櫻田家の八幡 (璃羅)
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とある王族の朝


どうも、はじめましての方ははじめまして。お久しぶりの方はお久しぶりです。リアルがだいぶ落ち着いてきたので、気分転換で書きました。

作者は栞が好きです。(ロリコンではない)


 

これはとある王族の日常を描いた物語である——。

 

 

俺の朝は早い…というわけでもない。むしろ早起きしても二度寝するまである。ああ、布団さん。私と結婚して下さい…。貴女と離れるのは私にはあまりに辛いのです。貴女のいない生活なんて羽根がなくなった鳥のよう!

 

と、俺と布団による披露宴が脳内で行われているこの部屋にドタドタと誰か近づいてくる気配がした。ドタドタと音出してる時点で気配もクソもなかったわ。

 

「八くーん!朝だよー!」

 

扉よ壊れろと言わんばかりの勢いで入って来たのは妹である光だろう。だが、俺は起きる気は毛頭ない!徹底的に寝たフリして逃げ切ってやるぜ。こいつはアホだからな。

 

「八くーん。起きないと怒られちゃうよ?おーい!」

 

ユサユサと揺らしてくるも俺は狸寝入りを続行した。そんなことでは俺と布団さんの仲は引き離せないぜ。

 

「むぅぅ。起きないんだったらこっちにも考えがあるからね」

 

揺するのをやめて離れる気配がした。お、諦めて他の奴でも助っ人に呼びに行く気か?その時点で我が軍の勝利よ!ふははは!

 

「えいっ!」

「グハァ!」

 

ぐはっ!腹になんか思いっきり落ちて来た!と思ったがこれ、光か。油断しているところにフライングボディプレスを撃ち込んでくるとはなかなかやるじゃないか。結構痛いです。

 

「起きた〜?起きないとまたやるよ?」

「起きたよ!これ以上やられるとお兄ちゃんの内臓壊れちゃうからやめてね?」

「おはよう!八くん!ほとんど皆んな準備出来てるよ?あとは八くんだけだよ」

「おう、そうか。起こしに来てくれてありがとうな、光。ただ、もうちょい優しく起こして」

「それは八くんが寝たフリ続けるからだよ…」

 

はあ、起きるか。ベッドから出た俺は、高校の制服に着替え、一階に降りる。ちなみに、光は俺が着替え始める前には部屋からもう出ていってたよ?

 

「…はよ〜」

「もう、八くん!起きるの遅いわよ?皆んな待ってたんだから。ほら、早く座って。みんなで食べましょう?」

 

俺に注意をしつつも優しく迎え入れてくれているこの人はこの家の長女である櫻田葵。高校3年。成績優秀、品行方正、美少女の三拍子掛け合わせた超人である。将来は美人になると予測している。というか現時点ですでに美少女である。八幡的にポイント高い。

 

「わかるぞ!春先は眠いよな!二度寝したくなる気持ちはよく分かる!」

 

この素晴らしい二度寝生活に祝福を!贈ってくれているのは長男であり、高校2年の櫻田修。背が高い。え?他に?特にないな。サッカーが好きだっていうことくらいだろうか。

 

「修ちゃんは甘やかさないで。ほら、早くしなさい。あなた待ちなんだから」

 

修と同じ黒い髪を肩くらいまで伸ばしているデカイ(どことは言わない)人は、修の双子の妹である櫻田奏。猫かぶりがスゴイ。なにがスゴイって誰だお前っていうレベルに昇華している。あと、ブラコンであり、シスコンな。結構重度の。それを表面に出そうとしないからはたから見たらツンデレである。やーい!ツンデレ〜!

 

「…なによ」

「いえ、別に」

「ほら、早く食べようよ!学校に行く時間になっちゃうよ?毎日毎日おきるの遅いんだから…」

 

赤い髪をツインテにしてるのは、俺の双子の妹ということになっている三女の櫻田茜だ。こちらは重度の人見知りである。隠密行動してんのか、というツッコミが出るくらいには。追加の情報として、すれんだーである。悲しいほどにね。はっ!殺気!

 

「八くんたら私が起こしにいったのに寝たフリしてたんだよ?だから、強行手段で起こして見ました!」

 

俺をフライングボディプレスで起こしてくれやがった金髪は五女の櫻田光。アホの片鱗が割と感じられる。だが、そこがかわいいので目に入れても痛くない(断言)

 

「八兄さんがそのまま改善するとは思えないけどね…」

「だよね…」

 

先に喋ったのは三男の櫻田遥。インテリ系である。その次は、四女の櫻田岬。遥とは対照的で岬は運動が得意である。ちなみに、この2人も双子の兄妹である。この家の双子率高くない?双子でも男女別々が生まれる確率とか低かったと思うんだけど。この家の兄弟の髪の色多彩すぎません?このふたりは、遥が紫に近く、岬はピンクだ。だれだ、ピンクは淫乱とか言ったやつちょっとこっち来い。俺の妹に喧嘩売ってるのなら買うよ?

 

「兄上!早起きしないと大きくなれませんよ!」

 

オレンジっぽい色の元気がいい子どもは、四男の櫻田輝。男の中では最年少であり、小学生なのだがすでに厨二病が発症している兆候がある。そして輝よ、俺はこの家族から見ると、背は大きいほうだ。つまり、すでに大きいから早起きする必要はないね?Q.E.D。

 

「お兄様…ごはん食べよ?」

 

最後に天使だ。ああいや、失敬。心のそこからの言葉が漏れ出てしまったようだ。今俺を小さい体ながらも上目遣いで見てきているのがこの家での最年少であり、我が天使である栞である。天使と会うことで心の疲れも体の痛みも安らぐようだ。やはり、可愛いは正義。つまり、栞はかわいいので正義なのだ」

 

「お兄様…?嬉しいけどちょっと恥ずかしい…」

 

やだ、赤面して頰に手を当ててるのとか超かわいい。心がぴょん○ょんするんじゃ〜。はい。心の声が漏れまくってましたね。八幡、反省。あと、そこの女性陣こっち睨むのやめなさい。顔怖いよ?今なら視線で人を(ピー)しそうなレベルで。

 

「…なんだよ?」

「「「べっつに〜〜?」」」

 

ええ〜。なんかあるじゃん。言いたいことあるだろ!なら言えよ!でも、悪口だったらお兄ちゃんこれから学校行って屋上から紐なしバンジーすることになっちゃうから言わなくていいや。

 

「ほら!みんな揃ったんだから食べましょう?」

「そうだぞ。母さんが作った料理が冷めるだろう」

 

こちらが我らが家族の頂点である母、櫻田五月(本当に9人も産んでるのか?ってぐらいには綺麗な人だ)と大黒柱である櫻田総一郎である。我らが兄弟たちを産み育ててきた頭が一生上がらない人たちである。下世話な話だが夜の生活大変頑張りましたね。ほんとに下世話だわ。そして、現在の父にはツッコミどころが存在している。

 

「それはいいんだけど…」

『なんで王冠被ってるの?』

「ははは、昨日王宮に置いてくるの忘れてきちゃったんだよ」

「父上!王様みたいです!」

 

全員の疑問が一致した奇跡の瞬間だった。そう。父親の頭の上に王冠がのってたら誰だって気になる。あと、輝よ。一応うちの父親はこの国の王様だぞ?

 

あ、言い忘れてたがうちの家は王族なのだ。びっくり。なにがビックリって父さんは王様のはずなのにオーラとかないのが一番驚くわ。葵姉さんの方が雰囲気があると思う。

 

そして、この国の王家である櫻田家には生まれた時からなにかしらの特殊能力が存在している。なぜか、王家の者にしか発現しないのだ。一応、俺も持ってはいる。まあ、能力云々については後々に話すことになるだろう。

 

「ほら、皆んな。そろそろ行かないと遅刻しちゃうわよ〜」

「うわっ!もうそんな時間?今日は生徒会がある日じゃない!」

「俺もそろそろ行くか〜」

「頑張ってください!姉上!兄上!」

「いってらっしゃい…」

 

俺も学校に行かなくてはならないので重い腰をあげて行く支度をする。やだなー行きたくないなー。輝か栞変わってくれないかな〜。あ、ダメだわ。輝や栞に近づくやつを排除しなきゃいけなくなるからな。え?シスコン&ブラコン?違うよ?愛してるだけだよ。

 

「ほら、八〜!準備終わったなら行こう〜!」

「ああ、今から行く!」

 

——こうして、櫻田家の日常ははじまる。

 





いかがでしたでしょうか?
作者に続ける気があるかどうかはぶっちゃけわかりません。
が、感想など頂いたら書くかもしれませんよ?(チラッ)
もう1つの方もやりますよ?そのうちですが…


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とある王族の登校風景

感想やお気に入り登録ありがとうございます!
おかげさまでやる気が出たため、早くに2話目を出せました〜。

追記
とある一部分を書き直しました


さて、学校へ行くために家を出たはいいものの我々高校生組(葵姉さん、修、奏姉さん、俺、茜)の前にはある問題が立ちはだかっていた!

 

「カメラの配置が変わるなんて…」

 

前言撤回である。問題が立ちふさがっているのは茜だけだった。カメラの配置?何言ってるんだと思ったそこの君。前回でも言ったように櫻田家は王族なのである。だが、住んでいるところは王宮とかではなく普通の一般的な二階建ての住宅である。そんなご近所に溶け込んでいる王族であるが、日常の中にも危険は潜んでいるわけである。

 

そうした危険に巻き込まれないように、我らが父であり、王様が行ったことは通学路や普通の道など様々な場所に監視カメラを設置することである。なんとその数町内だけで200個。プライバシーもクソもあったものではない。国のお金は大丈夫なのだろうか。しかし、そのおかげかまた別の要因があるのかわからないが、兄妹の誰も事件に巻き込まれたことはないのだ。そこら中にあるため、犯罪抑制にもつながっていると考えられる。他の用途にも使われてるけどね。

 

閑話休題。

 

さて、話を戻そう。何故に茜はこんなにも、カメラに対して拒否反応起こしているか。それは、極度の人見知りなのである。俺自身も人見知り、というかコミュ障気味なのでカメラに自分からせっせと映りに行くことはない。どこぞの五女は嬉々として行くが…。ま、そんなこんなでこの妹はカメラをとことん避けているのだ。今俺がこうしている間も…

 

「なんで週末で場所を変えるの⁉︎折角覚えたのに…」

「え!全部覚えたの?それはすごいね」

「その努力を他のことに回せばいいのに…」

「さすがは俺の妹だな!」

 

1人感想がおかしい奴がいた気がするがまあいい。このように人見知りで無人カメラにさえも緊張してしまう我が妹は人やカメラの視線を避けるために必死なのだった。

 

「でも、なんで八は人見知りなのに余裕そうな顔してるの?仲間だと思ってたのに…」

「無人カメラの視線すら避けるほどの人見知りでもねーよ?」

「確かにね。初対面の人とはかなりの確率で噛む八幡はどうして人の視線には耐えられるのかしら?」

 

え、奏姉さんその評価は酷くない?そりゃ、俺だって悪意の目線には晒され慣れてますけど…。俺の空気が地味に重くなったのを見たからか奏姉さんは慌て始めたようだ。

 

「あ、いや、違うのよ?八幡は茜ほどではないにしろ人見知りだから、周りの好奇の目線とか気になったりしないのかな、てね?だからそんなに悲しい雰囲気出さないで?」

 

ああ、そういうことね。納得。

 

「登校中とかはなんだかんだ茜がいるから好奇の目線はそっちの方に向いてるから俺に目線をむけられることはまずない。下校とかは基本的に1人だから、目立つことはない」

「………」

「それって…」

「つまるところ八幡は友達いないのか」

「ちょ、修ちゃん⁉︎」

 

は?いやいや、なんでそんな憐れみみたいな目で見られるのかぎ分からんわ。むしろ、こっちは一人で過ごしたいんですよ?だから、おれはぼっちはぼっちでも孤高のぼっちである」

「グスッ…八くん」

 

ダキッ。なぜか葵姉さんに抱きしめられた。why⁉︎なぜですか?俺の体に女性の身体を象徴するものがくっつけられていてさらに姉さんのいいにおいがってなにいってんだおれは姉のにおいかいでいいにおいとかただのへんたいではないかやばいやばいよリアルガチでやばいよ!理性が、ががががが。

 

「ね、ねえさぁん?」

 

恥ずい。声が裏返ったぞ。いやだがしかし聞いて欲しい。こんな100人中99人が美しいや綺麗と答える美人である姉が抱きしめているというのはかなり役得ではある。いや違う違う。待って違うの。本音が出ただけなの!そう、美人であると姉さんが抱きしめてきているのは恥ずかしぬ。

 

「八くん…。私たち兄妹がいるからね!悩み事があったらなんでも相談してくれていいんだよ?」

 

何故だ(二度目)。何故俺は美人に抱きしめられた上に慰められてるんだ。そろそろ理性の壁が崩壊しそうなんですが…。姉が可愛すぎてつらい…」

 

「は、はははちくん⁉︎にゃ、にゃにを!」

「おお、葵姉さんが取り乱してる」

「八幡にしか出来ないことね」

「むぅ〜」

 

顔を赤くした葵姉さんが離れていった…。怒ってしまったのだろう。ああ、この喪失感はなんなのだろう。ちょっと残念だと思う俺ガイル。

 

げしっ。

 

「あたっ。なんだ?茜?なんで蹴った?」

「知らないっ!」

 

妹が反抗期な件について。お兄ちゃん悲しいわ。あ、葵姉さんが戻ってきたな。これから怒られるんじゃろうか?

 

「八くん」

「ひゃい!」

「『ひゃい』てぷぷぷ…」

 

あとで修は殴る。

 

「さっきも言ったけど、貴方も大事な家族なんだから悩み事とか何かあったら相談してね?」

「…ああ、何かあったら相談するよ。葵姉さん」

 

…ああ、敵わないな。葵姉さんには。俺は覚悟を決めた。ここまで俺を想ってくれているのだから相談はする。何かあったら、な。

 

「何もなくても話してくれていいんだよ?八くんはその辺のことあまり話してくれないし…」

「何かあるまで話さないわね」

「だろうな」

「うん」

「…あはは」

 

何故バレた⁉︎俺のパーフェクトプラン(スカスカ)が!くっ、さすがは兄妹といったところか!あと葵姉さん。苦笑いが一番辛い反応です。

 

「まあ、葵お姉ちゃん。八は大丈夫だよ!私とも同じクラスだし、なんだかんだいっていろんな人とも話してるし!」

「そう?茜が言うなら安心ね」

 

つまり俺の対人関係に関することは安心ではないということですかそうですか。

 

「さて、そろそろ時間も怪しくなってきたし行きましょうか」

 

唐突に奏姉さんが猫をかぶって話し始めた。ああ、人が歩いてきたのね。そうすると、当然のごとく極度の人見知りである茜は葵姉さんの後ろへと張り付くように隠れた。

 

「おはようございます。葵様、奏様、修様、八幡様、茜様」

『おはようございます』

 

様付けされることには慣れないな〜。背中がむずかゆいわ。

 

「御兄弟の皆さん仲がよろしいですねぇ」

「ええ。自慢の兄妹達ですから」

 

奏姉さん(猫かぶり中)が応対してくれる。楽でいいわ〜。ちろっと腕時計を見るとなんとまあ、大変な時間ではありませんか。本当にそろそろ行かなければ、王家全員が遅刻という前代未聞なことが起きてしまうではありませんか。とりあえずは、奏姉さんを呼ばなければ。

 

「お話中すみません」

「あら、八幡?どうしました?」

「奏姉さん。もう学校へ行かなければいけない時間です」

「登校途中でしたか。それは引き止めて悪いことをしてしまいました。これからお勉強頑張ってください」

「ありがとうございます。失礼しますね」

「失礼します」

 

二人で茜達がいるところまで戻ってくる。

 

「さて、八幡。今の時間は?」

「朝のHRが始まる20分前」

「修ちゃん。ここから学校まで歩いてどれくらい?」

「ん〜。だいたい15分くらいだな」

「こうしちゃいられないわね。さっさと行きましょうか」

 

奏姉さん、修、俺は歩き出した。だが、2名ほどついてこない。そう。茜である。

 

「ねぇ、本当に置いて行くの⁉︎」

「だって、なあ?」

「遅れたくないし」

「既に生徒会の仕事遅れちゃったし」

『というわけで、じゃ!』

「薄情者〜!」

「ごめんなさい!葵姉さん!」

「姉さんは、遅れないようにな!」

「気を付けてね!」

 

と、いうわけで俺たち3人は面倒ごと(茜に付き合う)ことを一番上の姉に押し付けて逃走したのだった…。すまない…!葵姉さん…!

 

〜学校〜

 

はぁぁ。着いたぁ〜。あの後、急いで学校へ向かった俺たちは時間にも余裕を持って学校に着いたのだった。

 

すぐに生徒達に囲まれた奏姉さんと1人も近寄らない修から離れて俺は教室へと向かう。茜と葵姉さんは間に合うのだろうか。まあ、奥の手があるし大丈夫だろう。

 

ガラッ

 

「あ、おはよー」「今日は茜さん来てないの?」「義兄様と呼ばせてください!」

 

「おはよう…。茜はカメラに苦戦してる。おい、最後のやつちょっとこっち来い」

 

思い知らせる必要があるようだ。妹に群がる虫は排除しなくちゃね?

 

「おはよー。八幡!今日もテンション低いわね。茜は?」

「よう。鮎ヶ瀬。今日もテンション高いな。あいつは週末に変わった監視カメラに悪戦苦闘中だろうな」

「な〜に?茜を置いて来たの?冷たい兄ね」

 

俺に話しかけてくる珍しい奴は鮎ヶ瀬花蓮。茜の幼い頃からの親友であるため、兄の俺とも割と話す。なんか声が聞いたことあるような気がするんだよな。どこか別世界で。

 

「いやいや、俺は悪くないあえていうなら世界が悪いな」

「なんで、世界が悪いとかそんな厨二病発症してるのよ」

「いやいや、俺は悪くないあえていうなら世界が悪い」

「ループする気か⁉︎」

「いやいや、「もういいから!」あっそう」

 

つまらん。

 

「ところで鮎ヶ瀬。なんか用か?」

「んー用っていうか。茜と一緒じゃないのかな〜って」

「そんな兄妹だからといっていつでも一緒いるとは限らないだろ?今日はそういう日だったんだ。それだけか?」

「ならそろそろ花蓮って呼んでもいいんじゃない?」

「断る」

「即答っ⁉︎なんでよ!もう何年の付き合いしてると思ってるの!」

「だが断る」

 

そんな恥ずかしいこと出来るか!そこ!登校途中でそれより恥ずかしいことをしてるとか言わない。登校中には何も起きてない。いいね?

 

「そっか…。仲良くなってるって思ってたのは私だけだったんだね…」

 

グスッ

 

ええっ!泣くの⁉︎いや待て不味いぞ!こんなところをあいつに見…「八幡?」られましたね、はい。

 

ギギギっとまるで錆びてしまった機械のように俺は後ろを振り向くと、そこには般若が立っていた——。ぎゃー!

 

「ねえ?なんで花蓮が泣いてるの?ねえ?八幡が泣かせたの?私の親友を?ねえ?聞いてる?」

 

ひぇぇ(震え)。激おこですね。わかります。ハイライトさん!仕事して!

 

「グスッ。八幡がね、名前で呼んでくれないの…」

 

あ、ちょ、おま。

 

「ふーん。八幡はなんで呼んであげないの?」

 

今の『ふーん』はヤヴァイ。感情が一切感じられなかった!しかも真顔だぜ?怖すぎるわ!

 

「あ、いや、俺と鮎ヶ瀬あんまり仲良くな「ん?」…いなんてことありえないですよ!もう学校の中で一番親しい友人といっても過言ではないですよ!ええ!」

「友人か〜…」

「なら呼べるよね?」

「イエス!ユアハイネス!」

「なら呼んで?」

 

今逆らったら殺されるんじゃないか?おれ?周りを見てみろよ。クラスメイトの皆さんいつの間にかいないじゃないですか。先生だってさっき来たのに「ごゆっくり〜」とかいって引っ込んだしさぁ!なんて日だ!

 

「呼ぶ」

「ひゃいぃ!…か、花蓮…」

「!な、なにかな?八幡?」

「ん。よし。一件落着だね」

 

霊圧がもどった…だと…!どうやらおれは九死に一生を得たらしい。生きるって素晴らしいね!花蓮さん…顔赤くなるくらいに怒るなら呼ばせなくても…。それと、薄情者なクラスメイト諸君。逃げるってなんなの?(ブーメラン)

 

こうして、俺は花蓮と呼ぶことになったのだった。あと、茜を怒らせてはいけない、ゼッタイ。

 




この話4444字だって。偶然ってすごい。

次回、八幡の能力が判明⁉︎

やっべぇよ…。能力どうしょ…


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特番「ダンディくんを救え!」

今回はアニメにあったイベントの話ですね。
八幡の能力がでます。

追記
八幡の能力名忘れてたので修正しました。



「疲れた〜」

 

朝のHR(という名の拷問)も終わり、隣の席の茜が机に突っ伏していた。こっちの方が疲れたわ。心労的にも肉体的にも。

 

「なんであんなにカメラばかりなの〜?」

「安全のためだからしかないでしょ?いい加減なれたら?」

「む〜。そうなんだけど〜。選挙のためにも使われるなんて嫌だとしか言えないよ…」

 

さて、今朝話した監視カメラのほかの使い道の1つとして、今茜が言った選挙活動に使われるという役割がある。

 

選挙活動といっても政治家のような一般市民の人から選ぶというわけではなく、櫻田家の兄弟にしか適応されないものなのだ。

 

そう、それは次期国王決定選挙である。

 

おいおい父さんよ、貴方まだまだ働けるでしょう?とか心の底から思わないでもないが、事の始まりは俺と茜が高校入学を控えた春休みから始まった—————。

 

————————————

〜四月〜

 

「国王選挙をやるぞ〜」

『はい?』

 

俺と茜の高校の入学式を来週に控えた櫻田家では、家族会議が行われていた。ちなみに、今の父さんの言葉が第一声である。軽くね?

 

『ええええ〜〜〜〜〜〜!』

「ははっ。お前達は仲が良いな。良い事だ」

「そうね。総一郎さん」

 

バカップルやってる場合か⁉︎

いや待って!色々聞きたいことがありすぎて、渋滞してるんだけど!

 

「なんで今?茜と八幡が高校に入学を控えている状態よ?」

「ああ。言い方が悪かったな。国王選挙の投票を行うのは、3年後の八幡と茜が卒業する時期だ。そのころには、みんなも大きくなっているし、王政を任せられるだろう」

「じゃあ、3年間なにするの?」

「みんなには選挙活動をして貰おうと思う。演説をしたり、挨拶回りをしても構わない。力を尽くしてほしい」

 

ええ…。やる気でないな。そもそも、だ。俺は参加して良いものなのだろうか?めんど臭いし、辞退を…

 

「ちなみに、辞退などは受け付けられないからよろしくな」

 

父さんがこっちガン見してくる。読まれてますやん…。

 

「辞退は認めないが、誰かのサポートに回ったりするのはありだ。投票して欲しくない場合は選挙活動をせずに、いつも通りに過ごせばいいからね」

 

なら、俺には一切票なんか入らないだろうな〜。やったぜ!いつも通りに過ごすしかないですね、これは。

 

「それでだ、一週間後にテレビ撮影するからよろしく」

 

…え?テレビ?

 

その日、櫻田家では大声が響き渡ったとか…

 

 

 

〜一週間後〜

 

『さて、始まりました。《今週の櫻田家》。今日は、特番でお送りしたいと思います』

 

選挙やるよ宣言から一週間後の今日、櫻田兄妹が勢ぞろいし、1つのビルの前に並ばさせられていた。

父さんが選挙活動の開始を宣言した日からテレビのニュース番組などで《今週の櫻田家》とかいうコーナーが出来ていた。監視カメラを通して、王族の日常を垣間みようというコンセプトのコーナーらしい。プライバシー仕事して!

 

『本日は王族であり、特殊能力をお持ちになっている櫻田兄妹の皆さんのことを知ってもらうことを目的としたレクリエーションとなっております』

『さて、気になるレクリエーションの内容は……【ダンディ君を救え!】です。ルールを説明いたします。屋上に置かれたダンディ君人形を回収し、皆さんの名前が書かれたカゴへ入れてください。回収した人形の数の分だけ得点となります』

 

おい、誰だこんな面倒な企画考えたやつ!巫山戯んなよ!出て来いや!

 

『では、今回の企画を提供して頂いた現国王である櫻田総一郎様より、ご挨拶です』

『やあ、皆んな元気かい?今回のイベントは皆のことを知ってもらうために、企画したものだ。頑張ってほしい』

 

父上殿でしたかー!生意気言ってすいませんでした!しかし、やはり面倒なものは面倒である。これは、サボるしかないな、うん。

 

『得点が低いものには罰ゲームとして、王宮のトイレ掃除してもらうからそのつもりで。では、健闘を祈ってるよ』

 

ちょっ!罰ゲーム⁉︎しかも王宮のトイレ掃除とかどんだけあるんだよ…。これは否応にも最下位を避けなくてはいけなくなってしまったではないか…!

 

『制限時間は20分です!皆様、準備はよろしいですか?では、【ダンディ君を救え!】開始です!』

「僕はこのビルを登ります!」

 

まず、最初に動き出したのは輝だった。やる気が満ちてるな〜。

輝はビルへと近づくと、壁を掴み登り始める。

 

『おおっと!まず動き出したのは四男である輝様です!輝様の能力は肉体強化〈リミットオーバー〉。大人顔負けの力を発揮できます』

 

いや、知ってもらうためとは言え、ビルの壁登るとか危ないことするなよ!落ちたらどうすんだ!俺は気が気でなくなっていると、輝 が 手 を 滑 ら せ た。まずいっ!

 

「修っ!」

「あいよっ!」

 

名前を呼ぶとわかっていたのか、修はその場から消え、落ちかけている輝のすぐ側に現れ、輝とともに消える。

はあ…。心臓に悪いわ…。マジで。

 

隣に現れた修と輝を見て安堵の息が漏れた。

 

『ただいま、ハプニングがありましたが、長男の修様によって大事には至っていないようです。修様の能力は瞬間移動〈トランスポーター〉自分と触れているものを瞬時に移動することができます』

 

ズビシっ!

 

ポカンとしている輝に軽いチョップをいれる。驚いた顔で見てくる輝に俺は視線を合わせるためにかがんだ。

 

「輝、お前がその能力で栞や母さんを守ろうとしてくれているのはわかる。だが、能力を過信し過ぎると今みたいに危険な目にあうことがあるんだ。お前が危険な目に合うと俺たち家族全員が心配する。お前は、家族を悲しませたいか?」

「いえ、、、そんなことはありません」

「なら、今みたいな危険なことはあまりしないで欲しい。母さんも言ってたがお前の能力は周りの大事な人が危ない目にあった時のために使うんだ。でも、いざという時に使えないと仕方がないから、その能力を使う時には細心の注意を払って使うんだ。お前が誤って人を傷つけないために」

「はい!兄上!僕は守るために力をつけます!」

「おう。お前なら出来るよ」

 

輝の頭を撫でる。今からそんなに焦る必要はない。お前は立派になれるんだから。という思いをこめて撫でておく。

 

『グスッ…。次男八幡様のありがたいお言葉でした…』

 

ん?今なんか言ってた?撫でることに集中してて聞いてなかったんだけど。

 

「次は私が行くねー!この木でいいかな」

 

光が手を挙げ、街路樹の方へと近づく。やり過ぎそうな予感だな。

光が木へと登り、能力を行使する。するとでかくなるわでかくなるわ。なんということでしょう!ただの街路樹がビルよりも高くなってしまったではありませんか!

 

『五女光様の能力は、生命操作〈ゴッドハンド〉。生物の成長を一時的に変化することができます。ですが、これは…?』

「うわ〜ん!高くし過ぎたぁ!」

 

すまない…妹よ。兄は助けにいけないのだ。許せ。これで、最下位はなくなったな(ゲス顔)。

 

「よくよく考えると自分で取りに行くとか面倒ですよね」

 

そんな言葉を発したのは猫かぶり中の奏姉さんである。それすごい同感なんだけど。

奏の周りに光(妹ではない)が現れ、形を成して行く。うわっ!目が!目が〜!大佐ごっこは置いといて、光が収まり現れたものはドローンであった。スゲー。

 

「お願いしますね」

 

奏姉さんの命令でドローンが四機飛び立って行く。声で動くとかハイテクだな。

 

『次女奏様は物質生成〈ヘブンズゲート〉。生物から空想ありとあらゆるものを生成することができます。便利ですね〜』

 

便利なのだが、デメリットは知らないのだろうな。知ってたら便利とか言えないし。

 

「ねえ、かなちゃん。今のはおいくらほど…?」

「そうね。一台10万円くらいかしら?安いものね」

 

そう。生成したものの値段分奏姉さんの口座からその額が減るのだ。金を持ってないと出来ないわ〜。ちなみに、姉さんは株やらFXやら色々やってるらしい。お小遣いが欲しいです、お姉さま!代わりに俺の分も1つ取ってきてくれないだろうか。

 

「やらないわよ」

 

いつのまにか奏姉さんはこちらを呆れた顔で見ていた。なぜバレた?

 

「貴方の顔はわかりやすいのよ。可愛い弟のためならやっても構わないのだけど、それは貴方のためにならないからやらないのよ?わかって?」

 

なんか俺がめっちゃ聞き分けの悪い奴みたいになってるんだが…。あと、自分の株を上げたな。実の姉ながらやりおるわ!

 

というか、このゲームって修とかめっちゃ楽だな。一瞬でいけるし、ビルを登る必要もないしな。あ、登るで思い出したが輝は中から行くことにしたようだ。

 

「よ〜し!私もそろそろ行くよ!よろしく!私達!」

 

『四女で三男の遙様と双子の岬様の能力は感情分裂〈オールフォーワン〉。最大7人の岬様の分身を生み出すことができます』

 

6人の岬がビルの中へと突撃していく。ん?6人?岬(本体)はそこにいるし、1人誰か分身してないのか?

 

「なに遙にくっ付いてるの⁉︎」

「だって…眠い…zzz」

「寝るな〜!遙も!なんで抱きつかれたままで鼻の下伸ばしてんの!」

「いや、鼻の下は伸ばしてないし…」

「ほら!行くよ!」

「うぇぇ〜眠いよ〜助けて遙〜」

 

ズルズルと引きずられて行く岬(分身)と岬(本体)を見送った。

遙ってムッツリそうだよね。やーい!ムッツリ〜!

 

「兄さん。今何か不名誉なこと思わなかった?」

「なんにも?なに?能力使った?」

「いや、こんなことには使わないよ。ただの家族としての勘」

 

『三男の遙様の能力は確率予知〈ロッツオブネクスト〉。あらゆる可能性の確率をパーセント形式で予知を行います』

 

この家族は勘のいいやつが多いぜ。

そろそろ行かなきゃダメか?最下位にならないために1つくらいは取りに行った方がいいだろうしな。

 

そうこう考えているうちに、遙に煽られた茜が遙を連れて飛び立っていく。ああ…、王宮のトイレの数に気付いてなかったのね。

 

『三女の茜様は重力制御〈グラビティコア〉を使用できます。茜様自身と触れたものの重力を操れますね』

 

働きたくはないから行くか、と思ったら栞が消火栓の前で困っているようだ。そこに近づくと同時に葵姉さんも来た。

 

「…え?職員用の通路?ごめんなさい。よくわからない」

「どうした?栞?」

「あ…。兄様、姉様。道を聞いたけどよくわからないの…」

 

『御兄弟のなかで最年少である六女の栞様の能力は物体会話〈ソウルメイト〉です。猫や犬といった動物から無機物まで会話することができます。可愛らしいですね』

 

おい、実況者!いいこと言うじゃん。あなたとはいい酒が飲めそうだ。未成年だけど…。

 

「なんて言ってたの?栞」

「えっと…職員用の通路、その奥のエレベーター、3階で乗り換えって」

「うん。それなら、分かるわ。ここは一度職場見学で来てるから」

「はー。さっすが葵姉さん。栞〜、やっぱり姉さんはすごいな」

「うん。姉様は、すごい」

 

『長女の葵様は完全学習〈インビジブルワーク〉。一度見たことは忘れません』

 

完全学習…ね。それって、頭がいい人なら特に違和感ないんだよなぁ。ただただ、姉さんが頭がいいと言うだけなのでは?という疑問を長年抱えているが、話すつもりはないのなら無理して聞く必要もないな。

 

さて、いい加減にいかないとカメラに晒され続けるという面倒なことになってしまう。行こう。と、足を出したところで服の裾にかすかな抵抗を感じた。

ん?と後ろを見てみると俺の服を掴んでいる栞の姿があった。先ほどの輝と同じように背をかがめる。

 

「どうした?栞?」

「兄様と一緒に行きたい…ダメ?」

 

グハッ!上目遣いとか俺の心にクリティカルアタックだ。可愛すぎんだろ!この子俺の妹なんだぜ!羨ましいだろ〜!絶対に嫁にはやらん!

 

「兄様?」

「あ、ああ。一緒に行こうぜ、栞」

 

頭をポンポンと撫でると、栞は目を細めて受け入れている。マジヤバ!写真に収めたいわ〜!ロリコン?いいえ、シスコンです。

 

「むぅ。私もいるんだけどな〜」

「姉様も撫でられたいの?」

「え?いや、そういうわけじゃ…」

「兄様、姉様も撫でてあげて」

 

栞の頭を撫でることに集中しすぎて、なんか話がすごい勢いで進んでいってた。え、なに?撫でるの?俺が?姉さんを?ちょっとそれは…。

 

「ダメなの…?」

「姉さん、こっち来て」

「ええっ!八くん⁉︎」

 

栞に頼まれたら断るわけにはいかないでしょう⁉︎仕方ない仕方ない。これは、お願いなのだから。許されるよね?

 

「姉様…。早く」

「…はい。八くん…?優しくしてね…?」

 

可愛すぎんだろ(2回目)!不覚にも姉にときめいたわ!心臓バックバクしてるよ!家族じゃなかったら惚れて告白して、振られるまである」

 

「は、八くん?う、嬉しいんだけど、恥ずかしいよ…」

 

そこには、顔を真っ赤にした姉さんがいた。どうやら、声が漏れていたらしい。うわぁぁーーー!殺せ!俺を殺してくれぇーー!いや、いっそ自分から死ぬ!

 

バシッ!

 

「あたっ」

 

痛みを感じ、そこを向くとふくれっ面と涙目になった栞がいた。誰だ!泣かしたやつは!

 

「兄様、死んじゃ、や」

「へっ?いや、俺は死ぬ気もないが…」

「だってさっき、『いっそ自分から死ぬ』って…」

 

話しているうちに栞の涙が流れて来てしまう。まさか、能力が漏れたのか?久しぶりにやっちまったな…

 

『ここで、二男の八幡様の紹介もしておきましょう。能力は、以心伝心〈シンクロニシティ〉半径1キロ以内の人物と交信できます。ただ、八幡様はこの能力はあまりお使いにならないようですね』

 

そう。俺の能力はざっくりいうとテレパシーというやつだ。制御してる時は、指定した奴と交信が出来るのだが、さっきのように心の均衡を崩すと勝手に交信してしまい、俺の考えてることが漏れたり、人の考えてることがわかってしまう。幼い頃は、制御出来ずこれのせいで苦労した結果として、若干目が腐ってしまった。

 

そんな俺のことより、栞をなだめないとな…。

 

「ごめんな、栞。変なことを言って。アレは照れ隠しというか、ごまかしというか、とにかく本当に死のうとかは考えてないから、な?」

「冗談とかでも、やだ」

「本当にすまなかった。心配してくれてありがとうな」

 

なでり。

 

お詫びの心で頭を撫でる。あーあ、気をつけなくちゃな。

 

「よし、行くか」

「兄様、まだ終わってない」

 

ん?まだ撫でられたりないって?可愛い奴だなぁ。栞が指を指しているのでそっちを見ると地べたに座り、顔が真っ赤になって、あうあう言ってるポンコツと化した葵姉さんがいた。あ、忘れてたわ…。

 

「なあ、栞よ…。本当にやるのか?」

「ん」

 

こくり、と頷く栞。やらない限り、先へ進むことはないようだよ。もう、ヤケクソだよね。俺は覚悟完了!し、葵姉さんのもとへいく。

姉さんは近づく俺に気付いたらしく、顔をあげる。顔がまだ赤いな。多分、俺の顔もだいぶ赤くなっているのだろう。ああ、黒歴史が増えていくよ…。

 

姉さんの頭に手を置き、撫で始める。チラッと栞の顔を伺うとまだ十分ではないらしい。顔を横に振られた。姉さんは、もうそろそろ人語を介することも出来ないレベルに突入している。もうこの時点で、黒歴史なのでぶっちぎってやる!言いたいこともあったしな。栞には聞こえない声量で語りかける。

 

「姉さん…。とりあえずでいいから聞いてほしい。俺には姉さんが、なにを抱えているのかはわからない」

 

葵の体がピクッと動く。落ち着いてきたようだ。

 

「それでも、俺たちは家族だ。いつかでいい。1人で抱え込まないで相談するなり、頼ってほしい。それだけ」

 

あ〜!顔が熱い!最後ですげー恥ずかしくなったわ!これでいいだろう、と栞の方を伺うとうんうんと頷いていた。精神の方に異常なまでのダメージを負った俺はよろよろと立ち上がる。

 

栞の補助を受け葵姉さんも立ち上がる。こっちもよろよろしてるよ…。

 

「八くん…。ありがとうね」

 

その笑顔を俺は一生忘れないだろう。

俺と葵姉さんの間に栞が入り、3人で手を繋いで屋上へと向かった。

 

ちなみに、最下位は木を成長させすぎた光と、遙のセクハラによって暴走した茜であった。俺?自分のは1つだけ取ってきて他のは栞と輝のところに入れたよ?

 

そして、撫でてる時からカメラのことを忘れて、バッチリと栞と葵姉さんを撫でているのが映っており、問い詰められたのはまた別のお話。

 




葵と栞のところが書いてて一番楽しかった…。
八幡の能力に関しては賛否両論あるかもですが温かい目で見ていただけたらと思います。


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時として人はヒーローになる

一週間ほど空けてしまいました。
感想・評価ありがとうございます!

皆さんには憧れたヒーローがいますか?



そんなこんなで始まった次期国王決定選挙であるが、現状ではやはりというかなんというか長女である葵姉さんがぶっちぎっている。

俺にも投票権があるなら確実に葵姉さんに入れるのではないだろうか。年齢達してないから権利はまだないけどな。

 

というかこれってただの人気投票じゃね?と考えてはいても口には出さない。だって、ねぇ?人気投票なら俺に票が入ることはないから俺が王様になる可能性もないしね。

人気投票じゃなくても入らないだろうが…。あれ?なんか目から汗が…。

どこぞのアイドルのセンターを決めるようなじゃんけんじゃないだけマシだろう。そんな国あったら迷わず脱出するわ。

 

昼休みをお昼を食べようと誘ってくる茜から逃げ、人が来ないであろう校舎裏に1人で(ここ大事)弁当を食べていた。

友達?そんなのいねぇよ。茜は妹だし、鮎ヶ瀬は話すとはいえ妹の友達だろ?よって、僕は友達がいない。略してはがない。さらにかっこよくいうとFriend/zeroである。Q.E.D。こんな悲しい証明したくなかったわ…。

あと、テニスしてる女子がいた。遠目で見えただけでしたが可愛かった(小並感)。

 

「楽しい時間ってあっという間よね…」

 

時は流れ、現在放課後である。え?授業?書くことなんて別にないわな。

なんか茜が机に突っ伏している。学校が終わるのをこんなに嘆くのってこいつくらいだよなぁ…。

俺は早々に帰りたいがためにさっさと帰りの準備をしている。栞のために舞いもどろう!待っていろよ!栞、輝!今から帰るぞー!

 

内心でテンションを上げてるとにわかに教室の外が騒がしくなってきているのを感じた。…なんだ?有名人でもいた?

俺のシックスセンスまたの名をアホ毛センサーがすごい嫌な予感をもたらしている。パターン青!来ます!

 

ガラッ

 

「茜〜八くーん、迎えに来たよぉ」

「あ、お姉ちゃん」

 

本当に有名人だったよ…。

教室に入って来た人を見て俺は108つある特技の1つ「ステルスヒッキー」を使用し、気配を消しながら教室からの脱出を試みる!気分はダンボールで隠れる○ネークさんだ。

…クク。葵姉さんは有名人な上に人気だからな。こんな一年のフロアに来たら取り囲まれるに決まっている。そのうちに離脱だ!

 

「あれ?茜、八くんは?」

「えーと、あれ?さっきまでそこにいたんだけどなぁ?おーい!八幡?」

 

気付かれた時には葵姉さんが入って来た扉とは逆の方の扉に来ていた。よって、このまま逃走だ!ふははは!あばよ!とっつぁーん!

我ながらテンションがおかし過ぎるな…。

というか、あんたらと帰ったら人の視線で死ぬまであるわ。

 

脱兎のごとく一目散に駆けだした俺は、昇降口までくればもう安心だろうと速度を緩める。俺を捕まえようなど100年早いわぁ!

 

まさか、この言葉がフラグだったとは、すぐそこまで来ている絶望を俺は知る由もなかった…。

 

——————————

 

皆さんこんにちは。櫻田家の八幡といいます。現在は学校も終わり、姉の葵と妹の茜と共に帰り道を歩いています。右に茜、左に葵姉さんによって腕を組まれながら。

すれ違う人とか、周りの人の目線が生暖かい。何故だ、なぜこうなった…?

 

「それは、八幡が逃げるからでしょー?」

「いや、あれは逃げたわけじゃ…なんでもないです」

 

なんで心が読まれてるんですか!

妹からの圧力に負ける奴ー。私です。あと、姉さんが嬉しそうにしている。何故だ。

さて、教室から脱出を成功した俺がこうして確保された宇宙人ばりに連行されているのかというと、昇降口で俺は捕まった。

靴を履き替え、よし行くかと出入り口の方を向くと腕を組んだ修羅(茜)がいつのまにかいたのだ。よし、引き返そうと後ろを向くと苦笑いした女神(葵)が。つんだぞ…これ…。

そうして、学校から今に至るまでこうして連行されているのだ…。ちょっと?俺の精神的ライフはもうゼロよ!

 

ちなみに、なぜ茜が先回りできていたか聞くと

「え?教室の窓から直接飛んで来たんだよ〜」

と、おっしゃった。チートや!チーターや!

 

俺がこの2人からどうやって逃げようか思案しているうちに大通りへとやって来た。というか、この2人力強すぎない?全然外れないんですけど…。

 

ここらで、俺の努力(逃げるための)を振り返ってみよう。

 

part1

『あ、学校の机に忘れ物したからとってくるわ。先帰ってて!』

『八幡の机に忘れ物がないかは私が確かめたけどなかったよ?』

『あっそう…』

 

兄妹とはいえ持ち物把握されてるのは怖いわ…

 

part2

『あー!そうだ!アレがアレであれだから約束が入ってたんだったわ〜忘れてたわー。というわけで行ってくる』

『『友達がいないのに予定があるわけない』』

『家族が声を揃えていうことか⁉︎泣くぞ!』

『というか、アレだけで行けると思ったの?』

 

俺の必殺技part2『用があるかのように振る舞う』失敗。

 

part3

『ちょっとトイレ行ってくるわ』

『あ、うん。待ってるね』

〜〜〜

どこかのトイレ

『さて、と。……窓から逃げるか』

『父さんもやってた手だしな。行けるだろ』

 

窓から出る。

よし、誰もいな『八くん?』

おおっーとぉ?なんか聞こえちゃいけない声が聞こえたような気がするなー?

 

『こんなところで奇遇ですね!…葵お姉様』

『そうだね。ところでトイレの出口はこっちじゃないよ?』

『すいっませんでしたーーーー!』

 

ずっと笑顔だったのに恐怖を感じたよ…。

 

—————————

 

こうして、最終的に両腕を抱えられて連行という形をとることになったそうな…。俺、考え読まれすぎじゃね?父さん!窓から逃げれないじゃん!

 

と、我が父に内心で愚痴っていると前方が何か騒がしい。なんかイベントでもやってんのか?プリティでキュアキュアなの?そういえば、今のプリキュ◯ってN◯Kでマイ◯ちゃんやってた子が声優やってるんだってね。時代を感じた。

 

「ど、どけ!!」

 

考え事をしながらその集団に近づくと焦ったような声で帽子にマスク、サングラスをしたおっさんが集団を抜けこっちに走って来た。

しかもご丁寧に全身黒い服とか怪しさMAXだな!正直、全く関わりたくないな。

 

その男が俺たちの横を通り過ぎた後に先ほどの集団の中から1人の女性の声が聞こえた。

 

「捕まえて!ひったくりよ!」

 

あ、やっぱり?しかし、俺には先ほどのおっさんを捕まえることが出来るような能力は……使いようによっては出来たわ。

 

「正義は必ず……」

 

しかし、そこは適材適所。すでに俺の隣では茜がクラウチングスタートの準備が終わっている。さあ、お前の罪を数えろ!

 

「勝ーーーーつ!!」

 

ズドンッ!!

 

アスファルトを削って、異常なまでの速さで茜はひったくり犯を追いかけて行った。はえー。俺はどうしようかなー。帰ろうか?

と、考えてると左腕が引かれる。

 

「茜が無事か確かめなきゃ!」

「ええー…茜なら大丈夫だろ。むしろ、ひったくり犯が怪我しないかが不安なまである」

「いいから」

 

と、茜が追って行った方へ走り出す。葵姉さんは心配性だなー。ま、逆らえませんよね〜。

 

茜を追いかけ、道を曲がったところで茜がライ○ーキックをかまそうとしてる場面に遭遇する。あれってパンツ見えるんじゃね?

 

妹が恥をかくのは兄としても許すべき事柄ではないために俺は能力を使う。

 

『茜、そのままだとパンツ見えるぞ』

「八幡⁉︎えっ!うそ!」

 

ババっと茜はとっさにスカートを抑える。俺の助言のおかげで妹は痴女にならずに済んだようだ。ふぅ…いい仕事したぜ…!

 

俺がやり遂げた顔をしていると隣にいる葵姉さんが茜の方を見てあっという声を上げる。なんだなんだと視線を向けるとひったくり犯の顔面に茜のニーが突き刺さっていた。oh…。

 

あかねのとびひざげり!

きゅうしょにあたった!

ひったくりはんはたおれた!

 

ひったくり犯はその場で伸びている。そりゃそうなるわな。というか、今のは流石にエグい攻撃だわ。

葵姉さんが俺の腕を離し、茜の元へと駆けていった。

いや、ほら、アレですよ?テレパシー使わなかったらあのままだったら妹のパンツが全国放送されちゃうし、それを防いだ俺は感謝される側ですよ?それに、奇跡のタイミングで後ろを振り返った犯人も悪いし、今時の女子高生の膝に触れられたから良かったと思うんです。不可抗力です。すいません。

 

警察やらが事件の匂いを嗅ぎ付けてやってくる。嘘、通報されて来ただけだろう。人も増えてるし、目立ちたくないし、インタビューなんて巻き込まれたくもないから俺はここらでドロンしよう!そうしよう!

 

そうして俺は2人を置いて帰宅した——。

しおりー!てるー!遊ぼうぜー。

 

結果として帰宅した般若達から説教を受けました。なんだよ…俺がなにしたってんだよ!俺は…王族の次男だぞぉう!俺は悪くねぇ!嘘ですごめんなさい振り上げた手を下ろしてください置いて行ってすみませんでした!

 

この家の人はみなテレパシーが使えるのか?

という疑問が残った時間でした…。

 

————————————

 

『こんばんは。櫻田ファミリーニュースの時間です』

『なんと本日、茜様がひったくり犯を捕まえました!下校途中にたまたま出会っただけですのに、茜様の勇気には驚嘆するばかりです』

 

「あー!茜ちゃん映ってる!いいなー」

 

基本的に夕方のニュースの時間でこの家のことは放送されている。どうやら今日の件はバッチリカメラに捉えられていたようだ。

というか、インタビューなのに茜が制服のブレザーを頭から被ってるせいでこいつが捕まったんじゃね?感が溢れている。となりに姉さんがいなければ完全にそれだな。ジャミラだよな。

 

「全然よくないよ!八幡に言われなかったらここからさらに下着が映っちゃうところだったんだよ!」

「え?八くん…茜ちゃんの下着見たの?興味あるなら私の見る?」

 

光が痴女みたいなことを言いながら、着ていたスカートの裾をちょっと上げていく。おいおい…

 

「おいこら、見えるかもってだけだ。見たわけじゃないぞ。それに妹の下着とか見ても何も思わんし、みようとも思わん。興味持ったらいろんな意味で終わりだろうが」

 

全く!けしからんぞ!お兄ちゃんそんな子に育てた覚えはありませんよ!

なんでか、茜と光は残念そうな顔をしている。いや、本当になんで?

ただ、チラッと見てしまったのは許してほしい。足が綺麗だなーとかおもってませんから!

チラリズムには耐えられない。これが男の性か!

 

「ちなみに何色だった?」

「白だな。ちょっと狙いすぎなところがあるがまあ、それはそれで」

「は・ち・ま・ん?」

 

…………………………あ、やべ。鬼神(茜)の前で口滑らせた。

 

「おおっと、これから栞と輝を愛でる時間だ。ここで失礼させてもらうよ」

 

櫻田八幡はクールに去るぜ。

 

「待ちなさーーい!!変態!栞と輝の下着も見る気⁉︎」

「言いがかりだ!」

 

壮絶な鬼ごっこ(捕まったら死)の幕が上がる…!

 

「……あれ?茜ちゃんパンツ結局写ってるじゃん」

 

身体中ボロボロになって帰ってきた俺に光はそう告げたのだった…。(茜の尊厳を)守れなかった…!

というか、逃げきれるわけないじゃないですかやだー。

 

——————————

 

「あ、八兄〜。妹の下着に興味あるって本当?」

 

リアル鬼ごっこの翌日、部屋にいた俺に岬が聞いてきた。

 

「え?兄さん?」

「いや、あの岬さん?それどっから聞いたの?あと、そんな趣味はないから。あと、遙、ドン引きしないで」

 

俺の部屋には本が大量にあるために、遙も時々読みに来るのだ。ちなみに、部屋割りは葵姉さん、奏姉さんが1人部屋。遙と岬、修と輝の2人部屋。俺、光、茜の3人部屋である。あ、ちゃんと仕切りは付いているのでハプニングは殆どない。

 

「そっかー。それはそれでつまらない…。遙はー?」

「ない」

「興味あったら異常でしょうよ」

「葵姉とか奏姉のは?」

 

あの2人かー。どんなの着てるか気になるかと言われたらそれは気になる。だってねえ?誘惑出来そうなやつとか着てたら相手を探し出して殺…じゃないお話しして処理しなきゃいけないしね。手を出す奴には裁きが下るだろう。妹に対しても同じな。

 

「……………ねぇよ」

「すごい迷ったね…。あ、茜姉のは?」

「ハッ」

「鼻で笑った…⁉︎」

「いや、だってあいつの下着とかぶっちゃけ見慣れてるからな。特に興味もないな。あと、子供っぽい」

「「あ…」」

 

どうしたのだろう。思いいたるところがあったのかな?なんか汗かいてきてない?そんなに今日暑いか?

 

「洗濯の当番とかになった時は光とか岬の方がまだ大人っぽいの履いてるよなーとは思った。遙はどう思う?」

「い、いや、ノーコメントで…」

「?なにを気にしてるんだ?お前がムッツリなのは知ってるぞ?」

「え!…遙」

「いや待って、岬。体抱えてさがらないで。誤解だから。違うから」

「必死になるところが怪しい…」

「兄さんはそうやって僕を陥れようとしないで!」

「んで、なんの話だっけ?茜が子供っぽいだっけ?」

 

ぽんっ。

 

「ん?誰だ?しお…り…か?」

 

肩をたたかれたのでうしろを向く。あ…死んだな。だって、阿修羅の後ろにfateの武蔵ちゃんの宝具発動時にいるお方がいらっしゃるもの。

 

「いつから聞いてた…?」

「『妹の下着に興味あるって本当?』」

 

あっ…(察し)。これ最初から詰んでたやつだわ。言い訳も出来ないわ。アッハッハァ…。

 

「八兄の顔が死んでる…⁉︎(大丈夫かな…?私、大変なことしちゃった?)」

「ダメだ!岬!僕らにはなにも出来ない…!(巻き込まれてたまるか…!)」

 

かっこの中は俺が能力使った。遙め…!ムッツリの噂を広めてやる!生きて帰れたら!そうだ!これを茜にも使おう。突破口が開けるかも!

さて、どうだ?

 

「…………………(……………………)」

 

そこには圧倒的無が存在した。

なん…だと…⁉︎なにも考えていない⁉︎心を無にするほど怒り狂っているというのか…!極致に至ったな茜。

 

俺の冒険はここまでのようだ。

いい夢みろよ!

 

俺の意識は暗くなっていった…。

 

 

「私の下着に興味あるのかしら…?」

 




悪ノリが過ぎたかも…

私が好きなヒーローは仮面のライダーさんのハーフボイルドな人です。


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光の回…だったはずなんだ!


感想、評価、お気に入り登録、ありがとうございます!
本当は光の回だったはずなんですよ…?だけど書いているうちにほとんどとある人の回になってます。

6/12の日間ランキングの3位にまさかのランクインしてましたよ…⁉︎
あれもこれも皆様のおかげでございます!
これからもよろしくお願いしますね!



 

『あいつがあの…』

 

『王族だからって調子乗ってるんだろ?』

 

『あの子がいたからでしょ?』

 

『まさかねぇ…』

 

あぁ、頭がイタイ。何を言っているかはワカラナイ。ただ、ヨクナイ感情が向けられている。

俺が何をシタ?いや、ナニモしてない。

ワカラナイ。ドウシテ、俺に向けられているのか。ドウシテ俺はイキテイル?

 

ーーナンノタメニ、オレハイキテイル?

 

—————————

 

「今週の当番を決めるよ〜」

 

櫻田家では年長組である葵姉さん、修、奏姉さん、茜、俺がクジ引きで家事の割り当てを決定している。ちなみに内容は料理、掃除、洗濯、買い物、休みの5つ。

5人以外の者は各自でお手伝いを行うというのがこの家のしきたりである。

 

さて、引こうか。休みこい休みこい休みこい休みこい休みこい休みこい休みこい休みこい休み。

 

「そんなに必死に念じなくても…」

 

「顔が怖いぞ、お前ら」

 

葵姉さんが苦笑している。失礼な。目は腐っているが、割と顔はマトモだぞ。休むためなら全力で挑むそれが俺だ。

 

「修ちゃんうるさい。私のこれからが掛かっているんだから邪魔しないで!」

 

さすがにここまでではないけどな。俺の隣で鬼気迫る顔をしている茜がいる。すげぇ気迫だ。

そう、茜がこんなにも必死なのにはワケがある。買い物だ。必要最低限しかカメラに映ろうとしないこの妹は買い物だけは本気で嫌がるのだ。

 

「5分の1の確率であたりなんだから大丈夫だろ?俺なんて5分の1でハズレだぞ」

 

「モノグサと一緒にしないで」

 

辛辣ぅ。ちょっといまのは心にくるな。泣きそう。泣かないけど。

 

「それじゃ、引こうか」

 

『せーのっ!』

 

5人で一斉に引く。俺の手元には洗濯が。うーん…休みが欲しかったんだけどなぁ。ま、いっか。さて、茜は…?

 

「買い物ぉぉぉぉーーーーーーーー!!!!」

 

「「うるせぇよっ!」」

 

ハズレでした。

 

〜☆〜

 

「冷蔵庫にからっぽらしいぞ」

 

「出かけたくないよ〜」

 

クジ引きから多少の時間が経ち、買い物に行く時間になったものの茜は絶望しすぎて動こうとしない。諦めろよ…。

 

「私、今日はカレーがいい!なんなら、買い物一緒に行くよ?」

 

「ええ〜…」

 

「茜ちゃんはカレー嫌いなの⁉︎」

 

「出かけたくないんだってば!」

 

光と茜が口論を続ける。いつになったら行くんですかねぇ?無意味に時間だけが過ぎていく。

 

「もう!この前だってカメラに映って目立ってたじゃん」

 

「そんなつもりなかったし…。これ以上恥を晒したくないよ〜…」

 

恥どころか下着晒してますけどね、というのは心の中にしまっておくべき言葉だろう。今ちょっとうまい事言ったな。

 

内心でドヤ顔していると光が爆弾を落とす。

 

「全国ネットでパンツ見られたんだし気にする事ないのに」

 

「そりゃ、あの時は必死に…え?なんて?」

 

「テレビに茜ちゃんのパンツ映ってたよ」

 

「うえぇぇぇーーー!!!!」

 

うるさっ。光よ、余計なことを言ってくれたな、おい。茜の顔が羞恥心によって赤くなる。リンゴかな?

 

「八幡は知ってたの⁉︎」

 

ほら〜矛先こっちに向くじゃないですか〜。

さて、なんて言おうか。ここで選択肢を間違えると鉄拳制裁が行われるだろう。

 

パターン1 知ってたことにする

 

『知ってたぞ』

 

『やっぱり妹の下着みる変態だったんだ…!殺らなきゃ…!』

DEAD END

 

うーん。殴られそう。次。

 

パターン2 知らないことにする

 

『知らなかったわ』

 

『そ、そう。なら良かった〜』

 

『ええ〜八くん!私が教えたじゃん!』

 

『ちょっ!』

 

『へー?知ってたんだー?嘘つく人にはお仕置きだよねー?』

DEAD END

 

あ、この話題になった時点で詰んでいたんだ…。そして、光がイメージの中でも邪魔をしてくるという。だが、そこがいい!

 

「ねえ?どうなの?」

 

「い、いや?知らにゃかったな」

 

「噛んでるし、顔合わせないし、目が泳いでるし、嘘下手すぎるだろう」

 

ちょっと修は静かに!

だって、どっちにしろ殴られるんならわかりやすい嘘ついた方がまだ罰はゆるいと思わない?

制裁がやってくるのを待つ俺にとっては救いの手が差し伸べられた。

 

「アンタ達って選挙活動する気ゼロよね」

 

今まで会話に全く参加していなかったものの、俺、光、茜、修がいるリビングにいた奏姉さんだ。

女神はここにもいたのか!金の亡者とか思ったことがあってごめんなさい!やっぱり、奏姉さんはツンデレだけどやさしい人である」

 

「八幡よ」

 

「ん?なんかあった?」

 

「俺は兄としてお前を尊敬するぞ」

 

「はぁ?なんだ急に?」

 

急にそんなことを言われても薄ら寒いだけなんだけど…

 

「奏にそんなことを言えるのはお前くらいだ」

 

what?今なんて言った?奏に《そんなこと》言えるのは俺くらい?そんなこととはいったい…?

とりあえずは、奏姉さんの方を見る。あっ…(察し)。

 

「ふーん?八幡はそんな事思ってたんだぁ?」

 

おおっとぉ?顔を赤く染めて怒っていらっしゃる!金の亡者とか言ったのが悪かったのか…。

ついでに光と茜が頬を膨らませている。なんで、こっちは怒ってるんだ?

 

「すいませんでしたぁ!」

 

なんか最近土下座を行う回数が増えてる気がする。しかも、その相手が兄妹ばかりであるという事実に泣きそうだ。どんだけおこらしてるんだよ…。

 

「はぁ…。まあいいわよ。あんたがそういうことを平気でのたまうのは知ってるしね…」

 

許してもらえたようだ。良かった。奏姉さん怒らせるとか葵姉さんの次に何があるかわかったもんじゃないからな。

 

「で、なんの話だっけか?」

 

「選挙活動する気が見られないって話」

 

ああ、そんな話だったな。

 

「そんなことないよ!私はやる気あるもん!」

 

この中では選挙に対してやる気に満ち溢れている光が声を上げる。

 

「でも、光じゃ相手にならないもの」

 

それをばっさり一刀のもとに切り伏せる奏姉さん。いや、まあそうなんだけどね?

 

「そんなことないよ。光も頑張ってるもんね?」

 

「いや、そうでもないかも」

 

「フォローした私のためにも頑張って⁉︎」

 

俺も含めてだけど選挙に向けて何か活動してるのって奏姉さんとやる気が空回りしてる輝の他にいないよな。大丈夫なのか?この国の未来は?候補者の5分の1が特に何も選挙活動してないぞ。

 

「大丈夫だよ!いざとなれば私の能力で票集めなんて余裕だもん」

 

「いや、それは無理だろ」

 

「ええ〜!なんでよ!八くん」

 

「いやだって国民は光の元の年齢知ってるんだから意味なくね?」

 

「あっ…」

 

「それと最終的に見た目で票を入れ始めたらそれこそその国は終わるだろ」

 

オラそんな国嫌だ〜♫オラそんな国嫌だ〜♫

 

「そうよ。見た目で人を引きつけようなんてダメよ」

 

髪の毛を整えている奏姉さんが何か言っている。説得力さん仕事して!清潔感とか最低限の見た目は大事ですけどね。

その点、俺はデフォで目が腐ってるからな。身だしなみとか整えても目で台無しになるまである。

 

「いいもん!将来は私の方がおっぱい大きくなるもん!」

 

話がだいぶ逸れてきましたね。この会話の最初って買い物に行くっていう話だったんだぜ?

 

「はあ?おっぱいは形が大事なの!」

 

「大きさって修ちゃん言ってた!!」

 

ええー(ドン引き)。修よ、おま、妹になんつー話をしてるんだ。ブラコン&シスコンである私でもドン引きですわ。

 

「言ってねぇ!!」

 

ほっとしたわ。流石にそんな事言ってたら兄弟の縁を切ること考えちゃうレベル。

 

「感度だ!!」

 

縁切ろう。

 

「茜ちゃんはどう思…あっ」

 

光さーん!なんであなたはそんなに人の地雷に踏み込んで行くのー!

 

「ごめんなさい…」

 

「謝らないで…」

 

「ごめん…」

 

「やめて」

 

葬式のような空気になったぞ…。なんとかするんだ!俺は何もしないけど!この会話には入れないというか入りたくない。飛び火は勘弁だわ。

 

「俺は感度だから大丈夫だ」

 

ゴッ!!

 

沈んだー!修がフォローでないフォローを茜に入れようとした結果、ぶん殴られて沈んだぞ。あいつ能力も使ったな…。まあ、セクハラしたとはいえ、多少は同情するな。あ、でもセクハラまがいのことを妹にしてるからプラマイゼロかな?

 

「グッ…。は、八幡はどう思う…?」

 

ドサッ。

 

最悪なキラーパス出してきたな!起き上がって言う最後の言葉にしては悪意に満ちてるぞ!この野郎、俺を巻き込みやがった…!

 

「そうだね!八くんの意見も聞かないとー」

 

「そうね。八幡はどっちが大事だと思う?」

 

「どっちかなー?」

 

ヒエっ!最後の人の目が死んでるんですけど!やめろ茜!その目は女がしていい目じゃないぞ!

戦略的撤退をしようとしたものの、すでに囲まれていた。なんて速さなんだ…!

 

「「「どっち?」」」

 

そりゃ、大きい方がいいとは思うもののこれを言ったら茜に殴られるし、形がいいと言っても茜に殴られる。しかも場合によっては光と奏姉さんからも飛んでくる。グーパンが。なんか最近、詰みになる質問多くない?

でもこれって形的にも大きさ的にも奏姉さんの一人勝ちなのでは?と思わないでもないが口に出したら死ぬ(社会的&物理的に)。

よって、その質問から俺は逃げる!

 

「まあ待て。3人とも。そもそも、なんでこの話になってるんだ?」

 

「えっと、それは…?」

 

「あー、茜が買い物に行くのを渋ってたからだっけ?だいぶ話がとんでるわね」

 

「そうだ。んで、現在時刻は午後3時だからそろそろ買い物に行かないと晩飯とか用意が色々出来なくなるぞ?」

 

「それはまずいよ!茜ちゃん!カレーの具材とか買いに行かないと!」

 

「え、あ、ちょっと!」

 

光が茜の手を取るようにして、買い物へ向かった。…計画通り。光が単純で助かったよ…。そのまま純粋に育って欲しいものだ。

さて、俺も洗濯物を取り込もうか。

 

「うまく逃げたわね?八幡?」

 

うげ。そういえばまだいたわ。この人。

 

「な、なんのことかわからんなぁ?奏姉さん?」

 

「光が単純で良かったわね」

 

読まれてるよ…。

 

「それで?あんたはどっちなの?」

 

「はあ?」

 

「さっきの質問よ」

 

なんで、終わった話題を掘り下げるんですかねぇ。なにこれ?姉に自分の好みの胸について聞かれるとかなんの羞恥play?おっと、動揺しすぎてつい発音が良くなってしまった。

 

「で?どうなの?」

 

う、うぜぇ。ん?ん?と顔を近づけて煽ってくる姉に久しぶりにイラっと来たので報復という名のイタズラをしようと思う。

 

「………奏姉さんのが好きだよ」

 

「ふぇ?」

 

ふぇ?ってなんだよ!ときめいたじゃねぇか!そして顔が暑い!だが、ここで負けるわけにはいかないのだ…!畳み掛ける…!

 

「だから、姉さんの胸の大きさとか形とかが個人的には好きっつーことだよ」

 

自分で報復と言っておきながら自らもダメージを負う。そう、これが自爆テロだ。奏姉さんの顔がすごい赤い。いつもの冷静さもないみたいだし。よし、これで勝つる!

トドメに奏姉さんの肩をガシッと掴むとビクッとしながら、こちらを向く。目がめっちゃ潤んでるわ。

 

「え?え?あわわ…」

 

「奏姉さん…いや、奏」

 

「は、はい…」

 

おやおや?なんかすごい従順な感じになってますよ?手も胸の前でギュッと結んでいる。あ、ここまでやっておいてなんだけど、理性がヤバイ。

【速報】俺の姉が可愛すぎる件について

とか脳内スレに立ててしまうレベル。

なんか目を瞑りましたよ?この姉は。そろそろやめよう。ホントに。

 

「冗談で…」

 

ドサッ。

 

リビングの入り口の方で音がしたと思い、そちらを見るとバックだろうかそれを床に落としたらしい、口をパクパクと金魚の真似をしている岬と遥がいた…。

 

ま ず い !

 

「岬、遥、あのなこれにはワケが…」

 

「八兄が奏姉に手を出したーー!!!」

 

「兄さん、流石にこれは…」

 

「待って!待ってください!話を聞いて!岬!その手の中にある携帯をこっちへよこすんだ!その電話番号は俺が物理的に死ぬ!」

 

誰とは言わないが修羅になって帰ってくるだろうが!

その後何分間にわたり、双子になんとか状況説明を行い、誤解は解けたのだった。茜に言わない代わりにそのうちに一回ずつ言うことを聞くという条件で。

 

「兄さん。流石に冗談としてもやりすぎたんじゃない?ついに手を出したのかと思ったよ」

 

「ホントだよー。帰ってきたら奏姉に迫ってるからビックリしちゃったよ!」

 

「本当にすみません。ところで『ついに』ってどいうことだ」

 

「謝るのは私たちじゃないでしょ?」

 

スルーしやがった。奏姉さんの方を向くと先ほどの羞恥の赤ではなく、満面の笑顔の人がいた。プレッシャーがすごい…。俺の技のPPが下がってしまうよ。

 

「…からかってすいませんでした」

 

「あら?なにかしら?私の胸が好きな八幡?」

 

めっちゃ怒ってるじゃないですか。取り敢えず土下座へ移行しよう。

 

「なんでもしますので許してもらえると助かります」

 

「どーしよっかなー?なんでもいいの?」

 

「お、お財布にダメージを与えることとか犯罪行為に触れさえしなければですが…」

 

「なにさせると思ってるのよ…。じゃあ、そうね。そのうちに買い物付き合ってくれれば許すわ。というか、そろそろ顔あげない?」

 

「ん、了解です。荷物持ちすればいいんだな」

 

許しが出たので顔を上げる。そっぽ向いてる奏姉さんとなぜか呆れた顔をしている双子がいたのだった。ちょっと最近家族のことがよくわかんないです。

 

〜☆〜

 

「ただいまー」

 

洗濯物を取り込んだり、割と重症な修の手当てをしているうちにだいぶ時間が経った頃、ようやく買い物に行った2人が帰ってきたようだ。

 

「おかえりーって誰だお前ら!」

 

修のデカイ声が響く。え、不審者だったの?

なんだなんだと奏姉さんと俺は玄関まで見に行く。野次馬根性って時には大事なものだと思うんだ。

玄関にいたのは、金髪の大学生くらいの美人な女と赤髪の幼女だった。え、まじで誰?と、一瞬思ったが茜と光だということが俺の目によって看破することが出来た。どうやら光が出かける前に言っていたことは本当のようで将来が楽しみだ。

 

「きゃー!なにこの子!どこで捕まえたの⁉︎」

 

「あんたの妹だよ!」

 

可愛いものが好きな奏姉さんが茜(幼女)に抱きつく。これ外の人が見たらどう思われるんだろうな。

あ、茜が抱えられて連れ去られた。

 

大きくなった光は修に何故こうなったか説明をしている。どうやら、光が木の上に登って降りられなくなった猫を助けるために大きくなったはいいものの、服が着れなくなったために茜を小さくして服を取り替えたそうだ。

 

「ーーーで、茜ちゃんを小さくして服を取り替えたの」

 

「…なるほど」

 

ちょっと?胸をガン見するのはやめときなさい?いや、見ちゃうのは分からないでもないが。

 

「ふふーん♩どうよ、八くん!私の胸大きくなるでしょ?」

 

「そーだな。将来有望だなー」

 

「なんで棒読みなのー!」

 

あんまり抱きつかないで貰っていいですかね?当たるんですけど…どことは言わないが。

 

「…で買い物はどうした?」

 

「ああっ!」

 

このあと修の能力で買い物に行きました。

 

——————————

 

ー週末ー

 

『今週の櫻田家世論調査はこの通りです!』

 

「あれ?猫ちゃん助けたのに上がってない」

 

俺と光がリビングでダラダラしながらテレビを見ていると、光のそんなことを言った。

 

「そりゃそうでしょ。だってあの辺カメラないし」

 

「………」

 

放心しているな。というか、そもそも"一人"で茜が探しにきている時点でカメラは近くにないんだよなぁ…。

 

ポンポンなでり

 

「まあ、光はそそっかしい上に抜けてるところあるからな。今回は、残念だったな…」

 

慰めるとか基本俺のキャラではない。が、妹1人慰められないで兄を名乗っていられるか!

 

「…うん。まあ、いっか!」

 

そういって笑顔を浮かべる光の膝には新たにこの家の家族となった猫が丸くなっていた。

 

『では、また来週お会いしましょう!』

 

オマケ

 

「ねえ、八くん?」笑顔

 

「なんでしょうか?…葵姉様」

 

「八くんって奏の胸が好きって話を奏から聞いたんだけど」

 

「あの鬼めっ!」

 





いかがでしたでしょうか?
四コマの10ページを書くのも大変なものですね…。
調子のって展開変えまくってる私にも問題があるかもですが…

では、また次回お会いしましょう!


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One day


一週間以上更新できなくてすみません!
なかなか筆が進まず、この時間となってしまいました。

今回はオリジナル回です。
楽しんでもらえると幸いです。



 

『もうお腹の子の名前は決めてあるのかい?』

 

『ええ。決めてあるわ、総ちゃん。名前は『八幡』よ』

 

『ほう。いい名前じゃないか。元気に産まれることを祈ってるよ』

 

『ありがとう。総ちゃん』

 

———————————

 

さて、月日が流れるのも早いことで一足早く暑さが訪れる中、期末テストの時期がやってきた。

最近では、岬の岬による岬のための岬会議(岬と分身による会議である)にアドバイザーとして引っ張り出されたり、突然櫻田家意見調査会とか言う謎の会が始まったりしたもののこれといった大きな事件もなく平和に過ごしていた。

 

現在は一週間後に迫った期末テストに向けての追い込みの為の勉強をしている。家で。図書館にでも行こうかと思っていたが今日は家の気分なのだ。

 

ちなみに櫻田兄妹の成績だが、当然のごとく葵姉さん、奏姉さんは学年でもトップクラスの成績をとっている。ついでに遙も。

次点で、茜、俺、修、岬だ。

最も怪しいのは光である。

 

さらに、俺の成績を詳しく言うと国語は学年1位をとったおり、数学以外は平均点以上を取っている。数学?数学は一桁の点数を取っているよ?なにあれ、マジでわからん。

どうせ、社会に出ても使わないしやらなくてもよくね?こらそこ、どうせ社会に出ないだろうとか言わない!

 

ま、そんなこんなで数学は捨てて他の教科をやらねばな。

 

〜☆〜

 

と、思ってた時期が私にもありました。

 

「ほら、八くん!集中切らさないで頑張って解いて」

 

「…はい」

 

俺の目の前には数学の参考書が広げられ、俺の横には葵姉さんが居座っている。

ドウシテコウナッタ。

 

以下、回想

 

『ふ〜。そろそろ休憩するか〜』

 

『ねえ、八くん。聞きたいことがあるんだけど…』

 

『葵姉さん?なんかあった?』

 

『八くんが数学のテストで赤点取ったってホント?』

 

『……ま、まっさかぁ!そんなとるわけないじゃないでしゅか』

 

『そっか…。じゃあ、これは何かな?』

 

『何それ?…えっと?成績表?』

 

『そう。これは八くんのだよ』

 

『………なぜ、姉さんがもってるのん?』

 

『茜がね。学校で八くんの机から持ち帰ってきたの。置いてるのを見たからって』

 

『oh…』

 

『で、この成績表の数学には9点って書いてあるように見えるけど…?』

 

『や、それは『いいわけしない』…はい』

 

『私が見てあげるから頑張ろう?』

 

『いや、それは姉さんにわr『しよ?』…らじゃー』

 

以上、回想

 

女性から「しよ?」とか言われたら胸がときめきシチュエーションではあるのだが、いかんせんハイライトさんが仕事してなかったから恐怖しか感じないわ。

そうして俺は、強力なプレッシャーに耐えられず数学という名の拷問を受けているのだった。とりあえず、茜は許さん!

 

少し前の家の気分なんだとかいってた俺を殴りたい…。家の方が危険地帯だったじゃん…。ちなみに部屋は俺と茜と光の所でやっている。

 

なんだよ…xをyに代入?なんで代わりに入れるんだよ!x!お前数少ないyの仕事どころか居場所を取ってるんじゃねぇよ!

yへの親近感を沸かせていると

 

「そこ間違ってるよ?あと、他のこと考えながらやってない?」

 

何回も言うが、なんでわかるの?ここまでいくと俺がサトラレになってるんじゃないかと思うんだけど。本当にわかってるのか確かめようか。とか思ってもリスクリターンが計算できると評されている俺はやらない。

や、だって今回の場合リスクの方がでかいし…決してビビったわけではない。いいね?

 

〜☆〜

 

「うん。だいぶ出来てきてるみたいだし、今日はこのくらいにしましょうか」

 

その後も姉さんから解き方などを教えてもらう内に時間はだいぶ経っていた。ふぅ。

 

というか、この部屋に誰も来ねぇよ…。それも、この部屋で葵姉さんと勉強している間ずっとだ。

同室の光と茜すら来ないというのはどういうことなの?

もしかして、逃げた?…ありそうだ。

あとで、問い詰めよう。

 

ガチャ

 

と、ドアが開かれる。

 

「姉上!兄上!母上が夜ご飯が出来たので降りてきて、だそうです!」

 

「あら、もうそんな時間?」

 

時刻は7時を回っていた。嘘やん。どれだけ長くやってたんだ?誰か褒めてよ…。

 

「兄上…?お疲れ様です!下に行きましょう!」

 

「おう。呼びに来てくれてありがとうな、輝」

 

「そうね。ありがとう、輝」

 

「いえ!このくらい大したことはないです!」

 

輝は元気だなぁ。その元気を1割ほど分けてもらいたいレベル。輝を先頭に俺たちは部屋を出る。廊下に出ると魚の焼いた香りが漂っていた。ああ、ハラヘッタ。

 

その後、一家揃って晩飯を食べ終わり、風呂に入ったり、テレビ見たり、やはりというか勉強会に巻き込まれたくないがために部屋に近寄りもしなかった光に葵姉さんを始めとした女性陣の勉強会をプレゼントしておいた。

光の成績のことを言ったら一発連行だったぜ。やれば出来る子なんだけどな。優秀な血が流れておるわ。俺にもそんなのが欲しかったわ。

 

 

さてさて、葵姉さんとのマンツーマンの勉強会が終わった翌日から俺は苦手な数学にも取り組むことにした。あのプレッシャーを浴びるのはもう充分ですよ。

そうして、挑むこととなった試験では一桁という別の意味での快挙を成し遂げていたが、なんと!平均点レベルまで点数が上昇していた。これで、変わらないとかなってたら笑い事では済まされないことになってたからすごい良かった。葵姉さんさまさまである。

こうして、心地いい気分で夏休み前のテストが終わったのであった!

 

余談だが、光の成績も上がったらしい。勉強会の後しばらくの間、勉強机に向かい震えている光が目撃されていたとかなんとか。

…すまない。光よ。

 

———————————

 

ホンジツハセイテンナリホンジウハセイテンナリ。

はい!今日はららぽーとに来ています!いやー!家族連れが多いですね〜!微笑ましいですね。中にはカップルのような男女もいますよ!

…ちっ、弾け飛べ。

無理やりテンションを上げるのもそろそろしんどくなって来たからやめだ。

 

そう。俺は先ほども言ったようにららぽーとに来ている。嘘かと思った?残念!本当に来ています!いや、ホントなんできてるんだろ…。

今日は何故か家族全員で来ている。あ、ごめんなさいね。国の重要人物が大型ショッピングモールでご迷惑おかけしております。

 

ちなみに今日来た理由は、栞の一言だった。

 

『これ、見たい』

 

そう言って、取り出したりますはららぽーとのチラシ。中には【プリキ○アがやってくる!】との文字が。どうやら、ショーを行うようだ。栞もニチアサの良さがわかって来てくれたようで何より。

俺は起きれないことも割とあったりするので録画している時もあるが、その時間に起きれた場合はよく栞と見ている。あと光と茜も時々。輝もいることがあるが、ライダーや戦隊を見だ後の延長としていることが多いのだ。

 

閑話休題。

 

そんなこんなで栞が珍しくも言ってくれたワガママによって家族全員が出動して、現在に至るわけだ。うちの家族、栞のこと好きすぎるだろ…。

とはいっても、流石にいい歳した家族全員でショーを見るわけにはいかないので栞、光、茜、葵姉さん、母さんのショーを観に行く組と俺、修、奏姉さん、輝、岬、遙で店を回る組に分かれた。父さん?仕事です。やっぱり働きたくないね!

 

「そういえば、八兄はショー見に行かなくて良かったの?」

 

「いや、さすがにな…」

 

「ま、それもそうだね。流石に兄さんと同じような年齢の人はショーとかは観に行かないだろうね」

 

「それもあるんだけどな、プリ○ュアのショーって着ぐるみ着てやってるんだよ」

 

「それがどうかしたか?」

 

「いやな、デフォルメされたキャラクターとか運命の国とかの動物をモチーフにしたやつは特に問題ないんだけどな

 

正直なこと言うと、プリ○ュアの着ぐるみって人型だから顔も変わらないし、アニメと違って変に身体がデカイから不気味なんだよな…」

 

『ああ…』

 

わかるか?電気のネズミとかの着ぐるみは特に顔が変わらなくても問題はないんだ。元がカワイイキャラだからな。

ただ、人を二次元から三次元の着ぐるみにするとどうしても中に人が入るためにデカくなる上に終始笑顔のため、恐怖を感じるレベルである。

 

それならまだ、コスプレとかの方がいいんじゃないかと思わんでもない。ま、俺がそう感じるだけだから小さい子とか他の大きなお友達がどう考えるかは分からないけどな。

 

「まあ、その話はいいわ。いろいろ見て回りましょうか」

 

外行きモードの奏姉さんが指揮をとる。バラバラで動くわけにも行かないしな。一応、王族だからな。SPさんの手を煩わせるわけにも行かないしな。

 

「はーい!私は服見に行きたい!」

 

「僕は本屋かな」

 

「僕は玩具が見たいです!」

 

「どこでもいい」

 

「右に同じ」

 

「あなた達は…はぁ」

 

解せぬ。集団行動における他の人が気になるところ行こうよ!作戦の何がいけないのか。邪魔になるわけでもないし、問題はないだろう。

 

「ん〜。ショーって何時まででしたっけ?」

 

「お昼までだな。昼ご飯は合流して食べようって母さんは言ってたな。で、現在時刻は11時」

 

「ならさ〜、私と奏姉と八兄、修兄と遙と輝で別れようよ」

 

「ちょっと?なんで俺はそっち側なの?」

 

「重い荷物をか弱い女子に持たせるつもりなの?」

 

かよわい…ねぇ?まあ、いいか。こっち側の方が目的の物があるだろうしな。

 

「んじゃ、一時間後にまたここに集合だな」

 

「では、また後で会いましょう!兄上、姉上!」

 

「ほっ…(付き合わされなくて良かった…)」

 

「輝のことよろしくね?」

 

「さあ、行こうよ!」

 

「はいはい…(後で遙泣かす)」

 

〜☆〜

 

2人に引き回され、色々な服屋やらを巡りました。ファッションショーかよ!ってぐらいには試着したのを見せられた。しかも、姉と妹は美人の部類に入るから何着ても似合うんだよなぁとか思ってたら、2人とも顔を赤くして購入していた。試着したら買わなくてはと思うのは男特有のものかと思ってたけどそうでもないのか?

女性の買い物について行っただけあって目当てのものも買えたし、結果だけ見たら良かったのだろう。

 

ショーを観ていた組と兄弟(俺を除く)とも合流し、そこらのレストランへと入る。サイゼではないのは残念だが…。

ここで疑問に思う方もいるかもしれないが我が櫻田家では、基本的にフレンチだとかいわゆる高級店には行かない。父曰く、王族だからこそ普通の生活を知らなければならないとの事で生活している。父さんが子供の頃は王宮に住んでたみたいだけどね。

実際のところ、この生活を満喫している。むしろ、これから王宮に住むぞとか言われても困惑して拒否するレベル。

 

と、そんなわけでほとんど王族というより、一般人の生活をしているのだ。テレビに映される以外は。

 

『本日の櫻田ファミリーニュースです。今日は、ご兄妹そろって大型ショッピングモールに遊びに行かれたようですね』

 

『そうみたいですね。どうやら栞様の御意見で女児向けアニメのショーにご覧になったようですね』

 

『可愛いですね〜』

 

『その間、修様、遙様、輝様は書店や玩具店などを奏様、岬様、八幡様は衣料品を回っていたようです。本日も兄妹仲はよろしいですね』

 

『では、本日の櫻田ファミリーニュースは以上です。また明日お会いしましょう』

 

ピッ。

 

テレビの電源を消す。

これ見てて楽しいのかね?

 

さて、そろそろ用事を済ませようかね。

俺は自分の部屋に一度戻り、ある人の部屋をノックする。

 

『どうぞ?』

 

許可がもらえたので中に入るとしよう。

 

「あれ?八くん、どうかした?」

 

中には風呂上がりだろうか。髪がしめって、頰がわずかに上気している葵姉さんがいた。まあそりゃ、どうぞって言われてるんだからいるわな。いなかったらどんなホラーだと。

そんなことより、なんかエロくね?ちょっと直視出来ないんだけど…。

 

「あ、ええっと、その…」

 

「ふふっ。何か用?」

 

「そにょっ、げふん。その、アレだ。この間、数学教えてもらったことといつも世話になってるお礼…」

 

今日のららぽで買ったものが入っている紙袋を姉さんにそっぽ向きながら出す。

くそッ。噛みまくりじゃないか!ああ、恥ずかしい。今度は恥ずくて直視出来んわ。

 

……?待てども待てどもなんか受け取ってもらえないんだが…。もしかして、キモいからいらない的な?ははっ、死んでこよう。

 

「ちょっ、どこ行くの?」

 

「ああ、ちょっとカッターないかなーって」

 

「なんでカッター?」

 

「いやちょっと頸動脈切るのに使うので」

 

「ええっ⁉︎なんでそんなことを⁉︎」

 

「キモい奴からプレゼント渡されても邪魔なだけだろうからなーと思ったので、ほんとすみません。ちょっとこれから、旅立ってくるよ」

 

「その旅、行ったら帰ってこれないよね⁉︎邪魔なんてとんでもないよ!ただ、戸惑ってただけだから!」

 

戸惑うレベルで嫌だったんですね。わかります。

 

「八くんがお礼なんてしてくれるなんて思わなかったからビックリしちゃって」

 

ごふっ。俺は家族に一体どう思われてるんだ。お礼ぐらいはするぞ?

俺が落ち込んでいると空気を変えるためか、姉さんが声を上げる。

 

「そ、それじゃあ。これ、開けてもいいかな?」

 

「…どうぞ。いらなかったら捨てて」

 

「貰ったものを流石にそんな風には扱わないから!私、八くんにどう思われてるの?」

 

ノーコメント。

ガサガサと袋から取り出している姉さんの目が見開かれた。え、なんかそんなヤバイもん送ったっけ?と思うぐらいには。

 

「これって…?」

 

「いや、その、なんつーか。葵姉さんは髪が長いから料理する時とか、風呂上がりとか、髪結ぶときにどうぞ?」

 

俺が姉さんに買ったものはオレンジのシュシュだ。ららぽで買い物に付き合ってるときに見つけた。割と即決で。奏姉さんや岬にバレないように買わなければいけなかったのが大変だったが…。

だって、見つかったら私も欲しいとか言い出すだろうし。俺の財布にダイレクトアタックが来るから流石にな。

 

「ありがとう、八くん」

 

いい笑顔です。この目が浄化されるレベルだわ。ふわっと笑う感じ?すごいオーラだ。

 

「いや、お礼だし、喜んでもらえたなら良かった。じゃ、戻るわ」

 

そそくさと退散だー。いやいや、こうしっかりと贈り物を面と向かって渡すのは恥ずいな。これは逃走ではない。戦略的てっt「八くん」い…。呼び止められてしまった。これでは逃げられない!

 

「これ、つけてくれないかな?」

 

えぇ…。

 

「そこで嫌そうな顔するのが八くんだよね。それじゃ、お姉ちゃんからのお願い。ダメ、かな?」

 

くっ…そんなこと言われたらやらざるを得ないじゃないですか!

 

葵姉さんの元へ行くと、はいと手に俺がプレゼントしたシュシュと櫛が渡される。…櫛?

 

「せっかくだから髪を梳いて貰おうかなって」

 

「はぁ…。仰せのままに」

 

「ふふっ」

 

こう幸せそうな顔をされたら断れるものも断れないな。どうせ断れないだろとか行ったやつ出て来いヤァ!

 

とりあえず、光が小さい時とかにやったことあるし、無心でやろう。無心で。神からいい匂いが香ってきても無心で。梳きながら姉さんが「…んっ」とか言ってても無心で…出来るか!こちとら、健全な…健全かどうか怪しいが男子やぞ!内心テンパりながらも作業を終える。ふぅ。

 

「どう、かな?似合ってる?」

 

「おう。ちょー似合ってる。から、もう帰る」

 

「む。適当だなぁ。ありがとうね」

 

「いや、さっきも聞いたから」

 

「違うよ。プレゼントのこととは別のこと」

 

「…なんのことだか。じゃ、おやすみ」

 

「うん。おやすみなさい」

 

パタン。

ふう。ま、たまにはこういうことがあってもいいんじゃないのかね?寝よう。

 

side 葵

 

今日は嬉しいことがあった。弟の1人からプレゼントを貰ったのだ!

あの子がくれるだなんて天変地異の前触れか!とか修ちゃんは言いそうだけど、あの子の善意は解り辛いだけで割と単純なのだ。今日もプレゼントをくれた後に、少しわがままを言ったら嫌そうな顔をしながらも聞いてくれた。嫌そうな顔は演技とかではないんだろうなぁ。

彼は、何故か時々甘えさせてくれるのだ。私は、それが嬉しい。

だから、あなたも私に甘えてくれていいんだよ?

 

side out

 

 





オマケ

「あれ?お姉ちゃん。そのシュシュはどうしたの?」

「これ?プレゼントして貰ったのよ」

『えぇ〜!』

「葵ちゃんにプレゼント⁉︎」

「それは同級生⁉︎」

「誰!私達の知ってる人?」

「ふふふ。ひ・み・つ♫」

「いったい誰が!探し出してやる!」

「あれ、兄さん?顔が青いけどどうかした?」

「いや…これから起きる不幸に嘆いているだけさ」


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奏の回?


お久しぶりです!
ソフィーのアトリエにハマったため書くのめっちゃ遅くなりました!

今回はキャラ崩壊だいぶある上に話の途中に出てくる考えは私個人の勝手なものなので本当かどうかは知りません。

では、どうぞー



 

『五月さん。今帰りました』

 

『今日もお仕事お疲れ様』

 

『お父さん…』

 

『お?どうした八幡?こんな時間まで起きてるなんてなにかお父さんに相談か?』

 

『うん。——————……』

 

———————————

 

さて、夏休みである。うだるような暑さの中、蝉が今日もうるさい。そんな中、俺は制服に身を包み、玄関に立っている。横には同じく制服を着た奏姉さん、正面には慌てて制服を着ている茜。

 

何故、夏休みという俺にとってのパラダイスだというのに学校へ行こうとしてるのか。それは——。

 

「カ、カナちゃん待って!私も委員会で呼ばれてるっていったでしょ?それに、なんでこんなに早く出るの!」

 

「うるさい。あんたと一緒に登校したくないからよ」

 

「だったら!なんで八幡も連れて行くの!生徒会じゃないでしょ!」

 

「そりゃ、補習があるからでしょ?呼び出しも受けてるみたいだし」

 

そう。俺は補習で学校に行かなければならないのだ。なんの補習かって?数学の補習である。期末試験で点取れてただろって?ああ、取れてたよ。期末はな。

 

ここまで言えばわかるだろう。中間試験である。そこで俺は数学を一桁という記録を叩き出していたため、期末でとったからといってそれはマズイよねということで呼び出されたのだ。チクショー。

 

「ほら、アホなこと考えてないで行くわよ」

 

「へいへい」

 

「あ、待ってー!」

 

ちゃんと服着なさい。

 

外に一歩出ると太陽がサンサンと容赦なく降りかかる。うばぁー。目が腐るー。あ、もう腐ってましたね。とか自虐しちゃうくらいには帰りたい。……戻るか。

 

踵を返そうとすると襟が掴まれる。

 

「グエッ」

 

「なに戻ろうとしてるの。暑いのはわかるけどシャキッとしなさい。シャキッと」

 

「そうはいってもな」

 

暑いものは暑いのだ。

 

「あら、奏ちゃんと八幡くん。夏休みなのに学校?」

 

突然話しかけてきたのは、近所に住む犬の散歩に勤しむマダムである。

 

「おはようございます。生徒会の臨時召集がありまして」

 

「ども」

 

「あらあら、お姫様も大変ねぇ」

 

「いえ、好きでやってることですから」

 

この人の猫かぶりっぷりは凄いとしか言いようがないな。猫かぶり過ぎて別人格なんじゃないのか?とか思っちゃうレベル。

 

「待ってー!!」

 

食パンをくわえた茜が玄関から出てくる。なに、ギャルゲー?

 

〜☆〜

 

通学路を歩いている中、カメラにうつりたくない茜さんは現在、奏姉さんの背後にへばりついて歩いている。暑そうだ。

 

「ちょっと。離れて歩いてくれないかしら?」

 

「やだ。カナちゃん離れたら置いてくでしょ?」

 

「まさか。そんなはしたないことしないわよ」

 

「やだ」

 

「じゃあ、修ちゃんに頼みなさいよ。ひとっ飛びでしょ」

 

「あれに貸しを作るのはやだ」

 

「あれって…」

 

あ、一言も話してないけど俺もいるよ?空気になるのは得意だからな。

そうじゃん。修に頼めば文字どおりでひとっとびだった…。失敗したな。

 

「それじゃあ、八幡の方にくっつきなさいよ」

 

あ、売られた。

 

「え、それはやだ」

 

あはは。ぼく、知ってるよ?そういう素の言葉が心を傷付けるって。べ、別に悲しくなんてないよ?ホントだよ。

 

「こっちだってお断りだ。なんでこんな暑いのにくっつかれなきゃならん」

 

いやほんとなんでこんな夏の暑いにくっつかれて歩かなきゃならんのだ。熱中症になるわ。なので、こっち睨まないでくださいお願いします。

 

「はあ…。人が多くなってきたら離れなさいよ?」

 

「…えー」

 

なんだかんだいって妹に甘いお姉様でした。

 

さてさて、あれからだいぶ歩き商店街に差し掛かる頃には人の通りも多くなってきた。王族3人が登校しているからか、こちらを見て微笑ましいものを見るかのように温かい目をされている。

隣にいる百合百合しい姉妹のせいですねわかります。なにこれ、拷問かな?

 

………逃げよ。

 

ガシッ

 

おや?腕が掴まれたぞ?後ろを振り向くと笑顔が怖い奏姉さんが。離せー!いやだ!俺はまだ死にたくないんだ!妹を!妹を残して死ねるかぁぁ!!

 

「なぜ腕を掴むんですかねぇ?」

 

姉さんの目が語りかけてくる。

 

ニ ガ サ ナ イ ワ ヨ ?

 

こっわ!能力使ってないのにない思ってるかがすごい伝わってきた!伊達に何年も家族やってないね。

 

「一緒に登校しているんですからたまにはこういったことも一興ですよ?(茜を置いたままじゃ逃がさないわよ)」

 

「いやだな〜。カナちゃん。こんな暑いんだからくっ付いてると暑いだけじゃない?」

 

お前がいうな!

俺と姉さんの心が一致した瞬間だった。

 

結局、俺の腕に奏姉さんがくっつき、奏姉さんの背中には茜がくっついているという側から見るとなんだこいつら状態で歩くこと数分、ようやく人の流れが無くなってきた。ここにくるまで精神的にダメージを負ったがな。

すれ違う人の全員があらあらといった感じで微笑ましいものを見る顔で見てきたのだ。泣けるわ。

 

「あ、猫だー!」

 

人がいなくなったことで心の余裕が生まれた茜さんはどうやら猫を補足したようで脇道へと入っていってしまった。早めに出てきたから遅刻とかはないけどな。

 

「さて、行きましょうか」

 

いい笑顔で言うなぁ。我らが姉上様はこの機を逃さずに置いていくことを決意したようだ。と言いつつもチラチラと茜が入った方を見ている。…あぁ、この人は猫とか可愛いものが好きだったね。

 

「くっ、行くわよ」

 

「茜はいいのか?」

 

「あんまり私たちが甘やかしてばっかりだとあの子が将来困るだけじゃない。だから、時には突き放すことも必要よ」

 

かっこいいこと言ってるけどやっぱりチラチラめてるんだよなぁ。痩せ我慢とかしなければいいのに…

 

「なんか言った?」

 

「な、なにもいってましぇん」

 

眼光が鋭すぎる!思わずビビって噛んでしまった。手を引かれながらズンズン進む。あの、握る力強くない?

 

「逃げられたーー!!」

 

遠くで誰かが叫ぶ声が聞こえた…。

 

〜☆〜

 

「待ってよ〜〜!」

 

茜を置き去りにして歩くこと数分、俺たちは赤信号で止まっていたところに茜が走って追いついて来た。

 

「置いて行くなんてひどいよ!2人ともー!」

 

ああ、姉さんがげんなりした顔になっとる。

んー?なんかあのトラックだいぶスピード出すな。ここ、住宅街だからあんな早いと子供とか飛び出した時とか危なくね?

 

とかなんとか脳内で危険喚起を促していると茜が追いついて、追い越した。

 

はっ?

 

「あいた!」

 

車道に茜が倒れ込んだ。そこには先ほどのトラックが、スピードを変えずに迫って来ている。ヤバイ!

 

俺は茜のところへ駆け出すと同時にトラックの運転手に能力を使う。

 

『ブレーキを踏め!』

 

そこでようやく運転手は気付いたのかトラックに急ブレーキがかけられる。

 

俺は茜の元に駆け込んだはいいものの、このままだと確実に間に合わない!

 

ならば、せめて、茜だけでも…!

 

呆然としている茜を抱き締め、トラックに背を向ける。要は、トラックと茜の間に入るこむことで茜への衝撃をワンクッション減らそうという考えだ。

 

茜がギュッと俺の服を掴むのを感じる。

兄として、護らなければなるまい。

 

やってくるであろう衝撃を目を瞑り、やってくるのを待つ。待つ。待つ。

 

 

 

…あれ?

 

いくら待ってもやってこない衝撃を不思議に思い、目を開ける。目の前には目を瞑っている茜の姿が。後ろに振り向くとトラックの姿はなく、壁が正面を占めていた。

 

何を言ってるかわからないかもしれないが、本当に壁である。まごうことなき壁である。あ、別に茜のことを言ってるわけではないよ?

 

呆然としていると運転手らしき人が壁の横から現れた。この壁の向こう側にトラックがあるらしい。

 

「おい!いきなり出て来てあぶねぇじゃねぇか!死にてぇのか!…て、櫻田家の…」

 

「申し訳ありません。妹と弟がご迷惑をおかけしました」

 

怒鳴り込んで来た男に奏姉さんが対応する。これ、奏姉さんの能力で作ったやつか。今回は本当に助かったな。

 

「危ないだろうが!いきなり出てくるなんて!ちゃんと面倒見てろよ!」

 

「申し訳ありません」

 

「申し訳ありませんしか言えないのか!」

 

あ?なぜ奏が怒鳴られなければならない。それはお門違いというやつだろう。飛び出したのは茜と俺だ。それはまごうことなき事実でそれ以上もそれ以下もない。

 

さらに言えば、奏が壁を出さなければお前は塀の中だ。その辺のこと理解してるのか?それと、コイツは少なくともやらかしている。

 

「あの」

 

「なんだ!ガキは引っ込んでろ!」

 

「はあ?高1がガキなら高2の奏もガキだろうが。なに、ガキに怒鳴り散らしてるんだよ」

 

「ああ?なんだ、やんのか?王族だからって舐めたこと言ってんじゃねぇぞ!」

 

胸元を掴みあげられる。煽り耐性もないのか、このおっさん。

 

「「八幡!」」

 

「あんたは!本当に俺たちだけが悪かったといえるのか?あんたには悪いところはなかったなんていえるのか?」

 

「なに言ってやがる!飛び出して来たお前らが悪いだろうが」

 

「ああ、確かに飛び出してしまった俺たちも悪い。なら、あんたはなんですぐにブレーキを踏まなかった?俺が能力を使うまでに踏まなかったのはなんでだ?」

 

「そ、それは…」

 

いい感じで勢いが削げてきたな。しかし、やはり自覚があったか。

 

「少なくもあんたは運転中に上の空だったはずだ。その上、この狭い道でのスピードの出し過ぎ。なんなら、監視カメラで確認するか?」

 

「ぐ…。次から気をつけろよ!」

 

運転手はトラックに乗って去っていった。

 

「ふぅ」

 

「お疲れさま、八幡。ありがとうね」

 

「いや、俺のためにやったことだから別に礼を言われることではない。むしろ、こっちが助かったわ」

 

「うん!ありがとう、カナちゃん!」

 

ふいっと顔を背ける奏姉さんの表情は赤く染まっていた。

 

〜☆〜

 

道路のど真ん中にある壁を茜の能力を使い、どかしたあと、俺たちは学校へ向かっていた。

 

「ところで、あの壁は一体なに?」

 

高さ推定7〜8mはあった。トラックの車高に対してデカすぎるのでは?

 

「それは、20年後くらいに発明される衝撃吸収するものよ」

 

「「なんてハイテクノロジー」」

 

思わず声がハモってしまった。

 

「なら、なんであんな高いの?カナちゃんなら、もうちょい調整できたんじゃ…?」

 

「そ、それは…」

 

またもや顔を背けてしまう。恥ずかしがってるのか。ならば、俺も乗ろう(ゲス顔)

 

「俺も気になるわ。もしかして調子悪いとかって思ったけど別にそんなこともなさそうだし、たまたまだったんじゃないか?」

 

別に、赤い顔で睨まれたのが怖かったわけじゃないよ?ただ、これ以上やるとなんか目覚めそうな気がしただけだよ?

 

「ね〜ね〜?どうして〜?」

 

茜さーん!もう少し人の顔色察すること覚えて!しかし、これはうざい!顔の向きを変えても覗き込んでいる。いつもいじられる側だからか茜がこの状況をめっちゃ楽しんでいるな。

 

ところで、そろそろ羞恥にそまったお姉さんが限界だからやめてあげて!

 

「そろそろやめとけ。姉さんがキャラぶれしてるぞ」

 

「は〜い」

 

注意することでようやくしぶしぶと引き下がった。やだ、この子止めなかったら続ける気だったわ…。

 

「あ、そうだ。カナちゃん。あれ、いくらぐらいしたの?貯金残高から引かれたんだよね?」

 

「別にあんたが知る必要ないわよ」

 

あんな未知のものを作り出したんだからとんでもない額がとんでそうだ。聞くのが怖いわ。

 

「で、でも私を助けるためだったんだから払うよ!」

 

「お、じゃあ、俺の分も頼むわ」

 

「あんたも払うほうでしょ」

 

えぇー。

 

「で、いくらぐらいしたの?」

 

「そうねぇー。4000万ぐらいかしら」

 

………。

 

「4000万んンンンン!?」

 

「だから払う必要ないわよ。むしろ払えないでしょ?」

 

「一生かけても払うから!」

 

「だからいいわよ!」

 

4000万かあ。普段が一万で高っ!てなるからもうその額になると分からなくなるな。あれ?俺も一応王族なのに庶民感覚が身につきすぎじゃねぇ?

 

ここで聞きたいことができたから聞いておこう。

 

「姉さん。今の貯金はいくらほど?」

 

「なに急に?」

 

「いや、気になったから…」

 

だって4000万を返さなくていいだぞ?一体いくらよってるかきになるだろうが!

 

「うーん…。そうねぇ、国家予算くらい?」

 

姉のスケールのでかさを思い知った。

 

〜☆〜

 

ようやく学校に到着した。

なんか長かったような気がするわ。

 

2人と分かれ、玄関で靴を脱ぎ帰る。間違えた。脱ぎ変える、だ。日本語って不思議だなー。

 

「ちょっとこっち来なさい」

 

教室へ向かうかーと一歩踏み出したところで手が掴まれ、引っ張られる。ちょっとー?遅刻しちゃうんですけど?

 

連れて来られたのは普段使われないことが多い特別教室が詰め込まれてるほうの階段。俺をここまで引っ張って来たのは黒髪短髪の美少女』

 

「びっ、まあいいわ。とりあえずあなたに言っておかなきゃいけないことがあるのよ。八幡?」

 

「いや〜俺の方は特にないかr「八幡?」なんでもないです」

 

しかし、冗談めかしたのはいいがてんで言われることが思いつかない。なんかしたっけ?…はっ。もしやさっきの4000万を払えというのか!妹が好きだからって俺に頼むとは!鬼!

 

「すいませんでした!どうかご勘弁を!お慈悲を!」

 

「な、なんで突然土下座⁉︎する必要ないから!ほら、立ちなさい」

 

「え、先ほどの金を払えっていう話ではないと…?」

 

「別に払わなくていいって言ったじゃない。流石に妹と弟にそんな額払ってもらえるなんて思ってないわよ」

 

なんだ、違うのか。

 

「なら、なんかあったっけ?」

 

検討もつかないな。

 

ギュッ

 

んん?んんんんん?何故か抱き締められているぞ?なんか前にもこんなことがあった気がする。人が違うけど。あ、その時より豊満なものが体に当たっている。

 

⁉︎⁉︎⁉︎なにが起きている⁉︎なんだここは、異世界か何処かなのか!奏姉さんはどこへ行ってしまったんだ!本物はいずこへ!

 

「…あまり心配させないで」

 

…………。

 

俺が黙っていると姉さんがそのまま語りかけてくる。

 

「どうして、茜を抱え込んだ時、トラックと茜の間に入るようにしたの?」

 

「…それは、たまt「嘘」」

 

「茜への衝撃を少なくするためでしょう?」

 

「……」

 

「怖かった。2人がいなくなったりするんじゃないかって…。また、怪我しちゃうんじゃないかって」

 

彼女の目から光の粒が流れた。

ここまで学校で仮面が外れている姉さんを見るのは初めてだ。

それほど、心にくるものがあったのだろう。普段、今ではクールぶっている奏もむかしはもっとお嬢様キャラだった。だが、そんな彼女の家族の愛は変わることはなかった。それゆえの涙なのだろう。

だからこそ、心の底から焦っていた奏はあの壁を大きく作り出したのだ。それには、茜も気付いている。

 

「無茶しないで。今回は私がいたから良かったけど、あなたの能力は、みんなの能力は万能じゃない。家族を失うなんて考えたくないの」

 

「……悪いが」

 

奏の体がビクッと震える。

 

「また今回みたいなことがあったら無茶をしないという保証はできない。さっきだって身体が勝手に動いただけだしな。それに…」

 

「それに…?」

 

「妹を助けるのは兄として当然だろう?」

 

渾身のセリフを言ってやったぜ!

いまならナルと言われてもおかしくないな。これは。

 

「ぷっ…」

 

「ちょっと?笑うのはひどくない?」

 

「ぷふっ。ドヤ顔って…フフッ」

 

「帰る」

 

俺のガラスのハートはズタズタだぞ。

 

「待って待って!悪かったから!」

 

そろそろ行かないと本当に遅刻しそうなんですが。

 

「それは私とか葵姉さんでも助けてくれるの?」

 

「?当たり前だろ?家族だし」

 

「ふふっ。そっか」

 

「なに笑ってんの?」

 

「別にー?それじゃあ、何かあったら頼むわよ?シスコンさん♬」

 

「何もないよう頑張ってくれよ?ブラコン」

 

「誰がブラコンなのよ!」

 

「えっ?無自覚だったの?」

 

このあと、外では珍しい素の表情の奏姉さんと話した。

 

補修には遅刻した。許さない。

 

 

—————————————

 

おまけ

 

「そういえば、トラックの運転手脅してる時に奏って呼んだ?」

 

「脅したとは失礼な。あれはあの人の良心に訴えかけるという高度なOHANASIだぞ?」

 

「それ結局脅しじゃない。で、姉さんって言わなかったわよね?」

 

「おっと、そろそろ補修に行かねば」

 

「呼び捨てしたわよね?」

 

「あの、腕を離してくれません?」

 

「茜に【八幡に階段に連れ込まれた】ってメール送ったわ」

 

「なんつーことしてくれる!何もしてないのに罰が下されるのはこれいかに⁉︎」

 

「したわよね?呼び捨て」

 

「あーもー!したよ!これで良いか?いい加減離せ!」

 

「そ、ならこれからもそうして。今さらだけど、あんたに姉さん呼びされるの違和感あるのよね」

 

「本当に今更だな。で、離せ」

 

「呼んでよ」

 

「今?やだよ。恥ずかしい」

 

「私の名前が恥ずかしいって?お父様とお母様を侮辱するの?」

 

「そういうことじゃねぇ!」

 

「八幡?カナちゃんに何してるの?」

 

「来たーーーー!!は・な・せ!あ、ちょ、まっ!」

 

後日、呼び捨てにすることになりました。

 





近況報告
玉藻(槍)が単発できたぜ!
これで宝具レベル2だー


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彼の過去

更新しなかった間も感想などありがとうございます!

お元気ですか?
更新長らくお待たせしてしまって申し訳有りません。

今回はオリジナル回の上にオリ設定やらオリキャラなどが出てきます。そのために、難産でした。
ちょっとなに言ってるかわからないようなところも出てくるかもです。そこは、フィクションだからでご容赦くださいませ。
書いてる途中で自分でもなに書いてるわからなくなったので多少は、ね?



———ふと、目が醒める。

 

熱帯夜というわけでもなく、寒いわけでもない。

 

ただ、なんとなく目が醒めた。

 

枕元の時計を見ると8月8日の午前5時。夏休み真っ只中でこんな時間に起きるとは…。

 

眠気も飛んでいってしまっているので、二度寝がしたくても出来ない。くそう…。

 

仕方がないので少しというかだいぶ早いがそろそろ起きるとしようか。のども渇いたし。布の仕切りの向こう側にいる茜と光を起こさないように細心の注意をはらいながら部屋を出た。

 

階段を静かに降り、リビング兼台所へ続く廊下を歩く。リビングから明かりが漏れているようだ。父さんか?朝早いな。やっぱり働きたくないわ〜。

 

リビングの扉を開けると案の定、父さんがテレビを見ながらコーヒーを飲んでいる。母さんもいたけれど。

 

「あら、おはよう。あなたもコーヒー飲む?」

 

「おはよう。八幡。今日は早いな」

 

「なんか目が覚めたからそのまま起きてきた。マックスコーヒーで飲むわ」

 

「…もう。あんまりそればっかり飲んでちゃダメよ?」

 

それは守れそうにないな。

マックスコーヒーを喉に通す。クーッ!キンキンに冷えてやがる!このコーヒー入練乳の甘さが最高だぜ!

コーヒーブレイクをしていると父さんが話しかけてきた。

 

「さて、八幡よ。他の兄弟が寝静まっているから今のうちに言っておこうと思う」

 

「ええ。おおっぴらに言ってあげられないのが心苦しいけど…」

 

 

——誕生日、おめでとう。

 

 

さて、俺の誕生日は茜と双子なんだから3月じゃないのかと思うかもしれない。

 

だが、この言葉はなんら間違いはなく、今日が俺の本当の誕生日なのだ。何故、国が出している公式のプロフィールには3月が誕生日になっているかというと色々な要因があるのだ。

 

まず、大前提として、俺はこの家の子供ではない。いや、この言い方では語弊があるかもしれない。明確に言葉にするならば、父さんと母さんの血は繋がっていないのだ。

 

今では櫻田八幡であるが、本来の俺の名前は比企谷八幡であった。

 

何故、名字が変わっているのか。それは単純なもので俺がこの家に引き取られたということである。そして、王家にしか使えない能力が俺にも使える理由もそこにあるのだ。

 

—————————————————

 

俺の本当の母親の名前は比企谷二葉、旧姓を櫻田二葉。現在の父さんであり、国王櫻田総一郎

の妹である。

 

これが、俺が能力を使える理由である。

つまるところ、俺と櫻田家の兄弟の関係性はいとこなのだ。

 

そんな母親は俺が産まれる5年前に、家出のようにふらっと出ていったらしい。理由は、王宮での暮らしに飽きたから。アグレッシブなことだ。ちなみに、監視はしっかりとついてたらしい。家出とは…?

 

今までの間、王宮で暮らしていたような箱入りの娘が家を飛び出して、一般市民の生活に溶け込めるわけもなく、困り果てていた。そんな折に、手を差し伸べたのが俺の親父たる比企谷綾人らしい。見た目は普通に好青年でアホ毛があったという。

 

こうして、2人は出会った。

 

その後に、お袋は王宮に連れ戻されたらしいが。

 

連れ戻された後にも2人は会うようになり、仲を深めていき、恋仲になるのも遅くはなかっただろうと父さんたちは語る。その頃には父さんや母さんも既に結婚しており、親父とは呑んだりする仲であったという話だ。

 

そして、俺が産まれる2年前に婚約・入籍した。その1年後くらいにお袋は妊娠した。

ちなみに、国民を驚かせたいとかで婚約したとか妊娠したとかは報道しなかったらしい。俺の誕生とともに公表しようとはしてたが。

 

順調に幸せな道を2人で歩んでいたわけだが、ハッピーエンドはやってこない。

 

俺が産まれる半年前に親父が死んだ。

交通事故で即死だったという。原因は、スピード違反による信号無視。運転席に突っ込んできたと当時の新聞には書いてあった。

 

事故の話を聞いたお袋は半狂乱になった。

お腹の子つまりは俺のことはどうするんだ!と父さんは励ましたことで立ち直ったとはいうけれど。

 

最愛の夫を失い、精神的なダメージを受けたお袋は病院へと入院した。俺が産まれるのが近かいため、というのもあるが。お袋は、俺を産むという意思は固かった。父さんと話している時にこんなことを言っていたという。

 

『もうお腹の子の名前は決めてあるのかい?』

 

『ええ。決めてあるわ、総ちゃん。名前は『八幡』よ』

 

『ほう。いい名前じゃないか。元気に産まれることを祈ってるよ』

 

『ありがとう。総ちゃん』

『この子は、あの人との大切な宝物だから…』

『元気に育って欲しいの』

 

その数時間後に陣痛が始まり、処置室へと運び込まれた。

 

そうして、俺はこの世に生を受けたのだ。

 

 

 

 

だが、この世界の神様は愚かな人を嘲笑う。

産まれた俺は、息をしていなかった。理由は不明。産ぶ声をあげることはなかったのだ。

医者が処置をしてもいきは吹きかえらず、そのまま命の灯火が消えかけていたとき、それは起こった。

 

お袋が俺を抱え上げ、能力を行使したのだ。

お袋の能力は生命移譲〈ライフハンド〉。自らの命を分け与える力。この時まで一度も使ったことがなかった能力をこの瞬間に使ったのだ。

 

命を分け与えられた俺は息を吹き返した。

この時、本当の意味で俺はこの世に生を受けたのだった。しかし、文字通りの命を分け与えたお袋は…。

 

『そうちゃん…。…八幡は…?』

 

『ああ!いるぞ!お前の子供も元気に生きてる!』

 

『…そう…。よ、かった…』

 

『逝くんじゃない!お前がいなかったら誰が八幡を育てるんだ!お前しかいないだろう⁉︎』

 

『…ふふ。私には、もう、無理そうかな…。だから、そうちゃん…。勝手な最期のお願い…』

 

『最期なんて言わないでくれ!二葉!』

 

『この子を…。八幡を、お願い…。勝手な願いだけど…。そうちゃんなら、安心なの』

 

『二葉…』

 

『ごめんね…。八幡…。あなたと、一緒にいれないお母さんをゆるして、ね…』

『愛しているわ…。あなたを…。ずっと』

 

その言葉を最期にして、眠るようにして亡くなった。かくして、比企谷八幡は生まれながらにして孤独となった。

 

しかし、ここでお茶目だったお袋が行ったことのしわ寄せが来てしまった。そう、この時まで、一切合切、国民に結婚したことも、俺がいることも公表してなかったのである。

 

色々と問題が生じることになるため、取り敢えずはお袋が亡くなったこと、お袋が結婚していたことなどを公表した。

やはりというかなんというか、ドッタンバッタン大騒ぎとなったのだった。

 

そして、段階的に公表しようとしてはいたのだが当時の他国との外交に問題が次々と発生していってしまったために俺のことを公表するタイミングを逃してしまったとのこと。大惨事だよ。

 

俺が産まれる頃には既に母さんは茜を身ごもっていたということもあり、一部の王宮上層部で双子ということにしようという話があがった。父さんと母さんは忘れ形見をそんな扱いしていいわけがないと公表しようとしていたが、抑え込まれてしまったのだ。

 

3月になり、茜が生まれ、そこに俺を添えて双子ということになったのだった。こうして、比企谷八幡は櫻田八幡になった。

 

このことを知っているのは父さんと母さん、王宮の上層部、病院の関係者、くらいである。あ、あと1人知ってるかもしれないな。知らないとなると、1つの嘘が露見してしまうことになるが。

 

そんなわけで、8月8日は俺の誕生日であり、お袋である比企谷二葉の命日だ。父さんと母さんは、誕生日を知っているので密かにだが祝ってくれる。

 

え?なんで詳しく知ってるかって?

そりゃあ、聞いたんだよ。詳しくは前回の最初を見てね!(メタい)

 

————————————————

 

と、まあそんなわけで今日が誕生日というわけだ。あまり知られるわけにはいかないので基本的に2人は早朝か深夜に祝言を言ってくれるのだ。

 

この家族は優しい。きっと、俺が本当の兄妹でなかったとしても受け入れてくれるのだろう。でも、だからこそーーー。

 

「なあ、やっぱり俺は国王選挙は辞退したいんだけど」

 

「またその話かい?何度も言ってるとは思うが、八幡。お前も家族であり、王家なんだから選挙を降りるべきではないんだ。

 

それこそ国王である私がいうのもなんだが当選したくないなら、誰かのサポートをすればいい」

 

「いや、俺がこのまま血は繋がってないということを公表しないで続けるのはただの不誠実だろ」

 

——だからこそ、甘えてばかりではいけない。

 

「それは…」

 

「わかってる。当時はいろんな要因が重なってせいでこんな状態になっているもいうことも。

 

だから、だからこそ。家族も、国民も、多くの人に嘘をつきながら生きてる不誠実な俺が誠実さが必要な選挙なんかには出てはいけないんじゃないか」

 

そう。今の俺を取り囲む状態は致し方ないとはいえ、欺瞞・偽装の上に成り立ってしまっている。

 

結論を言ってしまえば、それは真摯であるべき国民に対する裏切り行為ではないのか。そんな俺が国王選挙なんてものに出てしまうのは流石に——。

 

ふと、暖かいものに包まれる。

 

「すまない…。私達の怠慢がお前をそこまで傷つけてしまっていたのか…」

 

「ごめんなさい…八幡…ごめんね」

 

目に涙を浮かべる両親に抱きしめられていた。最近、抱きしめられるのが多いと思うのは気のせいではないと思う。

 

「いや、なんで謝るんだ?そんな、謝ることなんて——」

 

「いいんだ!もう、無理しなくて…今まで気付いてやれなくてすまない…」

 

「あなたを守ってあげられなくてごめんね」

 

おかしい。目の前が歪んで見えないな。

少しの間、3人で泣いたのだった。

 

〜しばらくして〜

 

年甲斐もなく両親とともに泣いてしまった!あ〜〜〜〜〜!なんだこれ!恥ずかしい!今すぐ布団に入って悶えたいよーーー!!

まだ朝早くてよかったよ!誰か入ってきたらもう顔会わせられないレベルだよ!

 

「ずびっ。さて、八幡よ。お前はこれからどうしたい?」

 

?どうとはどういうことだ?

 

「わからないって顔をしているな。まあ、お前にはいくつかの選択肢がある。

 

一つ、記者会見で発表。

 

二つ、王宮から通達する。

 

三つ、お前が好きなタイミングで言う。

 

のどれかを選ぶといい。内容は、お前が二葉と綾人の子であることだ。私は、覚悟を決めた。上層部がなんだ、私が王様だから好きにしようと思う!」

 

ちょっと?ハッチャケ過ぎてない?すごい軽く感じちゃう。結構、一大事なことだと思うんだけど?止めるべきである母のことを見る。

 

「ふふっ。私も上層部のおじいさんたちにはちょっと腹が立ってたのよ。二葉と綾人さんと私達の大事な宝物を黙っておくなんてね。鼻を明かしちゃってね、八幡」

 

ちょーい!ノリノリじゃないですかー。

 

…ふむ。ならば、俺もお茶目(大嘘)なお袋を見習おうとしようかな。

 

「なら、———で」

 

「ほほう?楽しそうな顔をしてるじゃないか」

 

「その企んでる顔は2人に似てるわ」

 

「えー。なにそれなんかやだな」

 

——前言撤回。もう少し、もう少しだけこの暖かい家で過ごしたい。すまんな、お袋、親父。

 

3人だけの早朝の歓談は、他の兄弟が起きてくるまで続いた。

 

リビングの向こう側にいた影に気付かずに。

 

——————————————————

 

 

「うそ…。血が繋がってない…?」

 

 

——————————————————

オリ設定

 

比企谷二葉(旧姓 櫻田二葉)

八幡の実の母親。現国王である総一郎の妹。若くして母を亡くし、父も王であったため構ってくれることはほとんどなかった。そのため、親というものがどういうものかはイマイチわかってない。

性格は、お茶目で片していいのかわからないレベルの破天荒キャラ。国民にへの大事な報告を後でとか言ってる時点で、ね。

 

能力

生命移譲〈ライフハンド〉

自らの生命を他者へと受けわたす。自らの寿命を減らすため、一度も使ってこなかった。しかし、ある時に能力を行使。その際、体力の低下や精神へのダメージが残っていたなど様々な要因が重なり、対象へ能力をこうしたのちに亡くなった。

 

比企谷綾人

八幡の実の父親。家出した二葉と出会い、恋に落ちる。交通事故により、すでに故人。アホ毛が生えていた。王家の人と知ったのちも親交を深めるなど割と図太い参加の持ち主である。

 

 




ちょっと設定というか、過程とかいいものが浮かばずに書いたので割と雑になってしまったかもです。

次回からは原作に沿って進みます。
オリジナル回とかもうやらねぇ!



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最後の日

お久しぶりですー。
今回から原作やっていくとか言ってましたけど、結局オリジナル回となりました。申し訳ない。

お気に入り登録が600件言ったようで読んでくださってる皆様には感謝です。



8月31日

 

おかしい…。休みが足りない。

 

カレンダーを何度見ても本日の日にちは8月31日の夏休み最終日である。

 

あれれー?おかしいぞー?

 

と、見た目は子供な人の真似をしても真実に辿りつかない。難事件だわ…。

夏休み入って覚えてることが2日ぶんくらいしかないというのはどういうことなの?タイムマシンでも使っちゃった?なにそれ、過去に戻りたい。

 

「ちょっと、八幡?なにを穴が開くくらいカレンダー凝視してるのよ」

 

「いや?何度見ても今日が夏休み最終日にしか見えないんだ。なんでだろうな?」

 

これはあれかな?認識を阻害する能力でも使われてるんじゃないかな?かな?

すると、この後に歪められた世界に気付いたことで特殊な能力が開花するのか。あ、既に持ってたわ。

 

「なにを考えてるのかだいたいわかるけど…。諦めなさい。真実よ」

 

…この世界は、残酷だ。こうやって、見たくないものを見せつけてきやがる。くそっ。現実を見させやがってこの姉!

 

と、意気込んで睨んでみる。ぐるる…。

 

「あ?」

 

きゃいん!こえーよ。あと、怖い。やはり、奏姉さ「奏って呼びなさい」イエス。ユアハイネス!

 

「よろしい」といって、奏は去っていった。

 

 

しっかし、本当に31日なんだなぁ。なにしようか?よし、寝よう(この間3秒)。

夏休み最終日だからこそ惰性で過ごすべきだろう。課題とかは終わったしな。問題ナッシング!

 

よし!おやすみ!

 

——————————————

 

「zzZ」

 

「八くーーん!!」

 

「グハッ」

 

なんだ?なんだ?俺の腹になんか重いのが降ってきたぞ⁉︎

 

「助けてー!」

 

下を見ると涙目の光がのしかかっていた。せっかくの惰眠の時間が邪魔された俺は光へと質問する。この質問の答え次第では許さん。

 

「で?俺の安眠を妨害した理由は?」

 

「え、えーと、宿題手伝って欲しいなって☆」

 

「おやすみ」

 

あー、眠いなー。あ、そういえば、今週の当番は飯作りだったわ。なに作ろうか?やっぱり、夏は簡単なそうめんとかにしたいよな〜。茹でるだけだしな。

 

「八くん!お願い!手伝ってぇ!このままだと葵お姉ちゃんに怒られるの!」

 

「光よ」

 

「八くん!」

 

パァーッと一気に明るくなる顔。手伝ってくれると思っているのだろう。しかし、俺には関係がないのだ。安眠妨害されたから怒ってるわけじゃないよ?ほんと。

 

「だが断る!」

 

「なんで!」

 

「そもそも、さっさとやっておけって言われてなかったか?姉さん達に」

 

「う、それは…。忙しかったから…」

 

もうちょい嘘つくならわからない嘘をつくんだ。妹よ。目が泳ぎまくってるぞ。私は君が遊びまくっていたのを知っている。

 

「それでも、だ。やる時間はあっただろ?なのにやらなかったお前の責任だ」

 

ふっ。いってやったぜ。ここで手伝ってしまっては、光は成長しない。茜と違って成長しているところはしてきているが。根に持ってるわけではない。

 

「ううー…。ケチー」

 

「ケチで結構だ。ほら、さっさと宿題片付けた方がいいんじゃないのか?」

 

「……はぁ。葵ちゃんに八くんがこんな昼間から寝てるって言ってこようかな」ボソッ

 

それはお願いではない。脅しである。

 

「さぁーて!よく寝たなぁー!気分もスッキリしてるし、宿題とか手伝ってあげたい気分だなー!」

 

「ありがとー!」

 

この笑顔、額縁に入れて飾りたい!はっ!本音が出てしまった。お兄ちゃんの使い方が上手くなって嬉しい反面悲しさと虚しさがあるな…。立派に育って。

 

「あとで、八くんが好きな飲み物買ってあげるね」

 

「はいはい。で、なにが終わってないんだ?」

 

「ええーとね、あとは、読書感想文と理科の自由研究と算数のプリント、漢字のプリントくらいかな!」

 

「おやすみ」

 

もう無理だろ、これ…。少なくとも。俺と光だけでは終わることはないだろう。いや、マジで。

 

「だから、助けてって言ってるんじゃん!」

 

「他の奴にも頼めよ。この量は今日中に終わるか分からんぞ」

 

「もう、頼んだよ〜」

 

話を聞いてみると既に、岬、遥、茜には頼んだらしい。が、岬は宿題が終わっておらず、遥と分身たちとで急ピッチで片付けているらしい。ドンマイ、遥。茜はというと『宿題は自分でしなきゃダメ!』の一点張りだったそうだ。

 

「なら、奏に頼めば?手伝ってくれるだろ」

 

「かなちゃんは……」

 

気まずそうに目をそらす。?喧嘩でもしたのか。

 

「なんか見返り請求されそうで」

 

「ああ〜(納得)」

 

確かにしそうだよな。まさか奏でも妹からそんな見返りなんて請求するほど鬼ではないだろうしな。とりあえずは駄目元で頼んでみてはどうだろう、と提案すると

 

「八くんもきて!おねがぁい」

 

と、某ミナリンスキーさんのように行ってきたので付き添った。結果、

 

「い・や」

 

きっぱりと断られました。

 

「なんで〜!」

 

「「そりゃそうだ(でしょ)」」

 

逆になんでやってもらえると思ってたんでしょうかねぇ?

 

「かなちゃんのケチ!悪魔!おっぱいおばけ!あ、いたい!!いたい!」

 

「ふざけたことを抜かすのはこの口かな〜?」

 

光の頭がゲンコツによってグリグリされているあれってかなり痛いよね。こちらに救援を求めている光に答えるとしよう。

 

「手伝ってやってくれないか?お礼ならちゃんと出す。光が」

 

「えっ」

 

「ふっ、ならいいでしょう。姉妹とはいえギブアンドテイクは大事よね」

 

「ちょっ」

 

「これで人手不足は解決だな、光。んじゃ、とっとと始めるか」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ありがと〜!2人とも〜!」

 

それから、光の宿題を手伝った。いや〜、多かったね。俺は、読書感想文をやり、奏は自由研究をやった。

 

読書感想文の内容としてはとりあえず『ごんぎつね』にしておいた。懐かしいね。小学生だから字数も少ないしめっちゃ楽だったわ。逆に字数を納めるのに苦労しちゃうレベル。

 

そうして、夕方には俺と奏は任されたものを終えたのだった。ちなみに、母さんにはバレており、葵姉さんに怒られてました。何故か、俺と奏もセットで。

 

「あ゛あ゛〜〜」

 

ベットへと倒れこむ。

説教からようやく解放されたのが晩飯になってから。俺は食事当番だったのでなんとか逃走できた。光と奏の目は死んでいたことを追記する。

 

今日のご飯は、冷麦にした。意外とつけダレを考えるのが楽しい逸品である。俺のおすすめは、めんつゆに卵黄とラー油を入れたものだ。単純なものだけどおいしい。一度やって見てくれ。

 

「ちかれた…」

 

現在時刻は19:30を過ぎたところなので、寝るには早すぎる。やることないし、栞と遊ぼう。そうしよう。

 

ベッドから降り、リビングへ行くと兄弟、両親含めて勢揃いしていた。あ、そうか。今日は選挙の途中経過発表か。途中経過といってもだいたい月一くらいでやってるからそんなに変動しているわけではないが。

 

『さて今日の櫻田ファミリーニュース。次期国王決定選挙の8月末時点での途中経過の発表です』

 

『ご兄弟は現在夏休み中ですからあまり変わっていないと思われますね』

 

『では、世論調査の結果はこちらです』

 

10位 修

9位 俺

8位 輝

7位 光

6位 岬

5位 遥

4位 栞

3位 奏

2位 茜

1位 葵

 

「変わらないな…」

「まあ、興味ないしな…」

「くっ、栞に負けていられない!」

「ま、八くんと修ちゃんに勝ったからいいや」

「なんで遥が上にいるの!」

「僕だって知らないよ!」

「?」

「うーん。勝てないなぁ。葵姉さんは何もしてないのに…」

「なんで2位になってるの〜〜⁉︎」

「あはは…」

 

以上、櫻田兄妹たちの感想でした。

世論調査の中でのインタビュー調査も実施されていたようで順位発表の後に放送されていた。

 

以下、抜粋

『え?八幡さま?しばらく見た記憶はないですね。他のご兄妹は見かけたりしましたけど…』

『栞様と葵様が手を繋いで歩いてるのを見たりしました。お綺麗ですし可愛かったです。八幡さまは一度も見てないですね』

『輝くんとあそんだりしたよ?たのしかったー!またあそぼうね!はちまんさまはお外にいかないのかな?』

 

なんなの?この国の人からすると俺が外に出ないというのは共通認識かなにかなの?それとも、イジメ?国レベルのイジメなのか?

 

いや、違うよ?外には出てるよ?本屋とか行ったし、輝とか迎えに行ったよ?最後のインタビュー受けてた女の子と話したよ?事案になるから輝と遊んでくれてありがとうくらいしか言ってないけどさあ!

 

あと、今の抜粋は俺に票入れてくれた人らしいんだけど誰も俺のこと見かけてないじゃん。どういうことなの…。幼い子は世論とか関係はないんだろうけどさぁ、やっぱこれ、イジメじゃね?

爆笑してる修と岬と奏と茜はあとでしばく。ついでに遥も。というか、兄妹の半分笑ってるのかよ。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ところで、これなに?」

 

茜の一言により、この場にいる全員の目がテーブルの上に置いてある箱に動く。みんな気になってはいたものの誰も口に出さなかったものである。

 

「ああ、それ?お母さんが福引きで当てたんだって〜。なんか最近話題のボードゲームらしいよ?」

 

ふーん。確かに噂は聞いたことあるかも知れない。その名も『ラブラブ半生ゲーム』。今話題のパーチーゲームらしい。人生ゲームと同じじゃね?という気がしないでもないが。

 

「内容はカオスだけど面白いと人気があるらしいよ?」

 

ええ〜。名前からしてそんな青春とか過ごしてない俺にとっては目に見える地雷でしかないんだが。やりたくねぇ…。

 

「私、やりたい」

 

「「「え゛」」」

 

ハモった人は俺と奏と遥である。そして、やりたいと言ったのは末妹である栞だ。不味いな…。栞がやりたくてもこんなゲームは俺はやりたくない。奏と遥とアイコンタクトでこの場から脱出するための連絡をとる。

 

「私、ちょっとこれからやらなきゃいけないことがあるから部屋に戻るわね」

 

「あ、僕も」

 

「俺も明日のために早めに休もうと思ってたんだわ」

 

3人で席を立つ。よし、ここまでは完璧な計画だな…!

しかし、計画というのはあくまで計画。上手くいくことはなく、運命はいつでも俺たちに背を向けるのだ。

 

「…ダメ?兄様たちも姉様たちも明日から学校始まっちゃうから…」

 

「と、思ったけど1ゲームくらいやってからでも問題ないわね」

 

「僕もだった」

 

「やっぱ疲れてないっぽいから遊ぼうぜ」

 

3人で席に座る。この家族で最も強いのは栞だよね!涙目で上目遣いされたらやらざるを得ないわ。これで断ったやつは能力使って脅すまであるわ。

 

このゲームは、7人までなので全員で遊ぶのは難しいのでジャンケン(栞、輝、光は除く)で参加者を決め、負けた人は栞と輝のサポート及び銀行役をしてもらうことになった。

 

結果

参加者 俺、茜、遥、奏、栞(サポーター:葵)、輝(サポーター:修)、光

銀行役 岬

 

と、なった。ちなみに父と母は穏やかな目でこちらを見ている。

やるとなったらとことんやる所存でございます。

 

さあ、ゲームを始めよう。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

1時間後

 

もう、このゲームやめよう?

 

このラブラブ半生ゲームはかなりシビアなゲームである。なにがシビアって結婚した人のコースと独身を突き進むコースの差が地獄過ぎるだろ。

 

遥、茜、奏の3人は独身コースを突き進んでおり、仕事先で役員になっていたりと、びっくりするレベルの大金を抱え込んでいる。ただ、その分面白みがなくなってるぞ、これ。見てみろ、3人の目が割と死んでる。

 

「やったー。またお金が増えたー」

 

茜が死んだ目で大金をゲットしていた。

俺と修と光、葵、岬は目をさっと逸らす。居た堪れないよ…!

 

そもそも、始まりからしてやはり地雷だったのだ。だって、茜から始まったんだが茜が最初に泊まったマスは【カメラの前で下着を晒す。心に傷をおったため一回休み】だぞ⁉︎ピンポイント過ぎてその時点でもう笑えなかった。(修は爆笑して沈められたが…)

 

他の人もわりと笑えないマスに止まったりと純粋に楽しんでるのはもう輝と栞だけかもしれない。

 

遥は、特に山もなく谷もないザ・普通といっても過言ではない進み方をしている。結婚相手はいないものの、何故か妹が乗っており、岬がちょっと嬉しそうなのが気になる。拗らせてんなぁ…。

 

輝(with修)は、職業王様になっている。王様って…。王様という職業が輝によって引き当てられた時、ゲームとはいえ、修に向けられた殺気は本物だったと俺は思う。

そして、たまたま修が回した時に【昔からの知り合いに告白される 相手を一人乗せる】てマスについた時には運命を感じたわ。あの人、そろそろ告白してもいいんじゃないかな?一途にもほどがあるよな。

 

一方、俺と栞はいい感じで進んでいる。このゲーム、プレイヤー同士が結婚できるとかいうその場の空気を殺しにかかるという殺伐としたルールがある。NPCともできるけど。

そして、俺の結婚相手は栞なのだ。結婚相手が栞に決まった瞬間、各所から謎の殺気を感じた。怖過ぎ…(震え声)。

 

ただ、「兄様と結婚?嬉しい…」と少し顔を赤くしながら微笑む栞が可愛過ぎて脳内スクショで連写したのち脳内フォルダに何重にもカギをかけた。これだけでご飯6杯はいける。再び殺気に襲われたが。

 

光も順調に進んでおり、職業はアイドルで、仕事場で知り合った人と結婚している。アイドルって結婚していいのか?

 

1番悲惨なのが奏である。所持金はダントツでトップでありながらその職業はフリーターというかニートである。収入源が株やらFxからで名トレーダーとなっている。大学時代から株に色恋のマスには一切止まらずトレーダーの道を爆進していた。遥と茜ですら止まったのに…!

 

と、そんなこんなでここまで進んできたのだが、ツライわ。主に奏と茜からのプレッシャーがツライ。

 

「さて、八幡の番よ」

 

回ってきてしまった…。俺はルーレットを回す。5か。

 

「ん。1、2、3、4、5と。えーと?【夜の運動会が盛り上がる!一人子供が増える】………」

 

シラーとした目でみんなが見てくる(年少組以外)。俺にどうしろと…⁉︎そんな俺の袖を栞がひいてきた。

 

「ねえ、兄様…」

 

「ん?どうした、栞?」

 

「夜の運動会ってなに?」

 

ピシッ。空気が凍る!

 

「僕も気になります!」

 

「私もちょっと気になるな〜。それってどういうこと?」

 

このゲーム、子供の情操教育にめっちゃ悪いぞ!この年齢の子たちにはあまりにも早すぎるので、とりあえず逃げよう。

 

「あ〜と、俺もよくわからんな。そこで顔を赤くしてる茜なら知ってるんじゃないか?ごめんな、力になれなくて」

 

「ちょ、八幡⁉︎」

 

すまない、犠牲になってくれ。俺のために。

 

「茜姉様。どういう意味なの?」

 

「ええっと、それはぁ…」

 

言い澱む茜を興味津々に見ている。修が。あ、また沈められた。

 

「まだ、栞たちには早いので言いません」

 

「そうなのですか⁉︎姉上!」

 

「そうね。まだちょっと輝たちには早いからこの話は大きくなってから聞かせてあげるわね」

 

葵姉さんに言われて仕舞えば輝たちもそこまで深入りしてくることはないだろうな。

 

「それじゃあ、栞の番だね」

 

岬が久しぶりに話した。

 

「姉様、回していいよ?」

 

「そう?それじゃ、えーい!」

 

栞の番で葵姉さんにルーレットを回すのを譲った栞。ええ子やで…。数字は8か。

葵姉さんは栞を膝の上に乗せてるので茜が進める。

 

「…8、と。なになに?【夫(妻)の秘密を知ってしまう 3戻る】?なんか、普通だねってどうしたのお姉ちゃん?」

 

「な、なんでもないのよ?あはは…」

 

なんで、慌ててるんだ?なんかこっちをチラチラ見てるような気がするけど気のせいだろ。

 

なんやかんやあって全員ゴールすることが出来た。順位的には栞が1位で金額的には奏がぶっちぎりで優勝である。通夜のような雰囲気になってたけどね!

 

片付けも終わる頃には21時ごろになっており、輝と栞は眠そうだったので寝かせた。リビングには現在、寝た二人を除いた兄妹が集まっており、意志は一つとなっていた。

 

「このゲーム、捨てよう」

 

「「「「「「「賛成」」」」」」」

 

こうして、ラブラブ半生ゲームは櫻田家で二度とプレイされることはなかった。

 

——————————

〜おまけ〜

 

翌日玄関で靴をはいていると栞が駆け寄ってきた。

 

「兄様、おはよう」

 

「おう、おはようさん。栞」

 

「もうお出かけ?」

 

「ああ、面倒だけどいかなきゃならんのだ。休みたい…」

 

「……!兄様、ちょっとしゃがんで」

 

「?まあ、別に構わんが…」

 

ちゅ。

しゃがむと同時に頬になにか暖かいものが触れた。

 

「あの、栞さん?」

 

「母様も父様にやってた」

 

「あの夫婦め…。いや、それはいい。何故、今やったんだ?」

 

「昨日のゲームで兄様と結婚したからやってみたかったの…。ダメ…だった?」

 

「全然駄目じゃないぞ!むしろ、もっとやってほしいまであ両手が捩れるように痛い!」

 

「「「八幡(八くん)?」」」

 

「あれれー?姉さんたちもう先に行ったのでは?」

 

「茜が忘れ物したから戻ってきたのよ」

 

「そしたら、妹に手を出してるとは…」

 

「八くん…」

 

「あ、ちょっとこれからお腹痛くなるから学校休むわ」

 

「「「行くよ」」」

 

「待って、お願い。弁解の余地をぉぉぉ!」

 

引きずられながら、学校へ向かうことになりましたとさ。

 

「…行ってらっしゃい」

 

その日一日中栞の機嫌が良かったとかなんとか。

 




後半のアレはネタがなくてついつい書いてしまったんだ…。
次から本当に原作に戻りたい。

感想などしてくれると喜びます。


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fan club


一ヶ月に一回から二回投稿になってきている璃羅です。
卒論が辛すぎて割と期間が空いたりしてしまっています。
今後も遅れる可能性は大ですが、よろしくおねがいします!



 

夏休みも終わり、だんだんと残暑が緩くなってくるころになってきた。あぁ、夏休み…元気でな、また来年会いましょう。

 

二学期が始まり、このクラスの面子も変わりなく、登校してきているようだ。真っ黒に焼けていたり、ハゲだったやつの髪の毛が増えていたり、お前一学期の時メガネとかかけてなかっただろ?というやつがいたり、高校デビューならぬ新学期デビューだろうか。というか、カツラは余りにも自虐的すぎませんか?

 

「ひさしぶり〜、は、八幡」

 

声をかけられたのでそちらを向くと鮎ヶ瀬がいた。よかった。コイツは新学期デビューとかいうことをやっていないようだ。

 

「おう」

 

「ちょっと?ひさしぶりに会うのにそれだけ?あんた、夏休み中ろくに家から出てないって聞いたわよ。…何回か誘ったのに」

 

ちょっとー?人のプライバシーを勝手に渡さないでくませんか?茜さーん。あと、最後の言葉聞こえてますよ?あいにく、難聴ではないので。だが、無視する。それが俺クオリティー。

 

「ほっとけ。俺が家から出ないのは用事がないからだ。用事がありゃ、外には出てるし。そもそもあんな暑い中、遊びに行くとか信じられんわ」

 

「あんたねぇ…」

 

おかしい。飽きられた目で見られているだと?普通、用事がなければ家とか出ないよね?折角、冷房が効いた家でダラけられるならダラけるよね?

え?普通ない?うっそー。

 

「家から出ないアンタのために来年は用事作ってあげようか…?」

 

「めんどい」

 

「あ、あんたねぇ…」

 

だってだって、なんか顔赤くするくらいには怒ってるじゃん?そっぽ向きながらいやいやそんなこと言われてもMじゃないから困るわー。

やだ、なんか落ち込んでる?俺のせいなの?そうなの?ちょっと罪悪感あるじゃない…。

 

「…………気が向いたらな」

 

「…!楽しみにしてるわ」

 

ま、どーせ来年になったら忘れてるだろ(フラグ)。そんなに嬉しそうにされると勘違いしちゃうからやめてね。

それと、新学期デビューしたハゲよ。カツラ取られてるじゃねぇか…。こっち、チラチラ見んな。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

夏休みを終え、学校が始まる初日というのは始業式があるため、基本的には半ドンであろう。我らの学校も始業式が終わったら、授業もなく帰れるのだ。いつもこうしようぜ。

 

現在は、そんな始業式が行われる体育館へ行くために廊下に並ばされているのだ。こういった整列とかさせるのはクラス委員長、またの名を学級委員というが我が妹で、極度の人見知りである茜がクラス委員長をやっているのだ。

 

何故?と思う人もいるかもしれないが意外と単純なものなのだ。その理由は『知らない人じゃないから』。ある程度の知己な人だと、人見知りは発生しないらしい。その割に、近所の人には発動するけどな。茜らしいというか、何というか。

 

ちなみに、その話を聞いて奏が『じゃあ、国民全員と知り合いになればいいじゃない』といったところ、『国民全員と知り合いになんてなれるわけないじゃん。常識的に考えてよ』と煽られ、奏に青筋が浮かんでたのはここだけの話。

 

そんなクラス委員長である茜を副委員長として支えているのは複品?だっけ?なんか違う気もするな…。まあ、いいか。その粗品というやつがいるのだ。コイツはとある会の会長であるがいまはまだ語る時でないだろう。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「来週末、全校をあげて町内清掃活動を行います」

 

全校集会では、長ったらしい校長の話が終わり、生徒会からのお知らせが生徒会長の代わりの副会長である奏によって行われている。どうやら、近日、地域貢献の一環として街中のゴミ拾いやらなんやらをするそうだ。めんどくさい…。サボろうかな…。

 

と、壇上でその話をしている奏と目が合う。能力を使わなくても何が言いたいか分かってしまった。

 

『逃げたらコロス』

 

目は口ほどに物を言うというのは本当だね!震えと寒気が止まらないや…。もう季節は冬になったのかな…?

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「そういえば、生徒会長ってどういう人なんだろ?」

 

なんだ急に。朝礼も終わり、次の時間は掃除のため、教室へと戻る道を歩く俺の隣にやってきた茜がなんか言ってた。ボーッと前を見てると耳を引っ張られる。結構いたい!犯人を見るとむくれていらっしゃる。

 

「八幡に話してるんだけど」

 

「ほーん。それは知らなかったな。というか、鮎ヶ瀬と話してこいよ。俺に話しかけられても困るわ」

 

学校においていつもは隣にいる鮎ヶ瀬の姿は見えない。なにやってんのかね?

 

「花蓮のことは、いまはいいの。それより、八幡には文句があります」

 

「受け付けません」

 

「なんで花蓮を鮎ヶ瀬って呼んでるの?」

 

プレッシャーが発動した。

この重圧で能力を使ってないだと⁉︎こいつめ、一体どんな修行を積んだらこうなるんだ!そういや、名前で呼べとか言われてたっけな(二話を読もう!)

突然なにか、電波を感じたが現在俺が感じているのは圧倒的なプレッシャーである。ポケモンも伝説に挑む時はこんな風に感じるのだろうか。ちょっとこれに挑ませるのは、酷いかもしれないよ?トレーナー諸君!

 

「で、言い訳は?」

 

「いやいや、そんな早くから言い訳だなんて決めつけるなよ。そもそも、俺が本当にそんなことをしなければいけないなんて証拠ないだろ。証拠を出せ、証拠を!」

 

「で?」

 

「すいません、忘れてました!」

 

奏が切れた時以上のパワーを感じた。言い訳を繰り返していたら、死んでいたぜ…。

 

「ただい…って、なにやってんの?2人して」

 

「あ、花蓮」

 

救世主じゃ!救世主様がやってきおったぞ!軌道修正しなければ。

 

「で、なんの話だっけか?茜」

 

「むっ。そうそう、生徒会長ってあんまり見ないけどどういう人なのかなって」

 

「あ〜、確かに見ないね」

 

え、知らないのん?この学校に在籍する生徒としてそれぱどうなのよ?俺でさえ知ってるよ?奏に生徒会の荷物とか運ばさせられてるからな!あの人は病弱だからな〜。栞と輝の次くらいに心配するレベル。結構高めにいるな、おい。

 

「八幡は知ってる?」

 

花蓮が聞いてきた。どうしようか。ここで知ってるというとどんな人?という話に発展し、俺の1人の時間が減ってしまう。だが、ここで知らないふりをしたら後でこの嘘がバレた場合の未来が暗すぎる。と、いうわけで答えることにしよう。

 

「あー、いち「会長!今朝の朝礼の件ですが!」ぉぅ…」

 

人が話そうとしてるときに遮るの誰だ!声がした方へ顔を向けるとメガネをかけた我がクラスの副委員長服品?いや、福品か。が、体格のでかい男子と共にいた。

 

「あれ?3年生の武田先輩じゃない?」

 

「よー覚えてるな、お前さんは」

 

「あんたも覚える努力すれば?」

 

ふぇぇ。花蓮さんの目が冷たいよ〜。俺だってちゃんとクラスメイトの名前くらいは覚えてますよ?多分、きっと、maybe。福品?さっき覚えたからノーカンで。

 

あ、先輩とやらがこちらを具体的にいうと茜に気付いたな。

 

「ちょっと待っててください」

 

福品がこちらへとやって来たな。

 

「櫻田さん。急を要するみたいだから、ちょっと行ってくるね」

 

「あ、はいっ」

 

「さて、それじゃ行きましょうか。先輩」

 

2人は去って行ったのだった…。なんか茜が思案しているな。どうせ、なんで先輩が敬語使ってるんだろうとか、会長って言ってたよねとか考えてるんだろう。

 

面白そうなことになりそうだし、生徒会長の件は黙っていよう。そうしよう。

嫌な予感がするのは、気のせいか…?

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

結果として、茜は珍しく3年の教室まで出向くことによって生徒会長と出会うことが出来たようだ。そして、葵姉さんからの情報漏洩により、俺が生徒会長のことを知ってることが発覚。折檻が決まった瞬間だった…。

 

体がボロボロになりながらも、俺はとある教室の前にやってきた。その教室の名は地学準備室。古典部があってもいいんじゃない?この学校。

 

その教室の前にはまるでこの部屋には一切通さないかのように、生徒が門番のごとく立っている。中からは、何か喧騒が聞こえてきているが、放課後であるからか特にこちらにくる生徒もいないようだ。

 

「お疲れ様です」

 

とりあえず俺は門番の先輩(ネクタイの色で判別)に声をかける。

 

「はっ、お疲れ様です!」

 

「中入らせてもらってもいいっすかね…?」

 

「構いませんが、今は会議中なので喧騒にまみれていると思われますよ」

 

地学準備室のドアに手をかける。確かに、何か言い争っている声が聞こえてくる。

 

ガラッとドアを横にスライドさせて開けると、福品と昼の先輩が何か取っ組み合ってるようだ。ドアを開けて音によって一斉に中にいる人の目線が向いてくる。ちょっと、怖いな。

 

「これは、名誉顧問!お疲れ様です!」

 

「「「お疲れ様です」」

 

この場にいる全員が挨拶をしてきた。やだ、ちょっと嬉しい。

 

「お疲れ様です。あと、敬語とか別にいいので」

 

あんまり畏まられるのは好きじゃないのだ。親が偉いだけで俺自身は別に偉いわけでもないしな。

 

「しかし、珍しいですね。名誉顧問がここにくるとは」

 

「確かに、今までFC会には出なかったのに、どうしたんですか」

 

そう、ここは櫻田茜ファンクラブ(通称FC会)という者たちの集いの場なのだ。ちなみに会長は福品で、修がNo.2として存在している。別に俺はFC会に所属しているわけではない。何故、俺が顧問なんていう胡散臭いことをしているのか。それは、ひとえにこいつらの監視である。

 

別にファンクラブを作るとかは俺に決定権ないから別に構いやしないがあまりに度が過ぎるのは許容できない。というか、近づき過ぎるのは許さん。そんな理由もありながら、この茜のファンクラブには時折、監視として見て回っている。基本的には影ながらだけどな。

 

「いや、今回の件についてどうすんのかと思ってな」

 

「ああ、今回は我々FC会は見守ることにしました。やはり、茜様の成長も見守るべきであると考えたので」

 

「そか、ならいいわ」

 

あんま茜の日常に介入するつもりなら言おうと思ったがそんなつもりもないなら別にいいか。

 

「じゃ、お騒がせしました」

 

んじゃ、帰るかな。準備室を出ると昇降口へと歩みを進める。夕焼けがリノリウムを照らし、幻想的な雰囲気を醸し出す廊下を歩く。

そういえば、忘れてたけど茜は会長に会えたのかね?とかなんとか考えてると何か遠くから音が聞こえてくる。

 

「〜〜〜〜〜!」

 

うーん。聞いたことがあるような声だな。

 

「は〜〜〜〜ま〜〜!」

 

あんまり学校で大声を出すもんではないぞ。誰だか知らんけどな。

 

「は〜〜ち〜〜ま〜〜ん!!」

 

おいおい、そろそろ反応してやれよはちまんとやら。女子が呼んでるぞ。全く、いい加減にしろよ。リア充が。

 

「八幡?」

 

ガシッと肩を掴まれる。おや?冬になったわけではないのに背筋がゾッとするぞ?こんな寒気は……今朝感じたな。姉からの圧で。つまりは、そういうことだ。後ろを振り向きたくないわ…。だって、今この瞬間も肩に置いてある手の力が強くなっててててて!!

 

「肩砕けるわ!」

 

あまりの痛みに後ろを振り向くと赤い悪魔…の他に葵姉さんとご学友の方々がいる。生徒会長もいらっしゃる。

 

「こんにちは。八幡くん」

 

「久しぶりだねー」

 

「八くんも今帰るところ?」

 

「どもっす。生徒会長は今日の体調は大丈夫ですか?」

 

「はい、風邪気味みたいですけど、今日は調子いい方ですよ?」

 

あー、栞の次くらいに癒されるわ。ちなみに、葵姉さんの友人の先輩方とは俺が奏によって生徒会の雑用をさせられてることによって面識はあるのだ。

 

ただ、時々葵姉さんは後ろめたさを感じてるのか、思いつめたような感じの顔するときあるんだよな。これでも、何年も暮らしてるしな。顔には出にくいけど、意外と葵姉さんは分かりやすい。人の顔で空気を読んできた俺にはまるっとお見通し!

 

「で、八幡?」

 

おっと、忘れてたわけじゃないよ?ただ、現実逃避したかっただけどから!そこんとこ間違わないでよね!

 

「なんだよ。そんなフグが膨れてるような顔して?お前が何に怒ってるのか俺には皆目見当もつかんぞ」

 

「なんで言わなかったの…?」

 

「あ?」

 

何に対してだ。まさかとは思うが、いとこであるということに気づいた?いや、自分で言っててないな。どーせ他のことだろう。

 

「なんで生徒会長のこと知ってるのに言わなかったの!」

 

ちょっと警戒して損した。

 

「教えてくれたら3年生の棟に行かなくてもすんだのに!」

 

「ちょ、ま、肩掴んでふるな。酔うわ!」

 

グワングワン揺れるから気持ち悪さがマッハである。おえっ。

 

「理由を話さないと繰り返すよ…?」

 

ああ、嫌な予感というのは当たるものだなぁと苦笑いの先輩方に囲まれて俺は考えることをやめたのだった…。

 

———————————

 

『それでは、本日の清掃頑張りましょう!』

 

という、久しぶりに生徒の前に出た卯月先輩の一言によってぞろぞろと俺たちは、清掃を開始した。

 

俺らのクラスは川の中の清掃である。マジかー。

 

「茜ー?大丈夫なの?」

 

「あはは…。大丈夫だよ。そう、大丈夫大丈夫」

 

どうやらうちの妹は大丈夫ではなさそうです。町内の人から見られたりしており、もう自己暗示のレベルにまで至っているな。それでも、掃除の手は緩めないんだから真面目だよな。

 

さて、それはそれとして話さなければいけない奴がいたようだ。そいつの後ろから近づくステルス能力を舐めるなよ。

 

「よう」

 

「こ、いや、櫻田くん⁉︎どうしました?」

 

慌てた様子でそいつは手に持っているものを後ろに隠す。もう分かってるんだが。

 

「いや、な。茜が恥ずかしながらも頑張っているというのに、その姿を見てニヤニヤしてる奴がいるんだが、それってどうしたらいいと思う?」

 

そいつ——もう面倒いや。福品から汗がダラダラと出てきている。

 

「しかも、それをカメラになんて収めてちゃあな。ちょっと兄としてお話をしたいんだよ」

 

「そ、そそそそうなんですか!そそそんな人も居るんですね!」

 

「そのカメラ壊すかデータ消すかどっちがいい?」

 

「すっいませんでしたーー!」

 

この後、茜に気付かれることなく福品が持っていたビデオカメラのデータは消去しこの清掃は終わりを迎えたのだった……。

 

こうして、FC会には兄を怒らせないという新たな会則が出来たとかなんとか。

 

 

ーおまけー

 

ゴミを出しに行った際

 

「あ〜、づがれ゛だ」

 

「お疲れ様です。八幡くん。ふふっ。随分お疲れみたいですね」

 

「意外と腰とかにきますしね…。卯月先輩は体調大丈夫なんすか?」

 

「はい!今日は珍しく体調が絶好調なんです」

 

「絶好調なのはいいですけど、無理しないでくださいよ?葵姉さん達がまた心配しますし」

 

「たち?」

 

「ああ、葵姉さんと奏ですよ。何だかんだ先輩が体調悪い時とかいつも心配してますしね」

 

「お二人にはいつも、助けられてばかりで申し訳ないです」

 

「いやいや、あの二人は世話焼くのは好きですから、問題ないですよ」

 

「あの…」

 

「はい?どうしました?先輩」

 

「八幡くんは?」

 

「はい?」

 

「八幡くんは心配とかしてくれたりするんですか…?」

 

「………………はい。そりゃあ、しますよ。姉の大事な友人ですし」

 

「…むう」

 

「なに顔膨らませてるんですか。茜の真似かなんかですか?」

 

「まあ、いいです。引き続き清掃頑張ってくださいね。八幡くん」

 

「はあ、まあ。何だったんだ…?」

 





個人的報告
アズールレーン始めました。
巨影都市が楽しみ。
卒論とかなくなればいい。

では、また次回お会いしましょう!


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初めての御使い

お久ぶりです。
1ヶ月に一回の投稿になっているのは、申し訳ないですが、まだしばらくはこんな感じになるかもです。
今回は多少不快に思う方もいらっしゃるかもしれません。と前もって一応言っておきます。
アンチのタグとかって入れるべきなんですかね?

では、どうぞー



「兄上!僕には試練が必要なんです!」

 

とある日の昼下がり。家事のくじ引きを行い、茜が今日も買い物を引き、嘆いていた。くじ運ないよね。ここまで、買い物を引き続けるとはもう運命的といっても過言ではないかもしれない。

 

修が茜にツインテの位置を普段より上にするという条件のもと、茜の買い物と修の洗濯を交換した後、輝が声をあげた。

 

前にも説明はしたかもしれないが、この家事のくじは年少組には適応されない。それぞれを手伝ってくれてはいるが、任せることはまだ危なかったりするので1人ではさせないのだ。

 

そんなうちのルールだが輝がやりたいと声をあげているようだ。それに対して、修が厳格な雰囲気を出して向き合う。

 

「なぜ、そんなにやりたいんだ?」

 

「僕には…僕には強くなるための試練が必要なんです!栞や母上を守るために!」

 

「…よかろう!ならば輝、お前にこの仕事を任せようではないか!葵姉さんには言うなよ?」

 

「兄上…!」

 

「だが、これは重要な任務だ。しっかりやり遂げられるな?」

 

「はい!」

 

まさかの修があっさりと承諾した。あ、輝が喜び過ぎてテーブルの脚にハニーボーンしてしゃがみこんだ。あれって手がビリっとくるから嫌なんだよな。

 

「くっ…!鎮まれ!僕の右腕ぇ…!」

 

先ほどの会話からもう察している人もいるかもしれないが櫻田家が四男輝は一足早く厨二病を発症している。まあ、子供がやってるからまだ微笑ましいんだけどね。

 

ただ、と俺の心にダイレクトアタックが決まっているから辛い…。いや、中学生のときにやってたわけじゃないよ?これが…特殊能力…!なんて事やってないったらやってない。ましてや、奏に見られてたなんて事は断じてない。

 

まだ子供だし、ヒーローとかには憧れる時期なのだろう。それに対して、栞はあまりそう言ったことには興味がないのか分からないが、子供の頃やっていたようなヒーローごっことかプリキュアごっこをやるところは見たことない。そういう服着たら可愛いだろうに…。

 

「わたしも、行く…」

 

「栞も行きたいのか?まったく、しょうがないなぁ!」

 

輝の後ろにいた栞が袖を引っ張り意思表示をしていた。輝は『栞は甘えん坊だなぁ』なんて思ってるけど『…心配』って思われてるぞー。能力を使かわなくてもなんとなくわかるわ。末妹がめっちゃしっかりしてることがよく分かったわ…。

 

「それじゃあ、行ってきます!」

 

「…行ってきます」

 

二人は買い物へと出かけて行ったのだった…。あれ?そういや…

 

「茜が修と結んだ契約、無駄になってね?」

 

「しまったーー!!!」

 

結論、茜のツインテの位置が三ヶ月間高くなっただけであった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

数分後

 

茜がテーブルで頭を抱えていた。おおかた、自分が行くはずの仕事を下の弟、妹に任せてしまった罪悪感でもあるのだろう。

やれやれ…。信じて待つということが出来ないのかね。

 

「あんた…茜見てやれやれみたいな空気出してるけど、さっきからずっとソワソワしてるわよ」

 

「ば、ばばば馬鹿言うんじゃないよぉ!」

 

余計なことを言うんじゃないよ!奏さんヨォ!心配するのは兄として当然の義務であり、それが可愛い輝と栞ならなおさらダロォ!まさか、心配なんてしてないと⁉︎なんて、冷血なんだこの女!

 

「ちょっと?人をなんだと思ってるのかしら?あんたとは私に関して話し合わなきゃいけないことがありそうね?」

 

「ずみばぜん」

 

頬を引っ張るのやめてくださいお姉様!

 

「別に心配してないなんて言ってないじゃない。あの2人は内で最も年齢低いし、輝にかぎっては不安しかないわよ」

 

それは同意である。輝はおっちょこちょいと言うかなんと言うか…。抜けてるところがあるからなぁ。それが心配で栞が付いて行ったんだろうけど。うーん、様子を見に行きたいとはいえ、このまま行ってバレてしまったら信じてなかったみたいな感じがして嫌だしなー。

『信じてくれてなかったの?』なんて2人に言われたらその場で舌を噛みちぎるまである。

 

くっ、どうすれば…!

 

「光!変身よ!!」

 

突然、茜がぶっ壊れたみたいだ。

 

「…………………え?なに突然……ごっこ遊び……?ちょっと付き合えない……」

 

「違う!!引くなっ!!!そっちの2人も引かないでっ!!」

 

誰でも唐突に「変身だっ!」なんて言われたらドン引きするわな…。この場にいる俺、奏、光の全員が茜の発言にドン引きした。そんなこと言って許されるのは最近では色がかなり増えているヒーローや仮面のバイク乗り、プリティでキュアキュアな存在くらいだろう。

 

「光の能力で姿を変えて遠くから見守ろうとしたの!」

 

「追っかけるなら最初から自分でいけばいいのに…」

 

ど正論である。

 

「今更言ってもしょうがないでしょ!いいから早く!!」

 

「は〜い」

 

これで頼みごとを聞いてくれる光はいい妹だと思う。いや、まあうちの子はいい子しかいないんですけどね?

 

「あ、そうだ八くんたちもやる?」

 

こっち見て聞いてきた。うーむ。たしかに光の能力を使えばさっきの条件はクリア出来るからな…。よし、やろう。

 

「んじゃ、頼むわ」

 

「かなちゃんはどうする?」

 

「私は…やめとくわ。家で待ってる人もいないとね」

 

ツンデレか?ツンデレなのか?

 

「今すごいイラっときたんだけど何か知らない?」

 

全力で目を逸らしておこう。

 

「それで?何歳ぐらいにするの?」

 

一応、光の能力は人に使う際は年齢も設定できるらしい。

 

「うーん、25、7歳で!」

 

「おまかせするわ」

 

「はーい」

 

光が俺と茜に手をかざす。すると、俺たち2人の体は光出した。みるみるうちに視点が変わっていく。なかなかない体験だよな、これ。そもそも、能力がある時点で普通はあり得ないが。

 

なんか目線がだんだん低くなってきたんだけど…。茜は27歳っていってなかったっけ?同時に使うんだし、俺もそのくらいになると思ってたんだけど?

 

体の変化が終わり、目を開けると…体が縮んでいた!見た目は子供!頭脳は大人!その名も…!

 

「27歳って言ったじゃない!」

 

「7歳っていいましたー!」

 

俺の隣のチビ、まあ茜だが。と光が言い争っていた。確かに25って言ってから7歳っていったけどね?日本語の難しいところだな。

さて、7歳の茜だがまんま高校生の茜が小さくなったと言う感じだ。悲しいことにある一点はこのころから大して育ってないということがわかる。泣ける。

 

俺の容姿はどうなってんのかね。鏡とかないからわからん。キョロキョロと姿見がないか探すもリビングにそんなもんなかったわ。ただ、挙動が怪しい人は発見できた。奏である。

 

「どーした?かなで?」

 

「…か……」

 

「か?」

 

カニバリズム?

 

「可愛い…!」

 

「ぐえっ」

 

奏のとっしん!

八幡は回避を試みる!

しかし、失敗した!

八幡は目の前が真っ暗になった!

ついでに息も出来なくなってきている!

 

俺の目の前は真っ暗であるが、顔に感じるこの感触は…!桃源郷はここですか。奏の匂いのせいか頭がクラクラしてきたな…。あ、待って、本当に息できてない。だが、我が生涯に一片の悔いなし…!いい人生だったさ…。

 

「かなちゃん!八くん息できてないよ⁉︎」

 

「え?嘘?ちょっと!大丈夫?」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

さてさて、一瞬意識を失ったもののなんとか息を吹き返し現在は輝と栞をストーキ…尾行中だ。ちなみに、光は16,7歳ぐらいになっている。距離としては、照たちから少し離れて茜、光でさらにそこから離れたところに俺がいる。

だって、あの2人五月蝿いからバレそうなんだよ。

 

ここで、俺の能力についてもう少し詳しく説明しようと思う。テレパシーを送受信できるのは半径1キロほどというのは知っているだろう(詳しくは3話を見てね!)

テレパシーは半径1キロ以内にいる特定の人物へと繋がなくてはいけない。そのため、送受信する場合には相手の居場所をある程度特定出来るのだ。それを使えば、迷子だとか今回の件のように居場所を知れる。相手に感覚的にはアンテナを設置するみたいな感じだな。そうすることで、姿を見ずとも尾行は出来るということなのだ。

送受信に関しては俺が制御しておけば、流れることはないのでプライバシーの問題もないというメリットもあるよ。居場所は分かっちゃうけど。ただ、x軸とy軸が分かるもののz軸いわゆる高さは分からないのだ。だから、ショピングモールで迷子になられると少し大変。

 

え?今回も別に姿変えなくても能力使えばよかったじゃんって?バーロー、俺も輝たちを追いかける時に能力使って思ったよ!

 

閑話休題

 

2人は現在、順調に進んでいる。犬に絡まれ吠えられていたようにも見えたが、栞が能力を行使したのだろう。すぐに静かになり、その隙を輝がダッシュで抜けていった。

 

茜と光だが、20mほど離れた電柱に身を隠しているもののぶっちゃけ丸見えである。体の一部が飛び出ており、隠せてはいないのだ。あ、一部っていっても茜の将来が不安に感じるところじゃないよ?体の半分が飛び出てるんだよ?これ一部じゃなくね?輝と栞の2人が後ろを振り向いたら即バレするレベル。

 

あ、向いた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ちょっと!八くん!ひどいよー!見捨てるなんて!」

 

「そうだよ!ごまかすのたいへんだったんだから!」

 

「それおれのせいじゃないしな…」

 

なぜ、俺が責められているのかというと…。

先程まで、茜と光は輝に発見され不審者扱いを受けながら頑張って言い訳をしてた。栞からはガン見されてたから多分バレてるんだろ〜な。俺はそんな様子を見ながら4人から離れた電柱の後ろでのんびり見てたというわけだ。光がこっちすげーチラチラ見てたけど、俺の能力を使えば切り抜けられたかもしれないが、あえて無視してみたのだった。

 

…傍目から見たら面白かったしな。

 

ちなみに、御使い組(誤字にあらず)はスーパーの前でなにやら慌てている。どうやら、輝が持っていたはずのメモが見当たらないようである。確か胸ポケット入れてなかったっけ?と、どうやら気づいたようで2人は仲良くスーパーへと入っていったみたいだ。

しばらく待機である。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

目当ての品物を買うことが出来た輝くんと栞ちゃんはこの調子で家に帰ることが出来るかな?

 

「…なんでは○めてのおつかい風なの?」

 

地の文にツッコミを入れるのはおやめください。まあ、この先に危険なところとかないしな大丈夫だろ(フラグ)。

 

コンクリート塀の陰からそっと輝たちがいるであろう方へ覗き込むと…。

 

「あれ…?なんかあの犬今にも襲いそうじゃない?」

 

「まずいよ!はちまん、どうしよう⁉︎」

 

腹を空かせたのであろう犬が輝と栞の行く道を塞いでいた。しかも、首輪がついてやがる。今にも襲い掛かりそうな雰囲気だ。さすがにまずいな…!というか、この中で1番この状況に対応できるの茜だろーが!

 

「くっ、まにあうか…!」

 

駆け出そうとした瞬間——

 

ダゴォォォン!!

 

とあたりに音が響きわたり、地面が揺れた。音の原因を探ると、輝の周囲の地面が半径1メートルほどであるが陥没していた。どうやら、輝が能力の肉体強化〈リミットオーバー〉を使ったて足で地面を踏み抜いたみたいだ。

 

「おい、お前…。弱いものを攻撃するなんて卑怯なやつだな」

 

能力の威力にビビっている犬に輝が声をかける。普段の輝からは考えられないくらいの低い声が出ていた。

 

「僕は、母上や兄上から生き物にこの能力を使わないという約束をしてる…。それに、悪が出てきたら正々堂々と戦うことも約束してる。だけどな、お前が栞を傷つけようとするなら、僕は契約を破るぞ…!」

 

駆け出そうとした足を止める。…どうやらしっかりしてるのは末妹だけではなかったようだ。末弟もしっかり成長している。家族思いのいい子に成長してくれているみたいだ。

 

犬は輝の威圧に恐れをなし、走って逃げていった。その後2人は仲良く帰路へと着いたのだった…。

 

「ふう、2人ともぶじでよかった…」

 

「後始末、しないとね」

 

「まったく、ちゃんとしつけてあげないとダメだよね!」

 

「え、茜ちゃんそっち?道路はいいの?あれ?あの犬、戻って来たよ」

 

道路もしなくてはならないが、それ以上に優先すべきことがある。あの犬が輝がいなくなったのを確認して戻って来たのだ。そして、どうやら次のターゲットは俺らのようだ。こちらを威嚇しながら、走ってくる。

 

だが、俺としてはこの犬とその飼い主にブチ切れているので全く怖くない。

 

「あかね、そのいぬをほかくしてうかせろ!」

 

「え、う、うん!」

 

茜に犬を捕まえさせる。

この犬、しっかりと首輪もしており、住所も書いてあるようだ。さて、電話しようか。

 

ー10分後ー

 

とりあえず、茜の能力でこの犬には悪い…いや、別に悪くねぇな。おすわり(強制)をさせて、俺が鎖を握っている。

 

「やー、すみません。うちのワンちゃんを見つけてくれたようで」

 

やって来たのは中年ぐらいの恰幅のいいおばちゃんだ。服も裕福そうなものを着ている。

 

「あら、可愛らしい!あなた達が捕まえてくれたのね!嬉しいわ!」

 

キモチノワルイ笑顔でこちらに話しかけてくる。その貼り付けた顔で話しかけてくるな。吐き気がする。

 

「じゃあ、うちの子は連れて帰るわね。今度、お礼させてちょうだい?」

 

手を出してくるがお前らには帰ってもらうわけにはいかない。

 

「まってください。まだ、くるひとがいるので」

 

今まで、3人の中で年上に見える光に話しかけていたが、俺が声を上げると意識がこちらに向く。茜と光には極力話さないように前もって話していた。

 

「?誰かしら?ああ、あなた達の親御さんかしら?」

 

こちらの沈黙を是ととったのかにわかに機嫌が良くなる。あんま使いたくないけど、能力でも使うか。

 

『ふーん。この子達、結構身なりは良さそうじゃない?いいとこの子なのかしら。言葉遣いも洗練されているし、この子の家はきっと金持ちなんだわ!嗚呼、なんて幸運なのかしら!』

 

マジで吐き気してきた。この女、頭の中お花畑かよ。でも、ほとんど当たりすぎて逆に怖いな。お金はないけども。

 

「親御さんは何時頃来るのかしら?」

『私のサクセスストーリーが始まるわ!』

 

始まんねーよ。むしろ、これから始まるのはお前の断罪だ。

 

どうやら、お目当ての人が来てくれたようだ。その人たちは車から降り、こちらへと声をかけてくる。

 

「通報してくれたのは君かな?」

 

「はい」

 

脳内お花畑おばさん、略してのばさんの顔がどういうことだという感じに歪む。

 

「あの、君、どういうこと?来るのは親御さんじゃなかったの⁉︎」

 

既に、余裕を持った裕福そうなおばさんという仮面は崩れ始めている。さあ、始めよう。

 

「そもそも、おやがくるなんてひとこともいってないよ?」

 

「はあ?このガッ…」

 

どうしたんですかねー?続き言わないんですかねー?このガッ?ガッチ○マンですか?

 

「それで、通報の内容はそこの犬が人に襲いかかったということなんだけど。あなたが飼い主?」

 

「そうですけど、うちのノワールちゃんがそんなことするはずがありません!そこの子供の嘘でしょう⁉︎第一、証拠もないじゃない!」

 

おーおー、ヒステリックな声を上げ始めてまあ。だが、忘れてはいけない。他の国にはなくて、この国にあるものの存在を。

 

「じゃあ、あのかんしカメラでみてみたら、こっちがいってることがただしいってわかるよな?」

 

そう。監視カメラである。この国は、櫻田兄妹を日夜守るために監視カメラが作動している。しかも、高性能なやつだ。輝と栞が襲われたわけだし、遅かれ早かれ動くだろうけどな。

 

警察の人たちは映像の照会をしてくれている。

のばさんは凄い憎らしそうにこちらを見ている。まだまだ終わらんよ。栞と輝を襲った罪はこんなものでは終わらない。

 

『茜、その犬の様子はどうだ?落ち着いてきたか?』

 

犬を撫でてるふりをして絶賛拘束中の茜とついでに手持ち無沙汰な光に能力を繋げる。

 

『えっ!あ、八幡の能力か。うーん、多分能力解除したら元気よく暴れると思うけど…』

 

『八くん…。あのおばさんこっちの見る目が怖いよ…』

 

『茜はそのまま抑えつけといてくれ。光は後でなんか買ってやるから我慢してくれ』

 

『本当に?楽しみにしてるね♪』

 

『あれ?わたs』

 

ふー。これ使うと疲れるなー。

さて、と。そろそろ終わったかな。照会に行った警察官が戻ってくる。

 

「署に確認したところこの少年が言っていたことは本当でした。それと、あなたの犬と似た犬による怪我などの被害届が出ているので、飼い主であるあなたに署にご同行して欲しいのですが」

 

「嘘よ!うちの子がそんなことするわけないじゃない!デタラメ言うのもいい加減にしなさいよ!」

 

「そう言う話は署で聞くんで。あなたの犬から何人か被害も出てるので飼い主であるあなたに慰謝料などのほうもだしていただくことになりますし、犬の方は保健所に預けさせていただきます」

 

「ふざけないでよ!なんで私が慰謝料なんて払わなければいけないの!」

 

ついにはわめき散らし初めてしまった。こういう大人にはなっちゃダメだぞ!お兄さんとの約束だ!

 

白けた目で見ていたところ、のばさんと目が合ってしまった。うわ…目が血走ってるし、髪はボサボサになってるし、怖。正直、ザマァとしか思ってないですけどね。人とかカメラに映らんように鼻で笑っておくか。フッ。

 

とかやったら、女がこちらに突っ込んできた。一緒に倒れ込み、こちらの首を絞めてはじめた。

 

「あんたのせいよ!あんたがいなければ私は!」

 

「ガッハ…」

 

「やめろ!その手を離しなさい!」

 

「はちまん⁉︎」

 

「八くん!」

 

ヤバ…いしきが…な…く

 

ドンっと音がして肺に空気が入ることで意識が覚醒する。危なかった…。しかし、なぜ助かったんだ?女が消えてった方を見る。女は自らの飼い犬にのしかかられていた。茜が手を離した瞬間に能力から解放されて目の前にいた人に突っ込んだのだろう。

 

こうして、女は逮捕され、犬は保健所へと連れていかれた…。正直、やりすぎた感はあるが、輝と栞を襲った罰とその責任と考えれば妥当だろう。まさか、他にも襲われている人がいたのは知らなかったが。

 

その後、以前小さくなった茜が番組で放送されたこともあり、一般の方々が集まって茜が顔バレし揉みくちゃになっていた。俺?軽く治療してたからその場にはいなかったが?

 

と、そんなアクシデントもあり、ようやく家の前に着いた。茜は揉みくちゃにされたこともあり、疲れ切っている。あ、そうそう輝が踏み抜いた道路は国の人がやってきてあっという間に直して行った。早業すぎた。どうなってんの?この国の科学力。

 

「本当に大丈夫?無理はしないでね。八くん」

 

「ほんとにしんぱいしたんだから!」

 

「わりーな。おれもまさかあそこまでしてくるとはおもわなかったんだ」

 

嘘である。煽ったからな。ぶっちゃけ、手を出してくるとは思ってた。

 

「そんなことより、はやくいえにはいろうぜ。もうきょうはつかれたんだが」

 

「それもそうだね」

 

「ただいまー…」

 

家に帰還である。お使いを完遂した輝と栞は声がしたからか、玄関までやってきた。

 

「あっ!!お前たちはさっきの!!!」

 

面倒ごとの予感がした。

 

「あ、そうか。からだがまだ…」

 

「また悪いことしにきたのか⁉︎それに人数も増えてる!」

 

あー、数に入れられてしまった…。

 

「ち、違うの!あやしいものじゃないの…!」

 

「どうようしている!すごく怪しいぞ!栞は危ないから下がってて!」

 

「茜だよ!あなたのお姉ちゃんだよ!」

 

側から見ると、小さい幼女があなたの姉なんだよとか言ってるなかなかシュールな映像が出来上がっている。

 

「何言ってるんだ!バカなのか!!姉上はそんなに小さくない!」

 

同感です。

 

その後、いい加減に疲れた俺が能力を使うまでこのやり取りは続いたのであった。

かくして、輝と栞の初めてのお使いは成功で幕を閉じた。

 

 

 

おまけ

 

「あの、あおいねえさん?」

 

「ん?なに、八くん?」

 

「なぜ、おれをかかえられて、ひざのうえにのせているのでひょうか」

 

「え?私が抱えたかったからだけど…?」

 

「いや、そんなふしぎそうなかおしないでもらえませんかね?おれはこうこうせいなんだから、こんなことされるのははずかしいんだが…」

 

「…いやだった、かな?」

 

「いやべつにいやというわけではなくてただ単純にはずかしいといいますかせなかのふくらみがきになりますといいますかなんといいますか」

 

「奏には、抱きつかせたのに?」

 

「あれはあっちがかってにしてきたんだが…」

 

「じゃあ、私も勝手にするね♪」

 

「あ、はい…」

 

「なあ、光。葵姉さんはどうしたんだ?」

 

「うーん。八くんのあの姿にやられちゃったみたい?」

 

「そうか。八幡の目が死んでるな」

 

「かれこれ一時間くらいあれだもんねー」

 

そんな話してるより助けてほしい。

ついには「一緒に寝ようか?」と言われた。その瞬間、俺は自分の部屋へと駆け出した…。

 

もう二度とこの姿にはならない!

ちょっと残念とか思ってないし!

 



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『誠実』『清楚』そして—


いや本当に申し訳ない(挨拶)!

卒論とかのゴタゴタは終わったのですがモチベが上がらんかったとです。
久しぶりなので文がおかしいところがあると思います。
クリスマス回で割とシリアスです。



 

世の中では、イルミネーションが光ることで街をきらびやかに照らしている。外も寒くなり、嫌なものも大量にみることになるため、家から出るのも億劫になるこの季節。そう、クリスマスである。嫌なものは、言わなくても分かるだろ?

 

テレビではパジャマを着替えて出かけたり、とある店のキッズであったりとこの時期によく流れるCMが流れている。果てには、年末に関するものもあったりするのだ。年末とかドタバタとかいうレベルではないだろう。日本人はちょっと生き急ぎでは?と思う今日この頃なのだった。

 

「ちょっと!八兄!テレビ見てないで手伝ってよ!」

 

この櫻田家でも、ドタバタが繰り広げられている。師走とはよく言ったものだな、と日本古来の月の名前を考えた人には脱帽する。

世の学生は冬休みであるにもかかわらず、何故うちはこんなに忙しくしているのだろう。コタツで丸くなりたいよ…。

 

「ほら、早く準備しないとまにあわなくなっちゃうよ⁉︎」

 

「わかったよ…」

 

この櫻田家では12月24日のイベントはクリスマスイブだけではない。長女である葵姉さんの誕生日でもあるのだ。そのために、兄妹総出でクリスマスパーティー&葵姉さんの誕生パーリー(巻き舌)の準備が急ピッチで行われている。誕生パーリーの方がメインではあるが。それにしても…

 

「なんで、当日に準備してるんだろうな…。冬休みとか始まってるんだからその頃からクリスマスツリーとから準備しとけばよかったんじゃ…」

 

「兄さん、それ以上はいけない。まあ、サプライズ感を出したいんじゃないかな?」

 

独り言を呟くと、それを耳聡く遥が拾ってきた。遥はチラッと茜と岬が折り紙で輪っかを作っている方を見る。

 

「あの2人はまだ葵姉さんを騙せてると思ってんの?」

 

「そうじゃないと、わざわざ当日に大急ぎで準備する必要はないしね…」

 

まじか…。栞と輝と光ならまだしも、君らもか…。純真すぎやしませんか?あ、俺が純真とはほど遠い存在なだけですかそうですか…。

 

そう、茜たちはこの葵姉さん誕生日パーティーがサプライズで毎年成功していると思っている。葵姉さんはとっくの昔に気付いているにもかかわらず、だ。姉さんは大人の対応をしており、演技がド下手な茜や岬などにも優しく対応している。そろそろ、優しい目で見られてるってわかろうよ…。人手不足なんですよ?

 

葵姉さんの指摘しないという優しさのおかげ(せいともいう)でイベント当日という会社員も真っ青な仕事をさせられているのだ。今だけは姉さんの優しさが辛い…。

 

ん、なんか茜と岬がコソコソと話してるな。

 

「いい?岬?最低でも16時まで葵お姉ちゃんを連れ回してね?あとついでに八幡も連れてっちゃって」

 

聞こえてるんですけど。

 

「任せて!」

 

「お姉ちゃんのプレゼントも忘れちゃダメだよ?」

 

「それと…」

 

「ん?なに?」

 

「分身ちゃん三人ほど置いてって」

 

「人手が足りないんだね!」

 

人手が足りないなら俺とか行く必要なくね?こんな寒い日に外は出たくないんだがな。

 

「あ!そういえばプレゼント交換用のクリスマスプレゼント買うの忘れてた!」

 

茜との作戦会議を終えた岬が突然そんなことを言い始めた。どことなく棒読み感があるその言葉はわざわざ考えたんだろうなぁ、と努力の方向性に涙が出ちゃうわ…。

 

「どうしたの?」

 

それに乗ってあげる葵姉さんはマジ女神。砂糖とスパイスそれと、素敵な何かで出来てるだけあるよな。う、亜麻色の髪したあざとい何かを思い出しそうだ…!

 

「えーと、デパートで買うものがあったの忘れてたの!」

 

チラチラ姉さんの方見るのはやめたほうがいいだろ…。

 

「なら、一緒に私も行こうか?」

 

「いいの⁉︎ありがとう葵姉!」

 

なんて絶望的な演技力だろう!遥もそう思ってるのかげんなりした顔になってる。

 

「それと、八兄も一緒に来て?」

 

「え、やだ」

 

「即答⁉︎いいんじゃん!じゃあ、このあいだのなんでも聞くって権利使うからね!」

 

あー、そんなこと言ったような気もするな。いつだったかは覚えてないけど。

 

「そんなわけで八兄もいくよ!」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「やっぱり人多いね〜」

 

「日が日だからね」

 

寒空の下なぜか俺も歩いている。今日は一段と冷えてるな。マフラーとかないだけでかなり辛い。現に岬とか寒さで震えてるしな。やはり、ファッションにいきると機能性がよろしくないな、うん。

 

「岬?私のマフラー貸そうか?」

 

「大丈夫だよ、葵姉!慣れてるし!」

 

「でも…」

 

「私の方が若いからね!寒さにも強いんだよ!」

 

「私とほとんど変わらないからね⁉︎」

 

と、言った会話をはさみながらもやって来ましたデパートです。やはりクリスマスイブなだけあってここに来るまでに大量にリア充という名の名状しがたき何かがいた。SAN値チェックどうぞ。名前言ってんじゃん…。

 

店内にも恋人がサンタクロースだったりとか、最後のクリスマスとかよく聞くような曲が延々と流れている。サンタクロースとか小学生の時にサンタの格好して部屋に入って来た父さんを見てしまった時点で幻想の彼方に飛んでったわ。中学に上がるまでは、悲しませちゃ悪いと思って喜んだフリしてたけどさ…。

 

…知らなくていいことは知るよな、俺。

 

「んー?どれがいいんだろう?葵姉、ちょっとこっちにきてくれる?」

 

岬は先ほどからコートを吟味している。店員さんも近づけさせないほどだ。

岬さんや、それは兄妹で贈る葵姉さんへのプレゼントだろ?サプライズにするんだったら本人の前で選んじゃダメだとお兄ちゃんは思うんだ…。

 

「プレゼント交換用のものを探してるんだよね?これだと栞とかが当たったら使えないんじゃ…」

 

「あ…。そうだったー!」

 

忘れてたんかーい!その後も岬はプレゼント交換用のものも見ながら姉さん用のプレゼントも探していたが、めぼしいものは見つからないようだ。

 

「あ、これとか寝る時に良さそうー」

 

ほら…気を利かせた葵姉さんがボルシチに似た抱き枕を手に持ってこれ見よがしに教えてくれたよ…。岬は岬でいいこと聞いた!と言わんばかりに笑みを浮かべてるし…。

 

「んじゃ、俺は他のところ見てくるわ」

 

「えー、何のために一緒に来たかわからないじゃん!」

 

少なくとも、本人が直接教えるプレゼントとかいかんだろ。

 

「俺は俺で買うものがあるんだよ。あとで合流するから」

 

「本当に?」

 

「おいおい、俺がそんなことで嘘ついたこととかあるか?」

 

「結構ある。ついでに、手のひらはよく返すよね。茜姉とかには」

 

よく分かってるじゃん。八幡検定三級ものだな。精進してくれ。

 

「わざわざ別に帰るなんてことは流石にしねぇよ。…虫がつかないようにしないといけないからな」

 

「…虫?冬に虫なんてあんまりいないけど…」

 

「こっちの話だ」

 

そう、虫はいつでも湧くからな。まとわりつく虫が…。それはさておき、俺も交換用のプレゼントを買わないまま帰るわけにもいかないので別行動することにする。

 

「買ったら一階で合流てことでいいか?葵姉さん」

 

「わかったわ。戻ってくる時にメールしてね」

 

「了解」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

さて、プレゼントだが何を買おう?いつも本ばっか買ってるしな…。奏、茜、光と岬からは『本はもういい』て言われたからな。他のもの買おうとは思いつつも、何を買ったらいいのか。

 

めぼしいものがないか店内を徘徊する。徘徊って言っちゃったよ。通報されないように祈るばかりである。

 

「はあ…。ぜんっぜんわからん…」

 

その後も見て回ってみたもののピンと来る物はなく、2人と別れてからそろそろ10分くらい経とうとしていた。そろそろ、決めないとな。

 

どうしようかと店舗案内図を見るとどうやら今俺がいるところの上の階で、クリスマス特設展とやらがやっているらしい。これ幸いと見に行ってみることにした。

 

特設展が行われてる階では、ここでクリスマスプレゼントを買うのであろうカップルやらが多く存在しているようである。この中を1人で歩くのってなかなか辛いものがあるよな…。

 

「へい、そこのお兄さん!彼女のプレゼントにお悩みかい?」

 

チッ。誰だよ呼ばれてんぞ、そこのお兄さん。彼女がいるんなら幸せを分けてやれよ。気分悪くなったな。いや、どこ行っても結局不愉快になるんだけどね。虚しい…。

 

「そこのアホ毛生えたお兄さんだよ!」

 

ほーん。アホ毛生えた人とかいるんだ。ちょっとシンパシー感じちゃう。お友達になり…たくはないです。はい。

 

「君だよ!」

 

「ふぇあ!」

 

突如として肩に手を置かれたせいで変な声出ちゃったじゃん。振り向くとおっさんが笑いを堪えていた。

 

「…じゃ」

 

「ああ!ちょっと待って、笑ったのは悪かったよ。申し訳ない。彼女さんにプレゼントをお探しだろう?ちょっとうちの店見ていかないか?」

 

「…はあ。じゃあ、少しだけ」

 

「後悔はさせないよ!」

 

と、連れてこられたのはブースの一角。

どうやら、このおっさんは小物を売ってるようだ。顔にあわねぇ…。

 

「いま、顔と店があってないとか思ったろ?」

 

「いにゃ、そんなことないりぇすよ?」

 

「噛みすぎだろう…。ま、俺は手伝いみたいなもんだからな。安心しろ。俺の店ってわけじゃねぇよ」

 

へー。促されるがままに品物を見てみると、なんか花の形のプローチとかネックレスやらが置いてあり、お値段もリーズナブルな感じだった。

 

「で、なにをお探しだ?彼女にプレゼントならネックレスとかオススメだぞ」

 

「いや、そもそも彼女じゃないんで」

 

「じゃあ、嫁か!そんな歳でやることやってんだな!」

 

うわっ、このおっさんいい人っぽいけどウゼェ…。思考回路ぶっ飛びすぎだろ。ダレカタスケテェ!

 

「ちょっと、お客様に絡みすぎよ?迷惑がってるじゃない」

 

「おお、すまんすまん」

 

女性か助け舟を出してくれたおかげで俺はおっさんから解放された。礼はいっておこうとその人を見ると大体20代くらいだろうか。ロングの綺麗系な女性が微笑んでいた。

 

「ありがとうございます」

 

「いいえ、ごめんなさいね。彼、めんどくさかったでしょう?」

 

「おいおい、俺は買うものを困っている少年を連れて来ただけだぜ?」

 

「ちょっと黙っててくれる?」

 

「はい」

 

女性が凄みを出したことでおっさんは黙った。なんなの?女性は全員覇気がつかえるのかしら?

 

「この人が迷惑をかけたでしょう?お詫びということで、うちで買ってくれたら少しサービスするよ」

 

「いや、でも悪いですし」

 

「そんなこと気にしなくていいの。店主がしたいって言ってるんだから、受け取っておきなさい、ね?」

 

「…はい」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「あなたは誰にプレゼントするのかしら」

 

悩んでいると先ほどの店主さんが声をかけてくる。なんか品物を物色中に話しかけられると嫌だよね。

 

「えっと、家族でのプレゼント交換みたいなものです」

 

「あら。楽しそうね。迷った時はとことん迷うといいわ。プレゼントって真剣に悩んで選んでもらった方が嬉しいしね」

 

そういうもんなのか。ぐるっと見回してみると1つの花の意匠がついたプローチが目につく。手にとると、なんか気に入った。

 

「あら、それは桔梗ね。花言葉は『誠実』『清楚』とかがあるわ。それにします?」

 

「じゃあ、これで」

 

「ありがとうございます。あの人が迷惑かけたサービスとして、ペンダントも付けておくわね」

 

「いやいや、それはサービスにしても過剰じゃないですか?」

 

リーズナブルではあるが少なくとも4桁の数字が見えるんですけど…。お店的に大丈夫なのか?

 

「いいのよ。いいもの見せてもらったオマケだから。お姉さんにプレゼントしてあげてね」

 

といいながら、押し付けられてしまった。いいものとか見せた記憶がないんだけど…?まあ、いいか。もらっておこう。

 

「ありがとうございます」

 

「またのお越しを〜♩」

 

買い物も済んだし、2人にメールして下に戻ろうかね。とりあえず、

《買い物終わったから一階に行く》、と。

なんか、さっきまでいたところが賑やかになってきたような気がするけど関係ないだろう。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

side Aoi

 

まさか、こんなことになるなんて…。

岬と八くんと交換用のクリスマスプレゼント(ということになってる)を買いに来たことを少しだけ後悔しそうになる。これはため息をついても許されるだろう。

 

八くんと別れた私と岬だったが、そのすぐあとに岬も「ちょっと買い忘れがあったから行ってくるね!葵姉は見て回ってていいよ!」と止める間もなく走って行ってしまった。自意識過剰なわけではないけど、きっとあの子は私へのプレゼントを買いに行ってくれたのだろうな。兄妹たちの優しさにクスリと笑いが漏れる。あの2人が戻ってくるまでいろいろ見て回ろうと歩き始めた。

 

そして、一階についたときに事は起きたのだ——。

 

「おらぁぁぁぁ!全員動くんじゃねぇぞ!」

 

ため息ついても許されるよね…?

入ってきたのは8人ほどの覆面を被ったグループだった。体格からみて男性か。手にはどこで手に入れたのか銃器を持っている。皆がパニックになっているなか私は彼らから死角になる場所に隠れて、必死に冷静になるように努める。

 

まさか、こんな人通りが多い道に面したデパートに強盗に来るなんて、ハチくんの台詞ではないがアホなのだろうか?警察に通報されて、逃げ道がなくなるに決まっている。ということは、計画的なものではないのかもしれない。これでは、あまりにも杜撰な計画だ。

 

さて、私はどうしようか。

そう考える私の耳に聞き逃せない声が聞こえる。

 

「おい、上の階の奴らも見てこい。邪魔するようなら仕方ないがやれ」

 

ーーーそれは。その一言で私の覚悟は決まった。彼らを上の階に行かせてはならない。私の脳裏には、こういう時に正義感で行動する妹や自分を犠牲にしてまで他者を守ろうとする弟の姿がよぎる。優しいあの子達が無抵抗で済ますわけがない。

 

最悪な場面が頭をよぎる。それを振り払うように私は深呼吸をする。

 

私がこれからやることは、父と母以外の家族にも秘密なこと。この秘密は私が一生抱えて生きていく覚悟であり、罪だ。監視カメラの向きやタイプも確認した。ならば、あとは私が頑張るだけだ。

 

「待ってください!」

 

強盗のグループがこちらを向く。多数の男性から見られるというのは少し怖い。

 

「貴女は…。いや、運が悪かったですね。こんなところに出くわすなんて。葵様、何もしなければ人に危害は加えませんよ」

 

「我々は本気だ。怪我をしたくないなら『少し黙ってください』」

 

『全員武器を下ろしなさい』

 

銃を構えていた男性たちは、一人また一人とその凶器を床に投げ捨てていく。

 

『ここにいるあなた達以外に仲間は?』

 

「…いません」

 

その言葉に一安心する。これなら、あの子達も大丈夫ね。

 

『ならば、今日あったことやこの計画を忘れて帰りなさい。二度と犯罪を起こさないように』

 

「…はい」

 

覆面をつけた男達は、ぞろぞろと帰っていった。周りの客がざわついている。少し目立ち過ぎたかな?もう少し頑張ろう。

 

『皆さん聞いてください』

 

私の声によってざわついていた人たちは統率されたかのように一瞬で沈黙する。これが、私の本当の能力の『絶対命令』《アブソリュートオーダー》だ。私がいった言葉通りに人に影響を及ぼしてしまうという恐ろしい能力。お医者様は王としの素晴らしい能力っていってたっけ。

 

『今日は折角のクリスマスです。先ほどあったことは忘れて、皆さん買い物に戻りましょう』

 

私の言葉をきっかけとしてこの場にいた人全員が強盗グループがやって来る前に行っていた行動でへと戻っていく。ごめんなさい。

 

さて、これで大丈夫かな?あとは2人を待つとしましょう。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

あのあと、何事もなかったかのように2人を出迎え、家に帰ってきた私は家族のみんなに誕生日を祝ってもらった。プレゼントはやっぱりというかなんというか、岬の前でいいな〜と言った(誘導した)ボルシチ似の抱き枕風のクッションが渡された。素直に育って欲しいものである。その後、クリスマスも祝うという強行軍を行い、皆も寝静まったであろう時間に私は部屋でまだ起きていた。

 

「ふふっ、みんな楽しそうだったな…」

 

かくいう私も楽しかったけれど。みんなは騒ぎ疲れて眠ったというほうがしっくりくる。そのくらい騒いだのだった。近所迷惑にならないように。プレゼントといえば…

 

「交換したクリスマスプレゼントまだ開けてなかったかな」

 

忙しくてすっかり忘れてしまっていた小さめの袋を取り出す。これは…なんだろうか?形的にブローチだろうか。少し楽しみだ。

 

「確か、八くんが持ってたっけ?」

 

うちのプレゼント交換はみんなで輪になり曲が鳴り止むまで回し続けるといったものだ。この小さめの袋は八くんが持ってたと思う。彼のものが当たるのは単純に嬉しい。本は茜達からは不評だったから今年は変えたのだろう。

さて、開けてみるとしよう。

 

「…綺麗」

 

ブローチで当たりだった。周りは蒼く、その中心には1つの花の意匠がされている。この花は、桔梗だっけ?調べてみよう。

 

「えーと、花言葉は『誠実』『清楚』『従順』そして…」

 

ー『永遠の愛』。その言葉を認識した途端顔が熱くなるのを感じる。いや、別に八くんはそんな花言葉を気にして買ったわけじゃないだろうけどそんな気障なことするような子ではないけれど!高鳴った鼓動がうるさい。えーい!落ち着け、私!

 

少し落ち着いた私の脳裏に、夏休み中にたまたま聞いてしまった話を思い出す。彼は、八くんは父さんの妹の子であるということ。それは私に衝撃を与えた。

 

ただ、私はその時、八くんの心配ではなく自分自身の心配をした。彼がうちに来たのは、わたしが2歳の時である。私の能力は完全学習ということになっている。でも、本当の能力は違う。そう。私は茜と八くんが双子であることを疑わなかった。当時、母さんのお腹には茜がいるということは聞いていたはずなのに。

 

私はこの話を聞いて安心してしまった。ああ、私の嘘はバレないんだ、と。あの時の話を聞かなければ、私は確実に嘘を暴かれていただろう。だけど。このことを知ったのならば、どうとでも知ったフリができる、と。私は彼の孤独をどうとも思わず、ただただ自分の保身を考えた。考えてしまった。私はなんて汚いのだろう。

 

 

こんな気持ちになるなら、こんなに身が張り裂けそうになるなら。

 

 

 

——私は知りたくなかった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

side H

 

「はあ…」

 

ベッドに横になり、夕方の出来事を思い出す。なんとなくの気分でエスカレーターではなく、階段で一階まで降り立った俺の耳には怒声が聞こえていた。

 

「おらぁぁぁぁ!全員動くんじゃねぇぞ!」

 

その言葉が聞こえた俺はとっさに一階と二階の間にある踊り場へと戻り、顔をそっとだす。気分はダンボールに入る兵士だ。

 

どうやら、彼らは強盗グループのようだ。側から見ると、逃走者の用意も出来ていないようだし、お粗末な感じはしたが。ただ、彼らが手に持つ黒光りするものは本物であることが察せた。見たことあるしな。王宮の人たちとか。

 

面倒くさいが、一階には葵姉さんもいることだし、能力使ってさっさと片付けるか。と、腰を上げようとした時に、

 

「待ってください!」

 

——頭が一瞬真っ白になった。今の声は、紛れもなく葵姉さんである。なぜ、なぜ、なぜ、そんなふうに頭の中がループする。彼女では、どうにもできない筈だ。

 

そんな思考の渦に囚われた俺の頭に澄んだ声が届く。

 

『少し黙ってください』

 

途端に先ほどまで何か話していたであろう。男が喋らなくなる。今のは一体…?俺は男に対して能力を使う。

 

(なんで急に話せねぇ!どうなってやがる!)

 

本当にどうなっている?ただ、これだけは言えるだろう。葵姉さんが何らかの能力を使用していると。考えられるのは言霊などによる肉体支配などだろうか。

 

思考をフル回転させている間にもどんどんと場面は進んでいく。どうやら締めに入るようだ。

 

『今日は折角のクリスマスです。先ほどあったことは忘れて、皆さん買い物に戻りましょう』

 

その言葉を聞いた瞬間不味い!と思ったものの俺は今目の前で起きたことを覚えていた。なにか能力の対象者に条件があるのだろうか?謎は深まるばかりである。ただ、人を言霊で操れるというのが能力であると仮定していいだろう。

 

…確かに、この能力は黙っていたくなるな。人を意思に関係なく操れる可能性があるのだから。

 

「はあ…」

 

再びため息をつく。あのあと、合流してから顔に出さないようにするのも大変だった。もう疲れたわ…。葵姉さんの本当の能力については、追求はなしの方向性でいいだろう。黙っておきたいならば本人の意思を尊重させるべきだ。

 

 

ただ、俺の生まれのことしかり、今回の件についてもだが。

 

 

 

——どうして、知りたくないことばかり知るのだろう。

 





すまない…。せめて1ヶ月に1回は投稿するとか言って2ヶ月以上ってて本当にすまない…


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正月の回


めっちゃお久しぶりです。

書く気力が失われていました。
ひさびさですので言葉が変なところあると思いますが悪しからず。




 

 

 

『さぁ、盛り上がってまいりました!『正月特別番組櫻田家ファミリー対抗!タマを探せ!』現在、奏様のチームと茜様のチームが激しくぶつかりあっております!』

 

街中に実況が響き渡っている。五月蝿い…。隣で大声で叫んでいるからすごい耳が痛いんだけど…。

 

『葵様のチームは先ほどの2チームとは違う行動をとっていますがどういったかんがえなんでしょうか?特別解説の八幡様!』

 

なんで俺が世の中が三が日という会社や学校は休みである日にこんなことをしなければいけないんだ。あと野外だからすごい寒い。

 

『八幡様?』

 

『あぁ。何か考えるのがあるんじゃないですか?葵姉さんのことですからね、何か気づいたんじゃないでしょうか?…早く終わらせてー』

 

俺の眼前にあるモニターの先には3組に分かれた兄妹たちが写っている。あっちとこっちはたしてどっちがマシだったんだろうか…?

 

 

〜1月2日〜

 

「「「あけましておめでとうございます!」」」

 

「ああ、おめでとう皆、今年もよろしく頼むよ」

 

王家の正月は2日から始まる。本来の正月である昨日は国王に新年の挨拶をするためパーリー(巻き舌)が開かれていたからである。ちなみに俺は最初だけ顔を出し、後は栞と輝と家で過ごし、テレビ見たり寝ていた。お年玉は貰えた。

 

そんなわけで今日は櫻田家としてのお正月な訳だ。

 

「突然だが、みんなには明日テレビに出てもらう」

 

「「「えぇーー!!」」」

 

こんなノリ春先にもした気がするな。その父さんの衝撃的な発言(去年もあった)により、テレビに映りたがる好奇心旺盛な岬、光、輝はやる気を出しているようだ。栞は興味があるようだ。

一方で、茜、遥、奏はげんなりした顔をしている。尚、前者はテレビに映りたくない奴で後者はそもそも外に出たくない人である。修と葵姉さんはどっちでも良さそうだ。俺?聞く必要ある?

 

「では、今回の企画について説明するぞ」

 

そういった父さんは全員が揃っているテーブルに一枚の写真を出してきた。真ん中にお爺さんと鷹が写っている。って、鷹を飼ってる人がいるのか?こんな街中で?何それ怖い。

 

「今回はこの岩谷さんのペットであるタマをみんなに探してもらいたい」

 

「鷹なのにタマってどうなの?」

 

「この街に鷹なんて飼ってる人いるんだね〜」

 

「カッコいいです!」

 

「どうでもいいわ…」

 

上から茜、岬、輝、奏である。俺も人のこと言える義理ではないが奏さんやる気なさすぎない?というか、マジで鷹にタマって名前付けてんの?………あ。

 

「ちなみに、3チームに分かれるんだが、見事探して見つけたチームには総選挙に一万ポイントをやろう」

 

「やるわ!」

 

えぇー。選挙に関わると知って見事に手の平を返した奏にも驚きだが、そんなゲームみたいなポイント制でいいのか?この国の選挙ェ…。

 

「うむ。やる気になってくれたようで嬉しい。では、チームを作るからくじを引いてくれるか?」

 

「ここにやる気がない人がいますよー?」

 

「そーだ!そーだ!」

 

「諦めなさい、八幡、茜。この世の意思決定は多数決なのよ!」

 

多数決でも少数の意見にも耳を傾けることが大事ですよ。ここ、テストに出るぞ。

 

意思を封殺された俺と茜は嫌々ながら奏に促され、くじを手に持つ。因みにくじは王様ゲームのような感じの割り箸の先に数字がついてるものだ。父さんの準備が早い。ノリノリか。

 

「せーので引くわよ?せーのっ!」

 

奏の掛け声に合わせて全員が選んだ棒を引く。さて、俺の番号は、と?

 

「私、3番」

 

「僕は1番です!」

 

「私も3番だ!」

 

「私は2番だね」

 

「あ、僕も2番か…」

 

「私も2番だ…やりたくないよー…」

 

「私は1番ね。やるからには勝つわ」

 

「ん、俺は1番だな。人使い荒らそうだ」

 

「私は3番かな。八くんは?」

 

皆さんはもうお気付きだろうか?そう、この兄弟は10人という父、母がハッスルした結果である(俺は違うが)。それを3チームに分けるというのだから当然、1人ハブられるのは明白。つまるところ、俺のくじには何も書かれていなかったのだ!やったぜ!これで俺は参加しなくていいんだろ?(フラグ)やった!やった!ドン勝つだ!

 

俺が嬉しさを噛み締めていると兄弟たちが俺のくじを覗いてきた。

 

「あれ、ハチくんのやつ数がない!」

 

「て、ことは今回は不参加か?」

 

「八幡!私のくじとそのくじ交換しテェェーーー!」

 

「や☆だ」

 

会話の中に☆が付くくらいにはテンションが上がるのは許してほしい。いや、キモいのはわかってるよ?さいっこうにハイってやつだ!

 

「お、数なしは八幡か。ちょうどよかった」

 

「父さん、どういうこと?」

 

「いや、1人には実況か解説してもらおうかと考えてたからな。年少組には難しいだろうし、落ち着いている八幡が当たってくれてよかったよ」

 

は?

 

「ちょ、」

 

「ぷっ、まあ頑張りなさいよ?解説者さん?」

 

「まっ」

 

「か、解説者かぁ。私には出来ないし、体動かす方がスキダシ、ヨカッタナー」

 

「ぇ」

 

「頑張りましょう!兄上!」

 

「兄様もがんばろう…?」

 

「……はい」

 

天使2人に言われたらやらざるを得ないよね…。

あと、先にそれ言ってよ…。

 

〜現在〜

 

あー、誰でもいいから早く終わらせてくれないだろうか?実況もてっきり室内でやるもんだと思ってたらこの寒空ですよ。死ぬわ。

 

『さあ、いよいよこの特番も終盤にかかってきた頃でしょうか![櫻田ファミリー対抗!タマを探せ!]ご兄弟の皆様もかなり熱が入られています!』

 

いやぁ、ちょっと必死すぎて怖いわ笑。現在、奏姉さんのチームと茜のチームがしのぎを削り合っている。チームバランスは割と悪いんだけどな。ここまで引っ張るとは(この特番)。

 

チームバランスが悪いというのも、奏のチームには言わずもがな奏(ブレイン)、修(テレポーター)、輝(怪力)と頭脳、機動力、パワーが揃ってしまっている。

 

一方で茜のチームは、茜(空飛べるけどカメラを気にして全力を出せない)、遥(ブレインだけど奏には劣るだろう)、極め付けに岬(このイベントで一切活躍していないいわゆるお荷物)だ。茜のチームには頭脳、機動力、パワー、お荷物と備わってはいるものの奏チームには一歩及ばないのだ。

 

…岬が可哀想に見えてくるな。

 

そんな両者はぶつかり合いながらも一羽の鷹を目指して、進む。あと少しでこの特番も終わるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葵姉さんのチームの勝利で。

 

『さあ、長かったこのゲームも優勝チームが決定しました!葵様、光様、栞様のチームが見事に指定されたものを持ってきたので、葵様チームの勝利です!』

 

「「「「はぁ〜〜〜〜〜⁉︎⁉︎⁈!」」」」

 

寒空に2チーム分の声が響いたのだった…。

 

〜☆〜

 

「どういうこと!!」

 

テレビの放送が終わり、家に帰ると奏が迫ってくる。ちょ、顔近いぃぃ…。

 

「にゃにがだよ?」

 

「タマってあの鷹じゃなかったの⁉︎」

 

周りの鷹を追っていた人たちはウンウンと頷いている。いや、そもそも鷹を追ってどうするんだよ…。一部に有利すぎるだろう。

 

「いや、父さんだって鷹がタマだなんて一言もいってないし…」

 

「だけど、なんで猫なのさ!写真に写ってなかったじゃん!」

 

今度は茜が迫ってくる。あの、追いかけてた努力がパァになったからといってこっちに迫ってくるのやめてもらえません?

 

「いや?写ってたが?というか、写ってだからこそ葵姉さんが捕まえられてるわけだしな。あ、写真ってまだある?」

 

「おお、あるぞー」

 

父上さんよ、なぜ俺が受け答えしなきゃいけないんですかねぇ?あなたの仕事では?と、ジト目で見ながらにこやかに笑っている父さんから前日に見た写真を受け取る。

 

「ほら、ここ」

 

「「「どこ⁉︎」」」

 

すずいっと岬も増えた姉妹たちが顔を近づける。俺が指を指してるのは、真ん中にいる鷹を抱えたおっさんの左のほうだ。そこには一匹の猫がこっちに背を向け塀の上を歩いている。

 

「「「わかるか!!」」」

 

俺を責めたって何も変わらないですよ?実際、葵姉さんだってわかってるし。

 

「はっはっは、みんなしっかり引っかかってくれたな!葵と八幡はすぐわかったみたいでつまらなかったが…」

 

えぇ…。洞察力を褒めて欲しいレベルなんですけど。なんで、答えがわかったのつまらないっていわれてるんだ。あれか、みんな必死に考えてる中で1人だけ『それ、答え知ってる〜』て白けさせるやつか。

 

「まあ、気付いてくれた八幡が解説でよかった、よかった」

 

行き当たりばったりなのが驚愕だよ。くじ何分の1だと思ってんだ。

 

「そんな行き当たりばったりだったの⁉︎他の人に当たってたらどうするつもりだったのさ!」

 

当然の疑問を岬が放つ。その言い方はどこか荒々しい。うん、今回目立たなかったから荒れてますね。…あ、こっち睨まないで!

 

「ふっふっふっ!」

 

父さんが意味深に笑っている。

 

「まさか!くじに何か細工が!」

 

「いや、何もない!」

 

えぇ…(2回目)。遥さん完全に黒歴史じゃないですか笑。顔真っ赤になっちゃってますやん。奏姉さんとかいいネタ貰ったみたいな顔して含み笑いしてますよ?

 

「仮に葵か八幡以外に当たってたら交換させてたさ。流石に輝や栞に任せるわけにはいかないしね」

 

我が父はかなり幸運であるということが判明した正月休みだった。

 

学生の時、学校から抜け出せてたのは運が良かったから…?いや、お付きの さんが抜けていただけか。

 

〜☆〜

 

「あ、ポイントはどうする?」

 

「あ〜、私の分は奏に」

 

「「よっしゃあ!」」

 

ポイントの譲渡は1人だけなのに何故か2人が声をあげたのだった。

 

 

あれ?俺のポイントは?

 

 

 

 





字数が少ないぃ…


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櫻田ハルマゲドン

…お久しぶりです。
あと1ヶ月で更新が1年止まるところでした。
待っていた方とかいらっしゃるんですかね…?



 

「ふぅ…」

 

時刻は朝10:00。俺は学校までの道のりを歩いていた。なぜ学校へ向かっているかだって?それはな、、、今日が平日だからさ!

 

そう、ただの遅刻である。王族としてどうよ…と思うかもしれない。だが、言い訳をさせて欲しい。これには理由があるのだ。

 

昨日の夜、俺は新しく買った本を読み漁っていた。ついつい興が乗ってしまい、気がついたら…!3時を回っていたのだ!いや〜、神秘を見ましたね。時間がこんなに早く進むなんて。

 

で、そこから寝て、起きたのが30分ほど前で、パンをくわえながら登校している最中だったというわけだ。言い訳も何もないですね。

ちなみに、光などが起こしに来たそうだが俺は全く記憶にございません。悪いことしたな…。

 

そのまま1人で通学路を歩いていると突如風が強く吹き、俺の顔になんか飛んで来た!なんだこれ…?

 

「………」

 

うちの学校の女子が履くような体操服の下側の服、つまるところのブルマ的なやつだった。洗濯する時に見た記憶が割とある。いやこれ詰んだわ〜。

 

男+女性物の服+監視カメラ=死罪

 

ははっ。罪と詰みを掛けてみました。俺の人生 は まっくら に なった!まあ、落し物だしね?確認とかしないといけないよね?と、誰に確認をしてるのかもわからないが、名前が書いてあるであろうところを見てみる。いやー仕方ないなー落し物だもの(棒)。

 

[櫻田 茜]

 

?ちょっと目が悪くなったかな。え?腐ってるって?はは、なにそれウケる。もう一度見てみる。

 

[櫻田 茜]

 

おっとー?妹のじゃないですか。残念とか思ってないよ?ほんとほんと。ま、茜のなら机の上とかにおいておけばいいだろ。というか、なんでこんなところまで飛ばされてきてるんだ?履き替えようとでもしたのか?

いくらドジな茜さんでもそんなことするわけないよな〜。はっはっはっ。

 

〜☆〜

 

「次は遅刻しないようにしろよ」

 

いやまさか遅刻でこんなに絞られるとは思いもしなかったわ。まさか、「王族としての意識が〜」とか言われずにこのあいだの課題について延々と話されるとは思わなかった。なんか、「どうせ王族は結婚相手も選び放題だろ⁉︎」とか涙目で言ってきたし…。良い人なんだけどな…。生徒指導のアラサー。

 

そんなわけで学校に来たものの先生に捕まり、現在は2限が終わり、休み時間である。今の時間のうちにこっそり教室入って茜の服返すか。というか、学校全体がなんか騒がしいような気がするな。

 

「「あ」」

 

職員室から出るために、扉を開けようとしたところ勝手に開いた。いつから自動ドアになったのか、嘘です。1つ上のお姉さまが開けました。何故ここに?はっ!まさか俺が遅刻したのを罰しようと来たのか!この鬼め!

 

「あら、何か失礼なこと考えていませんか?」

 

にっこり。そんな擬音が似合うような笑顔を浮かべている。笑顔って威嚇の意味もあるんだね。学んだわ。落ち着け、俺。

 

「い、いえ、べちゅにしょんなことにゃいですよ?」

 

しまった。動揺し過ぎだろ、俺。

 

「流石に動揺し過ぎじゃないかしら…?…後でお話しね?ちょうど良かったわ。一緒に来て」

 

最後のセリフ俺にしか聞こえないように言ったわ。笑顔だけど目が笑ってないよ〜。と考えながら手を引かれる。連れてこられたのは校舎裏でした。あれ?ボコられるのかな?

 

「それで?あなたは何でここにいるのかしら?茜は大丈夫なの?」

 

「はい?」

 

何のことだ?俺がここにいることと茜が大丈夫とか関係なくね?

 

「ほら、今いろんなところで噂されてることよ。あなたなら何か行動すると思ったのだけど…。落ち着いてるってことは大丈夫なのかしらね」

 

なんだそれ。ああ、だから校内がなんかざわついてるのか。なんの噂かは知らんけど。どうせ茜についてだし、なんかやらかしたとかだろ?

ほら、この間とかテレビでパンツ晒してたしね。

 

「いや、今さっき来たばっかだからなんのことだからさっぱりなんだが?なに、茜がなんかしたの?」

 

「今かなり聞き捨てならないことをいったのだけど…。それについては後で聞きましょう。茜がスカート穿いてないって噂が出てるのよ。私にも直接確認しに来たし…。はぁ…」

 

えー。流石に穿いてないなんてことはないだろ。だって茜だぞ?仮に穿いてないなんて気付いてたらそもそも登校しないだろ。でも、そこまで噂立ってるならほんとに穿いてないのか…?

 

「だったら電話とかしたらどうだ?茜だって携帯持ってるだろ?」

 

「それがあの子出ないのよね…。携帯なんだから、携帯しなさいよ」

 

俺の携帯なんてほぼメールはAmazonとスパムで目覚ましが主な機能ですけどね。

 

「あ、でもあんたたち確か今日体育あったわよね。それなら、スカート穿いてなくても体操着があるか」

 

その言葉を聞いて冷や汗が出てきた。あれ、ヤバくね?

 

「急に黙りこくってどうしたのよ。あとなんか汗が凄いわよ?」

 

「いや、それが…。今朝とんでもないもの拾ったんですけど…」

 

と言いながら、バックに入れておいたあのブツを取り出す。

 

「あんたそれ…!ついに犯罪に走ったの?捻くれててもそんなことはしないって信じてたのに…!」

 

「こらこらこらこら。『ついに』てなに?やると思ってたわけ?信じてないじゃん…。あとこれは盗んだわけではなくて、風で飛んできたんだよ!」

 

「でしょうね。あんたがそんなことできるわけないし。やってたらあなたを殺して私も死ぬし」

 

ひぇっ。目がマジですよ。冗談であってほしいなぁ…。

 

「んで、なんであんたが女子用のズボンを持って…、あら?これの名前…」

 

……。

 

沈黙がその場を支配していた。

 

《2年の櫻田茜さん。至急、生徒会室までお越しください。繰り返します…》

 

校内放送が鳴り響く。あ、これ葵姉さんだな。電話も繋がらないし、噂の確認のために呼び出しでもしたんだろう。これで解決かな?

 

「ねぇ、八幡。あんたの教室って何階だった?」

 

うん?なんでそんなことを急に?

 

「そりゃ、1年なんだから1階だろ。2年は2階だし。なに、急に?」

 

「生徒会室は?」

 

「別棟の2階…」

 

まさか…!

 

「気付いたようね…。噂してる連中なら茜の下着を見に行くでしょうね。…階段の下から」

 

それを聞いた俺はその場から駆け出す。さすがにそれをやったら死ぬぞ(茜のメンタルが)!

校内を駆け抜ける。途中誰かになんか言われた気もするが、そんなことより妹の社会的危機である。

 

1年の廊下に到着すると、異常な数の男子が廊下に出ていた。大名行列かよってぐらいには人がいる。1年の全部の男子生徒が出てきてるのでは?

 

そんなむさい集団の先頭の方によく見る赤い髪が。この集団超えていくの?キツくね?

 

「おい、不味いぞ。櫻田がきたぞ!」

「なに!櫻田さんの噂を聞きつけたか!」

「さすがのシスコンだ!」

「妹さんをください!」

 

男たちが俺を前に行かせまいと壁を作り始める。コイツら!とりあえず、シスコンといったやつボコる。それと、いい加減に滅ぼさなければならない奴がいるな。

 

密度が濃すぎて前に行けそうにないな…。邪魔くせぇ。お、あれは福…重か?先頭集団のさらに前におり、それらを牽制しているように見える。…見えるだけだな。あれは煩悩に染まってる顔ですわ。

 

しかし、どうしようか。このままではこの煩悩どもに茜が黒歴史を刻むことになってしまう。流石に家族としては、同世代に下着を見せるとかいう行為はNGだ。テレビで晒したことあるじゃんなんて言ってはいけない。

 

ジリジリと壁連中と攻めあぐねていると、先頭の集団で変化があるのが見えた。あれは…!葵姐さんか!

 

「茜…本当にスカート穿いてないじゃない。まったくもう…」

 

「お姉ちゃん!やだなぁ〜ちゃんと体操着履いてるよ!…だから男子がこんなに…」

 

待って!履けてないから!茜さん!くそっ、ここでは声も通らない。俺が聞き取れているのは、108ある能力の1つによって兄妹の声は喧騒の中でも聞き分けることができるのだ!ちなみに、小学生の頃に光がショッピングモールで迷子になって身につけた。

仕方ない、テレパシー使うか。…茜の自爆防止のためばかりに能力使ってるように思うのは気のせいではないはず。

 

とりあえず集中…!

 

「まずい…!櫻田が能力を…!」

「止めろ!俺たちの桃源郷のために!」

 

君たち同級生を階段の下から覗くのに必死すぎじゃないかい?という思考をよそに壁を作ってた奴らが物量で襲いかかってくる。普通に怖いんですけど!インドアを生き甲斐にしている俺には流石に運動部には勝てなかったよ…。と、組み敷かれた。普通に痛い。

 

その一瞬が明暗を分けてしまった。

 

先頭の方から聞こえる。うおぉぉぉ!というどよめき。なんでぇぇぇ!!という涙が混ざった叫び。

 

 

 

 

………オーケー。久々にキレちまったよ。

 

 

 

———————

side other

 

その日、この高校の1年の廊下ではいろんな意味で盛り上がっていた。

 

「もう死んでも構わん!」

「うぉおおお!」

「生きててよかった…!」

 

目の前に起きた奇跡に誰もが感動していた。

そう、この時までは。

 

「ちくしょー!俺も見たかっ…」

 

ドサッ。

 

賑わう廊下に響いた1つの物音。本来の高校生特有の休み時間の賑やかさであるならば、ほとんどの人が気にもしなかっただろう。だが、今はその何かが倒れた音で誰もが静まり返った。

 

倒れていたのは彼らが求めるもののために身を挺して足止めしていたものだ。それが今、なんの前ぶりもなく倒れたのだった。

誰もが、息を呑む。それは、防ごうとしていた何かが動き出したということなのだから。

 

しかし、彼らはその何かを認識できない。いや、恐怖から認識したくないと防衛本能を働かしているのかもしれない。その何かが動いたと思った瞬間、彼らは意識を手放した。

 

この日、修羅が降臨した。

 

 

 

目が覚めた男子高校生たちはこの日のことを覚えておらず、思い出そうとすると震えが止まらなくなってしまったという。

 

 

〜オマケ〜

 

帰宅中

 

「……」

 

「………」

 

「…………」

 

「……………ねぇ」

 

「……………………はい」

 

「……あれはちょっとやり過ぎ」

 

「……はい」

 

「……でも」

 

「はい?」

 

「私のためにあそこまで怒ってくれたんでしょ?」

 

「………」

 

「それは、嬉しかった。ありがとう」

 

「……あぁ」

 

「…………」

 

「……ところで、さ」

 

「……なに?」

 

「そろそろ降りてもらっても良いですかね?おんぶもそろそろきつくなってきたんだが」

 

「やだ!」

 

「やだってお前…」

 

「なに?八幡は私が重いって言うの?」

 

「そうだなって痛いので首に力入れるのやめて」

 

「良いじゃん!家までお願いね!」

 

「……わーったよ。仰せのままに」

 

「うむ。苦しゅうない!」

 

——少女の顔には笑顔の花が咲いていた。

 

 

〜さらにオマケ〜

 

生徒会

 

「はぁ、流石に一年男子のほとんどが覗きにきてるとか頭痛いわ…」

 

「お疲れ様、奏。お茶飲む?」

 

「ありがとう。葵姉さん。いただくわ」

 

「それ、なんの資料?」

 

「…ほぅ。ああ、それ?今日の騒ぎに参加してた奴らの名簿」

 

「あー…。まさか、あんな騒ぎになるなんて…」

 

「流石に公序良俗に反するわ。よって、騒動に参加した男子は明日の課題が倍ね」

 

「あはは…」

 

「私の可愛い妹の下着みるなんて万死に値するわ」

 

翌日、私刑が降った男子たちの悲鳴が上がったのだった…。

 

 

 




次回、未定!
また会う日まで!


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あなたの気持ち


最初に言っておく。
この話の中心になる人はヒロインではない!



 

 

「はぁぁ…。今週は櫻田くんとお話し出来なかったなぁ…。もう少しでいいから話したいな」

 

ある日のこと、茜を振り切った俺が昼ご飯を人気が少ないベストプレイスで食べている時のことだ。ひとりの女生徒が陰鬱な表情でやってきて座ったかと思えば、話し始めた。え、独り言だよね?というか、俺のこと見えてないの?ついに俺の存在感が、目の前にいても見えなくなるという状態に達したのか?なにそれ怖い。

 

その後もその女生徒は独り言を言っている。

これは話しかけたほうがいいのか…?俺はなにを試されてるんだ。

 

このままでは、俺がプライバシーを侵害したとかで警察のお世話になってしまうかもしれない。仕方ない、話しかけてみよう。

 

「あにょ…」

 

ビックゥ!!

 

ああ、クソ!噛んだわ!そして、女生徒がいつからいたの?みたいな驚愕を顔に貼り付けているわ。あ、この人先輩か。奏たちと同じ学年だな。

 

「いい、いつからそこに⁉︎」

 

ええー。やっぱり気づかれてなかったのん?

 

「いや、最初からいたんすけど…」

 

「ええ!ご、ごめんね!ちょっと悩んでて気付けなかったの!無視してたわけじゃないよ⁉︎」

 

アワアワと手を振っている先輩。ちょっとほんわかした。

 

「いや、別にいいですよ。気付かれないとかそういうのは慣れてますし」

 

「!私も!みんなからは陰が薄いってよく言われる…」

 

「…名前間違えられたりとかですか」

 

「そうなの!私、小学生の頃この辺に住んでたんだけどね、親が転勤族で四年生の時に引っ越しちゃったんだ。それで、高校に入る時に戻ってきたんだけど、小学生の同級生はあんまり覚えてくれてなかったんだよね…」

 

「俺は中学の頃とかに休み時間寝てたら次の授業が移動教室だったみたいで起きたら誰もいなかったことあります」

 

「さ、流石に私はそこまでではなかったけど…」

 

俺の渾身の自虐ネタは引かせたようだ。

 

「私、あなたといいお友達になれそうな気がするよ!」

 

「陰が薄い仲間ですか」

 

なにその傷の舐め合いの関係は。虚しくね?

 

「まあまあ、私は2年の佐藤 花です。あなたの名前は?」

 

…どうしよう。これでも俺って王族なんだけど。いや、テレビも嬉々として出てないけど。それでも少しはテレビに出たこともあるんですけど…。あ、ちょっと自分の影の薄さに涙が…。

 

「ええ!なんで、泣きそうになってるの⁉︎私変なこと言ったかな⁉︎」

 

「いえ、久しぶりに自分の影の薄さにを実感しただけなんでお気になさらず…」

 

「この会話の中にそんなこと実感するよう話し合ったかなぁ⁉︎」

 

知らないって時に残酷だよね。

名前か…どうしようか。さっきこの人櫻田くんって言ってるんだよな。おおかた修のことだろう。まあ、気付いてないみたいだしいっか。

 

「…1年の比企谷 八です。ヨロシクオネガイシマス」

 

「なぜカタコト…?よろしくね、比企谷くん!」

 

こうしてとある日の春に影の薄い同盟ができたのであった。

 

〜☆〜

 

そして、幾ばくかの日が経ち、今日も昼休みにベストプレイスで会合が行われていた。

 

「比企谷くん!今日は朝から櫻田くんと話せたよ!牛乳かけられちゃったけど今日は一日絶好調だよ!」

 

「はあ、良かったですね。というか、そんな理由でジャージ着てたんすね。櫻田先輩は特殊な趣味を持ってるんですね」

 

会合というより佐藤先輩から自分の兄についての報告をただ聴き続けるという、なにこれ?拷問?という惚気である。兄弟だと言っておけば良かったなって…。

 

「えへへ…。嬉しいなぁ」

 

朝から牛乳ぶっかけられてここまで幸せそうな顔できるのか(ドン引き)。ちょっとマトモじゃない。好きすぎるだろ…。かれこれ毎週の木曜日の昼休みはペストプレイスに先輩がやってきて、惚気を聞かされている。うーん、ここまで修が好きというオーラを出してるのになぜ気付かないんだ?不思議でならん。こんなの見てわかるだろ?

 

あ、ちなみに先輩が修を好きになったきっかけは、ほとんどの人が名前を覚えてない中、修だけが覚えていてくれたからだそうだ。やだ、ちょろい…。かくいう俺もそんなことになったら告白して振られているだろう。あれ、俺もちょろかった…?

 

「先輩…。そんなに好きなら告白でもしたらいいんじゃないですかね」

 

「うぅ…それが出来たらいいんだけど…。櫻田くんの好きな子のタイプとか知りたいし…。あ!私が聞くのは恥ずかしいから、比企谷くんが友達経由で聞くのは…。ご、ごめんね。そういうわけじゃなくて!」

 

なんで謝られてるんですかね?なんですか。お前に聞くような友人はいないだろってことですかそうですか。その通りですけどね!謝罪のほうが傷つくわい。

 

「なめないでもらいたいもんですね。俺だってやろうと思えばそのくらい出来ます。やろうと思わないだけで」

 

「それは大丈夫なの…?」

 

「で、仮にタイプが分かったとして先輩はどうするんですか?」

 

「え、どうするって?それは、櫻田くんの好きなタイプになれるよう努力を…」

 

「好きな人のために自分を誤魔化すんですか?それで好きになってくれた人は本当に先輩を見てるって言えるんですか?それなら、素の自分を好きになってもらえるよう頑張ったらいいんじゃないですか。仮にそんな自分を誤魔化してする恋愛なんて欺瞞では」

 

「……」

 

あ、ちょっと言い過ぎか…?先輩が黙ってしまった。

 

「…こんな俺とも関わってくれる先輩はいい人です。なので、そんな先輩は今のままでいけばいいと思います」

 

「……こんな私で大丈夫かな?」

 

「大丈夫ですよ。少なくとも俺だったらこんなに優しくされたら勘違いして告白してフラれちゃってますね」

 

「くすっ。フラれちゃうんだ」

 

「そりゃ、先輩には思い人がいますからね。当たり前でしょう」

 

「うん!そうだね!」

 

「いやそんな笑顔で言い切ることはないのでは?地味に傷つくわ…」

 

「ご、ごめんね。でも、比企谷くんの話で自信がついたよ!ありのままの私を好きになってもらえるように頑張るね!」

 

「…はい。頑張ってください、先輩」

 

笑顔になった先輩は、きっとありのままの自分で向かい合えるだろう。あの朴念仁に好きになってもらえるように頑張って欲しいもんだ。

 

 

 

 

 

「あ、でもでも、やっぱり好きなタイプは気になるからなんとか聞けないかな?ほら、好きなタイプに一致してたら自信がさらに持てるし」

 

えぇー。いい感じの終わりでしたやん…。

 

 

 

〜櫻田家 in 岬&遥の部屋〜

 

「というわけで、修の好きな女子のタイプを教えてくれ」

 

「急にどうしたの兄さん?風邪?ついに頭おかしくなった?」

 

とりあえず、岬がいないうちに聞いておこうと遥の元へやって来たらこの洗礼である。

 

「風邪ではないから安心しろ。それより、ついにってどういうことだ。ついにって」

 

まるで頭がおかしくなるのが決まってたみたいな言い方するのやめてくれませんかねぇ?

 

「んん゛!で?どうしたの急に?兄さんがそんなこと気にするなんて明日は天変地異でも起こるのかな。普段そんなことに興味ないのに」

 

「うっせ。知り合いから頼まれたんだよ」

 

「えっ?兄さんに知り合いとかいたの?」

 

しばいてやろうかこのガキ。

 

「俺だって知り合いぐらいいるわ。鮎ヶ瀬とか、会長とか、……」

 

「それ全部姉さんたち繋がりの人だよね…。それと同じクラスとかなのに友達でもないんだ…」

 

うっさいわ。自分で言ってて思ったよ…。それと、同じクラスの奴だったら全員友達なの?んなわけないわ。

 

「で、どうなんだ?」

 

「いや待って、そもそもなんで僕に聞くの?本人に聞けばいいじゃないか」

 

「んなの修が面倒だからだに決まってるだろ」

 

「兄さんってかなり修兄さんに遠慮ないよね…。…メンドくささで言ったら兄さんの方が上だと思うけど」

 

聞かなかったことにしてやろう。俺、そんなに面倒い?そんなわけないよね?

 

「まあ、そんな理由だ。ほら、遥の能力でチャチャっと数値化してくれよ」

 

「僕にもだいぶ遠慮ないね!いや、なんでやる前提なのさ。別にやらないからね」

 

「はあ〜、遥は兄のささやかな願いも聞いてくれないのか…。まあ、遥の能力にもわからないものはあるもんな…。人の心までわからないもんな〜」

 

「ぐ…。いいだろう!やってやるよ!」

 

こんな挑発に乗るとはお兄さんちょっと心配だよ?そんなちょろいと奏になんかやられるよ?

 

「ちょっと待ってて」

 

少し離れて様子を見る。少し目を瞑ったかと思えば、小さめのノートに何かを書いた。

 

「だいたいこんな感じかな」

 

素朴・・・30%

優しい・・・10%

笑顔・・・20%

胸がでかい・・・40%

 

二度見した。遥をみる。遥は首を振った。

おおう、マジか。まあ、男なら仕方ないよね。

 

「まあ、だいたいだし、ただの予想みたいなものだからあんまり気にしなくていいんじゃないかな」

 

すげぇ。自分の能力にかなりの自信を持っている遥はすらフォローに回るレベルって…。嘘だと言ってよ…。なんとも言えない空気になりながらも俺はこの部屋を出たのだった。

 

 

〜修&輝の部屋〜

 

「というわけで、修。お前の好きな女子のタイプを教えろ」

 

「いきなりどうした⁉︎」

 

ま、本人確認が1番早いよね。さっきの結果じゃモヤモヤしてるし。あのままでは先輩に伝えられたものじゃない。

 

「どうした、八幡。お前がそんなこと聞くなんて、明日は槍でも降ってくるのか?」

 

「うっせ。俺だって別に興味なんかないわ。調子のんな」

 

「えぇー?ならなんで聞いてきてるんだよ⁉︎」

 

「…色々あるんだよ」

 

「ほーほー」

 

なにニヤニヤしてんだ。処すぞ。

なんか気恥ずかしくなって顔を背ける。すると、ドアの向こうに気配があった。ま、誰でもいいか。

 

「で、どうなの?」

 

「好きなタイプかぁ…。ちょっと考えるわ」

 

割と真面目に考えてくれてるのか。意外だわ。

 

「なに、意外みたいな顔をしてるんだ」

 

「え、なに?心読めんの?怖いわ」

 

「それはそっちの専売特許だろう。顔に出てるんだよ。ま、それに珍しく弟が頼ってきてくれてるんだ。少しくらいは真面目にやろうと思っただけだよ」

 

そこまで読みやすい…?

 

「で、タイプだな。そうだなぁ。素朴な感じの人が好きかな?あと、優しくて笑顔が可愛い人かな」

 

あと胸。クッソ!さっきの結果がチラつくわ!なんか、パッと聞いた感じ、先輩とだいぶ被ってる気がするな。というか、一致してるな。まあ、似たような人がいるかもだし、まさかね?

 

「俺が話したんだし、八幡も話せよ」

 

「ええー。俺を専業主夫として養ってくれる人。はい、この話終了」

 

「待て待て。俺が恥ずかしい思いをして本音で話したのに。性格とかの話だよ」

 

…まぁ、ワザワザ教えてもらった訳だし、俺も考えたほうがいいか…?

 

うーん?考えてもピンと来ないな。

 

「出てこない?それなら、兄妹の中ならどうだ?」

 

「栞だな」

 

「おおう。その即答は流石の兄でも引くぞ」

 

はあ?栞の天使さを馬鹿にしてんの?いいよ?喧嘩なら買うよ?

 

「じゃ、聞くもん聞けたし戻るわ」

 

「おーう。俺のこと気になってる女子がいるんだったらそのうち紹介してくれよ」

 

「爆ぜろ」

 

「なぜ急に⁉︎」

 

あんないい人から好かれてんのに気付かないやつは爆ぜてオッケーです。とりあえず、佐藤先輩にメールしておくか。あ、メアドは同盟が出来た時に登録した。というか、された。

 

『櫻田先輩のタイプわかりました。

素朴で笑顔が可愛い人だそうです。頑張ってください』

 

…流石に胸のことはねぇ?いや、割と先輩は大き…ゴホンゴホン。

送信するとすぐに返信がきた。

 

『ありがとー╰(*´︶`*)╯♡私、頑張るね!ᕦ(ò_óˇ)ᕤあと、明日もいつもの場所集合ね!\( ˆoˆ )/』

 

頑張って欲しいものだ。そして、惚気を減らして欲しい。いや、増えるのか?

 

「さて、そろそろ寝るか〜」

 

「そうね。その前にお話があります」

 

「俺はありません」

 

「こい」

 

「はい…」

 

その日は深夜になるまで兄妹だは結婚できないと延々と説明されたのだった…。おのれ、ブラコンめ!知ってるわ!

 

 

〜☆〜

 

side Sato

 

初めまして、私は佐藤花と言います!私は今、昼休みになった瞬間駆け出していました。それは、昨日来たメールの真実を確かめるため。

 

『櫻田先輩のタイプわかりました。

素朴で笑顔が可愛い人だそうです。頑張ってください』

 

ちょっと素っ気ないけど、優しい後輩くんだよね!分かりづらいだけで。

 

彼、比企谷くんと出会ったのは2年生になって幾ばくか過ぎたころ。その当時の私は、私のことを覚えていてくれた櫻田くんと話すのにかなり必死だったような気がする。それで、その日は午前中も話すことができていなくて校舎裏にある人があまり来ないところで落ち込んでいた。

 

『あにょ…』

 

人が居るとは思わなかった私は突然声を掛けられてすごくビックリしてしまった。人が居たの⁉︎その声を掛けてきた人物が比企谷くんだったのだ。帰宅部の私は後輩と関わることもないので先輩と呼ばれるのが少し嬉しかった。それから、空気が薄い者同士で同盟なんてものをその場の勢いで組んでしまい、比企谷くんは迷惑がるかな、と思っていた。けれど、彼は毎週木曜日は出会った場所で私の話を聞いてくれたのだ。私が話して、彼が呆れながら話を聞いてアドバイスをくれる。そんな時間が好きになっていた。それはそれとして、比企谷くんってどこかで見たことがあるような気がするんだけど…。どこかですれ違ったりしたのかな!

 

そして、昨日櫻田くんのタイプを教えて欲しいという私の願いに彼は嫌そうな顔をしながらも、夜には教えてくれた。私が優しいね、というと彼は、そんなことはない。俺のためだ。なんて言いそうだけど、間違いなく彼は優しいよね。

 

そんな彼からのメールの内容が、櫻田くんのタイプが素朴、笑顔が可愛い人、私は当てはまるのだろうか。比企谷くんからの意見が聞きたくて今日も呼び出してしまった。昨日のお説教を受けて、好みのタイプになろうとするわけじゃないけど、気になるものは気になるのだ。

 

気になるといえば、昨日のお説教の時、彼の顔が一瞬辛そうなものになっていた。彼が何か抱えて居るのなら、お友達として私は力になりたい。だけど、きっと助けを求めることはないのだろう。だから、私は彼の味方でいようと思う。先輩として、友達として。

 

Side out

 

———————

Side H

 

さて、今日も呼び出されてしまった。あ、別に校舎裏でカツアゲとかじゃないよ?佐藤先輩からである。おおかた、修のタイプに自分があってるかどうか聞きたいんだろうな〜。と思いながら、いつものベストプレイスに向かう。

 

なんか、いつのまにか、木曜日は先輩とご飯食べることが日常になってしまったな。以前までの俺だったら、ベストプレイスに人が来た時点で、別の場所を探していただろう。不思議なもんだ。

 

と考えつつも、ベストプレイスに着くといつもは俺が先にいるのだが、今日は先輩がやって来ていた。こちらに振り返ってくる先輩の目はめっちゃワクワクが隠せていなかった。どんだけ楽しみだったの…。

 

「待ってたよ!比企谷くん!」

 

「はい、お待たせしました。で、どうしました?」

 

「うん!比企谷くんから見てどうかな?私?」

 

「どうとは?」

 

「分かってるくせに…」

 

「いやちょっと何言ってるかわからないです」

 

「櫻田くんのタイプに合ってるかなって話!」

 

「えーと、素朴で笑顔が可愛い人でしたっけ?」

 

あと胸がデカイ。

それを踏まえて先輩をみる。うーん。時折、修の話をしている時の笑顔は問題ない。で、素朴か。素朴が何を指しているのかは分からんが、ほかの今時のJKと比較するとかなり、地味…げふん、素朴な感じではないだろうか?そして、胸もある。問題ないな。

 

「どうかな?」

 

こっちをジッと見ながら聞いてくる。

それだけ聞くとカップルの会話みたいだから少し気恥ずかしさがあるんですけど…。

 

「まあ、かなりタイプ合ってるんじゃないですか?」

 

「ほんと?やった!」

 

目を逸らしながら答えると跳ね上がるが如く喜んでいた。

 

「あ、でもよく櫻田くんのタイプとか分かったね。比企谷くん聞ける人いたんだね」

 

悪意とかない分余計に刺さるよね…。

 

「え、あ、ち、違うの!そういうことじゃなくてね!」

 

「いえ、いいんです。間違いではないので。とりあえず屋上に行って来ます」

 

「屋上で何する気⁉︎ほんとごめん!」

 

「来世は鳥になりたい…」

 

「ごめんってばー!」

 

〜☆〜

 

放課後である。いつもの俺なら、茜に引っ張られるように帰るのだが、今日は何故か生徒会の雑務をやらされている。あれ?おかしくねー?僕、生徒会役員じゃないよー?

 

「ありがとー。助かりました。持つべきものは、頼りになる弟ですね」

 

「いや、おかしくね?なんで俺が手伝うことになってる?生徒会じゃないんですけど?」

 

「まあ、いいじゃない。帰りにあなたが好きなコーヒー買ってあげますから」

 

「…しゃあないな」

 

「ええ!それでいいんですか⁉︎」

 

「いいんですよ、会長。お互いwin-winですから」

 

 

〜30分後〜

 

 

「…ん。とりあえず終わったから帰るわ」

 

「助かました。では、帰りに買っていきますね」

 

「おう。待ってるわ」

 

「ありがとうございました。助かっちゃいました」

 

「いえ、ではこれで。お疲れ様です」

 

さて、帰るかと、高機能目覚まし時計ことスマホを見ると佐藤先輩から20分前くらいにメールが来てる。なになに…?

 

『櫻田くんが髪が赤めで高めのツインテの女の子と歩いてるよ⁉︎』

 

ふむ…。え、これ茜じゃないの?輝たちが買い物に行った時に、修から高めのツインテを要求された茜じゃないの?いや、ほかにも同じ人がいるかもだからわからんけど…。

 

どう返信したらいいだろうか、と悩んでいると続けてメールが。

 

『今どこにいる?私を迎えに来て(T ^ T)』

 

先の話題の茜からだった。あれ、修と帰ってなかった?疑問に思いつつも茜に連絡を入れその場所まで迎えに行く。向かった先には、路地の裏で顔出したり、引っ込めたりしている茜が。

 

「あ!来たー!待ってたよ〜!」

 

涙目になりながらこちらに文字通り飛んできた。ちょっ、くっつくのはやめて!

 

「なんで、1人なんだよ。修はどうした?置いていかれたのか?」

 

「いや、それが…」

 

茜から話を聞くと、修と2人で帰ってる途中に後ろから追跡されていることに気付き、特定するために路地に誘い出したそうだ。そして、来たのが、佐藤先輩。そして、なんやかんやあり、先輩は告白。修は素直に嬉しい。が、告白に応えるのは選挙が終わるのを待って欲しい、と。それに佐藤先輩は待つとのことで、修に先輩を送らせるために茜は離脱し、今に至ると。

 

えっ?なにそれ、すごい展開早くない?いや、望ましい展開ではあるんだけどなんか早い。とりあえず、佐藤先輩おめでとうございます!

 

まぁ、それはさておき帰ろう。茜が抱きしめている腕がそろそろ感覚なくなって来た。

 

〜☆〜

 

『勢いで告白しちゃったよ!(//∇//)でも、一応オーケーが貰えました(((o(*゚▽゚*)o)))♡

 

その夜、佐藤先輩からメールが来た。この文面だけみるとパワーがあるな。

 

『おめでとうございます。』

 

さて、これで先輩は木曜日に来ることはないだろう。なにせ、修との交際は間違いないだろうしな。俺と先輩の関係も終わりだろう。

 

 

 

〜翌週〜

 

「あ!比企谷くん待ってたよ〜!今日は来ないかと思っちゃった」

 

何故か先輩がいた。

 

「いや、先輩こそなんでいるんすか」

 

「あれ?来ちゃダメだった?」

 

「いや、だってしゅ…櫻田先輩と一応とはいえ付き合うことになったんですよね?」

 

「?保留されちゃったけどね…」

 

「なら、ここで会わないほうがいいんじゃ…。ほら、櫻田先輩にも悪いですし」

 

俺と会う必要もないはずでは?という言葉は続かなかった。

 

「むう…。君はあれかな?私が櫻田くんと付き合うために今まで付き合わせたと思ってるのかな?」

 

「現にそうなのでは…?」

 

「はぁぁぁぁ〜〜〜〜」

 

なんかすごいでかいため息つかれた。

 

「そんなわけないでしょ!私は君とお友達として、話したくて来てたんだから!」

 

「はい?」

 

「はい?じゃないよ!私と君は先輩、後輩という間柄だけど友達でしょ?」

 

「いや、なんか同盟とか言ってませんでした?」

 

「……そういう揚げ足は取らなくていいの!私は比企谷くんのこと、友達と思ってたんだけど。…君はイヤ?」

 

急にしおらしくなるのやめてほしい。これやられたら、俺が悪いみたいになるじゃないか。ソースは俺。光とか栞にやられたら確実に罪悪感抱く。

 

「……イヤ、じゃないですけど…。先輩はいいんですか?俺、これでもだいぶ面倒くさいと思いますけど」

 

「本当にね…」

 

呆れた顔をされてしまった。

 

「いい?別に同情だとか、惰性とかではないの。ただ、私が君と友達になりたい」

 

そんな真摯な目を向けられるのは慣れていない。でも、手を伸ばしてみようと思った。

 

「…俺で、よければ」

 

「うん!じゃあ、これで君と私は友達だね!これからもよろしく。比企谷くん♩」

 

「はぁ…。あ、友達料金はいくらですか?」

 

「そんなものないよ⁉︎君は友達をなんだと思ってるの⁉︎」

 

俺に友人が出来るのは間違っている?

 

 

 

 

ーオマケー

 

「あ、八くんがメールしてるのなんて珍しいね〜」

 

「そうか?いや、そうだな。俺も珍しいと思ってる」

 

「へ〜誰?」

 

「友達」

 

「…!」

 

「え、なんでそんな驚いた顔してんの?俺にだって友人くらいいるからな」

 

「これはみんなに報告だー!」

 

「わざわざする必要なくない?なに、俺そんなに友人とかいないと思われてる?あと、話を聞いて」

 

その後、家族から『大丈夫?お金取られてない?』『何かあったら私にいうんだよ⁉︎』『で、友達料金はいくらに払うの?』とか涙が出るお言葉を頂戴したのだった。

 

 





最後にも言っておく。
ヒロインじゃないよ!


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