古宮 咲の暗殺教室 (隔離場)
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蛇足の時間
プロフィールの時間


挿絵は絵を描くのが好きな友達に書いてもらいました。
性格と性別を告げて1度目の下書きでイメージ通りにしてくれたのでやりおると思いました。


名前:古宮 咲(こみや さき)

 

性別:男

 

誕生日:8月1日

 

身長:154㎝

 

体重:53㎏

 

血液型:A型

 

体脂肪率:1%以下

 

得意科目:国語

 

苦手科目:とくになし

 

趣味・特技:読書、模範

 

将来の目標:お爺様

 

好きな食べ物:梅干し

 

嫌いな食べ物:貝

 

好きなもの:本、アニメ

 

嫌いなもの:くすぐりなどの刺激

 

食性:草食

 

座右の銘:大抵やればなんとかなる

 

自分は色で表すと何色か:黒

 

あこがれ:長身男性

 

意外な特技:ジャグリング

 

所属部活:帰宅部

 

弁当派or買い食い派:弁当派

 

宝物:屋敷

 

選挙ポスター:『辞退します。仕事があるので』

 

好きな女性のタイプ:不明(本人すらも分からない)

 

好きな動物:フクロウ

 

見た目:

【挿絵表示】

 

 

一人称:私(興奮時 俺)

 

三人称:○○さん、○○くん(心の中では呼び捨て)

 

扱う武器:ヌンチャク、ナイフ、銃、槍、ワイヤー

 

戦闘スタイル:武器を服に仕込み、次々と武器を取り換えて戦う。どれか一つで戦うと決めたときは武器を手放しその武器のみを使う。

 

≪家族構成≫

【父】古宮 総司

【母】古宮 遥

【姉】古宮 海

 

≪各種能力≫

 

【暗殺能力】 ※6段評価

戦略立案:3

指揮、統率:4

実行力:5

技術力:4

探査、諜報:6

政治、交渉:5

 

【個人能力】 ※5段評価

体力:4.5

機動力:4

近接暗殺:5

遠距離暗殺:3.5

学力:5

<固有スキル>

家事:5

収納:4

模範:5

 

≪詳細情報≫

古くから続く名家、古宮家の長男。深月家に仕え、当主の安全確保・奉仕を主に行う。

 

素行・成績ともに高評価で、A組を代表する秀才の一人として扱われている。実際は仕えている深月家と古宮家の両家に悪印象を抱かせないために一心不乱に勉強し続けた結果である。

 

咲の知識欲は一度勢いがついたら止まらず、古宮家・深月家に保管されているありとあらゆる書物を読み漁るほどである。その甲斐あってかキノコなどの山に自生するありとあらゆる食用野草などを見つけることが容易になった。

 

深月家の安全を確保するという名目で幼いころ祖父である『古宮 一徹』に彼のオリジナルの武術を叩き込まれている。古宮自身武術に関して高い素質を持っており、人の動きを視て動作を模範することを得意とした。現在では数々の格闘技の動きを記憶しており、それらを臨機応変に駆使して独特な戦闘を展開する。

 

咲の模範能力の範囲は創作にも及び、拳を発火させるなどの人体に不可能な動きでなければ多少は模倣できる。

 

訓練の成果か、五感が日に日に鋭くなり、より多くの情報を自身で取り入れることができるようになった。

 

扱う武器などを服に仕込む癖があり、明らかに入りそうにないものを取り出してくることがある。

 

≪クラスメイトへの印象≫

 

カルマ:無類のいたずら仕掛人。

磯貝:器用貧乏。イケメン。

岡島:欲望に忠実。

岡野:スタイリッシュ。

奥田:正直者。

片岡:頼りがいのある委員長。

茅野:甘党。

神崎:大和撫子。

木村:目を見張る機動力。

倉橋:動物に詳しい小動物。

渚:優さんに紹介したい。

菅谷:天性のデザイナー。

杉野:投球の軌道が読みにくい。

竹林:メイドやアニメに詳しい。

千葉:狙撃手としての腕は天下一品。

寺坂:いまいち記憶に残らない。

中村:劣化カルマ。

狭間:目が恐ろしい。会話は面白い。

速水:言葉の裏にある本音が見え隠れ。

原:家庭的。

不破:漫画に詳しい。

前原:女性の敵…?

三村:想像力が豊か。(エアギター的な意味で)

村松:ラーメンの作り方を指導してもらいたい。

矢田:弟思い。理想の姉。

吉田:無免許運転者。

鳥間:人間卒業済み

イリーナ:天性のビッチ

 

 

 

 

 

 

名前:深月 優(みづき ゆう)

 

性別:女

 

誕生日:11月29日

 

身長:173㎝

 

体重:47㎏

 

血液型:B型

 

得意科目:国語

 

苦手科目:社会

 

趣味・特技:メイド鑑賞、速読

 

将来の目標:従者全員メイド服

 

好きな食べ物:甘い物

 

嫌いな食べ物:辛い物

 

好きなもの:睡眠

 

嫌いなもの:仕事

 

食性:肉食

 

座右の銘:楽のための苦を厭わない

 

自分は色で表すと何色か:青

 

あこがれ:学生

 

意外な特技:書類整理

 

所属部活:元ハンドボール部

 

弁当派or買い食い派:弁当派(持たされる)

 

宝物:従者

 

選挙ポスター:『慌てない慌てない、一休み一休み』

 

好きな女性のタイプ:包容力のある人

 

好きな動物:猫

 

見た目:茶髪ロングのおっとり系

 

一人称:私

 

三人称:○○くん、○○ちゃん

 

扱う武器:体術、銃

 

戦闘スタイル:ヒットアンドアウェイ。一撃離脱。

 

≪家族構成≫

【父】深月 慶(死亡)

【母】深月 藍(死亡)

 

≪各種能力≫

 

【暗殺能力】 ※6段評価

戦略立案:4

指揮、統率:4

実行力:3

技術力:2

探査、諜報:6

政治、交渉:6

 

【個人能力】 ※5段評価

体力:2

機動力:4

近接暗殺:3

遠距離暗殺:3

学力:4

<固有スキル>

直観:5

 

≪詳細情報≫

日本でも有数の名家、深月家の長女。防衛相所属。

 

前当主で父である深月 慶の恐怖で人を従わせるという方針に異議を唱え、齢24にして深月家の当主に上り詰めた。父の所為で心を閉ざした従者に毎日接し、少しずつ心の壁を溶かしていった。元々いた従者は望むままに転職を許可し、残った従者は古宮家の人材のみとなった。

 

非常にフレンドリーな性格で、初対面の人物にも少なからず好印象を植え付けることができる卓越した対話術を持つ。

 

稀に重要な情報を伝達し忘れるなどの失敗が友人間で発生するが、仕事中はミスをしない。友人にはしっかりしろとよく言われるが、本人は常に必死なので報われていない。

 

メイド服に対して謎の思い入れがあり、従者である咲にそれとなく薦めるが、命令して着させるのは背徳感が胸を締め付けるためできないでいる。

 

感が非常に鋭く、無くした本の位置から銃弾の軌道まで、全ての事柄を勘で切り抜けてきた。

 



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本編
1話 心配の時間


他の作品の投稿が控える中、やっちゃいました!勘弁してください!(建前)

勉強とかの息抜きで投稿してる感じにしようと思います。


私の名前は古宮 咲。椚ヶ丘中学校の3年A組に所属し、家に代々伝わる使命に乗っ取り深月家の従者として働く日々を送っている。

 

私達の仕事は深月家の人物の身の回りの世話・警護だ。主人の要望には基本絶対服従。反論することは許されない。と父の古宮 誠司に教わった。なお、どうしても叶えられない要望であれば、不満に思われないような代案を提案しなければならない。

 

私は中学生ということもあり、平日や行事で学校のある日は私の父が代わりに仕事をしている。私は休日を返上して働いている。

 

深月家の命に従い行動するというある意味束縛されていると捉えれる日々だが、あまり不快感はない。現当主で私が仕えている深月 優さんは気分屋だが無茶な命令をしないし、それなりに上等な待遇も受けている。一応親しみを込める意味合いで優さんと私は呼んでいる。…いや、呼ばされている。前の当主の鬼畜指導には散々痛い目にあわされたが、今は平和に過ごせている。この生活で唯一不満があるとすれば、優さんがなにかと私にメイド服を薦めてくることだろうか。

 

一人称が“私”なのは最近見たアニメの執事キャラの一人称がどれも“私”だったからそれを真似しているだけだ。特に深い意味はないので私の部屋のクロ―ゼットにメイド服を入れるのと、私の本棚に『世界のメイド服』などという本を入れるのはやめてほしい。私に女装癖は無い。ついでに着る気もない。

 

 

 

 

 

 

 

ではなく。

 

最近変わったことが二つほどあった。

 

一つは月が7割ほど蒸発し、今後三日月しか見られなくなったこと。

 

これに関しては正直どうでもいい。月など私はあまり見ないし。優さんが「お月見の楽しみがなくなったじゃないか!咲ちゃんなんとかして!」とか言ってたが無理だ。出来るわけがない。あと咲ちゃんって言うな。

 

もう一つはついに優さんの頭がおかしくなったこと。

 

なんでも仕事場に月を爆破した『イケイノセイブツ』さんとやらが来て、飛び交う銃弾を交わしながら椚ヶ丘中学校の3年E組の担任をやると言い出したらしい。

 

 

 

「…どうかされましたか?最近頭をどこかに強く打ったとか」

「大丈夫!打ってないし正常だからその目をやめて!」

 

 

私は優さん――というか深月家の仕事を全て把握しているわけではないので心労はまるで理解できないが、幻覚・もしくは妄想に取りつかれているであろう目の前の優さんを見るとかなりのストレスがかかるようだ。流石防衛相。

 

私にそのストレスをぶつける日が来ないことを切に願っていたが、この主人はもう既に準備を終わらせていたらしい。

 

「あ、そういえば咲ちゃん来週からE組で授業ね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――は?」

 

この主人に罵声と暴力を浴びせたくなった。そんなことを考えてしまったが私は悪くないはずだ。多分。

 

E組とは、椚ヶ丘中学校に存在する特別強化クラスのことを言う。椚ヶ丘では学力の高い生徒を集めたA組、次いでB、C、Dとランク付けをされている。Eはその中でも最底辺。E組は本校舎から1km離れた別校舎に教室があることや、集会などで専ら馬鹿にされるなどの差別を受けている。

 

…少なくとも私が行きたくないわけではない。人を下に見て優越感を味わう連中の近くにはいたくないから。

 

というか優さんの掴んだ情報がデマだったことは今まででもそうないので『イケイノセイブツ』さんとやらもいるのだろう。そいつの情報を集めることが今回の目的かもしれない。少し変な声が出たのはビックリしたからという事にしておこう。

 

「……いえ。承知しました」

「あれ、意外。もう少し反応あると思ったんだけどなー」

「話の流れからしてイケイノセイブツさんの調査が目的ですか?」

「うーん。調査ってか暗殺かなー?教室全体でそいつ殺そうとしてるし。あとE組の生徒の様子も見てきてほしいなぁ。突然訳わかんない生物が担任になって混乱してたし」

「了解しました」

「あ、登校するときはここの仕事着でね?」

「了解しま……ここの?」

 

ここの、と言う以上この屋敷での仕事着、つまり今は執事服になるわけだが…。椚ヶ丘は私服禁止だ。指定された制服でないと指導が入る。

 

「…あの、お言葉ですが…」

「だいじょーぶ!理事長に許可とったから!」

「アッハイ」

 

…理事長も理事長で何してんすか。

 

「あとは~、E組に行くにあたっていくつかの支給品が防衛省から届いてるよ。今日の業務はもういいから確認してきなー。口外したら記憶処理だから気を付けてねー」

「はい」

 

記憶処理とかさらっと言われたけど、正直優さんなら本気でやりかねないから困る。支給品というのが何か気になるところではあるが、まぁ貰えるなら貰っていこう。

 

◇◆◇(自室移動中)

 

部屋に入ってまず目についた変化は部屋の中心に見覚えのない段ボールが置いてあること。…防衛省が段ボールで送ってきたのか?……いや、多分優さんが配送料ケチって適当な段ボールに入れて持ってきたな。

 

とりあえず部屋着に着替えてから中身を確認する。いくつかのケースに入った様々な凶器的なものがわんさか出てきた。

 

中に入っていたのは私が普段持ち歩いている武器をそのままゴム製にした物とモデルガン、BB弾と服。同封されていた手紙には武器や服は今回の調査対象に有効打を与えることが出来る物質を加工して作ったものらしい。正直何言ってんのか分からない。

 

服はデザインがうちの執事服と酷似している。これを着ていけば良いのだろうか。ハンガーにかけておく。

 

箱の底の方に耳にはめるタイプの無線機が入っていた。優さんの持っている同じタイプの無線機にのみ繋がる特別製だそうだ。何か面白いことがあれば連絡するように、という意味の文が3か所くらいあった。誰が連絡するか、緊急時のみでしか使わないようにしよう。どうせ夜に根掘り葉掘り聞かれるんだから。

 

明日は月曜日。優さんの言っていたのは”来週“だったのだが、おそらく明日からE組の教室に行けということだろう。…体力は多少自信があるが、山登りは久しぶりだ。

 




ちなみに私がメイド服を着なかったのはクローゼットに執事服があったからです。メイド服を着ろと明言されてないのでそちらを着ました by古宮


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2話 授業の時間

……疲れた。

 

今日からE組の生徒として生活するということで理事長に挨拶をしてきたのだが、やはり彼は不気味な人だ。心の底が見えない。

 

結果的に特に何も問題はないということを告げられた。優秀な生徒を失うのは云々と言っていたが、全く感情が籠っていないので心に全く響かなかった。

 

最後に何か注意事項があるかと質問すると、E組として相応の態度をとれとの事。要するに本校舎の人間に逆らうなという事だろう。……私はA組のときから逆らおうと思わなかったのでいつも通りにしろという事だろう。何ら問題ない。興味のわかない人間に立てついても時間の無駄だ。

 

時計を見ると現在時刻は6時ちょうど。余裕をもって登校してから8時に理事長室を出ようと思っていたのだが、少し……いや、かなり早かったようだ。

 

……まあいい。理事長がこの時間からいるという事はE組の教師も一人くらいは来ているだろう。早めに登校して悪いことはないだろうし、さっさと向かってしまおう。

 

 

◇◆◇

 

 

……正直E組の人たち舐めてた。

 

本校舎から1kmの距離とかはもはやどうでもいい。猪やら蜂やらが出没することは聞いていない。蜂に関してはこちらから何もしなければ大抵は向こうも何もしてこないのでどこかの馬鹿が巣を突かない限りは安全だ。問題は猪のほうだ。なぜ私に突撃してくる。袖に仕込んだゴム製ヌンチャクで気絶させたからいいものを、鍛えていない人が遭遇していたら多少なりとも怪我をしているところだ。とりあえずワイヤー(ゴム製)で縛り上げて山頂まで引きずっていった。後で調理してやる。

 

 

 

 

心の中で愚痴りつつ山道を進み校舎が見えた時、後ろから声が聞こえた。

 

「嗅いだ事の無い匂いがして来てみれば、あなたが今日から編入してくる古宮さんでしたか?」

 

いきなり聞こえた声に驚きつつ振り向くと、いつの間にか体長約2m程の黄色い巨大ダコが黒い服を着た状態で立っていた。うん。異形の生物だわこれ。

 

というか匂いで分かるのか、猪と格闘して汗をかいたから変な匂いがしないといいが。

 

「私の主人の命を受け、こちらに転入させていただくことになりました。古宮 咲です。あなたがE組教師のイケイノセイブツさんですか?」

「にゅや!?イケイノセイブツ!?」

「はい。主人からはそう伝えられたもので……違いましたか?」

「いえ、そう伝えられていたのであれば仕方ありません……。ですが先生のことは殺せんせーと呼んでください。古宮さんも卒業までに先生を殺せるといいですね~、ヌルフフフ」

 

そう言ってイケイノセイブツこと殺せんせーは顔色を緑と黄の縞模様に変える。……なかなか面白い皮膚をお持ちのようで。

 

ところで殺せんせーの敬称はどうすればよいのだろう。一応名に先生とついているのでそのままで呼べばいいのだろうが、少し気になった。

 

「了解しました。殺せんせー」

「はい、では皆さんに紹介しましょう。先生についてきてください」

 

 殺せんせーに連れられ、校舎内の職員室に入った。

 

「古宮 咲です。失礼します」

 

「来たか、今日からよろしく頼むぞ」

「よろしくお願いします」

 

声をかけてきたのは凛々しい顔立ちをした烏間 惟臣という体育担当の先生で、表向きの担任をしているらしい。……身体つきが凄い。戦ったら絶対に勝てないだろうなぁ……。

 

「とりあえずそろそろ始業の鐘が鳴る時間だ。教室で挨拶をしてくるといい」

「ニュヤ、そうですね。では古宮さん、行きましょうか」

「はい」

 

殺せんせーの後ろを歩いて教室に向かう。床がギシギシ鳴っているのが不安だが、この調子ではまだ抜けないだろう。

 

殺せんせーは私に指示があるまで廊下で待つように言い、先に中へと入っていった。

 

教室の中の声は私にも聞こえてくる。

 

『HRを始めます。日直の人は号令を!』

『起立! 気をつけ! 礼!』『ドパパパパパ!!』

『発砲したままで結構ですので出席を取ります』

 

……なかなか楽しそうなクラスだな(汗)

 

音量からしてクラス全員の一斉発砲とかなのかな?殺せんせーが余裕そうなのが少し腹立たしい気もする。

 

『今日も遅刻なし…っと。素晴らしい!……さて、今日は以前から話していた編入生を紹介しようと思います。古宮さん、入ってきてください!』

 

呼ばれたので扉を開けて教室に入る。

 

床に大量のBB弾が散乱しているので、教壇の上の比較的綺麗なところに飛び移る。

 

とりあえず自己紹介……え-、

「古宮 咲です。これからよろしくお願いします」

 

これでいいのだろうか?これまでの自己紹介イベントはこれで乗り切ってきたのだが…。

 

「えっと、それだけですか?」

 

お気に召さなかったようだ。

 

「いえ、私の情報などあまり価値のないものですし、皆さんが求める情報を的確に話すことができないので……」

 

「う~む。では質問タイムといきましょうか。質問がある人は手を挙げてください。古宮さんも答えられる範囲でいいので答えてあげてください」

「了解しました」

 

まず手を挙げたのは窓側の一番前のさわやかそうな男子生徒、前原というらしい。

 

「なんで執事服着てんの?」

「主人の指示です」

「主人?」

「私が仕えている屋敷の現当主の方です」

「リアル執事か……」

「その通りです」

 

前原の質問がこれ以上ないようになので次の人の番になった。

 

次に手を挙げたのは前原さんの隣の女子生徒。学級委員の片岡さんというらしい。

 

「執事ってどんな仕事するの?」

「本来の執事は食器の管理やお客様の対応になります。ただ私の場合はそれらと合わせて主人の警護も行っています」

 

「じゃあ古宮くんって強いの〜?」

 

割り込んで質問してきたのはふわっとした髪型が印象的な女子生徒。名前は殺せんせーが呼ばなかったので分からないが、後で聞くことにしよう。

 

「いえ、多少武術の心得はありますが家の中では一番弱かったと自負しております」

 

本気で腕を折りに来る姉をどうにかしてほしい。切実に。

 

「へー、ところで裏に猪が転がってたけどあれやったの?」

 

さらに割り込み。一番後ろでふんぞりかえっている男子生徒だ。あの顔は確か暴力沙汰を起こした赤羽だったか。

 

「はい。登校中に襲い掛かってきたので気絶させておきました。下校時刻になっても気絶しているようなら焼肉にでもしようかと」

「へぇ、猪を気絶ってどんな手使ったの?」

 

袖からヌンチャクを出して軽く殴っただけと伝えると面白いヤツを見る目になった。怖い。

 

すると窓際の女…男子生徒か。が手を挙げた。潮田というらしい。

 

「使う武器はヌンチャク?」

「いえ、基本は格闘です。ヌンチャクは祖父に教えられた武器の一つです」

「ってことは他にも使えるの?」

「はい。槍、ナイフ、ヌンチャクなど。格闘がメインとは言いましたがあまり模擬戦などには向いていないでしょう」

 

ここまで答えてノイズ混じりにチャイムが鳴った。とりあえず授業を受けてみよう。

 

私の席は一番後ろ、赤羽の隣で奥田という三つ編み女子生徒の後ろになった。とりあえず周りの生徒に挨拶だけしておいた。

 

 

◇◆◇

 

 

 

授業を受けた結果からいうと殺せんせーの授業はとても分かりやすかった。ただただ速く教えることに重点を置いたA組の授業とは大違いだ。速いことは速いが、生徒の理解が追いつくようにたまにギャグを入れたりする。まぁ、もう次週でやっていた内容なので真剣には聞いていなかったが。

いや、殺せんせーが生徒の名前を呼ぶのは聞いていたか。4時間も聞いたおかげで生徒の大半の苗字は覚えた。一応メモは取っているが。

 

昼食は近くにいた赤羽と潮田と一緒に食べた。その時に1人に苗字で呼ぶを禁止されたので今後はカルマと渚で呼ぶことになったのだった。かなりどうでもいいが渚さんと呼ぶとと女子感がかなり増す。

 

昼食を済ませて5時間目の体育をすることになった。流石に体操服まで執事服という意味不明なことはなかった。武器は執事服と同じように仕込んだが。

 

体育の主な内容はナイフや狙撃などの暗殺に必要な基礎技能を鍛えるようだ。準備体操としてナイフを振るようなので見様見真似で振っていた。ナイフの型なんか知らなかったよ。

 

準備体操終了後、鳥間先生と生徒の模擬暗殺が始まった。

 

ナイフを鳥間先生に当てれたら加点されるらしいが、もちろん皆当てることができない。二人係でも駄目とか鍛えてんなぁ。

 

「では次、古宮君。いけるか?」

「できるとは思いませんがやってみましょう。ところでこれはナイフ以外で攻撃が当たった場合は加点はないのですか?」

「そうだな…体術を駆使して攻撃を当てるというのであれば加点は行おう。ただしナイフのほうが点数は高いぞ」

「了解しました。では、胸をお借りします」

 

 

◇◆◇

 

彼らの戦闘を見た生徒たちは戦慄していた。

 

咲の着る服からどこからともなく抜き取られる武器の数々、それらをすべて捌く鳥間に目を奪われていた。

 

振るわれるナイフ、弾く手。

突き出される槍、掴む手。

絡みつく肢体、振りほどく手。

 

一見先が不利に見える状況だが、足元に転がっていく武器の重さに比例して咲の速度は増していく。一方の鳥間はかなり手加減しているとはいえ、段階的に速度を上げていく先の対応が難しくなっていく。

 

咲の持つ武器、袖から取り出した2つ目のヌンチャクが弾き飛ばされた時だった。

咲が全身の力を抜き構えを解いた。

 

「流石に勝てませんね。これでは」

「君は武器の隠し方はうまいが一つ一つの動きが単調だ。工夫を凝らさないと俺に攻撃は当たらないぞ」

「それもそうですね。今のところ鳥間先生から攻撃しようというという気配が感じられませんし、()()は取ってもよさそうです」

 

そういうと咲は服に手を入れ、胸のと背中に開けられた内部ポケットから厚さ5mmほどの鉄板を取り出した。

 

「では再度攻撃行動に移ります」

 

両手の鉄板を手放し、烏間に肉薄する。咲はバイクもさながらの速度で鳥間に走り寄るが、飛来する矢を掴み取れる鳥間にはそれでも遅く見えた。

鳥間の間合いに入る直前、咲は地面を強く蹴り前方宙返りを行う。

本来であれば何の意味もない無駄な回転だが、鳥間の意表を突くことには成功した。宙返り中に足を延ばし、踵落としに移行する。

鳥間は体を逸らすことで躱すが、突然のことに動揺し軽く体勢を崩してしまう。

その鳥間の頭にもう片方の足の踵落としが迫る。

 

「反応が速いのはすごいと思いますがこれが防がれると流石に落ち込みます」

 

鳥間は両腕を交差させて攻撃を防いでいた。それを確認した咲は両手で逆立ちをしつつ悪態をつく。

即座に足を鳥間から離し、地面すれすれを先ほどの速度で走り拾ったナイフで足を切り付ける。

 

「……そこまで。見事だった」

「ありがとうございました」

 

◇◆◇

 

 

鳥間先生との模擬暗殺を終え、武器を回収してからクラスの待機場所に戻ると、いろんな視線が突き刺さった。大半が「お前凄いな!」みたいな尊敬の眼差しだったけど少数ながら「お前なんなんだよ…」みたいな視線も向けられた。こっちが困るのでそんな目で見ないでほしいものだ。

それにしても最近漫画で見ただけの技だったがやはり上手くいかなかったな。今後も訓練しなければ。

 

 

6時間目は小テスト。少し面倒な引っかけ問題のある各教科満遍なく問題が割り振られた小テストを渡された。意外と難しめだったが攻略のヒントを問題文から絞り出して何とか100点をとれた。なんで最後の問題中学の最後の方に習うやつだったのかねぇ、殺せんせー?

 

うん。授業の分かりやすさとか雰囲気とか見てもこっちの方が過ごしやすいな。

 




立体起動する武器搭載ゴキブリ系主人公


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3話 痴女の時間

なんか筆が進むなぁ…なんでだろ


「もう5月かぁ…早いね、一か月」

 

模擬暗殺から1週間。私は特に暗殺などを仕掛けずに皆のサポートに回っている。結局優さんに命令されたのは殺せんせーの生態調査とクラスメイトの様子を見ること、隙があれば試してみようと思うが、消極的な活動が私には好ましい。

 

この1週間でクラスメイトとはある程度の友好関係を築けていると思う。とりあえず全員の姓名は覚えた。寺坂さん、吉田さん、村松さん、狭間さんとはあまり話せていないし、基本的に控えめの性格の人物との交流は控えている。

 

渚からはこれまでに行ってきた暗殺と判明している弱点メモを共有してもらった。……テンパるのが意外と早いってのは使えるかもな。

 

教室で仮眠をとっているといつの間にかHRの時間になっていた。

 

「…今日から来た外国語の臨時教師を紹介する」

 

「イリーナ・イエラヴィッチと申します、皆さんよろしく!!」

 

…殺せんせーにベッタベタな女性が教室に来た。なんというか、嘘くさい。

 

「本格的な外国語に触れさせたいとの学校の意向だ、英語の半分は彼女の受け持ちで問題無いな?」

 

「…仕方ありませんねぇ」

 

茅野と渚がなにやら話しているように見えるが、読唇術はまだ未熟なので部分的にしか読み取れなかった。

でも弱点メモを用意しているという事はこれが弱点につながると考えたらしい。私も一応用意しておこう。

 

 

殺せんせーがイェラビッチ先生のほうを向くと、ピンク色で頬を赤くして口元が緩ませた。

 

……あれがデレッとした顔と言うのだろうか油断していると捉えたらいいだろうか。とりあえずメモに『色仕掛けが通用』と書き足しておく。

 

まぁ、巨大生物を暗殺しようと勤しむ暗殺者のタマゴ擬きが育成されているこの教室にこの時期に来るという事は教師側にも暗殺者を入れようという魂胆だろう。しっかりと授業をしてくれればいいのだが。

 

 

◇◆◇

 

 

昼食後、ほとんどの生徒がサッカーをしつつ殺せんせーの暗殺を…いや、殺せんせーの暗殺を試みつつついでにサッカーをしている。

私は暗殺はしていないが、殺せんせーの暗殺の流れ弾をかわしながらボールを奪おうとしていた。なんでサッカーにボールを4つも使うのか……。

 

「殺せんせー!」

 

そこに甘ったるい声が割り込んでくる。この声はイェラビッチ先生だな。間違いない。うちの生徒でこんな声出せそうなのは……女子は出せるかもしれない。あれ、自信なくなってきた。

 

声の出どころを見てみると手を振りながらこちらに歩いてくるイェラビッチ先生がいた。予想が当たったのはよかった。

 

「鳥間先生から聞きましたわ、すっごく足が速いんですって?」

「いやぁ、それほどでもないですねぇ」

「お願いがあるの。一度本場のベトナムコーヒーを飲んでみたくて、私が英語を教えてる間に買って来て下さらない?」

「お安い御用です。ベトナムに良い店を知ってますから」

 

殺せんせーはイェラビッチ先生と会話している間常にピンク色だった。ほんとどうなってるんだあの皮膚。

会話終了後に即座に飛び立ったという事はベトナムに向かったのだろう。相変わらず速いな。

 

校舎から予鈴が聞こえてくる。この離れた校舎でも一応遅刻者は減点される。さっさと戻るかな…。

 

そう思っていると学級委員の磯貝が率先してイェラビッチ先生に話しかけていた。

 

「えーと、イリーナ…先生?授業始まるし教室戻ります?」

 

その言葉を聞いてライターを取り出し煙草を吸いだすイェラビッチ先生。

 

「授業?…ああ、各自適当に自習でもしてなさい。それと、ファーストネームで気安く呼ぶのやめてくれる?あのタコの前以外では先生を演じるつもりもないし、『イェラビッチお姉様』と呼びなさい」

 

不快感の漂う甘ったるいこえが無くなってくれてよかった。素であれだったら少し怖かった。とりあえず呼び方はどうでもいいから学校の敷地内で煙草を吸うのはやめてほしいんだが…未成年が大量にいるんだし。

 

「…で、どーすんの?ビッチねえさん」

「略すな!!」

「あんた殺し屋なんでしょ?クラス総がかりで殺せないもんスタ、ビッチねえさん一人で殺れんの?」

 

そういえばクラス一斉射撃とかやってたな。あとタバコ捨てんな。

 

「…ガキが。大人にはね、大人の殺り方があるのよ」

 

そういうと渚の方に歩いていく。イェラビッチ先生が拾わずに歩き始めたからこっちで煙草拾っといた。

 

「潮田渚ってアンタよね?」

 

そういうと答えも聞かず渚に濃厚なディープキスを仕掛ける。茅野が動揺の声上げてるのがよく聞こえるが、色仕掛けで殺せんせーをだらしなくさせてたし可能性はあったろ、こういう人って。…にしても渚は可哀そうに、あれ初だろ。

 

「後で教員室にいらっしゃい。あんたが調べた奴の情報聞いてみたいわ。…ま、強制的に話させる方法なんていくらでもあるけどね。

その他も!!有力な情報持ってる子は話に来なさい!良いことしてあげるわよ。女子にはオトコだって貸してあげるし」

 

その言葉で3人の男が近くに来ていることに気づいた。…すれ違ったときに火薬と鉄、若干の加齢臭が漂ってきた。互換がいいとこういう嫌なことがたまにあるから困るんだが。——確か殺せんせーも互換は鋭いって聞いたな。伝えたほうがいいのだろうか。

 

「技術も人脈も全て有るのがプロの仕事よ。ガキは外野でおとなしく拝んでなさい。あと、少しでも私の暗殺の邪魔したら…殺すわよ」

 

…いいか。別に。多分教えても失敗するし。

この人達がどんな暗殺をするか楽しみだ。失敗した後の表情も含めて。

 

 

◇◆◇

 

 

臨時の教師としてやってきたイリーナ・イェラビッチ先生。プロの暗殺者とは聞いたけど、いろいろと甘すぎる気がする。

 

イェラビッチ先生は煙草を吸っていたし、お付きの男達は無駄な臭いが多い。殺せんせーの嗅覚が敏感なのは渚から聞いたことだから、渚から先生には伝えられていると思う。それでも今のところなんの対策もしてないのはわざとなのだろうか?

 

ちなみにそのイェラビッチ先生は教壇でタブレットを叩いて計画を練っているようだった。臨時教師とは何だったのか。授業しろよ、授業。

 

「なービッチねえさん。授業してくれよー」

「そーだよビッチねえさん」

「一応ここでは先生なんだろビッチねえさん」

 

耐えきれなかったのか前原が声をかける。その声に便乗するようにビッチコール。しかもbitch(いやらしい)の方の発音だ。これは酷い。

 

「あーー!!ビッチビッチうるさいわね!!まず正確な発音が違う!!あんたら日本人はBとVの区別もつかないのね!!」

 

イェラビッチ先生も耐え切れなくなったのか叫び、正しいVの発音を教えるといい、生徒に下唇を歯で軽く噛ませた。

 

「…そう。そのまま1時間過ごしてれば静かでいいわ」

 

これを聞いて吹き出しかけた私は悪くないと思う。授業する気がないのは最初から分かっていたが、これでは生徒のヘイトを集めるばかりだ。やっぱりわざとだろ。

 

ちなみに私は終始自習をしていた。1時間丸々空いたおかげで宿題を終わらせてからの予習も少しできた。ありがたい。

 

 

◇◆◇

 

 

翌日5時間目。体育の射撃訓練中。

 

「…おいおいマジか、2人で倉庫にしけこんでいくぜ」

 

三村だったか。髪型が多少特徴的な男子生徒がイェラビッチ先生と殺せんせーが倉庫に向かっているのを発見した。

 

「…なんかがっかりだな殺せんせー、あんな見え見えの女に引っかかっちゃってさ」

「ここで暗殺失敗して諦めて帰ってくれたら気が楽なんですがね。あの人香水きついですし」

「…古宮が久しぶりに口開いたと思ったら軽い毒吐きやがった」

 

そこまで黙っている自覚はなかったが…周りからしたら無口に思われているのだろうか?

 

まあ最近心の中でしか話してないような気もしたし。突っ込むのはよそう。

 

「鳥間先生、私たち……あの人のこと好きになれません」

「……すまない。プロの彼女に一任しろとの国の指示でな。…わずか1日で準備を整える手際の良さ、殺し屋として一流なのは確かだろう」

「国も人を見る目がないという事ですね」

「…黙秘させてもらおう」

 

そんな会話をしていると、倉庫の方から銃撃音が聞こえてきた。先日クラスの前で聞いたエアガンの軽い発射音でなく、実銃の腹の底に響く音だった。

 

「実銃?…鳥間先生、イェラビッチ先生に対先生弾を渡していないですか?それとも実銃が効果あるとか」

「いや、奴は鉛の弾は体内で溶かして無力化する。あの弾でないと効果的なダメージは与えられない。彼女にもそう伝えて確かに渡したはずだが…」

 

忠告を聞かないところを見ると冗談かなにかと捉えたのか……ホントにプロなのかあの人。ただの阿呆じゃなくて。

 

ヌルヌルヌル。

「いやぁぁぁぁぁ!!」

 

「な、なんだ?!」

「銃声の次は鋭い悲鳴とヌルヌル音が!!」

 

ヌルヌルと、鳥肌がたつ気色の悪い音と悲鳴が断続的に聞こえてくる。悲鳴は最初の叫びほどの勢いはなくなり、消え入りそうな声になっていた。

 

「めっちゃ執拗にヌルヌルされてるぞ!」

「行ってみようぜ!!」

 

その声に従い生徒のほとんどが倉庫に集まる。ちょうど戦闘が倉庫に着いたと同時に倉庫のドアが開く。

 

「殺せんせー!!」

「おっぱいは!?」

 

最初に声をかけたのは渚だが、次に続けたのは坊主頭の男子生徒、岡島だ。女子から軽蔑の視線を向けられているのに彼は気づいているだろうか。

 

「いやぁ…もう少し楽しみたかったですが…皆さんとの授業のほうが楽しみですから。6時間目の小テストは手ごわいですよぉ」

「…あはは、まぁ頑張るよ」

「私はまた全教科とかじゃないですよね?」

「おや、よく分かりましたねぇ」

「…またか…」

 

この会話をしているうちにイェラビッチ先生もゆらりと倉庫から出てきたが、体操服、ブルマ、頭に鉢巻きとなんとも健康的かつレトロな格好にされていた。

 

…なるほど。これが渚の言っていた暗殺者に対する手入れか。えげつないな……

 

「ま、まさか…わずか1分であんなことされるなんて…肩と腰のコリをほぐされて、オイルと小顔のリンパをマッサージされて…早着替えさせられて…その上まさか……触手とヌルヌルであんなことを…」

 

そういいながら前のめりに倒れる。マッサージが気持ち良すぎて失神したか。

 

「殺せんせー、なにしたの?」

「さあねぇ、大人には大人の手入れがありますから」

『悪い大人の顔だ!!』

 

うっわ、真顔うっす!顔文字みたいだな殺せんせー。

 

「さ、教室に戻りますよ」

「「はーい!!」」

 

皆が意気揚々と教室に戻る中、私はイェラビッチ先生の様子が気になって振り向いてみた。「大人には大人の殺り方が~」とか言っていた人の暗殺が見事に失敗したのでその顔を拝みたいというのが本音だが。

 

イェラビッチ先生は苛立たしさを前面に出した顔をして鉢巻を握りしめていた。

 

…あんな格好にされて赤恥かかされたから怒るのは構わないけど、また迷惑かけてくるんじゃないだろうな。…こっちに矛先が向かない限りはノータッチでいいか。向いたら鎮圧すればいいし。

 

 




分かった。主人公のセリフが少ないからだ!
…やばいな…みんなのキャラが掴みづらい


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4話 大人の時間

翌日の英語の授業、イェラビッチ先生はかなり苛立ったように手元のタブレットを操作していた。

 

黒板には大きい字で【自習】と書かれている。よし、今のうちに高校の範囲も少しやっておこう。あのタコ毎回テストの範囲私だけ全教科のテストを高校に入るギリギリのところを引っかけを駆使して出題してくる。制限時間はみんなと一緒。点数を保つの大変なのに。いじめかなんかかっての。

 

 

「あはは、必死だねビッチねえさん、あんな事されちゃプライドズタズタだろうねぇ~」

 

隣でカルマが呟く。教室がシンとしているせいでよく聞こえるよ。

 

「つーか咲君なんでそんな必死に勉強してんの~?」

「殺せんせーの小テストに対抗するためです。どんな問題かは口では説明しかねるのでこちらをどうぞ」

「うっわ、なにこれ。『円周率が3.05以上であることを証明せよ』?」

「頑張って解いたら殺せんせーがムキになってもっと難しい問題を提示してくるようになりました」

 

 

カルマとそんな会話をしていると、磯貝がイェラビッチ先生に話しかけた。

 

「先生。授業してくれないなら殺せんせーと交代してくれませんか?一応俺ら今年受験なんで…」

「はん!あの凶悪生物に教わりたいの?」

 

イェラビッチ先生の言葉に生徒の顔色が僅かに変わった。そうだな。凶悪(問題を考える)生物だな。

 

「地球の危機と受験を比べられるなんて…ガキは平和でいいわね~」

 

イェラビッチ先生は生徒たちの表情の変化に気づかず言葉を続ける。……この人ホントめんどくさいなぁ…

 

「それに聞けばあんたたちE組って…この学校の落ちこぼれだそうじゃない。勉強なんて今更しても意味ないでしょ」

 

この言葉に全ての生徒の表情が変わった。私は特に何も思わないが、隣のカルマの表情にも少なからず変化が見られる。

 

「そうだ!!じゃあこうしましょ、私が暗殺に成功したらひとり500万分けてあげる!!あんたたちがこれから一生目にする事ない大金よ!!無駄な勉強をするよりずっと有益でしょ?だから黙って私に従い…」

 

その言葉が続けられることはなかった。イェラビッチ先生の髪を掠る形で消しゴムが投げられからだ。先生の体は予想外の反抗に驚いたのか硬直する。おいおい、プロがこの程度で固まってどうする…。

 

「…出てけよ」

 

小さな声とはいえ、その言葉はクラス全体に届いただろう。問題を書き取る手を止めて先生を見る。

そういえばこのクラスでは初めての面と向かっての拒絶だな。よくもまぁここまで皆のヘイトを溜めれるよなぁ。

 

「出てけくそビッチ!!」

「殺せんせーと変わってよ!!」

 

「なっ…何よあんた達その態度っ、殺すわよ!?」

「上等だよ殺ってみろコラァ!!」

 

盛大なブーイングと共に飛び交う様々なもの。消しゴム、紙くず、シャーペン、罵声にペットボトル、水風船。……水風船!?いつ準備したんだよこれ。

 

「そーだそーだ!!巨乳なんていらない!!」

 

様々のものが投げられる中、唯一掲げられた紙には【脱巨乳】。いや、そこじゃないだろ。

 

教室の外では烏間先生が頭を抱えているのが確認できた。お疲れ様です。

 

 

◇◆◇

 

 

「んじゃ、今日も頑張ろうぜ」

 

「「うん!!」」

 

時は流れて翌日の昼休み、生徒の一部はこの時間に遊びがてら暗殺のトレーニングを行う。内容は鳥間先生から教わった『暗殺バドミントン』通常のバドミントンと違い、ラケットではなく木製のナイフを使うため当てにくくなっている。

 

テニスコートの半分を使って行うこのトレーニングだが、私は参加せずに観戦しながら木陰で小説を読むのが定番となっている。誘われたらやるが。

 

理由は……

 

「おっし!やろうぜ咲!」

「前回のリベンジだ!」

「了解しました」

「じゃあ1対6ね」

「構いません。やりましょう」

 

そう言って片方のコートに私が一人。対するコートに磯貝、前原、岡野、木村、杉野、矢田が入った。確か頻繁にバドミントンをやっていて、なおかつ機動力に自信があるメンバーだったか。まぁ、何の問題もない。

 

 

 

「試合終~了!!3対18で古宮さんの勝ち!

 

「だー!また負けた!」

「なんであんなカーブする球打てるのよ…」

 

そう、理由は私が打った球は変則的な動きをする。もちろん狙ってのことだが、これが結構使える。でも不覚を取ってノーマークだった矢田に刺突で点と取られたのがなんか悔しい。

 

「思いっきりこっちに向けて斬撃してんのにその場に打ちあがるだけってなんなんだ…」

 

下からボールを救い上げるように手首だけ動かしただけなのだが…今の仁和にはこれが攪乱に最適だったりする。刺突を細かく行って相手コートまで運んで足元に落とすとか。

 

悔しがる皆を見て背筋がぞくぞくするほどの幸福感に襲われていると予鈴が鳴った。次は英語。またクレームが出ないといいのだが。

 

 

◇◆◇

 

イェラビッチ先生は教室に入って早々クラスの厳しい視線を浴びながらも黒板に英文を書いた。筆記体かよ…。

 

「You're incredible in bed!言って(リピート)!!」

 

いきなりのことで皆呆気にとられている。……なんて英文だ。ひどい。

 

You're(あなたは)incredible(信じられない)in(~の中)bed(ベッド)

 

直訳でベットの中のあなたは信じられない。色仕掛けのプロが言うのであればほぼ確実に房中術のことだろう。読まんぞそんな文。

 

「これはアメリカでとあるVIPを暗殺した時、まずそいつのボディーガードに色仕掛けで接近したわ、その時彼が私に言った言葉よ。意味は『ベッドでの君はすごいよ…♡』」

 

しょっぱなからやらかしたなこの人……思春期男女の教育には毒すぎるだろう…。

 

「外国語を短い時間で習得するにはその国の恋人を作るのが手っ取り早いとよく言われるわ。相手の気持ちをよく知りたいから、必死で言葉を理解しようとするのよね。私は仕事上必要な時…その方法で新たな言語を身につけてきた」

 

確かイェラビッチ先生は十か国語を操るんだったな。仕事の回数とほぼ同じか。私も一応四か国語は話せるが幼少期の教育込みでこれだ。イェラビッチ先生がどのくらいから暗殺の仕事をし始めたかなど興味もないが、かなりの努力を必要とするはずだ。

 

「だから私の授業では…外人の口説き方を教えてあげる。プロの暗殺者直伝の仲良くなる会話のコツ、身につければ実際の外人と会った時に必ず役立つわ。受験に必要な勉強なんてあのタコに教わりなさい、私が教えられるのはあくまで実践的な会話術だけ。もし…それでもあんた達が私を先生と思えなかったら…その時は暗殺をあきらめて出ていくわ……そ、それなら文句ないでしょ?…あと、悪かったわよいろいろ…」

 

最初のプライドを掲げたわがままな態度はどこへやら、今のイェラビッチ先生は生徒からの批判に怯えるほど気が弱くなっている。すっごい嫌がらせしたいが体裁を保つために抑えなければならない……。

 

クラスからは笑いが起きる。皆も最初とのギャップが面白いと見た。

 

「何ビクビクしてんだよ、昨日まで殺すとか言ってたくせに」

「なーんか普通に先生になっちゃったな」

「もうビッチ姉さんなんて呼べないね」

 

「あんた達…分かってくれたのね…!」

 

岡野の言葉にぶわっと目じりに涙を浮かべるイェラビッチ先生。あれが感涙というやつか。

 

「考えてみりゃ先生に失礼な呼び方だったよね」

「んじゃ、これからは普通に読んであげないとね」

「じゃ、ビッチ先生で」

 

ビキッと、イェラビッチ先生からそんな音が聞こえた気がした。涙は、消えた。

 

「えっ…と、ねぇキミ達、せっかくだからビッチから離れてみない?ホラ、気安くファーストネームで呼んでくれて構わないのよ」

「でもなぁ、もうすっかりビッチで固定されちゃってるし」

「うん、イリーナ先生よりビッチ先生のほうがしっくりくるよ」

 

うっわ、可哀そうに( ´∀` )

 

「そんなわけでよろしくビッチ先生!!」

「授業始めようぜビッチ先生!!」

 

 

 

「キーーーッ!!!やっぱりキライよあんた達!!」

 

 

こうして、E組に新しい暗殺仲間がやってきた。色仕掛けのプロ、イリーナ・イェラビッチ先生。これから彼女がどんな活躍をするのか楽しみでならない。

 

あと、イェラビッチ先生改めビッチ先生のことは優さんに無線機を通して先に伝えておいた。おそらく机であろう物をドンドンと叩く音がしたので恐らく悶絶しているのだろう。楽しんでもらえて何よりだ。

 




誤字、意見、感想あれば教えてください!


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5話 集会の時間

暗殺教室の世界ではもうすぐ試験ですが、私の高校でも試験がありました。

何一つ勉強していませんでしたが、赤点/追試共に回避しました。
科学の元素記号と名前20問完答で5点って配点おかしいんじゃないですかね?


ビッチ先生が教室に馴染んでものの数日、私達は急いで山を下っていた。

 

月に1度の全校集会。E組の生徒は昼休みを返上し本校舎の体育館に整列していなければならない決まりがある。正直軽い嫌がらせ程度にしか思えない。

 

私は5分もあればどんな妨害ありでも下山できるため、けが人がいないかの確認をしつつ最後尾を歩く。途中橋が崩れていたり、蛇が出てきたり、山頂の方から岩が転がってきたり、蜂が襲ってきたりしたが、手持ちの武装で何とかなった。

 

橋は渡らず迂回し横幅が狭くなったところを飛び越えた、蛇はポケットから出したワイヤーで頭を雁字搦めにして無力化し、岩は背中から出した槍で進路をそらし、蜂は袖のヌンチャクで死なない程度に全て叩き落とした。なんとか危機は脱したが、偶然その様子を目撃していた矢田、原、不破の3名にドン引きされた。……いや、不破は目を輝かせていたか。

 

「それだけ強いなら私達負っていけるんじゃない?」

「やりましょうか?」

「え、できるの?!」

「古宮家の男は全身の筋力を鍛えあげられます。私の場合は前の主人の意向でより強く鍛えられました。よって所持可能重量は130kgほどです」

「ひゃくさっ…」

「では参りましょう。今から私が全力で走れば2分ほどで到着です」

「や、やっぱ遠慮しようかなー…」

「そうですか…では又の機会に」

 

その後もクマが現れるハプニングに遭ったが、威圧しながらクマに微笑むと大急ぎで退散していってくれた。賢いクマだ。殺すのは最後にしてやろう。

 

やっぱり3人に怪訝な目をされた。冗談だから!

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

一応怪我なく本校舎まで降りてこれた。他の皆はかなり疲れてるが。岡島なんか2匹ほどの蛇に巻きつかれて倒れているが、あれは毒性のないものなので無視しておこう。

 

「ほら皆!急いで整列しようぜ!」

 

疲れきった皆を鼓舞しながら体育館に向かう磯貝。さすがの指揮力だな学級委員。

 

体育館内はE組以外の生徒はポツポツと集まっている。E組は整列してるけどな。これがこの学校の理事長、浅野學峯の教育方針だ。

 

勉強が遅れ点数が取れなくなった人を劣悪な環境におき、そこには行きたくないと思わせることでD組以上の生徒の学力向上に努める。悲しいかな、人は自分より下にいる比較対象を持つことでそれ以下になりたくないと思わせる心理がある。

 

素晴らしく合理的で、ツマラナイ教育理論だ。

 

この集会も理事長の作戦の一つ。

 

『――要するに、君たちは全国から選りすぐられたエリートです。この校長が保証します。…が、慢心は大敵です。油断してると…どうしようもない誰かさん達みたいになっちゃいますよ〜』

 

瞬間、体育館中のE組以外の生徒は爆笑の渦に包まれた。毎度毎度のことだが耳障りな笑いだ。醜悪な笑い声と嬉しそうな生徒の顔。見るだけで不快感が増す。正直こいつらの顔を一人づつ殴ってやりたいが、古宮と深月の両家に迷惑をかけることはできない。我慢、我慢。

 

『こら君達笑いすぎ!!校長先生も言い過ぎました』

 

白々しい。自分も愉快そうに大笑いしていたくせに。…その髪の少ない頭弾け飛んでくれないかな、ダルマが出てきてもいいから。

 

「渚、そーいやカルマは?」

「サボリ。集会フケて罰喰らっても痛くも痒くもないってさ、素行不良で成績優秀ってこういう時羨ましいよ」

 

私の後ろの方にいる渚と菅谷が笑い声を無視して話している。…確かに移動の時もいなかったな。私もサボればよかった。

 

『続いて生徒会からの発表です。生徒会は準備を始めてください』

 

生徒会発表の準備時間、烏間先生が体育館に入ってくる。本校舎の先生に挨拶しているようだ。

 

「烏間先生〜、ナイフケースデコってみたよ」

「かわいーっしょ」

 

今度は私の前の方で倉橋と中村がナイフケースを烏間先生に見せている。それぞれ兎と十字架がデザインされている。なかなか上手いな。

 

(……ッかわいいのはいいがここで出すな!!他のクラスには秘密なんだぞ暗殺のことは!)

「…はーーい…」

 

烏間先生はナイフケースを他の生徒が見れないように手で隠した。

 

「…なんか仲よさそー」

「うちのクラス先生も生徒もブサメンしかいないのに…」

 

D組の女子2人が羨ましそうに烏間先生を見ている。…多分後ろの男子2人は言っていいと思うぞ。お前らが言うなって。

 

そういえば、E組って顔面偏差値かなり高いよな。男女の共に。それぞれの魅力が溢れている。私以外は。

 

そうこうしているとビッチ先生も体育館に入ってきた。

 

「ちょっ…なんだあのものすごい体の外国人は?!」

「あいつもE組の先生なの?」

 

こちらも他のクラスの方から聞こえてくるが、お前らその羨ましそうな声と目線をやめろ。ビッチ先生の授業中出される問題は正解不正解問わず公開ディープキスが待ち受けてるぞ。私は今まで何とか逃げおおせているが、私もいつやられるか分からない。

 

ほら、今も渚が胸に顔突っ込まされてる。あの人真性のビッチなんじゃないかな。本当に。

 

『…っはい。今、皆さんに配ったプリントが生徒会行事の詳細です』

 

壇上に立っている生徒会のメンバーが手に持ったプリントを掲げつつ説明を始めようとする。もちろん私達のところへはプリントなど来ていない。それはそうか、E組差別の一環だろうし。

 

「…すいません。E組の分まだなんですが…」

 

磯貝がダメ元で聞いてみるが、絶対無いなこれ。

 

『え、無い?おかしーな……。ごめんなさーい、3-Eの分忘れてみたい。すいませんけど全部記憶して帰ってください。ほら、E組の人は記憶力も鍛えたほうが良いと思うし』

 

うん。死ね。あいつ確かA組の荒木鉄平だろ。顔覚えたからな、夜道に気を付けろ。できれば自然死するかできうる限り自然な殺され方をして欲しい。

 

そうして軽く殺気立っていると、私達を強い風が襲った。

 

手元には手書きのものと思われるプリントが落ちてくる。

 

「磯貝君。問題ないようですねぇ、手描きのコピーが全員分あるようですし」

「…はい」

 

声のした方を見ると身長約2m、髪の生え際と関節が非常に曖昧で輪郭が丸っこいギリギリ人型の殺せんせーがそこにいた。……ギリギリアウト!なに国家機密が学校の集会に顔出してんだ!変装してるからいいものを……いや、変装も酷いな。

 

「……あれ…、あんな先生さっきまでいたか?」

「妙にでかいし関節が曖昧だぞ」

 

ほらみろ。早速怪しがられてんだろ。ビッチ先生はナイフで刺そうとするな!どうせ当たんないんだから。あ、連れて行かれた。烏間先生ナイスです。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

集会終了後、私はとある現場に遭遇した。

 

「おい渚、おまえらさー…ちょっと調子乗ってない?」

「えっ…」

「周回中に笑ったりして周りの迷惑も考えろよ」

「E組はE組らしく下向いてろよ」

「どうせもう人生詰んでるんだからよ」

「……」

 

明らかにモブ顔の2人に渚が絡まれている現場だ。

 

普通の学校でやったら生徒指導室への切符を渡されるところだが、ここは差別の激しい椚ヶ丘だ。E組の人間には何をしてもいいという意識が生徒全員に根付いている。…ちょっとちょっかいかけてこようかな。

 

袖に手を入れながら3人のところに歩いて行こうとすれと、右肩に引かれるような感覚があった。後ろを見てみると、確かなめてる時の顔か、黄色と緑色の縞模様をした殺せんせーが立っていた。

 

「心配しなくても、あの程度の生徒にそう屈したりしませんよ。君を含め、私を暗殺しようとする生徒は皆ね」

 

そういう殺せんせーはその気色の悪い顔色と付け鼻が取れるハプニングがなければ多少はカッコ良かっただろう。キメ顔なところ悪いが、顔の色が床屋のサインポールのごとく回っている。それでは人間じゃないと即バレするだろう。何を考えているんだ。

 

「なんとか言えよE組!殺すぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――殺そうとしたことなんて無いくせに――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ…」

 

渚の放った一言、その言葉だけなら特になんの恐怖も抱けないだろう。しかし、その目には微小ながらも確かな殺気が宿っていた。その後普通に歩いて去ったことから、明確な殺意ではなく、無意識下に発した物だということが読み取れた。

 

正直、渚が殺気を放ったこと自体はさほど重要ではない。本人が気づかなければその力が活かされることはないだろうし、渚がそういった力を悪用するとは思えない。

 

私にとって重要だったのはその殺気が私の今は亡き祖父、古宮 一徹にのものと類似していたからだ。

 

綺麗な殺気。邪魔な悪感情が一切混じらない、ただ純粋な殺気。私が初めて味わい、惚れ込んだ殺気だ。私は祖父のこの殺気を8年かけて習得しようとした。…祖父が亡くなるまで習得はできなかったが。

 

もう見ることはないと思っていた芸術的ともいえる殺気を放つことができる彼、潮田 渚が少しだけ羨ましくなった。

 

「ヌルフフフ、言ったでしょう。君達は殺る気が違うと」

 

殺せんせーのその言葉は若干白々しく思えた。なぜかはわからないが。




感想、その他諸々募集してます!


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6話 忠告の時間

今回はめちゃ詰め込んじゃいました


『さぁ、始めましょうか』

 

本日5時間目の受講。殺せんせーは増えた。何を言ってるか自分でも分からないが、殺せんせーの数が増えた。正しくは素早く動くことでできる残像を利用してるんだけど、それでも増えたようにしか見えない。

 

「学校の中間テストが迫ってきました」

「そうそう」

「そんなわけでこの時間は」

「高速強化テスト勉強をおこないます」

 

おう、ちょっとまってな。その、高速強化テスト勉強とか言うのはいいんだよ。生徒の学力を底上げすることでテストの点数をあげようってことだろ?大いに結構。ただ不満がひとつあるんだが。

 

「なぁ殺せんせー、なんで古宮がそっちにいるんだ?」

 

そう。私はなぜか殺せんせーの側、つまり教える側に立たされている。さっきの昼休憩にいきなり殺せんせーに教師認定された。断ろうとしたら泣きつかれた。余りにも鬱陶しいからつい引き受けてしまったのだが…

 

「ヌルフフフ、古宮君は私の出題する小テストの問題を全て満点回答という成果を残しています。私がこれ以上この時間で教えることが無いんですよ」

「そうですね。皆が苦手教科の小テストやってるところに恐らく私だけ5教科全てを、基礎から応用までありとあらゆる問題を出されました。制限時間は皆と一緒で。はじめは私の苦手科目を探っていると思ってました。ただ段々と難しくなる問題達に殺意を覚えたことはありますね。正直テストの返却時に落ち込んだ殺せんせーの顔があまりにも面白かったので頑張っていたところもありますが。それにしても生徒同士の教え合いというのは確かに勉強も捗り楽しく記憶したりできるでしょうが、実際に教壇に立たされるとは思いませんでした。それに私が人に楽しく教えることができるとお思いだったのでしょうか?私はただアドバイスを飛ばすだけです。何も面白いことはないでしょう?もういっそ1人で教科書の暗記でもしていたほうが個人的には気が楽でした。しかし引き受けたからにはやらなければならないでしょう。さぁやりましょうか皆さん」

 

私が息継ぎせずここまで言い切ると、殺せんせーの焦る顔が見えた。なにが「も、もしかして怒ってますか?!」だ。怒ってるよ。

 

「お、おほん!とりあえず先生の分身が1人ずつマンツーマンで」

「それぞれの苦手科目を徹底して復習します」

「ただし!先生はアドバイスはしますがそれ以上のことはしません」

「先生のアドバイスで分からないことがあれば古宮君をサポートとして呼んでください」

 

そう言いつつ生徒の前に分身を送る。

…殺せんせーのアドバイスで分からないことがある生徒なんてそういないか。これは着席して読書しててもよさそうだな。

 

「下らね……ご丁寧に教科別にハチマキとか…」

 

不満そうに愚痴る寺坂だが、自分のところにいる分身のハチマキを見てみた。

 

「なんで俺だけNARUTOなんだよ!!」

 

寺坂の前にいる分身がつけているハチマキは某忍者漫画の主人公のいる里のシンボルだった。

 

「寺坂君は特別コースです。苦手科目が複数ありますからねぇ」

 

こうして、国語6人、数学8人、社会3人、理科4人、英語4人、NARUTO1人、アドバイザー1人の奇妙な学力強化が始まった。

 

もちろん私は本に集中するので勉強はしないのだが。ちなみに読んでいるのはH.P.ラヴクラフトの『The Shadow Over Innsmouth(インスマウスの影)』。翻訳前と翻訳後を読んで内容と自分の訳が合っているのか確認するまでが1セットだ。これが意外と楽しい。

 

その後、特にアドバイスを望む生徒がいなかった。楽ができてよかった。ちなみに殺せんせーに「本を読むくらいなら勉強してください!」とか言われたけど「英語の勉強です」って言っといた。その後静かになったので気にせず読書を続けたが。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

『さらに頑張って増えてみました。さぁ、授業開始です。今日は古宮君にも授業を受けてもらいます』

 

翌日の同時刻。殺せんせーは1人につき3人の分身という異常なほどの数にまで増加していた。

 

分身を大量に作った所為からか分身の作りはかなり荒く、たまに別のキャラクターの被り物になっている。

 

「…どうしたの殺せんせー?なんか気合い入り過ぎじゃない?」

「んん?そんなことないですよ」

 

茅野の質問には律儀に答えるが、かなり気合が入っていると思う。分身の質も授業の質もかなり雑だ。これは昨日何かあったか…?

 

「殺せんせー、私に全教科を同時に教えようとしないで下さい。理解が追いつきません」

「おや、すいません。つい…」

「……何が原因でそこまで空回りしているかは聞きませんが、授業の質を落としては本末転倒でしょう」

 

その言葉が届いたの皆の分身は1人減り、私のところの分身は5人から3人になった。……多いわクソダコが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の忠告から20分ほど経つと、終業のチャイムが鳴った。

 

殺せんせーは全員分を本気で分身していたからか、汗をびっしょりとかいて教壇に座り団扇や扇子を取り出しあおいでいる。

 

「…今なら殺れるかな?」

「無理でしょうね」

「…流石に相当疲れたみたいだな」

「なんでここまで一生懸命先生すんのかねー」

 

そんな殺せんせーを皆が囲み口々に多少なりとも殺せんせーの心配が込められたような言葉を綴る。

 

「……ヌルフフフ、全ては君達のテストの点を上げるためです。そうすれば…」

 

そう言って殺せんせーは自分の理想を語った。

 

先生のおかげで高い点数をとれたことによる生徒からの尊敬の念だの、優秀な教師がいるという噂を聞いた近所の女子大生が勉強をしてもらいに来るとか、それによって私達の殺意が薄れ殺される危険もなくなり良いことずくめ、と……馬鹿じゃないのか?

 

いや、本気で言っているわけじゃないことは分かってる。分かってるんだがこれだけは言いたい。なに噂立てられてんだ国家機密。その時点でアウトだろもう。

 

「…いや、勉強のほうはそれなりでいいよな」

「…うん。なんたって暗殺すれば賞金100億だし」

『100億あれば成績悪くてもその後の人生バラ色だしさ』

「にゅやッ!そ、そういう考えをしてきますか!!」

「賞金100億ってなんの話?」

『え?(は?)』

「え?」

「…もしかして、知らないとか言わないよな…?」

「…ジョークだよね?」

「いや、ジョークも何も……いや、失礼します」

 

強引に会話を中断して耳に手を当てる。はめ込んだ無線機を操作し優さんに電話をかける。

 

《はいはーい。咲ちゃんどうかした?》

 

優さんはコール2回で無線を取った。相変わらず速いな…。

 

「咲ちゃんって言わないでください。いえ、それよりも今話しても大丈夫ですか?」

《問題ないよ―。今休憩時間だし》

「ありがとうございます。それで、例の殺せん……暗殺対象の暗殺に成功した場合の成功報酬があるという話ですが、本当ですか?」

《……あっ…》

「…忘れていましたか」

《ほ、ほら、私も仕事とか忙しくてついうっかり…》

「あ、その仕事の方は順調なんですか?」

《そうそう、完璧だよ!暗殺対象の監視と生徒たちへの支援!》

「私はその暗殺対象の情報をもらっていないのですが?」

《墓穴掘った?!》

「…今夜の夕食は辛味を多くしておきますのでお覚悟を」

《ちょっ、それはほんとにやm》

 

通話を切って耳から外し、鞄に入れて蓋を閉じ、ため息を吐く。この時間約2秒。

 

とりあえず今知りましたとだけ伝えようと振り返るが、そこには矢田以外誰もいなかった。…あれ。

 

「あ、終わった?」

「はい、終わりましたが…みなさんは?」

「咲くんが電話中に話してたら殺せんせーが急に不機嫌になって、グラウンドに集まるようにって言って出ていったから皆先に行っちゃった」

「矢田さんはいかなかったんですか?」

「咲くんに言わなきゃ困るかなって思って」

「…ありがとうございます」

「そういえば電話の相手誰だったの?すごく仲良さそうに見えたけど」

「…私が仕えている屋敷の当主です。一応防衛省の方だそうです」

「あー、言ってたね。主人の命令で執事服着てるって」

 

そんな会話をしながらグラウンドに着くと、他の生徒はすでに皆集まっていた。

 

私達が皆の後ろに立つと、その様子を見透かしているかのごとく私達の方に振り返り、ビッチ先生に質問し始めた。

 

「イリーナ先生、プロの殺し屋として伺いますが」

「……何よいきなり」

「あなたはいつも仕事をするとき…用意するプランは一つですか?」

「…?…いいえ、本命のプランなんて思った通りに上手く行くことのほうが少ないわ。不測の事態に備えて…予備のプランをより綿密に作っておくことが暗殺の基本よ」

 

多分ビッチ先生のことだから色仕掛けからの潜入・暗殺までは完璧なんだろうな。苦労するのは脱出のプランを実行するときか。

 

「…ま、あんたの場合規格外過ぎて予備プランが全部狂ったけど、見てらっしゃい次こそ必ず「無理ですねぇ」」

 

まぁ、あの先生に常識は一切通用しないからな。殺せるわけ無いわ。

 

「では次に烏間先生、ナイフ術を生徒に教えるとき…重要なのは第一撃だけですか?」

「…………第一撃はもちろん重要だが、次の動きも大切だ。強敵相手では第一撃は高確率で躱される。その後の第二撃第三撃を…いかに高精度で繰り出すかが勝敗を分ける」

 

今度は烏間先生の方を向き、質問する。烏間先生は多少の間があったものの、しっかりと質問には答えた。その後、こっちを向いた。え、私?

 

「古宮君、あなたはその服の下に多くの武器を隠し持っていましたね。それらはなんのために仕込んでいるのでしょうか?」

「…暴徒と遭遇した際の自己防衛の手段を増やすためです。万が一相手が手練だった時のために色んな種類の武器を持ち歩いています。…いくら暴徒といえど武術に精通し、かつ全ての動きに対応できるような者はそういないでしょう。突き、払い、切り、殴り、蹴り、組付き、どれか一つでも対応が遅れるものがあればそこから切り崩すためです。烏間先生には通用しませんでしたが」

「いえいえ、中学生としてはそこまでで十分ですよ」

 

いや、なんで私を指名したのさ。なんとか言い切れたから良いものを…。

 

「結局何が言いたいん…「先生方のおっしゃるように」」

「自信を持てる次の手があるから自信に満ちた暗殺者になれる」

 

殺せんせーは校庭の中心で回転を始めた。

 

「対して君達はどうでしょう?『俺らには暗殺があるからそれでいいや』…と考えて勉強の目標を低くしている」

 

その姿は目では捉えられないほど速くなるが、なおも回転を続ける。

 

「それは…劣等感の原因から目を背けているだけです」

 

高速で回転する先生の周りに風が纏われ始める。

 

「もし先生がこの教室から逃げ去ったら?もし他の殺し屋が先に先生を殺したら?」

 

先生の纏う風は量を増し、天高くまで昇り始める。その強風には生徒たちにも少なからず影響を受け、皆は顔をおおって風を防護する。

 

「暗殺という拠り所を失った君達にはE組の劣等感しか残らない。……そんな危うい君達に…先生からのアドバイスです」

 

暴風の中、風の音で人の声も聞こえない状態だというのに先生の声はスッと耳に入ってくる。

 

「第二の刃を持たざる者は…暗殺者を名乗る資格なし!!!」

 

先生は巨大な竜巻と化し、グラウンドの草木を全て吸い込んでいく。

 

やがて回転が止まると、巻き込んだ草木はドドドドとものすごい音を立てながら落ちてくる。

 

「…校庭に雑草や凸凹が多かったのでね。少し手入れしておきました」

『…!!』

 

一切使ってなかったことで荒れ果てていたグラウンドは、確実に本校舎のものよりも整備された、つい先程完成したばかりのグラウンドのように綺麗に整備されていた。

 

「先生は地球を消せる超生物。この一帯を平らにすることなど容易いことです。…もしも君達が自信を持てる第二の刃を示せなければ、相手に値する暗殺者はこの教室にはいないとみなし、校舎ごと平らにして先生は去ります」

 

その声は嘘や冗談ではなく、私達に対する警告。脅しのように感じた。

 

「第二の刃…いつまでに?」

「決まっています。明日です。明日の中間テスト、クラス全員50位以内を取りなさい」

『!!?』

「君達の第二の刃は先生がすでに育てています。本校舎の教師たちに劣るほど…先生はトロい教え方をしていません。自信を持ってその刃を振るって来なさい。仕事(ミッション)を成功させ、恥じるとこなく笑顔で胸を張るのです。自分たちが暗殺者(アサシン)であり…E組である事に!!」

 

…確かに皆の学力は以前に比べたら大きく向上したのだろう。ただ…あの理事長がその成長を見逃すわけが無いだろう。確実に何か手を撃ってくるはず…




感想、その他諸々お待ちしています!


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7話 挑発の時間

中間テスト。

椚ヶ丘では全校生徒が本校舎でテストを受ける規則となっている。本来であればこのテストもE組の校舎で受けさせるべきと考えられるが、成績不振の生徒が本校舎に戻りたいがためにカンニングをする恐れがあるという理由で却下されている。教師も同様に生徒にアドバイスをする恐れがあると入室を許可されていない。

 

……まぁテストの内容を心の中でいくら言っても何の面白みもない。結果から言うと、E組の生徒は惨敗だった。

 

主な理由としてはやはりというべきか、テストの範囲が大幅に広げられていたからだ。

 

テストを終えたE組には重く苦しい空気が立ち込める。

 

「……。これは一体どういう事でしょうか。公正さを著しく欠くと感じましたが」

『…おっかしいですねぇ~。ちゃんと通達したはずですよ、あなた方の伝達ミスじゃないですか?なんせおたくら本校舎に来ないからハハハハ』

 

静かな教室だからこそ、鳥間先生の講義の電話の内容がよく聞こえてくる。

 

「伝達ミスなど覚えはないしそもそもどう考えても普通じゃない。テスト2日前に…出題範囲を全教科で大幅に変えるなんて」

『…わかってませんねぇ、えーと…烏間先生?うちは進学校ですよ。直前の追い込みにもついていけるか試すのも方針の1つ。本校舎のクラスでは、なんと理事長自らが教壇に立たれ、見事な授業で変更部分を教え上げてしまわれました」

「……!!」

 

いくら鳥間先生が抗議したところで結果は変わらない。鳥間先生は防衛省ではトップクラスの実力を持っていたとしても、ここでは1人の教師。ここのルールには逆らえない。それは殺せんせーも同じことだ。

 

「…先生の責任です、この学校の仕組みを甘く見過ぎていたようです…君達に顔向けできません」

『……』

 

落ち込む殺せんせーを心配そうな目で見る生徒たち。50位以内にクラス全員が入るという目標を成し遂げられなかった今、殺せんせーが立ち去るかどうか、私達が殺せんせーを暗殺するに足る人材かどうかは本人の判断によって変わる。

 

「にゅやッ!?」

 

黒板に背を向け立っていた殺せんせーの東部に、隣にいたカルマがナイフを投擲した。カルマは殺せんせーを挑発するために教壇に向かうが、党中で私の答案をひったくっていった。なにすんだ…。

 

「いいの~?顔向けできなかったら俺が殺しに来んのも見えないよ」

「カルマ君!!先生は落ち込んで…」

 

空気を読めと抗議する殺せんせーにカルマは自分の回答を投げ込んだ。

 

国語:98点

数学:100点

社会:99点

理科:98点

英語:98点

合計点数:494点

学年順位:5位/186人中

 

「俺テスト問題変わっても関係ないし」

「うお…すげぇ…」

「俺の成績に合わせてさ、あんたが余計な範囲まで教えたからだよ。……それに、あんたが教えなくても自力でこういう点を取るやつもいるし」

 

そういって今度は私の回答を投げた。あ~あ、プライバシーガン無視かよ。

 

国語:100点

数学:100点

社会:100点

理科:100点

英語:100点

合計点数:500点

学年順位:1位/186人中

 

「全教科満点…」

「すげぇ……」

 

「俺は高得点を取ったからE組から抜けれる権利を得たね。もちろん咲君も。でも俺はこのクラスから出る気はないよ。前のクラス戻るより暗殺してたほうがずっと楽しいし。咲君はどうする?」

「…私も戻りませんよ?何が悲しくて進みの遅くて何の面白みもない組に戻るんですか。…それにまだ殺せんせーの暗殺が済んでいません。この状態で元のクラスに戻ったら父に殺されます」

「おーこわ。…で、どうするのさ殺せんせー?全員50位に入らなかったって言い訳つけてここからシッポ巻いて逃げちゃうの?…それって結局さぁ、殺されるのが怖いだけなんじゃないの?」

 

カルマはカルマ(平常運転)だなぁ。ナイフをチラつかせながら舌出して挑発するところとかホントカルマらしい。

 

「なーんだ、殺せんせー怖かったかのかぁ」

「それなら正直に言えばよかったのに」

「ねーー。『怖いから逃げたい』って」

 

カルマの挑発を聞いて調子が戻ったのか、皆口々に挑発を重ねていく。それを聞いた殺せんせーの顔はみるみるうちに真っ赤に染まり、自他ともに似ていると認める生物。凧のようになっていく。

 

「にゅやーーーッ!!逃げるわけありません!!期末テストであいつらに倍返しでリベンジです!!」

 

殺せんせーの若干古い怒り方に皆刺激されたのか、クラス中で笑いが起こった。やはりこの先生は面白いな。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「今日どうだったの?なんか殺せんせー?だっけ。がクラス全員50位以内じゃないと出て行くって言ってたんでしょ?」

 

所変わって深月の屋敷。今日の出来事の詳細が気になったのか私に詳しい説明をっするように求めてくる。

 

「…鳥間さんから伝えられていないのですか?」

「いやー、聞いてはいるんだけどねー。彼ちょっと報告書の文が固すぎて読む気になれないのよねー」

「そうでしたか」

「そう。だから何があったか詳しく教えてくれない?」

「…了解しました」

 

優さんには全てを話した。理事長がテストの範囲を3日前に大幅な変更をしたこと、それをE組に伝えず、他のクラスには伝えていたこと、自分の責任だ、と殺せんせーが謝罪したこと、カルマが私の回答と自分の回答を出し、そこから挑発して殺せんせーを軽く怒らせることでE組全体に活気を取り戻させたこと。

 

優さんは両手で頬杖を突き、時々感心したように声を上げて聞いていた。

 

「…ふふっ」

「どうかされましたか?」

「いや、咲ちゃんがA組にいた時よりも明るい声で近況報告してくれるから嬉しくてねー」

「…そうでしょうか。いつもと変わらないと思うのですが……あと咲ちゃんって言わないで下さい」

「はいはい、分かったわー。…ところで咲ちゃん、あなたもう殺せんせーの暗殺は試みたの?」

「いえ、まだですね。もうすぐ修学旅行なので観光ついでに試してみようかとは思っていましたが」

「修学旅行かー…懐かしいなぁ…。…もし、あなたの組の生徒に被害が及ぶようなことがあったらその装備外して全力で助けに行きなさいね?修学旅行に限ったことじゃないけど」

「…はい。分かりました」

 

まぁ、そうそう事故や事件なんて起こらないだろうが、優さんが忠告したという事は何かしらの対策はしておいたほうがいいか…。一応警戒はしておこう。




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8話 計画の時間

テストが終わり早1週間。椚ヶ丘はすでに次の行事の準備に入っていた。

 

修学旅行。本来ならその名の通り学年の最後の方にやる行事だが、椚ヶ丘は1学期ですでに行くことになっている。速すぎると思われるかもしれないが修学旅行を早めに行うことで2,3学期の勉強を詰め込んでするという魂胆だ。今だけは楽しめとかそういう事だろうか。

 

私達は4つの班に分かれ、それぞれで暗殺を仕掛けることになっている。鳥間先生曰く『国の派遣した腕利きの狙撃手(スナイパー)が何名か派遣された』とこと。狙撃手が狙いやすい場所を選んで観光しなければならない。別にいいけども。

 

私は1班。磯貝悠馬、木村正義、前原陽斗、岡野ひなた、片岡メグ、倉橋陽菜乃、矢田桃花と一緒に行動することになった。人数オーバーにならないか殺せんせーに聞いてみたが、『楽しめればいいんですよ』みたいなこと言われた。私が自分から人を誘うとか恐れ多くてできないからお言葉に甘えさえてもらった。

 

「皆、暗殺のコースはどこにする?」

 

班長の磯貝が先導して意見を集め始める。こういう時リーダーシップのある人がいると話がスムーズに進んでくれるから助かるんだよな。

 

「狙撃に適した場所よね…?」

 

片岡が暗殺観光のテーマに困惑しているのが分かる。テーマは『狙撃しやすくて楽しめる場所』なのだが、あいにく私たちは狙撃の訓練はしていないのでどこがいいのかがあまり分からない。

 

「狙撃についてはあまり知りませんが、開けた場所、見晴らしが良い場所が狙いやすいのではないでしょうか」

「成る程……京都で見晴らしが良さそうって言ったら清水寺とか保津峡の嵯峨野トロッコ列車か?」

「あ、トロッコ列車良いですね。清水だと目立ちますし」

「動いてる列車に乗ってる殺せんせーを撃って貰うってことか?難しいんじゃないか?あと殺せんせーはどこ行っても目立つと思う」

「この列車、鉄橋の上で少しだけ停車するんだよ。川下りしてる船を乗客に見せる為に」

「じゃあ、殺せんせーが船を見る為に窓から顔を出した所をズドンッと撃って貰うんだね」

「そういう事。まぁ、顔出すように誘導とかはしないといけないだろうけど、どうだ?」

 

そういって前原は皆を見渡す。列車なら席が区切れてるからころ先生に対して違和感感じる人が少なくなって…くれるかな?

 

「俺は特に訂正する部分は無いな」

「できれば殺せんせーに対先生物質を下に敷き詰めた滝に清水の舞台から飛び降りてほしかったですが、そちらのほうが成功率が上がりそうですね。特に私からもありません」

 

私の言葉が言い終わったくらいで磯貝が周りを見渡すが、皆から反対意見が上がることはなかった。

 

「それにしても古宮君時々毒吐くよね…普段からあんまり話さないけど」

 

いや、あった。観光場所じゃなくて私への意見が。

 

「…矢田さん?私は思ったことを口にしただけですよ?」

「あ、そういやずっと古宮に聞きたいことあったんだよ」

 

矢田の意見に訂正を加えていると今度は前原が口を開いた。

 

「なんで古宮自分のこと私っていうんだ?」

「確かに。普通俺とか渚みたいに僕じゃないの?」

 

おい、そこまで大した質問じゃないじゃないか。お前の気になるはその程度か。岡野も賛同すんな。あと渚を例に出す必要ないだろ。

 

「私が昔見た漫画の執事に影響されていますね。本来の一人称はもちろん私ではないのですが、いつの間にか私の方に慣れてしましました」

「取るなら早いほうがいいらしいぞ?」

 

……ちょっとイラっとした。取らんわ。

 

「…そういうことは渚君に言ってください。私はそういった予定はないので」

「それもそうか…」

 

するとこれまで壁にもたれていたビッチ先生が不意に口を開いた。

 

「…フン、皆ガキねぇ。日本の旅行なんかで浮かれちゃって、世界中を飛び回った私には今さらだわ」

「じゃあ、ビッチ先生留守番な」

「花壇に水やっといて~」

「あまりやりすぎると今度は根が腐るので慎重にお願いしますね」

 

自慢というべき言葉なのかは不明なのだが、大人の余裕を全開にしていたビッチ先生は1班のメンバーによって一刀両断された。なにがしたかったのか…。

 

「それより2日目どこ行く?」

「やっぱ東山からじゃない?」

「今年は受験なので北野天満宮で早めの合格祈願とかどうでしょうか?」

「あー、それもあったなー……受験かぁ…」

「そ、それもいいけど最初にどこに行くか決めようか!」

 

そんなことを話していると、留守番係を一瞬にして任命されたビッチ先生が胸元から小さな拳銃…デリンジャーだったか、を取り出した。

 

「何よ!!私抜きでで楽しそうな話をしてんじゃないわ!!」

「あーもー!!行きたいのか行きたくないのかどっちなんだよ!」

 

脅しとはいえ銃口をこちらに向けられるのはいい思いがしないのでビッチ先生を素早く拘束して遊んでいると、殺せんせーが急に口を開く。

 

「まったく…、3年生も始まったばかりのこの時期に総決算の修学旅行など片腹痛い。先生あまり気乗りしません」

 

『ウキウキじゃねーか!!』

 

殺せんせーの後ろに置いてある荷物は殺せんせーと同じくらいの体積があり、明らかに気乗りしていない人の持ち物ではない。

 

「あの、なぜ曲線定規が入っているのですか?」

「きれいな曲線を描くのに役立つでしょう」

「では卓球のラケットは?向こうに置いてあるのを使えばいいのでは?」

「何事も自分の気に入った物を使うのがいいでしょう」

「…この巨大なリュックサックはどこで購入したのですか?」

「とあるジャングルにお願いして送ってもらいました」

 

……いくつか強制的に取っ払いたいものがあるが、おそらく即座に回収されてしまうのでスルーすることにしよう。これは逃げではない。

 

「あぁ、それから皆さんに渡すものがあります」

 

そう言って殺せんせーリュックから取り出したのはアコーディオンのような謎の冊子。

 

「1人1冊どうぞ」

 

皆に配られていく冊子(鈍器)もちろん私のところにも来た。うん、厚さ・重さ共にものすごいけど、六法全書よりはマシか。

 

「重っ…」

「なにこれ殺せんせー?」

 

「修学旅行のしおりです」

『辞書だよこれ!!』

「内容はイラスト解説付きの観光スポット、お土産トップ100、旅の護身術入門から応用まで、昨日徹夜で作りました。初回特典は組み立て紙工作金閣寺です」

「どんだけテンション上がってんだ!!」

 

 

皆が殺せんせーに突っ込んでいる中、ビッチ先生の拘束を解き、金閣寺をササッと完成させて内容を確認していると、冊子が挟まれているページが一番に開かれた。『拉致実行犯潜伏対策マップ』?……覚えといて損はないか。一応全部まとめるのもいいかもな。暇つぶしに。

 

あとこのしおりは優さんに渡してみよう。どんな反応するか今から楽しみになってきた。



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