ノゲゼロ夫婦が異世界へ来たようですよ? (駄作者)
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プロローグ

こんにちはノリと勢いだけが取得の駄作者です。
三人称で書くのは初めてなので出来るだけ優しく見守って下さい。



退屈しのぎに平行世界の外側を漂う者がいた。

 

「ヴァアハッハッハッハッハッハッ、何たる滑稽! 愉快! 痛快! まさに愉悦よ!!」

 

 燕尾服の黒人紳士は高らかに笑う。それは偶然の出来事、偶然平行世界の外側から鑑賞した光景、男は高らかに笑うと真顔になる。

 

「ふむ、あやつらを異世界に飛ばしたらどれほどの混沌をもたらしてくれるだろうか」

 

 彼は思案する。だが結論は変わらない。思いついたら迷わず実行出来るのは強者の特権。元から定められた秩序などより、未知で不可思議な混沌こそ、彼の全てであり至高。彼は魔術、魔法を駆使して先程鑑賞していた世界で、朽ち果てた少年を呼び寄せる。

 

 死者の蘇生は生命の冒涜。無からの復元は世界の秩序を乱し理に逆らう禁忌。だが、混沌たる彼は、禁忌は混沌よりいでしもの、彼の存在意義である。

 

 ならば、惜しみ無く使用するのは必然。

 

「ふむ、だが、欠損した部位も上手く復元が出来たな、よし」

 

 男はそう言うと、これだけではつまらぬと思った。

 

 故に、彼は世界の過去を遡りとある残骸を回収する。

 

「ククク……この者と縁とゆかりあるこれを利用しない手は無いだろう」

 

 男は悪戯を思い付いた無邪気な子供のように楽しげに笑うと、残骸を修復し、少年の魂と直結させる。

 

 男は全てが整った事を確認すると、満足気に頷く。

 

「ククク、混沌の世で出会い、混沌の世に引き裂かれた者同士が混沌たる我により再び出会う事になるとは滑稽なものだな……さて、彼等はまた引き裂かれるのか? それとも今度こそ共に歩めるか? 実に見ものだな」

 

 男は高らかにそう宣言すると、蘇生と復元を施した少年と機械の少女を異世界へと飛ばした。

 

「人は脆く弱い。しかしそれでも人は醜くも生きようとする。だが……いやだからこそ! 私はそれをとても美しいと思える……さぁ、私に君たちの生き様を見せてみろ! 混沌の申し子よ!」

 

 男は両手を広げ高らかにそう叫んだのだった。

 

 

 

 

 ――――――…………

 

 

 

 

「……ん」

 

 少年が目を覚ますと、そこには高さ4000mほどの世界――遥か上空からの光景が広がっていた。

 

「へっ? って、のわぁあぁぁーー!!?」

 

 少年は気が付くと、叫び声を上げながら落下していく。そして落下していく自身の周囲には、少年と2人の少女に一匹の猫。

 

 そして……

 

「――――っ!!」 

 

 もう会う事も叶わないはずだった大切な少女、愛しくもかけがえの無い存在がいた。

 

「――シュヴィ」

 

 男は、愛しき存在の名を口にしながら手を伸ばす。

 

 だが、少年の手が届く前に、無慈悲にも少年の身体は湖に投げ出される。

 

 湖の中、沈みゆく少女、少年は少女深く潜りながら少女の元へと向う。

 

「(もう会えないと思ってたのに! やっとまた会えたってのに! こんな所で諦められっか! 今度は……今度こそはぜってぇー手放さねぇ!!)」

 

 少年は必死で少女の下まで向かう。すると、先程まで動かないでいた少女が閉じていた瞼を開く。そして少女は自分に向かってくる少年に目を見開いた。

 

 少年は、そんな少女の下に辿り着くと、優しく微笑んだ。

 

 だが、長時間息継ぎも無しに潜っていた彼は、その事を思い出したように口から泡を吹き出す。

 

 そして、そんな少年を見ていた少女は、事態を把握したのかすぐ様少年を抱きしめ岸辺まで駆け上がる。

 

「ぷはっ、ゲホゲホッ」

 

「リク……大丈夫?」

 

 岸辺に付くと、少年は空気を咳き込み、かつむせる。少女はそんな少年の横顔をのぞき込むようと心配そうにそう訊ねた。

 

「あぁ、大丈夫だ……それよりありがとうな、シュヴィ」

 

 少年は、そんな少女の頭を撫でながらお礼を言う。

 

 そしてしばらくお互い見つめ会うと、少年はハッとして周囲を見回す。

 

 そこには、2人から顔を逸らし、気まずそうにしている少年と少女の3人の姿があった。

 

 そんな中、ヘッドホンを付けている少年が黙ったまま上着を脱いで、少年に渡してくる。

 

 少年はヘッドホンの少年の行動を疑問に思ったが、直ぐにその理由に気付いた。

 

 それは彼の愛しき存在の姿だった。簡単に言ってしまえば生まれたままの姿、即ちマッ裸なのだ。

 

 少年は、ヘッドホンの少年の上着をシズシズと受け取るとすぐ様、愛しき存在である彼女の背中に被せる。

 

「……まぁあれだ、まず間違い無いだろうが一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」

 

 少年は気まずい空気のなか気を取り直して、別の話題をだす。

 

「え、えぇそうよ……それは良いのだけれども、その〝オマエ〟って言う呼び方を訂正して。━━━私は久遠(クドウ) 飛鳥(アスカ)よ。以後は気を付けて。それで、そこの猫を抱えている貴方は?」

 

 そしてお嬢様の姿、いや実際にお嬢様なのだろう少女も、少年の話しに合わせて話を切り替えるとすぐ様、猫を抱えている少女に名前を尋ねる。

 

「……春日部(カスカベ) 耀(ヨウ)。以下同文」

 

「そう。よろしく春日部さん。それでそこの御2人方は?」

 

 そして飛鳥は、そのまま少年と少女に向いて尋ねる。

 

 少年と少女は自己紹介をするか否か考えたが今の所考えてもどうしようもないことと思い、また今は目の前にいる彼等と協力した方が良いと判断する。

 

「……リク・ドーラだ」

 

「……シュヴィ・ドーラ」

 

「そう。それにしても同じドーラって事は御兄妹って所かしら?」

 

 2人は自己紹介をすると飛鳥は微笑みながらそう言う、するとシュヴィは不満気な顔になり、すぐ様リクに抱きつきながら飛鳥に顔を向ける。

 

「違う……私たちは夫婦」

 

 彼女の発言を聞いた3人は驚いた顔になると、すぐ様気まずそうに苦笑いを浮かべる。

 

「そ、そう……まぁ趣味とかは人それぞれだものね……それでそこの野蛮で凶暴そうな貴方は?」

 

「……高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんまの野蛮で凶暴な逆廻(サカマキ) 十六夜(イザヨイ)です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子揃った駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

 

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

 

「ハハッ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけお嬢様」

 

 十六夜は挑発的な態度でケラケラと笑う。

 

 飛鳥はそんな十六夜から顔を背ける。

 

 そんな2人を耀は気にせずそのまま無関心を装う。

 

 リクはそれを見て首を傾げるシュヴィの背中に片手を回しながら、そんな3人を優しげな眼差しで見つめるのだった。



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YES!ウサギが呼びました!

「(うわあ………なんか問題児ばっかりみたいですねぇ……)」

 

 茂みに隠れていた黒いウサ耳でガーターベルトのミニスカートの少女は悩んでいた、と言うのも彼女のコミュニティは訳あって衰退しており、彼女は彼等を勧誘しようと異世界から召喚した訳だが、呼び出した彼等の様子から客観的に協力する姿が想像できず、陰鬱そうに溜息を吐いた。

 

 ちなみに彼女が呼んだのは本当は3人なのだが、上手く行けば人材が増えると言う事もあり、むしろ3人と一緒に勧誘しようとすら思っていたりする。

 

 そんな中、十六夜は苛立たしげに口を開く。

 

「で、呼び出されたのは良いけどなんで誰もいねぇんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とか言うものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」

 

「そうね。なんの説明も無いままで動きようがないわ」

 

「……。この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思う」

 

 少女は全くだとこっそり突っ込む。

 と言うのも余りにも落ち着き過ぎていて、出るタイミングを計れないでいたからだ。

 

「(まぁ、悩んでいても仕方ないデス。これ以上不満が噴出する前にお腹を括りますか)」

 

 彼女は彼等からくる罵詈雑言に怖気付きそうになるが、腹を括って出る事を決意する。

 

 すると十六夜が溜息交じりに呟いた。

 

「ーーしかたねぇな。こうなったら、()()()()()()()()()()()()話を聞くか?」

 

 黒ウサギは驚きの余りに飛び跳ねる。

 

 5人の視線が黒ウサギに集まる。

 

「貴方も気付いていたの?」

 

「当然だ。隠れんぼじゃ負け無しだぜ? そっちのやつらも気付いてたんだろ?」

 

「風上に立たれたら嫌でも分かる」

 

「……まぁな……そこの獣人種(ワービースト)には気付いていたが……殺気や敵意とか無いし、ましてや警戒されている訳でも無いみたいだったから、どうしたら良いか計り兼ねて悩んでたしな」

 

「【肯定】確かに生命反応と動態反応からいるのには気付いていた、後、リクあれからは精霊の反応が 無い……だから多分獣人種(ワービースト)違う」

 

「へぇ? 面白いなお前等」

 

 十六夜は軽薄そうに笑いながら目を鋭く光らせる。リクとシュヴィの2人を除く3人は、理不尽な招集を受けた腹いせに殺気を籠めた冷ややかな視線を茂みに隠れる彼女に向ける。

 

「や、やだなぁ御五人様中、御三人様。そんな狼見たいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ? えぇ、えぇ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは1つ穏便にお話しお話しを聞いて頂けたら嬉しいでございますョ?」

 

「良しそれじゃあ話してみな」

 

「断る」

 

「却下」

 

「お断りします」

 

「あっは取り付くシマも無いですね♪ ですが最初の御方は、ありがとうございます」

 

 黒ウサギは両手を挙げ降参のポーズを取る。

 

 だが黒ウサギはそんな中、冷静に5人を値踏みするのだった。

 

「(肝っ玉は及第点。この状況でNOを言える御三方の勝気は買いです。YESを言いながらも隙の無い御方もそれなりよし、まぁ、扱いにくいのは難点ですけども)」

 

 黒ウサギはおどけつつも、3人にどう接するべきか考えを巡らせる中、リクはそんな黒ウサギの目を見て少し眉を顰めた。何故なら今の黒ウサギの目は嘗て獣人種(ワービースト)森精種(エルフ)等と交渉していた時、自分達がしていただろうものだったからだ。

 

「(これは……何かあるな、だが情報が足りなすぎる)」

 

 リクは思案する。例え自分達と似たような事をしようと所詮は真似事、それは自分の様な弱きものが行うからこそ意味が有る。

 

 ならば騙し討ちや誘導はこちらが有利、だがその為には必要な情報が今の所では足りない、その為リクは黒ウサギと違っていかに情報を聞き出すかを思案し始める。

 

 そんな中、耀が突然、黒ウサギに接近し黒ウサギのウサ耳を鷲掴みにして力いっぱい引っ張る。

 

「えい」

 

「フギャッ!」

 

 黒ウサギは耳を引っ張られた事で思考が中断され思わず声を出した。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを! 触るならまだしも初対面で遠慮なく黒ウサギの素敵耳を引き抜こうとは、どう言う了見ですか!?」

 

「好奇心の為せる業」

 

「自由にも程があります!」

 

 黒ウサギは頭の中がパニックになりながらもそう突っ込みを入れる。

 

「へぇ? このウサ耳って本物なのか?」

 

「……。じゃあ私も」

 

 そんな黒ウサギを見かねた十六夜と飛鳥は黒ウサギの元へ近寄る。

 

「ちょ、ちょっと待ーー!」

 

 黒ウサギはそう叫ぶが2人は容赦なく近付いて来る。

 

「(……何だこれ、何かさっきまで真剣に考えてた俺が馬鹿みたいだわ)」

 

 リクとシュヴィに助けを求めようと見つめて来た黒ウサギと3人を見ながら、リクは先程まで真剣に考えてた自分が馬鹿らしく思え、思わず溜息をこぼすのだった。

 

「ーーあり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いて貰う為に小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはこのような状況に違いないデス」

 

「いいからさっさと進めろ」

 

 半ば本気で涙目な黒ウサギは何とか話を聞いて貰える状況を作る事が出来た。五人は黒ウサギの目の前の岸辺に座る。

 

 とは言え、まともに話を聞こうとするリクとシュヴィを除く3人は、彼女の話を『聞くだけ聞こう』と言う態度で耳を傾けてる訳だが。

 

 黒ウサギは気を取り直して咳払いをする。

 

「それではいいですか、御五人様。定例文で言いますよ? 言いますよ? さあ、言います! ようこそ、〝箱庭の世界〟へ! 我々は御五人様を歓迎すると同時に御五人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと召喚致しました!」

 

「ギフトゲーム?」

 

「そうです! 既に気付いていらっしゃるでしょうが、御五人様は皆、普通の人間ではございません! その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその〝恩恵〟を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に作られたステージなのでございますよ!」

 

 黒ウサギは両手を広げながら箱庭についてを話す。

 

 すると飛鳥は質問する為に手を上げる。

 

「まず初歩的なのからだけれども、貴女の言う〝我々〟は貴女を含めた誰かなのかしら?」

 

「YES! 異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するに当たって、数多とある〝コミュニティ〟に必ず属して頂きます♪」

 

「だが断る!」

 

「属して頂きます! また『ギフトゲーム』で勝者となった者にはゲームの〝主催者(ホスト)〟が提示した賞品を得る事が出来ます!」

 

「主催者って誰?」

 

「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試す理由で開催されたり、コミュニティの力を誇示する目的で独自に開催されたりする事もあります。特徴としては、前者は自由参加が基本的ですが〝主催者〟が修羅神仏なだけあってかなり困難で難解なものが多く、場合によっては命の危険もあります。しかし、その分だけ見返りも多く、〝主催者〟次第ではありますが、新たな〝恩恵〟を得られたりもします。

 なお後者ですと参加者側がチップを用意しなければなりません。この場合、参加者が敗退した時はそれらすべて〝主催者〟のコミュニティに寄贈されます」

 

「後者は俗物ね……それでチップは何を?」

 

「それもまた様々です。金品・土地・利権・名誉・人間……時にはギフトを賭け合う事も可能です。新たな才能を他者から奪えば、高度なギフトゲームなどに挑む事も可能になるでしょう。ただ、ギフトを賭けた戦いとなると、御自身の才能も失うかも知れないのであしからず 」

 

黒ウサギは黒い笑顔を見せる。

飛鳥はそんな黒ウサギに挑発的に問いかける。

 

「そう、だったら最後に一つだけ」

 

「はい何でしょうか?」

 

「ゲームそのものはどうやって初められるのかしら?」

 

「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録して頂ければOK! 店内でも商店街でも商店が小規模のゲームを開始しているので良かったら参加して言って下さいな」

 

 飛鳥は顔を顰める。

 

「……つまり『ギフトゲーム』はこの世界の法そのもの、と考えればいいかしら?」

 

 飛鳥の言葉に黒ウサギは少し驚く。

 

「ふふん? 中々鋭いですね。しかし八割正解と言った所でしょうか、我々の世界でも強盗や窃盗は禁止されてますし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪など持ってのほか! そんな不逞な輩は悉く処罰しますーーですが『ギフトゲーム』の本質は全くの逆! 一方の勝者だけが全てを手にするシステムです。店頭に置かれる商品だろうと、店側が提示したゲームをクリアすればタダで手にすることなども可能なわけです!」

 

「そう。中々野蛮ね」

 

「ごもっとも。しかし〝主催者〟は全て自己責任でゲームを開始しますので、つまり奪われるのが嫌な腰抜けは初めから参加しなければいいのです」

 

 黒ウサギは1通り説明すると、1枚の封書を取り出す。

 

「さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギは、箱庭の世界における全ての質問に答える義務があります。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出して置くのはお忍び無い。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが……宜しいでしょうか?」

 

「待てよまだ俺が質問して無いぜ」

 

 清張していた十六夜が威圧的にそう言う。

 

「……どういった質問です? ルールでしょうか? ゲームでしょうか?」

 

「そんなのは()()()()()()。腹の底からどうでも良いぜ、ここでルールを問いただしても何か変わる訳じゃねぇ。俺が聞きたいのはたった一つ手紙に書いてあった事だけだ」

 

 それは2人を除く十六夜を含めた三人が聞きたい事だった。

 リクとシュヴィもそんな真剣な十六夜から彼等にとって重要な事である事が伺えた。

 

 十六夜はそれを何もかも見下すように言う。

 

「この世界は……面白いか?(、、、、)

 

 そして五人は無言で黒ウサギの返事を待つ

 

「YES! 『ギフトゲーム』は人を超えた者達だけが参加出来る神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証します♪」

 

 黒ウサギは笑顔でそう返事をするのだった。



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問題児様方は一筋縄では行かないようです。

取り敢えず感想で指摘してくれるのは良いのですが、我儘を言わせて貰うと、出来れば何処が、どの様に、どういった感じで面白かったとかの感想も欲しいです……
(´・ω・`)


「ジンぼっちゃーン! 新しい方を連れて来ましたよー!」

 

 箱庭の外壁を繋ぐ階段前で待つ少年に黒ウサギは手を振り駆け寄る。

 

「お帰り、黒ウサギ。其方の四人が?」

 

「はいな、こちらの御五人方がーーー」

 

 黒ウサギは後ろに振り返るとカチンと固まる。

 

「え? あれ? もう1人いませんでしたでしょうか? 少し目つきが悪くて、かなり口が悪い、全身から〝俺問題児!〟って感じのオーラを放ってる殿方が」

 

「ああ、十六夜なら〝ちょっと世界の果て見てくるぜ!〟と言ってあっちに駆け出して行ったぞ」

 

 リクはそう言うと十六夜が向かった方角を指さす。

 

 黒ウサギはそんなリクたちに問いただす。

 

「なっ何で止めてくれなかったんですか?」

 

「俺が止めた所であいつが止まると思うか?」

 

「うっ……でっ、ですがそれなら黒ウサギに何故教えてくれなかったんですか!?」

 

「【回答】十六夜から黒ウサギに黙秘するように言われた」

 

「嘘です、絶対嘘です! 実は面倒くさかっただけでしょう御四人さん!」

 

「「「うん」」」

 

「……事実、嘘は言ってない」

 

 1人不服そうに頬を膨らませながら言うなか、3人は頷く。

 

 黒ウサギは前のめりに倒れる。

 

「たっ、大変です! 〝世界の果て〟にはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が」

 

「幻獣?」

 

「はっはい! ギフトを持った獣を指す言葉で、〝特に世界の果て〟付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、人間では太刀打ち出来ません!」

 

「あら? それじゃあ彼はもうゲームオーバー?」

 

「参加する前にゲームオーバー?……斬新?」

 

「十六夜は箱庭の厳しさを教えるが為に必要な犠牲となったのだ」

 

「冗談言っている場合じゃありません!」

 

 ジンは事の重大さを必死に伝えるが、四人中三人は叱られても肩を竦めシュヴィに至っては首を傾げている。

 

 黒ウサギは溜め息を吐きながら立ち上がる。

 

「はぁ……ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、御四人様の御案内をお願いしても宜しいでしょうか?」

 

「わかったよ。黒ウサギはどうする?」

 

「問題児様を捕まえに参ろうと思います。事のついでにーー〝箱庭の貴族〟と謳われた。黒ウサギを馬鹿にした事を骨の髄まで後悔させてやります」

 

 黒ウサギはそう言うと怒りのオーラを噴出させ、黒い髪を淡い緋色に染め上げると、外門の柱の高い位地まで移動して水平に張り付く。

 

「一刻ほどで戻りますので、皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能くださいませ!」

 

 そして門柱に亀裂が入るほどに踏みしめ全力で跳躍し弾丸のように飛び去ったのだった。

 

 一連を見ていたリクはシュヴィに尋ねる。

 

「なぁシュヴィ……本当に精霊の反応が無いのか?」

 

「【肯定】黒ウサギには獣人種(ワービースト)に分類出来る精霊の反応は無い」

 

「どう言う事だ?」

 

「【返答】黒ウサギから得られる数値は極めて高く獣人種(ワービースト)では分類が出来ない、どちらかと言うと第六位の天翼種(フリューゲル)に相当する。さらに精密な検査次第では持っと高い可能性もある」

 

「……何だそれデタラメ過ぎだろ……」

 

 リクはそうつぶやくと、黒ウサギが去って言ったほうこうを見詰める。

 

 そして何か閃いたようにシュヴィに話し掛ける。

 

「なぁ……その検査のついでに〝生殖機〟を調べるのは可能か?」

 

「……? 【肯定】直接接触した上での検査だからそれに乗じて調べる事は可能」

 

「ーーッ!?……そうか」

 

 リクはそう言うと飛鳥達とジンの話もある程度すんだらしく、五人は箱庭の外門を潜るのだった。

 

 

 

 

――――――…………

 

 

 

 

 箱庭二一〇五三八〇外門・内壁

 

 リク、シュヴィ、飛鳥、耀、ジン、三毛猫の五人と一匹は石造りの通路を通り箱庭の天幕に出た。

 

 五人と一匹の頭上に眩しい光が注ぐ。

 

 遠くには巨大な建築物と空覆う天幕を見る。

 

『お嬢! 御天道様が見えとるで!』

 

「……本当だ。外からだと箱庭の内側何て見えなかったのに」

 

 空の上から見た時は、箱庭の街並みは見えなかった。にもかかわらず都市の空には太陽が確かにあった。

 

「箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんです。それにあの天幕は太陽の光を直接受けれない種族の為に設備されてますから」

 

「(うわぁ吸血種(ダンピール)とか泣いて喜びそうだぞ)」

 

 リクは内心でそんな事を思っていると、飛鳥が皮肉そうにジンに話し掛ける。

 

「そう……つまりこの世界には吸血鬼でも住んでいるのかしら?」

 

「えぇ、居ますけど」

 

「……。そう」

 

 飛鳥は複雑な顔をする。

 

 そして五人と一匹は身近にあった〝六本傷〟の旗を掲げているカフェテラスに座る。

 

 すると注文を取るために店の置くから素早く猫耳の少女が飛び出てくる。

 

「いらっしゃいませー。ご注文は何にしますか?」

 

「えっと……紅茶を四つと緑茶を一つ。後、軽食にコレとコレで」

 

『ネコマンマを!』

 

「はいはーい。ティーセット五つにネコマンマですね」

 

 ……ん? と飛鳥とジン、リクとシュヴィは不可解そうに首を傾げる。そんな中、耀は信じられないとばかりに猫耳の店員を凝視する。

 

「三毛猫の言葉、分かるの?」

 

「そりゃ分かりますよー私は猫族何ですから。お歳のわりに随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスさせて貰いますよー」

 

『ねーちゃんも可愛い猫耳に鍵尻尾やな。今度機会があったら甘噛みしに行くわ』

 

「やだもーお客さんお上手何ですから♪」

 

 猫耳娘は長い鍵尻尾を揺らしながら店内へと戻る。

 

 その後ろ姿を耀は見送ると嬉しそうに笑い三毛猫を撫でる。

 

「……箱庭ってすごいね私以外にも三毛猫の言葉が分かる人がいたよ」

 

『来て良かったなお嬢』

 

「ちょっと待って。貴女ひょっとして猫と会話が出来るの」

 

 珍しく動揺する飛鳥に耀はコクリと頷く。ジンも興味深いのか質問をする。

 

「もしかして猫以外でも意思疎通が出来ますか?」

 

「うん。生きていれば誰とでも話しは出来る」

 

「ほぉ。それは凄いな」

 

「【質問】それならあそこにいる野鳥とも会話は可能?」

 

「うん、きっと出来……る? えっと、鳥でだと雀や鷺、不如帰とかには話した事があるし……ペンギンが行けたから多分大丈夫」

 

「ペンギン!?」

 

「う、うん。水族館で知り合った。他ならイルカ達とも友達」

 

 リクとシュヴィは雀やペンギンと言う言葉に疑問を浮かべたが何かしらの鳥だと言う事は理解した。

 

 そんな中で、耀の声を遮る様に飛鳥とジンが声を上げる。

 

 恐らく2人はそれらの言葉の意味が理解出来てるのだろう。

 

「し、しかし全ての種と会話が出来るなら心強いギフトです。この箱庭において幻獣との言語の壁はとても大きかったりしますから」

 

「そうなんだ」

 

「はい。一部の猫族やウサギのように神仏の眷属として言語中枢を与えられていれば意思疎通は可能ですけれど、幻獣達はそれそのものが独立した種の一つです。同一種族か相応のギフトがなければ意思疎通は難しいと言うのが一般です。箱庭の創造者の眷属である黒ウサギも、全て種とコミュニケーションを取ることは出来ないはずですし」

 

「それだけじゃない言語の壁を越えられたら情報の幅が広くなる場合によってはギフトゲームの情報をいち早く入手出来たりその他のコミュニティの情報やゲームの勝率等が上がる可能性もあるからな 」

 

「そう……春日部さんは素敵な力があるのね。羨ましいわ」

 

 笑い掛けられると、耀は困ったように頭を掻いた。対照的に飛鳥は憂鬱そうな顔で呟く。耀にリク、シュヴィは飛鳥と数時間しかあっていないが、それでもその様子は彼女らしく無いと感じた。

 

「久遠さんは」

 

「飛鳥で良いわ。よろしくね春日部さん」

 

「うん……。それで飛鳥はどんな力を持ってるの?」

 

「私? 私は酷いものよ。だって」

 

「おんやぁ? 誰かと思えば〝名無しの権兵衛〟のリーダーである、ジン君ではないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

 

 品の無い上品ぶった声にジンは振り返ると、ピチピチのタキシードを来た2m以上の大男がいた。その男は不覚にもジンが知っている人物だった。

 

 ジンは顔を顰めて男に返事をする。

 

「僕らのコミュニティは〝ノーネーム〟です。〝フォレス・ガロ〟のガルド=ガスパー」

 

「黙れ、この名無しめ。聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいじゃないか。名と旗印の無いくせに未練がましくコミュニティを存続させようなど出来たものだーーそうは思いませんかい、そちら様方」

 

 ガルドと呼ばれた大男は五人が座っていたテーブルの空席に勢いよく座る。飛鳥と耀そしてリクは愛想笑いを浮かべ、相手の失礼な態度に冷ややかな態度をとる。シュヴィに至っては何時もより感情の無い覚めた目でガルドを見ている。

 

「失礼ですが、同席を求めるならまず氏名を名乗って一言添えるのが礼儀では無いかしら?」

 

「おっと失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ〝六百六十六の獣〟の傘下である「烏合の衆の」コミュニティのリーダー……って誰が烏合の衆だゴラァ!!」

 

 ジンの横槍にガルドは怒鳴り声を上げる。その姿は口が耳元まで大きく裂け肉食獣の様な牙が覗いており、激怒しながらギョロリと剥いた瞳をジンに向けた。

 

「口を慎め小僧! いかに俺が紳士で通っていても許せねえ言葉はあるんだぜ?」

 

「森の守護者だったころならたしかに礼儀で返したでしょう、ですが今の貴方は二一〇五三八〇外門付近を荒らしている獣にしか見えない」

 

「ハッ! そう言う貴様は過去に縋る亡霊と変わらねぇだろうがッ。自分のコミュニティがおかれた状況を理解できてるのかえェ!?」

 

「ハイ、2人ともストップ、ストップ」

 

 邪険な2人をリクはそう言って制する。

 

「事情は余り分からねぇけど、2人が仲が悪いのは分かった。それを踏まえて質問したいんだが」

 

 リクはそう言うとガルド=ガスパー出なく、ジンを鋭く睨み付ける。

 

「なぁジン……ガルドが指摘してる事といい、ジンのコミュニティの状況、()()()()()()()()()()()が俺達に事情を話してはくれないか?」



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ノーネームの状況が明かされたようです。

何かお気に入りがすごい事になってた……こんな駄作者の作品を読んでくれる人達がいる事に感激です。


「そっそれは……」

 

 ジンは言葉に詰まる。そして自分が大きな失態を犯した事を自覚する。と言うのも彼は黒ウサギとある隠し事をしていたのだ。リクはその動揺を見逃さず畳み掛ける。

 

「もうこれ以上。隠し通そうとしても、逆に不信感をこちらに植え付けるだけだぜ? 多分ジンのコミュニティは弱小のチームか、もしくは訳あって衰退しているんじゃねえか? だから組織の強化の為に飛鳥達を呼び出した。ちがうか?」

 

 ジンは何も言えない。何故ならジンのコミュニティまさにその状況にあるのだから。

 

 そしてそれを見ていたガルドは獣の顔を元に戻し、含みのある笑顔を浮かべると。

 

 含みのある笑顔と演技の入った声音でリクに話し掛ける。

 

「そうですとも、貴方の言う通りだ。コミュニティの長として、自身のコミュニティに付いてを話すのは当然の義務。しかし彼にとってそれは酷というものでしょう。よろしければ〝フォレス・ガロ〟のリーダーである私が、小僧ーーではなく、ジン=ラッセル率いる〝ノーネーム〟のコミュニティを客観的にですが説明をしましょうか?」

 

「……そうだな。話してくれ」

 

「承りました。まず、コミュニティとは読んで字のごとく複数名による組織の総称。まぁ受け取り方は種によっては様々です。人間なら大小で家族や組織ともコミュニティを言い換える事もありますし、幻獣なら〝群れ〟とも言い換えれる」

 

「それで?」

 

「はい、確認までに。コミュニティは活動する上で箱庭へ〝名〟と〝旗〟を申告する必要があります。特に旗印はコミュニティの縄張りを主張する大切な物。この店にも大きな旗を掲げているくらいです」

 

 そしてガルドはカフェテラスの店頭に掲げられている〝六本傷〟が描かれた旗を指さす。

 

「あの旗は、この店を経営しているコミュニティの縄張りを示しています。もし自分のコミュニティを大きくしたいと望むなら、あの旗印のコミュニティに両者合意で『ギフトゲーム』を仕掛ければ良い。私のコミュニティもそうして大きくしましたから」

 

ガルドは自慢げにタキシードに刻まれた虎の模様をモチーフにした刺繍を指さす。

 

 リク、シュヴィ、飛鳥、耀の四人は辺りを見回して、広場周囲にある店頭から建築物に同様の紋が飾られてる事に気付く。

 

「まぁ……この店頭は南区画に本拠があるので手出し出来ませんが。この二一〇五三八〇外門付近で活動可能な中流コミュニティは全て私の支配下です。残すのは本拠が他区か上層のコミュニティ、または奪うに値しない名も無きコミュニティぐらいです」

 

 ガルドは嫌味を込めてクックッと笑いを浮かべる。ジンは顔を背けたままローブを握りしめる。

 

「さて、ここからが貴方様方のコミュニティの問題。実は貴方様方のコミュニティはーー数年前まで、東区画最大のコミュニティでした」

 

「ほー以外だな」

 

「とは言えリーダーは別人でしたがね。ジン君とは比べようもない優秀な方だったそうですよ。ギフトゲームに置ける戦績で人類最高の記録を持ち、東区画最強のコミュニティだったらしいですから」

 

 一転してつまらなそうに言うガルド。現在この近辺の最大手であるコミュニティを保持している彼には、どうてもいい事なのだろう。

 

「彼は東西南北に分かれたこの箱庭で、東のほか南北の主軸コミュニティとも親交が深くてね。ジンの事は毛嫌いしてますが、南区画の幻獣王格や北区画の悪鬼羅刹が認め、箱庭上層に食い込むコミュニティだった事は嫉妬どころか尊敬するくらいに凄いのですよーーまぁ()()()、ですがね。」

 

「…………」

 

「〝人間〟の立ち上げたコミュニティではまさに快挙、数々の栄華を築いたコミュニティしかし!……彼らは敵に回してはならないモノに目を付けられた。そして彼らは『ギフトゲーム』が支配する箱庭の世界において、最悪の天災によって滅ぼされた」

 

「天災?」

 

 リク、飛鳥、耀は同時に聞き返す。それほど巨大な組織を滅ぼしたのが、ただの天災とは不自然な気がしたからだ。

 

「えぇそれは比喩にあらず、彼らは箱庭で唯一最大にして最悪の天災ーー俗に〝魔王〟と呼ばれる者達によって!」

 

 ガルドはそう話しを締めくくる。リクはそんなガルドの話を聞いて思い出すのは、嘗て自分がまとめていた二千人弱ほどの人々と過ごした日々、神々の勝手な都合で幾度と無く住処を追われたあの頃、リクは顔にこそ出さなかったがその手を血が滲むのではと言うほどに握りしめる。

 

「この箱庭でもそんな胸糞悪い理不尽があるんだな……」

 

 そしてリクは愉悦に浸っているガルドに気付かれない位に小声で呟いた。

 

 そんなリクとは別に飛鳥が口を開いた。

 

「なるほどね。大体理解したわ。つまり〝魔王〟はこの箱庭の特権階級を振り回す神様等を言い、ジン君のコミュニティは彼らに玩具として潰された訳ね……」

 

 ガルドはカフェテラスの椅子の上で皮肉に笑いながら両手を広げる。

 

「名も、旗印も、主力陣の全てを失い、残ったのは膨大な居住区画の土地のみ。もしも新たなコミュニティを結成したなら、前のコミュニティは有終の美を飾れたでしょう。ですが今や名誉も誇りも失墜した名も無きコミュニティでしかない!」

 

「……」

 

「そもそも考えて見てください。名乗る事を禁じられたコミュニティに、どんな活動が出来ます? 主催者(ホスト)ですか? 残念ながら名も無き組織など誰が信用しましょう。ではギフトゲームの参加は? それなら可能でしょう。では優秀なギフトを持つ人材は? 名も誇りも失墜したコミュニティに集まりますか?」

 

「そうね……誰も加入したくないでしょうね」

 

「そう。彼は出来もしない夢と過去の栄華に縋る恥知らずな亡霊でしか無いのですよ!」

 

 ガルドはピチピチなタキシードを破きそうなくらいに下品で、豪快な笑顔でジンとコミュニティを嘲笑う。

 

 ジンは泣きそうなくらいに顔を真っ赤にして、膝の上で両手を握りしめる。

 

「もっと言えばですね。彼はコミュニティのリーダーとは名ばかりで殆どリーダーとして活動はしていません。コミュニティの再建を掲げてはいますが、実際は黒ウサギにコミュニティを任せっきりの寄生虫」

 

「……っ」

 

「私は黒ウサギが本当に不憫でなりません。ウサギと言えば〝箱庭の貴族〟と呼ばれ強力なギフトの数々を持つ、何処のコミュニティでも破格の待遇で愛でられる存在。コミュニティにとってウサギを所持しているということはそれだけで大きな〝箔〟が付く。なのに彼女は毎日毎日糞ガキ共の為に身を粉にして走り回り、僅かな路銀で弱小コミュニティをやり繰りしている」

 

「……そう。事情は分かったわ。それでガルドさんは、どうして私達にそんな話を丁寧にし話してくれるのかしら?」

 

 飛鳥は含みある声で問う。ガルドもそれを察し待ってましたとばかりに笑う。

 

「単刀直入に言います。もし宜しければ黒ウサギ共々、私のコミュニティに来ませんか?」

 

「な、何を言い出すんですガルド=ガスパー!?」

 

 ジンはあまりの怒りにテーブルを叩き講義するが、ガルドは獰猛な瞳でジンを睨み付ける。

 

「黙れ、ジン=ラッセル。そもそもテメェが名と旗印を新しく改めていれば最低限の人材はコミュニティに残ったはずだろうが。それを貴様の我儘でコミュニティを追い込み、どの面下げて異世界から人材を呼び出した?」

 

「そ……それは」

 

「何も知らない相手なら騙し通せるとでも? その結果、黒ウサギと同じ苦労を背負わせるなら……こっちとて箱庭の住人として通すべき仁義があるってもんだぜ」

 

 先程の同じ鋭利な輝きをした獰猛な獣に似た瞳に貫かれ、ジンは怯む。しかしガルドの言葉よりも、リク達に対する後ろめたさと申し訳なさがジンの心を汚染する。

 

 ジンのコミュニティはそれ程までに崖っぷちなのだ。

 

「……で、どうですか? 皆様方。返事はすぐにとは言いません。コミュニティに属さずとも皆様方には箱庭で三十日の間は自由が約束されていますゆえ。一度、自分達を呼び出したコミュニティと私達〝フォレス・ガロ〟のコミュニティを観察して見て、十分に検討してから入ってみてはいかがでしょうか?」



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問題児達は外道に喧嘩を売るようです

何とか帰って来ました。遅れて住みません、ですが恐らく今後も最新が遅れると思います。


「結構よ。だってジン君のコミュニティで間に合っているもの」

 

 ジンとガルドは思わず困惑する。それから直ぐに二人して飛鳥の顔を伺う。

 

 彼女はそんな2人を無視して紅茶を飲み干すと、笑顔で耀に話しかける。

 

「春日部さんは今の話どう思う?」

 

 そんな彼女の問いかけに、耀が真っ先に口を開く。

 

「別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りに来ただけ」

 

「あら意外。じゃあ私が友達第一号に立候補しても良いかしら? 私達って正反対だけど仲良く慣れそうな気がするの」

 

 自分の髪を触りながら飛鳥は問いかける。言っては見たが、彼女にとって気恥ずかしかったのだろう。

 

 耀はしばし無言で考える。そして小さく笑いながら頷く。

 

「……うん。飛鳥は私の知る女の子と少し違うから大丈夫な気がする」

 

『お嬢良かったなぁ……ワシもお嬢に友達が出来て涙が出るほど嬉しいわ』

 

 三毛猫はホロリと涙を流す。そして飛鳥は耀の返事に満足すると、直ぐにリクとシュヴィに話しかける。

 

「それで、御二人はどうなのかしら?」

 

「……【返答】私はリクの決めた方針に従うリクはどう思う」

 

 シュヴィは飛鳥にそう答えると、リクの返答を待つ様に見詰める。

 

 リクはシュヴィの問を聞いた後目をつぶり心の『鍵』を確認する。

 

 そして確認して大丈夫だと判断すると、直ぐさま瞳を見開く。

 

「そうだな……ノーネームは間違い無く弱くて亡霊だろう」

 

「ーーッ!?」

 

 ジンはリクの返事に思わず瞼を強く閉じる。

 

「だがなガルドだっけか? ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ジンとガルドは驚きリクを凝視する。

 

「確かに『亡霊』は何者にも認められず、誰の気にも止められない」

 

 リクはガルドを睨み付ける。

 

「だが『亡霊』は誰が認めずとも、意識を継ぎ意識を以て歩む者」

 

 強い意志が込められたような瞳で。

 

「ガルドお前の言った通りだ。ノーネームは実際に脆弱で愚かだ」

 

 そして言い切った。

 

「だから戦える」

 

 戦える、無理では無く、戦えると。

 

 確かにそう言ったリクに4人の視線が注視する。リクは薄く笑う。

 

「そう、戦えるんだよ。立ちはだかる全ての敵、それが何者だろうと『亡霊』の力ーーすなわち〝愚かさ〟で。全てを欺き、出し抜き、『亡霊』らしく。弱者らしく。あらゆる策を弄し恥も外聞もなく。卑怯と煽てられ。下衆と褒められ。低劣と讃えられてーーッ!!」

 

 ーーそして

 

「勝利する」

 

 彼はそう言いきると、愛しの少女を見やり、一緒微笑むと、直ぐに気を引き締めてガルドに向き合う。

 

「そう勝利する。そしてお前らは勝利するまで気づかない」

 

 そして不敵な笑みを浮かべる。

 

「例えサイコロを降って、六以外を出せば自分達が敗北するゲームだろうと〝存在しないはずの者〟がこっそり、()()()()()()()()()()()()()()()()()お前らは最後まで気づかない」

 

 それはまるで人間を俺達を舐めるなと言わんばかりに。

 

「『亡霊』ってのはそう言う存在だカルド……まっ箱庭に来る前から『幽霊』やってた俺としては『亡霊』を舐め腐るテメェのコミュニティは入る気は無いと言って置くぜ」

 

 そしてリクがそう言い終えるとしガルドは思わず息を呑む。

 

 そして全員が静まり返りしばらくの間、沈黙が流れる。

 

 そしてそんな沈黙の中、飛鳥がついに口を開く。

 

「ま。そう言う事だから諦めてちょうだい、ちなみに私、久遠飛鳥はーー裕福だった家、約束された将来などのおおよそ人が望みうる人生の全てを支払って、この箱庭に来た 。それを極小のたったの一地域を支配してるだけの組織に末端として迎え入れてやる? そんな無礼な事を言われて首を縦にふるとでも? だとしたら自身の身の丈を知ってから出直して欲しいわね」

 

 ピシャリと言い切った。ガルド=ガスパーは怒りで体を震わせる。だがそれでも怒りを抑えながら口を開く。

 

「おっお言葉ですがレデ」

 

()()()()()

 

 ガチン! と勢い良くガルドの口が閉じる。

 

 本人はその状況に混乱したようにもがくが、全く声が出せない。

 

「……!?…………!??」

 

「私の話はまだ終わって無いわよ。貴方からまだ聞き出さなければ行けない事があるもの。貴方は()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 飛鳥の言葉に力が宿り、ガルドは椅子にヒビが入る位に勢い良く座り込む。

 

 ガルドは完璧にパニックに陥る。何をしたのか理由や原理は分からないが、完璧に自身の意思で身体を動かせないのだ。

 

 その様子に気付いた猫耳の店員は慌て飛鳥達の元へ駆け寄る。

 

「お、お客さん! 当店での揉め事は控えてーー」

 

「丁度いいわ。店員さんも第三者として聞いて下さる? 多分、面白い事が聞けるはずよ」

 

 飛鳥は猫耳の店員を制すと、猫耳の店員は首を傾げる。

 

 その後、飛鳥は言葉を続ける。

 

「貴方はこの地域のコミュニティに〝両者合意〟で勝負を挑み、そして勝利したと言っていたわね?」

 

「……あぁそうだ」

 

「そう。でも私が聞いたギフトゲームの内容と少し食い違うの。コミュニティのゲームは〝主催者(ホスト)〟とそれに挑戦する者が様々なチップを賭けて行う物のはず……ねぇジン君。コミュニティそのものをチップにするゲームは、よくある事なの?」

 

「やっ、やむを得ない状況であれば稀に。ですが、これはコミュニティの存続を賭けるかなりのレアケースです」

 

 聞いていた猫耳店員もジンの答えを頷いて肯定する。

 

「そうよね。訪れたばかりの私達でもそれくらい分かるわ。だから、そのコミュニティ同士の戦いに強制力をもつ〝主催者権限〟を持つ者は魔王と恐れられた。なのにその特権すらない貴方がなぜ強制的にコミュニティを賭け合うような大勝負を続ける事が出来たのかしら。()()()()()()()

 

 ガルドは悲鳴を上げそうになるが、口はガルドの意識を無視して話し始める。

 

 そして周囲の者達もその異変に気付き始める。

 

 そして理解する。久遠飛鳥の命令には……絶対に逆らう事は出来ないのだと。

 

「き、強制させる方法は様々だ。一番簡単なのは、相手のコミュニティの女子供を攫い脅迫すること。これで動じない相手は後回しにして、徐々に他のコミュニティを取り込み、ゲームに乗らざるを得ない状況にまで圧迫していく方法だ」

 

「まあそんな所でしょう。貴方のような小物らしい堅実な手です。けどそんな違法で吸収した組織が貴方の元で従順に動くかしら」

 

「各コミュニティから、数人ずつ子供を人質に取ってある」

 

 飛鳥はポーカーフェイスではあるが、僅かに眉を潜め、その雰囲気から嫌悪感が滲み出ている。

 

 リクや耀もそんなガルドに不快に思い、耀は目を細め、リクに至っては睨み付ける。

 

 シュヴィはその辺には疎いのか無関心な様子だが、リクの様子からガルドを敵と認識したのだろう、警戒と臨戦態勢を整える。

 

「……そう。ますます外道ね。それで、その子供達は何処に幽閉されされているの?」

 

「もう殺した」

 

 その場の空気が凍り付いた。

 

 心を持つとは言え機凱種(エクスマキナ)であるシュヴィを除くリク、ジン、店員、耀、飛鳥でさえ一瞬だがガルドの行ったことを理解出来ず思考を停止させた。

 

 だがガルドは命令されたままに言葉を紡ぐ。

 

「初めてガキ共を連れて来た日、泣き声が頭に来て思わず殺した。それからは自重するつもりだったが、父が恋しい母が愛しいと泣きわめくから頭に来て。それ以来、連れてきたガキは皆まとめてその日の内に始末する事にした。だがそのことが公になれば組織内に亀裂が入る。そのため始末したガキの遺体は証拠隠滅のため腹心の部下に食」

 

()()

 

 ガチン!!とガルドの口は先程以上に勢い良く閉ざされる。

 

 飛鳥の声は先程以上に凄味を増し、魂を鷲摑む勢いでガルドを締め上げる。

 

「素晴らしいわ。ここまで絵に描いたような外道とはそうそう出会えなくてよ。流石は人外魔境の箱庭と言った所かしら? ねぇジン君?」

 

「彼のような悪党は箱庭でもそうそういません」

 

「そう? それは残念。ところで、今の証言で箱庭の法でこの外道を裁く事は可能かしら?」

 

「厳しいです。吸収したコミュニティから人質をとったり、身内の仲間を殺すのは確かに違法ではありますが……裁かれるまでに彼が箱庭の外に逃げ出せば、それまでです」

 

 それはそれで裁きと言えなくもない。リーダーねガルドがコミュニティを去れば、間違いなく〝フォレス・ガロ〟は瓦解するだろう。

 

 だが飛鳥はそれでは満足できなかった。

 

「そう。なら仕方ないわ」

 

 飛鳥は苛立たしげに指を鳴らす。するとガルドの身体

に自由が戻った。怒り狂ったガルドはカフェテラスのテーブルを勢いよく破壊する。

 

「こ……この小娘がァァァァァァァァ!!」

 

 そして雄叫びを上げ身体を激変させる。タキシードは身体が膨張した事で破れさり体毛は虎模様に変色する。

 

「テメェ、どういうつもりか知らねえが……俺の上に誰がいるか分かっているんだろうなァ!?箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!!俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ! その意味が」

 

()()()()()私の話はまだ終わって無いわ」

 

 ガチン、とまた勢いよく黙る。しかし今の怒りはそれだけでは止まらず。ガルドは丸太のような腕を振り上げ飛鳥に襲いかかる。シュヴィはそれに割って入ると、『偽典・森空囁(ラウヴアポクリフェン)』を展開、真空の刃をガルドに放つ。

 

「ーーーッ!!」

 

「喧嘩は駄目」

 

 真空の刃により怯んだガルドを耀は接近すると、ガルドの腕を掴み。そのまま腕を回すようにしてガルドの巨躯を回転させ押さえつける。

 

「ギッ……!」

 

 少女の細腕には似合わない力に目を剥くガルド。飛鳥とリクは楽しそうに笑う。

 

「さてガルドさん。私は貴方の上に誰が居ようと関係ないわ。それはジン君も同じでしょう。だって彼のコミュニティの目標は、コミュニティを潰した〝打倒魔王〟ですもの」

 

 その言葉にジンはハッとしてすぐさまガルドと向き合う。

 

「はい。僕達の目標は、魔王を倒して誇りと仲間達を取り戻すことです。だからそんな脅しには屈しません!」

 

「く……くそ……!」

 

 どういう理屈かは分からないが、耀に組み伏せられたガルドは抵抗が出来ず、地に伏せている。

 

 飛鳥は少し上機嫌になると、足先でガルドのアゴを持ち上げ、Sっ気溢れる笑みを浮かべ話を切り出す。

 

「ですが。私は貴方のコミュニティが瓦解する程度じゃ満足出来ないの。貴方のような外道はズタボロになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきよ。そこで皆に提案なのだけれど」

 

 飛鳥の言葉に頷くジンや店員は、顔を見合わせ首を傾げる。飛鳥は足先を離し、今度は女性らしい細長い綺麗な指先でガルドの顎を摑む。

 

「私達と『ギフトゲーム』をしましょう。貴方の〝フォレスガロ〟の存続との〝ノーネーム〟の誇りと魂を賭けて、ね」



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サウザンドアイズに向かう様です。

最近かなり疲れています……後、現実逃避がハンパ無いです。


「な、何であの短時間で〝フォレス・ガロ〟のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?しかもゲームの日取りは明日!?それも敵のテリトリー内で戦う何て!準備している時間もお金もありません! 一体どういうつもりがあってのことです!」

 

「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」

 

「黙らっしゃい!!!」

 

 まるで口を裏合せていたかのような息の合った言い訳に激怒する黒ウサギ。

 

 それをニヤニヤ見ていた十六夜が止めに入る。

 

「別にいじゃねえか。見境無く選んで喧嘩を売った訳じゃ無いんだから」

 

「い、十六夜さんは面白いならいいと思っているのでしょうが、この〝契約書類(ギアスロール)〟の内容にしても、このゲームで得られるのは自己満足だけなのですよ?」

 

 そして黒ウサギは〝契約書類〟を見せる。これは〝主催者権限(ホストマスター)〟を持たない者達が〝主催者〟となってゲームを開催する為に必要なギフトだ。

 

 そこにはゲーム内容・ルール・チップ・賞品が書かれており〝主催者〟のコミュニティのリーダーが署名することで成立する。そして黒ウサギが指す賞品の内容はこうである。

 

「〝参加者(プレイヤー)〟が勝利した場合、〝主催者(ホスト)〟は参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、〝コミュニティを解散する〟ーーまぁ確かに自己満足だ。時間をかければ立証出来るものを、わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮させてるんだからな……」

 

 ちなみに飛鳥達のチップは〝罪を黙認する〟と言うものだ。それは今回に限ったことでなく、一生黙認し続けると言うことである。

 

「でも時間さえかければ、彼らの罪は暴かれます。だって肝心の子供達は……」

 

 黒ウサギは言い淀む。彼女も〝フォレス・ガロ〟の噂は耳にしてたが、これほど酷いことになってたとは思わなかったのだろう。

 

「そう。人質は皆死んでいるわ。その点を責め立てれば証拠もでるでしょう。でも私はあの外道を裁くのに時間を掛けたく無いの」

 

 箱庭の法は箱庭内のみ有効であり、外は様々な種族のコミュニティがそれぞれの法とルールで生活する無法地帯となっている。

 

 そこに逃げられたら、箱庭の法の下で裁く事は出来なくなる。だが、〝契約書類〟の強制執行なら強力な〝契約(ギアス)〟で逃げる事は出来なくなる。

 

「それに。私はあの外道が私の生活範囲内で野放しにされることも許せないの。ここで逃がしたら、いつかまた狙って来るに決まっているもの」

 

「それに、遅かれ早かれフォレス・ガロとは対決する事になってたんだ。今回はノーネームに犠牲が出る前に先手を打たせて貰ったそれだけだ」

 

「えっとそれは……どういう事でしょうか?」

 

 リクの言葉に黒ウサギは思わず尋ねる。

 

「まず、ガルドは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言っていた。そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ともな」

 

 飛鳥と耀はリクのその言葉に同意するように頷く。

 

「ええ、確かに彼はそんな事を言ってたわ」

 

「そうだそしてガルドは何故今回俺達に近付いて来たか分かるか?」

 

 そしてそんな彼女にリクはそう問いかける。

 

「えぇ。彼は私達の勧誘が目的でしょ?」

 

「そうだ。そしてそれはガルドのコミュニティを強化すると同時に、ノーネームの勢力を少しでも強化されるのを未然に防ぐ事が目的と考えられる、つまりガルドは少しでもノーネームの勢力が強化されるのが気に食わなかった訳だ」

「…………」

 

「そして、それらから考えられるのは1つ、ガルドはいずれにせよノーネームに土地と黒ウサギをチップにギフトゲームを仕掛ける予定だったって事だ」

 

 そうリクは言い終えると、周囲には沈黙が流れる。この場でリクが言った事はあくまでも仮説に過ぎない。だが同時に否定も出来ないのだった。

 

 そしてリクの仮説による最悪の結末を黒ウサギは想像してしまい、冷や汗をながしながら思わず息を呑んだ。

 

 そして重苦しい空気が流れる中、黒ウサギは話しを切り替える。

 

「と、取り敢えずそう言う事なら! それに、腹だたしいのは黒ウサギも同じですし。〝フォレス・ガロ〟程度なら十六夜さんが一人いれば楽勝でしょう」

 

 黒ウサギがそう言うと、十六夜と飛鳥は怪訝そうな顔になる。

 

「何言ってんだ? 俺は参加しねえぞ?」

 

「当然よ。貴方を参加させる気はないわ」

 

 フンッと鼻を鳴らす二人に、黒ウサギは慌てて二人に食ってかかる。

 

「だ、駄目ですよ! コミュニティの仲間同士なんですからちゃんと協力をしないと」

 

「そう言う事じゃねぇよ黒ウサギ」

 

 十六夜は真剣な顔をし、右手で黒ウサギを制する。

 

「いいか? この喧嘩はコイツらが()()()。ヤツらが()()()。つまり俺が出るのは無粋だって事だよ」

 

「あら、分かっているじゃない」

 

「はぁ……もう、好きにしてください」

 

 黒ウサギはそう言ってそのまま肩を落とすのだった。

 

 しばらくして黒ウサギは気を取り直すと、咳払いをして全員に切り出す。

 

「そろそろ行きましょうか。本当は皆さんを歓迎する為、素敵なお店を予約し、色々セッティングしてたのですが……不慮の事故続きでお流れになりましたし。後日、きちんと歓迎を」

 

「別にいいわよ、無理しなくて。私達のコミュニティはそんな余裕も無いのでしょう?」

 

 黒ウサギは驚くとジンを見る。申し訳なさそうな顔をするジンを見て、現状を悟る。黒ウサギはウサ耳まで赤くして恥ずかしそうに頭を下げる。

 

「申し訳ございません。皆さんを騙すなど気が引けたのですが……黒ウサギ達も必死だったもので」

 

「気にしなくていいわ。私は組織の水準何てどうでも良かったもの。春日部さんやリクさん達はどう?」

 

 黒ウサギは恐る恐る耀やリク達の様子を見る。リクは黒ウサギを優しげな眼差しで見て、耀は無関心なまま首を振る。

 

「ガルドみたいな奴なら怒ってたが、黒ウサギ達はそうじゃないしな」

 

「【回答】リクがいる所なら何処でもいいから気にしてない」

 

「私も起こって無い。そもそもコミュニティのことなんて。どうでも良かったから……あ、けど」

 

 思い出したように呟いた耀。ジンはテーブルに身を乗り出す。

 

「どうぞ気にせず聞いてください。僕らで出来る事でしたら最低限ではありますが、用意くらいならさせてもらいます」

 

「そんな大それた物じゃない。ただ……毎日三食お風呂付きの寝床があればいいな、と思っただけ」

 

 ジンは表情が固まる。リクにいたっては箱庭に来る前は、水でさえ希少な環境にいたことも相まって、ジンの様子からノーネームの現状を察し、苦笑いを浮かべる。

 

 耀はジンの様子から慌てて取り消そうとしたが、先に黒ウサギが嬉々とした表情で手に持っていた木の苗を持ち上げる。

 

「それなら問題ありません! 十六夜さんのお陰でこんな大きな水樹の苗が手に入りましたから! これで水を買う必要もなくなりましたし、水路が復活できます♪」

 

 一転し表情が明るくなる。飛鳥にいたっては安心した顔を浮かべる。

 

「私達の国だと水が豊富だったから毎日のように入れたけれど、場所が違えば文化も変わるものね。今日は理不尽に湖に投げ出されているから、お風呂くらいには入りたかった絶対に入りたかったのよ」

 

「それには同意だな。あんな手荒い招待は二度とうけたくないね」

 

「そ、それは黒ウサギ達の責任外ですよ……」

 

 リクとシュヴィを除く、召喚された三人は黒ウサギを責めるような目で見る。

 

 そんな視線に怖気付く黒ウサギ。

 

 ジンも隣で苦笑する。

 

「あはは……それで今日はもうコミュニティに帰る?」

 

「あ、ジン坊ちゃんは先にお帰り下さい。ギフトゲームが明日なら〝サウザンドアイズ〟に皆さんのギフトの鑑定をお願いしないと。それにこの水樹の事もありますから」

 

 十六夜達五人は首を傾げて聞き直した。

 

「〝サウザンドアイズ〟って? コミュニティの名前か?」

 

「YES! 〝サウザンドアイズ〟は特殊な〝瞳〟のギフトを持つ者達による群体コミュニティであります。そして箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通した超巨大な商業のコミュニティです! 幸いなことに近くに支店がありますので」

 

「ギフトの鑑定と言うのは?」

 

「勿論、ギフトに秘められた力や起源などを鑑定する事デス。自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力もより大きくなります。皆さんも自分の出処は気になるでしょう?」

 

 黒ウサギが同意を求める中、五人中四人は複雑な顔になるがリクは、何の力も無い人間だった。

 

 故に行く必要は無いのだが、そうするとシュヴィと別れる事になる。

 

 かつて壮絶な別れを遂げただけに、リクはシュヴィに過保護になっていた。

 

 それに対しシュヴィはと言うと、話に付いてこれて無いのか、元々興味が無いのか首を傾げている。

 

 とはいえ拒否する事は無く黒ウサギ・リク・シュヴィ・十六夜・飛鳥・耀の六人と一匹は〝サウンドアイズ〟に向かう事にしたのだった。



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