ヒーローだかヴィランだか知らんがヤクザ舐めんじゃねー‼︎ (アンパンくん)
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第1話

 

ミーンミンミンミーーン

 

 朝、セミの声で目が覚める。まだ寝ぼけている頭を必死に覚醒させながら布団から起きると、ふと隣に暑苦しい気配を感じる。気になって見てみるとそこには……丸坊主のガチムキの男が……

 

「…………………死に晒せぇぇぇぇぇぇ」

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 昔、中国で光る子供が誕生した。それが今で言う『個性』の始まりである。

 時が経ち、超常的な力を持った人がする事は何か……人にその力を見せつける事である。

 そして、自分の欲望を満たそうとする者『(ヴィラン)』それを取り締まる者『ヒーロー』が現れた。

 

 ヒーローによりあらゆる裏組織が摘発された。逃れられたのは運が良かった者と権力者とのコネがあった者のみである。

 これは極道『関東(かんとう)任侠(にんきょう)一家(いっか)総元締(そうもとじめ)大山組(おおやまぐみ)』若頭の物語である。

 

 〜〜〜〜〜〜

 

「若、皆様もうお集まりになっております。お早くお越しくだせぇ」

 

「うるせぇな、わかってるよ」

 

 全くもって不幸でしかない。何で中学最後の夏休みの初日で組の会合があるんだ⁇

 しかも朝っぱらから隣で筋肉ハゲダルマが寝てやがるし……

 

 そんな事を考えながら会合場所である大広間についた。

 

 俺の名は大山鬼一。ヒーローがどこもかしこにもいる世界でヤクザの若頭をやってる者だ。

  ヤクザというものはオールマイトが登場した時にほぼ潰されたらしいがウチは警察の上層部とコネがあったらしいのでなんとか免れた。

 まぁ、もともと俺たちはウチのシマでカタギ(一般の人)に手を出そうとした裏社会の奴らを締めたり、抗争が起こらないようにしたりとシマの治安を守っているのだ。

しかし、古くからいる有名どころ以外のヒーローはウチを極悪集団か何かだと思っているし、(ヴィラン)からすれば古臭い絶滅危惧種の様な奴らだと舐められているだろう。(俺らが関東の治安を裏から守っていることも知らずに)

 

「邪魔するぞ」

 

「「「「「「おはようございます、若頭」」」」」」

 

 中にはいると格好は違えど誰もが一般人が見たらちびりそうな風貌の大人が六人座ってた。

 彼らはウチの組の幹部たちである。みんな自分の組を持っており月一回の総会の時にこの様に集まるのだ。

 

「おう、あれ親父はまだ来てねーのか⁇」

 

「いえ、先ほどまでいらしゃったのですが…」

 

「そうか、まぁいねぇーならいいか。先に飯を食っておこうぜ」

 

 ウチの総会は朝っぱらからやるためみんなで飯を食う伝統があるらしい。俺が初めて総会に出た時もこうだった。

 

「おう、全員集まってるな」

 

 全員に朝飯と酒が行き渡り腹も膨れた丁度その時、大山組の総大将でもあるウチの親父が白い封筒を持ち和服姿で大広間に入って来た。

 

「遅いぞ、親父」

 

「おぉ、スマンスマン。それじゃあさっそく総会を始めるか」

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 総会とは月に一回行われる大山組全体での会議の事である。ここで先月の収入や今後の方針などを決めていくのである。

 

「……というわけで今回の全体収益は前回より0.3%上昇しており今後も右肩上がりが続くと予想されます」

 

「そうか、ご苦労。そのペースを保てるよう頑張ってくれ。では最後に……」

 

 そう言うと親父が持ってきた白い封筒を俺に渡してきた。いつもならここで終わるのに⁇と疑問を抱きながら封筒を開けると中に『雄英高校』のパンフレットが入っていた。

 

「臨時総会を始める‼︎」

 

「「「「「「「⁉︎⁉︎⁉︎」」」」」」」

 

 一瞬にしてその場の空気が引き締まった。

 臨時総会とは、緊急時や不測の事態が起きた時に行われる総会である。個性が存在しない頃からあるウチの組でも数えれる程度しか行われなかった。

 

「今回の議題だが、近々オールマイトが活動限界を迎えるらしい」

 

「なっ……、デマの可能性は⁇」

 

「確かなスジからの情報だ」

 

「うむ……しかし、そうなりますと……」

 

「あぁ、『正義の象徴』が居なくなれば治安が悪くなることは確実。どれくらい先かは分からんが今のうちに人材の育成と警備の強化に努めてくれ」

 

「おい親父、じゃあこのパンフレットはなんなんだよ?」

 

「そりゃあ、お前が高校受験で其処を受けるからに決まっとるだろが」

 

「……………」

 

「勿論、ヒーロー科だから」

 

「……はあぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 訳がわからない。何で俺がわざわざそんな所に行かないと行かんのだ。だいたい、俺はもう北海道の高校に行き美味い物を食いながら三年間過ごすという計画があるんだ。今更そんな事を言われても困る。

 

「勿論、オールマイトの事とも関係があるぞ。ヒーローどもはオールマイトが引退すれば次の象徴をつくるため育成に力を入れるだろう。お前はその世代のヒーローとなるであろう奴らとコネをつくってくるのだ」

 

「総大将、自分は反対です。あいつらはいちゃもんつけては組を潰そうとする奴らですよ。もし若頭が捕まったりしたら……」

 

「そん時はそいつらを法的にも社会的にも潰すだけだから心配すんな。とりあえずは、雄英のスポンサーと理事会にお願いしてあるからとりあえず公平に試験は受けさせてくれる。後は……おい、仁比山(にいやま)刃山(はやま)

 

「はっ」「へい」

 

「テメェーらのとこのガキがこいつと同い年だったな⁇」

 

「はい、若頭と同じ今年で15歳になります」

 

「そうか……お前らのとこのガキもこいつと一緒に雄英のヒーロー科を受験させろ」

 

「大変申し訳ねーんですが、仁比山のとこの娘はともかくウチのガキは端的に言ってしまうとバカなので、雄英は難しいと思うんですが……」

 

「そんなもん、鬼一に勉強教えさせれば何とかなるだろ。なぁ鬼一⁇」

 

 俺の夢の高校生活が潰えた事にショックを受けている間に色々話が進んでるらしい。というかアイツに勉強教えるとかメチャメチャ嫌なんだが。だって俺を起こしに来た筈が俺の隣で寝てるような奴だぞ。

 

「そうそう、これは命令だから。そんな嫌そうな顔をせず絶対受からせるつもりでやれ」

 

「へーい」

 

 命令ならしょうがない。心底嫌だが嫌々言っていてはこの世の中生きてけんからなぁ〜。やるしかないか。

 

「よし、ではこれにてお開きにする。各自今後とも励むように」

 

 総会が終わりみんな、部屋から去っていくが幹部6人の内の先ほど話に出た2人、仁比山と刃山が近くに来る。

 

「すいやせん、若頭。ウチのバカ息子の勉強見てもらうことになってしやい……」

 

「いいよ別に。あのクソジジイが言い出した事なんだから。まぁ、やるからにはガチでやるけど」

 

「こいつのガキはわかりませんが、ウチの娘は恐らく受かると思いますので、高校へ行ってからもよろしくお願いします、若頭」

 

 この時、俺はまだ知らなかった。

 

 自分の身に降り注ぐ災悪を。




質問、感想よろしくお願いします。


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第2話

 

新緑も紅葉に変わり、紅葉も枯れ落ち白い息が出るようになった季節……皆さんはどの様にお過ごしですか?

 

 さてここであのクソジジイに雄英に行けと言われてからの軌跡を見てみましょう。

 

 まず、刃山んとこの息子、刃山刃(はやまじん)だが……一言で言うと酷かった。そりゃぁもう酷かった。なんとか4ヶ月とちょっとで偏差値50まで持っていけたが、今後の成長速度を考えると受験日までに偏差値60いくかいかないかの所だろう。

 つまり、今のままでは受からないのだ。勉強だけでは……。

 

 雄英の試験は筆記試験だけではない。毎年、変わりはするが実技試験もあるのだ。そしてこいつはメチャクチャ戦闘能力が高かった。戦闘中は勉強してる時とは比べ物にならないくらい頭を働かせ、個性有りの俺とのタイマンでは相当な傷を負わせられた(そんなに戦闘中は考えれて勉強はできないのか謎だ)。

 

 流石『武闘派』で知られる刃山組の息子だ。

 というわけで勉強を最後まで死ぬ気でやり、実技試験で一位を取るぐらい頑張れば何とか入れるじゃないかと言っておいた。これからも勉強教えると思うとまた憂鬱だ……。

 

 さて次に仁比山のとこの娘、仁比山音無(にいやまおとな)だが……こいつは逆にやばかった。音無は別にいいかと思っていたが本人が是非とも見てください‼︎、と言うので見てやったが……こいつ、俺より頭良くね⁇

 

 どのくらい良いかというと、個性がない時代も今も日本最難関で知られる東京大学の試験問題を一題出して見たらスラスラと解くぐらい良かった(俺は悩みに悩んで半分しか当たってなかった)

 

 じゃあ此奴にあのバカの勉強任せりゃ良いじゃんと思ったが「申し訳ありません。あれだけにはどーしても出来ません」と顔に申し訳なさと絶対ムリという表情が出ていた。

 

 戦闘能力もそれなりに高かったので油断しなければ今の状態でも大丈夫だろう、と伝えておいた。帰っていく後ろ姿が何となく残念そうにも思えたが、まぁ気のせいだろう。

 

 そして最後に俺はというと……

 

「………グゥ……ガァァア……」

 

 今現在、姿形を変形させられてます。

 

 〜〜〜1時間前〜〜〜

 

「親父、入るぞ」

 

 バカの勉強特訓が終わり晩飯まで散歩するか〜と思った矢先、部下から親父が呼んでいると言われた。もしかして雄英に行かなくていいと言われるかなぁと淡い希望を抱きながら部屋に入ると……

 

「おう、来たか。じゃあ早速だが鬼一……お前その成りから変われ」

 

 親父と若そうな女が居た。

 

「……は⁇」

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 西山変……親父の側近の1人である。

 若々しく美しい女性のように見えるが俺が産まれた頃から変わってないらしく実年齢はだれも知らない。

 個性……変形

 物によって時間差はあれど触れたどんな物でも変形させることが出来る。しかし変形させるという事はその物の状態から無理矢理変えるということであり少なからず負荷が生じてしまう。そう人間なら皮膚や臓器、骨格に……

 

「……ガァァッ…グゥゥ…」

 

「いやなぁ〜悪の親玉と会う約束忘れとってな。ついさっき思い出したんよ。もう15歳だしやっぱり一度はお前を会わせといた方がいいと思ったんだけどな、お前を見せて興味持たれても困るからちょっと我慢しといてくれ」

 

 ……アツイ……アツイ……体が内側からえぐり取られていくような……

 

 コンコン

 

「総大将、迎えの者がやって来ました」

 

「おう、じゃあ行くか鬼一。あ、あとお前の場合変形が解けてしまうから個性は使うな。それと儂の新しい側近という設定だから忘れないようにな」

 

 …ハァハァ……体はまだ熱を持っているがだいぶ身長が縮み、親父より相当歳が入った老人の様な姿になった俺はよたよたと親父の後をついて行く。

 

 客人を招き入れる応接間まで着くと親父は扉を開けて中に入っていく。中に入ると襟の高いスーツを着た黒いモヤモヤとした者がソファに座っていた。

 

「おう、待たせたな。じゃあ早速移動してくれ」

 

「はい、分かりました。其方のご老人も一緒に連れて行けばいいのですか?」

 

「あぁ、頼む」

 

 すると黒いモヤモヤが急に俺らを包み込み、次の瞬間古いボロボロの廊下にいた。

 

「この先、真っ直ぐ進めば奥の部屋に先生がいらっしゃいます」

 

「そうか、ありがとう。では行くか」

 

 先へ進む親父の後について行く。先へ進むほど死の気配が濃密になっていく。本気の殺し合いや抗争を何度か経験した俺でもこれほど濃密な『死』は感じたことがない。

 

 どんどん進んでいくととようやく突き当たりに扉があった。親父が扉を開けると口元に機械を当てた男が体に何本もチューブを刺した状態で椅子に座っていた。

 

「やぁ、よく来たね」

 

「儂は来たかなかったけどな。この死に損ない」

 

「うん、君の言う通りだ。こうなる前に超回復系の個性を手に入れておければ良かったんだけどね。ところでそこの老人は?」

 

「あぁ、儂の新しい側近よ。おい、こいつが都市伝説とか何とか言われている悪の根源、オールフォーワンだ」

 

 なっ⁈⁈。まさか本当に存在していたとは。どうせ老害どもの怖〜い話だろうと思っていたが……

 

「成る程、なら僕も紹介しないといけないね。おいで弔」

 

「……はい、先生」

 

「紹介しよう、彼は死柄木弔。僕の生徒で先代オールマイトの孫だ」

 

「ほう、あの女の孫か」

 

「そして彼の目的は……オールマイトの殺害だ」

 

「ほう……」

 

 ムリだ。唐突だが俺はそう思った。彼にはそれをするという信念が感じられない。やりたいからやるではオールマイトは殺せないのだ。

 

「オールマイト殺しか……。したけりゃすればいい。だが何故そんな事儂らに言う必要があった⁇」

 

「うん、今色々準備をしているのだけど後一押し足りなくてね。どうだい、弔と一緒にオールマイトを殺さな「断る!」……そうか」

 

「なんか勘違いしとる様じゃが儂はどうでも良いとは言ったが殺したいとは言っとらん。儂らはな、自分のシマと約束を守る事しか考えとらんのだ。オールマイトが死ねば悪がやり易い世界になるだろう。それでも自分のシマをカタギに迷惑をかけず守りぬけるから言っとんじゃい。オールマイト殺しだとかはそっちで勝手にやってくれ」

 

 おうおう、親父のヤツ随分とキレてんじゃねーか。大丈夫かな……親父が手出したら、この建物倒壊して、俺潰れ死んじゃうよ〜。

 

「ちっ……田舎もん風情が…」

 

 バッ

 

 親父が親指と人差し指をくっつけた状態で右手を前に出し、それと同時にオールフォーワンも手を前に出す。一瞬にして一触即発になり緊張感が漂う。

 

 

 最初に手を下ろしたのはオールフォーワンだった。

 

「今のはこちらの失言だった。謝ろう」

 

 その言葉を聞き親父も手を下ろす。

 

「いいかガキ、次舐めた口聞いたら問答無用で殺すからな」

 

 親父はそのまま後ろを向き扉の方に歩いて行く。

 

「あぁそうだ。いいか、ウチのシマや組員に手出してみろ……てめぇらの計画、全て潰してやるからな」

 

 そういって扉を出ていくので俺も後に続いた。

 見た感じ交渉決裂で終わってしまったみたいだけど、いったい向こうは何がしたかったのだろうか……

 

 〜〜〜〜〜〜

 

「分かったかい弔、あれがヤクザというものだ。他にも死穢八斎会などもあるけど、あそこら辺は小物だから後で写真で見ておけば良いだろう」

 

「あいつらはどう違うんですか⁇」

 

「うん、良い質問だね。さっきの組…大山組というんだけど彼らは関東周辺をシマにしていてね、ヒーローでは捌けない法の裏を突いてくる者や外国からやってくる……俗に言うスパイなども相手してるんだよ」

 

「ふーん」

 

 弔は興味なさげに聞いていた。

 

「まぁ、彼らはシマを荒らしたり、組の者を相手にしなければ手を出して来ないからね。計画を始めるまでは大丈夫だよ」

 

「はい、先生」

 

「良い子だ。じゃあ今日の授業を始めようか」




質問、感想よろしくお願いします。


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第3話

 

 雄英高校ヒーロー科……例年、倍率300倍を超えるプロヒーローの養成校。『正義の象徴』オールマイトや『燃焼系ヒーロー』エンデヴァーなど多数の偉大なヒーローを排出している。

 

 俺たちは今、そんな学校の実技試験を受けようと正門の前にいる。

 

「さて、分かっていると思うが刃…お前がこの学校に受かるためには⁇」

 

「オッス若、見えた敵を全てぶっ壊す、ですね」

 

 ドスッ

 

「それは合っているが、若と呼ぶのやめろと言わなかったか?」

 

「……は……い…」

 

 4回ぐらい注意したにも関わらずまだ間違えるので、つい足が出てしまった。まぁ、いいか。

 それよりも時間がそろそろヤバいので早くいかなくては。

 

「よし、いくぞお前ら」

 

「はい大山君」 「………」

 

 俺は同じ制服を着た黒髪の短髪少女、仁比山音無(にいやまおとな)と、前屈みの姿勢で足を内股にしてプルプルしながらも頑張ってついて来る坊主、刃山刃(はやまじん)を連れて試験会場に入って行った。

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 

 

『今日は俺のライヴにようこそー!!! エヴィバディセイヘイ!!!』

 

 シーーーン

 

 メッチャ可哀想だ。

 

 こんな広い講堂いっぱいに入っている受験生全員に無視されるなんて……

 

 俺たち受験生の前に立っているのはボイスヒーロー『プレゼント・マイク』。おそらく彼が俺たちへの受験内容の説明係なのだろう。しょっぱな全員に無視されているがそこはプロヒーロー……切り替えの早さは流石である。

 

 だがこちらも流石ヒーローの卵たち……目の前のヒーローの呼びかけに一切答えず無視し続ける。どちらも流石である。

 

 肝心の試験内容の説明はと言うと、入口で貰ったプリントに書いてある事と殆ど変わらない。途中でガッチリとした七三メガネが質問していたが知ってようが知ってまいがそう大して変わらん内容だった。

 

 説明会も終わり、同じ学校での協力を避けるため三人とも違う会場だったので別れたが、その時も刃の奴、足が産まれたてのバンビの様にプルって内股歩きしていた。

 

 あいつはもうダメかもしれん。

 

 さて、服装は自由だったので、途中でいつもの和服に着替えて、決められた試験会場に行ってみると太い尻尾の付いた空手着の奴や、厨二臭く自分の影と喋っている奴、身体をカチンコチンにして如何にも硬そうな奴など様々なのがいた。

 

 みんな、それぞれ準備運動したり、精神統一したりと試験に対する気負いはないみたいだ。確かにこの程度でびびってる様じゃ入試に受かる事も、ましてや合格する事も出来ーーー

 

『ハイ、スタート!』

 

 まい、っていきなりスタートかよ!

 

 着替えに時間が掛かって来るのが遅かったか?

 

 他の奴らもいきなりなのでビックリしていたが、プレゼント•マイクに一言二言言われすぐに敵のいる方向に走って行く。

 

 おかげで出遅れてしまったが、まぁ大丈夫だろう。とりあえず個性を使い手を赤く変化させていきながら受験生が走って行った方に歩く。

 

 試験会場は建物がいくつも立ち並ぶ街の様になっていて、この様な場所をいくつも持っているというのは流石国内最高峰のヒーロー科のある高校だと思う。

 

『標的捕捉‼︎ ブッ殺ス‼︎』

 

 おっ、わざわざ(ポイント)がこっちまで来てくれた。こりゃいい。

 俺は個性で赤く『鬼の手』の様になった右手をデコピンの形にして(ポイント)に向ける。そしてそのままこっちに向かってガチャガチャとなかなかのスピードで近づいてくる(ポイント)に放つ。

 

 ドカァアアン!!!

 

 力を込め過ぎたのか(ポイント)はバラバラになりながら後ろのビルを貫いていった。

 

 まぁ、いいか。目指せ4位から7位の間‼︎

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 

 試験から一週間が経った。試験結果はまだ来てないが、見た感じ受かりそうなカチンコチンの奴と同じくらい(ポイント)を壊したので、おそらく受かってるだろう。

 

 音無も大丈夫ですと言ってたし、刃の奴は言われた通りやりましたと言っていた。受かってるかどうかは別として……

 

 まぁ、ゆっくり待つさ。

 

 それよりも今は飯食わんとなぁ、腹が減り過ぎてヤバイ。

 

「おい、飯の用意を頼む」

 

 俺は廊下を歩いていた若い組員に声をかける。

 

「へい、ただいまお持ちします」

 

 若い組員は早歩きで台所の方に向かった。

 

 そう言えば、親父によるとオールマイトは今年から雄英高校の教師になるらしい。やはり、あれかな。自分の後継者が雄英にでも入ってくるのかな?

 

 悪の親玉と会った後、親父からオールマイトの真実を聞かされた。何でも、今海外に住んでる御隠居と先代ワン・フォー・オール所有者が犬猿の仲だったらしいので、俺はもし居たら、後継者となるべく仲良くしたいな。

 

「若、お食事の方をお持ちしました……それと雄英高校からお手紙が届いてますが……」

 

「……今読む。寄こせ」

 

「へい、それでは失礼しやす」

 

 ちょうど今来るとは……。少々驚いたが早く結果が知れる事にこしたことはないだろう。

 

 中を開けてみると何枚かの紙と小さな丸い機械が入っていた。

 

 ブォッン

 

 小さな丸い機械から映像が投影される。

 

『やぁ、僕が投影されたよ!』

 

 投影された映像にはエンターテイメント番組の様な背景に哺乳類らしき手が映っていた。

 

『ん、あれ……これカメラに映ってないなぁ。(…ガチャン……ガラガラガラ…)よし、これでオーケーだ』

 

 自分が映ってなかったのか、カメラを移動させると二足で立っている小さな哺乳類らしき動物が立っていた。

 

『(ゴホン)改めて、僕が雄英高校校長の根津だよ。ヨロシク』

 

 これが雄英の校長か……。人が個性で動物になってるのか、それとも動物だ個性を手に入れてハイスペックになったかわからんが、後者だったら凄いな。しかし何の動物だ、これ⁇

 

『本当は新しく教師になってくれたオールマイトがこうやって発表してくれる訳だが、訳あって僕が発表する事になったのさ、ゴメンね。さて大山(おおやま)鬼一(きいち)くん、試験の結果だが……筆記、実技ともに十分…合格だ。おめでとう』

 

 ……よかった、受かってたか。やはり大丈夫だと思っていても少しは緊張するもんだな。

 

『……と言いたかったんだけどね』

 

 ん、なんか雲行きが怪しいぞ。

 

『さて、ここからはオフレコで頼むよ。あと仁比山音無くん、刃山刃くんの通知にはここから先の話は録画されてないから君から伝えて欲しい』

 

 うん、俺の他にあの2人の名前が出たということは、まず間違いなくウチの組に関する事だ。いったいなにを言うつもりだ?

 

『君たちの素性についてはある程度知ってるつもりだよ。関東(かんとう)任侠(にんきょう)一家(いっか)総元締(そうもとじめ)大山組(おおやまぐみ)。でね実は、雄英の先生方から君たちの入学を反対されているんだよ』

 

 そりゃそうだ。ヒーローを育てる高校にヴィラン予備軍の奴を入れるなんて元も子もないだろ。けど、それでも俺らは入らんといかんのだからバカみてぇだ。

 

『それに更に困ったのが僕の上……言ってしまうと理事会や国の方からは入れさせろと来てる事だよ。まったく、これじゃあ僕がストレスで毛が抜けてしまうよ。

 ……だからね、僕なりに色々考えた結果、いくつかの条件をつけての入学を許可する事にしたんだ。条件とか詳しい事は同封した紙に書いてあるから。

 それじゃあ、願わくは僕たちにとっても君たちにとっても最良の選択をする様に』

 

 録画が終わった。取り敢えずまずやる事は……長話で冷めてしまった飯を食べる事だな。



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第4話

 

 

 春……それは始まりの季節である。

 ほとんどの学生は新しい学校やクラスとなり、自分はそこに馴染めるか新しい友達は出来るかなど初々しい悩みをするものだ。

 

 というわけで俺たちの雄英高校の入学が決定した。

 入学に対して条件が諸々あったが、親父の「破ってもバレなきゃいいだろ」という発言で即入学が決まった。(バレたらどーすんだろ?)

 

 なので、制服や必要な用具などを買い揃え、入学祝いの3日間ぶっ通しの宴会をこなした今日、ようやく初の登校日となった。

 

 

 ーーーーーー

 

 

「若、音無(おとな)様と(じん)様がいらっしゃいました」

 

「ん、あぁ、今行くわ」

 

 久しぶりに早起きをしてまだ少し眠いが、そろそろ行かなきゃマズイ時間だな。

 

 俺はバックを持って部屋を出る。

 まだ初日ということもあり教科書も配布されてないのでとても軽い。が、これからヒーローたちに囲まれての生活となると気分はとても重い。

 

「若、おはようございます」

 

 玄関まで行くと音無が新品の制服に身を包み不安げな様子で待っていた。

 

「よう、待たせたな……って、あれ」

 

 たしか俺を呼びに来た奴は音無と刃が来た、と言って呼びにきたのに刃の姿が見えない。

 

 トイレにでも行ったか?

 

「……あの、若、怒らないでくださいね」

 

「あん、どうした?、急に……」

 

 音無が何か言ってるがそろそろ本当に時間がヤバくなってきたから聞き流す。

 刃の奴はこの際どうでもいいので置いて行く事にする。

 

 急いでこの日の為に新調した靴を履き、玄関の引き戸を開けると、そこには黒塗りの高級そうなリムジンが止まっていた……え、なんでだ⁇

 

 ガチャッと運転席が開き、中から出てきたのは、やはりというべきかなんというべきか(バカ)であった。

 

「若、お待ちしとりました。さ、こちらへどうぞ」

 

 (バカ)が後部座席の扉を開け俺に入るよう促す。

 ここから中は少ししか見えないが如何にも高級そうで金が掛かっている雰囲気だった。

 

「……いちおう聞いておくが、そりゃなんだ⁇」

 

「なにって、送迎車に決まってんじゃないすか。この日の為に探したら、格安で売ってくれるって言う親切な人がいたんで若の為に買ったんですよ」

 

 頑張ったんですよ、褒めて。みたいな顔で俺に話す。

 成る程、音無はこれを知っていた訳か。

 

 俺は近くにいた組員を呼び、小声で話しかける。

 

(おそらくだがあのバカ、裏ルートで買ってるから見つけ出して軽く締めとけ。いいカモだと思われるからな)

 

 俺が組員にそう話していると、どうしたんですか、早く行きましょうよみたいな顔で(バカ)が待っているので分かりやすく時間をかけず説明してやる。

 

「いいか、時間がないから簡潔に説明するぞ。

 まずお前は車で行く気だったかもしれんが車での通学は禁止されている。俺たちが使うのは公共交通機関だ。

 そしてあの車はお前が買ったと言ったが未成年者は車を買えん。つまりお前は騙されたんだ。

 そんな狡くて足が付きやすい犯罪を犯すんじゃない! わかったか?

 ……でも、まぁ気持ちだけは受け取っておく」

 

 早口で相手の反論を言わせないように喋る。

 本当に電車の時間がヤバイからな‼︎

 

「……わかったか? なら行くぞ‼︎」

 

 どんな想像してたか知らんが穏便に終わって良かったと安心している音無と、見るからに落ち込んでいる(バカ)を連れて駅へ向かう。

 

 まぁ、帰ってきた後にあいつの親父に怒られて更にヘコむだろうけど……

 

 

 ーーーーーー

 

 

 無事、時間内に高校に着くことができた。

 遠くから見ても、多分あそこだろーなーと思うくらい立派で、でかかった。というか高校の大きさじゃないだろ。

 

 迷うなんてバカなことはしないように、入学案内と一緒に入っていた学校の見取り図を見ながら1ーA組を目指す。

 ちなみに刃はB組だったので途中で別れた。まぁ、入学させてもらえただけ感謝せねば。

 

 よく清掃されて綺麗な廊下を歩く。

 道が間違ってるんじゃないかというぐらい遠い。これは初っ端で見取り図無かったら迷ってたと思う。

 

 そんなこんなでようやく教室の前まできた。

 だいたい5、6メートルぐらいの大きさの扉をスライドさせて開ける。驚いたのは、5、6メートルもある扉なのに何故か開ける時の力は普通の扉と同じくらいだ。

 これは流石である。

 

 教室へ入ると結構な人数が座っていた。みんな早いものである。

 とりあえず、自分の席を探すと案外早く見つかった。廊下側の右から二列目の一番前の席だ。

 だいたいどんな学校も最初の席というのは名簿順と相場が決まっているものだ。

 ちなみに音無は一番窓際の一番前である。……後ろなら居眠りできたのに。

 

 しばらく座ってていると突然後ろから言い争う声が聞こえてきた。

 

「君! 机に脚をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」

 

「思わねーよ。てめーどこ中だよ端役が!」

 

 いや、いつのヤンキーだよ、お前……

 初の高校の初登校日で机に足をかけて待ってるの奴も、それを注意する奴も中々の強者である。流石雄英高校だ。既にキャラが濃い。

 

 そしてあの2人の様子を廊下で伺ってる緑のモジャモジャもなんだかんだいってキャラが濃そうだ。

 

 と、注意していたメガネがモジャモジャに気付いたのか話しかける。成る程、メガネが飯田天哉、モジャモジャが緑谷と言うらしい。

 

 メガネが試験の仕組みがどーたらこーたら言っているが、そろそろチャイムが鳴るのに座らなくていいのか。五分前行動が基本じゃないのか⁇

 とか思っていたらちょうど女子の生徒が「地味めの‼︎」とか言いながら今きた。……って、いやお前ら入口で駄弁ってていいのか?席つけよ!

 

 キーンコーンカーンコーンとチャイムの音が鳴る。……未だ喋ってる奴ら……あれ、俺がおかしいのか、いつから世間の常識は変わったんだ⁇

 

「友達ごっこがしたいなら余所へ行け。ここは…ヒーロー科だぞ」

 

 でも、もし変わったとしても、誰でもヌッといきなり寝袋に入った大人が現れたら なんか!!! いるぅぅ!!!みたいな反応は、するだろう。

 

「ハイ静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 

 のっそりと寝袋から出てきたくたびれた男が言う。

 

 ん、待てよ。入口で寝袋で寝転がってたって事はどうやって来たんだ⁇

 歩いて来てあそこで寝袋に入った感じでは無かったし、まさか転がって来たのか‼︎

 ……だったらそっちの方が合理性に欠いてないか?

 

 俺がそんな事を考えている間に担任、相澤消太は自己紹介を終わらせ、ジャージに着替えて外へ出ろと言って来た。

 

 

 ーーーーーー

 

 

「「「個性把握……テストォ!?」」」

 

 高校に来て初の授業は、ガイダンスでも入学式でもなくテストだった‼︎

 

 種目は中学の時にやっている体力テストと同じ、計8種目。それに個性を使わせ、工夫させて記録を伸ばさせるテストらしい。

 現にくたびれ男がさっきの金髪ヤンキーに見本をさせようとしてる。

 

「じゃあ爆豪、お前ソフトボール投げ、何メートルだった?」

 

「……67m」

 

「じゃあ、個性使ってやってみろ。円から出なきゃ何しても良いから、思いっきりな」

 

 金髪ヤンキーは指示された円の中に立つ。

 どんな個性かは知らないが600メートルいきゃいい方じゃないのかな。

 

「んじゃまぁ……死ねぇ!!!」

 

 大きな爆発とともにボールが空を飛ぶ。

 おそらく、俺の予想を超えて700メートルはいったんじゃないか。

 しかし、この歳にしてあの爆発力か……想像以上の個性だ。伸び代もある。

 ただ悔やむべきはあの言葉使いだな、終始あれではなぁ〜……。

 まぁ、まだ初日だ。他の奴の個性も見ないとな。

 

 などと他の考え事をしていたらいつの間にか成績最下位者を除籍処分にするみたいな話になっていた。

 

 本当に大丈夫か、雄英高校⁇




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