ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 特別編 (ヴァルナル)
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異形なる天使篇 (コラボ作)
異形なる天使 Ⅰ


Mr.エメトさんの『ハイスクールD×D~アルギュロス・ディアボロス~』とのコラボです!

初コラボなのでドキドキです!

それではどうぞ!



[三人称 side]

 

 

大地は赤く、雲は紫色。

ここは悪魔たちが住む世界。

 

しかし、そこは一誠達が知っている『冥界』とは違う世界だ。

 

サーゼクス・ルシファー達四大魔王が治めているわけでもなければ、特撮番組『おっぱいドラゴン』が流行っているわけでもない。

 

 

―――――『魔界』

 

 

この世界はそう呼ばれている。

 

一誠達の世界から見れば異世界に当たるだろう。

 

地球よりも広大な大陸。

そこに多種多様な悪魔や妖魔が住み、様々な地域、国が存在する。

 

 

―凍える冷気の国。

 

 

―狩猟と闘技場の国。

 

 

―砂漠と荒野の国。

 

 

―風と森林の国。

 

 

―火山と温泉の国。

 

 

―そして、貴族が住む魔界中央の国。

 

 

多種多様な気候風土を持つ国々。

 

事件は魔界の貴族が住まう魔界中央国から始まる。

 

「天界で厳重に封印されていたあの者たちが………?」

 

驚愕の声をあげたのは一人の青年だった。

 

特徴的な短い銀髪。

顔立ちはよく、転校すれば間違いなく女子から質問責めにあうだろう。

黒いマントを羽織っており、黒いパーカーとジーンズを着ている。

 

青年の名は涼刀鋼弥。

 

ハンターであり、悪魔と人間のハーフ。

ハンターはこの魔界に住まう悪魔が問題を起こした場合、依頼を受け討伐する職業であり、危険が付きまとうもの。

 

数多くの依頼をこなしてきた鋼弥は魔界では名うてのハンターとなっていた。

 

そんな鋼弥が声に出すほど、深刻な事態が起きていた。

 

『ええ、かの者たちは何者かの手によって封印が破壊されて、別の世界へと逃げ込まれたようです』

 

現れたのは大天使サリエル。

死神の様な風貌だが、霊魂の看守を任されている天使であり魔界のハンターとの交渉役を任されている者。

 

もちろん、一誠達の世界にいる熾天使(セラフ)の一人、サリエルとは別人である。

 

「このまま放置しておくことはできない………俺達に依頼を?」

 

『ええ、こちらはゾロアスターの動きもあるので、そう簡単に動くわけにはいかないのです。そこで、力があり、動くことの出来るあなた達に白羽の矢が立ったということなのです。申し訳ありません。本来なら我々の役目なのですが………』

 

「問題ない。………報酬はいただくがな」

 

鋼弥は頷き、了承する。

 

 

この事件が異世界帰りの赤龍帝と銀色の半人半魔のハンターを引き合わせる――――――。

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

吸血鬼の町での一件が終わり、テロ対策チーム『D×D』が結成されて数日。

 

今のところリゼヴィム率いる『クリフォト』にこれといった動きはない。

 

吸血鬼の町での騒ぎが嘘のように思えるほど、この町は平和で静かだ。

 

そんなある日の放課後、オカルト研究部の部室にて。

 

「………平行世界、ですか?」

 

俺は朱乃がいれてくれた紅茶に口をつけながら、そう聞き返す。

 

アザゼル先生は頷いた。

 

「そうだ。この世界とは異なる世界のことなんだが、アスト・アーデのような異世界とはまた違う世界のことだ」

 

「アスト・アーデとは違う………? それは他にも別の世界があるって感じなんですかね?」

 

「いや、ちょっと違うな」

 

先生は首を横に振るとホワイトボードに絵を描いていく。

大きな円が二つあって、それぞれの円に小さな円がいくつか描かれている。

 

大きな円の片側の小さな円に矢印が書かれた。

 

「こいつが今の俺達の世界だ。で、この隣にある小さな円がアスト・アーデとしよう。他の円はもしかしたらあるかもしれない他の異世界だ。俺達の世界を含めたこれらの世界を大きく包んだ円が一つの大きな世界を指す」

 

俺の隣に座っていた美羽がクッキーを食べながら訊く。

 

「それじゃあ、もう一つの方はなんなの?」

 

その問いに先生はもう片方の大きな円を指差しながら答えた。

 

「こっちの円が俺が今唱えた平行世界ってやつだ。この中のにも俺達の世界と似ているようで違う世界が存在するのさ」

 

う、うーん………?

ま、全く分からん………。

 

異世界であるアスト・アーデと俺達の世界が一つの世界の中にあって、それがもう一つ存在するということだろうか?

 

俺も美羽もちんぷんかんぷんといった表情で、頭に疑問符を浮かべまくっていた。

 

その様子に先生は苦笑する。

 

「ま、簡単に言えば平行世界ってのは『if』の世界だ。例えばイッセーが赤龍帝ではなく白龍皇である世界、美羽がイッセーの妹ではない世界、そういう『例えば』の世界、あらゆる可能性が考えられる世界のことさ」

 

あー………そう言われたら何となく分かったかも。

 

俺が白龍皇ね。

そうなるとアルビオンと組むことになっているわけで………。

その時、俺達は上手くやれるだろうか?

 

ドライグだからこそここまでこれた気もするしなぁ。

 

ドライグが言う。

 

『ちょっと待て、アザゼル。ということは俺が乳龍帝と呼ばれていない世界もあるかもしれないということか?』

 

「多分な」

 

『くっ………俺はそっちの世界に行きたいぞぉぉぉぉぉ!』

 

うぉい!

俺がおまえに感謝しているときにそういうこと言うの止めてくんない!?

 

そんなに嫌か!

嫌なのか!

 

ゴメン、謝るから許して!

 

つーか、アルビオンと一緒に克服したんじゃなかったのかよ!?

 

『それはそうなんだが………そういう世界があるかもしれないと聞かされるとな………』

 

ま、まぁ、そうかもしれないけど………。

 

乳龍帝と呼ばれていない世界の俺ってどんなのだろう?

おっぱいが好きじゃないとか?

 

そんな俺は想像できん!

俺はおっぱいがあってこそだからな!

 

などと一人頷いていると、その隣では―――――

 

「お兄ちゃんの妹じゃないボク………っ! そんなの絶対に嫌だよ! ボクはお兄ちゃんと一緒がいい!」

 

美羽が涙目で泣きついてきたよ!

 

んもー!

うちの美羽ちゃんは可愛いな、ちくしょう!

 

「俺も美羽が妹じゃない世界とか嫌だ!」

 

「お兄ちゃん!」

 

「美羽!」

 

ガシッと抱き合う俺と美羽!

 

俺、この世界で生きてて良かった!

心からそう思える!

 

そんな俺達義兄妹の微笑ましい光景に先生は苦笑する。

 

「この仲良し義兄妹め、人前でイチャイチャしやがってよ。まぁ、俺が言ったのはあくまで可能性………例えばの話だ。実際にあるとは限らん」

 

部長の席で資料を読んでいたリアスが眼鏡を外して息を吐いた。

 

何かに集中したい時には眼鏡をかけるらしいが、久しぶりに見たな。

眼鏡をかけたリアスってすごい知的な感じがするよね。

 

リアスは資料を引き出しに仕舞うと話に入ってくる。

 

「平行世界………。色々な自分が想像できて面白そうな話だけれど、なぜそんな話を?」

 

確かにそうだよな。

アザゼル先生、いきなり平行世界の話をし始めたし。

 

「こいつは異世界――――アスト・アーデの存在を知ってからずっと考えていたことでな。俺達が知らなかった世界がこの世に存在していたんだ。もしかしたら、俺達の世界と似ているようで違う、そういう『if』の世界が存在していてもおかしくはない。でだ、先日のリゼヴィムの一件もあって、異世界についてもう一度考えるついでに思い出したのさ」  

 

違う自分がいる世界。

確かに面白そうで興味深い話ではあるな。

 

先生は楽しげに笑む。

 

「ま、今のところ何の根拠もない想像の話だ。だが、想像するだけでも面白いだろ? 世界は広い。長く生きてきた俺でも知らないことが山ほどある。研究職としちゃ、たまらなく楽しい話だ。やっぱり未知の存在ってのは興味がそそられるよな」

 

「ですが、それで職務を放り出すのはやめてくださいね? シェムハザさまも大変お怒りですので」

 

「おい、レイナーレ! 人が楽しんでいるところにリアルな話を持ってくるのやめろ! つーか、俺、総督じゃねーし! もう自由だし! 誰にも俺を縛ることなんて出来ない!」

 

「もー! そんなんだからいつまでたっても結婚出来ないんですよ! バカ元総督!」

 

「んだとぉ!? イッセーとやったからって調子に乗るなよ!? いつになったら寿退社するんだよ!」

 

「な、ななななな何言ってるんですかぁぁぁ! アザゼルさまのバカぁぁぁぁぁぁ!」

 

「痛ぇっ! ちょ、やめ、本の角で殴るのやめろ! マジ痛いって! イッセー! 見てないで助けろよ!」

 

あーあ………レイナちゃんの顔が真っ赤になっちゃった。

近くにあった分厚い辞書で先生の頭を………。

 

つーか、そんなに大声で『やった』とか言わないでくれます!?

 

女性陣からの視線が!

鋭い視線が集まってきてるから!

怖いよ!

 

うん、これは先生が先生が悪い!

とりあえず、いっぱい殴られてください!

 

しかし、あの時のレイナちゃんは………可愛いかったなぁ。

いや、いつも可愛いけど。

 

いつもの賑やかな空気が部室に流れている時だった。

 

先生の耳元に通信用の小型魔法陣が展開された。

 

「ちょ、ちょっと待て! ストップ! ストップだ!」

 

先生は辞書を振り下ろす格好となっているレイナを慌てて止めると、魔法陣から聞こえる声に耳を傾ける。

 

最初は頷きを返していたが次第に表情が険しくなっていく。

 

「………それは確かなことか?」

 

先生が魔法陣を通して確認を取るが、返ってきた返事に眉を潜めた。

 

それから暫しの問答を繰り返した後、先生は「わかった」と言って通信を切った。

 

先生の真剣な顔にリアスが問う。

 

「どうかしたの?」

 

「………何者かがこの町に侵入した。そして、見失ったそうだ」

 

「見失った?」

 

この町は三大勢力の重要拠点だけあって、町を覆うように結界が張ってあり、俺達以外の冥界・天界スタッフも常駐している。

 

しかも、ユーグリットがはぐれ魔法使いを連れて町に潜入してきた後は結界も強化されて、誰かが侵入した場合、すぐに分かるようになっている。

 

その際、町のスタッフがすぐに駆けつけるようになっているのだが………。

 

俺は先生に問う。

 

「見失ったっていうのは、侵入してきた奴が町の外に出たというわけではないんですよね?」

 

「ああ。町への侵入を確認した後、直ぐに反応が消えたそうだ。スタッフが確認地点に向かったそうだが、それらしい姿は見えなかったらしい」

 

「………まさか、クリフォトの連中が?」

 

ユーグリットの時のように、またこの町に何かを仕掛ける気か?

 

もしくはアセムのやつが仕掛けてきたとか?

 

先生は首を横に振る。

 

「それは分からん。ただ、分かっていることは悪魔でも天使でも堕天使でもない。ドラゴンのものではない力を計測したそうだ」

 

「………全く未知の力を確認した、という認識で良いのかしら?」

 

リアスがそう訊くと先生は頷く。

 

全く未知の力………そうなるとアセム達一行が侵入してきたと考えるのが普通だが………。

 

先生は俺達を見渡すと言う。

 

「とりあえず、何かがこの町に入り込んだのは間違いない。おまえら、十分に警戒しておけよ? リアスはソーナにも連絡しておいてくれ」

 

「分かったわ」

 

この時、妙な胸騒ぎが俺達の中に生まれていた。



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異形なる天使 Ⅱ

異形なる天使、二話目いっきまーす!


「やっほー、迎えに来てあげたわよ」

 

校門前で手を振ってくるのはアリスだ。

 

こっちの世界に来てからは基本、家にいるんだが………、たまにこうして学園に来る時がある。

 

今は夕方。

部活終わりに帰る生徒もいる時間だ。

 

そのため、その生徒達もアリスを見ることになるんだけど………。

 

「綺麗な人………誰だろう」

 

「あ、兵藤先輩の知り合いみたいだけど………もしかして彼女!?」

 

などという声が耳に入ってくる。

 

アリスはこういう時、すごく目立つからな。

どこに行っても注目の的だ。

 

美人ってのもあるんだけど、やっぱり身に纏うオーラも関係するのかな?

なんていうか………王女オーラってやつ?

 

俺は手を振りながら言う。

 

「迎えに来たって言うか、暇なんだろ?」

 

「あら、バレた?」

 

「まぁ、おまえは家に引きこもるタイプじゃないしな。何と言っても城脱走娘だし」

 

「なんのことかしら~?」

 

あっ、こいつ、目反らしやがった。

 

昔は王室の勉強が嫌で城から脱走していたらしいんだよね。

多分、ヴァルキュリアあたりにお説教されたとは思うけど。

 

そんなこいつが家にずっといるってのは退屈でしょうがないだろう。

 

俺はアリスのおでこを指で突いて微笑む。

 

「そんじゃ、迎えに来てもらったお礼にたい焼きでも食べに行くか? 夕飯には少し時間があるだろ?」

 

「やった♪ イッセーの奢りー♪」

 

奢りって………最初から選択肢はそれしかないじゃん。

アリスはこの世界の、日本のお金持ってないし。

 

いや、父さんからお小遣いは貰ってるのか?

それでも、持ち歩いたりはしていないだろう。

 

元王女だけあって普段、お金を持ち歩くことないし。

流石に旅の時は持ってたけど。

 

アリスはご機嫌な様子で、鼻歌を歌いながら俺と腕を組んでくる。

 

………こうなると、怖い視線が飛んでくるわけでして。

 

「イッセー………」

 

「イッセーくん………」

 

リアスと朱乃が切なそうな目で見て来るよ!

そんな目で見ないで!

すっごく申し訳ない気持ちになるから!

 

「イッセーさんはやっぱりアリスさんが良いんですね………うぅ………」

 

「気にするな、アーシア。美羽とアリスに関しては別格なんだ。悔しいが、時には諦め………いや、戦略的撤退というのも重要だ。なに、こういう時は夜襲を仕掛けるのさ」

 

「流石はゼノヴィア! 策士だわ!」

 

うおおおおおおい!

 

泣かないでくれアーシアちゃん!

 

ゼノヴィアは夜襲とか恐ろしいキーワードを言わないでくれよ!

またお仕置きしちゃうぞ!?

 

イリナも盛り上げるない!

 

「たい焼き………」

 

「うん、たい焼きね………」

 

「私、食べたことがないので興味がありますわ」

 

小猫ちゃん、レイナ、レイヴェルはたい焼きという言葉に反応しているな。

 

小猫ちゃんとレイナに関してはもうたい焼きの口になっているに違いない。

ゴクリってしてるしな!

 

木場とギャスパーは後ろの方で苦笑してる。

 

「それじゃあ、今から皆でたい焼き食べに行こうよ。それなら、ね?」

 

そう言ってウインクを送ってくる美羽。

 

まぁ、俺もそのつもりだったんだけど………。

 

俺は振り返って、指を天に向けた。

 

「たい焼き食べに行きたい奴、この指とーまれ!」

 

「「「はーい!」」」

 

 

 

 

「うふふ、やっぱりたい焼きは粒あんよね」

 

リアスがたい焼きにかぶりつきながら言った。

 

「あのお店はカスタードも美味しいです」

 

「あと抹茶もいけるわ」

 

食通の小猫ちゃんとレイナによれば、俺達が訪れた屋台はカスタードと抹茶がおススメらしい。

 

俺はカスタードにしたんだが、確かに美味い。

外の皮はカリカリしてて内側はもふもふのスポンジ。

そこに口当たり滑らかなカスタードの風味が合わさっている!

 

流石は小猫ちゃん!

この手のものは小猫ちゃんに頼るのが一番!

ハズレがないもんな!

 

すると、朱乃が寄り添ってきて、

 

「イッセーくん、チョコレートも食べてみます? 美味しいですわよ」

 

「そうなの? それじゃあ、少しだけ」

 

「うふふ、あーん」

 

「あーん」

 

俺は朱乃のたい焼きをひとかじり。

うん、チョコレートも美味しいな。

 

美味そうに食べる俺を見て、朱乃が微笑む。

 

「カスタードも食べてみたいですわ。あーんってしてくれる?」

 

うおっ、朱乃の上目使いでのおねだり!

大和撫子お姉さまとのギャップが凄まじい!

 

俺も朱乃の口元に自身のたい焼きを運び、

 

「あ、あーん」

 

「あーん」

 

 

パクッ

 

 

もぐもぐして、そのまま飲みこむ。

 

「やっぱり、イッセーくんに食べさせてもらうのが一番美味しいですわ♪」

 

朱乃は幸せそうな笑顔を浮かべた。

 

ここにリアスが迫ってくる!

 

「朱乃だけずるいわ! 私もあーんする!」

 

「はうっ! わ、私も負けません! イッセーさん! 私のも食べてください!」

 

アーシアも参加しちゃったぜ!

 

いやー、いいよね、こういうのって。

癒されるし、幸せな気持ちになれる。

 

こういうほのぼのした時間がいつまでも続いてほしいよ。

 

目の前の微笑ましい光景に俺が一人うんうんと頷いている時だった―――――。

 

 

妙な空気が俺達の中に流れこんできた。

 

 

この感覚………なんだ………?

感じたことのない不気味な感覚だ。

 

ぬるりとした生暖かい風が体にまとわりついてくる。

 

近いものがあるとすれば、英雄派のゲオルクが俺達を疑似空間に転移させた時のあの感じ。

 

だけど、今感じたのはもっと不気味で………。

 

皆も今のを感じ取ったようで、一様に表情を厳しくさせている。

 

「今のはまさか………」

 

「ええ。アザゼルが言っていた侵入者のもの、と考えるのが妥当でしょうね。でも、なんなのこの感じは………」

 

俺の呟きにリアスがそう答えてくる。

 

感じたことのない力の波動。

十中八九、敵だろう。

 

そして、その気配は俺達の元へと近づいてくる!

 

速い!

かなりのスピードで接近してきやがる!

 

こいつはいったい―――――。

 

そして、それ(・・)は俺達の前に現れた。

 

上空………俺達の真上に現れた二つの存在。

 

雷光と疾風を身に纏った二つの黒い影。

 

次第に姿が見えてきて―――――。

 

「なに………あれ………?」

 

美羽が目を見開きながら、そう漏らす。

 

俺達の前に現れたのは――――――化け物だった。

 

腕があり、足があり、胴があり、シルエットとしては人に近いのかもしれない。

しかし、それは魔獣のような存在と比べた時の話だ。

 

俺達の前にいるのは明らかに人ではなかった。

 

一体は全身がくすんだ青色で、両手は銃のような形状をしている。

胴の部位に厳つい顔があり、口には巨大な槍のようなものを咥えている。

こめかみからは白い翼を生やしていた。

 

もう一体は全身が赤色。

さっきのと同じく胸部に白い翼を生やした顔があって、手には鎌槍。

両足はギロチンのような形状をしていた。

 

人型に近いクリーチャー。

目の前にいる存在を一言でいうならそれだ。

 

二体の化け物は胴にある顔――――その大きな目で俺達を見渡すと重たい口を開いた。

 

《我が名は―――大天使ウリエル》

 

《我が名は―――大天使ラファエル》

 

低く重い声。

見た目と相まって声もかなり不気味だ。

 

しかし、俺達の意識は別のところに向けられていた。

 

こいつら、今、なんて言った?

 

ウリエル………?

ラファエル………?

 

そんなはずがない。

 

だってその名は―――――

 

硬直する俺達の中で一番最初に声を出したのはイリナだった。

 

「そんなはずないわ! あなた達が大天使ウリエルさまと大天使ラファエルさまだなんて! お二人は今も天界にいるはずよ! ………それに、姿が全然違うじゃない!」

 

天界の四大熾天使はミカエルさんを筆頭にガブリエルさん、ウリエルさん、ラファエルさん。

この四人が中心となって、聖書の神が亡くなってからの天界を纏めている。

 

俺もミカエルさん以外の四大熾天使の方達とは面識がある。

吸血鬼の一件の後、各勢力のトップ陣に異世界について話をしたが、その時に四大熾天使の方達とお話しした。

 

………目の前の化け物は自らをウリエル、ラファエルと名乗った。

 

だけど、それは誰が見ても違うと分かること。

力の波動がまったく違うし、イリナの言う通り姿形すら別物だ。

 

全く似せる気ないだろ、あれ。

 

しかし―――――イリナの発言にウリエル、ラファエルと名乗ったクリーチャー共は大きくて不気味な目を赤く輝かせ、こちらを睨んでくる。

 

《純正の悪魔だけではなく、混ざりモノもいるのか。なによりも……天使の混ざりモノがいる》

 

《穢れているな。元は人の子が天使になることなぞ。傲慢である》

 

「………っ!」

 

化け物二人の言葉にイリナは表情を険しくさせる。

 

イリナは転生天使だ。

人間から天使に転生した存在。

つまり、純粋な天使ではない。

 

だけど、イリナは転生天使として、ミカエルさんのエースとして誇りを持っている。

いつも元気に「信仰が~」とか「ミカエルさまが~」とか言って皆が苦笑いするくらいに信仰に熱心だ。

 

いつも元気で天真爛漫、誰とでも打ち解けられるイリナならこれからの天界を支えてくれる。

ミカエルさんはそう考えてイリナを自身のエースに選んだんじゃないかな?

 

―――――今のあいつらの言葉はイリナの誇りもミカエルさんの想いも踏みにじるものだ。

 

俺は一歩前に出る。

 

「おい………いきなり現れたと思えば随分、好き勝手言ってくれるな化け物共」

 

赤いオーラをたぎらせて、奴らに殺気の籠った鋭い視線をぶつける。

 

奴らの視線が俺に集まった。

 

《我らが化け物? 違うな、我らは神に仕えし天使なり》

 

《我らを侮辱するか、悪魔よ。許せぬな》

 

奴らのオーラが膨れ上がり、殺意が俺に向けられる。

 

………案外、挑発には乗りやすいタイプか。

 

いや、それでもこのオーラ………並みの相手じゃないな。

 

俺は隣に立つイリナの方に視線を向けると頭をわしゃわしゃ撫でてやる。

 

「俺の幼馴染みは間違いなく天使だよ。たまに『自称』がつくけどな」

 

「自称じゃないもん! 天使だもん! イッセーくん酷いもん!」

 

涙目で抗議するイリナ。

 

まぁ、これは恒例だよね。

イリナって『自称』って言葉にすぐ反応するし。

 

俺はそんなイリナの肩を抱いて、上にいる超失礼なクリーチャー共に言ってやる。

 

「穢れてる? 傲慢? それはおまえらだろ、偽天使共。少なくとも、おまえらなんぞよりはイリナは遥かに天使してるさ」

 

リアスも前に出る。

 

「そうね。私達からすれば、あなた達は天使とは別物。悪魔よりも傲慢。ただの怪物よ」

 

俺達全員の強い視線が奴らに向けられる。

 

俺とリアスの言葉に奴らは怒りのオーラを纏い、すーっと地面に降りてくる。

 

明らかな殺意………ここでやる気かよ。

 

俺は美羽に視線を送り、人払いの結界を張ってもらう。

ついでに周囲へ被害がいかないように、強固な結界を展開してもらった。

 

ここが夕方の公園で、人がいなかったのが幸いだった。

 

それなりのスペースがあるし、結界を張っているから少しくらいドンパチしても問題ない。

 

ウリエルと名乗った偽天使が言う。

 

《我らが怪物だと? 先程から無礼な者達だ。言葉を間違えたようだな悪魔どもよ》

 

バチっと体から黄金の稲妻が迸り始める。

次第に黄金のオーラがウリエルを包み、その力に応じるように雷雲が上空に集まり始めた。

 

ウリエルに続き、ラファエルと名乗った偽天使は風を纏う。

そして、手に持った鎌槍を天に向けた。

 

《汝ら、我らが何と呼ばれているのか教えてやろうか?》

 

ラファエルは手に持つ鎌槍を振り回し、周囲に突風を巻き起こす!

 

まるで竜巻のようで………体が引き寄せられる!

少しでも力を抜けばあの竜巻に呑み込まれる!

 

俺達は足に踏ん張りを効かせて、何とか呑み込まれないように耐えながら戦闘体勢に突入。

俺は鎧を纏い、アリスは槍を取り出し、木場は聖魔剣を創造。

小猫ちゃんも猫又モードとなり、ゼノヴィアはデュランダルを構えた。

ギャスパーは体から闇のオーラを発生させて、強大な闇の獣と化す。

 

他のメンバーも陣形を取り、前衛と中衛、そして後衛の三段構えとなる。

 

俺達が陣形を取った瞬間、ラファエルが振り回していた鎌槍を地に突き刺して言った。

 

それはどこまでも深く、底冷えするような声音だった。

 

《殺戮の天使、大地のデーモンなり……!!》

 

奴らのオーラと殺気が膨れ上がった!

 

来ると判断した俺は鎧を禁手第三階層(ドライ・ファーゼ)――――天翼(アイオス)に変える。

 

あいつらの力が未知である以上、下手に仕掛けられないからな!

ここは臨機応変に対応できる天翼でいかせてもらう!

 

ドライグ、やるぞ!

 

『ああ。だが、気になるな。なぜ奴らが熾天使の名を語ったか。仮に本人だとしてもこの力の波動は天使のものではない。何がどうなっている………?』

 

知らん!

だけど、このまま放っておけるかよ!

 

こんな町中で仕掛けてくるような奴らだ!

下手すりゃ、一般の人間にも手を出すかもしれない!

 

リアスが紅いオーラを纏いながら叫ぶ。

 

「あれが何なのか分からないけれど、ここで止めるわよ!」

 

「「「はいっ!」」」

 

俺達は四大熾天使(セラフ)の名を語る異形の者と激突する―――――。

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

駒王町の一角。

 

そこに複数の男女がいた。

 

青年の一人が辺りを見渡しながら言う。

 

「さて、着いたのはいいんだが……また駒王町だな」

 

「いや、ここはあの二つとは違う新しい世界だ。とりあえず、この地点を座標コードαと名付ける」

 

銀色の髪が特徴的な青年がそう返し、周囲を確認する。

 

(違う世界とはいえ、俺達が知っている駒王町なら、こっちの世界にもイッセー達がいるはずだが………)

 

青年は女性の胸が大好きな友人の姿を浮かべながら、この世界について考える。

 

自分達の知っている友人とは別人。

それでも………いや、だからこそ気になってしまう。

 

スケベだが、誰よりも熱いあの友人はこちらの世界ではどんな人物なのか。

 

(いや、それよりもまずは任務だな。今はこの世界に逃亡したあいつらを探すのが先決か)

 

頭を横に振って、改めて引き受けた任務へと思考を戻す。

 

 

――――次の瞬間。

 

 

眩い雷が奔り、荒れ狂う風が巻き起こった。

 

決して遠くはない。

 

つまり、それは逃亡した者達が町中で力を使っていることを意味していて―――――。

 

「現れたか……!!」

 

「こんな町中で戦闘を仕掛けるだなんて………! とんでもない連中ね………」

 

青年達は互いに頷きあった後、現場へと急行した。

 

 

[三人称 side out ]

 

 




というわけで、今回の敵が登場しました!
次回、バトルです!


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異形なる天使 Ⅲ

前衛は俺、アリス、木場、ゼノヴィア、イリナ、そして闇の獣と化したギャスパー!

 

機動力があり、突撃できるメンバーだ。

 

まさか、あのギャスパーが前衛になる日が来るとはな!

日に日に男が上がってきているとは言え、少し前まで、ギャスパーはサポート向けの能力だった。

 

それが今では―――――

 

《僕が行きます!》

 

勇ましく突っ込んでいく!

巨大な拳を振りかぶってラファエルに殴りかかった!

 

ギャスパーは覚醒してから、格闘戦をもこなすようになったんだ!

 

俺も模擬戦で何度か手合わせしたが、あの状態のギャスパーから繰り出される拳は重く、生身で受けるのは中々に厳しいものだった。

 

しかも、戦闘スタイルがどことなく、俺に似ていてだな………。

うーん、後輩の成長って嬉しいよね!

 

しかし、そんなギャスパーの拳をラファエルは軽々と受け止めていた!

 

《この程度の攻撃、我には効かぬ》

 

《この………っ!》

 

ギャスパーは負けじと拳や蹴りを放ち、影から闇の獣を作り出していく。

 

生み出された闇の獣がラファエルに噛みついていくが、ラファエルはものともせず、全てを振り払ってしまう!

 

「僕達も続くよ!」

 

「いくぞ、イリナ!」

 

「ええ、ゼノヴィア! アーメンよ!」

 

木場、ゼノヴィア、イリナの剣士組もそれぞれの得物を手に、ラファエルに斬りかかる。

高速で迫り、剣を振り下ろしていくが、ラファエルは手に持つ鎌槍で次々に捌いていく!

 

あいつ、あの三人の剣戟を余裕で凌いでいやがる!

 

俺も加勢に行きたいところだが………。

 

《汝らの相手は我だ、穢れし悪魔よ》

 

俺とアリスの前にはウリエルが立ちはだかる!

 

銃のような手をこちらに向け、そこに黄金のオーラをチャージして―――――ぶっ放してきやがった!

 

飛来してくる雷の砲弾!

 

デカい!

初手からとんでもない一撃を使ってきやがる!

 

「こんなもんで!」

 

俺は拳にオーラを集め、殴り付ける!

 

拮抗する雷の砲弾と赤い拳!

 

二つの力の衝突が周囲に影響を与えていく!

地面にはクレーターができ、木々が激しく揺れた!

 

こんな強力なもんを結界を張っているとはいえ、町中で撃ち出すなんてよ!

こいつ、加減をしらねぇ!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

「この野郎ぉぉぉぉぉぉ!」

 

倍増した力を拳に乗せて、雷の砲弾を打ち砕く!

 

それと同時に俺とアリスは前に飛び出していく!

 

「アリス!」

 

「ええ! こんな気持ち悪い奴ら、さっさっと片付けるわよ!」

 

ウリエルに接近し、超近距離戦に持ち込む俺とアリス!

 

《神に仕えし我に刃を向けるか、不遜な………!》

 

「知るかボケェ! おまえらが仕掛けてきたんだろうが!」

 

「全くだわ! あんたの方こそ『不遜』って文字を辞書で調べて来なさいよ! この偽天使!」

 

繰り広げられる格闘戦。

 

赤い拳と白雷を纏う鋭い槍の連撃がウリエルを攻め立てる!

 

俺が攻撃を受ければ、アリスがその隙をつき、アリスが防御に回れば俺が懐に入る。

戦場で磨かれてきた俺とアリスのコンビネーション。

 

吸血鬼の町でクロウ・クルワッハを相手取った時にもこのコンビネーションは活きていた。

まぁ、クロウ・クルワッハに大したダメージを与えることは出来なかったけど。

 

《果てよ、悪魔》

 

「誰がッ!」

 

ウリエルが振り下ろした腕を俺は両手をクロスさせて受け止める!

 

重い………っ!

体の芯にまで響く………!

 

こいつのパワーもかなりのものだ!

 

「後ろががら空きよ!」

 

瞬時にアリスが背後に回りこむ!

 

槍の穂先に白雷を集中させてウリエルを貫こうとするが―――――。

 

ウリエルは口に咥えていた槍を握り、アリスの槍を受け止めてしまう!

 

《ヌゥゥゥンッ!》

 

強引に振り払われ、俺達は吹き飛ばされてしまった!

 

なんつーバカ力!

 

だけど、驚いている暇なんてなかった。

 

着地したところに雷撃ってきてるしな!

しかも、かなりの出力!

受ければ丸焦げ確定だぞ!?

 

慌てて回避しようとするが、向けられた雷が俺に届くことはなかった。

 

俺の前面に障壁が張られ、雷を弾いたからだ。

 

「お兄ちゃん、防御は任せて!」

 

「全力で援護しますわ!」

 

美羽とレイヴェルが後方から援護してくれている。

心強いぜ!

 

俺は後ろの二人に親指を立てると、フェザービットを展開。

 

俺の隣で構えるアリスが呟く。

 

「………おかしいわね」

 

「何が?」

 

「………槍が当たる瞬間、私の雷撃が消されているのよ。まるで霧散させられているみたいに。最後まで攻撃が通らない」

 

「っ! そいつはまさか―――――」

 

今の言葉が事実ならウリエルには………。

 

後衛組の朱乃が叫んだ。

 

「これならどうでしょう!」

 

指先を天に向け、その先端に黄金の魔力を集中させる。

 

バチバチとスパークが飛び交い―――――その指をウリエルに向けた!

 

「雷光よッ!」

 

放たれる雷光の龍!

 

黄金の輝きを放つ龍はウリエルを眼前に捉えると、そのまま巻き付き―――――霧散した。

 

「なっ………!?」

 

この結果に朱乃も目を見開き動揺していた。

 

アリスの白雷が消され、朱乃の雷光も効かない………。

 

ウリエルが言う。

 

《愚かな。我に電撃は通用せん。たとえどのような攻撃であろうとな》

 

その言葉に俺は舌打ちする。

 

威力関係なしに『雷』という属性そのものが効かないということか………。

 

つまり、アリスと朱乃の雷による攻撃は無意味。

 

ここはメンバーを切り換えるか………。

 

しかし、ラファエルと戦っている木場達の方もリアス達後衛、中衛組のサポートがあるにも関わらず、苦戦を強いられているようだ。

 

この状況では、そう簡単に切り換えることが出来そうにない。

 

イグニスを使うか?

 

いや、流石にこの場では使えない。

というより、町中で使える力じゃない。

 

イグニスの力なら消し飛ばせるだろうけど、町もろとも消え去る。

 

『ロンギヌス・ライザー使っちゃう?』

 

人の話聞いてた!?

町消す気か!?

 

『下手すれば日本が消えちゃうかも☆』

 

おいいいいいいい!?

 

さらっと物騒なこと言わないで!

 

冗談に聞こえないから!

本当に消えちゃいそうで怖いよ!

 

うん、絶対使わない!

ロンギヌス・ライザーだけは絶対に使わない!

 

「木場、ギャスパー、イリナ! 三人ともさがれ!」

 

ゼノヴィアが後ろに下がり、叫ぶ!

 

デュランダルを高く振り上げ、聖なるオーラをチャージしていた。

 

あいつ、ここでデュランダル砲を放つ気か!

こんな町中でそんな………!

 

だけど、俺はそれを止めなかった。

 

いくらパワー思考の強いゼノヴィアでもそんな強力な攻撃を町中でするのは無茶苦茶だってことは理解しているはずだ。

それでも、そう行動したのは、それくらいしないとラファエルにダメージを与えられないと判断したのだろう。

 

この一帯は美羽によって強力な結界が張られている。

イグニスを使わない限りは問題ないだろう。

 

ならば―――――

 

「ドライグ! フェザービット、全基シールドモードだ! この一体を覆え!」

 

『承知!』

 

両翼から八基のビットが飛び出していき、先端から赤いオーラを放つ。

それぞれのビットの先端が繋がり、美羽の結界に沿ってクリアーレッドの障壁が展開される。

 

この一帯に美羽と俺で二重の障壁が張られることになる。

 

俺はアリスと共に後退。

 

右手に気を溜めていく!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

「ゼノヴィアッ! 俺と合わせろ!」

 

「ウリエルさまとラファエルさまの名を語った罪! 私達の友人を侮辱した罪! 断罪してくれる!」

 

俺の赤いオーラとゼノヴィアの聖なるオーラが合わさり、強大な力となって膨れ上がる!

 

そして―――――

 

「「消し飛べぇぇぇぇぇぇッ!」」

 

極大の赤い閃光と聖なるオーラの砲撃が奴らを覆った―――――。

 

 

 

 

プスプスと焼ける音と共に砂塵が舞う。

 

公園にあった噴水や木々は軽く消し飛んでしまっていた。

地面は大きく抉れ、元の公園の姿はここにはない。

 

美羽が息を吐きながら言う。

 

「二人とも………やり過ぎだよ………。二人の攻撃で結界が壊れちゃったよ?」

 

俺のアグニとゼノヴィアのデュランダル砲の破壊力は美羽が張った結界の上限を越えたらしい。

 

何とか抑え込んでくれたせいで、結界の外には影響はなかったものの、今ので完全に砕けてしまった。

 

美羽は再度、魔法陣を展開して人払いの結界を張り直す。

 

「これで一般人に見られる心配はないけど、もう少し考えて攻撃してね? あんなの何回もされたら、ボクの結界でももたないよ?」

 

「す、すまん………一応、セーブはしたんだけどね」

 

「しかし、並の攻撃では攻撃では奴らは倒せない。多少無理をしてでもダメージを与えるしかなかったんだ」

 

俺の謝罪に続き、ゼノヴィアがそう答える。

 

ゼノヴィアの言うことも正しいんだよね。

 

ウリエルとラファエルを倒すには少々強引な攻撃をするしかなかったのは間違いない。

あのまま続いていれば、誰かがやられていた可能性もある。

 

一応、美羽の結界強度も考えて攻撃したんだけど………。

 

 

その時だった。

 

 

《………我らに傷を負わせたか》

 

 

ゴウッと突風が吹き、舞っていた砂塵を吹き飛ばす。

 

雷鳴の轟く音と共に現れたのは――――――

 

《だが、所詮は悪魔。我らを倒すほどではない》

 

ほとんど無傷のウリエルとラファエルだった。

 

おいおい、マジかよ………。

 

結界のことも考えてセーブしたとはいえ、かなりの威力はあったはずだぞ!?

 

目の前の光景に俺達は驚くしかない。

 

ウリエルが腕を槍を振り上げる。

槍の先端には目映いほどの光が集まっていて―――――危険な輝きを放っていた。

 

これはマズい!

 

「美羽! 結界を張り直せ!」

 

俺の指示に美羽が再度、この一帯を覆う結界を展開する。

 

それと同時に―――――

 

《神より授かりし、真の雷を見せよう――――『神の雷光』ッ!》

 

恐ろしい質量の雷が落ちてくる!

 

凄まじいスピードで!

過去に体験したことがないほどの規模で!

天から地に向けて………俺達目掛けて降ってくる!

 

これをまともに受けたら………!

 

咄嗟に俺はフェザービットを再度展開!

俺達の真上にクリアーレッドの障壁を二重に張った!

 

天から降ってくる巨大な雷と二重に張られた障壁が衝突する!

 

「こ、の………っ!」

 

ドライグ!

出力を全部、障壁に回せ!

 

『無理をするな! このままでは押しきられるぞ!』

 

ここでこんなもん落とされたら、町にも被害がいくだろうが! 

この町には松田や元浜、桐生、学園の奴ら、父さんや母さんもいるんだ!

引けるわけがねぇ!

なんとしてでもここで防ぎきる!

 

リアスが皆に指示を送る。

 

「皆、奴らを狙って! 動きの止まっている今を狙うのよ!」

 

ウリエルの方に視線を向けると確かに動きが止まっていた。

力をこの雷に使っているからだろう。

 

動きの止まっている今なら攻撃は容易。

 

リアスの指示に皆が一斉に攻撃を仕掛ける。

 

しかし、それはラファエルによって全て弾かれてしまう。

 

《流石は悪魔。卑怯なことをする》

 

「君達だけには言われたくないよっ!」

 

美羽が結界の維持に精一杯になりながらも叫んだ。

 

あいつら、マジで自分勝手なやつらだな!

こんな町中で仕掛けてくるような奴らが卑怯とかよく言えたな!

 

やっぱりあいつら天使じゃねぇ!

ただの鬼畜、化け物じゃねぇか!

 

ウリエルが不気味な笑みと共に告げる。

 

《さぁ、裁きの雷に呑まれよ》

 

その瞬間、雷の出力が膨れ上がり―――――天翼の障壁が突破された。

 

 

 

 

「ゲホッゲホッ………痛ってぇ………!」

 

落ちてきた極大の雷。

 

ギリギリでアグニをぶつけたから、僅かに相殺できたけど、完全に防ぎきることは出来なかった。

ウリエルの雷は俺達を呑み込み、決して浅くは無いダメージを与えた。

 

俺はウリエルの雷を受けたことにより、鎧は砕け散った。

更に右腕はダメージが深く、肌が焼けただれ変色している。

 

皆を見れば、ボロボロの状態で地に伏せていた。

 

今の衝撃で美羽が張った結界も消えてしまっている。

 

「ゼノヴィアさんっ! しっかりしてください! ゼノヴィアさんっ!」

 

必至に呼びかけるアーシアの声。

雷が当たる直前にゼノヴィアが庇ったことでアーシアは無事だったみたいだが………ゼノヴィアは深い傷を受けてしまったようだ。

制服が大きく破れ、背中は火傷を負っている。

 

アーシアは淡い緑色のオーラを広範囲に広げ、全員の治療を開始する。

アーシアの卓越した治癒能力で傷は直ぐに塞がっていくが………。

 

《生きているか。しぶといものだ。だが―――――》

 

いつの間にか近づいて来ていたラファエルは鎌槍を振りかぶる。

 

その視線の先には倒れ伏す美羽の姿。

アーシアの回復を受けているとはいえ、すぐに立ち上がれず、その場から動けないでいる。

 

そんな美羽にラファエルは鎌槍を逆手に持ち替えて、突き刺す構えをする。

 

《終わりだ、悪魔よ。光栄に思うがよい。我が手で裁きを受けられることを―――――》

 

ラファエルが鎌槍を振り下ろす―――――。

 

 

ふざけんな………!

 

 

やらせるか………!

 

 

やらせてたまるか………!

 

 

そいつは………そいつは俺の………!

 

 

「やらせるかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!」

 

 

天武の鎧を纏う。

 

拳に全てを消し飛ばせる程の紅蓮の炎を纏う―――――その時だった。

 

《ゴォ……!?》

 

横合いから来た何かによって、ラファエルが大きく吹き飛ばされた。

 

三回バウンドした後、既に瓦礫と化した公衆トイレに突っ込んでいった。

 

突然のことに呆気にとられる俺達。

 

な、なんだ………?

 

一体、誰が………?

 

美羽の前に立ったのは見たこともない青年だった。

 

短い銀髪が特徴的な青年。

 

「……間一髪、と、言ったところだな」

 

その青年は黒いマントをはためかせながら、笑みを浮かべた――――――。

 

 




ついに鋼弥登場!

次話から本格コラボです!


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異形なる天使 Ⅳ

[木場 side]

 

 

僕はその瞬間を見ていた。

 

大天使ラファエルと名乗る異形の天使が倒れ伏す美羽さんを貫こうとした――――――その時だった。

 

横合いから現れた銀髪の青年がラファエルを吹き飛ばしたのは。

 

黒いマントを羽織った銀髪の青年。

歳は僕達の同じくらいだろうか。

 

見たことがない顔だけど、その力量の凄まじさは伝わってくる。

不意を突いたとはいえ、僕達が苦戦していたラファエルを殴り飛ばしたのだから。

 

銀髪の青年はマントを翻しながら、こちらを向くと笑みを浮かべる。

 

「……間一髪、と、言ったところだな」

 

味方かどうかは分からない。

だけど、敵………ではなのだろう。

 

僕達に対する敵意が全く感じられない。

何より、美羽さんを助けてくれた。

 

青年は美羽さんの頭を撫でると微笑む。

 

「ケガはないか?」

 

一瞬、間の抜けた顔をする美羽さんだったけど、ハッと我に返り、慌ててお礼を言った。

 

「あ、は、はい。ありがとうございます。助かりました」

 

「よし。それなら良かった」

 

青年は美羽さんの安否を確認すると、僕達を見渡し―――――その視線をイッセーくんに向ける。

 

そして、どこか安心したような表情で呟いた。

 

「………こっちでもおまえは赤龍帝か、イッセー」

 

………イッセーくんを知っている?

 

それに『こっち』というのはどういうことだろう?

 

アーシアさんの回復で傷を癒した僕達は立ち上がり、少し警戒心を抱きながら、彼に問う。

 

「君はいったい………?」

 

「俺か? 俺は―――――」

 

青年が口を開こうとした時、イッセーくんがゆっくりと前に出た。

赤いオーラをたぎらせ、迫力のある表情で。

 

一歩、また一歩と青年の方へと歩み寄っていく。

 

「おまえ………おまえは………っ!」

 

「ん? 俺を知っているのか? おかしいな………こっちのイッセーが俺を知っているはずは――――」

 

青年がそこまで言いかけた時だった。

 

イッセーくんは鎧の各所にあるブースターからオーラを噴出させる!

 

「お、おい!? ちょっと待て! 俺は敵じゃない!」

 

鬼気迫るその表情に青年は慌ててそう答えるが―――――。

 

イッセーくんは彼の横を通り過ぎていった。

 

「えっ?」

 

間の抜けた声を出す銀髪の青年。

まさか素通りされるとは思わなかったのだろう。

 

イッセーくんが向かった先――――それは瓦礫に埋もれるラファエルのところだった!

 

「おまえは俺の妹になにさらしとんじゃぁぁぁぁぁっ! ボケぇぇぇぇぇぇえっ!」

 

「「「いや、そっちぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」」」

 

この場にいる者全てのツッコミが合わさった!

銀髪の彼もツッコミを入れてるよ!

 

このタイミングでそっちなのかい、イッセーくん!?

 

確かに君は美羽さんのことを大切にしているけど!

君は美羽さんのこと大好きだけど!

 

この状況ですることって、普通は彼にお礼を言うか、彼の素性を尋ねることじゃないかな!?

もしくは共闘の提案だろう!?

 

それをスルーしてラファエルに飛び蹴りを入れるなんて!

 

ああっ!

瓦礫に埋もれるラファエルに馬乗りになって、往復ビンタを繰り出していく!

 

「うちの美羽に手ぇ出そうなんざ、四十六億年早ぇ! 舐めてんのか!? ああっ!? 答えろよ、このクソ偽天使! あんまり舐めた真似してるとこのデカイ目玉にワサビ練り込むぞ、この野郎! 超痛いんだぞ!? 受けてみるか、ああっ!?」

 

目にワサビって………なんて地味できつい攻撃なんだ!

なぜそれを言い出したんだい!?

 

ツッコミが止まらない僕達だが、イッセーくんの怒りも止まらない!

 

「大体なぁ、町中でこちとらド派手な攻撃が出来ないからって調子乗りやがってよ! つーか、姿見せてから好き勝手言ってくれたな! 俺の幼馴染みが穢れてるだと!? どうみても可愛いだろうが! スタイルもいいし! おっぱいも柔らかいんだぞ、ゴルァ!」

 

「い、いいいいイッセーくん! こんな時にそんな………! 堕とす気なのね! 私を堕とす気なのね!? ダメよ、こんな………堕ちちゃうぅぅぅぅ!」

 

イリナはこんな時に翼を白黒点滅させて何を言っているのかな!?

あと、イッセーくんの言葉遣いが変わりすぎている気がするんですけど!?

 

《グゥゥッ! ゴフッ! ゴアァッ!》

 

イッセーくんの拳が振り下ろされる度に鮮血が舞い、ラファエルが深刻なダメージを受けていく

さっきまでの僕達の攻撃よりも兄として爆発したイッセーくんの拳のほうが強力だと言うのか!

 

ダメだ!

これもラファエルが美羽さんを傷つけようとしたのが運の尽き!

 

シリアスが壊されていく!

 

「お、おいおい………こりゃあ、どういうことだ?」

 

「あ、あれって………この世界の………イッセーくんよね?」

 

声がしたのでそちらを見ると複数の若い男女がこちらに駆けて来ていた。

彼らは銀髪の青年の近くにまでくるが………逆鱗を振り撒いているイッセーくんの姿に目元をひきつらせている。

 

銀髪の青年は美羽さんの方に視線を移しながら言う。

 

「あ、ああ。どうやらこの世界のイッセーには妹がいるらしい。ラファエルが彼女に刃を向けた瞬間にあれだ。ギリギリのところで俺が殴り飛ばしたんだが………あの様子から察するにイッセーでも間に合っていたな、あれ」

 

「シスコンか!」

 

赤い帽子を被った青年の叫びが響く。

 

うん、そうだよ!

イッセーくんはシスコンなんだ!

 

………しかし、気になる。

 

今までの話し振りから察するに彼らはイッセーくんのことを知っているようだ。

先程から使われている『こっち』、『この世界』という表現。

 

それに彼はラファエルの名を知っていた。

つまり、目の前の異形の天使達について知っていることになる。

ここは彼らに事情を聞いて、相手について知りたいところなんだけど………。

 

《ヌゥゥウッ! 悪魔龍ごときがぁっ!》

 

呆気に取られていたウリエルが巨大な槍を振りかざし、イッセーくんに攻撃を仕掛けるが、イッセーくんは大きく後ろに跳ぶことでそれを回避。

僕達のところにまで戻ってくる。

 

イッセーくんに殴られていたラファエルはよろよろと立ち上がり、こちらに鋭い視線を向けた。

 

視線の先にいるのはイッセーくん………ではなく、銀髪の彼。

 

《ぬぅ……貴様は……》

 

まるで仇に出会った時のような憎しみが籠った瞳だ。

 

銀髪の青年はそんな視線を受け流すように一度瞑目した後、口を開く。

 

「ウリエル、ラファエル。サリエルの命により――――お前たちの羽を刈る」

 

ここでようやく、イッセーくんが彼に話しかける。

 

「あっ、美羽を助けてくれてサンキューな。………ところで、あんたら、一体何者なんだ?」

 

「今ごろか………。まあ、いい。俺達は通りすがりの………」

 

イッセーくんの問いに彼はフッと笑う。

 

そして、彼のそばに立つ仲間であろうメンバーがそれぞれの得物を構えた。

 

彼は一拍置き、力強く答える。

 

「―――――ハンターだ」

 

ハンター………?

 

つまり、彼らはあの異形の天使を倒しに来たということなのだろうか?

 

ウリエルとラファエルが憎々しげに言う。

 

《魔界の犬どもめ……》

 

《ウリエル、ここは退くぞ。ガブリエルとミカエルに報告せねばならない》

 

彼らの体が強く光を発っし―――――その姿を消した。

どうやら退いたようだ。

 

それを確認した銀髪の青年一行は構えを解き、息を吐く。

 

リアス部長が彼らに問う。

 

「危ないところを助けてくれて感謝するわ。………しかし、あなた達は何者なのかしら? あの天使達のことも知っているようだし、事情を聞きたいのだけれど?」

 

銀髪の青年は頷く。

 

「わかっている。最初からそのつもりだからな。………っと、自己紹介が遅れたな。俺は涼刀鋼弥(すずがたこうや)。ハンターをしている。ここにはあの天使共を追って来たんだ。よろしく頼む」

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

ウリエルとラファエルが退いた後、俺達は一度、オカルト研究部の部室に戻ってきていた。

 

部室にはグレモリー眷属と赤龍帝眷属、連絡を聞いて駆けつけてきたアザゼル先生とソーナ。

 

そして、涼刀鋼弥と名乗る男とその仲間。

 

ここに集まったのはもちろん、彼らの話を聞くためだ。

 

色々と疑問はあるが、まずは――――――。

 

朱乃が彼らに紅茶を配り終えたところでリアスが問う。

 

「さっそくで申し訳ないのだけれど、まずはあなた達の名前を聞かせてもらえるかしら?」

 

「そうだね、改めて自己紹介といこうか。俺の名前は涼刀鋼弥。気軽に鋼弥と呼んでくれ」

 

鋼弥と名乗った銀髪の青年に続き、他のメンバーも次々と名乗っていく。

 

鋼弥の次に口を開いたのは『13』と書かれた赤い帽子が特徴のヤンキーっぽい男。

 

「ドルキー・サーティンだ。よろしく」

 

「リオ・サウロンです」

 

白い長髪、赤い眼で眼鏡をかけた女性が丁寧に頭を下げる。

 

うーむ、おっぱいが大きいな。

 

「アタシは如月珠樹(きさらぎ たまき)、よろしくね」

 

珠樹と名乗った女性は赤桃色の髪をポニーテールにまとめており、白いリボンを付けている。

中々のおっぱいをお持ちだ。

 

花咲彗花(はなさき すいか)です」

 

黒髪の少女。

とても清楚な感じで大人しそうだ。

 

「タオ・ライシェンと申します」

 

タオと名乗った青年は青髪で中華服を身に纏っている。

 

「リザベル・フォン・シュタイン。リーザと呼んでもいいわよ。こちらの鎧を着ているのはシェリル・ヴァイオレット」

 

「アルス・ヴァレンタインだ。よろしく」

 

リーザと名乗る女性は真紅のゴスロリ服を着ていて、珠樹さんや彗花さんと比べるとおっぱいは控えめ。

 

シェリルさんは漆黒の鎧を身に包んだ騎士だ。

この気の感じからして女性かな?

 

アルスという青年は金色の瞳が特徴的。

黒を基調とした赤のラインが入っている軍服を着ていた。

 

「フィーナ・クレセントと申します」

 

プラチナのような綺麗な長髪の女性はフィーナと名乗った。

凛とした表情はどこかリアスやアリスに通じるところがある。

 

………まぁ、アリスはこっちの世界に来てからだらけているけどね。

 

「あんた、失礼なこと考えたでしょ?」

 

「イテテテ………頬を引っ張らないでくれ」

 

うちのアリスさんは相変わらず鋭い!

 

ちなみにフィーナさんのおっぱい的には珠樹さんと互角。

 

東雲望紅(しののめもこう)だ。ま、よろしくな」

 

白髪のロングヘアーに深紅の瞳、髪に白地に赤ラインが入った大きなリボンの女性。

口調が男っぽい。

 

おっぱいは………アリスより少し大きいくらいかな?

 

「………橘樹紫(たちばな ゆかり)よ」

 

紫色のドレス、赤いスカーフを身につけた、群青色の髪を束ねた女性。

静かな口調で大人しそう………というよりはあまり表情が少ないといった感じか。

 

「カナン・ケシェット。よろしくね」

 

最後にカナンという灰色の髪で雪のように白い肌をした女性が自己紹介をした。

 

うーむ、中々の大所帯で来たな。

まぁ、俺がアスト・アーデにリアス達を連れていった時も似たようなもんだったけど。

 

鋼弥達の自己紹介が終えたところで、俺達も自己紹介に入る。

………美羽とアリス、イグニス以外は知ってるといった感じなのが気になるが。

 

「つーか、イグニスさんよ。なんで態々、実体化してきたの?」

 

「可愛い女の子ばかりだから、お近づきになろうかなーって♪」

 

「うぉい! 初対面の女子に何するつもりだ!? えっと、鋼弥だっけ!? とりあえず、逃げてぇ! 女の子連れて超逃げてぇぇぇぇ!」

 

イグニスの発言に珠樹さん達女性陣は目元をひきつらせ、ドルキーは変わった者を見るような目をしている。

 

「こっちのイッセーはツッコミが冴えてるな」

 

「ああ、俺達が知るイッセーとは色々と違いがあるようだ」

 

鋼弥も頷きながらそう言った。

 

アザゼル先生が鋼弥に問う。

 

「このイッセーとは違うイッセーを知っているような口振りだな。同姓同名で姿が似ているというわけでもないんだろう?」

 

「そうだ。簡単に言えば、俺達はこことは違う世界――――平行世界からこの世界に来ている」

 

「「「っ!?」」」

 

鋼弥の言葉に俺達は驚愕の声をあげる。

 

平行世界!?

それって先生が言ってた『if』の世界か!?

実在していたのかよ!?

………って、そこから来た!?

 

予想外の発言に戸惑う俺達。

先生だけは目を細めて興味深そうにしていた。

 

俺達の反応を見て、鋼弥は「まぁ、そうなるだろうな」と呟いて苦笑する。

 

「俺達は魔界と呼ばれる世界の住人だ」

 

「魔界?」

 

「魔界というのは時の流れから外れた場所。俗に言う異界だ。冥界とはまた違った場所になる」

 

「………聞いたことがない世界ね」

 

「それは俺達の世界とこちらの世界での差………『違い』というものだろう。俺達の世界にも赤龍帝兵藤一誠はいる。リアス・グレモリー、あなたもだ。兵藤一誠はリアス・グレモリーの眷属となって、日々、力を磨いている。………しかし、俺達の世界の兵藤一誠には妹はいない。これも二つの世界の違いというものだろう」

 

平行世界………鋼弥達の世界でも俺は赤龍帝で、リアスの眷属なのか。

それは色々と安心だ。

 

つーか、俺に妹いないの!?

そこが一番ショックだよ!

 

ああっ!?

美羽が涙目になってる!?

そんなに悲しまないで!

俺はここにいるから!

 

俺は美羽をギュッと抱き締める!

 

「泣くな、美羽! この世界の俺達がこうしてここにいるだけで十分だ!」

 

「うん!」

 

美羽も俺にしがみつく。

 

俺、この世界の住人で良かった!

心からそう思ってます!

 

鋼弥が目を丸くしながら言う。

 

「こっちのイッセーはその………シスコンなのか?」

 

「まぁ、そうだな。だが、恋人関係でもあったりする」

 

アザゼル先生がそう答えると鋼弥は怪訝な表情で首を傾げる。

 

「妹なのに恋人?」

 

「そいつらは実の兄妹じゃなくてな。義理の兄妹だ。こちらの世界にはアスト・アーデという異世界が存在してな。そこの魔族の姫をうちの勇者イッセー殿は連れて帰ってきたのさ」

 

「………すまない。今、勇者と言ったか?」

 

「言った。こっちの世界の兵藤一誠という男は異世界に渡って、そこで魔王を倒して勇者と呼ばれる存在になったんだよ」

 

「………」

 

アザゼル先生の言葉に鋼弥一行は暫しの間、言葉を失っていた。

 

 




というわけで鋼弥達との邂逅でした!


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異形なる天使 Ⅴ

俺達はお互いのことを説明しあった。

 

俺がかつてアスト・アーデという異世界に飛ばされたこと。

戦場に立ち、前線で戦ってきたこと。

魔王シリウスを倒し、娘である美羽を託されたこと。

他にも美羽と同じ異世界人たるアリスを連れて帰ってきたことも。

 

鋼弥達も自分達の世界について色々と教えてくれた。

 

その世界には魔界という世界があり、俺達が知っている冥界や天界と互いに連絡を取り合っていることや、鋼弥達がそこの住人であること。

 

で、向こうの俺の様子も教えてくれたんだけど………。

 

「アッハハハハハハハ!! イッセー! おまえ、どこの世界でもぶれないな! まさか、平行世界のイッセーも乳をつついて覚醒しているとはな!」

 

自身の膝を叩きまくって爆笑するアザゼル先生。

 

どうやら、平行世界の俺はリアスのおっぱいをつついて禁手に至ったらしい。

そして、向こうでも俺はおっぱいドラゴンと呼ばれ、リアスはスイッチ姫として活躍しているとか。

 

うーん、なんというか………『俺』って感じだよね。

 

リアスのおっぱいで覚醒していたとは………。

 

ふと横を見るとリアスが恥ずかしそうに頬を赤くしながらも、ガッツポーズを取っている。

 

で、俺の後ろでは、

 

「あんたって………はぁ………」

 

アリスが額に手を当てて呆れていた。

ゴメンね、おっぱい野郎で!

 

それからと、鋼弥は教えてくれる。

 

「こっちのイッセーは乳語翻訳(パイリンガル)という女性の胸の声を聞く技を開発してな。ある意味、女性に対しては無双できるようになっている」

 

「なっ!? マジでか!? そっちの俺、そんな素晴らしい技を開発してるの!?」

 

「素晴らしいかはともかく、相手の思考が読めるという点では優れた技だ。まぁ、レーティングゲームでは使用禁止になってしまったよ、当然ながら」

 

「相手の思考が読めるなんて、作戦丸分かりだしな」

 

「いや、単純に女性プレイヤーが戦ってくれなくなるからだが」

 

「あー………そっちか」

 

ガクリと肩を落とす俺。

 

アザゼル先生やリアス、ソーナは「まぁ、当然だな」と頷いているが………。

 

しかし、おっぱいの声を聞く技か………向こうの俺は天才か!?

俺も作っちゃおうかな、乳語翻訳ッ!

 

おっぱいとお喋りしてみたい!

 

先生がコホンと咳払いする。

 

「とりあえず、お互いのことを知れたところで、本題に入ろうか。涼刀鋼弥、おまえさん達は報告にあった天使共を捕縛、もしくは消滅させるためにこの世界に来た。そういう認識で良いんだな?」

 

「そうだ。俺達は魔界より正式な依頼を受け、この世界に来ている。こちらの世界に逃げ込んだ天使は四人。ミカエル、ラファエル、ウリエル、ガブリエル。殺戮の四大天使だ」

 

鋼弥の言葉に反応したのはイリナ。

 

「そんなの信じられないわ………。ミカエルさまやラファエルさま達があんな………」

 

「気持ちは分かるが、あれは君が仕えている天使長ミカエル――――四大熾天使とは全くの別人と考えてくれて構わない。いや、むしろそう考えるべきだ」

 

アザゼル先生が問う。

 

「殺戮の四大天使と言ったが、それは報告にあった姿と関係しているのか? どう考えても天使には思えんが………」

 

先生の言う通りだ。

ミカエルさんも他の熾天使の人達も全員、慈悲深くて悪魔である俺にも普通に接してくれる。

 

駒王協定が結ばれてからは天界は十分すぎるバックアップをしてくれているしな。

 

鋼弥は息を吐く。

 

「あの姿には天使という存在がどういうものか関連している。それは天使は悪魔や異教徒に対しては冷たく、時には粛正するときもあるからだ」

 

リオさんがそれに続く。

 

「私達の世界では大天使ガブリエルは魔王ベリアルにより堕落させられたソドムとゴモラの町を焼き尽すという行為をとりました。それだけではなく、他にも異教徒や悪魔に対して残虐な仕打ちを行いました。このような行為が続けばあらゆる種族を滅ぼしかねない、そう判断した鋼弥のお父さんとその仲間、他の大天使たちは殺戮の四大天使を封印したのです」

 

「ちょっと待ってくれ。封印された奴らがこの世界に現れたということは、その封印が解かれたということだろう?」

 

「ええ、イッセーさんの言う通りです。こちらでも大体の目星はついています。―――――ゾロアスター」

 

「ゾロアスター?」

 

「ゾロアスターとは原初の悪神アンリ・マンユを筆頭にした神話勢力。彼らが私達の勢力を分断するために彼らの封印を解き、この世界に向かわせたと私達は考えています」

 

「俺達の世界では『禍の団』とゾロアスターが組んでてな。冥界も結構な被害を受けちまった」

 

ドルキーも鼻をかきながらそう続けた。

 

違う世界でも『禍の団』は好き勝手に暴れてやがるのか。

しかも、ゾロアスターなんて勢力もそこに加担している………。

 

俺は息を深く吐いて呟く。

 

「厄介なことになってるんだな」

 

「こっちでも似たようなもんだろ。異世界の悪神と前魔王ルシファーの息子が組んで暴れているって言うじゃないか。しかも悪神の下僕とやらもとんでもない能力を持っているとか」

 

「まぁ、そうなんだよね」

 

俺達は盛大にため息を吐いた。

ついでに胃が盛大に痛くなった。

 

だって、ベルの能力とかチートだもん。

 

………と、今はその殺戮の四大天使の話だった。

 

アリスが話を戻すように問いかける。

 

「それで、あの四大天使の目的ってなんなの?」

 

アリスの問いにアルスさんが両目を瞑ったまま答える。

 

「『千年王国』の建設。神を信じる者たちを迎え入れて、それ以外を始末するというものだ。だが、唯一神―――――いわゆる聖書の神が滅んでも自分たちが代わりに執行するという性質の悪い考となった」

 

性質悪すぎるだろ………。

あまりにも勝手で強引すぎる。

その考えじゃ、俺達悪魔だけでなく一般の人間にも手を出すんじゃないのか?

 

「我々は彼らを相手取らなければなりません。ですが、我々だけでもあの天使を相手にして敵うかどうか………」

 

「鋼弥が不意を突いたけど、対して傷を付ける事はできなかったわね……」

 

フィーナさんと(ゆかり)さんがそう言う。

 

リアスの後ろに立っている木場もそれに続く。

 

「こちらも制限しなければいけなかったとはいえ、苦戦を強いられてしまったからね。なによりイッセーくんの一撃を受けても倒れないあの頑強さ。それにあの攻撃力………」

 

「君たちが来てくれていなければ危なかっただろうね」

 

ゼノヴィアも木場の意見に頷いた。

 

すると、タオくんがずいっと顔を前に出してくる。

 

「そこでこれはお願いなんだけど………僕達と共に戦ってほしいんだ。君たちほどの実力者が共闘してくれるならとても心強い」

 

「願ってもない提案だ。こっちもお願いしようと思っていたところだからな」

 

俺の言葉に鋼弥が反応する。

 

「それでは―――――」

 

「ああ、魔界のハンターの力、俺達に貸してくれ」

 

「それはこちらの台詞だな。異世界で勇者と呼ばれたその力、頼りにさせてもらうよ」

 

俺と鋼弥は互いに笑みを浮かべて、握手を交わした。

 

俺が見たところ、鋼弥達は全員が相当な実力者。

猛者の集まりだ。

 

彼らが手を貸してくれるというのなら、こっちも心強い。

 

先生が楽しそうにククッと笑う。

 

「俺達もリゼヴィム達『クリフォト』の対策で人手不足だ。おまえらの力はかなりありがたい。………しかし、こんな時になんだが、面白いことになったな。平行世界のハンター達の力、興味をそそられるぜ。おまけに敵は四大天使ときたもんだ。形や姿は違うが、四大天使をボコれるこんなチャンスは無い。この機会にこれまでのうっぷんを晴らさせてもらうとするか」

 

「うっぷん晴らすために戦うんですか!?」

 

「それも一つの理由だな。ミカエルの野郎には色々やられたからな………。クッソ、思い出しただけでムカついてきた。よーし、平行世界の天使共をボコボコにしてやるぜ!」

 

うわー………先生、かなり張り切ってるな………。

一体、ミカエルさんとの間に何があったんだろう?

 

ドルキーが掌に拳をぶつけて立ち上がる。

 

「よしっ! そうと決まれば、さっさと見つけて討伐するか!」

 

しかし、隣に座るアルスさんが冷静に告げる。

 

「待て、そもそもあいつらがどこにいるのか解るのか?」

 

「あー……そういえば……」

 

「少しは落ち着いて、考えろよな。単細胞」

 

「あっ!? 誰が単細胞だ! ペチャパイ!」

 

「ペチャ……!? んだと、この風バカ!」

 

あーあー………ドルキーと望紅(もこう)さんがケンカ始めちゃったよ………。

 

まぁ、ペチャパイは禁句だよね………。

 

ただ、それを言ってしまうと、うちにもキレるやつがいてだな―――――。

 

「ねぇ………ドルキーって言ったかしら? 私の前でその言葉を使うなんていい度胸じゃない………フフフ」

 

 

バチッ バチチチチッ

 

 

ほらぁ!

アリスが白雷をまき散らし始めたよ!

 

ものすごく迫力のある笑みでドルキーに迫って行く!

 

「えっ、ちょっと………ちょ、待って! なんであんたがキレてんだよ!?」

 

「うるさーい! 私の前でその言葉を使った奴は全員丸焦げにしてやるぅぅぅぅぅっ!」

 

「よっし! 私も参加だぁ! ドルキー、テメー、覚悟しやがれ!」

 

「おいおいおいおい! 二人がかりはなしだろ!?」

 

「………いえ、三人です。今のは私も許せません」

 

おおっ!?

小猫ちゃんも参加ですか!?

 

小猫ちゃん………いや、小猫さまもお怒りのようだ!

 

「なぁ、ドルキー」

 

「………覚悟は」

 

「いいわね?」

 

望紅さん、小猫ちゃん、アリスが凄まじいオーラと共にドルキーを追い詰めていく!

 

 

そして―――――

 

 

「ギャァァァァァァァァッ!!」

 

ドルキーの断末魔が部室に響き渡った。

拳の雨が赤く染まっていく。

 

安らかに眠ってくれ、ドルキー。

超短い間だったけど良い奴だったよ。

 

「いや、死んでねーし!」

 

「なんで、初対面の奴が俺の心読んでんだぁぁぁぁぁぁ!」

 

そんなに分かりやすいか!?

リアス達もそうだったけど、俺の心の内ってそんなに分かりやすいのか!?

 

「まぁ、そうですね」

 

「うん、わかりやすいわ」

 

「えっと………はい」

 

「そうね」

 

「フフフ、可愛いですね」

 

「………わかりやすい」

 

「なんというか………そうね」

 

リオさん、珠樹(たまき)さん、彗花(すいか)さん、リーザさん、フィーナさん、(ゆかり)さん、カナンさん、向こうの女性陣がそう続いていく!

 

そーですか!

分かりやすいですか!

俺はどうすりゃ良いんだよ!

 

お面でも被れってか!?

 

「それでも難しいんじゃないか?」

 

「鋼弥ァ! さり気に人の心を読むない!」

 

「まぁ、それはおいて置こう」

 

「置くなよ! 俺にとっては結構重要な問題だからね!?」

 

「まずは泊まるところを探さないとな」

 

「スルーされた!? ひでぇ!」

 

はぁ………向こうの俺もこんな扱いなんだろうか?

 

それで、鋼弥達の泊まるところなんだけど………。

 

俺は鋼弥達に提案する。

 

「家に来るか?」

 

「そう言ってくれるのはありがたいけど、良いのか? こちらは結構な人数だぞ?」

 

「それは問題ないよ。今はオカ研女子部員全員が家に住んでるけど部屋は余ってるからな」

 

「………いったい、どれだけ大きい家なんだ?」

 

「んー………とりあえず、この場にいるメンバー全員が余裕で暮らせるほどには大きいかな。夏にリアス………グレモリー家が改築してくれてさ」

 

「………流石はグレモリー家と言ったところか」

 

鋼弥も呆気に取られているようだ。

多分、実際に見たら開いた口が塞がらないんじゃないかな?

 

それで、鋼弥達が家に来るとなると夕食の用意を母さんにお願いする必要があってだな。

 

俺が携帯を取り出して母さんに連絡を取ろうとすると、美羽が言ってきた。

 

「もうお母さんには連絡しといたよ。急だったから、少し遅くなるかもしれないけど何とか用意できそうって」

 

「そっか。サンキュー、美羽」

 

「本当に仲の良い兄妹だな」

 

俺と美羽のやり取りに鋼弥はフッと微笑んだ。

 

 

 

 

その日の夜。

 

家に泊まることになった鋼弥一行だったが、家に着いた途端、口をポカンと開けて絶句していた。

まぁ、こんな普通の住宅街に大豪邸が建っていたら普通にそうなるよね。

 

夕食を済ませリビングで一息ついていると、鋼弥が紅茶に口を着けながらボソリと呟いた。

 

「………朱乃もここに住んでいるのか」

 

朱乃………?

あ、そういえば部室で時々、朱乃の方を見てたっけ。

 

ここで俺の思考はとある可能性に行きつく。

 

もしかして―――――。

 

「なんとなく思ったんだけどさ、そっちの世界では朱乃と恋人同士だったりする?」

 

「へぇ、流石に鋭いね。そうだ、俺と朱乃は想いを伝えあった仲だ」

 

やっぱりな。

朱乃を見る目がどことなくそれっぽかったというか、愛おしい者を見る目だったからね。

 

しかし、鋼弥は苦笑を浮かべる。

 

「この世界に来て、ここの朱乃はどうしているかと思ったけど、幸せそうだ。それはイッセー、君がいるからだろう?」

 

「俺か? 俺はそんな大したことはしてないよ」

 

「そう思っているのは君だけだろう。僅かな間だけど、君たちを見ていてよく分かった。皆、君のことを心から信頼している。この世界の朱乃もそうだ」

 

うーむ、会って間もない人にそう言われると照れるというかなんと言うか。

というより、鋼弥の洞察力も大したもんだな。

 

鋼弥は微笑みながら言う。

 

「この世界の朱乃は俺が知っている朱乃とは違う。それでも、朱乃のことよろしく頼むよ」

 

「任された。そっちも朱乃のこと、大切にしろよ?」

 

「そのつもりさ」

 

俺達は互いに笑みを浮かべ、拳を合わせた。

 

鋼弥も男だよね。

こりゃあ、他の女性陣も惚れてるかも。

 

ただ、鋼弥って一途そうだから、そこが問題かもしれない………他の女性陣にとって。

 

 

 

 

鋼弥と色々話した後、着替えを持って風呂場へ。

 

傍にはいつものように美羽とアリスもいる。

 

アリスが訊いてくる。

 

「楽しそうにしていたけど、鋼弥と何を話していたの?」

 

「んー………、向こうでの生活とか色々。あと、男同士の約束ってやつ?」

 

「はぁ?」

 

首を傾げるアリス。

 

まぁ、アリスには分からないよね。

女の子だし。

 

美羽が微笑みながら言う。

 

「鋼弥くんとお兄ちゃんって結構気が合ったりする? なんとなく似てるし」

 

「さぁ? それはどうかな」

 

鋼弥のやつ、おっぱいの話題について来れないし!

男ならおっぱいの一つくらい語れるようであってほしかった!

 

唯一の不満を抱きながら、俺達は大浴場に到着。

服を脱いで風呂に入る準備完了!

 

んふふ~♪

今日も美羽とアリスに背中を流してもらうんだ!

 

やっぱり女の子に背中を流してもらえるのは最高だよね!

 

などとご機嫌になりながら、風呂場への扉を開ける。

 

 

すると―――――。

 

 

「「「えっ…………!?」」」

 

風呂場にはリアス達―――――だけでなく、リオさん達、平行世界組の女性陣達が!

 

おおおおおおおおおお!

 

こ、これはなんと絶景な!

 

リオさんのおっぱい、大きいし、いい形してる!

フィーナさんの全裸はどこか神々しい!

他の女性陣も中々のお体をお持ちだ!

 

これは………これは素晴らしい!

 

脳内保存脳内保存!

眼前の光景を目に焼き付ける俺!

 

しかし、次の瞬間―――――

 

 

「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁ! イッセーさんのエッチィィィィィ!!!!!」」」」

 

「ギャァァァァァァァァァ!!」

 

俺は強烈な風の魔法で宙を舞った―――――。

 

 

 

~そのころの鋼弥~

 

 

「ん? イッセーは一緒じゃないのか?」

 

「イッセーならさっき風呂に行くと言っていたよ」

 

「………さっき、リオ達が風呂に行ったんだが………」

 

「えっ?」

 

鋼弥とドルキーの耳に悲鳴が聞こえてきたのは、この直後のことだった。

 

 

~そのころの鋼弥、終~

 

 



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異形なる天使 Ⅵ

コラボストーリー六話目、たいへんお待たせしました!





鋼弥達がこの家に泊まった翌朝。

 

朝起きた俺はアリスと共にジャージに着替えて地下のトレーニングルームへ。

 

美羽達他のメンバーは後から来るだろう。

さっき、美羽が寝惚け眼で「あとで行く~」って言ってたしな。

 

悪魔に転生して朝が余計に苦手になったものの、修行があるからと、何とかして起きている。

たまに寝癖をつけたまま来るが………まぁ、そこが可愛かったりする。

 

ふと横を見るとアリスがご機嫌な様子で鼻唄を歌っていた。

 

「えらく機嫌がいいけど、どうした?」

 

「フッ………よくぞ聞いてくれたわね」

 

俺がそう問うとアリスはニヤリと笑みを浮かべる。

 

………?

どこか自信に満ちた表情なんだが………。

 

何があったんだろう?

 

俺が首を傾げていると、アリスはジャージの上着、そのファスナーを下へと下ろしていく。

そこから現れるのは黄色いTシャツだ。

 

………はて?

 

これがどうしたと言うのだろう?

新しいTシャツでも買ったか?

 

アリスの足元から上へと改めて視線を移動させていく。

 

そして………俺は目を見開いた。

 

こ、これは………そ、そんな………!

 

俺は声を震わせる。

 

「お、おい………お、おまえ、まさか!」

 

俺がそこまで言うとアリスは最高のスマイルを浮かべてこう言った。

 

「そう! また大きくなったのよ、胸が! 今朝、ブラを着けようとしたらキツくなってたのよ!」

 

「おおっ! マジでか!? やったな!」

 

「ええ、やったわ! これで、私も次のステージに行ける!」

 

感涙を長す俺とアリス!

互いの手を取り、二人で小躍りしながら祝福した!

 

遂にアリスが次のステージへ!

 

こんなに嬉しいことはない!

朝からめでたいぜ!

 

うんうん、最近のアリスのおっぱいは成長が著しいなぁ!

 

アリスは俺の手を取り、自身の胸に当てる。

そして、頬を染めながら、

 

「こ、これで………あんたの理想の体型に少しは近づけた………かな?」

 

グハッ!

 

なんて可愛い顔で可愛いことを言ってくれるんだ、アリスさんんんんんん!

 

朝から元気になっちゃうじゃないか!

こっちまでデレデレしちゃうじゃないか!

 

 

すると―――――

 

 

「あわわわわ………お二人とも、こんか朝から………しかも、こんな場所でなんて………!」

 

慌てる第三者の声。

 

声のした方向を見てみると………黒髪の女性、彗花(すいか)さんが立っていて、これでもかというくらい顔を赤く染めていた。

もう耳まで真っ赤だ。

 

流石に俺達も慌てて、互いの手を離す!

 

「い、いや、違うんだ!」

 

「こ、ここここれは眷属間でのす、す、スキンシップってやつよ!」

 

「ええっ!? た、確か、この世界のイッセーさんは上級悪魔になってて、『王』で………アリスさんはその『女王』になってましたよね? こ、こんなスキンシップを取っていただなんて、お、驚きです! ハッ………もしかして、美羽さんやレイヴェルさんとも!? はわわわわ………」

 

「うぉい!? 彗花さん、一度落ち着こう! ちょっと思考がオーバーロードしてるから!」

 

想像していることが間違ってるとは言わないけど、ここでそんな想像しないで!

こっちが恥ずかしくなるから!

 

もう俺もアリスも顔真っ赤だよ!

 

とりあえず落ち着こう!

落ち着いて!

落ち着いてください、お願いします!

 

すると、アリスが大きく咳払いして、彗花さんに問う。

 

「と、ところで、彗花さんはどうしてここに? 私達はトレーニングルームで修行するつもりなんだけど………」

 

アリスの問いに彗花さんは「そうでした」と手を叩く。

 

「私も朝の鍛練に努めるつもりでして、昨日、リアスさんに聞いたところ、好きに使ってくれていいと言われたので、地下の修行場をお借りしようと思いまして」

 

あー、そういや、寝る前にそんなことリアスに聞いてたな。

 

つーか、リアスに聞くって………完全に家主がリアスになっているような………。

いや、まぁ、正しいと言えばそうだけど。

だって、改築したのグレモリー家だし。

俺も半分そう思ってるし。

 

しかし、彗花さんも修行か。

 

となると………。

 

トレーニングルームの前に着いた俺はそのまま扉を開ける。

 

すると――――――

 

「はぁっ!」

 

「そりゃ!」

 

鋼弥達が既に修行に取り組んでいた。

 

全員、このトレーニングルームをいっぱいに使って、魔法やら組手やらで各々のメニューに打ち込んでいる。

 

「こいつら、起きるの早いなぁ」

 

俺がそう漏らすと彗花さんは苦笑を浮かべる。

 

「いつもはもう少し遅いんですけど、イッセーさん達も使うからと、少し早めに起きたんです。昼からは四大天使の捜索がありますし」

 

「そんな気を使わなくてもよかったのに」

 

俺は彗花さんの頭をポンポンと撫でると部屋の中へと進んでいく。

 

真っ直ぐ進んだ先、部屋の中央でやりあってるのは鋼弥とタオくんだ。

お互いに素手で組手をしていて、鋼弥は拳を繰り出し、タオくんはそれを掌で流すように捌いている。

二人とも武術の腕は中々のものだ。

 

鋼弥の拳を受け止めたところで、タオくんが俺に気づく。

 

「あ、イッセーさん。おはようございます」

 

「おはよう。少ししか見てないけど、二人ともやるな。師匠とかいたのか?」

 

「ええ、いましたよ」

 

「シンディという名の師匠がいてな。闘気を自在に操る『真覇流』という武術を教わっていた」

 

ニッコリと爽やかな微笑みで答えるタオくんに続き、鋼弥がそう続く。

 

闘気を操る武術か………。

それは興味深いな。

 

「ちなみに鋼弥は拳法以外にも『業魔化身(デモニアックチューナー)』っていう契約した悪魔の姿になって、その力を使うこともできるのよ」

 

いつの間にかそばに来ていた珠樹さんが教えてくれた。

 

「契約した悪魔の力が使えるって………チートじゃね?」

 

「でしょー」

 

「いや、契約するには相手に認めてもらわなければいけないから、結構大変なんだぞ?」

 

俺と珠樹さんの意見に鋼弥が少し反論するけど………契約結べたらチートだよね。

能力的に幅が広いとか、そういう次元を越えてるよね。

 

そんなことを思っていると今度は鋼弥の方から俺に聞いてくる。

 

「ところで、昨日、イッセーが纏っていた鎧だが………あれは本当に赤龍帝の鎧なのか? 確かにオーラは赤龍帝のそれだったが………」

 

あー、それな。

そのあたりもこの世界とそっちの世界との『違い』ってやつなのかね?

 

「そっちの俺はどんな感じなんだ?」

 

「こちらのイッセーは通常の鎧に加え、悪魔の駒の特性を反映させたトリアイナという形態。そして、覇龍を昇華させた真紅の赤龍帝(カーディナル・クリムゾン・プロモーション)という形態になれる。この形態になると攻守、スピードが劇的に上がるんだ」

 

―――――っ!

 

覇龍を昇華させたのか!

あんな危険な力を独自の力に変えるなんて、向こうの俺もやるもんだな!

 

よーし、そういうことなら、俺も見せちゃおうか!

 

「俺の鎧は覇龍じゃない。あれは禁手を更に進化させたものだ」

 

「禁手を進化?」

 

首を傾げる鋼弥。

 

まぁ、見てもらうのが早いよな。

 

俺は禁手となって、まずは通常の鎧を身に纏う。

 

「こいつが通常の鎧。多分、これは同じなんじゃないかな?」

 

「ああ、普段からよく見ているよ」

 

「そっか。そんでもって、こいつが………」

 

俺は気を高めて、赤いオーラを膨らませる。

 

周囲にスパークが飛び交い、鎧を次の次元へと進化させた。

籠手、肩、脚にブースターが増設されていく。

 

「禁手第二階層(ツヴァイセ・ファーゼ)天武(ゼノン)。格闘能力を大幅に強化した形態であり、俺だけのオリジナル形態だ」

 

天武の鎧を纏った俺を見て、鋼弥達は言葉を失っていた。

多分、禁手を進化させるという現象に驚いているんだろうな。

アザゼル先生も初めて見たときは信じられないって表情だったし。

 

ドルキーが目元をひくつかせながら言う。

 

「おいおい………。この波動、魔王と同レベルじゃねえか。イッセー一人で十分すぎるだろ、これ」

 

「そうでもないぞ? 俺だって滅茶苦茶苦戦してるし……。手も足も出なくて一度殺されたし」

 

「何と戦ってたんだよ!?」

 

「ロスウォードって答えても分からないだろ?」

 

「分からん! 誰だよ、それ!?」

 

いやー………知らない方が良いと思うよ?

あいつ、マジでチートだったから。

多分、鋼弥達でもビビるレベルじゃないかな?

 

あいつ、上位クラスの神でも余裕で屠れるからね。

 

解説が終わったところで、俺は鎧を解く。

 

「まぁ、こんな感じだ。他にもあるけど、それはまた今度だ。でさ、いきなりで悪いんだけど、俺と軽く手合わせしてくれないか? 鋼弥の力に興味があってさ」

 

俺がそうお願いしてみると、鋼弥は笑みを浮かべる。

 

「実は俺も提案しようと思っていたところなんだ。こちらのイッセーも面白い力を身に付けているようだからね」

 

ここで言う面白い力というのは天武や天撃といった禁手の進化形態じゃなくて錬環勁気功のことなんだろうな。

 

向こうの俺はそういう力を身に付けてないって聞いたし。

 

俺と鋼弥は少し距離を置いて向かい合うと構える。

 

………鋼弥も拳法を使うというが、果たしてどのぐらいのレベルなのか。

 

タオくんが微笑みながら言う。

 

「今日は彼らの捜索に行くんですから、ほどほどにしてくださいね?」

 

「「わかってるよ」」

 

そう答えた俺達は体術だけの軽い模擬戦を始めるのだった。

 

 

 

 

軽い手合わせを終えた俺と鋼弥は汗を流し、リビングへ。

 

「やはり、本格的な武術を修めているだけあって、こちらのイッセーは動きか洗練されているな」

 

鋼弥がタオルを首から下げながらそう言ってくる。

 

俺は湯上がりで湿った髪を掻き分けながら、答える。

 

「鋼弥こそ。あそこまで体術使えたら十分すぎるほど強いって」

 

「いや、今のままで満足してたらダメだ。俺よりも強い相手はいくらでもいるからね。愛する者を守るためにはまだまだ強くならないといけない。おまえもそうだろう?」

 

「まぁね」

 

俺達は頷き合うと冷蔵庫から牛乳を取り出す。

 

この冷蔵庫はリアスが備え付けてくれた牛乳専用の冷蔵庫だ。

ノーマル、コーヒー、フルーツと各種揃えられている。

 

鋼弥は冷蔵庫の中身を見て感心したように言った。

 

「随分揃ってるな」

 

「これか? これはリアスが設置してくれたんだよ。湯上がりには牛乳だってね」

 

「こっちのリアスも日本好きか」

 

どうやら、向こうのリアスも日本好きらしい。

 

案外、平行世界と言っても各人の性格は変わらないのかも。

 

今日の俺はフルーツ牛乳を選択。

甘いものが欲しかったので。

 

ちなみに鋼弥はノーマルを選択した。

 

ソファに腰かけ、牛乳をくいっと飲み干す俺達。

 

「とりあえず、朝飯食ったら捜索だな」

 

「ああ。早々に見つけ出して、対処しなければいけない。奴らのことだ。一般の人間にも手を出しかねない」

 

出来れば今日中に見つけ出したいところだが………町に駐留している冥界、天界のスタッフから特にこれといった報告はあがっていない。

 

奴らはどこに隠れやがった………?

 

この町を出た………?

 

そうなると捜索が面倒になるが………。

 

「奴らはまだこの町にいるはずだ」

 

俺が考えが分かったかのように鋼弥が言った。

 

鋼弥は空になった牛乳のビンをテーブルに置いてから続ける。

 

「こちらの探索網に引っ掛からないのはおそらく――――」

 

鋼弥がそこまで言いかけた時だった。

 

「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

女性の悲鳴が兵藤家を揺らした!

 

今の声は―――――

 

「珠樹か………? 何があったんだ?」

 

鋼弥は席を立つと、リビングから出て悲鳴の聞こえた場所へ向かおうとする。

 

嫌な予感がした俺は鋼弥に続いてリビングを出る。

 

階段を降り、珠樹さんの気配がする地下へ。

 

 

すると―――――

 

 

「よいではないか♪ よいではないか♪」

 

「全然よくないぃぃぃぃ! あっ、ちょ、どこ触って………あんっ………ダ、ダメぇぇぇぇぇ!」

 

バスタオル一枚姿の珠樹さんとその珠樹さんのおっぱいを揉みしだく同じくバスタオル一枚姿のイグニス。

 

二人とも廊下の真ん中で揉みくちゃになっていた。

いや………イグニスが廊下で珠樹さんを襲っていると言った方が正しいか。

 

俺は珠樹さんのあられもない姿に鼻血を出し、鋼弥は見ないように明後日の方向を向いている。

 

バスタオルの間から見えるピンク色の先端!

イグニスが揉む度にむにゅうっと変形する柔らかな肌!

更に珠樹さんから漏れる声!

 

こ、これは朝からエロい………!

 

明らかに一方的だけど、女の子同士ってのもエロいよね!

 

それに当たり前だけど、珠樹さんのこんな姿を見るのは初めてだ!

ありがたく脳内保存といきましょうか!

 

イグニスがテンション高めに言う。

 

「うーん、珠樹ちゃんも中々のおっぱいね! 揉み心地も良い、感度も抜群。これは………これはイケる!」

 

「イケてなくていいわよ! 誰か助けてぇぇぇぇ!」

 

珠樹さんの心からの叫びが再び兵藤家を揺らした。

 

 




今回はイッセーと鋼弥達の交流ということで、ほのぼの(?)な話でした。

次回より動き出します!(予定!)


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異形なる天使 Ⅶ

朝食を終えた俺達は一度、兵藤家上階のVIPルームに集っていた。

ここにいるのは俺達オカ研メンバーと鋼弥達一行、それからアザゼル先生。

 

アザゼル先生が部屋を見渡した後、俺に言う。

 

「ティアマットはいないのか? あいつがいれば、かなりの戦力になるだろうに」

 

「俺もそう思って声をかけたんですけどね。今日は朝からアジュカさんのところに行ってるらしくて」

 

「そういや、あいつはアジュカの手伝いをしてたか………」

 

具体的な内容は言えないらしいけど、ティアはアジュカさんと古い付き合いらしく、アジュカさんの仕事を手伝っているらしい。

 

魔王の仕事の手伝いだ。

きっと重要なことなんだろう。

無理を言うわけにはいかない。

 

先生が魔法陣を展開すると、空中に地図が表示された。

これはこの町の地図だ。

 

「さっそく、奴らの捜索を始めるわけだが………こちらでは奴らの足取りは追えていない。報告を受けてからこの町に展開している冥界、天界スタッフに奴らの捜索をさせてはいるが、一向に行方が掴めん。もしかしたら、この町から出ているかもしれん」

 

先生は深く息を吐く。

 

俺も奴らの気を追ってはみたが………結果は同じ。

居場所を特定することができなかった。

 

先生の言うように、この町から出ている可能性もある………というより、そう考えるのが普通だろう。

 

しかし、鋼弥は首を横に振った。

 

「いや、奴らはこの町のどこかに必ずいるはずだ」

 

「ほう、その根拠は?」

 

先生が聞き返すと、鋼弥は説明し出す。

 

「昨日も言ったこと………奴らのあの姿が天使という存在がどういうものか関連している、ということは覚えているか?」

 

あの化け物としか思えない姿。

鋼弥が言うには、あれは天使という存在がどういうものかを表しているという。

 

天使は悪魔や異教徒に対しては冷たく、時には粛正する。

その冷たい一面を集めたことにより、奴らはあんな姿をしている。

 

「奴らはこの町におまえ達、悪魔がいることを知った。つまり粛清対象がいると認知したわけだ。奴らがおまえ達を放って他に移動するなんてことはあり得ないだろう。奴らはそういう存在なのだから」

 

「奴さんらにとっては俺達は滅すべき存在。世界の悪とでも考えているのかねぇ。あーヤダヤダ」

 

頭をボリボリかきながら、先生は心底嫌そうに言う。

 

完全に一方的だもんな。

あいつらにとっては自分達の神を信仰する者以外は基本的に敵。

悪魔という種族そのものが滅ぼすべき存在として動いている。

 

鋼弥の言葉に皆も息を吐いていた。

 

リアスが口を開く。

 

「それでは向こうから再び、こちらを襲ってくる可能性もある、ということなのね?」

 

その問いにはリオさんが答えた。

 

「はい。ですが、昨日みたいに市街地で襲ってくることも考えられます。彼らは周囲への被害………一般の人間を巻き込むなんてことは考えていませんから」

 

「つまり、あの天使達が襲ってくる前にこちらで見つけて片付けないと被害が大きくなるってことよ。先手を打つ必要があるわ」

 

珠樹さんもそう続く。

 

あいつら、目的のためなら手段を選ばずかよ!

天使もくそもないだろ!

 

鋼弥が続ける。

 

「それで、奴らがどこに隠れているかだけど………奴らは全員が魔界の上位種族。そのた、霊的遮断能力が優れている」

 

「霊的遮断能力? 聞いたことないな」

 

「霊的遮断というのは魔力を漏らさないための一種の気配遮断みたいなものだ。魔界の悪魔と冥界の悪魔では魔力の質が違うため、冥界の悪魔では感知することは難しい」

 

なるほど………それで、この町のスタッフでは見つけることが出来なかったわけか。

 

鋼弥はそこから付け加える。

 

「ただし、全く無理というわけではない。リアスや朱乃のように魔力に特化した悪魔………魔力操作に優れた悪魔であれば感知可能だ」

 

となると、これからのチーム編成は鋼弥達魔界メンバーとこちらの魔力操作が優れているメンバーを分けるのがベストか。

 

あいつらを感知できる編成かつ、遭遇したときに対処できる編成にしないとな。

 

この後、俺達は捜索チームの編成し、町に出た。

 

 

 

 

「こちらに来た時も思ったけど、俺達の世界の駒王町と同じだな」

 

駒王町の北端。

市街地から離れた、静かな山道。

 

鋼弥は山道から見える街並みを見ながらそう呟いた。

 

捜索チームは俺達オカ研メンバーと鋼弥一行、そしてアザゼル先生を混同して、五つに分けた。

 

北側に俺、美羽、アリス、鋼弥、リオさん。

南側にリアス、木場、小猫ちゃん、リーザさん、ドルキー。

西側に朱乃、ゼノヴィア、イリナ、フィーナさん、タオくん。

東側にアザゼル先生、ロスヴァイセさん、レイナ、彗花さん、珠樹さん。

そして、アーシアやレイヴェル、他のメンバーは兵藤家で待機だ。

 

アーシア達待機組は何かあった時のためにすぐ動けるようにしてもらっている。

 

捜索組として動いている各チームには魔力が高く、四人の天使たちの霊的遮断を看破できる魔界メンバーを組み込んでいて、北側を担当している俺達のチームではリオさんが奴らを見つけ出す役割を担ってくれている。

 

俺は町を眺め鋼弥に尋ねる。

 

「やっぱり平行世界の駒王町もこんな感じなのか?」

 

「ああ。恋人がいて、苦楽を共にする仲間がいて、駒王学園の皆がいる。良い町だよ」

 

「そっか。俺も見てみたいよ。そっちの駒王町を」

 

「いつか機会があれば来てみると良い。その時は魔界も案内するよ」

 

鋼弥はそう言って笑む。

 

魔界………。

鋼弥達がいる世界では俺達の知らない世界があるんだよな。

そこが平行世界でのズレというか、違いというか………。

この町とは違う駒王町にも興味はあるけど、魔界って場所も行ってみたくはある。

 

美羽が会話に交じってくる。

 

「でも、お兄ちゃんが鋼弥くんの世界に行ったら、お兄ちゃんが二人になるよね。そうなったら混乱しそう………」

 

あー………確かに。

 

向こうの俺も『イッセー』って呼ばれているみたいだし、その呼び方で呼ばれたら同時に反応してしまいそうだ。

 

アリスも続く。

 

「赤龍帝でスケベ。しかも『おっぱいドラゴン』ってところも同じ。そんなイッセーが二人………ある意味世界終わるわね」

 

「酷い! 俺を何だと思ってるんだ!?」

 

「だって………胸をつついてパワーアップするような奴が二人揃うことになるのよ? わけの分からない力で世界崩壊とかあり得るじゃない」

 

うっ………それを言われると………。

 

確かに俺はアリスのおっぱいをつつき禁手に至り、バアル戦ではアリスとリアスのおっぱいをつつくことで新たな可能性を得た。

平行世界の俺もリアスのおっぱいをつついて禁手に至った上に、更なる進化を遂げているという………。

 

アリスの言うことも………否定できない、かも。

 

周囲を探っていたリオさんも苦笑する。

 

「まぁ、お二人とも色々とんでもないってところは似てますね。ですが、こちらのイッセーさんも私達の世界のイッセーさんも優しい人です。お二人が並ぶところも見てみたいですね」

 

「それは面白そうだ。………ただ、あいつがこっちのイッセーのことを知れば………」

 

鋼弥はうーむと腕を組んで考え始める。

 

おいおい、向こうの俺が俺を知ったらどうなるってんだよ………?

 

怪訝に思う俺に気づいたのか、鋼弥は苦い笑みを浮かべる。

 

「いや、その………なんだ。俺達の世界のイッセーは………まだ童貞なんだ」

 

「………なるほど」

 

うん、最後の一言でよーくわかった。

 

俺は美羽、アリス、レイナ、そしてレイヴェルと関係を持った。

そのことを童貞の俺が知れば………血の涙を流してくるな。

 

鋼弥は言う。

 

「あいつはなんというか………スケベなくせに奥手なんだよ。機会はあっただろうに………」

 

「「あー………」」

 

美羽とアリスが納得してる!

 

でも、その気持ちは分かっちゃう!

俺も美羽とするまで女の子の勢いに押されてたもん!

いや、今でも押されてるけど!

 

それでも、美羽とのことがあったから、ようやくその辺りの度胸がついたわけでして………。

 

美羽が俺の腕に抱きついてくる。

 

「お兄ちゃんも同じだったよね? 最近はそうでもないけど」

 

まぁ、確かに。

 

修学旅行で美羽とそういう関係になってからは保健室でもしたし、他にも色々と………。

 

すると、リオさんが顔を真っ赤にする。

 

「ええっ!? し、し修学旅行中にそんな関係に!? それに保健室って………なんて大胆な! イッセーさんと美羽さんは兄妹ですよね!?」

 

「義理だから問題ないです! つーか、人の心読まないでくださいよ!?」

 

「保健室で何したんですか!?」

 

「人の話聞いてくださいよ! って、興味津々じゃないですか!」

 

「え、えっと………お兄ちゃんとキスして………それから………」

 

「美羽も答えなくていいから! こんな道のど真ん中でする話じゃないからね!? リオさんもなんで、うんうん頷いているんですか!?」

 

「い、いえ………その………参考になるかと思って………」

 

参考にしないでください!

 

また修学旅行の時みたいになりますよ!?

頭から湯気出して倒れますよ!?

 

『恥ずか死』なんて死に方しますよ、俺!

 

「………こっちのイッセーも大変だな」

 

鋼弥が同情するような目で呟いた。

 

 

その時だった―――――。

 

 

「―――――っ!」

 

先程まで、顔を赤くして美羽に質問していたリオさんが表情を真剣なものにした。

 

赤い眼鏡をきらめかせて、何もない空中を睨む。

 

アリスが怪訝な表情で問う。

 

「どうしたの? もしかしてあいつらの魔力を探知したの?」

 

「はい。………あそこに彼らのものと思われる魔力を感じました」

 

そう答えるリオさんが指差すのは先程睨んでいた場所。

あるのは白い雲だけ。

それ以外は何もない青い空だ。

 

よく目を凝らして見てみるけど、俺の視界には何も見えない。

気を探ってみるが、やはり何も感じることが出来ない。

 

これが鋼弥達が言う霊的遮断ってやつなのか………?

 

そんな疑問を抱いていると横にいた鋼弥がふむと頷く。

 

「なるほど、そうやって隠したか。リオ、待機中の(ゆかり)に連絡して、こっちに来るように伝えてくれ。イッセーは他の捜索チームに連絡を入れてくれるか?」

 

「それは良いけど………何をするつもりなんだ?」

 

「今に解るさ」

 

「………?」

 

鋼弥の言葉に首を傾げる俺と美羽、アリスの三名。

 

とりあえず、ここは鋼弥の指示通りに動くとするか………。

鋼弥には何か策があるようだしな。

 

俺は指示通り、捜索に当たっていたチームに連絡。

すぐにこちらに来るそうだ。

 

俺が連絡を入れた直後、俺達の側に魔法陣が展開される。

 

転移の光と共に現れたのはアーシア達待機組だった。

その中には紫色のドレスが特徴的な紫さんの姿もあって………。

 

転移してきた紫さんに鋼弥が言う。

 

「紫、さっそくで悪いけど『現世(うつしよ)幽世(かくりよ)』を使ってくれ。そうすれば見えるはずだ」

 

「………わかった」

 

紫さんは一つ頷くと何かを唱え始めた。

 

………なんだ、この感覚?

感じたことのない感覚が紫さんから放たれていて………。

 

その時、突然、周囲の気配が変わった―――――。

 

先程まで感じ取れていた人の気配が………ない。

 

「紫の『現世と幽世』を使った。―――空を見ろ」

 

鋼弥に促されるまま、空を見る。

 

そして、俺達は目を見開いた。

 

「なんだ、あれは………!? あんなもの………一体どこに………?」

 

俺達の視線の先。

そこには―――――『白い繭』が浮かんでいた。

 

巨大な白い塊。

まるで繭のような形状をしたものが先程まで何もなかった空に浮かんでいた。

 

鋼弥は宙に浮かぶ白い繭を見てふむと頷く。

 

「やはり『幽世(かくりよ)』を使って、欺いていたのか」

 

「幽世?」

 

聞き覚えのない単語に俺は首を傾げる。

 

鋼弥が説明をくれた。

 

現世(うつしよ)というのは文字通り、人がいる世界。対して、幽世(かくりよ)は妖怪や魔の者が往来する世界で人間が一人もいない世界を指す。この幽世はこの世界の悪魔………いや、この世界の異形の連中達では感知はできない場所という認識でいい」

 

「それじゃあ………」

 

「ああ。奴らが身を潜めるには、うってつけの隠し場所だ」

 

アリスが言う。

 

「ったく、面倒な場所に隠れるものね。あんな繭まで作って………。火つけたらよく燃えるんじゃない?」

 

おおう、物騒なこと言ってくれるな!

確かに燃えそうだけど!

 

あの繭を見て、リオさんが静かに口を開く。

 

「彼らは……四大天使は幽世で『方舟の繭』を造り、現世で神を信じる者に対して催眠をかけて幽世へと拉致するつもりなのでしょう。そうすることで、彼らの願う『千年王国』を建設しようとした、ということなのでしょう」

 

「うわっ、なにそれ………。そんな方法で自分達の願いを叶えるなんて最低ね。というか、そんなので国を作れると思ってるのが腹立つ!」

 

アリスさんも白雷をバチバチ言わせてお怒りだ!

 

俺も怒ってるけど!

そんな身勝手すぎる奴らは放っておけん!

この場で徹底的に潰す!

 

「鋼弥! 盛大に暴れてやろうぜ! あいつらは何が何でも止めてやる!」

 

「ああ! 元々、俺達はそのためにこの世界に来たんだ! 奴らの好きにはさせない!」

 

この後、アザゼル先生達と合流した俺達は空に浮かぶ繭を目指して空を飛んだ。

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

《………来たか》

 

《魔界の者共、そしてこの世界の悪魔共の気配。先日の者達か》

 

《この場所を嗅ぎ付けるとは………》

 

《それは問題ではない。問題なのは奴らが我らの障害になるということ。何人来ようが、我々にはやらねばならぬ――――この世界に千年王国を建設する為に。まずは、障害となる者たちを確実に葬ろう。信仰が無き人間どもを滅ぼすのは、その後だ》

 

異形の天使達はそれぞれの刃を煌めかせた―――――。

 

 

[三人称 side out]

 




次回よりバトルです!


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異形なる天使 Ⅷ

今回はちょっと長めです。


白い繭に侵入した俺達。

 

繭の中も白いものだと思っていたけど、内部に入る壁は金色に輝いていて、至るところに八角形が描かれている。

 

「えらく神々しいわね………」

 

アリスが辺りを見渡しながらそう呟く。

 

アリスの言うようにこの金色に輝く壁からは聖なる力に似た波動を感じる。

 

………これが自分達の神を信じる者だけを自らの手に置こうとする殺戮の天使共が作った『方舟の繭』、か。

 

この輝きは神々しいと感じると共に傲慢にも思えるな。

まぁ、そういう背景を知っているからだけど。

 

「先に進もうぜ。この先に奴らがいるんだろうからな」

 

ドルキーが長い廊下の先にある大きな扉を睨みながら言った。

 

あの扉の向こうから妙な波動を感じる。

間違いなく、奴らがあそこにいる。

 

俺達は互いに頷きあうと、金の壁に囲まれた長い廊下を進んでいく。

 

幸いにも罠などはなく、無事に扉の前に辿り着いた訳だが………。

 

鋼弥は扉に手を置くと、こちらに視線を送ってくる。

 

「―――――開けるぞ」

 

「ああ」

 

 

ゴゴゴゴッ………

 

 

重厚な扉がゆっくりと開かれる。

 

扉の先にあったのは廊下と同じく、金色の壁に囲まれた大きな広間だった。

一番奥には奴らの神と思われる白い像が悠然と立っていて俺達を見下ろしている。

それ以外は特に何があるというわけでもなく、ただただ広い空間があるだけだ。

 

俺達が広間に入り、奴らの気配を探し始めた――――その時。

 

《現れたようですね》

 

女性の声が聞こえたと思うと―――――凍てつく吹雪がこの広い空間に吹き荒れた!

冷たい突風が俺達を襲う!

 

「現れやがったな………!」

 

「そのようですね………! 皆さん、気を付けてください!」

 

ドルキーとタオくんが腕で顔を守りながら皆に注意を呼び掛ける。

 

「任せて!」

 

美羽が咄嗟にドーム状の障壁を展開。

障壁は俺達を覆うように展開されていて、とてつもない冷気から俺達を守った。

 

未だ吹き荒れる冷たい突風。

視界が雪で何も見えない!

 

少しすると、冷気の突風も治まり、視界が開けてくる。

 

すると、先程までなかった一つの影が見えてきた。

 

「姿を見せましたね。あれは―――――」

 

フィーナさんが剣を引き抜き、鎧を纏う。

 

俺達の眼前にいたのは昨日襲ってきた人形のクリーチャーと似た存在だった。

黄土色の肌に右腕が剣、左手が盾………なのだが、盾は大きな女性の顔をしており、緑色の瞳が不気味にこちらを睨んでいた。

 

盾にある口が開く。

 

《我が名は大天使ガブリエル。同朋であるウリエルとラファエルを相手にしたようですね》

 

………。

 

………。

 

………はっ!?

 

「えーと、あのさ………あいつ、今………ガブリエルって言った?」

 

俺が問うと珠樹さんが頷く。

 

「ええ。昨日、イッセー達を襲ったのがウリエルとラファエル。そして目の前にいるのが四大天使唯一の女性天使ガブリエル」

 

俺はその解説を聞いて―――――膝を地に落とした。

 

ウソ………だろ?

 

え、あれがガブリエルさんなの………?

あんなクリーチャーが?

 

いや………四大天使って言うからいるのは分かってたよ?

 

でもね………。

 

「うっそぉぉぉぉぉぉん! ガブリエルさんといえば、超美人で、おっとりしてて、おっぱいだってあんなに大きくて! もうちょっと何とかなっただろ!?」

 

「あの、イッセーさん………。昨日も言いましたが、あれはあなた方が知っている四大天使とは違う………」

 

「タオくん! そんなのは分かっているんだ! 分かってはいるんだ! でもね、この間ガブリエルさんに会ったばっかりだから、その分ショックがでかいんだよぉぉぉぉぉぉ!」

 

俺は叫びと共に床を何度も殴り付ける!

 

あのおっぱいは!?

あのおっとりした雰囲気は!?

天界一の美女の面影すらないじゃん!

 

あんなの認めないぞ!

性格悪い上に容姿すらクリーチャーなガブリエルさんなんて認めないぞ!

 

アザゼル先生が項垂れる俺の肩にそっと手を置く。

 

「………イッセー。今回ばかりはおまえの気持ちも分かるぜ。ガブリエルのおっぱいはなぁ………俺も天界にいた頃、何度も何度も触りたいと思っては翼を点滅させていてな」

 

「うぅ………分かります! 分かりますよ、その気持ち! 俺だって、会議の席でガブリエルさんのおっぱいばかり見てましたもん!」

 

俺が天使だったら即堕天してるね!

断言できる!

 

先生は俺に同情の目を向けながら息を吐く。

 

「確かに天界一の美女、至上のお乳と称されたガブリエルが………別物とはいえ、あんな姿で現れたらショックだよな。俺もおまえも実際にガブリエルに会ってる分、ダメージでかすぎるぜ」

 

「先生! 俺、この繭ごとあいつらぶっ飛ばします! 天界一のおっぱいは俺が守ります!」

 

「その意気だ! スケベ心を燃やせ! 怒りを力に変えろ! おまえなら至上のお乳を守れる!」

 

「はい!」

 

涙を流して抱き合う師弟!

 

ああ、そうさ!

あんなのはガブリエルさんだなんて認めない!

 

俺は………俺は至上のお乳を守って見せる!

 

「「あんた達いつまでやってんのよっ!」」

 

「「グボァッ!!」」

 

アリスと珠樹さんのダブルパンチが俺と先生に炸裂した!

 

吹っ飛ばされた俺と先生は壁に頭がめり込んでしまう!

 

「「ちょ………誰か! 誰か抜いて! 頭抜けねぇ!」」

 

重なる俺と先生の声!

 

壁にめり込んでしまい、見えないが………どうやら、先生も抜けないでいるらしい!

結構深くめりこんでいるぞ!

 

ふんぬぬぬぬぬぬぬ………あ、ヤベ………マジで抜けね………。

 

だ、誰か!

マジでヘルプ!

ヘルプミー!

 

じたばたもがいていると、後ろから誰かが引張ってくれた。

 

木場とタオくんだった。

二人とも苦笑しながら何とも言えない表情になっている。

 

タオくんが木場に言う。

 

「………大変………ですね」

 

「ハハハ………いつもツッコミが大変なんだ」

 

「最近、おまえツッコミしてなくないか?」

 

「吸血鬼の町でしたよ!? イッセーくんがいなかったから、僕がツッコミ役だったんだよ!?」

 

おおう………木場が珍しく激しい返しをしてくるな。

 

そういや、あの時は途中まで別行動だったからな。

それまでは木場がツッコミをしてくれていたのか。

 

いやー、すまんすまん。

 

………っと、馬鹿やってる間にウリエルとラファエルの野郎も現れてやがる。

 

向こうも殺気ムンムンでやり合う気満々だな。

 

先生が首をコキコキ鳴らしながら奴らに問う。

 

「おまえさん達は自分達の神を信仰する者を拉致るつもりらしいが………それをして何の意味がある? それで自分達の国を作って意味があると思うのか?」

 

《ええ。これは神を信じる者たちが乗り込む方舟。選ばれた民を乗せてこの世界にケガレに満ち溢れている者たちを滅ぼす。そして、千年王国が生まれるのです。――――全ては穢れのない世界を創るため》

 

「やれやれ………どうにも面倒な奴らが来ちまったようだ………。ゾロアスターだったか、こいつらの封印を解いたのは。そっちの世界もクソッタレな奴らが多いようで」

 

先生は深く息を吐くと光の槍を手元に作り出す。

 

鋼弥が一歩前に出た。

 

「殺戮の天使よ。その翼を折らせてもらう」

 

その言葉に俺達は各自の得物を構える。

俺も禁手となって鎧を纏った。

 

異形の天使達の殺気が一気に膨れ上がる!

 

《我らに逆らう悪魔どもに裁きを下さん!》

 

 

 

 

 

[美羽 side]

 

 

 

相手は平行世界から四人の天使のうち、三人。

 

残る一人―――――ミカエルが姿を見せないのが気になるけど………。

どこかで見ているのだろうか?

 

そんな疑問を抱きつつもボク達は三手に別れた。

 

ウリエルと対峙するのはボクとゼノヴィアさん、イリナさん、珠樹さん、彗華さん、ドルキーさん、ギャスパーくん、そしてアザゼル先生。

 

人数では圧倒的にこちらが有利。

だけど、相手もかなりの強敵。

油断なんて出来ない。

 

すると、ウリエルは口を開く。

 

《ここでは狭い。まずは場所を変えさせてもらう》

 

「なに?」

 

アザゼル先生が眉を潜めた。

 

 

その時――――――。

 

 

床が強い光を放った!

ウリエルとボク達の足元に巨大な魔法陣が展開される!

 

「これは………転移魔法陣!」

 

「ちぃっ! おまえら、気を付けろ! 飛ばされるぞ!」

 

床が放つ目映い光から目を守りながら、注意するボク達。

 

光がボク達を包み込んだ―――――。

 

 

 

 

光が止み、ボク達が目を開くと先程いた広間と似たような場所に立っていた。

 

違うのは広間の奥にあった天使達の神と思われる像がないぐらい。

 

そして、ボク達と向かい合うように立つのは異形の天使の一人、ウリエル。

 

ウリエルは口に咥えていた槍を引き抜く。

 

《来るがよい。このウリエル、負けはせん》

 

体から激しい雷を放ち、周囲が焼け焦がしていく。

 

その雷は少し離れたところにいるボク達の元にまで届いている。

彗華さんがボク達の前に立って障壁を張ってくれた。

 

「くっ………。体から漏れ出す雷だけでこの威力………! 皆さん、気を付けてください! それから、ウリエルには雷に対する耐性があります! 雷属性の攻撃は効きません!」

 

ウリエルに対して雷属性の攻撃が効かないのは先日、アリスさんの白雷と朱乃さんの雷光が効かなかったことから把握している。

それに、今朝の作戦会議でも四大天使がそれぞれ持っている耐性についても説明は受けたからね。

 

だから、ウリエルと対峙しているボク達の中には雷をメイン攻撃とした人はいない。

 

彗華さんが雷を防いでいる時、床を蹴って壁を猛スピードで駆けていく人がいた。

 

「はっ! お望み通り行ってやるぜ!」

 

魔法で風を身に纏ったドルキーさんが、ウリエルに急接近していく!

 

速い!

風を纏うその姿はまさに竜巻!

荒れ狂う風はウリエルの雷を弾いていく!

 

《まずは貴様からだ。――――神の雷を受けるがいい》

 

「いくら強力だろうが、当たらなきゃ意味はねぇ!」

 

ウリエルから放たれる強大な雷をドルキーさんは全てかわしていく!

 

ウリエルの懐に潜り込んだドルキーさんは腕に竜巻を纏い―――――

 

「ゼロ距離だぜ! 大乱鬼流!」

 

超至近距離から暴風を放った!

まともに受けたウリエルの姿が見えなくなるほど濃密で強大な風の塊!

 

珠樹さんが叫ぶ。

 

「皆、ドルキーが奴の動きを封じている今よ! 一斉攻撃を!」

 

その声を合図にボク達は一斉に仕掛ける。

 

ボクと彗華さんは魔法、珠樹さんは剣を振るって風の斬戟を飛ばしていく!

 

「大天使ウリエルさまの名を貶める輩め!

断罪してくれる!」

 

「ええ! 主があなた達の行いを認めるはずないもの! アーメンよ!」

 

ゼノヴィアさんがデュランダルによる聖なる波動を放つと同時にイリナさんと光力で生み出した槍を次々に投げていった!

 

やっぱり、信仰心の強い二人からすると、あの天使達は許せないよね!

ボクも許せないもん!

 

「おらよっと! 四大天使をボコれる滅多にないチャンスだ! 俺も参加させてもらうぜ! ミカエルじゃないのが残念だけどな!」

 

アザゼル先生も強力な光の槍を投擲してくれているけど………完全にストレス発散してるよね。

 

ミカエルさんと何かあったのかな………?

後でレイナさんに聞いてみよう………。

 

全員の一斉攻撃がウリエルを包む。

 

しかし―――――。

 

《ヌゥゥゥゥッ!》

 

バンッと弾ける音と共にボク達の攻撃が全て弾かれてしまった。

 

傷は負っているようだけど、ほとんどダメージを受けていない………。

なんて頑丈な………!

 

珠樹さんが駆けていく。

 

「ドルキー! 私達が前衛よ! 彗華は援護して!」

 

「おうよ!」

 

「了解です!」

 

応じるドルキーさんと彗華さん。

 

それに続くかのようにゼノヴィアさんとイリナさんもウリエル目掛けて突貫していく。

 

「イリナ! 私達も行くぞ!」

 

「ええ!」

 

《僕も続きます!》

 

珠樹さんとドルキーさん、そしてゼノヴィアさんとイリナさんが接近戦を仕掛けていった。

 

ギャスパーくんも闇の獣を生み出してウリエルに攻撃を仕掛けていく!

 

四人とも高速で動き、ウリエルを翻弄していく。

 

「おらおらぁ! 俺のスピードに手も足も出ないってか!」

 

「神の雷はそんなものなのかしら!」

 

ドルキーさんの手裏剣、珠樹さんの高速の剣戟。

それらがウリエルの槍を弾いて、その軌道をずらす。

 

そこに間髪入れずにゼノヴィアさんとイリナさんが続く!

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「やぁぁぁぁぁぁ!」

 

デュランダルと量産型聖魔剣の連続攻撃がウリエルの肉体を捉えた!

 

《ヌゥ! 調子に乗るなよ、悪魔共ッ!》

 

ウリエルは強い。

数で押しているはずのボク達の攻撃を受けながらも、こちらにもダメージを与えている。

後衛のボク達は大したダメージを受けていないけど、前衛のメンバーは所々に切り傷や火傷を負っている。

 

それでも、前衛の連携攻撃が、ボク達の支援攻撃がウリエルの攻撃リズムを崩しているのが分かる!

 

ウリエルがゼノヴィアさんと珠樹さんの渾身の一撃で微かに後ろに下がった―――――。

 

彗華さんが叫ぶ。

 

「美羽さん!」

 

「うん! いくよ、彗華さん!」

 

ボクは彗華さんの前に立つと魔法陣を展開。

それに合わせるように彗華さんは弓を構える。

 

彗華さんは魔法よりも小太刀や弓矢を使った戦闘が得意らしく、その中でも特に得意なのは矢を使った攻撃。

 

今朝、少しだけ話をして、試しに合わせてみたぐらいしかしてないけど………。

 

彗華さんが矢をセットして弓を引く。

すると、矢の先端が炎に包まれていった。

 

「いきます!」

 

彗華さんが矢を放つ。

放たれた矢はボクが展開した魔法陣を通過し―――――巨大な火の鳥となった。

紅色の炎の鳥だ。

 

紅色の鳥はウリエル目掛けて飛翔する。

 

そして――――――

 

巨大な火の鳥はウリエルを包み込み、火だるまにした。

 

彗華さんが言う。

 

「『(ほむら)』。放たれた矢は火の鳥と化して当たった相手を燃やします。今回は美羽さんの魔法を借りて強化しました。名付けるなら――――『大紅焔(だいくれないのほむら)』と言ったところでしょうか」

 

ボクと彗華さんの合わせ技。

イグニスさんほどの火力なんて出ないけど、当たればかなりのダメージを与えるはず。

 

未だ燃え続ける深紅の炎を眺めるボク達は警戒しながら、その様子を見る。

 

これで結構なダメージが与えられたと思うけど………。

 

皆がウリエルを取り囲み、出方を伺っていた。

 

 

その時―――――。

 

 

ドッゴォォォォォォォォン!!

 

 

轟音と共にこの空間が激しく揺れる!

 

床に巨大なクレーターが生まれて、すさまじいエネルギー波がボク達を吹き飛ばした!

吹き飛ばされたボク達全員が壁に叩きつられる!

 

叩きつけられた衝撃に、体に激痛が走った!

 

「くぅっ………。いったい………何が………?」

 

ボクは痛みを堪えながらも衝撃波が起こった場所に視線をやる。

 

そこには今までの攻撃でダメージを負ったウリエル。

 

だけど、あの体を包んでいた炎は消えていて………その代わりに槍を持っていない手に何かが握られていた。

 

あれは………?

 

珠樹さんが目を見開く。

 

「あれは………!」

 

「あれが何か知っているの?」

 

ボクが問うと彗華さんが答えてくれた。

 

「あれは地獄の門の(かんぬき)です。………私も文献でしか見たことがありませんが………間違いありません………!」

 

「それってどういうものなの?」

 

「ウリエルは………地獄の門の閂を折り、地上に投げつけて黄泉の国の門を開き、全ての魂を審判の席に座らせる役割を担う………と言われています。つまり――――」

 

「ようするに世界の終末に使う門の閂をぶん投げたってわけか。無茶苦茶しやがるな、あの野郎………!」

 

アザゼル先生も舌打ちしていた。

 

確かに無茶苦茶だ。

そんな物を呼び出すなんて………!

 

膝をつくボク達を見渡しながらウリエルは低い声音で言う。

 

《我にここまでの傷を与えたことだけは誉めてやろう。だが、これで終わりだ。悪しき者共よ………裁きを受けるがいい!》

 

ウリエルが極大の光を頭上に集めていく。

その質量は今までウリエルが放ってきたどの雷よりも、濃密で強大。

 

それほどの力をウリエルがチャージしていた。

 

 

だけど―――――

 

 

ボクは立ち上がり、叫んだ。

 

「ボクはずっとお兄ちゃんの側にいたい! こんな所で負けるわけにはいかないよ!」

 

「うおっ!? こっちのイッセーがシスコンかと思ったら、妹の方もブラコンじゃねぇか!」

 

「ドルキー、今さら何言ってるのよ? あの義兄妹、いくところまでいってるからね?」

 

「そうですよ、ドルキーさん! 良いじゃないですか! 愛がありますよ!」

 

「珠樹も彗華も感覚おかしくなってないか!? あの義兄妹に侵食されてるだろ!?」

 

ドルキーさん達が何か言ってるけど、そんなのは無視!

 

ボクはここで終わるわけにはいかないよ!

 

ゼノヴィアさんとイリナさんが立ち上がる。

 

「ああ、そうだな! 私もイッセーと子作りするまでは死ねん!」

 

「私もよ! あ、でも私、そういうことしたら堕ちるんですけど………」

 

「なーに、心配するな。その時はグリゴリに来いよ。VIP待遇で迎えてやるぜ。イッセーとも子作りできるしな。一石二鳥だろ」

 

「いやぁぁぁぁ! 堕天使の親玉が誘惑してくるぅぅぅぅぅ! ミカエルさまぁぁぁぁぁ!」

 

あ、アザゼル先生の勧誘にイリナさんが翼を点滅させてる………。

あと、一つツッコミを入れるなら、()親玉だよね。

 

とりあえず、あの雷を放たれる前に倒さないと。

 

ボクはドルキーさんに話しかける。

 

「ねぇ、ドルキーさん」

 

「ん? なんだ?」

 

「ちょっとお願いがあるんだけど―――――」

 

ボクは思い付いた作戦をドルキーさんに伝える。

 

最初はふむふむと頷きながら聞いてくれていたドルキーさんは、話を聞き終えるとニヤリと笑んだ。

 

 

 

 

バチッ………ハチチチチッ………。

 

 

ウリエルの雷が膨れ上がる。

 

触れてもいないというのに、あの雷の塊が持つ熱量で床や壁が焦げていく。

こっちにも肌を刺すような熱が伝わってくるほどだ。

 

ドルキーさんが言う。

 

「うっし! 作戦は決まりだ! 頼むぜ、おまえら!」

 

「了解………って、あんたも結構重要な役割なんだから、しくじらないでよね?」

 

「しくじるかよ。さては信用してないな、おまえ」

 

「あんたって、ここぞというときに心配かけるし………」

 

「まぁ………そういうところ、ありますよね………」

 

「二人とも酷ぇ!」

 

珠樹さんと彗華さんの言葉にガックリと肩を落とすドルキーさん。

 

この人達も仲良しだよね。

 

「おまえらも大概だよな………来るぞ」

 

アザゼル先生がウリエルを睨みながら構える。

 

ウリエルの方はいつでも雷を撃てる体勢に入っている。

当たれば確実にやられる。

あれはウリエルの大技だろう。

 

だけど――――――大技を放つ瞬間は必ず隙が出来る。

 

《愚かな者共に裁きの雷を………!》

 

ウリエルが槍を振り下ろす!

 

その瞬間を狙って、両サイドからゼノヴィアさんとイリナさん、珠樹さんが突撃した!

 

《我の動きを止める気か! そうはさせぬ!》

 

二人の攻撃を難なく弾き飛ばすウリエル。

 

そこにアザゼル先生の光の槍が襲う!

 

ウリエルが同じように弾き飛ばそうとするが―――――。

 

光の槍は途中で細かく分散し、無数の光の矢となった。

その全てがウリエルに突き刺さる!

 

「悪いな。この手の芸は俺の得意分野なんでな」

 

《小賢しい真似を………!》

 

ウリエルが煩わしそうに言うが………。

 

「まだですよ―――――『烈矢』ッ!」

 

彗華さんが矢を放った。

放たれた矢は音速を超え、ソニックブームを巻き起こしながら突き進む。

 

そして―――――ウリエルの額を捉える。

 

《………っ! おのれぇッ!》

 

ウリエルが怒りの籠った瞳を彗華さんに向けた。

完全に意識を彗華さんに持っていかれている。

 

 

 

――――――この時を待っていた。

 

 

 

「この近距離なら頑丈な君でも貫ける」

 

《貴様………いつの間に………!?》

 

ウリエルが初めて驚愕の声を漏らした。

 

なぜなら――――ボクが立っているのはウリエルの背後。

その背中に手を当てていたからだ。

 

どうやら、ボクの接近に気づけなかったらしい。

 

ボクがウリエルの背後を取れた理由。

それは、ボクの後ろに立っている人のお陰なんだ。

 

「俺の持ち味はスピード。誰よりも速く、どこまでも速く、だ。まぁ、そのスピードで運送係を任されるとは思わなかったけどな」

 

ドルキーさんがボクの肩に手を置いて苦笑していた。

 

そう、今の連携攻撃でウリエルが怯んだ隙にボクはドルキーさんにウリエルの背後まで運んでもらったんだ。

 

彼のスピードなら、ウリエルの背後を………それもすぐ側にまで運んでくれると思ったから。

 

そして、それは成功。

 

こうしてウリエルの背中に手を当てられるほどの場所にボクはいる。

 

「あとは任せるぜ、イッセーの妹さんよ」

 

ドルキーさんの言葉に頷くと、ボクは幾重にも魔法陣を展開。

七色の光を収束させる。

 

ボクの放てる最高の一撃。

この一撃に全身全霊を籠めよう。

 

《き、貴様ァッ!》

 

「君達の好きにはさせないよ! スターダスト・ブレイカァァァァァァァッ!!」

 

七色の光が放たれ―――――ウリエルの体を貫いた。

 

巨体にポッカリと空く穴。

空いた穴を中心にひび割れていく。

 

ひびから赤い光が漏れだしていて………。

 

《ぐ、おお……。遠ざかる……我らの千年王国が……。ケガレし悪魔どものせいで……千年王国がケガレてゆく……》

 

体が崩壊していく中でウリエルが途切れ途切れの声を漏らす。

 

ボクはウリエルに真正面から言った。

 

「君達の言う千年王国はどこまでも縛られた国。そんな場所じゃ誰も幸せになんてなれないよ」

 

ウリエルはそのまま塵となって消えていった―――――。

 

 

[美羽 side out]




ウリエル撃破!



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異形なる天使 Ⅸ

お待たせしました!

今回はアリスグループVSラファエル!


[アリス side]

 

 

目映い光に包まれた次の瞬間、私は今の今までいた場所とは違う場所に立っていた。

雰囲気としては、さっきの場所と似てるけどイッセーがいない。

 

…………強制転移、か。

 

私以外でこの場にいるのはリアスさん、朱乃さん、小猫ちゃん、ロスヴァイセさん、リーザさん、フィーナさん、シェリルさん、タオくん。

 

そして、私の正面に―――――ラファエル。

 

手には鎌槍、両足はギロチンのような形状。

全身が赤色。

 

絵に描いたような化け物ね。

 

これで実は心優しい………とかだったら良いんだけど、考えていることは最低最悪。

 

千年王国とかいう、自分達の都合のいい国を作ろうとしている。

 

…………元とはいえ、王女だった私には許せないことね。

 

そりゃあ、自分が立派に王女やってましたなんてこと言うつもりはないわ。

書類仕事はニーナに投げてたし。

たまに城を抜け出して、遊びに行ったこともあるし。

昼まで寝てる時もあったし。

 

あれ………サボってた思い出の方が多くない?

 

いやいやいやいや…………それでも私、頑張ったもん。

交渉とかは私だったし。

 

うん、大丈夫。

ノープロブレム。

 

と、とにかく!

 

私は槍の切っ先をラファエルに向けて告げた。

 

「あんたらのバカみたいな夢は崩させてもらうわ。国を作りたいなら、まずは民を想う心から学びなさいな」

 

《我らが神を否定するか》

 

「信仰を強制するなって言ってるのよ。何を信じるかは人それぞれでしょ」

 

《では………貴様は何を信じる?》

 

私が信じるもの………?

 

なるほど、そう返してきたか。

 

少し前なら立場的にも国と国民って答えてたかも。

 

でも、今は王女じゃない。

私はただのアリス。

 

だから―――――

 

「自分と仲間。そして、私の夫を信じるわ」

 

私はハッキリとそう告げた。

 

すると、後ろの方から、

 

「あ、もう夫なんですね………」

 

「なんというか、こっちのイッセーさんって肉食なんですね。いや、僕達の方でも大概のスケベだったけど………」

 

「………」

 

フィーナさんとタオくんが何か言ってる。

シェリルさんは無言だけど、視線が何か言ってるわ。

 

…………私、何か変なこと言ったかな?

 

「………やっぱり、敵わないわね」

 

「あらあら………」

 

「流石です………」

 

リアスさん、朱乃さん、小猫ちゃんも何とも言えない表情だった。

 

「お、夫…………ふ、不純異性交遊はダメですからね!?」

 

ロスヴァイセさんは慌ててるけど………ふっ、もう遅いわ。

 

もう…………イッセーとは色々しちゃったもん。

いっぱい可愛がってもらってるもん。

寝る前だってキスしてくれたし………朝もおはようのキスしてもらったもん。

 

『アリスさん!? なにニヤけてるの!?』

 

「え、あ、あれ!? 私、ニヤけてた!?」

 

私が聞き返すと皆が同時に頷いた!

 

え、ぇぇ………そんなに顔に出てた?

 

こ、これはマズい………。

 

私は一度咳払いした後、改めてラファエルに槍を突きつける。

 

「と、とにかく! これ以上の会話はなしよ! シリアスを壊す前にあんたを倒す!」

 

『もう壊してますけど!?』

 

ツッコまれてしまった…………。

 

私の言葉を受けて、ラファエルからどす黒いオーラが滲み始める。

敵意、殺意が籠められた目だ。

 

リアスさん達も陣形をとる。

 

ラファエルが言う。

 

《悪魔とそれに加担する者たちがこれほどいるとは………嘆かわしい事だ。このラファエル、患いを癒そう》

 

刹那、ラファエルの体から暴風が吹き荒れる!

重たい風が私達を叩きつけるようにして、あらゆる角度から飛んでくる!

 

タオくんが叫ぶ。

 

「皆さん! ラファエルには風を無効化する力があります! こちらの放つ風系統の技や術は通じません!」

 

「了解よ!」

 

朱乃さんやロスヴァイセさんは風系統の魔力、魔法も使えるけど、それ以外も使えるから問題ない。

私は雷属性だし。

 

リアスさんが後ろに下がって、手元に滅びの魔力をチャージし始める。

 

「あれを準備するわ! 皆、少し時間を稼いでちょうだい!」

 

消滅の魔星(イクスティングイッシュ・スター)を放つ気なのね。

あれなら耐性、防御関係なく消し飛ばせる。

 

皆もリアスさんに頷きを返して、ラファエルの包囲にかかる。

 

前衛は私、リーザさん、タオくん、フィーナさん、シェリルさん。

私と平行世界組という組合せ。

小猫ちゃんとロスヴァイセさんは中衛、朱乃さんが後衛。

リアスさんはチャージ完了まで最後尾で待機。

 

「では―――――」

 

「いきます!」

 

初手はフィーナさんとタオくん。

フィーナさんが剣を振るい、タオくんは棍と拳を駆使してラファエルに攻撃を仕掛ける。

 

フィーナさんの放つ高速の斬戟の後にタオくんこ棍が打ち込まれるが、ラファエルはそれを鎌槍で捌いていく。

 

二人の攻撃を避けきった後にできる隙をついて、シェリルさんと私が仕掛けるが――――

 

《遅いッ》

 

「っ!」

 

私達の攻撃は吹き荒れる風で防がれてしまう。

 

鎌槍と風の鋭いコンボで、私達を凪ぎ払い傷をつけていく!

 

以前、戦った時にも思ったけど、ウリエルはパワータイプ、ラファエルはテクニックタイプのようね。

 

こちらの連携をいとも簡単に捌いてくる。

 

おまけに圧倒的な風の力も有している。

 

―――――やりにくい。

 

《今度はこちらからいくぞ―――――神の竜巻》

 

ラファエルを中心に荒れ狂う竜巻が発生!

一直線にこちらへと向かってくる!

 

「任せてください! ラウンド・シールド!!」

 

フィーナさんが前に出て構えると、光の障壁が生まれて竜巻を防いだ。

 

しかし、今の一撃でフィーナさんが張った光の障壁にヒビが入り、砕けてしまう。

 

《今のを防ぐか。だが、更に威力を上げればどうなる?》

 

「まだ上があるというの…………!」

 

ラファエルの言葉にフィーナさんは目を細め、頬に冷や汗を流していた。

 

ラファエルの周囲に先程のものよりも巨大な竜巻が現れる。

それも三つ。

 

《くらうがいい》

 

号令と共に三つの竜巻がうねり、急接近してくる!

 

流石に防ぎきれない!

 

だったら―――――

 

「本体を直接狙うまで!」

 

私は白雷を纏って飛び出していく!

 

襲いくる風の刃を槍で斬り裂いて、ラファエルへと迫る!

 

《やらせると思うか?》

 

「やってやろうじゃない!」

 

 

ギィンッ! ギィィィィィンッ!

 

 

互いの得物がぶつかり、激しく火花を散らす。

 

「はっ!」

 

槍の穂先に白雷を纏わせて、破壊力を爆発的に上げた一撃を繰り出す!

 

ラファエルが後ろに跳んでよけたことによって、地面に巨大なクレーターができる。

 

漆黒の鎧を身に包んだ騎士―――――シェリルさんが飛び出していく!

重たい鎧を装着しているというのに、俊敏な動きでラファエルに斬りかかる!

 

すると、ラファエルの鎌槍の先端が光り、緑色のオーラを発した。

 

光の中から現れたのは―――――一匹の蛇。

緑色のオーラを放つ蛇だ。

 

蛇は速く動き大きな口を開けて、シェリルさんを呑み込もうとする。

 

だけど、あの程度の攻撃なら問題ないだろう。

 

シェリルさんは大剣を豪快に振るって、蛇を両断する。

そして、そのままの勢いでラファエルに迫ろうとした。

 

 

その時だった――――――。

 

 

突如、シェリルさんは膝をついてしまった!

肩を上下に動かしていて、苦しそうにしている!

 

何が起こったというの!?

 

ラファエルは鎌槍を回して、私達の疑問に答えるように言った。

 

《シェオルの蛇――――我が蛇に触れし者は、体力と魔力を奪う。斬り捨てようとしてもだ》

 

「なにそれ、ズルい!」

 

直接的な防御じゃ防げないってこと!?

 

えぇい、面倒な能力ね!

思考も最低だと思ったら技もひねくれてる!

 

ラファエルは鎌槍を横凪ぎにして、膝をつくシェリルさんを壁に叩きつけた!

 

「カハッ…………!」

 

叩きつけられたシェリルさんの兜が砕けてしまう。

更にはその場に倒れ伏し、血反吐を吐いてしまった。

 

「小猫ちゃん! シェリルさんをお願い!」

 

「はい!」

 

猫又モードの小猫ちゃんがシェリルさんを抱えて、一度後方に下がる。

 

ラファエルは逃がすまいと攻撃を風の刃を飛ばしてくるが、それは朱乃さんとロスヴァイセさんの魔法で防がれる。

 

《中々にしぶとい。だが―――――》

 

ラファエルの鎌槍が再び輝きを放つ。

 

緑色のオーラが周囲に広がり―――――

 

『シャァァァァァっ!』

 

『キシャァァァァァッ!』

 

さっきと同じ蛇が何体も現れた!

その数は十や二十じゃきかない!

この広間の床半分を埋め尽くすほどの数!

 

ロスヴァイセさんが魔法陣を展開する

 

「魔法ならどうでしょう!」

 

「直接触れなければ良い話ですわ!」

 

魔法のフルバースト、雷光の龍が蛇を駆逐する!

 

しかし…………この時、二人の援護攻撃の的がラファエルから外れることになる。

 

そして、それを狙っていたかのように、ラファエルが間合いを詰めてくる!

 

《まずは―――――》

 

ラファエルの鎌槍がタオくんに迫る――――――。

 

その時だった。

 

「完成したわ! 皆、離れてちょうだい!」

 

リアスさんの合図が届いた!

 

後ろを振り返えると、その手には凶悪な魔力が渦巻く球体!

 

リアスさんの合図を受けて、前衛組は散開。

 

滅びの球体が放たれる!

 

《そのような遅い攻撃、当たるとでも―――――》

 

ラファエルが後退しようとするが、それを阻止するものがあった。

 

紫色のなにかがラファエルの両手足を縛り上げていた。

 

紫色のものを辿ると―――――シェリルさんが髪を伸ばして、ラファエルの身動きを封じていた!

 

「あれがシェリルの力よ。彼女は髪を操れるの」

 

リーザさんが驚く私達に説明をくれる。

 

髪を操る能力!

 

「なんて便利な! みつあみとか簡単に出来るじゃない!」

 

「アリスさん、そんなこと言ってる場合じゃないです」

 

小猫ちゃんからのツッコミを貰っちゃった!

 

リーザさんはリアスさんの横に立つと手元に火を生み出す!

 

「私も紅のお姫さまに便乗するわ。―――プロミネンス!!」

 

青白い炎を放ち、リアスさんが放った消滅の魔星と融合。

動きを封じられているラファエルを呑み込んでいく!

 

火炎がラファエルの体を焼き、滅びの魔力が肉体を残らず消し飛ばしていく!

 

《グッ………おのれ…………っ!》

 

それでもなお逃れようとするラファエル!

風を操り、魔星の重力からの脱出を試みる!

 

「逃がしませんわ!」

 

「あなたにはここで倒れてもらいます!」

 

雷光龍、魔法のフルバースト、がラファエルを襲い、風をかき消した!

 

「ここで消します!」

 

小猫ちゃんも白音モードとなって、強力な気弾を打ち込んだ!

 

…………揺れてる。

小猫ちゃんが成長するとあんなになるんだ…………。

あれ、おかしいな…………涙出てきた。

 

ラファエルの背後にひとつの影―――――

 

タオくんが棍で連続突きを繰り出し、右の拳を後ろに引いて――――。

 

「破山掌撃!!」

 

 

ドンッ!

 

 

掌底がラファエルの背中に打ち込まれ、辺りを揺らすほどの衝撃波が生み出される!

 

《グゥ…………!》

 

効いてる!

衝撃が肉体の内側からダメージを与えたんだ!

 

シェリルさんが動きを封じ、リアスさんとリーザさんの合わせ技。

朱乃さんの雷光龍、ロスヴァイセさんのフルバースト、小猫ちゃんの気弾。

そこにタオくんの強力な掌底が加わり、ラファエルは完全に動きを止めた。

 

 

――――今こそ。

 

 

私とフィーナさんは頷き、駆け出した。

 

私は白雷の出力を最大まで高めて、全身に纏う。

フィーナさんも眩い光を全身から放ち、剣に力を集中させた。

 

白雷と光が混ざり、莫大なエネルギーの塊となる。

 

そして―――――

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

私達の刃がラファエルの体を貫いた――――――。

 

ラファエルの巨体にできた大きな穴。

穴を中心に赤いヒビが入り、全身に広がっていく。

 

フィーナさんが笑む。

 

白閃の一撃(ライトニング・スマッシャー)といったところでしょうか。―――――あなたは終わりです、ラファエル。あなた方の夢も」

 

フィーナさんは剣を振るい、鞘に収める。

 

キンッという金属音と共にラファエルの肉体が崩壊し始めた。

全身のヒビが大きくなり、表面から朽ちていく。

 

ラファエルが途切れ途切れの言葉を発する。

 

《な、何故……我らに仇をなす……。我らはケガレを駆逐し……癒すだけなのに……》

 

「最期の最期まで分からないようね。あんた達がしてるのは自己満足。人からすれば迷惑極まりないことよ。神様をただ信仰する……そんなの国でもなんでもないわ」

 

 

そして―――――

 

 

「神がいなくても世界は廻るのよ。覚えておきなさい」

 

私の言葉と同時にラファエルは完全な塵と化した。

 

 

 

 

ラファエルが消滅した後、私達はヘナヘナとその場に倒れこんだ。

 

つ、疲れた…………。

 

前衛組はボロボロ。

後衛組もところどころに傷がある。

 

「あんなのがまだいるなんて…………」

 

「まぁ、鋼弥やドルキー達もいるますし」

 

「イッセーとアザゼルもいるでしょうから、大丈夫だとは思うけど…………」

 

リアスさんも息を吐く。

先程の一撃に全てを籠めていたようで、魔力の消耗が激しいらしい。

 

アーシアさんがこの場にいてくれたら、すぐに回復できるんだけど………。

 

まぁ、いないものは仕方がないか。

 

フィーナさんが言う。

 

「まずは回復させましょう。今の状態で加勢にいっても足手まといになる可能性が大きいです。特にシェリルは体力を殆ど奪われたようですから」

 

シェリルさんの方に視線を向けると、横になってぐったりしていた。

 

「シェリルさん、鎧取らないの? お風呂の時もそうだったけど………」

 

彼女はなぜかお風呂に入るときも鎧を取らない。

 

疑問に思ってたことを何となく聞いてみたのだけど、シェリルさんは頬を染めてあっちを向いてしまった。

 

リーザさんが苦笑する。

 

「彼女、素顔や体を見られるのがダメで、風呂に入るときも鎧を脱ぐことはないの」

 

シャイ過ぎない!?

それで全身鎧なの!?

 

すると、フィーナさんが私に訊いてきた。

 

「こんな時に訊くのはどうかと思ったんですけど…………アリスさん」

 

「どうしたの?」

 

「…………夫を持つってどんな感じですか?」

 

「え………」

 

「私も魔界では一国の姫なので…………。好きな男性の元に行くというのはどんな感じなのか気になって…………」

 

フィーナさんは魔界にある国の一つ、風と森林の国を治めてる姫らしい。

立場的には少し前の私と同じ。

 

それで気になったのだと思うけど…………。

 

「「「「…………」」」」

 

うっ…………。

リアスさん達も興味津々…………真剣な表情でこっちを見てきてる!

 

ロスヴァイセさんも何気に興味持ってるよね!?

その手に持ってるメモ帳はなに!?

 

この場にいる唯一の男性であるタオくんは―――――苦笑いしながら、何とも言えない顔をしていた。

 

…………タオくんって、向こうでも木場くんポジションだよね。

そう思えてならない。

 

「え、えっと………帰ってからで良い?」

 

「よろしくお願いしますね♪」

 

 

[アリス side out]



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異形なる天使 Ⅹ

光が止んだと思ったら、美羽達を含めた数名のメンバーとウリエル、ラファエルの姿が消えていた。

 

鋼弥が言う。

 

「おそらく場所を変えたんだろう。この広間で俺達全員を相手にするには狭すぎる、そう考えたんだろうな」

 

なるほどね。

 

あいつらって力業多いし、広範囲の攻撃も多いからな。

下手すれば味方の攻撃を受けるとかも考えたんじゃないだろうか。

 

まぁ、俺達としては組まれるよりは単体の方が楽で良いんだけどね。

 

この場にいるのは 俺、木場、アーシア、レイヴェル、鋼弥、リオさん、アルスさん、カナンさん、望紅さん、紫さん。

 

で、俺達の相手は―――――

 

「くっ………! 俺は………俺は天界一のおっぱいを守るぞ! あんなのガブリエルさんじゃない! ガブリエルさんのおっぱいはなぁ、至上のお乳なんだぞ! あんなクリーチャーであってたまるかぁぁぁぁぁぁ!」

 

心からの叫び!

 

そう、俺達の相手はガブリエル!

黄土色の肌に右腕が剣、左手が顔つきの盾!

こっちの世界のガブリエルさんとは全く別物のクリーチャー!

しかも、考えてることは最悪!

 

これはおっぱいドラゴンの名にかけて、マジでいかせてもらうぜ!

 

つーか、ガブリエルさんのおっぱい見たい!

揉みたい!

吸ってみたいぃぃぃぃぃ!

 

「もう! イッセーさん!」

 

「イッセーさま! 後でいくらでも………していいですから! 今は目の前の敵に集中してくださいまし!」

 

おぉう!

アーシアとレイヴェルに怒られた!

 

って、レイヴェルさん!?

後でしちゃって良いんですか!?

な、なんて、大胆な娘なんだ!

 

ヤバい………あの時のレイヴェルの姿が脳内でリピートされて…………!

くっ…………レイヴェルめ、可愛すぎんだろ!

 

「こっちのイッセーも大概だな………」

 

「やっぱり、そっちのイッセーくんもこんな感じなんだね」

 

「いや、こっちの方が進んでいる分、質が悪いかもしれない」

 

「「はぁ…………」」

 

鋼弥と木場が盛大にため息を吐いた!

 

そうですか、俺の方が質が悪いですか!

ごめんね、スケベで!

 

ん………?

リオさんがレイヴェルに近づいて何か聞いてる。

レイヴェルが顔を赤くしながらモジモジしているところを見ると…………。

 

………リオさん、あなたも結構ムッツリだったりします?

 

「む、ムムムムッツリじやありません! す、少し興味かあるだけです!」

 

「興味津々じゃないですか! つーか、俺の心の声、読まないでくださいよ!」

 

「おいおいおい! リオまでシリアスブレイカーになってんぞ!? うつった!? イッセー達のがうつったのか!? 早く元の世界に帰らねぇとシリアスブレイカーのお持ち帰りになっちまうぞ!」

 

望紅さんの悲鳴だった。

 

シリアスブレイカーのお持ち帰り…………初めて聞いたわ、そんな言葉。

 

 

 

 

気を取り直してガブリエルと対峙する俺達。

 

周囲に冷気が漂い、床や壁に霜ができ始める。

吐く息も真っ白で、極寒の地にいるような気分だ。

 

盾の顔から言葉が発せられる。

 

《悪魔と悪魔にくみする者達よ。どこまでも私たちの邪魔をするというのですか》

 

鋼弥が言う。

 

「当たり前だ。こちらは魔界の依頼できている。それにおまえ達の企みを野放しにしておくわけにはいかない」

 

《そうですか。ならば―――――》

 

広間の温度が更に下がり始める!

見も心も凍てつくようなオーラが吹き荒れた!

 

《悔い改めて死を受け入れなさい》

 

俺達はすぐさま陣形を取り、ガブリエルと対峙する。

 

相手は一人!

しかも、前回と違ってここでは好き暴れられる!

こっちも全力で潰させて貰う!

 

近接戦を得意とするメンバーがかけ出した。

 

その時、ガブリエルの持つ剣、その切っ先に黒い文字が螺旋を描きながら現れる。

 

ガブリエルは剣を望紅さんとカナンさんに向けて――――

 

《受難告知》

 

黒い文字がうねりながら、二人に急接近していく!

二人は何とか避けようとするが、文字は二人を追いかけていった!

 

「ちいっ! 何かよく分からねぇが!」

 

「この程度!」

 

二人は迫り来る黒い文字を撃退しようとするが――――黒い文字は二人の体に絡み付いた。

 

直後、黒い文字が二人の肌に染み付いたようになる。

 

「な、なんだ………!?」

 

「体が…………!」

 

二人は苦しそうに膝をつく!

見れば、大量の汗をかいていて、服がびっしょり濡れていた。

 

二人を…………戦闘不能にした!?

呪いの類いか!?

 

「回復を!」

 

アーシアが望紅さんとカナンさんに回復のオーラを放つが…………効果はない。

依然、二人は苦しそうだった。

 

リオさんが叫ぶ。

 

「烙印も付加されているわね……。これが消えない限り、回復はできないわ……!」

 

やっぱり呪いの類いかよ!

 

鋼弥が言う。

 

「ガブリエルの受難告知は対象の肉体に異常を起こさせる。急激な疲労、激痛が体に走る。………烙印が消えるのは五分。それまで耐えなければ二人は危険に晒される」

 

「ガブリエルの受難告知が発動されたら、視界に入らない様に避けるしかない」

 

「つまり敵の視線を見て、回避しつつ攻撃しろってか!」

 

いきなり二人をやられた………!

厄介な能力持ってるな、こいつ!

 

鋼弥に続き、アルスさん、俺、木場がガブリエルに仕掛けていく。

 

ガブリエルの視界に入らないように動く…………。

つまり、高速戦闘に持ち込むのが一番ってな!

 

「禁手第三階層(ドライ・ファーゼ)―――――天翼(アイオス)!」

 

俺は通常の禁手から鎧を天翼に変更して、フェザービットを全基展開!

 

八基のビットが勢いよく翼から飛び出て、あらゆる角度からガブリエルへ砲撃を放つ。

 

《そのような攻撃、私には通じませんよ》

 

ガブリエルの周囲に分厚い氷の盾が宙に現れる。

氷の盾はまるでビットのように動き、砲撃を全て防いでいた。

 

《凍てつきなさい》

 

ガブリエルが手を振るうと、冷気が放たれて、飛び交うビットを氷付けにしてしまう!

 

俺達が同時に直接攻撃を仕掛けようとしても、分厚い氷の壁がそれらを弾いてくる!

俺と鋼弥の拳でも割れない!

 

鋼弥が言う。

 

「あの氷はガブリエルが特殊な術で生み出したもの。並の強度じゃない!」

 

「だったら出し惜しみはしていられないね!」

 

木場の体を黒と白のオーラが覆う。

聖魔剣から解き放たれる莫大な魔の力と聖の力。

相反する力が木場を包み込み――――――。

 

現れるのは黒いコートを纏う一人の騎士。

 

木場の禁手第二階層(ツヴァイセ・ファーゼ)――――――双覇の騎士王(パラディン・オブ・ビトレイヤー)

 

この姿に鋼弥が目を見開いた。

 

「こちらの祐斗も新たな次元に到達しているというのか!」

 

「そういうこと!」

 

閃光となった木場は氷の盾の内側に入り込み、ガブリエルを斬りつける!

急激なスピードの変化に対応出来なかったガブリエルは肩から腹にかけて大きな斬り傷が生まれた!

 

《くっ………! ディアラハン》

 

ガブリエルが何かを唱えると木場につけられた傷が塞がっていく。

回復能力も持っているのか………!

 

だけど、隙は出来た。

その隙を俺達は逃さない。

 

「ぬんっ!」

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

アルスさんはサーベルを抜き、百、千を超える連続突きでガブリエルの体を貫く!

鋼弥は肘打ち、裏拳、三連蹴り、正拳突き、そして鋭いアッパーをガブリエルに撃ち込み、上へと打ち上げた!

 

俺は浮いたガブリエルの元に瞬時に詰めより―――――

 

「だぁぁぁぁぁぁっ!」

 

宙返りによる遠心力を利用した踵落とし!

 

くの字に曲がった体を思いきり地面に叩きつけた!

 

地面に咲く巨大なクレーター。

舞う土煙。

 

傷を回復できても、体力までは回復できないだろう。

ようするにアーシアの神器と同じ能力。

 

今の一撃は相当効いたはずだが…………。

 

 

その時だった―――――。

 

 

《ぬぅぅぅぅぅぅっ!》

 

唸り声と共に砂煙の向こう側から光の斬撃波がいくつも突き抜けてきた!

 

まともに受けた俺達は吹き飛ばされてしまう!

 

「ぐっ………まだ立てるのか!」

 

「流石は異形の天使………四大天使の一人。そう簡単には負けてくれないか」

 

俺達の視線の先には体を修復しているガブリエルの姿。

緑色の目が怒りに輝き、こちらを睨んでいた。

 

広間を再び強烈な冷気が包み込む。

 

《――――神の雹撃》

 

ガブリエルが右腕を掲げると巨大な氷塊が天井を埋め尽くし―――――落ちてきた。

凍った空が落ちてくるような感覚。

 

まずいと判断した俺達は一斉に上へと砲撃を放つ。

 

すると、アルスさんのサーベルから炎が奔り――――。

 

「フォルテ・フランメ!!」

 

幾重の火炎の斬撃刃を放つ!

 

放たれた火炎でいくつかの氷塊が蒸発するが、それでも完全とは言えない!

ガブリエルが新たな氷塊を作り出して増えたくらいだ!

 

このままでは、俺達はあの氷の塊に押し潰される!

 

 

だったら―――――

 

 

「皆、退けぇぇぇぇぇ!」

 

『っ!』

 

俺の叫びに全員が後退する!

 

リオさんやアーシアに召喚されたファーブニルが防御魔法陣を展開。

 

俺はそれを確認すると同時にイグニスを呼び出し―――――

 

「消し飛べぇぇぇぇぇ!」

 

刀身から放たれる灼熱の斬撃がこの空間を埋め尽くす!

落ちてきていた氷塊は一瞬で蒸発、広間を覆っていた冷気も完全に消え去った!

 

灼熱の嵐が広間を焦土へと変えた―――――。

 

「イッセー…………おまえ…………」

 

「やりすぎです! 私達も危なかったじゃないですか!」

 

鋼弥とリオさんからの抗議!

 

俺もすかさず反論する!

 

「防御魔法陣張ってたよね!?」

 

「張りましたよ! でも、もう少しで燃え尽きるところでした! 余波でこれってどんな性能ですか!?」

 

うぉっ!?

リオさんがお怒りだ!

 

どんな性能といわれましても…………イグニスだし。

 

あのピンチを脱するにはイグニスさんの力がてっとり早かったんだよね…………。

ま、まぁ、皆が一ヵ所に集まってて、全員で防御に徹してくれたおかけで使えたんだけど…………。

 

余波で魔法陣が燃え尽きそうになりましたか…………。

やっぱ、イグニス半端ねぇ…………。

 

「でしょ☆」

 

「あんっ………いつの間に後ろに!? って、胸を揉まないでくださいっ! ふぁぁっ」

 

あ、いつの間にか実体化してたイグニスがリオさんのおっぱい揉み始めた…………。

ガッツリ揉み揉みしちゃってる…………。

 

…………なんて羨ましい!

 

「そんなこと言ってる場合か!? やるなら今だぞ!」

 

鋼弥に言われて、振り返ると―――――ボロボロのガブリエルがそこにいた。

 

全身が焼け焦げ、かなりのダメージを負っているようだった。

 

《なんです…………今のは…………!?》

 

さっきの炎に巻き込まれたか。

流石のガブリエルもイグニス姉さんの力には抵抗すら出来なかったらしい。

 

それでも持ちこたえたのは流石としか言いようがない。

 

回復の呪文を唱えているが、回復が遅い。

 

―――――やるなら今だ!

 

俺達は一斉に飛び出すと、ガブリエルに連撃を加えていく!

 

木場とアルスさんの剣戟がガブリエルを貫き、後衛のリオさん達が魔法、魔力による攻撃を食らわせる。

 

鋼弥が跳躍し、両手に気を溜めて――――真紅に染まる。

 

真覇裂空波(しんはれっくうは)ッ!」

 

波動弾が放たれて、ガブリエルに直撃すると大きく後退した!

 

鋼弥が叫ぶ!

 

「今だ! イッセー!」

 

「おう!」

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

加速した倍加が俺の気を一気に高める。

 

 

キィィィィィィィィィンッ!!

 

 

甲高い音が俺の右手から鳴り響き、赤い光が周囲を照らす―――――。

 

「くらいやがれぇぇぇぇぇ!! アグニッ!」

 

放たれた極大の閃光がガブリエルを覆った―――――。

 

 

 

 

皆の連続攻撃、トドメとして俺の全力のアグニを受けたガブリエルの肉体は回復せず、崩壊し始めていた。

 

全身に亀裂が入り、そこから赤い光が漏れだしていた。

 

《なんという……おぞましき力。我らが敗北するなんて……、神よ……この者たちに罰を……》

 

ガブリエルは崩壊しながらも、自分達の神に何かを訴えかける。

自分の敗北が信じられない、そんな表情だ。

 

鋼弥が言う。

 

「罰か。罰を受けるのは関係ない人達を自分勝手に巻き込もうとしたおまえ達だ。―――――滅びろ、ガブリエル」

 

《…………ッ!!》

 

鋼弥の言葉に反応するガブリエルだが、既に何かをする力は残っていない。

 

ガブリエルは何かを言おうとして、そのまま塵と化した。

 

俺は鋼弥に言う。

 

「ようやくか」

 

「ああ。ガブリエルは『我ら』と言っていた。つまり、他の二体もカタがついたんだろう。後は―――――」

 

もし、本当にウリエルとラファエルが倒されたとするなら、三人の異形の天使を倒したことになる。

 

そして、敵は四人―――――。

 

《三人の天使を倒すか……ならば、このミカエルが引き受けよう》

 

低い声音が響く。

その言葉と共に激しい熱風が巻き起こった。

 

現れたのは一体の異形。

 

両腕は頭についており、付け根には爬虫類の目。

両耳には短剣を模したピアスを付け、口からは炎が漏れている。

頭の回りには緑色の鱗を持つ蛇がうねっていた。

 

鋼弥が言う。

 

「大天使ミカエル。―――――異形の天使共の親玉だ」

 

 



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異形なる天使 ⅩⅠ

VSミカエル!


「大天使ミカエル。―――――異形の天使共の親玉だ」

 

鋼弥の言葉に緊張が高まった。

 

目の前にいる異形。

あれが俺達が倒してきた天使の親玉。

四大天使を束ねる者。

 

「あれが向こうミカエルさんね………。俺が知ってる人とは大違いだ。こっちのは美青年だってのに」

 

「何度も言ってるが別物だぞ、あれ」

 

「分かってるって。名前だけ同じで全くの別人。見た目も性格も全然違うし。つーか、同一人物って言われた方が信じられねぇよ」

 

「だろうな」

 

そんな会話を交わしながら俺と鋼弥はミカエルを見据える。

 

炎を纏う異形の天使。

 

かなりの熱量があるのか、離れているのに焼けてしまいそうだ。

鎧を纏っていても肌にチリチリきやがる。

 

鋼弥が言う。

 

「大天使ミカエル。おまえの翼、折らせてもらうぞ」

 

《貴様らだけで、このミカエルを倒せると? 舐めてくれるな、悪魔よ。他の天使達と同じようにいくと思うな》

 

ミカエルのオーラが膨れ上がり、火の粉が辺りに舞う。

 

確かに親玉だけあって、纏うオーラも放つプレッシャーも半端じゃない。

明らかに相対した他の三人の天使よりも強い。

 

《汝らにも見せてやろう。かつて悪魔たちが天から地獄へと堕ちるその光景を》

 

ゴウッと熱風が広がり、辺りが炎で赤くなる。

 

すると――――――。

 

 

ズンッ! ゴゴゴゴゴゴ…………!

 

 

床が大きく揺れ、地響きのような音が広間に響き渡った!

 

何事かと辺りを見渡すと、広間の壁が移動し始めていた。

装飾の施された白く壁が奥へと進み、広間のスペースが広くなっていく。

最終的に二倍………いや、それ以上の広さとなった。

 

そして、異変は更に起こる。

 

移動した壁からヌゥッと何かがすり抜けてくるかのように現れる。

頭から胴体、足とその姿を露にしたそれは異様な雰囲気を持つ天使だった。

その数は無数とも言えるほどで、あっという間に広大な広間を埋めつくし、俺達を囲む。

 

天使と判別できたのは背中に白い翼があったからだ。

それ以外では、人の形をしているものの、まるでロボットのような姿をしている。

鋼色の顔に鋼色の四肢。

中には腕が四本ある者も。

それぞれが槍や剣、弓を手にしていて、濃密な殺気を俺達へと向けていた。

 

一言で言うなら、機械天使って感じだな。

 

リオさんが目元を険しくする。

 

「まずいですね。完全に囲まれました」

 

「一体一体は大したことなさそうだが………数が厄介だぞ、こいつは」

 

「しかも、ミカエルが控えている。流石にこれは厳しいぞ」

 

望紅さん、アルスさんが得物を構え、頬に冷や汗を伝わせた。

 

その時だった―――――。

 

 

ドッガァァァァァァァァン!

 

 

いきなり、広間の巨大な扉が爆砕した!

粉々になった欠片がこちらにまで飛んでくる!

 

「な、なんだぁ!?」

 

全員が驚愕に包まれる中、もうもうとする煙の向こうに複数の影が見えた。

 

突風が吹き、煙をかき消す。

 

そして、現れたのは―――――。

 

「おいおいおい! 派手すぎるだろ! ちったぁ、加減しろよ!」

 

「良いじゃない別に。どーせ、敵地のど真ん中なんだし、この方が意表を突けるでしょ?」

 

「いやー………流石にこれはやり過ぎかと」

 

現れたのは強制転移で別の場所へと飛ばされていた美羽達だった!

 

つーか、今のアリスの仕業かよ!

吸血鬼の時もそうだったけど、本当に豪快だよね!

ゼノヴィアか、おまえは!

 

「むっ、再会早々にその言い方は酷いぞ。私はもっと派手にやるさ」

 

「再会早々に人の心読まないでくれる!? つーか、派手になるんかい!」

 

「パワーで切り開くのが私だからな」

 

ダメだ!

やっぱり、脳筋だよこいつ!

分かってたけども!

 

珠樹さんがこちらに手を振る。

 

「やっほー、鋼弥。そっちは無事?」

 

「敵に囲まれて危機的な状況ではあるが、何とか無事だ。そっちも何とかなったらしいな」

 

「まぁね。………それにしても、えらく多いわね。増えた?」

 

「ああ。ミカエルが現れたと思えば、兵士共が続けざまに出てきたのさ。早速で悪いが働いてもらうからな? この数は俺たちだけじゃ、きついからな」

 

「りょーかいっと」

 

応じる珠樹さんは剣を引き抜き、周囲の機械天使に向けた。

俺達を囲んでいた機械天使の意識も後ろの美羽達にも向く。

ちょうど二つに分断された形だ。

 

《我らに刃を向けるというならば……幾らでもかかってくるがよい。幾憶の刃が迫ろうとも、我が尽く返り討ちにしてくれようぞ》

 

ミカエルの言葉に機械天使の軍勢が動き出し、俺達へと迫り来る。

波のように押し寄せる大軍は怒号のような叫びと、武器を掲げ進撃してきた。

いくら広間が広大な空間と化していても、これだけの数に押し寄せられれば狭く感じる。

 

この大軍を前にして、鋼弥は、

 

「イッセー、やれるな?」

 

「あったりまえだろうが!」

 

俺達は互いに笑みを浮かべ――――――

 

「「やれるもんならやってみろよォォォォォォォ!!」」

 

赤と銀のオーラを纏って、嵐のように駆けていく!

 

俺は鎧を天武に変えて、全出力を正面の敵に向けた!

一転突破だ!

他の敵は皆が何とかしてくれる!

だったら、俺は皆に背中を任せて突き進む!

 

「ミカエル! てめぇらの企み! ここで、俺達が断ち切る! 俺が! 俺達が破壊する!」

 

「その通りだ!」

 

俺は前面の機械天使共を天武のパワーで凪ぎ払い、鋼弥は跳躍して、空高く飛び上がる。

 

すると、鋼弥の体に変化が訪れる。

 

「俺も全力でいかせてもらう」

 

―――――銀のオーラが更に膨れ上がる。

 

銀色の髪がざわめいたと思うと、腰よりも下の位置まで髪が伸びた。

更には体中に何かの紋様らしきものが浮かび上がる。

 

「オーバードライブ。俺の切り札その一だ。まだ不安定だからあまり使いたくなかったけどな」

 

俺と鋼弥―――――赤き龍と銀の修羅がミカエルの前に立つ。

 

後ろでは美羽やアリス、リオさん達が機械天使の軍勢と戦っている。

轟く轟音と絶叫。

数で圧倒してくる機械天使共を仲間達は互いの背中を預けて、押し返していた。

 

そんじゃ、俺達もいきましょうかね!

 

俺と鋼弥は猛スピードでミカエルへと突っ込む。

俺達が得意とするのは肉弾戦。

超至近距離で己の拳を叩き込む!

 

「「まずは一発!」」

 

左右から挟み込むようにミカエルへと浴びせる拳。

 

それをミカエルは周囲に漂わせる蛇を動かして受け止めてしまう。

拳、蹴りを幾度も放つが堅牢な蛇の守りがミカエルを守りきる。

 

恐ろしく硬い蛇だ。

しかも、反応が速く、こっちの攻撃を難なく防いできやがる!

 

刹那、俺と鋼弥の頭上に無数の光剣が出現した!

 

《天軍の剣》

 

降り注ぐ、光の雨!

 

横に飛んで直撃は避けるが、光剣が床に刺さった瞬間に弾け、その爆発に俺達は巻き込まれてしまう!

 

衝撃だけでこの威力かよ………!

 

舌打ちする俺だが、ミカエルの追撃がやって来る。

 

《神の業火》

 

ミカエルの炎が放たれ――――――地から幾つものの炎柱が巻き起こる!

灼熱の炎が辺り一帯を地獄へ変えた!

 

「あんのやろ、無茶苦茶しやがる!」

 

「奴は自分達の敵になる者には容赦ないからな。おまけに手段は問わない。………だからこそ、ここで倒す!」

 

俺はミカエルの攻撃を避けながら、辺りを見渡す。

 

床にはさっきの炎に巻き込まれた機械天使の残骸が転がっていた。

これでかなりの数が減った………と思ったら、また壁から出てきやがる。

 

どうやら、この戦いが終わるまで無限に出てくるらしいな。

そして、終わらせるにはミカエルを倒す必要があるか。

 

「ああ、もう! ウザい!」

 

「全くね!」

 

機械天使の軍勢と戦いながら舌打ちするのはアリスと珠樹さん。

二人とも槍と剣を振るって機械天使を次から次へと斬り倒しているが、無限とも思える数に参っていた。

 

他のメンバーも同様だ。

 

「ったくよ、こちとらミカエルボコりにきたんだぜ? 雑魚に用はねぇっての」

 

アザゼル先生が手を上にかざすと上空に光の槍が無数に展開され、先程のミカエルの攻撃のように機械天使へと降り注ぐ。

一本一本に濃密な光力が籠められていて、突き刺さった機械天使達はその一撃で消えていく。

 

流石は元堕天使総督。

前線は退いてもその腕は鈍ってない。

 

しかし、だ。

この圧倒的な物量。

しかも、限られた空間で攻められるのは辛いものがある。

 

「早いとこ決着をつけねぇとな!」

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

倍加の音声が鳴り響く!

 

手元に濃縮した赤い弾を作り出し――――――

 

「鋼弥ァ! 受け取れぇぇぇぇぇ!」

 

弾を殴り付けた!

放たれた赤い弾は光の軌跡を描いて鋼弥へとぶち当たる!

 

『Transfer!!』

 

譲渡の音声が鳴り、鋼弥のオーラが一気に膨れ上がる!

 

「これなら、いけるか!」

 

飛び出す鋼弥。

俺もそれに合わせるように前に出る。

 

《それしきの力で図に乗るな》

 

「それしきの力かどうか、確かめてみるか?」

 

繰り出される鋼弥の回し蹴り。

その蹴りは譲渡によって爆発的に高められた気が練り込まれていて、ミカエルの防御を崩しにかかる。

 

堅牢な守りを見せていた蛇が苦悶の声をあげた。

 

そこへ、飛び込むのは俺だ。

 

鋼弥の重い一撃で怯んだ隙に懐に入り込む!

蛇の内側、それはミカエルの防御の下!

 

がら空きの顔面に赤いオーラを乗せた一撃をぶちかます!

 

「ぜぇぇぇぇぇあっ!」

 

赤い一撃がミカエルの顔面にめり込み、そのまま吹き飛ばす!

 

そこからは俺と鋼弥のコンビネーション!

互いの格闘技術を合わせて攻撃を放つ!

 

天武による拳が、オーバードライブの蹴りがミカエルを確実に追い詰める!

俺と鋼弥の全力がミカエルに大きなダメージを追わせていく!

 

《くっ! 悪魔が、我を傷つけるなど!》

 

ミカエルの目が妖しい輝きを放つと、俺と鋼弥の周囲に巨大な火柱が巻き起こる!

 

完全に囲まれたか!

 

すぐに脱出しようとしたが、ミカエルの方が僅かに早い!

 

《たかだか、二匹の悪魔が我を倒そうなど…………身の程を知れ!》

 

凄まじい熱波が俺達を襲う!

灼熱の炎が刃となって、切り刻んできた!

 

「ガァァァァァァ!」

 

獣ような悲鳴をあげる俺達。

 

俺は鎧を砕かれ、生身に少なくないダメージを負う。

鋼弥も体の表面を焼かれ、かなりの火傷を負ってしまった。

 

「イッセーさん! 鋼弥さん!」

 

後方からアーシアが回復のオーラを送ってくれる。

淡い緑色の輝きが俺達の傷を癒してくれた。

 

アーシアの回復を受け、すぐに立ち上がる俺達。

 

傷が癒えても、俺達の表情は厳しいものになっていた。

 

「アーシアも皆の回復でかなりの消耗をしてる」

 

「ああ。それにミカエルの一撃は一発一発が強力だ。こちらには回復の手段があるとはいえ、喰らえばかなりの消耗をする」

 

ミカエルもかなりのダメージを負ってはいるが、まだまだ健在。

 

見ると、ミカエルの周囲に火の玉が漂い始めていた。

おそらく、先程のラッシュを受けて、接近戦を警戒しているのだろう。

俺達を近づけさせないつもりだ。

 

すると、

 

「イッセー………。ミカエルの隙を作ることはできるか?」

 

鋼弥がそう訊いてきた。

 

「………それは一人で、か?」

 

「ああ」

 

「中々に難しいな………。だけど、手がない訳じゃない。ただし、こいつは連発できないぞ? やるなら一発勝負だ」

 

あれを使えば、初見の奴なら大抵の場合で驚愕し、隙を生む。

しかし、それを使えば俺にはほとんど後がない。

 

まぁ、最近の修行で改善しつつはあるけどさ。

 

俺の答えに鋼弥はニッと笑みを浮かべた。

 

「十分だ。こっちもこれ以上、時間をかけるつもりはない。――――――一撃で決める」

 

一撃、か。

 

鋼弥のこの笑みは相当な自信があるからだろう。

だったら、俺はそれまで粘りますかね。

 

「そんじゃ、頼んだぜ!」

 

「おう!」

 

俺は全身のブースターからオーラを噴出させてミカエルとの距離を一気に詰める!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

倍加した力を手元に集め―――――

 

「アグニッ!」

 

極大の光の奔流を放つ!

ミカエルは炎の壁で防ぎきるが、俺はもう一発アグニを放ち、炎の壁を崩しにかかる!

 

《貴様………ッ!》

 

「どうしたぁ! 懐ががら空きだぜ! はぁぁぁぁぁっ!」

 

鋭い連撃を撃ち込む!

天武のパワーをフルに発揮して、ミカエルの肉体を破壊する!

 

「アスカロン!」

 

『Blade!!』

 

籠手からアスカロンの刃が現れる。

俺はアスカロンに赤いオーラを乗せて――――――ミカエルの蛇を絶ち斬った。

 

周囲への影響を考えない、下手すれば仲間を巻き込むかもしれない嵐のような戦い方。

 

だけど…………!

 

籠手のブースターが大きく展開。

灼熱の炎が巻き起こる!

 

「シャイニング・バンカァァァァァァァ!」

 

『Pile Period!!』

 

ミカエルの顔を掴んだ俺の手が爆発し、ミカエルの体が炎が包み込む!

 

しかし―――――

 

『我に………貴様ごときの炎など………通じぬ!』

 

肉体に深刻なダメージを負いながらも、まだ向かってきやがる!

 

シャイニング・バンカーをくらってこのダメージか!

どれだけ頑丈なんだ!?

 

いや………もしかしたら、他の三体のように何か………そう、炎に対しての耐性があるのかもしれない。

その耐性のおかげで今のを乗り切ったと考えるべきか。

 

『ヌゥゥゥゥッ! 悪魔龍ごとき、我が炎で燃やし尽くしてくれるわ!』

 

俺を囲むように極大の炎の塊がいくつも現れる。

とんでもない熱量だ。

鎧を纏っていても、直撃を受ければ燃やされそうだ。

 

『消え去るがいい!』

 

炎の塊が一斉に襲いかかる――――――その瞬間。

 

俺は天翼(アイオス)に鎧を変えた。

同時に肉体が赤い粒子と化す。

 

―――――量子化だ。

 

《なっ………に!?》

 

目を見開き、驚愕するミカエル。

 

それが最大の隙となる。

 

「十分だ、イッセー。これでこちらもとっておきを出せる」

 

鋼弥が叫んだ瞬間、鋼弥の足元に召喚の陣が描かれる。

魔法陣から光………聖なる力が溢れ出しているけど、不思議と痛みを感じない。

溢れ出す光は光の柱となって、鋼弥の体を包み込む。

 

そして―――――――

 

「アルトリア・ペンドラゴン!」

 

その名を呼んだ瞬間、光の柱が砕け散った。

 

現れたのは――――――。

 

青いドレスに白銀の甲冑を纏った、雄々しき金髪碧眼の女性剣士だ。

右手に剣、左手には槍を握っている。

 

ん………?

んんんんんんんんんん?

 

鋼弥が………女の子になったぁぁぁぁぁぁぁ!?

 

「鋼弥さんが女の子になってますぅ!」

 

アーシアの驚く声!

平行世界組以外のメンバーは目が飛び出るくらい驚いていた!

 

だって、鋼弥が女の子になってんだもん!

 

ドルキーが機械天使を殴り飛ばしながら言う。

 

「あれが、鋼弥の能力だ。契約を結んだ仲魔の姿になる『業魔化身(デモニアックチューナー)』だ。しっかし、また新しい仲魔と契約結んだのかよ! すげーな、おい!」

 

そう言うドルキーはどこかハイテンションだ。

 

鋼弥――――――金髪碧眼の女性騎士は光輝く剣をミカエルへと向ける。

 

『大天使ミカエル。終わりにしましょう。あなた方の言う千年王国など誰も求めていません』

 

剣の輝きが増し、この空間を満たすほど光が放たれる。

光の柱、聖なる力の塊だ。

 

触れれば消しとなれそうなほどの光の濃度。

 

それが全てミカエルに向けられていた。

 

《ぬぅ! 千年王国を否定するかぁぁぁぁぁぁ!》

 

ミカエルが空へ飛びあがると、巨大な炎の塊が出現した!

直径は二十メートルはある。

あまりに大きい炎の塊が俺と鋼弥………いや、あの規模で放たれれば、この広間にいる全員が危ないな。

 

「鋼弥………? えっとなんて呼んだらいい?」

 

『アルトリアで良いですよ』

 

「そっか。…………最大出力でいくぜ」

 

『ええ。―――――終わらせましょう』

 

俺と女性――――――アルトリアは互いに頷くと眩い光と紅蓮のオーラを放ち始める。

 

俺はギリギリの体力でアスカロンを構えると、展開したフェザービットをアスカロンの刀身と合体させる。

完成するのは刀身が二メートルほどの大剣だ。

 

あくまで疑似だ。

本家はこんなところでは撃てないからな。

 

アスカロンにイグニスの力を流し込んで、ビットで制御…………いける!

 

俺とアルトリアは剣を空にいるミカエルに向ける。

 

そして―――――

 

《エクスカリバァァァァァァァァァッ!》

 

「疑似ロンギヌス・ライザァァァァァァァァァ!」

 

眩い光は天井をぶち抜き、空を覆う。

ミカエルは炎の塊ごと、極大の光に呑み込まれた――――。

 

 

 

 

「はっ…はっ…はっ………ふぅ」

 

両膝に手をついて息荒げる俺。

 

『大丈夫ですか?』

 

「あ、あんまり大丈夫じゃないかも………」

 

かなりの力を使ったからなぁ。

立っているのがやっとってところだ。

 

アルトリアの体が輝くと、その形を変える。

光が止むとそこにいたのは元の鋼弥だった。

 

「こっちも限界だ………。オーバードライブにさっきのだしな」

 

鋼弥もなんとか立ってはいるが、無理をしているのは明らかだ。

二人ともフラフラだな。

 

視線を後ろにやると、今もなお、機械天使達との戦いは続いていた。

数は減っているようであまり変わっていない。

 

「もしかして、この繭を潰さない限り続くとか?」

 

「可能性はあるな。少し回復したら俺達も参戦しよう。今のままだと足手まといにしかならない」

 

鋼弥がそう言った時だった。

 

空から何かが落ちてきた。

血を撒き散らし、蠢く何か。

 

――――ミカエルだ。

 

《お、おお……おおおおお……。まさか、我ら四大天使が滅ぶというのか………。忌々しき……悪魔どもに……》

 

全身にヒビが入り、赤い光が漏れていた。

 

ガブリエルの時と同じだ。

ミカエルも最期の時を迎えようとしている。

 

「あんたらの救済なんか、この世界にも鋼弥たちの世界にも必要ない」

 

「おまえも唯一神に与えられた使命から解放される。永久の眠りにつけ」

 

俺達の言葉を聞いてなのか、急速にミカエルの崩壊が進む。

 

これで終わりだ。

後は繭を破壊して――――――。

 

俺達の思考が次へと移りだした、その時だった。

 

《ヌゥゥゥゥ…………ワレラガマケル………? アリエヌ、ミトメヌ………ワレラハカミノタメニ………ウ………オォォォォォォォォォォォォォォォォッ!》

 

崩壊し、既に塵と化していたミカエルがこの世の者とは思えぬ絶叫をあげた!

 

もう力なんて残っていないはずなのに、叫びだけでこの圧力………!

 

「ミカエル! てめぇ、この期に及んで何をする気だ!?」

 

後方のアザゼル先生がミカエルに問う。

 

すると、俺達の前方――――――ミカエルがいた場所に赤い塊が浮かび上がった。

ドクンッドクンッと脈打つそれは心臓のようにも見える。

 

脈打つ心臓を中心に外部から赤い粒子が集まり、胴体、足、腕、そして頭を形成する。

 

それは………人の形をしていた。

身長は二メートルほどで、人としてはやや大きいが、あるべき場所にあるべきものがある。

しかし、人と呼ぶにはあまりにおぞましく、体の表面は筋肉の繊維のようなものが剥き出しだ。

 

頭部から翼が生え、背中、肩からも翼が生える。

メキメキと軋むような音が聞こえたと思うと、背中から腕が四本現れた。

シルエットとしては腕が六本あることから阿修羅に近い。

 

黒一色の瞳から血のようなものが流れ、頬にあたる場所に赤い筋が出来た。

 

漆黒の瞳が俺達に向けられる。

 

《ユルサヌ………ミトメヌ…………。キサマラアクマゴトキワレラガ、ケシテクレル。ワレラヨンダイテンシハヒトツトナリテキサマラヲメッシヨウ》

 

異形の天使達の狂気が動き出した――――――。




というわけで、ミカエル戦でした!

ラストはMr.エメトさんのストーリーと変えてます。
こちらで勝手にやっちゃいました!

次回はイッセーと鋼弥が…………(Mr. エメトさん、ごめんなさい! かーなーりーやらかします!)

多分、次回がラストになると思います~


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異形なる天使 ⅩⅡ

Mr. エメトさん、ごめんなさい…………!
やっちまいましたぁぁぁぁぁぁぁ!



《ユルサヌ………ミトメヌ…………。キサマラアクマゴトキワレラガ、ケシテクレル。ワレラヨンダイテンシハヒトツトナリテキサマラヲメッシヨウ》

 

黒い、どこまでも黒一色の瞳。

憎悪と怒り。

どす黒い感情が渦巻く瞳は俺と鋼弥を捉えていた。

 

この底冷えするような感覚………!

最後の最後でとんでもねぇやつが出てきやがった!

 

しかも、こいつから感じられる気は…………。

 

「ラファエル、ウリエル、ガブリエル、そしてミカエル。四人の天使が融合したのか! なんてしぶとい………いや、執念か? 千年王国建設に対する執念。それを阻む俺達への怒りがこいつらが一つになった理由………か?」

 

鋼弥が驚愕すると共に考察を述べる。

 

執念…………。

確かにそうかもしれない。

 

こいつらの千年王国とやらへの執念は異常だ。

自分達の神を信仰する者達を迎え入れて、それ以外を始末するという狂気としか思えない国の建設。

唯一神が滅んでも自分たちが代わりに執行するという性質の悪い考えもそうだけど、ここまでくるとその神を無視して暴走しているとしか思えない。

 

狂気の塊、その全てが俺達へと向けられる。

 

《オォォォォォォォォォォォォッ!!!!!》

 

四大天使の融合体から凄まじいオーラが吹き荒れる!

あまりの圧力に吹き飛ばされそうになる!

 

俺と鋼弥は何とかして踏ん張るが、後ろにいた機械天使達は耐えきれず、吹き飛ばされていった!

 

ドルキーが叫ぶ。

 

「あの野郎、敵味方関係なしか!」

 

「おそらく、彼らに仇なす敵………私達を排除するためには手段を選ばないということでしょう! しかし、この力はあまりに禍々しい………!」

 

フィーナさんもこの圧力に耐えながら、叫んだ。

 

咆哮が止み、嵐が止まると目の前の異形は禍々しいどす黒いオーラをたぎらせていた。

 

軋むような音を出しながら、背中に生えた四本の腕が動き出す。

それぞれの手に闇が集まり、それは槍となった。

俺達の身長を遥かに越える長大な剛槍だ。

 

筋肉の繊維のようなものが剥き出しの腕で異形の天使は剛槍をくるくると軽々しく回す。

それだけで地面が抉れ、壁にヒビが入った。

 

異形の天使が不気味な声を発する。

 

《ワレハメルカバー。カミノセンシャトナリテ、ナンジラヲハイジョスル。―――――ワレラニアダナスモノ、ホロブベシ》

 

異形の天使―――――神の戦車、メルカバーとやらが腰を屈める。

 

その瞬間、奴の姿が消えた!

 

「ぐはっ!」

 

後ろから悲鳴が聞こえる。

 

振り替えるとドルキーが壁に叩きつけられていた!

 

なんだ今のスピードは!?

全く見えなかった!

 

メルカバーがドルキーの首を掴み、その手に力を入れ始める!

あの野郎、そのまま首を折る気か!

 

「そのバカを離しやがれぇぇぇぇっ!」

 

望紅さんが拳に炎を纏ってメルカバーを殴り付ける!

 

彼女の全力、食らえば大抵の奴は吹き飛ぶ程の威力なのは見て分かる。

 

しかし、メルカバーは何事も無かったかのように、まるで虫でも見るかのような目で望紅さんに視線を移す。

 

《ゲセンナモノメ、ワレニフレルナ》

 

「っ! ………ガッ!」

 

メルカバーはドルキーの体を振り回して、望紅さんに叩きつける!

二人は宙でもつれ合いながら、反対側の壁に激突した!

 

二人は崩れるようにその場に倒れ伏してしまう!

 

一撃かよ………!

 

「ちぃっ! とんだ化け物が出てきたもんだぜ! あー、クソッ! ファーブニルとの契約切らなきゃ良かったぜ!」

 

アザゼル先生が空に無数の光の槍を展開する。

堕天使総督の全力の攻撃が動きを止めるメルカバーへと降り注ぐ!

 

周囲ごと破壊する体規模な光の攻撃!

 

普通ならこれで消し飛ぶが…………。

 

「総攻撃だ! 俺だけじゃ倒しきれん!」

 

先生の声に応じて、全員が攻撃を仕掛ける。

 

滅びの魔力、雷光、魔法のフルバースト、飛ぶ斬戟、気弾がメルカバーへと襲い掛かる。

 

「ドラゴンの力を解放するわ!」

 

カナンさんがそう叫ぶと、彼女の体から強いドラゴンのオーラが噴き出した!

もしやとは思ってたけど、カナンさんはドラゴンの力を宿していたのか!

 

カナンさんら息を大きく吸うと、口を開き―――――

 

「ドラゴンブレスッ!」

 

青白い炎が吐き出された!

吐き出された炎は未だ総攻撃に曝されるメルカバーに直撃する!

地面が大きく抉れ、メルカバーの背後にあった壁が難なく破壊された!

 

全員の攻撃が止み、残ったのは破壊された壁の瓦礫と、巨大なクレーター。

もうもうと煙が立ち込めて、奴の姿は確認できない。

 

しかし―――――

 

「っ! 皆、後ろに飛べ! 来るぞ!」

 

俺がそう叫んだと同時にそれは起きた。

 

広間の床を囲むように巨大な火柱がいくつも立ち上がった。

そして、破壊された天井の方では触れれば切り裂かれるような吹雪が吹き荒れていた。

 

灼熱の地と極寒の空が俺達を包み込む!

 

「あいつ、あの天使共の能力の全てを持っているのか!」

 

「気を付けてください! ガブリエルの能力には―――――」

 

リオさんが警戒するように呼び掛けるが、それは間に合わない。

 

メルカバーの握る槍から螺旋状のものが出現する。

目を凝らすとそれは一つ一つが黒い文字で出来ていた。

 

そう、あれはガブリエルの能力の一つ。

 

あれに触れれば――――――。

 

「受難告知か! あれに触れたら即先頭不能になる! 絶対に触れるな!」

 

「なにそれ!? どういうことよ!?」

 

「あれに触れたら最後、体を蝕む呪いが発動する! 解除するには術者を倒すしかない! しかし、今のあいつは…………!」

 

鋼弥が険しい表情でアリスに説明する。

 

ガブリエルは何とか倒すことが出来た。

しかし、四大天使の融合体であるメルカバーはそのガブリエルよりも遥かに強い。

 

今、この場で受難告知を食らってしまうとそのメンバーを守りながら戦わないといけない。

メルカバー相手にそれは辛すぎる!

 

皆が黒い文字から逃れようと後退するが、炎の壁に阻まれ、上に飛ぼうとすれば極寒の空に退路を絶たれてしまう。

 

そして、ついに黒い文字に捕まる者が出てしまった。

 

―――――アリスが膝を着いた。

 

「な、に………これ………!? 体が………!」

 

手が震え、次第に全身がガクガクと小刻みに震え始める。

顔色も悪くなり、槍でも落としてしまった。

 

そんなアリスの元にメルカバーが歩み寄る。

 

《マズハオマエダ》

 

極太の槍を振り上げ、切っ先を倒れるアリスへと向ける!

 

させるかよ…………!

 

「てめぇの相手は俺だぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

フラフラの体で天武の鎧を纏うと同時に領域(ゾーン)に突入!

俺の視界から色が消える!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

『Ignition Booster!!!!』

 

全身のブースターからオーラが爆発し、今出せる最高の加速を生み出した。

 

全身が悲鳴をあげるのを無視して、俺はアリスを庇う形でメルカバーの前に立った――――――。

 

「い、イッセー………?」

 

「お………う、無事か…………?」

 

消え入りそうな声でアリスに返す。

 

血塗れのアリス。

でも、それはアリスの血じゃない。

 

俺の血だ。

 

メルカバーの槍は鎧を砕き、俺の腹を深々と貫いていた。

 

槍が引き抜かれると、夥しい量の血が吹き出した。

 

「ゴブッ………」

 

力なく倒れてしまう俺。

 

そんな俺にメルカバーは容赦なくトドメをさそうと動き出す。

 

《キエロ、ケガレタアクマリュウ》

 

メルカバーが槍を振り下ろす。

 

しかし、俺を再び貫くことは無かった。

 

「イッセーくんはやらせないよ!」

 

「ここから先は僕達が引き受けましょう!」

 

木場とタオくんが槍を弾き、高速で仕掛けていく。

それに珠樹さん、アルスさん、フィーナさんと前衛組が続いた。

 

前衛メンバーがメルカバーの意識を俺から離している隙に鋼弥が俺とアリスを回収。

後方のアーシアの元まで運んでくれた。

 

「アーシア、こいつの回復を頼む。アリスの方は呪いが続く限り回復は見込めない。だから、ここで休ませておく」

 

「はい!」

 

鋼弥の指示でアーシアが俺を即座に回復させてくれる。

 

俺の傷が塞がったことを見届けた鋼弥は木場達と交戦するメルカバーに視線を戻す。

 

「さて、奴とどう戦うか………。この炎の壁がある限り、後退は出来ない。かといって、このまま戦うには厳しい相手。ここまでの化け物が出てくるとはな…………!」

 

自身も体力を回復させながら、有効な手を探しだす鋼弥。

 

今のままでは真正面から戦うのは辛い。

アザゼル先生もいるが、それでも厳しいだろう。

 

リアスが必殺技を放つ準備をしているが………。

この戦闘の中、あれを滅しきる程の力を溜めようと思うとリアスの限界を越えた力が必要になる。

仮に撃てたとしても、そこで倒せなければ、その後が厳しくなるか………。

 

「ここはもう一度、アルトリアを………いや、他の仲魔の力で…………」

 

鋼弥がメルカバーを睨みながら、戦況を変えるために思考を張り巡らす。

 

鋼弥がどれほどの仲魔と契約をしているか知らないから、何とも言えないところだが…………。

 

―――――仲魔?

 

待てよ…………もしかしたら…………。

 

「アーシア、俺と鋼弥の体力を出来る限り回復させてくれ。出来るか?」

 

「やってみます! 鋼弥さんもこちらへ来てください」

 

「こちらのアーシアは体力回復魔で出来るのか?」

 

「ほんの僅かですが、可能です」

 

アーシアはアスト・アーデに渡った影響なのか、傷だけでなく、僅かになら体力も回復出来るようになった。

あれからも修行を続け、回復能力を高めているアーシアなら、ある程度はいけるはず………。

 

アーシアの回復を受けながら、鋼弥は俺に訊いてくる。

 

「イッセー、何か思い付いたのか?」

 

「ああ。ほとんど賭けに近い。下手すりゃ、即アウトだけどな」

 

俺は深く息を吐く。

 

そして――――――。

 

「鋼弥、俺と契約しろ」

 

「なっ!?」

 

よほど予想外の返事だったのか、鋼弥は目を見開き、絶句する。

 

しかし、直ぐに冷静な表情となって聞き返してきた。

 

「本気か? 仮に契約しても奴を倒せる程には…………」

 

「分かってる。俺がしたいのは少し違う。まぁ、調整はなんとか俺がしてみるし、鋼弥も気を扱えるだろ? それを利用してだな―――――」

 

俺は思い付いたことをそのまま話した。

 

正直、馬鹿な提案だと思う。

失敗したらアウトだと思うし、仮に成功してもその後でどうなるか分からない。

 

それでも―――――。

 

一通り説明し終えたところで、鋼弥はふむと顎に手をやり、考え込む。

 

そして、

 

「了解した。馬鹿みたいな提案、成功する可能性も低い…………が、面白い。乗ってやるよ」

 

俺達は互いに笑みを浮かべた。

 

――――――さぁ、反撃の始まりだ。

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

《ソノテイド、ワレニツウジルトオモッタカ?》

 

「ぐぁぁぁぁぁぁっ!」

 

竜巻のごとき吹き荒れる灼熱が僕達を焦がしていく。

 

アザゼル先生や平行世界組といった強力な力を持ったメンバーでさえ、四大天使の融合体、メルカバーには手も足も出ない。

 

メルカバーの背中から生える四本の腕、それぞれに巨大な槍が握られている。

その槍の一本一本に四大天使の能力が付与されていて、灼熱の炎、絶対零度の冷気、触れるもの全てを焦がす雷、何物をも切り裂く風の刃が僕達を苦しめていた。

 

攻撃を防いだとしても、余波だけでこちらを傷つけてくる。

 

闇の獣と化したギャスパーくんが停止させようとしても、直ぐに停止を解き、無数の闇の獣が食らいつこうともものともしない。

 

圧倒的な破壊力、堅牢すぎる防御力が確実に僕達を追い詰めていた。

 

「ハァァッ!」

 

残像を残しながら、僕はメルカバーへと斬りかかる。

 

しかし、僕の振るった聖魔剣をメルカバーは人差し指と中指だけで受け止めていた!

 

《カルイナ》

 

槍が振るわれ、僕の脇腹を貫いていく。

 

イッセーくんの鎧を容易に破壊したんだ。

防御力が乏しい僕には必殺となる一撃。

 

僕は剣を落とし、その場に崩れ落ちた。

 

 

その時だった―――――――。

 

 

赤い光と銀色の光がこの一帯を照らしたのは。

神々しい輝きを放つ、その中心にはイッセーくんと鋼弥くんが立っていて、二人は拳を合わせていた。

 

「用意は良いな、イッセー!」

 

「ああ、いつでもいけるぜ!」

 

「神の戦車とやらよ! 随分好き勝手にやってくれたな!」

 

「滅ぶのはおまえだ! 俺達がおまえを滅ぼす!」

 

二人の放つ輝きが強さを増す。

二つの光は徐々に重なり、色を混ぜていく。

 

そして、目が眩むほどの光が弾けた!

 

「この光………! あの二人は何をしようってんだ!?」

 

アザゼル先生の言葉はこの場に立つ皆の代弁だった。

 

この状況下で彼らは一体なにを…………?

様々な疑問が僕達の中で渦巻いていた。

 

光が止み、一つの影がメルカバーの前に降り立つ―――――。

 

 

『よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

 

 

 

現れたのは一人の青年だった。

 

赤いメッシュが入った腰まである長い銀髪。

全身には何かの紋様。

両手には赤い龍の籠手。

 

その青年の顔は誰かに似ていて…………。

それも見覚えのある――――――。

 

メルカバーが口を開く。

 

《ナニモノダ?》

 

相変わらず不気味な声。

 

しかし、明らかな変化があった。

自分の前に降り立った青年の力の異質さを感じ取ってのことなのか、僅かにだけど、声に緊張があるように感じられた。

 

赤いメッシュの入った銀髪の青年は不敵に笑む。

 

『おまえが一人にはなったから、こっちも一人になってやったのさ。俺は赤き勇者でも、銀のハンターでもない。俺は――――――おまえを滅ぼす者だ』

 

 

赤と銀のオーラが世界を照らす―――――――。

 

 

『――――さぁ、決着をつけようぜ』

 

 




次回でラストとなります!(多分!)


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異形なる天使 ⅩⅢ

ラストバトル!


[三人称 side]

 

赤と銀の眩い光が空間を照らす。

 

四大天使の融合体―――――神の戦車メルカバー。

圧倒的な力を振るう異形の天使の前に降り立ったのは、一人の青年。

 

赤いメッシュが入った長い銀髪。

体には悪魔の刻印が刻まれ、両手には赤い龍の籠手。

 

青年は神ではない。

それなのに神のごとく神々しいオーラを放ち、静かに、それでいて圧倒的な力を見せつけている。

 

『待たせたな、皆。後のことは俺に任せてくれ』

 

青年はいつものように(・・・・・・・)話しかける。

 

メルカバーによって浅くはないダメージを負った珠樹が重たい体を引きずりながらも口を開いた。

 

「鋼弥……なの? でも、イッセーの力も感じる………。あなたは一体―――――」

 

何者なのか。

敵なのか味方なのか。

どういう存在なのか。

 

答えは出ている。

だが、理解が追い付かない。

それはこの場の全員、アザゼルでさえ、目の前の現状を理解できずにいる。

 

青年はふっと笑む。

 

『俺は兵藤一誠でもなければ、涼刀鋼弥でもない。異形の天使を滅ぼす者。そして―――――おまえ達を守る者さ』

 

「―――――っ!」

 

いつもの(・・・・)声だった。

 

二人の声が混じって聞こえるため、いつも通りではない。

しかし、いつものように安心し、信頼できる声だった。

心から信頼できる仲間の――――――。

 

青年は仲間一人一人に視線を送ると、体の向きをメルカバーに戻す。

 

『ケリをつけるぜ。これ以上、俺の仲間を傷つけさせねぇ。これ以上、この町で好き勝手にさせねぇ』

 

《ワレヲタオスツモリカ? タカダカアクマゴトキガユウゴウシタトコロデ、ワレニトドクハズ――――――ガッ!?》

 

メルカバーは最後まで言うことが出来なかった。

 

凄まじい勢いで放たれた拳打がメルカバーの顔面を捉え、吹き飛ばしたからだ。

 

床面を抉り、壁に衝突してもなお、勢いは止まらない。

 

止まったのは壁を完全に突き抜け、外に放り出された後。

それも、全身からオーラを放って急ブレーキをかけることでようやくだ。

 

《ナニッ………!?》

 

今までの余裕が一瞬にして消え去る。

メルカバーには青年の動きが見えなかったのだ。

 

口元からは血が滲み出ている。

どんな攻撃を受けようともものともしなかった堅牢な守りが一撃、たった一撃で突破された。

 

メルカバーからすれば、それは信じられない事実。

受け入れられない事実だった。

 

なぜなら――――――青年が自分を、神の戦車たる自分を遥かに上回る存在であることを示しているからだ。

 

そんなメルカバーの心の内などどうでも良いといった様子で青年はメルカバーを殴り付けた拳を閉じたり開いたりして、感触を確かめていた。

 

その手はメルカバーへと向けられ―――――挑発するような動きを見せた。

 

『来いよ、神の戦車さんよ。その程度で終わりじゃねぇだろ? 俺がおまえの願望ごと粉々にしてやるよ』

 

強者の笑み。

油断などではない。

これは余裕からくる笑み。

 

青年の笑みにメルカバーは体を振るわせた。

歯が軋むほどに噛みしめ、荒ぶるオーラを撒き散らす。

 

《ワレガオクレヲトッタ………? フザケルナ………! ミトメヌ…………! ワレハミトメヌ………! ズニノルナヨ、ケガレタアクマゴトキガァァァァァァァァ!》

 

握る槍に炎、氷、風、雷が宿る。

四大天使の属性が付与されたのだ。

 

怒りに呼応して、それぞれの属性が大きく膨れ上がり、嵐を巻き起こす。

 

メルカバーは怒りのまま、宙を蹴って、青年に飛びかかる。

圧倒的な速度、誰もが見失う程の速さで青年に迫り、巨大な槍を振るった。

目にも映らぬ速度で振るわれる槍は周囲を破壊しながら青年めがけて振るわれる。

 

一誠であっても見切れない連撃。

 

しかし、青年は腕組みをしながら、その全てを捌いて見せた。

 

『おせぇよ』

 

反撃に出る。

 

 

トゴォォォォン!

 

 

重量のある物体が破壊されるような音が響く。

青年の膝蹴りがメルカバーの顎を捉えたのだ。

 

メルカバーがよろめいたのと同時に、高速の拳を叩き込み、大柄な体をくの字に曲げる。

 

ついにメルカバーが膝をついた。

 

《ナゼダ………!? ナゼ、ココマデノチカラガ………!》

 

全くもって理解不能。

融合して力を上げたとしても、なぜここまでの力を有しているのか。

メルカバーには理解できなかった。

 

青年は不敵に笑む。

 

『神器は想いに応じて進化する。俺は兵藤一誠と涼刀鋼弥、二人の戦士の強い想いによって生まれた存在だ。―――――仲間を守る。単純だが、想いの力は半端じゃない。それが俺の力の根元だ』

 

青年は一誠と鋼弥の合体。

 

それを可能にしたのは鋼弥が業魔化身(デモニアックチューナー)という特殊な能力を持っていたことと、一誠が気の扱いに長け、過去にない力を有していたことによる。

一誠が鋼弥と仮契約を結び、肉体の繋がりを強めた上で二人の肉体を気に昇華。

完全に合わさることで誕生したのが赤と銀のオーラを有する一人の戦士。

 

青年は膝をつくメルカバーに向けてハッキリと告げた。

 

『千年王国だが、なんだか知らねぇが、てめぇの執念なんぞに俺が負けるかよ』

 

メルカバーは青年を漆黒の瞳で睨み付ける。

 

《ヌゥゥゥゥゥ! ワレニハイボクハナイ! オォォォォォォォォォォ!》

 

天地を揺らす咆哮と共にメルカバーは再び、青年へと突貫する。

 

しかし、メルカバーもただ突っ込むわけではない。

灼熱の海で周囲を囲み、青年の手足を氷付けにした。

青年の逃げ道を塞ぎ、動きを封じたのだ。

 

《ソレデキサマハウゴケマイ!》

 

槍の一つが切っ先に風の刃を纏う。

全てを斬り裂く神の風。

そこに雷が乗せられ、破壊力を底上げされた。

 

少しでも触れれば青年とて塵一つ残らないだろう。

 

槍の先端が青年の胸を真っ直ぐに貫く―――――はずだった。

 

槍が青年の体には触れる直前、青年の体は赤と銀の粒子と化して消えた―――――。

 

目を見開くメルカバー。

 

すると、背後から声が聞こえてくる。

 

『言ったろ? 俺は兵藤一誠と涼刀鋼弥の合体だってな。そしたら、二人の技を使えるとは思わないか?』

 

量子化―――――一誠の持つ回避系の技。

肉体を気に昇華してあらゆる攻撃を回避できる。

つまり、手足を氷付けにしたとしても青年には意味をなさない。

 

そして、

 

『一誠の技を使えるということは鋼弥の技も使えるということだ!』

 

青年は瞬時にメルカバーの懐に入り、がら空きの脇腹に掌底を撃ち込む。

 

真覇衝閃撃。

鋼弥が会得している真覇流の技の一つ。

覇気や闘気"によって、相手の内部にダメージを与え貫く技。

 

青年の一撃はメルカバーを内部から破壊する。

 

そして、青年は紫色の光剣を造りだし、居合いの構えをとった。

神速の斬撃がメルカバーの腕を斬り落とす。

 

四本の槍が腕と共に地に落ちた。

 

『死戯斬爛閃―――――。こいつは鋼弥が持つ悪魔としての力だ。とりあえず、そのうざったい槍は使えなくさせてもらう。これで互いに腕は二本ずつだな』

 

《オノレ、オノレオノレオノレオノレオノレェェェェェェェ!》

 

メルカバーの顔が憤怒に歪む。

 

刹那、メルカバーの体に異変が起こる。

 

急に腕が二回りも太くなったのだ。

続いて足、その次に胴体。

そして頭。

 

身長が二メートルほどで大柄な人間サイズで留まっていた肉体は、ついに本物の化け物と言うべき巨体へと変化した。

 

身長でいえば、四メートル。

腕や足など、青年の胴の二回り以上ある。

 

真っ黒な目玉の中央には禍々しく光る赤色の瞳。

 

『まだ力を残してやがったか。神の戦車ってのは伊達じゃないってことだな』

 

メルカバーの変異に青年は初めて構えをとった。

赤と銀のオーラを纏い、バチバチと火花を散らす。

 

対するメルカバーも濃密な闇のオーラを纏い、青年と対峙する。

 

《キサマハ………! キサマダケハ………! ワレラニアダナスダケデナク、ドコマデモグロウシテ………!》

 

『てめぇらが自分の都合で動くからだろ。巻き込まれる人達のことも考えやがれ。正直、悪魔よりも悪魔してるぜ? なぁ、化け物』

 

《キサマァァァァァァァァァ!》

 

巨木のような豪腕が振り下ろされる。

 

青年は宙に飛んで回避するが、青年がいた場所ニは巨大なクレーターが裂き、周囲ごと陥没させた。

 

『おいおい、こいつはちょいとヤバイな。………皆はこの場から離れろ! 美羽!』

 

「あ、は、はい!」

 

『おまえは強力な結界を張って、皆を守れ! いけるな?』

 

「うん、わかった…………えーと、お兄ちゃん?」

 

『今はおまえの兄であって兄でない…………まぁ、元に戻った一杯ハグするから、心配すんな!』

 

親指を立ててニッコリと笑う青年。

その笑顔は間違いなく一誠の顔で、

 

((((うわぁ、シスコンも受け継いでる………))))

 

ドルキーを中心にした平行世界組メンバーの思いは一致した。

アザゼル達はやれやれといった表情で、どこか諦めている。

 

珠樹が何か心配した様子で呟いた。

 

「あれって、イッセーのシスコンが鋼弥に移るとかないわよね?」

 

「いやぁ、流石にそれは…………。妹いないし………」

 

「でも、兄貴がいるだろ」

 

「あ………」

 

「「「「そっか! ブラコンか!」」」」

 

『てめぇら、人が戦ってる時に何考えてんだぁぁぁぁ! つーか、絶対ないわ、ボケェェェェェェ!』

 

青年のツッコミが炸裂。

ちなみに今のは青年の中の鋼弥の叫びだったりする。

 

巨大な化け物と化したメルカバーが見た目にそぐわないスピードで青年を追いかけてくる。

 

拳が振るわれ、青年を襲う。

 

《オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!》

 

『チッ、思った以上に強くなってんな。つーか、そのでかさでこのスピードかよ。本格的に化け物じゃねぇか』

 

繭から飛び出し、上空で繰り広げられる格闘戦。

二人の拳がぶつかるたびに衝撃波が生まれ、空を揺らす。

 

先ほどまでの一方的な戦いとは違い、今の二人の力は拮抗…………いや、僅かにだが、メルカバーが上回り始めていた。

少しずつ、それでも確かに拳を交えるたびに重い衝撃が伝わってくる。

 

(どうなってやがる…………? 時間が経つごとに力が上がってる…………)

 

怪訝に思う青年。

 

すると、驚くべきものが青年の視界に映る。

 

―――――先程までいた繭が光の粒子となって、メルカバーに取り込まれていたのだ。

 

『そうか! そういうことか! 繭そのものを取り込んで力を引き上げているのか!』

 

《フネハアラタメテツクレバイイ。マズハワレラノショウガイトナルキサマヲコロスッ! ワレラノチカラノマエニチルガイイ!》

 

メルカバーのオーラが急激に増大する。

 

メルカバーは掌を合わせて、そこに黒い塊を造り出す。

黒い塊は膨れ上がり、直径五十メートルほどの大きさになった。

 

メルカバーの全てをかけた最強の技――――――。

 

《カミノサバキナリ!》

 

黒い塊が空を揺らして、地に落ちてくる。

 

下にはリアス達の姿。

このまま落ちた場合、仲間達は消滅してしまう。

それだけではない。

 

メルカバーの全力は外の世界―――――人間界にも甚大な被害をもたらすのは確実だった。

 

『正気か、こいつ…………! とことん歪んでやがる! やるしかねぇか…………!』

 

青年も覚悟を決める。

 

全身の気を高めて右の拳へ全てを集めた。

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB!!』

 

倍加の音声が流れ、青年のオーラが爆発する。

 

右手に宿る気は龍の形となった。

いわゆる東洋のドラゴン。

右の拳に頭、青年の体に細長い胴体が巻き付いている。

 

気が限界を越え、最高の状態になった時、青年は空を駆けた。

 

『メルカバー! てめぇの願いが叶うことはない! 今ここで! おまえを消し去るからだ!』

 

《キエルノハキサマダ! ワレラハワレラノリソウ、センネンオウコクヲツクリ、カミヘササゲル!》

 

黒い塊と、龍の拳が衝突する。

その余波で、空が大地が悲鳴をあげ、破壊の嵐が巻き起こった。

圧倒的な強者同士のぶつかり合いは、それだけで周囲に甚大な被害をもたらす。

 

『ちぃ………! あんまり長続きさせるわけにはいかねぇか! ドライグ、気合いいれろよ!』

 

『えぇい! 相棒なのかそうでないのか分かりにくい! 早く終わらせるぞ! やりにくい!』

 

『そんな理由か!? まぁ、いい! 元に戻ったら、いつも通りのおっぱいドラゴンだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

 

『それは嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

 

青年の叫びとドライグの悲鳴が交じる。

 

その時、黒い塊にヒビが入った。

 

『あとは力任せに…………貫けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

 

その叫びと共に黒い塊は完全に砕け散る。

 

そして――――――。

 

その勢いのまま、龍の拳がメルカバーの巨体を貫いた――――――。

 

《オォォ…………。ワレガ…………ワレガ…………ホロビル? センネンオウコクハ…………カミハ―――――》

 

それがメルカバーの最後の言葉だった。

 

ぽっかり空いた胸の穴からヒビが広がり、全身から赤い光を放つ。

これまでの四大天使同様に、メルカバーも空へ消えた。

 

こうして異形の天使達は完全に滅ぼされた―――――。

 

 

 

 

嵐のような戦いを終え、青年は仲間の元に降り立った。

 

メルカバーの消滅と共に繭の残骸もきれいさっぱり消え去っていた。

 

アザゼルが言う。

 

「マジで倒しやがった…………。つーか、よく合体なんて考えたなイッセー。まぁ、それに乗った鋼弥もあれだが…………」

 

『まぁ、倒せたんだから、その辺りはいいじゃないっすか』

 

「いや、それはそうなんだが…………」

 

アザゼルはそこで言葉を止めた。

 

何を言っても無駄だと思ったからだ。

 

 

―――――こいつら二人とも究極のバカだ。

 

 

合体なんて成功するか分からない、しかも、その後どうなるかも分からないことをやってのける。

メルカバーを倒すためだとはいえ、あまりに危険すぎる賭けだ。

 

珠樹が顎に手を当てながら言う。

 

「今のあんたって、鋼弥でもイッセーでもないんでしょ? なんて呼んだらいいの?」

 

『ん? 特にこれといった名前はないけど…………』

 

「イッセーと鋼弥だから…………イッコーとか?」

 

『俺はオカマか!? 却下だ!』

 

あまりに残念すぎる名前に青年は深くため息を吐く。

 

『名前は別にいいよ。どーせ、今回限りだし』

 

「ふぅん? まぁ、それもそうね。ところで、元に戻る方法は分かってるの?」

 

『あ…………』

 

「あ…………? って、あんたまさか…………」

 

珠樹が目元をひくつかせる。

 

青年は舌をペロッと出して―――――

 

『ヤベッ…………どうやって戻るんだろう?』

 

「「「「うん、やっぱりおまえらバカだ!」」」」

 

全員の意見は見事に一致した。

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

翌日。

 

俺達オカ研メンバーとアザゼル先生は平行世界組を見送っていた。

 

「もう少しゆっくりしていっても良いんだぞ? 部屋空いてるし」

 

「心遣いはありがたいけど、依頼を果たしたことを報告しなければいけないんだ。それに、元の世界に帰りを待っている人がいるからな」

 

俺の問いに鋼弥はそう返してきた。

 

結論から言うと、俺と鋼弥は割りとすんなり元に戻れた。

合体した時の逆の手順を辿ったら、無事に分かれることが出来た。

 

何とか危機を乗り越えることが出来たけど、男と合体するのはもういいかな…………。

合体するなら美羽達としたい…………。

 

「そ、それじゃあ…………今晩、合体しちゃう?」

 

美羽が上目使いで訊いてきた!

 

今晩ですか!

マジですか!

 

そんな可愛い表情で言われると、是非とも合体したくなってしまう!

 

つーか、さりげに心読んできたよ!

 

「ズルいわ、美羽! イッセーも! 私もイッセーとなら、いつでも…………」

 

はぅ!

リアスが抱きついてくる!

 

いつでも合体していいと!?

 

鋼弥は苦笑する。

 

「こっちのイッセーは本当に正直だな。俺達のところも大概、欲望に忠実だけども…………」

 

「ここのはヘタレじゃないんだよなぁ」

 

ドルキーも半目でそう続く。

 

悪いな、俺はもうヘタレじゃないのさ!

女の子が求めてくるなら、いつでも受け入れる!

 

「あ、そ」

 

「なにその諦めた感じ!? 人の心を読んでおいて失礼じゃね!?」

 

「あー………はいはい。よかったねー」

 

「………ドルキー、ちょっと帰る前に手合わせしね? 一発殴らせてくんない?」

 

「おいおいおいおい! いきなり物騒なこと言うなよ! おまえと手合わせなんざ、誰がするか! 死ぬわ!」

 

遠慮すんなよ、ドルキー。

かるーくやろうぜ。

 

ドルキーが目元をひくつかせていると、鋼弥達の後ろに大きな魔法陣が描かれる。

魔法陣が輝くと、そこに出現するのは人が数人並んで通れる程の穴が出来た。

 

アザゼル先生が興味深そうに見る。

 

「ほぉ、それが平行世界から渡ってきた『道』か。出来れば調べてみたいところだが…………」

 

「悪いな。流石にそこまで時間はないよ」

 

「わーってるって。ま、暇が出来たらまた見せに来てくれ。うちのラボで調べたい」

 

おぉ、アザゼル先生の目がキラキラしてる!

まぁ、平行世界の話をしてたら、平行世界の住人が来たわけだしな。

アザゼル先生の中ではかなりホットな話題なんだろう。

 

「それじゃあ、行くよ」

 

「おう。またな」

 

俺と鋼弥は握手を交わす。

 

短い…………本当に短い間だったけど、俺達の間には確かな絆ができた。

 

平行世界なんて早々に行けるとは思えないけど、いつかまた会えると思う。

 

その時は厄介ごとなんてなければ、最高なんだけどな。

 

 

 

その時――――――

 

 

 

「ひゃぁ!」

 

「ちょっと!」

 

「あ、あのぉ…………」

 

「はぅぅ…………!」

 

「ちょ、どこ触って…………んんっ!」

 

リオさん達、平行世界組の女性陣が可愛らしい悲鳴をあげた。

 

何事かと皆の視線がそちらへ移る。

 

まぁ、何となく分かってたよ…………こうなるのは。

 

「うーん! 揉み足りない! リオちゃん達のおっぱいもう少しだけ揉み揉みさせて♪ やーん、望紅ちゃんのおっぱい、ちっちゃくてかーわーいーいー♪」

 

「ちっちゃい言うなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「おまえは綺麗に終らせることはできねぇのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 駄女神ぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 




と、いうわけで!
初コラボ『異形なる天使』編はこれにて終わりです!

今回、コラボしてくださったMr.エメトさん、ありがとうございました!


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原作世界へDIVE!篇
1話 SF? ジャンル違くない?


前々からリクエストを頂いていたので書いてみました。

異世界帰りのイッセー、原作世界に行く………です!


ある日の放課後。

俺達オカルト研究部はアザゼル先生に呼び出しを受け、旧校舎の地下に作られたアザゼル先生の研究室に来ていた。

 

研究室を見渡しながらリアスが言う。

 

「アザゼル………あなた、また勝手にこんな場所を旧校舎に………」

 

「まぁ、固いこと言うなよ、リアス。旧校舎はオカルト研究部の管理下、そして俺はオカルト研究部の顧問だ。多少のリフォームは良いだろう?」

 

「職権乱用ですね………」

 

全く反省の気持ちが感じられないアザゼル先生の言い分に、深くため息を吐くロセ。

 

この研究室、実はアザゼル先生が勝手に、無断で、いつの間にか作っていたんだ。

何かを計測するであろう機器から、棚にびっしり並べられた薬品、ドライバーやドリルといった器具。

先生は多少のリフォームと言ったが………全然、多少じゃない。

大改造されてるよ、これ。

ビフォーアフターも甚だしいからね、これ。

 

アザゼル先生の行動力(?)に俺達が呆れていると、レイナが先生に訊いた。

 

「アザゼル様………ここのリフォーム代はどこから出したのでしょうか?」

 

ニッコリと微笑むレイナ。

でもね、滅茶苦茶迫力があるんですけど………。

背後に『ゴゴゴゴゴ………』っていうのが見えるんだけど………。

 

レイナの迫力に推されながらも、アザゼル先生は慌てて言った。

 

「お、おおお落ち着け! し、心配するな、一応は俺のポケットマネーから出してるから………って、信用してないな、その目は!?」

 

「信用? いつ、どこで、信用できたことがありましたか? 気づけばサボってるし、いつの間にかグリゴリの資金で変なロボット作ってるし。私の苦労、分かってくれてますよね? これ以上、好き勝手にするようでしたら、私、何するか分かりませんよ? 本当にどうなっても知りませんよ?」

 

虚ろな瞳で迫るレイナ!

怖いよ、怖すぎる!

何をするつもりなんだ!?

というか、病んでませんか!?

どれだけストレス溜め込んでいるんだ、レイナちゃん!?

 

あまりの迫力に俺の後ろでは、

 

「レイナ先輩、怖いですぅ!」

 

ギャスパーが俺の服を掴んでブルブル震えていた。

こいつ、俺を盾にしてやがる!

吸血鬼の町で見せてくれたあの勇ましさはどこに行った!?

 

と、ここで朱乃が前に出た。

 

「まぁまぁ、レイナちゃんも落ち着きましょう。もう過ぎてしまったものは仕方ありませんわ」

 

レイナを宥める朱乃。

自分を庇ってくれたことに感動したのか、先生は口元を抑えて、

 

「あ、朱乃………! おまえ、俺を庇って………! 信じていたぞ、おまえはきっと俺のこと信じて―――――」

 

先生がそこまで言いかけた時だった。

いつもの優しい微笑みから一転、朱乃は目を細めて、

 

「このことは父さまにも伝えておきます。少なくとも勝手に旧校舎を改築したことは怒られてもしかたありませんわよね?」

 

「朱乃ぉぉぉぉぉ! おまえもそっちかよ! つーか、バラキエルにチクるのは止めろぉぉぉぉぉ!」

 

………うん、やっぱり先生には厳しいな。

 

 

 

 

「コホン! ま、まぁ、あれだ。この研究室のことは置いておいてだ。今日、おまえ達を呼んだのは俺の発明品を見てもらいたいからだ………って、なんだよ、その目は」

 

気を取り直して本題に入る先生だったが、先生の言葉に俺達は微妙な反応を見せていた。

 

発明品を見てほしい………か。

正直、嫌な予感しかしないんだよなぁ。

こういうパターンで見せられる発明品に良い思い出がない。

特に俺は性転換銃という黒歴史が………(女性陣は喜んでいたけど)

 

全然テンションの上がらない俺達に先生は舌打ちする。

 

「ちっ、ノリが悪い奴らだ。だが、こいつを見れば、その反応も変わるだろうぜ。なんせ、今回の発明品は超大発明、おまえ達は歴史的瞬間を見ることになるんだからな」

 

歴史的瞬間………?

なんだ?

 

俺は半目で先生に訊いた。

 

「また全自動卵かけご飯製造機とかじゃないでしょうね?」

 

「ちげーよ。まぁ、あれも大発明には違いないが」

 

「否定しろよ!? あれのどこが大発明!?」

 

「大発明だろうが。………人工神器の技術を応用して、卵の白身を取り除き、絶妙な加減の醤油を抽出する。そして、それらをホカホカのご飯へ。最高最強の卵かけご飯が誰でも気軽に作れる夢のマシーンだ」

 

「気軽じゃねーよ! 卵かけご飯に技術使いすぎだろ!?」

 

つーか、人工神器の技術をどこに使ってるんだよ!

もっと他に応用できるところがあるだろ!?

 

すると、俺の横で小猫ちゃんが、

 

「………最高最強の卵かけご飯。ゴクリ」

 

小猫ちゃんが卵かけご飯に興味を引かれているぅぅぅ!

涎出てるよ、小猫ちゃん!

どれだけ牽かれてるんだ!

 

俺のツッコミが続くなか、先生が研究室の奥にある倉庫から何かを持ってくる。

白い布に覆われているので、シルエットが何かは分からないが、大きさはかなりのものだ。

先生は布に手をかけると、

 

「さぁ、世紀の発明を見せてやるぜ!」

 

先生が布を取り除き、覆われていたものが姿を現す。

そこにあったのは―――――。

 

「車………?」

 

リアスがそう呟いた。

 

そう、先生が見せてくれたのは車だった。

しかし、先生が俺に作ってくれたバイクのような近未来的なフォルムではなく、最近のものよりも少し古めのデザインだ。

シルバーの車体の後方には配線剥き出しの装置が取り付けられており、ブースターらしきものもある。

 

この形、どっかで見たことあるんですけど。

あれだよね、これ。

あの映画で有名な奴だよね?

 

俺は車を指差して言った。

 

「先生、これ………デロ(ピー)アンですよね?」

 

「違う、アザリアンだ」

 

「どんな名前!? どう見ても、デロ(ピー)アンですよね!?」

 

「違う。バック・トゥ・(ピー)・ フューチャーなんて見てない」

 

「見たよね!? 絶対にそうだよね!?」

 

「しつけーな、誰もブラウン博士とか知らねーよ。ちなみにこいつはガルウィングだ」

 

そう言って、先生は車のドアを開く。

ドアは一般の車とは違い、縦に開いていた。

 

先生は車のボンネットを叩いて自慢気に言った。

 

「聞いて驚け、こいつはな―――――タイムマシンだ!」

 

「いや、もう丸分かりなんですけど。それ以外だったら逆に驚きますよ」

 

他のメンバーもうんうんと頷いていた。

どうやら、俺と同意見だったらしい。

しかし―――――。

 

リアスが少し興奮ぎみに言った。

 

「タイムマシン! 本当にこれがそうなの!?」

 

アザゼル先生が頷く。

 

「おうよ。ここまで形にするのに苦労したぜ。アスト・アーデに行ったときに色々と文献を見せてもらってな。古い文献の中に使えそうなものがあったのさ」

 

その言葉にアリスが反応した。

 

「えっ、そんなのあったの?」

 

「まぁ、かなり古いものだったしな。それに机上の空論で実際は難しいとされていたものらしい。だが、俺がこれまでに蓄えていた技術を応用すれば何とかなると思って作ってみたのさ。つまり、このタイムマシンは二つの世界の技術の合作と言っても良い」

 

マジか。

つまり、あの世界から帰ってからずっとタイムマシンの製作に着手していたわけね。

タイムマシンなんてものを本当に作ってしまうとは流石というべきか、何と言うべきか………。

 

木場が苦笑しながら言う。

 

「凄いんだけど………ファンタジーな存在のアザゼル先生がSFって、変な感じだよね」

 

「それは思った」

 

堕天使のアザゼル先生がタイムマシンを作る。

もう少し世界観を考えてほしいものだ。

いや、オカルト研究部的にはOKなのか?

SFってオカルトの範囲なのかは知らないけど。

 

小猫ちゃんが先生に問う。

 

「本当に動くんですか?」

 

すると、アザゼル先生は少し困り顔で言った。

 

「実はな………そこなんだよ。動くことには動く。中にロボットを乗せて試運転したところ、過去に戻り、無事に帰ってきた」

 

試運転をロボットでしたって………。

この人、本当に聖書に記された堕天使なんだよね?

SF出身の人じゃないんだよね?

 

しかし、と先生は続ける。

 

「だが、遡れる時間が限られているのと、一回の使用にかなりのエネルギーが必要でな。ぶっちゃけ、何度も使う予算がない」

 

「ぶっちゃけましたね………。遡れる時間はどれくらいなんですか?」

 

「大体、一週間から二週間ってところだ。今の技術ではそこが限界なのさ」

 

なるほど、遠い過去は無理だけど、それくらいなら遡れるってことか。

だけど、それでも凄いことだと思う。

 

ふむふむと感心していると、アザゼル先生がニッと笑んだ。

 

「おっ、イッセー。興味津々って感じだな」

 

「そうですね。タイムマシンって、誰もが一度は憧れるものだと思いますし。俺も小さい頃はアニメ見ながら欲しいと思ってましたよ」

 

「そうだろう? タイムマシンってのは男の憧れだよな? どうだ、乗ってみたいか? 今なら過去旅行がタダで出来るぜ?」

 

「良いんですか?」

 

俺が聞き返すと先生は頷いた。

 

「ま、正直なところ、実際に人を乗せたことが無くてな。誰かで試してデータを取りたかったというのはある」

 

「あ、人は乗せてないんですね」

 

「頼める奴がいなくてなぁ。おまえ達を呼んだのは、こいつに乗って欲しかったというのが本音だ」

 

「教え子を実験台にしようとしてたのかよ!」

 

「まーまー、落ち着けよ。一応、試運転は成功してるんだって。いわば、こいつは最終テストみたいなもんだ。危険もないし、無事に戻ってこられるって。多分」

 

「多分って言ったよ、この人! つーか、なに、勝手に乗せてるんですか!? え、俺確定なの!? 俺が実験台確定なの!?」

 

「そりゃあな。おまえ、愛しの美羽達が犠牲になっても良いのか?」

 

「犠牲!? 犠牲が出るの!? そんなの美羽達にやらせられるか!」

 

「だろ? じゃあ、おまえで決まりだ」

 

「いやいやいや、あんたがやれよ! この未婚オタク元総督!」

 

「このやろ、言いやがったな!? もうおまえで決まりだ! フハハハ! もう発動スイッチは押したぞ! もう誰にも止められん!」

 

悪役みたいな台詞言ってるし!

 

車型のタイムマシン―――――アザリアンにエンジンがかかり、振動する。

すると、目の前にあった壁が開き、長い通路が現れた。

これって―――――。

 

「カタパルトデッキじゃねぇか! あんた、この旧校舎をどれだけ弄くった!? というか、どこに射出されるの、これ!?」

 

「そうだな………遠い過去、までかな」

 

「そんな純粋そうな目をして語るんじゃない!」

 

さ、最悪だ!

このまま、訳もわからずに発車されるの、俺!?

シートベルトで椅子にくくりつけられてるし、このシートベルト外れないし!

誰か助けてくれぇぇぇぇぇぇぇ!

 

「イッセーさん!」

 

心の声が通じたのかアーシアが駆け寄ってくる。

アーシアは涙目になって、アザリアンの窓から俺の手を取った。

 

「イッセーさん、私にはどうすることも出来ません………だから、せめてお守りを持っててください!」

 

「いや、アーシアちゃん。お守りよりも、ここから救いだしてほしいんだけど………って、これなに?」

 

アーシアが握った俺の手に、何か布のようなものが渡されていた。

お守りとか言ってたけど、なんだこれ?

怪訝に思いながら、広げてみるとそれは―――――パンツだった。

間違いない、これはアーシアのパンツだ!

 

「なんで、パンツ!?」

 

「その………ファーブニルさんが教えてくれたんです」

 

 

 

―――――アーシアたんのパンツ、最高のお宝。どんなものよりも価値がある絶対のお守り。これさえあれば、どんなピンチだって乗り越えられる。

 

 

 

「あんの変態龍王ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 俺のアーシアちゃんに何を教えてるんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

確かにアーシアちゃんのパンツはお宝だ!

金髪美少女シスターのパンツなんて清すぎて、聖遺物よりも聖遺物だ!

でもね、この状況で貰っても役に立たないんですよ!

誰か教えてくれよ!

俺はアーシアちゃんのパンツをどう使えば良いんだ!

 

アザゼル先生が時計を見ながら言う。

 

「それじゃあ、発進させるぞ」

 

「マジで!? これで行くの!? 俺、無理矢理、乗せられてパンツ貰っただけなんですけど!?」

 

「イッセー………健闘を祈る」

 

「なんの健闘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

俺のツッコミが届いたのかは分からない。

それでも、アザリアンは発信した。

 

 

 

 

青白い光に呑まれた俺。

見たこともない光景を見ながら進んでいくと―――――暗闇の中に放り出された。

 

「ゲホッゲホッ! んだよ、これ!?」

 

シュゥゥゥ………と辺りには煙が立ち込め、スパークが舞っている。

 

タイムマシンは成功したのだろうか?

過去に送り出されたらしいけど、俺は無事に過去に来ることができたのだろうか?

過去に来られたとしても、俺は戻ることが出来るのだろうか?

色々と疑問があるし、とりあえずアザゼル先生を殴りたい気持ちはある。

 

でもね、その前に叫んで良い?

今気づいたんだけど、俺―――――全裸だったんだ。

いつの間にか全裸で片膝立ちしてたんだよね。

 

「バック・トゥ・(ピー)・ フューチャーというより、ター(ピー)ネーターだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

なんで全裸!?

なんでそんな仕様にしてるの!?

俺の服、マジでどこいった!?

あと、なんで片膝立ち!?

 

「ん? 何か、手に―――――」

 

手に何か感じた俺は掌を見下ろした。

そこに握られていたのはアーシアちゃんのパンツだった。

 

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁ! なんで、アーシアのパンツだけしっかり持ってきてるんだよ! 俺の服は!?」

 

こんなのどうしろって言うんだ!

酷過ぎる!

 

やりきれない気持ちとツッコミをせずにいられない俺は地面を何度も踏んでその気持ちを発散させようとする。

そこへ―――――。

 

 

「何者なの!」

 

 

暗闇に響く女性の声。

振り向けば、そこからは月明かりが差している。

そして、いくつかの影を見つけた。

見覚えのある集団とその先頭には紅髪の女性―――――。

 

「凄まじい波動を感知したわ。あなた、この駒王町に何の用があるのかしら? こうしてこの場所に現れた理由を聞かせてもらうわ。もし、あなたがこの町に害を成そうとするなら―――――」

 

紅髪の女性―――――リアス・グレモリーは凛とした表情で俺に告げた。

 

「グレモリー公爵の名において、あなたを消し飛ばすわ」

 

 

 

………ヤバい!

色々な意味で………ヤバい!

 

 




ダダンダンダダン………ダダンダンダダン………


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2話 パンツをかけた戦い

前回書くのを忘れていました。
異世界帰り側の時系列はファニーエンジェル編の間となります。


状況のおさらいをしよう。

アザゼル先生が作ったタイムマシンに(無理矢理)乗せられた俺。

タイムマシンにより過去に戻ったかと思われたが、なんと俺は全裸になっていた。

しかも、何故かタイムマシンが発進する直前に持たされたアーシアちゃんのパンツだけは手に握られていてだな。

更に悪いことに、タイムトラベルによって生じた波動を感知したこの時代のリアス達が乗り込んできて………。

 

ヤバい、どうしよう。

本当にどうしよう。

かつてない程のピンチだ。

こうしていると、あの映画のあの曲が聞こえそうで―――――。

 

 

ダダンダンダダン………ダダンダンダダン…………チャララ~チャラ~

 

 

「あ、もしもし」

 

着メロ!?

今の着メロだったの、小猫ちゃん!

なぜにその曲!?

俺の状況とピッタリなんですけど、もしかして狙ってた!?

 

リアスが小猫ちゃんを注意する。

 

「小猫、今は任務中なのだから、切っておきなさい」

 

「すいません。先程まで依頼を受けている途中だったので。抜けてきたんです」

 

な、なるほど。

緊急の召集だったために依頼を途中で抜けてきたと。

ゴメンね、小猫ちゃん。

 

リアスは息を吐くと暗がり―――――こちらに向けて言ってくる。

 

「隠れても無駄よ。ここにいることは分かっているの。早く出てきた方が身のためよ」

 

俺はドラム缶の裏に身を潜めているので、向こうから俺の姿は見えていないが………。

 

無理だろ。

俺、全裸だよ?

フルティーンだよ?

出ていった瞬間に変態認定受けて、総攻撃くらうの目に見えてるじゃん。

 

過去の自分達から変態認定とか絶対に受けたくない。

ならば――――――。

 

「逃げようとしても無駄よ。この倉庫の周囲には結界を去り巡らせているもの」

 

ちくしょう!

なんて手際の良さ!

駒王町に潜入してきた英雄派の連中の気持ちが分かっちゃったよ!

なに結界なんて張り巡らしちゃってるのさ!

余計なことしやがって!

 

『言ってることが完全にテロリスト側だな』

 

うるせーよ、ドライグ!

おまえには分かるまい、フルティーンの自分が、過去の自分達に追い詰められてるこの辛さが!

もう泣きそうなんだよ!

身も心も震えてるんだよ!

というか、寒くないここ!?

 

『十二月だからな。あのタイムマシンで遡れる限界は一週間から二週間と言っていただろう?』

 

そういえば、そうでしたね………。

ってことは、あれですか。

十二月の冬真っ只中、極寒の中に俺は全裸で放り出された………と。

 

『………そうなるな』

 

フフフフフ、ハハハハハハ………あんの未婚オタク元総督ぅぅぅぅぅぅぅ!

手羽先にしてやるぅぅぅぅぅぅぅ!

マジでぶん殴ってやる!

天武(ゼノン)どころかEXAを使ってやるぅぅぅぅぅぅぅ!

ついでにレイナちゃんにあることないこと吹き込んでやるからな!

覚えてろよ!?

 

リアスが告げてくる。

 

「返事がないわね。なら、こちらから行くわ。祐斗」

 

「はい」

 

なんか、木場がこっちに来ようとしてる!

俺はドラム缶の裏に隠れながら叫んだ。

 

「やめてぇぇぇぇぇぇ! マジで勘弁して! ちょっと待ってくれても良いだろう!? それくらいの余裕は持ってくれてもいいじゃん! こっちもな、色々とヤバいんだよ! お願いします、三百円あげるから!」

 

「さ、三百円………?」

 

「というかな、今、こっちに来たらおまえ達も後悔するんだぞ! これは俺のためであり、おまえ達のためでもあるんだからな!」

 

確かにお互いの裸は見慣れているのかもしれない。

でもだ、こんな状況で全裸で飛び出すのは精神的にきつい。

もう消えてしまいたくなるだろう。

 

向こうには俺の可愛い妹やお嫁さんがいる。

そんな彼女達に俺のこんな姿は見せられない。

そう、とても大切な彼女達には―――――。

 

「………ん? なんか、数がおかしくないか?」

 

俺は並んでいるドラム缶の隙間から向こうの様子を伺ってみる。

するとだ、リアス、朱乃、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、木場、ギャスパー、ロセ、そして俺はいる。

しかし、美羽やアリス、レイヴェルの姿が見当たらない。

 

この時代が俺のいた時間軸から最大二週間遡っていたとしても、その時には俺は上級悪魔に昇格しているはずだ。

そのため、俺の傍らには眷属である美羽とアリス、レイヴェルもいるはずで………。

 

あともう一つ、不自然な点に気づいた。

それはそこにいる過去の俺について。

………俺の身長、少し低くないか?

リアスと並んだ時の身長差が明らかに小さい。

どういうことだ?

 

そんな疑問を持っていると、向こうにいる俺が言ってくる。

 

「おい、早く出てこいよ! 出てこないのなら―――――」

 

そう言って、向こうの俺は禁手となって鎧を纏いやがった!

しかも、手元にオーラを溜めて、こっちに向けてきやがる!

 

リアスが静かに言う。

 

「十秒だけ待ってあげるわ。それまでに出てこないのなら撃つわよ」

 

せっかちだな、おい!

ま、まぁ、俺が同じ立場なら、似たようなことはするかもしれないけど。

状況的にはテロリストと見られても仕方ないしなぁ………。

 

『そうねぇ。イッセーはテロリストじゃなくて、エロリストだもの』

 

え………イグニス?

おまえ、いたの?

 

『だって、私もイッセーの中にいるじゃない。そこはドライグと同じよ』

 

そういや、そうだな。

ドライグがいるなら、イグニスもいて当然か。

 

「八………七………六………」

 

おぃぃぃぃぃぃぃ!

カウントダウン始まってるよ!

カウント刻まれちゃってるよ!

リアスさん容赦ねぇ!

 

ど、どうする!?

ここは素直に出ていくか!?

流石に攻撃して無理矢理脱出するのはできん!

 

『だが、正体を明かすのはまずいのではないか? ここで相棒が出ていけば、この時代で二人の兵藤一誠が顔を合わせることになる。そうなれば、過去にどんな影響を与えるか分からんぞ』

 

ドライグの言う通りだ。

ここで飛び出しても、二人の兵藤一誠がいるということで向こうもパニックになりかねない。

下手すりゃ、俺の偽物とか思われて、余計に敵意を刺激しかねない。

 

『四………三………二………』

 

ヤバイヤバイヤバイヤバイ!

時間が………!

 

焦る俺にイグニスが言う。

 

『ねぇ、イッセー。良い方法かあるのだけど』

 

マジか!

早く言ってくれ!

向こうももう完全に攻撃態勢入ってるから!

 

『うふふ♪ 大丈夫、簡単なことよ。あなたの持っているものを―――――』

 

………あ、死んだな。

 

 

 

 

「時間ね。撃ちなさいイッセー。この倉庫が壊れない程度にね」

 

「分かりました! ドラゴンショッ―――――」

 

向こうの俺が攻撃をしようとした直前。

 

「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」

 

俺は隠れていたドラム缶の後ろから飛び出して、姿を見せた。

俺の姿を見たリアス達は、

 

『なっ!?』

 

と、目を見開き、驚愕の声を漏らしていた。

その内、アーシアだけは、

 

「キャッ!」

 

と、可愛い悲鳴をあげて、目を両手で隠していた。

 

リアスが目元をひくつかせながら言う。

 

「ど、どんな敵が潜んでいるかと思ったら………まさか変態だったなんてね。女性の下着を頭に被った全裸の変質者が出るなんて思わなかったわ」

 

………泣きたい、というか死にたい。

 

イグニスが提案した内容は―――――アーシアのパンツを被って皆の前に出ることだった。

幸い、ちょうど良いサイズの鉄板があったので、股間はそれで隠せているが………どっからどう見てもただの変質者だった。

 

木場が困った表情で言う。

 

「え、えっと………どうしましょうか、リアス部長」

 

どうもしないでほしい。

出来れば、ただの変質者として放っておいてほしい。

もう、俺のことなんて放っておいてくれ。

 

「でも、ここで高密度の力の波動を感知したのは間違いないことよ。ただの変質者だったとしても、彼は何らかの理由で関与しているはず。油断しないで。何かを隠し持っているかもしれないわ」

 

隠し持つスペースなんてないです。

というより、何も持ってないです。

全裸だもの。

フルティーンだもの。

あれですか、この股間に生えてる銃器を見せろと?

寒さのせいで縮こまってるんですけど。

消滅しそうな勢いなんですけど。

 

ゼノヴィアが頷いて言う。

 

「リアス部長の言う通りだ。あんな変質者だが、佇まいに隙がない」

 

隙だらけなんですけど。

今の俺、防御力ゼロなんですけど。

急所丸見えなんですけど。

おまえは何を見ているんだ、ゼノヴィア。

 

互いが様々な感情を抱きつつ、睨み合う中、小猫ちゃんがボソリと呟いた。

 

「あのパンツ………アーシア先輩の匂いがします」

 

『えっ!?』

 

「………え?」

 

俺が被っているパンツを凝視するリアス達。

そして、体を強ばらせる俺。

確かに、このパンツはアーシアのものだから、アーシアの匂いが残っていてもおかしくはない。

 

アーシアが涙目で否定する。

 

「そ、そんな! 私、ちゃんと履いてますよ!? あ、あと、そんなに匂うんですか!?」

 

はい、良い匂いがします。

ピンチに焦り過ぎて認識できていなかったけど、今嗅いでみると、アーシアちゃんのパンツからはお花の香りがします。

 

ファーブニル………俺はおまえの気持ちが理解できたような気がするよ。

これなら、くんかくんかもするよな………。

 

『相棒の精神が死にかけてるな』

 

ああ、ドライグ。

もうどうでも良くなってきたよ。

どうせ、俺は変質者さ………フッ。

 

ロセが言う。

 

「アーシアさんの香りが残る下着を持っている………ということはアーシアさんの下着を盗んだということでしょうか?」

 

「そういうことになりますわね」

 

「なんてこと! 女性の敵ね! 絶対に許さないんだから!」

 

朱乃、イリナがそう続いていく。

 

変質者の次は下着泥棒の烙印まで押されたらしい。

消えてしまいたい………。

この世に一片の痕跡を残さずに消えてしまいたい。

 

リアスが全身から滅びの魔力を滲ませる。

 

「これはもう滅するのは確定ね。私の可愛いアーシアの下着を盗むなんて、万死に値するわ」

 

向こうの俺がオーラをたぎらせた。

その声音には明らかに怒気が含まれていて、

 

「おまえは絶対に許さねぇ………! アーシアのパンツを返せ!」

 

「すまん、無理だ!」

 

「そこだけ即答かよ!」

 

だって、これ渡したら俺の正体バレるじゃん。

というか、このパンツ、正確には俺がいた時代のアーシアのパンツだからね?

 

グレモリー眷属全員の怒りと殺意が俺へと向けられる。

全てはそう、アーシアのパンツを取り返すため。

彼女達はそれぞれの武器を構えた。

 

『そして、イッセーは股間のハイパーメガランチャーを構えた』

 

構えてないよ!?

やめてよね、この駄女神!

もう寒さにやられて丸くなってるよ!

ハイパーもくそもないわ!

 

こうして、俺は目の前にいるグレモリー眷属達と一戦交えることになった。

 



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3話 二人の兵藤一誠

俺は今、心身共に極限まで追い詰められている。

全裸の上、『兵藤一誠』であるということを隠すためにアーシアのパンツを被ることを強要され、愛する者達―――――リアス達から『変態』『変質者』『下着泥棒』と不名誉な称号と共に蔑んだ目で見られている。

しかも、向こうは俺が被っているアーシアのパンツを取り返すべく、切っ先をこちらに向けてきている。

 

これ程までに悲しいことはあるだろうか?

こんな下らないことで、過去の存在とはいえ、自分や仲間と戦わなければいけないのか?

 

寒い………寒いよ、ドライグ。

心も体も。

 

『十二月だからな』

 

うん、本当に寒い!

もう全身がガクガクしてるんですけど!

 

リアスが訊ねてくる。

 

「大人しく、アーシアのパンツを返すつもりはないのね?」

 

「俺は………このパンツを渡すわけにはいかないんだ!」

 

正体がバレるから!

本当は鎧を纏いたいところだけど、そんなことしたら場が余計に混乱する!

なんとしてでも、この場は乗り切るぞ!

 

俺が鉄板で股間を隠しながら構えると―――――それを合図に戦闘が始まった!

まず飛び込んでくるのは木場とゼノヴィアのダブル騎士!

得物は聖魔剣とエクス・デュランダル!

 

同時に振り下ろされた二人の剣を後ろに後退しながら避ける。

だが、二人は速度を上げて追撃、連続の剣撃で攻めてくる!

 

「のわっ! おまえら、俺を殺す気か!?」

 

避けながら俺が言うと木場が攻撃の手を止めずに返してくる。

 

「主の命令だからね。それに君は僕達の仲間から大切な下着を盗んでいる。それを見過ごすわけにはいかないね」

 

クソッ、相変わらずイケメンフェイスで最もなことを言いやがる!

 

ゼノヴィアがエクス・デュランダルを横凪ぎに振るいながら叫んだ。

 

「アーシアのパンツを返せ、変質者! 生きて帰れると思うなよ。私の親友のパンツを盗んだんだ。このエクス・デュランダルの錆にしてやる!」

 

ぐっ………ゼノヴィアに変質者とこうもハッキリ言われるとは!

ちくしょう、また鬼畜モードを発動してやろうか!?

またエムを開花させてやろうか!?

 

俺は錬環勁気功を発動。

腕に硬気功を使用して、腕の表面を硬化させ―――――その腕でエクス・デュランダルの刀身を殴り付けた!

 

ゼノヴィアが目を見開く。

 

「なっ! デュランダルの刃を弾いた!?」

 

驚くゼノヴィアを横目に、俺は聖魔剣の連撃の合間を縫い木場の懐に入る。

そして、掌底を木場の鳩尾に叩き込んだ!

 

「カハッ………!」

 

後方に吹き飛ぶ木場は空中で回転して、着地する。

手加減したからダメージは少ないはずだが、俺の攻撃を受けて、木場は警戒の色を強めていた。

 

「今の動き………変質者とはいえ、ただ者じゃないということか」

 

「変質者変質者うるせぇよ!」

 

そんなに『変質者』って言葉を連呼しなくても良いだろ!?

俺を泣かせてそんなに嬉しいか!?

精神攻撃のつもりか!?

だったら、効果抜群だよ!

その言葉を投げ付けられる度に心が抉られていくんだよ!

 

「雷光よ!」

 

「氷の槍よ!」

 

朱乃の雷光とロセの氷の魔法!

どっちもくらえば大ダメージだ!

特にあの氷の魔法は今の俺には辛いものがある!

全裸だから!

 

「ちぃ!」

 

俺は右手を突き出して同等の威力を持つ気弾を数発撃ち込んだ。

俺の気弾と二人の攻撃が衝突し、薄暗い倉庫の中で爆発を起こした。

 

なんとか、倉庫を破壊せずに相殺できた………と思った瞬間。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

雄叫びを上げた俺が突っ込んできた!

背中のブースターからオーラを噴出させ、加速の勢いをプラスした拳を放ってくる!

俺は錬環勁気功で身体能力を強化して向こうの俺の拳を受け止めた。

 

「おいおいおい! こんな場所で滅多に鎧を纏うなよ! そんなの俺………おまえが使ったら、辺りが吹っ飛ぶだろうが!」

 

「パワー馬鹿って言われててもな、それくらいのセーブは出来るっての!」

 

………パワー馬鹿?

俺、そんなこと言われたっけ?

魔力量が少なすぎる以外はパワー、テクニック、サポート全てをこなせるオールラウンダーとか言われてたけど………。

 

それに拳を受け止めて分かったんだけど………この俺、錬環勁気功を使っていない。

こいつは純粋に赤龍帝の力で高めた一撃だ。

おかしい、俺が町中で戦うなら禁手は使わずに錬環勁気功による格闘戦に持ち込むはずだが………。

向こうの俺が拳と蹴りを組み合わせて攻撃を仕掛けてくる。

どれも真っ直ぐな攻撃だ。

パワーもスピードもあるが………少々、動きが単純だな。

 

なんだ、この違和感は………?

 

「クソッ! なんで、当たらねぇんだ!?」

 

「そりゃ、攻撃が読みやすいからだろ。おまえ、本気出してるのか? あ、いや、挑発とかそんなんじゃなくて………」

 

俺は向こうの俺の拳を流して、腹に蹴りを入れて吹き飛ばす!

まともに受けた奴は勢いよく吹っ飛び、倉庫の壁に衝突してしまった!

 

リアスが厳しい顔で言う。

 

「祐斗とゼノヴィア、そしてイッセーをこうも軽々と制するなんて………。仕方ないわね、ロスヴァイセ、朱乃。ここを覆っている結界の強化を。イッセー! トリアイナを使いなさい!」

 

「ッ! 分かりました!」

 

リアスの命令を受けた向こうの俺は立ち上がると、オーラを高めていった。

こちらを睨み、ぐぐっと腰を沈めると―――――。

 

「いくぜ、ドライグ! モードチェンジ! 『龍星の騎士(ウェルシュ・ソニックブースト・ナイト)』!」

 

その瞬間、向こうの俺の鎧が変化する。

鎧の各所がパージされ、胴体から、腕から、足から、頭部から鎧が外れていく!

 

見たこともない変化に俺は目を見開いた。

 

「な、なんだそりゃ………!?」

 

驚く俺を無視して鎧を変化させた俺が突っ込んでくる!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!BoostBoostBoost!!』

 

倍加の音声が鳴り響き、奴のスピードが急激にアップした!

 

「速いッ!」

 

避けきれないと判断した俺は真正面から受け止めるが―――――。

 

 

ドンッ!

 

 

凄まじい衝撃が全身に走る!

内蔵にまで伝わった一撃により、俺は軽く吐血した。

 

向こうの俺は強い声で言ってくる。

 

「やっと捕まえたぜ。おまえはこいつで―――――」

 

奴のオーラが再び盛り上がる。

赤いオーラが激しく動き、

 

「モードチェンジ! 『龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)』ッ!」

 

その瞬間、奴の鎧がまたまた変化。

パージされた分の鎧が元に戻り、両腕に大質量のドラゴンのオーラが集結していく。

そして、通常の籠手の倍―――――いや、五、六倍はあろうかという極太の腕になった!

 

さっきの鎧はスピード重視の変化だった。

つまり、今回の鎧は―――――。

 

分厚く、大きくなった左腕が構えられる。

 

「アーシアのパンツを返せぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!BoostBoostBoost!!』

 

極大な左の拳が俺目掛けてぶっ放される!

その場から脱出できなかった俺はその拳を受けて――――――。

 

 

 

 

凄まじい轟音が鳴り響く。

倉庫の中は向こうの俺が放った一撃により生じた衝撃波で全てが吹き飛び、土煙が一帯を埋め尽くしていた。

 

「ゲホッゲホッ………痛ぇ………!」

 

瓦礫に埋もれた俺は咳き込みながら、全身に走る痛みに体を震わせていた。

 

俺の中のドライグが言ってくる。

 

『らしくない油断だったな、相棒』

 

そう言うなよ、ドライグ。

あんなもん見せられたら戸惑いもするだろ。

過去の自分が俺の知らない力を使ったんだぞ?

そりゃ、反応も遅れるだろ。

 

というかね、俺、全裸で戦ってるんですよ。

十二月の真夜中に全裸なんですよ。

片手で股間を隠しながらの戦いなんですよ。

この悪条件のな中、ここまでよく戦ったと思うんですけど。

 

『過去、か。俺はどうにもその考えがおかしいと思い始めている』

 

同感だ。

ここまでに感じた違和感といい、俺の知らない形態といい、過去というにはおかしな点ばかりだ。

俺はタイムマシンに乗ってここに来たことで、ここを過去だと思い込んでいた。

だけど、これって―――――。

 

『ああ。信じがたいが、そう考えると繋がるな。ここは過去ではない―――――平行世界だ』

 

平行世界。

聞いたことがあるな。

簡単に言えば、『IF』の世界。

例えば、俺が白龍皇だったり、悪魔に転生していなかったりする世界だ。

恐らく、ここは俺が俺とは違う進化を果たした世界なのだろう。

あの力………リアスはトリアイナと言っていたか。

 

となると、俺の正体を明かしても問題ないよな?

別に過去に干渉したりしないよな?

 

『多分な。こちらの世界には何らかの影響を残すことになるだろうが、少なくとも俺達がいた世界に影響を出すことはあるまい』

 

………なら話は決まりだ。

 

俺がヨロヨロと立ち上がると、リアスが言ってきた。

 

「イッセーの一撃を受けて、まだ立ち上がれるのね。だけど、もう勝敗はついたわ。大人しく投降しなさい。そうすれば命までは取らないわ」

 

「投降? 悪いが、それは断るよ」

 

「それは、死を選ぶと?」

 

「いいや。だけど、話し合いがしたい。君達が俺の話を信じてくれるなら、俺の無実が証明できるかもしれない」

 

「無実? でも、アーシアのパンツを被っている時点で現行犯だと思うのだけど?」

 

「それを言われるとな………だけど―――――」

 

俺は被っているアーシアのパンツに手をかけ―――――それを取った。

 

 

『なっ………!?』

 

 

俺の素顔を見たリアス達は驚愕の声を漏らした。

そして、そこにいる鎧を纏った俺と、全裸の俺を交互に見始める。

全員がパクパクと口を動かしており、なんと言葉を発すれば良いのか分からないでいるようだった。

 

この場で一番驚いているのはそこの俺だろう。

兜を収納したそこの俺はこちらを指差して、

 

「う、嘘だろ………? お、俺が………?」

 

常に冷静な木場でさえ、

 

「イ、イッセー君が二人………? これはどういうことなんだ?」

 

小猫ちゃんが言う。

 

「イッセー先輩………いつの間にここまで変態度合いが増したんですか?」

 

「小猫ちゃん!? いくら俺でも女の子のパンツを被ったりはしないよ!?」

 

「でも、女性の下着に欲情しますよね?」

 

「そ、それはそれ! これはこれだよ!」

 

なるほど、どうやらこちらの俺もスケベらしい。

そこは何となく安心できるな。

 

リアスが戸惑いを含んだ声で訊ねてくる。

 

「あ、あなた………イッセー? でも、イッセーはそこに………。まさか、イッセーの偽物?」

 

その言葉に俺は苦笑する。

 

「まぁ、そう考えるだろうとは思っていたよ。でも、俺は兵藤一誠だ。紛れもなくね」

 

「嘘よ! 現にイッセーはそこに―――――!?」

 

リアスは俺の左手に現れたものを見て言葉を詰まらせた。

俺の左手を覆う赤龍帝の籠手。

籠手の宝玉が点滅し、ドライグが全員に聞こえる声で言った。

 

『驚くのは無理もないだろう。だが、相棒の言うことは真実だ』

 

俺の籠手から聞こえる相棒の声にこちらの俺が声を発した。

 

「んな!? ドライグ!? なんで、そこに!?」

 

『馬鹿な………! だが、感じるこの力は正しく俺の………!』

 

向こうのドライグも相当驚いているようだな。

まぁ、目の前にもう一人の自分がいるとなれば驚くよね。

 

俺は小さく息を吐くと、言い聞かせるように言った。

 

「俺も色々混乱しているけど、言えることがある。俺はこの世界とは異なる世界―――――平行世界から来た兵藤一誠だ。だから、この場に赤龍帝の兵藤一誠が二人いる」

 

「平行世界の、イッセー………!?」

 

驚きながらも顎に手を当てて考え始めるリアス。

 

いきなり平行世界と言われて信じるかと言われると怪しいところだ。

しかし、こうして赤龍帝の籠手や、宿っているドライグの声を聞いている。

加えて、俺は敵対するつもりはなく、話し合いを申し出ている。

これらを踏まえてリアスはどう判断するか………。

 

暫しの間、思慮した後、リアスは顔を上げる。

 

「分かったわ。あなたの話を聞きましょう。でも、こちらもあなたを信用したわけじゃないわ。だから、最低限の拘束はさせてもらうけど、良いかしら?」

 

「構わないよ」

 

拘束付きではあるが、良い妥協点だろう。

リアスの言葉に他のメンバーも警戒はしつつも、武装を解除していく。

すると―――――。

 

「あ、あの………」

 

アーシアが恐る恐る手を挙げた。

その顔は真っ赤になっていて、どこに目をやれば良いのか分からないようで―――――。

 

そこで俺はハッとなった。

俺の手に握られていたはずの鉄板がなくなっている。

そう、俺の急所を隠していたあの鉄板が―――――。

 

「あ………」

 

『あ………』

 

皆の視線が俺の下半身へ集まっていった。

 

 

 

 

 

『そして、イッセーの股間のサテライトキャノンが起動。白濁のファイナルフラッシュを発射した』

 

起動してないし、発射もしてねぇよ!

駄女神、おまえ、ここのところそればっかだな!

 

 



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4話 パンツ論争もやりました

久々の原作篇!

………タイトルが浮かばなかったんです


極寒の中での戦いを何とか終わらせた俺は、平行世界と思われるこの世界のリアス達と話し合うため、場所を移すことにした。

案内されたのは駒王学園旧校舎にあるオカルト研究部部室だった。

部屋の装飾から、家具のデザインなども含め俺が見知っているものと相違ない。

 

どうやら、この辺りは俺がいた世界と変わらないようだな。

 

俺はリアスに言う。

 

「話を聞く気になってくれて助かったよ。あのままやりあっていたら不味かっただろうし」

 

「ええ。こちらとしても争わずに話し合いで解決できるなら、それに越したことはないわ」

 

「そうだな。ただ………その、少し質問していいか?」

 

「なにかしら?」

 

「この拘束はどーいうこと?」

 

俺は自身に施された拘束に目をやった。

 

 

なんで―――――全裸の上から亀甲縛り!?

 

 

「イダダダダダ! 食い込んでる! 縄が股間に食い込んでるんですけど!」

 

粗めの縄で縛られてるから、少し体を動かすだけで擦れて痛い!

 

リアスが言う。

 

「拘束するって言ったでしょう?」

 

「他にも拘束方法あるだろ!?」

 

「そうなのだけれど………それは縛った朱乃に言ってほしいわ」

 

リアスにそう言われて振り向くとニコニコ顔の朱乃が背後に立っていた!

手に握っている鞭はなんなんですか、朱乃さん!

 

朱乃はSのオーラを滲み出しながら微笑む。

 

「イッセー君の偽者かもしれませんもの。私達を油断させて………ということも考えられますわ。決して逃がさぬよう念には念を、ですわ」

 

「「いや、ちょっと楽しんでますよね、朱乃さん!? 完全に趣味入ってますよね、朱乃さん!?」」

 

俺と、この世界の俺とのツッコミが重なった!

やっぱりそう思うよね!

これ、絶対に楽しんでるよね!

だって、亀甲縛りにする意味ないもの!

他にも魔力で縛るとか色々あるじゃん!

つーか、鞭の他にも火が着いたロウソクも持ち出してるんですけど!?

 

俺は懇願するように叫んだ。

 

「せめて服くらい着させてぇぇぇぇぇぇ!」

 

俺の叫びにリアスは、

 

「ダメよ。なにか隠し持っている可能性があるもの」

 

ゼノヴィアもうんうんと頷いて、

 

「そうだな。凶悪な凶器を隠しているかもしれない。油断はしないぞ」

 

「この状態で隠し持てる場所があると思ってるのか、バカ野郎ぉぉぉぉぉぉぉ! つーか、そこの俺とそこの木場とそこのギャスパー! ツッコめ! この光景に何も思わないのか!?」

 

少し離れたところにいるこの世界の俺こと兵藤一誠と木場、ギャスパーに叫ぶ。

こいつら、もっとツッコめよ!

ツッコミどころ満載だよ!?

俺が知ってる木場なら、もう十回は軽くツッコんでるよ!

 

二人は困り顔で言う。

 

「個人的にはそう思うんだけど………俺達にはどうすることも出来ないよな」

 

「あの状態の朱乃さんは止まらないからね」

 

「僕にはそんなの無理ですぅ!」

 

諦めたよ!

そうですか、ドSモードの朱乃は君達の手にはおえませんか!

えぇい、なんて軟弱なツッコミ精神だ!

俺が鍛え直してくれるわ!

 

すると、アーシアが恐る恐るこちらに歩み寄ってきた。

その手には小さなタオルが握られていて、

 

「あ、あの………せめてこれだけでも使ってください」

 

そう言って、アーシアはタオルをかけてくれた………股間に。

………なんかもう色々と泣けてくるな。

 

リアスが言う。

 

「それじゃあ、あなたの事情を話してもらおうかしら」

 

「えーと………この状態で話しを進めるの?」

 

こちらの世界の俺の問いにリアスは冷静に返す。

 

「イッセー。あなたの言いたいことも分かるわ。だけど、彼はテロリストかもしれない。この町の結界を潜り抜けるだけでなく、あなたの姿をしているの。ゼノヴィアの言う通り油断は禁物。どんな状態であろうとも、最も安全な方法で事情聴取を行うわ。さぁ、話してもらおうかしら。なぜ―――――アーシアの下着を持っていたのかを!」

 

「そこぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

ちょっと待とうか!

この流れは俺がどうして、この世界に来たのかじゃないの!?

 

リアスはそれはもうお怒りの様子で言ってきた。

 

「アーシアは妹同然の存在なの。大切なアーシアの下着を盗むなんて、あなたが何者であっても許されることではないわ!」

 

「そうだ! おまえが敵だろうが味方だろうが、俺の大切なアーシアのパンツを盗んだのだけは絶対に許さねぇ! 正直に白状しろ、おまえはいつ、どこでアーシアのパンツを盗んだんだ!」

 

おいぃぃぃぃぃぃぃぃ!

こっちの俺までそっち側に回っちゃったよ!

君達、俺の目的とかそんなのそっちのけで、アーシアのパンツの方が重要事項なんだね!

まぁ、俺もアーシアのパンツを盗まれたらそうなるかもだけどさ!

 

………ちなみに俺が頭に被っていたアーシアのパンツは、ここに来るまでにリアス達に取り上げられ、今はアーシアが持っている。

 

俺はその件に関して、全力で抗議した。

 

「だーかーらー! そのアーシアのパンツは盗んだんじゃなくて、アーシア本人から渡されたって、さっきも言っただろ!?」

 

「わ、私がですか!? 私、そんなことしてません!」

 

「違うんだ、アーシア! アーシアじゃなくて、俺の世界のアーシアが―――――って、余計に混乱するだけじゃねぇか! まずは俺に喋らせろぉぉぉぉぉぉぉ! ちゃんと順を追って説明するから! あと、アーシアちゃん! そのパンツ返して!」

 

「そ、そんなに私のパンツが欲しいのですか!?」

 

「おまえ、アーシアになんてことを!」

 

「なんて人なの! アーシアのパンツにそれだけの執着を!?」

 

「アーシアさんのパンツは渡さないわ!」

 

「いや、そうじゃなくて! そのパンツ、アーシア本人に返さないとダメなんだって!」

 

「アーシアはここにいるだろ!?」

 

「いやいや、だから、そのアーシアのパンツは俺の世界の―――――」

 

「あなた達! パンツパンツ連呼するんじゃありません! 先生、そういうの許しませんよ!」

 

ロスヴァイセ先生からのお説教だった。

 

それから俺達は『アーシアのパンツ』という単語を連呼しながら、今回の事態における話を進めていった―――――

 

 

 

「あなたの世界のアザゼルが作ったタイムマシンで平行世界である私達の世界に来てしまった。にわかには信じがたい話だけれど………ここは信じるしかないのかしら?」

 

一通りの事情を聞き終えたリアスは顎に手を当てて深く頷いた。

 

ああ………ようやく説明できた。

俺、頑張ったよ。

亀甲縛りされた上に今回の事情説明からアーシアのパンツ論争。

もうね、全身に縄が食い込みすぎてヤバいことになってるからね?

 

こっちの世界の俺がリアスに問う。

 

「本当に信じても良いんですか? こいつが嘘を言っているということは?」

 

「私達は実際に彼の持つ赤龍帝の籠手を見てしまっているもの。それもユーグリット・ルキフグスが使っていたような紛い物ではなく、赤龍帝ドライグが宿る本物をね。ドライグの魂まで複製することは不可能。ということは彼は正真正銘の赤龍帝。ということは本当に、彼は平行世界から来たイッセーになると思うのだけれど。………あぁ、頭がこんがらがってくるわね」

 

深く息を吐くリアス。

改めて状況を整理したけど、余計に分からなくなったって感じかな?

まぁ、いきなり平行世界から来ましたなんて言われても信じにくいか………。

 

すると、ここで今まで黙っていた小猫ちゃんが言った。

 

「私は信じても良いと思います」

 

「―――――っ!」

 

小猫ちゃんの発言に俺は目を見開いた。

小猫ちゃんが俺を庇ってくれるとは!

 

ゼノヴィアが小猫ちゃんに訊ねた。

 

「その根拠は?」

 

その問いに小猫ちゃんは―――――

 

 

「そのイッセー先輩、ことあるごとにリアス部長や朱乃さんの胸を見ていました。その時の目がイッセー先輩と同じでしたから」

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

そうきたかぁ………。

確かに俺は動く度に揺れる皆のおっぱいを見ていた。

だって、そこにおっぱいがあるんだもの。

 

こっちの世界のドライグが訊ねてくる。

 

『まさか………そちらの世界でも俺は乳龍帝と呼ばれてるんじゃあるまいな?』

 

『………呼ばれているさ。ことあるごとに乳だの胸だのな』

 

静かに返すうちのドライグさん。

その瞬間、二人のドライグは全てを察したのだろう。

 

『『う、うぉぉぉぉぉぉん………』』

 

ああ、ドライグ達泣いちゃったよ。

なるほど、今の話を聞くにこっちの世界でも俺は乳龍帝おっぱいドラゴンらしいな。

 

と、ここでこっちの世界の俺が掴みかかってくる。

 

「リアスと朱乃さんのおっぱいは俺のおっぱいなんだぞ! 見るの禁止! 当然、触るのもだ!」

 

「仕方ないだろ!? おっぱいがなかったら俺は生きていけないんだよ! 身も心も荒れてる俺を癒してくれるのは妹かおっぱいなんだよ!」

 

「妹ぉ!? おまえ、妹がいるのか!?」

 

「いるよ! 義理だけどな! つーか、おまえ、妹いないの!?」

 

「いたらこんな反応しねぇよ! ちくしょう、俺も義理の妹が欲しかったよ! まさかと思うけど、『お兄ちゃん』とか呼ばれてるのか!?」

 

「呼ばれてるよ! 毎日な!」

 

「んな!? 羨ましすぎるぞ、この野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

血の涙を流して、肩を激しく揺さぶってくるこっちの俺!

 

ふふーんだ!

俺をこんな目に合わせた罰だ!

せいぜい羨ましがるが良いわ!

 

というか、地味に俺もショックだよ!

こっちの世界の俺に妹いないの!?

じゃあ、もし、俺がこの世界に生まれていたら美羽と会えていないということで………。

 

い、嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

美羽がいない世界なんて、考えられん!

 

「なんで妹がいないんだよ、おまえは!」

 

「そんなこと俺に言われても困るんだけど!? 父さんと母さんに頼めってか!? 頼めるかそんなこと! じゃあ、逆になんで、おまえには義妹がいるんだ!」

 

「異世界から連れて帰った!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

目玉が飛び出そうになるほど、驚くこっちの俺。

辺りを見ると、他のメンバーまで思考を停止させて、呆然と俺を見ていた。

 

「異世界から、連れて帰った………? どういうことかしら?」

 

「かくかくしかじか、まるまるうしうし」

 

「なるほど………そうだったのね」

 

「いや、部長。今ので分かったんですか? というより、まるまるうしうしって………」

 

「彼は次元の渦という現象に巻き込まれて、偶然にも異世界に飛ばされたらしいわ。そこで色々あって戦っているうちに勇者と呼ばれるようになり、最後は魔王と戦い勝利。その魔王から娘を託されて、今は彼の妹になったとのことよ」

 

「今の説明でそこまで濃い内容が!? というか、色々と省きすぎてませんか!?」

 

おおっ、ついに木場がツッコミを!

やはり、こちらの世界でも木場は木場らしい!

ツッコミ要員確定だな!

 

リアスは続ける。

 

「しかも、その異世界で過ごした三年間は、元の世界では一瞬で、今は二十歳らしいわよ?」

 

「「「………」」」

 

再び止まる時間。

どうしよう、今度は皆の視線が痛いんですけど………。

 

こっちの俺が訊いてくる。

 

「あのさ、少し気になったんだけど………学年は?」

 

「………高二」

 

「………うわぁ」

 

「『うわぁ』ってなんだ!? んだよ、その目は!? ガチで引いてるんじゃねぇ!」

 

「い、いやぁ、まさか二十歳で高校生とは思わないじゃないですか。なんというか世間一般的にも………ご近所さんの目とかもありますし」

 

「やめろよ! 今までも色々言われてきたけど、自分に言われるのが一番傷つくんだよ!」

 

「ま、まぁ、俺も別の世界とは言え、自分がそんなことになってるなんて思わなくて………」

 

「『そんなこと』とか言うな! 戸籍上はまだ十七だからセーフなんですぅ!」

 

「それ、自分で言ってて悲しくなりませんか?」

 

「軽く消えてしまいたいくらいにはな! というか、いきなり敬語にするのはやめろ! 余計にグサッとくるから!」

 

なんなんだよ、もう!

なんで、俺はこんな目にあってるわけ!?

いきなりバック・トゥ・(ピー)・ フューチャーやらされたら、ター(ピー)ネーターになってて、変態仮面やらされて、亀甲縛りで尋問された挙げ句に別世界の自分から滅多うちにされて!

 

元を辿れば、元凶はあの未婚オタク元総督。

許せん………今回のはマジで許せん。

次に会ったときは、積もりに積もったイライラと溢れに溢れ出すこの悲しみの全てをぶつけて―――――

 

「すまん、遅くなった。それで平行世界から来たって言うイッセーは―――――」

 

部屋に入ってきたアザゼル先生を見た瞬間、俺は縄を引きちぎり、

 

「ほわたァァァァァァ!」

 

「べぎらまっ!?」

 

飛び蹴りをくらわせた。

 

 



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5話 パンツを被ったという事実

メッッッッッチャ久々の原作篇!

………わ、忘れてたわけじゃないよ?


「痛ってぇな! いきなり何すんだよ!? 俺、なんかした!?」

 

赤く腫れた頬を押さえて抗議するアザゼル先生。

………と言っても、俺が知っているアザゼル先生ではなく、こちら側―――――平行世界(多分)のアザゼル先生だが。

 

俺はこちらの世界のアザゼル先生に謝罪する。

 

「すいません。全ての元凶、諸悪の根源と同じ顔が現れたのでつい………」

 

「謝ってる割には随分な言いぐさだなオイ」

 

いやいや、この気持ちに嘘はないですよ。

確かに同じ顔、同じ人物とは言え、平行世界のアザゼル先生は無実だ。

そんな人に俺は理不尽にも怒りの飛び蹴りをくらわせてしまった。

これは反省しなければいけないことだ。

 

ドライグが訊いてくる。

 

『本音は?』

 

「………実は半分くらいはスッキリしてる」

 

「おいコラ」

 

俺がついうっかり漏らした言葉を嗜めるアザゼル先生。

 

すると、こちらの世界のリアスが俺に言ってきた。

 

「良いのよ。私も少し気持ちがスッキリしたから」

 

「おい、リアス!? 少しは先生を労ってくれよ! つーか、おまえら! なに、しれっと親指立ててんだ! グッジョブじゃねぇよ!」

 

見れば、こちらの世界の俺を含め、アーシア以外のメンバーはとても爽やかな表情で親指を立て、『よくやった!』と目で俺に言ってきていた。

 

ふむふむ、どうやら、平行世界でもアザゼル先生はアザゼル先生らしい。

こっちでも俺達はアザゼル先生のしでかすことに振り回されているようだ。

恐らく、こちらの世界でも俺は実験台として使われているのだろう。

 

「俺………皆とも仲良くできそうだ」

 

「「「「よろしくね!」」」」

 

「おまえら、俺を媒介に仲良くしてんじゃねぇ!」

 

アザゼル先生の叫びを他所に、俺達は固い握手を交わした。

 

 

 

 

「平行世界から来たイッセー………。しかも、異世界で勇者になって元の世界に帰ってきた? 異世界の魔王の娘も連れて? 更にはその娘を妹にしたと? なんだなんだ、こっちのイッセーも滅茶苦茶だな」

 

遅れて入室してきたアザゼル先生にこれまでの経緯を説明した。

どうやら、俺が平行世界から来たことよりも異世界に渡っていた点に思考が持っていかれているらしい。

まぁ、確かに俺自身、無茶苦茶だとは思うけど。

そもそも、各神話でも未知とされていた異世界に、元々は普通の日本人だった俺が渡ったのは色々とおかしい………というか謎過ぎる。

 

アザゼル先生の言葉にこちらの世界の俺が言う。

 

「こっち()ってなんですか。こっち()って」

 

「そりゃあ、乳で色んな奇跡起こしてるんだ。それに、おまえは世界で唯一の存在になってるんだぞ? 色んな奴から危惧されてるっての」

 

俺はアザゼル先生に問う。

 

「世界で唯一の存在? おっぱいドラゴン的な?」

 

「まぁ、それだけでも無茶苦茶だがな。こいつはな一度死んで、肉体が滅びたんだよ。そうしたら、こいつ、無限と夢幻―――――オーフィスとグレートレッドの力を借りて復活しやがったのさ」

 

「………ほぇ?」

 

フリーズする俺。

そんな俺を見て、気持ちは分かると言わんばかりに苦笑を浮かべる皆。

 

え、一回死んだの?

俺も一回死んで、生き返ってはいるけど………問題はその後の言葉。

オーフィスとグレートレッドの力で復活した?

ちょっと待とうか。

 

一回考えただけでは理解できず、何度も思考を繰り返した俺。

アザゼル先生の言葉をようやく理解した時―――――

 

「『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』」

 

俺とドライグはシャウトした。

 

ドライグが困惑に満ちた声で言う。

 

『待て待て待て待て! どういうことだ!? 生き返ったのは良しとしても、オーフィスとグレートレッドだと!?』

 

すると、こちらの世界のドライグがこちらに聞こえる声で答えた。

 

『以前、相棒はオーフィスをかけて、旧魔王の血族と戦うことがあってな。その際にサマエルの毒を受けてしまい一度、肉体が滅びたのだ』

 

オーフィスを守るとき?

そういや、シャルバのやつがサマエルの血を塗った矢を持ってたな。

なるほど、その辺りの展開は俺の世界とこちらの世界で違うようだな。

そして、矢を受けるか受けないかで分岐していると。

流石は平行世界、様々な可能性を考えさせられる。

 

つーか、あの矢を受けてたら俺も肉体が滅びていたのね。

あの時は難なく避けることが出来たけど、くらった時のことを想像すると………嫌な汗が出てくるな。

 

こちらの世界のドライグが話を続ける。

 

『その時、偶然にもグレートレッドが通りかかってな。グレートレッドの肉とオーフィスの力で肉体を再構築して、復活を果たしたのだ』

 

『いや、おかしいだろう!? 意味が分からん!』

 

『それが当然の反応だろう。普通に考えれば、あり得ないからな。だが、事実は事実。今の相棒はオーフィスとグレートレッド、龍神と真龍の力を宿す世界で唯一の存在になったと言うわけだ』

 

「『………』」

 

開いた口が塞がらない俺とドライグ。

 

おかしい。

絶対におかしいよ、それ。

えっ、世界最強の二体のドラゴンの力を宿すって、それだけ聞けば単純に最強じゃん。

 

そんな俺の思考を呼んだのか、こちらの世界のドライグが苦笑交じりに言う。

 

『まぁ、元々が大したことないので、今のところ基礎能力が少し上がった程度だ』

 

「歴代最弱だからな」

 

「悲しいこと言わないでくれよ」

 

ドライグとアザゼル先生の言葉にトホホと肩を落とすこちらの俺。

なるほど、才能がなかったという点も俺と同じようだ。

 

しかし、と俺の中のドライグが言う。

 

『それでも未知の可能性を秘めていることには変わりあるまい』

 

俺はその意見に頷いた。

 

「だよな。というか、さっき戦った時に受けた攻撃もかなりの威力があったし、今でも十分強いだろ。あんな形態の鎧は初めて見たけど、あれは赤龍帝の力を昇華させたもの………もしかして、『悪魔の駒』の特性を掛け合わせたものだったりするのか?」

 

倉庫で見せたあの二つの形態。

一つは鎧がパージされ、スピードが急激に上昇した。

二つ目は逆に鎧が分厚くなり、あれだけの破壊力を持った拳を打ち出してきた。

まるで『兵士』の駒の特性であるプロモーションを使ったかのように。

 

俺の推理にこちらの世界の俺は頷いた。

 

「『赤龍帝の三叉成駒《イリーガル・ムーブ・トリアイナ》』。ベルゼブブ様の調整によってドライグの力と『悪魔の駒』が融合し完成した能力だよ。略してトリアイナって呼んでる」

 

「『王』の認証なしにプロモーションできるから、レーティング・ゲームの枠外の能力になるがな」

 

と、こちらのアザゼル先生が補足をくれる。

 

なるほどなるほど。

発想は俺の昇格強化に近いけど、あれは少し強引に調整したものだ。

先程戦った時の感触だと、そのトリアイナの方が力の引き上がり幅は大きいように思える。

 

真龍と龍神、二つの最強遺伝子の融合に独自の力。

こうして聞く分には十分おかしい存在だ。

色んな奴から注目されるわけだ。

 

こちらのリアスが言う。

 

「姿も同じで同じ赤龍帝なのに、こうして話を聞くと色々と違うところがあるのね。でも、こうなるとそちらの世界の私についても知りたくなるわね」

 

あー、そりゃそうなるよね。

似ているけど違う世界。

その世界で自分はどんな性格で、何をしているのか。

気になるのは仕方がないだろう。

 

俺はリアスのことを思い浮かべながら彼女のことについて話していく。

 

「えーと、まず基本的なところだけど、グレモリー家の次期当主で、『紅髪の滅殺姫』の二つ名を持っていて、皆のお姉さま的存在で―――――」

 

俺がリアスの基本情報を続けていこうとした―――――その時。

 

「イッセーとの初体験はロスヴァイセちゃんを交えた3(ピー)で、イッセーと寝るときには毎日おっぱいを揉まれたり吸われたりで、後は―――――」

 

不意に聞こえる女性の声。

その声にこの場の皆が固まった。

俺がギギギと錆びたネジのように首を回して、後ろに視線を向けるとそこには―――――

 

 

な ん か 出 て き て た。

 

 

「ベッドの上のリアスちゃんって、結構甘えん坊で~。イッセーに抱きついて、いっぱいキスしちゃったりしてるの♪ でも、イッセーを抱き締めたりして、イッセーを甘えさせてあげたりもしてて、本当に可愛い女の子なのよ」

 

この空気を全く読まずにうんうんと一人で頷きながら語る駄女神。

俺は立ち上がると、すぐに己の役目を果たしにいった。

 

「おまえは登場早々に何を話してんだぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

勢い余ってハリセンを放つ俺!

しかし、駄女神は軽いステップでハリセンをかわしてしまう!

 

「だって、私達の世界のリアスちゃんのことを知りたいって言うから、まずは入り口、玄関からかなって」 

 

「どこの入り口!? 玄関突き抜けて、窓から飛び降りてるレベルだろうが! 最後まで語ってんだろうが!」

 

「何を言っているの! まだイッセーとリアスちゃんの○○○(バキューン!)×××(ズキューン!)を語ってはいないのよ!? 話すべきことは山ほどあるわ!」

 

「やめてくれませんかね!? ガチで最後まで話す気満々じゃねーか!」

 

「最後までエロたっぷり!」

 

「お菓子感覚やめろや、駄女神!」

 

この女神はホンッッッッッッット駄女神だな!

平行世界に来ても全く変わらないのは流石ですね!

違う世界に来たのにツッコミを休む暇がねぇ!

 

リアスが口を開く。

 

「え、え、え……え? は、ははははは初体験? そ、そそそそそそそそそれは、どどどどどどういうこと!?」

 

困惑を隠しきれないリアス!

口が上手く動かせない上に目が点になってる!

説明する前からパニックになってる!

そうなるよね!

普通に平行世界の自分について知ろうとしたら、深すぎるところまで案内されたんだもの!

誰だってそうなるわ!

 

リアスの言葉に首を傾げるイグニス。

イグニスはこの世界のリアスと俺を交互に見ると、何かに気づいたのかポンッと手を叩いた。

 

「こっちのあなた達はまだ大人の社会見学が出来ていないのね。なるほどなるほど」

 

イグニスの言葉にこの世界の俺が反応する。

その動揺っぷりはリアスの比ではなく………

 

「オオオオオオオオオオトナノシャシャシャシャシャシャカイケンガククククククク!? ナ、ナンデスカソレハ!?」

 

片言になってる!

物凄く動揺してる!

 

動揺する二人にイグニスは人差し指を立てて告げた。

 

「そのままの意味よ♪ このイッセーはもう大人の社会見学済みなの。リアスちゃんとは既に夜の合体を繰り広げる中だわ」

 

「「「「ええええええええええええっ!?」」」」

 

イグニスの発言に目玉が飛び出そうなくらい仰天するオカ研一同!

 

こちらの俺がイグニスに問う。

 

「マジですか!? そっちの俺、リアスとエ、エエエエエッチした………?」

 

「マジよ。というか、リアスちゃん以外にもイッセーの股間にあるハイパーメガランチャーで何人の女の子が撃墜されているわ。今となっては三大勢力の種馬とも称されてるほどよ」

 

「マジでもう黙ってろや、駄女神ぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

こいつ、余計なことしか言わねぇ!

つーか、三大勢力の種馬ってなに!?

初耳なんですけど!?

俺、そんな風に言われてるの!?

 

木場が口を開く。

 

「え、えっと、イッセー………君で良いのかな? でも、こっちのイッセー君と被るし………」

 

「年上だし『イッセーさん』とかで良いんじゃないか?」

 

ゼノヴィアがそう言うが………ゼノヴィアとか木場に『さん』付けで呼ばれるのは何か違うと思う。

 

「あの、それだと私はどうすれば良いのでしょうか?」

 

アーシアはこっちの世界でも『さん』付けで呼んでるみたいだから、ややこしくなるよね。

 

イグニスについて聞く前に俺の呼び方で悩むオカ研の面々。

すると、イグニスが人差し指を立ててこう言った。

 

「『大人イッセー』もしくは『種馬』でいきましょう」

 

「前者と後者で差がありすぎる!」

 

「じゃあ、間とって『イッセー(子作り中)』?」

 

「どこの間!?」

 

「それじゃあ、『イッセー(アーシアちゃんのパンツ装着ver)』」

 

「事実だったけど、却下だ! つーか、やらせたのおまえだし! 別の案!」

 

「えー………『二十歳イッセー(高校二年生青春真っ只中)!』は?」

 

「それは悲しくなるからやめてくれぇ!」

 

この後、イグニスの紹介をする前に俺の呼び方の議論が始められた。

 

 

 



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6話 文字数稼ぎじゃないんです

シリアスなどこの世界に存在しない!


「それじゃあ、私の自己紹介を始めようかしら」

 

そう言うとイグニスはビシッとポーズを決めて高らかに名乗りをあげた。

 

「我が名はイグニス! アスト・アーデの女神にして、エロを極めし者! おっぱいドラゴン関連商品の開発に携わる者!」

 

「いや、もう少しまともな自己紹介してくれませんかね!?」

 

「女の子のおっぱいを揉み揉みする者! そして、女の子を美味しくいただく者!」

 

「まだ続いてたの!? つーか、おまえの欲望語っただけじゃねーか!」

 

女の子のおっぱいを揉み揉みして、美味しくいただくって………美羽達に手を出してないよね!?

食べられてないよね、俺のお嫁さん達!?

なんだ、その顔は!?

この駄女神怖いんですけど!

 

俺は目元を抑えながら、こちらの世界のオカ研メンバーにイグニスの紹介をする。

 

「………というわけで、こいつはイグニス。今言ったように異世界アスト・アーデの女神で、今は俺が持つ剣『イグニス』として一緒に生活してる」

 

リアスが困惑顔で訊いてくる。

 

「………彼女の名乗りにあった他の内容が気になるのだけど」

 

「………すいません、そこはそっとしておいてください。そこについて話始めるととんでもないことが起きそうな気がして………」

 

「そ、そう。なら、聞かなかったことにしておくわ」

 

「………ありがとう」

 

深く息を吐く俺。

ここに来るまでにもう心身共にボロボロなのに、駄女神の登場で色々限界なんですけど。

人を紹介するだけで、こんなに疲れるのって普通はないと思うんだ。

 

疲れ果てたというオーラが体から滲み出ていたのだろう、他のメンバーから労りの声がかけられてきた。

 

「えっと………お疲れ様です、ハタチさん! 事情はよく分かりましたよ!」

 

「そ、そうだわ! あなたはもう十分すぎるほど頑張ったわよ、ハタチさん!」

 

「状況的に仕方がなかったとは言え、申し訳なかったな、ハタチさん」

 

アーシア、イリナ、ゼノヴィア………!

 

「ハタチさん! すいませんでしたぁ!」

 

「変質者なんて言ってしまって申し訳ありませんでした、ハタチさん」

 

ギャスパー、木場………!

 

「うふふ、手荒になってごめんなさいね、ハタチさん」

 

「………下着泥棒と疑ってすいませんでした、ハタチさん」

 

朱乃、小猫ちゃん………!

 

「俺とそっくりで皆を騙しにきたのかなって思ってしまったんですけど………事情も知らずにすいませんでした、ハタチさん」

 

こちらの世界の俺もそう言って頭を下げてきた。

 

皆の申し訳ないと想う気持ちはよく伝わった。

あの状況なら仕方がないと俺だって思うさ。

それに自分と同じ顔の奴がいたのなら混乱もしてしまうだろう。

でもね、一つだけいいかな?

 

「俺の呼び方、『ハタチさん』で決定なの!? 呼ばれる度に心が折れそうになるんですけど!」

 

呼ぶ度にハタチハタチって………嫌がらせ以外のなにものでもないんですけど!

人の心をぶち壊してそんなに楽しいのか、おまえら!

 

呼び方について抗議する俺にイグニスがやれやれといった表情で言う。

 

「仕方ないじゃない。皆で話し合って決めた結果なんだから」

 

「そこに俺の意見は含まれてないよね!?」

 

「だって、皆が呼ぶんだし、皆が決めた方が良いでしょ? それに、こっちの世界にもイッセーがいる以上、呼びやすい名前かつ似た呼び名じゃない方が良いでしょう?」

 

「それは分かるけど、少しは俺の意見を取り入れてくれても良いじゃん! 完全にスルーしてただろが! つーか、挙がった候補も酷すぎるだろ!?」

 

こちらの世界での俺の呼び方を決める際、皆の案をホワイトボードに挙げて、多数決で決めていた。

案はいくつもあったのだが―――――その内容はあまりに酷すぎた。

 

 

1. 『パンツネーター』

 

2. 『コカンノルド・パンツェネガー』

 

3. 『変態仮面』

 

4. 『パンツヘッド』

 

5.『赤きパンツの帝王(略:赤パン(てぃー))』

 

6. 『パンツ100%』

 

7. 『安心しないでください、はいてませんよ』

 

8. 『フルフロンタル』

 

9. 『見せてもらおうか、新しいパンツの性能とやらを』

 

10.『はかなければ、どうということはない!』

 

11.『ハタチ』

 

 

 

「テメェら、人の呼び方考える気、全くねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

どいつもこいつもパンツばっかじゃねぇか!

なんだ、このパンツへの執着は!?

 

木場が言う。

 

「最初の印象かなって………」

 

「あーそうだね! 最初の印象ならパンツor全裸だもんな! それにしても引っ張られ過ぎだろ!? 誰だ2番考えたやつ! 偉い人から怒られるぞ!」

 

「それは私だ」

 

「ゼノヴィアだったんかいぃぃぃぃぃぃ!」

 

「アザゼル先生の後に続いたつもりだったんだが、ダメだったのか?」

 

ダメだよ!

思いっきりアウトだよ!

おまえから、こんな呼び名が考えられるとは思いませんでした!

消せ!

俺達が偉い人から消される前に消せ!

 

「7番と9番と10番に関しては完全にセリフだよね!? 呼び名じゃないよね!? なに6番と8番から続けようとしてるの!?」

 

「あ、8番は僕ですぅ」

 

「ギャスパーかよ!」

 

「オシャレかなって………」

 

「オシャレというかパクりなんだが!? つーか、オシャレに言ったとしても結局全裸じゃん! 俺、スッポンポンじゃん! それから、10番! どうということあるよ! 致命的だよ!」

 

「あ、それ私だわ」

 

「イリナ!? おまえもホンット、エロ天使だな!」

 

「酷いんですけど!? というか、『も』ってどいういうこと!?」

 

そのまんまの意味だよ!

胸に手を当てて自分に聞いてみろい!

 

激しいツッコミで息を乱した俺は頭を抱えた。

どうしてこうなった?

なんで、俺はこんなにも連続でツッコミをする羽目になった?

駄女神の影響か?

駄女神によって、この世界のシリアスは全て破壊されたんじゃあるまいな?

あり得そうで怖いんだが………。

 

とにかくだ!

 

「もう少しマシな名前考えてくんない!?」

 

バンッと机を叩いて言う俺に、皆は腕を組んで「うーん」と唸り始めた。

確かにこの候補の中では『ハタチ』が一番マシだろう

だけどね、呼ばれると泣きそうになるんだ。

さっきも、こっちの俺に二十歳で高校二年生であることに引かれたところだったしな。

頼むから、俺の心を傷つけず、まともな呼び名を………!

 

リアスが言う。

 

「でも、第一印象が強すぎるのよね。パンツ100%ではダメかしら?」

 

そこをなんとか乗りきってくれ………!

つーか、それを考えたのリアスだったのね!

 

イグニスが言う。

 

「何かに名前をつける時って、願いを籠めてつけることが多いわよね………。そうだわ! 『パンツ』にしましょう!」

 

「なにも進歩してないんですけど!?」

 

より純度の高いパンツになっただけなんですけど!

おまえはその名にどんな願いを籠めたんだ!

 

「脱ぎたてのパンツを掴みたい、パンツを脱がせたい、剥ぎ取りたい………そんな願いよ」

 

「それ、願いじゃなくて欲望!」

 

「仕方がないわね。それじゃあ、こんなのはどうかしら」

 

キュッキュッとホワイトボードの上にマーカーを走らせていくイグニス。

そこには―――――

 

 

 

パンツパンツ洗濯済みのアーシアのパンツはお花の香りを全裸イッセーが被ってパンツネーターコカンノルド=パンツェネガーアイルビーバック変態仮面とパンツヘッドは安心しないでくださいはいてませんよフルフロンタルは全裸の意見せてもらおうか新しいパンツの性能はかなければどうということはないけど掴みたい脱がせたい剥ぎ取りたいそれがこの人パンツ丸(ハタチ)

 

 

 

「長ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇよッッッ!」

 

俺は天を仰ぐようにツッコミを叫ぶ!

過去最も長いツッコミだった!

 

そんな俺をイグニスが嗜める。

 

「もう、ツッコミが長すぎるわ。文字数稼ぎと思われたらどうするの?」

 

「おまえには言われたくねぇよ! どんだけ長い名前考えてんだ!? 寿限無みたいになってんだろうが!」

 

「皆の願いを籠めてみたの」

 

「願い最後しか籠ってないだろ!? つーか、パンツばっかりだし! しかも、ハタチもそのまま入ってるし!」

 

「イッセーの特徴だすなら必須かなって」

 

「そこを特徴として捉えないでもらえますかね!?」

 

そもそもこんなくそ長い呼び名覚えられるか!

奇跡的に覚えられたとしても、どれだけ時間かかると思ってんだ!

文字数稼ぎどころの話じゃなくなるからね!?

 

すると、小猫ちゃんが言ってきた。

 

「落ち着いてください、『パンツパンツ洗濯済みのアーシアのパンツはお花の香りを全裸イッセーが被ってパンツネーターコカンノルド=パンツェネガーアイルビーバック変態仮面とパンツヘッドは安心しないでくださいはいてませんよフルフロンタルは全裸の意見せてもらおうか新しいパンツの性能はかなければどうということはないけど掴みたい脱がせたい剥ぎ取りたいそれがこの人パンツ丸(ハタチ)』さん」

 

「この数分の間に完全暗記しただと!?」

 

マジでか、小猫ちゃん!

よく覚えられたな!?

 

木場も続く。

 

「アハハ………まぁ、なんとかだけどね? 『パンツパンツ洗濯済みのアーシアのパンツはお花の香りを全裸イッセーが被ってパンツネーターコカンノルド=パンツェネガーアイルビーバック変態仮面とパンツヘッドは安心しないでくださいはいてませんよフルフロンタルは全裸の意見せてもらおうか新しいパンツの性能はかなければどうということはないけど掴みたい脱がせたい剥ぎ取りたいそれがこの人パンツ丸(ハタチ)』さん」

 

「なんでおまえまで完璧に暗記してんだぁぁぁぁぁぁ!?」

 

ツッコめ!

こっちの世界の木場はダメだ!

ツッコミがなっちゃいない!

俺の世界の木場なら凄まじい数のツッコミを入れてるはずだよ!

 

ツッコミに息を切らす俺。

そんな俺の肩にこちらの世界の俺が苦笑しながら言ってきた。

 

「そんなに頑張らなくてもいけますって。えーと……パンツパンツアーシアの………パンツハタチさん!」

 

「言えてねーよ! ほとんど出だしで転んでんじゃねぇか! 見栄張らなくていいんだよ、こんなところで!」

 

「すいません、イケメンに負けたくなくて………!」

 

「いや、パンツ連呼した時点でイケメンもくそもないからね!?」

 

どこで見栄を張ろうとしてんの、こっちの俺は!?

いや、顔で負けてる以上、他で勝ちたいのは分かるけども!

そこは共感できるけども!

 

あぁ………もう疲れた。

もうどうでも良くなってきた。

 

「もう………『ハタチさん』で良いです」

 

全てを諦めた俺はこの世界の皆+駄女神に敗北した。

 

 

 

「あ、あの………すいません」

 

 

ここでこちらの世界のロセが手を挙げた。

そういえば、さっきから何も発言してなかったな。

俺の呼び方を考えるときもロセだけ案を出してないし、完全に上の空って感じだったしな。

 

ロセは言葉を詰まらせながらも、俺に聞いてきた。

 

「さ、さっき、そちらのイッセー君とリアスさんがその………しちゃった時の話なんですけど。………わ、私の名前があったのは………気のせいでしょうか?」

 

あ………イグニスのやつ、その辺りも包み隠さず話してたな。

その時からロセが硬直していたような………。

 

それを聞いたイグニスがどういう意味か、ロセにブイサインを送る。

 

「ウフフ、私達の世界のロスヴァイセちゃんも既に大人の仲間入りよ♪ というか、かなりエッチな先生になっちゃったかも」

 

フリーズするロセ。

そして―――――。

 

「えええええええええええええええええええっ!?」

 

暫くの間、ロセはパニックに陥った。

 

 



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ゴリラ炎上篇
1話 襲撃事件とエージェント


令和初投稿!

というわけで、久し振りの投稿です。
しばらく書いていないと自分の文章スタイルを忘れそうになります(苦笑)


時系列は吸血鬼編の直後です。




[三人称 side]

 

 

冥界、堕天使領にあるグリゴリの施設。

グリゴリ幹部であるバラキエルは神妙な表情で廊下を歩いていた。

神の雷光、聖書にも記された伝説の堕天使。

そんな彼は今、ある事件の対応に追われていた。

その事件とは―――――。

 

「ここ数週間の間に三大勢力の関係者が襲撃を受けている、か」

 

実はチーム『D×D』が結束される少し前から、三大勢力の関係者が襲撃を受けるという事件が続いていた。

幸い死者は出ていない。

しかし、つい先日には堕天使幹部の一人が襲撃を受け、現在は医療機関にて治療を受けている状況だ。

被害者に事情聴取を行ったところ、犯人の姿は覚えていないらしい。

ただ………

 

 

『気配を感じて振り返った瞬間、何かが顔に叩きつけられた。そこから先はよく覚えていない』

 

 

という共通の証言が取れた。

 

最初の被害者が出た時には、死者もなく、軽い怪我で済んでいたため、軽く見ていた。

しかし、事件が続き、幹部まで襲撃を受けたとなるとそうはいかない。

早急に事態の収拾に当たる必要がある。

 

バラキエルは顎に手を当てて呟く。

 

「しかし、分からないものだな」

 

被害は既に十数件に及ぶ。

しかし、死者は一人としておらず、犯人からの要求もない。

そうなると犯人の目的が分からない。

 

ただの愉快犯?

それも考えられる。

だが、なぜ三大勢力を狙う?

三大勢力に恨みがある者の犯行?

十分にあり得る。

それなら、なぜ死者が出ていない?

 

どちらにせよ、相手はグリゴリ幹部をも倒した実力者だ。

油断はできないだろう。

 

「吸血鬼との一件も落ち着きつつある。アザゼルに相談してみようか」

 

表舞台に姿を現したリゼヴィム・リヴァン・ルシファーと、彼が吸血鬼の領地で引き起こした大惨事。

現地でその対応に追われていたアザゼルも今は駒王町に戻ってきている。

アザゼルならば、何かしらの対応策を思い付くかもしれない。

 

その時―――――。

 

「何者だ」

 

バラキエルは立ち止まり、背後にいる者に声をかけた。

 

数は一人。

二人の距離は十メートルといったところだろう。

それだけ接近されるまで、バラキエルに気配を感じ取らせなかった存在。

間違いなく相当の手練れ。

 

バラキエルは背を向けたまま、手に雷光を纏わせて言う。

 

「投降しろ。そうすれば、悪いようにはしない」

 

「………」

 

バラキエルの警告にそれは答えない。

それどころか、先程よりも確実に距離を詰めてきている。

 

「それが答えか。ならば―――――」

 

バラキエルが振り向き、大出力の雷光を放とうとした。

しかし、撃てなかった。

それはバラキエルが攻撃するよりも速く、動いていたのだ。

 

バラキエルは犯人の顔を見ることなく―――――。

 

 

[三人称 side out] 

 

 

 

 

「バラキエルがやられた」 

 

アザゼル先生から緊急召集を受け、オカ研の部室に集まった俺達が告げられたのは衝撃の情報だった。

予想外過ぎることに状況を呑み込めなかった俺達だったが、深刻な表情を浮かべる先生の表情に理解せざるを得なかった。

 

朱乃が顔を真っ青にして言う。

 

「父様が………そんな………!」

 

「落ち着け、朱乃。なにも死んだわけじゃないし、命に関わるような重傷を負ったわけでもない。あいつは無事だ。今はうちの医療施設で治療を受けている」

 

「………!」

 

アザゼル先生の言葉に安堵する朱乃。

緊張から一気に力が抜けたのか、よろめいたので俺は朱乃の体を支えた。

 

バラキエルさんは無事に安心はしたけど、色々と疑問のある情報だな………。

俺は朱乃をソファーに座らせると、先生に言った。

 

「先生、いきなり『やられた』なんて言わないでくださいよ。あんな報告されちゃ、誰でも勘違いしますって」

 

「すまん。だが、バラキエルが襲撃を受けて、負傷したのは事実なんでな。今回は助かったが、もしかしたら………ということもあり得た話だ。それだけ今回の件は大きい事態なんだよ。レイナーレ、事件の概要を説明してやってくれ」

 

「はい」

 

アザゼル先生から指示を受けたレイナは魔法陣を展開すると、そこに映像を映し出した。

映像にはバラキエルさんが襲撃を受けたという場所と現場の状況について書かれていた。

 

「バラキエル様が襲われたのはグリゴリの施設内。施設と施設を繋ぐ渡り廊下よ。第一発見者はうちの研究員で、早朝に廊下を歩いていたら汚物まみれで気絶するバラキエル様を見つけたらしいわ」

 

ん………?

ちょっと待って。

 

「なんで汚物まみれ?」

 

「さぁ? でも、調査したところ、それは動物の糞じゃないかって」

 

「ごめん、意味分からない。つまり、どういうこと?」

 

なんで、堕天使幹部のバラキエルさんが動物の糞まみれで倒れてるの?

意味分からないのは俺だけ?

 

木場の方に視線を移すと、こいつも首を傾げて頭に疑問符を浮かべていた。

他のメンバーも同様で、ちょっと安心した。

 

すると、アザゼル先生が真剣な声で言った。

 

「つまりだ。簡潔に言うと、バラキエルは振り返り様―――――ウ○コを顔面にスパーキング! されてやられたわけだ。分かったか?」

 

「分かるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

なんでだ!

なんで、ウ○コを顔面にスパーキングされてやられてるの!?

そんなのでやられたの、バラキエルさん!?

 

「全治二週間のケガだそうだ」

 

「そんなにかかるの!?」

 

「ああ。なんか、物凄いスピードでスパーキング! されたらしくてな」

 

「あんた、スパーキング言いたいだけだろ!?」

 

そんなツッコミをしていると、リアスが言った。

 

「もしかして、三大勢力の関係者が襲撃を受けている事件と関係があるのかしら?」

 

「そういやそういう情報も入ってたな。襲撃を受けてるのに誰一人、死者も重傷者も出ていないっていうやつ?」

 

俺の問いに頷くリアス。

 

少し前から三大勢力の関係者が襲われているという事件が続いているらしい。

だけど、誰一人として大きな傷を負ったものがいないという。

襲撃を受けた人全員が気を失っている状態で発見されるという妙な事件だ。

 

「ええ。新しい情報では襲撃を受けた者全員―――――汚物まみれだったらしいわ」

 

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

なんで全員が汚物まみれ!?

もしかして、全員がスパーキングされてるの!?

どんな襲撃事件!?

 

アザゼル先生が言う。

 

「その通りだ、リアス。全ては繋がっている。そう、この事件は同一犯の可能性が高い」

 

「そりゃそうでしょうね!」

 

「糞から検出されたDNAが全て一致した」

 

「襲撃の手口で分かるだろ!」

 

「模倣犯という可能性もあるからな」

 

「こんなの模倣する奴がいてたまるか!」

 

木場が先生に問う。

 

「狙われているのは三大勢力の関係者だけ………動機は何なのでしょうか?」

 

その質問に先生は苦い表情で答える。

 

「俺達は色々なところで恨みを買ってるからな。今回の件、三大勢力に恨みがある者の犯行かもしれん」

 

先生の言葉にリアス達は重い表情になるが………。

 

うん、待とう。

ちょっと落ち着こう。

ウ○コを顔面にスパーキングされるような恨みって、どんな恨み?

 

アザゼル先生は壁にもたれかかり、窓から見える夕日を見つめながら静かに言った。

 

「俺達には受け止める義務があるのさ。たとえ、どんなウ○コだろうと受け止めなきゃな………」

 

「先生、意味分からないです。そもそも受け止めきれてないです。思いっきりスパーキングされてますもん。とりあえず一人だけスパーキングされてきてください。多分、それで解決すると思います」

 

「イッセー………おまえ、俺がどうなっても良いのか?」

 

「「「「うん」」」」

 

「イッセーだけに聞いたのに、なんで、全員頷いてるんだよ!」

 

「「「「日頃の行いかなって………」」」」

 

「うるせーよ! あと、ハモるなよ!」

 

 

 

 

「というわけで、流石に幹部までやられたとなっちゃ、大人しくしているわけにもいかん。そこでだ、チーム『D×D』のメンバーにも動いてもらうことにした」

 

まぁ、すんごく馬鹿みたいな事件だけど被害者出てるしな。

これ以上、被害が広がる前に止める必要はあるだろう。

もしかしたら、俺達だって襲われるかもしれないしな。

 

ギャスパーが言う。

 

「でも、僕達だけで犯人を見つけることなんて出来るでしょうか?」

 

ゼノヴィアとイリナも続く。

 

「犯人の素性が分からないとなるとね」

 

「あと、襲撃の場所もバラバラだし」

 

どこの誰とも分からない。

襲撃の場所もバラバラで、被害者も三大勢力の関係者という大雑把な共通点しか分かっていない。

 

美羽がレイナに訊ねる。

 

「バラキエルさんが襲われた時の映像はないの? グリゴリの施設なら防犯カメラとかもあるでしょ?」

 

「あることにはあるけど、ダメね。防犯カメラのレンズ全てに糞が付いていて、犯人は確認できなかったわ」

 

「そこも!?」

 

防犯カメラもやられてたのか!

犯人って、凄腕の殺し屋か何かですか!?

あ、でも、誰も死んでないのか………。

 

アザゼル先生が言う。

 

「そのあたりは心配するな。この件に関して前々から調査していたうちのエージェントと組んでもらう。そいつと共に動いていれば、犯人の確保も出来るだろうよ」

 

エージェント?

幾瀬さんみたいな?

 

レイナもうんうんと頷く。

 

「変わった人だけど腕は確かよ」

 

変わった人かぁ。

まぁ、俺の周りって変わった人が多いし、今更ではあるよね。

 

不意に部室のドアがノックされた。

先生が時計を見ながら言う。

 

「お、時間通り。いつものことながら、ちょうどの時間に来やがる。おう、入ってくれ」

 

先生に促され、ドアが開く。

その人物は部屋に入ってくるなり、深く頭を下げた。

そして、俺達はその人物の顔を見るなり、思考が停止した。

 

アザゼル先生はその人物の横に立つと、紹介を始めた。

 

「紹介する。こいつがうちのエージェントの一人。名前は―――――」

 

 

「ウホ」

 

 

先生に続き、グリゴリから派遣されてきたエージェントは一言だけ言葉を発した。

 

んー………あれ、目と耳がおかしくなったかな?

何かグリゴリのエージェントがなんだか………ゴリラに見えて………。

 

俺は何度か目を擦って、何度も確認してみた。

なんなら、頬をつねって、この状況が夢ではないことも確認してみた。

 

夢じゃ………ない。

 

え、ちょっ………え?

エージェント………え?

確かにビシッとスーツは着ているし、体もごつくてそれっぽいけど。

 

体の表面を黒い毛で覆われ、スーツの胸ポケットにバナナを入れたその人物は間違いなく―――――。

 

 

「ただのゴリラだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 




次回に続く!


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2話 コードネームは

ゴリラ炎上編、二話目スタート!




イッセー「ゴリラ炎上編ってなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「ただのゴリラだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

全身全霊のツッコミだった。

 

グリゴリから派遣されたエージェント。

変わった人だと聞かされていたが………そもそも人じゃなかった。

そう、俺達の前に現れたエージェントは正真正銘、どこからどう見ても―――――ゴリラだったのだから。

 

「マジでか! マジでこのゴリラがエージェントなの!?」

 

ゴリラを指差して言う俺に対し、先生はやれやれと言う。

 

「なんだ、イッセー。おまえは人を見た目で判断するような奴だったのか?」

 

「いや、見た目でしか判断できねぇよ! ゴリラじゃん! それ以外の何なんだよ!」

 

確かにスーツは着ているし、スーツの上からでも分かる体のゴツさはエージェントと呼ばれても不思議はない。

でもね、首から上が全てを無にしてるんだよ。

完全なるゴリラなんだよ。

しかも、このゴリラ、さっき『ウホ』って言ったよね?

どう考えてもゴリラだろ。

 

先生がゴリラの肩を叩きながら言う。

 

「まぁ、見た目はゴリラだから仕方がないか。だがな、一応言っておくが、こいつは元人間だぞ?」

 

「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」

 

先生の言葉に目が飛び出るほど驚く俺達!

マジか!

このゴリラ、元人間なの!?

 

「何があったら、人間からゴリラになるんですか!?」

 

俺の問いに先生がゴリラを一瞥して答えた。

 

「実はな、こいつはとある組織の実験の被検体だったんだよ」

 

「―――――っ」

 

実験の被検体………。

そうか、この人も好きでゴリラになったわけじゃないだな。

きっと無理矢理、実験に付き合わされてそれで………。

 

それを見た目で判断して、『ゴリラ』と連発してしまった………!

俺は最低だ!

 

先生が言う。

 

「こいつは実験によって、姿を変えられ、言葉も『ウホ』しか話せなくなってしまったんだ」

 

「そんな………一体、その実験ってなんなんですか? その組織は何をしようとしていたんですか?」 

 

その実験は人の姿を変え、言葉すら奪ってしまった。

他人をこんな目にあわせて、そいつらは一体、何を成そうとしたのか。

 

アザゼル先生が遠くを見ながら口を開く。

 

「こいつはある物を口にしたせいで、身も心もゴリラになってしまったんだ」

 

「ある物?」

 

木場が聞き返すと先生は頷いた。

 

「食せば、適正の無い者でも異能を―――――悪魔達が持つような特殊な特性を得られる果実。こいつが食ったのはその試作品。その名も―――――『ウホウホの実』だ」

 

 

 

…………え?

 

 

 

「今、なんと?」

 

「『ウホウホの実』だ」

 

聞き間違いではなかったらしい。

 

うん、落ち着け俺。

もう一度、頭の中で整理してみよう。

 

食せば、悪魔達の持つような特性を得られる?

ウホウホの実?

それって――――――。

 

「ただの悪魔の実だろうがぁぁぁぁぁぁぁ! パクっただろ!? 明らかにパクっただろ!? その組織の連中は何のためにそんなのを作ろうとしたんだよ!?」

 

「違うんだ。実は幹部共の間でジャンプを回し読みしていたら、『これ、うちでも作れるんじゃね?』みたいな感じになってさ」

 

「『ウホウホの実』作ったのあんたの組織だったんかいぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

何してるんだよ、グリゴリ!

最低すぎるだろ!

つーか、幹部達の間でジャンプ回し読みしてるの!?

学生か!?

 

すると、今まで黙っていたリアスが口を開いた。

見ると、リアスの頬には冷や汗が流れていて、

 

「アザゼル、あなた………もしかして、人をゴリラにする技術を産み出したと言うの?」

 

「ん? まぁ、そうだな。こいつは世界初の転生ゴリラになる」

 

「なんてことを………! ゴリラを増やせば、世界のパワーバランスが崩れてしまうわ! それを理解していたの!?」

 

ごめん、何か真剣な話をしているみたいなんだけど………転生ゴリラって、なに?

ゴリラ増えたら世界のパワーバランスが崩れるって、なに?

リアス、君は一体何を言っているんだ?

俺には理解できないよ………。

 

困惑する俺に木場が言う。

その声には緊張が感じられて、

 

「イッセー君。この世界で最強の生物はドラゴンだと言うことは知っているよね?」

 

「ああ、そりゃな」

 

俺の中のドライグなんて、神すら超える最強クラスのドラゴンだしな。

他にもティアやタンニーンのおっさん、ファーブニルのように龍王と呼ばれる強力なドラゴンだって知ってる。

下級のドラゴンですら、その逆鱗に触れた時は凄まじいと聞く。

ドラゴンはそれだけ強力な種族だ。

 

俺の返事に木場は、

 

「ゴリラはね、ドラゴンに継ぐ強力な種族なんだ」

 

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

聞いたことねーよ、そんなの!

なんで、ドラゴンの次にゴリラ!?

ゴリラってそんなに凄い種族だったの!?

 

驚く俺にアザゼル先生が説明をくれる。

 

「ゴリラはな、普段は温厚なんだが、その逆鱗はドラゴンに匹敵すると言われている。特にバナナを横取りされた時の怒りは抑えきれるものじゃない。大昔、ゴリラ共からバナナを奪った国はことごとく滅ぼされた程だ」

 

「ゴリラ半端なさすぎだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

「そうだぞ、ゴリラは半端ないぞ。握力マジでヤバイからな」

 

そりゃ、そんなの増やされたら恐怖するわ!

なに、この人、ゴリラ増やして堕天使の戦力アップとか考えてたの!?

 

アザゼル先生がリアスに言う。

 

「安心しろよ。別にゴリラを増やそうとか考えてないからよ。リアスの言う通り、この研究は世界のバランスを崩しかねないとして、研究は中断、データも全て廃棄した。それから一応言っておくが、こいつも自ら進んで実験に協力してくれたんだ。強制はしていない。もちろん、ゴリラになってしまった時の保障や手当は出してる」

 

その言葉に胸を撫で下ろすリアス。

まぁ、ドラゴンに継ぐようなレベルの存在を量産できるかも、なんて聞いたら焦るわな。

今は研究してないらしいけど。

 

というか、よくよく考えたら、この人は戦争よりも実験室に籠って研究することが好きなオタク堕天使だったわ。

要らぬ心配だったか。

 

「なんだ、イッセー。おまえ、失礼なこと考えてるだろ」

 

「いえ、別に」

 

と、ここで先生の後ろで立っていたゴリラが前に出てくる。

ゴリラは手を上げて、

 

「ウホッ」

 

と、元気な声で言った。

 

彼の声に顔を見合わせるオカ研部員の面々。

どうやら、皆もあのゴリラがなんと言っているのか分からないようだ。

小猫ちゃんもゴリラの言葉は理解できないようで、首を傾げていた。

 

皆が返答に困る中、美羽が耳打ちしてくる。

 

(あれ、多分、あいさつじゃないかな)

 

(あいさつ?)

 

(ほら、どことなく笑ってるし。初対面であることを考えたら………ね?)

 

あー、なるほど。

仕草と状況からゴリラの意思を読み取ると。

 

すると、隣にいたレイナが言った。

 

「『やぁ、皆。今日も元気にバナナしたかなー?』………だって」

 

「レイナちゃん!? 君、ゴリラの言葉が分かるの!?」

 

「だって同僚だもの。言葉が分からなかったら仕事にならないし」

 

そりゃ、そうだけども!

でもね、ゴリラの言葉が必要になる職場って変だと思うんだ!

つーか、『バナナする』ってなに!?

どんな動詞!?

そこは訳されても理解できません!

 

ゴリラが言う。

 

「ウホ、ウホホ」

 

レイナちゃんが言う。

 

「『おっと、自己紹介がまだだったな。俺の名前はイサオ。周りからはゴリラ、もしくはゴリさんと呼ばれている。君達も好きな方で呼んでくれ』だって」

 

結局ゴリラ呼ばれてるんかい!

つーか、この人、受け入れてる。

ゴリラの自分を受け入れてるよ!

 

「ウホ」

 

「ウホッ」

 

「ウホホ」

 

「ウホ、ウホホ」

 

「ウッホウ!」

 

「うん、とりあえず直訳すると―――――『よろしく頼む』だって」

 

「今のやり取りの中に意味それだけ!? あと、レイナちゃんも普通に通訳しないで! どう反応すればいいか分からなくなるから!」

 

俺がツッコミを入れているとゴリラが言った。

 

「ウホ」

 

「あ、今のはね―――――『好物はフィリピン産のバナナだ。熟しているのも好きだが、どちらかと言えば、青く若いバナナが良い。皮を剥いた時の感触と食感が好きでな。あと、バナナジュースも美味い。あの喉越しがたまらないんだ。バナナで困ったことがあったら、何でも聞いてくれ。大抵のバナナには答えられるだろう』だって」

 

「今の一言にそれだけの意味が籠められてたの!? あと、ほとんどバナナのことしか語ってねーじゃん! なんだよ、大抵のバナナって!? 意味分からないよ!」

 

元人間って言ってたけど、本当に身も心もゴリラじゃないか。

バナナのことしか頭にないじゃん!

ゴリラ生活満喫してるよ!

 

アザゼル先生が腕を組んでニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ちなみにこのゴリラ、イサオは裏の世界では名を知られていてな。ゴリラの中のゴリラ―――――『ゴリラゴリラゴリラ』と呼ばれている」

 

「やっぱり、ゴリラだろうが! どこまで行ってもゴリラじゃねーか!」

 

 

 

 

「ウホ(訳:では、俺の調査の報告をする)」

 

それから落ち着いた俺達は今回の事件について、ゴリラ―――――イサオさんからの調査報告を受けることになった。

ちなみに、自動翻訳機が用意されたので、レイナが訳さなくても良いようになっている。

………美少女がウホウホ言ってるところなんて、これ以上、見たくないからね。

 

イサオさんが魔方陣を展開し、そこに映像を映し出す。

そこにはこれまでに起きた事件に関するデータが描かれていた。

 

「ウホウホウッホ(訳:被害者は三大勢力の関係者が狙われていることは知っていると思う。そして、全員が汚物まみれで見つかったことも。犯人は全て背後から接近し、相手が振り返ったところを、顔面にウ○コを投げつけ、一撃で仕留めている)」

 

その報告にアリスが口を開いた。

 

「あのさ、もしかして、犯人って………あんたじゃないわよね?」

 

アザゼル先生が言う。

 

「心配するな。イサオは犯人じゃない。糞のDNAが違った」

 

「思いっきり疑われてるじゃない! 身内から疑われるとか信頼なさすぎでしょ!?」

 

「昔………ちょっとな………」

 

「なにがあった!? 昔になにがあったのよ!?」

 

すると、イサオさんは朗らかに笑いながら言った。

 

「ウホッウホホホ(訳:昔、アザゼルさんにバナナを食べられたことがあってね。つい投げつけてしまったんだ。いやー、バナナを盗まれたとは言え、やりすぎだったと反省しているよ。確か、全治六ヶ月だったかな)」

 

ボコボコにされてるじゃないですか! 

え、このゴリラ、そんなに強いの!?

堕天使の総督をボコボコにするくらいの強さなの!?

というか、バナナ食べられたくらいで、そこまでする!?

 

アザゼル先生が苦い表情で言う。

 

「こいつは元は人間だが、今となっちゃ数少ない最上級ゴリラの一人だ」

 

「「「なっ!?」」」

 

驚愕するリアス達。

 

最上級ゴリラって………なに?

今日は初めて聞く単語ばかりで、俺、困っちゃうぜ☆

 

リアスが言う。

 

「最上級ゴリラ………! ゴリラの中のゴリラ、エリートゴリラ! まさか、伝説クラスのゴリラだっただなんて!」

 

レイヴェルが冷や汗を流しながら言う。

 

「しかし、噂で聞いたことがありますわ。グリゴリに凄まじいゴリラがいると。確かコードネームは―――――」

 

 

 

 

「ウホッ(訳:そう、俺が―――――ゴリラ13(サーティーン)だ)」

 

 

 

 

 

 




ウホッ!(訳:次回も読んでくれよな!)


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3話 犯人とゴリラと

注)考えたら負けです。何も考えずに読んでください。


「まぁ、こいつのコードネームについては置いておいてだ」

 

「いや、先生………ゴリラ13って………」

 

「イサオ、話を続けてくれ」

 

あ、無視された。

 

俺をスルーしたゴリラ13ことイサオさんは相変わらずウホウホ言いながら、今回の事件についての報告を続けていく。

 

「ウホッウホホッ(訳:とまぁ、ここまでが君達も認識しているところだろう)」

 

リアスが問う。

 

「単刀直入に問うわ。犯人は分かっているの?」

 

「ウホ(訳:ああ。私の調べで犯人に目星はつけてある)」

 

「ほう、もう犯人が割れているとはな。流石だ」

 

イサオさんの言葉にアザゼル先生が感嘆の声を漏らす。

しかし、イサオさんは眉間にシワを寄せて厳しい表情を浮かべていた。

イサオさんは暫しの間、無言を貫いた後、俺達を見渡して言った。

 

「ウホホ(訳:犯人は分かっている。だが、厄介な連中でな………)」

 

連中? 

つまり、単独ではなく集団ということだろうか?

だが、被害にあっている三大勢力の関係者の数を見れば、確かに単独とは考えにくい。

 

被害者………五十三名。

そう、これだけの人数が顔面にスパーキングされているんだ。

潜入から襲撃、撤退まで数名で協力しなければ、これだけの襲撃を成功させることは難しいだろう。

 

イサオさんがアザゼル先生に言う。

 

「ウホッウホホホ(訳:アザゼルさん、奴らだよ。あの危険な集団がついに動き出したのさ)」

 

「―――――っ! まさか………!」

 

目を見開くアザゼル先生。

見れば、拳を強く握りしめ、体を強張らせていた。

 

リアスがアザゼル先生に問う。

 

「一体、誰なの? あなたがそこまで反応するなんて………」

 

「かつて、各勢力が争っていた時代。当時、各勢力に人員を派遣していた傭兵集団がいたのさ」

 

「傭兵集団?」

 

「そいつらは一人一人が強力な力を持っていてな。どの種族もその集団に人員の派遣を要請していた。だが………」

 

アザゼル先生の言おうとしたことを先読みしたのか、アリスがその続きを口にした。

 

「見境いなく兵を派遣するような連中なんて危険すぎる。だから、各勢力はその集団と手を切った………と言ったところかしら?」

 

「そうだ。更に言えば、そいつらが戦場に出ると、その後始末が厄介でな。そういう背景もあって、それぞれの勢力はその集団と距離を置くことにしたのさ」

 

木場が問う。

 

「では、今回の事件にその集団が関わっていると?」

 

「そうらしいな。なぁ、イサオ」

 

先生に言葉を投げられたイサオさんは強く頷く。

 

「ウホ(訳:そう、奴らは各勢力から危険視されていた。奴らの名は―――――)」

 

 

そして、その集団の名を告げた。

 

 

「ウホホ(訳:過激武闘ゴリラ組織『刃那々(バーナーナ)』。歴史の表舞台から姿を消した奴らが再び動き出したんだ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこからツッコミを入れてやろうか。

 

でも、まぁ、あれだな。

 

とりあえず―――――。

 

「結局、ゴリラじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「結局、ゴリラじゃないですかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「結局、ゴリラじゃないのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

俺は叫んだ!

美羽も叫んだ!

アリスも叫んだ!

トリプルツッコミだった!

 

なんだよ、過激武闘ゴリラ組織って!?

意味分かんねーよ!

『過激武闘組織』なら良しとしよう。

まだ意味が分かる。

危険な集団なんだなと認識できる。

でもね、ゴリラ組織はどう受け止めたら良いのか皆目検討もつかねーんだよ!

どうすれば良いの!?

俺はどうすれば良いのか、誰か教えてくれぇい!

 

ロスヴァイセさんが顎に手を当てて言う。

 

「聞いたことがあります。かつて、あらゆる勢力から危険視されていたゴリラの集団がいたと。ただの作り話だと思っていましたが、まさか本当に実在していたなんて驚きです」

 

イリナとゼノヴィアが続く。

 

「私も少しだけなら聞いたことがあるわ」

 

「ああ。噂程度ならね」

 

ギャスパーも、

 

「僕がまだ吸血鬼の世界にいた時も耳にしました」

 

レイヴェルも、

 

「私もお父様から聞かされたことがあります。まさか、本当に………」

 

うん、ちょっと待って。

なにこの神妙な空気。

俺が間違ってるの?

ツッコミを入れちゃダメだったの?

皆、俺と美羽、アリスのツッコミをスルーしてるんだけど………俺達がいけないの?

いけない子達だったの?

誰か一人くらい俺達に共感してくれても良いと思うんだけど。

 

すると、俺の神器の中から声が聞こえてきて、

 

『あぁぁぁん! イグニスお姉様、もっと縛ってくださぁぁぁぁい!』

 

『うふふ♪ ここが良いのかしら? そ・れ・と・も――――』

 

『ふぁぁぁんっ♡』

 

おまえはこの空気の中でなにをしてるんだ、駄女神ぃぃぃぃぃぃぃ!

 

『ちょっとしたSMプレイ』

 

なんでだよ!?

なんでこのタイミング!?

 

『いや、ゴリラゴリラの流れでいきなりのSMは予想外かなーって』

 

予想外過ぎるわ!

流れ全く関係ないもの!

共通してるのは俺にツッコませるってところだけ!

 

『えっ、ツッコみたいの? 私がツッコもうと思ってたのに。それじゃあ、私は後ろ、イッセーは前で――――』

 

それ、別の意味だろうがぁぁぁぁぁぁぁ!

なに人のツッコミを勝手にR18的な意味に変えてくれてんの!?

俺も人のこと言えないけど、おまえはホンットにエロ女神だな!

 

『フッフッフッ、それは誉め言葉ね。私のエロパワーを見せてあげるわ!』

 

『あぁんっ! イグニスお姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!』

 

駄目だ!

分かっていたけど、俺にはこの駄女神は止められない!

存在そのものがR18指定の女神とか他にいるだろうか!

いや、いない!

つーか、歴代の先輩で遊ばないで!

余計におかしくなるでしょうが!

 

イサオさんが言う。

 

「ウホウホ(訳:ゴリラは基本的に穏やかな種族だ。だから、その組織に所属したゴリラはゴリラの中でも異端中の異端ということになる。戦闘ゴリラ民族。簡単に言えば戦闘狂の集団さ)」

 

「いや、戦闘ゴリラ民族ってなんですか………。一応聞きますけど、そのゴリラ達が参戦した戦場はどんな感じになっていたんですか?」

 

俺の問いにアザゼル先生が深く息を吐きながら、

 

「奴らにやられた者は全員、顔面スパーキングさ。無事に帰ってきた者のほとんどがゴリラ恐怖症になってな。ゴリラを見るだけで体が震えてしまうようになってしまった」

 

「ウホッ(訳:そのため、俺も施設を歩くときには出来る限り、ゴリラ恐怖症の人と会わないように気を付けているんだ)」

 

………ゴリラ、半端ねぇ。

それしか出てこないよ…………。

 

ま、まぁ、とにかくだ。

今回の犯人グループは割れている。

となれば、後は敵の居場所と規模、それから―――――。

 

刃那々(バーナーナ)の目的は分かっているの?」

 

リアスがイサオさんに問う。

 

これまで息を潜めていた集団がここに来て動き始めた理由。

三大勢力の関係者を次々に襲撃したのはなぜか。

そこには必ず何らかの目的があるはずなんだ。

 

「ウホッウホホホ(訳:確証はないが、おおよその検討はついている。連中が動き始めた理由、それは―――――)」

 

イサオさんがウホウホ言いながら、語ろうとした時だった。

彼の耳元に通信用の魔法陣が展開された。

 

「ウホッ(訳:失礼。部下からの報告だ)」

 

「部下………いたんだ」

 

「一応ね。数名の堕天使が彼の下で働いているの。もちろん、ゴリラ語も話せるわ」

 

ゴリラ語が話せる堕天使が何人もいるのか。

俺は堕天使組織の将来に不安を感じてならないよ。

それで良いのか、グリゴリ!

 

少し話した後、イサオさんは通信を切って俺達の方に視線を戻した。

 

「ウホ(訳:すまないが、会議はここまでだ。―――――連中の居場所が判明した)」

 

 

 

 

イサオさんの部下からの連絡を受け、俺達が転移したのは南太平洋に浮かぶ数百の島からなる国―――――ソロモン諸島。

その内の小さな無人島。

島は正にジャングルといった感じで、緑がこれでもかと生い茂っている。

………が、いくつもの気配を感じるな。

 

メンバーは俺達オカルト研究部の面々とアザゼル先生、イサオさん。

それから―――――。

 

「なるほど、島の奥から強い力を感じるな」

 

ジャングルの奥を見つめて、そう呟くのはヴァーリ。

そう、ヴァーリチームも今回の作戦に参加しているのだ。

 

アザゼル先生が言う。

 

「相手は過激武闘ゴリラ集団。念のため、ヴァーリも呼ばせてもらった」

 

ゴリラ相手に二天龍揃えちゃったよ、この人。

つーか、ヴァーリの奴も良く来たよな!

やっぱり、この世界のゴリラってそれだけの存在なの?

バトルマニアのヴァーリが喜んで来る程の存在なの?

 

黒歌がうんざりした顔で言う。

 

「私は嫌だって言ったんだけどねー」

 

「そうなのか?」

 

「だって、相手はあのゴリラ集団よ?」

 

「ゴメン、俺の認識不足なんだけど………そんな当然そうな顔で言われても困る」

 

「赤龍帝ちんはゴリラとやり合ったことないのかにゃ?」

 

「ない。そもそも動物園でしか見たことねーよ」

 

「そっか。それじゃあ、しょうがないにゃん。………健闘を祈るわ」

 

「ちょっと黒歌さん? なにその顔? なに可哀想な顔で俺のこと見てるの? やめてくんない、その顔。反応に困るから」

 

すると、美猴もまた心底嫌そうな表情で言った。

 

「マジで帰りてぇ………。だって、ゴリラだぜぃ? マジで帰りてぇよ」

 

「うん、その反応もう良いから。とりあえず、おまえ達が嫌そうにしてる理由を教えてくれよ」

 

「聞いてるだろ? 奴ら、自分のウ○コを投げつけて来るんだぜ?」

 

「ま、まぁ、そうらしいけど………」

 

確かに顔面スパーキングは嫌だけど、魔法で防げるだろ?

避けることも出来るだろうし。

バラキエルさんは不意討ちでやられたみたいだけど、連携とれば、その辺りは何とか出来そうな気がするんだが………。

 

美猴がやれやれと言う。

 

「悪いことは言わねぇ。油断はしない方がいいぜぃ? 赤龍帝が知ってるゴリラとは別物………別ゴリラだからねぃ」

 

「お、おう」

 

美猴と黒歌がここまで言うってことは、俺の想像以上に裏の世界のゴリラはヤバいのか?

いや、グリゴリ幹部にスパーキングしてる時点で実力者なのは間違いないのだろうけど………。

二人から感じられるのはもっとこう………別の感情で………。

 

そんなやり取りをしながら、俺達はジャングルの中へと進んでいく。

周囲を警戒しながら、移動していくのだが………。

 

「全く襲撃がないというのも不気味ね」

 

リアスが辺りを見渡しながらそう呟いた。

 

移動し始めてから十分程。

ここまで敵襲もなければ、罠もない。

あったのはバナナの皮くらいだ。

 

ヴァーリが言う。

 

「この辺りの島はバナナの種類が多く、約百種類のバナナがあるらしい。あの組織がここを根城にしたのはそういう理由からだろう」

 

本能に任せただけじゃん!

ただ本能に任せてバナナが多い島を選んだだけじゃん!

つーか、おまえの口からそんな考察は聞きたくなかったよ!

 

そんなツッコミをしながら、更に進むこと数分。

俺達が辿り着いたのはジャングルのど真ん中。

そこには巨大な石造りの建造物があった。

全体はピラミッドのような形をしており、正面には頂上へと繋がる階段がある。

階段の上へと視線を送ると、そこには一つの影が見えた。

 

「なんだ、あいつは………ッ!?」

 

その者から感じられる凄まじい圧力。

並の使い手じゃないのは明らかだ。

 

その者は魔王が身に付けるような装飾が施された衣装を身に纏っており、手には長い杖を持っていた。

そして―――――ゴリラだった。

 

イサオさんが言う。

 

「ウホッ(訳:奴が現刃那々(バーナーナ)の首魁)」

 

 

 

その名は――――――

 

 

 

「ウホホ(訳:魔教皇ビチグソ丸だ)」

 

 




イグニス「私はイッセーのバナナを―――――」

イッセー「ストーップ! それ以上は言わせねぇよ!?」


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4話 ゴリラを統べた者

ルールルルルーシーリーアールー♪


俺はイサオさんの言葉を聞いて、即答した。

 

「帰るか」

 

踵を返して、来た道を戻ろうとする俺をアザゼル先生が引き止める。

 

「おいおいおいおい! なに勝手に帰ろうとしてんだよ!」

 

「えっ、ダメなんですか?」

 

「ダメに決まってるだろ!? まだ何も終わってないだろうが!」

 

「いや、もう終わってると思うんですけど。なんですか、『魔教皇ビチグソ丸』って。なんで、あのゴリラは魔王みたいな格好してるんですか。別の意味で終わってるでしょ、これ」

 

確かに、俺達はこの島に来てからなにもしていない。

ジャングルの中を歩き、珍しいゴリラを発見しただけだ。

でもね、もうこれだけで良いじゃないか。

珍しいゴリラを見られただけで良いじゃないか。

これ以上、何をしろと?

ツッコミか?

ツッコミが足りないのか?

そんなもん、この場において、なーんにも意味を成さないんだよ。

だって、ゴリラだもの。

敵も味方もゴリラだもの。

ひたすらウホウホ言ってるだけだもの。

 

と、いうわけでだ。

 

「よーし、それじゃあ今日はこれで解散な。帰ってゲームしようぜ」

 

 

 

こうして、短かった俺達の戦いは終わった。

 

 

 

「勝手に終わらせるなよ! 俺達の戦いは始まってすらいねーよ!? おい、イッセー! ツッコミはおまえの仕事だろ!? 働けよ!」

 

「あんたにだけは言われたくないね。あんたこそ、働けよ」

 

「ちくしょう、言い返せねぇ! つーか、なにその投げやりな目!? おまえ、キャラ変わってるぞ!?」

 

「はいはい、ウホウホ」

 

「俺はゴリラ語喋らねーぞ!?」

 

そんなやり取りをしている横で美羽とアリスが、

 

「どうしよう、お兄ちゃんの心が荒んでる………」

 

「だって、ゴリラだもの。どこまでいってもゴリラだもの」

 

 

 

 

今すぐ帰りたい気持ちで一杯なのだが、流石にリアス達を置いて帰るのは気が引けたので、現実(ゴリラ)と向き合うことにした俺。

ピラミッド型の神殿らしき建物の頂上に立つゴリラ―――――魔教皇ビチグソ丸とやらに視線を戻す。

まぁ、確かにオーラだけなら並外れたものを感じるな………ゴリラなのに。

 

ビチグソ丸が俺達を見下ろして口を開いた。

 

 

 

「―――――ウホ」

 

 

 

「ねぇ、レイナちゃん。翻訳されないと分からないんだけど。翻訳機、機能してないんだけど」

 

「あ、ゴメン。多分、今のは南ゴリラ語なんだわ。イサオさんは北ゴリラ語だったから、翻訳機の設定が………」

 

なにそれ、ゴリラ語に北とか南とかあるの!?

どっちも『ウホ』じゃん!

同じじゃん!

つーか、君も良く聞き分けることができたな!

 

レイナが翻訳機の設定を操作したところで、ビチグソ丸の言葉が翻訳されていく。

 

「ウホホ(訳:そろそろ来ると思っていたぞ、三大勢力の狗共。堕天使の総督自ら出張ってきたのは予想外だったがな)」

 

アザゼル先生が言う。

 

「『前』総督だ。今はこいつらの監督だよ。それにしても、よりにもよって、おまえが今の刃那々(バーナーナ)の首魁とはな」

 

「先生、あのゴリラを知ってるんですか?」

 

俺の問いに先生は苦い顔で頷く。

 

「ああ。奴は各勢力から最も過激で危険なゴリラとして、ブラックゴリラリストに載っていてな」

 

「今、謎のワードが出てきたけどあえてスルーします。過激で危険ってのは?」

 

「かつて、各勢力の争いが頻繁に行われていた頃、奴は傭兵としてあちこちの勢力に手を貸していてな。多くの兵が奴にスパーキングされたのさ。全員がゴリラ恐怖症になって、今も引きこもってる」

 

それは………お気の毒に。

 

「無数の敵にスパーキングで沈めたことから、奴は畏怖を込めて多くの者からこう呼ばれることになった―――――ビチグソ丸、と」

 

その理由でいくとほとんどのゴリラがビチグソ丸って呼ばれそうなんですけど。

あのゴリラは俺の想像もつかないほどスパーキングの嵐を巻き起こしたということなのだろうか。

 

アザゼル先生がビチグソ丸に問う。

 

「ビチグソ丸、おまえの目的はなんだ? かつて戦場で大暴れしていたとはいえ、大きな争いが無くなった後は姿を見せなくなったおまえが、なぜ今になって出てきた? 三大勢力の関係者を襲撃する理由はなんだ?」

 

「ウホッ(訳:なに、簡単なことだ。我々にとって時が満ちただけのこと。我々の理想郷―――――ゴリラ王国を作り上げる。そして、この世界を我が手にする)」

 

すいません、ゴリラ王国ってなんですか!?

つーか、このゴリラ、世界征服企んでたの!?

なんてベタなこと考えてるんだ!

 

ビチグソ丸は笑みを浮かべて続ける。

 

「ウホホ(訳:そのためには各勢力で行われている和平協定を崩す必要がある。いかに我々の力が大きくとも、各勢力が連携を取っている中で動くとこはできないからな。だから、和平の中心となっている貴殿ら三大勢力を狙うことにしたのだよ。貴殿らを崩せば、各勢力の足並みもそれなりに乱れるだろう?)」

 

現在、各勢力で執り行われている様々な協定はアザゼル先生達―――――三大勢力のトップ達が大きく関わっている。

先生達がそれぞれの勢力の間を取り持っているからこそ、話が進んでいるんだ。

もし、ビチグソ丸の言うように三大勢力が崩れてしまった場合、影響は大きいだろう。

このゴリラは関係者を襲い始め、遂には堕天使の幹部の襲撃も成功させた。

じわりじわりとこちらの首を絞めてきていたということだ。

 

「ウホウホホホ(訳:我々が襲撃を繰り返し、堕天使の幹部の襲撃をも成功させたとなれば、貴殿らは討伐隊を送り込んでくる。そして、それは今話題のチーム『D×D』だろう。これを返り討ちにすれば、冥界、天界に大打撃を与えられるのは間違いない。今回、一つ計算外だったのは堕天使の前総督が直接赴いたことだな。まぁ、我々にとっては嬉しい誤算となったがね)」

 

なるほど、チーム『D×D』に加えて堕天使の前総督を討ったとなれば、その影響はかなりのものになる。

こいつ、そこまで考えていたのか………。

 

アリスが半目で言う。

 

「ゴリラなのに割りと計画立てて動いてるのが腹立つ」

 

「それな!」

 

ゴリラなのに!

ウホウホ言って、人の顔面にスパーキングしてるだけなのにね!

 

ビチグソ丸の言葉にアザゼル先生が口を開く。

 

「俺達を狙う理由はそういうことか。そうなると、俺やサーゼクスも狙われていたわけか」

 

「アザゼルはともかく、お兄様までスパーキングされるのは………」

 

「俺は良いのかよ!? ………ま、まぁ、それは置いておく。ビチグソ丸、おまえの考えは分かったが、時が満ちたというのはどういうことだ? その考えでいけば、もっと早い段階で動くべきだったはずだ」

 

アザゼル先生の問いにビチグソ丸が答える。

 

「ウホッ(訳:単純な話、世界を取るためには戦力が足りなかっただけのことだ。神々の力は強大。たとえ、勝利したとしても、我々も大きな損害を被ることになる。それでは、我々の先が続かない)」

 

「では、おまえ達は世界を取るための力を得たと言うことか?」

 

「ウホ(訳:そうだ。まぁ、正確にはこれから得ることになるのだがね)」

 

「なんだと?」

 

眉をひそめるアザゼル先生。

 

力をこれから得るだと………?

どういうことだ?

ビチグソ丸の言葉に疑問を抱いたその時だった。

 

 

ガゴンッ! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………!

 

 

弾けるような音と共に突如、一帯が大きく揺れ始めた!

 

「な、なに!?」

 

「あれ………! 見て、神殿が崩れていくわ!」

 

イリナが指差した方を見ると、ビチグソ丸が立っている神殿が、揺れと共に崩れ始めていた。

綺麗に積まれていた石がバランスを崩し、上から降ってくる!

 

なんだ………なにが起きようとしているんだ!?

 

揺れが更に大きくなっていくと神殿の崩壊が更に進んでいく。

そして、石造りのピラミッドの中から何か巨大なものが姿を見せ始める。

揺れが止まった後、舞った砂埃の奥に影が映る。

 

「あれは―――――」

 

砂埃がおさまり、それを視認した時、俺は目を見開き絶句した。

神殿の中から現れたのは―――――

 

 

「デカいゴリラの石像じゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

天を仰ぎ、叫ぶ俺!

そう、崩れた神殿の中から現れたのは、巨大なゴリラの石像だった!

 

「もうゴリラは良いだろ!? この騒動に巻き込まれてから、どれだけ『ゴリラ』って叫んだと思ってるの!? しつこいんだよ! いい加減にしてくれませんかね!?」

 

この短期間の間に『ゴリラ』って単語を連発することって、長い人生でもそうないと思うんだ!

つーか、なんでゴリラの石像!?

二十メートルくらいあるけど、誰が作ったの、これ!?

なんで、こんな無駄にデカいゴリラ作ってるの!?

意味わかんない!

 

ふとリアス達を見てみると、驚きこそしているが、あのゴリラの石像が何なのかは理解できていないようだ。

アザゼル先生さえ、あれの正体が分からないといった表情だ。

だが、そんな中で一人驚いている様子のイサオさん。

 

「ウホッ(訳:馬鹿な………!)」

 

手を震わせるイサオさんにアザゼル先生が問う。

 

「あれを知っているのか、イサオ。あれは一体………」

 

「ウホホ(訳:アザゼルさん、あんたも知っているはずだ。あの石像は―――――)」

 

イサオさんがそこまで言いかけた時、ビチグソ丸が高らかに笑った。

 

「ウホホホホホ!(訳:フハハハハハハ!)」

 

その訳は必要ですか!?

笑い声まで訳さなくて良いよ!

 

ビチグソ丸が言う。

 

「ウホッ、ウホホホホホ!(訳:堕天使の前総督よ、貴殿は忘れたのか? 我らの神を、偉大なる我らが王のことを!)」

 

「おまえ達の神だと………まさか!」

 

「ウホッウ!(訳:そうだ! この石像には今は亡き、我らの偉大なる神の力が、意思が宿っているのだ!)」

 

あいつらの神って………ゴリラの神だよね?

そのゴリラ神の力と意思があの石像に封じられているってことなのか?

 

そんな疑問を浮かべていると、一歩前に出たヴァーリが俺に言ってくる。

 

「兵藤一誠。君に教えておこう。ゴリラはドラゴンに次ぐ強力な種族だ。穏やかな性格の者がほとんどだが、中にはあのビチグソ丸のように過激な者もいた。これらを纏めあげるのは難しい。だが、かつて、そんな彼らを統べる最強のゴリラがいた。全てのゴリラを従えたゴリラの王、ゴリラの神とまで呼ばれた存在。神々も恐れた最強のゴリラ。その名は―――――」

 

ヴァーリはその名を口にした。

 

 

「―――――コンドー」

 

 

さぁ、ツッコミの時間だ。



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5話 漆黒の風と光の皇子

他作品キャラ参戦………!


「神々も恐れた最強のゴリラ。その名は―――――コンドー」

 

ヴァーリが口にしたその名に戦慄が走る。

アザゼル先生は冷や汗を流し、あの美猴もゴクリと喉を鳴らしている。

リアスやレイヴェルもその名前を耳にしたことがあるのか、信じられないと言った表情だ。

 

ああ………確かにその名前は予想外だったよ。

信じられないよ。

なぁ、ヴァーリ。

俺のライバル、最強の白龍皇よ。

 

 

―――――ツッコミして、いいよな?

 

 

「コンドーってなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

俺はゴリラの石像を指差して全力でシャウトした!

 

「『コンドー』ってなんなんだよ!? 『近藤』だろ!? なぜに日本の名前!? なぜにゴリラから崇められてるの!?」

 

俺のツッコミに対して、ヴァーリは「落ち着け」と言いながら続けた。

 

「詳しくは俺も知らない。だが、コンドーは日本出身のゴリラだと聞いている」

 

「日本出身のゴリラってなに!? 日本に野生のゴリラっていたっけ!?」

 

「分からない。だが、ホモ・サピエンスの更に昔。人類がまだ四足歩行をしていた頃から奴は存在していたと聞く。もしかしたら、コンドーは全ての人類の始祖―――――」

 

「やめろよ! 泣くぞ!」

 

俺が!

 

意味わかんないんだけど!

なんで、あのゴリラが人類の始まりなんだよ!

もっと他にあるだろ!

つーか、完全に別物だろ!?

だって、ゴリラだもの!

完成形のゴリラだもの!

パーフェクトゴリラなんだもの!

人類とは別進化してるものぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 

すると、ビチグソ丸が両手を広げて、

 

「ウホホゥ!(訳:そうだ、我らが偉大なる神コンドーは、完成形のゴリラ! パーフェクトゴリラなのだよ、赤龍帝!)」

 

「人の心の中、勝手に読んでるんじゃねぇよ! ぶっとばすぞ!?」

 

毎度毎度ウホウホ言いやがって!

いい加減にしないと、赤龍帝の力を爆発させちゃうぞ!?

天龍舐めんなよ!?

 

俺がツッコミに息を荒げていると、美羽がアザゼル先生に尋ねた。

 

「えっと、神が恐れたってことは相当強かったんですよね? 今は亡きってことは………」

 

「コンドーは遥か昔に消滅したと言われている。なんでも、バナナの食い過ぎで腹を下したみたいでな」

 

「どんな消滅の仕方!? 神の最期じゃないよね!?」

 

「勘違いするな、美羽。その程度で神が消滅するかよ。奴はトイレに籠った後、そこから出られなくなって、それで―――――」

 

「どっちにしても酷すぎるよ!」

 

本当に酷い!

トイレに籠ったまま消滅する神ってなに!?

『神』じゃなくて『紙』の間違いないだろ、それ!

 

「奴も哀れなもんだ。まさか、紙が切れていたとはな………」

 

トイレットペーパーが無くて消滅する神ってなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

確かに、トイレした後でトイレットペーパーが無かったら、ちょっとした絶望しちゃうけど!

トイレあるあるだけども!

 

「しかも、そこのトイレはエコの観点から芯のあるタイプじゃなかったらしい。つまり、芯をふやかして尻を拭くことも出来なかったんだよ」

 

「最近!? 最近だよね、それ!?」

 

もしかして、このゴリラの神様、最近まで生きてた!?

てっきり数百年前とか相当昔の話だと思ってたんですけど………。

 

先生がビチグソ丸に問う。

 

「ビチグソ丸! そのコンドーの力が眠っている石像をどうするつもりだ!」

 

問われたビチグソ丸は地面に降り立つと、コンドーの石像を見上げて言う。

 

「ウホ(訳:―――――この石像に眠る力を我が物にする)」

 

「っ! そんなことが可能なのか?」

 

「ウホウホ(訳:時が満ちたと言ったはずだ。偉大なる我らが神の力はもうすぐ解き放たれる。私はコンドーを継ぐ者となるのだよ。このタイミングで貴殿らと相対するのも、コンドーの力を得た時の実験台にするためよ)」

 

「舐めたことを言ってくれるな。俺やこいつらを甘く見るなよ? かつて、こいつらを舐めてちょっかいをかけてきた奴らは痛い目を見ている」

 

俺達に視線を送りながら、先生は不敵にそう告げた。

 

ここにいるメンバーは激戦を潜り抜けてきた猛者ばかりだ。

禍の団の旧魔王派も英雄派も俺達とやり合った結果、壊滅している。

俺達を舐めた結果だ。

ヴァーリチームにしても、各勢力の追撃をかわし続けた連中だ。

特にヴァーリは長時間の解放は厳しいとは言え、極覇龍という最上級死神すらも瞬殺するレベルの力を有している。

そして、今ではこの場の全員がテロ対策チーム『D×D』の一員、精鋭として十分な実力を持っているんだ。

 

しかし、先生の言葉にビチグソ丸は口元を笑ました。

 

「ウホホゥ(訳:舐めてなどいないさ。コンドーの力を得ずに一人で貴殿らと真正面からやり合えるとは思っていない)」

 

そう言うと、ビチグソ丸はパチンッと指を鳴らした。

次の瞬間、奴の背後から幾つもの気配が現れる。

 

ゼノヴィアがデュランダルを構えて言った。

 

「十………二十………いや、もっとか」

 

茂みを揺らしながら姿を見せたのは―――――数十体のゴリラ。

戦意に満ちた目をこちらに向けながら悠然と前に出てくる。

このゴリラ達、並の実力者じゃない。

その身から放たれるのは強者のそれだ。

 

アザゼル先生が現れたゴリラの集団を見て、目を細めた。

 

「このオーラ、上級ゴリラといったところか」

 

「ウホゥ(訳:ただの上級ゴリラと思わないことだ。彼らは私自らが鍛え上げた精鋭ゴリラなのだからね)」

 

「ちっ………気を付けろ、おまえ達。奴ら、リゼヴィムの作る量産型の邪龍なんぞよりもよっぽど強力だ」

 

と、ここで俺の視線はあるものへと向けられる。

ゴリラ部隊の中に二体、他のゴリラとは一線を画するオーラを持つ―――――人間がいた。

一人は金髪の優男で、白い鎧を身につけ、背には長い剣。

もう一人は長い黒髪をした鋭い目付きのイケメン。

左目に大きな傷があり、こちらは黒い鎧を身につけている。

 

なんで、ゴリラの集団の中に人間がいるんだ………と、思った俺だったが、よくよく二人の気の質を見極めてみると、他のゴリラと似た気の質を有していた。

 

ヴァーリが言う。

 

「人間態に変化できるゴリラか。珍しいものが見られたな」

 

「というと?」

 

「ゴリラは悪魔のような魔力を持たず、また他の種族よりも魔法への適性が低い。そんな中で、あのように姿を変化させるゴリラというのは、かなり稀有な存在なんだ。恐らく、魔法も使えるのだろう」

 

まぁ、ゴリラって魔法よりも物理攻撃してきそうだしな。

つーか、ほとんどスパーキングしてくるみたいだし。

あの二人の美男子(ゴリラ)はあのゴリラ部隊のリーダー的存在なんだろうな。

 

すると、ビチグソ丸が二人を見ながら言った。

 

「ウホウホゥ(訳:そうだな、折角の機会だ。我が息子を紹介しておこう。黒い鎧がバルムンク・フェザリオン、白い鎧がアイザック・シュナイダーだ)」

 

その名を聞き、アザゼル先生が目を見開く。

 

「おいおい、マジかよ………。漆黒の風と光の皇子。ラグナロックシェパード戦役の二大戦士様がご登場か………!」

 

「すいません、先生。ラグナロックシェパード戦役ってなんですか?」

 

「あの黒い鎧―――――バルムンクには気を付けろ。額の第三の眼が開眼すれば、セフィロスの惨劇が繰り返されるぞ!」

 

「無視か!? つーか、セフィロスの惨劇ってなに!? まず、そこの説明からお願いします!」

 

ラグナロックシェパード戦役ってなに!?

セフィロスの惨劇ってなに!?

 

すると、ヴァーリが俺の肩に手を置いた。

 

「ジャンプを読めば分かる」

 

「なんでだよ!?」

 

ジャンプに記されてるの!?

そんなの聞かされて理解できると思ってるの!?

余計に謎が深まっただけなんですけど!

 

ん………ちょっと待って。

バルムンク、めっちゃこっち見てるんですけど。

バナナ、くちゃくちゃ言わせながらめっちゃ見てるんですけど。

つーか、第三の眼開いてるんですけど!

 

リアスが叫ぶ!

 

「いけない! 第三の眼が………このままじゃ、セフィロスの惨劇が繰り返されるわ!」

 

バルムンクが右手を天に翳すと、掌に暗黒に満ちたオーラが集まっていく!

第三の目に怪しい光を宿らせていく!

 

「ヘェェェェェルズゥゥゥゥゥゥ…………!」

 

アザゼル先生が叫ぶ!

 

「マズい! ヘルズ・ファキナウェイを放つつもりだ! おまえ達、全力で防御障壁を張れぇぇぇぇぇぇ!」

 

「いや、そもそもヘルズ・ファキナウェイってなに!?」

 

先生の指示に俺達は防御体勢に入ろうとした。

しかし、バルムンクの行動は俺達よりも素早く―――――

 

「ファキナウェェェェェェェェイッ!」

 

 

バルムンクの放った砲撃―――――ウ○コが美猴に炸裂した。

 

 

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? なんで、バルムンクもウ○コ!? ゴリラとやってること変わらねぇじゃん!」

 

「それは奴がゴリラだからだろう。姿形は人間でも、中身はゴリラだ」

 

冷静にそう告げてくるヴァーリ。

そして―――――

 

「おまえらぁぁぁぁぁ! 俺っちに対する心配はねぇのかよぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

美猴が抗議の声をあげた。

ヘルズ・ファキナウェイの直撃を受けた美猴の顔は、それはもう残念なことになっていて………モザイクがかかるほどだった。

 

ちなみに、俺は見ていた。

黒歌が美猴を盾にするところを。

 

「黒歌ぁ! てめ、なに俺っちを盾にしてやがるんだぃ!」

 

「だって、あんたが良いところにいたから」

 

「やって良いことと悪いことがあるだろぉ!?」

 

「えっ、やって良いことじゃないの?」

 

「なに、当たり前みたいな顔してやがるんでぃ!」

 

「ねね、赤龍帝ちんは私と美猴、どっちがモザイクまみれになるべきだと思う?」

 

「美猴だな」

 

「即答かよ!?」

 

「さっすが、赤龍帝ちんはわかってるにゃん♪」

 

そう言って、俺の腕に抱きついてくる黒歌!

おっぱいが押し付けられて、むにゅうって…………!

服の隙間から覗かせる谷間もまた………眼福です!

やはり、こんな状況にあっても、おっぱいはおっぱいだということか。

 

ただ、黒歌とこういう絡みをしていると、小猫ちゃんが不機嫌になってだな。

 

「姉様、イッセー先輩から離れてください」

 

「えー。白音にはこういうのは出来ないでしょ?」

 

イタズラな笑みを浮かべた黒歌が、腕をおっぱいで挟んで来るぅぅぅぅぅぅ!

やっぱりエロいね、この猫又のお姉さんは!

 

俺が黒歌のおっぱいの感触を楽しんでいる横では、事態は進んでいて、

 

「ぶべっ!? なんで、俺ばっかりなんでぃ!」

 

美猴が二発目のヘルズ・ファキナウェイをくらっていた。

 

 

 




バッドコミュニケーション♪


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6話 目覚める伝説のウホ

~ 前回のあらすじぃぃぃぃ! ~


イッセー「過激武闘ゴリラ組織『刃那々(バーナーナ)』の首魁、魔教皇ビチグソ丸と対面したチーム『D×D』の面々。これまで多くの犠牲者(笑)を出してきたビチグソ丸の目的は世界征服だった! 飛び交う砲弾(ウ○コ)に散る仲間達(美猴)………果たして、チーム『D×D』はビチグソ丸の野望を阻止できるのか!」

美猴「死んでねぇし! なに、勝手に俺っちを殺してるんでぃ!? 」

ヴァーリ「美猴、おまえは良い奴だったよ(笑)」

美猴「二天龍で俺を弄るの止めろぃ! つーか、(笑)ってどういうことだ、ゴラァァァァッ!」


バルムンクが放ったヘルズ・ファキナウェイが美猴の顔面を捉えた―――――。

 

倒れる美猴にアザゼル先生が叫ぶ。

 

「しっかりしろ、美猴! おい! くっ………ダメだ、顔面がモザイクだらけでどれが美猴でどれがウ○コなのか、区別がつかねぇ………!」

 

「それは俺の顔面がウ○コって言いたいのかい!?」

 

顔にモザイク修正が入ったまま抗議する美猴。

 

今のはアザゼル先生の発言が酷い。

モザイクまみれだとしても、流石に美猴の顔くらいは………あっ、ダメだ。

顔面の全面積をモザイクが埋め尽くしているから、顔の判別が出来ないや。

 

美猴(モザイク)が言う。

 

「おぃぃぃぃぃぃ! 美猴って書いて、モザイクって呼ぶの止めろよ! なんなんだよ、おまえら! もう、俺っちは返るぞ!?」

 

すると、ヴァーリが冷静な口調で美猴に言った。

 

「それは困るな。美猴(ウ○コ投げられ機)にいなくなられては戦闘に支障が出る」

 

「ウ○コ投げられ機ってどういう意味だゴラァッ!? ヴァーリ、おまえ、そんな風に俺っちを見てたのかよ!?」

 

「まぁ、以前にゴリラ達と戦った時がそうだったからな」

 

そういや、ここに来る前に美猴と黒歌は嫌そうな顔をしていたっけな。

やっぱり、前にもゴリラ達と戦ったことがあると?

 

疑問に思う俺に黒歌が耳打ちする。

 

「伝説のドラゴンが眠っているって情報があって、とある山に行くことになったんだけど、そこにいたのはドラゴンじゃなくて、ゴリラだったのよね」

 

「その時に戦ったのか?」

 

「そうそう。ヴァーリは戦闘バカだから、嬉々として飛び出していったんだけど、いつの間にかゴリラの標的が美猴になっててね。全弾、美猴に投げつけられたにゃ」

 

「それでウ○コ投げられ機………」

 

あらら………。

ゴリラからの集中攻撃とはお気の毒に。

なぜにターゲットが美猴?

美猴にはゴリラを刺激する何かがあるということなのかね?

つーか、ヴァーリも中々に酷い名前をつけるもんだな。

投げられ機って………。

 

ヴァーリが言う。

 

「上級ゴリラと最上級ゴリラ。ゴリラの精鋭達がこれだけの数がいるとなると、美猴(ウ○コ投げられ機)なしだと厳しい戦いになる」

 

「なるほど。つまり、美猴を囮に彼らの首魁を倒す。こういうことね?」

 

「そういうことだ」

 

リアスの確認に頷くヴァーリ。

 

………美猴ってこんなに扱いが酷いポジションだっけ?

まぁ、ヴァーリ、アーサー、黒歌、ルフェイがスパーキングされるところなんて見たくないけどさ。

となると、やっぱり、美猴はスパーキングされる運命だったということか。

 

アザゼル先生が言う。

 

ウ○コ投げられ機(美猴)のことはウ○コに置いとくとしてだ」

 

「置くなよ!? つーか、今、何て言った!? 逆で言ったよな!?」

 

「気を付けろ。奴らのオーラが高まってやがる。少しでも油断すれば美猴(モザイク)になるぞ」

 

「無視するなよ!? そろそろ、俺の呼び方くらい統一しねぇ!?」

 

ビチグソ丸の背後に群れているゴリラ達は眼光を輝かせ、完全に戦闘体勢に入っている。

既にバルムンクがヘルズ・ファキナウェイを命中させたためか、あちらの士気は高いように感じられる。

士気が高まった敵軍は強大だ。

どれほどの攻撃を浴びせようとも、どれだけ味方が倒れようともその勢いが衰えることはない。

士気が高まった軍を撤退させる近道があるとすれば―――――

 

「ウホウホ(訳:相手の頭を叩く。ビチグソ丸を倒すしかない)」

 

イサオさんがビチグソ丸を睨みながらウホウホ言った。

 

「ウホ(訳:このまま奴を放っておけば、奴は取り返しのつかないことをしてしまうだろう。ならば、今ここで確実に奴を捕らえるしかない)」

 

イサオさんのその言葉にビチグソ丸は不敵に笑む。

 

「ウホホ(訳:ほう、この私を捕らえると言うのか。身の程を知るがいい、元人間の転生ゴリラよ。いかに貴様が強かろうとも、所詮は紛い物よ。真のゴリラたる私に………いや、ゴリラ神コンドーを継ぐ者である私に勝てるはずがない)」

 

「ウホウホウホ(訳:そいつはどうかな。紛い物が本物に負けると誰が決めた?)」

 

両者の視線がぶつかった瞬間、イサオさんとビチグソ丸のオーラが膨れ上がる!

二頭のゴリラの波動を受けて、興奮したのか、ビチグソ丸配下のゴリラ達が両足で立ち上がり、胸を叩き―――――ドラミングを始めた!

ドラミングの音がジャングルの奥地に響いていく!

一定のリズムで鳴らされる音はゴリラ達のオーラに変化をもたらしていて、

 

「なんだ、こいつら!? さっきよりも強いオーラを………!?」

 

そう、ドラミングによって、ゴリラ達の力が明らかに増していた。

 

その疑問にアザゼル先生が言う。

 

「あの動作は奴らの力を高めていくのさ。叩けば叩くほど、奴らは強くなっていく。ま、赤龍帝の籠手みたいなもんだな」

 

「なにそれ!? あのゴリラ達の存在そのものが神滅具とでも言うの!?」

 

「いや、個体にもよるが流石にそこまでじゃない。確かにパワーアップはするが、隙がデカい上にパワーアップにかかる時間も決して早いとは言えんからな」

 

木場が言う。

 

「では、あれを続けさせるわけにはいかないのでは?」

 

「ああ。おまえ達、奴らを止めるぞ! ゴリラ共の野望を打ち砕いてやれ!」

 

『はい!』

 

先生の言葉にこの場の『D×D』メンバーが気合いを入れる!

 

そうだ、こんな野性動物との戦いなんて早く終わらせるに越したことはない!

もう俺はツッコミに疲れたんだ!

こんなシリアスなのかシリアルなのか良く分からん相手にこれ以上、時間をかけてられるか!

 

『そこなのか』

 

ボソリと呟くドライグ。

 

あー、そうだよ!

俺は早く帰って、美羽達を愛でたいの!

撫で撫でモフモフしたいの!

普通に平和な時間を過ごしたいんだよ!

 

だからさ―――――

 

「かかってこいやぁぁぁぁぁぁぁ! ゴリラ(ウ○コ製造機)共ぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

「イッセー先輩がかつてないくらい荒れてますぅぅぅぅぅぅ!」

 

ギャスパーの叫びを横に俺は気を高めて、鎧を纏う!

 

「ウホォォォォォ!(訳:かかれぇぇぇぇぇ!)」

 

『ウホォォォォォォォォォォ!(訳:おおおおおおおおおおおおお!)』

 

 

 

 

ビチグソ丸の号令に合わせて、配下のゴリラ達が雪崩のような勢いで向かってくる!

 

「先に行くぞ」

 

隣に立っていたヴァーリも純白の鎧に身を包み、前に飛び出していった!

光速でゴリラの群れに突貫するヴァーリの前に―――――バルムンクが現れ、ヴァーリの行く手を遮る。

 

バルムンクは腰に帯びていた漆黒の剣を引き抜き、ヴァーリ目掛けて振るう!

ヴァーリは籠手で剣を受け止めると、楽しげに笑んだ。

 

「俺の相手は漆黒の風か。相手にとって不足はない!」

 

「この俺と戦って無事に済むと思うなよ、白龍皇」

 

その時、俺は目を見開いた。

あ、あいつ………!

 

「バルムンク、普通に喋れるのかよ!?」

 

てっきり、バルムンクも『ウホ』って言うと思ってたのに!

微妙にこっちの期待を裏切ってきやがった!

 

驚く俺に声をかけてきたのは『光の皇子』ことアイザックだった。

 

「僕達は人間態の時は普通に人間と同じ言葉を話せるのさ」

 

「な、なるほど………。つーか、ウ○コ投げつけてくるゴリラのくせに爽やかな笑顔してるんじゃねーよ! おまえは木場か!?」

 

「それは僕に対して酷いと思うんだけど!?」

 

ゴリラの攻撃を避けて、聖魔剣で立ち向かう木場の抗議!

ゴメンな!

イケメンを見てるとつい!

 

背中の剣を抜いて、鋭い動作で迫ってくるアイザック。

俺は軽く身を捻り、アイザックの剣を避けた直後に拳を撃ち込む。

だが、アイザックも流れるような動きで、こちらの攻撃を受け止めて見せた。

 

アイザックが俺の拳を押し返しながら言う。

 

「フフフ、流石は赤龍帝。一発が想像以上に重い」

 

「そうかい!」

 

俺は拳を引いて、アイザックの体勢を崩すと、そこへ蹴りを放つ。

しかし、これにも余裕で対処されてしまう。

 

ったく、嫌になるぜ!

ゴリラなのに、こいつら滅茶苦茶強い!

単純なパワーもそうだが、技術面でも高いレベルを持っていやがる!

ゴリラ部隊と戦闘中の他のメンバーも、相手の実力に驚愕し、ギリギリの攻防を繰り広げているような状況だ。

 

つーかさ………

 

「ウッホォ!」

 

「イヤァァァァァ! こいつら、メチャクチャ汚物投げてくるんですけど!? どうしたら良いのよ!?」

 

鎧を装備したゴリラの攻撃に悲鳴をあげるアリス。

そう、奴らの基本的な遠距離攻撃の方法は毎度お馴染みスパーキングだった。

それはもう大量に、絶え間なく投げ続けている。

 

アリスが泣き叫ぶ。

 

「なんでそんなに出せるの!? ゴリラだから!? ゴリラだからなの!?」

 

すると、その疑問にアイザックが答える。

 

「快便の秘訣はバナナさ。青く若いバナナは食物繊維が豊富でね。腸内環境も良くなるんだよ」

 

「へー、そうなんだー………」

 

「ちなみに、時間が経ち熟れたバナナは免疫力を高めることができる。そうして、僕達はこの力を手に入れたのさ! 見よ、この肉体を! ハァァァァァァァ!」

 

アイザックが全身に力を入れ、凄まじい波動を放っていく!

こいつ、何をするつもりだ!?

 

身構える俺。

刹那、アイザックの体を光が包み―――――そこに新たなゴリラが現れた。

 

「ウッホホホホゥ!(訳:この姿こそ、アイザック・シュナイダーの真の姿さ!)」

 

「ただのゴリラじゃねぇか!」

 

人間に変身していたゴリラから純度百パーセントのゴリラになっただけじゃん!

いや、予想はしていたけどね!

 

ふと、ヴァーリの方を見ると、バルムンクの方もゴリラの姿になっていて、

 

「ウホウホ!(訳:ゆくぞ、アイザック!)」

 

「ウホ!(訳:よし、いこうか兄さん!)」

 

バルムンクとアイザックが地面を蹴ると、ジャングルの上空まで飛び上がる!

奴らは俺とヴァーリに狙いを定めると―――――

 

「「ウホホホゥ!(訳:バッドコミュニケーション!)」」

 

そう叫んで、無数の汚物を投げつけてきた!

まさにウ○コの弾幕………って、よくもここまで出せるな!

おまえらの腸内はマジでどうなってるんだ!?

 

俺とヴァーリは高速で降り注ぐ汚物の弾幕を潜り抜けていくが、奴らのウ○コが着弾したところを見ると、地面には巨大なクレーターが出来ていて、

 

「威力半端なさすぎだろぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

ほとんど砲弾じゃん!

あれに当たれば精神的にだけでなく、物理的にも死ぬということか!

 

 

ドゴォォォォォォォン!

 

 

突如、このジャングル一帯に轟音が鳴り響く。

振り返ると、多くの樹木が薙ぎ倒されており、地面は深く抉れていた。

そして、その中心にはアザゼル先生とイサオさんが倒れていた!

 

アザゼル先生が土を払い除けながら舌打ちする。

 

「ちっ、あの野郎、昔よりも遥かにパワーアップしてやがる………!」

 

アザゼル先生は飛び起きると同時に濃密な光力を籠めた槍を投げる。

だが、ビチグソ丸はそれを人差し指一本で無効化してしまった!

 

マジか!?

堕天使元総督の一撃だぞ!?

それを指一本で霧散させやがった!

 

驚く俺を他所に、イサオさんは土砂を巻き上げながら、飛び出し、ビチグソ丸に殴りかかっていく。

 

「ウッホゥ!(訳:どれほどの力があろうとも、俺達は必ず貴様を倒してみせる! ビチグソ丸!)」

 

「ウホッ(訳:威勢だけは良いものだな、紛い物よ。だが―――――)」

 

ビチグソ丸はイサオさんの拳を掴み、そのまま地面に叩きつけ、凄まじい連打をイサオさんの腹に撃ち込んできく!

離れていても伝わってくるこの衝撃!

一撃一撃が常軌を逸している!

 

「イサオ! ちぃっ!」

 

アザゼル先生がすぐにイサオさんの救出に向かう。

しかし、先生の放つあらゆる攻撃をビチグソ丸は易々と受け止め、倍返しと言わんばかりに強烈な一撃を食らわせていた。

ビチグソ丸の拳がアザゼル先生の肉体にめり込んでいく!

 

「ガッ! なんだ、この馬鹿げた力は………!?」

 

「ウホッ(訳:無駄だ。今の私は貴殿が知っている私ではない。果てのない研鑽の上に今の私はあるのだ。そして―――――)」

 

ビチグソ丸はアザゼル先生の腕を掴むと上へと放り投げる。

そして、両の拳を引いて、腰を深く沈め―――――。

 

「ウホホホホホホホホホホホ!(訳:アタタタタタタタタタタタ!)」

 

目にも止まらぬ早さでバナナをアザゼル先生に投げつけていった!

半分剥かれたバナナが全てアザゼル先生の口に入れられていく!

 

「ウホ(訳:バナナ神拳奥義―――――バナナ百烈拳)」

 

口に大量のバナナを投入されたアザゼル先生は力なく地面に膝を着いてしまった。

次の瞬間、アザゼル先生の体が膨らみ始めて、

 

「ウホホ(訳:………バナナはもう剥いている)」

 

「ひでぶっ!?」

 

悲鳴と同時にアザゼル先生の全身から黄色い何かが噴き出していった!

なんだ、あれ!?

血じゃないけど………。

 

すると、イサオさんが苦し気な表情で言った。

 

「ウホホ!(訳:あの技を受けた者は全身の穴という穴からバナナスムージーを噴き出して戦闘不能になる! アザゼルさんはもう………!)」

 

「それもう、えげつないバナナスムージー製造機! どんな技だよ!? 堕天使元総督はそんな技でやられたの!?」

 

なんだよ、バナナ神拳って!?

バナナ百烈拳ってなに!? 

バナナを無理矢理捩じ込んでるだけじゃん!

確かに全身からバナナスムージーを噴き出すのは恐ろしいと思うけどね!

 

ビチグソ丸は戦闘不能になったアザゼル先生から視線を外すと戦闘中の俺達に視線を向けた。

 

俺達は目の前のゴリラ達で手が一杯だ。

仲間は何頭かのゴリラを倒したようだけど、向こうにはまだまだ余力がある。

そして、こちらは予想以上に消耗してしまっている。

そんな中でアザゼル先生はバナナスムージーの向こうに消えてしまった………!

どうする………!?

 

ビチグソ丸が言う。

 

「ウホウホウホ(訳:さて、このまま終わりにしてしまっては良いが、余興としては些か物足りないな。………そうだな、一つ試してみるか)」

 

ビチグソ丸が指を鳴らす。

 

すると、木々を押し退けて、複数のゴリラが新たにこの場に姿を見せた。

見ると、二頭のゴリラが一人の堕天使を抑えつけている。

その堕天使は既ボロボロで、肩で息をしていた。

 

その光景にイサオさんが目を開く。

 

「ウホ!?(訳:そんな………なぜ、おまえが………!?)」

 

驚くイサオさんにビチグソ丸が笑いと共に返した。

 

「ウホホ(訳:こやつは貴殿の仲間なのだろう? 我々をこそこそ探っていたようなので、拘束させてもらった)」

 

そうか、あの堕天使はイサオさんの部下で、ビチグソ丸達を探っていたのか。

探る内に、奴らに見つかり、捕まってしまったと。

 

ビチグソ丸がイサオさんに言う。

 

「ウホ(訳:この者を消してしまえば、貴殿は私を楽しませてくれるだろうか?)」

 

「ウホウホウホホ!?(訳:貴様、何をするつもりだ!?)」

 

「ウホ………ウホホ!(訳:なに………こうするのだ!)」

 

ビチグソ丸はイサオさんの部下である堕天使の腕を掴むと空高くに投げる。

刹那、ビチグソ丸のオーラが段違いに膨れ上がる!

 

「ウホホ!(訳:やめろ、ビチグソ丸ぅぅぅぅぅぅ!)」

 

何かを察したのか、イサオさんが叫ぶ。

だが、その声を無視してビチグソ丸は放った―――――

 

 

特大のスパーキングを。

 

 

「ウホォォォォォォォォォッ!(訳:トシィィィィィィィィィ!)」

 

汚物まみれになって、落下するイサオさんの部下堕天使―――――トシ。

トシの元にレイナが駆け寄るが、レイナは目を瞑り、首を横に振った。

 

「もう全身にモザイクがままっているわ。これではもう………」

 

「なんでだよ!?」

 

なんでモザイクまみれになっただけで、死人扱い!?

いや、精神的には死ぬかもしれないけどさ!

 

全身モザイクと化したトシは震える声でイサオさんに言った。

 

「す、すまねぇ。ドジ踏んじまった………。イサオさん、俺は―――――」

 

トシが伸ばした手は途中で力尽き、イサオさんに触れる前に落ちてしまう。

イサオさんはトシの手を握り、肩を震わせた。

 

「ウホ………(訳:許さん………よくも………よくもッ!)」

 

突如、イサオさんから異質な力が溢れ出した。

この一帯を覆うほどの激しい熱気。

彼の力に呼応するように木々が激しく揺れる。

空を暗雲が支配し、雷すら落とし始めた。

 

「ウホ?(訳:ほう、これは………)」

 

先程まで余裕の表情だったビチグソ丸も、イサオさんから解き放たれる力を前にして、目を細めた。

 

イサオさんはゆらり、ゆらりと不安定な足取りでビチグソ丸に近づいていく。

そして―――――。

 

「ウホォォォォォォォ!(訳:貴様だけは許さねぇぇぇぇぇぇぇ!)」

 

叫びと共にイサオさんの体を光が包み込む!

発せられる眩い光に周囲のゴリラでさえも戦闘を止め、光の方に目を向けていた。

やがて、眩い光が止み、視界が戻ってくる。

目を開くと、そこではイサオさんが―――――黄金に輝いていた。

 

 

………股間が。

 

 

「なんで股間だけぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」




へっ、汚いゴリラだ………


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7話 コンドーを継ぐ者

ゴリラ炎上編最終回!

《警告》
頭を空っぽにして、何も考えずに読んでください。
考えたら負けです。

チャーラー! ヘッチャラー!




部下をビチグソ丸によってモザイクまみれにされて、激怒したイサオさんの体に変化があった。

普通、こういう場面ってさ、もっとまともな変身があると思うんだ。

髪が黄金になって逆立ったり、内に眠る力が解放されたりあると思うんだ。

 

でもね―――――

 

「おいぃぃぃぃぃぃ! なんで、股間だけ光ってんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

全力のツッコミだった!

 

確かに黄金に光輝いてるよ?

でも、なぜに股間!?

なぜにそこだけ!?

なぜに勃ってるの!?

スーツがモッコリしてるんですけど!

 

ビチグソ丸がイサオさんの姿に唸る。

 

「ウホゥ(訳:ふむ、これが機動戦士ということか………)」

 

「どういう意味!?」

 

「ウホ!(訳:機動戦士チ○ザム!)」

 

「ただの下ネタだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

いい加減にしろよ、このクソゴリラ!

汚物のスパーキングだけでもツッコミが絶えないってのに、ここにきて更に下ネタぶちこんでくるのかよ!

ああ、そうだね!

確かに股間だけは機動戦士してるわ、そういう意味なら!

でも、ここには女子もいるんだよ!

やめくれませんかね!?

 

イサオさんの姿を見て、バナナスムージーまみれのアザゼル先生を介抱しているレイナが言った。

 

「あれは四年に一度現れるという、伝説の超ゴリラ。またの名を―――――ゴールデンゴリラよ!」

 

「オリンピック!? つーか、そのまんまじゃねーか!」

 

四年に一度現れるってオリンピックですか!?

つーか、そんな短スパンで股間を黄金に輝かせるゴリラが出現すると!?

この世界はどうなっているんだ!

どこに向かっているんだ!

 

レイナが真剣な顔で続ける。

 

「あれは穏やかな心を持ちながら、激しい怒りによって目覚める伝説のゴリラよ。皆も聞いたことはあると思うけど………」

 

いえ、聞いたことないです。

二十年生きてきたけど、そんな話は初耳です。

 

リアスが目を見開いて叫んだ。

 

「そんな………! 伝説のゴリラが目の前で誕生するなんて! 噂には聞いていたけれど、まさか本当に………」

 

リアス、君はなんで知ってるんだよ?

そんな噂があったと?

どこで?

冥界ですか?

それとも人間界ですか?

 

木場が目を細めて呟く。

 

「あれが黄金のゴリラ、か………」

 

そうだねー。

黄金のゴリラだねー、股間だけ。

 

ねぇ、君達?

なんで、そんなシリアスな顔してるの?

やっぱり、俺がおかしいのか?

俺がダメなのか?

君達が俺のツッコミも聞かずに、そんな顔するなら、帰っちゃうぞ?

割りとマジで。

 

股間を黄金に輝かせるイサオさんが前に出る。

 

「ウホウホ(訳:よくもやってくれたな………だが、貴様の企みもここまでだ)」

 

「ウホ(訳:ゴールデン化したことは誉めてやろう。しかし、その程度でこの私に勝てると?)」

 

睨み合う二人の間の空気が変わる。

巨大なプレッシャーとプレッシャーの衝突が周囲に影響を及ぼし始め、地面に亀裂が入り、木々が激しく揺れた。

吹く強い風に一房のバナナが木から千切れた―――――

 

その瞬間、二人の姿がその場から消えた!

同時に聞こえてくる衝突音!

見上げると、この島の上空で二頭のゴリラが激しい殴り合いをしていた!

 

「ウホッ!(訳:はっ!)」

 

振り上げた豪腕を叩きつけるようにして、ビチグソ丸に打撃を与えるイサオさん。

爆音ともとれる凄まじい打撃音が響く!

ただの拳打でこれか!

超ゴリラは伊達じゃない!

 

ビチグソ丸は両腕でガードするが、衝撃までは防ぎきれなかったらしい。

口元が少し血で滲んでいる。

 

「ウホ(訳:想像以上にパワーが上がっているな。だが―――――)」

 

ビチグソ丸はイサオさんの腕を掴むと、自分を軸にして独楽のように回り始める!

その回転力でイサオさんを地面めがけて投げ飛ばした!

だが、イサオさんは地面と衝突する直前で身を捻り、上手く着地を決める!

あの体勢からよく立て直せたな!

 

イサオさんは自分の拳を何度か握ったり、開いたりすると頷いた。

 

「ウホ(訳:なるほど。これが今の俺の力………。だが、全てを発揮するには今の姿ではダメだな。窮屈すぎる。全てを奴にぶつけるためには―――――)」

 

イサオさんはボロボロのスーツに手をかけると、脱ぎ捨てた―――――下も!

 

「ウホゥ!(訳:全てをさらけ出すしかあるまい!)」

 

「全てをさらけ出すってそういう意味ぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

窮屈って下のことですか!?

いや、確かにそういう時あるけども!

ポジションに困ることもあるけども!

どこまでさらけ出してんだ!?

 

スーツはおろか、下着すらも脱ぎ捨てたイサオさんを見て、ビチグソ丸は口元を笑ました。

 

「ウホホ(訳:そちらがその気ならば―――――)」

 

ビチグソ丸は自身が着込んでいる魔王っぽい衣装に手をかけると、イサオさんと同じく脱ぎ捨てた。

その下まで!

 

「ウホゥ!(訳:私の全てを見せてやろう!)」

 

「いや、あんたが見せたの本当に全部だからぁぁぁぁぁぁ!」

 

なんで下まで脱ぐの!?

なんで、股間のバナナぶらぶらさせてるの!?

なんで、あんたも機動戦士してるの!?

それがゴリラなの!?

ゴリラ流の作法なの!?

俺にはもうゴリラが何なのか分からないよ!

 

ビチグソ丸が言う。

 

「ウホウホ!(訳:私のバナナとおまえのバナナ。どちらが強いか勝負といこうか!)」

 

「ウホッ!(訳:望むところだ!)」

 

その場から二人は駆け出し―――――

 

「「ウホッ!(訳:伸びろ如意棒! 伸びろマイバナナ!)」」

 

「如意棒、卑猥過ぎるだろ!? よくそんなに伸びるな! 普通の刀くらいあるじゃねぇか!」

 

それからさ―――――。

 

 

ブゥゥゥン!

バシュッ!

バシュッ!

ブゥゥゥン!

ブゥゥゥン!

 

 

「なんで、ライトセイバーみたいな音してるの!?」

 

どんなジェダイ!?

もしかして、フォースの力使える!?

つーか、互いのバナナをぶつけ合うとか、気持ち悪いんですけど!

何回も言うけど、ここには女子もいるんだからね!?

やるなら、せめて動物園の檻の中でしろぃ!

 

 

シャキーンッ!

ブゥォン!

ジャキーンッ!

ジャキーンッ!

 

 

「ライトセイバーはもういいって言ってんだろうが!」

 

しかし………俺のツッコミは届かない。

超変態ゴリラジェダイの戦いは続き、周囲ではゴリラ共の汚物が飛び交っている。

どうしてこうなった?

どうして俺のツッコミが届かない?

 

こんな世界間違ってる。

誰もツッコミを聞いてくれない、そんな世界なんて………。

ぶち壊してやる。

誰にもツッコミが届かない世界なんて消え去ってしまえば良いんだ。

 

そう思ったとき、俺の中で何かが切れた―――――

 

 

「我、目覚めるはツッコミの理を神より奪いし赤龍帝なり」

 

「お兄ちゃん、それ何を発動しようとしてるの!?」

 

「シリアスを嗤い、ボケに走る」

 

「それ、ツッコミしてないよね!? 完全にボケに回ろうとしてるよね!? ツッコミ諦めてない!?」

 

「我、赤きハリセンの王となりて」

 

「もう呪文の内容、無茶苦茶だよ!? ハリセンの王ってなに!?」

 

美羽のツッコミをスルーして、俺は最後の呪文を唱えた。

 

「汝を抗えぬシリアルへと沈めよう」

 

「結局、シリアルゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」

 

さぁ、貴様ら覚悟しろ。

今から――――――。

 

 

 

『相棒、そんな思い付きの呪文を唱えられても困るのだが………』

 

だよね………分かってる。

無理言って、ゴメン。

でもね、神器って所有者の願望に答えるって言うからさ。

こう籠手がハリセンになって、十秒ごとにツッコミが倍加していかないかなって。

 

『無茶を言わないでくれ………』

 

ほんっとゴメン。

 

俺の願いが神器にスルーされている間にもイサオさんとビチグソ丸の卑猥な戦い(本人達は大真面目)は激しさを増していく。

二人の衝突で生み出される衝撃波は辺りを壊滅させ、近くにはいられないほどだった。

 

そんな激戦の中でビチグソ丸が叫ぶ。

 

「ウホゥ!(訳:イサオよ、ゴリラ13よ! なぜ、歯向かう! なぜ、我らと同じ道を歩まない! 紛い物とはいえ、貴様も我らと同じゴリラだろうに!)」

 

「ウホッ!(訳:では、逆に聞く! 貴様はなぜ、世界征服を企む!)」

 

「ウホホゥ!(訳:決まっている! 我が同胞を守るためよ! ゴリラは年々数を減らしている………このままではいずれ絶滅するのだ! だから、私は動いた! ゴリラ帝国を築き、ゴリラの楽園をこの世界に作ってみせる! 私は同胞を守るためなら、この身をバナナに捧げよう!)」

 

「ウホッ!(訳:そうか………そうだったのか。だが、関係のない者までビチグソまみれにする貴様のやり方は認められん! 俺は俺自身をバナナに変えても貴様を倒す!)」

 

互いに互角。

後ろには一歩も下がらず、ただただ前に出ていく。

どれだけ傷つこうとも、膝をついたりはしない。

二人には譲れないものがあるのだろう。

守りたいもの、守りたいゴリラ、守りたいバナナがあるのだろう。

 

二人の攻撃が互いに届いた後、あれほど激しかった戦いがピタリと止まった。

ビチグソ丸の攻撃がイサオさんの胸を貫いたからだ。

苦悶の声と共にイサオさんが膝をつく。

 

「ウホウホ(訳:やはり、貴様ではこの私に勝てない。そして、『D×D』の諸君。君達も終わりだ。―――――時間だ。)」

 

ビチグソ丸の視線が、あの巨大なゴリラ像―――――ゴリラの神コンドーの力が封じられているという像に向けられる。

ビチグソ丸に釣られて、俺達もそちらを向く。

すると、ゴリラ像にヒビが入っているのが見えた。

そのヒビは少しずつ全体に広がっていき―――――最後はガラスが割れるような音と共に弾けた!

目映い光が周囲を照らす!

 

ビチグソ丸が高らかに笑う!

 

「ウホウホウホ!(訳:見ろ、我らの神の力が解き放たれた! ついにコンドーの力が私のものになるのだ!)」

 

その言葉に目を見開く俺達。

 

なんてこった!

間に合わなかったというのか!

もし、ゴリラの神の力とやらが、ビチグソ丸に受け継がれたりしたら………!

 

「皆、あれを攻撃して! ビチグソ丸にコンドーの力が渡ったら、世界は終わりよ! どんなツッコミも受け付けなくなってしまうわ!」

 

「今なんて? 最後なんて言った?」

 

レイナの指示に、俺達は一斉攻撃を仕掛けようとする。

しかし、俺達の動きは周りにいたビチグソ丸の配下ゴリラによって阻まれてしまう!

何度倒しても、何度も起き上がってくる!

こいつら、玉砕覚悟だってのか!?

 

光の塊が空から降りてくる。

それはビチグソ丸のもとに――――――はいかず、倒れているイサオさんの前で止まった。

そして、その光はイサオさんの中へ入っていく。

 

 

………え?

ちょっ………は?

見間違いじゃ………ないよね?

他の皆も呆気に取られてるし。

周りのゴリラも、ビチグソ丸ですら状況を理解できずに呆然とイサオさんを見ていた。

 

ビチグソ丸が口を開く。

 

「ウホ………ウホ!?(訳:馬鹿な………馬鹿な馬鹿な馬鹿な! コンドーは私ではなく、貴様のような紛い物ゴリラを選んだというのか!?)」

 

コンドーがビチグソ丸ではなく、イサオさんを選んだ?

どういうことだ?

ビチグソ丸はコンドーの力を手に入れるために色々と準備をして、確信を持った上で動いていたはずだ。

それが失敗した?

いや、それ以前に、なぜコンドーの力がイサオさんに?

 

そんな疑問を抱く俺達の視線を受けながら、イサオさんは立ち上がる。

傷だらけだが、彼からは今まで以上の覇気を感じられて、

 

「ウホ………(訳:そういうことだったのか。ビチグソ丸、おまえは失敗した。コンドーの意思はおまえを否定したんだ。コンドーは俺を選んだ)」

 

「ウホ!?(訳:まさか………!? そんなはずはない! なら、貴様はコンドー・イサオとでも言うのか!)」

 

「ウホ!(訳:そうだ!)」

 

「ウホ!?(訳:ならば、貴様のケツ毛はボーボーだと言うのか!?)」

 

「ウッホゥ!(訳:その通りだ!)」

 

ちょっと待って! 

あんたら何の話をしているの!?

なんで、ここでケツ毛の話になるの!?

なんで、イサオさんは誇らしくしてるの!?

 

すると、いつの間にか俺の横に立っていたヴァーリが呟いた。

 

「そうか。コンドーのケツ毛はボーボーだったと聞く。それでイサオは選ばれたということか」

 

「ちょっと待てぃ! そんな理解しないで! 俺でも理解できるように噛み砕いて!」

 

「イサオはケツ毛が凄い。だから、コンドー・イサオになった。よく見ておけ、兵藤一誠。あれがゴリラの中のゴリラ。真のゴリラ―――――『G×G(ゴリラ・オブ・ゴリラ)』」

 

「『D×D(ドラゴン・オブ・ドラゴン)』みたいに言うなよ! 泣くぞ、グレートレッド! つーか、俺に関してはもう泣きかけてるよ! 状況に理解が追い付かなくて、涙が出てるよ!」

 

「コンドー・イサオ………か。フフフ、また戦いたい相手が増えたな」

 

ダメだ、こいつは本当にダメだ!

だって、目を輝かせてるもの!

バトルマニアも大概にしとけよ!?

 

ビチグソ丸が絶叫に似た叫びをあげる。

 

「うっほぉぉぉぉぉぉぉぉ!(訳:認めん! 認めんぞ! こんなことがあって良いものか!)」

 

ビチグソ丸の全身から凄まじいオーラが発せられる!

奴は両手にオーラとビチグソを集中させていく!

 

「ウホ!(訳:コンドーの力で世界を変えるために! ゴリラ帝国を築くために! ソロモンよ、私は帰ってきたのだぁぁぁぁぁぁぁ!)」

 

「おまえ、それ言いたかっただけにこの島選んだだろ!?」

 

「ツッコミしてる場合じゃないよ、イッセー君! あれを放たれたら、島ごと消されてしまう! ここは逃げるんだ!」

 

「木場ァ! おまえ、今回の件で一回もツッコミしてねぇぞぉぉぉぉぉぉ!」

 

木場に文句を言いながら、島からの脱出を試みる俺!

他の皆も島から飛び上がり、距離を置いていく中、イサオさんだけはそこに止まった。

 

「ウホ(訳:ビチグソ丸。おまえの気持ちは分かった。だが、罪は罪。潔く縄につけ)」

 

「ウホ!(訳:黙れ! 貴様を殺して、私がコンドーになる! 私はコンドー・ビチグソ丸になるのだぁぁぁぁぁぁ!)」

 

放たれる滅びの閃光(ビチグソ)!

あんな波動を放つビチグソを投げるなんて………この島どころか、周囲の島までビチグソまみれになるぞ!

知らんけど!

 

しかし、ビチグソが迫っていても、イサオさんはその場から動かない!

 

「ウホウホ!(訳:ビチグソ丸! 俺は今日ここで、おまえを止めてやるぞ!)」

 

イサオさんは足を振り上げ、まるでピッチャーのような構えを取り―――――。

 

「ウッホォォォォォォォォォ!(訳:ファイナル・バナナ・クラッーシュ!)」

 

全力のスパーキングをビチグソ丸に叩きつけた。

 

 

 

 

三日後―――――。

 

イサオさんの渾身のスパーキングを受けたビチグソ丸は倒され、グリゴリ施設に収容された。

イサオさんに完全敗北したせいか、今のところ大人しくしているという。 

 

「一度大人しくなったゴリラはバナナさえ握らせておけば何とかなる。暫くは様子を見つつ、ミカエル達と今後について話し合っていくさ」

 

と、全身の穴という穴からバナナスムージーを噴出するはめになったアザゼル先生が言った。

先生はビチグソ丸の手によって、無事に回復して

 

「先生、バナナ食べますか?」

 

「や、やめろ! 暫く、バナナは見たくない………」

 

回復してなかった。

あの攻撃はアザゼル先生にトラウマを刻んだようだ。

 

そうそう、あの戦いの場所になったソロモン諸島だが、結局、あたりは二人のスパーキングの余波であちこちに二人のビチグソが降り注いだそうだ。

後処理にはかなりの人員と時間が必要なようで、被害は思っていた以上に大きい。

 

ゴリラ神コンドーの力を手に入れたイサオさんはというと、

 

「ウホ(訳:俺はゴリラ達と今後について話をつけてくる。互いが平和な道程を歩めるようにしてみせるさ)」

 

そう言い残して、彼はゴリラと共に姿を消した。

ジャングルの奥に。

バナナを握って。

 

こうして、今回の一件は終わりを迎えた。

 

 

 

「なぁ、美羽。最後に一つだけ良いか?」

 

「うん。ボクも同じこと考えてたから」

 

俺達は頷くと息を吸った―――――

 

「「結局、ゴリラってなんだったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」

 

 

 



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番外編集
龍神さまと出かけよう


時系列は本編十四章、吸血鬼編を終えた後です。


吸血鬼の町から帰ってきた、その数日後の休日。

 

喉が渇いた俺はリビングへ向かうと、テーブルの上に雑誌を広げているオーフィスを見つけた。

いつもながら表情の乏しい顔…………ではなく、何やら真剣な顔つきで目の前の雑誌と向き合っている。

 

少し覗いてみると、『スイーツ特集』という文字が見えた。

 

なるほど、確かにオーフィスは美味しいものに目がない。

美味しそうなものを見つけると「我もほしい」と言ってせがんでくることも多々ある。

 

そんなオーフィスが目を凝らしているということは、そのお眼鏡にかなうスイーツが載っていたのだろう。

 

「オーフィス、何か良いものでもあったのか?」

 

俺が訊ねるとオーフィスはコクりと頷く。

 

オーフィスは雑誌に掲載されているとある写真を指差して言った。

 

「我、これ食べたい」

 

―――――バナナフラペチーノDX(デラックス)

 

バナナを三本丸ごと使用した極上の一品…………と書かれていた。

 

そういや、オーフィスのお気に入りはバナナだっけか。

いつも美味そうに食ってるもんな。

 

そうかそうか、バナナ三本丸ごとってところに惹かれたのか。

 

「バナナは至高のおやつ。我、そう思う」

 

おぉっ!?

バナナが元龍神さまに認められちゃったよ!

 

そんなにか!?

そんなにバナナが好きなのか!?

 

なんだか、バナナが手の届かないところに行ってしまったような気分だよ!

バナナってそこまで凄かったっけ!?

 

ま、まぁ、オーフィスが食べたいって言うなら買いに行ってやるか。

 

雑誌によると期間限定品とのことだし、結構人気もあるみたいだ。

早めに買いにいかないと売り切れになってしまう。

 

俺は冷えたお茶を飲みながらオーフィスに言う。

 

「そんじゃ、買ってきてやるよ。一つで良いんだよな?」

 

基本的にオーフィスを外に連れ出すことは出来ない。

三大勢力の拠点であるこの町、それを覆う結界の中なら自由に動いても良いとの許可は得ているけど、それでもあまり出歩かない方が良いだろう。

 

オーフィスはここにはいないことになっているからな。

知っているのは駒王町に住む俺達悪魔、アザゼル先生にサーゼクスさん達四大魔王、ミカエルさん達セラフぐらいだ。

 

そういうわけで、俺が買いに行こうとするとオーフィスは、

 

「我も行く」

 

そう言って椅子から降りた。

 

「オーフィスも行くのか?」

 

「我、買い物もしてみたい」

 

「買い物?」

 

俺が聞き返すとオーフィスはコクりと一度だけ頷いた。

 

買い物かぁ。

 

美羽やアーシアが買い物から帰ってきたとき、興味深そうにしていたのを何度か見たことがある。

ビニール袋の中を覗いては商品について二人に訊いていたな。

 

オーフィスは家に住むようになってからは色々なものに興味を持つようになった。

そこで『買い物』という行為にも興味を持ったのだと思う。

 

でも、これは良い機会なんじゃないかな。

 

実際にお金を払って買い物をするという行為はオーフィスにとって人の生活を知る良い経験になると思う。

 

買い物をするなら、町のショッピングモールが良いだろう。

あそこなら結界の内側で外出ができる範囲内だし、色々揃ってる。

 

そんなことを思っていると、リビングに入ってくる影が一つ。

 

「イッセーさん? オーフィスさん? 何をしているのですか?」

 

入室したアーシアがこちらを見て首を傾げていた。

 

うん、メンバーはこれでいっか。

 

 

 

 

兵藤家の玄関にて。

 

そこに三人の隊員が集まっていた。

 

その名も『オーフィスとお出掛け隊』。

隊員はメインのオーフィスに加え、俺とアーシア。

 

俺は二人を前にして言う。

 

「よぅし! 今日の予定はバナナフラペチーノDX(デラックス)を食すこととオーフィスの買い物だ! アーシア隊員、準備はいいか!」

 

「はい! オーフィスさんがバナナフペラ(・・)チーノDX(ダブルエックス)が食べられるように頑張りますぅ!」

 

「アーシア、違う。我が食べたいのはバナナフラペチーノDX(デラックス)

 

「はぅ! さっそく間違えてしまうなんて!」

 

さっそくオーフィスに間違いを指摘されるアーシア。

 

いや、アーシアよ。

フラペチーノはともかくデラックスを間違えるのは…………。

ダブルエックスって…………。

確かにDXってデラックスでもダブルエックスでもいけるけどさ。

 

ともかく、こういうわけで俺達はオーフィスにバナナフラペチーノDX(デラックス)を味わってもらうことと、オーフィスの買い物を目的として町に出た。

 

第一目標はバナナフラペチーノDX(デラックス)だ。

 

これは期間限定品なうえ、人気が高い。

オーフィスに食べてもらうには早急に店に行く必要があるだろう。

幸い、この町にはバナナフラペチーノDX(デラックス)を取り扱っている店が複数ある。

 

「一つの店で売り切れになっていても、別の店に行けば置いてあるだろう。全てのバナナフラペチーノDXが売り切れるなど…………天文学的確率に等しい!」

 

多分、きっと、恐らく、そうだと良いな…………というのは心の中で思っておこう。

 

オーフィスが雑誌を見ながら言う。

 

「我、店の中で食べてみたい」

 

そう、今回はお持ち帰りではなく、店の中で食べてみたいというのもオーフィスの希望だったりする。

 

ちなみに、今日のオーフィスはお出掛け用の服装。

ピンク色の上着がオーフィスの幼い容姿と相まって可愛らしい。

 

普段のゴスロリは…………可愛いけど胸のバッテンがね…………。

あれはお出掛けようとしてはどうかと思う俺は間違ってない…………はず。

 

俺はオーフィスに確認する。

 

「オーフィス、お金は持ったか?」

 

「お金、ここにある。イッセーにもらった財布の中に入れた」

 

そう言ってオーフィスは下げているポシェットの中から財布を取り出した。

 

財布の中には母さんから渡されたお小遣い。

今日は買い物も体験してみるということで、オーフィスが実際にお金を払うことになっている。

 

十分だと思うけど、足りなかった場合は俺が出す。

そのためのお金も持ってきているさ。

 

俺は一度頷く。

 

「よし。それじゃあ、出撃するぞ!」

 

「はい!」

 

「おー」

 

ちょっとテンション高めに外出する俺達だった。

 

 

 

 

「ない、だと…………!?」

 

俺達は早くも出鼻を挫かれていた。

オーフィスご所望のバナナフラペチーノDX(デラックス)が無かったからだ。

これが一軒目、二軒目ならまだ良い。

 

三軒目でも売り切れているとは…………!

 

オーフィスが首を傾げる。

 

「ここにもない?」

 

表情の変化が分かりにくいオーフィスですらガッカリという落ち込みムードが漂う中、店員さんが申し訳なさそうに言う。

 

「申し訳ありません…………。当店では先程売り切れたばかりでして…………」

 

店員のお姉さんがチラッととある方向を見る。

 

そこにいたのは見覚えのある黒髪の少女。

 

「レイナかよ! マジか!」

 

そう!

なんと、この店で最後にバナナフラペチーノDX(デラックス)を注文していたのはレイナだった!

 

ノートパソコンのキーボードを高速で打ち込みながら、何やら資料を作っている様子!

その傍らには少し大きめのコップ。

 

中身はもちろん――――――。

 

「バナナフラペチーノDX(デラックス)…………。我、先を越された」

 

オーフィスがボソリと呟いた。

 

まさか身内に先を越されていたとは…………。

 

こちらに気づいたレイナが目を見開く。

 

「イッセーくん? それにアーシアとオーフィスじゃない。…………なんでここに?」

 

「いや…………その、オーフィスの希望でさ」

 

「我、バナナフラペチーノDX(デラックス)を飲みにきた。でも、売り切れてた」

 

「あ…………」

 

オーフィスの言葉に固まるレイナ。

自分が買ったのがラストだったんだから、何とも言えない気持ちになるよね。

 

ま、まぁ、オーフィスも悪気があって言った訳じゃないってところは分かってると思うけど…………。

 

何とも言えない空気が漂う中、アーシアが話題を変えるためにレイナに訊いた。

 

「それで、レイナさんはお仕事ですか?」

 

「え、ええ。今度、会議で使う資料を作っているよよ。家の中でしても良いんだけど、たまにはこういう店でするのも悪くないかなって」

 

ディスプレイを覗き込むと文字がたくさん並べられ、棒グラフやら円グラフが幾つも添付されていた。

ページ数は十数ページにも及ぶ。

 

これを一人で作ったのか…………。

前にうちの仕事手伝ってもらったけど、早いのなんの。

レイナのお陰で冥界に提出するレポートが予定より早く終わったんだよね。

 

レイナって本当にこういうの強いな。

 

ただ…………気になるのが表示されているタイトル。

 

 

『アザゼル前総督の無駄使いに関するレポート』

 

 

レイナがニコニコ顔で言う。

 

「今度ね、あの人の無駄使いを幹部の人達に暴露するの~。うふ、ふふふ…………シェムハザさまに怒られれば良いのよ」

 

病んでる!?

病んでないですか、レイナさん!

 

笑顔が怖い!

 

「この前ね、変なロボットを作っているのを見かけたの。そしたらね、グリゴリの資金を無断で使っていたのよねぇ。なんでも『ロボットは男の夢!』なんだって~。人型から飛行機に変形するんだって~」

 

あの人、またロボットか!

しかも、無断!?

 

確かにロボットは男の夢、というところには共感できる。

俺もプラモデル作ってるし、その手のものは好きだ。

 

つーか、変形するのかよ…………。

 

それはあれかな?

シールドが機首になるやつかな?

 

ま、まぁ、とにかく先生…………しっかり怒られてくれ。

 

 

 

~そのころのアザゼル~

 

 

「よし! 変形は上手くいったぜ! サハリエル、そろそろ本格的に飛ばしてみようぜ!」

 

「待つのだ、アザゼル。飛行テストをする前に組み込んでみたい装置があるのだ。これを見てほしいのだ」

 

「これは…………ふむ、微小なコンピュータチップを金属フレームに分子レベルで鋳込んでいるのか」

 

「そうなのだ。それをコックピット周辺に組み込めば機体自体のレスポンスを飛躍的に向上させることができるのだ」

 

「なるほど…………よぅし! 取り敢えず組み込んでみっか! アストナージ…………じゃなくて、サハリエル! 直ぐに取りかかるぜ!」

 

「ふっふっふっ、これが上手くいけば、全身に組み込んでみたいのだ。きっと、すごいことになるのだ」

 

二人の堕天使は今日もロボットを作るのだった――――。

 

 

~そのころのアザゼル、終~

 

 

「とりあえずそう言うわけなの」

 

「大変だな」

 

「まぁ、仕方ないわ。…………イッセーくん」

 

「ん?」

 

「あとで…………甘えさせて! もう私限界なの! あのおっさん、テキトーすぎるの! もうヤダァ!」

 

おおぅ!

レイナが抱きついてきたよ!

 

そうか、限界なのか…………!

 

アザゼル先生、レイナに苦労かけすぎだろう!

 

つーか、おっさん呼ばわりしたよ!?

一応、上司だよね!?

 

とりあえず俺はレイナを撫でる!

俺なんかでレイナの疲れが取れるのなら存分に甘えてくれ!

 

 

 

 

その後、レイナと合流して四人となった俺達は別の店へと向かった。

 

三軒目からちょっと距離があるが、それでも俺達は歩いた。

 

オーフィスの願いを叶えるために――――――。

 

そして、俺達は四軒目に到着。

 

レジの前に立ったオーフィスが店員さんに訊ねる。

 

「我、バナナフラペチーノDX(デラックス)ほしい」

 

「一つでよろしいですか?」

 

おおっ!

見つかった!

 

家を出てから三時間半!

 

ようやく、オーフィスが求めた至高の一品バナナフラペチーノDX(デラックス)がここに!

 

アーシアが目元を潤ませて言う。

 

「よかったです! 本当によかったですっ!」

 

本来なら泣くような場面じゃない。

それはわかっている!

それでも!

二時間半も歩いてようやく見つけたんだ!

 

店員さんがオーフィスに言う。

 

「一点で七百五十円になります」

 

高っ!

一杯でそんなにするのか!?

えぇい、バナナ三本丸ごと使用しているのは伊達じゃないということか!

 

「これで良い?」

 

オーフィスが財布から小銭を取りだし、店員さんに渡す。

 

店員さんは数えると、頷いた。

 

「はい。ちょうどですね。ありがとうございました」

 

こうして、オーフィスは初めて商品を買うことが出来た。

 

しかし、そこまで高いのなら逆に俺も飲んでみたい気がする…………。

俺もそれを注文してみる。

 

すると――――――。

 

「申し訳ありません。先程のもので最後となりまして…………」

 

マジですか!?

どれだけ人気なんだ、バナナフラペチーノDX(デラックス)

この町の人間はそんなにバナナが好きなのか!?

 

長いこと住んでるけど聞いたことないや!

 

その結果、俺はコーヒー、アーシアはカフェラテ、レイナは抹茶ミルクを注文することになった。

 

 

 

 

席につく俺達。

 

オーフィスは早速、ストローをさして念願のものを飲んでいた。

口の中でしっかり味わい、ゴクンと飲み込む。

 

「バナナフラペチーノDX(デラックス)、コクがあって深い味わい。我、そう思う」

 

食レポか!

 

ま、まぁ、満足してくれているようだ。

表情もどこか喜んでいるように見えるし。

 

ともかく、これにて第一目標は達成だ。

想像していたより時間かかったけど…………。

 

ちょっと休憩したら第二目標といきますか。

 

俺はオーフィスに訊いてみた。

 

「なぁ、オーフィス。この後の買い物なんだけど、結局何買うんだ?」

 

すると、

 

「パンツ。我、パンツ買ってみたい」

 

パ、パンツかぁ…………。

まぁ、確かに今のオーフィスは女の子だし、必要だよな。

 

「アーシア達が、色々な下着買ってた。それでイッセーを誘惑する、らしい。この間、レイナは透け透けのパンツ履いてた」

 

「ぶふぅぅぅぅ!」

 

「はわわわわ! オーフィスさん、言わないでくださぃぃぃぃ!」

 

噴き出すレイナ、オーフィスの口を塞ぐアーシア!

 

何てこった!

そんなところまで皆の影響を受けていたのか!?

 

た、確かに、リアス達も透け透けの下着つけてるし、最近のアーシアだって大胆になってきている!

レイナの新しい下着も見た!

とってもエッチだった!

 

まさか、そこを真似するつもりなのか!?

 

すると、オーフィスはコップを置いて「もうひとつある」と続けた。

 

「我、皆に何かお礼したい」

 

「お礼?」

 

俺が聞き返すとオーフィスはコクリと頷く。

 

「我、皆に世話になってる。だから、何かお礼したい」

 

…………っ!

 

オーフィス…………おまえ…………。

そんなことを考えていたのか…………。

 

純粋なオーフィスだからこそかもしれない。

 

俺は…………俺達は…………。

 

「「「グスンッ…………」」」

 

三人揃って号泣した。

 

ちくしょう!

不意打ち過ぎるぞ!

 

感動するじゃないか!

 

アーシアが立ち上がる。

 

「イッセーさん!」

 

「ああ、分かってる!」

 

「私も付き合うわ!」

 

「「「えいえいおー!」」」

 

拳を上げる俺、アーシア、レイナ!

 

オーフィスは首を傾げて不思議そうにしている。

 

 

その時だった―――――。

 

 

「あのぅ…………お客様。他のお客様のご迷惑になりますので…………」

 

「「「ご、ごめんなさい」」」

 



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ほろ酔いアリスさん

時系列は本編、ファニーエンジェル編の一話と二話の間です。

本編がシリアスなので、たまにはイチャイチャさせないと…………!


ある日の夜。

 

悪魔の仕事、契約活動中の俺は事務所で一人、眷属の帰りを待っていた。

上級悪魔、それも眷属を持つ者ともなれば、ただ契約を取ってくるだけでなく、眷属の帰りを待つのも仕事の内だ。

 

ちなみに、俺は既に契約を終え、対価もきっちり貰ってきている。

ふっふっふっ、転生したての頃とは比べ物にならない契約までの鮮やかさ!

俺も成長したもんだぜ!

 

一人自分の成長にほくそ笑んでいると、事務所内に魔法陣が現れる。

転移魔法陣………。

どうやら、無事に契約を終えてきたみたいだな。

 

転移の光と共に現れたのはアリス。

 

「よっ、おかえり。随分遅かったな」

 

俺がそう声をかけると、アリスはふらふらした足取りで俺の方へと歩み寄ってきて…………そのまま飛び付いてきた!

 

「つーかーれーたー! もう今日は働きたくないぃぃぃ!」

 

おいおいおい!

帰還早々ダメ発言だよ!

こいつ、元王女だろ!?

 

………あ、こういうところは再会してから変わってないか。

うん、これが平常だわ。

 

などと勝手に納得している俺にアリスは頬擦りしながら言ってくる。

 

「もう猫探しの依頼は受けない! ぜーったいぜーったい受けない! 見つけたと思えば逃げるし、追い付いたと思えば、塀の間に入っていくし! 捕まえたと思えば引っ掻いてくるし! もうヤダァ!」

 

あー………。

 

よく見ると所々に掠り傷があるな。

服も汚れちゃってるし。

 

おそらく、その猫は相当質が悪い猫だったんだろう。

体を動かす依頼でアリスが苦戦するのは珍しいからな。

なるほど、激戦だったようだ。

 

うん、これは同情の余地ありだな。

 

俺は苦笑しながら、アリスの頭を優しく撫でた。

 

「よしよし、お疲れさん。契約は取れたか?」

 

「もちろん取ったわよ。あそこまで好き勝手に暴れられたら意地でも捕まえたくなったし」

 

「そ、そうか………」

 

「はい、これ。契約の対価」

 

アリスが差し出してきたのは一つの箱だった。

 

箱を開けてみると、そこには―――――。

 

「おおっ、美味そうだな」

 

箱に詰められていたのはハムとベーコンの詰め合わせ。

見るからに高級そうなものだった。

 

「知り合いからのお裾分けの品だって。かなり高いらしいわ」

 

「お裾分けを貰ってきたのね………」

 

お裾分けを対価って…………。

ま、まぁ、それで価値が変わる訳じゃないし、美味そうなことには変わりない。

対価として、ありがたく受け取っておこう。

 

俺が詰め合わせの箱をデスクに置いたところで、アリスは事務所を見渡す。

誰もいないことを確認したところで、アリスは訊いてくる。

 

「美羽ちゃんとレイヴェルさんは?」

 

「あの二人は先に帰らせたよ。眠そうだったし」

 

美羽とレイヴェルは大分前に契約を終えて帰ってきたんだが…………アリスを待っている間に眠くなったらしい。

二人とも盛大にあくびしていたもんで、先に帰ってもらうことにした。

 

時刻は既に夜の十二時を回っている。

眠くなるのも当然だろう。

 

「私が最後なわけね………」

 

「まぁ、二人は猫探しじゃなかったからな」

 

「イッセー………もう、猫探しはイヤ」

 

「………今度から俺が行くよ、猫探し」

 

猫探し…………小猫ちゃんに頼む方が一番良いのかな?

何となくだけどそんな気がする。

 

とにかく、猫探しはアリスに向いてないわ。

 

 

ぐぅぅぅぅぅぅぅ…………

 

 

アリスの腹の虫が鳴った。

それも盛大に。

 

途端、アリスは顔を真っ赤にして慌てながら叫ぶ。

 

「ち、違うから! こ、これはそういうのじゃないから! う、うん! 幻聴よ、幻聴!」

 

いやいや………幻聴ってのはおかしいからね?

俺もアリスも聞こえているのに幻聴はないからね?

 

そうかそうか、アリスさんはお腹が減ったのか。

 

俺はアリスの頭を撫でながら微笑む。

 

「とりあえず風呂にでも入ってこいよ。泥だらけだし、綺麗にしてきなって。その間に夜食でも作ってやるからよ」

 

「え………良いの?」

 

「あんまりレベル高いやつは期待するなよ? 簡単なものくらいならぱぱっと作ってやるからさ」

 

「う、うん………ありがと、イッセー」

 

モジモジしながら、そう返してくるアリス。

 

うん、可愛い。

なんというか、ギュッてしたくなるな!

よし、後でギュッてしよう!

 

アリスは浴室のある『休憩室』へと入っていく。

 

それを見送ったところで、俺は顎に手をやり考え込む。

 

さて…………何を作ろうか。

まぁ、俺が作れるやつって言ったら限られてくるけど。

美羽やリアスみたいに料理が上手いわけでもないし。

 

ネットで検索して、それらしいものでも探してくるかね?

 

夜食のメニューを思案していると、『休憩室』の扉が少しだけ開いた。

何事かとそちらに視線を向けるとアリスが半分だけ顔を出していて―――――。

 

「一緒に…………入る?」

 

この時、俺は猛烈に葛藤した。

 

 

 

 

結局、俺は入らなかった。

 

何故ならば、アリスが美味しいと言ってくれる夜食を作らなければならないからだ!

あんな可愛く誘ってくる嫁だぞ!?

満足する一品を作ってあげたいじゃないか!

 

俺は己の欲望を見事に抑え込み、キッチンに立った!

冷蔵庫の中を探り、この事務所にある食材をかき集めた!

 

そうやって完成したのが―――――。

 

「お待ちどうさま。―――――特製夜食BLTサンドだ」

 

バスローブを纏ったアリスの前に置いた皿の上に並ぶサンドイッチ。

 

作り方は簡単。

 

まずはトマトをスライスし、レタスをカット。

アリスが契約の対価として貰ってきた厚切りベーコンをフライパンで表面がカリカリになるまで炙る。

 

次に食パンをトーストし、表面に焼き目がつくまで火を通す。

バターを塗ったパンにレタスを置き、マヨネーズとケチャップ、粒ありマスタードで作った特製ソースを塗る。

その上にトマトと炙ったベーコンを乗せ、黒胡椒を振り掛けてサンドだ。

 

出来立てで、ベーコンの芳ばしい香りが食欲をそそるぜ!

 

やべっ………作った俺が腹減ってきた。

 

風呂上がりで、ほんのりと頬が赤いアリスはこのサンドイッチの出来映えに感嘆の声を漏らす。

 

「すごい………美味しそう…………。あんた、やっぱり料理出来るんじゃない」

 

「簡単だぞ? しかも、レシピはネットで調べただけだしな。そんでもって、仕上げが―――――」

 

俺は取り出したグラスをサンドイッチの乗った皿の横に置く。

 

そして―――――。

 

「これ、俺が今日対価で貰ってきたワインな」

 

そう、これが本当の仕上げ。

 

ちょうど今日の依頼の報酬がこのワインだったんだ。

俺も飲めないことはないけど、そこまでガッツリ飲むわけではないので、誰かに譲ろうか考えてたんだが…………。

 

注がれるワインにアリスは目をキラキラ輝かせていた。

 

「わぁ………。これ、本当に良いの? 私、飲んで良いの?」

 

「まぁ、眷属内で飲めるのって実年齢的に俺とおまえだけだしな。アリスは酒好きだろ?」

 

「うんうん」

 

「明日が平日ならどうかと思ったんだけど、幸いにも土曜日。学校も休みだ。なら、たまにはハメ外しても良いだろう?」

 

俺がそう言うとアリスは今度は笑顔で抱きついてきた。

それはそれは幸せそうな笑顔で、物凄くテンション高めに言った。

 

「イッセー大好き! 愛してる!」

 

「それは酒が飲めるからだろ?」

 

「それもある!」

 

「………正直者だな………。ま、冷めないうちに召し上がれ」

 

「はーい!」

 

アリスはサンドイッチを手に取り、頬張る。

もぐもぐと口を動かし、飲み込んだ後、グラスに入ったワインをぐいっと飲み干した。

 

「ぷはぁ! 美味しいっ! やっぱり仕事の後の一杯って最高よねっ! サンドイッチも美味しいわ!」

 

「そっか、そりゃ良かった」

 

うんうん、ネットで検索してぱぱっと作った夜食だったけど、満足してくれて何よりだ。

 

アリスは相当腹が減っていたのか、ペロリとサンドイッチを平らげてしまう。

 

「あー、もう! 至福!」

 

そして、次から次へとワインをグラスに注いでいくのだが…………。

 

 

 

 

 

それから数分後。

 

 

「えへへへへ…………いっしぇー、もっとぉ………もっとギュッってしてぇ♡」

 

ソファに寝転がったまま、俺の腰に抱きついてくるアリス。

幸せそうな表情だが、明らかに呂律が回っていない。

 

そう、アリスはべろんべろんに酔っていた。

 

ワイン一本飲み干したアリスは冷蔵庫を漁り、奥にあった酒(アリス専用)を何本も開けてしまっていたのだ!

 

その酒とはアザゼル先生が商売のために作った試作品。

どうやら、グリゴリの方で酒造事業に手を出そうと言う話になったらしく、そのサンプルをアリスが受け取っていた。

で、今まではちびちび飲んでいたんだが…………。

 

俺は目の前の惨状に顔を青くする。

 

…………こいつ、一人で十本以上飲みやがったのか!?

 

俺がちょっと席を外している間にこれだぞ!?

一体、どんなペースで飲んだんだ!?

 

床に転がる空き瓶の数々!

数えるだけで頭が痛くなりそうだよ!

 

確かにハメを外しても良いって言ったけどさ…………。

 

「いっしぇー、いっしぇー………いっしぇーのからだはぁ、とってもあったかぁい。もっと、ずぅっとこうしていたぁい♡」

 

どんだけハメ外してるの、この娘は!?

ハメ外し過ぎて、大切な何かが吹っ飛んでませんか!?

 

床を転がる空き瓶を見る度に頭痛がしてくるよ!

 

俺は額を抑えて深くため息を吐いた。

 

………どうすりゃいいんだよ?

 

今、俺が感じていることは二つ。

アリスを止められなかった自分への不甲斐なさとアリスのハメの外し方の異常さ。

 

恐らく俺は悪くない。

でも、何故だか自分を責めてしまう。

 

俺が、ちょっとトイレに行ったばかりに…………!

 

ほんの数分だよ?

まさかまさか、そんな短時間でそんなに飲むとは思わないじゃん?

ここまでべろんべろんなるとは思わないじゃん?

 

「うふ、うふふふ♪ ふにゃぁお♪」

 

何が可笑しくて笑っているのか。

なぜに猫の鳴き真似をしているのだろうか。

 

俺にはサッパリ理解できん。

 

俺は………間違っていたのだろうか?

仕事を終えてきた眷属に「明日は休みだしちょっとくらいハメを外しても良いよ」と言ったことは間違いだったのだろうか?

 

誰か、俺に教えてくれよ…………。

 

でも、唯一の救いがここにはある。

 

「いっしぇー? わらひといっしょはイヤ? わらひのこときらい?」

 

潤んだ瞳でそう訊いてくるアリス。

そう、唯一の救いとはアリスの酔い方は可愛いということ。

 

多分、ため息を吐く俺を見て不安になったんだろうな。

だから、そんなことを聞いてきたのだと思う。

 

嫌い?

そんな訳あるか。

 

確かにここまでべろんべろんになったことには、色々と思うところがある。

 

だが!

今のアリスは…………アリだ!

そう思う自分がいることは否定できん!

 

俺は涙目のアリスを撫でながら微笑む。

 

「そんなことないよ。俺はアリスが大好きだ」

 

そう言うとアリスは、

 

「えへへへへ…………。いっしぇー、らいすき♡」

 

くっ…………!

なんてスマイルをしてくれる!

 

思わずギュッてしてしまうじゃないか!

こんなの怒るに怒れないよ!

俺には無理だ!

 

アリスは少し体をふらつかせながらも、上体を起こす。

 

スルッと肩を滑り落ちていくバスローブ。

現れるのは白く美しいアリスの裸体。

 

何度も見てきたはずなのに、何故かゴクリと喉を鳴らしてしまう!

目が離せない!

 

アリスはふらふらしながらも、俺の首に手を回してくる。

 

アリスのおっぱいが!

アリスのおっぱいに顔が埋まるぅぅぅぅ!

 

このスベスベした肌!

成長し、程よい弾力を持ち始めたおっぱい!

 

これは………この展開は―――――。

 

「いっしぇー、わたひね? いっしぇーとこのまま――――ふぇ」

 

そこまで言ったところで、アリスの全身から力が抜けていった。

ソファから転げ落ちそうになったので、俺は咄嗟に受け止めるが…………。

 

「スー………スー…………」

 

どうやら限界が来てしまったらしい。

穏やかな寝息と共に熟睡してしまっていた。

 

ただ、熟睡した状態でも俺の手はしっかり握っていてだな…………。

 

俺はついつい微笑んでしまう。

 

「やれやれ………手間のかかるお嫁さんなことで」

 

俺は完全に寝てしまったアリスを抱き抱えると『休憩室』に運び、ベッドに寝かせる。

風邪をひかないようにシーツを被せてあげる。

 

ふと顔を見てみると、寝顔までどこかニヤけているようで、それを見ているだけで全てが許せそうな気がした。

 

「ま、いっか」

 

俺はアリスの頭を撫でた後、彼女のおでこにキスをした。

 

「おやすみ、アリス。また明日な?」

 

それだけ言って、俺は部屋を出る。

起こさないように静かにドアを閉めて。

 

「さて、後片付けとしますかね」

 

この後、俺は食器と床に転がった空き瓶を片付けるのだった。

 

 



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ベビー・イッセー

久々の番外!
時系列的にはデュランダル編の始めの方です。


「おっす、ギャスパー。早いな」

 

一日の授業が終わり、放課後。

部室の扉を開けると部屋にはギャスパーがソファに座ってクッキーを食べていた。

 

「はい、イッセー先輩。僕達のクラス、ホームルームがすぐに終わったんです。美羽先輩達と一緒じゃないんですか?」

 

「美羽は職員室にプリント届けてから来るってよ。アリスとレイナはトイレだ。教会トリオはゼノヴィアの選挙に向けて準備してるよ」

 

「生徒会選挙も近いですからね。ゼノヴィア先輩、頑張ってます。僕も何かお手伝いできれば良いのですが………」

 

「今のところは特に何も言ってこないし、見てる限りじゃ順調みたいだ。俺達の出番はないだろ。ま、もし、ゼノヴィアが俺達の助けが必要になったら、その時は全力でサポートしてやればいい。今は見守ってやろうぜ」

 

「そうですね………。はい! 僕なんかで力になれるのなら、全力でお手伝いしようと思いますぅ!」

 

「おう!」

 

ゼノヴィアの話で互いに笑顔で頷き合う俺とギャスパー。

 

と、ここで一つ、疑問が生まれてきた。

 

「そう言えば、小猫ちゃんとレイヴェルは?」

 

そう、ギャスパーと同じクラスの二人の姿が部室に見えない。

美羽達みたいに何か用事かね?

 

ギャスパーが言う。

 

「二人は今日、日直なので、黒板消したり、クラスで回収したプリント運んだりしてます。多分、もうすぐ来ると思いますよ?」

 

そういや、今朝、二人は早めに出てたな。

小猫ちゃんとレイヴェルが日直………なんとなくだけど、凄く微笑ましい光景が浮かんでくるぞ。

 

後輩二人の仲良しな姿を想像していると、ギャスパーがテーブルに置かれていた物を指差して訊いてきた。

 

「あれ………? こんなの、この部室にありましたっけ?」

 

「ん?」

 

ギャスパーの視線の先には掌サイズの丸い物体。

青色で………何かのボタンか?

クイズ番組とかでよく使われているような、ボタンのような物体が部室のテーブルの上に置かれていた。

 

なんだこりゃ?

こんなの部室にあったかな?

少なくとも昨日の部活時には無かったと思うが………。

 

ギャスパーが興味津々といった感じで、

 

「お、押してみますか? 何が起きるか気になりますぅ」

 

「やめてくんない? そういうフラグ立てるようなこと言うのやめてくんない? つーか、何か起きるの確定かよ」

 

「そ、そういう訳じゃないですけど、こういうのが置かれているとつい押したくなるじゃないですか」

 

「分からなくはないが………押すなら自分で押してくれ。何か嫌な予感がしてきた」

 

「い、イッセー先輩こそ、そういうこと言うのやめてくださいよぅ」

 

だって、ギャスパーがフラグ立てるようなこと言うんだもの。

こういうのって、押した奴になにか不幸なことが起きる的なあれだろ。

バラエティなら、上からタライが落ちてくるとかだろ。

 

ギャスパーはボタンに指を伸ばし、意を決したように言う。

 

「そ、それじゃあ、押します………」

 

ゴクリと唾を呑み込み、ギャスパーの指がボタンを押す。

 

すると―――――。

 

ボタンから強い輝きが放たれ、部室の中を照らしていった!

光が強すぎて目が開けられねぇ!

 

「な、なんだぁ!?」

 

光は益々強くなっていく。

ボタンを押してから十秒ほど経って、ようやく光が収まった。

 

目を開けると―――――何も変わっていなかった。

 

部屋の様子にも変化がない。

何かが落ちてくるようなこともないし、ボタンを押したギャスパーにも変化はない。

いつも通りの男の娘だ。

 

え…………光っただけ?

 

派手な演出だった割には何も変化がなかったので呆気に取られる俺。

 

「え………い、イッセー先輩、ですか?」

 

ギャスパーが目を見開き、何かに驚きながら俺に訊いてくる。

 

イッセー先輩ですかって、俺は俺だぞ?

いつも通りのイッセー先輩だぞ?

 

そう返そうとしたその時、俺は気づいた。

 

………服がダボダボだった。

明らかに大きい。

大きすぎる。

制服の袖から手が出ないほど、サイズが大きい。

 

制服の袖を手前に引っ張って、手を出すと――――小さくなっていた。

 

「ぎゃすぱー………こ、こりぇって………」

 

ギャスパーの名前を呼んでみると、声が高いし、舌が回ってない!

 

ま、まさか、これは…………これは―――――。

 

「ちっちゃっくなってりゅぅぅぅぅぅぅ!?」

 

舌の回っていない俺の悲鳴が部室にこだました!

 

鏡を見ると一歳くらいのサイズに縮んだ俺!

俺、幼児になってる!

 

何でだ!?

女体化の次は幼児化ですか!?

つーか、押したのギャスパーなのに、なんで俺!?

ここはギャスパーが幼児化するところだろう!?

 

このボタン…………間違いない!

 

「あじゃじぇるちぇんちぇーのしぇいか! あのあくまめぇぇぇぇぇぇ!」

 

「あ、アザゼル先生は堕天使ですよ…………?」

 

「れいせーなつっこみいりゃねーよ!」

 

あの人、ろくな発明しねぇぇぇぇぇぇ!

性転換銃の出番が最近増えたからって、なんで幼児化ぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

 

その時、部室の扉が開かれる。

入ってきたのは諸悪の根源、悪意の塊、ラスボス先生、未婚元総督!

アザゼル先生は俺を見るなり、爆笑していた!

 

「ぶはははは! ち、ちっちぇー! イッセー、おま、随分可愛くなったじゃねーか! ぶふっ!」

 

「ふじゃけんな! このみきょんもとょてーときゅ!」

 

「い、言えてねー! 悪口言ったつもりだろうが、言えてねーよ! ぶはははは!」

 

「こ、こにょぉぉぉ!」

 

俺はソファから飛び降りると、拳を構えて突貫する!

これは殴ってもいい!

殴っても許させるはずだ!

 

しかし、一歩を踏み出そうとしたところで、ダボダボになったシャツを踏んでしまい、俺はその場に顔から転んでしまう!

 

鼻を床にぶつけた俺は涙目で、

 

「………いちゃい………ぅぇ」

 

すっごく痛い。

なに、この懐かしい感覚………無駄に懐かしいよ、これ。

 

そして、そんな俺を見て、再び爆笑するアザゼル先生!

 

く、くそったれがぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

お、追い付け、俺!

ここで怒りに任せて動けば、傷つくのは俺だ。

冷静になって、今の事態を整理する必要がある。

 

ギャスパーがアザゼル先生に訊く。

 

「こ、これはいったい何の装置なんですか?」

 

「よくぞ聞いてくれたぜ、ギャスパー。こいつはな、イッセーだけを若返らせる装置。半径一メートル以内にいるイッセーを幼児化させる装置なんだよ」

 

はぁっ!?

俺を若返らせる装置ぃ!?

 

アザゼル先生は装置を指で挟みながら言う。

 

「元々は押した相手を若返らせるお遊び道具だったんだが、ちょいと俺に依頼があってな。イッセーを幼児化させる装置が欲しいってさ」

 

「い、いったい、だりぇが?」

 

「そいつはな―――――」

 

俺の問いにアザゼル先生がその名を言おうとしたのと、部室の扉が開かれたのは同時だった。

 

入ってきたのは美羽を先頭に、アリス、レイナ、リアス、朱乃、小猫ちゃん、レイヴェル、木場。

選挙活動に向けて準備してる教会トリオを除いたオカ研メンバーだった。

 

アザゼル先生がニヤリと笑う。

 

「おっ、ちょうど良いところに来たな。イッセー、依頼者の登場だぞ?」

 

アザゼル先生の視線が向けられているのは―――――美羽!

美羽が依頼者だと!?

 

美羽と幼児化した俺の視線が合う。

 

すると―――――。

 

「いやぁぁぁぁぁん! 赤ちゃんお兄ちゃん、かーわーいーいー!」

 

俺を抱えあげて、抱き締めてくる!

まるで幼い子供が子犬を抱っこするみたいに扱ってくる!

 

「わぁぁぁぁ、フワフワのプニプニだぁぁぁぁ。むふふふふ、くぅぅぅぅぅぅ!」

 

悶えてるよ!

悶えすぎて、テンションがおかしいことになってるよ、美羽ちゃん!

俺への頬擦りが止まらないよ!

 

アザゼル先生が美羽に言う。

 

「どうだ、美羽。完璧だろう?」

 

「うん! ありがとう、アザゼル先生! 完璧だよ! ボク、お兄ちゃんの昔の写真を見たときからこうしてみたかったんだ! 何度かお兄ちゃんを赤ちゃんにする術式を考えてたんだけど、失敗したら大変だから、出来なくて…………」

 

そーだったの!?

俺の昔の写真って…………見たのかなり昔だよね!?

何年も前からそんなこと考えてたの!?

って、さりげにとんでもないカミングアウトされたよ!

俺を小さくする術式とかも考案してたの!?

 

美羽から明かされる事実に驚く俺のもとにアリスが寄ってくる。

アリスの目はどこかキラキラしていて、口許は緩みに緩んでいた。

 

「こ、これが赤ちゃんイッセー………! か、可愛い………! 美羽ちゃん、私も抱っこしていい?」

 

「うん、いいよ!」

 

などと言って、俺をアリスへと手渡す美羽!

完全に子犬扱いじゃん!

ペットショップとかで良くある流れだよね!

 

幼児化した俺を抱き締めるアリス。

美羽のように声に出してはいないが、明らかにいつもと雰囲気が違っていて…………

 

「ほ、ほんとだ、フワフワしてる………。も、もし、私達に子供が出来たら、こんな感じなのかな………?」

 

そんなことを呟いて、俺の頭を撫で、胸に押し当ててくる………!

アリスのおっぱいがいつも以上より大きく感じられて………!

 

「わ、私もイッセーを抱かせて!」

 

「私も抱っこしたいですわ!」

 

「私も! 私もしたい!」

 

「小さいイッセー先輩………!」

 

「こ、ここここれが、あのイッセー様! な、なんて………わ、私もお願いしますわ!」

 

リアス、朱乃、レイナ、小猫ちゃん、レイヴェルのテンションもおかしなことにぃぃぃぃぃ!

皆、ぬいぐるみでも取り合うかのように、俺を奪い合っていくぅぅぅぅぅ!

 

リアスが俺を腕に抱える。

 

「ああ…………やっぱり、良いわね…………。最高っ! なんなのかしら、この気持ち………」

 

リアスの手から朱乃へと移される。

 

「うふふふ。きっと、これが母性というものなのですわ」

 

朱乃から小猫ちゃんへ。

 

「………可愛いです………」

 

小猫ちゃんからレイヴェルへ。

 

「な、なんてことでしょうか…………ここまでの破壊力………! あり得ませんわ、あり得ませんわ………あり得ないくらい可愛すぎますわ!」

 

そして、レイヴェルからレイナへと。

 

「ふわぁぁぁ………イッセーくんが………! ねぇ、イッセーくん、『お母さん』って言ってみて! もしくは『ママ』でも可!」

 

お母さん!?

ママ!?

こ、この状況でそれをしてしまえば、色々とマズいと思うんですけど!?

 

どっちを言えば正解なんだ!?

つーか、言わなきゃダメ!?

 

俺は…………俺は―――――。

 

「ま………まま………?」

 

その瞬間、レイナの中で何かが弾けたのだろう。

 

レイナは制服に手をかけ、ボタンを外し始めた!

 

「レイナ様!? 何を!?」

 

「今なら出る気がする!」

 

「出るって何が!?」

 

レイナちゃんも出すつもりなの!?

そもそも出るの!?

 

リアスとアリスが同時に叫ぶ!

 

「「それなら私が! だって、出るもん!」」

 

ちょ、ちょっとぉぉぉぉぉぉぉ!?

二人とも落ち着こう!

ここには木場やギャスパー、アザゼル先生もいるんだよ!?

 

しかし―――――そちらを見ると、俺を除いた野郎三人の姿は既になく、ちょうど部室の扉がガチャリと閉まる音がした。

 

に、逃げやがった…………。

元凶(この場合、美羽かも知れないが、アザゼル先生が元凶ってことにしておく)とツッコミ要員二人、逃げやがった。

今の俺にはまともにツッコミすることも出来ないんだぞ!?

 

幼児化した俺の前にさらけ出されるリアスとアリスのおっぱい!

相変わらず素晴らしい大きさのリアスのおっぱいと、美しく成長したアリスのおっぱいが目の前にぃぃぃぃ!

なんということだ………普段、見ているのに、今の視点からだと、より凄いことに………!

別世界じゃないか!

 

この姿で見るおっぱいの迫力に推されていると、部室に青い魔法陣が展開される。 

魔法陣が光った後、部室に現れたのは青髪のお姉さん、ティアだ。

 

ティアは俺達を見渡すと言う。

 

「暇だから寄ったのだが………これは何の騒ぎだ?」

 

遊びに来たティアが部室の騒ぎように首を傾げている。

すると、レイナに抱き抱えられている俺とティアの目があった。

 

ティアが訊いてくる。

 

「おい、その赤ん坊は………誰の子だ?」

 

「「「私の子供よ!」」」

 

おぃぃぃぃぃぃ!

なに嘘ついてるの、この娘達はぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

「うむ………そうか、もう生んだのか」

 

そこで納得しないで!

なに、うんうん頷いてるの!?

普通に考えて早すぎるだろ!

 

この状況を打破するため、俺は舌の回らない言葉でティアに言った。

それは藁にもすがる想いで、ティア姉なら俺をこの状況から救いだしてくれると信じてのことだった。

 

「ちあ! おれだ! いっちぇーだ!」

 

「………うん? い、イッセー………だと?」

 

片眉を上げるティア。

美羽がティアにことの次第を伝える。

 

「アザゼル先生が作った発明品でお兄ちゃんは赤ちゃんに戻ったんだよ。すっごく可愛いでしょ?」

 

「ちなみに、誰がアザゼルに頼んだ?」

 

「ボクだよ? 昔のお兄ちゃんを抱っこして、スリスリしたかったんだ」

 

ティアの問いに自身を指差して答える美羽。

笑顔で答える美羽にティアは深くため息を吐いて、こちらに歩み寄ってくる。

 

やっぱり、呆れるよね。

だって、そんな願いのために俺をこんな目に合わせるなんて信じられないよね。

うん、待ってた。

ようやくまともな反応を見せてくれる人がいた。

 

流石は頼れるお姉さん――――――。

 

「でかしたぞ、美羽!」

 

そう言うなり、ティアはレイナから俺を奪い抱き上げたぁぁぁぁぁ!?

 

「やーん! イッセー、かーわーいーいー!」

 

ティア姉ぇぇぇぇぇぇぇ!?

違う!

俺が求めているのはこんな反応じゃないよ!

「やーん」って、さっきの美羽と同じ反応じゃねーか!

ティア姉ってそんな言葉使う人だったの!?

 

「あぁぁぁぁ………良いな、これは………。この胸に収まるサイズ感、この柔らかさ………たまらんな。はぁ、はぁ」

 

ちょ、ティア姉、息が荒くなってるんですけど………。

今気づいたけど、美羽達も呼吸が荒くなっていて、なんか目が怖い。

 

もう、どうしたら良いんだよ。

どうすれば、この状況から抜け出せるんだよ。

どうすれば、俺は元に戻れるんだよ。

あのボタンはあの未婚元総督が持って行ってしまったし、俺は上手く動けないし。

 

………う、打つ手がねぇ。

 

どこから持って来たのだろう。

美羽が赤ん坊が着るような服を何着も持って来て、机の上に広げた。

 

俺は嫌な予感しかしなかった。

 

「み………う………?」

 

「お母さんに頼んで、借りて来たんだ。お母さん、全部大切に保管してたんだよ?」

 

そ、そんな昔の服を保管してたっていうのか………。

なんてこった、こんなの次の展開が丸分かりじゃん。

だって、女体化した時に経験したもの。

だって、女性陣の目があの時と同じ………いや、あの時以上に危険なんだもの。

 

「さぁ、お着換えの時間だよ!」

 

美羽の号令のもと、俺は女性陣の着せ替え人形にさせられ、撮影会まで開かれた。

更に、アザゼル先生から情報を聞きつけた教会トリオが参戦し、俺は一日中………そう、食事も、風呂も、寝る時も赤ん坊姿で過ごす羽目になったのだった。

 

 

 

 

後日、元の姿に戻った俺はアザゼル先生に文句を言いに行った。

 

「あんたのせいでなぁ! 俺はひたすら遊ばれたんだぞ!?」

 

「まぁ、良いじゃねぇか。美羽達も満足したんだ。美羽達の幸せはおまえの幸せだろ?」

 

「ちょっと違うねぇ! 俺、ひたすら赤ちゃんだったもの! 赤ちゃん扱いだったもの! 地味に辛かったよ!」

 

「おっと、一つ言い忘れていた。あの装置は若返らせる年齢を設定できてな。―――――おねショタプレイなんてものが出来るぜ?」

 

「それ、美羽達に言いました?」

 

「言った。というか、美羽の要望」

 

「………」

 

美羽、おまえ………。

 

 

 



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主従? それとも………

今回はシリアス? シリアル?


「ふぁぁぁ………」

 

早朝、盛大にあくびをしながら家の廊下を歩く俺。

時刻は朝五時。

修行の時間だ。

 

いつもの起床時間なんだけど、昨日は悪魔の仕事がね………。

上級悪魔になってからの仕事量が半端じゃない。

事務書に入る度に山積みになっている書類を見てげんなりする日々が続いている。

リアスやソーナも上級悪魔として冥界に提出するレポートがあるが、二人は苦なくこなしている。

俺のように半泣きになりながら、仕事をしているところなんて見たことがない。

 

別にサボっていたとか、そういうわけじゃない。

眷属の三人に加え、レイナに頼み込んで手伝ってもらっている程だ(アリスが俺に丸々投げてくるが…………)

 

では、なぜ、俺がこんなに忙しくしているのかと言うとだ。

それは俺が下級悪魔から上級悪魔へと飛び級を果たしたことと、俺が異世界アスト・アーデから帰還した存在であることが理由だ。

 

俺は悪魔に転生してから一年もたたずに昇格を果たした。

自他共に認めているように、俺の戦闘力は素の状態で最上級悪魔クラス、禁手ともなれば魔王クラスだ。

EXAが発動可能になってからはその領域すら超えるようになった。

並の神クラスならば、余裕で勝てる自身がある。

なので、戦闘力的には問題ない。

 

問題なのは――――悪魔としての経験が少なすぎること。

冥界についての知識が上級悪魔としては圧倒的に不足しているんだ。

 

そこで、冥界から言い渡されたのが、大量のレポートの提出だった。

冥界について学んだことをまとめて、定期的に提出しなければならないんだ。

毎日毎日、冥界や各勢力の情勢を調べて、そのことを書き記す作業。

加えて、リアス達が書いているような人間界で過ごす上級悪魔としてのレポート。

 

更に、異世界のことが発覚してからは、異世界に深く関わってきた者として、向こうの世界についての資料を作らなければいけなくなった。

全勢力のお偉いさんが見る資料。

当然、下手なことは書けないし、いい加減なことも出来ないので、かなり神経をすり減らす。

冥府占拠とか、アセムが本格的に動き出してからは書類の量が倍増したし………。

 

………もうね、死にそう。

ブラック企業に就職した気分だよ………。

 

ま、まぁ、本当にヤバイ時はリアス達も手伝ってくれるしね。

これを乗り切ったら、暫くはゆっくりできる………と思いたい。

 

「とりあえず、着替えたら修行だな」

 

どんなに忙しくても修行は欠かせない。

日々の鍛練が俺を強くするからな。

これまでも、これからも。

 

そんなことを思いながら、トイレのドアを開ける―――――。

 

「………」

 

「………え?」

 

トイレには先客がいた。

紫色の髪の美少女―――――ディルムッド。

パジャマのズボンと可愛らしいデザインのパンツを下ろした状態でトイレに座っていた。

俺が開けたときにはちょうど、水の音が止まった時で―――――。

 

「~~~~~~ッ!」

 

ディルムッドの肩がワナワナ震え、顔が真っ赤になっていく!

いつもは気丈な娘が涙目になっていくぅぅぅぅぅぅ!

 

「ま、待て待て待て! すまん! 悪かった! 俺は普通にトイレに行きたかっただけで―――――」

 

こんなことを言っても無駄なことは分かってる。

だって、もう手遅れだもの。

ディルムッドさん、槍握ってるもの。

 

「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「ギャァァァァァァァァァッ!」

 

早朝の兵藤家に断末魔が響いた。

 

 

 

 

「おーにーいーちゃーん? ディルさん、泣かせちゃダメでしょ?」

 

「い、いや、あれは事故で………俺もただトイレに行きたかっただけで………」

 

トイレでの一件の後、俺はリビングで美羽にお説教されていた。

ソファの上に正座をさせられた状態で。

 

泣いちゃったディルムッドは未だ半泣き状態で美羽の腕にしがみついていて、俺を睨んでくる。

 

そ、そんな睨まなくても………。

いや、悪いとは思ってるよ?

でもね、鍵をかけてなかったディルムッドも………。

 

「………」

 

「うん………ゴメンね、本当に」

 

「………」

 

俺が全面的に悪いということにしておこう。

 

そうこうしていると、朝食の準備に取りかかっていたリアスが声をかけてきた。

 

「三人とも、朝食の準備が出来たから席に着きなさい」

 

リアスの呼び掛けに美羽は頷く。

 

「うん。それじゃあ、お兄ちゃんもこれからは注意してね? でも、ディルさんもしっかり鍵をかけること。今回はディルさんが鍵をかけなかったことも原因だからね?」

 

「はい………」

 

美羽に注意されて、しょんぼりと頷くディルムッド。

 

………この娘、マジで美羽には従順だな。

というより、なついてるのか?

主従というよりは、別の関係に見えてくるんだが。

 

お説教が終わった後、ディルムッドは小走りで席に着いた。

よほどお腹が空いているのか、朝食に目をキラキラさせていて、後ろで束ねた髪をフリフリ揺らしていた。

………犬か!?

 

俺はため息を吐いた後、美羽に何となく聞いてみた。

 

「そういえば、美羽ってディルムッドの歳をいつ聞いたんだ?」

 

「え?」

 

「ほら、先月に教えてくれただろ? おまえは俺達より先に知ってるみたいだったからさ」

 

「あー、ディルさん、お兄ちゃん達とはあまり話さないもんね。ボクが知ったのは―――――」

 

 

 

 

[美羽 side]

 

 

それは冬が本格的になってきた頃。

アウロス学園の見学に行く少し前のことだった。

 

「買い物………ですか?」

 

コタツでミカン食べているディルさんはそう聞き返してきた。

ボクは同じくミカンの皮を剥きながら頷く。

 

「うん。ディルさんって、あんまり服持ってないでしょ? 時間とれなかったから遅くなっちゃったけど、今日は空いてるから一緒に買いに行こうよ。流石にずっとメイド服っていうのもね………」

 

ディルさんはここのところ、ずっとメイド服で過ごしている。

もう、部屋着のようにメイド服を着てしまっている。

 

今もメイド服を着ているんだけど………。

メイド服のままコタツに入り、ミカンを頬張っているという変な光景がボクの目の前に広がっている。

 

可愛いよ?

ディルさんって美人だし、スタイルもいいからすっごく似合ってる。

でもね、ほとんどの時間をメイド服で過ごしているから、どうにかしたくなるんだよね。

 

ディルさんは次のミカンを剥きながら言う。

 

「私はマスターから頂いたこの服だけで十分なのですが」

 

「ダーメ。女の子なんだから、オシャレしなきゃ。ディルさん、美人なんだから勿体ないよ」

 

「はぁ」

 

あんまり乗り気でないね………。

 

再会した時も段ボールで過ごしたりしていたし、その手のことには関心がないのかな?

でも、やっぱり女の子がそればっかりの服というのは問題だと思うんだ。

 

ここは―――――。

 

「それじゃあ、マスターからの命令! 今日はボクと一緒に買い物に来ること! 分かった?」

 

ボクがそう言うとディルさんは目を丸くして、少し驚いたような顔をしていた。

そして、本日四袋目のミカンを飲み込むとコクリと頷いた。

………というか、どれだけミカン食べるの!?

 

「わかりました。そういうことなら、行きましょう」

 

「うん! それじゃあ、着替えてレッツゴーだよ!」

 

 

 

 

というわけで、一時間後。

ボクとディルさんは二人で町のショッピングモールを訪れていた。

 

ボクは案内板を確認しながら言う。

 

「えーと、洋服は二階だね。それじゃあ、先に服を見てから、カフェに行って、その後はテキトーに見て回ろっか」

 

「了解しました。順番はマスターにお任せします」

 

「ちなみに、どんな服が好き?」

 

ボクの問いにディルさんは首を傾げて、

 

「そうですね。動きやすいものを………戦闘に適した服が好みです」

 

「いや、戦闘とか考えないで………」

 

なに、そのゼノヴィアさん思考。

 

どうにも、ディルさんは衣服に関心が無いんだよね。

基本的に食べることしか興味ないと言うか………。

 

「でも、メイド服は気に入ってたよね?」

 

「あれは着心地が良かったですから。それにとても動きやすいのです」

 

「なるほど………」

 

ボク達はエスカレーターに乗って二階へと進む。

ショッピングモール内は程よく暖房が効いていて、休日だけあって人も多い。

十代の男女も多く、駒王学園の学生も何人か見かけた。

 

「はぐれたらダメだから、手を繋いどこっか。ディルさん、携帯持ってないし」

 

はぐれても魔法陣で話せば良いんだけどね。

だけど、これだけ人が多いと見られるかもしれないし、それだったら、最初からはぐれないようにする方が良い。

 

ボクが手を差しのべると、ディルさんは少し顔を赤くしながら、小さく頷いた。

 

「は、はい」

 

………もしかして、恥ずかしがってる?

まぁ、ディルさんって大人な感じだし、手を繋ぐのに抵抗があったりするのかな?

 

というか………。

 

「ディルさんって歳いくつ?」

 

「十五です」

 

「………へ?」

 

今、なんて言った?

じ、十五って聞こえたんだけど………。

 

う、嘘だよね?

だって、口調も顔つきも大人っぽいし………。

そ、それに………。

 

ボクはディルさんの体を上から下へと見ていく。

ボクより高い身長、豊かな胸、括れた腰、スラッとした脚。

どうみてもモデルにしか見えないスタイル。

アリスさんなんて、ディルさんの胸を見て、何度ため息を吐いていたことか………。

 

「ほ、本当?」

 

「ええ、そうですが?」

 

こ、これは嘘を言っているようには思えない。

というか、ここで嘘をついても何になるものでもない。

 

な、なんということだろう。

ボクよりも歳下、中学生なのにこんな………!

 

うぅ………童顔が辛いよ。

もうちょっとくらい、身長伸びないかなぁ。

 

「マスター? なぜ、涙目なのです?」

 

「ううん………持たざる者が嫉妬しているだけだよ……」

 

「?」

 

神様、おっぱいよりも、そろそろ身長が欲しいです。

あ、頭痛が………。

そうだった、ボクは悪魔だから、神様に祈るのはダメなんだった。

 

うん、考えないようにしよう。

毎日、牛乳飲んでるんだし、いつかは伸びる………はず!

 

そうこうしている内にボク達は目的の店に入るのだった。

 

 

 

 

「本当によろしいのですか? こんなに買っていただいて」

 

足元に置かれた紙袋を見て、ディルさんは少し申し訳なさそうに聞いてきた。

ボク達は現在、ショッピングモール一階にあるカフェ、そこの屋外テラスでお茶していた。

 

とりあえず、冬服に靴にアクセサリーと結構な数を購入。

お金は出掛ける前にお兄ちゃんがいくらか貸してくれたから、割と余裕ある。

 

ただ、途中で調子に乗ってけっこう使っちゃったんだよね………。

ディルさん、何着ても似合うんだもの。

 

お兄ちゃん、許して!

 

 

~そのころのイッセー~

 

 

「許す!」

 

「え? なに? なにを?」

 

「あ、あれ………なぜだか、口が勝手に………」

 

「あんた、変なものでも食べたんじゃないの?」

 

アリスの言葉に首を傾げるイッセーだった。

 

 

~そのころのイッセー 終~

 

 

帰ったらお兄ちゃんに謝ろう。

それから、ちゃんと返そう。

 

ボクは注文したカフェラテを飲んだ後、ディルさんに行った。

 

「うん、これはディルさんにプレゼントだからね。気にしなくて良いよ?」

 

「ありがとう、ございます」

 

お礼を言ってくるディルさん。

そんなディルさんを見ていると、

 

「うふふ」

 

つい微笑んでしまった。

ディルさんは突然笑みを浮かべたボクに怪訝な表情を浮かべた。

 

ボクはあの時のことを思い出しながら言う。

 

「昔ね、ボクがこの世界に来てからすぐの頃だよ。お兄ちゃんもこんな感じでボクを外に連れ出してくれたなって思い出したんだ」

 

「赤龍帝が、ですか?」

 

「そう。目に隈を作ってまで、ボクが楽しめるコースを考えてくれてたんだ。突然連れてきちゃったけど、ディルさんは今日楽しかった?」

 

「そう………ですね。私はこの手のことに疎いので、分からないところもありましたが………マスターとの買い物は楽しかったです」

 

「そっか、良かった」

 

あの時のお兄ちゃんもこんな気持ちだったのかな?

もし、そうなら嬉しいな。

 

昔と今を重ね合わせていると、

 

「………」

 

ディルさんはボクのことをじっと見つめていて………。

 

なんだか不思議そうな顔をしている気が………。

なんだろう?

何か変なことでもあったのかな?

 

「どうしたの?」

 

ボクが訊ねると、ディルさんはハッとなり、少し俯き気味になる。

そして、少しの沈黙の後、口を開いた。

 

「姉を………思い出していました」

 

「姉? もしかして、お姉ちゃんがいるの?」

 

聞き返すと、ディルさんは頷く。

だけど、その表情はどこか悲しげで辛そうなものだった。

いつもは表情を変えない彼女がこんなにハッキリ顔に出すのは珍しい。

 

「いた………と言った方が正しいです。昔、私には姉がいました」

 

「いたって………もしかして―――――」

 

「はい。姉はもうこの世に存在しません。姉は殺されましたから」

 

「―――――っ」

 

ディルさんは話してくれた。

過去の自分の話を。

 

どこにでもいる普通の女の子だったことを。

お父さんとお母さん、そして大好きだったお姉ちゃんと一緒に暮らしていた頃のことを。

そして―――――家に伝わる秘宝を狙ったはぐれ悪魔に家族を殺されたことを。

 

辛く悲しい話をしているのに、ディルさんは涙を流すどころか表情を変えなかった。

でも、ボクにはどこか我慢しているようにも見えた。

 

ディルさんが話を一通り終えた時にはカフェにいるお客さんはボク達だけになっていた。

太陽も沈んで、町の灯りが夜を照らし始めている。

 

「―――――と、そのようなことがありました。私はずっと逃げてきたのです。逃げ続けた果てにここに来てしまったのです。………申し訳ありません、このようなつまらない話を」

 

「そんなことない………。とても大事な話………。ディルさんはどうして、ボクを見てお姉ちゃんを思い出したの?」

 

「………笑ったところ、でしょうか。元々、体が弱く、引きこもりがちだった私を外に連れ出したり、いつも話しかけたりしてくれるところも、そう。顔は全く違うのに、マスターは姉と良く似ています」

 

そっか。

話していると、たまにボクの顔をじっと見てくることがあったけど、あれはお姉ちゃんを思い出してたんだね。

 

ディルさんは町を歩く人達を眺めながら呟く。

 

「どうして………でしょうね」

 

「え?」

 

「誰にも話すつもりなど無かったのに、マスターにはなぜか話してしまいました。………姉と似ているからでしょうか? でも、どうしてでしょうね………」

 

話を続けようとするディルさんだけど、その続きの言葉が出てこなかった。

その代わりに聞こえてきたのは木のテーブルに何かが落ちる音。

 

見れば―――――ディルさんは薄く涙を流していた。

 

「ずっと、心の奥に閉まってきました。こんな感情、捨てたはずでした。そうしないと強くなれなかったから………。だけど、だけど………姉を思い出すと、私は………」

 

ポタポタと木のテーブルに涙が零れ落ちていく。

 

「弱いままではダメなのです。また、あの頃の私に戻ってしまう。感情を捨ててでも、強くならないといけない………はずなのに………。姉の分まで私は………。どうして………どうして、この頬に伝うものは止まってくれないのでしょう?」

 

お姉ちゃんの最後の言葉。

自分の分まで生きてほしいという約束を守るためにディルさんはずっと戦ってきた。

それは敵だけじゃない、自分と戦い続けてきたんだ。

弱い自分が嫌で、また失うことが嫌で、孤独になろうとした。

感情を捨てようとした。

 

ボクはハンカチを取り出して、ディルさんの涙を拭ってあげた。

そして、彼女の手を取って言った。

 

「感情を捨てる必要はないんだよ? ディルさんが捨てようとしたもは必要なもの。人が人でいるために無くしちゃいけないものだもん」

 

そう言うとボクはディルさんの背中に手を回して、ギュッと抱き締めた。

 

「ずっと、一人で頑張ってきたんだよね? でも、もう一人で戦う必要はないんだよ? これからはボクが、ボク達が一緒に戦うから。だからね、泣いたって良いんだ。泣きたい時は泣けばいい。もし、ディルさんが辛くなったら、その時はボクが受け止めてあげるから」

 

ボクがそう言うとディルさんは肩を震わせて大粒の涙を流し始めた。

今まで溜め込んでいたものを吐き出すように大きな声で。

同時にボクはディルさんの声が周囲に漏れないように簡単な結界を展開したのだった。

 

 

 

 

それから、少しして。

ボクとディルさんは手を繋いで、帰路についていた。

空いている手には大量の紙袋。

今日買った商品が詰められているんだけど………。

 

うーん、ゲームセンターで取れたこのクッションは………。

デフォルメされたドラゴンのクッションなんだけど、結構な大きさなんだよね。

取れたときは嬉しいけど、持って帰るときに困る。

 

ま、まぁ、記念ってことで、頑張って持って帰るよ!

 

自分で取ったゲームセンターの景品に苦笑していると、ディルさんが呟くように言った。

 

「―――――サラ」

 

「え?」

 

聞き返すとディルさんはボクの目を見ながら小さな声でもう一度言った。

 

「サラ・オディナ………それが私の本当の名です」

 

「あ、そういえば、ディルムッドって、ご先祖さまの名前だっけ?」

 

「はい。本来なら姉が槍と剣と共に継ぐはずの名前でした」

 

「そうなんだ。ずっと思ってたんだけど………英雄ディルムッドって、男性だよね?」

 

英雄派との戦いの後、少し調べたんだけど、ディルムッドは男性の英雄だった。

 

「父は男子が欲しかったようですが、その願いは叶わなかったようです」

 

「あー………」

 

うん、まぁ、しょうがないよね。

産まれてくる子供の性別は神のみぞ知るだし。

 

それは置いとくとして、

 

「サラさんかぁ。可愛い名前だね。でも、どうして教えてくれたの?」

 

すると、ディルさんは顔を赤くしながら、

 

「え、えっと………マスターには教えても良いかなと………思いまして………。そ、その、誰にも言わないでください。昔、父から………(本当に信頼できる)(人にしか教えてはならないと言われまして)………」

 

だんだん声が小さくなっていく………。

一番肝心なところが一番声出てなかったよ。

 

本当に信頼できる人にしか教えてはならない、か………。

ボクとしては信頼されてるってことで、嬉しいかな。

 

「分かった、皆には秘密にしておくよ。でも、いつかはお兄ちゃん達にも伝えられると良いね。ううん、いつかはディルさんが本当の名前で呼んでもらいたい時が来ると思う。だから、その時は………ね?」

 

「そう、ですね………。その時が来れば私は――――」

 

暗くなった空を見上げるディルさん。

握る手が少し強くなったけど、緊張してるのかな?

 

「そんなに気張らなくても良いよ? ディルさん―――――サラさんのタイミングで言えばいいんだから」

 

「はい!」

 

ディルさん―――――サラさんは優しい笑顔で頷いてくれた。

 

 

 

 

と、そんなことがありました。

 

あれから少し経つけどまだお兄ちゃん達には言えてないんだよね。

その時はいつかは来ると思うし、その時にね?

 

朝食の席でディルさんは必ずボクの隣に座る。

今も隣でリアスさん達が作った朝食を美味しそうに頬張っている。

 

「ディルさん、今夜は唐揚げだから楽しみにしててね? 腕によりをかけて作っちゃうから」

 

「やった♪」

 

ディルさんは今日も元気です。

 

 

[美羽 side out]

 

 




今回は美羽とディルちゃんの話でした~。
過去話以降、ディルちゃんの株が急上昇したので(笑)

本編には出てないディルちゃんの本名が出ました。


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[ヴァルス side]

 

私、ヴァルスと申します。

はい、皆様もご存じの通り、勇者殿―――――兵藤一誠殿とは敵対関係にいる者です。

 

「なんで、敵側の奴がナレーションしてるんだよ!」と思われるかもしれませんが、その辺りはご容赦を。

自分で言うのもなんですが、私達は悪役としてはかなりのほほんとしてるような気がするのですよ。

今回は勇者殿サイドのお話しではなく、そんな私達アセムファミリーの日常について語らせていただこうかなと思います。

 

「ふぁ………ヴァルス、おはよ?」

 

おっと、少し早いですが導入はここまでにしておきましょう。

我が愛しの妹ベルたんが瞼を擦りながら、起きてきました。

 

我が父、アセムが生み出した四人の中でも最強の力を持つ少女。

描いたものを創造する能力に、触れた相手を複製する能力。

ロリな見た目とは想像できない程にチート能力の持ち主。

そんなベルたんも普段は可愛い女の子なのです。

 

あ、ちなみに私はベルのことを心の中では『ベルたん』と呼んでいます。

何故かって?

可愛いからですよ。

それ以外の理由など必要ありません。

 

現在、朝の六時半。

私、ヴァルスはアセムファミリーの料理番を勤めているので基本的に朝は早いのです。

まだ朝食は出来ていないので、ベルたんはまだ寝ていても良いのですが………、

 

「んー………ベル、何したら良い?」

 

なんと、ベルたんは私を手伝うために早起きをしてくれるのですよ!

なんという優しい子なのでしょう!

………と言っても、ベルたんは料理が出来ないので、自動的に配膳係になってしまうのですが。

 

「ベル、今日の朝食は何が良いですか?」

 

「………サンドウィッチ食べたい」

 

「では、そうしましょう」

 

私は微笑むと、エプロンを装着した。

 

 

 

 

「むむむむ………ヴァルス、あなた、また料理の腕を上げたわね。パンの絶妙な焼き加減にスパイス、それにこのオニオンスープ。やるわね」

 

スープカップに口をつけながら何やら唸るヴィーカ。

 

『武器庫』の名を持つ、創造し、貯蔵した武器をたくみに扱う能力を持ちます。

純粋な剣技だけなら、私に軍配があがるでしょうが、能力をフルで使われると厳しいでしょう。

彼女が強いのは様々な武器を自在に操るその技量も含まれていますから。

 

まぁ、私も他者の心の内を読むという能力と、一瞬先の未来を見るという能力があるので、それらを使用すれば話は変わってきますが。

 

それはさておき、ヴィーカも時々ですが、アセムファミリーの料理番をしていたりします。

………私の腕が上達したことで、彼女の対抗心に火をつけましたね。

ヴィーカ、あなたは掃除番なのですから、そっちで頑張ってください。

 

「ヴィーカ、あそこに置いてある掃除機………また創ったのですか?」

 

私の視線の先にあったのは掃除機。

私の疑問にヴィーカは胸を張って、自慢気に返してきた。

 

「よくぞ聞いてくれたわ! 世界中の掃除機メーカーの技術を学び、改良に改良を重ねて、ようやく完成したわ! 名付けて『ヴィーカ・サイクロンMk-12』! 吸引力、動作時の静寂さは他の追随を許さない! これで私は世界を掴むわ!」

 

「………」

 

熱く語るヴィーカ。

実は彼女、家電大好き人間なのです。

家電量販店に行っては最新の家電に目を奪われ、数時間はその場所から動いてくれません。

で、その家電好きが高じた結果、自分の能力でオリジナルの家電を作るようになってしまいまして………。

 

我が家にある掃除機、冷蔵庫、洗濯機………その他諸々の家電はヴィーカお手製。

あらゆるメーカーの製品を学び、独自の改良によって作っているので、既存の製品より性能が良いのです。

 

しかも、タダ!

保証期間は無期限!

「能力使って何をしてるんですか!」とツッコミたいところですが、ここは我慢しましょう!

だって、タダなんだもの!

 

「おまえも好きだねぇ。チーズ、うま」

 

机に頬杖をつきながらそう言うのは我らが誇る巨漢、『破軍』ラズル。

その豪腕から放たれる拳は神をも砕き、分厚い筋肉の鎧はいかなる攻撃をも防ぐ盾となる。

更に引力と斥力を操る力も備えており、直接的な攻撃力・防御力という点では私達四人の中でも最強と言えるでしょう。

 

「ラズル、それは特売で買った安物ですよ? 百五十円」

 

「マジか。あ、そこのイチゴ牛乳取ってくれ」

 

「あなたも好きですね、見ためと合っていませんよ」

 

「見た目とか関係ねーし。ベルも飲む?」

 

「………うん。ありがと、ラズル」

 

頷くベルにニコニコ顔でイチゴ牛乳を手渡すラズル。

いやぁ、やはりと言いますか、なんと言いますか………結局のところ、我々はベルには甘いシスコンなんですよねぇ。

 

「………おいし」

 

ベルがニッコリ微笑んだ時なんてもう―――――

 

「「「今日もベルちゃん、きゃわ!」」」

 

 

パシャシャシャシャシャシャシャシャ………

 

 

朝の食卓でシャッター音が止まらなくなる。

自前の一眼レフを構え、あらゆる角度からシャッターを切る。

これが朝の恒例行事。

 

「………っと、そろそろ仕度しねーとな」

 

壁にかけられた時計を見ながらラズルがそう言った。

 

時刻は八時半………なるほど、そろそろ出勤ですね。

世界を騒がせているクリフォトに協力している私達ですが、特に動かない時には普通に働いているのです。

仕事はいくつか掛け持ちしているのですが、

 

「ラズルは今日はどこへ?」

 

「ラーメン屋。おまえは?」

 

「私は―――――」

 

 

 

 

「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」

 

ファーストフード店『マグロナルド』。

本当ならば休みだったのですが、店長の頼みでいつもと違う店のヘルプに入ることに。

というのも、今日は近くの広場でイベントがあるそうなのです。

そういう日は尋常ではない数の客がやってくるらしく、特にお昼時は戦場のようで―――――、

 

「ポテトS!  コーラ入りましたぁぁぁぁ!」

 

「はぃぃぃぃぃ!」

 

「先輩ぃぃぃぃ! レジが大破しましたぁぁぁぁ!」

 

「マジでか!? こんな時に!?」

 

「うおっ!? ヘルプの人、倒れてんぞ!?」

 

「立てぇぇぇぇ! 立つんだ、ヘルプの人ぉぉぉぉぉ!」

 

うん………なんか凄いことになってますね。

季節はもう冬だというのに異常なほど暑い店内。

 

私、ここに勤務してから間もないので良く分からないのですが、ファーストフード店というのはここまで忙しいものなのでしょうか?

立地が良すぎるのでしょうか?

それとも、私が舐めていただけなのでしょうか?

正直、剣を振るっている時よりも………キツい。

 

同じヘルプの一人が言った。

 

「ちくしょう………どうすんだよ! このままじゃ、全員倒れるぞ! どうすればいいんだよ!?」

 

そうなった場合、閉店したら良いと思うのですが………。

 

「くっそう………! こうなったら、近隣からヘルプを呼びまくって………! ダメだ、もう呼び尽くしてる………!」

 

呼び尽くして、この現状なら本当に地獄ですね………。

 

「だったら、ヘルプのヘルプを呼んで、それでもダメならヘルプのヘルプのヘルプを―――――」

 

ヘルプのヘルプのヘルプってなんですか。

それはもう一括りにヘルプじゃダメなのですか?

 

私は額に流れる汗を拭い、店内を見渡した。

 

レジは一大大破。

ヘルプも一人倒れた。

消えない行列という絶望に倒れていく仲間達。

 

そんな彼らに私は言った。

 

「あなた達は調理と配膳に回ってください。恐らくこのままだと、後ろがもちません」

 

すると、彼らは驚いた表情で、

 

「それって、ヴァルスさんが一人でレジをするってことですか? 無茶だ! 一人でこの数を捌けるわけがない! それにそんなことをすれば死にますよ!?」

 

死にませんよ。

 

「そこは心配なさらずに。こういう時のための必殺技といえるものが私にはあるのですよ。止まっている暇はありません。さぁ、行ってください。―――――ここは私が引き受けます」

 

「………ッ! わ、分かりました! 必ず帰ってきます! だ、だから、任せます………!」

 

涙を拭ってバックヤードへと駆けていく。

それを見送った私は目の前の客に笑顔を向けて――――

 

「そちらのお客様はチーズバーガーのセットを二つ、そちらのお客様はテリヤキバーガーとコーラLですね?」

 

そう言うと、二組の客は目を丸くして、

 

「「えっ………? 合ってるけど、注文言ったっけ?」」

 

言ってませんよ。

ただ私はあなた方の心の内を読んだだけで。

 

そう、こう言う時に私の能力は役に立つ。

客の注文を先読みし、声に出す前に確認を取る。

これだけで数秒は稼げる。

更に後ろで待っている客の心の声を読むことでより早く注文を取れるようになる。

 

更に―――――。

 

「す、すげぇ………! ヴァルスさん、二つのレジを同時に操作してる! しかもミスがない!」

 

左右に設置されたレジの両手同時操作。

普通にやれば、どこかでミスが生まれてしまうでしょう。

 

しかし、ネトゲで鍛え上げられたこのキーボード操作力の前には問題ない。

両手両足四キャラ操作すらこなしたこのヴァルスにかかれば、この程度―――――レベル1のスライムをレベル100のキャラクターで倒すようなもの!

 

流れるような指さばき!

無駄の無い釣り銭渡し!

これにより、行列の進行スピードが先程よりも格段に早くなっていく!

 

「おお………おおおおお! ス、スゲェ! 一人でこんな………マジかよ!?」

 

「ヴァルスさん、マジパネェスッ!」

 

バックヤードで歓喜の声をあげるスタッフ達。

そんな彼らに私はクイッと帽子を上げて、不敵に告げた。

 

「本気を出した私は強いですよ? レジ打ち数百人分はこなせますからね。それより、後ろは任せましたよ?」

 

「「はいっ! ヴァルスさん!」」

 

うんうん、元気のある返事です。

この分なら、捌ける量もかなり変わってくるでしょう。

 

そう頷いていると、ふいに店長の声が聞こえてきて、

 

「ヴァルスか………次の店長はあいつで決まりだな」

 

どういう基準で店長を決めてるんですか!?

 

気を取り直して、レジ打ちに意識を戻す。

すると、そこには見覚えのある顔触れがいて、

 

「………なにしてるんですか、父上。それにヴィーカとベルも」

 

白髪と白いパーカーが特徴的な少年。

我らを作りし偉大な父―――――アセム。

そして、その後ろに手を繋いでいるヴィーカとベルたん。

 

父上は無邪気な笑顔を浮かべて言う。

 

「いやぁ、ここのところ働きっぱなしじゃん? 心配して見に来たんだよ」

 

「本音は?」

 

「暇だったから!」

 

「やめてくれません? ただでさえ死ぬほど忙しいんですから、やめてくれません?」

 

「アッハッハッハッ♪」

 

まったく、この人は………。

まぁ、いつものことですが。

凄まじい力の持ち主であることは確かなのですが、どこまでもマイペースなので、たまに疑うことがあります。

 

………あと、たまに超腹立つ。

本当に忙しい時にイタズラ心を出すのは勘弁してほしいものです。

 

「ご注文はご当地バーガーAセット二つとキッズが一つですね?」

 

「お、流石だねぇ。言わなくても注文を取るとは」

 

「そういう風に作ったのはあなたでしょうに」

 

父上達の注文を確認した後、レジを操作する。

とりあえずは忘れよう。

少しイラッとしましたが、ここは忘れましょう。

今は仕事に集中せねば…………!

 

そうして、次の客へと意識を移そうとした――――その時。

 

「あ、ヴァルスのゲームさ。間違ってセーブしちゃってデータ全部消えちゃった」

 

「キエェェェエェェェェェェッ!」

 

父上に必殺脳天チョップを撃ち込んだ。

 

 

 

 

激戦を終え、帰宅後。

 

「父~上~!」

 

私は父上の頬を全力で引っ張っていた。

………泣きながら。

 

あっはっはっ(アッハッハッ)………ほへんほへん(ゴメンゴメン)いひゃ~まふぁか(いや~まさか)れーたらきえるなんへ(データが消えるなんて)おもっへなくふへは(思ってなくてさ)

 

「全く謝罪の意を感じられませんな!」

 

「ひゃぁぁぁ~」

 

ううっ………せっかく頑張ってたのに。

仕事から帰ってコツコツ、キャラを育てて進めていたのに。

あと少しでラスボスだったのに。

 

床に突っ伏しているとポンッと肩を叩かれた。

顔だけそちらに向けるとヴィーカが苦笑していて、

 

「まぁ、もう一度育てる楽しみが出来たってことで良いじゃない。ゼロからのスタート。大丈夫、きっと帰ってくるわよ、あなたのお気に入りキャラ―――――えっと、なんだっけ?」

 

「そこまで言って、思い出せないんですか!?」

 

そんな中途半端な慰めは必要ない!

返せ!

私の―――――

 

「私のビアンカを返せぇぇぇぇぇぇ!」

 

「あっ、おまえ、ビアンカ押しなんだ。俺もだわ」

 

「………気が合いますね、ラズル。ビアンカ………良いですよね」

 

「じゃあ、僕がビアンカを育ててあげるよ。僕色に染め上げて見せるよ」

 

「やめて! あなたはビアンカに何をするつもりですか!? 許しません、許しませんよ! いくら父上だろうとビアンカを汚すことは………って、何ですか、この拘束は!?」

 

「アハハ♪ さてさてさーて、どうしよっかなー♪」

 

「あぁぁぁぁぁぁっ! ビアンカがぁぁぁぁぁぁっ! ラズルゥゥゥゥゥ! ヘェェェェェルプゥゥゥゥゥゥッ!」

 

「悪ぃ、テレビ見るから頑張ってくれ」

 

「そ、そんな………ヴィーカ! あなたは助けてくれますよね!?」

 

ヴィーカに助けを求めるが―――――。

 

「あ、ゴメンなさいね? 今からベルを寝かしつけるから」

 

「ふぁ………ん………眠い」

 

瞼を擦るベルたんを抱き上げるヴィーカ。

ベルたんは一人では寝付けないので、毎夜、ヴィーカが添い寝をしているのです。

なんと羨ましい………。

私だって、可愛い妹の寝顔を見ながら眠りたい!

 

そんなわけで―――――。

 

「天は我を見放したか………ガクッ」

 

私は身動きの取れないまま、ガクリと頭を下ろしたのだった。

 

 

[ヴァルス side out]

 



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大晦日特別編 結果発表2018!

どうも、イッセーです。

 

突然だが、今、俺達はとあるパーティー会場に集まっている。

赤いカーペットの敷かれた床に豪華なシャンデリアが吊るされた高い天井。

会場には美味そうな料理がこれでもかと並べられている。

 

このパーティーに参加している人達だが、チーム『D×D』のメンバー全員の他にサーゼクスさんを含めた四大魔王に天界の熾天使、アザゼル先生を初めとしたグリゴリの幹部。

加えて、オーディンのじいさんなど、各神話の首脳陣まで来ている。

 

あ、オーディンのじいさんが女の人のお尻を触ってビンタをくらった。

仮にも主神だろ、あの人………。

まぁ、スケベな俺が言えたことじゃないけど。

 

とにかく、そんなVIPまで呼ばれているという、とんでもパーティーだということは分かってもらえただろう。

普通なら護衛が何人もいて然るべきだし、黒服の厳つい人が警備に当たっていても不思議ではないのだが………。

この場にはあいつらも来ていて―――――。

 

「やっほー、勇者くーん。おっひさー」

 

と、呑気な声と一緒に手を振ってくるアセム。

アセムは少年の姿で、いつもの白いパーカーを羽織ったまま、テーブルに並べられた料理を摘まんでいた。

 

こいつ、普段通りの格好じゃないか。

こいつだけだぞ、正装じゃないやつ。

俺だってキチンとしたタキシードを着てるっていうのに(グレモリー家のメイドさんに着せてもらった)。

 

俺は半目で言う。

 

「おまえ、よく平然としてられるな? ちょっと呑気過ぎじゃね?」

 

「そう? でもでもー、今日は僕達も招待されてるしね~。敵と言っても、今日だけは互いに争わないことになってるし~。無礼講ってやつだよ」

 

「うん、無礼講の使いどころ違うよね」

 

実はアセムの言う通り、今回のパーティーにはアセムも招待されてる。

普段は敵対関係だけど、今だけは互いに争わないことになっているんだ。

その理由は後で語るとしよう。

もし、こいつらが妙なことをすれば、その場で取り押さえることになっているのだが………

 

「うーん、このお肉美味し~。あ、勇者くんも食べる?」

 

そんなことをするようには思えないよね。

だって、アセムだもの。

 

俺はやれやれとため息を吐きながら問う。

 

「いただくよ。そういや、ヴィーカ達は?」

 

「ん? あー、あの子達なら、あそこで――――」

 

アセムが骨付き肉をかじりながらとある方向へと視線を向けた。

そこには数名の者達がいて、

 

「まぁ! やっぱり、白にして正解だったわ! ベルちゃん、可愛い! 最高よ!」

 

「おぉ! これぞ至高! やはり、ヴィーカの判断は間違っていなかった! 流石です!」

 

「うぉぉぉぉぉぉ! 可愛いぞ、ベル! あぁ、またコレクションが増えてしまう! だが、それで良い! ベル、もう少し斜めを向いて見てくれ!」

 

 

パシャシャシャシャシャシャシャシャ………

 

 

ヴィーカ、ヴァルス、ラズルの三人がベルの撮影会してるぅぅぅぅぅ!

純白のドレスを着たベルをいろんな角度で撮影しているぅぅぅぅぅ!

 

分かってた!

分かってたよ!

やっぱり、おまえ達は俺と同類だよ!

というか、ドレスアップしたベルはマジで可愛いじゃないか!

愛でるのも納得だよ!

 

だが、俺も負けてられねぇ!

俺だってぇぇぇぇぇぇぇ!

 

「美羽ぅぅぅぅぅ!」

 

俺は隣にいた美羽にカメラを向けて、高速でシャッターを押していく。

淡い水色のドレス。

髪をアップにして、花の髪飾りを着けた美羽。

これは偉大な我が母、兵藤咲がデザインしたもの。

流石だ、流石すぎる。

ドレスを着た美羽は綺麗で、可愛くて………!

俺は………俺はぁぁぁぁぁぁ!

 

「ガハッ!」

 

吐血した。

それはもう盛大に。

 

タキシード姿の木場が言う。

 

「いつでもブレないね、イッセー君は!」

 

「お、おう………もうね、最高過ぎて………」

 

「あはは………まぁ、お兄ちゃんにそう言ってもらえるのは嬉しいかな」

 

苦笑しながらも、少し頬を赤くする美羽。

んもう、そんなところも良いんだよな!

 

そんな俺達のところに近づいてくる一つの影。

そちらを見ると―――――。

 

「私も………着たよ? 似合うかな、にぃに、ねぇね」

 

指先をモジモジさせながら、恥ずかしそうにするディルちゃん!

こちらはディルちゃんのイメージカラーである紫を基調にしたドレスを着ている。

無愛想だった彼女も今となっては可愛らしい表情を見せてくれていて―――――

 

「「カハッ!」」

 

吐血した。

今度は俺と美羽の二人で。

 

「イッセー君!? というか、今度は美羽さんもなのかい!?」

 

「うん………ゴメンね、木場君………。でもね、ディルちゃんが可愛くて、可愛くて………! もう、感動だよ!」

 

「どうして、シスコンまで似てしまうのかな、この義兄妹は!?」

 

「「いやぁ、照れるよ」」

 

「誉めてないよ!?」

 

木場、今日も良いツッコミだな。

流石はグレモリー眷属のツッコミエース。

これからもその調子で頼んだぞ。

 

「アッハッハッハッハッ! いやぁ、いつ見ても君達は飽きないねぇ」

 

腹を抱えて爆笑するアセム。

こいつには言われたくないが………まぁ、今回はスルーしておこうか。

 

「全く、君の回りはいつも賑やかだな。なぁ、兵藤一誠?」

 

「曹操か………」

 

そういや、こいつも呼ばれてたか。

英雄派の首魁様も今日はタキシードでビシッと決めている。

流石に聖槍は持っていないが、佇まいに隙がないのは相変わらずだ。

 

「楽しんでいるか?」

 

俺が問いかけると曹操は肩を竦めて苦笑する。

 

「俺自身、この手の行事に参加する機会が無かったのでね。何とも言えないというのが本音だが………まぁ、楽しんではいると思う」

 

「そっか」

 

短く返した俺は近くのテーブルにあったグラスを手に取り、口を着けた。

 

「敵対している者と同じパーティーに参加するなんて、こんな機会でもないとないのでしょうね」

 

「そうですね。まともに考えると頭が痛くなりそうなので止めておきます。今だけは余計なことは考えず、楽しみましょう」

 

そう言ってくるのはリアスとソーナの幼馴染みコンビ。

彼女達に続き、他のオカ研メンバーと生徒会メンバーも集まってくる。

うんうん、女性陣は皆、美少女なもんでドレスを着ると華やかさが増すよね。

 

すると、我ら赤龍帝眷属の『女王』であるアリスが聞いてきた。

 

「ねぇ、イッセー。ここに来てからそれなりに経つけど、アレ(・・)の発表はいつ始まるのよ?」

 

「ん? 関係者全員が集まったら始まるらしいけど………」

 

この会場に到着してから三十分ほどが経つ。

まぁ、俺達が早めに到着したというのもあるんだが………。

 

不意に会場の明かりが消え、辺りが真っ暗になった。

そして、正面にあるステージにスポットが当たる。

そこにいたのは―――――。

 

「我が名はイグニス! エロの道を極めし女神!」

 

「やめんかい! いきなり、何を言ってんだ、この駄女神!」

 

「だって、司会だし~。ほら、掴みは大切じゃない? ほら、そこのあなた。縛ってあげるから前に出なさい」

 

「掴んでねーよ! 皆、引いちゃってるよ! つーか、突然SM振るのやめてあげてよ! どう反応して良いか分からねーよ!」

 

「そう? さっき、ガブリエルちゃんをいきなり襲って………コホン、ハントしてベッドの上に連れ込んできたけど、問題無かったわよ?」

 

「問題だらけじゃねーか! あと、全然言い直せてないよ!? 熾天使をハントとか何やらかしてくれてんの!? 怒られるのは俺なんだぞ!?」

 

「気にしない気にしない」

 

「気にするわ!」

 

「もう、あまり時間もないんだからね? それ以上ツッコミ入れるなら縛っちゃうわよ? ドライグを」

 

『ヤメロォォォォォォォォォ! 助けてくれ、相棒ォォォォォォォォォ!』

 

また、ドライグが人質にとられた!?

強制的にツッコミを終了させれただと!?

 

イグニスは気を取り直すと、会場を見渡して言う。

 

「さて、いきなりだけど、今日のメインイベントを始めましょう! ――――――『異世界帰りの赤龍帝 人気投票結果発表』ぅぅぅぅぅ!」

 

イグニスがそう言うとドンドンパフパフという音楽と共に巨大なスクリーンが現れる。

 

そう、今日のパーティーでは俺達の人気投票の結果が発表されるのだ!

敵であるアセム達が平然と参加しているのはそのためだ。

 

イグニスが言う。

 

「これは九月に行われたこの作品の人気投票アンケートを集計したものよ。なぜ、九月に締め切ったはずの結果を今頃になって発表するのかというと、思い付きでアンケートを取ってみたものの、作者がアンケートの存在を忘れてしまったからなの」

 

「うぉい!? 違うよ!? 違うからね!?」

 

やめてあげてよ!

作者だって色々忙しいんだよ!

飲みに行ったり、プラモデル作ったり、飲みに行ったり………あれ、遊んでばっかりじゃね?

い、いや、作者も真面目な時は真面目にやってるんだ。

卒論もあるし、就活もあるし………。

 

まぁ、作者のことはとにかくだ。

少し遅くなったとはいえ、大晦日という一年の締め括りの日に結果を発表できるということで良しとしようじゃないか。

 

イグニスがスクリーンを指差しながら高らかに言う。

 

「それでは見ていきましょう! 結果は順位と投票数をまとめて公開するわ! それでは、結果オープン!」

 

スクリーンにカウントが映し出される。

3、2、1と進み――――――ついに結果が公開された。

 

 

 

 

 

1位:12票  

兵藤美羽 

 

 

2位: 5票  

兵藤一誠 ミルたん

 

 

3位: 3票  

アセム アリス・オーディリア 坂田先生

 

 

4位: 2票  

木場祐斗 ディルムッド レイナーレ ベル ラズル ヴァルス

 

 

5位: 1票 

リアス・グレモリー アーシア・アルジェント ドライグ アルビオン 曹操 ライト・オーヴィル ヴィーカ イグニス モーリス・ノア 黒歌

 

 

 

 

 

とりあえず、ツッコミ入れて良いかな?

 

「俺とミルたんが同数かよぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

マジでか!

四百話以上も出てきた主人公の俺と数話しか出ていないミルたんが同数だと!?

 

「やったにょ! ミルたん、悪魔さんと一緒だにょ! これも魔法少女の力だにょ!」

 

会場の前の方で極太の腕を振り上げて歓喜するミルたん!

その声量で会場が大きく震えた!

つーか、魔法少女関係ないし!

あんた、魔法少女じゃないし!

物理戦士(まほうしょうじょ)の間違いだろ!?

 

 

くっ、これもミルたん故の結果か!

流石だぜ、ミルたん!

もう、ここは素直に称賛するしかないらしい!

 

アリスは自身の順位に嬉しそうにしていて、

 

「これはこれで良い感じなのかな? ラスボスと同じ順位というのは複雑だけど」

 

「アッハッハッ。まぁ、僕って可愛いし~」

 

「あんた、それ自分で言う!?」

 

というか、しれっと坂田先生もアリスと同じ順位なんだが………。

 

「うまっ! おい、志村! この肉、タッパに詰めとけ!」

 

会場の端で爆食いしてる坂田先生。

タッパに入れとけって………持って帰るつもりなのか!?

 

四位の木場が言う。

 

「うん、とても光栄だね。これからも精進していきたいところだよ」

 

無難な感想を述べるイケメン王子。

レイナもそれに続く。

 

「他の皆を差し置いてってところはあるけど、とても嬉しいわ」

 

我が妹の一人、ディルちゃんも、

 

「うん、私も………嬉しい」

 

うーむ、照れてるディルちゃんが―――――か わ ゆ い。

 

「ほぅ、俺達も四位か。敵側だってのにな?」

 

「光栄なことではないですか。ここは結果を受け止め、喜んでおきましょう」

 

「………うん。ベル………やった」

 

ラズル、ヴァルス、ベルもそれぞれ感想を述べていく。

ベルは相変わらず眠そうな顔をしているが、少し声が弾んでいるような気がするよ。

 

しかし、彼らの結果に異を唱える者がいた。

ヴィーカが頬に手を当てながら言う。

 

「私だけ五位なんだけど? 私だけ除け者?」

 

そう、アセムの下僕の中でヴィーカだけ五位だったのだ。

ヴァルスが言う。

 

「それはあなたがアリス殿に向かって、『貧乳』、『ペチャパイ』、『揺れない』など面白半分で言うからでは?」

 

「そんなに言ったかしら?」

 

「確かに彼女は貧乳なのかもしれない。ですが、身体的特徴を悪く言うのは失礼と言うものです。いくら、貧乳だからといって―――――」

 

「貧乳貧乳うるさぁぁぁぁぁぁい! 大きくなってるもん! これでも成長してるもん!」

 

あ、アリスさんが泣いた。

うん、それ以上、そのワードを言わないであげてね?

 

すると、俺の心の声が伝わったのかヴァルスは苦笑しながら口にチャックをしてくれた。

 

五位のメンバーはそれぞれ一票だが、数多くいる人物の中で選ばれたのは凄いことだと思う。

それでもだ、そんな中で一つも二つも飛び抜けている我が妹は素晴らしいとしか言いようがない。

 

美羽が少し困惑したように言う。

 

「え、えっと………本当に? ボクが一位で良いの、かな………?」

 

美羽は改めてスクリーンに映し出された結果を見る。

二位の俺とミルたんが五票なのに対して一位の美羽は十二票。

今回の結果の中では圧倒的とも言えた。

 

司会のイグニスが微笑む。

 

「ウフフ♪ 良いも悪いも、皆が美羽ちゃん押しなんだからしょうがないでしょう? 流石はメインヒロイン、イッセーの童貞を食べただけはあるわね♡」

 

「そういう問題なの!?」

 

あの駄女神、そういうのを公の場で言わないでくれる!?

美羽も俺も顔真っ赤だわ!

 

ま、まぁ、美羽が一位なのは俺も嬉しい!

というか、一位は美羽しかいないだろ!

と言うわけで――――――。

 

「美羽! 一位記念だ! 写真撮るぞぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

俺はゴツい一眼レフを取り出すと、レンズに美羽を捉え、シャッターを切っていく!

 

 

パシャシャシャシャシャシャシャシャシャ………

 

 

あらゆる角度、あらゆる表情を撮影する!

これが兄としての使命!

 

「メモリーはまだまだ余裕がある。だからさ――――――乱れ撮るぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

カメラフルスロットル。

トランザムお兄ちゃん降臨。

通常の三倍のスピードで新たな思い出を刻んでいく!

 

『シスコン………』

 

シスコンでなにが悪い!

五位のおまえには分からんのだよ、ドライグ!

 

『そこに五位は関係ないだろう!?』

 

「ない!」

 

こうして俺は美羽を撮りまくるのだが―――――

 

 

 

 

「それにしても、この結果ってあれだよね。シリアスブレイカー的存在がほとんどだよね」

 

 

 

………ん?

 

 

 

アセムの言葉に会場にいる全員が改めてスクリーンに視線を戻した。

 

そう言われたら、確かにそんな気がする。

ランクインしているメンバーって、殆どが何かしらの形でシリアスを破壊している人達のような………。

 

ちょっと待て。

このランキング、上に行くほどシリアスブレイカーになっているような気が………。

 

俺の思考がそこへ至った時、他の人達もハッとなったのか、一斉に美羽へと視線を移す。

 

「え………? え、えぇぇぇぇぇぇぇ!? 違うよね!? これ、そういうランキングじゃないよね!?」

 

皆の視線を受けて慌てる美羽。

 

でも、とリアスが言う。

 

「美羽って、何だかんだでしれっとシリアス壊してるような………」

 

「それに、イッセー限定とはいえ、すっごくエッチだし………」

 

アリスもそう続く。

二人の発言に他の皆も「あー」とどこか納得したような表情を浮かべていた。

うん、記憶を探れば、思い当たる点が多々………。

 

「それじゃあ、美羽ちゃんが最強のエッチなシリアスブレイカーということで決定~♪」

 

楽しげに言うイグニスに美羽が泣いた。

 

 

 

 

それから暫くして。

 

「盛り上がっているところ悪いけれど、そろそろお時間なので、お開きにようと思いまーす」

 

ステージに立ったイグニスがパーティーの終了を告げてきた。

 

今回は人気投票の結果発表がメインだったけど、その後は飲んで食べて話しての、ほとんど忘年会みたいな感じになっていた。

イグニスから最強のエッチなシリアスブレイカーという不名誉な二つ名を与えられた美羽は少し涙目だったが、いっぱい甘えさせたおかげで、今は普段通りに戻ってる。

 

イグニスが言う。

 

「本編では四百話に到達し、そろそろ完結という雰囲気だけど、話はまだまだ続くわ! シリアスも壊しちゃう☆」

 

「なに、堂々と宣言してるの!? 壊さないよ!?」

 

この駄女神め!

本当にどこでもシリアルを貫くのな!

 

イグニスが微笑みながら続ける。

 

「まぁ、本編のことはおいておきましょう。今日は大晦日。最後は皆で締めましょう。さぁ、全員、ステージに上がりなさいな」

 

イグニスの指示のもと、全員がステージに上がる。

それを確認するとイグニスは俺にウインクして、

 

「それじゃあ、イッセー! 締めの言葉は任せるわ♪」

 

ここで俺かよ!

まぁ、主人公だからしょうがないんだけども!

何も用意してないよ!?

 

俺は一度咳払いする。

 

「えー、ここまで応援してくださった読者の方々、本当にありがとうございます。『異世界帰りの赤龍帝』ももう少しで完結となりますが、最後まで全力で走り抜きたいと思います! それでは―――――」

 

 

「「「2018年、お疲れさまでした! 来年もよろしくお願いします!」」」

 

 



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煩悩を抑え込め! 

本編は終わりましたが、特別編は続きます!

今回は最終決戦が終わった後のお話です~。


アセムとの戦いから時は過ぎ、もう三月に入る。

 

世界の命運をかけた命懸けの戦い。

………本当に激戦だった。

黙示録の怪物トライヘキサ、邪龍筆頭格であるアポプスとアジ・ダハーカ。

そして異世界アスト・アーデの神アセム。

神々をも遥かに超える強者達との戦いは、過去にない程の規模で行われ、文字通り全世界を巻き込んでの戦いになった。

その圧倒的過ぎる戦力に各神話の神仏に神滅具所有者達、その他の神にも匹敵する強者達が手を取り合い、ようやく戦えることが出来た。

俺もその一人だ。

 

俺は………あの戦いで多くの人からの想いを受け取った。

俺は赤龍帝であり、変革者。

人々の想いを受け止め、力へ変える世界の『器』。

最終的に俺は全世界、全ての人々の想いを繋ぎ、アセムを倒すことが出来た。

そんな無茶をやったせいで、消滅しかけたが、仲間達のおかげで今は無事にいる。

 

戦いは終わり、世界は平穏を取り戻しつつあるが………俺は託されてしまった。

魔王アセムに世界の未来を。

今後、訪れるであろう絶望から二つの世界を守ってほしいと。

 

俺は奴との約束に誓い、何がなんでも守らなきゃいけない。

それが託された者として、成すべきことだと思うからな。

もちろん、不安だってある。

でも、俺は仲間達と一緒ならどこへだっていける、どんな絶望だって乗り越えられると信じてる。

俺は行くよ、皆と一緒に未来へ―――――。

 

 

 

「そうですね。とりあえず、未来に行くためにも期末テストの追試はクリアしてもらわないといけませんね」

 

坦々とした口調で言ってくるロセ。

 

今の状況を軽く説明しよう。

俺は兵藤家の一室―――――ロセの部屋にて、絶賛、期末テストの勉強中です。

なぜかって?

そんなこと決まってるじゃないか。

 

あの戦いの後、俺が気を失っている間に期末テストが終わったからだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

俺は机に突っ伏してシャウトする!

 

「んもぅ! なんでこうなったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

世界の危機を乗り越えたのに、今度は留年の危機とか勘弁してくれよ!

なんなんだよ、ちくしょう!

嫌がらせか!?

精神攻撃か!?

全科目の追試とか一種の拷問だぞ!?

正直、過去のどの戦いよりも危機的状況なんですけど!?

 

良いじゃん、追試とかしなくても!

そこは流してくれよ!

何事もなく、進級させてくれよ!

 

ロセが言う。

 

「気持ちは分からなくもないですが、こればかりは仕方ありませんね。うちの学園は進学校ですし。それに高校二年生の学年末の成績はとても重要ですよ? 大学部へ進学するつもりなら尚更です」

 

「わかってる! わかってるよ! でもね! 俺としてはどこか納得いかないんだよ! 頭では理解しても心が理解しきれないんだよ! せめて、美羽達の解答を見るのはダメですか!?」

 

そう、美羽達は期末テストを受け、既に返却されている。

流石に一人のために問題を作り直すのが面倒なのか、追試の内容は同じものが出るらしい。

それならば、美羽達のテストを見させてもらい、それを頭に叩き込めば追試はなんとかなるだろう。

だが、それでは公平性に欠けるとかで、俺は他のクラスメイトの答案を借りることを禁止されている。

その見張り役がロセだ。

 

「ダメです」

 

俺の必死の懇願をロセはバッサリ切り捨てる。

 

「本当に………?」

 

「ダメです」

 

「マジで………?」

 

「ダメです」

 

「そこをなんとか!」

 

「ダメです」

 

「ほんの少し! 先っちょだけ!」

 

「どこの先っちょですか!? ダメです!」

 

「うわぁぁぁぁん! ロセが苛めるぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

「苛めてませんよ!? 人聞きの悪いこと言わないでください!」

 

「だって、目が覚めてからまだ三日だよ!? それなのに、追試が明後日とか普通に無理ゲーだろ!? 数学に現国、地理にえーっと………」

 

「仕方がないじゃないですか。そうしないと、成績つけるの間に合わないんですから。これでも、他の先生方に無理言って、延ばしてもらった方なんですよ?」 

 

それは分かってるけどさ………。

 

やはり、神は俺を見放したというのか。

まぁ、俺は悪魔だし、聖書の神はいないんだけどさ。

 

俺はグスッと涙を流して呟く。

 

「どうしよう………やっぱり、俺、留年なのかなぁ………。ギャスパー、小猫ちゃん、レイヴェルと同じ学年になるのかなぁ………」

 

留年するということは後輩である三人と同じ学年になるということ。

もし、クラスが一緒とかだったら………いや、回りに知らない後輩ばかりというのも辛い。

しかも、その後輩達は俺のことを知っている。

同然、俺に後輩達の視線が突き刺さるわけで………。

これほど精神的にくるものはあるだろうか?

 

すると、部屋のドアが少しだけ開き、

 

「………イッセー先輩と同じクラス。それはそれでありかも」

 

「も、もちろん、イッセー様が留年してもサポートいたしますわ!」

 

「イッセー先輩と同じクラス、楽しみですぅ!」

 

小猫ちゃん、レイヴェル、ギャスパーの後輩三人組が部屋を覗きながらそんなことを言ってくる!

 

「おぃぃぃぃぃぃ! なに、俺が留年するの期待しちゃってるの!? やめてよね、マジで精神的に追い詰められるから! イッセー先輩、結構ヤバいから!」

 

俺が叫ぶと同時にドアを閉め、ぴゅーっと逃げていく三人。

 

全く、あいつら………。

先輩を舐めとるな?

いや、でも、このままだとそうなる可能性は大きいわけで………。

 

ガクリと肩を落とす俺にロセが苦笑する。

 

「まぁまぁ。そんなに悲観的にならないでください。そのために私が付きっきりで教えてるわけですし」

 

そう、実はこの追試の対策として、ロセがマンツーマンで勉強を教えてくれることになっている。

言ってしまえば、専属の家庭教師みたいなものだ。

ロセの教え方は上手くて、難しい問題も理解できるよう、噛み砕いて教えてくれている。

不明な点があれば、俺に合った教え方もしてくれるので、俺でもすんなり理解することが出来た。

 

以前、ロセは教師をすることが楽しいと言っていたけど、本当にそうなんだと改めて思える。

俺に教えている時のロセはとても真剣であり、とても楽しそうだ。

 

ロセが言う。

 

「最後までやれることはやってみましょう。無事に追試を終えないと、リアスさんと朱乃さんの卒業旅行にも参加できなくなってしまいます。イッセー君がいないとあのお二人は悲しむと思います」

 

リアスと朱乃の卒業旅行。

この三月をもって、二人は駒王学園の高等部を卒業し、大学部に入学する。

これでお別れってわけじゃない。

家では毎日顔を合わせることになるしね。

でもだ………卒業旅行は二人にとって高等部最後の思い出になる。

ロセの言う通り、俺が欠けてしまうのは二人も悲しむだろう。

最後の思い出をそんな風にはしたくない。

 

俺は顔を上げて言った。

 

「そうだよな………。ロセも付き合ってくれるんだし、やれるところまで頑張ってみるよ」

 

俺がそう言うとロセは微笑んで、

 

「はい、一緒に頑張りましょう、イッセー君」

 

 

 

 

そんな訳で追試を乗り越えるべく、勉強を再開する俺だったが………。

 

「うっ………やっぱり、左手だと書きにくいな………」

 

先の戦いで俺は右手を失った。

それは以前、イグニスを使った時のように腕の中の組織がいくつか焼失したとか、そんなレベルではなく、右腕一本丸々失われている状態だ。

アザゼル先生が義手を作ってくれるそうだが、先生も戦後処理に忙しいらしく、義手が完成するまで時間がかかるという。

で、今も左手でペンを握っているわけだが………。

 

も、文字が歪む!

片手だから定規を使って真っ直ぐな線を引けない!

前に右腕が使えなくなった時は美羽にノートをとってもらっていたし、そもそもテストもなかったからな………。

流石にテスト勉強は自分で書いて覚えないとだし………うん、辛い!

 

ロセが言う。

 

「慌てなくてもいいですよ。どれだけゆっくりでも、最後まで付き合いますから」

 

「うぅ、ロセ………」

 

ロセの優しさが身にしみる!

涙が出てくるよ!

 

ロセが隣に座る。

 

「あ、ここ間違ってますね。そこは―――――」

 

と、俺の間違いを指摘してくれるのだが………ロセのおっぱいが………!

むにゅうって!

むにゅうって押し付けられる!

しかも、良い香りがしてきて、俺の鼻腔をくすぐってくる!

 

ヤバい、ロセが近すぎて色々と元気に………。

というより、家庭教師と二人きりというシチュエーションがそもそもアウトだと思うんだよね。

 

隣でロセが髪をかき揚げる仕草なんてもう………うなじが眩しい!

あと、胸元が少し開いてて、おっぱいが見えそうになってる!

わざとなんですか!?

誘ってるんですか!?

普段、そんなに胸元強調してないじゃん!

なぜに今日に限ってその服にしたの!?

 

数学やってるけど、保健体育にチェンジしたいよ!

保健体育なら自信あるから!

満点とってみせるから!

 

「いやいやいやいや………待て、そうじゃない。落ち着け、俺………」

 

今は俺の留年をかけた追試の勉強中だ。

無事に進級するために、なんの憂いもなくリアスと朱乃の卒業旅行に参加するために俺はここを乗り越えないといけないんだ。

ロセだって、俺のために自分の時間を裂いて、朝から付きっきりで教えてくれている。

 

それを保健体育が良いだと?

家庭教師プレイがしたいだと?

ふざけるのも大概にしろよ、俺。

確かに保健体育がしたい。

でもな、今は欲望を抑え込んで、この危機を―――――。

 

「イッセー君………?」

 

怪訝な表情で顔を覗き込んでくるロセ。

ロセのぷるんとした唇が綺麗で、とても柔らかそうで―――――。

 

 

ダァンッ!

 

 

俺は欲望を抑えるべく、机に頭を叩きつけた。

 

「イッセー君!?」

 

「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ! 抑えろ、俺! 堪えるんだ、俺! 今はその時じゃないだろぉぅ!?」

 

「な、ななな何してるんですか!? なにを訳の分からないことを叫んでるんですか!? 血! 血が出てますよ!?」

 

「俺はぁ! 今は目の前の留年を回避する必要があるんだよ! じゃないと未来もくそもないんだよ! 一時の欲望で未来を台無しにするつもりかぁ!?」

 

「お、落ち着いてください! 口調も変になってます! 一度に詰め込みすぎたかしら!? え、もしかして私の教え方が悪かったですか!?」

 

「ロセは悪くない! 全部、俺が悪いんだ! 去れ、俺の煩悩! エロ思考! 今は引っ込んでいろぃ!」

 

そう叫んで何度も頭を机に叩きつけた。

真っ白なノートが俺の血で染まっていく―――――。

 

そんな俺をロセが羽交い締めにして止めてくる。

 

「す、ストップです! もう止めましょう! そ、そうですね、少し休憩を挟みましょう。イッセー君もまだ回復しきってないですし、一度に詰め込むのもあれですしね。休憩の後、おさらいをしましょうか」

 

こうして、荒ぶる俺はペンを置き、休憩を挟むことになった。

 

 

 

 

「ごめんな、こんなダメダメな奴で………」

 

「い、イッセー君………今日はやけにブルー入ってますね。これも生死をさまよった影響………?」

 

ロセがそんなことを考察してるが………違います。

ただただ、追試へのプレッシャーと自分の欲望との狭間で爆発しただけです。

アセムとの戦いで生死をさまよったことは全く関係ないです。

ま、まぁ、あの戦いで二週間も寝込むことになったから、関係ないわけではないけど………。

 

ふと隣に座るロセを見る。

家にいるというのに、いつものようにスーツを着ているのは、それだけ気合いを入れているということなのだろう。

でもね、今日は胸元が大きく開いている。

少し覗けばおっぱいが見えてしまう。

 

俺の視線に気づいたロセは頬を赤くしながら言う。

 

「………やっぱり、気になりますか?」

 

「そ、そりゃあ………ね?」

 

「そ、そうですか」

 

目を伏せ、少し黙りこんでしまうロセ。

すると、呟くように言った。

 

「こ、今回、イッセー君が頑張ったらご褒美をあげます」

 

「―――――ッ」

 

なん………だと?

 

一瞬、聞き間違いかと思った。

しかし、こちらを向いたロセの顔は赤く、瞳も潤んでいる。

 

―――――ご褒美。

 

このタイミングでその単語、あまりにベタだ。

だが、言い換えれば王道。

美人家庭教師からのご褒美、それは男子学生にとって憧れのワードでもあるだろう。

 

ロセは俺の左手を取ると―――――自身の胸に押し当てた。

 

「これで………頑張れますか?」

 

そんなことを今の俺にされると―――――。

 

俺はロセの肩を掴むと、床に押し倒した。

 

「ゴメン………そのご褒美、先に貰っても良いかな? そしたら、俺………もっと頑張れる気がする」

 

「………イッセー君、そんなの………ダメ、です」

 

そう言うロセの顔はこちらのすることを望んでいるようだった。

俺はロセに顔を近づけていき―――――。

 

「こ、これが本物の家庭教師プレイなのね………!」

 

「あらあら、ロスヴァイセさんだからこそですわね」

 

「職権乱用………!」

 

「やっぱり、ロスヴァイセさんはエッチだ」

 

「美羽ちゃんがそれ言うと………」

 

「わ、私達も負けていられません!」

 

「よく言ったアーシア。今度、三人で体育倉庫に連れ込んでみよう」

 

「ちょっと、ゼノヴィア! それしたら、私、堕天しちゃうんですけど!」

 

なんて言う声がドアの方から聞こえてきた!

 

皆の声を聞き、ガバッと体を起こしたロセが叫んだ。

 

「も、ももももももうちょっとだったのにぃぃぃぃぃぃ!」

 

 

 

 

この後、俺は普通に勉強することになり、追試もなんとかクリア。

留年の危機は脱することが出来た。

そう、俺は頑張ったのだ。

 

なので―――――。

 

「ご褒美………欲しいですか?」

 

追試が終わった生徒指導室で、ロセはそう訊ねてきたのだった。



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グレモリーの卒業式

今回も最終決戦後の後日談です。
暫くは本編の後日談が続くと思います。


三月―――――。

学生にとっては色々と節目となる季節だ。

特に最高学年の学生には。

 

「いつもより早いんだな」

 

早朝、目が覚めた俺は彼女にそう声をかけた。

彼女―――――リアスは俺よりも早く起きていて、既に制服に袖を通している。

 

ちなみにだが、昨日はリアスと朱乃の二人と一緒に寝ることになった。

その理由はというとだ………。

 

リアスは微笑んで言う。

 

「ええ。今日が最後だもの」

 

今日この日、駒王学園で卒業式が執り行われる。

リアスと朱乃は高等部を卒業し、大学部へと旅立つんだ。

リアスが高校生活でこの制服を着るのも最後になる。

 

「朱乃は?」

 

「もう着替えているわ。彼女も、ね?」

 

ウインクするリアス。

 

そっか、朱乃の方も準備できているのか。

二人とも、あの学園には思い入れが強い。

だからこそ………最後だからこそ二人は―――――。

 

そんなことを思っていると、

 

「イッセーも来る?」

 

と、リアスが誘ってきた。

 

「良いの?」

 

「こうして制服を着るのも、あなたと登校するのも最後になるもの。私はあなたに側にいてほしいの。………ダメ?」

 

まるで、何かをねだるような、そんな甘えた声音で言ってくるリアス!

なんというか、その………美羽に抱くような感情が………!

 

サーゼクスさん!

やっぱり、あなたの妹さんは最高に可愛いです!

これはデレデレしちゃいますよね!

シスコンにもなりますよね!

俺があなたの立場だったら、間違いなくリアス―――――リーアたんを愛でる!

 

おっと、いかんいかん。

ここはシスコンを発揮するところじゃない。

 

「じゃあ、一緒に行こうか。リアス」

 

「ええ、ありがとう。イッセー」

 

 

 

 

手早く制服に着替えた俺はリアスと朱乃の三人で玄関を出る。

早朝のせいか、人通りは少ない。

いるのは朝が早い社会人か朝練がある学生くらいだ。

今のところ駒王学園の生徒は見かけない。

 

「ちょっと、朱乃。今は私の時間のはずでしょう?」

 

「いいえ、リアス。もうそろそろ交代してほしいですわ。私だって、イッセー君と腕を組んで歩きたいの」

 

などと言いながら、俺の左腕を取り合うリアスと朱乃。

 

右腕があれば、二人が左右の腕に絡んでくるのだが………。

大体のパターンで言えば、朱乃が俺の腕に絡まり、リアスが対抗して逆側の腕に絡まるというものだった。

それが、右腕を失ったことで完全な取り合いになってしまい………。

 

一応、二人はそれぞれの時間を決めていたらしく、リアスが俺の腕から離れ、今度は朱乃が腕を絡めてくる。

 

「うふふ、イッセー君と一緒に登校ですわ♪」

 

本当に嬉しそうに言う朱乃。

俺とくっついていると、いつもの大人びた表情から素の少女へと戻っていく。

リアスの方はというと、俺の制服の裾を掴んで後ろからついて来るという、なんとも可愛らしい仕草を………というか、プクッて頬を膨らませてる!

二人とも俺といる時には、こういう表情を見せてくれるんだよね。

それが嬉しかったりするんだけど。

 

しかし、こうして歩いていると、こういう風に二人と登校することが無くなってしまうんだなと思ってしまう。

もう少しで、この光景が見られなくなる………そう思うと寂しい気持ちも出てくるもんだ。

 

まだ誰も来ていない駒王学園………と思われたが、校門で見知った二人が清掃をしていた。

 

「あら、リアス、朱乃、イッセーくん。ごきげんよう」

 

そう挨拶をくれたのはソーナ。

なんと、ソーナと真羅元副会長が校門の前を箒で掃いていた。

まさか、リアスや朱乃よりも早く登校している人がいるとは………。

 

ソーナが言う。

 

「どうにも目覚めが早かったものですから。家でやることもないですし、ちょっと早めに来て掃除をしようと思ったのです。そうしたら椿姫も来ていて………」

 

「はい、私も今日に限って早く起きてしまって………」

 

卒業生四人とも朝早く起きてしまったことか。

それを知ると、リアス、朱乃、ソーナ、真羅元副会長がおかしそうに噴き出していた。

 

 

 

 

ソーナ達と別れた俺達三人が向かったのは旧校舎―――――オカ研の部室だった。

 

部室の中はいつもと変わらない。

部長、副部長が代わり、リアス達はあまり顔を出さなくなったが、この部屋は二人がいた頃と同じように使っている。

今の部長はアーシアだ。

でも、ここはリアス達が作り出した部室なのだから。

 

「お茶、淹れますわね」

 

朱乃がいつものようにお湯を沸かし始める。

そして、リアスは部長の椅子に座った。

 

この光景も久しく見ていないな………。

こうして見ていると、やはりリアスの方が様になっている。

アーシアもまだまだ部長としては足りないってことかな?

でも、いつかアーシアがその席に合う部長になる日も来るのだろう。

 

リアスは少しの間、目を閉じると、懐かしそうに話始めた。

 

「………祐斗達が来るまでは二人きりだったわね、朱乃」

 

「ええ、学園に掛け合って、どうにか部としての体を守ってもらいましたが………どう考えても部員が足りませんでしたわ」

 

クスクスとおかしそうに笑う朱乃。

 

オカルト研究部。

ここはリアスと朱乃が二人で立ち上げた部だ。

確かに部としては部員が圧倒的に足りていないな。

でも、自分の達の正体を鑑みれば、やたらに部員を募集するわけにもいかない。

 

リアスが言う。

 

「私達が二年生になって、新入部員が入ってきた。それが祐斗。あの子、下級生ってことで必要以上に私達に気をつかってくれていたわ」

 

「誰よりも先に来て、部室の掃除をしてくれましたわね。三人しか使っていなかったのに、旧校舎全体を綺麗にしてくれましたわ。きっと、祐斗君は私達に旧校舎を気持ちよく使ってもらいたいがために一生懸命だったんでしょうね」

 

木場ならそうするんだろうな。

あいつは誰よりも真面目で、誰よりもリアスと朱乃のことを………って、こいつは俺の口からは言わない方が良いな。

なぁ、木場?

 

「三年生になったら、小猫とギャスパーが新入部員として入ってきた。その後にイッセー、あなたが来た」

 

リアスと俺の目が合うと、俺達は互いに微笑みあった。

 

「イッセーが来て、美羽が来て。アーシア、ゼノヴィア、レイナ、イリナ、アリスさん、レイヴェル。顧問の先生にはアザゼルとロスヴァイセまで。一気に増えちゃったわね」

 

「うふふ、これでもう人数が足りなくて部としてどうなんだ、とは言われませんわね」

 

そういや、そんな話を聞いたことが………。

でも、確かに俺が入部してから、ここも部員が増えていった。

 

リアスと朱乃はこの部室が誕生してから今に至るまでの全てを知っている。

だから、余計に寂しくなるのだろう。

今も二人は愛しそうに、寂しそうに部室のあらゆるところに目を配らせていた。

俺は二人に声はかけず、ただ二人を見守っていた―――――。

 

「フフフ、悪魔の仕事でまだここを使うし、明日も来るのにね。でも………学生としてここに放課後、顔を出せないことが、たまらなく寂しく感じるわ」

 

「三年間、短いように思えましたわね、リアス」

 

「悪魔の生からしたら、三年なんて一瞬だもの。でも―――――」

 

「「楽しかった」」

 

二人は、同じ感想をそう漏らした。

 

この後、美羽達も来て、リアスと朱乃を含めた最後の部活動をすることに。

部活動といっても、普段のようにお茶しながら話すだけだったが、それでも二人は―――――最高の笑顔を見せてくれていた。

 

 

 

 

卒業式が始まる。

在校生、保護者の盛大な拍手のもと、卒業生が体育館に入場する。

保護者の席では紅色の髪の紳士―――――リアスのお父さんであるジオティクスさんがデジカメ片手に撮影していた!

その隣には相変わらずリアスのお姉さんにしかみえない、ヴェネラナさんの姿が!

 

更にその隣には紅髪のお兄さん―――――サーゼクスさんが号泣しながら、こちらもカメラを回していた!

もう始まる前から泣いてたよね!

でも、その気持ちは分かる!

同じ兄だもの!

サーゼクスさんの隣にはグレイフィアさんとミリキャスもいて、一家総出でリアスの卒業式に参加しているようだった。

号泣するサーゼクスさんにグレイフィアさんは深く息を吐いていた。

ちなみに従兄弟としてサイラオーグさんも保護者席にいたりする。

 

他の場所へと視線を移すとバラキエルさんが鼻水を垂らしながら号泣していた!

当然ながら、こちらもデジカメで撮影している!

朱乃が体育館に入った瞬間から滝のような涙を流しててだな………それを見た朱乃は顔を赤くしていた。

教員席に座るアザゼル先生もバラキエルさんの親バカに苦笑を浮かべるしかないようだ。

 

そうして式は始まり、国家斉唱、校歌斉唱と続き、卒業証書授与が終わった。

在校生送辞として、生徒会長に就任したゼノヴィアが壇上に上がり、送辞を読んでいった。

 

『卒業生答辞。代表、支取蒼那さん』

 

「はい」

 

卒業式答辞として、ソーナが呼ばれ壇上に上がる。

ソーナが立ったところで、保護者席では――――――。

 

「ソ、ソーナちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

はい、もちろんいますとも。

妹大好きお姉さん、セラフォルーさんもね!

静かな式だけあって、今の叫びも悪魔だからこそ聞き取れる程、小さな声だったが………うん、大号泣してる。

 

実は式が始まる直前、俺はサーゼクスさん達保護者の方々と話していて―――――。

 

 

 

 

それは式が始まる前。

教室からの移動で体育館に行く途中のことだった。

 

「やぁ、イッセー君」

 

ふいに声をかけられ、振り向くと―――――なんと、サーゼクスさんが立っていた!

しかも、その場にはグレイフィアさんやセラフォルーさんもいる!

 

な、なんだなんだ?

ああして、集まってるということは俺に用があるってことなんだろうけど………四大魔王のうち、二人もいるってことは何か大事があったのか?

流石に今の俺じゃ力になれそうにないんだけど………。

そんなことを考えつつ、俺はサーゼクスさんのいる場所へと駆け寄る。

 

サーゼクスさんが言う。

 

「あの戦い以降、話す機会がなくてね。心配していたんだが、元気そうでなによりだよ」

 

「ありがとうございます。まぁ、今はこんな感じで万全とは言えないですけど、元気にやってます」

 

苦笑して言う俺。

 

実は右腕を失った以外にも、俺の体は色々なところでガタが来ている。

まず、戦える力がかなり失われた。

それも禁手を長く維持できない程に。

あの戦いで消滅の危機に瀕した俺は、今もギリギリのところでその存在を保てている状態だ。

体力、生命力共に万全には程遠く、変革者の力を使えば肉体、特に精神がもたずに死ぬだろう。

禁手だって、長時間使おうとすれば、数日寝込むくらいはするだろう。

あの戦いの後遺症で、一時は龍神クラスをも超えた俺の力は大幅に弱体化したことになる。

 

今は仙術や冥界、各勢力の医療技術による治療で少しずつ回復しているが、今の技術では全快するのに何十年、下手すれば百年かかるかもしれないと言われている。

この事は俺の周りでも認識されていることだ。

 

俺の言葉を聞いたサーゼクスさんは申し訳なさそうに言った。

 

「すまない、イッセー君。我々がもっと動けていれば、君は………」

 

謝罪の言葉を述べようとするサーゼクスさんに、俺は手でそれを遮った。

 

「気にしないで下さい、サーゼクスさん。これに関しては仕方がないです。それに………今の結果に後悔はないんです。誰一人欠けずに戻ってこられた。俺自身も皆も、こうして日常にいる。それだけで今は満足しています」

 

本来であれば、俺は消えて、この場にはいなかった。

それを繋いでくれたのが皆だ。

サーゼクスさんやグレイフィアさん、セラフォルーさんだって、俺に生命力を分けてくれた。

 

俺はサーゼクスさん達を見渡して言う。

 

「俺が今、こうして生きているのもサーゼクスさん達のお陰でもあります。本当にありがとうございました」

 

頭を下げる俺。

すると―――――サーゼクスさん達も揃って、頭を下げてきた。

セラフォルーさんが言う。

 

「お礼を言うのは私達の方よ、赤龍帝君………いいえ、イッセー君。本来なら、私達もこの場にはいないわ。今頃、私とサーゼクスちゃんは隔離結界の中でトライヘキサと戦っているはずだったもの」

 

「世界のためとはいえ、私達の行動により悲しむ者もいただろう。それに、私達も愛する者と長きに渡り離れることになっていた。どんな強者でもそれは辛いことだ。しかし、君がそうなるはずの我々を救ってくれたのだ」

 

サーゼクスさんの言葉にグレイフィアさんが頷いた。

 

「イッセーさん。あなたのお陰で、私もミリキャスもサーゼクスと離れずにすみました。あなたがいなければ、私達は今頃………。だから、今は一人の人間として言わせてください。本当にありがとうございました」

 

そう言って、再び頭を深く下げるグレイフィアさん。

 

………もし、あのまま隔離結界が発動して、トライヘキサと共に結界の中へ入ってしまっていたら。

サーゼクスさんもセラフォルーさんも妹の卒業式に顔を出すことは出来なかっただろう。

グレイフィアさんは夫であるサーゼクスさんと離れ離れになっていただろう。

 

それを想うと、俺はイグニス―――――エクセリアの力を使って良かったのだと改めて思うことができる。

俺の選択は、俺の出した答えは間違っていなかった。

 

今、こうして三人の言葉を聞いただけで、胸がいっぱいになる。

だが―――――。

 

俺は込み上げてきたものを抑え込み、サーゼクスさん達に言った。

 

「サーゼクスさん、セラフォルーさん。これで終わりじゃありません。俺達にはまだ未来があります」

 

戦いは終わった。

でも、それで終わりじゃないんだ。

まだ先、これから先の未来がある。

俺達がやるべきことは多い。

 

サーゼクスさんが言う。

 

「分かっているよ、イッセー君。今後は各勢力とより良好で密な関係を築けるよう動いていくつもりだ。もちろん、まだまだ懸念されることは多い。だが、必ず成し遂げてみせよう」

 

「私達は魔王だもの。それくらいはやってみせないとね☆」

 

 

 

 

式を終えた三年生。

笑い合う者、泣き合う者、抱き合う者、一緒に写真を撮る者と色々だ。

その中でリアスと朱乃が卒業証書の入った丸筒を持って、校門を潜っていく。

彼女達を待つのは俺達オカ研メンバーだ。

彼女達と合流した俺達は他の生徒達の目が触れないところまで移動する。

 

さーて………本題はここからだ。

実は少し前に木場達から相談を受けていた。

俺は三人の背中を押し、リアスの前に向かわせる。

 

「木場、小猫ちゃん、ギャスパー。この三人からリアスに伝えたいことがあるそうだ。な、三人とも?」

 

「伝えたいこと?」

 

頭に疑問符を浮かべるリアス。

木場、小猫ちゃん、ギャスパーはリアスの前に立つが、緊張の面持ちになっていた。

俺は三人の頭を軽くポンポンと撫でた後、後ろに下がり様子を見守ることにする。

 

「え、えと………あ、あの………卒業おめでとうございます」

 

「おめでとうございます」

 

「おめでとうございます!」

 

木場がここまで赤面して、声を上ずらせているのは珍しい。

まぁ、理由を聞けば同然なんだが………。

 

聞きたいこと、伝えたいことってのは、タイミングってものがある。

多分、三人にとって、今この時こそが最大のチャンスになるはずだ。

 

「ええ、ありがとう。祐斗、小猫、ギャスパー」

 

ニッコリと微笑むリアス。

木場はもじもじしながらも言葉を続けていく。

 

「そ、それで………卒業されて………もう駒王学園高等部の、オカ研の部長も引退されましたし………」

 

うん、木場よ。

ガッチガチじゃないか。

 

珍しい木場達の姿にリアスはおかしそうに笑った。

 

「もう、どうしたの? いつものあなた達らしくないわ。何を言いたいか、ハッキリ口にしないと―――――」

 

そう言いかけるリアスの言葉を遮るように木場達がそれを口にしていく。

 

 

 

「―――――リアス姉さん」

 

「リ、リアス姉さま」

 

「リ、リ、リアス、お姉、お姉ちゃん!」

 

 

 

リアス『部長』でもリアス『先輩』とも違う呼び方。

とうのリアスはそう呼ばれた瞬間、驚き、そのまま固まってしまっていた。

全く予想していなかったのだろう。

 

木場が言う。

 

「部長とお呼びするより、そちらの方が合っていると思いまして………」

 

そう、これが受けた相談の内容だった。

リアスと朱乃の卒業が間近に迫り、木場達からリアスの呼び方について相談を受けたのだ。

木場達から相談を受けた俺は三人にこう伝えた。

 

―――――伝えたいことがあるなら、声にして伝えた方が良い。それがおまえ達が心の底からそうしたいことなら、なおさらだ。

 

他の皆も同様に「絶対にやれ!」と背中を押した。

その結果、三人は勇気を持ってリアスに伝えたんだ。

 

リアスは―――――。

 

「………」

 

無言で涙を溢れさせて、顔を両手で覆ってしまった。

突然の変わりように木場達は慌てる。

 

「あ、あの、変でしたか!? 失礼でしたか!?」

 

「す、すいません!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

謝る三人だったが、リアスは首を横に振った。

リアスは涙を指で拭うが、それでも止まらない。

 

「そうではないの………。嬉しくて………。全く、あな達ったら反則よ。こんなに感動することを言われるなんて思ってもみなかったわ」

 

リアスはずっと呼ばれたかったはずなんだ。

リアスは眷属を家族のように思っていた。

木場達を弟、妹のように見ていたんだから。

 

リアスは一端、落ち着いた後、イタズラな笑みで木場達に言った。

 

「もう一度呼びなさい」

 

「「「え?」」」

 

突然の言葉に呆気に取られる三人。

リアスは耳を木場達に傾けて、もう一度言う。

 

「あら? もう呼んでくれないの?」

 

そう言われた三人は顔を赤くして、

 

「………リアス姉さん」

 

「………リアス姉さま」

 

「………お、お姉ちゃん」

 

「うふふ、これは嬉しいものね」

 

超ご機嫌モードとなったリアスはその場でステップを踏むほどだった。

本当に嬉しいのだろう。

 

これを見ていた朱乃がからかうように言った。

 

「あらあら、私もお姉ちゃんって呼ばれてみたいですわ」

 

「朱乃さんのことも姉だと思っていますが………『朱乃さん』呼びがどうにも公私でカッチリしてしまったというか………」

 

「い、いずれ、お呼びします! 今回はリアスお姉ちゃん呼びの心の準備だけで、精一杯でしたぁ!」

 

ギャスパーのその一言のあと、皆が爆笑。

その中でもリアスは『リアスお姉ちゃん』と呼ばれたことに喜んでいて、ギャスパーを抱き締めていた。

 

そういや、この光景………どっかで見覚えがあるんだよな………。

 

すると、俺の隣に立っていた美羽が呟いた。

 

「今のリアスさん、ボクが初めて『お兄ちゃん』って呼んだ時のお兄ちゃんと同じだ」

 

「え?」

 

美羽の発言に固まるリアス。

 

そう、今のリアスはあの時の俺と似ているんだよね。

俺も『お兄ちゃん』って呼ばれて号泣したし。

暫く、その余韻に浸っていたし。

 

アリスがポンっと手を叩く。

 

「なるほど。つまり、リアスさんもシスコン………この場合はブラコンも入るのかしら?」

 

「え!?」

 

アリスの発言に驚愕するリアス。

 

リアスはそれを否定したいのか、慌てて言う。

 

「ちょっと、これはそういうのとは違うでしょう!? なんでもかんでもシスコンやブラコンに繋げないでちょうだい!」

 

「でも、『お姉ちゃん』って呼ばれると嬉しいんだよね? 何か内側から込み上げてくるものがあるよね?」

 

「それはそうだけれど………」

 

―――――場が静まり返る。

朱乃は必死に口許を抑えて堪えているが………。

 

ふむ、リアスにもシスコン、ブラコンの素養がある………と。

確かに『リアスお姉ちゃん』と呼ばれた時のリアスの表情はどこか俺達と通ずるところがあった。

 

「おや、リアス。それからリアスの眷属諸君。このような場所に集まって何をしているのかな?」

 

朗らかに訊ねてきたのは偶々ここを通りかかったサーゼクスさん。

俺はサーゼクスさんを見た瞬間―――――。

 

「サーゼクスさん! 朗報です! リアスもシスコン同盟に参加です!」

 

「その話、詳しく! 詳しく聞かせてもらおうかッ!」

 

手を振る俺と猛ダッシュで駆け寄ってくるサーゼクスさん。

 

 

「もう! イッセーのバカ! お兄様のおたんこなすぅぅぅぅぅぅぅう!」

 

 

リアスの叫びが駒王学園に響いた。

そして、朱乃はたまらずに噴き出してしまっていた。



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平和な波乱

原作編の続きを書こうと思ったけど、先に番外を投稿です!


[三人称 side]

 

 

その日、ティアマットは思った。

 

「使い魔なのに、ほとんど出番がない………。数少ないお姉さんキャラなのに………」

 

あの最終決戦、確かに主のエスコートという大役を果たした。

主と共に仲間の危機に駆けつけることは素晴らしい役目だと思う。

 

『乳の宴』にも参加した。

イグニスの提案によるあの色々な意味でとんでもない巻き込まれ、胸を吸われた。

 

もう一線を越えた中だ。

それくらい、今更どうってことない。

しかし、しかしだ………。

 

「私だって………もっと出番がほしい。もっと………イッセーとの触れ合いが欲しい………」

 

ティアマットは覚悟を決める―――――。

 

 

 

 

その日、イグニスは思った。

 

「本当の名前も教えたんだし、そろそろ私がデレるイベントがあってもいいと思うの」

 

最後の戦い、イグニスは本当の名前を一誠に明かした。

それはイグニスとって非常に大きな意味があるのだ。

世界のため、かつては封じた真の名―――――エクセリア。

その名前を知る者は一誠のみ。

 

キスと共に大切な名を明かす。

これは最高のシチュエーションだろう。

 

「さてさて、そろそろイグニスお姉さんも本気を出しちゃうゾ☆」

 

ついに駄女神が動く―――――。

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

リアスと朱乃の卒業式が終わってすぐのことだった。

三月になってからは、チーム『D×D』として動く案件はなく、基本的な悪魔の仕事だけという、割と平和な日常を過ごしている。

 

「………どこが平和よ。全然、平和じゃないんですけど」

 

「うん、俺の心読むな、アリス」

 

午前の授業を終え、今は昼休み。

授業から解放された学生を待つのはお楽しみのランチタイム。

普段なら、俺達も颯爽と昼食の準備に取りかかるのだが………。

俺、アリス、美羽の三人は机に突っ伏していた。

突っ伏したままピクリとも動かない俺にアーシアが話しかけてくる。

 

「イッセーさん、大丈夫ですか? お疲れのようですけど………」

 

「………うん。アーシア………俺はもうダメだ。何もやる気が起こらないんだ。というか、何もしたくないんだよ………」

 

「はぅ! イッセーさんの目が真っ黒です! 闇に呑まれてます! しっかりしてください、イッセーさん!」

 

涙目で俺の体を揺するアーシア。

その隣ではイリナとゼノヴィアにアリスが泣きついていて、

 

「もうヤダァ………働きたくないよぉ………グスッ」

 

「元とはいえ、一国の王女様とは思えない発言ね」

 

「あ、ああ………上級悪魔の女王とはこんなに酷いものだっただろうか?」

 

更にその後ろでは美羽がレイナに泣きついていた。

 

「うぅぅぅぅ………なんで、ボク達だけあんなに書類が覆いのかなぁ………」

 

「アハハハ………。ま、まぁ、仕方ないと言うか………アグレアスを半壊させたのが、三人だし………ね?」

 

そう、俺達がここまで苦しんでいる理由。

それは―――――アグレアスを半壊させたことで、各方面へ提出する書類に追われているからだ。

 

アセムとの戦いの前、俺達はリゼヴィムの本拠地であるアグレアスに強襲を仕掛けた。

全てのケリをつけるため、チーム『D×D』のメンバーは総力をあげて、アグレアスに乗り込み、激闘を繰り広げた………繰り広げ過ぎた。

あの戦いで俺は変革者に、美羽とアリスは神姫化を果たすに至った。

新次元に踏み込んだ俺達の力は他を超越したものだったのだが………そのせいでアグレアスは凄まじいダメージを受けてしまったのだ。

特に美羽が落とした隕石。

あれのおかげで、アグレアス全体にヒビが入ったらしく、もう一つ落としていたら、どうなっていたか分からない………そんな状況になっていたのだ。

アグレアスの修復をしようにも、隕石をどうにかするのに時間がかかったらしく、復旧にはまだ時間がかかるとのこと。

 

それを受けて、サーゼクスさんが、

 

『君達に責任はない………責任はないのだが、各方面へ提出する書類だけはやってもらえないだろうか。あまりに多すぎて、我々だけでは対処しきれないのだ。………すまない、イッセー君』

 

映像越しにそう言ったサーゼクスさんの表情はよく覚えている。

責めようにも責められず、かといって何もなし、というわけにもいかない………そんな、何とも言えない表情だった。

場所がレーティングゲームの聖地だけあって、奪還のため、リゼヴィムを倒すためとはいえ、半壊させたのはやはり不味かったらしい。

 

というわけで、事務所に送られてきた山のような書類に対応すべく、俺達はここ最近、ハードな日常を送っていたのだ。

俺達が授業で事務所にいない間も、ニーナを中心にリーシャとワルキュリア、サラ、モーリスのおっさんが書類を片付けてくれている。

 

俺は盛大にため息を漏らした。

 

「はぁぁぁぁぁ………今日も送られてくるとか絶望でしかねぇ。もう、ヤダ。現実逃避して良い? 良いよね?」

 

「げ、元気だしてください、イッセーさん。私も手伝いに行きますから」

 

「うん、ありがとう………いつまでも待ってるよ」

 

とりあえず、アーシアちゃんをギュッとしよう。

アーシアに癒されたい。

今の俺には癒しが必要なのだよ。

 

そう思った時だった。

 

教室中がざわめき始めたのだ。

そりゃあ、休み時間だし普段から賑やかなものなのだが、今のクラスから感じるのは戸惑い、疑問だった。

 

「こ、子供………?」

 

「うわぁ、すっげぇ可愛い………」

 

「双子かな?」

 

「というより、誰かの妹さんかしら?」

 

などという声が教室のあちこちから聞こえてくる。

 

子供?

双子の女の子?

クラスメイトは口を揃えて可愛いと言っているが………。

 

気になった俺はクラスの注目が集まっている教室の前側の入口に目を向けた。

そこにいたのは皆が言うように二人の少女だった。

いや、少女というよりは幼女と言う方が正しいか。

 

傷一つない白く綺麗な肌。

フワリと柔らかそうな長い髪は太ももの辺りまで伸びており、それぞれ綺麗な赤色と青色の髪色をしている。

二人とも年相応に小柄で、胸もペタンコだが、無垢を体現したような、そんな清楚さを感じさせる。

二人の幼女の顔立ちは愛らしく整っていて、将来は間違いなく美人さんになるだろうと確信さえ持てるほどだ。

そんな幼女二人はじっと教室の中を見渡していく。

 

クラスの女子が幼女に話しかけた。

 

「えっと、初等部の子かな? 誰か探してるの?」

 

と、尋ねられた幼女の内、赤い髪をした幼女が言った。

 

「えーと………あっ、いた!」

 

幼女が指差したその先にいるのは―――――俺。

 

………は?

えっ、ちょっと待って。

なんで、俺?

っていうか、あの赤い髪の幼女、どこかで―――――。

 

そこに思考が至ったのと同時だった。

二人の幼女は小走りで俺のところに駆け寄って、

 

「「パパ――――――!」」

 

などと元気な声で言いながら抱きつきてきた!

 

沈黙する教室。

クラスの視線は当然、俺と俺に抱きついいる幼女二人に向けられている。

その視線の中には美羽、アリス、アーシア、ゼノヴィア、レイナ、イリナのものも含まれていて………。

 

硬直する教室の空気などお構いなしに、赤髪の幼女が言う。

 

「ねぇねぇ、パパ、どうしたの? せっかく、会いに来たのにぃ」

 

青髪の幼女もそれに続く。

それはもう無邪気な声音で言った。

 

「わぁ、パパってば嬉しくてしょうがないんだね! 私達のこと、こんなにギュッてしてくれるんだもん!」

 

いや、あの………飛んできたものをただ受け止めただけなんですけど。

というよりね、さっきから『パパ』を連呼してるけど、それは――――――。

 

『ええええええええええええええええええええええ!? パ、パパァァァァァァァァァァッ!?』

 

皆の声が一つになった!

女子生徒が詰め寄ってくる!

 

「ひひひひひひ、兵藤君!? パパって!? パパなの!?」

 

「知らぁぁぁぁぁぁん! 俺には身に覚えが………ない!」

 

「今、ちょっと詰まったよね!? 最近、ちょっと良いかなって思ってたのに! もう、子供が二人もいるなんて!」

 

「やっぱり、兵藤君はケダモノだ!」

 

「兵藤ぉぉぉぉぉぉぉぉ! 誰の子だ!? 一体、誰との間の子なんだ!?」

 

「知らん知らん知らん知らんんんんんんんん!」

 

「まさかと思うが、ヤり捨てとか………最低だぞ、おまえ!」

 

「勝手な憶測はやめろぉぉぉぉぉぉ! その時は最後まで責任は取るわ、ボケェ!」

 

「じゃあ、この美幼女達はなんなんだ!」

 

「そうよ! 兵藤君のこと、パパって言ったし!」

 

「俺に聞くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

俺が知りたいわ!

身に覚えがない、ことはないが普通に考えておかしいだろ!?

俺の歳でこんな大きな子供がいるわけないだろぅ!?

 

赤髪の幼女が唇に指を当てて、辺りを見渡した。

 

「あれぇ、ママがいないよ? パパ、ママはどこにいるの? ここにいるんでしょ?」

 

『な、なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?』

 

赤髪の幼女により、もたらされた新たな情報に教室内はパニックになる!

 

「ま、マジか! まさか、この学園にママがいるのか!?」

 

「ちょっと待って………あの赤い髪って」

 

「うん、私も思った。少し違うけど、あの子って―――――」

 

『まさか、リアス先輩との子供!?』

 

なんでだよ!

確かに赤と紅で似た髪色はしているけど!

 

「じゃあ、あの青い髪の美幼女は!」

 

「ええ、間違いないわ!」

 

『ゼノヴィアさんとの子供か!』

 

皆の視線がゼノヴィアに集まっていく。

この流れだとそうなるのは見えていたけど!

本当にバカだろ、おまえら!

根本的なところを考えろ!

 

注目を向けらたゼノヴィアは腕を組むと一つ頷いた。

そして、青髪の幼女の隣に立って、クラスの皆に向けて口を開いた。

 

「この子が私とイッセーの子供? なにを馬鹿なことを言っているんだ。普通に考えたら分かることだろう?」

 

そうだよね。

普通に考えたらおかしいよね。

仮に俺とゼノヴィアの間に子供がいたとしても、ここまで大きい子供がいるはず―――――。

 

「無論、私達の子供だ!」

 

「おまえ、少し黙ってろ! 余計ややこしいことになるだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

涙を流してのツッコミだった!

こいつ、マジで何言ってくれてるの!?

馬鹿なの!?

おまえもなの!?

 

「イッセー! 貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ! リアス先輩とゼノヴィアちゃんとの子供だとぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! おまえには天誅をくだしてやる! イッセー撲滅委員会会員よ! かかれぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 兵藤ぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

 

「おまえら、少しは人の話を聞けやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

突撃してくるイッセー撲滅委員会会員(駒王学園のほとんどの男子生徒)に向かって、俺は突貫した。

 

 

 

 

「アハハハハハハハ! もう最高っ! イッセーの周りの子達は本当に面白いわ!」

 

旧校舎、オカルト研究部の部室に場所を移した俺達。

部室には赤髪の幼女の笑い声が響いている。

甲高い声色は幼い幼女だが、その口調はいつもの聞きなれたあいつのもので―――――。

 

「お! ま! え! は! なにを考えとんのじゃ、この駄女神ぃぃぃぃぃぃ!」

 

俺はそう叫ぶと共に赤髪の幼女―――――幼女化したイグニスの頬を引っ張った。

泣きながら。

 

俺が教室で起きた騒ぎを抑えるのにどれだけ苦労したと思う?

話を聞かない男子生徒に、話を勝手に盛り上げる女子生徒に、殴りかかってくるイッセー撲滅委員会。

ただでさえ疲れてるところにこれだぞ?

泣きたくもなるわ。

 

そんな心身ともにボロボロの俺の問いに駄女神は―――――。

 

「イグニスじゃないもん、ロリニスだもん」

 

「そういうことを聞きたいんじゃないんですけど!?」

 

なんだよ、ロリニスって!?

すると、青髪の幼女―――――幼女化したティアが元気よく言う。

 

「私、ロリア!」

 

「聞いてないよ! ティア姉も何を考えてるの!? つーか、なんで、もれなく『ロリ』が名前に入ってるんだよ!?」

 

確かにロリだけども!

あのナイスバディなお姉さん達が今ではツルペタなロリっ娘だけども!

 

美羽が苦笑しながら言う。

 

「イグニスさん、前にも幼女化したことあったけど………微妙に年齢変えてきたよね」

 

年末、朱乃が管理している神社の大掃除を行った時にもイグニスは女神パワーとやらで幼女化していた。

………が、その時とは微妙に年齢を変えているのか、前回と雰囲気が違っていたので最初は気づかなかった。

恐らく、その辺りも含めて幼女化したのだろうが………やってくれたな、駄女神。

もう学園中で噂になってるよ。

なんなら、さっき放送で職員室に呼び出されたよ。

 

最近はスケベ行為も控えていたから、女子達からの評価もかなり良くなっていたのに………。

 

「高校二年生(子持ち)………だね」

 

レイナちゃん、やめてくんない?

シャレにならやいから、本当にやめてくんない?

なんだよ、高校二年生(子持ち)って。

 

柳葉魚(ししゃも)みたい」

 

「美羽さん、ナイス例え!」

 

全然ナイスじゃないし!

イリナ、おまえのその辺りの感性は未だに理解しかねるよ!

 

俺は盛大にため息を吐いた。

 

「ったく………二人共、なんだってこんなことを? イグニスは駄女神としても、ティア姉まで」

 

「イグニスじゃないもん、ロリニスだもん」

 

「それはもういい! なんだ!? 気に入ってるのか、それ!?」

 

俺がツッコミを入れると、イグニスがフフフと笑んだ。

 

「最近、イッセーと触れ合いが少なかったじゃない?」

 

「え?」

 

俺が聞き返すと、ティアが言う。

 

「イッセーは治療で人間界にいないことも増えたし、溜まった書類の対応で家にいる時間も減っただろう? それに、家では基本寝ていることが増えたじゃないか」

 

「まぁ、そうだな」

 

実は、最近は忙しいというのとは別に疲れやすくなっている。

やることが少ない日でも、疲れが溜まることが多く、すぐに眠る日が増えているんだ。

そのため、学校にいる間や事務所では美羽達との関わりは持てているが、この二人との関わりというのは以前と比べると確かに少なくなっている。

 

ティアは少し頬を赤くしながら、小さな声で言った。

 

「おまえは姉属性より、妹属性だ。だ、だから………ちっちゃくなれば………その………かまってくれるかなって………」

 

指先を合わせて、恥ずかしそうに言うティア。

 

か、かまってほしくて、幼女化したって………。

何とも発想がぶっ飛びすぎてるような気がするのだが………。

 

俺はやれやれと息を吐く。

 

「あー………なんというか、悪かったよ。最近、あんまり話してなかったし………うん、ごめんな?」

 

「う、うむ………。許す代わりと言っては何だが………今日、一日は私達に付き合ってくれないか? 忙しいのも分かるし、美羽達の気持ちも分かるのだが………」

 

申し訳なさそうに美羽達を見上げるティア。

美羽達はお互いの顔を見合わせて頷くと微笑んだ。

 

「分かった。お兄ちゃん、仕事はやっておくから、今日は二人といてあげてね」

 

「その代わり、明日は私の分をやってもらうからね?」

 

「おい、普段から丸投げしてくるんだから、これくらいタダでやってくれよ」

 

そんなやり取りをしながら、俺は苦笑する。

今日は二人のお姉さんへのサービスデーってことなのかな?

やることは多いけど………たまにはこんな日があっても良いだろう。

 

俺は幼女となったティアの前に屈むと、その小さな手を取った。

 

「それじゃあ、今日は一緒にいるか」

 

すると、

 

「うん! ありがとう、イッセー!」

 

満面の笑顔で返してくるティア。

 

………ど、どうしよう。

今の笑顔、反則級に可愛かったんだけど。

俺のハート、一撃で撃ち抜かれたんだけど!

これがティア―――――否、ロリアの力ということか!

 

俺はシスコンであってもロリコンじゃない。

でも、この美幼女の前では………クソッ!

ロリコンに目覚めても仕方がないというのか!

 

「ロリは―――――正義よ」

 

同じく幼女化したイグニス―――――ロリニスの言葉は俺を頷かせるに十分だった。

 

 

 

 

ところで………。

 

「なぁ、俺が妹属性だから幼女化したんだろ? なんで『パパ』なんだよ?」

 

俺の問いにティアは、

 

「い、いや、最初は『お兄ちゃん!』って言おうと思っていたんだが………イグニスが………」

 

「その方がインパクトあるでしょ☆」

 

「インパクトでかすぎるわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 



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ゲート処理は丁寧に

久し振りに番外編投稿~


『朝、目が覚めたらそこには美少女がいました』なんてシチュエーションは全国の男子にとって憧れの展開だ。

その美少女が自分に抱き付いていたら、それはもう朝からエンジン全快、フルスロットルになるだろう。

当然、少しは戸惑うかもしれない。

でも、美少女がそこにいるだけで、全て許せるのだ。

むしろお礼が言いたくなる。

 

いつも美羽達と寝ている俺は毎朝お礼を言いながら、彼女達の寝顔に癒されている。

そりゃあもう幸せな気分になれる。

今日も一日頑張ろうってなる。

だが―――――何事もいきすぎ、やりすぎは良くない。

 

「ぐぇぇぇ………ぜ、ゼノヴィア、死ぬ………。俺、このままだと死ぬ………!」

 

朝起きたら首にゼノヴィアの足が乗っかっていました。

喉仏を押し込み、奥を圧迫していて、かなり苦しいです。

ゼノヴィアの足の感触はスベスベで柔らかくて、いつまでも堪能したいと思えるほどだが、今のこれはよろしくない。

俺、このままだとマジで死んじゃう!

アセムとの戦いから生還したのに、ゼノヴィアの寝相の悪さで天に召されるぅぅぅぅぅ!

 

そこまで苦しいなら足をどければ良いじゃないか。

そう思ったそこの君は考えが甘いな。

 

「うぅん………イッセーさん………あーん、ですぅ」

 

左腕はガッチリアーシアにホールドされ、全く動かすことが出来ないのだ。

いや、寝言も寝顔も可愛いけどね?

アーシアちゃん、ちょっとだけで良いから、俺の腕を離してくれないだろうか。

 

「イッセー………そこ、ダメよ………」

 

俺の右側を抑えるのはリアス。

こちらも俺を抱き枕にでもするかのように、抱き付いてくれていた。

うん、こんな状況じゃなかったら、リアスのおっぱいを堪能していたところなんだが………。

 

左も右も抑えられた。

ならば、下半身を上手く捩ってこの状況から抜け出そうと思った。

けど、それは無理だった。

足を動かそうにも、小猫ちゃんとイリナがいて全く動かせそうにない。

 

他にも朱乃、レイヴェル、レイナ、アリスといったメンバーがベッドの上にいて、全く、どうやっても抜け出せそうにない。

 

………詰んだ。

俺が諦めかけたその時―――――

 

「うぅん………」

 

のそりと上半身を起こしたアリス!

この危機的な状況に目を覚ましてくれたか!

 

「アリス! 頼む、ヘルプ! ゼノヴィアの足をどかしてくれぇ!」

 

苦しみながらも頼む俺。

こうなったら、アリスにこの足をどかしてもらうしかない!

 

俺のお願いにアリスは目蓋が空いていない状態で、

 

「イッセー………? もう、しょうがないわねぇ」

 

アリスはそう言って近づいてくると―――――俺の頭を抱き締めてきた。

 

「ぐはっ!? ちょ、ア、アリスさん!? 俺、助けてって言ったんですけど! トドメさしてくれとは言ってないんですけど!」

 

「えへへ………赤ちゃんイッセー、可愛い………」

 

「あぁ!? こいつ、寝やがった!」

 

しかも、変な夢見てるし!

完全に俺が幼児化した夢見てるだろ!

 

ていうか、この角度で頭を抱き締められるとヤバいんですけど!

首がかなり苦しいんですけど!

アリスのおっぱいは嬉しいけど、このままだと息ができないんですけどぉぉぉぉぉ!

 

「スピー………」

 

ダメだ、詰んだわ、これ。

今日この日、俺は死んだ。

 

 

『兵藤一誠の死因:おっぱいで窒息死』

 

 

 

 

「生きてるじゃねーか」

 

耳をほじりながらどうでも良さげに言うアザゼル先生。

俺は今、アザゼル先生のラボを訪れていた。

俺は半目で問う。

 

「なんですか、俺が死んでも良いと?」

 

「乳で死ねるなら本望だろ」

 

いやね、それはそうなんだけど………。

 

あの後、目覚めたレイヴェルが助けてくれたので、俺はギリギリのところで助かった。

レイヴェル曰く、俺は泡を吹いて白目を剥いていたらしい。

朝からホラーなものを見せてゴメンね、レイヴェル。

 

隣でお茶を啜るアリスが言う。

 

「ゼノヴィアさんの寝相の悪さにも困ったものよね」

 

「いや、おまえ、トドメさそうとしてたよね? 一回起きたのに、また寝たよね? どいうこと?」

 

「気のせいよ」

 

なんてやつだ。

今度すごい目に合わせてやろうか。

 

美羽が苦笑しながら言う。

 

「やっぱり寝る順番決めても意味ないよね。誰かしら抜け駆けするし」

 

「そう言う美羽ちゃんは昨日いなかったけど、どうしたの?」

 

「漫画読んでて寝落ちしてた」

 

美羽、おまえよく寝落ちするよね。

まぁ、何となく分かっていたけど。

 

それはともかく、最近、女性陣の間で俺と寝る順番を本格的に決めようかという話になったそうだ。

それで一応の順番は決めたのだが………それはあまり守られてはいない。

結局は部屋の大ベットを埋め尽くさんばかりに家の女子達が侵入してくる。

俺としては、女子と寝れて嬉しい。

ただ、今朝みたく、寝相で死にかけるのは勘弁してほしいところだよ。

 

美羽が言う。

 

「いっそのこと、お兄ちゃんの分身を作って全員に配ってみようか?」

 

「美羽、おまえ正気か?」

 

「え、なんで?」

 

「考えてみろ、俺が何人もいる状況………頭が痛くなるぞ」

 

「そうかな? ボクは普通に嬉しいけど。………た、たくさんのお兄ちゃんに囲まれた生活」

 

「おい、なぜそこで顔を赤くする。明らかに変なこと考えてるよね?」

 

「か、考えてないよ? たくさんのお兄ちゃんに○○○(ぴー)されたりとか×××(ぴー!)するとか考えてないよ?」

 

考えてんじゃん! 

そんなシチュエーションで妄想してたの!?

俺限定とはいえ、エッチ過ぎると思うんだけど!

これって俺の影響なの!?

そろそろシリウスに謝った方が良いのかな、俺!?

 

アリスが目元をひきつらせながら言う。

 

「ま、まぁ、美羽ちゃんがエッチなのは前々からだから良いとして。イッセーの分身を配るのはアリかも。今朝みたいなこともあるし。ほら、抱き枕ってあるじゃない? あんな感じのやつがあれば、少しは落ち着くと思うのよ」

 

俺がプリントアウトされた抱き枕………なんかヤダ。

だけど、可愛いアイドルやキャラクターの抱き枕が良いというのはなんとなく分かる。

俺の抱き枕があれば、皆、少し落ち着いてくれるのかな?

 

すると、アザゼル先生が「しょうがねぇな」と言って研究室の奥に行ってしまった。

戻ってきたアザゼル先生が持ってきたのは大きな箱だった。

 

「抱き枕じゃないが、おまえ達の要望に添えるアイテムがあるぞ」

 

「え、マジであるんですか」

 

「ああ。おっぱいドラゴン関連で商品化しようとしていたものの一つでな。まだ試作段階だが、お試しで使ってみてくれ」

 

そう言って、先生が箱の蓋を開けた。

中を覗くとそこには―――――ギッチリ詰められたパーツの数々。

 

俺は少し無言を貫いた後、口を開いた。

 

「………これは?」

 

「プラモデルだが?」

 

「は?」

 

「正確には『1/1スケール 兵藤一誠組み立てキット』だ」

 

うん、ちょっと意味わかんない。

なぜにプラモデル?

なぜに俺がプラモ化してるわけ?

 

アザゼル先生が言う。

 

「最近、人間界でこういうキャラもののプラモも増えてるだろ? おっぱいドラゴンのフィギュアは販売してるが、プラモはまだ商品化してなかったことに気づいてな。まずは素のおまえを作ってみようってなったんだよ」

 

なるほど。

まぁ、人間界にもそういう商品はあるよね。

特撮もののフィギュアでも最近は変身前の素の姿が販売されてるし。

 

でもね?

まず最初に言わせてほしいことがある。

 

「こんなの作るなら、俺の義手を作ってくれませんかね!?」

 

「こんなのとはなんだ。ここまで作るのに結構時間かかったんだぞ」

 

「その時間を義手に回してくれよ!」

 

「ちなみにイッセーのプラモ化には、シーグヴァイラが協力してくれている」

 

「無視か!?」

 

シーグヴァイラさん、プラモ………というかロボ好きだもんね。

うんうん、そっかそっか。

ついに俺もプラモ化か………あれ、なんだか泣けてきたぞ。

 

美羽が組み立て説明書をパラパラ捲っていく。

 

「うわぁ、説明書分厚いね。パーツもかなり多いし。服は駒王学園の制服なんだ。制服は本物使ってるの?」

 

「いんや、そうすると高くつくんでな。コスプレ衣装みたいな安い生地で作ってる。パーツに関しては、リアルなイッセーを作ろうとしたら増えてしまったんだよ。流石に初心者には難しいと思って、今はパーツを減らそうと試行錯誤している。あ、監修はイグニスだな」

 

おい、今、かなり不穏な名前が出てきたんだけど。

監修がイグニスだと?

それってまさか………!

 

美羽が顔を赤くして説明書のあるページを指差した。

 

「お兄ちゃんの………も作るんだ………」

 

「やっぱりかよぉぉぉぉぉぉ!」

 

説明書には俺の息子の組み立て工程まで乗せられている!

なんで、そんなところまで作ろうとしてるの!?

完全にアウトじゃん!

 

「子供たちに何を作らせようとしてんだ!」

 

「ナニだな」

 

「バカなの!? PTAから苦情来るぞ!」

 

「1/1スケールだからな。リアルなイッセーを追及しないとダメだろ」

 

「そんなリアルはいらん!」

 

「まぁ、実は会議でもそういう話になってな。ここはもっと簡易化して、ピンポン玉二つと牛乳瓶で良いかなって」

 

「そこまで手抜きするなら作るなよ!」

 

ピンポン玉二つと牛乳瓶って!

酷すぎるだろ!?

つーか、ピンポン玉はともかく、牛乳瓶のチョイスが謎過ぎる!

 

「あそこが牛乳瓶で出来た俺を見てあんたは何も感じないのか!?」

 

「爆笑ものだろ」

 

「分かってやってるよ、このマッドサイエンティスト!」

 

ツッコミが止まらないでいると、実体化したイグニスが現れた。

 

「私はミートボールとソーセージ、お稲荷さんの皮、あとヒジキでも良いんじゃないってアドバイスしたんだけどね」

 

「おまえは食べ物で何を作らせようとしてんだぁぁぁぁぁ!?」

 

「ナニよ」

 

「うるせぇよ! なにキメ顔で言ってるの、こいつ! 腹立つんだけど!」

 

食べ物を粗末にするな!

あと、そうなるとプラモでもなくなるからね!?

    

イグニスが言う。

 

「これが完成したら凄いのよ? 遠くから見たらそのままのイッセーだもの。それに全身が動くから色々なポージングもできるの」

 

と、そう言って、このプラモの完成品を研究室の奥から持ってくるイグニス。

それは確かに俺、兵藤一誠だった。

肌の質感もプラモとしては良くできているし、飛び蹴りのようなダイナミックなポーズもとれる。

プラモデルとしてのクオリティはかなら高いのだろう。

近くで見るとプラスチック感があるけど、作り手次第でそこは何とかなるかも。

 

アザゼル先生が訊いてくる。

 

「どうだ? こいつを作れば、リアルなイッセーが完成するぜ? 数を作れば、おまえ達全員にこのリアルプラモデルイッセーが行き渡るぞ」

 

アザゼル先生の問いに美羽とアリスは互いの顔を見合わせると、完成品をマジマジと眺め―――――

 

「「なんかヤダ」」

 

お気に召さなかったらしい。

 

 

 

 

翌朝。

俺の分身を女性陣に配るという話が流れた結果、今日も俺は―――――

 

「ぐぇぇぇ………た、頼むから起きてくれ、ゼノヴィア………ァ! 足で俺の顔を挟まないでくれぇ………!」

 

「うーん………」

 

「あ、朱乃も今、上に乗られるマジでヤバイんですけど………! あっ、ちょ、アリスもそれ首が逝くから、待っ………!」

 

女の子と寝るのも命がけだった。

 

 



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After ちっぽけな、一人の―――――

本編の後に投稿しようと思って、書くタイミングを逃していた話。
最終章の番外編にして、本編の本当の最終話!


虹の光に包まれ、体も意識も消えていく。

自分という一つの存在が世界から完全に消滅するのが理解できた。

だが、これで良い。

これこそが自分の望んでいた結末なのだから。

 

ふと思うときがある。

もし、あの日、あの時、自分が憎しみに囚われなかったのなら、彼のようになれたのだろうか?

自分はあり得たのかもしれない彼だ。

ならば、その逆もあり得たのかもしれないと。

 

しかし、過ぎてしまった時は巻き戻せない。

何を考えても、何を願ってもあの日を変えることなんてできない。

あの日、自分は愚かだったのだ。 

 

なにが神だ。

たった一人、心の底から愛した彼女を守れないじゃないか。

なにが神だ。

たった一人、傷ついた少年を救うことができないじゃないか。

なにが神だ。

怒りに呑まれて、生み出した憎しみの塊が一体、どれだけのものを壊し続けてきたんだ。

世界が壊れていくのをただ見ているだけで、止めることすら出来なかったじゃないか。

なにが神だ。

こんなもの―――――何一つ守れない愚者ではないか。

 

ああ、そうだ。

あの日、自分は―――――僕は折れてしまったんだ。

この手はただ傷つけるだけで何も救えないのだと。

ちっぽけな僕は無力なのだと。

 

でも、諦めきれなかった。

守れなかった彼女との約束があったから。

救えなかった少年に立てた誓いがあったから。

 

確かに自分は愚かで、無力で、何も救えないのかもしれない。

それでも、こうして生きている。

生きてしまった以上、そこには何か意味があるはずだ。

こんな僕にも出来ることがあるはずだ。

 

その答えを探して生き続け、間違え続けた。

中途半端に悪を演じ、多くの者達を傷つけてしまった。

この身勝手で、確証のない可能性にかけた自分のせいでどれだけの涙を流させたのだろう。

 

それでも―――――彼を選んだことは正しかったと断言できる。

目の前に広がる光景がその証明だろう?

 

ずっと見てきた。

彼が自分達の世界に来たときからずっと。

最初は貴重な存在として観察するつもりだった。

だが、あの日。

彼が友を失った、あの運命の日から全てが変わった。

 

あの時の彼はまるでいつかの自分だった。

己の無知を呪い、無力さに嘆き、涙を流し、膝をついていた自分と同じだった。

だが、その彼は憎しみを乗り越え、成長し、こうして大勢の想いを受け止める程になった。

愛する者を守り抜き、世界の理不尽になろうとした自分を倒すまでになったのだ。

 

世界中に広がるこの温かな光。

これこそが未来を救う希望なんだ。

いつの時代、どんな世界にも闇は存在する。

恐らく、その闇が消え去ることはない。

でも、繋がる想いはやがて大きな光となって、その闇を払いのける。

その光こそがこれだ。

 

 

―――――やっぱり、君を選んで良かった。

 

 

彼は気づいていないだろう。

消え行く中、涙を流してしまったことを。

無力だった少年が、こんなにも大きく成長したんだ。

最後くらい泣いたっていいだろう?

 

あと僅かで自分はこの世界から消える。

でも、これだけは言っておきたい。

最後に、これだけは言っておかなきゃいけない。

 

 

―――――あとは任せていいかい?

 

 

消えかけの声。

自分でも聞き取れないほど、小さな声だ。

普通ならこの願いは届いていないだろう。

でも、彼は答えてくれた。

この愚か者を想い流した涙を振り払い、たった一言。

 

 

「ああ………任せろ!」

 

 

十分だった。

その強い目を最後に見ることができた。

その一言を最後に聞くことができた。

もう満足だ。

 

やっと、見つけたような気がする。

探し続けてきた答えを。

 

僕には生きていた意味があった。

 

 

 

 

ここは一体どこなのだろう。

目が覚めた時、立っていたのは見慣れぬ土地だった。

草の一本すら生えない荒れ果てた大地、空は暗雲が広がり陽の光は遮られてしまっている。

 

寂しい光景だ。

ここが自分の終着点となれば、納得だ。

もう自分が晴れやかな空の下に出ることはない。

温かな光を浴びることなどもう出来ない。

いや、そんな資格などないのだから。

 

「愚者にはお似合いの場所だ」

 

そう漏らして歩き出す。

どこを目指すわけでもない。

ただ、目的もなく永遠にこの寂しい場所を歩き続けるだけだ。

それが世界がこの愚者に降した罰なのだろう。

ならば、それを甘んじて受け入れるのみ。

それしか選べないのだから。

 

 

「どこに行こうというの?」

 

 

声をかけられた。

女性の声だ。

それは、とても懐かしい―――――。

 

「目的地はないよ。けど、少なくともそっちには行けそうにないね」

 

振り向くとそこに彼女は立っていた。

しかし、彼女がいるのはこちらのような寂しい場所ではない。

草花が咲き、空は青く、温かな陽の光が照らす、そんな優しい場所だ。

 

「見なよ、この二つの景色を。世界が僕達の住む場所は違うとでも言いたげだろう? だけど、事実その通りさ。僕にはそっちに行くことなんて出来ない。その資格はないよ」

 

多くを傷つけてきた愚者に、安らぎなんて許されないのだから。

 

彼女は寂しげな表情で言う。

 

「もう、良いでしょう?」

 

「なにがだい?」

 

「そうやって、自分を攻め続けるの。あなたはもう十分すぎる程に悩み、苦しんできたじゃない。ここに来てもまだ、あなたは自分を痛め続けるつもりなの?」

 

「………僕は、あまりにも多くの間違いを犯してきた」

 

「それは守るためでしょう?」

 

「守るためなら、何をしても許されるってわけじゃない。何かを傷つけるなら、それ相応の代償か必要だ。僕には払うべき代償が多すぎる」

 

「でも、どうやって、その代償を払うつもり? あなたはもう」

 

「わかっているさ。既に消滅してしまった僕には何も出来ない。何をしても何を考えても無駄だって理解はしているよ」

 

「死しても尚、永遠に苦しみ続けるというの?」

 

「そう、なるのかな?」

 

そう言って、彼女に背を向けた。

後ろから聞こえる彼女の静止の声も聞かずに。

 

これから無駄な旅に出る。

何も得られない、ただただ虚無しかないであろう旅へ。

愚者は愚者らしくこれからも歩み続けるだけだ。

そして、償おうにも償えない、止むことのないこの苦しみを永遠に味わい続けよう。

 

その時―――――

 

 

 

「ちょっと待ちなさいよ!」

 

「へぅ!?」

 

 

 

後ろから思いっきり殴られた。

あまりに強烈な一撃により、顔面から地面に倒れただけでなく、顔面で地面を何メートルも削りながら吹っ飛ばされてしまった。

 

「あつつつつつ!? えっ、今の流れでこれ!? 流石のアセム君もシリアスパート貫いてたよ!?」

 

「うっさいわね! あなたが、私の止める声も聞かずにスタコラ行くからでしょ!」

 

「あ、ちょ、馬乗りになって、僕に何をするつもり!?」

 

「久しぶりに私の恐ろしさを思い出させてあげようかな~って。言葉で止まってくれないのなら実力行使よ。ここ、魔法は使えないけど、拳はいけるみたいなのよ、ア・セ・ム♥」

 

「うわぁぁぁぁん! 助けて、ママ!」

 

「私、あなたの母親じゃないし!」

 

なんかとんでもない理不尽に襲われた。

 

数分後―――――

 

 

「グスッ、僕の貴重なシリアスパートだったのに」

 

結論から言おう。

馬乗りになられた後、成す術もなくボッコボコにされた。

お説教に拳をおまけして。

 

「あなたがいつまでもウジウジしてるのが悪いんでしょ? 私、そういう男、嫌いなの。知ってるでしょう?」

 

「君は相変わらずだねぇ」

 

「そういうあなたは男が下がったんじゃない?」

 

「ハハハ………死んでも君には敵いそうにないね、アリシア」

 

「あなたが惚れた女は凄いんだから、当然でしょ」

 

知ってるさ、そんなこと。

君はずっと一人だった。

誰も信用できないような目をしていた。

でも、僅かな時間で君は変わったんだ。

これがどれだけ凄いことなのか。

長い時を生きていても中々変わることが出来ない僕からすれば、奇跡にも等しいことだった。

 

「そう、私は変わったわ。あなたのおかげで」

 

彼女―――――アリシアは微笑む。

 

「何も救えなかった? いいえ、あなたは私を救ってくれたわ。終わり方は悪かったのかもしれないけど、それが全てってわけじゃない。始まりから終わりまで全部含めて一つの人生だもの。あなたと過ごした道程は私にとってかけがえのないものであることに代わりはないわ。あなたと出会えて良かった。私は―――――幸せだった」

 

その言葉の後、爽やかな風が吹いた。

いつの間にか、あの寂しい光景はなくなっていて、一面が陽の当たる優しい光景へと変わっていた。

 

アリシアは僕の頬に触れて言う。

 

「それに、あなたは私との約束を守ってくれた」

 

「守れた………のかな。結局、僕は何も………守るどころか僕は」

 

「ほらほら、そう言う下向きのことを言わないの! あなたは未来を守るために頑張ったじゃない。結果だって出してる。彼がそうなのでしょう?」

 

「まぁ………ね」

 

「彼を見込んで、あなたは未来へのバトンを託した。あなたがあなたの役目を果たしてくれたのなら、それはもう約束を守ったと言っても良いんじゃない?」

 

「本当に?」

 

「ええ。それとも、私、変なこと言ってるかしら?」

 

不思議そうに首を傾げるアリシア。

 

彼女の言うことが正しいのなら、僕は約束を守れたと言っても良いのかな?

でも、本当にそうなら、僕は―――――。

 

「泣いているの?」

 

「おかしいな………嬉しいはずなのにね。どうして止まらないんだろう」

 

頬を伝う熱いものが止まってくれない。

どんなに止めようとしても、体が言うことを聞いてくれない。

こんなのは初めてだ。

きっと、僕の体はどうかしてしまったのだろう。

 

アリシアは伸ばした手を引き、僕を抱き寄せた。

そして、泣きじゃくる子供をあやすように僕の頭を撫でながら、優しく語りかけてきた。

 

「泣いて良いの。あなたは許されて良いの。ずっと悩んで苦しんで………こんなにボロボロになるまで頑張り続けてきたでしょう? もしも、あなたをこれ以上、責めるという人がいるのなら、今度は私があなたを守ってあげる」

 

「そっか………。ねぇ、アリシア」

 

「なに?」

 

「もう少し………このままでいさせてくれないかな?」

 

「もちろん」

 

それからはただ泣いた。

もう流れることはないだろうと思っていたものを、彼女の胸の中で流し続けた。

 

でも、良いよね?

もう僕は神でもなんでもない。

世界の理不尽だなんて、そんな大層なものでもない。

今の僕はただのちっぽけな………一人のアセムという存在なのだから。

 

ありがとう、兵藤一誠。

拳を交える中で君は僕を救うと言ったね。

彼女との再会はきっと、君のおかげなのだろう。

 

僕は―――――救われた。

 



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