それぞれの戦う理由 (ふぃりっぷす)
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オリキャラ設定

BBF形式にプロフィールと、簡単に紹介文を載せておきます。

※話の進行に合わせて、随時更新していきます。




[第一話開始時期]

原作スタートの半年くらい前。(月的には4月下旬)

 

 

 

[キャラ紹介]

 

春日雄也 B級1位古賀隊

ポジション:射手 

年齢:16歳 

誕生日6月2日

身長:176cm

血液型:A

星座:うさぎ座

職業:高校生

好きなもの:カレー、コーヒー、読書

家族構成:-

 

【ステータス】

トリオン:12

攻撃:9

防御・援護:6

機動:4

技術:8

射程:6

指揮:3

特殊戦術:6

total:54

 

【トリガー構成】

(ランク戦仕様)

メイン:アステロイド、メテオラ、ハウンド、シールド

サブ:アステロイド、バイパー、バッグワーム、シールド

(私用トリガー)

メイン:アステロイド、ハウンド、メテオラ、バイパー(合成器(ミキサー))

サブ:アステロイド、ハウンド、シールド、グラスホッパー

 

【BBF風データ】

入隊時期:第一次侵攻翌年

モテ度:モテる、中間

派閥:忍田派玉狛派中間

高校:進学校2-B

成績:成績がいい、若干体育会系寄り

生身の運動能力:体力あり、スタミナ型

異性の好み:中間、若干性格寄り

 

 

主人公1号。

父親は早くに亡くなり、母親に育てられてきたが、第一次近界民侵攻時に死亡。

母親は元は旧ボーダー設立時のメンバー。ボーダー設立翌年に入隊しているが、第一次侵攻からボーダー入隊までの間、現玉狛面子に付き従い訓練をつんでいた模様。

第一次侵攻で家も倒壊し、住むとこがなくなったため、雄也の両親と親交のあった迅や林藤の厚意で現在玉狛支部に住ませてもらっている。

もっさりヘアーのイケメン烏丸に対して、ショートのネオウルフのさっぱりヘアーのイケメンで、ボーダー2大イケメン枠としてモテ……おい、雷神丸、なぜそこにいる。

暇さえあったらレイジに従い体を鍛えているか、そうでなければ自室に引き篭もって読書をしている。

ポジションは射手で、トリオン量とサイドエフェクトに任せてガンガン合成弾をぶちかます、技巧派に見せかけて実はゴリ押し脳筋なバトルスタイル。

奈良坂に頼まれ那須隊の面々の面倒を見ている。またこちらは弟子と言うわけではないが香取から押しかけられ勢いに圧されつつOKしてしまったため、こちらについてもたまに指導したりしなかったり。

 

 

・副作用:高速演算処理

一言で言えばすごく計算が速くて正確にできる。

実生活ではスーパーの割引とかの計算が一瞬で行なうくらいにしか使ってないらしい。

副作用の効果で想定に対し、寸分の狂いもないトリオンの分配を瞬時に行なうことができるという射手としてはおいしい副作用。

 

 

[私用トリガーについて]

主に防衛任務で利用しているトリガー。

ボーダーに支給されたものではなく、雄也の母親が使っていたトリガーとして迅に渡されたもの。

メイン側には合成器(ミキサー)と呼んでいる規格を取り付けており、小南の接続器に似た機能をトリガー内で完結させている。

メイン側のチップを1枚起動後、合成器に滞留させ、即座に2枚目以降のトリガーを起動させ、トリガー内で合成弾を作成することが可能となっている。

 

 

 

 

 

 

古賀清隆 B級1位古賀隊隊長

ポジション:狙撃手

年齢:17歳

誕生日:4月3日

身長:178cm

血液型:O

星座:はやぶさ座

職業:高校生

好きなもの:ボードゲーム全般、妹

家族構成:母、妹

 

【トリガー構成】

メイン:ライトニング、シールド、イーグレット、free

サブ:バックワーム、シールド、グラスホッパー、弧月

【ステータス】

トリオン:7

攻撃:7

防御・援護:10

機動:4

技術:12

射程:10

指揮:10

特殊戦術:2

total:62

 

【BBF風データ】

入隊時期:第一次侵攻翌年

モテ度:モテる、モテなくていい

派閥:城戸派

高校:進学校2-A

成績:成績がいい、文化系

生身の運動能力:中間、若干瞬発力型

異性の好み:落ち着いている、若干性格寄り

 

主人公2号

第一次侵攻の際に父親と姉を亡くし、現在は母と妹との3人家族。雄也や妹の美奈子と同期入隊。

実家暮らし、本部所属。

訓練生時によく一緒に行動していた雄也と、オペレーターとして入隊した妹を誘い古賀隊を結成。

指揮能力に秀でており、美奈子と連携しながら二人に指示を出し、隙あらば撃ってる。狙撃手やってるのは離れて指示しながら戦えるからとのこと。

二人のサポートをすることが多く、いわゆるおいしいタイミングで援護狙撃を行ない、雄也や諒に狩らせるスタイルだが、場況によってはイーグレットで頭パァンしたり、弧月でスバァッとかやったりする。

普段はクールな顔つきに似合わず穏やかで砕けた口調だが、戦闘時のように何かに集中している際は口調が変わる。ちなみにキレるとヤバいらしい。

常に学年1位の成績という言ってみれば天才。

頭いいからチェス、将棋、囲碁などの盤面上のゲームが趣味で鬼のように強い。麻雀においては諏訪隊をランク戦さながらにボコボコにし、将棋では水上から関西弁を奪い、チェスでは王子から笑顔を失わせている。

 

 

 

 

 

黒木諒 B級1位古賀隊

ポジション:攻撃手

年齢:16歳

誕生日:9月28日

身長:175cm

血液型:AB型

星座:みかづき座

職業:高校生

好きなもの:剣、剣術、剣道、モツ鍋、ラーメン

家族構成:父、母

 

【トリガー構成】

メイン:弧月、シールド、断海(独自トリガー)、free

サブ:バッグワーム、シールド、天翔(独自トリガー)、free

 

【ステータス】

トリオン:7

攻撃:13

防御・援護:7

機動:8

技術:7

射程:1

指揮:4

特殊戦術:4

total:51

 

【BBF風データ】

入隊時期:第一次侵攻3年後

モテ度:普通より若干右側、若干モテたい

派閥:下に突き抜けるレベルの自由派

高校:進学校2-B

成績:成績悪い、上に突き抜けるレベルの体育会系

生身の運動能力:右に突き抜けるレベルで体力あり、瞬発力型

異性の好み:明るい、若干見た目がいい

 

主人公3号

両親との3人家族だが、現在は三門市で一人暮らし(寮生活)を満喫中。

雄也たちの2年とちょっと後に入隊。学校では雄也と同じクラス。

スポーツ推薦特有の脳味噌筋肉。成績が残念な典型的体育会系。

中学、高校共に剣道で全国優勝経験があり、古流剣術も目録とかいう刀バカ。

馬鹿とは言っても、あくまでも進学校内での成績が悪いだけで、指差されるほど馬鹿でも勉強ができないわけでもない(ただし赤点は何かしら必ず取る模様)

目付きが鷹のように鋭く、人を殺しかねない目付き、と雄也に評されている。

強い相手と闘いたいという理由でスカウトを受けるやっぱり脳味噌筋肉野郎。

学費や寮費の都合上部活を優先していたりするため、防衛任務や部隊のランク戦以外では本部にはあまり足を運んでいない様子。

なるべく抑えてはいるが、まれに方言が出てしまう、地方民あるある。

非常に高い戦闘力を持っており、剣単体での腕前は太刀川以上。

部活、ボーダー、たまに道場の並立は難しいらしく、本人曰く、ランク戦はあまり行なえていないから、弧月がようやくマスタークラスになった程度、とのこと。

脳筋だけど雄也と結構気が合う。

脳筋だから木南と結構気が合う。

 

 

 

 

 

古賀美奈子 B級1位古賀隊

ポジション:オペレーター

年齢:15歳

誕生日:12月1日

身長:160cm

血液型:O

星座:くじら座

職業:高校生

好きなもの:クレープ、ミルフィーユ、少女マンガ

家族構成:母、兄

 

【ステータス】

トリオン:1

機器操作:10

情報分析:8

並列処理:7

戦術:4

指揮:5

TOTAL:35

 

【BBF風データ】

入隊時期:第一次侵攻翌年

モテ度:モテる、モテなくていい

派閥:忍田派

高校:お嬢様校1-B

成績:成績がいい、文化系

生身の運動能力:体力あんまりない、中間

異性の好み:明るい、性格がいい

 

清隆の妹。ポニーテールの可愛い女の子。

清隆ほどじゃないがやっぱり頭がいい。兄弟だけあってか、清隆との情報伝達・共有がすさまじく速い。

家庭の金銭面の事情もあり、入隊試験を受けるもトリオンが少なかったため不合格したが、心機一転、合格した兄のサポートのため、オペレーターになる。

ランク戦では機器で確認した情報に、清隆の視覚情報を組み合わせて情報分析を行ない、部隊に展開するということが多い。

平常時の兄同様、非常に社交的な性格をしており、ボーダー内でも割りと友人が多い。

そういった性格もあり、また可愛らしい容姿も相まってかなりモテるらしく、学校でも告白されたとか何とか。……女子高なのに。……かっこいい系女子でもないのに。




更新日:2017/6/20 春日雄也のプロフィールちょっと追加


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原作前
春日 雄也


初投稿になります。宜しくお願い致します。


【春日雄也・ボーダー本部・B級ランク戦(市街地A)】

 

『ウラアァ! ……っと。こちら黒木、水上さん落としたぞ!』

 

同じ隊の黒木諒から通信が入った。どうやら生駒隊の水上さんを落としたようだ。

 

『よーし! 諒くんが水上先輩を落としたよー! あとは生駒さん落として終わらせよー!』

 

オペレーター、古賀美奈子の元気な声が聞こえる。

 

『飛ばせば20秒ちょいでそっちに行けるけど、行くか?』

 

『問題ない。生駒さんは俺と雄也でケリをつける。雄也、射線まで追い込みをかけてくれ。それでもう生駒さんは詰みだ』

 

『了解』

 

俺の隊の長、古賀清隆から指示が飛ぶ。俺は最後の一人となった生駒さんを二人で追い込みにかかる。

 

序盤の戦闘では一進一退の攻防を続けてきたが、清隆が王子さんを狙撃して落としたのを皮切りに王子隊が全滅。それを契機に一気に生駒隊を攻め立て追い詰めた。

 

諒が水上さんを落としてくれた、あとは生駒さん一人……。

 

「『3秒後に丁字路のところに押し出す。頼んだ』……アステロイド!」

 

「チッ、こらホンマにヤバいな……」

 

両手にアステロイドを生成し、無数の弾丸を生駒さんに向けて放つ。生駒さんもシールドを出して対応するが、放ったうちの何発かがシールドを突き破り、生駒さんの左肩を貫いた。ヤバいヤバい言いながら退いている。

 

弾丸の勢いに押される生駒さん目掛けて、これでもか、と言うくらい更に弾丸を飛ばしていく。

 

だが、もう少しでケリをつけられそうになったその瞬間、こちらも弾切れになってしまった。

 

「よっしゃ、そしたら今度はこっちの番や。いくら春日でもこっからなら避けられへんやろ」

 

こちらに隙ができたと見て、ボロボロになりながらも生駒さんが弧月に手をかける。

 

距離、目算でおよそ10メートル強。生駒さんの旋空が飛んでくるとして、とても避けられる距離ではない。が、

 

「旋空……『よくやった、雄也。止めを刺すぞ』

 

通信の入った次の瞬間、生駒さんが旋空を放とうとしたまさにその瞬間――弧月を持った生駒さんの腕が清隆の狙撃により吹き飛んだ。

 

「っ……! あー、こらアカンわ」

 

生駒さんはその場に崩れた。それを見ながら俺は合成弾を作り始める。

 

『……チェックメイトだ。せっかくだし、祝砲代わりに景気よく頼んだ』

 

「了解。……バイパー+メテオラ=変化炸裂弾(トマホーク)!!」

 

生成した無数の合成弾を上空に飛ばす。放たれた無数の弾丸は周囲の建物の屋根を越えると、角度を変え雨のように生駒さん目掛けて降り注ぎ、爆ぜた。

 

『トリオン供給機関破損、緊急脱出』

 

生駒さんの緊急脱出を告げるアナウンスが聞こえる。この瞬間俺たち古賀隊の勝利が確定した。

 

最終スコア

古賀隊:7(撃破5、生存2)

生駒隊:1

王子隊:1

 

 

………

……

 

 

【春日雄也・ボーダー本部・古賀隊隊室】

 

「お疲れさまー。これで1位確定したねー! よかったよかった!」

 

隊室に戻りオペレータールームに入ると、美奈ちゃんがポニーテールをぴょこぴょこさせながら可愛らしい笑顔でハイタッチで迎えてくれた。

 

「あー! クソッ! 俺が生駒さんとやりたかったとに!」

 

「まぁ転送位置があれだった。しゃーない」

 

諒は不服を訴え騒いでいた。

 

そういえばランク戦が始まる前からずっと生駒さんを倒すとか言っていたな。確かに最初は諒と生駒さんを戦わせる予定だったが、転送された位置が二人離れていたことと、諒の側には他の面子がいてその対応をせざるを得なかったことにより時間を取られ、今回非常にスピーディーに試合が進んでしまった結果、ついには戦いの中接近することすらできずに終わっていた。……まぁ、ドンマイ。

 

「3人ともお疲れさん」

 

少し遅れて清隆が眼鏡をかけながら入ってくる。同様にクールな顔つきをしているが、鷹のように鋭い目つきをした諒とは対照的に、人当たりのよさそうな笑顔をしている。口調も戦闘時のような固い口調とは違い、かなり砕けた感じになっていた。

 

「お疲れ。最後のあれ、お前が決められたんじゃねーの?」

 

「まぁ頭撃ってもよかったんだけど、それだとどっかの誰かさんが一人だけ0点で終わってかわいそうだったし」

 

「地味に痛いとこ突いてくんなよ……」

 

ニヤニヤしながら言ってんじゃねぇよ。仕方ないだろ、俺だって最初の転送位置があんまりよくなかったんだから。一番近くにいたのが生駒さんだったわけだし。生駒さんを牽制しながら戦闘地帯まで徐々に歩を進め、ようやく到着するかと思いきや2人で殆ど勝負決めてたし……。

 

「悪い悪い、転送位置が悪かったもんな」

 

「はぁ……まぁいいや。何にせよこれで……」

 

「うん。これでB級1位とA級挑戦権獲得が確定した! 今回は諒が頑張ってくれたおかげで7点取れたわけだし、本当に助かったよ」

 

まぁ正直なところ今のこの隊ならA級に入れるだろう力があるだろうし、この結果は妥当だろう。

 

……B級の他のチームには申し訳ない言い方だが、今期については影浦隊とどっちがポイントを多く取れるかの勝負になってたな。

 

結果としては、めでたく俺たちはB級1位確定となったわけだが。

 

「まぁ明後日の隊長同士の会議で色々話があるだろうから、それまではのんびりやってよう……とはいっても明日は夜から防衛任務あるけどね」

 

「進級一発目の実力テストの成績悪かったせいで、補習でのんびりできない奴が一人いるけどな」

 

「え? 諒くんまた赤点取ったの!? 嘘でしょ!?」

 

「うるせぇな。今回赤点は現代文だけだ」

 

「「お、おう」」

 

「……来年は受験生なんだからちゃんと勉強もしなよ」

 

美奈ちゃんは諒を一喝した。

 

「いや、部活で忙しいから仕方ねぇだろ。スポーツ推薦だからそっちに力入れねぇといけねぇし」

 

肝心の諒は言い訳をかました。ただでさえ悪い目つきが余計に悪くなっていた。

 

「……さ、最悪太刀川さんと同じルートで大学行けば大丈夫だろ」

 

俺はとりあえず震えた声でフォローをしておいた。

 

「まぁそうでなくても剣道でどっか大学が拾ってくれるとは思うよ……多分。というかそんなことより、やっと昇格戦まで漕ぎ着けたわけだしもっと喜んだらどうなの?」

 

清隆もボソッとフォローを入れ、話題を逸らした。

 

「いや、やっとと言われても俺は今期からランク戦参加だぞ?」

 

「oh……身も蓋もない……」

 

確かに諒は今期からランク戦に参加だからな……。やっともクソもなかった。

 

「はいはーい! 私はめちゃくちゃテンション上がってるよー! 昇格戦で結果を出してA級になるぞー!」

 

「ほらお前ら、我が妹のこの喜びようを見習え」

 

「いや、確かに嬉しいことじゃぁあるが、俺はお前ら兄妹とはみてぇにA級昇格目指してるわけではねぇしな」

 

「まぁA級に上がるにもこの次が鬼門なんだから、そこを突破しないことには俺は喜べないかな。つか、B級1位とか何回か取ってるわけだし」

 

俺と諒の答えがあんまり面白くなかったのか、清隆と美奈ちゃんからジト目を向けられた。

 

「冷めてるなー……。ところでこの後どうする? B級1位の祝杯と言っては何だが晩飯にでも行かないか?」

 

「悪い、今日はもう晩飯の準備してるだろうからやめとく」

 

「じゃあ俺もパスだな。隊長会議の日にどうせ集まんだろ? その日でいいなら午後以降も空けとくぞ」

 

「わかった。雄也も美奈子もそれでいい?」

 

「はいよ。その日なら問題ない」

 

「私もオッケーだよ」

 

「じゃあ今日はもう解散で。どうせ集まるのなら今日の反省は会議の日の午前中にするとしようか。美奈子、明後日までにログをまとめておいて。データはこの後武富からかっぱらってくるから」

 

「あいあいさー!」

 

さて、ミーティングも終わったし帰るとするか。

 

 

 



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玉狛支部

来月から1ヶ月更新できないので、ペースを上げたいところ...


【春日雄也・玉狛支部】

 

ランク戦も終わり、家路に着くと一人と一匹が出迎えてくれた。

 

「ゆうや、かえったか……」

 

我が家でもある玉狛支部が誇るお子さま、林藤陽太郎とそのペットのカビバラ、雷神丸。

 

陽太郎はいつものように雷神丸の背中に乗りどら焼きを食べていた。

 

「ただいま、陽太郎。晩飯近いんだからどら焼きはやめとけ。またご飯食べきれなくなるぞ?」

 

「ふっ、あまいなゆうや。おれのいぶくろはひびしんかをつづけている」

 

「ほぅ、言ったな? じゃあ今日はちゃんと米一粒残さず食えよ?」

 

「あさめしまえだな」

 

こないだもそんなこと言って残してただろ……。

 

「まったく……。疲れたしちょっと寝てるから、飯の準備ができたら起こしに来てくれ」

 

「まかせておけ」

 

目をキラリと光らせる陽太郎の頭を撫で、そのまま2階の自室のドアを開けた。

 

部屋に入ると、肩にかけた荷物を机の上に、ペンダントを枕元に置き、そのままベッドの上で横になった。

 

――ひどく疲れたが、同時に高揚感もあった。

 

今までは清隆と二人でやってきたが、どうしてもA級の壁と言うやつを越えられなかった。……まぁ昇格戦の相手が悪かったってのもあるけど。

 

だが、今期は諒もランク戦に参加してくれたおかげでかなり戦力も上がり、A級昇格についてもある程度目処が立ったと言える。

 

清隆や美奈ちゃんからしたら万々歳だろうな。2人は家のこともあるから固定給が入る身分になれれば大喜びだろう。

 

諒にしても昇格戦では今まで以上に手強い相手と戦えるだろうし、A級に上がればその機会も増える。どうでもいいとは言っていたが、今頃笑いながら素振りでもしているだろう。

 

俺も――まぁA級そのものにはあまり固執はしていないが……ここまできたらやるしかないな。

 

でも、今は……眠いから飯まで寝ていよう……正直疲れた……。

 

そして俺は徐々に眠りに着いていった。

 

………

 

……

 

「……さい……」

 

 

「…きなさいって……」

 

 

 

 

「起きなさいって言ってるでしょうが!!!」

 

突如馬鹿でかい声が耳を劈き、同時に首を締めつけられる感覚と頭部に強烈な衝撃を何度も受けた。

 

「!!!!????!!!??? がっ……ぐ……息、が……き、桐絵……ギブ、ギブ……」

 

気付けば桐絵に裸絞めの要領で首を絞められながら、何度も頭に拳を振り下ろされていた。

 

陽太郎が起こしに来てくれるのかと思っていたが、俺の意識を覚醒させたのは桐絵からの、目覚ましには必要以上すぎる暴力だった。

 

「やっと起きたわね。ご飯だって何度起こしても起きやしないんだから」

 

「二度と目覚めることがなくなるところだったんだが!?」

 

「死んでないんだからいいじゃない。ほら、早く下降りるわよ」

 

「はいはい……」

 

痛む首を押さえながら桐絵の後を追い1階まで下りると、玉狛隊の中心であり、俺の師でもある木崎レイジがちょうど晩飯の支度を済ませようとしているところだった。

 

陽太郎は目を光らせながら箸を手に持ち、すでに戦闘体勢に入っている。宇佐美は確か今本部に行っているからいないはずだし、京介はバイト、ゆりさんやクローニンさんはどっかにスカウトに行ってるから留守。迅さんは……最近あんまり見ないけどまぁどっかでなんか暗躍してるんだろう。

 

だが、今日は外出してないはずの林藤さんがまだ来てないな……まぁこっちは大方食事前の一服でも決め込んでるんだろう。

 

「起きたか。メシの準備もうすぐ終わるぞ」

 

「おはようございます、レイジさん。何か手伝います?」

 

「大丈夫だ。席についててくれ」

 

「了解です」

 

席に着くと同時に最後の一人が到着した。

 

「おっ、なんだ。俺が一番最後か」

 

「遅いわよ支部長(ボス)」

 

うっすらとタバコの臭いを漂わせながら、玉狛支部の支部長、林藤匠が部屋に入ってきた。

 

「悪ぃ悪ぃ。よう、雄也。ランク戦の結果はどうだったんだ?」

 

「もちろん勝ちましたよ。B級1位です」

 

「おっ、A級の挑戦権獲得か。今度こそ昇格できるといいな」

 

「はい。まぁどうにか上がってみせますよ」

 

「当たり前じゃない。誰がアンタを鍛えたと思ってんの? 今までに昇格できてないってのがおかしいのよ」

 

おー、なんか偉そうなやつがいるなー。

 

「はいはい、桐絵には感謝してますよー」

 

とりあえずてきとーに返しとこう。

 

「なんかムカつく言い方ね……まったく、アンタも私たちと一緒に組めばとっくの昔にA級だったのに」

 

「まぁそれはそれでよかったのかもしれないけど、誘われちゃったものは仕方ないし、今の面子に十分満足してるし問題ないかな。それに今の面子ならここの部隊とだっていい勝負できるはずだし」

 

「ふーん。まぁいいわ。そのうち相手してあげるわ。さて、ご飯の準備できたみたいだし食べるわよ」

 

「そうだな、食おう食おう」

 

気付けばテーブルの上には晩飯が並んでいた。

 

肉が多めの野菜炒め、味噌汁、ご飯。うん、美味そうだ。

 

そして俺はレイジさんの作った晩御飯で腹を満たして一日を終えた。




しばらくは設定補完の日常展開が続きますが、お付き合いいただけると幸いです。


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黒木 諒

来月から1ヶ月ほど、海外に高飛びするので、その前にガンガン進めていく所存です。

設定補完の日常パート、想定だとあと6,7話続きます。

その後原作入りになる予定です。

お付き合いのほど、よろしくお願い致します。


【春日雄也・六頴館高校・武道場】

 

本日最後の授業は体育。

 

体育で柔道か剣道かを選択しないといけないわけだが、ボーダーで弧月を使うこともあるし、都合がいいかと思い俺は剣道を選択していた。(とはいえ本職は射手だが)

 

実際には剣道とは動きが違うし、トリオン兵との戦いにおいて所作なんて気にもしないが、剣を振るうという感覚を培うのはマイナスではないとは思っての選択だ。

 

さて、今日の授業は試合を行なうことになっているのだが、その相手が……

 

「次。春日、黒木」

 

ボーダーで1,2を争う弧月の使い手でもあり、俺がボーダーで所属している隊の仲間である黒木諒だった。恨むぜ、出席番号……。

 

先生に呼ばれ試合場に足を進める。

 

そもそも勝てる相手じゃないだろ、これ。日本一剣道が強い高校生だぞ? なんで今日最後の授業で惨めな思いをしないといけないのか……。

 

やっぱ柔道にしとくべきだったか……レイジさん仕込みの体術(力任せ)で無双できた可能性もあるわけだし……。

 

とはいえ今この場から逃げるわけにもいかないし、1秒でも長く粘ってやるとしよう。

 

向かい合い、礼をし、試合場の中央に進む。

 

蹲踞し、竹刀の剣先を交えると、「始め!」と審判を務める先生から声が上がった。

 

立ち上がり、向かい合う。

 

目を合わせた次の瞬間、諒のドデカい掛け声が響き渡ると同時に、それに伴って放たれた強烈な殺気が俺を襲い、つい怯んでしまった。

 

「メエェェェン!!!!」

 

気付けば頭部に鋭い衝撃が走っていた。

 

旗が上がり、その瞬間、ようやく諒に一本取られていたことに気付いた。

 

まっすぐ来ただけにもかかわらず、反応することすらできなかった。

 

ちくしょう、強すぎだろ……。

 

しかし……ただでは負けたくないな……。

 

せめて一度くらいは反撃したいな……。

 

定位置に戻り、構え、向かい合う。

 

「始め!」

 

2本目の開始を告げる掛け声が上がった。

 

―――

 

――

 

 

はい、負けました。(白目)

 

諒の動作を見ながら、3打目までは防ぎ、少し動きが緩んだ隙に面を打とうとしたが、振り上げた竹刀を振り下ろすことができなかった。

 

振りかぶった次の瞬間、目で追うことすらできない速度で諒は俺の脇を抜け、同時に胴を打たれていた。

 

面で視界が狭いことも相まって、諒が本当にその場から消えたかのような錯覚に陥った。

 

ランク戦において、諒はグラスホッパーを使って瞬時に間合いを詰めたり距離を置いたりと、トリガーを使って高速で移動することが多々あるが、先の一撃はそれに劣らないほどの速度だった。

 

「よう、お疲れ」

 

壁に寄りかかって休憩していると、諒が勝ち誇った顔で話しかけてきた。

 

「お疲れさん。やっぱ強いなお前」

 

「そりゃまぁ剣道素人に一本でも取られるようじゃあ面目丸つぶれだからな。けどお前筋いいぞ? 2本目の2打目と3打目、正直受けられるとは思わんかったし、思わず本気を出しちまった」

 

「いや、それ全然すごくないだろ……」

 

「何言ってんだ? ここの剣道部の連中どころか、地元の中学時代一緒だった奴らですら一部を除いて一振りでケリが着くこともザラなんだぞ? 少なくとも本気で打ち込んでんのを止めてんだから凄ぇに決まってんだろ。ボーダー忙しくねぇならお前を剣道部にぶち込みてぇくらいだ」

 

地元――元々は九州の方の人間であり、ボーダーにスカウトされ、今ここにいるということを以前耳にしていた。どうもあの辺りは剣道が強いとか何とかは聞いているが、そいつらでも相手にならないとかこいつは何者なんだよ……。

 

「んー……弧月振り回してた時期もあったからそれも影響してるのかもな。……あー、だったら清隆は俺より強いと思うぞ? 折を見てやってみたらどうだ?」

 

「……都合つくときに部活に呼んでみっか。楽しみだ」

 

ボーダーに入った当初は、俺も清隆も攻撃手だった。入隊当初は俺の方が強かったのだが、半年も経つ頃にはいつの間にか立場が逆転していた。

だが、この頃には実際に使ってみた上でのトリガーの適正なども互いに理解し始め、俺は射手に、清隆は狙撃手の道にと新たな進み始めた。このとき以来、個人のランク戦で一戦交えることもなくなってしまった。だが、清隆がランク戦で使っているところを見たこともあるが、その当時よりも動きは鋭くなっていたし、アタッカーとしてもそれなりの地位に立てるくらいの腕前くらいはあるはずだ。

 

おそらく諒も多少は楽しめる相手になるだろう。

 

……だが、こいつは今そんなことで楽しめる立場にはいない。

 

「……部活もいいが、今日の補習ちゃんと出ろよ?」

 

テストで赤点を取るからこういうことになるんだよな。

 

余談だが、俺は学年30位以内には必ず入っているし、清隆については入学からずっと学年1位という輝かしい成績を誇っている。

美奈ちゃんも、学校は違うが、入学してすぐの実力テストで上位に入っていたみたいなので、諒以外は成績優秀者の集まりとなっている。

 

「やめろ、思い出させんな。つか脳みそ分けてくれ」

 

「この間、賢にも似たようなこと言われたな……頼むからお前らボーダーの品位を落とすような成績だけは取らないでくれ……っと、そうだ。明日だが、晩飯焼肉でいいか?」

 

「焼肉か……寿寿苑?」

 

「そのつもりだが?」

 

「割と懐事情がよくねぇから別の場所にしね?」

 

「あぁ、それなら気にするな。俺と清隆で多めに出すつもりだ」

 

「マジか」

 

「先月と今月は広報とか来月からの新入隊員絡みの仕事が多かったし、割といい感じに給料もらってんだよ」

 

清隆に無理やり引っ張り込まれた広報の仕事。とは言っても嵐山隊のように毎回表立って活動しているわけではなく、裏で事務的な処理をやったりが主となっている。

A級に上がったら俺たちにもガンガン表に出てもらう、と根付さんには言われているが……あんまり仕事量が増えるようだったら勘弁してほしい気持ちも少々ある。

 

「じゃあ悪ぃがよろしく頼む」

 

「おう。……っと集合だとよ、先生が呼んでる」

 

「だな。……はぁ、補習とかダルすぎっだろ……代わりに出てくんね?」

 

「馬鹿言うな。そも、放課後はすぐ本部に行かないといけないから無理だっつの」

 

「は? 防衛任務は夜からじゃなかったか?」

 

「あー、そうじゃない。面倒見ないといけない奴がいるんでな」

 

あまり乗り気ではないが、弟子1人とそれっぽいものが1人ほどいる。ちゃんと教えられているかは正直自信がないが……というか片方はメインで使ってるトリガーそのものが違うし……何と言うか、俺に弟子入りは違うだろ……。

 

「そっちか。お前も大変だな」

 

「お前の自業自得の結果とは話が別だがな」

 

「うるせぇ」

 

そんなやりとりをしていると、先生の笛が鳴り出した。早く行かないと怒鳴られるだろうし、駆け足で笛の鳴る方へ足を進めた。

 

 




次回、ヒロイン候補その1出てきます。

高校生が主人公だし、恋愛的な要素も入れたいとは思っていますが……

頼む、私の文才。展開に追いついてくれ。


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那須 玲

想像以上に長くなってしまった……
1話3000字以内を目処に書くつもりがもう崩壊だよ……

調子に乗ってたら筆も乗ってなんか書きあがりました。
溜めてても仕方ないので投稿します。


【春日雄也・ボーダー本部・訓練室】

 

事は1年くらい前にさかのぼる。1年のとき同じクラスになった奈良坂透が声をかけてきたことから始まる。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「春日。ちょっと相談があるんだが少しだけ時間いいか?」

 

「ん? どした、奈良坂。めずらしいな」

 

奈良坂透――三輪の部隊に所属している狙撃手。狙撃手事情はよくわかっていないが、ボーダーにいる狙撃手の中でも5本の指に入るほどの腕前とは聞いている。

 

「実は従姉妹がボーダーにいるんだが射手をやっているんだ」

 

「ほー、初耳だ。それで?」

 

「B級まではかなり順調に上がれたみたいなんだが、最近伸び悩んでいるらしい」

 

「なるほど。で、俺にそいつの面倒を見ろってことか?」

 

「すまないが頼めるか? 弟子として採ってくれとまでは言わないから、少し手助けをしてやってほしい」

 

「わかった。時間が取れるときにでよければ」

 

……とは言ったものの、俺に指導役なんて務まるのだろうか。

 

自分で言ってて悲しくなるが、俺はトリオン量とサイドエフェクトに任せてゴリ押しする脳筋な戦い方を主としている。

 

もちろん、ランク戦では清隆の立てたプランに沿った、さながら詰め将棋のような技巧的な戦い方を心がけてはいるが、戦闘そのものはやっぱり基本ゴリ押しだ。

 

……ん?そういや名前まだ聞いてなかったな。

 

「で、名前くらいは教えておいてくれないと俺も動きようがないんだが……」

 

「すまない、言い忘れていた。名前は――」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「あ、春日くん。わざわざごめんね」

 

那須玲――奈良坂の従姉妹で俺の弟子でもある射手。

 

最初は奈良坂に教えを請おうとしたみたいだが、射手については門外漢で指導ができなかった奈良坂が、たまたま同じクラスだった俺に依頼してきたことに始まり今に至る。

 

彼女を隊長に据えて部隊を組みランク戦に参加し、B級の中位に食い込める実力、また部隊の面子の容姿も相まって、ボーダー内では割と話題になっている。

 

「お気になさらず。とりあえず入ろうか……美奈ちゃん、お願い。ついでに的もいくつか出してくれると嬉しい」

 

「了解ー! 仮想戦闘モード、入るよー!」

 

本人の資質や努力もあり、射手としての基礎的な部分や戦い方は大分詰め込めた。

 

ここから先は那須自身の戦い方にダイレクトに関わってくることを指導していくフェイズに入っても問題ないだろう。

 

というわけで――

 

「ちょっと今日は一つ見せておこうと思うものがある」

 

「何?」

 

「まぁ見たことはあるんだろうけど、とりあえず実際にやってるところを見せておこうかな、と」

 

そう告げると、いくつか合成弾を披露した。

 

俺は基本的にはバイパーよりはハウンドを多用する派なので、普段はあまり使わないのだが、那須はバイパーをメインで使っているし、とりあえずその辺りを使うやつを見せておくことにした。

 

「やっぱりすごいね……。でもなんでいきなりこんなもの見せてくれたの?」

 

「んー、まぁ基礎的な部分で教えることって実はもうあんまりないんだよな。立ち回りや間合いの取り方みたいなことは粗方教えたし、射程の最大飛距離の延長とかもうあとは鍛錬あるのみで特別教えられることはないし」

 

那須が弟子入りしてから、射手の基本的な戦い方や、射出の精度の向上を主に指導してきたが、かなりの水準には達したと思う。後は基礎的な能力の底上げなどの、本人の努力が肝となる部分ばかりだ。

 

「あとは今までどおり、一人でも戦えるように、機動力ガンガン上げてスピードと手数で制圧する感じのやり方を模擬戦を通して洗練していってもらう、ってくらいかな? ただ那須隊のコンセプトとかも考えると、1つどうしても身につけておいてほしいことがある」

 

「それが合成弾ってこと?」

 

「正確には確実に点を取りにいける必殺技みたいなもの、かな? 合成弾はあくまでも手段の一つだな」

 

「必殺技……」

 

「そ。必殺技。那須隊は基本的に他の二人が那須のサポートに回って、那須が点数を取りにいく戦い方をしてるよな?」

 

「うん。もしかしてこの戦い方ってあんまりよくなかったかな……」

 

「いや、むしろかなり評価できるポイントと思う。部隊の戦闘スタイルが確立できているからこそ、B級の中位グループとも戦えているわけだから」

 

1位の俺が言うのも嫌味に聞こえてしまうかもしれないが、実際B級のチームランク戦で、中位に居座り続けると言うのも大変だと思う。ただ、那須のポテンシャルとかを考えると、もうワンステップ上を目指せるだろう。だが――

 

「ただ、今のままじゃB級の上位に入ることは正直厳しい」

 

「えっ……」

 

「理由は大きく2つ。1つはB級上位と較べたときの単純な経験値不足。上位陣の皆は実力もさることながら、それ以上にB級の上位、なんなら今はもうA級に昇格したような連中と戦い抜いてきた経験がある。1つのアクションに対する反応の速さや、戦況や自分の状況を鑑みてからの次の動作への判断の速さが1テンポ以上那須隊よりも速い。戦いの中で、そういった面で遅れを取るっていうのはかなり手痛いことだな」

 

チーム戦である以上、1対1のように目の前の相手にのみ考えていればいいものじゃない。全体的な視野を持ち、どう動くのがベストかということを可能な限り素早く判断し続けなければならない。リーダーとして指示を出す那須にとっては余計に必要なものだ。

 

これに関しては志岐のオペレーターとしての能力の底上げも必要になってくるが、今のように那須をエースに立てて戦うのであれば、彼女自身も今以上に周囲に目を配りながら、的確で素早い判断をしながら戦うことが今後より重要になってくるはずだ。

 

「そっか……そこは頑張って差を埋めていくしかないよね」

 

「ああ。まぁこれは志岐含めて、那須隊皆に宛てた宿題みたいなものだな」

 

「じゃあもう1つは?」

 

「那須隊は強いとは思うけど、さっき言った上位陣みたいに怖くないことだな」

 

「えっ」

 

「ごめん、これじゃあちょっと言い方悪いな。うーん、そうだなー……B級で言えばうちの諒や影浦さんや生駒さん、あとは最近急上昇した鈴鳴の村上さんみたいに、まともにぶつかったらマズイ、と相手に思わせるだけの何と言うか、突き抜けたレベルのエース級の隊員がいない」

 

「……確かにそれは否めないわ」

 

「少なくとも上位に入ってくる隊には少なからずそういう隊員かそれに準ずるレベルの人がいる。他にも戦闘中はあんまり目立ったことしないけど東さんもそうだし、かなりムラッ気強いけど、調子いい時の葉子もその近いレベルにはあると思う」

 

那須は那須隊のエースではあるけど絶対的なエースにはまだなりきれていない、というのが俺の見立てだ。

今言ったとおり、諒たちみたいなバトルジャンキー共に較べると、例え1対1で戦うことになってもこいつが相手なら何とかなる、と思えてしまう。

というよりも、広報のお偉さんぶん殴って懲罰受けた影浦さんはともかく、今挙げた隊員はA級にいてもなんらおかしくない人たちばかりだ。

 

……まぁ、那須に彼らみたいになれとは言わないし、言うつもりもない。

さすがに「弟子が修羅と化した」なんて事態を起こすつもりはないし。

 

ただ、それでも彼女には他を寄せ付けぬ強みもある。

 

バイパーの軌道設定をマニュアルで行なえることだ。

 

これができるのはボーダー内で俺とA級の出水と彼女の3人だけ。まぁ俺は実戦ではバイパーたまにしか使わないし、きちんと実際に実戦で武器として使っているのはこの2人だけになる。

 

「今日はとりあえずまずは合成弾を撃ってみよう、ってことで。じゃあやってみようか。今のトリガー那須のセットだとトマホークかコブラだけど……コブラはいいや。とりあえずトマホークだけでいいと思う。ちょっと撃ってみようか。やり方は――」

 

「うん、じゃあやってみるわ」

 

バイパー、メテオラをそれぞれ起動し合成を始める。しかし、やはり射出にはなかなか移れないようだ。

 

そして数十秒経ってようやくそれは発射された。

 

「……変化炸裂弾(トマホーク)!」

 

発射された弾丸は的に向かって飛んでいき、的に触れた瞬間爆発を起こした。

 

「まぁ大体20秒か。うん、初めてにしては上出来だ。何より的にしっかり命中しているし、きちんと弾道をコントロールできてるあたりセンスある」

 

「ありがとう。でも春日くんほど上手くはいかないね」

 

「まぁ初めてだから時間かかるのは仕方ないし、これから練習していけばいい。それに俺はサイドエフェクト使ってるってのもあるから、比較対象にはならないし」

 

「そう言えば前もチラッと言ってたけど、春日くんのサイドエフェクトってどういうものなの?」

 

「なんだったけな、たしか高速計算処理みたいなことを診断で言われたな。とりあえず、合成弾を作る上での弾丸の設定とかがめちゃくちゃ速く済ませられるものと思ってくれたらいいよ」

 

俺のサイドエフェクト――高速計算処理。名前の通り、『計算』という限定的な事象に対しての処理能力が著しく速いという、すごいと言えばすごいけど一見微妙なサイドエフェクトだ。

日常生活では数学の授業時間、あとはスーパーの値引き品の値段計算以外では役に立たないし。

ただ、これが射手用トリガーに非常に相性のいいサイドエフェクトだった。

弾丸生成・設定から軌道計算、更には射手トリガー合成のプロセスの高速化など、射手としてのあらゆる能力を底上げするものだった。

そんなこともあり、入隊後は最初のうちは攻撃手だったが、これに気付いてからは射手として戦うようになった。

 

「そうなんだ……それ、すごいね」

 

「まぁね。それに、防衛任務で使ってる方のトリガーはもっとズルいシステム入ってるし、今度防衛任務のシフト重なったらちゃんと見せるよ。……さて、とりあえず夜のシフトまでは時間取れるから、それまでは気の済むまで付き合うぞ」

 

「ありがとう。でもその前にちょっといい?」

 

「何?」

 

「『葉子』って……」

 

「ん? 香取隊の隊長のこと? 隊長会とかで顔は知ってるとは思ってたけど……まぁB級の中位と上位行ったり来たりしてるからタイミング次第では来期は直接当たるだろ」

 

「そうじゃなくて、なんで名前で呼んでるの?」

 

急に温度が下がった気がする。まだたまに肌寒さを感じる日もある時期ではあるが、基地内が寒いのはおかしい。きっと気のせいだ。そう思いたい。

 

「あー、なんか名前で呼べって言われて。それ以来苗字で呼ぶと何か不機嫌になるから名前で呼ぶようにしてるだけ」

 

葉子については、過去に何度か防衛任務でシフトが一緒に以来、何かと絡んでくるようになり、たまにではあるが、特訓に付き合え、とせがんでくるようになった。訓練とか嫌いなくせに……あ、そういえば、夜の防衛任務も香取隊とシフト被ってたな……。

 

「そう……。ねえ、雄也くん」

 

「ん? あ、ああ。何?」

 

「知ってると思うけど、私の名前は玲よ」

 

「知ってるけど……」

 

「……」

 

あ、これはいけない。那須が若干イラっとしている……。

 

「な、那須?」

 

「もう一度言うわ。私の名前、玲」

 

「あっ、はい。えーと……玲?」

 

「うん。じゃあ雄也くん、もうちょっと練習したいから付き合ってくれると嬉しいな」

 

「わ、わかった……」

 

通信を通して聞こえてくる『雄也くんって頭いいのに馬鹿だよねー』という美奈ちゃんの声を聞き流しながら、有無を言わせぬ那須……じゃなくて玲の迫力に、俺はただ頷くしかできなかった。

 

 




あ、はい。お察しとは思いますが、次回はカトリーヌ出てきます。


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香取 葉子

5話目になります。

よろしくお願い致します。



【春日雄也・三門町警戒区域】

 

C級は別だが、俺たちボーダーは給与がもらえる。

 

A級は固定給があり、ある程度の給与が保障されているが、俺たちB級はそうはいかない。

 

じゃあどうやって俺たちB級が金を稼げるのか。

 

その答えとなるものが防衛任務だ。

 

もう少し細かく言えば、防衛任務などを通してトリオン兵を倒すことによって給与が支払われる。

 

出来高払いなので、討伐すればするだけ貰えるし、何ならボーナスもつくこともある。

 

古賀隊は大体週3くらいのペースで任に当たり、金が欲しい清隆は別にもう1日、他の隊に合流する形で出ていたりする。

 

清隆はそれに広報の事務仕事も合わせてやっているし、学校の成績も非の打ちようがない。完璧超人もいいところだ。

 

さて、そんな話は置いておいて、俺たち古賀隊は今まさにその防衛任務に当たっている。

 

―――

 

『モールモッド1体撃破。そっちには戻らないでここでそのまま待機しとくよ』

 

清隆から通信が入る。先ほど出現したトリオン兵をさっそく撃破したようだ。

 

『おー、お兄ちゃん速いねー。……あっ、次の門来るよ! 雄也くんと諒くんのとこから東にだいたい1.5キロメートル! ……来た! 誘導誤差5.5! えーっと……バムスター3体! 香取隊も近いから連携してお願いねー!』

 

『ちょっと俺からは離れてるな……どっちが行く?』

 

「『じゃあ俺が行くか』……諒、とりあえず清隆と合流しといて。行ってくる」

 

「了解」

 

『美奈ちゃん、香取隊に通信と俺の位置情報繋いで』

 

『オッケー! ……繋げたよー』

 

『ありがと』

 

『染井、聞こえる?』

 

香取隊のオペレーター、染井華に呼びかける。

 

『聞こえています。葉子たちも向かっています。そこから3つ目の十字路を左折してまっすぐ行った先に公園があります。そこで合流してください』

 

『了解』

 

目的地に向かい、一目散に走り出す。トリオン体なので息切れをすることがないので非常に楽だ。まぁたかが1キロちょい走ったくらいで息だえだえになるような柔な鍛え方はしていないが、負担がかからないことはいいことだ。

 

「到着っと」

 

「雄也!」

 

到着するなり、香取隊の隊長、香取葉子が駆け寄ってきた。

 

「久しぶり。若村も三浦も久しぶりだな」

 

「おう」

「久しぶりだねー」

 

「さて、まぁ挨拶は追々、まずはあっちにいる3体片付けるか……香取隊は右側のやつを頼む。あっちの2体は俺がやっとく」

 

「わかった!」

 

一旦香取隊と分かれ、駆け足で目標が射程に入る距離まで進む。

 

「さて、と。面倒だし一撃で決めるか。合成器(ミキサー)起動。徹甲弾(ギムレット)!!」

 

十数発の弾丸をそれぞれの口の中の弱点目掛けて放つ。

 

バムスターはとっさに口を閉じ弱点のカバーに入ったが、俺の放った弾丸はそれを貫いて、弱点を破壊した。

 

「ふぅ……やっぱ便利だよなー、これ。さすがクローニンさん」

 

ボーダーから支給されたものとは別に、俺はトリガーを持っている。

B級に昇格したときに、俺の母親が使っていたトリガーだ、と迅さんから渡されたものだ。

母さんも、元々はボーダーの前身だった組織の一員として戦っていたらしく、その時近界から入手したものだということまでは聞いている。

もっとも、俺を腹に宿してからは前線から退き、研究職のような後方支援の仕事をしていたらしい。

さて、このトリガーだが、ランク戦では使えない、うちのエンジニアが開発した規格が備わっており、それのテストも兼ねて防衛任務ではこのトリガー使っている。それが今使った合成器(ミキサー)という規格だ。

イメージとしては、桐絵の接続器(コネクター)の射手版という感じが近いかもしれない。

メイン側のチップを1枚起動後、合成器に滞留させ、即座に2枚目起動させ、トリガー内で合成弾を作成し、そのまま手元に発現させることができるものだ。

コンセプトとしては、3種類以上の弾丸トリガーを合成できるように、ということになっているが、まだ試作段階で上手くいっておらず、調整してテストして、というのが現状だ。

 

だが、現状でもこれを使えば楽に合成弾を撃てるという非常に魅力的な代物ではある。

メリットを一つ挙げるとすれば、弾丸トリガー合成時の隙が発生しないことだろう。俺や出水をもってしても、短時間とはいえ、合成時はどうしても隙が生まれてしまう。

だが、非常にめんどくさい、合成のプロセスの一部をミキサーが肩代わりしてくれることで、本来生じる隙を限りなく削ってくれる。

 

ただ、トリオンは通常以上に持っていかれるから、調子に乗ってあんまり使いすぎるとトリオン切れになりかねない。

 

まぁ俺はトリオン量わりと多いから余程のことがない限りそんなことにはならないが、限度は見極めておかないといけない。

 

でもって、こいつの最悪のデメリットとしてあげられるのは、このトリガーはベイルアウトできないことだ。

 

桐絵の接続器みたいに限定的な使い方ではなく、射手トリガー全般に作用できるようにプログラムされているため、めちゃくちゃ容量を食う。

 

そのため、ベイルアウト機能を外さないといけなくなるという非常事態が発生し、ランク戦では使用不可になっている。悲しい。

 

すなわちこのトリガー、下手をこくと人生がTHE ENDとなってしまうとんでも仕様なわけだ。

 

……まぁ実際にトリオン兵相手にそんなことにはならないような戦い方はしているし、本当にどうしようもなくなったときのための奥の手はあるんだけど。というか、防衛任務って部隊で出てるわけだから、もしもの場合にも助けがくるし。

 

 

「さて、あっちは……よし、片付いてるな」

 

香取隊の方も片付けたようだ。3人と合流すると、またもや葉子が駆け寄ってきた。おい、近いぞ。

 

「そっちも片付いたみたいだな」

 

「うん。あ、B級1位おめでとう! 今回こそはA級余裕で上がれるでしょ」

 

「余裕で上がれるとは思ってないけど、まぁなんとか昇級できるように頑張るよ」

 

「昇格戦の相手とか決まってんの?」

 

「多分明日の隊長会の時に通達があるんじゃないかとは清隆が言ってたかな」

 

「そうなんだ。そうだ! A級上がったらお祝いしてあげるよ! 何がいい?」

 

「あ、ああ。ありがとう。まぁそんなお祝いとか気にしなくていいから」

 

「何言ってんの。A級だよA級! 祝うに決まってんじゃん! ねぇ? 華もいっしょに!」

 

『私は遠慮させてもらう。二人で楽しんできたら?』

 

「そ、そう? じゃあ二人でどっか行こ?」

 

「おう……まぁ都合が合うときにじゃあお願いするよ」

 

「うん!」

 

葉子は満面の笑みを浮かべ頷いていた。

 

「……俺たち完全にいないもの扱いだな」

「悲しくなるから言わないようにしようよ……」

 

あ、若村と三浦の存在完全に忘れてた……スマン……

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

一方その頃、合流した清隆と諒は……

 

 

「あいつグイグイ来られっと断れねぇから根負けして香取と、が最有力だろ」

 

「いやいや、那須さんもいいかげんそろそろアタックかける頃だと思わない? そうなったら那須さん優勢だよ。多分香取より那須さんの方が雄也はタイプだし」

 

『ふっふっふ……実は今日那須さんの訓練してたときにね――』

 

「「マジで!?」」

 

「那須もついに動き出したか……」

 

「これでやっとイーブンくらいか……いや、これから那須さんがグイグイいくと考えたら逆転するのも近いだろうな……」

 

「でも那須じゃ香取ほど大胆には出れねぇだろ」

 

「そこはランク戦の戦いみたいに手数でガンガン攻めていけばどうにかなるでしょ」

 

当人のいない場で、雄也の話題で盛り上がっていたようだ。

 




そろそろタイトルの回収もやりたいんですが、
書いておきたい前振りとかいくつかあるため先延ばしに……。


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古賀隊

6話目です。

よろしくお願い致します。


【春日雄也・古賀隊隊室】

 

隊長会議のある日は毎回決まった時間に集まっているのだが、今日はどうも会議が長引いているようだ。いつもだと戻ってきているはずの時間を過ぎているが、今日はまだ清隆が隊室に戻ってきていない。

 

暇だったので俺は隊室に置いておいた本を読み、美奈ちゃんはせっせとログをモニターに写す準備をし、諒は隊室の一角で素振りをしていた。

 

俺が持ち込んでいる大量の本を除けば隊室にあまり荷物も置かれてないので、諒が木刀を振るスペースは確保できてはいるが……トリオン体とはいえやっぱ怖いからやめてほしい。

 

……ちょうど本を半分くらい読み終わった頃に、隊室の扉が開いた。

 

「ごめん、会議長引いた。待たせたかな?」

 

「言うて大して待ってないから問題ない」

 

そうこうしていると、隊長会議が終わった清隆が隊室に戻ってきた。

 

「おかえりー。こないだのログ写す準備もうできてるよー」

 

「ありがとう。けどまぁ先に報告からかな? 一旦モニターのとこに集まろうか」

 

清隆の言葉を受け、皆モニターの側のテーブルに向かう。

 

全員が椅子に腰をかけたのを確認すると、清隆が口を開いた。

 

「さてと。じゃあまずは、一番気になることから話そうか」

 

「昇格戦のことか?」

 

「そうそう。日時は5月8日の午後から。ゴールデンウィーク明けの水曜日だね。相手は……また二宮隊になった……なんかごめん……」

 

「「……」」

 

清隆は謝罪し、俺は無言となり、いつも笑顔の美奈ちゃんも真顔になった。何も知らないのか、諒は俺たちを見てぽかんとした表情を浮かべた。

 

「あ? どうした? 3人とも?」

 

「そう言えば諒は知らないんだったか……」

 

「まぁ部隊のランク戦あんまり興味なかったみたいだしな……」

 

「二宮隊と何かあるのか?」

 

「……俺たちは今まで4回昇格戦に挑んで全敗している。そのうちの3回が二宮隊だ」

 

ちなみに残り1回は太刀川隊だ。……A級トップ勢ばっかが相手であるところ、清隆は多才さの代償に運を奪われている気がしてならない……。

 

「昨日防衛任務前に鳩原さんに訓練付き合ってもらった時に、昇格戦の相手になったときはそろそろ手加減してください、と言っておくべきだったかな……」

 

俺たちは今まで昇格目前までは何度かいっているのだが、最後の最後で悔しい思いをし続けてきた。

 

特に二宮隊とは相性が悪く、完全に火力に押されて圧倒され、3回とも潰された。

 

それでも前回の昇格戦のときは、二宮さんをあと一歩のところまで追い詰めた。

 

だが、とどめを刺すべく、弾丸を発現させたその瞬間悲劇が起きた。

 

手元に発現させたトリガー目掛けて鳩原さんが狙撃をしてきたのだ。

 

おそらくこんな頭がおかしい真似ができるのはボーダー内ではおそらく鳩原さんと、できたとしても東さんくらいだろう。清隆もかなりの狙撃の腕は持っているがさすがに発現した弾丸トリガーを打ち抜くことはできない。師を超えるのはなかなか大変なようだ。

 

さて、話は戻るが、俺が発現させた、発射されるはずだったアステロイドはそのまま雲散霧消し、次の瞬間には二宮さんにハチの巣にされ、ベイルアウトしていた。

 

 

非常に苦い記憶である。

 

というかそもそもの相性が最悪だった。

 

元々古賀隊は2人しかいなかったわけで、しかも片方は弧月も使えるとは言え基本的には狙撃手。必然的に俺がフロントを張らないといけなくなるわけだ。正直無理だろ、俺射手だし。

 

あの頃は釣りや待ちなど、確実に取れるポイントを奪いにいく戦い方でB級の上位には難なく食い込めていたが、高火力・手数で押してくる二宮隊にそもそも勝てる道理もなかった。

 

俺と二宮さん、清隆と鳩原さんでそこまで実力に差があるわけではないが、そこに辻、犬飼先輩が加わってくるとなるともう止めようがない。

 

圧倒的な火力と数の暴力の前では、正直一泡吹かせることはできても最終的には潰されてしまっていた。

 

「まあまあ、二人とも、クヨクヨしない! 今回は諒くんもいるんだから何とかなるよ!」

 

まぁ美奈ちゃんの言うとおり、フロント張れて、しかも実力も文句なしの諒がいるからかなり楽になる。

 

前期まではロースコアでランク戦を進めてきたが、こいつ1人入っただけで、ゴリゴリの点取りチームになってしまったわけだし。

 

実際、草壁隊とかも緑川の加入で急激に力をつけたわけだし、1人の存在で強さや部隊のスタイルがガラリと変わることは普通にありえることだと考えていいだろう。

 

にもかかわらず、きちんと戦術として纏め上げられるあたり、清隆はそういう面ではやはり頼りになる。

 

「もちろん策は考えるけど……でもまぁ今回は諒がいるからかなり違うよ。3人いるから今までみたいに手数でガン押しされて押し込まれるとは考えにくいし。そういえば諒は確か辻とはランク戦やってたよね? 結果はどんな感じなの?」

 

「トータルで40本やって36対4で勝ち越してる。黒星については昇格してすぐだったし、まだトリオン体に慣れてなかったから落とした感じだ。ここ最近は1本も落としたことはねぇな」

 

辻もかなりの実力者のはずだが、それですら軽く捻ることができるとか本当に恐ろしいなこいつは……。

 

「さすが。じゃあ辻は諒に任せれば問題ないね。あとは俺が上手いこと鳩原さんを押さえればいいし」

 

「二宮さんと犬飼先輩はどうすんだよ……」

 

「そこはお前の出番でしょ。射出系トリガー使い同士上手いことやって。諒が辻落とすまで粘れば大丈夫だよ」

 

「テキトーすぎるぞ、おい」

 

「冗談冗談。来週までには何とか勝つための作戦は考えておく。ただ俺の見立てでは、俺が鳩原さんをきっちり抑えること、諒が辻を落とすまで雄也が粘れること、この2つを完遂できれば二宮隊にも十分勝てると思ってるよ」

 

「なるほど。まぁおんぶに抱っこで悪いがよろしく頼む」

 

「任された。じゃあ昇格戦についてはここまでにしよう。あとはなんか新入隊員絡みの書類仕事あるみたい。嵐山隊からヘルプの要請来てるから雄也か美奈子のどっちかは時間空けておいてほしい」

 

「わかった、俺が時間作れるだろうから引き受ける」

「りょーかい! お願いねー」

 

「うん、じゃあ決まりだね。報告は以上かな。あとはログ見ながらランク戦の反省会やって、焼肉に行こう。雄也、財布にどのくらい入ってる?」

 

「わかってるよ、今日の予算として諭吉一人連れてきてる」

 

「さすが、話が早い。じゃあ今日は諒と美奈子の分は俺と雄也で出すから」

 

「すまん、ご馳走になる」

「二人ともゴチになります!」

 

「いえいえ、お気になさらず。じゃあ美奈子はログを流しちゃって。サッと終わらせて飯にしよう」

 

こうして、ランク戦の反省会をとっとと終わらせて、一同焼肉へ向かった。

 

この時、お高めのお肉の大争奪戦になったのはまた別のお話である。

 




昇格戦の設定としましては、原作には明確に出ていないため独自設定となります。

ランダムに選ばれたA級の部隊とタイマン張って勝てば、と言うことにしています。

多分、今後原作で昇格戦についての詳しい設定も出てくるのでしょうが……。
とりあえず、パッと思いついたこの方式で、と言うことで。

……原作読んでる方は、時期的なもののツッコミは一旦なしでお願いします。ちゃんと拾いますので。


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古賀 清隆

そろそろ原作の方にも触れないと、ワールドトリガーの設定だけ借りた何かになってしまうので、原作の事件、触れておきましょう。

活動報告更新しました。

お時間有りましたら、こちらも是非ご覧ください。(大した報告はしていない)


【春日雄也・ボーダー本部】

 

隊室まで全力で走っていた。

 

『雄也。すぐに隊室に来てくれ。急ぎだ』

 

突然の清隆からの電話。いつになく真剣な声。そしていつものように砕けた口調でないことが、事の大きさを俺に悟らせた。

 

廊下を駆け抜け、隊室に駆け込むと、青ざめた顔をした清隆がミーティング用のテーブルに腰をかけていた。

 

「急に呼び出してすまない。今から話すことは誰にも言わないように頼む。上層部でもまだ詳しい状況が把握できていない上に緘口令が敷かれている」

 

「……何があった?」

 

「鳩原さんが……近界に密航したらしい……」

 

「は? どういうことだ」

 

「言ったとおりだ。昨日の晩にゲートが発生した……いや、ゲートの発生自体はいつものことか。で、鳩原さんと民間人3人がそのゲートを通じて失踪したとの情報が入った。あと今日になって判明したらしいが、保管庫のトリガーが3つ紛失している。これは鳩原さんがこの3人に流したものだと考えられるな」

 

「……」

 

淡々と話す清隆の言葉。頭には入ってきていたが、きちんとは理解できなかった。

 

なぜ密航なんてしたのか、皆目見当つかなかった。

 

どうしても密航しないといけない理由でもあったのか、という疑問がただただ頭を流れていく。

 

「この間鳩原さんと会っていたこともあって、朝一で城戸指令たちに呼び出されて俺は今回の件を知ることになった。さすがにユズルはまだ中学生だし、そんな話できないとのことで俺だけが呼ばれたが……なぁ、雄也。一つ教えてくれ」

 

「なんだ?」

 

「迅さんはこのことを予知できなかったのか?」

 

俺を呼んだ理由はそれか。迅さんのサイドエフェクト――未来視。

 

言葉だけ聞けばこういう話になるのも至極当然のことだ。

 

確かにあのサイドエフェクトにもおそらく限界はある。今回のことを読みそこなった可能性も否定できない。

 

だが、読めていた可能性もまた同様に否定できない。何か理由があって今回のことを進言しなかった可能性も十分にある。

 

だが……下手なことを言えない今の段階では予知できなかった前提で話を進めた方がいいだろう。

 

「……あくまで俺の推測だがいいか?」

 

「構わない」

 

「多分今回の件はきちんと予知できていなかったんだと思う。そもそも迅さんの未来視はそこまで都合のいいものではないと思っている」

 

「どういうことだ?」

 

「迅さんが言うには、未来ってのは決まったルートのものではなくていくつにも枝分かれしているものらしい、ってこの辺は知ってるよな」

 

「多世界解釈的な話だな」

 

「そういう難しい話は俺にはわからないが、お前が言うのならそういうものなんだろう。まぁ未来は幾万幾億の可能性があるってことだな。そうだとして、それ全部を迅さんの頭が処理できるかと言うとおそらくできないと思う。多分可能性の高い未来のビジョンを汲み取ってそれを予知としているんだろうな。まぁ余程決まりきった未来の話でない限り、確実に予知ができるかと言うと、そうではないはずだ。実際、読み損なうこともたまにあるからな」

 

「なるほどな」

 

「まぁ、生きた人間ってのは何をしでかすかわからないから。誰かが可能性の低い未来に歩を進めた結果、想定外の未来を世界が歩むことになるなんてことがあってもおかしくない、というよりむしろよく起こることだと思う。今回ももしかすると可能性の低い未来が選ばれた結果なんじゃないか?」

 

「そうか……」

 

ここまで話して一旦一呼吸置いた。

 

「何かここ最近で、密航に繋がるような……何と言うか、引っかかることはないか?」

 

「……可能性があるとしたら、近界遠征だな」

 

「遠征がどうしたんだ?」

 

「うちには関係ないことだったから、この間ミーティングの時には話さなかったことだが、隊長会議の際に近界遠征の話が出た。A級の上位部隊が今月の後半に遠征に向かうことになっているらしい。二宮隊もそれに漏れず、遠征部隊に選ばれるはずだった」

 

「はず?」

 

「ああ。結果だけ言えば、二宮隊は最後の最後で遠征部隊から外された。選抜試験は通っていたのにな。そしてそれを知った誰かがこう吹聴もしている。”鳩原未来が人を撃てないから二宮隊は遠征部隊から外された”と」

 

「本当なのか?」

 

「真相はわからないが、そういう噂が出てきたのは確かだ。……だが、そうか。わかった。急に呼び出して悪かった。それにお前の恩人すら疑ったことも謝らせてくれ。済まなかった」

 

「いや、構わんよ。あんな奇天烈なサイドエフェクトがあったら疑いたくなるのもわかるし、誇張解釈されても仕方がない能力だしな」

 

そうだよな……そんなひたすらに都合のいいサイドエフェクトなんて存在はしない。

 

もし皆が思うほど都合のいいサイドエフェクトだとしたら……母さんが死ぬことなんてなかったんだろうしな。

 

「そうか……呼び出しておいて申し訳ないが……席を外してもらってもいいか? 一人で考えたいことがいくつかある」

 

「ああ、基地内にはもう少しいるから、何かあったら連絡をくれ」

 

「わかった。すまない」

 

そして清隆を一人残し、俺は隊室を出た。

 

すぐに遠征での決定が何かしらの関係があると気付いたあたり、清隆には今回の件について何かしら心当たりがあるのかもしれない。

 

だが、それを言わないのであれば、わざわざ俺から追求するのも野暮なことだろう。

 

とりあえず行く宛てを探して基地内をぶらぶらしてみた。

 

しかしこんな話をした後にランク戦などする気も起きないし、湿気た面したまま那須隊や香取隊の隊室に行くのもはばかられる。

 

仕方なくコーヒーを買ってラウンジで本を読みながら時間を潰すことにした。

 

隊員たちの話し声がまばらに聞こえる。

 

鳩原さんが隊規違反で除隊されたという噂話。

 

二宮隊の処遇はどうなるのかという声。

 

色々な話が聞こえてききた。

 

たった1日の間の出来事なのに、こんなにも広まるものなのか。

 

それだけA級上位だった二宮隊の注目度が高かった、ということだろうか。

 

本を読み進めてはいたが、肝心の内容はさっぱり頭に入ってこなかった。

 

なんでこんなことになったんだろうな……本当に。

 

……以前、美奈ちゃんと隊室で話したときのことをふと思い出した。

 

 

『あれっ? 清隆は?』

 

『鳩原さんと絵馬くんと、毎度の事ながら訓練行ってるよー』

 

『またか……暇だったらこっちの訓練付き合ってもらおうと思ったのに』

 

『残念でしたー!』

 

『……にしても、またその面子か。よく飽きないな』

 

『なんだか弟2人を面倒見るお姉さんって構図だね! ……そういえば鳩原さんってさ、お姉ちゃんに似てるんだよねー。出てる雰囲気とかまさにあんな感じだったよ』

 

『そうなん?』

 

『うん。生きてたら確か同い歳のはずだし、お兄ちゃん、多分お姉ちゃんのこと重ねてるんだと思うよ』

 

『何か意外だな……』

 

『そうでもないよ? 昔は正直頼りなかったし、お姉ちゃんにべったりだったし。……でも大規模侵攻の後から何か変わっちゃったからね……』

 

『……』

 

『なんか急に大人になった感じなんだよね。まー頼りになるし、助けてもらってる部分もたくさんあるから、いいことなんだけど……でもあの3人でいるときはお兄ちゃんも昔みたいな感じになるから正直ありがたいよ』

 

―――

 

――

 

 

……どのくらい時間が経っただろうか、手元の本はすでに読み終えてしまった。

 

ラウンジに足を運んだ頃には大勢いた隊員も、気が付けば数人しかいない。

 

外はいつの間にか真っ暗になっていた。

 

結局22時を過ぎても清隆から連絡がくることはなく、その日はそのまま帰ることにした。




ちょっと本編で触れられなかった独自解釈が絡むので、
何かご意見ありましたら、お願いします。

一応次の話でもう少し触れます。


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迅 悠一

【春日雄也・玉狛支部】

 

色々と考えながらのんびりと自転車で玉狛支部まで帰る。

 

帰り着く頃には23時を過ぎていた。

 

いつも出迎えてくれる陽太郎はすでに寝ている時間なので、今日は出迎えは無しだろう。

 

そう思っていたが、ドアを開くと一人の男が立っていた。

 

「よう、雄也」

 

「迅さん……」

 

迅悠一――ボーダーでも二人だけしか存在しないS級隊員。そして大規模侵攻の際、俺を助けてくれた、俺の命の恩人でもあり、自分の兄のような存在だ。

 

「まぁコーヒー入れてくるから屋上に上がってな」

 

「了解です」

 

 

支部の屋上へと向かう。夜を流れる風はまだ若干の肌寒さを感じさせる。

 

少しだけ身を震わせていると、迅さんがカップを二つ持って上がってきた。

 

「ほら」

 

「ありがとうございます」

 

コーヒーを受け取って一杯口に含み飲み込むと、冷えた体が少しだけ熱を取り戻した気がした。

 

やはり……密航のことは聞いておこう。

 

「迅さん」

 

「……どうした?」

 

「鳩原さんのこと、見えてましたよね?」

 

「……気付いてたか」

 

正直聞きたくない言葉ではあった。予知できなかったのならともかく、わかった上で黙ってたとなると、正直気分のいいものではない。

だがまぁ迅さんのことだから、何かしら理由があって、ということもわかるので、話を聞くまで怒るに怒れない面もある。

 

桐絵曰く「あいつの趣味は暗躍」とのことで、実際ボーダーの上層部から色々指令を受けているらしく、裏でコソコソと何かやっているとは聞いている。

 

今回もその一環なのだろうか。

 

「いや、もしかすると、って思ってたくらいです。今の言葉で確信を得た感じですね」

 

「ハメやがったな」

 

「おかげで清隆から問答を受ける羽目になりましたよ」

 

「はっはっは。悪かったな」

 

「ったく……まぁ気にしないでください」

 

この人は……面白がってやがるな……ちくしょう……。

 

まぁ何にせよここまで聞いたのだから、緘口令を敷かれているとはいえ理由くらい聞いても問題ないだろう。

 

「で、今回のことを黙っていた理由、何かあるんですよね?」

 

「ああ」

 

「聞いてもいいですか?」

 

「……わかった。話しとこう。雄也には悪いことしちまったしな」

 

「え?」

 

 

「清隆のことだよ。誤魔化しといてくれたんだろ?」

 

「まぁ結果的にはそうなりましたね」

 

少なくともあの段階では、迅さんのことを信じての発言だった、と悪態ついてやろうとも思ったが、真相を告げようとする迅さんの表情がいつになく真剣なものだったので、やめておいた。

 

「悪かったな。……黙っていた理由だったな」

 

コーヒーに口をつけ、一呼吸置き迅さんが口を開いた。意外とすんなり話してくれるようだ。

 

「彼女の失踪がなければ、今後必ず起こる近界民の大規模侵攻で莫大な被害が出るからだ」

 

以前からまた近界民により侵攻を受ける、という話は聞いていた。

 

今までは『“いつか”そういった侵攻が起こる』というかなり曖昧な話だった。

 

ただ、今回の情報は訳が違う。鳩原さんの失踪で”大規模侵攻による被害を抑えることができる”とも受け取ることができる言葉を迅さんは発している。

 

だとすると、わかっていたとしてもこれは言えないな……。

 

「……なるほど、そういう未来が見えてるってことですね?」

 

「ああ。最近俺あんまり夜いないだろ?」

 

「そういえばそうですね」

 

「実は城戸さんたちから密命も受けて調査しているところなんだよ。あんまり深くは言えないが、とりあえずその大規模侵攻のための調査みたいなもんだと思ってくれ」

 

「そうだったんですか。で、この事件で何かが変わるんですか?」

 

「詳しくはまだわからない。けど、この事件が契機になって、多分一人入隊すると思われるんだが……どうもそいつが大規模侵攻の被害を抑える切り札みたいなんだ。悪い、この辺はかなりあいまいにしか予知できていない」

 

「なるほど……まぁ今はまだ言わない方がいいことですね、これ。多分清隆にも。すいませんね。わざわざ話してもらって」

 

「お前には知っておいてもらった方が助かることも多いからな。それに、”あれ”についても大規模侵攻に備えて本部にも秘密にさせてるし、このことで何も知らないまま振り回されるのもあまりいいものじゃないと思ってな」

 

「んー……そう言われるとそうですね。まぁ俺は迅さんが密航について黙ってたことについて別に怒ったりはしませんよ。清隆が知ったらどう思うかは知りませんが。でも、これが最善だったんですよね?」

 

「そうだな。少なくともこれが最善に繋がるってのは間違いない」

 

「だったらいいんじゃないですか? そもそもボーダーの皆も、未来は予知できるものって思ってるのも本当はおかしな話ではあるんですし。ただまぁ……未来が見えるってのも辛いですね」

 

「そうだな……」

 

迅さんは苦笑いを浮かべた。

 

迅さんは鳩原さんのことを黙っていたが、本来であればそんなことはしないだろう。迅さんだってそんなことを良しとは思っていないはずだ。

 

だが、大規模侵攻で想定しうる被害と天秤にかけて、その結果鳩原さんを切らざるを得なかったのだろう。

 

今まではめちゃくちゃ便利なものだと思っていたが、下手に未来がわかるばかりに普通ならしなくていいような辛い選択も迫られる辛さというものがあるということに気付からされてしまった。

 

――少々重い雰囲気になってしまったので、ちょっと話題を変えることにした。

 

「ああ、そうだ」

 

「どした?」

 

「昇格戦なんですけど……二宮隊とやるはずだったんですけど、どうなるんですかね?」

 

「安心しろ。雄也たちはちゃんとA級に上がってるよ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」

 

出た、お決まりのフレーズ。

 

「またそれですか。何と言うか、胡散くさいですよ」

 

「うるせぇ。だが……一山あるな。まぁ頑張ってくれ」

 

「……そこまで言っておいて言い逃げですか?」

 

「はっはっは。近いうちにわかることだし、楽しみにしておきな」

 

「まったく……はいはい」

 

手元の少し冷めたコーヒーを飲み干す。

 

迅さんの言う”一山”が一体どんなものなのかはわからないが……まぁ今は気にしなくていいことなんだろう。

 

楽しみにしてろ、ってことは別に悪いことが起こるわけじゃないんだろうし。

 

「ふぅ、コーヒーありがとうございました。もう遅いんでそろそろシャワー浴びて寝ますね」

 

「おう。俺はもう少しここでくつろいでるよ」

 

「風邪引かないようにしてくださいね」

 

「大丈夫大丈夫」

 

「では、おやすみなさい」

 

「おう」

 

夜空を見上げる迅さんを背中に、俺は屋内に戻った。




今月の更新はおそらくこれで最後になります。

次の更新は8月になります。


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古賀隊②

久しぶりの更新となります。

よろしくお願い致します。


【春日雄也・ボーダー本部・古賀隊隊室】

 

防衛任務が終わったら、いつもだと大抵その後は各自自由解散なのだが、今日は清隆から話があるから、と任務後に集められた。

 

「遅い時間にわざわざ時間取らせてごめん。急ぎで報告しておきたいことがあったから」

 

鳩原さんのことで酷くショックを受けているだろうと不安ではあったが、今日一日清隆は少しもそんな素振りを見せなかった。

 

「構わん。で、どうした?」

 

「防衛任務の前に俺は報告を受けていたんだけど……まず、古賀隊のA級昇格が決まった」

 

「は?」

「マジで?」

「ホントに?」

 

迅さんが予知していたが、まさかこんな感じで決まるとは思ってもみなかった。

 

でも、そうなると”一山”とは一体……。

 

「掻い摘んで経緯を話すと、二宮隊の懲罰降格に伴って、入れ替わりで俺たちがA級に上がることになったってとこかな」

 

先日の鳩原さんの事件。表向きはただの隊務規定違反のためクビになったとされ、その懲罰として二宮隊もB級に降格することになった。

 

本当の理由を知っている人間は極僅かだが、さすがに表沙汰にはできないことだし仕方ないだろう。

 

「なるほどねー」

 

「そしたら昇格戦は無しってことでいいのか?」

 

「うん。で、これからが本題なんだけど、昇格戦は無くなったけど代わりにエキシビジョンマッチとしてA級の部隊と戦うことになった」

 

なるほど、このことか……確かに大きな山になりうる事案だな、これ。

 

「相手は?」

 

「俺たちで決めていいみたい」

 

「どこでもいいの?」

 

「A級ならね」

 

「候補とかはあるのか?」

 

矢継ぎ早に繰り出される諒と美奈ちゃんの質問に対して清隆は淡々と答えていたが、ここで一瞬、間が置かれた。

 

「……ここで考えられる選択肢はいくつかあるけど――上位陣に挑戦するっていうのはどうかな?」

 

「じゃあ上位陣に挑戦と言うとどことやるってんだ?」

 

「せっかくだし1位とやろう」

 

「太刀川さんのところか……」

 

「うん。戦術や個々の能力、相性を勘案すると上位陣では一番都合がいいと思う。勝ち目としてはまぁ7:3くらいだけど……できれば今回俺たちの強さをひけらかすようにしたい」

 

勝ち目を7割と読んでいるのか……想像以上に高いな……とも思ったが、諒の加入はそれ程に大きかったということか。だが、なぜ強さを見せびらかすような真似をしないといけないのか? と思っていると諒が清隆に問うていた。

 

「なんでだ? 別に普通に戦えばいいんじゃねぇのか?」

 

「来期のランク戦、俺たち出ないじゃん」

 

「「あー」」

「あー……俺が部活出ねぇといけねぇ時期だからな……悪ぃな」

 

そうだった……。諒の都合で来期は出られないんだった……。

スポーツ推薦で入学し、学費の大半と寮費が免除となっている諒は、基本的には部活が優先事項となっている。

 

本人は部活に出なくても正直余裕で好成績取れる、とは言っているが、体面上そういうわけにもいかないのだろう。

 

大会前ともなるとOBもよく足を運び出すし、その場に諒がいない、というのは確かにあまり好ましいものではない。

 

「諒の場合は仕方ないね。まぁそんなこともあるから、他の隊員に対して、うちの隊の強さに疑念を持たせたくないってのはある。ただでさえ繰上げ昇格みたいな形になってるわけだし」

 

強さに疑念を持たせたくない、というのは同意見だ。

 

割と俺たちの強さを認めてくれている人も多いのだが、それでも広報をやっているからかどうかわからないが、陰でマスコットチーム呼ばわりしている連中もいるということは知っている。まぁ俺にしてもそいつらを黙らせたい、という気持ちもまぁ若干はあるし。

 

「なるほど……作戦とかはこれから考えるのか?」

 

「とりあえず今晩考えるつもりだけど……何かあるなら言ってくれたら考慮するよ」

 

「じゃあ俺からいいか?」

 

「はいどうぞ、諒」

 

「できれば太刀川さんとはサシでやりてぇ」

 

「そう言うと思った」

 

「1対1でやって勝てるのか?」

 

「何とも言えねぇが……勝つつもりだ。少なくとも純粋な弧月同士の戦いだったら負けることはねぇから、旋空に気ぃつけとけば勝算はかなりあると思ってる」

 

「勝てるのかよ……太刀川さんに……あの人も化け物染みて強いんだがな……」

 

「あくまでも負けねぇだけだがな。そもそも太刀川さんの剣術は俺のとは根本的に違ぇ。人が相手ならこっちが上だ……まぁそれでも十分強ぇから、気を抜いていい相手じゃねぇけどな」

 

「そうなのか?」

 

「俺のと違って、あの人のは、自分より一回り以上デケぇやつを相手にするときのための戦闘術がベースになってんだよ。というよりも、そういう奴らと戦うために旋空のようなオプショントリガーがあるんだろ」

 

諒は普段はあまり頭のいい方ではないが、こういった戦闘、特に剣術が絡んでくると、急に頭がよくなるから驚きだ。

 

小さい頃から古流の剣術に触れているということは聞いているが、こっち方面に関しては知識の積み重ねも相当なものなのだろう。

 

「なるほど……わかんない!」

 

対して戦闘そのものに縁のない美奈ちゃんには、諒の言っていることなどちんぷんかんぷんなのだろう。一応オペレーターだし、多少は知っておいてもいいことだとは思うのだが……まぁ、わからないものは仕方ない。

 

「多分諒が言いたいのは、太刀川さんの戦い方はトリオン兵を想定した戦い方で、諒のは人と戦うための戦い方ってことだよ」

 

「まぁそんなとこだ」

「なるほどなー」

 

「わかった。じゃあ太刀川さんは任せる。……うん、だったらやっぱり……そうだな……よし。雄也、試したいことあるから時間あるときに訓練室入ろう。トリガーのセットちょっと変えることになるだろうけどいい?」

 

「わかった。俺はいつでもいいぞ。俺も試したいことがあるから付き合ってくれると助かる」

 

「わかった。とりあえず基本的には諒と太刀川さんのマッチアップが肝になるから、諒、頼んだよ」

 

「任せておけ」

 

「あ、あと今月中に隊室引越しになるから荷物はある程度まとめておいてほしいかな。特に雄也はあの大量の本ちゃんとどうにかするように」

 

部屋の隅の方を指差し清隆が告げた。

 

一応、隊室の一部を大雑把に区切って各々私物置きとしてのスペースを作っている。

 

清隆のとこには小さめの棚が置かれており、そこにはボードゲームが一式揃っている。

たまに将棋やオセロの相手をさせられるが、悲しいことに一度も勝てた例がない。

噂によると、王子さんにチェスで、水上さんに将棋で勝っているらしく、噂が本当だとすると、とても勝てる相手じゃないんだよな……。

 

諒に関しては、壁に大きな鏡を一枚立て掛け、暇を見つけてはそこで素振りをしている。

A級の隊室に移るとなると、多少スペースも広くなるから諒としては都合がいいだろうな。

 

そして、俺の割り当てられているスペースは、暇なときに読む本が積み上げられている。

 

……ざっと見積もって100冊はある……やばいな、溜め込みすぎた。

 

読み終わったら玉狛に持って帰るようにするべきだったか……。

 

「はぁ……わかった、善処する」

 

深い溜息とともに諦念を漏らしつつ、清隆の言葉に従うことにした。

 




今後ペースが落ちますが、今月中に太刀川隊との試合書き終わりたいところ……


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古賀隊③

太刀川隊とのバトルの直前です。
今月中に書き終えたいと言っていましたが、普通に無理ですね、ペース的に←

では今回もよろしくお願い致します。


【春日雄也・ボーダー本部・古賀隊隊室】

 

いよいよ太刀川隊とのエキシビジョンマッチ当日となった。

 

作戦の詳細を詰めるため、一同隊室に集まっていた。

 

「さて、作戦……と言えるほどのものじゃないんだけど、もうちょっと細かく話そうか」

 

清隆の言葉に、皆がその方を向き直した。

 

「じゃあまず前提として、今回太刀川隊と戦う上で気をつけなければならないことはわかる?」

 

「やっぱり太刀川さんとのマッチアップか?」

「んー、でも出水先輩を抑えるのが最優先なんじゃないかな?」

 

「2人とも残念。雄也は何かわかる?」

 

2人の出した解は一見妥当なものに思えるが、清隆がわざわざ聞いてくるくらいだから、おそらく普通に想定できるような答えではないのだろう。大体こんなことを聞いてくるときは、並の感覚では想定できないケースが多い。笑顔で取り繕ってはいるが、こんなことを聞いてくる当たり本当に性格悪いな、こいつ。

 

とは言え、俺は一応清隆の考えている作戦をある程度把握しているから予測はつく。おそらく残る1人のことだろう。

 

「……多分だが、これは今回の戦いに限った話だな」

 

「おっ、わかってるじゃん」

 

「え? 雄也くんわかるの?」

 

「今回どんなことをやりたいかくらいまでなら把握してるからな。清隆の求める答えどうか自信はないんだが……想定外の紛れを発生させないことかな」

 

「うん。ニュアンスとしてはちょっと違うけど、概ねあってるよ」

 

「で、その想定外の紛れってのはなんなんだ?」

 

「唯我」

 

「は?」

「でも唯我くんってそんなに強くないよね?」

 

諒はともかく、オペレーターの美奈ちゃんにまで強くないと言われるとは……唯我、哀れ。

 

「そうなんだが……まぁガンナーだし、もしかしたら、ってのは普通にあり得る話だから」

 

「なるほどー」

 

実際、銃手厄介ではある。距離を置いて、しかもハンドガンとはいえある程度連射できるとなると普通にマグレが発生することもありうる話だ。

 

今日のような戦いの中で、唯我なんぞに落とされるわけにはいかないので、申し訳ないが早々に退場させておきたい。

 

「もしかしたら、もそうだけど、俺が太刀川隊の人間なら、太刀川さんからあまり離れてない場所に隠れてもらって、いざと言うときの援護に使うだろうし、そう考えると唯我邪魔だよね。そういうわけで、合流される可能性もあるから、その前に唯我をさっさと落としておきたいんだよ」

 

清隆の言うことも一理ある。実際タイマン張ってる時に横から茶々入れられるのは正直うざいし、気を取られてその隙にやられる、なんてことも十分ありえることだ。

 

タイマン張るというと聞こえはいいが、あくまでも俺たちがやるのはチーム戦なわけだから、横から茶々入るのも当たり前のことだし、それが責められることではない。当たり前の戦い方だ。

 

「何か具体的な方法でもあるのか?」

 

「うん。ユズルのとこの北添さんの見て思いついたんだけど……」

 

「てきとーメテオラとか言われてるやつのこと?」

 

「そうそう。あれを合成弾使って威力増し増しで雄也にやってもらおうかな、と」

 

たまに清隆に付き合ってもらい、前々から色々合成弾を試していたのだが、そのうちの1つに、今回の戦いにおいて清隆の御眼鏡に適う物があったらしく、これの調整等をするために、この間のミーティングが終わった後に呼び出されていたわけだ。

 

メテオラ同士の合成弾。身も蓋もない話をすれば威力が高いメテオラをぶっ放せる、と言うだけの話なのだが、トリオン量の多い俺が使えば、銃手並の射程でゾエさんのそれ以上の威力を発揮することができる。

 

今まであまり使い道もなかったし、何よりトリガーセットの都合上使うことができなかったから、今回が初のお披露目となる。

 

それをガンガンぶっ放せば、突然の出来事に対応するだけの実力のない唯我を動揺させられるし、あわよくば落とせるだろう。そうでなくても清隆が恐慌状態の唯我を確実に仕留めてくれるはずだ。

 

「フィールドはこっちで決められるからね。市街地Aということで、着弾座標とか弾数とかの設定はについてはこの間雄也と決めておいたから。これで唯我を落とせればよしだし、落とせなくても唯我はビビッて慌てるだろうからね。見つけ次第倒せばいいと思うよ」

 

「着弾予定座標はマップに印をつけているところ。転送されて10秒かからないうちに発射するつもりだから対象範囲に入らないよう気をつけといて。威力とか爆発の範囲も通常のメテオラに比べると桁違いだから、そこも注意をよろしく」

 

「わかった」

 

「うん。で、唯我を落とした後は手筈通り諒には太刀川さんとやってもらう。で、出水なんだけど――――」

 

「は?」

「あ?」

「え?」

 

想定外の提案に、俺たちは驚き一瞬空気が止まってしまったが、清隆は構わず次の言葉を続けた。

 

………

……

 

 

「はぁ……わかったよ」

 

「恩に着るよ。2人もそれでいい?」

 

「はぁ……まぁ俺は太刀川さんとやれればいい」

「了解! あれ? そう言えば雄也くん、今回に限った話ってどういうこと?」

 

「ほら、普段のランク戦はポイントの取り合いだから。皆一斉に唯我狙うから策もクソもなく唯我は真っ先にベイルアウトだ。今回みたいな戦いになると、雑魚だから、と放置しがちになって意識から外しちゃうじゃん? さすがにそれは舐めすぎだし危険だよ」

 

「あー、納得」

 

「さて、時間だしそろそろ行こうか」

 

「ああ」

「おう」

「じゃあ皆、頑張って!」

 

戦いに向けての準備は万端。いざ、出陣。とでも言ったところか。

 

 

 

 

 

 

【全体視点・実況席】

 

「さぁ! 太刀川隊と古賀隊のエキシビジョンマッチが間も無く始まります! 実況の武富桜子です」

 

実況の竹富桜子の元気な声が観客席に響く。

 

「では本日の解説者ですが……太刀川隊と古賀隊の対戦ということでその道の実力者に来ていただきました!」

 

「まずは個人総合3位で攻撃手2位の風間隊の風間隊長です!」

 

「よろしく」

 

「そしてもう1人は個人総合2位で射手1位の二宮隊の二宮隊長!」

 

「……ふん」

 

攻撃手、射手のスペシャリスト同士のマッチアップと言うこともあり、それぞれの実力者が解説に呼ばれ、実況席の方も準備万端といった感じだ。

 

「ではまず風間隊長。今回の見所の一つとして太刀川隊長と黒木隊員のマッチアップがあると思いますがいかがでしょうか?」

 

「旋空を使う分太刀川が有利だろう。だが、それを掻い潜って間合いに入ることができたら黒木に分がある」

 

「純粋な剣での強さでは黒木隊員の方が上と言うことでしょうか?」

 

「あくまでも多少は分があるという程度だ。大して力量に差はないだろう」

 

太刀川と黒木については、風間の目から見たら大差ないらしい。

 

しかし、この風間の言葉に観客席は少々ざわつく。観客席の反応は太刀川圧倒的優勢だろう、というものだった。

 

実際に黒木、太刀川のランク戦での結果は太刀川が優勢ということもあり、他の隊員たちは太刀川の方が強いという認識だった。

 

ただ、実際に2人はB級のランク戦が始まってから個人ランク戦をしていない。トリオン体となることにより運動性能が向上するのだが、想定以上に運動能力が上がってしまいそれに黒木が慣れるのに時間がかかってしまったこともあり、本調子で太刀川と戦ったことはなかった。

 

つまり、互いに万全の状態で戦うのは今回が初めてなのだ。

 

風間ほどの実力者ともなれば、今現在の黒木の戦闘能力を考慮しどちらが優勢かということも判断できるが、一般の隊員ではそうはいかず、ランク戦の結果だけでどちらが優位かを判断するしかないため、こういった反応になったのも仕方ないことだ。

 

「なるほど、ありがとうございました。では二宮隊長。もう一つの見所として出水隊員と春日隊員という合成弾の名手2人の戦いですが、それについてはどうお考えでしょうか?」

 

「春日との正面切っての打ち合いは流石に分が悪い。互いに射手としてのプライドもあるだろうが、出水がそこを堪えて春日との戦いに拘らず、太刀川の援護に回るなら普通に勝機はある。ただ――」

 

「なんでしょうか?」

 

「今挙げた2つとは別に、古賀隊には古賀がいる。太刀川たちがこの曲者相手にどう対応するかだ」

 

「二宮の言うとおりだな。単純に狙撃手としてもかなり優れているが、B級のランク戦を見ていると絶妙なタイミングでアシストをしていたり、どこからともなく急に現れて弧月で相手を切り伏せたりと上手いことやっている。小隊での戦闘の上手さにおいてはおそらく他の2人より一段上にいるだろう。フレキシブルに動けるという点も考慮すると、東さんよりも厄介な相手だろうな」

 

「特に黒木が入隊してからより際立ってきた。強力なフロントが1枚入ったことで戦局を見極めることに、より集中できるようになったということなのか? とにかく今まで以上に面倒な相手になった」

 

春日の実力を認めながらも2人が気にしているのは古賀のことで、このことにまた周囲はどよめいた。

 

風間、二宮に言わせれば、個人の能力が突き抜けている2人のことよりも、その2人を上手く使い、尚且つ自分も動きながら戦場の流れを支配できる古賀の存在こそが太刀川隊にとっての脅威である、ということを暗に発していた。

 

ランク戦において、単純に個人の能力だけである程度ことを決めることができてしまうB級下位層以下の隊員からしたら、春日、黒木の両名の高い戦闘力で成り立っている部隊であり、古賀はただのそれなりに上手い狙撃手という認識だ。

 

だが、それより上にいる隊員たちに言わせれば、複数部隊での戦いというフィールドにおいて、上手いことやられる、つまりその場の流れを容易く持っていってしまうことができる古賀の存在の方が余程驚異的なのだ。

 

「なるほど。ではおふたりは古賀隊優勢との見方でしょうか?」

 

「そうだな……古賀隊の方が有利だろう」

 

「ふん、そもそもの戦力の問題だ。同レベルの実力者の集まりの中で、雑魚が一人いる太刀川の所が不利なのは決まっているだろう」

 

そして、案の定唯我はボロクソにけなされていた。唯我、哀れ。

 

「は、はい。ありがとうございました……おっと、そうこうしている内に転送の準備が整ったようです! ではエキシビジョンマッチ! スタートです!!」

 

 




実況席でのやりとりだけ、三人称視点に変えています。


今回も読んでいただきありがとうございました。


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太刀川 慶

投稿しなおします。

……そもそもミスがあったら編集すればいいだけの話なんですが、
疲労で頭が完全に飛んでましたね。消した後に気づきました。

失礼いたしました。


【春日雄也・ボーダー本部・エキシビジョンマッチ(市街地A)】

 

転送場所……MAP中央からやや西寄り。

 

清隆と諒の位置は把握。攻撃範囲には入っているが、まぁ2人なら上手いこと回避するだろう。

 

転送されるや否や、すぐさま近くの建物の屋根によじ登り、両手にメテオラを起動し合成し始める。

 

『清隆、諒。予定通りの場所に撃ち込むから注意してくれ』

 

『『了解』』

 

「『いくぞ』……メテオラ+メテオラ=爆撃弾(テンペスト)」

 

何十発もの弾丸を四方八方に発射する。

 

軌道もばっちり、想定通りの座標目掛けて弾丸は進んでいく。

 

そして次の瞬間――轟音が幾度もステージに響き渡り、辺り一面に爆炎が広がった。

 

 

 

あちこちで爆発音が響き、それと共に地が震えている。

 

そして、爆発に巻き込まれたのだろう、誰かがベイルアウトしたようだ。

 

『なんつー威力してんだよ……』

 

実際にこれを初めて見た諒は驚き半ば呆れていた。

 

『雄也くん! 唯我くん爆発に巻き込まれて落ちたよ!』

 

『おっ、ラッキー』

 

『残りは2人だが……急いで場所を特定するぞ。美奈子』

 

『了解! ……ってあれ? 太刀川隊の誰かバックワーム外しっぱなしにしてる?』

 

『なんだと? 場所は?』

 

『位置展開するね』

 

俺からは少し離れているな……しかし、なぜここでバックワームを外す?

 

そう思っていると、予想外の人物から通信が入った。

 

『……太刀川さんだろうな』

 

おもむろに諒がそう告げた。

 

『何でわかる?』

 

『なんとなく、だが間違いねぇだろ。弧月2本起動させて、「来るなら来い」って言ってんだと思う』

 

『まぁ出水が今この段階でバックワーム外すメリットも思い浮かばないし、案外そうなのかもしれないな……』

 

『そうか、なら諒はそっちに向かってくれ。ただ太刀川さんを使っての釣りの可能性も十二分にあり得るから、周囲への警戒を怠らないように。その時はすぐに援護できるような場所取りはしておく。もしもの時は任せろ』

 

『はいよ』

 

諒の推測に合わせ、射手が目視されたり、合成弾を作っているわけでもないのにバックワームを外すとは思えないという点からも、納得のいく答えではあった。

 

清隆からの通信を受け、諒は一目散に太刀川さんがいると思われる場所に向かっている。

 

俺も出水を引っ張り出さないとな……さて、どこにいるだろうか。太刀川さんと合流されると面倒だし、できれば出水がこっちを狙ってくれるといいんだが……。

 

 

 

 

 

【黒木諒・ボーダー本部・エキシビジョンマッチ(市街地A)】

 

位置情報を頼りに駆けていると、目の前に想定どおりの人物が現れた。

 

「待ってたぜ、黒木」

 

「やっぱ太刀川さんだったか」

 

個人総合ダントツ1位の攻撃手であり、A級1位の部隊の隊長をしている太刀川慶。

 

弧月を両手に構えている。もう臨戦態勢に入ってんな……。

 

 

――初めてこの男の戦い方を見たときは本当にビックリした。

 

なんせ、刀を2本振り回してんだからな。

 

本来二刀流ってのは、刀2本を振り回すもんじゃねぇ。片方、もしくは両方とも小太刀のような短い得物を使うもんだ。

 

しかも二刀流ってのは本来は攻めるためではなく、守りを重視した剣術。

 

二刀流の本来の形と較べて、太刀川さんのそれはどう考えても逸脱してやがった。

 

にも関わらず、初めてランク戦をやったとき、俺は10本やって1本も取れずに負けちまった。

 

トリオン体に換装したときの運動能力の向上が想定外すぎて、自分の動作の感覚が狂っていた、ということも言い訳にゃできるが、それでもその当時は勝てはしなかっただろうな。

 

「ああ。久しぶりにお前とサシでやりたかったんでな。昇格戦とか絶好の場だろ?」

 

「そうっすね。でもいいんすか? この距離だとお得意の旋空が意味ねぇじゃねっすか?」

 

「ここで旋空使うのも野暮だろ? 観客も沢山いんだし、最強の剣士を決めるに相応しい舞台だってのによ」

 

「確かにそっすね。どっちがボーダー最強の剣士か決めるにいい舞台に違ぇねぇ……話してる時間ももったいねぇっすね」

 

その言葉を境に、場の空気が張り詰めた。

 

先手を取るべきか、受けて返すべきか。いやそんなこと悩む時間もない。

 

「行くぞ!!」

 

「来い」

 

俺は太刀川さん目掛けて駆けた。

 

太刀川さん、二刀を構え迎え撃つ姿勢をとっている。

 

かわしてからのカウンター狙いとかじゃねぇな……。

 

かすかに右腕が下がった。

 

おそらく左で受けてからの右から横薙ぎ。

 

ここで素直に切り込めば、間違いなく返り討ちに遭っちまう。

 

だが、太刀川さんの体勢を崩せさえすれば、右の一閃をかわす余裕も十分にできるはずだ。

 

だったら敢えて思いっきりかますしかねぇな……。

 

「はあぁぁぁっ!!!!」

 

力いっぱいに弧月を振り下ろす。

 

読まれていたのか、太刀川さんは左の弧月でこれを受け止めた。だが、全力で切り下ろした俺の一発を綺麗に受け止められず、体勢を崩した。

 

「おっ、やるな……だが甘い!」

 

体勢を崩しながらも横薙ぎ入れてくる。

 

読み通り。

 

太刀川さんの間合いの外に出て、それをかわし、再度即座に詰め寄る。

 

「そっちこそ甘ぇな!!」

 

今度は俺が太刀川さん目掛けて袈裟斬りを繰り出す。

 

「うおっ、危ねぇな! 今度はこっちの――は?」

 

太刀川さんは難なくそれをバックステップでかわし、カウンターを取ろうとしているが、次の瞬間、俺はさらに半歩身を進め、間髪入れずに切り上げた。

 

次の一撃を入れる準備動作に移っていた太刀川さんは下からの二撃目に気付くのが遅れている。これなら防ごうにも間に合わねぇだろう。

 

そして次の瞬間、俺の一撃が太刀川さんの身体に縦一文字の大きな傷を入れ、噴き出した大量のトリオンが俺の勝利を告げた。

 

「残念、俺の勝ちっすね」

 

「燕返しか。恐れ入った」

 

「ちょっと改良してますがね。仕掛けがいい感じに決まって間を外した感じになってましたんで、これ以上にないタイミングと思ってやってみたらやっぱり決まっちまいましたよ」

 

「ちくしょう」

 

『トリオン供給機関破損、緊急脱出』

 

やはり攻撃手1位は伊達じゃねぇ。強かった。決着はあっさりと決まっちゃいるが、少しでも読み間違えてたら、やられていたのは俺だ。

 

つーか燕返しとは少し違ぇんだが、剣の軌道までは読まれてたか……上手いことやれたからよかったものの、防がれてこっちがカウンター受けてもおかしくなかったわけだ。

 

だが、とりあえずこれで俺の役目は終わりだな……2人はどうなってんだ?

 

「あー、しんど。『こっちは済んだぞ。出水とはどうなってる?』」

 

『諒くんおつかれー! 出水先輩と雄也くんは戦闘中。お兄ちゃんもその付近にいてタイミングうかがってる感じ』

 

『なるほどな。……っつか清隆。お前マジでやんのか?』

 

『大マジだ』

 

『……いや、別に止めねぇけどよ』

 

『インパクトを残すにはいい方法だと思うが?』

 

『否定できねぇな』

 

『安心しろ、ちゃんと事は成す』

 

 




とりあえず早く原作前のオリジナルパート早めに終わらせたいんですが、(ちなみに構想段階では10話で収まるはずでした)
色々書きたいこと、書いておきたいこととかが出てきたり、想定以上に話が伸びたりした結果こうなっちゃうんですよね。
自分の作品の操縦桿握れてませんね……精進いたします。


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古賀 清隆②

更新のペースが落ちてきてますね……
資格試験の勉強もあるためやむなし、と言い訳をしながらの更新です。

今回も宜しくお願い致します。


【春日雄也・ボーダー本部・エキシビジョンマッチ(市街地A)】

 

爆撃弾を撃った後、周囲を警戒していると背後から弾丸が飛んできた。

 

それをシールドで防ぎ、飛んできた角度などから換算し、そこ目掛けてアステロイドを放った……が、手ごたえがない。

 

バイパーだったか……と、なるとどこにいるかがわからないな。そう遠くにはいないとは思うのだが……仕方ない。

 

『清隆。ちょっとここら一帯完全に更地にするが、お前や諒に影響はあるか?』

 

『諒と太刀川さんがやってるところは少し離れてるから問題ない。俺はまだそっちに移動中だから気にしなくていい。それに近くにいたとしても、あの合成弾じゃないならどうとでも対処できる』

 

『じゃあちょっとぶちかますぞ』

 

『了解。すぐに向かうから待ってろ』

 

『おう』

 

俺はメテオラを両手に起動させ、そのまま辺り一面を焼け野原にするつもりでフルアタックをかました。

 

そこら中を爆風が襲い辺りの建物は全て瓦礫と化した。

 

「ふー、やれやれ。さて、出水は……あそこか」

 

辺りを眺めてみると右前方にシールドを張った出水の姿が見えた。

 

今度は外さん。今度はアステロイドを両手に起動しフルアタックを仕掛ける。

 

シールドを張りながら弾幕から逃げる出水。あっちは防戦一方だ。

 

マップを見直す。そろそろ頃合か……。

 

「よし、いけるな……『雄也くん! 後ろ!』って、うおっ、危ない危ない」

 

いける、と確信したが、いつの間にか出水もバイパーをぶっ放していた。

 

美奈ちゃんの声がなかったら正直やばかっただろう。

 

声は聞こえないが、出水の方を見てみるとものすごく悔しがっていた。

 

油断ならん奴だな本当に。

 

だったらこっちも……っと、清隆がいい位置にいるな。ならば……。

 

「メテオラ!」

 

両手でメテオラをぶっ放す。

 

ただし、出水を直接狙うわけではなく出水の周囲を目掛けて放ち、動きを無理矢理止める。

 

これ見よがしに清隆が出水の方へ駆けていく。

 

『お膳立てはできたぞ』

 

『助かった。後は任せてそこから見ていろ』

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【春日雄也・ボーダー本部・古賀隊隊室(ランク戦直前)】

 

「唯我を落とした後は手筈通り諒には太刀川さんとやってもらう。で、出水なんだけど、俺がやるよ」

 

「は?」

「あ?」

「え?」

 

想定外の提案に、俺たちは驚き一瞬空気が止まってしまったが、清隆は構わず次の言葉を続けた。

 

「まぁ大した理由じゃないんだけど、ちょっと目立っておきたい」

 

「なんでだ?」

 

「以前も言ったけど、今回の戦いで強さを誇示しておきたいんだよ」

 

「諒は太刀川さんとやる、雄也は合成弾でインパクトを残す、俺だけないのはつまらないからね。せめて出水と戦うくらいさせてくれ」

 

清隆はそう言っているが、こいつがそんなことを思う訳がない。

 

古賀隊の強さを見せ付けたい、というのは本当だろう。

だが普段から俺や諒を立てるような戦い方をしている奴が、今更自分が目立ちたいなどという意識を持つとは到底思えない。

 

「……本音は?」

 

「最近美奈子に近づこうとする虫が増えてきたから、脅しの意味もこめて強さを見せ付けたい」

 

「おい」

「誰かこのシスコンを止めろ」

「ほー、私モテモテ?」

 

「それに、広報だからってマスコット枠と勘違いしている奴らに舐められるのもこれっきりにしたい」

 

「はぁ……わかったよ」

 

本当にこいつは美奈ちゃんが関わってくると頭がおかしくなるな……シスコン野郎。

まぁ実際清隆同様に美形だからモテるんだよな、美奈ちゃんも。シスコンからしたら気が気でないということか?

 

「恩に着るよ。2人もそれでいい?」

 

「はぁ……まぁ俺は太刀川さんとやれればいい」

「了解!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

ふと出水の後方まで視線を伸ばすと、ライトニングを片手に出水に突っ込んでいく清隆が見えた。

 

俺からワンテンポ遅れて、出水もそれに気付く。

 

次の瞬間には清隆はライトニングを走りながら数発放っていた。

 

出水も完全にはかわしきれなかったものの、ダメージは最小限に食い止めている。

 

更にはかわしながらトリガーを発動させており、清隆目掛けて今にもぶっ放そうとしていた。

 

だが、その弾丸が放たれることはなかった。

 

いつの間にか、出水の手元から発動したトリガーが消えてしまっていた。

 

これ見よがしに清隆は一気に距離を詰める。

 

トリガーが消えて呆然としていた出水もすぐに気を取り直し、おそらく牽制のためだろう、清隆目掛けて軽くトリガーを放とうと、動作に入っていた。

 

が、今度はトリガーを発動させることすら許されなかった。

 

清隆がグラスホッパーを起動し、出水目掛けてその手に持っていたライトニングをぶっ飛ばし、出水の顔面に直撃させたのだ。

 

余程ではない限り物理でダメージを与えることはできないのだが、さっきのトリガーが発動できなかった事故に加え、想定外の一撃で虚を突かれた出水は動きが完全に止まっていた。

 

清隆はライトニングを飛ばす同時に自分もグラスホッパーで距離を一気に詰めており、気が付けば、出水の脇を抜け、弧月で首を飛ばしていた。

 

『伝達系切断。緊急脱出』

 

 

 

 

 

 

【全体視点・実況席】

 

「き、決まったー!! 古賀隊長の一閃で試合終了!! 古賀隊の完封勝利です!!」

 

どよめく場内に、武富の試合終了を告げる声が響いた。

 

「では、今回の試合を振り返っていかがだったでしょうか?」

 

「最後の古賀の行動には驚かされたな」

 

「確かに驚きましたね……とはいえ出水隊員も発射しようとしたトリガーが消えてしまうアクシデントさえなければ返り討ちにできたとも思いますが……」

 

「アクシデント? ふん、違うな」

 

「と、いいますと?」

 

「あれは古賀が出水の手元にライトニングを打ち込んでいる。……一瞬のことで、気付かないのも無理はない」

 

同じことができる狙撃手が今まで部隊にいたからだろうか、ほとんどの隊員が気づけなかったにもかかわらず、二宮には何が起こったのかはっきりとわかっているようだった。

 

「なんと! 一瞬の内のそのようなことが起こっていたのですね……。その後さらにライトニングを飛ばしたり、およそ普通しないような戦い方を見せてくれましたが……風間隊長、攻撃手目線から見るとどうなのでしょうか?」

 

武富の問いに少し悩んだ末、風間は口を開いた。

 

「いやらしい、の一言に尽きるな。出水も想定外のことだらけで後手に回されっぱなしだった。一見かなり野蛮な戦い方だったが、あそこまで虚をつく動きをしているということは、実際は緻密な計算の下に組み上げた戦い方なのだろうな。それに加えて古賀は弧月で普通に戦ってもそれなりの実力があるから、本当に厄介な相手だ」

 

「なるほど……」

 

「だが、なんにせよ今回は太刀川たちの負けだ。わざわざ居場所を晒して1対1を選んで負けるなど問題外だ」

 

古賀の話で持ちきりだったところで、二宮が口を開き、太刀川の行いに触れた。わざわざ1対1を選びその上で負けたことについてかなり不満があるようだ。

 

「確かに二宮の言うことも一理あるが、逆に太刀川が勝っていればおそらくその勢いで古賀隊を力で押し潰すことはできたはずだ。今回は黒木に軍配が上がったが、太刀川にも十分勝機はあったし悪手というほどのものではない。むしろ古賀や春日の援護の可能性を考えれば、出水と2人では分が悪いだろう。1対1に持ち込んだのはむしろ正しい。試合の前に二宮が言った通り、部隊同士の総力戦となると太刀川たちが不利だからな」

 

「……ふん」

 

二宮に対して、風間は太刀川の選択は正しいという立場のようだ。

二宮にしても、出水と連携して戦えば勝てるかというとそうではなく、むしろその方が負ける可能性が高いという認識はあったのだが、ボーダー内ではライバルとも言えよう太刀川が1対1で敗北した姿に思うところがあったのだろう。

 

「ところで二宮、春日はどうだったんだ?」

 

少々不機嫌になった二宮の姿を見て、風間は話題を春日の件に切り替えた。

 

「爆撃弾といったか……威力は凄まじいが、使い勝手がいいかと言われると微妙だ」

 

「そうなのか?」

 

「事前にフィールドを決めることができる立場だからこそ有効な使い方ができただけだ。今回のようにある程度の弾数射程を確保したまま、あれほどの威力のメテオラを必要とする場面は古賀隊にはそうそうないだろう。そもそも、春日レベルのトリオン量があればメテオラ同士を合成させなくてもそれなりの威力と弾数を両立できるはずだ」

 

「なるほど。だとすると今回はたまたま都合がよかったから使っただけなのか……それに加えて目立つためか? だがあれほどの威力ともなると、使い道が他にないというわけではないと思うが」

 

「その威力が問題だ。味方まで巻き込んでしまうから乱戦ではまず使えない。古賀と春日で援護しながら、黒木が近接戦で絶対的な優位を勝ち取る戦い方を主としている古賀隊ではそもそものコンセプトに合わない。だが……それでも古賀が上手く使いこなしそうではあるな……」

 

「確かにそうだな」

 

「えーっと……」

 

「おっと。武富、すまない。勝手に2人で話を進めてしまっていた」

 

そろそろいい時間になってきたこともあり、解説そっちのけになりかけている2人の会話に武富が割り込んだ。

 

「あっ、いえ大丈夫です。では時間も押してきていますので、この辺で終了したいと思います。6月からのランク戦でもまたよろしくお願いします。お疲れさまでした!」

 

武富の言葉で閉められ、古賀隊太刀川隊のエキシビジョンマッチは幕を下ろした。

 

 

 




VS太刀川隊との戦いは以上となります。

書き連ねた段階で5000字あったものを削ったので、見直しはしていますが、どこか矛盾とか生じてないかかなり不安なところ……。


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香取 葉子②

資格試験も終了したので、またペースを上げていけたらと思います。(大体こんな宣言をする時点でペース上がらない)

では今回も宜しくお願い致します。


【春日雄也・三門市内市街地】

 

太刀川隊とのエキシビジョンマッチから1週間が経った。

 

ついにA級に上がったということで何かが変わるのかと思いきや、特に何も変わりのない生活を送っていた。

 

それどころか昇格早々申し訳ないがうちの隊は来季のランク戦は不参加なので、今までよりもゆったりとしているくらいだ。

 

強いて言うなら、A級に上がったことで独自にトリガーの改造ができるようになったので、諒が忙しい合間を縫ってその辺のことに尽力しているらしいくらいか。

 

……まぁ、来季の新入隊員絡みの仕事を大量に振る、と嵐山さんや忍田さんに宣告されているので楽ができるというわけではないが、その仕事がない間、俺はある程度楽をさせてもらおう。

 

だが今日は……

 

「ごめん雄也! 待った?」

 

「いや、俺もさっき着いたばっかだから気にしないで、葉子。とりあえず店に入ろうか」

 

以前葉子と約束していたこともあり、今は2人で昼飯を食べに来ている。

 

お祝いだから、と葉子が出すと意気込んではいるが、年下の女の子に財布を開かせるのもあまりいい気はしないし、何なら俺が全部出すつもりだが……ブー垂れるだろうな、きっと。

 

ウェイターに席に案内され、とりあえずメニューを開いてみた。パスタか何かが有名な店らしくメニューの多くがそれで占められている。

 

とりあえず注文し、軽く周りを見渡してみる。洋風の白を基調とした小洒落た内装となっているようだ。

 

「……なんと言うかこういうオシャレな店は慣れないな」

 

「そうなの?」

 

「こういう店はたまにしか足を運ばないからなー」

 

桐絵とはこんな洒落たとこ来たことないし、普段飯食いに行くといったら基本的に諒かレイジさんとだから、こういうところにはまるで縁がない。

質より量だもんな、あの2人だと。いや違う。質も量も、か。この場合の”質”は”タンパク質”のことだが。

 

まぁ冗談は置いといて、こういう店に来るにしても、せいぜい清隆と一緒に美奈ちゃんのリクエストに付き合わされたときか、那須隊の面子と行くときくらいだから、機会としてはそう多くはないし、何より女の子とこんなところに2人で来るのは初めてなので余計に落ち着かなく感じているのかもしれない。

 

そんなことを思っていると、ウェイターがドリンクを先に持ってきてくれた。

 

A級昇格を祝して、と乾杯しまた雑談に入った。

 

何か普段と変わったことを話すわけでもなく、学校でのこと、ボーダーでのことなどいつも通りの会話のネタとなっていた。

 

相変わらず部隊の面子に不満があるみたいな部分がちょこちょこ垣間見えるのが若干不安ではあるが。

 

葉子の愚痴を聞いていると、料理が届いた。

 

人気の店らしく値段は張るが、見栄えはかなり良く味にも期待できそうだ。

 

さっきまで若干膨れっ面だった葉子も多少は落ち着きを取り戻し、華に見せてあげよう、と携帯で写真を撮っていた。

 

―――

――

 

腹も膨れたところで、俺たちは店を後にした。

 

特にこの後の宛てはなかったが、「ランク戦やろう!」と葉子に誘われたので、今はボーダー本部に向かって歩いている。

 

「そういや葉子とランク戦するのも久しぶりだな。あ、でも部隊の方のランク戦では今期は3回くらい当たったっけ?」

 

「全部負けたけどね……何なの!? あの黒木ってやつ! 強すぎなんだけど!」

 

B級ランク戦で今季香取隊とは3回ほど当たっている。そのうちの3回とも葉子は諒に落とされている。

 

葉子もかなりセンスはあると思うが、あいつが相手では正直荷が重い。若村や三浦の援護も難なく捌いて逆に返り討ちにし、1人で3人を倒してしまうなどという離れ技もやってのけたし。

 

一応香取隊は今季B級の上位ランクインしている部隊なのだが……あいつやっぱおかしいだろ。

 

「あいつの強さははっきり言って異常だから……こないだもサシで太刀川さんに勝ったし」

 

「あんなのどこで見つけてきたの?」

 

「1年のとき同じクラスで席があいつの前だったんだよ。スカウトされてこっちに来たってことは知ってたから。ちょっと声かけてみたら割と気の合うやつで、そのままうちに勧誘したってとこかな? ちょうどフロント張れる攻撃手ほしかったし」

 

「え? 何それ、ずるい!」

 

嵐山隊と共に新入隊員関連の仕事もやっているので、スカウトされた人間などの情報も実は前もって手に入れることができる。

 

ずるいっちゃずるいが一応仕事の一環だから仕方がない、ということにしてほしい。

クラス一緒になって席も前後になったのは本当に偶然わけだし。

 

「はっはっは。運も実力のうちってこった。……とは言え上がるまでに結構苦労したけどね」

 

「あんなに強いのに?」

 

「まぁ今でこそあの強さだけど、最初はトリオン体の運動性能の向上に感覚がついてこれなかったとか言ってたかな」

 

「どういうこと?」

 

「なんかトリオン体だと動けすぎるらしい。実際、入隊時の戦闘訓練の結果は確か1分ちょいくらいだったはずだし」

 

「嘘!? あんなに強いのに!?」

 

「マジマジ。敵に飛び掛かろうとしたら、飛びすぎて天井に頭ぶつけてそのまま落下して悶えて15秒。その直後訓練中にも関わらず俺に話しかけてきてさらに30秒。最後は悩んだ末に結局真っ直ぐ敵の口元目掛けて飛んでいって、弧月ぶっ刺して倒してたな」

 

「めちゃくちゃじゃん……」

 

本人もトリオン体になると運動能力が上がるということは理解していたようだが、元の運動能力が桁違いだから、運動性能向上の恩恵が通常以上のものだったらしい。

 

それこそ、自身の身体の動かし方を完全に理解していた諒にとってはその誤差が致命的なものとなり、トリオン体に上手く馴染めないでいた。

 

ただ、慣れてしまえば、というわけで、B級のランク戦が始まる頃には特に問題なく動けるようになっていたが。

 

「まぁなんにせよ、そういうわけであんだけ戦えるようになったのも実は結構最近のことなんだよ」

 

「そうなんだ……麓郎や雄太もあれくらい強かったらなぁ……」

 

ここでまた葉子が部隊のことでぼやいてしまった。

 

実際性格的に合わない部分はあるのだろう。特に、熱くなりやすい若村とは水と油だろうし、間を取り持っているはずの三浦にはどっちつかずの優柔不断のように思っているかもしれない。

 

そんなこともあって、必要以上にイラついてしまっているのだろう。

 

「まぁそう言ってやるな。あいつらはあいつらでちゃんと努力はしている」

 

「でも……」

 

「あんまり言うな、な?」

 

「うん……」

 

あー、目に見えて落ち込んでるな。話題変えとくか。

 

「ところで、銃手に転向してそろそろ半年くらいだけど調子はどう?」

 

「あ、そうだ! 聞いてよ! もうすぐマスター級になれそうなんだから!」

 

これには正直驚いた。

葉子に関してははっきり言って素質はあるし、マスター級にはそのうちなれるだろうとは思っていたが、思った以上に早い。

 

攻撃手としてもかなりの実力を持っているし、そのうち万能手に転向してもいいんじゃないかとも思う。わりと器用だからその辺も上手くこなせるだろう。

 

だが……ちょっと癪だな。よし。

 

「マジか……早いな。じゃあ今日はその溜まったポイントを吸い取ってやるか……」

 

「ちょっ! そういうのやめない!?」

 

「はっはっは。頑張ってポイント減らされないようにするんだな」

 

「いじわるー!!!」

 

気付けばもう本部は目の前だった。

 

まぁせっかく溜まったポイントを削りまくるのもかわいそうだったので、とりあえず10本だけやって、その後は訓練室でしごいてやった。

 




そろそろ原作に入らずとも原作のストーリーに触れよう、と決心した今日この頃。



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那須隊

久しぶりの更新となります。

私事ですが、先日イロドリミドリのライブに行ってきました。
声優とかそこまで興味なかったんですが、佐倉薫さんって方、めっちゃ可愛くないですか?
ワートリのアニメ再開するようなことがあればぜひ誰かの声を……(蹴

お目汚し失礼しました。では今回も宜しくお願い致します。


【春日雄也・那須隊隊室】

 

今日も玲の訓練に付き合い、今は那須隊の隊室で先日のランク戦の反省会を兼ねて雑談中だ。

 

6月に入り、部隊ランク戦も始まった。

 

那須隊は現在ランク戦でB級中位に位置しているが、1戦落とせば下位に転落しかねない位置なので油断はできないところだ。

 

「んー、やっぱり火力に欠けんだよな。日浦がもう少しポイント稼げるといいんだが……」

 

「すいませぇん……」

 

試合のログを見た後に、軽く意見を出した。

那須隊のコンセプト的にも玲を攻めの中心としてポイントを取りに行く、というのはいいのだが、他2人が自分の課された役割に没頭している感じがするというのが見たところの感想だ。

 

特に狙撃手である日浦は隙を見てもっとガンガン攻めていっていいと思う。B級の中位も、下の方は割と甘いとこがあるからチャンスはそれなりにあるわけだし。

 

「いや、責めてるわけじゃないよ。まぁ玲がポイントゲッターで2人はどっちかというとサポートだけど、狙撃手の旨味まで殺すのは違うって話。チャンスがあったらもっとガンガンぶっ放していいよ」

 

「本当ですか?」

 

「うん。ランク戦って結局は点取り合戦だから。どれだけ実力があってもポイント稼げなきゃ何の意味もない。熊谷に関しても同様に」

 

「わかってんだけど、B級もある程度のランクになってくると相手も強くなるからなかなか……」

 

熊谷にしても、取れる時にはどんどん点を稼いでほしいが、攻撃手は少しワケが違う。狙撃手と違い、奇襲や乱戦に特化していない限り紛れがあまり起きないので、特に攻撃手同士の戦闘になると、実力差がモロに出てしまう。

順位が上がればそれだけ強い相手とぶつかることになるわけだから、熊谷的には辛いところだろう。

 

「その辺は頑張れ、としか言いようがないな。諒にも一回話はしてみたんだけど、あいつ受け太刀あんまりできないみたいだから、スタイル的に力になれそうにないみたい。悪い」

 

「いいよ。でも黒木って弧月なら自由自在ってイメージなんだけど案外そうでもないのね」

「わたしもそう思ってました」

「でも黒木君って旋空とか使わないよね?」

 

やっぱり諒のイメージは、剣に限れば何でもできるというものなんだな。実際は結構不器用なんだよな……。

 

「あいつそこまで器用じゃないぞ? 確かに弧月で戦わせたらボーダーでも1,2を争うレベルだけど、旋空も上手く使えないらしいし」

 

「え? 何で?」

 

「間合いが変わるようなことするのは嫌とか何とか言ってたのは覚えてるな。多分攻撃範囲は生駒さん超えられるらしいんだが……」

 

「うっそ」

 

戦闘中にいちいち剣速を特定の速度にするのはナンセンス、その時々で最速で一撃を入れることが肝要、と言い張る以上、言っても聞かないだろうし。

 

「マジマジ……おっと、話がズレた。とりあえず日浦はもっと積極的に取りに行くようにするといい、奈良坂をもっと扱き使え。熊谷は……まぁ考えとく。あまりタメになるかはわかんないけど諒の都合がいい時に、やれるようにセッティングくらいはする」

 

「はい」

「あんがとね」

 

まぁ2人は一旦これでいいかな

 

「玲は……もうちょい時間かかるだろうな」

 

「そういや2人ともよく一緒に訓練室行ってるみたいだけど何やってんの?」

「私は知っていますけどね」

 

後ろの方に控えていた志岐も、ヒョイと顔を出してきた。

会った当初は目すら合わせてもらえなかったが、今では普通に話すこともできるようになった、うん、成長した。

 

「まぁ志岐には美奈ちゃんいないときに付き合ってもらってるからね。ってかあれ? 言ってなかったの?」

 

「訓練に付き合ってもらってるとしか……せっかくだから2人を驚かせたくて」

 

「あー……なんか悪いな」

 

2人をビックリさせたかったやつか……悪いことしたな。

 

「で! 2人はいったい何をやってるんですか!?」

 

日浦がグイっと1歩踏み込み尋ねてくる。

 

「皆に言ってもいいかな?」

 

「別に俺は隠してたつもりはないから」

 

「そうだったね。実は今雄也君に合成弾の使い方を教えてもらってるの」

 

合成弾、と聞いて2人は驚いた顔をしていた。

 

「合成弾って春日先輩や出水先輩とかがよく使ってるやつですか?」

 

「そうだよ」

 

「へぇ。どんなのを練習してんの?」

 

「セットの都合もあるけど、とりあえずトマホークを実戦で使えるようにってのを目標にやらせてるよ」

 

「他のは練習しないんですか?」

 

「玲の強みを考えるとバイパーは外せないし、一番都合がいいのはトマホークだから。もし使うとしても別々の特殊弾2つの合成を実戦レベルでできるようになったら、他のは楽勝だから」

 

「そうなの?」

 

「うん。つか多分徹甲弾なら今の玲ならある程度の水準で使えないこともないと思う」

 

「ホントなの?」

 

「そのくらいのレベルにはあると思うよ。通常弾同士ってこともあってやりやすいし。ただトリオンそれなりに持っていかれるから、きちんと使いこなせないうちにはランク戦では使わないほうがいい。つか、そもそもセット的に使えないか」

 

「そうだね」

 

ここまで話すと矢継ぎ早に飛んでくる熊谷と日浦の質問が止まったが、少し間を開けて日浦が別件で俺に話しかけてきた。

 

「あの……春日先輩。少しお願いが~……」

 

「ん? どうした日浦」

 

「奈良坂先輩もなんですけど、古賀先輩にも少しお話聞けたらな、って思ってるんですけど……」

 

「清隆に?」

 

「はい」

 

「あいつあんまり時間ないからな……諒以上に都合を合わせるのが難しいんだよな。訓練の時一緒になったら話しかけるといい。別に俺にことわる必要はないよ」

 

「ありがとうございます」

 

確かに清隆も狙撃手として実力、実績共にかなり高い地位にいる。金稼ぐために多めに防衛任務に当たり、アホみたいにトリオン兵狩りまくってるからポイントがかなり貯まっているだろうし、当真さんとのポイント差もおそらくそんなにないはずだ。

 

そういう部分で見れば清隆の意見も欲しいと思うのも確かに理解できる。だが――

 

「でも狙撃手として上手くなりたいのなら奈良坂を頼るのが一番だよ。清隆は多分その辺教えるのは向いてないから」

 

「そうなんですか?」

 

「あいつの師匠だった人も言ってたんだけど、清隆の腕は完全に才能だ。感覚でやってそれで上手くやってるんだから指導できるのかはっきり言って怪しい」

 

「ほぇ~、そうなんですね」

 

いわゆる天才肌で何でもかんでもこなせる奴なので、人に教えるのは向かないだろう。

 

「よく古賀みたいなの見つけたね」

 

「逆、逆。俺があいつに誘われたんだよ。入隊時の訓練の時に話しかけられて、そっからなんやかんやで部隊組むことになったんだよ」

 

「なんやかんやのとこが気になるんだけど」

 

「まぁそれは時間があるときにでも話すよ。――さて、そろそろ防衛任務の準備しないと」

 

「そっか。忙しい中わざわざありがとね」

「春日先輩、またよろしくお願いします」

 

この後防衛任務があるので、いい時間だし隊室を出ようとしたところで、もう一つ大切なことを思い出した。

 

「おっと、そうだ、玲」

 

「どうしたの?」

 

「あー……えっと、これ」

 

「え? 何?」

 

自分の荷物からラッピングされた白い箱を取り出し手渡すと、玲は驚いた顔をしてこちらを向いた。

 

「いや、そろそろ誕生日だろ。当日は俺防衛任務とかでいないから今のうちにと思って」

 

「うれしい……ありがとう。開けていい?」

 

「いいけど……恥ずかしいから俺が出て行ってからにしてくれ。じゃあ、また」

 

「うん。じゃあまたね」

 

ふと、玲の後ろに視線をやると、からかうタイミングをうかがっている熊谷たちの姿があった。

 

これはヤバいやつだ、と察した俺は巻き込まれないうちに那須隊の隊室を後にした。

 

 




次回は流石にちょろっと原作に触れます。

そこから数話入って原作入りします。


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嵐山隊

もうとっとと原作キャラぶち込んでいきますか、このまま書いててもダラダラ続きそうですし。

では今回も宜しくお願い致します。


【ボーダー基地・嵐山隊室】

 

ボーダーは年に大体3回ほど新入隊員が入ることになっている。

 

入隊方法としては主に2つ。

 

一つは試験や面接が必要となる一般公募。

 

隊員の多くはこれを受けて入隊することになっており、俺と清隆は試験をパスして、美奈ちゃんはトリオン不足で不合格だったがそのままオペレーターとして入隊した。

 

もう一つはスカウト。

 

三門市近辺だけではなく、全国各地に飛び回り、才能のある人間を発掘している。

 

諒などはスカウトされて、はるばる九州からここまでやってきたというわけだ。

 

さて、そして今俺は9月入隊の新入隊員絡みの事務仕事を嵐山隊の隊室でやっている最中だ。

 

呼び出された時間よりちょっと早めに着いてしまったが、早めにやれる仕事は済ませてしまおう、とすでに隊室にいた充と賢の3人で、できる範囲で仕事を片付けていた。

 

この2人は同じ広報の仕事をしているからというだけではなく、入隊も同時期だったので仕事以外にも割と交流があったりする。

 

「こっちの書類終わったから、充、チェック頼んだ」

 

「はい。……うん、大丈夫そうです。こっちのも確認お願いします」

 

「おう。……ってか賢はまだ終わらないのか?」

 

「いやいやいや! こんなに書類あるのに何でそんなに早いんですか!?」

 

「バカ野郎。お前らが表立ってワイワイやってる裏で俺は毎度こんな仕事をやっているんだ。そりゃいくらか早くはなるさ。つーか今日くらいお前も一緒に書類に苦しめ」

 

「ひでぇ!」

 

「酷くはないだろ。充を見ろ。きちんとこなしてるだろうが。あ、充。これオッケー」

 

「どうもです」

 

「遅くなってごめんなさい」

 

書類に目を通しながら賢をからかっていると、生徒会の用事で遅れてきた綾辻が駆け足で隊室に入ってきた。

 

「あっ、綾辻先輩! 聞いてくださいよ。雄也先輩がいじめるんですよ!」

 

「バカ野郎。愛の鞭だ。ありがたく受け取れ」

 

「あ、古賀隊から一人来てくれるって話だったけど春日くんだったんだ」

 

「あぁ、ごめん、綾辻。清隆じゃなくて」

 

「ちょ――な、何を言い出すの!」

 

賢のついでに綾辻もからかっておくと、面白いように顔を赤くしながら声を上げた。

 

「まぁまぁ落ち着いて落ち着いて。からかってるだけだから」

 

「性格悪いよ!」

 

「自覚してる」

 

いやー、人をからかうのって楽しいなー。

 

とかなんとか平和なやり取りも適当に区切りをつけ、4人で書類と格闘を始めた。

 

生徒会でもこういう仕事をやっているのだろうか、綾辻はテキパキと片付けていた。

 

俺も充もそれなりの速度でこなしていたが、さすがに綾辻には敵わない。なお賢(以下略)

 

2時間もすると、山積みだった書類もほぼほぼ片付いていた。

 

「ようやく終わりましたね」

 

「はぁ~……」

 

「お前が一番作業量少なかったはずなのになんで一番疲れてんだよ……」

 

「頭脳労働向きじゃないから仕方ないじゃないですか」

 

「このくらいの書類はさっさと処理できるようになれ。そういや嵐山さんと木虎は来ないのか?」

 

「二人は広報のお仕事で今日はいないの。だから古賀隊にヘルプを求めたんだ」

 

「なるほど。なぁ、綾辻」

 

「どうしたの?」

 

「清隆じゃなくて悪かったな」

 

「しつこいよ!!」

 

いや、ホント性格悪いな、俺。

 

「はっはっは。まぁ頑張れ。俺は綾辻も応援している」

 

「”も”? ”も”ってどういうこと!?」

 

あ、余計なこと言ってしまったかもしれない。

 

「いや、な。教室にいるとたまに清隆のこと聞かれるんだよ。あいつなんか知らないけどオペレータからやたらモテるよな」

 

「歌歩ちゃんなの!?」

 

綾辻は徐々に詰め寄ってくる。

 

「はっはっは。黙秘権を行使する」

 

「ちょっと! 春日くん!」

 

笑って流すつもりだったが、気付けば両肩を掴まれ激しく前後に揺さぶられていた。

 

さすがに頭がぐわんぐわんするし、何より顔が近くて恥ずかしいし止めさせないといけない……つか充、何食わぬ顔でお茶すすってんじゃねーよ、止めろよ。

 

「落ち着け綾辻。つか顔近い」

 

そう言うと、綾辻はあわてて手を離し、ごめんと一言謝ってきた。

 

「……ったく」

 

「……ねぇ春日くん?」

 

「ん?」

 

「那須さんとか香取さんじゃなくてごめんね?」

 

そうきたか! ちくしょう!

 

「なんでそこで玲や葉子の名前が出てくる!?」

 

「いや、そういうことなんじゃないかなー、と思って」

 

「そういうのじゃないって……」

 

「でも今名前で呼んだよね?」

 

「色々あったんだよ……」

 

「ふーん」

 

ものすごくニヤニヤした、したり顔でこっちを見てくる。

 

「ニヤニヤするなよ……ったく、さすがに俺だって人からの好意にくらい気付いてるよ」

 

「えっ? そうなの!?」

「マジっすか!?」

 

綾辻や賢の認識では、どうも俺はラノベ主人公よろしくな鈍感な男のようだ。

 

例えば綾辻の好きな清隆に関して言えば、確かに異性からの好意に対して恋慕とかそういった意味に受け取っていない。誰がどう見てもわかるようなアプローチを受けているにもかかわらずそうなので、何と言うか人としての心を一部失ってるんじゃないか疑惑すらたってくるような奴だ。だが、そんな奴と一緒にいることが多いからといって、俺も同じと言うわけではないのだが。

 

「いや、わかるでしょ……特に葉子のあれは」

 

「あー……確かに……」

 

「玲に関しても他の女の子の話持ち出すとあんまりいい顔しないし、心辺り色々あるし、もしかしたら、ってことはあるけど……どうしてこうなったのやらわからないし、これからどうしよう、って感じだよ」

 

「モテる男は辛いね」

 

「うるさい」

 

正直な話、今までだって年齢相応に好きな子がいたりもしたし、そういったことに興味がないわけではない。

ただ、2人から同時に好意を向けられるとどうしたもんか、となってしまう。

どちらに関しても嫌いではないし、むしろどちらともに好意すら持っている。だからこそ悩みの種なんだよな……。

 

「でも春日先輩がモテる理由は何となくわかりますよ」

 

「そうそう。雄也先輩イケメンですからね! 入隊のオリエンテーションのときだって、清隆先輩と2人で女子隊員の視線掻っ攫ってましたし」

 

「顔も確かにそうなんだけど……やっぱり佐鳥くんはまだまだだね」

 

「どういう意味ですか!? 綾辻先輩!?」

 

「賢、なんか口開けば開くほど馬鹿に見えるからそろそろ落ち着け」

 

「雄也先輩ひでぇ!!」

 

これだから賢は……と思いながら、残りの仕事を済ませにかかった。

 

そんな中、入隊する新入隊員の名簿を纏めていると1人気になる隊員がいた。

 

座学は特に問題ないのだが、体力試験はあまり思わしくない。その上、最も重要視されるトリオン量が基準に満たない奴がいた。

 

本来なら落とされるはずなんだが……不合格者のも紛れ込んだのか? と思いながらよくよく見てみると、備考欄に「推薦者:迅悠一」の文字。

 

こいつに何かあるのか?

 

「三雲修」……か、とりあえず覚えておくか。

 




ようやっと名前だけですがメガネくん出てきましたね。長かった……。

次回も宜しくお願い致します。


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三雲 修

やっとメガネ君出てきますね。ここまで長かった……


では今回も宜しくお願い致します。


【春日雄也・ボーダー本部】

 

「ボーダー本部長、忍田真史だ。君たちの入隊を歓迎する。今日から君たちは――」

 

今日は9月の新入隊員の入隊式で、今は忍田さんが集まった新入隊員に向け挨拶をしている。

 

本来は嵐山隊が表に出て、裏でいろいろやるのが俺、清隆、美奈ちゃんの仕事だったのだが、どういうわけか俺と清隆は表に出ることになっていた。

 

「何で俺たちも表に出てんだよ。どうせお前が忍田さんになんか言ったんだろうが」

 

「まぁまぁ落ち着いて。いいじゃん、手当ももらえるし」

 

「答えになってねぇ……」

 

「先輩方、新入隊員たちの前なので喋らないでください」

 

小声で清隆を追求するも、軽く流されてしまい、挙句木虎から怒られてしまった。

少なくともこいつは金目的ということは分かったが、なぜ俺は毎度毎度こいつに振り回されてるのだろうか……。

 

「――私からは以上だ。この先は嵐山隊と、今期から入隊指導に加わってもらった古賀隊の2人に従うように」

 

忍田さんが壇上から降りたところで、嵐山隊と共に前に出る。

 

同時に黄色い歓声が沸き上がる。

 

さすが嵐山さん人気だなー。と思っていたら、清隆の方にも女の子の視線が集まっているようだった。

 

そんな中、嵐山さんが1歩前に出て口を開く。

 

「嵐山隊の嵐山だ。これから入隊指導に移るが、攻撃手と銃手を志望する者はここに残ってくれ。狙撃手志望の者はうちの佐鳥と古賀隊の古賀に着いて訓練場に向かってくれ」

 

指示に従い、10人弱の新入隊員が2人に連れられ狙撃手の訓練場に移動を始めた。

 

残った新入隊員に対して、嵐山さんがボーダーについて軽く説明を始めた。

 

一方で俺はとある新入隊員を探していた。

 

三雲修――本来不合格であろうところ、迅さんの推薦により隊員になることができた少年。

 

できれば今日までのうちに迅さんに話を聞きたかったが、タイミングが合わず結局聞けずじまいだった。

 

軽く見まわしてみると、写真で見たあまりパッとしない印象のメガネの少年がいた。

 

何か特別な雰囲気を醸し出しているわけでもない、いたって平凡な中学生にしか俺には見えない。

トリオン量が少なくても戦闘などのセンス次第では確かに合格することもあるが、とてもそうは思えないし、推薦するほどの隠れた才能を持っているようには見えない。

 

だとすると――

 

『多分一人入隊すると思われるんだが……どうもそいつが大規模侵攻の被害を抑える切り札みたいなんだ』

 

以前鳩原さんが密航した際に迅さんに言われた言葉。

 

こいつが切り札……? こいつに何かあるってのか……?

 

まぁ仮想戦闘モードでの訓練も初っ端にあるわけだし、そこで確認してみよう。

 

―――

――

 

うん、とても切り札とは思えない。予知間違えたな、これは。

 

説明も終わり、仮想戦闘モードでの訓練ができるブースまで移動し、新入隊員の戦闘訓練が始まった。

 

そして三雲の出番となり、俺はそれを見ることとした。

 

……結果としては制限時間の5分以内に倒すことができなかった。

 

大体これで戦闘員の向き不向きは分かるのだが……時間切れはさすがに論外だろう。

 

今後に期待するとしても、現状では戦闘員候補生としては落第レベル、というのが俺の感想だ。

 

ただ、近界兵の弱点にはすぐに気づいたようでそこを狙おうとはしていたのは評価できる。だが、運動や戦闘のセンスはあまり良くなく、肝心の弱点に対しての攻撃ができないまま終わってしまった。

 

頭と戦術眼は悪くなさそうなので、オペレーターになった方がいいんじゃないのか?

 

―――

――

 

一通り戦闘訓練が終わり、皆一休みしていた。

あまり有望株はいなさそうなのが残念だが、まぁ努力次第では伸びる隊員も出てくるだろうから皆頑張ってもらいたい。

 

とは言え、木虎、黒江、緑川、ついでに諒のように、ここ数期の新人がインパクト強めだったこともあり少々物足りない感じは否めない。

 

「よし、一通り終わったみたいだな。じゃあせっかくだし新入隊員の皆には現役の隊員の力も見てもらおうか。そうだな……雄也! ブースに入ってくれ!」

 

「はい?」

 

え? 俺?

 

「ご指名ですよ春日先輩」

 

「いや、充、お前が行けよ」

 

「いえいえ。せっかくですしここは春日先輩が」

 

「仕方ないな……」

 

あまり進んで前に出るようなことはしたくないのだが、充は代わってくれそうにないし、新入隊員たちはなんか期待を込めた目でこっちを見てくるし、木虎は「早く行ってください」と言わんばかりの目でこっちを見てるもんだから、渋々前に出ることにした。

 

ただまぁ前に出る以上はやることはやらないといけない。テキトーに済ませるわけにもいかないから……そうだな、とりあえず今回どう立ち回るべきだったかの答え合わせみたいなことをしておくか。

 

「A級9位、古賀隊の春日雄也だ。ポジションは射手をやっている。射手は今初めて聞く言葉だろうが、とりあえず今の段階では銃型のトリガーを使わない銃手とでも思っていてくれればいい。そうだな……じゃあ答え合わせというわけじゃないが、今回の訓練でどう立ち回ればよかったか、の例を見せておこう。嵐山さん、とりあえず都度お願いするんで、そうですね……うん、計3体出すようにお願いします」

 

「ああ、わかった」

 

ちょっとばかり注文を出してブースの中に入る。

 

『外、聞こえてますか?』

 

『聞こえてるぞ』

 

『じゃあこいつらの倒し方だな。方法は大きく2通りだ。1つはシンプルに力でゴリ押し。自分のトリオン量に自信があるのなら今回はこれが一番手っ取り早い。身も蓋もない話をすれば、今回の訓練用の近界兵は攻撃し続ければ倒せるからな。じゃあ嵐山さん、お願いします』

 

『了解』

 

『5号室、用意、始め』

 

『アステロイド!』

 

アナウンスと共に訓練用の近界兵が出現する。まずはアステロイドを発現させ胴体目掛けてガンガン打ち込んだ。

 

『記録、4秒』

 

もちろんその気になればもっとタイムを縮めることもできるが、今回はこんな感じでいいだろう。

 

『とまぁこんな感じだ。だが、トリオンの少ない場合はこのやり方では時間がかかってしまうからこれは適さない。で、2つ目だが……気付いていた新入隊員もそこそこいたみたいだが、弱点を狙う。今回のやつは口の中にコアがあるんだが、そこが弱点になっている。……さて、次、お願いします』

 

『用意、始め』

 

今度は近界兵の口の中目掛けてアステロイドをぶっ放す。弾丸は狙い通りコアを貫き、近界兵はその場に力なく倒れ伏した。

 

『記録、2秒』

 

『まぁ新入隊員はこの2通りだろう。じゃあ折角だから俺のやり方でも見せておこうか』

 

最後にせっかくの機会なので、新入隊員に合成弾を見せてみることにした。何を使うか……よし、あれにしよう。

 

『用意、始め』

 

『アステロイド+メテオラ=フェニックス』

 

選んだのはアステロイドとメテオラの合成弾。

 

通常のメテオラでは考えられない速度で射出された弾丸は、近界兵に着弾した次の瞬間爆発を起こした。

 

知っての通りメテオラは着弾時に爆発するわけだが、その攻撃力と引き換えにどうしても弾速が落ちてしまう。

 

その弱点を補うために通常弾を合成し、弾速の底上げをすることでメテオラの弱点である弾速の遅さをカバーすることができるというわけだ。

 

さて、合成弾を撃ち込まれた近界兵だが、着弾箇所が大きく抉れ胴体の半分が吹き飛んだ状態で崩れ落ちていた。我ながらなかなかエグい威力をしているな。

 

『記録、1秒』

 

『ふぅ……今後この中に射手になりたいって隊員も出てくるだろうが、ある程度極めるとこういうこともできるってとこかな。では新入隊員の諸君。次の訓練も頑張ってくれ。以上だ』

 

そこまで言い切り、訓練用のブースから出た。それと同時に新入隊員たちが歓声を上げた。

 

悦に浸っていたいところだが、次の訓練もあるので拍手をやめさせ、次の訓練に向かわせた。

 

 

―――

 

――

 

 

【春日雄也・玉狛支部】

 

「迅さん、ちょっといいですか?」

 

「お、どうした?」

 

「新入隊員のことなんですが――」

 

新入隊員のオリエンテーションも終わり、玉狛に帰り着いた俺は真っ先に迅さんの部屋に向かった。

 

腹も減っていたので、開いている段ボールからぼんち揚げを一袋拝借しながら、今日のことを伝えた。

 

「そうか……」

 

「とても大規模侵攻の切り札になりうるとは思えないんですが……一体彼は何者なんですか?」

 

「わからん」

 

「は?」

 

わからん、って……いや、迅さんの予知でしょうが……わざわざ推薦してまでボーダーに入隊させたのに何を言ってるんですか……。

 

「まぁ少なくともあのメガネ君には何かあるんだと思うよ。だけどそれが何なのかはまだわからない。だから少し目を向けておいてくれると助かる」

 

「仕方ないですね……わかりましたよ」

 

「おう、じゃあ下に降りようか。レイジさんがそろそろ飯作り終わる頃だ」

 

「そうですね」

 

迅さんの予知も、まだ曖昧なことしかわからないということか……。まぁあんまり焦っている様子もないし、大規模侵攻とやらにはまだ時間的猶予はある程度あるのだろう。

 

とりあえず、今後も三雲には目を光らせておくか……。

 




インフルエンザも流行り始める季節です。
身の回りにも一人感染した人が出てきました。

皆さんもお気を付けください。ではまた次回に。


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黒木 諒②

まさか私までインフルエンザにかかるとは……←

お久しぶりです。今回もよろしくお願い致します。


【春日雄也・ボーダー本部訓練室】

 

数時間前――

 

『雄也、悪ぃけど今夜本部に来てくれねぇか?』

 

休み時間に教室で本を読んでいると、諒から声をかけられた。

 

『いいけど何かあんの?』

 

『開発を依頼していたトリガーができたみてぇだから試してぇ』

 

A級になると、独自のトリガーの開発が許可される。諒はA級に上がったと同時に2つのトリガーの開発をエンジニアに依頼していたが、どうやらそれが完成したらしい。

 

そんなわけで、これから諒と模擬戦をすることになり、ブースの中で向かい合っている。

 

「じゃあやるか。2つあるんだっけ? どんなの開発したか俺聞いてないんだけど」

 

「言ってなかったか? 弧月のオプションと……いや、実際に見た方が早ぇな」

 

「そうだな」

 

正直、諒がどんなものを作ったのか聞きたい気持ちが強いが……まぁ実際に体験してみるか。

 

『模擬戦、開始』

 

「アステロイド!」

 

開始の合図とともにアステロイドでフルアタックをかます。

 

諒は上手いこと避けたりシールドで防いだりしているが、完全に回避することはできず少々被弾している。

 

「チッ、相変わらずうぜぇなぁオイ」

 

「こういうやり方なんだよ。早くしないとお披露目する前に終了だぞ?」

 

「るっせぇ、見てろ」

 

玉切れになってしまったので、新たにアステロイドを生成しようとしていると、諒が自分の足元にトリガーを起動していた。

 

グラスホッパーか? だがこの距離なら俺が弾幕を張る方が速い。攻撃が届くことはなく、諒はハチの巣になるだろう。

 

そう思いながら、アステロイドを射出しようとした次の瞬間、視界から諒は消え、俺の首が落ちていた。

 

「は?」

 

『伝達系切断。春日、ダウン』

 

「どうだ?」

 

背後から諒の声が聞こえる。一瞬で移動したのか? テレポーターの類のものかと思ったが、だとすると俺に攻撃できないだろうし、やはりグラスホッパーと考えるのが妥当か。

 

「いや……速すぎだろ……グラスホッパーだよな?」

 

「ああ。改造型グラスホッパー、“天翔”だ。起動時に籠めたトリオン量に比例して速度が出るようになってんだ」

 

「なるほどな……」

 

特にタネがあるわけでもなく、俺の想定をはるかに超える速さだっただけというわけか……。いや、だがこれは馬鹿にできないな……目で追いつけなかったわけだし。

 

もう1本やるため、再度向かい合う。

 

もう1つトリガーを作っているみたいだが、それはどういう性能だ? 弧月のオプションとは言っていたが……。

 

「2本目行くぞ?」

 

『模擬戦、開始』

 

開始と同時に天翔を起動している……、防ぐしかないな。

 

案の定、諒は俺の首元目掛けてそのまま真っ直ぐ突っ込んでくる。

 

「シールド! 同じ手を2度も食うかっての!」

 

「だろうな。オラ! もう一発入れるぞ!」

 

「ちっ、シールド!」

 

諒の斬撃をシールドで防ぐも、次の一撃を振り下ろそうとしていた。

 

最初の一撃でシールドが破損してしまったため、新たにシールドを張りなおす。今度は左右両方でシールドを張り、万全に備えた。

 

これを受けきったら即座にアステロイドを起動し、カウンターで仕留めるのが最善だろう。

 

しかし、そうはならなかった。

 

「“断海”」

 

『トリオン供給機関破損。春日、ダウン』

 

「……嘘だろ、オイ」

 

諒の弧月はフルガードをものともせず、そのまま俺を切り裂いた。

 

「どうだ?」

 

「いや……フルガードぶち破られるとは思わなかった。断海とか言ってたな……」

 

「おう。こっちも起動時に籠めるトリオン量に比例して威力が上がるみてぇだ。効果は0.5秒しかねぇけど、今の感じだと十分だな。細けぇことは分かんねぇからエンジニアに聞いてくれ」

 

諒は当たり前のように語っているが、これは大問題だ。俺はボーダー内でトリオン量が2,3番目に多い。言ってみればそれだけ堅いシールドを張れるということだ。

 

今回俺はそれなりの量のトリオンを込めてシールドを張ったつもりだったが、それを諒は容易く斬って見せた。

 

おそらく二宮さんがフルガードをしても、これは止められないだろう。

 

つまりは、諒の間合いに入ったら誰もこいつを止められないということになる。

 

……チームメイトでよかった。

 

「断海は弧月の受け太刀対策、まぁ武器破壊用のために作ってもらったもんだからちょっと用途が違ぇはずだったが……ここまで威力が出るなら色々話が変わっちまうな」

 

「これだと受けた弧月ごと相手をぶった切ることができるな……」

 

「まぁ付き合ってくれてサンキュな。喉乾いたし出ようぜ。ジュース1本くれぇなら奢ってやんよ」

 

「サンキュー。とりあえず出るか」

 

新トリガーの出来に満足しているようで、気分上々で諒は訓練室を後にした。

 

―――

――

 

訓練室を後にし、夜の防衛任務までの時間を潰すため、ラウンジでジュースを飲みながらテキトーに雑談をしていると、知った顔が俺たちに話しかけてきた。

 

「あっ、黒木先輩。春日先輩もお久しぶりです」

 

「黒江か」

 

加古隊の黒江双葉だった。諒とは同期でたまに剣について教わっているらしい。

 

「久しぶり。そういや加古隊さっきまで防衛任務だったか」

 

「はい。ところで黒木先輩。いつなら都合がいいですか?」

 

「夜に防衛任務が無ぇ日ならいつでもいいぞ」

 

「ん? 何かあるのか?」

 

「黒江が剣の修練やってみてぇんだとよ」

 

「……お前が普段やってるやつか?」

 

「ああ」

 

剣道とは別に、諒は普段夜中から早朝にかけて剣術の修行を一人やっている。

 

寝る時間? 少なくとも授業中は起きていることの方が少ないということで理解してほしい。

 

だが――

 

「……黒江、悪いことは言わない。やめとけ」

 

「なんでですか?」

 

「いや、あれは無理だ。普段鍛えてる俺でも1日持たなかった」

 

とてもじゃないが、あんなのは真似できない。

 

記憶が正しければ、打ち込み一万、走り込み、ウェイトと体幹のトレーニングをやった後、夜が明けるまでひたすら型稽古というメニューだ。

 

一度俺も興味があったので付き合わせてもらったことがあるが、多少鍛えてるからと言っておよそ8時間ぶっ続けでこんなことをできるわけがなく、途中でギブアップした。

 

「お前がヘタレなだけだろうが」

 

「お前が異常なんだよ! ……悪いことは言わんからせめて見学レベルで留めとけ」

 

「わ、わかりました」

 

少なくとも女の子にやらせていいものではないので、とりあえず止めておくことにした。

 

黒江も何かを察したのか、俺の言葉にうなずいた。

 

すると、またしても知った声がこちらに飛んできた。

 

「双葉? こんなところにいたのね」

 

「加古さん」

 

加古隊の隊長、加古望。どうやら黒江を探していたようだ

 

「あら、春日君と黒木君も一緒だったのね。ちょうどよかったわ、2人もうちの隊室にいらっしゃい。夜から防衛任務なんでしょ? 晩御飯ご馳走してあげるわ」

 

「えっ」

 

「ゴチになります」

 

「ちょ……待っ……」

 

「何してんだ雄也、せっかく作ってくれるってんだし行くぞ」

 

何も知らない諒は、飯を買う手間が省けてラッキーくらいに思っているように見えた。

 

「いや……その……」

 

加古さんの……料理……これ絶対炒飯だろ……ヤバい……

 

「春日先輩、行きましょう」

 

「あぁ……」

 

2人に引っ張られて加古隊の隊室に引きずり込まれる。

会っていきなり死の宣告を告げられた。交通事故もいいとこだ。

 

外れチャーハンに当たる確率は、実はそんなに高くないらしいのだが、今のところ俺は100%外れくじを引いてしまっているので恐怖以外の感情が消え去ってしまっている。

刻々と流れる時の中で、せめて致命傷には至らないものが出てきてくれ、と俺は願い続けるしかなかった。

 

そして――

 

「さ、できたわよ。この味付けは初めてだから皆の口に合うかわからないけど」

 

――目に映ったものは絶望だった。

 

視覚も然ることながら、嗅覚目掛けてハウンドの嵐をぶちかまされた。

 

加古さんのちょっとした好奇心は、完全に俺の命を刈り取りにかかってきている。

 

絶対これ酢が入りまくってんな……。

 

しかし、ふと周りを見れば普通にパクついてる諒と黒江の姿。

 

黒江はともかく、諒も普通に食っている。ということは、もしかすると――味はまだまともなのかもしれない。

 

「南無三……」

 

覚悟を決め炒飯を口に含む。

 

――徐々に暗くなる視界。

 

――薄れゆく意識。

 

――徐々に近づく死の感覚。

 

――聞こえる諒の声。

 

「あー、ちょっと酸味強いっすね。もうちょっと抑えた方がいいっすよ」

 

「あら、じゃあ次はちょっと量抑えるわ」

 

――何でお前はそれ食って平気なんだよ。

 

この後の防衛任務はとてもじゃないが参加できないと思いながら、次の瞬間、俺の意識は途絶えた。

 

 




年内にあと1回更新するかしないか、というところ。

今回も読んでいただきありがとうございました。


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那須 玲②

冒頭でランク戦について触れてますが……ガチで書き始めるとキリがないのでランク戦については省略で←

では今回も宜しくお願いします。



【春日雄也・古賀隊隊室】

時が経つのは早く、もう12月に差し掛かろうとしていた。

 

A級のランク戦も今期から参加しており、暫定ではあるが前回のランク戦で嵐山隊を抜きA級5位に着けることができた。

 

ここまでは順風満帆なのだが、俺たち、というか諒だけなのだが、ある意味ではA級1位よりも高い壁が目の前に迫っていた。

 

テーブルの上に広がる教科書。

ミミズが張ったかのような文字だらけのノート。

諒の口から洩れる呪詛。

 

「……別に数学できなくても生きていけっからいいだろ」

 

「そう言うけど他の教科もできないよね? 前回は赤点1つとは言え他の教科もギリギリだったんだから。諒の赤点をなるべく回避するよう俺も雄也も多方面からお願いされてるんだからさ」

 

「マジで担任頭抱えてるからな……お前」

 

「知らねぇよ……」

 

――そう、期末テストが刻々と近づいてきていたのであった。

 

「何であたしたちもこんなことになってるの?」

 

「ホントですよ~」

 

「今日うちの隊室来たのが運の尽きだったな。2人ともそんな成績がいいわけじゃないし、ちょうどよかったと思えば……」

 

「思えないわよ!」

 

ついでに、今日はゲスト(巻き添え)も来ている。

 

諒が時間空いていることを聞きつけ、弧月の指導を仰ぎに来た熊谷、それについてきた玲と日浦、まぁ那須隊の面々だ。

 

熊谷と日浦も学業は平均以下レベルらしく、「せっかくだし2人も見てもらったら?」という玲の一言で、残念なことに勉強会に参加させられることになった。

 

―――

――

 

時折美奈ちゃんや熊谷、日浦から質問が飛んでくるが、その時以外、場はかなり静かなものだった。

 

本日のメインである諒はと言うと、出足はずっと文句ばかり口にしていたが、集中し始めたのか口を開くことなく教科書の問題をスラスラと解いていた。

 

そもそもこいつは頭が悪いわけではなく、ただでさえ勉強しない上に授業中は寝てばっかりであるがために成績が悪いだけなので、こうやって強制的に勉強する環境を作ってやれば、ある程度は見れる成績を取ることができるのだ。

 

「雄也先生! 質問!」

 

「ん? どれ?」

 

「雄也じゃなくて俺に聞いてくれていいんだよ?」

 

「現代文だから雄也くんがいいかな。お兄ちゃんより教わってて楽しいし」

 

「……雄也、お前除隊」

 

美奈ちゃんから質問を受けると、すぐさまシスコン野郎が横入りしようとしてきた。しかし速攻で妹に戦力外通告を受け、俺はなぜか八つ当たりされる羽目になった。理不尽だ。

 

「……とりあえずこのシスコンは置いといて、どの辺?」

 

「これなんだけど――」

 

目を通してみると、去年自分たちもやった話だった。

 

百年待っていてくれと残し死んだ女の言葉を忠実に守り、最後は自分の望み通り女と再会するという話。

 

「この百合って女の生まれ変わりらしいんだけど、何でかを明日の授業までに考えないとだからヒントが欲しいな、って思って!」

 

「百合は復活の象徴だよー。それに「百」年経って「会(合)」いに来たんだから女でいいんだよー」

 

「……まぁ今シスコンが言ったのが模範解答の一つなんだけどどう?」

 

妹から戦力外通告を受けたのに、頑張って干渉してこようという兄の姿がなかなか痛々しく見えてきたが、まぁ答えはこんな感じではあるんだよな。

 

「それは私もわかってるよ。ただ雄也くんなら何かもっと面白い考えとかあるんじゃないかなって思って!」

 

面白い……ないことはないが、ハードルが上がってしまったな……。

 

「……まぁ今の答えに対しての根拠ならあるっちゃあるけど、授業から逸脱するだろうしなー」

 

「聞きたい!」

 

「まぁいいか。……俺たちも去年やったけど、なんと言うかそもそもの宿題の質問自体が若干ナンセンスなんだよなー」

 

本来聞くべきは、百合が女の生まれ変わりか否かではなく、なぜ男が百合を女の生まれ変わりと認識できたか、ってことだろうに。とりあえずその線に誘導してあげよう。

 

「美奈ちゃんは誰か好きな人がいたとして、その人が100年その場で待っててくれなんて言われたらどう?」

 

「待って、美奈子に好きn「お兄ちゃん、黙って。そんなに暇なら茜ちゃんたちの勉強見てあげてて」はい」

 

またしても清隆がカットインをかまそうとしたが、一蹴された。いと哀れなり。

 

「うーん……100年待ってる間に私死んじゃうね?」

 

「あくまでたとえ話だけど、まぁそんな100年その場に座って待つなんて普通出来ないよね?」

 

「うん」

 

「けどこの話だと、その到底できないであろうことを成し遂げないと男は女と再会することができないんだよ。でも男はそれをやり遂げた」

 

「星の欠片が丸くなったり、墓石に苔が生えるほどの長い時間を男はずっと墓の前で、ただただ女の言葉を信じて待ち続けてたんだよ。だからこそ、突然咲いた百合を女の化身だということとか、百年という長い時間が過ぎていたことに気づくことができたってとこかな」

 

「ほえー……なんかロマンティックだね……確かに授業ではここまでは聞かれないと思うけど」

 

ただ、この話の本質はそんなことではない。

 

「もっと言えば、これはロマンティックな話ってだけじゃないよ。転じて考えれば、自分の理想を貫くためにはどうすべきかってことが書かれてるわけ」

 

「と、言うと?」

 

「理想を貫いたり、夢を叶えるためには、その理想に対して切実に、まっすぐに向かっていくことしか実現する方法はないってこと。主体的な行動の中でしか事は成就しないってことを作者は言ってるんじゃないかな? 次の話で言えば、木の中に埋まってるものを掘り出すんじゃなくて、自分で仁王を掘らなきゃ仁王は掘れないよってこと」

 

「ほー……さすが雄也くん!」

 

「いやいや、あくまで俺の感想だから。……まぁそうすると、今言ったことを一番体現しているのは、そこで黙々と問題解かされてる赤点野郎なんだよな」

 

自分が最強の剣士でありたい、ということを諒は常日頃思っているらしい。そのためにやるべきことは欠かすことなく実行し、自分の理想にただひたすら向かっている。それ故に剣道は同世代では敵なしだし、ボーダーで言えば、ポイントこそかなりの差はあるがあの太刀川さんと同格以上と言うことを昇格戦で知らしめた。

 

……まぁそのために学業を疎かにした結果、こんなことになってるわけだが。

 

 

――

―――

 

ある程度時間が経ったところで、今まで集中していた諒の集中力もついに切れてしまったため、今日のところは切り上げ、諒は今、美奈ちゃんと一緒に訓練室で熊谷の訓練に付き合っている最中だ。

ついでに清隆と日浦は狙撃手の合同訓練があるらしく、既に隊室を後にしていた。

 

必然的に残るのは俺と玲なのだが、特に今日は訓練するつもりもないし、てきとーに雑談を繰り広げていた。

最近知ったのだが学校では桐絵と同じクラスらしく、学校での様子を聞いてみたが普段の姿からは想像できないような姿をしているらしい。

 

お淑やか?……家にいるときは何かある度にガンガン締め技をかけてくるやつのどこにお淑やかさ要素があるんだよ……

 

そんなこんなでいつの間にか結構な時間が経っており、熊谷と日浦からそろそろ帰宅するという連絡がきたので、それじゃあ、ということで玲も帰り支度を始めた。

 

「今日は邪魔しちゃったみたいでごめんね」

 

「いや、気にしなくていいよ。2人もテスト近いしちょうどよかっただろうしいいんじゃない?」

 

「そうね」

 

「ねぇ、雄也くん。今日雄也くんが美奈子ちゃんにしてた話だけど……」

 

夢十夜の話かな?

 

「ん? あれがどうかした?」

 

「うん。あれ聞いててね、私もちょっと頑張ろうと思ったの」

 

「そうなんだ。なんかあるの?」

 

玲の方に目をやると、玲は目を伏せ震える手でネックレスを握りしめていた。鳥の羽を模したデザイン。俺が玲の誕生日プレゼントにあげたものだった。

 

少し間を開けて玲は顔を上げた。何かを決めた眼。真っ直ぐに俺を見つめていた。

 

「うん。私……雄也くんのことが好きよ」

 

「……え?」

 

「すぐにじゃなくていいけど……なるべく早く返事が欲しいな……じゃあ、今日はありがとうね」

 

それだけ言い残し、玲は隊室から出て行った。

 

………

……

 

……あっ、そういやテスト近いし俺も勉強しないと。

 

突然の告白にどうしたらいいかわからなくなった俺は、現実逃避に走るしかなかった。

 




年内、あと1回くらいは投稿できそうな気がしてきた……


それでは次回もよろしくお願いします。


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那須 玲③

今更ながら、新年あけましておめでとうございます。

今年も宜しくお願い致します。


【春日雄也・玉狛支部・自室】

 

今日は防衛任務も広報の仕事もないので自室に籠っていた。

 

普段であれば、特に用がないときは本部に行ってなんやかんややってることが多いのだが、ここ数日はそういうこともめっきり無くなってしまい、ただひたすら本を読むかレイジさんのトレーニングに付き合うかの2択となっていた。というのも――

 

『私……雄也くんのことが好きよ』

 

あ、駄目だ、どうしても思い出してしまう。

 

まぁこんなことが以前あったのだ。まだどう返事するか決めていない以上、顔を合わせる機会をできるだけ減らしたい……マジで返事どうしよう……。

 

そんなことを考えていたら突如勢いよく部屋の扉が開かれた。桐絵だった。

 

「雄也、あんたに客よ」

 

「ノックくらいしろ。で、誰?」

 

「俺だ」

 

「なんだ、お前か。何かあったのか?」

 

客は諒だった。

 

「何かあったのはお前の方だろ。学校であんな事件起こしといて、どうもしてねぇわきゃねぇだろ。清隆に様子見てきてくれって頼まれてんだよ。あと別件で聞きてぇことあっからそのついでだ」

 

「あー……」

 

「あんた何かやらかしたの?」

 

「こいつこないだのテストで学年1位取りやがった」

 

「? それの何が事件なのよ?」

 

「うちの学校清隆いんだぞ?」

 

「確かに事件ね」

 

そう、あろうことか俺は先日のテストで学年1位を取ってしまった。

 

俺の学年には毎回全ての教科で殆ど満点を取る古賀清隆という絶対的な神が存在しており、それ以下の順位を争うのが常だった。

そんな中、少しでも意識を逸らそうものなら、玲に告白されたことを思い出してしまいてんやわんやになってしまうこの状況。テストが近いことを理由に勉強に没頭していたら、このような事件を起こすような羽目になっていた。

 

余談だが、この結果を見た清隆は腹を抱えながら大笑いをしていた。解せない。

 

「で、何があったんだ?」

 

「まぁあったと言えばあったんだが……」

 

「煮え切らないわね、早く言いなさいよ」

 

「……言わないとダメなやつ?」

 

「ここまできたらダメなやつだろ」

 

多分この2人は言うまで引かないだろう。もう観念するしかない。

 

「はぁ……玲に告白されたんだよ」

 

「……はぁ?」

 

「なんだ、そんなことかよ」

 

「そんなことって、お前……」

 

割と腹を括って伝えたつもりだったのだが、諒からは、そんなことか、と一蹴された。

 

「今更んなことに悩んでんのか、ってこった」

 

「今更って言われてもだな……」

 

「あんた本当に今更よ。まんざらでもないんでしょ? さっさと付き合えばいいじゃない」

 

「だがなぁ……」

 

桐絵にも追い打ちを受ける。確かに言う通りではある。

しかし――玲の告白に答えるとして、1つどうしても懸念すべきことがある。

 

「……香取のことでも気にしてんのか?」

 

「アンタ……そんなに気が多いやつだったの?」

 

「気が多いとかそんなのではないんだが……痛いとこ突くなよ……」

 

懸念――葉子のことだった。

もし、玲の告白に答えるとするなら、実質的に葉子を振ることにもなる。

実際葉子に告白されたとかそういうことはないのだが、思い上がりでない限り葉子は俺に好意を持っているだろうし、玲に対するほどのものではないが少なからず葉子に好意を持っている。

 

「ふーん。てことはあんた両方と付き合うの? そんなことできないでしょ?」

 

「それはいくらなんでもダメだろ……」

 

「……だったら、今のテメェの態度は那須に対してどうなんだ?」

 

「ぐっ……」

 

分かっている。何が一番不義理なのか。今の俺の煮え切らない態度こそが、だ。

 

「もういい、お前に問答続けても余計に考え込むだけだろ。やからこれだけサッサと答えろ。那須と香取、どっちを選ぶ?」

 

「……」

 

何でお前にそこまで選択を迫られないといけないのか。そう思いながらも、その迫られている選択自体は本来向き合わないといけないものだという自覚はあったため、何も言い返せなかった。

 

「とりあえず今の段階での話でいいからさっさと答えろ」

 

「現状だとそりゃ玲だが……」

 

「じゃあ断る理由もねぇ。さっさとOKで返事しろや」

 

「つってもよ……」

 

「別に多少他に気があるくらいいいだろ、結婚するわけじゃねぇんだから。どんだけ重く考えてんだよ」

 

「悪いけどあたしも黒木に同意するわ。どうせあんた考えたって右往左往するだけで一生結論出ないし、その方がよっぽど失礼でしょ。とりあえず先に進んでみなさいよ」

 

2人ともなかなか厳しいことを言ってくれる。だが――2人が俺の背中を押してくれているということは分かった。

 

――腹を括るか。

 

「あー! もう! わかったよ! ……ったく」

 

勢いよく立ち上がると、自転車のカギを取り、コートをハンガーから外し、外出の準備を始める。

記憶が正しければもうそろそろ那須隊の防衛任務が終わる頃のはずだ。

 

「おい、どこ行くんだよ」

 

「……今からここ出ればちょうど那須隊の防衛任務終わる時間に合わせられるだろ」

 

「ほら、さっさと準備しやがれ」

 

「ホント手がかかるわね」

 

「悪かったな」

 

「ああ、そうだ。ちょっと待ってくれ」

 

部屋を後にしようとすると、思い出したかのように諒に呼び止められた。

 

「お前今日の学校帰りかなんかにバムスターぶっ潰して放置してねぇか?」

 

「いや、そんなことはしてないけど……何で俺?」

 

「なんかそのバムスターが本部に登録されてねぇトリガーで倒されてたんだとよ。三輪に、お前がやったんじゃねぇのかと聞いてくれって言われたからよ」

 

「なるほど。確かに俺が防衛任務で使ってるのは本部から支給されたやつではないけど、俺なら俺だってわかるはずだから」

 

「そうか、わかった。ってかオイ、早く行ってこい」

 

「ああ。……2人ともありがとうな」

 

本部が把握していないトリガー――諒の言っていることもちょっと気にはなるが……今はそんなことは気にしていられない。俺は急いで本部に向かった。

 

―――

――

 

「あ、熊谷。悪いけど玲いる?」

 

「いるよ。やっと来たね」

 

那須隊の隊室に到着すると、熊谷が出てきた。“やっと”ってことは――

 

「もしかして聞いてた?」

 

「ちょっと様子おかしかったから問いただしたのよ。まさか玲が告白するなんて思わなかったけど」

 

「そうだな」

 

「あっ、ごめん。ちょっと待ってて」

 

長年の付き合いなのだろうか、熊谷は玲の様子がおかしいことにすぐに気づいていたようだった。

 

熊谷が隊室の奥に玲を呼びに行くと、すぐに玲は出てきた。

 

「雄也くん……」

 

「ちょっとその辺歩こうか」

 

「うん」

 

ここでどうこう言うのも恥ずかしいので、俺は玲を外に誘った。

 

―――

――

 

本部の外まで出た。星空の下というとロマンティックに聞こえるな、と若干現実逃避しながらもなんとか言葉を紡ぎだす。

 

「何か時間かかったけど……答えは出たよ」

 

「うん……」

 

「俺も玲のこと好きだ」

 

「ホント……?」

 

「ああ、ちょっと色々迷ってたけど桐絵と諒にケツ叩かれて……遅くなってごめん」

 

言えた――言い切れた。その事実に胸をなでおろすことができた。歓喜というより安堵というのが近いのかもしれない。

 

「よかった……」

 

玲の口から出てきたのも安堵の声だった。

 

「駄目だと思ってた?」

 

「不安はあったわ。だけど、先を越されたらきっともう間に合わないと思ったから……そんなの、嫌だったから……」

 

先を越される――葉子のことだろうか。

 

「まぁそれは2人に対して曖昧な態度取ってた俺が悪い……悪かったな」

 

「いいよ、もう。ねぇ、遅いしそろそろ家に帰ろうと思うんだけど……送ってくれる?」

 

「ちょっと待ってて、チャリ取ってくるから」

 

「後ろに乗せてもらおうかな?」

 

「おう。……これからよろしくな」

 

「うん」

 

すぐに自転車を取りに戻り、玲を後ろに乗せる。

 

桐絵をよく後ろに乗せていたから、2人乗りは慣れたものだったが、今まで経験したことのないような緊張感とむずがゆさを感じながら、玲を家まで送り届けた。

 

 

 




バムスターぶっ潰した犯人? 知りませんね?


では次回より原作に思いっきり入っていきます。

次回も宜しくお願い致します。


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原作入り
三雲 修②


ディシディア、モンハン……やることが山積みですね(白目)

では、今回からガッツリ原作入っていきます。
宜しくお願い致します。


【春日雄也・警戒区域】

 

それは、突然の出来事だった。

 

昼飯を食い終わり、防衛任務に当たりはじめた矢先の出来事だった。

 

『門発生するよー……え? これって……』

 

『美奈子? どうした?』

 

『け、警戒区域の外に門ができてる! 場所はえっと……三門市立第三中近辺!』

 

本来であれば基地の誘導装置で警戒区域内にしか門が発生しないようになっているのだが、昨日から突然それが効かないイレギュラーな門が発生し始めた。

昨晩玲が防衛任務に当たっていた時も発生したらしいが、その時は警戒区域のそばだったこともあり、早急に現場に向かうことができたため特に被害はなかった。

 

しかし今回は……

 

『この時間だと学校に生徒いるな……』

 

時間が悪い。急がないと生徒に被害が出てしまう。

 

『今、嵐山隊が現場に急行してるけど……間に合わないかも……』

 

『わかった。雄也、諒。三中に急行してくれ。警戒区域内は俺と美奈子でどうにかする。美奈子は2人の通信を綾辻に繋いで』

 

『了解』

 

『じゃあ俺と諒で三中の方に』

 

『おう、急ぐぞ』

 

『頼んだ』

 

清隆からの通信が切れると同時に、俺と諒は急いで現場に向かった。

 

―――

――

 

「嵐山さん!」

 

「雄也か!」

 

「被害状況は?」

 

「まだ詳しくは分かってない! 急ごう!」

 

綾辻のナビゲートに従い現場に向かう途中で、嵐山隊と合流した。

 

嵐山さんたちもまだ正確な情報を得ているとは言えず、現場の状況が気になるところだ。

 

……急がないとまずいな。

 

 

――しかし現場委到着した瞬間に目にしたものは、想定外の光景だった。

 

「なんだ……? これは……」

 

「これは……もう終わってる……!? どうなってるんだ……!?」

 

そこにあったのは既に破壊されていたモールモッド2体だった。

 

……一体誰が?

 

しかしそんなことは一旦どうでもいい。ここは生徒が誰一人死ぬことなく終わった、という事実を喜ぶべきだろう。

 

ともすれば本来やるべき仕事をこなせばいいだけなのだから……

 

「とりあえず俺は現場調査に入ります。嵐山さんはこの場をお願いします。充、付き合ってくれ」

 

「わかりました」

 

―――

――

 

「校舎の被害状況はこんなとこか。とりあえず南館は封鎖してもらうよう先生方にお願いしておこう」

 

「そうですね」

 

「さて、本題だが……充、これどう思う」

 

調査を始めると驚いたことが分かった。

 

このモールモッド2体だが、やった奴はかなりの実力者だということだ。

 

ほぼ一撃でケリをつける腕前もさることながら、それをC級のトリガーでやってのけている。

 

「すごいですね。どっちも一撃できれいに仕留めてます」

 

「これ、お前できるか?」

 

「できると思いますよ」

 

「……訓練用トリガーだぞ?」

 

「それは無理ですね」

 

「多分この場でそんな真似ができる人間は諒くらいだと思う。だが――」

 

「C級の……三雲くんでしたっけ?」

 

そう、俺たちA級の人間であったとしても、こうも上手くはできない。

 

ある程度の戦闘技術があって初めてそんな阿呆な真似ができるわけだが、それをC級隊員がそれをやってのけたという。

 

そして、そのやってのけたとされる隊員を俺は知っていた。彼の実力ではモールモッドを倒せるはずがないことも。

 

しかし、生徒の証言を聞く限り、三雲がやったということで間違いないらしい。

 

本番でスイッチが入るタイプの人間には見えないのだが……それ以外思い浮かばない。

 

迅さんの予知――大規模侵攻の被害を抑える切り札と言っていた。

 

確かに火事場の馬鹿力だとしても、C級の時点でこれだけの力があるというのであれば、迅さんの予知もかなり信憑性のあるものだと考えられるだろう。

 

「悪ぃ、ちょっといいか?」

 

「ん? なんだ?」

 

突然、諒に声を掛けられる。向こうで何かあったようだ。

 

「木虎が口論気味になってるから止めてくれ」

 

「は? 何かあった?」

 

「C級に助けてもらったとか言っているここの生徒と木虎でいざこざになってるんだが、相手がな……いいから来い」

 

「わかったよ」

 

 

 

言われるがまま木虎の元に向かうと、確かに木虎が学校の生徒と口論になっていた。

 

諒が言うには、三雲の行ないについて責めたところ、三雲に助けられたと言っている白髪の少年に言い返され口論となったらしい。

 

確かに木虎の言うことにも一理ある。三雲は規則を破ったわけだから、上に立つ立場である以上それは責めるべき点だ。それに木虎がクソ真面目な奴である以上言うと思ったし。

 

だが、場所と状況を考えてくれ……三雲に助けられた多数の生徒の前でそんなこと言ったら反感買いかねないし、現に一般人相手に口論になってしまっているし……さすがにそれはよくないだろ……

 

「私はただ組織の規律の話を……」

 

「おまえ……つまんないウソつくね」

 

あ、駄目だ。若干気圧されてるし、これ木虎が言い負かされる。

 

木虎の面子もあるし、ここは止めた方がいいだろう。

 

「ほら、そろそろストップ」

 

「で、ですが……」

 

「木虎、いったん落ち着け。な?」

 

「は、はい……」

 

尚も口を開こうとする木虎を制すると、渋々ながら従ってくれた。

 

とりあえず、一旦木虎はこれでいいだろう。次は……

 

「それと……三雲くん」

 

「はい……」

 

「これが規定違反ってことはわかってやったんだな?」

 

「申し訳ありません……」

 

三雲は苦い顔つきで頭を下げた。

C級は訓練以外でのトリガーの使用は認められていない。その規則を破ればまぁ基本的にはクビになってしまう。

少なくともこいつはそれを理解した上で今回の行動に出たということだろう。

 

「……今、現場の検証が終わった。後ほど君からも状況を聞くことにはなるが……状況からみて切羽詰まっていたってことは推測できる。多分、君が今回のような行動に出なければ、最悪数十人単位で死人が出ていた可能性もある。そんなわけだから、まぁ、規定を破ったことについては間違いなく怒られるだろうけど、それ以上はないようこちらからも取り計らうつもりだから」

 

「は、はい……ありがとうございます……」

 

俺の言葉を聞いた三雲は驚いた表情を見せ礼を言ってきた。

 

……まぁこっちが現場に到着するのが遅れたせいでこんなことになってしまったという申し訳なさもあるわけで、クビにならないように計らうのが筋だろう。

 

嵐山さんもおそらくそう計らうはずだろう。どうも兄弟がこの学校にいるらしく、その恩もあってやたらと三雲に好意的だし。

 

 

 

ある程度騒ぎも落ち着き、教師と生徒たちは校舎に戻っていった。

この後も授業を行なうというのだから、本当にタフだと思う。

 

「雄也、お前この後はどうすんだ?」

 

諒に声を掛けられる。

 

「とりあえずこの近辺にいるつもり。一応被害状況まとめたやつを回収班に渡したら、一応この近辺見回ろうかと思ってる」

 

「だったら、あいつに目を付けとけ」

 

「三雲か?」

 

「違ぇ。あの白毛のチビの方だ」

 

「え? 何で?」

 

「あいつは何者だ? 木虎と口論してた時なんか、清隆と似たような空気を出してやがったぞ。それにあいつ一般人のくせにトリガーに詳しいような発言もしてたぞ」

 

諒は三雲ではなく、三雲の友人と思われる白髪の小柄な少年に注意をしろと言っている。

確かに諒の今言ったことから考えると、この少年は少々胡散臭い。

 

「……わかった。注意しておこう。どうせだし放課後ちょっと話してみるか」

 

「任せっぞ」

 

諒や嵐山隊が去った後、学校を中心に周辺をうろつくことにした。

 

しかし……なぜ急に警戒区域の外に門が開くようになった……?

 

誘導装置が効かないタイプの門が出てきているのだとすれば相当ヤバいな……。

 

それに諒の言っていた白髪の少年……。

 

問題はいくつかあるが、とりあえず手近なものから解決していこう。

 

そう考えながら、放課後までの時間潰しがてらに近辺のパトロールを始めた。

 

 




今後はほぼほぼ原作通りの流れで進んでいきます。
時々閑話休題レベルに日常パートらしきものが入るのはご愛嬌。

では、また次回もよろしくお願い致します。


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木虎 藍

狩りとか無双乱舞とかで忙しく、全然更新できてませんね……。
果てには別の話の大枠とか作り出す始末……

とりあえず、今回もよろしくお願いします。


【春日雄也・三門市立第三中学校】

 

そろそろ学校も終わる時間だろうと思い、校門の前まで足を進めると意外な人物がそこにいた。

 

「あれ? 木虎?」

 

「春日先輩、どうしてここに?」

 

「ちょっと気になることがいくつかあって、学校終わるのを待ってる感じだな。お前は何でここに?」

 

「それは、その、三雲くんが逃げ出さないように見張りを……」

 

「そうか。まぁ逃げ出すような奴ではなさそうだったけどな」

 

見張りとは言っているが……昼間のことといい、余程癇に障ることがあったのだろう。少しフォローはしておいてやるか。

 

「木虎、昼間のことなんだが」

 

「はい……お見苦しいところを見せてしまい申し訳ありません」

 

こういうってことは、振る舞いがよくなかったという自覚はあるんだな。木虎に限ってそんなことはないと思うが、これで自覚がないようだったらなんと言うか……問題だ。

 

「別に木虎の言ってることが間違ってるわけじゃないんだ。ただ場所とタイミングが、な。あの場で熱くなるのはいただけない」

 

「はい……すみませんでした」

 

「まぁ気にするな。お前は頑張ってると思うよ。自分に課せられた立場をちゃんと理解して、そのあるべき姿になろうとしている。それは素直にすごいことだと思うよ」

 

「春日先輩……」

 

「あ、悪い。何か偉そうに言ってしまったな」

 

「いえ、そうではなく。そうやって那須先輩を落としたんですね」

 

……は?

 

「……誰から聞いた?」

 

「防衛任務の前に佐鳥先輩がヘラヘラしながら言ってましたよ」

 

「あの野郎……」

 

佐鳥か……誰がチクりやがった……昨日の今日で知っている人間……本命が美奈ちゃん→綾辻→佐鳥というルート、対抗で清隆→佐鳥か……。何にせよ、ランク戦で佐鳥からポイントをガンガン吸い取る必要があるな。

 

 

「そろそろ出てくる頃ですね」

 

木虎と話しているうちにいい具合に時間が経っていたらしく、校舎から続々と生徒が出てきた。

まぁ校門前に、自分で言うのも歯痒いが、有名人が2人も立っているわけだから、気づけば軽い騒ぎとなっていた。

 

「あれ嵐山隊の木虎さんと古賀隊の春日さん?」

「なんでまだいるんだろ?」

「いいじゃん、写真撮らせてもらおうぜ」

「写真撮ってもいいですか?」

 

「あー悪いけどそういうのはやめてくれる? 写真なんて正直迷惑なの。芸能人じゃあるまいし……」

 

案の定、写真を撮らせてくれなどの要望が飛んできたが、木虎がそれを跳ね返してくれた。

こいつのはっきりとした物言いは、こういったときには年下ながら頼りになる。

 

……と思いきや携帯を向けられた瞬間、こいつ思いっきりポーズ決めやがった……さっき心の中で褒めたのに。

 

「なにやってんだ? こいつ……」

 

「はっ……」

 

気付けば目的の人物が目の前にいた。三雲と白髪の少年――特に白髪の少年については、諒から警戒しておくよう言われていたし、三雲と一緒に行動をしているというのはこちらにとっても好都合だった。

 

何にせよ2人から話は聞かないとな……。

 

「木虎、一応今は広報の仕事中じゃないし、ポーズ決めなくていいからな……?」

 

「……忘れてください。さて、待ってたわ、確か……三雲くんだったわね。私はボーダー本部所属、嵐山隊の木虎藍。本部基地まで同行するわ」

 

「一応俺も……古賀隊の春日雄也だ。今日のことについて君たち二人にちょっと個別で話が聞きたくてな。本部に行くまでの間、少し質問させてもらってもいいかな?」

 

「は、はい」

 

A級2人に囲まれ少し緊張しているのだろうか、少々硬い表情で返事をし、俺と木虎の後を着いてきた。

 

 

―――

――

 

 

「――なるほど、じゃあ三雲くんが南館の生徒を助けに行かなければ君だけじゃなくて結構な被害が出ていたわけか」

 

「そうだな」

 

「うん、とりあえず君たちの状況は理解した。空閑くんありがとう」

 

木虎は三雲に話があるようだったし、まずは白髪の少年、空閑くんに当時の状況を聞くことにした。

どうやら半壊した校舎から三雲に抱えられて出てきたらしいが……やはり違和感がある。

最初は火事場の馬鹿力的なものかと思ったが、三雲個人の戦闘能力は、俺の知る限りボーダー内でもかなり下の方だ。

いくら普段以上の力が出せたとしても……三雲ではあんなスマートな倒し方はできない。トリオン兵の弱点や動きを熟知した上で、さらに高い戦闘スキルを持った……そんな攻撃だった。

 

「いえいえ。ところで……」

 

空閑は木虎と三雲の方に視線をやった。釣られて俺も同じ方向を向くと、木虎が三雲に絡んでいるように見える。ひたすら正論で責め立てる木虎に、三雲も少々辟易しているようだった。

 

「ああ……組織に属する人間の立場としては正しいんだが……ちょっと当たりがきつすぎるな……」

 

「オサムは罰を受けるのか?」

 

「そうならないために当時の現場の状況を色々調べてるんだ。……まぁでも違反は違反だから説教受けるくらいは覚悟しといてほしいってとこかな」

 

「それならよかった」

 

俺の言葉を聞くと、空閑は笑顔で「よかった」と返した。友達思いなのだろうか、多分悪い奴ではないのだろう。

 

だからこそ――

 

「はっきり言ってあなたがいなくても私たちの隊が事態を収拾していたわ。あなたはたまたま現場の近くにいただけよ!」

 

「いやいや、ムリだから。別に責めるつもりはないけど、おまえ全然間に合ってなかったから、ふつうに」

 

何かと三雲に突っかかる木虎に対して噛みつくんだろうな……。

 

頼む……目立つから道端でデカい声出さないでくれ……。

 

 

―――

――

 

 

木虎と空閑の言い合いに一段落ついたところで、三雲が口を開いた。

 

「そういえば、春日先輩。今日の学校の近界民……あれはなんだったんですか?」

 

まぁそりゃ気になるよな……

 

「そのことなんだが……昨日から少々厄介な事態が起こっている」

 

「春日先輩!? 部外者もいるのにいいんですか!?」

 

「いいよ、どうせこの調子じゃそのうちバレるのは確実だし。まぁ喧伝しまくるような奴じゃないだろうし大丈夫だろう」

 

「……わかりました。まだ詳しいことは分かってないけど、どうやら基地の誘導装置が効かない、イレギュラーな門が開き始めてるみたいなの」

 

「技術者たちが総出で原因調査してるんだが、今のところ何の成果も出てなくてな」

 

「イレギュラーな門……?」

 

「今日の事件の他に、昨日から6件同様の事例が報告されている。その時は防衛任務中の隊員やたまたま近場にいた非番の隊員が対応したから被害は出なかったが……。何にせよ、今の三門市はいつどこに近界民が出てきてもおかしくない状況下にある」

 

「そんな……! じゃあ早く何とかしないと」

 

「だからそれは技術者がやってるって言ってるでしょ。私たちが騒いでもどうにもならないわ」

 

次の瞬間、その厄介な事態がまたしても俺たちを襲った。

 

『緊急警報。門が市街地に発生します。市民の皆様は直ちに避難してください』

 

突如上空に現れるゲート――またイレギュラーなのが来やがったか……

 

しかし、そこでもう一つ、厄介なことが起こった。

 

「マジかよ……というか……」

 

「何!?この近界兵……! こんなの見たことないわ……!」

 

飛行型の大型近界民――俺も木虎も見たことがないタイプだった。

 

どんな攻撃をしてくるか、どんな特性があるかもわからない……さて、どう対応したものか……。

 

とりあえず、本部に連絡しようとした次の瞬間、信じられない言葉が聞こえた。

 

「空閑、こいつは……?」

 

「イルガー……! 珍しいな。爆撃用のトリオン兵だ」

 

……おいおい、俺も木虎も知らないことを何でお前が知ってるんだ? 空閑。

 

正直問い詰めたいところだが、それどころではない。

 

このイルガーとかいう近界民が街目掛けて爆弾を何発も落としている。

 

建物は破壊され、市民の叫び声が川の向こう側から聞こえてくる。

 

……ほかの部隊を待ってる余裕なんてないな。

 

「木虎! 先に行け! 本部に連絡次第すぐに追いかける!」

 

「はい!」

 

「ぼくも行く」

 

「三雲くん、気持ちはありがたいが君が対応できる相手じゃなさそうだ。悪いが安全なところにいてくれ」

 

「あなたまた出しゃばるつもり!? そもそもあなた空の相手に何ができるの?」

 

「それは向こうで考える」

 

……言っても聞かないか。だがここで時間を割いてる余裕はない。急いでホルダーに入れているトリガーに手をかける。

 

「「「トリガー起動!!」」」

 

俺、木虎、三雲がトリガーを起動する。

 

三雲は即座に武器を出そうとしたようだが、トリオンが回復しきっておらず、武器を出すことができなかった。

その姿を見た木虎におとなしくしてろ、と諭されるが、とても引くようには見えない。

……まぁさすがに今の状況で近界民に特攻をかけるような無謀な真似はしないだろうし、願わくば被害に遭っている市民の救助とかをやってもらえると助かるんだがな。

 

木虎はそのまま近界民の元に向かった。

 

さて、俺も急いで本部に連絡して木虎の援護に行かないとな。

 




単行本1巻のとこまで終了。
なるべくペースは上げていきたいと思っていますので、今後とも宜しくお願い致します。


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空閑 遊真

進まない文筆作業とは裏腹に、ガンガン上がっていくハンターランク……

遅くなりましたが、今回も宜しくお願い致します。



【春日雄也・三門市内】

 

見たことのない近界民が警戒区域外に出現し、市街地は狂乱の渦に包まれている。

木虎を先行させたが、木虎だけで対処できるだろうか……急がないとな。

だが何にせよ、まずは本部に連絡を取ることにした。

 

『忍田さん!』

 

『雄也か。市街地に近界民が出現したみたいだが、どうなっている?』

 

『大型のが1体……記録上でも見たことがないやつですね。街に爆弾を落としながら、現在市街地を旋回中です。とりあえず、たまたま同行していた木虎を先に行かせて対応させています』

 

『了解した。雄也も急いでそちらに向かってくれ』

 

『了解』

 

忍田さんの指示も受け近界民の方に目をやると、街の上を旋回してはいるが、黒煙を上げており爆撃も止んでいた。木虎が上手いことやったな、と思っていたら、その木虎から通信が入った。

 

『か、春日先輩!』

 

どうもかなり焦っている様子だが……嫌な予感がするな。

 

『どうした? 何かあったか?』

 

『この近界民……このまま街に堕ちるつもりです!!』

 

『んだと!?』

 

『攻撃していたら急に固くなって……それにこのトリオンの密度……自爆するかもしれません!!』

 

『ちっ……今そっちに急いで向かうから……ん? ……もう少し待ってろ』

 

攻撃を受けると装甲を堅くするようなやつだったか……? 装甲を破れないらしく、トリオン量が比較的少ない木虎では対処しきれない相手だったようだ。

しかもあの図体で街に墜落して爆発となると、被害もかなり大きくなるだろう。

やはり、俺も行くべきだったと判断ミスを反省しながら、木虎の元へ向かおうとすると、知った顔が近界民を見上げていた。

 

……そういえばこいつはこの近界民のことを知っているんだったな。緊急事態ではあるが、木虎が対処できなかった相手だ、情報を得て対処するのが得策だろう。

 

「空閑くん」

 

「かすが先輩?」

 

「正直問答している時間もないから率直に聞こう。あの近界民を知っているな?」

 

「知ってるよ」

 

「そうか……今木虎があれの対応をしているが、どうも思わしくないことになってしまったみたいだ。何か対処法をあるのなら教えてほしい」

 

「わかった。レプリカ」

 

空閑が何かに呼び掛けたかと思ったら、空閑の背後から黒い豆粒のようなものが級に現れた。

 

「うおっ、何だこれは」

 

「私はレプリカ。ユーマのお目付け役だ。早速だがあのトリオン兵はイルガーと呼ばれるものだ。大きなダメージを受けると、付近で最も巻き込める人間の多い場所を目掛けて落下。全ての内臓トリオンを使って自爆する」

 

「つまりは今のうちに攻撃通して、空中で爆発させればいいのか?」

 

「その通りだ。だが、今の状態になったイルガーは並大抵の攻撃では傷つけられないほど防御力が上がっている。キトラはボーダーの精鋭のようだが、それでも破壊できないとなると……」

 

「いや、大丈夫だ。俺がやる」

 

「かすが先輩にはできるのか?」

 

試すような口ぶり――いっちょ俺の強さを見せつけてやるか。

 

「……空閑くんは疑っているようだが、木虎も十分にやれる奴なんだ。――だが、今回のようなことに関しては、俺は木虎の数段上を行くからな」

 

「ほう」

 

「一応確認だが、他の近界民と同じように口の中の核を壊せばいいな?」

 

「それで問題ない」

 

合成器を起動させながら、木虎に通信を飛ばす。正直、あの近界民の装甲を貫くのにどのくらいの火力が必要かわからないので、とりあえず最大出力で攻撃するに越したことはないだろう。そうなると木虎が近界民の上にいたままだと恐らく巻き添えを受けるので一旦退場してもらうことにした。

 

『木虎、聞こえるか?』

 

『は、はい!』

 

『とりあえずそいつから飛び降りろ。俺がやる』

 

『わかりました。お願いします!』

 

木虎が飛び降りたのを確認すると同時に、グラスホッパーを上手いこと使いながら空中を駆け、近界民の正面までやってきた。

同時に、籠められるだけのトリオンを籠めてアステロイドを3回起動させる。

合成器を介し手元に発現させた合成弾は、ランク戦で使っているものとは比べ物にならない威力だろうということが一目でわかるほど禍々しいものだった。

 

「トライデント!」

 

手元から合成弾を相手の顔面目掛けて射出する。

射程もある程度抑え、分割することなくそのまま1発ぶっ放した、もはや砲弾とも言えようトリガーは近界民を貫通。近界民は空中で爆発し、街への被害を防ぐことができた。

……完全にオーバーアタックだったな、これ。やっぱまだ色々設定とか考えないといけないな。

 

 

―――

――

 

「何とかなった、か……」

 

近界民も片付き、とりあえずは何とかなったが、あたりを見渡すと街の被害はかなり大きい。

いつぞやの大規模侵攻以来の――嫌なことを思い出してしまうな、やめておこう。

ともかく、木虎が住民に向けて何かアナウンスしているようだし、今のうちに本部に連絡しておこう。

 

『忍田さん。春日です』

 

『雄也か。状況の報告を頼む』

 

『市街地に現れた近界民を木虎と共に撃破しました。データが欲しいところでしたが、爆発させて粉微塵になってしまいまして……』

 

『それは残念だが、2人が無事で何よりだ。市街地の被害はどうだ?』

 

『ちょっと被害が大きいですね……全半壊の建造物が多数。多分死者も出ていると思います』

 

『そうか……とりあえずは近界民への対応、よくやった』

 

『ありがとうございます。とりあえず木虎が近隣住民に色々説明しているようなので、それが済み次第、本部に戻ります。その際、午後にお話しした第三中のC級隊員を連れてきますので、そちらについてもお願いします』

 

『ああ。では、また後で』

 

忍田さんへの報告も済んだところで、もう一人、声をかけておくべきであろう人物の元に足を運ぶ。

 

「空閑くん」

 

「かすが先輩。なんか用か?」

 

「いや、先ほどの礼を言いに来ただけだ。情報提供ありがとう」

 

「いえいえ」

 

「ボーダーという立場上、君をこのまま帰すわけにはいかないのだが……まぁ今回は何も聞かなかったことにしよう」

 

「いいのか?」

 

「何か悪意を持ってこっちに来たわけではないんだろ? だったらわざわざ拘束したりするような真似したりしないさ。何なら俺は近界民と同居しているしな」

 

「そうなのか」

 

近界民と一緒に住んでいる、と言うと、空閑はとても驚いた表情を見せた。

恐らく三雲から、近界民であることを伏せろとでも言われており、そこから近界民であることを知られることに不都合があると判断したのだろう。

そんな中で「近界民と住んでいる」と言えば、確かに驚くだろう。

 

どこから来たのかはわからないが、まぁこちらに危害を加えようという意思はなさそうだし、こいつのことは一旦は放置でいいだろう。

……まぁ、近界民ってだけで殺しにかかるような奴らもいるから、気を付けてほしいが。

 

―――

――

 

騒ぎも一段落し、4人で本部に向かい歩みを進める。

10分も歩くと、本部への直通通路までたどり着く。

 

『トリガー認証。本部への直通通路を開きます』

 

「じゃあ空閑くん。俺たちは本部に戻るからこれで」

 

「ふむ、トリガーが基地の入り口の鍵になっているわけか」

 

「そうよ。ここから先はボーダー隊員しか入れないわ」

 

「じゃあおれはここまでだな。なにかあったら連絡くれ」

 

「わかった」

 

隊員でないためこの先に入れるわけにはいかないので、空閑はここでお別れとなった。

――だが、彼が近界民であるのであれば……おそらくそう遠くないうちにまた顔を合わせるのかもしれない。そんな気がする。

 

空閑と別れ、3人で通路を進む。

これから処分が下されるであろう三雲が少々落ち着かない様子だったので声をかけてみる。

 

「いい友達だな」

 

「え?」

 

「空閑くんだよ。君のためにわざわざ木虎に食って掛かるあたり、面白い奴だと思うよ」

 

「か、春日先輩!」

 

「はっはっは。まぁ落ち着け、木虎。あの手合いがお前と相性悪いのは分かるが、もうちょい流せるようになろうな? その方がクールでかっこよく見えるぞ」

 

「そうではなく……はぁ、わかりました。今回は私もアツくなりすぎましたから」

 

少しは緊張がほぐれたのか、強張った表情に多少の余裕が生まれた。

木虎も落ち着いたようだし、三雲に噛みつくことは今日のところはもうないだろう。

 

とりあえず、本部に着いたら忍田さんに三雲の罰則を軽くするよう嘆願をしておこう。

空閑のことを話すかどうか……少々悩むところだが、一旦は本部には報告しないでおくか……目的も何もわからないうちに下手に報告しても、問答無用に襲いにかかりかねない隊員もいるので、一旦様子見を……一応、林藤さんと迅さんには報告しよう。

 




3種類以上の弾丸トリガーを合成できるという、大分前に書いた前振りだけ拾っておきました。

合成弾で思い出しましたが、先日頂いた感想で、アステロイドとメテオラの合成弾は榴弾のイメージがあるとのことでしたが、やはりそのように考える方が多いんでしょうかね……確かwikiでもそんなコメント入ってた気がする。


ともあれ、今回も読んでいただきありがとうございました。


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古賀 清隆②

新年度も目前。皆様もお忙しくなる時期でしょうが、何とかやっていきましょう。




【春日雄也・古賀隊隊室】

 

三雲の件で林藤さんや忍田さんと話を着け、除隊にはならないよう取り計らってもらえるよう取り付けることはできた。

とは言え、城戸さんとかはクビにしろと言うだろう。それを2人が抑えられるかどうか……

 

心配ではあるが、もうここまで来たら俺の出る幕はない。

2人を信じて、三雲の処分がどうなるかを待とう。

それに、迅さんも今回の件に関しては首を突っ込んでくるはずだ。

自分で後に起こるだろう大規模侵攻時の切り札としてわざわざ推薦して入隊させた隊員を、みすみす除隊なんて事態は発生させないように動くだろう。

 

ともあれ、昨日から続くこの事件について頭のいい奴からちょっと話を聞いてみたくなったので、俺は隊室に足を運ぶ。

確か今日は狙撃手の合同訓練中があったはずだ。終わったら一度隊室に戻ってくるだろうという推測し隊室に入ると、美奈ちゃんがいた。

どうやらオペレーターも講習会か何かがあっていたようで、それが終わって後、隊室で清隆を待っていたようだ。

 

いつものように本を読みながら10分くらい待っていると清隆が隊室に戻ってくる。

 

「あれ? 美奈子はともかく雄也帰ったと思ってたよ」

 

「ちょっと聞きたいことあってお前を待ってたんだよ」

 

「そっか。で、聞きたいことって?」

 

「昨日から頻発しているイレギュラー門についてどう見る?」

 

「真面目な回答した方がいい?」

 

「できれば」

 

「あっ、私も聞きたい!」

 

少し考えるそぶりを見せ、清隆が口を開いた。

 

「あくまでも俺の考えってだけだからね? じゃあ前提だけど、イレギュラーっていうのは警戒区域の外に出てきている門のことを2人は言ってるんだよね?」

 

「ああ」

「うん」

 

「じゃあそもそもの話だけど、警戒区域の外にできている門の何がイレギュラーなのかは理解してる?」

 

「は?」

「どういうこと?」

 

「言葉の通りだよ」

 

「いや、そりゃボーダーが誘導装置使って、警戒区域内に発生するように仕向けてるから……」

 

「うん、そうだね。だけど、逆に考えてみて。だとすると近界民側からして、市内に門を発生させたつもりが、警戒区域内で門が開いていることになるよね。つまり、今まで俺たちが正常だと思っていたことこそが、近界民にとってはイレギュラーってこと」

 

「「あー、なるほど」」

 

「そもそもの大前提がこれ。ただ今回は誘導装置が通用していない。今までの国とはわけが違って、誘導装置の影響を受けない手段を持っているってことになる」

 

よくよく考えてみれば、清隆の言う通りだ。警戒区域に門ができることが当たり前になってしまっていたから忘れてしまっていたが、本来はどこにできるかわからないものを、誘導装置を利用して、三門市周辺に発生する門を無理やり警戒区域の中に発生させているのだから、近界民にとってはおかしな話だったはずだ。

 

――しかし、今回はそれが通用していない。

 

「こういった問題を解消させようとした場合、近界民がとると思われる手段は2つ。1つはボーダーの誘導装置を強引に突破して、自分たちの思う場所に門を発生させるようにすること。2つ目は今とは異なる窓口で市内に門を発生させること」

 

「なるほど。つか……1つ目の想定が合っていたとしたらもうどうしようもないな。……だが、2つ目はどんな方法がある?」

 

「うーん……警戒区域内に近界民が出てくるじゃん? その時こっそり市内に門が発生する装置を配置しておいたとかかな? もしくは隠密性の高い近界民を紛れ込ませて、そいつを使って門を開くとか。さっと思いつくのはそのくらい」

 

「なるほど」

 

「とりあえず、雄也の疑問には答えたけど……ただ、これはあくまでも問題のごく一部に過ぎないってことに気づいてる?」

 

「どういうことだ?」

 

こちらの顔を伺いながら一呼吸置いて、清隆が口を開く。

 

「近いうちにまた4年前の大規模侵攻のようなことが起こる可能性がある」

 

「えっ!?」

「……マジか」

 

迅さんの予知――近いうちに大規模侵攻が起こるということ。

清隆の読みも合わさって、現実味を帯びてきた。

 

「今回の件で一番の問題は、警戒区域の外に門が出ていることじゃない。誘導装置の影響を受けない、つまり近界民がある程度指定した座標に門を発生させられる可能性ことだよ」

 

「もしそうなら、近界民が侵攻をかけてきたとき、主導権を握られた状態でそれを受けなければならないってことか」

 

「そういうこと。過去4年間、近界によるそれなりの規模の侵攻が起こらなかった理由は、門の出現場所の指定というアドバンテージを一切握れなかったからというのは1つの理由だと思う。近界民は門を通してこっちの世界に侵入するしかないわけで、その門が発生する位置をこっちに握られるっていうのは、攻める側からしたらかなりのリスクを負うことになる」

 

清隆――話の区切りごとに俺と美奈ちゃんの方を見て、理解できているかを確認しながら言葉を続ける。

 

「それに4年前に比べて、こちら側の戦力がかなり底上げされていることも1つの理由。モールモッドとかのような雑兵を大量に派兵されたとしても、出現位置を握ってしまえば余裕をもってそれに対抗する力が今のボーダーにはある」

 

「物量で押し込まれる可能性は?」

 

「攻める側は戦力に出せる限界があるから何とかなるんじゃないかな? 少なくとも4年前の規模ならどうにかなると思う。……何にせよ、もし今軌道上にある国に侵攻の意思がある場合、かなりヤバい状況にあるってことは頭に入れておいた方がいいよ。というか、雄也はあんまり驚かなかったね。結構な爆弾発言だと思ったんだけど」

 

「いや、迅さんとも話してたんだ。遠くないうちに大規模侵攻が起こるだろうって」

 

「なるほど……迅さんも言ってるんなら確定だろうね」

 

「え? だったら早く上層部の人たちに伝えないと」

 

「一応、林藤さんや迅さんを通してもう上には伝わってる。ただ、近いうちに起こるってことしかわかってないからな……」

 

「何にせよ、今俺たちにはどうすることもできないし、開発室からの報告を待とう。とりあえずは門自体が発生しないように障壁張ってるみたいだし、今日のところはもう帰って休もうか。何か進展あったらもしかしたら動かされることになるかもしれないしね」

 

「まぁ明日以降に期待、か」

 

「とは言え、障壁も2日くらいしか持たないはずだし、あんまり悠長に事を構えることはできないけどね」

 

タイムリミットは約2日――その中で何とかエンジニアたちが解決策を見出してくれればいいのだが……。

 



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春日 雄也②

今回で原作2巻の中盤まで展開を回収。
尚、オリキャラ視点で物事が進むため原作は掠る程度な模様。

では、今回も宜しくお願い致します。


【春日雄也・玉狛支部自室】

 

朝――時計の針は7時を示している。

朝はそんなに弱くないつもりだが、昨日色々とあったせいで思ったより疲れていたのだろうか、布団から出るのが少々億劫だ。

寝ぼけ眼のままベッドの上でボーっとしていると、迅さんが部屋に入ってきた。

 

「よう、雄也。起きてるか?」

 

「起きてますよ。おはようございます」

 

「眠そうだな」

 

「まぁ昨日色々あったもんで……。で、朝早くからどうかしたんですか?」

 

「前もって言っておこうと思ってな」

 

「ん? 何をですか?」

 

「いや、午後から隊員総出で仕事があるから準備しとくといい」

 

隊員総出? どうやら大きめの事件が起こりそうな予感がする。

 

「何かあったんですか?」

 

「もうちょっとしたらイレギュラー門の原因が分かりそうなんだ」

 

本当に大事件だった。迅さんの言う通りなら、これで一昨日から続くイレギュラー門の問題に終止符を打つことができるだろう。

 

「マジですか……なんか大変なことになりそうですね」

 

「そうだな……。雄也、お前は特に大変なことになるから腹を括っときな」

 

ん? “特に”?

 

「……どういうことです?」

 

「まぁ命にかかわるようなことじゃないから気にしない気にしない」

 

「いや、そう言われると逆に気になるでしょうが……」

 

「わはははは。じゃ、俺は行くところがあるから」

 

そう言うと、迅さんは笑いながら出て行った。

……まぁ笑ってるくらいだからそんな大したことではないのだろう。

 

――そう思っていた。

――数時間後、それは誤った認識だということと、迅さんの発言が正しいということがわかった。

 

 

 

【春日雄也・古賀隊隊室】

迅さんの予知通り、昼前に全隊員が緊急で本部に集められる。

とりあえず一度隊室に集まり、清隆から今日の仕事の説明を受けることとなった。

 

「というわけで、緊急で全隊員招集がかかった理由だけど……街の大掃除」

 

「何で私たちみんなで大掃除しないといけないの?」

 

ボーダー一同でどこかの掃除をするものかと勘違いした美奈ちゃんが口を開いた。

流石にこの緊急事態で社会奉仕活動なんてやってる暇はないんだけどな……。

 

「あー……掃除と言ってもゴミ拾いとかするわけじゃないよ。……イレギュラー門の発生原因が特定された」

 

「ホントに!?」

 

「うん。小型の近界民が町中至るところにいて、そいつが門を発生させてたみたい。で、数があんまりにも多いから、ボーダー総出で大掃除ってわけ」

 

これは迅さんが予知した通り。

しかし隊員総出とは……思ってた以上の大仕事だった。

 

「全体の指揮は迅さんが執る。そしてエリアを分けてそれぞれA級の部隊がそのエリアの指揮を執って動くことになってる。俺たちの担当はこの辺」

 

どこからか取り出した棒を持ち、清隆は画面を指した。担当するエリアは三門市南部のようだ。

 

「そんでもって、俺たちの下にB級の部隊が2つとC級隊員が3,40人前後って割り振り。C級は俺がまとめて面倒見るから、雄也と諒はB級と合同で2チーム作ってガンガン掃除をする方向で。何か質問は?」

 

「さっきからB級B級言ってっけど、どこの部隊だ?」

 

一通り伝達事項の連携が済み、質問を求める清隆に対して諒が口を開く。

 

確かに気になるところではある。今回は何か細かい連携が必要になるわけではないので、あまりどの隊と組むことになっても問題はないのだが、できればある程度仲のいい隊員がいるところとがいいという気持ちはある。

 

正直B級も下位のチームの人間はあんまり知らないし……

いっそ正直なことを言えば那須隊と一緒がいいし……

 

そんなことを考えながら、若干期待をしていたが……清隆の口から出てきた言葉は――俺を地獄に突き落とした。

 

「え? 那須隊と香取隊」

 

「……は?」

 

「いや、だから那須t「聞こえてるよ、聞こえてるから声上げたんだろうが」」

 

那須隊を入れたのは素晴らしい。ただ、続く言葉に俺の心は絶望に染められた。

 

朝の迅さんの言葉――『雄也、お前は特に大変なことになるから腹を括っときな』

 

一瞬で全てを察した。

 

「いや、ホント大変だったよ。うちの管轄にこの2部隊を入れるの。やっぱどっちの隊長も人気あるし」

 

「違うだろ。いや、そうなんだけど」

 

そして清隆はいかに苦労してこの2隊を組み入れたかと言うことを力説し始める。

那須隊だけでいいんだよ、その努力は。クソ野郎が。

 

「んなら、雄也が那須と香取と組みゃいいだろ。そんで残りは俺だな」

 

「ちょっと待て」

 

諒までおかしなことを言い始める……俺に安住の地はないのか……

 

「よし、じゃあ午後一から一斉駆除作戦開始だからその頃に指定の場所に集合で!」

 

「了解」

「了解できん!」

 

流石にこんな修羅場になるのが見えている状況を許すつもりはない。ない、が……もうこいつらの中では決定事項と化している。

清隆……俺に何の恨みがあるというのか……あ、あった。

 

「清隆……てめぇ俺が学年1位取ったの根に持ってんだろ……?」

 

「……そんなことないよ」

 

俺の問いに清隆は一瞬の間を置き、笑顔で答えた。

だが、長い付き合いということもあり俺は知っている。

 

――この笑顔は嘘をついているときの顔だ。

 

 

 

【春日雄也・三門市南部】

 

「雄也―!」

 

「ん? ああ、葉子か……ってオイ、近い近い」

 

「えー、嫌なの?」

 

清隆に指定された集合場所で玲と葉子を待っていると、葉子が先にやってきた。

来るや否や、腕に抱きついてこようとするもんだから思わず躱してしまった。

頬を膨らませて少々不満気の葉子は、尚も距離を詰めようとしてくる。

……タイミングはよくないけど、玲と付き合ってることは言っとくべきか。

 

「嫌と言うか彼女できたからあんまりそういうのは……」

 

「は!?」

 

「いや、だから玲と……」

 

「ふーん……じゃあ別れたらアタシと付き合ってよ」

 

「……は?」

 

「いいじゃん! ね?」

 

「い、いや、あのな……」

 

ブチギレて最悪仕事にならない可能性も考えていただけに、この反応は想定外だった。

……何と言うか、意外とタフな奴だなこいつ。

 

そんな問答(と言うにはほぼほぼ一方的に言い詰め寄られていた件)をやっていると、今回のチームの最後の一人がやってきた……ジト目を向けながら。

 

「遅くなってごめんなさい。で、何をしているの?」

 

当たり前ながら、俺と葉子のやり取りをあまり良く思ってはいないようだ。

……本当に申し訳ない。あとでちゃんと謝らないと。

 

「ちゃんと仕事しないと古賀くんに怒られるし早く行こ、雄也くん」

 

「あ、ああ……」

 

玲――俺の腕を掴み引き寄せる。まるで、これは私のものだ、と言わんばかりに。

聞こえる舌打ち――一瞬にして葉子が不機嫌になったのが分かる。

 

場の空気がどんどん重く、冷たく、息苦しくなっていく。

さながら水の中に頭を突っ込まれたような気分だ。

 

「は? 今アタシが雄也と話してるんだけど? 先に1人で行ってればいいじゃん。すぐに”2人”で追いつくから」

 

なぜ”2人”を強調するのか……。しかも若干ケンカ腰で……。

 

「悔しいのは分かるけど、今は任務中だってことはわかっているかしら?」

 

玲は玲で、お前は負けたのだ、と言わんばかりのパンチラインを繰り出してくる。

いつからここはMCバトルの会場になったのだろうか。しかもどっちもモンスターである。

 

「……あっそ。別に仕事しないって言ってるわけじゃないからいいじゃん。あ、そっか。アタシに雄也を取られるのが怖いんだ。そんな貧相なのじゃしょうがないか。雄也ってば前にアタシの胸元見てたし」

 

起動していないのに、アステロイドが飛んだように見えた。

そして俺はそんなことをした記憶はない……多分。

というかお前トリオン体のそれ、盛ってるだろ……。

 

「雄也くんってスタイルがいい方がいいって言っていたわ。香取さんこそ好きな男の子の好みもわからないの?」

 

こちらはこちらでバイパーがぶっ放されたように見えた。

そして誰もそんなことを言った記憶はなかった。

なんで君たちは俺の言動を捏造するのだろうか……国会議員もビックリの事態だ。

 

このような空気のまま黙々と作業を、そして時折言葉の刺し合いが発生し、限界寸前の俺に清隆から通信が飛んできた。

 

『一応進捗の確認だけど、どんな感じ?』

 

『エリアの半分くれぇは俺たちで片づけた。ちっと休憩取ってから再開する』

 

『諒のとこは大丈夫だと思ってるよ。で、肝心の雄也のとこは?』

 

『助けて……心が死にそう……』

 

『使えないなぁ……美奈子、雄也のとこはどうなの?』

 

『はいはーい! 雄也くんのとこは……仕事はしてるけどちょっとペースが遅いかなー? 諒くんのとこでもう少し頑張ってもらってもいい?』

 

『了解』

 

『それより俺を助けて……』

 

『『自分で頑張れ』』

 

……俺に救いなど存在しなかった。

 




ノリと勢いでコメディ要素ぶち込んだんですが……キャラ崩壊若干入ってるな。
と思っていましたが、案外カトリーヌのキャラは壊れてない気がした。

では、また次回に。


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玉狛支部

GWも明け、5月病が蔓延する時期になってしまいました。
私は休日出勤のオンパレードでGWなんてありませんでしたが……(白目)


【春日雄也・玉狛支部自室】

一斉駆除から数日が経った。

あれ以降警戒区域の外で門が開くことはなく、一旦は三門市内に平和が訪れた。

大規模侵攻の心配がないわけではないが、特に迅さんが何も言ってこないのでまぁ今のところは大丈夫なのだろう。

 

今日は防衛任務もなく、特にやることがあるわけではないので、クリスマスも近いし玲とどっかに行ったり、プレゼント送るとして色々と調べている最中だ。

 

しかし――そんな時間も長くは続かない。

 

「雄也ぁ!!」

 

「うおっ! ビックリした。いきなり何だよ?」

 

勢いよく開く部屋の扉。見慣れた顔と聞きなれた大声。桐絵だった。

若干涙目で俺の部屋に突撃してきたが、何かあったのだろうか。

 

「あたしの! どら焼き!」

 

「……は?」

 

「どら焼き食べたのアンタ!?」

 

……少しでも心配して本当に損をした。どうせ陽太郎だろ……。

 

「耳元でうるさいな……俺じゃないよ……」

 

「じゃあ誰なの!?」

 

「下に迅さんとか栞がいるみたいだし、そっちにも聞いてみりゃいいでしょ」

 

まぁどうせ食ったの陽太郎だろうけど。

 

とりあえず桐絵の意識を下の階にやり、俺は俺でクリスマスプレゼントを何にするかを考えようと、机の上のパソコンに向かい直した。

 

――が、次の瞬間。

 

背後から襟首を掴まれる感触。

椅子から引きずり降ろされ、そのまま部屋の外まで引きずり出される我が体。

 

「ん? ……ってちょ、ちょい待て! 痛っ! け、ケツが! オイコラ桐絵!! ……ってオイ! 階段!! 階段!!! だっ! ケツ! ケツがっ!! い、痛ぇ!! やめろこの馬鹿!!」

 

そしてそのまま階段を引きずり降ろされる……ケツが痛ぇ……なんでこんな目に遭わなきゃならんのだ……。

平穏に過ごすはずの俺の休日は、幼馴染の野蛮なふるまいによって消え失せることとなった。

そのまま迅さんや栞がいると思われる1階の広間まで引きずられる。

 

「あたしのどら焼きがない!!! 誰が食べたの!!?」

 

またしても勢いよく扉を開く桐絵に、部屋にいた迅さんと栞、そして客と思われる他3人が一斉にこちらを向いた。

 

そして、その3人のうちの2人は知った顔だった。

 

「あれ?」

「かすが先輩……?」

 

「あれ? 三雲くんに空閑くんに……真ん中の子は誰だ?」

 

そういえば迅さんが「うちに新人入るからよろしく」とかなんとか言っていた気がするが……そういうことか。

 

「あれ? 雄也くん知り合い?」

 

「一応な。……そうか、新しく玉狛に入る隊員って3人のことか」

 

「はい。宜しくお願いします」

「よろしく」

「(ペコリ)……あっ、わたしは雨鳥千佳です」

 

「ああ、よろしくな。修、遊真、千佳ちゃん」

 

「ところで……大丈夫ですか?」

 

「……もう慣れてる」

 

一応は広報もやっている建前上、ダサいところはあまり見せられないのだが……もういいや(白目)

 

脇の方では桐絵が陽太郎の両足を掴み逆さ吊りにしてるし……どら焼きくらいで大騒ぎしすぎだ……なんで俺は引きずられたんだよ……意味わかんねぇ……。

 

そんだけ大騒ぎしているもんだから、玉狛の部隊の残り2人も騒ぎを聞きつけてこっちの部屋にやってきた。

 

「なんだなんだ。騒がしいな、小南」

「いつもどおりじゃないですか?」

 

レイジさんと京介が来て多少は周りを見たのか、桐絵がようやく新人3人の存在に気づいた。

 

「新人!? あたしそんな話聞いてないわよ!? なんでウチに新人なんか来るわけ!? 迅!!」

 

「まだ言ってなかったけど実は……この3人、俺の弟と妹なんだ」

 

この人は何を言っているのか、と言わんばかりに空気が固まる。

なぜこんなつまらない嘘をつくのだろうか。長年の付き合いをもってしてもわからない。

 

「えっ、そうなの?」

 

こいつは何で騙されているのか、と言わんばかりにまた空気が固まる。

なぜこんなつまらない嘘に引っかかるのだろうか。長年の付き合いをもってしてもわからない。

 

桐絵の恥ずかしい騙され絵図も一旦止め、栞がうちの面子の紹介を始める。

 

ちなみに俺は京介の流れかなんか知らんが、「さっぱりしたハンサム」らしい。

……「落ち着いた筋肉」に比べれば大分マシか。

 

そして、迅さんが今回の本題に入った。

 

端的に言えば、A級を目指している3人を鍛えよう、ということらしい。

 

遊真を桐絵が、千佳ちゃんをレイジさんが、そして修を京介がそれぞれマンツーマンで指導し、個人としての能力を上げていこうぜといった感じだろうか。

 

「そういえば迅さんと雄也くんはコーチやんないの?」

 

「俺は今回抜けさせてもらうよ。いろいろやることがあるからな」

 

「俺はその入隊式絡みで色々仕事があるからパス。なんかあったらサポートくらいはするみたいな感じで。でもまぁ今日から早速訓練始めるんでしょ? とりあえず様子は見ておこうかな。特に遊真がどんなもんなのか気になるし……あとでいっちょ戦闘してみるか?」

 

「いいよ、やろうか」

 

「ちょっと待ちなさいよ。先に私がやるわ」

 

「そう? じゃあ桐絵の訓練が一段落ついたらやろうか」

 

「わかった」

 

正直、遊真の実力がどんなもんなのか興味があったので、一戦交えようかと思ったら、桐絵に先越されることになった。

桐絵が遊真をブースに連れ入ると、他の面々もそれに倣ってそれぞれの訓練を始めた。

 

桐絵のが終わるまで少々時間がかかるだろうから、本を読みながら終わりを待つ。

……さすがに桐絵が負けるとは思わないが、どうなんだろうか。

 

そして数十分後――唖然とした表情を浮かべた桐絵がブースから出てきた。

……まさか、負けたのか? 嘘だろ。

 

と思いきや、10回やって1回負けただけらしい。流石に現状は桐絵の方が上か。

……そうであってもらわないといかんだろ、という気持ちもまぁあるが。

 

ともかく、桐絵の方が一段落着いたわけだから――

 

「じゃあ俺の番かな」

 

「よろしく」

 

「おう、中に入ろうか」

 

 

遊真と共に仮想空間に入る。

とは言え桐絵から1本取ったんだもんな……。こいつ強いな……。

 

「桐絵から一本取ったんだってな」

 

「10回やって1回勝っただけだよ」

 

「それでも十分だ。あいつは攻撃手って括りの中だと、ボーダーで上から3,4番目に位置する奴なんだよ」

 

「そうなのか」

 

「さて、遊真は何を使う?」

 

「うーん、とりあえずさっきも使ったしこれだな」

 

「なるほど、スコーピオンね……うん、じゃあやろうか」

 

「よろしく」

 

遊真がスコーピオンを起動させると戦闘態勢に入った。

俺も空間内に置いてあるトリガーを手に取り起動させる。

 

お手並み拝見と行こうか……

 

 

そして数十分後――

 

「いやー、4-6で負けちゃった」

 

遊真、強いわ。多分A級の部隊に入ってもやっていけるだろう。

 

俺の敗北宣言を聞くや否や、桐絵が詰め寄ってくる。

 

「は!? アンタ手を抜いたんじゃないでしょうね!?」

 

「いや、マジでやったよ」

 

「ちょっと遊真! 本当なの!?」

 

「本当だぞ。でも、かすが先輩はなんでこの間みたいな射撃型のトリガー使わなかったんだ?」

 

遊真の言葉に桐絵が首を傾げ、次の瞬間ジト目でこちらをにらんできた。

 

「……ちょっと雄也」

 

「どうした桐絵」

 

「アンタ何使って戦ったの?」

 

「え? スコーピオン」

 

「……アンタは何をやってんのよ!!」

 

「いや、武器くらい合わせないと……普段のトリガーだとさすがに今の遊真相手なら完封しちゃうし」

 

相性とかあるしね。遊真がスコーピオンしか使えない以上、こっちが射手用のトリガーなんて使おうものなら弾幕張るだけの簡単なお仕事になってしまうし。

 

なんにせよ、遊真の実力は把握できた。

諒が以前遊真に対して、注意しろ、と言った意味も身をもって分かった。

こいつはおそらく新人の中で群を抜いた存在になる。

仮入隊組には悪いが……おそらく遊真の足元にも及ばない。

 

……やべぇ、入隊式の日がちょっと楽しみになってきた。

 

 

 




よくよく考えたらこれ書き始めてそろそろ1年。
合間合間で書いていたり、途中海外出張があったりでペースがクソな感じですが、これからも宜しくお願い致します。


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古賀 清隆③

なんやかんやで、書き始めてから1年経ってしまいました。
もっと速いペースで書けているつもりだったですがね……(白目)


【春日雄也・ボーダー本部】

 

「嵐山さん、お待たせしました」

 

「来たか。早速だが迅から連絡があった。急ごう」

 

「はい」

 

遊真たち3人が玉狛に所属して3日目の朝、迅さんから声をかけられたことから話は始まる。

 

―――

――

 

「雄也、ちょっといいか?」

 

「どうしたんですか?」

 

「悪いが、今晩嵐山たちと行動してくれ」

 

「何かあるんですか?」

 

「太刀川さんたち遠征部隊が今夜遊真を狙って襲撃に来る。正直俺一人じゃ止められないだろうから、忍田さんに頼んで嵐山隊を応援に出してもらうようにしてるんだが、お前もそこに加わってくれ」

 

「……確かに遊真は近界民ということに加えてかなりのやり手ではありますが、三輪の件があったにしてもそんな面子でくるようなほどのことですか?」

 

「……遊真は黒トリガーの所有者だ」

 

「なるほど、そういうことですか。わかりました」

 

 

―――

――

 

遊真が三輪隊とやり合ったということも最近聞いていた。

 

近界民ということもあるため、恐らく三輪たちは再度襲撃に来るだろうと予測はしていたが、思った以上の大所帯で襲撃に来るらしい。

 

冷静に考えれば三輪隊の4人を1人で相手して退けたくらいだから、遊真が黒トリガーを使っていたとしても不思議ではないし、むしろ筋が通る。

 

そして、そうなってくると本部の人間も黙ってはいないだろう。

近界民と隊員の小競り合いという次元ではなくなり、一定の戦力をかけて黒トリガーの回収にかかるだろう。

それだけ、黒トリガーというものは特別だということだ。

 

色々と思うところはあるが、嵐山隊の4人と共に迅さんの元へ急ぐ。

 

 

 

 

「嵐山隊、現着した!」

 

数分も駆ければ、迅さんのいる場所に到着した。

既に迅さんは太刀川さんたちと相対している……。

遠征部隊に加え三輪隊の面子……そして、なるほど。俺が呼ばれた理由はこれか……。

 

「さて、なんでお前はそっちにいるんだ? 清隆」

 

「城戸指令からの命令。お前には悪いけど通させてもらうよ」

 

「すまないが俺としてはお前を通すわけにはいかないんだよ」

 

「近界民を匿ってるのはよくないと思うんだけど? それに黒トリガー持ちとなれば、本部としては黙ってられないのも理解できるでしょ?」

 

「そうかもしれないけど、そんな不安視するなよ。別に何も悪いことはしないって。俺の言うことを信じろよ」

 

「うん、雄也のことはボーダーの中で誰よりも信頼しているよ」

 

「だったら」

 

「だが、これはまた別問題だ」

 

清隆の口調が変わる――臨戦態勢に入ったようだ。

 

「ったく、こうなるとお前は頭固いよな……どうしてもやるのか?」

 

「それはこっちの台詞だ。道を開けないなら――お前を斬る」

 

そう言うと清隆は弧月を起動した。ヤバい、あいつ目がマジだ。

 

「迅さん、嵐山さん、すいません。清隆の足止めで手一杯でしょうから、残りの面子の相手をお願いしてもいいですか」

 

「ああ、こっちは迅と俺たちで抑える」

 

「おう。あ、そうだ雄也」

 

遠征部隊の面々を迅さんと嵐山隊に任せ、清隆の相手をするべく場所を移動しようとすると、迅さんが声をかけてきた。

 

「何ですか?」

 

「使ってもバレないだろうだから、もしもの時は使っていいぞ。じゃあそっちは任せた」

 

「わかりました……少し場所を移そうか。ついてこい」

 

「仕方ない……太刀川さん、雄也は俺一人でどうとでもなりますので、迅さんと嵐山隊をお願いします」

 

「行ってこい」

 

――最終手段を使う許可は出た。……なるべく使いたくはないが、もし清隆が今回の襲撃に積極的なのであれば最悪使うしかないか……。

 

 

―――

――

 

迅さんたちと少々距離を取るため、清隆を連れて駆けた。

ある程度駆けたところで、程々の距離は取れただろう、と一旦足を止める。

 

「この辺でいいか」

 

「ああ、さっさと終わらせるぞ」

 

「……そんなに近界民が憎いか?」

 

「家族の仇ではあるし恨みはあるさ。ただそういう感情は別にしたとしても、上からの命令ならばやるしかない。通させてもらう」

 

「そうか……」

 

家族の仇――実際に遊真がやったわけではないのだが、三輪のようにどうしても近界民であるということだけで許せないと思う隊員も多々いる。

清隆にしても表向きはそんな素振りは見せないが、実際のところは三輪のように、近界民そのものに対して何かしら思うところはあるのだろう。

 

 

「お前だって4年前に母親を近界民に殺されてるだろ? 恨みはないのか?」

 

「まぁ思うところがないわけじゃないが、ネイバー殺すために母さんに命張ってもらったわけじゃないしな」

 

「お前の母親はそんなことは望んでいない、みたいなお約束の展開か?」

 

「そんなマンガみたいな展開じゃねぇよ。それに――」

 

「それに?」

 

「もし恨みがあるとすれば、あの時自分の力を過信して調子に乗ってしまった馬鹿なクソガキだった俺に対してのみだ」

 

思い出す――4年半前のこと。

中途半端に力を持って……そして自分の力を過信し……挙句母親を失う羽目になったあの日……

 

「そうか。まぁどうあれお前を倒して任務を遂行させてもらう」

 

「チッ……来やがれ!」

 

清隆が突っ込んでくるのを見て、こちらも弧月を起動させ振り下ろされる一撃を防ぐ。

 

一合、また一合と弧月がぶつかり合う。

一進一退の攻防が続く。

 

清隆の方が相変わらず上手いが、単純な力なら俺の方が上。

……次に甘い一撃が来たら思いっきり切り上げて清隆のトリガーをぶっ飛ばす。

 

そこから数合の後――

 

ここしかない!

 

片手で振り下ろされる一撃。これに合わせて力一杯に両手で切り上げを決める。

 

ガッ、っと激しい音を立てると同時に、清隆の持っていた弧月が手元から離れ天高く舞う――はずだった。

 

「残念。お前の負けだ。読みが浅かったな」

 

『戦闘体活動限界。戦闘体解除』

 

勝利を確信した次の瞬間、清隆のその一撃により俺の弧月は破壊され、そのまま振り下ろされた一撃をモロにくらってトリオン体が解除された。

 

トリガーが、しかも耐久力も高めな弧月が破壊される――思い当たる節はあった。

 

「お前、マジかよ……」

 

「諒もなかなかいいものを開発してくれた」

 

弧月のオプショントリガー、断海。

諒が開発した2つのトリガーのうちの1つ。

詳しい理屈は本人がよくわかっていなかったため推測になるが、使用したトリオン量に応じて瞬間的に硬度と威力を大幅に上げているのだろう。

 

――例えば、諒ほどの腕前なら自分のタイミングで自由に使うことができるだろう。

しかし、清隆の戦闘におけるセンスが高いとは言え……こんな上手いこと狙い撃ちができるのだろうか……

 

「お前の弧月を振るう時の癖、戦闘時の反応速度や間合いの取り方、立ち振る舞いは全部覚えている。ともすれば詰将棋のようなものだ。その場の最善手を打てば簡単に倒せる。案の定、エサに食いついてくれたしな」

 

普通に考えて到底できるとは思えないことを、当たり前のことのように、淡々と事実として語る。

 

「まったく、なぜわざわざ普段使わない弧月をセットに入れた? 何で射手トリガーを使わない? 私物のトリガーの方を使っているのだから、きちんと戦えば俺に勝つことだってできたはずだ。警戒区域内とは言え、街を壊してしまうかもしれないような戦い方は嫌か? だからお前は甘いんだよ」

 

「とても街を守るような立場にいる人間の発言とは思えないな……まるで俺を倒すためならそこら辺の建物壊しても構わないみたいな言い方だな」

 

「物事には優先順位がある。今回お前が最も優先すべきは俺を止めることだろう? 違うか?」

 

「違わないが……だとしてもそうじゃねぇだろ」

 

「全く……今回のことは別にしても、お前は物事の優先順位を見誤ることがたまにある。今後それで取り返しのつかないことにならないか、正直心配だ」

 

「余計なお世話だ。それに――」

 

――こいつはここで止めないといけない。

清隆はあくまでも盲目的にならないというだけで、根本的には比較的三輪に近い考え方を持っている。

黒トリガーの奪取という指示の下に動いているだけだから、「近界民だから」と遊真を殺して黒トリガーを奪う、と言うことすらやれるだろう。

 

――そうはさせない。

 

「どうした」

 

「お前はここで止める」

 

「そうだな、それが今現状の最適解だな」

 

そして俺は、首にぶら下がった黒いドックタグを握り――再び清隆の前に立ちはだかった。

 

 



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古賀 美奈子

来月頭から出張ということを先週末に聞かされる辛い事案が発生してしまいましたが、やっていきましょう。
幸いにも今回は国内だから、然程準備も必要ないですし(白目)

では、今回も宜しくお願い致します。


【古賀美奈子・古賀隊隊室】

 

お兄ちゃんと雄也くんが戦いを始めたその時。私と諒くんは隊室で2人がその姿をモニター越しに見ていた。

 

本来狙撃手トリガーだったり射手トリガーをメインに戦う2人が弧月で戦う姿には微妙に違和感があるけど、2人とも攻撃手の隊員のそれと比べても見劣りしない戦いをしているところを見ると、本当にこの2人は強いんだなー、とも思う。

 

 

ふと、後ろから諒くんが声をかけてきた。

 

「清隆のサポートはしなくていいのか?」

 

「相手が雄也くんだしねー……2人とも得意なトリガーじゃないけど本気でやってるみたいだし、どっちかに肩入れするのは無しかな? どっちみち大したことできないからっていうのもあるけどね」

 

「そんでも上からの指示なら、清隆のサポートをするのが筋じゃねぇのか?」

 

諒くんの言ってることが、ボーダーの隊員としては正しいってわかってる。

それでも――

 

「それでも、だよ」

 

「雄也になんかあんのか?」

 

「雄也くんもだけどお兄ちゃんにもね」

 

お兄ちゃんにも雄也くんにも、私は本当に助けられた。

だからこそ、どちらかに加担なんてできない。筋が通らない。

 

「……お兄ちゃんがボーダーの試験受けたのって、私のわがままがきっかけなんだよね」

 

特に口にするつもりもなかった言葉が、思わず私の口から漏れ出した。

 

「4年前にお父さんとお姉ちゃんが死んじゃって、それからお母さんがずっと働いてたんだけど、お母さんも働きすぎて倒れちゃってね。私も何かできることがないかな、って思ったときにボーダーの募集があってさ。私が試験を受けるって言ったらお兄ちゃんも一緒に受けることになって……でも、私はトリオン量が足りなくて落ちちゃったの」

 

一度言葉が漏れてしまったら、それが止めどなく溢れてしまう。

諒くんはそれを黙って聞いてくれていた。

 

「お兄ちゃんって見ててもわかるけど、才能あるからそれこそ今A級の部隊の人とかにも勧誘されてたし、雄也くんだって本当は玉狛支部の部隊に入るはずだったの」

 

2人ともそれぞれに選んで然るべき道があった。

 

「逆に私はオペレーターを目指したのはいいけど、特別優秀だったわけじゃないからどこかの部隊に入ることができなかった。そんな時にお兄ちゃんが雄也くんを連れてきて部隊を組むことになったの」

 

思い出す。画面の向こうで戦う2人――

お兄ちゃんが雄也くんを引き摺ってきて、3人で部隊を組もうと言ったあの瞬間を。

苦笑いしながら、仕方ないな、と雄也くんが誘いを受けてくれたあの瞬間を。

 

力がなかった私のために――

 

「元々は私のワガママから始まったことなのにね。それでも2人は自分たちのエリート街道を蹴ってわざわざ私を拾ってくれたの。だから――どっちかに肩入れするとかはできないよ」

 

「そうか……まぁあいつらは特に気にしてねぇと思うがな。……おっ、ケリついたか?」

 

漏れ出た言葉が止まると同時に、2人の戦いも終わった。

 

「雄也くん、トリオン体解除されちゃったね」

 

結果としてはお兄ちゃんの完勝。

 

射手トリガーを使う以上、点じゃなくて面での広範囲の攻撃が主になるんだから、周囲への被害は避けられない。

特に雄也くんがソロのときの基本的な戦い方は、メテオラやハウンドを序盤に多用して相手の動きを制限して先手を取るものだから、いくら射程を制御できる技術を持っていたとしても警戒区域内の家とかを壊すことになってしまう。そのことにかなりの抵抗がある以上、お兄ちゃんと本気で戦えなかったんだと思う。

 

2人が問答を始めた。

言い合いではきっと雄也くんではお兄ちゃんには敵わない。

だけど、雄也くんだってそんなことで引くような人間じゃないってことを知っている。

そして、やっぱり、雄也くんはまた立ち上がった。

 

雄也くんが首に着けてるアクセサリーを手に取ったのを見て、私はモニターの映像を切り、お兄ちゃんに繋がっている通信を全て落とした。

 

「ん? どうした?」

 

突然通信を全て遮断した私を、諒くんは怪訝な表情で見てくる。

 

「ここから先はちょっと映すわけにはいかないから」

 

「あ? なんでだ?」

 

「諒くんはまだ知らないんだったね。雄也くんには奥の手があるの」

 

 

 

【春日雄也・三門市警戒区域】

 

「……ったく、気は済んだか?」

 

腹に大穴を空け、今にもベイルアウトしそうな清隆に話しかける。

 

「別に気晴らしできたわけじゃないよ。指令からの指示だったし、相手が近界民であるわけだから断る理由も特になかったし。それにしても、それ本当にズルいよ」

 

「使っていいと迅さんから許可も出たからな……マジで大丈夫だよな……?」

 

「それ使う前にこっちの通信とかは全部美奈子が切ってくれてるからその方面での証拠は残らないし、もし何かあっても新型の独自トリガーを使った、とでも言えば雄也の場合は通じるでしょ」

 

「……確かに」

 

「さて、受けた命令に対してやれることはやったし、そろそろ俺もトリオンもう切れるし、一足先に休んでるよ。玉狛の近界民のことはまた暇なときにでも聞かせて」

 

「はいよ」

 

そう言うと清隆のトリオンが切れたらしく、ベイルアウトしこの場から姿を消した。

 

さて、迅さんたちがどうなったか気になるところだが……このまま行くわけにもいかない。

 

そうなると、玉狛に帰るしかないのだが……ある程度距離を取ったとは言え、何らかの拍子で迅さん以外に見られるのはマズいし、とりあえず換装を解いてから一足先に帰るか。

 

 

 

【全体視点・古賀隊隊室】

 

作戦室の奥、3つ並んだベッドの1つに何かが落ちてきたような衝撃音が諒と美奈子の耳に聞こえた。

戦闘体が解除され、隊室まで強制転送された清隆が戻ってきた音だった。

 

「いやー、やっぱりやられちゃったよ」

 

「あっ、お兄ちゃん。お帰りー」

 

「ただいまー……あれ? 諒もいたんだ」

 

「一応な……しかしお前が負けるっちゃ思わんかったな」

 

「まぁ普通に戦う分には流石に負けないよ。ただ私物の方使われたら流石に厳しいとこはあるかな」

 

「普通に押し切ったじゃねぇか」

 

「でも結局負けて戻ってきたわけだし」

 

一度は雄也を倒したにもかかわらず、その後何があったかわからない諒は怪訝な表情を浮かべながら清隆に尋ねる。

 

「……通信切られたから見れなかったけどよ、お前なんでベイルアウトしてんだ? あいつ戦闘体解けてただろ」

 

「あー、あれね。雄也が黒トリガー使ったんだよ」

 

「なるほどな。ん? でもトリオン切れてただろあいつ」

 

「黒トリガー」と聞いても驚いた素振りを見せない諒に逆に清隆が少々驚いたようだが、そのまま話を続けた。

 

「あの黒トリガーだけど、トリオンを充電しとけるんだよ。実質雄也は残機が皆より1つ多い感じかな?」

 

「それずりぃな。……ん? そしたらあいつS級になるんじゃねぇのか?」

 

「何か理由があるっぽくて、黒トリガーのこと本部には伝えてないみたい」

 

「だったら知ってるのはどんくらいいるんだ?」

 

「俺と美奈子は部隊組むときに教えてもらった。あとは多分玉狛の人たちくらいじゃないかな? 少なくとも迅さんは知ってるみたい」

 

「黒トリガーの能力は?」

 

「まぁそれは追々……というか俺も全様をわかってるわけじゃないから。まぁ、ちょっと玉狛の黒トリガーも気になるし、雄也に直接話を聞こうと思ってるから、その時についでに聞いてみようかな」

 

「つっても、話すような時間があんのか? 黒トリガー持ちの近界民となると、今回が駄目でも二の矢三の矢バンバン送り込むだろ」

 

「いや、それはないでしょ」

 

「何でだ?」

 

「今回の編成で無理だったら本部としてはもう天羽に頼るしかないんだけど、そうなると場合によっては警戒区域の外にも被害が出るかもしれないからね。本部としても玉狛側としても正直それは避けたいと思うよ」

 

「じゃあどうすんだよ」

 

「まぁいい感じの落としどころ見つけるしかないだろうね。まぁその辺は迅さんがある程度予測してやってるだろうから、何とかなる気がするけど……あー、疲れた。美奈子、帰るよ」

 

「はいはーい。じゃあね、諒くん」

 

若干の含みを残したまま話を切り上げられたため、諒としては少々消化不良な部分もあるが、この一件については清隆もこう言っていることだからとりあえず収拾はつくのだろうと飲み込んだ。

 

そんなどうでもいい政治的なことよりも諒は――

 

「黒トリガーか……やべぇ、一回やってみてぇな……」

 

雄也の黒トリガーがどんなものなのか、ということと、戦いたいという欲に頭が埋め尽くされていた。

 




雄也が黒トリガー持ちである、ということの明言はもうちょい後出しの予定でしたが、感想欄にも質問か指摘かが入りましたので今回の内容に突っ込みました。

もっとぶち込みたいことも色々あり、例えば迅の副作用についての個人的な考察とか、雄也の過去のお話とか。どのタイミングに入れようかとか悩むところ…

後者については若干の前振りはできたしいいか……前者どうしよう……


では、今回も拝読いただきありがとうございました。


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春日 雄也③

読んでいただいている皆様。お久しぶりです。

簡単に近況だけ報告いたしますと、出張だったり転職活動で忙しい感じでした。

これから就職を控える皆さまはどうかしっかりと考えた上で就職活動をしてほしいと思います。
大学生特有のノリと勢いやミーハーなアレで決めたら大変なことになります。いや、マジで。

……いや、ふざけてエントリーしたら何かトントン拍子で決まってしまって、じゃあここでいいや! とか駄目だった。



余談もここまでにして、今回も宜しくお願い致します。



【春日雄也・六頴館高校】

 

清隆との戦闘から数日経った。

 

本部も本腰を入れて遊真の黒トリガーを取りに来ると思っていたが、あの後迅さんが風刃を本部に差し出し遊真の黒トリガーの保持とボーダーへの入隊許可を取り付け、まぁホッと一息、ってとこだろうか。

 

強いて言うなら、清隆とマジなやり合いになってしまった、と見た嵐山さんが俺と清隆の関係に多少なりとも溝ができてしまったのではないか、と心配していたくらいだが、そんなの杞憂です、と一蹴しておいた。

 

そんな折に、とりあえず一度集まろうと清隆が言いだし、部活に行こうとする諒を捕まえて先日のことについて諸々の情報連携を、ということになった。

 

「さて、じゃあせっかくだし話を聞かせてもらおうか」

 

「遊真のことか?」

 

「んー、じゃあそれからで」

 

まずは遊真についてのことを話すことにした。

三雲との繋がり、黒トリガー、そして玉狛に来た経緯など、とりあえず自分にわかる範囲で話してみた。

 

自分に話せる範囲で話した後、清隆が口を開く。

 

「なるほど……だとすると、三雲は本当にキーマンだったかもしれない」

 

「予知の話か?」

 

「え? 迅さんがそんな予測してたんでしょ?」

 

「ああ、だけどむしろ期待されるのは遊真の力だろ」

 

「お前何言ってんだ? 話聞いてっと三雲がいなけりゃ空閑はこっちと繋がり持ってねぇだろ?」

 

「まぁそう言われるとそうなんだけどよ……お前に言い負けるか……」

 

諒に論破されるとは……確かに言う通りなのだが……なんか癪だ。

 

「俺も諒も直接空閑がやってるところを見たわけじゃないしわかんないけど、実際のところどうなの?」

 

「黒トリガー使ってるとこは見てないからわからん。ただ、ボーダーのトリガー使ってもA級並の力はあるな。あんま得意じゃないスコーピオン使ったとはいえ、4-6で負けたし」

 

「まぁ相応に実力はあるってことだね」

 

「そいつも気になっけど、黒トリガーつったらお前だろ。聞いてねぇんだが?」

 

「何か言うタイミングがなかったからなー」

 

黒トリガー、という言葉に反応して諒が話題を変えてくる。

……そういや諒には言ってなかったなー。別に言いふらしたりはしないだろうし言っておいてもいいか。

 

「つか清隆も知ってたんなら言えや」

 

「俺もどんなものかってのは知らなかったよ。こないだ見たのが初めて」

 

「どんなんだったんだ?」

 

「うーん……槍を持ってたのはわかるんだけど……攻撃しても何かにぶつかって雄也まで届かなくて、呆気に取られてるうちに気づいたら腹に穴開けられてた。それ以上はわからなかったんだけど、実際のとこどうなの? 槍に仕掛けがあるみたいな?」

 

身に着けているドックタグ――もとい、黒トリガーを手に取り2人に見せる。

 

「確かにちょろっと仕掛けはあるが、その槍はあくまでもサブウェポンだ。俺の黒トリガー……イージスの本来の武装は盾だよ」

 

「あれ? この間は槍しか持ってなかったように見えたけど?」

 

「そう見えるよな。とりあえずは俺の前にドでかくて見えない壁があるようなもんだと思ってくれ」

 

「あー、だから攻撃通らなかったのか」

 

清隆は先日の戦闘時の疑問を解決できたようだが、どうも諒は怪訝な表情を浮かべている。

 

「……悪ぃ。それ黒トリガーなんだよな?」

 

「正真正銘、ガチモンの黒トリガーだ」

 

「なんつーか拍子抜けだな……迅さんのとか天羽のとかのイメージがあっからどうしても盾っつわれてもな……」

 

「先に言っとくけど、お前がトリオン全開で断海を使っても壊せないからな」

 

「あ? やってみねぇとわかんねぇだろ? 何ならやってみっか?」

 

言葉の選び方を間違えてしまったか諒に挑発的な発言と受け取られてしまい、やや攻撃的な返しを受けてしまった。

 

「すまん、挑発したとかそういうのじゃないんだ。単純に盾の特性でトリガーでの攻撃を完全に無効化できるから、弧月での攻撃がそもそも通らないんだよ」

 

「だったらそれを避けて攻撃すりゃいいだろ」

 

「それに加えて向かってくる攻撃に対してそれに反応して自動で防いでくれる、絶対防御みたいなもんだよ。天翔を全力で使って突っ込んで来ようと間違いなく防げる。ついでに言うと盾は通常トリガーのシールド同様、複数に分裂可能だから多方向からの攻撃にも対応可能」

 

「トリガーの攻撃が通んねぇんだったら打撃で」

 

「余程の威力じゃない限り打撃での破壊も無理だし、壊れても即座に張り直せる。俺自身のトリオンや充電されてるトリオンが尽きない限り絶対に攻撃は通らない。まぁ難点を言うなら効果範囲が半径5mくらいだから、広範囲をカバーできるものじゃないってのと、起動してるだけで徐々にトリオン削られることくらいだ。後者はそもそも俺トリオン量多いからほとんど影響がないと言ってもいいしデメリットと言えるほどのものでもないな」

 

「……」

 

手の打ちようがない、とわかると否や溜息を吐いて諒は黙り込んだ。

 

何にせよ、イージスは使用者のトリオンが切れるまで自分に向かってくる攻撃を全て防いでくれる、名前の通りの防御特化の黒トリガー、というわけだ。

 

「何と言うか……さすが黒トリガーって感じかな? ところでその黒トリガーって……」

 

「俺の母親だ」

 

「そっか……」

 

清隆――遠くを見るような目。何か思い当たることでもあるのだろうか。

 

「ん? どうした?」

 

「いや、何でもない。絶対防御ね……我が子を守りたい母親の気持ちってやつの現れなのかな、って」

 

「……そうだな」

 

 

思い出す。

4年前の大規模侵攻のこと。

 

大量の近界民が街を襲ってきたあの日。

 

トリガーを使えることに調子に乗り、襲い掛かってくる近界民を次々に蹴散らしていくも自分の力不足で返り討ちに遭い、トリオン体は解除され意識を失い――

 

「悪ぃ……間に合わなかった……」

 

目を覚ました時に見たのは白砂のようになった母親の前で、小さな黒いドックタグになった母親を握った迅さんの姿だった。

 

 

「――や? 雄也?」

 

「ん? あぁ、悪い。……流石に冷えてきたな」

 

気付けば日も暮れて外は暗くなっていた。

12月ともなると日も短くなり、時間的にはそんなに遅いわけではないが、確か清隆はこの後の予定もあるし、そろそろお開きと言うところだろうか。

 

「何か2人ともわざわざ付き合わせて悪いね。一応俺は防衛任務あるけど、2人は時間大丈夫だった?」

 

「俺は特にねぇな。寮に帰ってその後自主練だ」

 

清隆は防衛任務、諒はトレーニング。それぞれ金と力を求める2人。まぁ何と言うかいつも通りの流れだなこいつらは。

 

「ちょっと俺は買い物あるから市街地まで出ようかな、ってとこだな」

 

「あー、クリスマス近いしね。羨ましいことで」

 

察した清隆はニヤニヤしながらこちらを向いた。

 

「いや、お前とか作ろうと思えば簡単に作れるだろうが……」

 

「そうだけどさ、そういうのじゃないんだよなぁ……」

 

「その発言、遍く高校生男子を敵に回してるからな?」

 

身の回りでパッと思い浮かぶだけでも綾辻に三上と、誰がどう見ても容姿、内面ともにハイスペックな女子2人からのアプローチを受けながらも、このような発言をするのだから、玲と付き合う前の俺なら間違いなく下顎目掛けて右ストレートぶっ放してたな……。

 

「とりあえず今日は解散しよう。とりあえず空閑のことだったりお前の黒トリガーだったり最低限聞きたいことは聞けたし……何より防衛任務に間に合わなくなる。教室の鍵は任せた」

 

「了解。また何かあったら呼んでくれ」

 

そう言うと、清隆は少し駆け足でこの場を後にした。

 

 

諒の方も特にこれ以上要件も無いようで、鞄を担ぎ教室の外に出ようとしている。

 

「なら俺も行くか……っと、そうだ。これやるよ」

 

何かを思い出したかのように俺の方に戻り、何かを手渡してきた。

 

「……っておいコラ。お前これ……」

 

正方形のフィルムのパッケージ――俺たちの年代なら確実に反応してしまう道具……何でそんなもん持ってんだよ……

 

「周りで使うとしたらお前くれぇだからしゃーねぇだろ」

 

「いや、流石にまだそういうのは……ってかどっからこんなもん持ってきた」

 

「部活の先輩が配ってんだよ」

 

「……意識が高いことはいいことだ」

 

「水風船以外の使い道がないような連中しかうちの部活いねぇんだけどな」

 

「悲しくなるからそんなこと言うな……とりあえずありがたく受け取っておくよ……」

 

使う予定はないが、とりあえず受け取ったものを財布の中に突っ込んだ。

迷信ではあるだろうが、財布に入れていると金が貯まると言うしまぁそういうことにしておこう。

 

「やっぱ使うんじゃねぇか」

 

「そんな予定はないけど……保険だ、保険」

 

「そういうことにしといてやんよ。じゃあな」

 

そんなこと考える余裕もなかったが……意識しちまうじゃねぇか馬鹿野郎が!

 

一人残された教室を後にし教室の鍵を職員室に返して、少々悶々としながら市街地へ足を運んだ。

 

 




とりあえず、時系列的には原作4巻の32話近辺です。

予定としては、次にちょっと小話挟んだ後にすぐ原作戻ります。


またしても余談ですが、出張中毎日業務が定時で終わって暇だったので別に2本、それぞれ3万字程度書いたので、そのうち片方を載せようかなと思ったり思ってなかったり。



では、今回も拝読いただきありがとうございました。


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春日 雄也④

前回の後書きにも書きましたが、小話挟みます。

本当は1話に収められたらな~、とか思っていましたが、結構長々と書いてしまったので2つに分けます。

書いてて思ったんですが、よくよく考えれば登場人物ってほぼほぼ学生がメインなのに原作はあんまり日常パートってほとんどやってないな~、とかなんとか。

まぁ原作の作風上、そういうパート入れまくってもそれはそれで違和感はありますし、そういうものなんでしょう。

では、よろしくお願いいたします。


【春日雄也・六頴館高校】

 

今年も残すところあと1週間程度。

 

ここ最近は防衛任務が立て込んでおり、時期が時期と言うのに彼女と遊ぶ時間も取れず少々悲しい思いをしているのだが、まぁしゃーないだろう。

イレギュラー門の発生以来、危機感からか上層部は若干ピリピリしているように見える。

防衛任務に力が入るもの当然と言えば当然か。

 

課外授業も終わり、確か今日も防衛任務が入っていたはずだ。……とりあえず清隆のとこ行くか。

 

急いで隣の教室に向かう。

 

「清隆、今いいか?」

 

教室の扉を開けると、清隆は奈良坂や三上といったボーダーの面子と何か話しているようだった。

 

「ん? いいよ。ちょうどよかった」

 

ちょうどよかった? 何か俺に用事でもあったのだろうか。

 

清隆はニヤニヤしながらこちらに近づき、口を開いた。

 

「今日の防衛任務だけど、来なくていいよ」

 

「は?」

 

「は? じゃなくて。クリスマスなのに那須さんと会えないのは、それはそれで可哀想かな、と。と言うよりここのところ防衛任務詰め込んでしまったのがよくなかったね。ごめんごめん」

 

「別にいい。時期が時期だけに実際シフトを入れたがる隊員いなかったってのは知ってるし。だが……どういう風の吹き回しだ?」

 

「美奈子に本気で怒られた。ついでにさっき三上からも」

 

「あっ……」

 

清隆にしては気の利いた発言を受け少々戸惑ってしまったが、正直ありがたい申し出だ。と思った矢先にこれである。

この兄妹に関しては兄がアレでも妹がまともでよかった、としか思えなくなってきたぞ……。

 

ってか、今日の防衛任務って確か俺たちだけじゃなくて――

 

「とは言え確か玲も防衛任務だった気がするんだが……」

 

「奈良坂と風間さんのとこの誰かが今日はうちと那須隊の穴埋めしてくれるから問題ないよ」

 

ちょうどよかった、とはそういうことでもあったのか。奈良坂や三上と話していたのはこのことだったのだろう。

俺の穴くらいならうちの2人で埋めるだろうが、玲の分も合わせてとなると誰か穴埋めの要員が必要になるだろう、と思ったが、奈良坂、それに加えて風間隊も助けてくれるなら戦力としても申し分ない。

 

まぁそうなると心配事も特にないわけで……

 

「そうか……じゃあまぁ晩飯にでも後で誘ってみるか……」

 

「そんなんでいいの? そういやなんかプレゼント買ってた記憶があるんだけど?」

 

「そんなんと言われても初めてだからわからん。プレゼントも……まぁ渡したいんだが……」

 

ちょっと前に駅前まで出て買った物――未だにカバンの中に入れっぱなしのままだ。

今日までに顔を合わせることがなかったわけではないが、クリスマスの前に渡すのも何だかタイミングが違う気もして渡していなかった。

最悪今日の防衛任務が終わった後にさっと渡してしまおうかくらいに思っていただけに、美奈ちゃんが気を回してくれたことに対して心から感謝したいところだ。

 

「じゃあもうデート行きなよ」

 

「何でお前はそんなにグイグイ来るんだよ?」

 

「これ以上美奈子に怒られたくないんだよ!」

 

黙れこのシスコン野郎が。

 

とは言え……まぁ休みをくれたことには感謝しよう。

と、なると埋め合わせをしてくれる相手に感謝の意を示さねばならんな……

奈良坂は後日シフト変わってやればいいとして……よし。

 

「……そうだな、三上」

 

「どうしたの?」

 

「防衛任務手伝ってくれる礼だ。終わったらこいつがどっか付き合ってやるってよ」

 

「本当!?」

 

「え!? そんなこと言っt「元を辿ればお前の都合で三上の予定を潰すんだから、その穴埋めくらいしてやってもいいんじゃないか?」

 

想定外の発言に清隆は慌てて否定しようとしたが、そうはさせない。

理詰めで封殺された清隆は、諦めたかのように溜息を吐き口を開いた。

 

「言うね……わかったよ。防衛任務終わったら風間隊の隊室行くからそれまで待っててもらっていいかな?」

 

「うん! ……やった(ボソッ)」

 

三上の方に目をやると小さくガッツポーズをしているのが見えた。

 

せっかくのクリスマスなんだし、俺だけ楽しむのも悪いしなー(棒読み)

 

今まで見たことないくらい邪悪な笑顔をしてるよ、と清隆に罵られたが、知ったこっちゃない。少しは妹以外の女の子にも目を向けろ、というものだ。

 

清隆から発されるクレームをどこ吹く風に、教室を出ると同時に携帯が鳴った。

 

「……ん?」

 

ポケットから携帯を取り出し、画面に目をやる。

着信の主はよく知る相手だった。

 

 

 

 

【全体視点・星輪女学院】

 

小南桐絵はイラついていた。長い付き合いの幼馴染である春日雄也に対して。

 

クラスが同じと言うこともあり、何の気なしに那須に「雄也とどこかに行かなかったの?」と聞いてみたところ、「ううん。雄也くん、防衛任務で忙しそうだったし」と返ってくるものだから、後押しした立場からすると、お前何やってんだ、といったところだろう。

 

更には、付き合い始めてまだ一度もデートというデートにも行っていないということまで耳に入ってきた。

 

そういったわけで、何のためにあたしはあいつのケツを叩いたのか、と青筋を立てているところだった。

 

時期はクリスマス。普通のカップルであれば外出の1つや2つくらいするものだろうが、那須からはそんな気配さえ感じられない。

 

高校生でしょ!? あんたら何してんのよ! と口から出ていきそうになるのを必死に抑えて小南は自分の席に戻った。この場合は、何もしていないことが問題なのだが。

 

そんな風にピリピリしていると、小南の携帯が鳴った。誰かからメッセージが来たようだった。

 

取り出した携帯の画面に映る『古賀美奈子』の文字に、小南は一瞬はてなマークを頭に浮かべたが、とりあえずメッセージを読んでみることにした。

 

『小南先輩。今日の防衛任務ですけど、雄也くんと那須先輩外してやることになりました! 那須先輩まだ教室にいます?』

 

(2人が休みになったということはつまり……)

 

小南は考えた。

 

2人にとっては日取り的にも絶好の機会だ。

だけど、このまま素直に2人にそのことを伝えるのは癪だ。

特に雄也が忙しさを盾に今まで彼女とデートに行かなかったという、あまりにも男らしくないその姿。

少し痛い目を見てもらおう、と。

 

そして――ひらめいた。

 

『ありがと。あとはあたしに任せて』

 

早速メッセージを返し、即座に画面を電話のそれに切り替える。

 

そして通話履歴から『春日雄也』の文字を拾い出すと、通話ボタンを押した。

 

数コールの後、電話が取られる。

 

『もしもし? 桐絵?』

 

その瞬間、小南はわざと教室に聞こえるような大きさの声で返事をした。

 

「もしもし、雄也? ちょっといい?」

 

次の瞬間、教室中の女子が一斉に小南の方を向いた。

 

電話口で男の名前を呼ぶ。ただそれだけのことだが、年頃の女子の注意を一点に集める理由としては十分すぎるものだった。

 

更に小南は学校では猫を被っていることもあり、その意外性も視線を集めるのに一助したのだろう。

 

電話越しの会話は続く。

 

『ん? どうした?』

 

「学校終わったらそのままあたしの学校まで来てくれない? 今日自転車だったし大丈夫よね?」

 

『あ? でも今日は……』

 

「いいから! 来る!」

 

『だからちょっt(ブツッ)』

 

春日が何か言おうとしていたが、小南は「四の五の言わずに来い」と言わんばかりに一方的に電話を切った。

 

ともすると、次の瞬間起こることは容易に想像できるだろう――クラスメイトからの質問攻めだった。

 

「小南さんもしかして彼氏? クリスマスだもんね~」

 

「普段と違って大きな声出すからビックリしちゃった。でもいいな~」

 

人のコイバナに首を突っ込む、女子校生らしい習性。

 

小南は、そんなんじゃない、あれはただの幼馴染だ、と答えるも、クラスメイト達はさらに突っ込んでいく。

 

そんな中――たった1人だけ顔を引きつらせている女子がいた。

 

 

「こ、小南さん……? 今のって……」

 

「……何のことかしら?」

 

小南は今まで浮かべたことがないような邪悪な笑みを、那須に向かって浮かべていた。

 

 

 

 




10月からの新しい職に向けての準備も多少は落ち着いたので、少しはペースを上げたいところ。(こんなことを言っていると、10月に入って忙しくなる(白目))

余談ですが、最近ようやく他の作者さんの執筆なさっているものを読むようになりました。

今更かよ、というお話ですが、下手に他のを読んで意図せずネタをパクってしまったりしたら、とか考えるとゴニョゴニョ

とりあえず、直近に更新されてる話数の少ないものから徐々に……



では、今回も拝読いただきありがとうございました。


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那須 玲④

ワールドトリガーついに連載再開ですね。おめでたい。

新キャラや新しいステージも出てきましたし、折を見てこの中でも使ってみますか。


では、よろしくお願いいたします。


【春日雄也・星輪女学院】

 

桐絵からの強制的なお呼び出しにより、必死こいてチャリを漕ぎ星輪までやってきた。

 

流石はお嬢様学校、と言ったところだろうか。

 

校門は立派なものだし、警備員はうろついているし、桐絵のくせになんでこんなとこに通ってんだよ……

 

というか今日のこの出来事はあまりに理不尽だ……頑張って玲をデートに誘おうとしていたのにあんまりだ……。

 

まぁ、ここまで来ればワンチャン玲の顔見れるんじゃないかと期待はしてるんだけどさ……。

 

……とりあえず桐絵に「着いた」とメッセージ送っとこ。

 

 

 

 

 

「あれ? 雄也くん。何でここにいるの?」

 

携帯をいじりながらげんなり感半分、期待半分で校門の前で待っていると、美奈ちゃんに声を掛けられた。

 

友達と思われる女子に囲まれており、一瞬だけ彼女らから怪しいものを見るような目つきを向けられるも、次の瞬間には俺が何者かということに気づいたらしく瞬時に笑顔を浮かべ挨拶をしてきた。

 

冷静に考えれば女子校の前でボーっと立ってるとか普通なら通報案件だよな……

 

「美奈ちゃん。桐絵に強制召還させられた……」

 

「え? ……あっ! そういうことか!」

 

そういうこと、ってどういうことだってばよ。

 

「美奈ちゃんは今帰り?」

 

「うん。これから本部行くとこー」

 

「そっか。防衛任務のこと聞いてる?」

 

「うん! じゃあまたねー!」

 

手を振りながらボーダー本部へ向かう美奈ちゃんを見送りながら、桐絵を待つことにした。

 

 

 

 

そして待つこと数分……

 

桐絵が10数人の女子生徒を引き連れて校門まで出てきた。

 

誰だよお前、江戸時代の大名かよ。脇に避けて頭下げた方がいいのかこれ。

 

「……何でそんなに人連れてきてんだよ」

 

「あたしに彼氏がいると勘違いして、見たい見たいって着いてきたのよ」

 

何だよその女子高生らしい理由は……女子高生だったわ。

 

「つかわざわざ人を呼びつけて何の用だ?」

 

「ん? あたしは用はないわよ?」

 

「は?」

 

これはひどい。

 

流石に怒るぞ、と言おうとした矢先、桐絵が口を開く。

 

「あたしはないけど、あんたが用ありそうな相手に心当たりない?」

 

「は? ……あっ」

 

心当たり――確かにある。

 

何なら桐絵が引き連れてきた中に、少々引きつった笑みを浮かべたその姿が紛れこんでいる。

 

「……アンタ、聞いたら付き合ってから一度もデート行ったことないっていうじゃない? それってどうなの? 背中押したあたしたちにもだし、何より彼女に申し訳ないとか思わない?」

 

「わかった……わかったから……」

 

背中を滴る冷や汗――普段は暴力と暴論を平気で飛ばしてくるのに、こんな時に限って言い返せないような攻め方をしてくる。

 

「じゃあ今アンタが何するべきかくらいはわかるわよね?」

 

「いや、防衛任務なくなったからそもそもそのつもりだったんだが……」

 

「だったらなおのことちょうどいいじゃない」

 

「人多いしちょっとこの場では……」

 

「行け」

 

「あっ、はい」

 

もはや俺に選択肢など存在しなかった。

 

何でこんな辱めを受けなければならないのか。

 

一度天を仰ぎ、女子生徒たちの方に足を進め、目的の人物に声をかける。

 

「玲」

 

「え、ど、どうしたの?」

 

「急で悪いんだけど……クリスマスだし今からデート行かない?」

 

「え!?」

 

キャーキャーと周りから聞こえる黄色い歓声。

 

桐絵もニヤニヤしながらこっち見てんじゃねぇよ……

 

「どう……?」

 

「う、うん。行く。でも雄也くんもだけど今日は防衛任務があるんじゃ……」

 

「奈良坂と風間隊が穴埋めしてくれるらしいから大丈夫っぽい」

 

「そっか。じゃあ……お願いします」

 

「とは言え急過ぎてノープランなんだよな。とりあえず駅前辺りまで出ようか。色々遊ぶところはあるし……何より恥ずかしいから早くこの場を離れたい……」

 

辺りを見渡す。

 

キャーキャー騒ぐ玲のクラスメイト達。

 

これ以上この場に留まっているのも正直恥ずかしいし、何より学校に迷惑だ。

 

「そうね……後ろ乗ってもいい?」

 

「早く乗って。ここから逃げよう」

 

急いで玲を自転車の後ろに乗せ、さっさとその場から退散することにした。

 

次学校に来た日には、玲は死ぬほど質問攻めされるんだろうな……合掌。

 

 

 

 

 

【春日雄也・市街地】

 

とりあえず逃げるように星輪から離れた後は、カラオケ入ったりゲーセンに入って写真撮ったり……なんか久々に高校生らしいことをした気がする。

 

そんなこんなで、時間的に晩飯なのだが……

 

「やっぱあんまりにも突発過ぎたか……いい感じの店埋まってるな」

 

クリスマスを舐めていた、わけではないが、平日だし流石にどっかしら空いてるだろうと思っていたが甘い考えだった。

 

せめて前もって決まっていた予定であれば席の予約くらいしていたものの……

 

「そうね……あっ」

 

「どうかした?」

 

「熊ちゃんが前に言ってたとこなんだけど、ちょっと行ってみたいかな、って思って」

 

「いいよ。地図とか出せる?」

 

「大丈夫。雄也くんは知ってるはずのところだから」

 

―――

――

 

 

そして向かった先は――

 

「よかったの? こんなとこで」

 

「うん。他の皆は行ったことあるみたいなのに、私だけ来たことなかったからせっかくだし」

 

「あぁ? こんなとこで悪かったな!」

 

「……さーせん、カゲさん」

 

カゲさん家のお好み焼き屋だった。

 

「……ケッ。女連れでいい身分じゃねーか。お前防衛任務じゃねーのかよ。サボりか?」

 

「他の隊員に変わってもらいましたので」

 

「……で、注文はどうすんだ?」

 

「てきとーに2人分お願いします」

 

「おう。ちょっと待ってろ」

 

カゲさんとのやり取りを見て、玲がちょっとビクビクしていた。

 

「大丈夫だよ。悪いのは口と人相だけだから」

 

言っておいてなんだが、結構ひどいことを言ってるよなこれ。

 

「ううん。ちょっと声が大きかったからビックリしちゃって」

 

「そっか。というかここ来たことなかったんだ。志岐はともかくとして、熊谷とか日浦が前に行ったって言ってたからてっきり来たことあるのかと」

 

「多分私が病院とか行ってるときに来たんだと思う」

 

「なるほど」

 

 

 

そして待つこと数分。

 

「ほらよ、待たせたな」

 

2人分のタネを持ってカゲさんが戻ってきた。

 

「あざっす。あっ、面識あんまなかったと思うんで一応紹介しておきますね。B級の……確か今は12位だったかな? そこの隊長の那須玲です」

 

「知ってるよ。おめーが弟子取っただので前にちょっとした騒ぎになってやがったしな」

 

「今更ですけどそんな騒ぐようなことでしたかね?」

 

「ハッ、おめー二宮が志願してきたのを断ったのに、そいつは受け入れたからじゃねーか」

 

「断ったんじゃなくて、目的からして出水に任せるのがベターと思ったからそっちに回しただけですよ」

 

「そうかよ。まあいい、なんかあったら呼べ」

 

二宮さんの件については、単純な技術だけなら出水の方が上だったからそっちに任せた方がいいという判断だったわけだし、玲に関して言えば当時はここまで面倒見るつもりもなかったはずなんだよな……

 

まぁ、そんなことより今は目の前の飯に集中しよう。流石に腹減った。

 

ざっと2人分のタネを鉄板に広げる。

 

少し経つと片面がいい感じに焼けたようなので、右手に持ったヘラを使い、サッとひっくり返す。うん、完璧。

 

「上手いね。料理できるんだっけ?」

 

「当番制だから嫌でもできるようになった感じかな」

 

「今度食べてみたいな。ダメ?」

 

「いいよ。俺が当番の日に玉狛来てもらえればいつでも」

 

「うん。楽しみにしてる」

 

普段当番の時は、割とお手軽に作れる手抜き料理ばっかり作っているのだが……この時ばかりは頑張ることにしよう。

 

 

 

 

腹も膨れたところで大事なことを思い出し、鞄に手を伸ばし中から小さな箱を取り出した。

 

「……っとそうだ、これ」

 

「ありがとう。……でもごめんね」

 

受け取った玲から出てきたのは謝罪の言葉だった。

 

……俺、何か謝られるようなことしたか?

 

「え? 何で?」

 

「ううん。私何も用意できてなかったから……」

 

……うん、全部桐絵が悪い、ということにしよう。

 

「気にしなくていいよ。こんな急にこんなことになったし仕方ない」

 

「開けていい?」

 

「うん」

 

「……指輪?」

 

「まぁベタだけどペアリングってやつ」

 

そう言いながら自分の分のリングを見せつけるように右手を玲の方に突き出した。

 

「こういうのって高いんじゃないの?」

 

「安くはないけど……選んでた時に店員さんに声かけられて、高校生だってことを伝えたら相応の値段のものを出してくれたから」

 

「そっか……ありがとう。大事にするね」

 

よかった、喜んでもらえた。

 

もしかしたらあんまり喜ばないんじゃないか、とか思ったりもしたが、この笑顔がそんな不安を一瞬で消し飛ばしてくれた。

 

玲を家まで送り、玉狛まで帰り着いてからもニヤニヤしていたらしく、桐絵に「気持ち悪い」と膝蹴りを入れられても上機嫌だったため、ドン引かれたのはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

『おまけの後日談』

 

明くる日――

 

防衛任務を終え、本部のラウンジで本を読んでいると綾辻から声をかけられた。

 

「春日くん」

 

「どうした?」

 

「こんなもの送られてきたんだけど?」

 

 

渡されるスマートフォン――

 

画面に映るメッセージアプリでの三上とのやり取り――

 

 

『清隆くんとクリスマスにデート行ってきちゃった!』

 

「春日くんが手助けしてくれたっても言ってたけど?」

 

「……」

 

 

背中を滴る冷や汗――

 

能面の如き表情を浮かべる綾辻から放たれる殺気――

 

 

「私のこともフォローしてくれるんだよね?」

 

「いや、それは……あくまでお礼の一環というk「してくれるんだよね!?」」

 

「……はい、このたびは誠に申し訳ございませんでした」

 

「やった! 期待して待ってるね?」

 

 

清隆、済まない。もう一回頑張ってくれ……

 

 




次回から原作の流れに戻ります。


さて毎度恒例の余談ですが、たまに打っている麻雀仲間が麻雀プロになっていたらしいです。知らんかった←

これは咲辺りでで何か書け、というお告げか……?←


……書くか(決意)



では、今回も拝読いただきありがとうございました。


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黒木 諒③

単行本新刊発売おめでとうございます。

一応ここまでweb版で全部揃えているわけですが、それとは別に序盤の方を書籍の方で買い直そうかと考慮中……お金がどんどん飛んでいく……


では今回も宜しくお願い致します。


【春日雄也・ボーダー本部】

 

ついにボーダーの正規入隊日がやってきた。わけだが……

 

「はぁ……」

 

早速矢面に立ちたくないという強い気持ちが大きな溜息となって現れた。

 

取材とか受けるのは特に何も思わないのだが、どうしてもこの新規隊員のオリエンテーションというやつはどうも苦手だ。

 

始まってしまえば、まぁなんだかんだでやってしまうのだが、普段あんまり羨望の視線とかを向けられることがないから、そんなキラキラした目を向けられるのが正直クソ恥ずかしいのだ。

 

 

右隣には可哀想な物を見るような目をこちらに向ける木虎。

 

「春日先輩。いい加減諦めたらどうですか?」

 

「木虎……俺は表に出る器じゃないんだ……」

 

そして左を向けば諸悪の根源、清隆。

 

「御託並べてないでさっさと行くよ。シャキッとする!」

 

「前回の1回きりであってほしかった……」

 

ボーダーに入ってから本当にこいつには振り回されっぱなしである。

 

「そんなわけないじゃん。それに今回は気になってる新入隊員が2人いるんでしょ? ちょうどいいじゃん」

 

「隅っこの方で見てたかったよ……諒と変わるのはダメなのか? あいつの方が知名度は俺より上だしよくね? どうせその辺いるだろうしいいだろ?」

 

「知名度高くても外面は雄也の方がいいから。なんだかんだでそっちの方がウケはいいから。そういうのって結構大事なんだよ」

 

わざわざ論破するかのような返し方。

暗に「お前がどんな屁理屈かましてきても全部言い返してやるよ」と言っているということを長年の付き合いから知っている。

 

言い合いになって勝てる相手じゃない……諦めよう……。

 

「……今回きりだぞ」

 

「オッケー」

 

あ、これは嘘ついてる時の笑顔だ……。

 

 

 

 

時間となりオリエンテーションが開始された。

 

毎回恒例となっているが、忍田さんのあいさつに始まり、その後嵐山隊を中心にオリエンテーションが執り行われる。

 

今回は東さんや荒船さんのようなハイレベルな狙撃手とかも参加していて、狙撃手の指導陣がかなり豪華なことになっている。

 

その狙撃手側には玉狛からは千佳ちゃんが行っている。

 

レイジさんが言うには単純な狙撃の腕だけなら正規隊員とも遜色はないレベルにあるらしいし、きっと皆を驚かすことができるだろう。

 

遊真もそうだが千佳ちゃんにしても、どう考えてもレベルが違うから何か他の新入隊員が可哀想なところもあるな……。

 

特に初期ポイント大目に付与される新入隊員はたまったものじゃないだろう。初っ端から自信をへし折られることになるわけなのだから。

 

 

 

そしてこちら側では――

 

「0.6秒……!!?」

 

遊真が早速注目を浴びていた。

 

例によって対近界民戦闘訓練を実施するわけだが、今年は小粒な人材が多く、ここまでの最高記録が58秒と少々物足りない結果となっていた。

 

……いや、ここ最近の木虎・緑川・黒江が出来すぎただけだな。若干感覚が麻痺してた。

 

だが、それと比べてもこのタイムはヤバい……。

 

更には、マグレだ、と言いがかりをつけられ臨んだ2回目――

 

またしても一瞬で終わっていた。

 

画面に映る『04.59.62』の数字。

 

流石にこれにはオリエンテーションの様子を伺っていた正規隊員たちも驚嘆の声を上げていた。これは今後2度と更新されることはないだろう。

 

新人がスコーピオンで0.4秒か……うん、今の俺でも怪しいな。

 

アステロイドを一撃でコアを破壊できる威力を保持した上で、弾速重視で可能な限り早く起動・射出……0.38秒は……まぁギリギリ何とかなるか。自信はないが。

 

というか俺と対戦した時より動きがかなり早くなっている。

戦い慣れしていることもあるのだろうが、この短い間でまた更に強くなっているように見える。

多分こないだ戦った時の条件で戦ったら今の俺は間違いなく完封されるだろう。

……そういや桐絵相手に3本は取れるようになったとか言ってたし、当然と言えば当然か。

 

 

 

そして戦闘訓練が一通り終わったころ、嵐山さんが口を開いた。

 

「よし、一通り終わったみたいだな。じゃあせっかくだし新入隊員の皆には現役の隊員の力も見てもらおうか」

 

前回のオリエンテーションの時と同じ流れ。

 

このままだと多分また俺がやる羽目になるだろう……。

 

辺りを見回す――誰か身代わりは……いた!

 

「諒! ちょっと降りてきてくれ」

 

スタンドで見学していた諒と目が合い、ちょうどいいとこにスケープゴートがいるじゃないか! という心の声を押し殺し、諒を呼んだ。

 

「あ? なんだ?」

 

「新入隊員向けのデモンストレーション。やってくれね?」

 

「めんどくせぇな……」

 

「頼む。お前が入隊したときのリベンジも兼ねて、ってことで」

 

「しゃあねぇな……一番速いタイムはいくつだ? さっきの白いチビだったか?」

 

「そ。さっきの0.38秒が新人の歴代最速レコード」

 

「わかった。見てろ」

 

最初は気だるげな素振りを見せてはいたものの、遊真の結果に多少は触発されたのだろうか、その記録を打ち破ってやろうという気概を見せていた。

 

諒が訓練室に入ったのを確認し、新入隊員たちの方を向き口を開いた。

 

「では、うちの隊の黒木が皆にさっきやってもらった戦闘訓練をやってもらう。現役のトップレベルの腕を見てもらおうか。『諒、準備はいいか?』」

 

『いつでもいいぞ』

 

腰に下げた弧月の柄に手を添え構える諒の姿は流石に様になっているように見えた。

 

剣術の心得なんて欠片も持っていないが、そんな俺でもとてもきれいなフォームだと思うし、それ以上にこいつは強いということを感じさせる。

 

ふと遊真の方を見てみると、さっきまでの軽い感じの雰囲気は消え、諒の方をじっと見ている。

 

そして――

 

『3号室、用意、始め』

 

開始を告げるアナウンスが鳴ったその刹那、訓練用の近界民が真っ二つになっていた。

 

諒の姿をかろうじて目で追うことはできたが、何をやったのかもわからないままに勝負はついていた。

 

……いつの間に斬ったんだよ。

 

『チッ……0.1秒は無理か』

 

『記録、0.2秒』

 

画面に映る、空閑のそれを上回る『04.59.81』の数字。

 

場は一瞬静まり返ったが、次の瞬間、空閑の時のものを超える大歓声が訓練室を揺らした。

 

 

 

訓練室から退室し、ふぅやれやれ一仕事終わったぜ、みたいな態度の諒の下へ行き声をかける。

 

「サンキュ。それにしても鬼みたいなタイムだな」

 

「カッコつけて抜刀術なんて慣れない真似しなけりゃもう0.05秒は縮んでら」

 

「そんなん想像すらもできない世界だよ……」

 

あれだけのタイムを出しておきながら、これ以上の速さを出せるというのだから驚きだ。

 

しかし諒よ。カッコつけてそんなことをしたというのはわかったが……速すぎて肝心の抜刀術とやらが見えなかったんだが……。

 

「それにしてもあの白いチビ、空閑つったか? ちょっと前に近界民に襲われた学校にいた奴だよな? あの時のはあいつがやってんのか?」

 

「だな」

 

「やっぱりな。いいじゃねぇか。あれがボーダー入るってんなら、お前らの言ってる近界からの侵攻でも最高に役立つだろ」

 

「黒トリガーも結構強力なものみたいだし、戦力としては確かにデカいな」

 

「俺が言いてぇのはそういう意味じゃねぇんだが……まぁ今はいい」

 

諒が何か言い淀んでいたのが気になったが、別方向から声をかけられ思考が遮られてしまった。

 

「春日先輩、ちょっと」

 

「充? どうした?」

 

「あれを」

 

充に声をかけられ指示された先を見てみると――

 

「ん? ……は? 修と風間さん? 何やってんの?」

 

「模擬戦をやるみたいですね」

 

何があったかわからないが、2人が模擬戦をやるとのことだった。

 

修に勝ち目が一切見えないし、風間さんにしても遊真が相手ならともかく、何か利点があるとは到底思えないが……やるというからには見てみたい組み合わせではある。

 

「……オリエンテーション中悪いけど、ここ残ってていいか?」

 

「はい。そう言うと思ったので休憩を入れることにしました。一応新入隊員には一度部屋から出るように指示を出しておきましたので」

 

「そうか、悪いな」

 

「いえいえ。ではまた後で」

 

嵐山隊が機転を利かせてくれたようで、業務中ではあるが観戦する時間をもらえた。

 

さて……どうなることやら……

 




毎度おなじみの余談ですが、先日法事で祖父母に行ってきたのですが……

何かいつの間にか周辺がアニメの聖地と化してました(白目)

普段では見ないような車のナンバーがガンガン来てましたし、アニメの力すげぇ……と身に染みて実感しました。

私も家の事情で2年程度ですが祖父母宅に住んでいたのですが、自分の過ごした土地が土地が盛り上がるというのは非常にうれしいものです。



では、今回も拝読いただきありがとうございました。


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三雲 修③

年内最後の投稿となります。

滑り込みで間に合った……


では今回もよろしくお願いいたします。


【春日雄也・ボーダー本部】

 

修と風間さんが訓練室へ向かう中、俺と諒は事の発端に立ち会った隊員の下へ向かった。

 

「京介、遊真。何があった?」

 

「あれ? かすが先輩と……さっきの剣の人」

「風間さんが模擬戦を仕掛けて、修がそれに答えたところです」

 

「遊真にじゃなくて?」

 

「はい。修に、です」

 

「……あれじゃぁ無理だな。腰引けてっし勝てる目が見えねぇ」

 

「言うなよ。まぁ確かに天と地ほどの実力差はあるが……」

 

遊真の実力を確かめたいと言うのであればまだわかるが、修に勝負を吹っ掛けるのは正直訳が分からなかった。

 

そして気が付けば訓練室の中ですでに2人は向かい合っていた。

 

模擬戦開始の合図とともに、修はレイガストとアステロイドを起動し風間さんを迎え撃つ構えを見せるが……案の定瞬殺された。

 

カメレオンを起動し姿をくらませ、隙間を縫ってスコーピオンでの一撃。

 

風間さんお得意のパターンで1勝、また1勝と勝ちを積み上げていった。

 

「カメレオンで隠れて動き回って隙をついて一撃を入れるやり方なら、レイガストで盾張ろうが意味がねぇ。脇を抜けて斬ってお終ぇだろ」

 

諒の言う通りそのままの戦い方。テンプレ通りではあるが、それだけに強力な一手である。

 

だが――

 

「まぁやり様がないわけではないんだが……」

 

修だって戦う手段が皆無と言うわけじゃない。

 

カメレオンの弱点に気付けさえすれば、それが適うかは別として、手の打ちようはある。

 

「どうすんだ?」

 

「とりあえず可能な限り弾速落として大量のアステロイドを訓練室内にばらまいて、カメレオン解いて対応せざるを得なくしたところでズドン、かな? 本当は四方八方にバンバン射出し続けて牽制したいところなんだけど、修のトリオン量の最大値じゃそれは無理だし弾速を犠牲にするのが最善手だろうな」

 

「そんなんで風間さん倒せっとは思えんが?」

 

「やり様はあるとは言ったけど、勝てる、とは言ってないだろ。普通に防がれる可能性の方が高いし、ぶっちゃけかなり分の悪いギャンブルなんだがこうするしかない。100回やって1回決まるかどうかの賭けに出るしかこの実力差をひっくり返す手段はないっしょ」

 

「まぁそうなっか。……終わったみてぇだな」

 

気付けば2人の戦いは終わっていた。

 

途中でカメレオンの弱みに気付きはしたものの、だからと言って風間さん自身の強さに対抗できるわけもなく、24の黒星を積み重ねてしまうという修にとっては苦い事案となってしまった。

 

まぁ上いる人間はこんだけ強いんだってことをその身に直接叩き込まれるというのも1つの経験だろう。

 

身に染みて上の人間の強さを知っていれば、今後の自分の成長の測りには使えるし。

 

 

――ところが、予想外の展開となった。

 

訓練室から出てくるものかと思いきや、またしても2人は向かい合っている。

 

どうやらまだやるらしい。

 

「終わってないじゃん」

 

「だが……目の色変わったぞ。腹を括ってやがる」

 

何かしらやりそうだという空気を諒は感じているようだが……何か策はあるのか?

 

 

模擬戦開始の合図が響く。

 

修はアステロイドを起動させると、超スローの散弾を訓練室中にバラまいた。

 

「お。お前の言ってたことやってんじゃねぇか」

 

「さて……こっからが勝負だ。どう転ぶか……」

 

風間さんもカメレオンを解き、自分に向かってくる弾への対応を行いつつ修の方に向かう。

 

それを見て修は再度アステロイドを手元に携え、迎え撃つ姿勢を取っている

 

ここまでは俺の考える展開。

 

こっから上手く隙を付けるか……

 

しかし、修の取った行動は俺の想像とはまるっきり異なるものだった。

 

『スラスターON!』

 

一通りアステロイドへの対応を終え、修に向かっていく風間さん目掛けて、レイガストで突撃を敢行した。

 

「突っ込んだ!?」

「なるほどな」

 

風間さんも想定できていなかったようで後手を踏んでおり、気づけば壁際まで追い詰められていた。

 

これ見よがしに修はレイガストで風間さんを閉じ込めつつ攻撃を防ぐ。

 

そして、すぐにまたレイガストを変形させ弾をぶち込むための風穴を開けた。

 

これはまさかの大金星あるな。

 

「戦闘員としちゃ雑魚に変わりはねぇが、頭は回るじゃねぇか」

 

「修! やっちまえ!」

 

想定外の展開に思わず俺も声を上げてしまった。

 

が――

 

『伝達系切断。三雲ダウン』

 

風間さんの一撃が先に届いていた。

 

修がアステロイドをぶち込もうとしたところからスコーピオンを通し、修の首を貫いていた。

 

「惜しかったな」

 

「だが分けなら十分だろ」

 

「え?」

 

諒の言葉に再度訓練室の方に目をやると、レイガストの内側に蔓延していた煙が晴れ、左半身が破壊された風間さんの姿が見えた。

 

「おお……マジか……」

 

結果は引き分け。

 

24もの黒星を重ねた末の引き分けとは言え、戦闘能力から考えれば十分金星と言えるだろう。

 

「まさかの出来事が起こっちまったな」

 

「いや、修のこと舐めてたよ。俺じゃあんな戦い方思い浮かばん」

 

「頭は回るみてぇだが、戦闘に対しての経験値がまだまだだな……まぁこれからだろ。もし俺にしろお前にしろレイガストを使えたなら、あのメガネより早くさっきのやり方に気付いてっはずだ」

 

「そうか?」

 

「たりめぇだ。レイガストをまともに使ったことのない人間がスラスターで突進かまして、壁に押し込んで形態変えて閉じ込めるなんて発想は持てねぇ。それは頭が足りねぇんじゃなくて、知識とか経験とか、言ってみりゃそういう発想を持てるだけの土台がねぇってだけだ。そのための鍛錬だろうが」

 

レイジさんが使ってるのを見たことは何度もあるから、今回修がやったようにスラスター使って加速するとか通常のシールド同様形状を変えることができるということは知っているし、前者を応用して打撃による攻撃が可能と言うことも知っている。

 

だが、普段どころか一切使わないようなレイガストでどういう戦い方ができるか。

 

それを考えた時、俺に思い浮かぶ選択肢はかなり狭いものだ。

 

それはレイガストと言うトリガーに対しての理解が足りないこと、レイガストで戦った経験がないことによる知見の足りなさが故のものだというのが諒の言い分であり、言われてみれば納得できることだった。

 

「つーか、そろそろ新人の休憩終わってんじゃねぇのか?」

 

「あ、そうだ。嵐山さんたちは――」

 

「雄也!」

 

オリエンテーションの続きがどうなっているのか、それを問われ嵐山隊の面子がいないか周りを見渡していたら、突然声をかけられた。

 

「清隆? どうした?」

 

狙撃手側の指導に当たっているはずの清隆だった。

 

「とりあえず一発殴っていい?」

 

「待て。わけが分からん」

 

しかもいきなり物騒な発言をされるし……何なんだよ……。

 

「せめて俺にくらいはちゃんと言うこと言っといてくれない? わかってたらアイビスなんて使わせなかったのに……あ、そこの2人は三雲くんと空閑くんだっけ?」

 

「は、はい」

「……だれ?」

 

「一応オリエンテーションの最初の方に前にいたんだけど……A級古賀隊隊長の古賀清隆。そこの2人のチームメイトってとこ。確か君たち玉狛支部の隊員だよね? ちょうどよかった。一緒に来てくれない?」

 

「どうかしたんですか?」

 

「君たちのお仲間が――」

 

アイビス……玉狛の人間……思い当たる節は……あるんだよな……

 

 

 

 

 

「うわー……」

「見事に風穴空いてんな」

 

案の定とは思っていたが想定を超える事案となっていた。

 

壁壊すくらいは予想していたけど、まさか基地の壁に風穴空けるとは……

 

「千佳ちゃん?」

 

「あっ、か、春日先輩。ご、ごめんなさい……私……」

 

「あー、いいよ。気にしなくて。アイビスで的当てしたら、的どころか壁までぶち抜いちゃった感じか……」

 

「はい……」

 

「別にここの偉い人もそんな怒ってるようには……見えるけど大丈夫だから」

 

偉い人こと鬼怒田さんの方を見ると修のケツに一撃くらわせていたが、本当にキレているわけではないだろう。人相悪いからそう見えるかもしれないけど。

 

 

 

気付けば千佳ちゃんは他の新入隊員に囲まれていた。

 

あんなもん見せられたらまぁそうなるよな。俺だってビックリしたし。

 

「あの子のこと報告しなかったのは、派手にデビューさせるためか?」

 

ふと、後ろから声をかけられた。

 

狙撃手側のスタッフで参加していた東さんだった。

 

派手にデビュー……か。千佳ちゃんにせよ遊真にせよそうなっちゃったしな……修も風間さんとの一件で悪目立ちしてしまったし。

 

「東さん。いえ、特に自分にはそんな意図は……まぁ林藤さんや迅さんでしょうね」

 

「あの2人ならやりかねないか」

 

「あの人たち、ホント何考えてるかわかんないんですよね……」

 

「あの2人だから仕方ない」

 

「ですね」

 

ただ単に、うちの新人すごいんだぜ、とドヤりたかったのか、はたまた何か別の意図があるのかわからないが、まぁなるようになるだろう。

 

少なくとも悪いことにはならないはずだ……多分。

 

 




余談の代わりに今年の簡易的な総括でも……

今年は13話投稿……月1ペースのクソのんびりした感じになっていますしペースとか上げられたら……とか思いながらも、そうはならない無様っぷり←

転職したら少しは余裕ができると思ったら、今度は勉強しなければならないことが多く結局この有様です(白目)

とは言え最近は感想も頂けるようになり、励みになっています。

……皆カトリーヌが大好きだってことはとりあえず分かった←

今年1年ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。


では、今回も拝読いただきありがとうございました。



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古賀隊④

あけましておめでとうございます。(今更)

何が起こっていたかというのは後書きでチラッと書こうかと思います。大した理由じゃないけど(ボソッ

では今回もよろしくお願い致します。


【春日雄也・ボーダー本部】

 

夜の防衛任務まで諒の訓練に付き合うことになり、とりあえず一旦隊室に向かうと清隆の姿がそこにあった。

 

あれ? でも今日って確か……

 

「今日って狙撃手の合同訓練じゃなかったっけ?」

 

「そうなんだけど、ちょっとこの後会議に呼ばれてるんだよ。とりあえず時間が少し空いてたしやること特に思い浮かばなかったからここで時間潰してた感じ」

 

「何の会議やんだ?」

 

「多分迅さんの言ってる大規模侵攻のことじゃない? その辺のとこを空閑を交えてちょっとお話し合いをしよう、ってとこ。迅さんの予測だけでカバーできる問題じゃないし、近界民の情報はほしいよね、ってお話」

 

「確かに予知にも限界あるしな……」

 

「まぁあんまり妄信しすぎるのもよくないってこと。それに正直あれって皆が思ってるような能力じゃないって俺は思ってるし。未来予知の類ではないんじゃないかな?」

 

「は?」

「ほう」

 

軽い雑談のつもりが、久々に清隆からぶっ飛んだ発言が飛び出してきた。

 

……いや、どう考えても予知だろあれ。

 

頭でも打ったのか? と言わんばかりの視線を清隆に向けていると、やれやれ、とでも言わんばかりの表情を作り清隆は口を開く。

 

「いや、だって副作用って人間の能力の延長上にあるものだよ? 皆の言うように予知なんだとしたら、それは人知を軽く超えてるよ」

 

そう言われると確かに一理あるんだけど……だったら……

 

「じゃあ何だって言うんだよ」

 

「あれ多分予知じゃなくて予測だよ。近いことができる奴がそこにいるじゃん」

 

そこにいる、といい清隆は顎で諒を指す。

 

「俺か?」

 

「うん。ログとか見直せばわかるけど、攻撃手同士でのやりあいになったときの諒って相手の初動を潰してそのまま落としたり、相手の動きを読んで即座にそれに合わせた対応をするケースが結構あるんだよね。あれどうやってるか説明できる?」

 

「ぶっちゃけ何となくでできんだが……そうだな、相手の呼吸だったり目線だったり、あとは微妙な動きだったりを見て1秒後に相手がどう動くかってのを予測して、カマせそうだったらカマしてる感じだな」

 

「要は対象から五感で得られる情報を総合的に分析して、対象に起こりうる、または起こしうる未来の事象を予測するってとこかな。これにしても俺に言わせれば超常的なものだけど、諒の言ってるような先読みの特化ってことならある程度合点はいくかな、って」

 

言っていることはなんとなく納得できる。

 

とは言え、いきなりそう言われても理解が追いつかないというか……

 

困惑する俺に一瞥し、清隆は言葉を続けた。

 

「別に迅さんの力を否定しているわけじゃないし、予知だろうとそうじゃなかろうと皆助けられてると思うよ。ただ――本当に予知って言うんだったら、見えていていいはずの未来があったはずだって思っただけだよ」

 

「清隆……」

 

見えていていいはずの未来――鳩原さんの密航事件のことだろうか。

 

一瞬だけ表情に暗い影を落としたが、すぐにいつものヘラヘラしたような表情に戻っていた。

 

「まぁ一人ぐらいそんな風に思ってる人間がいてもいいんじゃないかな? どんなに突き抜けていようと、あのサイドエフェクトだけでどうこうできない局面だって出てくるわけだし。……おっと、そろそろ会議の時間だった。じゃあ行ってくるね」

 

「ああ」

 

そう言うと、清隆は急いで隊室を出て行った。

 

 

「さて、じゃあやるか?」

 

訓練に付き合うという約束だったため声をかけてみると、諒は少々渋い顔をしていた。

 

「どうかしたのか?」

 

「ん? ああ。大規模侵攻っつーからには相手もそれなりの数揃えてくんだろ?」

 

清隆との会話の中で何か思うところがあったのだろうか。渋い顔の正体は大規模侵攻に対する懸念のようだった。

 

「だろうな」

 

「だったら今の人員だけじゃ心許ねぇな」

 

「まだ戦力が足りないってか?」

 

「……相手がトリオン兵だけなら問題ねぇ。例えばこないだの空飛ぶ固ぇやつみてぇな、遠征用に多少強ぇトリオン兵を用意されても何とかなっだろ。あくまでもこっちの戦力が揃ってる状態ならだが」

 

「いくつか部隊が県外に出てるのがよろしくないってか?」

 

実際部隊によっては県外にスカウト活動に行っているとこもある。

 

ボーダーは人手不足とまでは思ったことはないが、やっていることの性質上、隊員は多いに越したことはないし、むしろ多少余剰と思われるくらいの戦力があってもいいと思う。

 

ただ、非常事態が迫っている中でそんなことをやっている時間はないだろう、というのが諒の主張のようだ。

 

「まぁそんなとこだ。隊員増やすのが大事だってこたぁわかっけど、今はそんなことしてる場合じゃねぇ。さっさと引き返させるべきだろ。それに――」

 

「それに?」

 

「それだけでけぇ規模で攻め込んでくるんなら、空閑みてぇな人型の奴が来るってこともあり得るだろ」

 

なるほど、そういうことか。

 

「確かにな……向こうもトリガー使ってくるだろうし、どんな能力かわからないってのもキツイな……」

 

普段俺たちが使っているトリガーは、あくまでもボーダーの開発室の技術がベースにある上で作られており、近界の持っている、ボーダーと異なる技術で作られたトリガーは自分たちのトリガーとは性能が全く違ったりする。

 

そういった予期できない戦闘手段を持っている相手だと、対応が後手になる恐れもある。

 

そういった点を諒は心配している――のかと思ったが……

 

「それもそうかもしれねぇけど、そんなことじゃねぇ」

 

「どういうことだ?」

 

諒の口から出てきた言葉は俺の想像しているものとは全く異なるものだった。

 

「……お前、人殺せるか?」

 

正直一瞬何を言っているのか、何でそんな物騒な話になるのか、理解ができなかった。

 

「はっ? お前突拍子もなく何を言い出してんだよ……」

 

「お前こそ何平和ボケかましてんだ。わかってねぇなら言ってやるよ。――こいつは言ってみりゃ戦争と同じだ」

 

「っ……!」

 

諒が発した”戦争”という言葉。

 

自分の意識には存在しなかった言葉だった。

 

「空閑を見りゃわかるだろ。近界民つっても見た目は人間と一緒だ。場合によっちゃ殺す必要だって出てくるかもしれねぇ。そん時お前は殺れんのか?」

 

「……」

 

諒は淡々と殺すという行いを起こりうることだと語る。

 

そして自分にそんなことができるのか、という問いかけに俺は言葉を発することができなかった。

 

「俺の見立てじゃボーダー内でもそんなことできるのはごく一部だ。少なくとも俺と清隆と、多分空閑は必要なら相手を殺れる。あとは遠征の常連組あたりか?」

 

そんな俺を他所に、諒は侵攻に対してそういった意味での戦力になる人間の心当たりを唱え始めた。

 

戦争――敵を殺す――諒に言われるまで考えていなかった。

 

いや、意識に存在しなかったわけじゃない。考えることを避けていただけだ。

 

――トリガーを使うことができたからと調子に乗った愚かな自分の過去。

――意識を取り戻した次の瞬間に見た、白砂と化した母さんの姿。

 

父さんにしても、近界民との戦いの中で死んだと聞いている。

 

その全てを嫌でも思い出してしまうから――諒のような考えを意識の外へ追い出していた。

 

「まぁ安心しろ。異常なのは俺らの方で、お前のような感覚の方が正常だ。ああは言ったが別にお前はお前のやれることやりゃいいんだよ」

 

「だが――」

 

「どっちみちお前の強みは大量のトリオン兵をまとめて潰せるこったろ。正直俺としちゃそっちの方が助かる。ほら、いつまでも気にしてんじゃねぇ。訓練付き合ってくれんだろ?」

 

「ああ……」

 

気にするな、とは言われたが気にしないことの方が無理だった。

 

諒は……そしておそらく清隆も、大規模侵攻に対しての意識が俺とは全然違っていた。

 

――俺の認識が甘いものだと突き付けられたように感じた。

 

平和ボケと言われてしまったが、確かにその通りなのかもしれない。

 

もし――そんな場面が発生したとして――

 

俺は敵を殺す覚悟を持てるのだろうか――

 

答えを出せない自問自答がずっと俺の中で渦巻き続けた。

 




というわけで、更新が遅れたわけですが……

作業用のPCがぶっ壊れました。

HDDがクラッシュしてしまい、データがあの世行きになりました。

オンラインストレージに保存していた分も最終更新日が12/27と……まぁ1から書き直しですよね(白目)

一番不運だったのは、もう1本書くために過去の天鳳とかの牌譜とか残していたんですが、そいつらが悉く消え去ったことですね……


では、今回も拝読いただきありがとうございました。


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香取 葉子③

久しぶりの投稿です。

よろしくお願いいたします。

……覚えてる人いるかどうかが不安。



【春日裕也・ボーダー本部・個人ランク戦ブース】

 

「うわっ……危ない危ない……」

 

こちら目掛けて飛んでくる大量の弾丸を間一髪で躱し、物陰に隠れて一息つく。

 

5本勝負で現在互いに2本ずつ取ってからの最後の一戦。

 

ハンドガンで牽制を入れてからの接近戦へのシフトチェンジ――タイマンを張るにあたって、俺が苦手とするタイプの1つだ。

 

遮蔽物のない場所で一直線上に構えず、物陰に隠れながらトリガーを上手いこと使ってケリを着けるというのがベターな方法なだが、今回の相手はグラスホッパーを使い上手いこと躱して距離を詰めようとしてくる。

 

もう少しミドルレンジでの銃撃戦に比重を置いてくれるとこちらとしてもやりやすいのだが、そんな都合のいい戦い方をしてくれるわけもない。

 

例えば純粋な攻撃手であれば、中距離からの攻撃が発生しないので、うまいこと対応されない限りはただただ火力に任せて圧し潰すこともできるが……ちくしょう、やっぱり万能手ってのはクソ厄介だ。

 

特に今回は合成弾を使わない、というハンデも与えているので最大火力という面でも本領を発揮することができない。

 

――だが、攻め方のパターンはある程度把握した。

 

最近相手してやってなかったから戦い方の変化に気づかなかったが、やられた2戦は共に接近戦でフィニッシュを決められている……というか、正確には中距離戦で潰されなくなった上で接近戦に持ち込めるほどに成長している。

 

相手が接近戦に自信を持っていること、そしてそれ以上に俺が接近戦に死ぬほど弱いこと。

 

そう考えるとまぁ接近戦選ぶよな……。

 

さて、改めてプランを練ってみよう――

 

取られた2戦は共に接近戦での対応ができずにやられてしまっていて、おそらく今回も同じ方法で来るだろう。

 

その上で自分の強みは何か――以前清隆や諒に言われたことを思い出す。

 

―――

――

 

『雄也の強みは射手トリガーを寸分の狂いもなく狙ったとこに打ち込めること。野球のピッチャーでいうところのコントロールがいいってやつかな。これに関して言えば出水や二宮さんのそれを遥かに凌駕しているよ』

 

『とは言ってもそれってあんま意味なくね? 基本的に俺たちは100発撃って1発でも決まればそれでいいんだから、1発1発のコントロールは大雑把で問題ないわけだし』

 

『基本的にはそうなんだけど、例えば近距離も中距離もいけるような相手と1対1になった時とかには結構重要な要素になると思うよ』

 

『万能手か……いや、そもそも1対1になるような局面作らないようにしてくれよ……』

 

『チーム戦ならそうするけど個人でランク戦やるときとかは?』

 

『基本的に俺より強い万能手とは何かと理由をつけてやらないようにしている』

 

『クズだね。まぁどうせそのうちやる羽目になるからちゃんとどうしたらいいか考えた方がいいよ』

 

『やり様はあるってのはわかってるんだが……』

 

『どんなの?』

 

『一つはアステロイドやメテオラで足止めしてそもそも近づけさせずに中距離での戦闘を強制して力で押す』

 

『機動力ある相手だったら躱されて距離詰められると思うけどその辺は? 最近だとそのやられ方で諒にやられたんでしょ?』

 

『相手の動きを読んでそこに合わせて死角からバイパーとかを打ち込むとかそんな感じなんだが……』

 

『なんだけど?』

 

『流石にこれは無理だな。相手がどう動くかをピンポイントで予測はできん。ハウンドでやればいいだけの話かもしれないが、奇襲の形にならないと大抵防がれるんだよな』

 

『だろうね。でもそれもやり様はあるんじゃない?』

 

『どういうこと?』

 

『例えばそのピンポイントに誘導したり固定したりということを考えたやり方だと――』

 

―――

――

 

 

やり様はある、か……まぁダメ元でやってみるか。

 

チャンスは次に相手が接近してきた時。

 

――やるか!

 

「バイパー」

 

物陰に身を隠したまま、とりあえず相手が隠れてそうなところ目掛けてバイパーを打ち込む。

 

手ごたえは……ない。おそらく避けられた。

 

そして次の瞬間、物陰から出てきた相手が、おそらくグラスホッパーを使ったのだろう、猛スピードでこちらに突っ込んできた。

 

右手でスコーピオンを振りかぶらり俺目掛けて決めにくる。

 

だが――甘い。

 

軌道上に複数発の弾丸を起動する。

 

射出は間に合わないだろうが、軌道上に置いておくことで突っ込んできた相手にぶつけてケリをつける、という寸法だが……

 

直前でさらにグラスホッパーを起動し、設置したトリガーを上手いこと迂回し突っ込んできた。

 

勝った、と言わんばかりの表情を浮かべ相手は突っ込んでくる、が――それでもまだ甘い。

 

 

―――

――

 

『そもそも接近戦が苦手だろうがやり方はあんだよ。自分が優位な状況を作れりゃそもそもそんなこたぁ問題にならねぇ。至近距離だと撃てねぇとかそういうもんじゃねぇんだし』

 

『例えばどうすんだよ? 接近戦って時点でもう弧月とかの方が有利じゃん?』

 

『要は相手の動きを止められりゃいいんだろが。例えばそうだな……先手取ってタックルかませ』

 

『……ダメージ通らねぇ』

 

『誰がそんなこと言った? ダメージが通らなかろうが相手の動きは止まるだろ。抑え込んだ後で撃てばそれで終いだろが』

 

『それ上手くいく?』

 

『攻撃手段はトリガーだけ、っつー先入観を大抵の隊員は持ってっからな。俺だったりお前んとこの木崎さんが相手ならともかく、誰も肉弾戦に持ち込まれっとか思ってもねぇから案外決まんだろ』

 

―――

――

 

 

「えっ……!?」

 

ドスッ、っと相手がスコーピオンを振り下ろす前に思いっきり体当たりを決める。

 

やはりこれは想定外だったようで、尻餅をつき相手はそのまま仰向けに倒れた。

 

そして――

 

先ほど設置していたトリガー――バイパーが倒れた肢体目掛けて降り注いだ。

 

 

 

 

 

ランク戦を終えロビーに戻ると、先ほどの相手――葉子が不機嫌そうな表情を浮かべ近づいてきた。

 

「勝ったらあいつと別れて付き合ってもらうはずだったのに……」

 

「いや、それは無茶苦茶だろ」

 

とんでもないことを言うな、こいつ。

 

「もっかいやんない?」

 

「負けても別れないからな?」

 

「ケチー」

 

「ケチじゃない。正直もう勝ち越せる自信がない」

 

もう葉子には勝てない、ということを仄めかすと、葉子は過剰な反応を示した。

 

「はっ!? 何言ってんの? 雄也の方が強いでしょ?」

 

「いやいや。そもそも俺は大して強くないよ。というか葉子が普通に強い。それに、俺は援護向きで直接戦闘向きの人間じゃないの。もちろんハンデ取っ払って俺が火力でゴリ押しすれば場況はもうちょっと変わるけど、それでもそれに対応できるくらいの力が葉子にはあるよ」

 

「でも……」

 

葉子が何か言い返そうとしたその瞬間、大歓声が上がり言葉を遮られる。

 

誰かが戦っているようで隊員のほとんどがモニターに釘付けだった。

 

「ビックリしたー……何だ?」

 

「あっちの方……あれって雄也のとこの……」

 

「諒と……遊真?」

 

モニターに映っていたのは、諒と遊真が戦っている姿だった。

 

遊真も健闘しているが……残念ながら次の瞬間には諒に一刀両断され決着となった。

 

「誰あの白いの」

 

「玉狛から今期入隊したやつ」

 

「ってことはまだC級よね? そんなのと戦う?」

 

「でも戦ったみたいだな……ちょっと行ってくる」

 

「うん」

 

葉子とはその場で別れ、ちょうどブースから出てきた2人のもとに向かった。

 

 

 

「かすが先輩?」

 

「なんだ、見てたのか?」

 

「最後の方だけな。……9-1で諒か」

 

「初見たぁ言え1本取られっとは思わんかったな」

 

「そうか。遊真はこいつとやってみてどうだった?」

 

「強いね。剣を使う相手とは何度も戦ってきたけど、多分くろき?先輩が一番強い」

 

「そんなにか?」

 

「動きが完全に読まれてるみたいだった」

 

ということは諒はそこらの近界民より強いってか……だだの化物じゃん……。

 

「そうか。諒はどうだった?」

 

「今でも充分強ぇが、B級上がれば一気に伸びるぞ。グラスホッパーとか使えっと攻め手が増えるし、7-3くらいには迫られっかもな。入隊んときの戦闘訓練もブラフじゃねぇ、確かにそんだけの力はあるな。何より戦うことそのものに慣れてやがる」

 

遊真は遊真で十分化物のようだ。諒にここまで言わせるとは……いや、というか

 

「何でお前遊真とやってんの?」

 

「緑川ぼてくりこかしたC級がいるって聞いたんだが、案の定こいつだったわけだ。せっかくだからやってみたってとこか」

 

「あー……そういやそんなこと聞いた気がする」

 

話には聞いていた。緑川が修を公開処刑し、それにキレた遊真が緑川にランク戦吹っ掛けて圧勝したという話。

 

実際そのくらいできても不思議ではないし、遊真は案外友達思いな奴だ。やったとしても不思議ではない。

 

ふと二人の方を見てみると、反省会というところだろうか、楽しげに先ほどの模擬戦について話している姿が見えた。

 

互いに戦闘民族という面があるからだろうか、気が合うのだろう。

 

……考えたらどっちも桐絵とウマが合うんだよな……納得。

 

そんな失礼なことを考えながら、俺はブースを後にした。

 




PCの不調と資格試験の勉強とで忙しかったのですが、何とか一段落ついたので、また書いていこうと思います。



では、今回も拝読いただきありがとうございました。


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大規模侵攻

久しぶりの投稿です。

消費税対応のお仕事やらで忙しく更新滞ってしまいました……アカン、忙しすぎて死んでまう←

では今回もよろしくお願い致します。


【春日雄也・ボーダー本部】

 

「なんか今日少ないっぽいんだよね。午前中今のところ近界民0みたいだよ。……これじゃ稼げないから困るよ」

 

昼から防衛任務ということで本部に集まったわけだが、集まって早々に清隆が口を開いた。

 

今までに比べると、どうもここ最近近界民の出があまりよくないらしい。

 

「いや、少ないに越したことはないんだが……」

 

「ちょっとでも稼ぎたい俺からしたらある程度はいてくれた方がいいんだけどね」

 

「とても街を守る側の人間の発言とは思えん」

 

家庭の事情はあるにせよ……って固定給出てるだろ、お前と美奈ちゃん2人分。十分だろ。

 

「講習会の時に聞いたんだけど、今日っていうよりここ何日か門の出る数少ないみたいだよ?」

 

「嵐の前の静けさ、かな?」

 

「そうだとしたら困るんだが……」

 

不吉な言葉を清隆が発する。確かにそんな不気味さは俺も感じた。

 

だが、ひとまずは目の前の防衛任務に力を注がなければならない。

そういうのを考えるのは終わってからでいいだろう。

 

……さて、残りの1人は……まだ来ないな。

 

「てか諒は? あいつ早いうちから来てたみたいな話聞いてるけど」

 

「訓練室で剣振り回してる。そろそろ来るんじゃない?」

 

「なんだ、訓練だったら付き合ったのに」

 

「振り回してるの真剣だよ?」

 

「アカン、死ぬわ」

 

残りのメンバーの所在が気になって尋ねたところ、行動が想定外すぎて思わず生駒隊よろしくな関西弁が口から出てきてしまった。

 

……いつかあいつ捕まるんじゃね?

 

「てかそろそろ防衛任務の時間だし、諒を呼ばなきゃ……」

 

「あ、じゃあ私隊室戻るついでに呼んでくるー」

 

「じゃあお願い」

 

「りょーかい!」

 

美奈ちゃんがその場から離れると、清隆の普段の砕けた表情が一変し、真面目な顔つきになった。

 

「……さて、さっきは軽く言ったけど……大規模侵攻近いよ」

 

「マジか……」

 

「近界民の出現減る時点でもうほぼ黒だよ」

 

減ったことが何の根拠になるのかはあまりピンとは来ていないが、ここまで断定的な言い方をしているのだから、自分の予想にある程度の確信を持っているのだろう。

 

「相手の狙いが何かわからない以上何とも言えないけど……例えばボーダーに対しての攻撃が目的なら、基地に対しての集中攻撃のために温存ってとこかな?」

 

なるほど、一気に戦力を放出して基地を襲う、という寸法か。

 

 

 

 

背後から近寄る足音――最後の一人がようやく来たようだ。

 

「そろそろ時間か?」

 

「諒か。遅かったな」

 

「悪ぃな」

 

「揃ったね。今雄也には話したけど、近界民が攻め込んでくるの近いよ。だから先に2人には言っておくね」

 

一呼吸置き、清隆が口を開く。

 

「どんな戦いになるか予測はつかないけど、もし本部や家が攻められるようなことがあったら俺は家族を守ることを最優先に動くから、その時は各自自分の判断で好きに動いて」

 

また一呼吸置く。

 

こうも堂々と宣言されるのも困るが、緊急の時そうなるだろうことは隊を組むよう懇願されたときに想像はついていた。

 

こいつは何が起きても家族を最優先に動くだろうと。例え自分の身を削ることになろうとも。

 

「ボーダーの理念もあるかもしれないけど、俺は俺の理念で動く。理解も納得もしてもらえなくていいから同意だけしてほしい」

 

「……わかった」

「構わん」

 

それをわかっているからこそ……俺は清隆の言葉に頷くしかできなかった。

 

「さて、じゃあ準備もいいようだし出発すると――」

 

『門発生、門発生。大規模な門の発生が確認されました。警戒区域付近の皆様は直ちに避難してください』

 

清隆ェ……

 

「……馬鹿野郎。お前がそんな話するもんだから、本当に来たじゃん。とんでもないフラグ立ててくれたな、オイ」

 

「……まぁ少なくとも俺たちは準備ができた状態で動けるわけだし良しとしよう。『美奈子、何か指示は来た?』」

 

『近界民は門を出てから市街地の方にバラけながら進んでるって! まだこっちの戦力が揃いきってないから、とりあえずは各個撃破になると思う! エリアはとりあえずは基地から見て南、南西、東の方面だけど』

 

市街地に向かって多方面に近界民が出現……

 

「『了解』。んー……とりあえず基地周辺かな。……まぁトリオン兵に2人が負けるとは思えないし、3方に分かれても問題ないよね?」

 

「ああ」

「まぁ問題ねぇだろ」

 

「何かあったら、というか間違いなく何か起こるから集合をかけると思ってて。だからある程度の範囲は決めよう。……そうだな、基地正面を中心に大体半径2km内でお願い。雄也は南、諒は南西、俺は東ね。美奈子は随時大体の敵の位置と俺たちの位置は把握するように。じゃあ、いこう」

 

「「『了解』」」

 

清隆の号令とともに、俺たちはそれぞれ指示された方面に駆け出した。

 




いつもより1000字程度少ないですが、とりあえず小出しでいいので書いていかないと……感覚を忘れそう……

転職して忙しくなってなかなか書く時間が取れなくなってしまいましたが、意欲が失われないうちは間隔空いても書いていこうとは思っていますので、よろしくお願いいたします。

では、今回も拝読いただきありがとうございました。


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