タコツボ小隊員・篠ノ之箒!! (沙希)
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プロローグ
出会い(上)


ちょっと息抜き兼浮気がてら思いつきで書きました。
森のホモォ。や町内会報はニコニコ静画のマンガにあります。
アドレスは面倒なので貼りません。
追記:ステマではない。いいね?


 

 

 

『箒ちゃん。今日から向こうに引っ越すことになったの』

 

 どうして、こんなことになったのか私には分からなかった。

 なぜ家を引っ越さなければならないのかも、どうして家に大人たちが押し寄せてくるのかも、どうして父がいなくなったのかも、何もかもが分からなかった。

 全部が全部、分からないことだらけで頭の中がこんがらがった。

 でも、これだけは分かった。

 私の人生は、姉によって壊されたのだと。

 

 

 私の姉、篠ノ之束は頭がいい。

 こんな陳腐な言い方でしか表現できないが、とびぬけて頭がよかった。

 同い年や一つ二つ年上の人、はたまた大人顔負けの頭脳を持っていた。

 私はそんな姉が、ちょっと苦手だった。

 私には分からないような言葉で話したり、私が迷惑しているのを知ってか知らないでか常に興奮している動物みたいに懐いてくるから、嫌うにも嫌いになれない。だから苦手だ。

 

 

 そんな姉が作ったのが、インフィニット・ストラトス。通称ISというものだった。

 それがどんなものなのか私には理解できないし、しようとは思わない。

 だって、そのせいで知らない大人たちが何度も家に押しかけてきたり、街の人たちから変な目で見られたり、何となくだけど陰口を言われたりもした。段々、私や家族の居場所が街からなくなったんだ。

 

「……どうしても、引っ越さなければならないの?」

 

「……えぇ。辛いでしょうけれど、そうするしかないの」

 

 伯母さんは悲しい表情になる。

 

「……お父さんのことは、どうなるの?もう会えないの?」

 

「……そうね。でも、いま会えないだけで、箒ちゃんが大きくなったらきっと帰ってくるわ」

 

 子供の私でも分かる、分かりやすい慰め方だった。

 

「……………」

 

「……………引っ越す前に、織斑さんの所に挨拶していきなさい」

 

「…………うん」

 

 伯母の言葉に従うしか、私にはなかった。

 伯母が語る雰囲気は感情的になっても変えられないことが分かっていたから。

 

 

 少し気になっていた幼馴染の一夏と、色々とお世話になった一夏の姉の千冬さんに別れを告げた私はいろんな場所を転々とすることになった。 

 行く先々、たくさんの人たちから姉さんのことばかり聞かれたり、白い目で見られたり、『せいふ』というところの言いつけだからと、ずっと家にいたりして、正直嫌だった。

 どこに行っても、私の居場所なんてない。

 みんな、姉さんやISのことばかり聞いてきて、こっちの話も聞いてくれない。

 新しく転校した学校で、みんな陰でコソコソ悪く口を言っている。

 お父さんに会いたい。もとの暮らしがしたい。そんな思いを汲取ってくれない。

 

 

 私は、姉さんが嫌いだ。

 お父さんがいなくなったのも、幼馴染と別れることになったのも、言われもない悪口を言われるのも、こんな辛い思いをするのも……………ぜんぶぜんぶ、姉さんのせいだ。

 自分の責任から逃げて、私たちに迷惑ばかりかけている姉さんなんか大っ嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 いろんな場所を転々としてから、私はもうすぐ四年生を迎える。

 一夏はどうしているのだろう、父はどこにいるのだろうと考えるのをやめた。

 いろんな人たちから毎日姉さんやISの事を聞かれても、どんなに大人たちが白い目で見てきても、どれほど暴言を言われても、私はもう気にしないことにした。何も考えたくなかった。

 

 

 私一人が動いても、泣き喚いても状況が良くなるわけじゃない。

 行方不明の父が戻ってくる訳でも、元の生活を送れるわけでもない。

 姉さんが生み出したISというものがある限り、私は死ぬまでこんな生活を強いられる。

 もう、元の生活に戻ることはない、そう諦める私だった。

 

「あのね箒ちゃん。今度転勤する場所なんだけどね、私の学生時代の友人の住んでいるところになったのよ」

 

 そんな時、伯母が何故か上機嫌にそんな話題を振ってきた。

 転勤の話をするたびに、あまり良い表情はしなかったはずなのに。

 私にとっては、結局、どこへ行っても同じにしかならない。

 だから、伯母が上機嫌な理由なんて聞かずに引っ越しの準備をすることにした。

 

 

 

 

 

 引っ越す先は、『梅の木川町』という町だ。

 少々変な気配がするのだが、見た限りでは転勤してきた他の町となんら変わりなかった。

 電車の中で伯母が楽しげに、その住ませてもらうことになっている友人の話をするの だが、どうせ何か裏があるに決まっている。前の転勤も、その前も、その前の前の、その前の前の前の転勤も、そうだった。

 だから期待なんてしない。どこに行っても、私に居場所なんてないのだから。

 

「雪子~~っ、久しぶりぃ!元気にしてた?」

 

「う~ん、元気とは言えないわね。あちこち転々とする羽目になったんだから」

 

「それもそうよね。で、その子が箒ちゃんなのかな? はじめまして。雪子の学生時代からの友達の、佐咲広恵よ。これから家族みたいに一緒に過ごすんだから、困ったことがあったら言ってね」

 

 ついた場所は普通の一軒家で入口に待ち構えていた人当たりの良さそうな女性・佐咲広恵さんという人が挨拶して来る。

 

「………はじめまして。篠ノ之箒です。『短い間』でしょうが、よろしくお願いします」

 

「こら箒ちゃん!」

 

「いいのよぉ雪子、気にしてないから。それにしても、………そうとうすれちゃっているみたいね。でも大丈夫よ、箒ちゃん。私はちゃんと箒ちゃんを一人の娘ように見るからね」

 

 どうだか。そのニコニコ顔の下に、どんな黒いものを潜めているのやら。

 もう私は、諦めると決めたんだ。

 だから何も期待しないし、誰かを信じることはない。

 そんな事を思いながら、伯母と佐咲さんの後に続きながら、家の中に入った。

 

「そういえば、雄大くんは?」

 

「友達と出かけてるわよ。本当なら家にいるように言いつけたんだけど、なんか急な用事が出来たとかで、大慌てで出て行ったわ」

 

 そんな会話を耳にしながら、部屋に案内される。

 案内された部屋は最初に転勤する前の部屋とあまり大差ない広さだった。

 部屋には荷物が置かれており、荷解きを始めたが私の荷物はそれほど多くなかったためやることがなかった。

 取柄である剣道をやろうという気にはなれない。

 伯母や佐咲さんとの会話に混じろうとも思わない。

 そういうわけで、私は気分転換を兼ねて外に出ることにした。

 

 

 

 

 

 迷った。家を出てすぐ、迷った。

 それもそうだ、私はこの町の事は全然知らない。

 伯母の同伴で案内してもらうか、地図を借りればよかった。

 考えるのを諦めたからと言って、こんな単純な考えを思いつくのまで諦めるつもりはなかったのだが。

 なんたるウカツッ!

 

「…………どうしよう」

 

 右往左往しているうちに、時間は刻一刻と過ぎていく。

 人のいないタコやUFO、恐竜やら変わった遊具がある公園を見つけ、公園のベンチで私はこれからどうするか考えた。

 

 

 単純に、道行く人たちに聞けばいいのだろうが、聞けない。聞きたくない。

 私が誰なのか、誰の妹なのか分かってしまえば格好の的だ。

 いわれのない暴言はもう聞きたくない。

 大人たちから執拗に姉さんの話を聞かれたくない。

 

「………………ぐすぅ………なんでわたし、こんなに不幸なのかな……」

 

 元の生活に戻りたい。お父さんに逢いたい。一夏や千冬さんと一緒に剣道がしたい。

 でも、それはもう叶う事はない。

 居場所も、家庭も、父も、何もかも………私の思いとは裏腹に掛け離れていく。

 これから先、ほんとうに、もうあの頃の様に過ごせないのかな。

 そんな事を考えながら泣いていたら、

 

 

 

「ねぇ、キミ。どうかしたの? 大丈夫?」

 

 

 

 知らない男の子の声がした。

 顔をあげると、ちょっと女の子?と間違うような顔立ちの男の子が心配そうに見ていた。

 

「~~~っ………何でもない! ほっといてくれ!」

 

 涙を流していたことを恥じるように私は拭い、キツメの言葉をぶつける。

 大抵、これだけで私に近づこうともしなくなるのだが、そいつは何とも思ってなかったらしく、言葉を続ける。

 

「泣いている子を目の前にして、そういうわけにはいかないよ。どこか怪我したの? 親と逸れちゃった? 誰かと喧嘩した?」

 

「余計なお節介だと言っている!」

 

「ん~、どこか怪我した様には見えないし、喧嘩したわけじゃないのかな。いやでも、もしかしたら無傷でって………まてまてまて、なんでヒガっちゃん基準で考えてるんだ俺。初対面の子を蛮族認定するのは失礼すぎる。とりあえず、迷子ってことでいいのかな」

 

 なんだ、コイツは。やたらお節介を焼いてくると思えば今度はブツブツと何か言い始めて、私の現状をズバリと当ててくる。

 

「とりあえず、一緒に探そう。お母さん、もしくはお父さんの特徴は分かる? 一緒に探してあげるからさ」

 

「私は迷子じゃない!」

 

「え、迷子じゃないの?」

 

「あ、いや迷子なのだが………えぇい、そんなことはどうでもいい! 私は、お前の手を借りるつもりなんてないと言っているのだ!」

 

「でも、きっとキミの親御さんが心配してると思う。だから、変に意地を張らないでさ、一緒に探そうよ」

 

「~~っ、お前は私の言ったことが分からないのか! 余計なお節介だと言っただろ! それに私とお前は赤の他人なのに、なんだってそんな風に関わろうとする!」

 

 汚い大人たちや、打算的に寄ってくる者達を見てきた私は目の前にいるコイツを疑った。

 どうせコイツも同じだ。私の存在を口実に使うに決まっている。

 もしかすると私の事を知っていて、近づいたに違いない。

 でも、これだけ言っても男は引き下がらなかった。

 

「誰かを助けるのに、理由がいるかい?」

 

「あっ………うっぅぅ」

 

 真っ直ぐ、私の瞳を見つめてそう言った。

 純粋に私の事を、篠ノ之箒というたった一人に向けての言葉だった。

 だけど、それは此奴が私を知らないという過程での話だ。

 私の事を知ればもしくは知っていれば、人が変わった様に白い目で見てくる。

 でも、どうしてだろうか…………コイツの姿が一夏と重なって見えたのは、何故だ。

 

「ユーダイ、どうした。トラブルか?」

 

「なになに、どうかしたの?」

 

「トラブルのことなら、物事速攻鉄拳制裁の私に任せろ!」

 

「対処するトラブルはバイオレンスオンリーの時にだけにしてろ暴力担当」

 

「あとなんかすごい気配がその子からするんだけど」

 

 何やらゾロゾロと、ユーダイと呼ばれる男の後からやってくる。

 見るからに、この男や私と同い年の男女5人。

 

 

 

 これが、私とタコツボ小隊の初めての出会いだった。

 

 

 




追記:原作箒ちゃんが4年生の時に保護プログラムを適用されてますが、今回は原作よりも早く保護プログラムを適用された設定です。


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出会い(下)

前回までのあらすじ。


天災・「IS作ったった」

伯母・「転勤になった」

箒ちゃん・「不幸だ」

You Die!母・「娘として接します(善意100%)」

You Die!・「誰かを助けるのに理由がいるのかい?(善意100%)」

他タコツボ小隊員・「なになにどうした? (野次馬根性100%)」




 

 絶賛迷子になっている私は公園で泣いていたらユーダイと呼ばれる男を筆頭に他の男女5人に半場囲まれた状態で逃げ場がなくなり、何やら男が他5人に私が迷子であることを説明し始めた。

 こうなれば男を突き飛ばしてでも公園を出るべきだったと後悔した。

 

「迷子ってことは、町外から来たわけだよな。観光、転勤、物見遊山?」

 

「最初と最後だいたい一緒よ、シューヘイ。でも、観光や転勤で越してきても普通知らない町をいくら真昼間とはいえ子供一人で出歩かないでしょうに」

 

「ほら、よくある未知への探求とか。そういうの抱いた時期があっただろ」

 

「あぁ、あったあった。特に洞窟とか森さ、こえぇけど惹かれるよなぁ」

 

「時期って言えるほど年をとってないけどね、私たち」

 

 未だ名前すらも明かしていないのに、若干ふざけ合いながらも冷静に考察し始める。

 私はそれがとても違和感に思い、モヤモヤしていた。

 

「そーれーよーりーもっ! みんなにはこの子の親御さんを一緒に探すのを手伝ってほしいんだ」

 

「普通に交番とかつれて行けばいい話じゃね?」

 

「…………あ、それもそっか」

 

「後先考えねぇのはお前の悪い癖だな、ユーダイ」

 

「いいじゃない、タカシ。別に七不思議が襲ってきたり宇宙人が侵略してきたり校庭に隕石が落ちてきたりしたわけじゃないんだし。迷子なんて軽いもんじゃない」

 

「それに、こうやって無駄話をしている間にこの子の親御さんがきっと心配してると思うよ。最悪、誘拐と勘違いされるかもしれない」

 

「げっ、そうなると面倒だな。ヨッコの言う通りになる前にさっさと見つけねぇと。で、髪の長いお前。乗り掛かった舟だ、親御さん探すの手伝ってやるよ。それで、名前なんていうんだ?」

 

「名前知らないとは言えその呼び方はどうなのよハツミ。とりあえずアナタ、まずは名前を教えて。後は親御さんのケータイ番号か家の電話番号。交番に行けば電話くらい貸してくれるだろうし」

 

「待て待て! 私は別に助けてほしいなんて言っていない! この男といいお前達といい、どうして見ず知らずの私なんかの為にそこまでする! いい加減、迷惑だ!」

 

 訳が分からない。私の意思を無視して勝手に話が進んでいたかと思えば、一緒に探そうという話になっている。

 それにこの落ち着きよう、本当に同じ小学生なのかと疑ってしまう。

 

「あん、せっかく善意で助けてやろうってのに、なんだその言い草は。なら独りでお家に帰ることができるんですか迷子の迷子の小猫ちゃんよぉ?」

 

「やめろヒガサキ。どうやらこの子、訳ありっぽいぞ」

 

「でも町のことも知らない迷子を放っておくのも危ないし、下手に動き回られたら余計に話が拗れるかもしれん」

 

「アナタの事情はどうであれ、一人で帰れない、ましてやこの町に来たばかりなら、意地を張らない方がいいよ?」

 

「いらないと言っている。………いい加減に余計なお世話だと気づけ」

 

「おい、いい加減にここは黙って素直に従ってくれ。このままグダグダと続くと画面向こうの人たちから、「中身のねぇ会話すんな!」「尺稼ぎとは浅ましい屑ね」って貶される羽目になる」

 

 もうやだ帰りたい。助けて伯母さん。

 誰かを彷彿とさせるようなお節介焼きがいるわ、本当に小学生なのかと疑いたくなるくらい冷静で、姉さんとは別の意味で私に分からないようなことを言う5人組。

 イライラする、あぁぁ、イライラするっ!

 これだったら、まだ影で暴言や陰口を言われた方が楽だった。

 白い目で見られる方が、無視しやすかった。

 私がこうも苛立っているのに、此奴らは察しが悪いのか、全然いなくなってくれない。

 もう耐えられないとばかり、胸の奥の何かが爆発した。

 

 

 

「いい加減にしろ! 助けなど必要ないと何度言えば分かるんだ! なんだお前たちは、人の話しを聞かないバカなのか? 私が苛立っているのが分からないほど大馬鹿者なのか? それともなんだお前たちは、こっちが迷惑だと言っているのに困っているからと赤の他人を助けて自己満足する偽善者か? もうそんなのはたくさんだ!! 今迄のことで苛立っているのに、更に苛立たせるなこのバカどもが!」

 

 

 

 思わず、自分でもびっくりするくらい大声で、長文で、罵詈雑言を吐いた。

 完全に拒絶するように、これだけ怒鳴り散らしたのだからきっと無視してくれる。放っておいてくれる、そう思っていた。

 でも、

 

「…………大丈夫? はい、これハンカチ」

 

 お節介焼きの男から、タコと蛸壷が刷られたハンカチを手渡された。

 気づいていたら私は、また泣いていた。

 

「事情は分からないけど、キミがただ迷子だけじゃなくて、深刻な悩みを抱えてるのは分かった。でも、だからこそ見過ごせない。どこにいるのかも分からないどこかで泣いている子ならどうしようもないけど、今ここにいて、泣いているキミを見捨てるなんて出来ないよ」

 

「……どうして、どうして、そんなにお節介ななんだ、お前は………お前と私は―――」

 

「初対面だよ。それに、言ったじゃん。誰かを助けのに、理由がいるのかい?」

 

「……………………」

 

「話せるところまで話していいよ。それが辛いなら、何も話さなくていい。ただ交番まで連れて行ってほしいって言えば、それでいいから」

 

 優しく笑う此奴が、心底呆れてしまいそうになるくらいお人好しだった。

 まるで馬鹿みたいにお節介で、何の得もないのにいじめから守ってくれたアイツにそっくりで、重なってしまう…………思い出してしてしまう。

 また、取り戻したいと願ってしまう。

 元の生活を、あの日々を。

 だから、だから私は―――――――――――

 

 

 

「あぁぁっ、……ぁぁぁあっ…………うぁぁああああああああああっ!」

 

 

 

 ただ自分でも考えられないような大きくて情けない声を上げて、泣いた。

 

 

 

 

 

 

 情けなく泣いた後、私が誰なのか、この町に来たのかを説明した。

 最初、躊躇う思いがあった。

 きっと白い目で見られるかもしれない、人が変わった様に暴言や陰口を言うかもしれない、そんな恐れと不安が沸々と湧き上がった。

 でも、お節介焼きのあの言葉信じてみたくなった私は決心した。

 そして―――――――――――――――

 

「お前の姉ちゃん、バカだろ」

「うん、バカだ」

「稀に良くいる頭の良いバカだ」

「とりあえずバカね」

「控えめに言って……………うん、バカだね」

 

「み、みんな失礼だよ! 確かに、バカと天才は紙一重ってよく言うし」

 

 全員満場一致で出たセリフが、「お前の姉はバカだ」というセリフだった。

 なぜ頭のいい姉さんがバカ呼ばわりされるのか、不思議でならなかった

 

「いいか、よく考えてみろ。白騎士事件なんて起こしてまでISを印象付ける前、普通学会とかで論文発表するはずだ。企業勤めの公務員でもディベートするんだからよ、どう考えても白騎士事件の発端は論文発表が上手くいかず、おまけに周りから年下の小娘の幼稚な妄想と吐き捨てられたことが原因だろ十中八九」

 

「3DSで悪いんだけど、動画見つけたぜ。見ろ、この滅茶苦茶で下手っクソなディスカッション能力。コミュ障拗らせた中学生そのものじゃねぇか」

 

「なにこのへんちくりんで人を見下したような喋り方、痛々しくて見てられないわ。キャラづくりでもあれはないわ。うん、ない」

 

「しっかし、ほんと見てて痛々しいな。『この天災束さんが作った~』以降から嫌な予感はしてたんだが…………中二の後半か中三の初期か分からねぇけど年齢的に仕方ねぇわな。メーコなら「誰でも通る道よォ」とか言いうだろうけど、うん。ねぇわ」

 

「それに問題は国だよね。保護プログラムとは言うけど、毎日家に大人の人が押し寄せてくるんだもん。全然保護できてない。身体に危害が及ばないからって、精神的に追い詰められているのに」

 

「特にマスコミだよ。報道する自由はあっても、いくらなんでもあれはないよ! 篠ノ之さんたちにだって、人権とかあるのに」

 

「たくっ、白騎士事件以前に論文発表の時に現物持ってきてデモンストレーションすりゃよかったのに、あれじゃあ篠ノ之の姉ちゃんだけじゃなくて、家族に良い印象を持たれなくなるのが分からなかったのかよって、おい篠ノ之。呆然としてるけど大丈夫か?」

 

 思わず困惑してしまった。

 私が篠ノ之束の妹であることを明かしたにも関わらず、この6人は今までの人たちとも、今迄出会った小学生たちとの反応が違い過ぎている。

 みんな私に指を指して陰口や暴言を言って来るのに、姉さんとの繋がりを得ようと媚びを売ってくる訳でもなかった。

 

「ど、どうにも思わないのか? 私は、あの姉の妹なんだぞ? 他の大人や、私やお前達と同じ小学生や、いろんな人たちから―――――――」

 

「媚び売ってコネクション作ってISを手に入れようとか、他の奴らみたいに後ろ指を指して陰口言わないのか、そう思った? 別にどうでもいいわよ、そんなの」

 

「親がISやアナタ個人に殺されたとかそういうわけじゃないしね」

 

「まぁ、確かにISってどんなものなのか間近で見たり体験したりしたいけどさ、空を飛ぶにしても空の上でバトるってのも、宇宙人侵略で経験済み」

 

「むしろこっちに火種が飛ばないか若干心配」

 

「そん時は全小隊かき集めて大合戦だな!」

 

 真剣に、淡々に、達観的に、心配そうに、興奮気味にそう述べられた。

 違う。なんか、違う。もっとこう、考えていた反応とは斜め上どころか真上に投げたボールが途中でベクトル変換して斜め上に跳んで行くくらい違う。

 

「そういえば篠ノさんって、どこの学校に通うの?」

 

「う、梅の木川小学校という所だ………今年から4年生のクラスに」

 

「嘘、同い年だった!? 綺麗だし、雰囲気が少し大人っぽかったから5~6年生かと思った」

 

「俺たちと同じ学年かぁ。……一緒のクラスになれるといいねっ」

 

「~~~~~~っ………うん」

 

「でも、どうするユーダイ。迷子ならまだ良かったけど、これは流石に予想外」

 

「悪霊や宇宙人、キチガイ教師とはわけが違うからな」

 

「乗り掛かった舟とは言ったものの、相手は世界だぜ? リヴァイアサン相手に小船の上に立って素手で挑むようなもんだぞ」

 

「とりあえずムカイギやシンイチ、カシザワにぐっちゃん達に要相談するよ」

 

「むしろ小隊員全員で要相談でしょ」

 

「また大臣に会わなきゃならないって、シンイチとムカイギの二人が嘆くだろうな」

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 大臣って……まさかと思うが、お前たちは『せいふ』というところにいる人に苦情を言うつもりなのか!?」

 

 思わず聞き逃してしまいそうなとんでもないセリフに驚くしかなかった。

 すると6人は、何言ってんの当然でしょ?と声を揃えて応える。

 

「子供の不満なんか聞いちゃくれねぇかもしれねぇけどな、全員が全員、篠ノ之を切り捨てようとする奴らばかりじゃないかもしれない」

 

「何もせず救える可能性を捨てて、「あぁもうダメだ」って諦めたらダメだよ」

 

「諦めたら、そこで試合終了ですよ?」

 

「安西先生乙」

 

「規模は違うけど、前に公園のことで大臣の人に署名を届けて、聞き入れてもらえたことがあるから可能性は決して0じゃないから安心していいよ」

 

「そ、そうなの、か?」

 

 6人の言葉はとても信じられない事ばかりだった。

 でも、そこに嘘がないことは目を見ればわかる。

 よく見れば、彼らの目は幾多の苦難を乗り越えてきた歴戦の戦士の様な目をしている。

 もしかしたら…………もしかしたら、本当に。

 

「お前たちは…………いったいなんなんだ? それに、リーダーや小隊とか」

 

「俺は棚花周平。みんなからはシューヘイって呼ばれてる。美術工作が趣味だ」

 

「俺は葦田貴志。普通にタカシって呼んでいいよ。趣味はエレキとアコースティックギター」

 

「あたしは未来の作家・喜四なつめよ。よろしくね」

 

「私は日々崎初美!喧嘩のことなら任せとけ!」

 

「改めて、はじめましてかな。私は入江理与子といいます。えっと、一応除霊が得意かな。それで、そこにいる私たちの小隊リーダー」

 

「佐咲雄大だよ。よろしくね、篠ノ之さん! そして――――――――」

 

 

 

『俺 / 私 / アタシたち、タコツボ小隊!』

 

 

 

 本当に、元の生活が返ってくるのかもしれない。

 そんな淡い希望を抱く。

 

 

 そして今日この日、私はタコツボ小隊の一員となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談・『あだ名付けの儀』

 

 

「そういや篠ノ之のことなんて呼ぶ?」

 

「しのちゃん、ののちゃん、しののんとか?」

 

「な、なんだその気の抜けるような呼び名は」

 

「あれ、ダメだった?」

 

「箒よりも大概マシだと思ったんだけどなぁ」

 

「なぜ私の名前よりもマシだと思った」

 

「いやだって、箒ってあれだろ、掃除道具。子供に名付けるにしたって可哀想だろ」

 

「箒は掃除道具の意味もあるけど、民間信仰では『魂をかき集める』意味や『邪を払う』って意味があるからきっと篠ノ之さんのご両親はそういった意味合いで付けたんだと思うよ」

 

「そ、そういう意味だったのか!?」

 

「でも普通、そんな意味なんて大概の人は知らないだろ。名付けられた本人でさえ、名前でイジメられていたんじゃねぇかってくらい驚くほど気づいてなかったみたいだし」

 

「じゃあリーダー! ここはキミに決めた!」

 

「俺、ポケモンか何かなの!? でも、篠ノ之さん的にはあだ名とか迷惑じゃ」

 

「い、いや、迷惑ではないっ。…………ユーダイが呼びたければ、迷惑じゃ、ない」

 

『あっ(察し)』

 

「そお? う~~~ん、じゃあ……………しののの ほうきの最初と最後を取って、シキってのはどうかな?」

 

「なんか『死の線』とかが見えてそうな主人公の名前だな………」

 

「生きているなら神様だって殺せそう(小並感)」

 

「本人が剣道やってるし、わりかし行けそうと思えるのは何故だろう」

 

「それでどうかな、篠ノ之さん。シキって、よんでいい?」

 

「う、うむっ、勿論いいぞ!」

 

 こうして、篠ノ之箒は小隊内で『シキ』と呼ばれるようになった。

 

 

 

 

 

 

余談その2・『隊員たちにとっての衝撃の事実』

 

「忘れる所だったけどさ、シキが迷子ってこと、忘れてない?」

 

『あっ』

 

「いや、なんで迷子本人のシキが忘れてるのよ。とりあえず、交番に行きましょ。きっと親御さんも心配しているだろうし、というか早くしないとヤバイかも」

 

「そ、そうだね。えっとね、シキ。親御さんの電話番号は分かる? もしくはケータイの番号とか」

 

「すまない。引っ越してきたばかりで電話番号は覚えていないし、私も伯母もケータイを持たないんだ」

 

「おい、それってかなり拙くねぇか。それだと町ん中を駆け巡らなきゃならなくなるし、最悪夕刻を越えても帰れなくなるぞ」

 

「ちょっ、こっちは門限があるってのにそれはないだろっ!」

 

「かといって警察に預けるのも、まだ不安が残るし万が一」

 

「………迷惑をかけてすまない。私が分かっているのは、ユーダイと同じ佐咲という苗字だけなんだ。本当に申し訳ない」

 

…………………

………………

……………

…………

………

……

 

「なんだ、みんなして黙って。どうかしたのか?」

 

「ねぇ、シキ。その佐咲って人の家主って、広恵って人だったりしない」

 

「あ、あぁ、確かそんな名前だった。伯母の友人らしくて、厚意で居候させてもらうことになったんだ。なぜお前達が知っているんだ?」

 

『それユーダイのお母さんだから!』

 

「母さんが言ってた居候って、シキのことだったの!?」

 

「なんだと!?」

 

 あまりの偶然に、シキを含めタコツボ小隊全員があまりの真実に衝撃したのだった。

 

 




祝・箒ちゃんの小隊員とあだ名が確定。
ついでに、プロローグもこれにて終了します。
後は森のホモォの話やちょくちょく町内会報の話を混ぜようと思います。

感想や誤字脱字の報告、待ってます。


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森のホモォ。
新学期


前回までのあらすじ。

You Die!「みんな、シキの親御さんを探すの手伝ってほしい」

箒ちゃん「いらないと言っているだろ小僧!」

他タコツボ小隊員「任せとけ」

箒ちゃん「なんなんだお前たちは(ドン引き)」

『俺 / 私 / アタシたち、タコツボ小隊!』





 

 ユーダイ達との出会いをきっかけに、私の人生が少しだけ変わった気がした。

 

 いや、私の見方が変わっただけなのかもしれない。

 

 ISを作った姉の妹だということで大人たちや子供にまで嫌われて、父はいなくなり殆ど一家離散したも同然だった。

 

 自分は世界で一番、不幸な人間だとばかり思っていた。

 

 でも、不幸なのは皆同じだということが、この町に来てユーダイたちと出逢って……これから先、少しずつ学んでいくことになる。

 

 

 

 

 

 

 都立梅の木川小学校。

 私がこの町に来てから1週間が経つ。

 ユーダイ達の春休みが終わり、始業式と新入生の入学式の日が訪れる。

 そして…………今日は、私の登校日だ。

 私の初めての、梅の木川小学校での登校日。

 転勤先々で、こんなにもウキウキしたりするのは、初めてだった。

 

 

 家を出た私はユーダイに学校に案内されて学校に着くと、校庭に植えられている桜の木々が満開になって、とても綺麗だった。

 そして直ぐに見知った仲間と遭遇する。

 

「ユーダイ、シキ。おはよう」

 

「あ、シューヘイ。おはよう」

「おはよう、シューヘイ」

 

 同じタコツボ小隊の一員、シューヘイと出逢う。

 数日前にも出会ったのに、なんだか挨拶するのがとても新鮮に感じる。

 

「今日から4年生かー………なんだかなー」

 

「実感ないよね。でも、シキとみんな、同じクラスで良かったよ。ね、シキ」

 

「うむ。みんなと一緒のクラスになれて、よかった」

 

 同じ学校へ通うにしても、同じクラスになれるのか不安だった。

 他の小隊の者達と一緒という可能性があるのだろうが、まだユーダイ達以外での小隊員とリーダーたちとは出会って間もない、いや、ユーダイ達との親交もそこまで深くはないのだが、今はまだユーダイ達以外に慣れていない。

 でも、その不安は気鬱でよかった。

 

「……あ、そうだ。ちょっと二人に聞いてもらいたい事が」

 

「?」

「なんだ?」

 

「シキと出会う前にね、俺おばさんち行ったんだけど――――――――」

 

ヒィユーンッ ドゴォ!!

 

「なになに、何の話ィー!」

 

『ヒガサキ / ハツミ!!』

「ごふぅっ!? ヒガっちゃん、新学期早々フランス革命は………ま、まぁいいや。とにかくおばさんちに行ったときなんだけど…………」

 

……………

…………

………

……

 

『でっかい白いだいふく?』

 

「―――――に、虫みたいな足が生えたやつ」

 

「なにそのバケモノ」

 

 ユーダイは叔母さんの住む離島で、そんな珍妙な生物をみたらしい。

 本来なら、こんな話を聞けば()()()()は笑い話か冗談話かと思うだろうが。

 

「おまえのおばさんちって、ちっちゃい離島だっけ? そのへんなのいたら大騒ぎだろ。どんだけ大きいんだよ」

 

「縦横がすべり台くらいで……」

 

『でけぇ!!』

 

「ちょ、描いてよ。どんな奴?」

 

「えー………説明したとおりだよ。えっとね………………こんな」

 

「ほんとにだいふくみたいな生物だな。ホントにこんな生物が日本にいたのか」

 

 ノートを覗き込むと、そこにはユーダイの言う通り、四本足の虫の様なだいふくモドキが描かれていた。それよりも………若干可愛いな。

 その時、ナツメが間に入り、ノートを見て。

 

「それニホンホモクレヒトモドキじゃない!?」

 

「うおっ、ビックリした。ナッちゃん、おはよう」

 

「知っているのか、雷電!」

 

「誰が雷電だ。この顔は……………うんまぁ、知っているというか、そんなでかいのは聞いたことはないけど」

 

「そもそも、これは生物なのか?」

 

「なんかよくわかってないみたいよ。一説には妖怪じゃないかとか」

 

『マジでか………』

 

 妖怪。…………妖怪とは、あの妖怪か。

 転校日までの一週間で様々な異形や目にしなかったものを見せられてきたうちの一つの、あれか。いや、あれとこれを妖怪として比べていいのか迷うな。

 

「ニホンホモクレヒトモドキ。俗称は「ホモォ」。近年急激に個体数と生息域を拡大してる生き物よ。人に被害が出るケースも増えてきてて、ちょいちょいニュースになってるわね」

 

「えっ」

「ニュースになってんのか」

「人襲うの!?」

「この見た目でか………」

 

「どこまで説明したらいいやら。んー」

 

 ナツメは悩んでいるが、被害が出ているなら詳細を知るべきではないだろうか。

 

「なんだ、何の話だ?」

「どうしたの?」

 

「タカシ、ヨッコ」

 

「!………ちょうどいいわ。タカシとシューヘイ。抱き合いなさい」パンッ

 

『いきなり何言ってんだ!? あとその手は何だよ!?』

 

「いやいやいや、絶対にやだよきもちわりぃ!」

「はなせバカ!」

 

「だってそのほうがてっとり早いんだもん。それにあたしだって見たかないわよ! ハツミ、ユーダイ、手伝って!」

 

「アイサー!」

「あ、うん」

 

「いや、良いのか? 本人たちは嫌がっているみたいだし、そこまでする必要は」

 

「実物見なきゃ分かんねぇし、シキだって見たいだろ?」

 

「まぁ、そうだな」

 

 見てみたい気はしなくもない。とりあえずシューヘイ、タカシ、すまん。

 

「てめぇ、ユーダイ! 裏切者!」

 

「ごめん協力して!」

 

「早くしろよ、見てるこっちも拷問なんだから」

 

「なら手伝ってんじゃねぇ!」

 

 ハツミとユーダイが二人を必死にくっ付けさせようとする。

 ふむ、こんなことをして意味があるのだろうか。

 

『ギャ――――――ッ!!!!』

 

「よしこれで…………」

 

「………ねぇ、ナッちゃん、シキちゃん」

 

「どうした、ヨッコ」

 

「ホモォってこれかな」

 

《ホモォ………》

 

「そっこー釣れたわね」

 

 ヨッコの呼びかけに振り返ると、そこには三つの白いだいふくみたいな物体がいた。

 ユーダイが言っていたこととノートに書かれたものと特徴が一致している。

 

「あ、それだ! 森であっただいふく…………でもそれはちっちゃいね」

 

「んー………これが標準だと思うわよ」

 

「ほんとだいふくみてぇ。ホモォってやっぱりそういう意味?」

 

 どういう意味だ?

 ホモォと言っているこの生物(?)は…………分からん。

 

「そういう意味よ。あんたよくなんにもなかったわね」

 

《ホモォ………》《ショタァ………》

 

「森のやつ、そんな鳴き方してたかな…………」

 

 妖怪や幽霊、宇宙人といった昔テレビや雑誌で議論されていたもの見せられてきたが、今度はホモォという生物とは……………。

 この町に来てから今までの常識が、全部崩れていく。

 ユーダイ達や他の小隊員たちもそうだが、この町はどうなっているんだ。

 

《ホモォ……》《ショタァ……》

 

 などと思っていると、何やらホモォがじりじりと倒れているシューヘイとタカシにじりじりと近づいている。

 

「む、待てこれ。――――――――――――。」

 

《!!》

 

 いま、ナツメは何を言ったんだ?

 するとホモォたちが、何やら驚いたように逃げ出していく。

 

「あ、逃げた………」

 

「つまりね。本人たちが嫌がろうがBLっぽい場面があると湧いて出てくるのがホモォなの。被害ってのは精神的な苦痛のこと。言われるのイヤでしょ?」

 

「あー………」

 

「すまない。びーえるというのは、何かの略語なのか?」

 

「あー…、そういえばシキはそういうのに疎そうだもんね」

 

「Bad Loveの略語よ」

 

「間違ってるけど間違ってないのが困る」

 

 ダメな、愛? 愛にダメなものは、一方的すぎることか?

 いや、それでもシューヘイやタカシの二人が嫌々ながら抱き合ったのも、ナツメの言葉に繋がらない。

 ダメな愛、ダメな愛…………タカシとシューヘイ…………男同士………愛し合う……………!?

 

「~~~~~っ、不潔だ!!」

 

「凄い、今迄のセリフを統合してよく答えに辿り着いたわね」

 

「お、男同士でそんな………いや、歌舞伎が盛んだった時代では、男同士のそういうことはあったが、とりあえず不潔だ!不潔不潔不潔!」

 

「まぁまぁ、とりあえず落ち着いて。それにしてもナッちゃん、詳しい」

 

「お姉ちゃんに教えてもらったのよ………」

 

「あー、高校生の…………」

 

「ねぇねぇ、ショタってなに?」

 

「正太郎の略」

 

「金田ァァアアアアアアアアア!!」

 

「That’s Mr.Kaneda to you punk!」

 

「誰だそいつは」

 

 私にも分かるように説明してほしい。

 こういった突然のボケに、私はまだ対応できないんだ。

 ユーダイから色々と漫画を借りたりしているが、全くついて行けん。

 

「てか、今何を言ったの?すごい勢いで逃げてったけど」

 

「内容言えないけど、お姉ちゃん仕込みの精神攻撃(わるぐち)

 

「お姉さん…………」

 

「目には目を不快感には不快感を、らしいわよ」

 

「うーん、それもそれでやだなぁ。後味悪くね」

 

 確かに、悪口は言われるのも言うのも後味が悪い。

 ……………いかんいかん、私はユーダイ達を信じると決めたんだ。

 それにもう、過去のことだ。

 

「よかったなユーダイ。バケモノの正体がわかって。俺たちの尊い犠牲の元で」

 

「トラウマにならなくてよかったな薄情者」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

(やばっ (殺気っ!!))

 

  ドカッバキッ!!  ╲╲ギャァアアアアアアッ╱╱

 

「でもナッちゃん、ニュースになってるわりには………」

 

「そうそうあんなの初めて見たよ!」

 

「そりゃそうよ。教育上ヒッジョーによろしくないから、大人たちが必死に隠してるのよ。学校とか特に念入りにホモォよけされてるし」

 

「今いたんだけど」

 

「まぁ3匹も出てくるとは思わなかったわ。それだけ数が増えてるってことかしらね。あ、さっき大人たちが隠してるって言ったけど、インパクトが薄いってのもあるわ」

 

「インパクトが薄い?…………まさか、姉さんのことか?」

 

「うん。シキのお姉さん、篠ノ之束が起こした白騎士事件。あれでホモォなんかよりもそっちに目が行っちゃってる説もあるのよ。これもお姉ちゃんの考察だけど」

 

 なるほど、道理でホモォという存在を聞かない訳だ。

 しかし、実害が出ているとなるとISよりもホモォにも目を向けるべきでは。

 

「あれ? 皆早いのね。おはよう」

 

『!』

 

 すると出入り口の方からこの場に居ない女性の声がした。

 一斉に出入り口の方へと目を向けると、若い女の先生がいた。

 

「せんせー、おはよー!」

 

「あのなせんせー、ホモォが出た!」

 

「!?」

 

「初めて見た!」

 

「あ、でもナッちゃんがおいはらったよ」

 

「ちょっ、ちょっと待って!ホモォ!? どうして貴方達知ってるの!?」

 

「今見た!」

 

「ここで!?」

 

「うん」

 

「大丈夫!? その………何にも言われてない?」

 

 すると先生は私たちの目線と合わせるように屈んで心配する。

 

「うん。ホモォにはなんにも」

 

「には?」

 

「覚えてろナッちゃん」

 

「何のことやら」

 

「……………あのね。次会ったら耳を塞いで全力で逃げてね。何も聞いちゃダメよ。何も言われても考えちゃダメ。わかった?」

 

「は………はい」

 

「あ、それと篠ノ之さん。教科書類と体操服を渡したいから、お友達とお話が終わったら来てくれるかしら」

 

「………あ、はい。分かりました」

 

「それにしても、安心した。複雑な家庭事情を抱えていて、難しい子だって言われていたけれど………ちゃんとお友達が出来たみたいで安心したわ。篠ノ之さん、まだ私たち()()()()には慣れないでしょうけど、困ったことがあれば気軽に相談しにきてね」

 

 何となく、この先生には私がまだ大人を信用していないことがバレている。

 この人は他の大人たちとは違う気がするけど………やっぱりまだダメだ。

 

「……………はい。お気遣い、ありがとうございます」

 

「うん。じゃあ後でね。………そ、それはそうと、機械のチェックしなきゃっ!」

 

 先生は大急ぎで教室を出て走って行った。

 機械のチェックと言っていたが、確か、ホモォ避けの機械があるとナツミが言っていたな。

 

「………先生、マジ慌ててたな」

 

「言ったでしょ、大人が隠してくれてるのよ。私だってユーダイが見たことあるって言わなきゃ誘き寄せないわよ。ねぇ、ユーダイ。ほんとに何も言われてないわけ?」

 

「というか殆ど喋らなかったんだよなぁ………鳴いてもなかったし。たまーにぽつぽつ独り言は言っていたけど」

 

「独り言?」

 

「そう。でも、意味わかんなくて確か最初に会った時――――――――――」

 

 

 

 

 

「パキケファロサウルスの化石×夕暮れの教室……………って」

 

 

 

 

 

………………

……………

…………

………

……

 

 

 審議拒否。

『日本語でおk』

 

 

 審議挑戦。

「何なのだ、これは! どうすればいいのだ!?」

「そもそもなぜ人じゃないんだ」

「教室に化石があって」

 

「おーい、シキー、みんなー………みんな真面目だなぁ」

 

 ユーダイ以外の全員で、謎のカップリングについて考察する私たちだった。

 

 

 

 

 

 

春休みがあけて、4年生になった私たち。

 

その時まだ知る由もなかった。

 

夏休みの離島であのような事件に巻き込まれることになるとは………………

 

 

 




森のホモォ編、は~じま~るよ~。
原作の部分をちょいちょい弄ってます。
誤字脱字、おかしなところ、感想などよろしくお願いします。


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悪の定義

前回までのあらすじ。

箒ちゃん「新学期ウキウキ」

You Die!「縦横すべり台くらいの白いだいふくを離島で見た」

一同「でけぇ!」

作家「それニホンホモクレヒトモドキじゃない?」

You Die!「あとなんかパキケファロサウルスの化石×夕暮れの教室って言ってた」

一同「日本語でおk」




 

 

 

 

「よぉユーダイ、久しぶりだな。それにそっちはなつめが言っていた篠ノ之束の妹か」

 

 西暦2×××年、日本………の都内某所の住宅街。

 学校でホモォを目撃した翌日の放課後、箒改めシキとユーダイはナツメの姉に話を聞きに来ていた。

 

「(ナツメたちの話を聞いて、どういう人なのかと思ってはいたが………濃ゆいな。雰囲気もそうだが、…………化粧が)え、えっと……篠ノ之箒といいます」

 

「ご丁寧に。喜四かずら、だ。そうビビる事はねぇよ。別に政府に売り渡そうだとか、テメェのせいで一家離散しただとか、お前自身に理不尽な難癖をつけるわけじゃねぇからな。まぁ入んな」

 

「お時間とらせてすいません。お邪魔します」

 

「えっと……お邪魔します。」

 

「なんだ畏まって、ガキのくせに」

 

「あのこれ、母さんが渡してっておみやげ。めんたいばな奈夕張の恋人」

 

「あ、私からも。薄紅金萬さなづら荻の月」

 

「博多なのか東京なのか北海道なのか釈然としねーな。で、そっちは青森と秋田と宮城か。ま、いいか。ありがとな」

 

 お土産を渡した後、二人は家に上がり、ナツメの姉かずらの後を追う様に案内されたリビングへと向かった。

 

「座って待ってろ。ジュースでいいか?」

 

『おかまいなく』

 

 そう言って、ソファーに座っているユーダイの隣にシキは座る。

 

「にしても、ユーダイ。今回は随分と面倒な案件に手出したな。篠ノ之束の妹となりゃ、相手は国家、世界を相手にするようなもんだ。なつめから聞いたが、政府に物申しに行くって? お前らガキが手を出せる様なものじゃないんだぞ」

 

「子供だから大人だからって言われて、ホントは助けてほしいのに自分たちに向けられている悪意を無理やり納得して救われる可能性を切り捨てるのが賢明な判断なんて、それは怠慢だよお姉さん」

 

「確かに怠慢だ。でもな、正論を言って「はいそうですか」と納得しねぇ大人だっているんだ。ISというたった一つだけで国家の勢力図を変えるものを作れる唯一の存在の妹を、みすみす道具として使わないと思ってんのか?」

 

「でも、それは大人の都合だよ! シキは泣いてたんだ。苦しんでいたんだ。家族がバラバラになって、いろんなところを転勤する羽目になって、いろんな人たちから嫌われて、監視される生活を送ることになって…………そんなの、大人の都合ばかり押し付けられているシキや伯母さんが一番不幸じゃないか!大人だからとか子供だからとか、そんなの関係ない。事件の当事者でも、ISの製作者でもないシキ本人が辛い思いをしているこの事実を、目を向けてほしいんだ」

 

「…………ユーダイ」

 

 誰もがシキや伯母のことを目にかけようとはしない。

 全部篠ノ之束という一個人のことしか考えていないのだ。

 保護プログラムだとか篠ノ之束の親族だから守らなければとか、体のいい口実だけを並べても、本人達にとって迷惑しかならなかった。

 政府、マスメディアといった者達が家に押し寄せてきて、四六時中生活を監視され続け、挙句の果てには一般人、主に男性からは白い目で見られることもあったし、どう考えても篠ノ之束個人が起こした白騎士事件というマッチポンプのせいだというのに、まるで親の敵ばかりと言わんばかりに責められ続けてきた。

 結局誰が悪いの、この際どうでもいい。

 発端が篠ノ之束しろ、シキたちを蔑ろにする政府やマスメディアにしろ。

 問題はまだ幼いシキが、辛い思いをしてきたということだ。

 

「代替案もないのにどうするつもりなんだよ」

 

「大丈夫。案ならもうとっくに出来てるよ。なかったら大臣に物申しになんて行こうとは思わない」

 

「…………それで、その案とはなんなんだ、ユーダイ?」

 

「簡単だよ、憲法を利用するんだ」

 

「憲法、を?………つまり、どういうことだ?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」an explanation not found

 

「おい」

 

 小隊リーダーの癖に説明が下手であることがユーダイの致命的な欠点だった。

 本当に大丈夫なんだろうな、とシキは不安を持つが、すると、かずらが何かを思いついたように身を乗り出してきた。

 

「なるほど、人権蹂躙か」

 

「人権蹂躙?」

 

「国家権力、特に「公権力」を行使する行政主体が憲法の保障する基本的人権を犯すことだ。分かりやすく言うなら顔役、ボス、雇主、マスゴミなどが、弱い立場にある人間の人権を違法に侵犯する行為だよ」

 

「そう、それ! お姉さんの言う人権蹂躙を利用すれば、マスメディアや監視からの負担も減ると思うんだ」

 

「ま、当面の間はな。だが保護プログラムはどうする? 護衛や監視まで取っ払って貰えるほど、篠ノ之束の影響力は小さくねぇぞ」

 

「それも大丈夫。ポーラー小隊のダンやサチが、「ジジィからの許可が出た。いつでも組を動かせる」「おばあちゃんに頼んだから大丈夫」って言ってたし、少し遠出したり町にいる分には護衛や監視はいらなくなるよ」

 

「…………はぁ、ったく。お前らのコネクションはどうなってんだよ」

 

「ま、待ってくれユーダイ! まだ私はどういう状況なのか理解できていないんだ。えっと………………つまり、どういうことなのだ?」

 

「どうにかなるかもしれねぇ、ってことだ。まぁ、あくまで案が通ればの話だが」

 

「大丈夫だよ。『あの』ぐっちゃんやカラスマが「大丈夫だ、問題ない」って言ってたし」

 

「そいつらをどこまで信用しているか知らねぇけど、そのセリフで不安になってきたぞ」

 

 だが、間違いなく現状はマシになるだろう。

 しかし、あくまでそれが『マシ』という程度で、元の暮らしが戻ってくる訳じゃない。

 期間を置いて政府やマスメディアが面会を求めてくるだろうし、周りがシキに突然心変わりしたように優しく接するわけではない。

 ユーダイたちが出来るのは、あくまで一時的な処置なのだ。

 

「………つまり私は、普通の生活を送れるのだな?」

 

「シキの基準がどうなのか分からないけど、今迄より比較的マシな生活は送れると思う。でも、証拠が必要だから当分家に大人たちが押し寄せてくることになるけど、それまで我慢って、シキ!? なんで泣いてるの!?」

 

「………ありがとうっ、ユーダイ。ホントに、ありがとうっ」

 

「でも、まだ案が通ったわけじゃないし」

 

「それでも、ありがとうっ」

 

 結果も大事だが、過程も大事だ。

 どんな結果が訪れるのか不安はあるがシキに、篠ノ之箒にとってユーダイの言葉は何よりも救いだった。

 今まで誰も手を差しのべてくれなかった。

 篠ノ之束の妹だからと、誰も自分の想いを汲取ろうとせず見離されてきた。

 

 

 

 悪は何故生まれると思う?

 誰かが決めたから善ではない。どこかに書いてあるから悪ではない。

 悪というのは、誰かが誰かを見捨てた時に発生する。

 こいつはもうダメだと周囲から諦められ、救う道を目の前で取り上げられたときに。

 大勢から切り離された誰かが悪ということになってしまう。

 歴史を紐解けば分かる事だ。

 例えば。一人を殺した殺人犯と百万人殺した英雄の違いはなんだ?

 本人の問題じゃない。

 その行為そのものが大勢に認められた否か、多数決の違いでしかない。

 

 

 

 故に篠ノ之箒は見捨てられてきた。幼い彼女はそれを対処する手段を知らなかった。

 篠ノ之束の妹だからということで、女尊男卑の原因となった姉の妹だからという理由なだけで『悪』に仕立て上げられてしまった。

 追い詰めて、やがて自分は救われがたい人間だと思う様になるほど追い詰めて、溝に落ちた薄汚い野良犬を『善良なる市民』が一斉に袋叩きにするかのように責め続ける。

 

 

 そんな過酷な生活を送ってきた少女にとってユーダイは光だった。

 事情を顧みず、媚びを売る訳でも無く、ただ純粋に助けたいという想いで「キミのせいじゃない」「キミは悪くない」と言って手を差しのべてくれた。

 ユーダイは、シキにとっての光。もう一度、自分を奮い立たせてくれる光なのだ。

 

「…………ありがとうっ、ユーダイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれくらい泣いたのか分からないが、かずらから渡されたタオルがぐっしょりするほど長い時間、泣いていたようだ。

 

(………私、最近泣いてばかりだな)

 

「シキ、もう大丈夫?」

 

「あぁもう大丈夫だ。かずらさん、タオルありがとうございます。こんなに濡らしちゃって」

 

「気にするな。…………まったく、大人どもはこんな風に泣いてまで苦しんでいるようなガキを甚振るのを許容していたんだよ。大人ってのは、未来ある子供の見本となるべき存在だろうが。悪い意味での見本になってどうする。」

 

 そう言って不機嫌そうに口に咥えていた飴を嚙み砕く。

 ネットの情報でしか知りえないかずらはシキの様子や事情を顧みて大人、主に政府への評価がさらに下がったのは言うまでもない。

 

「まぁ、なんにせよだ。案があるならいいがユーダイ。やるからには責任持ってそいつを守ってやれよ。私は兎も角お前やなつめ達はそいつと同い年で一番近くにいるんだからな」

 

「うん、わかってる」

 

「それと篠ノ之、お前も守られているばかりのつもりでいるなよ。この先、お前が高校に入る頃には他の連中は別の高校行ってバラバラになってる。そん時までとは言わねぇが、ユーダイ達以外でちゃんと自分を理解してくれる仲間を作っていけ」

 

「…………はい」

 

 かずらのアドバイスをシキは素直に聞き入れる。

 かずらの言う通りユーダイ達とは中学まで一緒だろうが、この先、特に高校は一緒だとは限らない。みんな自分の進路があり、シキの都合でそれを捻じ曲げることはできないから、必然的にも自分の力、言葉で、行動で仲間を増やしていくしかない。

 

(口下手な自分にそんな事が出来るのか……いや、そんなのはただの甘えだ。ここまでされているのに、自分の力で出来ることを放棄してしまうのは怠慢だ。そう学んだだろ、私!)

 

 内心自分に喝を入れて、覚悟を決めることにした。

 

「さて、話は重っ苦しい話は終わりだが……………なんか忘れてるな」

 

「………………なんだっけ?」

 

「………………確か、ホモォについて聞きに来たのではなかったのか?」

 

『あっ』

 

 シキの話題で忘れてしまっていたが、本題はホモォの話を思い出す一同だった。

 

 




※小学生と高校生の会話です。
なんかD×D書くよりもこっち書いている方が楽しくなってきた。


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ホモォ史♂

 前回までのあらすじ。

作家姉「面倒な案件に手ェ出したな。お前らがどうこう出来る問題じゃねぇ」

You Die!「それでも、守りたい人がいるんだ!」

箒ちゃん「………ユーダイ」

作家姉「んで、代替案は?」

You Die!「私に良い考えがある!」

箒ちゃん「………そういえば、何か忘れているような」




 

 

 

 

 シキの話から大幅にズレたので軌道修正し、ホモォへの話へと入る。

 

「………さて、ホモォか。なつめからも聞いただろうがやつらの話は篠ノ之と同義でガキにゃ別の意味で毒だぞ」

 

「……でもお姉さんはナッちゃんにホモォのやっつけ方を教えてる。大人たちが隠してるのに」

 

「本当はあいつも知らなくていーんだよ。それに教えてたのやっつけ方じゃなく、追っ払い方だからな」

 

「………お姉さんはナッちゃんに意味なく危ないこと教えないから自分たちでなんとかできるように教えたんですよね?」

 

「………まぁ、な。いくら大人が隠したって篠ノ之と同様で関わっちまったらどうしようもねーし。自衛できるに越したことはねぇ。一切何も教えないのは逆に危険だろうが」

 

 かずらはユーダイの言葉に困り顔でソファに腰を降ろした。

 出会った以上、国などから個人に対して救済措置が行えるわけではないため自衛を覚えるしかない。現状ホモォはそれほど危険なのだから。

 

「なにからなにまで話す気はねぇが、トラウマになってからじゃ遅いんだよ。それで? 何が知りたい?」

 

「お姉さんが話せる範囲で……ホモォのこと。最近の大量発生のこととか。俺やシキは殆ど何にも知らないから基本的なことだけでも」

 

「お願いします」

 

「………ふむ、いいだろ。おこさま仕様で出来るだけ詳しく教えたらぁ。SAN値減っても知らねぇぞ?」

 

「…………SAN値とは」

 

「正気度のこと」

 

 

…………………

………………

……………

…………

………

……

〈第一回 かずらのよくわかる日本史♂〉

 

「………さてそもそもホモォ………和名ニホンホモクレヒトモドキは大量発生と被害拡大こそここ1~2年と最近のことだが、存在自体は大昔からだ。確実なとこだと平安時代か『竹取物語』がその頃だったな」

 

『輝夜姫の時代から!?』

 

「もっと前からかもしれねーけどな。………まぁ、その………最古の物語の二次創作も当然ある訳だがつまり…………えーと………おこさま仕様も存外難しいな。もしも画面向こうの野郎共もこれ見てたら各自脳内補完すること」

 

『?』

 

「ホモォニついての最古の文献が平安前期のもんだってだけで二次に限らなきゃおそらくもっと前からいる」

 

「なにそれこわい」

 

「まさか、恐竜のいた時代からではあるまいな」

 

「それ、どこのミ〇オンズ。…………ん? 「二次」に限らない?」

 

「ホモォはあんなナリだが知能は人並み………あるいはそれ以上だ。言葉も通じる。当然好き嫌いもある…………『ジャンル』だとでも言っとくか。何に反応を示すか個体差が激しい」

 

 かずらの説明に二人は一昨日の出来事を思い浮かべる。

 ホモォ、ショタァとだけしか言ってなかったが、ナツメが何かを言ったのを理解できたあたり知能は確かに高いと見て間違いない。

 

「だいたいがホモォっつってるけど別に男同士に限らんからなあいつら。だから物語にだけ群がる訳じゃねーんだ」

 

「ふうん……俺がトマト好きでセロリ嫌いなのと同じかな」

 

「どんな例えだ」

 

「おう、まさにソレ。ジャンルに群がるのが奴らにとっての食事なンだよ」

 

『!?』

 

「奴ら頭ン中で栄養作れるからな。植物の光合成みてぇなもんだ。奴らは妄想で生きてる」

 

 突然の新事実に驚きを隠せない。

 頭の中で栄養を作る、それは生物を超越した何かではないのか。

 いや、幽霊や怪異が人の生命エネルギー、恐れの感情を糧としていると同じと考えれば趣旨は違えどホモォも幽霊・怪異と同じ存在ということだ。

 

「アニメ、漫画………学校とか職場だのにわらわら集まるのは生きていくためなんだ」

 

「そうなんだよ。だからなユーダイ。正直信じられねェ。脳内でネタを生み出せる個体もいるにはいるが、それだって限界がある。だから奴らの生息分布はヒトの生活圏と一致する。何もねぇ孤島のしかも森の奥じゃ生きていけねぇはずなんだ」

 

 ユーダイが言っていた、離島でホモォを見たのは何かの間違いではないのか。

 かずらはどうもユーダイの話が信じられず、疑っている。

 

「……まぁ、それは一旦置いとこう。どっちみちじっくり話聞かなきゃならねぇからな。悪ィな脱線した。先にざっと説明終わらすわ」

 

「………うん」

 

「とにかくそんだけ大昔からホモォは人間と関わりが深い。だけど奴らは長いこと人と接触するのを避けてきた」

 

「えっ、そうなの?」

 

「でも……それでは一昨日のホモォはいったい」

 

「元々そういう性質なんだ。あまりにも目撃例が無かったんで表の記録が極端に少ねぇし、妖怪の一匹として数えられたこともある。だから昔は害でもなんでもなかったんだあいつらは…………だが、近年だ!」

 

 ガリッと、再び飴を嚙み砕くかずらの様子は急に不機嫌に変わった。

 

「原因はいろいろある。ネットが普及して情報社会になったのが一番の要因かもな。ネットユーザーの低年齢層化……マスゴミの不用意なサブカルの持ち上げ……大量に流れ込んでくるにわか共。結果起こった『モラルの低下』。奇妙なことにそれと比例してホモォによる被害が増えだしている」

 

 握手会。マジコン。未成年課金。アフィリエイト。ようつべ。まとめサイト系。サブカル系。撮り鉄。BL。ニコニコ。ソーシャルゲーム。ゆるキャラ。オタク系女子。SNS等等、上げるだけでもキリがない。

 

「さぶ、かる?」

「もらる………?」

 

「あー、それがおこさまの限界だわな。いい、なんとなく雰囲気で聴いとけ。ぼんやりとわかればよし」

 

「んー………わかった。でもお姉さん、やたら詳しい。お姉さん、オタクでしたっけ?」

 

「ちげーよこっちも似たような被害にあってんだよ!最近じゃ服買いに行きゃあギャルファッションにブランド物で固めた化粧バッチリの小中学生に出くわすわ、親の金で大人ぶりやがって!野放しにしてる親も親だ!果ては小学生が援助交際!?バカじゃねぇのか一様にマナーも悪いしよォ!義務教育終わってから出直して来い!あと、援交は犯罪です!」

 

「俺達に言われても……」

 

「あの、こう言っては失礼ですが、かずらさんって見かけによらず常識人ですね」

 

 濃い目の化粧に派手な私服とは反比例して性格は、常識人その者。

 この町にいる者達は何かしら見た目か中身がどちらかに偏っているのではないのだろうかと常々思うシキであった。

 

「はぁ………まぁ畑違えど似たようなもんだ。最近はどっちも酷過ぎる。私が詳しいのは理由あるけど、その話はあとでな。いいか、重要なのは被害こそ増えたが「大量発生したわけじゃない」ってことだ」

 

「え?」

 

「勿論、数は増えてるだろう。昔よりもエサが豊富だからな。………だが増えたのは総数よりむしろ『住み分けの出来ない個体』だ。平気で人前に姿を現す奴らが爆発的に増えたんだ」

 

「それでも全体の何割か、ですよね」

 

「そうだな。でも、脅威には違いねぇ」

 

「……じゃあ危ないのは一部のホモォだけ」

 

「そう、後の奴らは今まで通り隠れてる。ただ、そいつがどういうホモォで、どんなジャンルを主食とする奴なのか………無害なのかどうなのか、ぱっと見じゃ判断できねぇ。お互い意図せず出くわすこともあるだろう。出会ったら速攻逃げる。それを徹底するこったな」

 

『………』

 

「………………とりあえずコレが、一般ピーポォのおこさまに喋ったらギリギリアウトなレベルのホモォ史だな!」

 

『アウトだったの!?』

 

「これでも精一杯ボカしたぜ? 言ったろ、ジャンル内容まで喋ると篠ノ之の事情と同様に別の意味でブラックだって。その代り今ので大体は分かったろ?」

 

「ま、まぁ………」

 

「んじゃなんか質問あるか? ねぇならお前の番だ。でけぇホモォの話、聞かせやがれ」

 

「質問は、大丈夫。子供はあまり深入りできなさそうだし………なんでお姉さんが詳しいのか聞きたいです。縁無さそうなのに」

 

「……………そうだな。私がなんで詳しいか。………当人じゃねーけど被害者だからな」

 

『…………え』

 

「いっつも………ツルんでたダチが居たんだけどよ」

 

 

 

 

 

 

『タツ! ケイゴ!!』

 

『ちょっとどうしたの二人とも!?』

 

 ダチと呼ぶ者達から救援の連絡が入り、そこへ向かえばホモォに埋もれた3人組をかずらたちは目の当たりにしたのだ。

 

『み、皆ぁ……オレじゃ、無理だ……あいつらを、たす……け、て』

 

『トモヤァアアアアア!!』

 

『ちょっ、埋もれてる! ヤバいよコレ!』

 

『タツ!ケイゴ!気をしっかり持てー!』

 

 

 

 

 

 

「…………自分たちの妄想を延々と聞かされたアイツらは男性恐怖症になって…………もうかれこれ3か月あのメンツで遊んでねぇ………どうしてくれんだ、小学校からの親友なんだぞ…………ぐすっ」

 

 

(『た、他人事と思えない』)

 

 気の強いかずらがさめざめと泣いている姿には流石に同情を禁じ得なかった。

 もしかしたらあの時、自分もホモォに襲われていたかもしれないと思うとゾッとする。

 

「ぬぉぉおおおおおおおお! だから私は二度とあの悲劇がおきないように!男子共に笑顔が戻る日まで!戦い続けると誓ったんだチクショウめ!」

 

「ただいまーお姉ちゃん。………何してんの?」

 

「あ、ナツメ。お邪魔している」

「ナッちゃん、お邪魔してます」

 

「あら二人とも、いらっしゃい」

 

「なつめェ!てめー、ダチのこたァ死んでも守れよマジでッ!」

 

「いや言われなくても分かってるけど、なに泣いてるのよ」

 

「あの……それで森であったやつのこと………」

 

「そうだ話せユーダイ!事と次第によっちゃ私がシバきに行くぞ!」

 

「そ、それはやめて!」

 

 ――――――そのあと、かずらが落ち着く(物理)まで30分かかりましたとさ。

 決め手はナツメのボディブローからの浴槽に溜めた冷水にツッ込んだことだろう。

 

 

 

 

 

 その頃のみんなは。

 

「これよりナッちゃんへの復讐会議を始める!」

 

「応!!」

 

「正面からじゃ勝てねぇ。まずは不意をついて」

 

「いやまて、後ろ蹴りを食らわした後に横から」

 

 

「ホモォよけに私らいるのはいいけど、後でナッちゃんに筒抜けになるの気づいてねーなこいつら」

 

「よっぽどショックだったのね」

 

 特に問題は無い様子だった。

 

 




 
 感想や誤字脱字など報告、よろしくお願いしますっ!


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巨大ホモォとの出会い

前回までのあらすじ。

作家姉「さてホモォの話だな。お前ら、SAN値の貯蔵は十分か?」

箒ちゃん「SAN値って?」

You Die!「あぁ!(遊戯王並感)」

作家姉「結論、ホモォみたら速攻で逃げろ。あとYou Die!。お前が言ってたホモォについて話せ。事と次第によっちゃシバきに行く」

You Die!「やめてあげてよ!」




 

 

 

 

「ごめん二人とも。もう大丈夫よ。お姉ちゃん、冷水にツッ込んできたから」

 

「えっ、だ、大丈夫なのそれ………」

 

「頭冷やしてるだけよ、大丈夫」

 

「いや、頭を冷やすにしたって………」

 

「風邪ひかないかな」

 

「まぁ今日は暖かいし平気じゃない?」

 

 ボディブローを叩き込んだついでに浴槽にぶち込んだあれを、頭を冷やすにしては過剰ではないのだろうか、と疑問に思ってしまうシキだった。

 

「お姉さんのあの怒りよう………よっぽど心配してるんだね友達のこと……」

 

「んー………幼馴染だからねー。男性恐怖症になる別にお姉ちゃんは逢えるんじゃないのって思うんだけど。6人全員は揃えなくてもさ」

 

「―――――と、おもーじゃん?あー、つけまとれたわ」

 

「かずらさん……」

 

「女が近くに来ると皆、自分たちがエグい妄想してんじゃねぇかって拒否反応が出るんだ。だから個別でも会えない」

 

『ヒトでさえも!?』

 

「それもう日常生活が困難なレベルじゃない………」

 

「重症だな…………私も疑われたし、タツの野郎なんか身内すら恐怖の対象になっちまった。あそこ女4人いるのに。それにな、バラバラじゃ意味ねぇんだ。全員揃わないと………分かるか?」

 

 いったいどういう妄想を吹き込まれれば、人間不信にまで落ちるのか。

 子供の想像力程度では計り知れないカップリングやシチュエーションなど、思いつくわけがないので考えても仕方がない。

 

「さて、そんじゃ遅くなったが聞かせてくれよ」

 

「春休み中にシキと出逢う前だっけ?」

 

「あ、うん。……………あれは今から36万………いや、先週の出来事だ」

 

「物凄い桁の間違い方だな」

 

 

 

 

 

 

「あれっ、今年はおばさんちなの?」

 

「そうよ。お母さんの妹の七枝おばさんち」

 

「わぁすごい久しぶり。……でも佐賀のおじいちゃんちはいいの?こないだ電話で約束しちゃったよ」

 

「それが移動の周期がズレて佐賀がまだマチュピチュなの。海底都市なら行けたんだけど」

 

「あー……パスポート要るもんね」

 

「だからおじいちゃんちはまた今度ね」

 

「はーいっ。……………七枝おばさんか。みかちゃんも久しぶりだなぁ。いくつになったんだろ。今年で5歳じゃなかったかな………」

 

 そう久方ぶりに会う親戚の事を思いめぐらせるユーダイだった。

 

 

 そして時はその日までに遡る。

 自家用クルーザで訪れた離島の港には二人の人影があった。

 

「―――姉さん、久しぶり!久しぶり遠路遥々おつかれさまっ」

 

「来たわよーっ。ほらユーダイ、挨拶!」

 

「あっ、えっと……お久しぶりです!」

 

「おー、ユーちゃんまた背が伸びたねぇ! 久しぶり、離島へようこそ!」

 

「ユーちゃん!」

 

 そこにいたのはユーダイ母の妹の上梨七枝と5歳になる娘の上梨美夏だった。

 

「ユーちゃん!!ひさしぶり!!」

 

  ヒュッ…ドゴォオオンッ!!

 

「げふぅ!?……み、みかちゃん久しぶり。お世話になります」

 

「せわしちゃる!」

 

 クイックブースト染みた速度で突っ込んできた美香を受け止めながらも挨拶を済ませたユーダイの離島生活が始まった。

 

「そーなのよぉ。それでそのお母さんったら」

 

「えーやだっ、小学校ってそうなの!?」

 

 それから二日目に、ユーダイ母と夏美母が早々にマザーズトークをし始めたので、ユーダイたちお子さまはハイパー蚊帳の外タイムを強いられることになった。

 

(ああ、あれは話しかけても追い返されるパターンだな)

 

「むぅ………そーだ。ねぇユーちゃん森いこう!森!」

 

「え!?も、森に?」

 

「まださむいかんねー、コートきてねー!」

 

「ちょ、行くの決定なの!? みかちゃん、森って外だよ?危ないよ!」

 

「だじょーぶだじょーぶっ。いつもあそんでるもん!」

 

「ダメ。大丈夫じゃないよ。俺たちだけで何かあったらどうするの?」

 

「だ……だめ……」

 

「………遠くには行かないからね?」

 

「……う“ん」

 

 幼い少女の泣き顔には流石のユーダイでも勝てなかった。

 というか泣くほどだろうか、などと思いながらも森へ行くことが決定した。

 

 

 

 

 

 

「ユーちゃん、ですぺらーどぶるーすうたおー!」

 

「なにそれ?(とりあえず泣き止んでよかった)」

 

 美夏と七枝の家のある離島―――正しくは、七枝の旦那の家の島は大半がアマゾンよろしくと言わんばかりの大自然で、一歩外に出ればたちまち樹海が広がっている。

 その島で育った従妹の美夏は―――――――

 

(あぁ、でもやっぱり自然っていいなぁ。ちょっと冷えるけど空気が澄んでる………)

 

「よぉし、ユーちゃんこのへん!こっからスタートね!」

 

「!?」

 

「おくのほう に みずうむ あるから!そこまできょーそー!よーいっ――――――」

 

「ちょっ、ちょっと待ってみかちゃ―――――」

 

「どんっ!」

 

  ドギャンッ!!

 

「待っ!!」

 

 ―――――――日々、悪路を走り回る事で鍛えられた俊足を持っていたので、ユーダイは盛大において行かれた。

 

 メキャァッ!! パキパキ……ズズゥゥゥンッ!! ドゴォォオオオンッ!! グシャァァァッ!!

 

「や、やばい…………母さんに殺される!!」

 

 大破壊が遠ざかるのを余所に、自分の身に危険が及ぶことを心配するユーダイ。

 間違いなく、こんなことが知れたら母からの説教が待ち構えている。

 5つも年下の女の子を置いて帰る訳にはいかず――――

 

「もうっ、速すぎみかちゃん!」

 

 ユーダイには追いかける以外の選択枠がなかった。 

 幸いにも、オーバードブーストした美夏が通ったところは、見れば分かる程の大破壊されたているから大丈夫だし、このまま辿っていけばいずれ辿り着く。

 そうユーダイは思っていたのだが。

 

「痕跡が……消えた………」

 

 案の定迷子になった。

 しかし、このまま待っていても埒が明かないのでとりあえず、他に痕跡がないか辺りを見回しながら散策を開始することにした。

 

(まさか、木の上にルートを変えたか?………あ、枝が折れてる。あそこに登ったのか)

 

 というか5歳児が何故身の丈3倍以上を超えるほどの高さのある木に登れるのだ。

 折れた木々を目印にしながら、美夏が向かった方角へと歩いて行く。

 しかし、上ばかり気を取られていたばかりか、足元への注意が疎かになっていた。

 

「えっ…うわぁ、気付かなかっ……ぎゃあああああああ!」

 

 挙句ユーダイは小さな断層から落ちて足をくじいた。

 

「いたたた…………あーもう、参ったな………!」

 

 くじいた足のままでは、この悪路を長時間歩き続けるのは難しい。

 忘れてはいけないことだが、ユーダイはもうすぐ4年生。小学生だ。

 足をくじいて歩けないことだってある。

 だが、このままでは一向に美夏との距離が縮まらない。

 断層を背もたれにして、どうするべきか考えながらも辺りを見ますユーダイは、あるものと目が合った。

 

「……………」

 

《…………………》

 

…………………

………………

……………

…………

………

……

 

「…………え?」

 

 それが、ユーダイと巨大なホモォとの奇跡の出会いだった。

 

 

 




追記:誰か自分以外で森のホモォもしくは梅の木川町町内会報をクロスさせたSS書いてくれないかな。個人的には俺ガイルとクロスさせたSSが見たい。誰か書いてくれませんかねぇ。


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嘘みたいな春休み

前回まであらすじ。

作家「ちょっと姉を(ボディブロー決めた後)冷水にツッ込んできた」

作家姉「と、おもーじゃん?で、You Die!。お前が言ってたホモォの話を聞かせろ」

You Die!「鼻☆塩☆塩。あれは今から36万……いや、先週の出来事だ」

箒ちゃん「物凄い桁の間違い方だな」





「…………」

 

《…………》

 

 ユーダイと巨大ホモォは長く微動だにしなかった。

 ユーダイは謎の白いでかい何かに直面した動揺で………巨大ホモォはこっちを振り向いたまま固まっていたから突然ユーダイが落ちてきた事にビックリしたのだとユーダイは思っていた。

 

「あづっ…………痛っ……」

 

 我に返ったのはユーダイが先だった。

 どうやら、足首の捻り方が拙かったらしく、痛みが徐々に酷くなってくる。

 

(どうしよう、歩けるかな………)

 

 しかし、ズキズキと痛む片足でこの樹海と悪路を進んでいける自信はない。

 そう判断したユーダイは―――――

 

「………あの!」

 

《…………》

 

「あの………女の子を見なかったかな?この島の子なんだけど、はぐれちゃって」

 

 いくらユーダイでも異常なのは分かっていた。

 でも、足を捻挫して逃げ出すことも出来そうになかったので混乱の中、色々血迷ってユーダイは会話を試みた。

 

「湖に行くって言って走っていっちゃって………俺、湖がどこかも分からないんだ」

 

 今でもそれが正しかったのか、分からない。

 目の前にいる得体のしれない何かにこんな事を聞くのもおかしな話だとは思った。

 

「うっ、風が………うわっ!?」

 

《…………》

 

「え、ちょっ、え!? どういうこと、どこ行くの!?」

 

 突風で目を一瞬閉じた瞬間、身体が浮き上がり、気がつけばホモォの身体の上だった。

 ユーダイはずしずしと重い足取りで奥の方へと進むホモォとこの状況に困惑していた。

 

「あれ?やっぱり言葉通じてないのか?しゃ、喋れないのか。そりゃそうか。あの俺、湖に行きたくて…………だから道を教え………」

 

し――――――――ん……

 

「あ、あいうぉんとぅー ごーとぅ ミズウーミー!!」

 

 虚しくもユーダイの願いをホモォは応えることなく歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

「………で、俺そのでかいのに背負われて森の奥に進んでった」

 

『………………』

 

 話を聞いていた3人は流石にドン引きしている。

 普通そんな得体のしれない地球外生命体の様なナリをした生物に絵面的にも連れ去られそうになっている光景にしか思えないからだ。

 

「お前の心臓には毛でも生えてんのか」

 

「得体の知れないバケモノに連れ去られてる絵面じゃないの!」

 

「んー、でも俺、動けなかったし………」

 

「そういう問題ではないぞ………」

 

「危ない雰囲気も何もなかったから。ほら、今無事だしさ!」

 

「危機管理がまるでなってねぇ」

 

「ユーダイあんた、シキの時もそうだけどお人好しがすぎるわよ!」

 

「大丈夫だよ。みんな心配し過ぎ」

 

「お前はお気楽すぎるぞ」

 

「いや、俺だってやばいときは分かるから」

 

「いつか痛い目みるぞお前………」

 

「もう……わかりました。今後気を付けます」

 

 お気楽に言っているが、全然反省の色が見えないことに一同はため息を漏らす。

 しかし、そのお人好しさがユーダイのリーダーとしての資質だというのは、まだ出会って間もないシキでさえも理解しているのだから。

 

「それで?どうなったのそのあと」

 

「………うん。それで、しばらくしてふつーに湖についた」

 

「マジかよ」

 

 

 

 

 

 

 森の奥へと進んでいくと、目の前には綺麗な湖が広がっていた。

 まさか、ホントに言葉を理解できるとは思ってもいなかったから。

 

「わぁ……ここが。あの、ありがとう。連れてきてくれたんだね」

 

 脚に負担がかからない様にユーダイが降り易い様にむにーっとバランスボールみたいに潰れ、ユーダイが降りた瞬間にボンッと元に戻った。

 

(これ、一体どうなってるんだろう)

 

 目の前のホモォの身体の構造について考えたが、いまは美夏の捜索が最優先。

 湖の辺りを散策しようとしたのだが。

 

「うわっ!?」

 

 ホモォの前足がユーダイの行く手を阻んだ。

 

「えっ…な、何? どうしたの?」

 

 スッ チョイチョイッ

 

「?……足?えっと、ちょっと捻っちゃって」

 

 行く手を阻んでいた前足で挫いた足を指したかと思えば、今度はその前足を湖の水の中に浸からせ始めた。

 

「………………」

 

― しんきんぐ ゆーだい ―

 

…………

………

……

 

「!」

 

  ティ―――(゚∀゚)―――ン!!

 

 ホモォが何を教えようとしたのか、考えに行き付いたユーダイは直ぐに捻った左足のズボンのすそを膝までまくり上げて、靴を脱いで湖に足を浸からせる。

 

「こうだ!」

 

《……………》

 

「ありがとう。捻挫は冷やすんだよね」

 

「あとなんだっけ。固定して………心臓より高く上げるんだっけな。あ、ハンカチ持ってた」

 

 

 Q:ねんざしたときどうするよ?

 

 A:Rest…安静にする。Ice…冷やす(冷やしすぎ注意)。Compression…圧迫する。Elevation…挙上する。の、『Rice』を実施する。

 

 C:米は偉大。

 

 

「…………みかちゃん、いないな。あのスピードじゃとっくに着いてると思ったんだけど。破壊音も見失ってから聞こえないしな………。あのさ、みかちゃんって知ってる?森で毎日遊んでるらしんだけど。元気がいい………よすぎるちっちゃい女の子って……知ってるわけないか………」

 

 捻挫した脚を冷やしながら、湖の辺りをぐるりと見渡しても美夏はどこにも見当たらない。ホモォに聞いてみても知ってそうとは思えないし、これからどうしようと考えた矢先また身体が宙に浮き、背中に乗せられた。

 

「ぎゃあ!に、2回目だけど唐突過ぎやしない!?」

 

 しかし、応えは帰ってこなかった。

 ただひたすら、物言わぬまま再び森の方へと向かって行く。

 

「…………もう」

 

 もう溜息しか出なくなり、従う事にする。

 

 

 

 結局ユーダイはそのまま揺られた。

 春の木漏れ日と澄んだ空気と歩く振動が心地よかった。

 そしてユーダイは気づけばホモォの上でうとうとと眠りに誘われていく。

 その後のことは、あまりよく覚えていない。

 夢か現か幻か、いまひとつ現実味のない記憶には巨大なホモォが何かと対峙する後姿。

 旅行の疲れがどっと出たユーダイはひたすら眠かった。

 そしてすぐ眠りについてしまった。仕方ないね。

 

 

 

 

 

 

 

「こら、ユーダイ!」

 

「ユーちゃああああんっ!」

 

「!」

 

 ―――――――次に目を覚ましたのは七枝の家の玄関だった。

 そして、何故か美夏はとっくに帰って来ていた。

 

「ユーちゃんごめんね。美夏が置いてったんだって? ユーちゃんに敢えて嬉しいのはわかるけど森で怪我したらどうするの美夏! 都会っ子よ!」

 

「ごめんないさごめんなさいっ!きらいにならないでユーちゃああんっ!」

 

「ちっちゃい子をひとりにしちゃダメでしょユーダイ!」

 

「ご、ごめんなさい………」

 

 目覚めたらすぐに、よくある保護者介入の三つ巴謝罪が勃発した。

 非の有無を問わずにユーダイは謝罪するしかなかった。

 

「あんた、足怪我したの?」

 

「うん。ちょっと捻ったって。いてて」

 

「それでハンカチで固定したのね………なんか濡れてない?」

 

「ああそう。湖で冷やしたの」

 

「湖……って、森の中の?ずいぶん遠くまで行ったのねユーちゃん。……よくここまで帰ってこれたね」

 

「……………ここまで帰ってきた。あ、どうしよう。お礼言ってない」

 

「だ……誰に?」

 

「まだ寝ぼけてるわね………」

 

 気づいたときにはもちろん、あの巨大なホモォは姿かたちも見えなくて、きっとあれがユーダイをここまで送り届けてくれたんだと寝起きの頭でそう結論付けた。

 そんな嘘みたいな春休みの思い出。

 

 

 

 

 

 

「で、終始無言?」

 

「終始無言」

 

「例のホモォの珍妙な発言がなかったが」

 

「あぁ、あれは最終日唯一のハイライト。あの日はイベントもそれしかなかったし」

 

「別にいいかな精神でそこ省略しちゃダメよ…………」

 

「珍妙な発言……なんだ、なんか言われたのか?」

 

 化粧直しをしていたかずらがユーダイに問いかける。

 ホモォの精神攻撃で親友を病院送りにされた経緯から、思わず反応してしまった。

 

「言われた……っていうより、言ってるときに俺が偶然出くわした形」

 

「ホモォの独り言だ?」

 

「うん。パキケファロサウルスの化石×夕暮れの教室って」

 

「日本語でおk」

 

『やっぱりそうなるよね………』

 

 流石のかずらでも、そのカップリングは何なんだよと聞き返してしまうほどだったとさ。

 ―――――かずらもまた、夏休みの事件にかかわることになるのだが、それはまた別のお話。

 

 




連続投稿なんて、2~3年くらい前に完結させたISの時以来だ。


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オカルティック・ナイト 前夜

前回までのあらすじ。

You Die!「デカいホモォに森の奥へ連れてかれた」

一同「お前の心臓に毛でも生えてんのか」

You Die!「俺にだってやばい状況くらい分かるもん!」

作家「そういえばホモォの珍妙な発言は?」

作家姉「なんか言われたのか?」

You Die!「うん。パキケファロサウルスの化石×夕暮れの教室って」

作家姉「日本語でおk」

一同「やっぱりそうなるよね」




 

 

 五月某日、昼休み。

 

「なぁ。四月以来、全然見てねぇなアレ」

 

「え?」

 

「饅頭もどき。こうやって野郎3人で集まってるのに今とか出てきてもおかしくねぇのに」

 

「………あぁ、そういえば」

 

「饅頭もどきってあれか。すっかり忘れた」

 

 3人は校庭の隅で、シキが他小隊と遊んでいる光景を眺めながらそんな会話をする。

 四月のあの日以降、学校でホモォを見かけることはなかったことに不思議だった。

 

「……なにシューヘイ。出てきてほしいの?」

 

「んなわけあるかバーカ。お前ら、新聞読んだか?」

 

「新聞?」

 

「ナッちゃん言ってたろ。大人が必死に隠してるって。字ばっかのページの隅っこに記事が載っているんだ。探すの苦労した。名前が出てるわけじゃないから流し読みしたくらいじゃアレの記事だって分からねぇしな」

 

 そういってシューヘイは新聞の切れ端を取り出し、ユーダイに差し出す。

 切れ端にはホモォという単語は見当たらないが、確かにホモォの特徴らしきことが書かれており流し読みでは見つからないのは当然とも言える。

 

「被害拡大してるってよ。俺たちの与り知らぬところで」

 

「………この記事、場所と被害者の人数と………『秘匿義務』的な事しか書いてない」

 

「あぁこりゃそういう記事だって知らなきゃわかんねーな」

 

「にしても秘匿義務ねぇ………俺たち子供にバレるなよってとこか」

 

「………あれ? これ、結構近いね」

 

「近いっつーか………ザウルス小隊のムカイギいるだろ」

 

「うん」

 

「ムカイギ、シキの自己紹介以降から会ってねぇな」

 

「その記事の被害者の男子中学生、ムカイギの兄貴だ」

 

『マジで!?』

 

 近場であることもそうだが、流石にザウルスリーダーの兄が被害者なのが予想外だった。

 

「ムカイギの兄貴ってあの人だろ。ミニバスでめっちゃ活躍してた。女子に凄い大人気の」

 

「私とゴール下で競り合えたほどの実力者だったぜ!」

 

「いたのかヒガサキ」

 

「ヒガっちゃん、それ下級生に気をつかって手加減してくれただけじゃあ………」

 

「手加減なんかなかったね!あれは立派な男と男の真剣勝負だ!」

 

「お前女な」

 

「やかましい。コートの上に立てば一切の甘えは通用しない。つまりは男の世界!勝負に『女』なんて概念はいらねぇ!」

 

  ―― マンダム!! ――

 

「漆黒の殺意覚えてから出直して来い」

 

「わかった」

 

 この歳で女を捨てようとする発言をするヒガサキにツッコミを入れる。

 しかし、暴力の二大巨頭の一角のヒガサキにカードキャプター〇くらの様なあざとさや少女らしさを求めるのはある意味、無理な要求だろう。

 

「あ、それでムカイギの兄貴の件なんだけどな」

 

「お前毎回、話を脱線させた分きっちり戻してくるよな」

 

「ザウルス小隊の連中から私が預かった。ムカイギは共学校休んでる。私たちに………というか、ヨッコに正式依頼!」

 

「ヨッコがどうかしたのか?」

 

「あ、シキ」

 

 ポケットからは、『タコツボ小隊御中』と書かれた手紙を取り出し、ユーダイに渡すと同時にユーダイ達が何やら話し込んでいるのが気になったのか、途中から抜けてきたシキがこちらへとやってきた。

 

「ちょっとザウルスの奴らから依頼を頼まれてな」

 

「ムカイギの所から?……そういえば、ムカイギが休みだとさっき遊んでいるときに聞いたが、ムカイギに何かあったのか?」

 

「ムカイギだけというか、その兄貴にもな。シキもどうだ。前のみっちゃんとてっちゃん二人の救出のとき、かなり活躍したから戦力としては申し分ねぇし」

 

「何やらまた厄介事みたいだが…………うむ、行かせてもらおう。ザウルスの皆も、最近ムカイギの体調が悪いことを心配していたようだからな。もしもの時に備えて戦力は多いことに越したことはない」

 

「決まりだな。内容的にはユーダイさえよければ女子四人でいくつもり」

 

「ヨッコ宛ってことは内容は予想つくけど、ヒガサキ達だけで?なんでだよ?」

 

「まぁ、なんだ。私やシキはオマケでメインはヨッコとナッちゃん…………察しろ!」

 

「察せねぇよ。エスパーじゃねぇんだから。というかシキ、お前そう安請け合いして大丈夫かよ。確かにあん時はすげぇ活躍したけどさ、少しは遠慮してもいいと思うぜ?」

 

「いや、そういうわけにもいくまい。友達が困っているのを見過ごすほど、私は薄情になれきれないからな。あと、間違ってもらっては困るがあの時は理解が追いつかなくて我武者羅だったからな。はっはっは」

 

(『あぁ、そういえば確かに』)

 

 遠い目をして乾いた笑みを浮かべるシキに同情してしまう。

 ユーフォ―小隊との自己紹介のつもりだったのだが、半場巻き込まれる形で未確認生物とやり合うことになった。ビームが飛び交い、鋼をも貫通させるサーベルが乱舞する戦場を渡り歩かせ、いや、駆け巡らせられた。『篠ノ之流』が()()通じるから良かったものの、()()通じなかったら間違いなく穴の開いた肉片か生焼けハンバーグもしくは粗挽き肉団子と化していただろう。そんな記憶が今でも新しい。それもそうだ。何せ一か月前に起こった出来事だからな。

 シキ達の会話を余所に、ユーダイは渡された手紙をじっくり読んだ後、手紙から視線を外す。

 

「いいよ、大丈夫っ」

 

「マジか、サンキューリーダー!」

 

「感謝するぞ、ユーダイ」

 

「おい、いいのか?」

 

「うん。でも、『女の子』三人いるんだから、くれぐれも危ない事は避けること。いい?」

 

「任せろ!きっちり返り討ちにするからな!」

 

「わかってないよね」

 

(女の子三人とは言ったがヨッコとナツミ以外で……となると私とハツミのどっちだ?)

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

  ―――すぐによびましょおんみょーじ てつこ!

 

  ―――黒柳徹子は陰陽師だったのか

 

  ―――いや、空耳だから

 

 

「……だーから、あいつも女だろっての」

 

「まぁまぁ」

 

 二人が去っていくのを見て、明らかに心配してか、主にヒガサキに対して舌打ちするタカシにユーダイは宥める。

 

「詳しくは何だったんだ、依頼内容」

 

「えっとね――――――――――」

 

 

 

 

 

 

『心霊現象?』

 

 ハツミと共に来た場所は女子トイレの個室だった。

 他の者達に話を聞かれたらと警戒しているのだろうが、なんでよりにもよってトイレの個室なのかと疑問に思う。しかし、半場内容も確認せずに安請け合いをしたのはいいのだが、今度は心霊現象と来たか。

 

「そうそう。どうにも数日前からなんか『いる』らしいのな、ムガイギん家。んで今日、ムカイギが休みじゃん?」

 

「………ムカイギが憑かれているというわけか」

 

「憑かれてるか分からねぇけど、ザウルスの奴らが調べてくれって」

 

「わぁ、切実な文章……それで私か。それはいいけんだけど、ハツミちゃん、シキちゃん。どうして私たちだけなの?」

 

「すまないヨッコ、私はただ応じて来たものだから内容は聞かされてない。実際のところ、どうなのだハツミ」

 

「ふふーん、脳筋ヒガサキも機転はきくもんだぜ」

 

『?』

 

「ハツミー?ヨッコ見つかったー?」

 

「ハイハイここよー!」

 

「ナッちゃん?」

「ナツメ?」

 

「え、なんでシキがいるわけ?」

 

「それは、かくかくしかじか」

 

「まるまるうまうま、ってわけ。…………本人がそう言うなら別にいいけど。それに、万が一の時、戦力は多いに越したことはないしね。万が一の時、頼むわねシキ」

 

「任された」

 

 ナツミからも了承を得たことで、さっそく本題に入るためにナツメを個室に入れる。

 本来、トイレの個室に4人も入るようなものじゃないな。せまい。

 

「本題だけど、ムカイギの兄貴がホモォ被害に遭ったらしーんだって」

 

「ウッソ!」

 

「ユーダイに依頼書を渡しに行ったときにシューヘイが言っての聞いちゃってさぁ、私は事前に依頼内容聞いてたからこれはなんか関係あると踏んだわけだ」

 

「えぇっ、心霊現象とホモォが?」

 

「ヨッコは知らないと思うが、かずらさん曰く妖の類らしいのだ」

 

「そうなの?」

 

「それにこの一か月でさらに更新されたみたいだから、間違いなく」

 

「…………」

 

「だからタイミング的に今回の依頼もホモォ絡みの可能性が濃ゆいだろ?男子共を連れていくわけにゃいかんのよ」

 

 なるほど、だから私たちだけで行く許可が欲しかった訳か。

 しかし、宇宙人は兎も角、篠ノ之流が効くのかどうか、そもそも物理自体効くのか?

 

「………わかった、行ってみよう。友達が危ないんだもんね」

 

「さすがヨッコ、ありがとー!」

 

「でも、ホモォに通用するかわかんないよ?」

 

「まぁ万一ヨッコの専門外なら私が奥の手出すから大丈夫」

 

「じゃあ早速ムカイギの家に電話するとしよう」

 

「そうだね。放課後からじゃ遅くなっちゃうもんね」

 

「アポは大事」

 

「よっしゃー!番号聞いてくらぁ!」

 

 そういうわけでハツミは職員室へと向かってムカイギの電話番号を聞きに急いで向かい、私たち3人は公衆電話が置かれてある職員玄関へと向かった。

 

「…………あ、こんにちは。ええと、梅の木川小学校4年1組の入江といいます。ムカイギ君は御在宅でしょうか?あ、はいそうです。去年同じクラスだった……ええ……ちょっと明日の合同授業のことで連絡があって電話しました」

 

「ヨッコよくあんなすらする口回るな」

 

「合同授業なんてないし」

 

「まぁ、女子だけで在宅するのだから、仕方がない。変な風に思われないためにも状況を作らなくてわな」

 

「…………え、風邪とか熱じゃあ………寝込んだ? 体がだるくて………そうですか。あの今、ムカイギ君に電話代わっていただくことできますか?ええと、入江じゃ分からないかもしれないのでこう伝えていただけますか。「依頼を受けたタコツボ小隊からの電話だ」って」

 

  ― 何か憑いてる ―

 

『!!』

 

「?」

 

 ヨッコが私たちを見て、小さくハンドサインを送ってきた。

 それが何を意味するのか、まだ私には分からなかったが二人の反応からするに二人は知っているみたいだ。

 

(さっきのは何だ?)

 

(小隊用の暗号だ。知ってて損はないだろうから、シキにもそのうち教えとく)

 

(………にしても、拙いわね。どうやら、マジで憑かれてるみたいよ)

 

 万一が起こっても問題ない様に着いてくるつもりだったが、どうやら今日も穏便では済まなさそうな雰囲気の様だと、私は感じ取り、警戒心を高めるのだった。

 

 

 

 

 

 ○○小隊、というのはクラス内の『班』みたいなものだそうだ。

 ユーダイ達が1年生の時の班分けなのだが、なんだかんだ皆ずっと付き合いが続いていて、たまに困ったことがあれば小隊同士で協力したりする。ユーフォ―小隊のテツヤとミツコの二人が攫われた時が良い例だろう。

 そしてなぜ1年からの付き合いでもない私が、小隊に入れてもらえたのかについてだが、また今度にしよう。

 

 

 話を戻すが、私たちは『タコツボ小隊』、ムカイギは『ザウルス小隊』。

 そしてヨッコの伯父が私の父と同じ古い神社の神主で霊感があるのだそうだ。

 孫であるヨッコも霊感が伯父以上に強いとのことで、各々異様に専門性に富んだ私たちの学年で心霊系のオカルトの事件は大抵ヨッコのいるタコツボ小隊に来るとの事。

 

 

 

 

 向日木という表札がある家に到着した私たちはインターホンを押してから少し時間を置くと、ムカイギが引き戸を開けて現れ――――――――

 

(――――――ッ!)

 

(シキちゃん、意識しちゃダメ。そのまま気づかれない様に無視して)

 

(んっ………………)

 

 隣にいたヨッコが小さく耳打ちされた私は、昂った感情を押さえつける。

 私は、ムカイギの背中にいる()()からヨッコに言われた通り、気づかれない様に無視することにした。

 本当なら、こういうとき事情を聞くべきなのだろうが専門家の言う事がまず最優先だとUFOの時に学んだため、黙って従うことにした。

 ハツミとナツメは見えていないようだが………………なんだ、()()は。

 

「やー……タコツボ、それにシキもこの間ぶり。あれ…女の子達だけ?ユーダイ達はどうした?」

 

「…………ず、随分とやつれているな、ムカイギ」

 

「安心しろ、今回は少数精鋭だ」

 

「よっ、ムカイギ」

 

「電話に出てくれてありがとうムカイギ君。伝えた通りだよ。ちょっとお家を見せてもらうね」

 

「おっけー。悪いな、上がってくれよ」

 

「おじゃましまーすっ!」

 

 ムカイギとハツミ、ナツメの三人が家に上がっていくのを余所に、私はゆっくり重いため息を漏らし、ユッコへと向き直る。

 

「ヨッコ、あれはいったい」

 

「出会った時から何かしらの力は感じていたけど、シキちゃんにも見えたんだね。それも、私以上に…………」

 

「あれは本当にホモォが関係していると思うか?」

 

「まだ分からないけど、まず家内を見ないと分からないかな」

 

「……………そうか」

 

「シキちゃん、辛いなら無理しなくていいよ。シキちゃんの()()()たぶん霊や妖怪の類を退けるためにシキのお父さんか、もしくは()()が与えたものだから、きっとそれを与えた誰かはシキちゃんを守りたかったんだと思うの。だから小隊に入って間もないシキちゃんにはこの案件は―――――」

 

「言うな、ヨッコ。それ以上、言わないでくれ」

 

「………………」

 

「嬉しかったんだ、ユーダイに手を差しのべられたとき。お前達と友達になれた時、本当に嬉しくて仕方がなかった。篠ノ之束の妹というオマケとしてではなく、私という一個人を見てくれた、接してくれたユーダイやお前達が、大切なんだ。守りたいと、何かの役に立ちたいと思うようになった。だから、そんなお前から、皆から…………『無関係だから』と突き放されるのは、とても辛いのだ」

 

 もしも皆から……ユーダイの口から『お前は無関係だ』などという言葉を言われたその時、今度こそ私は立ち直れないような傷を負ってしまうかもしれない。

 そう考えるのが、どれだけ胸が苦しくなって辛かったことか。

 危険であることは分かっている。だが、ユーダイ達に守られてばかりで自分が何もしないなんて、そんな怠慢を私は許容するつもりはない。それが守らなくちゃならない者達なら、なおのことだ。

 私はいつ来るかもわからない白馬の王子様に救いを求めるお姫様などになる気は無い。

 私はユーダイを、皆を守れる『刃』になりたいだけだ。

 

「……………そうだよね。ごめんね、シキちゃん。軽率だった。でも、本当に無理しちゃダメだからね?いくらシキちゃんが言う様に「大切だから」って言って、自分を犠牲にしたら本末転倒だから。もしシキちゃんに何かあったら、悲しむのは伯母さんや私たちなんだからね」

 

「あぁ、重々承知している。それに……まずお前達と一緒にいて命を棄てようと思ってまで自己犠牲をしなきゃいけない様な状況にはならないだろうと思うのだがな」

 

「あははは、それもそうだね」

 

 それにな、ヨッコ。例え自己犠牲をしなきゃならない状況に陥っても、私はそう簡単に死ぬつもりなどない。私まだ、生きたいのだ。

 ただ無意味に時間が流れるのを待っているんじゃない。

 お前達とこれからも一緒にいたいから。明日も明後日も、来年も再来年も、一緒に。

 

 




追記:誤字脱字、おかしい文面があったら報告よろしくお願いします!


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オカルティック・ナイト 序

前回までのあらすじ。

工作好き「最近ホモォ見ねぇな」

音楽家「そういやすっかり忘れてた」

漢女「ザウルスから正式依頼が来た!リーダー、許可くれ!」

You Die!「いいけど、『女の子』三人いるんだから無理しちゃダメだよ」

箒ちゃん「感謝する、You Die!」



 ムカイギの家にお邪魔した私たちは、茶の間へと案内される。

 ヨッコは霊の大本を探るために、別行動をすることになった。

 本当は見えている私も着いて行こうとしたのだが、あくまで『視察』だからと断れたので、3人のいる茶の間で待つことにした。

 

「あ、忘れる所だった。ムカイギ、署名はこれでいいのだろうか」

 

 ユーダイからムカイギへ、昨日から署名を渡す様に言われていることを思い出し、私はランドセルから取り出し、そのまま手渡した。

 署名を手に取ったムカイギはパラパラと中身を確認し、頷く。

 

「………うん、とりあえずOKかな。一応、学校に来れるようになった日にはシンイチと一緒に最終確認するよ」

 

「やはり、私個人の証言だけでは足りなかったのだろうか」

 

「個人の被害なんて聞きわけて貰えないかもしれないだろうし、やっぱり近隣住民や先生にも署名を貰わなくちゃな。あと、出来れば証拠とかも」

 

「それはユーダイが用意すると言っていたから問題ない。………ありがとう、ムカイギ。まだ出会って間もない私一個人の為に、態々手伝ってもらって」

 

「出会って間もないって、もう1か月経ってるし、俺や皆はシキを認めてるんだからそう畏まるなよ。それにこういうことは、きっちりケリを付けておかないと後々訴えたとしてもどうせはぐらかされるだろうから、徹底的にやってるだけだよ」

 

「そうなのか?」

 

「シキがこの町に来る前、私たちが2年生の時に赴任してきた教師が理由もない体罰とか性的暴力とかやりたい放題だった時期があったのよ」

 

「なんだその反吐が出るほどの悪党は。それはもう教師の風上にも置けぬ真正の屑ではないか」

 

「ある程度証拠は揃ってたんだけど、その真正の屑が言葉巧みに躱していくからムカイギとザウルス小隊が徹底的に証拠集めて教育委員会、PTA、市議会に叩きつけてムショ送りにしてケリはつけたがな。……今回も、そんな狡い大人がいるかもしれねぇし、用意するに越したことはねぇだろ」

 

「…………なるほど」

 

 皆の言う通り、やるなら徹底的にやらねばならないのか。

 本人の証言だけでは、どうにもならないこと学んだところで、視察に行っていたヨッコが戻ってきた

 

「……ざっと見て回ったけどだいじょうぶ。おばけ、いなかったよムカイギくん」

 

「え?」

 

「あらっ」

「マジで?ヨッコ……」

「………」

 

「あらあら、もしかして皆それで心配してお見舞いに来てくれたのかしら?そうよね、おばけなんて出ないわよ。気のせいね」

 

「かーさん………」

 

 確かにヨッコは、おばけはいないと言った。

 だが、ムカイギの背後にいるあれは………いや、待て。考えろ。

 家に上がる前、ムカイギの背中を見たとき、ヨッコに意識されない様に耳打ちされた。

 次に家に上がって茶の間に案内されてから、ムカイギの背後のあれはハツミ、ナツメ、私の順々に観察してきた。それも、入念に。

 そしてヨッコが「おばけがいない」と言った瞬間、ハツミとナツメの様子が微々たるものだが、僅かに変化があった。

 意識されない、つまり、意識されると何かが起こるということ。

 それはすなわち、ヨッコからの何かしらのサイン。

 

「疲れてると何でもない事でも気になっちゃいますから。なんにもなかったので、お母さんも安心してください」

 

「うふふ、子供の除霊師さんなんていたのね」

 

「あはは、ちょっとだけ詳しいだけですよ」

 

「…………おばけ、いないの?」

 

「でも何事も無くて良かったではないか。体調が戻るまで安静にしないとな、ムカイギ」

 

 とりあえず、3人がこれといって何も行動を起こさない以上、私はムカイギの背後にいる存在を無視することに徹した。

 

 

 

 

 

 

 

 そして夕刻、5時のチャイムが街中に響く頃。そろそろ帰らなければならない時間。

 ムカイギのお母さんに挨拶を済ませた私たちは家を出る準備をする。

 

「なんか来てもらって悪かったな………やっぱり、霊なんていないよな。気のせいか」

 

『…………』

 

「あれ?どうした皆?」

 

「ぶはぁっ!!ヤッベ、緊張した!」

 

「ひ……久しぶりすぎて一瞬わかんなかったわ」

 

「…………はぁはぁはぁ。まったく、1時間以上無視し続けるのも精神にクるな」

 

「ん~~~~、まいったなぁこれは。ちょっと難しいかも………」

 

「!?」

 

 あぁ、本当に辛かった。

 あんなものを見せられながら何事もない様な態度で居続けるなど、父とやった精神統一以上の辛さだった。目を閉じようにも、あちら側に感づかれては拙い気がして出来ないし、本当に辛かったっ!

 

「な、なんだ、みんな。どうした」

 

「生きた心地がしなかったぜ。ヨッコの言う「おばけいない」は「ここヤバいから一旦退く」のサイン!」

 

「!?」

 

「霊的なものって、こっちが「気づいた」ってわかったら干渉して来るの。ごめんね。一回出直す!」

 

「大概の相手ならヨッコがその場でやっちゃうんだけど…………」

 

「なるほど。だからあの時、意識されない様に無視しろと言ったわけだ。それで視察というのは………あれ以上のものがいるかもしれないから、万が一「気づいて」干渉してくるのを防ぐためだな」

 

「うん、そういうこと」

 

「え、シキには見えてたの!?」

 

「ムカイギの家に上がる前でな。どうやら私にもヨッコの様に霊感があるみたいだ」

 

「だからあの時、ヨッコと二人で何か話してたわけか」

 

「…………えっと、つまり?」

 

「性質の悪いのがいるの。見たのが夜ならこれから危ないし、夜にもう一回来るよ。その時にムカイギくんにも協力してほしいけど……その前に『それ』、気になるから取っちゃうね」

 

「えっ」

 

 スパアアアアアアアアアンッ!!

 

 ハツミにランドセルを預けたヨッコはムカイギとの間合いを詰め、ムカイギの背後にいるそれ――――――『悪霊』を全力で叩いた。

 背中から剥がれ落ちた悪霊の元へヨッコは歩み寄り、そして踏みつける。

 

 グググググッ ミシッ!! グシャアア!!

 

「………よし、除霊完了」

 

(物理)(かっこぶつり)!?」

 

「私の思っていた除霊とは、程遠いのだが………」

 

「ヨッコの除霊はだいたいこんなもんよ」

 

「今は見えてねーけど、ヨッコ経由でチャンネル合わせたら私でも殴りかかれるぜ!」

 

「あれ?心霊現象ってそんなお手軽に解決できるっけ!?」

 

 霊体に物理攻撃が効くのか…………そんな事実、心霊番組やそういう専門の集英社が知れば冗談だろ?と聞き返してしまうほど驚くだろうな。

 なるほど、物理が効くとなれば問題ないようだ。

 見えるだけではどうしようもないから、どう対処すればいいのか悩んでいたことが割とすんなり解決した。見えていれば、後はどうにでもなれるな。

 

「お手軽ではないんだけどね。で、身体の方はどう?」

 

「あ、身体が軽い。ほ……ほんとに何か憑いてた……?どんな霊か、めっちゃ気になるんだけど」

 

「見えないに越したことはないぞムカイギ。あんな悍ましいもの、『普通』の子供が見れば発狂してトラウマになって長いこと夢に出てくるようになって毎朝おねしょに悩まされることになるぞ。それに……これから退治するであろう大本がどれほど恐ろしいのか、考えたくもない」

 

「………どんだけヤバいのが見えてんだよ。」

 

「シキちゃんの言う通り、見えないならそのままでいいんだけどね。それと………これ、持っててね、ムカイギくん」

 

「おまもり?」

 

「絶対に外さないでね…………絶対に」

 

「………お、おう」

 

 真剣な表情で言うヨッコに、ムカイギは後ずさりながら頷く。

 さっきの霊もそうだったが、あのお守りも……………。

 

「ムカイギ。この場合はちらっとでも外そうものなら場面スッパ抜かれてあっという間に死亡一直線だからホント気を付けなさいよ」

 

「ば、場面?」

 

「ナッちゃんうっすらメタい!」

 

 ―――――――――――そして、私たちは一旦ムカイギの家を後にして、各自準備を済ませてから真夜中に訪問することになったのだった。

 

 

 

 

 

 

「…………そろそろか」

 

 10時あたり、シキは雪子と広恵が眠ったことを確認し、竹刀の入った竹刀袋を背負って玄関口まで向かう。

 すると階段を降りてすぐ、ユーダイが待ち構えていた。

 どうやら、シキを見送りに来た様子。

 

「………気を付けてね。無理は絶対にしちゃダメだよ」

 

「うむ。出来るだけ善処しよう」

 

「善処じゃダメでしょうが、もう。怪我したら、伯母さんが心配するんだからね」

 

「なんだ、ユーダイは心配してくれないのか?」

 

「怒るよ、シキ?」

 

「冗談だ。心配してくれているのは分かっている。…………では、行ってくる。必ず無事で帰ってくるから、安心して待ってるといい」

 

「うん、それ死亡フラグだから。ホント無事に帰ってきてね、お願いだから」

 

 死亡フラグを立てて、外で待っていたハツミとナツメ、ヨッコの3人と合流してムカイギの家へと向かって行くシキにユーダイは不安になりながらも、無事を祈るのだった。

 

 



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オカルティック・ナイト 中

前回までのあらすじ。

霊媒師「おばけいないよ」

ボンバヘッ!!「え、嘘……」

作家・漢女「『おばけいない』は、『ここヤバいから一旦退く』のサイン!」

箒ちゃん「霊に物理は効くのかな」

霊媒師「大丈夫だ、問題ない」

箒ちゃん「ならばよし!」





 

 

「古いおまもり……」

 

 まるでiPod shuffle 第4世代みたいに見える様な、白い円が刷られたお守りを首に掛け続けてからそれなりに時間が経つ。

 朝早い……うちの親が寝るのは11時。

 11時半になったら俺の部屋の窓をあけて………そっから女の子達が忍び込む、と。

 玄関から入ってくればいいのに。

 

(あと、一時間ちょい………眠いなぁ)

 

 俺はシキやイリエさんのように直接見た訳じゃないけど、夜になると廊下からおかしな空気が流れてくる。

 誰かが歩いているような、兄貴が寝込んでからそれは始まった。

 

(……兄貴も熱出して部屋から出てこねーもんなー。………つまんね)

 

 詳しい原因は教えてもらえないけど、『ホモォ』に襲われたせいだ、と聞いた。

 …………名前で察しがついたけど。

 あ、だから女の子達だけだったのか?

 ん?でも、霊感持ってる二人がおばけとか悪霊って言ってたしな………。

 

 

 まぁ………なんにせよ、俺じゃ何もできないし、タコツボ小隊に任せるしかないか。

 眠い目を擦りながら、とりあえず指定されている時間まで布団の上でダラダラ時間を潰すことにした。

 

 

…………………

………………

……………

…………

………

……

 

 

 カチコチ カチコチ カチコチ カチコチ カチコチ

 

『おうちの人が寝ちゃったらすぐに窓開けていいからね』

 

『間違っても寝過ごすことがないようにな』

 

『ちょっとでも遅れたら窓破るのもやぶさかじゃねーぞ』

 

『やめなさいって』

 

「……………ぐっ………重っ……なんだ、こりゃ……!?」

 

 みんなの言葉が脳裏に過りながらも、窓に向かって畳の上を這いずる。

 時計は既に11時半を過ぎていて、窓の方から窓を叩く音とみんなの声が聞こえてくる。

 急いで開けたいのは山々だけどっ、なんだ、この大人が全体重を掛けられて座ってきたような重さは!?

 

『ムカイギ!』『ムカイギくん開けて!』『寝ているのかムカイギ!』

 

「何か……何か、物理的にのしかかって…窓……!鍵はあけてあるのに、開かないのか!?………やばいっ、ヒガサキに窓割られるっ!」

 

 窓を割られる前に、必死に窓まで寄り、ようやっとたどり着く。

 窓を開けようと、窓に手をかけたその瞬間、スゥゥゥと何故かガラスが雲った。

内側ッ………!

 

「うっ、うわぁああああああ!!」

 

「伏せろムカイギ!ファイナルベント!」

「伏せていろムカイギ!篠ノ之一刀流二の型!!」

 

 曇りだしたガラスが突如無数の手形が浮かび上がってきたことに恐怖した俺は勢いよく窓を開ける。鍵もかけてないのに、どうしてか簡単に開くことが出来た。

 窓を開けたと同時にヒガサキの指示が来たため俺は身を低くし――――

 

「キックストライク!!! ディアブルジャンブル!!!」

「『迦楼羅』!!!」

 

 ヒガサキの蹴りと、シキの竹刀が俺の背後にいる何かを吹き飛ばした。

 部屋に侵入した二人は何やら部屋中にいるであろう、何かに攻撃し始める。

 

「よかったムカイギ、無事!?死亡フラグは回避できたみたいね」

 

「やっぱりいっぱい出てきた!ホモォはいないからぱっぱとやっちゃおう!」

 

「ちょっ、イリエさんはともかく、キシの装備はなんだ!?」

 

「言わずと知れた消臭除霊よ。ご存知?」

 

『一体撃破!シキ、背後!』

『こちらも撃破!ハツミ、真横から来るぞ!』

 

「一般的ではねぇだろ!」

 

「あ、そうなの?」

 

「んー、群れているなぁ。とりあえず、ここではないとすると………」

 

「ザコまみれたぁ、好都合だぜ!ここ最近は平和ボケで鈍ってたんだ。肩慣らしに大殺戮してやんよ……!」

 

「ヒガサキ、スイッチ入ってるー!」

 

「まぁ、敵は元々死んでるんだけどね」

 

「おい、ハツミが小学生云々よりも女としてしちゃいけない発言と顔をしているぞ、大丈夫か?」

 

「1年の時からだから、気にしなくていいよ」

 

「それより来るぞ!」

 

「ちょっと私見えてないから誘導して!」

 

「2時の方向、斜め右上!」

 

(大丈夫、か…………?)

 

 5月某日、夜11時45分。

 こうして、常軌を逸脱した一夜が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 除霊完了。ムカイギの部屋 Level.☆・済

 ムカイギの部屋に蔓延っていた霊を退治し終えた4人は警戒しながらもいったん休憩を挟みながら、本格的に準備に取り掛かりだす。

 そしてムカイギの首にかけていたお守りが、○から×印に代わっていた。

 

「うわ、バッテンになってる」

 

「うん。夜になってたくさん沸いてきたから……。それ、おじいちゃんが作ってくれたお守りなの。憑りつかれない様にするだけなんだけど…………」

 

「これのお蔭で、のしかかられるだけですんだって事か……」

 

「ともあれ、ムカイギに怪我がなくて安心した」

 

「ハッテン?(難聴)」

 

「やましいもん考えた奴、屋上」

 

「噂はかねがね聞いてたけど、イリエさん、すげぇな本当に」

 

「あんまり良い事じゃないけどね。見えちゃうから仕方なく詳しくなったってだけだよ」

 

(詳しい、ですむレベルでも無い気がする)

 

「しかしマズったな。私の見当違いだったか?ホモォ一匹も見当たらねぇ。なんかすまん」

 

「しゃあないわ。万一もあるし、良い判断だとは思うわよ」

 

「ユーダイ達がいたら、もしものことがあった時も困るし、それに大所帯で来れば動きが制限されて、私の武器が竹刀だから行動範囲が限られる………」

 

「そうだね。屋内だから、動きづらいよ」

 

 実質、ユーダイ、シューヘイ、タカシの3人も連れてくるとなると、狭い通路で霊と遭遇した場合、守りながら、逃走経路を確保し戦うのは非常に厳しい。特にハツミは素手だから良いものの、シキは竹刀だ。下手すると仲間を巻き込んでしまうかもしれない。

 

「あ……あのさ、俺さっきから何も見えないんだけど」

 

「うん?」

 

「………夕方にシキの話を聞いて思ったけど、みんな、どんなものが見えてんだ?」

 

「私はチャンネル合わせてないから見えないわよ」

 

「え、そうなのか。なんでだ?」

 

「おばけ怖いからよ!窓に手形とかふざけんじゃないわよ!」

 

「なんで来たんだお前!?」

 

 真顔で本音をぶちまけたナツメに思わずツッコミを入れてしまった。

 色々と面倒事に巻き込まれているナツメだが、やはり怖いものは怖いのだ。

 むしろ、小学生だから当然の反応とも言ってもいいだろう。

 

「ヨッコやシキも言ってたけど、見えないに越したことねーよ。エグいぜ結構、バケモンだ、ほとんど」

 

「ゴーストバスターズみたいじゃねぇの?」

 

「零………いや、バイオに近いな」

 

「それゴーストじゃなくてゾンビじゃねぇか」

 

「元々見えない私視点じゃバイオだけど、ヨッコはヤベーぞ。一回だけヨッコの視点で『見た』ことあるんだけどよ、ありゃ静岡でサイレンが鳴った上に貞子から着信アリってところだな………」

 

「因みにムカイギ、私の視点で言うなら夕方ヨッコが除霊したお前の背後についていた霊とさっきの霊は来る前に見てきたAKIRA終盤の肉体が暴走した鉄雄が赤子サイズに縮小された霊だ」

 

「どんだけフルコース!?それに、え!?俺の背中に、っんな気持ち悪いもんついてたの!?つうかシキ、AKIRA平然と見ちゃったんだ!?」

 

「まぁ、宇宙人や夕方の『悪霊』を見れば殆ど耐性がつくさ(遠い目)」

 

「逞しいけど、それはそれで虚しいな………」

 

「とまぁ、シキも同様ヨッコは物心ついたときからそんな視界だっていうから凄まじいよ。霊感的なのが強い程、より恐く、よりグロく見えるようだからな。ま、バケモンとして見えるからこそ除霊(物理)なんて無茶苦茶な芸当が出来るんだろうけーど」

 

「お前ら含めてな」

 

「…………あぁクソっ、やっぱ精神的にキチィな……アイデアロールに成功したら1D2のSAN値チェック!」

 

「それにしても、今しがた倒した霊どもは見た目もそうだが普通ではない数だった。これは、普通の心霊現象とは考えられない」

 

 シキの視点で言うなら暴走した鉄雄の縮小版もそうだが……ペイルマンだったり、アクションゲーだと思ってたバイハが7だったり、サイコがブレイクだったりなどなど、これ小学生に見せたら倫理規定に反するんじゃねぇ?なんて疑問を抱くよりも早く、即決で倫理規定に反してると言われる奴らがウジャウジャいたのだ。

 全然普通じゃない。というよりも、こうも一か所に霊が集まっているのがおかしい。霊地でも龍脈やらいわくつきとも言えないムカイギの家に、なぜこうも大量の悍ましい霊が集まっているのか疑問に思うシキだった。

 

「つうわけだからムカイギ!R15Gになっちまうから見ないままでいろな!」

 

「この小説、残酷描写タグ付いてんだよ!?あっちから接触してくるから逆に不安なんだけど…………」

 

「安心しろ、俺が守ってやる(低音)」

「我が剣にかけて」

 

(男子達も声変わり前だから、ハツミは特に違和感ないわよね………)

 

「なにカッコよく言ってんだ!あとシキ、悪乗りしなくていいからな!これだと男である俺の立つ瀬がねぇよ…………」

 

 ………ペタペタ

 

「?……何か音が」

 

 聞き逃してしまいそうな小さな音を、ナツメの耳に届き、背後向いた瞬間だった。

 ハツミの拳撃、ヨッコの除霊具、シキの剣術が同時にナツメの背後から押し寄せてきた『それ』に向けて放たれ、沸いて出てきた『それ』を除霊(物理)した。

 

「!?」

 

「また沸いてきやがった」

 

「全くもってしつこい」

 

「早いところ他の部屋も回らなきゃね」

 

「そうね。そろそろ行きましょうか」

 

「(やべぇ、これ俺だけ関われる次元じゃぁねぇ)って、ちょっと待て。他の部屋!?」

 

「うん。昼間電話した時、もしかしてと思ったの。ムカイギくんに電話代わる時に「呼んでくる」っておばさんが言ってた子機のほうじゃなかったでしょう。声に混じってノイズみたいな水音が入ってた……………でも、この家の固定電話周りには水なんてない」

 

「………!!!」

 

「水音はまずいと思ってきてみたら、案の定で………ムカイギくんやおばさんに憑いてるというよりは『家に溜まってる』状況。幽霊だらけよ、この家。なんでこんなことになってるか、まだ理由はなんとも言えないけど、ムカイギくんが見えない人でよかった」

 

「出てくんな、話し中だ!」

「大人しく地獄へ落ちろ!」

「見えないけどくらえ!」

 

「とりあえず安心してね。長引かせる気はないの。幸い同じ体質のシキちゃんもいるし、今夜中にケリをつけるよ」

 

「なんだろ、この奇妙な安心感は…………でも、すまねぇ。俺だけじゃお手上げだ。頼む」

 

「ん、がんばるよ。ねっ、みんな」

 

「あぁ。ユーダイとの約束もあるし、友達だからな」

「あだぼーよ。護衛は任せとけ」

「困ったときはお互い様よ」

 

「じゃあ、父さんと母さん起こしてこようか?そんな大変なことが起こってるなら……」

 

「うーんと………無理だと思うな」

 

「え?」

 

「そのおまもりは憑り付きを防ぐ『だけ』なの」

 

 そう言ってヨッコは襖を開けた途端、とてもムカイギの家とは思えない大名の屋敷並のあるはずのない無数の襖と長い廊下が続いていたのだ。

 

「な、なんじゃこりゃあ!?ウチ、こんな廊下長くねぇぞ!」

 

「怪談でよくあるでしょう。あるはずのない扉とか、ないはずの曲がり角とか。霊がとどまってると場所がおかしくなるんだ」

 

「さすがの私でも、これは初めて目にするな………」

 

「でも、所詮は錯覚だから。雰囲気に飲まれなければ平気だよ。安心して。いこっか!」

 

「え、あ………おう」

 

 不安で震えていた自分にギュッと手をヨッコから握られたムカイギは思わず赤面する。ザウルス小隊隊長・ムカイギ。仲間たちと共に様々な壁や困難に直面してきたが彼も小学生で男なのだ。異性に手を握られたらそりゃあ、照れてしまう。

 そんなムカイギの反応に「………あぁ、やっぱり『普通』の部分もあるのだな」と、『異常』な空間の中で久方ぶりに見た『正常』に安堵していた。

 

「おい、いい雰囲気にも飲まれんなよ!ホラーのラブシーンはもはや様式美で死亡フラグだからな!」

 

 ドゴォオオオオオオオオオオ!!

 

「ていうか、前フリよね。『これからこいつら死にますよ』っていう」

 

 シュシュ!! ジュオオオオオオオオオオ……

 

「安心しろ。お前らがいればいい雰囲気にはならねぇ。台無しだ」

 

「そういえば家を出る際に、私もユーダイに死亡フラグとやらを立ててきたな」

 

「おい今すぐ乱立させろ!でねぇと死ぬぞ!」

 

「あはははっ、ナッちゃん、ハツミちゃん。後ろは頼むね」

 

 緊張しながらも、賑やかになった一同は、先へと進んでいく。

 ムカイギを中央に配置して守れるように、前衛にヨッコとシキを、後衛にハツミとナツメの陣形で、押し寄せてくる悪霊を蹴散らしながら、ほぼすべての部屋の除霊(物理)を行った。

 いくらなんでも、これ俺と同い年のやつが出来るのか?などと同行中にムカイギは思ったりもしたが、おかしくなった廊下などを見ていくうちに段々どうでもよくなってきた。家がこんなことになってるんだし、除霊(物理)とかもアリじゃね?とかそんなノリで。

 

 

 しかし、ひとつ気になったのがヨッコとシキだ。

 怖がらせないためか、明るく振る舞っていたのだが、部屋をひとつひとつ回るうちに表情がどんどん硬くなっていく。

 

「イリエさん、シキ、大丈夫か?顔色が………」

 

「!……うん、大丈夫。ありがとう。……だいたい一階のお部屋は全部回ったかな」

 

「あ、そうだな。客間と台所と俺の部屋、風呂とトイレ、全部回ったぞ」

 

「そっか」

 

 出来るだけ明るくムカイギに振る舞い、再び視線を戻す。

 そんな時、シキはヨッコに耳打ちする。

 

(………どう思う)

 

(………まずいかな。大元がどこかにいるけど、それに浮遊霊が引き寄せられて、この家に霊道、霊が通る道が出来ちゃってる………)

 

(………拙いものなのか?)

 

(元はただの浮遊霊だったものまで、『害のあるもの』になっちゃってる。これも大元の影響?)

 

(しかし、どうしてムカイギの家にそんなものが……………この様子だと、大元は一階にはないようだな)

 

「ヨッコ!シキ!」

 

『!』

 

「ナッちゃん!」

「ナツメ、どうした!」

 

「…………下がってろ、ナッちゃん」

 

「ヤバいわ、ヨッコ。()()()()()()()()()()

 

 霊感のないナツメでも見えてしまう『それ』に怯え、ヒガサキの陰に隠れてしまう。

 何やらヒガサキが廊下の向こうを睨み付けている。

 そして、なにやら『ひたひた』と、何かが近づいてくる音がする。

 

「この足音、夜中の………」

 

「落ち着いてね。目を合わせちゃダメ。………いったい、どこでこんなの拾ってきたの」

 

 現れたそれは、ヒト型とは到底思えないほど大きく、入道雲の様に長く、ムカデの様に幾つもの手足が生えた、そんな畸形な姿をしていた霊だった。

 ついさっきまで除霊した霊とくらべものにならない程の、化け物が現れたのだ。

 

 

 



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オカルティック・ナイト 終 其一

 

「前回までのあらすじ………」

 

「キモいのが出てきた。以上」

 

「キモいじゃすまないわよ!ヤバいやつじゃないのよ!」

 

「ナッちゃん落ち着いて」

 

「キシ、あの、俺の布団………」

 

 思いのほか、ヤバい霊と遭遇したため約一名大泣きしながらも撤退することに。

 なんとかムカイギの部屋に辿り着き、今に至るのである。

 

「なぁイリエさん。………あいつ二階に行ったけど」

 

「うん……たぶん、お兄さんの部屋………危険だから、二人とも待っててほしいのはやまやまなんだけど…………」

 

「いいいいいいいいいいいいいわよ、る、留守番くらい出来るわ気にしないで行ってきていいからやめて置いて行かないで確実に死ぬっ」

 

「うん、ここに二人だけ残していくのも悪手なんだよね(……心の声と混ざってる)」

 

「しかしどうなる事かと思ってたけど、アイツ完全にこっちシカトしやがったな。結果助かったが…………見た目ヤバイだけの徘徊型かもしれねぇ」

 

「つまり、無害ということなのか、ハツミ?」

 

「いや、無害というわけではないだろうな。出会いがしらに攻撃してこない分だけ他の雑魚共よりはマシだってわけで、いるだけでもマズいヤツだ。不意打ちを警戒せずにすむから、私は楽なんだけどな…………」

 

「あれレベルで、たとえば見境なく暴れるタイプだったらもう私でも無理。でも、それならムカイギくんたちもとっくに…………だから今すぐどうこうはないはずだよ」

 

「ただなぁ。居座りや徘徊は取っ払い難しい。こっちから攻撃したとき、どう出てくるか」

 

「そうだね………ナッちゃんもムカイギくんもいるからなぁ。『大元』さえ見つけちゃえばいいんだけど…………」

 

「だがあれを相手にするのに、ここで『大元』を探すために戦力を分散するのは得策じゃないだろうな…………」

 

(どんだけ場数踏んでりゃ、ああなるんだよ。………それに隊に入って間もないシキなんて、馴染み過ぎだろ)

 

「あーもう、暫く夢に出るわっ、トラウマ決定!」

 

 ヨッコ、ハツミ、シキの3人が作戦を立てている中、何も出来ないムカイギと布団に丸まって震えているナツメは実質戦力外通知を出された様なものだった。

 

「災難だな、キシ。あれは俺も怖かった」

 

「ほんとよ………お兄さんには悪いけど、ホモォのがマシだわ。ていうか、あんたも当事者!」

 

「そーだな………」

 

「ムカイギ、心当たりとかないわけ?」

 

「え、何の?」

 

「あんだけヤバいのがなんで私と同じ零感のあんたんちにいんのよ。家族全員零感でしょ。普通自然に居つくわけないわ。最近心霊スポット行ったとかない?妙なモノ持って帰ってきたとか………」

 

「……………いや、特になにも………いつも通りだったけど、兄貴もホモォ事件以外はいつも道理だったはずだぜ。旅行も行ってないし」

 

「いつも通り、ねぇ…………じゃあ何が原因?」

 

「うーん………」

 

「めんどくせぇ!考察なんざ後だ、後!行ってみりゃ分かるんだしよ!」

 

「米俵の米粒一つや二つ程度の情報だけではどうしようもない。兎も角、二階に行かなくては分からないな………」

 

 そう締めくくり、各自隊列を組み直す。

 前衛に脳筋特攻のハツミと万能型剣士(仮)のシキ、後衛には超絶霊感のヨッコと唯一良心のムカイギ、安定援護のナツメの隊列で構成される。

 

「いいか、先発私とシキ。その後ろにムカイギ、正気を保つだけのお仕事です。ナッちゃんは二丁消臭でムカイギ援護のみでオッケー。ヨッコはムカイギとナッちゃん専守でトドメまで動かなくて大丈夫」

 

「お前、そんな強いの?あと、何その黒手袋」

 

「気分。いや、私も素じゃ零感だから……精々HP削って弱らせるのが関の山。故に特攻厨」

 

「じゃあ、シキは………」

 

「霊感は持っているが、武器がこれでは精々雑魚の除霊程度だ。まぁ、武器を変えたところであのレベルの霊に太刀打ちできるか、謎だがな………」

 

「え、でも剣術とか出来るし……」

 

「こう言ってはなんだが、私は篠ノ之流を全てマスターしているわけではない。未だ四つある型の内、一の型さえ完璧に出来ないからな。ムカイギの霊を祓うとき使った『迦楼羅』も、あくまで見様見真似で覚えた粗雑な剣技だ」

 

「その、迦楼羅ってなんだ? Fate?」

 

「Fateが何なのか知らないが、そうだな………例えるなら瞬天殺、いや、天翔龍閃?」

 

「二番目の技で最終奥義クラス!?」

「それ比喩とか暗喩とかじゃないよね?」

 

「いや、私の例えはあくまれ父だったら、ということだ。他の人が篠ノ之流を使ったところを見たことないから、こういう表現しか出来ない。しかし……………身の丈の倍以上ある大岩や舞い落ちる花弁を『木刀』で斬ってたあたり、私の父も存外ヤバいな」

 

 父が居たあの頃のことを懐かしそうに、そして遠い目で思いふけっていた。

 あぁ、よく思い出せば父も存外化け物だったなぁ、と。

 そして、なんか後半聞いちゃならないようなことを聞いてしまったシキ以外の一同はこう思った。なんで娘残してどこかへ消えたんだよ!と。

 とりあえず、そんな些細な疑問よりもムカイギの案件があるため、気を再び引き締め、二階へと向かう一同。そんなとき、ヨッコが二階に上がってすぐ横にある襖を見て気づく。

 

「こっちが確か居間の上だから………お兄さんが心配だけど、さきにご両親のお部屋を片付けよう。乱入されると手が回らなくなっちゃうから」

 

「了解」「承知」

 

「クリアリング大事」

 

(夕方のあの短時間で間取りを把握されてる………)

 

「ごめんね、寄り道ばっかりで。ちゃんとお兄さんのとこも行くからね」

 

「大丈夫。俺何も詳しくないから従うよ」

 

「話のテンポ求めて焦って進むと背後取られることになるかんな。愚は犯さん」

 

「気にしてる余裕ないわね。死活問題だもん」

 

「まぁ、任せるわ……」

 

「よし、ならばいくぞ。一、二…………三!」

 

『突入!!』

 

 襖を開け、前衛二人が先行し、後にナツメたちが続く。

 部屋の中に広がる異様な雰囲気と状態に目をくれず、各自除霊を開始する。

 

「父さん、母さん!!……ね、寝てる!?」

 

「霊が湧いてる隔離空間ではよくあること。大丈夫、憑いてはいないから朝になれば目を覚ますよ」

 

「ちなみにあんたが窓開けるまで、私たちがこの家に入れなかったのも霊が空間遮断してたせいよ」

 

「だいたい霊のせい!」

 

「つまりそういうことだ!」

 

「お前らのその平常心はどんな保たれ方してんだ」

 

「平常心っていうか……言ったろ、空気に飲まれるって。ふざけてないとさっきみたいにホラー展開になるだろうが」

 

「計画的なおふざけだ」

 

「これ以上怖いことにしたくないのよ!必死なのよ!」

 

「空元気なのかよ」

 

 空元気で振る舞う割には、霊の首をへし折らんばかりに締めあげたり、消臭剤撒き散らしたり、竹刀で未完の剣術を使って除霊したりなど動きは徹底している。

 

「っしゃあ殲滅完了!また沸く頃には夜明けてるな。次はラスボスだ!」

 

「いよいよ正念場かしら」

 

「なぁ、ホントに倒せるのか?ムリくせぇ」

 

「倒さなきゃダメだろうな」

 

「それより気を付けて…………来るよ」

 

「え―――――」

 

 途端、先ほど除霊して異様な雰囲気を取り除いたかと思いきや、除霊する以前よりも重苦しく、頭や気分が悪くなるような雰囲気へと変わった。

 そして、『それ』はムカイギの背後から襲い掛かって来る!

 

「コノヤロ、もうびっくりしてたまるか。必殺カウンタースタンプ!」

 

「『迦楼羅』!」

 

 ハツミの蹴りが顔を、シキの竹刀が無数の手足を纏めて潰しへし折る。

 だが、霊は怯むどころか動きさえ止まることはなかった。

 へし折られた無数の手足は瞬く間に蘇生してすぐ、無数の手足が二人に襲い掛かかる。

 

「ぐっ!!」「がっ!」

 

「シキ、ヒガサキ!」

 

 それぞれ腹部に、強烈な一撃を撃ち込まれた。

 ハツミは壁に叩きつけられ、背中を強く打ち呼吸がままならない。

 対するシキはハツミとは違い霊のすぐ傍にいるため、シキが痛みで悶えて動けない隙に霊は両腕を掴み、まるで磔にするかのように持ち上げ、両腕を引き千切らんばかりに

真横に引っ張り始めた。

 

「くっ………このっ、離せ――――――」

 

 ボギッ、と嫌な音が部屋中に響き渡る。

 

「ああああああああああああああっ!?」

 

「っ、んにゃろ、シキを離せクソがぁ!ヨッコォォ!」

 

「任せて!」

 

 背中を強打し、腹部の痛みを引いていない状態であるにも関わらずハツミはシキの両腕を引き千切らんばかりに引っ張る霊の腕を纏めてへし折り、襲い掛かって来る残りの手足をヨッコが除霊具で滅した。

 霊から解放されたシキはそのまま無造作に畳に叩きつけられる。

 

「大丈夫シキちゃん!?」

 

「私のことはいい!ソイツがマズいことになる前に片付けろ!」

 

「っ………ハツミちゃん!」

 

「任せろぉおおお!」

 

 シキの言う通り、何やら霊の身体が徐々に肥大化し、姿を変えようとしている。

 身動きが出来ないシキの心配よりもヨッコは、霊を優先することにした。

 このままでは、全員共倒れになってしまいかねない。

 そう決断し、ヨッコは鞘に納めた小刀を抜く。

 ハツミが霊を誘導している間、決定打を放つ瞬間を窺う。

 そして、ハツミの攻撃で霊がひるみ、霊の意識が完全にハツミに集中したその時だ。

 

「ありがとう。これで―――――効く」

 

 手に持っていた小刀を霊の顔に突き立てる。

 すると霊の動きが停まり、身体が徐々に解け始める。

 その時だった。

 

《し……しね……しししししねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねいしねしね!!!》

 

 初めて霊が放った言葉は、怨嗟だった。

 霊は怨嗟の言葉を口ずさみながらヨッコの首を掴み、持ち上げるがヨッコは小刀を突き立てたまま平然としている。

 

《し――――》

 

「嫌よ。死なない」

 

《……………》

 

「あいたたたっ………」

 

「イリエさん!」

 

「ヨッコ、大丈夫!?まったくもう、無茶して!」

 

 巨大な霊は消え去り、そのまま尻を打つ形で落ちてしまった。

 ムカイギとナツメが心配そうに寄り添い、安否を確認する。

 

「結局このおびき出して返り討ちにする作戦が一番安全だったけど…………ハ、ハツミちゃんにシキちゃん、大丈夫?」

 

「大丈夫大丈夫、私の発案だしやっぱり私は骨を断たせて肉を切る戦法があってるぜ」

 

「それだと死ぬだろ」

 

「ていうか、シキ!アンタ、両腕大丈夫!?折れたりとかしてない!?」

 

「いつつつ…………安心しろ。肩の関節が外れた程度で済んでる。とりあえずハツミ、緊急措置の為に填めてくれ」

 

「ほい来た。…………そい!」

 

「~~~~~~っ」

 

 外れたのが関節をはめ直され、同時に襲ってきた痛みに思わず悶える。

 もしかすると鋼の錬金術師も、きっとこれ以上の痛みに悶えたんだろうなと一同は思いながら、シキの姿を見ていた。

 しかし、関節をはめ直した所で、直ぐに肩を冷やし、湿布を張って安静にしなくてはならないが、そうは問屋が卸さない。まだ案件は終わっていないのだから。

 

「さて、大元を探そうではないか」

 

「そうだ。その大元ってなんのこと?」

 

「さっきのやつが憑いてる『もの』があるはずなの。それが他の霊までこの家に呼んじゃってるんだよ」

 

「有体に言うと呪いの品って奴?」

 

「んーと、まぁ………そうかな」

 

「そんな怖いもんが兄貴の部屋に!?」

 

「うん。憑いてるのは今倒したから急いで探しに行こ」

 

「そういやもうすぐ夜明けね。ご両親が起きちゃう前にずらかりましょう」

 

「あ、そうだね。急ごう」

 

「女の子3人連れ込んで誤解されっとマズいしな」

 

「お前、意地でも自分を数に入れねぇな」

 

「(ユーダイが言ってた女の子三人とは私とナツメとヨッコのことだったのか)ところでヨッコ、それは模造刀か?」

 

「うん。本物持ってると色々と言われるし、模造刀なら飾り物ってことで誤魔化せるから。シキちゃんも、竹刀じゃ心許ないと思うからもし持っていなければ貸してあげてもいいけど」

 

「いや、気遣いは無用だ。……しかし、模造刀という手もあったか。実家の神社に私用の刀と木刀があるから、近いうちに取りにいくとしよう」

 

 自分の竹刀がボロボロで使い物にならなくなっている状態を鑑みて、これは模造刀に切り替えた方が良いと判断し、用事がないに日にでも実家の模造刀と予備として木刀も取りに行こうと予定するのだった。

 そんな感じで、すっかり部屋や廊下も元に戻っていると確認し、大元を探しにムカイギの兄の部屋に向かう一同。

 

「お邪魔しま―……………す」

 

スターンッ

 

『!?』

 

 襖を開けたナツミが瞬時に勢いよく襖を閉めたことに一同はビックリする。

 

「な……どっ、どうしたのナッちゃん急に」

 

「うん、えーと……ヨッコとシキ、ムカイギを連れて下で待ってなさい」

 

「えっ、でもナッちゃんじゃ大元がどれか分からないから………」

 

「わかってるわ。違うのよ、全部終わったら呼ぶから!」

 

「というか、なぜ私まで」

 

「アンタは肩を療養しなさい!」

 

 そう言ってムカイギ兄の部屋から遠ざけようとするナツメに3人は渋々従い、ムカイギの部屋へと待機することにしたのだった。

 ナツメは3人が階段を降りるのを確認した後、すぐまた襖の引手に手をかける。

 

「んっ、私はいいのか。どした?何かあんの?」

 

「ええ。というか、ハツミグッジョブ。私呼んで正解ね………」

 

「………えっ、ちょい待ち。ヨッコ何も言ってないから心霊騒ぎは全部片付いて……」

 

「そう。だからこれ多分『別件』だわ」

 

 そう言って再び襖を開ける。

 部屋の中を覗き込んだハツミは思わず息をのんだ。

 

「!? ムカイギセンパイ!」

 

「ムカイギんちの『心霊現象』はさっきの化け物………こっちが、シューヘイたちが話してた………『ホモォ』!」

 

 部屋の中には、ムカイギの兄らしき人がうめき声をあげて倒れており、直ぐ傍にはさっき倒した畸形な霊と同じようにムカデの様に長く、無数の手足が生えた『ホモォ』が耳元でボソボソと何かを囁いている光景だった。

 

《――――――――――》

 

「う…………ぅぅ……」

 

「ちょっ……と、なんかこええぞ、こいつ!」

 

「(ユーダイ、やっぱりあんたが無事だったのは奇跡だわ!)やるわよハツミ!ノーマルな人間はホモォの妄想に耐えられない!」

 

 そして再び、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 



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オカルティック・ナイト 終 其弍

前回までのあらすじ。

霊媒師「霊を倒しに行こう」

作家「決着!」

漢女「勝った!第三部完!」

箒ちゃん「ちっ、肩が外れたが、填めればなんとかなる」

ボンバヘッ!!「お前逞しすぎだろ」

作家・漢女「って、ホモォまで居やがった!?」




 

 

 ナツメに促されて、ムカイギの部屋で待機することになった私たち。

 ハツミだけは残されたが、いったいムカイギ兄の部屋に何が居たのか。

 

「ヨッコはどう思う?」

 

「うーん……確実に大元に憑いてた霊は祓ったと思うけど、もしかすると」

 

「ホモォ……か」

 

 だとすれば、私がいても良かったと思うが。

 純粋な者にホモォの妄想は害だからと言われたが、つまりそう言う事なのだろう。。

 かずらさんから一通り話を聞いて理解しただけではダメということか。

 そんな事を思っていると、ムカイギが氷嚢と包帯を手にして戻ってきた。

 

「氷嚢と包帯、持ってきた」

 

「感謝するムカイギ。それにしても、よく氷嚢など持っていたな」

 

「兄貴がバスケしてるから、よく突き指とか捻挫とかするんだよ。とりあえず、氷嚢は使い終わったら何時でも返しに来ていいから」

 

「そうか。何から何まで感謝する」

 

「いいって別に。身体張ってまで除霊しに来てくれたんだ、むしろこんなんじゃ足りないくらいだよ………俺、何も出来なかったし」

 

 そう言うムカイギの表情には陰りがあった。

 男として何も出来なかった自分を責めているようだが………私はそんなムカイギを責めるつもりも嘲るつもりはない。

 この町に来て、私は人には向き不向きがあることを知ったから。

 

「そう気に病むな。もし私の言葉で気が収まらないなら、今度は私の案件のことで手伝ってくれたらそれでいい。私は口下手だから、特に細かいことや難しい事は説明しづらい」

 

「おう、任せとけ。ザウルスリーダーとして責任もってやらせてもらうよ」

 

「うむ。さて……さっきから肩が痛むな、ヨッコ手伝ってくれ」

 

「って、ちょっ!?俺が見てる前で脱ごうとするな!」

 

「そうだよシキちゃん。いくら小学生と言えど、女の子なんだから」

 

「すまん、つい。ではムカイギ、後ろを向いていてくれ」

 

「お、おう(……ついって、俺、男として認識されていないんだろうか)」

 

 脱臼した肩をはめ直しても、未だ痛みが引いていないので上手く服が脱げないためヨッコに脱ぐのを手伝ってもらう。服を脱いで下着姿になった自分の肩を見れば、もう片方の肩と比べてほんのり赤くなっている。

 ムカイギが用意してくれた氷嚢を赤くなった肩に押し当て、ヨッコに包帯で固定してもらい、脱いだ服を再び着直してムカイギに終わったと伝える。

 

「にしても、上で何やってるんだか、あの二人は」

 

「それについて、シキちゃんと二人でホモォが出たんじゃないかって話してたんだ」

 

「マジか。幽霊とホモォのダブルブッキングとか笑えない冗談はやめてくれよ」

 

「あくまで憶測にすぎない。だが……ナツメがハツミだけを残していったあたり、どうも憶測ではないような気がする」

 

「兄貴、大丈夫かな」

 

「………気になるなら、私が見てくるとしよう」

 

「でもシキちゃん。肩を痛めてるし、もし襲われたりしたりしたら………それにそんな状態じゃ、竹刀持てないだろうし」

 

「なに、心配するな。篠ノ之流には無手の型もあるから、どうにかなる。では、行ってくる。ムカイギを頼むぞヨッコ!」

 

「あ、ちょっ!」

「シキちゃん!」

 

 静止を無視し、私は竹刀を手にムカイギの部屋を出て急いで二階へと向かう。

 きっとあのままでは、絶対に二人は私を行かせようとはしなかっただろう。

 霊もいないし、万一ホモォが現れてもヨッコなら何とかするはずだ。

 

 

 

 

 

 

 四月某日、喜四宅にて。

 第一回かずらの甘ェもんクッキング♀ ―お菓子編―

 

「いいか、なつめ。お前には『対ホモォ』の戦闘法を教えとくぞ」

 

 二人でクッキーの下地を作っている最中、姉のかずらがそんな事を言い出した。

 

「あれ、いいの?」

 

「教えるつもりなかったんだが…………ユーダイが会っちまってるからな。万が一が起こりかねねぇ。つってもまぁ、基本お前らお得意の物理攻撃が効くんだが」

 

「お得意じゃないわよ、ハツミとシキだけよ!」

 

「なんだ、篠ノ之もか。まぁいいや。流石にそれは最終手段。それより重要なのはやっぱり精神攻撃だ」

 

「嫌な響きよね、『精神攻撃』。こないだそれで追っ払ったけど、あれ、こっちがイジメてる図になるわよ。あれは全面的に私が悪かったけども」

 

「しゃーねぇだろ。あっちもしてくるんだ、お相子だお相子。アイツらの原動力はアイツらが何かに『ときめいた時の感情』なんだ…………なんか自分で言っててウソくせーなコレ」

 

「まぁ、創作物じゃありがちよね…………『感情がエネルギー』。いいじゃない別に夢があって。営業野郎はお断りだけど」

 

「僕と契約して魔法少女になってよ。ハハッ☆(裏声)」

 

「うわこの人知ってた。………ていうか、お姉ちゃんの声真似のバリエーションがミ〇キーしかないわね……………あと、著作権云々でこの小説を細切れにしてやらなくちゃならなくなるからこれっきりにしてね」

 

「とにかく、エネルギーがときめきならときめかせなきゃいいんだ。要は、暴走したホモォは萎えさせりゃいい。そいつが『地雷』とするジャンルの何がしかをぶつけてやればホモォは消滅する」

 

「………何それ、マジ気?」

 

「そういうケースが多数報告されてる」

 

「ソースは?」

 

「2ちゃんねる」

 

「信憑性薄ぅ……」

 

 半信半疑の目で、クッキングシートにクッキーの下地を垂らすかずらを見つめる。

 ネットの情報の大半はウソなので、あまりに信じられなかったのだが、ちゃんとかずらは裏を取っている。

 

「バカヤロ。私が裏も取らずにネットの情報ばら撒く奴だと思うか。こないだ部活帰りの同級生が襲われた時に実践済みだ」

 

「高校生も被害に遭うのね」

 

「徹底的にホモォ避けされてんのは小・中学校くらいで、高校大学は最低限しか設備設置されてねぇからな……むしろネタ的には一番狙われやすい年代じゃね?青春真っ盛りだし」

 

「そーよ。ホモォ避けってどうやっての?」

 

「屋上とかに設置してある特殊な電波出してんだと。ホモォが嫌がるやつな」

 

「いよいよ害獣扱い………あ、ていうか先生が言ってた機械のチェックってそのことか」

 

「………………」

 

「……………消滅する?」

 

「まぁそこひっかかるわな。そうだ『消滅する』。実際死んでんのかどうかは分からねぇがその場から消え失せるんだ」

 

「跡形もなく?」

 

「そう、跡形もなく。妙だよな………実体があるし、触れるのにきれいさっぱり消えちまう。生物扱いされちゃいるが捕まえてもすぐ消え失せるんで研究しようがねぇらしい」

 

「消える時点で生物じゃなくない?」

 

「まぁな………ただ、生物じゃないとすると何なんだよって話になってくる。集団幻覚?あるいはヒステリー?だけど物理的にも影響がある以上、現実的な考えじゃねぇな。カメラとかフィルム、デジタル問わずに記録媒体にもがっつり写るし。学者や研究者が今分類頑張ってるらしいが、ネットじゃもう妖怪でいいんじゃねって思考停止の段階だ」

 

 クッキーの下地を乗せたクッキングペーパーを天板に乗せ、電子レンジの中に勢いよくぶち込んでそう言った。

 では、ホモォとはなんだろうか。

 シキの姉、篠ノ之束が作ったISが女性にしか扱えない、そしてコアの中がブラックボックスであることと同じくらい謎に包まれている。

 

「霊感ないやつでも見えてるし、白昼堂々街中に出てきてるから妖怪ってのもどうなんだろうな。ホモォについての最古の文字記録は妖怪扱いだったけど………まぁ、UMA扱いでいいんじゃねぇか」

 

「UMAも結構思考停止よ?」

 

「対策見つかってるなら思考停止で構わねぇよ。ともかくいいか、相手の地雷を見極めてそれをぶつける。………だからホントに奥の手だぞ、なつめ。できれば周りに誰もいない状態でやれよ?お前んとこ純粋なの多いだろ。ユーダイだのヨッコちゃんだの、篠ノ之だの、男子は言わずもがな」

 

「んーむ、てことは協力を仰ぐとしたらハツミかぁ…………あの子、恋愛に関しては全面的に無関心だからR指定以外なら多分ダメージないわね」

 

「まぁ、頼るならそいつだろうな」

 

『心底どうでもいい!!』と、両手の親指を立てて満面の笑顔で言うだろう。

 チュドーンッ!!と、クッキーを乗せた天板をぶち込んだ電子レンジが爆発する。

 

「地雷つまり…………受け付けないジャンル。相手が大嫌いだと思うようなものをぶつける、か……………」

 

「そーだな。ただ注意点がよく見極めないで逆にときめいちまうものをぶつけちまった日にはそれは『燃料』になるかんな。火に油で大惨事必至」

 

「うわぉ」

 

「だから倒さざるをえなくなった場合はキッチリやれよ………手遅れになる前にお前が皆を守ってやれ」

 

「分かってるわ」

 

 かずらの言いつけに、ナツメは当然の如く頷く。

 

 

 

 同時にこれにて、ウルトラ上手に焼き上がったかずらの家電破壊クッキー ―完成―

 

 

 

 

 

 

 

 

(大事なのは見極めること。あいつはどうしてお兄さんに………?)

 

 そんな、家電破壊クッキーを作った先月の事を思い返し状況を打破するべく慎重に考える。

 

「ナッちゃんナッちゃん、どうする。どうしたらいい。てかあれはホモォだよな?さっき倒した霊みてぇに相当妙なことになってるけど」

 

「うんたぶん自信ないけどあれはホモォよ。幽霊でたまるか。一応奥の手があるんだけど情報が少ないの。時間稼いで頂戴」

 

「時間稼ぎ、な………OK。だけどナッちゃん一ついいか?」

 

「なに、どうしたの?」

 

「ああ。時間を稼ぐのはいいが――別に、あれを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

  ズギャッ(フラグが建った音)

 

「フラグ定型文!!!」

 

 なんでこんな状況で負けフラグを建てたのか額に手を当てて天を仰ぐナツメ。

 しかし、フラグを建てたハツミだが、さっきまでと様子が変わった。

 

(それよりも、こっちはこっちで判断しないと。フラグ、折らなきゃ………)

 

「……フ―――…………離れろ、てめぇっ!!」

 

《…………!!》

 

 ハツミはムカデの様なホモォに向かって飛び蹴りを放った。

 しかし危機を察知したのか、ホモォはハツミの蹴りを回避し、そのまま壁に直撃する。

 ホモォはそのままハツミとムカイギ兄から距離を取る様に壁をはいずり回る。

 

「センパイ、大丈夫ッスか!センパイ!!」

 

 中腰になって安否を確認するが、ムカイギ兄の息は未だ荒く、顔色も悪い。

 どうやら相当長い間、妄想を吹き込まれたらしい。

 そう判断したヒガサキの顔つきが更に変わる。

 

《………………》

 

「…………センパイはなぁ、休み時間紛れ込んできた下級生のクソガキにも対等に接してくれるいい人なんだよ。こっちを馬鹿にしねーで真剣勝負してくれた上級生なんか、先輩くらいしかいなかったんだ…………」

 

 ゆっくりと立ち上がり、ホモォを睨み付ける。

 それも小学生とは思えない殺気と鬼気迫るもの感じさせる表情で。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッと、彼女の周りにそんな擬音が浮かび上がる程に。

 

「そのセンパイに手ェ出しやがって。()の恩人に危害加える奴は、誰であろうと何だろうと許さねぇ!テメェっ、センパイに何しやがった……!!」

 

(ハツミが敵前で語り始めた!…………あの子なりの時間稼ぎか。でも、「俺」って言っちゃった。結構頭に血が上ってるんだわ)

 

《…………ホモォ………》

 

「!?」

 

 ホモォが言葉を発し、何やら微動したその時だった。

 壁と接した手を勢いよく弾き、ハツミの懐まで飛んできた。

 

「ごぅっ!?」

 

 唐突だったことと、あまりの速度に反応できずモロに穿つように突っ込んできたホモォの頭部(?)がハツミの身体を押し飛ばした。

 押し飛ばされたハツミの身体は、勢いよく壁際に叩きつけられる。

 

「かっはぁ!?本日2度目の背中―――――痛ェェエッ!?」

 

「ちょ、ウソでしょやめて!死んじゃう!」

 

 身体だけでなく、今度は頭まで叩きつけてきた。

 加えて、頭をルロイ修道士よろしくと言わんばかりの万力パワーで締め付け始めたのだ。

 あのままじゃハツミの頭が潰れると危惧したナツメが近づこうとしたのだが。

 

「ま、待てナッちゃん………コイツなんか言ってる!!」

 

《―――――――――――――》

 

「………あ?しょたぜめ?後輩×先輩?なに言ってんだコイツ!部活帰りしちゅ………いや知るかよ、何でそれを今………いででででっ!?潰れる!潰れちまうぅぅうううう!!」

 

「は、ハツミ、とりあえず逃げて!」

 

 

 

「すぐに助けるぞ、ハツミ!!」

 

 

 

 半分ほど訳の分からない事を囁かれ、挙句万力の様に頭を締め付けてくるため肉体的にも精神的にも不味い状況に追い込まれているハツミの耳に、知っている声が響く。

 その声の主はホモォの眼下に接近し、ホモォの胴体に打撃を放つ。

 

「篠ノ之流零の型一式―――――『撫子』!!」

 

《――――ゲホォォ!?》

 

「げはっ、た、助かったぁ!――――――サンキューな、シキ!」

 

「仲間の窮地だ、当然のこと」

 

 ホモォを吹き飛ばした人物、同じタコツボ小隊員のシキだった。

 正直ハツミはシキの登場に感謝しきれない。何せ頭をザクロの様にされかかっていたのだから。

 篠ノ之流零の型一式『撫子』、通称・鎧通しにより吹き飛ばされたホモォはムカデの様にニョロニョロと素早く二人から距離を取りはじめる。

 倒すつもりで放ったが、やはりあれほどの大きさのホモォにそれほどダメージは与えられなかったと見える。

 

「やはり父の様にいかないなか」

 

「なに、引き剥がしてくれただけで十分だよ。さぁて、ナッちゃんが奥の手を出すまでの時間稼ぎだ。シキ、肩痛めてるし外野に居てもいいんだぜ?」

 

「冗談。片腕でも十分やれる」

 

 ホントは強がりだ。安静にしなきゃいけないのに、激しく動いたせいでアイシングしていても肩から腕にかけて痛みが走り出す。

 

《武士ッ子美少年……先輩→美少年←後輩………3P………昂る……昂ルゾォォオ!》

 

(!!?)

 

「ハツミ。このホモォは、何を勘違いしているのだ。あと、3Pとはなんだ?」

 

「いや、まぁそうだな…………」

 

(いやいやいやいやちょっと待って。わかる……分かるわよ、今のが恐らくあのホモォの反応するジャンル!あいつの好み!でも、え?なんでハツミとシキに向かって言ってんの?)

 

 ホモォの発言にナツメは思わず驚き、困惑する。

 確かにハツミの言動を鑑みれば、『そう』捉えられてもおかしくなくもない。

 それに、シキも今はハツミの様に『髪を下ろして』状態。

 きっとシキも『そう』勘違いされたのかもしれない。

 そんな中、気を失っていたムカイギ兄の意識が戻り、身体を起こす。

 

「………うくっ………」

 

「やっべ、センパイ逃げろ!」

 

《!!》

 

「な………これ………どうなって………ヒガサキさんと、隣にいる女の子は、誰……あと、そいつは……」

 

「説明は後です!早く部屋から出ていてください――――――――」

 

《……ハ、ハツミ……ヒガサキサン………女ノ子…………!?》

 

『!?』

 

《女ァァッ!!汚ラワシイ雌豚共ガァァアアアアアアア!!向日木君に近寄ルンジャネェエエエエエエエエエエエエ!!!》

 

(わ、わかった、コイツの『地雷』!…………え、ていうかマジ!?マジでコイツ、ハツミとシキを男子だと勘違いしてたの!?ハツミは分かるとして、シキはどう見ても将来美人間違いなしなのに………ミラクル!むしろハツミがミラクル!って、いやいや今はそれより地雷は分かったけど、素材が足りない。ええい、迷っている暇は無いわ、一か八か!)

 

 ムカイギ兄に避難を促そうとしていた時、何やらホモォの様子がおかしくなったかと思えばシキとハツミを交互に見つめながら、ガタガタと震えながら、まるでこっちが悪者であると言わんばかりにムカイギ兄を背に吼える。

 そしてその様子に、ハツミは答えに辿り着き、一か八か思いついた策を決行する。

 

「ハツミィ!シキィ!」

 

「んぁ、ナッちゃん?」

「どうした、ナツメ?」

 

 予測不可能であるため、ホモォの動向を窺っていた二人が急に呼ばれたて振り向く。

 いま目を離せない状況なのだが、時間稼ぎであることを思い出し、もしかすると何か策が出たのかと思って、条件反射で視線をナツメに向けてしまった。

 

 

 

「ハツミっ……シキッ!こ、こんな時になんだけど………っ、あたし本当は、二人のことが………す……すきなの……っ!」

 

 

 

『!?』

「ふぁ!?」

《オエッ……カハッ……!?》

 

 

 

 あ………ありのまま今起こったことを(ry

 うなされて目が覚めたら弟の友達の女の子と知らない女の子(自分)が化け物に襲われてて、もう一人の女の子が襲われてる二人に愛の告白をかました。

 そんなポルナレフ状態に陥った、ムカイギとシキだった。

 

「………ヒ、ヒガサキさん?だ、大丈夫?」

 

「………ナッちゃん」

 

 ムカイギ兄の応答に、ハツミの耳には届いておらずわなわなと身体が震えていた。

 そして――――――――――

 

 

 

「光栄だわ。貴方の方から言ってもらえるなんて………」

 

「誰だお前!?」

 

「!?」

 

《イヤ………ナ、ナイ………ムリムリ………》

 

 

 

 ナツメの顔つきがりぼんの表紙かと思いきや、ハツミの顔つきが突如ベルばらに変貌したためシキは思わずツッコミを入れた。

 ムカイギ兄なんてハツミのまさかの返しに固まっている。

 しかし、ホモォには何やら効果絶大なようで、終わらなかった。

 

「シキ、ヒガサキ、キシ!すげー音がしたけど大丈夫か!?」

 

「3人とも、何があったの!?」

 

 

 

「ハツミっ、シキっ、あ……あたし……ごめん、どうしても………二人のことが好きで………我慢できなくて………。でも、二人のどちらかを選ぶなんて出来ない!」

 

「ま、待てナツメ、落ち着け。calm downだ、calm downして落ち着いて考えるのだ!私やハツミ、そしてお前も女だ!」

 

「でも……ダメなのっ、日を追うごとに二人の背中を視線で追いかけてしまう……お願い、私だけを見て!お兄さんじゃなくて、私をっ!二人の視線を、私だけに向けてほしいの!」

 

「あぁナッちゃん、そんな事を気にしていたの?可愛い人………ほら、泣くのはやめて?私も彼女も、いつでもあなたのものよ。そうでしょ、シキ?」

 

「いや、私は別に「シキは………私のこと、嫌いなの?」うぐっ、嫌いとは言っていない!ただ、私たちは女で、女同士こんなの……普通じゃない」

 

「そんなことないわ。愛に性別は関係ない。お互いを想い合ってこそ成立する。そうでしょ?」

 

 

 

『!?』

 

 騒ぎを聞きつけ、心配してやってきたヨッコとムカイギが襖を開けると、そこには百合の花畑の空間が広がっていた。

 作画が統一されていない少女漫画の顔で未だ愛を拒むシキに二人が詰め寄っている光景に、ヨッコもムカイギも理解が追いつかない。

 

《ウゥ………マジ、アリエン…………女同士………シカモ、3Pトカ………ナイワァ…………ナエ…………ルワ》

 

 地雷だったか、そんな光景を目の当たりにされ吐血し始めるムカデ型ホモォはそんなこと言いながら巨大な身体が勢いよく倒れる。

 すると徐々に体が小さくなり元のサイズに戻ったのかと思えば、消滅するかのように跡形もなく消え去った。

 そして再び静寂が広がり、未だ誰もが無言のままだ。

 ホモォが消えたことを確認したナツメトハツミの二人の顔つきが元に戻る。

 

「………ぷはぁ、つっかれたぁ。表情筋が痛い………あれが女の子同士も受け付けなくて良かった。ハツミ、よく覚えてたわね。奥の手に協力してって頼んだこと。」

 

「いや、忘れてたけどナッちゃんがガチ演技モード入ったからな。ノらなきゃダメな気がして。とりあえず便乗してから協力の件思い出したよ。あービビった」

 

「な、なんだ、演技だった、のか………脅かすな、二人とも」

 

「ごめんごめん。でも、シキのアドリブ、良かったわよ。ああいう素の表情と天然の反応が一番いいのよね」

 

「あまり褒められた気はしないのだが…………」

 

「さて、とっとと誤解説いて退散しましょ。ヨッコまでショック受けちゃって………ほら、固まってないで!今の全部嘘だから!もー、だから下にいろって言ったのに」

 

「おーいセンパイ、大丈夫っすか。しかし、幼稚園時代からごっこ遊びで磨いた演技力がこんなところで役立つとは」

 

 その後、固まっていた一度を正気に戻し、誤解を解いた後すぐに大元を見つけて両親が起きない様にひっそりと急いでムカイギの家を出ていったシキたち。

 ―――かくして、長い夜は明け、ムカイギ家を襲ってきた二つの事件は色々面倒と疑問を残しつつ、その幕を下ろすのであった。

 

 

 



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閑話
その1


 

 

・『空中都市SAGA』

 

 かずらからホモォの話を聞いた後、既に空はオレンジ色に染まっていた。

 一応小学生である二人は門限があるため、ナツメとかずらに別れを告げて家を出てすぐのことだった。

 

「…………そういえばユーダイ。聞きたい事があったのだが」

 

「なに、シキ。もしかして、ホモォのことで気になることとか?」

 

「いや、それについてはまだ整理中だ。私が聞きたいのは………」

 

「聞きたいのは?」

 

「佐賀は…………飛ぶのか?」

 

「え、飛ばないの?」

 

 何を言ってるの?と言わんばかりの顔でそう返されたシキは額に手を当てて考え始めた。

 おかしい。確か佐賀は同じ九州地方に位置する長崎よりも小さくて、隣に位置する県だったはずだと、日本地図の教科書で知ったからそれが常識だった。

 だが、ユーダイの話ではラ○ュタよろしくと言わんばかり縦横無尽に空を飛び、果てはマチュピチュにまで行っている話ではないか。

 自分の常識がおかしいのか。それともユーダイの常識を疑えばいいのか悩むシキだった

 

「いやいや、おかしいだろ。なぜ島が飛ぶ!? 小学生の私でも分かる事だが物理法則はどうしたというのだ!?」

 

「シキ。この物語に物理法則を期待するほど野暮なことは無いと思うよ。この先だってTASさんさんだの、アタリハンテイ力学だのと色々と――――」

 

 それ以上はいけない。

 とにもかくにも、色々と自分の知らない所で世界がおかしくなっているのは理解した。

 父の影響でテレビやパソコンなど必要以上に扱わなかったが、今日からテレビだけでもいいからニュースなどを確認していこうと心の中でそう決心するシキであった。

 

 

 

 

 

 

 

・『小隊員紹介・ユーフォ―編』

 

 ユーダイ達との出会いから数日後、シキは他の小隊員をするからと言われて連れてこられたのが、前に訪れた公園。

 そしてタコの遊具の前には数十人もの小学生と対面する。若干緊張しながらも、数十人もの視線を浴びせられているシキは精一杯自己紹介をすることにした。

 

「えっと……はじめ、まして。篠ノ之 箒です。ユーダイ達からは、シキと呼ばれている」

 

「ユーダイからあらかじめ聞いてるよ。僕はユーフォ―小隊隊長の小茨卓。みんなからシンイチって呼ばれてるけど、呼びやすい方で呼んでいいから。これからもよろしくね」

 

「う、うむ、よろしく頼む。えっと……すまないが、一つ聞いていいか」

 

「なに?」

 

「なぜ、『こいばら すぐる』なのに、愛称がシンイチなんだ?」

 

「それはね名探偵コナンの主人公の由来だよ」

 

「コナンとはどういうものか知らないが、なぜコナンじゃないのだ?」

 

「あぁ、そっち方面だったか。なんか新鮮」

 

 まさか主人公の本名が~ではなく、コナンそのものを見ていない子供がいたのは珍しいケースだったため、高性能ではない普通の眼鏡をかけているシンイチは苦笑いを漏らす。

 ちなみに新一ほどではないが分隊中で一番頭が良い方で、音楽関連は新一ほど壊滅的ではなく普通である。

 

「俺、阿梨村陽平。好きに呼んでいいよ。あとみんなからメカニック担当とか言われてるけど、そこまで詳しくねーし、専門じゃねーから。よろしく、シキ」

 

 前髪で目が隠れていて、若干気怠そうに自己紹介をする少年アリムラ。

 過去にキャトラれた時にオーバーテクノロジー相手に修理(チョップ)が効いたことがあったため、分隊たちからはメカニック担当を半場押し付けられる形になった。

 

「よろしく頼む。………専門でも無いのに、嫌なら断ればいいのではないのか?アリムラにはやりたいことはないのか?」

 

「いや、別に嫌ってわけじゃねぇから。ただ小隊どころか分隊の誰一人そういうの得意なやつがいねぇからやってるだけ。やりたいことって程じゃねぇけど………アタリハンテイ力学に興味がある」

 

「なんだそれは?」

 

「いや、知らないならいい」

 

 ヒガサキ含め、他物理組がアップをし始めている光景を横目にシキは首を傾げる。

 しかし、疑問に思いながらも潜在的に物理組の素質のあるシキにとっては何かと頭の中に残ってしまう、そんなアリムラの言葉だった。

 

「私は井柄井鳴子。ユーダイが()()()()んならナルコでもメーコでも好きに呼ぶといい。あと、趣味で黒魔術やってる。色々と長い付き合いになるだろうが、よろしくなァ」

 

「………よろしく頼む」

 

 分隊の誰もがタダならぬ雰囲気を出しているが、特に目の前にいるおかっぱ頭の少女メーコから醸し出される真っ黒い雰囲気に薄々と感じ取ったシキは警戒してしまった。

 警戒したシキを見てか、メーコは小さく不敵な笑みを浮かべる。

 

「そう警戒しなさんな。別にお前ェさんを取って食うたりはしねェよ」

 

「す、すまない。何故か分からないが、お前を見た瞬間、いや、目が合った瞬間、嫌な気を感じ取ったというか………」

 

「ふーん…………なるほど、本質的にはヨッコ寄りの性質だな」

 

「??」

 

「気にしなさんな。とりあえず()()()()()に生まれちまったみてェだが、安心すると良い。この分隊、()()()()()()にいりゃ基本なんとかなる」

 

 そう言ってもう用が済んだと言わんばかりにメーコは不敵な笑みを浮かべたまま、下がっていった。何を言っているのか殆ど分からなかったし怪しい雰囲気を纏ってはいるようだが、何やら助言めいたことを言っていたので悪い人物でない、と何となくそう判断しておく。

 

「私、森口香奈美!みんなからシンディって呼ばれてるからシンディってよんでね!」

 

「あ、あぁ、わ、わたしのことは、シキで、いいから」

 

「ねぇねぇ、篠ノ之博士の妹なんでしょ?ISってどんなの、カッコいいの?テレビで白騎士見ても、どんな感じなのかわかんなかったの。アーマードコアっぽい?それともヴァルキリー?ガンダム?ガングリフォン?バーチャロン?ゼオライマー?ラーゼフォン?ジェフティ?メタルギア?攻殻?ねぇねぇどんな風なのか教えて教えて!」

 

「す、すまないが、わたしも、どういうものなのか、直接、見たことないから、分から、ない………と、とりあえず、お、おち、落ち着いてくれ」

 

 太眉で元気の良くシキの両手を取ってブンブンと身体が揺さぶられるほど勢いよく振って握手しながらマシンガントークする少女シンディ。

 この元気良さからして分かるだろうが特技はボディランゲージ。無論ゴリ押し。

 一人だけ外国人めいた名前だが、由来はギリシャ神話のシンシアから。

 名前と性格があっていないが、所属する小隊がそれに連なっているから。

 因みにISはどちらかと言えばフ〇ームアームズ〇ールか武装〇姫に近い。

 

「えー、そっかー残念」

 

「うっ………期待に応えられなくて、すまない」

 

「ううん、いいの! あ、UFOとか宇宙人に興味ある? 宇宙人に友達がいるから紹介するよ!」

 

「え? あ、いや…………え?」

 

「じゃあ今度みんなと一緒に行こうね!」

 

「い、いや、ちょっと待て。UFO?宇宙人?そんなもの実在するのか?」

 

「うん、するよ。ほら、あんな感じのって――――――――――」

 

『みっちゃん!?あと、てっちゃん!?またキャトラれてる――――――っ!』

 

 ISの話から急に存在しないであろう宇宙人だのUFOだのという話に切り替わったため、思わず困惑してしまうシキをよそに全小隊員が空に指を指しているのを見て、空を見る。

 

「…………へぁ!?」

 

 間の抜けた声が思わず漏れた。

 視線の先、空には白昼堂々とUFOの様な物体が飛んでいて、何やら男女二人がUFOに連れ去られようとしているのが見えた。

 錯覚か私を監視するために国が用意した飛行物体かなどと疑いそうになったが、小隊員全員の反応から察するに後者は保留として、前者ではないようだった。

 

「知らない形とエンブレムのUFO、きっと別の侵略者だ!」

 

「最近ケ〇ロ軍曹並の頻度だなチクショウっ! せめてプレ〇ターくらいにしろ!」

 

「そっちがもっとヤバいだろビジュアル的に!」

 

「メーコ、いますぐこっちにもUFO用意するように伝えて!」

 

「すでに向こうにいる悪魔に伝えてらァ。数万光年先からヤマト真っ青の時空転移で跳んで来る頃だろうよ」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

「おぉスゲェ、アル〇ディア号とエメ〇ルダス号じゃん!」

 

「アイツ等、造るって言ってたけどマジで造ったの!?」

 

「個人的にはマ〇ー・バンガードのほうが良かったけども!」

 

「おっしゃああ!みんな、みっちゃんとてっちゃんの二人を助けるために乗り込むぞ!」

 

『応ゥ!』

 

「ほらシキ、一緒に行こ!」

 

「え!?行くって、あれに乗ってか!?」

 

 IS以上のオーバーテクノロジーが満載してそうな代物を目して状況が未だつかめていないシキは手を取られ半場無理やりユーフォ―小隊を筆頭に仲間を救うため謎のUFOを追うべく宇宙の旅を経験することになる。

 銀河の歴史がまた1ページ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャトラれた二人の自己紹介。

 三つ編みの女の子が三城谷美津子。愛称はみっちゃん。よくキャトラれる。

 右目に縦の傷がある男の子が蔦原哲哉。愛称はてっちゃん。よく巻き添えをくらう。

 

「俺たちの紹介雑くね!?」

 

「いまの状況的にもそういう雰囲気じゃないからね。仕方ないよ」

 

 

 

 




追記:映画でエイリアンとか地球外生命体の作ってる乗り物って大抵オーバーテクノロジーだからこれくらいやらかしても問題は無いと思う。


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