意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。 (嵐電)
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入学編 1

オリジナルキャラクターが増えましたので簡単な表を作成しました。

僕 この物語の主人公、語り部。一高1ーE 学校登録氏名:河原真知 ペンネーム:氷室雪絵
白石 主人公の男友達。1ーE
長岡 主人公の女友達。1ーE
涼野 主人公の女友達。 1ーA
朝田 主人公の女友達。1ーA
藤岡 主人公の男友達。1ーE
河村美波 主人公の女友達。二高1年
少佐 主人公の女友達。一高三年 本名:吉田摩耶
馬頭 主人公の男の知り合い。一高三年?
戸枝 主人公の男の知り合い。一高三年?
石川 主人公の男の知り合い。一高三年?
光学迷彩の中の人 ニックネーム:Qちゃん


 そもそも、現代魔法が世に出たのは1999年の核テロを魔法使いが未然に防いだのが最初だと言われている。

 

 これ変だと思わないか?1999年には西暦2000年問題や五島勉の「ノストラダムスの大予言」の悪影響で確かに世の中は物騒だったようだ。しかし、当時のネットワーク化は遅れていて重要なコンピューターはほとんどがスタンドアロンだったはずで、旧IBMの汎用コンピューターが西暦2000年になると狂いだし航空機が墜落するなどは中学生でもおかしいとわかるはずだった。

 

 次に、ノストラダムスの大予言についてだ。ノストラダムスは16世紀の医師、占星術師、詩人、料理研究家(?)だったそうだ。彼の著作の翻訳を読んだことがあるがなぜ1999年に世界が滅びると解釈できるのか理解出来なかった。五島氏の頭の構造は一体どうなっていたのだろうか?それよりも、当時の人々はなぜ自分の寿命をうらなってもらわなかったのだろうか?ノストラダムスの大予言が当たりなら全員が「あんた1999年に死ぬわよ」と占い師に言われただろうに。

 

 こうして、僕はあまり意味のないことに思考を巡らせながら入学式が始まるのを待っていた。

 

 よく考えたら、その後「サードインパクト」(昭和マニアの僕は意図的にこのように呼んでいる。ちなみにテストでこう解答して他の昭和マニアから「勇者」と称えられた。教員には怒られた。)が勃発して人類の三分の一が死んだとされているからノストラダムスの大予言も全くの外れだったとは言えないかも知れない。

 

西暦2095年の春に話を戻そう。

 

時刻を間違えて入学式の二時間も前に来てしまったのがそもそもの間違いだ。することがないので太陽光に当たってエネルギーを貯めていたら少し離れた所でカップルの痴話喧嘩が始まった。

こういうのは聞いたら悪いよなと思いつつもついつい盗み聴きしてしまうものだ。幸い僕は魔法を使えないので盗み聴きしても魔法使いである彼等に感づかれはしなかった。

 

驚いた。カップルだと思ったら兄妹だったのだから。全然似てない。しかも、あの熱々ぶり。リアルな千葉文学(西暦2000年代に流行った軽妙小説の一学派の俗称)を目撃してしまった。やはり、東京はすごい。

それにしても、あの妹さんはこの世の者とは思えないレベルの美人だった。俺の妹はこんなに可愛いと言っていいぞお兄ちゃん!

 

ちょっとまてよ。そのお兄さん・・・・・・人殺しだ。しかもとてつもない人数を殺している。

 

うむ。やはり、この学校を選んで良かった!理由を書いていると長くなりそうなのでこの話は次の機会に。

 

いちゃラブ兄妹にあてられて、気分転換に太陽と喋っていたがあまり実のある話はできなかった。ただ、魔法使いに僕は感知されないのは確信できた。通りで簡単にコロ・・・・独言はこの位にして会場に移動しよう。

 

この日記をご覧頂いている公安や諜報関係者の皆様、このブログはウケを狙ってかなり盛っています。一部は全くの創作かも知れません。内容を本気にして御自分の生命や社会的地位を棒に振っても責任は負い兼ねます。予めご了承ください。

 

さて、会場に向かってゆったりと歩いていると頭に圧迫感が生じた。向こうから歩いてくる女子生徒が原因だと直覚した。「また、ウィードよ」「やる気あり過ぎ」などとこちらに聞こえるように喋べりながら近づいてくる。

 しかし、いきなり二人は小走りで僕から離れて行った。

 「悪意」に「殺意」を返してやった。さすがは一科生。彼女達が殺意をどのように感じたかはわからないが比較的早く感じていた。でも、その反応なら余裕で殺されているだろうね。ちょっと大人げないことをしてしまったが、僕はさいわいまだ子供だ。世間的にも許されるだろう。

 余談だが、「殺意」は冷たく感じることが多い。覚えていて損はない。特に危険な職業に就いておられる方々は。

 

        ◇◇◇

 

 入学式とか卒業式とかこの類のセレモニーは大体において面白くないことがほとんどだ。しかし、新入生答辞には驚かされた。まず、新入生代表があのいちゃラブ兄妹の妹だったこと。そして、綺麗過ぎる妹氏(司波深雪さんらしい。)の答辞の内容だ。反魔法主義者がその偏った思想をオブラートに包んで真意を悟られないようにする為の美辞麗句に頻繁に使用される「皆 等しく」「一丸となって」「総合的に」などが使用され極めつけは「魔法以外にも」だ。妹氏は反魔法主義者か?日教組か?ほとんどの男子生徒が彼女に見惚れている中で僕は笑いをこらえるのに必死だった。それと、こんな時に生徒一人一人の様子を監視している教員達(?)にも笑えた。ガキ相手に必死になるなよ。

 

新たに加わった監視人様方に人自己紹介をさせていただきます。尚、詳しいプロフィールは所属組織から配布されたものを参照願います。ここでは、自分自身の考えを披露致します。僕は、魔法使いに否定的です。理由は、現代社会の一番の問題は魔法使いと魔法使えないの関係の悪化であるからです。

 

20世紀の一番の社会問題は、核兵器等の大量破壊兵器使用による武力衝突があれば人類が滅亡してしまう程度の損害が出ることでした。その危機は過ぎ去りました。核兵器よりももっと破壊力がある兵器が登場したのが原因です。そもそも核兵器等の大量破壊兵器は使い勝手が悪く個人で使用するのは不可能でした。国家等の大きな組織でなければ使用できなかったのです。これは核兵器を使用する意思決定にも多くの人達が介在する事になり、おいそれと核兵器使用を実行に移せない隠れた抑止力となっていたのです。

 

しかし、魔法使いの登場で事態が一変します。特に戦略級魔法師の登場です。彼等は、個人の意志で核兵器並みの大規模破壊が可能です。実際に我国でも新ソ連の沖縄侵攻に対抗して核融合反応魔法が使用されています。

この記述で私が諜報機関と通じていると結論してもらっては困ります。公開されている情報だけで新ソ連の沖縄侵攻も核融合反応魔法の使用も断定できるのですから。

話を元に戻しましょう。と思いましたが入学式が終わりました。続きはまたの機会に。

 

僕は、ホームルームに参加するためにEクラスルームに移動した。自己紹介をすることになったので僕は京都出身でやんごとなき理由でこの八王寺高校に魔法が使えないのに来たと正直に話した。ウケた。関西出身はさすがだよな〜、本当に面白いよね〜と言われた。イヤ、マジなんですけど。

 

ところが、意外な事にもう1人魔法は使えないと自己紹介した人物がいた。彼女は福岡出身で趣味は八卦掌と言い放った。未だに謎のベールに包まれた神秘の武術と八卦掌が言われるのは、百年前から変わってない。アニメや漫画でも必殺技64手(←ここ笑うところ?)が描かれているのを見たことがないのだ。本当の事を言ってしまうと八卦掌はその基本が変わっていてグルグルと円を描いて歩くのが奇妙なだけで他の内家拳と変わりないと誰かに武術を伝えなければならない義務を負う、所謂、掌門人に僕は聞いた。(祖父の関係者だけど。)

とはいえ、大亜連合と日本帝国は緊張状態にある現状で、しかもこの魔法科高校で中国武術が趣味だと宣言するとは良い根性をしている。と思ったら、彼女に僕の意識が余分に行ってしまいわかってしまった。

 

彼女も人を殺していた。もしかしたら、それで地元を離れたのかもしれない。八卦掌の創始者みたいに。

 

それにしても、このクラスのメンバーもそうだがほとんどの男子女子が美形だ。魔法科高校に入学する前に色々と調べてみたが、全員美形というのがあった。絶対ガセだと思ったが本当に美形揃いだった。これは興味深い現象だ。ちなみに冴えないというかフツーの顔(略してフツメン?)は僕と八卦掌の彼女くらいだった。

 

 

なぜ、魔法使いに美形が多いのか?それは、彼等が先祖返りだからだと考えられる。聖書外典や黄帝内経にある記述を参考にすると魔法使いが沢山出現した時代があるようだ。時が経つにつれて急速に魔法使いが生まれなくなった。今、出現している魔法使いにはその生まれ変わりだろう。なので、容姿が日本人離れしているのは当然だ。日本人から見れば、大陸系の外見は格好良く感じられる。脚が長く、首筋もはっきりしている。

 それとこれは全くの想像だが、過去にあったことは今も起こりうる。神が魔法使いを生ませないと決定すれば再び魔法使いは生まれなくなる。ネット上のデータから概算すると各国が競って魔法使いの生成と育成と図っているにもかかわらず、その人口増がそのコストに比例しないのは、神の意志だろう。(別に預言とかそういうものではないので気にしないように。)

 

無駄に熱い担任の主張を聞き流しながらどうでも良い事をアレコレと考えてみた。しかし、担任はどこの金八?飛び出せ!青春?な人物だ。奇妙な長髪とすそ野が広がったズボンが全然似合ってない。このような人物をEクラスの担任にしたのは何らかの意図が有るのだろうか?

 

25人のクラスだったが、ホームルームには20人足らずの参加だった。入学初日から、ホームルームに参加しないとは一体どの様な連中だろうか?僕は、帰りにどこに寄る等と話が盛り上がっているクラスメイトの輪に加わりながら考え事をしていた。意外に思われるかもしれないが僕はどちらかと言えば社交的だ。死後は全く関わりを持たなそうな友達もできた。僕の高校生活は順調に始まった。ような気がする。

 

 

        ◇◇◇

 

 

 CADには、サイオン信号と電気信号を相互に変換する感応石と呼ばれる合成物質が入っている。魔法使いから出るサイオンを使って電子的に記録された魔法陣、つまり起動式をその合成物質は出力する。(呪術師がサボテンを使って即席に「観る」力を得るようなものだ。)魔法使いは、出力された起動式を吸収し魔法演算領域と呼ばれるブッディ体に送り込む。そこで、魔法を実行する情報体、すなわち魔法式が生み出される。

 

うーむ。体に悪そうだ。道を得たわけでもない意識で、無意識下の領域のエネルギーを使いこなすのは危険を伴う。明らかに健康を害するよりも前に精神のバランスが保てなくなるだろう。何しろ、想子(サイオン)を過度に使う一方でエネルギーの補給はほとんどしていないのだから。

 

僕が現代魔法使いに否定的なのはこれが理由だ。彼等は精神が不安定なのに大きな力を持つ。これでは基地外に刃物、左翼に爆弾だ。魔法が使えない人が潜在的に魔法使いに恐怖を抱くのはそれなりの理由があるのだ。

 そこで、僕は以前考えた。世の中から魔法使いあるいは魔法使えない人のどちらかが全員居なくなれば両者の争いはなくなるだろうと。小学生が考え付くアイディアなんてこんなバカげたものだろう。

 

前者を選択する場合は、現代魔法師が使うCADの性能を良くして更に魔法演算領域を酷使できる様にすればいい。魔法師全員過労死だ。もう少し効果を上げようとするならば、起動式に自己破壊的な概念を想起させる術式を紛れ込ましておくと良い。魔法使いは自己保存本能をかなぐり捨てて魔法を使うので己の魔法能力が上がったと錯覚し燃え尽きるまで頑張り続けるだろう。

 そして、体調を崩して突発的に自殺する。名付けて「タミフル」術式。当時、これをネットに公開したら両親とともに学校に呼び出された。あやうく、外患誘致罪被告の最年少記録を打ち立てるところだった。(ちなみに外患誘致罪刑事告訴の最年少記録は持っている。)その直後から、大亜や新ソの関係者が接触してきたので本当に危なかったのだ。おかげで、公安の調査対象に今でもなっている。

 良く考えたらこんなもの目の良い魔法使いにはすぐばれるだろう。術式レベルの細工ではだめだ。感応石自体の構造に細工して・・・・内乱罪の主犯格として共謀罪で告発されそうなのでここら辺りで止めておこう。有料会員の皆様は・・・・のあとも読めます。お金さえ払えば有料会員になれますが、徹底的な身辺調査が行われるのを覚悟しておいて下さい。 

 

 公安、軍情報部の皆様。いつも監視して頂いてありがとうございます。僕の安全な学園生活は皆様と皆様の下請け様の尽力のおかげです。

 しかし、未成年者にスパイの真似ごとをさせるのはどうかと思いますよ。彼らは優秀な学生です。高校生の頃から騙し騙されていたら絶対に人間不信になります。大した報酬ももらえない公務員の下請けに将来有望な青少年をこき使ってその才能をダメにする暗黒の未来しか見えないですよ。もし、彼等が疲れて辞めたいと言い出したら僕に連絡させて下さい。時間はかかりますが元気を取り戻す良い方法をご指導させて頂きます。ただし、有料です。

 

 本当は、下請け諜報員だけではなかった。殺し屋や軍人も警察もいた。取り締まるほうだけでなく取り締まられるほうも。教員だけでなく学生の中に諜報員を紛れ込ましておくのも仕方ない。魔法科高校は国からの多大な予算で運営されている。国が学園内で何が起こっているのか出来るだけ詳しく知っておきたいのは当然だ。

 

 話が横道にそれてしまった。次に後者、つまり魔法使えない人を全滅させるにはどうしたら良いのか?当時、僕は百年前くらい前の「少女漫画」を読んでいた。(ちなみに僕は学校にあまり登校していない。卒業するために必要な出席日数も定められてないし、資格取得等に必要な学歴は高校卒からなので特に真面目に通う意義を見いだせなかったからだ。)その影響もあって、男子は全員男の娘に女子は全員腐女子にすれば人類は一代で滅びると考えた。

 全くおバカな作戦だが、あとからよくよく考えたらモラル崩壊時代は新ソや大亜や米国左派の仕組んだ「ソドムとゴモラ作戦」により作られたものだった。敵は天皇陛下中心の精神的に強い日本の国体弱体化を謀るつもりだった。日本は核兵器は持っていないとされていたが、米国との取り決めで先制核攻撃を日本が受けたら在日米軍基地の核ミサイルが紛失し24時間以内に先制攻撃を掛けた敵国に潜水艦惣流から撃ち返すことになっていたのだ。

 なので、大亜や新ソは先制核攻撃を絡めた日本へ電撃的な直接侵略は不可能だった。そこで、日本国民を堕落させて腑抜けにし間接侵略を仕掛けていたのだ。ただ、先に大亜や新ソの民度が落ちて弱くなってしまい、当時の中国共産党国とロシア王国は事実上滅び、米国左派は中央から退けられた。

 

 学校で習った近代史とかなり違うと思われただろう。だから前もって断っておいた。僕は学校に真面目に通っていないと。赤が作った教科書は出来るだけ読まない様にしたので極めてフラットな歴史感覚だと自負している。

 

再び、話を元に戻す。魔法使えない人を全滅させるなんて魔法を使えば造作もないので当時の僕も少し面白い事を考えようとしたのだ。今ならもっと生産的な方法を提示出来る。

魔法使いが精神干渉魔法を使えば魔法使えない人は魔法使いに隷属する。簡単な事だ。もしかしたら、すでに大亜や新ソはしているかも知れない。と言うかしているだろう。米国も怪しいな。日本帝国はしていない。それは確約出来る。もし魔法使いがそれをしたら皆殺しになるだろう。その理屈や方法は、今のところ有料会員にも明らかにする気はない。

とは言えケチケチする必要もないので一つ。魔法演算領域から直接攻撃を仕掛ければ、敵は死ぬのが当たり前になって自然に死亡する。 

 

本日はここまで。



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入学編 2

担当さんから連絡があった。固有名詞などへの配慮は出版社がしてくれるそうだ。適当に〇〇高校とか××兄妹にしてくれるということだった。

 

 僕の正確な社会的地位はとある保守系出版社のライターだ。小学生の時に、危険思想丸出しのブログを書いて両親とともに学校に呼び出された。

 その時、親父は学校関係者の前で「息子は小説家志望なので、これは単なる空想です」とうそぶいた。ただの嘘ではすぐにばれるので親父は予め、とある出版社に僕の日記を原稿として送り付けていた。もちろん不採用だったが。

 

 ところが、外患誘致罪刑事告訴で赤教員を懲らしめてやった頃から風向きが変わった。(後にそいつは行方不明になっていた。僕はそいつを大亜の成りすまし工作員だと考えている。)とある出版社からおこづかいをあげるから少し真面目に書いてみないかと誘いがあったのだ。

 中学生日記を三年間書いてわかったのは、僕には文才がないということだった。より正確に表現すると文豪の霊(神)は降りて来なかったからだ。

 

 ということで、高校では小説家の神を降ろそうと考えている。ちょうどこの魔法科高校の二科は、担当教官が居ないから放置されている時間が多い。その時間を利用して色々なことを試してみたいのだ。一般の普通科高校で召喚魔法を実践すると魔法不適切使用で刑事告訴されるだろう。その都度、告訴し返すのは面倒だ。

 

 ちなみに召喚魔法に大掛かりな儀式は不要だ。太極拳を例にとれば、基本功や套路を一段まで練習し続けているといづれその門派の神が降りてくる。ただし神が降りている人物から習うのが条件となる。

 太極拳の神は薄く微妙に感じる事が多いそうだ。僕もそのように感じる。知り合いの話によると大成拳では銅鑼等の音がジャンジャン聞こえて驚いたそうだ。あと八卦掌では、身体が勝手に動き出し暴れていると警察に通報された人もいるらしい。

 ちょうど良かった。同じクラスの八卦掌の彼女に本当か訊いてみよう。

 

 などど考えているうちに1年E組のクラスに昨日の初日のホームルームに参加していなかった大胆なクラスメートが登校して来た。なんと、あの司波兄ではないか!双子だったのか?(これは、後にちがうと判明した。)しかも、隣の女子といきなり親しそうに話し始めた。このあと、輝く青春の一コマのような寸劇が繰り広げられ僕はそのすぐ近くで強制鑑賞させられた。

 

こういうときに「リア充爆発しろ!」と使うのだろう。ただ、人を多量に殺している人物がモテるこの学校は僕にとっては都合がいいかも知れない。誤解のないように言っておくがモテたいために大量殺人を目論んだりはしないからな!

 

        ◇◇◇

 

「うるさい!他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」

 

さぁ帰ろうかと思った時に、いきなり聞こえて来た穏やかでないセリフ。これは、是非とも野次馬しにいかなければと現場に急行した。修羅場だった。痴話げんか?

 

「だったら教えてやる!」

と言っているが彼に殺気がない。喧嘩は中学で卒業しろよと思いながらも、僕はわくわくしながら争いが過激化するのを期待していた。警察に通報する準備を整えながら。警察に通報したり、地検に駆け込んだり、公安にたれこんだりするのは僕の得意技だ。

 

事態は僕が期待していたようには進まず警備会社の息子が警察の娘にやられて生徒会長と風紀委員長が登場して司波兄が言い含めてお開きになった。しかし、収穫は大いにあった。

 

生徒会長のあんなやり方で起動中の魔法は無効化されるのか!偽物の遠当てと同じじゃないか!あんなことしてたら早死に確実だ。魔法が現象に現れる前に叩いた警察娘のほうがまだマシだろう。

 

「・・・・駅までご一緒してもいいですか?」

僕は殺意や悪意も読めるが好意もよめる。先ほどの生徒会長もあやしかったがこの女子も司波兄に好意をいだいている。「あいつは人殺しではなくて、女殺ししやな」と下種な独り言をして速やかにその場を離脱した。

 

 

        ◇◇◇

 

 

帰宅すると担当さんから連絡が来ていた。「無理に面白くする必要はないから好きなように書いて構わない」というものだった。地味にショックだった。「頑張ってもどうせ面白いものは書けないとわかっているから自由に書いてね」と言われているのと同じだろう。これは。

 

話は変わるが、百年前に流行った士郎正宗の「攻殻機動隊」は、望月三起也の「ワイルド7」の影響を多分に受けていると思う。荒巻は草波、少佐は飛葉、馬頭はヘボピー、トグサはデカ、何の話をしているかって?古典漫画の比較研究だ。ちなみに公安9課のメンバーは7人だ。

売れっ子ライターになれなかったり一発屋で終わったクリエイターが評論家や研究家で飯を食うのは良くある事だ。今からその準備をするのは当然なのだ。僕はこう見えて慎重派なのだから。

 

冗談抜きで、魔法が使えないまま小説も全く売れないまま魔法科高校を卒業したらシャレにならない。出版社の用意してくれたこの住処から追い出されるだろう。地元に戻っても僕は受験勉強は好きではないから京都大学どころか大阪大学にさえ行けないだろう。いかんいかん、考えが暗くなって来た。取り敢えず身体を動かそう。先ずは、太極拳の霊を呼んで。

 

        ◇◇◇

 

 

昨晩、落ち込んだような書き込みをしたためか担当さんから連絡が来ていた。僕の日記はカルト的な人気があって今でもそこそこ売れているそうだ。「中学生日記」と題して書いていたエッセイは大人の事情で「中学一年時事日記」「中学二年時事日記」「中学三年時事日記」と無理矢理三部作にして出版されているらしい。皆、良かったら買ってね!こういうのをステルスマーケティングと言うのだろうか?(担当より:言いません。)

 

「達也く~ん」と甘えたような声が僕の後ろから聞こえて来た。振り返らなくてもわかる。昨日の司波兄に気のある生徒会長だ。彼女はもののみごとに僕を無視して小走りで追い抜いて行った。

 僕は登校中、駅で偶然にも、仲良し五人組、スクールカースト上位のイケている五人組、通称「クールファイブ」に出会ったのだが、挨拶もしてもらえず一人ささくれ立っていたところだ。

そのため、自然と彼らと少し距離をおいて歩き彼等の会話を聴いていたのだ。良い子のみんなは決して真似をしてはダメだよ。魔法師*にそんな麻薬Gメンのような捜査をしたら酷いお返しをされる可能性が高いからね。

 

*魔法師:「魔法使い」と「魔法使えない人」は、読者様よりヘイトスピーチ法に引っかかる恐れがあるとご指摘がありました。これより「魔法師」と「一般人」と表現することに致します。ご指摘ありがとうございました。

 

今日はやる気がなくなった。本当は「賢者の石」についてあすの早朝5時まで語ろうと思っていたのに!

 

 読者に期待を持たせる上手い引きだ。我ながらよく出来たと思う。

 

 

 

 



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入学編 3

我ながら読者の気を引きながら上手く話を終わらせたと思ったが、担当さんから皮肉交じりの連絡があった。昔の週刊漫画みたいな真似はしないほうがいいのではと。と言う事で「賢者の石」とは練丹術です。ようは、丹田がわかれば終了と極論して良い。

そんなに簡単なら、そこら中に「錬金術師」が鋼だの武装だのうじゃうじゃ居る事になる。しかし、実際はそうなってない。

 

ようは、最初から丹田を間違っているだけだ。丹田はこの世とあの世をつないでいる抽象的な存在なのでその感覚は極めて主観的なのだ。ちなみにチャクラもそうだ。よって個人によって捉え方が異なる。さらに一個人でもその感じが変化する。ただ、正しく丹を養っているという確信は得られるので今の状態が横道にそれていないかはわかる。ただし、弟子を取れる師から習っているのが前提である。

 

現代魔法もこれらの技術をそれなりに研究した。魔法力の根本を強化しようとしたのだろう。しかし、良い結果は得られなかった。現代魔法はあの世の力(神の力と言い換えても良い)を神にならないまま使おうとする技術だ。(これって、いわゆる黒魔術と昔は言われて忌み嫌われていたのだが。)古典的な修行をしてしまうとまともに神になって行くから神の力は使えるようになるが、世俗のあれやこれやに興味が薄れる傾向が強くなる。魔法力は強化できるが使うモチベーションが無くなってしまう。

 

もちろん、全員がそうなるとは限らないが。

 

さて、昨日は気持ちがささくれ立った等で書いたがこのような心の状態は生命のエネルギーを使い過ぎるとなりやすい。警備会社の息子もきっと生命のエネルギーの使い過ぎだ。先天の気と言った方がわかりやすいかも知れない。これを取り入れるには、光を取り入れなければならない。植物は光合成として簡単に実行しているが人間が実行するには多少の訓練が必要だ。

 

 養生は得意だが、昨日の魔法実習には参った。先天の気を持って行かれるのだ。使うつもりがなくてもドンドン消費される。途中で気分が悪くなって来たので履修できたらすぐに、引っ込んで他の人の様子を見学していた。

司波組は華やかだ。青春真っ只中だ。あそこだけスポットライトがあたっているように観える。(見えるではなくて観える。)

ただ、意外なのは司波兄も発動の最中に嫌な表情を見せた事だ。彼が違和感を感じるとすれば、あの○人数をどうやって説明すればいいのだろうか?一人○○すたびに気分が悪くなったりしたら膨大な数をどうやって乗り切ったのか教えて欲しい。まぁ、そのうちわかるだろう。

 

とにかく明るい(ように観える)司波兄と愉快な仲間達だった。

 

「ちょっといい?」いきなり声を掛けられた。八卦さんだ。自己紹介で堂々と魔法は使えませんと僕と同じことを言った女子だ。

「良いけど、何?」僕は努めて能天気な雰囲気で答えた。最低点でクリアしただけにもかかわらず満足して緊張が解けてしまった馬鹿者のように。彼女の気配がはとんどわからなかったからつい警戒してしまったのだ。

「魔法、使えなかったと言ってたのに今使えてたけど。どうして?」

 

は~ぁ!!それは、謙遜というものだろう。本当に全く魔法が使えないのではなく、僕は使いたくないし好きではないので上手く使えないのだ。ただし、使えるようになったのはつい先程だ。

ところがなんと、彼女は本当に全く使えないらしい。どうやって、一校に入学したのだろうか?とほぼ同じ内容をできるだけ柔らかい表現で彼女に返答した。

 

「教えてくれる?」八卦さんが恥ずかしそうに訊いてきた。いいですとも!僕も充実したスクールライフと言うものを送ってみたかったところだ。女子の知り合いができるのは願ったり適ったりだ。とそのまえに、

「八卦さん、いつも気配を消しているの?」

「わかっちゃった?これ癖なの。でもよくわかったね。魔法師にはばれるのかな?」

気配を消すのが癖!あんたは暗殺者か?とは言えない。この学校には暗殺者がいてもおかしくないが。

 

         ◇◇◇

 

 

あ、今気付いた。司波兄は仏だ。生れながらの神だ。キリスト教的に表現すればメシアだ。どうりで彼に意識が向いてしまう訳だ。これで、あれだけたくさん人を殺しても彼は何ともない理由がわかった。

「どうしたの?」目の前の八卦さんか不思議そうな顔をしている。

 

おっと危ない。込み入った話だから下校途中の茶店で続きをしようとなった。司波兄のように女子を多数侍らせて駅まで歩く度胸は僕にはない。なので、茶店に八卦さんよりも早く行って彼女を待っていたのだ。それにしても僕は何故、司波兄をこんなに意識しているのだ?と考え込んでいた最中だった。

 

急いで意識を目の前の平凡一般少女に集中しようとした。何と!そこには背景に紅い薔薇だの椿だの芥子だのを背負い天井から金粉を巻いているかのごとく八卦さんが立っていた。

昔の少女漫画の美少女ヒロイン登場か?良く見ると普段は丸い卵形の顔に横線を2つづつ合計4つ描いて、下の2つの線に接するように点を一つづつ打っただけで目と眉が完成しそうなモブキャラ丸出しの顔ではなくて大きな黒い瞳の中に星が描かれているのかと思うくらい眼底からの反射があり、鼻筋は通り、透き通る肌にほんのりと紅い頬と紅をさしたと錯覚する赤い唇での登場だった。リアル金粉現象?

 

どなた?と惚けた質問を危うくしそうになった。僕は慌てて「早かったね。少し考えごとしてたんだ」と取り繕った。

僕の不自然な行動に不信感を表すこともなく八卦さんは向かいの椅子に座った。

 

 今度はじっくりと彼女を観ると彼女の背後に見知らぬ紳士が立っていた。誰かはなぜかすぐにわかった。その紳士は八卦さんの手を指さしている。

 

「早速、話の続きをしたいけど良い?」いきなり本題に入ろうとして来た。さすがは、八卦掌な人だ。

「いいけど、その前に八卦さんの手をみせて」

「いいよ」

と彼女が言った直後に僕の目の前に掌が出現した。まるで、瞬間移動だ。しかし、彼女は平然としていた。

「え~と、手の平じゃなくて手の甲」

「そう?」

さっきと同じように瞬間的に手の平が手の甲に変わっていた。やはり、彼女は平然としていた。わざとだ。さりげなく、自分の功夫をみせつけている。

 

「この斑点はなに?」僕は彼女の指の付け根の関節の上にある茶色い斑点を観ながら尋ねた。ほんの少しの間があってから彼女が答えた。

「鉄沙掌の跡・・・」

 

鉄沙掌は、伝人レベルでも普通はしないだろう。たとえ、破壊力に若干の何がある八卦掌だとしても。と言うことは彼女は掌門レベルだろうか?僕はこのように考えを巡らせてさらに尋ねてみた。

「八卦さんは、弟子を育てる義務を負っている人?」

「うん」

「だったら、鉄沙掌を止めるわけには行かないね。八卦さんが魔法を使えないのは掌でサイオンの流れが乱れるからだよ」

彼女が、あまり魔法理論を学んだ経験がないようだった。そこで、もう少し噛み砕いて説明し直した。ここではその詳しい説明は省略させて頂く。要点は、彼女は莫大なサイオンを使えるが情報体としての機能を全く使ってなかった。サイオンを直接エネルギー体あるいは流れとして使っている。これにて一件落着!と思ったが、彼女の後ろに控えている紳士がまだ居座っておられる。何か足らないのか?

「もう一度手を見せてくれるかな」

八卦さんは今度はゆっくりと手を差し出した。僕を信用してくれたらしい。

「触って良い?」

「いいよ」少し恥ずかしそうに快諾してくれた。可愛いと思いながら僕は彼女の手の平に自分の手の平を重ねた。

いってェ〜!思わず声を上げそうになった。手の平に意識を集中させて敏感にさせていたので痛さ百倍だ。

「八卦さん、もしかして毒沙手もしているの?」

 

今まで、即答していた彼女が少しだけためらいがちに返事をした。

「ええ」

これで、たくさんのサイオンを使えながら魔法が使えない理由がはっきりした。彼女は攻撃時に毒を敵に作用させる一方、自分を毒から守らなければならない。彼女が武術の技を繰り出すときにそれらは無意識に自動的に行われているはずだ。

 しかし、CADなどを使って現代魔法を発動させようと意識すると今まで無意識で出来ていたことが彼女に負担となってしまう。結果的に彼女は、今まで無意識に行っていた古式魔法の発動と新たに現代魔法の発動を同時に意識的に行わなければならなくなる。しかも、制御があまり効かない放出され過ぎるサイオンで魔法の同時使用をしている。

これで、魔法が発動したらそれこそ奇跡だろう。

 

「で、どうしたら現代魔法を使えるようになるの?」

魔法が発動しない理由が分析できても、魔法を使えるようにはならない。八卦さんが解決法を知りたがるのは当然だ。極端な話、理屈がわからなくても使えるようになりさえすればいいのだから。

 

本日はここまで。(本当は、解決策が思い浮かばなかった。八卦さんに「すまない。少し時間をくれないか?」と言って解散したのだった。)

 

 

 

 

 



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入学編 4

誤字脱字修正。


さっきの話、続きます。本当は、下心もあって解決法を出し渋り少し八卦さんと下校デートをしばらくの期間楽しもうとしていた。しかし、紳士(八卦さんの背後に控えていた方)が僕に憑いて来たのでそうは言ってられなくなった。解決策を何とか捻り出し一刻も早く帰ってもらわなければ。

 

 そこで、走圏(円周を歩く練習)と単換掌しか知らないが、先ずは八卦掌の練習をしてみた。いきなり少女漫画の一コマ花々を背負ってヒロイン登場金粉現象ができてしまった。しかも匂い付き!尹福すげ~。めでたく解決法もわかりました。

 

紳士はいつの間にか消えていた。解決法は明日、八卦さんに伝えるとして余った時間と行数をどうしようか?

 

そこで、「三日でわかる実践現代魔法(基礎編)」を企画してみた。

 

とりあえず、剣術なら兜割りができる程度、中国武術なら伝人クラスを対象にした。今時、魔法科高校で石を投げれば当たってしまう程度に存在する極平均的な人物のレベルに合わせてみた。

 

まず、太陽光に当たる。休憩しながらで構わないので熱中症にならない程度に当たる。木々の多い公園などでやれればなお良い。余談だが、熱中症は百年前からある急性の病気だが未だに原因がわからないとされている。

原因は、光の取り入れ過ぎだ。通常の身体のエネルギーレベルよりも高くなりすぎてブレーカーがトリップしたと考えばいい。なので涼しい場所で休んで水分補給をすれば収まる。

 

それを、三日間続ける。本人に自覚があろうがそうでなかろうがこれで先天の気が増えサイオンも沢山使える身体になった。あとは、できるだけ工程の少ないと感じる単一系魔法を実践すると良い。ありあまるサイオンが技術の未熟さや生来の欠点などを覆い隠してしまうだろう。

 

だいたいこんな内容だ。自分の経験と八卦さんに明日説明する解決法の基ずいている。

 

 

                ◇◇◇

 

 

「おはよう!」いきなり背後から挨拶された。今日も全く気配のない八卦さんだ。登校途中にこれは心臓に悪い。「第一高校前」とは全くひねりのない駅名だと思っていたところだった。昨日のように路傍の石扱いされるのは癪だが気配なく声を掛けられるのも勘弁してほしい。

 

「解決法、思いついた?」昨日、彼女から人生相談を受けて帰宅後五分で思いついた解決策を期待に胸を膨らませた彼女に僕は披露することにした。彼女は意外に巨乳だった。あの切れやすい眼鏡娘と同じボリュームだ。「どこみてんのよ!」とは言われなかった。彼女は予想以上に男慣れ、もっと言えば男の視線慣れしているとハッキリした。それはそうとして、まずは返答しなければならない。

 

「うん。今度の実習で、実習室のCADに触れないか指先だけ触れるようにしたらいいと思うよ」

「?」

傍線とそれに接する黒点の目で彼女が首をかしげる。

 

路上でああだこうだと説明するのが面倒臭くなって来た。このまま二人で昨日の茶店に行こうかと思った。

 

「八卦さ~ん」

「おはよう~」

二人の女子が近づいて来た。

「あれれ~、お取込み中だったかなぁ」

片方のモブキャラ子(美少女だけど)がくだらない質問をしてきた。僕は急いで否定しようとしたその時、後ろから花の香が漂って来た。

「違うよ。A子、失礼だよ」

少女漫画版花々背負ってヒロイン登場の八卦さんに変身して即答した。今回は睫毛も長くなっている。

「邪魔しちゃ悪いよ。A子」

残りのモブキャラ子(こいつも美少女だ。しかも可愛い。なんか癪に障る)が余計な気を回している。

「邪魔じゃないよね。僕くん?」

君の瞳は1万ボルト!反論を許さない瞳の輝きで八卦さんに同意を求められた。絶縁をしなければ電気事業法違反だぞ。30ボルトを超えれば絶縁しなければならない。相槌を打つだけでは能がないので僕は真面目に答えた。

「問題ない。八卦さんと今「三日でわかる実践現代魔法(基礎編)」について話し合っていたんだ」

と大真面目に僕は答えた。モブキャラ子達に笑われた。

 

「彼は道士よ」と八卦さんが呟いた。その途端、モブキャラ子達の態度が変わった。そこで、僕は手短に現代魔法を古典魔法に近づけるために必要な魔法演算領域、エイドス(イデア)と道を得る、解脱、神の国との関係を話した。

モブキャラ子達は真剣に聴いていた。

 

彼女達に理解はできなかったと思う。しかし、心に写ったと信じたい。一科生が一過性だと困る。死の床で私を求めてくれれば浄土往生させよう。アーメン。

 

 

             ◇◇◇

 

 

「驚天動地だ」

教室に座るや否や声を掛けられた。モブキャラ男だ。大げさな奴だ。関東大震災が再び起こるとでも言うのだろうか?

「おっと、いきなりボケでかえすか?さすが関西人は笑いの才をナチュラルに発揮するな。俺の魔法科高校でのトリックスターの座は三日で陥落だ」

こいつは一体何が言いたいのか?

「どうやって、1-Aのあの二人と知り合いになったんだ?」

どうもこうもない。二人は八卦さんの知り合いだ。

「もしかして、あの二人のことを知らないのか?」

 

段々、煩わしくなってきた。モブキャラ男の話をまとめると1-Aの鈴何とかさんと朝何とかさんは光何とかさんと北何とかさん並みの有名人らしい。どうして有名なのか色々説明してくれたがもう忘れた。興味のないことは、すぐに忘れる。これが僕の「ノイマン方式」だ。

 

「でも、あいつは止めとけ」

もう話は済んだと思っていたがまだ続いていた。しつこい男は嫌われるゾ!早過ぎるのもダメだが。

「そこで下ネタ!参ったよ。でもこれはマジな話。可愛いから仲良くなりたい気持ちはわかるが、八卦さんは魔法師を殺めてしまったからここに入らされてい」

僕は話を遮り尋ねた。

「何人、殺った?」

「く、詳しくは知らないけど、八人だったかな。おい!ちょっとまてよ」

僕は、席を立って八卦さんのほうに歩いて行った。

 

「八卦さん、人を殺してもその影響を受けない方法を知っている?」

「姿を視せないでやればいいの」

彼女は平然と答えた。僕は礼を言って席に戻った。

 

「白石、始業時間だぞ」

「お、おう」

顔面蒼白になった白石が自分の席によろよろ戻って行った。

 

白石、お前スパイに向いてないよ。まずは、殺気を正しく感じることから始めたら良い。

 

 

                ◇◇◇

 

 

 朝の一件で白石は僕に近寄らなくなると思っていたが、性懲りもなく話しかけて来た。

「師匠。昨日の『模擬戦』の話知ってる?」

何故か、白石は僕を師匠と呼び始めた。本人曰く「関西人には笑いでは敵わない。だから、学ぶことにした。俺って向上心の傾きが大きいから」だそうだ。確かに笑いの才能はあまりないようだ。

 

「知らない」と僕が答えると白石は、入学以来無敗の副会長服部半蔵(影の軍団?)が司波兄に瞬殺されたと言った。僕があからさまに興味を示すと彼は得意げに語り始めた。

 

 ことの発端は司波兄が風紀委員長に指名されたのに副会長が反発して司波妹の悪口まで言ったらしい。切れた司波兄が模擬戦を副会長に申し込み生徒会長が承諾、そのまま第三演習室での非公開試合となった。

 10メートル離れた距離で始まり5秒で勝負が付いたそうだ。

 

「10メートルを5秒?」

「おうよ!」

「だったら、副会長は対人戦闘はかなり苦手だな」

「はぁ!?」

 

納得のいかない白石に僕はサルでもわかるように説明した。100メートルを10~12秒程度で走れるなら10メートルは1秒で移動できる。その走力があればスタートにかかる時間は0.2秒以内。敵に視認されたと感じた瞬間に姿勢を低くするなり跳躍するなり走路を変えるなりしても、ロスタイムは0.2程度。合計1.4秒。残り3.6秒で至近距離から攻撃魔法を放てば余裕で勝てる。たとえ、魔法を使わなくても刃物で刺すなり銃で撃つなりしても勝てる。簡単な理屈だ。

 

彼は、頭を抱え込んだ。

 

「腑に落ちないのなら今から副会長か司波兄に本当の事を聞きに行こうか?」

白石は朝の僕の行動を思い出したのか止めてくれと唸った。

 

白石。そこはわざとあおって僕と一緒に司波兄か副会長に訊きに行くべきなんだよ。諜報活動したいなら。それで、僕を含めた三人の実力がハッキリするだろう?だから、僕はここで話を終わらせるつもりはないよ。

 僕は、顔色が土色になった彼を八卦さんの前まで引っ張って行き「模擬戦」の話をさせた。

 

「で、八卦さんなら10メートル離れた相手を何秒で倒せるかな?」

僕は明るく質問した。

「そうね。手加減無しなら1秒かからないよ」

彼女は明るく答えた。いつもより金粉が余計に降ってます。

 

白石はその後気分が悪いと言って保健室に行った。良かったな、白石。これで、副会長と司波兄と八卦さんと僕の対人戦闘能力があらかた判明しただろう。きっと上司に褒められるよ。

 

ただ、非公式の「模擬戦」の内容を第三者がどのようにして知り得たのか?そこを突っ込まれた時、奴はどう対処するつもりだったのかを試すのは勘弁しておいてやる。色々貴重な情報をくれたしな。これからもよろしく!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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入学編 5

司波兄は強い。彼は、相手の副会長にも周りの会長や風紀委員長に自分の実力を見せつけた上に副会長に怪我をさせないで勝ったのだ。八卦さんが言ったように手加減なしなら司波兄はもっと早く片付けられたはずだ。実戦の方が早いし速いし威力も大きくなる。つまり、実戦の方が簡単なのだ。

だから、実戦で敵を侮ってはいけない。実力が発揮しやすいのは敵も同じなのだ!

 

話が横道に逸れてしまった。兎に角、司波兄は強い。たくさん人を殺している。ただ、何か違和感が残っていた。

八卦さんもそうだ。白石情報によれば彼女は八人殺している。しかし、僕には数人に観えた。

しかし、八卦さんが教えてくれた「正体を視られないで殺せばその影響を受けない」でその謎が解けた。司波兄も八卦さんも敵に視られないで殺していたのだ。なので、彼女は殺した敵数人に視認されたことになる。

 

それならば、僕は人を殺してないと観られる!これで、あの霊視眼鏡っ娘の視野に入っても大丈夫だ。今日はなんて素晴らしい日なんだ!

 

         ◇◇◇

 

 新入生獲得活動なるものが始まっていたそうだ。二科生の僕は、ものの見事に無視されていた。Eクラスのトップスター司波兄は、さぞかし引く手数多だろうと思っていたが風紀委員になってまた一つ武勇伝を作っていた。まさにそこに探偵がいるから事件が起きるだ。

 

 Eクラスのトリックスターは、司波兄の武勇伝を事細かに報告してくれる。もはや、自分の正体を隠すつもりがなくなったのかも知れない。あるいは、白石本人または彼の上司が、このブログの有料会員かも知れない。それにしても、剣術部次期エースは情けない。殺す気がないから、やすやすと腕を取られる。美少女剣士の言う通り魔法無しで剣技を磨いた方が剣の腕は上がる。

 

 しかし、それを言うなら柳生や示現流を習った方が良い。最初の一太刀で敵を必ず斬る練習を徹底的にさせられるからだ。敵が近くても遠くてもとにかく一刀両断する。そんな練習を多く積めば、それなりに上手になるさ。

 

それと、司波兄の反撃の仕方も気になる。まるで、剣術部次期エースの魔剣が無効化されているとわかった上での対処をしている。文字通り触れただけで切れる刃物なら一秒でも早く敵の手から奪わなければならない。敵が手首をあらぬ方向に向ければこちらにその魔剣が届く可能性があるからだ。

なので、本来なら敵の武器を避けながら攻撃するか、敵の武器あるいはそれを保持している手を攻撃して武器を無効化するのがセオリーだ。何かカラクリがある。だから、セオリー無視の危険な対処ができたのだ。

 

「すげぇ~」白石が感嘆した。

「確かに、司波兄は凄い」僕は相槌を打った。

「いや、その師匠の解説というか分析が」

「これくらい京都なら当たり前の知識だと思うぞ」

「マジすか!」

「マジ、マジ、大マジ」嘘に決まっているだろ。*

 

*担当から

 

この小説の著作者は、実際は関西弁で話しています。しかし文字にそのまま起こすと読みづらくなります。その為、自動日本語翻訳ソフトを利用しています。ご了承下さい。上記の会話は、実際は以下の様なものです。

 

「ちゃう、ちゃう。合気道の初めに習う技はほんまにえぐいねん。柔道が禁止した相手の片腕を自分の両手で持ってぶん投げるんや。むちゃくちゃやろ。そやから、毎年どこかの大学の新入生が死んだり大怪我しとるわ」

「合気道って、凄いんだね」

「教えとる方がようわかってないのに教えとるのがあかんのや。バイタル合気道(投技編):当社より好評発売中:でも読めちゅーねん」

 

以上、担当からのお知らせでした。内容まで変化している?それは気のせいです。では、本編をどうぞ!

 

 部活動はどうしようかなと思いながら放課後1人でブラブラしていた。当初、帰宅部一択と思っていたが面白いクラブがあれば入っても良いかと考えていた。

魔法科高校だけあって、魔法競技を念頭に入れたクラブが多い。普通高校ならお馴染の野球部やサッカー部がここではどこで勧誘しているのかわからないほどだ。「目指せ!甲子園」とか「今年こそ、国立へ!」みたいな現実的な目標なのか儚い願望なのかわからないが、精一杯部員達が叫んで新入生を勧誘している姿を見かけても良さそうなものなのだが。

 

 魔法科高校のクラブ活動に限らず最近、スポーツが一般的に人気がなくなった。まず、スポーツに教育的な効果がないと統計的に明確になったこと、スポーツが健康に良いとする科学的な根拠がないと明らかにもなったのが原因の一つだ。

 これらが世に出たのは、日本では文科省の売国官僚がスポーツ関連団体を作って天下り先にしてた問題が第三次世界大戦前に徹底的に糾弾された時だ。世界でも東側陣営、特にロシアのドーピング問題を西側、特に米国が問題視して国際競技からロシアを追放していた。なので、極端な証明となっている。しかし、スポーツと教育と健康はリンクしていないのは事実だ。

 

それと、魔法が世に出てから今までのスポーツ、特にプロスポーツが陳腐に見られるようになったのも原因にあげられる。例えば、魔法を使えばもっと速く走れると観客が承知の上で陸上競技を見るのだから冷めた目で見てしまうのは当然だ。

 

 先日、たまたま野球中継を見て僕は思ってしまった。絶対に打てない豪速球を投げれば魔法を不正使用しているとすぐにばれる。しかし、自分の汗の摩擦係数をボールのリリース時にだけワセリン並みにすれば絶対にばれないスピットボールが投げられる。どうして誰もしないのだろう?

 

そう、このようなうがった見方をしてしまう視聴者が魔法が広く知れ渡った為に増えたのだ。これでは、昔のような熱狂はない。視聴者、観客には真似できない超人的なプレーが画面あるいはスタンドの向こうで繰り広げられていたからかぶりついて見ていたのだ。

 

 スポーツに限ったことではなく、人類の歴史を現代魔法は大きく変えた。産業革命の影響で王侯貴族や教会以外の資本家という新たな権力者が現れ、彼等が自分達の権利を主張して市民革命が起きた。今、同じ社会革命が起きつつある。新たに頭角を現した魔法師達だ。彼等は昔の資本家という市民の様に愚かでないから社会革命を起こして自分達の権利を拡大しようなどと企んではいない。(一部にはその様な不逞の輩が存在するのも事実ではあるが。)

社会革命と言ったが実際は権力の単なる移動なのだ。王から貴族、貴族から教会、教会から再び王、そして王から金持ち、金持ちから魔法師だ。

権力が移動する時に社会に混乱が生じる。犠牲者も出る。騙すもの騙されるもの。

 

今だ。僕は、闘技場に入る。剣道部の美少女剣士が1人になる機会をうかがいながら徘徊していたのだ。

 

「新入生ですね。入部希望者の方ですか?」美少女剣士が声を掛けて来た。

僕は観る。彼女を。オンリーマイレイガン。観ながら会話を開始する。

「実は、先日の壬生先輩の活躍を聞いて」僕はもじもじしながらたどたどしく喋る。

「剣道はした事ないのですが」

彼女の視線が僕の無印のエンブレムに向かう。彼女の心に司波兄が浮かび上がる。ビンゴ!僕は要領の得ない会話を打ち切る。

「司波くんは僕と同じクラスなんです。是非その時の事を教えて下さい」

彼女は、先日の出来事を話してくれた。何故か乗り物酔いの様な状態になった事まで。これで、わかった。司波兄は魔法無効化魔法を使えると。

 

僕は、適当に話を切り上げて闘技場を去った。

 

◇◇◇

 

「師匠、剣道小町こと壬生先輩をナンパしたってのは本当?」

一瞬、何のことか僕にはさっぱりわからなかったが昨日の事を白石は言っているようだ。ちなみに僕はナンパしたことはないが、ハニートラップには遭ったことがある。

「ナンパではなくて、調査をしていた」

白石がどこから昨日の僕の行動を知り得たのかを突っ込まずに、説明というか解説を始めた。白石は正体が僕にばれているのと自覚しているようなので一々それを問いただしたところで仕方ない。

 

 司波兄が10人以上の魔法師を相手にして、しかも死人を出さずに済んだカラクリだ。明らかに彼は剣術部の連中の魔法が発動しないとわかった上で戦っていた。その前に知りたい情報がもう一つある。

「白石。模擬戦で副会長が負けた時、司波兄はどんな魔法を使ったか知っているか?」

白石は一瞬迷った。これは部外者が知るはずのない情報だ。明かせば自分の正体は明らかになる。

「うわさでは、波長の違うサイオン波を同時に発して副会長を気絶させたとか聞いたけど」

と言って彼は少し不安そうな表情になった。

「ありがとう。司波兄はサイオン波を比較的自由に発せられるとわかった。これは、サイオン波に敏感な魔法師に浴びせれば気絶させられるし、使い方を変えれば魔法式がエイドスに作用するのを阻止もできる。」

「つまり、彼は妨害魔法を使える!」

白石の目が見開いた。言葉が出せなくなっている。

「そんな馬鹿な。信じられない」

白石の三枚目路線から外れたおふざけなしでの嘆息だった。

 

「信じられないなら、実験してみようぜ!」

「ちょっとまてよ。そんなことが簡単にできるのか?」

「僕ではないよ。サイオン波を広範囲に多量に発生し続けられる人に頼むんだ」

「師匠は知り合いに、そんな凄い魔法師がいるんだ?!」

「白石も知っている人だよ」

 

 

 

 

 

 



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入学編 6

昼休みに校内の食堂で一科生と二科生が一緒に食事をするのは以前、たいそう珍しい光景だったそうだ。ところが、最近はそうでもなくなったらしい。どうしてそうなったのか明らかなのだが、一応書いておこう。

 

司波兄のおかげだ。司波兄が、入学以来無敗の副会長に土を付けたりクイックドロウで有名な警備会社の息子をやり込めたり剣術部の次期エースを制圧したり会長や風紀委員会長から好意を持たれたり1-A、1-Eの綺麗どころを侍らせたりとやりたい放題好き放題した報復に悪質かつ卑怯な攻撃を受けたにも関わらず全て跳ね返したので、食堂で一科生と二科生が席を並べる程度は許される雰囲気が発生したと多くの生徒が考えている。

 

個人的には、それに加えてあの「氷の微笑」「雪の女王」と囁かれ始めている一年生総代で答辞を行った司波兄の妹司波深雪嬢の存在も大きいと考えている。所謂「ブラコン」かつ「ヤンデレ」なのだが、一科生と二科生の垣根どころか兄妹の垣根も飛び越える勢いだ。

 

僕は、渋る白石を連れて1-Aの仲良し二人組と食事を始めようとしている八卦さんに声をかけた。

「大事な話がある。隣いい?」

「いいよ」

八卦さんは即答した。相席している1-Aの二人組の意志を確認しなかった。三人の力関係がわかる。僕は、二人に断って八卦さんの隣に座った。

「ねえねえ、大事な話って何?私達も聞いて良い?」

涼何とかさんは、好奇心旺盛のようだ。僕らの失礼な割り込みも気にしてない。いい人だ。涼野さんか。名前を覚えておこう。

「涼ちゃん、ダメだよ」

朝何とかさん、いい人だ。割り込んだ僕らが悪いのに気を利かせてくれようとしている。朝田さんか。名前を覚えておこう。

「構わないよ。むしろ一緒に聞いて、興味が有れば力を貸して欲しい」

僕は、真剣で深刻な表情を作って言った。テーブルの中央に四人の頭が集まる。司波兄派閥とまでは行かないが十分目立っている気がした。

 

              ◇◇◇

 

 涼野さんは、見た目が快活で積極的なのだが実際に決断も行動も速かった。自宅でノンアンティナイト魔法発動妨害実験をしようと言い出し、放課後三人で彼女の自宅にお邪魔する話を家の人に付けた。

 

「ところで、どうして師匠なの?」

段取りを終えた涼宮さんが僕に尋ねた。涼野さんだった?女の子にモテようと思うなら名前をしっかり覚えるべきだ。

「健康の為なら死ねるから」

と僕は答えて、飲みかけの白湯を見せた。

「えっ、何それ?!」

僕が飲んでいたのはコーヒーでもお茶でもなくただのお湯だと知って涼野さんは驚いた。

「じゃあ、あたし達も師匠とこれから呼ぶね」

「それ、健康にいいんですか?」

朝比さんだったかな?女の子にモテようと思うなら名前をしっかり覚えるべきだ。

「身体が冷えにくくなるし、ダイエットにも良い」

その後、時間まで話込んだ。

涼野さんと朝田さんは、アイスコーヒーとジュースを何故か残した。

 

◇◇◇

 

 

西暦2000年頃には、世界は反米か親米のどちらかになっていた。米国は核兵器に対する防御を完備しつつありレールガンや無人機等の新世代兵器で世界を圧倒していた。実際米国は借金だらけだったが同盟国の日本が核配備と再軍備を条件に米国に資金的あるいは技術的な協力をしたので実現したのだ。このまま行けば100年もしない内に米国が世界帝国となると当時の専門家は予想していた。

 

しかし、魔法の実用化つまり現代魔法の登場によって米国の世界帝国化の流れは途絶えた。現代魔法師はある意味米国が他国を圧倒していた新世代兵器と並ぶあるいはそれ以上の兵器だったからだ。いかにお金と技術があっても魔法師の量産は未だ不可能。こうして米国の圧倒的有利は無くなった。

 

日本は核兵器にも匹敵するかも知れない魔法師の育成を比較的早くから取り組んできた。一億人程度の国民しかいない我国では自然発生に任せているだけでは実用性を持つ魔法師は多く出現しない。幸い、マイナンバー制度等の国民一人一人に目が届きやすい体制を早くから実現していた日本は魔法力のある人物を早期に発見可能ではあった。ただ、そんな我国でさえ魔法師の量産にはその目処すらたってない。

 

講義中についつい講義と関係ないこと考えるにはそれなりの理由がある。僕は、中学生の頃熱心に学校に通わなかったと書いた。空いた時間は自分の興味のあることを知る為考える為に費やした。ひょんなことから現代魔法にも詳しくならねばならなくなり中学三年生の時は現代魔法の解説書や教科書もかなり読んだ。それで今受けている講義の内容はほとんど知っている。

ただ、そうは言ってもテストで高得点を取れる程努力精進もしないし、見たものを画像のごとく記憶出来るIQ200レベルの知能もないので成績は大したことない。(中学では上位だったが魔法科高校では平均程度だと思う。)よくよく考えるとなぜ合格出来たのか不思議なくらいだ。

 

『そんな我国でさえ魔法師の量産にはその目処すらたってない。』これは当時考えていたことだが、今の僕の中では魔法師の量産化は成功している。あとは、それを自分で証明しなければならない。この高校生活を使って。

「他に道はない」と面接でも言った。現代の1番大きく1番見通しが立たない問題は、普通の人が魔法師になれることでほぼ全て解決する。面接官に単なる妄言と思われても仕方ない事を熱く語ったがここに合格出来たのだから、単なる妄言ではないと信じられたのだろう。

 

本当は、人類が全員『神』になればすべての問題は解決すると主張したかったがそこまでやってしまうとさすがに呆れ返られると思い自重した。人類は皆神になれる、況んや魔法師!である。

 

◇◇◇

 

備え付けのCADにも魔法を作用させる対象にも視線も身体の正面も向けずに八卦さんが魔法実習を始めた。

ほんの一週間前は課題をこなすのに四苦八苦していたのが嘘の様だ。早く速く、早さも速さもE組のトップだと思うのだが、正確さには大きく欠けるが。

彼女には、現代魔法を習得しようとせずに自分の得意な八卦掌や太極拳に現代魔法を近付けるようにと助言をした。

 

円の中心にCADや対象を置いているので彼女は明後日の方向を向いて魔法を発動している。側から見るとCADの前で奇妙なポーズをしているだけなので目立つ事この上ない。しかし、魔法発動まで0.1秒を切るのには驚いた。ただ、台車は吹っ飛ぶ様にレールを走り規定の停止位置を余裕で超えて壁に激突した方が皆には驚かれていた。

 

僕は、最低限の課題をクリアして履修完了し実習を自主終了した。放課後のノンアンティナイト妨害魔法実験を成功する為に八卦さんに確認して起きたい事があったからだ。用事がなくても自主終了するつもりだったが。

 

「八卦さん、天の気を取り入れて地の気につなげて行くのはできる?」

彼女は少し考えて「どんな感じ?やって見せて」と言った。

僕は、立ったまま実演して見せた。地を透して備え付けのCADに気を通した。

「武器法と同じね」

楽勝でできるらしかった。掌門なら当然だろう。本当は尋ねるだけ失礼だった。

僕は、彼女と放課後の実験の打ち合わせを簡単にした。

 

◇◇◇

 

涼野宅は、屋敷だった。大金持ちではないのかも知れないが、お父さんやお爺さんは何の仕事をしてこれだけの財産を積み上げたのだろうかと気になってしまう程度の邸宅だった。それと迎えの車が来たのも驚いた。涼野さんはお嬢様だったらしい。ただ、一般人の方が魔法科高校では少ないと言われている。特に一科生は。

 

そんな、涼野宅訪問だったのだが来賓用の部屋(?)でくつろいでいると涼野さんのお爺さんが登場したので驚いた。しかも、我々の実験を見学したいとおっしゃるのだ。

「良いですか?老師」

「良いですよ」

八卦さんが、また気前よく承諾している。おきまりの金粉現象を起こしながら。この人は、皆さんの意見を良く聞いて判断する習慣がもしかしたらないのかも知れない。それはそうと老師?この爺さんは八卦さんの弟子なのだろうか?僕用に出された白湯を飲みながら思った。

 

「ところで、どのようにしてアンティナイトを使わずに魔法の発動を抑えるのでしょうか?」

涼爺は、かなり気になるようだ。

「それなら、師匠くんがよ〜く知っているよ!これを考えたのは師匠くんだもの」

涼野さんは、明るく答えた。

 

サイオン波を不規則に多量に浴びせればCADから発生した魔法式が魔法師の身体に流れるのを阻害し結果的に魔法は発動しない。しかし、これを魔法師が行うと自分自身もサイオン波を出すのに精一杯になるのと自分自身の魔法も発動できなくなってしまう。司波兄は体術が優れているので妨害魔法だけ発動させて敵を体術で制した。これは彼にしかできない芸当だ。

なのでアンティナイトを使ってサイオン波を乱すのが一般的な魔法妨害策だ。

もちろん生徒会長のようにサイオン波を敵にぶち当てて起動式ごと乱してしまう方法もあるが、これも彼女だけしか出来ない無系統魔法の一つと考えて良い。

 

なので、訓練次第で誰でも出来る妨害魔法を考えてみた。天の気を取り入れながら先天の気を増やしてサイオンの量を増やし、自由に使えるサイオンを空間を経由して無理に敵に伝達させるのではなく地の気を経由して敵の身体とCADにサイオン波を伝達させるのだ。

 

漏電が発生して大地を電流が流れて、元の漏電箇所とは違う場所で地絡継電器を誤作動させる現象と似ている。

 

理屈は簡単なので先天の気を意図的に一時的に増やせる能力が有れば誰でも実行可能だ。新しい魔法理論を考えて無系統魔法を開発するよりは随分と実現しやすいだろう。

 

「師匠さんは、日本語がとても上手ですね」

「え?日本人ですが」

と言うか涼爺まで師匠と呼び始めた。

「どこの道場で教えられているのですか?」

どこでも教えてませんと言うと涼爺はあからさまにガッカリした。真面目に考えれば思い付くようなものだし、一回聞けば中学生でも理解出来るだろう。実際に司波兄や会長は自分で編み出したのだから。

 




司波達也の魔法無効化は、敵の起動式を読み取ってそれに応じた干渉波を浴びせるものですが、主人公は情報がないので達也の方法を誤解しています。


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入学編 7

担当さんから八卦さんが十師族の八代家ゆかりの人物だと誤解されているとの連絡があり長岡さんと書きます。長野さんでも長門さんでもありません。皆、間違えないようにしてね。僕は時々間違えると思うから。

 

さて、僕の中学生でもわかる魔法妨害魔法の説明は皆さんの心に映らなかったようだ。しかし、長岡さんのヤル気スイッチは入った。

 

「白石くん、なんでも良いから攻撃魔法使ってみて」

今迄、出来るだけ存在感を無くそうとしていた白石が長岡さんから突然声を掛けられてしまい彼は落ち着きを失った。これは、不味かった。彼は以前から長岡さんを苦手にしていた。と言うより恐れていた。長岡さんの経歴を下手に知っているのが原因だろう。

 

それにしても、今日の長岡さんは特別だ。目が青く光り始め金粉一粒一粒がまるで刃物か何かに思える。白石は、狼に睨まれた羊のように、蛇に狙われた蛙のようになったと思ったらいきなり窮鼠猫を噛む状態になってしまった。

武術家、特に本門が八卦掌である人物に殺気を向けるのは非常に危険だ。八卦掌の使手は早くて速いので殺気を向けて来た相手を文字通り瞬殺してしまい取り返しのつかない事態に発展する事が多いのだ。故郷に居れなくなって北京に逃げたりされた方も過去におられる。

 

白石の殺気を感知したと同時に僕は彼を突き飛ばそうとした。

 

しかし、何故か目の前に朝田さんが迫って来ている。彼女も白石に向かって、白石のCADに向かって突撃している最中だった。このままでは、白石が負傷する。腕の脱臼、骨折は免れない。一瞬、迷ってしまった。

 

朝田さんも僕と同じだった。眼前に迫る僕をどう扱うかで迷い、動きが鈍くなった。つまり、二人はお見合いしてしまったのだ。

 

「すまん。お前が殺されるのを止められなかった」

と僕は思ったが、長岡さんの蹴りは白石を襲わなかった。また、白石の攻撃魔法も発動しなかった。

 

満面の笑みを浮かべながら長岡さんが言った。

「実験大成功ね!」

朝田さんは、わざとらしくその場に倒れた。そして、足が滑っちゃたなどと言って照れ隠しに笑っていた。

 

朝田さん、もしかしてプロのボディーガードか何かですか?森何とかくんより絶対頼りになると思うよ。とは言わない方が良いのだろう。僕は意外に空気を読む質なのだ。

それと、白石のCADの操作の速さにも驚かされた。頻繁に比べて申し訳ないが森何とかくんと同じくらいの速さのマックドロー(?)に思えた。

 

八卦掌は地の気を良く感じその霊も良く感じるようになる。だから、天の気でサイオン波を豊富にして地を通して敵に作用させるとなれば八卦掌の掌門クラスならやり方さえわかればすぐに実行出来ると予想していたが実際その通りだった。

 

更に、この実験で朝田さんと白石は意外に実力が有るとわかった。今度から白石くんと書くとしよう。

 

それと僕の実力もバレてしまった。出来るだけ隠しておきたかったが仕方ない。どうせ、いつかはバレるのだから。

 

その後、複数人で長岡さんを囲んで一度に妨害魔法が発動出来るか試してみた。彼女曰く「8人までなら一度に出来そう」

 

涼爺様まで実験に参加して、CADが本当に機能しないのを体験されるととても喜んでくれた。

 

多分、涼野さんは、本物のお嬢様で爺さんは偉い人なのだろうと確信し表現を変えてみた。しつこいようだが僕は空気を読む質だ。モットーは長いものには巻かれろ!だ。あくまでもモットーだが。

 

◇◇◇

 

 

 神に至る道は無数に有る。その中で、一番手軽で才能が要らない方法は『神になる為に神頼みする』だ。旧約聖書に登場するアブラハムはその方法を歴史上もっとも早く実践したと有名だが、我国では歎異抄の法然が有名だ。(二人が本当に最初に「神頼み」したとは思えないが、有名なので取り上げてみた。)

 

ネットから拾って来た法然についての情報だ。

 

>もっとも、こうした法然の教えは自らを三学非器の凡夫とする強い意識から、自らの娑婆世界での解脱を諦めて浄土往生を志すようになった。だが、既存の宗派のやり方では往生は極めて難しいと考えて確実に往生できる教行を求め、その結果として専修念仏にたどり着くことになる。

 

一生かけて念仏を唱え死後に神の修行を始めれば良しとするならば、一日一回でも南無阿弥陀仏と唱えれば充分なのだ。念仏を唱えるのだから心が仏に向かわなければならないが、毎日やれば死ぬまでにはそのコツも掴めると断言出来る。ただし、天寿を全うするまで続けるのが前提となる。(もう少し期間を短縮できるが、今回それは延べない。)

 

ただし、これは一般人に当てはまる事柄だ。魔法師となれば話は違ってくる。目の黒い内に神の修行に入るベきだ。

一般人がトチ狂って何かを仕出かしたところで単独で出来ることはたかが知れている。しかし、魔法師は違う。未だに気付かれてないが大した魔法師でなくてもその命を上手くかけてしまえば戦略級魔法師と同じようなとてつもない現象を起こせる。

 

したがって、魔法師は人生の比較的早い時期に『心の欲する所に従えども矩を越えず』の境地に達するべきなのだ。

 

では、どの様に比較的早くそのような境地に至れるのか?

 

ネット情報が正しいとすれば法然は生前道を得ていなかったとなる。如来の本願に気付きそれを頼みに他力本願で進めれば浄土往生、つまり、死後神の修行を始められる。これを生前に開始するには、本願を自分がする方に回ることに気付けば良い。

何のことか良くわからない方は、新訳聖書の福音書の中のキリストのセリフを参考にすると良いだろう。彼は、迷える衆生に神の国に入るために自らが聖霊を遣わすと公言している。キリストは本願を立てる立場になることで娑婆世界での解脱を完成して行こうとして

 

!!!

眼の前に突然、司波兄が現れた。

 

「ああ、すまない」

自分の考えに埋没して呆けて廊下を歩いていた僕が100%悪いのだが、司波兄は即座に謝罪した。良い人だ〜。今度から、司波くんと書いてあげよう。

 

魔法演算領域は、無意識だとされその解析や研究は困難と言われている。凄腕の魔法師でさえ魔法演算領域の自覚は限られた範囲になる。

仮に、その無意識の領域を自覚出来るようになったとすればどうなるのだろうか?道を得るとか、輪廻の輪から脱する等は無意識の領域の開発を言い換えたものだ。興味深い事にこの領域を開発した人がどうなったのかの記録は少ない。世に聖典と呼ばれている書物には、それらが散見される。

 

もっと、身近な例をあげると今しがた僕とぶつかりそうになった司波くんがそうであると僕は確信している。

 

「名人は名人を知る」へっへっへっへっ。今、自分は下品な笑みを浮かべているかも知れないがお許し願いたい。

 

というのも、一連のこの流れで無意識の動きを試していたのだ。僕は、曲がり角の向こうにいるのは司波くんだと感じていた。

一方、彼は僕を感じられなかった!ふふふふ。

 

「あっ、戻って来た!」

涼野さんと朝田さんがEクラスの前に立っていた。彼女達は、長岡さんを昼食に誘いに来ているのだ。本来、一科生と二科生の棲み分けはハッキリしていて彼女達のように堂々と二科生を誘いに来る一科生は両方から目を付けられてしまうらしいのだが、全く彼女達は気にしてない。長岡さんの武徳と司波くんの影響力は本当に凄い。

 

「長岡さんなら、先に食堂に行ったと思うよ」

「ねぇ、師匠くんは、四葉の関係者?」

不覚にも返答に詰まってしまった。絶対に動揺したのがバレた。無邪気な質問を涼野さんにさせて反応を朝田さんに観察させる。なかなか高度なコンビネーションだ。そこで僕は、

「一体、何の話?」と何のひねりもない返答をした。

 

涼野さんの話によると、みんなが師匠と呼ぶのは(みんなではなく白石くんだ。長岡さんもだった。)苗字が四象とか四条だと思ったそうだ。僕が京都出身というのもそう思った原因らしい。京都は一体どんな所だと思われているのだろうか?

「それとね。魔法を使えるのを隠したでしょう?」

いえいえ、隠していません。入学してから真剣に考えて使えるようになりました。『3日で出来る現代魔法(基礎編)』をよろしく!ちなみに『10日あればいい!現代魔法(応用編)」も近日発売予定!

 

「だからね。もしかしたら、師匠くんって四葉の諜報機関の人なのかなぁと思ったの」

どう?私の推理凄いでしょう!的な顔になっている涼野さん。

 

これは意図的なのか、それとも本当にお嬢様にありがちな頭お花畑なのか?どちらにせよ涼野さんにもわかるように説明しておかなければならない。

 

 



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入学編 8

一回ちゃんと彼女達に言い聞かせておかなければならない。

 

30億円欲しさにテロリストの居どころを推測してCIAにメールしたり、(当然なのだが一円ももらえなかった。)5万円欲しさに入国管理局に不法入国者を通報したり、(これも、何故かダメだった。おそらく、仲間内の裏切りや近所のタレコミが対象だった思われる。)怪しい宗教団体やNPOを公安に共謀罪で通報していたのは小学生の頃からだが、僕はCIAでもないし、麻薬Gメンでもないし、公安でもない。

 

ただ、ネットで調子に乗って国の軍事機密を言い当ててしまったりして一時情報局にマークされていたかも知れないが。(公安には今も見張られているであろう事は言わなかった。)

 

これだけ喋って僕は彼女達にわかってもらえたと思った。穏やかならぬ話の内容なので食堂内の他の学生に気を遣いながら身振り手振りを加えて説明した。

 

今までじっと僕の話に聞き入ってた長岡さんが、一言。

「師匠は、今でも監視されている」

一瞬、その場が凍った。そんなことを言えば、彼女たちがドン引きしてしまう。

 

「長岡さん、それ誰?」

涼野さんが、身を乗り出してきた。好奇心丸出しで瞳をキラキラと輝かせながら。僕の予想とは違う反応だ。

 

長岡さんが、僕のほうをチラッと見る。言って良いか?の合図だと思う。白石くんがスパイの真似ごとをしていると皆に知られると今後色々と面倒くさいので「止めて」と目で合図を送った。通じたと思った。

 

「小野先生」

通じてなかった。長岡さんはアイコンタクトが苦手のようだ。

 

「なんだ~」

涼野さんは、拍子抜けしたような返答をした。まるで、そんなことならとっくに知っていたとでも言いたそうだ。

 

朝田さんによると、魔法科高校のスクールカウンセラーは、たいがい公安の回し者だそうだ。将来の日本を背負って行く魔法師を反日思想に取り込まんとする外国勢力の動きや連中に狙われやすそうな学生を監視する役目を与えられているらしい。

ちなみに公安は警察と同じ身分だが、その身分は周囲にも明かされない。なので、警察も誰が公安なのかわからない。つまり、公安は元々警察を見張るお仕事なのだ。

 

というか、朝田さんあなた何者?

ただものではないと昨日のノンアンティナイト魔法無効化実験で明らかになってはいたがここまでくると彼女の正体が気になる。私、気になります!と僕は言わないけど。

 

 彼女達は、僕の正体について納得できなかったようだ。それを言うなら、彼女達こそその正体が怪しいと思う。だいたい、なぜ長岡さんと二人がつるんでいるのか?もともと接点はなかったはずだ。長岡さんは中学まで福岡に居たのだから。

 

「小野先生は、公安協力者だと思う。公安は、警察の中でもエリートなので普段は警察として働いているはず」

長岡さん、ありがとう貴重な情報を教えてくれて。でも、僕の疑問とはあまり関係ありません。

 

「長岡さんは、教官なの」

と涼野さん。

 

「正確に言うと、教官に武術指導をしているの」

と朝田さんが、補足してくれた。

 

長岡さんが、若干ドヤ顔になっている。ちょっと意地悪したくなり僕は尋ねた。

「凄い!もう『弟子』を育てているんだ?」

 

何故、これが意地悪な質問か説明すると弟子を育てるのと学生を教えるのは大きく意味が違うからだ。習う方からすれば、学生の立場で習い続けても実力向上は途中で止まる。本当の基礎を教えてもらえないからだ。

長岡さんも、おそらく本気で教えてはないだろう。つまり、弟子ではなく学生として教官に武術指導をしているはずだ。

 

「使える様に教えている」

長岡さんは、意外に大きい胸を張り出してさらなるドヤ顔で答えた。彼女は質問を巧くかわした。学生とも弟子とも答えなかった。しかし、どこの教官に武術指導しているのだろう?

 

「皇宮警察」

あっさりと答える長岡さん。言っちゃていいの?陛下を御守りする特別警察が中国武術を取り入れていたとバラしたりすると不味いのではなかろうか。

 

100年前から、台湾武術の名人を招いて形意拳や八卦掌を皇宮警察が学んでいたのはある程度知られていた事ではあるが。

ちなみに、その名人はその技術はとても危険なので民間では教えてくれるなと言われたにも関わらず、民間でその技術を教えていたのもそこそこ知られている。

 

それにしても、長岡さん、公安や警察でもないのにそれらに詳しいのはお世話になったのを自らバラしている様なものだぞと僕は思ったが面白い話が聞けそうなので黙っていた。

 

(警察と公安の皆様ありがとうございます。皆様の不断の努力のおかげで僕は今日も無事に過ごせておれます。と定期的にお礼をしなければならない羽目になるのだ。)

 

「で、四葉が何が怪しいの?」

と、頃合いを見計らって突っ込んだ質問を涼野さんに振ってみた。皇宮警察関係者は、四葉の関係者がその正体を隠して魔法科高校に入学しただけでわざわざ調査に乗り出しはしない。何かの理由があるはずだ。何かはわからないが、皇宮警察場合によっては天皇家が四葉に何やら不穏な動きありと見ているのかも知れない。

 

涼野さんはキョトンとした。彼女の表情から、意味がわからないのかとぼけているのか判断が難しい。朝田さんが何かフォローするかと待っていたが彼女も何も言わなかった。

この二人、思ったよりもやるぞ。ただ、こういうときは、こちらから話を転がす。

 

「四葉には、僕も個人的に興味があるから何かわかったら教えるよ。十師族の次期当主は、大体公にされているのに四葉だけはわからないから気になるよね」

 

「そう、そう」

朝田さんが、相槌を打つ。

 

「もしかしたら、次期当主候補でも入学したのかい?」

二人の顔が一瞬引き攣ったのだ。やってしまった。

 僕は、たまに人の心を読んでしまうことがある。まぐれ当たりなので、実用的ではない。しかし、今回久しぶりに大当たりしたようだ。

 

すぐに元の天真爛漫な外見に戻して、涼野さんが言う。

「あまり大した意味はないけど。少し興味あるのよ」

 

僕は、その答えに納得した風体を装う。

 

長岡さんは、僕と二人のきわどい攻防を楽しんでいるのかとても機嫌が良さそうに見える。予想以上に変わった性格のようだ。

 

スパイについてに知っておくべき知識がある。100年以上人気を保っている007シリーズのジェームズボンドは「女王陛下の007」だ。身分は、イギリス政府の小役人(海軍中佐?)なのかも知れないが本人は女王陛下と国を守る為に命をかける。

だから、彼のモチベーションは高いという設定であるから途方も無い話でも今だに人気があるのだ。

 

最新作は魔法力は劣るボンドが、知恵と勇気と御都合主義で強力な魔法力を発揮する敵工作員を倒すどうしようもないストーリーなのだがそこそこヒットしている。

 

僕は、単なる公務員ではスパイは続けられないと信じている。何か本人にとって大きなモチベーションが必要なのだ。意外な事だが、日本にはイギリス王室よりもバチカン市国よりも権威がある天皇陛下と天皇家が存在する。諜報員が仕えるには最高のモチベーションになる。

 

政府は選挙の結果で変わってしまうが、陛下と天皇家はそうはならない。豪族、武士、政府と国の仕切りは変わっても陛下と天皇は変わらず我国の中心におられる!

つまり、組織論から語れば我国の諜報はレベルが低いとされるのだが、個人を見ればそのモチベーションは山の様に高いと断言して良い!

 

という様な内容を、三人に面白おかしく話してみた。二人は、感動してくれたらしい。一人は静かに聞き入っていた。

 

実際は、他人を騙すという行為がとても好きな人がいるのがもう半分の事実だろう。人間も動物の一種なので生き残る為に擬態をしたり死んだフリをしたりする本能が多少は残っていると考えられる。なので、人間も一部の者は騙すのが楽しいのだろう。

しかも大義名分があり犯罪にはならない。敵に見つかれば、犯罪者どころかその場で死刑だろうが。

 

ミッションインポッシブルのイーサンハントはCIAの局員ではなくアウトソース先の契約社員だった(と思う)。彼は諜報員が天職なのだろう。もし、諜報員でなければ彼は詐欺師になっていたかも知れない。

 

スパイは騙し好きのクソ野郎であるのは、黙っていた。僕は、和をもって尊しとなすタイプなのだ。

 

では何故今もスパイ映画は製作されるのか?それは、優秀な人材をリクルートする為だ。ボンドガールとイチャイチャできるし素敵な女性と家庭を築けると錯覚させる為だ。イギリスは、スパイを公募したこともある。アメリカはスパイコースを作って一応軍人中心にとりあえず受講できるようにしている。錯覚させた上で門戸を開いているのだ。

 

しかし、まともに考えれば、普通に出世した方が金も名誉も手に入る。実際は結婚さえ困るくらいだ。結局、CIAの局員同士で結婚するのがオチだ。スパイでは、やり甲斐はあるかも知れないが金も名誉も限られる。というか名誉はない。なので、常に人材不足なのだ。

なので、スパイ映画には何故か今でも製作資金が集まる。映画を作りたい人は、スパイ映画を検討してはどうだろう?

 

これらの話は、彼女達にウケた。笑いを取る為の話をしたのでウケないとガッカリだが。



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入学編 9

昨日は、久しぶりに独演会をやってしまい調子に乗り過ぎた。反省である。僕は、あまり目立つのは好まない。話題欲しさに自作自演するライター、旧朝日新聞の記者のような真似はしたくないのだ。

 

もし、昨日の彼女達との昼時食堂ミーティングが他の学生の顰蹙を買い彼女達に迷惑がかかり僕との距離を置きたがるとしたらそれに合わせて僕からも彼女達との距離を置いて行こうと考えている。

 

とんだ自意識過剰だった。

 

翌朝、みんなの話題は剣道小町こと2年E組壬生さやか(字がわからない。判明次第お知らせする。)を我がクラスのトップスターから学校のトップスターになりつつある司波達也くんが言葉攻めで翻弄したというどこまで本当なのかわからない噂で持ち切りだった。

 

僕等の話題は、どこにもなかった。これで一安心。ただ、少し悔しい気持ちもある。そこは察して頂けるだろう。

 

我がクラスの司波達也くんが活躍するにつれてEクラスの彼とほぼ接点のないクラスメートまで生き生きとし始めたのには笑った。

「俺、Eクラス。大活躍の司波達也も同じEクラス。司波達也凄い、俺も凄い」

と錯覚しているのが丸分かりだ。

ただ、自信は無いよりあった方が良い。たとえそれが根拠が無っかったとしてもだ。現代魔法と言えども精神的なコンディションはとても大切なのだ。僕は大胆に予想する。このEクラスは大化けする人物を多く輩出すると。自信が大物を育てるのだ。

 

これとは反対のことをやったのがキリスト教の『原罪』だ。人は産まれながらにして罪人で有り、唯一無二のイエス・キリストによってその罪を赦されなければ死後、神の国には入れないと人々にデマを流した。

目的は民衆の支配だ。罪悪感を植え付けて自信を喪失させる。自信を喪失して大人しくなった民衆はコントロールしやすいのだ。しかも、救いは教会が独占している。民衆は教会の思うがままだ。

1000年も前の話だろうと思われるかも知れないが、ローマにそんな美味しい目を独占させるのは許せん!と1500年頃に宗教改革がドイツで始まったのだから、そんなに大昔のことではない。

 

教会の支配力を弱めようと当時の王侯貴族が反教会の聖職者で影響力のある人物を保護して教会と支配権を争った。要は権力闘争だった。ご存知のとおり支配権はその後、王侯貴族から市民と自称する金持ちに、一部の国では労働者の扇動に成功した者達に権力は移動して行った。

 

なので、民衆をコントロールする方法そのものは変化しなかったのだ。『原罪』では、騙せなくなったので何かにつけて罪悪感や不安や危機感を煽る情報を流す様にした。

 

他人ごとではない。我国でもスペインの宣教師が来日して布教と称してこの『原罪』詐欺を開始したがその悪巧みは日本の支配層にすぐにバレたのと民衆レベルでの正しい神の認識があったことで巧く行かなかった。無知で迷信深い人々を配下に置いて日本を間接支配し、その後武力行使し直接支配に持ち込むつもりだった。

 

「御先祖さんも、みんなも『地獄』に行くんなら、おらだけ『天国』に行けねえ」こんな感じだったのだろう。心に平安があれば霊感もはたらく。地獄なんて無いと感じてしまうのだ。

 

同じような試みは、第二次世界大戦で敗戦した後に米国が仕掛けた罪悪感の植付けによる日本弱体化だった。かなり巧妙に実施されたが元々、天皇陛下を中心とした精神的に安定した物質的にも安定していた社会なので70年程度では何も変わらなかった。キリスト教の信者は、在日大亜連合朝鮮自治区人が多く、当時でさえ普及率は1パーセント程度だった。今は、ほぼゼロパーセントだろう。

 

とはいえ、全員が精神的に安定しているわけではない。原罪はともかく、差別や不公平や不安や怒りや劣等感を煽って心理的に追い込まれてしまば、比較的簡単に宣教師(敵工作員)のいうままになってしまう者もある程度はいる。

カルト宗教は、我国でも残念ながら今も根絶出来ていない。もし、怪しいカルト宗教を見掛けたらこの出版社まで教えて頂きたい。そんな組織は、法的に追い込んで潰すべきなのだ。

他人の目から見れば、不安や劣等感がほとんど無いと思える人物でも、怪しい組織に取り込まれて行くケースがある。

 

我国では高学歴者がオウム真理教に入ってサリンテロを起こしFBIまでそのメカニズムを知ろうと躍起になった。百年前は、その様な現象を説明するのに苦労しストックホルム症候群等とテキトーな現象をたくさんあげつらって説明した気にもなっていた。

 

もっと簡単な話なのだ。人間も生物なので生物が生き残る為の本能的な行動、奪う、殺す、犯す、騙す、などは誰にでもある。普通の生活ではこれらの衝動はある程度抑えられている。その様な衝動に従って行動すればやがて社会から追放され割りに合わないと学習しているからだ。

 

なので、まともで優秀な人物をテロリストあるいはテロ協力者に仕立て上げるには、心理的に追い込んで精神的に弱らせてこちらの都合の良い救いを与えるとコントロールできる様になる人物を見つけると良いのだ。本人にも他人にも心の中はわからない。なので多くの優秀な人物に工作を仕掛けて引っ掛かった人物だけ洗脳して行けば良い。

 

どうしてこんな話しているのかを説明する。我がクラスのトリックスターである白石くんがなぜか昨日の壬生沙耶香さんに対する司波達也くんの言葉攻めの内容を詳しく僕に教えてくれた。どの様にその内容を彼が知り得たのかは、この際問わない。

白石情報からわかったことは壬生さんは精神的に意外に弱い。いくら司波くんが精神的肉体的にタフだとしてもいくらでも対応する方法はあったはすだ。

 

彼女の主張を彼が聞き入れてくれなかったとしても、まずは仲良くなるだけに目標を変更し付き合いを続けて行けば、達也くんでもそのうち愚痴の一つや二つは吐いてくれる関係にはなれるはずだった。少なくとも彼女達の考えを彼が否定することはない関係は作れただろう。

 

僕も壬生さんと少し話をしたとき彼女の目の動きが不自然に止まってしまうのが気になった。彼女は、少し変だ。健康的に健康的な学生運動に参加しているのか疑わしい。今日は、その学生運動自体もかなり怪しいと見た。通報と訴状の用意だ。

 

 

   ◇◇◇

 

「ブランシュ?」

「おうとも!反魔法国際政治団体だぜ」

なぜか明るい(多分、公安協力者の)白石くんが教えてくれた。

「連中は、公安にもマークされているそうなんだ」

公安が絡む情報はやたらに詳しい白石くんだ。

 

僕は、少し気が重くなった。

 

 以前、我国には日本共産党と名乗る政治団体があった。もちろん、今は共産主義による政治結社の設立は法で禁止されている。信じられないと思うかも知れないがテロリストとほぼ同義語の共産主義者が大手を振って国会議員バッチを付けていた時代があったのだ!しかも米国やドイツでは同じ時期に共産党は禁止されていたのにも関わらずだ。

 

第二次大戦後に連中は日本各地でやりたい放題に不法行為をしたが、日本政府は米国の圧力で取り締まるわけには行かなかった。仕方なく当局は日本共産党を公安監視対象にして長期間監視し続けていた。70年以上も。まったく息の長い話だ。

 

 さて、似たような団体にシーシェパードとかグリーンピースという国際的にテロ活動を行う団体もあった。(100年位前は文字通りモラル崩壊時代だったのだ。)クジラは人間の友達とか人間の生産活動が地球を滅ぼすとか、意味不明の主張で頭の軽い金持ちから寄付金を集めて海賊行為や市民運動をテロ予備軍に仕立てていた。これらは、活動が過激化してテロリストそのものと扱われ撲滅された。

 

 しかし、このような危険な団体が禁止されたり滅ぼされたりするまでかなりの期間野放しにされていた。当局に泳がされていたのだが、その間にこのような連中に騙されて人生の一部あるいは全部を浪費する者が増えてしまう。だから、僕はこのような連中は徹底的に弾圧するべきだと強く主張する。

 

「で?」

何時の間にか、長岡さんが話の輪に入っていた。神出鬼没だ。

白石くんは固まっていた。よほど彼女が苦手なのだろう。

「続きをどーぞ」

長岡さんは、冴えない普通人顔で白石くんに話を続けるよう促した。

 

「その危険な政治団体『ブランシュ』の学生版が『エガリテ』です。表向きには無関係とされてますが」

白石くん。どうして急に丁寧語?彼女怖くないよ。現代魔法なしで人(魔法師を含む)を瞬殺するけど。

 

厄介な展開だ。危険な団体とわかっていながら公安が監視を続けているのなら隠された目的があるのだ。僕が、外患誘致罪等で両団体を刑事告発しても受理すらしてくれない可能性大だ。少し作戦を考えておこう。

 

 

 

 

 

 

 



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入学編 10

長岡さんと組んで、魔法実習演習をする事になった。

 

基礎単一系魔法実習演習だ。僕らのやっているのはハッキリ言ってイカサマだ。起動式や魔法式を結果的に使った事になっているが、使っている意識はほとんどない。精査されれば物言いがつくだろう。

 

 普通の現代魔法師が無意識下の魔法演算領域を意識して起動式を構築して行く。

 

これをもう一段深めて元神そのものに近付ける。魔法演算領域を広げるのではなく深めると表現しても良いかもしれない。こうすれば、古式魔法の速度と現代魔法の多用性を同時に実現出来ると僕は以前から考えていた。この学校を受けたのもそれが動機の一つとなっている。(動機が多すぎて書ききれないほどだが、どうしても知りたい方は『中学三年時事日記』を買って読んで下さい。違法ダウンロードは犯罪ですよ!)

 

というわけで、今日も魔法実習ならぬ魔法実験だ。

まず、今朝タップリ陽に当たって先天の気を過剰にしておいた。少し頭がクラクラするくらいだ。次回から頭には日光が当たらない工夫をしよう。

 

 余剰サイオンともう一つ考えた秘策がある。生命のエネルギーが奪われても瞬間エネルギーチャージができるであろう呪文だ。しかし、これは少し恥ずかしい。他人に聞かれるとひかれる。とういうわけで誰にも聞こえないように小声で自家製念仏を唱えようとしたら、

 

「私、こころを入れ換えます!」

柴田さん(いつまでも巨乳メガネっ子と呼ぶわけにいかないので苗字を覚えた。多分、彼女はFだと思う。)の素っとん狂な声がした。司波君だけでなく他のクラスメートも驚いている。チャーンス。

 

『いつでも私を呼びなさい。あなた方の祈りは私が聞き遂げた』

堂々のメシア(キリスト)宣言だ。直後に魔法を発動する。現代魔法の弱点である自覚無しの生命エネルギーの消耗が始まった。しかし、ほとんど気にならない。なくなった分だけ与えられるからだ。何せ世界を救う気満々なのだ。メシア気分は最高!われは天の父なり!あんまりやり過ぎると癖になりそうだ。

 

丸い小さな的が取り付けられている重量計が基準値以上の圧力を計測した。

 

556msec。CRCみたいな数字が表示された。滑りが良くなりそうだ。ところであの圧力は何パスカル?重量計だからキログラム?

 

「チョッと、美月。なにエキサイトしてるの?」

千葉さん(いつまでも警察娘では失礼なので苗字を覚えた。桜田門には逆らいません。)の声が聞こえた。

 

僕の恥ずかしいマントラは誰にも聞こえなかったようだ。

 

「ウーン。なるほど」

長岡さんが感心している。しかし、明らかに笑いをこらえている。彼女には聞こえたようだ。

 

551msec。豚まんみたいな数字だ。きっとテンション上がるだろう。しかし、長岡さんに一回見せただけであっさりと盗まれた。事前にある程度の説明はしてはいたがこれには驚いた。彼女の世界では一回技をかけて説明終了とする師が今でも普通にいるからこれが当たり前なのかも知れない。

 

               ◇◇◇

 

 

「551って、凄くない?」

涼野さんが、長岡さんに言った。長岡さんは、適当に相槌をうっている。

僕らは、基準値をクリアしたので早めに昼休みに入っている。学生食堂にいるが豚まんの話ではない。しつこいようだが、ウケるまで書く。(ちなみに僕は551の豚まんを食べたことがない。)

 

「師匠も老師も一科でやれるんじゃあないですか?」

白石くんが調子を合わせている。長岡さんを老師《ラオシー》と呼ぶのはどうかと思うぞ。そう呼ばれても何の反応も見せない彼女は、もしかしたら教室や道場でそう呼ばれているのかも知れない。

 

 朝田さんの話によると、あの深雪嬢が0.2秒程度らしい。当然ながら別格だ。0.5秒レベルなら1-Aでも上位に入るそうだ。

 

やり過ぎた。今、イカサマがばれるのはまずい。次回からは平均レベルを頭に入れて魔法実習に臨もう。

 

「イカサマだからできただけ」

アッサリとばらしてしまった長岡さん。涼野さん、朝田さん、白石くんが僕を見ている。種明かしをして欲しいのだろう。

 

 普通の魔法演算領域より深い、より抽象の核に近づいた状態でなければ実現出来ないと前置きして僕は説明を始めた。

 

 例えば、エレベーターで考えてみる。実際に箱が動く前に制御回路に電気が通って何らかの情報処理が行われてその命令(電気信号)に従ってモーターが回転し箱が動く。最近はリニアモータが多いので回転部もシーブもプーリーもないが。

 

僕らは、制御回路ににも電気を流したがモーターにも同時に流し箱を動かした。つまり、制御回路があってもなくても僕らのやり方では箱は動いてしまうのだ。

 

「それって、起動式を構築して魔法式にコンパイルする手間を省いたってこと?魔法式直接発動法のこと?」

涼野さんが質問した。

 

「直入れではないよ。CADに過剰サイオンを流したのと事象改変を並列処理したんだ。現代魔法では無系統魔法とカテゴライズされている所謂『奇跡』を起こしただけだよ」

 

「じゃあ、CADは全く必要ないのですか?」

朝田さんが質問した。『奇跡』には何の反応もしなかった。

 

「全く必要ないわけではないんだ。他人の演習を見てその時の起動式と魔法式の姿を覚えて『奇跡』を起こす補助に使っているよ」

 

「CADをお札とか使い魔のように使役しているのか」

白石くんが唸った。僕には白石くんがそのように理解した方が意外だった。ハッキリ言って見直した。

 

「長岡さんも師匠くんと同じ方法で演習したの?」

朝田さん、意外にあからさまな性格だった。長岡さんは、その方法が出来ないのではと邪推しているのが勘のいい奴にはすぐに悟られるぞ。

 

「同じようにやった」

長岡さんは文字通り僕と『同じようにやった』のだ。ただ、彼女の言った意味を三人は理解できなかったと思う。一見で、あるいは一触で技を学習する人物は珍しいのだ。

 

「私達にも出来る?」

涼野さんは好奇心旺盛で困る。最初にイカサマだと断って説明したし通常の魔法演算領域より更に深めているのが前提だと念押ししたのだが。

 

「余裕。走圏を5年すれば問題ない」

長岡さんは、今自分は凄く良いことを言ったとでも主張したげな顔だ。5年もグルグルと回るのが出来ないから八卦掌を使える様になる人がいないのだよ。

 

涼野さんと朝田さんは、考え込んだ。そりゃ、考え込むだろう。5年も練習するなら今学校で取り組んでいる現代魔法だってかなりのものになる可能性が大いにある。いや、1ーAなら尚更だ。(僕は、クラス分けを成績順だと推測している。ちなみに1一Eは現代魔法が苦手だがその他がズバ抜けている者を選抜しているのだろう。えっ?それもしかして自慢?はい。そうです。)

 

彼女達は、もっとお手軽な方法を知りたいのだろう。実はある。一つは期間が長くなる。一つは無意識を深められるがその後の人生まで制約されてしまう。一つは一週間もあれば十分だが危険が危ない。そこで先ずは意識の段階から僕は説明を始めた。

 

「現代魔法師の意識を五段階と定義するね」

僕が説明を始めるとみんな耳を傾けてた。どうやら興味はあるらしい。

 

「普通の人、つまり現代魔法を使えない人でも凄くカンのいい人達の意識を四段階と定義する。ただし、突出した才能を発揮する人物の意識も五段階だ」

僕がこう言うと涼野さんと朝田さんの表情がわずかに歪んだ。納得出来ないか、理解出来ないかだ。

 

「人間の能力は使えるエネルギーの質と量で決まる。意識が四段階でもその意識で使えるエネルギー多量に使えるならそれなりに大きな組織を作ったり成果を上げたり出来る。意識が次の五段階なら、全国的な活躍や場合によれば全世界的な成果も上げることもある。四段階よりも使えるエネルギーの質が深まり、量も多くなるからだ」

 

「魔法師と社会で大活躍している人の意識は、同じと言うことなの?」

涼野さんが、訊いてきた。

 

「そうです。ただ、魔法は本来、六段階あるいはそれより上の段階の意識で可能になる事を五段階の意識で行う技術です」

ここら辺りで僕の意識が変わり丁寧な口調になって来る。

「六段階の意識の魔法師はいないの?」これは、涼野さん。

「居ます。しかし、極少数です」

「どうして、魔法師は五段階なのですか?」これは、朝田さん。

「六段階になると人生が変わってしまいかねません。引退して山に籠る等隠遁生活をし始める人が多いのです。ですから、五段階のままの方が都合が良いのです」

 

質問が落ち着いたので、ここから本題に入る。

 

「意識を変えるのは難しく、短期間で行うと副作用も大きいし失敗も多くなります。長期間ならば副作用も少なく成功しやすくなります。長岡さんが言われた5年は、実は短い方です」

 

 

 

 



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入学編 11

「そこで、皆さんに耳寄りな情報です。先程長岡さんが言われた5年は、四段階から六段階に近い五段階に上がるのを想定した年月だと思います。しかし、皆さんは既に五段階であるので5年も必要ではなく2年で充分だと思います」

まるで、怪しい商品を安いと主張して視聴者に買わせるセールスマンの口上の様になって来た。ただ、長岡さんが僕の主張を否定したらダメだが。

 

「師匠が協力してくれたら出来ると思う」

長岡さんが同意してくれた。これで、まともな方法だけを提示してこの場を収められそうだ。

 

しかし、涼野さんと朝田さんは考え込んでしまった。白石くんはこの流れに乗るつもりのようだ。

 

「もっと、短期間で出来ない?」

涼野さんは、勘が鋭った。ありますよ。どれも危ないですが。僕はお勧めしません。でも、訊かれれば答える。その為に僕はここに来ているのだから。

 

「有ります。いきなり座禅を3日から一週間続けるのは、日本で昔から密かに行われて来ました。うまく行けば六段階に手が届きます」

「失敗したら?」

「運が良ければ痔疾と自律神経失調症いわゆる偏差ですみますが、運が悪ければ統合失調症いわゆる魔境です」

さすがに、涼野さんが頭を抱えた。

 

「この前、師匠くんが『神になるのに神頼みする』と言ってたよね?」

今度は、朝田さん。選手交替のようだ。

 

「はい。一生をかけて神頼みして死後、神の修行を始める方法です」

「それを、もっと早く出来ないのかな?」

「出来ますよ。頼む神を抽象的あるいは異国の神や仏ではなく、具体的な生けるしかも身近な神にすればいいのです」

「どの神にすればいいの?」

少し、朝田さんが声のトーンを落とした。

 

「陛下です。天皇陛下です」

 

一瞬、時間が止まった感じがした。そこで、僕から沈黙を破る。皇宮警察関係者の前でこのような話をするのは気がひけるが、関係者でさえも天皇陛下が神であると知らない人が多い。

 

「これは、日本で生まれ日本で育ち日本国籍を有する人には絶大な効果が有ります。海外の方でも前世で日本と深い関係があればかなりの効果が期待出来ます」

この条件は、意外に厳しい人がいる。前世が異国と関係深いから魔法力を持って産まれこの学校に来ている人物が比較的多いからだ。

 

「自分と縁がある神に頼れば効果が大きいのは当然です」

皆さんの理解は今一つのようだ。

 

 天皇としてこの世に来る魂は生まれながらにして神になるのを義務付けられている人生を受け入れて生まれて来る。なので、仮に彼が仏(生まれながら神)として生まれなくても人生の比較的早い時期に神の修行に入る。天皇家がそれをサポートしているので今は必ずそうなる。

 

 神の修行に入いると普通はその時点で天命がわかりそれに沿って生きて行く。しかし、天皇陛下は違う。日本の中心たる存在であり続けるのを義務づけられているので神の修行もメシヤ型になる。なので、天皇陛下は日本国民に頼られるのが自己の神の修行に適っている。

 

 魔法師でない一般人なら、死期が近付くとお迎えが来るのがわかり自分と一番縁のある陛下が現れる。

 

突然、白石くんが話を始めた。

「うちの爺さんが、臨終の時に家族が水をあげようとしたら爺さんが『わしはいらん。陛下に差し上げてくれ』と言ってから死んだ。生きている間、熱心な愛国者でもなかったから皆意外に思った」

 

 すでに五段階の意識である魔法師が毎日たとえわずかな時間でも天皇陛下に心を向ければ白石くんの爺様よりも早く神の修業が始まるのは明らかだ。

 

「でも、それは比較的長くかかりそうな気がするのだけれど」

天皇陛下が神と聞いても否定しないのはさすがです。朝田さん。普通は尊い、神性を有する等は認めるが神ではないと言い出す人が多い。

 

「六段階になるには時間がかかります。しかし、一日当たりに費やす時間はわずかです。また、五段階の上、六段階の一歩手前にはそれよりも早くなれます」

 

これで、毎日神頼みをしたうえで走圏も練習すれば死の淵に到達できる。それを超えて行くのは本人次第だ。さぁ、早速明日から長岡さんに八卦掌を習って下さい。お三方。僕は、時々アドバイザーとして参加させて頂きます。

 

「師匠は、何段階?」

長岡さんが突っ込んで来た。少し、嫌な流れになっている。

 

「六段階です」

「道を得ているのね」

「はい」

「じゃあ、師匠を頼る。座禅を教えて」

 

長岡さんは、さすがだった。自分と縁がある神に頼るのが良策ならば、太古の神よりも異国の神よりも日本国の神よりも目の前の神(ただし、修行中)に頼るのが一番良い方法になる。

 

 僕は、喋るのは好きだし書くのも苦手ではない。でも、人に教えるのはあまり興味がない。とはいうものの、メシア型神修行が自分にほどほど合っているのはわかっていたし、この学校に来たら『教える』ことになるのもうすうす感づいていた。

 

 

 

 



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入学編 12

2017/9/28誤字訂正


昼休みが終わってしまった。助かった。教えるとか教えないとか返事をする前に時間切れになったからだ。ただ、涼野さんに「続きは、カフェで!」と念押しされた。

 

問題がある。長岡さんは、道を得る六段階を目指している。今六段階である僕には荷が重い。七段階でないと教えるのは困難だ。僕の座禅の先生を紹介するのが本当は良い。しかし、京都まで通ってもらうのは大変だ。

 

涼野さんと朝田さんは互いの思惑が違うようだ。涼野さんは興味はあるが現代魔法の強化に役立つ事を知りたいだけだろうし、朝田さんは、実戦に役立つ事を知りたいのだろう。

 

白石くんは、魔法無しで魔法師を倒した長岡さんの武術を習いたいのだろう。

 

あれこれ考えを巡らせて放課後カフェに臨んだ。

 

カフェの空気が張り詰めていた。

 

原因は司波くんだ。誰かを待っているのだろうがまるで依頼人を待つゴルゴ13のように静かに座っている。別に彼がイライラしているとか、不機嫌な態度で今にも爆発しそうだと言うわけでもない。ただ、彼が静かに座っているだけで周りの空気が変わってしまう。

 

カフェの空気が張り詰めていたのはそれだけではない。彼を監視している連中がいるのだ。彼のファンだとか単なる野次馬の類ではない。下手くそな探偵や警官のように彼を見張っている。

 

昼休みの続きをする雰囲気ではなかった。というわけでも僕も野次馬の一人になってデューク司波の監視に加わった。会話もそれに合わす。

 

「ゴルゴ13っていう漫画知っている?」

どうでも良い話なのだが、4人とも野次馬的司波達也監視団に加わっていたらしく僕のどうでもいい話を興味深げに聴いてくれる風を装ってくれている。

 

達也くんは既に10分くらい待たされているようだ。

 

「ゴルゴ13の漫画の作者はとっくに死んでいるんだ」

「へ〜」

「ところが、出版社とテレビ局と映画会社が最晩年の作者を説得してその著作権をプロダクションに売らせたんだ」

「へ〜」

「著作権を買ったプロダクションは、作者が死んだ後もゴルゴ13の連載を続けたんだ」

 

「ごめん。待ったでしょう?」

剣道小町こと壬生沙耶香さんが現れた。司波くんを待たせていたのは壬生さんだった。しかし、あざといくらいに可愛いモードにしている。今度は作戦を変えて来たのか?

 

「へ〜、で?」

一瞬、どこまで話たか忘れてしまった。すぐに思い出しどうでも良い話を続ける。

「当時は、金の為に無理やり話を伸ばしたとか、ディズニーみたいな真似をするなとか、賛否両論がファンを含めてネット上で交わされたらしい」

「へ〜」

「その騒動が耳目を集めてゴルゴ13人気が再燃したそうだ」

「へ〜」

「多分、ステルスマーケティングだったと僕は思う」

「へ〜」

 

「もう、司波くんって本当はナンパ師なの?」

「魔法師でもありませんね。今のところは、まだ」

何という会話をしているのか?バーかここは?!達也くんにはジゴロの才能があるのをあらたに発見した。あれなら、女子高生(JK)はイチコロだ。

 

やっちまった。司波くんはまるでゴルゴのようだと思っただけで近日公開のゴルゴ13を連想して知っている事をとりあえず喋っただけなので肝心のオチを考えずに始めてしまった。

 

「やあ、達也くん」

あれは、確か風紀委員長の渡辺さんだ。(名前は覚えていない。)もしかして、「何よ。その女?」的展開か!僕を含め皆んなそのような痴話喧嘩的展開を期待して固唾をのんで息を潜めてしまう。

 

「壬生も、すまなかった」

渡辺さんは去って行った。えっ?!それで終わり?みんなズッコケてしまった。僕は、この時間を使ってどうでも良い話の続きを考えた。オチはまだない。

 

「ゴルゴが長く続けられる理由は、時事問題を取り入れているのでネタに困らないからだ。話もパターンがあってゴルゴが誰を狙っているのか最後にわかるパターン。ゴルゴの正体を探るパターン。狙撃の仕方がわからないパターン等がある」

 

「へ〜」

 

「あたしたちは、学校側に待遇改善を要求しようと思うの」

何か、学生運動の話になっている。壬生さん、やはり怪しい団体に属しているらしい。

「改善と言うと、具体的に何を改めて欲しいのですか?」

それにしても達也くんは、落ち着いている。壬生さんの踏み込んだ話に動じる気配が一切ない。

 

「とはいえ、長く連載しているとゴルゴの年齢が連載当初と合わなくなって来る。ゴルゴが50才を過ぎて超人的な体力を発揮する話はおかしい。しかも、魔法の時代になってゴルゴが魔法を使えないままでは話が成り立たない」

「へ〜」

 

「それは、そうかもしれないけれど。じゃあ、司波くんは不満じゃないの?」

壬生さんが必死に訴えている。

「不満ですよ、もちろん」

不満だったのか?司波くんは。

「ですが、俺は別に、学校側に変えてもらいたい点はありません」

どういうこと?

 

「そこで、プロダクションは大きな決断をしたんだ」

「へ~」

 

「残念ながら先輩とは、主義主張を共有できないようです」

そう言って、司波くんは席を立った。すげ~、あんな可愛い子を袖にした。

「待って、待って!」

低予算の恋愛映画の破局シーンのようになった。ヒロインが振られるシーンだ。

 

ゴルゴの話なんて誰も聴いてないが、とりあえず喋りは続行する。

「スターウォーズ方式の採用だ。二代目ゴルゴ、三代目ゴルゴを登場させて別々のシリーズを並行して作った」

 

「俺は、重力制御型熱核融合炉を実現したいと思っています。魔法学を学んでいるのは、そのための手段に過ぎません」

司波くんは、壮大な野望を抱いてここに来たらしい。

 

「三代目ゴルゴは明らかに魔法師と設定されている。初代ゴルゴは超人的な能力でテレパシーをもつ古式魔法師と闘っているけど、それ以上魔法に突っ込んだ話はない」

「へ~」

 

司波くんはそのまま、カフェから出て行った。ヒロイン壬生は置いてきぼり!映画なら戻って来るのに彼は本当に行ったままだった。

 

カフェにいる皆が、壬生さんを見て見ぬふりをした。彼女は、落ち込んでいるいたようだった。だが、しばらくして自力でカフェを出て行った。見た目ほど落ち込んではいなかったのかも知れない。

 

カフェの空気がなごやかになった。

 

涼野さんが一言。

「ゴルゴって何?」

長岡さんは、

「座禅とどう関係あるの?」

 

本当に無駄なおしゃべりをしただけになった。涼野さんが無駄話のオチを付けてくれたので良しとしよう。

 

◇◇◇

 

加重系魔法の技術的三大難問 は、以下の3つである。

 

重力制御型熱核融合炉の実現

汎用的飛行魔法の実現

慣性無限大化による疑似永久機関の実現

 

これを、解決するのは難しいのかも知れない。ただ、僕は真面目にこれらを考えた事がないから何とも言えない。司波くんがその解決をライフワークにしている程度の問題なのだろう。

 

これは、僕の黒歴史なのだがここに書いておこう。

 

僕は中二の頃、中二病全開だった。古式魔法に興味があった為、古典的名著を読み漁っていた。その中にエリファス・レヴィの『高等魔術の教理と儀式』があった。単なる儀式魔術の著作で降霊にはアストラル体を感じる事が基礎になると言っているだけのたわいもない内容だったが、ギリシャ三大難問の一つ円積問題が取り上げられており、それを解くと何か凄い事になるとあったものだから僕は寝食を忘れてその問題を解こうとした。

 

3日後にアッサリ解けた。小学生でも理解できる解法だ。勢い余って他の問題も考えた。2時間で解けた。これも、小学生にも理解できる解法だ。

解けた時は、それなりに嬉しくて自分は天才だと思った。少し冷静になってネットで調べると100年くらい前に同じ解法を思いつき公開している人がいた。俺スゲェェェー!と思えたのは1日で終了した。

 

読者の皆様にもどうでも良い問題だと思われるだろうが、単なるとんちクイズとして問題とその解答を紹介する。

 

1番説明しやすい任意の角の三等分をコンパスや定規等を使って(要は計算しないで)描けというものだ。

 

早速、解答。

 

まずは、紙に任意の角を描く。鋭角より鈍角の方が都合が良い。作図し易いからだ。

 

その扇型を切り抜く。それを、円錐状にする。

 

これとは別に円錐の底面の円より、少し小さ目の円を描く。コンパスを使ってこの円周を三等分する。印を付けておこう。

 

印の付いた円を切り取る。切り抜いた円を使う場合は、円錐の中に円を入れる。円を切り取った残りを使う場合は、空いた円穴に円錐を入れる。

 

あとは、円錐に三等分された円周の印を写し、円錐を展開すれば出来上がり。

 

昔の事を懐かしんで角三等分の解答を書いてみた。しかし、昨日から始まった漠然とした悪意と殺意はまだ続いている。僕を狙っているようなものではないが気になる。



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入学編 13

『お笑い五人組』(最近、僕を含めた五人組を学生の一部がそのように呼んでいるらしい。しばしば集まって喋って笑っているのだからその通りだ。)で長岡さん中心に八卦掌を練習する運びとなった。目標は『道を得る』六段階ではなく『道に入る』五段階の後半だ。

召喚魔術が出来るレベルと言えば分かり易いだろう。

 

「長岡さん、何から教えるつもり?」

第一回目の打ち合わせを長岡さんと僕はしている。

「三人とも才能があるから、趟泥歩から始めようと思う」

「もしかして3年で目標に到達させるつもり?」

「そうだけど、ダメ?」

 

才能があっても三人とも中国武術の経験がない。いきなり本格的な走圏を始めると半年持たない。だからと言ってその教え方ではダメだと否定は出来ない。

 

「初心者は、太極拳から始めた方が良いと私の先生も言ってた」

それが、普通だろう。長岡さんの師匠は、常識人だ。(これは、長岡さんが非常識だと言ってるわけではないのを強調しておく。)

 

「長岡さんは、何から習ったの?」

「走圏。他の武術で身体を慣らさないのが私の門派の元々のやり方だから」

「差し支えなければ、どこの門派教えて欲しい」

「宋派」

宋派と言えば、宋長栄と宋永祥の二宋が有名な門派だ。あそこは、いきなり走圏(円周を歩く練習)から始めるのか。珍しい。というか、伝承している人がいたのか!

 

「師匠くんは、どこ?」

「僕は座禅のついでに齧っただけだよ。あえて言ったら北京の流れかな?」

「私は瀋陽」

瀋陽といったら、旧満州の奉天だ。どうりで長岡さんに諜報的な連中がまとわりついているわけだ。

 

 僕は、長岡さんに自然歩から始めるのを提案した。彼女は賛成した。

 

「ところで、頭が痛いの?」

恐れ入った。そんな素振りを見せたつもりはないのに簡単に見破られた。

 

 僕は、司波くんが壬生さんをこっぴどく振った日からわずかな違和感を頭の周りに感じているのを長岡さんに話した。

 

「私も、殺気のようなものを感じてる」

 

 殺気は冷たく感じる。人によって感じ方が異なるが。僕は、悪意も感じる。僕の場合は、頭の周りの空間の密度が濃くなったように感じる。ただ、これも人によって感じ方違うので一概に言えない。このことは、二人だけの話にしておけば良かった。

 

                   ◇◇◇

 

 

 「えーっ!?これだけ?」

 

 はい、これだけです。涼野さん、八卦掌の基本は円周を歩くだけなのです。(もっと初心者には、直線を歩かせたり、その場で立つだけというのもあります。)朝田さんと白石くんは真面目に歩いている。二人ともどこかで八卦掌について事前に調べていたようだ。

 

「そっちに向いて歩いてダメ。こっち」

長岡さんが修正している。二人は巷で公開されている走圏に影響を受けていたからだ。

 

「そっちに向いたまま歩き続けたら内臓を痛めるよ。その前に神経がやられるから、長岡さんの言う通りにして」

僕もここは絶対に譲れないので注意を促した。

 

方向転換(単換掌等)さえ、初回はやらなかった。長岡さんは本当に教え込むつもりのようだ。

 

内容がこれだけでは、間が持たない。すぐに雑談タイムになる。『お笑い五人組』と揶揄されても仕方ないな。

 

「最近、殺気を少し感じる」

長岡さんが、ネタふりしてしまった。彼女は、天然なのか確信的にやっているのか未だにわからない。

 

「師匠も殺気を感じている」

これで、僕は気がつかない振りが出来なくなった。校内の空き地で勝手に練習を始めたものだから、あまり長時間練習し続けると何か言われかねない。あとは雑談して今日は解散でもいいか。

 

「司波くんが壬生さんの参加する学生運動への誘いを蹴った日から始まったんだ」

最初は、僕がターゲットなのかと思ったが身に覚えがないし殺気の感じ方がいつもと違う。それで、すぐに気付いた。これは、僕個人に向けたものではないと。

 

 長岡さんもその殺気に感づいていた。この二つで、確信した。これは、僕らを含めた集団に対する殺気なのだと。そこで、司波くんと壬生さんの会話を思い出して欲しい。

 

「要望を学校に出すとか言ってたよ」

涼野さんが、すぐに思い出した。

 

「涼ちゃん、少し違う。確か『あたしたちは、学校側に待遇改善を要求したいと思う』だったよ」

朝田さん、まるでメモリーに記録していたかの如くの記憶ですね。やはり、只者ではないですね。

 

「良く考えたら、少し物騒な表現だな。考えを学校に伝えるだけではないと言っているのだから」

白石くん良くできました。その通りです。

 

涼野さんが、何か閃いたようだ。嫌な予感がする。

「そうだ!私たちで何が起きようとしているのか調べない?」

嫌な予感が当たった。

 

「涼ちゃん、危ないよ」

朝田さんが常識人で良かった。

 

「それに、どこを調べるの?」

これで、涼野さんは諦めるだろう。朝田さん、ナイス!

 

「ふふふ、実は私も冷たい感覚があったの!」

涼野さん。殺気を感じて喜んでいるのはかなり危ない性格ですよ。最近、気付いたのだが涼野さんはお嬢さんだ。育ちがいい。と同時にどこか浮世離れしている。殺気を新鮮に感じるのは普通の感覚ではあり得ない。本能的に危ないと思い距離を置こうとするのだ。

 

「でも、どうやって調べるんだい?」

白石くんも、この危うい流れを変えたいようだ。涼野さんに諦めさせたいのだろう。彼もまた、常識人だ。

 

「みんな、殺気を感じているのだから校内を歩き回ってどこで1番感じるか調べるのよ!」

満面の笑みを浮かべて得意そうに自説を展開する涼野さん。何とかして諦めさせたいのだが。

 

「それ良い。やろう」

長岡さんも乗り気だった。朝田さんと白石くんが僕に何とかしてと目で訴えている。

 

みんなには、黙っていたが今回死人は出ない。つまり大事には至らないと僕には確信があった。予知能力の一種だが、職業当てと同じく僕の説明のつかない能力、所謂無系統魔法だ。それでも、僕は大事を取って危険を避けようとしていたが仕方ない。

 

「じゃあ、探索は出来るだけ二人で行い、何かあったら連絡をしてすぐに離脱するでどうだろう?」

朝田さんと白石くんは、がっかりしている。後からフォローしておこう。

 

「ひと段落したから、もう少し練習します」

「え〜」

長岡さんは、元気が有り余っているが他のメンバーは既にお腹一杯だ。

 

「師匠くん。ちょっと突いてみて」

長岡さんは、技の見本を見せたいようだ。

 

僕は、少し試したくなって右手で突く雰囲気のまま左手で突いた。気配は消し気味だ。

 

「グッッ」

僕はその場に転がされた。左手の拳を長岡さんに掴まれてそのまま捻り上げられたのだ。

 

「今のが、単換掌の使い方の一つ」

と説明(?)して、走圏の方向転換を教えてくれた。さっきの技と動きが全然違うような気がする。

 

彼女の功夫が凄いのは改めて確信できたが、この教え方で果たして3年も付いて来れる人がいるのだろうか?前途多難だ。

 

◇◇◇

 

100年くらい前の歴史となれば、ここにもたくさん書いているが第三次世界頃の事はほとんど書いてない。それは、正しい記録を目にする機会がないからだ。

100年くらい前の出来事は、国中心もっと言えば国の一般人(魔法を使えない人)が主に関わっていた。なので、数十年経つと情報公開によってあらゆる出来事の顛末が明らかになる。

 

ところが、現代魔法力の時代になると歴史的な事件の主人公が魔法師になって行った。彼等は民兵として義勇兵として戦闘に参加している。正規軍ではないから記録に残りにくいし情報公開法の範囲外でもある。

なので、第一次世界魔法戦争と皮肉られる第三次世界大戦は大規模戦闘があったもののそのほとんどで魔法師が大活躍した為に未だに公開されてない情報が多い。

 

今でこそ、当たり前のように十師族、二十八家、百家は存在しているが、いつの頃からそのように呼ばれるくらいの力を得たのか、それはどのような事件がキッカケとなったのか?正確に答えられない。正しい情報がまだ公開されていない為だ。

 

近現代史は、現代魔法の時代であると誰もが知っているのにその成立は誰もまだ記述していない。いや、これに関する著作は多く著されているがそのほとんどは魔法師によるものではなく、一般人によるものであり肝心な魔法に関する出来事が曖昧であったり書かれてなかったりする。

 

もし仮に、魔法師が機密情報の一部を閲覧してこの現代魔法の現代史を著せばそれが正しい近現代史教科書の元ネタになる可能性がある!

 

今、僕は魔法師に成りつつある。事件の解析とその記述もこなせる。あとは、どうやって魔法に関する機密事項を知るかだが、これもこの魔法科高校に在籍していれば可能になる。

 

校内にある図書館だ。魔法科大学と繋がっているので、最重要事項は閲覧不可だが、かなりの情報が図書館で得られる。

 

ということで、図書館に来ているのだが・・・・・

 

「ここだ。ここが狙われている」

僕は思わず呟いた。少年探偵団が、校内調査を開始して3日目の出来事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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入学編 14

学生運動に成りすましたテロリスト達(殺意があるのだから、過激な学生運動ではなくテロリストである。)の狙う場所はわかった。しかし、学校の図書館を狙う意味がわからない。ということで、図書館に行ってみた。

図書館と言っても、紙書籍はほとんどない。巷の図書館にはまだ紙書籍が置かれているが、規模が大きい図書館はデータをたくさん蓄積している場所、データセンターとなっている。これが、良い事もあるが悪い事もある。画面に映し出された画像では著者の霊を感じるのが困難になるのだ。

 

遣唐使の時代から、中国大陸からたくさんの経が日本に持ち込まれる様になった。大陸で多少修行しても八段階まで行きその後日本に帰国して弟子を育てた人物はいない。しかし、たくさんの経はその後日本で研究されその意味も解読された。

 

どの様に解読したのか?意味がわかるまで読んだだけだ。一生かけて解読出来なければ、次の世代の天才にその任を託した。そんな滅茶苦茶な方法でも経が実体として存在していれば解読できる機会に恵まれる。

 

もちろん、その様な滅茶苦茶な方法では誤解も多く生じる。ただ、その様な誤解に基づく解釈は時代の審査に耐えられず200年もすれば誰も見向きもしなくなる。

 

実体を持つ書籍から著者の心を感じて解釈する方法で、五段階なら一生に何人かの著者の心を掴むのに成功するだろう。それは、200年の審査に耐え得る。ロマンロランが今だに研究されているのがわかり易いだろう。

 

しかし、六段階なら必要な人数の著者の心が掴める。なので、道を得て六段階になった人物が1人存在していれば後はそれ以上の境地が記された書物をその人物に研究させて八段階に到達して貰えば良い。実際に、日本の小乗仏教はそうして進歩した。最初に経典を持ち帰った人物達は六段階にさえ到達してなかったのだ。

 

ここまで、考えながら図書館巡り、というかデータサーフィンをしているとどうやらテロリストが狙いそうな情報がわかった。彼等は間違っても神に至る道が記された聖典のデータを欲しがったりしない。彼等はおそらく日本における最新の現代魔法の研究成果の情報を手に入れようとしているのだろう。

 

こうも簡単にわかったのは理由がある。図書館データからエガリテやブランシュの調査結果を検索してそのバックを調べたら、大亜が出て来た。今度は、それらの目的を調べたら我国の現代魔法の発展を妨げるや魔法技術を盗み出す等の情報もあったからだ。この学校の図書館頑張り過ぎだろう。

 

◇◇◇

 

「ねぇ、師匠くん。今日はどこに行く?」

美少女がデートでこんなセリフを言ってくれたら男子は、嬉しいかも知れない。上機嫌の涼野さんは、凄く可愛い。

 

1-A(一科生)の女子が部活のようなもの(?)に誘いに来てくれるのは、二科生の男子にとっては舞い上がる事態だと思うが、司波深雪令嬢を見慣れてしまった1-E男子はほとんど反応しない。

 

贅沢は癖になるとは本当だ。美人は三日であき、ブスは三日で慣れると言うのも当たっている。(誰がブスなのかを詮索してはいけません。)

 

しかし、テロリストが学校のどこを狙っているのかを調査する為に構内を歩きまわろうとしている時にこんなセリフを言われても嬉しくない。しかも、テロリストの狙っている場所を知りながら彼女達に気付かれないようにその場所を避けなければならないのだ。

 

朝田さんは、この探偵ごっこに反対している。死人は出そうにないから大丈夫だとは言えなかったので朝田さんが要求してきた3人でなら調査しても良いとする条件に反対できなかった。僕と朝田さんなら、強敵と遭遇しても涼野さんを守れると彼女は判断したのだろう。

 

図書館にさえ近づかなければ大丈夫だと安心していたのが間違いだった。僕の妖怪アンテナが急に立った!三本は立ったと思うくらいだ。やばい、震度5以上の地震が来る前と同じくらいの嫌な予感だ。

 

「今日は、あっちに行こうよ」

元気良く、涼野さんは殺気と悪意が強まる方角に歩き出した。無理に彼女を引き留めるわけには行かない。そんなことをすれば、その方向に目的の危険地帯があると気付かれてしまう。

 

『全校生徒の皆さん!』

ハウリング寸前の大音声が、スピーカーから飛び出した。

 

涼野さんは、すぐに走り出した。僕はすぐに後を追いかけた。朝田さんも続く。

 

『ー失礼しました。全校生徒の皆さん!』

スピーカーからもう一度、今度は少し決まり悪げに、同じセリフが流れ出した。

 

涼野さんは、放送室に向かっている。それにしても足が速い。追いつけない。彼女は魔法を使ってないと思うが。

 

『僕たちは、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です』

廊下でこの放送を耳にした学生の多くはリアクションに困っているようだ。それにしても、まだ涼野さんに追いつけない。彼女は陸上選手なのだろうか?

 

『僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します』

放送室が見えたところで、涼野さんが速度を緩めた。それで、僕と朝田さんはやっと追いつけた。涼野さんは平然としている。僕と朝田さんは息が上がっている。

 

放送室の前には人が集まり始めていた。僕は、野次馬ベストポジションを見つけ彼女達とそこに移動した。

 

 放送室まえには、すぐに風紀委員会と部活連のメンバーが集まってきた。どうみても、楽しく話し合いをする雰囲気ではない。

 

「どんな、様子~?」

いきなり、背後から長岡さんが現れた。心臓に悪い。今回は、呼吸が整い切ってなかったので全く気配を感じれなかった。彼女は、司波くんの後をつけてきたそうだ。何か、危ない気がするので止めたほうがいいと思う。

 

 司波くんを含めて何やら相談している。何を言っているのか正確に把握はできないが、生徒会役員や風紀委員長や部活連会頭を前に司波くんは堂々としている。大した胆力だ。

 

と感心している場合ではない。そんなことより、さっさと踏み込め!予備の鍵がなければマスターキーやフロアマスターキーがあるだろう。相手は、器物破損や不法侵入をいとわないテロリストだぞ!そのうち、もっと・・・・

 

あれっ?放送が止まっている?そうか!放送室の電源を切ったんだ。中央監視か防災センターで。だったら、放送室の扉も開けられる。

 

 ところが、扉は開かない。何やってんだ学校は?僕のイライラが頂点に達しようとした時、司波くんが携帯端末で誰かと話し始めた。

 

「壬生紗耶香と通話している」

朝田さん、凄い特技をお持ちなのですね。どうやって、盗聴しているのだろう。機器も魔法も使わずに。

 

「交渉がまとまったみたい。テロリストは出てくる」

あの短い時間で司波くんは話をつけたのか!なんてネゴシエーター。それにしても、朝田さんはどうやって会話を聞き取っているのだろう。

 

『中の奴らを拘束する態勢ですよ』

朝田さんは、司波くんが今喋ったことを再現してみせた。わかった。読唇術か!この距離で。

 

それにしても、テロリストを騙して出てこらせ拘束するとは司波くん対テロの訓練を受けているのか実践経験でもあるのか。何時の間にか殺気や悪意も薄くなっている。連中はおとなしく騙されて出てくるだろう。

 

 それにしても、学校側が何もしないのは一体どういうことか?

 

 全員拘束して厳しく罰せられると思ったのだが、遅れて駆けつけて来た生徒会長が放送室を占拠したテロリストの拘束を解き、彼等と交渉するとまで約束した。

 

あほか?あの女。テロリストに甘い顔を見せると次はもっと過激なテロを実行する。元々、人殺しや破壊が好きな連中なのだ。理由があれば喜んで破壊活動をする。

 

「師匠。落ち着いて」

長岡さんに、たしなめられた。僕は相当頭に血が上っていたようだ。

 

               ◇◇◇

 

とにかく納得出来ない。放送室を占拠したテロリストをそのまま放置した学校の態度。しかも放送は電源を落としたらしくやめさせている。それが出来るなら放送室の扉のロックも解除出来るはずだ。生徒会長が学校と交渉していたとしても明らかな犯罪者集団の扱いを生徒会に任せるか?普通。

 

僕がイライラするのは、学校の対応だけでない。感じる悪意と殺気がより鮮明になったからだ。

「奴ら、またやる。今度はもっと過激になる」

久しぶりに寝付けない。仕方ないので座禅をして寝た。

 

「あっ!」

わかった。学校は不祥事を恐れて何もしなかったわけではない。わざとだ。

 

これで、過熱化過激化している部活の新人勧誘週間の放置や実質的に決闘を模擬戦と称して容認していることとも繋がった。

そのように意図的にしているのだ。この学校は。

 

その後、すぐに寝た。

 

 

 



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入学編 15

「テロリストの狙いは、おそらく学校の図書館。と言うよりも図書館で得られる情報だと思う」

僕が、自称学生の有志同盟達をテロリスト呼ばわりしても四人とも何の反応を示さなかった。

 

「だったら、警察や学校に通報した方がいいんじゃないか?」

白石くん、真っ当な考えです。

 

「じゃあ、白石くん通報よろしく」

僕の言葉にみんな呆気に取られている。テロ等準備罪(いわゆる共謀罪)が整備されている今は、それ用の窓口もある。広域通報制度も100年前から整え始められ公安、警察、国軍等通報先は選り取りみどりだ。もちろん、匿名での情報提供も可能だ。ただし、この場合は報奨金がもらえないが。

 

「学校には知らせないの?」

朝田さんが、質問して来た。

 

「学校は、今回の件を生徒会に一任しているから通報するなら生徒会だね」

 

「あたし達で、テロを防げないかなぁ」

やはり、涼野さんは常春の頭だった。そんなことしてたら命が幾つあっても足らない。朝田さんはいつも相当苦労されているのがよ〜くわかった。

 

「僕等の中にA級魔法師がいないから、テロリストが重武装していたら対処出来ないよ」

朝田さんが、ほっと胸をなでおろすのが見えた。一方、涼野さんは残念そうだ。

 

これで、警察と公安と軍関係と皇族関係に一高図書館テロの情報は出回るだろう。この妄想ブログをご覧の方々も、もしお知り合いに一高関係者がおられましたら明日は学校を休むか、図書館には絶対に近寄ってはならないとご注意下さい。

 

もちろん、テロリストを一網打尽にして出世の糧にお使いになるのも大歓迎です。

 

「本当に明日なのかなぁ」

涼野さんが疑問に思うのもごもっとも。やるとしたら討論会のある明日が良いと感じただけだ。日を置くとエガリテのメンバーに脱落者が出てくる。メンバーの士気が高まっている時に決行するべきなのだ。

 

と偉そうに語っているが昨日の夢で初めて解った事だ。夢見については今は省略する。

 

「明日、師匠くんはどうするの?」

朝田さんが尋ねる。

 

「途中で抜けるよ。僕は帰宅部のエースだから!」

 

◇◇◇

 

「うるさいぞ!同盟」

と野次って僕は討論会を抜けて来た。

 

今は、図書館の前の中庭で寝転がっている。僕は嘘をつくのを好まない。

「途中で抜けるよ。僕は帰宅部のエースだから」と言ったが、途中で討論会を抜けて帰宅するとは言ってない。

 

 テロリストが、動き始めたら適当に邪魔をして連中に排除されて、全治一週間程度のケガをして連中を障害で刑事告訴する。刑事告発ではなく直接被害を受けて刑事告訴するのが重要なのだ。罵声を浴びせられれば名誉棄損も追加しておく。意外なことに名誉棄損は刑法にもあるのだ。民法だけでなく。

 

 そして、最先端の魔法技術や国家機密に関連する事項を盗み敵国に渡すのは明らかな売国利敵行為であるとして外患誘致罪等も告訴状に追加しておく。外患誘致罪は死刑しかない。テロリストは全員死ねばいいのだ。

 

あっ!やられた!

 

「師匠。抜け駆けズルい」

長岡さんが視野の外から声をかけて来た。

 

 

「あーっ!!いた。いた~!」

皆がぞろぞろと付いて来た。仕方ないので掻い摘んで身振り手振りを交えて作戦を皆に伝えた。目立つことこの上ない。エガリテのメンバーにも当然睨まれている。二人組だ。

 

『何だ?あいつら?』

『1年のお笑い五人組です』

『世界初のお笑い魔法師ユニットを自称する連中です』

『で、あいつら何をしているんだ?』

『コントの練習だと思います』

朝田さん、読唇術ありがとうございます。エガリテ!お前ら、名誉毀損を民事でも訴えてやるからな。賠償金覚悟しておけ!

 

ドン!ドン!

 

爆発音が聞こえて来た。

 

「ひゃー、怖いー。図書館に避難しよう〜(棒)」

僕がコントを開始した。

 

「やべーよ!やべーよ!図書館に逃げよう(棒)」

自称E組のトリックスター白石くんがアドリブで乗っかって来る。日頃の鍛錬の賜物だ。

 

僕等は、命からがら和気藹々と図書館に入って行こうとした。エガリテメンバーに制止された。

 

「何で、止めるの?君らも一緒に図書館に逃げようよ〜(棒)」

エガリテメンバーが僕を突き飛ばした!

 

「親父にもぶたれたことないのに!(棒)」

白々し過ぎて、エガリテメンバーもさすがにおかしいと感じ始めている。

 

「お兄ちゃんに言いつけてやるんだからぁ〜〜〜!うわぁ〜〜〜ん!(棒)」

はい、全員撤収。

 

予定通りテロリストから打撲と擦り傷をありがたく頂きました。あとは、病院で医師に診察してもらい全治一週間と書かれた診断書を三千円払って書いてもらうだけだ。

 

◇◇◇

 

月曜日、登校するとカウンセリングルームに来て欲しいと伝えられた。

 

「何か、悩んでいる事とかあったら教えてちょうだい」

目の前にいる小野教員(この人は教員免許保持者なのだろうか?それとも医師免許保持者なのだろうか?職業のわかりにくい人物だ。グラビアアイドルかも知れない。)

 

やはり、そう来たかと思った。そこで、このように応える。

「悩んでます。今、自分が書いている小説のことで」

 

カウンセラーは、クランケの言うことを頭から否定しない。クランケに話させなければならない。

 

「主人公ヒーローは、正義の為に我国の防衛の為に戦い続けているのですが、主人公の戦い方を押し通そうとすれば知り合いの美少女サブヒロインが犠牲になるのです。それでも、主人公に戦いを続けさせるべきかそれとも戦いに勝ち彼女も救うべきなのか?どちらの方が、今の読者は喜ぶのか支持するのかで悩んでいます」

 

小野先生は、僕の小説の話をじっと聞いている。そして、慎重に答えた。

「今の読者の多くは、主人公に敵にも勝ち彼女も救うのを支持すると思うの」

 

僕も、慎重に答える。

「それでは、主人公があまりに超人的になってしまい現実離れします」

 

「どうしたら、主人公は問題を現実的に解決出来ると思う?」

少し、小野先生は前のめりになった。本気になって来たようだ。本性を現して来たと表現しても良い。

 

「味方の協力が必要です」

 

「なるほどね」

 

「では、これで失礼します。味方の協力で主人公は敵に勝ち彼女も救う話を考えます」

 

◇◇◇

 

 土曜日は色々とあったそうだ。また、詳しいことは白石くんに聞いてみよう。まるで、何かのレポートを読んだくらいに詳しく教えてくれるだろう。主人公には『味方の協力』が必要なのだ。もしなければ、主人公の好きな方法で戦い続けるしかない。サブヒロインは最低でも懲役だ。もちろんこれは、僕の小説の話だ。

 

「あ、おれおれ」

「はぁ?あんた、とうとう詐欺師になったの」

スピーカから聞こえてくる音声は、二高に行った河村さんだ。相変わらずのツンデレさんだ。僕にデレたことは一回もないが。

 誰?誰?美波の彼氏?などと黄色い声が彼女の背後から聞こえてくる。

 

「ちょっと、聞きたいことがあるんだ」

えーっ、もしかして告白ー!なんて河村さんの友達が盛り上がっている。河村さん、少し上機嫌になった。遠くに親しい異性の友達がいるのは女子力の高さの証だ。(と今考えた。)

 

「あらたまって、なによ。あたし忙しいんだからね」

「美波の行った二高で、テロリストが暴れたりしてる?」

「はぁ~あ?!」

 

 それから、僕は一高であった過激な出来事を話して、河村さんから二高の話を聞いた。

 

 二高は、一高に比べれば何もないに等しかった。僕は、ガッカリした様子が伝わってくる河村さんに丁寧にお礼を言って回線を切った。

 

 

 これは、一体どう理解すれば良いのか?

 

 一高で起きたテロをもみ消したのは、大人の事情である程度説明できる。しかし、僕の個人的なテロリストを葬り去る外患誘致罪刑事告訴まで教員が止めた。僕は誰にも告訴するとは言ってない。四人にも通報しか伝えてないにも関わらず。

 

 最初から、学校は事件が、起きても全力で表沙汰にならないように準備をしていたとしか解釈できないのだ。何せ諜報まで使って表沙汰になるのを止めてみせたのだから。

 

 では、なぜそのような準備までして事件を表沙汰にしない必要があるのか?

 

 

 一高には、テロのような事件を欲しているのだ。

 

 もっと言えば、一高では事件そのものが教育カリキュラムの一つに入れられているに違いない。とは言え、自作自演は出来ないから本物のテロリストをわざと野放しにしていたのだろう。

 

 レベルの高い魔法師育成のために実戦を若いうちに経験させるのが一高の教育方針ということか。

 

 

 僕の学校は戦場だった。文字通り。

 

 

 

 今夜は最高。

 

 

 今日も眠れそうにない。寝る前に座禅をしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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入学編 16

あとがきにかえて

 

この小説のようなものは、主人公『僕』が魔法科高校に入学してから、数週間の出来事を綴った形式で書かれています。

いわば、入学編です。

多くの仲間と出会い、友情を育み、恋愛も経験したりして、その過程で人間的な成長を主人公『僕』は仲間とともに遂げて行く、まるでディズニー作品と同じようにはこの先も行かないでしょう。現実はそんなに甘くありませんから!

 

「あとがきにかえて」としておしゃれで簡潔な短編ミステリーが書かれているのは原尞だけです。『僕』にはそんな才能はありません。原尞の霊を呼び出したこともありませんので。

 

それでは、読者様からの激励を一部掲載させて頂きます。

 

「いつも、更新を楽しみしています。これからも、色々と参考にしますので頑張って下さい。必ず『味方の協力』はあります。サブヒロインの件よろしくお願いします。もちろん、小説の中の話ですよ」

 

小野 遥様 激励ありがとうございます。

 

『味方の協力』を期待しています。

 

最後になりましたが、担当さん、いつもありがとうございます。あらゆる方面で。

 

それから、いつも話題を提供してくれる、朝田さん白石くん涼野さん長岡さん(五十音順)ありがとうございます。

 

そして、『僕』の妄言につき合ってくださった読者様方に感謝致します。

 

 

著者しるす。

 

 

ここまで、書いて僕は次の作戦を練った。今回の妄言ブログは、読者から多数の支持を得はしないだろう。打ち切りを覚悟しておかなければならない。来たるべき打ち切りに備え次の作品の企画を今から考えておくのだ。備えあれば憂いなし。

 

次回作は、今回とは全く違う作風にすればいい。著者と全く違う性格の主人公を描くのはキャリアの浅い僕にはかなりの負担が予想される。しかし、天は我を見捨てはしなかった。すぐ近くに僕とは全く違う性格で小説のモデルに持って来いのクラスメートが存在している。

 

彼には美しい妹がいるし、クラスの綺麗どころも他のクラスの綺麗どころも彼の取り巻きだ。しかも、彼は超人的な活躍を一年生しかも劣等生とみなされている二科生であるにも関わらず、しているのだ。

 

次回作の主人公は、司波達也くんに決まり!タイトルは『魔法科高校の劣等生』なんてどうだろう?いい感じだ〜。僕自身は、戦略級魔法師を瞬殺する方法や永久機関を実現する方法を教える程度のモブキャラで作中にカメオ出演すればいいだろう。

 

時代は、無敵のヒーローを求めている。肉体的無敵、精神的無敵、社会的無敵のヒーローだ。ヒーローがスポンサーやオーナーにペコペコするなんて流行らない。

 

よし。早速、明日司波くんに明るく挨拶して討論会や図書館テロ未遂事件やその直後のブランシュ壊滅作戦での彼の活躍について聞いてみよう。おっと、ブランシュ壊滅は一般の学生は知らないことになっていた。危ない。危ない。急いては事を仕損じる。

 

 

「意識が高過ぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。 入学編」 終

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦前夜1

「俺の遥ちゃんがぁ!」

教室に入った途端に聞こえて来た男子の叫び。

 

お前が好きなのは小野局員、噛みました(ノ_<)!小野教員ではなくて小野教員の胸(推定Gカップ)だろう。

 

 どうせ、小野さんは情報でもリークし過ぎて上司に怒られているのだろうさ。勝手な約束までしているし。とはいえ、長期出張扱いならそのうち戻って来るだろう。変死体で発見されたりはしないと思うぞ。

 

「バカじゃないの」

後ろの方で、千葉エリカさんが舌打ちしている。黙れ、微乳女!どうせ、B程度だろ。

 

 僕は「あたし脱いだら凄いんです」とかは認めない。そんな事をいう女は、その場で脱いで証明しろと僕は強く主張したい。本人には、言いませんが。

 

( 僕の彼女に対するうがった見方はさておき、彼女の人気は絶大だ。彼女が意図して行動しているかはわからないが、引っ掻き回し役が板に付いていてほとんど嫌味にならない。引っ掻き回される方、特に西条くんは大変そうだが本気で嫌がっている様子はない。きっとマゾなのだろう。)

 

 ふと、視線を感じた方を見ると長岡さんが姿勢を正して座っている。彼女はじつは巨乳の部類に入っている。しかし、彼女の体型はボン・ゴー・ボンなので豊かな胸に見えないのだ。

(とはいえ、彼女は密かな人気を集めている。時折見せる「花々を背負って金粉撒き散らし睫毛大盛り黒瞳の中の煌く星々」は男子を一目惚れさせる。ただ、長岡さんは自分より弱い男子とは親しくしないと思うぞ。僕は他人の恋路を邪魔はしない。各自、頑張りたまえ。)おそらくDだ。

 

それに比べて、柴田美月さんはボン・きゅ・ボンなので母性をアピールする豊かな胸なのだ。多分Fだ。

(彼女は、人気があるのは誰も異論を唱えない。体型も性格もとても女性らしく、その上眼鏡がアピールポイントになっている。みんな同じ服装、つまり制服を着ている時に人との違いを際立たせるアイテムに眼鏡は持って来いだ。)

 

触らせて貰えば、その正確なボリュームを言い当てられると思う。ただ、触っただけでイカせられる『甘い生活』江戸伸介スキルはないので見るだけにしておこう。目指せ!巨乳評論家。でも、チカンは犯罪です!から触っては行けませんしガン見もダメです。よい子のみんなは、見てもバレないスキルを身に付けよう!

 

 先週土曜日に大活躍したと思える我らがヒーロー司波達也くんを観る。もちろん視線は合わさない。殺した人数は増えてないようだ。今日の彼は、ハッキリと軍人しているのに週末に誰も殺さなかったようだ。ただ、半殺しにはしたと想像はつく。

 

 はい。観るの終わり。これ以上観るとばれてしまう。

 

 それと、司波グループを詳しく調べる必要もなくなった。朝一、担当さんから返事があったからだ。

 

こういうことだ。昨晩僕は担当さんへ「?」と送信した。今朝の担当さんから僕への返信は「!」だったのだ。

 

どうやら、僕の一人称妄言小説もどきは予想外の支持を集めているらしい。

 

あとがきを書いたら、「もっと続けろ。〔捜査に〕支障をきたす」(〔〕内は僕の想像です。)「なんなら、十倍代金を払う」等の檄文が出版社に届いているそうだ。少し、脅迫じみている様に感じるのは気のせいだろうか?一体、どんな人達が読んでいるのか私、気になります!

 

 犯罪の世界でも、現代魔法が使われるようになって百年近く経過した。昔の捜査は簡単だった。ネット上を飛び交う犯罪関連キーワードを自動で検索し続けて怪しい人物を見つければその口座を調べそこで不自然な金の移動があれば、いよいよ怪しいとなって捜査員を投入し、証拠があつまれば最低でも共謀罪で検挙出来た。

 

 そのシステムのおかげで、日本は第三次世界大戦が始まる前に日本国内の敵勢力(特に現大亜高麗自治区人)の一掃に成功し大戦で実質的に勝利して戦勝国に返り咲いた。

 

 ところが、このテロ等重犯罪自動サーチエンジンは自己学習機能で対一般人には絶大な効果を発揮したが、対魔法師には効果が薄かった。

 

 犯罪に現代魔法が使われる頻度が多くなれば多くなるほど捜査当局はより魔法師に頼るようになった。同じことが国軍でも起きている。すでに、軍の実質的な主力は魔法師で構成される民兵や特殊部隊なのだ。(諜報も含む。)

 

 このままでは、国の中枢を魔法師に全て牛耳られてしまうと一般人が恐怖するのはある意味仕方ないことなのだ。実際は、非魔法師の既得権保持者達が一般人の魔法師に対する不安を煽っているのだが。

 

「凄いことになった!」

突然、白石くんが声を掛けて来た。でも、白石くんもう講義が始まるからまた後で。

 

                 ◇◇◇

 

 魔法史の講義は好きだ。魔法がどの時期から世界に広がって行ったのかが良くわかる。しかし、明らかに不自然な解釈も講義や教科書の中に見られる。

 

そもそも、現代科学の基礎はニュートンから始まった。彼が提唱したエネルギー保存則の考えがあまりに見事だったので総ての物理的な現象は初期条件さえ与えれば計算によってその結果が求められるとまで信じられてしまった。いわゆる、「科学教の時代」だ。(僕の造語です。)

 

ニュートンの前の時代は観察結果から法則性を見出すことで満足していた。ケプラーの法則は有名だ。

 

これらの法則や理論を打ち立てたのは、非魔法師系の一般人だった。その為に、事象改変などは思いもよらずむしろその逆である慣性の法則や作用反作用が絶対的に存在していると結論し世間もそれに追随した。

 

この影響は大きくダーウィンの進化論がにわかに信じられる様にもなった。エネルギー保存則的な考えを突き詰めれば過去より今の方はより色々と(エネルギーなど)蓄積されているのでより生物もより進化しているはずだと信じてしまったのだ。環境に合わせて生物がマイナーチェンジするのは知られているが交配不能な位の飛躍的な種の変化は今も昔も説明できないのだ。

 

これだけだと単に生物学の話で終わるのだが、新人類と言えなくもない魔法力を持った人類を魔法力を持たない人類よりもより進化した種であると考える魔法師がいるので厄介な事になる。(たとえば、森崎くん。)プライドや自信を持つのは悪くはないが選民思想にかぶれるのは良くない。魔法力を持つ者と持たない者とで交配可能であるから異なる種であると考えるのがそもそも間違えなのだから。

 

講義でも、昔の魔法より今の現代魔法の方が多様性や速効性などで優れていると教えている。いまだかって古式魔法と言われる本物の能力者が現代魔法師との発動速度で遅れを取った事はない。

 

実は、格闘技や武道に現代魔法を融合して相当強くなった人物が本物の武術家や導士に挑戦したことはかなりある。結果は、全敗。近接戦闘では、現代魔法の有無に関わらず功夫がある方が勝つ。別に秘密でも何でもないのだが何故かあまり知られてない。

 

それともう一つ秘密がある。かつて本物とカテゴライズされた武術家は五段階以上だった。ところが、現代魔法を駆使する格闘家も五段階の意識を持つ人物が現れる様になった。そこで、本物とカテゴライズされる武術家を六段階以上に条件を厳しくしたのだ。そのおかげで、六段階、つまり「道を得る」とか「悟りを開く」まで習い易く最近はなっている。

 

西暦2000年を過ぎた頃から徐々にそうなって行った。とはいえ、習い易くはなっているが誰もが六段階になるわけではない。

 

結論を言えば、西欧人が考え出したものは所詮エネルギー保存則に縛られているショボいものばかりだ。そんなものを習得させるために学生を競わせるのは無駄である。また、事象改変がしにくいと信じ込んでしまい魔法能力向上にも悪い影響を学生が受ける可能性も高い。

 

魔法科高校の教育カリキュラムが、魔法関連以外の一般教科、数学や語学や科学や社会学は試験を実施せずに普段の提出課題で学生を評価する事になっているのは非常に合理的で好ましいと考えられる。

 

ソースは僕。ここへ来てまだ1日も学校を休んでいない。自分で自分を褒めてあげたいくらいだが、この魔法科高校が僕に合っているのが最大の理由だろう。

 

ところで、白石くんは、何を言いたかったのだろう?

 



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九校戦前夜2

「武術の練習場所を確保しようとして小野先生に相談してたんだ」

白石くんは、そんな事を考えいてくれていたんだ。白石くんエライ!彼の言う通り、我々はゲリラ的に構内で勝手に場所を占拠して練習をしていた。学校非公認団体という点ではエガリテと同じだ。

 

「それで、部活動として申請してはどうかとなって」

白石くんは、申請書を部員(?)に見せた。僕等は司波グループよりはその目立ち方はかなりスケールダウンしているが、先日のテロ未遂事件でテログループを掻き回したトンデモ一年生集団とみなされる様になった。テロからほんの少ししか経ってないのに学校裏サイトでもあるのだろうか?

 

それと、長岡さん。あの時、テロリストが僕等を追い掛けて来なかったのは長岡さんが三人を蹴って動けなくしたのを僕は本当は見ていたんだからね。ダメですよ。八卦掌の人はそれでなくても宦官董海川とか眼鏡屋程とか古着屋梁などと言われ他門派から何故か畏れられてないのだから。

 

どうして、他門派に嫌がられているのかは実はハッキリしている。比較的早く功夫が積める為、黒社会で活躍している者が多いからだ。他にも理由があるがそれらはまたの機会にしよう。

 

「まだ申請書を出してないのに部室が用意されていたんだ!」

確かに、それは凄いと言うより変だ。部活連や生徒会にも根回しどころか挨拶さえしていない間に新しい部を作るのは不可能と思われる。

 

「何か条件を出されていない?」

僕は、学校の意図が大体読めたが念のため尋ねてみた。

 

「非魔法系の部活動と申請書に記載済みだった」

やはり、そうか!エガリテの様な連中に侵入されて大事には至らなかったがあまりに無警戒過ぎたと学校側は判断したのだろう。学生の実戦経験を積ませる為とはいえ、国の機密を流失させては元も子もない。

 

「一科生と二科生の軋轢を少しでも和らげようとする学校の配慮だろう」

と最もらしい事を僕は言っておいた。テロ決行の数日前に連中の狙った場所を当てた僕の能力を学校側も利用したいのだろう。ただし、出来るだけ目立たない形で。

 

次に、クラブ名をみんなで決めようとなった。

 

「隣人部」友達が欲しいと真剣に悩んでいる方が来られたら魔法で作れよと即答してしまうのでボツ。

 

「奉仕部」好きな男子に手作りのチョコレートを渡したいと相談に来られたら魔法で作れよと即答してしまうのでボツ。

 

「SOS団」武術家も導士も魔法師も間者もいるのだから、宇宙人や未来人とか今更要らない。よってボツ。

 

「ラノベ部」面白いが人気が出なさそうなのでボツ。

 

「中国武術研究部」この高校で仮想敵国名を連想する部名はエガリテと同類と思われかねないのでボツ。

 

(たまに、話を盛っています。ご了承下さい。)

 

◇◇◇

 

 

「入れ」

「失礼します」

十文字会頭だけかと思っていたら、部屋の中には七草生徒会長と渡辺風紀委員長までいた。僕は新部創設で部活連に呼び出された。学校が創部に積極的になっているので十文字会頭は不審に思っているのだろう。

 

「この「軽妙小説研究部」の創部理由は申請書に書いてある通りだな」

「はい。そうです」

「不勉強で申し訳ないのだが、軽妙小説とは何かね?」

十文字会頭は、知らないのは当然だろう。

「100年程度昔は、ジュブナイルあるいはライトノベルと呼ばれイラストが充実して文字数が少なくて読みやすい少年少女向きとされた小説です。最近は、これが小説の主流となっています」

「文芸部とはどの様に違うのか?」

「文芸部は建前として今は完全に形骸化した純文学を主に扱う活動です」

「どうして、わざわざ新しく創部する必要があったのか?」

どうも十文字会頭には、「軽妙小説研究部」がお気に召さない様だ。

 

「ふふ。本当は、自分用の仕事場を校内にも持ちたいのでしょう?氷室雪絵先生」

七草会長は、個人情報保護法を知らないのか?これまで、クラスメイトにもこのブログの読者にさえ隠していた事をバラしやがった。

 

意外なことに、氷室雪絵と聞いて十文字会頭と渡辺風紀委員長の意志が僕に集まって来た。僕の視野が狭まる。ここで、太極拳的に相手の意志を受け流す。相手の心が良くわかる。二人とも氷室雪絵を知っているし、興味がある。

 

(この様な現象は、普通の人にも起きている事がある。しかし、自分の意見や考えを表現するのにこだわってしまい相手の心がわかる機会を失ってしまうのだ。)

 

小学生の時、昔の少年少女漫画や小説を読んでこれなら僕の方がもっと面白いものが書けると思い上がり「魔女っ子メグミちゃん」なるバカバカしい短編を書き上げた。困った時は、ホモネタ!これで絶対にウケると本気で考えていたりした。当時は、偉大な発見をしたと喜んだものだ。若気の至りである。

 

小学生の時に売国奴を外患罪等で刑事告発をして問題児扱いされ急場しのぎに両親がこれは小説のネタです等と学校に説明した話を以前書いた。中学生になって何となく小説家デビューとなったのだがブログを面白おかしく書いているだけでは格好がつかないと出版社も思ったらしく処女作として小学生の時に書いた作文を書き直してとりあえず出版した。

 

これが予想に反して評判が良かった。魔法科高校入学を目指すおバカな女子中学生が主人公の話だ。同じクラスで実際に魔法科高校を目指していた河村美波さんを大いに参考にしたのが良かったのかも知れない。(参考にしたのがバレて彼女を大いに怒らせてしまったが。)

 

魔法科高校入学は厳しい受験戦争をくぐり抜けなければならないと一般的に考えられている今、全く逆の雰囲気を醸し出す僕の処女作(?)は、本当に魔法科高校を狙っているあるいは狙っていた層だけに限ぎればかなりの普及率らしいのだ。恐ろしいことだ。

 

会頭や委員長は読んだ事があるのだろう。

 

「これは失礼した。氷室先生の希望というなら部活連も出来るだけ協力して行こう」

「十文字くん…」

会長は会頭の急変した態度に驚いている。

「風紀委員会も出来るだけ氷室先生の創作に協力する。取材等の個人的な協力も惜しまない」

「摩利?」

会長は委員長の不可解な態度を訝しんだ。

 

七草生徒会長は、「魔女っ子メグミちゃん」を読んでないか全く興味がないかのどちらかであるのがわかった。

 

◇◇◇

 

学校が用意した部室は、かなり広かった。余裕で武術の練習が出来る広さだ。しかし、至る所に隠し監視カメラが設置されている。学校側は、長岡さんの八卦掌も研究したいのだろう。こんな事をしなくても謝礼を払って彼女から習えばいいのに。

 

部室の隅には端末があった。これも、部員が何を閲覧したかどこと通信したか全て学校側に筒抜けになっているのだろう。それを差し引いても学校の図書館の蔵書にアクセス出来るのは素晴らしい!一々図書館に行く手間が省ける。

 

長岡さんが、早速練習を始める。練習場所が決まり気分が良い様だ。

「今日は、八卦掌の立禅をします」

彼女が見本を見せる。指先と手のひらがどこに向いているのかに注目だ。一般的に行われている太極拳とも形意拳とも言えない中途半端な立禅とは、明らかに違う形であり雰囲気も違う。監視している方々はそこら辺に注目すると良いだろう。あと、指と指の間がどれくらい離れているのかも良く見て研究して頂きたい。

 

皆んなの立禅の姿勢がほぼ決まった時に、長岡さんが紙コップを部員の肘の内側に置いてまわった。今まで気楽に立っていたが紙コップを落とさないと思うと緊張してしまう。そこで、筋力で頑張ってしまうとかなりの負担となる。

 

白石くんの顔色がおかしい。真っ赤になっている。紙コップを落とすまいとして筋力で姿勢を保とうと頑張ってしまっている。

 

朝田さんは、息を潜める様にして紙コップを落とさないようにしている。

 

涼野さんは、すでに落としていた。

 

僕は、気楽に姿勢を保って紙コップを落とさない。

 

約2分でその練習は終了した。

 

長岡さんから、詳しい解説があるのかと思ったが何も無いまま前回同様に走圏の練習を彼女は始めた。

 

部員には、後で僕がフォローしておこう。

 



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九校戦前夜3

魔法科高校と言えども、魔法以外の科目の授業はある。同盟国の米国の言語である英語もその一つだ。しかし、さすが魔法科高校と言うべきか定期試験に英語はなく提出した課題の評価だけで科目の成績が決まる。

 

以下が今回の課題。バカテス?なんと第45代米国大統領のトランプ氏のツイートからだ!このツイートの日本語訳の誤りを正すのが課題だ。

 

North Korea has just launched another missile.

Does this guy have anything better to do with his life?

Hard to believe that South Korea

北朝鮮は、また別のミサイルを撃った。

この男(金正恩)は人生で他にやること無いのか?

南朝鮮を信じることは難しい。

 

....and Japan will put up with this much longer.

Perhaps China will put a heavy move on North Korea and end this nonsense once and for all

そして、日本は、これ以上耐えられない。

たぶん、中国は北朝鮮に重大な動きをする。

そうすれば、こんな馬鹿げたことは二度と無くなる。

 

で、僕の作った解答。

 

直す箇所は特にない。第三次世界大戦で勝利した米国は、大戦以前から例文にあるように東側諸国を警戒していた。特に警戒を強めたのがトランプ第45代米国大統領だ。当時、米国と南朝鮮は軍事同盟を結んでいたが南朝鮮の行動に不審感を持ったトランプ大統領が例文の様にツイートした。

 

多くの人が南朝鮮を信用出来ないと誤解するのを承知でこの様に書いたのだろう。実際に当時の南朝鮮の文大統領はICBMの発射実験まで断行している北朝鮮と戦争はしないと公言していた。これでは同盟国の米国から信用されるはずがない。(実際にこの後、米国に見捨てられた南朝鮮は北朝鮮とともに体制が崩壊し大亜連合に組み入れられ独立を失った。両朝鮮で魔法師がほとんど出現しなかったのも独立を失った原因の一つと考えられる。同じ現象が南米でも起きている。ブラジルだけが魔法師育成に成功して他国に圧勝しているのだ。)

 

ピリオドがないのでthatを形容詞ととらえずに接続詞と解すれば、北朝鮮のミサイル実験に耐えられないのは日本と南朝鮮になる。

 

部活で英語の課題が話題になった。

 

「しまった!that A and B will put up with 〜だったのか」

白石くんは、文法解析ができなかったらしい。

 

ただ、この課題は日本語訳の文法的な誤りを指摘して正すのが目的ではないと思うよ。白石くん。おそらく、トランプ大統領は僕が解答した通りにわざと誤解させるようにツイートしたのだろう。当時、大統領は敵対していた米マスコミに記者会見をせずにネット上でツイートして情報発信を行っていた。なので、自分の意図が誤解されるような表現は避けたはずなのだ。

 

「ふ〜ん」

涼野さんは、この話に多少の興味があるようだ。

 

「中国ではなくて中華人民共和国よね」

朝田さんは、とても優秀な頭脳をお持ちのようです。朝鮮民主主義人民共和国を噛まずに言えるかも知れない。ちなみに南朝鮮は大韓民国だったらしい。

 

「ツイートって何?」

長岡さんには、もっとはじめから丁寧に説明をするべきだった。

 

ちなみにこの時期に僕が習っている座禅は中国大陸から上陸した。中華人民共和国は、日米と対立していたが中国人の中には最終的にどこが勝つかを予め知っていた者がいた。(実力派の占師に見て貰えばすぐにわかる。)特に海外に移住しているいわゆる華僑の中にそのような者が多かった。そこで、連中は両建てした。

 

西側が勝っても東側がかっても自分たちに害が及ばないように。しかし、これは表向きの話だ。実際は、東側に顔を向けて軸足を西側に置いていた。

 

 最初から、日米同盟側が勝つと予想している者が連中の中枢だったからだ。第三次世界大戦の勝敗を簡単に言い切るのは困難であるとされているが、中華人民共和国とロシア連邦はなくなり両国は世界中の経済領土を失った。大亜連合や新ソビエト連邦が成立して勢力が拡大したかに見えるがその市場には日欧米が進出して、実質的な経済領土になっている。(植民地とまで言わないがそう言っても差し支えない事もある。)

 

 国境でたまに起きる侵略は、単なる軍のガス抜きの一種で本格的な侵略に程遠い。せいぜい魔法師の実戦訓練を積ませる効果しか得られてないのが現実だ。

 

 とこの百年を簡単にまとめてみたが、これでも僕はまだ足りないと感じる。

 

 むしろ、国と国の本格的な争いはすでに終了していると考えているのだ。核兵器等の大量破壊兵器と戦略級魔法師等が本格的に投入されれば戦争に勝つ負ける以前に国が滅びる。国民動員法が施行させてなくても国民がほとんど死ぬ。もっと突き詰めれば国破れて山河無しだ。

 

 では、今行われている国と国との小競り合いはいったい何なのか?

 

 これは、魔法師が人間社会を自然に支配していく為に仕組んだ大いなる茶番である。

 

 戦争があるから、敵国より強力な兵器が必要だとして兵器開発に莫大なコストが費やされて来た。そのために武器開発メーカー等が巨大化し権力を持つようになり戦争をたまに起こして兵器が売れなくなるのを防いでいたのとよく似た現象が起きているのだ。

 

 戦争があるから、敵国より強力な魔法師が必要だとして魔法師養成に莫大なコストが費やされている。そのために魔法師集団が巨大化し権力を持つようになり戦争をたまに起こして意図的に魔法師の社会的な需要を常に逼迫させているのだ。現代魔法の平和利用だけでの需要はすでに十分満たされており莫大なコストを費やしてでも魔法師を育成する理由を正当化できない。

 

 魔法師は全人類の数パーセントも存在しない。その魔法師が軍だけでなく警察や諜報まで影響下に置いている。実際は、科学分野も現代魔法の応用研究に一番予算が割かれており、このままいけば人類の主要分野は魔法師が抑えてしまう。

 

はたして、魔法力を持たない残りの大部分の人類がその状況に甘んじられるだろうか?

 

 僕は、楽観していない。この状況を放置すればいずれ魔法師と非魔法師との階級闘争が始まってしまう。

 

 僕が、戦略級魔法師を瞬殺する方法を開発しようとしているのはこれを防ぐ為だ。核兵器は科学技術の発達によりその防衛手段が確立されてしまった。その為、核拡散防止条約は大した意味を持たなくなった。核兵器を使用する前に必ずバレてしまい、その維持費が膨大な核兵器を保有したがる物好きは最近ほとんどいない。

 

ところが、核兵器と同等の破壊力を持つ戦略級魔法師の存在は厄介だ。何しろ防衛出来ない。一個人の意志で発動されるのだから。極端な話、新ソ連の戦略級魔法師がトチ狂ってモスクワを焦土にする可能性だってあるのだ。自国でさえ自国の魔法師の管理が完全ではない。

 

今のところ、そのような事態は起きてないようだが将来起きない保証はない。また、この保証のない状態が続くのもまずい。これでは百年前のいつ核戦争が起きるかと心配しながら生きて行かなければならない状態と何も変わってないのだ。

 

戦略級魔法師に対する抑止力を持てば万事解決とはならない。核兵器の完全な防衛が米国を中心としたシステムでしか確立しなかったのが参考になる。同じように戦略級魔法師の暴走を止めるのがどこかの国や組織や個人に限られる状況もまずい。戦略級魔法師とその暴走を止める人物が結託すれば監視機能が無くなってしまうからだ。

 

だから、戦略級魔法師の暴走を止める者も戦略級魔法師になる者もまとまった数だけ作り出すの必要がある。そうすれば、互いに抑止力が機能し個人の暴走で大量破壊が継続的に起きるのを防げる。それだけでなく、魔法師と言えども単なる人間社会の一構成員であり人間社会の上に君臨する者でも人間社会で兵器として道具として扱われる物でもないと説得力を持って主張出来る。

 

それまでに、正しい努力さえすれば誰でも魔法師になれる、つまり魔法師の民主化大衆化に成功しておかなければならないがそれは中学三年の時にある程度のメドが立った。しかも、五段階にさえなれれば現代魔法師に簡単になれるとこの1ヶ月で実証出来た。

 

後は、この三年間で六段階になれば戦略級魔法師になれるし戦略級魔法師を瞬殺可能となるとする自説を証明して行こう!

 

このミッションは、戦略級魔法師の一挙手一投足に神経質になっている本当の権力者の皆様やいつ梯子を外されるか疑心暗鬼になっている戦略級魔法師の皆様に福音となるだろう。



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九校戦前夜4

ゴールデンウィークに地元に帰って来たのは、ホームシックにかかった訳ではない。それにしても適当な理由を付けると交通費を出してくれる出版社の気前の良さに呆れる。単なる里帰りを経費と認めるのはやめた方がいいぞ。

 

家族の話は、割愛させて頂く。今回は、我が処女作のモデルとなった河村美波さんの話だ。一高でテロが起きた後に二高ではどうなのかと彼女に聞いたらそんなことは起きてないと返事が帰って来たエピソードは紹介した。その後、彼女から連絡があった。「あなたに会いたい」と言うセリフは彼女の口から出て来なかったがどうも彼女が僕に会いたがっているのはわかった。多分、調子が悪いのだろう。色々と訳ありなので他の用事のついでに「美波ちゃん」に会おうと思った。

 

珈琲店「タレーラン」は、いつも女性用のカラフルな傘が一本傘立てに立て掛けているとか(今どきそれはない。)ヤンデレの彼女に投げ飛ばされるとか、(それは立派な傷害罪。)一目惚れした人とは結ばれないとか根拠のない都市伝説が売りになっているバリスタのいる喫茶店だ。

 

約束の時間よりも10分は早く来たのに彼女はすでに店内で座っていた。

 

「一瞬誰かわからないくらい綺麗になったね〜」

「あんた、相変わらず軽口叩いてるの?」

「何言ってんの!めっちゃ可愛いやん。マジで誰かわからんかったって!」

「もう、ええわ!」

 

女の子は、褒めて褒めて褒めて褒め続ければ機嫌が良くなる確率が高い。たまにこれが通用しない女の子がいるので使う時は注意しよう。

 

では、本題に行ってみよう!

「好きな人が出来たの?」

 

彼女は、真っ赤になった。河村美波さんから美波ちゃんに戻った。わかりやすいね〜。

 

「ななななに言うてんの!」

はい。図星でした。彼女は、素直な良い子です。中学の時好きだった男の子に遠慮して高校で新たに好きになった男の子に恋愛感情を露わにするのを躊躇っているってところか?

 

「じゃあ、それは置いといて。身体が硬くなってない?」

「バカ」

彼女は、本当は僕に何か未練がましいセリフの一つや二つ言って欲しかったのだろう。でもそこは敢えて無視する。未来思考で突き進んでもらう。彼女にも。僕の「戦略級魔法師育成計画」に協力して頂く。強制的に。

 

「中学の時に一緒に研究していた練習法では多分エネルギー不足になるよ。あれから、色々実験して効果を確かめた練習法を紹介するよ」

「女の子に色々実験してみたの?」

河村美波さんは元気を取り戻して来た。僕の心を少し読んで、しかも嫌味を言えるくらいに。

 

「女の子にも、男の子にも実験して確かめたよ?」

「バカ」

きっと、そんな事ないよと嘘でもいいから否定して欲しかったのだろう。

 

男女の恋愛ゲームみたいな駆け引き、腹の探り合いはこれ以後ありません。

 

◇◇◇

 

河村さんは、幼い頃から魔法力らしき能力があったらしい。しかし、あまりにその力は貧弱過ぎて魔法師になったり魔法科高校に入学出来るとは誰も思っていなかった。もちろん本人も。しかし、秘められた野心が彼女にはあった。

 

「為せば成る。為さねばならぬ。何事も。成らぬは人の為さぬなりけり」と言って僕は面白半分ネタ作り半分に彼女と一緒に「目指せ!魔法科高校」と公言してたくさんおバカな特訓をやった。「美波。エースを狙え‼︎」昔のスポ根マンガのノリだ。一応、武術や禅を参考にしていたので実際は言うほど的はずれな訓練ではなかったのだが。

 

結果的に僕を含めて3人の魔法科高校合格者を出してしまい、校長が泣いて喜んでいた。途中色々とあった。魔法師を否定する基地外教員を告訴して結果的に飛ばしたりした。

 

当時は、正式に禅を教えて良い許可を得てなかったので自分が習った方法をそのまま紹介できなかった。しかし、状況が変わり正式に教えても良い運びになった。

 

そこで、早速河村さん宅にお邪魔して素直そうな彼女の妹達の前で彼女の背骨を押している。それにしても、僕を見るなり「姉ちゃんの元カレ来たー!」と盛り上がるのはやめて欲しい。

 

そんな素朴な妹達にも背骨をほぐす方法を教えた。僕がいない時に妹達に彼女の背骨を弛めてもらいたいからだ。

 

「手の掌をこっちに回して背骨に光が入るようにするんだ。これで美波姉ちゃんは立派な魔法師になるよ!」

「マジで〜!?」

ふざけているようだが妹達は真剣だった。彼女達にとって美波姉ちゃんは誇りなのだ。いや、この地区の住民にとってもそうだ。

 

喋りながら、河村さんの背骨を弛めて行く。首の根元から施術し始めると段々と際どい部分を触らなければならなくなる。さっきから彼女は無口になっている。僕は彼女の命門穴付近で彼女のウエストをしばらく揺らした後さらに下部に掌を移動させて行った。彼女はおし黙ってしまった。仙骨付近も弛ませた。耳が真っ赤になっている。

 

妹達もお喋りを止めている。何か未知への領域に突入し始めたのを彼女達なりに感じたのだろう。そのまま僕は河村の背骨弛めを上下に数往復した。

 

「はい。次は君達の番だよ」

うつ伏せになったまま顔を見せようとしない河村さんをそのままにして妹達を一人づつ横になってもらう。

 

身体の潤いが収まった河村さんが起き上がって、僕の施術を熱心に見学し始めた。そこで、丁寧に教える。お互いに信頼出来る人達で施術し合って背骨を弛めて行くのが良いのだ。

 

河村さんは自覚がないようだが妙に女性らしくなっている。もっと単純に表現すると「エロい」だ。この表情と仕草とを彼氏候補に見せたらその男の資質にもよるが惚れるのはほぼ間違いないだろう。

 

「わっ!見て見て、浮いた!」

河村さんの妹達が、盛り上がっている。背骨が弛んでサイオン過剰になっているのだろう。バランスボールを少し浮かせて喜んでいるのだ。それは一瞬の事だったがCADなしで起きた。再現はしなかったが、妹達も着実に魔法師に近付いている。いや、「戦略級魔法師」にだ。

 

ちなみにこの後、えっちな展開は全くありません。御了承下さい。

 

◇◇◇

 

ゴールデンウィークが過ぎると、雨期の前の日照りの時期になった。とは言え、一高の設備はとても贅沢なので外気の状態がどうであろうと構内はとても過ごしやすい。それは、「軽妙小説部」の部室にも当てはまる。

 

僕は、形式的に部長になっているのでほぼ毎日部室に来て備え付けの端末(学校の図書館に接続可能。ただしバックドア付き)を閲覧している。

 

戦略級魔法師について調べていたところ、面白い記事を見つけた。

 

『沖縄海戦(おきなわかいせん)とは、2092年8月11日に大亜細亜連合が日本の沖縄へ侵攻した戦争である。日本では沖縄防衛戦とも呼ばれている。この戦争では日本が勝利した。 ただし、戦後、捕虜の交換は行われたが、講和条約も休戦協定も結ばれていない。』

 

講和条約も休戦協定も結ばれてないのに日本が勝利したと言えるのはとても不思議だ。おそらく、裏で賠償金的なものを大亜は日本から課されているのだろう。同じようなことが以前あったのだ。

 

第二次世界大戦は日本の無条件降伏で終了したことにされていたが天皇陛下と天皇家を守る為に裏で莫大な賠償金を米国に払わされた。のちにM資金と呼ばれている。(これが日本の大逆転になると偽ユダヤは気付けなかったらしい。日本と天皇家の力を侮り過ぎだ。)

 

沖縄海戦の経過も面白い。

 

『2092年8月11日朝より宣戦布告無しに戦端が開かれたことから始まった。慶良間諸島近海は早々に制海権を握られ、軍内部の反逆者を含むゲリラなどの妨害により沖縄県名護市に大亜細亜連合の上陸を許した。』

 

しかも!

 

『粟国島北方より大亜細亜連合の艦隊(高速巡洋艦2隻、駆逐艦4隻)が進軍し、20kmまで近寄り艦砲射撃を開始した。』

 

とある。これ完全に負け戦だ。強力な援軍でも来ない限り逆転の可能性はない。そのような記録はもちろんない。しかし、『日本の国防軍恩納空挺部隊の活躍等により大亜細亜連合の上陸部隊は壊滅、投降した。』となっている。

 

何じゃこりゃーーー‼︎

 

何でこれで納得できんねん。アフォか?

 

普通に考えれば国軍が起死回生の逆転技を繰り出したとしか思えないだろ。平たく言えば、戦略級魔法師の投入だ。しかし、五輪澪は、(『日本が公表している唯一の戦略級魔法師で十三使徒の一人である。』)投入された記録は見られない。世界には、非公認を含めると戦略級魔法師は50人程度とされている。おそらく我国の非公認戦略級魔法師が投入されて大逆劇を演じたのだろう。

 

でなければ、敵艦隊をどうやって全滅させたのだ。しかも、その記述がない。更に、『戦闘後の捕虜交換の際「摩醯首羅」(まけいしゅら)という言葉が大亜細亜連合に伝わっている。』とする記述があった。

 

「摩醯首羅」とはシヴァ神の事らしい。ちなみにシヴァ神とは、

 

『トリムルティ(ヒンドゥーの理論の1つ)ではシヴァは「破壊/再生」を司る様相であり、ブラフマー、ヴィシュヌとともに3柱の重要な神の中の1人として扱われている。また、シヴァ派では世界の創造、維持、再生を司る最高神として位置づけられている。デーヴィ(ヒンドゥーの女神)らを重視するシャクティ派では女神らが最高神として位置づけられている一方で、シヴァもヴィシュヌ、ブラフマーとともに崇拝の対象となっている。このシャクティ派では女神らがシヴァやそれぞれの神の根源であると考えられており、パールヴァティー(女神)がシヴァに対応する相互補完的なパートナーであるとされている…』

 

『シヴァ神は「破壊/再生」を司る』か。

 

『シヴァは、「破壊/再生」を…』

 

んっ?

 

あれれれ〜?おかしいゾ〜!

 



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九校戦前夜5

背後に気配が生じた。殺気がないから安心できるがこれは心臓に悪い。

 

「長岡さん。何か新しい技術を開発したの?」

 

「この世とあの世の中間に居ただけ」

どうやら、以前から出来る技術に磨きをかけたらしい。イデアの次元でエイドスに何も情報を持たせない様にしたままで動き回ったのだろう。平たく言えば『空』のままで歩き回っていただけだ。

「何か用事?」

 

「数学を教えて欲しい。虚数って何?」

彼女は単刀直入な性格だった。

 

「虚数は、単なる数学の道具だよ。ただ、偉大な思い付きは必ずと言って良いほどより高い次元の何かを参考にしているから虚数も元は『この世に対するあの世のエネルギーを表す数直線』と言っても良いかも知れない」

 

「死のエネルギーがとても大きいと数式で表せる?」

 

そこまでは考えた事がなかった。そこで、ノートに運動量p=mv、M=m/√1-v²/c²、等ととりあえず書き出してみた。

 

「速く動くと年を取らないってやつ?」

長岡さんは、T=t/√1-v²/c²を指差している。

 

「そうとも言うね」

と僕は答えたものの、彼女はよほど興味があるのか妙に身体を寄せてくるのが気になる。僕と長岡さんの物理的距離が縮まる。

 

L=l/√1-v²/c²に意識が向いた途端に、閃いた。

 

「vは、速度だ。普通なら光速に近くなるくらい速く動かないと質量が大きくなったり、時間を長くしたり、距離が長くなったりはしないよ。でも、vをこの世の速度とあの世の速度をベクトル的に加えたものと考えると話は変わって来る」

 

僕は、見かけの速度=この世の速度Re+あの世の速度iと書いた。この世の速度を実軸にあの世の速度の方向を虚軸に取った。見かけの速度を複素平面上で書き表しただけだ。

 

「もし、あの世の速度が大きくなればこの世の速度はそのままでも見かけの速度の大きさは大きくなって光速の大きさとほぼ同じに出来る」

 

「死のエネルギーが大きくなれば、この世のエネルギーも大きくなるって事?」

 

僕は、p=mvを指しながらvの大きさが大きくなるとmの大きさも大きくなり、その積である運動量が更に大きくなると説明した。

 

彼女は微笑んで

「人を殺すのに核は要らない。針一本で充分」

と思わせぶりな事を言って消えた。(僕が、彼女から視線を外した一瞬に彼女は移動し、どこにいるかわからなくなった。)

 

僕が、一応プロのライターであると部員に以前明かしたところ、一通りみんな驚いていたがその後部員たちに何の変化も見られなかった。ただ、長岡さんだけはネタになりそうな言動が以前より増えた気がする。

 

ちゃんと書いておきましたよ。長岡さん。でも微エロは要らないと思うよ。この小説ではそいうのは書かないので。(他のペンネームで書いている作品では読者サービスしまくっているけどね。)

 

 僕はもう一度考える。脳を緊張させないように閃きやすい状態を保って。

 

核、破壊、針一本、再生、死のエネルギー、虚数、独りで可能、見かけの莫大なエネルギー…

 

複素数の平方根は複素数だから、T=t/√1-v²/c²において分母の平方根がマイナスになるようなvを取るとTはマイナスになる。つまり時間を逆転できる。極端な場合、死んでも生き返る。

 

 どんなに離れていてもL=l/√1-v²/c²が成り立っておれば、分母の平方根をほぼ0にするvをとれば簡単に手が届く。どんな遠距離でも狙撃出来る。

 

 M=m/√1-v²/c²である時、分母の平方根をマイナスにするvを実現すれば見かけの質量はマイナスになり、重力の方向を逆にできる。つまり、自由に空を飛べる。

 

いずれも、この世の速度とあの世の速度の比率を変えるだけで実現可能になる。

 

 運動量は、p=Mv=(m/√1-v²/c²)から、vを複素平面上で定義できれば無限の+エネルギーも無限の-エネルギーも自由自在に操れる。過剰エネルギーで爆発させるのも、エネルギーを奪って分解したり温度を下げたりも可能だ。

 

主なパラメータはこの世の速度とあの世の速度の二つしかないのでたった一人の魔法師が、破壊(莫大なエネルギーによるものと、マイナスのエネルギーを加え分解するものとの二種類を含む。)も再生(時間の逆転による)も距離の大きさを問題にせず行えると証明出来た。

 

         ◇◇◇

 

「どうだった?」

「大丈夫?」

部員たちが心配してくれている。僕が教員に学科試験のことで訊問を受けていたからだ。「パクリ」の疑いで。心配してくれてありがとう。白石くん。

 

魔法科高校の学科試験に魔法理論の記述式テストがある。そこに、ゴールデンウイーク明けに発見した特殊相対性理論を使った高難易度の現代魔法実現の可能性の証明を書いた。

 

「それのどこが問題なの?」

涼野さんが首をかしげる。

 

「同じような内容が、MITの現代魔法理論研究所から先日発表されていたそうなんだ」

 

「それは、いつの話?」

長岡さんに訊かれて部室の端末から発表された日を調べた。僕ではなくて朝田さんが。

 

「6月11日よ」

「じゃあ、MATがパクリ」

長岡さん、それはモンスターアタックチームです。MITです。マサチューセッツ工科大学ですよ。

 

長岡さんが、判官筆(ただの、万年筆なのだが彼女がもつと凶器にしか見えない。)を持ち出しそうな雰囲気になっている。でもどこに殴り込むつもりだろう?帰ってしまったウルトラマンの実家?

 

「『中学で習う特殊相対性理論で数式を弄っただけの代物です。僕は真剣に考えましたが、MITのはアメリカンジョークだと思います』と誤魔化してきたから、大丈夫だよ」

とは言ったものの、部室の雰囲気は重い。そこで、話題を変えた。(本当は誤魔化すどころか、パクリと糾弾され大減点されている。)

 

「ちなみに、司波くんも呼び出しをくらってたよ」

「知っている!知っている!」

白石くんは本当に空気を読める奴になった。強引な話題転換にすかさず飛びついた。

 

「実技試験で本気を出してないのかと訊問されたらしい」

白石くん、話題転換に協力してくれたのはありがたいがそれはどこで仕入れてきた情報なんだい?最近、部員も薄々気付いていると僕は思っている。誰も「それ、どこで聞いたの?」と指摘しようとしないのだ。

 

「確かに、司波くんは魔法理論で学年1位だったのに、理論と実技の総合点では上位二十位に入ってない」

朝田さんは、端末を軽快に捜査して(間違いました!操作して)学内ネットを表示させた。

 

一位、司波深雪。二位、光井ほのか。三位、北山雫。

 

 全員、司波くんのとりまきだった。ルックスだけでなく成績も良かったのか!

 

「四位の『じゅうそうそく』って誰よ?」

関西なら「十三」はじゅうそうと読むのが普通だ。それを使った白石くんの渾身のボケだ。

 

「白石くん、『とみつか』と読むのよ」

涼野さんは、ボケにマジで返答している。白石くん、ご愁傷さまでした。「じゅうさんたば」程度のボケなら涼野さんも突っ込みを入れてくれたかも知れない。

 

「魔法理論一位と二位は司波くんと司波さんだけど、三位は吉田くん。十七位は、柴田さんで二十位に千葉さんね。E組は理論の成績優秀者を揃えたクラスなのかな?」

二科生の成績優秀者と言わないところに、朝田さんの配慮がうかがえる。いい人だ。その朝田さんが僕を一瞥した。何か言いたそうだ。でも、言わないところが凄い。大人だ。

 

「師匠くんの名前がどうしてないの?」

涼野さんは、素直で良い子供だった。

 

「いや~、面目ない。僕はテストは苦手なんだよ」

と言ったものの、長岡さんが白い目でこちらを見ている。(比喩ではなく、黒目が小さくなって白眼の面積が大きくなっているのだ。)僕の心を読まれてしまったようだ。いくら彼女でもMITに殴り込みをしないと思うが。

 

「えっ!吉田って、いつも悩んでいそうなヤツだよ。あいつ、いつも魔法理論を考えていやがったのか!」

白石くんは、必死になって雰囲気を変えようとしている。彼は、長岡さんの冷たい怒りを感じているのだ。

 

一台の端末に部員全員が身体を寄り添って画面を見ていたのが仇になった。お互いの感情が皮膚を通して筒向けになってしまう。それだけ、部員の功夫が積みあがっていると喜ぶべきなのだが。

 

 そこで、僕は再び気分を一新するために「吉田幹比古」で検索してみた。

 

「古式魔法の名門、吉田家の直系。吉田家は、精霊魔法に分類される系統外魔法を伝承する古い家系で、伝統的な修行法を受け継いでいる。」とあった。なんだか、やけに詳しい。

 

「吉田家の魔法の中核をなす喚起魔法の実力は次期当主である兄を凌ぎ神童と称されるほどだったが、2094年の吉田家「星降ろしの儀」の事故で感覚が狂い本来の魔法力を失う。」

 

部員一同、顔を見合わせた。いくらなんでもこれは表示しすぎだろう。これでは、プライバシーも特定秘密もあったものではない。ただ、このおかげで気分は一新した。

 

 どうやら、この端末は空気が読める機能がついているようだ。

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦前夜6

誤字脱字を修正しました。2017/07/18 22:18


吉田幹比古くんは、見れば見る程世界中の不幸を一身に背負っているような挙動をしていた。神童から普通の凄い人に転落したのがそんなにショックだったのだろうか?僕は、留年が半分確実になってこの妄想ブログ小説を来年から『魔法科高校の留年生』にしなければならないと悩んでいるのだが、彼と僕とではどちらが不幸なのだろうか?

 

結論から言えば、吉田くんの悩みは二時間で解決出来る。気を入れる方法を習得すればいいだけなのだ。同様に僕の悩みは手段を選ばなければ二秒で解決する。解決方法は、内緒。

 

さて、悩み多き少年吉田くんとシヴァじゃなかった司波くんと同じチームでフットサルとラケットボールとバスケットボールを組み合わせたようなレッグボールを体育の授業中にすることになった。

 

良い機会を得た。これで、2人を『観』放題だ。

 

「じゃあ、僕等はディフェンスするから、攻撃は任せたよ」

「おう!任せとけ!」

西条くんは好青年だ。ドイツ系だからサッカー的なスポーツには血がたぎるのかも知れない。

 

僕と白石くんは、簡単な打ち合わせをした。

 

試合開始直後にFチームがロングシュートを放って来た。挨拶代りの。僕は華麗なトラップを披露する代わりにシュートボールをスルーした。ボールは、壁に当たって跳ね返り白石くんの足元へ。

 

「何、あれ」

EクラスとFクラスの女子が失笑している。Fチームも足を止めて笑いをこらえている。

 

ゴールを知らせる電子音がなった。

 

白石くんから、司波くん、吉田くんとパスを回して吉田くんがシュートしたのだ。

 

「ナイスプレー!」

西条くんが、白石くんに声をかけている。西条くんは、意外にキャプテンシーがあるようだ。司波くんと吉田くんは、僕の方をチラっと見た。大丈夫なのか?と言いたげな表情だった。

 

「結果良ければ、全て良し!」

と声をかけておいた。彼等が納得したかは未知数だ。

 

Fチームが猛攻を仕掛けて来た。穴は僕だと思ったのだろう。それでも西条くんが相手選手を追い回しパスミスを誘いボールは僕に転がって来た。

 

 いかにもサッカー経験者風のFチームFWがプレッシャーをかけて来た。コースを切りながら距離を詰める。うまい!と感心している場合ではない。とりあえずバックパス。

 

サッカーではないので、ゴールキーパーはいない。なので、バックパスは自殺点につながりかねない。僕のバックパスは壁に当たって跳ね返り白石くんの足元に収まった。

 

「あいつ、バカじゃあないの!」

千葉エリカ。聞こえてんぞ。そのうち、お前の本当に好きな男子を暴露してやるからな。こっちは、フィールド内から観客を『観』ているんだからな!

 

白石くんから、西条くん、司波くんとパスはつながり司波くんが相手DFをかわしてシュート!(はい、今、司波くんシュートにトキメキましたね。ほぼ確定。)

 

追加点が入った。

 

Fチームは、今後は僕と白石くんに同時にプレスをかけて来た。(それにしても、すぐにロングシュートをするのはこちらにボールを渡すだけと何故Fチームは気づかないのだろう。)FWを一枚増やしたのだ。やはり、穴は僕と見ている。僕は、コースを切られて苦し紛れのパスを天井に向かって蹴った。高反発ボールは何回も跳ね返って相手DFが一枚欠けたスペースに転がった。

 

「オラオラオラー!どきやがれ!」

西条くんはボールに突進する。まるで、主人が投げたボールを追いかける犬のようだ。角度のないところでボールに追いつきそのままクロス。走る勢いそのままに脚を振り出した彼の技術に驚く。しかも、直後に壁に衝突したにも関わらずすぐにプレーを続行した。ゲルマン魂?

 

そのマイナスのクロスを華麗なボレーで司波くんは決めて見せた。(はい、またトキメキました。確定です。)

 

黄色い歓声が上がる。

 

Fクラスの女子。お前らまで、歓声をあげてどないすんねん。Fチームを応援せんか!

 

Fチームの動きが鈍くなった。立て続けに点を訳もわからない取られ方をしたので仕方ない。Fチームのゲームキャプテンらしき人物が、手を叩いて声をチームメイトに掛けている。

 

「諦めたらそこで試合終了だぞ!」

 

いやはや、全くその通りです。

 

Fチームはさらに一人上がって僕等にプレスして来た。2対3の数的不利だ。司波くんが下がって来ようとした。

 

「達也!下がるな!上がれ!」

西条くんは、僕等の意図を見抜いたようだ。司波くんは、首を傾げながら上がって行った。

 

やれやれ才能があり過ぎるのも問題だな。吉田くんも司波くんも。ついでに千葉さんも。いつも、自分と同等か劣る者からしか学んでいない弊害が出ている。

 

Fチームは数的優位を保ったままボールをキープしゆっくりと攻め上がってきた。最終ラインをがら空きにして。速攻から遅攻に変えたらしい。しかし、相変わらず穴は僕だと見てこちらサイドに攻めてきた。

 

 僕は、普通に歩いて相手に近付く。相手は距離感がつかめずに、焦ってすぐにシュートを放つ。当然枠にとばない。

 

 ルーズボールは白石くんが奪い、プレスをかけられる前に僕にパス。コロコロコロ。相手がそれを見てボールを追いかける。僕は予め白石くんに近付くように歩いていたので、先にボールに追いつき思い切り蹴る。宇宙開発!

 

天井、壁、床とボールは跳ね返って相手DFの足元に転がった。すかさず、背後から西条くんは近づいてボールを奪い返した。相手の股下に足をいれる技術を駆使して。彼は本当にうまいな。

 

おいおい、トキメキはなしかよ。なんてあからさま女だ。西条くんは、惚れてくれてもいない女からパコパコ叩かれているのだ。やはり、彼はマゾなのだろうか?これは、一種のボケですからみんな本気にしないで下さい。変態性欲はその人の眼を観るとわかります。眼の周りに白い小さな星が飛んでいますので。

 

 その時、違和感があった。僕に何かを伝えようとしている想いだ。視野の端に彼女の姿が一瞬映る。

 

 こんな調子で最終ラインはダラダラしながらEチームは得点を重ねて行った。前の三人の大活躍で。

 

 ボールを持っている僕に相手は三人でプレスして来た。白石くんにもマークが付いている。せっかく、司波くんが相手チームから奪ったボールを失うわけには行かない。でも、走るの面倒臭い。

 

なんて、チンタラやっていると完全に三人に囲まれた。そこで、発勁してボールを壁に向かって蹴った。完全にノーモーションで蹴ったので相手は全員固まっている。

 

僕は同時に逆方向に歩き出して小さい円を描く。跳ね返って来たボールを白石くんにパス。マークされているので白石くんはトラップなしでサイドに張った司波くんにパス。ゴール前に詰めている西条くんにパス。西条くんシュート。

 

最後に自分の見せ場を作ったのだが、誰も見てなかったようだ。

 

 

「お前ら、経験者か?だったら先に言ってくれよ」

西条くんが試合終了後に僕等に声をかけて来た。爽やかスポーツマンだ。それに僕等の意図をすぐに見抜いた眼力にも畏れ入った。酒井高徳くらいなら今からでもなれるんじゃね〜と褒めてあげたかったが、僕はそれどころではなくなった。

 

「ありがとう!西条くん。また後で」

早々に僕はその場を立ち去った。

 

               ◇◇◇

 

今朝、部室の端末の検索履歴をなんとなく気になって調べた。僕の名前、試験科目、得点などが検索されていた。それらをたどると採点官の名前がわかる。そして、僕の魔法理論の得点が0点にされていたのも、その採点官が以前、同じように生徒に極端な評価をして問題になったのも検索した人物にはわかっただろう。

 

誰が、調べたか想像はついたが確信は持てなかった。しかし、試合を見学していた女子達の中に彼女が居た。彼女をまだ僕は感じることができた。バカな真似をする前に止めなければならない。

 

僕は、体操着のまま部室のドアを開けた。

 

端末の前に朝田さんが座っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦前夜7

「まだ、生きているのだろう?」

最初の一言が肝心だ。

 

そう言われて、朝田さんは驚いた様子だ。

「ええ」

彼女は小さく返事をした。

 

これで、だいたいわかった。彼女が僕が受けた不当な採点だけで、その採点官を探り出し殺意を抱く事はない。過去に彼女の大切な人が僕と同じ目にあったのだろう。同じ採点官に。

 

「兄は、天才と言われていたの」

 

「だったら、今も天才だ。今、どこに彼が居ようとそれは関係ない」

 

朝田さんの話によると、彼女の尊敬する兄さんも試験の際かなり独創的な解答を作り大減点された。真面目な性格の彼は抗議したが受け入れられなかったそうだ。

 

その次の試験でもケチをつけられて、再び抗議。同じ様に却下され頭に来た彼はその場で採点官に魔法で攻撃してしまった。その時に採点官に反撃されて彼は重症を負わされた。採点官は学校から厳重注意だけ。(おそらく事件を表沙汰にしたくなかったからだろう。)一方、朝田さんのお兄さんは、「自主退学」させられ魔法力も失ったそうだ。

 

「あなたや長岡さんが本当に羨ましい」

朝田さんは、その理由を口にしなかった。

 

「天才が普通の人になったり、魔法師の卵が魔法力を完全に失ったりしない。大器晩成型にシフトしただけだ」

 

「あなたは本当に優しいのね」

 

「神見習いだから」

 

彼女がクスッと笑った。いや、本当のことなんだけど…まぁ、いいか。

 

「そのまま、じっとしておいて」

彼女はそう言って向かいに座る僕に抱き付いた。

 

「汗臭くない?」

 

「ええ、すこし目にしみるわ」

彼女は音を立てずに泣いた。

 

ぞぞぞぞぞぞぞぞ。

 

僕の右視界から、長岡さんが現れて来た。今回は完璧にこの世に存在してなかった。彼女はそのまま僕の視界を横切り左視界に消えて行った。

 

と、思ったらすぐに右視界から現れた。これには驚いた。その瞬間に姿を消した。

 

長岡さんなりの励ましだったのだろう。あまりに行動が突拍子もないが。

 

「朝田さんが、お兄さんを天才に戻してあげたらいい」

 

彼女は、うつぶせたまま答えた。

「いつになったら、できるかしら?」

 

「できるようになるまで、教えるから」

 

「そう。だったら大学生になっても教えてくれる?」

 

「うん。月5000円で」

 

「学割は利くかしら」

 

「朝田さんなら、たくさん勉強してもらいますよ!」

 

「ありがと」

彼女は、ようやく顔をあげた。涙と汗でぐちゃぐちゃになっていたが晴れやかだった。

 

             ◇◇◇

 

エガリテのような組織を学校内に作りあげるには、外部からの支援だけでは困難だ。たとえ、学校側がそのような組織を野放しにしていたとしてもだ。

 

特に優秀な一科生を引き入れる為には、学内で差別を糾弾するだけでは難しい。あまり優秀でない二科生をたくさん入れても効果は半減だろう。

 

今回、僕や司波くんに絡んで来た採点官はエガリテのような組織が望む「優秀な学生」を組織に自然と取り込んで行く工作員の一人だと僕は考えている。

 

採点などを理由に狙った学生に何癖をつけてストレスを与える。精神的に弱らせてエガリテのような組織に頼る自然な流れを作っているのだろう。今回、司波くん達がエガリテどころかその上のブランシュまで物理的に潰してしまったのでこの自然な流れは途絶えてしまった。

 

工作員は身の危険を感じ司波くんに転校を勧めたり、正体を暴露しそうな僕を潰そうと焦ったのだろう。司波くんは工作員を処理するかどうかわからないが、僕はすでに彼の氏名を暴露している。当然、暴露だけで済ますつもりはない。

 

そのために、部室の端末で刑事告訴状を作成している。罪状は名誉毀損と偽計業務妨害と外患罪等だ。

 

「他のはわかるけど、偽計業務妨害は何なの?」

涼野さんが尋ねる。

 

「僕は、学生がアルバイトをしていると言うより、社員が出版社との雇用契約によって学校に通わせてもらっているのが実情なんだ。なので、留年したり退学したりすれば雇用契約破棄つまり、クビを覚悟しなければならない」

 

「それって、大変じゃない!」

涼野さんが心配している。

 

「しかも、今住んでいる社員寮も追い出されるかも知れない」

 

「え〜〜っ!」

涼野さんが驚いている。

 

「しかも、名前も変わる」

 

「出版社を解雇されたら、お父さんとお母さんが離婚しちゃうの?」

 

「いや、今名乗っているのはペンネームなんだ」

 

「「「「えええ〜〜!!!」」」

全員、驚いた。

 

 小学生の時に僕はやらかした為、中学校からペンネームを使用している。なので保護者の名前は担当さんだ。学校への提出書類もそうしている。

 

「『河原真知』って本名じゃなかったの!?」

さすがに朝田さんも驚いている。

 

「それは、阪急京都線の駅名『河原町』から拝借したものだよ」

『かわらまち』に『河原真知』と当てただけだ。夜露死苦みたいなものだ。

 

「師匠くんは一体何をやらかしたの?」

こういう質問をさらりとできるのは涼野さんのキャラクターによるものだ。

 

「詳しくは言えないけど、狙われるようになったからこの名前をずっと使っているよ」

 

 長岡さんが、したり顔になっている。やらかしておいて本名で開き直って普通に生活している彼女の精神構造は凄い。さすがに故郷から出なければならなくなったようだけど。

 

 あれっ? そうだ。今気付いた。

 

 本名でなくても普通に生活できる。それは、僕以外の人にも当てはまる。苗字に数字が入って、その上に凄い魔法力発揮すると十師族だと公言しているようなものだ。場合によっては命を狙われる。特に一部のナンバーズは、当主候補等の要人に、ガーディアン(守護者)を付けて護衛している。

 

 これは、四葉だけだったかな?

 

「しかも、どちらが先に発表したかなんて少し調べればわかるのにその採点官は怠った。なので教員としての資質も問われる。刑事告訴だけでなく教育委員会に懲戒請求も場合によっては送りつけるつもりだよ」

 

これで良し、あとは電子署名をするだけだ。

 

そこで、一旦保存。24時間データをそのままにした。学校側の出方を見たのだ。

 

一日経ったが、学校側から待ったはかからなかった。部室の端末内のデータはそのままだった。誰が覗いたかは僕の知ったことではない。ただ、覗いた者はおそらく当局に調査されていると覚悟した方が良いだろう。

 

部員達の前で、最終チェックを終えてから電子署名をして東京地検特捜部に送信した。

 

受理されるかどうかは、わからない。二ヵ月もすれば明らかになる。もし、受理されないで返房されれば、新たに懲戒請求する。

 

 再び、何もなければテロリスト情報として国際刑事警察機構や国連安保理テロ委員会にも情報提供するつもりだ。

 

◇◇◇

 

長岡さんが見本を見せている。八卦掌の準備運動らしい。肩幅程度に両足を開いて両膝を引っ付けてその上に手を添える。片方の膝を上下に動かす。両膝を引っ付けたままで。(文章で表現してもわかりにくい。動画を発売しようかな。)

 

「老師、どれくらいこれはすれば良いのですか?」

白石くんは、すっかり長岡さんの弟子している。きっと強くなるよ。

 

「30分くらい」

 

「・・・・・」

白石くんが無口になった。

 

中国武術は、基本功や準備運動が大きなカギとなる。これで身体を作って行かないと型はいつまで経っても単なる体操止まりとなる。

 

 では、具体的にどのような身体になれば良いのか?

 

 自動運動する身体になれば良いだけだ。

 

 さらに、科学的に表現すると当面の目標は『頸反射を意図的に起こせる身体』だ。

 

 

 

 




頸反射についてはネットで調べるととてもわかりやすい説明がたくさんあると思います。


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九校戦前夜8

似たようなことは百年前から唱えられていた。しかし、具体的にどのような練習をして例えばどのような感覚を覚えるのか公開される事はなかった。

 

書籍では、赤ん坊の首を左右どちらかに向けた画像が紹介されている。赤ん坊の首が向いた方の上肢が自然に曲がりその反対の上肢はピンと伸びている。なんとなく、パーチじゃなかった八極拳の頂肘じゃなかった肘撃ちに似たポーズだ。

 

これが、武術の早さと速さを生み出す。前頭葉で一旦情報処理をしてから動くと一拍遅れる。これが予備動作として攻撃や防御を遅らせているのだ。(これが、接近戦で現代魔法師が遅れを取る理由だ。イメージをした瞬間に前頭葉を緊張させてしまい魔法発動時刻がその分だけ遅れる。正しくは『意念』なのだがこれはイメージと違って前頭葉をあまり緊張させない。一流の魔法師もこれらをほとんど分けておらず、自分なりの感覚でやっている。これが立派な魔法師を育成しづらい原因の一つとなっているのだ。)

 

前ページで書いた膝揉み(?正式な名称は知らない)は、極論すると首から上は正面を向いたままで首から下を左右に向ける。なので頸反射が起きればゆっくりと首から下が左右に自動的に捻れて行く。

 

上手く行くと背骨を支える筋肉が動くのがわかったり背骨の一部が波打つように動くのを自覚できる。任脈や督脈がわかる人はその循環が良くなるのを自覚できるだろう。ただし、この自覚は個人差がかなり有るのであくまでも参考にとどめておいて欲しい。

 

ただ、これだけでは走圏を自動運動では行えない。もう一つ必要な現象がある。眼筋反射だ。正確に言えば、

 

ぜんていどうがんはんしゃ【前庭動眼反射 vestibulo‐ocular reflex】だそうだ。

 

前庭眼反射ともいう。頭が動いたときにこれと反対方向に眼球を動かして網膜に映る外界の像のぶれを防ぎ,頭が動いているときにものが見えにくくならぬように働く一種の反射である。内耳中の前庭器官が頭の動きを検出して神経信号を発射すると,これが前庭神経を介して延髄に送られ,前庭核で中継された後,眼球を動かす外眼筋の運動ニューロンへと伝えられる。前庭核内の中継ニューロンには興奮性と抑制性の2種類があり,一つの筋肉が収縮すると同時にこれと拮抗する筋肉が弛緩して眼球が一方向に動く仕組みになっている。

 

走圏で円を描くように歩くと眼前に映る景色は運動とは反対方向に動くように見える。この時、リラックスして動く景色を眺めておれば目線は、動く景色の方向に動こうとする。その時、頸椎まで弛んでおれば目線が動こうとする方向と逆方向に首から下が動く。実際は、足が自然に流れる景色と反対方向に動こうとする。

 

面白い事に走圏を練習して自然に歩が進むようになった者は、そうでない者の動き、特に走圏を見ると違和感を覚える。「この人は八卦掌の功夫ではないな」等とわかる。

 

この身体を作るのに五年程度かかると言われている。ただ、現代魔法師の卵達が取り組むのだから、サイオンが多量に循環する身体になるまで三年もあれば充分ではないだろうか?

 

「こういうのもある」

長岡さんが、棒立ちのままでわずかに片方の膝を曲げて膝揉みと同じ練習の見本を示してくれた。

 

◇◇◇

 

試験も済んだしもう直ぐ夏休みだ。我が軽妙小説研究部は、夏休みに特別なイベントを企画したりはしていない。いわゆる、学園物に有りがちな「水着回」と揶揄されるようなものはない。女性の水着姿が見たい方は、最寄りの海水浴場やプールに行くのが良いだろう。

 

夏休みは、ゆっくりと研究にあてたい。と僕は漠然と考えていた。形骸化したとはいえノーベル賞の二、三個取れるくらいのアイディアを出してある程度形にしておきたい。そんな時に不意に着信があった。誰からかは、わかっていた。よほどいい事があったのだろう。

 

「選ばれたよ!」

河村さんだ。

 

「何に?ミス二校とか?」

ボケながら美波ちゃんを褒める。

 

「ゔぁか!九校戦に決まってるじゃない!」

嬉しそうだ。悪態を吐いているが。

 

「おめでとうございます」

 

「なんか、リアクション薄いわね」

 

「いや、ちょー嬉しいよ。まるで自分の事みたいに喜んでます。さすが、河村さん。東中の誇りだね!」

 

「全然、心がこもってないんですけど〜」

美波ちゃんは、機嫌が良い。九校戦に選ばれただけでなく彼氏と上手く行っているのだろう。なので、今回は褒めまくるのは控え目にしておいた。

 

「あんたはどうなの?」

 

「僕は全く無関係」

と、昨晩答えたばかりだった。しかし、

 

「夏休み特別企画です」

担当さんからの連絡だ。音声回線を使うとは珍しい。

 

「九校戦観戦記を企画しました。先生には、九校戦を現地で観戦して頂きます」

 

出版社は、新たな企画としてスポーツノンフィクションでも始めようとしているのだろうか?Numberみたいな。

 

「それは構いませんが、僕は選手にもスタッフにも選ばれてないし風紀委員でもないので単なるスタンド観戦しかできません。いわゆる『密着取材』はできませんがそれでも構わないのですか?」

 

「いえ、『報道』として正式に参加して頂きます」

 

どうやら、九校戦も何かトラブルが予想されているようだ。僕に内部に入り込んで欲しいと言うのだから。

 

なんか面倒だな。うまく断る方法はないかな。

 

「特別ボーナスが出ます」

 

「喜んで『九校戦密着観戦記』を書かせて頂きます」

 

◇◇◇

 

早速、部員に九校戦について尋ねてみた。まずは『九校戦前夜』だ。

 

「九校戦って面白いの?」

長岡さんに訊いた僕が愚かでした。

 

「光井さんと北山さんが代表に選ばれたよ!」

と涼野さんが教えてくれた。しかし、その後の会話が続かない。あまり興味がない本音が良く現れている。

 

「メンバーに選ばれただけでA評価。長期休暇と課題免除。試合で活躍すればその分成績に加算されるそうよ」

朝田さんは、とても現実的だった。事前に教えてくれれば、僕は報酬欲しさに選抜されるように頑張ったかも知れない。

 

「司波くんが選ばれるかも知れない」

白石くんが、情報ソースを明かさないで教えてくれた。すごい情報だ。

 

しかし、これでは金子達仁の『決戦前夜』みたいな話はかけない。山際淳司『江夏の21球』には、全く届かない。

 

これは、非常にまずい。と頭を抱えていた。そんな時にとあるクラスメイトから僕は声を掛けられた。

 

「師匠。ちょっと良いか?」

 

「何?」

愛想よく返事をした僕だったが、彼の名前が思い出せない。クラスメイトは25人しかいないのだが全員の名前は覚えてなかった。100年前の我国では1クラス40名のクラスメイトがいたそうだ。昔の人は記憶力がきっとよかったのだろう。

 

「実は頼みがあるんだ」

名無し(仮名)は、真剣に語り始めた。突き詰めると

 

『1ーAの女子と仲良くなりたい』だった。司波くんに頼めよとか、魔法でなんとかしろよと言ってやろうかと思い「僕らは『奉仕部』でも『万事屋』でもない」と言おうとした。しかし、名無しくんの話をもう少し聞いてみると『1一Aの男子と仲良くなりたい』女子の希望もあり、特にあの森崎くんと仲良くなりたい希望まであると知って興味が湧いて来た。

 

女子にチヤホヤされて、どこまであのストイックな生き方を森崎くんは貫けるのか?

 

これって何かのイベントになる!そう感じた僕は、名無しくんの頼みを真面目に聞く事にした。ただ、その前に一応聞いてみた。

 

「司波くんには、頼んでみた?」

 

「それは、ちょっと…」

 

「言いづらいの?」

 

「まぁ、そうだな」

 

「よし。先ずはそこから始めよう!」

 

「?」

 

「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ!」

 

 



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九校戦前夜9

「千葉さん、ちょっといいかな」

僕と名無しくんはイベントを起こす為のキーパーソンである千葉さんに声をかけた。僕も彼も彼女とほとんど交流はないが、何とか彼女の協力を得たい。

 

「まだ、発表されてないけど司波くんが九校戦のメンバーに選ばれたそうなんだ」

白石情報が役に立った。それと、名無しくんが喋れるのが助かる。彼が使えない時は、僕が喋るつもりだった。

 

千葉さんは、普段は大人しい。彼女は、自分の興味のない人物には意外にも非社交的なのだ。弱い奴とは友達にならないタイプだ。なので、僕や名無しくんは全く彼女に相手にされない。つまり、これが彼女の本当の実力だ。

 

「それ本当?」

彼女の目が見開いたのが、わかった。いきなり、自分が興味がある人物達に見せる表情に豹変する。

 

「本当だ。そこで、1-Eのみんなで司波くんのために何かしようと考えているんだ」

 

「詳しく話して」

 

千葉さんが、司波くんに好意を寄せているのは勘付ていた。なので、うまく誘導すれば必ずこの『僕たちの司波くん壮行イベント』に彼女を巻き込むのに成功すると僕は確信していた。

 

しかし、僕の予想は外れた。

 

誘導どころか千葉さんが、思った以上に前のめりなのだ。(どんだけ、司波くんに惚れているんだ!)

 

釣り針につけたエサに食い付いたを通り越して、竿まで、いや釣り人ごと持って行かれた感じだ。

 

千葉さんは、九校戦発足式で1-Eのクラスメイトが司波くんを盛大に送り出してあげよう(しかも講堂最前列で!)作戦が痛く気に入ったらしく僕らが説得することもなく自ら進んで根回しを始めた。協力してくれそうな1-Aの知り合いに声を掛けたりするものだから、僕と名無しくんはむしろ千葉さんのフォローに追いやられた。

 

 実は、最初から勝算があった。

 

魔法科高校は進学高でもある。なので、どうしても学業の成績順位に重きを置きすぎる傾向が教員にも学生にもある。

 

 試験の上位20名は、公表されている。成績上位者の中に1-Aと1-Eのメンバーが多数名を連ねているのも広く学生の間に知れ渡っている。

 

 その上、1-Aと1-Eの成績優秀者が妙に仲がいいのも周知の事実だ。理論も実技も、そして実戦も1-Aと1-Eは、一目置かれているのだ。(ついでにルックスも。千葉さんが美人だとして人気があるのは涼野さん達から聞いている。ただし、司波くんのルックスの評価は芳しくないようだ。)

 

実際には、司波達也くんと深雪さん中心の仲良しグループが異常に目立っているだけなのだが、面白いことに1-Aと1-Eの他のクラスメイトも引っ張られてそれぞれ目立った活躍(?)をしている。

 

魔法科高校に来る学生は、中学時代は少なくとも勉強ではトップクラス、魔法力も必要とされているから勉強以外の分野でも一つ二つは全国レベルの特技を持っているのも珍しくない。しかし、ほとんどの学生がそうなので今まで自然にトップクラスにいた自分が魔法科高校に入った途端にセカンドクラスになってしまう。そこで、自信を失ったり本来の力を出せなくなったりする者が出て来るのだ。特に二科生はその傾向にある。

 

例の剣道小町こと壬生沙耶香さんもその類だ。

 

こんな時に、自分と同じクラスの女子が、あるいは男子が学校創立以来の大活躍をしたらどうなるか?

 

身近な誰かが成果を上げると、人間不思議なもので自分もできるような気がして来るのだ。前者は、司波深雪さん。後者は司波達也くんだ。

 

いわゆる、司波深雪さん凄い!→司波深雪さん1-A、あたし1-A→あたし凄い!

 

あるいは、司波達也くん凄い!→司波達也くん1-E、おれ1-E→おれ凄い!

 

とする考え方だ。ややキモいと思われるかも知れないが、実はこの勘違いは重要であり、根拠のない自信は実力発揮する為の必須アイテムの一つなのだ。

 

話を元に戻そう。

 

『僕たちの司波くん壮行イベント』までの時間は短い。いくら千葉さんが、頑張っても月曜日の学校の発足式に間に合わせるのは難しい。もうひと押しする必要がある。

 

◇◇◇

 

「おはよう。聞いたぜ、司波。凄いじゃないか」

「おはよう、司波君。頑張ってね」

「おはようございます、司馬くん。応援しています」

「オッス。頑張れよ、司波」

 

 

 

作戦は順調に開始された。司波くんは、少し驚いているようだ。普段それほど親しくない相手でも、挨拶のついでに激励してくれたのだから。

 

僕は、白石くんに後を任せて名無し(藤岡くん)と1-Eの女子(綺麗どころ)を連れてクラスルームを出た。

 

気配を消したまま、僕は前から、1-E女子達は後から教室に入った。

 

僕は、気配を消した状態からいきなり存在感を異常に高めて(長岡さんの少女漫画のヒロイン登場ごとく金粉と花をまき散らしたようなレベルには達しなかったが)1-Aの皆さんに○○の正式の挨拶をした。この作法を知っている学生は、数人程度いるはずだ。両手の組み方に少し特徴がある。

 

「おはようございます。『氷室雪絵』です。【魔女っ子メグミちゃん 第3巻 九校戦編】をよろしくお願いします」

 

 教室の後にいた森崎くんは、血相を変えて僕を制止しようとした。しかし、彼の背後からいきなり現れた長岡さんに手を肩に置かれて彼は動けなくなった。点穴の一種だ。毎度ながら、彼女の功夫に驚かされる。この場合、一番驚かされているのは森崎くんだろう。

 

「森崎くん。おめでとうございます!」

「森崎くん。私達も応援します!」

「森崎くん。頑張ってね」

1-E女子達が森崎くんを囲んだ。森崎くんは人気者だった。ストイックな感じが母性をくすぐるのだろうか?

 

「北山さん。おめでとうございます!」

「光井さん。おめでとうございます!」

「お二人のご健闘、期待しています!」

「僕達も、応援します!」

名無しくん(藤岡くん)達が、目当ての北山さんと光井さんを囲んでいる。北山さんは、無表情のままだったがうれしそうだった。光井さんは、顔を赤らめていた。

 

この間に、僕は今度は存在をなくして教室を出て行った。1-Aの皆さんには、僕が消えた様に見えただろう。教室の中から、「今の何?」、「誰?」と言い合う声が聞こえてる。

 

あとは、簡単だ。発足式の講堂最前列に1-Eのクラスメイトが1-Aのクラスメイトが集まっている場所に集まって行き、はたから見ると1-Aと1-Eが意図的に集まっているように周りの学生に勘違いさせればいいだけだ。

 

千葉さんが司波さんに協力を取り付けたおかげで1-Aの半分近くは、協力的に行動してくれる。残り半分は、九校戦にそれほど興味がなかったり、司波兄妹を良く思ってないメンバーだ。

 

彼等の意志を僕らが絡め取った。反司波兄のリーダー的存在の森崎くんは長岡さんが、精神的に物理的に抑えたし森崎くん自身は壇上にいる。どうしようもないのだ。

 

リーダーを失った集団は烏合の衆だ。個人的な興味や1-Aの主流に合わせようとする。

 

◇◇◇

 

1-Eを千葉グループ(桜田門千葉さん、キャプテン西条くん、眼鏡っ娘柴田さん、昔神童今しんどい吉田くん)を先頭に僕、白石くん、長岡さんを後方に配置して1-Aに紛れ込ませて講堂に前列に陣取った。

 

「河原さんですね。自分は、…」

涼野さんが、連れてきた学生が自己紹介を始めた。僕は、彼に某龍門派の伝人だと名乗った。

 

「私は、…」

朝田さんが連れてきた学生が自己紹介を始めた。僕はさっきと同じ様に名乗った。

 

1-Aに二人いた。座禅を普通の人以上に知っている、あるいは、興味を持っている学生だ。

 

「氷室先生。サイン下さい!」

快くサインをしておいた。『氷室雪絵』を普通の人以上に知っている、あるいは、興味を持っている学生は三人いた。

 

長岡さんも、挨拶されているようだ。彼女の場合名乗ってしまうと挑戦状を叩き付けられる立場に置かれてしまう。それでも、構わないのだろうか?まぁ、彼女のことは心配いらないだろう。最近、どうして彼女が現代魔法師に圧勝したのか理由がわかったからだ。この理屈が正しければ遠くから広範囲での破壊が可能な魔法師しか彼女を倒せないことになるのだ。

 

おっ。

 

発足式が始まった。これから『僕たちの司波くん壮行イベント』の本番だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦前夜10

何だ?これは!

 

発足会が始まった途端に降りてきた。組織的な殺意と悪意だ。壇上の選手とスタッフに向けられている。

 

僕が壇上の選手達、特に司波くんを再度良く『観』ようとして意識を拡張した瞬間にわかった。

 

司波くんの超絶魔法力を彼の意識の段階が生まれて持っての六段階(産まれた時から神修行が始まっている、所謂「仏」)だと当初考えていたが、最近どうも違うような気がしてきたのだった。それで、この機会を利用して再確認したかった。面と向かって司波くんを観ればすぐに感づかれてしまうからだ。

 

これで、僕が呼ばれた理由がハッキリした。しかし、九校戦メンバーに対するテロ行為に対抗するのに多少未来が分かる程度の僕が投入されたくらいでは事態を劇的に好転させられると思えない。学校は何か手を打っているのだろうか?個人的には、国軍に予め助けを求めておいた方が良いと思う。

 

予め国軍に治安出動要請の可能性大なりと連絡しておいた方が良いと思う。

 

大事な事なので、二回言っておきました。

 

さて、肝心の「発足会」は、いよいよ佳境に入った。我らが期待の超新星司波達也くんに徽章が授与される。この機会を待っていた。彼は、選手スタッフ合計50名の最後に授与される。この瞬間、若干彼の独特の警戒心が薄れると僕は予想していたのだ。

 

司波深雪さんが、司波達也くんに徽章を持って近づく。1ーEのクラスメイト達と1ーAのクラスメイト達、それに加えて司波兄妹に憧れる人達、その反対の人達の意識が司波さんと司波くんに集中して行く。

 

そのどさくさに紛れて僕は、初めて本気で司波達也を『観た』。

 

あっ!

 

なるほど。しかし「 This case is no comment.」関係各位の皆様方には、ご了承頂きたく存じ上げます。

 

千葉さんの合図で、1ーEのクラスメイトが拍手する。司波くんの徽章授与の直後だ。

 

さて、千葉さんは上手く根回ししていただろうか?

 

心配ご無用!?

 

1ーEの盛大な拍手が他の学生の顰蹙を買う前に、司波さんとなんと!七草生徒会長までが拍手し始めた。

 

いやはや、桜田門には敵いませんね〜。

 

やったね。千葉ちゃん!

 

でも、対テロは軍に任せるべきですよ。

 

大事な事なので、3回言いました。

 

◇◇◇

 

24時間経った。横槍が入ると思ったが何もなかった。とういう事で、超ヤバイ魔法師を人工的に作る方法というより理論の話をします。まず、ただの魔法師がただの魔法師に留まる大きな理由の説明から。

 

要は、使える魔法演算領域が限定されているからです。平たく表現すると無意識領域の中である程度意識的に魔法演算領域に利用できる領域は限られているし訓練で倍増したりもしない。

 

なぜ、限られてしまうのか?

 

それは、無意識領域の比較的意識しやすい部分が情動と深く関わっているので意識はできてもそこでの情動に本人は振り回されるだけになるからです。

 

(だから、魔法師は常に冷静さを求められる。感情が高ぶり過ぎれば普通なら何の問題もなく発動できる魔法でさえ発動できなくなることがあるのだ。)

 

逆に言えば、情動が起こっても過剰な反応をしなければ使える魔法演算領域が増えて魔法力の大幅アップが期待できる。

 

では、情動とその反応はどのように起きるのか?その簡単なメカニズムをネットから拾って来た。

 

「視床下部(ししょうかぶ)は…」

 

上記のごとく、脳の真ん中辺りにある視床下部で、情動に対する身体の反応はコントロールされる。

 

「自律神経の中枢は視床下部です…」

 

これだけだと、視床下部を何らかの方法で調整して自律神経に過剰な情報を与えないとしても魔法演算領域は大して増えないのではと思われるかも知れない。しかし、下記の文章を読むと考えも変わるだろう。

 

「…」

 

歩いていて脇道から急に自動車が飛び出して来たら、交感神経を興奮させて血圧を上げたり心臓を早く動かしたり、冷や汗を出させたり、全身の筋肉を収縮させたり等の『余計な事』をせずに

 

自動車を避ければ良い。必要なら魔法を発動すれば良いだけのことだ。

 

これらの『余計な事』が無意識の浪費であり使える魔法演算領域を減らしてしまう。実際は、『余計な事』を無意識に抑制する反応が必要となるので『余計な事』を無くす効果は絶大になる。

 

では、どうすればいいのか?

 

視床下部が大脳辺縁系や大脳皮質から生じる感情を真面目に受け取らないようにさせるか、受け取っても真面目に交感神経を興奮させないようにするか、その両方をさせるかだ。

 

これを外科手術や投薬で行うのは、現代の医学でも不可能だろう。交感神経が不活性になり過ぎて鈍いだけの人間になってしまう。しかし、現代魔法を使えば可能性はある。

 

『精神構造干渉』(禁忌の系統外魔法と言われている)で視床下部を微調整してしまうのだ。

 

とは言え、このような魔法力を使いこなせる魔法師は世界にも稀有な存在だ。

 

あまり、おすすめしないがネットで調べるとそれが可能な魔法師の個人名が出てくるだろう。

 

ただし、その個人名を公言するのは自己責任で行なって欲しい。万が一あなたの身に何らかの不都合が起きても僕は一切責任を負いません。

 

また、この理論で戦略級魔法師を作り出せるなどと早合点し、実行した結果、死亡したり廃人になったとしても僕は一切の責任を負いません。

 

特に、MATの良い子は真似しちゃダメだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




盗作になると運営から注意されましたので、引用の部分を削除しております。関係者の皆様にご迷惑をおかけしたしましたことをお詫びいたします。


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九校戦前夜11

 選手40名、作戦スタッフ4名、技術スタッフ8名。九校戦の裏方は12名の他にも用意されている。会場外でのアシスト要員として有志20名が組織されている。アシスト要員は、選手達とは別ルートで現地に向かう予定だ。

 

 僕は、なぜか「有志」らしい。志願したわけでもないのに不思議なことだ。

 

出発予定場所には、4人の「有志」達が揃っていた。

 

 

「君が噂の師匠くんか。私の事は『少佐』と呼んでくれ」

そう言って、彼女はちっちゃなおててを差し出した。高校生の手どころか中学生、いや、小学生のものと言える。高三ならぬ『小三』だ。

 

「『少佐』、1-Eと言えば司波達也か吉田幹比古じゃないんですか?あとは千葉エリカくらいか」

『少佐』のお父さんと思われるくらいの恰幅の良い男子学生が、口を開いた。自分に正直な人物だ。

 

「『馬頭』、師匠くんはエガリテのテロ決行日時を当てた凄腕だぞ」

お父さん学生は、『馬頭』と呼ばれている。いい年して『公安9課』ごっことは恥ずかしい奴らだと思ったが僕等とエガリテの悶着を知っているとはなかなかの情報収集力だ。

 

 しかし、『少佐』の外見はシャアでも素子でもなく、ターニャに近い。魔法の使い過ぎで成長が止まっている?

 

「それだけじゃない。エガリテの本当の狙いも当てていたんだ」

こちらは、真面目で堅実そうな学生だ。その情報は、どこで手に入れたのだろうか?単に僕の妄想ブログ風私小説の読者だったら笑ってしまうが。

 

「『戸枝』!それは、本当か?」

『馬頭』は、わかりやすい人だ。もしこれが演技なら大したものだが。

 

「俺は、それよりも師匠くんが『精神干渉系魔法』を使わないでエガリテにヤジを飛ばして奴等を劣勢に立たせたり、発足会で1-Eを先導して最前列に陣取らせた手腕を評価するね」

 

「『石川』、それを事前に教えてくれよ」

『馬頭』は、恐縮した。

 

「まぁ、そういうことだ。我々は師匠くんを歓迎するよ」

少佐は、ニッコリ笑った。

 

お互いに本名を呼び合わない『デスノート』ごっこかと思ったが情報収集能力はそれなりにある。学生のうちにこれだけの能力を磨いていればそのうち本物から声がかかる事もあるだろう。

 

いわば、学生同盟→エガリテ→ブランシュのテロリスト育成プログラムとは、真逆の流れだ。

 

諜報員は向き不向きがあるから、その適性を学生の頃から見定めるのは良い事だ。おそらく彼等の活動は本物に観察されているだろうから。

 

とはいえ、諜報員は割に合わない職業なのでお薦めしない。華々しく活躍して金と名誉を得る方が良いと思うぞ。

 

なんちゃって「公安9課」は、日頃、表向きは「新聞部」として活動している。この大会で新聞部は選手が利用する施設を選手とほぼ同じように出入りして良いそうだ。僕は、時間通りに出発したマイクロバスの中でこのように説明を受けた。

 

「そこで、本題だ」

少佐が急に真剣な顔になった。

 

「エガリテのテロ計画の真の目的と決行日時をどうやって探ったんだい?」

 

「カンです」

僕は正直に答えた。少佐は納得できない様子だ。

 

「無系統魔法や古式魔法の一種と考えても良いかい?」

少佐は食い下がる。簡単にはあきらめない。

 

「その様に表現されても構いません。もっと言えば仙道や武術や占星術や召喚魔法や密教の類です」

 

「君は召喚魔法を習得しているのか?」

 

「神祇魔法と言った方が良いかも知れませんね」

少佐の目が泳いだ。彼女が、さっき吉田くんの名前を聞いた時にわずかに反応したので何かあると思ったが、やはりそうだった。吉田くんの味方?敵?

 

普通だったら、クラスメイトのために余り多くを語るべきではないのだが、僕は吉田くんと仲良くする為にこの学校に入った訳ではない。なので、少佐がどちら側でも構わずサービス!サービス!!

 

「召喚魔法も神祇魔法も自分より高次の何か、呼び名は精霊でも守護霊でもハイヤーセルフでも構いませんがとにかくその類のものを降ろす試みです。究極的には神を降ろすのを目的としている様ですね」

 

「その通りだ。呼び名は、神でも存在Xでも構わないだろうが」

少佐は神を存在Xと呼んでいるそうだ。しかも、あまり良い関係を築けていないみたいだ。

 

「ただ、たいていの儀式では、神を降ろすのも未来を見るのも成功しないでしょう」

僕がこういうと少佐は少し考えた。

 

「やはり、水晶眼を持つ巫女の協力が必要なのだろうか?」

 

「いいえ、そもそも考えが間違っているだけです。神を降ろすのではなく真我に到達するだけでです。もちろん、真我ですから元から自分と不可分です」

 

「あれが、自分自身?」

少佐は、声を出すつもりはなかったのだろうが思わず声が出てしまっていた。

 

「アブラハムは、神と格闘して足が不自由になっていますし、キリストは『どうして見捨てたのですか?』と十字架上で嘆いてます。真我と自我の関係が上手く行かないケースは珍しくないと思います」

 

少佐は黙ってしまった。自我≪真我とする考えが受け入れにくいのだろう。僕は構わず語り続ける。

 

「自我が真我を受け付けないだけです。受け入れるようになれば儀式の類は必要ありません。もちろん水晶眼を持つ巫女も」

 

「では、どうすれば受け入れられるようになる?それと真我になれば未来が見えるのか?」

 

「方法はたくさんあります。要は『慣れ』です。肉体や精神が高いエネルギーの状態に慣れるように練習するだけです。しかし、たとえ慣れたとしても、真我と自我の思惑が違う事があるので自我で見たい未来を真我が見たいとは限りません。思惑が一致すれば見えます」

 

「君は、見えるのか?」

 

「真我との思惑が一致する時は見えます」

 

「自分を高いエネルギーを保ったままにするコツはあるの?」

 

「はい。それこそが、それぞれの門派の教えの特徴になっています」

 

「差し支えない範囲で教えて欲しいのだけど」

少佐は真剣なだけだが、部下(?)は動揺した。そんなこと教えるはずがないのに少佐はなんてこと訊くのだなんて思ったのだろう。しかし、僕は答える。

 

「リラックスする事です」

 

「たったそれだけ?」

と、少佐は口に出さなかったが、そう言いたそうだった。

 

「ただし、骨までリラックスしなければなりません」

 

「それは、もしかして『易骨』を指しているのか?」

魔法科高では、珍しい髭ボウボウの石川が口を開いた。彼は多少中国関連の古式魔法に通じているようだ。

 

「そうです。正しくは、骨の中までリラックスするのが『易骨』です…」

 

「どうかしたかい?師匠くん」

僕のわずかな異変に少佐は気付いた。

 

「少佐。もうすぐ、我々は到着しますがどこかで休憩を入れますか?」

戸枝が気を使ってくれている。

 

「選手達は、今どこにいますか?」

 

「予定では、選手達も…待てよ。随分、予定より遅れているな」

石川は、ほんの数秒で選手達を乗せたバスの現在地を調べ上げた。凄い技術だ。

 

「選手達を、軍が護衛していますよね?」

 

「国軍は、そんなサービスをしてないぜ」

馬頭が、呆れた。

 

「師匠!何かわかったのか?!」

少佐も、何か嫌な予感がしたらしい。ゴーストが囁いたのか?それともそれともクソッタレ存在Xの仕業か?

 

「やられた!殺意がほとんど出てないから全く気付かなかった。少佐。すぐに選手に連絡を。敵が仕掛けてくる」

 

公安9課(新聞部)の行動は早かった。

 

「七草!どうして出ない?寝てるのか?!」

少佐が、苛立つ。少佐が七草会長のプライベートナンバーを知っているのに驚いた。

 

「司波達也につながりませんか?」

僕は、一番即応能力の高い人物を示した。

 

「ダメだ。誰にもつながらない」

石川が吐き捨てた。

 

どうやら、敵は通信のしづらい場所を狙ったか、つながらないようにわざわざ細工してテロを仕掛けるようだ。

 

 

 



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九校戦前夜12

誤字等若干修正。


新聞部が、選手達に連絡を付けた時には事件は解決していた。

 

新聞部によれば、渡辺風紀委員長の指揮の元、十文字会頭と司波書記の活躍で自爆テロは防げたそうだ。ただ、かなり際どかったらしい。

 

重要な事なので、このブログ小説に三回注意喚起しておいたのだが軍の警備はなかった。どういうつもり?

 

少佐達と別れて、僕は予約されていた部屋に移動した。とにかく、一刻も早く部屋に引きこもりたかった。『彼方の自分』からのリクエストが来ているのだ。座禅を組むには良い時間帯ではなかったがすぐに始めた。

 

◇◇◇

 

現場に『彼方の自分』は、立っていた。『彼方の自分』は距離も時間も関係ない。まず、テロの感知が遅れた理由を知りたい。彼方の自分はすぐに選手達のバスに突っ込んで来た自動車の運転手に注目した。

 

自爆テロだ。車内から、探索不可能なくらいに弱いが、必要最小限の魔法を三回組み合わせて車体をバスに突っ込むように操作している。自爆テロにも関わらず、犯人に強い意志がない。といより、生きている意志そのものがほとんどない。生きる屍、ゾンビ魔法師と表現できる。

 

なんと!自爆テロ開始の時空に見に来ている他の存在を感じた。あちらは全体を見ている。時空に入り込むのはできないようだ。解析能力で補っているのだろう。彼方の自分は、あちらの全体観察者に見つからないように時空を移動した。

 

今度は、選手のバスの中だ。七草は寝てる。異変に早く気付いた者から我先に魔法を発動しようとしている。渡辺が相剋を起こしそうな多数の魔法の発動をやめさせる。しかし、彼女は焦っている。

 

無秩序にサイオン波が発生している状態では事象干渉が起こりにくいからだ。それでも十文字に魔法発動を要請する。ただ、十文字もその事象干渉力が小さいと自覚し彼女と同じように焦っている。

 

一方、冷静に司波妹は、火消しを志願し魔法を発動。その前にサイオンの混乱状態が急に収まり彼女の魔法は正常に機能し火は消えた。サイオン波の混乱状態を消したのは司波兄だ。

 

彼の目は、今、バスの外の現場を調べている。彼の目はある程度時空を超えられる。ただ、その時点に入り込んでその時空の人の心まで掴む事はできない。

 

彼方の自分は、これで満足しなかった。すぐに選手のホテルに移動した。時空は今現在の少佐達が集まっている部屋だ。

 

馬頭は、『僕』に恐怖している。

 

石川は、興味深々だ。

 

戸枝は、『僕』の協力を得たい。なんとしてでも。

 

少佐は、こちらを一瞥した。彼方の自分の存在を感じている。少佐の後ろに居る守護天使が『よろしくお願い申し上げます』と伝える。彼方の自分は『諾なり』と応じる。

 

◇◇◇

 

召喚魔術

 

召喚魔術 (invocatory magic) は、神格に請願し、その力を自らの内に呼び降ろし、そして一時的に自分が神の乗り物と化すことを図る魔術作業である。要するに、自分が神と一体化する、もしくは自身に神を憑依させる技法である。アレイスター・クロウリーは、その方法を「祈りながら汝自身を燃え上がらせよ」「頻繁に召喚せよ」の二語に要約している。聖守護天使の召喚は魔術師が目標とするもののひとつである。

 

一般的に召喚魔法やその類の降霊は、上記のような説明をされる。このような説明には、神は一体何?あるいは、神と一体化に成功したあとはどうなるのか?とう言う疑問に答えていない。

 

クロウリーは「四の五を言わずに成功するまで召喚せよ!されば、自ずと解る」と言いたいのだろう。

 

とう言う事で、召喚魔法に成功した後にできるであろうことの一例を書いておいた。学徒は参考にして日々祈り給え!

 

僕は、彼方の自分で得た情報を忘れないうちに書き出した。かなり多量の情報だったので小一時間かかった。妙に腹が減った。昼食を取ってないからだ。中途半端な時間になってしまった。食事どうしようか。

 

「今晩、懇親会があるから」

と呟いた時、備え付けの回線からコールがあった。

 

新聞部の戸枝からだった。どうやって僕のルームナンバーを知ったのかは訊かなかった。僕の作業が終わった頃合いをどのように見計らったのかも聞かなかった。5人しか運んでないマイクロバスの後ろにはたくさんの機材が置かれていた。その機材をどのように使っているのかは聞かないことにしたのだ。

 

「今から、そちらに少佐が訪れる。馬頭に土産を持たせた。よろしく頼む。急な話で申し訳ないが」

 

回線を切って程なく、ドアがノックされた。僕がドアを開けると、

 

「師匠ーー!」

 

「幼女、キターーーー!」

と僕は言わなかったが、度肝を抜かれた。背格好に応じた服装の少佐がいきなり抱き付いて来たからだ。

 

フリルフリルした白いワンピース。と言うより、ちょっとしたドレス。ロリータを意図的に強調しているとしか思えない。

 

馬頭が、泣きそうな顔でテーブルの上に軽食を用意し始めた。動きに不自然さがない。ポーター経験者?準備が済むと一礼して彼はそそくさと部屋を出て行った。

 

おい!この状態を放置かよ‼︎

 

「ねえねえ、師匠。お話、いっぱいして」

これが、少佐の存在Xと一体化した姿だった。少佐が存在Xを嫌がっていた理由がわかった。

 

僕は、少佐の胸に付けている赤いブローチ型のウインドウズ95ではないエレニウム95に向かって挨拶した。石川が見張っているからだ。

 

少佐がティーカップを手にした。

「冷めちゃうよ」

 

僕もティーカップを取った。白湯だった。思わず笑ってしまった。

 

「本気のようだね。じゃあ。全開でいきますか!」

 

少佐は、目を爛々と輝かせた。

 

         ◇◇◇

 

 ちなみに、青少年保護法に違反するような行為は一切行わなかった。期待にそえなくて申し訳ありません。

 

とはいうものの、、モニターの前で馬頭は卒倒しているかもしれない。

 

一番簡単な伝授の方法を取ったからだ。要は、身体接触をしていたのだ。はたから見ればきわどい行為だろう。「百聞は一見に如かず」「百見は一触に如かず」という理屈なので仕方あるまい。

 

もちろん、理解中心に教えるのも有りなのだが前頭葉で処理するよりもはるかに上回る情報量を我々の身体は扱える。

 

少佐は、それを知っていた。僕が「神になるには、ひたすら慣れろ」と言った意味も正確に理解していた。なので、手取り足取り教えた。

 

 ここまでは、良かった。

 

        ◇◇◇

 

 まさか、懇親会にまで少佐が付いてくるとは思わなかった。目立つ。計り知れないほど目立つ。他校の学生が見て見ぬ振りをしてくれるのがせめてもの救いだ。存在Xに慣れすぎだろう。少佐。

 

遠巻きに、新聞部のメンバーが僕等を見張っている。彼等はいつでもプロになれそうだ。

 

「あんた、どういうつもり?」

僕を「あんた」と呼ぶのは河村さんしかいない。そう言えば彼女は選手に選抜されていた。

 

「よう!選手でもスタッフでもないんだが、アシスト要員として九校戦に参加しているだ」

 

「そうじゃない!その子は…」

 

「パパ、この人怖い」

少佐は、僕の後ろに隠れた。彼女のブラックユーモアのセンス抜群だ。

 

「どういうこと!説明して!」

河村さんは、少しお疲れのようだ。イライラすると競技に差し障るぞ。

 

「それより、お隣の好青年を置いてきぼりのままで良いのか?河村さんの大切なパートナーではないの?」

 

ようやく河村さんの怒りが収まったようだ。隣の好青年は新しい彼氏なのだろう。

 

「師匠、私が河村美波さんに話をしよう」

幼女版少佐が、少佐に戻っていた。しかし、衣装はそのままなので違和感が半端ない。

 

この変身には、河村さんも驚いた。いきなりフルネームで呼ばれたのも手伝って。『公安9課もどき(新聞部)』の情報収集能力は予想外だった。

 

 

 

 



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九校戦前夜13

込み入った話は、女同士で解決するのが良い。男が口を挟むとロクなことにならない。とは言え、身体接触ありの伝授の話題となると河村さんは心中穏やかでなくなった。

 

「ちょっと、あんた。どう言うつもり?」

矛先が再び僕に向けられた。

 

「最短コースを選択した。すでに少佐は神と対話できるレベルだったから」

僕は正直に答えた。河村さんは、釈然としないようだ。その横で、河村さんの新しい彼氏はオロオロしている。

 

河村さんのイライラの原因は、わかっている。彼女が習ってない事を僕が違う女の子に教えたのが気に入らないのだ。しかもその方法が少しエッチぃらしいのが更に彼女を刺激している。

 

だんだん、面倒臭くなって来た。それと、河村さんの彼氏にも誤解を早く解いておかなければならない。

 

彼は、河村さんが元彼に新しい彼女ができて怒っている。つまり、今も河村さんは元彼に未練があると誤解している。まんざら、誤解ではないかも知れないが。

 

「美波。お前は、代表選手なんだろう?精神のコンディションを整えなくても良いのか?今の状態は競技に集中しているとは思えないぞ」

僕は、真顔で正論を語り聞かせた。更に、

 

「身体接触型の伝え方に興味があるなら、今のお前の大事なパートナー込みで施術してやろうか?」

と念押しした。

 

河村さんは、トンデモない事を心に浮かべ顔色を変えて黙ってしまった。隠れ腐女子の彼女が誤解をするようにわざと言った効果が出た。

 

「今度、取材に行くよ」

 

「もう、ええわ‼︎」

河村さんと新彼氏は、二高の友人達の方に戻って行った。

 

僕は、重要な事を思い出した。僕は、ここに「報道」として、あるいは「スポーツノンフィクションライター」として派遣されていた。取材をしなければならない。取材しないで空想で記事を書く新聞社は潰されたし試合を見ないで書かれた記事を載せていた週刊スポーツ紙は廃刊となっている。

 

当たり前だ。

 

なので、僕は取材しなければならない。朝日や週プロの真似はできない。

 

 今さらながら反省する。僕は友達が少ない。司波くんがかろうじて取材に協力してくれるかも知れないかな。うーん、困った。このままでは、「衝撃!二高期待の新人、爛れた関係か?!暴かれた黒い過去」しか書けない。

 

「師匠、どうしたの」

少佐が僕のわずかな異変を察知した。隠しても仕方ないので正直に事情を話した。

 

「ならば、私を利用すれば良い」

 

 

少佐は、僕を学生たちが集まっている所に連れて行った。

 

「元気か?森崎」

少佐が森崎くんに気安く声を掛けた。森崎くんは、僕と目が合った瞬間に嫌な顔をしたが少佐を見て急に姿勢をただした。

 

「はい。元気です。少佐」

 

『少佐』が、公安9課ごっこ内だけでなく外でも通じているのには驚いた。

 

「師匠が、お前に取材をしたいそうだ。構わないか?」

 

「はい。問題ありません」

 

僕は、森崎くんに九校戦とはあまり関係なさそうなこと(1-Eの女子が知りたそうなこと)と当たり障りのないこと(九校戦に向けての決意やコンディション)を質問した。

 

森崎くんは、姿勢を正したまま質問に答えてくれていたが、時折、僕と少佐の方にわずかに視線を向ける。何か気になることがあるようだ。

 

「最後に、僕達に質問はありますか?」

と、僕から森崎くんに先に言ってあげた。

 

「お二人は、どういった間柄なのでしょうか?」

 

「爛れた関係」

少佐が即答した。

 

森崎くんは絶句した。僕は、感心した。少佐は心が読めるようだ。

 

「ではないぞ。森崎。私は師匠から、魔術を習っているだけだ」

 

安心した森崎くんは、すぐに僕に挑戦的な視線を向けてきた。

 

「それは、どのようなものですか?」

言い方は丁寧だったが、尊大な態度だ。

 

「なあに、魔術と言ってもちょっとした性魔術の類で房中術やカーマスートラにある様な本格的なものではありませんよ!」

と、からかってやった。

 

調子を合わせて、少佐が頬を赤らめていた。森崎くんは、真っ赤になっている。根は純粋な人のようだ。ハニートラップに引っかかり易い典型的な性格だな。

 

すかさず、森崎くんに取材のお礼をしてその場を離れた。

 

「師匠の元カノは、なかなかやるが、森崎はまだまだだな」

少佐は、ボソボソと呟いた。特に返事を期待して言ったのではなかろう。これにも驚いた。

 

河村さんも、森崎くんも僕と少佐のおふざけに顔色を変えて過剰に反応した。表面的にはどちらも同じだった。

 

しかし、内実は違っていた。森崎くんは、予期せぬアクシデントに遭うと何もできなくなる可能性が高い。一方、河村さんは、何らかのアクションを取り敢えず起こせるだろう。

 

どうして、そんな事がわかるのか?

 

要は、本人にどのような霊がどのように本人を助けてくれているのかと、本人がそれにどれくらいつながりを感じているかだ。森崎くんは、下から進化しているように見える。まだまだ、自分頼みが楽しいのだろう。

 

逆に言えば、予期せぬ事態が起こらなければ彼は結果を出し続けられる。

 

誤解のないように書いておくが、僕は森崎くんをけなしているのではない。むしろ、頑張って欲しいと思っている。(もちろん、僕の保身の為もある。)ちなみに、森崎くんは上記の理由からモテる。精一杯頑張っている感が出ているから普通の女の子には魅力的に見えるのだ。

 

「刑部!」

少佐が今後は、服部副会長に声をかけている。服部半蔵が名前ではなかったみたいだ。影の軍団とは、何の関係もなかったみたいだ。

 

「取材してもいい?」

 

「手短にお願いしますね」

服部副会長は、意外に女性慣れ、ではなく幼女慣れしているようだ。ただ、僕が挨拶をすると彼はわずかに表情を固くした。

 

僕は、副会長に九校戦に向けての意気込みや1ーE女子が知りたそうな質問をした。彼は、誠実に答えた。

 

「刑部、1ーEの司波達也のスタッフ入りに賛成したそうじゃあないか?それは、何故だ」

少佐が切り込んだ。というか、少佐はそれをどこで知ったのだろう。

 

「我々が三連覇する為に必要な人材と判断したからです」

副会長が胸を張った。

 

「司波達也に対して、個人的な感情はなかったのか?」

少佐は、更に嫌な質問を続けた。非公式の模擬戦で副会長が司波くんに負けたのも少佐は知っているようだ。

 

「全くないと言えば嘘になりますが、司波達也の実力は誰しも認めています。彼はエンジニアのスキルも一流です。私は生徒会副会長として冷静に判断しました。きっと、彼は我々の三連覇に貢献してくれると信じています」

 

「刑部は、やれそうだ」

服部副会長へのインタビューを終えて、少佐が呟いた。

 

「半年前とは別人だ」

少佐は、不思議がった。

 

「 服部副会長には、そこそこ高い霊がついてます。だから、敗北から建設的に教訓を得られるのです」

 

「師匠は、見えるのか?」

 

「内緒ですけど」

 

「もしかして、将来どのくらいものになるかもわかるのか?」

 

「もし、『明日、お前は死ぬ運命にある』と言われたら今日はやる気がなくなってしまいます。同じ様に、『どんなに頑張ってもここで進歩しなくなる』と言われたら頑張る気力がなくなります」

 

「だから、見えていても言わないのだな」

 

「言う時は、寿命を延ばしたり才能を改善する方法を教えるつもりがある時です」

少佐は、考え込んでしまった。それから、

 

『占師は、ロクな死に方をしない』

と言った。

 

「誰かに言われたのですか?」

 

「いや。単なる独り言だ」

 

「では、寿命を延ばしたり才能を増やしたりしましょうか!」

 

「随分と簡単に言うな」

 

「実際に、簡単ですから」

僕は、笑った。

 

 

 

 



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九校戦前夜14

誤字修正



少佐は、好きなタイプに声を掛けているのだろうか?それとも読者が関心を寄せる選手に声をかけているのだろうか?僕としては、一年なら司波深雪さん、北山雫さんを取材したほうがたくさんの人に記事を読んでもらえると思う。三年なら、七草会長、渡辺委員長だろう。

 

森崎くん、服部副会長も人気があるので良しとしよう。(服部半蔵ではなく服部刑部小丞範蔵だそうだ。)意外なのは、少佐が司波くんに声を掛けないことだ。彼も人気があるし少佐の好みだと思ったのだが。

 

と言う事で、少佐に頼ってばかりでは申し訳ないので今度は僕が司波くんに取材を申し込もうとした。

 

「あっち」

少佐が僕の手を引っ張る。少佐が見ている方向には、甘いマスク、というより凛々しい顔立ち。若武者風の美男子、という古風な形容が違和感なく当てはまる容貌で180センチ弱の身長に広い肩幅と引き締まった腰、長い脚の第三高の学生が立っている。

 

やはり、自分の好みで取材していたな〜!でも、残念!彼は司波さんに熱視線を送っている最中だ。

 

仕方ない。司波くんの取材は後回しにしよう。その時、

 

「九島烈」

壇上の司会者が、その名を告げた。少佐は立ち止まった。そして、ゆっくり壇上に身体を壇上に向ける。しかし、その表情は険しい。

 

九島さんより、少佐の反応の方が気になったが、僕は会場の皆さんと同じ様に壇上に注目した。

 

しかし、眩しさを和らげたライトの下に現れたのは、パーティドレスを纏い髪を金色に染めた、若い女性だった。

 

会場全体の光の屈折がわずかに不自然になった。手品でもするつもりだろうか?後ろの九島さんは。

 

ざわめきが広がった。

 

「フン」

少佐が、小さく吐き捨てた。

 

意外すぎる事態に、無数の囁きが交わされていた。

 

ドレス姿の女性はスッと脇へどいた。ライトが九島さんを照らし、大きなどよめきが起こる。ほとんどの人には、九島さんが突如空中から現れたように見えたことだろう。

 

 でも、彼女をシェルにするには、もう一歩彼女に近づいて彼女に隠れるか、もう二歩下がって暗所に隠れるほうが良かったと思うよ。

 

それにしても、さっきから九島さんは誰とアイコンタクトしているのだろう。えーと、誰かな?

 

げっ、司波くんだ。

 

九島の目は、上機嫌そうに笑っている。

 

キモ。

 

「まずは、悪ふざけに付き合わせたことを謝罪する」

謝る気がないのなら謝らない方が良いと思うよ。九島さん。

 

「ごめんで済んだら警察いらん」

少佐も怒っている。彼女は水晶眼の持ち主だから最初から手品を見破っていたのだろう。

 

「今のはチョッとした余興だ。魔法というより手品の類いだ。だが、手品のタネに気づいた者は、私のみたところ五人だけだった。つまり、もし私が君たちの鏖殺を目論むテロリストで、来賓に紛れて毒ガスなり爆弾なりを仕掛けたとしても、それを阻むべく行動を起こすことができたのは五人だけだ」

 

じゃあ、パームの練習でもしようかな。手品がうまくなるように。

 

「魔法を学ぶ若人諸君。・・・(長いので省略)・・・・私は諸君の工夫を楽しみにしている」

 

聴衆の全員が手を叩いた。

 

「老害」

少佐は憤慨。

 

僕は冷笑。

 

司波くんは、笑っていた。声を出さずに。

 

            ◇◇◇

 

「皆殺しを謀れば、殺意が出るからすぐに悟られる。準備の段階でも出てしまうので決行前に抑えられる」

九島さんは、もしかしたら実戦経験があまりなくて大半を安全な後方任務にでも就ていたのだろうか?素晴らしきかな!後方任務と言っていいのは銀翼突撃章を授与された者くらいだ。

 

「どす黒い、変な色の光が体中から漏れるから絶対にわかるわ!大量殺人なんて」

少佐、自ら水晶眼であるとばらしているようなものですよ。

 

二人の毒舌は続く。もう部屋に戻っているから盗聴している人以外には聞かれないから大丈夫だ。

 

しかし、九島くんには参った。質的な実力差をちょっとした工夫や努力や根性で埋められるなどと考えるのは本当に凄い人に出会った経験がないと告白しているようなものだ。特に戦争ではその類いの精神論を絶対に頼りにしてはいけない。部下をたくさん死なせるだけだ。

 

彼は、若い魔法師をたくさん殺したいのか?

 

だいたい、第三次世界大戦で日本が勝ったのは九島さんが頑張ってからではなく日米で立てた作戦が優れていたから勝てたのだ。戦略の失敗は戦術で取り返せない。ヤン・ウェンリーも言ってた。

 

逆に言えば、戦略が良ければ戦術で多少の失敗をしても負けはしないのだ。

 

米国おける国体護持はユダヤ人と中流階級が担っている。彼らに認められない個人や組織は合法、非合法関係なく、あらゆる手段をもって排除、抹殺される。日本においては、1に官僚機構、2に国軍、3に天皇である。日本が国難に対し、国軍(自衛隊)、国民を一致団結させる最後の砦は天皇である。

 

こうであるから、米国の魔法師は米国から排除されることはない。米国魔法師はユダヤ人と中産階級にしっかりと溶け込んでいるからだ。一方、我国では、魔法師で固まってしまっている。十師族の制度がわかりやすい例だ。

 

本来なら、日本の国体護持に「魔法師」と言われるようでなければならない。魔法師の指導的立場にある人物は、猛反省して頂きたい。もし、それがかなわないなら官僚機構や国軍や天皇と一枚岩になる必要がある。

 

「(小野)はるかちゃん」は、その点では模範的な行動をしている。公安協力者としてお国の為に働いている。決して、公安そのものに興味を持ったり、公安をどうこうしようと野心を抱いたりもしていない。

 

「師匠。小野さんが公安だとどうしてわかったの?」

少佐に突っ込まれた。

 

「職業当てクイズは、得意なんだ」

 

話を続けよう。

 

魔法師で徒党を組んで、国体護持にその影響力を及ぼそうとしたり、国体護持と断言できない組織と一枚岩になってはならない。

 

例えば、日本政府は、外敵に乗っ取られる可能性が高い組織だ。有権者を、正しい判断をさせないような状況にすれば売国奴や反日工作員を選挙で勝たせられるからだ。

 

市議などは簡単に当選させられるし、国会議員でもそれは可能だ。また、議員を抑えれば地元の警察はその影響を受けてしまう。

 

国体護持に、日本政府と警察が入ってないのはこの為だ。だから、警察を見張る公安が必要なのだ。公安は、諜報員だ。諜報員は、誰に命を捧げているのか?(もちろん、全員ではないと予め断っておく。)女王陛下の007のたとえのごとく、我国においては天皇と天皇家がスパイの仕える、否、命をかける対象である。ここに国体護持装置が効いているのだ。

 

「ところで、師匠。今までの話はどこまで本気?」

 

「全部、本気です」

 

「はるかちゃんはさて置いてヤン・ウェンリーとか銀翼突撃章とか聞いたことないんだけど? 」

 

「そこ、笑うところ」

 

話を元に戻そう。

 

魔法師業界はリーダーの境地が6段階でないのが構造的な欠陥である。魔法を使えなくても他の業界には、真の指導的立場の中に一人くらいは境地が6段階の人物が存在している。

 

なので、その業界はまず滅びない。「君子危うきに近寄らず」のたとえのごとく6段階の人物は、その業界が一大決心を迫られた時に滅びの危機を察知して対策を講じる事が出来る。

 

そういう面では、この魔法師業界は他の業界に大きく劣っている。「魔法師界、百年の計」を立案出来る人物が居ないし、今のままでは、そのような人物は現れて来ないからだ。

 

魔法師の多くは5段階の境地に達している。しかし、サイオンの使い過ぎによって先天の気が枯渇して行く。5段階ならかなり先天の気を補充したり循環させたり出来るのだが適宜これが可能な魔法師は皆無だ。

 

その為、次の境地に達するエネルギーが足りなくなる。魔法師育成が機能すればするほど魔法師界は真の指導者を得難くなり、やがては滅んで行く。

 

こんな簡単な理屈を実戦を潜り抜け九十まで生き抜いた人物がわからないのは、怠慢以外の何者でもない!

 

「ところで、少佐。もうそろそろ自分の部屋に戻った方が良い時間だと思うけど」

 

「今夜は、ここで寝るよ」

 

「そこ、笑うところ?」

 

 

 

 

 

 



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九校戦前夜15

今回は、少し読みづらいかも知れません。

最後の文章を1部修正。


部屋の隅っこで景色が少しずれた。

 

光学迷彩(?)を施した公安9課モドキのメンバーが僕と少佐を見張っていたのだろう。

 

魔法を使わなければバレないと考えたようだ。創意工夫は大切だが、存在を無くさないとバレる。創意工夫では、超えられない壁があるのだ。九島くんに聞かせてあげたいね。

 

少佐がこの部屋に泊まるのは事前に取り決めしていなかったので監視していた人が動揺してしまったと思われる。せっかく今まで気付かないフリをしてあげていたのに台無しだ。

 

とはいえ、もうバレているのにこのまま一夜明かさせるとなると単なる拷問になる。僕は、優しいので光学迷彩の中の人を拷問から救い出してあげる事にした。

 

「わかった。少佐。ただ、着替えや何やら女の子には必要だろうから取って来たら良いよ」

 

「ありがとう。じゃあ、取って来させるね」

あれっ?少佐は、僕の真意を汲み取れなかったのだろうか?

 

程なく、荷物が届いた。僕はわざと部屋のドアを大きく開けて荷物を運び入れさせた。馬頭は、手際良く運び入れてしまい中の人は部屋から出るチャンスを逃してしまった。

 

(少佐。良いのか?中の人をどうするつもり?)

 

(気がついてたのか。あいつが勝手にやっているから少しくらい辛くても我慢してもらう)

 

少佐は、部下に厳しかった。

 

では、中の人も退屈しないように座禅や武術ではなくて違う方法を軸にして第6段階へのアプローチの仕方を説明しよう。

 

少佐は、水晶眼の持ち主だからいきなり高度な話をしても大丈夫なのだが、部下はそうでもないだろう。そういう訳で水晶眼的視力を持つ為に役に立つし魔法演算領域拡張(無意識の一部を意識化)にも役に立たつ方法を紹介しよう。

 

誰でも多少は知っている自律訓練法だ。

 

『』

 

標準訓練は、広く知られている。一回は試みた方も多いだろう。そして、なぜかみんな失敗する。

 

『』

 

途中で挫折する原因の一つは、この「温かい」感じが四肢や身体全体に広がってくれないからだ。ここで失敗すると心理的な弛緩に移行できない。

 

『』

 

「重たさ」は、じっとしていればそのうちだるさや痛さを伴って感じるようになる。何回かしていれば慣れて「重たさ」を感じるようになる。

しかし、肉体の緊張に慣れただけなので身体のエネルギーの循環はほとんど改善されていない。そのままでは「温かい」感じが得られない。

何らかの身体のエネルギーの循環を良くする方法が必要なのだ。これは、後で紹介する。

 

『』

 

上記は、補足が必要だろう。昔、大脳生理学者のフォクトが催眠術をかけまくっていたら被験者の調子が良くなった事がしばしば起こった。それで、催眠術を健康法として彼は考え、シュルツはそれなら自分で自分に催眠状態をつくれないかと考えたのだ。

 

『』

 

ちなみに、自律訓練法の簡単な解説本を読むより本格的なJ・H・シュルツ,成瀬悟策共著『自己催眠』(誠信書房)などに目を通すと良い。

 

『』

 

第2公式まで、できないから挫折する。もし、第2公式までできたら後天の気を自由に取り入れられるだろうし、先天の気もある程度取り入れられるだろう。

 

『』

 

【変性意識状態の体験、多幸感の体験、深いリラックス状態の体験】は、先天の気を取り入れた時に起きる。心と身体にエネルギーが入るようになるので、たくさんサイオンも消費出来るようになる。魔法の連続発動や事象改変力も強化される。

 

『』

 

部屋の隅の景色が微妙に動いている。光学迷彩の中の人が早速、試しているようだ。しかし、消去動作をする時どうするつもりだろう。それと…

 

 




自律訓練方の引用箇所は、運営様から盗作にあたるとご指摘されましたので、削除させていただきました。


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九校戦前夜16

読者様へ

 

前回と今回紹介、解説した自律訓練法をこの私小説を参考に実施されましても、必ず魔法師になれるとは限りません。予めご了承ください。また、実施されて偏差(自律神経失調症)や魔境(統合失調症)になったとしても著者あるいは出版社は責任は負いかねます。重ねてご了承ください。

 

著者しるす

 

 

部屋の隅の景色が一定のリズムで上下に揺れ始めた。おそらく中の人がうつらうつらとし始めたのだろう。おそらく彼(彼女かも知れないが、あまり興味はない。)はかなり疲れている。

何しろ、僕に姿を見られないように、マイクロバスの中からずっと中の人は注意していたのだろうから。

 

では、説明を続けよう。

 

 

(これは、良く知られている練習だが、実施時間がかなり短いのに注意して欲しい。あまり長くやると逆に緊張してしまうからだ。しかし、座禅では長く座る。長く座ると身体が緊張出来なくなるからだ。)

 

 

 

 

実際は、ここまでの段階に到達できない。しかし、出来るようになる方法はある。

身体の緊張は、それをほぐす為の体操がある。体温の問題は、冷たいものを飲まないとか、太陽光に当たる(ただし、顔に当てるのはあまり良くない)とか、暖かい格好で練習する等だ。

指導者の元で行うべきだと言われるが、それは的確なアドバイスを行える指導者を意味している。少なくとも、次に紹介する練習法を習得出来た人物に指導を仰ぐべきだろう。

 

『』

 

何のことはない。これで『水晶眼』の基礎が得られる。他人のオーラが見えるようになるし、精霊の色も見えるようになる。しかも、自分の都合に合わせて見れる特典付きだ。

さらに、身体のリラックスだけでなく精神のリラックスを習得する時に必要な先天の気を取り入れる方法にも直結している。

『水晶眼』の持主が、その視力をコントロールできないのは、視力に見合うエネルギーを取り入れる方法を知らないからだ。柴田さんが、急に自己コントロールが効かなくなって感情的になるのはこれで治せる。オーラ・カット・コーティング・レンズも要らなくなし、オーラ・バトラー美月になることもなくなる。

あるいは、昔神童今しんどい吉田くんもスランプを脱出出来る。要は精神が安定すれば(脳の緊張が取れれば)神童に戻れる。

さて、いよいよ、無意識の顕在化だ。お待ちかねの魔法演算領域拡張だ。

 

『』

 

心に浮かぶ由無しごとをそこはかとなく書き綴れば怪う物狂い欲しけれと吉田兼好が徒然草の冒頭で語っているが、彼も無意識の方からの情報を出やすくしたり受け取りやすくしている。自律訓練法ではカタルシス効果があるとしており、同様に吉田兼好は腹膨るるのが直っていた。

 

『』

 

司波くんが、一高選手団を乗せたバスに対するテロ事件を離れた場所と時間から調査していた。このような特殊な視力もこのトレーニングで基礎を積める。

 

『』

 

他人からの殺気や悪意を正確に感じたり、心を読んだりする為の基礎となる。おそらく吉田くんも出来ると思う。司波くんはもちろんのこと。

 

『』

 

無意識からアプローチを捉えるのに役に立たつ。それが、結果的に魔法演算領域の拡張となる。現代魔法師はこの段階で進歩を止めるべきではない。彼方の自分に会うまで進歩するべきだ。

 

『』

 

解説を省略する。

 

「師匠、幹比古が殺意や悪意を捉えるられるのはわかるが、司波達也がエレメンタルサイトを使えるのはどうしてわかったの?」

少佐が質問してきた。

 

「僕も、その事件を調べていたんだ」

 

「師匠もエレメンタルサイトを使えるのか?」

 

「いや、僕のは間接的に見ているわけではないよ」

 

「どういうこと?」

 

「その時空に移動している。だから、テロが起きた時、僕はその場に居合わせたことになる」

 

少佐がキョトンとした。

 

「分身してた、あるいは、過去に戻ったとしてもいいよ」

 

少佐は、考え込んでしまった。

 

「自律訓練法で師匠の境地まで行けるの?」

なんとか、言葉を絞り出す。

 

「いや、自律訓練法では足りない」

 

少佐はガッカリした。




運営様から引用箇所が著作権違法に当たるとのご指摘があり削除させていただきました。


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九校戦前夜17

「少佐、吉田くんとは知り合い?」

ユニットバスから出てきた少佐に僕が尋ねた。彼女は僕の後にシャワーを使った。僕が使っている間に体力的に限界になっていた光学迷彩の中の人が部屋から脱出していた。

 

「知り合いと言えば、そうね。吉田家はうちの分家よ。でも今はあちらの方が有名かな」

少佐が、少々自虐的に笑った。通りで少佐が吉田くんを幹比古と呼んだりするわけだ。

 

「少佐も神祇魔法をしたの?」

 

「うちは、分家と違って大掛かりな儀式は廃している。無駄だとわかったから。でも高次の存在を降ろすノウハウを完全に蓄積しているとは言えないの」

 

「出来たり、出来なかったり?」

 

「そうね。個人の能力に頼りきりね」

 

期待に応えた少佐は、自分の成長を犠牲にし期待に応えようとした吉田くんはスランプになったわけだ。

 

「でも本当のことを言ってしまうと肉体を持ったまま到達出来る最高の境地、第八段階には理論上はみんな到達可能なんだ」

 

これを聞いて少佐は納得出来なさそうな顔をした。

 

「高次の意識に見合う肉体にする方法がいまだに公けになってないのが原因だ。根気よく練習すれば誰でも習得出来る。でも、ほとんどの人はそんな事をしない。しなければならない必要に迫られないからだ」

 

「それは、わかる。私より才能がありそうな人はあまり熱心に修行しないの」

少佐は、溜息を吐く。

 

「前世でどこまで到達して、今世でどこまで行きたいかで大体決まってしまうからそれは仕方ないよ」

 

「師匠は、自分が前世でどこまで到達したか知っているの?」

 

「あまり、興味がないからハッキリは見てないけど七段階はクリアしていた」

 

いずれ、少佐が到達する境地についてあれこれ語っても意味がないので、話題を変える。

 

「ところで、少佐は悪意や殺気をどれくらい察知出来る?」

 

「私は、自分に向けられたものなら大体わかる。ただ、私以外に向けられたものはあんまりわからないの」

 

「わかった。今、この宿泊施設にテロリストが攻撃しようといている」

 

「本当?!」

 

「ああ、彼等の選手達に対する殺気は相当なものだ」

 

「場所を教えて!」

 

「じゃあ、そろそろ寝ようか」

 

「ちょっと待って!」

 

「心配ない。魔法師がすでに察知している。おそらく軍の魔法師だ」

それを聞いて少佐が安堵した。

 

「これから、観に行こう」

 

「?」

 

◇◇◇

 

ベットに横たわろうとすると少佐は何も言わずに僕の隣に横になった。目が合うと彼女は少し照れくさそうに笑ったが、しばらくすると寝息が聞こえて来た。僕も眼を瞑った。

 

彼方の自分になっていた。ラフな格好でホテルの周りをブラブラしている司波くんがいる時空だった。

 

司波は、程なく異様な気配に気付く。彼は、感覚を開放し、抽象の核に迫った。しかし、それに一体にはならない。彼はそこから知りたい情報を読み込んだ。賊の居処や人数や装備等を映像ではなく概念で読み終えて彼は足音を決して駆け出した。

 

ほぼ同時刻に吉田が賊の侵入に気付く。

彼は、ホテルの庭の奥まった部分、人気のない場所で精霊魔法の修行をしていた。彼は族と認識する前に精霊の囁きからホテルの敷地外に人がいると知った。精霊の囁きが続く為、彼は同調を強めその者の悪意を察知した。彼は逡巡した後、対応すべく駆け出した。

 

吉田は、賊と接近しその殺気を感じた。彼はすぐに攻撃を開始した。

 

司波は、吉田の攻撃魔法が間に合わないと抽象から読み込み、援護の魔法を発動した。三人の賊の携帯していた銃が分解し、その直後に吉田の攻撃魔法が発動し電撃が賊を襲った。賊は気絶した。

 

彼方の自分は、他に警戒する敵が居ないのを確認しその時空を去った。

 

目が覚めた。2時前だった。僕は隣で寝ている少佐を起こさないようにベットを抜け出しトイレに行った。記憶想起の為に先程の体験を簡単にまとめたりしてベットに戻った。

 

◇◇◇

 

目が覚めると、「おはよう」と声をかけられた。

 

「少佐?!」

 

「驚いた?」

 

少佐が女になっていた。今、えっちぃ誤解をした方がいただろう。僕が少佐を女にしたとは書いてないのに留意して頂きたい。それと、もっと正確に描写すると彼女は幼女から少女に変身していた。

 

「私も驚いたわ」

 

「成長ホルモンが分泌し始めたかな」

 

「そこは、愛の奇跡と言って欲しいわね」

少佐が、微笑んだ。

 

「睡眠中の事、どれくらい覚えている?」

 

「たくさん、夢を見たけど、あなたと幹比古と司波達也が出て来たと思う」

 

「それだけ覚えていれば上出来だ」

 

「先に今夜は寝かせないと言って欲しかったわ」

 

少佐は、饒舌だ。機嫌が良いのだろう。幼女のままの姿は、彼女に本当はストレスだったのかも知れない。

 

僕らは、部屋を出た。昨晩の事件現場を見る為だ。歩きながら昨晩の説明をした。

 

『司波は、程なく異様な気配に気付く。彼は、感覚を開放し、抽象の核に迫った。しかし、一体にはならない。そこから知りたい情報を読み込んだ。賊の居処や人数や装備等を映像ではなく概念で読み終えて彼は足音を決して駆け出した。』

 

司波くんの解析能力はすごかったけど、あの方法は限界がある。おそらく、エイドスと抽象を規定してそこから情報を得る技術を磨いたのだろう。

死刑前のキリストが天の父からアドバイスを受けていた技術と同じだ。しかし、本当の情報を得るにはエイドスそのものになる必要がある。

キリストの死刑後に教会関係者が主張した三位一体説がそれにあたる。天の父と子なるイエスと聖霊はみな同じとしたものだ。

自律訓練法なら、事物心像視の特にBの抽象心像視がこれの基礎訓練になる。エイドスそのものと一体になってないのでテキストデータのように情報を引き出す。特に抽象心像視の練習はこれに役立つ。

 

「エイドスを抽象と言ったりしているけどそれって何?」

少佐が、尋ねてきた。

 

「エイドスは、丹田でもチャクラでもセフィロトでもいいよ。それを外から眺めるのではなく、一体化するのが重要なんだ。しかも、その感覚は人それぞれに違っていることも知っておいた方が良い」

少佐には、まだ理解できないかも知れないが本気で伝えるには多少前倒しでも構わない。

 

『ほぼ同時刻に吉田が賊の侵入に気付く。

彼は、ホテルの庭の奥まった部分、人気のない場所で精霊魔法の修行をしていた。彼は族と認識する前に精霊の囁きからホテルの敷地外に人がいると知った。精霊の囁きが続く為、彼は同調を強めその者の悪意を察知した。彼は逡巡した後、対応すべく駆け出した。』

 

精霊も、実は自分なのだが別の何かと捉えた方が情報を得易い事もある。

色彩心像視は、精霊を捉えるのに役立つ練習だ。特にAの自然色心像視は他人のオーラが見えるようになるだけではなく、精霊を見やすい眼になって行く。

Bの特定色心像視は、精霊を見て選択的にそれに焦点を当てる練習にもなるし精霊から情報を引き出す為の基礎訓練になる。

 

僕は、昨晩紹介した自律訓練法で司波くんのエレメンタルサイトや吉田くんの神祇魔法を習熟する為の解説を歩きながら少佐にした。少佐は、古風で大掛かりな芝居掛かった儀式魔法は実践していない門派に属していると言っていたので、僕は公開されている自律訓練法を利用して、個人に頼る高度(?)な無系統魔法の理屈を彼女に解説してみたのだ。

 

『吉田は、賊と接近しその殺気を感じた。彼はすぐに攻撃を開始した。

司波は、吉田の攻撃魔法が間に合わないと抽象から読み込み援護の魔法を発動した。三人の賊の携帯していた銃が分解し、その直後に吉田の攻撃魔法が発動し電撃が賊を襲った。賊は気絶した。』

 

吉田くんは、自分に向けられた殺気を瞬時に捉えている。それ自体は大したものだ。

でも同じ理屈で他人に向けられた殺気を捉えたほうが方法が複雑にならなくて良いだろう。精霊から情報を引き出したり、自分自身で感じてたり一々方法を選択するのは時間の無駄なのだ。

そこは、司波くんの何でもエイドスに訊いてしまう方が優れている。ただ、エイドスそのものになればさらに自由度が大きくなる。

例えば、『彼方の自分は、他に警戒する敵が居ないのを確認しその時空を去った。』みたいな事も出来る。

 

「おはよう!吉田くん」

早朝から、昨晩と同じ場所で練習している吉田くんに僕は声をかけた。

 

彼は、誰も居ないと思っていたらしく少し驚いた様子で、

「おはよう。師匠くん」

と言いかけて、

「ごめん。すぐに移動するよ!」

と慌てた。

 

彼は、僕と少佐を見て早合点している。カップルが、早朝から公園の中に入ってえっちぃことでもし始めると思ったのだろうか?恋人同士の様に、手を繋いでいた僕らの行動も誤解を招き易いものではあったが。

 

「おはよう、幹比古。私だ」

 

吉田くんは、少佐を見てさらに驚いた。少女に変身した少佐を彼は最初、認識できなかったのだろう。

 

「昨晩は、大活躍だったな」

少佐がこう言った瞬間に、吉田くんの顔色が変わった。

 

「誰に聞いた?!」

目が釣り上がって恐いぞ。吉田くん。

 

「だって、昨晩私達ここで…」

少佐は頬を赤らめた。

 

「ごごごめん!」

吉田くんは、また勘違いしたようだ。意外に彼は助平なのかも知れない。すぐに色事を想像する。

 

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦前夜18

「少佐は、演劇をされていたのですか?」

 

少佐は、キョトンとしている。そこは、「はぁ?」と睨みを効かせて欲しかった。それは置いといて、

 

「吉田くん、じつはしかるべき方法で僕らは吉田くんと司波くんの活躍をリアルタイムで見ていたんだ。決して、青少年保護法に引っかかる様ないかがわしい行為の最中だったわけではないので安心して欲しい」

とは言ったものの同衾していたから詳しく話せない。

 

「だったら、余計に気になるじゃないか‼︎」

 

「吉田くんも、似たような魔法を使えるだろう?少し違うが大体似たようなものだ」

と僕は、フォローしておいた。

 

吉田くんは、黙ってしまった。精霊を使って覗き見る魔法を使えば彼にすぐバレる。昨晩、僕らが使ったのは無系統魔法どころか魔法の範疇から逸脱している現象なので吉田くんには探知できない。彼は、そこに気付いた。さすが新吉田家の神童は違いがわかる男。ゴールドブレンドだ。

 

「幹比古、己の限界を自分の力だけで突破しようとするのは時間の無駄だぞ。頼れるものはなんだって頼って問題を解決すればいい」

少佐が、もっともらしいことを言った。これも演技だったら主演女優賞だ。

 

「昨日も、似たような事を言われたよ」

吉田くんが、溜息を漏らした。誰に言われたのか知らないがこの際誰でも良い。

 

「僕らは、今から練習するから吉田くんはそこで休憩してるといいよ」

グダグダ言ってても始まらないので朝の練習を始める。

 

「じつは、早朝のほうが健康に良いとは限らない」

 

少佐も、吉田くんも信じられないと言いたそうな顔になっている。

 

「練習によって、ふさわしい時間帯があるし、個人にも適した時間帯があるから早朝が必ず良いとは言えないんだ」

 

少し表現を変えると二人とも、多少納得してくれたようだ。

 

「手っ取り早く元気になるには、太陽に当たるといい。でも、当てる場所がある。こことここだ」

僕は、場所を示しながら太陽に当たるための姿勢になった。

 

「ちなみに、顔は当てない方がいい。太陽のエネルギーがきつくて不安定なので脳にはきついから」

僕は、顔が木陰にに隠れるように移動した。

 

「魔法師みたいに、大量のサイオンを使う者はこれをしてエネルギーを取り入れた方がいい」

似たような修行法を二人とも知っているようだ。しかし、太陽に向かったままエネルギーを取り入れる修行のようだった。

 

「練習時間が極短い場合は、太陽に向かってエネルギーを取り入れる方法もありだが、それを長めに練習すると脳に悪い。ちょうどいい頃合いがわかると良いが、最初のうちは判断がつかないから太陽に顔を当てるのを避けた方がいい」

吉田くんは、あまり興味がなさそうだった。心を強くするにはもってこいの方法なのだが、彼の心には映らなかった。

 

そこで、今度は光を露骨に取り入れて即席に元気になる練習方法も紹介した。これは、エイドスから情報を引き出す練習も兼ねている。

 

「雲でも、空でも、山でも構わないが、例えば雲から先ほどの要領で雲の光を取り入れると意図する」

僕は、空に浮かぶ適当な大きさの雲に身体を向けた。

 

雲からの光を取り入れる。そして、雲と一体化して行く。雲のエネルギーを感じる。雲のど迫力を実感する。

「雲のように、雲のようにやるから、雲手」

僕は、腕をくるくるとユックリ回してみせた。太極拳の雲手だ。

 

『』

と頭にあると雲をふわふわとして頼りのないものと捉えてしまう。

 

他人の解釈を信仰せずに、雲を自分で直覚するのが肝心なのだ。

 

「師匠。こうか?」

少佐が試している。

 

「腕は動かさなくても構わない」

 

少佐が、動きを止めた。数秒後。

 

「あっ?!」

少佐が、身を縮めた。

 

「どうした?」

 

「雲に押し潰されるかと思った…」

そう言いながら、少佐は嬉しそうだった。そこは、「雲に押し倒されるかと思った」とボケて欲しかった。

 

吉田くんは、驚いていた。彼は、精霊を使って見ていたのだろう。どんな景色が彼の目に映ったかわからないが衝撃映像(閲覧注意!)だったに違いない。

 

今、起きた現象を現代科学風に表現してみる。

 

【夜、男と一緒に一晩を過ごし何らかの原因で寝不足になった少女が、早朝に太陽の光を浴びて熱中症で倒れそうになった。】

 

といったところだろう。じつは、大間違いとも言えない。熱中症の本当の原因は、エネルギーの取り入れ過ぎだからだ。現代科学では原因が解明できないので100年以上前はなぜか日射病と熱射病と分けて対処法も異なっていたらしい。

 

〜症と書いてあれば治療法はないと考えると良い。〜病とあれば治療法が一応あると考えて良い。同じ症状なのに分けていたり治療法があると考えていたのにじつはなかったと後に明らかになったり、随分いい加減なものなのだ。

 

さて、熱中症の原因は、

 

『視床下部の温熱中枢まで障害されたときに、体温調節機能が失われることにより生じる。』

 

ここでも、視床下部が出て来た。誰かさんはここを精神干渉魔法で弄くって莫大なエネルギーを取り入れても体温調節機能が失われない細工をしているのだろう。

そうしておけば、サイオンを大量に消費しながら補充も大量に行える。何の細工もなしに光を取り入れ過ぎると熱中症の軽い症状と同じような症状が出る。頭痛は、もっとも起こり易い。

 

吉田くんは、横で見ているだけなのに今度は要領を得たようだ。腕を回して運手をしている。ただ取り入れ過ぎて明日明後日は頭痛に悩まされるかも知れない。

しかし、彼ならそのうち慣れるだろう。吉田一門の代表者の一人なのだからそれくらいはこなせる。

 

さて、気になるのは今朝も頑張っている光学迷彩の人だ。我々のような薄着でも少し暑いのに頭からマントを被ればその暑さはかなりのものに違いない。熱中症にかかりはしないかと見張られているこちらが心配になる。

 

ただ、発想はなかなか良い。姿を消すのに魔法を使用すると多くの魔法師にバレてしまう。そこで、姿を隠すのは現代科学に頼り、気配を消す等の必要最低限の魔法だけを使用して隠れる方法は素晴らしい。現に吉田くんは、光学迷彩の人に気付いてないのだから。

 

少佐も少し休ませた方がいい。そこで、僕は吉田くんに向かって言った。

 

「同じ要領で山にやってみたらいい」

 

僕は、山に向かって光を取り入れた。山と一体化してくる。

 

理屈を伝えて、見本を見せただけですぐに吉田くんは僕と同じように再現して見せた。

 

「どう感じた?」

 

「雲が凄い迫力だったのに、山はなぜか柔らかく感じたよ。でも、これって、合っているのかい?」

 

「感じ方は、人それぞれだからそれが吉田くんにとっての正解だよ。ただ、その感覚を次回に再現しようとしたら進歩し無くなる。コツは、感じ方は行う度に異なることがしばしばあるのを念頭に入れて行うことだ。もちろん、同じように感じる時もあるよ」

 

少佐をホテルに連れて帰った方が良さそうだ。そこで、最後に吉田くんにサービスした。

 

「ハートを強くしたり、腹が座るようになりたければ、光を取り入れる場所を工夫したら良いよ。取り入れる身体の部位は、だいたい想像がつくだろう」

 

「ああ」

吉田くんは、即答した。吉田家に似たような訓練法が伝承されているのかも知れない。

 

「じゃ、僕らはこれで」

 

「師匠」

 

「何か、わからないことがあった?」

 

「いや、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




引用箇所が運営様から盗作に該当すると指摘されたので削除しました。雲の科学的説明です。


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九校戦前夜19

誤字訂正


一門や一流派や一家を背負う者のプレッシャーは相当なものだろう。自分の成長を止めたり、無理な降霊をして自律神経系失調症になったりとなかなか大変だ。とはいえ、死ななければ逆転の可能性は必ずある。自暴自棄になったり、自虐的になるのは時間の無駄なのだ。

 

少佐は、名家のお嬢様だし吉田くんは名家のお坊ちゃんだ。彼等の御両親に教育方法をアレコレと注文をつける気は無いが大切な御子息をもっと丁寧に育てる努力をしてもらいたい。自分達の手に余るのなら外部に頼むのもの真剣に考えるべきだ。

 

僕は、お役に立ちますよ。光を取り入れて超健康になる方法以外にもたくさんのお役立ち法を取り揃えております。ご入用でしたらいつでも声をお掛け下さい。

 

「あなたの部屋に連れて行って」

朝食をどうしようかと考えていたら、少佐が言った。

 

◇◇◇

 

「私達の顧問になって欲しいの」

部屋に戻ると少佐は、真剣な表情で言った。

 

「いいですよ」

いいとも〜!と軽口を叩くのは控えた。彼女は、真面目に頼んでいるのだから。顧問になって何をするのかよくわからないが、とにかく承諾した。彼方の世界の彼女も喜んでいるだろうから。

 

とは言ったものの、旧吉田家の顧問なのか少佐の公安9課モドキの顧問なのかで事情は違ってくるが霊が請けろと催促しているのだから請ければいいのだ。でも、少し気になるな。

 

「少佐は、もしかして旧吉田家の次期当主?」

 

「これは内緒だけど、次期当主ではなく今◯◯」

これを聞いた光学迷彩の中の人の動揺は、激しかった。部屋の隅の景色が揺れに揺れている。

 

「そうなんだ!じゃあ、僕も頑張らないと行けないね」

 

「ええ、私を八段階に連れてってね。師匠」

 

さすが、旧吉田家の◯主は大志を抱かれている。

 

「それと、これはお礼」

 

彼女が、僕のタブレットを指差した。入金された金額を確認するとちょっとびっくりする金額だった。

 

さすが、旧吉田家の当◯は太っ腹だ。

 

「最後に、一言だけ」

前置きして彼女は、僕も耳元で囁いた。

 

『四葉に、お気をつけ下さい。殿下』

 

一歩下がって少佐はうやうやしくカーテシーをして部屋から出て行った。部屋の外には馬頭が控えていた。ドアの隙間から丁寧にお辞儀をするのが見えた。

 

さすが、旧吉田家の◯◯であられる吉田摩耶は品が違う。思わず、感心してしまった。あの年齢で◯◯とは、大したものだ。

 

感心したのは、僕だけではなかった。光学迷彩の中の人もそうだった。それは結構なことだが少佐と一緒に退出するタイミングを中の人は逃してしまった。随分おっちょこちょいだ。仕方ないので、僕は外に出ようかと思ったが、少し試したくなった。

 

「FLTの飛行魔法のデバイスは、もう出回っているのかなぁ」

等と独り言を言いながら窓を開けようとした。露骨にここから脱出しろと指し示したのだ。部屋の隅にいる光学迷彩の中の人は、首を横に振っているようだ。景色が横に揺れる。

 

おっちょこちょいなところや姿が消せるからオバケのQ太郎と同じ能力があるのかと思ったが空は飛べないらしい。

 

「ぐ〜〜〜」

腹の虫が鳴いている。光学迷彩の中の人のお腹だ。こういう間抜けたところはオバケのQ太郎とソックリだ。

 

ただ、こんなことを続けてもQ太郎に恥をかかすだけなので僕は部屋を出て食堂に向かった。Qちゃんは、頃合いを見計らって部屋を出て行くだろう。

 

◇◇◇

 

ホテルの食堂に入ろうとすると声を掛けられた。

 

「おはよう!師匠」

「おはようございます。師匠さん」

千葉さんと柴田さんだった。

 

「師匠さんは、応援ですか?とても早い到着ですね?」

柴田さんが尋ねてきた。成り行きで同じテーブルに座っている。

 

「応援ではないんです。『有志』として九校戦スタッフに参加しているんです」

 

「へ〜、そうなんですか〜」

柴田さんは、『有志』での九校戦参加について知らなかったようだがとりあえず感心して見せた。良い人だ。

 

「で、師匠は何のスタッフ?」

 

「報道だよ」

 

「フーン。ところでさぁ、昨日一緒にいたのはもしかして彼女?」

千葉さんは、いたずらっ子の笑みを浮かべた。

 

「ちょっと、師匠さんに失礼だよ」

 

「彼女ではないよ」

 

「へ〜、彼女じゃあないんだぁ!師匠って、じつはモテる?いつも違う女の子と歩いてる気がするんだけど」

朝から饒舌な千葉さんだ。何か良いことでもあったのかいお嬢ちゃん?と訊いてやろうか。

 

「いやいや、千葉さんほどではありませんよ。いつも素敵な男子と親しくされて」

と言ってやったら、千葉さんは顔色を変えた。

 

「チョッとエリカちゃん」

水晶眼の柴田さんには、千葉さんが激怒したのが見えているのだろう。

 

「そういえば、素敵ですが今長期スランプ中の吉田くん。彼はもうすぐ復活しますよ。神童の復活です」

千葉さんの怒りは無視して言った。

 

気まずい間が出来た。

 

「あんた。もしかして『預言者』?」

怒りが薄まった千葉さんが、訊いた。

 

「じつは、昨晩、賊が侵入しようとしたんだ」

千葉さんの問いをスルーして僕は昨晩の話を掻い摘んでした。ただし、オフレコにしておいてもらった。特に吉田くんと司波くんはこの話が広まって欲しくなさそうなので特に言っては行けないと念押ししておいた。

 

「でも、どうしてそんな事を知っているの?」

好きな男子の武勇伝に心を躍らせた千葉さんは怒りが完全に収まったようだ。

 

「『報道』だから」

 

◇◇◇

 

僕は、自分だけが世界中の不幸を背負っている等と勘違いしている千葉さんのような女の子は見ていて時にイラっと来る。自分で勝手に不幸になるのは一向に構わないが周りを巻き込んだり振り回すのは止めてもらいたい。

吉田幹比古くんを「ミキ」と呼んでからかっても彼のスランプは治りはしない。彼に必要なのは叱咤激励ではなく適切なアドバイスなのだ。

 

ただ、今回は彼女に感謝したい。僕がここに来た一番の目的は九校戦の密着取材だった。それを少佐との一件で完全に失念していた。取材のようなものが出来たのは、少佐好みのイケメン男子学生だけだ。しかも話を聞いていたのは主に少佐だった。

 

僕が密着出来たのは、旧吉田家の今の◯◯であらせられる少佐こと吉田摩耶さんだけだ。

 

う〜ん、困った。明日から本戦が始まってしまう。今から、声をかけまくろうにも競技前日の選手はピリピリしている。

 

新人戦まではあと4日あるけど…

 

おお!そうだ‼︎以前読んだ古典的迷著「スローカーブをもう一度」(「江夏の21球」が収録されている)の中の「背番号94」と同じような話を書くことにしよう。

 

一回の失敗で実力を発揮できなくなった元神童が九校戦の選手ではなく裏方として活躍する話にすればいい。九校戦の選手でも本気のテロリストを殺さないで無力化できる人はほとんどいないはずだ。吉田くんにはある程度詳しい話を聞けるくらいの知り合いになれた事だし。これは書けそうだ。

 

これなら、司波くんにも混み入った話が聞けそうだ。実戦に近い競技なら司波くんは出場できそうだし優勝も狙えると思う等と言えば彼も悪い気はしないだろう。

 

おお!そうだ。「新しい才能」を発掘したとする記事を書いてみよう。吉田くんや司波くんだけでなく、キャプテンシーのある西条くんもいるじゃあないか!

 

どうせなら、サイオンを過剰に消費できる学生を増やして次回の九校戦で一高を圧勝させるのはどうだろう?これは痛快だ。天と地を繋ぎっぱなしにすればできるので一年かければできるだろうか?いいや。せっかく思いついたのだからやるべきだ。

 

一年で暗勁を修得できるレベルを目指す。うむ。なかなか面白そうな挑戦だ。

 

 

        「意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。 九校戦前夜」 終

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦編1

サブタイトル変更しました。


しばらく、座禅をした後に仕事を片付けた。これでも一応小説家だ。ちょっとエロい学園物だが、唯一僕がまともに小説として書いているものだ。少佐と知り合いになったのを記念して外見は幼女で中身はBS魔法師を束ねようとする凄腕の魔法師を登場させてみた。ヒロインのメグミちゃんは、活動に誘われる話にした。

 

それと、少佐が折角、四葉に気をつけてと言ってくれたのだからしかるべき筋にも伝えておいた。

 

いつの間にか昼を過ぎていた。今度は、ホテルのレストランに出掛けた。

 

◇◇◇

 

「河原くん、こんにちは」

振り返ると七草会長が、立っていた。

 

「これから、昼食?だったら少しいいかな?」

一応、質問や疑問形になっているが拒否権はないみたいだ。

 

「早速だけど、君は吉田さんと以前から知り合いだったの?」

テーブルに着くとすぐに会長は尋問を開始した。そんなに気にするような事なのだろうか?

 

「最近、知り合いました」

 

「フーン。随分と親しそうだったけど」

 

「はい。実際に親しいですよ」

 

「否定しないのね」

会長は、やりにくそうだった。

 

すぐに会話が途絶えた。僕から切り出す。会長の呼吸を見計らって。

 

「何か、彼女について知りたいことがあるのですか?」

 

「へっ?!」

会長が息を詰まらせた。どうやら、ビンゴらしい。

 

「どんなことが知りたいのですか?」

僕が、切り込んだので会長は言葉が出なくなった。

 

「彼女は、SB魔法師を束ねて十師族に対抗し得る組織作りを考えています」

 

会長は、言葉を失った。心配ごとが多過ぎるのは身体に良くないよ。七草さん。

 

「と、さっき小説に書いてました。会長、どうされました?」

 

会長は、ふくれっ面になった。怒っても可愛いですアピールだ。

 

「君も達也くんも、今年の一年生は…」

会長は、小声でぼやいた。

 

「広角的に物事を見過ぎて、余計なことにまで気を回して少し疲れていらっしゃるのでは?」

 

「へっ?!」

 

「どうかされました?」

 

「何でもありません」

 

「そうですか。では、昨晩の大捕物を御存知ですか?」

会長は、知らなかった。軍と大会委員と学校は情報を伏せたようだ。僕は、司波くんと吉田くんの活躍を手短に説明した。面白いことに、説明を聞いている会長の表情がどんどん明るくなって来た。

 

危険な話を楽しそうに聞いているのだから、七草さんはその本質が危険大好き女であると推測できる。彼女は、自分の周りの血生臭さを嗅ぎ付けていたにも関わらず、それが何なのかハッキリしないのでモヤモヤした気分になったのだろう。

 

会長の気が晴れたところで、明日のスピード・シューティングに対する意気込み等を訊いて簡単な取材をさせてもらった。

 

「ところで、真知くん。大捕物をどうして知ったの?」

 

「報道ですから」

 

「フーン」

会長はあからさまに納得していない表情になった。

 

「オフレコでお願いしますよ」

 

「はいはい」

 

七草さんは、小生意気な年下の男の子が好きな一種のショタコンであるのがわかってしまった。彼女の目の周りから、小さい白い星が飛んでいたからだ。

 

◇◇◇

 

ホテルをウロウロするだけで取材ができるのがわかり、今度はティータイムにホテルの茶店に行こうと思った。その前に、もう一仕事しよう。

 

『魔女っ子メグミちゃん』に年下で可愛いが小生意気な女の子を好きなサブヒロインを新たに登場させよう。そのサブヒロインは生徒会長をしている設定だ。モデルがいると簡単に書けるので助かる。

 

次は、発勁についてだ。世間では以下の様に説明されている。

 

『』

 

なぜ、発勁について書く理由は置いといて、上の記述について解説する。前半は暗勁について、後半は明勁について書かれている様だ。驚いたことに百年前からほとんど進歩していない。西暦2000年頃から、かなりの功夫がある人物が日本に来て教え始めたはずなのに、一体どうしたのだろう?

 

理由は、簡単だ。そんな時間がかかることに熱を上げるよりも現代魔法の習得に精を出す流れがその頃から始まっていたからだ。皮肉にも、その努力が現代魔法は先天的な体質によるところが大きいと発覚する原因となった。体質が魔法に適していない者がどんなに努力しても魔法力を使いこなせはしなかったとわかってしまったのだ。

 

さて、後半の内容は摩訶不思議な記述はないが言うは易し行うは難しだ。以前、解説した筋反射で全身を一度に動かさなければならないからだ。こんなにもたくさんのことをどうやって意識するつもりなのだろう?

 

前半は、怪しい記述ではないが暗勁の話なのでこの世の力ではない。自分の身体を使ってはいるが古典物理の範疇から逸脱する。

 

たとえ話で、恐縮だがこの世のエネルギーからあの世のエネルギーを生じさせるメカニズムを書いておく。有名なファラデーの法則だ。

 

『電磁誘導によって回路に生じる起電力は、その回路を通る磁束の時間的な変化の割合に比例するという法則。電磁誘導の法則』

 

E=ーΔΦ/ΔTの方がお馴染みだろう。単純にΔT→0とすれば、E→ー∞となる。(ただし、Eは0ではない。)しかも、磁束変化が電圧に転化している。

 

同じ様なエネルギーの転化が、光を入れられる身体になったら可能になる。光を取り入れるのはまだ、この世の話だが上記の方法と良く似たやり方であの世のエネルギーを露骨に取り入れられるのだ。それが、暗勁の正体だ。

 

これを、現代魔法にぶつける。実戦形式に比較的近いモノリスコードなら、すぐに結果を出せるだろう。

 

しかし、遠距離からの攻撃魔法を使用された場合に対処できないのでは?と思われるだろう。僕もそう思っていた。ところが、現代魔法を高校で学び直してみると根本的な欠陥が現代魔法にあるとわかった。現代魔法による事象改変は、本当に自然の現象を完全に書き換えてはいなかったのだ。ある程度、書き換えるとだいたい魔法師の意図した事象改変が起きるので「完全に現象が変化した」と見えるだけだ。

 

『』

 

上記の仮説は、だいたいは正しいのだがエイドス(情報)もエネルギーと結びついている視点が抜けている。情報を改変するにはエネルギーが必要であるからある程度の事象改変さえ起きれば、情報の改変は必要最小限に止めたい。エネルギーの無駄使いはしたくないからだ。

また、すべての情報を網羅するのも現実的に不可能だ。単一系の単純な魔法でさえ莫大な情報を扱っている。

現代魔法においては、いかに情報を圧縮するか、あるいは近似するかが魔法式を作り上げる際の腕の見せ所になっている。

 

なので、そこを突く。事象改変には重要でない、あるいは不必要、あるいは見向きもされなかった事象や情報を使って攻撃や防御を実行するのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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九校戦編2

サブタイトル変更しました。


おい待てよ!遠方から魔法による攻撃はどう対処するんだい?とツッコミが入りそうだ。実は、僕も近接戦闘に古式魔法の技術を応用するのは有効だと考えていたが距離があるとその有効性は失われると考えていた。

 

司波くんは、服部副会長との模擬戦で純粋な体術によって距離を縮めてその問題を解決した。しかし、それが可能だったのは明らかに副会長の油断だ。相手が、最初からこちらの身体能力を念頭に入れてそれなりの対策を講じて来たら体術で距離を縮めるのは難しくなる。

しかし、長岡さんが中学時代に複数の魔法師に囲まれて闘って撃退(多分、殺した。)できたのは、敵魔法師の遠方からの攻撃が彼女になぜか効果がなかったからだ。

魔法師は、現代科学の知識、この場合は古典物理学の知識に基づいて攻撃や防御の魔法式を実行している。

 

『古典物理学の法則が通用する範囲は、宇宙の大きさからせいぜい原子や分子の大きさのレベルまでである。原子内または原子間では古典物理学の法則は破れており、現象の正確な記述ができない。』

 

実行される魔法式には、その対象を長さや質量や時間や電流や温度や物質量や光度を持つものであるとして事情改変する。ところが、対象が、それらではなくなると組み上げられる魔法式から対象がなくなる。この世にあるから座標を設定して表現できる。この世の者で無くなればその実態の無い者の位置や運動を表現することは不可能なのだ。

敵魔法師は、硬化魔法系の防御も施した。しかし、長岡さんに破られている。彼女が使ったのが暗勁だ。古典物理学で表現可能な剛体や流体の状態変化でこちらのエネルギーを敵に伝える攻撃ならば、敵魔法師は完璧に防御できた。

ところが、この世のエネルギーではない、いわば死のエネルギーで彼女が攻撃したので、敵魔法師の防御魔法はほとんど機能しなかった。

 

暗勁を攻撃に使えば来年のモノリスコードは、優勝確実だ。今から、森崎くん達に教えてあげたいくらいだ。

 

仕事がひと段落したのでホテルの茶店に出掛けることにした。多分、誰かには会えるだろう。

 

◇◇◇

 

ホテルの茶店で座っていると、声をかけられた。

「お邪魔していいかな?」

懇親会で、少佐と一緒に取材したカーディナル・ジョージだった。確か名前は吉祥寺真苦労だったかな?それにしても一回取材しただけなのに随分と親しげに接してくるとは意外だった。元々フレンドリーな性格なのだろうか?

 

「取材は、捗っているのかい?今日は、1人みたいだけれど」

ジョージの関心事がわかった。少佐だ。

 

「今日は、疲れて寝ていますよ」

 

「妹さんかい?随分と聡明な人だったけど」

 

聡明な子ではなく、聡明な人とジョージは言った。そこに彼の彼女に対する関心の高さが現れている。

「妹ではないです。彼女が聡明なのは僕も賛成です」

 

少し、会話が途切れた。少佐が僕の妹でなければ彼女と僕の関係をジョージは気になるのだ。そこで、ジョージの関心事に迫って行く。

 

「彼女は、同僚です」

少し、間を開けてみた。

 

「彼女は、飛び級なのかい?魔法科高にはなかったはずだけど」

 

「ええ、飛び級ではないです。彼女は僕達と同じ年代です。なので、同僚です」

 

「そうなんだ」

少し、ジョージの返答のタイミングが遅い。どうしても、僕と少佐の関係が気になるのだ。そこで、

 

「吉祥寺さんが出場されるモノリスコードが行われるまでにまた彼女が取材したいと言ってますが構いませんか?」

 

「もちろん、大歓迎だよ!」

 

僕はジョージのアドレスを教えてもらった。彼は、上機嫌で去って行った。

 

ジョージの使えるサイオン量から見ても森崎くん達に万に一つの勝機はないだろう。(ちなみに、一条選手はもっと多く使えそうなのだ。)

 

あえて弱点なのはジョージはロリコンであるくらいか?(笑)

 

それと、あとで少佐に勝手に約束したのを謝っておかなければならない。

 

「柴田さん!奇遇だね。応援?」

さっきから、こちらをチラチラと僕らの様子うかがっていた柴田さんに声をかけた。

 

「エッ?!はい?!」

急に声をかけられて彼女は慌てた。

 

「どうして、わかったんですか?」

慌てても、しっかり突っ込んでくる辺りはさすが司波くんの取り巻きのレベルは高い。確かに、柴田さんは僕の後ろに居た。

 

「報道ですから」

 

「?」

 

冗談は、通じなかったようだ。というか、僕とジョージが話し込んでいるのをじーっと見つめていたら普通の人でも気付くと思うぞ。

 

「ところで、柴田さん。僕に何か用?」

 

「サイン下さい!氷室先生!」

少し、躊躇ってから単刀直入に用件を言った。ここら辺も覚悟を決める早さと行動に移す早さはさすがだ。柴田さんは、実戦も行けるクチだと思う。惚れたら告って寝技に持ち込み勝負有り!だ。

断る理由はないので気前よくサインして、その代わりと言っては何だが市場調査をさせてもらう。

 

「九校戦では、誰が一番人気なんですか?もちろん、同人的なあちらの方の意味で」

 

「それは、エルフィン・スナイパーこと七草会長さんです!」

 

「渡辺風紀委員長は?」

 

「摩利様も大人気です!」

変な方向に舵を切った柴田さんは、堰を切ったようにあちらの方の九校戦の見所を熱く語ってくれた。しかし、摩利様とは…

 

「ところで、柴田さん。人気がある男子選手についてはご存知ですか?」

僕は、声のトーンを落として彼女にしか聞こえないように言った。

 

柴田さんの眼光が変わった。その質問を待ってましたと言わんばかりだ。水晶眼をそんなふうに使って良いのか?柴田さん。

 

「あっ!柴田さん」

演説中の柴田さんの後ろから、光井さんと北山さんが声をかけて来た。僕の視野に彼女達は当然入っていたのだが、面白いことになりそうなのでわざと黙っていたのだ。

 

「柴田さんが、司波くん吉田くん西条くん以外の男子と話し込んでいるのは珍しい」

北山さんが、ボソボソと核心を突いて来た。

 

「えと、それは、そうで、あの、急用を思い出しました‼︎それじゃあ、皆さん、お先に失礼します!」

893ではなく801話を始めたところを2人に見られたかも知れないと柴田さんは思ったのか慌ててこの場から離脱した。誰が見ても不自然なくらいの流れブチ切りだった。所謂、強制終了。KJだ。

 

「どうしたのかな。柴田さん」

光井さんは首を傾げている。

 

「急用を思い出したと思う」

北山さんは、頭が良いのか悪いのか判断に困るタイプのようだ。ボケをかましているのなら試験の結果の通り頭が良いのだろう。

 

柴田さんは、腐女子である事がバレるかも知れないと焦って逃げたのですとは口が裂けても言えない。でも私小説には書かせてもらいます。柴田さん、ごめんなさい。今度、吉祥寺くんの隠れた趣味を教えてあげるから。それで、チャラにしてね!

 

なぜか、北山さんが僕の座っているテーブルに座ろうとする。光井さんが慌てる。僕も驚く。この二人とは面識こそあるものの喋った事もないのだから。

 

「大会初日の注目は、七草会長のスピード・シューティング。優勝は間違いないけど、今回はどんな戦い方をするのか注目される」

 

「ちょっと、雫?」

 

「僕は、構わないですよ。どうぞ、続けて下さい。北山さん」

 

「エルフィン・スナイパーとファンが会長を呼んでいるけど、魔弾の射手のほうがが言い得て妙」

 

このあと、延々と九校戦注目の一高選手のマニアックな話を聞かされた。光井さんが恐縮しまくっていた。北山さんは、語らずには居れないのだろう。

 

「最後に、大切な事が」

北山さんの話は、いよいよ大詰めを迎えたのだろうか?!

 

「サイン下さい。氷室先生」

 

光井さんが、イスから転がり落ちた。

 

 

 

 

 



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九校戦編3

サブタイトル変更しました。

「時光」を何の解説もせずに出しましたが、機会があれば作中で紹介させていただきます。


「師匠!ここ、ここ」

少佐が、手を振っている。彼女は観客が比較的少ない場所を見つけたのだ。僕等はスピード・シューティングの観戦に来ている。

 当初、スタンドの前列に潜り込んで追っかけや熱心なファンの取材か、司波くん達の一団に混ぜてもらって北山さんや司波くんの詳し過ぎる解説を取材するか迷っていたところだったが、少佐が僕を見つけたのだ。

 

正直、どちらもあまり気乗りがしなかった。むしろ、少佐とマニアックな会話を楽しみながら七草会長の出場するスピード・シューティングを観戦するほうが良い。まさに渡りに船だった。

 

「少佐、身体は大丈夫ですか?」

 

「昨日は、一日中寝ていたから今日はもう大丈夫」

 

どうやら、彼女はいきなり光を取り入れたので疲れを覚えたようだ。吉田くんは、大丈夫だろうか?

 

「ところで、少佐は、七草会長と友達なのですか?」

 

「単なる知り合いではないけど、友達なのかは微妙なところね。でも、どうしてそんな事訊いたの?」

 

「七草会長が出場するから、スピード・シューティングを観戦しに来られたのでは?」

 

「そうね」

少佐が、会長との関係をあまり喋りたくなさそうなので、話題を変えた。

 

「光を取り入れやすい身体になって、その次の段階は光をつまり、先天の気を体内で循環出来る身体に変える事です」

 

少佐は、僕の話に身を乗り出して来た。彼女には、じつは切実な問題が絡んでいる話だ。

 

「話を七草会長に戻しますが、勝負は最初から見えてます」

 

「未来を見たの?そういうことではなさそうね」

 

「先天の気を取り入れられてもそれを循環させられなければ効果は半減してしまいます。七草会長はその循環が出来ているのです。そして、少佐もです」

 

「全く、自覚がないのだけれど」

少佐が困った顔になった。

 

「会長も無自覚にされていると思います。二人に共通しているのは、女性的な肉体に成長するペースが遅い事です。しかし、これが先天の気の循環に役に立っているのです」

 

僕は、脾臓について語り始めた。脾臓のあまり知られてない機能についてだ。ここに簡潔にまとめておく。

 

『』

 

もう一つ。

 

『』

 

「脾臓が、先天の気の循環に重要な役割を果たしています。ただ、先天の気は今だに測定されてないから造血や血液の貯蔵機能として知られています。なので、広い視野を確保したままでしかも素早く正確に長時間撃ち続けても七草会長が途中で体力が切れないのは、発達した脾臓のおかげです」

 

「使えるサイオンの量と先天の気の循環の流量が関係しているのはわかるけど、真由美は脾臓がそんなに発達しているのかな?」

少佐は、納得し切れないようだ。

 

「会長の九校戦での別名はエルフィン・スナイパー、つまり、小妖精。悪く言えば未発達未成熟。幼児体形の特徴であるお腹、特に臍付近が膨らんでいます。おそらく、会長本人も気にしています」

少佐は、自分の脾腹を撫でながら苦笑いする。

 

「魔法師は、サイオンを多量に使う為に多量の血液循環が必要なのだな。その為に骨髄だけでなく脾臓で造血や血流安定をしているから脾臓が発達する」

 

「そうです。胎児の時には誰でも脾臓で造血できますが、成長するとできません。しかし、魔法を使うと脾臓の機能が必要になります。骨髄だけでは造血が間に合いませんから。会長も少佐も幼い頃に自分の生きる道を決めてしまったようですね」

 

「心当たりがあるから、反論のしようがない」

少佐は、溜息をつく。

 

「脾臓の血液貯蔵機能は比較的簡単に鍛えられます。運動したり呼吸法でも可能です。渡辺委員長が身体を鍛えるのが好きなのはその事を無意識に感じているからだと思います」

 

「そう言えば、渡辺は武道も水泳も好きだ。でもあいつは、幼児体形ではないぞ」

 

「なので、才能で会長や少佐に劣ります。脾臓の造血機能を使えなければA級魔法師にはなれないでしょう。本人も自覚していると思います」

 

少佐は、少し考えを整理しているようだ。

「そう言えば、あいつは防大に進学希望している。魔法師というより軍人志望だ。それに百家からの見合い話を全て断って千葉の跡取りとさっさと婚約している」

 

「会長や会頭と付き合っていたら自分との才能の差は否が応でも自覚させられます」

 

「あいつは、負けず嫌いだから勝てない戦いはしない」

少佐は、小さく呟いた。

 

『勝てない戦いはしない』渡辺風紀委員長は、本当に軍人に向いているらしい。国軍の将来は明るいな。

 

「暗くなってすまない。話を元に戻せば七草が優勝するのは脾臓の機能が他の選手よりも発達しているから、で良いのだな」

 

「たとえ、アクシデントがあっても会長は乗り切れるでしょう」

 

「待って!アクシデントがまだ起きるかも知れないの?」

少佐が慌てた。少女な口調になっている。

 

「時光を超えて観てきたわけではないのですが、この九校戦はただでは済みそうにないです」

 

「チョッカイを出す連中がまだいるのね!」

 

僕は、頷いた。そして、視線をフィールドに向けて言った。

「さぁ、会長の出番ですよ」

 

 あっという間の5分。

 

パーフェクトだった。会長のスコアは。小妖精狙撃手は今年も健在だ。去年は動画でチェックしただけだが、さらにスピードが上がっている気がする。

 

「確かに、腹が出ている」

少佐が感心している。水晶眼なら遠くからでもよく見えるはずだ。

 

比較の為に、次の選手の射撃も観戦した。

 

2分で、苦しくなっているのがわかる。3分を過ぎるとガス欠だ。それでも、残り2分を何とか誤魔化した。そこは素直に日頃の鍛錬の賜物として褒めてあげたい。

 

 しかし、それではパーフェクトは無理だ。

 

「確かに腹が出てない。息が上がって少し貧血気味になっている」

少佐の目にも選手のスタミナ切れが映ったようだ。

 

「魔法発動のためのサイオン供給が間に合ってないのでしょう。だから、血も足りないし、そのぶん呼吸で補おうとして肺に負担をかけたみたいです」

 

「予選で、最後までサイオン流が充実した選手が決勝でも圧倒的に有利なのだな」

少佐が腕組みをして感心している。少しロリ傾向がある黒いワンピースを纏った少女に全く似つかわしくないポーズだ。それにしても、空調が効いているのに真夏に黒いワンピースとは…

 

この黒いワンピースどこかで見たことがあるな。

 

「たとえ選手が後半軽く流してサイオンの流れが細ってしまっても、脾臓や肺や心臓を観ていれば本当の魔法力のスタミナはわかってしまいます。特に水晶眼の持ち主には一目瞭然ですね」

 

少佐は納得したようだ。僕は、もう一人の水晶眼の持ち主である柴田さんは競技中の会長がどんな風に見えていたのか気になった。

 

あっ!今、思い出した。

 

「ところで、少佐。そのワンピースはGHOST IN THE SHELLのラストを意識されたのですか?」

 

『さて、どこへ行こうかしらね』

少佐が、口角を上げた。

 

「渡辺委員長のバトル・ボードの会場へ」

僕は、ボケた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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九校戦編4

サブタイトル変更しました。


「渡辺だけ仁王立ちだな」

少佐がため息をついた。僕は、ガンバスターを思い出した。

 

「師匠の言う通り渡辺は随分と肉体を鍛えて来たようだな」

 

「魔法を発動して脾臓を鍛えるのは、頻繁にはできませんから、筋肉を鍛えて血をたくさん循環せざるを得ない状況を作り出したようですね」

 

「渡辺は、知っているのではないのか?」

 

「知らないと思いますよ。委員長は、千葉道場くらいしか通ってないはずですから」

 

「師匠は、千葉道場のレベルを低く見ているのだな」

少佐がイタズラっ子のように笑った。

 

「実際に、低いですよ。柳生や示現に勝てませんから。特に柳生は最近、最終段階の密教まで修める者が出現してます」

 

「密教?」

 

「弘法大師の系統がバックですよ」

しかも…と言おうと思ったが止めておいた。もう直ぐスタートだ。

 

「それは、凄そうね」

 

『用意』

スピーカーから合図が流れる。

 

「始まりますよ」

 

空砲が鳴らされた。

 

試合経過を書こうにも、渡辺風紀委員長の圧勝で書くべきことがほとんどなかった。スタート直後の他校の生徒の妨害魔法をクリアするとあとは独走だった。

 

「色んな魔法を組み合わせている技術は高いが、」

少佐が言い掛けたが、言葉を濁した。

 

「出力と持続力に不安があるのでしょう」

 

「みたいだな」

少佐が自分の脾腹を撫でている。

 

「『創意工夫を凝らした小魔法は、少し工夫しただけの大魔法に勝てない』でしたっけ?」

九島閣下のモノマネをしてみた。

 

少佐が笑った。

 

「サイオン量を増やす話に戻します。サイオンの循環と先天の気の循環と血の循環が関連しており、血の循環を良くする為に脾臓の造血と貯蔵作用を説明しました。本来、造血は骨髄、送り出しは心臓です」

 

じつは、肝臓にも造血機能がある。

 

『骨髄での造血が開始されるまでの間、肝臓と脾臓で造血されている。ヒトの場合、出生後は肝臓で造血されることはないが、何らかの理由で骨髄での造血が障害されると、肝臓での造血が見られることがある(髄外造血)。』

 

「結局、サイオン流量を増やすには骨を含めて全て内臓を鍛え直す必要があるのだな」

 

「ぶっちゃければ、その通りです」

 

少佐が呆れている。

 

「ちょっとしたアイディアを創意工夫と表現したところで単なる付け焼き刃、あるいは奇襲の類です。他を圧倒する本当の実力を身に付けるべきです。たとえ時間がかかっても」

 

「そうだな。あらためてよろしく頼む」

少佐がペコリとお辞儀をした。

 

「よろしく頼まれました」

僕は、胸を張ってみせた。

 

「内臓を鍛えると言っても、きつい運動をしなければ行けないことはない。自律訓練法を例に挙げれば…」

 

『第3公式

心臓が静かに打っている。

第4公式

呼吸が楽になっている。

第5公式

お腹が暖かい。』

 

これら三つができると良い。特に第5公式は脾臓、肝臓、腎臓の機能を高めてくれる。

 

「ところで、師匠はどんな練習をしたの?」

 

「主に、座禅と内家拳」

 

「私に、できるかしら?」

 

「できる!できるとも‼︎」

僕は立ち上がった。

 

そして、大袈裟に身振り手振りを加えて語り、最後にスタンドの最後列の方の空を指差して言った。

「摩耶。戦略級魔法師を目指せ!」

 

少佐は、スタンドの最後列の方に視線を向けた。

「なるほど。わかった。目指すわ」

 

観戦スタンドの最後列の方から、千葉さん達の笑い声が聞こえた。

 

◇◇◇

 

少佐は、疲れたので部屋に戻った。僕は、昼食を取りにホテルに戻った。ホテルの中で体格の良い男性やいかにも企業の秘書でもしています的な女性に出くわした。軍人やスパイだ。彼等にはもう少し正体を隠す術を学んで欲しい。

 

観戦スタンドには、公安らしき人物も数人見掛けた。いずれも魔法師だろう。対魔法師テロリストに非魔法師は太刀打ちができない事になっているからだ。僕には、そう言って逃げているだけにしか見えない。

 

実際に、光学迷彩のQちゃんは魔法を使わないで現代科学の力でその任務を果たした。懇親会で九島のいたずらに引っかからなかった者は五人よりも多かったが、Qちゃんに気付いたのは皆無だった!

 

これが、本当の教訓だ。

 

奇襲や初見の攻撃でやられるのは、ある意味仕方ない。問題はその後だ。直ぐに対応策を講じて同じ手に引っかからないようにする事と敵の使った攻撃を採用してすぐに反撃する事が大事なのだ。

 

すでに、一高選手団のバスと九高戦選手を狙ったホテルにテロを仕掛け、

 

アレっ?

 

あれれれ〜

 

違う。九校戦を狙ったテロの一環で一高を狙ったと思っていたが、そうではない。テロリストの狙いは一高狙いだ。一高に対する悪意や殺気がほとんどないので気付けなかった。それにしてもテロリストの目的がよくわからない。

 

困った事に、悲惨な事件が起こらないとわかってしまっているのでテロリストの動機を探るモチベーションが上がらない。彼方の自分もこの件で訪れる兆しがない。

 

魔法に慣れると魔法に依存し過ぎるようになりやすい。しかし、魔法を使えない時に何もできないのは困る。

そこで、単なる推理を試みる。憎しみや悪意や殺意がほとんどないのに一高を狙うのは、単なる利益の為だろう。つまり、金の為だ。しかし、一高にテロを仕掛けて儲かるビジネスが果たしてあるのだろうか?

 

クジラを守るとうそぶいて日本の船に海賊行為を仕掛けていたシーシェパードみたいな連中は、寄付金や活動資金を集める為のデモンストレーションとしてテロを仕掛けていた。一高を狙って活動資金が集まるとは考えにくい。

 

思考が行き詰まった。

 

◇◇◇

 

「身体、大丈夫ですか?」

 

「少し、寝たから大丈夫」

少佐が笑った。今度は、百年位前に流行ったと思われる女子高生の制服らしき服装だ。スタンドは、満員だった。その中でも彼女の服装は目立つ。本物のニーハイは、僕も初めてみた。ただ、魔法でも使わないとずり落ちてしまう気がする。百年前はどうやってずり落ちないようにしていたのだろうか?

 

「ところで、少佐。一高を狙っているテロリストの事を知ってますか?」

 

「ノーヘッドドラゴンの事?」

少佐は、知っていた。考えてもわからないことは人に訊くのが手っ取り早く答えにたどり着く方法のひとつだ。

 

『』

 

少佐の話をまとめるとざっとこんな感じだ。これおかしいと思わないのだろうか?こんな組織が、多少儲かるからとしても一高にテロを仕掛けるだろうか?

 

「そう言われれば、おかしいわね」

少佐も小首を傾げている。

 

「魔法師は高収入なのに、そんな犯罪組織に就職して何が楽しいのかも今一つ理解に苦しみます」

 

何らかインセンティブがあるのか?それとも裏に何かあるのか?

 

「確かに…。でもね。あなたが一高にわざわざ入学した理由も同じくらい理解に苦しむわ」

少佐が、矛先を僕に向けた。

 

「第四次世界大戦でも日本が戦勝国になる為です」

と、素直に答えた。しかし、少佐は、さらに理解に苦しんだらしい。

 

「第四次世界大戦の前哨戦は、始まっています」

 

「どの国とどの国が戦争するの?」

 

「今の所、どの国とどの国が武力衝突に至るかはわかりません。今度の戦争は魔法師と非魔法師の争いです」

 

第三次世界は、始まる前に勝負がついていたとする見方自体が広まってない。それと同じような考え方で第四次世界大戦が始まる前に勝負をつけてしまおうとするというのは少佐と言えども理解に苦しむものだった。そこで、切り口を変える。

 

『』

 

少佐のコスプレは、おそらくこの小説のメインヒロインのものだろう。

 

 

 




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九校戦編5

サブタイトル変更しました。


冒頭の一節を読み上げると少佐の表情が明るくなった。

 

少佐がコスプレ大会よろしく次々に服装を変える理由もわかった。九校戦の出場選手を意識しているのだ。

九校戦出場選手は、自分が最も実力を発揮できると感じる服装で競技に臨んで良いルールになっている。その為、さながらファッションショーの様相を呈する。僕にはコスプレ大会にしか見えないが。

 

サイオンを制限無しで使えば、少佐は会長や委員長と同じかそれ以上の魔法力を発動できる。フィールドで輝いているのは少佐だった可能性は充分あったのだ。

 

なあに、輝くのは一生のうちいつでも構わない。人間の幸せはいかにして達成出来るかなんて疑問は一万年以上前に解決済の問題だ。実際にやる人は少ないがいつの時代にもそれを強調する人はいる。ちなみに、一万年以上前に解決した方法や五千年前に新たに発見された方法を使えば「一生のうち輝く」時期もちゃんと来る。

 

さて、その方法とは?

 

前者が、神に祈る。後者が、神になるまで座る。

 

なので、『』の中に登場する『それ』とは、『彼方の世界の自分』だ。

 

神になるというのは、簡単に表現すれば、ただそれだけのことだ。『それ』に関しては孔子が論語の中で

 

『朋有り遠方より来たる、亦た楽しからずや。』

 

と、語っている。朋とは、『彼方の世界の自分』だ。孔子の弟子達がわざわざ論語の最初に選んだくらいに『楽しい』のだ。

 

これを、『道を得る』とか『悟りを得る』などと表現する時もあるし、この私小説では(意識の、あるいは境地の)第六段階と表現している。

 

少佐は、目を丸くしている。そして、おそるおそる尋ねた。

 

「師匠は、悟りを得たの?」

 

「そうだよ」

 

「う〜〜ん」

少佐が、頭を抱えてしまった。

 

「『道を得る』前も薪を割り、『道を得た』後も薪を割る」

 

「それは?」

 

「比較的早く『それを見つける』コツの一つだよ」

 

ここで、一つ咳払い。

 

「実はね、少佐。『それを見つける』前も『それを見つけた』後も大した変化がないのが安全に『それを見つける』時の心構えの一つなんだ。『それ』を特別なものと捉えたり、見つけたら今までの自分とは別人のようになると信じ込むと見つけにくくなるよ」

 

「ギクッ」

少佐が、大袈裟にショックを受けた仕草をした。

 

「魔法力を強化するには、神になれば良いと少佐も気付いていたのでしょう?でも、修道女や尼のように世捨人にならねばならないと考えて二の足を踏んでいたのでは?」

 

「ギクッギクッ‼︎」

今度は、少佐は笑っていた。

 

「ところで師匠。竹宮ゆゆこは『それを見つけ』たの?」

 

「調べたことがないからわからないね」

 

「ところで、師匠。シーシェパードって何?」

 

「ガクッ!」

 

◇◇◇

 

 

パトライトが、点滅した。スピード・シューティング開始の合図だ。ちなみにパトライトは、それを作っている企業の名前だ。セスナとかジープとかと同じ。今は、どれも買収されてしまっているが。

 

会長が次々と真下からドライアイスの亜音速弾で赤いクレーを打ち抜く。試合開始前から、会長への大声援で相手選手はアウェイ感に気押されていたがそれどころでなかった。

 

勝負になってない。相手選手の魔法と干渉しない領域から放たれる魔弾は、まるで会長が一人で競技に集中しているかのごとく確実に赤いクレーを貫いていく。

 

試合にならない。観戦記にもならない。

 

そこで、第三次世界大戦の前哨戦で繰り広げられた同盟と反同盟の見えない戦争について少佐に説明し直した。

 

『』

 

自称環境保護団体が何故か2000年代から日本の調査捕鯨を襲うようになった。

 

『』

 

この行動の変化は、シーシェパードのパトロンが反同盟に変わったからだ。今で言う、大亜細亜連合(当時は中華人民共和国。実際は中国共産党の独裁国家)だ。ちなみに同盟とは、日米同盟だ。反同盟の作戦は、米国の太平洋支配権を奪還するには日本の国際的地位を失墜させる、あるいは、日米同盟の関係を悪化させる、だった。

 

そこで、フロントに主に高麗自治区人(当時は、朝鮮民主主義人民共和国と大韓民国と自称)達を使って反日運動を世界展開していた。シーシェパードもこの反日運動の為の偽環境保護団体だった。日本人は、野蛮で下品で卑怯者だと白人に向けてプロパガンダを打ったのだ。白人には、白人の方が説得力があると考えたのだろう。

 

ところが、2017年にそのシーシェパードが活動を突然休止してしまう。

 

『』

 

反日環境テロリストは、日本の強気の姿勢と資金力に屈した。これは、シーシェパードを支える反日米同盟の資金が尽きた事も表す。第三次世界大戦前夜では、こうした見えない戦争が繰り広げられていたのだ。

 

しかし、財力と武力で勝る日米同盟側が反同盟を徐々に押して行った。

 

「この続きは、またの機会に!」

 

「え〜〜っ⁈」

 

「僕は、ノーヘッドドラゴンもシーシェパードと同じような集団と考えているんだ」

 

「?」




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九校戦編6

サブタイトル変更しました。


ノーヘッドドラゴンは、幹部が魔法師だ。魔法師の数は限られているから非合法な仕事に従事するより合法的な仕事に従事したほうが普通は報酬が良い。

 

たとえが悪いが闇金で儲けるよりも、行員になった方が生涯賃金は多い。短期間に大きく利益を上げられたとしても、一回失敗するとその利益が消し飛ぶのはもちろんのこと自分の命さえ危なくなる。それが裏稼業の宿命だ。

 

それでも、実力のある魔法師は非合法組織に集まるというのなら何らかのインセンティブが必要となる。今のところ、ノーヘッドドラゴンの幹部になるとどのようなインセンティブがあるのかわからないが、まずはかなりの収入があるはずだ。

 

とはいえ、そのバックを調べて資金を枯渇させれば割に合わない活動となり活動自粛に追い込まれる。シーシェパードと同じように。あるいは取り締まりを厳しくして危険度を高めてやればリスクに見合わない仕事になり、やはり活動停止に追い込める。これも、シーシェパードと同じだ。

 

「師匠は、ノーヘッドドラゴンのバックはどこだと考えているの?」

 

「日本の魔法師が潰れて喜ぶのは、日本に敵意を抱いている国だよ」

 

「大亜とか新ソとか?」

 

「そうだね。他にもあるけど。第三次世界大戦で戦敗国になった国は多かれ少なかれ同盟を敵視しているよ」

 

シーシェパードとノーヘッドドラゴンの関連を一通り話し終えた。

 

「師匠、見たい競技があるの」

少佐が、席を立った。

 

◇◇◇

 

抜きつ抜かれつの接戦で会場は、大いに盛り上がった。特に女生徒の歓声と悲鳴は凄まじかった。男子バトルボード予選だ。一高は、服部副会長が何とか勝ち残った。

 

会長や委員長の圧倒的な試合を観戦した後で、服部副会長の試合を観戦すると勝てて良かったとしか言いようがない。あのサイオン量では、司波くんに秒殺されるもの納得だ。いや、今の副会長なら瞬殺だろう。おっとこれはオフレコだった。

 

少佐は、押し黙っている。

 

「まずいな」

彼女は独り言のように言った。

 

確かに、一高の男子の調子が上がらない。バトルボードで勝ち上がったのは副会長だけなのだ。しかも全くの余裕無し。

 

少佐が、服部副会長に熱い(?)視線を送っている(?)

やはり、少佐も年下が好きなのだろうか?会長と同じように。

 

「……」

少佐が水晶眼まで駆使して服部副会長を視ている。どうも、好意とは無関係のようだ。

 

「師匠、服部は何をあんなに悩んでいるの?」

 

少佐があまりに熱心に視ているので僕も観てみた。

 

「女でしょう」

 

「はァ?!」

 

「今回は、深く観れてないのですが彼の心に負担をかけているのは女です」

 

副会長は、プライドが高く自信過剰な性格だが意外に謙虚な面もある。模擬戦で負けた司波くんの技量を認め技術スタッフに司波くんを推した一人になっている。

 

しかし、それは同性に対してだ。彼は典型的な男尊女卑だ。(一応、いい意味で捉えて欲しい。)なので、男性は女性を守るのが当たり前なのだ。

 

副会長が好きな会長はA級魔法師レベルだが、少し抜けたところがある(ように見える)のでたとえ、魔法力で劣っていても守ってあげなければと思える。

 

実際に一高選手団を乗せたバスがテロに遭った時、会長は寝ており、まさに守られる立場になっていた。委員長が、指揮を執って難を逃れているが実際にバスに突っ込んでくる乗用車を止めたのは会頭だった。

 

「師匠。話しの途中で悪いけど、まるで見ていたように話しているけど、あの時私達と一緒のマイクロバスに乗っていたよね?」

 

「ちょっと分身してました」

 

「師匠、もしかして何でもありの人?」

 

「分身は、過去に戻れれば結果的に同じ時間帯に意識体が複数存在したことになっているだけだよ」

 

「それって、すごくない?」

 

「少佐も、そのうちできると思うよ」

 

「本当に?」

 

話を戻そう。突っ込んでくる乗用車を止めたのは会頭だった。しかし、それを可能にしたのは司波さんだった。颯爽と名乗り出て乗用車の炎を消して会頭が止めやすくした。

 

副会長は、会長に代わって現場指揮を執れなかったし決定的な仕事もできなかった。彼のいい意味での男尊女卑は崩れ、同時に自分に自信がなくなりつつあるのだ。

 

「服部は、どうしたら立ち直れるの?」

 

「女が原因なら、女に解決してもらうのが一番」

 

「師匠は、何でもわかるのね」

 

「何でもは、わからない。観てわかることだけだよ」

 

◇◇◇

 

分身について補足しておこう。以前、八卦掌の長岡さんと話していたときに虚数で死のエネルギーを表そうとしてアインシュタインの特殊相対性理論を用いたことがある。

 

『複素数の平方根は複素数だから、T=t/√1-v²/c²において分母の平方根がマイナスになるようなvを取るとTはマイナスになる。つまり時間を逆転できる。極端な場合、死んでも生き返る。』

 

上記は、身体ごと全てで時間を逆行した場合を想定している。これを意識だけ時間を逆行して過去に移動するとしよう。その時間には、過去の自分も存在している。

 

具体的に話すと、ホテルに着いて僕は自分の部屋で座禅をした。そして時光トンネルを通って少し前の過去に移動した。移動先は、一高選手団がテロに遭った時点だ。

 

その時点の僕は少佐達と一緒のマイクロバスに乗っていた。つまり、その時点では選手団のバスに存在する意識体だけの僕とサブスタッフ用のマイクロバスに居る肉体を持つ僕が同時に存在しているのだ。

 

この作業を繰り返せば、とある時点に複数の僕が存在するのも可能になる。実際にそれを実行している人がそこそこ存在する。

 

読者の知り合いのおじさんが、たまに影が薄くなっている時があるかもしれない。その人はその時間帯に分身して人知れず悪の秘密結社と戦っている可能性だってあるのだ。ほとんど0%と言っていいだろうが。

 

それと、読書の皆様にお知らせがあります。出版社との契約を確認したところ期限は三年でした。これで、留年しようが放校されようが三年はこの日記もどきの私小説は続きます。いわば『余命三年時事日記』となったわけです。(『中学生日記』で書こうとしたら大人の事情で変更となり『中学一年時事日記』、『中学生二年時事日記』、『中学三年時事日記』となった件は以前書いた。)

 

これからも、好き勝手できることになりました。途中で主人公の僕は高校生から社会人になっているかも知れません。それでもこの私小説は続きます。ただし三年間の期限がありますが。

 

今後とも、「河原真知』をよろしくお願い致します。ついでに『氷室雪絵』もご支援の程よろしくお願い致します。ありがとうございます。皆様の暖かいご支援、心から感謝しております。

 

このまま、選挙に出ようか?今から、種を撒いておけば被選挙権を得る頃には当選可能な支援者が集められそうだ。

 

「師匠。もし、食うに困ったらウチに永久就職するのも考えてね」

珍しく少佐が視線を合わさないで言った。

 

「ありがとう。考えておくよ」

 

 

◇◇◇

 

 

九校戦二日目。司波くんが急遽、七草会長の出場するクラウドボールのサポートをするとの情報を得て僕は観戦しに来た。会長が勝つのは見なくても良いくらいだが、司波くんがどのようなサポートをするのかはすごく興味があった。

 

突然、彼方からのリクエストがあっても応じられるように比較的空いている観客席に座った。少佐は来ていなかった。珍しい。司波くんの会長サポート情報は、少佐からだった。なので、少佐も観戦に来ると思ったのだ。

 

司波くんと会長の会話は聞こえない。この距離では当然の事だ。会長がクーラージャンパーを脱いで司波くんに手渡した。司波くんが会長に何か言っている。「そんな格好で出場されるのですか?」的なことだろう。

 

会長が、普通のテニスウエアのような格好だったからだ。テニスと違ってクラウドボールは九つボールがコート内に入る。僕は、過去の試合の動画を見た程度の知識しかないが、かなり過激な競技だと認識している。会長はプロテクターを着ける様子もなかった。

 

それどころか、会長はラケットも用意していなさそうだ。

 

のんびりと柔軟体操を始めた。背中を司波くんに押してもらっている。柔軟体操が終わると司波くんに立たせてもらった。

 

一体、何のサポート?

 

司波くん、いらなくね?

 

 



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九校戦編7

サブタイトル変更しました。


試合もアッサリと終わった。TKOだ。別に七草会長が相手選手を殴り倒した訳でもなければ、魔弾で相手選手を蜂の巣にした訳でもない。相手選手がガス欠を起こし、主審が試合続行不可能と断じたのだ。

 

試合は、相手が会長のコートに打ち込む低反発ボール全てを会長が打ち返すという展開だった。これは比喩ではなく文字通り「全てを打ち返した」のだ。

 

相手選手は、会長同様に魔法力だけで挑んできた。1セット3分の間中ずっと相手選手は打ち続け、会長は打ち返し続ける展開だ。これでは、魔法力のスタミナ、つまり使えるサイオン量の勝負になってしまう。高校生にしてすでにA級魔法師レベルの会長とサイオン量勝負をさせられた相手選手は気の毒だった。特に、最後の1分は立っているのもやっとだったに違いない。冗談抜きで試合の途中で主審はやめさせるべきだったかも知れない。

 

こんな試合なら、会長はさぞかし余裕のよっちゃん七草真由美ちゃんのはずなのだが、試合中彼女は落ち着きがなかった。当初、試合直前に司波くんと他のスタッフの関係が良くないのが表面化した為かと思った。

 

しかし、そうではなく原因は司波くんそのものだった。彼は、試合中会長を『視』ていた。僕のやる『観』るは、とある対象を見るというより対象と一体化するのに近い。一体化した上で自分の感覚として捉えている。なので、『観』ている間、『僕』は希薄になる。というよりほとんどない。

 

一方、司波くんは情動や感情は薄いのだが自我の存在感が凄い。

 

『「西遊記」は、中国で16世紀の明の時代に大成した伝奇小説で、唐僧・三蔵法師が白馬・玉龍に乗って三神仙(神通力を持った仙人)、孫悟空、猪八戒、沙悟浄を供に従え、幾多の苦難を乗り越え天竺へ取経を目指す物語』

 

『空』を視ても、八戒を実践しても、浄化しても、神になるには三蔵が必要であると言いたかったのだろう。自我が主体のままでも、悟空八戒悟浄は出来てしまうのだ。

 

特に、脳に細工すれば情動をほとんどなくせるので悟空八戒悟浄の実践は簡単だろう。そのため、司波くんは神に近い能力を発揮している。試合中の七草会長を『視』て、彼女の全てを把握出来ただろう。『視』られた会長は、かなり嫌がっていたようだが。

 

彼には内緒だが、視られたとバレるようでは本当はまだまだ見えてない。

 

◇◇◇

 

会長の第1試合が終わって、司波くんと会長はいったんテントに引き返した。僕は、選手のテントには入れないことはないが、面倒臭いのでスタンドに居残った。第一試合の圧勝からすれば、次の第2試合も楽勝だろう。取材の必要性さえ感じられない。

 

二人が、戻って来た。程なく、会長の第2試合が始まった。

 

第1試合を1セットで終わらせた為か、会長は第2試合も余裕だ。というか、調子が上がっている。

 

しかし、それはあり得ない。たとえ、七草会長のサイオンのスタミナがA級魔法師レベルでも疲労は蓄積されるからだ。

 

もしかして、司波くんがCADを調整したのか?いや、そんな時間はなかったはずだ。それに、選手用のテントには、測定器などの本格的な設備はなかったと記憶している。

 

「司波は、測定器なしでCADの調整をしてたぞ」

少佐が、僕の横にいつの間にか立っていた。まるで、僕の思考を読んだかのごとくの返事だった。

 

「魔法の起動がうまく行ってるくらいは、測定器なしでもわかると本人が言ったのよ」

 

「少佐、選手・スタッフテントにおられたのですか?」

 

「……」

 

返事がなかった。おそらく、テントの外からテントの中の司波くんと会長の会話が何故か少佐達に聞こえてしまったのだろう。

 

「七草は、好調みたいね」

テントの中の話は、スルーされた。

 

「むしろ、調子が上がったようです。司波くんは凄腕のようです」

 

「司波は、プログラムはいじってないと言ってた」

 

「……」

少佐は、隠すつもりがないようだ。むしろ、二人に気づかれないで会話を聞ける自分達の技術を誇っている様だ。

 

第2試合も無失点で第1セットを取った。しかし、何を思ったか七草会長はすぐにコートを飛び出した。トラブル?

 

『達也くん、プログラムは、いじらないんじゃなかったの?』

『プログラムはいじってませんよ。動作上の不都合はなかったはずですが、何か気になる点がありましたか?』

『嘘!』

 

少佐は、会長と司波くんの会話を再現してみせてくれた。吉田の本家はなかなかやる。どうやっているか知る由も無いが多分米国諜報関係筋からの盗聴技術だろう。光学迷彩がそうだから。

 

ちなみに光学迷彩は高額迷彩と揶揄されている。魔法師が姿を消して諜報活動したほうが安上がりなのだ。

 

世界で、魔法師がいなくても科学力で同じパフォーマンスを発揮しようと意地を張っているのは最近米国だけだ。これは、意外に重要な事なので頭に入れておくと良い。

 

それにしても、少佐達の資金力には驚かされる。無職になったらお世話になろうかな?

 

少佐の科学口寄せで、司波くんがCADの「ごみ取り」をしたおかげで魔法の発動効率が良くなり七草会長の調子が上がったと明らかになった。司波くんによるとアップデートの度に、不要なデータファイルがわずかにCADに残り、そのシステムファイルを消すと効率が少し良くなるらしい。

 

好調の謎が解けて、晴れやかになった会長はその後も無双を続けて無失点で優勝した。

 

「次は、どれを見に行くつもり?」

 

「司波くんが行く試合」

 

「師匠、何か気になる事があるの?彼に」

 

「少佐、もしかしたら僕達は歴史の証人になるかも知れない」

 

◇◇◇

 

司波くんが、アイス・ピラーズ・ブレイクの試合会場に移動したので僕達もそこに行った。千代田・五十里ペアだ。アイス・ピラーズ・ブレイクは、個人競技でペアではないのだが息ピッタリのおしどり夫婦(まだ結婚してなかった。)という感じなので千代田さんが1人で試合をしているように見えないのだ。

 

しかし、今後司波くんが面倒を見た選手は「ごみ取り」してもらっただけの会長が好調になったように調子を上げるはずだ。何しろ、司波くんは、選手を「視」て彼女のほぼ全てを把握した上でCADを調整するのだから。いわば、即席に千代田・五十里ペアのような息ピッタリコンビになれるという事だ。

 

話は変わるが、同性愛者を顔面認証で見破る研究は米国で盛んである。本当は、犯罪者、特に犯罪者を顔面認証で見つけようとする研究が非常に盛んで同性愛者云々はオマケであるが。

 

 『』

 

随分前から、米国はユニークな研究をし続けている。彼等は基本的に他人を信用していない。異常とも言える能力を持つ魔法師は特に信用されていない。上記のようなおバカな研究も当時頭角を現し始めた魔法師の犯罪予備軍を早期発見する為の研究の一環だと僕は邪推している。

 

何故、こんな古い記事を持ち出したかというとAIの描いた男性同性愛者の似顔絵と女性同性愛者の似顔絵が五十里さんと千代田さんに似ていたからだ。美少女系男子とハンサム系美人女子は、まさにお似合いだったのだ。

 

すでに蛇足になりそうだが、試合結果は、千代田さんが漢らしい大胆な肉を切らせて骨を断つ試合運びで相手を圧倒して勝利し予選を通過した。

 

 

 

 




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九校戦編8

サブタイトル変更しました。


新規読者獲得のためと飽きて離れてしまった読者を引き戻しすためにホモネタを扱ってみた。反響はあったが、評判はさほどではなかったようだ。『秀吉』とか『戸塚』みたいな学生は現実には存在しないので架空の人物を登場させるわけにも行かない。それで、苦し紛れに取り上げたのが前回のホモネタなのだ。

 

さて、真面目な話に戻る。第四次世界大戦についてだ。第四次世界大戦は、魔法師と非魔法師との戦争になると以前書いた。また、第三次世界大戦は反同盟と同盟(元大日本帝国と元大英帝国との同盟)との戦争だったし、世界大戦前の経済制裁で同盟側の勝利が確定していたとも書いた。

 

そして、僕は日本が第四次世界大戦でも戦勝国になるのを助ける為に行動しているとも以前話した。今、魔法師を軸にして国を再興し復讐を果たそうとしている国と魔法師はあくまで特殊技能のを持つ人物だとみなす国の色分けが始まっている。

 

米国は後者であり、魔法師をあまり信用していない。なので、魔法無しでも魔法師と戦える準備を常に怠らない。光学迷彩や盗聴や顔面認証はその準備の一環だ。

 

一方、我国は同じく魔法師を心から信用しているわけではないが、米国のような無限の予算はないのでいざとなれば魔法師を処理できる研究を深めている。ただ、単に魔法師を一括りにして敵とみなすだけでなく一個人と扱えるような体制を整えようとしている。

 

ようは、心から日本を愛する魔法師を増やすのと非魔法師(魔法を全く使えない人物を意味していない)でもA級あるいは戦略級魔法師を殲滅できる方法の開発だ。

 

これを一度に実現する方法の一つが、神になって行く過程を経てA級あるいは戦略級魔法師を凌駕できる魔法師になる方法を開発すればいいのだ。

 

別に誰かに頼まれたわけでもないが、僕が道を得た時に運命がその様になった。だから、魔法科高校しかも一高を選んだ。A級魔法師や戦略級魔法師レベルの魔法師に直に会えるからだ。誰がそうなのかは、想像にお任せする。

 

さらに、将来魔法は多少使えるが魔法師にはなれないであろう人物もたくさん存在する。いわゆる二科生だ。神系魔法師育成に相応しい人物が多く存在するのも好都合なのだ。

 

今回は、割と詳しく話したが少佐の反応は、少し薄かった。何か気になる事があるようだ。

 

◇◇◇

 

選手・スタッフ用テントの中は、慌ただしくしかも重い雰囲気だった。

 

「男子クラウドボールの結果が思わしくないの」

少佐は、すでに知っていたようだ。桐原さんの二回戦敗退は、関係者に少なからずショックを与えていた。

 

「男子は、全体的に戦前の予想より成績が良くないのでは?」

 

「そうなのよ」

少佐の口調も重たい。

 

一高の戦歴が悪いと少佐まで、大人しくなってしまったのは意外だった。そんなに九校戦に彼女が入れ込む理由が良くわからないのだ。愛校心?

 

少し、何かが引っかかる。

 

「何かいい方法はない?」

 

「ありますよ」

 

「あるの?!」

少佐が、食い付いてきた。

 

新人戦で頑張れば良いのと(当初、新人戦は計算に入れてなかったはずだから)司波くんに出来るだけ多くの選手の面倒をみさせる(七草会長が快調になったように「ゴミ掃除」だけでも効果が期待できる)と良いと僕は伝えた。

 

「それと、服部副会長に頑張ってもらいます」

僕は、少佐が気にしている人物の名前を出した。少佐が、目を丸くしている。

 

「師匠は、人の心が読める人?」

 

「読むつもりはなくても、結果的にそうなる事がしばしばあります」

 

「わかった。範蔵を復調させる方法を教えて!」

 

◇◇◇

 

どうも、少佐の副会長への入れ込み具合が気になる。純粋に選手を応援したい気持ちだけではなさそうなのだ。

 

『服部 刑部少丞 範蔵(はっとり ぎょうぶしょうじょう はんぞう)

百家支流ではあるが、無名に近い家の生まれ。実家は忍術の名門である服部とは別の服部家。学校には「服部刑部(はっとりぎょうぶ)」で届が受理されている』

 

とりあえず、副会長のプロフィールをもう一回読んだ。

 

『身長175cm、体重67kg 横幅はやや細身』

これは、あまり関係なさそうだ。

 

『本人の知らないところで密かに「ジェネラル(GENERAL)」と囁かれ、数字を持たない同級生から将来のリーダーと期待されている』

 

おっ‼︎これか?

 

少佐は、十師族のシステムに良い印象を持ってない。魔法師は、血筋に影響されるからと言って血筋で魔法師を固めてしまうのは新たな貴族階級を作り上げることにつながり兼ねないからだ。実際に十師族の日本社会に対する影響力は警察と軍中心に大きなものになっている。

 

荒いたとえになるが、第二次世界大戦前の日本の状態に近い。軍が日本の神から離れた為に負けてしまった戦争の前の状態だ。

 

少佐は、なんとなくナンバーズの危うさに気づいている。なので、ナンバーズ以外の有力魔法師(正確に表現するなら魔法師候補)に肩入れしている。

 

うーむ。どうも、それだけでもなさそうだ。単に副会長が少佐の好み?それも、違うなぁ。

 

◇◇◇

 

九校戦三日目。九校戦前半のヤマだと言われている。そして、少佐が気にしていた服部副会長のバトルボードの決勝が行われる日でもある。結果から書くと準優勝だった。

 

直前に七草会長が司波くんを呼んでいたので、例の「ゴミ掃除」をしたのだろう。

 

よほど、嬉しかったのか少佐が饒舌だ。昨夜、会長と副会長に個別に連絡して副会長から会長に泣きつくようにアドバイス(脅迫?)したそうだ。一方、会長は、「ゴミ掃除」をどうして少佐が知っているのか訝しがったようだが、副会長の復調につながると聞いてすぐに手を打った。

 

副会長は、これを機に女性に甘える術を学んで欲しい。なんでもかんでも男である自分が女性をリードしようとするのはどだい無理な話だ。それと、副会長は自分のルックスにもっと頼るべきだ。ハッキリ言って彼はモテる。ソースは1-E女子。それは、特技の一つあるいは才能の一つと自覚するべきなのだ。ぶっちゃけると可愛い顏だから会長が弄ってくる。ほぼ同じ実力の桐原さんを会長は、弄らない。

 

「それと、昨夜『自動運動』が初めてできたの」

少佐が、恥ずかしそうに教えてくれた。昨日、一緒に練習した太極拳の動功のことだ。

 

「これ、いつ悟れるの?」

 

「自動運動や自発動功は、すぐに六段階の境地になるものではありません」

ここからは、慎重に説明するべきなのだ。

 

「気を取り入れやすい身体になったので、自動運動が始まります。さらに気に慣れてくるとそれが総合的に捉えられるようになります。最初はエネルギー的な感じ方しかできないのですが、情報もわかるようになります。そして、全体的に把握し始めると聖霊や守護神や天使と呼ばれる人格的なものと捉えるようになります。さらに進めば、あの世の自分、つまり孔子の言った朋が来ます」

短くすると、自動運動がスタートだ。

 

「なるほど。ところでこれ、人に教えても良い?」

 

「吉田くんですか?良いですよ」

 

「……」

 

「どうかされました?」

 

「心を読まれるのは、あまり気持ち良くはないわね」

 

「そのうち慣れますよ!」

 

「そういうものなの?」

 

「そういうものですよ」

 

◇◇◇

 

次は、渡辺風鬼委員長のレースだ。バンダナで纏めたショ ートボブの髪を揺らし 、委員長は既にスタート姿勢を取っていた。準決勝は一レース三人の二レース。それぞれの勝者が一対一で決勝レースを戦うことになる。他の二人が緊張に顔を強張らせている中、委員長だけが不敵な表情でスタートの合図を待っている。

 

他人に弱味を見せないのが良いと彼女は思っているのだろう。少し気になるのは副会長もそうなのだがナンバーズではないが魔法力がかなりある人物達の心の余裕の無さだ。十師族等とそれ以外の血筋の違いなどは、実は大したことはない。ただ、幼い頃から魔法に慣れ親しんでいるだけの事なのだ。それが後年大きな違いを生んでいるのも確かではあるが。

 

用意を意味する一回目のブザ ーが鳴る。

 

どうも、変な感じがして僕は居心地が悪い。

 



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九校戦編9

サブタイトル変更しました。


観客席が静まり返った。

 

あ。まずい。直近の未来がハッキリわかる。渡辺委員長の守護神が助けを求めている。

 

二回目のブザー。スタートが告げられた。先頭に躍り出たのは委員長。予選とは違い 、背後に二番手がピッタリついている。続いて三番手。

 

「摩耶、俺の身体を守ってくれ」

僕は何の脈絡もなく少佐に厳命した。

少佐は、目を丸くしたが非常事態をわかってくれたようだ。

 

激しく波立つ水面は 、二人が魔法を撃ち合っている証だ。普通ならば先を行く委員長の方が引き波の相乗効果で有利だが、七高選手は巧みなボードさばきで魔法の不利を補っている。さすが海の七高と言ったところだ。

 

スタンド前の長い蛇行ゾ ーンを過ぎ、ほとんど差がつかぬまま、鋭角コーナーに差し掛かる。ここを過ぎれば、スタンドからはブラインド。スクリーンによる観戦になるが、僕には全体が見えている。いや、全体を見ている僕も存在している。

 

何もしなければここで大惨事となる。有力魔法師候補の二人の未来は無くなる。

 

僕は、主な意識を真我に移行。渡辺摩利の心に一体化する。

 

観客席から聞こえた悲鳴。七高選手が大きく体勢を崩している。「オーバースピード !?」誰かが叫んでいた。

 

渡辺摩利の感覚を感じられる。しかし、同時に周りの状況もわかる。

 

ボードは水をつかんでいない。飛ぶように水面を滑る七高選手は、そのままフェンスに突っ込むしかない。前に、誰もいなければ。彼女が突っ込むその先には、減速を終えて次の加速を始めたばかりの摩利がいた。摩利はフェンスに身体を向けている。

 

背後から突っ込んで来る七高選手に気づかせる。

 

彼女は、背後から迫る気配に気づき、肩越しに振り返った 。そこからの反応は、見事の一言に尽きた。彼女の守護神はさすがだ。

 

前方への加速をキャンセルし、水平方向の回転加速に切替。水路壁から反射してくる波も利用して、魔法と体さばきの複合でボ ードを半転させる。

 

暴走している七高選手を受け止めるべく、新たに二つの魔法をマルチキャスト。突っ込んでくるボ ードを弾き飛ばす為の移動魔法と、相手を受け止めた衝撃で自分がフェンスへ飛ばされないようにする為の加重系・慣性中和魔法。

 

「余計な事をせずに回避すべき」

別の僕が囁く。

 

本来なら、そのまま事故を回避できただろう。不意に水面が、沈み込んだりしなければ。小さな変化だった。だが、ただでさえ百八十度ターンという高等技術を駆使した後だ。

 

摩利はサーフィン上級者というわけではなく、ただその優れた魔法・体術複合能力により無理に行った体勢変更は、突如浮力が失われたことにより、大きく崩れた。

 

彼女の意識が薄れる。動揺が全身に拡がる。「己の守護神を今こそ頼れ!」と別の僕が主張しているが今は無理。

 

その所為で、魔法の発動にズレが生じる。彼女の足下を刈り取ろうとしていたボ ードを、側方へ弾き飛ばすことには成功した。だが、慣性中和魔法が発動するより早く、足場を失った七高選手が摩利に衝突した。

 

時間の流れが更に遅くなる。僕が摩利の身体で七高選手を優しく抱える。魔法発動は無理。間に合わない。筋肉の緊張をとり運動の急激な変化に備える。衝突と同時に暗勁を使用する。

 

そのまま、もつれ合うようにフェンスへ飛ばされる二人。

 

意により暗勁発動。

 

大きな悲鳴がいくつも上がった。

 

レース中断の旗が振られる。

 

摩利の身体全体に心を巡らす。肋骨が折れたようだが内臓は無事だ。背骨も折れてない。

 

達也が人の密集するスタンドを、手品のようにすり抜けながら駆け下りて来た。王子様の登場だ。

 

ミッション・コンプリート。

 

◇◇◇

 

目を覚ますと少佐が目を剥いていた。瞳孔が開き、眼底が光を反射している。眼から虹色の光が漏れている。プシオンまで視える水晶眼で一部始終を視ていたのだろう。

 

「どうなっている?」

 

「司波くんが、真っ先に駆け付けて応急処置をしているわ」

 

「じゃあ、二人とも無事だったようだね」

 

「ちょっと待って……二人とも無事だったようよ」

 

少佐は、部下に大会役員達の無線交信を傍受させているらしい。

 

「そんなことより、師匠!あんなのができるなら、呪サ」

 

僕は、少佐の唇に僕の人差し指を当てた。

 

「禁則事項です」

 

念の為、

 

この私小説は、フィクションです。実在する個人・団体・事象には一切の関係はございません。

 

「そんなことより、少佐。渡辺風紀委員長に賭けてましたね?」

 

「ふへッ?!」

 

◇◇◇

 

旧吉田家は、新宗教が登場した江戸時代から昭和時代の間に成長した古式魔法師集団である。もともとは、他の新宗教と同じく宗教法人的要素が強かったが、代を重ねるごとに先鋭化してゆき修行集団となって行った。

 

修行に専念し続けるには、修行者達を食わせるお金が必要になる。修行者は、働く時間を惜しんで修行するからだ。普通の宗教団体は、一般の信徒が彼等を養う。ところが、あまりに先鋭化した修行集団となれば布教する時間も意欲もなくなり一般信徒からのお布施で修行集団を養う事ができない。そこで、吉田家はその霊力を使って独自のビジネスを始めた。

 

平たく言えば、投資だ。あるいは、コンサルタントだ。ぶっちゃけると賭事だ。

 

「で、九校戦の本命のオッズが高いのに目をつけたわけだ」

 

✳︎オッズ(odds)は、確率論で確率を示す数値。ギャンブルなどで見込みを示す方法として古くから使われてきた。

 

「特に、渡辺さんのバトルボードは七高選手がライバルとしてもオッズが高かったの」

 

「服部副会長のオッズも?」

 

「彼のもそう」

 

「でも、副会長は優勝間違いなしとでは言えないでしょう」

 

「ええ、だから彼は複勝で」

 

✳︎最も的中しやすく、最もオッズが低い複勝とは、出走頭数が5頭以上いるレースに発売される馬番号を1点選ぶ馬券で、出走頭数が5〜7頭は1着・2着。 出走頭数が8頭以上の場合は1着〜3着までが的中となる馬券です。 複勝は最も的中しやすく、最もオッズが低くなりやすい馬券と言われています。ちなみにこれは競馬の話。言うまでもなく。

 

少佐達の修行の成果は、賭博にも使われるようだ。それを僕は責めはしないが、未成年の賭事は日本では禁止されています。

 

「だから、予想するだけ」

少佐は、はにかんで見せた。

 

これで、少佐が九校戦に入れ込む動機がわかった。特に一部の選手は、絶対勝たせようとするのも納得できた。

 

「ところで、一高の優勝オッズも高い?」

 

少佐は、少し間を置いて答えた。

 

「ええ、一高の三連覇間違い無しの前評判の割にオッズが高いわ」

 

「なるほど」

 

「何が、わかったの?」

 

「本命の割にオッズが高い選手、特に一高選手を中心に調べて欲しい。それとノーヘッドドラゴンがノミ行為をしてないかも調べて欲しい」

 

✳︎ノミ屋(ノミや)とは、日本に於ける公営競技などを利用して私設の投票所を開設している者のことである。また、その行為を「ノミ(呑み)行為」と言う。

 

◇◇◇

 

「女子バトルボードで七高は危険走行で失格。決勝は三高と九高。三位決定戦は一高と二高。小早川さんは、逆境を糧にするタイプだから三位は取れると思う」

 

「オッズは?」

 

「本命の二人が、棄権と失格で混乱しているわ」

 

「女子バトルボードにもう邪魔は入りそうにないな」

 

「小早川さんは、本命ではないし。男子バトルボードは、範蔵くんが決勝進出。男子ピラーズ・ブレイクは十文字くんが決勝リーグ進出。女子ピラーズ・ブレイクも千代田さんが決勝リーグ進出ね」

 

「オッズは?」

 

「大本命の十文字くんのオッズは、評判通り低いわ。千代田さんもね」

 

「仕掛けて来ないつもりなのかな」

僕は、何か引っかかる。どうせやるのなら、七草会長や十文字会頭や千代田さんの出場する種目に妨害工作を仕掛けて大本命を棄権に追い込んだほうが利益が大きくなるはずなのに。しかも、一高への精神的な衝撃も大きくなり一高三連覇を阻止するのにも成功するだろう。

 

 

 

 



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九校戦編10

サブタイトル変更しました。


今回は、原作の最新刊を読んでないで取り上げた話題なので最新刊を読んだ後で大きく修正しなければならないかも知れません。


「師匠の読み通り、ノーヘッドドラゴンはノミ行為もしているそうよ」

少佐が、僕との会話の最中に誰とどうやって情報のやりとりをしたのかは知らない。きっと電脳なんとかの類だ。

 

「じゃあ、次に妨害工作が行われそうなのは小早川さん、森崎くん、司波さんあたりかな」

 

「未来予知したの?」

 

「いや、本命でしかも百家ではなさそうな選手をあげてみただけだよ」

 

少佐は、頭の上に?マークを浮かべている。

 

「もし、ノーヘッドドラゴンが利潤追求だけを目的にしているのなら七草会長や十文字会頭や千代田さんを棄権に追い込めばいい。そうすれば、一高の他の選手も崩れて一高三連覇の妨害も可能になる」

 

「言われてみれば、確かにそうね」

 

「でも、もしそんなことをしたら十師族や百家が不審に思って調査を始めるだろう。彼等の力なら犯人も特定できるし報復も可能だ」

 

「ノーヘッドドラゴンは、ナンバーズを恐れてナンバーズ以外の有力な選手を妨害しようとしたのね!」

 

「四葉みたいに報復で一国を滅ぼした例もあるからね」

 

と言ったものの、僕はまだ納得できていなかった。ノミ行為が果たしてそんなに儲かるものだろうか?そこそこできる魔法師を惹きつけるインセンティブを与えられるのだろうか?

 

結論から言えば、無理だ。

 

シーシェパードと同じく、国家的な援助があるのだ。おそらく大亜細亜連合。目的は日本の魔法師の弱体化だ。

 

渡辺風紀委員長と七高選手を助けたので彼女達の守護神からのお礼がこのインスピレーションだ。

 

しかも、ノーヘッドドラゴンが十師族に直接手を出さなかったのは十師族の報復が怖いだけではなく、たとえテロに失敗しても十師族をできるだけ孤立させたい目的があったのだ。

 

今回のテロはいずれ発覚し捜査される。その時、直接的なテロ被害者は非ナンバーズとなれば、今回のテロはナンバーズが非ナンバーズの勢いを削ぐのが目的であるとプロパガンダを打ちやすい。うまく行けば、ナンバーズと非ナンバーズの連携を機能させなくする事が可能だ。

 

「そんな回りくどい方法が効くのかしら?」

 

「プロパガンダが効くのは、ガチで戦争しても勝てる時だ。大亜細亜連合は、第三次世界大戦で懲りたと思ったけどまた同じ事をやり始めたようだ」

 

「第三次世界大戦前に大亜がプロパガンダを流していたの?」

 

「第二次世界大戦で日本に何とか勝てた米国は、勝利を永続させようとして実質的に戦敗国のソ連や中国や朝鮮を味方にした。ある意味、彼等と共謀して日本の分割統治を始めた。その時、使われたのがプロパガンダだよ」

 

少佐は、良く理解出来ないようだ。すでに、第二次世界大戦後の日本の黒歴史は誰も興味を示さない近代史となっているので中学校でもあまり詳しく教えてないからだ。

 

「元々、第二次世界大戦の末期に日本の敗戦は明らかになっていた。敵は日本を日本そのものの破壊を目論んでいるのもハッキリしていた」

 

「日本そのものの破壊って核兵器を日本国中に使うつもりだったの?」

 

「原爆が、たくさんあればやったかも知れないね。ここで言う破壊は物理的破壊よりも精神的破壊だよ。日本の精神の破壊。つまり、天皇の死刑と日本人の洗脳だ」

 

「それに、プロパガンダが使われたのね!」

 

「そう。でも、敵の魂胆はわかっていたから我国の神人達は敗戦前に逆転する作戦を立てていたんだ。それは、100年で米国に勝つというものだ。米国には、国王や法王がいない。つまり、絶対的な求心力がないから常に米国民を洗脳して引っ張って行かなければ分裂してしまう。なので、我国は武力ではなく米国の自滅を誘う作戦を実行したんだ」

 

米国が日本を弱体化させるために中国やソ連や朝鮮を先ず逆に利用した。彼等に金を与え増長させ、やがて日本や米国に叛旗を翻すようにした。その間、日本は敵勢力のプロパガンダで完全に弱体化させられたフリをしていた。実際は、日本全国に米軍基地があるので中ソは核兵器を開発しても迂闊に日本に使用したり核兵器使用の恫喝ができなかった。つまり、国防を米国にさせて我国は産業を発達させてひたすら蓄財に励んだ。

 

このような作戦は、百年先が観える者にしか立案出来ない。それが神のような人達だ。現代魔法師がどんなに頑張ってもこのような魔法は使えない。そういう意味で魔法師はただの人であり、医師や弁護士と同じような特殊技能を持つ人物と扱うべきなのだ。

 

「あッ!」

 

「どうしたの?」

 

「今、降りて来た」

 

「何が?」

 

「知恵が」

 

米国は、精神的な求心力を持つ皇族や王族等が存在しないので常に米国民を洗脳し続けなければ国家求心力を失うと言った。その一つが開拓精神、いわゆるフロンティアスピリットだ。しかし、第三次世界大戦で開拓すべき有望地は地球上に無くなった。だから、米国は求心力を失い自壊して行くと主張もした。

 

いや、米国はまだ足掻く。しかも、邪魔になっている魔法師も合法的に処理できる妙手があったのだ。それは、宇宙開発だ。ご存知宇宙開発は頓挫している。人間は長期の無重力状態では健康を維持出来ないからだ。無人機では、実験的な開発にとどまる。本格的な宇宙開発には有人が絶対に必要なのだ。

 

これが足枷となって月に人間が立った後、百年も経過したのに今だに火星に人類は立ってない。わずか数年間の宇宙飛行に人間は耐えられないからだ。

 

しかし、超A級魔法師や戦略級魔法師ならばどうか?体に重力加速度系の単一系魔法を持続的に発動すれば骨が解けたり心筋が馬鹿になったりしないはずだ。あるいは、直接自分の身体に魔法を持続的に発動して無重力の弊害を消しても良いだろう。放射線対策も可能なはずだ。

 

参考までに資料をあげておく。古いが今だに解決出来てない問題ばかりだ。

 

『宇宙滞在に伴う健康問題

 

最終更新日:2011年8月4日

宇宙滞在中に宇宙飛行士が遭遇する健康リスクとして、次の3つがあげられます。

微小重力の影響

放射線の影響

精神的・心理的な影響

微小重力の影響

 

宇宙滞在中、人体に最も大きな影響を与える要因のひとつに“重力環境の変化”があります。

 

前庭器官

 

耳の奥(内耳)にある「前庭器官」は身体が受ける加速度を電気信号に変えて脳に伝達する重要なセンサーです。しかし、微小重力環境である宇宙では「前庭器官」からの情報をたよりにして身体のバランスをとることができません。これが「宇宙酔い」の原因の一つです。

脳は、環境に慣れると内耳からの信号の解釈を変えるようになるため、宇宙酔いは数日でおさまります。一方で、地球に帰還する際には、宇宙飛行士は地球の重力環境に再適応しなければなりません。地表重力環境への再適応でもバランスの問題は起こります。再適応の早さには個人差がありますが、2週間ほどで問題はなくなります。

 

心循環器

 

人間の体液は地上では重力により身体の下側に向かって引っ張られていますが、軌道上での滞在中は体液が下に引っ張られることはないために、地上にいるときとは反対に顔がむくんでいきます。 頭部に移動した余分な体液によって鼻腔の粘膜もむくんでしまうため、宇宙飛行士は「鼻詰まり」状態になることがあります。こうした状態に対して、身体は体液の全体量を減らして適応していきます。顔のむくみが改善するまでには数週間がかかります。

また、地上に帰還した時の宇宙飛行士は、血液を重力に逆らって頭部まで循環させることが難しくなっているために、起立性低血圧(立ちくらみ)を起こすことがあります。

軌道上に滞在している間は心臓の血液を送り出す力が少なくて済むため、心臓の筋肉が衰えてしまうことも起立性低血圧を起こす要因の一つと考えられています。

 

骨と筋肉

 

軌道上に滞在していると、筋肉が衰え、骨からはカルシウムが溶け出して、尿や便中に排泄されます。これは地上で長い間寝たきりでいたりしたときと似たような変化といえます。

微小重力環境では歩く必要がなく、壁を手で押して移動するようになるため、特に下肢の筋肉に萎縮が目立ちます。

骨量の減少は骨折の可能性を高めるほか、尿中にカルシウムが流れ出すと尿管結石を引き起こす可能性があります。尿管結石は大きな痛みを伴うことがあるので問題です。また、宇宙飛行士はこうした筋肉や骨の衰えをできるだけ予防するため、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在中は1日に約2時間の運動をしています。

 

放射線の影響

 

私たちの生存環境の保護膜ともいうべき地球大気の外では、宇宙飛行士は高レベルの放射線を被ばくすることになります。

地上で日常生活を送る私たちの被ばく線量は、1年間で約2.4ミリシーベルトと言われています。

一方、ISS滞在中の宇宙飛行士の被ばく線量は、1日当たり0.5~1ミリシーベルトになり、ISS滞在中の1日当たりの放射線量が、地上での数か月~半年分に相当することになります。

宇宙放射線の人体への影響は、一定レベル以上の被ばく量で水晶体の混濁等の臨床症状が生じる影響と発がん等の被ばく量が増えるにつれて生じる影響とがあります。このため被ばく量を一定レベル以下にすれば、これらの影響が発生しないあるいは、発生する確率を抑えることができます。

JAXAでは宇宙放射線被ばく管理を実施し、被ばく量を一定レベル以下に管理し宇宙飛行士に健康障害が発生しないように努めています。

 

精神的・心理的な影響

 

ISSは、ひと昔前の宇宙船と比較してかなり船内空間が広くなりましたが、それでも地上の住居のような訳にはいきません。

ISSに滞在する宇宙飛行士は、広大な宇宙空間に広がる銀河や青い地球という最高の眺めを楽しむことができますが、その一方、狭い空間で何ヶ月もの間、他の宇宙飛行士と共に生活しなければなりません。どんなに意欲に溢れ、自己制御力に優れた精鋭集団であっても、狭い閉鎖された環境で生活していくうちに、閉そく感によるプレッシャーやストレスを感じるようになるものです。

過去に、宇宙長期滞在における精神心理の問題点を洗い出すことができた実験があります。

1999年7月2日から2000年3月22日にかけて、ロシアの生物医学問題研究所(IBMP)の施設を使って、ISS長期滞在ミッションを模擬した閉鎖環境実験(SFINCSS-99)が実施されました。

この実験は、ISS長期滞在、スペースシャトルミッションでの滞在、およびソユーズ宇宙船での短期滞在の組み合わせを模擬し、異国の宇宙飛行士同士が軌道上で共同生活を送る際の、精神心理問題を研究するものです。

ロシアの他、日本(当時のNASDA)、カナダ(CSA)、欧州宇宙機関(ESA)など計10ヶ国の研究機関が参加しましたが、言語の壁により意思疎通がうまくできない苛立ち、文化や性別の違いによるストレスなどから、さまざまな問題が浮上しました。

さらにこの実験からは、多くの問題が被験者の気質や性格に由来するものではなく、被験者同士のコミュニケーション、チームワーク、外部からの支援にも大きく関わりがあることが分かりました。

ISS長期滞在が開始される前のこの実験により、文化や性別の異なる宇宙飛行士同士が軌道上で共同生活をする上でのいくつかの問題点が特定され、対策の重要性が示唆されたことは大きな成果でした。』

 

昔は、動物実験的な人体実験を平気で行なっていたのが良くわかる。しかし、超A級魔法師や戦略級魔法師なら常に自分にあるいは仲間の宇宙飛行士に魔法を発動し続けられるのでこれらの問題に対処出来るのも明らかだ。

 

精神的心理的問題は、情動を抑制したり、ほとんど起きないように脳や精神的を弄った魔法師なら問題さえ起こらない。もちろん、精神干渉魔法を使うのも解決法の一つだ。

 

精神的心理的問題は、情動を抑制したり、ほとんど起きないように脳や精神的を弄った魔法師なら問題さえ起こらない。

 

大事なことなので二回言いました。

 

 

 

 



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九校戦編11

サブタイトル変更しました。


一部、書き換えました。


「宇宙飛行士に魔法師…」

少佐は呆気に取られている。僕の話に付いて行けなくなりつつあるようだ。

 

「でも、この知恵は少佐のおかげだと思うよ」

 

「?」

 

「少佐を助けた見返りのあの世からの知恵だから」

 

「そんな事あるの?」

 

「『君子危うきに近寄らず』は、何もしないで実現はしないよ。人知れず『徳を積む』から『危うき』から離れられる」

 

◇◇◇

 

第一高校、三日目の成績は男女ピラーズブレイクで優勝、男子バトルボード二位、女子バトルボード三位 。第三高校が男女ピラ ーズブレイクで二位、男女バトルボ ードで優勝という好成績を収めた為、両校のポイントは前日よりむしろ接近していた。

 

服部副会長と小早川さんは、妨害されなかった。しかし、総合得点で一位と二位の差が縮まった。新人戦の得点が重要になり、新人戦でも妨害工作が行われる可能性が強まった。少佐は、日中に考えた新人戦でも一高の得点を増やして優勝を確実にする方法(司波くんに出来るだけ多くの選手をアシストさせるや、負傷した委員長の代わりにミラージュバットに司波さんを出場させる等)を会長達に伝えに行ったと思う。

 

実際に少佐が会長達に言ったかどうかはわからないが、一高が三連覇を達成しなければ少佐達はかなりの損失を被る。その規模はわからないが相当なものだろう。一高優勝の為に、僕を九校戦にテキトーな理由をデッチ上げて連れてきたくらいだから。

 

「あいつら、使えん」

少佐が毒づいている。口をもぎゅもぎゅしながら。よく噛んで食べないと大きくなれないよ!

 

作戦スタッフ達の事だ。

 

新人戦を犠牲にして、本戦のミラージバットに力を入れようとする作戦が少佐の気に入らなかったのだ。

 

少佐は、ディナーのサービスとほぼ同時に僕の部屋に来た。一緒にディナーしようというのだ。当然のことながらワゴンを運んで来たのは『馬頭さん』、ワゴンに潜んでいたのは光学迷彩のQちゃんだ。

 

「もしかしたら、一高の優勝に妨害工作が行われていると彼等は知らないのでは?」

 

「考え過ぎだと鈴音に言われたのよ。あの女、馬鹿だわ」

鈴音とは作戦スタッフの代表者である市原鈴音生徒会会計のことだ。

 

「でも、司波くん達が詳しく調べてバトルボードのアクシデントは仕組まれたものだとハッキリさせたのでは?」

 

よく考えたら、司波くん達の調査は非公式に行われ、その結果を非公式な方法で知り得た少佐の話を理詰めで考える市原会計が信用する方がどうかしている。しかも、大会役員の中に裏切者がいるとする結論は更に受け入れ難い。

 

少し整理しよう。

 

大会四日目で本戦は一旦休みとなり、明日から五日間、一年生のみで勝敗を争う新人戦が行われる。ここまでの成績は一位が第一高校で三百二十ポイント、二位が第三高校で二百二十五ポイント、三位以下は団子状態の混戦模様。一位と二位の差が九十五ポイントとここまでは一高が大量リードを奪っている。

 

しかし、新人戦の成績如何ではまだまだ逆転もあり得る点差だ。新人戦で大差をつけて優勝すれば三高にも逆転優勝の芽が出て来るし、逆に新人戦で優勝できなくてもポイントで大差をつけられなければ一高は総合優勝に大きく近づくことになる。各校の第一目標は総合優勝だが、この様に新人戦のポイントも二分の一とはいえ総合順位ポイントに加算されるのだ。

 

それに、出場する一年生にとっては新人戦優勝こそが自分達の栄誉になる。気合の入り方は本戦に劣るものではないのだ。

 

「優勝はスタッフにも、恩恵があるわ」

 

それは、知らなかった。

 

「師匠も、一応公式なスタッフの1人だから一高が優勝すれば成績に加点されるよ」

 

それを最初に言って欲しかった。試験で0点にされた分を多少取り返そうと頑張ったかも知れないのに…

 

冗談はさておいて、得点状況から次に狙われやすいのはモノリスコードだ。

 

「今後は、預言?」

 

「残念ながら推理だよ」

 

モノリスコードは本戦優勝ならば100点、新人戦でも50点だ。頻繁にアクシデントが起きれば、大会役員側も不審に思い何らかの手を打つだろう。なので、得点が1番大きい競技をノーヘッドドラゴンは狙うだろう。

 

「それだけ?」

少佐は僕が預言をしなかったので、少し残念がっている。昼間に預言の実演を見せたのにそれだと認識できなかったようだ。以下のやりとりが天啓を得た瞬間、つまり預言が降った瞬間だ。

 

「あッ!」

「どうしたの?」

「今、降りて来た」

「何が?」

「知恵が」

 

少佐があからさまに落胆した。預言や異言や天啓にロマンを求め過ぎているようだ。

 

『異言(いげん)は、グロソラリア(英: glossolalia < 希: γλωσσολαλιά = γλῶσσα(glõssa 「舌、言語」)+ λαλιά(laliá 「声;言語、言葉、発話、説明、意見」)=「舌から発せられる声」)あるいはゼノグロッシア/ゼノグロッシー(英: xenoglossia/xenoglossy < ギリシア語で「異国の言語(聞き慣れない言葉)を話すこと」)の訳語で、いずれも、学んだことのない外国語もしくは意味不明の複雑な言語を操ることができる超自然的な言語知識、およびその現象を指す。

 

英語では、 glossolalia は主に宗教の分野で、xenoglossia/xenoglossy は主に超心理学の分野で使われる。日本では、超心理学に関する文脈で、区別の為に後者の異言を「真性異言」と訳す場合もある。当項目では、前者の宗教的な意味で用いられる狭義の異言について主に取り扱う。後者の超心理学的な異言については項目「真性異言」を参照のこと。』

 

まあ、こんな説明をされたらたいそうなものだと誤解するのも仕方ない。3分あれば習得出来る類のものだ。ちなみに預言は、

 

『預言prophecy

 

広く人類の種々の文化圏にみられる宗教的現象で,それぞれの文化によって多くのニュアンスの相違があるが,ある人物が一時的にその人格性を停止し,神もしくは神霊などの道具となって,その「神意」を民衆に告げること。突然,あるいは舞踏などの準備行為ののちに忘我状態となり,多くの場合幻想を伴って,いわゆる憑かれた者として,行為,言葉,音声など種々の媒介で「神意」を告げるが,これには多くの場合「解釈」が必要である。未来の出来事を予告する場合も多いが,必ずしもそれがすべてではない。前者は特に「予言」と記される。既成の政治,社会,宗教体制のなかでも行われるが,これと鋭く対立し,批判する場合も多い。預言の歴史的,典型的実例はユダヤ教にみられる。』

 

「神意」を告げる程度で忘我になっていたら、そのうち統合失調症になりそうだ。しかも、一々解釈が必要なら役に立たないと思う。これも、出来ない人が理解しないまま説明しているものだろう。

 

話を元に戻す。

 

「得点だけではないよ。森崎くんは非百家だろう?だから報復の恐れも少ない」

 

少佐は釈然としない様子だ。

 

「しかも、予選でアクシデントを起こせば三人を入れ替えて次の試合に臨まなければならない。三人を入れ替えるのはまず不可能だから棄権に追い込める。得点は0点だ」

 

突然、携帯端末が鳴った。

 

「美波ちゃん、元気?」

 

『あんた、明日暇?』

 

「報道だから、試合観戦でそれなりに忙しいよ」

 

『フーン…』

 

二高の河村美波さんは、僕が中学三年の時のクラスメイトで、魔法科高校を目指し寝食も共にしたりした間柄だ。彼女が何を言いたいかわかっているのに僕はいたずら心で気付かない振りをしている。

 

少佐が気を利かし、小声で囁いた。端末が拾えないくらいの小声だ。

「彼女、見に来て欲しいのよ」

 

『もしかして、そこに女の子達がいるの?』

 

僕は、肯定も否定もしなかった。

 

『まぁ、いいわ。明日、あたしスピードシューティングに出場するから見に来てね』

 

「わかった。でも、美波ちゃん。近くに彼氏がいる時に電話するのはやめた方が良いよ」

 

『余計なお世話』

 

少佐が、驚いている。光学迷彩のQちゃんも姿は見えないが動揺している。

「どうして、私がいるって彼女はわかったの?それに師匠はどうして彼女が彼氏の近くで電話しているとわかったの?」

 

「預言の賜物です」

 

 

 

 

 



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九校戦編12

サブタイトル変更しました。


今回は引用多めですが、あまり興味のない方は引用箇所を飛ばして読んでも差し支えありません。


好評だったシーシェパード活動停止の話。

 

シーシェパードのような海賊船が日本の民間船を襲った時に日本海軍(当時は、海上自衛隊)が海賊船を攻撃して良いとする閣議決定を以下に貼っておく。第三次世界大戦が始まる前に、国の交戦権を認めないとする頓珍漢な米国製日本憲法下でも、危機に対処できるように我国は法整備をしていた。尚、平成27年5月14日とは、西暦2015年だ。

 

『公海上で我が国の民間船舶に対し侵害行為を行う外国船舶を自衛隊の船舶等が認知した場合における当該侵害行為への対処について

 

平成27年5月14日

閣議決定

政府は、【自衛隊の船舶又は航空機による警戒監視等の活動中に、公海上で我が国の民間船舶(我が国の船籍を有する民間船舶をいう。)に対し、海賊行為その他我が国に対する外部からの武力攻撃に該当しない不法な暴力行為、抑留又は略奪行為(以下単に「侵害行為」という。)を行う外国船舶を認知した場合、これに対処し、我が国の主権を守り、国民の安全を確保するとの観点から、関係機関がより緊密に協力し、いかなる不法行為に対しても切れ目のない十分な対応を確保する】ため、下記により対応することとする。

1.事態の的確な把握

当該侵害行為を行う又はその可能性のある外国船舶を認知した場合、事態を把握した防衛省は、内閣情報調査室を通じて内閣総理大臣、内閣官房長官、内閣官房副長官、内閣危機管理監及び国家安全保障局長(以下「内閣総理大臣等」という。)への報告連絡を迅速に行うとともに、速やかに内閣官房、外務省、海上保安庁その他関係省庁にこの旨を通報し、相互に協力して更なる事態の把握に努める。

なお、上記報告ルートに加え、防衛省による内閣総理大臣等への報告がそれぞれのルートで行われることを妨げるものではない。

2.事態への対処

当該侵害行為への対処に当たっては、内閣官房、外務省、海上保安庁、防衛省その他関係省庁は相互に緊密かつ迅速に情報共有し、調整し、及び協力するものとする。

3.迅速な閣議手続等

(1)現に行われている当該侵害行為への対応に関し、海上保安庁のみでは対応できないと認められ、次のア又はイに係る内閣総理大臣の承認等のために閣議を開催する必要がある場合において、特に緊急な判断を必要とし、かつ、国務大臣全員が参集しての速やかな臨時閣議の開催が困難であるときは、内閣総理大臣の主宰により、電話等により各国務大臣の了解を得て閣議決定を行う。この場合、連絡を取ることができなかった国務大臣に対しては、事後速やかに連絡を行う。

ア 海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律第7条第1項に規定する海賊対処行動の発令(同条第2項ただし書に規定する場合に限る。)

イ 自衛隊法第82条に規定する海上における警備行動の発令

(2)上記(1)ア又はイの命令発出に際して国家安全保障会議における審議等を行う場合には、電話等によりこれを行うことができる。

4.事案発生前からの緊密な連携等

上記のほか、内閣官房及び関係省庁は、事案が発生する前においても連携を密にし、当該侵害行為への対応について認識を共有するとともに、訓練等を通じた対処能力の向上等を図り、事案が発生した場合には迅速に対応することができる態勢を整備することとする。』(引用ここまで、全部読む必要はない。)

 

第三次世界大戦前にすでに同盟側の勝利が決していたとする話しは今後度々言及するつもりだ。これは学校で習う近代史と僕の考えがかなり違うためだ。僕は上記のような証拠をあげて第三次世界大戦で我国が勝ったのは現代魔法師のおかげとする好ましくない風潮を変えようとこれからもする。

 

勝ったのは、第三次世界大戦が始まる前に戦争の準備を完了出来ていたからだ。つまり、何十年も前から未来を見通して準備を進めていたからである。この何十年先の未来を見通す力を「預言」と言っても良い。しかし、まずは遠くの景色を見たり近未来を見たりする能力の習得が先行する。

 

「練習で預言できるようになるの?」

 

「なるよ!」

 

少佐は心からは納得出来ないようだ。

 

「河村美波さんは、元一般人だよ。一発逆転人生を目論んでほんの少しの魔法力(ユリ・ゲラーよりはあった。スプーン曲げはできたから)を頼りにここまでのし上がって来てる」

 

*ユリ・ゲラー

『ハンガリー系ユダヤ人の移民の家庭に生まれる。父はイツハク・ゲラー、母はマンジー・フロイト。精神分析学の祖ジークムント・フロイトの親類である[1]。両親の離婚と母親の再婚に伴って、キプロスのニコシアに転居。そこでカトリックの高校に通い英語を習得する。

 

1964年にイスラエル陸軍に入隊するが、1967年の六日戦争で軽傷を負って除隊。その後ファッションモデルやキャンプ・カウンセラーなどの職を点々とする(モサッドで様々なスパイに関する技術を学んだ、という説もあり)。

 

そのキャンプでシンプソン・シュトラング(通称シピ)という少年と知り合ったユリは、奇術の共同研究を始め、友人のパーティーやナイトクラブでの超能力ショーを始めるようになる。だが、そこでの奇術(テレパシー術)があまりに稚拙であったため、ナイトクラブの支配人らから訴えられ、裁判で「今後、イスラエル国内で超能力を冠したショーを行ってはならない」との処分が下される。また同じ頃、女優のソフィア・ローレンと一緒に写っている合成写真を発表し、世間から激しく非難された。

 

1972年、アメリカの超心理学者アンドリア・プハリッチ(プハーリック)が、どん底だったユリとシピを救うことになる。プハリッチはユリを本物の超能力者であるとしてアメリカに招聘した(シピも同行した)。

 

ちなみにプハリッチの著書『超能力者ユリ・ゲラー』(二見書房)によれば、プハリッチとユリのふたりは何兆光年も離れた惑星フーバの宇宙船からコンピューターで操作されているそうである。

 

1972年12月12日から、カリフォルニア州のSRIインターナショナルで彼の超能力テストが行われた。 初歩的な予備試験では一見するとテレパシーや透視に見えるような結果を残したが、より厳密なテストが行われるのを待たず、勝手に終了を宣言して退去してしまった。

 

また1973年からアメリカやイギリスのテレビ番組に登場するようになるが、ベテランの奇術師であるジェームス・ランディが同席する席で彼の超能力が発揮されることはなかった。

 

1974年を皮切りに、公式・非公式に何度か来日。当時の人気番組「11PM」や「木曜スペシャル」(日本テレビ)に登場。スプーン曲げやテレビの画面を通じて念力を送ることで止まっていた時計を動かすといったパフォーマンスで日本での超能力ブームの火付け役となった。』(引用ここまで)

 

 

「元一般人で九校戦代表選手。しかも、エレメンタルサイトみたいな遠隔視。にわかには信じれないわ」

と言いつつ少佐は光学迷彩のQちゃんのほうに視線を向けて一人小さく頷いた。何かを決めたのだろう。

 

「一から鍛えて欲しい後輩がいるの。今度紹介するわ」

 

今度紹介されなくても誰かわかってしまった。光学迷彩のQちゃんは、少佐の意図がわからなかったようだ。

 

「それと、少佐。市原さんに話が通じないのなら十文字会頭に伝えたら良いかも知れない。司波くんをメインアシスタントにして新人戦をテコ入れするべきだと」

 

「十文字くん?それは、どうかなぁ〜」

 

「意外に、会頭の頭は柔らかいと思いますよ」

会頭は『氷室雪絵』を知っていたのだ。彼は意外に堅物ではない。

 

「師匠がそういうのなら、話してみようかな」

少佐は、クスッと笑った。機嫌が持ち直したのだろう。ロリコンにはたまらない笑顔だ。

 

この後、メチャクチャS◯Xした!

というのは、嘘です。さすがに、光学迷彩のQちゃんが見ている横で不純異性交遊は出来ない。ということで純粋異性交遊はした。

 

整体のような施術をしただけだが。ただ、これだけでも、Qちゃん怒りの鉄拳を喰らいそうだった。

◇◇◇

 

新人戦の競技の順番は本戦と同じだ。本日の種目はスピードシューティング(予選・決勝)とバトルボード(予選)。ただし本戦とは違い、スピードシューティングは午前が女子、午後が男子で、一気に決勝まで行うというスケジュールになっている。これは本戦スピード・シューティングが開会式に引き続いて行われる為、午前中だけで決勝までを終わらせることができないという理由によるものだ。

 

司波くんが担当する競技は女子スピードシーティング、女子ピラーズブレイク、ミラージバットの三種目。 女子の競技ばかりなのは、彼が女誑しだから。

 

ではもちろんなく、一年生男子選手の方で司波くんに対する反発が強かったからだそうだ。

 

(少佐は、機嫌がすこぶる良い。あまり面白くはないが冗談を言っている。)

 

無論それだけではなく、一年生女子選手の一部から強い要望もあったらしい。例えば、司波深雪さんとか、光井ほのかさんとか、司波深雪さんとか、光井ほのかさんとか、司波深雪さんとか…

 

「少佐!一体何があったのですか?」

少し心配になって思わず尋ねてしまった。何か良いことがあったのは感じていたのだが。

 

「今朝、太極拳の練習をしていたら『天照大神』が見えた気がしたの‼」

 

なるほど!それで機嫌が異常に良かったのか。

 

「ねえ、あれは天照大神だよね?」

 

丹田や背骨やそのバランスがわかって来ると女神が見えたりする。それにしても、太極拳で天照大神とは珍しい。古神道系列ならわからなくもないが。

 

「今度は、ちゃんと会いたいなぁ」

 

僕は、違う意味で嬉しかった。日本で本当に太極拳が根付くのはこうした現象が起きるべきなのだ。旧吉田家のポテンシャルは思った以上に高い。

 

これで、神系現代魔法師育成計画は、また一歩前進した。

 

『天照大神(あまてらすおおみかみ)は、日本神話に登場する神。皇室の祖神で、日本人の総氏神ともされる。『延喜式』では自然神として神社などに祀られた場合の「天照」は「あまてる」と称されている。

 

天岩戸の神隠れで有名であり、記紀によれば太陽を神格化した神であり、皇室の祖神(皇祖神)とされる。神社としては伊勢神宮が特に有名。』(引用ここまで)

 

「あとね。十文字くんは話を聴いてくれたよ。司波くんを中心にテコ入れする作戦を」

 

やはり、会頭は意外にやわらか頭だった。少佐が機嫌が異常に良いのはこれも原因だった。ならば、ついでに訊いておこう。

 

「司波くんの実力を評価しているわりに、少佐達は彼とは親しくしないの?」

 

少佐が急に表情を引き締めた。

 

「司波くんは、正体がわからないの」

 

そう言って黙ってしまった。

 

 少佐達の調査力はかなりのものだ。実際に僕の出自を突き止めている。その調査力をもってしてもわからない+発動時間は遅いが凄腕の魔法師で彼があること≒十師族。その中で特に諜報に長けているのを考慮すると必然的に彼は四葉の魔法師と答えが導き出される。

 

 



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九校戦編13

サブタイトル変更しました。


紅白のクレーが宙を舞う。北山さんの破壊すべきクレーは紅。その紅に塗られた三つのクレーが軌道を曲げ、有効エリアの中央に集まって衝突し、砕け散った。

 

「移動系?収束系?」

少佐が首をひねる。

 

今度は有効エリアの奥を飛び去ろうとしていた紅のクレーがエリア中央に吸い寄せられて砕け散った。

「今のは予選で使った魔法よね?」

 

「そうです。収束系魔法と振動系魔法の連続発動だと思います」

白いクレーは二つずつ、衝突によって破壊されている。対戦相手の二高選手(つまり河村美波さん)が採用している戦法は、移動系魔法により標的のクレー自体を弾丸として、他の標的にぶつけるオーソドックスなものだ。オーソドックスであるが故に、有効性が過去の実績により立証されている戦法。

 

だが先程から、エリア中央付近で白は頻繁に的を外している。外縁部ではほとんど命中させているから、美波ちゃんの技術的な未熟の所為というより中央部における紅色のクレーの密度を高める収束系魔法の影響で、白のクレーが中央部からはじき出されている為だ。

 

より具体的には、得点有効エリアをすっぽり覆ってなお余る二十メートル四方の空間を「中央部に近づくほど紅色のクレーの密度が高い空間 」に改変する魔法を北山さんは発動している。空間の体積は巨大だが、同時に飛んでいるクレーの総数が少ないので彼女の負担はそれ程でもない。

 

改変の対象は空間そのものではなく、その空間内に存在するクレーの分布だからだ。紅のクレーは魔法式による情報改変によってエリアの中央部へ引き寄せられ、白のクレーは中央部を横切る軌道から外される。

 

美波ちゃんが直接干渉しているクレーはこの副次的な干渉の影響を受けないが、彼女がぶつけようとしている「的」の側のクレーは、彼女の魔法によるコントロールを受けているわけではないので、北山さんの魔法の影響により軌道が変わって、その結果、白が的を外すという現象が起こっているのだ。

 

「でも、最後の振動系が発動したり発動しなかったりしているのは凄いわ!」

さすがは少佐、目の付け所が違う。

 

北山さんは複数の標的が集まった場合、そのまま中心部で衝突させて壊している。飛翔中の紅色のクレーが一つだけの場合に限って、振動系の破砕魔法を行使させている。一つの魔法として構成されているなら、振動系魔法で標的を破壊するという最終工程が、発動したり発動しなかったりするのは本来あり得ない。

 

しかし、あれは特化型ではなく、汎用型CADだ。そんなのありえない!と思われるかも知れない。汎用型CADと特化型CADは、ハードもOSもアーキテクチャからして違うものだから。そして照準補助装置は、特化型のアーキテクチャに合わせて作られているサブシステムだ。汎用型CADの本体と照準補助装置をつなぐことなんて技術的に不可能とされている。

 

「ドイツで一年前に発表されたと聞いたけど… 」

少佐は、一体誰からそう聞いたのだろうか?

 

「一年前なんて、ほとんど最新技術ですね」

僕は、無難な返答をしておいた。

 

「この程度のことで驚かないほうが良いみたいよ。もっとすごい最新技術を司波くんは用意してるらしいの」

僕は、司波くんの凄い技術より少佐がどうやってそれを聞いたのかが気になる。今後もバレないようにして欲しい。

 

正直、予選の戦い方を見て美波ちゃんが北山さんに勝つ可能性はゼロだと思った。

 

北山さんは領域内に存在する固形物に振動波を与える魔法で標的を砕いていた。内部に疎密波を発生させることで、固形物は部分的な膨張と収縮を繰り返して風化する。より正確には、得点有効エリア内にいくつか震源を設定して、固形物に振動波を与える仮想的な波動を発生させていた。

 

魔法で直接に標的そのものを振動させるのではなく、標的に振動波を与える事象改変の領域を作り出していた。震源から球形に広がった波動に標的が触れると、仮想的な振動波が標的内部で現実の振動波になって標的を崩壊させるという仕組みだ。その結果、一つも撃ち損じせずにパーフェクトスコアをたたき出した。

 

それだけではない。

 

 北山・司波チームは予選とトーナメントで作戦もCADも変えて来たのだ!しかも、汎用型に照準補助装置がつながっていた。

 

河村さんは、平気なフリをしていたがアシスタントエンジニアの今彼氏の動揺は遠くから見ても明らかだった。

 

 最後の二つは、「能動空中機雷」を使うまでもなく、ループキャストされた収束魔法で砕け散った。「パーフェクト」自分の成績を口に出して確認し、北山さんは勝利の笑みを浮かべた。少しユニークな性格な方だ。

 

その場に崩れ落ちる河村さん。茫然自失している彼氏。これは、あとでフォローしたほうが良いかも知れない。

 

河村さんが、ポケットから携帯端末を取り出した。何するつもり?

 

僕の端末に着信した。

 

「この子に勝つ方法を教えて!」

 

「了解」

 

彼女は僕の返事を聞くか聞かないかのタイミングで回線を切ってしまった。ちなみにこの子とは北山さんを指している。河村さんは、落ち込んではいなかった。

 

少佐が驚いていた。

「あの子、あなたの方を睨んでいたわ。フィールド内から観客スタンドのあなたを見つけられるはずがないのに」

 

言われてみれば、それは凄いことだ。でも、僕が感心したのは別のことだ。

 

河村さんには、落ち込んだりガッカリした時はその場ですぐに立ち上がれ!と教えた。自分を落ち込んだままにしておくのは心を弱くするからだ。彼女は、今そのアドバイスを実践してくれた。教え甲斐がある子なのだ。それだけ上昇志向の傾きが大きい。

 

申し訳ないが、今の彼氏とは長く続かないだろう。彼は、試合終了と同時にその場に崩れた河村さんを助け起こす役割を果たせなかった。というか今尚フリーズしている。彼氏としてもアシスタントエンジニアとしても合格点はもらえてない。

 

今後も、河村さんは己の道を突き進んで行くだろう。その彼女が満足する男性が果たして現れるのか?僕が心配しても仕方ないが。

 

「師匠が、女の子の心配をするなんて珍しいね」

少佐がほんの少し皮肉を込めた。

 

「僕は、女の子にはかなり優しいと思うよ」

 

「ふ〜ん」

 

◇◇◇

 

 新人戦の観客は本戦に比べて少ない。そこで、僕等は会場のレストランで昼食を取ることにした。予想通り、混雑してなかった。

 

それは良かったのだが…

 

「悔しい〜!」

河村美波さんが同席している。その行動の早さに少佐も呆れている。もう来年のリベンジを考えているのだろうか?

 

女子スピードシューティングは、一高の三人が一位から三位までを独占した。確かに北山さんも明智さんも滝川さんも良く頑張った。優勝した北山さんの魔法力は卓越していた。あれなら優勝するのも納得できる。だが他の二人は、それほど飛び抜けて優れているという感じは受けなかった。それと北山さんもパーフェクトをトーナメントで叩き出す魔法力があったとは思えない。と美波ちゃんは、早口にまくし立てた。

 

随分、冷静に状況を分析している。だったら、競技を終えた直後に自分の彼氏を放置してライバル校の学生と話し込むのは少し考えたほうが良いぞ。

 

「そうだよ。エンジニアの差だよ」

僕が種明した。北山さんをアシストした司波達也くんの技術が卓越していたのだ。彼は、北山さん以外の二人のアシスタントエンジニアでもあった。一高が上位独占したのは、彼の功績と言っても過言ではない。

 

「特に北山さんの魔法については 、大学の方から 『インデックス』に正式採用するかもしれないと打診が来ているそうよ」

少佐が情報を追加した。

 

「だったら、仕方ないね。でも!」

河村さんは語気を強めた。

 

「それでも、来年は必ず勝つ!」

彼氏の前では見せられない顔だな。迫力があり過ぎる。

 

「だから、河原くんも協力してね」

さすがの河村さんも、他校の先輩の目の前で「あんた!人生相談よ。協力しなさい‼︎」とは言えなかったようだ。冷静なところもある。

 

「いいよ。いつでも河村さんなら大歓迎さ」

と僕が言うと少佐がわずかに表情を固くした。

 

「じゃあ、私もお願いするわ!」

早速、少佐も参戦してきた。

 

「いいよ。少佐ならいつでも大歓迎さ」

と僕が言うと今度は河村さんがかなり表情を固くした。

 

「お願い!仲良くして」とは全く思わなかった。寝なければ、この人間関係は崩れないからだ。

 

「じゃあ。私、もう戻るから」

河村さんは席を立った。

 

「それと、あんた達、なんで見張られてるの?まあ、いいけど」

と言って去って行った。

 

僕も少佐も呆れてしまった。

 

「師匠。河村さんをスカウトしても良い?」

 

「本人の了解が有れば」



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九校戦編14

サブタイトル変更しました。


「ヤァ、相変わらずのモテっぷりだね」

 

河村さんが、去って行ったのとほぼ同時に吉田くんが声をかけて来た。どうやら、今のやり取りを見ていたらしい。

 

「幹比古。いつもの友達とは別行動なのか?」

 

「僕は、コーヒーを飲みに来ただけですよ。摩耶さんも、相変わらずおしゃれですね。いつの時代の制服ですか?」

 

「平成時代よ。似合う?」

 

「とても似合ってますよ!じゃあ、僕は行きます。それと師匠くん。君の太極拳は、僕も興味があるよ。今度は、ちゃんと教えてもらうよ」

吉田くんは、レストランから出て行った。

 

あんなに明るい性格だったけ?

 

「幹比古は、元は自信家で大胆な性格だったの」

 

むしろ、少し前までの思い詰めた状態が異常だったようだ。まあ、あのまま思い詰め続けばそのうち自殺しかねない。

 

「あいつと私は、身内みたいなものだけど、それを差し引いてもあんなに元気な幹比古は久しぶりよ」

 

新吉田家の次期当主よりも実力があると言われてたくらいだから、あんなものかも知れない。しかし、夏真っ盛りにホットコーヒーを飲みに来たのは感心だ。白湯を飲むのが良いが、目立ってしまう。彼の友達は目ざといからすぐに彼の変化に気付くだろう。

 

たとえば、千葉さんとか千葉さんとか千葉さんとか…

 

◇◇◇

 

新人戦女子バトルボード、予選第六レースのスタートが切られた。その、直後。観客は反射的に、ほぼ揃って、水路から目を背けた。まるでフラッシュでも焚いた様に、水面が眩く発光したのだ。

 

少佐は、瞬き一つせずにその光景を凝視している。網膜は大丈夫なのだろうか?水晶眼は単なる閃光に強いのかも知れない。ちなみに僕も観ていた。光井さんの閃光魔法だ。

 

選手が一人、落水した。他の選手がバランスを崩し加速を中断する中、一人ダッシュを決めた選手が先頭へ躍り出た。この事態を予期していたかの如く──と言うかこの状況を作り出した張本人なのだが ──濃い色のゴーグルを着けた選手、つまり光井ほのかその人だ。

 

照度は、距離の二乗に反比例する。観客スタンド上段でこの眩しさなら閃光を放つ水面に浮かんでいる他の選手はたまったものではないはずだ。かろうじて落水を免れたとしても、目が眩んだ状態では水面走行は不可能だ。

 

「よし 」してやったりの表情をしている司波くんの横顔を、中条さんは呆気に取られて見上げていた。

 

僕と少佐はお互いに顔を見合わせた。この作戦(?)は司波くんが考えたものに違いない。これってルール違反ではないの?

 

イエローフラッグが出ない。という事は、大会役員側は光井さんの光学系魔法をルールに抵触しないと判断したようだ。

 

光井さんはぶっちぎりで1位になった。

 

「優勝は、光井さんになりそうだ」

 

「でも、次は他の選手も対策を講じて来るよ」

 

「おそらく、司波くんはその対策の弱点を突いて来るよ」

 

「対閃光魔法の簡単な防御は、眼を閉じるか眼を保護するゴーグルを着用するしかない。眼を閉じるのはたとえ一瞬でも危険を伴うから採用できない」

 

「どうして?」

 

「光井さんは、今度はスタート地点だけでなくコースの途中で閃光魔法を使うから」

 

「確かにカーブで目を閉じたりしたら危ないわね」

 

「特に、七高の選手と渡辺選手の事故の記憶が生々しい間は必要以上にカーブの前で閃光魔法を警戒するよ」

 

僕は、ここで話を終わらせた。この会話を聞いている他校の学生がいるからだ。これで、光井さんの次の対戦相手の閃光魔法対策は、ゴーグル着用のみとなる。魔法では防げない。閃光を確認後に発動しても間に合わないのは言うまでもない。

 

それにしても光井さんの喜びようは異常だった。まだ予選なのに司波くんに抱き付く勢いで迫って行ったし嬉し涙まで流していた。彼女は、一高の成績で3位4位争いをしているのだから、小中では1番とか1位とか優勝なんて何回も経験しているはずだと思うのだが。

 

もしかして光井さん、運痴だったのか?

 

◇◇◇

 

男子のスピードシューティングは、森崎くんが準優勝だった。観戦はできなかったが競技の様子は動画で確認した。クイックドローの異名を取るだけあって「早撃ち」には相当の自信があるし実際にかなり早い。相手がいない状態なら無双だろう。

 

ただ、魔法力のある対戦相手がいると魔法が干渉した時に彼の狙いが外れてしまう。七草会長の「魔弾の射手」や北山さんの「北山・司波スペシャル(?)」のように対戦相手の魔法とは無関係な射撃の方法を編み出さないと勝つのは運任せ、魔法力任せになってしまう。

 

果たして、森崎くんはその事に気付いているのだろうか?

 

七草会長、司波くんの違いと森崎くんの違いは魔法力の差というより、空間把握能力なのだ。極端な話、前と後ろ、右と左を彼等は同時に見ている。それが、ある程度の大きさを持つ空間全体に擬似的にほぼ同時に魔法を発動させる芸当を可能にしている。実際に、同時に発動しているわけではない。

 

一方、森崎くんをはじめとするかなり優秀な魔法師ではあるがA級魔法師とは言えない魔法師は、把握できるある程度の大きさを持つ空間自体が小さいのだ。彼等は把握している空間内での魔法力ならば、A級魔法師と遜色はない。

 

「で、師匠。これが把握する空間を広げる訓練?」

少佐が首を傾げている。

 

右手で二拍子、左手で三拍子を同時に行う簡単な練習だ。しかし、少佐はさっきから苦戦している。

 

「それができたら、すぐにその逆、つまり左手で二拍子、右手で三拍子をやってみるんだ」

 

少佐は、お手上げになった。

 

「こんなのもあるよ」

 

僕は、ジャイケンをしてみせた。右手でグーチョキパー、グーチョキパー、グーチョキ、グーチョキ、グーチョキパーだ。

 

「左手で、右手でに勝つ手を出すんだ」

 

少佐はギブアップした。

 

「七草や司波は、こんなトレーニングをしているの?」

少佐は、疑惑の眼を僕に向けた。

 

「してないよ。彼女達は物心ついた時には、すでに大きい空間把握能力があったと思うから。少佐の水晶眼と同じで後天的に獲得しようとすると少し苦労するよ」

 

「これも、できるようになる方法があるの?」

少佐が、自分の眼を指差した。

 

「自律訓練法でも少し紹介したけど」

 

少佐は、忘れているようだ。すでに出来てしまうことをくどくど説明されても興味がわかないのは当然だ。

 

話を森崎くんやスピードシューティングに戻そう。

 

「優勝は、ジョージ・マッケンジーじゃなくて、カーディナル・ジョージこと吉祥寺真紅郎くんだったね」

 

「ジョージ・マッケンジーって誰?」

少佐はクスッと笑った。

 

「城島健司を米国人が正しく発音出来なくて、ジョージ・マッケンジーと呼んでいたのと吉祥寺真紅郎を言いにくいからジョージと縮めた話がよく混ざっちゃうんだ」

 

「何、それ?!」

少佐は、今度は口を開けて笑った。

 

「城島健司は、昔のプロ野球だよ。一応、メジャーリーグでも活躍しているし釣り師としても有名だったね」

 

「何、それ?!」

少佐は、今度は腹を抱えて笑った。

 

*城島健司

 

釣り師として

 

幼少の頃から父親とよく釣りにいっており、成人した現在でも海釣り(特に磯釣り)好きであり、現役時代からシーズン中も暇を見つけては釣りに出かけるほどで、釣り関連でのエピソードも数多い。

•地元紙・長崎新聞の釣りコーナーや釣り雑誌に「ホークスの城島選手」ではなく「佐世保市の城島さん」として掲載された。

•九州・中国地方のローカル釣り雑誌『釣ファン』で、過去数回雑誌の表紙を飾っている。

•福岡ローカルのテレビ局で城島(とその他プロ野球選手数人)の釣りがメインテーマの正月特番(テレビ西日本『城島健司のメジャーフィッシング』、福岡放送『城島&馬原の釣り一番!』)が放送されたことがあるほか、他にも『フィッシングライフ』(サンテレビ他)など多くの釣り番組への出演経験がある。

•マリンレジャーに関心が高いことから日本水難救済会による『青い羽根募金』のアドバイザーに2009年度から就任した。

•2011年には福岡市の釣具メーカー「AURA」の商品カタログに登場した。

•長崎県の五島列島などを管轄している丸銀釣りセンターの釣り大会で優勝しているなど、釣り人としての評価も高い。

 

 

 

 



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九校戦編15

サブタイトル変更しました。


少佐が、優勝者インタビューから帰って来た。新人戦スピードシューティングで優勝した吉祥寺くんへのインタビューだ。以前、彼と会話した時に少佐と二人で会いたい話が出たので実現させた。

 

「ジョージ・マッケンジーはどうだった?」

 

少佐は、笑った。どうやら少佐のツボにはまったようだ。非関西圏の笑いの敷居は低い。練りに練ったギャクをぶつけると何を言っているのか理解されない事が多いくらいだ。関西圏で自分のしゃべりに自信のある人は注意すべきだ。『過ぎたるは及ばざるが如し』

 

「ジョージは、自信満々だったわ。準優勝した森崎の事をほとんど覚えてないくらいに」

 

やはり、そうか。吉祥寺くんと森崎くんとでは格が違う。彼はナンバーズではないが、ある事情でA級魔法師並みの魔法力を発揮できる。

 

「それよりも、エンジニアを気にしてたわ。北山さんのエンジニアは、モノリスコードを担当するのかと」

 

「森崎くんは、モノリスコードにも出場するのに全く話題にならなかったの?」

 

「そうね」

 

森崎くん、可哀想。しかし、それほど差があったという事だ。逆に言えば今から司波くんに頼んでCADの調整や作戦を考えて貰えばジョージ・マッケンジーじゃなかったカーディナル・ジョージとクリムゾン・プリンセスじゃなかったクリムゾン・プリンスを一泡吹かせられる。

 

マッケンジーとプリンセスはウケなかった。笑いを舐め過ぎるのも良くない。

 

参考までに、『クリムゾンまたはクリムソン (英語: crimson) は濃く明るい赤色で、若干青みを含んで紫がかる。彩度が高く、色相環上ではマゼンタと赤の中間に位置する。』

 

よって「クリムゾン・プリンス」とは「赤い王子」。しかし、この場合の赤いは共産主義や左翼ではなく血の色だ。

 

ついでに、クリムゾンの文化について

 

『かつてはアメリカやヨーロッパで絶賛された。ミケランジェロの絵画や、軽騎兵、テュルク、英国兵や王立カナダ騎馬警察の衣服に用いられた。イギリスでは伝統的に血の色と関連付けられており、それゆえ暴力、勇気、苦痛を連想させる色でもある。』

 

少佐が一条くんのプロフィールを出して来た。

 

『一条将輝(いちじょう まさき) は、国立魔法大学付属第三高校の男子生徒である。一条家の長男で次期当主である。一条茜と一条瑠璃という妹がいる。

 

身長は180cm弱、広い肩幅と引き締まった腰、長い脚、凛々しい顔立ちで若武者風の美男子という容貌をしている。(プロフィールに美男子は必要ないと思うのだが。少佐の好みに合わせた?)

 

佐渡侵攻事件に際し、当時弱冠13歳で義勇兵として戦列に加わり、父の一条剛毅と共に数多くの敵を屠った経験を持つ。その際に「敵と味方の血に塗れて戦い抜いた」ことへの敬称として「クリムゾン・プリンス」の名で知られているが、当人はその二つ名を仰々しいこともあり嫌っている。(当然だが、本人に訊いたのだろうか?)

 

爆裂を使用する際は、赤みを帯びた拳銃形態の特化型CADを使用する。 (でも、赤色は好きらしい。)

なお、爆裂以外の魔法では魔法師が身体に無意識に展開する情報強化を一瞬で突破するのは難しい。(これは、いづれ説明する。実は違う。)

校内では、入学直後から風紀委員会に籍を置いている。(結局、武闘派のようだ。)

 

一条くんはすでに 実戦を経験しているのだ。

 

第三次世界大戦が始まる前に態勢を整えた我国はすでに勝負が決した状態で大戦に臨んだとする僕の自論だ。その自論を正当化する為の材料の一つに離島を正体不明の部隊に電撃的に襲われた時はどう対応するかが国軍が自衛隊と呼ばれていた時代にすでに法律で整えられていた事実を紹介しておこう。

 

長いので斜め読みで結構だ。自衛隊を出動させるのは少し手間がかかるのがお分かりだろう。これでも当時は画期的に速やかだったらしい。

 

一条くんは、正体不明の部隊(新ソ連とバレているが)討伐に義勇兵として参加している。つまり、以下に紹介する法律の適用外なので更に速やかに外敵排除に行動を起こせたのだ!

 

『離島等に対する武装集団による不法上陸等事案に対する政府の対処について

 

平成27年5月14日(西暦2015年のことだ。)

閣議決定

政府は、離島又はその周辺海域(以下「離島等」という。)において、武装した集団又は武装している蓋然性が極めて高い集団が当該離島に不法に上陸するおそれが高い事案又は上陸する事案(以下「離島等に対する武装集団による不法上陸等事案」という。)が発生した場合、我が国の主権を守り、国民の安全を確保するとの観点から、関係機関がより緊密に協力し、いかなる不法行為に対しても切れ目のない十分な対応を確保するため、下記により対応することとする。

1.事態の的確な把握

離島等に対する武装集団による不法上陸等事案が発生した場合、事態を把握した別紙1に掲げる関係省庁(以下「関係省庁」という。)は、内閣情報調査室を通じて内閣総理大臣、内閣官房長官、内閣官房副長官、内閣危機管理監及び国家安全保障局長(以下「内閣総理大臣等」という。)への報告連絡を迅速に行うとともに、相互に協力して更なる事態の把握に努める。

なお、上記報告ルートに加え、関係省庁による内閣総理大臣等への報告がそれぞれのルートで行われることを妨げるものではない。

2.対策本部の設置等

政府は、離島等に対する武装集団による不法上陸等事案が発生し、政府としての対処を総合的かつ強力に推進する必要がある場合には、内閣総理大臣の判断により、内閣に、内閣総理大臣を本部長とし、内閣官房長官その他必要により本部員のうち国務大臣である者の中から本部長が指定する者を副本部長とする対策本部を速やかに設置する。対策本部の本部員は別紙2のとおりとし、その運用については、「重大テロ等発生時の政府の初動措置について」(平成10年4月10日閣議決定)による対策本部に準ずるものとする。

3.事態緊迫時の対処

事態が緊迫し、海上警備行動(自衛隊法第82条に規定する海上における警備行動をいう。以下同じ。)命令又は治安出動(自衛隊法第78条に規定する命令による治安出動をいう。以下同じ。)命令の発出が予測される場合には、対策本部の下、内閣官房、外務省、海上保安庁、警察庁及び防衛省を中心に、あらかじめ、海上警備行動命令又は治安出動命令の発出に係る、対処方針の検討、自衛隊と海上保安庁、警察等との間の役割分担及び連携の確認、国際法との整合性の確認、必要な情報の共有等について、相互に最大限の協力を行い、海上警備行動命令又は治安出動命令が発出された際には速やかに強力な対処を行うことができる態勢を整える。

4.迅速な閣議手続等

(1)海上警備行動

海上保安庁のみでは対応できないと認められ、海上警備行動命令の発出に係る内閣総理大臣の承認等のために閣議を開催する必要がある場合において、特に緊急な判断を必要とし、かつ、国務大臣全員が参集しての速やかな臨時閣議の開催が困難であるときは、内閣総理大臣の主宰により、電話等により各国務大臣の了解を得て閣議決定を行う。この場合、連絡を取ることができなかった国務大臣に対しては、事後速やかに連絡を行う。

(2)治安出動等

警察機関による迅速な対応が困難である場合であって、かつ、事態が緊迫し、治安出動命令の発出が予測される場合における防衛大臣が発する治安出動待機命令及び武器を携行する自衛隊の部隊が行う情報収集命令に対する内閣総理大臣による承認、一般の警察力をもっては治安を維持することができないと認められる事態が生じた場合における内閣総理大臣による治安出動命令の発出等のために閣議を開催する必要がある場合において、特に緊急な判断を必要とし、かつ、国務大臣全員が参集しての速やかな臨時閣議の開催が困難であるときは、内閣総理大臣の主宰により、電話等により各国務大臣の了解を得て閣議決定を行う。この場合、連絡を取ることができなかった国務大臣に対しては、事後速やかに連絡を行う。

(3)上記(1)又は(2)の命令発出に際して国家安全保障会議における審議等を行う場合には、電話等によりこれを行うことができる。

5.事案発生前からの緊密な連携等

上記のほか、内閣官房及び関係省庁は、事案が発生する前においても連携を密にし、離島等に対する武装集団による不法上陸等事案に発展する可能性がある事案に関する情報を収集、交換し、事案への対応について認識を共有するとともに、訓練等を通じた対処能力の向上等を図り、事案が発生した場合には迅速に対応することができる態勢を整備することとする。』

 



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九校戦編16

サブタイトル変更しました。


作品中に、法律の文言がドバーッと出て来て、見ているあるいは読んでいる人を圧倒して何かわからないが凄い物を見た!と錯覚させる手法は、庵野秀明のシンゴジラ*から一般化したと考えて良い。

 

『庵野 秀明は、日本のアニメーター、映画監督、実業家。カラー代表取締役社長。株式会社プロジェクトスタジオQ創作管理統括。山口県宇部市出身。山口県立宇部高等学校卒業、大阪芸術大学芸術学部映像計画学科退学。血液型はA型。妻は漫画家の安野モヨコ。 』

 

『安野 モヨコは、日本の漫画家。株式会社カラー取締役。東京都杉並区出身、多摩市育ち。血液型O型。関東高校(現・聖徳学園高校)卒業。別名義に安野 百葉子(読み同じ)。夫は映画監督の庵野秀明。同じ漫画家の小島功は伯父にあたる。』

 

安野モヨコは、失礼ながら僕は知らなかった。今夜にでも「働きマン」を読んでみよう。本人の紹介では、アニメーターなのに妻の夫紹介では映画監督となっている。何故だろう?古いデータだから知る由もない。(ただ、こうしてみるとクリエーター一族がこのようにして出来上がって行くのがわかる。血がものを言うのは魔法師だけではなさそうだ。)

 

庵野秀明を知らない人は、エヴァンゲリオンの作者と言えばわかると思う。何回も何とかインパクトを起こして地球を何回も壊している映画だ。1995年にテレビ放映されたのが最初だ。登場人物が年を取らないだけではなく、死んだはずの人物が再び登場したりストーリーは破綻、作者も壊れる事態に追い込まれて行ったが、何とか着地点を見つけて大崩壊を免れている。

 

熱心な支持者がいるので、中途半端に話を終わらせるのが不可能になり作者は変わって今も続いている。

 

というか、今も映画を作れはヒットするから出資者が現れて作品が作られてしまうのが実情だ。

 

初期の作中に何回も登場する『人類補完計画』は、当時施行されていた国民保護法に基づく『国民保護計画』を参考にしているのだろう。

 

そんな庵野秀明が作ったシンゴジラは、当時の自衛隊が大怪獣ゴジラ出現に際して「防衛出動」「治安出動」「災害出動」なのか国家官僚が真剣に議論するシーンなどがあり、それらの法律用語の羅列で鑑賞者を圧倒して大ヒットした。

 

というわけで、この私小説でも法律用語がいきなり登場して、その後文言がドバーッと出て来てところで単なる演出の一つとして捉えてもらって構わない。興味のある方は、真面目に読むのも良いだろう。

 

 

「森崎は、一条達に勝てないの?」

少佐が質問して来た。少佐はシンゴジラに興味はなさそうだ。

 

「勝てない。使えるサイオンの量が違い過ぎる。奇策やデバイスで創意工夫を凝らしたとしても一泡吹かせるのが精一杯だ」

 

「師匠なら勝てる?」

 

「勝てない」

 

少佐が意外な顔になった。

 

「実戦なら話は変わるが、魔法力を競う試合なら森崎くんに勝ち目がないのと同じ理由で僕に勝ち目はないよ」

 

少佐は、腹に落ちない様だ。

 

「命がかかると、火事場の馬鹿力のたとえの様に日頃考えられなかった力を発揮することがある。一条くんのような十師族は火事場の馬鹿力を乱発しても良い身体になっている」

 

「調整体ね」

ちなみに、少佐も僕も調整していない。生身の身体だ。

 

「そう。ただ、調整体は作れるのに今だに魔法遺伝子が発見されてないのに注目して欲しい。脾臓増強でも少し触れたけど魔法力は使えるサイオン量に比例し、結局のところ他人よりも負荷に耐えられる過剰な健康体である、もっと言えば、寿命が長い丈夫な身体を遺伝子操作で産み出しているだけなんだ」

 

「だから、魔法遺伝子は発見されないのね」

 

「文字通り、一条くんと戦うのは命が幾つあっても足りないんだ。でも、全生命を一回の攻撃にかければ格下でも勝つ可能性はある。でも、試合でそれを期待するのは愚かな行為だ。本当に命がかからないと生命をかけた攻撃なんて実現しない」

 

「実戦なら、起きることもあるのね」

少佐はため息を吐く。

 

「でも、それでは納得できないでしょう?」

 

「実戦でなくても、十師族に勝てる方法があるの?」

 

「あるよ」

 

「教えて!」

少佐は、眼を見開いた。どんだけ十師族に勝ちたいだ。

 

「脳を含めた背骨を十師族以上に成長させれば良いのさ」

 

「うん!で、どうやってするの?」

 

続きは次回!

 

*『シン・ゴジラ』は、2016年7月29日公開の日本映画。総監督・脚本は庵野秀明、監督・特技監督は樋口真嗣。東宝製作のゴジラシリーズの第29作であり、『ゴジラ FINAL WARS』以来約12年ぶりの日本製作のゴジラ映画である。キャッチコピーは「現実(ニッポン)対虚構(ゴジラ)」。

 

あらすじ(これを読むと見なくても良いくらいに詳しいあらすじだ。いわゆるネタバレ。)

 

11月3日8時30分ごろ、東京湾羽田沖で大量の水蒸気が噴出、同時に海底を通る東京湾アクアラインでもトンネル崩落事故が発生。政府は原因を海底火山か熱水噴出孔の発生と見て対応を進める。矢口蘭堂(やぐち らんどう)内閣官房副長官は、ネット上の一般人による配信動画や目撃報告から、いち早く巨大生物に起因している可能性を示すが、一笑に付される。しかし、まもなく巨大生物の尻尾部分がテレビ報道されたため、政府は認識を改める。巨大生物は多摩川河口から東京都大田区内の呑川を這いずるように遡上し、蒲田で上陸、北進を始める。

 

対処方針は駆除と決まり、政府は自衛隊に害獣駆除を目的とした出動を要請する。巨大生物は当初、蛇行に似た動作で進行していたが品川区北品川近くで突如停止、その直後、上体を起こし、新たに前肢を形成、倍以上の体格に発達しただけでなく、そのまま直立を果たすと二足歩行を始める。そのあまりにも急速な進化に驚きを隠せない矢口をよそに、自衛隊の攻撃ヘリコプターが攻撃位置に到着するが、同時に巨大生物も進行を停止する。巨大生物の形状が大きく変化している事を報告に上げつつ、攻撃の指示を待機していたが、付近に逃げ遅れた住民が発見され、攻撃は中止される。しかし、ちょうどその時、巨大生物は突如咆哮(ほうこう)を上げると、二足歩行から蛇行に再度切り替え、京浜運河から東京湾へと姿を消す。巨大生物は上陸から2時間強で死者・行方不明者100名以上の被害を出した。

 

巨大生物の再度襲来に備え、矢口を事務局長としさまざまな部署の突出した能力を有するが一癖も二癖もある問題児達を集めた「巨大不明生物特設災害対策本部(巨災対)」が設置される。そして被害地域で微量の放射線量の増加が確認され、付近の原発からの放射能漏れがなく巨大生物の行動経路と一致したことから、巨大生物が放射線源だと判明する。米国より大統領次席補佐官および大統領特使が極秘裏に来日し、巨大不明生物は太古から生き残っていた深海海洋生物が不法に海洋投棄された大量の放射性廃棄物に適応進化した、「ゴジラ(Godzilla)」と名づけられた生物であること、その生物を研究していた牧悟郎という学者が行方不明であること、牧が残した謎の暗号化資料等が日本側に提供される。巨災対はゴジラは体内の原子炉状の器官から活動エネルギーを得ており、そこから生じる熱は血液循環と補助として背部の背鰭からの放熱によって発散している。そのため、突如海に引き返したのは、その放熱システムがまだ、上手く働いていなかったためであると結論づけ、同時に血液循環を阻害すればゴジラは生命維持のため自らスクラム停止・急激な冷却を行い、活動停止するはずであると結論づけ、血液凝固剤の経口投与によってゴジラを凍結させる仮称「矢口プラン」の準備を始める。

 

4日後の11月7日、前回の倍近い大きさとなったゴジラが鎌倉市に再上陸し、横浜市・川崎市を縦断して武蔵小杉に至る。前回とは姿も顔付きも大きく変化したゴジラの姿を見て、一同は驚きを隠せない中、自衛隊は武蔵小杉から多摩川河川敷を防衛線とした、ゴジラの都内進入阻止のための総力作戦「タバ作戦」を実行するが、傷一つ付けることができず、突破されてしまう。ゴジラは大田区・世田谷区・目黒区へと進行する。米国からの大使館防衛を理由に爆撃機をグアムから日本に向かわせたとの通知を受けて、政府は正式に米国に攻撃支援を要請する。港区にまで進行してきたゴジラ。米軍の爆撃機は大型貫通爆弾によってゴジラに初めて傷を負わせることに成功するも、直後にゴジラは、背びれを光らせて黒煙を口から吐き出し始め、それを火炎放射に変化させると東京の街の一部の広範囲を火の海に変えた後、さらに火炎をレーザー光線に変化させ、爆撃機を一機破壊すると、直後に背部からも複数の光線を放射し始め、爆撃機をすべて撃墜し、途中から光線を再び火炎放射に戻しつつ、吐き出し続け、蹂躙(じゅうりん)しながら港・千代田・中央3区の市街地を破壊し、火の海に変える。総理大臣官邸から立川広域防災基地へ避難するところであった総理大臣らが乗ったヘリコプターも光線によって撃墜され、総理を含め閣僚11名が死亡する。一方ゴジラは、東京駅構内で突然活動を停止、凍り付いたように動かなくなる。

 

政府機能は立川に移転、総理大臣臨時代理も立てられ、矢口はゴジラ対策の特命担当大臣に任命される。米軍の爆撃で得られたゴジラの組織片の分析より、今後ゴジラは無性生殖によりネズミ算式に増殖でき群体化のおそれがあることや、個体進化により小型化や有翼化し、大陸間を超えて拡散する可能性が示唆された。また、2週間後には活動再開すると予測された。国連安保理はゴジラへの熱核攻撃を決議し、住民360万人の疎開が行われる。巨災対は核攻撃ではなく矢口プランによるゴジラ停止の完遂を切望するが、ゴジラには元素を変換する能力もあったことが判明し、血液凝固剤が無力化される懸念が生じてしまった。その直後、それまで謎だった牧の暗号化資料の解読の糸口が見つかり、解読・解析結果からゴジラの元素変換機能を阻害する極限環境微生物の分子式が得られる。それを抑制剤として、血液凝固剤と併せて投与することで解決の見通しが立った。

 

国連軍の熱核攻撃開始が迫る中、矢口プランは、「ヤシオリ作戦」という作戦名で、日米共同作戦として開始される。遠隔操作の新幹線N700系2編成に爆薬を搭載しそれをエネルギー回復中のゴジラに直撃させることで強制的に目覚めさせ、次に回復しきっていない残存エネルギーの消耗のみを狙った米軍の無人航空機群による攻撃が、ゴジラが光線を出せなくなるまで続けられる。ゴジラはエネルギー消耗を軽減させるため、背びれからの光線発射から尻尾の先端部からの発射と口腔からの発射に変更しながら、なおも撃墜を続けたが、エネルギー切れでレーザー状熱線が途切れたところで周囲に残っていた高層ビルを連続爆破・倒壊させてゴジラを強制的に転倒させ、建設機械部隊とコンクリートポンプ車隊が近づき、ポンプ車のアームより累計数百キロリットルの血液凝固剤をゴジラの口内に強制的に流し込む。だがその途中でゴジラが光線を吐き出し第一陣は全滅するも、血液凝固剤の効果で次第に動きが鈍くなり、表面には徐々に凍結が見受けられるようになる。再度、爆薬搭載した多数の遠隔操作で動く在来線列車の攻撃を受けて再び転倒、第二陣の血液凝固剤の投与を行う。最後の抵抗とばかりに立ち上がった状態で、ようやくゴジラの完全凍結に成功する。

 

その後、都心を汚染したゴジラの新元素の放射性物質は半減期が20日と非常に短く、おおよそ2 - 3年で人体への影響がなくなると判明したことから復興の希望も見えたが、ゴジラが活動を再開した場合には熱核攻撃のカウントダウンは即座に再開され、3526秒(58分46秒)後に実施、発射されるという。矢口はゴジラとは最早、長く付き合って行くしかないと覚悟を決め、凍結したゴジラを見据えながら、今後の責務や役割を果す決意を固める。

 

そして、東京駅脇に凍りついたまま立ちつくすゴジラの尻尾の先端には、背びれと尻尾を持つ謎の人型が数体、生じかけたまま静止していた。



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九校戦編17

サブタイトル変更しました。


前回からの続きの話(ただし、シンゴジラではない。個人的にはゴジラが出現したら自衛隊は防衛出動ではなくて災害出動になると思うがこの話は次の機会に)

 

一条くんみたいな魔法師になるためには一条くんみたいな100年以上は持ちそうな背骨に自分の背骨を育てて行けばいいのだ。ここで、世間でいわれてそうな背骨の育て方を一つ紹介しよう。予め言っておくが、この方法では全く効果がないか身体か精神を壊す。

 

 クンダリニー半覚醒(小周天)法

 

 1 静坐し、軽く目を閉じて黙想すべし

 2 丹田に意を集め、腹式呼吸にて煮え立つ鍋を観想せよ

 3 下腹部に渦巻く熱と圧力が生じ、煮え立つ湯が湧き出すが如く感じるまで続 くべし

 4 沸き出す湯を会陰、尾閭、背中へ導くべし

 5  背中に昇りくる湯に意を集め、しばし瞑想すべし

 6 さらに上へ導き、泥丸に集めるべし

 7 泥丸にて煮えたつ湯気が渦巻きながら冷え、冷露となるまで瞑想すべし

 8 澄みわたる露を全身に降ろすべし

 9 熱となり、湯となった露が全身に染み入り満たすまましばし瞑想すべし

 10 丹田に意を集め、煮え立つ湯の泉にしばし瞑想すべし

 

 この法を行じる者は、たとえ身を損ない自らの熱に焼かれるも可也の決意を持つて臨むべし

 稀に3にて火龍が目覚め、大周天に至ることこれあり。

 

では、何が足りないのか?↑が可能になる『元気な肉体』にまずしなければならないのだ。太陽光に当たって体温をわずかに上げるのはその第一歩であるし、これをさぼるとエネルギーの循環しない箇所が体に多数残ってしまうので小周天が可能になる『元気な肉体』になれない。

 

ちなみに、簡単に『腹式呼吸』と書かれているが、これも自動運動での呼吸のことであり意図的に『腹式呼吸』をすると逆に緊張して体内に熱が生じなくなる。

 

『丹田に意を集め』の意を意識と解釈するのも危うい。どちらかと言えば心にニュアンスが近い。

 

一応つづきも載せておく。

 

 クンダリニー覚醒(大周天)法

 

 1 静坐し、軽く目を閉じて黙想すべし

 2 丹田に意を集め、腹式呼吸にて燃え上がる炎を観想せよ

 3 腹全体を渦巻く熱と圧力が満たし、燃え盛る火龍となつて動き出すを待つべし

 4 目覚めた火龍を会陰、尾閭へ導くべし

 5 尾閭にて火龍は渦巻く蛇に転じ、命の蛇として目覚めるべし

 6 荒らぶる蛇を御すは不可なり。ただ自ら天に昇るを待つべし。

 

 この法を行じる者は、たとえ身を焦がし死すとも可也の決意をもちて望むべし。

 

もっと言ってしまうと、準備ができたとハッキリとわかる現象がいくつかじつはある。一つは、「三時間程度座禅ができる」だ。部員や少佐とその仲間達に座禅を教えることになったので、おいおいこの私小説の中でもそれらを紹介して行くつもりだ。

 

まずは、自分の背骨を木に見立てて大木を育てるつもりで取り組まなければならない。すぐに功が成ると考えないほうが良い。草花を育てるわけではないのだ。

 

まずは、以下のようなレベルを目指そう!純陽の状態だ。その状態を詳しく書いているのが易経だ。

 

周易上經から

 

 乾下乾上 乾

 

 乾、元亨。利貞。

 【読み】

  乾は、元[おお]いに亨[とお]る。貞[ただ]しきに利[よ]ろし。

 

 初九、潜龍勿用。

 九二、見龍在田。利見大人。

 九三、君子終日乾乾、夕惕若。厲无咎。

 九四、或躍在淵。无咎。

 九五、飛龍在天。利見大人。

 上九、亢龍有悔。

 用九、見羣龍无首。吉。

 【読み】

 初九は、潜龍用うること勿かれ。

 九二は、見龍田に在り。大人を見るに利ろし。

 九三は、君子終日乾乾し、夕べに惕若たり。厲[あや]うけれども咎无[な]し。

 九四は、或は躍りて淵に在り。咎无し。

 九五は、飛龍天に在り。大人を見るに利ろし。

 上九は、亢龍悔有り。

 用九は、羣龍首无きを見る。吉なり。

 

 〔彖傳〕大哉乾元、萬物資始。乃統天。雲行雨施、品物流形。大明終始、六位時成。時乘六龍以御天。乾道變 化、各正性命、保合太和、乃利貞。首出庶物、萬國咸寧。

 【読み】

  〔彖傳〕大いなるかな乾元、萬物資りて始む。乃ち天を統ぶ。雲行き雨施し、品物形を流[し]く。大いに終 始を明らかにし、六位時に成る。時に六龍に乘りて以て天を御す。乾道變化し、各々性命を正しくし、太和を保 合するは、乃ち利貞なり。庶物に首出して、萬國咸[ことごと]く寧し。

 

 〔象傳〕天行健。君子以自彊不息。

 【読み】

 〔象傳〕天行は乾なり。君子以て自ら彊めて息まず。

 

 潛龍勿用、陽在下也。

  見龍在田、德施普也。

  終日乾乾、反復道也。

  或躍在淵、進无咎也。

  飛龍在天、大人造也。

  亢龍有悔、盈不可久也。

  用九、天德不可爲首也。

 【読み】

 潛龍用うること勿かれとは、陽下に在ればなり。

 見龍田に在りとは、德の施し普[あまね]きなり。

 終日乾乾すとは、道を反復するなり。

 或は躍りて淵に在りとは、進むも咎无きなり。

 飛龍天に在りとは、大人の造[しわざ]なるなり。

 亢龍悔有りとは、盈つれば久しかる可からざるなり。

 用九は、天德首爲る可からざるなり。

 

『潜龍用うること勿かれ。』とあるように、みだりに龍を使うのはよした方が良い。ちなみにこの状態は『道を得て』いる。なので、最低でも『道に入って』ないと読んでもさっぱりだろう。易経のこの箇所が上記の周天法の直前であるのがわかるのも準備が整った証の一つだ。

 

少佐が青い顔をしている。

「漢文は苦手…」

 

「大丈夫。基本、座るだけだから。理屈はわからなくても『背骨』を育てられるよ」

 

◇◇◇

 

九校戦五日目 、新人戦二日目。少し困った。大会スケジュールは以下の通り。姑息な手段で勝ち上がったと思われている光井さんがバトルボードに、明智さん北山さん司波さんがアイスピラーズブレイクに出場する。司波くんが担当するのはアイスピラーズブレイクなのだが、僕は光井さんの戦い方が気になった。

 

2095年8月8日(月) - 九校戦 - バトルボード(新人戦)の準決勝~決勝

2095年8月8日(月) - 九校戦 - アイスピラーズブレイク(新人戦)の予選~決勝

 

そこで、僕は主にバトルボードを少佐達は主にアイスピラーズブレイクを観戦して後ですり合わせる手配をした。

 

なぜ、光井さんの試合を見たいのか不思議に思う方がいるだろう。光井さんのプロポーションが露わになるウエットスーツが見たいとかではない。(本当は少しある。ただしエロい理由ではない。)

 

彼女の戦い方に注目している。昨日、わざと閃光魔法をカーブの手前で発動されたら魔法では防げないと僕等は公言した。その効果を知りたかったのが一つ。もう一つは、彼女の適応力の高さだ。彼女が僕の予想している通りならば、準決勝は予選より良いタイムを出すはずだし、決勝ではさらに良くなるはずだ。

 

彼女は、決して運動機能が非常に高いわけではない。しかし、目は良い。光学系魔法が得意なだけあってサイオンの流れを的確に読み取れる。なので、他の魔法師を参考にしてなんとなくその雰囲気に身体のサイオンの流れを合わせるのもおそらく得意だろう。

 

予選で、本番のバトルボードの選手達のサイオンの雰囲気をたくさん見れたから彼女はコツを掴めたはずだ。この推論が正しければ、次の準決勝も勝てる。

 

バトルボードの水路では、女子準決勝の第一レースが始まろうとしていた。三人の選手は、色の濃いゴーグルを着用していた。これで、作戦は成功したも同然となった。

 

光井さんは、スタートで出遅れた。閃光魔法は使われなかった。僕には、彼女は意図的にゆっくりとスタートとしたように感じた。おそらく仕掛けて来る。

 

スタンド前のゆるいカーブを通り過ぎて、最初の鋭角コーナー。一番手の選手が切り込んで…行かずにコースの中央を緩く走行する。一方、二番目に鋭角コーナーに突っ込んで来たのは光井さん。コーナーを攻める。減速も最小限だ。

 

光井さんは、あっさりとコーナーで一番手の選手を内側から抜いてしまった。鋭角コーナー直前で光井さんの閃光魔法を警戒して他の選手が慎重な入り方をするのは予想していたが、予想は外れた。

 

彼女は、光学系魔法でも暗くする方を選択したらしい。コーナー内側の進路が見えにくくなった他の選手は明るい水路を慎重に走行してしまう。しかも、幻惑されていると気がついていないようなのだ。

 

三番目の選手も、二番に落ちた選手も全てのコーナーを慎重に走行し続けている。光井さんとの差は開く一方だった。

 

再びの圧勝だ。しかも、姑息な手段で勝利したとみんな誤解している。しかし、彼女はスタートで出遅れた分を挽回して予選よりも好タイムを出している。

つまり、彼女は実力だけでも良い勝負ができる。そして、その事実を誰もわかっていない。決勝は、普通に走れば優勝できる可能性が出て来た。

 

「コーナーで閃光魔法を使わなかったのは、決勝のために温存したのかな?」

と、僕は他校の情報収集中の学生に聞こえるように呟く。

 

他校の情報を盗むのは、一応禁止されている。とはいえ、情報収集はどの学校も行なっている。いわゆる、公然の秘密と化しているのだ。スタッフの中に技術者以外の者が居たら、彼等は情報収集要員でもある。

 

ちなみに、少佐と僕は情報収集と陽動を担っていた。一高が連覇しているのは、実力者が揃っているのが一番の理由ではあるが少佐達のような情報スタッフの活躍も理由の一つなのだ。

 

読者の皆さま。今迄、黙っていて申し訳ありません。もう少し、お付き合い下さい。

 

少佐が、目立つ格好をして目立つ行動をしていたのはこうした理由があったからです。もちろん、彼女の趣味も兼ねていると思いますが。

 

「次こそ、コーナーでの閃光魔法かなぁ〜?」

 

僕は、目立つように大きく伸びをしてアイスピラーズブレイクの会場に移動した。

 

 



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九校戦編18

サブタイトル変更しました。


ニホニウム元素は、存在するがジャパニウム元素は存在しない。ちなみにジャパニウム元素はマジンガーZに使われている超合金Zの材料だ。何の話か全く理解できない方はこの知識を無視してもらって構わない。なぜなら、本編に何の影響もないからだ。今のところ。

 

『ニホニウム

原子番号113の元素

ニホニウム(英: nihonium)は、原子番号113の元素。元素記号は Nh。2016年(平成28年)11月に正式名称が決定するまでは、暫定的に IUPAC の系統的命名法に則りウンウントリウム(⇦この名前も面白い。)と呼ばれていた。』

 

『マジンガーZの開発者・兜十蔵博士が富士火山帯の地層から発見した新元素ジャパニウム。「ジャパニウム核分裂の過程で抽出される光のエネルギー」が光子力である。作中、富士山麓にある光子力研究所で報道陣に対して超合金Zと光子力のデモンストレーションが行われ、ジャパニウムのブロックにビームを照射する事で膨大な光を発する描写がされている。』(⇦光電効果と原子力をごちゃ混ぜにした永井豪らしいギミックだ。アイシュタインもビックリだろう。)

 

 

さて、光井さんに話を戻そう。彼女をいわゆる受験型優等生と考えてしまうと痛い目をみると言う話だ。魔法実技と入学試験で上位の成績を残すのは、魔法力を試験の課題で発揮できるように開発し入学試験用の勉強をすれば可能だ。しかし、魔法科高校に入ってしまうとそれだけでは通用しなくなる。周りも全員そのハードルを超えているのだから。

 

入学してからも魔法力が伸びて行かないと(魔法理論はしっかり勉強しているのが前提)周りの進歩に付いて行けなくなり、結果的に成績は落ちてくる。ところが、魔法力の強化が今だに指導教官の勘と経験に大きく寄っていたり、個人の努力に委ねられている。何をすれば魔法力を強化できるのか本当は誰もわからないのだ。

 

とはいえ、明らかに自分より魔法力のある人物と長く付き合っていれば何となく自分の魔法力も強化されて来る。良い意味での『朱に交われば赤くなる』だ。

 

それを、実践しているのが光井さんだ。入学当初は森崎くん達とつるんでいたようだが早々に見限り司波兄妹を中心とした実質的A級魔法師グループに滑り込んでいる。見限られた森崎くんは、相変わらず自分より劣っている(魔法力で)者と付き合っている。僕は、光井さんは伸び、森崎くんは停滞すると当初予想していた。表面上では、二人の差はまだ現れてなかったがこの九校戦でその差が現れて来たようなのだ。

 

森崎くんは、勝ち切れない。一方、光井さんは優勝しそうだ。それを確かめたいので僕はアイスピラーズブレイクを見たらすぐにバトルボードを見る為に会場に戻らなければならない。

 

◇◇◇

 

九校戦の新人戦は、オッズが公開されてないそうだ。新人戦は、オッズをつけるデータが揃わないから当然だろう。しかし、よく観察していれば順位予想は可能になる。

 

仮に、新人戦アイスピラーズブレイクの順位予想をすれば、優勝は司波さんだ。魔法力の大きさは、使える先天の気の豊富さでわかる。馬鹿がつくほどの健康体ならば良いわけだ。彼女は、周りがたじろぐ程の美しさをお持ちになられているが自然ではあり得ないほどの超自然健康体だ。(これは、彼女が調整体だと主張しているわけではない。)

 

ということで、アイスピラーズブレイクの予選は観戦しなくても良いと考えたのだ。ただ、司波さんみたいな規格外と付き合っている北山さんと調整はしていないものの交配を工夫した(本当に当人達が熱愛して国際結婚に至ったかも知れないが)明智さんがどれほどやれるのかは興味があった。司波くんが二人の担当エンジニアをしているからだ。

 

三人の出場選手が全員三回戦進出だけで快挙ではあったが、僕は上位独占もありうると僕は考えていた。

 

 会場で少佐に合流した。

 

「司波さん。またパーフェクトだったわ」

少佐は呆れていた。三回戦の相手に対して自陣の氷柱を一本も倒させないのは普通は考えられない。特に、追い込まれた相手は一矢報いんとして終盤に防御を疎かにして攻撃して来る。その全力攻撃を封じるのは至難の技だ。少佐が呆れるのはもっともなのだ。

 

ところが、さらに驚かされる。北山さんと明智さんも絶好調なのだ。二人の魔法力が相手を圧倒しているように観えないにも関わらず。

 

「事象改変されるのが速いのよ」

少佐が教えてくれた。彼女の眼には起動式、魔法式が詠唱されて行く様子と事象の改変が始まるのが良く視えているのだろう。確かに、一旦事象改変が始まってしまうとそれを固定する慣性の法則も働くので、相手はすぐに攻撃も防御も強化しなければならなくなる。この時点で後手を踏むのでその後は攻められっぱなしとなり、結果的に負けてしまう。

 

しかし、広範囲に及ぶ事象改変は時間がかかる。北山さんと明智さんのサイオン量から観るとそれは不可能に思える。ということはデバイスの違いだ。とはいえ、北山さんがスピードシューティングで披露した特化型CAD並みの速さで汎用型並みの自由度で魔法を発動させるような芸当は今回のアイスピラーズブレイクではされていない。

 

兎に角、単純に早いし速いのだ。どうもおかしい。司波くんは、一般に知られていない何かを起動式や魔法式を組み込んでいるのではないのだろうか?

 

一つは、わかった。スピードシューティングで北山さんが付けていた照準器。光井さんが行った体型が変わるほどの筋力トレーニング。彼は、魔法式の一部を電子デバイスや魔法師の本人の肉体改造で補いその分だけ起動式や魔法式を小さく組み直しているのだ。ただ、これだけではない。

 

「少佐。北山さんや明智さんの魔法が発動して、事象改変が始まる時に他の選手とは何か違った現象は視られた?」

 

少佐は、少し考えてから言った。

「彼女達の発動している魔法の規模に比べて視えるサイオンの量が少ないくらいかな?」

 

「他の選手は、もっと多いのかい?」

 

「彼女達が効率良く発動させているだけかも知れないけど。それにしても少ないのよ」

 

これでわかった。司波くんは、最初からこちらの魔法が速く事象改変するのを前提に起動式と魔法式のコードを減らしているに違いない。

 

対戦形式で魔法を打ち合うには、事象改変を確実に行わせる為に魔法式が大きくなりがちだ。

 

 それは、通常は外乱を前提とした閉ループ伝達関数となるからだ。つまり、外乱ありのフィードバック制御になってしまうからだ。

 

これを外乱なしのフィードバック制御にすれば、それだけ処理は早くなる。

 

 これをさらに早くするにはフィードフォワード制御にすれば良い。

 

「司波くんがどちらを採用しているかまではわからないけどね」

と、言い終えた僕の顔を少佐が訝しげに見ている。

 

「どうしたの?」

 

「そこまでわかっているのに師匠は魔法理論で20位に入ってないの?」

 

「いや~、どうしてかな~?」

僕に答案に難癖をつけて懲罰的な採点をした教官のことは黙っておいた。少佐に言ったら私刑しかねない。それにしても、僕の魔法理論の成績までチェックしていたとは驚きだ。

 

              ◇◇◇

 

 前回紹介した について。これは、『無為』で行うのが前提です。「無意識」ではありません。もっと正確に表現すれば『無為』によって『神意』を察知できるようになった後に、『神意』によって を実践するのが正解です。

 つまり、意識的に実践するのは現象が起こらないか、起こったとしても健康を損なったり気が狂ったりするのでお勧めしません。

 

クンダリニー半覚醒(小周天)法

 

 1 静坐し、軽く目を閉じて黙想すべし

 2 丹田に意を集め、腹式呼吸にて煮え立つ鍋を観想せよ

 3 下腹部に渦巻く熱と圧力が生じ、煮え立つ湯が湧き出すが如く感じるまで続 くべし

 4 沸き出す湯を会陰、尾閭、背中へ導くべし

 5 背中に昇りくる湯に意を集め、しばし瞑想すべし

 6 さらに上へ導き、泥丸に集めるべし

 7 泥丸にて煮えたつ湯気が渦巻きながら冷え、冷露となるまで瞑想すべし

 8 澄みわたる露を全身に降ろすべし

 9 熱となり、湯となった露が全身に染み入り満たすまましばし瞑想すべし

 10 丹田に意を集め、煮え立つ湯の泉にしばし瞑想すべし

 

 この法を行じる者は、たとえ身を損ない自らの熱に焼かれるも可也の決意を持つて臨むべし

 稀に3にて火龍が目覚め、大周天に至ることこれあり。

 

 

 



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九校戦編19

サブタイトル変更しました。


『フィードバック(feedback)とは、もともと「帰還」と訳され、ある系の出力(結果)を入力(原因)側に戻す操作のこと。古くは調速機(ガバナ)の仕組みが、意識的な利用は1927年のw:Harold Stephen Blackによる負帰還増幅回路の発明に始まり、サイバネティックスによって広められた。システムの振る舞いを説明する為の基本原理として、エレクトロニクスの分野で増幅器の特性の改善、発振・演算回路及び自動制御回路などに広く利用されているのみならず、制御システムのような機械分野や生物分野、経済分野などにも広く適用例がある。自己相似を作り出す過程であり、それゆえに予測不可能な結果をもたらす場合もある。』

 

 前回書いたフィードバックについての説明だが、これでは余計にわからない。『フィードフォワード』についてはさらによくわからない説明が多かったので割愛させて頂きます。

 

「光井さんは、エレメンツの末裔だよ」

少佐が、光井さんの事を教えてくれた。僕の光井ほのか評が高いので調べてくれていたようだ。とはいえ、どこで少佐はそれを調べて来たのだろうか。

 

『エレメンツは、日本で最初に作られようとした魔法師である 。

 

2010年代から2020年代にかけては4系統8種の分類・体系化が確立しておらず、伝統的な属性、「地」「水」「火」「風」「光」「雷」といった分類に基づくアプローチが有効だと考えられていた時期で、エレメンツの開発も、このコンセプトに従って進められた。

しかし、4系統8種の体系が確立したことにより、伝統的な属性に基づく魔法師の開発は非効率と見做されるようになり、エレメンツの開発は中止され、開発を行っていた研究所のほとんども閉鎖された。

 

魔法に対する権力者の怖れが迷信的に強かった時代に開発されたため、決して反逆を起こさないようエレメンツの遺伝子には主に対する絶対服従の因子を組み込むことが科学者に命じられていた。

その課題に沿って科学者はできる限りの措置を施した。その影響のためか「エレメンツの末裔」には高い確率で強い依存癖(あるいは忠誠心)が見られる。

 

エレメンツの血筋は高い権力を有する者にとって大きな利用価値を持つ。』

 

うーん。予算欲しさとはいえ、研究者達は絶対服従遺伝子なんて存在しそうにないものをどうやって組み込んだというのだろう?依存性の強い魔法師の遺伝子を研究するのが精一杯のはずなのに。当時の魔法研究がいかにいい加減だったか良くわかるエピソードだ。ただ、依存性は体質と関連もある。心理学的な発想だが。

 

あまりややこしい事を考えなくても、親の依存性が高ければ子供もそうなる確率は高い。これで、魔法師に依存性が高い人物が多い理由もわかったと思う。元々、依存性の高い魔法力を持った人物が用いられたし、そのような性格や体質を持つ魔法師を交配させて魔法師を創り出してきた。

 

依存性は、仕える主人に対しては忠誠心となって、仕えられる主人には都合が良い。しかし、依存する対象は立派な主人だけとは限らない。つまらないプライドだったり自己憐憫だったりもする。

 

魔法科高校が一科生と二科生に分けているのは、一科生のつまらないプライドを満たし二科生の自己憐憫を正当化する働きをさせているとも考えられる。

 

なので、簡単にはなくならない。七草会長が尽力した程度では。

 

卒業後に、何らかの組織に忠実な番犬になってもらう為の準備でもある。学生の内に独立心を養ってしまうと多くの魔法師が国家や企業の為に働いてくれなくなるかもしれないと魔法師集団を仕切っている頭の悪い連中は考えているのだろう。九島烈とかだ。

 

ハッキリ言って老害である。目の曇った老人はサッサと引退するべきなのだ。100年先が見通せないただの人に魔法師の未来を委ねてはならない。

 

まぁ、あと◯年であの世行きだから放っておけばいい。

 

「師匠!人の寿命がわかるの?」

少佐が、意外なところに食い付いた。

 

「明日死ぬとわかったら、今日は何もする気がしないね」

 

「ええっ?!そ、そうかなぁ」

少し、少佐は納得出来ないようだ。

 

「仮に一年後死ぬとわかったら、やはり今日のやる気は失われる」

 

「そうね」

 

「それは、三年後でも五年後でも同じなんだ」

 

少佐は、何とか理解してくれたようだ。

 

「だから、人の寿命はわかっていても言わないのが神の世界のルール」

 

彼女は、自分の寿命が気になったのだろう。彼女には自分の寿命に対する漠然とした不安がつきまとう。しかも、それが全くの杞憂であると否定できないのだ。

 

「いつ、死ぬのかなぁ」

 

「これで、60は大丈夫」

 

僕は、手と腕を太陽に向けて座り直した。

 

「ホント〜?」

 

「本当。本当」

 

「もぉ〜、なんか嘘っぽい⤴︎」

少佐がふくれっ面になった。

 

他人の寿命がわかるのなら、自分自身の寿命もわかるようになる。先程の理屈から言えば、あと◯年で自分は死んでしまうとわかればその瞬間から全くヤル気が出なくなる、はずだ。

 

実際に、第六段階(六位階あるいは六位と表現した方が一般的らしいので、以後六位と書く。)に至ったら、普通の人のヤル気はなくなる。普通の人のヤル気は焦りや不安から出ている事がほとんどだ。そういう意味でのヤル気がなくなるのだ。

 

『心の欲する所に従えども矩を踰えず』

 

焦りや不安から出た行動の結果は、大概良くない。しかし、今の自分の行動が焦りや不安から出たものかどうかは本人にもわからない。

 

これは、そうでないものから出た行動は良い結果を出しやすいとも言える。

 

『君子危きに近寄らず』

 

『「君子」とは、学識・人格ともに優れ、徳のある人のこと。(☜六位であるのが前提だ。ただ五位でも危険を察知して逃げれば大丈夫。)

「君子危うきに近寄らず」は孔子の言葉と思う人も多いが、これに酷似した言葉は『論語』にはない。

正確な出典は不明であるが、『春秋公羊伝』には「君子不近刑人」とあり、これが元になっているという説がある。

「君子危うきにのぞまず」ともいう。』

 

世間の解釈とは違うが、孔子が道を得ている前後の話が収められているから論語は貴重であり、同じ理由で福音書も貴重なのだ。

 

スッカリ話が逸れてしまった。

 

「私もニブルヘイム出来るようになるかなぁ?」

 

少佐も、六位の話よりA級魔法師の使う大規模魔法を出来るかどうかのほうが気になるようだ。

 

「大規模魔法を発動させるのに必要なのは莫大なサイオンだけではないよ。規模が大きければ大きいほど量子力学的な理解が必要なんだ」

 

少佐は、意味がわからないようだ。

 

「我々が持っている科学的な知識はニュートン力学に基づいている。だから、無意識のうちにエネルギー保存則に縛られてしまうんだ。『規模が大きいから大変だろうなぁ』とか」

 

「でも、それって当たり前じゃないの?」

 

「でも、宇宙の果てとか観測できない程度の微小の世界ではエネルギー保存則は崩れている」

 

「一応、そう習ったわ」

少佐は、思い出したようだ。

 

「変な話だと感じるかも知れないけど、『エネルギー保存則』自体が普通の人間の普通の心理状態から出た束縛、つまり不安や恐れなんだ」

 

少佐は、黙ってしまった。

 

「だから、エネルギー保存則を気にしないで大規模魔法を発動させる為に不安や恐れをなくしていこうと決心するべきなんだ」

 

「決心するだけで、不安ってなくなるの?」

 

「不安や恐れの正体を探るより、よほど効果的だよ。ただ、何に対する不安から無くしていこうとするのかは、座禅の先生の助言をもらったほうが良い」

 

「え〜ッ」

少佐は、ご不満のようだ。

 

「例えば、自分の身体に関するコンプレックスは彼氏ができたらすぐに克服出来るよ!」

 

少佐がギョッとした。

 

「光をたくさん取り入れられるようになれば、組織の長として立って行くのに不安や恐れはなくなるよ!」

 

さらに少佐は、動揺した。

 

「心を読まれるのは、きついわ」

 

「これが、本当の禅問答」

 

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦編20

サブタイトル変更しました。


「あっ!もしかして、優越感や自己憐憫とか、何かに依存するのは不安や恐れを少し抑えられるんじゃない?!」

 

「それは、ある。問題を表面化させない効果は特にあると思うよ」

 

 司波くんが実績を一年生女子のエンジニアで出した途端に、一年女子の人気を集めてしまった。

 

中には自分もCADを司波くんに調整してもらったらもっと良い成績を残せたかもしれないと言い出す学生までいたそうだ。(その学生は注意されたそうだが、実際に司波くんにアシストしてもらえれば彼女はもっと良い成績を残せただろう。)

 

彼女達は、頼り甲斐のある司波くんに急に頼り始めたらしい。精神的にそれは楽だ。九校戦での戦いを自分で反省して問題点を探し問題点を無くす為に自分でトレーニングを工夫し等とアレコレ考えるよりも、

 

「司波くんに、面倒を見てもらおう!」と結論付けた方が早い。

 

根拠のないプライドにすがるよりはナンボかマシかも知れないが、依存する対象がなくなってしまった時、彼女達はどうするつもりなのだろう?

 

彼女達には、A級魔法師や戦略級魔法師になる等の大いなる野望はないだろうから依存する対象は何でも良いのかも知れない。ましてや、本質的に自分を変えて行こうと考えてもないのだから彼女達には『司波達也教祖様』で十分なのだろう。

 

◇◇◇

 

自分の依存性を最大限に利用して、A級魔法師への道を突き進んでいる光井さんの出場するバトルボードの会場に戻って来た。

 

すぐに彼女の勝利を確信した。他の選手がゴーグルを着用していたからだ。決勝のライバル達は光井さんの光学系魔法への有効な対策を思い付かなかったのだろう。

 

答えから言ってしまうと…やっぱりこの試合が終わってからにしよう。他校の情報収集員がいるようだから。

 

「On your mark!」

 

光井さんが、構える。他の選手は身構える。

 

「bang!」

 

光井さんが、良いスタートダッシュをみせた。

 

 彼女は、スターターの指を見て引き金を引く瞬間にサイオンを起動式に流している。他の選手は破裂音に神経を集中して音を認識したあとで起動式にサイオンを流している。光速と音速は、断然光速の方が速い。光学系の魔法が得意な彼女の裏技だ。濃いゴーグルは、自分の目線を隠すためのカモフラージュでもあったのだ。

 

光井さんは、スタートは誰よりも早く反応出来るのだ。他校の情報収集要員は、彼女の閃光魔法と遮光魔法に目を奪われて彼女の競技力そのものを侮っている。準決勝でスタートで出遅れたのは、彼女本来の実力を隠すためでもあった。彼女の出した記録を調べれば実力はかなりあると警戒すべきだったのだ。他校は、ものの見事に司波・光井ペアに騙された。

 

 バトルボードの競技コースは、曲がりくねった全長三キロメートルの人工水路サーキット。

 

とは言え、実力が伯仲してくれば三キロあっても追い抜くのは難しい。

 

 最初のカーブだ。

 

光井さんは、ほとんど減速無しに突っ込んで行く。彼女の身体からサイオンの流れが感じられる。

 

 閃光魔法?遮光魔法?

 

後ろから追い上げて来た選手が光井さんの光学系魔法を警戒し減速する。

 

カーブを抜けると、光井さんと二番手の距離が開いた。

 

 光井さんは、典型的な受験型秀才タイプでもある。要は「試験にでる○×」とか「◇△一問一答式」を暗記するのに何の苦労もない。しかも、光学系魔法が得意とあってテキストデータだけでなく画像や立体も暗記できてしまう。

 

既に二回走行したバトルボードのコースを彼女は既に暗記しているのだろう。とにかく、直線だろうがカーブだろうが迷いなしにコース取りをしてぶっとばして行く。

 

 そのまま、一着でゴール。あっけなかった。結局、閃光魔法も遮光魔法も使われなかった。

 

二着の選手が、ゴールした途端に泣き崩れた。自分達が騙されていたのに気付いてしまったのだろう。

 

光井さんは、確かに速かった。しかし、それは競い合う選手がいなかったからだ。例え、スタートで先行したとしても、コースの細部を全て暗記していたとしても、後ろからプレッシャーを掛け続ければ光井さんの経験の浅さが必ず露呈し、追い抜く機会はあったはずなのだ。

 

他校の選手は、光井さんの閃光・遮光魔法と渡辺風紀委員長の事故のこともあってカーブを攻められなかった。自分の実力を出せないまま、勝負をしないまま二位以下に甘んじてしまった。

 

 他校の情報収集要員が、僕に怒りを向けている。視線を会場に向けたまま。

 

 僕は、その場を静かに去った。

 

              ◇◇◇

 

 一高は、バトルボードで優勝しただけではなく、アイスピラーズブレイクでも優勝していた。特にアイスピラーズブレイクは1・2・3位を独占してしまった。

 

 それだけでも凄いことだが、司波・北山ペアは『改良型共振破壊』まで使っていた。

 

本来の『共振破壊』は、対象物に無段階で振動数を上げていく魔法を直接掛けて、固有振動数に一致した時点、「振動させる」という事象改変に対する抵抗が最も小さくなった時点で振動数を固定し、対象物を振動破壊するという二段階の魔法だ。

 

対象物に直接振動魔法を掛ける場合は、魔法式の干渉に対するエイドスの抵抗で感覚的に共鳴点を探ることができるが、間接的に仕掛ける場合は対象物の共振状態を別に観測しなければならない。それを観測機械に頼るのではなく、魔法の工程として起動式に組み込んだらしい。(と少佐が言ってたが、この分析は少佐の部下がしたのでは?)

 

 さらに、北山さんは試合中に二つ目のCADを起動させて振動系魔法『フォノンメーザー』(超音波の振動数を上げ、量子化して熱線とする高等魔法)を発動させたそうだ。(音波の振動数を上げて量子化するとはどういう意味なのだろう?少佐の部下は何か誤解しているのかも知れない。)

 

 そんな高度な魔法を北山さんに繰り出されても司波さんは冷静に広域冷却魔法『ニブルヘイム』で対抗した。この術式は本来、領域内の物質を比熱、相に関わらず均質に冷却する魔法。だが、応用的な使い方として、ダイヤモンドダスト(細氷)、ドライアイス粒子、そして時に液体窒素の霧すらも含む大規模冷気塊を作り出し攻撃対象にぶつけるという使用法もあるそうだ。(今回司波さんは、液体窒素の霧を攻撃に使った。)

 

 ところが、その『ニブルヘイム』を司波さんは解除して再び『インフェルノ』を発動させる。

 

中規模エリア用振動系魔法『インフェルノ(氷炎地獄)』。対象とするエリアを二分し、一方の空間内にある全ての物質の振動エネルギー、運動エネルギーを減速、その余剰エネルギーをもう一方のエリアへ逃がし加熱することでエネルギー収支の辻褄を合わせる、熱エントロピーの逆転魔法。時折、魔法師ライセンス試験でA級受験者用の課題として出題され、多くの受験者に涙を吞ませている高難度魔法。(だから、少佐はニブルヘイムやインフェルノができるようになるかを僕に尋ねたんだ!なんだ、資格試験対策だったのか。)

 

北山さんの『情報強化』は、元々そこにあった氷柱に作用しており、新たな付着物には作用していない。

(『ニブルヘイム』の)気化熱による冷却効果を上回る(『インフェルノ』の)急激な加熱によって、液体窒素は一気に気化した。

 

その膨張率は、七百倍。  

 

轟音を立てて、北山さんの氷柱が一斉に倒れた。その轟音は凄まじく、氷柱が倒れた音だったのか、根元を掘り崩された音だったのか、はたまた蒸気爆発そのものの音だったのかわからなかったらしい。とにかく、氷柱はその表面が粉々に弾けて、激しく爆発したのだ。

 

 さらっと北山さんの『情報強化』を紹介した。対象物の現在の状態を記録する情報体であるエイドスの一部又は全部を、魔法式としてコピーし投射することにより、対象物の持つエイドスの可変性を抑制する対抗魔法。属性の一部をコピーした情報強化は、その属性に対する魔法による改変を阻止する機能を持つ。

 

つまり!『情報強化』だけでもかなり難易度の高いとされる魔法なのだ。

 

というか、A級ライセンス持ちの魔法師の試合ならいざ知らず、魔法科高校の学生(しかも一年生!)同士の試合とは思えないレベルの魔法が使用されていた。

 

 しかも、双方の選手をサポートしているのは司波くんなのだ。

 

 僕が大金持ちなら、司波くんをお抱えの魔法工学技士として雇うね。



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九校戦編21

サブタイトル変更しました。


10/26 誤字修正


 困ったことになった。一高に向かって出ている薄い殺気を再び感じるようになったからだ。おそらく、一高の新人戦の得点が予想以上に伸びてしまい、ノミ屋(ノーヘッドドラゴン)が得点調整をしようとしているのだろう。

 

皮肉なことに予想以上に一高の得点が伸びたのは司波くんとその選手達の頑張りによるものなのだ。

 

 こうなると、新人戦の目玉でなる最も得点の高いモノリスコードが狙われやすくなる。しかも、一高出場選手にナンバーズはいない。復讐が怖いノミ屋も安心して狙って来るだろう。

 

さて、どうしよう。未来予知はあの世の自分次第なので自分の都合では出来ない。無理すればできないことはないのだけれど、自分の生命が危うくなる。

 

一番困った事は、僕が森崎くん達にあまり関心がない事だ。彼等に死が迫っていたらもう少しアレコレと考えたり行動したりするのだが…

 

まあ、しょうがないか。ただ、モヤモヤした何かが残る。

 

あ〜、そうか。どうしてノミ屋が九校戦で上手に事故を起こせるのか気になって、それが引っかかっていたんだ!

 

競技中の事故に見せかけた事にしても、一高選手団を乗せたバスのルートを綿密に調べ上げて事故を装った事にしても、警備の薄くなる九校戦前日にテロを仕掛け事にしても、内部に密通者がいるから実行できた。大会関係者だけでなく一高関係者にも内通した者が要るのだ。

 

『刑事訴訟法第239条

条文

(告発)

第239条

何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。

官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。』

 

刑事訴訟法によると「犯罪があると思料するときは、告発できる」そうだ。つまり、犯人が誰か等を調べあげなくても「犯罪がある!」と思っただけで告発できるのだ。誰でも。この場合、ノミ屋だけでなく大会関係者の誰か一高関係者の誰かなどは特定する必要がない。

 

次に何の罪で刑事告発するかだ。

 

『組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(そしきてきなはんざいのしょばつおよびはんざいしゅうえきのきせいとうにかんするほうりつ、平成11年法律第136号)は、日本の法律である。』

 

☝︎何の法律かわからないと思う。所謂、『共謀罪』だ。

 

しかし、裏切った大会関係者や一高関係者は情報を提供した等、犯罪と言えなくもない行為をしているかも知れない。その場合、果たして罪を問えるのか?

 

『組織的犯罪の加重処罰(3条以下)等

団体の活動として、下記の罪に当たる行為を実行するための組織により行われたときは、その罪を犯した者は、通常の刑罰よりも重い刑罰が科される。また、団体に不正権益を得させ、又は団体の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で、下記の罪を犯した者も、同様に加重処罰される。

 

「団体の活動」とは、団体の意思決定に基づく行為であって、その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属するものをいう。また、「不正権益」とは、団体の威力に基づく一定の地域又は分野における支配力であって、当該団体の構成員による犯罪その他の不正な行為により当該団体又はその構成員が継続的に利益を得ることを容易にすべきものをいう。』

 

行為そのものが軽微でも、『加重処罰』されるのだ!

 

例えば、以下の様に3年以下の懲役が共謀罪では6年以下の懲役に加重されている。ん?信用毀損や業務妨害は別の案件で使えるな。

 

『刑法233条(信用毀損及び業務妨害)の罪 6年以下の懲役又は50万円以下の罰金(同、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金。)

刑法234条(威力業務妨害)の罪 5年以下の懲役又は50万円以下の罰金(同、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金。)

刑法246条(詐欺)の罪 1年以上の有期懲役(同、10年以下の懲役。)

刑法249条(恐喝)の罪 1年以上の有期懲役(同、10年以下の懲役。)』

 

刑事告発状を作成して、東京地検と神奈川地検に送りつけてやった。

 

携帯端末が着信した。もしかして、もう反応があった?

 

『あたし。今いい?』

 

河村美波ちゃんだった。

 

『優勝したあの子についてだけど』

 

優勝したあの子は複数いるのだが。誰だろう?

 

『氷倒し、早撃ちじゃなくて、波乗りの子』

 

「一番胸の大きい子だね!」

 

『……』

 

ウケなかったようだ。関東にいるから腕が落ちたのかなぁ。

 

『あの子、玉取りにも出るよね?』

 

「ミラージバット?うん、出るよ」

 

『あの子に勝てるかな?』

 

「100パーセント無理」

 

『……』

 

彼女は僕にうそでも勝てるよと言って欲しかったのかも知れない。

 

ここから、延々と優勝した司波さん北山さん光井さんだけでなく準優勝した子や三位になった子のエンジニアである司波達也くんの凄さを滔々と話した。

 

『わかった。その司波くんは結局どれ位凄いの?』

 

「カーディナルジョージとかトーラスシルバーくらいだね」

 

『……』

 

これで、明日から他校は一高選手ではなく司波達也エンジニアを警戒するようになるだろう。彼の技術だけでなく策略に対しても。新人戦モノリスコードはおそらく棄権に追い込まれるだろうが、新人戦でもギリギリ優勝できると思う。森崎くん達には、申し訳ないが、種を蒔いておいたから死にはしないだろう。

 

それと、美波ちゃんが選手だけでなく情報収集員を兼務しているのは意外だった。でも、それとすぐにバレてしまうから彼女にはあまり向いてないと思う。大会が済んだら伝えてあげよう。

 

いつもと同じように「何でやねん!」「んな、アホな!」と受け答えしないと何か表沙汰にできない動機で喋っているとすぐにバレてしまうと。

 

◇◇◇

 

「師匠!何かしたの?」

 

少佐は僕の顔を見るなり開口一番にこう言った。大会七日目、新人戦四日目の朝だ。

 

 今日は、九校戦のメイン競技とも言えるモノリスコードの新人戦予選リーグが行われる日だが、観客の関心は花形競技ミラージバットに集まっていた。女子のみを対象とするミラージバットのコスチュームは、カラフルなユニタードにひらひらのミニスカート、袖なしジャケット又はベスト。ファッションショー(コスプレ大会?)と化している女子ピラーズブレイクとはまた、一味違った華やかさがある。

 

「そんなことよりも!何をしたのか教えて‼︎」

 

昨日、共謀罪で九校戦大会役員と一高関係者を刑事告発しました。

 

「え━━━━━━っ!」

 

少佐は、何を驚いているのだろう?今大会における一高に対する綿密なテロはどう考えても大会関係者と一高関係者がテロ組織と共謀している。しかも大会や一高の責任者達はその怪しい人物を知っていて放置している可能性が極めて高い。

 

「ついでに、九島烈も記入しておいた」

 

少佐が真っ青になっている。

 

「大丈夫なの?」

 

「これで、今大会のセキュリティレベルが上がるから森崎くん達は大丈夫だと思うよ」

 

「そうじゃなくて、あなたの」

 

僕は、携帯端末を見せた。

 

「送信エラー?」

 

しかも、送信エラーの通知が届いたのが何故か、今朝。要は何者が告発状が送信される前後でハッキングして地検に届かないように仕組んだのだ。あるいは、東京地検と横浜地検をハッキングしたのだろうか?

 

「そんなこと可能なの?」

 

エレクトなんとかさんとか、なんとかファットとか?

 

「『エレクトロン・ソーサリス』と『ミズ・ファントム』!(^_^メ)」

 

少し少佐の機嫌を損ねた。下品なお笑いはお気に召さないようだ。さすがは、旧吉田家のお嬢様。

 

「師匠は、『電子の魔女』と知り合いなの?」

 

「全然知らないよ。でも今わかった。あの人?」

 

 

 

 

 



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九校戦編22

サブタイトル変更しました。


少佐の心に映った女性がいた方向を僕は指さした。あれっ?いない。さっきまで向こうに座っていたのに。まあ、いいか。

 

昨夜、告発状を作っている最中から誰かに覗かれている感じがしていた。(もっと正確に書けば刑事告発状に「九島烈」の名前を記入してしばらくしてからだ。)その姿を何となく認識出来ていたのだが、少佐が『電子の魔女』を思い浮かべてくれたので確定出来た。

 

「久しぶりね。摩耶さん」

『電子の魔女』が、僕等の後ろに立っていた。少佐はその声にギョッとした。『電子の魔女』の気配を感じられなかったらしい。少し、少佐は緊張して彼女に挨拶を返した。

 

「摩耶さん。そちらの男性は初めてお目にかかる方だと思うけど、紹介して下さらないの」

少佐が、気圧されている。

 

「『河原真知』さん。はじめまして、『藤林響子』です。二高のOGです」

 

僕は、席を立って彼女に隣の席を勧めた。失礼のないように右手で彼女の右腕をそっと握り、左手で後ろから彼女のウエストに軽く触れて席に誘導した。彼女は驚愕の表情を浮かべたが、無視して隣の席に座って頂いた。僕は、左手を彼女の右膝の上に軽く添えて丁寧に自己紹介を始めた。「河原真知です。一高の一年生です」と。

 

彼女は、恐怖に引き攣ったまま僕の自己紹介を聞いていた。僕が、左手を彼女の膝から離すと彼女はすぐに立ち上がり「失礼します」と言うが早いか立ち去った。やれやれ、気の早いご婦人だ。幸せもつかみ損なうよ。

 

「師匠!今の何?」

 

「今のは太極拳だよ」

 

「どうしたら、できるようになるの?」

 

「今、自動運動の練習をしてるでしょう?あの延長上だよ」

 

「本当に?」

 

「うん。ただ、腰椎5番目を相手の方に向けたまま4番目を動かせるようになるのが当面の目標」

 

 少佐は「うんしょうんしょ」とウエストだけを動かそうとしている。微笑ましい。

 

 先程の藤林響子と名乗られたご婦人は、職業は軍人で現代魔法の使い手なのだろう。おそらく、現代魔法以外の方法で身体の自由を奪われる経験は初めてだったようだ。随分と驚かれていた様子からすると。

 

 軍隊では、習得に時間がかかる技術は取り入れられない。そんなことを練習している間に兵役や戦争が終わってしまう。なので、名人達も軍人に武術を教えない。(ただし、教官や教官の先生には教える。)さっきのは軍ではお目にかかれない技術だ。

 

「少佐は、『電子の魔女』と知り合いだったの?」

 

少佐によると吉田家と藤林家は古式魔法の世界ではかなり有名らしく、それなりの交流があるそうだ。ただ、藤林家は『伝統派』に属するので、古式魔法の普通の名家とは一線を画しているそうだ。

 

「というか、京都なんだから師匠の方が藤林家や伝統派に詳しいと思うけど」

 

「僕は、伝統派や古式魔法よりも古い門派だから、新しい門派のことを知らないんだ」

 

今は古式魔法と言われるが1900年頃から世界的に有名になった魔法理論、いわゆる〈神智学〉に影響されて発達してたかなり新しい門派群だ。なので現代魔法に対して古式であるだけだ。「伝統派」でさえ江戸時代に成立したとされる。どちらも比較的新しいと言える。(ちなみに、僕は紀元前から続いている門派に属している。)

 

『〈神智学〉は、ロシア出身のヘレナ・P・ブラヴァツキー(通称ブラヴァツキー夫人、1831年 – 1891年)に始まる思想・実践で、現代で神智学と言えば、こちらを指すことが多い。アメリカ人のヘンリー・スティール・オルコット(通称オルコット大佐、1832年 - 1907年)とブラヴァツキーらが1875年に組織した神智学協会(神智協会)によって広められた。神智学協会は「真理以上に高尚な宗教はない」をモットーに掲げ、歴史上存在したすべての宗教を超えて、すべての宗教的、哲学的体の源となった人類の「本源的な宗教」を明らかにすることを望んでいた。その〈神智学〉は、西洋伝統思想が基礎にあり、西洋と東洋の智の融合・統一を目指すものであるとされる。』

 

〈神智学〉たくさん書いてあるので全部は紹介できない。ただ、言えることは現代魔法も古式魔法もその魔法理論の元ネタは〈神智学〉なのだ。興味のある方は『神智学大要』を読めば納得されると思う。

 

古式魔法の元ネタに関する話はこれくらいにして、『電子の魔女』の『藤林響子』がどの様なレベルか掴めたのは大きかった。試してはないが、あれなら司波くんの方が余裕で強いと感じた。

 

「真理を明らかにする」心構えでは行きたい場所さえもわからない。当然ながら、目的地に着くはずもない。西洋の科学教を信奉すれば必ずそうなる。「客観的な真理」なるものは存在しないからだ。このことが、質的な人間の向上を妨げる。よって、生まれ持った才能で勝負がほぼ決まってしまう。なので、優秀な魔法師を文字通り産み出そうと試みる。〈神智学〉の弱点をそのまま継承している現代魔法がそうなるのは仕方のないことなのだ。

 

さて、一高期待の森崎チームは順調に勝っている。無事で良かった。ミラージバットの光井さんと里見さんも勝ち上がった。こちらは、司波くんが担当しているから当然だと言える。司波チームにアシストは必要ないかも知れないが、一応、光学系魔法で偽ボールを空中に投影できるらしいと喋っておいた。実際に、光井さんがそれらしい練習を密かにしているそうだ。これで、ミラージバットも他の選手に迷いが生じるだろう。

 

 

ミラージバットは、九校戦で試合数が最も少ない競技だが、それは、選手にとって負担が小さいということを意味しない。まず十五分一ピリオドの三ピリオドという試合時間が、九校戦中で最長だ。ピリオド間の休憩時間五分を加えた総試合時間は約一時間にも達し、時間制限の無いピラーズブレイクやモノリスコードに比べても格段に長い。

 

しかも、その試合時間中、選手は絶え間なく空中に飛び上がり空中を移動する魔法を発動し続けなければならず、選手に掛かる負担はフルマラソンに匹敵するとも言われている。(☜これは、盛り過ぎ)それが一日に二試合。スタミナ面では、クラウドボールやモノリスコード以上に苛酷な競技と言われているらしい。

 

 結局、体力勝負的な側面の強い競技であると言うことだ。だから、余計なことをしたり考えたりしていれば途中でスタミナ切れを起こしてしまう。その点、司波くんの仕上げた術式なら工程数が他の選手のものより少ないはずなので光井さんも里美さんもスタミナ切れを起こす心配はまずない。

 

            ◇◇◇

 

 森崎くん達の次の対戦相手は最下位の四校だった。しかし、嫌な予感は当たってしまった。刑事告発まで作って間接的に警備を強化するように大会関係者を脅したにもかかわらず、事故(?)が起きてしまった。

 

だいたいどうして市街地フィールドで廃ビルの中をスタート地点にして試合を組んだのか?危ないに決まってるだろう。さらに、その廃ビルの中で『破城槌』を受けて森崎くん達は瓦礫の下敷きになったそうだ。屋内に人がいる状況で使用した場合、『破城槌』は殺傷性ランクAに格上げされるのに事前のCADのチェックは何をしていたのだろう?

 

「四高は、『破城槌』を用意してなかったそうよ」

少佐が教えてくれた。ここまで来たら隠していても意味がないと彼女も思ったらしく、最新の情報、しかも普通は知り得ない情報を教えてくれる。少佐達は大会関係者からも情報を得ているらしい。ただ、この調子ならテロリストノミ屋達も大会関係者から情報を得ていると察しがつく。頭の痛い状況だ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦編23

サブタイトル変更しました。


とはいえ、大会役員達の選手を守る為の努力はそこそこ機能した。『破城槌』の攻撃を受け瓦礫の下敷きになった森崎くん達は重症ではあったが命に別状はなかったし障害が残る事もなさそうだ。おそらく精神的な後遺症もほとんどないだろう。

 

こんな事を言ってる僕だが、森崎くん達を心配して大会関係者に怒りをぶつけているわけではない。むしろ、この状況をうまく利用できそうな予感でワクワクしている。不謹慎と言われればその通りかも知れない。

 

大会役員達が、かなり動揺しているのを感じる。この様な状況なら一高から何らかの提案をすれば、全て丸呑みしそうだ。普通ならモノリスコードの中止を提案するのが当たり前だし、もしその提案を一高から大会役員に出せば大会役員達は拒否出来ない筈だ。

 

ここで久島烈が思い浮かぶ。どうやら同じ事を考えたようだ。少し癪だが。

 

「少佐。七草会長と十文字会頭に伝えて欲しい」

 

◇◇◇

 

「摩耶さん、何の用事ですか?」

 

「悪いな、幹比古。協力して欲しいことがある」

 

吉田くんは、僕に軽く挨拶してやれやれという顔をした。

 

「師匠。幹比古に技をかけて。私は、視るから」

 

『電子の魔女』に使った技を少佐はどうしても習得したいそうだ。あれから何回も試みたそうだが、しっくりと来なかったらしい。そこで、もう一度僕が誰かに技をかけるのを視たいのだ。もちろん『水晶眼』を使ってだ。

 

「吉田くん、握って押してみて」

僕は太極拳の立禅の姿勢をして、僕の前腕を吉田くんに握ってもらった。

 

彼が、少し僕の方に圧力を加える。彼自身の体重を後ろに残して出来るだけ安定した姿勢を保ったままで。彼は、合気道系の武術を嗜んでいるようだ。しかも、かなりやり込んでいる。

 

僕が、両腕や胴体を左に回転させる。

 

「!」

 

吉田くんが驚いた。

 

「今の何?もう一回!」

 

僕は、再び彼の踵を浮かせた。

 

「ごめん、もう一回」

 

合気道系で相手の踵を浮かせるレベルの人物は、ほとんどいない。腰や膝を抜くだけで相手を充分に制することが出来ると考えているからだ。それは、潔い日本人に通用する理屈である。潔くない連中には、身体ごと浮かさなければ功夫の違いを実感させられない。

 

「防御に魔法を使って実験しても良いかい?」

吉田くんは研究する気満々になっている。

 

吉田くんは自分の両足に硬化魔法を発動した。足と地面を一体化した。

 

それを確認して、僕はもう一度同じ技術を披露した。

 

「⁉︎」

 

両足が地面から離れ再びバランスを崩した吉田くんは、非常に驚いた。

 

「魔法が効かない?」

吉田くんがため息をついた。

 

CADは、術者からのサイオンで魔法式を組み上げて再び術者に送り返す。術者の身体の状態が極端に変化するとサイオンが身体を流れにくくなって魔法の事象改変力が極端に落ちる。

 

「確かにそうだけど、身体の状態が極端に変化したとは思えなかったよ?」

吉田くんは僕の説明に納得が行かなかったらしい。

 

そもそも、現代魔法は自然現象の全てを改変していない。サイオンやエイドスに代表されるように現象の情報だけを魔法師が書き換えて、その新たな情報に従って自然現象が状態を変えてしまう。自然は寛容だから、だいたい情報が変わっていればそれに合わしてくれる。

 

なので!自然の根源を前面に出した技術には現代魔法は事象改変力を発揮しづらくなる。現代魔法では、自然の根源の情報を書き換える技術が発見されてないからだ。

 

「理屈は、何となくわかった。ただ、君や君の門派が凄いのははっきりと理解できたよ。もしかして、秘密結社?」

 

僕は、携帯端末にとある座禅のHPを表示した。

 

「これが、君のやっている座禅かい?秘密でも何でもないんだ」

 

高野山だって、真言密教だと名乗っているし代表者の座主を普通に公表しているけどね。

 

「そう言われれば、そうだけど」

 

「幹比古!両腕を掴んで」

少佐が突然叫んだ。

 

吉田くんが、あまり気乗りしない表情を浮かべて彼女の両腕を掴んだ。少佐が、太極拳の立禅の姿勢のまま身体を回転させた。

 

「ええっ⁇」

吉田くんの踵が浮いた。

 

「摩耶さん!いつの間に?どうして」

 

吉田くんは、少佐を襲わんばかりの勢いで彼女に迫る。

 

合意の上で、やんごとなきこといたすのなら僕は席を外すけど?

 

「ごめん!」

吉田くんは、自分の行動が誤解を招くものだと気づいた。

 

「もう、幹比古くんって強引なんだから」

 

「からかわないで下さい!摩耶さん‼︎」

 

「エ━━━━ッ?冗談だったのか!」

 

「師匠!君もいい加減にしてくれ」

 

              ◇◇◇

 

 少佐と吉田くんの夫婦漫才は終わりそうになかったので、途中でぶった切って会場に戻ってきた。去り際に「早く強くなりたいからって太陽光に当たり過ぎるのは良くない。特に午後はお勧めしない」と吉田くんにアドバイスしたら、驚いていた。図星だったのだろう。

 

ただ、吉田くんはこれで是が非でも『水晶眼』を手に入れんとするようになる。少佐もまんざらでもなさそうなので構わないだろう。そう言えば、柴田さんも水晶眼だった。まぁ、いいか。恋愛に理由は重要ではないし、当人達も満更でもなさそうだし。

 

 さて、ミラージバットだ。それにしても、森崎くん達の事故があったあととは思えないほど光井さんと里美さんは冷静だ。司波くんがいつもと同じように冷静なのは、予想通りだったが。

 

一高選手の冷静さ、もっと言ってしまえば女子一高選手の冷静さは、司波くんへの彼女達の依存の賜物だ。しかし、司波くんが冷静さを失った時に彼女達はどうするつもりなのだろう?僕が心配しても仕方ないことではあるが。

 

一方、他校の選手やチームスタッフは明らかに冷静さを失っている。司波くんや光井さんをあからさまに警戒し過ぎているのだ。意外なのは、司波くんはその敵意を感じていながら無視しているが、光井さんは全然感じてない様子だ。彼女は、自分の興味のあるものしか見てないタイプらしい。(彼女の血筋なのか?それとも光学系魔法師の宿命か?)どんなに鈍いやつでも、彼女が司波くんに惚れているのをすぐにわかるだろう。それくらい光井さんは、司波くんへ好き好きオーラを出しまくっている。

 

くどいと思われるが、ミラージバットは全力でダッシュを繰り返す様なスタミナ勝負の側面が強い競技だ。無理は禁物だし、無駄な事をしている余裕はない。相手選手やエンジニアを警戒するのは無駄で、そんな事よりも自分の精神的肉体的な体力温存に努めるべきだ。

 

まあ、他校の選手やスタッフが司波くんと光井さんを警戒するように仕向けたのは僕自身でもあるが。

 

ミラージバットの第1ピリオドが始まった。

 

何も映し出されてない空に向かって光井さんが飛び上がる。遅れて他校の選手。予選で、光井さんのロケットスタートは披露されている。他校の選手も、魔法による事象改変の前兆を見逃さんとして空を凝視しているが、今回も光井さんに遅れを取ってしまう。

 

まだ、他校の選手もスタッフも光井さんのロケットスタートの秘密に気付いてない。彼女は、10メートルの上空にホログラム球体を映し出す投光器も視ているのだ。投光器の通電状態の変化を確認して球体が映し出されるタイミングを他校の選手に先んじて察知しその上で、上空に現れる魔法による事象改変の予兆を視て飛び上がっている。

 

 彼女は、バトルボードでスターターの引き金を引く指を視てロケットスタートを決めていた。今回もそれと似た方法だ。

 

そんなことが可能なのか?可能だ。

 

 実際に行っていた人物がいたのだ。

 

『清水:はい。会場でそういった間合いや空気感をつくろうとしていましたね。そして感覚を最大限に研ぎ澄ませる。ピストルの音を聞いて反応するのではなく、その前のピストルの引き金を引く音を聞きとってスタートするんだという意識でいました。このレベルまでいくと、聞くというよりは感じるといったほうがいいかもしれませんが。』

 

清水宏保は、日本のスピードスケート選手で、長野オリンピックで金メダル1個、銅メダル1個、ソルトレイクシティオリンピックで銀メダルを獲得している伝説的な存在だ。(その後の転落人生まで含めて。)

 伝説なのは、彼の行っていたロケットスタートをそれ以後誰も出来なかったからだ。

 



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九校戦編24

サブタイトル変更しました。


 しかし、光井さんは清水選手のように聞くのではなく視ているのだからミラージバットでは左右の目で別々の景色を視ていることになってしまう。やはり、不可能なのでは?と考えると人もおられるだろう。

 

日本のスポーツノンフィクションの先駆けとなった『江夏の21球』でさらに有名になった江夏豊投手の話だ。(元々有名な野球選手だった。)

 

『右目でバッターを見て

左目でキャッチャーを見て

ボールの芯を指先で投げる』

 

参考までに、

 

「江夏の21球」(えなつのにじゅういっきゅう)は、山際淳司によるノンフィクションだ。1979年のプロ野球日本シリーズ第7戦において、広島東洋カープの江夏豊投手が9回裏に投じた21球に焦点を当てている。Sports Graphic Numberに掲載された後、山際のエッセー集『スローカーブを、もう一球』(1981年、角川書店)に収録されたものだ。

 

表面的な解釈では、「江夏の21球」に描かれたのは以下のようなものだ。

 

『この時江夏はカーブの握りをしたままボールをウエストし、スクイズを外している。江夏はこれを意図的に外したものと主張している。江夏の投球フォームには、一旦一塁側を見てから、投げる直前にバッターを見るという癖があった。これは阪神時代に金田正一から教わったものであり、こうすることでバッターの呼吸を読み、その瞬間にボールを外すことができるという技術である。この球がまさにその真骨頂であり、ボールが手を離れる直前に石渡がバントの構えをするのが見えたため、握りを変える間もない咄嗟の判断でカーブの握りのまま外した。これは石渡がいつか必ずスクイズをしてくるという確信があったからわかったのかもしれないとしている。そして、捕手の水沼が三塁走者の動きを見て立ったのが見えたという(江夏は左投手であるため、投球時に三塁走者は死角となっている)。江夏は2種類のカーブを持っていたが、この時に投げようとしたカーブは真上から投げおろすカーブであったため、直球に変えることのできない握りであった。』

 

随分複雑で忙しい。これでは一瞬でやり切るのは不可能に思える。しかし、江夏本人はとTV番組『球辞苑』球持ちの中で語っている。

 

『右目でバッターを見て

左目でキャッチャーを見て

ボールの芯を指先で投げる』

 

これなら、複雑で忙しはない。ただ、こんな事が可能なのか?可能である。

 

今、光井ほのか選手がしているではないか!Gone in 50msec.

 

魔法師の総合力は、魔法力だけにあらず。その他の能力も達人レベルにすべし。

 

「光井さんって、そんなに凄かったんだ」

少佐が感心している。

 

そうなんですよ。でもね、七草会長は全方位で同じことをしているみたいですよ。

 

「私にも出来るかしら?」

 

僕は、一人ジャンケンをして見せた。グーチョキパーグーチョキパーグーチョキグーチョキグーチョキパー。先ずは、こんな練習で充分。

 

「それは、本当だったの?」

 

今まで、冗談だと思われていたのか!

 

では、追加で真剣な話を追加しましょう。マジで飛び立つ0.05秒前!

 

江夏投手が、ボールの芯を指先で投げると語っていた。これは、太極拳の発勁の練習に使われる技術と同じだ。太極拳で球を転がすようにしながら型を練習する方法があるのはすでに知られている。(知られているが出来ている人がほとんどいないのは何故?)

 

しかし、それでは流れる様に動けるようになるかも知れないが太極拳で相手を吹っ飛ばせはしない。

転がす球の芯を感じられれば、すぐに発せられる。是非、試してもらいたい。

 

◇◇◇

 

〈真夏と言っても、一年で最も日が長い時期は過ぎている。夜七時となれば、日はすっかり落ちきり、青空は星空に変わっていた。湖面が、照明の光を反射してキラキラと煌めいている。その中に点在する、足場となる円柱に立つ六人の少女。身体の線を際立たせる薄手のコスチュームは不思議と生々しさが無く、水面に揺らめく光の中で妖精郷の趣を醸し出していた。──男性ファンが多いのも宜なるかな。〉

 

なかなか良い感じだ。これで九校戦を題材にした初の魔法スポーツノンフィクション企画に相応しくなった。

 

〈ミラージバットは、地上十メートルに投影される立体映像の球体を専用のスティックで叩いて消し、その数を競う競技だ。ただし叩くといっても手応えは無いし、球体が割れたり散ったりするわけでもない。選手の持つスティックが出す信号と球体の投影位置を演算機で分析し、両者が重なった時点でその球体の投影が終了しスティックの信号から選手が判別されてポイントが加算される、という仕組みだ。

 

この競技に勝利する為のスキルは二つ。如何に速く球体の投影位置まで跳び上がるか。如何に早く球体の投影位置を把握するか。この二つのファクターのうち、二番目のファクターは意外に見落とされがちだ。光より速いものは無いのだから、立体映像の光を確認してから動くのが結局は一番早い、と考えられているから、だが──ここにも例外がある。

 

空中立体映像は、結像するまでにコンマ数秒のタイムラグがある。この結像中の光波の揺らぎを知覚できれば、実際の光を確認するより早く光球の位置を把握することができる。光波に──正確には、光波の発生を意味するエイドスの変化に鋭敏なほのかの感覚は、予選に続いてこの決勝でも、彼女に大きなアドバンテージを与えていた。

 

しかし、他校も指をくわえて見ていたわけではない。決勝には、それなりの『光井ほのか対策』を講じて来た。空中のエイドス変化を見易くするためのゴーグル、CADへの光学系術式の追加等だ。にもかかわらず、

 

 頭上に赤い球体が結像する一瞬前に、ほのかの術式が発動した。

またもや、他の選手は諦めを以てそれを見送っている。彼女達は見破れなかった。ほのかは空中のエイドスの変化だけでなく空中立体映像の投影機も同時に視ている事に。投影機のわずかな変化を察知した後に空中のエイドスの変化に焦点を絞っている事に。

 

次の光球が結像した。色は青。光っている時間が最も長く、その分、最もポイントをゲットしやすい球体だ。五人の選手が一斉に起動式の展開を始める。最初に跳び上がったのは、スバル。同時に起動処理を始めて、その処理が最初に完了するのは常に第一高校の二人だった 。〉

 

 この調子なら原稿もすぐに仕上がりそうだ。元々、魔法科高校をもっと世間に知らしめたい意志があって、僕は「九校戦の観戦記をスポーツノンフィクション風にして発表しては?」と提案していた。何故かその企画が採用され出張費まで出て、おまけに一高のサブスタッフ(?)に選出されて九校戦に参加することになったのだ。

 

お国の為に、仕事頑張るぞー!

 

しかし、ノンフィクションの最大の難関は本人の承諾を得られるかどうかだ。それでも、光井さんの承諾は得られる自信がある。問題は、こちら。

 

 

〈同じフィールドで競い合っている選手よりも、フィールドの外でそれを見ていた技術スタッフが歯を食いしばり、あるいは唇を嚙み締めている。ここまで安定的に差が生じている以上、CADの性能差を認めぬわけにはいかないからだ。とはいっても、各校ともレギュレーションの上限ギリギリの機種を選んでいるはずだから、ハード面の性能は同じ。残るは、ソフト面の性能差。エンジニアの腕の違い、ということになる 。 〉

 

こちらは、光井ほのかではなく司波達也を取り上げた作品。『スーパーエンジニア、現る』だ。(仮とはいえ残念なタイトルだ。ただ、タイトルを良くしたとしても、本人の承諾を得るのは極め難しいと思う。)

 

どちらかと言えばこちらを発表したい。

 

〈「クソッ 、何であんなに小さな起動式で、あんなに複雑な運動ができるんだ!」

 

どこかで、そんな声が上がった。キルリアン・フィルター(想子の濃度と活性度を可視化する為のフィルター)付きのカメラで、ほのかやスバルの起動処理( 起動式の展開から読み込みまでの処理)を撮影していたのだろう。一直線に──重力加速度の影響を無視して──立体映像へ向かって飛び、光球の前で静止、得点後に放物線を描いて足場へ戻り、慣性をキャンセルして着地。

 

この一連の運動中、ほのかもスバルも一度もCADを操作していない。それはつまり、跳び上がる時点で使用した起動式に、着地までの工程が全て記述されているということだ。起動式が小さいほど、起動処理は早く終わる。

 

起動処理の回数が少なければそれだけ、魔法師の負担は軽くなる。最小の魔法力で、最速の事象改変。

 

「まるで、トーラス・シルバーじゃないか!」  

 

誰かが、舌打ち混じりにぼやいた。

 

 二人の飛翔する軌道を見れば、それは明らかだ。ようは、大砲の弾を遠くの目標に正確に当てるのと同じなのだ。正確な軌道の計算が行われているが、そんなものは瞬時に完了しタイムロスにならない。ライバルより先に飛び上がれるのを前提にして、外乱を前提としたフィードバック系の制御ではなく、フィードフォワード制御にしているのだ。

 

そして、この手法こそがトーラス・シルバーの秘密の一端でもある。〉

 

大いに目立っている司波くんだが、彼は目立つのを嫌っているフシがある。なんとか説得する方法を考えよう。やはり、誰かが書く前に僕が書いて世に出したい。などと考えていた。

 

(……まるで、「トーラス・シルバー」みたい?)

いきなり、心に誰かの声が響いた。

 

まだ、発表してないのに。

 

 



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九校戦編25

サブタイトル変更しました。


(……まるで、「トーラス・シルバー」みたい?)

 

誰かが心の中で叫んでいる。

 

(あの起動式の完全マニュアルアレンジ……汎用型のメインシステムと特化型のサブシステムをつなぐ最新研究成果の利用……汎用型CADにループ・キャストを組み込んだ技術力……『インフェルノ』……『フォノンメーザー』……『ニブルヘイム』……どれも起動式が公開されていない高等魔法のプログラム……)

 

精神干渉系魔法か?このレベルなら『サトラレ』*と言っていい。

 

*『サトラレ』は、佐藤マコトによる漫画作品。「サトラレ」とは、あらゆる思考が思念波となって周囲に伝播してしまう症状を示す架空の病名またはその患者をさす。正式名称は「先天性R型脳梁変成症」。サトラレは、例外なく国益に関わるほどの天才であるが、本人に告知すれば全ての思考を周囲に知られる苦痛から精神崩壊を招いてしまうため、日本ではサトラレ対策委員会なる組織が保護している、というのが物語の基本構造となっている。

 

(まるで?トーラス・シルバーみたい?ううん、これって……トーラス・シルバー本人じゃなきゃ不可能なんじゃ……)

 

見つけた!あの前方のちびっ子だ。

 

(まさか?まさかまさか?まさかまさかまさか?)

 

「どうしたの?」

空中を躍動する選手ではなく、前方で突然立ち上がったちびっ子を見ている僕を少佐は不思議に思った。

 

(-俺たちと同じ日本の青少年かも知れませんね。-)

 

あちゃー、言っちまった。ちびっ子が。

 

「中条副会長がどうかしたの?」

 

「少佐は、聞こえなかった?」

 

「何が?」

 

少佐には、聞こえなかった。

 

「でも、司波くんって本当に凄いよね」

 

少佐は、聞こえてはいないが、精神を思い切り干渉されていた。中条あずさおそるべし。

 

副会長は自覚していないだろうが、この力はある意味戦略核よりも破壊力を持つと言って良い。彼女が心から尊敬する人物を魔法師の大半に尊敬させるのもその逆も可能なのだ。

 

これはひょっとすると…等と考えながらミラージバットを観戦していたら、

 

競技が終了してしまった。優勝は光井さん準優勝は里美さんだ。二人が他を圧倒して完勝した。

 

◇◇◇

 

「光井さん、北山さん、少し時間いいかな?」

僕は、一年女子達に囲まれて身動きが取れなくてなっている二人に声を掛けた。僕が、二人に声を掛けて時に一年女子達の雰囲気が急に変わったのが多少気になったが、それはこの際無視しておく。後からその理由を調べよう。

 

僕は、今書いている魔法スポーツノンフィクションについて手短かに説明した。北山さんは、ノーリアクションで話を聞いていたが光井さんは姿勢を正して緊張して聞いている。取材と僕が言った影響か?いよいよ、本題に入る。

 

「スターターの指の動きや、投光器の変化を視るのは、司波くんのアイデア?それとも光井さんのアイデア?」

 

「え━━━━っ?!どうしてわかってしまったのですか?」

同学年なのになぜ敬語?光井さん。北山さんは光井さんを驚愕の表情で見ている。(彼女は表情の変化が乏しいので僕の読みが間違っていたらごめんなさい。)

 

「スタートで勝てない理由がやっとわかった」

独り言のように呟く北山さん。確か二人は同じ部活だった。きっと部活の事だ。

 

「あれは、光井さんのオリジナルだったんだ」

僕も感心した。

 

「違います!達也さんと一緒に練習して完成させたんです!」

 

いやいや、光井さんが考えて司波くんが磨きをかけて完成させた技術であれば光井さんのオリジナルだ。しかし、それは口にしない。

 

僕は、司波くんを大いに褒め上げて光井さんのご機嫌を良くした。そして、質問した。

 

「ところで、後夜祭合同パーティのダンスに司波くんを誘わないのですか?」

 

「$!%#!>;|」@&¥+[\」

光井さんが、意味不明な返答をした。こんなに動揺するとは予想外だ。

 

「是非お誘い下さい。光井・司波ペア奮闘記のラストを二人のダンスで締めくくれば最高の作品になると思います!」

 

北山さんが、僕の方にサムズアップしている。

 

こうして、無事に光井さんの承諾を得られた。途中から光井さんは僕の話を聞かないで「ダンス、ダンス」とうわ言のように呟いていたのだが。

 

二人の取材を終えた後、里美さんに取材をした。

 

「なるほど!それで彼女にスタートでは、全く勝てなかったわけだ。教えてくれてありがとう」

里美さんの実名を出す事にも快く承諾してくれた。切符の良い性格だ。

 

「それにしても、司波くんは本当に凄いんだね」

 

いやいや、光学ロケットスタートは光井さんのオリジナルだよ?里美さんも中条副会長に精神干渉されているのだろうか?司波くんが凄いのは事実だけど優勝したのも準優勝したのも選手なんだ。

 

司波くんに対する学生の依存は、副会長の無自覚の精神干渉魔法で更に強まったようだ。これはひょっとするとひょっとするぞ。

 

◇◇◇

 

「師匠、幹比古が相談したい事があるそうなの。話を聞いてあげてくれる?」

 

真夜中近くになって少佐から連絡があった。僕が快諾するとすぐに部屋の扉がノックされた。

 

「どうぞ」

 

見るからに動揺し切った吉田くんが部屋に入って来た。彼は、立ったままで自分の置かれている状況を話し始めた。

 

「とりあえず、座ったら」

 

「ああ、ごめん」

 

「災難だったね。いや、大チャンスと言った方が良いのかな?」

 

吉田くんは、一通り話を終えて落ち着きを取り戻した。

 

「一回、召喚魔法に成功したらその影響は特に召喚魔法をしなくても続くよ。自分自身が不調になった感じるのは降りた霊と自分の差があっただけだ。でも、最近慣れて来たはずだからもう大丈夫だと思う」

 

「師匠は、不調に悩まされたりしないのかい?」

 

「質的な進歩や改善の前には好転反応と言われる不調がくるよ」

 

吉田くんと話していてわかったのは、彼は司波くんに完全に依存できてないことだ。吉田くんは古式魔法出なので現代魔法にどっぷり浸かってない為だろう。それが、今悪い方に働いている。

 

「吉田くん、困った時は神頼みなんだ。特に召喚魔法で一回でも現れてくれた神は自分自身が頼りにならない時にこそ頼りになるよ」

 

「そんなものなのかな?」

 

「僕は、これでも伝人なんでウソは言わない。ただ、神頼みにもコツはあるよ。『ピンチから目を逸らさない』と『毎日神に心向けよ』だ」

 

吉田くんが、静かに頷く。

 

「それと、神に頼る前に人に頼るべきだ」

 

僕は、彼の心に映っている女性の名を告げた。

 

◇◇◇

 

新人戦五日目は、困惑の空気と共に幕を開けた。前日のモノリスコードで、前例の無い悪質なルール違反を四校がおかしてしまい四校の失格と一高の棄権となってしまいそうだった。しかし、もしそのような前例を作ってしまえば激しい得点争いを繰り広げる学校が得点を期待できない選手を使ってライバル校の有力選手を反則で棄権に追い込む戦法を大会役員が容認したと捉えられかねない。

 

 と、主張して一高の意見を丸呑みさせて悪しき前例を作らせないあるいは、大会はそのような反則攻撃を決して容認しない姿勢を示すべきなのだ!(等と押せば一高の要求が通るはずだと事故後に僕から少佐に伝えておいた。)

 

 と、十文字会頭や七草会長が大会役員と交渉したかは知る由もないが棄権した森崎くん達の代わりに完全無欠(情動以外)の最強お兄様、司波達也と蘇る神童、古式魔法の貴公子、吉田幹比古とフィジカルモンスター、キャプテン、西城レオンハルトが新人戦モノリスコードに出場する大変ドラマチックな展開になった。

 

僕のテンションも上がりっぱなしだ。これで、魔法スポーツノンフィクションで三つの原稿を作れる。

 

 基本コードの知識がなければ吉田くんの非公開古式魔法を現代魔法に書き換えるのは不可能だ。無系統魔法が無系統なのは、事象改変後のエイドスの情報まで記述しないケースが多々あり系統にうまくあてはまらないからだ。吉田くんの感覚同調もそれにあたる。

 

吉田くんによると司波くんはその非公開古式魔法の術式を一時間で現代魔法の術式に変換し、その上、発動速度を上げる為に偽装など不要な要素を取り除いたそうだ。

 

まるでトーラス・シルバー!まさかトーラス・シルバー‼きっとトーラス・シルバー!!!

 

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦編26

サブタイトル変更しました。


武装一体型CADは、ものものしい。大刀にしか見えない西条くんのCADは特に彼の体躯に似合って破壊力抜群に誰もが感じるだろう。司波くんの二丁拳銃型CADも単なる拳銃にしか見えない。掴みはOK!だ。相手高の選手はたじろいだと思う。

 

ついでに観客席の女子達のハートも鷲掴みだ!彼等を題材に魔法スポーツノンフィクションを書けば関係者以外の読者を開拓できる。

冷静に考えれば、技術スタッフと登録外の生徒を急遽選手として登録したのだから最初に選ばれていた森崎くん達よりも魔法力は劣るとなる。しかし、今や司波達也の名は他校の選手、スタッフ、大会関係者の間で知らないものがいない程度まで認知されている。

 

そういうわけで、八高の選手とスタッフはかなり警戒している様子だ。八高は野外演習に重点を置いているにもかかわらず。

 

一高対八高の試合が始まった。とにかく一高の行動が早い。司波くんは開始の合図ともに駆け出した。吉田くんはいつの間にか行方をくらました。

 

会場に設置されている巨大モニターには、競技中の選手を隠し撮りした映像が流れているのだが、司波くんの動きを追跡し切れてない。

 

あっという間に司波くんは、八高のモノリスに到達した。とい言うか、モニターに司波くんの背中がいきなり映し出された。間髪を入れずに彼は再び移動。八高のディフェンダーが片膝をついている映像が映し出される。司波くんは、右側に回り込む。

 

八高ディフェンダーが、回復して反撃に出た。

 

「グラムデモリッション!」

少佐が思わず歓声をあげる。

 

良く、ご存知で。術式解体のことですね。ちなみに、長岡さんや千葉さんは、相手に肉体的なダメージを与えてサイオンの流れを寸断させて事象改変させない、結果的に術式を解体してしまう方法を取っている。ただし、この方法は近い間合いでなければ実行できないが。

 

僕には、術式解体よりも司波くんの身のこなしの方が驚きだった。間違いなくプロだ。しかも、訓練を受けただけではなく実戦経験をかなり積んでいる。どうりで彼がたくさん人を殺しているのがハッキリ観えたわけだ。

 

術式解体されて呆然としている八高ディフェンダーを尻目にモノリスを開いて去って行く司波くん?あれっ?ディフェンダーを倒さない?ディフェンダーは、司波くんを追いかける。

 

「凄いな」

思わず本音を口にしてしまう。

 

「何が?」

少佐は、それを聞き逃さない。

 

「司波くん。優勝するつもりだ」

 

少佐は、理解不能だったようだ。

 

「どう言うこと?」

 

「司波くんは、本気を出さないで勝ち抜くつもりだろう」

 

「えっ!どうして?」

 

「服部副会長を余裕で倒せたのに八高ディフェンダーを一撃で倒さなかった。そのおかげで西条くんや吉田くんは実戦を経験できるし、司波くんは自分の能力をグラムデモリッションと優れた頭脳と身体能力だけだと他校に錯覚させられる」

 

「そこまでしないといけないかなぁ?」

 

「司波くん達は勝ち抜けば、三高の一条くんと吉祥寺くんに必ず当たる。この存在自体がレギュレーション違反なコンビに勝つにはそこで初めて見せる魔法を使うしかない。それを今見せたら対策をたてられる。それと、吉田くんか西条くんに一条くんか吉祥寺くんを倒してもらう必要もあるから、今のうちに二人に試合慣れしておいてもらわなければならない」

 

「幹比古が吉祥寺を倒す…」

少佐は考え込んだ。多分、それは無理と思っている。

 

「男は、女の為なら底力を発揮できるものだよ!」

僕は、吉田くんのことを言ったつもりなのになぜか司波さんの姿が心に映った。

 

「へ〜、師匠はどうなの?」

さすがは少佐。すぐにそこに突っ込んで来た。

 

「意外に思うかも知れないけど、お国の為に底力を発揮するよ(゚∀゚)」

 

「もう、師匠はすぐにはぐらかす」

 

いや、今の発言は本気なんですけどね。それと西条くんも吉田くんも吉祥寺くんなら十分倒せると思う。一条くんは厳しいかな。

 

吉田くんが、昨夜僕を訪ねて来た時に神に頼り人にも頼るべきだと主張して、吉田くんの心に映った人物を僕は彼に告げた。その人物は、柴田美月さんだ。彼女に彼が何をどの様に頼ったかは知らない。

 

ただ、彼の古式魔法はその遠隔性隠密性を遺憾なく発揮して八高選手を単なる林の中で迷子にさせている。もしかしたら、司波くんの再構築した起動式のおかげの方が大きいのかも知れないが。

 

さっきの司波さんの話だが、僕は司波くんが本気で優勝を狙う動機が理解出来ず、もやもやしていた。しかし、これでわかった。司波くんは司波さんの為に優勝する気満々になっているのだと。

 

最後は、西条くんが如意刀(?☜正式名称がわからないので、伸び縮みする如意棒からの仮称)で八高攻撃選手を殴り倒し、吉田くんが八高攻撃選手を林で遭難させ、司波くんが八高守備選手を痛めつけてモノリスコードを入力した。これで、他校のライバル達は選手としての司波くんは術式解体以外の魔法は大したことないと判断しただろう。何しろ、司波くんは攻撃魔法で八高守備選手を結局気絶させられなかったのだから。

 

◇◇◇

 

光井さんと北山さんに取材を申し込んだ時に、女子達の不審な態度の変化も理由が判明した。当初は、二科生の僕が一科生しかもエース、もっと言えばアイドル級女子に気軽に声を掛けてたのを不愉快に思ったと納得していたがそうではなかった。

 

1ーEは、司波くん達が異常に目立っているので残りのメンバーが多少やらかしても大して目立ちはしないと考えていたが、僕も目立つ(しかも悪い方に)らしい。一緒にいる女子が変わるのが、その理由の一つだ。(司波くんも同じだと思うが。)少佐情報によると。

 

やることはやってないので、そのうち彼女達の興味も失せるだろう。(司波くんも、やってないはず。じつは、やれば24時間以内ならわかる人にはすぐバレるのだ。)

 

次の一高の試合は30分後だ。相手は二校。市街地ステージだ。

 

アホやろ!大会役員どもは。市街地ステージで大問題をが起きてしまい大混乱したのだから懲りて市街地ステージだけは普通避けるやろ。あいつら自分らには責任はないとアピールしよった!

 

僕は、少しカリカリした。怒るのは、健康に悪い。凄く健康になりたければ怒るのを止めよと座禅の先生に習い始めの頃に教わったが、その教えの通りにいつのまにかカリカリはなくなった。

 

彼等と僕は、関係はほとんどないし死後成仏させてくれと頼まれても知らない、君達とは無関係だと伝えれば良いだけだ。

 

◇◇◇

 

司波くん達の二試合目が始まった。彼は、その超人的な身体能力で魔法を使わずにビルからビルへ移動し二高のモノリスが設置されているビルにたどり着いた。二高の索敵は魔法を想定している。なので、魔法を使わずに侵入すれば相手に探知されない寸法だ。

 

というか、一試合目で司波くんの身体能力や身のこなしを観察すればそうしてくると警戒出来ると思うのだが、そこら辺は所詮高校生レベルなのだろう。

 

一方、守る西条くんと吉田くんは二高オフェンスとランデブー。メイデイ!メイデイ!と叫びたくなる状況だろう。西条くんの小通連は、狭い場所では使いづらいからだ。これは、第1試合で他校にも知れ渡った弱点だ。しかし!彼はプロサッカー選手とフィジカル面では何ら変わりない。

 

なので、大太刀に体重を小さい動作で浴びせて二高オフェンスを倒した。腕力だけではパワー不足なのだ。狭い場所では使いづらいはずだと甘く見ていた二高オフェンスは、度肝を抜かれただろう。まさに足元をすくわれたのだから。

 

その上、間髪入れずに吉田くんの電撃!司波くんも調整してくれたCADによって無駄がない事象改変が早く生じて転倒のダメージから回復する前に電撃を二高選手は受けてしまい気絶してしまった。

 

局地的に数的優位を作って二対一で敵を囲み連携技で倒す。これは、以前体育の授業に二人がレッグボールで見せた連携を彷彿させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦編27

サブタイトル変更しました。


「危ない!」

少佐が叫んだ。西城くんに二高オフェンスから移動魔法が仕掛けられた!

 

「ハルト!」

西城くんが、叫ぶ。完全に遅れて魔法を発動し情報固定を図った。なぜかそれで間に合ってしまう。

 

「キャー」

溜息なのか悲鳴なのか歓声なのか判別のしようがない叫びを観客席の女子達中心に上がる。彼女達が口々に情報交換し始めた。

 

「彼の名前は?」

「西城レオンハルトだって!」

「私、一高に知り合いいる!」

「アドレスは?アドレス!」

 

『甲子園ギャル』の時代から、女子高生の興味の大半はスポーツそのものではなくチョーカッコいいスポーツ選手らしい。

 

こちらの狙いは、九校戦を通して魔法スポーツを一般化するだけでなく魔法師をスターやアイドルにして社会の魔法に対するイメージを良くするものだ。そういう事でこちらの狙い通りではある。

 

日本の神が魔法師を篩にかけ良しとしたものをこちら側に組入れよとしたのだから、その意志を我々は行動に移して行く。

 

さて、大ピンチを切り抜けた西城くんだったが、一杯一杯の感がある。やはり狭い空間では彼の新兵器は使いづらい。それを念頭に入れているように司波くんは、次々と作戦を遂行して行く。

 

ここからは、少佐の「水晶眼」で視た解説も参考にして司波くんのとんでもない作戦行動を描写する。

 

司波くんは、「喚起魔法」によって、予め貼り付けておいた精霊を喚起した。いつ司波くんが精霊魔法を習得したのか?おそらく吉田くんのCADの再調整をしただけで精霊を喚起するだけなら出来る様になったのだろう。これは、後から取材して本人に直接尋ねてみたい。

 

司波くんに喚起された精霊は、元の主人である吉田くんとリンクを確立する。この時点で魔法を使用した司波くんの位置が二高選手にバレてしまうが、重要な精霊魔法の実行者は吉田くんに移っているので無問題。その上、司波くんは相手選手を万全の態勢で迎え撃つのも可能になった。

 

「幹比古が視覚同調に成功した!」

少佐が小さく叫ぶ。

 

それにしても、「水晶眼」の威力はすごい。司波くんが喚起魔法だけ起動させ精霊を再活性化しその精霊を使って吉田くんが感覚同調の一つ視覚同調で相手チームのモノリスのコードを読み込むのを正確に視て実況中継してくれるのだ。吉田くんが「水晶眼」を手に入れたがるもの無理はない。

 

「あの〜、一高の方ですよね」

「甲子園ギャル」の一人だ。一高の三人について教えて欲しいそうだ。できたら、西城くんを紹介して欲しいらしい。お取り込み中です!と無碍に断るわけにも行かないので生返事をしてテキトーに対処しておこうと思ったが、機嫌が良いので西城くん達と同じクラスだと伝えて彼女達を大いに喜ばせて彼女達のプライベートナンバーをもらって僕の名前を伝えておいた。

 

それにしても、彼女達の行動力は凄まじい。ただ、一条くんあたりにもアプローチを試みているのだからあまりに節操がないとも言える。冗談みたいな話だが、たくさんアプローチすれば、一人くらいは引っかかる。下手な鉄砲数撃ちゃ当たるのは今もなお真理である。

 

ついでに書いておくが、人気絶頂のアイドルやタレントは難しいかも知れないが、アナウンサーや人気絶頂ではないアイドルやタレントならこの方法で充分仲良くなれるチャンスがある。特に画像や動画の映りの良い女子や男子は試してみる価値がある。その後、何があっても僕は関知しないのは言うまでもない。

 

 一高対二高の試合が終わった。

 

            ◇◇◇

 

「太陽光に当たりに行くべきだ!」と少佐を通して吉田くんに伝えた。モノリスコードでかなり消耗しているはずだ。しかも、厄介なことにその疲労が自覚しにくい。現代魔法の特徴だ。欠点と言っていいだろう。いきなり疲労感を覚え始め、すぐにサイオン不足に陥り魔法起動が出来なくなる。

 

疲れを覚える前に、エネルギー補給が必要なのだ。

 

ソーラーパワーだ!吉田幹比古!ソーラークライシスは、別所哲也!☜興味のある方は調べてみよう。ない方はスルー。

 

 僕等は、一条・吉祥寺組の試合を観戦した。

 

まあ、何というか、一言でいえば圧勝。もっと言えば、一条選手一人で八高三人を倒してしまった。まるで、アントニオ猪木対国際プロレス軍団だ。

 

『1981年10月8日、蔵前国技館で「新日本プロレス対国際プロレス」の全面対抗戦が行われた。その直前の1981年8月に国際は倒産して興行機能を失っており、そこで国際の代表であった吉原功は、新日本との対抗戦を模索したものだが、この大会のポスターにも名を連ねていたマイティ井上、鶴見五郎など多くの選手が反発し、井上、阿修羅・原、冬木弘道(後のサムソン冬木)などは全日本プロレスへ移籍し、鶴見、マッハ隼人は海外遠征するなどしたため、残党としてラッシャー木村、アニマル浜口、寺西勇の3人が新日本へ乗り込んだ。

 

この「10・8蔵前決戦」にて、木村、浜口、寺西に、かつての国際プロレスのエースだったストロング小林(当時新日本所属)を加えた4人が「国際軍団」の結成を宣言、「我々はプロレス界の(新日本・全日本を向こうに回しての)第3勢力になる」とアピールした(最終的には小林はリング上で共闘することなく腰痛のため引退)。

 

これに先駆けた1981年9月23日、木村と浜口は新日本の田園コロシアムでの興行に姿を現し、決意表明。この際に、マイクを向けられた木村は「こんばんは…」と第一声を発してファンからの苦笑を誘った一方、浜口はまずリングサイドにいた元国際プロレスの剛竜馬を挑発した後に「俺たちが勝つんだ! 10月8日を見てろ!」とアジテートし、うって変わってファンからのヒートを買った。これと前後して国際軍団は、スポーツ会館(現:GENスポーツパレス)や秩父でトレーニングを行っていた。なお木村は1975年6月にアントニオ猪木に挑戦状を叩き付けており、猪木戦は6年越しに実現することになった。

 

そんななかで“10・8蔵前”で行われた猪木と木村の一騎討ちは、腕ひしぎ逆十字固めを極めたままレフェリーのブレイク要請を無視したとして、猪木が反則負けとなり、遺恨を残す形となった。

 

そこで国際軍団は、新日本に対して再度の挑戦を執拗に迫った。そのアピールのために私服姿での会場への乱入も辞さないようになり、時には実況の古舘伊知郎さえ襲撃した。ここに至るまでの過程のなかで、いつしか新国際軍団はヒール軍団扱いをさせられ、マスコミから「はぐれ国際軍団」、「剣が峰に立たされた崖っぷち国際軍団」などの汚名を着せられていく。

 

1981年11月5日、前回と同じ蔵前国技館でランバージャック・デスマッチとして行われた、猪木と木村の再戦は、猪木が腕ひしぎ逆十字固めで執拗に木村を攻め立て、骨折寸前を察知した国際軍団セコンド陣のタオル投入で、今度は木村のTKO負け。そして翌1982年9月21日に大阪府立体育会館でヘア・ベンド・マッチ(敗者髪切りマッチ)として行われた両者の一騎討ちは、試合は猪木が制したものの、勝負が決まる前の場外乱闘の際、リングサイドにいた小林からハサミを渡された浜口が、猪木の髪をハサミで切り刻んでしまうという暴挙をはたらいた。それどころか、敗れたはずの木村を始めとする国際軍団は、勝負が決まるや否や会場から逃走。これには猪木も「男の恥を知れ! てめえら永久追放にしてやる!」と激怒、会場内も不穏な空気に包まれた。

 

それでもなお猪木との完全決着をあきらめなかった国際軍団は、試合への乱入を先鋭化させ(猪木を控室へ拉致し暴行するなど)徹底的にアピールを繰り返し、ついには【猪木が木村・浜口・寺西の3人を一度に相手にするという変則タッグマッチ】を実現させた。1982年11月4日と、1983年2月7日の2度にわたり行われたこの試合は、猪木は3人全員を倒さなければ勝利とならず、一方の国際軍団は誰かが猪木から1本取ればその時点で勝利となるルールであった。結局猪木は2戦とも、3人全員を仕留めることができず、形の上では国際軍団の2連勝で終わった。』

 

興味のない方にはどうでもよい話なので無視して頂いて結構だ。良く読んだらアントニオ猪木は、1対3の勝負で結局勝てなかった。プロレスでもそういうシナリオにしているのに一条選手はリアルのハンディキャップマッチで勝ってしまう。

 

「キャ〜‼︎一条くん⤴︎」

さっきの甲子園ギャル達だ。本気で節操のない連中だった。ここまで開き直っているのを見ているとこちらまで晴れ晴れとして愉快になって来た。アッパレ‼

 

「ちょっと!師匠。なんか変だよ?」

少佐が僕の異変に気付いたようだ。

 

はい、実は今断食中です。このハイテンションはいわば断食トリップです。午前中まではそうでもなかったが甲子園ギャルと遭遇したあたりから妙に元気になって若干ラリっている感じです。だから大丈夫です!

 

「えええ!食べてないの?」

 

「朝食と昼食を抜いただけだよ!」

 

「身体大丈夫?」

 

「平気平気。月に二回はしているよ!」

 

九校戦の取材で少し疲れが溜まっていたから、予定を前倒しして本日断食をしてみました!以前も妙にテンションが高い文章を書いている箇所があるがそれは断食中かその翌日だったと解釈して頂きたい。

 

そうそう、甲子園ギャルで思い出した。

 

昼食を抜いて水分補給(白湯補給)をしようとホテルの部屋に行こうとしたら、

 

「次兄上は、この女と付き合い始めて堕落しました!」

ホテルのロビーで、千葉エリカお嬢様が声を荒げておられた。いつもの軽い積極的で外交的な表面上の印象とは違い怒り方もお上品ですねー。人は見かけによらないものだ。

 

 というわけで、僕は携帯端末を取り出し先ほど知ったプライベートナンバーで外見上「甲子園ギャル」に回線をつなぐ。

 

「俺、俺、と言っても詐欺ではありません。ギャル子ちゃん。ニャル子ではないね?今から言う場所に、目的の人物がいるよ。キョウ子ちゃんとクドちゃんにヨロシク!」

 

少佐が唖然としている。僕は全知全能感に浸ったまま教えてあげた。

 

「陸軍の諜報員に特別サービスしただけだよ。サービス、サービス↗」

 

 

 



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九校戦編28

サブタイトル変更しました。


気分がいいのでさらにサービス。何もない空間に自分とその空間の交流を(エネルギーの変化やエネルギーの流れでも良いのだが)わかればすぐに太極拳の抱球とかもわかるしとっても気持ちいいです。ぜひお試しあれ!

 

ちなみに座禅の補助運動にもこれがある。球を感じるのは難易度が高いかもしれないが、掌心のツボと両手の間の空間の状態を感じるならやりやすいと思うよ!

 

ちなみに、形意拳*の三催勁で有名になった三星を合わせるという口訣もこれで出来る。合谷*と尺沢*と欠盆*とその上空の空間の状態を感じるだけだ。ただし三つ同時に行うので慣れが必要かな?こういう風にピーチェン!

 

〔形意拳(けいいけん、Xingyiquan)は、中国武術の一派。

 

太極拳、八卦掌と共に内家拳の代表格とされる中国武術であるが、見栄えのする大技が少なく、非常にシンプルな外見をしているのが特徴である。

 

『三才式』(三体式、三體勢とも)と呼ばれる、同じ側の掌と足を前に出し、後ろ足にやや体重を乗せた構えを基本とし、前方へ踏み込んで技を発した際に後ろ足を前足の踵側に引き付けて歩を進める『跟歩』という歩法を多用する。(☜門派による。一概に言えない。)套路は門派によって異なるが、五行説にちなんだ名前をつけられた5種類の単式拳『五行拳』と、五行拳の応用形でそれぞれ動物を模した12種類からなる象形拳の『十二形拳』は共通している。(☜門派による。一概に言えない。というか、このネット情報は河北系の説明になっている。)

 

『五行拳』は劈拳(金行)・鑚拳(水行)・崩拳(木行)・炮拳(火行)・横拳(土行)からなり、更に『十二形拳』は龍形・虎形・猴形・馬形・黽形・鶏形・鷂形・燕形・蛇形・ 形・鷹形・熊形 からなる。槍を中心に棍、剣、刀、暗器など武器術も豊富で、器械套路(武器用の套路)も存在する。

 

初心者は、『三才式』の站椿功(立ち稽古)と『鶏形歩』という歩法による運足を学び、併せて五行拳の劈拳に似た『鷹捉』を集中的に稽古する。(☜門派による。一概に言えない。尚氏を意識して書いている?というか、初心者に三体式は難しい。形意拳の立禅当たりから始めるのが良い。)〕

 

(合谷*は、手のツボです。人差し指と親指の骨が合流するところから、やや人差し指よりにあります。

このあたりに、さわってわかる”くぼみ”があります。親指で押したとき、ジーンとくる箇所があったら、そこが合谷です。)

 

(尺沢*はひじの横じわの上にあります。ひじを軽く曲げると、ひじの手のひら側のほぼ中央に固いすじが出ます。このすじの親指側で、指を置くと脈が感じられるところです。刺激する方の腕の手のひらを上に向けて、もう一方の手の親指の腹で、尺沢の骨ぎわをひびきが出るまで押します。両手を刺激します。)

 

(欠盆*は、鎖骨の上方にあります。鎖骨の上の窪んだところが、お盆が半分欠けた状態に似ている事から、欠盆(けつぼん)というツボの名前になったと思われます。

 この窪んだところを鎖骨上窩といい、乳頭線上(乳首の位置)の鎖骨上窩にスジ状のところです。)

 

形意拳の明勁は簡単だったでしょう?えッ?できない?おかしいなァ?

 

そうそう!上肢をいつでも発せられるまでの動きも自動運転で行うというのを忘れていた。ゴメンゴメン。例えば、ピーチェン(壁拳だよ。三体式を動かす運動や鷹捉とは動きも形も違うから気をつけてね。)の予備動作は、背骨の上の方、頚椎が伸びれば自然に上肢が動いてくれる!

 

まだ、発しない?

 

じゃあ、今回特別に言っちゃおう!その時に第五チャクラ*を感じて!それで発勁!そうそうそれで良い。

 

(第五チャクラは、首の付け根中央部に位置する「青色」で表されるチャクラです。

喉に対応する事からスロートチャクラと呼ばれ、サンスクリット語で「浄化」を意味するヴィシュッダチャクラとも呼ばれています。これはヴィシュッダによって、単なるおしゃべりではなく、目的を持って考え語る事で、責任を伴った自己表現をするという、コミュニケーションのあり方を示しています。)

 

少佐のピーチェンを観て僕は大満足だ。喉のチャクラが合わないなら天突*でも良い!

 

(天突*は首の付け根、左右の鎖骨に挟まれたくぼみに位置します。)

 

「師匠、話が変わるけどさっきの通信だけど…」

 

さっきの?甲子園ギャルを装って将来有望な魔法師を物色して伝手を作る活動をしていた彼女達?以前、僕は他人の職業がわかるって伝えてなかったっけ?理由はわからないけど不思議とわかるんだ。ほら!あの人は警察。

 

甲子園ギャル達は十師族やナンバーズ以外の有望な人材をスカウトしたいのだと思うよ。何しろ手垢が付いてないから。だから、一条くんよりも吉田くんや西城くんや司波くんにはすごく興味がある。

 

「さっきので、師匠も興味を持たれてしまったじゃない!」

少佐が呆れている。大丈夫。大丈夫。現代魔法の尺度では僕の能力は測定不能、評価不可能だから。

 

 確かに、甲子園ギャル達は真面目な表情でどこかに通信している。僕が教えたテロリストの居場所を伝えているのだろう。今度は、未然にテロを防いでよ。

一高の選手を乗せたバスを襲った自爆テロを本人に強い意志がなくてほんの直前まで気づけなかったのは僕の心に引っかかっていた。やっとその発見方法がわかった。少佐の「水晶眼」を観てそのコツを掴んでわかるようになった。自我のないテロリストは、自我がないのが特徴となる。なので、悪意や殺意を探るのではなく、自我がない人物を探れば見つけ出せる。

 

心に引っかかっていたものがなくなると心が軽くなる。この高揚感は断食の影響だけではない。

 

さて、気分が高揚している間に一高対九高の試合が終わってしまった。これまた痛快!

 

三高の一条選手が一対三の勝負で勝ってその実力を見せつけたのに対して今度は、一高が同じ事をやってのけたのだ。しかも、一番マークされている司波くんではなく吉田くんがやってのけた。司波くん策士!

 

一高の一条選手と吉祥寺選手は、これで司波くんを意識せざるを得なくなったろう。

 

「決勝は草原ステージで司波対一条の荒野の決闘なり!」

 

「まだ、決勝のステージは発表されてないよ」

少佐が不思議がっている。

 

いや、もう決まった。もし、市街地や森林や渓谷ステージにすれば一高の今まで実行して勝ってきた作戦を少し応用した戦い方で一高勝利が確定してしまう。だから大会運営は、勝負の行方がわからないように草原ステージに意図的にするよ。クドちゃんも好きだね〜。そんなにしてまでハードな戦いが見たいかなぁ。学生同士の。

 

そうそう、形意拳の五行拳の明勁ができた時はとっても幸福感が味わえるよ。特に最初の頃は。少佐!焦らなくていいから思い出した時にやってみてね。六位*になれば、道に入れば、こんなの簡単にできるからどちらかと言えば座禅をして欲しいな。

 

(位階《いかい》とは、国家の制度に基づく個人の序列の標示である。位《くらい》ともいう。「位階」という語は、基本的には地位、身分の序列、等級といった意味である。制度としての「位階」は、元は古代中国の政治行政制度である律令制や、それを継受した国における官僚・官吏の序列の標示(身分制度)である。後には、位階は、長く官職にあった者や特に功績のあった者などに与えられる栄典の一となった。位階を授与することを「位階に叙する」または叙位(じょい)という。

 

☝では、国家の制度に基づく個人の序列の標示である位階について説明しています。 カトリック教会の聖職者の序列、『天上位階論』と関連するキリスト教の天使の位階、友愛団体であるフリーメイソンの位階、軍隊・警察・消防を含めた公務員等その他の階級等がこれにあたります。ここでは、禅の境地の段階を表すものとして使用しています。

 

「道を得る」を六位とし「道に入る」は六位ではなく五位と見なす位階を用いて表現しています。神智学的に書けばコザール体とブッディ体に相当すると思います。)

 



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九校戦編29

サブタイトル変更しました。


お!そうだ。吉田くんに伝えておこう。少佐!端末貸して。

 

「吉田くん?決勝進出おめでとう!感覚同調ができるなら地球の芯に感覚同調して太極拳等の練習をすればすぐにうまくなるよ!じゃあ、決勝頑張って」

 

少佐が呆気にとられている。

 

◇◇◇

 

「小野先生!どうしたんです?こんなところで」

僕は、会場ゲートの近くで偶然に小野教員を見かけて声を掛けた。

 

「へッ?!」

小野教員は、必要以上に驚いていた。何か後ろ暗い事でもしているのだろうか?公務員だから、副業禁止ですよ!お小遣い稼ぎもバレたら怒られますよ。

 

「偶然ね!預かり物を手渡しに来たのよ。河原くんは、取材?」

彼女はすぐに気分を立て直した。ナイスリカバリー!?

 

「はい。そうです!」

 

「ご苦労様。実はね。司波くんに頼まれた新アイテムよ。だから、内緒にしておいてね」

 

「そうなんですか?だったら誰にも言いません!」

 

着信した。少佐からだ。

 

「出なくていいの?」

音は消しているのに、小野教員は気付いた。なかなかやるな。

 

『ピー何とかを練習してたら、白い鳥の羽がたくさん見えたの!天使の羽かな?』

 

「うん、天使の羽だと思うよ。また後で。一旦切るね」

 

いつの間にか小野教員は姿を消していた。なかなかやるな。まるで忍者だ。

 

でも、少佐から学び取った「水晶眼」で視るとあ~ら不思議…

 

「師匠。こんなところでどうかしたのか?」

背後から司波くんが声を掛けて来た。絶妙なタイミングだ。僕が何かに集中し始め周囲に注意を払えなくなるのを見計らったのだ。

 

「取材だよ。特ダネを追いかけているんだ」

 

「そうか、まあ頑張ってくれ。ところで、目の調子が悪いのか?片目を隠したりして」

 

「人工水晶眼で、探っているんだ。天然の柴田さんみたいにハッキリは見えないけどね」

 

司波くんが少し固くなった。やはり、水晶眼を警戒している。柴田さんの前で司波くんがほんの少し不自然な態度を取っているように観えたのは正解だった。彼には隠さなければならない何かがあるのが決定した。

 

「師匠も、古式魔法が得意なのか?幹比古や吉田先輩みたいに」

 

「僕は、古伝だよ」

 

「古伝?初耳だが、古くからの伝承があるのか?」

 

「古伝の宗教や禅や武術や魔術を現代魔法に活かした古伝魔法を今作成中だから、僕が初代。これはその成果の一つ、アストラル視力の強化、つまり人工水晶眼だ」

僕は、片目を隠したままドヤ顔になった。

 

「そりゃすごいな。期待しているぞ。古伝魔法。ところで、つけて来たのか?」

話が転がって来た頃合いを見計らって司波くんは突っ込んだ質問を出した。

 

「?」

僕は司波くんの「つけてきたのか?」の言葉の意味を理解できない態度を取る。彼の質問は意図的に省略されており何を答えても誰かを尾行して来たかそうでないかがばれる質問だ。うまいね。

 

「わからなければいい。取材頑張ってくれ」

そう言って、司波くんは会場に戻っていった。

 

僕は、姿を消した小野教員を探った。司波くんがまだ視ているからだ。油断も隙もない器用な人だ~。ほどなく小野教員は車で去ったとわかった。司波くんはもう僕を視てなかった。

 

これで、会場ゲートに僕が来たのは偶然で小野教員との約束通り司波くんが次の試合で使う新アイテムのことを秘密にしておく約束を律儀に守ったと司波くんも小野教員も思っただろう。二人ともなかなかの手練れだったが。

 

ようやくテンションが普通に戻ってきた。観戦に戻ろう。

 

公安と内情だけならノーヘッドドラゴンはやりたい放題だ。公安と内情は監視が主な任務だから。(攻撃は別動隊がするのが一般的。)しかし、もっと短気な連中が動けば状況は変わる。九校戦には国軍、しかも軍人魔法師。彼等はどう動くのか?とても興味深い。

 

それと九重先生って誰だろう?

 

◇◇◇

 

 三位決定戦が終わった。決勝は草原ステージだ。司波くんを徹底マークしている一条・吉祥寺組は勝率が上がったと喜んでいるだろう。

 

しかし、三高の残り一人の存在感なさ過ぎる。これが三高の弱点だ。三人しかいないのに一人が空気なんて有り得ない。もし秘密兵器として決勝に取って置いたなら逆に一条・吉祥寺組が断然有利となるが。

 

一方、司波くんはまだ本気を出していない。九校戦の前夜にテロリストが夜襲をかけて来たのを防いだ時に使った探知能力を決勝まで使ってないし、もっと凄いのを隠し持っている筈だ。陽気を目一杯取り入れた吉田くんは、地球や天心の力を借りれればもっと凄い力を発揮できるし、アスリート並みのフィジカルを持つ西城くんはゾーン*にまだ入って戦ってない。

 

以下「ゾーン」についての一般的(?)な説明。ちなみに流星人間とは何の関係もない。

 

[「気がついたら2時間も勉強していた」

「練習に熱中していたら日が暮れていた」

 

このように時間の感覚がなくなるほど、ある行為に没頭した状態を『フロー状態』(flow=流れること)と呼びます。

 

流れに乗っている状態、ということです。

 

フロー状態では、常時高い集中力を維持できているので、高いパフォーマンスが行えるだけでなく、勉強や練習であれば、身につくスピードも非常に高いのです。

 

『フロー』⇒『ゾーン』

 

「周りの人間がゆっくり動いて見える」

「ボールが止まって見える」

 

このような極限の集中状態を『ゾーン』と言います。

 

『ゾーン』に入った時に、多くの人が体験するのが、自分以外がゆっくり見えたり、視覚や聴覚が非常に鋭くなることです。

 

一流のスポーツ選手は意識的にこの『ゾーン』に入ることができると言われています。

 

一般人でも、交通事故に遭ったときなどに『周りの景色がゆっくり流れる』体験をすることがありますが、一流スポーツ選手は自分からその状態を作り出しているのです。]

 

要は、アスリートが競技中に経験する至高体験*の事だ。

 

至高体験  

『「至高体験」とは、個人として経験しうる「最高」、「絶頂=ピーク」の瞬間の体験のことです。それは、深い愛情の実感やエクスタシーのなかで出会う体験かも知れません。あるいは、芸術的な創造活動や素晴らしい仕事を完成させたときの充実感のなかで体験されるかも知れません。  

 

ともあれそれは、一人の人間の人生の最高の瞬間であると同時に、その魂のもっとも 深い部分を震撼させ、その人間を一変させるような大きな影響力を秘めた体験でもある といわれます。そうした体験をすすんで他人に話す人は少ないでしょうが、しかし、マズローが調査をしてみるとこうした「至高体験」を持っている人が非常に多いことに気がついたというのです。  

 

ここで大切なのは、いわゆる「平均的な人々」のきわめて多くが「至高体験」を持っており、その非日常的な体験が、「自己実現」とは何かを一時的にではありますが、ある程度は垣間見せてくれるということです。何らかの「至高体験」を持ったことがある 者は誰でも、短期間にせよ「自己実現した人々」に見られるのと同じ多くの特徴を示すのです。つまり、しばらくの間彼らは自己実現者になるのです。私たちの言葉でいえば、 至高体験者とは、一時的な自己実現者、覚醒者なのです。』

 

凄くたいそうな状態のような記述だが、座禅を一年程度練習するとできる。寝入ったわけではないのにあっという間に30分程度経っているのは、座るたびに体験出来る。毎日『ゾーン』あるいは、毎日『至高体験』だ。

 

「それより、天使の羽根…教えて」

少佐が、僕の袖を引っ張っておねだりして来た。

 

「背骨の上の方が伸びて来ると天の父とか天使に会えて、背骨の下の方なら母なる大地とか女神に会える」

少し乱暴な説明だがまあ良いだろう。

 

「やっぱり、天使の羽根だった!」

 

「少佐の頸椎が伸びて来たんだよ。ピーチェンがうまく打てた影響だね」

 



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九校戦編30

サブタイトル変更しました。


思った通り、一高は吉田くんと西城くんが何やら怪しげな黒頭巾被って登場した。千葉さんが大爆笑している。そこ笑うところ?

 

千葉さんの笑いのツボがどこにあるのかはさて置いて、三高の2人警戒心はマックスになっているのは違いない。司波くんの計算通りにことが運んでいる。

 

これで一高が3人のチームワークとはまだ見せてない新しい術式をいきなり使えば、真赤な王子(クリムゾンプリンス。共産主義にかぶれた王子ではありません。)と火事なる常時(カーディナルジョージ。うまく当てはまる漢字が思い浮かばなかった。)と言えども慌ててミスの一つや二つはするだろう。

 

「天使…」

少佐はモノリスコードよりも天使の方が気になるようだ。地の女神も天使も天の父も結局は自分なんだけど。カトリック教の三位一体説は、そういう意味では良い線いってる。

 

不意に本部席付近が騒ついた。

 

九島さんがふらっと現れた。大会役員達が直立不動になっている。大会役員は彼が近くに来るまで気付けなかった?それでは、テロの予兆にも気付けないだろうなぁ。

 

試合開始の合図とともに両陣営の砲撃が交わされた。観客は大喜び。でも、一緒に喜んでいる場合ではない。何の為の陽動?司波くんは移動を開始している。魔法を使っていない。これで三高は、司波くんの正確な位置を把握するのが遅れる筈だ。でも、それだけ?

 

一方、一条くんも前進開始。こちらは悠然と歩いている。決勝までの戦い方と同じだ。違うのはCADくらいだ。汎用型から特化型に変えている。三高も多少の策を講じて来た。一条くんと司波くんに一対一で戦ってもらって一条くんに勝ってもらう作戦だろう。

 

本当に勝ちたければ、一条くんに司波くんとの戦いを避けてもらって1秒でも早く一高のモノリスコードを読み込んだ方が確実だ。一対一の戦いに応じた時点で司波くんの策にはめられたと考えた方が良い。

 

戦略の誤ちは、戦術では取り返せない。(一度、言ってみたかった。)

 

どさくさ紛れにディフェンスの西城くんがモノリスを離れてスルスルと前線に上がっている。アディショナルタイムに見られるゴールキーパーまで攻撃参加するパワープレイだ。こうしていとも簡単に数的優位を一高は作った。

 

最初の砲撃はこれを隠す為のものだった!司波くんの移動をわかりにくくする為だけではなかった。思い起こせば、決勝まで攻撃は司波くん、遊撃は吉田くん、守備は西城くんと固定して戦い勝ち抜いて来た。

 

ところが、決勝ではいきなりそれを放棄した。一条くんが司波くんとの一対一の戦いに応じると読んで一条くんの移動時間を遅らせる為に司波くんは走らずに三高陣地に向かい、遊撃の吉祥寺くんを吉田くんと西城くんの一対二の戦いに持ち込む。おそらく、いや、三高は全くこれに気づいてない筈だ。しかもポジションチェンジをして吉田くんが西城くんの背後に位置しているのは、完全にノーマークになっている筈だ。

 

とはいえ、司波くんが一条くんと接戦をしなければこの作戦は成り立たない。瞬殺されれば数的優位は崩れてしまう。

 

司波くんは、二丁拳銃スタイルで右手のCADで防御の術式解体、左手のCADで攻撃、多分振動系魔法。一方、一条くんは防御を捨てて攻撃に専念している。それでも、司波くんの攻撃は一条くんの脅威になってない。よくて牽制?ただ、司波くんも一条くんの攻撃を完璧に術式解体している。

 

三高の吉祥寺くんが移動を開始した。ディフェンダーをモノリスに残して。やはり、かかった。これで、二対一に持ち込める。

 

司波くんは、吉祥寺くんの攻撃参加を確認して急に走り出した。一条くんの攻撃を完璧に防ぐ事だけに専念するより、狙いをつけにくくする、つまり出来るだけ早く移動する事もした方がいいに初めからわかっている。なのに、司波くんは今頃そうした。

 

司波くんは、慎重に前進して一条くんをわざと自分に食い付かせた。もし、最初から疾走すると一条くんが自陣から離れずに待ち構えてしまうかも知れない。そうなると、三対一の戦いになる恐れがあったのだ。

 

それにしても、一条くんの破壊力抜群の圧縮空気弾をパーフェクトに分解して行く司波くんは凄い!凄い?!凄い?アレッ?

 

事象改変の予兆を視て事象改変が始まる前に動くのは、光井選手の秘密兵器だった。司波くんは、あっさりそれを出来るようになったのか?そういえば、彼は吉田くんの精霊魔法を起動していた。もしかして何回か見ただけで盗める?

 

ちょっと待て。自分を敵に食いつかせるのは、体育の時間にやったレッグボールで僕と白石くんがした戦法だ。もしかして、一回見ただけで司波くんはコツを掴んだ?

 

だとしたら、自分に向けられている目線が違う選手に向いた瞬間にポジションを移動して敵をひと泡ふかせるのも出来る。これも、レッグボールの競技中に僕と白石くんが司波くんに見せているからだ。

 

まあ、一回見ればだいたいわかる人はそこそこ存在するが。

 

さすがの司波くんも一条くんの圧縮空気弾を防御し切れなくなる。はずだったのに司波くんの反応速度が上がった!

 

エレメンタルサイトだ。一回観たから、わかる。とはいえ、残り数十メートルから前進速度が極端に遅くなる。

 

一方、吉祥寺くんは、迂回して一高モノリスまで百メートル程までようやく進んだ。そこで、西城くんに遭遇。明らかに面食らっている。吉祥寺くんは、頭が下手に良いから予想が良くあたり、外れるのに慣れていないのだろう。

 

しかも!吉祥寺くんの何かの攻撃魔法が例の黒マントで防御された。吉祥寺くんの攻撃魔法は、ターゲットを視認しなければならないらしい。なんかショボイぞ、カーディナル・ジョージ。何て言ってる間に司波くんが再び一条くんに向かって走り出した。魔法を使っていないので、一条くんは気付いてない。明らかに、様子がおかしい吉祥寺くんに気を取られている。

 

吉祥寺くんは、西城くんの横殴りの伸びる太刀(?)を上方に移動して回避。しかし、彼をすぐに突風が襲う!吉田くんの攻撃だ。再びなんとかしのいだ。吉祥寺くんそのまま吉田くんを攻撃?

 

魔法が発動しない。彼の得意魔法は一高チームに完璧に防御されていた。すぐさま、西城くんの伸びる太刀!今度は上から。吉祥寺くんアウト!と思ったら一条くんの援護射撃。西城くんがぶっ飛んだ。これは効いた。

 

しかし、その援護射撃の隙を突いて司波くんが猛然と突っ込んでいる!

 

あっ。やばい!一条くんが咄嗟に出した攻撃魔法が司波くんを強襲したのだ。司波くん、死んだ‼︎と僕は思った。だって、吹っ飛んだ司波くんの様子がヤバイ。閲覧注意。と思ったら宙を舞っている間に元に戻っていた。

 

まさか?まさかまさかまさかまさかの摩醯首羅(まけいしゅら)?!

 

いやぁ〜司波くんは頑丈だなぁ。排打功でも練功したのかなあ〜。

 

少佐が、訝しげに僕を見る。別に何も怪しい事はしていませんよ。

 

それにしても一条くんは動揺し過ぎだ。レギュレーション違反のオーバーアタックで一発退場を心配していると思うが、審判のフラッグは上がってないし、足元に横たわっている司波くんは死んでないし、吉祥寺くんも吉田くんを重力系魔法で追い込んでいる。司波くんはスッと立ち上がって、棒立ちしている一条くんの側頭部に右手を近付けた?

 

バイオニック・ジェミーーー!*

 

轟音が響きわたった。司波くんが指パッチン*をした後すぐに。パチンと鳴った破裂音を振動系魔法で拡大したのだろうが、さっきの排打功と今の振動拡大は妙に事象改変が早い。まるで、フラッシュキャスト!いや、多分バイオニックパワー。

 

少佐がまた、訝しげに僕を見ている。やめて!水晶眼でこっちを視るのは。僕にも大人の事情があるんです。察して下さいよ〜。少佐には後から司波くんの排打功と早い振動系魔法の話をするから。

 

そうこうしている間に、吉祥寺くんに倒されたはずの吉田くんが起き上がって来た。これは魔法ではなく根性!立て!立つんだ!幹比古!

 

というか、一条くんが倒されて吉祥寺くんは呆然と突っ立っている。その間に吉田くんが立ち上がったのだ。吉祥寺くん、試合中だよ?一条くんも吉祥寺くんも注意散漫過ぎ。吉田くんは、よろめきながらも黒マントに隠れて何やらCADを操作している。

 

そして、手で地面を叩く。

 

「キャー!」

柴田さんが、悲鳴を上げる。彼女は、吉田くんがピンチになったり攻勢になるたびに声を上げている。本人に自覚はないのだろうが、敏感な人にはバレてしまうよ。千葉さんとか。

 

柴田さんは、声が大きいタイプらしい。

 

またまた、少佐に訝しげに睨まれた。すいません。はしゃぎ過ぎですね。

 

 

☟興味のない方は、飛ばして頂いて構いません。

 

*地上最強の美女バイオニック・ジェミー

『地上最強の美女バイオニック・ジェミー』(ちじょうさいきょうのびじょバイオニック・ジェミー、原題:The Bionic Woman) は、ユニバーサル作成のSFテレビドラマ。1976年から1978年にかけて第3シーズンまで制作され、第1・第2シーズンはABC、第3シーズンはNBCで放送された。

 

元はテレビドラマ『600万ドルの男』の1エピソードだったが、人気のために番組として製作されたスピンオフ作品。日本では日本テレビ系で、第1・第2シーズンが1977年1月から10月、『地上最強の美女たち! チャーリーズ・エンジェル』を間に挟み、第3シーズンが1978年3月から8月にかけて放送された。

 

主演のリンゼイ・ワグナーは、本作で1977年、エミー賞主演女優賞を受賞。

 

ストーリー

 

元プロテニスプレイヤーのジェミー・ソマーズは、スカイダイビング中の事故により瀕死の重傷を負う。婚約者であるスティーブ・オースティン大佐(600万ドルの男)は、科学情報局(OSI)に頼み込み、彼女に自分と同じバイオニック移植手術を施させた。

 

両足、右腕、右耳をサイボーグ化された彼女は生命の危機からは脱したものの、移植の拒絶反応から、スティーブのことを含めて全ての記憶を失ってしまう。しかし彼女は、自分を救ったOSIのためにバイオニック・パワーを使った諜報活動を志願するのだった。

 

バイオニック・パワー

 

右耳:高感度ガンマイクでもある。隣室から電話の通話を聞いたり、1km先の微弱な音声もキャッチできる。

右腕:出力1558W(≒2.12PS)の原子力電池搭載。片手で1トンの重量物を持ち上げる。

 

轟音指パッチンも、作中で得意技として登場している。どうでもいい事だが、彼女の愛車はフェアレディZ。

 

両足:出力4928W(≒6.7PS)の原子力電池搭載。最大走行速度95km/h(≒100m走3秒79)。10階建て程度のビルから飛び降りたり、数メートルの壁を飛び越せる。

本人の心臓は、右腕、両足に血液を供給する必要がないため、95km/hで走っても心拍数は平常時と変わらない。義手・義足の動力源は原子力電池である。

 

シリーズの概要

 

『バイオニック・ジェミー』は、OSIのエージェントとなったジェミーがバイオニックの能力を駆使しながら活躍する姿を描く。だが、女性エージェントということで、『600万ドルの男』のハードな雰囲気とは異なるシリーズとなった。例えば、美人コンテストにミス・カリフォルニアとして出場したり、アメリカ先住民族風の女子プロレスラーになったり、修道院のシスター姿になったりするなど、コスプレ的潜入捜査が多いのもその表れである。

 

☝︎キューティー・ハニーの影響を受けた?

 

また、表向きの職業はベンチュラ空軍基地内の小学校教師であるため、児童たちとの交歓シーンもあったが、途中でこの設定は放棄された。コミカルなエピソードも少なくなかったが、一方では核兵器開発競争に警鐘を鳴らす、『ジェミー 地球壊滅を救え!』のように重厚なものもある。

 

シリーズを通して最大の仇敵として知られるのは、フェムボットという人間そっくりのロボットであり、その製造者は、バイオニックとロボット工学のどちらが優れるかをドクター・ルディと争った元OSIのフランクリン博士であった。ジェミーは、スティーブ・オースティンと共に、ロボット対バイオニックの死闘を演じることとなる。

 

また、ジェミーと同じ顔に整形したリサ・ギャロウェイという女性(リンゼイ・ワグナーの一人二役)も登場し、リサは一度はジェミーになりすますことに成功したものの、バイオニックの能力がなかったため正体を見破られる。再登場したときには、新開発の薬物でバイオニックに匹敵するパワーを得てジェミーを翻弄した。

 

第3シーズンで放送系列がABCからNBCに移ると、内容がより低年齢の視聴者を意識したものに変更された。その第一が、バイオニック・ドッグであるマックスの登場である。マックスは火事で両脚と顎に重傷を負い、まだ実験段階だったバイオニック移植手術を施された犬だった。マックスはジェミーに飼われることになり、任務遂行でもパートナーを組んだ。

 

☝︎人造人間キャシャーンのフレンダーの影響を受けた?

 

この他には、宇宙人の再三にわたる登場などが挙げられる。しかしこの路線変更は視聴率の低下を招き、シリーズはこのシーズンをもって打ち切られた。最終回は、OSIを辞めようとしたジェミーがそれを阻止しようとする政府機関から追跡される、という展開だった。

 

*フィンガースナップ (finger snapping) は、指を鳴らす動作のこと。日本では指パッチンの名で知られている。

 

方法

 

親指との間に張力をかけた中指や薬指を、手のひら(親指の付け根の部分)に勢い良く打ち当てることで「パチン」という破裂音を立てる。なお、この音は手を叩いて音を出す原理とほぼ同じようなもので、空気を弾くことで鳴る音である。

 

☝︎中指と親指の摩擦音ではないのに注意!指パッチンができない人は摩擦音だと誤解している。

 

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦編31

サブタイトル変更しました。


 五つの術式の連続使用だった。吉田くんの選択は。吉祥寺くんが冷静なら足に草が絡み付いたのを魔法力でなく人力で退ければ良かった筈だった。所詮、ただの草なのだから。

 

吉祥寺くんが初見の魔法に弱いと吉田くんにもバレたのかどうかは吉田くんに訊いてみないとわからないが、とにかく、吉祥寺くんは予想外の展開に対する反応が悪い。空中に必要以上に飛び上がり吉田くんの電撃系の餌食になってしまった。ただ、これは吉田くんの方が吉祥寺くんよりも一枚上手だっただけとも言える。

 

ここで、三高の名無しくん登場!余力のない吉田くんに攻撃を仕掛ける。そこに、西城くんが復活。首を振って状況を確認しすぐに黒マントを脱いで投げ付ける。対応が早い。しかも、小通練と同じ要領だ。得意の系統の魔法だけあって起動もメチャクチャに早い。名前が良くわからないまま三高の名無しくんは撃沈された。

 

一高の勝利だ。

 

こうしてみると、一高メンバーは三高メンバーより根性があったのが勝因と言える。各人が一回は攻撃魔法の直撃を受けても何とか復活して攻撃参加している。それと、状況判断が一高メンバーの方が早かった。事前に策をしっかり練っていたので各人の判断や決断が早かったのだろう。

 

魔法師同士の戦いは、早く魔法を当てた方が大概勝つ。しかし、それは大概であって絶対ではない。一条くんも吉祥寺くんも名無しくんも一回は根性で立ち上がるべきだった。そうすれば、三高の勝ちだったろう。

 

とはいえ、根性を絞り出せるのも男を見せられるのも実力のうちなのだ。一高の三人は三高の三人よりも実力が上だった。だから、勝った。ただ、それだけだ。

 

悲鳴を上げていた柴田さんがスタンドにいないのに僕は気付いた。千葉さんは1人取り残された形となっている。要らぬお節介かも知れないが、僕は席を立った。

 

「千葉さん」

 

僕が声をかけると彼女は、戸惑った表情を見せた。

 

「勝負は、終わってない」

 

「?」

 

「いや、新たな勝負の始まりだ。遅れを取るな」

 

彼女は、僕を一瞬睨んだがすぐにフィールドに視線を移し「そうね」と小さく呟いて観客席を立った。

 

「ありがと」

彼女は、僕と視線を合わさずにそう言って柴田さんの後を追いかけた。

 

「師匠。優しい〜」

後ろから少佐の声がした。

 

「僕は、女の子にすご〜く優しいよ」

 

少佐は、首をすくめて見せる。

 

しかし、千葉さん。どちらを選ぶつもりなのか?決めないまま選手控室に向かって行ったようだが。二兎追うものは一兎も得ずだぞ。

 

◇◇◇

 

「身体を鍛える方法?」

単刀直入な質問だが、柴田さんから訊かれるとは予想外だった。僕が泊まって部屋に吉田くんと柴田さんが一緒に訪ねて来たのはもっと意外だったが。

 

 吉田くんが丈夫な身体の必要性を痛感したのはわかる。新人戦モノリスコードで一高が決勝で三高に勝った決め手は一高選手の粘りだったからだ。要は根性。もっと言えば魔法の直撃を食らっても耐える精神と肉体の強さだった。

 

確かに、西城くんと吉田くんの場合はそうだった。司波くんのは…。吉田くんは司波くんの身体の強さも武術や忍術のトレーニングの賜物と解釈したようだ。

 

「師匠さんなら、何か凄い訓練法を知っていると思いました!」

誰かの為だと、覚悟を決めたら柴田さんは猪突猛進だ。吉田くんを引きずってここに来たのだろう。惚れた男の為に奮闘する柴田さんはエライ!という事で真面目に座禅教えます。

 

「あるよ!」

 

「本当ですか‼」

 

「うん。じゃあ、吉田くんうつぶせになって、その上に柴田さんが乗って」

僕は、床にタオルをしいて吉田くんを促した。吉田くんは顔を真っ赤にして狼狽した。柴田さんはやる気満々だった。

 

僕は、嫌がる吉田くんを無視して寝転がさせ背骨を、手の掌を右回転して摩り陽気を入れやすくする方法を実演してみせた。柴田さんは、早速僕の真似をした。

 

「太陽光に当たるのは、午前中の方がいいけど午後なら当たり過ぎに注意して下さい」

僕は、掌心や尺沢を上に向けて太陽光に当たる恰好をした。二人は、すぐに起き上がって僕と同じポーズをした。

 

「師匠。足が外側に向いているのは重要なのかい?」

観念した吉田くんはさっそく真面目な質問をした。

 

「そうです。体の陽気が増えると足まで暖かくなったり、元気になるのを自覚できます」

今は夜なので、その感覚は極めて薄いが。

 

「吉田くん。座禅を組んで見せて」

彼は、神祇魔法の為に座禅も練習させられていると僕は思ったのだ。案の定、まず成功しない座り方を彼はした。

 

「結跏趺坐に無理にしなくていいですよ。胡坐でも半結跏趺坐でも、とにかく楽に座って下さい」

僕にこう言われて吉田は納得が行かない表情だ。

 

「昔、空海みたいな天才達が大陸に渡って座禅を習うと教えるほうもいきなり上級者用の座り方を教えていたみたいです。普通の人でも頑張れば出来るようになるけど下半身が緊張するから逆効果です」

吉田くんは半結跏趺坐に足を組み替えた。プライドが高い。

 

「柴田さん、手の印の組み方は、男女で手が逆になるんだ」

胡坐で座っている柴田さんは両手を入れ替えた。

 

「それと、必ずタオルなんかを掛けて身体を冷やさないで座禅して下さい。最初は陽気が少ないので冷えてきますので」

 

一通り、座禅の基礎を伝えた。しかし、吉田くんは、不服そうな顔をした。柴田さんもすぐにそれに気付いた。水晶眼恐るべし。本気で活用すれば、ほとんど事が視えてしまう。

 

「吉田くん」

柴田さんが小声で吉田くんをせっつく。柴田さんに免じて、僕の方から言い出そう。

 

「ここまでで、何か質問はありますか?」

 

ようやく、吉田くんが口を開く。

「硬気功や鉄砂掌とこれは関係があるのかなぁ?」

随分遠慮がちだ。

 

「あります。座禅は陽気を増やします。排打功や鉄砂掌は陽気をあまり増やしません。しかし、神経や血を鍛えるには適しています」

 

「陽気は、サイオンと考えていいのかい?」

 

「陽気を増やせば、使えるサイオンは増えますが、その逆はまだわかりません。というか?サイオンを増やす方法は、今だに開発されてないはずです」

 

「さっきの血や神経を鍛えるとはどういう事なの?」

 

「鉄砂掌の功を積む時に漢方を使います。その中に少し毒が入ってます。元々鉄もほとんどの場合体に良くありません。しかし、負荷を適当に調整すれば鍛えられるのは筋肉トレーニングと同じです。毒で身体を鍛える資料*を紹介しておきます」

 

「これは、危険過ぎると思う」

 

「そうです。なので、練習している人はほとんどいません。うちのクラスなら長岡さんくらいだと思います」

 

「僕には無理かい?」

 

「もっと陽気を増やせば可能です。しかし、龍神を降ろす方を優先した方が良いのではないでしょうか?」

 

「神祇魔法に耐えられる身体を作る方法もあるのかい?」

 

「はい、長く座れれば可能になります。長い鼻呼吸をするのがコツです。特に呼気で身体の悪いものを出して行くのを覚えておいて下さい」

 

おそらく、これらの知識はすでに断片的に吉田くんは知っているし練習もしている。なので、今一つ釈然としない表情になる。僕は、太陽光に当たるポーズを二人に見せて尋ねた。

 

「手のひらに何が見えますか?」

 

「ボールかな?」

吉田くんは、あまり自信がなさそうだ。

 

一方、柴田さんは、「光る玉です。凄く動いている」

 

「ひゃっ!」

 

「どうしたの?柴田さん!」

吉田くんが、すぐに柴田に寄り添う。

 

「蛇がとぐろを巻いています。いえ、龍です!」

 

 

毒で身体を鍛える資料*

 

場合によっては死にも至ることがあるヘビの毒を、なんと25年間にもわたって自分の体に注射しつづけることで、毒に対する抗体を体の中で作ってきた人物がいます。そしてこの度、この男性の体から骨髄が取り出され、35種類以上の抗体が取り出されています。

 

まさに常軌を逸した行動を続けてきたのは、アメリカに住むスティーブ・ラドウィン氏です。49歳の男性であるラドウィン氏は、パンクロックバンドでシンガーをつとめているとのこと。

 

25年前に毒の注射を始めたというラドウィン氏は少年の頃からヘビが大好きだったそうですが、9歳の時に訪れたフロリダのヘビ園で、ある人物にであったことがきっかけでヘビの毒を自分に注射することに関心を持ちました。

 

その人物とは、西洋人で初めてヘビの毒を自分に注射し、抗体を作る試みを行ったとされるビル・ハースト氏です。無謀すぎるハースト氏の試みでしたが、あろうことかラドウィン氏も同じように毒を注射して抗体を作ることに憧れに近い感情を抱いたそうです。

 

やがてラドウィン氏は実際にヘビの毒の注射を開始し、それ以来25年間にもわたって週に一度の注射を続けてきました。自宅でヘビを飼い、定期的に採取した毒を最初は水で薄めたものを注射しはじめましたが、徐々に濃度を高くして体を毒に慣らし続けることで、体内で毒への抗体を作ってきたとのこと。ラドウィン氏の自宅では何種類ものヘビが飼われており、餌やりなどの世話をしながらラドウィン氏は毒を小さな容器で採取。その様子は、VICEが公開した以下のムービーに収められています。

 

このムービーを目にした一人が、コペンハーゲン大学のブライアン・ローゼ博士でした。世界でもほとんど類を見ない試みに学術的な価値を見いだしたローゼ氏は、ラドウィン氏に接触。その後、ラドウィン氏をコペンハーゲンへと招き、まずは血液の採取を行いました。

 

血液を採取したローゼ氏は、そこに含まれる抗体を取り出すことを試みました。しかし、抗体が作られる際に必要なB細胞が含まれていないことを確認したローゼ氏と研究チームは次の一手として、ラドウィン氏の体から骨髄の一部を取り出すことを提案しました。

 

ラドウィン氏もこの提案には及び腰だったようで、答えを出すまでに数日かかったそうです。しかしラドウィン氏の勇気ある決断により、提案どおりに骨髄が採取され、B細胞の取り出しとDNAおよびRNAの分離に成功しました。そしてその後、2年に及ぶ作業の結果、ラドウィン氏が持っていた抗体のコレクション「ラドウィン・ライブラリー」が完成したというわけです。

 

通常は、ヘビの毒に対する抗体を作るためには倫理的な理由でヒトではなくウマに毒を注射するという方法が採られます。しかし、そのようにして作られた抗体または血清に対し、人体が拒絶反応を示すことがあり、解毒のために注射した血清によって命を落とすケースも発生しているとのこと。しかし、同じヒトの体でつくられた抗体ならば悪影響は非常に少ないとのことで、実際にそのようにして作られた血清で命が救われた例もあるとラドウィン氏は語っています。

 

ローゼ氏はラドウィン氏の行為について「彼がやったこと、そして死なずに済んだことはほとんど奇跡的なことです。コペンハーゲン大学は完全に、このようなことを他の人が行うことを推奨しません」と語り、その価値は認めつつも、ラドウィン氏の行為が並外れて無謀なものだったことを指摘して人々に注意を促しています。

 

今後はまず、採取された抗体をもとに即死性の強い毒に対する血清を作り、その後はより一般的な用途に用いられる解毒剤の開発が進められる予定とのこと。ちなみにラドウィン氏は「体は至って健康で、年齢よりも10歳以上若く見られることもある」とのことです。 ☜ここに注意!

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦編32

サブタイトル変更しました。


「座るだけで、魔法力が上がるのですね。ところで、どれくらい座っていれば良いのですか?」

まっとうな質問だ。柴田さん、なかなか鋭い。

 

「30分を超えれば目に見える効果が出ます」

 

吉田くんがえっ?!となった。彼はそれくらい時間ならすでに座れるのだろう。

 

「最初は、30分程度すぐに座れるようになります。しかし、それは途中で寝ているケースがほとんどです。もし寝ないままで座ると10分を過ぎた当たりから猛烈に眠くなったり疲れが出て続けられなくなります」

 

「そんな時はどうすれば良いのですか?」

 

「陽気を取り入れることを日頃実行して下さい。それと、任脈と督脈のツボを意識するのも良いです」

僕は、代表的なツボの名称を口にした。

 

「ダンチュウ?ミゾオチのことですか?」

 

「いいえ、違います。吉田くんは知ってますね。あとから柴田さんに教えて上げて下さい」

 

「はい、わかりました!幹比古さん、お願いします!」

 

吉田くんは、再び赤面した。柴田さんは真剣そのものだ。吉田くんは僕が二人の関係をわかっていてこのように発言しているのに気付いたようだ。

 

柴田さんは、気付いてない。今の柴田さんなら吉田くんに会陰でさえ触らせてくれるであろうと僕が感づいていることに。

 

本当は、この場で一緒に座禅を組んで様子を見たかったが、二人とも一人でもやってくれそうなので今回はここまででいいと思った。

 

◇◇◇

 

再び、九校戦は本戦に戻る。大会九日目だ。新人戦は、一高が優勝した。これで、一高の総合優勝はほぼ確実になった。

 

しかし、一高に対する悪意が強くなった。ノーヘッドナントカは、まだ諦めていないようだ。昨晩から、それが強くなった。でも、ノミ屋が何を仕掛けてくるのかまではわからない。

 

大会九日目は、この私小説もどきの作者である『僕』の心象描写にピッタリの曇り空、曇天となった。前日までは、良く晴れていたのに。とはいうものの、ミラージバットにはこの空模様は好都合だ。特に、すでにA級魔法師クラスの実力を持つとはいえミラージバット本戦に初出場の司波さんにとっては。

 

彼女が、多量のサイオンを惜しげもなく使えると言っても本戦は新人戦と違う。その競技に習熟している選手が登場するのだ。複数の選手で結託して司波さんの進路を反則にならない程度に妨害することもできる。それでも力勝負に持ち込んで多量のサイオンを司波さんが消費するとしたら体力が消耗しない天気の方がいい。

 

少しイラつく。司波さんが勝てそうにないからではない。狙われている予感があるのにそれが観えないし視えないからだ。と同時に焦ったところでどうしようもないのもわかっている。

 

自分が狙われているのなら、自分に向けられた殺意はたとえそれが巧妙に隠されたものでも察知できる。しかし、他人に向けられたそれはわかりにくい。特に自分と関係が薄い他人となれば特にそうだ。

 

「師匠。何してるの?」

右目を手で隠したり、両眼で視たりしている僕の行動を少佐が不審に思った。

 

「水晶眼でも事前の察知は無理みたい」

 

「何か起こるの?」

 

僕は、吉田くんや柴田さんが観戦している方に視線を移した。

 

「何が起こるかを彼女が見張り彼が防御している」

 

「あっ!本当だ…」

 

少佐には、何かもっと違うものも視えた。

 

「心を読むとは、そういう事だ」

 

「……」

 

少佐の耳が真っ赤になっている。彼女にはどのような景色が観えているのか僕にはわからない。ただ、今の僕には吉田くんと柴田さんが大きなハートマークに包まれているのが観える。

 

僕はもう一度ミラージバットに心を向けた。小早川さんが出場している。第2ピリオド開始だ。

 

そうか!光学魔法を使えば察知できる。早速、視力を変えた。光井さんの競技を熱心に観察したから僕も光井式光学系魔法を多少使えるようになっている。

 

CADは?と尋ねられそうだが、実はCADは必要としない。元々、事象改変に必要なサイオンの流れを魔法師の身体に生み出す速度を上げる為の装置がCADだ。なので、事象改変に必要なサイオンの流れが魔法師の身体に起きている状態を真似すれば、同じ魔法を使え、CADは必要でない。

 

同じようなことを一高の入学試験の実技試験会場で真似しやすそうな人のサイオンの流れを真似して僕は合格している。長岡さんも同じことをして合格した。

 

しかし、それは勘で掴んでいただけだ。今回光井式光学系魔法のお陰で、魔法師のサイオンの流れが良くわかる。経絡とは似ているようで違う。チャクラにも似ているが違う。

 

いかん、いかん。試合観戦に集中しなければ!

 

僕は、光井眼で小早川さんを観察し始めた。彼女のCADが他の選手のものと比べて風邪でもひいているかのように視えた。

 

まずい!

 

「あッ!」

 

同時に、少佐も声を上げた。

 

小早川さんは空中で、支えを失い落下し始めた。

 

下は、プールになっているのでよほど変な体勢で着水しない限り大事に至らない。しかも落下に備えて競技審判や大会役員が魔法によるセーフティネットを幾重にも整えている。つまり、全く心配ないし、何も恐れる必要もない。しかし、何故か気になる。

 

僕は、光井眼で視るのから観るのに変えた。五体満足で救出された小早川さんはグッタリして動かない。よほど怖い体験だったのだろう。

 

彼女の腹に穴が空いているように観える。トラウマを持つ人に良く観られる現象だ。というか、普通の人は大概空いているし、年齢を重ねれば複数空いている人も多い。

 

「彼女は、復帰できないかも知れない」

少佐が呟く。

 

彼女の言う通り、魔法師はチョッとした事故で魔法を失う事がある。元々現代魔法は、世界を騙してなんとか事象を改変しているだけだ。ほんの少し変える力が少なくなれば世界は騙されてくれなくなり、事象改変も起こらなくなる。

 

アレっ?!今、魔法師最大の悩みの一つである、突然のスランプの原因がわかったかも知れない。

 

魔法師は、世界を騙して事象改変を行う。騙すとか嘘をつくのは、それに適したエネルギーがいる。具体的に言えば陰気だ。ただ単にエネルギーが大きいだけでは、騙すとか嘘をつくのに長けるとは限らない。陽気を単純に増やせば魔法力がその分上がるとは言えないのは、薄々気付いていたが、今その理由がわかった!

 

そう考えると腹に開いた穴を塞いで、エネルギーの漏れをなくしても魔法力が復活するとは断言できないし、元々魔法を使えなかった人が魔法を使えるようになる保証もないのは当然だ。

 

過剰に魔法を使って、魔法を使えなくなるケースはあるが、特に心当たりがないのに突然魔法が使えなくなるケースもある。その理由は、自分の心が自然と自分を騙すのを拒否するようになっただけと考えるられもする。

 

小早川さんは、少佐の視た通り魔法を使えなくなるかも知れない。しかし、自分の心に嘘を付いてまで現代魔法力を復活させる必要はないと思う。

 

ありがとう!小早川さん。あなたのおかげで興味深い仮説をいくつか思い付けた。これは「小早川仮説」として形を整えて発表させて頂きます。

 

前方で試合を観戦している吉田くんが回線をつないでいる。すぐに柴田さんに代わった。彼女は明らかに興奮している。確実に視えた筈だ。

 

少佐も何やらどこかに連絡している。

 

薄くてほとんど感じられなかった殺気がハッキリとして来た。しかし、それは先程までとは出どころが違う殺気だ。

 

「少佐。司波達也から目を離すなと知り合いに伝えてくれ」

僕は、通話中の少佐に構わずに言明した。少佐は、僕に一瞬だけ視線を移して目で了解の合図をした。

 

司波くんは可愛い妹の事となれば人を殺すのを全く躊躇わない。

 

万が一に備えて、僕は席を立った。

 

 

 

 



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九校戦編33

サブタイトル変更しました。


 僕は、司波くんを追い掛けた。彼は一見いつもの司波くんだ。しかし、僕には彼からノーヘッドドラゴンに対する殺気がヒシヒシと感じられる。他の人が、何故感じないのか不思議なくらいだ。

 

彼は、重苦しい雰囲気の一高テントを出で大会役員のテントに向かう。CADのチェックの為だ。

 

少し迷う。僕達報道関係者は、選手と同じ様に「関係者以外立入禁止」区画に立ち入るのを許可されている。しかし、デバイスチェックの取材なんて意味のない取材は有り得ない。テントに入れば目立つことこの上ない。

 

ええい!迷っている時間はない。司波くんが本気になった時、離れたままでは彼を止める自信はない。ならば彼の近くに位置するしかない!

 

司波くんは、ちょうどデバイスチェックを受けていた。

 

彼は、チェックをしている大会役員の胸ぐらをいきなり掴み、足元に叩きつけた。悲鳴が上がる。警備員が怒号をあげる。

 

僕は、安心した。司波くんは、武術の腕は大したことなかったからだ。

 

下手に功夫がある人物が、怒気や殺気で動いてしまうと相手を誤って殺してしまう。彼はそのレベルではなかった。彼から発せられる殺気は、地べたに這いつくばらされている工作員や周りを囲んでいる警備員の動きを制にする程度にあからさまだったにもかかわらず、工作員はまだ死んでなかったのだ。

 

僕は、九島さんが近付く気配を感じその場を離れた。あとは、あの老人が何とか取り繕うだろう。

 

少佐に藤林さん、素早い対応ありがとう。

 

◇◇◇

 

ある程度は予想していたが、実際にリードされている司波さんを見ることになるとは驚いた。ミラージバット本戦は新人戦とはレベルが違った。二高の選手、渡辺委員長と並んで優勝候補であったので強敵だとは思っていたが、まさかこれほどとは予想外だ。まさに箱根駅伝の山の神、ツールドフランス山岳ステージのクライマーだ。

 

司波さんは、広範囲の事象改変が得意であり、それはすでにA級魔法師レベルと言って良い。しかし、自分の身体を持ち上げるだけなら読みや反応速度や作戦でA級魔法師レベルでなくとも司波さんに対抗できる。

 

二高の選手は、光井さんレベルの反応はないがとにかく早い。CADを経由してないのでは?と邪推するレベルだ。司波くんの指パッチン攻撃と同じレベルの早さなのだ。ミラージバットに特化したBS魔法師と言ってもあながち外れてない。

 

また、彼女が知っているのかどうかわからないが司波さんの跳躍はフィードフォワード制御をメインにしており外乱を受けると速度の遅い(それでも普通の速度の)フィードバック制御となるのを逆手にとって反則を取られないよう司波さんに行路妨害を仕掛けているのだ。

 

 優秀なサイドアタッカーが、サイドをドリブルで駆け上がっている時に、サイドバックは、ボールを追いかけてもサイドアタッカーに追いつけないと判断すれば、目標をボールからサイドアタッカーに変える。サイドバックは身体をサイドアタッカーに反則にならない程度にぶつけ、あるいは寄せてサイドアタッカーの走行速度を落とす。そのまま並走しスライディングでボールをタッチに出す。

 

サッカーの試合で見られる優秀なサイドアタッカーと優秀なサイドバックの攻防だ。二高の選手はそれをミラージバットで実行している。司波さんには、このような熟練技に対抗できる熟練技はない!

 

もし渡辺風紀委員長なら、規模の小さい魔法を複数組み合わせてほぼ同時に使用するのが得意なので、二高の特化型に挑まれても良い勝負をした上で勝てるのだろうが。

 

司波さんには、焦りの色がうかがえる。第2ピリオドでは、明らかにオーバーペースの力押しでリードを奪い返した。一方、二高のエアクライマーは、ペースを落として休みながら競技していた。最終ピリオドの勝負に備えているのだろう。もしかしたら、まだ奥の手を持っているかも知れない。それを最終ピリオドで出されたら、司波さんは負ける可能性が極めて高い!

 

「奥の手」?今、光井さんもそう言ってたのを思い出した。ミラージバット新人戦優勝インタビューで、僕が光井さんに「ミラージバットなら、光井さんの光学系ロケットスタートを駆使すれば司波さんにも勝てるのでは?」と尋ねた時に彼女が答えたのだ。

 

「司波さんには、『奥の手』があるの」と。

 

「奥の手」が何か僕には知る由もないが、ここで出さないと二高の特化型を調子づかせてしまう。

 

最終ピリオドが始まった。司波さんのCADが変わっている。「奥の手」を出してきたようだ。

 

司波さんが、飛び上がる。二高のエアクライマーがすぐに飛び上がり遮蔽体勢になる。司波さん、加速。光球ゲット。空中静止。そして、

 

「「水平移動?!」」

少佐と僕はハモってしまった。

 

司波さんは、そのまま水平飛行を続けて次々に得点をあげる。観客も「飛行魔法?!」「トーラスシルバーが、先月発表したばかりだぞ!」と騒ぎ始めた。

 

おいおい。これでは『まるでトーラスシルバー!まさかトーラスシルバー‼︎きっとトーラスシルバー!!!』だ。大丈夫なのか?司波くん。

 

ちなみに肝心の試合は司波さんの圧勝で終わった。熟練技で挑んできた二高の「跳躍の神」も、相手が「跳躍」から「飛行」に飛躍した瞬間になす術が無くなったのだ。

 

観客スタンドは、大変な騒ぎとなった。観客のほぼ全てが、生まれて初めて「飛行魔法」を見た。所謂歴史的瞬間に立ち会ってしまったのだ。携帯端末に向かって怒鳴りつけるようにまくし立てている人、一心不乱に端末に入力している人、呆然としている人、感動で泣いている人までいる。

 

さて、僕はお国のためにもう一働きしよう!テロリストを然るべき機関に通報するのは国民の義務だから。知っているのに黙っていたら共謀罪に問われかねないし。感動に浸るのは後回しだ。

 

「少佐。あそこにヘッドマウントディスプレイをした体格の良い人物が見えるだろう?そうそうあの人。昨日もいたね。藤林さんに教えてあげて」

 

少佐が、携帯端末から連絡する。

 

殺気が薄くても、その他の感情がほとんどない特徴を予め掴んでさえいれば簡単に殺気のないテロリストを探知出来る。特に全ての観客が興奮している中でそのような素振りが全くない人物は、奇妙に目立つ。特殊な能力がない一般人でも近くにその様な人物がおれば違和感を覚えるだろう。

 

通報したので後の処理は専門の人達に任せよう。

 

殺気に関して付け加えると、マークする人物が最初から決まっている場合は殺気の質の変化がわかる。誰とは言わないが、可愛い妹を奈落の底に突き落とそうとした不届き者達を皆殺しにすると今、彼の殺気がより先鋭化した。これは他人任せではなく自分自身で見学しなければならない。

 

◇◇◇

 

 ミラージバットの決勝戦には、驚かされた。他校の選手も「飛行魔法」を使ってきたからだ。それにしても、大会役員達の勝負を面白くしようとする恣意的な運営は鼻につく。司波兄妹の「奥の手」は、彼等のもののままでいいではないか!今大会くらい。

 

さて、その大会役員達の姑息な努力にも関わらず司波さんが優勝した。少し考えれば当然なのだ。司波さんは、この「奥の手」を習熟するまでトレーニングを積んでいる。他の選手は、今回初めて「飛行魔法」を使用している。これでは勝負にならない。しかも、司波さんのサイオン量は十師族並みだ。なので、魔法力のスタミナ勝負で彼女が他に後れを取ることはまずない。

 

終わった。終わった。九校戦の総合優勝は、最終日を待たずに一高に確定した。テロリストも然るべき機関が適切に処理したようだし、あとは「必殺‼仕事人」の仕事ぶりを見学するとしよう。

 

と、思ったのだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦編34

サブタイトル変更しました。


誤字訂正いたしました。


最愛の妹を奈落の底に付き落とそうとした輩を、皆殺しにするとした最強お兄様のお手並み拝見と決め込んでいたのだが、七草生徒会長のプレ祝賀会的なお茶会へのお誘いがありそうはいかなくなった。残すは、明日のモノリスコードだけとなり、それに関係している選手やスタッフ達は忙しい。しかし、それ以外の人はヒマだ。ヒマな人達の緩んだ空気を拡散させないように一箇所にまとめて管理するとは七草会長と市原会計はなかなかの策略家だ。

 

というわけで無碍に断れなくなった。それと司波くんは、何と言って辞退するつもりなのか気にもなったのでお茶会に参加した。

 

お茶会には、選手やスタッフ以外の千葉さんと柴田さんも招かれていた。急遽選手になって優勝した吉田くんと西城くんと彼女達をひとまとまりにしているあたりは七草会長の計らいだろう。ただ、少佐達は来てなかった。しまった。テキトーな理由でサボっても問題なかったみたいだ。やる気の出ない僕は、ミーティングルームで静かにしていた。

 

「河原くん。来てくれてありがとう!」

七草会長が声をかけて来た。

 

「こちらこそ、お招き頂いてありがとうございます」

 

「どうしたの?元気ないね」

 

「そうですかね〜」

 

鋭いですね。会長は。

 

七草会長が去って行くと柴田さんが近づいて来た。吉田くんも一緒だ。

 

「師匠さん、大丈夫ですか?言いにくいですけど、なんて言ったらいいか、オーラが薄いように視えます」

 

「よく気づきましたね。今、自分の存在が薄くなってます」

 

「君は、もしかして」

吉田くんは、言いかけて途中でやめた。

 

「良くわかったね〜。只今、分身中だよ」

 

「!」

 

「?」

 

「ハ位の人みたいな8人分身ができるほど得意でないから、やっぱりバレてしまったね〜」

 

二人は、黙ってしまった。

 

「そう言えば、吉田くん。易経は読んだことあるかい?神祇魔法に役に立つと思うよ」

 

僕は、易経の冒頭部を見せた。

 

乾 乾為天

 

乾は元いに亨りて貞しきに利ろし。

 

初九 潜竜なり、用うるなかれ。

九二 見竜田にあり、大人を見るに利ろし。

九三 君子終日乾乾し、夕べにテキ若たり。あやうけれども咎なし。

九四 或いは踊りて淵にあり、咎なし。

九五 飛竜天にあり、大人を見るに利ろし。

上九 亢竜悔いあり。

用九 群竜首なきを見る、吉なり。

 

「とう言う訳で、龍を降ろすには身体の全て陽気で充実する必要があるんだ。陰気が入っても充実感があるので良く誤解されるのだけど。陽気が大切なんだ」

 

「!!」

 

「??」

 

「話は、変わるけど体位によっては骨格が変わるから勘のいい人にはわかるよ」

 

「「!!!」」

二人は、同時に真っ赤になる。心当たりがあるのだろう。

 

「『単位』がなんだって?」

千葉さんが、聞きつけた。単位ではなく体…まぁ、いいか。

 

「千葉さん、西城くんに付いていなくていいの?」

 

「ちょっと!どうしてレオの話題が出てくるの?」

 

僕は、女子に囲まれて爽やかな対応をしている西城くんを見ながら

「新人戦モノリスコード優勝者、しかもクリムゾンプリンスこと一条将輝とカーディナルジョージこと吉祥寺真紅郎を倒した一高選手の中でまだ可能性がありそうなのは西城くんだけかなぁ〜。司波くんと吉田くんは売約済と女子達に思われているし」

 

千葉さんは、回れ右して爽やか対応中の西城くんの方に向かって行った。

 

◇◇◇

 

プレ祝賀会は、予想以上の成果を得た。吉田くんと柴田さんに『蘇る神童』をスポーツノンフィクションとして発表して良いと許可を頂けたし、今後の取材も承諾してもらったし、体当たり的内助の功も触れる程度なら明かしても良いとなった。柴田さんは、やり手だった。

 

『Gone in 50ms』も光井さんよりも北山さんが妙に乗り気になって発表に賛成してくれた。女子の友情もテーマにしていると伝えたのが効いたようだ。

 

『まるでトーラスシルバー!まさかトーラスシルバー‼︎きっとトーラスシルバー!!!』は、タイトルを変更してでも司波兄妹の承諾得たかった。兄妹愛を軸にするのをダシにして司波さんを口説く作戦まで立てていたが、肝心の司波くんに会えなかったので保留となった。

 

他に自ら売り込み来た学生もいた。もし、次回も同じ企画があればその子達のも書く…かも知れないと約束しておいた。次回の九校戦も出張費が出たらの話だ。

 

このように参加しただけの成果はあった。さて、次は司波くんを観ていた方の自分の記憶を思い出す番だ。無理に今、思い出さなくても必要な時に必要な記憶を思い出せば事足りるのだが、司波くんの現代魔法の技術を観て学びには一旦今思い出した方がいい。

 

司波くんは、小野教諭からノーヘッドドラゴンのアジトの情報を買った。その情報に基づいて司波くんと藤林さんはそのアジトに車で向った。車中で日中関係と横浜中華街の話題が出た。司波くんの方が藤林さんよりもより内情に通じているようだった。大亜連合の工作員がいるとわかっていながら横浜中華街を存続させているのは、こちらも大亜の情報を得る為だ。用済みになれば解散させられる。

 

今年中には、片が付くだろう。

 

おっと、集中力が落ちて考えてしまった。

 

二人は「横浜ベイヒルズタワー」に入った。屋上に移動する。「横浜グランドホテル」の最上階にターゲットがいるらしい。藤林さんは、ハッキングを手早く完了させた。なるほど、そんな感じでやるのか。司波くんは、拳銃型CADを1キロ先のジェネレーターに照準を合わせて躊躇いなく引き金を弾いた。ゴルゴ13みたいに。

 

弾丸発射ではなく「分解」術式発動だ。なるほど、そうやるのか!

 

次に司波くんは、標的の「領域干渉フィールド」「エイドス・スキン」「肉体」の情報を変数として魔法式に入力した。再び「分解」術式!標的は「消失」した。「トライデント」所謂三連分解魔法だ。これも、だいたいわかった。

 

「Hello,No Head Dragon 東日本総支部の諸君」

司波くんは、ユーモアのセンスがあった。

 

 その後、司波くんは無頭竜の幹部とその部下達を次々に分解して行き無頭竜の本名と偽名を聞き出した。それは、僕には興味のないことだが一応通報しておこう。そんなことより「トライデント」所謂三連分解魔法が、『Demon Right』だと判明したのとそのやり方と破法もわかってしまったのは収穫だった。目の前で何回も発動してくれたら誰でもわかる。

 

まぁ、こんなものでいいかな。また、必要に応じて思い出せばいいだろう。

 

藤林さんは、現役の中尉だったんだ。悪いことしたかな?

 

さて、少し気になることがあるからチョッと観てみるか。

 

       ◇◇◇

 

 九校戦は最終日を迎えた。今日行われる競技はモノリスコードの一種類。九時から決勝トーナメント第一試合、十時から第二試合。午後一時より三位決定戦。そして二時から決勝戦が行われる。その後は三時半から表彰式と閉会式で、五時には競技場における九校戦が全て終了する。七時からパーティーなのだが、何とか司波兄妹に『まるでトーラス・シルバー!まさかトーラス・シルバー‼きっとトーラス・シルバー!!!』掲載の承諾を得ておきたい。

 

おっと、いかん!忘れていた。すぐに携帯端末を手に取る。

 

「少佐殿!タママ二等兵*であります!」

 

「師匠?何の冗談」

 

「冗談では、ありません!小官は、重大な情報を少佐殿にお伝えするのを失念しておりました!」

 

「?」

 

僕は、吉祥寺くんに少佐を紹介すると約束をしていたのだ。にも関わらず、それを少佐にちゃんと伝えていなかった!

 

さいわい、少佐はパーティーに初めから参加するつもりだったそうだ。

 

 

*タママ二等兵

 

ケロン軍での階級は二等兵(OR-1)。ケロロ小隊の突撃兵である。地球侵略軍の先発隊新人隊員で、小隊では最年少。そのため、小隊のメンバーでは唯一「ちびケロ」と題されるケロロたちの幼少時代の話に登場しない。名前の由来は「オタマジャクシ」の「タマ」から。自称小隊のマスコット担当。パートナーは西澤桃華。

 

 

『ケロロ軍曹』(ケロロぐんそう、英語表記:Sergeant Frog)は、吉崎観音による漫画『ケロロ軍曹』を原作とするテレビアニメ。2004年4月3日から2011年4月2日まで、テレビ東京ほかで放送された。ジャンルはギャグアニメ、略称は「アニケロ」。

 

あらすじ

 

ガマ星雲第58番惑星「ケロン星」から地球(地球外の全宇宙人の呼称は「ペコポン」)の侵略のため、先遣隊が派遣された。その隊長・ケロロ軍曹、突撃兵・タママ二等兵、機動歩兵・ギロロ伍長、作戦通信参謀・クルル曹長、暗殺兵・ゼロロ兵長(後にドロロと改名)の5名の兵士からなる、宇宙侵攻軍特殊先行工作部隊・ケロロ小隊が地球に降り立った。

 

しかし地球に降り立つ際に、隊員5名は散り散りになり、小隊長のケロロは一軒の民家に潜伏するが、そこに住むペコポン(地球)人の日向夏美と弟の日向冬樹にあっさりと発見・捕獲される。本隊はこの状況を危険と判断し、彼ら先発隊5名を残して緊急撤退。地球に取り残されたケロロは、日向家の居候になり、家の掃除をさせられたり、趣味のガンプラを作ったりして毎日を送っている。

 

やがてバラバラにはぐれてしまった隊員たちが段々とケロロの元へ集結し遂に5人全員が揃う。その途中、アンゴル族のヒト型宇宙人の少女・アンゴル=モアまでが日向家に居候を始め、日向家はますます大混乱。変わりに変わった日向家でのさらにへっぽこな日々が続くことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦編35

サブタイトル変更しました。



共謀罪の一次協力者は、資金提供等あからさまな行為だけではなくて便宜を図るだけでも該当すると思い出した。ソースは☟。無頭龍から金をもらって選手のCADに細工をすればテロリストの一次協力者であるのは当たり前だが、少し警備を甘くしたりしてテロリストの活動を消極的に側面支援するのも共謀罪に問われる場合があるのだ。

 

実際は、共謀罪に問われる前にテロリストとしてリアルデスノートに載せられて資産凍結される。海外渡航も禁じられる。100年前からそれらはほとんど変わっていない。簡単に言うと社会的に抹殺されるのだ。その後、五年程度大人しくしていれば資産凍結は解かれることがある。相変わらずテロやテロ支援活動を持続していれば共謀罪が適用されて懲役刑となる。執行猶予はまずない。

 

これは、リベラルと名乗る共産主義者(キリスト教の異端者)の亜流達が各国で死刑廃止を推し進めたので、現場ですぐに犯人等を射殺して長く手間のかかる公判闘争に持ち込ませない対抗策を取った欧米式と良く似ている。実際に、テロリストの資産凍結は米国の十八番でもあり、第三次世界大戦で一番効果のあった攻撃が資産凍結(ドル封鎖)なのだ。中国共産党は、正確に言えば共産党幹部は、最後までこれに対抗できず当時110兆円分の個人資産を日米から人質に取られてしまい、身動きが取れなくなった。

 

もちろん、資金力だけが戦争の勝敗を左右するわけではない。しかし、第三次世界大戦の発端とされている朝鮮民主主義人民共和国による核ミサイル開発問題で日米同盟側が最後まで有利に交渉を反日米連合側に対して行えたのは、金朝朝鮮のミサイルを100%の確率で迎撃する技術を敵に先んじて開発できたからである。開発力は、資金力によるのは言うまでもない。参考までに付け加えると、その技術開発には魔法師が携わっており、しかもそれが日本人であるのは未だ公には認められていない事実だ。

 

☞組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(⇦共謀罪のこと)

第六条の二(テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画)の罪の犯罪行為である計画(日本国外でした行為であって、当該行為が日本国内において行われたとしたならば当該罪に当たり、かつ、当該行為地の法令により罪に当たるものを含む。)

 

テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画(☆重要なのは下の『』の中)

第六条の二 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。

一 別表第四に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められているもの 五年以下の懲役又は禁錮

二 別表第四に掲げる罪のうち、長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められているもの 二年以下の懲役又は禁錮。

2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団に不正権益を得させ、又はテロリズム集団その他の組織的犯罪集団の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で行われるものの遂行を二人以上で計画した者も、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき『資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われた』ときは、同項と同様とする。

 

 大会中のあまりの杜撰な警備に抗議する意図を含めて大会運営委員をまとめて刑事告発してやろうとしたら誰かさんに阻止された。だから、僕があきらめたと思ったら大間違い。ダメなら違う方法を使うだけだ。そこで、テロの主導者の一人かもしれない九島老人を覗くことにした。本気でチンピラ達に邪魔させない努力をしていたら渡辺さん達は怪我をしなかったのだ。安心したら良い。共謀罪で罰せられることはほとんどない。ただ回り回ってテロリストとして資産凍結されるだけだ。日常生活に支障はあまりない。所謂、社会的な抹殺となる。森崎くん達に重傷を負わせ、小早川さんの魔法師の夢を絶った罰だ。

 

昨晩の出来事を同時に観るのに理想的な状態は部屋に籠ってじっとしていることだった。しかし、プチ祝賀会の為にそうはいかなくなった。そこで、動き回りながらの分身となってしまい印象が薄れ危うく忘れてしまうところだった。モノリスコードが始まる前に片付けてしまおう!僕は、部屋の厚い絨毯の上にタオルを敷いて足を組んで座った…

 

「どうぞお入りください、閣下」

風間大尉が言った。

 

「十師族嫌いは相変わらずのようだな」

九島老人が言った。風間のちょっとした態度で彼が十師族を良く思ってないのを見破っている。

 

「……自らを兵器と成す、という意味では古式の術者も同じです。我々とあなた方に、大した違いはない。自分が嫌悪感を抱くとすれば、自らを人間ではない、とする認識を子供や若者に強要するやり口です」

風間は、なかなか気骨のある人物だ。

 

「司波達也君だよ。彼が三年前、君が要場から引き抜いた、深夜の息子だろう?」

話題を変える九島老人。風間に痛いところを指摘されたからだ。なので、この後も老人は喋り続ける。底が浅いな。

 

「……閣下は四葉の弱体化を望んでおられるですか?」

風間はやはり鋭い!またしても老人の浅知恵を見抜いた。

 

「君だから正直に言うがね」

再び見抜かれた老人は、また喋り出す。アカン。こいつ使えんわ。よくこんなんで少将になれたな。

 

「閣下」

風間が老人の述懐めいたセリフを断ち切った。

 

「そして訂正ですが……将来ではありません。達也は現在において既に、我が軍の貴重な戦力です。こう申しましては身贔屓に聞こえるかもしれませんが、達也と一条将輝では戦力としての格が違います。一条将輝は拠点防衛において、単身で機甲連隊*に匹敵する戦力となりましょう。しかし達也は、単身で戦略誘導ミサイルに匹敵する戦力です。彼の魔法は幾重にもセーフティロックが掛けられていて当然の戦略兵器だ。その管理責任を彼一人に背負わせることの方が余程、酷というものでしょう」

 

勝負あり!勝者、風間大尉。司波くんは良い上官に恵まれたな。それと、九島老人が予想外の小心者でテロの首謀者でも一次協力者でもないと明らかになった。大会運営関係者は、本気で無能だった!こんなレベルでは、魔法師、そしてその頂点に君臨するとされる十師族が四葉一つに負けてしまうのは当たり前だ。

 

ただ、司波くんの戦力が戦略誘導ミサイルと同等だと考えるのはどうかと思う。戦略誘導ミサイルは最近一発一千万円程度のはずだ。司波くんの価値はそんなものなのだろうか?だったら、司波くんを雇うより戦略誘導ミサイルを一億円分用意すれば良い。それって何かおかしいと思うだろう?

 

あ〜〜 本当は戦略核ミサイルと言いたかったんだな!風間大尉は、九島老人を信じていないので咄嗟に嘘をついたんだ。あっぱれ!風間大尉。

 

*機甲連隊

戦車連隊のこと。

戦車連隊(せんしゃれんたい)とは、地上部隊の部隊編制の一つで、戦車を中心として編成された連隊のことである。

        

  ◇◇◇

 

 こちらは、予想通り十文字克人、辰巳鋼太郎、服部刑部の三選手がモノリスコードで他を全く寄せ付けずに優勝した。おかげでファランクスのやり方も破法もほぼ解明出来た。出し惜しみしているかも知れないが、今回はこれくらいでいいだろう。

 

服部さんのは、七草さんのと原理が同じなのでいいかな。器用に魔法を組み合わせて使い威力を増幅しているのは渡辺さんと共通しているが、これでは十師族レベルの力任せの魔法力の前ではなす術もないだろう。パワー不足はアクシデントや奇襲に弱くなる。そういえば、試合会場に向かう選手を乗せたバスが襲われた時、渡辺さんと服部さんは何も出来なかった。競技中にテロを仕掛けられた時も渡辺さんは回避できなかった。模擬試合で、司波くんの奇襲を受け服部さんは負けた。

 

大会前に創意工夫とか何とかが大事だと誰かが言ってたが、結局は魔法力の大きさ、使えるサイオンの量が決め手だと皮肉にも九校戦大会中に明らかになってしまった。そして、この事実は僕にとっても大きな収穫となった。今日からサイオン量の増大を目指そう!やり方は簡単。座禅を3時間くらいやればいい。サイオン量の増大は、下半身チャクラを活性化すれは良い、言い換えると下半身の骨を鍛え関節を開けば良いだけだ。(これは武術では偏り易く、精力絶倫になったりするので難しい。西洋魔術では悪魔的行為と忌み嫌う門派まである。)

 

よく考えれば、スポーツトレーニングの一つインナーマッスルトレーニングは、負荷を極端に減らしてトレーニングする。武術はさらに負荷を減らしてトレーニングする。座禅は無負荷でトレーニングしている。つまり、負荷が減るにつれて鍛える部位が内部になって行くだけだ。

 

話は変わるが、十文字さんは誰かに似てないか?

 

あ〜〜嵐隊員だ!

 

 

 



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九校戦編36

サブタイトル変更しました。


『ウルトラマン』は、日本の特撮テレビ番組(カラー)、および、その劇中に登場する巨大変身ヒーローの名前である。制作は円谷プロダクション。1966年(昭和41年)7月17日から1967年(昭和42年)4月9日の間にTBS系で毎週日曜日19:00-19:30に全39話が放送さた怪獣や宇宙人によって起こされる災害や超常現象の解決に当たる科学特捜隊と、それに協力するM78星雲光の国の宇宙警備隊員であるウルトラマンの活躍劇である。

 

アラシ(アラシ・ダイスケ/嵐大助)隊員

年齢26歳。科特隊きっての射撃の名手にして怪力の持ち主。スパイダーショットを筆頭に、イデの開発した銃器はほとんどアラシが使用する。熱血漢であり、斬り込み隊長的な役回りが多く、そのためにバルタン星人に体を乗っ取られる、ネロンガの電撃で気絶させられるなど、しばしば危険な目に遭う。一見すると明るい性格だが、場合によっては一人で責任を背負い込むなどナイーブな面もある。

 

ネットで、ウルトラマンや嵐隊員と検索をすればすぐにでも動画付きデータが発見できると思う。動画を見れば十文字さんとそっくりだ思われるだろう。余談だが、同じ役者が次のウルトラセブンにも出ている。さらに余談だが、『笑点』(お笑い番組)にも出ている。

 

そんなこんなで閉会式も終わり、皆様お待ちかねの後夜祭合同パーティーだ。少佐は、先に会場に来ていた。司波兄妹には、人だかりが出来ていた。込み入った話はできそうにない。

 

アレっ?一条くんはいるが、吉祥寺くんがいない。ダンスもまもなく始まるというのに。念のため、会場をもう一度見渡したがやはりいない。仕方なく、大した面識もない一条くんに話掛けた。

 

「えっと、ジョージはちょっと…」

一条くんが言葉尻を濁す。答えづらい話にギリギリの対応をしてくれた一条くんに感謝して、僕は彼を司波さんのところに連れて行った。

 

「司波さん!一条くんとは知り合いだったの?」

となんやかんや喋って一条くんが司波さんに話掛けられる様にした。一条くんは、視線を僕に送って小さく「サンキュ」と言った。

 

僕はすぐに吉祥寺くんに回線をつないだ。かなり待たされたが彼は応答した。彼は、落ち込んでいる。負けたのが応えたようだ。僕はとりあえず少し喋り彼が元気を取り戻すまで彼に喋らせた。彼が落ち着いたのを見計らってモノリスコードの話題を持ち出し今回の敗北は魔法力や技術力で劣っていたわけではなく三高の油断であると力説した。嘘だけど。

 

『それが勝者のメンタリティかな?選手でない君まで奢り高ぶらないんだね』

吉祥寺くんは、やっと気分が持ち直したようだ。僕は、その後少しCADの起動式を小さくするフィードフォワード制御について語った。彼は、すぐに会場に行くと言って回線を切った。ヤル気が回復したのだろう。続きは、少佐と存分に語り合ってくれたまえ!ジョージ。

 

僕は、すぐに会場に戻って司波くんと司波さんに話掛けようとした。出来るだけ二人になっている時が良い。『まるでトーラス・シルバー!まさかトーラス・シルバー‼︎きっとトーラス・シルバー!!!』の発表は、さすがは(司波さんの)お兄様ですと持ち上げまくって司波さんに承諾させ司波くんをも承諾させるしかない。

 

「お客様?今後は、スキャンダルでも追いかけておられるのですか〜?」

メイドのような格好をした千葉さんに因縁をつけられた。

 

「よくわかったね〜じつはパパラッチしているんだ!」

僕はカメラを構える格好をして千葉の下半身を激写するフリをしかけた。

 

「あんた!何してんの?」

 

「二高次期、エース候補の河村美波さんではありませんか?What’s up?」

 

「何英語で誤魔化してんの!次期、エース候補って何気に失礼なこと言ってるし。そんなことより、バイトの子になんでナンパしてんのよ!」

しっかり、拾ってくれた河村さん。さすが次期、エース候補。次回はエース候補ぐらいにはなれるよ。きっと。エースはビミョー。

 

千葉さんが、ニヤニヤしている。人の揉め事が好物な性悪女め。

 

「アルバイト?ここにおわすお方をどなたと心得る?新人戦モノリスコード優勝メンバー西城レオンハルトくんの恋人。千葉エリカ様である!」

と、明後日の方向に返してやった。しかも、千葉さんには思わぬ方向からの攻撃だ。

 

あ!千葉さん、逃げた。顔を真っ赤にして。

 

「寸劇は、もう、よろしいかしら?」

甲子園ギャル子さんが、悪ノリして「ハハー」と頭を下げようとしている河村さんに声を掛けた。お笑いなら、即エースだね。河村さん。

 

「ちょっとアンタ!この美人さんは誰?」

今後の河村さんは、本気で余裕を失っている。バッチリメイクのゴージャスギャル子さんには敵わないと感じたのだろう。と言うことは千葉さんなら張り合えるとでも思ったのだろうか?自己評価が高すぎて二高に入学したが凡庸だったのに?

 

ニャル子じゃなかったギャル子さんは、僕に会いたがっている人が奥の部屋にいると言った。彼女の心に映ったその人物は、僕が散々こき下ろした人物だ。でも、何食わぬ顔で会いに行くよ!

 

ドアの前で、「では、私はこれで」とギャル子さんが言い出しそうだったので腕を掴んで二人で部屋に入った。ソファーに九島さんが座っていた。二人で入室したので老人は、段取りが狂ったようだ。

 

「これは、これは九島閣下。お初にお目にかかります」(初ではないけどね。)

僕はうやうやしく言いながら、しかし、ど迫力で彼に近付いた。陽気を全身からこれ見よがしに発散させたのだ。霊感の全くない人でも後光が差しているように見えるはずだ。

 

彼は、ソファーから飛び上がった。僕は、直立不動になった九島さんに丁寧に両手で握手を求めた。彼は反射的に手を出した。握手をした。彼は、思わず、半歩下がった。(下がらせたんだけどね。)

 

『黄泉に行くのに、老いも若きもない』

僕は、彼にだけ聞こえるように囁いてすぐに退出した。ギャル子さんにお礼を言って会場に戻った。

 

司波くんと十文字さんが喋っている。声をかける機会をうかがっていると二人は外に出て行った。すぐに二人の後を追う。

 

気配を消して尾行するだけでは、二人にあるいは他の人にばれてしまう。僕は、念のため二人とは逆方向に向かい夜空を眺めていた。これで、二人を観ても大丈夫だ。

 

「司波、お前は十師族だな」

 

否定する司波くん。

 

そのあと、十文字さんが司波くんに七草さんを結婚相手に勧めた。なんじゃ、そりゃ?お遊びでも、十師族が負けるのはプライドが許さないらしい。

 

二人の話が終わるのを見計らって司波さんが、会場から出てきた。二人から離れて観たのは正解だった。

 

僕も、移動開始だ。おそらく、この後司波くんと司波さんが二人きりになる!

 

「お兄様?」

 

司波くんは、珍しくボーっと突っ立っていた。司波さんが少し心配する。合同ダンスパーティはそろそろ終わり、次は一高の祝賀会がある。司波くんは気乗りしないようだ。彼はぼやいているが妹と話している彼はリラックスしている。

 

「……ラストの曲が始まりましたね」

 

会場から流れてくる曲が変わった。

 

「お兄様、ラストのダンスは、わたしと踊っていただけませんか?」

 

彼女は透き通った笑みを浮かべて、優雅に一礼した。彼は彼女と一緒に急いで会場に戻ろうとする。

 

「演奏でしたら、ここでも聞こえます」

 

二人は息の掛かる距離まで身を寄せた。

 

彼は彼女の背中に手を回した。

 

二人の身体が触れ合った。彼は彼女の手を優しく包み込み、背中を深く抱き寄せ、ステップを踏み出す。

 

星空の下で、二人の身体がクルクル回る。

 

全てが回る世界の中で、彼と彼女は、二人だけ向き合っていた………

 

 

 二人が回る世界の未来が眼前に広がった。

 

「そういうことか!なら仕方ない」

僕は、ひとり呟いて『まるでトーラス・シルバー!まさかトーラス・シルバー‼きっとトーラス・シルバー!』を削除した。

 

 

             九校戦前夜・九校戦編 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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あとがき

少し唐突な終わり方をしたのは、黒澤明監督の「天国と地獄」*を真似てみたのと明日から忙しくなる為だ。黒澤明監督が、誘拐犯役の山崎努の芝居があまりに良かったので映画のラストをそのシーンに変更したとされるエピソードがあるのだ。

 

司波兄妹の美しいダンスを見ていると自然に僕の意識が変わってしまい彼等の未来が眼前に広がった。なので、無粋な真似はやめた。人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて…豆腐の角に頭を打って…あれ?どっちだったっけ。まぁ、どっちでもいいか。

 

実際はこの後に催された一高の祝賀パーティーが、盛り上がり過ぎて大変な事態になった。それを書いた方が良かったかも知れない。パーティーが終わった後も司波くんの修羅場は続いたようだ。僕もキッチリ千葉さんに仇を取られた。

 

少佐達は、参加してなかった。その理由もわかった。今回の仕事で支払われた報酬の額でだ。Hondaの二輪車が買える。彼女達は一高優勝にいったい幾ら賭けていたのだろうか?一高連覇の妨害行為を必死で排除するのも納得だ。ん?未成年が賭事をするのは違法だっけ?

 

 この物語はフィクションです。

 

この物語の舞台はこの世界とよく似た別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定されるすべてのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。

 

これで良し!

 

週明けから、夏休み特別編の開始です。乞うご期待。

 

 

皇紀2755年8月12日   

河原真知     

 

*『天国と地獄』(てんごくとじごく)は、1963年(昭和38年)に公開された日本映画である。監督は黒澤明。毎日映画コンクール・日本映画賞などを受賞した。

 

あらすじ

ある日、製靴会社『ナショナル・シューズ』社の常務・権藤金吾の元に、「子供を攫った」という男からの電話が入る。そこに息子の純が現れ、いたずらと思っていると住み込み運転手である青木の息子・進一がいない。誘拐犯は子供を間違えたのだが、そのまま身代金3000万円を権藤に要求する。

 

デパートの配送員に扮した刑事たちが到着する。妻や青木は身代金の支払いを権藤に懇願するが、権藤にはそれができない事情があった。権藤は密かに自社株を買占め、近く開かれる株主総会で経営の実権を手に入れようと計画を進めていた。翌日までに大阪へ5000万円送金しなければ必要としている株が揃わず、地位も財産も、すべて失うことになる。権藤は誘拐犯の要求を無視しようとするが、その逡巡を見透かした秘書に裏切られたため、一転、身代金を払うことを決意する。

 

権藤は3000万円を入れた鞄を持って、犯人が指定した特急こだまに乗り込む。が、同乗した刑事が見たところ車内に子供はいない。すると電話がかかり、犯人から「酒匂川の鉄橋が過ぎたところで、身代金が入ったカバンを窓から投げ落とせ」と指示される。特急の窓は開かないと刑事が驚くも、洗面所の窓が、犯人の指定した鞄の厚み7センチだけ開くのだった。権藤は指示に従い、その後進一は無事に解放されたものの、身代金は奪われ犯人も逃走してしまう。

 

戸倉警部率いる捜査陣は、進一の証言や目撃情報、電話の録音などを頼りに捜査を進め、進一が捕らわれていた犯人のアジトを見つけ出すが、そこにいた共犯と思しき男女はすでにヘロイン中毒で死亡していた。これを主犯による口封じと推理した戸倉は、新聞記者に協力を頼み共犯者の死を伏せ、身代金として番号を控えていた札が市場で見つかったという嘘の情報を流す。新聞記事を見た主犯は身代金受渡し用のかばんを焼却処分するが、カバンは燃やすと牡丹色の煙が発する仕掛けが施されており、捜査陣はそこから主犯が権藤邸の近所の下宿に住むインターンの竹内銀次郎という男であることを突き止める。

 

竹内の犯罪に憤る戸倉は、確実に死刑にするためにあえて竹内を泳がせる。竹内は横浜の麻薬中毒者の巣窟で、純度の高い麻薬使用によるショック死の効果を実験したのち、生きていると思った共犯者を殺しに来たところを逮捕される。

 

後日、竹内の死刑が確定。権藤は竹内の希望により面会する。最初こそ不敵な笑みを浮かべながら語る竹内だったが、権藤邸が天国、自分が地獄にいたという嫉妬を語ったのち、突然金網に掴みかかり、絶叫する。竹内は刑務官に取り押さえられ、2人の間にシャッターが下ろされる。

 

ラストシーン

物語のラストは「拘置所の地下から地上への通路で戸倉警部と権藤が会話を交わして別れる」というのが当初の予定だったが、誘拐犯の竹内が金網をつかんで泣き叫ぶシーンを黒澤が大いに気に入り、そちらに変更されたとされる。山崎は黒澤から「君の芝居が良かったから、そこでエンドマークにした」と聞かされ感激したという。ちなみに、照明に照らされ続けた金網は熱く、山崎は手を火傷している。また、このシーンで黒澤は、山崎の髪に刀の砥の粉をかけて髪をぱさつかせたという。竹内の反抗的な態度を髪にまで求めたのである。



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夏休み特別編1

風間大尉ではなく少佐でした。

月月火水木金ではなく月月火水木金金でした。


♪嫌じゃあ〜りませんか。軍隊は〜

 

軽妙小説がライトノベルと呼ばれていた時代から、夏休み特別編はいわゆる「水着回」*が定番である。作中の登場人物の中に北山さんのような大金持ちがいて、夏休みを利用して仲の良い友人達をプライベートビーチ付きの別荘に招待してくれたりして、読者のリビドーを直撃するピチピチ水着女子が登場して、ラッキースケベなイベントがあったり、一夏の恋物語が展開されたり…羨ましい限りである。フィクションだから、そんな現実的に有り得ない事も起きてしまえる。

 

だが、しかし!このブログ風私小説は、そのような創作は一切有りません。別に主人公である『僕』が誰かさんのように脳に魔法的細工を施されて情動が無くなっている為ではありません。

 

ただ、比較的若い頃に道を得た為に情動が起きにくくなっているだけだ。誤解してもらっては困るが、性欲がなかったり、全く怒らないわけではない。ただ、一人の女性を愛し続け(固執続け)たり、怒りで誰かを殺したり怪我をさせたりはしない(ただし、正当防衛はする)だけだ。

 

もっと、ぶっちゃけてしまうと「水着回」を描く元ネタになるムフフなイベントが起きないのが原因だ。世間では、それをモテないと簡単に表現する。私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!

 

♪金のお椀に竹の箸

 

*水着回とは、漫画やアニメ等において、登場人物が水着を着用する回の事である。

概要

水着回は、通常より肌の露出が多くなることが常であり、再生回数を稼ぐにはもってこいの回かもしれない。

サービスシーン的要素が強いので、ストーリー本筋との関連の薄い所で、もしくは特典映像で1話完結で終わる場合が多いが、話の都合で複数話に跨がることもある。当然、重要な伏線が隠されていたり、シリアスな展開になることもある。水着姿やおっぱいばかりに目を向けすぎて重要なシーンを流さないように。

昨今の1クールアニメの場合、だいたい8話前後に水着回が多いことが多い。何かお決まりでもあるのか?

お風呂回(温泉回)とセットになることもある。

パンツじゃないから恥ずかしくないもん!的なものはいくら登場人物が水着を着用していたとしても通常水着回とは言わない…のではないかと思う。

サムネが水着姿の動画ほぼ水着回だと思っていいだろう。

※ただし、サムネが水着装備の人物であっても、動画の内容はそうでない釣り動画も存在するので、そのような場合はブラウザの戻るボタンを押すといいかもしれない。そしてサムネだけ眺めて満足しましょう。

 

☝︎この解説は、解説者の心情を露呈し過ぎだと思う。特に後半は、何か嫌な経験でもしたのだろうか?

 

♪仏様ではあるまいに(僕は、広義での仏様なんだけど…)

 

さて、水着回はないがいい話はあった。九校戦の観戦記である『Gone in 50ms』『蘇る神童』『三人のビースト』は、大変評判が良かったと出版社から連絡があった。それだけではない。某有名出版社から、司波さんと司波くんの活躍を描くの条件に契約を持ちかけられた。しかし、断った。今秋起きるであろう有事の対応で司波兄妹と対立するのはまずいとわかったのと、新しい仕事を始めるかも知れないからだ。

 

今日は新しい仕事の面接だ。場所は、特定秘密保護法に引っかかるかも知れないので都内のどこかとだけ書いておこう。昔、大学受験予備校なるものが存在していた頃、その大手予備校医学部コースの分校があった辺りだ。

 

♪一膳飯とは情けなや〜(たまに部分断食をするのは身体に良いのだが。)

 

軍歌(?)を歌いながら移動していたのが意外に早く着いた。月月火水木金金♪

 

僕は、面接室らしき部屋に通された。面接官らしき女性が怪訝な顔をしている。誰かと思ったら藤林響子さんではありませんか!奇遇ですねー。その横には風間少佐アレレレ〜おかしいゾ⤴︎

 

魔法師とは無関係な技能予備陸軍兵の面接に来たはずなのだが。どうして国防陸軍第101旅団(こくぼうりくぐんだいいちまるいちりょだん)の皆様がおられるのでしょう?

 

しかし、何の間違いもないかのように面接らしきものが始まった。

 

藤林「河原さんは、会社員と職業欄に書いていますが国立魔法大学付属第一高校の生徒ですから正しくは学生ですね」

 

僕「いいえ、給与所得で生計を立てていますし、魔法科高校での活動にかかる一切の費用を経費として申告していますので会社員で合っていると思います。学業は趣味です」

 

風間「志望動機をもっと詳しく説明してくれたまえ」

 

僕「今年の10月30日に起きる横浜事変で我国が圧勝して大亜細亜連合に有利な条件で平和条約か休戦協定を締結させるのに尽力したい為です!」

 

一同「……」

 

はなから、採用されるとは考えてなかった。技能予備兵補の募集要綱に年齢を考慮するとあった。これは、高年齢でも資格保持者なら考慮すると意図しているのをわかった上でわざと曲解して未成年なのに応募したのだ。そこで、自分に明かされた未来を軍関係者に出来るだけ知らせることに成功すれば、軍もそれなりの対応をしてくれるだろう。10月30日横浜事変勃発ですぞ!

 

僕「我国が横浜事変で軍の主力を残したまま圧勝すれば、第三次世界大戦を名実共に良い形で終わらせます。しかも、すでに始まっている第四次世界大戦でも勝てる確率を高く出来ます!」

 

ここまで、言っておけばアタマが残念なヤツだと思われるだろう。横浜事変の日付を諜報関係の藤林少尉に伝えられたし今回はこれで充分だ。ちなみに、エントリーシートに簡単な論文を書かせるようになっていたのを利用して、短期間の魔法師育成法や特別な装置無しで下級魔法師の事象改変力を強化する方法や通常兵器の強化魔法師による使用によって破壊力の増加など誇大妄想丸出しの意見もたくさん書いて提出しておいた。これで、軍はよくも面接する気になったものだ。

 

これは、余談だが心に留めておいた方がいい。本物の未来予知はその事件の日時まではっきりとわかるのだ。解釈する人によって内容だけでなく日時まで変わってしまう代物は論外だし解釈が必要な時点で偽物なのだ。

 

さぁ、帰る支度でもするか。

 

風間「次に簡単な実技を行なってもらいたい」

 

えー?。まだ面接続けるの。しかも実技のテスト?

 

◇◇◇

 

柳連(やなぎ むらじ)と名乗った男性はかなりやり込んでいる躰つきだ。ただし格闘技。彼と模擬戦をして僕の実力を測るのだそうだ。僕がCADを持ってないと伝えると皆さんから呆れ返られた。ただ、柳さんはむしろ険しい表情になった。魔法師がCADを持ち歩かないのは、ただのバカか余程自信があるかと考えられるからだ。

 

急遽、魔法の模擬戦から体術の試合に変更された。

 

「はじめ!」

風間さんが開始を告げた。

 

僕は、柳さんに向かって歩いて行く。違和感を感じた彼は大きく後に飛び退いて距離を取った。僕は構わず歩き続ける。彼は、予備動作無しで遠間から前蹴りを放ってきた。しかも上半身のガードをしたまま。歩き続ける僕の身体に彼の足が触れた。彼はそこから足首を伸ばしてつま先まで僕の身体にのめり込ませるつもりだったのだろう。

 

結果から言うと、柳さんはその場に崩れ落ちた。藤林さんが血相を変えて飛んで来た。殺す気は無かったけど、内臓破裂を意図した攻撃を手加減するほど僕はお人好しではありませんので。泡を吹いたり、血を吐いたりしてないので柳さんの内臓はそんなに壊れてないはずだ。

 

「肺を中心に治してあげて下さい」

僕が指摘すると藤林さんは、魔法治療を始めた。現代魔法って便利だね。まもなく柳さんは普通に喋れるまで回復した。

 

「河原くん、今の技はなんなのか教えて欲しい」

顔色がまだ悪いのに、質問してきた。その向上心には頭が下がります。

 

「形意拳の劈拳です。ただし暗勁ですが」

 

「履歴書には、特技は太極拳とあったはずが」

 

「柳さんが、蹴りからの連続技を考えていたので太極拳は使いませんでした。ちなみに八卦掌も多少は使えます」

 

面接官を放置したまま武術談義は続いた。柳さんは、太極拳も習った経験があるそうだ。

 

「ところで、君は、『転』を出来るのかい?」

 

僕が『転』を知らないと答えると彼はどのような技術か説明してくれた。

 

「巷で聞く太極拳の化勁の事ですね」

 

「それだ!もし、差し支えなければ教えて欲しいのだが…」

 

「じゃあ、太極拳の下半身の使い方を説明しますね」

 

「お、教えてくれるのか?」

 

えっ!そんなに凄い事なの?僕が習った時は昔のプロ野球の選手が「フルチン打法」と名付けた技術に似たようなものだと先生は言ってたけど。確か国民栄誉賞を取った長嶋茂雄だった。



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夏休み特別編2

僕は、太極拳の腰股の使い方、特に動かし方を説明した。ギャラリーには聞こえないように柳さんの耳にだけ情報が入るように喋った。聞かれても何を言っているのか意味がわからないと思うが。

 

「ただし、これが使えるようになるまでそれなりの時間がかかりますよ」

 

「それは、覚悟している」

 

「それよりも、早く強くなる八卦掌を勧めます」

 

「八卦掌を教えてくれるのかい?」

 

「良い先生を紹介します」

 

柳さんは異常に喜んでいた。長岡京子さんを紹介するだけなんだけどね。それにしても八卦掌幻想は、本当に根強い。確かに八卦掌は、最初から丹を鍛えるから、練功を積めば比較的早く摩訶不思議な技を出せるようになる可能性が高い。でも、結局他の武術をやっても丹を鍛えないと手足が動く前に勝負を決してしまう段階に到達できない。

 

ちなみにこれが、長岡さんや僕が現代魔法を知らない時に魔法師を倒す事が出来た理由の一つだ。現代魔法の発動は速いとされ、特に魔法式を暗記して一瞬で呼び出して使える技術、所謂フラッシュキャストならば一瞬だとされているが、魔法を使用するのを意識した時点より後の時間をどんなに短くしても、魔法を使用するのを意識するまでの時間を短縮できなければ時間短縮に限界が生じる。「意識」は、すでに遅い。

 

さらに言うと「意」でも遅い。「意」よりも早くなければ絶対的な勝利は保証されない。

 

そんな高度なレベルでなくても、そこそこできる格闘家や武術家に魔法師は早さで勝てない。千葉さんの体術や西城くんの体力レベルで充分勝ててしまえるのだ。

 

「河原くん。君の配属先だが」

風間さんが会話に割り込んで来た。柳さんは、すぐに直立不動になった。アレッ?事態が予想外の方向に進んでいるような気がする。

 

「お家の方の許可も頂いているので、安心してくれたまえ。もちろん、本当の親御さんの方だよ」

 

♪嫌じゃあーりませんか、軍隊は〜

 

◇◇◇

 

予備兵の歌や訓練を予習したのは、無駄になった。万が一予備兵補になれれば、武力攻撃事態になればすぐに国民の模範になるようにさっさと逃げるつもりだった。国民の皆様と一緒に。その為の避難経路も予め調べておこうとも思っていた。

 

目指せ!伊丹 耀司(いたみ ようじ)!だったのに…どうして。どうしてこうなった?むーりだ。むーりだ。よし、退役しよう。まてよ…実家の許可を得ていると風間少佐が言ってた。実家が僕の従軍に賛成したのか…うーん。どこかに児童相談所はないものか?

 

などと悩んでいるフリをしていたが、心はワクワクしている。これは、面白い事になった。僕の未来予知で確定的なのは、仮想敵国がハイブリッド戦争を10月30日に仕掛けてくるのを我国が撃退することだ。なので、まだ、我国が圧勝しその後敵国に屈辱的な平和条約を押し付けられるかはわからない。練度や装備や個人技や組織力のどれを取っても我国の方が大亜連合より上である。不安要素は、物量とソーサリーブースターとアンティナイトだ。大亜が違法物資の投入で戦力補強をすれば、我国の圧勝が危うくなる。こちらも違法物資を使えば良いのだが、まあしないだろうなぁ。

 

僕の実家も、我国の圧勝に不安を観たのだろう。実家には、凄いのがいるから。

 

さて、お国の為に頑張ると決意したついでに一つ書いておこう。

 

柳さんと魔法なしの試合をこなした後に、藤林さんが納得行かない顔になった。僕は、気を利かして「では次は魔法ありでやってみます?」と彼女に言ったらすぐに「やりましょう」となった。柳さんは止めようとしたが、風間さんは許可した。

 

僕は、彼女から10メートル以上距離を置いた。彼女が得意魔法を使いやすく、体術では一瞬で移動しづらい距離だ。

 

「はじめ!」

風間さんの合図があった途端に、閃光と爆発音がして藤林さんがその場にうずくまった。僕はトドメを刺しに行かなかった。

 

「今のは、遠当てなのか?」

柳さんが、驚いている。

 

「いいえ、光学系魔法『ほのか』と振動系魔法『たつや』です」

 

「フラッシュキャストで発動したのか?」

 

「はい、大体そうですが魔法式は本物より簡略化してます」

 

「『フラッシュキャスト』は、記憶領域に起動式をイメージ記憶として刻み付け、記憶領域から起動式を読み出し、起動式の展開、読み込み時間を省略する技術である」とされている。

 

特に司波くんの場合は、記憶領域に魔法式をイメージ記憶として蓄えることで魔法式構築の時間すら省略している。しかし、つまり、すごく脳に負荷がかかる。そこで、僕はフラッシュキャストを実行している魔法師の心と身体を立体的に記憶して必要に応じて呼び出した。

 

「そんな事が可能なのか?!」

 

「『黙念師容』を現代魔法に応用しただけです。名人に技を何回もかけてもらっていると何故だかその技ができる様になるのと同じ理屈です」

 

僕がここまで言って、藤林さんと柳さんは気が付いた。僕がどんな魔法でも、何回か見る機会があればそれをコピーできると。(ただし、コードが比較的短い魔法に限る。今のところ。)

 

このエピソードは、僕がプライドの高い女性のプライドをズタズタにするのが好きな奇特な性格であると公言する為に書いたのではない。魔法をコピーできる人物を国防陸軍第101旅団に入隊させ、メンバーにそれとなく伝えた風間少佐の意図を汲み取って欲しいが為だ。

 

 国防陸軍第101旅団は、元々十師族を頂点とする民間の魔法戦力に対抗する戦力の確立の為に設立された。国防軍がPMC*に勝てないならその国は国家とは言えないからだ。四葉から司波くんをスカウトしたのも、仮に国軍が十師族と対立した際に魔法戦力で劣らないのを確実にするためだ。そこに、魔法をコピーできるかも知れない人物を加えてとなれば、魔法戦力で十師族に勝る可能性が出てくるのだ。

 

 司波くんは、起動中の起動式と展開中の魔法式を読み取れるから、魔法をコピーするだけなら彼だけで充分なはずだ。しかし、コピーした起動式を他人が使って魔法を発動しようとしても、おそらく事象改変が生じないか生じてもあまりにも遅くて実用レベルに達しないのだろう。

戦略級やA級魔法師の魔法式は、戦略級やA級魔法師にしか使いこなせないのだ。

 

◇◇◇

 

柳さんが気にしてた『転』の説明をネットで拾ってきた。もしかして、それは『転(てん)』?と質問されたが、どう違うのかはわからない。柳さんはもろぼし(まろぼし?)とてんを明確に区別されていた。

 

>柳生新陰流の、蘊奥(うんおう)に、”転(まろばし)”という極意がある。それは、刀法でもあり、又、心の技法、タントラでもある。

 転(まろばし)は、剣法として、敵と対峙したり、その折、”陽だまりの猫”の如く、安らかな心を保ち、敵の動きや状況に応じ、自在に変化、転化、対応することを大事とした。したがって、形や外見にとらわれず、昔風に言うと、常形を持たず、構えもない。

 

「転(まろばし)」とは、”己を、平らな盤の上に置いた丸い玉と見立て、自在に転がり、自在に転がす事”と言う技法のことである。盤が大きすぎても、修行にならないし、さりとて、小さすぎても、現実離れしてしまう。自分の存在を見極めて、それに応じたサイズにするのがよい。しかも、盤から玉が落ちないようにするには、それなりの技もコツもいる。集中力もバランス感覚も、育ってくる。昔の、剣術、忍術といった、戦いの技法の多くは、猫から学ぶところ、少なからずのようである。

 

☝この様な説明では、柳さんが天才でも修得は不可能だろう。僕にもサッパリだ。

 

昭和時代のプロ野球のスーパースターだった長島茂雄選手のフルチン打法の概要も見つけた。フリチン打法だった。

 

>「・・ペニスの先が円を描くことなく、そのまま投手にむかって突き刺さるように伸びることである・・最後にペニスの先が左内股を鋭く叩く。それも「パシッ」という、短く乾いた音をさせなければならない・・」長島は自分のみならずチンコをみてやるといって同室の若手選手にフリチン打撃をさせていたらしい。天才のやることって・・。

 

☝︎これは、多少わかりやすくなっているがやはりこれだけでは無理だ。そこで、長島茂雄の実際にスイングしている動画を探して観察した。(もちろん、彼はユニフォームを着用しておりフルチンではない。)

 

本当に太極拳の腰股の使い方と同じだった!これには、「来たかチョーさん待ってたドン!」と驚いた。

 

*PMC

民間軍事会社(みんかんぐんじがいしゃ)とは、直接戦闘、要人警護や施設、車列などの警備、軍事教育、兵站などの軍事的サービスを行う企業であり、新しい形態の傭兵組織である。

 

PMC(private military company または private military contractor)、PMF(private military firm)、PSC(private security company または private security contractor)などと様々な略称で呼ばれるが、2008年9月17日にスイス・モントルーで採択されたモントルー文書で規定されたPMSC(private military and security company、複数形はPMSCs) が公的な略称である。

 

概要

 

1980年代末期から1990年代にかけて誕生し、2000年代の「対テロ戦争」で急成長した。国家を顧客とし、人員を派遣、正規軍の業務を代行したり、支援したりする企業であることから、新手の軍需産業と定義されつつある。

 

 



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夏休み特別篇3

思わぬ事態となった為、夏休みの後半は忙しくなった。某研究所で通常兵器と魔法を組み合わせて最新兵器(主に米国製を想定している)と同じかそれ以上の性能を発揮させようとする試みに協力する事になったからだ。その詳細は、大人の事情により後で書く。

 

今回は、学生らしく部活のメンバーと夏休み中に部活動をした時の話だ。というか、部員と一緒に練習しただけの話だ。

 

「みんな、少し日焼けしているけど海水浴でもしたの?」

ちょっと羨ましいぞ。

 

「師匠も焼けているよ。九校戦はどうだった?」

長岡さんは、身体から熱や光でも発しているのかと思うくらい陽気が一杯だった。どんだけ練習していたんだ?

 

ネット中継で九校戦のライブもダイジェストも配信していたので部員は一高の三連覇と新人戦一高優勝を知っている。もっと詳しいことを知りたいのだ。特に大活躍だった司波兄妹は、司波くんが同じクラスというのもあって興味深々だった。

 

僕は、モノリスコードで優勝した三人の活躍を部員に話した。『三人のビースト』で書いた内容を話したのだ。意外な事に司波くんが一条くんを倒した指パッチンをみんな出来なかった。指の摩擦音ではなく指の打突音だと知らなかったからだ。余談だが、バイオニック・ジェミーを誰も知らなかった。

 

司波くんチームが数的優位を作り出すチーム戦術と個の力を十分に発揮できる根性を持っていたのと一条くんチームは二枚看板以外は存在が消えていた程度のチームワークしかなかったのと個人の諦めが早すぎ、状況判断が悪すぎが勝敗を分けたとクドクドと説明した。意外に涼野さんが熱心に聞いていた。

 

今度は、僕が部員に何かあったか尋ねてみた。

 

白石くんが、森崎くんが女の子を怪しい連中から救ったそうだと言った。「森崎くん、凄い〜!」と部員一同感心した。「怪我さえなかったら、モノリスコードで優勝出来たかもね」と朝田さんが言った。良かったね!森崎くん。でも、僕が一番気になったのは、どこでその話を聞いてきたんだよ!白石くん。

 

みんなの話題が尽きて来た時に、長岡さんから質問された。

「神に祈って力を得る方法は、他にどんな練習をすれば良いの?」

直球ですね。どんだけ強くなるつもりですか?長岡さん。生ける神になり切るまで強くなって下さい。

 

そこで、僕は神を信じるとか祈るとかを主軸に神化した人物の話を紹介した。

 

マタイによる福音書からだ。

 

夫ヨセフは正しい人であったので、マリアのことを表ざたにするのを望まず、ひそかに縁を切ろうと決心した。このように考えていると、主の天使が夢に現れて言った。「ダビデの子ヨセフ恐れず妻マリアを迎え入れなさい。マリアの胎の子は聖霊によって宿ったのである。マリアは男の子を産む。その子をイエスと名付けなさい。この子は自分の民を罪から救うからである。」ヨセフは眠りから覚めると、主の天使が命じたとおり、妻を迎え入れ、男の子が生まれるまでマリアと関係することはなかった。そして、その子をイエスと名付けた。

 

 ☝マリアさんが結婚前に不適切な関係を婚約者以外の男性と持ち、その男の子供を身籠ってしまった。ただヨセフ父さんは、穏便に済まそうとしたらしい。いい人だぁ。

 

主の天使が夢でヨセフに現れて言った。「起きて、子供とその母親を連れて、エジプトに逃げ、わたしが告げるまで、そこにとどまっていなさい。ヘロデが、この子を探し出して殺そうとしている 」ヨセフは起きて 、夜のうちに幼子とその母を連れてエジプトへ去り、ヘロデが死ぬまでそこにいた 。

 

☝夢を根拠にして住まいも仕事場も変わるとは・・・・凄いと言うよりも呆れる。

 

主の天使がエジプトにいるヨセフに夢で現れて、言った。「起きて、子供とその母親を連れ、イスラエルの地に行きなさい。この子の命をねらっていた者どもは、死んでしまった」そこで、ヨセフは起きて、幼子とその母を連れて、イスラエルの地へ帰って来た。

 

夢でお告げがあったので、ガリラヤ地方に引きこもり、ナザレという町に行って住んだ。

 

☝引っ越し貧乏にならなかったのだろうかともはや心配するレベルだ。

 

「要は、神からのお告げ通りに行動するだけだよ!」

どうや!めっちゃ簡単やろ!

 

「「「えーーッ」」」

部員達に、そもそも『神のお告げ』がないとブーイングされた。何故か長岡さんはブーイングしなかった。さては、あったな。『神のお告げ』

 

「これには仕掛けがあって、神のお告げを実行出来そうな人物に神のお告げがあるようになっているんだ」

 

部員が、きょとんとした。理解ができなかったようだ。

 

「実行できない人に神のお告げは来ないから大丈夫。つまり、その人に実行可能なお告げしか来ないのだよ」

 

ヨセフ父さんに話を戻す。無事息子が成長したら、一体誰に似たのか?とんでもない男の子だった!

 

トマスによるイエスの幼児物語

 

 さて、ザッカイという名の教師が何かの折にそこに居合わせ、イエスがこんなことを父親に言っているのを聞いて、子供なのにそんな口をきくので大変驚いた。

 それで数日後ヨセフに近寄って言った。「あなたは賢い子を持っている。知性があります。さあ字を習わせにこの子をわたしのところに寄越しなさい。そうすればわたしが字と一緒にあらゆる知識を授け、またすべての年寄りに挨拶し、その人たちを先祖や父親のごとく敬い、また同年輩の者をも愛することを教えましょう」

 そしてすべての文字をアルファからオメガまで正確に吟味しながらはっきりと言ってみせた。しかしイエスは教師ザッカイをみつめて言った。「あなたはアルファの本性をも知らないのに、どうしてほかの者にベーターを教えるのですか。偽善者よ、もし知っているならまず第一にアルファを教えなさい。そうすればベーターについてもあなたを信じましょう」それから教師に最初の文字について質問を始めたが、教師は彼に答えることが出来なかった。

 それから沢山の人が聞いている前でザッカイに言った。「先生、第一の文字の構成秩序について聞きなさい。そして次の点に注意なさい。斜めの線と真中の線があるが、それはごらんのように一緒になる線を横切っていて、一点に集まり、上にあがり、輪舞してまた分岐する。アルファは三部の同種の同じ長さの線を持っている」

 

☝教師もただの人なんだから、ガキに人前でぼろくそに言われたらプライドはズタズタになったと思うのだが・・・・

 

 彼の父は大工で、そのころは鋤や軛を作っていた。ある金持から彼に寝台を作るよう注文があった。しかし一枚の板がその反対側の板より短くて、ヨセフが何をしたらいいかわからないでいると、少年イエスがその父親ヨセフに言った。「二枚の木を下に置いてまん中からみて一方を同じにあわせて下さい」

 それでヨセフは少年が言う通りにした。するとイエスはほかの端に立ち、短い方の木を掴み、それを引き伸ばし、他方と同じ長さにした。その父ヨセフはこれを見て驚き、子供を抱いて口づけして言った。「わたしは幸いだ、神様がこんな子をわたしに下さったのだから」

 

☝今でこそ「私の息子は将来、一流魔法師になれるかも知れん!」と喜ぶ親父もいるだろうが、普通はブルっちまうだろう。

 

 さて彼が一二歳だった時、両親は慣習に従って、巡礼の人々と一緒に過越の祭りにエルサレムへ行った。そして過越の祭りの後、家に向かって帰途についた。するとその途上で少年イエスはエルサレムに上って行った。それでも両親はイエスが巡礼の人々の中にいると思っていた。

 彼らは一日の道中をしてから、親戚の間でイエスを探したが見つからないので、悲しんで、探しながらもう一度町に戻った。そして三日目に、彼が神殿で教師たちの間に座って耳を傾けたり質問したりしているのを見出した。みなが注意を向けて、どうして子供でありながら律法の要点や予言者たちの比喩を解釈し、長老たちや民の教師たちの口をつぐませたりできるのか驚いていた。

 そこで母マリアが近寄って言った。「どうしてわたしたちにこんなことをしたのですか。子よ、ごらんなさい、心配してあなたを探していたのですよ」そこでイエスは言った。「何故わたしを探すのですか。わたしが必ず父のところにいることがわからないのですか」

 それで律法学者とパリサイ人たちは言った。「あなたはこの少年の母ですか」彼女が、「わたしがそうです」と言うと、彼女に言った。「あなたは女の中で幸せな方。神があなたの胎の実を祝福されたのです。本当にこのような尊厳と徳と知恵とをいまだかつて見たことも聞いたこともありません」

 そしてイエスは立って母に従って行き、その両親に服従していた。しかし母親はすべての出来事を心にとめておいた。そしてイエスには知恵も年齢も恵みも増していった。世々に彼に栄光あれかし。アーメン。

 

☝元ビッチのマリア母さんが常識的な母親になっている。今でこそ「うちの息子は、天才よ!飛び級させて末は博士か大臣よ」と喜ぶ教育熱心な親ばかママもいるが。

 

「少年イエスは、頭はとびきり良いのかも知れないが、かなりの問題児だったようだよ。ヨセフ父さんは器がでかかったね」

 

ここで、一同爆笑!のはず。しかし、何故か部員が僕を真顔で見つめている。

 

「師匠、もしかしてイエスと同じような事をしてご両親に迷惑掛けてない?」

 

「いやいや、涼野さん。こんな大それたこと僕は……」

 

やばい。墓穴をほった。良く考えたら僕も随分と今までやらかして来た。でもでもでも、☟ここまでは、ひどくないからね。

 

再びトマスによるイエスの幼児物語のまとめ

 

 5歳のイエスが、河原で泥をこねて12の雀を作りながら遊んでいると、父ヨセフから安息日には物を創ってはならないと注意され、イエスが手を拍って雀に「行ってしまえ」と叫ぶと、雀は羽をひろげて鳴きながら飛んでいった。

 

イエスの噂を聞いた律法学者アンナスの息子がやってきて、イエスがせき止めておいた水を流してしまう。イエスは怒り、「愚かなる者よ。この穴と水がお前に何の不正をなしたというのか。見よ、今やお前は木のように枯れる」と言うと、アンナスは本当に枯れてしまった。イエスが走ってきた子供と肩がぶつかると、イエスは怒り「お前はもう道を歩けない」と言うと、その子は本当に死んでしまう。枯れた子供と死んだ子供の両親はヨセフに抗議を申し立てる。父ヨセフは「どうしてあんなことをするんだ。あの人達も困るし、それに私達を憎んで迫害しているぞ」と叱ると、イエスは「こうしたお言葉が貴方のものでない事は解っています。でも貴方のために黙っていましょう。しかしあの人達は罰を受けるのです」と返事をすると、苦情を言い立てた人は全員盲目になってしまう。さすがにヨセフは怒り、イエスの耳を引張り叱るが、イエスは「貴方は物を探しても見つけないのが良いのです。貴方は本当に賢からぬ振る舞いをした。私が貴方のものだという事が解らないのですか。私を悲しませないで下さい」と父をなじった。

 

ザッカイという教師がその様子を見てヨセフに、イエスの教育を自分に任せるように言う。教師はイエスに、アルファからオメガまでの文字を教え始めるが、イエスから「あなたはアルファの本性も知らないくせに、どうして他の者にベータを教えるのです。偽善者よ、先ず知っているものなら、アルファを教えなさい。そうしたら、ベータについてもあなたを信用しましょう」と言う。教師は答えられない。そこでイエスは、「先生、第一の文字(A)の構成を聞きなさい。まず次の事に注意しなさい。この字は(二本の)直線と一本の中間線を持ち、これはご覧の通り(ふたつの)一緒になる直線を渡っている。そして(ふたつの)直線は一点に集り、上にあがり、輪舞し、ぐるりとまわって来る。Aという字は三部分の、同種の、同じ長さの直線を持っているのです」と難解で意味不明な事を言って煙に巻くので、教師は嘆き悲しむ。周囲の人が教師を慰めていると、イエスは大笑いしながら「今度はお前の方が実を結び、心の盲人なら見えるようになるべきだ。私は上から来たもの、それはお前達のために私を遣した方が私に命ずる通りに、人を呪っては天へと呼ぶためなのだ」と言うと、これまでイエスが呪って死なせたりした人達が復活してしまう。そのため、それ以降、少年イエスを怒らせる人はいなくなってしまった。

 

数日後、イエスは屋根の上の露台で友人と遊んでいると、一人が屋根から落ちて死んだ。他の子供は逃げてしまうが、死んだ子の親がやってきて、イエスにお前が突き落としたんだろと怒る。親があまりしつこく言うので、イエスは死んだ子の傍ら立ち「おいゼーノン、起きて言っておくれ、僕が君を突き落としたのかい」と呼びかけると、倒れていた子供が起き上がった。生き返った子供は「いいえ、主よ、あなたは突き落としたのではなく、生き返らせたのです」と答えたので、両親は感謝してイエスを拝んだ。また数日後、木を切っていた若者が誤って自分の足を切り、出血多量で死んでしまう。人だかりの中からイエスが現われ、若者の足をつかむと治ってしまう。「すぐ起き上がるんだよ。木を割ったら僕の事を思い出してね」と恩きせがましい事を言うが、周囲の人達はイエスを拝んで、「まことに神の霊がこの子の中に住んでいる」と話しあった。

 

ある時、イエスは母親に言われて、水瓶を持って水汲みに行った。しかし、途中で落として水瓶を割ってしまった。するとイエスは、着ていた上衣を拡げ、それに水を満たして、母親の処に運んで来た。

 

8歳になったイエスは、親と一緒に種蒔きに行った。イエスが蒔いた種は一粒だったが、刈り入れて脱穀すると、何と100コル(約四万リットル)の麦がとれたのだ。

 

大工である父の処に、寝台を作ってくれという注文が入った。ところが、一枚の板がそれと組み合わせる板より短く、ヨセフがどうしたものかと困っていると、イエスが「二枚の木を下に置いて、真ん中からみて片方の端を合わせるのです」と言う。ヨセフが言われた通りやってみると、当然片方の端が合わない。するとイエスが板引っ張ると、板が伸びて長さが同じになった。

 

父ヨセフは、息子イエスが賢くなってきてはいるが、まだ文字を知らない事から、やはり教師に付けた方が良いと思って、教師の処へ連れて行った。教師は、まずギリシア文字を、その後ヘブライ文字を教えましょうと言った。それは、その教師が少年の知識の程を知っていて怖れたから。いろいろ教えてみるが、イエスは「貴方が本当に先生で、良く文字を知っておいでなら、私にアルファの力を言ってごらんなさい。そしたら私はベータの力を申しましょう」と言う。教師は怒ってイエスの頭を叩く。するとイエスはは痛かったので、教師を呪った。すると先生は、たちまち気を失って倒れ、頭を地面にぶつけてしまった。イエスは家に帰った。ヨセフは妻マリアに、息子のイエスを外へ出すと、すぐ人を殺してしまうから外へ出すなと言った。

 

別の教師が、自分ならばうまく教えられるだろうと言う。そこでヨセフは「兄弟よ、もし勇気がおありなら、この子を連れていって下さい」と言ってイエスと教師を送り出した。教室に入ったイエスは、前に立って語り出した。口を開いて、聖霊によって語り、周りに立って聞いている人達に、律法を教え始めた。大勢の人が集まって来て、傍に立って聞いていたが、その教えの美しさと言葉の巧みさとに驚いてしまった。家で待っていたヨセフだったが、心配になって学校に来てみると、誰も死んでいない。しかも、教師はイエスの事を褒めてくれる。その様子を見ていたイエスは、「貴方は正しく語り、また正しく証言したから、貴方のためにあの打たれた教師も癒やされるのです」と言うと、以前に死んだ教師も生き返った。

 

ヨセフは息子ヤコブに、木を束にして家に運ぶよう命じた。ヤコブは途中で蝮(マムシ)に噛まれてしまう。もう駄目だと思った時にイエスが現れ、ヤコブの傷口に息を吹きかけると治ってしまう。蝮も体が裂けて死んでしまった。

 

以降も奇跡の話が続く。近所の死んだ赤子を生き返らせ「この子を起こして乳をやり、僕を憶えて下さい」と言ったり、建築現場で死んだ人を生き返らせたり・・・

 

この話はみんなには黙っておこう。

 

 

 



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夏休み特別篇4

歌詞は、著作権が切れてないものはもちろん、替歌でもダメだそうですので、削除致しました。


今回は、軍の演習について少し書いておこう。当初は予備兵補の公募にエントリーしていたのだから年齢53歳未満で要求される国家資格と経験年齢を満たして論文と面接と適性検査と健康診断で入隊できるはずだった。ちなみに僕の技能は、経験年齢が要らない特権的な国家資格だ。

 

テロリスト達がナカトミビルを占拠した時にFBIが電気工事士を脅してビルの電源を落とさせたシーンがにあったが、僕の資格があれば合法的に電源を落とせるのだ。かかってこんかい!反日テロリストども!停電で小便ちびらせてやる。

 

予備兵ならば、以下☟の事態が発生した時だけ頑張れば良い。あとは、訓練だけだ。訓練参加で日額8000円程度、毎月4000円程度もらえる。ラッキー!もちろん、最初の訓練を潜り抜いて本採用を勝ち取らなければならないが。

 

5 防衛招集等☜

予備兵士は、防衛招集命令、国民保護等招集命令及び災害招集命令により招集され、出頭した日をもって兵士となります。

(1) 防衛招集

防衛出動命令が発せられた場合又は事態が緊迫し、防衛出動命令が発せられることが予測される場合において、必要と認めるときには内閣総理大臣の承認を得て、防衛大臣から予備兵士に対し防衛招集命令が発せられます。

(2) 国民保護等招集

国民の保護のための措置又は緊急対処保護措置(いずれも治安の維持に係るものを除く。)のため必要があると認めるときには、内閣総理大臣の承認を得て、防衛大臣から予備兵士に対し国民保護等招集命令が発せられます。

(3) 災害招集

災害が発生し、特に必要があると認める場合は、内閣総理大臣の承認を得て防衛大臣から予備兵士に対し災害招集命令が発せられます。

 

ところが!魔法師として正規軍に採用された為に僕は某施設に顔を出している。魔法師も軍に採用される時は技能兵と同じで年齢制限が大きく緩和されるらしい。面接の時にもおられた白衣を着ている女性が僕の上官だ。名前は、特定秘密保護法に違反しそうなのでここでは書けない。しかし、それでは不便なので「目の下クマ子」と命名しておく。とはいえ、彼女は僕を「奥間狸吉」と呼んだりはしない。

 

「師匠くん。これ使えるようにしておいて」

なぜか、クマ子さんは僕を河原くんと呼ばない。どこで僕のニックネーム「師匠」を知ったのか?学校の情報が漏れているのが丸わかりなるから、河原と呼んだほうが個人的に良いと思う。

 

手渡されたのは、小銃と機関銃とバズーカだ。訓練をしていないだけでなく二人しかいないのに随分と豪華だ。国軍が自衛隊と呼ばれている時代は機関銃は小隊に一丁、バズーカは中隊に一丁だけ装備されていただけなのに今は予算が潤沢になった為か?

 

「主任。(クマ子さんは、こう呼んで欲しいそうだ。少尉と呼ばれるのは嫌なのか?)取説と動画のチェックし終えました!」

 

「師匠くん、早いね〜。これから撃ちに行く?」

バナナをもぎゅもぎゅとほうばりながら彼女は、テキトーな返答をよこした。

 

「主任!一つ質問よろしいでしょうか?」

 

「何〜?」

 

「こちらの装備は、どれも年代物のように見受けられるのですが、何か理由があるのでしょうか?」

 

「うん、あるよ」

 

彼女は、僕を作業場に案内してくれた。旋盤?ボール盤?プレス機?どれも資料でしか見れない骨董品だ。もちろん最新の工作機械もあった。

 

「ただでもらった武器をここで改造するの。無料だから自由に遊べるよ〜」

彼女は、にへらと微笑んだ。遊んでるのかよ(⌒-⌒; )と突っ込むのは止めておいた。廃棄処分されるものでまだ使えそうなものを譲ってもらってるからこんなに装備が充実していると一方で納得できた。

 

「主任。あれはF35ですか?」

 

「よく知ってるねぇ」

 

あんな物一体どうするつもりなのか?

 

「私、ヒコーキの運転もできるの〜」

 

これには、驚かされたし彼女を見直した。ただ、戦闘機の操縦と言って欲しかった。

 

「実は、優秀な魔工師なの〜」

へへへと照れ笑いしながら、彼女は自画自賛した。F35と僕が指摘したので嬉しくてテンションが上がったのだろう。ただ、米軍機を改造するのは米国が許可していなかったような気がする。

 

それにしても、この研究所(単なる作業場?)で彼女は何をしているのだろうか?改造しても旧式では限界がある。それと僕の任務を今だに教えてもらってない。

 

「魔改造してるの。師匠くんも手伝ってね」

 

「はい?!」

 

◇◇◇

 

夏休みはもうすぐ終わる。夏休み中は、修行と訓練で忙しくなってしまい部活動はほとんどできなかった。明後日から新学期が始まるので今日は部員の希望に沿って遊びに街に繰り出した。コンサート、映画観賞、カラオケ、海岸で夕日を見る(←誰だこれを希望したのは?)とタイトなスケジュールとなっている。

 

コンサートは、バーチャルアイドルの初音ミクが歌うので午前中、しかも少数の客の為にでも催してくれる。僕はこのことを知らなかった。ついでに、白状すると流行りの曲もほとんど知らない。白石くんは、本当に良く知っているね。感心したよ。オタ芸までできるとは!

 

バーチャルアイドルなんてメガゾーン23*の中だけだと思ってしたが、これなら「ミクは俺の嫁」と本気で言う輩がいてもおかしくないくらいリアルだった………変な使い方をしていないかあとで白石くんに尋ねてみよう。

 

映画は、ラブロマンス要素ありのアクションミステリーだ。世界公開作品だが、日本版は日本アゲにしている。ただ、あまりにローカライズ(つまり日本アゲ)すると鼻につくので程々にした方が良い。全般的に良い作品だった。ディズニー作品なので心配したが、シアターで観賞する価値はある。ただ、一番意外だったのは、涼野さんが大衆娯楽作品が好きで三代目トム・クルーズのファンだったことだ。しかし、三代目千葉真一には興味がないそうだ。

 

 さて、カラオケだ。これは僕と朝田さんが希望した。最近は、流行歌を歌うのに加えて、珍しい歌を歌えるか、歌いづらい歌を歌えるかを競うのがカラオケの主流になっている。

 

 

涼野「何これ?」

 

 

白石「農耕士コンバインって?」

 

 

朝田「秋田大学は、こんなものを作っていたの?」

 

 

長岡「才能の無駄使い」

 

 

涼野「『聖戦士ダンバイン』*のオープニングだったのね」

 

 

 

「「「エンディングもあるの!!!」」

 

まあ、やりすぎると感心を通り越して呆れ返られる良い見本となった。今度は名誉挽回だ!

 

朝田「えっ!これもしかして」

 

 

涼野「裏声じゃない!カウンターテナー?」

 

 

長岡「昔の映画で使われてた。めら?よしかず?」

 

 

白石「値段が高いと男娼を殴った人だよ。姉さん」

 

 

「「「師匠、もしかして…」」」

 

「なんでやねん‼振動系魔法で声を高くしているだけや!」

 

                          夏休み特別篇 終

 

 

『ダイ・ハード』(原題:Die Hard)は、1988年のアメリカのアクション映画。ロデリック・ソープの小説 Nothing Lasts Forever (1979年、邦題は『ダイ・ハード』)を原作としている。監督はジョン・マクティアナンで脚本はスティーヴン・E・デ・スーザとジェブ・スチュアート。アメリカでは1988年7月15日、日本では1989年2月4日に公開。

 

『メガゾーン23』(メガゾーンツースリー、MEGAZONE 23)は、1985年3月9日に発売された日本のOVA作品。製作は株式会社あいどる(小野寺脩一)ビクター音楽産業。以下、ビクター音産)。アニメ制作はアートランド・アートミック。略称「MZ23」。

 

 

『聖戦士ダンバイン』(せいせんしダンバイン)は、1983年(昭和58年)2月5日から1984年(昭和59年)1月21日まで、名古屋テレビを制作局として、テレビ朝日系列で、毎週土曜日17:30 ‐18:00(JST)に全49話が放映された日本サンライズ制作のロボットアニメである。

 

☝ただし、これらを鑑賞する時は、注意が必要。公権力に反抗的批判的なのがカッコイイと思えるように作品が作られているからだ。

 

 

 



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夏休み特別編+1

色々あった夏休みも終わった。久しぶりに教室に入ってみると人だかりが出来ていた。『3人のビースト』こと司波・吉田・西城トリオが学生に囲まれていた。Eクラスではない学生まで(特に女子!)集まって来ている。僕は、司波くんに夏休みの終わりに街で半グレをブチのめしていたか尋ねるつもりだったが、この人だかりだ。後にしよう。

 

「師匠。久しぶりだな」

司波くんから、声をかけて来た。取り巻き女子達が僕に視線を移す。が、彼女達はすぐに僕に興味を無くす。僕は、簡単に朝の挨拶してそのまま通り過ぎようとした。

 

「師匠。模擬戦を申し込まれているが、モブ男に何かしたのか?」

司波くんは、表情を変えずに言った。

 

なな何ですと———?!

 

ちなみに「モブ男くん」とは本人のプライバシー保護を目的とした仮名だ。決して本名ではないので要注意だ。

 

◇◇◇

 

「師匠、原因は多分これですぜ」

白石くんは、イケメンに似合わない三下的なセリフを言った。芝居掛かっているがあまり上手だとは思えない。

 

彼は、スクリーンを開いて見せてくれた。一年生の「格付け」だった。もちろん、非公式だ。白石くんが読み上げてくれる。

 

「一位 司波達也 その魔工技術はトーラス・シルバーを彷彿させる。身のこなしはすでにプロ級!(何のプロかは敢えて言及しない)戦略・戦術においても…」

 

「ベタ褒めだね。さすがは『みんなのお兄様』といったところかな」

と僕が言うと、白石くんが僕の方をチラ見した。何か気になることでもあるのだろうか?

 

「師匠。司波の紹介の最後は『さすがはみんなのお兄様!』ですぜ」

 

へ〜、そうなんだ〜。で、二位は誰?

 

「二位 吉田幹比彦 冴え渡る古式魔法…」

 

「もしかして最後に『まさに蘇る神童!』と書いてある?」

 

白石くんは頷いた。

 

「三位の西城くんは『インテリジェント・モンスター』?」

 

再び頷く白石くん。

 

「それは、僕が書いた煽り文句だ」

 

「「「やっぱり〜」」」

どさくさ紛れに千葉さんも一緒に頭を抱えている。こいつは、面白がっているだけだな。口許は笑っているぞ!

 

「でも、これは魔法スポーツ・ノンフィクション 九校戦を読めば誰だって書けるし、これでモブくんが怒り心頭になるかなぁ?」

 

白石くんが、続きを読む。

 

「四位 河原真知 通称『師匠』。今だにその魔法力は誰にも知られていない。がしかし、必殺の「外患誘致罪刑事告訴死刑!」をはじめとした「共謀罪」「名誉毀損」「業務妨害」等の告訴、内外公的機関への通報など合法的手段で敵を追い詰める。刃向かえば、社会的に葬られるゾ」

 

ずっこけた。ただ、これだけで模擬戦を申し込まれるかなぁ?

 

ちなみに五位 森崎駿で、六位が模擬戦を申し込んだモブ男くんだった。

 

これで、モブ男くんは怒り心頭に発し小学生みたいな行動に出たようだ。今時の小学生は、喧嘩もしないか?

 

そういえば、モブくんは森崎くんと組んでモノリスコードに出場していた。こんなどうでもいい「格付け」で怒って模擬戦だ!なんて言い出す程度だからあっさり予選で棄権に追い込まれたんじゃあないかな。

 

「どうする?師匠、受けるか?」

司波くんが、尋ねて来た。僕は、彼はこんな事には消極的だと思っていたから彼の言動を意外に感じた。

 

◇◇◇

 

夏休み特別編は、本来もう少し長くなるはずだった。カラオケで魔法を迂闊に使ってしまいすぐに退散しなければならなくなったこと、みんなで逃亡している最中に司波兄妹が半グレに囲まれているのを目撃したこと、その日の夜に遊びに来る予定だった河村美波ちゃんが早目に来たので合流してもらい、彼女が魔法力を強化する方法をしつこく訊くので(断食ができそうか判断する為に)ウ◯コの状態を質問したら彼女がみんなの前でマジギレしたこと、夏休み最終日は軍事訓練に参加したことなど盛りだくさんだった。

 

極め付けは、この私小説に書いた替歌等の歌詞が著作権切れではなく関係各所に手間をかけさせてしまったことだ。その節は皆様ご迷惑をおかけしました。

 

しかし、この模擬戦で全部棚上げとなった。これは真剣に対処しなければならない。なぜなら、僕の魔法力を知りたい連中が仕掛けたものと思われるからだ。まだ、僕はCADをまともに使っての現代魔法は真面目に発動した事はない。公の場では。

 

そこで、司波くんに中条副会長を立会人に加えるのと、模擬戦競技者は一人で演習場に来るのを条件にして僕は模擬戦を受けた。その時、司波くんがわずかに口元だけで笑ったように見えた。彼も僕の魔法力を知りたいのかも知れない。風間少佐は、独立魔装大隊所属ではないのを理由に僕の入隊を彼に知らせてないのだろうか?

 

それと、この機会を利用して新しい魔法を試してみたかったのも模擬戦を受けた理由だ。

 

◇◇◇

 

「逃げなかったのは、褒めてやる!」

モブくんがいきなり言い放った。第三演習場に僕が入った途端に。

 

「あ、どーも、どーも、皆さん。もしかして僕待ちでした?失礼しました」

僕はいつもの調子で七草会長、中条副会長、司波くんに挨拶した。渡邊風紀委員長や十文字会頭の姿はなかった。どうやらあまり興味がないようだ。

 

「モブくん。この勝負、君が勝っても君の評価が上がりはしないし、反対に僕が勝ったりしたら君の評価はだだ下がりになるけどそれでもやる?」

念の為に、彼の意志の最終確認をした。

 

「河原!貴様、土壇場で怖気づいたか?」

モブくんは、頭に血が昇っている。説得は難しいか。では、次の手で。

 

「二科生の僕は、一科生の君との魔法の撃ち合いでは最初から不利だよ。だから、相手を死傷させた方が負けとするルールを止めてくれないか?これなら、手加減なしで殺し合え、じゃなかった模擬戦ができるよ」

こう言って、僕は少し殺気を出した。

 

「脅しのつもりか?いいだろう!」

わずかに動揺するモブくん。僕の殺気を少しは感じたようだ。

 

中条副会長が慌てる。七草会長は面白がる。司波くんは、淡々と承認を会長に求めた。

 

会長の承諾を得たので僕は、黒いアタッシュケースからCADを取り出し副会長に手渡した。驚く副会長。

 

「これは、拳銃型CADですよね」

ずっしりと重い拳銃型CADを手にしながら副会長が言った。

 

「あのー、このデバイスはどうやって起動するのでしょうか?」

わずかに涙目になっている副会長。

 

「この『ア・タ・レ・C』の文字のCに合わせると起動します」

ちなみにアは安全、タは単発、レは連射だ。

 

「このデバイスには、銃口らしきものがあります」

今にも泣き出しそうな中条副会長。

 

「はい!さすがは副会長です。これは、汎用型ではなく特化型、しかも武装一体型CADです」

 

「これは、拳銃です〜」

中条副会長は、一杯一杯になった。彼女の一言で演習場の雰囲気が凍りついた。

 

「おっしゃる通りです。拳銃としても使えます。では、チェック終了ですね。早速、始めましょう!」

僕は、副会長の手から拳銃型CADを一瞬で奪い取りモブくんに銃口を向けた。

 

モブくんは、口をパクパクさせている。なんとか「ひ、ひ、卑怯者」と言葉を捻り出した。

 

バン!

 

凄まじい発砲音。モブくんはその場にへたり込んだ。

 

僕は、殺気バリバリで凄む。

 

「タイマン張ったの自分やろ!チャカ出したくらいで何ビビッとんねん!なめとんのか?ワレ。はよ立たんか!ボケ」

 

モブくんは、その場にへたり込んだ。

 

「会長、模擬戦は中止でよろしいでしょうか?」

司波くんが尋ねる。

 

「う〜ん、どうしようかなぁ」

七草会長は、小首を傾げる。

 

「会長〜」

副会長がすがりつく。

 

「じゃあ、中止❤️」

 

中止となったので、僕はそそくさと帰ろうとした。

 

「師匠。反則負けにならなくて良かったな!」

司波くんが、余計な一言を放つ。さらに、彼は付け加えた。

 

「種明かしは、しなくていいのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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夏休み特別編+1(2)

七草会長もニヤニヤワクワクしている。中条副会長は、司波くんと会長に視線を往復させながらオロオロしている。モブくんは、半ベソをかいている。

 

僕は、いつもの調子で語り始める。

「では、種明かしをします。まず、この拳銃型CADのスライド(撃発装置や弾の装填及び薬莢の脱砲を行うパーツ全体を指す)ですが、動きません。次にマズル(弾の出口)ですが、中で塞がっています。なので、これは拳銃型CADです」

 

中条副会長が、混乱している。

 

「発砲音は、これです」

僕は、手にパームしていた小型の振動系特化型CADを見せた。カラオケで声を高く大きくするのに使ったCADをさらに小型にしたものだ。

 

「魔法を使った空砲だったのですね!」

副会長は、ため息を吐く。その通りです。なので弾痕がどこにもありません。

 

お後がよろしいようでこれにて失礼。

 

「師匠。まだ説明が終わってないぞ!」

司波が、すぐに突っ込んで来た。ナイスなタイミングだ。彼はセンスがあるな。

 

「このCADには、魔法力を強化する刻印をされているので、中条副会長が『拳銃だ!』と思った瞬間に精神干渉系の魔法力が発揮され、その影響を受けたものはこのCADを拳銃と信じてしまったのです」

 

驚愕の表情を浮かべる中条副会長。一方、笑いを堪えている七草会長。司波くんは、押し黙ったままだ。会長と司波くんは、精神干渉を受けてなかったのだ。

 

「ふざけるな!」

自分が騙されたとわかりモブくんは、怒りに任せてCADを起動する。

 

ドサッ。

 

頭部に衝撃を受けたモブくんは気絶した。クロムモリブデン鋼は、重くて硬い。当たれば痛いぞ。

 

「師匠。俺は、CADを投げて敵を倒すヤツを始めて見たぞ」

司波が、呆れていた。中条副会長は、絶賛茫然自失中。七草会長は、爆笑寸前だった。笑っても構わないが、早く治療してあげて欲しい。

 

◇◇◇

 

僕は、誰にも模擬戦の詳細を誰にも語ってないのになぜか僕が圧勝している事になっていた。いや、そもそも模擬戦は中止になったし魔法での勝負はしてない。この学校の学生が自分のランクを気にし過ぎなのだ。学校裏ランキングでは、6位のモブくんが10位から漏れてランク外にされて代わりに十三束くんが6位にランクされていた。

 

それと、モブくんが僕に怒りを抑えられなくなった直接の原因もわかった。

 

「あっ!Qちゃん、元気〜?」

光学迷彩を纏っていないQちゃんは1ーBの高橋久子さんだった。少佐(吉田摩耶嬢)から面倒を見て欲しいと言われていたのでこうして軽く挨拶していたのが、いけなかった。モブくんは、密かに彼女に好意を寄せていたらしいのだ。それならそうと言ってくれれば仲を取り持ってあげたのに!

 

模擬戦で、成績上位者に勝ってしまった(?)ことで校内の僕の評判が変に上がってしまった。その上がり方が何かおかしい。九校戦で活躍した吉田くんと西城くんは、女子の憧れの人となった。司波くんは、男女問わず尊敬されるようになった。

 

「師匠。じつは…」

よく知らない学生から何故か悩み相談をされるようになった!どうも、インスタントに問題を解決する方法を教えてくれると評判になっているらしいのだ。僕の成績をマイナスにした教官が、飛ばされたのもその評判を一層説得力のあるものにしていた。

 

今日は、涼野さんが頼まれて一人連れて来た。我々は『奉仕部』では、ないのだが…

 

「もっと、速く魔法を起動させたいんだ」

 

「どれくらい早くしたい?」

 

「司波兄妹くらい」

 

森崎くん。そりゃ、無茶な相談だ。特に司波くんのはフラッシュキャストだ。CADを使ってさえいない。

 

だが、しかし!手はある。

 

だいたい彼がどうしてこんな悩みを抱いているのかもわかっている。一夏の経験からだ。(念の為言っておくが『青い体験』ではないよ。)森崎くんは、魔法の撃ち合いではなく本物の銃の撃ち合いで苦労したらしいのだ。噂によると。

 

しかも、最近の「軽妙小説部」の部員の魔法発動時間(CADの操作開始から事象改変が完了するまでの時間)はドンドン短縮されて単純振動系や閃光系だけなら司波さんの魔法発動時間に迫っているのを森崎くんが目にしているのも理由になっていた。

 

こいつら、なんか裏技的な何かを知っているに違いない!と森崎くんが思うのは当然なのだ。

 

では、とっておきのを教えましょう!

 

「ノウボウ・アキャシャ・ギャラバヤ・オン・アリ・キャ、マリ・ボリ・ソワカ」

 

「それ何だ?」

 

「弘法大師が、唐に渡る前に行った求聞持法の真言です。これを100日で100万回唱えるとあらゆる経典を読んで理解し記憶できる超人的な能力が身につくと言われています」

 

「弘法大師って空海のことか?」

 

「はい、そうです」

 

「3ヶ月で良いんだな!」

 

森崎くんは、やるのを前提で話している。よほど精神的に追い込まれているらしい。

 

「ただ、それがなぜ、速く魔法が使えるようになるのかだけは教えてくれ!」

森崎くんは、物を人に頼む時も上から目線だ。社長自慢の一人息子だから仕方ない。

 

「CADは、本来なが〜い詠唱を短縮する為の装置です。先の真言は、音読すると最初は15秒程度です。速くなっても6秒程度です。これでは、24時間で1万回唱えるのは困難です。なので、単なる早口ではなく音声ではない詠唱でなければ達成できません。日頃の生活をしながら『舌も動かさず、心のみ念ずる』とか、光速で連続で唱える『口から光明を発しながら唱える』ようになれば達成できます」

 

普通は、これであきらめる。しかし、成績優秀者である森崎くんは違った。

 

「それなら、CADが要らな…わかった!やる。詳しく教えてくれ‼︎」

 

◇◇◇

「師匠。森崎に何を吹き込んだんだ?」

 

吹き込んだなんて人聞きの悪い。それより、最近司波が僕に対して妙にフレンドリーだ。少佐(吉田ではなく風間)が何か言ったのだろうか?

 

司波くんは、風紀委員会で森崎くんと一緒に活動しているから、森崎くんの変化に気づくのは当然ではあるが。

 

「光速詠唱の練習法を教えたよ」

 

無表情の司波くんが、表情を変えないままギョッとしたのがわかった。

 

「ほう。それは興味深い話だな」

しかし、動揺を表に出さないで冷静な反応をする司波くん。さすがはみんなのお兄様。

 

「ねえ、何の話?」

千葉さんが話に加わろうとした。秘密にする必要はないので、僕は、真言について説明を始めた。

 

「どうして、力を得るためにその霊の名前を連呼するだけでその霊が降りてくるんだい?」

最初は、図々しい千葉さんを制する役だった吉田くんが、逆に質問する方に回っている。

 

「理屈は簡単で、元々人間にそのような力はあったけど使い方を思い出せなくなっただけだよ。神祇魔法も思い出す手段の一つだね」

 

「でもよ。意味もわからないまま真言を唱え続けても効果があるってのはどうもな」

それは、誰しも感じる事です。西城くん。

 

「読書百遍義自ずから見ると言われるように百万回唱えると意味もわかりますし、その仏の力も得ます」

 

「師匠さんは、何でも知ってますね」

柴田さんが感心している。

 

「何でもではありません。実際にやってみた事だけです」

 

みんなの雰囲気が変わった。こんな話に慣れている部員は、いつもの事だと平然としていた。

 

「ところで、司波くん。森崎くんは何と言ったの?」

 

「『今は、勝てない。しかしいつか必ず勝ってみせる!』だ」

そう言った司波くんは、しまった!言い過ぎたと心に思い浮かべた。ただ、誰もそれに気づかなかった。

 

「へ〜、あきらめの悪いヤツ。だからモテないのよ〜」

千葉さんは、茶化した。

 

「エリカちゃん、互いに競い合って高め合うのはとても良い事だと思いますよ!」

最近、柴田さんはますますお母さん的になっている。子供でもできたの?産んだの?育てたの?

 

「森崎には、彼女がいますぜ」

白石くんは、司波組の前でもイケメン三下のポジションをキープしている。彼はそのポジションが居心地良いのかも知れない。

 

 

 

 

 

 



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夏休み特別編+1(3)

朝田さんが部室に連れてきた女子は、一年C組所属、滝川和実と名乗って沈黙した。

 

九校戦の新人戦スピードシューティングに選手として参加し3位の成績をおさめている。しかも美人。

 

(この子が森崎の彼女?!え〜絶対騙されてるよ〜)

とその場の全員が思った。お前ら!失礼だぞ。森崎くんは、将来社長になる可能性大なんだ。射撃女子なら玉の輿に狙いを定めるのは当然ではないか!

 

「ねえ、黙っていたら何にも始まらないよ」

千葉さん。ここは「軽妙小説部」の部室。お宅は無関係者。司波くんは、組員を連れてサッサと近所の茶店でも行くように。「ロッテルバルト」とか「アイネブリーゼ」とか。「スターバックス」や「バーガーキング」ではなく。

 

「エリカちゃん、無理強いはダメだよ。滝川さん、何か飲まれますか?」

そこの水晶眼Fカップ!お前もとっとと帰れ!吉田くん、もっとちゃんと躾ておいてよ。調教不足だよ。荒縄で縛り上げて梁から吊るすとかボールギャグを咥えさせるとか。彼女の眼から時々小さな白い星が飛んでいるだろ。あれは、性欲がややこしい方向に向いてる現れだよ!

 

「コーヒー…」

 

「コーヒーをお持ちしました」

ウエイターする白石くん。こういう時は、イケメンはとくだ。妙に似合っている。

 

「森崎のことが心配?」

おお!漸く、長岡さんがしゃっべった。しかし、相手の心を読んでいきなり核心を突くのは控えた方がいいよ。

 

「あいつ、最近変なんです!」

 

(いや、前から変じゃない?)

お前ら、ホンマに失礼やな。特に司波組の組員!

 

「1人でブツブツ言ったり、突然、ニヤついたり…」

 

森崎くんは、予想以上に虚空蔵菩薩真言を真面目に唱えているようだ。しかも、手応えがあったらしい。

 

「森崎くんは、今日の実習でかなり良いスコアを出したから、調子は良いのと思うけど」

と、控えめに涼野さん。森崎くんと同じクラスだから彼の様子を目にしているのだろう。

 

そこで、僕は滝川さんがわかるように0から説明した。九校戦のアクシデントによる棄権、彼等の代わりに出場した選手の優勝。その中心選手の実力が突出していること、さらにその組員にも負けそうなこと。夏休み中の一夏の体験で実戦力不足を再確認し、新学期になって一部の同級生が魔法力を向上させているのに驚かされ、その中心が司波くんと僕だったと明らかになったこと。しかし森崎くんは、司波くんに、頭を下げたくないこと…

 

「アンタが、駿を誑かしたのね!」

滝川さんがキレた。森崎くんに一体何があったんだ?

 

「待ちなよ!確かに河原は怪しいけど、森崎は結果を出し始めているのでしょう?だったら良いじゃない?」

千葉さん。そこ君が仕切る所じゃないから。

 

「だって、アイツ、『出家するのも良いかな』とか『神はおられる』とか言い出したのよ!」

滝川さんが泣き出した。彼女は本当に森崎くんが好きなんだ。

 

「神はいるよ。わたしは、いつも手を合わせていますけど」

 

「出家しなくても、在家のままで仏道修行は出来る。八卦掌にも走圏しながら般若心経を唱える練習方法がある」

 

「即身成仏はどなたでも可能だと聞いています」

 

「朝田さん。そりゃ、河原部長が言ったんだ。それと即身成仏は密教だから、普通の仏道修行には含めないよ」

滝川さんだけでなく、司波組の組員も部員達の言動にドン引きだ。

 

「マジかよ」

西城くんが呻くように呟いた。ドイツは、プロテスタントの本場だから、イエス・キリスト以外の神、ましてや仏(神になって、しかも人が神になるのを手助けしてくれる人)を彼は受け入れ難いのかもしれない。同じ理由で、千葉さんも。二人とも勉強不足だよ。エックハルトくらいは読んでおくべきだ。

 

エックハルトは、神との合一を、そして神性の無を説いた。

 

「汝の自己から離れ、神の自己に溶け込め。さすれば、汝の自己と神の自己が完全に一つの自己となる。神と共にある汝は、神がまだ存在しない存在となり、名前無き無なることを理解するであろう」

このようなネオプラトニズム(新プラトン主義)的な思想が、キリスト教会軽視につながるとみなされ、異端宣告を受けることとなった。

 

ちなみに、虚空蔵菩薩真言を唱えて神との合一を体験した空海は、高知県の室戸岬にある御厨人窟(みくろどくつ)という洞窟でこの修行に励んだ。

 

そして、ある日の明け方、空海が虚空蔵菩薩の真言を唱えているときに、空から明星(金星)が近づいてきて、空海の口の中に飛び込むという体験をした。明星は虚空蔵菩薩の化身とされるので、空海は虚空蔵菩薩と一体になったというわけだ。このことについて空海は「明星来影す」と記している。

 

ちなみに孔子は、『学まなびて時ときに之これを習ならう。亦また説よろこばしからずや。朋とも有あり、遠方えんぽうより来きたる。亦また楽たのしからずや。人ひと知しらずして慍いきどおらず、亦また君くん子しならずや』と語っている。

 

論語に登場する「朋」は、空海を訪れた「明けの明星」であり、学んでいたのは「虚空蔵菩薩」と言い換えが可能だ。

 

森崎くんは、まだそこまで行ってないと思うけど隣の他人の尿意を感じられたとか、締め切った自室に白い粉(含香〈がんこう又はかんごう、がんごう〉は、密教で灌頂や勤行前の口内のお清めとして、口に含み噛んで使用する。同時に粉末状のお香(塗香)を手に摺り合わせて使用することも多い。)が落ちていたか、何らかの「しるし」がすでにあったのかも知れない。それで手応えを掴んだのだろう。

 

僕は、森崎くんがエックハルトや空海やナザレのイエスや孔子に著しく劣っているとは全く思ってないよ!

 

「そうだよ!滝川さん。森崎くんのポテンシャルはすごいはずだよ」

白石くんが、森崎くんを讃える。

 

「そうね!彼なら挫折も糧に出来ると思うわ!」

朝田さんも、森崎アゲする。

 

「森崎くんなら偉業を達成出来ると思う」

涼野さんが、森崎くんを高評価する。

 

「森崎くんを見習ってもっと努力精進しなくては」

長岡さんが、念を押した。

 

「アンタらチョッと怖い」

千葉さんが、機嫌を直した滝川さんを見ながら洩らした。まだまだこれからですよ!千葉ちゃん。僕は落ち着いた滝川さんに語りかける。

 

「ところで、滝川さん。彼氏のことが心配なのは彼氏の熱中している事を理解出来ないからだと思うよ。だから、滝川さんも少し真言を唱えてみたらどうかな?百万回を目指すのではなく彼のことをもっと知るために!」

 

「駿は、彼氏じゃないよ」

滝川さんが真っ赤になって僕に反論した。そうなの?でも、心配なんでしょう?同じことを少しでもすれば感じが掴めるから少なくとも森崎くんに対する不安はなくなると思うけどなぁ。僕は。

 

「少しだけなら…」

 

「マジかよ」

真言を練習し始めた滝川さんを見て西城くんが溜息をついた。

 

司波くんは、表情を変えずに警戒心を抱く。

 

(師匠さん。あとで私達にも指導して下さい)

柴田さんが、声を潜めて伝えて来た。僕は、吉田くんと柴田さんに頷いて見せた。

 

それに気づいた司波くんは、更に警戒心を強くした。相変わらずのポーカーフェイスだが、意外に小心者だ。

 

この出来事以来、学生の人生相談はほなくなった。あそこは変な宗教に勧誘されると噂がたったのが原因だ。

 

◇◇◇

 

「師匠。チョッと良いか?」

久し振りに部室に来た部外者は、司波くんだった。

 

「体調が悪いんやろ?」

 

さすがの鉄面皮も、動揺が隠せなかった。しかし、動揺したのはほんの一瞬。すぐに持ち直す。

 

「その通りだ。師匠。わかるのか?」

 

「自分、呪われとるで」

 

 

夏休み特別編+1 終

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編1

(アカン!コイツら素人や)

始めて参加した風間少佐主催の円卓会議で僕は思った。この時、正式に大黒特尉が司波くんだと知らされた。夏休みの最後の演習の時だ。

 

藤林さんが、柳さんがハニートラップに引っかかったかもと真田さんが心配したのを暴露して真田さんは赤面した。

 

「僕が柳さんに紹介した八卦掌の名人は一高の一年女子です。同じクラスの子です。ちなみに彼女は、中学生の時に魔法師8人を殺しています」

僕の発言で空気が変わった。

 

風間さんと柳さんは、目の色が変わる。スカウトしたいのだろう。

 

「皇宮警察にすでに取られてしまっています」

心を読まれて二人は、ギョッとした。ついでにメンバーが気にしている10月末の有事について釘を刺した。

 

「大黒特尉は、常識外の戦力ですが無限のスタミナが有るとは思えません。作戦の浮沈を彼に頼り切るのはどうかと思います。それと敵はなりふり構わず政治的圧力をかけて作戦行動を圧迫すると思われます」

 

◇◇◇

 

杞憂は的中した。

 

敵は馬鹿ではない。それなりの対策を取って来た。魔装大隊の作戦の『核』になる司波達也を狙い撃ちして来たのだ。

 

「師匠は、俺が狙われると予想していたのか?」

人気のない公園に着くと司波が問うた。部室では込み入った話はできないので場所を変えたのだ。

 

「一高テロ、九校戦テロを潰したんは自分やろ」

僕がこう言っても司波くんは肯定も否定もしなかった。司波くんが僕の入隊を知らないとは思えないが、彼は極めて慎重だ。僕は構わず話を続ける。

 

「両方とも、バックは大亜やろ。アイツらが今度やらかす前に一番邪魔な奴を潰しに来るんは当たり前や」

これでも、司波くんは肯定も否定もしない。手堅いな。司波くんは。

 

「まあ、ええわ。自分の頭痛の話やったな」

 

司波くんがわずかに顔をしかめた。司波くんが頭痛だと一言も触れてないのに僕がそれに言及したからだ。

 

「とりあえず、それの対策や。チョッと視とき」

僕は、二人に餌を期待して集まって来た鳩に視線を向けた。鳩達は各々の好きな方に向いていた。

 

司波くんが、目を見開いた。全部の鳩が司波くんの方を向いたからだ。

 

次に、僕は右手を肩まで上げて掌を天に向けた。すぐに一羽の鳩が飛んで来て僕の掌に止まった。

 

「畏れ入ったよ」

司波くんがため息を吐く。

 

「呪いを相手に返すから視とき」

 

僕は、司波を呪い続けているドアホを観た。そして、呪いが本人に返るようにしてやった。

 

「倒さないのか?」

司波くんがどの様に視たのかはわからないが、とにかく視えたようだ。

 

「こんでええねん。自分の呪いでやられるから。多分、気狂うてしまいや」

 

「精神干渉ではなく意志そのものを創り出すのだな」

 

「そやな。自分やったらできるやろ。魔法式を組めるかはわからんけど。それと、妹さんを心配させんのやめとき」

 

僕と司波くんは、同時に振り向いた。木陰でこちらを密かにうかがっていた司波さんを。

 

「申し訳ありません!」

血相を変えて木陰から司波さんが現れた。一応、気配を消していたようだ。

 

「申し訳ありません!お兄様!師匠様!」

 

お兄様は、いつものことだが、師匠様って…深雪お嬢さん、上品過ぎる。

 

「勝手に、のぞいたりして本当に申し訳ございません!でも深雪は、お兄様のことが心配で…」

 

わかった。わかった。二人でやってくれ。

 

「今日はこのくらいにしといたろ。ほな、帰らせてもらうわ」

 

「師匠様!このご恩は、忘れません!必ず…」

 

(大袈裟なやっちゃ)

 

僕は、イチャつく二人に目もくれず手だけ振ってその場を離脱した。

 

その晩、風間さんから連絡があった。個人的な依頼だと前置きがあったが、司波達也を守って欲しいと頼まれた。同時に僕が軍曹に昇進したのを知らされた。ケロロとか相良とかと同じになった。

 

遅過ぎるぞ!風間さん。佐伯さん。この調子だと政治的圧力で独立魔装大隊の動きが抑えられる恐れも残る。

 

それにしても、司波くんはなかなかしたたかだった。本気を出せば、あの程度の呪いはどうにでも出来たはずだ。それを愛する妹にも黙って(騙して)僕の能力を測る機会を作ってみせた。あの技術を魔法式に書き出すのは、司波くんでも無理だと思うが同じようなことは次回から彼一人で出来るだろう。

 

まさに、「さすがは、お兄様!」だった。

 

◇◇◇

 

気分は、山岡鉄舟だ。

 

慶応4年(1868年)、山岡鉄舟は新たに設立された精鋭隊歩兵頭格となる。江戸無血開城を決した勝海舟と西郷隆盛の会談に先立ち、3月9日官軍の駐留する駿府(現静岡市葵区)に辿り着き、伝馬町の松崎屋源兵衛宅で西郷と面会する。

 

2月11日の江戸城重臣会議において、徳川慶喜は恭順の意を表し、勝海舟に全権を委ねて自身は上野寛永寺に籠り謹慎していた。海舟はこのような状況を伝えるため、征討大総督府参謀の西郷隆盛に書を送ろうとし、高橋精三(泥舟)を使者にしようとしたが、彼は慶喜警護から離れることができなかった。そこで、鉄舟に白羽の矢が立った。

 

このとき、刀がないほど困窮していた鉄舟は親友の関口艮輔に大小を借りて官軍の陣営に向かった。また、官軍が警備する中を「朝敵徳川慶喜家来、山岡鉄太郎まかり通る」と大音声で堂々と歩行していったという。

 

3月9日、益満休之助に案内され、駿府で西郷に会った鉄舟は、海舟の手紙を渡し、徳川慶喜の意向を述べ、朝廷に取り計らうよう頼む。この際、西郷から5つの条件を提示される。それは、

 

一、江戸城を明け渡す。

一、城中の兵を向島に移す。

一、兵器をすべて差し出す。

一、軍艦をすべて引き渡す。

一、将軍慶喜は備前藩にあずける。

 

というものであった。このうち最後の条件を鉄舟は拒んだ。西郷はこれは朝命であると凄んだ。これに対し、鉄舟は、もし島津侯が(将軍慶喜と)同じ立場であったなら、あなたはこの条件を受け入れないはずであると反論した。

 

西郷は、江戸百万の民と主君の命を守るため、死を覚悟して単身敵陣に乗り込み、最後まで主君への忠義を貫かんとする鉄舟の赤誠に触れて心を動かされ、その主張をもっともだとして認め、将軍慶喜の身の安全を保証した。これによって奇跡的な江戸無血開城への道が開かれることとなった。

 

こんな劇的な行動ではないが、先ずは「密書」を日本で一番霊力がある所に取りに行く。平日なので学校は、予告なしで休んだ。部員にさえ休むのを知らせていない。

 

和歌山県にあるその場所は、千年以上前から日本で一番霊力があることになった。その為か、交通アクセスは百年前からあまり進歩していない。幸い、雪が降る時期ではないのでケーブルカーで山に登れる。

 

「遠路遥々よくいらっしゃて下さいました」

その人物は、深々とお辞儀をした。

 

「御用は、うかがっております」

僕は、屋敷の奥に通された。

 

◇◇◇

 

急に嫌な予感がした。「密書」を携えて屋敷から出てすぐだ。

 

急がなければ間に合わない!

 

僕は、一旦京都に戻る予定を急遽変更して横浜に行き先を変えた。ケーブルカーとキャビネットで新大阪に四時前には着く。それからリニアに乗れば1時間で新横浜だ。夜には目的地に着ける。

 

新大阪でリニアに乗り込むと森崎くんの気を感じた。シートに座った途端に携帯が着信する。

 

「何か進展があった?」

挨拶もそこそこに、僕はすぐ本題に入る。森崎くんは、ここら辺はとても常識人なので、僕がいきなり欠席したので心配して連絡を取ったと前置きして要件を語り出した。

 

『魔法式をディスプレイに映し出した途端に何の魔法かわかった』

森崎くんの声のトーンは抑え気味だったが凄く興奮しているのが伝わってくる。

 

「フラッシュキャストを目指しているのかい?」

森崎くんは、核心を突かれて一瞬言葉に窮した。がしかし、

 

「そうだ。可能か?」

 

「他に何か変わった事は?」

 

『昨日、帰宅したら部屋に白い粉が床に点々と落ちていた』

 

「そうか。新しい出会いを大切にしてくれ。今はこれしか言えない」

 

『わかった。手間を取らした。すまない。ありがとう』

 

最初に道を得るのは、森崎くんかも知れないな。

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編2

横浜の某所。

 

と言っても懸命なる読者様方にはバレバレかも知れない。我国は、表向き大亜と国交がない。なので在日大亜大使館なるものはない。なので、東京都港区ではなく、華僑の大物の一人が経営していると噂されているこの場所に僕は来た。

 

店内に入ろうとすると、

「お客様、ご予約はございますか?」

テーブル案内係に静止された。

 

「大人に、届け物を持参した河原という者だ。取り次いで頂きたい」

 

「そのようなサービスは当店では行っておりません」

彼の言葉は丁寧だが、警戒心MAXになっている。

 

「わかった。大人に端末をつないで欲しい。河原真知が大陸への手紙を持参していると伝えてくれ」

 

厨房から、料理人にして妙に体躯の良い男達がわらわらと出て来た。

 

「河原様、失礼ですが、身分を証明するものを見せて頂けますか?」

 

僕は学生証を取り出そうとした。男達が身構えた。僕は、ゆっくりと内ポケットに手を入れ学生証を取り出した。男達の緊張が緩んだ。

 

表情の険しくなったテーブル案内は、学生証をスキャンして本物と確認した。すぐにスタッフ控室に駆け込んだ。

 

「失礼しました!河原様。親書をお預かり致します」

スタッフ控室から、飛び出して来た。テーブル案内係の態度が変わっていた。

 

「お食事は、お済でしょうか?河原様。本日は、最高級の」

 

僕は、テーブル案内係のセリフが終わらないうちに踵を返した。

 

◇◇◇

 

「伝統的な属性、「地」「水」「火」「風」「光」「雷」といった分類に基づくアプローチが有効と考えられていた時期にはエレメンツの開発も、このコンセプトに従って進められていたんやけど、それがそもそもの間違いや」

 

「それは、興味深いな。で、どこが間違いなんだ?」

 

「魔法的に有効にしたいなら、五大(ごだい、サンスクリット:panca-dhatavah、英: five elements)。宇宙(あらゆる世界)を構成しているとする地(ち)・水(すい)・火(か)・風(ふう)・空(くう)の五つの要素やな」

 

「あんた達、いつの間に仲良くなったの?」

 

僕と司波くんが、魔法オタクな会話をしていたら千葉さんが驚いている。

 

「はぁ?何寝ぼけとんねん!元から仲良しや」

 

「議論の最中にすまない」

 

「なんや、森崎くんかいな。雷にでも打たれたんか?」

 

森崎くんが、ひるんだ。図星だったようだ。

 

「四摂、じつはそうなんだ。雷に打たれたように見えてから体の中と外が燃えているように見えるんだ」

森崎くんは僕を師匠(ししょう)と言いたくないらしい。しかし四摂(ししょう)をどこで聞いたのだろう?知り合いに密教関係者がいるのだろうか?

 

「地や水や風らしきものは観えた?」

 

「ああ、落雷したと感じたときは土砂降りで、その時に地響きがした。竜巻も観えた」

 

「五大全部観えたようやな。その雷が、「空」や。「光」にも観えるな。虚空蔵菩薩真言を唱えたんで「虚空」、つまり「空」が、観えたんやろ。森崎くんは、凄いな!」

 

「確かに、それは凄いな」

司波くんが頷く。

 

「さすがは、森崎くんですね」

今まで相槌を打っていただけの白石くんが、口を開く。

 

「すげーな」「すごくない?!」と藤岡くんや長岡さんまで感心し始めるとその場にいたクラスメイトが集まり始めた。

 

「じゃ、司波!放課後な!」

森崎くんは、照れ隠しの為に話を中座して教室から出て行った。

 

「何これ?」

千葉さんがドン引きしている。

 

「森崎くんは、新しく風紀委員長になった千代田はんの元で頑張ろうとしとんや。応援するのは当たり前や!」

 

「エリカちゃん!これこそ美しい男子同士の絆です」

眼をキラキラさせながら柴田さんが千葉さんをたしなめた。よく言うぜ!オッパイーヌ美月め。自分が一番最初に森崎くんに噛み付いたやろ!二つの胸の膨らみは耽美で邪な妄想がいっぱい溜まっているようだな。吉田くんは、よーく揉んでオッパイーヌの煩悩を滅してあげるべきだ。◯ックス・フラッシュ!

 

イったフリを見破る方法はさて置いて、今日の生徒会選挙は大丈夫なのだろうか?中条さんが生徒会長になりたくはないと駄々こねていたと聞いたのだが。

 

「ああ、大丈夫だ。師匠のアドバイスを参考にさせてもらった」

僕と視線が合った司波くんは、僕が質問する前に答えた。いつの間にか、司波くんは心を読めるようになっている!

 

それより、僕は何かアドバイスしたっけ?

 

そーいえば、トーラス・シルバーのサインをあげると言ったら中条副会長のヤル気スイッチが入ると答えた気がする。

 

◇◇◇

 

本日西暦2095年9月30日の生徒総会・選挙演説・信任投票は、荒れ模様となった。七草会長が、「 ……以上の理由を以て、私は生徒会役員の選任資格に関する制限の撤廃を提案します」と発言してからだ。

 

質問に立った浅野という人(一科生ではあるが九校戦に出場していなかったので見覚えがない)が、「会長は、生徒会に入れたい二科生がいるから、資格制限を撤廃したいんでしょう!本当の動機は依怙贔屓なんじゃないんですか!」とヒステリックになってしまい挙句「知ってるのよ!昨日の帰りもそいつと駅まで一緒だったでしょう! 」とわめき散らした。

 

浅野、ズーレー?

 

『そいつ』とはもちろん司波くんだ。今も壇上のソデに控えている。万が一に備えて。

 

結局、冷たくキレた司波さんが浅野さんをやり込めて事態は収束した、かに見えた。

 

「あずさちゃんに謝れ!」

会場の真ん中で小競り合いが始まった。中条さんが演説を終わろうとしていた時だった。彼女のファンが反対派の野次に反応したのだ。

 

司波くんと中条さんの仲を邪推する、極めて下品な野次が反対派の口から放たれた瞬間、再びキレた司波さんの叱声が騒擾を制した。「静まりなさい!」

 

声の大きさではなく、声の強さが、取っ組み合っていた生徒の意識を圧倒した。

 

舞台の上では、想子光の吹雪が荒れ狂っていた。激しい怒りが、世界を侵食しようとしている。

 

これはまずい!僕は、自分で彼女を気絶させるか他人の攻撃魔法発動を見守るかの決断をしなければならなくなった。

 

司波くんと目が合った。任せてくれと主張している。彼は壇上を歩いて臨界に達している妹へ寄り添った。彼女の肩に優しく手を添えて、しばらく見つめ合う二人…

 

そして、事態は速やかに収拾した。ちなみに熱い接吻は無しだった。兄妹ですから!

 

            ◇◇◇

 

部活では、生徒会選挙の話題で盛り上がった。大魔神司波嬢の怒りを鎮めた司波くんのやったことの解説を求められた。

 

 おそらくは「術式解体」の応用。瞬間的に展開した想子構造体──エイドスに働きかける情報体では無く、想子自体を造形した無系統魔法の産物──の網で、無秩序に荒れ狂っていた大量の想子を包み込み、圧倒的なパワーで圧縮して司波さんの身体の中へ注ぎ戻したのだ。

 

などと解釈しているのだろうなぁ。

 

「「ええっ!?それ、違うの」」

 

朝田さんと涼野さんが驚いている。この解釈では、司波さん本人の意思を無視している。

 

想子は肉体から生じるものではないが、肉体は想子を放出・吸収する媒体となると現代魔法理論では信じられている。CADを使った起動式展開はその典型的事例だ。

 

そうなると、司波くんは司波さんがバラ撒いた想子を、司波さん本人の意思によらず、司波さんの「中」に押し込めたとなる。いくら無系統魔法が得意だからといって、いくら肉親だからといって、他人の想子をあんなに簡単に操れるものなのか?たとえ司波さんが自分の想子を全くコントロールしていない状態だった、という事情も加味しなければならないとしても。

 

「司波くんは、司波さんの意思を作った?」

 

おお!さすがは長岡さん。その通りです。

 

ちなみに、精神干渉系魔法ではない。公園で僕が鳩を司波くんに向かせたあの技術だ。司波くんは一回見ただけで修得したのだ。恐るべし!司波達也。

 

「ところで、皆さん誰に投票しました?」

と白石くん。

 

『深雪女王様』

と朝田さん。

 

『司波深雪女王陛下』

と涼野さん。

 

『スノークイーン深雪様』

と長岡さん。

 

なんや?自分ら、おもろいやんけ!!

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編3

八卦掌の走圏で、手にする重りをどんどん重くするとしたら身体を滅さなければまともに歩けなくなる。理屈なんてわからなくても師が「八卦掌はこう!」と見本を示してくれれば弟子はそれで出来るようになる。今、練習をしている長岡さんはまさにその典型だ。

 

「師匠、八卦掌だけで道を得られる?」

走圏をひと段落した彼女が唐突に尋ねて来た。この疑問は、武術をある程度修めた者の共通の悩みでもある。宮本武蔵は、最晩年に座禅に挑戦したと言われているし、尾張柳生は真言密教に活路を求めた。

 

「可能や」

僕は、摩訶般若波羅蜜多心経の一部を映し出した。

観自在菩薩・行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空、度一切苦厄。舎利子。色不異空、空不異色、色即是空、空即是色。受・想・行・識・亦復如是。舎利子。是諸法空相、不生不滅、不垢不浄、不増不減。是故空中、無色、無受・想・…

 

「こいつを理解して実際に使えれば道を得られる」

 

「その心は?」

笑点か?!長岡さん。ええノリや!般若心経だけに。

 

「問題は、『空』、これを観じられるかどうかにかかっとる!」

 

空を観じれば、自分の心身も自分の周りの空間や物体も空であるのがわかる。そこまではっきり自覚出来なくても腕にぶら下げた重りの重さは感じなくなるし身体は逆に軽く感じる様になる。空は、時空を超えているのでこの状態で練習をしていればいずれ八卦掌の霊が降りてくる。しかも意思疎通が普通に出来る!☜ここ重要。

 

ちなみに、座禅で長時間楽に座れるのも同じ「照見五蘊皆空、度一切苦厄」が起きているからだ。

 

「観自在菩薩は、観ずるのが得意で菩薩になった。つまり、道を得たちゅうことや」

 

「なるほど!よくわかったよ。ありがとう!」

彼女がにぱっと微笑む。

 

「師匠?何か他に気になる事があるの?」

長岡さんの勘の良さには参った。司波くんが帰宅するのを僕は待っていた。その為に、部室で時間を調節していたのだ。

 

僕は、戸締まりを長岡さんに頼んで部室を後にした。

 

ダラダラと帰途に着いていると司波兄妹と出くわした。まぁ、一緒に帰れるように時間調整したのだが。

 

「今、帰りなのか?」

司波くんが声を掛けて来た。彼の横にいる司波副会長が会釈する。

 

「ちょうど良かった!この前話しとった五大の『空』やけどな」

 

バン!凄まじい発砲音と同時に僕の背中が破裂した。

 

「師匠!」

 

「おのれ!よくも」

司波副会長は、すぐに暗殺者を凍結する。激しい怒りによる事象改変だ。CADの起動さえ必要ない。

 

「師匠!しっかりしろ!」

司波くんは、力なく倒れる僕を抱きかかえて叫ぶ。

 

「お兄様!早く」

 

司波くんは、拳銃型CADを懐から取り出し即起動する。

 

特殊繊維で作られた防弾下着ごと僕の背中はボロボロになっている。しかし、彼の魔法が発動した途端、ものの数秒でまるで何もなかったように元の状態に戻って行く。

 

「おおきに。しっかし、ほんまにすごいな!タッちゃんは」

僕は、スクッと起き上がってお礼を言った。

 

二人は、キョトンと僕を見ている。

 

「説明するから、チョッと待ってや」

僕は端末を取り出して緊急回線をつないだ。荒事のお掃除屋さんへだ。風間さんが準備してくれた連絡先だ。

 

「痛いの嫌やから、魂を体外に出しててん。だから、何が起きたかわかっとる」

とりあえず、司波兄妹の疑問に答えた。

 

「本当に君には、驚かされるよ」

 

「何言うてんねん!タッちゃんの今の、めっちゃヤバいやん!それにしても、連中も考えて来よった」

 

銃をポケットの中から出さずに、おまけに殺意を全く出さないで近距離狙撃した。しかも明らかに司波くんの頭部を強装弾で狙っていた。司波副会長が拳銃ごと作業服を着込んだ暗殺者を凍らせたので銃身がガタガタになっているか確認しようがないが。

 

「痛い痛い言いながら死ぬの嫌やろ。即身成仏するんやったら必要な技術や。大層なもんちゃうよ」

今一つ、釈然としてない司波兄妹に再度僕がやった技術を説明しておいた。

 

「いずれにしろ、俺を助けてくれたことに感謝している。あらためて礼を言うよ」

と司波くんは言いつつもまだ釈然としていない。

 

「自分自身の寿命をしっとっただけや。今日は、死なへんと知っててやったことや」

 

ようやく納得してくれたようだ。司波兄妹は、僕が軍籍であると知らされている。

 

「どこまで話とった?確か『空』やな」

僕はクリーン・スタッフが来るまで続きを話すことにした。

 

そこで空海が著した『秘蔵宝鑰』の一部の現代語訳を映し出す。

 

さて密教の世界に入るには、右の目に麼の字を想い、左の目に吒の字を想い、この二字が太陽と月になったと想いなさい。これによって今まで無明にまとわれていた闇を破り捨て、この新しい太陽と月の光のもとに目を見開くと、ここに自分自身が金剛薩埵であることを自覚するのです。

 

不動明王が一目をもってにらめば、煩悩と業にまとわれた人生の煩いが消えて安らかになり、降三世明王が三たび(貪・瞋・癡──むさぼりといかりと無知──これを三毒といい根本の煩悩とみる)叱りつければ、無明に基づくすべての煩いが涸れて静かになります。八供養の天女たちは 、雲海のような広大な供物を供えて仏を供養しますし 、四波羅蜜菩薩という禅定女たちは 、適悦という微妙な法楽を受けるのです。

 

次に原文の該当箇所も表示した。

 

心外の礦垢次に於て悉く尽き、曼荼の荘厳是の時に漸く開く。麽・吒の恵眼は無明の昏夜を破し、日・月の定光は有智の薩埵を現ず。五部の諸仏は智印を擎げて森羅たり。四種の曼荼は法体に住して駢塡たり。阿遮一睨すれば業寿の風定まり、多三暍すれば、無明の波涸れぬ。八供の天女は雲海を妙供に起し、四波の定妃は適悦を法楽に受く。

 

「なんやごちゃごちゃ書いとるけど『空』が観えるようになったらその次はこうなると言いたいだけや」

 

副会長が話についてこれなくなっていると感じた。

 

「要は、悟りを開いた後の状態や」

 

司波くんも妹が置いてきぼりになっていると感じている。

 

「深雪。師匠の言う『空』をイデア*に置き換えてごらん。太陽や月が人間の体内あるのは物理的にあり得ないが、自分自身をイデアと同一視できればそれが可能になる」

 

「さすがはお兄様です!お兄様は、わたくしの誇りです」

いつの間にか、司波さんは愛するお兄様の胸にもたれかかっている。司波くんは、愛する妹の頭を優しくなでている。

 

「密教理論を瞬時に現代魔法理論で説明か。ホンマに凄いな!タッちゃんは」

結界でも張ったのだろうか?人が来ない。それを知っていて司波さんは甘えているようだ。二人の甘い時空を邪魔しないように、当たり障りのない褒め言葉を言っておいた。

 

「ところで師匠。質問だが、『賢者の石』を知っているか?」

司波くんに話題を変えられた。

 

「ああ、金剛のことやな」

 

錬金術は、鉛を金に変える怪しげな術として世間一般に知られ、一部例えば柴田さんみたいな人達には、母親を生き返らせるのに失敗して肉体そのものや腕を失うトンデモない技術だと勘違いされている。しかし、それは錬金術の一部(実際にそのような行為に挑戦している連中も存在する)であり、本来は密教と同じでただの人(鉛で象徴する)を神(金で象徴する)にする技術だ。

 

生きたまま神になれば仏と仏教では呼んでいる。この仏を金剛(金剛は本来ダイヤモンドと訳される事が多い。)と呼ぶ。ちなみに賢者の石もダイヤモンドと解釈されるケースが多々ある。

 

「なるほど…」

僕の説明を聞きながら司波くんは頷いた。掃除屋さんは、凍った暗殺者を手際良く回収し道路も速やかに清掃した。単独犯だったようだ。テロリストが乗っていたバンも回収された。

 

「最後に師匠、頼みがある」

 

「どないしたん?あらたまって」

 

「『タッちゃん』は、勘弁して欲しい」

 

*イデア(情報体次元)は、現代魔法学においてエイドスが記録されるプラットフォームのこと。古代ギリシャ哲学の用語を流用される形で利用されている。

あらゆる存在物の情報体を包含する巨大情報体。巨大な情報プラットホーム。

イデアに存在する個々のエイドスを意識して見分けることの出来る者は少ない。

 

エイドス(個別情報体)は、サイオンで構成された事象に付随する情報体のことである。

現実世界における全ての事象は、このエイドスに記録されている。

現代魔法学における魔法とは、このエイドスを改変することによって事象を生み出している。

 

なお、エイドスは、イデアと呼ばれる情報体次元に存在するとされている。

 

 



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横浜騒乱編4

大黒特尉暗殺を阻止した日の夜、風間少佐から連絡があった。僕は、陸軍技術准尉に昇進したそうだ。戦死したのだから二階級特進は当然なのかも知れないが、随分と褒められた。魔装大隊は司波くんの護衛を本格化するそうだ。引き続き僕も参加要請された。ただし、今まで通り単独行動で良いとの事だ。

 

司波くんの護衛も大切なのだが、佐伯さん達の本音は、司波くんを使えない時の保険が欲しいのだ。もっとはっきり言ってしまえば、司波くん独自の魔法をコピーするか同じ効果を持つ魔法を開発したい。僕の単独行動が許されているのはそういうことだ。

 

司波くんと僕はアプローチの仕方は違うが、一回体験すれば完璧とは言えないまでもコピーはできる。今回の暗殺未遂事件で僕は彼の「再生魔法」をコピーできる目処が立った。一方で、司波くんは時空を超えて意識体を移動させられるようになるだろう。

 

前者については、佐伯さん達は喜ぶ。しかし、後者については司波くん達は喜ぶが佐伯さん達は彼がこれ以上強くなるのを嫌がる可能性がある。ただ、僕は彼から彼の技術を学んだのだから、僕の技術を彼に学びやすい形で提供しなければ仁義に悖る。そういうルールなのだ。

 

暗殺者はどうせ旧人民解放軍のその筋のトップクラスあたりだろう。殺気の全くない状態から銃器を隠したままでの正確なヘッドショットだ。敵は、凄腕の魔法師を凄腕の非魔法師の命をかけて潰すつもりだったのだろう。

 

あれ以上の技量は、存在し得ない。一方、司波くんは一回経験すれば二度と遅れを取る事はない。単独犯で実現可能な残りの手段は超長距離の狙撃位しか残ってないし頭以外なら撃ち抜かれても司波くんは即座に復活出来るのだから頭部のガードに気をつけてさえいれば今後問題ない。

 

巻き添え覚悟のミサイル攻撃や爆弾テロも考えられるが、軍がしっかりと情報収集してくれれば暗殺を未然に防げる可能性が高い。一応、この対策も考えておこう。これらの攻撃は司波くんの振動系の魔法の応用で充分対応出来ると思われるが。ファランクス等を使わなくても。

 

◇◇◇

 

「司波くん、師匠くん、チョッと良いかしら?」

元会長の七草さんに声をかけられた。暗殺未遂事件の翌朝だ。チョッとも良くないと答えたらこの人はどんな顔をするのか気になったが、そんな意地悪をしても仕方ないので止めておいた。

 

「良い?二人とも隠し事は出来るだけしないでね!」

 

「可能な限り情報開示に努めます」

司波くんが、いつもの様に感情の起伏なしに答える。

 

「前向きに検討させて頂きます!」

僕は政治家の模範的な回答をハキハキとした。「じゃかましいわ!ボケ‼︎」などと粗野なことは言わないのだ。

 

元会長は、膨れっ面を作り、

「もお」

と少し怒って見せた。しかし、しっかりと自分を可愛く見せている。この人は自分が司波くんに惚れている自覚がないままこんな振る舞いをしているのだろうか?ムダアピール?

 

昨日の暗殺未遂事件をどの程度元会長が把握しているのかわからないが、僕を「河原」ではなく「師匠」と呼んだところからかなり詳しく把握していると思われる。七草家の情報収集力はそこそこある。

 

教室に戻ると吉田くんが、深刻な顔をしている。

 

「どないしたん?」

 

「師匠。質問があるんだけど…」

 

司波くんは、気を利かせて僕達から離れた。

 

「で?なんや」

 

吉田くんがなかなか切り出せない。

 

「セックスフラッシュのことか?」

 

吉田くんが、赤面し口をパクパクさせている。

 

「で、どうやった?」

 

多分、凄い事になったのだろう。「幹比古様、私はあなたのものです」などと水晶眼オッパイーヌが口走ったかも知れないし、彼女が豹変して超積極的なったかも知れない。寝室で…

 

…わかった。今、吉田くんの心に彼女の豹変した姿が生々しく映った。こりゃ、凄い!リアルエロ漫画?この私小説をR指定にしたくないので細かい描写は省略させて頂きます。

 

「自分、チン◯でかいんやな」

 

吉田くんは、真っ赤になったまま口をパクパクさせ手足をバタバタさせている。

 

「多分、子宮口を刺激したんやろ」

 

「アンタ達、何してんの?」

僕らの助平な会話を盗み聞きしていたかはわからないが、千葉さんが唐突に絡んで来た。吉田くんは、驚いた。顔は血の気が引いて真っ青になっている。ついでに、僕も驚いた。

 

千葉さんが長岡さんと一緒にいたからだ。一体いつの間に仲良くなった?長岡さんはともかく千葉さんは絶対長岡さんを疎んじていたはずだ。

 

この学校には、腕に覚えがある連中がゴロゴロいる。しかし、門派の技術を最後まで習ったとなれば話は別だ。千葉さんは千葉流、長岡さんは宋派で最後まで習っているともっぱらの噂だ。そんなのが同じクラスにいると当人が意識しなくても周りはどっちが強いのかなどと下衆の勘繰りをしてしまうのだ。

 

「アンタが驚くなんて珍しいわね」

千葉さんがニヤリとした。一本取ってやった!などと感じたらしい。

 

「京子は、朝練で走っているからたまに会うのよ!」

京子は、長岡さんの名前だ。千葉さんは、自分だけが長岡さんの影の努力を知っているとでも言いたげな態度だ。千葉さんも朝稽古や体力作りに走ったりしているのだろう。しかし、長岡さんが走るのは体力作りではない。

 

「そりゃ、八卦掌の練習だ」

しまった!余計なことを言ってしまった。この一言で千葉さんだけでなく長岡さんが「なぜそれを知っているの?」という表情になった。八卦掌が走る(と言っても特殊な走り方をする)練習をするのは、一般には知られてない。僕は八卦掌についてはあまり知らないと以前言ってた。部員にも。

 

千葉さんは、僕の一言で長岡さんの雰囲気が変わったのをすぐに気づいた。これは面白いものが見れそうだと言いたげな表情になった。

 

「師匠。もしかして北京系?」

長岡さんがトーンを落として訊いた。彼女が真剣な眼差しになった為、周りの人は押し黙った。彼女の真剣な顔ははっきり言って怖い。

 

「ああ。そうだ」

僕は誤魔化さずに応えた。似非関西弁は、自重せざるを得ない。

 

「そう。わかった♡」

長岡さんは、いつもの古い少女漫画的なヒロインみたいな屈託のない笑顔に復帰した。

 

「?」

千葉さんをはじめその場にいる者全員が疑問に思った。仕方のない事だ。

 

仏教に密教があるようにキリスト教にもイスラム教にも道教にも儒教にも日本神道にも「密教」はあるのだ。長岡さんはその存在を知っていた。他の人は知らなかった。ただそれだけだ。

 

ちなみにキリスト教の密教ではイエズス会とフリーメーソンが有名である。密教≒秘密結社と考えて差し支えない。

 

千葉さんは、きっと長岡さんに長岡さんの質問と僕の答えの意味を尋ねるだろう。しかし、「師匠は、三派弊習の門派」などと教えられるだけだ。しかも、その答えはあながち嘘ではない。

 

「ところでミキ。なんとかフラッシュって何の事?」

千葉さんは、僕と吉田くんの破廉恥密談を盗み聞きしていたらしい。千葉さんの思わぬ追求を受け吉田くんは、パニックに陥った。

 

「僕は名前は幹比古だぁ〜!」

といつもの返しをして教室から走り去った。

 

「話は変わるけどな。自分の兄さん、桜田門の偉いさんやった?」

僕は、遁走した吉田くんに呆れている千葉さんに尋ねた。

 

「偉くはないけど、そうよ」

ぶっきらぼうに彼女は答えた。

 

◇◇◇

 

「それでは、太極拳歩きを説明します」

改まった物言いをしているのは、部室に部員以外の人、しかも上級生がいるからだ。これにはちょっとした理由がある。

 

「師匠!お前、スゲ〜らしいな?」

二年生男子No.2の実力者と噂される桐原さんから声を掛けられたのは、放課後だ。

 

「おだてても、何も出ませんよ〜」

 

「ハハハハハ」

桐原さんは、腹を抱えて笑った。しかし、すぐに真顔になった。

 

「マジな話なんだが…」

 

要は、武術を教えて欲しいとの事だった。剣術を練習してれば良いだろ!と突き放すわけにも行かない。司波くんの体術で剣を持っていてもやられたのが尾を引いているのは明らかだった。その上、自分が模擬戦で負けた服部さんまで司波くんに負けているとなれば何もしないわけには行かなくなる。彼女が出来ても心のその渇きは癒せない。

 

それにしても、昨日の暗殺未遂事件の詳細は誰も知らないはずなのに何故か僕の評価が上がっている。特に上級生からの。もしかして、七草さん?

 

僕は太極拳歩きの見本を見せた。手を中途半端に上げて左右ジグザグに一歩一歩慎重に歩くだけだ。

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編5

適当に作って覚書していたコントを消さずにアップしていました。気づいて削除しました。(3/14)


「『フリチン打法』もそうやけど…」

 

身体を回転させるとき、太極拳歩きでは身体の向きを変える時に身体の中(丹田と敢えて言わない)をまっすぐに動かす。絵で描くと

 

①↓

②→

③↑

④←

 

となる。④で元の位置、つまり①のスタート位置に帰って来る。

 

『フリチン打法』で説明すると①でボールに向かってステップする。(ステップをしない打法でも構わない。)②でバットをボールに向かって振り始める。③でバットとボールが衝突する。④でバットを振り切る。ちなみに②の終わりにチン◯が内腿に当たるから『フリチン打法』と呼ばれる。

 

結論から言うと丹田がわからないとできないのだが、出来てしまうと丹田がわかっているとも言える。また、上半身のバットを振る動きは上記と少しずれていても構わない。

 

僕は、かなり詳しく説明したつもりだったが、野球経験者がこの場にいないのでみんなの心に映らない。特別ゲストの桐原さんも頭を抱えている。野球の経験もチン◯もない長岡さんはできた。さすがだ。

 

で再び太極拳歩きで説明する。①で踏み出す方向に身体を回転させながら踏み出す方向に足を出す。②で着地した足に身体が向かう。③で後足を引きつける。④後足が前足を追い越して今度は前足として踏み出す。この時に身体の向きを変える。

 

太極拳歩きは、すでに有名な練習法になっているので興味がある方はネットで閲覧すると良いだろう。

 

なので、桐原さんをはじめ全員がわかると思ったのだが、再び長岡さん以外は全滅だった。桐原さんは明らかに動揺している。「可愛い一年生でもできているのに俺は…」とでも考えているようだ。ご安心ください。桐原さん。長岡さんは特別ですから。極一部で「毒手京」と恐れられているくらいだ。

 

では、最後の説明。これでわかるはず。

 

「おんなじ方法で次は『太極拳腕回し』」

これで、大丈夫。

 

①で腕を下に動かす。ただし腕は円運動する。

②腕を横に動かす。ただし腕は円運動で。

③腕を上に動かす。ただし腕は円運動で。

④腕を横に動かす。ただし腕は円運動で。

 

丹田は□に動かす。腕は◯に動かす、だけだ。この練習法もネットにアップされているから興味がある人は閲覧してみよう!(陳氏太極拳では纏絲勁訓練として有名みたいだ。)

 

「出来た様な気がする…」

桐原さんが溜息をつく。少し安心したのだろう。長岡さんは、よゆーで腕をぐるぐる回してながら下丹田を□に動かしていた。両腕も動かして雲手までやっている。完全に掴んだのだろう。

 

僕は、長岡さんに姿勢を高くして立ってもらい、彼女の背中に僕の腕を回して(エロい事考えるなよ!技の説明をしているだけだ。)少し押した。もちろん、この程度では長岡さんはビクともしない。そこで背中を押しながら、①↓②→③↑とした。

 

「おッ!」

彼女が少し驚いた。③で踵が浮き思わず一歩前に足を出してしまったからだ。

 

「わかった?」

僕が尋ねると彼女はサムアップして見せた。武術の最中は彼女の少女漫画的天真爛漫的スマイルは出ない。

 

同じ事が出来るか試してもらう。桐原さんに軽く踏ん張ってもらった。真顔な長岡さんが桐原さんの背中に掌を引っ付けた途端に①②③④!

 

「ゴッはぁ?!」

言葉にならない声を上げて桐原さんは前方に吹っ飛んだ。

 

「なんだ!今の?重力系魔法か?」

桐原さんは、頭をひねった。あれだけ前方に景気良く吹っ飛ばされたのにタフな人だ。

 

「ちょっと良い?」

長岡さんが、手招きしている。

 

「師匠。もしかしてタイチの掌門?」

 

「掌門ちゃうよ。それレベルに習ろたけど」

 

「わかった」

 

僕達が真顔で密談するのを部員達は、極自然に聞かないようにしてくれる。しかし、桐原さんはそういうのに慣れてない。

 

「長岡姉さん、もう一回やってくれ!」

 

長岡姉さん?そう言えば、桐原さんは司波くんを司波兄と呼んでいた。司波兄妹の区別をわかりやすくする為にそのように呼んでいるのだと思っていたが、そうではなかった。彼は根っからの実力主義者だった。

 

何回か、吹っ飛ばされた桐原さんに休憩を勧めた。心身を休めたほうが新しい技術は習得しやすいからだ。

 

「師匠。これを見て欲しい」

休憩中のはずの長岡さんは、馬歩の状態から何かを掲げてる感じで左右に上半身の向きを左右に変えてその何かを置く動作を繰り返した。

 

微妙に□に丹田を動かしている。

 

「それは?」

 

「眼鏡屋が、仕事中にしてた練習」

 

眼鏡屋?程廷華のことか!

 

黙って頷く長岡さん。

 

「ずっと、上手くできなかったの。師匠ありがとう!」

彼女が微笑んだ。屈託のない笑顔だ。部員達の緊張が解ける。無口の長岡さんは怖い。狼や虎が静かに佇んでいる雰囲気なのだ。

 

あれッ?長岡さんは、程派も習っているのか?宋派だけでなく。

 

「程派を習ったんなら太極拳も習ったんちゃうの?」

 

「うん。習った。太極拳は、友達が出来ると言われたし」

 

太極拳は本来、天の気が入って御天道様みたいになって行く。なので、周りに人が集まって来るようになる。ただ、天の気を入れる感覚がつかめないので地の気を入れて太極拳を練習する傾向が強くなる。そうなると練習しても太極拳が上達しない。太極拳を練習する人はこのことを留意した方がいいだろう。

 

「前から、気になっていたんだけど」

涼野さんが、珍しく質問してきた。

 

ネット情報などでは八卦掌の歴史は、だいたい以下のごとくだ。

 

『武術の中でも歴史は浅いほうであり成立年代は19世紀の前半(清朝後期のころ)と言われており、創始者は紫禁城の宦官であった董海川とされる。当時、董海川自身が「八卦掌」という名称を用いていたかどうかは定かでなく、その名称自体は後世になってから定着したものと考えられる。董海川は後に粛親王府の護院の長となったと伝えられているが、確かな記録はまだ見つかっていない。』

 

「宦官になったら、武術は無理だと思うの」

 

「その通りです!」

思わず標準語で明言してしまった。隣で長岡さんが頷いている。

 

では、なぜこんな話がまことしやかに語られているのか?

 

それは、八卦掌が門に入っている者とそうでない者とを区別しているからだ。そうでない者には、董海川の逸話を師が語ってくれない。そこで、他門派で特に八卦掌が嫌いな者が流した捏造話が流布している。八卦掌の門に入っている者はその捏造話を放置しているのだ。事実を知っているかどうかで八卦門の内か外か容易に区別出来るからだ。

 

「八卦掌って、嫌われているの?」

驚く涼野さん。

 

はい、そうです。その証拠の一つは、流布している情報からもうかがわれる。

 

『八卦掌の門派は甚だ多い。 その理由としては、董海川の元に集まった各地の達人たちに対して、董海川は各達人がそれまで学んできた武術にあわせて教授した点が挙げられる。よって、投げ技が主体の門派や打撃が主体の門派など、門派によって動作に大きな違いが見られる。

 

開祖の董海川の門生は(以下、董海川の墓碑に記載のある順に)

 

尹福(大弟子、呼称『痩尹』)、馬維祺(呼称『煤馬』)、史計棟(呼称『賊腿史六』)、程廷華(呼称『眼鏡程』)』

 

☝︎大名人の通り名が「痩」とか「煤」とか「賊腿」とか「眼鏡」とかあり得ない。「エルフィン・スナイパー」とか「クリムゾン・プリンス」とか「カーディナル・ジョージ」とかと比べたり「神槍李」(八極拳)とか「楊無敵」(太極拳)と比べてみれば一目瞭然だ。

 

「でも、どうして尊敬されてないのかなぁ?」

至極当然の疑問を抱く涼野さん。

 

「八卦掌は、地の気をぎょうさん入れるし、黒社会で使われとるし」

 

「師匠!その話、詳しく教えてくれ」

休憩中の桐原さんが食いついてきた。

 

八卦掌は、比較的早く使えるようになる武術の一つなので要人警護や黒社会で重宝されているのだ。ただし、長岡さんのように全部習っている人の方が部分的に習っている人よりも優位に立てる。なので、本気で取り組みたいなら全部習った人に習うほうが良い。

 

黒社会の方が実は貴重な技術を大切に継承していると信じている人が意外に多いが、八卦掌を全部習えば人殺しに興味が失せてしまう。なので、彼等は最後まで習っていないのだ。毒入鉄沙掌は、最後のほうに習う。その点だけでも、最後まで習った者にそうでない者は不利になる。

 

ただ、八卦掌は地の気が優勢になりやすいので天の気を入れる対策をした方が良いだろう。ボッチが好きなら気にする必要はないが。ちなみに、定式八掌や64掌には天の気が入りやすい動きがある。

 

「姉さん。お願いします!」

早速、桐原さんが長岡さんに頭を下げている。

 

司波くんに遅れを取った人は、心のモヤモヤに悩まされる。司波くんが十師族と公言すれば諦めもつくだろう。しかし、司波くんはただの魔法科一年しかも二科生だ。さらに多くを語らない。森崎くん、服部さん、桐原さんは今後の人生が大変になりそうだ。司波達也の亡霊に常に悩まされるのだから。司波くんよりも強くなりたければ、いくらでも相談に乗りますよ!

 

アカン、肝心な事忘れとった。

 

「桐原さんの父さんは、確か海軍の…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アマゾンのキンドルを検索してて驚いた。中国語版の「劣等生」が販売されていたからだ。正式に許可を取って販売しているのだろうか?

魔法科高中的劣等生. 2 Kindle版

佐岛勤 (著)



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¥ 1,126









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横浜騒乱編6

10月31日を10月30日に訂正。


「師匠は、『エメラルド・タブレット』*について何か知っているのか?」

司波くんが、尋ねた。

 

「錬金術でもやるんか?この前、『賢者の石』を気にしとったな」

僕は、説明する。そもそも、錬金術はメタファーだ。鉛を金に変える技術と称して人を神に変える密儀を保存しているだけだ。(卑金属から貴金属を生成するのは現代化学で可能だがコストがかかりすきる。古代の錬金術でそれも可能ではあるが、その話はここではしない。)しかもその内容はすでに公開されている。解釈は一般化してないが。

 

「どこに?」

表情は変わらないが、少し驚く司波くん。

 

「仏教経典には露骨に書いとる。般若心経もそうや」

 

司波くんは、今一つ納得出来ない様子だった。この前、『空』についてあるいは賢者の石について彼に説明したが本当は納得出来なかったのだろう。というか、彼は、物資的な賢者の石やエメラルド・タブレットが存在して欲しいのだろうか?

 

「エメラルド・タブレットでなんかしたいんか?」

 

司波くんは、少し考えてから説明し始めた。

 

「重力制御型熱核融合の可能性を考えている」

 

「加重系魔法の三大難問の一つやな」

 

確かに、重力制御魔法で核融合を維持する方法についてはトーラス・シルバーが飛行魔法を実用化したのでその応用で重力制御をすれば目処がついたと言える 。

 

変数をわずかずつ変更しながら重力制御魔法を連続発動するノウハウは飛行魔法の実現によって安全確実となったからだ。

 

「その通りだ。だが魔法師がずっとついていて魔法を掛け続けなければならないのでは意味が無い。それでは魔法師が核融合炉のパーツになってしまう」

 

「話に水を差して悪いんやけど、電力は余っとるし、資源も余っとる。そんで核融合発電まで開発する必要あんの?」

 

僕は、日負荷曲線を見せた。日中の電力需要は大きいが夜間は激減する。夜間に電力が余り送電端より受電端の方が電圧が高くなってしまうフェランチ現象があるくらいだ。ちなみにこの対策は発電所の発電機の界磁電流を小さくして進相運転させたり需要家の力率改善用のコンデンサを解列…やばっ!危うく思考が脱線するところだった。若干の軌道修正。

 

昔はベースロード発電所に原子力発電や石炭火力発電を使い、日中の重負荷時に揚水発電や汽力発電を起動していた。当時は、このベースロード発電を出来るだけ安くする需要があった。しかし、原発のコストが意外に大きく国防(核兵器開発等)の為なら原子力発電所をたくさん作る必要はないと明らかになった。

 

 その上、電力保存技術の進歩に伴って不安定とされる再生可能エネルギーによる発電、太陽光や風力などの発電でも電力安定供給可能となった。しかも、シェールガス革命から始まったガスやオイルの価格破壊で巨大電力会社による発電、送配電の拡大は需要家(コージェネレーションがその発端)や新電力会社による自家発電に取って変わってしまった。

 

「師匠は、電力供給に詳しいのだな」

 

しまった!余計なこと言い過ぎだ。司波くんを不機嫌にした。

 

「と言うても、宇宙開発とか核融合発電は開発者の夢やな!達也のことやからほんまは核融合の可能性やなくて実用化を考えとるんやろ?」

強引に話題を元に戻して司波くんに迎合する意見を述べた。

 

「優秀な魔法師の代わりをしてくれるハードの可能性を考えている」

機嫌を直した司波くんは、重力制御をする魔法師の代行をする機械を作りたいようだ。

 

「それなら、ぎょうさんおる『優秀でない魔法師達』に代わりをさせたらええやん?アダム・スミスが国富論を書く前から日本は分業しとったし」

しまった!また司波くんの機嫌を損ねた。すぐに訂正せねば。

 

「まあ、これは少数の魔法師からたくさんの魔法師の部品化になっただけやから根本的な解決ちゃうな」

 

「俺は、ハードによる魔法式の保存を考えている」

司波くんの機嫌は戻った。

 

「それなら、サイオンを貯めるアキュムレータとか式神を使うとかなら吉田くんに頼んですぐに実用化…」

再び司波くんの機嫌を損ねた。司波くんの情動はほとんどないのだが心の反応は妹の深雪さんと同じように目まぐるしく変化する。そっくりな兄妹だ。お似合いと言える。

 

愚痴ってる時間はない。すぐに達也坊ちゃまのご機嫌を取らなければならない。

 

「まあ、これらも形を変えた魔法師の部品化やな。あかん。万策尽きた。ギブアップや!」

 

「動かすには魔法師が不可欠、しかし同時に、魔法師を縛り付けるシステムであってはならない。その為には魔法の持続時間を日数単位に引き伸ばすか、魔法式を一時的に保存して魔法師がいなくても魔法を発動できる仕組を作り上げるかだと思う。俺は、安全性を考慮して後者を選んでいたが、師匠のように前者を選ぶのもありだと思う」

 

司波くん、大人!自分と異なる意見にもしっかりと耳を傾けているね。

 

ただ、『エメラルド・タブレット』や『賢者の石』はこの世にはないぞ。

 

「あの世にあるんや」

 

「?」

 

「『空』を観ずるようになって、あの世が観えるようになったらわかる。達也ならすぐや!」

 

「俺は、師匠みたいな生き方はできないよ」

司波くんが、苦笑いをしている。

 

おお!さすがはお兄様。僕が意外にに利他的な菩薩行的に生きているのに感づいている。ならば、愛する妹の為に生きている司波くんの為にサービス!サービス↗︎

 

「ええ事教えといたる」

 

般若心経を読むと観自在出来た人物は、『空』を観ずると菩薩行に邁進し如来になると思ってしまう。しかし、実際は観自在が出来てもすぐに利他的な生き方が徹底されて行くわけではない。むしろ、『空』を観る能力を自分本位に使う人物は多い。山にこもって修行を始める人物は極少数なのだ。

 

「では、どうすれば『空』が観えるようになる?」

 

「現代魔法理論をいったん全て忘れて観ることや」

 

抽象的な物や現象は、予め先入観(この場合は「現代魔法理論」)を持って見るとそのように見えてしまう。先入観無しで観るのが良いのだ。

 

おっと、司波さんが近づいて来た。

 

「ほんなら、10月30日の件。よろしく!」

僕は、伝えたいことを言い終えて図書館の地下二階資料庫を出た。二人のラブラブな時間を邪魔するつもりは毛頭ない。僕は利他的なのだ。

 

「お兄様 、いらっしゃいますか?」

 

背後で司波さんの声がした。

 

*エメラルド・タブレット

 

 

エメラルド・タブレット(英: Emerald Tablet, Emerald Table, 羅: Tabula Smaragdina)は、錬金術の基本思想(あるいは奥義)が記された板のこと。エメラルド板、エメラルド碑文とも。 ただし、現存するのはいずれもその翻訳(と称する文章)だけで、実物は確認されていない。

 

概要

 

伝説によると、この碑文はヘルメース自身がエメラルドの板に刻んだもので、ギザの大ピラミッドの内部にあったヘルメス・トリスメギストスの墓から、アブラハムの妻サラあるいはテュアナのアポロニオス(英語版)によって発見されたものであるという。あるいは、洞窟の中でエメラルドの板に彫りこまれたのをアレクサンダー大王が発見したともいう。

 

12世紀にアラビア語からラテン語に翻訳されて中世ヨーロッパにもたらされた。最初期のラテン語訳には、セビリャのフアン(en:John of Seville)によって翻訳された偽アリストテレスの『秘中の秘』(1140年頃 en:Secretum Secretorum)に含まれるものや、サンタリャのウゴ(en:Hugo of Santalla)によるものがある。17世紀のイエズス会士アタナシウス・キルヒャーによる訳が広く知られている。パラケルススは、シュポンハイムの僧院長ヨハネス・トリテミウスが父ヴィルヘルムに贈ったエメラルド・タブレット(診療室に貼ってあった)を見て育ったという。

 

これに記されたうちで最も有名な言葉は、錬金術の基本原理である「下なるものは上なるもののごとく、上なるものは下なるもののごとし」であろう。これはマクロコスモスとミクロコスモス(大宇宙と小宇宙)の相似ないし照応について述べたものである。



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横浜騒乱編7

編編→編


「四摂(ししょう)、ちょっといいか?」

森崎くんが真剣な表情をしている。Eクラスの教室は、彼にとっては完全アウェーだと思うが単身乗り込んで来た。

 

「フラッシュ・キャストはムズイか?」

 

森崎くんは、一瞬たじろいだがすぐにうなづいた。

 

少し前までなら彼の悩みはすぐに解決できた。司波くんに頼んでクイック・ドロウかドロウレスの魔法式を見直して出来るだけ短くしてもらい、その短くなった魔法式を森崎くんが暗唱すれば良いのだ。

 

何回も繰り返せばそのうち高速で唱えられるようになる。

 

がしかし、司波くんが全国高校生魔法学論文コンペティションに参加すると急遽決定され、その準備で忙しくなってしまった。テーマは「重力制御魔法式熱核融合炉の技術的可能性」だ。どうして司波くんが常駐型重力制御魔法式熱核融合炉を研究しているのを市原さんは、知っていたのかは定かでないが、これでは司波くんも断れない。

 

ともう一つ。敵がまた攻撃して来た。今度は超遠方からの狙撃だったそうだ。ということで彼にこれ以上の負担をかけるわけにいかない。森崎くんの悩みは僕が聞くほうが良いだろう。解決できるのかはわからない。

 

「ああ、ただ俺も焦り過ぎてたと思う。だから、何か武術でも取り組んだ方が良いかと考えているんだ」

 

「丸腰だと戦闘力がガタ落ちなんは確かに問題やな」

 

森崎は、再び頷く。彼は、何かその様な状況に追い込まれた経験をしたのだろうか?まぁ、その辺りの事情を詮索するのはよそう。しかし、新しい魔法式の開発が難しいのと同じで実用に耐えうる武術を身につけるのも時間がかかる。そこで、一工夫。

 

「野球をやったことある?」

 

「少年野球なら少ししてたけど…」

 

◇◇◇

 

「これは?」

森崎くんが、真ん中に上下にスライドする箇所が二つある野球のバットを不思議そうに見ていた。

 

「カウンタースイングや!」

 

前回、太極拳の□の動きを部員達や桐原さんとやってみたがあまり好評ではなかった。わかりやすいと思って紹介した「フリチン打法」も長岡さん以外全然だった。そこで、フリチン打法習得用アイテムを用意したのだ。部費で。

 

先ずは、丹田の動かし方の説明をする。

 

『フリチン打法』の復習だ。

 

①↓

②→

③↑

④←

 

となる。④で元の位置、つまり①のスタート位置に帰って来る。

 

『フリチン打法』で説明すると①でバットを振る準備をする。(今回はステップなしの打撃フォームで説明する。)②でバットをボールに向かって振る。③でバットとボールが衝突する。④でバットを振り切る。ちなみに②の終わりにチン◯が内腿に当たるから『フリチン打法』と呼ばれる。

 

結論から言うとフリチン打法が出来ているかどうかは自覚しにくい。全裸でバットの素振りをしたらわかりやすいが、それでは変態だ。しかし、このカウンタースイングを使うと出来ているか出来てないかすぐにわかる。

 

僕は、カウンタースイングを比較的緩やかに素振りして見せた。 カチ。

 

次に、森崎くん。比較的速くて鋭くカウンタースイングを振った。 カチカチ。

 

「なるほど!」

一人うなづく長岡さん。そして、彼女はカウンタースイングを手にして素振りをした。 カチ。

 

今度は、他の部員も気づいた。成功スイングは、音が一回。失敗スイングは音が二回するのだ。

 

「メジャーリーガーのスイングに似ているな」

 

さすがは、少年野球経験者の森崎くんはすぐに見破れた。しかし、わかるのと出来るのは違う。

 

白石くんが、できた。彼は元々スポーツ万能なのでスポーツの動きなら微妙な違いを表現できる。

 

今回は、二回目だったので全員出来た。森崎くんも出来たので一安心した。

 

「これって、ピッチングにもあてはまらないか?」

 

森崎くんは、掴んだ様だ。その通り!太極拳の□の動作でバッティングだけでなくピッチングも説明できる。

 

①↓

②→

③↑

④←

 

①で左足を上げる。(右投げで説明する。)そして、左足をバッターの方に踏み出す。なので、左足を上げた時に丹田を右に移動しておかなければならない。

②で着地した左足に丹田が移動する。直線的に。

③でリリースする。

④で丹田が元に戻る。戻る位置で右足の形や動きが変わる。一例は、爪先まで後ろに向く。俗に言う『速球は右足で投げる』だ。

 

「四摂。もしかして、そのフォームで拳銃を投げたのか?」

 

「そやな!クイックモーションで、拳銃型CADを投げた。拳銃ちゃうで!」

 

「クロムモリブデン鋼は重いから拳銃型CADには向いてないぞ!拳銃には適しているが」

 

森崎くんは、僕がモブ男くんに投げつけた拳銃型CADが本物の拳銃だと疑っているらしい。森崎くんは、拳銃に詳しいようだ。(☜こういうのも伏線回収と言えるのだろうか?言えるのかも知れない。)

 

「拳銃のことは目をつむるとして、このスイングを実践に活かすにはどうしたらいいんだ?」

 

森崎くん。拳銃ではなくて、拳銃型CAD。お堅いぞ!風紀委員。

 

そこで、世間で良く見られる太極拳の技の見本を示した。攬雀尾 (らんじゃくび)だ。相手の攻撃をかわして転倒させるなどと説明されるが、実際にやってみると相手のバランスが崩れないので力任せか体当たりとなってしまう。

 

口で言っても伝わりにくいので、長岡さん相手に実演した。

 

「おお!」

後ろにひっくり返りながら、長岡さんは感心している。制服なのでラッキースケベ的なイベントは発生しない。パンツももちろん見えない。

 

「…」

森崎くんは、女の子を転倒させた僕に呆れている。そこ、注目するところじゃないから。

 

「師匠。試して良い?」

長岡さんは一回で掴んだらしい。

 

「ええよ」

僕は、比較的ゆっくり彼女に縦拳で中断で突いていった。

 

彼女は、僕の外側に移動して時には僕の突いた腕を取って、僕の腰背部に手を添えた。そのまま後ろから僕は前方に回されて投げられた。さっきの攬雀尾と逆方向だ。

 

「今のは?」

森崎くんが、思わず尋ねた。

 

「白鶴亮翅(はっかくりょうし )❤️」

可愛く言っても駄目ですよ!長岡さん。それ殺し技でしょ。どさくさ紛れに点穴をサービスしてくれている。

 

森崎くんは、何回か試したが今一つだった。すぐに端末を取り出す。

 

「カウンタースイングだな」

僕が頷いた時には、彼は注文していた。即断即決だ。値段の確認さえしない。社長の息子はさすがだね〜。

 

「10月30日の『護衛』頼むで!」

部室を出て行こうとする森崎くんに大切な事を念押しした。

 

「マテバでよければ!」

ニヤリと森崎くん。

 

彼は、あのシリーズが好きだったのか。

 

◇◇◇

 

「ふ、普通だったわよ!」

その夜に美波さんから着信があった。

 

「何が?」

 

「あんたが、どんなんやってしつこく聞いたんでしょっ!このヘンタイ!」

 

そういえば、僕は夏休みの終わりに彼女に◯ンコの状態を確認するようにアドバイスしていた。

 

「異常がないんなら、断食して欲しいんや」

僕は、真面目に答えた。

 

「わかったわよ」

彼女も怒りが収まった。

 

「月に一回か二回でもええから」

 

「…」

 

「お菓子もあかんよ」

 

「また、人の心読んだん?」

 

心を読むのは、それほど難しくない。むしろ道を得たあとはそれが当たり前となる。なので、悟りを開いた人物と付き合う人は一々反応しない方がいい。疲れるからだ。

 

そのうち、遠隔でも普通にわかるようになる。これは、道を得た人へのアドバイスだ。わかるからといって逐一伝えようとするのは控えた方が良い。本当に伝えなければならない事はあまり多くないからだ。

 

そして、道を得た師を持つ弟子になった人へのアドバイスでもある。自分の心を師に読まれるからと言って固くなる必要はない。師本人は、それが当たり前であり何ら特別なことではないからだ。

 

女子高生の◯ンコが、どうであろうと興味はない。ただ、断食ができる身体の調子かどうか知りたいだけなのだ。

 

 

「ところで美波ちゃん。10月30日に二高では…」

 

 

 

 

 

 

 

 




カウンタースイングはようつべでクーニンとかトクサンを見たりすれば把握しやすいと思います。


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横浜騒乱編8

予想外の事態だ。とはいえこれは僕にとって都合がとても良い。

 

最初は、気のせいかと思った。ほとんど喋った事がない市原さんが核融合について語っている夢を見たのが最初だ。

 

次は、座禅中に狙撃される雑念だ。バイクの運転中と感じた。そこでおかしいと思った。これは、自分自身の記憶でも体験でもないと。前世にも心当たりがない。司波くんが狙撃されたと後から聞いて、もしかしてと思った。

 

その次に座禅中に出てきた雑念は、狭い部屋で七草さんと一緒だった。そこで、この記憶は司波くんのものだと確信した。しかし、必要に迫られて観ているわけでもないのに急に彼の体験が何故見えるようになったのだろうか?

 

その次の座禅中に出てきた雑念は、小野さんに違法なお願いをしているものだった。

 

以前、司波くんを観たときに彼は脳の情動を司る箇所に魔法的(?)な処理をされていて情動がほとんどないとはわかっていた。しかし、彼の心はそうではなく健康な男子だとこれらの雑念でわかってしまった。彼は、自分の目の前にいる女子をくまなく観察していたのだった。

 

おそらく、これが彼に関わる女性を舞い上がれせてしまう原因の一つだ。自分の隅々まで見透されてその感覚を『愛情』によるものだと勘違いしてしまうと思える。

 

あとこれは全くの蛇足だが、五十里さん(♂)を意外にも司波くんが意識しているのは驚いた。五十里さんは、所謂男の娘ではないが、同性の友達が少ないのが悩みらしいくらいに同性から敬遠されているレベルに中性的だそうだ。白石くんから教えてもらった。

 

◇◇◇

 

「師匠は、行かないのか?」

司波くんを尾行している不届き者を捉えんとして全員アイネブリーゼから出てしまった。

 

「もし、俺が大亜やったら達也が一人になったところでミサイルを打ち込む」

 

「俺を狙っているのが大亜と断言できる理由は問わない。だが、師匠はミサイルを防げるのか?」

 

「今はできへん。そやけど、迎撃してもらうんはできる」

 

司波くんが、僕の「今は、できへん」に突っ込んで来るかと思ったが、彼は話題を変えた。

 

「最近、何か変わった事はないか?」

 

「頭良さげな美人さんから、壮大な夢を聞かされたり、いけすかん女から、無茶な仕事を押し付けられたり、可愛いお姉さんから言い寄られたり、巨乳姉ちゃんを言葉攻めしたりするよう分からん記憶が出でくるんや!」

 

婚約者がいる男の娘とか、ロケットスクーターに乗ったストーカーの話は省いた。彼の周りは本当に個性的な人達が集まる。

 

司波くんの眉間に皺が寄った。情動もリビドーもなくても多少ギクリとしたようだ。

 

「達也も、何か変わった事あるんやろ?」

 

「時折、光が見える」

 

「そんで?」

 

彼は答えを渋った。しかし、

 

「参ったな。正確に言うと光り輝く天照大神や仏やキリストが見える」

 

司波くんの心に移る『本当の僕』はそういう風に見える。

 

「そりゃ、天の本当の『俺』やな」

 

司波くんが溜息を吐く。どこまで本気なんだコイツは?と思っている。全くの本気で正気です!我は救世主見習い也!

 

「そんなんは、どうでも良い事や。それより、何で急に見えるようになったかや!」

 

「心当たりがあるのか?」

 

この現象は、僕が司波くんに『再生』してもらってから起きている。彼が『再生』魔法を起動する際に対象となる人物の肉体情報をほぼ把握してから事象改変、つまり『再生』する。何回もこの魔法を行うのだから彼が一々『再生』した人物の情報を覚えているわけがない。しかし、特に印象深い場合はどうだろう?

 

例えば、その人物が一生かけて守るべき対象となっているとか、普通の人間とは明らかに違う場合だ。このようなレアケースでは『再生』した者と『再生』された者に何らかのチャンネルが開かれてしまう可能性がある。興味ある情報は、無意識に覚えてしまうだろうから。

 

司波さんの極端なブラザーコンプレックスは、これが原因ではないだろうか?座禅中に浮かぶ雑念に司波くんの記憶が出てくるのもこのチャンネルの所為だろう。

 

司波くんは、僕が彼の妹を『再生』したのを言い当てたのを聞いて警戒心MAXとなった。でも、そんなことはお構いなしだ。

 

「すまんが、今のところすぐに治す方法は思い当たらん。出来るだけ見んように努力はする」

と、言ったところで司波くんの態度は頑なままだった。僕が彼のプライベートを見れるのに彼は僕のプライベートを見れない。そこで、切り札を一枚。

 

「このままやと不公平や。俺の実家を伝えとく。手貸してくれ」

 

僕は、司波くんの手のひらに平仮名で文字を書いた。

 

「…」

司波くんは、無反応を貫いた。さすがだ。もしかしたら、調査済みだったのかも知れない。これでお互いの実家をお互いに知った事になった。僕も司波くんも家の事情に縛られて生活している。しかし、これでも足りない。僕は、出来るだけ見ないようにするが見えた情報は活用するつもりなのだから。

 

「それと、これはサービスや。よう視とき!」

 

僕は、イスから立ち上がった。

 

姿勢を正してから肩幅の二倍弱程度に両足を開いた。その時に両拳を上向きにして両ウエストに添えた。左足を前に出す。真上から見たとしたら僕の足は正方形の頂点に位置している。頭は対角線の交わった点にある。

 

「極端に背筋を真っ直ぐにするわけではなく、かと言って背中が曲がっているわけでもなく、体重は左右均等に配分して、骨盤が捻れないようにして、両肩と骨盤を水平にして…」

 

「師匠。それは何だ?空手の構えに似ているが」

 

「少林拳の暗勁」

 

「!」

 

「身体を中庸に、極をなくして…。ほんのわずかな『意』で」

 

ズン!左足が一瞬前方にスライドして元の位置に戻る。

 

続いて、ズンズンズン。

 

「わかった?」

 

「ああ」

 

発勁。特に暗勁は、男のロマン(?)だからもうちょっと大袈裟に喜んでくれるかと思ったが、司波くんは相変わらずのポーカーフェイスだった。しかし、振動系魔法をフラッシュキャストで運用しているのではないとハッキリわかってくれたようだ。彼の心が良くわかるのはこういう時には便利だ。

 

「想像していたのとは、違った」

 

司波くんは、独り言のように呟いた。彼がイメージしたのは、陸奥圓明流だった。

 

「それは、漫画!(`・ω・´)」

 

百年前の漫画だが、今だに武術武道系の漫画はあのレベルを超えられない。漫画家が武術を習うか武術家が漫画を描けば良いだけの話なのだが、武術を習った人は何故かあまりその技術を語りたがらない。

 

なので、今でも暗勁の練習は陸奥九十九が作品の中でやっていたようなぶら下げた布(布団でも構わない?)を大きく動かさないで何とか威力を伝える練習を何年もする荒唐無稽な都市伝説が一部で信じられている。

 

ただ、困った事に外見上は全く同じ練習法があるので誤解が解かれる事はこれからもないだろう。

 

「質問があるのだが」

 

「何でも聞いてや!」

 

「どうやって使うんだ?まさかその格好のまま敵に突っ込むわけはないだろう?」

 

「そうや。勁がわかった後は、こんなのもある」

 

僕は、空手の正拳突きを繰り返すような動きをしたり、敵に攻撃を跳ね上げて落とす動きをしたり、横に反らせたりする動きをしてみせた。

 

「言っとくけど、こんなん最初の勁が出来へんかったら使い物にならん」

 

「だろうな。それと軽くで構わないから打ってくれないか?」

 

さすがは、司波くん。百聞は一見に如かず。百見は一触に如かず。技は実際に掛けてもらうのが習得の為には、一番の近道となるのだ。良くわかっておられる。

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編9

「でも食勁はまたの機会にしとこ。マスター!」

 

「コーヒーのお代わりでしょうか?」

 

「実家の『ロッテルバルト』のマスターに伝言頼むわ。10月30日の件や!」

 

こちらが、本題だ。情報屋を通じて横浜有事の日時が拡散される。我軍が、治安出動して実際に戦闘する前に民間の防衛行動がこれである程度格好がつく。本来なら、速やかに軍の防衛出動が行われるべきだが、敵は子飼いの政治家等を利用して軍の防衛出動を遅らせてくる筈だ。なので、実質総理の独断で発令出来る軍の治安出動にたまたま軍が重装備で出動し、敵攻撃力が予想以上だった為にそのまま防衛出動に移行したとする流れにしたい。

 

『治安出動(ちあんしゅつどう)とは、一般の警察力をもっては治安を維持することができないと認められる場合に、内閣総理大臣の命令または都道府県知事の要請により行われる自衛隊の行動』

 

おそらく、県知事の要請は敵妨害工作でかなり遅れると予想される。そこで総理の命令による軍の治安出動になるだろう。

 

ちなみに『防衛出動(ぼうえいしゅつどう)とは、日本に対する外部からの武力攻撃が発生した事態または武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態、もしくは、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態に際して、日本を防衛するため必要があると認める場合に、内閣総理大臣の命令により、我軍の一部または全部が出動すること。一種の軍事行動と解される。ただし、戦時国際法上の宣戦布告には該当せず、自衛権を行使することはできても、交戦権は認められない。

 

防衛出動は、自衛権行使の一態様であり、現行法で最もハイレベルの防衛行動とされる。防衛出動には「国会の承認」が求められるなど、様々な制約がある反面、武力攻撃を排除するため、自衛権に基づき必要な「武力の行使」が認められ、多くの権限が定められるなど、内閣総理大臣の指揮監督の下、我軍の幅広い活動を可能にする』

 

防衛出動は、敷居が高く過去にも我国が敵の攻撃に後手を踏んだ苦い経験がある。上記の「国会の承認」が厄介なのだ。

 

決断した総理が、後から責任を追及されて辞任に追い込まれるのは避けたい。悪しき前例があると今後、総理の決断が鈍るからだ。

 

「師匠。それらも『実家』からの指令なのか?」

 

「風間さんや佐伯さんの指令ではないな」

 

実は、この件とは違うことで多少腹を立てている。風間さんは、司波くんの警護をわざと薄くしている。どこの誰が彼を襲うかあるいは尾行するかを見張って情報収集しているからだ。しかし、今はどこが攻めてくるかよりもどの様に完全勝利するかが重要なのだ。

 

「それくらいわかっている」

 

どうやら、司波くんが僕の感情を読んだらしい。僕が彼の心を読むのを彼の目の前で実演しただけで彼はほぼ同じ事をして見せた。

 

「大人なんやな」

 

「そうでもない」

 

もう少し本音を書くと、敵は本気で司波くんを狙って来た。しかも彼の弱点を突いて来た。一回目は本当に危なかった。今回も彼一人を殺す為にミサイル飽和攻撃をすれば目的は達成された。敵は、軍そのものを利用せずに彼に個人的に恨みを持つ組織を利用して暗殺を試みた。

 

だから、僕も彼もこうして無事にいるだけだ。しかし、それはたまたまそうであっただけだ。風間さん達は、確実にそうであると確証があって彼の護衛をルーズにしているわけではない。

 

お陰で、敵である大亜も作戦立案力がないとわかった。戦争に勝ちたければ、敵の切り札を抑えなければならない。それが適わないなら戦争は避けた方がいい。

 

今の時点で、大亜の勝ちは完全になくなった。本格的な武力衝突が起きる前に必ず勝てる環境を整えなければ負ける確率が高くなる。中国の兵法にも書かれているはずなのだが。

 

僕の『実家』と『山』の親書はそれなりに効いた。中国の中枢は、今回の大亜の横浜上陸作戦を見放している。そうであるから、このようにツメの甘い作戦を継続している。

 

ならば、こちらは、殲滅作戦を展開出来る。上陸した敵は全てテロリストあるいはゲリラとして全員殺せる!否‼︎全員殺さなければならない。テロリストとテロリストに加担する者は容赦なく殺すとアピールしなければ日本はテロリストとテロリスト支援者に優しい緩い国とみなされてしまう。

 

前回と前々回そうしなかったので敵は懲りずにやって来たのだ。

 

多少、話がずれてきたようだがこの完全なテロリストの『殲滅』には司波くんの魔法が是が非でも必要なのだ。なので、司波くんにもしもの事があればかなりマズイ事になる。意外なことに佐伯さんも風間さんも、そして司波くん自身もそれに気づいてない。しかし、間違いなく、司波くんがこの戦いの『核』なのだ!

 

「師匠、何かかなり複雑な思考をしていないか?」

 

司波くんは、僕の心を読もうとしたようだ。それでは、逆に読みづらくなる。

 

「達也。外患誘致罪って知っとる?」

 

『(外患誘致)

 

第81条

外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。』

 

司波くんは知っていた!

 

『解説

 

外患誘致罪は要するに、日本国を裏切る行為である。法定刑は死刑のみである。』

 

それも、かなり詳しく。

 

「今だに、外患誘致罪で死刑になった者はいないがな」

 

「その通りや。そやけど、敵工作員や売国奴への脅しにはなる。それと炙り出しや」

 

司波くんは、僕が言わんとしている事がわかっていても迂闊な言葉を口にしない。おそらく、彼の「実家」はこれらの活動に関与している。

 

「炙り出された者は、『民間』が処理する。知っとるやろ?」

 

司波くんは、小さく頷く。彼の武術の師を思い浮かべながら。司波くんの武術の師は『必殺!仕事人』の一味らしい。僕も彼等の系統は知ってはいるが、まあ何というか、忍びの技術は大したものだが…武術は…良く練習しているなと言っておこう。

 

「ところで、誰が告発するんだ?まさか、全部師匠がするつもりなのか?」

 

「知り合いにやってもらう」

 

獲物を取り逃がして落胆した千葉さん達が『アイネブリーゼ』に戻って来た。

◇◇◇

 

『あんた!何送ったの?』

 

「貴重な金属」

 

端末の向こう側にいる美波ちゃんの友達が笑い転げている。「美波の元カレサイコー!」「マジ、ヤバイって!」等と盛り上がっている。美波ちゃんは、ギャル系の友達が多いようだ。スクールカースト上位に入れた?

 

「アンティナイトは、貴重や。今からその金属のキャストジャミングに慣れといてくれ!」

 

『何があるの?』

 

「美波が心配なだけや」

 

彼女の友達が、はやし立てる。「美波、モテる〜!」「今彼どうするの?」言いたい放題だ。

 

『ありがたく頂戴しておくわ!』

 

「美波。10月30日の件頼んだぞ」

 

『わかった。横にいる彼女にもよろしく伝えといて!』

 

美波ちゃんは、そう言って回線を切った。

 

「彼女。凄いね」

言葉を発しないどころか、気配も消していたのに気づかれた『少佐』こと、吉田摩耶嬢は感心した。

 

「さすがはあなたの開門弟子ね」

 

『少佐』は、師弟関係が濃密な程、弟子の進歩が早まり易いのをわかっていた。なので、夏休みの後もこうして時間を空けて僕の住処に尋ねてくる。その甲斐あって、九校戦が始まった時は幼児体型(というかより幼女そのもの、お陰でカーディナル・ジョージと仲良くなれた。)が、今は少女体型になっている。

 

誤解のないように書いておくが不純異性行為をして彼女が女になったのではないと改めて強調しておく。

 

少佐、キルドレ脱出までもう少しだ!ジョージは、成長した彼女の姿に落胆するかもしれないが。

 

「大丈夫なの?こんな情報だけで外患罪の刑事告発をして」

 

「かまへん!80年前にも同じことやった集団がある」

 

少女隊じゃなかった少女体型の少佐は、釈然としない。

 

『告発する権利がある者

 

何人でも、犯罪があると思うときは、告発をすることができる(刑訴法239条1項)。』

 

「犯罪があると思ったら告発出来るんや!捜査するんは検察や警察や憲兵の仕事や」

 

売国利敵行為をしている敵工作員は、告発されたところでその反日行為を止めはしない。しかし、軽い気持ちでそれに加担している馬鹿者は外患罪で告発されたと知れば行動を自粛するようになるし反日工作員を関係を断ち、場合によれば当局にチクってくれる。己が身を守らんために。

 

少なくとも、総理の軍への出動要請にごちゃごちゃ文句をタレる売国奴への抑止力にはなる。

 

80年前の朝鮮半島有事前後に起こったことだが、今回もそれを再現したい。その為に、ネットに外患誘致罪や共謀罪での刑事告発の仕方を丁寧に解説したサイトを立ち上げてもらった。少佐達にも協力してもらっている。

 

ネットに転がっている膨大な情報から、売国利敵行為と思えるものを丁寧に拾い出した。官報や国会答弁まで引っ張ってきた。『少佐』の部下は良い仕事をしている。

 

 

 



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横浜騒乱編10

「よろしくお願いします!」

僕は、現場の関係者に丁寧に挨拶した。

 

「無料見学の「河原さん」ですね。こちらこそよろしくお願いします」

挨拶を返した人が僕をじろじろと見ている。

 

「『学生』とあったけどまさか高校生とは思わなかったよ!」

 

本日、横浜国際会議場では電気精密点検が行われる。僕は、電気保安組合の無料点検見学に参加している。

 

「高校で電気主任技術者か!凄いね。ところでどこの高校?有名進学校?」

この人は、お喋り好きのようだ。

 

「八王子の高校です。進学校と言っても東大に一人合格するのがやっとのレベルです」

 

「大したものじゃないか!ところで、どうしてここに?学校は大丈夫なのかい?」

にこやかに喋りながら探りを入れてくる。

 

「横浜国際会議場は、特別高圧受電設備なので見学したかったんです。今度二種を受験しようと考えていますので」

 

こう答えておけば、怪しまれはしない。受電設備や単線結線図や作業員をじろじろ見ていても不自然だと思われない。

 

点検自体は、無事に終了した。特に異常個所もなかった。怪しい人物も僕以外いなかった。

 

「復電します!」

作業員が大声を張り上げて停復電復帰を実行した。

 

反応がない。

 

「警報リセットしたか?した?仕方ない。手動で復帰しろ!手順確認!」

現場責任者が、テキパキと部下に指示をしている。その後、無事復電した。点検全行程終了だ。

 

自動停復電しなかった。シーケンサーの電源が落とされたのだろう。何者かが、侵入し操作した可能性が高い。しかも、あまりここの設備に詳しくない。

 

撤収準備が完了した時、現場責任者が僕に質問した。

「河原くん。どうして自動的に復電しなかったと思う?」

 

僕は、何者かが侵入し誤操作した事は省いて考えを述べた。責任者は、聞きながら頷いている。

 

「河原くん。八王子の高校って、もしかして…」

 

「はい。そうです」

 

責任者は、押し黙った。

 

◇◇◇

 

仕事が終わり横浜国際会議場から、急いで戻って来た。部活のためだ。

 

通称「一高前駅」でキャビネットから降りようとしたら西城くんと千葉さんに出会した。

 

(やっぱりお前らできてたんやな!)

 

(違う!違う!)

 

(照れるな。お似合いや!)

 

(うるさい!バカ。黙れ!)

 

とお互いに以心伝心したと思う。間違えているかも知れないけど。

 

◇◇◇

 

「師匠!できているか?」

部員達が見守る中、マイ『カウンタースイング』で素振りをして見せた桐原さんが問うた。この人、警護の仕事はどうしたのだろう?まあ、それは置いといてスイング自体は短期間に凄く上達している。何しろ、桐原さんが素振りに使ったのは上級者用のカウンタースイングだ。ゴマの部分が心棒から抜けるタイプなのだ。

 

「ええですよ。抜けたゴマが回転しないでその場に落ちたんが証拠です」

 

僕が答えると桐原さんは上機嫌になった。僕は、桐原さんから上級者用カウンタースイングを貸してもらって上段に構えた。

 

「ほんまは鞘に入った刀でやった方がええんですが」と前置きして僕は上段からカウンタースイングを振り下ろした。

 

ぼとりとゴマが、一歩踏み出した僕の背後に落下した。

 

桐原さんが目を見張る。

 

「次の課題は、これだな」

彼は呟いた。

 

「師匠。これで勝てるか?」

 

「魔法無しなら、負けはしません!」

 

上級者用カウンタースイングを僕の手から引ったくり、桐原さんは「よし!」と気合いを入れた。そして、部室から出て行こうとした。扉の前でこちらを振り返り、深々と一礼して部室を後にした。

 

「師匠、本当にこれで司波くんに体術で勝てるようになるんですか?」

白石くんが、疑問を投げかけて来た。

 

「勝てるとは言ってへん。負けんやろと言うただけや」

 

「「「えッーーーーー!」」」

 

僕は、司波くんに少林拳の暗勁を教えた。しかし、太極拳の□の動きを教えてない。一方、桐原さんには太極拳の□の動きを教えて、少林拳の暗勁は教えてない。

 

「でも、それでは九重寺から習っている司波くんの方が断然有利だと思いますが?」

 

「それは、大丈夫。あそこは、偽物とは言わんけど亜流や。別に止観や忍術をやらんと片手落ちや」

 

元々、九重寺は天台宗の分家だ。しかも、天台宗自体が解脱を目標としている。(ただし、天台の密教は今は即身成仏を実践していると聞いている。)それでは小成止まりだ。武術をやるからには大成(即身成仏)を曲がりなりにも目指すべきなのだ。

 

「小成(悟りを開く)と大成(仏になる)のは違うのですか?」

 

「あたり前田のクラッカー*!」

 

全然、ウケなかった。当然ではあるが。

 

「師匠。我々も大成できますか?」

僕のしょうもないギャクを無視して白石くんが真顔で尋ねた。

 

「小成は、間違いなし!」

 

「「「「おおーーー」」」」

 

部員は、盛り上がった。

 

「大成は、人による」

 

「「「「おおっ⤵︎」」」」

 

部員は、盛り下がった。

 

「小成した時に、自分がどこまで行けるかもわかる」

 

「「「「おお!?」」」」

 

部員の反応がマチマチとなった。

 

「次は、エア・ケイ*や」

 

今までは、丹田の□の動かし方を練習していた。今度は上・下の動かし方だ。特に↑の動きの練習だ。

 

僕は、部費で買った上級者用カウンタースイングをテニスラケットのように持って構えた。そして、飛んでくるテニスボールを打ち返すように移動してジャンプした。空中でフォアハンドした。カウンタースイングのゴマが心棒から抜けてその場に落ちた。

 

「□の動かし方で、②→と③←を省略した動きや!」

 

「こう?」

長岡さんが、カウンタースイングを手にした。予告なくその場で跳躍。空中で抜刀。そのまま静かに着地。

 

「「「「おお」」」」

 

「どう?」

 

「完璧!でも…」

 

「でも?」

 

「今のは、バックハンド」

 

「バックハンドって何?」

 

部員全員がその場でコケた。

 

*あたり前田のクラッカー

 

・1960年代のギャグ

調べてみてわかったが、平たく言うと「あたり前田のクラッカー」は1960年代のギャグ。ただ『クラッカー』が、食べ物を指すのか、パーティーの時鳴らすアレを指すのか、それともカチカチさせて遊ぶアメリカンクラッカーなのか、イマイチよくわからずに生きてきたのだ。

 

・スーパーで発見

偶然スーパーで「前田製菓のクラッカー」を発見したときはハッとした。なぜそれが「あたり前田のクラッカー」なのかわかったかといえば理由は簡単。詳しくは画像を確認してほしいが、パッケージに「あたり前田の」としっかり書いてあったのだ。マジか!『クラッカー』は食べ物だったんや!!

 

・「前田のランチクラッカー」を購入

さっそく購入して食べてみることに。正式な商品名は『前田のランチクラッカー』といい、当時まさに「あたり前田のクラッカー」としてCMでバリバリ放送されていたという伝説の商品である。見た目はいわゆるクラッカー。クラッカー以外の何物でもない、ド直球のクラッカーである。一口食べてみると……!

 

・シンプルなクラッカー

うむ、これもクラッカーである! クラッカー以上でも以下でもないクラッカー!! でもそれがシンプルでウマい! 派手な味を求める若者にはウケないかもしれないが、素朴な味を好み始める30代以上の人は高確率で好きな味! 

 

・素朴な味でウマい!

小麦の味が優しく、あれよあれよという間に気付けば何枚も食べてしまうような飽きの来なさ。シンプルな味だから、アイスクリームやハチミツ、ジャムなどと食べるのもオススメだ。初めて食べたけど気に入った! さすが半世紀続くロングセラー商品やで!!

 

私は120円くらいで購入したが、調べてみるともっと安く買えるお店もあるようだ。おそらく人生で100回以上は「あたり前田のクラッカー」と聞いてきたが、これでスッキリした!『クラッカー』は食べ物のことだぞ!! しかもウマいッ!! ここテストに出るから覚えておくように!

 

*エア・ケイ

 

錦織圭選手が打つ、滞空時間の長いフォアハンドのジャックナイフショットのことです。

 

テニスのジャンピングショットは、普通、後足でジャンプしますが、ジャックナイフは、逆の前足で飛んで打つことをいいます。

 

エア・ケイは、フォアのジャックナイフを打つとき、錦織選手の飛んでいる滞空時間が他の選手より異様に長く、飛ぶ距離も長いことから、空中に浮かんでいるようと言う意味の「エア」と名前「ケイ」で、「エア・ケイ」と呼ばれています。

 

 

 

 

 

 




YouTubeのクーニンTV「今年はアウトコースを流してホームランを打つ!そのための特訓なり!」でクーニン氏が、ロングティーに置いたボールを打ってホームランするのには驚いた。カウンタースイングの成果が現れている。

YouTubeで錦織圭選手のエアケイを解析した動画を見るとテニスラケットを彼が小さな予備動作で「抜刀」しているのが確認できる。テニスラケット版『カウンタースイング』の開発は可能だと思う。


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横浜騒乱編11

昨日やってみたエアケイを使わなくても普通のフォアハンドに丹田の上下の運用を応用させられる。しかし、身体を大きく捻る動きを入れると丹田の□の運用を用いた方が自然な動きになる。

 

昨日は、丹田の上下、特に↑の運用を実感してもらいたかったのでエアケイで説明したのだ。

 

これらは、所謂明勁ではあるが勁の感覚さえ掴めれば暗勁もすぐに習得できる。なので、カウンタースイング等を使った「初動無負荷理論」による勁の修得は部員全員ができるまでやり続けるつもりだ。

 

これが、できれば筋力で脳と背骨を支えるのではなく勁で支えるようになれるので、背骨や脳が自立的に動き出し「道を得られる」のだ。もちろん、他に方法があると思うが先ずはこれでやろうと思う。

 

エアケイに、話を戻すとジャンプしたら身体は重力を感じて↓下向きに否応なく引っ張られる。それに抗うように↑上向きに丹田を運用するのと同時にテニスボールを打ち返す。ここら辺ができると発勁も実は簡単にできる様になる。

 

太極拳なら□の丹田運用で角に相当する箇所、∟等の頂点を意識すれば良いだけだ。ちなみに妙技は異なるベクトル、例えば↓と→を同時に行えば実現できる。

 

「というても「万振り」は、せんでエエよ!」

数稽古は、それなりに効果があるが理論がしっかりわかって練習し、出来ているのかいないのかすぐにフィールドバック可能ならばやる意味はない。弟子に数稽古を強要するのは、師自身があまりわかってないと白状している様なものだ。

 

別に特定の誰かさんを非難しているわけではない。

 

「ところで、師匠。西城くんと千葉さんが休んでいるけど何か聞いている?」

僕は一生懸命喋っていたのだが、涼野さんはリラックスして訊いていた様だ。これなら、万振りなんて間違ってもしないだろう。

 

しかも、特定の誰かさんに涼野さんはピンときたらしい。

 

「何も聞いてへんけど、昨日二人で(キャビネットの)箱乗りしとったで」

 

あ!しまった。言ってから、後悔した。

 

「「「え—————————ッ!」」」

 

女子高生に、美味し過ぎる話題を提供してしまった。

 

今日は、用事があると部員に伝えて僕は学食を出ようとした。そう言えば、学食内の雰囲気が以前と変わった気がする。

 

一科生と二科生が同じテーブルを囲んでいるのがあちこちで見られるからだ。九高戦での司波くん達の活躍や僕らの暗躍は一高の雰囲気を変えたようだ。

 

司波くん達も、何やらやむごとなき妄想を膨らませて盛り上がっている。僕らと同じ話題に女の子達が食いついたのだろう。

 

◇◇◇

 

「主任は、デジタル指示調節計を交換したいのですか?」

 

「うん」

 

そりゃ無茶やで!と言いたいところだ。何しろアズビルのこのシリーズはもはや骨董品と言ってよく、新品も取扱説明書もなかなか手に入らないからだ。主任は、一体どこで手に入れたのか不思議なくらいだ。

 

「中のデータを出力して新品にそれを入力して交換すれば良いのだけど」

 

いやいやいや、これ古過ぎて入出力ポートに接続する端子が手に入らないですよ。たとえ、手に入れても、今度はデータを入出力する際に必要なソフトとそれを走らせるハード{もしかしてMicrosoftのWindowsを積んだラップトップ(見たこともないけど)か何か?}が手に入らない。

 

「ダメぇ?」

 

社会人、しかも上官がそんな甘えたなおねだりしてはダメですよ!でも、意外に可愛い人だ。同じ才女の藤林さんは主任や小野さんを見習うべきだろう。

 

話題がそれてしまった。有事が近付きみんな心穏やかに平常心を保つのは到底無理なのだ。

 

「主任。これヒコーキのウンテンに差し障り有ります?」

 

「ないけど、治ったら嬉しい^ - ^」

 

わかりました。何とかしてみせましょう!

 

「AC電源と延長コード有ります?」

 

僕は、主任から手渡された延長コードのコンセント部分をドライバーでバラした。結線も外した。次にデジタル指示調節計の端子に結線し直した。調節計が点滅し始める。

 

「おお!」

 

いかにもリケジョな反応ありがとうございます。新品の電気機器に電源を入れたら立ち上がるのは普通なんですけどね。

 

「あとは、パラメータを表示しては地道にこっちに逐一入力して行くだけです」

 

「?」

彼女は、僕の言わんとする事がわからなかったらしい。

 

「主任。表示させる方が良いですか?入力する方が良いですか?」

 

「ええー!」

彼女は、僕の言わんとする事がわかったらしい。

 

そのあと二人でエロエロではなかった、ヘロヘロになりながら手入力した。

 

◇◇◇

 

ヒコーキのウンテン訓練を無事終了させた夜、座禅をしようとすると訪問者が現れた。司波くんだ。ただし、肉体をともなってない。

 

彼のスキルに『千里眼』は含まれていないと思う。しかし、それと似たことはできる。魔法が物理的距離によって直接的には左右されないのと同様に、情報体次元を認識する知覚力にも物理的距離は直接の障碍とならない。情報の世界で対象を特定できれば、どれだけ物理的に離れていても『視る』ことができる。

 

特に、一回彼が「再生」した人物への物理的距離はほとんど障害にならない。今回は、意図的に「視」ているのではなく偶然「視」えているのだろう。

 

と思ったが、そうではなく誰かに今日の出来事を言ってみたかったらしい。情動は削除されていても感情は多少残っているし心はある。誰かとおしゃべりしたいのも当然だ。

 

彼の孤独をふと感じた。

 

道を得れば、解決するよ————!などと伝えた。

 

彼は安心して帰ったようだ。

 

◇◇◇

 

僕は、今は1日座禅を二回している。帰宅後と登校前だ。帰宅後はその日の疲れを取る為に、登校前はその日の活動を元気よく円滑に行う為だ。

 

物語の主人公が、年寄り臭くボヤいているのは、昔の軽妙小説にはしばしばみられた。

 

当時、軽妙小説はライトノベルと呼ばれていた。その頃我国は、デフレ、つまり、売国財務省による日本弱体化金融政策によって日本社会が「失われた20年」の最中であった。したがって、生き残るのが精一杯とか小さな幸せを求めるとかひたすら振り回されるだけの主人公が登場する物語が好まれたのも仕方ない。

 

欠伸をしながら、学校までの長い坂を愚痴りながら主人公が登校しているとアドレナリン過多と思われる女子が登場して主人公に衝突したり飛び蹴りをかましたり空から降って来たりするのだ。どんなSF?

 

有り得へん。

 

売国財務省の頭を抑えられてから日本経済は復活し始める。しかし、1980代のようなバカ元気に急に戻りはしなかった。軽妙小説もいきなり元気なストーリーに戻りはしなかった。

 

などと雑念が出ていた。その雑念が消えて行くと突然

 

三面の壁にボ ール状のターゲットが出現する。のが見えた。

 

その全てが同時に砂と化す。達也は正面に右手を突き出した射撃姿勢だ。引き金を引いたのは ─ ─ CADのスイッチを押したのは一度だけ。それで十二の標的が分解魔法に撃ち抜かれた 。一息つく間も無く 、今度は壁と天井を使ってターゲットが示される。その数は二十四 。

 

達也は正面の一つに照準を合わせることすらせず、CADを固定したまま引き金を引いた。落ちてくる合成樹脂の粉末を避けて身を翻す。ターンしながら右手を真上に突き上げ、引き金を絞る。崩れ去る球体の隙間を埋めるように、次々と小球面が顔を見せる。引き金が引かれる頻度が、二連続、三連続へと増えていく。

 

しかし標的のストックが尽きるまで 、遂にペナルティの模擬弾が発射されることは無かった 。

 

お見事!

 

その後の光景も僕には、司波くんの目を通して見えていたが出来るだけ見ないようにした。少し気になったのは九重八雲なる人物ぐらいだ。そんな事よりも、

 

安心して攻撃すると攻撃力が上がると昨晩伝えたら、今朝いきなり実践した司波くんはさすがだった。

 

 

 




なんの参考にもならないかも知れませんが、デジタル指示調整計の紹介HPです。画像や動画を検索すると一目瞭然だと思います。

HOME > 製品・サービス > 工場・プラント向け製品/サービス > 製品 > 調節計(温調計)/記録計 > 調節計(温調計) > デジタル指示調節計 SDCシリーズ
デジタル指示調節計
SDCシリーズ
CEULSKC
韓国Sマーク(SDC15のみ)

特長
ラインナップ
納入事例
デジタル指示調節計 SDCシリーズは、フルマルチレンジ入力で新アルゴリズム“Ra-PID(RationaLOOP PID)”および“Just-FiTTER”を採用したPID制御方式の調節計です。
制御出力は、SDC15/25/26/35/36=最大2点、SDC45=最大5点、SDC46=最大7点(形番による)が可能で、それぞれリレー接点、電圧パルス、連続電圧、電流から選択可能です。
また、スマートローダパッケージ対応で設定操作やモニタリングが容易です。
組み合わせて使用する入力、出力機器も多様な種類を用意しています。


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横浜騒乱編12

安心するとエネルギーレベルが上がるのは、精神的な話だけではない。中丹田*を鍛えるとか、ティファレト*を理解するとか、アナハタチャクラ*を開くとかは、簡単そうで実はほとんどの人は出来ない。できれば、単独解脱*達成だ。

 

納得するとか、安心するとか、腑に落ちるとかがコツとなる。あまり良いアドバイスではないな。

 

上丹田

上丹田は、泥丸、天谷、内院などの別名がある。

*中丹田

中丹田は、絳宮、黄堂、土府とも呼称される。下丹田は、鼎、臍下丹田(せいかたんでん)、『気海丹田(きかいたんでん)』☜重要!、神炉とも呼ぶことがある。それ以外にも、丹田には多くの名前が付されている。

下丹田

単に「丹田」と言う場合は、「下丹田」を指すことが多い。

丹田の中でも、特に「下丹田」は五臓の中心に位置し、五臓は人体の生命活動と密接に関係しているので、実際には最も重視[されて正丹田とも呼ばれる。日本の禅や武道、芸道などにおいても丹田、特に「下丹田」を重視している。別名を、腹、肚、と書いて、はら と呼び、身心一如の境地に至るための大切なポイントとなっている。☜でもほとんどの人が成果をあげられない。実際の位置、運用の仕方を知らないからだ。

 

*ティファレト(Tiphereth、美と訳される)

第6のセフィラ。生命の樹*の中心に位置している。数字は6、色は黄、金属は金、惑星は太陽(太陽も惑星と見なす)を象徴する。神名はエロハ。守護天使はミカエル。

 

*生命の樹(せいめいのき、英語: Tree of Life)は、旧約聖書の創世記(2章9節以降)にエデンの園の中央に植えられた木。命の木とも訳される。『生命の樹の実を食べると、神に等しき永遠の命を得るとされる。』☜重要!

 

カバラではセフィロトの木(英語: Sephirothic tree)という。

 

ヤハウェ・エロヒム(エールの複数形、日本語では主なる神と訳されている)がアダムとエヴァをエデンの園から追放した理由は、知恵の樹の実を食べた人間が、『生命の樹の実までも食べて永遠の生命を得、』(☜重要!)唯一絶対の神である自身の地位が脅かされる{ユダヤ伝承では『知恵の樹の実と生命の樹の実をともに食べると、神に等しき存在になる』(☜重要!)とされているので}事を恐れたためである。

 

 

*解脱(げだつ、梵: vimokṣa、vimukti、mukti、mokṣa、巴: vimutti、mokkha、vimokha, vimokkha)とは、

 

仏教においては、煩悩に縛られていることから解放され、迷いの世界、輪廻などの苦を脱して自由の境地に到達すること。悟ること。

ジャイナ教においてはモークシャといい、魂という存在にとって至福の状態である。

 

解脱と神になる、あるいは仏になるのは違う。解脱は、死後自分の来世を自分で選べる能力を得られる。神仏になるのは、自分だけでなく他人の……だ。

 

今回の座禅は、雑念が非常に多い。一つは、小成で停滞している九重八雲を見てイライラしたのと、参加を促された十文字さんの模擬演習をどうしようか迷っているのが原因だ。

 

勝てば、七草さんとの結婚を薦められそうだし(これは、冗談)、十文字さんのプライドを傷つけてしまいそうだ。アッサリと負けるのは簡単だが実験が出来ない。実験をするとまだ加減がわからないので勝敗がわからなくなる。実戦がいかに簡単かがよくわかる事案だ。実戦なら、全力で敵を殲滅するだけで良いのだ。匙加減など考えなくて良い。

 

実戦は簡単!ココ重要。試験に出る‼︎だがしかし、更に重要なのは。

 

上の方に、解脱だの悟りだの神だの仏だのごちゃごちゃと書いておいたが、要は『悟りを開く』のと『仏になる』のは違うと言いたいだけだ。二つが同じように扱われていたり、区別がつかない記述や先生はハッキリ言って学んでも『悟りを開く』のもままならない。

 

本物になる為の修行は、本物以上の師と出会うかどうかに掛かっている。

 

健康になる為の修行なら、九重さんでも十分だろうが、『自由を得る』『解脱』『悟りを開く』『道を得る』などを達成したいのなら、彼では力不足だ。ただ、司波くんなら、独力で目標を達成できそうだ。ヒントさえあれば。

 

雑談が一通り出たら、答えがすぐにわかった。

 

『潰して良し』

 

と言うわけで十文字さんが自信を喪失して魔法が使えなくなっても僕は一切関知しない。

 

司波くんには、僕から有益な情報を提供しておけばいい。点穴が武術の最高峰だと勘違いしている九重には荷が重かろう。

 

◇◇◇

 

魔法による模擬戦時には、事故防止と事故発生時の救護活動を目的として、屋内・屋外を問わずモニター要員が付くことになっている。

 

「へぇ …… 」そのモニター画面を見ながら、渡邉さんが感嘆を漏らした。

 

「達也くんとはまた違った種類の巧さがあるわね。今年の一年生は面白い子が多いわ 」

 

「どちらかと言うと二科生の方に見所のあるヤツが多いのは皮肉な話だな 」

 

「それは違うわよ、摩利。総合力で勝っている子は、やっぱり一科生の方が多いわ。今年は個性的な能力を持つ子が目立っているから、そういう印象を受けるだけよ」

 

七草さんの指摘に思い当たる節があったのだろう。

 

渡邉さんは「なるほど」と頷いて再びモニターへ目を戻した。

 

「 ……しかしコイツが他の一年生に比べて『使える 』ヤツであることは間違いない。良い意味で類が友を呼んだかな」

 

確かに吉田くんは、いい仕事をする。水月さんに聞くとわかる。

 

「九校戦を経験して吉田君は急激に伸びた、って先生方も仰ってたわね。こういう良い影響はどんどん広がって欲しいんだけど ……」

 

「アイツは余り、リーダーシップを取るというタイプじゃないからなぁ 」

 

「どちらかって言うと、敵を作りまくるタイプだものね 」

 

「僕は、司波くんとは友好的な関係ですよ」

 

「いつの間に!」

渡邉さんの声が裏返る。七草さんは身構える。あまり友好的ではない雰囲気だ。君らも敵を作ってるやん。

 

「呼ばれてないのにジャジャジャーン」

 

   

 

ウケなかった。 

 

「どこから?いつからそこにいた!?」

渡邉さんは、見事にスルーした。

 

「『へぇ〜』あたりからでス」

 

……

 

『へぇ〜』『へぇ〜』と言う返しはなかった。二人とも僕を睨みつけている。そんなに僕に気付けなかったのが納得できないのだろうか?仕方ない可愛子ちゃん達には種明かしだ。Qちゃんこと高橋さんから無理矢理借りて来た『これだ!1、2、3』

 

「「光学迷彩!」」

ナイスな返しいただきました。しかも綺麗にハモってましたね。

 

「遅刻してすんません。私用で遅れました。十文字さんにも、よろしゅう伝えといて下さい」

 

「わかった。なら、早く支度しろ。今からならラストに間に合う」

 

「あざーす。訓練には10人参加されてはりますね。僕が混ざったら『11人いる!』ことになりますね」

 

二人が顔を見合わせた。ピンと来なかったのだろう。僕は、二人が顔を見合わせた時に光学迷彩を着込んだ。

 

「あ!もういない」

渡邉さんが、呆れる。

 

「二科生は、個性が強い奴が多いな」

 

「全くね」

七草さんが溜め息をついた。

 

「しかし、アイツは強いのか?成績も実績も大したことないのだろう?」

 

おいおい、なんで渡邉さんが僕の成績や実技試験の結果を知っているんだ?落第しない程度に頑張ってます。

 

「チョっと気になるのよ」

 

「まさか?あんなのが趣味なのか?」

 

「バカなこと言わないで!」

そこ、本気で否定なよ。本人を前にして。

 

現代魔法に頼り過ぎると他の感覚が鈍くなる傾向がある。姿が光学迷彩で見えなくなり、気配を消されたくらいで気がつかないようでは、マジモノの暗殺者に狙われたらイチコロだ。

 

もう、バラしても差し支えないので言ってしまうが、魔法師はハッキリ言って大して強くない。滅ぼそうと思えばいつでも滅ぼせる。彼等の行う現代魔法は現代科学で代替可能であり、居なくなっても差し支えない。長くその社会的地位を少なくとも日本で高いままにしておきたいなら、日本の真の中枢がどこなのかくらいは知っておくべきだろう。教えてあげないヨ!

 

ガールズトークを堪能した僕は、彼女達の意識がモニターの十文字さんに移った瞬間に部屋から出て行った。

 

◇◇◇

 

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ〜ン!」

誰も聞いてないようだ。模擬戦闘訓練は五回目に突入してそれどころではないのだろう。

 

いきなりファランクスが飛んで来た。十文字さんは、冷静だった。光学迷彩の事も聞かされていたようだ。

 

とりあえず避けた。

 

「ほう」

毒蝮三太夫似の十文字さんが感心している。拳銃の弾丸が避けれればできるであろう程度の芸当だ。大したものではない。

 

彼に「意」が生じてから僕に「鉄壁」が到達するまでコンマ3秒近く時間がある。ちなみに拳銃の弾丸ならコンマ2秒。前者は大きく避ける必要があり後者は早く避ける必要がある。

 

コツは相手の「意」を感じられるかにかかっている。それを習得するために先ずは、自分の「意」(意識ではない)を自覚できるようにしなければならない。

 

「師匠!次はそうはいかんぞ」

 

どうやら、挨拶がわりの一撃だったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




拳銃の弾丸を避けるのは、映画『リーサルウェポン』や『reborn』で描かれています。ゴルゴ13でもあったと記憶しています。別に合気道の達人になる必要はありません。


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横浜騒乱編13

「取り込み中、すまん」

 

絶賛潜伏中の吉田くんの目が見開いた。そんなに驚かなくてもいいのに。でも、どんなに驚いても叫び声を上げなかったのはさすがの今神童だ。

 

「最後、俺が突入して隙作ったる。トドメ刺したれ!」

 

僕は、吉田くんをその場に残して十文字さんの目の前に踊り出た。彼から姿は見えないだろうが。そこで、わざとCADを起動。

 

すぐに「鉄壁」が飛んで来た。今回は少し早い。

 

ガシャーン!

 

光学迷彩ごと岩が吹っ飛んだ。後からQちゃんに高額明細を突き付けられそうだ。

 

そして、すぐにクイックモーションオーバースローで投石。(模擬戦を申し込まれて拳銃型CADを投げたのと同じ要領だ。呉氏太極拳の楼膝拗歩(ろうしつようほ)の発勁と同じコツがある。そのうち説明する。)

 

ファランクスで防御。

 

「爆弾(笑)」とイタズラ書きした石が跳ね返された。その隙に僕は隠れる。

 

十文字さんが、イラっとしたのがわかる。ファランクスを連続でかわした下級生は僕が初めてなのだろう。

 

ここは「猪口才な小僧め。名を名乗れ‼︎」「こんなの初めて〜」とでも余裕をかますところですよ!

 

七草さんと渡邉さんがモニターしていた控え室で模擬演習場の全体図を見てきた。だから、地形を利用して逃げ易い場所で目立つ行動ができた。しかし、ファランクスの狙いが付けにくい場所ばかり身を隠しながら移動し続ければいづれ追い込まれる。

 

さてここから本番。

 

僕は、十文字さんから見通しのよい場所で姿を現した。すぐに鉄壁が僕の頭上に出現する。今回は早い。ようやく少し本気を出し始めたらしい。

 

バーン!

 

死んじゃうよ!まともに食らったら。身を隠すのに丁度いい穴が有る場所で姿を現した甲斐があった。

 

その隙を狙って誰かがギャンブルに出た。

 

すぐに十文字さんに制圧された。なかなか、良い判断だと思うが十文字さんには通用しなかった。

 

僕は、今度は隠れずに十文字さんに向かって前進している。逃げ回るだけと思ったら大間違い。

 

普通に歩いているのだが、存在をなくしているので十文字さんは僕の姿が視野に入っても反応が遅れる。

 

ファランクス!

 

ここで十文字さんの目の前から僕は消えた。

 

本当は、後ろに回り込んだだけ。十文字さんが自分の眼前に出した鉄壁が、僕の移動を彼の視覚から隠してくれたのだ。

 

「爆弾(笑)」と書いた石をさっき投げたのは鉄壁を十文字さんの前面に出現させる為だった。

 

そして、この世に存在しない状態になっている僕は、両腕を前方に伸ばしてこれ見よがしに十文字さんの眼前に両手を見せた。親指と中指のそれぞれ指先を合わせる。ダブルユビパッチンだ。司波くんが一条くんを倒した必殺技(?)の2倍!

 

ちなみに、Qちゃんの光学迷彩をデゴイにした時に発動したのは振動系魔法だ。

 

ファランクス——————‼︎

 

僕は吹っ飛ばされた。

 

◇◇◇

 

「師匠、体調はどうだ?」

 

「大丈夫っす」

保健室でサボって、いや、負傷して横になっていた僕は十文字さんに答えた。

 

「そのままで、聞いてくれて構わない」

 

おお!もしかしてこの流れは…「師匠。お前は十師族か?」「ちゃいますよ〜」「なら、十師族になれ。差し当たって七草はどうだ?」「喜んでいただきま〜す」…的な感じか?

 

「最後に、使った魔法は何か差し支えなければ教えてくれ」

この人は、小細工無しの直球勝負が好みらしい。

 

「ファランクスのようなものですよ」

僕は、にこやかに十文字さんに答えた。

 

少し考えて彼は口を開く。

「以前から、使っていたのか?」

 

「いいえ」と僕は即答し、所謂まっすぐのストレートを投げ返した。

 

「先輩のを観て、パクリました」

 

十文字さんのフラッシュキャスト式全方位ファランクスに、僕は偽ファランクスで対抗したら吹っ飛ばされたが無傷だったわけだ。

 

十文字さんは怒り出すかと思った。がしかし、小さく頷いてから尋ねた。

「司波の振動系魔法もものにしているのか?」

 

「まあまあです」

 

十文字さんは、押し黙ってしまった。

 

「わかった。ゆっくり静養してくれ」

と言って、彼は保健室から出て行った。

 

十文字さんは、まだ気になることがあったはずだがその質問はしなかった。そりゃそうだ。彼の奥の手であるCAD無しでの「即時全方位型鉄壁」を引き出された上にそれをコピーされたかも知れないとなれば心中穏やかではおれない。あの若さで動揺を隠したのなら大したものだ。単に天然なら、よほど大物なのだろう。

 

ただ勘は良い。僕を彼は同じ魔法師と見なしてないからだ。彼は十文字家の次期当主であり十師族に名を連ねる魔法師らしい魔法師だ。七草さんや司波くんや司波さんも同じ雰囲気がある。一条くんもだ。

十師族ではないが、渡邉さんや服部さんも同じ雰囲気がある。当然のことなのだがこの魔法科高校で真面目に過ごせば「魔法力のある人」から「魔法師」になって行く。極論すれば、十文字さんや七草さんを目標にして学生は、日夜努力している。雰囲気が似てくるのは当たり前なのだ。

 

ところが、僕は違う。べつに魔法師になりたいわけではない。

 

死ぬ前に生きたまま神になる為に、「神のお仕事」を手伝っているのだ。魔法科高校で「神様、はじめました。」

 

『魔法師に福音を宣べ伝えよ!』

 

これが、神託だ。生きたまま神になりたければ、魔法師に武術等を伝えなければならない。だから、この魔法科高校に入学した。だから、謝礼ももらわず色々な秘術を惜しげもなくブチまけているのだ。

 

『だれでも渇いているなら、わたしのもとに来て飲みなさい』

 

なので、僕には魔法師の匂いがない。優秀な魔法師にはとりあえず唾をつけておく千葉さんや七草さんが僕に興味を示さないのはちゃんとした理由があったのだ。

 

◇◇◇

 

「呂剛虎って知っている?」

Sound only の藤林さんがいきなり質問して来た。ここにも僕を本能的に敵と感じている人がいた。九校戦でビビらせ過ぎたかな。

 

ネットで調べたらええんちゃう?と返事しようとしたら、

「あなたの人的資源も使って!」

 

まるで、僕が日曜にも関わらず学校で部活をして近くにその「人的資源」があるのをわかっているような口調だ。

 

「長岡さん、呂剛虎って知ってる?」

 

「知らない〜」

 

「だそうです」

 

「呂剛虎。大亜連合本国軍特殊工作部隊の魔法師よ」

 

だから、何?

 

「『鋼気功。硬気功の発展形で、華北の術者がこの名称を用いる。気功は魔法ではなく体術の一種だが、気功術を元にして皮膚の上に鋼よりも硬い鎧を展開する魔法に発展させたものが鋼気功。』呂剛虎はこの鋼気功の第一人者と言われているの」

 

だから何?幸薄い藤林さんの為に丁寧な解説をしてあげよう。

 

中国武術の名人は、兵士を弟子にしない。兵役が終われば修行が途絶えると予めわかっているからだ。(日本は少し事情が異なるが。)とはいえ国からお金をもらって教授するのだから教えないわけには行かない。そこで、85式とか新たに套路を作って半年程度で教える。なので、楊露禅*の85式を習った等と自慢すると影で笑われるのだ。

軍の武術教官の師匠に教えるケースは多々ある。

 

硬気功の扱いは、「武術」ではなく「芸事」だ。実戦では安心して使えない。勁は素通りするし点穴にかかりやすくなる。素人相手なら圧勝できるが、腕に多少の覚えのある者には分が悪い。

 

掌門人や伝人クラスになると、直接的あるいは間接的に知り合いだったりする事多い。少なくとも噂くらいは聞く。僕や長岡さんは全く知らないならその程度の武術家なのだろう。

 

「もう少し情報がないんですか?せめて何拳が得意なのかわかりませんか?」

藤林さんに一般的な話をした後で訊いた。

 

「全身の筋骨を連動させて作り出した捻りの力を打撃部位に伝え攻防一体の武器とする纏絲勁を魔法的に発展させた技術が得意らしいの」

 

纏絲勁?だったら、チンタイチ。

 

「長岡さん。陳氏太極拳の呂剛虎なら聞いたことある?」

 

「聞いたことない〜」

 

「だそうです。触れたら殺せるような功夫はないから普通に現代魔法で戦えばええと思います」

 

「ありがとう」

 

どういたしましてと僕が言い終わらない内に回線が切られた。

 

*楊 露禅(よう ろぜん、1799年 - 1872年)は、清朝時代の実在した武術家。中国武術のひとつである太極拳の楊式太極拳の創始者。

 

姓は楊、諱は福魁)。字は露禅、または禄禅(禄禪)。祖籍は、中国河北省永年県閻門寨人。後に永年県広府鎮南関に移る。子に、鳳侯(早亡)、楊班侯、楊健侯がいた。



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横浜騒乱編14

まさか今時『全身の筋骨を連動させて作り出した捻りの力を打撃部位に伝え攻防一体の武器とする纏絲勁』等と解釈しているとは予想外だった。軍はどうなっているんだ?軍の特殊部隊は超絶タフな人間を集めて苛烈な訓練を課して選別するのは、今も昔も変わっていないのだろう。

 

では、纏絲勁とは何か?無理矢理表現すれば『同時に全身の関節を回転させる』だ。

 

こんな事をああだこうだと言ったところで発勁できるようにはならないので早速練習だ。

 

「というわけで、両足を肩幅の二倍程度に開いて」

 

部員と部員でない人も混じって足を開いた。

 

「足は、平行です。膝も前に向かせて下さい」

 

女の子は膝が内向きになりやすい。

 

「体力的にきつい人は、歩幅を少し縮めても構いません」

 

誰も歩幅を改めようとしない。みんなタフだね〜。

 

「両掌の労宮を開いたら自動的に上がりますが、上がらない人は気にせず掌を前に向けて肩くらいまで上げて下さい」

 

これは、一人しか自動的に上がらないと思っていたが、白石くんや涼野さんまで出来ていたので少し驚いた。

 

「次に丹田を感じて下さい。丹田の動きに合わせて身体が上下・左右・前後に動きます」

 

以前から太極拳の特徴的な丹田を□に動かすのをみんなそこそこ出来るようになったから、今日からあからさまに発勁出来るようになってもらおうと考えてこの基本を紹介している。

 

「師匠。これ、もしかして形意拳?」

長岡さんが、小声で尋ねた。その通りです!正解。

 

この基本の練習は、比較的に丹田の動きと身体の動きが一致している。だから、取り組みやすいのだが、誤解もしやすい。

 

「意念」で丹田を動かす。すると自動的に身体が動く。多くの誤解は、意念とイメージを混同して起こる。イメージでは、身体の自動運動は起きない。むしろ、脳が緊張して身体は動きにくくなってしまう。

 

ちなみに、現代魔法が魔法科高校に真面目に通っても劇的な進歩につながらないのも同じ原因だ。魔法発動のコツを今までも教員がイメージを作る方法を学生に進めている。

 

サイオンもエイドスも此の世と彼の世の間に視える極めて抽象的な現象だ。なので、個人によって視え方が違うのはもちろんのこと、同じ人物でも日によって視え方が違うのだ!(⇦ここ重要。実戦で役に立つ。)

であるからして、今日いい感じで事象改変が起こった良い感じのイメージを覚えておいて、後日同じイメージで良い感覚と事象改変が起きる可能性は低いのだ。むしろ、何も考えずにCADに頼り切った方が良い。

 

皮肉な事だが、デバイスに頼り切ってエレメンタルサイト的な視覚を一切考えないほうが事象改変力が上がる。特に現代魔法に使えるサイオン量が多くない魔法師は。

 

そして、武術や座禅にもこれが当てはまる。今日観えた丹田は明日は同じ様に観えないと考えた方がいい。もしかしたら観えないかも知れない。今日上手くいった丹田の動かし方は、明日はあまり上手く機能しないかも知れない。ならば、技を技術を師を信じて敵を撃つ!と単純に行動した方が技が切れるのだ。

 

さて、今回の練習の説明に移ろう。丹田を上下に動かすと「意念」する。すると身体は上下する。丹田を左右に動かすと意念すると身体は左右に動く。ここから問題だ。身体を前後に動かす、一方の片手が前に反対の手が後ろに動くように丹田を意念するのだ。

 

ここで個人差が大きくなる。前方からのエネルギーの流れを丹田辺りで感じるだけでも前後に手が動く人もいれば、丹田を前後に伸ばしてたり縮めたりすると上手く行く人もいる。丹田の中に自分の分身がいてそこで動くと身体も動く人もいる。書いて行くとキリがない。

 

これに慣れると「発する」いうわずかな「意」で発勁できる。チョーカンタン!

 

「師匠。ちょっと…」

森崎くんが小声で呼んでいる。

 

「丹田に仏がいた?」

僕が尋ねると、森崎くんが目を見開いた。その後、黙って小さく頷く。

 

「それも、森崎くんの本当の自分の一形態です」

僕も森崎くんにだけ聞こえるように小声で喋った。

 

中には、無反応な部員がいる。おそらく丹田が自分なりに掴めないと感じている。

 

「どうも、良くわからない人もいると思いますがご安心下さい。座禅や八卦掌は、そのような人のほうが取り組みやすいですから!」

 

これは、嘘や方便ではない。視えるあるいは観える人は、座禅をすると見え過ぎて落ち着いて座れないケースが多い。偏差*に悩まされたり最悪魔境*に入ったりすることも多い。

 

*偏差:自律神経失調症と捉えて構わない。

 

*魔境:統合失調症と捉えて構わない。

 

見えるタイプの人は、太極拳や形意拳の方がいいと思う。

 

とはいえ、やはり丹田がわかるに越したことはない。

 

「丹田や意念がしっくりこない人は空想や妄想で身体を動かしても構いません」

 

これも、現代魔法の訓練において良くないとされている方法だ。空想や妄想の中に入り込む方法は、西洋魔術の修行の一つでもある。タットワ*だ。幾何学模様を空想して、その中に入り込む。その中に入り込んだあとに何が見えるかはあまり言われない。指針として本当の自分に出会うとか、自分にアドバイスをくれる導き手が現れる等は事前に与えられる。

 

興味のある方は参考にすると良い。

 

『異世界へ行く方法 タットワの技法のやり方と効果

 

あなたは「タットワの技法」というものを知っていますか?

 

上記の図形を並べた画像を使い異世界に行けるという内容で、インターネット経由で広がった一種の都市伝説です。しかし、これには元ネタがあり、魔術結社「黄金の夜明け団」創設当時まで遡ります。今日はタットワの技法について説明していきたいと思います。

 

タットワって何?

 

世界を構成している5つの元素「火」「水」「地」「風」「金」の5つを象徴化した図形であり、正しくはタットワの潮と言います。画像では全部並べているけど、元々は1つ1つバラバラのカードであり、タットワのカードを使い魔術の基本訓練となる瞑想を考案したのが黄金の夜明け団と言われています。

 

インドの考え方である5つの元素という要素と、西洋魔術が組み合わさりタットワの基本形が完成しました。魔術としてのエネルギーソースは十分ありますね。

 

タットワの技法のやり方

 

ただ見るだけでOKと教えているところもあるけど、もう少し魔術的にやる方法を紹介します。

 

1.上記画像を5分くらい凝視する。

 

凝視と言っても力を入れてはいけません。体の力を抜いてリラックスしならがぼんやりと画像のみをしっかりと見つめます。

 

2.目をつぶり心の中のスクリーンに投影する。

 

図形の残像がある程度しっかりと出来上がるまで画像凝視を何度でも続ける必要があります。

 

3.投影が出来るようになったら、ドアのサイズまで引き伸ばし、ドアを開けて内部を観測する。

 

どのような世界が広がっているかドアの向こうをしっかりと観察します。あえてドアの中には入らずに、あくまで観測者としてのぞくような気持ちで観察すると良いでしょう。ドアの向こうには異世界が広がっているので、違う世界を垣間見ることが出来ます。

 

注意点

 

エネルギーがある分、あまり多用しない方が良いでしょう。また、本来の形はドアを等身大に引き伸ばし中に入り異世界に移動するというものだけど、本当のタットワカードの形から少し崩れているので、この方法はあくまで遊び程度にとどめるべきです。

 

まとめ

 

ネット上で有名な方法ではあるけど、エネルギーソースがはっきりしている分危険が伴うので異世界へ行く方法として使うのではなく、異世界を見る方法として使う方が良いかと思います。

 

中国仙道には入異境の術とか言って、似たような方法で異世界へ入る術があります。国や考え方は違うけど、話を突き詰めていくと結局は似たような内容になるのが異世界ものの面白いところですね。』

 

「頭の固い西洋人には、こんな方法が良かったのかもしれません。タットワは今回詳しく説明しません。ただ、妄想や空想に入り込むのから始める方法もあると覚えておいたほうが良いと思います。それから、丹田で身体を動かしづらい原因がもう一つあります。これは日本人が陥りやすいものです」

 

僕がこう言うと桐原さんが身を乗り出して来た。丹田でうまく身体を動かせないのだろう。

 

 

 

 

 

 




作品で紹介している練習は、意外な事に動画がネットになかった。比較的有名な練習法だと思っていたがそうではなかったようだ。


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横浜騒乱編15

我国の「武力攻撃事態」*があと一週間に迫った月曜日の朝。

 

*「武力攻撃事態」とは

我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は当該武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態

 

僕が、キャビネットに乗り込もうとすると意外な人物と一緒になった。

 

「おはよう!」

動揺した素振りを見せずに西城くんは今日もハツラツ、オロナインC!…違った。オロナミンC!

 

「お、おはよう」

千葉さんは動揺を隠せない。

 

「おはようさん」

二人の痴情ではなく、事情に全く興味のない心で僕も挨拶をした。

 

「自分らが休んどる間に吉田くんは、大活躍やったで」

 

「幹比古が何かしたのか?」

西城くんが、いつもよりオーバーアクションです。僕が彼と千葉さんとの関係についてああだこうだと言わないで違う話題を振ったので、すぐに食いつてきたのだ。

 

「模擬演習で、あの十文字先輩をぐらつかせたんや!」

 

「それ本当?いつの間にミキったらそんなレベルに…」

千葉さんは、吉田くんの実績をにわかには信じられないのと、僕が彼氏彼女の事情を根掘り葉掘り訊かないのに安心している。

 

「吉田くんは、九校戦の後に急激に伸びたって言われてるやろ。確かに吉田くんは九校戦後にある事が出来るようになった」

 

二人とも固唾を飲んで次の僕のセリフを待ってる。

 

「気を取り込むだけやなく送り出せるようになったんや」

 

西城くんは全くお手上げの感だ。

 

千葉さんは、ん?となった。彼女の流派が気と表現しているかどうかは定かではないが、気を取り入れるが気を出すのは一般に健康に悪いとされているので僕の話が変だと思ったのだろう。

 

「一般的に掌心や肘の内側に太陽光を当てて陽気を取り入れるんは知っとるな?それだけやと自分で陽気を作るようになるんは力不足や。自分から太陽に気を出してあげるんや。それを意識したら自分で陽気も作れる様になって行く」

 

西城くんは、完全に置いてけぼりだが、彼は偉い。下手な口出しをせずに黙っている。

 

千葉さんは、驚いていた。もしかして千葉家の奥義か何かを言い当ててしまった?

 

「気を入れるだけやなく気を出す。無生物やと心理的な障壁もあるけど生物やとやりやすい」

 

「師匠が言ってるのは、魔法力の強化方法の一つなのか?」

西城くんが口をようやく開いた。魔法力強化には人並み以上の関心があるのだろう。

 

「そうや!吉田くんは気を入れて出す相手が出来て日夜励んどんや」

 

「幹比古のヤツ。スゲーな」

 

西城くんは、純粋に感心している。一方、千葉さんは僕が言わんとしていることを薄々感じ始めた。

 

「ところで、師匠。それはどんなトレーニングなんだ?差し支えなければ教えて欲しいんだ」

 

「トレーニングパートナーがいるな。そうや!千葉さんはトレーニングパートナーにピッタリや」(゚∀゚)

 

千葉さんは、気がついた。真っ赤になって俯いている。恥ずかしいのか怒っているか?それとも両方?

 

「師、師匠!ところでそのバックは何?もしかして武装一体型CAD?」

千葉さんは、強引に話題転換を図る。せっかく、二人で行う夜の秘密トレーニングの話をしてやろうと思ったのに。秘密トレーニングなので二人で誰にも見られない様に部屋にこもって…

 

「これは、カウンタースイング*の原理を応用して作った脱力初動無負荷トレーニングギアや」

 

*カウンタースイング

フォーム修正用バットだ。グリップとヘッドをつないでいるパイプに可動式の木片が2個ついている。スイングが鋭いと「カチ」という音がするが、体勢を崩して振ると「カチカチ」と2回音がする。このバットで練習すると、下半身主導でスイングし、上半身が付いてくるようなフォームになり、力んでないのに強いインパクトになるという。

 

「鞘の中を刀が滑る様にスイングができるようになる為の訓練用アイテムや」

 

僕はトンボの構えから、カウンタースイング改良型を振り下ろす。鞘が真下に落下する。

 

「示現流も修めているの?」

 

「一回習ろた」

千葉さんに不審がられた。一回習っただけでできるわけがないと思ったらしい。一回と言っても宗家に一回習ったのだが。

 

次は、上段に構えて前進しながらカウンタースイング改良型を振り下ろす。

 

「新陰流も?」

 

「一回習った」

千葉さんが不服そうな顔になる。言うまでもなくこれも宗家に一回だ。

僕は彼女に改良型カウンタースイングを手渡した。

 

千葉が、トンボの構えからスイングを振り下ろす。次に、上段から振り下ろした。鞘が落ちる。

 

「何かわからないけど、お前らスゲーな」

西城くんはしきりに感心している。千葉さんは不機嫌になった。僕が振り下ろした時は、鞘が回転もせずその場に落ちた。

彼女は振り下ろすと若干回転して落ちたのだ。そのわずかな違いに千葉さんは気付いていた。千葉流は示現流でも新陰流でもないから仕方ないと思うぞ。現代魔法併用剣術だし。

 

「話を戻して悪いけど、コイツと二人で入れたり出したりするトレーニングってどんな事するんだ?キだっけ?それと幹比古は、誰とそんなトレーニングをしてんだ?」

 

千葉さんの動揺が酷い。

 

「吉田くんのトレーニングパートナーは柴田さんや!」

 

「ええっ!美月って武道の心得があったのか」

 

「どうやろ?ないのとちゃうか」

 

西城くんが首を傾げている。

 

「次にやり方や。まず二人の丹田と丹田を合わす。丹田わかる?」(゚∀゚)

 

「と、と、ところで、師匠は『軽妙小説部』の部長だよね!部活と武術と関係あるの?」

居たたまれなくなった千葉さんが、またもや話題転換だ。今回は、強引過ぎる。西城くんも流石に訝しむ。

 

「あるある。日本で、イヤ、世界で一番最初に『軽妙小説』書いた人知っとる?」

 

千葉さんと西城くんは、互いに顔を見合わせた。君ら息ピッタリ!すぐに気を互いに入れたり出したりできるな。

 

「空海。空海の『三教指帰』*や」

 

*三教指帰

序文から、延暦16年12月1日(797年12月23日)に成立していることがわかる。空海が24歳の著作であり、出家を反対する親族に対する出家宣言の書とされている。ただし、この時の題名は『聾瞽指帰』(ろうこしいき)であり、空海自筆とされるものが現在も金剛峯寺に伝えられて国宝に指定されている。その後、天長年間に同書を序文と十韻詩の改訂して朝廷に献上した際に書名を『三教指帰』に改めたと考えられている。

 

あらすじ

 

蛭牙公子、兎角公、亀毛先生、虚亡隠士、仮名乞児の5人による対話討論形式で叙述され、戯曲のような構成となっている。亀毛先生は儒教を支持しているが、虚亡隠士の支持する道教によって批判される。最後に、その道教の教えも、仮名乞児が支持する仏教によって論破され、仏教の教えが儒教・道教・仏教の三教の中で最善であることが示されている。

 

「でも、大昔の小話だったら、空海のより古いんじゃない?」

二人の夜の稽古から話を逸さんとして千葉さんが必死になってまともな質問までする。

 

「それらは、成立は古いかも知れん。でも作者不詳や。作者が明らかなんは全部もっと後の時代のもんや」

 

「言われてみれば、そうよね」

完全に話題転換に成功したと千葉さんは安心した。

 

「小説で儒教や道教や仏教や密教を書くときに全然知らんのに書いたら読者にすぐバレる。読者もアホやないからな」

 

「けどよ。それって大変なことにならないか?」

 

「そうよ!魔法師を登場させようとしたら現代魔法を学ばなきゃならないし武術の達人を登場させようとしたら武術を学ばなきゃいけないし、」

 

千葉さんは、ここまで言って気がついた。

 

「師匠。もしかして…」

 

「空海ができたことを他のヤツができない道理はない」

 

「あ」

キャビネットが『一高前駅』に着いた時、西城くんが前を向いて小さく驚いた。

 

「げっ!」

同じく千葉さんも前方に視線を向けた瞬間に驚く。ちょっと驚き方が下品ですよ!エリカお嬢様。

 

「おはようさん!」

 

僕は、先に駅に降り立った司波兄妹に挨拶した。

 



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横浜騒乱編16

「 … …なあ、何で今朝はこんなに早いんだ? 」

不機嫌な声で、西城くんが訊ねる。

 

「いよいよ今週一週間だからな。朝から色々と予定が入っているんだ 」

現在の時刻は、いつもより一時間以上早い。

「レオの方こそ、どうしてなんだ ?」

 

僕は危うく吹き出しそうになった。

 

「エリカも今朝は随分早起きね?」

 

この兄妹、意外に良く似ている。特にその性格が。

 

「 … …あたしは大抵、早起きだけど」

 

そこで、千葉さんに妙案が浮かんだ。ここでも話題を大胆転換出来ると。

 

「師匠は、どうしてこんなに早いのよ!」

 

千葉さんそれでは自然な話題転換にはならないぞ。まあ、いいか。その流れに乗ってあげよう。

 

「カウンタースイング!」

 

たたたたったたーん!効果音を共に四次元ポケットから取り出しはしなかったが、僕はバックから改良型1を取り出した。ちなみにキャビネットで振り回したのは改良型3だった。

 

西城くんも千葉さんの思い付いた妙案に気付いた。

 

「それそれ!師匠さっきの練習させてくれよ」

 

西城くんは、僕の手から改良型を引ったくり素振りをし始めた。

 

カチカチ、カチカチ、カチカチ、カチカチ、音が連続で二回なる。失敗素振りだ。

 

「何やってんの!全然ダメじゃない。貸してごらんなさいよ」

千葉さんがいつもの溌剌とした調子で西城くんをからかう。

 

「師匠。レオがやっているのは柳生と示現と千葉流か?」

 

「そうや」

 

僕は、改良型の説明も司波くんにした。

 

一方で、千葉さんの西城くんへの指導は、本格化している。通学路で。どうやら昼は道場で技を磨き夜は寝床で…運動会?墓場でだったけ?

 

「千葉さん。西城くんがイマイチなんは重心を間違えてるからや」

 

「「へっ?」」

 

日本人は、重心を意図するとき西洋人、もっと言えば大陸人よりも若干低い位置を意識する傾向にある。

 

「関元*やない。気海*を意識するんや!」

 

『気海』

 

その文字通り「気」の海。

気海の「気」は、東洋医学で言う「先天の気」と言って生まれながらに持っている生命力の「気」。

生まれながら持つ気が多く集まるところという意味です。

 

 

『関元』

 

「関」は関所、重要な場所。

「元」は元気の意味。

臍下丹田(さいかたんでん)にあり、元気の生まれるところで全身の臓腑(ぞうふ)・経絡(けいらく)の根本でもあることからも関元と呼ばれています。

 

*気海と関元をあわせて「丹田」と呼ばれることもあります。

 

なんて説明される事が多い。日本人はこれでもあまり支障を感じなかったりするが(本当はある!)西城くんのように思い切り西欧人体型な人には動きにくさがよりひどくなる。

 

「サッカーボールを蹴る時は、どちらを意識した方がやりやすい?」

 

僕は、西城くんの関元と気海を触って場所を教えた。両方とも臍と前陰の間にある。彼はボールを蹴る動作を試した。納得したらしい。動きやすい位置を確認してすぐに素振りをする。

 

カチ。カチ。カチ。

 

「めっちゃええやん!」

 

「素人目でも今のは良かったと思うぞ」

 

素人は、素振りでを見ただけで柳生とか示現とか千葉流とかわかんないよ。司波くん。

 

「こいつが、師匠みたいにちゃんと触って教えてくれていたら」

 

「レオのバカ───!」

 

千葉さんが、真っ赤になって早足で校舎に向かって歩いて行った。

 

「何、怒ってんだ?」

 

「とりあえず、追いかけて『オレにはお前が必要だ』と言ったれ」

 

「考えておくぜ。Danke!」

西城くんは、爽やかに千葉さんを追いかけて行った。

 

「Bitte.」

 

「師匠。チョッと質問だが良いか?」

 

「ドイツ語は、挨拶程度しかできへん」

 

「師匠が、見本の素振りを見せた時、師匠の身体を軸が移動したように感じたがあれが体軸なのか?」

 

司波くんにドイツ語ネタはスルーされた。しかし、体軸の移動は見逃さなかった。

 

「そうや!さすがは深雪さんのお兄様や」

 

自分のことのように照れている妹を一瞥して司波くんが質問を続ける。

 

「この前視せててくれた技術とは違うものなのだな」

 

「そうや」

 

僕は、太極拳の型を披露した。呉氏の短い套路だ。

 

「ここで、軸が右から左に移動や」

 

発勁!単鞭の。

 

「わかった?」

 

「ああ。でも、良いのか?師匠。門派の秘密とかに関わらないのか?」

 

「オレがかまへん。と言ったからエエんや」

 

その一言で、司波くんは僕の正体を理解できた。後ろに控えている深雪嬢は少し拗ねている。完全に置いてきぼりになっているからだ。

 

「後から、お兄様に手取り足取り詳しく教えてもらい」

 

司波さんは、顔を赤らめてわずかに身悶えした。一体何を想像しているのだ。

 

「それと司波くん。九重にも言うてもエエよ」

 

司波くんは、驚いていた。他人の目にわからない程度に。

 

九重八雲レベルは、日本国内では最高峰なのかも知れないが、舞台を世界に移すと「入門したばかり?」に過ぎない。点穴が奥の手では、本気で笑われてしまう。いや、心配されてしまう。

 

ただ、誤解のないように書いておくが、小成と言えども神へ至る道を歩んでいるのは間違いない。祝福された魂を侮るのは神のルール違反だ。

 

◇◇◇

 

「太極拳の練習の最中に天から天使達が舞い降りてくるのが見えた気がしたんです」

 

「そりゃあ凄いわ!先天の世界と少しつながったんや」

 

白石くんは照れていた。いやマジで白石くん凄いよ。でも太極拳で天使とは…まぁ、公開されている情報通りの現象が起きる方が実際には珍しい。

ただ、次回の練習で天使が見えるかはわからない。おそらく見えない。大抵一過性の現象なのだ。なので、見えなくなっても気にするなとフォローしておこう。

 

僕等が朝練を済まして教室に戻って来ると、何か不穏な雰囲気が漂っている。

 

「……」

「……」

「……」

千葉さん、司波さん、司波くんが無言で睨み合っている。というか睨みつけているのは千葉さんで司波兄妹は何食わぬ顔をしていた。その周りを柴田さんと吉田くんがグルグルと回ってる。西城くんは我関せずを決め込んでいる。

 

僕も、何食わぬ顔で鉄火場に凸った。

 

「司波くん、さっきの体軸の続きや。あの軸は天心と地心につながっとる。軸に沿って動ければ時光を超えられる」

 

「司波さん、見えんかったらできへん理屈はない。お兄様の出来ることは、司波さんも出来るようになる。絆や。二人の絆が助けてくれる」

 

「千葉さん。西城くんはバリバリのゲルマン民族体形や。教える時は、欧米人に教えるつもりで教えたらええ。重心は高め、丹田も高い位置。ゲルマン民族大移動や!」

 

目をパチパチさせている三人から離れて、僕は西城くんの所に移動した。

 

「プレゼントや。必殺技は、数稽古で習得するもんやない」

 

僕は、カウンタースイング改良型を西城くんに手渡した。

 

次に唖然としている柴田さんに

 

「決して崩れる事のないジェリコの壁が守られたかは、自分の骨盤・股関節とアスカのそれらを水晶眼で見分けたれ!」

 

「君は、ミズキ、柴田さんに何を言ってるんだ!」

 

「これは、模擬戦で十文字元会頭をぐらつかせた吉田のミキくんではあ〜りませんか!How are you?」

 

「僕の名前は吉田幹比古だ」

 

「噛みまひた!」(≧∀≦)

 

全くウケなかったが、今日は仕方ない。存在が薄い日なので調子はイマイチなのだ。

 

◇◇◇

 

さて、横浜有事まであと一週間となった。本日は、ゴルゴ13第581話無音潜水艦で有名になった神龍にお邪魔している…等と書いた原稿のチェックをしていたら、藤林さんから連絡が入った。夜更けに何の用事だ。

 

「あなた、一体どういうつもり?」

随分、砕けた感じの物言いだ。彼女と僕に何かあっただろうか?

 

「外患誘致罪等の刑事告発状と懲戒請求申し立て書が巷で多量に作成されているのよ!」

 

「それのどこが問題なんです?犯罪と思ったら誰でも告発できるはずです。懲戒請求も弁護士法に同じように書かれているはずですが」

 

「その大半が、あなたの知り合いかあなたの書いている小説の読者なの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編17

「私の小説を読んだ人は刑事告発する権利がなくなるのですか?」

 

『そんなことじゃないの!あなた、私の資料を盗み見たのね?』

 

「私に電子の魔女を出し抜くハッキングスキルはありません。ところで藤林さん。服を着て下さい。目のやり場に困ります」

 

『へェっ!?』

 

慌ててドタバタする音が聞こえてくる。

 

『と、とにかく勝手な行動は控えて下さい』

 

「藤林さん」

僕は、彼女の話を遮った。

 

「戦争は、戦力の優劣だけで決まるものではありません」

 

戦力だけなら、我軍が大亜を圧倒する。大亜が我軍より有利なのは物量くらいなものだ。ただ、大亜は政治力はある。第二次世界大戦でもいつのまにか戦勝国に入り込んでいる。我帝国軍に勝利した戦い無しにだ。

 

「今回も、奴等は我軍の防衛出動をあの手この手で遅らせてくるでしょう。当該地方自治体首長は我軍の派遣要請を出せないだろうし首相は足を引っ張っられ防衛出動の決断を遅らされるでしょう。このまま何もしなければ」

 

そこで、国内の売国奴を抑える為に外患罪*等の刑事告発と懲戒請求*を利用する。

 

*外患罪は国家の存立に対する罪である。いわゆる国家への反逆となる戦争犯罪(売国行為)であり、刑法の中でも最も厳しい刑罰を科すものである。未遂・予備に留まらず、陰謀をすることによって処罰されうる点でも特異である。内乱罪が国家の対内的存立を保護法益とするのに対し、外患罪は国家の対外的存立を保護法益とする。

 

要は、売国利敵行為は全て外患罪にあてはめられるのだ。ただし政府が有事であると宣言しなければならないが。

これに加えて弁護士の懲戒請求*はもっとアバウトでも申し立てできる。反日弁護士に嫌がらせするのに持って来いなのだ。

 

 

(*懲戒の請求、調査及び審査)

第五十八条 何人も、弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由があると思料するときは、その事由の説明を添えて、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会にこれを懲戒することを求めることができる。

 

こちらは、誰でもたとえ法的根拠を明らかにしなくても問題があると思っただけで懲戒請求できてしまうのだ。防衛出動の制限を求める等の政治的な反日利敵活動をしている弁護士は全部標的にした。

 

『わかったわ。でもこれははっきりさせて欲しいの。どうやって盗み見たの?』

 

気配を消して光学迷彩で姿を消せば君達レベルの魔法師にはわからないだろう。十師族でさえわからないのだから。とは言わないであげよう。

 

「佐伯さんに頼んで見せてもらっただけですよ」

 

藤林さんが椅子から転げ落ちそうになったのを感じる。

 

『そ、そうなの。なら、仕方ないわ』

 

「では、これで」

 

『ちょっと待って!まだ訊きたい事があるの。今日あなたは学校に行ったはずよ。でも、今日、海軍の潜水艦にも乗り込んでいたわ。どういう事なの?』

 

双子の妹がいて男装して…等と嘘をつくのはやめておこう。妹さえいればいい。のだが。

 

「藤林さん。目を瞑ってみて下さい」

 

『何よ。突然?』

 

ブツブツこぼしながら彼女は眼を閉じた。

 

『もう眼を開けていい?』

 

『やっはろー!』

 

藤林さんが美人台無しの心になっていた。

 

『どうやって。どこから』

 

「どうかしましたか?藤林さん」

 

『あれっ?今のは。あなた、もしかして分身できるの』

 

「眼を瞑ったでしょう。【あなたの夢に化けて出た】だけですよ」

 

一瞬の沈黙があった。藤林さんは先程は確かに眼を瞑ったままだったと思い出したようだ。

 

『待って!今のはそれで納得出来たわ。潜水艦の乗船はどうやったの?』

 

◇◇◇

 

さて、横浜有事まであと一週間となった。本日は、ゴルゴ13第581話無音潜水艦で有名になった神龍改良型(何番艦は内緒だよ!)にお邪魔している。どうやって乗り込んだかって?佐伯さんから頼まれただけだ。海軍に恩を売って来いと言われて。

 

佐伯さんは、決して表に出せないコネクションを持っていると判明した。その筋からも今回の件よろしくと伝えられた。

 

当時のゴルゴ13でもスターリングエンジンを積んだ神龍は、米軍の原潜を除けば世界最強の潜水艦だと描かれている。(当時の米原潜の加圧水型原子炉は音がでかいから、日本近海なら神龍のほうが強いだろう。)今は、すっかり時代遅れになったが、ある実験の為に今回は使用される。

 

漫画の中で、水深670メートルまで潜ってもビクともしない様子が描かれている。当時から潜るだけなら1000メートルは可能だった。ちなみに中華製は200メートルで艦内に異音が生じると当時暴露されていた。

 

それを潜るだけでなく自由に航行して深々々度魚雷やミサイル(核弾頭付き)をぶっ放せるようにしたい。のと、海中で作戦本部等と不自由なく通信したいのだ。

 

ゴルゴ13でも、せっかくの無音潜水艦なのに潜望鏡を出す音が敵に探知されてしまう描写がある。スパイ衛星等から自由に通信できれば、潜望鏡を出す必要はなくなる。しかし、海中では思うように電波が伝播しない。

 

海中ケーブルが施設されている海域は、携帯電話での通信のように海中ケーブルセンサーやアンテナ、中継機を使って通信できる。技術の進歩とともにケーブルはノンケーブルとなったが、この方法ではいづれにせよ海底に通信設備を施設しなければならない。

 

そんな大規模なケーブル網が日本近海に、しかも100年前にあるはずがない!とお叱りを受けそうだ。チ、チ、チ、チ。地震観測を理由に我国は、ケーブルセンサーを海中に施設しまくっていたのだ。防衛費はGDPの1%とするお馬鹿な縛りをこうしてクリアしていたのさ。話を戻そう!

 

とはいえ、広大な海底に施設し続けるのは持続可能な行為ではない。その解決策として電子の魔女の魔法技術がとても有用だ。だから、海軍に恩を売る良い機会だと佐伯さんが言い出したのだ。その代わり藤林さんのデータ収集法やデータそのものを見せてもらった。(本人には内緒で。)藤林さんは怒るかも知れない。何かお返ししないといけないな。あげまんになる方法とか良いかな?

 

司波くんさえも、真似できないネットの女王様、電子の魔女の秘密は鋭敏な皮膚感覚だ。全身を使って全方位的にネットにアクセスし必要な情報を得、改ざんをも行う。自分の肉体を酷使し痛みも消し去ってしまう司波くんとは真反対の考え方が必要となる。なので、ある意味箱入り娘のお嬢様でなければできない魔法なのだ。

 

やり方も独特だ。今、これを見ている本人は怒るかも知れないが、真っ裸になって魔法式を組み上げているのだ。音無とか鮎喰とか「響」つながりの女の子はユニークな人が多いのかも知れない。

 

冗談はさておき、全身の皮膚を隈なく使って魔法式を組み上げるととてつもない快感を得る場合がある。彼女はおそらくその体質だ。ただ、あんまりやるとそのままネットの海に溶けてしまう恐れがある。そこまで行かなくても異性を欲しない体質になる可能性が高い。正直彼女の将来が心配だ。一応フォローしておこう。

 

若くして悟りを開くと異性がいらない体質になる人がたまにいる。座禅等の気持ち良さが性的な快感よりもまさる体質の持ち主だ。普通は、どちらも好きで両方ともこなす様になる。禁欲的になる方がむしろ例外だと考えていた方が良いのだ。行かず後家になる前に、さっさと結婚した方がいいと思うよ。電子の魔女さん。

 

全然フォローになってないとお怒りのご様子だ。

 

さて、電子の魔女が使う皮膚感覚による電磁波の感知は、その性質から電波や電気にも応用できる。微弱な電波を拾うのもお手の物だ。しかし、電子の魔女クラスの魔法師を潜水艦に一人づつ載せるのは不可能だ。そんなレベルの魔法師がたくさんいれば苦労しない。そこで、一計を案じた。海軍の着眼点はなかなか鋭い。

 

パシフィックリム方式とも瞬間、心、重ねて方式とも、ウルトラマンA方式とも、バロム1方式とでも表現出来る方法を考案したのだ。

 

僕はその候補生を紹介された。個人のプライバシー保護の為、藤掛(仮名)さんと渡辺(仮名)さんとしておく。

 

どうしてわざわざ仮名と書いたのか?それはバロム1方式♂×♂だからだ。

 

柴田さん垂涎ものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編18

閲覧数欲しさに○モネタしよった!とお叱りを受けそうだ。昔の海軍ならさもありなむだが今の海軍なら女性も乗艦しているから無理があると指摘もされそうだ。

 

という事で、肝心な箇所の描写は今回は省略。

 

「二人のシンクロ率が高いまま安定しないのは、心にわだかまりがあるからです。今から小官は1時間席を空けます。お二人は身も心も重ね合わせて下さい」

 

と僕は、言って♂×♂でも○ックスフラッシュは起きるなどの簡単な説明をした。

 

♡♡♡

 

実験は大性交、いや大成功した。これ以上は特定秘密保護法と個人情報保護法により割愛させて頂きます!

 

◇◇◇

 

火曜日の朝、安宿保険医に呼び止められた。

 

「師匠くん。少し時間をいただけるかしら?」

 

僕は、彼女の本当の職業を観る。…占星術師。興味深いBS魔法師だ。

 

「少し言いづらい事なのだけど、師匠くんは、もしかして…」

 

話があると言った割に歯切れの悪い占星術師だ。

 

「自分の寿命くらい知ってますよ!」

 

「えッ!あ、そ、そうなの。なら心配ないね。いえいえ、凄く心配よ」

 

彼女は、僕が十文字さんにぶっ飛ばされ保健室に担ぎ込まれた時に僕の寿命を観てしまったそうだ。このブログ風私小説のタイトルを『高校一年時事日記』から『余命三年時事日記』に変えたもう一つの理由が実はこれだった。

 

これからもこの『余命三年時事日記』では【実は…】が出現する。決して後付けの『伏線回収』ではない。

 

「ちなみに、残りどれ位ですか?」

 

安宿保険医の答えは僕の出していた答えと同じだった。なかなかやるな!この保険医。

 

「僕は、残りの生涯を充実したものにしたいんです。協力してくれますか?」

 

僕は、平河さんと関本さんの様子と寿命が極端に短くなっているように観える学生が他にいるか尋ねた。

 

◇◇◇

 

鑑別所の面会申請は、風紀委員または生徒会長の承諾を得て最終的に学校の許可を得る手続きとなっている。通常は。

しかし、教職員の承諾を得た場合も学校の許可が下りる場合もある。保険医の推薦は効いた。

 

「と言う事で、同行させてもらいますんで、夜露死苦!」

 

七草さん、渡辺さん、司波くんがあからさまに不審に感じている。

 

僕と一緒に鑑別所に行く長岡さんは、上級生に不審がられても意に介していない。それどころか、七草さんと渡辺さんとフレンドリーにしかし丁寧に挨拶している。彼女の少女漫画的天真爛漫雰囲気はすでに濃密過ぎて他を圧倒する。渡辺さんも七草さんも例外ではない。

 

「師匠。何かあるのか?」

 

昨日、新風紀委員長から「あなたはトラブルに愛されている!」と言われて少なからずショックを受けた司波くんが僕に尋ねた。

 

「達也は、ディフェンス。俺らはオフェンスや。三人を頼むで!」

 

司波くんの表情が険しくなった。

 

「彼女、長岡さんは大丈夫なのか?師匠がいるから安心してはいるが」

 

「俺は平和主義者や!荒事は苦手や」

僕はおどけて見せた。

 

「奇遇だな。実は俺もだ」

 

……

 

「どうかされましたか?」

司波くんが、近くに来ていた七草さんに訊いた。七草さんが、驚いていたからだ。

 

「達也くんも、そんな普通の冗談を言うのね!私には」

と言って、しまったというような顔をした。

 

目ざとい渡辺さんが突っ込んだ。

「司波は、七草に何か言ったのか?」

 

「えッ!あの、」

 

動揺してしまい墓穴を掘った七草さん。というかわざとだ。自分が司波くんと何かあったことを突っ込んで欲しいのだ。とういうわけで僕はスルーしてやった。司波くんは、ヤレヤレと言ったふうだ。

 

「司波が、真由美にどこで何を言ったかは後でじっくり聞かせてもらうよ」

渡辺さんは、笑った。

 

◇◇◇

 

渡辺さんは尋問は得意なようだ。関本さんがアッサリ完落ちしている。念のために書いておくが、渡辺さんはお色気は使ってない。れっきとした魔法だ。

 

「宝玉のレリックだ」

 

匂いを使った洗脳魔法(?)で関本さんは司波くんを狙った目的を吐いた。

 

僕らは、そんなものに興味はない。そんなものに大した価値はないと知っているからだ。関本さんをそそのかした連中の魔法開発力の後進性が良くわかる事象だ。

 

「師匠。誰が狙われてるかわかった?」

 

長岡さんの問いに答える代わりに、僕は狙われている人物に視線を移した。

 

「対人戦闘は苦手そうだもんね」

身も蓋もなく呟く長岡さん。

 

もう少し渡辺式洗脳魔法を観察したかったが、来客が到着した。僕らは隠し部屋をそっと出た。

 

中央階段まで移動した時、八王子鑑別所に非常ベルが鳴り響く。外部からの侵入者を知らせる警報だ。うーん。遅い。

 

しばらくすると、殺気を発しまくった中年男が階段から降りて来た。

 

彼は、僕らを素通りして行った。大丈夫か?あのオッサン。気づけよ!まぁ、これで彼の功夫はハッキリした。

 

ようやく、廊下に渡辺さん七草さん司波くんの三人が飛び出して来た。司波くんは、すでに侵入者に気付いていた。

 

勇ましく前に出る渡辺さん。カッコいい!セクシー!

際どい所、絶対領域(?)からマスケット銃ではなく武装一体型CADを取り出さんとしてる。

 

では、僕も行きますか。

 

「ヘイ!ジャンフー」

 

呂 剛虎(ルゥ ガンフゥ)は、振り向いた。その顔には偽物呼ばわりされた怒りと背後をアッサリ取られた驚きが混じっている。

 

本来なら声をかける前に始末するべきだが、それでは意味が無い。

 

「シー イズ ザ グレイト リアル カンフーマスター オブ バーコアザン フロム シンヨウ!」

 

僕が由緒正しいジャパングリッシュで長岡さんの紹介をした。

 

「ユー キャン ファイト ウイズ ハー」と僕が言い終えない内に長岡さんがルーなんとかに向かって歩き出す。

 

黒社会や特殊工作員の間では、八卦掌はリスペクトされている。ダントツに強いからだ。八卦は皇帝の部屋を守り、八極は皇帝の庭を守るとさえ言われている。或いは、皇帝を守るのは八卦、皇帝がするのは太極。ちなみに形意は「秘密」を守る。

 

何て言ってる一瞬の間に勝負は着いた。大亜連合軍特殊工作部隊に所属する階級は上尉で「人喰い虎(The man-eating tiger)」と呼ばれる凶暴な魔法師(藤林さん情報)らしいルーナントカは対人近接戦では世界十指に入る(藤林さん情報☜段々信憑性が薄れて来た。)らしいが、今は白目をむいて吐血してぶっ倒れている。一体、どこの世界の指10本なのだろう?

 

長岡さんは、「鉄拳チンミ」を使った。百年前の少年漫画だが、当時からさらに百年程度前に実際にあったロシアのボクサーとカンフー少年が闘って少年が使って勝った技だ。

 

キモは、胸を打つ前に相手の足を自分の足を象の鼻のようにして踏んで相手を身動きできないようにするだ。

 

こちらの狙い通り、日本の『毒脚京』が大亜の『人喰い虎』を瞬殺した。これで、大亜のネームドを一人潰せた。魔法師の発達で最近の戦闘は、第一次世界大戦と同じように一人のエースが戦況を劇的に変える事がしばしば起こる。

 

人喰い虎を手乗りタイガー程度の評価に落とすのに成功した。あちらのネームドを一人潰してこちらのネームドを一人増やせたのだ。渡辺さんもカウントすれば二人増やせたとも言える。

 

「渡辺さん!」

 

何が起こったか理解できなくて呆然と突っ立っている彼女に僕は声を掛けた。

 

そして、僕は、手を一回叩いて、Vサイン、両手の指先を頭上で合わせ○、人差し指と親指の指先を合わせて目にその輪を持って来る。

 

「ば、ばかッ!」

 

渡辺さんがめくれ上がったスカートを慌てて元に戻した。意外に可愛い反応をする人だ。千葉さんの兄ちゃんが惚れるのも有りかも知れない。しかし、もしかしたら渡辺式洗脳魔法かも知れない。

 

「師匠。今の技の解説はないのか?」

 

司波くんが、渡辺さんのスカートとその中身を全く無視して僕に質問して来た。

 

恨めしそうな顔をする渡辺さん。必死になって笑いをこらえる七草さん。

 

「この人、弱過ぎ。考え方が間違ってる」

身も蓋もなく呟く長岡さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編19

術式補助演算機(英名:Casting Assistant Device、略称:CAD)は、CAD(シー・エー・ディー)、デバイス、アシスタンス、法機(ホウキ)などと呼称される魔法工学製品である。

魔法を発動する為の起動式を魔法師に提供する補助装置で、「感応石」と呼ばれるサイオン信号と電気信号を相互変換する合成物質によって魔法師と疎通する。

 

「そこで、鉄沙に『感応石』を混ぜて長岡さんに鉄沙掌を練功してもらったんや」

 

十三くんの「レンジゼロ」モドキの完成だ。あるいは偽「グラムデモリッション」の出来上がりだ。

サイオンを直接ぶつけて起動式と魔法式を散じてしまえるし相手の身体に流れるサイオン流も寸断できる。本当はこんな事をしなくても彼女なら勝てたが速習(バッタ物?)鉄沙掌でサイオン粉砕が可能か検証したかった。

 

長岡さんの手をジッと見る司波くん。その横で少し拗ねたようすの七草さん。(司波くんが自分と違う女の子に人並み以上の興味を持つのがそんなに嫌なのだろうか?)その七草さんに冷たい視線を向ける渡辺さん。

 

武装警察と警備員がルーナントカを回収しているのを横目で見ながら僕は司波くんの疑問に答える。

 

「即席『レンジゼロ」はわかった。ただ呂に長岡さんが普通に近付けた理由がわからない。魔法を使った様子もない」

 

彼女が此の世にいないから、ルーナントカには見えても何をしたらいいかわからなくて彼は思わず防御を固めたのだ。

 

この「この世にいない」の説明は今しても仕方ないので、

 

「それは、まさに八卦掌のショウデイホや!」

 

と回答しておいた。漢字は足へんに尚、泥、歩である。

 

◇◇◇

 

10月26日水曜日。横浜有事まであと4日。早朝クラスルームにて。

 

「発勁はわかったが、もっと早く動けなければ攻撃が当たらなくないか?」

珍しく司波くんが質問して来た。彼は「縮地法」ができるらしいからすでに早く動けるのではなかろうか?相手が服部さん程度なら司波くんの縮地法で十分なのだろうが昨日の長岡さんの動きを見て今の自分では十分ではないと感じたのだろう。

 

その通り!

 

膝抜きから始まる「縮地法」は敵が刃物や銃の扱いに習熟していればまず通用しない。事象改変が始まるのに時間がかかる魔法師には通用するが。

 

したがって、十師族レベルには通用しない。事象改変が早いからだ。

 

「そうや。骨から動かんと遅い」

僕はそう言って骨から動く練習法の見本を示した。

 

「これは、スワイショウの一種で腰椎○番が左右に動くようになる。そんでコツは手の○指を緩めるてやるんや」

 

「こうか?」

 

「そうや。自分凄いな。普通一回では出来へんで」

 

側で二人の会話を聞いている司波さんが照れる。司波くんが評価されると司波さんは身悶えするように喜ぶ。若干変態?

 

「これで重心が上がった」

 

司波くん?な顔をした。

 

「日本人は重心が若干低いから居着きやすい。これで大陸系と同じ高さにできるんや」

 

司波くんはノートに書き込むように今の教えを脳に記憶させた。凄い特技だ。

 

「そんでこれが、沈む運動。これは地心に連動して行く。腰椎○番につながっとる」

 

次に、僕は天心に連なる上への運動や、前進、捻りの運動であるスワイショウとそれぞれに対応する腰椎を説明した。一回で彼は記憶できるとわかったので快調に伝えられる。

 

「なんかわからん事ある?」

 

「師匠。それは野口整体*と関連しているのか?」

 

*野口整体(のぐちせいたい)とは、昭和20年代に野口晴哉が提唱した整体法。活元運動、愉気法、体癖論から構成される。

 

体癖(たいへき)とは、野口整体の創始者である野口晴哉がまとめ上げた、人間の感受性の癖を表す概念。身体の重心の偏り・腰椎のゆがみと個人の生理的・心理的感受性(体質、体型、性格、行動規範、価値観など)が相互に作用していることを野口は診療から見出し、その傾向を12種類(10+2種類)に分類した。

 

腰椎1番は、上下運動、腰椎2番は左右運動、腰椎3番は捻れ運動、腰椎4番は開閉運動、腰椎5番は前後運動。あいうえおとも関連し、5指、前頭葉、右脳、左脳、後頭葉、脳幹とも関連している…

 

「なんや、野口整体知っとるんなら話は早い。大体同じや」

 

非魔法師は、背骨がどこか歪んで生まれてくる。一方、魔法師は背骨の歪みがほとんどない。魔法師は生まれた時から超健康体なのだ。なので多少寿命を削っても問題にならない。しかし、魔法を使い過ぎると身体がそれ以上の酷使を拒否する様になる。これが、魔法師が恐れる突然魔法が使えなくなる『燃え尽き症候群』の原因だ。

 

極論になるが、魔法を使い過ぎた魔法師は背骨に普通の人並み歪みが生じる。ただ、かなり微妙なので整体すればすぐに魔法力が回復するとまでは行かない。

 

「そういえば、達也も深雪さんも綺麗な背骨をしとる。さすが兄妹やな!」

 

司波くんは平然と聞いていたが、司波さんは顔を赤らめて照れていた。

◇◇◇

 

本日、多量の外患誘致罪等と共謀罪等と懲戒請求が未成年中心に地検と各士業に送付された。

 

僕等の仲間は、その送り付けられた告発状等に対する反応を観察していた。外患に関する刑事告発状は現場レベルでの扱いは禁じられており、受理あるいは不受理さえも主務大臣までおうかがいを立てなければならない。それをしない検事正等は全部マークキングされた。

 

同様に、懲戒請求は相応の事由が認められれば速やかに受理され綱紀委員会等にまわされて調査を開始しなければならない。あるいは監督官庁は速やかに対処しなければならない。不受理や綱紀委員会に懲戒請求をまわすのをいたづらに遅らせたりした弁護士会等はマーキングされた。

 

これらの情報は、僕等のお互いに面識のないメンバーにも共有された。誰が潜在的あるいは顕在的敵工作員であるかの情報だ。

 

我国には今だにCIAや新KGBに相当する巨大諜報機関はない。しかし、日本の諜報は世界一だ。なぜなら諜報員が誰なのか誰にもわからないのだ。互いはもちろん本人も含んでいる。

 

巨大組織があれば組織を乗っ取れば戦力を簡単に削られる。だからCIAは常に防御に忙しい。それだけ要職を乗っ取られ易いのだ。

 

さて話を戻そう。同じ手法での「炙り出し」は、70年前にも実施された。興味のある方は『民間防衛の歴史』の昭和・平成編を参照すると良いだろう。

 

前回と違い今回は、未成年、小学生中学生高校が主体となって告発状を送付したのだ。

 

主なメンバーは、この『余命3年時事日記(ただし会員登録版)』を読んで、告発状や懲戒請求申立書の書き方や告発の仕方などを理解できた頭の良い子達だ。

 

明日には、ちょっとした事件となっているだろう。ただ、藤林さんが中心となった産業スパイの大量逮捕、拘束のほうが巷の話題になるかも知れない。

 

いづれにせよ、10月30日には世界はひっくり返える。

 

◇◇◇

 

「タッグネームは、何がいいかなぁ?」

『運転席』の主任がいきなり訊く。

 

「ダーティペア」

僕は、後ろの『座席』から即答した。

 

「違う〜!TACネーム*!」

 

*TACネーム(たっくねーむ)

航空自衛隊やアメリカ軍等において、航空機のパイロット(エビエーター)が持つ非公式の愛称。

通信時の便宜上のもので、短いほど良く、概ねアルファベット6文字以下が望ましいとされる。

 

正式なコールサインではないので、AWACSや管制塔との交信では使用されない。

命名も新人歓迎会などで適当に行われる事が多く、特に複雑な命名法則があるわけでもない。

実態は子供が友達同士で呼び合うあだ名と大差なく、ふざけた命名もしばしば為される。

一方で上官や先任による「添削」も行われるため、呼ばれる本人の希望が通る事はほとんどない。

 

俗に「格好良いTACネームはベテランパイロットの特権」とも言われる。

 

 

「セクシージャガー」

 

「もう。真面目に考えて!」

 

こっちこそ、主任に真面目に操縦して欲しい。一応、最新のリブートF35の飛行訓練中なのだ。それにしても飛行中の主任は自由奔放さが増す。まるで、『社会人になりたてのOL』(☜100年前にはそういうのが存在していたそうだ。)みたいだ。見たことないけど。

 

「師匠くんの考えておいたよ!」

 

師匠でいいんじゃないのか?一応は聞いておきますよ。

 

「『殿下』」

 

一高の元生徒会長で大量破壊兵器に応用できる理論を完成させた彼女はあなどれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編20

TACネームがパタリロ*でなくて良かった。

 

『パタリロ!』は、魔夜峰央のギャグ漫画。『花とゆめ』(白泉社)で1978年に連載を開始し、2018年、『マンガPark』にて連載。1982年にはアニメ化もされた。また2016年に舞台化作品が上演され、2018年にも第2弾の舞台が公演されている。

 

あらすじ

 

バミューダ=トライアングルの真ん中に存在する架空の島国マリネラ王国を舞台に、その国王パタリロ(☜じつは偉かった!)が、側近のタマネギ部隊や、イギリスの諜報機関MI6(エム・アイ・シックス)の少佐(スパイ)バンコラン(☜007のジェームズ・ボンドと同じ設定)やその愛人マライヒ等(☜♂( ̄▽ ̄)しかも複数…)を巻きこんで起こす騒動を描く。舞台はマリネラ王国だけでなく、バンコランやマライヒの住むロンドンも多用されている。

 

基本的には一話完結の形式なのだが、連作エピソードもいくつか存在している。毎話で描かれるストーリーは単なるドタバタギャグなノリだけにとどまらず、プロットが高度に練られたものも多く、作品が長年支持されている所以でもある。ストーリーはギャグ作品の懐の広さを生かしてジャンルを越えた多彩な内容になっており、007シリーズめいたスパイアクションがあれば推理小説並みのミステリー(バカミス)もあり、宇宙人が出てくるSFもあれば黒魔術が絡むオカルトもある。

 

1970年代、少女漫画界では耽美的な少年愛を題材に取り上げることが流行したが、その時期に連載が始まった本作でもその要素は多分に盛り込まれている。(☜にも関わらず、当時ゴールデンタイムにTV放映したらしい。視聴者はきっと腰を抜かさんばかりに驚いたに違いない。)少年愛をコメディに取り入れたことでは『エロイカより愛をこめて』(作・青池保子)と並ぶ先駆的な作品である。

 

スピンオフ作品として『家政夫パタリロ!シリーズ』、『パタリロ西遊記!』、『パタリロ源氏物語!』、『パパ!?パタリロ!』がある。これらは『パタリロ!』とは別作品として扱われており、単行本も別シリーズとなっている。また、パタリロ本編でも外見が同一の別キャラクターによる時代劇版があるが、これは本編の一部として扱われ、『パタリロ!』の単行本に収められている。

 

ちなみに今だに連載は終了していない。原作者の魔夜峰央は亡くなっているがこの作品も大人の事情により不定期に連載は続いている。諜報ネタも扱われているので諜報ネタに強いスタッフを常に募集している。ゴルゴ13のさいとう・たかをプロダクションもそうだ。

 

僕も誘われてお手伝いをした事があるが、この『余命3年時事日記(プロフェッショナルバージョン)』を読んでくれとその手のエージェントに応えている。とは言え、『ミッション・インポッシブル』は少し手伝うと約束した。ここだけの話だが最新作は日本が舞台になるそうだ。しかも魔法科高校も登場するらしい。

 

全てがヒットするわけでもないし特に人気のジャンルでもないのにスパイ映画や小説や漫画はなぜか生産し続けられる。何故か?以前触れたと思うが諜報員は、リスクの高い仕事だ。実績をあげても報酬も栄誉も限られている。しかもアクシデントに遭いやすい。なのでなり手が極端に少ないのだ。

 

さらに諜報に向いている人材も少ない。能力のある人材は基本目立つ。目立ったまま諜報活動するのはハードルが上がる。しまいにはイングランドみたいに諜報員を公募でもしなければ定員割れしてしまう。あるいは、CIAのように優秀な人材は取り敢えずCIA諜報訓練コースを受けられるようにしてその中から諜報に興味がある人材を自発的にCIAに来てもらうように細工してかき集める。

 

要は、国民に諜報に興味を持ってもらうためにスパイ作品は作られ続けているのだ。

もしあなたがスパイ小説や漫画を書いていたとしよう。それが人気を集めてさらに作品を面白くしたいあるいはもっと面白いスパイ作品を書きたいと考えていたら、不思議なことが起きる。

 

情報提供者が現れるのだ。そしてその作品が人気を集めるようになると提供される情報はもっと露骨になって行く。逆に考えると情報提供者が現れなければ、あなたのスパイモノは本物から相手にされてないとわかる。

スパイ作品を作らんとしておられる方は頭に入れておくと良いだろう。

 

話をF35(リボーン版)に戻そう。この戦闘機は当時世界最強だと言われていた。実際そうだと思う。しかし、機体の性能が良過ぎてパイロットがその性能を十分発揮出来なかった。これは今も未解決の問題だ。

 

有力な解決策として超人的な魔法師に操縦させるとするものがある。そこでA級魔法師を空軍は欲しがった。しかし、A級魔法師の人数は限られており実質的に十師族に独占されているので思うような採用ができないのだ。ここら辺も十師族がじつはすごく嫌がれている原因の一つになっている。

 

例えば、全方位カバーの映像をパイロットのヘルメットシールドに映し出す機能。パイロットが、七草さんなら右目と左目を独立して使って全方位の情報を把握できるだろう。しかし彼女クラスの魔法師は稀少だ。

そこで対策を編み出した。人間ソーサリー・ブースター*!

 

*ソーサリー・ブースターは、起動式を提供するだけでなく、魔法式の構築過程を補助する機能も持つCADの一種である。魔法師が本来持っているキャパシティを超える規模の魔法式形成を可能にする。

通常のCADとは異なり、ブースターは一つの特定の魔法のみに対応し、それぞれ使用できる魔法は異なる。

 

形状は取っ手が付いている以外平坦な一辺30cm程度の立方体の箱で、機械的な端子は存在しない。感応石の代わりに魔法師の脳を加工した物を中枢部品とする。

 

感応石の代わりに魔法師の脳を使うのだが、されにそれを魔法師そのものが肩代わりするだけだ。

 

僕がパイロットの魔法力を強化して擬似的にパイロットをA級魔法師にするのだ。主任は、七草さんレベルではないが、渡辺さんレベルではある。魔法理論と普通科目がダントツなので総合一位となってたらしい。本人曰く魔法は苦手だそうだ。

ついでに言うと十師族は魔法科高校で本気を出してはいない。主任はそれに気づいていた。だから彼女も十師族をあまり良く思ってない。渡辺さんは、気づいているのかなぁ?それを知ったら二人の友情はどうなるかなぁ?

 

ということで、渡辺さんレベルの主任に人間ソーサリー・ブースターで魔法をアシストすれば、鬼に金棒、ひそねにまそたんだ。

 

◇◇◇

 

「先日は、お世話になりました」

 

「先日?昨日の事だぞ?」

渡辺さんは、おっぴろげジャンプではなかったがスカートの中を見せびらかしたのを思い出しながら話している。耳がわずかに赤くなっている。どこの誰だか知らないけれど体はみんな知っている?

 

「ところで、師匠。長岡さんだったな。彼女はすでに達人だな」

渡辺さんは、こう言ってから意地悪な笑みを浮かべた。

 

「師匠は、彼女と付き合っているのかい?」

言ってやったぞ。さあ、動揺しろと言わんばかりの表情だ。

 

「シュウ&マリのアツアツペアルックな関係は一切ないっス。長岡さんにはフィアンセがいますよ」

 

腕組みをしたまま真っ赤になる渡辺さん。この人に彼氏ができるのが良くわかる。特に強い男は守ってあげたくなるのだ。僕は思わないが。

 

「ちょっと待て!あの時、貴様は病院にいなかったはず。どうしてそれを」

 

「壁に耳あり、障子に目あり。クロード・チアリ」

 

「誤魔化すな!どうやって知った」

 

側で僕等の会話を聞いていた七草さんが必死で笑いを堪えている。

 

『そんな恥ずかしい事、言わなくていい』

僕は、渡辺摩利が言った言葉を渡辺摩利で喋って見せた。

 

七草さんと渡辺さんが固まった。少々薬が効き過ぎたかも知れない。「待て〜!そいつがルパンだ」等と言わなかったところからみると。

 

「し、師匠くんがモノマネ上手なのはわかったわ。ところで大事なお話って何?」

渡辺さんより先に落ち着気を取り戻した七草さんが本題に入り戻した。

 

「戦争の時間です」



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横浜騒乱編21

今日は、自主休講。本番に備えて心身を休ませたい。とう言う事でここから先は代筆を部員に頼んだ。

 

◇◇◇

 

「白石。四生≪ししょう≫は休みなのか?」

森崎が不躾に尋ねて来た。早朝から登校していた1-Eの他のクラスメイトも何事かと森崎と白石に注目した。もちろんそんな素振りを見せないで。

 

「師匠は私用で『自主休講』らしいっす」

白石は、森崎の態度に多少ムッとしたがそれをおくびにも出さずに極めて自然に返答した。と同時に一科生も白石が頼りにしている師匠を同じ様に頼りにしているのを目の当たりにして嬉しくもあった。

 

「師匠は、まだなのか?」

司波達也が今度は尋ねて来た。彼はすでに風格が漂っている。何でもない日常会話の中で何でもない質問をされただけで白石は緊張する。言うまでもないが、これは白石に限った話ではない。

 

「はい。私用で『自主休講』と聞いてます」

直立不動にはならないが、白石は他部門の上長に応える平社員のごとく畏まって応える。

 

「ありがとう」

白石の緊張した様子にわずかに苦笑いをして司波達也は礼を言った。

 

白石は、司波達也も、師匠を気にしていると明らかになり自分の事の様に嬉しくなった。

 

「白石くん。ちょっと良いか?」

 

「何っスか?」

 

森崎駿は、司波達也が離れると質問して来た。最近、長く座ってられないそうだ。白石もその様なスランプがあるのか?そのスランプに魔法を使って解決しても良いのか?矢継ぎ早に森崎は巻くし立てて来た。

 

「疲れていると長く座れないです。そんな時は横になって寝ても良いと習ってます。ただそれは、以前は自覚出来なかった深いところの疲れを自覚して治そうと心身が反応し始めている良い兆候らしいです。なので、ある程度座禅に習熟すると座る時間よりも質を重んじる方がいいとアドバイスを受けてます。座禅中に魔法を使うの絶対ダメらしいです。理由は座禅の『何も考えない』がまず出来なくなるからです。何も考えなくても答えが自然に出てくる、あるいは自然に治る、あるいは自然に解決するのが本来のスタイルだそうです。特に足が痺れるのを防ぐ為に魔法を使うのはNGです。下半身、特に足の指先まで気血が通るから座禅をしていても足が痺れなくなるのが正解です」

 

森崎駿が、矢継ぎ早に訊いてきたので白石は逐一師匠から習った通りに答えた。

 

「あ、ありがとう。参考になったよ」

少々驚いた森崎だったがわずかに微笑んだ。

 

「今後もよろしく頼む」

 

「こちらこそよろしく」

 

要件の済んだ森崎駿はすぐに1-Eの教室を満足げに出て行った。

 

相手に実力を素直に認めるのはある程度の実力がなければできない。実力がないと自分よりもはるかに高い実力者に出会えてもその実力を推し量ることさえできない。師匠がそのようなことを言ってたと白石は思い出した。

 

白石は、不意に視線を感じた。感じた方向に目を向けると視線の送り主と目が合ってしまった。その送り主はあたふたし始めた。その横にいた男子が白石の方に近づいて来る。

 

「よう!白石。お前も凄いな。それで少し頼みがあるんだけどよ」

 

西城レオンハルトは、彼女(?)の千葉エリカの言いたい事を推し量っている。所謂「忖度」(?)だ。レオンハルトは外見こそ、日本人離れしているが心情は日本的なのだ。千葉エリカにもそれは当てはまるが。

 

「お前達、週末の横浜で何かやらかすつもりなんだろう?俺らも混ぜてくれないか?」

 

「いいッスね!一緒にやりましょう。戦争を」

 

西城レオンハルトの後ろに隠れるようにしてついて来た千葉エリカの表情が明るくなった。ヤル気が漲っている。何のことかわからない学生は、ポカンとし、事情を少しでも知っている学生は、小躍りしたり小さくガッツポーズをした。

 

◇◇◇

 

その日の夜、反日的であると悪名高いとある報道番組で「懲戒請求事件」「外患誘致告発事件」が取り上げられた。

 

全国の小学生、中学生、高校生を中心に大亜連合(特に朝鮮自治区)との関係が噂される弁護士などに大量の懲戒請求申し立てがあり、懲戒請求を受けた弁護士達が「未成年だからと言って黙って見過ごす訳には行かない!魔法使いのガキども!提訴が嫌なら和解金を払い詫び状を書け!」と報道番組のインタビューに答えていたのだ。

 

また、外患誘致等で刑事告発された反魔法師の皮を被った売国奴と噂される代議士は、「知らない。受理され捜査が始まれば対応する」とインタビューで答えていた。

 

 「懲戒請求事件」は、河原真知がネットで呼びかけたのが発端だ。主に河原真知の軽妙小説と日記風私小説の読者に刑事告発や懲戒請求申し立ての具体的な方法をネット上に拡散したのだった。彼のリアルでの知人もその情報拡散に協力している。『少佐』と呼ばれている吉田摩耶とそのチームも参加している。

 

ちなみに「河原真知」は、彼のペンネームであるらしい。また、彼を知る者はなぜか彼を「師匠」と呼んでいる。さらに彼と近しい者は「殿下」と呼んだりしている。要は誰も彼の本名を知らないのだ。魔法科高校には「河原真知」で登録されている。一校がどうしてそのような登録を許しているのかは謎だ。

 

「魔女っ子メグミちゃん」はその河原が著した軽妙小説だ。始まった時は、単なるお笑いスポ根魔法師微エロ少女軽妙小説だったが、連載が続くにつれてシリアスでリアルな描写が増えヒロインは愛国的な魔法師に変わっていった。特徴的なのは、ヒロインが魔法師として魔法で戦うだけでなく、我国の存立を脅かす不届者達を我国の法律に基づいた通報や問い合わせや抗議や告訴等で炙り出し、最新巻には法廷闘争で追い詰める描写まであった。

 

懲戒請求申し立ては弁護士法第58条に「何人も、弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由があると思料するときは、その事由の説明を添えて、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会にこれを懲戒することを求めることができる。」とあり、未成年でも申し立てできる。しかも「懲戒の事由があると思料する」だけで良いのだから法的に正しくなくても申し立てできる。

 

インタビューで怒りをぶちまけていた反魔法師弁護士は多量に懲戒請求したのは違法であると主張していた。しかし、弁護士法の第八章 懲戒 第一節 懲戒事由及び懲戒権者等 56条から71条までに不法懲戒請求や違法懲戒請求なる文言が一切ない。つまり、58条の「何人も、弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由があると思料するときは、その事由の説明を添えて、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会にこれを懲戒することを求めることができる。」が効いて、誰がどんな理由でどのように懲戒請求申し立てして構わないのだ。

 

 それは、いいとしても民事で訴えるなら被告を特定する情報、氏名や住所や連絡先が必要になる。それがわからないと地裁が訴状を被告に郵送出来ない。この反日弁護士はどのようにして懲戒請求者の個人情報を手に入れたのか?合法的手段では手に入れようがないのだ。日弁連や弁護士会から漏れたらとしたらこの反日弁護士と同罪となる。

 

本人承諾なしで、何かに使用する時は本人に通知しなければならないのだ。「提訴すると懲戒請求された弁護士が言ってますが、あなたの個人情報を教えて構わないですか?」と予め承諾を得なければ個人情報保護法違反なのだ。

 

 

日本弁護士連合会(日弁連)ホームページより抜粋。

 

第1 個人情報の適切な収集、利用、提供、委託

1.個人情報の収集に当たっては、利用目的を明示した上で必要な範囲の情報を収集し、『利用目的を通知し』、又は公表し、その範囲内で利用します。

2.『個人データは、次の場合を除き、第三者に提供し、又は開示することはしません。』 (1) 『あらかじめ本人の同意を得た場合』

(2) 『法令の規定に従い、提供又は開示する場合』

(3) 人の生命、身体又は財産の保護のため必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。

(4) 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。

(5) 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。

(6) 問合せのあった事項につき、適切な対応をするために、各弁護士会へ問合せ事項を提供し、又は開示する場合

 

3.個人データを第三者に委託して利用する場合は、当該第三者との間で秘密保持契約を締結した上で提供するなどし、また、委託先への適切な監督を行います。

4.上記のほか、『本会における個人情報の取扱いは、個人情報保護法及び下位法令並びに関係するガイドラインの定めるところに従います。』

 

 河原達は既に次の手を準備していた。懲戒請求者提訴をちらつかせ和解金と謝罪を迫った反魔法弁護士達に集団提訴で対抗するのだ。小学生の含む原告団は選定代理人を立てその瞬間から裁判から離脱できる。なので個人情報が公にさらされこともない。選定代理人は、身バレ顔バレ上等の猛者が当事者の中から選ばれる手筈だ。

 

 次に外患誘致罪だが、有事法なのでこれで刑事告発された人物は油断していた。たとえ、告発が受理されても有事がない限り安心だと。しかし、有事は正式な戦争だけを指すものではない。国が有事対応すれば有事なのである。

 

武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律から抜粋。

 

第一条 この法律は、武力攻撃事態等(武力攻撃事態及び武力攻撃予測事態をいう。以下同じ。)への対処について、基本理念、国、地方公共団体等の責務、国民の協力その他の基本となる事項を定めることにより、武力攻撃事態等への対処のための態勢を整備し、併せて武力攻撃事態等への対処に関して必要となる法制の整備に関する事項を定め、もって我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に資することを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一 武力攻撃 我が国に対する外部からの武力攻撃をいう。

二 武力攻撃事態 武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態をいう。

三 武力攻撃予測事態 武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態をいう。

 

上記の文言にあるように、正式な宣戦布告の有無に関わらず我国は有事対応する義務が国と国民にある。特に『二 武力攻撃事態 武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態をいう。三 武力攻撃予測事態 武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態をいう。』に、注目して欲しい。

 

大亜連合と正式な戦争になっていなくても、有事対応し有事法である外患誘致罪が適応されうるのだ。ちなみに今は『武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態』であり、3日後に『武力攻撃が発生した事態』となるのだ。売国奴は有事外患誘致罪で死刑だ。

 

刑法第81条外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編22

賢明なる読者の皆様へ

 

このブログ風私小説が一部削除されていますが、それは著作権の問題によるものです。反魔法の皮を被る反日組織や敵性国家からの圧力の影響ではありません。なお、有料特別会員様におかれましては、会員様の会費の中から作中で引用させて頂いた貴重な資料の使用料を適宜支払いさせていただいていますので上記の削除の件とは無関係になっております。何卒、ご了承ください。

 

河原真知とゴーストライターズ

 

ゴーストライダー*は、ゴーストライターを、ゴールドライタン*はゴールドライターをもじったものだと思うがどうだろうか?

 

*ゴーストライダー

『ゴーストライダー』 (Ghost Rider) は、アメリカ合衆国の出版社マーベルコミックスが刊行しているアメリカン・コミックスに登場するオカルト系スーパーヒーロー、及びそのヒーローが主人公のコミックシリーズのタイトルである。

 

概要

 

ゴーストライダーは燃え盛る炎に包まれた髑髏の頭部を持つバイク乗りの姿をしたアンチヒーローで、「復讐の精霊」 (Spirit of Vengeance) の異名を持つ。普段は宿主である人間の姿をしているが、その力が必要になると変身する。

 

『1972年』8月刊行の『Marvel Spotlight #5』で初登場し、1973年よりゴーストライダーを主人公とした単独作品『Ghost Rider』の刊行が開始され、1983年の第81号で完結した。その後、1990年より『Ghost Rider』第2シリーズが開始された。

 

(参考までに、有名な仮面ライダー(正式には仮面ライダーシリーズ)は、『1971年』より開始された石ノ森章太郎原作・東映制作による特撮テレビドラマシリーズだ。世界制服を目論む悪の秘密結社ショッカーに拉致されて改造手術を受けた本郷猛が、バイクに乗った時に風を受けてベルトに備え付けられた風車が回って風力発電(?)で変身するという自然に優しい再生可能エネルギーな戦士の物語だ。

 

そしてショッカーの幹部達のセリフ回しが時代劇の悪役と同じなのでライダーに倒される時に演技に力が入り過ぎるのが特徴の一つだ。初代仮面ライダーの本郷猛役の藤岡弘も負けず劣ら時代劇ヒーローな芝居をしていた。)

 

日本と米国でほぼ同じ時期に始まった人気シリーズなのだ。偶然ですね!

 

*ゴールドライタン

『ゴールドライタン』は、1981年(昭和56年)3月1日から1982年(昭和57年)2月18日まで東京12チャンネル→テレビ東京で放送された、タツノコプロ製作のロボットアニメ。

 

概要

 

真下耕一の初監督作品となった本作は、トランスフォーマーやマシンロボなどに先んじた、意思を持った変形ロボットの群集劇である。また、後続作品のトランスフォーマーシリーズや勇者シリーズではロボットと少年との心の交流も重視しているが、本作も主役ロボットのゴールドライタンと主人公のヒロとの友情が重要なテーマになっており、時代を先取りしていた。

 

ポピーに在籍していた村上克司によると、ヘビースモーカーだった彼は複数のライターを所持しており、それらを眺めているうちにライターに変形するロボットを思いついて1枚デザインしたが、特に注目されることはなかった。ところがある日、上司の杉浦幸昌が唐突に「おい村上、あのライターロボットはどうなった」と言い出した。村上の仕事をいつも見ていて、しかも後々まで覚えていたのだという。「次はこれで行こう」の杉浦の一声で、企画は始動した。「ライタン」は老舗ライター会社が商標登録していたが、交渉して格安で商標を譲ってもらった。アニメ化企画自体はポピーからタツノコプロに持ち込まれたもので、村上の説得によりタツノコプロは即座にアニメ化を決定したという。

 

まさかと思ったが本当にゴールドライター→ゴールドライタンだった。確認しておこう!

 

それと、昨日はどうもすいませんでした。力を使い過ぎたので一日の大半を部屋にこもって陽気を養っていました。昨日出来事の続きですが、いい歳こいた反魔法師弁護士達が、最終的に「この悪魔の魔法使いども!」「魔女狩りしてやる!」等と暴言を吐き始め「はい、名誉棄損です。刑事告訴しました」「それ脅迫。警視庁と公安に通報したよ」といった応酬となり実際に告訴と通報もされ事態は収束して行った。

 

名誉毀損は、刑法にもある。そのために相手の個人情報を掴めてなくても刑事告訴できるのだ。ちなみに民事訴訟は被告を特定できる個人情報がなければ提訴できない。最近の小学生は本当に物知りだなぁ。まあ、僕の小説にも詳しく告訴の仕方は描写してはいるけどね。

 

これらに加えて、僕は藤林さんがいやいや提供してくれた産業スパイ行為に関わった人物達のリストを米国系の諜報機関に提供した。告発や懲戒請求されて過剰反応した連中も資料に加えた。

 

我国のスパイ防止法はザル法と言われている。その刑罰が軽過ぎからだ。単なる窃盗と変わらない程度だ。逮捕されたところで罰金か執行猶予で実質お咎めなしだ。しかし米国系諜報機関による制裁は厳しい。資産凍結が待っている。

 

米系諜報機関から資産凍結しても日本国内で米ドルを使うわけではないから大して怖くないのでは?と思う方がいるだろう。そうはイカの○ンタマだ!某銀行の発表を読むとそのように誤解するのも無理はない。米ドルを使わないで円だけ使えば大丈夫なんじゃね?と思うのだろう。

 

以下はとある邦銀のホームページに記載されている。

 

米国OFAC規制に関する留意点について

 

(正確には、北アメリカ大陸合衆国 United States of North American continent、通称はUSNAだが、アメリカとか米国と2054年以前の俗称で呼ばれている。ちなみに米帝と呼ぶのは反米思想の現れだ。)

 

米国の財務省外国資産管理室(OFAC)は、外交政策・安全保障上の目的から、米国が指定した国・地域や特定の個人・団体などについて、取引禁止や資産凍結などの措置を講じており、そうした規制はOFAC規制と呼ばれています。

OFAC規制は、米国人・米国金融機関を含む米国法人のほか、米国内に所在する外国人・外国法人に適用され、主に、米国で決済される米ドル建取引が、規制の適用を受けます。本邦でお受付する外国為替取引であっても、「制裁対象者」の関与する米ドル建取引等は規制対象となり、お客さまの取引が規制に該当した場合、海外の銀行からお取引を制限されるなど、その後のお取引にも支障が生じる可能性があります。

つきましては、下表のようなお取引は弊行ではお取り扱いができませんので、外国為替取引を行うお客さまにおかれましては、これらに該当しないお取引であることに十分にご留意・ご確認頂いた上で、ご依頼頂きますようお願い申し上げます。

 

具体的にどのようなけしからん連中に制裁を実際に課すのか米系組織の発表資料を見ると(原文は英語。日本語にしている。)

 

外国資産管理局 - 制裁プログラムと情報

米国財務省の外国資産管理局(OFAC)は、対象外の国や政体、テロリスト、国際麻薬密売人、国際麻薬密売人、国際麻薬密売人に対する米国の外交政策と国家安全保障目標に基づいて経済貿易制裁を管理し実施する大量破壊兵器の拡散に関連する活動、および米国の国家安全保障、外交政策または経済に対する他の脅威を含む。

 

OFACの制裁リスト

OFACは、対象国によって所有または管理されているか、対象となる国を代理して代理している個人および企業のリストを公表しています。また、国別ではないプログラムの下で指定されたテロリストや麻薬密売人などの個人、団体、団体も記載されています。

 

要は、国際的なテロリストあるいはテロ支援者と認定(?)されれば名簿に名前が載り米ドルの取引停止だけでなくパレルモ条約を締約した国の金融機関はSDNリストに氏名が記載されれば金融機関にある口座が凍結されローンは一括払いに強制変更されるのだ!

 

しかも、米国はこの現代版リアルデスノートとも言えるSDNリストに書かれるテロリストやテロ支援者情報を各国の協力組織や個人に催促する。「恨みを晴らしてやるから、名前を教えろ!仕事料は要らない」と言ってると思えば良い。

 

(では、何故米国は仕事料を取らないのか?米国は地球の平和と米国の平和を守りたいのか?それは一理ある。それともう一つは、反米テロリストとその支援者は莫大な資産を築いている事が多く、その資産を取り上げる目的があるのだ。資産を凍結してそのまま解除しないままにして、一方で米ドルをその分増刷してしまえば凍結口座から資産を移動したのと同じになる。)

 

藤林さんが、リストを出し渋ったので代わりに僕が出してあげておいた。なあに、資産凍結されて5年間反省して大人しくしていれば凍結過剰される。命までは取られないから安心すると良い。そういえば航空機の搭乗も拒否られるから海外にも行けなくてなるな。

 

僕は、この件で怒られるかと思ったが何故か再び出世してしまい主任や藤林さんと同じ防衛省技術本部兵器開発部所属の技術士官 河原少尉となってしまった。

 

横浜事変まであと2日。

 

 

 



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横浜騒乱編23

「最近、調子はどないですか?」

僕は、いつものように明るく振る舞っている小野遥さんに話し掛けた。彼女は、何の事かわからない素振りをしてみせた。すっかり諜報員が板について来た。知っているのに知らんぷり!なぜ?なぜ?なぜなの?これは基本の技術だ。

 

「河原くん。カウンセリングをするのは、私ですよ」

小野さんは、あざとくならないくらいの上目遣いとアヒル口になった。上手くなっている!これなら男の子なんてイチコロよ〜てかぁ?ついでに言うと二つの胸の膨らみは何でも可能にする武器なのだ!

 

あ、そんなの関係ねェ!僕には。なのですぐに本題に突入する。

 

「司波くんとは、うまく行ってます?」

 

小野さん、椅子から転げ落ちそうになった。

 

 そこは本当に転げ落ちるのが桂文枝一門の芸風だ。元々は「新婚さんいらっしゃい!」というTV番組で桂三枝(その頃は三枝と名乗っていた。)が偶然押されて椅子ごと転倒してしまった時に大いにウケた。

 

それ以来ゲストの新婚の旦那さんのふがいない受け答えに突っ込みを入れる代わりに六代 桂文枝師匠が椅子ごと転がるようになったのだ。その芸は今も継承されており、転がる椅子も代が変わるごとに更新されより安全に転がりやすく改良されている。

 

新婚さんいらっしゃい!は、100年以上続く超長寿番組だったのだ。今司会をされているのは九代 桂文枝である。

 

小野さんは、まだ修行が足りないようだ。素人に突っ込みを入れるのは好ましくないが公安関係者なら構わないはずだ。

 

「言いにくい事は、本人に直接頼んだらええんですよ。『あなたの事をもっと知りたいの。女の子だもん!』とか」

 

「ちょっ」

何か言おうとして小野さんは言葉に詰まった。耳がみるみる赤くなって行く。

 

えっ?図星!司波くんは、関わる女性を皆んな自分に惚れさせる天然ジゴロだね。藤林さんも半落ちみたいだし。

 

「自分の手に負えない男は初めて。だから惹かれるのかなぁ。でもあの子は危険。でも上司は探れ!ハニトラ上等なんて言うし」

と、彼女の心に映り行く由無し事をそこはかとなく言い付って差し上げた。

 

小野さんの顔は、赤から青になった。怪しうこそ物狂ほしけれ。アルカリブルー6b?それは青から赤だった。

 

顔色を元に戻して小野さんが、質問で反撃してきた。なんて中和滴定な方だ。

 

「ところで、河原くん。何の相談なのかなぁ?」

小野さんは、心を見透かされたのをスルーして対抗したのだ。こうなれば酸化度を調べてやろう。

 

「言いにくいけど、小野先生を誘うかどうか今迷ってます」

僕は、年上の女性に告白せんとして一念発起したが、本人を目の前にしてデートの誘いをなかなか言い出せない純情でウブな男子学生の「心」にして言った。つまり、「本当に」そうなって言ったのだ。

 

「へっ?」

思わぬ攻撃を受けた小野さんは、動揺して心臓が定格心拍数を超えた。過負荷か?もう絶縁破壊したか?

 

「いやぁ、安宿先生も誘ったんですけど」

 

「一体、何の話をしているの?」

 

「戦争の誘いですよ!他に何かあります?」

 

「は?は—————————あ!」

 

「小野先生の戦闘力はあまり期待してませんが、何なら兵器を貸しましょか?」

 

「何を言ってるの?そんなのダメです!」

 

「百山校長の承諾もちゃんと得てますよ」

邪魔したら、外患誘致罪で刑事告発すると言ったら快く承諾してくれたのだ。うちの校長は、一高内部に敵工作員がいるのを知っていて放置しているので、訴訟を起こされると相当まずい立場に追い込まれるのだ。

 

仮に外患罪を免れても資産凍結は免れない。テロ三法のおかげだ。

 

いわゆるテロ対策三法案の正式名称は以下の通り。

・犯罪による収益の移転防止に関する法律の一部を改正する法律

・国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結などに関する特別処置法

・公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律の一部を改正する法律

 

「どうせ公にできない仕事で横浜に行くんでしょう?だったら兵器持参でお願いしますよ!」

 

「ちょっと、何するつもりなの?」

 

「日本を敵の攻撃から守るだけですよ。参加するしないはあなたの心に問うて決断して下さい」

 

『けだし隻手の声とは如何なることぞとならば、即今両手打ち合わせて打つ時は丁々として声あり、唯だ隻手を挙ぐる時は音もなく香もなし』

 

小野さんは、僕が何を言っているかわからない顔をしているが、彼女の心はわかったようだ。

 

「こんな感じで隻手の声を聞ける。よう見とき」

 

僕は、座禅の姿勢と太極拳の立禅の姿勢を彼女に示した。

 

「どちらでも好きな方をやったらええ」

 

「これがホンマの公安禅」

 

「はぁ⤵︎」

小野さんのテンションは下がった。最期のダジャレは、全くの蛇足だった。ダジャレ落ちは、竹取物語の頃からの我が国の話独特の話の終わらせ方の一つだ。当時の方々には大ウケだったのかも知れないが、今はかなり微妙だ。

 

ちなみに正しくは『公案』だ。

 

禅宗において雲水が修行するための課題として、老師(師匠)から与えられる問題である。

 

日本では昔から1千7百則とも言われ、法身、機関、言詮、難透などに大別されるが、その他に様々な課題がある。ほとんどがいわゆる「禅問答」的な、にわかに要領を得ず、解答があるかすら不明なものである。有名な公案として「隻手の声」、「狗子仏性」、「祖師西来意」などがある。

 

隻手の声

 

両手を叩くと音がする。では片手の音とはなんだろう。

 

べつに大した意味はない。片手の音を聴けば良いだけのことだ。聞こえるまで聴け!錬金術にも同じ修行がある。鋼とか武装になれるかわからないが、アルケミストにはなれる。早い人は、その場で聴けるようになる。遅い人でも3カ月もあればできるだろう。とりあえず、半年やっても出来ない人は、出版社に連絡してくれてたら良い。対策を教えよう。

 

では狗子仏性は?

 

狗子仏性(くしぶっしょう)は、禅の代表的な公案のひとつ。『無門関』第1則、『従容録』第18則では「趙州狗子」。「趙州無字」とも言う。

 

概要

 

一人の僧が趙州和尚に問う。

 

「狗子に還って仏性有りや無しや」(大意:犬にも仏性があるでしょうか?)。

 

趙州和尚は「無」と答えた。

 

これを巡る公案である。

 

仏性は全てにあると仏教では教えている。特にどんな生物にも本来備わっているはずなのに趙州和尚は何故に「無」と答えたのか?

 

この後わかった様なわからないような解説が延々とされていたりするのだが、こんなどうでも問答を内弟子は行っていると自慢気に100年前は語っていたのだ!今でもこのレベルだと考えただけでゾッとする。今はもっと進歩していると信じたい。

 

これも簡単な話で、実際にそこら辺の犬に「あんた、仏になれるんか?」と訊けば良いだけなのだ。

 

「なるつもりや!」

犬が答えた。

 

「犬やで、無理やろ!そもそもなんで犬に転生したん?スライムよりマシか?」

 

「前世でやらかして犬まで落とされた。一発逆転に協力してくれ!恩は返す」

犬が必死で訴える。犬がどんな恩を返せるのか期待はできないがこれも何かの縁だ飼うことにした。

 

 ちなみに人から動物に転生するのはほとんど考えられない例外は象くらいだそうだ。象に尋ねたことがないので確信を持って答えられないが。それなのに、犬まで落とされたとなるとこれは相当酷いことをしたのだろう。機会を見付けて聞き出してみよう。

 

てな具合だ。簡単だろ?間違ってもバウリンガルでやったりするなよ!

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編24

主任から連絡があった。ノースアメリカンXー15を手に入れたそうだ。

 

Xー15は、アメリカで開発された高高度極超音速実験機。ノースアメリカン社によって3機が製作された。ジェットエンジンではなくロケットエンジンにより高高度まで上昇出来る能力を持つロケットプレーンであり、1967年10月3日に行われた188回目のフライトで、ウィリアム・J・ナイトの操縦するX-15A-2が最高速度7,274km/h(マッハ6.7)を記録した。

 

ただ、理論上はマッハ8が最高速度だったらしいので、実験としては成功とは言えなかったそうだ。

 

これらは100年以上昔の話だ。なので機体はスミソニアン航空宇宙博物館とか国立アメリカ空軍博物館に展示されていたと思う。

 

どうやって手に入れたのか?もしかして100年経過したから特許だの何だのが全て期限切れになったのかも知れない。Fー35のリボーン(魔改造)に成功した空軍が調子に乗ってアメリカから安値で買えたのかも知れないし、置場に困った博物館から廃品回収したのかも知れない。

 

兵器開発は、その国のお国柄が如実に現れる。アメリカは他の追随を許さない兵器を開発したがる。時にあまりに欲張り過ぎて実戦投入不可のものまで作り上げてしまう。上記のXー15はその代表の一つだしFー22と呼ばれた戦闘機もそうだ。魔法師の「開発」も上昇志向があり過ぎて予算の割には成果が上がっていない。むしろ非魔法系通常兵器や核兵器の開発の方が上手く行っている。

 

大きな声では言えないが、西暦2000年頃から秘密裏に進められた日米の軍事関の協力がその主な原因だ。やたらに安いミサイルが一番わかりやすい。一発一億円以上したものがいきなり半額以下になったのだ。さらに激安無人機の登場と省エネレーザー兵器と共同開発は進み一発一万円となった。

 

ここまで来ると大量破壊兵器ならぬ価格破壊兵器である。しかもこれが反日米同盟に多大な影響を及ぼした。

 

これらを他の同盟も真似せざるを得なくなった。それもあって世界は、2096年時点で、USNA、新ソ連、インド・ペルシア、大亜連合が世界の四大勢力となっていった。共同兵器開発を前提とした軍事同盟が成立できる国々が寄り添っているのだ。しかし、日米同盟の安くて良い兵器に敵う同盟はこれまでもこれからも出現しないだろう。

 

これが反日米同盟に焦りと苛立ちと恐怖を常に突き付ける。焦りは愚かな行為を誘発する。

 

以前日本の魔法師を騙して拉致して好き放題実験したどアホがいた。日本は米国と違って即座に報復して来ないだろうと過去に朝鮮民主主義人民共和国(今の大亜連合の朝鮮自治区)が実行した日本人拉致を参考にして自分達の都合の良い見通しを立ててしまったようだ。

 

その魔法師一族が国家の制止を振り切って拉致被害者奪還と拉致犯罪者への私刑を断行した。(ぶっちゃけ一国を滅ぼした。)今でもその一連の事件は遺恨を含めて悪影響を及ぼしている。当人達の預かり知らぬ所で。大亜連合だけでなく同盟国の米国までビビらせてしまったのだ。

 

「四葉を怒らせるな」

 

本当は、四葉の大漢崩壊事件だけではない。我国においても最近では博多の魔法師殺人事件(まさかその渦中の人物と知り合いになるとは思わなかった。)京都大停電事故(これは、関係者なので今は詳しく書けない。)等、一国を滅ぼすほどではないがかなり際どい事件や事故は今も起きている。

 

一高で起きたテロ事件や九校戦でのテロ未遂事件も詰まる所我国の魔法師戦力をいたづらに警戒している勢力が過激な行動をしていると見て良いのだ。

 

さて兵器開発に話が戻るが、非魔法系兵器と魔法系兵器(魔法師の開発?)を全方面に開発しようとすれば国家予算がいくらあっても足りない。日米同盟が他の同盟を寄せ付けなくなったのは秘密裏に分業しているからだ。米国は新世代や画期的な兵器を我国は次世代と再生だ。噂では米国は魔法だけで軍艦を動かそうと試みているらしい。阿呆なのだろうか?制御に魔法を使用するならすぐに結果が出せる。我国は現実的なこちらを主に選択している。

 

主任がFー35やXー15を何故かオモチャにできるのはこうした国際兵器開発の大人の事情があるからだ。

 

「河原くん。少しいいかな?」

横浜国際会議場に引率で来ている設楽さんから話しかけられた。

 

「なんでしょうか?教授」

本当は助教授なのだが、こういう時はわざと教授と言っておいた方が社会に出た時に役に立つぞ!課長代理には課長とよんで差し上げよう。ただし次長を部長と呼ぶのはやり過ぎかも知れない。過ぎたるは及ばざるが如し。

 

「君は、司波くんの応援で来ているのかい?」

設楽さんは、僕が引き摺っている荷物に目をやった。

 

「気になりますか?これ」

 

「ああ。そうだね」

 

「これは、キャリーバックです。たくさん荷物を持って来てます。僕、心配症なんで」

 

設楽さんが苦笑いしている。

 

「何か嫌な予感がします?してるなら正解です。でも教授。森羅万象をモデル化して未来予想する手法では、2兆分の1程度の確率で起こる事象を0に近似してしまうんで頼りにならんですよ」

 

「何か、具体的な事例があったのかい?」

さすがは、教授!自分のライフワークと言っても言い過ぎでもない研究を完全否定したのにまるで全人格を否定された様に脊髄反射する連中とは違って冷静な反応をされている。

 

「ロングタームキャピタルマネジメントの崩壊が有名です」

 

ロングタームキャピタルマネジメント(英語:Long-Term Capital Management、略称:LTCM)は、1994年から1999年まで存在したヘッジファンド。

 

LTCMは金融工学を駆使し、その運用方針は、流動性の高い債券がリスクに応じた価格差で取引されていない事に着目し、実力と比較して割安と判断される債券を大量に購入し、反対に割高と判断される債券を空売りするものだ。

 

コンピュータを用いて多数の銘柄について自動的にリスク算出、判断を行って発注するシステムを構築した。また、個々の取引では利益が少ないことから、発注量を増やし、レバレッジを効かせて利益の拡大を図った。

 

 1997年に発生したアジア通貨危機と、その煽りを受けて1998年に発生したロシア財政危機が状況を一変させた。投資家が東南アジア諸国から証券投資を引き揚げつつあったところへロシアが短期国債の債務不履行を宣言したので、新興国の債券・株式は危険であるという認識が急速に広がったのである。LTCMはロシア国債が債務不履行を起こす確率は100万年に3回(シックス・シグマ)だと計算していた。

 

結果としてLTCMの運用は破綻し、資産総額が下がり始めてから約8ヶ月の間で1994年の運用開始時点の額を下回った。

 

「それは、興味深い話だね。しかし、ノーベル経済学賞達が予想できなかった事態をどうやって君は予想するつもりなんだい?」

 

「預言です。教授もたまにしているはずです」

 

設楽さんは、リアクションに困っている。彼の研究は、預言を理論的に説明しようとする試みでもある。僕は預言の仕組みに興味はなくただ当たればいいと思っている。価値観が違うのだ。

 

「本日15:30戦闘開始です。それよりも、いいことを教えましょう。本物の預言は日時がハッキリとわかるんです」

 

「何ですって?」

聞こえない振りをしていた小野さんがたまらず口を出してきた。今まで存在感を薄くしていたのは、さすが忍者の弟子だ。

 

「小野先生。武器は持って来ましたか?ここは戦場になりますよ」

 

彼女の意識が、左下に向いた。そこに武器を隠し持っているらしい。わかりやすい人だ。今しがた会った人物も彼女の心に引っかかっている。

 

「彼女のことは気にせんでええですよ。彼女より、あなたの方が女、いや雌として優れていますから」

僕は、小野さんの強力な女の武器をガン見しながら言った。

 

「それは、小野先生に対する預言かい?」

設楽さんが、皮肉とも取れる質問をしてきた。

 

「なんなら、小野先生がいつ結婚するか当てあいっこしてみますか?」

 

「二人とも何を言っているんですか!いい加減にして下さい」

 

怒った顔も愛嬌がある小野さんだった。藤林さんは、小野さんのそんなところに敵愾心を持っているだけなのだ。

 

女は競ってこそ華、負けて堕ちれば泥。




暑いですね。熱中症に注意して水分(白湯が良い)をこまめに取りましょう!


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横浜騒乱編25

「どない?」

僕は勝手に選手控室(?)に入っていけしゃあしゃあと司波くんに声を掛けた。

 

「いつも通りだ。それよりも何か用か?」

 

「陣中見舞いや。15:30からドンパチ始まるで。そっちは。頑張ってくれ」

僕が15:30ドンパチと言っても司波くんは眉一つ動かさない。大した胆力だ。鈍いだけかも知れないが。情動がほとんどないだけだったかな?

 

「そうか。俺は師匠が廿楽先生と交わした話の内容の方が気になるな」

え!そっち?何話したっけ?そういえば、小野さんの婚期は藤林さんのそれよりも早いのを多面体理論で証明するだったかな?

 

「神は、無から有を作るから微分方程式を解いたくらいで未来は予想できんちゅー話や」

 

「先生の多面体理論を否定したのか?!」

 

「間違いや。しゃーないわ。ほな、頑張って戦ってくれ!」

 

「随分と忙しそうだな」

 

「神の見えざる手も借りたいくらいや」

 

「師匠様!」

意を決したかのように司波さんが、僕を呼んだ。何でしょう?

 

「師匠様は、人の結婚相手がわかるのでしょうか?」

司波さんのこの質問には、僕も司波くんも驚いた。なお、司波くんのはリアクションはわずか過ぎて誰にもわからない。おそらく本人にも。

 

「深雪。師匠は忙しそうだ。次の機会にできないのか?」

 

司波さんは、何か危機的状況が我々に迫っているのを感じている。だから、一番気になることをつい口にしたのだ。彼女は、自分が誰と結ばれるのか気にしているのだ。そこにある危機で自分達が生き残れるのは当然だと思っている。

 

『あなたは、あなたの意に沿わない結婚はしない』

 

チョット本気を出しました。可愛い女の子の為だ。本人の前での未来を言ってしまうのは、良くないのでこれがギリギリだ。

 

「ありがとうございます!」

司波さんは、美しく深々と上品なお辞儀をした。

 

◇◇◇

 

まだ認められていない魔法理論だが、魔法師が理解出来ていない(腹に落ちていない)事象の改変は起こり得る確率が著しく低い。

 

例えば、魔法師が核融合爆発を起こそうとしている時に一番必要とされると考えられるものは莫大なサイオン量であったりその事象改変を促す起動式や魔法式だと信じられている。

 

だったら、戦略級魔法師の起動式や魔法式をパクり、並の魔法師を集めるかソーサリーブースターや薬等でアシストさせれば戦略級魔法師が行う大規模魔法を再現できるはずである。

 

マテリアルバースト!

 

しかし、未だにそんなお手軽に戦略級魔法を再現した話を聞かない。

 

結論から言ってしまうと、実現したい事象改変はその理屈を魔法師がどれくらい理解しているかにかかっているのだ。

 

局所的に突発的な核融合反応を起こすには、質量欠損や特殊相対性理論や量子力学の理解が必要になる。(試験で合格点を取るのとは違う。)

 

一応涼音さんも理解はできているだろうか実際は腹には落ちていない。一方司波くんは腹まで落ちている。これはどういうことか?

 

『 … …核融合発電の実用化に何が必要となるか。この点については、前世紀より明らかにされています 』

鈴音さんの抑制が効いた濁りの無いアルトが国際会議場の音響設備から淀みなく流れ出してた。一高の発表が始まっている。

 

難しい理論や見たことのない理論は脳が緊張してしまい、それでもがんばって理解しようとすると自分の脳がストレスを受ける。そこで脳はストレスを受けないような手前味噌な理解をしてしまうのだ。

 

一番簡単なのは、結論の丸暗記だ。

 

逆に間脳が緊張しない、つまり脳がストレスを受けない体質ならば、本当にわかるまで考え続けることができる。要は納得できるまで、腹に落ちるまで考え続けられるのだ。このように量子を理解できれば核融合反応を魔法で起こすことも可能になる。

 

マテリアルバースト!

 

『核融合発電を阻む主たる問題は、プラズマ化された原子核の電気的斥力に逆らって融合反応が起こる時間、原子核同士を接触させることにあります』

感情の起伏が、見かけ上司波くん並みに小さい鈴音さんだ。しかし、脳の働きが違う。

 

おそらく当初意図したものとは違う方向に能力が開発されてしまったのであろう。情動を抑える為に脳の真ん中を緊張しないように施したのだから。とは言うものの脳の学習力強化のために脳改造するなんて失敗したらパーになってしまいそうなのでやめておいた方が良い。

 

座禅や武術で十分脳の開発はできるのでそちらをお勧めする。

 

え?誰が誰の脳を改造したのか良くわからない?それは、鈴音さんと同じ事に興味を持ち彼女とは違って量子を理解できた人物だ。

 

マテリアルバースト!

 

ユニバース!ではありません。

 

『しかし、電気的斥力は魔法によって低減することが可能です。今回私たちは、限定された空間内における見かけ上のクーロン力を十万分の一に低下させる魔法式の開発に成功しました』鈴音さんは、クーロン力を低下させるのと核融合を起こさせるのは同じレベルの魔法だと気付いてない。重力制御も実は同じレベルの事象改変なのだ。

 

あ〜言っちゃった。(≧∀≦)

 

ちなみに鈴音さんが開発せんとしている重力加速度系魔法を利用した熱核融合発電は、その発想そのものはただの4サイクルのエンジンだ。ガソリンやガスが爆発する際の体積膨張を回転運動にする1900年代に流行った自動車の原動力と同じだ。

 

彼女の言葉から、彼女自身は電磁気学で理解が止まっているのがわかる。距離の二乗に比例してどんどん大きくなるクーロン力(この場合は斥力)をどうこうしなくても、核融合は起こせる!実際やっている人物が存在する。しかも遠隔で。

 

まあ、あまり難しく考えずに「どうやったら爆発するの?」と量子に尋ねれば良いだけの事だ。隻手音聲ができれば可能なのだ。鈴音さんが知りたいと言ってくれば、いくらでも教えてあげよう!

 

月謝5000円で。

 

九校戦の壮行会以来 、——Eのクラスメイトには妙なノリが染みついたようで、今回も「皆で応援に行くぞ ーっ! 」みたいな勢いで多くのクラスメイトがこの会場に駆け付けている。

 

武装型CADや武器を携帯して。よく見ると他校の一部の学生も『妙なノリ』で会場入りしている。

 

気合いの入ったバッチリメイクの三高のギャル子さんも三高応援団席にいた。すぐにギャル子さんは僕に気づいた。しかし、気がつかないふりをしている。

 

彼女の名前を書いても良いのだが、どうも情報関係の人物のようなので名前は書かないことにした。

 

彼女の横には、一色 愛梨(いっしき あいり)、十七夜 栞(かのう しおり)、四十九院 沓子(つくしいん とうこ)が並んで座っていた。いずれも三高の超有名人たちだ。九校戦では彼女たちがあまりに濃いキャラクターなので意図的に省いた。一応これはブログ風私小説なので、事実と多少は違っても良いだろう。

 

それにしても、ギャル子さんは大したものだ。説得の仕方を教えたとは言え本当にあの3人のこの会場まで引っ張り出すのに成功している。(この私小説に三人を登場させるのが参戦の条件だ。)これで、三高の学生は負傷者なし確定だ。

 

四十九院さんが、僕に気づいた。僕は(この戦いは)大丈夫か?とアイコンタクトしてみた。すると彼女はにっこりとサムアップで返事した。さすがは、神道の大家「白川家」につながるとされる四十九院の娘だ。

 

実戦経験がほとんどなく、しかもカンの鈍いジョージを頼むぞ四十九院!

 

『…円筒内に充塡した水素ガスを放出系魔法によってプラズマ化し、重力制御魔法とクーロン力制御魔法を同時に発動します。クーロン力制御魔法によって斥力の低下した水素プラズマは重力制御魔法によって円筒中央に集められ、核融合反応が発生します。…』

 

不思議に思うのは、エネルギーや電気を得るのにわざわざ核爆発を使って熱エネルギーや運動エネルギーを取り出した後にそのエネルギーで発電するという面倒臭い工程をしようとするのだろう?電気が欲しいのなら、雷を起こせば良いではないか?地球から直接もらっても良い。

 

ちなみに形意拳の劈拳が出来るようになれば、雷は起こせるようになる。

 

しかも劈拳は道を得れば余裕で習得出来る。どうだ?とてつもない福音だろ?世界中に宣べ伝えよ!




参考資料としてKindleで購入。ただし、全部中国語で記述されています。以後、参考資料を出来るだけ紹介して行こうと思います。

鄭志鴻 他1名
天経 甲骨文字啓蒙
発売日: 2018/7/17
出版社: 龍門書院
言語: 日本語


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横浜騒乱編26

「おっ!」

隣の席の長岡さんが、小さく反応した。

 

15:30だ。預言通りに始まった。

 

クーロン力制御魔法の併用によって重力制御魔法の必要強度を下げ(対象物の質量が変化する為重力制御魔法の事象改変の継続が困難とされている)、継続的核融合反応へのこだわりを捨て断続的核融合反応を新技術「ループキャスト」により実現したアイデアの素晴らしさに、聴衆は惜しみない称賛を壇上の市原さん五十里くん司波くんに送っている最中だ。こちらの戦いは圧勝だろう。大会の結果発表があるかわからないが。

 

「それにしても、荷物大きいね」

隣の涼野さんが僕の足元に無理矢理置いている黒いキャリーバックのようなものに視線を移す。ここまで誰もこれを棺桶みたいとぶっちゃけてしまわなかった。みんな遠慮しているのだろうか?

 

棺桶型キャリーバックの中には、主人に忠実な最強吸血鬼が横たわっいて、主人の命令で敵を殲滅するわけではない。

 

15:37。爆発音と振動があった。グレネードを敵が使ったらしい。後ろのほうで「本当に来た!」と喜んでいるバカ女がいる。本気の斬り合い殺し合いが好きなどうしようもないうつけ者だ。舞台袖に喜び勇んで向かうお祭り女を西城くん達が追いかける。あちらは司波くんに任せておこう。

 

フルオートでない銃声と足音。対魔法師用のハイパーライフル?単に弾丸節約?

 

さて、おっぱじめますか!

 

僕は、口笛を吹いた。文章でこれを表現するのは難しいな。小林秀雄の『モオツァルト』をもっと真面目に読んでおけば良かった。

 

「その曲何?」

 

「夕陽のガンマン」

 

「デバイスを外して床におけ!」

対魔法師用ハイパーライフルを構えた軍服を着ていない武装集団に囲まれた。

 

僕は構わず口笛を吹く。音声起動により黒い棺桶が開き、中から吸血鬼ならぬ89式がせり上がって来る。

 

「おい!お前もだ」

司波くんにゲリラが怒鳴っている。

 

”Fire!”

 

タタタタタ。

 

アクティブフィルタのおかげで周辺に89式の銃声はほとんど聞こえない。僕の姿も見えていないはずだ。

 

銃弾は、五人のテロリストの脳天を上から貫く。銃口は適当な方向を向いていたのだが、銃弾は標的に向かってその起動を変える。

 

これが本当の魔弾の射手、あるいはサイコガン!

 

こんなことが可能なのか?可能です。魔法ですから。(種明かしは後ほど。)舞台下ではテロリストが司波くんに撃った銃弾を掴まれて逆上。司波くんは『マトリックス』のネオみたいな事が出来るのか?できますとも! 魔法師だもの。

 

ツーマンセルのバディを脳天から撃ち抜かれたテロリストはパニクったのか?コンバットナイフを持って司波くんに突っ込んだ。

 

司波くんは、テロリストの腕を切り落とした。素手で。高周波ブレードみたいに。

 

そこで、今書いておく。僕が戦死したら誰も書かないだろうから。

 

腕がなくなったあるいは腕がないと念ずるとうまくいけばこの世の自分の腕ではその存在が消えてしまう。その消えた分はどこに行ったのか?

 

鄭志鴻の「天経 甲骨文字啓蒙」には、1/0=∞ 1:道、0:無極とある。とはいえ、道家に興味がない人には説明がわかりづらい。

 

E=mc²のとおり、質量はエネルギーとなる。なので、消した分だけ新しくエネルギーが使えるのだ。これが神は無から有を作り出すの意味だ。とは言え、「腕がない」と念じても普通は何も起こらない。先ずは自分の情動が邪魔するからだ。だから、情動が起こらない誰かは新しいエネルギーを使いやすい。事象改変しやすくなりマトリックスのネオみたいなことも出来てしまう。

 

 しかし、情動を起こらないように脳を細工するのは大変危険だ。なので、座禅では、先ず雑念が出なくなるまで座る。雑念をはらいはしない。ただ考えるのを止めてしまうだけだ。15分も座れば自然に考えるのを止めてしまうが。

 

発勁の練習では、自分の身体を無いと念ずる方法もある。難しければ腕だけでも消せば良い。特に発する時にどうしても筋肉が緊張してそこで勁がとぎれてしまう人には有効だ。敵の素早い攻撃にいち早く反応するにもこの技術は使える。

 

さらに自分を空と念じたりもする。「我が心すでに空なり 空なるが故に無」(真田弦一郎)

「我が身既に鉄なり、我が心既に空なり、天魔覆滅」(千葉真一)

 

 

台湾にわたり太極拳の普及に努めた鄭曼青は「夢の中で両手が折れたことで太極拳の奥義を悟った」と語っている。

 

鄭曼青(ていまんせい)(1902年-1975年3月14日)

 

浙江温州永嘉の出身。鄭子太極拳の創始人としても広く知られている。 数々の神秘的な伝説があり、「腕なし名人」または「無招勝万招(技がないが、多くの技に勝つ)の拳」と言われている。

鄭曼青の拳は敵の攻撃を受けた瞬間に弾き飛ばす技が不要の拳法である。腕力とはまったく関係ないその神秘的の神技は、科学実証主義を第一とするアメリカ政府機関が、超能力、超常現象ではないかと驚嘆せしめ、本格的に実験の対象にしたと言われている。

 

いまだにその研究は実を結んでないようだ。腕がないと念じて太極拳を練習してみればいいだけのことだ。動きがよくなるから。相手を吹っ飛ばすのも急に上手くなるかもしれないのだ。今一つなら、空と念じてやってみるべきなのだ。

慧可の「雪中断臂」もこのことと関係している。

 

慧可(えか)(487年-593年4月22日)中国禅宗の二祖。正宗普覚大師。

 

洛陽武牢(河南省滎陽市)生れ。はじめは儒教や老荘思想を学んだが得心せず、香山の永穆寺で得度した。出家後は問法のため各地を放浪し、さらに香山に戻り8年間修行を続けたものの、疑念を解明することが出来ず、嵩山の少林寺で面壁していた達磨に面会し弟子入りを請うた。達磨*は断ったが慧可はあきらめず、自らの腕を切り落として弟子入りの願いが俗情や世知によるものではない事を示し、入門を許されたと伝えられている(雪中断臂)。

 

ただし、本当に腕を切り落として入門させてもらったかどうかはわからない。この逸話自体を「公案」と考えてもよい。

 

*達磨大師(マグマ大使とは無関係。)

 

菩提達磨(ぼだいだるま)は、中国禅宗の開祖とされているインド人仏教僧である。達磨、達磨祖師、達磨大師ともいう。

 

腕がないつながりではあるが、ジミーウォング主演映画の「片腕必殺剣」(1967年)や「片腕ドラゴン」(1972年)との関連性は全くない。ギロチンが空を飛んだり両腕が伸びたり片手しかも小指で逆立ちしたりするが魔法とは関係がない。

 

さて、弾道を曲げて標的に向かっていく弾丸についてだ。

 

ただの小型誘導ロケット弾だ。ただし誘導するのは大変なのでスリーマンセルで一人の砲手を二人が守る必要がある。変なヘルメットを着用する必要はなく七草さんがやってるようなマルチスコープができれば誘導はできる。なので、操作中はマルチスコープ中の七草さんと同じく変顔になる。服部さんには秘密だよ。 100年の恋も覚めてしまうからね。

 

会場にいる皆の携帯端末から耳障りなサイレンが鳴り響く。

 

国民保護サイレンだ。

 

その気味の悪いサイレン音に会場の皆は凍り付いてしまった。

 

これで静かになった。ちょうど良い。

 

「諸君!!私は河原真知陸軍少尉である」

 

棺桶型キャリーバックをお立ち台に見立ててその上でライトアップ(光井式光学系統魔法のパクリ)されて僕は、演説を始めた。

 

以前、九島烈がやったのと同じように聴衆の意識を自分に向けさせるのに成功した。

 

「諸君が見聞きしたように我国は敵国からの武力攻撃を受け『国民保護法』及び『事態対処法』に基づき『国民保護サイレン』が鳴らされた。これ以後、われわれ日本国民は国民保護計画に基づき速やかに行動しなければならない!」

 

 




白隠 慧鶴 他1名
夜船閑話 白隠禅師法語全集 4 禅文化研究所

現代語訳をしている人が座禅を実践しているので訳が妥当で良い。


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横浜騒乱編27

『そもそも帝国軍人は死ぬ。死ぬために我々は存在する。だが帝国は永遠である。つまり‼︎貴様らも永遠である! 故に、帝国は貴様らに永遠の奮戦を期待する』

 

何て事は言いません。こんなことを言って洗脳したらダメですよ。

 

『続きはwebで!』何て事も言わなかった。

 

「国軍が到着するまで時間がかかります。我々は国軍を待っておられません!直ちに避難と正当防衛を開始して下さい!学校関係者に避難誘導のマニュアルを送信しました」

ちゃんと国内法に則った指針を皆様に伝えた。 Seach and destroy!なんて煽ったりしませんから。

 

「見つけた!」

朝田さんが小声で叫んだ。

 

「撃て」

僕は、彼女にお願いした。89式から二発の弾丸が発砲され軌道を変えて学校関係者ではない一般参加者を襲った。

 

「ただ今、一般人に紛れていたテロリストを射殺しました」

 

ざわめく学生達。

 

「我々には、正当防衛の範囲内でテロリストの無力化が認められています!敵に遭えば躊躇せずに正当防衛して下さい!では、すぐに行動に移りましょう!」

 

僕等が各学校に予め根回ししておいた人達が国民保護措置に係る職務等を行う者が付ける特殊標章を取り出した。いずれの集団も対人戦闘が得意な人物を加えている。

 

 避難経路は、基本的に地下通路だ。狭い地下通路で重火器の使用は自分の身を危うくする。魔法師が無力化できないくらいの威力のある爆発物等を使えばテロリストは自分の身をどのようにして守ればいいのかと考えてみればわかるだろう。

 

長岡さんは、いつの間にか鴛鴦鉞≪えんおうえつ≫を取り出している。白兵戦で彼女に勝てるテロリストはいない。すでに大亜連合軍特殊工作部隊に所属する「人喰い虎(The man-eating tiger)」(笑)と言われる(誰が言ったの?)呂 剛虎≪ルゥ ガンフゥ≫を瞬殺している。さらに毒腿京の噂はすでに流している。敵ゲリラ兵には名前を聞いただけで震え上がる者も多いだろう。ここら辺の感覚は日本人には理解しがたいものだが、大亜の民兵には絶大な効果を発揮する。

 

魔法科高校の優等生三人娘+ギャル子が、顔色の悪い吉祥寺くんを引っ張っている。彼が戦うと言って会場に留まろうとしているからだ。邪魔だからやめて欲しい。有事では、魔法力以外の能力が必要なのだ。目の前で、人間が脳天から銃撃され即死しても平気でおれるかだ。

「師匠!ここは任せた」

司波くんは、苦戦中とみられる正面出入口に移動する。司波組構成員もだ。千葉さん西城くんは楽しそう。有事にも強そうだね。意外なのは柴田さんや光井さんや北山さん(彼女は元から感情の起伏が外見に出ないが)も楽しそうに司波について行く。司波組は鉄火場耐性があるようだ。

 

予想以上に学生達は冷静だ。中条さんに先日プレゼントしたロザリオがかなりの効果を発揮した。むしろロザリオを僕が渡す時に、周りの人がその行為を勘違いし中条さんも大いに勘違いしたのをフォローするのほうがよほど苦労した。

 

「河原少尉。ちょっと良いかしら?」

かなりお怒りの藤林小尉が僕の背後に立っていた。

 

「作業中なので、そのままお話下さい」

僕は、魔改造した絶縁抵抗計(通称メガー)を司波くん達が苦労して制作した機器にあてながら返事した。

 

Bang!

 

小さな爆発音がした。

 

「貴方!何をしているの?」

声を荒げる藤林さん。

 

「アーク放電で中のデータを焼いてます。敵に貴重なデータを渡すわけに行かんでしょ?暇なら、市原さん達を手伝ってもらえます?他校のも消しますんで」

 

「わかったわよ!」

電子の魔女は、不機嫌のご様子だが、そこら辺を外したりはしない。彼女は情報の重要性をよくわかっているのだ。

 

「ところで、河原くん演説中に何をしたの?」

 

「精神干渉計魔法を使っただけですやん。学生も落ち着いてくれて良かったです」

 

中条さんの能力を勝手使う刻印入りのロザリオ型無電源他励式CADを使ったとは言わなかった。

 

「精神干渉系魔法ね?それは良いでしょう。それよりも」

 

いいも悪いもあんたの爺さんがいつもどさくさ紛れに「我を崇めよ」とやってるのに比べれば僕がやったのは百万倍マシだ。

 

「真言は『陛下は神である』でした。藤林さんは何を感じました?」

 

「えっ?そうだったの?だってあの人は」

 

僕は藤林さんの心に映った人物を観た。

 

「聖徳太子が出て来たんですか!藤林さんは親鸞みたいですね」

 

「どういう事なの?」

 

心を読まれても動揺しないのはさすがだ。

 

僕は、作業をしながら口笛を吹く。『続夕陽のガンマン』だ。黒の棺桶型キャリーバックが開く。110mm個人携帯対戦車弾が出てくる。手に取り構える。

 

「後方の安全良し!」

 

凄まじい爆発音がしてロケット弾は壁をぶち破って飛んで行った。壁の向こうから爆発音が聞こえてくる。

 

「師匠!何かあったのか?」

壁に穴を開けたので警報音が鳴動する中、司波くん達が戻って来た。正面出入口の敵を制圧したのだろう。

 

「大亜が次の作戦を実行したから防いだけや」

 

僕は音響停止を遠隔で密かに実行した。消防法には内緒だよ。

 

「連中の狙いは学生を人質にしての時間稼ぎだったようだな。失敗と判断して爆破による突破に切り替えたか」

 

司波くんは、判断が早い。実戦経験ありすぎだろう。

 

「師匠。戦況を詳しく知りたい」

司波くんは、この場においても藤林さんに戦況を聞こうとしない。律儀だね。

 

「全ての扉はパニックオープンかクローズになっとるから、中央監視だろうがサーバー室だろうVIP室だろうがマスターキーで入り放題や。好きに情報収集したらええ」

 

僕はカードキーを司波君に投げた。

 

「了解した。しかし、いいのか師匠?」

 

「かまへん。この建物の電気主任技術者に連絡はとれんやろ。俺が緊急時の代務者を務めれるんは電気事業法で定められとる。それとそこの藤林さんを連れて行ったらええ。何でもよう知っとるで」

 

司波くんはすぐに会場を出て行った。司波組メンバーもあとに続いた。

 

厳密に法律に照らし合わせされると僕のしている事はヤバイ。火事でもないのに勝手に商用電源を落として非常用発電機に切り替えている。

 

ちなみに保安規定のモデルとして以下のようになっている。

 

【電気主任技術者不在時の措置】

第 10条 電気主任技術者が病気その他やむを得ない事情により不在となる場合には、その業務の代行を行う者(以下「代務者」という。)をあらかじめ指名しておくものとする。(←その代務者さえ今ここにいないのだから、電気主任技術者資格を持っている僕が代務者となった。)

2 代務者は、電気主任技術者の不在時には、電気主任技術者に指示された職務を誠実に行わなければならない。(←誠心誠意務めさせていただいています。)

 

【防災体制】

第 22条 台風、洪水、地震、火災、その他の非常災害に備えて…

2 電気主任技術者は、非常災害発生時において、電気工作物に関する保安を確保するための指揮監督を行う。(←真面目に指揮監督させていただいています。)

3 電気主任技術者は、災害等の発生に伴い危険と認められるときは、直ちに当該範囲の送電を停止することができるものとする。(←諸々の事情を鑑みて受電を停止した。)

 

しかしこうでもしないと我々の去った後に大亜が忍び込んで魔法関連重要機密情報を抜き取るのを防げない。シャットダウンした機器から魔法協会までアクセスして情報を短時間で盗むのは彼等には不可能なはずだ。

 

ちなみに戦況は見なくてもわかる。大亜は大苦戦してるはずだ。横浜埠頭に部隊が上陸した途端に情報が寸断されているのと、棺桶型武器収納系CAD(音声起動機能付き)から武器を取り出してわが国の民兵(交戦権のない警察も含む) が速やかに対処しているはずだから。

 

誰もいなくなった会場に五十里さんたちが戻ってきた。他校のデータも消し終えたのだろう。

 

「殿下。お迎えにあがりました」

パイロットスーツに身を包んだ「主任」がいきなり現れた。

 

「「「会長?!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




魔法科高校の劣等生(25) エスケープ編〈下〉

…いざという時 、当てにできないかもしれない 。師匠や風間中佐は 、将来において敵になる可能性を否定できない 」

達也に師匠が警戒されているのがわかるセリフがある。(笑)




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横浜騒乱編28

2018.09.02脱字修正。


「「「えー」」」

 

そのえーは何?人を指さすのは失礼ですよ。皆さん。

 

「お前、本当に軍人だったのか?」

渡辺さん、そりゃないわ。河原真知、嘘は嫌いです。(嘘をつかないとは言ってないし、方便は非常にしばしば使用する。)

 

「みんなを安心させる為のウ、ハッタリだとてっきり」

ウソと言いかけたでしょ。七草さん。というか、ハッタリでも同じことですよ。

 

今まで、陸軍少尉はウソやハッタリだと思われていたのか!

 

そんな中、市原さんは元一高生徒会長であり在学中に大量破壊兵器の原理を発表しようとして学校にとめられた今は「主任」と言葉を交わしていた。市原さんが微笑んでいるのを始めて見た気がする。

 

「それと、師匠!『殿下』って何だ?」

渡辺さんが何故か剥きになっている。七草さんも大きくうなづく。

 

「お前、もしかして十師族。しかも当主候補?」

 

渡辺さん。想像力があさっての方角に暴走してますよ。僕は、十師族ではないし当主候補でもない。継承権は保持しているが。でも、確か十何番目だから継承することはまずない。

 

「四葉?」

 

七草さんが声を潜めた。四葉って、そんなに触れてはいけないタブーなのか?

 

面倒くさいのでわざと一瞬だけ視線を彷徨わせてからわざとらしく強く否定しておいた。彼女がどう誤解しようとも僕の知ったことではない。

 

◇◇◇

 

光学系と振動系魔法を駆使した安上がりアクティブフィルタ迷彩のおかげでFー35の機体も爆音も周辺に見えないし聞こえない。(光学迷彩は高額明細となって戦闘機を隠すのは実用的ではない。米軍みたいに潤沢な予算があれば話は変わるが。)

 

近くによると熱気が凄まじいのでバレてしまう。特に垂直離着陸をいきなりかますともう隠しようがない。これは今後の課題だ。フルメタルパニックみたいに簡単には出来ないのだ。

 

今いいアイディア思いついた。垂直離着陸時にも飛行魔法を使用すればよい。これで熱風問題は解決だ。次回試してみよう。

 

一昔いやふた昔前のイージスシステムだが良く働いてくれている。どうせ実戦経験のほとんどない元人民解放軍幹部が2014年のロシアによるクリミア侵攻等を参考にした作戦を立ててくると踏んでその対抗策をAIにシュミレーションさせていた。なので、少ない戦力で充分に対応できている。

 

正確に言えば佐伯広海少将率いる国防陸軍第101旅団の独立魔装大隊しか本格的な戦闘をしていない。元々十師族を頂点とする民間の魔法師戦力に対抗する戦力の確立が旅団設立の目的であるから、このような事態でも国軍本体が本格的に戦闘開始するまでに我々独立魔装大隊が奮闘しなければならないのだ。

これは余談だが第203航空魔道大隊とは違うので混同しないように。

敵は、空母を出せない。そんなものを投入すれば堂々の宣戦布告をしたのと同じになりガチ武力衝突ありの戦争になる。同じ理由で中国大陸からのミサイル攻撃もNGだ。我軍よりも米軍がいち早く報復するはずだ。ミサイル飽和攻撃で。北京が消えるアルよ。

 

敵は予想通り偽装揚陸艦で横浜港に入港。空母ではないから艦上戦闘機が出てくる事はなかった。このお陰で主任と僕は攻撃力のほぼない敵無人機を好き放題撃墜出来た。地対空ミサイルも艦対空ミサイルも飛んで来ないからだ。

 

携帯式防空ミサイルは、1人で携行可能で肩に乗せて射撃できるが低空を飛ぶ航空機、特にヘリコプターにしか有効ではない。このF-35を撃墜するのは至難の業だ。

 

よって僕等はやりたい放題できた。これはある意味マンハントだ。

 

ピ——————————————

 

下だ!と僕が感じたのと同時に主任は急上昇。そして僕らを追尾してくるミサイルを迎撃した。ついでにミサイルを発射した敵魔法師にミサイルをプレゼント。こんにちは。そして、さようなら。

 

殺気を消して狙って来た。なかなかやるな!スーパー・ソニック・ランチャーでミサイルを撃破するような芸当が出来るのは真田さんだけかと思った。

 

警報停止、リセット。

 

これってazbilの温度指示調整形では?

 

「調教済みよ」

主任が答えた。

 

こんな使い方をしようとして必死になって取り付けようとしたのか!しかしどのように魔改造すればこんな機能を追加できるのか?

 

「それは秘密です」

 

わかっていますとも。これが主任の隠し球、秘密の特技。これがある限り軍は彼女を大切に守ってくれる。F-35に限らずF-22もいやF-15でさえ主任は魔改造してしまうだろう。操縦できる人物がいるのか怪しいが。

 

とにかく無事伏線回収を終えて、僕らは移動した。

 

保土ヶ谷駐留部隊が侵攻軍と交戦中。鶴見と藤沢より各一個大隊が当地に急行中。魔法協会関東支部も独自に義勇軍を編成し、自衛行動中だったが、論文コンペが開催された横浜国際会議場で魔法科学生を人質にするのも地下シェルターに逃げた一般人を人質にするのも偽装揚陸艦からのミサイル攻撃も不発に終わり、仕方なく敵は機甲部隊を投入してきた。とはいっても時代遅れの自立戦車と装甲車だが。

 

 しかし、いくら時代遅れでも戦車は戦車だ。ハイパーライフルとは火力が違う。義勇軍や武装警察では苦戦を免れない。十師族レベルの魔法師でなければ対応できない。

 

そこで、AIが選んだ進路は横浜ベイヒルズタワーだ。魔法協会支部がある建物だ。

 

一般的に戦車や装甲車の装甲は四方八方と腹部には強いが上部は比較的弱い。敵魔法師が防御要員として乗り込んでいるようだがこちらも火力は強化している。

 

と言うことで、僕等は上空から義勇軍を援護した。敵戦車や装甲車を木っ端微塵にする必要はない。戦闘不能にすれば良いので簡単だ。とにかく当てればいいだけなのだ。

 

この機体には約8トンの兵器が搭載できる。しかも空対空ミサイルは一切積まないで空対地に特化しておいた。とはいえ、ミサイルはかさばるので小直径爆弾(細長い弾体に展張式の翼を備えた滑空式の誘導爆弾)とガトリング式ロータリー機関砲(GAU-12 イコライザー)も積んでおいた。

 

 ちなみに装甲車の中で敵兵がミンチになっても僕は気にしない。自立戦車の爆発に巻き込まれて敵兵が粉々になっても気にしない。

 

むしろ大亜に対する良い学習の機会だと確信している。中国は大戦で勝った経験が一度もない。戦争は残酷であり無慈悲であり無情であり非人道的である。そのストレスに耐えられない民族は軽々しく他国に戦争を仕掛けるのは自分の身を危うくするだけなのだ。今一度そのことを思い出させてあげる良い機会だ。

 

予想通り、魔法師の防御魔法がこちらの火力を無効化できないとわかると装甲車から逃げ出す敵兵も出始めた。彼等は軍服を着ていないゲリラなのだ。よって戦時国際法の保護外だ。白旗を振っても無視。ミンチにした。

 

 このことは、一条くんを始めとして個人の戦闘力が高い人物には予め伝えておいた。

 

『降伏拒否!』と言ってその場で敵を殺せと。

 

 AIが選んだ次の地点は、

 

「あいつら何しとんねん?!」

思わず口からでた。

 

一高生徒が地上戦を繰り広げている。

 

死が彼等に近づいている。

 

「いいの?」

主任が訊いた。二人の心の同調が乱れた。彼女は僕の迷いを察知している。

 

駅前の広場で民間人が避難民脱出用のヘリを呼んだ。民間人の氏名は七草真由美 、及び北山雫だ 。AIが選択したのは避難民脱出用ヘリの護衛だ。戦場で民間のヘリなんてただの的。護衛しなければすぐに撃墜される。

 

僕等は七草、北山ヘリの護衛に向かった。

 

この戦闘はすぐにあと一時間いや30分で終わる。たとえ死傷しても24時間以内に特尉の「再生」が有れば何とでもなる!はずだ。僕は自分に言い聞かせるように強く決意した。主任は小さく頷いた。




白隠 慧鶴 他1名
夜船閑話 白隠禅師法語全集 4 禅文化研究所

曲がりなりにも座禅に取り組んでいる人が訳しているので現代訳が良い。

身体を健康にする前に、道を得てしまった白隠が後年体調不良に苦しみ、とある仙人に出会って仙人の健康法を習う話。政治の話もある。



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横浜騒乱編29

「これはできない」

佐伯さんは、断言した。

 

僕は、敵の拠点を急襲する作戦を提示したのだった。敵主力艦(偽装揚陸艦だった。)をF-35とムーバルスーツ部隊で急襲し制圧する作戦だ。国民を守るのは義勇軍(十師族を中心とした民兵)と武装警察と遅れて到着するであろう我軍主力部隊で頑張ってもらう作戦を提示したのだった。

 

「敵の上陸作戦があるのは否定しないのですね」

 

佐伯さんは否定も肯定もしない。

 

「AICOが起こり得ると判断したのですね」

 

AICOとは、エヴァンゲリオンのマギみたいなすごいコンピューターだ。(笑)その未来予想能力があまりに素晴らしいので「デルフィの神託」と言われたりしている。なので存在自体が国家機密になっている。国家機密なのにどうしてその存在を知っているのかって?それは公然の秘密だからです。

 

ついでに言っとくとあのコンピューターの中身は、・・・・・・だよ。ソーサリーブースターみたいなものは昔からあったのさ。

 

AICOと聞いて佐伯さんの表情が引き締まった。

 

「作戦を練り直して欲しい」

 

彼女はそう言って条件を付けくわえた。

 

僕の作戦は1990年に発生した、イラクがクウェートを侵攻したクウェート侵攻(イラク・クウェート戦争)時にイラク占領軍に対するクウェート市奪還作戦を参考にしている。

 

1990年8月2日午前2時、共和国防衛隊(RG)はクウェート国境を越えて侵攻を開始した。このとき、十分な弾薬・燃料を携行していたのは、RGの戦車2個中隊のみで、他の部隊が有する兵站物資は必要最低限のみであった。しかしクウェート軍は、RGの50分の1の戦力しかなかった上に、奇襲を受けて混乱しており、わずか数時間のうちに制圧され、軍の一部はサウジアラビアやカタールに撤退した。

 

「4時間で奪われたものは4時間で取り返せ!」的な発想の作戦だ。

 

この作戦は、当時却下された。米軍の活躍する見せ場がないのが理由だ。

 

皮肉な事に、その作戦を参考に立てた僕の作戦は同じような理由で却下された。十師族が国軍よりも目立つ活躍をするからだ。

 

佐伯さんの出してきた条件に則して、わざと敵主力艦を攻撃せずに国民保護を最優先にしてF-35と独立魔装大隊を投入する作戦を再提出したのだ。

 

その作戦に対して佐伯さんは何の返事もよこして来なかった。しかし、すぐにF-35とムーバルスーツの開発が急がされるようになったので僕の作戦が採用されたとわかってしまった。おかげで学校を何日休んだことか。

 

「殿下、疲れた?」

 

精神的につながっている主任が、僕の集中力が途切れているのに気付いた。さすがだ。しかし、集中力が途切れてよそ事を考えていたのは七草家と北山家の戦闘ヘリ、輸送ヘリによる人員輸送のお手伝いをしているのが気に食わないからだ。結局十師族が目立っている。北山家は十師族ではないのがせめてもの救いだ。

 

「居心地の良くないコクピットだからかな」

 

「F-35は元々複座がないから改造に無理があったの。今度は元々複座のF-22を調教するね」

 

そうだったのか。それならF-35の操縦訓練はどうしていたのだろう?まさかシュミレーターだけで終了していたのだろうか?だったとしたら恐ろしすぎる。それにしても主任はまだ魔改造するつもりらしい。

 

あ!わかった。

 

「主任。もしかして『鬼』を使ってる?」

 

「殿下は、何でも知っているのね」

 

彼女が笑っているのを感じた。彼女は僕の前に座っているのとフルフェイスのヘルメットを被っているので表情は僕からは見えない。

 

どうやら彼女は、吉田くん達の本当の本家である「陰陽師」の直系らしい。

 

 陰陽師は全ての事象が陰陽と木・火・土・金・水の五行の組み合わせによって成り立っているとする夏、殷(商)王朝時代にはじまり周王朝時代にほぼ完成した中国古代の陰陽五行思想に立脚し、これと密接な関連を持つ天文学、暦学、易学、時計等をも管掌した日本独自の職である。

 

天武天皇が壬申の乱の際に自ら栻(ちょく、占いの道具)を取って占うほど天文(学)や遁甲の達人であり陰陽五行思想にも造詣の深かった事もあり、同天皇4年(676年)に陰陽寮や日本初の占星台を設け、同13年(685年)には「陰陽師」という用語が使い始められるなどしてから陰陽五行思想は更に盛んとなり、養老2年(718年)の養老律令において、中務省の内局である小寮としての陰陽寮が設置された。

明治政府は明治3年(1870年)に陰陽寮廃止を強行し、その職掌であった天文・暦算を大学・天文台、または海軍の一部に移管した。旧陰陽頭であった土御門晴栄は大学星学局御用掛に任じられたが同年末にはこの職を解かれ、天文道・陰陽道・暦道は完全に土御門家の手から離れることとなった。同年閏10月17日(1870年12月9日)には天社禁止令が発せられ、陰陽道は迷信であるとして民間に対してもその流布が禁止された。

 

 吉田くんの家は昭和時代に陰陽師の伝統を復活させようとしてある程度の成功をおさめた人達の伝統を引き続いでいる。僕が本当は新しい古式魔法と皮肉ったのはそれが理由だ。ちなみに吉田嬢は明治まで続いていた系統だ。しかし、それでもすでに日本式となっており、大陸の鬼使いとは違ってしまっている。主任侮るべからず。

 

なので、吉田くんが使う「式神」と主任がつかう「鬼」は根本的に違う。

 

ピ━━━━━━━━!

 

鬼が警報を鳴動させてくれる。良い子。良い子。僕が注意散漫になってもよく働いてくれるね。

 

「あれはまずいな」

 

「イナゴの大群みたいね」

 

日本でこの時期にイナゴが大量発生することはない。単なる敵の攻撃魔法だ。

 

さて、困った。この機体に空対空のミサイルやナパーム弾は積んでない。空対地に特化した戦闘計画を立てた為だ。佐伯さん。どうすんの?これ。

 

「機関砲?」

主任が自信なさそうだ。結論から言えば、弾が無限大にあれば機関砲を撃ちまくればよい。イナゴに弾が直撃しなくても風圧で害虫退治がある程度可能だ。

 

人間ソーサリーブースターをあきらめて僕のとっておきの必殺技ともいえる現代魔法を使うか。

 

『ブルーサンダー』

 

昔の映画のタイトルやアイドル歌手のヒットソングではありません。

 

まァどちらにしても、F‐35の戦闘力がガタ落ちとなってしまう。

 

「上昇だ」

 

「了解」

 

小直径爆弾(細長い弾体に展張式の翼を備えた滑空式の誘導爆弾)を使う。滑空式なので、イナゴの大群の上空から発射しなければならないのだ。

 

突然、音の熱線が、蝗の群れを薙いだ。

 

「フォノンメーザー?」

 

「北山雫だよ」

 

焼け死ぬのではなく、燃え尽きたように消えていく蝗の群れ。だがそれは、黒い雲を成す大群のほんの一部だ。次々とフォノンメーザーを発動し、ヘリに近づく蝗を撃ち払っているものの、回り込んだ群れがヘリへ迫る。

 

蝗の群れがヘリに取り付く、と見えた、その時。滅びの風が、吹いた。

 

黒雲を成す大群が、幻の様に輪郭を崩し、色を薄れさせ、消え去った。

 

「ミストディスパージョン?」

 

「大黒特尉だね。グラムディスパージョンだよ」

 

真打登場といったところか。本気で助かった。これで、北山さんと協力して時間稼ぎをする必要もなくなった。司波くんは術式を分解した。つまり、彼は術式の出どころを掴んでいるはずなのだ。

 

「ここは、片付いた。移動する」

 

「いいの?」

 

「構わない。一般人に紛れている敵工作員は毒脚京が始末する」

 

僕らは石川町に向かった。

 

 中華街の手前で義勇軍が戦闘中だ。苦戦しているらしい。無人機やドローンやスパイ衛星の情報がなくても町中の監視カメラの情報等を収集すれば戦闘情報はほとんどわかる。電子の魔女の得意技をパクッ、いやオマージュして新たな情報収集分析方法を確立した。

 

大亜細亜連合が投入した戦力は、全部で戦闘員 800人、装輪式大型装甲車両 20両、直立戦車 60機。あとは低空無人偵察と機偽装揚陸艦と推定されている。今のところ。

 

 現場に到着した途端に、敵ゲリラ兵に機関砲を撃った。直撃した者は少数だが、掠った者や掠めた物はかなりいた。これ充分。敵は戦闘不能に陥るからだ。さいわい、敵は蝗みたいに多くなかった。あとは装輪式大型装甲車両と直立戦車に小直径爆弾をお見舞いした。

 

「ここも、片付いた。移動する」

 

「いいの?」

 

「構わない。もうすぐ一条将輝が到着する」

 

僕らは横浜ベイヒルズタワーに向かった。

 

 

 

 

 




空海「般若心経秘鍵」 ビギナーズ 日本の思想 (角川ソフィア文庫)
空海の作品。

太極拳の立禅でゆっくり動く時は観自在菩薩を、小刻みに動く時は虚空蔵菩薩を呼ぶと何故かうまく行く。空海もビックリな使い方か?


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横浜騒乱編30

機体が一瞬バランスを失った。

 

「疲れた?」

 

「少し」

 

「じゃあ。帰ろう」

 

二人ともかなり疲れている。会話が無意識のうちにどんどん短くなって行く。あまりに開発期間が短過ぎるこの機体は、結果的にパイロットに負担をかけ過ぎる。

 

その上、燃料も武器も目一杯積み込んで飛びまくっていたのだ。ややこしくなるから書かなかったが、人間ソーサリーブースター役は途中で一回交代している。横浜国際会場にFー35が着陸した時に僕と交代していたのだ。彼は棺桶型武器庫系CADを回収してその場を離脱している(はずだ。引き続きをする段取りだったが、前任者が現れなかった。)

 

それと、

 

ピ————————————!

 

アズビルくんがまた鳴動。

 

敵に発見される様になって来た。さすがに敵もバカではない。光学迷彩+光学系魔法ステレスに慣れ始めている。

 

「大丈夫?」

 

「鉄壁と魔系修羅が揃ったから大丈夫」

 

「そうね」

 

僕等は帰投した。

 

Special thanks!

 

国防軍の皆様

保土ヶ谷駐留部隊の皆様

独立魔装大隊の皆様

鶴見駐留部隊の皆様

藤沢駐留部隊の皆様

警察省の警察官の皆様

日本魔法協会関東支部の義勇軍の皆様

全国高校生魔法学論文コンペティションの九校共同会場警備隊および来場した魔法科高校の学生の皆様

七草家,北山家の皆様

港湾警備隊の皆様

沿岸防衛隊の皆様

 

皆様のおかげでこの戦争の前半を大量リードして終える事が出来ました。

 

後半戦もよろしくお願い申し上げます。

 

◇◇◇

 

今も昔も、女性が軍で出世するのはかなり難しい。体力的に厳しいのもあるが組織特に軍隊組織そのものが男社会を前提として作られているからだ。ちなみに、1996年に女性1期生が防衛大学を卒業している。

 

空軍に女性戦闘機乗りが登場したのは、(その頃空軍は、まだ航空自衛隊と呼ばれていた。)2018年8月24日だ。彼女が戦闘機乗りの伝統になり主任は「中尉」に昇格した。初の女性戦闘機パイロットは二等空尉だったのだ。

 

とういう事で、女性である主任が軍で出世するのはわかる。しかし佐伯さんはどうか?魔法師でもなければ戦場で華々しく活躍したわけでもない。お色気?それも考えにくい。とぼけるのはよそう。十師族に対する危機感は、軍だけでなく我国の中枢にもあるのだ。魔法師の頂点に立つ十師族が本当に日本の為に死ぬ覚悟で戦ってくれるのだろうか?

 

この漠然とした不安は、四葉が私怨で2063年に崑崙方院を滅ぼした時にハッキリした。その頃はまだ十師族制は確立されていなかったが、それ以前から魔法師は我国の危機にあてにならない可能性がかなりあるのはすでにAICO等も計算していた。とはいえ、その対抗策をあからさまにしてしまうと十師族を怒らせてしまうかも知れない。

 

そこに佐伯さんはピッタリはまった。主任や僕もそうだが、彼女が慎重に集めた部下は、それなり理由があってみんな反十師族なのだ。司波くんも。

 

 もちろん、佐伯さんが『銀狐』と呼ばれるほどの才女なのは言うまでもない。反十師族だけでは出世はできない。

 

 かなり消耗が激しかった為、座ってしばらくとりとめのない思考が回る。

 

……

 

『私にできる貴方への最大の贈り物は、誰にも経験できない経験をさせてあげる事です。具体的に言えば、「道を得る」前の状態、「道を得る」直前の状態、「道を得た」時、「道を得た」直後の状態、そしてその後どうなったかを貴方に見せる事です。

素晴らしい文体、洗練された語句を駆使して文章を作りあげたところで読んだ人の人生に何も与えず何の影響もない小説ならば書き続けたいと貴方は思わないはずです』

 

前世で婚約者に伝えた事を思い出した。彼女は上流階級のお嬢様で作家でもあった。一方、私は日々の生活に追われるド平民だった。

 

『時間が欲しい!』

自信家であった私は、時間さえあれば彼女に見合う実力(お金を含め)を身に付ける確信があった。これが、私の本当の本音であり希望だった。

 

彼女と結婚してあげたい。そして奇跡の瞬間を見せてあげたい!世界を更新する小説を書くとする彼女の夢を叶えてあげたい!

 

それらを自覚してそう願った時、私は「道を得る」入口に立った。

 

……

 

僕は、ユックリと目を開けた。短い時間の座禅だったが十二分に回復した。そろそろ出発しないと撤退する敵偽装揚陸艦をおがめない。

 

「主任。時間ですよ」

 

僕は、泥のように眠りこけている彼女を起こし、医務室を出た。

 

◇◇◇

 

……

 

わかるまで考える。『時間が欲しい!』

問題文の理解が足らないのに気付く。しかし、まだ解答の解説がわからない。『時間が欲しい!』

解説の前半部がわかる。しかしまだ完全ではない。『時間が欲しい!』

 

……

 

僕の前世の体験がフラッシュバックする。ベイヒルズタワーの屋上にいるのだが僕は眼前の風景を見ていない。

 

「敵艦は相模灘を時速三十ノットで南下中」

藤林さんが小型モニターを見ている。

 

「房総半島と大島のほぼ中間地点です。撃沈しても問題ないと思われます」

彼女は風間さんに報告した。

 

「サード・アイの封印を解除」

彼は真田さんに命令した。

 

「了解」

真田さんは嬉しそうに命令を実行した。

 

「色即是空、空即是色」

 

『パスワード・認証しました』

デバイスを積んだケースが音声応答した。

 

……

 

虚空蔵菩薩真言は空海や日蓮が挑戦したと聞いて自分もやってみようと思った。一万回も真言を唱えられずにやめた。ちょっとした奇跡的な現象もあったが、あまり気に留めなかった。般若心経を覚えてみようかと思ったが実行さえしなかった。

 

その頃、私は座禅を習っていた。座禅は道教のものだったがなぜか西洋魔術書や仏教関連書を読んでいた。

 

にもかかわらず、立禅の最中に見えるようになったのは天照大神。

 

そのうち千手観音菩薩が見えるようになった。これが自分と一体化すれば武術の技が冴えるのはすぐにわかった。真言を唱えるのは止めた。真言は「〜に帰依します!」とする宣言であるから〜と一体化するには不適切だと感じたからだ。

 

しかし、それと一体化する感覚はそれ以上深まらなかった。

 

本願(ほんがん)とは、仏教において、仏や菩薩が過去において立てた誓願を指す。宿願(しゅくがん)とも言う。菩薩としての修行中に立てたもので、たとえば阿弥陀仏ならば法蔵菩薩としての修行中に立てられたものを言う。

原語の分析から「前の」「あるものに心を寄せる」「切望する」「祈る」などを意味する箇所があり「誓願」(せいがん)とも訳す。

 

原始経典では「天国に生れることを希願する」というように用いられる。仏教の場合は、絶対者などに対して祈るのではなく、自己への祈りであり、願いである。

 

『仏教の場合は、絶対者などに対して祈るのではなく、自己への祈りであり、願いである。』

 

私の本願の一部は「時間が欲しい」だった。そしてこの本願の一部が成就されて行く過程で「本当の自分」に出会え、「仏や菩薩が過去において一切の生あるものを救おうとして立てた誓願」につながって行く。

 

……

 

「マテリアル・バースト、発動 」

 

「敵艦と同じ座標で爆発を確認。同時に発生した水蒸気爆発により状況を確認できませんが、撃沈したものと推定されます」

 

爆発による津波が無いのも確認され作戦は無事終了した。

 

司波くんは、明確な意志を持って、愛する妹を煩わせる存在を消滅させた。彼の本願の一部はこうして成就した。

 

さすがの司波くんでも、躊躇したり、サイオンのガス欠を起こしてマテリアルバーストが発動しない場合に備えて海底に潜んでいる藤掛・渡辺組への攻撃命令は出さずに済んだ。命令は、彼等の上官がするのだが大規模破壊に対する彼等の心の乱れを無くするのは僕の役目になっていたのだ。

 

「あなた方の罪は許される」と言わずに済んだ。

 

まともな神経の持ち主なら、大量破壊や殺人には心理的な抵抗が大きい。しかし、司波くんは躊躇なく大量破壊・殺人を実行した。愛する妹の為に。はたして、それが菩提心や大悲心につながって行くのか?

 

たった今、確信できた。『つながる』と。

 

「中尉、大丈夫ですか?」

僕は、眼前でふらつく主任に声を掛けた。

 

「大丈夫じゃない、かも」

主任はそう言ってから一呼吸置いて付け加えた。

 

「今度の日曜に付き合ってくれたら元気になる、と思う」

 

「了解しました」

 

司波くん以外の隊員の「耳がダンボ」になっていた。

 

 

 

 




浜松 春日
ルーントルーパーズ―自衛隊漂流戦記〈1〉 (アルファライト文庫)

「しかも、環太平洋海軍合同演習において、この〝いぶき〟単艦でアメリカ艦隊を壊滅させたことがあるほど、優秀である。」kindle版22%

秘密は必ず何らかの形で表に出てくる。


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横浜騒乱編31

今から三十五年前、第三次世界大戦、またの名を二十年世界群発戦争の後期、対馬は大亜連合高麗自治区軍の攻撃を受け、住民の七割が殺された。

 

その後の我国の対応は最悪だった。事実上、報復をしなかったのだ。大亜の政治工作が効いたからだ。

 

これは言うと不味いかも知れないが、頭の良い読者なら薄々気付いているので書いておこう。先ずは簡単な年表だ。

 

2060年 大亜細亜連合高麗自治区軍が日本の対馬に侵攻した。

2062年 四葉真夜が大漢の崑崙方院に拉致され、3日後に救助される。

2063年 崑崙方院が壊滅する。(四葉の報復による)

2064年 大漢が内部崩壊し大亜細亜連合に併合される。

 

誰が一番得をしただろうか?いうまでもなく大亜連合だ。

 

 2045年に勃発した20年世界群発戦争(第三次世界大戦)は2065年に終結した。そのどさくさに、いつのまにか大亜連合が中国大陸を制覇した事になっていたのだ。大国との本格的な武力衝突無しにだ。

 

 同じことを第二次世界大戦で中国共産党が成功している。中国共産党は日本軍はおろかその他の列強と一切の戦闘無しに第二次世界大戦の戦勝国になってしまっている。

 

したがって、こう考えられる。

 

対馬へ高麗自治区人を焚き付け支援し侵攻させ、崑崙法院に四葉真矢夜を拉致させ四葉の復讐を側面支援したのは大亜連合であり、第三次世界大戦(?)も戦勝国ではないにせよ、敗戦国にはならない政治工作に成功したと。

 

とはいえ、中国市場は日米欧に握られている。大亜連合の工作は国内市場を海外勢にある程度支配される代償を払っていたのだ。フリーランチはない!

 

さて、今回の横浜事変。

 

多くの人が何故こんなバカな侵略作戦を大亜が実行したのか理解できない。しかし、1982年のアルゼンチンのフォークランド紛争、1979年のソビエト連邦が軍事介入、1989年に撤退したアフガ二スタン侵攻、1990年に発生したイラクのクウェート侵攻なども当時はその動機がハッキリしなかったが、百年近くたって今は明らかになっている。要は利権つまり金に困っただけだ。

 

 

戦勝国に収まった大亜連合だが、国内市場を海外勢に抑えられている。それを打開する為の作戦の一環に対馬侵攻や横浜侵攻がある。ただそれは、泣き言に過ぎない。我国は、第二次世界大戦の敗戦で国内市場だけでなく有りとあらゆるものを戦勝国に抑えられた。しかし、時間をかけて金を払って一つづつ取り返して来た。

 

日本国憲法を改正した後も交戦権を振り回して他所の国のものを武力で強奪しなかった。だから、他の国も同じようにやれとは言わない。ただ戦争は復讐法が適用される。やったらやり返されるのが自然なのだ。いや、掟なのだ。

 

侵攻を受けた対馬はその後要塞化された。それだけで、日本が済ませると考えていたら大間違いである。

 

 司波くんはムーバルスーツを身に着けたままの姿で「サードアイ」を手に、要塞化された対馬の第一観測室の全天スクリーンの真ん中に立った。

 

僕の前世がフラッシュバックする。悟りの門の前に立ち門が開き始めた時の経験だ。

 

……

 

 私の「彼女と結婚してあげたい」気持ちはやがて「結婚したい」と若干変わる。しかしその変化によって上丹田から発するエネルギーが増えた。若干違う真言なのだが、その効果はかなり違った。しばらくすると下丹田のほうのエネルギーを活性化させていた「時間が欲しい」とする大願とそれは1つになっていった。そして、それが「小説を書こう」と言う強い意志になった。

 丹田が確実に動き出すのもわかるようになった。とぐろ巻いていた竜が動き出すような感じだ。本格的な始動はまだ起きなかったが。

 

仏はすべて同じ誓願を持つ。これを総願という。具体的には四弘誓願(しぐぜいがん)を指す。菩提心(ぼだいしん)と呼ばれるものも、これと同義である。

 

たとえば、薬師如来の十二願は「一切衆生の苦悩を除き、一切の病患を除かん」というものであり、阿弥陀如来の四十八願は、法蔵菩薩の時に立てて成就したものであり「念仏の衆生を救いとげん」との誓願である。

 

 私の本願と薬師如来や阿弥陀如来のそれとは、あまりにスケールが違い過ぎるように見えるが、千里の道も一歩からとは正にこの事だった。彼女との結婚に向けて具体的な行動を開始すると請願の内容が深化して行った。薬師如来や阿弥陀如来のそれに少しづつ近くなって行くのだった。

 

……

 

『マテリアルバースト、発動します』

風間さんの命令を復唱し、司波くんはサードアイの引き金を引いた。

 

アインシュタインの特殊相対性理論により発見されたE=mC²。

 

わずか1キログラムにも満たない質量が熱と光のエネルギーに転換される。その熱量はTNT(トリニトロトルエン)換算20メガトン。

 

過剰な光量に、スパイ衛星の安全装置が作動しスクリーンがブラックアウト。

 

巨済要塞の向こう側に位置する鎮海軍港出で撃準備を整えつつあった10隻近くの大型艦船とその倍を上回る駆逐艦・水雷艇の艦隊は、全滅、いや、消滅した。

 

若い士官の中には、トイレに駆け込んだものもいた。

 

 灼熱のハロウィン。  

 

後世の歴史家は、この日、2095年10月31日のことを、そう呼ぶかも知れない。

 

それは、軍事史の転換点であり、歴史の転換点とも見做されるだろう。  

 

それは、機械兵器とABC兵器に対する、魔法の優越を決定づけた事件として。  

 

魔法こそが勝敗を決する力だと、明らかにした出来事として。  

 

それは、魔法師という種族の、栄光と苦難の歴史の、真の始まりの日になるであろう。

 

 表の世界では。

 

 しかし、内実は異なる。この日、我国は世界史上初めて軍事上世界一の米国に並んだ。

 

魔法と機械兵器のハイブリッド使用とC級あるいはB級魔法師の組み合わせによる戦略級魔法師と同レベルの事象改変を可能にしたからだ。

 

 そして、もう一つ重大な事があった。

 

軍の命令とは言え、司波くんはまた自分の請願をはたした。「愛する妹を煩わすものを排除する」だ。ただし、これからも、彼の愛する妹を煩わすものは次々と現れてくる。

 

その都度、請願ははたされ深化して行く。一方、煩わすものに対処するだけでは問題を解決するには至らないと早晩司波くんは気付くだろう。敵は次第に強敵になり、ついには国家を敵に回すことになるからだ。

 

彼の請願はやがて、「この世界から戦争を無くす」とするスケールの大きいものになる。それは、薬師如来の「一切衆生の苦悩を除き、一切の病患を除かん」というものや、阿弥陀如来の「念仏の衆生を救いとげん」との誓願と本質的に並ぶものである。

 

 司波くんは遅かれ早かれ悟りを開いて菩薩にありやがて仏にまで到達するだろう。それしか、愛する妹を守る方法がないからだ。

 

 対馬要塞や九州北部沿岸に影響を与える竜巻や津波は観測されなかった。巨済島が防波堤の役割になったのだ。

 

作戦は無事終了した。

 

「全員、帰投準備に入れ!」

風間さんの命令を受けて、柳さんが撤収を命じた。

 

司波くんはサードアイを床に下した。

 

フルフェイスのヘルメットから一瞬垣間見えた彼の瞳には、わずかばかりの動揺も存在しなかった。

 

 僕は、ほっとした。

 

もし、彼がサードアイを発動し損ねたら海底に潜む藤掛・渡辺に攻撃命令を出さなければならなった。(しつこいようだが、命令は彼等の上官が下す。僕は彼等が躊躇しないメンテルケア担当だ。)さすがの司波くんも一日に二発のマテリアルバーストを使用するのは難しいと予想していたからだ。それは、杞憂だった。

 

 請願をはたすと請願は深化し、使えるエネルギーは増大する。僕の前世でも経験したことだったが、司波くんも例外ではなかった。

 

 

 




親鸞聖人伝絵ー御伝鈔に学ぶー  高松信英・野田晋    東本願寺出版部

親鸞が聖徳太子が阿弥陀如来であると明言するようになった出来事が書いてある。南無阿弥陀仏と念仏を唱えるだけで極楽浄土に生まれられると親鸞が直覚した出来事も書いてある。



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横浜騒乱編32

西暦二〇九五年十一月二日。国内は戦勝気分の浮かれたムードに包まれていた。国防軍が秘密兵器により大亜連合艦隊を基地ごと殲滅した、と報道されたのが一昨日の夜のこと。北京がワシントンに講和の仲介を打診した、というスクープがお茶の間に流れたのは昨日の深夜だ。余りに速すぎる展開にスクープの信憑性を疑う意見もあったが、そういう冷静な判断力を保っていたのは国民のごく一部だった。多くの国民が俄か軍事評論家になり、普段は政治に無関心な少年たちが学校で声高に外交と現実的国際政治力学を語り合う。

 

「こんなあからさまなリークが出されるくらい大亜は打つ手なしなんやろうな」

僕がため息をつく。

 

「「「え?リーク!」」」

部員+αが驚く。

 

「どうしてわかるの?」

千葉さんが、すぐに尋ねてきた。

 

それよりも、どうしてお前がここにいるの?ここは一校近くの喫茶店アイネブリーズ。なので金さえ払えば誰でも入れはするが。一校は横浜事変の影響で明治天皇生誕記念日まで休校になったので高ぶって勢いが余っている連中はここに集まったのだ。

 

「ねぇ、京子は知ってたの?」

千葉さんは、僕に質問しておいてすぐに長岡さんにも同じ質問をしている。躾がなってないぞ!司波くん。この場にいないけど。彼は忙しいため、司波組構成員を放置しているようだ。あるいは、愛する妹とのイチャラブで忙しくて手が離せないのかも知れない。

 

吊り橋理論(つりばしりろん)とは、カナダの心理学者であるダットンとアロンによって1974年に発表された「生理・認知説の吊り橋実験」によって実証された感情の生起に関する学説。吊り橋効果、恋の吊り橋理論とも呼ばれる。

 

ダットンとアロンは、感情が認知より先に生じるのなら、間違った認知に誘導できる可能性があると考えて「恋の吊り橋実験」を行った。 実験は、18歳から35歳までの独身男性を集め、バンクーバーにある高さ70メートルの吊り橋と、揺れない橋の2か所で行われた。男性にはそれぞれ橋を渡ってもらい、橋の中央で同じ若い女性が突然アンケートを求め話しかけた。その際「結果などに関心があるなら後日電話を下さい」と電話番号を教えるという事を行った。結果、吊り橋の方の男性18人中9人が電話をかけてきたのに対し、揺れない橋の実験では16人中2人しか電話をかけてこなかった。実験により、揺れる橋を渡ることで生じた緊張感がその女性への恋愛感情と誤認され、結果として電話がかかってきやすくなったと推論された。

 

異性と一緒にドキドキする体験をすれば、そのドキドキは恋愛のそれと認識間違いする場合があるらしい。それよりも、カナダにはいまだにつり橋があるのだろうか?そのほうが僕は気になる。

 

今では眉唾ものの理論とされているが、そうでもないようだ。吉田くんと柴田さんがそうなのは当人達以外皆知っている事実なのだが、千葉さんと西城くんも何かあったのだろう。一方、我が軽妙小説研究部部員はなぜかその様な雰囲気が一切ない。理由はハッキリしているが。白石くんは、本当はバージニア州出身だからね。

 

千葉さん!さっきから西城くんが心配そうに君を見ているぞ。

 

「やっぱり軍関係者から漏れたのかな?」

 

面倒くさいことになりそうなのでさっさとこのリークの話題を終わらせよう。

 

「ただのジャーナリストの取材で、大亜が米に我国との仲介を打診したとわかるはずがないやろ!もしうっかり喋ってもうたら特定秘密保護法違反で一発アウトや」

 

ここまでは、千葉さんだけでなく皆わかったようだ。なので、次に進む。

 

「だから、政府が裏広報なんかを使ってリークしたんやろ」

 

「でも、一体何の為に?」

 

おっ!意外に頭の回転が早いな。千葉さん。さすがは警察関係者。

 

「我国が有利に事を運んでいると国民に間接的に知らしめるのと、大亜へのけん制やな」

 

理解できなかったらしく千葉さんがその場で固まった。

 

「でもよ。師匠。どうしてそれだけで『我国有利』だってなるんだ」

 

西城くん、優しい~。千葉さんが恥をかかないように彼女に代わって質問している。

 

「平和条約なり休戦協定なりを締結したいと先に動いたんは大亜や。困っとるから米国に仲介まで頼んだんや。困ってなかったら三年前みたいに知らん顔しとる」

 

なるほど~と納得顔になったのは西城くんではなくて千葉さんだった。ただ、感情的何か納得し切れてないようだ。

 

「師匠。本当は、軍から何か聞いているんじゃないの?」

 

彼氏のフォローを台無しにしかねない千葉さんだった。西城くんが焦っている。

 

「少尉では、そんなん知らされへん。最低でも少佐やな」

 

「エリカちゃん。師匠さんは、社会人だからいろんなことをご存知なのよ。きっと」

 

見るに見かねた柴田さんが説得力が有るのか無いのかわからないフォローをした。

 

「社会人といっても、エッチな小説を書いているだけでしょ!」

 

「エリカちゃん!」

柴田さんが、怒っている。彼女は怒ったり本気になると目の色が変わるのですぐにわかるのだ。日頃から柴田さんに薄い本を融通している効果か?

 

事情を把握していない司波組構成員は、指揮官の司波くんが構成員を放ったらかしなので本当に飢えている。

 

このままでは本題に入らないまま時間を浪費しかねない。ということで、僕は本題に強引に入って行こうとした。

 

また、過去世の体験が蘇ってきた。

 

……私は、「道を得る」のは何らかの劇的な体験をするものだと思っていた。モーゼとエリアが現れて励ましてくれるとか、明けの明星が天から降りて自分の口に入るとかだ。

 

道を得る入口に立った時、自分の大願がわかった。その後しばらくすると劇的な体験があると構えていたのだ。とある武術家のように公園で練習中に先代の名人の霊が降りて来て暴れ回っているのを近所の人に通報されて大騒ぎになったりするのは不味いと考えていたからだ。

 

ところが、自己内対話をしている時に何気に「道を得た?」と尋ねると「得たよ」と返事が返って来る。釈然としない。しかし、座禅の師が当初から言っていた「座禅の後にすごく元気が出る」ようにはなった。

私は、孔子や白隠のように道を得てもそれを自覚するだけで劇的な現象は起きないパターンだったのだ。

 

少し、拍子抜けした。

 

……

 

司波くんが、道を得る入口に立ったのはわかったが、それは司波くんだけではなかった。自分の為だけでなく国を守る為に初めて戦った長岡さんも入口に立った。

 

どうりで、いつも必要以上に少女漫画的ヒロインのオーラを出しまくっている長岡さんが今日は全然目立たないただの二科生している。おそらく心が落ち着いて必要以上に頑張る気が無くなったのだろう。道を得ると人にもよるが内精の動きも自覚できるようになり、頑張らなくても相手を吹っ飛ばせる技が出来るようになったりするからだ。具体的には、敵が我に触った途端に敵の踵が浮いてしまい、簡単に敵の平衡感覚を狂わせて吹っ飛ばせるようになる。

 

「武力衝突は終わった。我国の圧勝や。次は非武力衝突の戦いや!いわゆる民間防衛や」

 

呂剛虎に負けた千葉さんが、呂剛虎を瞬殺した長岡さんに絡んでいた。千葉さんが試合をしてくれと言い出す前に『民間防衛」の話を切り出せた。

 

千葉さんには、座禅をして道を得れば呂剛虎なんて簡単に勝てるようになると後で伝えてあげよう。長岡さんみたいに鉄沙掌とか激烈な練功をしなくても。

 

           ◇◇◇

 

 武力衝突では圧勝したが、国内の大亜勢あるいは大亜の息がかかった連中を一掃あるいは黙らさなければこれからの我国と大亜の関係が平和条約締結前に戻ってしまう恐れがあるのだ。

 

そのために、我々は種を撒いてきた。

 

 反魔法師を標榜する勢力は、たいてい大亜とつながりがある。とは言え、あからさまにスパイ行為をしている連中はさすがに少数だ。そんな連中は、公安や外事にまかせれば良い。資金援助を受けて反魔法師運動を起こしている所謂プロ市民や彼等を支える連中も度が過ぎれば財務省によって資産凍結となる。裁判さえ行われないでだ。

 

 では、残りの直接的にテロ活動やスパイ行為をしたり、彼等と共謀して彼等の行動を支援する第一協力者以外の者達をどうやって今後だまらせるかだ。

 

じつは、国内法で可能なのだ。

 




日本人のこころの言葉 栄西 創元社

禅を興すことは国を守ることになるとする栄西の主著『興禅護国論』の解説がある。



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横浜騒乱編33

「ねえ。京子は一日どれくらい練習しているの?」

千葉さんが長岡さんにしつこく絡んでいる。

 

「24時間くらい」

長岡さんは相手をするのが面倒くさくなってきたようだ。僕は吉田嬢(覚えておられますか?『少佐』と呼ばれる吉田さんですよ。)と選定当事者代理人の選定書について話をしながら笑いそうになった。

 

民事訴訟法第30条

 

(個別代理)

第30条

1.共同の利益を有する多数の者で前条の規定に該当しないものは、その中から、全員のために原告又は被告となるべき一人又は数人を選定することができる。

 

2.訴訟の係属の後、前項の規定により原告又は被告となるべき者を選定したときは、他の当事者は、当然に訴訟から脱退する。

 

3.係属中の訴訟の原告又は被告と共同の利益を有する者で当事者でないものは、その原告又は被告を自己のためにも原告又は被告となるべき者として選定することができる。

 

4.第1項又は前項の規定により原告又は被告となるべき者を選定した者(以下「選定者」という。)は、その選定を取り消し、又は選定された当事者(以下「選定当事者」という。)を変更することができる。

 

5.選定当事者のうち死亡その他の事由によりその資格を喪失した者があるときは、他の選定当事者において全員のために訴訟行為をすることができる。

 

 反魔法師の仮面を被る反日売国奴どもは、相手が子供だと思って名誉棄損等で提訴した。しかし、横浜で有事があった今、さすがにおおっぴらに提訴するわけにいかずに簡易裁判所で55万円の損害賠償請求をしたのだ。おそらく簡裁に反魔法師勢力の仲間がいて示談に持ち込むつもりだったのだろう。所詮は子供、あの手この手で脅したり宥めたりすれば簡単に誘導できると考えたのだろう。

 

 そこで、こちらの対抗策だ。1つの訴訟でたくさんの被告や原告が存在する時は代表者的に1名または複数名を指定し、選定当事者以外は出廷せず、判決書の送達も選定当事者だけが行えるのだ。先程『少佐』と話し合っていた選定書とは選定当事者を選定するための書類だ。

 

「24時間はないでしょう?寝ている時はどうするの?」

 

「寝るのも修行!」

 

僕は、観るに見かねて千葉さんと長岡さんのいるテーブルに移動した。長岡さんが、「本当のこと言って良い?」と僕にアイコンタクトしてきた。

 

「寝てやる練習は、あるよ。千葉さんもやってみる?ちゅーか、長岡さんに教えたんは俺やけど」

 

千葉さんは訝し気な顔になった。どうも僕は胡散臭いと思われているらしい。

 

要は、寝ている間鼻呼吸をし続けるだけだ。最初のうちは苦しくなってあるいは眼が冴えて寝れなくなるだろう。しかし、効果は抜群だ。元気溌剌、サイオンも2倍?!

 

「なによ。それ!」

 

千葉さんは、からかわれたと思ったようだ。こちらは至って本気なのだが。

 

「師匠の言うことは本当。私も一週間もかかってしまった」

 

僕は、一カ月かかった。ちょっとショックだ。

 

「それより、本当に訊きたいことを訊いた方がええよ」

 

僕は、真顔で千葉さんに言った。

 

千葉さんも、すぐに真剣な表情になった。

 

「どうして、京子は勝って、あたしは負けたの?」

 

人喰い虎こと呂剛虎にだ。

 

「彼は練習方法を間違っている。功夫で彼が私に勝つ見込みは、ネズミが猫に勝つ見込みと同じ」

 

道に入ったばかりの長岡さんは少しだるそうだ。いつもの明るい少女漫画風ヒロインの面影は全くない。返答がぶっきらぼうなのだ。

 

練習方法を間違っていると言われた呂剛虎に負けた千葉さんは納得が行かない。聞きようによっては千葉流剣術は間違っていると解釈できてしまうからだ。

 

「でも、彼は人を殺したり怪我させたりするのは好きだった。あなたは好き?」

 

千葉さんは意表を突かれた。

 

もし同じくらいの強さ者同士が本気で戦えば、勝負を決するのは相手を本気で殺そうとしているほうだ。そして、どんなことにも好きこそものの上手なれがあてはまる。

 

「私が、八卦掌の師から最初に習った技は敵の心臓を止めるものだった」

 

千葉さんは、大人しくなった。

 

僕は、元のテーブルに戻った。

 

             ◇◇◇

 

「地裁の判事もろくなのがいなわよ!」

 

みんな驚いた。このようなセリフが千葉さんの口から飛び出すとは誰も想像しなかったからだ。というか、どうしてこちらのテーブルに移動したの?君はあっちでしょ。

 

 対反魔法勢力法廷闘争は、横浜有事の影響を受けて簡易裁判所から裁判官職権で地方裁判所に移されてた。これで、この裁判は三審となり、最高裁判所まで法廷闘争が継続される見通しとなったと僕が話していたところだった。

 

良く考えれば、千葉さんは警察関係者に顔が利く。警察関係者には千葉家のお嬢様のファンクラブがあるとまことしやかに言われているくらいなのだから。たぶん、糞判事の反日的な判決で煮え湯を飲まされている警察関係者の話を彼女は耳にしているのだろう。

 

「ああ、大丈夫!こちらは最初から最高裁まで争うつもりだし、その為の選定当事者代理人だから」

 

「それより、腕の良い弁護士に依頼した方がいいよ。伝手ならあるけど」

 

さっきの話で、何か吹っ切れた千葉さんは今まで興味を示さなかった民間防衛の戦いに急に首を突っ込ん出来た。本当に負けず嫌いなんだな。もしかしたら、意外にこちらの方の戦いが得意なのかもしれない。剣術の才能はあまりなさそうだし。

 

 じつは、北山のお父さんからも協力の申し出があった。反魔法勢力のネット工作員は北山さんや光井さんの悪評をたてようとネット工作も仕掛けていたのだ。連中が十師族をこきおろすのを、ネット上でさえ遠慮しているのには笑ってしまう。それほど十師族は恐れられている。一方で、娘とその親友をこき下ろされた北山さんのお父さんの怒りは凄まじかった。どこから聞きつけたのか、僕に連絡をよこしたのだった。

 

 我々は、一人当たり一千万円以上の損害賠償請求を地裁に起こした。おかげで手数料は5万円だ。北山さんのお父さんはポンと一千万円寄付してくれたのだ。おかげで、軍資金は充分となった。その上に弁護士をつけてくれると言ってくれたのだ。代理人を通して。

 

 しかし、こちらはただ法廷闘争に勝つだけが目的ではない。この法廷闘争を通して我々はあらたに魔法にも裁判にも強い魔法師を育成するつもりなのだ。さらに法曹界ひそむ隠れ売国奴の炙り出しも兼ねている。裁判が長引いた方が都合が良いのだ。だから、紹介して頂いた腕利きの弁護士にはブレーンとして参加してもらっている。

 

九島老人が作った十師族のシステムは、すでに時代遅れとなっている。魔法師は、特別な存在ではなくて魔法と言う特技を持っているただの人間であるべきだ。なので出世したければ出世すればよい。社会のトップに魔法師はならないとする慣習は全くのナンセンスなのだ。むしろこんなことを続けると魔法師の精神の健全性が損なわれる。欲望を抑え続けるとろくなことにならない。

 

老害となっている九島老人には言いたいことが山ほどあるが、ろくでもない死に方をするとわかっているのでそっとしておいてあげよう。

 

 




太極拳譜の理論 超入門編 龍門書院

私とは感覚が違うのであまり参考にならなかった。しかし、似た感覚の方もおられると思うのでとりあえず買っておくと良い。安いし。


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横浜騒乱編34

「師匠、チョッといいか?」

 

森崎くんが、僕を四象や死生と呼ばずに師匠と呼んでいる。大きな心境の変化だ。彼の隣には、彼女の滝川さんが付き従っている。

 

「訊きたい事があるんだ…」

 

と言ったままその後が続かない。森崎くん。

 

「悟りを開いたんやな」

 

僕がそういうと、彼は目を丸くした。ただ、すぐに冷静さを装い「ああ」と軽く返事をした。

 

「呆気無かったやろ」

 

「そうだな」

 

なんでもない風を演じているが、彼が喜んでいるのが良くわかる。口元が笑っているぞ!森崎くん。

 

「悟りを開く」や「道を得る」概念は、日本では強く仏教と結びついている。その為、非常に高度で難解な境地であると勘違いされている。実際は、本当の自分の本音が一部わかるだけなのだ。

 

それを本願だの大願だの宿願だの大袈裟な名前をつけて却って分かり難くしている。

 

実際に、熱心に仏教に取り組んでいたとしても「自分は地獄に落ちない」とか「聖徳太子と阿弥陀仏は同じ」とか「自分は仏と同体だ」とか「座禅を続けていれば仏になれる」「南無阿弥陀と唱えていれば極楽浄土に誰でも行ける」とか言葉にしてみるとあまり大したものではない内容に確信を得られるだけなのだ。

もちろん、それは当人の心に常に引っかかっていた問題であるので解決すれば心は以前よりも平安になる。

 

(その後に起こる心に身体を合わせて行く『調整』の方が劇的かも知れないぞ!特に脳が弛むとかなりの変化を体験できる。世間ではクンダリニーと呼んでいる。)

 

「そんなものなのか?」

 

「そんなもんや」

 

さらに言ってしまえば、道教なら「仏」に縛られない為にもっと簡単に「大願」に到達できる。「衆生の救済」も道教の道を得る段階ではほぼ無関係だと言って良い。(「仏」を志向すると「衆生救済」的な大慈悲心が起こり、それに沿った「大願」が出てきはする。しかし、それも仰々しいものではない。自分の好きなことがハッキリするだけと言って良いくらいだ。)

 

「なんかスゲー話してるな」

 

森崎くんが「悟り開いた」確証を得て静かに悦に浸っている隙を突いて桐原さんが割り込んで来た。彼女の壬生さんと服部さんも一緒だ。壬生さんは桐原さんに付き従っている程ではなかった。

 

「大した事ないと思いますよ」

 

「なぁ。師匠、お前の正体明かしてくれねぇか?何でそんな事まで知ってんだ」

 

微エロの軽妙小説を書いている陸軍中尉ですと言っても良かったが彼等はそんな答えを期待していない。そこで少しサービス!サービス‼︎

 

「電験門掌門人 三代目 河原真知」

 

「三代目?ちょっと待て!『河原真知』は本名じゃないのか?」

 

服部さんが詰め寄った。その勢いで七草さんに攻勢をかけたら振り向いてくれるかも知れないよ。ハンゾーくん。

 

「デンケンモン?そりゃ、武術なのか?」

 

桐原さんは、僕の本名に興味はないらしい。

 

>電験門は西暦2018年10月に初代河原真知が勝手に掌門人を名乗り出した学問によって道を得ようとする方法である。本人曰く「孔子が学問によって道を得たのだから、俺にできないはずがない」

しかし、その実態は、座禅と内家拳を学びながら電気主任技術者の資格試験に合格しようとして教科書を熟読するだけである。

 

↑このネット情報は、問題がある。と言うか悪意がある!資格試験に合格するだけが目的ではない。電気工学を極めんとする崇高な目的もあるのだ。(もちろん彼女を作ってリア充になりたいとかも目的の一つだ。笑ってはいけない。自己欲求肯定型の道教に属するから当然の事だ。儒教にも属するから出世するのも目的の一つだ。)

 

それと!学問によって道を得るだけでなく仏になり世の為人の為自分の為に健康的に緩く頑張ろう!とするありがたい門派なのだ。

 

初代河原真知の想いが蘇る。

 

神の仕事をする決意をしなければ神の力を発揮できないし神になっていかないないと私は気づいた。『偽物を本物にしてあげる』私はそれに携われば神になって行ける。

 

初代は、至って真剣だったのだ。記録と記憶を見るとそうでもないが。

 

 

「三代目の自分はそれに現代魔法を取り入れた。いわば、中興の祖や」

 

「わかった。わかった。それなら、俺と五十里に施された例のアノ魔法について教えてくれ!三代目」

 

服部さんは、キョトンとしている。桐原さんは、親友の服部さんに「再生」体験を喋ってないようだ。

 

「個人のデータを全部読み取って、元に戻しただけ」

 

二人とも言葉を失った。壬生さんは、最初から言葉を発してなかったが。それよりも、その場にいなかった僕に司波くんの『再生』について尋ねた理由と二人のそれについての情報源をこっちが聞きたい。

 

服部さんが訝しげにしている。桐原さんが言った「アノ魔法」が気になるようだ。そこで、僕は話題を強引に変えることにした。

 

「我が身既に鉄なり、我が心既に空なり、天魔覆滅」

 

僕は独り言のように呟いた。服部さんは反応した。ある意味予想通りだ。服部さんは服部半蔵影の軍団と彼は何のつながりもないと思うのだが、隠れサニー千葉ファンなのかも知れない。

 

「道を得ると自分を『無極』にできるようになりますよ」

 

森崎くん、桐原さん、服部さんが興味を示した。

 

「無極って、無極、太極、両儀、三才の無極か?」

 

森崎くん、勉強家だなぁ〜。

 

「太極拳とかの起式のことか?」

 

桐原さん、武術好きだね〜。

 

「自分を無にすれば、肉体を鉄のように強靭なものに変えられるのか?」

 

服部さん、映画やドラマの見過ぎだよ。

 

「無極ができると「発勁」もやり易くなりますよ」

 

3人とも興味津々だ。

 

「打ってもらったらいいじゃない!」

 

後ろから、千葉さんが割り込んで来た。悪戯っ子のような笑みを浮かべている。この子は面白そうな事、やばそうな事に首を突っ込んで来る。欲求が不満しているのだろう。西城くん、何とかしてあげて!

 

西城くんが、何ともしてくれないので実際に人体実験を行う運びになった。そういう流れに持って行った千葉さんはアジテーターとしても才能がある。

 

「100年くらい前の太極拳の名人に鄭曼青と言う人がおった。その人は夢で両手を折られて太極拳のコツを悟ったそうや。なので『腕無し名人』と後世の人に言われたりするそうや。と言うことで『腕無し』をやる」

 

と僕は言ってヤル気満々の桐原さんではなく、いつの間にか煽るだけ煽って人混みに紛れている千葉さんに目を向けた。

 

「チッ!」

千葉さんが小さく舌打ちしたのがわかる。自分の蒔いた種は自分で刈り取ってもらおう。

 

「太極拳の立禅で、先ず何も考えない状態にしてから『腕が無い』と念ずる。そしたら自然と上半身が左右に回転するんや」

 

部活では、部員達にもっと時間をかけて丁寧に練習してもらった。なので部員達は簡単に自動運動する。桐原さんは、真剣に取り組んでいるが上半身が回転し始めない。丁寧な指導を受けてないのだから仕方ない。先ず、何も考え無い状態にしてから「腕が無い」と念じなければならない。普通に「腕が無い」と思ったり、「腕が無い」イメージをしても脳は緊張しそれは身体の緊張となる。

 

「千葉さん、腕を前に出してみ。今から握って引っ張るから」

 

いやそうな顔で渋々右腕を前に出す彼女。絶対に引っ張られないないぞと言わんばかりに下半身に意識を巡らせている。力まないのはさすがだ。力んでしまうと引っ張られるタイミングや角度を少し工夫されると簡単に身体を持って行かれるくらいは知っているしその対抗策もわかっているのだ。

 

千葉さんがこちらの思う通りにしてくれた。ありがたい事だ。ギャラリーの中には武術の心得が多少ある人がいる。その人達もこれでわかってくれるだろう。彼等も千葉さんと同じ構え方をするだろうから。

 

僕は千葉さんの右手首を掴んで引っ張った。

 

「????」

 

彼女はほとんど抵抗出来ないまま腕を引っ張られ、前方に倒れた。

 

「ちょっと今のは油断してて…もう一回!」

 

千葉さんは、おかわりした。やはりこの子は武術の才能がない。自分の踵が浮かされた、つまり根を抜かれたのを自覚できなかったのだ。ただ、才能が無い人には才能を作る練習もある。それが本物の武術なのだ。

 

 




お久しぶりです。私生活が忙しくなってしまい話のネタは困らなくなりましたが、話を考えたり書く時間はなくなりました。それでも何とかしようと対策を考えています。では書籍紹介。

魔法科高校のBLACK LAGOON?

魔法科高校の劣等生 司波達也暗殺計画①

ネタに困れば男の娘を登場させるのは定番!それよりもイラストの石田可奈氏の画風が変わった事だ。



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横浜騒乱編35

「京子。あれできる?」

 

「できるよ」

 

長岡さんに千葉さんが食い下がっている。長岡さん位のレベルだと体全体が「無い」。あの程度の事はできて当たり前だ。しかし彼女の場合は問題がある。手加減がいまひとつなのだ。

 

「ちょっとやってみせてよ」

あ〜あ、やっぱりこうなってしまったか。今日の長岡さんは、いまひとつ自分に余裕がない。千葉さんからこうやって言われればおそらく手加減があまり効いていない技をかけてしまうだろう。

 

ぐっ?

 

千葉さんが店の床に危うく激突しそうになったのを長岡さんがすんでのところで千葉さんの腕を掴んで避けたのだ。

 

「今の何? 」

 

「単換掌(タンファンザン)」

 

この後2人とも黙ってしまった。とにかく千葉さんに怪我なくてよかった。しかし、彼女が受けたあの単換掌は一生彼女の悩みになるだろう。どんなに千葉さんが考えても理解できないからだ。もちろん再現もできない。おそらく、足を引っかけられそうになったまでしかわからないだろう。

 

長岡さんレベルでは自分が「無」になるだけでではなく、技を掛けられる方も「無」になってしまう。だから八卦掌は独特なのだ。初めてこれを経験すると、自分がバランスを失って不覚にも目を瞑ってしまったと勘違いする。千葉さんの様子から、そのような勘違いはしていないようだ。しかし、そうなると自分の感覚を遮断された経験は、彼女にとって余計に鮮烈になるだろう。自分の勘違いで済ませられなくなるからだ。

 

ちなみに、体がないと念ずるだけでは長岡さんの技は少しやりづらい。八卦掌は念じもしないが。普通は中丹田や心に中丹田を鍛えたり心に将軍が入るようにしなければならない。しかし、体の一部を「無」にするだけなら、鄭曼青(腕無名人)や三遊亭円朝(舌無名人)のように太極拳の名人や座禅の名人の元で修行する必要はない。

 

「無」と頻繁に念ずるだけで白隠のように悟りを開くことは可能なのだ。

 

「薄い本に登場する、愛する人を痛めつける、いわゆる加虐被虐性愛系の話は正当化されるケースがある」

 

僕は、柴田さんの疑問に応えた。彼女は、愛情があさっての方向にズレている恋人同士が最後に幸せになれるのか不安なのだ。

 

柴田さん。自分の性欲があさってに向いていると白状している様なものだぞ。一応、僕の書いている微エロ軽妙小説やその二次創作モノに登場するとある恋人達(モデルは例の潜水艦コンビ)についての質問とする形を取ってはいたが。

 

「昔から、難行苦行は危険だから止めるべきだと言われながら、今も修行する者はおる」

 

こう言って、僕は吉田くんをチラ見した。心当たりのある彼は下を向いてしまった。

 

「でも、難行苦行はうまく行けば超速進歩する事もある」

 

柴田さんよりも吉田くんが俄然この話に興味を持ち始めた。この二人は危ない意味でお似合いなのだ。

 

「例えば、尻を叩くとするやろ」

 

「スパンキング!」

誰も聞いてないと思ったら、大間違いだぞ。柴田さん、日頃読んでいる薄い本の内容が透けて見えるよ。

 

「叩かれ続けると最初は痛みを我慢しようとして力を入れ、それも出来なくなると脳からエンドルフィンだの何だの出てそのうち多幸感を得られる話は昔から語られてる」

 

すでに、自分が叩かれ続ける場面を想像して身体が上気し始めた柴田さん。その横で、話の続きに過大な期待と股間を膨らます吉田くん。

 

大丈夫なのか?この二人は。

 

「それでも、叩かれ続けると脳が処理を放棄して叩かれている箇所、尻等を自分の五感から切り離す。これで即席『尻無名人』の出来上がり!」

 

「「はぁ〜?」」

 

「座禅でも『尻無』が出来たら余裕で3時間座れて『道を得』られるで」

 

「師匠!それは、本当なのか?」

 

吉田くんが迫って来た。こういう時に彼は勢い良く前に出られる。だから理想の女性を手に入れられた。ハンゾーくんは、吉田くんを見習うと良い。

 

「ほんまや‼︎‼︎」

 

吉田くんと柴田さんは、店を出て行った。早速、実行するつもりなのだろう。若いって、素晴らしい。

 

「外患誘致罪は、適用されたことがないと聞いているけど大丈夫なの?」

 

『少佐』が小声で尋ねて来た。

 

「それは、刑事告発する者がほとんどいなかったからや」

 

僕は資料を表示させた。

 

第81条[外患誘致] 外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。

 

これだけでは、具体的にどうなれば外患誘致罪に該当するのかわかりづらい。じつはもっと詳しい回答がある。

 

第183回国会 法務委員会 第15号

平成二十五年五月二十九日(水曜日)

○稲田(伸夫)政府参考人(法務省刑事局長) 今御指摘のありました外患誘致罪における「日本国に対し武力を行使させた」ということの意義そのものにつきましては、これも一般に言われているところでございますが、我が国に対して壊滅的打撃を与えた場合に限らず、例えば我が国の領土の一部に外国の軍隊を不法に侵入させたときもこれに当たるというふうに解されているところでございます。

 

第185回国会 外務委員会 第7号

平成二十五年十一月二十七日(水曜日)

○長島(昭)委員 軍隊でなければ武力攻撃を構成するものではないというお答えだというふうに認識をしました。(石井政府参考人「ではない」と呼ぶ)軍隊でなければ武力攻撃に当たらないというわけではない、そういう御理解でしょうか。

○石井(正文)政府参考人(外務省国際法局長) 不明確な答弁で失礼をいたしました。

軍隊でなければ武力攻撃にならないということではないということでございます。

○長島(昭)委員 二重否定だったわけですね。わかりました。

 

(当時の自衛隊)防衛出動に関しては外患の大小軽重が問題となるが、外患誘致罪に関しては外患の大小軽重は問題とならない。そして、「我が国の領土の一部に外国の軍隊を不法に侵入させたときも、外患誘致罪における『日本国に対し武力を行使させた』に当たり、軍隊でなければ武力攻撃にならないということではない。」というのが政府見解である。

 

「今回は、大亜連合が横浜に侵攻したとハッキリしとる。対馬の時とは違って。そやから、大亜の横浜侵攻に手を貸した売国奴はもちろん、大亜の捕虜を庇ったり、我国と大亜との平和条約作成時に大亜に便宜を図ろうとしたり、我国の戦力、特に魔法戦力を削ろうとした奴は全員有事外患誘致罪刑事告発で死刑や!」

 

「「…「「おお〜〜っ!」」…」」

 

多分、被告は死にたくないから司法取引して洗いざらいブチまけて今回の平和条約作成に有益な情報をたくさん提供してくれる。

 

同じことは、70年くらい前にも生じた。当時は竹島だったが。

 

「反魔法師運動推進弁護士達に民事訴訟を仕掛ける件だけど」

 

千葉さんが、元の調子に戻っていた。ただし、今度は横に西城くんがついている。心配で仕方ないようだ。

 

「勝てるように懲戒請求者を脅迫して提訴したテロ弁護士だけを訴える。千葉さんが心配してくれた通り地裁の売国判事は反日判決するかも知れんがそれなら、今度は外患誘致罪でその判事を刑事告発する。そんなんしても、最高裁までいけば、日本国民に認められた懲戒請求申し立てをした人達を、脅かした上に訴えて金を巻き上げようとした弁護士に勝ち目はないで」

 

「そうでもないかもよ。そんな連中なら、法廷で精神干渉系魔法を使って判事や原告を都合の良いようにコントロールしようとするかもしれないし、原告を脅迫して提訴をとりさげさせるかも知れない」

 

「その恐れは、あるな」

 

なかなか痛い所を千葉さんは指摘した。敵も必死だ。法廷を鉄火場にするのを辞さないかも知れない。

 

「でしょう?ねぇ。師匠!あたしも選定当事者代理人にさせてよ」

 

「はぁ?!お前、懲戒請求してへんやろ?」

 

「へへ~っ」

 

千葉さんが端末の画面を見せた。そこには送信済となった懲戒請求申し立て書が表示されていた。

 

ガクッ!

 

と、音が聞こえた思ったくらい千葉さんの隣の西城くんが項垂れた。

 

一方、意気揚々とする千葉さん。

 

「一発目は横浜地裁かぁ。ふ~ん」

 

勝手に『少佐』の端末をのぞいている。

 

『少佐』が、目配せする。「いいの?」と。

 

僕は、にっこりほほ笑みを返す。「結構なことだ」と。

 

やはり、千葉さんは、美少女剣士よりも美人検事が似合っている。「異議あり━━━!」とか。

 

これで、兵士も兵站も整った。さぁ、掃討戦に突入だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




魔法科高校の劣等生27 急転編

魔法科で一番強いのは、無敵のお兄様ではなかった?!そういう意味でも急転回だった。


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あとがきのようなもの

中途半端な終わり方と感じた方がおられると思うが、その通り!

 

じつは、ほぼリアルタイム、ほぼ真実を書いていたこの日記風私小説にクレームが入ったのだ。今回は、僕の実家もそれに賛成したのでこれまでのような更新は以後できなくなる。

 

カンの良い読者は、我国の平和条約締結までの作戦が相手側にこの私小説を通して筒抜けになるのを防ぐ為だと思っているだろう。確かにそれもある。

 

実は、それ意外なことがまずかったらしい。

 

たとえばこのような描写だ。

 

◇◇◇

 

「呼び出してゴメンね」

最近、出番がないとふてくされているらしい小野教諭だ。スパイなんだから目立たないように行動するのが当然だと思うのだが。しかし、この人の胸だけは本当によく目立つ。頭隠して胸隠さず!

 

巨乳カウンセラーとカウンセリングルームで二人きりとなれば、やる事は一つと思いたいが、そうは問屋が卸さない。

 

「もうすぐ発表されるのだけど…」

 

小野公安オペレーターによると、今春から魔法科高校のカリキュラムが大幅に改変されるそうだ。一般魔法科に新たに魔肛科が創設されるのだ。

 

「師匠くん。何か良からぬ事を考えていない?」

 

「考えてませんよ。それより小野先生。魔肛科って何ですか?」

 

小野公安パートタイムオペレーターは、本当に〜等と訝しみながら、説明を続けた。

 

魔肛科とは、フランス書院文庫等の研究に勤しむ文学系コースではなく、魔法工学技術系に重点を置いた学科らしい。

 

「司波くんは、一高の教育カリキュラムまで変えたんや!」

 

「そんな事は…あるけど」

小野遥教諭は、溜息を吐いた。

 

彼女は、新カリキュラム創設に際して現行の制度変更について話し始めた。新入生は今まで通り。変わったのは二年生に進級する際の手続きだ。新二年生には、一般魔法科と魔工科のコ ース選択が可能になった 。一般魔法科を選択した学生は従来どおり一科生四クラスと二科生三クラスに分かれて受講する。

 

「実績を上げまくっている司波くんを補欠のままにしといたら格好つかんか。で、学生は司波くん一人?」

 

「それは、流石にまずいでしょう?」

もじもじしながら遥教諭がこぼす。

 

「確かに」

嫌な予感がして来た。

 

魔肛科を志望し三月の試験にパスした学生は、新たに設けられた魔肛科一クラスに転科するそうだ。

 

「師匠くんに、三月の転科試験受けて欲しいの」

椅子の上で身をよじらせながら遥先生が頼んで来た。保健室のイスはよほど座り心地が悪いらしい。

 

新設コースに司波くん一人では、創設の動機があからさまになってしまうので、学校は非公式に転科する学生をリクルートしているのだった。

 

「勉強してないから、受からんと思いますよ」

 

「だって凄い発明」

と言いかけて、遥ちゃんは話題を強引に変えた。

 

「大丈夫!師匠くんなら、絶対合格するから!」

 

おいおい、そんな裏口入学みたいな話を教師がするなよ。しかし、『あれ』がもう公安にまで知られているのか。

 

『あれ』を思いついたのは、反日反魔法師弁護士等提訴の第一回公判が横浜地裁で開かれた日の直後だ。

 

僕は、思いついた魔法式のチャート図を書いて、森崎くんに送信した。

 

すぐに返信が届いた。「今からそっちに行く」だった。

 

「これは、実現可能なのか?」

興奮した様子の森崎くん。本当にすぐに来た。

 

「できるはずや。魔法式を極限まで縮めれば一万字以下になる。それを全部視覚的に暗記して、一度に思い出すだけや。めっちゃ早いし、CADも要らん」

 

似たような事を司波くんがしている。

 

「でも、視覚的に一万語の暗記やそれを一度に思い出すのはどうなんだ?それとこの魔法式は、座標の指定が抜けているみたいだが」

 

「一万語は、安心しろ。視覚情報だけで瞬間的に認識して覚えるんは、昔からある速読の技術や。3ヶ月もあれば誰でもできる。それと座標はxyz座標やない。心で把握するのが前提や。これは時間がかかりそうやけど、道を得てる森崎くんなら大丈夫や」

 

「そうか!」

 

手放しに森崎くんが喜んだのは少しの間だけだった。

 

「師匠。これは、もしかして同時に標的を認識できれば一度に複数撃つのが可能なのか?」

 

「そやな。一人でも一万人でも同じ理屈や。しかも心で把握できれば、遠くでも隠れていても撃てる」

 

「それって、まさか…これは戦◯級魔法じゃないのか?」

 

「まさかの×略級魔法やな」

 

以上『あれ』についての回想終了。

 

「わかりました。三月の試験を受けますわ」

 

僕がそう言ったのを聞いて豊かな胸を撫で下ろす遥ちゃん。相変わらずイスの上で身をよじらせている。

 

「師匠くん。何か変なことしてない?」

 

「何もしてませんよ、ちゃんと魔肛科に転科しますから」

 

「本当〜?」

遥ちゃんは後陰がただならぬ状態になっているようだ。柴田さんみたいに己の欲望に忠実になった方が良いですよ!小野遥教諭。

 

◇◇◇

 

11月末に我が国と大亜との平和条約が無事締結されたし、構わないだろう。それに、×◯級魔法なんてあと数年で珍しくなくなる。だから、書いても差し障りないと思うのだが、NGらしい。

 

という事で、次回から不定期連載になります。これからも『余命三年時事日記』をよろしくお願いします。

 

そういえば、もう『三年』ではなく、あと『二年』だった。(⇦伏線ですよ!)

 

三代目 河原真知

 

 

 




D.カーチス 他2名
睡眠学習法 (1965年) 出版社 黎明書房

君も睡眠学習で魔法式を丸暗記して、CAD無しの戦略級魔法師になれる?


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