魔王の傭兵【完結】 (あげびたし)
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プロローグ

ダークソウルとオーバーロードが好きすぎて我慢できませんでした!
フロム脳患者の妄想爆裂・支離滅裂な世界感でお届けします。


あと、アーマードコアの新作まだですかね!!


日本で爆発的な人気を起こしたゲーム「ユグドラシル」。

その一時代を築いたゲームの最後の日、その影で同じように消えかけていた

ゲームがあった。

 

ーまるで、燻るの火のように。

 

 

 

 

最後のボスを倒し、一息つく。なんとか間に合ったようだ。

手に持っていた大鉈を背中に担ぎ直し、現れた篝火に腰を下ろす。

 

「これで、終わりか。新作は、もう出ないんだろうなぁ」

 

エンディングを眺めながら呟く。このゲームで遊べるのは、今日で最後なのだ。

過去に発売されたゲームのリメイク。当時、そのゲーム会社が作っていたゲームは

どれも高難易度と没入感を売りにして人気を博した。その中でダークファンタジー系

のタイトルがリメイクされたのだ。

ニューロンナノインターフェイスデバイス版のそのゲームは、元々の高難易度を更に

引き上げられ、コアなファン達によって大いに盛り上がったのだ。

しかしそれも、もうひと昔前の話。高難易度過ぎた設定のせいか、新規ユーザーを獲得できずにそのまま静かに衰退していったのだ。そして今日がその最後の日、サーバーダウンとともに永久に起動されることは無くなってしまうのだ。

 

(こんなにやりがいのあるゲームも、そうそうなかったんだけどなぁ。つぎは、何で遊ぼうか、確か同じ会社でロボット系のリメイクがあったしそっちをやるかなー。でもやっぱり、寂しいな。)

 

目の前で赤々と燃え揺らぐ篝火の火を見つめながらそんなことを思う。

欲しい武器のドロップを狙いひたすら同じ敵と戦った。

何度も何度も死に、その度に攻略法を考えるトライアンドエラーの繰り返し。

投げ出しても良かった、でもそうしなかったのは本当にこのゲームが好きだったから。

生活の一部になっていた。それが今、終わる。

 

サーバーダウンまであと10秒。

胸が苦しかった。

このゲームで、自分がこんなにも諦めが悪かったことを知った。

このゲームのおかげで、「折れない心」を手に入れた。

 

サーバーダウンまであと3秒。

そんなこのゲーム(世界)に、感謝する。

 

サーバーダウンまであと1秒。

そっと目を閉じる。

 

 

 

ありがとう。『ダークソウル』

 

 

 

 

篝火の火が、一際大きく爆ぜた音がした。

 

 

 

 

 

 

『ナザリック地下大墳墓』

ここは、ユグドラシルというゲームに存在していた。

そのダンジョンを根城にしていた一つのギルドを打ち倒そうと、1500人という最大規模の

ユーザーによる侵略を退けたダンジョン。

 

根城としていたギルドの名は『アインズ・ウール・ゴウン』

 

そのダンジョンがユグドラシルのサーバーダウンの日に、ギルド長であるモモンガと共に異世界に転移してしまい、本人の知らぬ間に始まった『世界征服』という目標のため、骸骨の身体には無い胃腸の心配をする日々。

いるかもしれないギルドの仲間を探す為、モモンガは愛したギルド名を己の名前に変えた。

そうやって過ごしていたある日、一つの検証を行おうと第6階層に向かっていた。

 

 

 

 



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1:亡者の傭兵

世界観は書籍版依存で時間軸はシャルティアが洗脳されたのをアインズが救った後なります。

アインズ及びナザリック勢についてはオーバーロードを読むんだ!!
アニメもいいが小説もいいぞ!!

※今回オリジナルアイテムが登場します。


ナザリック地下大墳墓第6階層の円形闘技場。今ここにいるのはある検証をするためだ。

アインズ・ウール・ゴウンと名前を変えて以来、未知なる脅威の為にナザリックは戦力増強

を強いられている。

何故なら、共に異世界に転移したギルドのNPCであり自分の子供のように感じている階層守護者の一人であるシャルティアが何者かにより洗脳され、それをアインズ自らが殺すことになったからだ。

 

(思い出すだけで腹わたが煮え返る…!抑制されようが、このじわじわ火で炙られるような感覚は消えないか。)

 

自分には腹わたなど無いのだが、それでもシャルティアを見るたびに思い出してしまうこの気持ちを少しでも抑える為にも、戦力の増強は必要だと感じたのだ。

今回検証するのは『傭兵モンスター』が召喚された場合、どの程度のものなのかという実験だ。

召喚されたモンスターに意思はあるのか、召喚時間は、コストは、意思がなくただ命令されたことだけを行う通常のスキルによる召喚と何が違うのか、その確認だ。

 

「アインズ様!準備が整いました!!いつでも大丈夫です!」

 

元気な声が思考に耽っていた頭を冷ます。声の主である第6階層守護者アウラが相棒であるフェンリルに跨りながらこちらに笑顔を向ける。そしてその周りをアウラのシモベ達が囲む。もちろん双子のマーレも一緒だ。

 

(この笑顔を守る為にも、俺ができることをしなくちゃな。)

 

そう決意し用意した紫色のクリスタルを取り出す。

このクリスタルは傭兵モンスター召喚用のクリスタルであり、いわゆる課金アイテムである。

モンスターの種族ごとに用意されているクリスタルの中で今回の選んだのはアンデット系のものだ。自分のスキル召喚でアンデッドをよく生み出すことが多い為、万が一召喚した傭兵モンスターが、言うことを聞かないポンコツであった場合でもアンデッドならばなんとかなるのでは無いかという考えと、不人気種族であったアンデッド系クリスタルを何故か大量に持っていた、ということもあったのだ。

 

「では始めようか。アウラ、マーレ。もし召喚されたモンスターが敵対行動をとった場合ことは、わかっているな?」

「ハイ!!スキルで行動を制限しながら捕縛ですよね?でも本当に生かしたままで良いんですか?アインズ様に逆らう愚か者なのに。」

「そ、そうです!やっちゃわなくて、い、いいんでしょうか?」

 

双子のエルフはその可愛い見た目に似つかわしくない戦意を漲らしている。しかしそれはアインズのことを思っての行動だということは重々承知している。

 

「良い、万が一にも敵対された場合でも、アンデッドであるならば制御できよう。それに傭兵モンスターは稀に強力な個体が召喚されることがあるからな。殺してしまうには惜しいだろう。」

 

クリスタルによる傭兵モンスターの召喚は任意に召喚するのと違って、ランダムに召喚される。

ランダムがゆえに外れれば最悪だが、レアが当たればレベル90程度の強力モンスターが産まれるのだ。

 

(ゲームの時ならガチャみたいなもんだからってことで、あんまり使わなかったんだよなー。俺、ガチャ運全く無いし。でもだからって、課金ガチャのアンコモンアイテムでも勿体無くて捨てられ無いし。)

 

「あ、アインズ様?どうか、さ、されましたか?」

 

思い出したくない過去を思い出して俯いていた視線の先に、心配そうに見上げるマーレが現れる。その金色の髪を撫でながら気持ちを切り替える。もっとしっかりしなければと。

 

「なんでもないさマーレ。では始めよう。」

 

紫色のクリスタルを掲げ、魔力を注ぎ召喚式を展開させる。

クリスタルが光を放ち、地面に魔法陣が浮かび上がる。

一際大きな光を放つと、周りを白く塗り替えた。

 

刹那、アインズは自分の視界の端に映る、火の粉が酷く気になった。

 

 

 

始めに目に入ったのは地面。

次に、巨大な狼に跨った子供。

そして

 

「ふむ、召喚は成功だな。」

 

声のした方をみると、黒い靄を生み出す、ローブを着た骸骨。

 

上手く聞こえ無い。

というよりも、意識がはっきりしない。

 

「流石アインズ様!でも、なんか弱そうですよコイツ。ボロ布のチェインメイルに頭にもボロ布巻きつけて、見た目ゾンビっぽいですけど。あ、背中に担いだ大鉈は威力ありそうですね。」

 

ぼんやりとした視界、周りには何かわからない生物の群れ。

じぶんの手を握っては閉じる。動く。

足も動く。

そこでふと考える。

 

自分は、誰で何であったのかと。

 

「お、お姉ちゃん!せっかくアインズ様が召喚されたのに、そそれは酷いんじゃ!」

 

反対側を見れば杖を握り締める子供。

杖はこちらに突きつけられている。

反射的に腰に備えていた斧に手が伸びる。

しかしその手は鞭により、止められた。

 

「コラ!!お前何してる!!」

 

もうかたほうの子供が騒ぐ。

酷く煩い。

腕に巻きついたモノが邪魔くさい。

だから、思いっきり振り回した。

 

「え?!ちょ!!」

 

鞭を持った子供がそのまま宙に舞う。自由になった。

だが、そこまでだった。得体のしれない重圧が背中に向けられていたからだ。

 

「貴様…召喚者に逆らうのか?」

 

重圧の主が言う。

はっきりしない頭でもわかる。

コイツはヤバイと。

 

「アインズ様!こいつすんごい力です!!警戒したほうが!!」

「守護者を振り回す力か…確かに妙だな。調べてみよう。」

 

そんなことを骸骨が言いながら手を向ける。

そこからなにやら光が浮かび、骸骨が声を荒げる。

 

「なん…だと?レベル95?!しかもなんだこのステータスは!!」

 

よくわからないことを叫んでいる。

そしてやはりはっきりしない。

ここはどこで、自分は何なのか。

喉の奥の乾きはなんだ。

 

あぁ、篝火に当たりたい。

 

 

 

 




※傭兵モンスター召喚にしようした課金アイテムのクリスタルはオリジナルです。

亡者となった彼の装備を一応紹介。
ダクソ3持ってる人しかわからないようにはしないつもりで書きたいと思いますが念のため。

レベル95
性別:男
素性:騎士

兜:老師の目隠し
鎧:逃亡兵の鎧
手甲:傭兵の手甲
足甲:アルバの足甲

武器
右:ヨームの大鉈
左:羽騎士の断頭斧・呪術の火
最大強化済み

記憶スロット
内なる大力

指輪
鉄の加護の指輪
緑花の指輪
寵愛の加護の指輪
ハベルの指輪
全部+3

その他アイテム
残り火

ステータスはガチガチの脳筋ビルド詳しくは次回
受けない、全部避ける。

オバロスキルとしては作中で。


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1:亡者の傭兵②

閲覧、感想、ありがとうございます!
評価感想もどしどししていただければそれが餌になります!!

今回は後書きにてステータスを開示しています


召喚陣から吐き出されたソイツは、確かに貧弱に見えた。

ボロ布を無造作に頭に巻きつけ、見えている鼻から下の部分には水気がなく

どこか枯れ木を連想させる出で立ちだ。

それだけ見れば、ただのゾンビだろう。だが違う。コイツは違うのだ。

ボロボロのチェインメイルは修羅場を超えてきたのであろう傷が無数に着き、左腕のみ手甲をつけ、利き手であろう右腕はこれもボロ布をバンテージのように巻きつけられている。

利き手を自由に動かせるような合理的な処置だ。

足を包む足甲は膝当てにのみ鉄鋼が使われ、ブーツを荒縄で縛り付けている。機動力のみを追求しているのであろう。

そして腰に無造作に吊ってある二本の斧。無骨な作りだが、内側に反り返ったソレは、首を落とすギロチンを連想させる。

極め付けは背中に背負った身の丈以上の大鉈だ。一体どれほどの血を吸ったのかと言わんばかりに血糊がこびりつき凶々しさを増している。

 

(コイツの装備からも、ただのゾンビでは無い事は明確だ。いくらアウラが守護者最弱といえども、力負けしたというのも頷ける。)

 

それともう一つ。

召喚陣の展開時に見えた火の粉。火の気など全く無いはずであるのに視界に映ったもの。

それが、酷く気になっていた。

 

「お、お姉ちゃん!!だ、大丈夫?!」

 

空中から着地した姉にマーレが慌てて各種バフと回復を施す。その様子には目もくれず、こちらに向き直ったまま動こうとはしない。

 

「アインズ様!!ソイツとんでもない力です!」

 

アウラの焦りが混じる声が思考中の頭を現実に戻す。しかし、様子を見るにこちらから手を出さなければ、何もしない。先程はマーレの杖の先があちらに向けられていたのを警戒したように見える。明確な攻撃行動を示さずとも、注意をするということか。

それともマーレの【スタッフ・オブ・ユグドラシル】の力を感じとったのか。

何にせよ、確認は必要だ。

 

「確かに妙な奴だが…調べてみるか。」

 

コイツのステータスを全て閲覧する。そこに表示されたのは破格のステータスだった。

召喚される傭兵モンスターの上限レベルは特殊な条件以外では90が最高だと記憶していたがコイツはそれを突破したレベル95であり、見た事の無い種族とスキルを保有していた。

 

(レベル95…これは何だ?《呪い人》に《火の無い灰》?アンデッドであることは確かだがこんな種族なんてあったのか?職業レベルがほとんどなくて種族レベルだけなのはモンスターではよくあるけど…しかし種族レベルの上限であるレベル10以上。それだけで95まであるなんて…もしかして、コイツって…)

 

この異常なレベルと見た事もない種族。そして、召喚の時の火の粉。まさかとは感じるも表情が出ない顔に笑みが溢れる。

 

(まさか…これが!これが!シークレット・レアというやつではないのか?!ガチャ排出率0,05%の隠しレア!!存在はあっても絶対出ないと言われたクソ運営の罠!!ウルベルトさんが悪魔クリスタルで狙って破産しかけたアレなんじゃ?!)

 

そうだ、ならばあの火の粉は確定レア枠の演出だったのでは無いだろうか。課金の傭兵モンスター召喚の全てを把握していたわけでは無い。知らない内に追加されるのは何時もの事なのだ、あのクソ運営ならやりかねない。

そしてこのバランスを無視したステータスは、正にシークレット・レアにふさわしいものだ。

 

「アインズ様!!今アルベド達階層守護者に連絡をし、ここに来ます!それまで私達の後ろに!!」

 

睨み合う姿に慌てたのか、アウラとマーレが油断なく前に踊りでる。その顔には奢りはなく強者の余裕すら消した本気の守護者の様子だ。

その瞬間、背後から2つの気配がする。

 

「アァァァァインズ様ぁぁ!御無事ですかぁぁ!!」

 

目の前いる奴を敵と認識した真紅の鎧に巨大なランスを構えたシャルティアが飛びかかる。

突撃していくその顔には憤怒が塗れ滅殺の意気が見える。

 

「このクソ虫がぁぁぁ!!私の愛するお方にぃぃなぁぁにをしたぁぁ!!!」

 

シャルティアを追いかけるように現れたのは完全武装に身を包み、緑の眼光を宿すアルベド。バルディッシュを振りかぶり力のままに振り回す。

枯れ木のようなただの傭兵モンスターに、本気の守護者が二人がかりで攻撃するなどこの世界では稀である。

対するヤツはその烈火の如き勢いの力の奔流に、ただ飲まれてしまうように見えた。

だが、在ろう事かそのままその突撃に合わせるように上体を限りなく低くしたまま飛び込み二人の隙間をすり抜ける。

そして振り向きざまに派手に土煙をあげ、コマのように回転しつつ腰の斧を抜き放つ。両手に握られた斧が鈍く光を反射している。

そうして上半身の捻りを遠心力に任せ、シャルティアの懐に潜り込みながら襲いかかる。

ランスの弱点はその間合い。アインズ自身、先のシャルティア戦でも見せた戦いかたを目の前の傭兵モンスターはいとも容易く行ったのだ。

最初の一撃をまさかあんな風に避けられると思っていなかった二人は、一瞬気が遅れ、容易くその懐に潜り込まれてしまったのだ。

踏み込まれた斧の間合いに振り回されるシャルティア。左右に持たれた双斧が上下に打ち分けられ、アウラを振り回したその力で強引にも見える攻撃を繰り出し続ける。

辛うじて彼我の間に槍を滑りこませたシャルティアだったが、防御を無視した攻撃に押され始める。

そうしてる間に、攻撃速度は徐々に増していく。ギアをあげたように斧の重さを利用し遠心力を加えた攻撃。上から下、左から右へ。回転をしつつ襲いかかるそソレは竜巻の如し。

シャルティアの槍の動きが付いていけくなっていく、それ程までの苛烈な攻めなのだ。スキルやレベルは優っているはずのシャルティアが押される、あり得ない事だ。

自分の中に焦りが生まれる。

 

「アルベド!何をしている!!シャルティアの援護をせよ!!」

 

気づけばその戦闘に目を奪われていた頭を切り替え、アルベドに指示をだす。それはアルベドも同じだったらしく、慌てたようにヤツの背後へバルディッシュを振り下ろす。

しかし、どう察知したのか完全な不意打ちにも関わらず横にローリングされ避けられてしまう。そしてそのローリングの勢いを殺さないまま鋭く踏み込み次はアルベドに躍り掛かる。

二人の得物は長物だ。潜り込まれればその威力は半減どころではない。それをヤツは理解しているのだ。だから背の大鉈ではなく、小回りがきき至近距離で威力を発揮する斧を使っているのだ。

決して二人が油断しているわけでは無い。レベルで負けているわけではない。

これは、戦闘経験の違いだ。ヤツは戦い慣れている、それはレベル差をゼロにするものだ。

防御にスキルを振っているはずのアルベドが苦悶の声をあげる。シャルティアが攻撃を割り込ませるも、絶妙な位置どりで容易くよけられ、すぐさま反撃されてしまう。

たった一人に翻弄され、ジワジワと被弾が多くなり始める。反対にヤツは攻撃に鋭さが増し始める。

 

と、瞬間、その竜巻の如き攻撃を横から吹き飛ばす。

 

「ココハ、マカセテモラオウカ!!!」

 

裂帛の戟とともに吹き飛ばしたのは青い甲殻鎧。

四本の腕にそれぞれ武器を持ち、冷気を巻き上げるはコキュートス。深い青の目はいまや赤々と燃えガチガチと威嚇音を鳴らしている。

その阿修羅の如き攻撃をモロに受け壁まで吹き飛ばされ叩きつけたヤツを、未だ警戒しているということはそういう事だろう。

まだ、息があると。

 

「◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️ッーーーーー!!!」

 

獣の咆哮を上げながら崩れた壁から飛びだしたヤツは頭の布が一部破け、そこから覗く左目から暗い赤の光を燃やし、その光を置いていくように軌跡を残しコキュートスへ突進する。その早さな尋常ではなくここにいる誰よりも早く見える。

斧は既に手にはなく、背中の大鉈に手をかけ上段から振り下ろす。

それを迎え討つコキュートスは右腕の剣。それがかち合った瞬間大気が揺れる。

力と力がぶつかり合う、力は互角。

ヤツの大鉈を防いでいる剣は斬神刀皇。武人建御雷より与えられたその一振りを持ってして互角。

つば迫り合いの火花が散り、そして離れる。

風切り音と共にコキュートスの左腕二本が横薙ぎに振るわれる。ブロードソードとメイスの二連撃。ヤツはそれを大鉈の腹で受け、横に飛び引きながら着地の足を軸に回転する。

斧の時とは違う速度。更に早さをました勢いで大鉈を真横に振り抜く。

コキュートスはそれを斬神刀皇で弾く。弾かれたものの、その勢いを止めずに腕を回転させつぎは上段の振り下ろし。それをコキュートスは片足だけを大きくずらし、半身の体勢で避ける。その一瞬の間に左右計四つの腕で斬りかかる。

ナザリック一の武芸者の本気を見せ付けられたシャルティアとアルベドには入り込める余地はなかった。

 

「アルベド、そしてシャルティアよ。ここはコキュートスに任せるのだ。」

「も、申し訳ありませんアインズ様!この処罰はいかようにも!!」

「アインズ様に助けられながら、その矛にもなれぬこの身をお許し下さい!!!」

 

二人に近づき声をかける。思った以上の消耗した声に驚く。

それ程なのかと。

 

「スキルを使う暇も無い攻めだったという訳か。あの攻め方では距離を取るのも難しいというわけだな?」

 

二人の肯定の声を聞き分析する。

魔法の詠唱にはタメがいる。それをさせないほどの攻撃技術。経験値の差が如実に現れているのだ。

たった5分にも満たない戦闘で二人の守護者を抑え込むその技量に逆に感心する。これが、シークレット・レアの力なのかと。

 

(強大な戦力にはなるが、言うことを聞くのか?あれは。狂犬じゃないか。もしものときは俺が出るしかないな。)

 

内心の焦りとレアを手に入れた喜びが入り混じる。言うことを聞けばよし、聞かねば処分は止むなしというところだろう。

そうしているうちに、剣戟の音が止む。視線の先には双方ともに傷だらけで間合いを開けている状態であった。

コキュートスの左腕の武器は既に無く、足元にはその破片が散らばっている。同じくしてヤツの左腕は血だらけのままダラリと下げられ、大鉈を肩に背負っている。それでいて両者ともにその目に宿す戦意は全く衰えておらず、どこか楽しげであった。

ここが潮時だな。

 

「双方共に剣を収めよ!!!ここから先は私が預かる!!!」

 

二人の戦意に負けないようにスキルを全開放しつつ声をあげる。そうでもしなければ止まらないだろう。二人は顔をこちらに向け、そうして武器を下ろした。意外にもヤツは言うことを聞いたのだ。

さて、どう落とし所を作ろうかと二人を睨み続ける。ここからが正念場だろう。

 

 




コキュートスの目が赤くなるのはあれです。王蟲リスペクトです。


ダクソ基準での彼のステータス公開ついでに誓約も。

誓約:積む者

生命力:25
集中力:10
持久力:27
体力:15
筋力:66
技量:14
理力:10
信仰:10
運:7

脳筋だね!
積む者も作中でスキルとして発揮させたいなぁとおもいます。
種族《呪い人》《火の無い灰》はオリジナル種族です。
彼は亡者になってしまったのです。何故亡者となったのかそれはこの先で。
あと時間軸ですが、同時期に送られたはずがズレがありますね。
これは、時空の歪みが云々というダクソの白召喚を元にしとります


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幕間:亡者の火

昔話をしてあげる…以下略。

フロムさんお願いです。
ACの新作下さい




小さい赤い鎧と大きい黒い鎧が迫る。

得物は槍と長斧、明らかな殺意。

込み上げてくるのは歓喜か。

気づけば身体は素直に反応し、僅かな隙間を抜けるように敵の攻撃を回避。

腰の斧を手に取り、その重みに懐かしさを感じる。

蹴りつけた地面から舞う砂塵に混じり小さい方に斬りかかる。

槍に攻撃が防がれようとも、もう止まらない。

相手の拙い防御の隙に連撃を叩き込む。

湧き上がるこの歓喜で身体が爆発しそうだ。

黒い鎧は何もしない、なら押し切らせてもらう。

両手の斧を振るう度に頭を覆っていた靄が晴れていく、そうだ。こうやっていつも戦っていたのだとわかる。

いつも戦う時は一対多だった。それを全て斬り伏せたこともあった。そうやって積み上げてきた。

背後から殺意を感じ横に転がる。そうくるぐらい予想済みだ。

次は黒い鎧、両方とも長物だから懐にはいれば問題無い。

あぁ、喉の渇きが潤う。

夢中になっている。自分でもわからないが、身体が本調子になっていくのがわかる。

 

左側からとてつもない早さの斬撃が見えた。

避けきれない。攻撃の手を防御に回す。

辛うじて防げたが、斧は弾き飛んでしまった。

壁に打ち付けられ、崩れ落ちる破片が頭に当たる。

朧げな視界の中に自分の手のひらが見えた。

 

ーあぁ、こんなところに「火」があったのか。

 

手のひらに生まれたその火を身体に近づける。

吸い込まれるようにその火は身体に入った。

身体が、熱い。今にも弾けそうなほどの力が燃え上がる。

 

視界が晴れる。

青い鎧がめにつく。

あれだ、あれが俺を飛ばしたのか。

強い、見ればわかる。

あぁ、俺も全力で相手をするぞ。

楽しい。

 

「■■■■■■■■■ッーーーー!!!」

 

溢れる力と喜びが爆発した。叫び声を上げて自分に檄を入れる。

俺は、まだやれる。

大鉈を握る。

振り回す。

弾かれる、避けられ、斬られる。

俺も避け弾き斬りつける。

 

そうだ、ここが。この場所こそ求めていた場所だ。

左腕を持っていかれた。

だが、敵の武器は壊した。

もっとだ、もっと!

だが先ほどまでの力が抜けていく。

身体の中の火が弱くなっていく。

 

「双方共に剣を収めよ!!!」

 

ローブの骸骨が死の気配を巻き上げながら叫ぶ。

その威圧は、身体の動きを止める。

見れば青い鎧も戦意を無くしている。

残念だが、ここまでか。

 

火の温もりが残る手を見ればそこには奈落のような黒い穴。

それを握りこむと骸骨に向き直る。

何やら、喋りかけられている。傭兵?名前?

名前は、何だっただろうか。そもそも俺は何だっただろうか。

だけれども、傭兵という単語には強く身体が反応する。

遠い記憶の中で、そう呼ばれていたような気がする。

そうだ、その時こう呼ばれていたはずだ。

()()()()()()()()()()()()()

 

「…レイヴン。」

 

そうだ、俺は(レイヴン)だ。

 

 

 

 




じゅじゅちゅの火(言えない)はこんな使い方でいこうかと
アーマードコア成分が増えてきます。
コジマ汚染された残念フロム脳なんです。
ゆるして下さい。

作者は火星人のレイブンでリンクスでミグラントな首輪付きの烏です


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2:傭兵の契約

沢山の閲覧、感想、評価ありがとうございまーす!!
初投稿にも関わらずこんなに見ていただき感謝です!!

\( T)/<太陽万歳!!



二人が武器を下ろすのを確認し、まずコキュートスに声をかける。

赤かった目はすでに平時のソレに戻り、視覚化するほどの剣気も無い。それでも昂った興奮は抑えられていないように見える。

 

「ご苦労だった、コキュートスよ。お前の全力の闘争しかとこの目に焼き付けた。この闘いを見れば、さぞ建御雷さんもよろこんだであろう。」

 

まずは落ち着かせることにした。これを聞いたコキュートスは身体を深く折り曲げ臣下の礼をしながら震えている。逆に興奮させてしまったのではないだろうか。

 

「…ッ!アリガトウゴザイマス、アインズ様。シカシ、アタエラレタ武具ヲ壊シテシマイマシタ。コノ身ノ処罰ヲ願イマス!」

「それには及ばないともコキュートス。ヤツとの闘争はそれほど苛烈なものだったのだろう?寧ろ褒め称えて然るべきだと思うがな。…それで?強かったか?ヤツは。」

 

今にもハラキリでもしそうなコキュートスを、抑えながら控えめに聞く。戦士職では無いため、実際の実力は確認できないのだ。ましてこの世界、ステータス上の情報などあまり意味を持たないであろう。

これを聞かれたコキュートスは、少しの間逡巡した後喋り出す。

 

「強イデス。シャルティアトアルベドヲ抑エ込ミ戦ウ技量モサルコトナガラ、コト戦闘ナラバ私ト互角。力ハ劣リマスガ、ソレヲ補ウスピードガアリマス。セバストモ良イ勝負ヲスルノデハ無イカト。」

 

こちらの目を真っ直ぐに見つめながら語るその言葉に嘘は見つからない。過大評価するでもなく、過少評価もしない。しかしそれでも衝撃的な光景だった。レベル差がある相手を3人も敵に回しそれでいて大立ち回りをやってのけたその意気。そしてただのゾンビにあるまじき戦闘能力。さすがシークレット・レアなだけはあるようだ。ウルベルトさんが欲しがった理由が少しわかる。連れ出せるNPCとしては最高なのではないだろうか。

しかし、それはこちらに害が無い場合だ。攻撃の意思をとれば即敵対するなど使い方難いにもほどがある。そして意思の疎通ができてこそなのだ。

見ればヤツはこちらを気にしながら血を出し続ける左腕の動きを確認するように手のひらを握っては開くを繰り返している。

 

「さて?言葉は通じるのかな?傭兵モンスターよ。貴様に名前があるなら聞いておかねばならん。今後の契約についてもな。」

「アインズ様!!このような者と会話が成り立つとは思えません!!!」

 

アルベドの仲裁には目を向けるだけで止める。

それを意に介さないようにヤツは、首だけをこちらに向ける。水気の無い肌に落ち窪んだ眼窩。ゾンビであることは間違いないのだろう。そうして少しの間があった頃。ポツリと口を開く。

 

「…レイヴン。」

 

重く響くような声。だがそれ以上に、意思を持ち受け答えができるゾンビであることが衝撃的だった。しかも名を名乗るなどとは。

そしてまだ何かあるのかと言わんばかりに顔を向けられ、会話を更に続ける。

 

「貴様の種族は何だ?そして何故攻撃してきた?」

「…種族?………わから、ない。攻撃。は。そちらから、だろう。」

 

聞き取れなくは無いが、酷くたどたどしい。会話ができるといっても、所詮ゾンビなのだ。ここまで喋れれば十分だろう。

そしてやはり攻撃は自分の意図では無いにせよ、迎撃したということだ。

 

「 あぁそれはこちらの不手際だ。貴様を傭兵モンスターとして召喚した時のすれ違いだ。こちらに貴様を殺す意図は無い。」

「傭兵…?なら、アンタ、が…雇い主、か。」

「そうだ、私が貴様の召喚者であり雇い主のアインズ・ウール・ゴウンだ。」

「あ…アイ、ンズ?…長、い。アインズさんで…いい、か?」

 

そう言いながら片膝を立てながら腰を下ろす。その姿を見た守護者達から殺気がもれるが、既に気にしていないようだ。

だからこちらも地面に胡座をかく。

 

「あ、ああ!アインズ様!!!そのようなことをしては!」

 

シャルティアやアウラが慌てて声を荒げる。残り二人かなり動揺しているようだ。しかしそれを手を上げることで静止し話を進める。相手と対等に話をし契約させねばならない。何故ならこの目の前の傭兵(レイヴン)はシークレット・レアなのだから。

 

「かまわん。だが、俺が貴様の召喚者であり雇い主という事を忘れん限り、だがな。それで?傭兵よ。貴様と契約するには何がいるのだ?」

 

このクリスタル傭兵モンスターの召喚は、契約モンスターが出すクエストをこなすことで永久契約が可能なイベントこみであったと記憶している。排出されたモンスターごとに用意されたクエストは、低難易度から超高難易度まで揃っているという妙な力の入れ具合。流石クソ運営だ。

 

「契約、に必要な、モノ?………………篝火を、くれ。それだけ、だ。」

「篝火…?本当にそれだけなのか?」

 

拍子抜けの答えだった。てっきりなにか特別なものが必要なのかと思えば、()()()()()とは。しかしシークレット・レアに相応しい難易度の物、例えばユニークアイテムを要求されなかっただけマシだ。だが篝火とは、妙な物を要求するヤツだ。

 

「良いだろう。ただしその篝火はこのナザリック内に設置させて貰う。外で煙なんて出したらここがバレてしまうからな。」

「あぁ…それで、いい。」

「ならば、契約は成立だな?追って指示を出す、それまでここにいるように。見張りにはアウラとマーレ。そしてコキュートスをつけさせる。」

 

立ち上がりつつコキュートスに目を向ければ、既に分かっていたような声が返ってくる。抑えられるのは自分しかいないと理解しているようだ。

アウラとマーレは注意深く確認しながら返事を返す。三人の監視は過剰かもしれんが、念のためだ。レアを逃すには惜しい。アルベドが何か言いたげだが、それは後で聞く事にしよう。とりあえずの決着はついた、ならば次どうするかを考えなければならない。

指輪の力を発動させ、執務室に転移することにした。

 

 

「ねぇ。アンタ。聞いてるの?!」

 

目の前のゾンビ?が用意された篝火から顔を背け、こちらを不思議そうにこっちを見つめる。火に照らされた半分と影になる半分の顔、戦いで傷ついた身体は既に弟が直している。

しかし、どうやら聞いていなかったみたいだ。戦っていた時の覇気は全くかんじられず、大人しく腰を下ろしている姿はただの死体に見える。こんな枯れ木のような身体でシャルティア(守護者最強)アルベド(守護者統括)を相手取り、コキュートスと斬り合ったというのだから、呆れを通り越して笑えてくる。そんな様子に何を感じたのか、背中の服を引っ張る弟がオドオド何かを言ってくる。

 

「お、お姉ちゃん。あ、あんまり話さないほうが、い、いいよぅ。」

 

そういえば、傭兵(レイヴン)が一番最初に反応したのは、弟の杖だった。あの時は咄嗟に鞭で腕を抑えたが、まさか片腕だけで振り回されるなんて思わなかった。だからだろう、普段より余計に弟が警戒しているのがよくわかる、しかしここにはコキュートスもいる。私も、もう油断なんてしないし三人もいれば流石に簡単に抑えらるだろう。

 

「あぁ…何だった、か?…うまく、聞こえ、ない…んだ。」

「だーーかーーらーー!!なんで篝火なんて欲しがるのよって言ったの!!!」

 

でもそんな緊張感生み出している本人は、呑気なものだった。聞いてるものだと思った質問は軽く無視されている。言葉を交わせるのはいいが、たどたどしくて聞きづらい。なんでアインズ様は「傭兵(レイヴン)とコミュニケーションをとれ」なんて言ったのか分からないが、それは私が預かり知らぬことなのだろう。

すると篝火の火が爆ぜる音に混じり、声が聞こえる。

 

「…あぁ…火を、見ると、な。…落ち着く。それ、に…温かい。」

 

そんな事を考えているなんて、全く無視したように返答してくる。ゾンビだからなのか、テンポがかなり遅い。しかも、なんかズレているような気がする。そんなことのために要求するなんて、ホントに変なヤツだ。でも、ソレについて語る顔が酷く安らかであるのが少し気になった。マーレもポカンとしている。きっと同じように思ったのだろう。戦っている時の猛々しさを影を潜め、ただ静かに過ごしたいなんてホントの死体みたいだ。

その後もポツリポツリと会話を続ける、ゾンビらしくない答えを返すのが少しだけ面白いと感じた。マーレも怯えずに受け答えをしている。何の話だろうか、昔話?のようなモノを語っているようだ。

そんな風に観察していると、アインズ様が転移してきた。

背後には忙しいはずのデミウルゴスを連れている。普段の涼しげな雰囲気とは違い、張り詰めたような空気感だ。

 

「アインズ様、これがお話にあった傭兵ですか?」

「そうだ。あの場にいなかったお前にも紹介しようと思ってな、それに相談もある。」

 

デミウルゴスの目が僅かに釣り上がるも、しかし何も無かったかのように元に戻る。そしてアインズ様の足元に臣下の礼をした。慌てて私達も続き、その後にコキュートスが続く。横目で傭兵を見れば、首だけをこちらに向けているようだ。

 

「まず、今しがたアルベドとも相談しこれからの方針が決まった事を伝える。まずはコキュートス。」

 

重々しく放たれる言葉に打てば響くような反応でコキュートスが返事をする。

 

「貴様には、先に伝えた通り、リザードマンの集落を軍勢を率いて攻略する任に戻ってもらう。よいな。」

「カシコマリマシタ。」

「そして、アウラは地上での作業に戻ってもらおう。時間が無いのは承知だが、急ぎで頼むぞ。」

「はい!お任せ下さい!!」

 

名前を呼ばれる。やっと元の任務に戻れる、あんな大仕事を任されているのだ。ある程度の指示は出しているとはいえ、完璧にこなしたいから今にでも駆けつけたいところだ。

 

「よろしい。そしてデミウルゴスよ。急ぎお前を呼んだのは他でも無い。そこにいる傭兵についてだ。軍事顧問である貴様に彼を使って欲しい。ただの戦力としては申し分ない。コキュートスにも太鼓判を貰った強さだ。良いように使うが良い。」

「ほう…コキュートスが、ですか。それは知略も、でしょうか?」

「いや、それは当てにしないほうが良いだろう。所詮ゾンビだ。だが、暴力装置としては優秀に間違いは無いだろう。それは私も確認済みだ。命令については、彼に貴様の言う事を聞くよう伝えよう。」

「…何と。アインズ様が一介の傭兵風情に、直接お声をかける必要があるのですか?」

 

最もな意見だと思う。わざわざアインズ様が直々に命令を与えずとも任されたデミウルゴスが指示を出せば良いはずだ。だけれどもアインズ様はその進言に首を横に降る。

 

「よいのだ、デミウルゴスよ。彼とは対等な契約を結んだのだ。元々ナザリックに住まう者ではない彼に、そこまでの忠義を求めてはいない。ならばせめても信頼関係は必要だろう?」

「…そうアインズ様がそのようにお決めになったのでしたら。分かりました。彼をお預かりしましょう。」

「うむ。準備が整い次第貴様の指揮に加えるがよい。苦労をかけるが、よろしく頼むぞ。…それと、マーレ。」

 

デミウルゴスは渋々といったようだが、至高の御方の決定は絶対だ。そこにどんな意図があるか検討もつかないのだから。いくら守護者の中でも一番の知恵者のデミウルゴスもそれを測りかねているのだろう。そうして聞いる途中で、急に声をかけられた弟は肩を跳ねさせながら返事をする。

 

「お前には、彼の話相手をしてもらう。もちろん護衛を付けるそれと同時に、監視も兼ねて欲しい。…貴様もそれでいいか?傭兵。」

「…あぁ。好きに、すればいい。」

「か、畏まりました!!!」

 

ドギマギ答える弟に、相変わらずの口調が重なる。そうしてアインズ様はこれから御自分の職務に戻られるようだ。別れの挨拶を口に出した瞬間、今まで興味無さげに見ていた死体が声をかける。

 

「アインズ、さん?…アンタにとって、コイツらは…何なんだ?」

 

そんなどうでもいい質問。しかも何とぶっきらぼうな言い方だろうか。流石にデミウルゴスも腹に据え兼ねて視覚化しそうなほどの殺気を放つ。だが、アインズ様は大してきにならないようにその質問に答える。

 

「何であるか、だと?そんなもの「家族」に決まっているだろう。私がこの地で一番大事なものはこのナザリックに住まうもの全てありそれは「家族」そのものだ。」

 

何でも無いように言われた言葉が胸に突き刺り涙が溢れる。こんなにも想われ、しかも家族だと言われて感動しないシモベがいるだろうか。見ればデミウルゴスもマーレもコキュートスも同じように目元を拭いている。そんなありがたいお言葉を聞いた傭兵は、一瞬その口を開けそしてその後、破顔した。

 

「そうか…そうか。…あぁ、()()か。家族は、良いものだよな。温かい。うん。家族とは、良いものだ。」

 

今までにないほどの楽しげな声。そして水気の無い顔に浮かぶ笑顔は、本当に心から喜んで入る風だ。それは、包帯で顔の上半分が見えなくともどんな顔をしてるのか予想がつくほど。しきりにうなづく傭兵にアインズ様は、何か思ったのだろう。満足気に「そうか、わかってくれるか。」と声をかけこの場を後にされた。

コキュートスもデミウルゴスも続いて持ち場に戻り、未だ不安が残る顔の弟を見る。私も行かなければ。

 

「それじゃ、私も行くからね?ぜっったいに油断しちゃダメだからね?!危ないと思ったら全力で潰しちゃいなさい?いいね?」

「う、うん!お姉ちゃん!が、頑張るよ!!」

 

見れば背後の傭兵は篝火に顔を向けたまま、動こうともしない。弟の護衛にとアインズ様が送られた、いつもは図書館で司書をしている死の支配者(オーバーロード)が勢揃いでやってきたところで、私もその場から出て行った。

 

でも、なんであの傭兵は、「家族」にあんなに反応したんだろうか。

あとでそれとなく、弟に聞くように言ってみよう。

 

 

 




これから先は書籍版代4巻のリザードマン編の裏で彼は何をしていたのか、という風に進めて行こうかとおもっております。




これは、どうでも良いかもしれませんが。
あくまで彼は傭兵です。モモンガに忠義を立てることはありません。だからといって、言う事を聞かないわけではなです。あしからず。


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3:断頭の傭兵

明日投稿と言ったな。騙して悪いが投稿させてもらう。

閲覧に感想と過分な評価ありがとうございます!!!
毎回読み返す毎に、メッセージが評価された時のアナウンスが頭に流れてます!w


今回かなりケレン味が効きすぎてるかもしれません。


「トブの大森林の奥地で亜人種の大規模行動、だと?」

 

法国の一室、人類の守護者達の最前線にその報告は突然舞い込んだ。その場にいる全ての者が無視できることのできない一報。曰く

『トブの大森林の奥地の湿地帯で蜥蜴供の住処で大規模な動き有り。集団での戦闘を意図したものであろうと推測される。そしてその更に向こう側にはゾンビ・スケルトンからなる集団が統率を持った動きをしている。この2つの集団は合流するものと思われる。至急確認されたし。』

東方監視部隊からもたらされたソレは、亜人種がなんらかの意思ある者と共謀した軍事行動を匂わせていた。誰かが言った『これは、人類の危機だ。』と。

この報告からわかることは、一つ。

 

()()()()()()()

 

コレに集約される。そして、そのための作戦会議が開かれるは必然だった。我こそ人類の盾であることに、なんの疑問を持たないこの会議の中、各々が胸に誇りを抱き邁進する。亜人種などにこの世界をくれてやるわけには、いかないのだと。

だが場所は法国より遠く離れたトブの大森林の奥、最初に被害を被るのは王国だ。王国は今や衰退し、帝国により消滅するのを今か今かと待つ存在ではあるのだが、それは人間同士でやってもらわなければならない。そう、これは亜人種による侵攻の兆しならば法国が誰よりも迅速に動かなければならないのだ。そう、我らこそ守護者であると周辺国に示す時なのだ。

それこそ、法国の義務であり全てだ。

 

「既に、トブの大森林奥地の湿地帯に向け精鋭部隊を駐屯させております。指示があればすぐにでも蜥蜴供を根絶やしにできます!」

 

作戦部からの報告をうけ、室内に感嘆の声が上がる、なんと迅速な動きなのだ流石だと、そんな声も上がっている。六色聖典は動かないのかという声もあったが、それは我々よりも上、法国の支配者達が決めることだ。まず我々が一当てして戦力を確かめる。人類の盾が矢面に立ち、その背後から人類の矛たる彼らが貫くのだ。

そのために、必要な情報を持ち帰る。それが私達に与えられた命令だった。

未曾有の危機を水際で食い止める。この英雄的行動は、知られることはないかもしれない。だが良いのだ、我らの神がそうしたように、人類を守ることが我らが責務なのだから。

そうだ、これが天命だ。

すぐさまにその場で行動開始の決定が言い渡される。まずは醜悪な蜥蜴供を皆殺し、その後もう片方も滅ぼすのだと。

その決定は国内全てに発表され【聖戦】という言葉がいたるところで聞こえ、国民はこぞって戦士達への祈りを捧げ、そして若者は我もそうならんと兵舎へと駆け込む。素晴らしい光景だった。全ての国民が人類悪との戦いに胸を高鳴らせ英雄にならんと神へ祈りを捧げる姿!そのなんと美しいことか!!そうだ、我らは負けるわけにはいかないのだ。

 

あぁ、人類に光あれ!!!

 

 

 

『ナザリック地下大墳墓第6階層ジャングル。この場所の円形闘技場外縁に置かれた篝火前。そこにその死体はいる。

ただの死体ではないが、身動ぎ一つせずに座っている姿はまさに事切れた死体そのものだ。

だが、実のところソレは死体ではない、ソレは動く死体であり客人であり傭兵である。そして監視対象だ。

我らの創造主である、アインズ・ウール・ゴウン様と直接の契約をした稀有な存在、それがあの死体だ。聞けばその強さは守護者であるコキュートス様と大立ち回りをしたという、なんとも冗談のような存在だ。我々シモベと一線を画す守護者のお一人と互角とは…。なんとも酷い冗談だろうか。

しかし遠く離れたこの場所からだが、見れば見るほどただの死体にしか見えない。篝火を見つめ続けるその背中は、隙だらけなのだ。

そう、例えば私が魔術で持って攻撃すれば一撃で消し炭になりそうなものだ。そうして何故あんなモノと契約したのだろうかと、我らの創造主の御心をふと考えた瞬間。

 

彼と、()()()()()

 

正確には目は見えない。何故なら彼はボロ布で顔の半分を覆い、目元は完全に隠れているからだ。それでもその顔がこちらを向いているのだ。しかし、この刺すような視線はなんだ。まるで…まるで動けない獲物を狙うもののソレだ。

死の支配者として生み出された私が、今猛烈に感じている「死」の気配。意図せずに爪先から頭の先までが震えだす。それでも倒れずにいられたのは、死の支配者としての矜持だ。

だが、コレはこの目の前のコレは。我が魂を鷲掴みにしたような圧力。

なんだ、なんなのだ。

悪魔でも、死者でもない。

そのどれでもない異質なモノ。まるで、そう言うなれば「魂を喰らう化物」だ。

アンデットの中にも魂を食べるものはいるが、それらとは似ても似つかないもの。ギロチンの刃が首におかれても、ここまでの恐怖は無いだろう。

 

どれほどそうしていたかわからない。

こんなにも交代の時間を気にしたことはない。時間などという概念を無視した存在の私がだ。

彼がその興味を失い篝火に顔を戻すまで、私は本当に我が身の消滅を覚悟した。

それも終わった時、私は手に入れた。いや、手に入れてしまった。

 

()()()()を。

 

これから監視をするこれを読んだ我が同胞よ、決して彼の顔を見ないことだ。

私と同じになりたくないならば。』

 

 

ー死の支配者による『傭兵監視記録』より抜粋ー

 

 

トブの大森林の奥地、蜥蜴族の近くの森林地帯に不可知化された部隊を確認したという報告を受けたのは王国にてモモンとして依頼を受けている最中だった。

その時の衝撃は邪魔をする者達への怒りとなりそして急激に鎮静化される。

そのおかげで、この件に関して案が2つ浮かぶ。

1つは今すぐにでもナザリックの暗殺部隊に命じて、その者達を消すこと。

もう1つは、あの傭兵をけしかけること。

安全を確保するなら前者であろう。だが、その時に頭に浮かんだのはシークレット・レアを使って見たいというちょっとした欲。それに確認したいこともあった。確かにあの傭兵は強い。守護者と遜色無い強さだ。だがその運用に関しては疑問が残る。まずデミウルゴスにも言ったが、彼は死体でありその知力がどの程度なのかということ。ただ一対一での戦闘が強いだけでは、この世界での目標を達成する上では限定的にしか使えないのだ。

だから、まずは試すのだ、どの程度の戦果を上げるのかと。もちろんそれの観察と、それを覗き見するであろう奴らにも警戒する。この時間の無い時にリスクを負ってまですることはではない。それは考えた自分自身、よくわかっている。わかっているのだが、それでも。

 

(決してシークレット・レアを自慢したいわけじゃない!そう!これは今後必要なことなんだ!!決して俺が引いたんだ、凄いだろう!!なんて言いたいわけじゃない!!)

 

コレクターの性だ。集めたものは同時に使ってもみたい。そんな気持ちだ。だから自分に強く言い聞かせながら傭兵へ向けて《伝言(メッセージ)》を繋げる。少しでは無い時間が過ぎた頃、漸く返事が返ってくる。

 

「…あぁ、なん、だ。…アンタか。」

「遅いではないか。何をしていた。」

「少し、な。…気を、とられて、いた。」

 

テンポの遅れた会話、こんな状態の奴に本当に指令など完遂できるのかと疑問が浮かぶ。しかしそれも回答次第だと結論付け要件を伝える。

 

「依頼だ、傭兵。コキュートスが行なっている作戦を邪魔する輩が、その近くの森林に展開している、その阻止だ。」

 

簡潔にまとめた内容を伝える。これでどんな反応をするかでまず結論をだす。「わかった」と言うだけならば、作戦レベルでは使えない。だが詳しい状況を聞いてくればまずはベターな結果だろう。

 

「…森林、での足止め…ではなく皆殺しで、良い、んだな。…供回り、は貰える、のか?俺、だけでは、目が…足らない。逃げられても、困る。」

 

結果はベターどころではなくベストの回答。少ない情報と状況説明だけでこちらの意図を汲み取り、更には自分の短所を知っている上での進言。なんという事だろうか。この傭兵はナザリックの守護者ですらなかなかできないことを平然とやってのける。どれほどの規格外。それを手にいれた喜びで舞い上がりそうだった。しかしそれもすぐに鎮静化されてしまう。

 

「良いだろう。探知と隠密、そして情報操作に適したアンデッドを何体か送ろう。それで良いか?」

「あぁ…あと、デカイ弓は、あるか?…そう…()()()()()()な、大きな…弓と矢だ。」

「フッ…面白い、なにをするか知らんが特別に与えてやろう。用意させてやる。敵の場所へはシモベに送らせる。急げよ。開戦までもう間も無くなのだからな。」

 

なんということだ、何を思いついたのか。まさか武器をせがむとは、一体どこまで驚かせてくれるのか。傭兵(レイヴン)がねだったのは、竜殺しの弓。それに近いものがたしか宝物庫に眠っていた事を覚えていた。それを渡せばいいだろう。

自分がこの世界に来て、ここまで夢中に楽しんでいるのは無かったのではないだろうか。それほどの可能性をあの傭兵に見ている、ということなのだろう。リアルタイムで何をしていたかは知る事はできないが、同行させるシモベに報告させることで我慢しよう。

 

(さて、急いで用意をさせないと。凄く面白い事になってきたぞ。)

 

その雰囲気を感じとったのだろう、隣にいるナーベラルが「ご機嫌でございますね」と声をかけてきていた。

 

 

トブの大森林の奥地、目と鼻の先に広がるは蜥蜴供の住む湿地帯。そんな場所に我々は不知覚化を施した結界の中に野営をしていた。森林の中にあるのに珍しく開けた場所にあるココは、前線基地としては絶好の場所であった。ここに集まったのは法国の精鋭部隊総勢400人。帝国の近衛に匹敵する強さを持つともいわれる我らは、その剣で持って人類の敵を滅ばさんと今や今やと待機していた。

 

その神の尖兵たらん我らが、壊滅の危機に陥っている。

 

初めに部隊前で演説していた隊長の上半身が、吹き飛び爆ぜた。

何が起こったか、最初は分からなかった。しかしグラリと倒れる隊長の下半身の背後にあった大木に、その残り半分を縫い止める巨大な矢が見えた。

その矢は決して人間に向けられるものでは無い大きさ。そう、()()()()()()()()ような、そんな大きさだ。それが今、こちらに放たれている。

私達は、呆気にとられていた。続く第二射、第三射に反応できない。理解が追いつかない。身体が上手く動かない。

隣にいた部隊員がその腹に巨大な矢を生やし吹き飛んでいく、その背後にいた者8人を貫通し絶命していく。

遠くの部隊も同じ状態だ、そのように次々と飛んでくる矢に、なすすべもなく死んでいく。

来る方向は一方でも対処のしようがない。気づけば死んでいるのだから。

そうやって一体何十本の矢が放たれてただろうか。部隊員は気づけばもう50人をきっていた。結界から逃げ出そうとする者もいた。だが、なぜか結界は完全不可知化の影響なのか、外には出られない。反対に、外からは中に入れてしまう。しかもだ、法国への《伝言(メッセージ)》すら繋がらない絶望的状況。なんということだ。完全に安全な場所が、今や牙を向き檻となっているのだ。

 

「重装兵は前へ出ろ!!!耐えるのだ!!!!」

 

巨大なタワーシールドを構えた何人かが前にでて壁を作る。だが、それがなんの意味があるだろう。堅牢であり祝福により魔化された盾がまるで果物のように貫かれる。

そうして、頼るべき壁がなくなった時、残ったのは私を含め、わずか20人にも満たなくなっていた。

後悔していた。何故、この場に出てきたのかと。蜥蜴供を狩るだけの簡単な作戦。今まで何匹も狩った奴らだ。大侵攻の報告を会議で聞き、その視察を兼ねたストレス発散の場だと思っていた。なのに、なのに何故。

今狩られようとされるのが、この私なのだ!!!

気づけば弓矢での攻撃が止んでいる。だが、油断できない。夥しい死体の山を築き上げた主がそう簡単に諦めるはずない。

これは罠、安心した瞬間に狩取るに違いない。私は円周防御を部下に命令させると、一塊りになったその中心に立った。これでまた攻撃がきても、なんとかなるかもしれない。最悪部下の死体に隠れてやり過ごせるかもしれない。そんな考えが浮かび自然と笑いそうな顔を全力で抑えこみ油断なく周囲を見渡す。そうしていると、結界に入り込む足が見えた。

 

最初見た時、あまりにボロボロの姿に唖然とした。動く死体、それがその姿だ。しかし両手に持つ怪しく輝く斧はまるでギロチンのようであり、背中に背負う身の丈ほどの大鉈は身の毛のよだつほどの存在感を放っている。

やや猫背に前傾姿勢をとったその死体は、どうやら一体だけであった。後処理係、というところだろう。ならば、舐められたものだ。たった一体の死体で何ができるのだろう。どうやら、あの恐るべき射手は最後でしくじったのだ。こんな雑魚一匹ならすぐにでも殺してすぐにでも国へ帰り報告をしなければ、そしてもっと規模を大きくした軍隊でもってこの森を焼き尽くさなければ。そして、あの恐るべき射手は人類の最終兵器達にでも処理させればいい。それはこの場にいる生き残り達も同じだったのだろう。油断した部下の一人が勢いよくその死体に踊り掛かった。

そして、その身体が縦に割られる。

もちろん、それを行なったのは目の前の死体だ。両手に持つ斧が振るわれたのだろうが、その動きを見る事はできなかった。

まただ、また身体が動きが止まる。これは理解が追いつかない未知への存在への畏怖からではない。そうだ、巨大な矢が降り注ぐ場で、全く動けなかった時と同じ感覚。

そうだ、これは。

 

死の恐怖だ。

 

サクリサクリと死んでいく。横に縦に斜めにまるで薪割りのように処理されていく。

理解した、今、理解した。

あの恐るべき矢を放っていたのは、()()()()()()()のだと。そうでなければおかしい。こんな化物が何匹もいるはずがない。ありえない!

 

最後の部下がその身体を地面に打ち付ける。刈り取られた首はその死体の手にぶら下げられている。

口から舌を出しこちらを向くソレに自分の顔が重なる。緩慢な動きで振り向いたその化物はその顔に邪悪な笑みを讃えている。

 

もう限界だった。

 

不恰好にも泣き叫びながらその化物の反対に駆け出す。どうにか、どうにかしてこの場から逃げ出したい。神なんてしるか、こんなものがいる世界に神なんているわけが無い!しかし無情にも見えない壁に阻まれる。なんで、なんで俺が、こんな目に合わなければならない。

そうやって腰が折れ地面に崩れ落ちた瞬間。視界縦に割れる。ドンドンずれる。ずれたしかいがくらくなっていく。

 

そしてー

 

 

 

 

 

その場は意図して作られたものだった。傭兵(レイヴン)に与えた探知アンデッドと情報操作と隠密系のシモベからの報告をうけた彼が報告してきた状況。そしてその彼自身から提示された作戦。

できるかどうかを聞くだけのつもりで連絡をいれ、そして驚く。まさかそんな事思いつくとは、不可知化の陣地とは言えそれは完全なものではない。その上でヤツは聞いたのだ。「あそこから出さないようにできるのか」と。

即座に答えた。「できる」と。あの愚かなモノ達を隔離したのは課金アイテムだ。当時ユグドラシルで流行ったPVPでの一騎打ち用アイテム「闘技の檻」中に入った者は、その戦いを終わらせねば出られない。だがソレはすぐに悪用されることになる。だがそれも単純な転移呪文で直ぐに脱出ができるものだった。クソ運営らしい手の込んだ嫌がらせアイテム。そんなクソみたいな課金アイテムが存在したのだ。それを、何故持っていたのかといえば、喧嘩するギルメンを一瞬でも止めるため。そういう使い方をしていた。それがいま、本来の使い方をされる。しかも外部への連絡手段を供回りのアンデットのスキルで妨害させながら、だ。

 

コキュートスの戦いが始まるほんの数分前。守護者達との擦り合わせも終わったそのほんの僅かな時間に、とりあえず見てみたいということで始まった鑑賞会。素晴らしすぎる。隣のデミウルゴスさえ目を見開くほどの戦果。その顔を気付かれないように横目で見ながら胸を張る。「凄いだろう。アレは俺が手にれたモノだ」と言いたくてしょうがなかった。尻の下のシャルティアも感心したように息を飲む。

 

「流石、アインズ様が召喚したモンスターでございます。あのような手段をとるとは…ただの死体だと侮った私が愚かでございました。」

 

デミウルゴスが臣下の礼と共に即座に謝罪をする。その謝罪を受け取りながら、鷹揚にうなづきかえす。自分だってこうなるとは思ってもみなかったのだから。

 

「良い、私も半信半疑だったのだからな。これは良いモノを見たのではないか?デミウルゴスよ。これでどうヤツを動かしていいか目処がついたのではないか?」

「この不詳なる身をお許し頂き感謝いたします。これからの計画に彼を組み込んだ完璧なプランを作り上げて見せましょう。」

 

そう言いながら顔をあげたデミウルゴスは、満面の笑みと自信を漲らせている。それほどなのだと自分のことのように嬉しくなる。そうしてあの傭兵に憐れにも殺された者たちに思考を向ける。傭兵はなにやらそのもの達の首を解体しているようだが、ついでにどこの所属のものかわかる物も持ち帰らせよう。そうして我々を邪魔した報いを受けてもらおう。その時は、また彼に頑張ってもらう。

画面の向こう側の傭兵を眺めながら、次はどんな遊びをしようか考える子供のように思いを馳せる。そうしている間に本来の計画の時間となった。

 

「さぁ、前座は終わりだ。では見守るとしよう我らがコキュートスの勇姿を。」

 

どちらにせよ、目の前だ。玩具もいいがそれ以上に我が子の成長を見守りたいのだ。それからでも考えてもまだ時間はたっぷりあるだろう。詳しい事はデミウルゴスが決めてくれるだろう。画面の向こうではコキュートスと相対する蜥蜴人(リザードマン)の戦いが始まっていた。

 

 




*作中の課金アイテム「闘技の檻」はオリジナルアイテムです
そしてモモンガが彼に渡した弓はダクソ武器の「ミルウッドの大弓」のようなナニカですw




今回で蜥蜴人は終わりです。
2話に分けようとも考えましたがここは勢いよくいってみました。


閲覧ありがとうございましたっ!


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幕間:亡者の目

更新が1日1回だと誰が言った?騙して悪(以下略


自分の頭が亡者化するのがわかる


たくさんの誤字報告ありがとうございます!!!!!
皆さんに生かされてる…!


温かい篝火の奥、の奥。

見つめ過ぎた先に揺らめくように見えるソレ。

あれは、なんだ。

酷く()()()()を感じるモノだ。

 

暗い牢獄。

そこから見えた青空。

崩れ落ち始める城下町。

腐り落ちるのを待つだけの掃き溜めの村。

病の元を抱えた優しい妹と、それを守る蜘蛛の異形となった姉妹。

暗い森の奥、亡き友を守る巨大な狼。

古城の遥か上方には夕陽が輝く宮殿。

それを守る獅子の竜狩りと巨大な執行者。

夕焼けが沈んだ後、その城の奥で永遠の墓守をするモノ。

絵画の中に隠された優しそうな者達。

狂気に飲まれた白い竜と、結晶に覆われた図書館。

魔女達の母と共にマグマに沈む神殿。

地下に隔離された呪いを振りまく死の眷属達と巨人の墓。

深淵に魅せられた王達の苦悶の声が響く城跡。

正気を失った狼の騎士、それに寄り添う仮面の暗殺者。

木彫りを作り続ける、竜落としの鷹の目の巨人。

生暖かさを感じさせる黒く巨大な怪物。

 

ーそして、篝火の前に座り背中を向ける(いにしえ)の大王。

 

あぁ、誰なのだろうか。

あれらは俺の家族なのだろうか。

この温かい気持ちは、なんなのだろうか。

だがそれを邪魔するものが、ある。この視線だ。

監視されている。別にそれは気にならない。

だが、その視線はいけ好かない。

いつでも殺せるぞ、といったその視線。

それは、とても不快なものだ。

 

『邪魔を、するな。』

 

温かな気持ちが一転、ドス黒い物に変わる。

俺の視線の先でローブに覆われた骸骨の動きが止まる。

魂の在り方が酷く弱い。もう折れかけなのか。

折ってしまっても良かった。そうしなかったのは、雇い主からの依頼が入ったからだ。

 

「依頼だ、傭兵。」

 

その物言いに、何か身体の内から湧き上がるものがある。

篝火の奥で見えるものではない何処かでの記憶。

そこの記憶がくすぐられる。

これも、なんなのか。自分はなにであったのだろうか。

篝火の奥の景色と身体に染み付いた記憶は一致しない。

だが、これは。

紛れもない俺自身のモノなのだ。

 

 

雇い主への状況報告は直ぐに終わった。

そして頼んだ通り、大弓とその矢を受け取る。

共回りの性能もいい。

俺の代わりに敵を感知し、その場所を示してくる。

あとは、楽なものだ。

どんな装甲も、意味はない。当たるのであれば。

まず一人。残りは…たくさん。

100人殺した。まだ残っている。まだ大勢残っている。

こんな一方的な状況でも、戦闘になれば頭の靄は晴れていく。

勘が、冴えてくる。

相手からは知覚されず、それでいて一方的な攻撃ができる高台の上。

研ぎ澄ませば奴らの魂が視覚化されたようにその場所を教えてくれる。

黒い魂だ。

黒い黒い真っ黒な魂。それでいてなぜか温かみも感じる魂。

彼らも家族なのだろうか。

ならば、その枷を外してやらねばならないのだろう。

これは、家族へのちょっとしたお手伝い。

俺は、彼らを愛してる。そうだ、家族になろう。愛しあう家族に。

 

ー帰ろう。俺達の(篝火)に。

 

 

 




ええ、そうですとも。
分かる人には、分かるでしょう。




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4:もの言わぬ傭兵

少しクドかったかもしれません。ちょっとした箸休め。



蜥蜴人(リザードマン)の作戦が一段落した頃、傭兵の帰還の報告を聞く。言われた通りの物を渡すとの事。しかし先にやる事があるという相変わらずのペースを持つ傭兵(レイヴン)に苦笑いをしつつ、アウラとマーレを伴い第6階層の篝火へ足を向ける。各守護者達からは「何故アインズ様が」との声もあったが、自分の事を過分に評価せず、まるで対等に扱う彼の姿勢が気に入っているのだ。これぐらいが丁度良い。

夕焼けに照らされる闘技場の外縁に設置された篝火が見えてくる頃、その背中が見えてくる。後ろからでも分かるように緩慢だがしきりに手を動かし、隣に置かれた大きく膨らんだ麻袋から火の中に何かを焚べているようだ。この場に来てから戦い以外で(レイヴン)があんなに動いているのは初めてだ。何をしているのか。俄然興味が湧く。

 

「傭兵。ご苦労だった。」

「…あぁ、アンタ、か。丁度、今行こう、と…していた。」

 

その手を止め、こちらを振り向く。その顔には穏やかな笑みが見てとれた。

何時ものような平坦な声は無く、たどたどしい中に感情が揺れている声。視線を下げればその手に何やら浅黒いモノを握っていた。ソレの確認と共に(レイヴン)との会話を楽しみたくなる。その為には同じ視座に行かねばならないだろう、だから彼の目の前、篝火を挟んで真向かいに胡座をかく。その姿に驚くアウラとマーレ、だがソレを手を引く事で収めアウラを左隣に座らせ、そしてマーレを片膝に載せる。顔を赤くする二人、だがそれは篝火の灯りのせいだろう。その姿をじっと見ていた彼は、思い出したように、その手に握られたモノを焚べる。そうやって暫しの無言の時間、アウラの頭を優しく撫で付ける、膝の上のマーレが落ち着かないような仕草をするのを少し笑いながら静かに過ごす。こんなにも落ち着いた時間が今まであっただろうか。篝火の中で弾ける音と火が燃える音が溶け合い、夕日が沈んでいくのを見守る。なんとも言えない感情が胸に湧き上がる。そうした心の動きを堪能しているとポツリと彼が喋る。

 

「…家族を、愛して、いるのだな。」

「もちろん。私はこのナザリックの全てを愛しているとも。」

 

静かな声だ、それでいて穏やか。コキュートスとの戦闘や先程見せた猛々しさは身を潜めている。この姿こそ彼本来の姿なのではないかと勘ぐるほどだ。そうしていると彼はその麻袋から一つの鎧を取り出す。それは前に一度見た事がある物。この場所に転移したすぐ後に見た酷く懐かしいソレ。「またか…。」と小さな呟きを不安思ったマーレがこちら覗き込む。その、こちらを心配する顔に苦笑で返しながらその頭を優しく撫でる。その時自分がこんなにも優しい気持ちになっている事に驚く。その動きを感じ取ったようにまた彼が語りだす。

 

「…家族との、団欒は、良いものだから、な。…………あぁ、そうだ。共回り、と武器。…感謝する。あれが、あった、から。…依頼を、完遂できた。」

 

感謝されるとは思っていなかった。素直な気持ちを向ける彼が、死体でありモンスターなのを忘れてしまう。だが、これも良いものだ。鷹揚に頷ながら、与えた弓は好きにさせる事を伝えると、それについても少し嬉しそうに感謝を述べる姿に、更に気分を良くする。するとアウラが今まで不思議そうに見ていた彼の手を指差し尋ねる。

 

「キミさぁ、さっきから何を火の中に放り込んでんの?なんか骨っぽいけどさ」

「…あぁ。コレ、か。コレは、枷だ。…家族に、捧げる…神の、枷だ。」

 

そう言いながら、こちらに手のひらを向け見せてくる。そこには人間の背骨の一部。それを焚べていたのだ。「…枷?」マーレが恐る恐る聞く。そうしてそれを大事にまた火に焚べながら、彼は朗々と語り出す。先程までのたどたどしい緩慢な口調ではなく、昔話を語る老人のように。ゆっくりと。

 

ー初めて、火が起こった時代の話だった。それは彼と彼の家族の物語だ。

 

神代のような話、ユグドラシルの設定にそんな物があっただろうか。もしかしたら、知らないだけかもしれなかった。常に未知を探させるようなゲームクリエイトがされていた。その内に埋もれていった設定の一つなのかもしれない。そう考えると、彼の語る話は、かつて未知を探して回っていたあの輝かしい時を思い出す。

知らずの内に夕日は沈み、満点の星空の下。辺りは暗く、赤々と照らす篝火の灯りだけになっていた。

ここでアウラもマーレも静かに寝ていれば完璧に祖父の話を聞く孫なのだが、アイテムによりそうはならない。今度来る時には外させてみようかと不思議な思いつきをする。

 

「長居をしたな。…名残惜しいが、戻って今後の事を詰めなければならん。傭兵。今後とも頼りにしているぞ。」

 

随分とゆっくり過ごしてしまった。だが、たまにはいいだろう。これから休む暇も無く動く事を考えれば、この時間は必要だったのかもしれない。次は守護者全員で来てもいい、彼は家族の団欒と言った。ならそういうものなのだろう。

彼から受け取った鎧をアウラが持つ、知らずの内に握ったマーレの手を引きながら、ゆっくり歩いてその場を離れる。そうして篝火の火が見えなくなったところで執務室へ転移した。

 

ーあぁ、悪くない。悪くない時間だった。

 

 

 

モモンガが双子と共に篝火を囲み静かな時間を過ごしている頃。正反対なように法国は上へ下への大騒ぎが起こっていた。

 

 

法国の一室は暗澹たるものだった、すでに報告がなされたように法国の誇る精鋭400人が謎の消失。様子を確認しに行った監視員達も、軒並み行方不明のまま帰って来ることはなかった。更に不幸な事は続く、その部隊に同行した会議のメンバーの一人は法国でも有数な権力者の息子だったのだ。息子の行方を探させるように怒鳴り込む権力者と、今回の事を重く見ている支配者達。法国の軍事を司る彼らにしてみれば、針の筵の上に座り続ける罪人の気分なのだ。苦虫を噛み潰したような面々。周りの武官達の怒鳴り声が酷く煩わしかった。そしてもっと悪い事に人類の敵となるはずだと信じて疑っていなかった蜥蜴供もアンデッドの軍勢も、何も行動を起こそうともしない。その事についても支配者達は「ただただ、いたずらに兵を失っただけの愚か者達」とそう見限り、すでに解体を検討しているような噂まである。国内の評判も酷いものになり、責任者の吊るし上げを画策する始末。

神にすら見限られたようなものだ。しかし、それでも確認だけでもしなければ。あの時あの場所で、一体何が起こっていたのか。

誰でも良い、教えてくれ。なんなら悪魔でも良い。頼む、教えて、くれ。

 

 

『良いでしょう。』

 

 

 

暗い会議室の中、地獄の底から響くかのような、それでいて甘く惹かれるような声がした。

あぁ…私は、とんでもないものを、呼んでしまった。

 

 

 

 

 

 




日間ランキング9位というAOGと同じ順位に着くことができました。
閲覧していただいた皆様のお陰です、ありがとうございます。

作者は双子をガン推ししています。彼女達とモモンガがいるのを見るだけで心が安らぐのです。


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5:殲滅

毎日更新したいけれども!そうできない現実なんて!!


法国について活動報告にて記載しました。一度目を通していただければ、と思います。


ソレは何もない虚空から現れた。ドロリと揺れる黒い渦から生まれ出てきたソレは、会議室の円卓に降り立つ。

妙に長い四肢を格式高い服で身を包んでいるが、その顔は醜悪な仮面で隠されている。しかし背後から伸びる銀色の尻尾がその者が人類ではない事を如実に表していた。辛うじて分かるのは、男であるということだけ。

誰も彼もが動けない、息をすることすらままならないオーラを放っているのだ。言うなれば、この者こそ、この世界の絶対者なのではないだろうか。十三英雄により滅ぼされた魔人達、それらの伝えられている容姿とは全く違う。ただただ圧倒されるのは、それだけじゃない。何重にも施された法国を守る探知の魔法、それら全てを嘲笑うかのように現れたのだ。そして我々の顔を順繰りに見回すと、満足したように言葉を紡ぐ。

 

「ふむ、そのように立っているのは疲れるでしょう?『平伏したまえ』。」

 

その言葉が聞こえた瞬間、身体の自由が奪われてしまう。頭では抵抗しながら身体は地面にめり込むようにその『言葉』のとおりにしてしまう。この場にいる全員が、 抵抗することのできない圧力。脂汗が吹き出るような悪寒が襲い口の中に酸えたものが広がる。「コイツは、何なのだ」と。

 

「貴方達は全く持って、覗き見が好きで邪魔するのが好きなのだね。そして度し難いほどに愚かだね。もう本当に、どうしようもない。だから、だからね?私は君達、つまりこの国を消そうと思う。 」

 

今、なんと言ったか。この仮面の怪人は何を言った。我らの国を、消す?人類の盾である我々を?冗談ではない。この法国が消える?確かにこの怪人は恐ろしい。だが、それでもこの国は滅びない。滅びるわけがない。我々には神がついている。神人である彼が。真の人類の盾が存在するのだ。

 

「おや?その顔は、なんですか?まだ希望であるのですか?…あぁそうでした。貴方たちは、知らないのでしたね。今お見せしましょう。この国が、今どうなっているのかを。」

 

怪人は心底可笑しそうにコロコロと笑いながらその長い手を上げる。するとどうだ、空中に鏡のようなもの浮かび上がる、それに写し出されたのは。紛れもない、地獄だった。

 

 

「よ、よろしいので?このように…。その…。」

 

ナザリック内で一番豪華であり不可侵の部屋。それがここに付けられた名前だ。普段入るのはその日ごとのメイド達だけでありこの場にこの声が響くのは、本来ありえない。だが、今日は特別だ。本当に今日の自分は機嫌が良いのだ。(レイヴン)と共に過ごした時間のせいかもしれない。あの時間がなければ、ここまでの心の余裕はできなかったであろう。だからこそ、彼女達をここに招いたのだ。

そんなリラックスしている空間。普段身につける仰々しいアカデミックガウンではなく、個人的に一番動きやすい着流しのような赤黒いローブを羽織り、大人数で座っても疲れることは無いであろうソファーに座っている。右隣には普段の仕草とはうってかわって、しおらしくなっているアルベド。そして、左隣にはガチガチになっているシャルティアがいる。

何故、普段は危険な彼女達をわざわざ呼んでこんな事をしているのかといえば、答えは単純なものだ。

 

「よい、これは家族のスキンシップだ。思えば長くお前達には苦労させている。その礼も兼ねているのだが…なに父親が娘と一緒に映画を見ているようなものだ。」

 

彼女の白磁のような顔にかかる黒髪をそっと撫でながら答える。その言葉に呆気に取られるアルベド。その胸中になにを思ったのか測ることはできないが、どうやら嬉しかったのだろう。顔を赤くし俯いている。

 

(やっべ!やっべ!!今日のアインズ様、超色気パネェ!!!!血が滾るうううう!!!…でもここで手を出したらいけないんだろうなー…頑張れ私っ!!)

 

何かにしきりにうなづいているのは、何かと戦っているのだろう。そう思えば彼女も成長したなぁと感慨深いものがある。普段から適度なスキンシップが無かったからあんな事をしてしまったのではないだろうか。聞く所によれば、親から触れられない子は得てして愛情表現が苦手なのだという。ならば、そういうことなのだろう。父親を好きになってしまった娘のようなものだ。こうやって日頃から触れ合えば、落ち着いていくのではないだろうか。

そうして、アルベドに向けていた顔をシャルティアに向ける。何故かガチガチに固まったその顔に苦笑と共に語り掛ける、そこまで硬くなることはないだろうと。しかし返ってきたのは拒絶の言葉。普段はもっとくっついてきても良いものなのだが、なんだろうか…反抗期か。

 

(ここは…ここは抑えるのよシャルティア!!この場にいながらこの感情を抑えこめなければ血の狂乱なんて抑える事はできないんだから!!…あぁでもでも!!!今日のアインズ様ちょー素敵!!何あれ!!溢れ出る色気!!あ、やばいこれはやばいよおおお!)

 

なにやら頭をフリフリ手をバタバタさせるシャルティアは面白いのだが、こうも拒絶されると悲しい。娘を持つ父親とは、いつもこの気持ちと戦っているのかと感心する。だが、これは自分の責任でもあるのだ、この二人とはこんな風に触れ合ったことがなかったのだから。アウラとマーレはその見た目から、本当の子供のようにできるのだが、アルベドは自分のせいでこうしてしまったという落ち度からくる後ろめたさから。シャルティアとは洗脳されていたとはいえ、この手にかけてしまったという罪悪感から。

そうやって無意識に、避けていたのかもしれない。

だが今日彼と囲んだ篝火で言われた「家族を愛しているのか」という言葉を迷いなく肯定した自分を思い出す。良い加減向き合ってやらねばならないのだろう。自分で言った言葉を嘘にしない為にも。

この家族を守るのだ、と。その家族達の親であり自分の最高の友人達の場所を守るのだと。

そうやって、なんとも落ち着いた雰囲気で談笑しているとデミウルゴスから準備が整ったという知らせを受ける。その報告に更に機嫌が良くし、あらかじめメイドに用意させた巨大なスクリーンをソファーの前に設置させる。これでポップコーンとコーラがあれば言うことはないが、この身体なのだ我慢しよう。

 

「さて、今回は我がナザリックきっての知将の勇姿を見ようではないか。」

 

背中をソファーに預けながら右腕をアルベドの肩に回す、散々練習しただけあって自然にできた。家族がどうやって触れ合っているのかというのは、自分には上手く想像できないが、こんなスキンシップが自然なのではないだろうかとも思う。部屋の灯りを弱めながら、デミウルゴスに与えた監視系アンデッドの映像が受信されるのを静かに待つ。

 

(レイヴン)も言っていたが、あぁ、本当に家族とは良いものだ。

 

 

焼け焦げる人間の匂い、崩れ落ちた礼拝場に家屋に群がる悪魔達。その全てが調和し一枚の絵画のような美しさ。我らが支配者(アインズ様)はご満足いたたげているだろうか。いくら()()()()といえども確実な完璧にこなさなければならない。立て続く守護者達の不祥事は至高の方々に創られておきながらの大失態。なればこそ私の使命はその汚名をそそぐこと、その前段階のデモンストレーションでこちらに興味を持っていただき、そうして本番の作戦で完璧に認めてもらうことが第一だろう。その為のこの舞台だ、アインズ様が法国に対しての評価を改めて下さったからこその晴れ舞台。その為だろうか、あの傭兵(レイヴン)の登用を許可して頂いたのも大きい。しかもお膳立てとして「闘技の檻」の全てを頂いている。これで失敗は万に一つに無いだろう。

 

画面に広がる悪魔達の群れ、巻き起こる大虐殺。マーレよる広域魔法よる大規模破壊に、アウラとそ魔獣による包囲・分断・殲滅。そして、一番厄介な者達は傭兵(レイヴン)により半数以上の被害が出ている。さて、アインズ様はこの光景に満足されているだろうか。この後も、もっと楽しんで頂けなければ。

 

 

ありえない光景。信じられない現実。お互いにあまり交流はなかった、この国を守る為に集められた集団だ。一人一人がその強さと信仰心を胸に立ち上がった、私も「神人」として生まれ望まれたように振る舞い、そして戦った。ただの人よりも濃い戦いの記憶、それが存在意義だった。その為に自らを鍛え技を磨いた、だがそれが今、無残にも崩れていく。

まるで暴力の竜巻、突然やってきた見たこともない悪魔の群れ、外部から遮断された空間。何か意図したのかのように巻き起こる異常事態。法国軍の精鋭が不可解な消失をし、その対策を六色聖典の全員で練っていた時を狙ったかのような悪魔の襲来。法国はドラゴンの尾を踏んだのだろうか、そんな事が頭を過ぎる。地面に伏している身体を槍で支えて起き上げる、その足元に広がる血溜まりに肉片。顔を上げれば、傷だらけの上半身に纏った岩のような筋肉の大男が膝から崩れ落ちた、宙を舞う彼の首。決してそんな死に方をしていい人では無い。見渡せば周囲にも同じような死体が何体も何体もある、その中心にいるのはその元凶だ。ボロ布を頭に巻き、両手に持つギロチンの如き斧は血を滴らせている。まだ一度も抜刀していないものの、凶悪な大鉈を背負っている。人間ではない、だが悪魔でもない、分かったのは彼が死体であるという事だけ、その情報を看破した者は既に死体になっている。もう六色聖典で生き残っているのは自分だけ。いや、あの番外席次、彼女なら、この異常から脱出しているのではないだろうか。彼女の冷たい目を思い出して、幾分か気分が晴れる。口についた血を拭い、化物に向き直る。返り血を大量に浴びたその姿は影のように黒い、だがヤツとて無傷でないのだ、いたるところについた大小様々な無数の傷。それらが仲間達が生きていた時の証。かなり消耗しているはずだ、今なら勝機はある。

強く槍を握り込み踏み出し突く、ダラリと垂れた腕をそのままに半身になって回避される。しかし、止めるわけにはいかない。2度3度と繰り返し突き続け、コンパクトな攻撃を連続させる。そうして出来上がる隙に薙ぎ払いを合わせる、さすがの化物も堪らずに斧で受けた。ガードの空いたヤツの空いた腹に渾身の蹴りを入れ吹き飛ばす。相手は満身創痍なのか倒れてから、なかなか起き上がれない。フラつく脚元に肩で息を吐き出す姿、ここが攻めどきだと覚悟を決め、浅く息を吐き出し全力の踏み込み、伸ばした腕の槍は絶対の一撃。

 

ー刹那。ヤツの胸から巨大な刃が生える。あんな恐ろしい存在の背後を気付かれる事なく取れる存在は一人しか知らない。

 

彼女にしては珍しい憤怒を湛えた番外席次が、そこにいた。

 

 

何度斧を振っただろうか、言われた通り手当たりしだいに切り殺した。

男も女も子供も老人も、この手で動かないモノにした。

柔らかい感触、硬い感覚、鈍い感覚。

その中の幾人かが抵抗する、だがそのほとんどが、幾日か前に手にかけた彼らと同じ程度。

 

しかし、そんな中から手応えのある者達の相手を依頼される。

確かに手強かった。大人数の相手をするのだ、いくら慣れているとはいえ多少手こずった。

だが、そこまでだ。頭の中の靄は晴れない。微睡みのような倦怠感が抜けない。まだ一人残ってはいるが、それほどの強さでも無い。

左手の黒い穴が疼く、何かを啜る音がする。

 

その瞬間に襲いかかってきたのは、大量の記憶の津波だった。

笑い顔。泣いている顔。なにやら楽しく喋っている顔。怖がっている顔。怒っている顔。そして、死ぬ瞬間の顔。

そんな顔の群れの中に広がるそれぞれの記憶が、頭を駆け回り身体に染み込んでいく。

あぁ…これは、魂の記憶か。

どれもこれもが暗い魂ばかりだ。

 

いつの間にか倒れている事に気付く。

どうやら吹き飛ばされたのだろう、脚元がおぼつかない。

視界が何度も変化する。

軽い衝撃が背中を襲う。

胸に突き刺さる刃に反射した自分の顔が見える。

そういえば、最期の顔は、全部コレだった。

あぁ、火が見える。刃に映る瞳の奥の奥、真っ黒な穴の先に見える小さな火。

その火がどんどん大きくなっていく。

まるで俺の身体全てを、黒く焼き尽くすように。

 

 

「助かったよ、それに脱出したのかと思ってたよ。」

 

軽く笑いながら挨拶するも一瞥されただけだった。皮肉の一つも返ってくるかと思ったが、肩透かしをされた気分だ。だがそれよりも、死体になった者達を集めなければ。身体さえあれば生き返らせることができる。その作業を始めようとした時、それを制する声が隣からする。

見開いた左右違う色の目に映るのは、冷たいもの。だがそれ以上にこの異常を警戒しているようにも見える。

 

「分からないか?こいつらの身体の魂は、もう存在しない。周りで死んでるヤツら含めて全て。いけ好かない神官の奴と同じだ、魂がない。だから、もう生き返らせられない。」

 

何を言ってるか分からなかった。魂がない?生き返らせられない?馬鹿な。そんなこと、できるはずがない。しかし、こちら睨む番外席次の彼女はそんな冗談を言うような事はしない。閉じられた空間、だからこんな事が起こるだろうか。ならば解決すれば、失われた魂も戻ってくるのではないだろうか。そうして異常の原因を探そうと駆け出そうとした瞬間。

背後から火の粉が頬撫でる。後ろには火の元なんて、なかったはずだ。だが薪が燃え爆ぜた音がする。そうだ、そっちにはさっき倒した()()()()しかいないはずだ。ゆっくりと顔だけを向ければ、うつ伏せに倒れた化物の身体が燃え出している。ただ、それだけだ。彼女が燃やしたのかと思いそちらを見れば、驚愕を貼り付け固まっている。何かが立ち上がる音がする、この世にいてはいけない者の気配がする。

 

「何だ…アレは…何なんだ!!お前には一体、()()()()()いる!!!!」

 

叫ぶ番外席次、最強の彼女の引きつった声が響く。その視線の先、先程の化物の方をみれば。

 

ー死体が、立ち上がっていた。

 

全身から燻るように火が立ち上る、今にも消え入りそうな火が。突き刺された胸の傷は、いまや丸い穴となり、そこは夜よりも暗い奈落が広がっているように見える。

全身に悪寒が走る。近くことすら身体が拒んでいる。まるで()()()()()()()だ。

ボロ布に覆われた顔から、右の目だけが覗く。そこには、火のように赤い瞳がこちらを向いていた。

 



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5:殲滅②

立ち上がった死体から噴き出している火は大きいモノではない、だが決して近くないはずであるここまで、その熱気が伝わってくる。そして武器を持っていないはずであるのにもかかわらず、その立ち姿は今まで以上に危険だ。瞬間、緩慢だった動きが変化する。弾かれたバネのように跳躍すると、その燃え上がる左手を振りかぶる。振るわれた手から生まれたのは見たことも無い大きさの火の玉、すんでのところで飛び退くも、着弾した瞬間の爆発に巻き込まれてしまう。肺中の酸素が燃えるように無くなり、呼吸がおぼつかなくなる。意識すら飛びかけた時、首根っこを掴まれて後ろに投げ出される。

そうして番外席次が、こちらを確認する間もなく駆け出す。迎え撃つ化物は、着地と共に迎撃姿勢を整える。左の掌を向け、そこからまるで水のように火を吹き出した。それを鞭のように扱いながら彼女の動きを牽制していく、彼女はその予想以上の火力に飛び退くも、それを狙ったように上方へ火の玉を投げつける化物。緩い放物線を描くように放たれたそれは、半壊した建物を完全に破壊する。崩壊し始めた建物の残骸が降り注ぐ中、それを流水のように抜けながら番外席次は化物に肉薄する。戦鎌をあり得ない速度で振り抜くも、それは空を切るばかりでカスリもしない。背面に手を付きながら回転するように飛び退いた化物はその両手を地面に添える、危険を察知して距離をとろうとするが、その時にはもう遅かった。足元から吹き上げる間欠泉の如く、何本もの火柱が突き上げられる。彼女が空を無抵抗に舞う、それでも武器を手放さない彼女は焼け焦げた髪を振り乱し建物の壁を蹴り再度突撃する。それを無防備に見つめる化物。

いけない、あれは、罠だ。彼女を助けようと槍を構え走り出すも、辺りは既に火の海である。しかもこの火はただの火ではないのだ、ただの火では魔化されたこの鎧を通ることはない、だがこの火はまるで意思があるように動き、こちらの鎧を貫いてその熱を身体に直接伝えてくる。そう、まるで()()のように。そうやって手こずっていると、飛びかかる彼女と傍観する化物が一瞬だけ目に映る。

振るわれる鎌は人類では到達することのできない速度のソレ。だがその絶死の速度を化物はいともたやすく、右腕で払う。身体が完全に死に体になる。そのバランスの崩れた体勢を、《流水加速》と《即応反射》を合わせた動きで離れようとする。

しかし、その超人的反射と速度を上回る速度で、化物は左腕で彼女の首を掴む。

完全に捕まってしまった彼女が必死の抵抗で鎌を振るうが、それもヤツの右手で抑えられてしまう。そして、彼女を完全に持ち上げた左手に赤い光が集中していく。私も必死で足を動かすが、視界を火の手が覆い上手く進めない。意を決してその中の飛び込むが、その瞬間、大気が膨張したような爆発が起こった。

吹き飛ばされ、ボロ雑巾のように転がされる。臓腑を焼かれる痛みに目が滲む、その視界の先には、巨大なクレーターができていた。

その中心には、無傷な化物と、その左手に収まる真っ黒になった焼死体。

彼女の成れの果て。番外席次、絶死絶命と呼ばれた彼女が今、物言わぬ死体に成り果てる。

するとどうだ、その死体から白い光が立ち上り、化物の胸にあいた黒い穴に吸い込まれていく。

あれが、魂か。

ならば、あいつは。あの化物は、本当に魂を喰らう化物ということか。

勝てる訳がない、膝から地面に崩れ落ちる。あれは人類が敵う相手ではない。

心が折れてしまった、もう立ち上がることはできないだろう。それほどの力の差。

ゆっくりとこちら向かう化物。手の中にある彼女だったものを無造作に投げ捨てる。

左手が再度光を集めていく、その手がこちらを向く。

その時に見えた化物の胸の穴の奥。

 

それは何もない、真っ黒な闇だけだった。

 

 

 

実のところ法国は、外から見れば何も起こっていない。そう、いつもの風景であっただろう。

例えそれが、幻術で作られた虚像であったとしても。

法国内部はこの世界の者では脱出できない牢獄である。そして多重展開された無音の魔術によりその絶叫は届かない。

人類の守護者を唄いながら長く人類以外を迫害し続けたこの国は、その報いを受けたようにこの夜明けと共にこの世界から完全に消え去る。

国内にひしめく悪魔と亡者の群れは夢のように消え、無数の国宝は一つ残らず何処かへ持ち帰られた。

死肉へとその形を変えた国民達は、その血の全てを大地へと返す。残りカスは綺麗な灰に変えられた。

そして法国のシンボルともいえる巨大な教会は完全に廃墟になり、その荘厳な姿を失った。その中心。かつては栄華を極めたであろう玉座の間にて、長身の怪人がその者の主への絶対の忠誠を誓い、双子は楽しそうに笑い主人に抱き上げられている。そして所々が焼け焦げてはいるが、平時となんの変化のない姿の死体は、何事もなかったようにその場へ座り込み次の依頼を待つ。

それらの主は座る者の居なくなった玉座にて満足そうにうなづき、彼らを連れ元いた場所へ戻っていく。

 

そうして、大陸では有数の超大国である法国は、その歴史を静かに燃えるようにひっそりと幕をとじたのであった。

 

 

良い余興だった。何度も何度も邪魔をされた、法国の最期を見た瞬間の素直な感想だ。デミウルゴスのプロデュースする一大プロジェクトのデモンストレーションとしては最高のものではなかっただろうか。法国には手を出さないつもりだったが、調べれば調べるほど胸糞悪い国であった。亜人種への差別と、自分達への驕り。まるで、異形種プレイヤー狩を行う奴らのようだ。ならば、これはアインズ・ウール・ゴウンとしては正しい行いだ。そう正しい行いなのだ。

両隣の二人もその出来栄えに満足しているようだ。とくにシャルティアは、興奮気味に、次の公演には自分も参加するのだと胸を張って言ってくる始末。その微笑ましい姿に、発表会前の子供のようだという意味を込め頭を撫でる。それを見るアルベドはいつもならこの瞬間、絶世の美女が崩れるような顔をするはずなのだが、今日に限って静かな微笑を湛えこちらを見守っている。毒気をぬくようなその微笑みは、自分の行動が決して間違いではなかったことが分かる。やはり適度なスキンシップは必要なのだと心のメモに書き付けながら、今回の舞台を振り返る。

讃えるべきはやはりデミウルゴスだろう。お膳立てをしたとはいえ、ああも完璧に法国内部から食い破るとは流石の一言に尽きる。次にアウラとマーレの双子、のびのびと戦う二人にはとても魅せられたものだ、なによりアウラの魔獣を統率するその手腕ときたら素晴らしいとしか言いようがなかった。

しかし残念なのは(レイヴン)だ。一番楽しみにしていたのだが、途中で彼を映していた監視アンデッドがやられてしまったのか、彼の勇姿を見ることはできなかった。最期に見えたのは少し強そうな者達と向かい合っている所だったか。何はともあれとても残念だ、しかしまだ次の楽しみが増えたと思えば良いだろう。

今回のデモンストレーションで、デミウルゴスがどんな事をするつもりなのかという事の端々は分かった、それにその舞台に自分も参加して頂きたいと言われれば悪い気はしない。良い物を見た満足感が満たしていくのを感じながら、いつもの完全装備を纏っていく。さて、彼らを迎えに行ってやらねば。

転移門(ゲート)を開きながら彼らに連絡を入れる。頑張った家族を労う言葉は何が良いだろうか。

 




という訳で法国には退場して頂きました。


そしてこの物語も折り返しです。



沢山の閲覧・感想ありがとうございます!!!


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幕間:静かな崩壊

*ルビタグ失敗してたので修正

毎度、誤字修正報告ありがとうございます


法国でのデモンストレーションを鑑賞し、王国での本番を控えたその夜。デミウルゴスから傭兵(レイヴン)の運用に関しての報告が上がってきた。曰く「()()()()()()()()。」というもの。ソレによれば、あのデミウルゴスをして手に余るほどの戦闘力を保持している、アレは有事の際にて使う事が望ましいのではないかという物であった。デミウルゴスが現場で直接何を見たのか。監視アンデッドからの通信が切れてしまい、その様子を確認する事はできなかったのだが、デミウルゴスは何か言いようのない不安感を(レイヴン)に感じているようであった。

それを後押しするかのようにマーレからも報告が上がる、コレは傭兵の様子があのデモンストレーション以来おかしいという物だった。加えて第6階層で彼の監視をしていた死の支配者のうち1体が、傭兵により消滅させられているという事実。マーレによれば、いきなりであったそうだ。傭兵はそれで満足したようであったが、その事件後は監視の量を増やしたようだ。ナザリックに所属している者達を無差別に攻撃しはじめては、何らかの対策を打たねばならないだろう。

「闘技の檻」はデモンストレーションで城を全て覆ったので使いきってしまったため、第6階層の彼の篝火を中心に、ナザリックオールドガーター他、アウラの魔獣群で構築された強固な防衛ラインを展開し囲んでいるそうだ。

そして、自分が彼に会いに行くのも守護者達からの猛烈な反対を受けている。仕方のない事だ。下手をすれば此方にすら牙を向けかねないのだから。心配ではあるが、デミウルゴスの作戦が大詰めの段階だ、そちらにばかり気をとられてはいられなかった。ナザリックの守護をアルベドに任せ、守護者達のほとんどがこの作戦に加担する。これが終われば、ひと段落だ、その時に今後を決めればいい。だが、もう彼と共に篝火を囲む事はできないのだろうか。

 

ただそれだけが、唯一引っかかり続けた。

 

 

俺は、誰だ。

この身体の中に蠢めくモノは何だ。

生暖かさを伴いながら、俺の身体を支配しようとしてくる。

手招きをするようにこちらへ呼ぶ声もする。

アレは、なんだ。

 

暗い底から湧き上がる衝動を、篝火に当たる事で治める。

家族達との思い出に浸る。

これが、自分の最期の枷なのだろう。

これが無くなれば、俺は…。

 

ー気づけば、監視をしていた骸骨が一体少なくなっていた。

あの双子も、厳しい目でこちらを見て来る。

もう、話を聞きに来ようともしない。

監視の目が増えている。

どれもこれもが殺意のこもった眼差しを此方へむけているようだ。

あの瞬間、意識がなくなったあの瞬間。

俺は、何をしたのだろうか。

思い出せない、俺は何だったのだ。

 

ーまただ、また。意識が無い。

見渡す限りの血の海だ。

動いているものは見当たらず、あるのは目の前の篝火のみだ。

その火の奥で揺らめく誰かの思い出だけだ。

そこに、戻りたい。帰りたい。

 

手が燃える事も気にせずに火に手を近づけた瞬間。

周囲が一変し、ドロリと溶けたように変わって行く。

視界が変化して行くのを、目閉じてゆっくり待つ。

ここでは無いどこか遠く、あの場所に戻れる事を信じて。

 

 

王国で行われたナザリックによる大作戦「ゲヘナ」。この作戦は大成功だった。しかし、これらが終わり帰って来たナザリックは急を要する事態であった。

 

第6階層、篝火前での大虐殺。

 

あの傭兵を監視していたシモベ達が、全て殺されているという未曾有の惨事。

更にその虐殺の張本人は、忽然と姿を消していた。残っていたのは、勢いが無くなり今にも消えかけた篝火一つ。

ナザリックから出た形跡は無し、だが何処にも見当たらず行方がわからなくなってしまった。外への転移を阻害するはずのナザリックで、誰にも気付かれずに外へ行くことは不可能に近い。だが、それをやってのけたのだ。方法はわからない、だがあの傭兵がここに居ないという事と、この虐殺を行なったという事は紛れもない事実なのだ。早急に守護者達全員を集め緊急の対策会議を行う事となった。まずはナザリックの警戒態勢を最大レベルまで引き上げる、次に情報コンソールを開き傭兵の情報を確認する。そこで驚愕することになる。傭兵(レイヴン)となっている名前が赤に変化している事。それは完全に敵対した事を意味していた。シャルティア同様の洗脳を受けたのだろうかとも考えたが、先の法国から奪った国宝にソレは存在していた。ならばそんなワールドアイテム級の物が早々あるわけが無いのだ。

ならこれは、どういう事なのだ。まさかシークレット・レアモンスターの限定イベントなのだろうか。ならば趣味悪過ぎる、クソ運営め。だが、何はともあれ傭兵は敵となった。ならば自分はこのナザリックを守らねばならない。

 

(家族を、愛しているのだな。)

 

唐突に思い出される傭兵の言葉とあの時の顔。本当に敵となってしまったのが信じられない。だが、それでもやらねばならないのだ。

守護者達からの無言の圧力を受け、力強く命令する。

 

「…傭兵の居場所が分かり次第、早急に処分しろ。」

 

あの傭兵が敵なのだ。

ならば、全力で挑まねばならないのだろう。

 

 

少しの間眠っていたようだ。

目を開ければ、そこは見知った場所。

少し前にここに来て、大量の人間達を殺した場所だ。

何かが爆発したような巨大なクレーターが2つ空いた場所で、俺は座り込んでいた。

 

そうだ、ここだ。

ここで俺は、なにをしたのだ。

周りを見渡せば、クレーターの中心に篝火が見える。

今までいた所にあった篝火ではない。捩じくれた剣が刺さり、薪に使われた骨が燃え続けている。そして今にも消え入りそうな小さな火だ。

その火に近づくことで、自分の中に蠢めく何かが燃えて行くように消えて行く。

だが同時に、俺では無いなにかが(ソウル)を求めている。

あの暗い魂(ダークソウル)を。

篝火に当たりながら、自分の中のソレを抑えていた。

何故かはわからない、だがコレを解放してしまっては()()()()()()()()

そう、感じたからだ。

 

その時、ゆらりと辺りから黒い煙が立ち上る。

それは意思があるように立ち上り、だんだんと人のような形を取り出す。

数え切れないほどの煙が立ち上る。

顔に当たる部分には、白い目のようなものが2つ。

それらが一斉に此方を向き、迫ってくる。

その一体が背後から俺の身体へ纏わり付いてくる。

感じ取れたのは、どうしようもないほどの生への執着と死ぬことへの恐れ。

 

その人間性の塊達が、怒涛のように迫ってくるのを見ながら、俺は俺自身の意識が沈んで行くのを感じていた。

 

 

あぁ…篝火の火が見えない。

 



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6:渇望の獣

ナザリックの周囲に展開した監視網には、傭兵の姿は全く引っかかりはしなかった。その温もりだけが残る前で、ただ彼と過ごした時間だけを思い出す。共に篝火を囲み、静かに時を過ごした事だけが残り火のようにその場を温めていた。

 

「もう、共に歩く事は出来ないのか。」

 

そう一人感傷に浸るように呟く。背を向けている先には、戦意を漲らせた守護者達の顔がある。できれば、私の家族達ともあの時間を過ごさせたかった。彼とも、家族になりたかった。自分は「家族」というものが分からない。だが、自分を慕いこうやって寄り添ってくれるものがそうなのでなないかと思う。ならば、彼もまた家族なのだったのだろう。彼が今何処にいるかは分からないが、すぐに会う事になるのだろうと感じている。理由分からない、だがそんな気がするのだ。

 

「アインズ様、バハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ファーロード・エル=ニクス様がお見えでございます。」

「…そんな時間か。少し待たせておけ。私は暫く…そう、この夕日が沈むまでここに居る。」

 

アルベドが来客を伝えるも、何か乗り気では無い。守護者達が臣下の礼にて跪く姿を横目に、まだそこに彼がいるような暖かさを持った完全に灰となった篝火を見つめる。

気づけば外とは違う時間を流れる第6階層が、完全に闇に染まりきっていた。

 

傭兵はもう居ない。もう敵なのだ。立ち上がり、温もりの消えた灰を睨みつける。

感情の整理はもうできた、次に会う時は戦場だろう。静かに沸き起こる闘志を感じながら、その場を後にする。

帝国との会談後、どう動くにしてもそれは避けられないであろう。我々は敵対した。敵対してしまった。彼が何故敵意向けるのかは分からない。だが、これは自分の家族を守る戦いなのだ。

 

 

帝国の皇帝であるジルクニフ・ファーロード・エル=ニクスは、あの荘厳な地下大墳墓で見た者達を思い返す。あの異形種の群れ、人類の滅亡を感じさせるほどの巨大な力、そしてそれらを統べる王アインズ・ウール・ゴウン。どれほど考えても最善の手は浮かばない。しかも、帝国最強の魔法詠唱者(マジック・キャスター)のフルーダが裏切った可能性もある。何をどう考えても、あの死の王の掌の上のようだった。だからこそ、この未曾有の危機に大陸各国の秘密同盟が必要だという結論は、天啓を得たような気さえしたのだ。だが、それもすでに綻びが生じた。それは、同盟国となるための会談を持ちかけた法国へと送った使者からの報告。

 

()()()()()()()()

 

その一言である。愕然とした使者からの報告は、今まで周辺に全く知られていなかった事からだ。確かに法国に対してはその強大な戦力と神殿勢力を恐れてまともな諜報活動はされていなかった。王国との一件にケリがついてから、順々にしていけば良いと思っていたほどだ。だが、それも無意味に変わる。あの死の王が、先手を打って出たのかと勘ぐるも、続く報告がそれを否定する。法国の消滅はその被害の爪痕から今日では無いとのことだった。考えられるのは、王国での悪魔騒動の前後。あのヤルダバオトという巨大な悪魔が王国内で行なった様子に良く似ているとの事であった。という事は、今この大陸には最悪が2つも存在していることになる。

 

多くの悪魔を従える凶悪な悪魔、ヤルダバオト。

その力の片鱗すら掴めぬ地下に眠っていた不死者の王、アインズ・ウール・ゴウン。

 

どちらも人類種の敵であることは明確、だがその未曾有の危機に人類種の盾を誇っていた法国が、ヤルダバオトによって滅ぼされていたのだ。周辺国はどこまでこの情報を知っているのがろうか。もう、自分だけでは処理できない状態になっているのにも気がついている。だからこそ、周囲の側近達に気付かれないように頭をかかえて悩むのだ。

 

『誰でも良い。あの化物達を。殺してくれ』

 

 

獣は走っていた。

背中に担いだ大鉈はそのままに、両の手に持つ斧を強く握りしめ大地を掛ける。

喉の奥に張り付く乾きを癒すように大地を駆け抜ける。

廃墟から飛び出した獣はまず近場の森林に入り、目につく生物を全て皆殺しにしていった。

しかし、乾きが潤う事はない。何故なら獣の求める物は、ただの動物には無いものだからだ。それは人間だけが持つもの、誰もが内に秘めている暗い魂。

拠り所を失った魂は、他者の温もりを求める。さながら、火に集まる蛾のように。

そして暗い魂の器となってしまった獣は、その巻き起こる欲望に苦痛を感じながら求め続けている。この暗い魂の叫びを消すには、火が必要なのだと。

獣は本能だけで火を求め、魂は同朋の魂を求め続ける。

苦痛に身を焦がしながらのたうつように暴れまわる獣は、もはや止まる事はできなかった。

そんな時、森の先の先。獣は知らないであろうが、カッツェ平野と呼ばれる赤茶けた大地でおこった出来事を。

死の大地と呼ばれるこの地で、今まさに巻き起こっている惨劇を獣は知らない。

王国と帝国の戦争を知らない。

死の王たる超越者(オーバーロード)が放った恐ろしい魔法と、それによって産み出された子供達を知らない。

ただ、魂を貪り火を渇望する獣が感じとったのは、濃厚な魂の叫び声。そして、燃え上がる火の香り。

 

獣は歓喜し、苦しみながらも走り出す。

そこに救いがあるかのように。

 

自分の望みを、叶えてくれるであろう者の元へ。

 

 

戦場という場においても、自身の身がいささかの感情も動かないことに少し驚いていた。帝国と王国の戦争、こちらから見ればそれはただの小競り合いのようにしか見えないソレを前にして、自分が感じとったのは何も無く、ただ今から行う魔法の検証に対しての楽しみの方が優っていた。しかし、それでもこの場にあの傭兵がいないことが心の隅のほうで気にかけていた。

 

(これだけの人数がいて、流石に襲っては来れないか…ただの獣という訳ではないか。しかし油断は無いぞ。ナザリックの軍勢500にアルベド、コキュートス、アウラにマーレを連れた俺に死角は無い。来るなら来い、傭兵(レイヴン)!)

 

最初の予定を変更し守護者達すら組み込んだ軍勢。あの傭兵に対しては、ただの人間如きでは正面に立つ事すらできないだろう、だからこその警戒。ソウルイーターに跨り馬上より見つめる地平の彼方には王国軍、その中には殺せない者もいる。これからのナザリックには必要な者達だ、もし仮にあの傭兵が襲いかかってくればそれらを守りながらになるだろう。それは避けたいことでもあった。

そんな逡巡の後、開戦の報を聞く。まず最初に、自分の魔法で戦線を開くのだ。使う魔法は最大のモノだというリクエスト。傭兵の問題を棚上げし、目の前の実験を開始する。

 

超位魔法〈黒き豊穣への貢(イア・シュブニグラス)

 

この魔法のもたらす結果がどのようなものなのか、それだけに集中する事にした。魔法陣の展開を終了させ、少しの待ち時間。意を決して手の中の砂時計(課金アイテム)を砕く事で発動する超位魔法。黒き風となった死が王国軍を襲い、左翼に展開していた7万の人間の命が、奪われた。

問題はこの後産まれでるであろう子供達だ。()()()()()()()()()。それだけに注視する。死の風により攫われた命が集まり誕生したコールタールの海、そこから生えでる何十本もの触手。そして聞こえる誕生の産声。蕪に似た塊から伸びる蹄。その塊に亀裂が走り、可愛らしい山羊の声が響き渡る。王国軍7万の命は5体の可愛らしい山羊に生まれ変わったのだ。

その後は、蹂躙劇だ。23万対5の戦いが始まる、いや戦闘にすらなっていない。例えるなら蟻の巣を掘り返し慌てる蟻達を車で踏み潰すような、そんな一方的な蹂躙劇。王国軍がすでに軍として体裁を保てなくなった頃、それは起こった。

突然、王国軍を大地の泥にせんと暴れていた山羊の内一体の反応が掻き消えた。そのあとも2体、3体と次々に消える山羊達。

 

今か。というべきか。やはり。というべきなのだろうか。

 

王国軍が逃走し、誰も彼もが自分達と反対に逃げ帰るその波の中。それを掻き分けるように兵士を斬り殺しながら、こちらに放たれた矢のように突撃してくる黒い影。

辺り周辺を壊しながら進む姿は当に竜巻。初めて見た時から変わることのないその姿は、ひどく懐かしい物に見える。

突然その影が高く跳躍し、目の前にいた最後の山羊を空中から叩き潰した。そしてトドメとばかりにその尋常ではない力によって山羊の体にその右腕を突き刺す。中身を引きずり出される痛みに耐えかねた山羊は断末魔の叫びと共に事切れる。すると、それを確認したその真っ黒な影は、おもむろにその死体に齧り付いた。獣の如き行動、身体についた帰り血が身体を濡らす事も厭わずに、ただ飢えを凌ぐように齧り、啜り、咀嚼する。そこには既にあの篝火で見せた雰囲気は皆無であった。

彼は、本当の亡者になってしまったのだ。

 

そんな獣に堕ちた傭兵がそのボロ布で隠れた顔を向ける。血の滴る口を三日月に歪ませ、そして吠えた。それは歓喜に満ちたものである。

 

しかし自分には、それが苦痛に苛まれた人間の叫びに聞こえたのだ。



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7:火を継ぐ者

王国兵どころか、帝国兵すらいなくなった荒野で彼と対峙する。(レイヴン)との距離は遠くは無い、かといって近くも無い。獣の脚力とその手に持つ大鉈の範囲なら十分すぎる間合いだろう。だが、その行く手を阻む者が多すぎるというだけだ。防御の為の陣形を組んだ者が200体、槍を内側にして獣を取り囲むのが300体。そして、戦闘にて敵の攻撃を食い止めるのはコキュートス、援護にはアウラとマーレ。自分の一番近くにはアルベドがいる。

逃げ場はなくただ進むしか無い陣形。そんな檻の中には狩人がいる、四本の腕に自身が持つ最強武具を揃えたコキュートス。剣戟の嵐を巻き起こし、多彩間合い武具で攻め立て隙を見ては周りがその手に持つ槍を突き繰り出す。ただの獣は闘技場で見せた機動力を著しく低下させていた、何より、本能に任せただ武器を力任せに振り回す姿にかつての技のキレは見出せない、それは見ていられないほどに痛々しい姿なのだ。しかしそれでもなお、こちら睨みつけ無謀な突進を繰り返し続ける。体当たりにてコキュートスの体勢を崩しにかかり、上段からの大振りを繰り返す。本当にただの獣になってしまったのか。何が彼を獣にしたのか、これがシークレット・レアのシナリオなのか。何が本当なのかはわからない、だが目の前の獣は明確な殺意を持って、苦しみながらも吠え続けている。ならば、終わらせてやるのが一番良いのかもしれなかった。

小気味良い破砕音が響く、上見れば彼の大鉈が半分からへし折れ、残りが空中を舞っている。それを見上げていた視線を下げれば、肩から袈裟斬りにされた獣の姿。両膝をつき、既に虫の息だ。トドメはこの手でつける。そう決めていた、それがせめてもの自分から彼にできる葬いなのではないだろうか。

守護者達の制止を振り切り、前に出る。獣との距離はあと5歩というところ。終わりまであと5歩だ。

それは獣も感じとっていたのだろう。待っていたとばかりに全身のバネを使い両手をあげて襲いかかってくる。だが、もう遅い。

 

時間停止(タイムストップ)

 

残り2歩、そこまでだった。獣は空中縫いとめられたように動けず、周囲の者すら知覚できない空間。その中で二人だけなったような感覚が胸を締め付ける、これは寂寥感か。そうだとも。もっと彼と過ごしたかった、もっと彼と話したかった、もっと彼と先見たかった。短い間だったが、この世界に来てから自分がこんなにも喜んだ事は無かった、こんなにも穏やかな気持ちになれるとは思わなかった。それを、あの篝火の前で過ごしただけで教えてくれたのだ。家族を愛せと伝えてくれたのだ。ただ傭兵モンスターでは無い、他の者では埋められない物を彼は与えてくれたのだ。

だから、獣に堕ちた彼は自分が手ずから殺す。

 

「…傭兵。お前とは、もっと別の形で出会いたかった。」

 

傭兵と雇い主という垣根が無ければ。

モンスターとプレイヤーという壁が無ければ。

人間と人間であれば。

もっと違う形ならば良かった。この感情は、かつて自分達の輝かしい時代の残滓だ。だがそんな胸を締め付ける想いは、すぐに鎮圧化されて消えていく。

跡形も無く消し去る事が最大の敬意。なればこそ、この魔法が彼への敬意。

火を求め、常に火と共にあった彼への手向け。

人差し指で胸を指し、時間停止が切れる瞬間にソレを放つ。

 

魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)獄炎(ヘルフレイム)

 

小さな煉獄の炎が獣の全身を覆い尽くし、全てを灰にせんと踊り狂う。その中で獣は歓喜と絶望が入り混じった声で一鳴きすると全身を地面に投げ出した。既に炎は消え、残った燃えカスのようその姿。鎧は燃え尽き、枯れ木のような身体は既にあちこちが炭化していた。一切合切を灰にしてしまう炎の中で、ここまで形を残すのは異常ではあったが、もう傭兵は動かない。

その名前(レイヴン)に相応しく真っ黒に燃え尽き、そして地に墜ちた。

 

「さらばだ、レイヴン。楽しかったぞ。」

 

誰にも聞こえないほど小さい声で彼に呟いた言葉は薪が爆ぜたような音に掻き消された。

見れば再度燃え始めた炎が、彼の骸を焼き尽くさんとしていた。

 

 

 

炎が見える。

暗い魂達が燃えていく。

身体舐め回す炎が自らの内まで焼いていく。

魔法による炎であっても、火に群がるように内側に住み着いた魂達は吸い寄せられるように身体から出て行きそしてその身を焦がしていった。

暗闇に落とされていても、常に遠くに見えていた火があった。

家族を愛した奇妙な骸骨。

冗談のようなその男は、まるで人間のように家族を愛していた。

その心はどんな火よりも輝いて見えた。

 

だからだろうか、奇妙な共感を感じたのは。

骸骨の身体に宿った魂は、火のように熱い。

それは自分が何処かに置いてきたモノに良く似ている。

 

ーあぁ、そうだ。()()()()()

 

終わる間際に見た彼の顔、ずっと感じていた違和感。

そうだ。俺は、俺達は良く似てる。靄がかかったような頭では気づけなかった。

自分が何かもわからないまま戦ってそしてその事に心が折れかけていたのだろう。

ならば最期に、俺と似ているあの骸骨に見せなければ。

 

それが、ここに生きた俺の証なのだから。

 

 

彼の身体の奥から火が燃え始める。

残り火のような小さな火が、今まさに大火となってその身を覆う。

焚き木入れた篝火のように、継いだ火を消さないようにその火は天高く燃え上がる。

驚愕の感情が押し寄せる波のように襲いかかり、沈静化が間に合わない。

そんな視界の先、瞼の無い眼窩の光が捉えたのは、炭化した枯れ木の身体が立ち上がる瞬間だった。腰布だけのみすぼらしい姿になってなお健在。歩き出した彼に、さっきまでの獣の様子は無い。だが、燃え尽きるのを待つだけの薪のような印象を受けた。

完全に炎の中から出てきた彼の手には、まるで炎によって産み出されたかのような無骨で質素な大剣が握られている。彼はその剣を逆手にし、柄を顔の高さまで持ってくると切っ先を地面に叩きつけた。

途端、その衝撃で巻き起こる熱風と爆炎。気圧されるほどの覇気。地面に突き刺したまま燃え上がり始めた剣。そのどれもが「王」の風格を伴っている。

獣は火により人に帰り王となった。

そして雌雄を決するようにこちらにその落ち窪んだ眼窩を向けている。

まだやれるぞ。と言わんばかりの戦意を漲らせている。

ならば、まだ終わらないというのなら。

続けるしかないのだろう。何故か胸に巻き起こる歓喜が沈静化された時、覚悟はできた。その瞬間に各方面へ指示を出す。戦列を整えながら後方へ距離を取る。その間、ただ静観している彼に無言の感謝を送りつつ兵を動かす。

火の王ともいえる存在になった彼はまだ動かない。

燃え上がる剣を引き抜かないまま、動かない。

その隙をコキュートスが一呼吸の内に切捨てんと剣を振るった。しかし、その剣を火花を散らせながら受け止める者がいた。

その剣閃を受け止めたモノ。

 

それは、亡霊のように白く揺らめく鎧騎士であった。

 

 



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終:死が最期にやってくる

コキュートスの剣を受けた白い霊体は、オーソドックスな鎧に身を包んでいた。剣を防いでいる盾も何の変哲の無いもの。他と何が違うといえば()()()()()()()()()()という一点だけ。唐突に現れた亡霊、ただそれだけの存在が守護者レベルという事が問題なのだ。猛烈な勢いで今いる戦力を分析し、防御策・攻撃策の練り直しをし始める。しかし、その脅威となる亡霊は揺らめきながら消えていく。最初から存在しなかったように、呆気にとられたのは自分だけでは無い。

攻撃を仕掛けたコキュートスも同じであったのだろう、躊躇うようにレイヴンから距離を離す。そうしている頃には、この異変が始まりであった事に気がつく。

 

それは、火が照らし出す影のようであった。

 

ナザリックから連れ出した兵達の前に立ちはだかる亡霊達。それぞれが違った装備を纏い、見たこともない武具を手に兵士達と相対している。そしてそのどれもが、1分と経たずに消えては生まれを繰り返していたのだ。

そう、まるで火の揺らめきに合わせるように。

 

両の手にショーテルを持つ金色の鎧騎士。

結晶を纏った白い球体を浮かばせ、まるで槍の様に飛ばすキノコのような帽子の魔術師。

炎を操り禍々しい曲剣を操る魔女。

まるで玉葱のような鎧の大剣を担いだ騎士。

太陽のシンボルのようなものが目立つ、雷を操る戦士。

 

これはその一部だ、全く統一性のない装備の者から、歴戦の勇者のような装備の者までいる。それが、こちらに襲いかかってくるわけでもなく、ただ立ち塞がるのだ。まるで邪魔をするなと言わんばかりのその行動。連れてきた守護者達を見れば、そちらでは激戦が繰り広げられていた。

 

援護に駆けつけていた双子に立ち塞がったのは、巨大な十文字槍を携え獅子の兜の騎士と、群青色のマントを身体に巻きつけた大剣を肩に担いだ狼のような戦士。

 

混乱した戦列を立て直していたアルベドには、太陽と月の光を思わせる双剣を構えた暗殺者のような女性。

 

そしてレイヴンへの追撃に入ったコキュートスには、鉄塊の槌と岩壁の盾で身を固めたまるで岩そのもののような鎧の騎士と、それを援護するように巨大な弓を引き絞る鷹のような意匠の兜の巨人。

 

それぞれが、その場から動けないほどの激戦。しかし、守護者達を相手取る亡霊は消える気配がない。

ということは倒さねばならないという事なのか。途端に家族を守りたいという感情が動くが、それをさせない視線が此方を射抜く。今まで動く気配すらしなかった彼が、亡霊達によってこじ開けられた戦場に歩みを進めていた。

その姿は見窄らしい物だ。腰蓑だけになり、頭髪は燃え尽き今にも灰になりそうなその体躯。しかし片手に握った燃える大剣を力強く振り抜き、進める足には覇気が宿る。

それらの動きから、かつて彼から聞かされた太古の大王の姿を幻視する。

何より、その眼窩に見える炎の如き光に見えるは溢れんばかりの戦意。何も言わずとも理解できた。誰にも邪魔されたくはないのだろう。

此方も彼に歩みよりながら次々とバフをかけていく。それはシャルティア戦以上の強化。それが彼に対する最大の敬意だからだ。そして十分な距離にお互いが近づく。

彼の間合いにはだいぶ遠く、自分の魔法レンジにも少し遠い間合い。辺りを包む喧騒は既に聞こえなくなり時間が間延びするように遅くなる。

最初に動いたのはレイヴン。大地鋭く蹴りつけ跳躍しなが右に構えた大剣を振り抜く。炎の軌跡が後を追うように付いてくる。すんでのところでバックステップからの〈飛行(フライ)〉の効果で飛び上がり高度を取ろうとするも、続けざまに放たれる顔面狙いの刺突を紙一重で避けるが、これで頭を押さえつけられてしまった。

かつて戦った者(クレマンティーヌ)に感謝しつつ、続く袈裟斬りを避ける。だがそれを更に追撃してくる炎にローブが燃やされる。物理攻撃無効化は反応しない、ということはダメージを負うには十分過ぎるという証明だ。

しかし完全に間合いを詰められた状態で、サテライト起動のまま避け続けるのにも限度ある。どうにかして高度を取らなければならない。

攻撃の手を休めないレイヴン。左右に振り抜き分ける剣戟に加え、いやらしいタイミングで跳躍からの振り下ろしを狙っている。こちらに攻撃をさせないような連撃だ、隙が一切無い。

ならば無理矢理にでも作るまで。攻撃と攻撃の一瞬の間、その瞬間を逃さずに唱えるは先程の焼き回し。クールタイムは既に終わっている。

時間停止(タイムストップ)

全ての時間が止まり、自分だけの時間になる。

だが高度を取ろうとした矢先に、途轍も無い勢いで鼻先を掠めるモノがあった。

それは雷を何本も束にしたような槍。驚愕しつつもそれが飛来した出所に顔を向ければ、止まったと思っていたレイヴンから。

動きは多少ぎこちないが、それでも()()()という事実。時間対策など持っていなかった筈だった、あの状態になってから手に入れたのか。そう当たりをつけながら十分高度を取る。

 

「攻守交代だな?いくぞ?」

 

呟きながら展開する多重魔法陣。炎属性は耐性があるはずなので、それ以外の属性魔法を使用する。地上に向か加速しながら肉薄し、すれ違いざまに〈魔法位階上昇化(ブーステッドマジック)〉をかけた〈爆裂(エクスプロージョン)〉を放ちつつの一撃離脱を織り交ぜながら、空中から攻撃魔法の連続爆撃を行う。

しかし、そのどれもこれもがクリーンヒットしない。こちらの攻撃位置をあらかじめ予想したかのように駆け抜けてくる。

だが、それは予想済み。引き撃ちを繰り返しながら設置した〈爆撃地雷(エクスプロードマイン)〉の地雷原。

唐突に捲き上る衝撃波に足場を崩され、吹き飛ばされたレイヴンを待っているのは、都合300本のブーストをかけたマジックアロー全方位死角無し。防げるならば、避けきれるならばやってみろと言わんばかりの弾幕がレイヴンに襲いかかる。

しかし空中に放り出された身体を捻り、大剣を地面に突き刺しながら制動をかけたレイヴンは、その体勢を起こした瞬間に左腕を弓ようにしならせる。そして、先程こちらに放った雷槍よりも巨大なエネルギーを含んだソレを前方に向けて投擲した。

瞬間、その巨大な雷の槍は細かく分裂し、まるで意思があるかのように致命的な着弾になるマジックアローを迎撃する。その絶対の弾幕に開いた突破口を目掛けて、再度の突撃。

尋常では無い踏み込により大地が陥没する、空中であり尚且つ十分な間合いを取ってるにも関わらず、気づけばその大剣が目の前に迫っていた。この距離までの跳躍。

だが、これも予想済み。大剣の軌跡に割り込むように現れるは〈骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)〉しかし、それは一刀のもと切り捨てられてしまう。

これは誘い水、空中で身動きが取れない状況に持っていくのが狙い。

続けざまに放つは〈千本骨槍(サウザンドボーンランス)〉。

千を超える骨槍が大地よりレイヴンに勢い良く伸びるが、驚いた事にそれに合わせるように槍の側面をを蹴りつつ此方に向かってくる。そしてそのまま跳躍し、此方よりも高度をとるように空中で一回転すると、その勢いを利用した斬り降ろし。

狙いを外してしまったが、焦らずに迎撃。

強化した〈黒曜石の剣(オブシダント・ソード)〉を生み出しその攻撃に合わせたカウンターを放つ。巨大な黒曜石の剣と、炎の大剣がかち合う瞬間に身体を逸らしたレイヴンは、黒曜石の剣の腹を蹴り上げ再度の加速。そうして剣を持っていない左手を此方に伸ばす。

虚をつかれてしまい完全に出遅れた。すんでのところで〈爆撃(エクスプロージョン)〉を放つも、それを意に介さないようにローブの端を掴まれ引き寄せられる。バランスを崩した瞬間に振り下ろされる大剣の一撃。

防御バフと魔導障壁によって減衰させたのにも関わらずに、その衝撃は凄まじいモノであった。隕石のように撃ち落とされ、同時に地面に叩きつけられる。

視界が反転したような感覚に陥るも、すぐさま復帰し距離をとる。此方の有利《空中戦》を潰されたのだ。すぐにでもまた空へ飛び上がりたいが、それを阻むように大剣が振り抜かれる。上体を屈めるように避けたソレ。しかしその軌道を、途中で無理矢理修正し振り下ろしに繋げようとする。避けられない。だが、その一瞬のタイムラグに差し込むように先に此方の魔法を発動させる。

自分を中心に発動した〈負の爆裂(ネガティヴバースト)〉で吹き飛んだレイヴンは、空中で器用に上体を整え着地する。

気づけば、戦いが始まった時と同じ程度の間合い。

 

周囲の様子をうかがえば、周りにいた兵士達の様子を俯瞰することができるほどの高台。崩れ落ちた城壁が大地となり、その上に更に城自体が落下してできあがったのだろう。

そうして出来上がった廃墟の大地でレイヴンと睨みあう。ダメージは予想以上、連発した魔法のせいもあり魔力も半分以下だ。

だが、それは向こうも同じ。無茶苦茶な突撃のツケは確実にその身体を蝕んでいる、しかしその覇気は更に増すばかり、むしろ燃え上がっているようだ。

 

まるで、消えゆく蝋燭のような輝き。

 

先の事など考えない捨て身の攻撃は、その輝きがもう残り僅かである事の裏返しなのではないだろうか。しかしだからこそ、もう一度彼と話しがしたかった。だが、それはもう叶わない。

夕日の光に照らされたレイヴン。

廃墟の日陰の中にいる自分。

 

「言葉は、不要か。」

 

それが合図になったように、レイヴンが動く。

全ての力を一撃にしたような突撃。大剣の切っ先に巻き上げる炎を引き連れ、全身を槍に変えた太陽の王が迫る。

その速度を躱せる自信は自分には無い。引いて攻撃したとしても、ただの攻撃魔法で止められるとも思えない。ならば、()()()()()のみ。

上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)

完璧なる戦士(パーフェクト・ウォーリアー)

廃墟の陰が、その身に纏わり付いたような漆黒の鎧。同時にその手に現れた二本のグレートソードを十字に構える。

その突如に響き渡る轟音。レイヴンの切っ先がグレートソードを貫くが、それが見えた瞬間に剣を両方とも手放し、再度剣をインベントリから取り出す。

とっさに手放したことで、レイヴンの剣の軌道が逸れ隙が生まれる。その一瞬の隙に右に回り込むようにステップインし、左の剣を全力で振り下ろす。しかし、レイヴンはその場で回転する事でそれを防ぐ。

鍔迫り合いの盛大な火花が、辺りを包み混むように舞う。

物凄い力で押し返してくるが〈完璧なる戦士(パーフェクト・ウォーリアー)〉となった自分はそれに負けてはいない。

右の剣を水平に振り回し、何とか死角を突こうするも気づかれてしまう。鍔迫り合いの状態を解除すると同時に後方へ飛ぶことで、逆に体勢を立て直そうとしているこちらの隙を突いてくる。大剣を両手で握り込み、右から左、上から下へと逆巻く炎を引き連れながらの連続攻撃。その一撃一撃に剣を合わせていくが、そのたびに剣がへし折れてしまう。

それを新たな剣を取り出すことで、どうにかその連続攻撃を防ぎきった。

レイヴンは最後の大振りの上段切りによって体勢を大きく崩している。それを見た瞬間に身体は反応し、残った右手の剣を裂帛の気合いと共に突き出した。

突き出す剣の先にいるレイヴンは振り下ろした剣を持ち上げ、その剣の腹を盾のように構えている。

鋼同士がぶつかり合い、剣の陰越しにお互いの視線が重なる。

その時、今まで無言を貫いた彼がその口を開いた。

 

「…あぁ、太陽は沈んだか」

 

聞こえた声はあの篝火で聞いた懐かしいソレ。力強いがそれでいて落ち着いた低い声だ。

その彼の顔に陰が差す。背負っていた日輪の如き炎が目に見えて小さくなっていく。

そうして炎とは呼べないほどの小さな火となり、まるで消えるのを待つ残り火となった。

身体は炭化を通り越した灰のように白くなりつつある。

その光景を唖然と見ていた自分に、再度声が届く。

 

「…友よ。お前は…折れるなよ」

 

それが最期の言葉だった。

完全に灰となった彼の身体は、そのまま風に吹かれてどこかへと飛ばされてしまう。残ったのは大地に落ちた彼の大剣のみ。しかしそれももう燃えカスのような有様であり、すでにその力は失われているようだ。しかしそんなことよりも、今目の前で起こった事が信じられなかった。

あまりにも唐突な決着。

あまりにも突然の別れ。

何故彼が敵対したのか、何故彼は()()なったのか。

もう、それを答えてくれる彼はいない。そして何より最期の言葉。

彼は「折れるな」と。何に対しての言葉なのか、その意味はわからない。

だがはっきりとしているのはただ一つ。

彼は最期、自分の事をこう呼んだ。

 

 

「友よ」と。

 

 

その言葉が胸に染み込む気持ちの中、足元の燃えカスの大剣を手に取る。途端に崩れて灰になったその中から小さな、本当に小さな火が誕生した。

ソレは手の中で少しづつ大きくなり、暖かな光を生み出し始める。

 

「これは…『ぬくもりの火』?アイテムではない?俺の…スキルだと?」

 

その火は極々小さいものだ。

だがそのぬくもりの中にいることで身体が大きく回復していくのがわかる。

傷ついた身体が癒え、活力が湧く。

そうだ、この暖かさを自分は知っている。

彼と過ごした篝火で感じた暖かさ。

そう、これは。

 

団欒の火だ。

 

そんな感傷を感じながら高台の一番高いとこへ登り、その下を見下ろせば亡霊達の姿は既に無く、シモベ達が戸惑った子供のように自分達の主人を探している。

その姿を見ると、まるで愛し子を見ているような気持ちになっていく。早めに戻ってやったほうがいいだろう。

そんな事を考えながら高台を飛び降り、そうして歩み始める。

 

太陽が沈み夜と混ざり合うような空の下。

家へ帰るように一歩づつ、ゆっくりと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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エピローグ

鮮血帝と呼ばれていた自分が見たモノは一体、何だったのだろうか。

帝国と王国の戦争は、帝国が迎え入れた魔術師「アインズ・ウール・ゴウン」が行った大魔術により王国側に甚大な被害を及ぼした。眼を覆いたくなるほどに。

しかし、突如現れた黒い魔獣のような男がそれを阻止。そのまま「アインズ・ウール・ゴウン」を含め帝国・王国の両軍に襲いかかっていた。

その後の経過はあの場から逃げ帰って来た者が全て死んでしまったため、どのような経緯があったかは不明。

だがそれも、完全に瓦解した王国に新たな旗が立つことで明らかとなる。

 

その旗の名前は「魔導国」。

魔を導く王の旗が元王国内の至るところではためき、その旗の元には人間では無い異形の者達が集う。

 

陶器のような白さの美少女、しかしその眼は真紅に染まり濃い血を連想させる。

 

氷のような青い鎧を纏う甲殻類か昆虫を思わせる武器をもった異形。

 

あどけない様子のダークエルフの双子の子供。しかしそれらが率いるは魔獣の群れ。

 

恐ろしいヒキガエルのような顔を持つ化物、整った服装が逆に恐怖を煽る。

 

並ぶ者はこの世にはいないであろう絶世の美女、しかしその頭には黒い角が見えている。

 

そして、それらの頂点。

死がそのまま凝固し、形をもったモノ。

人間では到底至る事のできない高みに座する、恐怖の超越者(オーバーロード)

 

魔導王「アインズ・ウール・ゴウン」。

 

封書に納められていた手紙をまた開く「建国の暁には、貴殿の国と良い関係を築いていきたいものだ」だと?

笑わせてくれる、従属させた国が増えたと喜んでいるに違いない。だが、反抗したくてもするだけの戦力はない、ならばその戦力を蓄えればいい。

あの国の属国でもいいだろう、どんな事もするだろう。

だが、我らが。人間が生き延びられれば。そして奴らの力の一部でも手に入れられれば。

まだ望みはある、だからこそ歓迎してやるのだ。それこそ盛大に盛り上げてやろう。

 

せいぜいその玉座で待って入ればいいさ。

いずれ必ず倒されるその日までな。

 

断固たる決意を胸に、扉の向こうで待ち構える地獄に対して勇気を振り絞る。

笑顔を貼り付けた顔が弛緩しない事を祈りながら、震える手でその扉を開いた。

 

「おお、ようこそ我が友よ。」

 

あぁ、今日もご機嫌か。くそったれな魔王様よ。

 

 

 

かつて、王国と帝国とが争いの地としていた場所。

濃い霧が立ち込めたアンデッドが生まれ続けるカッツェ平野。

 

その赤茶けた荒野に、ある日小さな小さな墓ができた。

 

自然発生するアンデッドもその墓にだけは近寄らない。

なぜなら、その場所には決して消えぬ「火」が灯っているからだ。

 

その火は不浄なモノではなく、近づく者を分け隔てなくそのぬくもりで包んだ。

いつしかそこは、冒険者達やワーカーの休憩所となった。

篝火の近くに入れば、体力は回復し傷の治りも良くなるというのだ。

最初は気味が悪いともいわれたが、何の害も無いという事に加えて「『漆黒の英雄』モモンが一人で良く立ち寄る」という噂で、その墓の前の篝火にはいつも人がいるような状態だ。

しかしだからといって、騒ぐわけではない。

この火に当たっていると、何故だか無性に家族に会いたくなり、皆こぞってその口を閉じ静かに火を眺めるだけなのだ。

 

しがない傭兵となった俺に、家族の思い出はない。遠い昔に忘れてしまった。

だが、そんな俺もなにやら気持ちが安らいでいるのが分かる。

風の音に混じって薪が爆ぜる音だけが響いていた。

 

そうして少しウトウトし始めた頃、いつの間にか一人の男が目の前に座っていた。

男は傷だらけのチェインメイルに頭にボロ布を巻きつけた怪しい格好であったが、不思議と恐怖はなかった。

ただ無言でその篝火の火を見つめているだけ。

 

同業者が来たのだろう。

 

そうあたりをつけていると、その男が手になにやらを持ってこちらに差し出している。

それは干し肉であった。

礼をしながら受け取り、口に運ぶ。

途端に蘇る、幼い日の思い出。

 

麦わら帽子に隠れた顔をむけ、こちらに笑いかけているのは父親だろうか。

川辺で俺を呼んでいるのは母親か。

なら、この干し肉を食べているのは、俺か。

 

頬を熱いモノが流れていくのが分かる。

それを拭い閉じていた眼をあけると、今までいた男の姿はない。

それに、口に入れていた干し肉も無い。

 

 

 

ただ、先程より大きく薪が爆ぜる音がした。

 

 

 

 

***

 

end

 

 

 

 

 

 

 





沢山の閲覧・感想・評価・誤字報告、本当にありがとうございました。


彼の物語はこれにて幕でございます。
それでもモモンガさんとナザリックの物語はまだ終わりません。
これからのモモンガさんの活躍を楽しみにしたいと思います。

それでは、またどこかでお会いしましょう。


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