、自由落下という選択肢を脳内に浮かべる。そういえば国際的な宇宙飛行士の機関は飛行機を操作せず自由落下させることで無重力空間を人工的に作り出すことが出来たとも聞いたことがある。だが、蓮はそれを生憎体感したことがないし、やはり除外。

 

-結果-

 

「……浮かばない。どうやっても、出てこない」

 

どの案も使えず仕舞いで、十分程考えるも何も浮かばずに項垂れる蓮。そんな蓮に真耶はある方法を思いついた。

 

「蓮君。ちょっと失礼しますよ」

 

「……えっ?」

 

何を考えたか、真耶はいきなり蓮を抱える。かと思えば、いつの間にか空へと飛び上がっておりそこには空という名の絶景が広がっていた。

その景色に見惚れる蓮を、真耶はくすりと笑って見ている。蓮は、感嘆の吐息をもらすと、真耶を見た。

 

「風、気持ちいいですね。真耶さん」

 

何気なく蓮が呟いたその一言は、真耶も感じていることから頷く。そして、ここまで連れてきた理由を実行する事にした。

 

「ふふ、そうですよね。それじゃあいきますよ?」

 

「……ゑ?」

 

真耶の言葉に何か蓮は薄ら寒い感覚を得たために、どういう事か聞きなおそうとしたその時だった。ラファールはいきなり加速を始める!

 

「うぉおおぉお!?」

 

「さぁ、もっと風を感じますよ!」

 

かと思えば今度はバレルロールからインマンメルターン。そして、スプリットSを連続で行うこれはもはや戦闘機並の曲芸飛行だった。

恐怖心はあるもののジェットコースターのような機動を覚えれば楽しく感じる。その時だった。

 

「はい、飛んでください!」

 

「うぇいっ!?」

 

いきなり上空で落とされば機体は急降下を始める。慣性をつけたまま地面へと向かう中、飛べと願うもラファールは飛行する姿を見せない。

そして、地面にぶつかるかと思えば真耶に抱えられて再び上空へ。

 

「ぇ、ぇええ!?」

 

「飛べるまでやりますよ!」

 

また、戦闘機のようなマニューバを繰り返すために少しばかり風を感じ、そして風に乗る事が出来るようになってきた。

 

「うぉおぉおお!」

 

二度目。やはり成功はしない。真耶に抱えられて三度目の空へ。そろそろこの戦闘機のような飛行には少し慣れてきた。先程よりも蓮は風を肌で感じる。風に乗るという感覚が掴めてきた。

 

「さぁ、次行きますよ!」

 

「はい!」

 

三度目。飛ぶことを願いそして風に乗れば目を閉じる。刹那、少しだけ機体は動いた! その感触を感じ取った途端目の前は地面。またもや真耶は蓮を抱えて飛び上がる。

 

「……今、動いた」

 

「ええ、見てましたよ。蓮君」

 

「……次は、いけるかも!」

 

「では、行きますよ!」

 

真耶の声とともに、戦闘機のような飛行が始まる。先程は曲芸と称したものの、戦闘機にとっては基礎技術であるということが本当に末恐ろしいと、この時ばかりは蓮は気づかない。

風を感じるではなく乗るということに切り替えた蓮は、真耶の飛行技術をその身に感じて風の流れに乗ろうと目を閉じ意識を深めれば、極限まで集中してイメージを固める。

 

-そして、その時は来た-

 

「蓮君!」

 

「!」

 

真耶の合図により彼の身体は宙へと投げ出される。蓮は手を広げると、目を閉じたまま背中に翼のある自分を幻視した。そして、その翼をはためかせる!

そのイメージにそったのかラファールのスラスタは細かい微調整をはじめ、蓮のイメージからは誤差はありつつも空へと上昇する。真耶の顔は綻び、蓮は目を開く。

 

「……飛べたッ!」

 

「はい、飛べましたよ!」

 

感動というのはこういう事なのかと、蓮は素直に感じる。スラスターの動きは今は一定となって自分は空にとどまっている事が、嬉しかった。

その蓮の眼前に広がるは広大な空。白い雲も混じりつつ果てが見えないその先へ、蓮は言いようの無い美しさを心に宿す。そしてその空を楽しむために、背中の翼を羽ばたかせる。

 

「……ぉお!」

 

すると思うようにラファールは飛んでくれる。宙返りを意識すると、素直にラファールは応えてくれた。訓練機だとは思えない喜びで、これが専用機になるとどうなるのかとも楽しみをもたらされる。

 

「ふふ、楽しいですか?」

 

「ええ、真耶さん!」

 

「れんれん、やったね〜!」

 

「うん、のほほんさん!」

 

その喜びを共有できる存在がいて、今程感謝した事はないと思う蓮は、その日の訓練は飛び続け、そして楽しそうに笑ったままでいた。

 

 

■■■

 

 

その翌日、である。この数日で慣れたと言っても過言ではないのか、既にお馴染みであるアリーナへと今日も足を向かわせる。

すると、今日は打鉄がそこには置いてある。一体誰が使うのだろうかと思うがいつも通りラファールとともに空へと向かう。すると、思いがけない人物が後から追い抜いてやって来た。

 

「ふむ、飛行もちゃんと出来るようになったのか。流石は山田先生だ。教えが良い」

 

「あ、あはは……」

 

「……はっ?」

 

「どうした、呆けた顔をして」

 

艶のある黒髪。打鉄を纏うは美しき肉体。されど、その肉体は鍛え抜かれたものであり、見るものの目を奪う魅了されるもの。その美しき肉体がしなやかに動けば空気は震える。いや、彼女自身がすでに空気を震わせているのだ。圧倒的な存在感を誇る女性が、そこにはいた。

 

「おり、むら……先生!?」

 

「私がISを使う事が意外そうな顔をしているな……金澄、訓練を手伝うという事だ」

 

その女性とは織斑千冬その人で、世界最強を冠する女性が自分の訓練を手伝う。その事は蓮に衝撃を与えた。

というか、いきなり世界最強と戦うとか初心者に何をさせる気なんだ等と思わなくもないが、きっとこれには千冬なりの思いがあるのだろうという結果に至る。そうでなければ色んな意味で恐れが多いのだ。

 

「織斑先生。それじゃあ……」

 

「ああ、戦闘訓練だ。位置につけ。布仏は何時でも整備出来るように準備しているからな」

 

「は、はい!」

 

対峙するだけでそのプレッシャーに身震いを覚える。が、蓮とて男。戦う前から屈するということは知らなかった。

開始三カウント前。

 

「織斑先生」

 

「なんだ?」

 

二カウント前。

 

「教えてください。世界を」

 

「ふん。小僧が。だが、それでいい」

 

一カウント前。

 

「それではレディー……」

 

「いざ尋常に……」

 

試 合 開 始 !

 

「ゴー!」

 

「勝負!」

 

開始とともに蓮はライフルを出すと即座に弾丸を撃つ。だが、織斑千冬という世界最強はそれをブレードで斬り伏せた。戦闘訓練だというのに千冬の真剣な姿勢は真耶にとって驚きを与える。恐らく、世界を教えてという言葉に触発されたのだろう。

千冬の弾丸を斬り伏せた姿を蓮が見れば驚きしか感じることはないが、千冬は手を抜かない。ブレードを振るえば真空派が斬撃となり斬りかかる!

 

「なっ!」

 

「遅い!」

 

思わず驚きの声を出して回避をした蓮だが、その先に千冬は回り込んだ。訓練機だというのに、とあるテクニックを使った千冬は怒涛の攻めをみせる。まさに世界最強は此処にあった。

 

「っ、なら!」

 

ラファールの武装に何かないかと思えば蓮はナイフを思い出す。そしてそれをライフルに接続するイメージを瞬時に行えば、銃剣となり千冬に一突きをかました。

 

だが。

 

「残念だが、それは残像だ」

 

「!?」

 

目の前に居たはずの千冬は後ろに既に回り込んでいた為に、その突きは空を穿つ。そして、千冬はブレードを軽く振るうと、蓮のシールドエネルギーをゴッソリと持っていった。

 

Shield Energy empty. WIN Chihuyu Orimura!

 

結果。蓮は負けた。圧倒的なその力と実力に翻弄されて、蓮はIS世界の敗北を知ったのだ。

だが、それと同時に胸は高揚を覚えていた。これ程の実力を持っている存在が居るのだ。此処なら嘗て目指したものが手に入るのかもしれない。

その期待がふつふつと高まり闘志は燃え上がる。千冬は何がそれ程蓮を掻き立てるまでの物になっているかは分からないが、それでもその熱き想いに満ちた目を見れば、この少年を育て上げてみよう。そんな気持ちが胸の奥から溢れ出す。故に、其処からの決断は早かった。

 

「どうだ、金澄。これが世界だ。お前はここまで上って来る事が出来るか?」

 

「……織斑先生。僕は訳あって昔から手に届く範囲の物を守れる力が欲しかったんです」

 

千冬の応答に答えた形ではないそれ。だが、千冬はその次に返ってくる言葉を予期していた。きっと、彼はこう言うだろうと。

 

「今見せてもらった世界というビジョンとイメージ。いつかたどり着きたいです。訓練、お願い致します!」

 

「……良いだろう。丁度弟子を取りたかったのでな。お前に叩き込ませてもらう」

 

千冬の何時ものクールな笑みは、この時ばかりは喜色に満ちていた。と後に真耶は語る。

 

かくして、クラス代表候補選までに織斑千冬と金澄蓮。そして山田真耶に布仏本音は訓練を行うのである。

そして、運命の日を迎えるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話 紅視点

今回はしゅーがく氏の紅視点です。こっちの方が先に専用機が出てくるんですよね。
かなり個人的にかっこいいと思うので私はかなり好きです。

それでは、お楽しみください!


 入学の次の日。

起きた部屋の天井に見覚えがないことに少し戸惑ったが、すぐに自分自身が置かれた状況を理解した。

フェルメールも同様に寝起きでボケつつも理解していたみたいだ。ソソクサと昨日決めたことを実行に移す。制服を持って洗面所に入っていった。

俺もそろそろ着替えようかな。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 朝食はフェルメールと摂り、教室に来ていた。

他の生徒たちも集まってきていて、授業開講まで10分くらいだった。席を立って話をしていたりだとか、そういう風に皆それぞれで過ごしている。

俺はというと、自分の席で教科書を見ていた。こういう高校生デビューだったら、友だち作りに力を入れるべきなんだろう。だけど、俺が置かれている状況が状況だ。

能動的に動くのが本来するべきことなんだろうけど、まぁ……この状況だったら数人だけ作って置くだけで十分だろうな。

 俺の近くでは話しかけようとしている女子生徒が数人いたが、どうやら勇気を振り絞ることが出来なかったみたいだった。

俺もそんな様子に気付いていながらも、こちらから話しかけるようなことはしない。

そんなことをしているうちに、HRの時間になっていた。山吹先生が教壇に立っていることだし、HRが開始されるだろう。

 

「はーい、おはようございます」

 

「「「「おはようございます!」」」」

 

「……うん! 初日からの遅刻者はなし!! 良いねぇ!! ってことで、今日はちょーっとばかしお知らせ」

 

そう言って山吹先生は話を開始した。

 

「今回の男性IS操縦者が現れたことで、データ取りも兼ねて専用機が用意されることになりましたっ!! はい拍手っ!!」

 

山吹先生の声に、皆が拍手をする。まぁ、俺もそれに加わって拍手をした。

 

「んで、ウチのクラスの大事な大事な男性IS操縦者である天色 紅くんにも無論、専用機が用意されることになりました。というか既に到着してま~す」

 

 山吹先生は腕を天に突き上げると、そのまま俺に渡される専用機の話をし始めた。

HRの時間があと10分だというのに、ISの話なんてしだしたら1限に食い込んでしまうんじゃないだろうか。そんな風に思っていたが、よく考えてみれば次の時間はゆき担当の時間。

ISの科目のところなのだ。

 

「あ、このまま1限入るから、10分早く終わるね」

 

そう言った山吹先生はホログラムを動かし、俺に渡されるISの話を始めた。

 

「天色くんに支給されるISは国内のISメーカー、イーグレット社製第三世代IS ジェード」

 

ホログラムにおそらく、俺に支給されるISの正面と背面の画像が表示された。

そのISは基本グレーで青いラインの入ったカラーリングをしている。

 

「中・近距離戦用ISだね。前衛タイプの」

 

そんな話をし始めた途端、教室の雰囲気が一変した。

最初は専用機に盛り上がっていたクラスメイトも割りと静かになった。ざわざわというよりも、ひそひそといった感じに変わったのだ。

 

「何だかすっごい細身だよね」

 

「うん。他のISだったらもっと太いもんね」

 

そんな話を待ってましたと言わんばかりに、山吹先生が拾った。

 

「良いところに気がついたねぇ!! 武装に関して喋っちゃうとアレだから、ここでは言わないけど他のところは話しておこうと思うんだ」

 

「……もちろん俺にはその辺の説明はあるんですよね?」

 

「そりゃあねぇ……。てことで、他のところは今教えてあげる」

 

山吹先生は話がこういう風に流れていくことを考えていたんだろう。ホログラムが次に移った。次はジェードの特徴が書かれていたのだ。

 

「この機体の特徴は一般機のような汎用性とかは全くないんだ。だから専用機って呼ばれている訳であるんだけど、その専用機の中でもピーキーな機体」

 

 ホログラムでジェードが拡大されて映され、ある部位へと視点が動いていく。

動いた先は背部とふくらはぎ、足裏。それぞれ拡大されて映された。

 

「そのピーキーにさせた理由がこれ。ジェードには通常のISよりもスラスタの数が多いのが特徴であり、短所でもあるんだよ。スラスタの数だけ高機動であって、その分機体制御がかなり難しいんだ」

 

山吹先生がそこで切った時、クラスメイトの1人が手を上げた。

 

「はい。そこ」

 

「はい。……どうして天色くんに、そのピーキーな機体が支給されることになったんでしょうか?」

 

「簡単に言っちゃうと適正なんだよね。皆も調べてもらっているIS適正で、搭乗機を選んだり出来るのは知っているね? んで、天色くんのIS適正はAランク。そして本人の特性で『一般人やスポーツ選手をも遥かに上回る動体視力』があるの」

 

何やら難しいことを言っていたけど、そういうことらしい。俺にIS適正が発見されてから様々なテストや検査を受けさせられる課程で、そういう自分にある秀でた何かを知ることも出来たのだ。

俺の場合は山吹先生も言った通り『動体視力』。それと俺に支給されるジェードとの相性が良かったのだろうな。

 

「言ってしまえば、高機動をする機体の制御をしやすくなるだけの能力を持ち合わせているということ。だから日本国内のメーカーにある数あるISの中からジェードが選ばれたって訳」

 

 ホログラムの画像が変わり、映像に切り替わった。ちなみに実写映像ではなく、アニメーションだ。

 

「そういう訳で、ジェードの特筆すべき点は『超高機動』なところ。ジェードに高機動格闘戦を挑むのは自殺行為に等しいね。搭乗者の能力値を同等に設定したジェードと打鉄との戦闘シュミレーションでは、打鉄の攻撃は一撃も当たらずに戦闘不能に追い込んでいるんだ」

 

アニメーションが再生され、戦闘がシュミレートされている。

時間にして2分程度だろう。それくらいで戦闘が終了したのだ。

 

「はい。ジェードの説明はおしまいっ! 天色くんは後で武装と固有武装に関して教えるからね、放課後に時間頂戴。わ・た・し・が、手取り足取り教えてあげるからぁ」

 

「はーい」

 

 言い方が気になったが、まぁ教えてくれるのなら良いだろう。

俺はそう思い、返事を返す。

 授業はこのままISの座学に入っていった。

学園に配備されているISの打鉄とラファール・リヴァイブについての講義が始まった。

さっきまでのジェードの話が無かったかのように始まり、少し違和感があったものの、授業内容を分ける意味でもそういう風にしたんだろうということにした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 放課後は相部屋のフェルメールに話しかけた。

遅れて帰ってくることを伝えておくのだ。

 

「フェルメール」

 

「……なぁに?」

 

教室を2周りくらい見渡して、やっと見つけたのだ。自分の席に居たみたいだが、最初は分からなかったぞ。

 

「これから山吹先生のところに行ってきて、専用機の……」

 

「あぁ、朝のやつだね。分かった」

 

途中まで話して分かったのは、授業の内容になっていたからだろう。

というよりも。言いに行かなくても分かっていただろうな、とか考えつつ、俺は職員室に居るであろう山吹先生のところへ向かった。

 職員室の扉をノックし、中に入って山吹先生のところへと歩いていく。

時間的にどうやら会議があるみたいで、他の先生たちは出払っているみたいだ。

 

「おぉ、来たねぇ!!」

 

「先生が呼び出したんですよ?」

 

「うんうん!! 分かっているよ!! じゃあアリーナに行こうか。許可は取ってあるし!!」

 

俺が近づいて話しかけるなり、そういうことになった。

 山吹先生に連れられて、俺は学園内にいくつもあるアリーナの1つ。第4アリーナに来ている。

ピットには布が被せられたISが1機、置かれているだけだった。他には何も置かれていない。入学試験の時の教員との模擬戦闘との時に入った時と変わらない状態だった。

 山吹先生はISに近づき、被せられていた布を取って放り投げる。

 

「これが天色くんの専用機、ジェードだよ」

 

 そこにはISにしてはシルエットが細すぎるデザインをしたグレーを基調としたISが鎮座していた。

1限の時に見た画像とは違い、生はかなりの迫力がある。大きいし、特徴であるスラスタの数も尋常じゃない。そして人が乗り込むところには誰も居なかった。

そこに俺が乗ることになるんだろう。

そんなISを見上げる俺は、声を1つも出すことが出来なかった。その迫力に圧倒されていたのだ。

 

「1限の時に話さなかった武装のことを説明すると。……まぁ、その前にフォーマットとフィッティングをするから」

 

「あ、はい」

 

 俺は言われるがまま、山吹先生の指示に従って動き始める。

ここに来る前に渡されていたISスーツに着替え、脚立を使って搭乗するところに足を滑り込ませる。

ジェードの脚部に足が入り込み、あちこちを冷たい何かが触れていく。腕部に手を入れると、目の前にディスプレイが表示された。

 

〈Format Activate〉

 

〈Format operation start〉

 

どうやらフォーマットが始まったみたいだ。近くで山吹先生がノートPCを弄っている。

多分そこから操作しているんだろう。

 身体を這うように何かが張り付いていく。頭にはヘッドセットのような機械が付けられ、背面から腹部に掛けて、装甲板が覆いかぶさってくる。

そして背中がずっしりと重くなった。きっとバックパックでも量子化されたんだろう。

 

〈Personalize Activate〉

 

〈Personalize operation dawnload〉

 

〈Install completed〉

 

俺の身体情報が読み取られていっているみたいだ。山吹先生の方から手動でやるわけじゃないんだな。

 

〈Fitting Activate〉

 

〈Fitting operation start〉

 

次に調整が開始され、俺の体型に合わせて調整調整が成されていく。

そして最後にディスプレイが移り変わっていく。今まで表示されていた文字だけの状態から、数字やメーターが出てくる。そして中心にまた文字が浮かび上がった。

 

〈Completed〉

 

初期設定が完了したみたいだ。これで動かせるようになっている、と思う。

 ノートPCを操作していた山吹先生がこちらに向き、話しかけてくる。

視点的には見下ろす形ではあるが、気にしてもいないだろう。俺はそのまま話をする。

 

「もう終わったから動いていいよ」

 

「はい」

 

 俺は言われた通り、動き始める。

基本的にISの操縦は基本的な手の動きや歩行に関しては、IS自体が搭乗者の動きに同調して動いている。それ以外の浮遊・飛行・手を使わない武装の使用に関しては、イメージ・インターフェイス及びパッシブ・イナーシャル・キャンセラー(略:PIC)を使って浮いたり飛んだり、武装を使っている。

 IS訓練に関してだが、教本では『初心者は歩行から』というのが通例となっている。

俺は普段と同じように動き始める。足を出して歩行を開始し、ピットの中をぐるぐると歩き回る。特段違和感があるわけでもなく、ISを装着していない状態と生身とでは大差なかった。強いて言えば、目線の位置がかなり高くなったことくらいだろうか。

 いつもの身体よりも腕と足が長く感じるが、それも特に問題があるとは思えない。

ピットの中を歩き回ること数分、山吹先生に声を掛けられる。

 

「どうやら慣れたみたいだねぇ。じゃあ、武装について説明するよ」

 

 やっと本題に入ることが出来る。

と言っても、ここまで到達するのにそこまで時間は使っていない。精々10分くらいだろう。

 

「そのISは朝も話したように、自社製の武器が備わっているの。武器のインベントリを開いてみて」

 

 俺は山吹先生に言われた通りに、ISに武器のインベントリを開くように命令をする。

この命令はイメージ・インターフェイスが作用し、何かを操作することなく目の前のディスプレイに表示される。

 武器のインベントリには『エンジュラス』と『エンジュラス・ショート』、『Mill-20』が文字だけで書かれていた。

試しに『エンジュラス』という武器を量子化してみる。

 

「あ、出しちゃったか……」

 

 そんなことを言われつつも、何もないところから量子化して出したのは長刀だった。正確に言えば太刀だろう。

形状からして西洋の剣とは形状がまるで違う。日本の刀と酷似したその姿だが、長さは異常だった。ISの全長の2/3ほどの長さがあるのだ。

 

「それはジェードの近接戦闘用高周波刀 エンジュラス。その名の如く、刀身が発する高周波で物体を切り裂く太刀だよ」

 

 説明があった通りだが、刀身は特に震えているようには見えない。それに、これ以上の説明はあとであるだろう。

 

「次は今のエンジュラスの刀身を短くしたもの。エンジュラス・ショート。エンジュラスは1振りしかないけど、エンジュラス・ショートは何本も量子化しているから、いくらでも出せるよ」

 

「……あ、本当だ」

 

山吹先生に言われてエンジュラスを量子化し、エンジュラス・ショートを出してみた。

 手に取れたのは1本だけで、他にも一緒に出てきてしまったものは地面へと転がっていく。総数7本。

どれだけ持っているんだろうか……。

 話を聞く限りだと、エンジュラスと同じ特性を持っていることに違いはない。長さも短刀程度だからな。

これだけの量を保有しているということは、ナイフみたいな使い方をするんだろうな。捨てることが出来るという意味もあるような気もする。

 

「次はMill-20。これはIS専用大型マシンガン。ぶっちゃけオートマチックライフルみたいなものだよ。口径は20×121mmで、弾種も選択可能。弾倉には30発の20×121mmが装填出来るから」

 

 そういった説明はディスプレイに表示されないからありがたい。

表示されるのは名前と武器の絵というか図くらいなものだからな。

 

「んまぁ、ライフルって言っちゃったけど、分類的には機関砲。それは人間サイズでもISサイズでも同じだからね」

 

「機関砲……ですか」

 

「うん」

 

 機関砲といわれても、俺はあまりパッとしないな。よく分からないし。

 

「まぁ、使えば分かるから。そんでもって、最後ね。固有武装、ジェード。機体の名前にもなっているその固有武装は、一言で言っちゃえば『ヤバイ』」

 

 多分、固有武装の話を出したということは、最後のことなんだろう。

それにしても『ヤバイ』ってどういうことなんだ。現代日本で『ヤバイ』という単語は、それこそ数え切れないほどの意味と用法を持っているからな。判断し辛い。

 

「本当にぶっちゃけちゃえば、その固有武装は対IS兵装と言って相手のシールドバリアを斬り裂いて、シールドエネルギーを刈り取る……つまり、バリア無効化攻撃が可能なの」

 

「……凄さが分かりません」

 

 IS学園に入学して2日目だし、IS学園に入学するつもりもなかったから、そういった知識は殆ど持ち合わせていなんだ。

一応、入学前に渡されている参考書はやってあるが、それでもやったというだけで、頭に入っているかは定かではない。

 

「シールドバリアで通常の攻撃を受けるんだけど、それすらをも越えてダメージを与える……っていう固有武装なの。拳銃弾で抜けない鉄板をライフル弾で抜くようなものだよ、つまりは」

 

「は、はぁ……」

 

その言い換えでもよく分からなかったが、つまりは攻撃力がかなり高いってことだろう。

 

「あーそうそう、男性IS操縦者全員に専用機が用意されているんだけどね、その中の1つ、白式にも同じような武装が内蔵されていて単一仕様能力としてあるからね」

 

「白式……」

 

「うん。でも気にすることないよ。白式は武装が雪片っていう近接戦闘用武装しかないから。ジェードも近接戦闘用武装だけど、機関砲もあるからねぇ……。それに朝話したと思うけど、機動性はジェードがトップクラス。使いようによっては、色々楽しめるみたいだからね」

 

「そうなんですか」

 

 どうやらこれで専用機の説明は終わったみたいだ。俺はISから降りるために、命令を出す。

専用機は身につけるモノに変えて待機状態にする、ってあった気がする。

 

「戻れっ!! とか言ってみた……うわぁぁぁ!!」

 

試しに口に出してみたら、ISが解除された。そして最後には、俺の首にぶら下がるペンダントへと変わったのだ。

 

「よしっ!! 補習終わりぃーっ!! さぁーて、帰るよー!!」

 

「はーい」

 

 そのまま解散するように山吹先生に言われ、俺は更衣室に向かった。

その際に山吹先生からあるものを渡された。俺の専用機『ジェード』の仕様書だ。後でゆっくり読もう。

 ふと思い出し、もう授業時間じゃないからと、携帯電話の電源を入れるとメールを受信していた。

昨日はすぐに寝たし、寝起きも携帯電話を見ることがなかったからな。

受信箱からメールの内容を確認する。

 

「……昨日の夜、蓮からかぁ」

 

内容はというと『お前もか!』とあった。

 

「なんとも世知辛いなぁ」

 

俺は内容を見て、そう思ったのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

五話 蓮視点

今回は蓮サイド。あのイギリスさんとの戦いですが、戦闘描写は上手くないので大目に見てください。(迫真)

それでは今回もご歓談を!


インフィニット・ストラトスにおいての試合とは。

インフィニット・ストラトスの試合は練習試合から果ては世界大会までもが開かれているのは周知の事実。それを、国家間の代理戦争と捉える存在もいない訳では無い。

なにしろ、最近のインフィニット・ストラトス。略称ISは第三世代へと以降するために各国の技術は目覚しい進歩をしていて威信も問われるものとなっているのだ。

かくして、新たな第三世代を開拓し始める中、日本の企業。不知火鳳社は規格外の第四世代を開発したのである。その機体は同国の新たな男性操縦者に渡されると言う話が世に出回るのは、そう遅くは無かった。

勿論、女性権利団体は反対するもののその反論は「男のような下賎なものが」等と幼稚たるものの為、簡単に棄却されたのはIS学園に在籍する男性操縦者には知らされることは無い事実である。

彼の心労を心配した、山田真耶教諭と織斑千冬教諭が権利団体に圧力を掛けたのは至極当然の事であった。

それと同時にとある噂が広まる。織斑千冬はその男性操縦者を弟子としたという噂。織斑千冬は否定しない為、その事実は確信ではないかと思われるようになる。

そんな最中にも、学園側の動きが止まることはない。今にもクラス代表決定戦という、学園でいうエキシビションマッチのようなものが開かれるという事で学園内の話題はそれ一色となっていた。

 

そう、今日はその当日。なぜこの話が出たのかと言えば、その件の第四世代機がまだ到着していないからなのである。

 

 

 

■■■

 

 

 

「すいません。蓮君……まだ不知火鳳社さんからISが届いていないんです」

 

「良いですよ、真耶さん。先に一夏の方が届いたんですし」

 

現在、アリーナのピットで蓮の側には真耶がついている。不知火鳳社から受理される筈のISが届いていないという事実は真耶に焦燥を与えているからか、真耶は少し落ち着きがない。

対象に、搭乗者となる男性操縦者こと蓮は見事に落ち着き払っていた。逆の立場の二人がこの様に対比していることから、場に居合わせた一夏は少しクスリと笑う。が、問題がある為にすぐに箒へと向き直った。

 

「なあ箒。俺にISの事を教えてくれるんじゃなかったか?」

 

「……」

 

一夏の問いかけに箒は盛大に目を逸らす。一夏は流石に我慢出来なかった。その理由は……

 

「目を逸らすなよ!? 千冬姉が少しでも教えてくれなきゃ完全に致命的だったんだからな!?」

 

これである。箒はISの事を教えると一夏に豪語したものの、一夏は教えてもらうどころか、箒からは剣道を叩き込まれただけだったのである。

見兼ねた千冬は、流石に何も無い状態よりかはマシであろうと一夏に知識を少しだが教え込んだ。それ以外の時間は三人の男性操縦者の事で女性権利団体への圧力と蓮との訓練。一番の多忙を過ごしたのは彼女ではないかというのは真耶の弁。その千冬本人は今この場所には居なかった。

一夏は箒に問い詰めているが、相変わらず目を逸らすだけで答えはしないようで、蓮は内心呆れ半分苦笑い半分でその光景を眺めている。すると、奥から千冬が現れた。

 

「織斑。お前の専用機が届いたぞ」

 

「っ! ありがとう、千冬ね……じゃなかった。織斑先生!」

 

千冬はカーゴを押してきたようだが、その上には一機のISが中世の騎士のように佇んでいる。

その見た目と言えば白。汚れのない無垢な白だ。洗練されたフォルムは、これでまだ初期設定にもなっていない事から本来の調子ならそれは凄いものとなるのだろうと考えられた。

 

「織斑、どうした。早く乗れ。フォーマットとフィッティングを行う」

 

「は、はい!」

 

一夏は恐らく一瞬だがその白に見惚れていたのだろう。その白に座る一夏を、蓮は眺めていた。すると光が巻き起こり、白は一夏と一体となる。

 

「これが、白式……」

 

「見た目通り、真っ白な機体だね」

 

その姿は騎士そのもの。甲冑という程ではないものの、その姿は強さを醸し出していた。故に、蓮は少し息を飲む。これが専用機のISなのだと。

一夏も何か納得がいった表情を見せると、ピットのカタパルトへと移る。

 

「行ってこい。一夏」

 

「ああ、千冬姉」

 

「……油断と慢心はしないでね。頑張って、一夏」

 

「勿論だ、蓮」

 

千冬と蓮からの言葉を受け取ると、一夏の顔つきが変わる。特に蓮との言葉の応酬は一夏の顔をさらに引き締めた。恐らく、何かを感じ取ったのだろう。

その会話が終わると真耶は箒の様子に気付かずピットから指示を出す。

 

「それでは、織斑君。出撃です!」

 

「織斑一夏。白式。出る!」

 

カタパルトは一夏を勢いよく送り出すと、アリーナは歓声に包まれる。熱狂。その一言で表すには足りない程だ。

その一夏の試合が始まると、蓮は食い入るように見詰める。次は自分が戦うのだ。と視線の先の戦いに目を凝らした。

避け続ける一夏。恐らくエネルギーの余裕を確認しているのが見て取れる。と、その時だった。

 

「やっぱり、ビットを動かしている時は自分は動けないんだな!」

 

「っ、それが分かったとしても!」

 

蓮はその言葉を聞くと、次の戦いでの戦闘方法をイメージする。千冬と真耶からこの数日で叩き込まれた戦い方を、頭の中で想起。シュミレートをはじめた。

そしてまた、一夏の試合を再度目に映したかと思えば驚愕する。

 

「せェいッ!」

 

「なっ、どうしてミサイルビットが!?」

 

一夏の一薙と共に、ミサイルビットは爆発していた。よく見るとその下には叩き落とされたビットが散らばっている。

一夏は何故そんなことが出来るのか。初めてではないのか。そんな思いは胸をよぎるが、この後は自分の戦いも控えている。と、考えた矢先、一夏の白式はまた光を纏う。

 

「あ、あなた。もしかしてファーストシフトせずに今まで……!?」

 

「そうだな。流石に焦ったぜ。……雪片弐型、か。まるで運命だな」

 

「っ、なっ!」

 

刹那。雪片弐型を展開した一夏はセシリアに一瞬で近寄ると雪片が光のブレードを展開してセシリアを斬る!

セシリアはなすすべもなく絶対防御を発動させて、SEを削り取られれば全ては終わった。

 

 

Shield Energy empty! WIN Ichika orimura!

 

 

唖然。場内はしん……と静まりその一言で表せる。先ほどの熱狂とは対比的な状態に、一握りの熱意と大きな闘士。それながら冷静な心を持った目線が見詰める。

セシリアは一夏と何かを話してから頬を赤くする様子が見て取れるが、彼には関係ない。なにせ次は彼の番なのだ。

男とは、闘争本能の中で生きる生き物。それがなければ枯渇するという話はあるが。彼、蓮はその闘争本能を生まれて初めて感じていた。隣に居る真耶も初めて見る蓮の様子に少しだけ見惚れる。

そんな中、ピットには一夏が戻ってきた。晴れやかな笑顔で蓮に拳を突き出す。

 

「お疲れ様、一夏」

 

「おう、お前の言葉で油断せずに済んだぜ」

 

拳を合わせては一言ずつ交わす二人。男の友情が芽生えていた。二人の様子は青春そのもの。ここに紅も居たら、と蓮は思うが今は試合前。気合をいれなおすと同時に、時は来た。

 

「れんれん。お待たせ〜……専用機、来たよ!」

 

「っ。布仏さん、ありがとう!」

 

本音がいつの間にか台車に機体を載せて、ピットへとやって来ていた。

その台車にある機体は黄色……というよりは金色に見える。蓮はその機体に目を見張る。美しいの一言で終わらせるには勿体なかった。細部まで見るとその金の装甲はスライドする事が分かる。カナードも展開するようだった。

機体をそうして眺めていると、ふと。呼ばれた気がした。誰に、という訳でもない。だが、確実に呼ばれたということが頭の中に残る。

そして蓮はISを触る。すると、電流のように情報が流れ込んだ。コイツだ。コイツが僕を呼んでるんだ。そう確信すると、ISに乗り込む。

 

「ッ……!」

 

瞬間。目線が変わったと同時にポップが現れる。

 

[搭乗者、登録完了。お待ちしておりました。my master……私は夕凪です]

 

ポップが現れた事により、この機体の名前は夕凪という名前であるという事が分かった。

しかし、インフィニット・ストラトスとはこんなにも親身なものなのだろうかとは思うが、こんなものだろうと考える事にする。

今は試合だ。蓮は少しだけポップのことが気になりつつも意識から除外して、フィッティングのあとのファーストシフトまでをどうするか考える。

 

-だが、それを織斑千冬は許さない-

 

「金澄、次はお前の番だ。カタパルトに乗れ」

 

「……僕もファーストシフト無しですか」

 

ある意味では、蓮は分かっていたのかもしれない。一応の問いかけに、千冬はふっと笑い当然の事だと蓮を見据える。

 

「私の弟子だ、それ位してもらわないとな」

 

「了解しました。なら行ってきます」

 

千冬との問答は軽いものだが、それでも感じるものはあった。故に二つ返事で了承するとカタパルトに乗り込む。

 

「れんれん……」

 

「どうしたの? 布仏さん」

 

「勝ってきてね~。それと……本音って呼んで」

 

「……分かった。本音、行ってくるよ」

 

「蓮君。大丈夫ですよ、セシリアさんに勝てます」

 

「ありがとう、真耶さん」

 

オペレーターである真耶と訓練機の整備をしてくれた本音に笑顔で受け答えをする蓮。覚悟は出来た。その覚悟と共に、叫ぶ!

 

「金澄蓮。夕凪。行きます!」

 

それと同時にカタパルトは夕凪を射出。アリーナへと蓮は飛び出した。蒼き空と膨大な歓声が蓮を迎える。そして、目の前にはセシリアが居た。

目線を合わせると、蓮にセシリアはまずは一礼する。どういう事かとは思うが、セシリアはそれに答えた。

 

「先ずは、蓮さん。今までの非礼を、お詫び致します」

 

「……急だね。一夏と戦って何か変わった?」

 

「ええ。素敵な殿方でした。私が見てきた男達と違って……」

 

頬を染めながら蓮の問いかけに返答するセシリアの様子に、これは落ちたなと理解する。ここ数日で一夏がフラグメイカーなのは確信的な為に、彼女にも旗が立ったのだと分かってしまった。

少しだけの羨ましさを感じるものの今は戦いの前。そんな思考は隅に追いやった。

 

カウント3……

 

「それでは参りましょう。見下しも手加減もありませんわ」

 

「それはありがとう。師匠も見てるからそれじゃあ満足しないしね」

 

カウント2……

 

「あら、それでは優雅に踊りましょう。エスコート致しますわ」

 

「ご生憎、僕はダンスに不慣れなんだ。ジャズが好きでね」

 

カウント1……

 

「それではジャズ風にしましょう。何せ……友人になれそうですもの。即興演奏も好きですわ」

 

「まあ、そうだね。意見は合いそうだ。なら全力でいくよ。レディ……」

 

試 合 開 始 !

 

 

「ブルーティアーズの奏でる音で!」

 

「ゴー!」

 

二人の試合が始まる前の掛け合いを終わらせたかと思えば、最初はセシリアの狙撃から始まる。だが、蓮はそれをひらりとかわしてみせた。その程度なら千冬という師匠に叩き込まれている。

だが、回避と同時に違和感を感じる。自分の考えた回避先とは少しのズレがあるのだ。おそらくファーストシフトが終わってないからだ。すかさずポップを見る。

 

[first shift program 21%]

 

これはまだまだ時間がかかるなと脳内で思いつつも、今はセシリアのレーザーによる射撃から回避へと専念する。

どういう事か一夏の時とは狙撃速度が違うという事は少し気になるが、来たるビットに備えるため、バススロットに入っている武器を確認する。

 

「紫電と飛電、ね……大方資料にあったビームライフルとビームサーベルか」

 

第四世代としての夕凪の映像資料は受け取っていたためにその二つは恐らく初期武器なのだな。と理解しつつ声に出してはビームライフルの紫電を取り出す。

戦闘中に声など余裕だな、とは思われるだろうが流石に千冬程の相手ではない為に。というのは比較対象としてセシリアには悪いのだが、地獄の訓練をくぐり抜けている身分としては幾ばくかの余裕はあった。

とはいえ、である。

 

「っ、中々当たってくれませんわね……なら、行きなさい。ブルーティアーズ!」

 

「ッ、お出ましか!」

 

 

■■■

 

 

ついにセシリアの切札。ブルーティアーズを引き出させた蓮は、その動きを目に焼き付けるように避ける。少しでも反撃の糸口を探して。でなければ、勝ち目はないのだと。この不利な状況を脱する策をねらなければならなかった。

 

ここで、何故不利なのか分からないという事が分からない人に説明をする。

そもそも、ブルーティアーズは完全に遠距離。搭乗者のセシリア・オルコットのスキルもあってか、狙撃型の機体であることが分かる。

しかし、流石のセシリアとて狙撃だけで勝てるほど甘くないというのは重々承知なのだ。だからこそ、彼女は狙撃スキルがあろうと近接では押し負ける事を理解している。

そこでビットという存在が、彼女の狙撃に強味を持たせている。というのも、ビットを動かしている間は機体を動かす事が出来ないものの、ビットの動きによりポイントまで追い込む事は出来るのだ。

対する蓮はまだファーストシフトすらしていない機体で、尚且つ所有している武装は近距離のビームサーベルの飛電と中距離が現実的なビームライフルの紫電のみなのだ。

さらに言うとファーストシフトをしていないからか、専用の機体とはいえまだ反応が少し遅い。回避先に微妙な差があるのだ。

 

ピットからは真耶と千冬。そして本音がその様子を眺めていた。真耶はやきもきしていて、千冬は静観。本音はしっかりと機体の動きを見ている。

三者三様の中で、落ち着きのある千冬はようやくと言ったかのように言葉を発する。

 

「そろそろだな」

 

「……えっ?」

 

真耶が、そのつぶやきに反応すると同時に試合に目を向ける。事は動こうとしていた。

 

 

 

■■■

 

 

「っ、なかなかに当たってくれませんわね!」

 

「当たったら負けるから、ね!」

 

蓮はその時を、まだこないのか。早く来なければと待ち続ける。反撃の時は遠いものではないのだと信じて、回避を優先した。勿論、ビームライフルで牽制はするものの避けながらでは狙いが定まらない。

 

「っ、まだなのか……!」

 

ビットのレーザーをかなりスレスレで回避するも、やはり危ない事には変わりはない。そこで、だ。漸くポップが現れる。

 

[First shift program complete. My master……決行のご指示を]

 

「っ、来た!」

 

迷いはない。決行のボタンを押すと、変わりゆく機体と自分を纏う光の中、セシリアの驚く顔を見て、珍しくニヒルな笑みを浮かべる。

ドッキリが成功したとでも言わんばかりの顔をしているが、実際自分の機体の装備を完全には分かりきっていないために、変わる中で武装を確認する。すると、ある武装が目に入り、これでいけると確信した。

 

「あ、あなたもファーストシフトなしで……!?」

 

「ご名答。まぁ、師匠から言われたんだけどね」

 

変わりきった機体は鮮やかな金。装甲はスライドして背中にはスラスター。そして手に持つ紫電は蓮に合ったちゃんとした装備へと変わったのだ。

機械的ながらも雅な姿を残すその機体。夕凪は本来の姿となり蓮に完全に蓮へと馴染む。この感覚なら。

 

「ですが、隙だらけですわ!」

 

蓮のその姿を何時までも呆けて見ているセシリアではない。彼女はビットとライフルを構え一斉射撃をする。

だが、蓮は冷静にセシリアを見る。それから自分の機体を信じて。そしてプレッシャーのある中で彼は笑う。

 

「八咫鏡!」

 

「決まりまし……なッ!?」

 

その瞬間。通常なら有り得ないことが起きた。蓮に当たったかと思ったレーザーは全て跳ね返される。その時蓮が纏う光が一瞬目くらましになったとたん全てのビットは落ち、ライフルは焼けている。

体感したことがない事象。セシリアが何事かと狼狽えていると、いつの間にか蓮は動いていた。そうだ、今は狼狽えている場合ではない!

 

「み、ミサイルビット……!」

 

「させない!」

 

腰のミサイルビットはビームサーベルに焼き切られ、セシリアの持つ実体剣を出す前に、蓮は既に行動に移している。

有り得ない。この速さはなんなのだろうか。蓮は初心者だったはずなのだ。故にその強さに驚きを感じる。時の流れが遅くなるような感覚すら覚えた。

その隙を、蓮は逃さない。

 

「これで、終わりだ!」

 

「きゃっ!?」

 

蓮はビームサーベルを一回当てたあと、片方を腰に着けると握り締め、振り抜く。

 

曰く、瞬間の一撃。曰く、目に捕えられぬ速さになる事が条件。曰く、一回で決めるべし。

 

「せいッ!」

 

居合切り。それが決まると同時にセシリアはシールドエネルギーを、刈り取られる事が目に取れた。それは敗北と理解する。

決まるまでの瞬間に驚愕の色が見られるセシリアに対して、蓮は自分の出せる限りの闘士を込めた一撃を放ったのだった。

 

「い、今のは一体……ですが……」

 

セシリアはその居合切りに不意を打たれた形になるのだが、その一撃にただ驚くだけではなく、見事なものだったと笑みを浮かべる。

一夏だけでなく、蓮も勝利を勝ち取った。何時ぞやの自分を恥ずかしく思う。セシリアはそんな事を考えて微笑むと、一夏を恋愛対象に。蓮を友人としてこれから楽しく過ごす事に。男という存在に。彼等に、希望を持ったのだ。

 

 

 

Shield Energy empty! WIN Ren Kanazumi!

 

 

試合終了。その言葉が浮かび上がり、勝者の名前は表示される。それは、ISにおいて栄光の証。そしてその表記により静まり返ったアリーナは、驚き。そして、巨大な歓声が湧き上がる。

 

「凄い。凄いわ!」

 

「一夏君だけじゃなく、金澄君も!」

 

「男の人も凄いんだ!」

 

そのような歓声を受けて、少しばかり照れくさい感情を覚える蓮だが、セシリアが蓮を見ている事から向き直る。どこか晴れやかな表情だった。

 

「ふふ、完敗でしたわ。……ありがとうございます」

 

「こっちもファーストシフトがなければ危なかったよ。……お疲れ様」

 

二人の戦闘後の握手によりまたもや歓声があがると、手を振りながらお互いのピットに戻る。ちょっとした充実だった。すると、本音と真耶は飛びついてくる事に蓮は驚くがなんとか受け止めた。

 

「凄いよ〜れんれん〜!」

 

「やりましたよ、蓮君。凄いです!」

 

「あ、ありがとう。二人共」

 

勝った自分よりも嬉しそうな二人を見るとなんだか不思議な気持ちになるな。と蓮は内心で思うと千冬はこちらを見ていた。

それにより、一回目を閉じその視線に応えるかのように向き直れば目を開く。千冬は満足気に頷いた。

 

「及第点だ。金澄、良くやった」

 

「……っ、ありがとうございます!」

 

師弟となった事により、その言葉は重く。嬉しく響く。一夏も驚いたが少し間を置いてからサムズアップした。

 

「……よっしゃあ!」

 

そして、その叫びは木霊する。アリーナの歓声は鳴り止まず、響き続けるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話 紅視点

今回はしゅーがく氏が書いている紅視点です。ついにオリジナル機体が登場!


 俺は訓練をすることにした。ただでさえ数の少ないISのコアを、俺専用の機体に組み込んでいるのだ。

だからそれ相応の責任とかなんとかがあるから、俺は与えられたモノを上手く使いこなすために訓練することにしたのだ。

 訓練のコーチは同室で代表候補生のフェルメールに頼み、早速次の日からフェルメールの都合のつく時だけ、訓練を始めることとなっていた。

 それで俺がどうして学校指定の運動着で、学園内の運動部員がランニングで使うコースを歩いているのかというと、コースを覚えてこの後走るからだ。

この訓練は正直、ISの訓練とは言い難いものだ。だが、フェルメールは事前にどういう意図で行うのかを教えてくれていた。

基礎体力を確認し、今後行う訓練内容を考えるためだとか。

それを言われてしまっては、俺はぐうの音も出せなかった。

 

「さて、1周歩いたことだし、後ろから付いていくからね」

 

「分かった」

 

 1周も歩き終わり、次に走りに入る。このランニングコースは歩いて30分以上あった。

と考えると、恐らく長さは2kmはあると思う。そんな距離を走るのは、毎年度計測する長距離走以外では走る以外はない。

 俺はスタートから自分のペースで走り出し、後ろをフェルメールが追走する。

最初は平気ではあったが半分を超えた辺りで段々と息が上がり始め、額に汗がにじみ出てくる。キツくなってきたのだ。

腕を振って足を前に進めるが、それでも段々と速度は落ちていく。歩いてしまえば楽なんだろうが、歩くことだけはしたくなかった。

 俺は余力を絞って駆け足を続ける。そんな中、後ろから声が聞こえてくる。フェルメールだ。

 

「まだ行ける?」

 

俺には答える余裕も無かった。だから首を大げさに縦に振り、自分の意志を伝える。

そのことはフェルメールにも伝わったみたいで、黙って追走を続けている。

 1周を通り過ぎ、2周目に突入する。

俺の速度もスタートから半分くらいの速度にまで落ちているだろうが、主観では同じくらいのスピードで走っている感覚だ。

そして遂に、俺は足を止めた。2周目の2/5まで進んだ頃だった。

 俺は足を止めることはせず、そのまま歩く。急に止まると身体に悪いということなので、最後までは歩いて行くことにした。

 額に流れる汗を拭っていると、横にフェルメールが来た。

表情は走り出した時よりも少し辛そうではあるが、全く俺ほどではない。少し走った程度の様子にしか見えなかった。

 

「これで多分3kmくらいかな……」

 

 息の戻っていない俺に対して、平気そうな表情をしながら評価をしていくフェルメール。

あまり長くはないが、結構見てくれていたみたいだった。

性格を見ている訳じゃないから、分かりやすかったんだろう。色々とあれこれと指摘してくれる。

 

「うーん……運動部経験があるって聞いたから想像はしていたけど、それなりに体力はあると思うよ。それでね、持久力の方なんだけど、もっとあった方が何かと良いかもしれないかなぁ? 機体特性に対応するには、いくら絶対防御があると言ってもGに対する抵抗があるかって言ったら、わからないからね」

 

スラスラと指摘していくことは、客観的な評価なんだろう。俺はそう思った。

 

「この様子だと、たまにISの訓練を入れつつも筋トレかなぁ? ……それでいい?」

 

「はい……。あざっす……」

 

 コーチをしている時のフェルメールは何だか同級生には見えなかった。

3kmも走っても全然疲れていない様子はおろか、俺の観察もやったなると凄いな。流石は代表候補生だ。

 そんな関心をしつつも、ゴールに到着して腰を下ろす。

タオルで額や首筋を拭き、水を口いっぱいに含む。冷たくはないが、その水分が喉を潤してくれた。

息を整え、汗が引いたころに再び俺は口を開く。隣に座っているフェルメールに、気になったことを聞くためだ。

 

「なぁ、フェルメール」

 

「何?」

 

「身体作りはやっていたから、全然平気なのか?」

 

「うーん……。確かに代表候補生になった後は、ずっと訓練と座学しかしてなかったからねー。確かに体力はあるのかもしれないね」

 

 同じ運動着を着たフェルメールは膝を抱えた。そして少し寂しそうな表情をする。

何かあったのだろうか、と思ったが、聞けるわけがない。初対面3日目で訓練を付けて欲しいって頼み込んでいる時点で、かなり厚かましい奴なのに、そんなこと聞ける訳がないのだ。

そんなことを考えていた俺に、フェルメールは口を開いた。

 

「夢でもあったからね、代表候補生。……ま、そのために代表候補生になる前もずっと勉強とトレーニングばかりしていたんだけどね……。それがあってかは知らないけどさ」

 

何が出てくるのか、俺は身構えたが、その予想は呆気なく打ち砕かれる。

 

「影が薄いのはどうしようもなかったぁー!!」

 

「えぇー!!?」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 話を聞く限りだと、どうやらフェルメールは生まれつきの影の薄さがあるみたいだ。まぁ、たしかに影薄いもんな。

それはこの3日間居て、普通に分かった。気付かない方がおかしいってくらいに。というよりも、見ていて哀れなくらいだった。

出席を取る時に名前を呼ばれない、前から歩いてくる生徒とぶつかる、食堂で注文しようも飛ばされる等々……。

影の薄さもここまで来るととんでもないのな、って思い始めた俺だった。

 そんな話を切り出されて少し戸惑いもしたが、それよりも深刻なことがあった。

学校のある時間は思い思いに過ごすものなので、俺も教科書を見たりだとかトイレに行ったりだとかしていたんだが、フェルメールはどうやら友だち作りを頑張っていたらしい。

そして哀れなことに、全然友だちが出来なかったそうな。近くの席の2人だけだとか。他のクラスメイトは結構な大人数のグループを作ったり、グループ同士でワイワイしていることが多い中、フェルメールはポツーンとしている。

俺が見ていても虐められている訳ではないが、この状況は自分の影の薄さが原因だとか。というかソレが原因以外考えられないんだが。

 

「まぁ、だいたいわかったよ。……それにしても、どうして体力の話からこんな話に脱線するんだろうか」

 

「……それもそうだね」

 

 膝を抱えたまま話していたフェルメールは腕を解き、背を伸ばした。

俺は正面を見ていたからその姿は見ていないが、まぁ見ても良くは思われないだろうな。

 伸びをしたフェルメールはそのまま立ち上がると思ったが、立ち上がることはなかった。

まだ話をするみたいだ。

 

「天色くんは何だか違う気がするの」

 

「うん?」

 

 いきなり何いってんの、このお嬢さん。

 

「同室だしっ……。友だち、って思っても良いのかな?」

 

「何だそれ」

 

「えぇ……だってぇ」

 

 いや本当に何を言っているのだろうか。まぁそれは置いておいて、フェルメールが云った『友だち、って思っても良いのかな?』という言葉に、俺は返事をした。

 

「俺はもう友だちになった気だったんだけど。友だちじゃなければ、こんな訓練の話、頼まないし……。というか、頼める人がいなかったからフェルメールに頼んだ訳であって」

 

 本音だ。IS学園に来て、専用機を受け取ったは良いが、訓練のことを頼めるような友人や知り合いなんて居ない。

上級生に誰か知っている人が居たかもしれないが、そんなことは望み薄だ。希望を持つだけ無駄だと思ったのだ。山吹先生に頼めば良かったのかもしれないが、山吹先生は先生だ。頼んでも請け負ってくれないだろうと思ったのだ。だから、同室になってしまった代表候補生であり、少なからず時間を一緒に過ごしたからこそ、友人と思って頼んだことだったのだ。

 

「そうなの? そっかぁー」

 

「……何だよ、ニヤニヤして」

 

「いいやぁ? ただ嬉しいなぁーって」

 

 そういったフェルメールは、スクッと立ち上がった。

どうやらもう休憩は終わりみたいだな。

 

「さて、と。走るのは疲れるから、筋トレでもしよう!! 夕食の時間までやろう?」

 

「そうだな」

 

 俺とフェルメールは、そのまま筋トレを始めることにしたのだった。

 筋トレと言っても、ごく一般的なことしかしない。

腹筋・背筋・腕立て伏せ・スクワット等々。自分の限界までやり、フェルメールに『まだいける!』と言われながらやるのは、結構身体に来るものがあった。

この筋トレをランニングと合わせて毎日続けていくこととなる。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 入学して1週間ほど経ったが、講義中や休み時間中の過ごし方というのは、あまり変わることはない。

クラス代表になってしまったことで、山吹先生から課せられる仕事をこなしたりだとか、元々自分から積極的に話しかけにいくタイプでないこともあり、友だち作りらしい友だち作りはしなかった。

だが、クラスメイトたちがよく話しかけてくれるので、それには愛想よく返事をしているつもり。

勉学にも真面目に取り組みつつも、俺はフェルメールのコーチの元で初のIS自主訓練を行うことになった。アリーナの使用許可を合間を縫って山吹先生に取り付けてきたのだ。どうやらこれまでは1組が使っていたみたいだが、それももうあまりなくなったとのこと。

 それで、俺は今、数多とあるアリーナの1つを借りている。

目の前にはフェルメールがISスーツを身に纏って立っている。

まだ講義中のISの科目は座学しかないので、そのうちに実習も入ることだろう。その時のために、ある程度は動かせるようにしておくのが今日の目標だった。

 

「さぁ、ジェードを展開してみよう!」

 

「あぁ」

 

 楽しそうに元気よくそう言ったフェルメールとは裏腹に、俺は少し顔をそむけていた。

何故ならば、ISスーツってほとんど水着みたいなものなのだ。身体に布が張り付いているからか、ボディーラインが強調されている。カラーも暗いグレーか黒なので、フェルメールの白い肌には丁度良い色合いだったのも相まってか、俺はそっちをあまり見ることが出来なかった。

恥ずかしさやなんかが先に来てしまっていたのだ。

 

「ん? どうしたの?」

 

「い、いいや……なんでもない」

 

 そう言いながら俺はジェードを展開する。

首から下げていたペンダントが光だし、次々と量子化されていたISが身体に装着されていく。あまり違和感を感じないこの動作は2回目ということもあり、変な感じではあった。

自分の四肢の長さが伸びた気分というものは。

 フェルメールは俺のISを見上げて、少し黙り込んでいた。

多分観察しているんだろうけど、あまりジロジロみないで欲しいモノだ。

 

「うん! 良いよ!! じゃあ、歩行からやってみて」

 

「分かった」

 

 俺は言われた通りに、周りを歩き始める。

アリーナの中を1周歩いた後、俺はフェルメールの元に戻ってきた。

 

「なるほど……。普通に歩くことが出来ているから、次のステップに移ろうか! 次は走ってみて」

 

「よし! 走るのは初めてだ!!」

 

 そう言って、俺は足を前に出す。歩く時とあまり感覚は変わらないが、走る時は違和感を持った。

足が軽いのだ。どうしてだろう。

そう思っていたが、すぐに理由が分かる。どうやらジェードに大量に取り付けられているスラスタの一部、脚部腓腹筋周辺と足の裏土踏まずのスラスタが作用しているみたいだ。

足を浮き上がらせる時、スラスタを一時的にふかして足を浮かせているらしい。

これは良いものだと思った。何せ、自分の筋力以外にも付加された力で足が上がるからだ。だがそれでも、通常生きている人には備わっていないものだからか、少しふらついたり、時には転びそうになったりもする。

そんなようになりながらも、俺は1周を終えてフェルメールのところみ戻ってきた。

 

「うんうん、いい調子だね。基本的にはISで地上を歩くことが多いけど、走ることは少ないの」

 

「なるほど」

 

「だからもう少し安定して走ることが出来れば問題なしね。……もう1周走ってきてみて?」

 

「分かった」

 

 この指導も基礎中の基礎だろう。それでも俺は何だかISの訓練が楽しく思えてきた。時間的にもそこまで経ってないから余裕はあるから、早く飛んでみたい。

飛ぶ練習も今日はするのだろうか。そんなことを考えながら、俺は1周を走り終える。

今回は特にふらつくこともなければ、転びそうになることもなかった。ビギナーズラックである可能性も十分に考えられるが、大丈夫だろうと判断したのだろう。

フェルメールが次の行程に移ると言い出した。

 

「じゃあ次! 次は飛んでみようかな」

 

「おぉ!! 飛ぶのか!!」

 

「うんっ!!」

 

 やった! 今日飛ぶ練習も出来るのか。俺は最初、そう思っていた。

だが、考えていた以上に、飛ぶことは難しかったのである。

 

「じゃあ、私が最初に飛ぶから、一度見てみて。ISが飛ぶところはみたことあるだろうけど、念のため、ね?」

 

「分かった」

 

 そう言ったフェルメールは専用機を身に纏い始めた。

どうやらフェルメールも待機状態はペンダントだったらしく、首から下がっていたペンダントが光り始める。そして量子化されていたパーツが身体にどんどん装着されていき、最後には右手に大きな長槍を持ち、左手には小さな盾があった。

見てくれやカラーリングは完全に中世の騎士を連想させるようなもので、何というかカッコイイのだ。

 

「おぉ!!」

 

「えへへっ……何だかそういう反応は新鮮だなぁ」

 

「そうなのか?」

 

「うん。皆『あー、パッとしない色と武装だなぁ』とか言うのが普通だったからね」

 

 顔をほころばせつつも、そう言ったフェルメールは地面から足を浮かせた。正確に言えばISの脚部だが。

槍を立てたまま浮き上がり、50cmくらいのところで静止した。

 

「じゃあ、行くよ?」

 

「おう」

 

 そう言ったフェルメールは少し足を曲げて、伸ばすとそのまま空へともの凄いスピードで浮き上がって行った。否。加速して行ったのだ。

そしてそのまま空中で旋回を繰り返しつつ、ぐるぐると鳥の様に飛び回る。

時々俺の横を通り過ぎて行くので、後から空気の塊を一身に受けることもあるが、俺はフェルメールの飛ぶ姿からは目を離すことはなかった。どうして釘付けになっていたのか?

それは、飛ぶ姿に心を奪われてしまったからだった。

気流に靡くアッシュブロンドの髪は綺麗で、いつもはおっとりした表情をしているフェルメールが真剣な表情をしていたこともあったのだ。

 空中を自由に舞ったフェルメールは1分か2分で飛ぶことを止め、俺の目の前に降りてきた。

そして、少し乱れた髪を手ぐして整えた後、俺に言ったのだ。

 

「まずは浮くところからかな?」

 

「浮く、ねぇ……」

 

 『浮く』と言われても、どうやって浮けば良いのか分からなかったのだ。

人間が取れる動きはISが作用して反映させているが、それ以外の行動は入力する必要があるのだ。イメージ・インターフェイスとPICに入力を思考することで行い、空を飛ぶのがISが浮いたり飛んだりする原理だ。そんなこと知っている。だけど出来ないのだ。

話は聞いていたが、やはり浮くことは難しい。頭で浮くことを考えるが、文字の『浮く』が浮かび上がるためか、全く浮く様子がない。

走る時に作用していたスラスタも全く動かないし、運動エネルギーを造り出している様子もない。

 

「……」

 

「……やっぱり浮けないの?」

 

「あぁ。イメージして浮くことは分かっているんだ。だけど、浮かない」

 

「そっかぁ……」

 

 そう言って、フェルメールは足を付いた。

 

「説明が難しいんだけど、どう言えば良いのかなぁ?」

 

 そう言って考え始めた。身体を動かすことで浮くことが出来るなんて到底考えられない。ISの特性上、イメージが重要なのは理解出来るのだ。

だが、そのイメージが上手く言っていないんだろう。現に俺は浮くことが出来ないからだ。

 浮くことをしようと努力するも、全然浮く気配は無かった。

ただ地面に突っ立って、浮くことを必死に練習するのも時間が結構経つものだ。その練習だけでも20分くらいは続けていた。流石にフェルメールも他の訓練に入った方が良いだろうと言い出し、浮く訓練は切り上げることになった。しかに俺はこの後、浮くまでにかなりの日にち練習することになるとは知らなかったのだ。

 ちなみに、浮く訓練を切り上げた後は、フェルメールの思いつきで加えた訓練をしていた。

走る時に脚部腓腹筋周辺と足の裏土踏まずのスラスタが作用することを応用し、走る歩幅を増やすことは出来ないか、ということを始めたのだった。ちなみにこれは成功した。

やっている行動は走る動作とあまり変わらないが、スラスタの出力が調整出来るようになったのだ。つまり、1歩1歩の歩幅が広がったのである。

そして、ジャンブする時にもスラスタが作用することが分かり、短距離ながら飛ぶことが出来るようになったのだ。浮いて空を自由に飛び回ることは出来ないが、脚力を使って飛ぶことが出来るようになったのは、大きな前進だと俺は思う。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「い、痛いっ……」

 

「あれだけ足に負荷を掛けていたからねぇ、そうもなるよー」

 

 俺は私室で寝転がっていた。というのも、普段は寝る時以外はほとんど座っているのだが、先ほどの訓練から帰ってきて、夕食を食べて風呂に入った後、ベッドにごろんと転がったが最後だったのだ。

つまり、いきなり筋肉痛に襲われたのである。気を抜いたからだろうな、と俺は思った。

それに関して、フェルメールも同意見なようだ。

 

「負荷って言っても、ただ走ってジャンプしていただけだぞ?!」

 

「そうだけどさ、普通のISはあんなところにスラスタは付いてないからねぇ」

 

「それはそうかもしれないけど……」

 

 俺はうつ伏せになりながら、フェルメールと話をする。

ここからは見えないが、恐らく今は午後10時過ぎ。もうあと1時間かそこらしたら消灯の時間だ。

 俺はずっとこの体勢で話していても疲れるだけなので、痛む足を我慢しながら身体を起こした。

そのままベッドの腕を四つん這いで移動し、端で足をだらんと下ろす。フェルメールも同じような体勢で、自分のベッドで座っているようだ。

格好は最近見慣れたか寝間着姿だが、まぁ、目に毒って訳でもないから良い。髪も普段は三つ編みにしているが、今は解いている。寝る時は解いているのだ。

 

「何にせよ、今日からISの実機訓練を始めた訳だけどさ、最初は浮くこともままならないのが普通だからね。あまり気にしないで」

 

「気にしてはいないんだがな……。やっぱりフェルメールも訓練を重ねて浮けるようになったのか?」

 

「そりゃもちろん。何時間も繰り返して、やっと浮けるようになるんだよ」

 

「へぇー」

 

 俺はフェルメールに訓練を頼んで良かった、と改めて思った。

基礎体力トレーニングも、無理ないように限界を超える程度のメニューを作ってくれるし、今日のISの訓練だって効率を考えてああいう構成になっていたんだろう。

それに『フェルメールが空いている日だけで良いから、コーチしてくれないか』という頼み方だったのに、頼んだ日から今日まで毎日付き合って来れているのだ。

色々心配にはなるが、やっぱり体質みたいなアレを気にしているのだろうか。俺はそう考えてしまう。

 

「……ま、俺も頑張るよ。浮けるようにならないと、ジェードの特性も引き出すことは出来ないからな」

 

「うんっ!! その意気だよ!!」

 

「はははっ」

 

 こうして夜は更けていったのだった。

この後も他愛もない話を消灯の時間になっても話していた。今まではこんなことなかったが、今日はなんだかフェルメールとの距離が近づいた気がする。

それにしても、フェルメールの語る『自虐ネタ』は面白い。両親と買い物に出かけた先で迷子になったが、両親が最初から最後まで気付かずに家に帰ってしまった話とかな。

大笑いしたら怒られてしまった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

六話 蓮視点

「という訳で、一組の代表は織斑一夏君になりました! あ、一繋がりでいいですね!」

 

「うん、似合ってるよ一夏」

 

「お似合いですわ一夏さん」

 

「なぁ、蓮。俺お前に負けたんだけど。聞いてないんだけど」

 

現在、一組の代表を決定してクラスは湧き上がる中、一夏はちょっと待てという表情をしている。どうしてこうなったんだと言わんばかりに突っかかるが蓮はにこやかに笑う。

 

「勿論、一夏の成長の為さ」

 

「蓮、お前はめんどくさいだけだろ!?」

 

どうしてこの流れになったのか、その前日まで遡らねばならない。

 

 

 

■■■

 

 

 

「蓮さん。少しお話宜しいでしょうか?」

 

「あ、セシリアさん。どうしたの?」

 

夜、漸く寮に戻った蓮の前にはセシリアが現れて、いきなり話をしていいかとの問いかけからそれは始まった。セシリアはなにやら交渉を持ちかけるネゴシエーターのようにも見える。

その様子に直感が働いた蓮は、その交渉についてどういうものかを一瞬にて理解した。そう、その答えは。

 

「一夏さんをクラス代表にしませんか?」

 

「奇遇だね、僕もそう思ってたんだ」

 

一夏をクラス代表に仕立てあげるというものなのだ。セシリアは蓮の言葉を聞くとそれはそれは華のような笑顔を見せて安堵の息をもらす。

 

「それでは、蓮さんは一夏さんに……」

 

「うん。譲るよ」

 

「っ、そうですか!」

 

セシリアの場合、好きとなった一夏に成長してほしいという想いや、恰好いい姿を見たいというものからによる一種の心酔からきたものだ。

対して蓮の場合は、自分がクラス代表になると面倒事が多いと踏んだために一夏に譲ろうと決めたのだ。面倒になるのを避ける一手として丁度いいと踏んだ結果である。

ちなみに、その蓮と一夏の試合とはこういうものだった。蓮が地道にビームライフルの紫電を撃ち常に一夏から離れながらの勝利という、なんとも泥臭く、狡いものであった。故に、蓮本人は純粋な勝利とは認めていない。

「それでは織斑先生にこの事を……」

 

「うん、伝えようか」

 

そんな事から二人は結託すると握手を交わす。そんな二人は織斑千冬へと直談判をしに行くのであった。

 

 

 

■■■

 

 

 

「という訳で、一夏が代表だから宜しくね」

 

「何がという訳なんだよ!? 俺は何も理解出来てねーよ!?」

 

一夏の叫びは蓮に向けられるが蓮は流すだけでまともに返答しない。そんな一夏をフォローするようにセシリアは笑みを向けた。それが更に外堀を埋めると知らずに。

 

「大丈夫ですわ。一夏さんは素敵ですもの」

 

「お、おう。ありがとな。じゃなくて!」

 

それでも尚なんとか反論しようとしている一夏には追い打ちがかけられる。その追い打ちを使ったのは、無論この教室の絶対強者。彼女に逆らえる者は、早々いないだろう。それは。

 

「静かにしろ、織斑。これは決定事項だ」

 

「ちふ……じゃなくて、織斑先生まで……謀ったな、蓮!?」

 

そう。織斑千冬という世界最強が存在するこの中で反論など無駄なのである。反論しようものなら彼女と口で戦うことになり、見事返り討ちになるまでがテンプレートだ。

その事がすっかり身に染みて分かっている一夏は項垂れると、机に突っ伏した。

 

「……俺に味方は居ないのか」

 

「頑張れ、一夏」

 

「お前が言うな!?」

 

「煩いぞ、織斑」

 

一夏は内心、嫌がる中で少しばかりの安堵を覚える。馬鹿みたいな会話が出来る男子は貴重に感じた。きっと、こんなやり取りが一番なのかもしれない。

彼は突っ伏しながら笑い、心の底から嬉しさを噛み締めることにした。

 

 

 

■■■

 

 

 

そんなやりとりをした後の事である。その日の晩は一年一組の女子と、男子二名が集まっている。その目的とは、ちょっとしたパーティーのような物だ。

クラス代表が決まったということで彼女達はパーティーを行うことに何の迷いもない。女三人集まれば姦しいという言葉が使われるのはまさにこのような事態なのだろう。やけに準備が早かったのは元から宴を行う気だったのだとツッコミを行う人物は此処には居ない。

 

「という訳で、織斑君。クラス代表決定おめでとう!」

 

「おめでとう、一夏」

 

「おめでとうございます。一夏さん」

 

「蓮に言われるのは凄く釈然としないけどな。取り敢えずありがとう」

 

蓮はにこやかな。それも面倒事が無くなったと安堵したような感情によるもので。セシリアは純粋に微笑み。クラスの皆は笑顔でその代表について祝う。

ただ、箒に関しては何も語るどころかむすっとしたままそっぽを向いていた。だが、敢えてそこにはツッコミをせずパーティーは始まる。

 

「それにしてもれんれんは強かったな〜」

 

「よしてよ、本音。一夏に対してはまともに戦ってないから」

 

「あら、代表候補生の私に勝ったのですから誇っても宜しいのでは?」

 

「そうだぜ蓮。俺が近づけなかったのもお前の策略だろ」

 

「……二人共」

 

何だかんだ言いつつも、三人からは賛辞の言葉を送られて気恥しい思いをする蓮だが、とはいえ。やはり納得出来ない部分はある。一夏との戦いはやはり蓮に有利な戦いであった事から納得はしきれないのだ。

とはいえ、自分が二勝したのも事実である事から。そこは認めなければならないのかもしれない。と、今更ながら少しばかり認める事にする。

 

「それにしても蓮の機体ってどんな武装が積んであるんだ? あのレーザーを跳ね返したのは……」

 

「ああ、八咫鏡かな」

 

「八咫鏡……日本の神話に出てくる鏡ですわね」

 

「うん。どうやらアレで色々跳ね返せるみたい。勿論SEを少しばかり消費するけど……」

 

そんな中、話題は夕凪に搭載されている八咫鏡へと移る。第四世代の中で謎の多い夕凪は、何かと話題の種となりやすいのでセシリアも興味があるようだ。

ただ、一点気になるとするとそれは何故セシリアが八咫鏡を知っているのかという事になるが、其処は気にしないことにした。恐らく何かで勉強したのだろう。

 

「それで、夕凪の武装には叢雲っていうものがあってそれが……」

 

「はいはーい。お話の途中だけど、ちょこーっと良いかしら?」

 

そんな中武装を説明しようとしていると先輩らしき人が声をかけてきたために、蓮はその先輩を見やる。新聞部らしき人だと理解すると、胡散臭いものを見る目と変わる。

そんな蓮の視線は気にせずに一夏へと近寄るとその先輩は笑顔を向ける。

 

「私は新聞部の黛 薫子です。さて、クラス代表となった一夏君に少しばかり質問させてもらいます」

 

「えっ? あっ、はい」

 

黛先輩とやらは一夏に質問をしに来たようだ。一体何を聞くのやら。と思っているとすぐに先輩は動く。

 

「さて、クラス代表となった事に一言お願い!」

 

「自分。不器用なんで」

 

「前時代的ね……改竄を」

 

「なら。俺は! みんなを守る! でお願いします」

 

「OKよ、じゃあそれで」

 

「それでいいの!?」

 

一夏と黛薫子の問答はこのようなものだ。蓮は一夏のセンスに不安を感じつつもこの後は自分の番だろうと身構える。予想通り黛薫子は蓮の目の前へとやってきた。

 

「それじゃあ次は蓮君の番ね。第四世代という規格外の期待と機体を渡された訳だけども。何かあるかしら?」

 

「何か、ですか」

 

改めて質問された事の内容に少しばかりどう答えればと考える。第四世代。それは、自分にとって手に届く範囲を守るための力とは考えたが期待を機体と共に。と考えると少しばかり悩みが生じる。

だが、いつまでも悩むことは出来ない。考えた結果を述べることにした。

 

「……僕は過去に失った。だから、今度こそ手に届く範囲を守るため。そして期待については応えられるように頑張ります」

 

蓮の答えには納得する様子を見せると、手帳にメモをする。薫子は少し過去について気になる所が有るが、次の質問が重要な為にその質問を投げつける。

 

「ふむふむ。気になる事はあるにはあるけど。いいわ。それともう一つ。この学園に来て好みの子は居た?」

 

「ゑ?」

 

「あ、それは気になりますね!」

 

「れんれんの好きなタイプの人〜……?」

 

その質問が投げかけられるとともに一組の皆は一斉に反応した。まさに、餌を見るライオンの如く。

その視線に蓮はたじろぐのだが、特に同時にいつの間にか現れた我がクラスの副担任で幼なじみであったらしい山田真耶や同室同クラスの布仏本音からの視線が気になる。本当に食い入るように蓮を見ている事から彼は困惑の中にいた。

だがしかし、薫子は答えを催促するために恐らく、自分が発言しなければどうにもならない。と蓮は察すると腹を括る。

 

「え、えっと。真耶さんや本音、かな?」

 

その答えを出すとともに周りの女子はキャーキャーと騒ぎ出す。此処、寮だよね? と蓮はこの騒がしさはいいものでは無いと思うものの、口には出さないことにした。

その答えを聞いた薫子は嬉しそうにメモを取り始める。本格的にインスピレーションでも湧いたのかもしれない。と、見つめながら蓮は感じた。

 

「な、なんと! 先生に同室の女の子ときましたか!」

 

「あら、蓮さんって大胆ですのね……」

 

「意外だな。こういうの言うんだな」

 

ただ、そんなよそ見をしているうちに一夏にセシリアは蓮を見る目が生暖かい物へと変わる。やめて。とは叫びたいがどうにもならないのが現状。少しばかり諦めつつ助けを求めて本音と真耶の方を向けば、二人は顔を紅くしている。

 

「……私、ですか。ふふ」

 

「れんれんが私が好みって……えへへ〜」

 

ここまでくると、収集がつかないな。なんて思っている内に、あっという間に時は流れ写真撮影をする事になっていた。

その様子はこんなものだ。

 

「一足す一は?」

 

「二!」

 

「ってなんで皆さん写ってらっしゃるの!?」

 

こんな事がありつつもパーティーは終わる。普段はこのような雰囲気になった事がないが、この騒がしさは不思議と心地よかった。

 

 

 

■■■

 

 

 

「それでは訓練を始める。専用機持ちの三人。ISを展開しろ」

 

翌日。ISの訓練にて展開をする事になった蓮達は今は待機状態のISを展開する事から初めていた。

元々蓮はイメージすることが得意な為に割と早く展開する事が出来たが、一夏は四苦八苦している。それを見た千冬は「遅い。熟練者ならば一秒も掛からんぞ」と叱責する。初心者にそれを求めるのも難はあるのではとは思うが、それでも三人とも展開が終わると、次は武器へと移る。

 

「金澄、お前はビームサーベルの飛電を展開しろ」

 

「はい!」

 

千冬からのお題はビームサーベルの展開。手に柄を持つイメージを瞬時に行えば飛電は展開され、ビームの刃を煌めかせていた。

 

「コンマ八秒か。及第点だ。あとコンマ三秒短縮しろ」

 

「はい。分かりました」

 

その結果は及第点となり、なんとか上手くいったという安堵を覚えていると隣ではセシリアが怒られていた。

確かにレーザーライフルをこちらに向けられていると何やら誤写の不安を感じるのは気のせいではない。そこについて修正を求められるとセシリアは落ち込んでいた。

お次のインターセプターについても名前を呼ぶ事で呼び出したセシリアには千冬から大目玉をくらい「貴方達のせいですわ!」と言われてしまうのだが、蓮は苦笑いしか出来なかった。

 

「さて、次は飛行訓練だ。上まで上がれ!」

 

「はい!」

 

「わかりましたわ!」

 

「いくぜ!」

 

上から蓮。セシリア。一夏の順で飛び上がるとそれぞれが速さを競う。その中で一夏は少しばかり遅れている為、千冬がインカムから激を飛ばす。

 

「織斑。スペックは夕凪と同程度あるんだぞ。貴様が置いていかれてどうする!」

 

その速さを聞けば度肝を抜かれる少女達も多いが今はその機動を見届けるのが先だった。

一方の一夏と蓮にセシリアは、飛行のイメージについての談義をしていた。

 

「反重力とかそんなの、分かんないよなぁ。おまけに円錐なんて考えただけでも分かりづらいな」

 

「一夏さん。イメージは人それぞれですわ。何でもいいんです」

 

「僕は翼を。背中に翼があるようにイメージしてるよ」

 

「なるほどな。そういう考え方もあるのか」

 

そんな会話をしていると下では箒が真耶のインカムを奪おうとして、千冬に出席簿で叩かれている。

なんとも言えない光景を見るも、三人はそろそろ地に降りるかという結論に至った。

 

「それでは、お先に失礼しますわ」

 

まずはセシリアから。千冬が出す指令の10cm近くに降りる。

 

「次は俺だな」

 

続いて一夏。今の彼に慢心はなく出来る限りの速さを使い降りるが、少しばかり10cmをオーバー。だが、地面にぶつかるということは起きなかった。

この話の裏にあるものだが、一夏は物覚えが良い。

例えば今の蓮から聞いた背中に翼をというイメージは、彼の中で自分のイメージを固めるに至る。それにより綺麗に降り立つことが出来たのだ。

そして、最後に蓮が降りることとなる。

 

「……よし。やるぞ!」

 

スピードを乗せて降下を始めると、スラスターの微調整を始める。地表までの時間をイメージで計算すると、真耶との訓練を思い出した。

そして、瞬間の判断で空中で一回転するとスラスターとバーニアをふかして静止。ピッタリ10cmという結果になる。

 

「規定通りだ。金澄、合格だ。今度は脚からも降りられるようにしてみろ」

 

「はいっ!」

 

「おお、流石だな。蓮!」

 

「今のは驚きましたわ……」

 

こうしてその日の訓練は終わる。終わるのだが、彼等はまだ知らない。彼女の来襲があるという事を。

 

 

 

 

「此処がIS学園ね……待ってなさい。一夏!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話 紅視点

今回はしゅーがく氏視点です。

投稿が遅いのを許してください…(震え)


 今日の教室はいつもと違っていた。理由は簡単だ。

今日のISの講義は実機演習なのだ。今まで座学でしか触れてこなかったISを、今日は遂に触ることが出来るということで気分が高揚しているのだ。

 

「やっぱり皆、楽しみにしているんだねぇ」

 

「そうだな」

 

 最近は休み時間もフェルメールと話すことが増え、誰かしらと一緒に居ることが増えた。

中学生までのことを聞かれたりだとか、聞いたりだとかそういうことを話したりしている。そのうちに、また別の話をしたり出来るんだろうな、と俺は思っていた。

 次の講義がISなので、そろそろ移動しなければならない。実機なのでISスーツを着用しての講義だ。

女子は教室で着替えるから良いものの、俺が教室で着替える訳にもいかない。なので男子はアリーナの更衣室で着替えた後、集合して講義を受ける。

 

「悪い。俺、着替えてくる」

 

「男子だもんねぇ~。いってらっしゃーい!!」

 

「あぁ!!」

 

 そろそろ行かないと間に合わないということで、クラスメイトに見送られながら、俺は教室を出て行く。

 実機演習の講義は基本的に2クラス合同で行うことが多いが、3組はどうやら合同で行うことは無いらしい。理由は幾つかあるとのこと。

それは昨日、山吹先生に仕事を頼まれた時に訊いたことだった。

1つ目は『1年のクラスが5つしかないこと』。2つ目は『他学年とISの講義が被っているから』だそうだ。それなら単独になるのも無理はない、と俺は思った。

 アリーナに入って、俺はISスーツに着替える。

もう何回か着ているものだが、やっぱりクラスメイトに見られるのは恥ずかしいものだ。男ではあるが、多分クラスメイトの方がそういうのを気にすることだろう。

あまりジロジロと見るのも悪いだろうから、細心の注意を払わねばならないな。

そんなことを考えながら、俺は実機演習の講義が行われるグラウンドに出ていった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 講義が始まる前には既にグラウンドにクラスメイトたちが集まっていた

俺はというと、どうやら少し遅れての到着だったらしい。

 

「あっ、天色くーん」

 

 チャイムが鳴るまでは離れたところに居ようと思ったのだが、呼ばれては無碍には出来ない。

俺は走ることはなく、歩いて近づいていった。

 俺は織斑 一夏や蓮とは違い、顔のパーツが整っているという訳ではない。つまりは普通なのだ。2人だったらまた別なのかもしれないが、やはり嫌悪感を抱くクラスメイトも居るだろう。

いくらISが動かせる男性だとしても、どうしても駄目な相手は居るというものだ。人間は選ぶ生物だ。

何故こんなことを今になって考え始めたのかというと、周りを見た俺の感想だった。男でISが動かせるからという理由から好奇心で接してくるクラスメイトもいれば、そういうのを全く気にせず来るクラスメイトもいる。その中には、ここ10年で世界中に蔓延しているような風習を肯定しているクラスメイトも居るのだ。

『何で男がISを……』というような感情が滲み出ている者も居るのだ。

何にせよ、そういう相手とは関わらないのが一番なのだ。

 

「天色くんは専用機で実機演習なの?」

 

「そうなるな。使わないのは宝の持ち腐れだ」

 

 こうして話しかけてくるのは寛容なクラスメイト。簡単に言ってしまえば"自分の意思で物事考えるタイプ"だ。

ライフル部に俺を誘ってきた垣谷 実もその1人だ。教室でよく話しかけてくれる内の1人で、俺もよく話しかける。結構さっぱりとした性格をしているのだ。

ちなみにフェルメールの数少ない友だちの1人でもある。

 

「着替えながら聞いたんだけどさぁ、ジェードって山吹先生の解説以上に癖のあるISらしいじゃない?」

 

「ありゃ癖の塊だ。どこを取るにしても癖しかない。もう『癖』って改名した方が良いのかもなー」

 

「そんなに? 何でも、過剰に付けられたスラスタが云々とか……」

 

 ジェードの詳しいスペックを知っているのは山吹先生とフェルメールくらいだが、十中八九フェルメールが喋ったんだろう。

まぁ、どのみち皆知ることになるから問題無いだろうな。

 

「走る時にスラスタが勝手に動くんだよ。安定性を犠牲にして使用者の疲労軽減を図ってるみたいだけど、逆に足が変に力むから疲れるんだよ」

 

「へー、足を浮かす補助をしているのかな?」

 

「まるっきりそのためにスラスタが作動しているんだよ。まぁ、お陰で普通のISじゃ出来ない動きが出来るようにはなっているけどな」

 

 そうこうしていると、山吹先生がグラウンドに現れた。

時間的にも講義が始まる時間ということもあり、俺たちは分かれて整列をする。そうこうしていると、チャイムが鳴る。

 

「さぁーて、ISの実習、いってみよー!!」

 

 テンション爆調だな、この人。ということで、俺がクラス代表なので挨拶をする。

 

「よろしくお願いします」

 

「「「「よろしくお願いします!!」」」」

 

「うむうむ、よろしくされてやろうっ!! じゃあ早速だけどさ、あそこに見えているラファール使うよ」

 

 そう言って、赤色の生地に白いラインの入ったジャージ姿の山吹先生が指を指した。

その先にはグラウンドの端に置かれたビニールシートを被った大きな物体。それが何だか分からなかったが、ラファールだったのか。

 

「はいはい、前列に並んでいる子は取りに行ってねー。残りは私の説明を聞くこと」

 

「「「「はいっ!!」」」」

 

 今日が初実機演習なのに、良いのか? と俺は思った。

まぁ、山吹先生の方針だから良いのだろう。それにこれまでのISの講義の座学では、ISについてのことを学んできている。置かれているラファールを起動し、ここまで歩いてくることの造作もないだろう。

俺は山吹先生の説明に耳を傾けた。

 

「皆が今から使うISの説明をしてもらうか!! ここはお手本でフェルメールさん、よろしくぅ!」

 

「はい。山吹先生の仰ったラファールは正式にはラファール・リヴァイブ。フランス・デュノア社製第二世代型IS。第二世代では後発の機体ながらも、第三世代とは引けを取らない性能を持ち合わせています。装備によって近・中・遠距離仕様に切り替えることが可能なマルチロールファイターで、操縦も容易ですので搭乗者を選びません」

 

「はい合格。てな訳だけど、初回は非武装ね。攻撃はパンチしか出来ないけど、そもそも今日は戦闘訓練はしません!!」

 

 誰も何も言わない。それだけ真剣なのだろう。

 

「本当は打鉄もあったんだけど、別の実習でどうやら剣で打ち合いをするみたいなんだよねぇ。だから残ってたラファールしかないので、皆文句は言わないようにね」

 

 返事はない。文句は無いのだ。

ひとまず、ISに乗って訓練が出来ればいいからな。

 そうこうしていると、ラファールを取りに行っていたクラスメイトが戻ってきた。皆装着した状態でこっちに歩いてくる。かなり足取りはおぼつかないが。

そして近くまで来ると、膝を付いて装着解除をしてこっちに戻ってきた。

ここまでは既に座学で習っているし、出来なければおかしいことだから皆出来て当然なんだろう。

 

「さてさて、ラファールも来たところだから早速やろうか? ラファールは4機あるから全員4グループに分かれてね。それぞれのグループに専用機を持ってる天色くんとフェルメールさん。それとISの訓練経験のある……」

 

 こうして始まったのは良いが、どうしてこういうことになるのだろう。

バラバラにグループに分かれての実習になるが、俺とフェルメールその他2名は事前に講義内容を聞いていた。今日は装着と歩行訓練、装着解除までを行うとのこと。時間が余ったら走るらしい。

それは良いのだ。俺もそんな風にフェルメールにコーチしてもらっていたから。だけど、この状況などうなんだろう。

皆、人数が同じくらいになるように別れたのだ。だがどうしたものか。

 

「天色くんもISを装着するんだよね?」

 

「もし何かあった時に対応出来るのはISだけだもんね?」

 

「ほらほら!!」

 

どうしても皆、俺にISを使って欲しいらしい。俺だって訓練中でまだ浮くことも出来ないというのに、訓練中の暴走を止めることなんて出来ない。

まぁ、生身よりかはマシかと思い、俺はISを装着することにした。

 今までISを装着する時には何かしら口に発していたが、今は考えるだけで展開することが可能だ。

すぐにISを装着して、足を地面に着ける。

 

「ほら、さっさと実機演習始めないとドヤされるぞー。出席番号順で装着して歩いてみてくれ」

 

「「「「はーい!!」」」」

 

「軽いな……」

 

 山吹先生が話していた時とはまるで雰囲気が違う。何というか、まさしくクラスメイトに勉強を教えてもらう時の態度みたいだ。まぁその通りなんだけど。

 出席番号順に並んだクラスメイトたちは、ラファールに乗って歩く実習を行う。

俺はその横で立って見守るだけ。特に何かするという訳ではない。何か危険があったりだとかする時に注意したりするだけだ。その危険も今のところ無いんだけどな。

たまに危なっかしい歩き方をするクラスメイトも居たりするが、別にイメージ・インターフェイスやPICでどうにかなっている訳でもないので気にすることは無いだろう。

そう思っていた時期が俺にもありました。

 

「やっぱり歩くのは基本中の基本で、特に気にするところとかなさそうだねぇ」

 

「普段歩いているように歩くだけだからな」

 

「まんまそれだよ。ただ視線が高くなって腕が長くなって足が太くなっただけだけどね」

 

 そんなことを話していた。今乗っているのは垣谷さん。

確かにたまに足を引っ掛けたりしているが、注意するところはないだろう。そう思っていたその時だった。

 

「……へっ? きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 何かを考えてしまったんだろう。ついさっき気にしなくてもいいだろうと考えていたイメージ・インターフェイスやPICが作動してしまったみたいだ。

ラファールを装着した垣谷さんがグラウンドから浮き上がり、急上昇を始める。座学でもまだ浮遊と飛行に関しては詳しくやっていないのだ。制御できるとは思えない。

このまま放置してしまうと墜落してしまう。

いくら絶対防御があるとはいえ、墜落の衝撃をシールドエネルギーで吸収しきれなかったら怪我をしてしまうかもしれない。

 

「天色くん!! 何があったの?!」

 

「垣谷さんが急上昇を!!」

 

 すぐに駆けつけた山吹先生に状況を伝えるも、動くことはなかった。

俺もまだ浮遊すら出来たことがないのだ。それにこんな時に限ってフェルメールの姿が見えない。空を飛べるのはフェルメールだけなのに。

 

「回収しないと不味いっ……。天色くん、確か受け渡ししてから毎日訓練してたよね? 飛行は?」

 

 この状況下なら、俺に頼るのは当然だろう。山吹先生が飛んでいっても良いんだろうが、ISスーツを着ていない。

もし着ていたとしても、残っている3機全てがコケて立ち上がろうとしている最中なのだ。途中で解除しても、装着には時間がかかる。

だが、そんなことを踏まえても俺は飛べないのだ。飛んだことが無い。

 

「……まだ飛べてないんですよ」

 

 その言葉に返答は無かった。山吹先生は対応策を考えつつも、どこかに電話を始めた。

そんな間もグラウンド上空では垣谷さんが制御不能状態で飛び回っている。まだ浮いているが、いつ落ちてきてもおかしくない状況なのだ。

ここで俺が行かなければ、もしかしたら垣谷さんは怪我をしてしまうかもしれない。『ISで人が死ぬことはない』と言われているが、これは話が別だ。

初心者が空から墜落だ。洒落にならない。

 

「クソッ!!」

 

 俺は自分の無力さに苛立った。ここまで自分が役立たずだとは思わなかったのだ。ここでただ墜落するのを見ているだけしか出来ないのか、俺の心が蝕まれていく。

だが、やれることを思いついた。走る時にスラスタが作用するのを応用してジャンプすることが出来るということを。

俺はすぐに腰を低く落とし、足に力を入れた。それと同時に脚部のスラスタから排気が始まる。

 

「えぇ、ですから他学年の打鉄が救助に……、ってぇ、天色くん?! 何しているのっ?!」

 

 そんな俺の様子に気付いた山吹先生の声を無視し、俺は飛び上がった。

だがふかし具合が足らなかったみたいだ、50mくらい浮いたところで落下を始めたのだ。垣谷とラファールが飛んでいるのは地上から200mくらいのところ。

今居るところから悲鳴が聞こえてくるが、そこに届かないのが悔しくて仕方が無かった。

 

「空を飛べればッ!!」

 

 そう思ったのだ。訓練をもっと必死にやっていれば、もっと追い込むような構成にしてもらえば、俺はそう思ったのだ。

だが今悔やんでも遅い。今からどうにかなるものではない。

だが今飛びたいのだ。飛ばなければ、さっきから上昇を再開した垣谷とラファールが墜落してくるかもしれない。それだけは何としても避けたかったのだ。

 

「飛べ、飛べ、飛べ……。浮遊なんて知るかッ!! 思い出せッ!!」

 

 必死に記憶を掘り返す。フェルメールが飛んでみせた訓練の時、そして講義の内容、どんな風に考えて飛ぶのかを。

 

「飛べ、飛べ、飛べ……」

 

 落下しつつも姿勢を維持しつつ、いつスラスタが動き出しても良いようにする。

そしてその時は来たのだった。

地面から約30cmのところで、スラスタが作用。全ての噴射口から高熱の圧縮空気が吐き出されたのだ。周囲の砂を巻き上げ、俺の身体は今まで感じたことのないGを感じる。

とはいえ機体特性上、かなりカットされているみたいだが、今まで訓練してきた中では感じたことのないほどの圧力だった。頭の中では『ISの前方で角錐を展開するように……』とかよく言うが、俺の場合は思いつくだけ想像して出来たのは『前方に矢印の先端を向け続けるように……』というものだった。

そして気づいた時には垣谷とラファールの飛んでいる同高度まで上がることが出来たのだ。

 

「よしッ!! 飛べたッ!! 垣谷さんッ!!」

 

「ぐすっ……うんっ……」

 

 手を取ってそのまま俺は降下していく。

落下するに連れて速度が上がっていくが、俺はこの時気付いていなかった。浮遊をすっ飛ばして飛行をしたは良いが、停止をどうやってやれば良いのか分からなかったのだ。

俺はそのことを素直に垣谷さんに伝える。

 

「済まない垣谷さん」

 

「ぐすっ……何が?」

 

「飛んだは良いが、着陸の仕方を知らないんだ」

 

「えっ?! ちょっとッ?!」

 

 そう言いながら俺は地面に仰向けに寝るような体勢になり、腹の上に垣谷さんを抱え込む。

こうすれば落下した衝撃を受けるのも俺だけだ。俺が抱え込むことで垣谷さんへの衝撃は幾分かは減るはずだ。俺はそう思いつつも、減速しようと試みる。

停止を知らないのなら減速すれば良いだろう、そう思ったのだ。

スラスタから推進力を得ているのだとしたら減速は逆噴射すれば良い、そう思っていた。だが現実は違っていた。

ジェットエンジンみたく、ISの推進器には逆噴射なんて機能は付いていない。更に言ってしまえば、脚部推進器とは逆向きに指向するスラスタは多少は付いているが、それでは減速出来ないということだ。

 

「ごめんッ!!」

 

「うそーーーー!!!!」

 

 俺は大きなクレーターを作った後、衝撃に耐えられずに気絶。IS1機で2機分の質量は支えられなかったらしく、絶対防御を超えるダメージを受けたみたいだった。

背中を打撲、右肩から出血、左腕にヒビが入ったらしい。ちなみにこの学期始まってISの実機演習での負傷者は2人目。どうやら1組の時に織斑 一夏がやらかしているらしい。俺よりは酷くなかったらしいけどな。

ちなみにその話を聞いたのは、俺が気絶してから2時間後に目を覚ました時だった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 保健室で寝起き一番に、俺は山吹先生から説教を食らっていた。『浮遊も出来ないと言ったのに、後先考えずに飛ぶ奴が居るか』とか、『落下姿勢的にスラスタをふかせば減速出来たのに、どうしてしなかったのか』とか、『ISの絶対防御を過信するな』とかお小言を色々貰った。

背中が痛くて顔は見えなかったが、ここ2週間で初めて聞く声の調子だった。

 肩の出血はそこまで酷くなく、打撲も青あざになるほどでもなかった。左腕はギプスで固定させられていたが、頭を打ったので一応1日安静にしておけとのこと。

その話を保健室の養護教諭の先生に言われた後から、どうやら面会の許可が降りたらしい。何だか言い方が大げさな気もするが、まぁ1日入院扱いだからそうもなるんだろう。

 

「……」

 

 そんな訳で一番乗りしてきたのは垣谷さんだった。

まぁ、うん。俺が垣谷さんの立ち位置だったならそうする。

 

「……気にするな!! うん」

 

「……」

 

 気にするなって言われても、気にするのが人間だ。素直に『はい気にしません』なんて言える人間は少ないだろう。俺だってそうだ。

自分のせいで怪我をさせてしまったから、罪悪感とかがあるんだ。それをどうにか拭いたい、そう思っているに違いない。

どうするのかを考えていると、垣谷さんが口を開いた。

 

「助けてくれて、ありがとう」

 

 そこから動こうとはしない。病室に入ってきて立ったまま、そう言い始めたのだ。

ベッドの横に椅子があるというのに、そこに座ろうとはしない。入ってきた状態のまま、そう言ったのだ。

 

「どういたしまして」

 

 ここでオーバーに言っても仕方ないだろう、俺はそう思った。だが垣谷さんは違っていた。一瞬、苦しそうな表情をしたのだ。

困った。どうしようか。俺は考える。だが、どう言っても苦しそうな表情をするかもしれないと考えると、言葉が出てこないのだ。

そんな状態だが、黙っていても仕方ないだろう。何か言おうと考えて、俺はあることを言った。

 

「……飛べたからチャラ!!」

 

「はい?」

 

「だから、飛べたからチャラってことで」

 

 そう言って俺は強引に通した。だが、それでも垣谷さんは納得しないようだ。

これは俺が何か要求するべきなのだろうか?

考えはするが、多分ギプス程度だったら利き腕でも無いしどうにでもなると思うんだ。だから身の回りのことを頼むことは出来ない。

どうしたものか……。

 

「そんな……でも……」

 

「そうか。うーん」

 

 間を繋ぐために何かしら声を出しておく。

 

「き、今日は入院なんだよね?」

 

「え? あ、そうだけど?」

 

「確か入院中に貰える夕食って味気ないって聞いたんだけどさ……」

 

 それって、外の病院だと思うんだけどな。学園内の保健室の病室だったら、他のものが出てくるかもしれない。

よく分からないな。

 

「へぇー、おかゆとか?」

 

「ううん、負傷者と親しい人に500円渡されるんだけど……」

 

 何それ酷い。……まぁ、普通は部屋で泊まるってことはないだろうからな。それに病人食を食べさせられるような患者は、学園外の大学病院とかに緊急搬送されるだろうし……。

普通に考えれば、当然なんだろうな。

 

「それで?」

 

「養護教諭の先生に返してきて、私が作るけど……迷惑かな?」

 

 何だそりゃ。確かに買ってきたものよりも栄養は偏らないかもしれないけど、俺の夕食を作ってくれるということだろう。

俺としてはありがたいことだが、迷惑では無いのだろうか。本人は俺に『迷惑かな?』と聞いている時点で、自分は迷惑だとは思っていないんだろうけど……。

コンマ何秒か考えた末、俺は作ってもらうことにした。無下にも出来ないからな。

 

「いいや、お願いするよ」

 

「そっか。……じゃあ、作ってくるね」

 

 そう言って垣谷さんは病室を出ていった。小走りで。

 垣谷さんが出ていった後も、入れ替わりで何人か見舞いに来てくれた。フェルメールももちろん来てくれたんだが、変な様子だったのは覚えている。

『大丈夫? 不便はない?』とかずっと訊いてくるのだ。そんなことを訊かれても俺は『特に無い』としか言いようが無いだろうに。

 夕食時、垣谷さんはお盆を持って病室に現れた。どうやら本当に作ってきてくれたらしく、かなり手の込んだものを用意してくれていた。

メインは唐揚げ。シーザーサラダとわかめと豆腐の味噌汁、小鉢に小松菜と胡麻の醤油和え。御飯を持ってきてくれたのだ。良い匂いを漂わせていたそれに、俺の腹は耐えることは難しかった。

腹を鳴らして笑われたのだ。恥ずかしい思いをしたが、垣谷さんの料理は美味しかった。

 垣谷さんが食器を片付けに戻った入れ替わりで、山吹先生が入ってきたが、片手にはコンビニの袋が下げられていた。

内容物はパンやらレトルト食品とお菓子、ビール。そして、俺用とか言ってコーラを置いて病室内で呑み始めたのだ。

パンを食えだの、レトルトを食えだの言われて困ったんだが、まぁ好意だと思って食べたら案の定、苦しくなって夜にトイレに走ることになったのはまた別の話。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。