聖杯戦争にチートサーヴァントが召喚されました (TO)
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第一話

勢いで書いてみた。続くかは未定です。


俺とソイツの関係性を語るに当たって特記するべきことは何もない。実家が隣通しであり、ソイツの両親と俺の両親が仲が良かったため、なし崩し的に引き合わされ出会っただけのことだった。所謂世間一般的に言えば、幼馴染という言葉が当てはまるのだろう。少しばかり俺の方が歳上だったこともあり、俺はソイツのことを妹のように思っていた。恐らく向こうも同じ様なこと思っていたに違いない。

 

ソイツは昔からモテた。日本時離れした橙色の髪に、瞳は透き通ったブルー。肌は白く陶器の様で顔の形も整っていた。長い腐れ縁である俺の贔屓目を除いてみても、ソイツは芸能人並みに綺麗だった。まぁ、つけあがるため本人には死んでも言ってやらないが……。

 

それに加えて性格も明るく誰に対しても分け隔てなく接するソイツ。モテない筈があるわけがない。それはもう、矢鱈滅多らモテていた。本人は鈍感なのかそれに気づく様子はなかったが。学年の違う俺の同級生ですらソイツに惚れていた奴は多かった辺りからもソイツのモテっぷりは相当のものがあったと分かって貰えるだろう。。

 

まぁ、そんなソイツとの関係も俺が大学の入学共に地元を離れてからはすっかり疎遠になっていった……というわけではなかった。もちろん会う回数も自体は各段と減ったが、その代わりに電話やメールの回数が増え、何やかんやでソイツの腐れ縁は切れずに暫く続くのだった。

 

それは突然の話だった。何時ものように家でゴロゴロと小説を読んでいるとソイツからメールがあった。内容を見るに海外にバイトをしに行くということだった。ソイツが突発的に何かを始めることは昔からよくあったのと、推理小説が佳境に入り面白かったこともあり、生半可にメールを返した。何でもバイト先は僻地にあるらしく、これからは連絡がとれなくなって寂しいとか何とかそんな旨のメールが返ってきたが、そのメールにも生半可な意識で返信した。

 

そして、次の日に気付いた。

 

――アイツって外国語は話せたっけ?

 

最後に送ったメールはまた会おうな、というものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――うぅ、寒い寒い。

 

吐いた息は白かった。一月後半の冬真っ盛りのある夜、俺は寒さに震えながら歩いていた。家から少し離れたコンビニからの帰り道の事だった。空には星が瞬き、辺りは静寂に包まれていた。住宅街からも繁華街からも少しばかり離れているここは深夜になると周りの全てが息を潜めたように音をなくす。夏ならば、虫の声なんかが聞こえるが今は冬真っ盛り、聞こえるのは風の音くらいだった。

 

孤独と静寂を感じながら歩く。大学に行くにも、バイト先に行くにも、コンビニ買い物に行くにも通るこの道は歩きなれ、見慣れた道だった。

 

――あんなことがあったのにここは変わらないなぁ。

 

あんな事とは僅か、一か月前に起こった世界的事件である。

 

――朝起きたら世界が一年進んでいた。

 

そう、一言で表すのならまさにそう言うしかなかった。詳しいことは俺にも未だによく分かっていない。とりあえず、朝起きて携帯を見たら時間が一年進んでいた。初めは何かの間違いかと思いとりあえず、テレビをつけて見れば、画面の向こうでは大騒ぎ、どうやら勝手に一年進んだのは俺の携帯が反抗期を迎えたからではなかったらしい。世界中で一年という時間が誰にも気付かれることなく進んでいたそうだ。専門家がよく分からん理論を言っていたが、詳しいことは未だにわかっていない。ネットでは陰謀論やらがささやかれている始末だ。

 

大混乱が暫くは起っていたが、それも最近ではなりを潜め、ようやく穏やかな日常が返ってきた。

未だにテレビをつければ消えた一年について色々とやっているがそれも暫くすれば徐々に減っていくだろう。

 

――ん? 

 

そんな時だった。静寂だった道にどこからか音が聞こえてきた。金属と金属がぶつかり合う。甲高い音。

 

気になり音が聞こえてくる方角を向いてみる。その方角にあったのは空き地だった。

 

――見てみるか。

 

別にそう思い立ったのに理由はない。指して言うならば、何となくやら、興味本位でやらいう言葉が当てはまる。

 

しかし、俺はその選択を直ぐに後悔することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――は?」

 

思わず出た言葉がそれだった。目に前の光景に意ともせず声が出た。

 

高速で動き回る二つの影。目に負えないスピードと金属が打ち合う音に、光る火花。予想だにしていなかった光景。

 

――なんだこれ、映画の撮影か。

 

そんな事ではないのは分かっていた。そして、打ち合う奴らが人間ではないことも……。明らかに人間の動きを凌駕している。目の負えないスピードも、手に持つ何かを打ち合う様子も全てが告げている。彼らは人外だと。

 

――世界が勝手に一年進んでいたとか、もはやそんなレベルじゃないぞこれ……。

 

明らかに目に見える異常。それを前に俺は何も出来ずにただ茫然と立ち尽くすだけだった。

 

「ん? 何時の間に紛れ込んだんだ?」

 

激しく動き待っていた影の一つが動きを止める。青いスーツのような物を着た男だった。格好だけでも少し異様な男だったが、その異様さをさらに引き出させるものが手には握られていた。彼の手には赤い槍があった。

 

「やれやれ、今日はよく部外者に見つかるな、ランサー」

 

青いスーツの男の言葉を受け、もう一人も動きを止める。ランサーと呼ばれた男とは異なり、こちらは赤い衣装に身を包む男だった。褐色の肌に白い髪、そして手には双剣。この男も異様を凝縮させたような男だった。

 

「――ッチ。ったくついてないぜ」

 

「で、どうするつもりだ?」

 

「どうするもこうするもやることは一つだろ。神秘を隠すまでよ」

 

「神秘を隠すも何も一年間の空白の時点でもう手遅れの気もするがな」

 

「マスターから正式に命令が下った。目撃者を消せとな」

 

ランサーと呼ばれた男がこちらを向く。

 

――やばいやばいやばいやばい……。

 

先ほどの会話を聞くだけで分かる。ランサーと呼ばれた男は俺を殺すつもりだ。瞬間、ランサーが消えた。

 

――え?

 

そして、それを疑問に思うまなく、彼は目の前に立っていた。

 

「は?」

 

思わず口から漏れた言葉は感嘆にも似たようなものだった。

 

「悪いな兄ちゃん、別にアンタに何の恨みもないが死んでくれや」

 

不気味に光る赤い目は獲物を射抜く猛禽類の類そのものであり、その瞳には慈悲はない。そして、手にもつ朱槍は月光を受け神秘的に光り、その矛先は俺を正面に向いていた。

 

悟ってしまった。分りたくても分かってしまった。

 

――あぁ、どうしようもない。

 

この槍を避ける手段は俺には無く。この槍を外すことはこの槍兵にはない。つみだ。完全につみだ。

 

「恨むならこの場所を訪れた自分を恨むんだな!」

 

そう言ってランサーは槍を構える。

 

――生きたい。

 

そう思った。

 

――生きたい。まだ生きたい。

 

こんな終わり理不尽だ。認めたくない。そうだ、俺はまだアイツに会っていない。

 

――また会おうな。

 

メールとは言え俺はアイツに約束した。それを守れずに死ねるか!

 

何が発動のキーだったのか俺には未だにわからない。しかし、それは何の因果か発動した。

 

目の前が光に包まれる。地面に魔方陣のような物が生まれた。眩しさで思わず目を閉じた。

 

――そして目を開けると、

 

「問いましょう、マスター。貴方が私の召喚者ですか?」

 

そう見慣れた笑顔で話すソイツがいた。

 

「まさか、こんな再会になるなんてね! 久しぶりだね、先輩!」

 

あぁ、遅れてしまったがいい加減ソイツを紹介しようと思う。

 

ソイツの名前は、藤丸立香。腐れ縁であり妹分でもある少女だ。

 

 



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第二話

ソイツは昔と何ら変わりない無邪気な笑みで楽し気に笑う。急に光と共に現れたソイツに言葉をなくした俺は何も言えずにただただあっけにとられていた。

 

――なっ!?

 

そんな驚きの言葉を漏らしたのは誰だっただろうか? 俺だった気もするし、ソイツの目の前に立つ青い槍兵だった気もするし、はたまたその奥の赤い外套に身を包んだ黒い肌の兵士だったかもしれない。いや、はたまた全員が知らず知らずの内に漏らしていた可能性もある。ただ一つ分かることはこの場にいたソイツ以外の全員がソイツの急な登場に少なからず驚いていた。

 

「久しぶりだね、先輩。まさか、こんな再開になるなんて」

 

ソイツは昔から俺の事を先輩と呼んでいた。そして、敬語を使わないのも昔のままだった。記憶よりも少しだけ大人びていたソイツは驚愕の色を隠せないでいる俺に「詳しい話はまた後で」と言って笑うと前を向き、青い槍兵と向き合った。

 

「まさか、嬢ちゃんがサーヴァントになって召喚されるなんてな」

 

「久しぶりだね、クーフーリン。私自身もビックリだよ。まさか、召喚されるなんて」

 

どうやらソイツと槍兵は知り合いらしく、言葉を交わしていた。少なくとも俺はあんな槍兵なんて見た記憶もないため、ソイツが海外に行っている間に知り合ったのだろう。

 

「エミヤも久しぶりだね」

 

ソイツはさらにその奥の赤い外套を着た男にも声を掛けた。その声は気軽な様子でまるで旧友に挨拶をするかの様だった。どうやら赤い兵士とも知り合いだったらしい。海外でどんなバイトをしていたのか俺は知らないが、どんなバイトをすればこんな人種の人達と知り合いになれるのだろうか。

 

まさか海外で傭兵まがいのことでもやっていたのだろうか……。

 

そう、考えて自分でないないと内心首を振る。確かにコイツは運動神経はいいほうだが、あくまでも同年代の女子の中では、という前置きが付く。目の前の青と赤の兵士たちみたいな人外と張り合えるほどの力はない。

 

「あぁ、久しぶりだな、マスター。いや、この場合は立香と呼んだ方がいいのかな?」

 

「そうだね、エミヤのマスターは今は違う人だしね。それを考えれば名前で呼んだ方がいいのかな……? いや、これが聖杯戦争だと考えるとクラス名で呼ぶのが正解?」

 

「クラス名か……。そう言えば、キミのクラスは何のクラスになるのか?」

 

エミヤと呼ばれた赤い兵士の問いかけに、立香は笑って、

 

「さぁ、何だと思う?」

 

こう返した。

 

「キミの今の姿からするに、キャスター辺りが本命なのだろうが……まぁ、別に何でもいい。どうせ誰が来ようともあの場にいた英霊なら誰しもがその真名を知っているのだからな」

 

「というか皆顔見ただけでもう真名が分かるんだから、クラス名で呼び合うなんて無駄なことをしなくてもいいのかもね」

 

「それもそうだな。あの場所にいた英霊ならみんな顔見知りになるし、それにあの場にいなかった英霊がこの聖杯戦争に呼び出される可能性は皆無だろう」

 

未だに蚊帳の外の俺を置いて立香とエミヤ、そしてクーフーリンは笑い交じりに会話を続ける。先ほどまではあれだけ殺気に溢れ俺を殺そうとしていたというに今では雑談交じりの会話となっていた。

 

「本当言えばこのままのんびりあの場所の様に雑談に花を咲かせてーんだけどな。生憎ここはあのカルデアじゃねぇ。そして、俺が呼ばれたのは聖杯戦争と来てる。このまま駄弁っている訳にはいかねぇだろ」

 

そう言ってクーフーリンは右手に持っていた朱槍をクルクル回して、構え直した。その後ろのエミヤの手にもいつの間にか、二本の刀が握られていた。

 

――雰囲気が変わった。

 

槍兵は槍を構え獲物を仕留める猛禽類の表情になり、後ろの赤い外套の兵士は何時でも斬りかかれるように重心を沈める。

 

――心臓がうるさい。

 

殺されそうになったからこそ分かる。目の前の兵士たちには絶対に勝てないと。

 

そう彼らは人の枠を超えている。格闘技どころか喧嘩すらろくにやったことのない俺では一万回やったところで一万回殺される。

 

「いやー、二人ともやる気だねぇ」

 

しかし、俺の目の前に立つ後輩はカラカラと能天気に笑う。立香も分かっているはずだ。そいつらと知り合いであれば、絶対に勝てるわけがないということを。それでも、立香は笑った。表情は見えずともその声色だけでそれがただの強がりではないことがわかった。伊達に付き合いは長くない。

 

「嬢ちゃんに一つ聞きたいことがあるが、嬢ちゃんは戦えるのかい? 確かに嬢ちゃんは世界最高のマスターなのは認めるが、戦闘能力は一般の魔術師並みだった筈だ」

 

「うふふふふふふ。クーフーリン、貴方も分かっているんじゃない? 今、私は聖杯戦争に召喚された。それだけで答えとしては十分じゃない?」

 

「――あぁ、そうだな。それだけで十分だった」

 

聖杯戦争やら、マスターやらよく分からん単語が飛び交っているので、俺には何や何やらさっぱりなのだが、クーフーリンもそして、後ろに控えるエミヤも立香の答えに納得したのか首を縦に振っていた。

 

「それじゃあ、嬢ちゃん、得物を出しな。昔の好だ。それくらいの時間は待ってやろう」

 

「へぇーいいの、クーフーリン。そんな余裕ぶって?」

 

「余裕も何も、嬢ちゃんの力が気になるだけだ。確かに嬢ちゃんを知らない英霊はいないだろう。でも、英霊の中だけで有名なだけで、一般人に嬢ちゃんのことは知られてない。知名度がないにも等しい。そんな嬢ちゃんがよもや守護者でもなく英霊として呼ばれたんだ。その力気になるに決まっているだろう?」

 

「なるほど、それはクーフーリンらしいね。なら、待ってもらうのも何だから早いうちに手の一つを見せてあげるよ」

 

立香は、そうクーフーリンに言うと、クルリと振り向きこちらを見た。

 

「先輩、少し待っててね。直ぐに終わらせるから」

 

その笑みは俺の知っているころよりも少しばかり大人びており、何と言うか……こう、美人になっていた。まぁつけあがるため本人には死んでも言ってやらんが。

 

「さぁって、なら期待に応えて手の内の一つを見せるよ」

 

彼女はクーフーリンの方に向き直り、元気にそう言うと、ローブのような服の袖から何やら一枚の御札のような物を取り出した。

 

「「それはまさか!?」」

 

俺にはただの御札にしか見えないのだが、クーフーリンもそしてエミヤもそれを知っているようで驚愕の声を揃って上げる。何だか分からんが凄いものらしい。これは後から立香に聞いた話になるが、これは呼札と呼ばれるものだったらしい。

 

「さぁ、何が出るか、誰が出るかはお楽しみ――」

 

さっぱり状況が分からん俺を置き去りにして、立香はさらに続ける。

 

「――抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

まるで、どこかの中二病患者が考え出したようなイタイセリフを立香が言う。これで何も起きなければ本当にただの痛い奴だ。ついでに笑える話にもなった。ところがどっこい現実はそうならず、またもや、飛んでも現象が起こるのだった。

 

立香がそう言い放ったとき、立香の目の前――立香とクーフーリンの間――に突如光り輝く魔方陣が出現した。それと同時にそこから飛び出す、嵐にも似た風。そして立香は手に持っていたお札をそこに投げ入れた。

 

――光が強くなる。風が強くなる。

 

思わず目を閉じた。

 

光と風が止んだのは直ぐだった。

 

「――なっ」

 

そして目を開けた時、魔方陣は消え去っていた。その代わり魔方陣があった場所には一人の人物が立っていた。クーフーリンと同じく赤い槍を携える女性。太もも辺りまで伸びる長い艶のある黒髪が夜風に揺れた。

 

「影の国よりまかり越したスカサハだ。お主は……ほう、なるほど、今朝ぶり……いや、この場合は久方振りという言葉が正しいか……。なにやら面白いことになっているようだな立香」

 

いきなり現れた謎の女は自らをスカサハと名乗るのだった。

 

「そうだね、久しぶりだねスカサハ」

 

「なっ――まさか!」

 

「なんで、アンタが……」

 

立香、エミヤ、クーフーリン、と三者三様のリアクションをとるなか、このとんでも状況についていけない俺はただただ黙ることしか出来なかった。

 

俺からして見れば、よく分からん状況でさらによく分からん人物が現れやがった、ってな感じだ。もうこの際誰もいいからいい加減説明してくれ。

 

 



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