カミテン~遊戯王TFへ転生してハーレム目指す――でも~ (ニョニュム)
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―異分子・小波赤人―
始まりの99連敗


デュエル万能論を信じて、間違った方へ全力疾走する主人公の話。


 突然ではあるが小波赤人(コナミセキヒト)は転生者である。それもただの転生者ではない。俺の夢は酒池肉林のハーレムを作ることだと言って憚らない女好き。勿論、前世は彼女居ない暦=年齢の男。女性の扱いは慣れていない。そんなコナミが自力でハーレムを築くには無理がある。そこでコナミが思い付いたハーレムを築く為に頼ったのが、“デュエル万能論”。

 

 犯罪者はデュエルで拘束して、聞きたいことはデュエルで聞き出す。そんな理論がまかり通る世界。それが遊戯王という世界だ。強い決闘者は無条件にモテる。遊戯王の常識だ。ガチデッキを持ち込めば、それだけでハーレムウハウハだ。

 

 間違って殺したから特典付きで転生させてあげる→遊戯王世界で全部のカードくれ→OK、それじゃあ転生で。

 

 とりあえず、こんな経緯で神転したコナミはただ一つだけ見落としていたことがある。

 

 ガチデッキだろうが、ネタデッキだろうが、この世界で勝者となるのは強き決闘者(デュエリスト)のみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤く燃えている沈みかけの夕日に照らされて、赤色に染まる灯台の下、デュエルディスクをセットした青い制服を着た少年と赤い制服を着た少年が向かい合っていた。

 

「また、コナミか。確かに俺は挑まれれば何度でも受けて立つと言ったが、これで何度目だ?」

「今はオレの98連敗中だ。だからこそ、このデュエルで記念すべき1勝を捥ぎ取らせて貰う。その為に、カイザー亮。アンタに勝つ為のデッキを作り上げてきた」

「俺に勝つ為……か。いいだろう。コナミ、貴様のリスペクトを俺に見せてみろ!」

「サイバー流後継者、丸藤亮。お前の不敗神話は今日、このデュエルで終わる! そしてお前に勝利して、オレはデュエルアカデミア最強のデュエリストになってやる!」

 

 呆れたような表情を浮かべた亮とそんな亮へ憎悪の念を向けるコナミの視線がぶつかり、激しく火花を散らす。

 

「「デュエル!」」

 

 決闘の宣言と共に二人のデュエルディスクが起動して、自動的に先攻後攻を決める。先攻はコナミだ。

 

「オレのターン、ドロー!」

 

 デッキからカードをドローしたコナミは6枚になった手札を見て、薄っすらと笑う。初手から自分の望むカードが手札に舞い降りた。勝負のツキはこちらにある。

 

「オレは手札からモンスターを裏側守備表示でセット。1枚のカードを伏せてターンエンド」

 

 しかし、焦りは禁物。先攻1ターン目は攻撃表示でモンスターを召喚しても攻撃出来ない。それならば、次のターンを凌ぐ為に準備しておくべきだ。

 

「俺のターン、ドロー! 俺は手札からサイバー・ドラゴンを特殊召喚」

 

 

 サイバー・ドラゴン☆5光 ATK/2100DEF/1600

効果・相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

 

 

 亮のフィールドに機械仕掛けの竜が出現した。亮へ寄り添うように出現した竜は敵対者であるコナミへ咆哮する。その咆哮を受けて、コナミは忌々しそうにサイバー・ドラゴンを睨む。

 

「サイバー・ドラゴンは特殊召喚。まだ、俺には通常召喚をする事が出来る。俺は手札からサイバー・ドラゴン・ツヴァイを通常召喚!」

 

 亮のフィールドに二体の竜が並ぶ。二体の竜の咆哮を受け、亮は頷く。

 

 

 サイバー・ドラゴン・ツヴァイ☆4光 ATK/1500DEF/1000

 効果・このカードが相手モンスターに攻撃するダメージステップの間、このカードの攻撃力は300ポイントアップする。

 1ターンに1度、手札の魔法カード1枚を相手に見せる事で、このカードのカード名はエンドフェイズ時まで「サイバー・ドラゴン」として扱う。

 また、このカードが墓地に存在する場合、このカードのカード名は「サイバー・ドラゴン」として扱う。

 

 

「このカードの効果発動! 俺は手札から魔法カード“融合”を見せる事で、サイバー・ドラゴン・ツヴァイをサイバー・ドラゴンとして扱う。そしてそのまま融合発動。フィールドにいる二体のモンスターで融合召喚! 現れろ! サイバー・ツイン・ドラゴン!」

 

 亮のフィールドに並んだ二体の竜が融合し、新たな竜として出現する。二つの頭を持つ機械仕掛けの竜はその巨体と共に圧倒的な威圧感を与える。コナミに怯えた様子はなく、ただ忌々しそうにモンスターを見つめている。

 

 

 サイバー・ツイン・ドラゴン☆8光 ATK/2800DEF/2100

 効果・このカードは一度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 

 

「そしてそのままコナミの裏側守備表示モンスターを攻撃! 第1打、エヴォリューション・ツイン・バースト!」

「馬鹿め! この瞬間、破壊された電磁蚊のリバース効果発動!」

 

 

 電磁蚊(モスキートマグネ)☆3光 ATK/300DEF/1000

 効果・リバース:フィールド上に表側表示で存在する機械族モンスターを全て破壊する。

 

 

「この効果により、サイバー・ツイン・ドラゴンは破壊される」

 

 サイバー・ツイン・ドラゴンが破壊したカードから小さな機械仕掛けの蚊が発生し、サイバー・ツイン・ドラゴンの体内へ入り込むとそのまま心臓部まで到達、人間の血を吸う要領で心臓部からエネルギーを吸い取り始めた電磁蚊は自身に内包しきれない圧倒的なエネルギー量を吸収すると火花を散らして爆発。その小さな爆発に巻き込まれ、被害を受けた心臓部が暴走を始め、サイバー・ツイン・ドラゴンが自壊する。

 

「ハッハッハ、良い気味だな。巨大な竜がただの蚊にやられるなんて!」

「…………、俺はカードを3枚伏せてターンエンド」

 

 心底嬉しそうに嘲弄するコナミの対応に何も言わず、亮が自分のターンを終える。

 

「オレのターン、ドロー! オレは手札から神獣王バルバロスを妥協召喚!」

 

 

 神獣王バルバロス☆8地 ATK/3000→1900DEF/1200

 効果・このカードはリリースなしで通常召喚できる。

 この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。

 このカードはモンスター3体をリリースして召喚できる。

 この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上のカードを全て破壊する。

 

 

 ライオンの顔を持ち、屈強な戦士の如く筋肉質な人間の上半身と力強い脚力を持つ獣の下半身、右手に持った螺旋の槍と左手に持った丸い盾がサイバー・ツイン・ドラゴンにも劣らない存在感を示す。しかし、従属神の一体として召喚されたバルバロスは何処か窮屈そうにコナミのフィールドへ立っている。それもその筈、コナミによって無理矢理召喚された今のバルバロスは本来の力が発揮出来ない状態にある。

 

「そしてオレは速攻魔法“禁じられた聖杯”を発動。このカードの効果により、エンドフェイズ時まで選択したモンスターの攻撃力を400ポイントアップし、効果を無効にする。当然、対象はバルバロス」

「攻撃力2300? いや、そうじゃない!」

「お前の思っている通りだよ、カイザー! バルバロス、その力を解放しろ!」

 

 亮の戦慄と共にコナミが宣言する。

 

 降り注いだ聖杯の中身を飲み干したバルバロスはその効力によって本来の力以上の物を発揮する。

 

「攻撃力3400! 妥協召喚によるデメリットを無効にして、メリットだけが残る。これほどのプレイを見せる君が何故――」

「ゴチャゴチャ五月蝿い! やれ、バルバロス! ダイレクトアタック、トルネード・シェイパー!」

 

 真の覚醒を果たしたバルバロスの攻撃が亮へ迫る。

 

「くっ、この瞬間、トラップ発動“和睦の使者”。このターン相手モンスターから受けた全ての戦闘ダメージは0となる」

「お前の不敗神話は今日で終わると言っただろうが! カウンタートラップ発動“魔宮の賄賂”。相手の魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。その後、相手はカードを1枚ドローする」

 

 亮を守ろうと出現した女性の使者に対して、無理矢理賄賂を手渡す男。賄賂を受け取ってしまった女性の使者は亮へ申し訳ない表情を浮かべ、賄賂を渡した男はにんまりと笑う。男性から受け取った賄賂を亮へ手渡す女性の使者、亮は無言でカードを1枚ドローする。次の瞬間、にんまり笑う男と女性の使者を巻き込んで、バルバロスの攻撃が亮へ襲い掛かる。

 

「ぐっ!」

 

 丸藤亮LP4000→600

 

 バルバロスの大槍に貫かれた亮が大きく後退する。その表情は苦悶に満ちている。

 

「良い気味だな、カイザー。これでオレのターンが終了すれば、オレのフィールドには攻撃力3000のバルバロスが残る。この絶体絶命の中、お前ならどうする? もしかしたら、希望を抱くかも知れないな。だからこそ、ここでその希望を潰す。オレはバトルフェイズを終了し、手札から魔法カード“システムダウン”を発動。このカードはLPを1000払うことで相手フィールド上と墓地の機械族を全てゲームから除外する。これで墓地から復活させることも出来ない。何も出来ず、そのまま敗北しろ! これでターンエンド」

 

 小波赤人LP4000→3000

 

 サイバー・ドラゴン達が嘆きの咆哮と共にゲームから除外されていく。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 フィールドには攻撃力3000のバルバロス。墓地にいる筈のドラゴンはゲームから除外されている。自分の絶対的勝利を確信し切っているコナミを見ながら、亮は静かにカードをドローする。

 ……少なくとも最初に戦った頃のコナミはこんなプレイをする決闘者では無かった。自分とデュエルを重ねていくに連れて少しずつ、相手の、自分のデッキを否定するようなデッキを作り上げてきた。

 

 コナミは完全にリスペクトを履き違えている。レベルタクティクスを必要とする白黒のモンスターを使ってきた時は驚いたが、決闘者の意地でコナミを蹴散らした。

 その結果が、相手を否定する為だけに組まれたコナミのデッキ。亮には漠然とコナミのデッキが泣いていると理解出来た。自身と共に戦っていくデッキの筈が他人を否定する為だけに作られたデッキ。カード達がコナミの暴走を嘆いて、泣いていた。

 

 自身のデッキを泣かせる決闘者など、決闘者にあらず。

 

 元々、才能のある決闘者だ。間違った方向へ突き進むコナミを目覚めさせるには圧倒的な敗北を与えるしかない。

 

 引いたカードを見て、亮はふっと笑う。カード達も亮の意見に賛成のようだ。

 

「コナミ、君は何故、伏せカードをしなかった。昔の君ならブラフとしてでもカードを伏せた筈だ」

「どうした? 今更、負けた時の言い訳でも考えているのか?」

「……いや、その慢心が君の敗因だ」

「どういう――」

「二体目のサイバー・ドラゴンを特殊召喚。そしてトラップ発動“異次元からの生還”。ライフを半分支払う事でゲームから除外されているモンスターを可能な限り特殊召喚する」

 

 丸藤亮LP600→300

 

 亮のフィールドに三体の機械仕掛けの竜が並ぶ。

 

「は? 流石にそれは嘘だろ? なんでそんなカードがお前のデッキに……」

「俺のデッキを、カード達を否定する君なら、俺の仲間達をゲームから除外すると睨んでいた。ただそれだけの話だ」

 

 それが亮のリスペクト。目の前の光景を否定するように首を振るコナミ。しかし、亮は止まらない。

 

「これが俺から君に伝えられる言葉だ。手札からパワーボンドを見せ、サイバー・ドラゴン・ツヴァイをサイバー・ドラゴンに。そして三体のサイバー・ドラゴンをパワーボンドで融合。現れろ、サイバ・エンド・ドラゴン!」

 

 

 サイバー・エンド・ドラゴン☆10光 ATK/4000→8000DEF/2800

 効果・このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

 

 鋭い眼光でコナミへ視線を注ぐ亮。そんな亮が最も信頼するモンスターがフィールドへ現れる。

 

 三つの頭を持つ機械仕掛けの竜。荒々しい咆哮は大気を揺るがし、その姿は正にカイザー亮が使役するに相応しい威風堂々。

 

「こ、攻撃力8000だと! このインチキ野郎め!」

「まだまだ! 俺は速攻魔法“リミッター解除”を発動。自分フィールド上に表側表示で存在する全ての機械族モンスターの攻撃力を倍にする」

 

 ATK/8000→16000

 

「攻撃力16000! ふざ、ふざけるなーっ! オレは捨てたぞ、鬼にならねば見えぬ地平がある。この言葉を信じて、お前に勝つ為だけにデッキを組んだ!」

 

 圧倒的な力の差にコナミは亮を罵倒して、喚き散らす。

 

「鬼にならねば見えぬ地平がある。確かにそうかもしれん。だが、俺は言い返すぞ。鬼にならねば見えぬ地平がある? ならば、鬼には見えぬ地平もまた存在する! この一撃で目を覚ませ! エターナル・エヴォリューション・バースト!」

「くそ、くそーぉぉぉ!」

 

 亮の言葉がコナミの胸を射抜く。鬼にならねば見えぬ地平、だが、伝説の決闘者である武藤遊戯は鬼とは全く正反対の性質を持つ決闘者だ。鬼には見えぬ地平もまた確かにある筈。

 

 圧倒的な力の光線とバルバロスの大槍がぶつかりあう。激しい激突の末、バルバロスの大槍が砕かれ、光線がバルバロスもろともコナミのLPを削り取る。

 

 小波赤人LP3000→-13000

 

 終わってみればたった4ターンの攻防。コナミの99連敗が決定した瞬間だった。

 



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勘違いの10連勝

ネタ回です。


 カイザー亮に99連敗を期した翌日。デュエルアカデミアにあるテラスの片隅で膝を抱えて蹲っているコナミの姿があった。

 

「また、負けた。どうしたらカイザーに勝てるんだよ……」

 

 どんよりと暗い雰囲気を纏うコナミがカイザーとの戦いを思い出しながら呟く。

 機械族デッキに対して本来なら完封出来る筈の構成で挑んだデッキだった。手札の引きも悪くない。むしろ、カイザーに大ダメージを与えたのだ。デッキはとても良い回転をしてくれた筈。それでもあのネタデッキでしかないカイザーに勝てないのは何故なのか。

 

(もしかして、積んでいる? いや、流石にそれは無いか……。じゃあ、どうして……)

 

 段々と黒い妄想がコナミの思考を支配していく。万全を期したデッキで勝てないのは相手が悪い。基本的に性格が捻じ曲がっているコナミは自分が悪いと認めない。負ければただデッキの構成が悪かったと考えるのだ。

 

 だからこそ、コナミのデッキ達はコナミとの信頼関係を築けない。コナミにとってドローはただ確立の問題であり、デッキとの信頼関係でどうこうなるようなものではない。そう考えている。元々、余計な異分子(セキヒト)が入り込む前のコナミは幾つものカードと共に生きてきた戦友だ。カード達はコナミの期待に応えようと手を伸ばすが異分子(セキヒト)が入り込み、本質がズレてしまった今のコナミには手を伸ばすカード達に気付きもしない。

 

 カードに愛されて育ったコナミとこの世界からすれば卓越したタクティクスと知識を持っていた異分子(セキヒト)。この二つが噛み合えば、伝説の決闘者にすら引けを取らない立派な決闘者になっていた筈。しかし、現実は甘くない。カードを友として、家族として扱ってきたコナミとカードをただの紙切れとしか思っていない異分子(セキヒト)。プラスとマイナス、形の違う歯車が噛み合うことなど有り得ない。

 

(あのカード達を使うのか?)

 

 それはかつて異分子(セキヒト)が普通の赤人だった頃、強力過ぎるという理由で使用が不可能になっていった禁止カード達。この世界では禁止カード達の制限が緩い。あちらでは強力な禁止カードとして扱われているモノでもこちらではクズカードとして扱われているモノが多い。聖なる魔術師(セイント・マジシャン)やキラー・スネークなどの低ステータスモンスターは完全に無用の長物として扱われている。

 

 コナミがまだ赤人だった頃の禁止カードの未使用。それは赤人なりの矜持だった。

 

(いや、それは負けた気がする)

 

 元々、負けているので何を今更であるが、コナミは原作キャラクターに対して圧倒的な情報を所持している。コナミの前ではデッキを全て公開しているようなモノ。そんな状態でも勝利することが出来ないのだから、コナミの噛み合わなさ加減は相当なモノだ。

 

 相手は平気で“強欲な壺”や“天使の施し”、途方も無い宝札系カードを使う。それは別にいい。禁止カードを使って原作キャラクターに勝利した所でコナミとして喜ぶが、赤人としては空しいだけ。

 

(まあ、どっちにしろ、DP(デュエルポイント)を溜めなきゃカイザーには挑めない)

 

 コナミはあまり気にしていないが遊戯王GXの平行世界である遊戯王TFでは多少の違いが存在する。デュエルアカデミア共通の通貨であるDPはその体現でもある。DPは授業を受けることで少しずつ個人所有のPDAに追加されていき、デュエルの際は一定のDPを掛けて戦うことになる。

 

 それと同時に決闘者ランクと呼ばれるモノがあり、DPを消費することで自分のランクを1~10の間で決定できる。デュエルアカデミア創設者の方針でアカデミアは弱肉強食がモットー。当然、ランクの低い決闘者は満足にサポートを受けることが出来ない。寮も男女別とはいえ、ボロボロのオシリスレッドだ。

 

 その扱いに奮起する者もいれば、不貞腐れる者もいる。勿論、卓越した実力を持ちながら赤色の制服が格好良いと言って、出て行かない者もいる。コナミも赤色以外の制服がしっくりこないのでオシリスレッドにいる者の一人だ。

 

 対戦する決闘者のランクによって勝負を挑む時、掛け金となるDPは変動する。決闘者ランクがそれなりでしかないコナミがアカデミア最強のカイザーに挑戦するにはかなりのDPが必要となる。前回の決闘でDPの大部分を使い果たしたコナミはいまだに膝を抱えた状態で、どうやってDPを溜めるか悩み始める。そんな時だった。

 

 

「大丈夫ですか、気分でも悪いんですか?」

 

 

 一人の天使がテラスの片隅で蹲るコナミを心配して声を掛けた。

 

 

「あっ……」

 

 

 顔を上げたコナミとコナミへ声を掛けた天使――宮田ゆまの視線が交じり合う。次の瞬間、ゆまの表情が若干強張った。

 

 

「げ、元気そうなので失礼しますね」

 

 

 元々、快活で心優しい少女であるゆまはコナミを傷つけないようにゆっくりと後退を始める。完全に逃げる体勢だ。他人に悪意や苦手意識を持たないゆまであるがコナミだけは特別に苦手としている。何故ならそれは――――。

 

 

「うぅ、ゆまたんがオレの心配を……。けど、ごめんね、ゆまたん。今のオレはカイザーへ挑む為にDPが欲しいんだ。だから、DPを掛けてオレとデュエルだ!」

 

「ふえ~ん、やっぱり~」

 

 

 じりじりと後退するゆまを逃がさないようにコナミは立ち上がるとデュエルディスクを構えて、決闘を宣言する。瞳に涙を溜めて、半泣きになっているゆまが決闘者の習性としてデュエルディスクを構える。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 ウキウキした少年の声と半泣きである少女の声と共に決闘が宣言される。デュエルディスクの決めた先攻はコナミ。

 

 

「オレのターン、ドロー! ごめんね、ゆまたん」

 

「うぅ……、またですか。酷いですよ~」

 

 

 自分の手札を見て、謝罪するコナミ。その謝罪を受けたゆまが半べそをかきながら呻く。

 

 

「オレは手札から連弾の魔術師を召喚!」

 

 

 コナミのフィールドに出現した一人の魔術師。ゆまの姿を認めると、またか、と言いたげな表情を浮かべる。

 

 

 連弾の魔術師☆4闇 ATK/1600DEF/1200

 効果・このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分が通常魔法を発動する度に、相手ライフに400ポイントダメージを与える。

 

 

「そしてオレは手札から永続魔法“悪夢の拷問部屋”を発動。このカードは相手ライフに戦闘ダメージ以外のダメージを与える度に、相手ライフに300ポイントダメージを与える」

 

 ゆまとしてはもう何度も見てきた悪夢の光景。いい加減、ゆまはコナミとの決闘から逃げ出してもいい筈だ。

 

 

「オレは手札から魔法カード“デス・メテオ”を発動。ゆまたんへ1000ポイントのダメージ」

 

 

 出現した巨大な火の玉がゆまを襲い、げんなりとした連弾の魔術師と物言わぬ悪夢の拷問部屋が追い討ちを掛ける。

 

 宮田ゆまLP4000→2300

 

 

「そして更に魔法カード“火炎地獄”を3枚発動。相手ライフに1000ポイントダメージを与え、自分は500ポイントダメージを受ける。ゆまたんの受けた痛みはオレも引き受ける!」

 

 

 良い事を言ったような満足気な表情で宣言するコナミだが、やっている事はただの追い討ち。灼熱の炎が二人を包み込み、ゆまのLPを0にする。

 

 

 宮田ゆまLP2300→-2800

 

 小波赤人LP4000→2500

 

 

「うぅ、また、私まで回ってきませんでした」

 

 

 半べそのゆまががっくりと肩を落とす。人嫌いするゆまではないが、コナミだけは苦手としている。何故ならコナミと決闘する場合、高確率で自分にターンが回ってこない1キルをかまされるか、ゆまが先攻になったとしても後攻で1キルされてしまう。はっきり言ってしまえば、コナミとの決闘では決闘でありながら決闘の体を成さない。

 

 アカデミアでは相手に直接ダメージを与えるバーンカードを禁止していないのでコナミのプレイは反則でもなんでもない。しかし、ここまでガチガチのバーンデッキを持っているのはコナミと友人でもある原麗華ぐらいだ。

 

 

「それじゃあね、ゆまたん」

 

 

 ゆまのPDAからコナミのPDAに譲渡されたDPを確認したコナミは元気を取り戻して、歩いていく。決闘に勝てば好感度が上がると思っているコナミはゆまに対して何のフォローもしない。

 

 去っていくコナミの背中を眺めながら、ゆまは溜息を吐く。コナミの考えていることがゆまには分からない。自分の事をゆまたんと言ってくるのには身構えてしまうが、コナミから向けられる感情は明らかに自分を異性として意識している好意だ。人格面で多少問題はあるが、悪人という訳ではない。向けられる好意自体はそんなに嫌じゃない。それなのに決闘が終わると碌な会話もせずに去っていってしまう。

 

 

(でも、元気になって良かった……)

 

 

 ウキウキとしているコナミの背中を眺めて、ゆまはそんな感情を覚える。アカデミア最強のカイザー亮に挑んでは敗北を繰り返すコナミの事をゆまは知っている。普通なら折れてしまうような状況でも不屈の精神で最強へ挑んでいくコナミの姿だけは純粋に憧れる。コナミの落ちこんでいる姿は似合わない。

 

 

(アレ? なんで私――――)

 

 

 いつのまにか、ゆまから笑みがこぼれた。やる気を出したコナミはまたいずれ、アカデミア最強に挑むのだろう。そんなコナミの姿を想像したら、少しだけドキドキした。

 

 その感情がどのようなものなのか、ゆまにも理解出来なかった。

 



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思い掛けない1敗

食べ物の恨みは恐ろしいんですよ。


 その日、コナミはボロボロのオシリスレッド寮でのんびりと夕食を楽しんでいた。基本的にレッド寮で無料配布される食事はかなりひもじい。痩せ細っためざしと味噌汁にご飯、運がよければそこに梅干がついてくるぐらいだ。他のおかずもあるにはあるが、DPと引き換えに購入する形になっている。

 

 一応、一日しっかりと授業を受けて配布されるDPを全部注ぎ込めば、それなりの食卓にはなる。しかし、それでは他の決闘者と決闘する際に必要となるDPが無くなってしまうので、大抵の生徒はDPと相談しながら食事にしている。

 

 そんな中でも深く考えず、お腹一杯ご飯を食べる生徒もいる。本来ならアカデミアでもトップクラスの実力を持ちながら、赤色の制服が好きだからという理由でレッド寮にいる遊戯十代もその一人だ。

 

 話は変わるが、アカデミアで大量のDPを稼ぐには大きく分けて二つの方法が存在する。一つは露骨なまでに実力主義であるDPを掛けた決闘。もう一つは普通の授業とは別に行なわれる詰めデュエルテストを受けて、良い点数を取ることである。この二つが授業以外でDPを稼ぐ方法だ。実技と知識、その二つが高い水準の生徒は普通に生活していても段々とDPが溜まっていくので、決闘者ランクが上がる訳だ。

 

 しかし、何事にも例外というのが存在する。それが遊戯王GXでは主人公を務めた遊戯十代という生徒。十代の詰めデュエルの成績は直視出来ないほどに酷い。だが、それを補って余りある実技のセンスを持っている為にDPに困らない生活をしている。

 

 

「くー、やっぱ、レッド寮のご飯は最高だぜ!」

 

「いや、アニキ。普通はレッド寮のご飯よりイエローやブルー寮のご飯の方が圧倒的に美味しい筈だよ」

 

「まあまあ、十代が美味しいって言ってるんだから、それでいいんだな」

 

 

 食べ盛りの年頃である十代が満足そうに夕食を平らげていく中、その食べっぷりに若干引いている翔。美味そうに夕食を平らげていく十代と苦笑している翔を見守っている隼人が笑みを浮かべながら言う。

 

 基本として弱肉強食における弱者であるレッド寮生は食事を取る度に自分の弱さを噛み締めながら食事を取るので、食堂はもの静かだ。しかし、オシリスレッドの期待の星であり、明るい性格である十代が食堂にいる時は元気な十代につられて、他のレッド寮生も元気になる。

 

 

(十代……か。そういえば、決闘したこと無かったっけ?)

 

 

 騒がしい十代達を横目に、夕食の味を噛み締めていたコナミはふと思い出す。

 

 学園最強であるカイザー亮に勝利する為、何度もDPを掛けて色々な生徒と決闘してきたが、原作主人公である十代との決闘は意図的に避けてきた。勝てる気がしない――――のではなく、十代とは決闘する理由が無い。効率重視であるコナミが決闘に挑むのは基本的に女子生徒ばかりで、自ら進んで決闘を申し込む男子生徒はカイザー亮ぐらいだ。

 

 同じ敗北でも女子生徒に負けてDPを持っていかれるのと男子生徒にDPを持っていかれるのでは悔しさが全然違う。同じ要領で、部屋の理不尽な立ち退き要求をしてきた万丈目とも決闘せずに大人しく部屋を引き渡した。代わりの部屋は大徳寺先生がすぐに用意してくれたので、別に万丈目は恨んでいない。

 

 

「ん? コナミ、こっち見てたけどどうかしたのか?」

 

「あぁ、なんだか珍しいペンダントを着けてるな。似合ってるよ」

 

 

 コナミが横目で自分達のことを見ていると気付いた十代が食事の手を止めて、コナミへ声を掛ける。こちらが見ていたことに気付いた十代の身体能力に内心で驚きながら、コナミは十代が首に掛けているペンダントを見つけると話を逸らす為に言う。今思い返してみれば、カイザーも似たようなペンダントをしていた気がする。

 

 遊戯王GXを下地にしているこの世界でも“三幻魔”を巡る戦いが起きるのだろう。

 

 しかし、それに関してコナミが何かするつもりは無い。コナミが余計なことをしなくても十代が勝手に解決してくれるので放っておいて大丈夫だ。

 

 

「へへ、そうか?」

 

「………………」

 

 

 話題を逸らす為に褒めた訳だが、照れくさそうに頭を掻く十代の姿になんとなく罪悪感を覚える。持っていた茶碗と箸を置いて、コップに入ったお茶を飲み干す。ふぅと一息ついたその時、コナミの中で時が止まる。

 

 

「お、コナミはもう食べないのか? それなら残っている沢庵貰うぜ」

 

「あっ……」

 

 

 あろうことか、コナミが夕食を終えたと“勘違い”した十代が、コナミがわざわざ食事の最後に取っておいた沢庵を横から掻っ攫ってしまう。美味しそうに沢庵を食べる十代の姿にコナミの中で何かが切れた。

 

 

「じゅううぅぅぅだぁぁぁぁいいいぃぃぃぃ!」

 

「な、なんだ、どうしたんだよ、コナミの奴!」

 

 

 既に言葉になっていない奇声を上げて立ち上がったコナミが十代に対してデュエルデスクを構える。そんなコナミに驚きながら、十代もデュエルデスクを構える。

 

 

「アニキ、コナミ君は沢庵が大好物なんすよ!」

 

「え! そうなのか、悪い。ちゃんと返すから……」

 

 

 明らかにぶち切れているコナミの姿に十代はうろたえて、翔の指摘を受けてコナミへ謝罪するがもう遅い。

 

 

「黙れ! お前は今日、此処で、オレが倒す!」

 

「だから、悪かったって言ってるだろ! ん? そういえば俺ってコナミと決闘するの初めてだよな。おぉー、ワクワクするぜ!」

 

 

 怒りに燃え、我を忘れているコナミと謝罪しながらもコナミと初めての対戦だと気付いた十代が瞳を輝かせる。

 

 

「な、なんでこんなことになってるんすかー」

 

 

 十代とコナミ。コナミ自身は気付いていないが、オシリスレッドのダブルエースが決闘するとあって、騒ぎを聞きつけた寮生たちがわらわらと食堂へ集まってくる。

 

 

「食べ物の恨みはそれだけ恐ろしいってことなんだな」

 

 

 混沌とした状況が食堂を支配していく中、嘆く翔の肩をポンと叩いた隼人が言う。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 遊戯十代と小波赤人。――――オシリスレッドにおけるダブルエースの戦いが今、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュエルデスクが示す先攻は十代。

 

 

「へへ、好物を食べたのは悪かったけど、コナミと決闘できるなら良かったかも知れないな。俺のターン、ドロー! 俺は手札からE・HEROクレイマンを守備表示で召喚!」

 

 

 十代のフィールドに粘土で出来た大きな身体を持つヒーローが身構えた状態で出現する。

 

 

 E・HEROクレイマン☆4地 ATK/800DEF/2000

 

 

 下級ヒーローとしては最強の防御力を誇る壁モンスター。ぶち切れているコナミは何をするか分からない。守備を固めるのが先決だ。

 

 

「俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

 

 出だしとしては充分な布陣、守備力2000を超えるモンスターは下級モンスターの中ではごく一部に限られているし、2枚の伏せカードがある。

 しかし、そんなことでぶち切れているコナミの進撃を止められる筈もない。

 

 

「オレのターン、ドロー! オレは手札から魔法カード“暗黒界の取引”を発動。お互いのプレイヤーはデッキからカードを1枚ドローし、その後手札を1枚選んで捨てる。オレはカードをドローして、手札から暗黒界の龍神グラファを捨てる。この時、グラファの効果発動。このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。オレは右側の伏せカードを破壊」

 

 

 

 暗黒界の龍神グラファ☆8闇 ATK/2700DEF/1800

 効果・このカードは“暗黒界の龍神 グラファ”以外の自分フィールド上に表側表示で存在する“暗黒界”と名のついたモンスター1体を手札に戻し、墓地から特殊召喚する事ができる。このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。相手のカードの効果によって捨てられた場合、さらに相手の手札をランダムに1枚確認する。確認したカードがモンスターだった場合、そのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

 手札から墓地へ送られる龍神の咆哮が十代の伏せカードに迫る。

 

 

「トラップ発動! 和睦の使者、これでこのターン、クレイマンは破壊されない!」

 

 

 暗黒界の龍神の咆哮により、破壊されそうになった伏せカードは十代の宣言により発動される。色々鬱憤が溜まっているのか、コナミの姿を認めた女性の使者はコナミへ蔑んだ視線を送り、コナミが司る龍神の咆哮を鼻で笑って退けるとコナミへ近付いていき、停戦の書類を投げつける。

 

 

「な、なんだこりゃ?」

 

「さ、さあ?」

 

 

 明らかに私怨の入った女性使者の行動に十代が驚き、コナミは見た目は温厚そうな女性使者から視線を逸らす。平和を望む女性使者に賄賂を手渡して帰らせたことが女性使者のプライドをズタズタに引き裂いたのだ。コナミが恨まれるのも仕方ない。停戦の書類を突き付けられて、女性使者に凄まれたコナミはいそいそと書類にサインする。そのサインを確認した女性使者は満足そうに頷いて、消えていく。

 

 

「コ、コナミ君、一体何をやったんすか……」

 

「ゴホン、翔、オレが何をしているのか。知りたいんだよな?」

 

 

 見てはいけない一面を目撃した翔が呟き、コナミはわざとらしく咳をして話題を変える。

 

 

「そして、手札から魔法カード“暗黒界の雷”を発動。フィールド上に裏側表示で存在するカード1枚を選択して破壊する。その後、自分の手札を1枚選択して捨てる。オレはもう1枚の伏せカードを破壊して、暗黒界の術者スノウを墓地へ捨てる」

 

 「ぐっ! ヒーロー・シグナルが!」

 

 

 暗黒界の落雷が伏せカードを破壊する。

 

 

「そしてスノウの効果発動!」

 

 

 暗黒界の術師スノウ☆4闇 ATK/1700DEF/0

 効果・このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、自分のデッキから“暗黒界”と名のついたカード1枚を手札に加える。相手のカードの効果によって捨てられた場合、さらに相手の墓地に存在するモンスター1体を選択し、自分フィールド上に表側守備表示で特殊召喚する事ができる。

 

 

「デッキから2枚目のグラファを手札へ。オレがやっていることは暗黒界では良くあることさ! オレは手札から魔法カード“手札抹殺”を発動。お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから捨てた枚数分のカードをドローする。1体のグラファと2体の暗黒界の狩人ブラウを捨てて3枚ドロー! そしてブラウとグラファの効果発動! グラファの効果でクレイマンを破壊!」

 

 

 暗黒界の狩人ブラウ☆3闇 ATK/1400DEF/800

 効果・このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、自分のデッキからカードを1枚ドローする。相手のカードの効果によって捨てられた場合、さらにもう1枚ドローする。

 

 

 コナミの手札から墓地へ送られるブラウがその直前に持っていた弓でデッキのカードを射抜き、舞い上がった2枚のカードがコナミの手札へ送られる。

 

 そして再び墓地へ送られる龍神の咆哮がクレイマンを襲う。このターンだけで何度も聞いた龍神の咆哮がクレイマンを破壊する。女性使者と交わした書類通り、“攻撃”は行なっていない。

 

「ブラウの効果でカードを2枚ドロー!」

 

「さ、さっきからコナミ君は何をやってるんすか?」

 

「わからないんだな。けど、何か嫌な予感がするんだな」

 

 

 一人で手札を捨てたりドローしたりと意図の見えない行動をしているコナミへ首を傾げる翔とぶち切れて不敵に笑うコナミの表情を見て、怯えている隼人。それなのにコナミと対面している十代の表情はキラキラと輝いていて眩しい。

 

 

 

「そして魔法カード“トレード・イン”を発動。手札からレベル8モンスター1体を捨てて発動。デッキからカードを2枚ドローする。3体目のグラファを墓地へ。そしてオレは手札から魔轟神レイヴンを召喚!」

 

「うげ、チューナーモンスターかよ!」

 

 

 コナミのフィールドに出現したチューナーモンスターに十代は渋い顔を見せる。シンクロとエクシーズ。デュエルモンスターズの新たな可能性として普及し始めたレベルタクティクスを必要とする召喚方法。人間、誰もが新しいモノに対して偏見を見るように、普及率は今だ低い。アカデミアの中でも使用する決闘者は僅かにしかいない。

 

 

 魔轟神レイヴン☆2光 ATK/1300DEF/1000

 効果・1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動する事ができる。自分の手札を任意の枚数捨て、その枚数分このカードのレベルをエンドフェイズ時まで上げる。このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで、この効果によって捨てた手札の枚数×400ポイントアップする。

 

 

「レイヴンの効果で手札にある3枚のカードを墓地へ。そしてレイヴンの効果発動!」

 

 

 魔轟神レイヴン☆2→5 ATK/1300→2500

 

 

「攻撃力2500のモンスター! けど、和睦の使者を発動しているからダメージは発生しないぜ!」

 

「残念だったな、十代。オレがやりたかったのはこちらの方だ! レイヴンの効果で墓地へ捨てた3枚のカードは暗黒界の尖兵ベージ。そしてベージの効果発動!」

 

 

 暗黒界の尖兵ベージ☆4闇 ATK/1600DEF/1300

 効果・このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

 手札から墓地へ送られたベージ達はやれやれと墓地へ向かう。墓地へ着いたら酒でも呑みに行くか、と予定を立てながら墓地へ向かったベージ達は墓地に辿り着いてから気付く。

 

 キチンと自分の役目を果たしたブラウとスノウは墓地の中でゆっくりと休んでいて、役目も果たさずに墓地へ来たベージへ哀れむような視線を送っている。その視線に気付いた時にはもう遅い。ベージ達が崇める龍神のグラファが3体とも自分の出番を待っている。

 そして、ベージ達は慌てて回れ右すると急いでコナミのフィールドへ出現して持っていた槍を構える。

 

 

「な、なんだったんすか?」

 

「さ、さあ、なんだな?」

 

 

 何処かで見たコントのようなやり取りに翔は呆れ顔を浮かべて、隼人も苦笑する。そんなコントを見届けたコナミは満足そうに頷くとそのまま宣言する。

 

 

「グラファが持つもう一つの効果発動! ベージを3体とも手札に戻して、3体のグラファを特殊召喚!」

 

 

 ベージ達がほっとしたのも束の間、ベージ達を押しのけてコナミのフィールドへ現れる3体のグラファ。龍神のグラファに、後は任せろと肩を叩かれたベージ達は感動した様子でコナミの手札へ戻る。

 

 

 「本当はこのまま総攻撃と行きたい所だけど、和睦の使者のせいで戦闘ダメージが発生しない。オレは手札から魔法カード“リロード”を発動。自分の手札を全てデッキに加えてシャッフルする。その後、デッキに加えた枚数分のカードをドロー」

 

 

 コナミが手札へ戻った3体のベージがそのままデッキへ戻り、新しい3枚となってコナミの手札となる。コナミは新たに引いた3枚のカードを見て、内心で勝利を確信する。

 

 

「オレは手札からフィールド魔法“暗黒界の門”を発動する。このカードはフィールド上に表側表示で存在する悪魔族モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。つまり、グラファの攻撃力は3000! カードを2枚伏せてターンエンド。この瞬間、レイヴンの攻撃力が元に戻る」

 

 

 魔轟神レイヴン☆5→2 ATK/2500→2800→1600

 暗黒界の龍神グラファ ATK/2700→3000

 

「すげぇ、凄すぎるぜ、コナミ! たった1ターンで攻撃力3000のモンスターが3体とチューナーモンスター!」

 

 

 食堂に暗黒界へ繋がる門が出現する中、十代は瞳を輝かせて興奮する。1ターンの間にデッキがグルグル回ったと思えば、いつのまにか攻撃力3000のモンスターが3体と新しい時代を切り開く可能性を持つチューナーモンスターが1体。十代が興奮しない訳が無い。

 正直な話、コナミ自身も此処まで回るとは思っていなかった。グラファが3体並ぶ事はまあ、暗黒界ではよくあることだ。しかし、コナミが驚いているのはそこでは無く、アレだけの回転を見せてなお、手札こそ使い切ってしまったが、万全の上体で伏せカードが存在している。食の恨みというコナミの暗黒面に導かれた暗黒界の仲間達は素晴らしい働きを見せてくれた。

 

 

「けど、俺のヒーロー達も負けてないぜ!」

 

 

 本当に楽しそうに笑う十代を見て、本能的にヤバイと理解する。

 

 

「俺は手札からE・HEROバブルマンを攻撃表示で召喚!」

 

 

 十代のフィールドに出現する一人のヒーロー。背中に大きなタンクを背負い、白のマントをはためかせる姿は正に正義の体現者。

 

 

 E・HEROバブルマン☆4水 ATK/800DEF/1200

 効果・手札がこのカード1枚だけの場合、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に自分のフィールド上に他のカードが無い場合、デッキからカードを2枚ドローする事ができる。

 

 

「バブルマンの効果でデッキからカードを2枚ドロー!」

 

「残念だったな! それは見切っている! オレはバブルマンが召喚される前にトラップカード“スキル・ドレイン”を発動していた! スキル・ドレインの効果はLPを1000払うことで発動できる。このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上の全ての効果モンスターの効果は無効化される! つまり、バブルマンの効果は無効!」

 

 

 小波赤人LP4000→3000

 

 バブルマンから始まる十代のコンボは最も警戒するべきモノ。伏せていたスキル・ドレインが役に立った。事後処理報告はどうかと思ったが、説明するより早く十代がバブルマンを召喚してしまったし、そのバブルマンも何故か、アニメ効果という恐ろしいモノだったので、自分は悪くないと内心で言い聞かせるコナミ。

 

 

「ぐっ、それなら俺は手札から魔法カード“天使の施し”を発動! 自分のデッキからカードを3枚ドローして、その後手札を2枚選択して捨てる。そして魔法カード“ホープ・オブ・フィフス”を発動! 自分の墓地の「E・HERO」と名のついたカードを5枚選択し、デッキに加えてシャッフルする。その後、デッキからカードを2枚ドローする。俺は墓地にあるクレイマン・バーストレディ・フェザーマン・スパークマン・ワイルドマンをデッキへ戻して、カードを2枚ドロー! それと魔法カード“強欲な壺”を発動。自分のデッキからカードを2枚ドローする。よし、来たっ!」

 

 

 天使の施しから繋がり、発動されてE・HERO専用の貪欲な壺。いつのまにこんな大量のモンスターを、とコナミは一瞬だけ驚いたが、コナミのフル回転に十代も勿論巻き込まれていた。十代ほどの決闘者なら引くカード自体がキーカードとなる場合が多い。手札抹殺でカードを墓地へ送り、足りないモンスターも天使の施しで墓地へ送った。そしてその墓地へ送ったモンスター達はすぐさま回収しつつ手札を増やす。

 

 相変わらず、恐ろしいタクティクスであり、コナミとしては信じられない禁止カードのオンパレード。十代は回った手札を見て表情を明るくさせる。

 

 

「俺は手札から魔法カード“融合”を発動。手札のフェザーマンとバーストレディを融合。現れろ、マイフェイバリット・ヒーロー! E・HEROフレイム・ウイングマン! そしてヒーローにはヒーローの戦うべき場所がある。俺はフィールド魔法“摩天楼-スカイスクレイパー-”を発動!E・HEROと名のつくモンスターが攻撃する時、攻撃モンスターの攻撃力が攻撃対象モンスターの攻撃力よりも低い場合、攻撃モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ1000ポイントアップする!」

 

 

 暗黒の門を破壊して、出現したのは月が輝く摩天楼。月の光を浴び、暗黒界へ繋がる門を絶たれたグラファ達は嘆きの咆哮と共にその力を弱めて攻撃力を戻す。

 

 

 E・HEROフレイム・ウイングマン☆6風 ATK/2100DEF/1200

 効果・このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

 

「残念だったな、十代! スキル・ドレインのせいでクロノス先生を下したコンボは通用しない!」

 

「あぁ、それぐらい分かってるさ! それでもヒーロー達に撤退なんて言葉は無い! フレイム・ウイングマンでグラファを攻撃、スカイスクレイパー・シュート!」

 

 

 ヒーローの炎と龍神の炎がぶつかり合う。最初は押していたグラファの炎も守るべき者達の声援を受けたフレイム・ウイングマンの前では無力。フレイム・ウイングマンの炎がグラファを包み込み、そのまま破壊する。

 

 

「く、グラファが」

 

 

 小波赤人LP3000→2600

 

 

「そして最後の手札から魔法カード“天よりの宝札”を発動互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにカードを引く」

 

 

 丁度使い切った筈である十代の手札が補充される。コナミも同じように6枚のカードを補充されるがカードに選ばれた十代と比べれば、コナミの暗黒面もデュエルに集中し始めたせいで薄れたのか、そこまで良い手札では無い。

 

 

「そして俺はカードを4枚伏せてターンエンド」

 

 

「オレのターン、ドロー!」

 

 

 十代が伏せた4枚の伏せカードを確認して、コナミはデッキからカードをドローする。十代が伏せた4枚のカードはちょっとの事では破れない壁の筈。しかし、コナミにはその壁を破る自信があった。

 

 

「十代、君は勘違いしているようだが、暗黒界に住む彼らは墓地に送られた程度じゃあ全然倒したことにはならない! オレは速攻魔法“暗黒界に続く結界通路”を発動! 自分の墓地に存在する「暗黒界」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚する。このカードを発動するターン、自分は召喚・反転召喚・特殊召喚する事はできない。勿論、特殊召喚するのはグラファ!」

 

 

 墓地からコナミのフィールドへ繋がる結界を通り、フレイム・ウイングマンに倒された龍神が再び降臨する。

 

 

「へへ、それを待っていた! 俺はトラップカード“激流葬”発動! フィールド上のモンスターを全て破壊する!」

 

「ああ、十代ならそれぐらいやってのけると思っていた! オレもトラップカード“トラップ・スタン”を発動! このターン、このカード以外のフィールド上の罠カードの効果を無効にする。激流葬の効果は無効となる! これで壁となるトラップはなくなった! オレの勝ちだ、十代! 3体のグラファとレイヴンでフレイム・ウイングマンとバブルマン、そして十代へダイレクトアタック!」

 

 

 3体の龍神の咆哮と光の力を内包した悪魔の不気味な微笑が摩天楼を揺るがし、ヒーローが守るべき者達へ圧倒的な恐怖を植えつける。目に見える力の差に二人のヒーローは苦悶の表情を浮かべた。

 

 ――――しかし、そんな絶望のなかでも笑みを絶やさない者がいる。そう十代だ。

 

 

「だから、それを待っていたって言っただろ! 俺は速攻魔法“クリボーを呼ぶ笛”を発動! デッキからハネクリボーを特殊召喚! そして速攻魔法“進化する翼”を発動! フィールド上のハネクリボーと手札を2枚捨てることでハネクリボーLV10をデッキから特殊召喚する!」

 

 

 ヒーローを守るように現れた小さな、そして勇敢なる戦士、ハネクリボー。その小さな身体に秘めた力はこの場にいる誰よりも強力なモノである――――――だが。

 

 ハネクリボーLV10☆10光 ATK/300DEF/200 

 効果・自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを生け贄に捧げる事で、相手フィールド上の攻撃表示モンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの元々の攻撃力の合計分のダメージを相手ライフに与える。この効果は相手バトルフェイズ中のみ発動する事ができる。

 

「忘れたのか! こっちにはスキル・ドレインが――――いや、違う! スキル・ドレインの効果範囲はフィールド上のみ。リリースして発動する効果は止められない!」

 

「へへ、その通りだ! 俺のハネクリボーは止められない! ハネクリボーLV10の効果発動!」

 

 

 十代の宣言を受けて、3体のグラファとレイヴンの攻撃を跳ね返すハネクリボー。その小さな身体に宿る圧倒的な力の前に3体のグラファとレイヴンが怯む。

 

 

「負け……か」

 

 

 これだけ回ってくれた暗黒界でも原作キャラクターには勝てなかった。悔しそうにデッキに手を添えて、呟くコナミ。そんなコナミの様子を見て、十代は満面の笑みを浮かべる。

 

 

「ガッチャ、楽しいデュエルだったぜ! また、やろうな!」

 

「あぁ、今度は負けない。カイザーにも、十代にも!」

 

 腕を突き出した十代が言葉を紡いだ。そんな十代に対して、コナミが誓うように宣言する。

 

 

 ハネクリボーが放つ光がコナミを包み込む。

 

 

 小波赤人LP2600→-6800

 

 

 オシリスレッド、ダブルエース対決は――――コナミの敗北で終幕を告げた。

 




スキドレ暗黒界使用――――でも、負ける!


一応、確認しましたが、プレイミスがありましたらご指摘お願いします。


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コナミとボクっ娘とドローパン

短いです。


 当然かもしれないがデュエルアカデミアは決闘(デュエル)の勉強に力を注いでいる学園である。しかし、同時に国語や数学といった普通の教科も教えている。むしろ、決闘の授業よりしっかりと行なわれている。何故ならデュエルアカデミア創設者の方針で、常識を知らない者が決闘者を名乗るとは片腹痛い、と言うことだ。

 

 実際、デュエルアカデミアを卒業してプロデュエリストになる生徒の数は限られている。大抵の生徒は普通のサラリーマンとして働く。そしてデュエルアカデミア卒業といことで会社の営業決闘を任される生徒がいる訳だが、常識を知らず、営業先に敬意を払えないような人物では営業決闘そのものを拒否されてしまう。それではいくら決闘の腕が良くても意味が無い。そういった事態を減らす為に、デュエルアカデミアでは普通教科に力を入れているのだ。

 

 そんな事情を知らないコナミとしては勝手なイメージで決闘の授業しかやっていないと思っていたので、普通の授業は焼き回しに似た苦痛の時間だ。いい加減飽きていたが、だからと言って授業をサボろうと発想が浮かび上がってこないのはコナミの良い所かもしれない。

 

 今日も退屈な授業を半日終えて、昼食を食べる為に食堂へ向かったのだが、少し出遅れた事もあり、食券売り場には長蛇の列が出来ていた。仕方ないので食券売り場に比べたらまだ並んでいる生徒が少ない売店の方へ向かう。十代に負けたこともあって、懐のDPが寂しくなっているコナミはそれなりの価格でお腹が膨れるドローパンを2つ購入。

 

 十代にも負けないデッキ構成を考える為に、人気の無い場所で食事をしたかったコナミは昼食の喧騒が届かないデッキテラスへ向かう。

 

 

「あれ? こんな所でどうしたんだ?」

 

「うっ、なんでコナミがここにいるのよ」

 

 

 学園の喧騒が届かないデッキテラスへ到着したコナミは日当たりの良いベンチが無いか周囲を見渡して、丁度良さそうなベンチに座る一人の少女を見つけて、声を掛ける。コナミに声を掛けられた少女――――青葉あげはは振り向いてコナミの姿を認めると表情をしかめてそんな事を言う。

 

 

「まあ、ちょっとこの前、決闘で負けたんだ。次は負けない為に静かな所でデッキ構成を考えながら昼を食べようと思って」

 

 

 あげはへ見せ付けるように二つのドローパンを持ち上げてプラプラさせるコナミ。

 

 

「えっ、コナミに勝つ決闘者――――って、何で隣に座るのよ! ベンチなら他にもあるでしょ!」

 

「まあ、いいだろ。本当は静かに食べるつもりだったけど、一人で食べるより人と一緒に食べる方がご飯は美味しいからな」

 

「アンタのはご飯じゃなくてドローパンでしょ。もう、勝手にしなさいよ」

 

 

 自然な流れで自分と同じベンチへ座るコナミへ顔を若干赤らめたあげはは柔和に笑うコナミの表情にそっぽを向く。大きな黄色のヘアバンドと緑色の髪を揺らしながら顔を背けるあげはに苦笑して、コナミはあげはが持っているドローパンに気付く。

 

 

「お、お揃いだな」

 

「う、うるさいわね! こんなのでお揃いなんて言ってたら、学生の何人がお揃いなのよ!」

 

 

 マイペースなコナミの会話にう~、と唸りながら返事をするあげは。これ以上何か言われる前に、と手際良く自分の持っていたドローパンの袋を開ける。いつもならちょっとした期待を胸にして、パンに挟まれた具を確認するあげはだが、コナミがいる手前、黄金のタマゴパンに期待している姿は見せられないので、特に確認せずそのまま一口。

 

 

「……………………」

 

「どうかしたか?」

 

 

 ドローパンを一口して硬直するあげはの様子にドローパン特有のゲテモノでも当たったのか、と首を傾げるコナミ。

 

 

「か、辛っ!」

 

 

 プルプルと身体を振るわせたあげははドローパンをベンチへ置くと紙パックの牛乳を飲み始める。瞳に涙を浮かべて牛乳で口直ししているあげはの姿に何の具だったのか気になったコナミはドローパンを手にとって中身を確認する。ドローパンの具は激辛カレーだった。

 

 

「なんだ、別に普通の具だろ。この前買った時に二つともおにぎりパンだったオレに謝れ。まあ、鮭と梅干でちょうど良かったけど」

 

「う、うるさいわね。何の話よ! 辛いモノはちょっと苦手なの! それもこれもアンタのせいなんだから!」

 

 

 脈略の無いコナミの会話に涙目のあげはが叫ぶ。コナミへ食い意地が張った自分を見られたくない為に中身を確認しなかったのがいけなかった。そんなあげはの心境を知る由もないコナミは理不尽な怒りをぶつけられてえぇー、と不貞腐れて、自分のドローパンを開ける。

 

 ――――瞬間。コナミとあげはは開けられたドローパンが輝いているのを見付けた。

 

 

「あ、黄金のタマゴパンか」

 

「黄金――――ッ!」

 

 

 その現象に何度か黄金のタマゴパンを当てた事のあるコナミは何事もなかったかのように呟き、遠目ではなく近くで初めて見たあげはは一瞬息を呑み、コナミの視線に気付いて、プイッとそっぽを向く。

 

 

「それじゃあ、いただき――――」

 

 

 ます、と言い切る前に、チラチラとこちらを気にしているあげはに気付く。

 

 

「欲しいのか?」

 

「べ、別に欲しくないわよ!」

 

 

 コナミの質問に即答するあげは。しかし、あげは自身は気付いていないかも知れないが、あげはの視線は無意識の内に黄金のタマゴパンへ注がれている。その視線に気付いているコナミとしてはそんな物欲しそうな表情を浮かべられたら食べ難くて仕方ない。かと言って、あげはの性格だと手渡した所で素直に受け取る筈が無い。ん~、と悩んだコナミは一つの方法を思い付いて、行動に移す。

 

 

「今日はカレーパンの気分だから、コレ貰うな。その代わりにやるよ」

 

「あ、ボクのカレーパン! ――――って、それ食べたらボクと……」

 

 

 あげはが止めるよりも早く、激辛カレーパンを口に放り込むコナミ。コナミの暴挙に叫んだあげはは同時に起きた出来事に気付いて、顔を赤らめる。

 

 

「ん? いらないのか?」

 

「う、うるさい、馬鹿!」

 

 

 あげはとの間接キス的なことを果たしたのに気付いていないコナミは首を傾げ、あげはは顔を真っ赤にしながら差し出された黄金のタマゴパンを引っ手繰る。顔を真っ赤にしたあげはの様子にそこまで怒らせてしまったか、と一人で戦慄しているコナミ。

 

 あげはは黄金のタマゴパンを一口食べて、その美味しさに顔を緩める。そして、心配そうな表情でこちらを見ているコナミに気付く。あげははコナミと自分の手にある黄金のタマゴパンを見比べると黄金のタマゴパンをコナミから遠ざける。

 

 

「こ、これはボクのだからあげないんだから!」

 

「いや、それは別にいいよ……」

 

 

 あげはの反応に怒っていないことを理解したコナミはほっと一息つく。

 

 

「けど……ありがと」

 

 

 本当に小さな、隣に座っているコナミにも聞こえないくらいの大きさで呟いたあげはの言葉が確かにコナミの耳へ届く。チラッとあげはを見てみれば、頬を赤く染めながら一心不乱に黄金のタマゴパンを食べている。

 

 そんなあげはの様子に小さく笑みをこぼし、コナミは二つ目のドローパンを開ける。

 

 

 ――――――その中身は激辛カレーパンだった。

 




ヒロインに萌えれればデュエルは別にいいよね。←おい。

タイトルでツァンだと思った人は残念。ツァンも好きだけど作者の中でTFで最強のツンデレはあげは。――――異論は認める。


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死せる王と氷上の女王

タイトルに深い意味はありません。


 デュエルアカデミアで学ぶ学生にとって、学園生活を送る上で最低限必要となるモノが3つ存在する。

 

 1つはPDA。DPを支払う財布代わりであり、学生の個人情報が登録されていて自動的に決闘の結果を記録してくれる優れモノ。

 

 1つはデッキ。どんな優秀な決闘者でもデッキを持っていなければただの人だ。決闘者がデッキを持ち歩くのは当然の事。

 

 1つはデュエルディスク。過去、この機械の開発によって決闘者が爆発的に急増した。デュエルモンスターズの歴史を語る上で外せない革命を起こした機械である。

 

 この3つのアイテムさえあれば、デュエルアカデミアの何処でも決闘を行なうことが出来る。しかし、野良決闘は周囲の人間へ迷惑を掛ける場合があるので、時と場所を考える必要がある。

 

 デュエルアカデミアにはそういういざこざを考えるのが面倒な決闘者が伸び伸びと決闘を行なう為に用意されている場所がある。いくつかのステージと観客席に囲まれたその場所の名前はデュエルスタジアム。

 

 決闘を開始する前にPDAで使用許可の申し込みをすれば誰でも自由に決闘を行なう事が出来る施設なのだ。

 

 放課後、そんなデュエルスタジアムの観客席にノートとシャーペンを持ったコナミがいた。コナミが観戦しているステージ上では女子生徒同士の決闘が行なわれていて、決闘終了のゴングが鳴る。勝者は純粋に喜び、敗者は悔しがる。そのままお互いのデュエル構成について語り合う為、ステージから去っていく女子生徒達を余所に、コナミは先程まで観戦していた二人のデュエル構成を手に持ったノートへガリガリと書き込んでいく。

 

 ノートには相手の名前と何故かスリーサイズ。使用するデッキの構成や気をつけなければならないコンボ、決闘の展開についての傾向などがびっしりと書き込まれていた。このノートを見れば、相手のプレイスタイルなどは一目瞭然で、相手の行動を予測しながら決闘する事が出来る。

 

 小波赤人という決闘者は他の決闘者みたいに1つのデッキで戦う決闘者ではない。お気に入りのデッキ自体はあるが、それでも特徴的なデッキを持つ相手にはデッキを変える事が多い決闘者だ。メタという概念を知り、少しばかり取り入れているコナミだからこそ、戦う相手の情報収集は必要となってくる。こうした途方も無い努力を重ねるおかげで、コナミはオシリスレッドのエースとして君臨している。ただ、情報収集してある相手の殆どが女子生徒である事はツッコミ所だ。

 

 

「あら、今日も情報収集だけして帰るつもりなの?」

 

「ん?」

 

 

 データの記入を終えて、ノートを閉じると小さく息を吐く。そんな時、後ろから掛けられた声に振り返ったコナミ。振り返った視線の先にはモデル顔負けの体躯を持ち、端麗な顔立ちの少女が腕を組んだ状態で仁王立ちして、コナミのことを見下ろしている。

 

 

「あぁ、天上院さんか」

 

 

 データを纏めていたコナミへ声を掛けた少女の名前は天上院明日香。女子オベリスクブルーの中で最強と噂されるほどの決闘者であり、十代や三沢、万丈目と共に1年生でありながら、デュエルアカデミア最強の一角とさえ謳われる才女。そしてその美貌はミスデュエルアカデミアに選ばれるほど。

 

 ハーレムを目指すコナミにとって当然マークしている女子生徒であるが、珍しくコナミ“が”明日香の事を苦手としている。普段の馴れ馴れしい言動と違い、決闘において容赦無いコナミを苦手とする女子生徒は多い。しかし、コナミが女子生徒を苦手とするのは本当に珍しい。

 

 

「別に明日香でいいわよ。知らない仲じゃないし、貴方との決闘は心躍るもの」

 

「それはどうも……」

 

 

 ミスデュエルアカデミアに輝くほどの美女である明日香にこんな事を言われたら鼻の下を伸ばしてしまいそうになるが、明日香の告げた心躍るという言葉の意味が女戦士としてのソレである事をコナミは知っている。勝敗で言えばギリギリ勝ち越しているくらいであるが、決闘で明日香を追い詰めていく度に十代のように瞳を輝かせて獰猛な笑みを浮かべる。その光景が目を焼きついているコナミにとって、明日香はその歯に着せぬサバサバとした性格と相まって、端麗な容姿をしていても異性というより決闘者としての印象が強い。

 

 

「そのノート、チラッと見えてしまったのだけど、余計な情報も書き込まれているみたいね。どうやって調べたのかしら?」

 

 

 明日香は女性決闘者としての誇りを持っている。コナミが自分や他の女子生徒に勝つ為、情報収集している事についてとやかく言うつもりは無い。しかし、そのノートには乙女の秘密である3つの数字が並んでいたのは看過出来ない。コナミを締め上げた後でどういうルートでその情報を掴んだのか、洗い浚い吐いてもらうしかない。

 

 

「え? そんなのは見れば誰でも分かるだろ?」

 

「ッ!」

 

 

 さも当然のように言うコナミに絶句する明日香。少なくとも明日香が知っている男性の中でそんな特技を持つのはコナミぐらいだ。どうやらコナミは女子生徒の敵らしい。

 

 

「そう、それなら決闘で決着を着けましょう。私が勝ったら、無用なデータは消してもらうわ」

 

「え、なんでそうなるの? いや、まあ、別に良いけど……。それならオレが勝った場合は一日オレとデートしてくれよ。勿論、ラブラブカップルの設定で」

 

 

 コナミの要求に頷く明日香。乙女の秘密を守る為なら相応のリスクを背負わなければならない。

 

 それに明日香としてはもう1つだけ個人的な思惑がある。“三幻魔”の封印を解く為の鍵、“七星門の鍵”を与えられた明日香は自分のデッキを1から組み直した。何故、アカデミア最強の一角でもあるコナミではなく、大徳寺先生が選ばれたのか疑問に思う所もあるが、新しいデッキを試してみるのにコナミほど実力が拮抗していて、丁度良い相手はいない。自分が調整した新たなデッキが何処までコナミへ通じるのか、愉しみな明日香は小さく笑う。

 

 ステージ上へ移動したコナミは既にデュエルディスクを既に構えている。

 

 コナミと明日香、色んな意味で有名なコナミと明日香の対決にいつのまにかデュエルスタジアムにいた生徒達は対面する二人に注目している。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 二人の決闘が今、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 お互いにデッキからカードを5枚ドローして、視線を交わす二人。デュエルディスクが選ぶ先攻は明日香。

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 

 明日香は自分の先攻を確認すると淀みの無い動作でデッキからカードをドローして、手札を確認すると動き出す。

 

 

「私は手札から強欲な壺を発動して2枚ドロー。そしてサイバー・プチ・エンジェルを守備表示で通常召喚! そしてサイバー・プチ・エンジェルの効果発動!」

 

 

 明日香のフィールドへ出現する1匹の天使。白き翼をはためかせた天使はデッキの中に眠るカードを見抜くとその加護を明日香へ与える。

 

 

 サイバー・プチ・エンジェル☆2光 ATK/300DEF/450

 効果・このカードが召喚・反転召喚された時、自分のデッキから“機械天使の儀式”1枚を選択して手札に加える事ができる。

 

 

「私はデッキから機械天使の儀式を手札に加えて、カードを1枚伏せてターンエンド」

 

 

 攻撃の行なえない先攻としては充分な滑り出し。強欲な壺による手札増幅とサイバー・プチ・エンジェルによるキーカードのサーチ。大量展開の備えは万全の状態だ。

 

 

「オレのターン、ドロー!」

 

 

 コナミはデッキからカードを引き抜き、対面する明日香の様子を窺う。初手の躊躇いを見せない、流れるような動作を見れば、次のターンから明日香が動いてくるのは明白。それならば今の内に場を固める事が先決。生憎、最高の手札とは言いがたいがこれなら充分にこのデッキを回せる。

 

 

「オレは手札から愚かな埋葬を発動。このカードは自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。オレがデッキから墓地へ送るカードはワイト!」

 

「ワイト? 何故、そんなモンスターを?」

 

 

 墓地へ送られた死せる亡者の姿に明日香は眉間に皺を寄せる。ワイトと言えば、デュエルモンスターズが作られた初期から存在するモンスターの1つで、かの決闘王もデッキに入れていた事のあるモンスター。しかし、高ステータスモンスターが圧巻している今の状況ではその辺にあるクズカードと同じ扱いを受けている。

 

 二人の決闘を見物している観客からは“舐めすぎだろ”とか、“ふざけているのか”と様々な憶測が飛び交っている。だからこそ、明日香は墓地へ送られたワイトを警戒する。観客は好きな事を言っている。しかし、明日香はコナミが決闘においていつも全力で、容赦無い事を知っている。そんなコナミが無駄なカードをデッキへ投入して、わざわざ墓地へ送る訳が無い。

 

 ――――何かが来る。決闘者としての本能が明日香へ警戒を促す。

 

 

「やはりと言うか、なんと言うか。ワイトを見て警戒を強めるとは流石だよ」

 

 

 警戒した明日香の表情の変化を読み取ったコナミは純粋に感嘆する。このデッキのコンセプトには油断した相手を一気に食らい尽くす側面がある。決闘を見学する観客の反応を見れば然るべきだ。しかし、こんな反応の中でここまで警戒されているなら実力行使による正面突破しかありえない。

 

 

「そんな天上院に敬意を表して、死せる亡者の王をお見せする。オレは手札からワン・フォー・ワンを発動! 手札からモンスター1体を墓地へ送って発動する。手札またはデッキからレベル1モンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する。オレは手札から2枚目のワイトを墓地へ送り、デッキからワイトキングを特殊召喚!」

 

 

 コナミの手札から墓地へ送られていくワイト。カタカタと骨を揺らしながら喜々として墓地へ向かうワイトを余所に、コナミのデッキから暗黒の衣を纏った亡者の王がフィールドへ降臨する。

 

 

 ワイトキング☆1闇 ATK/?DEF/0

 効果・このカードの元々の攻撃力は、自分の墓地に存在する「ワイトキング」「ワイト」の数×1000ポイントの数値になる。このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地の「ワイトキング」または「ワイト」1体をゲームから除外する事で、このカードを特殊召喚する。

 

 

「攻撃力?のモンスター? どういうことなの?」

 

 

 コナミのフィールドへ出現したワイトキングの姿に首を傾げる明日香。戸惑いを見せた明日香の姿に、コナミは笑う。

 

 

「ワイトキングの攻撃力はワイトキングが支配する墓地で眠るワイトの数×1000となる。ワイトキングが持つ力の根源は墓地で蠢く死者の数に等しい。つまり、墓地に2体のワイトがいるのでワイトキングの攻撃力は2000!」

 

 

 ワイトキング ATK/?→2000

 

 

「くッ、ワイトの数だけ攻撃力を増すモンスター。これが今回のデッキなのね」

 

 

 死せるワイトをたたき起こして、その肋骨や肋骨を引っこ抜くワイトキング。ワイト達はカタカタと抗議をしているように見えるが、彼らの王であるワイトキングにソレを気にした様子はない。死んだら皆同じと言うが、死後の世界でも上下関係は存在する。

 

 高ステータスモンスターが圧巻している世の中で、一体誰がワイトに着目するだろうか。少なくとも自分ならワイトの事など気にも留めなかった。だからこそ、コナミとの決闘は心躍るものなのだ。コナミと決闘する度に知っている筈だったカードの新しい使い方や自分では思いつかなかったコンボを決めてくる。アカデミア最強の一角と持て囃される自分がコナミと比べたらまだまだカードに対する知識が少ないのだと嫌でも実感させられる。

 

 

「そう、そしてまだ、オレは通常召喚を残している。オレはワイト夫人を守備表示で召喚する!」

 

 

 コナミのフィールドへ現れる王の妻。ワイトキングと寄り添うその姿は正に理想的な夫婦のソレだ。死して尚、一緒に添い遂げるその愛は感動的ですらある。

 

 

 ワイト夫人☆3闇 ATK/0DEF/2200

 効果・このカードのカード名は、墓地に存在する限り「ワイト」として扱う。また、このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、フィールド上に表側表示で存在する「ワイト夫人」以外のレベル3以下のアンデット族モンスターは戦闘によっては破壊されず、魔法・罠カードの効果も受けない。

 

 

「オレはワイトキングでサイバー・プチ・エンジェルを攻撃!」

 

 

 ワイト達から奪った骨をそのままサイバー・プチ・エンジェルへ投げつけるワイトキング。その攻撃を受けたサイバー・プチ・エンジェルはワイト達の文字通り身を削る活躍により撃破されてしまう。

 

 

「そしてオレはターンエンド」

 

「……私のターン、ドロー」

 

 

 自分へターンが回ってきた明日香がカードを引く。コナミのフィールドにはワイトキングとワイト夫人。夫婦として寄り添うその姿を見れば、夫婦の絆が簡単に見て取れる。夫婦の絆を断ち切るには大変な努力が必要となる。

 

 しかし、こちらも力を蓄えていた。正面から破る用意がある。

 

 

「私は手札から機械天使の儀式を発動。私はレベル6のサイバー・プリマを生け贄に捧げて、サイバー・エンジェル-弁天-を召喚!」

 

 

 長い黒髪を揺らしながら、舞を踊って現れたサイバー・エンジェル。手に持った扇子を使い、華麗に舞うその姿は美しい。

 

 

 サイバー・エンジェル-弁天-☆6光 ATK/1800DEF/1500

 効果・「機械天使の儀式」により降臨。このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、破壊したモンスターの守備力分のダメージを相手ライフに与える。

 

 

「そして私はリチュアル・ウエポンをサイバー・エンジェル-弁天-へ装備。このカードはレベル6以下の儀式モンスターのみ装備可能。装備モンスターの攻撃力と守備力は1500ポイントアップする」

 

 

 サイバー・エンジェル-弁天- ATK/1800→3300DEF/1500→3000

 

 

 武器と防具を装備した弁天はそのステータスを大きく強化して、武器の矛先をワイト夫人へ向ける。

 

 

「私はサイバー・エンジェル―弁天―でワイト夫人を攻撃!」

 

「ぐッ!」

 

 

 弁天の舞に見惚れていたワイト夫人は弁天の敵意に気付かない。無警戒に舞う弁天へ近付いたワイト夫人は弁天に吹き飛ばされるとそのままコナミへ直撃する。暗殺染みた方法で最愛の妻を殺されたワイトキングはその怒りと共に攻撃力をアップする。

 

 

 小波赤人 PL4000→1800

 

 ワイトキング ATK/2000→3000

 

 

 大きくPLを削られたコナミはその衝撃に顔を顰める。同時に、身体を張ってワイト夫人を止めたコナミに対して、ワイトキングは何も語らず、ただ小さく頷いた。弁天を打倒するには少しだけ攻撃力が足りない。だが、その背中はやる気に満ちている。

 

 

「私はこれでターンエンド」

 

「オレのターン、ドロー」

 

 

 手札に加えた新しいカードを確認して、コナミは小さく笑う。まさか、この場面で引き当てるとは自分も運が良い。実際は身を挺したコナミの行動に感動したワイトキングの行いなのだが、コナミはそんな事など露にも思わない。

 

 

「オレは手札から闇の誘惑を発動。このカードはデッキからカードを2枚ドローし、その後手札の闇属性モンスター1体を選んでゲームから除外する。手札に闇属性モンスターが無い場合、手札を全て墓地へ送る。オレはカードを2枚ドローして、手札のワイトキングを除外する」

 

 

 闇の誘惑によってゲームから除外されたワイトキングを見届けてから、コナミは手札を確認して勝利を確信する。

 

 

「オレは手札から手札抹殺を発動。お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから

捨てた枚数分のカードをドローする。オレは2枚のカードを捨てて2枚ドロー。そしてこの瞬間、捨てられた3枚目のワイトと2枚目のワイト夫人が墓地へ行った事でワイトキングの攻撃力が2000アップする」

 

 

 ワイトキング ATK/3000→5000

 

 

 デュエルアカデミア最強のカイザー亮が使役する最強のサイバー・ドラゴン。サイバー・エンド・ドラゴンや神であるオベリスクすら超越して君臨する死せる亡者の王に観客がどよめく。ただの雑魚カードである筈のワイトが神すら超越するなど、本来ならありえない光景だ。

 

 

 本来なら絶望しか浮かばない光景の中、明日香は一人歓喜に打ち震えていた。

 

 ――――そう、この展開こそが明日香の望んでいたモノ。

 

 普段の私生活においての言動について問題の多いコナミだが、決闘において自分の考えなど軽く飛び越えてくる。巨大な壁となって立ち塞がるコナミを打ち破った時、明日香は一人の決闘者として確かに一歩高みへと上がる事が出来る。

 

 

「そして最後に手札からワイトメアの効果発動! ワイトメアを墓地へ捨てて、ゲームから除外されているワイトキングを特殊召喚!」

 

 

 ワイトメア☆1闇 ATK/300DEF/200

 効果・このカードのカード名は、墓地に存在する限り「ワイト」として扱う。また、このカードを手札から捨てて以下の効果から1つを選択して発動する事ができる。

●ゲームから除外されている自分の「ワイト」または「ワイトメア」1体を選択して自分の墓地に戻す。

●ゲームから除外されている自分の「ワイト夫人」または「ワイトキング」1体を選択してフィールド上に特殊召喚する。

 

 

 ワイトキング ATK/5000→6000

 

 

 そして並んだ二体の王。ワイトメアが墓地へ行った事により圧倒的な力を持った二体の王は恐怖と絶望を撒き散らす。圧倒的なワイトの存在感に観客は息を呑み、明日香の敗北を悟る。

 

 

「オレはワイトキングでサイバー・エンジェル―弁天―を攻撃!」

 

 

 最初に伏せたカードが気になる所であるが、臆していても仕方ない。コナミの判断に従い、弁天へ攻撃を仕掛けたワイトキング。弁天も抵抗しようと武器を構えるが死して尚、ワイトキングへ力を与える者達の声援を受けたワイトキングの敵ではない。

 

 

「きゃあぁぁ!」

 

 

 天上院明日香 PL4000→1300

 

 

 弁天を打ち破って尚、圧倒的な衝撃が明日香を襲い、らしくも無い悲鳴を上げてしまう。その声を聞きながら、コナミは注意していた明日香の伏せカードが攻撃を防ぐタイプのカードではないと判断する。

 

 

「これで最後だ! もう1体のワイトキングでダイレクトアタック!」

 

 

 勝利を決めるワイトキングの攻撃が明日香へ迫るその瞬間。

 

 

「私は速攻魔法スケープ・ゴートを発動! このカードを発動するターン、自分は召喚・反転召喚・特殊召喚できない。自分フィールド上に羊トークン4体を守備表示で特殊召喚する。このトークンはアドバンス召喚のためにはリリースできない」

 

 

 ワイトキングの攻撃から明日香を守るように出現した4体の羊トークン。発動したターンに召喚が出来なくなるデメリットを持つが、相手のターンに発動してしまえば何の問題も無い。

 

 

「……オレは羊トークンを攻撃してターンエンド」

 

「私のターン……」

 

 

 破壊された羊トークンを眺めながら、そう簡単には勝てないか、と一人納得するコナミ。しかしながら、こちらの圧倒的有利はそのままだ。

 

 その事は明日香も充分に判っている。明日香が自信を持って行なったコンボをコナミは軽々と超えてきた。今ある手札ではコナミに勝てる事が出来ない。しかし、デッキ調整した際に入れたカードの中で1枚だけこの状況を打開するカードがある。デッキに眠るそのカードを引かなければ明日香の負けが決まる。

 

 大きな壁を越える為には、新たな高みへ踏み出す為には――――そのカードを引き当てればいいだけの話だ。

 

 

「ドロー!」

 

 

 デッキへ手を掛けた明日香は小さく深呼吸すると瞳を大きく開き、カードを引き抜く。

 

 そして明日香は引いたカードを確認して微笑した。

 

 

「私は手札から融合を発動! 手札のエトワール・サイバーとブレード・スケーターで融合召喚! 来なさい、サイバー・ブレイダー!」

 

 

 明日香のフィールドへ現れる1体の女性。その姿は氷上の妖精を思わせる。明日香にとってのマイフェイバリットカード。

 

 

 サイバー・ブレイダー☆7地 ATK/2100DEF/800

 効果・エトワール・サイバー+ブレード・スケーター。このモンスターの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

相手のコントロールするモンスターが1体のみの場合、このカードは戦闘によっては破壊されない。

相手のコントロールするモンスターが2体のみの場合、このカードの攻撃力は倍になる。

相手のコントロールするモンスターが3体のみの場合、このカードは相手の魔法・罠・効果モンスターの効果を無効にする。

 

 

「そして私は団結する力をサイバー・ブレイダーへ装備する! 装備モンスターの攻撃力・守備力は、自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体につき800ポイントアップする。」

 

「なッ、団結する力だと! フィールドには羊トークンが3体とサイバー・ブレイダーを合わせて4体。つまり800×4で3200がサイバー・ブレイダーに加算される。いや、それだけじゃない! オレのフィールドには攻撃力6000のワイトキングが2体!」

 

「えぇ、そうよ。サイバー・ブレイダーの効果は相手のコントロールするモンスターの数によって変化する。そして相手のコントロールするモンスターが2体だった場合の効果はこのカードの攻撃力を倍にする! パ・ド・トロワ!」

 

 

 羊トークンと力を合わせた所で、サイバー・ブレイダーがワイトキングを下すにはまだ力が足りない。それでも諦める事を知らない明日香とサイバー・ブレイダーはワイトキングの前に立ち塞がるとその力を解放する。

 

 

 サイバー・ブレイダー ATK/2100→5300→10600DEF/800→4000

 

 

「こ、攻撃力10600!」

 

「……お礼を言わせて」

 

 

 越えられる筈が無いと高を括っていた攻撃力6000の壁を簡単に飛び越えてきた明日香に驚愕するコナミ。そんなコナミへ明日香は語り掛けた。

 

 

「貴方との決闘はいつも私を一歩高みへ導いてくれる。だからこそ、私は――――貴方にだけは負けたくない! 行きなさい、サイバー・ブレイダー! ワイトキングへ攻撃、グリッサード・スラッシュ!」

 

 

 ワイトキングを破壊するサイバー・ブレイダー。その凄まじい衝撃はワイトキングの裏へ控えていたコナミさえも吹き飛ばす。

 

 

 小波赤人 PL1800→-2800

 

 

「ッ~!」

 

 

 コナミのPLが終わりを告げ、決闘が終了する。

 

 吹き飛ばされたコナミが立ち上がろうとした時、コナミの前に白雪のように白く美しい手が差し出される。

 

 

「デートは無理だけど、貴方の奢りで良いならこの後の夕食ぐらいなら付き合ってあげる。ただし、あのデータを消すならね」

 

「そんな事でミスデュエルアカデミアと食事が出来るなら喜んでするよ」

 

 

 見惚れそうになる微笑を浮かべながら手を差し伸べる明日香。その手を取って立ち上がったコナミは小さく溜息を吐きながら頷いた。

 




OCGが少なすぎて回し方が判らなかった……。


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攻略しない事もまた攻略

 デュエルアカデミアにも休日がある。本土から隔離されている島にデュエルアカデミアが建設されている関係上、本土の学生みたいに休日は何処かに出掛けて遊びに行く、なんて事は不可能である。しかし、人間とは良くも悪くも自分の置かれた環境に適応していく生物だ。決闘以外の娯楽が無いなら決闘を楽しめばいい。元々、決闘者教育機関であるこの学校に入った生徒達は基本的に決闘馬鹿だ。決闘が出来れば別に何の問題も無い。

 

 しかし、全ての生徒がそうである訳では無いので、テニスコートやプールなど授業や部活で使う施設を休日は開放している。

 

 コナミも基本的に決闘が出来ればそれでいいタイプの生徒であるが、それでも趣味の1つや2つ存在する。その最もたるのが、休日に行なっている島の探索――――ようは散歩だ。デュエルスタジアムへ向かわずとも適当に歩いているだけで野良決闘はあちらこちらで行なわれているし、全てのカードを所持しているとはいえ、たまに落ちているカードを拾って、一喜一憂するのが気に入っている。

 

 

「あ、そういえば最近、詰め決闘の問題が変わったなんて話を聞いたな……」

 

 

 レッド寮を出たすぐ前で行なわれていた決闘をなんとなく眺めていたコナミはその事を思い出して呟く。殆どの学生は詰め決闘をDPが比較的低いリスクで稼げるシステムと認識しているが、コナミは純粋に問題を解いていく工程が楽しいと思っている。

 

 観戦していた決闘が終了して、ソリッドヴィジョンが消えた事を確認したコナミはこれからどうしたもんか、と首を捻らせて詰め決闘が受けられる校舎の方角を見る。

 

 

「時間つぶしにもなるし、散歩ついでに行ってみるかな」

 

 

 元気一杯に輝いている太陽と海から吹きぬける潮風、校舎へ続く長い道程を眺めていたコナミは決意して立ち上がると詰め決闘を受ける為に校舎へ向かう。勿論、レッド寮を出る前にPDAなどの三種の神器は持ち出している。

 

 

「やっぱり休日だから野良決闘も多いな」

 

 

 校舎へ向かう道中、休日という事もあってか、野良決闘が多く行なわれていて、純粋に時間潰しになれば良いと外出したコナミは野良決闘を観戦しつつ、ゆっくりと校舎に向かって歩いている。

 

 

「う~ん、欲求不満って奴か?」

 

 

 校舎の入り口が視線の先に見えてきた距離まで近付いてきた頃、道中に観戦してきた様々な野良決闘を思い出してきたコナミは自分の身体がソワソワしている事に気付く。色々な決闘を観戦していた為に自分も決闘がしたくなってきたのだ。

 

 自分も大概、デュエルアカデミアの生徒だな、と自覚して苦笑するコナミは周囲に誰か決闘が出来そうな女子生徒がいないか確認する。どうも最近、負け癖のようなものが着いているので、ここら辺で強敵相手に決闘で勝利しておきたい。

 

 

「ん? アレは確か……」

 

 

 コナミがその決闘を見付けたのは自分の対戦相手を探していたその時だった。まだ、遠目なので誰が決闘しているのか判らないが、誰かが2対1の変則決闘を行なっていた。

 

 

「また、珍しい決闘をしているな」

 

 

 なんとなく2対1の変則決闘に興味を引かれて、決闘が行なわれている方へ歩き出すコナミ。デュエルアカデミアにおける決闘の基本スタイルは1対1の決闘か、2対2のタッグ決闘のどちらかだ。もし、大抵の場合はこちらにパートナーがいて、対戦相手にパートナーがいない場合、その辺にいる決闘者と即席のコンビを作って決闘するのが普通である。それに即席のコンビで決闘するのも中々面白いものだ。互いのデッキでシナジーが噛み合ったり、潰しあったりとトラブルが多いタッグ決闘だが、タッグ決闘なりの面白さがある。特別な理由が無い限り、2対1の変則決闘が起きる事は無い。

 

 

「あぁ、なるほどね」

 

 

 変則決闘が行なわれている場所に近付いたコナミは誰が変則決闘を行なっているのか判明して、変則決闘が行なわれていた理由を理解する。

 

 変則決闘は2人のラー・イエロー所属の男子学生とオベリスク・ブルーに所属している大庭ナオミだ。敵対しているラー・イエローの男子生徒2人組みの顔に見覚えは無い。しかし、大庭ナオミについてはよく知っている。何度か決闘をした事があるが、ナオミは極度の潔癖症で大の男嫌いだ。

 

 何故、そんなナオミが男子生徒と決闘しているのか判らないが、どうせタッグ決闘になった時、周りにナオミと組む事が出来る女子生徒がいなかったのだろう。男子生徒とパートナーになるぐらいなら、ハンデとして2対1を選ぶような性格だ。ハンデ有りでも良いと言い切って、決闘が始まった場面を容易に想像出来る。

 

 

「何よ、アンタ。私の決闘は別に見世物じゃないのよ」

 

「いやいや、かなり押されているだろ?」

 

「う、うるさいわね。アンタには関係無いでしょ!」

 

 

 決闘が行なわれている場所まで近付いたコナミはナオミの男性センサーに引っ掛かり、決闘を観戦しているコナミに気付いたナオミはその表情を顰める。判りやすいナオミの態度に苦笑しながら、コナミはフィールドの状況を確認する。

 

 対戦相手のフィールドには守備表示で召喚されている光の追放者と攻撃表示の異次元の生還者、そして伏せカードが1枚。それに対してナオミのフィールドには伏せモンスターが1体。

 

 軽く見ただけで、ナオミが険しい顔をしていた理由が判る。ナオミが扱うデッキは“墓地肥やし”という概念を取り入れている珍しい“ライトロード”と呼ばれるカテゴリのデッキである。それに比べて、相手の場に並ぶモンスターを見れば彼らのコンセプトが“除外系”である事は簡単に予測出来る。デッキの相性はまさに最悪と言って過言ではない。

 

 それを証明するかのように回転率が激しいライトロードを扱うナオミの手札は0枚に対して、彼らは2枚ずつ手札を残している。LPについてもタッグ決闘を採用した為に対戦相手の男子生徒達は無傷の8000に対して、ナオミのLPは2500と大きく削られている状態だ。

 

この状態だけを見れば、既にナオミの勝機は無い。それこそ、“一発逆転”出来るような何かが無ければ普通に考えて無理だ。

 

 

「あぁ、そういえばアレがあったな……」

 

「だから、うるさいのよ! 黙ってなさい!」

 

 

 ポンッと両手を合わせて思い出したように頷くコナミへ噛み付くナオミ。

 

 

「くっくっく、これ以上の遅延行為は決闘を投げ出したと見なすぞ? 逃げたいなら早くサレンダーしろ」

 

「はぁ! なんで私がアンタ達みたいな奴らから逃げる訳! 冗談も顔だけにしなさいよ、脳足りんのケダモノが!」

 

「ふっふっふ、粋がって吼えた所でこの圧倒的な状況に変わりは無い。騎士気取りの貴様は我々、“明日香たんファンクラブ”によって敗北するのだ! 負けた時は約束通り、我々の活動についての妨害を止めてもらうぞ!」

 

「くっ、こんな奴等にッ! アンタのせいだからね!」

 

 

 コナミとナオミの会話に痺れを切らせた対戦相手が遅延行為を注意して、ナオミはその原因となったコナミを睨み付ける。ナオミの責める視線にえぇ~、思いながらも聞こえてきた会話の内容に眩暈を覚えるコナミ。ちょっとした会話であったが、それだけで何故、ナオミが男子生徒と決闘しているのか、理解出来た。

 

 要約すれば、女の子大好きなナオミとしてはミスデュエルアカデミアに輝く明日香は神聖な存在である。神聖な存在である明日香に対して、低脳な男共がファンクラブを作って活動しているのがナオミには許せない訳だ。その結果として、ファンクラブの活動を潰す為にナオミが決闘を吹っ掛けたのだ。

 

 

「今日の明日香たんはプールで水泳を楽しんでいる筈。ならば、ファンとして優雅に泳ぐ姿を写真に収めなくてどうするか!」

 

「あ~、うん。今回はナオミが正しいんじゃないかな」

 

 

 明日香ファンの男子生徒が行なうつもりだった行動を聞いて、コナミは半笑いを浮かべる。それはただの犯罪だ。実際、ナオミに非があるなら見届けたかもしれないが、対戦相手が悪いならこちらも考えがある。

 

 

「もし良かったら、オレもこの決闘に参加していいか?」

 

「はあ、なんなのよ、アンタ! 別にアンタには関係無い事でしょ!」

 

「そうだ、我々が貴様と決闘する理由は無い」

 

「へぇ~、理由が無い……ね」

 

 

 突然の提案に様々な反応を見せるナオミや男子生徒、その反応を確認したコナミが意味有りげに呟く。

 

 

「いや、ちょっと待て。コイツは確かこの前、明日香たんがデュエルスタジアムで決闘をした相手! しかも、その後は2人で夕食を取っていた奴だ!」

 

「なん……だと……!」

 

 

 コナミの正体に気付いたもう一人の男子生徒が叫び、その事実に戦慄する男子生徒。

 

 

「もう一度、聞こうか。オレと決闘する理由は無いのか?」

 

「――――愚問。NOタッチの精神を忘れた愚者には容赦せん! さあ、貴様も構えろ!」

 

「許すまじ!」

 

 

 コナミと男子生徒達の視線がぶつかり合い、火花を散らす。コナミがデュエルディスクを構えるとナオミのパートナーとしてPDAに登録されて決闘に参加する。

 

 

「ちょ、ちょっと、いきなり何考えているのよ!」

 

「――――負ける訳には行かないんだろ?」

 

 

 突然の行動に噛み付くナオミに対して、コナミが尋ねる。

 

 

「そ、それはそうだけど……」

 

「今回は決闘の続きとしてだから戦闘も行なえる。でも、そこまで無理するな。どうにかしてオレにターンを回せ。それで決着を着けてやる」

 

「だ、誰がアンタに頼るもんですか!」

 

 

 確信に満ちた声音でこの劣勢の中、勝利を口にするコナミの態度に、ナオミは自分の顔が赤くなった事に気付くと心の中でありえない、と自分に言い聞かせてコナミから離れていく。

 

 

「さあ、決闘再開だ!」

 

 

 コナミの宣言と共に一時停止していた決闘が再開された。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 

 ナオミはデッキからカードをドローするとカードを確認する。現状、自分でこの状況を打破する事は出来ない。相手の除外を受けて、墓地肥やしは1枚のライトロード以外、何も出来ていない。状況は最悪。とっておきの切札こそ引き当てたものの、現状では何も出来ない。

 

 このまま何も動かず、コナミの指示通りに動けば勝利が見えてくるかもしれない。しかし、それでは駄目なのだ。自分の力で勝利しなければ、この決闘に勝った所で意味が無い。だからこそ――――。

 

 

(――――私は動く!)

 

 

「私はライトロード・ハンターライコウを反転召喚! そしてライコウの効果で光の追放者を破壊! その後、デッキからカードを3枚墓地へ!」

 

 

 ライトロード・ハンターライコウ☆2光 ATK/200DEF/100

 効果・リバース:フィールド上のカード1枚を選択して破壊できる。自分のデッキの上からカードを3枚墓地へ送る。

 

 

 反転と共に出現したライコウがその姿に油断した光の追放者へ飛び掛る。ライコウの牙と爪にやられて撃破される光の追放者。同時に戦いで気が荒ぶっているライコウはナオミのデッキからカードを3枚、墓地へ叩き落すとその気性を元に戻す。

 

 

(お願い――――!)

 

 

 ナオミはそう祈りつつ、デッキから落ちたカードを3枚確認する。順にライトロード・ウォリアーガロス、ライトロード・パラディンジェイン。――――そして最後のカードがライトロード・マジシャンライラ。墓地へ送られた3体のライトロードとコナミが決闘に参加する前に1枚だけ落ちていたライトロード・スピリットシャイア。

 

 

(――――来た!)

 

 

 ナオミの意地と意思にデッキは答えて、合計4体のライトロードを墓地へ送り込む。

 

 

「私は手札から裁きの龍を特殊召喚!」

 

 

 裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)☆8光 ATK/3000DEF/2600

 効果・このカードは通常召喚できない。自分の墓地の“ライトロード”と名のついた

モンスターが4種類以上の場合のみ特殊召喚できる。1000ライフポイントを払う事で、このカード以外のフィールド上のカードを全て破壊する。また、このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを4枚墓地へ送る。

 

 

 コナミとナオミのフィールドに出現する裁きの龍。その姿は圧倒的であり、この状況を引っくり返すだけの力を持っている。しかし、その瞬間、対戦相手がニヤリと笑ったのをコナミは目撃した。

 

 

「この瞬間、俺はトラップ発動! 奈落の落とし穴! このカードは相手が攻撃力1500以上のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚した時に発動できる。その攻撃力1500以上のモンスターを破壊しゲームから除外する! これでお前の裁きの龍は役目を果たさずに犬死だ!」

 

 

 フィールドへ君臨しようとした裁きの龍は敵の罠に嵌められて、フィールドへ降り立った瞬間、底の見えない奈落の落とし穴へ消えていく。

 

 

「そ、そんな……」

 

 

 “一発逆転”の為に召喚した裁きの龍が相手の罠によって消えていく姿を呆然と見つめるナオミ。フィールドには攻撃表示となったライコウ以外何も無く、手札も尽きた。コナミの指示に従わず、自分が動いた結果がこの圧倒的不利な状況。ナオミは隣に佇むコナミの横顔を窺うがその表情から感情を読み取る事が出来ない。

 

 

「くっくっく、足を引っ張る事しか出来ない無能な女め! 貴様が明日香たんを守るとは片腹痛い! 早く、ターンを終了しろ!」

 

「わ、私は……これでターンエンド」

 

 

 ラー・イエローの男子生徒から浴びせられる罵倒を聞いて、悔しさで震える身体に耐えながらターンを終了するナオミ。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 男子生徒は引いたカードを確認して小さく笑う。

 

 

「俺は異次元の生還者を生け贄に邪帝ガイウスを召喚! そしてガイウスの効果でライコウを除外!」

 

 

 邪帝ガイウス☆6闇 ATK/2400DEF/1000

 効果・このカードの生け贄召喚に成功した時、フィールド上に存在するカード1枚を除外する。除外したカードが闇属性モンスターカードだった場合、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

 

 

 相手フィールドに現れる邪帝ガイウス。ガイウスはその身に宿した暗黒の力をライコウへぶつけるとその力でライコウをゲームから除外する。

 

 

「っ!」

 

「これで貴様等のフィールドはがら空き! 行け、ガイウス! プレイヤーへダイレクトアタック!」

 

 

 両手を前へ突き出し、邪悪な力の塊を生み出したガイウス。男子生徒の指示に従い、ガイウスは生み出した邪悪な力をナオミへ放つ。

 

 

 小波赤人・大庭ナオミペアLP2500→100

 

 

「くっくっく、ライコウが闇属性じゃなくて良かったな。だが、この状況で何が出来るかな? “一発逆転”の秘策があるなら見せてみろ! 俺はカードを伏せてターンエンド」

 

 

「……オレのターン、ドロー」

 

 

 ただゆっくりと、静かにカードを確認したコナミは圧倒的有利な状況で不敵に笑う男子生徒を睨む。そこには静かな怒りが込められていた。

 

 

「お前等、“オレのナオミ”を馬鹿にし過ぎだ。その罪は購って貰うぞ」

 

「はあ! いつからアンタのモノになったのよ!」

 

 

 聞き捨てならないコナミの言葉に叫ぶナオミ。そんな態度のナオミに苦笑して、コナミは動き始める。

 

 

「オレは手札からカードを1枚伏せる。そしてお前達が言っていた“一発逆転”を見せてやる! オレは手札から大逆転クイズを発動! このカードは自分の手札とフィールド上のカードを全て墓地に送る。自分のデッキの一番上にあるカードの種類(魔法・罠・モンスター)を当てる。当てた場合、相手と自分のライフポイントを入れ替える!」

 

「ふっふっふ、大逆転クイズだと? そんな賭けが本当に上手くいくかな?」

 

「賭け? 残念だったな。オレのデッキは全て魔法カードで組まれている。つまり、大逆転クイズの正解率は100パーセントだ! オレは魔法カードを指定。一番上のカードは魔法カード、リロード。この瞬間、大逆転クイズの効果で俺達のLPが入れ替わる!」

 

「ま、魔法一色のデッキだと! ふ、ふざけるなー! 」

 

 

 小波赤人・大庭ナオミペアLP100→8000

 

 

 ラー・イエロー男子生徒ペアLP8000→100

 

 

「そしてこの瞬間、伏せてあった黒いペンダント(ブラック・ペンダント)の効果発動! このカードは装備モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、相手ライフに500ポイントダメージを与える!」

 

 

 ラー・イエロー男子生徒ペアLP100→-400

 

 

「ま、負けただと! 明日香たんファンクラブ会員ナンバー9のこの俺が!」

 

「その慢心が敗北原因だよ。因みに俺はファンクラブ会員ナンバー1だ」

 

「な、なんだと! あの、幻の欠番、会員ナンバー1だと! それなら確かに我々が負けても仕方ないか……」

 

 

 決闘が終了して、崩れ落ちる男子生徒達。その男子生徒達を見届けて、コナミは小さく溜息を吐く。

 

 

「お疲れさん」

 

「ま、まあ、男にしてはやるじゃない。けど、アンタの事を認めた訳じゃないんだからね!」

 

 

 そう吐き捨てて走り去るナオミの後ろ姿を眺めながらコナミは小さく微笑した。

 




ナオミがデレたら、それはもうナオミではない。ナオミの萌えるポイントはなんだかんだ言いながら、主人公とダッグ決闘を行なうその姿をニヤニヤ眺める事にある! キリッ


まあ、作者の持論なので気にしないでください(苦笑)


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精霊と共に歩む者

タイトル詐欺のネタ回です。


「う~ん、やはりどっちも捨て難い。オレにはどっちかを選ぶ事なんて出来ない」

 

「どっちでもいいけど早く選ぶにゃ~」

 

 

 オシリスレッドの食堂。DPの入ったPDAを片手に持ったコナミは眼前に広がる光景を前にして、ゴクリと息を呑む。右手には鯖の味噌煮定食、左手には脂の乗った鯵の開き定食、どちらのおかずもコナミの嗅覚を刺激して自分を選べ、と誘惑している。

 

 そんな誘惑に負けず、自分の意思でおかずを選ぼうとしているコナミの姿に、配給所のカウンターに控えていた大徳寺先生が苦笑しながら苦言を洩らす。

 

 

「今回の定食に使われているお魚は購買部のトメさんが最近頑張っているレッド生に、と直々に届けてくれた絶品だにゃ。どちらを選んだ所で美味しい事に変わりないにゃ」

 

「大徳寺先生は黙ってください。トメさんがオススメしてくれるほどの魚なんですよ。その中でも美味しい物を食べたいと思うのは普通です」

 

「ご、ごめんなさいですのにゃ」

 

 

 ちょっとした苦言のつもりが思ったより食いついて来たコナミに驚き、反省する。一見、斜めに態度を構えているように見えるコナミであるが、実際に触れ合ってみればコナミの思考は少し幼い。いや、若いと言った方がいいだろうか。食事に関する事なら特にその傾向が強い。コナミのトレードマークでもある赤い帽子の奥に輝く瞳がどちらの定食が美味しいのか、真剣に吟味している。

 

 それと同時に大徳寺先生が言った通り、今回の定食にハズレは存在しない。購買部のトメさんが最近頑張っているオシリスレッドの為に、と言って差し入れしてくれたモノだ。実際、オシリスレッド寮を管理している大徳寺先生から見てもレッド寮生の成績がジリジリと上がってきている。生徒達のPDAを通して実際の数字となって出てくる為に、職員室でも話題になる事もある。

 

 元々、ドロップアウトとして罵られているレッド寮生であるが、別に決闘の才能が無い訳ではない。むしろ、本土で行なわれる大規模な受験を通ってデュエルアカデミアへ入学している時点で本土の学生より決闘の才能を持っている。ただ、才能を持つ決闘者の中でも、特に優れた決闘者の通う学校がデュエルアカデミアだ。上には上がいる事を肌で感じ取った生徒が挫折してしまう。

 

 しかし、最近になってオシリスレッドへ新しい風が舞い込んだ為、一度は挫折した生徒達が再び奮起をするようになった。その風と言うのがコナミを含めた一年生三人組である。

 

 一人はやはり遊戯十代。圧倒的で直感的な決闘センスの持ち主であり、勝負は最後の最後まで判らない、と全力で決闘を楽しむ姿はレッド寮生達へ挫折し、忘れていた決闘の楽しさを思い出させる。

 

 一人はオベリスクブルー出身でありながら、強くなる為の武者修行へ出ていたせいでオシリスレッドへ来る事になった万丈目準。オベリスクブルーの一年生として飛び抜けた才能を持っていた万丈目は十代との決闘において、日頃レッド寮生が感じている挫折を味わいながらも、武者修行の結果として決闘者として何倍も成長してきた挫折を乗り越えた者である。現在進行形で挫折しているレッド寮生には万丈目の姿が輝いて見える。

 

 良く判らないなりに不思議なカリスマを持つ十代と万丈目が心の支えなら、コナミは技術的な部分でレッド寮生を支えている。

 

 小波赤人は複数のデッキを使い分ける決闘者だ。当然、カードに対する知識は多い。詰め決闘ではあの三沢大地と並ぶ成績を持つ。女子生徒と話してばかりいる印象のコナミであるが、話しかけてデッキについて相談すれば割合食らい付いてくる。デッキ構成から不要なカードをどんどん指摘して相談した生徒を落ち込ませている。しかし、コナミの凄い所はそこじゃない。デッキ構成を確認したコナミは相談者が気に入っているカード――――パートナーに等しいカードだけは見抜いて、デッキへ残しておいてくれる。相談者お気に入りのカードを有効に運用出来るデッキ構成をなんだかんだと文句を言いながら、一緒に考えてくれるのだ。

 

 決闘を楽しむ心と挫折を乗り越える勇気。そして挫折を乗り越える為の技術。三つの新しい風が挫折して腐っていたレッド寮生へ活力を与えたのだ。だから、レッド寮生は少しずつ才能を開花させてきた。

 

 教師陣からも注目されている生徒の一人であるコナミが夕食の定食で目移りしている姿は相当珍しい筈だ。

 

 

「よし、決めた! 先生、鯖の味噌煮定食でお願いします!」

 

「判りましたにゃん。鯖の味噌煮定食はこれで終わりにゃ」

 

 

 食券販売機のような役割を果たす機械へ持っていたPDAを翳し、DPが振り込まれた事を確認した大徳寺先生は頷いて、コナミが選んだ鯖の味噌煮定食を出そうとする。

 

 

「ちょっと待った!」

 

 

 その時、食堂にハキハキとした大きな声が響いた。結構、食事に関する邪魔をされる事を嫌うコナミはその大声を聞いて、不機嫌そうに振り向く。食堂へ乱入してきた侵入者の正体は黒いコートをその身に纏った万丈目準、その人だった。

 

 

「どうかしたのか?」

 

「NO.9から聞いたぞ、コナミ! 貴様、幻の欠番NO.1だったのか!」

 

 

 万丈目の叫びを聞いた他のレッド寮生は顔を見合わせ、コナミは怪訝そうな表情を浮かべる。万丈目が何を言っているのか、最初はよく理解出来なかったのだが、数日前のタッグ決闘を思い出して、ああ、と納得する。

 

 

「確かにオレがNO.1だ。だが、オレは設立する切欠を与えただけで活動は何もしていない。お前達が規模を大きくさせただけだ」

 

 

 実際、コナミは何もしていない。ファンクラブを立ち上げたまではいいものの、最初から一人にのめり込むつもりが無かったコナミは早々に手を引いた。その後、いつのまにか明日香たんファンクラブは規模を拡大していったのだ。

 

 

「ふん、貴様の事情などどうでもいい。俺のNO.3と幻の欠番であるNO.1を掛けて決闘しろ!」

 

「いいだろう。――――ただし、定食を食べてからな」

 

 

 いつもならなんでだよ、と断るコナミであったが、食事の邪魔をされたコナミの怒りゲージはかなり上昇している為に決闘を引き受けてしまう。コナミにとっての地雷は食事関係と趣味の昼寝や散歩の邪魔をされる事だ。

 

 

「……ごちそうさまでした」

 

 

 箸を置いて、ゆっくりと御辞儀するコナミ。定食のお皿達を片付けたコナミは夕暮れに染まるレッド寮の前で待ち構えていた万丈目を認めて、デュエルディスクを構える。

 

 

「「決闘!」」

 

 

 本人達以外には何が起きているのかわからない。ファンクラブのナンバーを決める決闘が今始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレのターン、ドロー!」

 

 

 自分が先攻である事を確認したコナミは手札とデッキから引いたカードを確認する。手札を確認して少しだけ動きを止めるコナミ。手札が悪い訳では無い。しかし、この手札なら後攻でも良かったかもしれない、と内心で思いながら動く。

 

 

「オレはカードを1枚伏せてターンエンド」

 

「何? モンスターすら召喚せずにターンエンドだと? 様子を見る限り、手札事故と言う訳では無さそうだな。いいだろう、どちらにせよ、俺様のデッキで貴様のデッキを蹂躙してやる! 俺のターン、ドロー!」

 

 

 コナミのフィールドに伏せられた1枚のカード。攻撃の行なえない先攻とはいえ、伏せカードが1枚とは鉄壁の防御と言い難い。ならば、万丈目にとってやる事は一つ。罠が控えていようと前進して蹂躙するのみ。

 

 

「俺は手札からアームド・ドラゴンLV3を召喚!」

 

 

 アームド・ドラゴンLV3☆3風 ATK/1200DEF/900

 効果・自分のスタンバイフェイズ時、フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地へ送る事で、手札またはデッキから“アームド・ドラゴンLV5”1体を特殊召喚する。

 

 

 万丈目のフィールドに現れる黒き幼竜。万丈目が武者修行の末に手に入れたレベルアップモンスターであり、黒き幼竜の内に秘めた力は侮る事が出来ない。幼竜の状態では秘めた力を発揮出来ないモンスターであるが、デッキを使いこなす万丈目にとってその様な心配は詮無きことである。

 

 

「そして俺は手札からレベルアップ! を発動。このカードはフィールド上に表側表示で存在する“LV”を持つモンスター1体を墓地へ送り発動する。そのカードに記されているモンスターを召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する! 俺が選ぶのは勿論、アームド・ドラゴンLV3。LV3を墓地へ送り、デッキからアームド・ドラゴンLV5を特殊召喚!」

 

 

 アームド・ドラゴンLV5☆5風 ATK/2400DEF/1700

 効果・手札からモンスター1体を墓地へ送る事でそのモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。また、このカードが戦闘によってモンスターを破壊したターンのエンドフェイズ時、フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地へ送る事で手札またはデッキから“アームド・ドラゴンLV7”1体を特殊召喚する。

 

 

 万丈目の宣言を聞いた黒き幼竜はその小さな両翼を羽ばたかせると空へ飛び上がる。天へ昇るその姿は段々とコナミ達から見えなくなる。そして天から帰還して万丈目のフィールドへ舞い戻った姿は正に圧巻の一言。本来過ぎ去るべき時を越えて現れたアームド・ドラゴンLV5はその咆哮と共にコナミを威嚇して、万丈目へLV3が成長した姿だ、と伝える。

 

 

「その瞬間、オレはトラップを発動、サンダー・ブレイク! このカードは手札を1枚捨てフィールド上のカード1枚を選択して発動できる。選択したカードを破壊する。オレは手札を1枚捨てて、アームド・ドラゴンLV5を破壊する!」

 

 

 コナミの墓地へ手札が捨てられると同時にカードから雷が放たれると咆哮するアームド・ドラゴンLV5が落雷に打たれて破壊される。

 

 

「ちっ、小ざかしい真似をしてくれる! だが、これで貴様のフィールドはがら空き。ここは押し通す! 俺は手札から早すぎた埋葬を発動! このカードは800ライフポイントを払い、自分の墓地に存在するモンスター1体を選択して発動する。選択したモンスターを表側攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備する。このカードが破壊された時、装備モンスターを破壊する。俺はアームド・ドラゴンLV5を再び攻撃表示で特殊召喚! そして、コナミへダイレクトアタック! 行け、アームド・バスター!」

 

 

 万丈目準LP4000→3200

 

 

 自分の命を削り、アームド・ドラゴンLV5を蘇らせた万丈目。その期待に応えたい、と咆哮したアームド・ドラゴンLV5は万丈目の指示に従い、がら空きとなったコナミへ襲い掛かる。

 

 

「ぐっ……」

 

 

 小波赤人LP4000→1600

 

 

 アームド・ドラゴンLV5の攻撃に晒され、大きくLPを削られるコナミ。吹き飛ばされ、大きく後退したコナミは一瞬だけ表情を顰める。しかし、LPを大きく削られた割にはそれと言った反応を見せない。

 

 

「ふん、この状況で泣き言を言わんとはそれだけの度胸があると言う事か。まあ、いい。最後に勝つのは俺様だ。俺はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

 

 一瞬でLPを半分以上削られたのだ。本来なら慌てふためく姿を想像していた万丈目は冷静なコナミの姿に警戒を強めつつ、自分の勝利は揺るがない、とターンを終了する。

 

 

「オレのターン、ドロー! オレは墓地に存在するインヴェルズの斥候の効果を発動! インヴェルズの斥候を墓地から特殊召喚!」

 

 

 インヴェルズの斥候☆1闇 ATK/200DEF/0

 効果・自分フィールド上に魔法・罠カードが存在しない場合、自分のメインフェイズ1の開始時にのみ発動する事ができる。墓地に存在するこのカードを自分フィールド上に特殊召喚する。この効果を発動するターン、自分はモンスターを特殊召喚する事はできない。このカードは“インヴェルズ”と名のついたモンスターのアドバンス召喚以外のためにはリリースできず、シンクロ素材とする事もできない。

 

 

 コナミの墓地から小さな悪魔が顔を覗かせる。顔を見せたインヴェルズの斥候はコナミのフィールドに何も存在しない事を確認するとほっとした様子でフィールドへ出現する。

 

 

「いつのまにそんなカードを……。いや、サンダー・ブレイクの効果で墓地へ捨てたカードがソイツか。考えていないようでやはり、それなりに考えている訳か」

 

 

 万丈目はいつのまにか現れたインヴェルズの斥候に驚きつつ、警戒を強める。斥候自体に脅威を感じないが、コナミが自分のLPを大きく削ってでも召喚したモンスターだ。警戒するに越した事は無い。なにより、サンダー・ブレイクが完全に決まれば、コナミはLPを削る事なくインヴェルズの斥候を召喚していた。考えていないように見えて、その戦略はしたたかだ。

 

 

「オレはインヴェルズの斥候を生け贄に捧げて、インヴェルズ・ギラファを召喚! そして効果発動! オレはアームド・ドラゴンLV5を選択!」

 

 

 インヴェルズ・ギラファ☆7闇 ATK/2600DEF/0

 効果・このカードは“インヴェルズ”と名のついたモンスター1体をリリースして表側攻撃表示でアドバンス召喚する事ができる。“インヴェルズ”と名のついたモンスターをリリースしてこのカードのアドバンス召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して墓地へ送り、自分は1000ライフポイント回復する事ができる。

 

 

 小波赤人LP1600→2600

 

 

 コナミのフィールドへ現れた1体の巨大な悪魔に驚いたインヴェルズの斥候は再び墓地へ戻っていき、代わるように現れたインヴェルズ・ギラファは筒状になった右手をアームド・ドラゴンLV5へ向けると筒を大きく変化させてアームド・ドラゴンLV5を捕食する。悲鳴に似た咆哮と共にアームド・ドラゴンLV5はギラファへ取り込まれ、養分にされてコナミのLPを回復させる。

 

 

「んな! 俺様のアームド・ドラゴンLV5が!」

 

 

 此処へ来て、万丈目が悲鳴を上げる。ギラファへ飲み込まれてしまったアームド・ドラゴンLV5の姿に万丈目の闘志が大きく燃え上がる。

 

 

「オレはギラファでダイレクトアタ――――」

 

「させるか! 俺はトラップ発動、リビングデッドの呼び声! このカードは自分の墓地のモンスター1体を選択し、表側攻撃表示で特殊召喚する。このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。そのモンスターが破壊された時、このカードを破壊する。俺が選ぶのはアームド・ドラゴンLV5!」

 

 

 コナミがギラファへ攻撃を指示しようとしたその瞬間、万丈目が罠カードを発動させる。三度現れた黒き竜の姿に、コナミは怪訝そうな表情を浮かべる。万丈目がこの状況で攻撃力の劣るアームド・ドラゴンLV5を召喚した事が理解出来ない。コナミは伏せられているもう1枚のカードを見た後、判断を下す。

 

 

「オレは戦闘を中止して、カードを2枚伏せてターンエンド」

 

 

 一触触発の至近距離まで近付いたアームド・ドラゴンとギラファはお互いに睨みあって火花を散らすと少し不満そうな表情を浮かべながら、コナミの指示に従ったギラファが退く。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 コナミのターン終了を確認した万丈目がカードを引き抜く。

 

 

「俺は手札から強欲な壺を発動してカードを2枚ドロー。そして、天使の施しを発動してカードを3枚ドローして、2枚捨てる。カードを1枚伏せて、天よりの宝札を発動! 互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにカードを引く」

 

 

 お互いに手札が6枚になるようにカードを引く。その恩恵を受けたのは手札を使い切った万丈目だ。諦める事を知らず、闘志に燃えた万丈目へデッキが全力で答えた。

 

 

「ふ、これで決着を付けてやる! 俺は手札から死者転生を発動する。このカードは手札を1枚捨て、自分の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターを手札に加える。手札からおジャマジックを捨てて、光と闇の竜(ライトアンドダークネス・ドラゴン)を回収。この瞬間、墓地へ送られたおジャマジックの効果発動! このカードはこのカードが手札またはフィールド上から墓地へ送られた時、自分のデッキから“おジャマ・グリーン”“おジャマ・イエロー”“おジャマ・ブラック”を1体ずつ手札に加える。――――ええい、うるさい。静かにしろ! 光と闇の竜(ライトアンドダークネス・ドラゴン)を見習え馬鹿共!」

 

 

 万丈目の手札へどんどん集まっていく万丈目の相棒達、今のコナミにはカードの精霊を見る力が無い。しかし、何も無い所へ鬱陶しそうに手を振っている姿からおジャマ達に絡まれている事ぐらいは判る。

 

 

「俺は融合を発動、手札の“おジャマ・グリーン”“おジャマ・イエロー”“おジャマ・ブラック”を融合して、おジャマ・キングを表側守備表示で召喚!」

 

 

 おジャマ・キング☆6光 ATK/0DEF/3000

 効果・このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手のモンスターカードゾーンを3ヵ所まで使用不可能にする。

 

 

 万丈目のフィールドに現れたおジャマ・キング。風呂敷マントと赤い花柄のブーメランパンツ、頭の上にちょこんと乗った王冠。コナミはその姿にイラッと来て、キングの指示に従い、コナミのフィールドに無断で居座るおジャマ達にイラッとする。

 

 

「そして、融合解除を発動。このカードはフィールド上に表側表示で存在する融合モンスター1体を選択してエクストラデッキに戻す。さらに、エクストラデッキに戻したそのモンスターの融合召喚に使用した融合素材モンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、その一組を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる」

 

 

 現れた瞬間、元にいた場所へ帰されるおジャマ・キングがえ! と驚愕の表情を浮かべるが自分を睨み付ける万丈目に従い、いそいそと戻っていく。それと同時にコナミのフィールドへ居座っていたおジャマ達が万丈目のフィールドへ移動する。

 

 

 おジャマ・グリーン☆2光 ATK/0DEF/1000

 おジャマ・イエロー☆2光 ATK/0DEF/1000

 おジャマ・ブラック☆2光 ATK/0DEF/1000

 

 

 万丈目のフィールドに揃った3体のおジャマ。コナミが不味い、と思ったその時、万丈目が動く。

 

 

「そして俺は伏せていたおジャマ・デルタハリケーン!! を発動する! 自分フィールド上に“おジャマ・グリーン”“おジャマ・イエロー”“おジャマ・ブラック”が表側表示で存在する場合に発動する事ができる。相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する!」

 

「ッ! 読み間違えた!」

 

 

 警戒し過ぎた為の読み間違い。ギラファでアームド・ドラゴンLV5を攻撃していれば、また展開は変わってきた筈だった。しかし、現実はもう手遅れだ。

 

 

 万丈目の指示に従い、集った3体のおジャマはどんどんおジャマパワーを集めていくと臨界となったおジャマパワーを解放する。目を開けられない大きな閃光がコナミを襲い、光が途切れた頃にはおジャマパワーによって、コナミのフィールドは焦土と化した。

 

 

「ふん、後は引っ込んでいろ。俺はおジャマ・グリーンとブラックを生け贄に光と闇の竜(ライトアンドダークネス・ドラゴン)を召喚!」

 

 

 光と闇の竜(ライトアンドダークネス・ドラゴン)☆8光 ATK/2800DEF/2400

 効果・このカードは特殊召喚できない。このカードの属性は“闇”としても扱う。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にする。この効果でカードの発動を無効にする度に、このカードの攻撃力と守備力は500ポイントダウンする。このカードが破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地に存在するモンスター1体を選択して発動する。自分フィールド上のカードを全て破壊する。選択したモンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する。

 

 

 万丈目のフィールドへ勢揃いするエースモンスター達。これだけのモンスターに慕われる万丈目のカリスマはやはり目を見張るモノがある。

 

 

「2体のモンスターでダイレクトアタック!」

 

「――――ッ!」

 

 

 小波赤人LP2600→-2600

 

 

 万丈目に付き従う、二体の竜がコナミへ敗北を刻む。何故か、偉そうにしているおジャマ・イエローにイラッと来た。

 

 

「これでようやく、NO.1の称号に相応しい決闘者が現れたという事か。よし、コレを持っていけ。今日からお前がNO.1だ。きちんと率いて行け」

 

「ふん、任せておけ」

 

「一体、なんだったんだにゃ?」

 

 

 会員カードを手渡し、熱い握手を交わすコナミと万丈目。最後の最後まで意味が判らなかった大徳寺先生の呟きが夜風に消えていった。

 




色々な万丈目が混ざっていますが、遊戯王TFなので(苦笑)


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水と油? いいえ、猫とチョコレートです

タイトルに深い意味はありません。


 放課後、デュエルアカデミアでの勉強を終えたコナミは小腹が空いた事もあり、菓子パンと牛乳を求めて売店を訪れていた。ある程度の数が残っている菓子パンと最後のパックらしい牛乳を見付けたコナミはその中から菓子パンを一つ取って、牛乳を取り出そうとする。

 

 

「悪いけど、これは俺が貰ってくぜ! セイコちゃん、早く勘定してくれよな!」

 

「へ……」

 

 

 コナミが冷凍庫から牛乳パックを取り出そうとした一瞬の隙を突き、横からにゅっと飛び出してきた小さな手が牛乳パックを掻っ攫っていく。突然の出来事に対して唖然とするコナミを余所に、コナミから牛乳パックを奪って行った人物はチョコレート菓子と牛乳パックをカウンターへ叩き付けるように置く。

 

 

「あ、はい、後はDPで払ってね」

 

「おめぇにも悪い事したな。けど、この世は弱肉強食なんだよ」

 

 

 思考停止して動きが固まったコナミの様子を気にしながらも、カウンターへ置かれた商品の精算を済ませるセイコ。PDAを翳して、DPの譲渡を確認したセイコは商品を手渡す。商品を受け取った人物はコナミへ謝罪しつつ、元気良く走り去ってしまう。

 

 

「せ、セイコさん。他に牛乳は……」

 

「あ、アレで最後……かな」

 

 

 走り去る人物の後ろ姿を見届けたコナミはふぅ、と小さく息を吐いて現実逃避を始める。現実逃避に付き合ってくれたセイコの言葉を聞いて、コナミの視界が真っ暗に染まる。

 

 

「あれ、コナミちゃんじゃない、どうかしたの?」

 

 

 そんな時、よく判らないやり取りをしていたセイコとコナミの所へ売店の主でもあるトメさんが姿を現した。トメさんは二人の間に流れる微妙な雰囲気を感じ取ったらしく、小さく首を傾げる。

 

 

「あぁ、トメさん。実はですね。岬ちゃんがチョコレートと牛乳を買ったので、コナミ君が買おうとしていた牛乳が無くなってしまったんです。牛乳の在庫なんてありませんよね?」

 

「え、岬ちゃんがもう来たのかい? それに牛乳も買って行っちゃったの?」

 

「は、はい、何か不味かったでしょうか?」

 

 

 コナミの牛乳を奪っていった人物――――ジャッカル岬が購入した物の商品名をセイコから聞いたトメさんは少し焦った表情を見せて、セイコが心配そうな表情を浮かべる。いつも寛容な気質で生徒達の相談を聞いているトメさんにしては珍しい表情だ。そんな事を呑気に考えていたコナミと焦ったトメさんの視線が交じり合う。

 

 あっ、これは不味い、と思うよりも早くトメさんが逃がさないようにコナミの両手をがっしりと掴む。菓子パンを置いて逃げ出そうとしたコナミは逃走を諦めた。

 

 

「あ~、もう、何でこんな事になっているんだ?」

 

 

 そんなぼやきを言いつつ、コナミはトメさんからのお願いで校舎裏の一角を目指して走っていた。指定された最後の角を曲がり、目の前の光景に走っていた足の動きが止まる。

 

 隠れるようにしてある校舎裏の片隅、手作りの小さなダンボール小屋とその近くでスカートである事を気にせず座り込むジャッカル岬。ダンボール小屋の中には生まれたばかりに見える小さな子猫が数匹、子猫達の前には牛乳を入れたお皿とチョコレート菓子がエサとして置いてあった。

 

 

「――――ッ! 馬鹿野郎!」

 

 

 誰にも見せないような優しい微笑を子猫へ見せるジャッカルと与えられたエサを食べようとしている子猫の姿を見て、トメさんがセイコの言葉を聞いて焦り出した意味を理解したコナミは再び走り出すとそのままの勢いで子猫へ足が当たらないように牛乳の入ったお皿とチョコレート菓子を蹴り飛ばす。

 

 

「てめぇの方が馬鹿野郎だ!」

 

「ぐはッ!」

 

 

 チョコレート菓子。知らない人間も多いが猫にとって危険な食べ物である。コナミがジャッカルを叱ろうとした瞬間、コナミの行いに激怒したジャッカルの見事な喧嘩キックがコナミの腹へ直撃する。

 

 

「決闘……、決闘で勝負だ……」

 

 

 喧嘩キックを受けて、物理的にぶっ飛ばされたコナミは両手を鳴らしてこちらへ歩いてくるジャッカルの姿に冷や汗を流して、お腹を押さえながら決闘を申し込む。

 

 

「ああ、てめぇなんざ、ぶっ飛ばしてやるよ!」

 

「そ、それじゃあ――――」

 

「「決闘!」」

 

 

 怒りが頂点に達しているジャッカル岬と決闘が通じて良かった、と内心で安心したコナミの決闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オ、オレのターン、ドロー」

 

 

 自分の先攻を確認したコナミは引き抜いたカードを確認して、ジャッカルの顔色を窺う。コナミとしては何も悪い事をしていない。しかし、ジャッカルが怒り狂っている限り、説明を聞いてもらえるとは思えない。もし、決闘に負けでもしたら物理的にボコボコにされてしまう。絶対に負けられない決闘の中、コナミは慎重に動く。

 

 

「オレはモンスターを裏側守備表示でセット。カードを2枚伏せてターンエンド」

 

「そんな逃げ腰で俺に勝てると思うなよ! 俺のターン、ドロー!」

 

 

 裏側守備表示のモンスターと2枚の伏せカード。先攻としてはごく自然な展開であるが、ジャッカル岬に守備を固めるなんて概念は存在しない。言うなれば攻撃が最大の防御である。

 

 

「俺は手札から電動刃虫(チェーンソー・インセクト)を召喚!」

 

 

 電動刃虫(チェーンソー・インセクト)☆4地 ATK/2400DEF/0

 効果・このカードが戦闘を行った場合、ダメージステップ終了時に相手プレイヤーはカード1枚をドローする。

 

 

 ジャッカルのフィールドへ現れた1体のクワガタ。その角はチェーンソーのように鋭く、近付けば一瞬で切り刻まれてしまうような恐怖心をコナミへ与える。

 

 

「そして手札から愚鈍の斧を発動! このカードは装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップし、効果は無効化される。また、自分のスタンバイフェイズ毎に、装備モンスターのコントローラーに500ポイントダメージを与える。このカードを電動刃虫へ装備」

 

 

 電動刃虫(チェーンソー・インセクト) ATK/2400→3400

 

 

「へへ、お前のモンスターを倒すなら500ポイントくらいくれてやる! 俺は電動刃虫で伏せモンスターを攻撃!」

 

 

 チェーンソーの大きな音を立てて、電動刃虫が伏せモンスターへ迫る。

 

 

「この瞬間、トラップ発動!ゴーストリック・パニック! このカードは自分フィールド上に裏側守備表示で存在するモンスターを任意の数だけ選択して発動できる。選択したモンスターを表側守備表示にし、その中の“ゴーストリック”と名のついたモンスターの数まで、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを選んで裏側守備表示にする。オレの伏せていたモンスターはゴーストリックの魔女。ゴーストリック・パニックの効果で電動刃虫は裏側守備表示へ!」

 

 

 ゴーストリックの魔女☆4闇 ATK/1200DEF/200

 効果・自分フィールド上に“ゴーストリック”と名のついたモンスターが存在する場合のみ、このカードは表側表示で召喚できる。このカードは1ターンに1度だけ裏側守備表示にする事ができる。また、1ターンに1度、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターを裏側守備表示にする。

 

 

 チェーンソーが伏せモンスターへ触れようとした瞬間、隠れていたゴーストリックの魔女が突然現れて、電動刃虫を驚かせる。表情の見えない電動刃虫であるが、羽を広げて空を飛んだ電動刃虫はそのままジャッカルのフィールドへ戻るとカタカタと震えて、隠れてしまう。その際に邪魔な愚鈍の斧が放り出されて破壊される。

 

 

「あぁ! 根性出せよ! チッ、俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 

 おびえてしまった電動刃虫を怒鳴りつつ、反応が無い事を確認したジャッカルは舌打ちをしてカードを伏せる。

 

 

「オレのターン、ドロー!」

 

 

 カードを確認して、顔を顰めるコナミ。ジャッカルの怒りに怯えているのか、デッキの回転が思うように回っていない。手札を確認して、ジャッカルの伏せカードを見たコナミは頷く。デッキが怯えているのなら、自分が勇気付けなければならない。

 

 

「オレはゴーストリックの魔女を攻撃表示へ変更、そして手札からゴーストリック・シュタインを召喚!」

 

 

 ゴーストリック・シュタイン☆3闇 ATK/1600DEF/0

 効果・自分フィールド上に“ゴーストリック”と名のついたモンスターが存在する場合のみ、このカードは表側表示で召喚できる。このカードは1ターンに1度だけ裏側守備表示にする事ができる。また、このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、デッキから“ゴーストリック”と名のついた魔法・罠カード1枚を手札に加える事ができる。“ゴーストリック・シュタイン”のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

 自分を守るように身構えていた魔女は箒を手に取って構え、救援に来たシュタインがその隣へ立つ。人造人間である為にどことなく動きが硬いシュタインであるが、人造人間である分、魔女よりも力強い。

 

 

「オレはゴーストリックの魔女で裏側守備表示の電動刃虫を攻撃!」

 

 

 愛くるしい顔をしながらもその本性は魔女である。箒を持った魔女は怯えて塞ぎ込んでいる電動刃虫を箒でバシバシ叩いて攻撃する。驚かされた本人から受けた攻撃に電動刃虫は堪らず墓地へ逃げ出してしまう。

 

 

「続いて、オレはシュタインでダイレクトアタック!」

 

「チッ、背に腹は変えられねえか、俺はトラップ発動、次元幽閉! このカードは相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。その攻撃モンスター1体をゲームから除外する!」

 

 

 ジャッカルへ飛び掛ったシュタインはジャッカルを守るように出現した次元の穴へ自分から飛び込んでしまい、次元の彼方へ幽閉されてしまう。

 

 

「む、オレはゴーストリックの魔女を効果で裏側守備表示へ変更。カードを1枚伏せてターンエンド」

 

 

 次元の彼方へ消えたシュタインを思いつつ、コナミは再び守備を固めてジャッカルへターンを譲る。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 カードを見たジャッカルはコナミのフィールドを確認した後、少しだけ考えるしぐさを見せると即断即決で頷いて行動する。

 

 

「俺はゴブリン突撃部隊を召喚! そしてそのまま裏側守備表示のゴーストリックの魔女を攻撃!」

 

 

 ゴブリン突撃部隊☆4地 ATK/2300DEF/0

 効果・このカードは攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に守備表示になり、次の自分のターンのエンドフェイズ時まで表示形式を変更する事ができない。

 

 

 ジャッカルのフィールドへ集う武装したゴブリン達。襲い掛かる武装したゴブリン達に囲まれたゴーストリックの魔女はコナミへ助けを求める視線を送る。しかし、コナミはその視線へ答える事が出来ず、ゴーストリックの魔女はゴブリン達から滅多打ちに蹂躙され破壊される。

 

 

「この瞬間、オレは手札からゴーストリック・スペクターの効果発動!」

 

 

 ゴーストリック・スペクター☆1闇 ATK/600DEF/0

 効果・自分フィールド上に“ゴーストリック”と名のついたモンスターが存在する場合のみ、このカードは表側表示で召喚できる。このカードは1ターンに1度だけ裏側守備表示にする事ができる。また、“ゴーストリック”と名のついたモンスターが、相手のカードの効果または相手モンスターの攻撃によって破壊され自分の墓地へ送られた時に発動できる。このカードを手札から裏側守備表示で特殊召喚し、デッキからカードを1枚ドローする。

 

 

「ゴーストリック・スペクターを裏側守備表示でセットして、デッキからカードをドロー」

 

「チッ、諦めの悪い奴だぜ。ゴブリン突撃部隊はその効果で守備表示となる。そして俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 

 コナミのフィールドへ伏せられたゴーストリック・スペクターを見届けたジャッカルは思い付いた様子で小さく笑い、カードを伏せた。

 

 

「オレのターン、ドロー! オレはまず、ゴーストリック・スペクターを攻撃表示へ変更」

 

「この瞬間、俺はトラップ発動、スキルドレイン! このカードは1000ライフポイントを払って発動できる。このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上の全ての効果モンスターの効果は無効化される! これがお前のデッキの弱点だ! モンスターの効果さえ使わせなきゃ、お前の低ステータスモンスターはただの雑魚カードに成り下がる! その為なら1000ポイントくらい安いもんだ!」

 

 

 ジャッカル岬LP4000→3000

 

 

 白い布を被った可愛いオバケ。スペクターが攻撃表示となった瞬間、発動されたスキルドレインによってスペクターはその身に秘めた力を封印されてしまう。戸惑った様子のスペクターはコナミへ助けを求めるような視線を送る。ゴーストリックの魔女には応えられなかった視線に頷くコナミ。

 

 

「悪いな、ジャッカル。お前の敗因はこいつらの底力を甘く見た事だ。それにデッキの弱点はオレが一番分かっている。その対応も既に済んでいる! まず、トラップ発動、リビングデッドの呼び声! 墓地に眠るゴーストリックの魔女を攻撃表示で特殊召喚!」

 

 

 墓地で眠っていた魔女は呼び声に応えて、コナミのフィールドへ出現する。箒を構え、戦う意志を見せる魔女の視線はゴブリン突撃部隊を射抜く。

 

 

「そして手札から|D・D・R《ディファレント・ディメンション・リバイバル》を発動!手札を1枚捨て、ゲームから除外されている自分のモンスター1体を選択して発動する。選択したモンスターを表側攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備する。このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。対象は勿論、ゴーストリック・シュタイン! 帰ってこい、シュタイン!」

 

 

 コナミが手札を捨てるのと同時に次元の門へ亀裂が入り、段々と大きくなっていく亀裂を破ってシュタインが次元の狭間から帰還する。コナミのフィールドへ並ぶ三体のモンスター。愛くるしい外見とは裏腹にその身に秘めた力は強い。しかし、スキルドレインによって効果が封印されている今、ただの愛くるしいモンスターでしかない。

 

 

「い、いくらそれだけのモンスターが揃った所でパワーが足りねえよ!」

 

 

 少し驚きながらも冷静に判断を下すジャッカル。低ステータスモンスターがずらりと並んだ所でそこまで脅威を感じない。

 

 

「これがこのデッキの弱点を乗り越える為の秘策、その一つ。トラップ発動、トラップ・スタン! このカードの効果でスキルドレインの効果は無効! ゴーストリック達の力は蘇る!」

 

 

 トラップ・スタンにより一時的に力を取り戻すゴーストリック達、中でも最も力を取り戻したのはゴーストリックの魔女だ。箒を構え、ニヤニヤとゴブリン突撃部隊を見る眼光はまさに魔女。

 

 

「ゴーストリックの魔女の効果発動! ゴブリン突撃部隊を裏側守備表示へ!」

 

 

 手に持った箒で地面を掃き始める魔女の行動にゴブリン達は首を傾げる。しかし、行動の意味はすぐに知る事になった。箒から掃かれた地面の小石がゴブリン達へ容赦無くぶつかるのだ。直接的なダメージは無いものの、こんな嫌がらせを受けたら堪ったものでは無い。裏側守備表示となって隠れたゴブリン突撃部隊に満足した表情を浮かべる魔女。

 

 

「そ、それがどうかしたのかよ! 何も変わらないだろ!」

 

「いや、意味はある。ジャッカルのモンスターはゴーストリックから目を逸らした。気付かない振りをした。ならば、後はオバケたるゴーストリックの独壇場だ! なによりオレは最初から間違えていた。こんな天気の良い日にオバケたるゴーストリックが活躍出来る訳が無い。だとしたら、オレが活躍出来る場所を用意してやればいい! オレはフィールド魔法ゴーストリック・ハウスを発動!」

 

 

 コナミ達へ降り注いでいた晴天の太陽の光が限られていき、大きなお屋敷がコナミ達の周りに出現する。ボロボロに壊れてしまったその洋館は正にお化け屋敷といった所か。

 

 

「このカードがフィールド上に存在する限り、お互いのフィールド上のモンスターは裏側守備表示のモンスターに攻撃できず、相手フィールド上のモンスターが裏側守備表示のモンスターのみの場合、相手プレイヤーに直接攻撃できる。また、このカードがフィールド上に存在する限り、お互いのプレイヤーが受ける効果ダメージ及び、“ゴーストリック”と名のついたモンスター以外のモンスターがプレイヤーに与える戦闘ダメージは半分になる! つまり、オバケから目を逸らしたゴブリン突撃部隊を無視して、ゴーストリック達は直接攻撃する事が出来る!」

 

「んな! お前が決闘って言い出したから殴り合っているのに逃げるのかよ!」

 

「もう知らん! 三体のゴーストリックでダイレクトアタック!」

 

 

 ジャッカル岬LP3000→-400

 

 

 ゴーストリックから目を背けたゴブリン突撃部隊を通り過ぎ、三体のゴーストリックがジャッカルへ敗北を刻む。

 

 

「オレが勝ったから言う事を聞いてもらうぞ! これから猫にチョコレートを絶対にやるな! 分かったか!」

 

 

 決闘が終わり、ソリッドヴィジョンが消えた事を確認したコナミは物理的報復を恐れて、吐き捨てるとそのまま逃げるように去っていく。

 

 

「俺が子猫にエサをあげちゃいけないのかよ……」

 

 

 いくら納得がいかなくても決闘で負けたのだ。相手の指示に逆らう事は決闘者として出来ない。誰か他の人に面倒を見てくれるよう、頼むしかない。

 

 

「それは違うよ、岬ちゃん……」

 

「トメさん?」

 

 

 俯き、誰にも見せた事の無い涙が目尻浮かんできた頃、ジャッカルへ声が掛かる。涙を拭いて、顔を上げたらそこには顔馴染みのトメさんがいた。

 

 

「チョコレートって言うのはね、猫にとって危険な食べ物なんだよ。コナミちゃんはそれを知っていたから岬ちゃんに怒ったのさ」

 

「けど、アイツは一言も――――!」

 

「岬ちゃん。生き物を育てるならそれに相応しいだけの知識を身に着けなきゃいけないんだよ。それにコナミちゃんも岬ちゃんと一緒で不器用だからね。本当は優しいのに接し方が分からなくてきつく当たってしまう所とか」

 

 

 ニコニコと笑って言うトメさんの言葉を聞いて、ジャッカルの顔が赤く染まっていく。

 

 

「お、俺、アイツの腹を蹴っちまった……」

 

「……そう。でも、岬ちゃんならどうすればいいのか分かるだろ?」

 

「あ、謝ってくる!」

 

 

 コナミが走り去っていった方向へ走っていくジャッカルを、トメさんは苦笑しながら見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、コナミ! 俺を殴れ!」

 

「はぁ! 女の子を殴れる訳無いだろ!」

 

「お、俺を女の子扱いするな、馬鹿野郎!」

 

「なんで殴るんだよ!」

 




ゴーストリックのイラストアドは異常。雪女と魔女は勿論、作者的にスペクターがストライクです。
高速化の時代に逆らったロマンデッキですが。


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闇の決闘――――そして覚醒

盛大なネタバレタイトルです(苦笑)


「ふぅ、我ながらなんでこんな場所まで来たんだろうな」

 

 

 小さく息を吐き、額に流れる汗を拭う。照り付ける太陽の光は赤帽子でそれなりに防げるがどちらにせよ周囲の暑さで汗が滲み出てくる。自身が踏破してきた道程を見下ろして、冷静になったコナミは自分の無計画さに苦笑する。

 

 コナミの休日は大抵の場合、二つに分けられる。一つは部屋に篭もってデッキの構成を吟味して、野良決闘を仕掛けてDPを荒稼ぎしている。もう一つは散歩だ。特にたまに落ちているカードを拾ったりすると落ちているカード探しの為にアカデミア中を探し回ったりしている。

 

 今回は後者であり、気付いたらアカデミア校舎の後ろへ聳え立つ火山の火口付近までカードを探して散歩してきていた。普通に考えて、こんな場所にカードが落ちている事自体、色々と可笑しいのだが、その事に突っ込みを入れるつもりもない。一応、登山部が存在するのでカードが落ちていても可笑しくない。

 

 周囲を見渡してみればコナミ以外の人影も見える。万丈目と同じような黒いマントを纏い、黒い仮面を付けているその人物の格好に暑そうだな~、と見当違いな感想を抱くコナミ。同時に心の何処かで大きな警報を鳴らしている。コナミには見えないものの、カードの精霊達が騒ぎ出した。

 

 

「――――ッ! ダークネスッ!」

 

 

 その人物の正体にコナミが気付いたのは二人の距離がだいぶ近付いた頃だった。

 

 

「貴様、何故私の名前を知っている?」

 

 

 息を呑み、不用意に呟いた言葉をダークネスは聞き逃さなかった。コナミは問答をしている暇など無い、とばかりに全力でダークネスがいる方とは反対方向へ走り出す。

 

 

(な、なんでダークネスがこんな所にいるんだ! 十代達が鍵を受け取ってからどれだけ日が過ぎたと思ってる!)

 

 

 それがコナミの勘違い。この世界は所詮、アニメの世界だと高を括っていたコナミは自分の影響力を理解していない。元々、赤人ではないコナミという存在は世界を分岐させるには充分な影響力を持つ人物だった。

 

 心の中で文句を言いながら一心不乱に走るコナミ。足場が悪い山道を必死になって走るコナミはある事が抜け落ちていた。

 

 

「そんなに走って何処へ逃げるつもりだ。何故、私の名前を知っている?」

 

 

 黒いカイトで空を飛んだダークネスは必死で走るコナミの前へ空から降り立つ。真の決闘者は運動神経が良い。コナミの前方へ立ち塞がり、問い掛けるダークネス。コナミの失敗はダークネスの名を口にした事とその後逃げ出してしまった事だ。

 

 コナミの不可解な行動が“七星門の鍵”にしか興味無いダークネスへ余計な興味を引き出してしまった。

 

 

「いや、この感覚は知っているぞ。魂に余計なモノが混じっているから判らなかったが貴様はコナミか。ならば話が早い。私の計画を邪魔させる訳にはいかん。貴様はここで倒させてもらう!」

 

 

 コナミを観察していたダークネスはコナミの被っていた赤帽子を目撃して、コナミの正体を見抜く。過去・現在・未来――――全ての時間軸において存在し、世界の分岐の一端を担う謎の決闘者。その正体は十二次元の覇者たるダークネスをもってしても判らない。

 

 ただコナミという決闘者はダークネスを打倒しうる決闘者である。しかし、魂に余計なモノが混じり、劣化している今のコナミなら打倒もしくはダークネス面へ引きずり込む事も出来るかもしれない。

 

 

 コナミが堕ちた場合の世界はダークネスにとって身震いするほど素晴らしいものだ。ただ強い決闘者を求めて彷徨うコナミはデュエルマシーンとして誇り高き決闘者達を圧倒的な実力で蹂躙し、希望という光を容赦無く飲み込んでいく。

 

 元々、無色として存在するコナミはその選択によって希望の光にも絶望の闇にもなりえる決闘者。なんらかの事情で魂に濁りが生まれ、闇へ傾いている現状ならば、自分の選択でのみ変わるコナミの生き様を外部から影響を与える事が出来るかもしれない。決闘者としての才能だけあるこの身体に不満を抱いていた所だ。新たな宿主としてコナミほど上等な宿主はいない。

 

 

 ダークネスがデュエルデスクを構える。コナミとダークネスの周囲を囲うように火山からマグマが噴き出して、コナミの逃走経路を塞ぐ。逃げ道はないか、と周囲を見渡していたコナミは完全に逃げ道を塞がれた事を理解して、小さく溜息を吐く。

 

 本当に急展開にもほどがある。この時期に火山へ近付いたのは不用意だったかもしれないが、鍵の持ち主でもない自分が巻き込まれるとは思ってもいなかった。

 

 

「ふん、ようやく観念したか。ならば構えろ」

 

「あぁ、やってやるさ!」

 

 

 立ち止まり、ダークネスと向き合うコナミ。ダークネスの言葉を聞き、コナミはデュエルデスクを構える。

 

 

「「決闘!」」

 

 

 闇の化身ダークネスと無色の決闘者コナミの決闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 コナミとダークネス。睨み合う両者の中、先攻を勝ち取ったのはコナミ。コナミは小さく息を吐き、デッキへ手を添える。自分の組んだデッキを信じろ、と自分自身に言い聞かせ、コナミは動き出す。

 

 

「オレのターン、ドロー!」

 

 

 ドローしたカードを手札へ加えて、手札の内容を確認するコナミ。まさか、このような場面でこのデッキを使う事になるとは思っていなかったが仕方ない、と割り切る。動き出すには充分な手札だ。ならば、行動の妨害を受けないこのターンで態勢を整える。

 

 

「オレは手札から竜の霊廟を発動! このカードはデッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る。墓地へ送ったモンスターがドラゴン族の通常モンスターだった場合、さらにデッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る事ができる! オレはデッキから青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)を墓地へ送り、ブルーアイズは通常モンスターの為、デッキからハウンド・ドラゴンを墓地へ送る」

 

「何? ブルーアイズだと? さすがと言った所か、面白いカードを持っている……」

 

 

 コナミの墓地へ送られていく2体の通常モンスター。ダークネスはその内の1体に反応を示し、口元を小さく歪める。楽しげに口元を歪めるダークネスへ不信感を抱くが、コナミのやる事は変わらない。

 

 

「オレはサイバー・ダーク・エッジを召喚! エッジの効果で墓地のハウンド・ドラゴンを装備」

 

 

 サイバー・ダーク・エッジ☆4闇 ATK/800→2500DEF/800

 効果・このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在するレベル3以下のドラゴン族モンスター1体を選択し、装備カード扱いとしてこのカードに装備する。このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの攻撃力分アップする。このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。その場合、このカードの攻撃力はダメージ計算時のみ半分になる。このカードが戦闘によって破壊される場合、代わりに装備したモンスターを破壊する。

 

 

 墓地に眠るハウンド・ドラゴンを装備した状態でコナミのフィールドへ出現する黒き機械竜。禍々しくも勇ましいエッジの咆哮がダークネスへ向けられる。

 

 

「初手から攻撃力2500のモンスターを召喚か。中々、面白い。妙なモノが混じっているがコナミである事に変わりないか」

 

 

 エッジの咆哮を軽く受け流したダークネスにコナミは眉を顰めながらカードを伏せる。

 

 

「オレはカードを1枚伏せてターンエンド」

 

「私のターン、ドロー。黒竜の雛を召喚する」

 

 

 カードを手札に加えたダークネスは流れるような動作でモンスターを召喚する。ダークネスのフィールドへ現れたのは黒き竜の雛。無限の可能性を持つ竜の子供がコナミの前に立ち塞がる。

 

 

 黒竜の雛☆1闇 ATK/800DEF/500

 効果・自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地へ送って発動できる。手札から“真紅眼の黒竜”1体を特殊召喚する。

 

 

「そして黒竜の雛の効果発動! 私は手札から真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)を特殊召喚! 現れろ、レッドアイズ!」

 

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)☆7闇 ATK/2400DEF/2000

 

 

 ダークネスの指示に従い、出現する真紅の瞳を持つ黒き竜。ブルーアイズと並び、可能性の竜と評される黒竜がエッジに負けず劣らずの咆哮と共にコナミの髪を揺らす。

 

 

「だが、レッドアイズを出した所でエッジの攻撃力には及ばないぞ」

 

「ふん、そんな事は指摘されずとも判っている。攻撃が出来ないのであれば、攻撃以外でダメージを与えればいいだけだ。私は手札から黒炎弾を発動。自分フィールド上の“真紅眼の黒竜”1体を選択して発動する。選択した“真紅眼の黒竜”の元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。このカードを発動するターン“真紅眼の黒竜”は攻撃できない。行け、レッドアイズ! 黒き煉獄の炎で焼き尽くせ!」

 

「ぐぁぁぁ!」

 

 

 ダークネスの指示に従い、真紅眼の黒竜は黒き炎を吐き出す。その炎弾に巻き込まれ、コナミは後方へ吹き飛ばされる。

 

 

 小波赤人LP4000→1600

 

 

「くっくっく、これが闇の決闘(デュエル)だ。その身に刻まれた痛みはどうだ?」

 

 

 黒き炎に身体を焼かれて、倒れ伏すコナミ。そんなコナミの姿にダークネスは愉悦の笑みを浮かべている。

 

 

「……い」

 

「ん?」

 

「……たい、痛い、痛い痛い痛いイタイイタイ! なんだよこれ! ふざけんな! ただのカードゲームだろ! なんでこんなに身体がイタイんだよぉぉぉ!」

 

 

 ソリッドヴィジョンの衝撃とは似ても似つかない、芯から身体を焼き尽くす熱の痛みに地面を転げまわるコナミ。闇の決闘の洗礼を受けたコナミは泣き叫び、現実逃避を始める。

 

 

「…………つまらんな。貴様ほどの決闘者がこの程度の事で折れるとは……。魂に余計なモノが混じったせいで随分とつまらん存在に成り果てたモノだ。貴様など手に入れる価値も無い……」

 

 

 闇の決闘の洗礼を受けて心が折れたコナミ。痛みを恐れ、混乱状態のコナミを誰が責められるだろうか。コナミの認識では所詮、決闘と言ってもカードゲームだ。世界が1枚のカードから始まったと知っていても実感なんて湧かなければ、決闘で本当の身体が傷付くなんて笑い種。遊戯王世界に生きていると知っていても、痛みを伴わない実感は判っていたつもりになっていただけに過ぎない。

 

 武藤遊戯や遊戯十代。彼らが闇の決闘を行いながら果敢に相手と戦っていたから実際は大した事ないのだと勘違いしていた。彼らが闇の決闘に耐える事が出来たのは彼らが純粋に心を強く持ち、色々なモノを背負って戦っていたからだ。

 

 なんの覚悟も背負う物も持たず、心の何処かで所詮はカードゲームという想いを持っていたコナミに耐えられるようなモノでは無い。

 

 

「私はレッドアイズをリリースし、真紅眼の闇竜(レッドアイズ・ダークネスドラゴン)を特殊召喚! これで貴様への攻撃が可能となった」

 

 

 真紅眼の闇竜(レッドアイズ・ダークネスドラゴン)☆9闇 ATK/2400→3000DEF/2000

 効果・このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在する“真紅眼の黒竜”1体をリリースした場合のみ特殊召喚する事ができる。このカードの攻撃力は、自分の墓地に存在するドラゴン族モンスター1体につき300ポイントアップする。

 

 

 無様な姿を見せるコナミへ失望した視線を向けるダークネス。そんなダークネスのフィールドにはコナミへ追い討ちを掛ける為、闇の竜が降臨する。その咆哮に身体を震わし、ビクビクしながらも立ち上がるコナミ。心が折れたとはいえ、生存本能がコナミを立ち上がらせた。

 

 

「レッドアイズ・ダークネスドラゴンでサイバー・ダーク・エッジを攻撃! やれ、ダークネス・ギガ・フレイム!」

 

 

 レットアイズの放った炎がエッジを呑み込む。その力の差は歴然。エッジが破壊されるその瞬間、コナミが叫ぶ。

 

 

「この瞬間、エッジの効果発動! このカードが戦闘によって破壊される場合、代わりに装備したモンスターを破壊する! ハウンド・ドラゴンを破壊して、エッジを残す!」

 

 

 サイバー・ダーク・エッジ ATK/2500→800

 

 

 ハウンド・ドラゴンを犠牲にして、フィールドへ残るエッジ。しかし、レッドアイズが放った炎の勢いは止まらず、コナミへ襲い掛かる。

 

 

「ふん、戦闘破壊は防いだか。しかし、ダメージは受けてもらうぞ!」

 

「と、トラップ発動! ガード・ブロック! このカードは相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、自分のデッキからカードを1枚ドローする!」

 

 

 レッドアイズの炎がコナミへ届く直前、コナミの宣言により光の盾がコナミを守る。

 

 

「ふ、心が折れてもあくまで足掻くという事か。まあいい、私はカードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

 

「オ、オレのターン、ドロー!」

 

 

 震える手でカードを引き抜くと手札に加える。新たに引いたカードを確認して、可能性を見出したコナミは震える身体を押さえつけてダークネスを見据える。

 

 

「オレは手札から融合を発動! フィールドのサイバー・ダーク・エッジと手札のサイバー・ダーク・ホーン、サイバー・ダーク・キールを融合! 現れろ、鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン! その効果により墓地に眠る青眼の白龍を装備する!」

 

 

 鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン☆8闇 ATK/1000→4400DEF/2000

 効果・このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。このカードが特殊召喚に成功した時、自分の墓地に存在するドラゴン族モンスター1体を選択し、装備カード扱いとしてこのカードに装備する。このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの攻撃力分アップする。また、このカードの攻撃力は自分の墓地のモンスターの数×100ポイントアップする。このカードが戦闘によって破壊される場合、代わりにこのカードの効果で装備したモンスターを破壊する。

 

 

 コナミのフィールドへ現れた最強のサイバー・ダーク。そしてサイバー・ダークが装備しているドラゴンは強靭にして無敵と名高い青眼の白龍。コナミのデッキにおいて最強の組み合わせだ。

 

 

「サイバー・ダークでレッドアイズを攻撃! フル・ダークネス・バースト!」

 

 

 破壊を伴ったサイバー・ダークの咆哮が火山周辺へ響き渡り、衝撃が走る。咆哮に対して迎え撃ったレッドアイズもその凄まじさには耐え切れず、破壊されてしまう。

 

 

 ダークネスLP4000→2600

 

 

「ぐッ、この瞬間、トラップ発動。レッドアイズ・スピリッツ! 自分フィールド上の“レッドアイズ”と名のついたモンスターが破壊され墓地に送られた時に発動できる。このターンに破壊された“レッドアイズ”と名のついたモンスター1体を召喚条件を無視して自分フィールド上に特殊召喚する! 対象は当然、真紅眼の闇竜!」

 

 

 襲い掛かる衝撃に耐えたダークネスは破壊されたレッドアイズを再び呼び戻す。再び出現したレッドアイズの姿にコナミは表情を顰める。相手の手札は0枚で上級モンスターさえ破壊出来ればこのまま押し切る事も可能だった筈。やはり一筋縄ではいかない相手なのだ。

 

 

「オレはカードを2枚伏せてターンエンド」

 

「私のターン、ドロー! そして天よりの宝札を発動。互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにカードをドローする」

 

「く、判ったよ」

 

 

 ダークネスの指示に従い、カードをドローするコナミ。手札の尽きていたコナミにとって助けにもなるが、今はダークネスが手札を0枚から6枚まで増やした事が重要なのだ。

 

 

「そして私はトラップ発動、魔法反射装甲・メタルプラス!発動後このカードは攻撃力300ポイントアップの装備カードとなり、自分フィールド上のモンスター1体に装備する。装備モンスターを対象とする相手の魔法カードの発動を無効にし破壊する。また、このカードが“真紅眼の闇竜”に装備されている場合、装備モンスターをリリースする事でデッキ・手札から“レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン”1体を特殊召喚できる!」

 

 

 真紅眼の闇竜 ATK/3000→3300

 

 

「現れろ、レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン!」

 

 

 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン☆10闇 ATK/2800→4000DEF/2400

 効果・このカードは通常召喚できない。“魔法反射装甲・メタルプラス”を装備した“真紅眼の闇竜”を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。このカードの攻撃力は、自分の墓地のドラゴン族モンスター1体につき400アップする。このカードを対象にする魔法の発動と効果を無効にして破壊する事ができる。手札を1枚捨てる事で魔法の発動と効果を無効にして破壊する事ができる。

 

 

 ダークネスのフィールドへ現れた最強のレッドアイズ。全身を銀色の光沢が覆う真紅の瞳を持つ黒竜の姿にコナミは一瞬だけ怯むがサイバー・ダークにはまだ届かない。

 

 

「だが、そのレッドアイズでも――――」

 

「あぁ、攻撃力はまだ足りないな。だからこそ、新たな手札を補充したのだ! 私は竜の霊廟を発動! デッキからメテオ・ドラゴンを墓地へ送り、ミラージュ・ドラゴンを墓地へ送る。墓地に眠るドラゴン族が2体増えた事によりレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの攻撃力が800ポイントアップ! 更に手札から一族の結束を発動! 自分の墓地に存在するモンスターの元々の種族が1種類のみの場合、自分フィールド上に存在するその種族のモンスターの攻撃力は800ポイントアップする!」

 

 

 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン ATK/4000→5600

 

 

 大地を揺るがす咆哮が島全体へ響き渡る。コナミの前に君臨するレッドアイズの攻撃力は既に手を付けられないほど強力になっている。

 

 

「私はレッドアイズでサイバー・ダークを攻撃、ダークネスメタルフレア!」

 

「く、この瞬間、リミッター解除を発動! このカード発動時に、自分フィールド上に表側表示で存在する全ての機械族モンスターの攻撃力を倍にする。この効果を受けたモンスターはエンドフェイズ時に破壊される!」

 

「ふん、苦し紛れの戦略など知らん! レッドアイズの効果発動、手札を1枚捨てる事で魔法の発動と効果を無効にし破壊する、マジック・リフレクション!」

 

 

 コナミの発動されたリミッター解除は魔法反射するレッドアイズの前に弾かれ、黒き灼熱の炎がサイバー・ダークを包み込むと圧倒的な熱量で破壊される。

 

 

「~ッ! サイバー・ダークの効果発動! 青眼の白龍を破壊して鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴンの破壊を無効!」

 

 

 鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン ATK/4400→1500

 

 

 小波赤人LP1600→400

 

 

 身体に奔る激痛を噛み締め、それでも決闘を続けるコナミ。本当は逃げ出したいが闇の決闘がどういうものなのか知っている。ただのカードゲームと思っていたコナミだったが、皮肉な事に痛みを感じたこの決闘で初めて自分が遊戯王の世界で実際に生きているのだと実感した。だからこそ、この決闘は負けられない。どんな手を使ってでも勝たなければならないのだ。

 

 ――――この世界は勝者に優しい。それは同時に弱者には冷たい世界。決闘に勝たなければいけないのだ。そう“どんな事をしてでも”。

 

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

「…………オレのターン」

 

 

 デッキに手を添えて、瞳を閉じるコナミ。赤人になってから一度もした事が無いデッキに祈るという行為。ドローはただ確立の問題。そう割り切っていたコナミには無意味だと思っていた行為。しかし、この決闘だけは負ける訳には行かないのだ。どんな手を使ってでも相手へ勝利しなければならない。

 

 勝利への飢え。目の前の決闘者に対する怒り。そしてなによりこのデッキで本来戦うつもりだった人物への嫉妬。負の感情がデッキへ添えている手へ集まっていく。負の感情にデッキが鼓動する。コナミの中で何かが崩れた音がした。

 

 シンクロとエクシーズ。その概念が存在する世界でありながらコナミは頑なに使おうとしなかった。宿敵たるカイザー亮に使用したものの敗北し、同時に何かが違うと思った。同じ土俵で戦わなければ本当の勝利と言えるのか。シンクロ・エクシーズを使った勝利で自分が喜べるのか。少なくとも否だ。もし勝利する事が出来てもそれは空しい勝利に他ならない。コナミは自分へずっと言い聞かせてきた。

 

 ――――“負けた時の言い訳が出来るように”。

 

 シンクロを使ってないから。

 エクシーズを使ってないから。

 

 そうして勝てない理由を自分で勝手に作り上げて、敗北を正面から受け止める事をしなかった。その結果が今の状況だ。相手が全力で挑んできてもこちらは余力を残している。そう言い訳が出来るように。

 

 

「あぁ、そうだ。勝たなければいけないんだ。勝って勝って勝ちまくる。それがオレの決闘」

 

「そうだ、それでいい! 私の苗床として相応しい闇だ!」

 

 

 急激にコナミへ渦巻いていく闇の力にダークネスは歓喜する。無色のコナミが急激に闇へ堕ちていく。闇へ堕ちたコナミの魂を捕らえ、同化してしまえばダークネスの闇はより強固なモノとなる。

 

 

「貴様の魂、今頂く!」

 

「ッ!」

 

 

 ダークネスは今の身体を捨て、渦巻く闇に紛れてコナミの魂に潜り込む。

 

 ――――そして、コナミの深淵を覗いてしまった。

 

 

『な、なんだ、コレは! コレが貴様の闇? ふざけるな、嫌だ! こんな闇も光も無い魂が有っていい筈が無い! 世界を繰り返してまで光を取り込み、闇を取り込もうとするバケ――――』

 

「………………ッ、一体何が……」

 

 

 ダークネスの魂が抜けた事により、ダークネスへ人格を奪われていた青年が目を覚ます。自分の手にはデュエルデスク。そして目の前では見覚えの無い決闘。決闘相手の決闘者の帽子は黒い帽子だ。

 

 

「ドロー、俺は手札から死者蘇生を発動、自分または相手の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。俺は墓地に眠る青眼の白龍を特殊召喚」

 

「ブ、ブルーアイズだって!」

 

 

 青眼の白龍☆8光 ATK/3000DEF/2500

 

 

 青眼の白龍の登場に驚く青年を余所に黒帽子の少年は動きを止めない。

 

 

「そして融合解除を発動、フィールドへ三体のモンスターが揃った。現れろ、邪神ドレッド・ルート」

 

 

 邪神ドレッド・ルート☆10闇 ATK/4000DEF/4000

 効果・このカードは特殊召喚できない。自分フィールド上に存在するモンスター3体を生け贄に捧げた場合のみ通常召喚する事ができる。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、このカード以外のフィールド上のモンスターの攻撃力・守備力は半分になる。

 

 

 次の瞬間、闇の鼓動が覚醒する。晴天だった天気は急速に雷雲が立ち込め、穏やかだった海が荒れる。デュエルアカデミア中に激震が奔り、カードの精霊達が騒ぎ出し、それぞれの相棒へ警告する。人智を超えた邪神がここに降臨した。

 

 

 青眼の白龍 ATK/3000→1500DEF/2500→1250

 

 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン ATK/5600→2800DEF/2400→1200

 

 

 その脅威に力を半減させるモンスター達。それは一体の邪神により与えられた影響。

 

 

「俺は邪神ドレッド・ルートでレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを攻撃、青眼の白龍でダイレクトアタック」

 

「ぐあぁぁぁ!」

 

 

 邪神の鉄槌と最強の竜による一撃、闇の決闘による痛みが青年を襲い、その命を刈り取る。

 

 

 天上院吹雪LP2600→-100

 

 

「き、君は……」

 

 

 カードへ魂が取り込まれていく少しの間、正気を取り戻した青年――天上院吹雪は目の前の決闘者に問いかける。

 

 

「………………俺の名前はダークネス赤人(セキヒト)

 




主人公覚醒――ただし、その頃には主人公が闇堕ちしてるけどな!

因みにちょっとした伏線でカイザー、十代、ダークネス以外の決闘では闇属性のモンスターしか使っていません。

次回から当分の間、作者得の超外道主人公でいきます。


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―ダークネス赤人―
電気の取り扱いには充分注意しましょう


 最近、デュエルアカデミアにはある噂が流れている。その噂というのはデュエルアカデミア最強を誇るカイザー亮とそんなカイザー亮に並び立つ才能と実力を持つ天才――行方不明だった天上院吹雪がアカデミアの近くに存在する森の中で発見された、というモノだ。

 

 天上院吹雪は命に別状が無いものの、目を覚ます事が無い。現代の科学では解明出来ない何かでずっと眠り続けている。

 

 そんな内容の噂を何処からともなく耳にしたセキヒトは小さく口元を歪める。

 

 ダークネスに乗っ取られ、闇のゲームを挑んできた天上院吹雪を打ち負かしたのはセキヒトである。魂の抜けた吹雪の身体をアカデミア近くの森まで運んだのは勿論、セキヒトだ。これは別にセキヒトの良心でアケデミアの近くまで運んだ訳じゃない。闇のゲームが起こるなんて想像もしていなかったセキヒトは火山へ向かう姿をたくさんの生徒に目撃されている。目を覚まさない天上院吹雪とセキヒトに少しでも関係性を見出してもらっては困るのだ。

 

 何故なら――――カイザー亮へ勝利する為に、カイザー亮の周りを少しずつ崩していく必要がある。それにセキヒトへ勝利した遊戯十代を初めとした原作キャラクター達には何が何でもリベンジして勝利を捥ぎ取る、その為なら周りの人間を巻き込んだ所で構わない。

 

 

「どっちにしろ、この力がどういうものなのか確認しないと始まらないけどな……」

 

 

 そう呟いたセキヒトはデッキホルダーの中から一枚のカードを取り出す。一見、どこにでも存在するカードに見えるがよく観察してみればカードに描かれているイラストが異常である事に気付く。カード名は天上院吹雪。イラストには苦痛に顔を歪めた吹雪の表情が描かれていた。

 

 これが闇のゲームにおいて勝ち抜いたセキヒトの戦利品であり、セキヒトが手に入れた敗者の魂をカードに封じる闇のゲームにおいて決着の証となる魂の封じられたカード。闇のゲームはやろうと思えばいくらでも出来る。理屈ではなく、本能で闇のゲームを行なう方法を理解したのだ。

 

 そして普通のカードにおけるレベル表示されている部分に大きな四つのハートマークが描かれている。当初、このハートマークに何の意味があるのか、判らなかったセキヒトであるが、ある点に気付いてハートマークの意図に気付いた。ハートマークは時間が経つ事に少しずつ空白のハートマークから赤色に染まったハートマークへ変化している。これはタッグフォースにおける好感度の表示。敗北してカードへ魂を捕らえた人物のセキヒトに対する強制好感度上昇。これがハーレムを願ったセキヒトが手に入れた闇のゲームなのだ。

 

 なによりこのカードの使用方法をなんとなく理解出来るのだ。ハートマークが全て赤色に染まるまでおよそ一週間。そしてハートマークが四つ溜まった状態でカードに封印された魂を解放すれば、魂を解放された相手はセキヒトの言いなり人形へ堕ちてしまう。他にも色々と遊べるような仕組みなのだが、とりあえず簡単な所ではこのような力を手に入れた。

 

 今の所、実験する相手が男性である吹雪しかいないので楽しみは激減である。色々と魂の封じられたカードで試してみたい事があるのだが、吹雪相手ではやる気が起きない。相手が女子生徒であれば色々と頑張る事が出来る。しかし、実際はカイザー亮や遊戯十代といった原作キャラクターと無関係な一般生徒を巻き込むつもりは無い。

 

 小さく息を吐いたセキヒト。万が一にも魂の封印されたカードを見られる訳にはいかないので人気の無い校舎裏で観察していたカードをしまった直後、普段なら人気の無い校舎裏に二つの人影が姿を現した。

 

 その事に驚きつつ、二つの人影を観察するセキヒト。その人物が誰なのか、セキヒトにはすぐさま判別する事が出来た。

 

 彼女達の名前は枕田ジュンコ・浜口ももえ。天上院明日香の取巻きであり、同時にお互いに相手の事を心配する友人――親友同士と言ってもいい。ペアで行動していても不思議では無いが、校舎裏を訪れた理由が判らない。

 

 ずんずんセキヒトの立っている方向へ歩いてくるので、セキヒトは道を空けるように退く。しかし、ジュンコ達はセキヒトの前で立ち止まる。

 

 

「俺に何か用ですか?」

 

 

 明らかに自分へ用事があるジュンコ達へ白々しく尋ねるセキヒト。相手がセキヒトへ用事がある事は簡単に判る。しかし、学園生活においてジュンコ達との関わり合いが皆無なセキヒトは二人の用件を予想出来ない。

 

 

「しらばっくれても無駄よ。明日香さんのお兄さん、吹雪さんについて話があるの」

 

「? 一体、何の話ですか?」

 

「無駄です。私達はすでに貴方が吹雪様が見付かった森の近くから出てきた所を目撃している証言を確認していますわ」

 

 

 ジュンコの追求に内心で驚きつつ、知らないフリをしたセキヒトへももえから厳しい指摘が入る。二人の表情を伺い、セキヒトは小さく溜息を吐く。誰にも見られないようにしていたが迂闊だった。

 

 

「…………どうして俺だと判ったんだ?」

 

「ッ!」

 

 

 セキヒトの言葉に息を呑むジュンコ。そんな不可解な反応をするジュンコへ怪訝そうな表情を浮かべるセキヒト。驚いているジュンコの反応が理解出来ない。セキヒトが犯人だと判っているからこそ、声を掛けて来た筈なのに自白したらそれに驚くとは不自然だ。これではまるで――――。

 

 

「いえ、判りませんでしたわ。貴方が自分で証言するまで」

 

「ちッ、カマを掛けたってやつか……」

 

 

 セキヒトの予想を肯定するようなももえの台詞を聞いたセキヒトは眉間に皺を寄せる。

 

 

「だが、どうして俺へカマを掛けた? その理由が知りたいな」

 

「それなら簡単な事ですわ。一つは目を覚まさない吹雪様の腕にはデュエルディスクが装備されていた事。これから推測されるのは吹雪様が倒れる前、決闘をしていた可能性がある事。そして、もう一つはデュエルアカデミアの双璧と異名を持つ吹雪様ほどの決闘者を倒せるほどの実力者である事」

 

「なるほど、それは光栄だな。だが、お世辞にもデュエルアカデミアにおける俺の決闘者ランクは高くなかった筈だ」

 

 

 それは事実である。実力はトップクラスのセキヒトも戦績だけで言えばカイザー亮に相当負け越している為に総合的な評価は中の上から上の下という扱いだ。

 

 

「そうよ、だから上位の生徒から順番に声を掛けていったのよ」

 

「それはまあ、友達想いな事だな……」

 

 

 ジュンコの言葉にセキヒトは小さく笑う。本当に明日香は尊い親友を二人も持っている。セキヒトへ辿り着くまで大勢の生徒にジュンコとももえが妙な奴等だ、と思われただろう。他人に変な視線を向けられてでも親友である明日香の為に何かしたい。その心と行動力、なにより絆は素直に感嘆する。

 

 しかし、二人は無策で飛び込み過ぎた。二人をこのまま帰す訳にはいかなくなったセキヒト。なにより相手は“女子生徒”だ。闇のゲームにおいてこれだけ良い実験材料は無い。

 

 

「それで? 俺が犯人だとしてどうするつもりだ? 俺が証言しただけでそんな証拠は何処にもないぞ?」

 

「えぇ、だから洗い浚い吐いてもらうわよ。決闘でね」

 

「いいだろう、LPハンデはいらない。その代わりにフィールドとLPは共有してもらうぞ。二人まとめてかかってこい!」

 

 

 セキヒトの言葉を引き金に三人がデュエルディスクを構える。そしてセキヒトを中心に闇のフィールドが広がった。

 

 

「勝ちますわよ、ジュンコさん!」

 

「当然! それじゃあ――――」

 

「「「決闘!」」」

 

 

 明日香の為に立ち上がった二人と自分の意志で闇のゲームを発動されたセキヒトの決闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 

 最初に選ばれたのはジュンコ。自分のターンだと確認したジュンコは躊躇いを見せず、カードを手札に加える。変則決闘である今回、最初のターンは全員攻撃する事が出来ない。LPを共有はまだしもフィールドの共有を認めたのは不味い判断だったかもしれない。ようやく見付けた犯人を前にして高ぶっていた気分が段々と冷静になってきたジュンコはその事実に気付くがもう遅い。賽は投げられたのだ。後はももえと協力して全力を出し切るだけ。

 

 

「私は手札からハーピィ・レディ1を召喚!」

 

 

 ハーピィ・レディ1☆4風 ATK/1300→1600DEF/1400

 効果・このカードのカード名は“ハーピィ・レディ”として扱う。このカードがフィールド上に存在する限り、風属性モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。

 

 

ジュンコの宣言と共にフィールドへ現れる一人の美女。しかし、その四肢は鳥類を思わせる鉤爪と美しい緑色の羽を持っている。自らの主人であるジュンコを守るように立ち塞がり、コナミへ威嚇している。

 

 

「どうしたの、ハーピィ? 珍しくやる気じゃない。まあ、いいわ。私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 

 いつもは澄ました態度のハーピィがコナミに対して異様な敵対心を見せている事に驚くジュンコ。しかし、ハーピィの警戒は無理も無い。痛みを伴っていないのでジュンコ達はこの決闘が闇のゲームだと気付いていない。ハーピィが主人を守ろうとして、その原因を排除しようとするのは当然の事だ。

 

 だが、この決闘の危険性を理解していないジュンコはハーピィの警戒をやる気と判断して、嬉しそうな笑顔を見せながらセキヒトへターンを譲る。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 新たなカードを手札に加え、小さく笑うセキヒト。デッキが随分と言う事を聞くようになった。出だしとしてはほぼ最高の手札である。

 

 

「俺は手札から裏側守備表示でモンスターを召喚。そして、カードを1枚伏せてターンエンド」

 

 

 しかし、動き出すにはまだ早い。まだ闇のゲームだと気付いていない二人を一瞬にして闇へ飲み込む。今はその準備をしている最中だ。

 

 

「それでは私のターン、ドローですわ」

 

 

 二対一という不利な状況で動きを見せないセキヒトの事を不審に思いつつ、自分のターンが回ってきたももえがカードを手札へ加え、フィールドを確認する。

 

 

(今回の決闘で重要となるのは変則決闘におけるジュンコさんとLP・フィールドの共有ですわね)

 

 

 このルールはお互いのデッキがシナジーしている場合、とんでもない可能性を秘めるルールであるが、ジュンコとももえではお世辞にもシナジーしているデッキと言えない。

 

 

(ですが……、同時にフィールドを共有していると言う事はジュンコさんが伏せたカードも使用出来るという事ですわ!)

 

「私はジュンコさんの伏せたトラップを発動します! ゴッドバードアタック! このカードは自分フィールド上の鳥獣族モンスター1体をリリースし、フィールド上のカード2枚を選択して発動できる。選択したカードを破壊します。私はハーピィさんをリリースして、コナ――――」

 

「俺はコナミでは無い! セキヒトさんだ!」

 

「セ、セキヒトさんのカードを2枚破壊しますわ!」

 

 

 よく判らない訂正を受けたももえは気を改めて宣言する。ももえの宣言に従い、ジュンコを守ろうとしていたハーピィは空へ飛び上がり喜びを表すと自爆覚悟でセキヒトのフィールドへ急降下していく。

 

 

「くッ!」

 

 

 ハーピィによる自爆覚悟の特攻により大きな土煙がセキヒトのフィールドを覆う。土煙が晴れた頃、セキヒトのフィールドはがら空きとなっていた。

 

 

「ちょ、ちょっとももえ! なんで私のハーピィを!」

 

「ジュンコさん、これは変則と言ってもタッグ決闘ですわ。明日香さんの為にも二人で力を合わせてセキヒトさんを倒すんです」

 

 

 自分の考えていたコンボを親友に行なわれたジュンコは驚き、ももえを見る。言い聞かせるようなももえの言葉にジュンコも理解する。ジュンコとももえのデッキにシナジーしているカードは少ない。だが、親友である二人は伏せたカードやプレイ内容から次に相手がどんな戦略を組み立てているのか、容易に想像出来る。お互いがお互いの戦略を理解して、運用する。性格が違えど、お互いの考え方やプレイ傾向などを理解している親友だからこそ行なえる離れ業である。

 

 そして、無人となったフィールドにももえを妨害するものは無い。

 

 

「私は手札からデス・ウォンバットを召喚します!」

 

 

 デス・ウォンバット☆3地 ATK/1600DEF/300

 効果・このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、 コントローラーへのカードの効果によるダメージを0にする。

 

 

 フィールドに現れた一匹のねずみ。その愛くるしい姿とは裏腹に纏っている雰囲気が何処か邪悪である。

 

 

「私は手札から黒蛇病を発動します。このカードは自分のスタンバイフェイズ毎にお互いのライフに200ポイントダメージを与える。2ターン目以後自分のスタンバイフェイズ毎にダメージは倍になります。ですが、私はウォンバットちゃんが守ってくれるのでダメージは受けません。そしてカードを2枚伏せてターンエンドです」

 

「わ、私のターン、ドロー!」

 

 

 満面の笑みでターンをジュンコへ譲るももえ。その笑みに隠された黒い空気にびびりながら、ジュンコはカードを引く。

 

 

(なるほど、そういう事ね。やっぱりももえは黒いわね)

 

 

 ももえの伏せたカードを確認して、苦笑するジュンコ。親友であるからこそ、ももえの思惑を理解出来て、だからこそももえの強かさに戦慄を覚える。次の瞬間、お互いのフィールドへ黒い蛇の影が出現して、お互いのプレイヤーへ襲い掛かる。

 

 

「ぐッ」

 

 

 ダークネス赤人LP4000→3800

 

 

 黒い蛇の影が身体に巻きつき、身体を締める。セキヒトはその苦痛に声を洩らす。本来ならお互いに傷付く筈の効果であるが、ジュンコ達の方へ向かった黒い蛇の影はデス・ウォンバットにより食い殺された為にダメージが発生しない。

 

 

「そして私はももえの伏せたトラップ発動、リビングデッドの呼び声! 墓地に眠るハーピィ・レディ1を復活させる!」

 

 

 再びフィールドへ舞い戻ったハーピィ・レディ1。自爆特攻を行なう勇敢さと強さを持ったハーピィが再びセキヒトに立ち塞がる。

 

「私は手札からフィールド魔法、ハーピィの狩場を発動。このカードは“ハーピィ・レディ”または“ハーピィ・レディ三姉妹”がフィールド上に召喚・特殊召喚された時、フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を破壊する。フィールド上に表側表示で存在する鳥獣族モンスターは攻撃力と守備力が200ポイントアップするわ!」

 

 

 ハーピィ・レディ1 ATK/1600→1800

 

 

「……さすがにカードの効果ぐらい理解しているんだな」

 

「当たり前でしょ! アンタ達、オシリス・レッドと一緒にするんじゃないわよ!」

 

 

 ハーピィの狩場は強力な効果な分、発動するタイミングを間違えると自爆してしまう事がある。強力なカードを使うだけの実力をジュンコは持ち合わせている。感心した様子で呟くセキヒトに馬鹿にされたと感じたジュンコが地団駄を踏みながら叫ぶ。

 

 

「もういいわ、私はハーピィ・レディ1とデス・ウォンバットでアンタを攻撃!」

 

「ッ!」

 

 

 ダークネス赤人LP3800→400

 

 

 ハーピィ・レディ1の鉤爪とデス・ウォンバットの体当たりがセキヒトのLPを大きく削る。闇のゲームにおいて発生する激痛に耐え、相手を見据えるセキヒト。

 

 

「そして私はももえの伏せた光の護封剣を発動! 相手フィールド上のモンスターを全て表側表示にする。このカードは発動後、相手のターンで数えて3ターンの間フィールド上に残り続ける。このカードがフィールド上に存在する限り、相手フィールド上のモンスターは攻撃宣言できない! これでアンタは終わりよ! 私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 

 セキヒトのフィールドへ突き刺さる光の剣。そして待ち受けている黒い蛇の影。絶体絶命の状況でセキヒトは本当に楽しそうに笑った。勝利を確信している二人の表情を見て、本当に楽しそうに。

 

 確かにセキヒトは追い詰められている。残されたターンはこの1ターンだけだが、攻撃は光の剣によって封じられている。だが、この圧倒的不利な状況を引っくり返してこそ、勝利を確信しているジュンコ達へ絶望の表情を浮かび上がらせる事が出来るのだ。

 

 

「俺のターン」

 

 

 デッキへ添えた手に黒い闇の力が収束する。相手へ絶望を与える為に闇がデッキを蹂躙し、強引に従わせる。

 

 

(――――このターンで全てを蹂躙する!)

 

 

「――――ドロー!」

 

 

 闇の力でデッキを従わせ、思い通りのカードを引いたセキヒトはそのまま動き出す。

 

 

「俺は手札から死者蘇生を発動! 墓地に眠る電池メン-単三型を蘇生して攻撃表示で特殊召喚!」

 

 

 電池メン-単三型☆3光 ATK/0→1000DEF/0

 効果・自分フィールド上の“電池メン-単三型”が全て攻撃表示だった場合、“電池メン-単三型”1体につきこのカードの攻撃力は1000ポイントアップする。自分フィールド上の“電池メン-単三型”が全て守備表示だった場合、“電池メン-単三型”1体につきこのカードの守備力は1000ポイントアップする。

 

 

 光の剣を掻い潜るようにセキヒトのフィールドへ舞い戻る一体の電池戦士。小さくも勇ましいその姿。しかし、それだけでこの状況を引っくり返すことなど出来ない。

 

 

「無駄な抵抗は止めなさいよ!」

 

「そう慌てるな。俺は地獄の暴走召喚を発動する。このカードは相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分フィールド上に攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から全て攻撃表示で特殊召喚する。相手は相手自身のフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、そのモンスターと同名モンスターを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する。当然、俺が召喚するのは電池メン-単三型! 現れろ、電池戦士達!」

 

 

 セキヒトに従いフィールドへ並ぶ三体の電池戦士。お互いに自身の電気を供給し合う事により小さな電池戦士は大きな力を得る。

 

 

 電池メン-単三型 ATK/1000→3000

 

 

「くッ、私が選択するのはデス・ウォンバット! 私のデッキにはデス・ウォンバットがいないから召喚は無しよ!」

 

 

 眉間に皺を寄せるジュンコ。無条件にモンスターを揃える事が出来るチャンスだったが、タイミングが悪すぎる。もし、この場で欲を出してハーピィ・レディ1をフィールドへ揃えた場合、ハーピィの狩場の効果によって自爆していた。

 

 そこまで計算してセキヒトは地獄の暴走召喚を発動させたのだ。チャンスを棒に振るしかないジュンコは立ち並んだ電池戦士を見据えて舌を巻く。

 

 

(悔しいけど、やっぱり明日香さんを追い詰めた実力は本物な訳ね。だけど、攻撃力3000のモンスターを並べた所で攻撃出来なければ意味が無いわ。ロウソクの炎だって、消える前は大きく燃え上がる。それと一緒よ)

 

 

 大丈夫、と言い聞かせるジュンコを前にセキヒトは1枚のカードを発動させる。

 

 

「俺は手札から漏電(ショートサーキット)を発動! 自分フィールド上に“電池メン”と名のついたモンスターが3体以上存在する場合に発動できる。相手フィールド上のカードを全て破壊する。やれ、電池戦士達!」

 

 

 三体の電池戦士が力を合わせ、強大な電力を収束させていく。圧倒的な電流と電圧を前にして肌へビリビリとした衝撃が襲う。

 

 ――――そして見ていられないほどの光を放ちながら暴力的な電気がジュンコ達のフィールドへ放たれた。

 

 全てを破壊する電気の力にハーピィ・レディ1とデス・ウォンバットが蹂躙され、破壊される。その衝撃は留まる事を知らず、フィールドへ存在する全てのカードを破壊した。

 

 

「そ、そんな……」

 

「負け……ですわね」

 

 

 圧倒的な電気に蹂躙され荒れ果てた荒野となったフィールド。そして、目の前に立ち並ぶ三体の電池戦士。勝利を確信していた二人は信じられないモノを見るような表情を浮かべて落胆の声を出す。

 

 

「電池戦士で総攻撃!」

 

 

 枕田ジュンコ・浜口ももえペアLP8000→-1000

 

 

 フィールドを荒野へ変えた圧倒的な電気が二人を蹂躙する。

 

 

「い、痛い! なんなのよ、これ!」

 

「ど、どうなっているんですの?」

 

「…………この闇のゲームに負けた相手はカードに魂を封印される。まあ、聞いていないだろうがな」

 

 

 闇のゲームの制裁を受けた二人は身体に奔る激痛から逃げるように気絶して地面へ倒れ伏す。気絶した二人の身体から魂が切り離され、カードへ魂が封印される。

 

 二枚のカードへ追加されるジュンコとももえのイラストを確認したセキヒトは小さく笑う。

 

 

「やっぱり、こいつ等は三人揃っていないとな……」

 

 

 その対象は何度か敗北した事もある天上院明日香。

 

 

「あぁ、良い事を思いついた」

 

 

 そう呟き、二人のカードをデッキホルダーへ入れるセキヒト。そして校舎裏から立ち去っていく。

 

 セキヒトによる“光崩し”が始まった。

 




主人公は洗脳する力を手に入れた。キリッ


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禁断のカード達

主人公は吐き気を催す邪悪になっています。キリッ


 セキヒトが初めての闇のゲームを行なってから既に数日が過ぎた。“とある作戦”の為、好感度上昇の表示されるハートマークが4つ溜まった状態である天上院明日香の兄、天上院吹雪のカードからまだ吹雪の魂を解放していない。

 

 そして明日香の親友でもある枕田ジュンコと浜口ももえ。二人のカードに表示されているハートマークも相当溜まって来ている。目算で放っておいても後は一日かそこらで4つのハートマークが赤く染まる。

 

 最初は一週間程度で溜まると思っていたハートマークにセキヒトにとって都合の良い意味で誤算が発生した。それは闇のゲームでなくともセキヒトが決闘で勝利すれば勝利した分だけハートマークの上昇速度が加速したのだ。

 

 現在、デュエルアカデミアで暗躍しているセブンスターズと違い、アカデミアの生徒として生活を送り、授業や私生活で決闘を行なっているセキヒトにとって、決闘に勝てばその分好感度上昇速度が加速するという情報はやる気の源となっていた。アカデミアの生徒として生活している限り、決闘相手に困る事は無いからだ。

 

 そしてセキヒトが通うデュエルアカデミアではいつまでも目を覚まさない天上院吹雪を引き金とした妙な噂が流れ始めていた。その内容は名前が伏せられているものの、目を覚まさない被害者が三人に増えた事。島の何処かにある湖畔に吸血鬼が住み着いた為、被害者を襲った事。デュエルアカデミアの実技担当最高責任者であるクロノス・デ・メディチ先生が行方不明になっているというモノだ。

 

 仕方ない事ではあるが噂は所詮噂でしかない。アカデミアに流れている噂は一連のモノとして見られているが事実は違う。異なる二つの影が同時に暗躍を始めた為、何も知らない生徒達が二つの出来事を一つにまとめてしまった。

 

 その事実を知っている者はセキヒトを除けば“七星門の鍵”を任せられた十代達しかいない。だが、十代達も追い詰められているのが現状である。

 

 アカデミアの教師においてトップクラスの実力を持つクロノスを降したセブンスターズの吸血鬼にして実力者――――カミューラの出現。そして未だにその影すら見せず暗躍して無関係である三人の決闘者を巻き込んだ謎の人物。

 

 その正体が学生のセキヒトだと思っていない十代達は現状、セキヒトが尻尾を出す事を待っている状態なのだが、セキヒトはジュンコ達に特定されたのを教訓にして証拠という証拠を全て抹消したので十代達に特定される心配は無い。

 

 なによりセキヒトは既に自分の方針を決めている。カミューラのように大きな事件を起こして十代達を呼び寄せるのではなく、一人ずつ確実に潰していく予定だ。そうしなければアカデミアの人間であるセキヒトは行動を大きく阻害されてしまう。

 

 

「さてはて、俺の思惑通りに行くかどうか……」

 

 

 セキヒトが呟いた言葉は少し肌寒い潮風に流されて消えていく。カイザー亮と天上院明日香がよく待ち合わせに使用していた灯台に背中を預けたセキヒトは地平線の向こう側へ消えていく太陽を見つめながら待ち人を待つ。

 

 待ち人の名前は天上院明日香。昼間、十代達がカミューラへ再戦を仕掛ける相談をしている所を盗み聞きしたセキヒトは誰にもバレないように明日香へ一通の手紙を出しておいた。

 

 手紙内容は簡潔で魂を封印した三人の名前と時間と場所の指定、他の人間は連れてこないように、と書いてあるだけだ。ただのイタズラと切り捨てられる可能性もあるが、明日香は大人しく一人で灯台を訪れると睨んでいる。何故なら既に噂となっている天上院吹雪と違い、枕田ジュンコと浜口ももえが被害者である事は伏せられている。二人が被害者である事は関係者以外で知っているのは二人を巻き込んだ本人――――つまりセキヒト以外は知らないからだ。

 

 それからそれなりの時間が過ぎ去り、夕日が完全に地平線へ消えて柔らかい月明かりがセキヒトを照らし出した頃、カツカツと埠頭を歩く音が聞こえてきたので顔を上げる。そこには険しい表情を見せて既にデュエルディスクへデッキをセットして、決闘を行なえる準備を済ませている天上院明日香がいた。周りには誰もいない。十代達がカミューラへ再戦する移動中、上手く一人で抜けてきたのだろう。

 

 明らかに愛すべき兄と大切な親友を奪われて闘争心を丸出しにしている明日香の姿にセキヒトは小さく苦笑する。そして灯台へ背中を預けて笑っているセキヒトを見て、戸惑いの表情を見せる明日香。

 

 

「何故、コナミが此処に……」

 

「何故? それは本気で言っているのか? 相手が誰であろうと決闘で倒す。明日香の装備を見れば明日香がどういう想いで此処に来たのか見て取るように判るが?」

 

「えぇ、そうよ。けど、貴方は一体何者なの? コナミは私の事を名前で呼ばない。変装していないで正体を現しなさい!」

 

 

 喉を鳴らして失笑するセキヒトの姿に明日香は警戒を強めて叫ぶ。明日香の叫びを聞いたセキヒトは目を丸くした後であぁ、と納得した様子でポンッと両手を合わせる。

 

 

「…………そういえば自己紹介がまだだったな。今の名前はダークネス赤人。正真正銘、明日香の知っている小波赤人本人だよ。少し考え方が変わったけどな」

 

「ッ! どうして貴方のような優秀な人間がッ!」

 

「おいおい、俺がこうなった原因を作ったのは明日香の兄である天上院吹雪のせいなんだぜ。だから俺は悪くない」

 

 

 両手で腹を押さえて可笑しそうに笑うセキヒト。そのセキヒトが告げた言葉に明日香が表情を曇らせる。

 

 

「…………それはどういう意味なの?」

 

「良いだろう、教えてやる。大前提として俺は被害者だ。何故なら元々、天上院吹雪はセブンスターズとしてこの島を訪れたからな」

 

「そんなッ! そんな話は嘘よ!」

 

「おいおい、最後まで大人しく聞いてくれよ。こっちはわざわざ説明してやっているんだぜ」

 

 

 セキヒトの言葉を否定するように首を横へ振る明日香の姿を見たセキヒトはやれやれと肩を竦める。

 

 

「セブンスターズである天上院吹雪は無関係である俺へ決闘を無理強いして、決闘の最中、オレは今の俺へ覚醒して天上院吹雪を倒した。行なわれた決闘は闇のゲームだった。俺は自分の身を守る為に勝利した。結果としてこのように天上院吹雪の魂はカードに封じられた。ほら、俺は自分の身を守っただけだ。正当防衛だよ」

 

 

 そう言ってデッキホルダーから取り出した一枚のカードを掲げて明日香へ見せる。そのカードに描かれたイラストを目撃した明日香は目を見開き、息を呑む。そのカードには最愛の兄の名前が書かれていた。

 

 

「枕田ジュンコと浜口ももえについても同じだよ。折角、俺が大人しく暮らしていたのにその二人がお前の為に天上院吹雪を倒した犯人探しをして俺に辿り着いた。大人しく生活したい俺は本当に仕方なく二人の魂をカードへ封印する事にしたんだ。ほら、俺は被害者だろ? 俺は大人しく生活したいのに二人が犯人を突き止めてしまったからな」

 

 

 二人のカードも取り出して明日香へ見せる。白々しく被害者だと名乗るセキヒトに鋭い眼光をぶつける明日香。セキヒトの話が事実だったとしてもジュンコとももえを巻き込む必要は無かった。むしろ、兄である吹雪を倒した時点で言ってくれれば明日香もセキヒトを責める事は出来なかった。

 

 

「………………もういいわ。これ以上貴方と話しても無駄なようね。構えなさい、決闘で決着をつけてあげる」

 

「おいおい、俺を笑い殺す気か? なんで俺が明日香と決闘する必要があるんだよ。今現在、どちらの立場が上か判ってんのか?」

 

「止めて! それじゃあ一体、何が目的なの!」

 

 

 デュエルディスクを構えた明日香を見て、ゲラゲラと笑うセキヒトは吹雪の魂が封印されたカードを両手に持って破ろうとする。その姿に明日香は構えたデュエルディスクを下げて叫ぶ。

 

 

「俺からの要求は二つ。一つは“七星門の鍵”を俺に渡す事。もう一つは無抵抗でカードに魂を封印される事。そうすれば二人分の魂は解放してやる。等価交換だ」

 

「くッ、卑怯者! それじゃあ一人足りないわ!」

 

「おいおい、こっちは譲歩してやっているんだぜ? それとも愛するべき兄と大切な親友の命は自分の命と“七星門の鍵”の二つと一緒とでも言うのか? 呆れるほど傲慢だな」

 

「それは違うわ! 三人と私がつり合う筈が無い!」

 

 

 聞き分けの無い子供へ言い聞かせるようなセキヒト。反射的にセキヒトの言葉を否定した明日香は苦悶の表情を浮かべる。

 

 

「…………どうすれば、私と決闘してくれるの?」

 

「ん~、そうだな。まずは地面に這い蹲って土下座しろ。その上で俺に媚びれ。そうしたら考えてやる。土下座して『セキヒト様、私と決闘してください』だ。ほら、簡単だろ」

 

「くっ、判ったわ」

 

「判りました……だろ?」

 

「……判りました」

 

 

 明日香の屈辱に染まる顔をニヤニヤと観察するセキヒト。その表情をみれば素直に決闘へ応じるつもりが無い事は明らかだ。しかし、明日香に残された選択肢は一つしかない。

 

 

「…………セキヒト様、私と決闘してください」

 

「くっくっく、どうしようかな~」

 

 

 屈辱に身体を震わして、セキヒトへ土下座する明日香。そんな明日香に爆笑しているセキヒト。

 

 

「決闘を受けてもいいが、その前に条件がある。今回の闇のゲームに俺が掛けるのは三人の魂と俺の魂。そちらは明日香の魂と“七星門の鍵”。面白い物を見せてもらった礼として俺の魂は数に入れないとしても一人分、決闘者の魂が足りない。魂はつまり命だ。そして決闘者の命とはライフポイントの事。そしてデュエルモンスターズには1000のライフは一枚のカードと同等、それ以上という言葉がある。4000分のライフは手札四枚に等しい。俺が手札を九枚の状態で始めるか、明日香が手札一枚の状態で始めるか。どちらがいい?」

 

「そんなのめちゃくちゃだわ!」

 

 

 セキヒトの言葉に顔を上げて叫ぶ明日香。その選択だと答えはもう決まっている。決闘者にとって手札とは可能性だ。セキヒト――コナミと明日香の実力はほぼ同等。そんな状態で手札という可能性が一枚で始まる決闘など結末は見えている。

 

 

「残念だが、俺がルールだ。俺はどちらがいいか聞いている。それ以外の返答はいらん」

 

「くっ!」

 

「あぁ、それとも考えるフリをして時間稼ぎするつもりならそれでも良いぞ。このカードに書かれたハートマークが全て赤色に染まった時、その魂の持ち主は魂が解放された瞬間から俺の言いなり人形になる。すぐに答えないなら暇つぶしにハートマークが溜まっている吹雪の魂を解放して言いなり人形にするし、二人のハートマークも後数時間で完全に溜まる。二人の魂が俺の言いなりになる前にカミューラとの決着をつけて十代達が異変に気付いてこちらへ駆けつけるかどうか見物だな」

 

 

 明日香が絶対に断れない状況を作り、屈辱に歪むミスデュエルアカデミアの表情を楽しんでいるセキヒト。

 

 

「わか……りました。セキヒト様が手札九枚の状態からの決闘でいいので私と決闘してください」

 

「そこまで言うなら仕方ない。その決闘を受けてやろう」

 

 

 セキヒトの言葉を聞いて、明日香は立ち上がるとデュエルディスクを構える。屈辱と怒りの混じった表情にセキヒトは肩を竦めた。

 

 

「さぁ、始めようか」

 

「絶対に勝たせてもらうわよ!」

 

「「決闘!」」

 

 

 明日香が圧倒的に不利な状況で決闘が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 明日香が圧倒的不利な状況で始まった決闘。間の悪い事にデュエルディスクが選んだ先攻もセキヒトだった。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 カードを手札へ加えて十枚となった手札を見て、喉を鳴らして笑うセキヒト。

 

 

「これからお前に絶望を見せてやろう。俺は手札からおろかな埋葬を発動。このカードは自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る事が出来る! 俺はデッキから処刑人-マキュラを墓地へ送る! そしてマキュラの効果発動!」

 

 

 処刑人-マキュラ☆4闇 ATK/1600DEF/1200

 効果・このカードが墓地へ送られたターン、このカードの持ち主は手札から罠カードを発動する事ができる。

 

 

「そして俺は手札から無の煉獄を発動する! このカードは自分の手札が3枚以上の場合に発動できる。自分のデッキからカードを1枚ドローし、このターンのエンドフェイズ時に自分の手札を全て捨てる。そしてこの瞬間、俺は手札からトラップ発動、精霊の鏡! このカードはプレイヤー1人を対象とする魔法の効果を別のプレイヤーに移し替える。無の煉獄の効果は明日香へ移る!」

 

「くっ、まさか貴方は最初から!」

 

 

 精霊の鏡によって対象が明日香へ移った無の煉獄。一見、明日香へドローさせただけに見えるが勿論、それには裏がある。

 

 

「ああ、そうだ! 元々、お前に可能性は存在しない! 俺はモンスターを裏側守備表示でセット。カードを2枚伏せてターンエンド! さあ、無の煉獄の代償だ! 手札を全て捨てろ!」

 

 

 無の煉獄のデメリット。それはエンドフェイズに発動する手札を墓地へ送る効果。セキヒトは精霊の鏡によって、無理矢理明日香へそのデメリットを押し付けたのだ。

 

 

「く、私は6枚の手札を墓地へ送る」

 

 

 セキヒトの策略により手札という可能性を全て失った明日香。明日香が危惧していた通り、セキヒトは明日香に選択されているが本当はどちらでも構わないのだ。

 

 

「…………私のターン」

 

 

 ここで状況を打破するカードを引けなければそのまま押し切られる。明日香の本能がそう告げていた。

 

 

(ジュンコやももえ、なにより兄さんの為にも私は負けられない!)

 

 

「――――ドロー!」

 

 

 震えた手でデッキから引いたカードを確認する明日香。そして、小さく微笑む。希望はまだ繋がっている。

 

 

「私は手札から強欲な壺を発動! そしてカードを2枚ドロー!」

 

 

 再びドローする明日香。引き当てたカードを見ればデッキが全力で明日香を後押ししているのが判る。

 

 

「私は手札から天使の施しを発動! カードを3枚ドローして2枚捨てる。そして貪欲な壺を発動、墓地に眠る5体のモンスターをデッキへ戻し、2枚ドロー!」

 

 

 まるで十代を思わせるドロー強さ。手札が0枚の状況から一気に3枚まで増やした。これがデッキと本物の信頼関係を築いた決闘者の強さ。だからこそ、セキヒトは喜びに身体を震わせる。この本物を闇へ引き擦り込む。その愉悦はどれほどのモノだろうか。

 

 

「そして私は手札から融合を発動! 手札のエトワール・サイバーとブレード・スケーターを融合してサイバー・ブレイダーを召喚! 現れなさい、サイバー・ブレイダー!」

 

 

 明日香のフィールドへ現れるサイバー・ブレイダー。それは皮肉な事にセキヒトへ敗北を刻んだモンスターであり、明日香が信頼を置くエースモンスターだ。

 

 

「この瞬間、俺はトラップ発動、威嚇する咆哮! このターン相手は攻撃宣言をする事ができない」

 

 

 次の瞬間、自身へ敗北を刻んだモンスターを警戒したセキヒトはトラップを発動してサイバー・ブレイダーの攻撃を封じる。

 

 

「……私はこれでターンエンド」

 

 

 セキヒトはまだ何かを企んでいる。それが理解出来るからこそ、伏せモンスターを破壊したかった明日香だったが、攻撃を封じられた為にターンをセキヒトへ譲る。

 

 

「俺のターン、ドロー。さて、これで退屈な決闘は終わりだ。天上院明日香」

 

 

 カードを手札へ加えて、宣言するセキヒト。邪悪に笑うその笑みが明日香の警戒を極限に高める。

 

 

「俺は裏側守備表示のモンスターを攻撃表示へ変更。現れろ、ブレイン・ジャッカー!」

 

 

 ブレイン・ジャッカー☆2闇 ATK/200DEF/900

 効果・リバース:このカードは装備カード扱いとなり、相手フィールド上モンスターに装備する。このカードを装備したモンスターのコントロールを得る。相手のスタンバイフェイズ毎に相手は500ライフポイント回復する。

 

 

 セキヒトのフィールドへ出現する一つ目の悪魔。脳味噌を思わせる身体から生える翼と爪。その異端さが際立っている。そしてセキヒトは笑った。

 

 

「ブレイン・ジャッカーのリバース効果を発動! その効果によりお前のエースカードは俺のモノとなる!」

 

 

 一つ目の悪魔はその羽で飛び上がると本来なら触れてはならないフィギアスケーターへ飛び移る。そして鋭い爪をサイバー・ブレイダーの頭へ突き刺すとその脳味噌を侵食して自分の意のままに操る傀儡へ貶める。

 

 

「サイバー・ブレイダー!」

 

 

 悲鳴を上げ、サイバー・ブレイダーの意志を蹂躙してセキヒトのフィールドへ移動するブレイン・ジャッカー。エースモンスターであり、最後の砦を奪われた明日香が悲痛な叫びを上げる。

 

 

「これで最後だ。俺は手札から八汰烏を召喚する!」

 

 

 八汰烏☆2風 ATK/200DEF/100

 効果・このカードは特殊召喚できない。召喚・リバースしたターンのエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた場合、次の相手ターンのドローフェイズをスキップする。

 

 

 セキヒトのフィールドへ現れた一匹の鳥。しかし、その見た目は欺瞞であり、その正体は正真正銘の悪魔だ。

 

 

「そして八汰烏でダイレクトアタック!」

 

「ッ~!」

 

 

 天上院明日香LP4000→3800

 

 

 空へ羽ばたき、急降下した八汰烏が明日香の身体を傷つける。けして高い攻撃力では無いものの、闇のゲームにおける確かな痛みが明日香を襲う。

 

 

「そして俺はトラップ発動、神の恵み。このカードは自分がカードをドローする度に、自分は500ライフポイント回復する。そしてエンドフェイズ時、その効果によって八汰烏は手札へ戻る。これで俺のターンは終了だ」

 

「? サイバー・ブレイダーで追撃してこないとはどういうつもり?」

 

「くっくっく、今に判るさ」

 

 

 圧倒的有利な状況で追撃してこないセキヒトへ警戒を見せる明日香。そんな明日香に対して、セキヒトはただ笑っているだけだ。

 

 

「そう……。舐めているならそれでもいいわ。私のターン、ド――――」

 

「この瞬間、八汰烏の効果発動! 八汰烏の攻撃を受けた相手はドローフェイズをスキップする! つまり、ドローも出来ず、壁となるモンスターも伏せカードも存在しない今、お前は俺の攻撃を永遠に受け続ける事しか出来ない! そしてブレイン・ジャッカーの効果でお前はLPを500回復!」

 

 

 天上院明日香LP3800→4300

 

 

「貴方、もしかして――――」

 

「その通り! この瞬間、お前の心を折る無限ループが完成した! ブレイン・ジャッカーによるLP回復と八汰烏によるドロースキップ。この二つによって闇のゲームによる苦痛が永遠にお前を襲う! お前の敗北は決した。俺はお前を倒したりしない。闇のゲームによって齎される痛みを回避するには自分の意志でサレンダーするしかない!」

 

「ふざけないで! 私は決闘者よ! 自分の意志でサレンダーなんて絶対にしないわ!」

 

「ああ、そうかい。それなら無限の痛みに苛まれていろ!」

 

 

 確かに勝敗は決した。それでも最後まで決闘者としての誇りを胸に抱く明日香。そんな明日香の態度にセキヒトは笑いながら言う。

 

 ――――そして引き起こされる圧倒的な惨劇。八汰烏による苦痛と明日香のエースモンスターでもあるサイバー・ブレイダーの攻撃。終わりの無い暴力が明日香を襲い続ける。

 

 

「俺はサイバー・ブレイダーで攻撃、グリッサード・スラッシュ!」

 

「きゃあああぁぁ!」

 

 

 天上院明日香LP2300→200

 

 

 もう何度目になるか判らないダイレクトアタック。闇のゲームによる痛みが明日香の身体を駆け巡り、心が折れかけている明日香はらしくない悲鳴を上げる。そして限界が訪れたのか、膝を折り地面へ倒れ伏す。本来、決闘者がこんな状態に陥れば決闘はセキヒトの勝利で中止される。しかし、これはセキヒトがルールの闇のゲーム。決闘が終了するまで永遠に終わらない。

 

 

「おっと、そろそろデッキの枚数が減ってきた頃だな」

 

「…………、そう。それなら次のターンにでも私を倒しなさい。私は絶対にサレンダーしたりしない」

 

 

 ターンエンドを宣言しようとしたセキヒトは自分のデッキがかなり減っている事に気付く。後、数ターンもすればセキヒトのデッキは尽きてしまう。そうなった場合、セキヒトの負け。明日香の決闘者としての心を折る為にサレンダーを要求したセキヒトだったが、負けてしまってはどうしようもないので倒すしかない。

 

 明日香は闇のゲームの苦痛に耐え、決闘者としてサレンダーだけはしなかった。

 

 

「あ~あ、残念。俺が永遠の苦痛を与えると言ったんだ。デッキ切れで終わると思っているのか? 俺はトラップ発動、現世と冥界の逆転。このカードは自分の墓地にカードが15枚以上ある時、1000ライフを払い発動。お互いに自分の墓地と自分のデッキのカードを全て入れ替える。その際、墓地のカードはシャッフルしてデッキゾーンにセットする。これでデッキの補充は出来た。そしてこの瞬間、手札から鳳凰神の羽根を発動。手札を1枚捨てる。自分の墓地からカードを1枚選択し、デッキの一番上に戻す。俺が選択するカードは勿論、現世と冥界の逆転。因みに戻ったデッキの中にもう1枚鳳凰神の羽根が入っている。これで本当の無限ループが完成した」

 

 

 ダークネス赤人LP16500→15500

 

 

 神の恵みによるLP回復でたった1000ポイントなど痛くも痒くもないセキヒト。決闘者としての誇りを守るたった一つの術さえも失われた今、明日香の表情に絶望が浮かぶ。

 

 

「あ、そういえば忘れているようだが、この決闘には制限時間がある事を忘れていないよな? ほら、後数分もしない内にお前の親友二人は俺の言いなり人形だ」

 

 

 白々しく身体の前で両手を叩き、ジュンコとももえの魂が封印されたカードを掲げる。セキヒトはそのカードを地面に倒れて動けない明日香へ見せ付けるように投げる。カードは導かれるように明日香の前へ飛んで行く。ぼやけていく視界の中、二人のハートマークは完全に赤色へ染まる寸前だった。

 

 

「さあ、どうする? 永遠の苦痛か、それとも自分で選ぶ敗北か。時間はもう無いぞ?」

 

 

 薄れていく意識の中、明日香の心は決まった。既に自分で戦う力は残されていない。ならばせめて、二人の親友だけでも。決闘者としての誇りと比べれば比べるまでもなく、二人の親友が大切だ。

 

 明日香はもう満足に動かせない身体で力を振り絞り、デュエルディスクのデッキへ手を添える。

 

 

「わ、私はこのゲームを……サレンダーするわ」

 

 

 その宣言と共に明日香の頬を一筋の涙が流れる。屈辱や悔しさ、様々な感情が混ざった涙が地面に落ちた瞬間、決闘終了のアラームが鳴り響く。

 

 

「巻き込んでしまってごめんなさい、ジュンコ、ももえ……。貴女達だけでも……」

 

 

 高笑いするセキヒトの耳障りな声を聞きながら明日香は薄れていく意識の中で呟く。そして闇のゲームに負けた明日香の魂はカードへ封印される。

 

 そしてセキヒトは手に入れた明日香のカードを追加して“三枚”揃ったカードを見て満足そうに頷くとデッキホルダーへ戻す。

 

 

「全く、最近の若者は話を聞いてないな。俺は最初から“無抵抗”で降伏した場合と言ったのに。決闘という抵抗をした時点であの交渉は無効だってーの。勝手に勘違いしたようだけどな」

 

 

 明日香の勘違いに気付いても訂正せずに心の中で爆笑していたセキヒトはやれやれと肩を竦めて灯台から立ち去る。

 

 セキヒトによって光の一角が闇へ飲み込まれた瞬間だった。

 




主人公は外道からクサレ外道へランクアップです。
そしてただ明日香を堕とす為だけに今まで封印してきた禁断を解放。キリッ
禁止のオンパレードでしたがそれは遊戯王世界だから(開き直りです)


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蠱毒

 強制ハンデを負わせて一方的に蹂躙した挙句、サレンダーした相手の思いさえ踏み躙り、決着をつけた決闘の翌日。

 

“七星門の鍵”を任せられるほどの決闘者であり、自身と対等以上の決闘をする天上院明日香の心を折って、その魂をカードへ封印したセキヒトはデュエルアカデミアの校舎から少し離れた森の中を歩いていた。

 

 

「~っ! 思っていたよりも遠いな。もう少しきちんと用意してこれば良かった……」

 

 

 周囲に生息する木々によって太陽の光が遮られ、じめじめとした空気が流れる森の中で右手に手紙ようなモノを持って進んでいたセキヒトは立ち止まって背負っていたリュックサックからスポーツ飲料を取り出して、水分を補給する。

 

 喉の渇きを潤したセキヒトは手紙を確認して周囲を見渡すと困った様子で頭を掻く。

 

 

「やっぱりこの辺りで合っている筈なんだけどな」

 

 

 ぼやきながら視線を手紙へ落とす。そこにはデュエルアカデミアにある湖畔までの地図と簡潔に“七星門の鍵”について、と書かれている。丁寧な事に嗜好を凝らしたのか、手紙の一部には赤い斑点模様がある。そしてなによりこの手紙を届けてくれたのは夜行性である筈のコウモリだった。

 

 “七星門の鍵”と湖畔、それに手紙を持ってきたコウモリ。これだけの材料に手紙を彩った血の斑点模様とくれば、誰が自分を呼び出したのか容易に想像出来るセキヒト。当然、セキヒトへ手紙を出して呼び出した人物はセブンスターズとして十代達と激闘を繰り広げるカミューラである。

 

 何故、セキヒトの正体がカミューラにバレているのか。正直な所、判明していないが情報収集の為に明日香をつけていたコウモリを通して、明日香と闇のゲームを行なう姿を見られたのだと思っている。

 

 どちらにせよ、カミューラの目的が“七星門の鍵”である今、身の危険は無いと判断してカミューラの招待状に従って、湖畔を探している。同時にセブンスターズとセキヒトの目的は似ているようでまるで違う。セキヒトはカイザー亮を苦しめ、自らへ敗北を刻んだ決闘者へ復讐する為に決闘して、その結果として“七星門の鍵”と相手を闇へ引き摺り込む。極論、“七星門の鍵”はどうでもいいのだ。

 

 セブンスターズとセキヒトは交渉次第で共存可能だ。同時に交渉が決裂した場合に備えてデュエルディスクは常に身に着けている。

 

 カミューラの招待状で指定された場所の付近まで辿り着いたセキヒトは警戒を怠らずに周囲を捜索して数分後、カミューラが根城にしている湖畔を発見することが出来た。まだ、太陽が空高く昇っている昼間にも関わらず、湖畔の周りには不可解な霧が立ち込めている。

 

 少し視線を広げてみれば湖畔の上に鮮血を思わせる鮮やかな赤色をしたレッドカーペットが岸から湖畔の中央へ伸びていき、湖畔の中央には厳格な佇まいの城が控えている。

 

 

「さてと、鬼が出るか蛇が出るか。それとも出るのは吸血鬼かな?」

 

 

 自分の呟きに対して小さく口元を歪め、レッドカーペットの上を進む。どういう原理か判らないが周囲が水に囲まれている為に気分は水の上を歩いているようだ。時折、セキヒトの歩みを止めようと飛んでくるコウモリ達にはカミューラの招待状を掲げて見せると納得した様子で何処かへ飛んで行ってしまう。

 

 数分もしない内に城門の前まで辿り着くセキヒト。セキヒトの到着と同時に城門が開門されてセキヒトを城の中へ導く。中で控えていた一匹のコウモリが付いて来いと言わんばかりにセキヒトと絶妙な距離で飛んで行くのに付いて行く。コウモリに案内されると貴重な体験をしたセキヒトが案内されたのは大広間だった。

 

 そして、視線の先には一人の女性がセキヒトを待ち構えていた。

 

 腰まで届く美しい翠色の髪に男を惑わせる妖艶な肢体、レッドワイン色の鮮やかなドレスで着飾ったカミューラ。吸血鬼であることすら忘れてしまいそうになる美女である。

 

 

「ごめんなさい、まさかこんな時間に尋ねてくるとは思っていなかったから大したおもてなしも出来なくて」

 

「いや、気にしなくていいさ。生憎、俺は夜行性じゃあないんでね。相手の用事を考えず、こんな時間に押し掛けた俺が悪い」

 

 

 頭を下げるカミューラの言葉に対して、肩を竦めて答えるセキヒト。何気無い会話に見える一方でお互いにお互いを牽制する二人。動じた様子を見せないセキヒトにカミューラは舌を巻く。カミューラとセキヒトはこれが初対面だ。カミューラが一方的にコウモリを通してセキヒトを知っているだけの筈。しかし、実際は違った。

 

 普通の人間なら首を傾げるであろうカミューラの言葉に対して、セキヒトはカミューラの正体を知っているような反応をした。何処から情報を仕入れたのか判らない。だが、セキヒトが食えない人間である事は判った。

 

 

(なるほど……ね。見た目は正直、後一歩ほど足りないけど、中身の方は昨日の決闘で見た通りだわ。人間にしては底が知れないわ)

 

 

 明日香との決闘において、ただの勝利では満足出来ず誇り高い対戦相手の心を折る為に仕組まれた無限ループ。敵に回れば、その戦略の組み立ては充分に脅威だ。なによりその中身に相当面白い物を内包している。

 

 

「いいわ、貴方と腹の探りあいをした所で私に得は無い。さっさと本題に入りましょう。私の要求は手紙にあった通り貴方が昨日、回収した“七星門の鍵”を渡して欲しい。勿論、それだけでは貴方にメリットが無い。だから、私に出来る事ならある程度の要求に応えてあげるわ」

 

「出来る事……ね。例えばどんな?」

 

「そうね。私が集めた情報だと貴方は女好きらしいからこの島に住む女性の血を吸って、貴方の指示に従う下僕に変えてあげてもいいわ」

 

「なるほどね。確かに俺の情報をよく調べている訳だ。それなら俺も楽が出来る」

 

 

 カミューラの提案にセキヒトは感心した様子で頷く。確かに一人一人、闇のゲームへ引きずり込んで決闘で倒すよりも吸血鬼の下僕にして、セキヒトの命令に従うように“命令”すれば圧倒的に時間が早い。“効率”だけを見ればとても魅力的な話である。

 

 

「……だが、断る。お前は何も判っていないよ、カミューラ。大前提にそれだとお前が皆の主になってしまう。確かに俺は傷物やお古であっても許容する。しかし、それは俺が主人だからだ。なにより、光り輝く存在が少しずつ闇へ染まっていく工程こそが至極だろうが」

 

 

 にんまりと口元を歪めて舌なめずりして笑うセキヒト。“結果”だけを手に入れても何も面白くない。光である者達が闇へ、自分へ堕ちていく工程を眺める事が究極の愉悦なのだ。躊躇い無く言い切るセキヒトにカミューラは強烈な嫌悪感を抱き、眉を顰める。

 

 元々、“人間”が嫌いなカミューラにとって、セキヒトのような人間は一番嫌いでおぞましさすら覚える。カミューラは長い年月を生きた吸血鬼だ。普通の人間では考えられない数々の経験をしている。その中には“人間”が嫌いになる前、吸血鬼なんて関係無い、と言って自分を愛してくれた人間もいた。

 

 だが、そういう人間はカミューラが心を開く頃には他の人間によって異端と罵られて処刑された。そういうことを何度も繰り返してきた。

 

 吸血鬼一族を殺した人間達の中には女性やまだ幼い子供をしゃぶり尽くした後で殺したおぞましい人間もいた。セキヒトへ抱いた嫌悪感はそんな人間達と同様の物。

 

 こちらの利益となり、敵対する理由が無いからこそ、こうして交渉の場を構えているが本来ならカミューラが一番嫌うタイプの人間がセキヒトだ。出来ることならさっさと交渉を済ませたい。

 

 

「そうだな。俺の要求は一つ。お前が持っているその人形、カイザー亮の魂を解放しろ」

 

「冗談、コレは私のモノよ。解放する理由が無いわ」

 

 

 セキヒトの視線はカミューラが持っているカイザー亮の魂が封印されている人形を見ている。

 

 

「……理由ならある。ソイツは俺が倒すべき獲物だ。それを横から奪われた」

 

「ふふ、それは貴方が愚鈍だからよ。自分のマヌケを人のせいにしないで頂戴。見苦しい」

 

「…………判った、もういい。これ以上は話しても無駄なようだ」

 

「ええ、交渉は決裂ね。決闘で白黒つけましょう」

 

「大嫌いな人間の俺に傅かしてやるよ」

 

 

 交渉は決裂し、二人はデュエルディスクを構える。

 

 

「「決闘!」」

 

 

 ――――闇と闇の潰し合いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「先攻は私のようね。私のターン、ドロー!」

 

 

 闇と闇の潰し合い。その始まりに選ばれたのはセキヒトが今いる城の主でもあるカミューラだ。カードを手札へ加えて、手札を確認するカミューラ。全ての手札を確認したカミューラは優雅な動作のまま動き出す。

 

 

「私は手札から不死のワーウルフを召喚するわ」

 

 

 不死のワーウルフ☆4闇 ATK/1200DEF/600

 効果・このカードが戦闘で破壊された時、デッキから“不死のワーウルフ”1体を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。この効果で特殊召喚に成功した時、そのカードの攻撃力は500ポイントアップする。

 

 

 カミューラのフィールドへ現れた一匹のオオカミ。吸血鬼のカミューラに従う人狼の両腕にはその怪力を示すように千切れて鎖の手錠がある。しかし、先攻であるこのターン、その怪力を見せる事は出来ない。

 

 

「私はこれでターンエンド。貴方にも不死の恐怖を味合わせてあげるわ!」

 

「ああ、そうかい。俺のターン、ドロー」

 

 

 カミューラがターンを終了して、セキヒトへターンが移る。自分のターンとなったセキヒトは闇のゲームも三回目という事もあり、少し慣れた様子で落ち着いた態度でデッキからカードを手札へ加える。そして手札へ視線を落とすセキヒト。

 

 カミューラと決闘になるかも知れない、と元々予想していたセキヒトはきちんとカミューラ対策のデッキを持ってきている。カミューラとの対戦で最も気を付けなければならないカードは“幻魔の扉”。その破格な効果と何度でも蘇る不死の軍団はかなり面倒だ。

 

 

「俺は手札から仮面竜を召喚する」

 

 

 仮面竜(マスクド・ドラゴン)☆3火 ATK/1400DEF/1100

 効果・このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

 セキヒトの召喚に従い、フィールドへ出現する一匹の竜。白い鱗で顔面を覆うその竜は名前の通り、仮面を被っているように見える。仮面竜の咆哮が周囲へ鳴り響き、自分が喰らうべき獲物としてカミューラのフィールドで控えているワーウルフへ視線を注ぐ。

 

 

「俺は仮面竜で不死のワーウルフを攻撃!」

 

 

 セキヒトの号令に従い、仮面竜は咆哮を轟かせながら不死のワーウルフへ襲い掛かる。不死といえど、真の覚醒を果たしていないワーウルフは生まれながらにして強靭な躯体を持つドラゴンに蹂躙されて破壊される。

 

 

「ふふ、この瞬間、私は不死のワーウルフの効果を発動するわ。デッキから不死のワーウルフを特殊召喚! そして蘇ったワーウルフの攻撃力がアップする。残念だったわね。私達は不死の一族、そう簡単に死なないわよ」

 

 

 カミューラLP4000→3800

 

 

 不死のワーウルフ ATK/1200→1700

 

 

 闇のゲームによる痛みがカミューラを襲う中、カミューラは妖艶な笑みを浮かべている。そして、その余裕の正体は力を増して再びフィールドへ現れた不死のワーウルフにある。仮面竜に破壊された筈のワーウルフはその獰猛さを増し、攻撃力が仮面竜を凌駕した。

 

 

「…………だったら、死ぬまで殺し尽くす。それで済む話だ。俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

「そう、それなら無意味な行為を繰り返しなさい。私のターン、ドロー!」

 

 

 セキヒトの反応に対して嘲笑うカミューラは自分のターンが回ってきた事を確認してカードを手札へ加える。

 

 

「そして私は手札からピラミッド・タートルを召喚するわ」

 

 

 ピラミッド・タートル☆4土 ATK/1200DEF/1400

 効果・このカードが戦闘によって墓地に送られたとき、デッキから守備力2000以下のアンデット族モンスター1体をフィールド上に特殊召喚してもよい。

 

 

「ッ!」

 

 

 カミューラのフィールドへ現れた一匹の亀。頭に王冠のようなものを乗せ、甲羅の部分にピラミッドを持つ亀はゆっくりとセキヒトの前に立ち塞がる。仮面竜に攻撃力が劣るピラミッド・タートルの登場にセキヒトは動揺を見せる。その様子を見たカミューラは嬉しそうに笑う。

 

 

「そう、このモンスターに警戒するのね。いいわよ、貴方。顔は好みじゃあないけど、遊ぶ相手としては充分だわ! 私はピラミッド・タートルで仮面竜を攻撃!」

 

 

 亀と竜。長い年月を生きる生物同士の戦いは種としての力が強い竜が勝利した。

 

 

 カミューラ3800→3600

 

 

 破壊の爆風がカミューラを襲い、頬へ一筋の切傷を負う。しかし、怪我を負った本人であるカミューラは頬から流れてきた血を手で拭うと自身の血をフィールドへ飛ばす。

 

 

「この瞬間、ピラミッド・タートルの効果を発動。カードの効果により私はデッキからヴァンパイア・ロードを特殊召喚する! 私の血をあげる、たから現れなさい、ヴァンパイア・ロード!」

 

 

 ヴァンパイア・ロード☆5闇 ATK/2000DEF/1500

 効果・このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、カードの種類(モンスター・魔法・罠)を宣言する。相手は宣言された種類のカード1枚をデッキから墓地へ送る。また、このカードが相手のカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、次の自分のスタンバイフェイズ時にこのカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

 カミューラの血で濡れたフィールドへ降臨する吸血鬼の王。全てを深淵へと引きずり込んでしまいそうな漆黒のマントを纏い、その身に秘めたカリスマを感じさせる。

 

 

「そして私は不死のワーウルフで仮面竜を破壊する」

 

 

 一度、死んだ事により獰猛さを増したワーウルフの攻撃に晒され、仮面竜は断末魔の咆哮をあげる。

 

 

 ダークネス赤人LP4000→3700

 

 

「~! この瞬間、俺も仮面竜の効果を発動! デッキからもう一体の仮面竜を守備表示で特殊召喚する! 残念だったな、カミューラ。不死じゃあ無くともフィールドのモンスターを維持する方法はいくらでもある。自分の代わりに仲間を呼ぶのだって充分、生きている証拠だ。自慢の不死も結局、お前の大嫌いな人間によって成されて行く運命だ!」

 

 

 自らに襲う衝撃に顔を顰めつつ、セキヒトは不敵に笑う。不死であろうと無かろうと命を繋ぐ方法はいくらでもある。そしてそれは不死を誇りにするカミューラにとって、ただの侮辱でしかない。

 

 

「貴様ぁぁぁぁぁ! 私はヴァンパイア・ロードで仮面竜を破壊!」

 

 

 カミューラの怒りに触発されたヴァンパイア・ロードが華麗に空を舞い、仮面竜の首筋へ食らいつく。仮面竜の生血を啜るヴァンパイア・ロードは吸血に満足したのか、首筋から口元を離す。鮮血に染まる口元を拭ったヴァンパイア・ロードは血を抜かれた事で疲弊した仮面竜の首を容赦無く切り落とした。

 

 

「この瞬間、俺は再び仮面竜の効果を発動。デッキから3体目の仮面竜を守備表示で召喚する。どうだ、吸血鬼。殺しても殺しても立ち上がる。オハコが奪われた気分は? 結局、吸血鬼は人間には敵わないんだよ」

 

 

 衝撃的なスプラッタ映像にも関わらず、セキヒトは特に動じた様子もなく新たな仮面竜を召喚する。闇のゲームという異常な状況にも慣れてきたセキヒトはカミューラを挑発する。

 

 

「…………判ったわ。吸血鬼の王でさえ、満足出来ないなら貴方には最強の吸血鬼を味あわせてあげる。私はヴァンパイア・ロードをゲームから除外してヴァンパイアジェネシスを特殊召喚!」

 

 

 ヴァンパイアジェネシス☆8闇 ATK/3000DEF/2100

 効果・このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在する“ヴァンパイア・ロード”1体をゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。1ターンに1度、手札からアンデット族モンスター1体を墓地に捨てる事で、捨てたアンデット族モンスターよりレベルの低いアンデット族モンスター1体を自分の墓地から選択して特殊召喚する。

 

 

 カミューラのフィールドへ現れる始まりの吸血鬼。その姿は勇ましく、圧倒的な存在感を周囲へ振りまいていく。

 

 

「そして手札からジェネシス・クライシスを発動。このカードは1ターンに1度、自分のデッキからアンデット族モンスター1体を手札に加える事ができる。自分フィールド上に“ヴァンパイアジェネシス”が存在しない場合、このカードと自分フィールドのアンデット族モンスターを全て破壊する。私はカードの効果でデッキから龍骨鬼(りゅうこつき)を手札に加える。そして私は異次元からの埋葬を発動する。このカードはゲームから除外されているモンスターカードを3枚まで選択し、そのカードを墓地に戻す。除外されているモンスターはヴァンパイア・ロードただ一人。私はヴァンパイア・ロードを墓地へ戻すわ」

 

 

 ゲームから除外されるという死の概念すら存在しない世界へ送られたヴァンパイア・ロードはカミューラの手によって再び墓地へ帰還する。

 

 

「そして私はヴァンパイアジェネシスの効果を発動。龍骨鬼を墓地に捨て、ヴァンパイア・ロードを復活させる! 見なさい、これが吸血鬼の力よ! ちまちまと生き残る貴方達人間とは違うのよ!」

 

 

 カミューラのフィールドへ並ぶ吸血鬼の始祖と吸血鬼の王。そして、そんな吸血鬼を守るようにワーウルフが立ち塞がっている。

 

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 

 自分のターンである事を確認してセキヒトはデッキへ手を添える。どんどんデッキへ集まっていく漆黒の闇。現状がピンチである事はセキヒトも理解している。それでもなお、身体の奥から湧き出てくるこの力さえあれば、負ける気はしない。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 漆黒の闇に染まったカードを引き抜き、確認する。着々と馴染んできている闇の力にセキヒトは微笑した。

 

 

「俺は手札から二重召喚(デュアル・サモン)を発動。このターン、自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。そして俺は手札からヴァンパイア・キラーを召喚だ」

 

 

 ヴァンパイア・キラー☆4闇 ATK/1600DEF/1600

 効果・このカードが闇属性モンスターと戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する。

 

 

 セキヒトのフィールドへ現れる一人の青年。屈強な肉体と知的な顔立ち、吸血鬼狩りを生業としている青年はカミューラのフィールドに並ぶ吸血鬼の王と吸血鬼の始祖を目撃して、獲物を見つけた笑みを浮かべる。

 

 

「人間風情がぁぁぁぁ!」

 

「その人間に刈られるのが、吸血鬼の宿命だろ。ヴァンパイア・キラーでヴァンパイアジェネシスを攻撃。この瞬間、ヴァンパイア・キラーの効果でヴァンパイアジェネシスを破壊する」

 

「させないわ、トラップ発動! 妖の紅月! 手札のアンデット族モンスターを1枚捨てて発動する。相手フィールド上のモンスター1体の攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力の数値分、自分のライフを回復する。その後、バトルフェイズを終了する! この効果で私は手札のヴァンパイア・バッツを捨て――――」

 

「残念、俺は王宮のお触れを発動していた! このカードがフィールド上に存在する限り、このカード以外のフィールド上の全ての罠カードの効果は無効化される。つまり、妖の紅月の効果は無効!」

 

 

 セキヒトの指示に従い、手に持ったムチを自由自在に操り、カミューラの怒りに触発されて激昂しているヴァンパイアジェネシスを巧みな罠に嵌めるヴァンパイア・キラー。王宮の依頼により数多の吸血鬼を殺害してきた青年にとって、吸血鬼の始祖は最大の敵であり、最高の目標だ。そして一切の油断を見せることなく、青年は吸血鬼の始祖を破壊した。

 

 

「そしてこの瞬間、ジェネシス・クライシスの効果が発動する。始祖の消滅により自慢の不死軍団は墓地へ行く」

 

「そ、そんな馬鹿な!」

 

 

 悲痛な叫びをあげるカミューラを余所に始祖の敗北によってカミューラが築き上げた不死の軍団は消滅する。

 

 

「俺は仮面竜でカミューラへダイレクトアタック」

 

 

 カミューラLP3600→2200

 

 

 築き上げた栄華が一瞬にして消滅し、呆然と立ち尽くすカミューラへ仮面竜の追い討ちが牙を剥く。仮面竜の攻撃によって吹き飛ばされたカミューラは力無く立ち上がる。

 

 

「まだ、俺のターンは終わっていない。俺は二重召喚の効果によって、もう一体モンスターを召喚できる。俺は仮面竜を生贄にホルスの黒炎竜LV6を召喚する! これで終わりだ。手札からレベルアップ! を発動する。フィールド上に表側表示で存在する“LV”を持つモンスター1体を墓地へ送り発動する。そのカードに記されているモンスターを、召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する。ホルスの黒炎竜LV6を対象として、デッキからホルスの黒炎竜LV8を特殊召喚!」

 

 

 ホルスの黒炎竜LV6☆6炎 ATK/2300DEF/1600

 効果・このカードは自分フィールド上に表側表示で存在する限り、魔法の効果を受けない。このカードがモンスターを戦闘によって破壊したターンのエンドフェイズ時、このカードを墓地に送る事で“ホルスの黒炎竜LV8”1体を手札またはデッキから特殊召喚する。

 

 

 吸血鬼との激戦を潜り抜けた仮面竜が後退して、後を任せるように降臨する一匹のドラゴン。そしてセキヒトの援護を受けたドラゴンは自分の限界を越えて、新たな覚醒をする。

 

 

 ホルスの黒炎竜LV8☆8炎 ATK/3000DEF/1800

 効果・このカードは通常召喚できない。“ホルスの黒炎竜LV6”の効果でのみ特殊召喚する事ができる。このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、魔法カードの発動を無効にし破壊する事ができる。

 

 

 漆黒の炎を撒き散らし、セキヒトのフィールドへ降臨するホルスの黒炎竜。その圧倒的存在感は大広間を揺るがす。

 

 

「俺はこれでターンエンド」

 

「……私のターン、ドロー!」

 

 

 セキヒトのフィールドには吸血鬼殺しと圧倒的な存在感を示す一匹のドラゴン。カミューラがこの状況を引っくり返すには“あのカード”しかない。カミューラにも負けられない理由がある。そして引き当てた手札を見て、カミューラは笑った。

 

 

「この勝負は私の勝ちよ。貴方にも見せてあげるわ、幻魔の力を! 私は幻魔の扉を発動! 相手フィールド上に存在する全てのモンスターを破壊する。その後、このターン召喚、特殊召喚されたモンスターを自分及び相手の手札、デッキ、墓地から選択し召喚条件、蘇生制限を無視して自分フィールド上に特殊召喚する! これで貴方も終わ――――」

 

 

カミューラの背後で開かれた幻魔の下へ続く扉。大広間へ溢れる邪悪な気配の中、不敵に笑っているセキヒトに気付いた。

 

 

「それはどうかな? この瞬間、ホルスの黒炎竜LV8の効果を発動する。魔法カードの発動を無効にし、破壊する! つまり、幻魔の扉は発動しない。諦めろ、カミューラ。お前はもう俺に囚われた籠の鳥だ。魔法を封じ、罠も封じた。そして吸血鬼殺しがフィールドにいる。これでお前の負けだ、カミューラ!」

 

「殺す、必ず殺す! 絶対に貴様だけは殺す!」

 

「そうかい、それなら頑張って俺に従うお人形から抜け出すんだな。やれ、ホルス! ブラック・メガフレイム!」

 

 

 カミューラLP2200→-800

 

 幻魔の扉を焼き尽くしたホルスの黒炎がそのままカミューラを包み込む。セキヒトへおぞましいほどの殺気を飛ばすカミューラ。しかし、そんなカミューラの断末魔すら鼻で笑うセキヒト。黒炎に身を焼かれ、倒れ伏すカミューラ。その魂はセキヒトの持つカードに封印された。

 

 

「ちっ、面倒の掛かる奴だ」

 

 

 主の失踪により崩壊が始まる城。魂が無くなり、倒れ伏すカミューラと人形から解放され、気絶しているカイザー亮を見付けたセキヒトは舌打ちした。

 

 

「ふん、覚えておけ。お前を倒すのはこの俺だ。勝手に負けるな」

 

 

 二人を抱え、崩壊するカミューラの城から抜け出したセキヒトは気絶しているカイザー亮を放り投げるとそう吐き捨てて姿を森の中へ消した。

 




べ、別にカイザーの為に倒した訳じゃないんだからね!


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精霊狩り

エクシーズの登場です。


 カミューラとの激闘から既に数週間が経った。カミューラの魂がセキヒトによってカードへ捕らえられた事により人形へ魂を封じられていた丸藤亮とクロノス・デ・メディチの二人は人形から解放された。

 

 二人のように戻ってきた戦力もあれば、未だに戻らない戦力もある。それが天上院吹雪、天上院明日香といった決闘者である。身体的な異常が見当たらないものの全く目を覚ます気配を見せない二人。他に一般生徒も巻き込んだセブンスターズと思われる犯人の襲撃を警戒しながらアカデミアで生活を送る十代達の前に次々と明日香達を下したセブンスターズとは違うセブンスターズが現れていた。

 

 つい先日も十代と翔がタッグデュエルをする切欠となった事件、廃寮侵入事件で十代と決闘を行い、闇へ消えていった決闘者タイタンが再び十代達の前にセブンスターズとして立ち塞がったばかりである。

 

 セキヒトが持つ原作知識と十代達が話している会話を盗み聞きしてある程度、原作の進行状況を理解するセキヒト。だからといって、特に何も行動を起こす訳では無いのだが。

 

 なによりセキヒトは今、色々と準備に追われて忙しいのだ。

 

 

「まったく、コスプレ決闘大会ってなんだよ。学園祭なんだから企画するなら企画するでしっかりと計画してやれよ……」

 

 

 両手でダンボール箱を抱えたセキヒトはダンボールの中に入っている衣装を見ながらぽつりと呟く。

 

 デュエルアカデミアは世界最高峰の決闘者を育てる機関であるのと同時に学校という面も持っている。勿論、普通の学校がそうであるようにデュエルアカデミアでも体育祭や学園祭といった学生が盛り上がるイベントが存在する。デュエルアカデミアという事でデュエルモンスターズに関係する出し物が多いこと以外は普通の学園祭と似たようなモノだ。

 

 セキヒトの所属するオシリスレッド寮では色々と出し物で揉めた結果、決闘者自身がモンスターの格好をして決闘するコスプレ決闘大会を行なう事になった。企画が決まったのはいいが、大前提としてモンスターのコスプレ衣装を持っているような生徒は存在しない。

 

 そうなると貸し衣装で決闘を行なう訳であるが貸し衣装自体に問題がある。何故か不明であるが、オシリスレッド寮の倉庫にある程度コスプレ衣装が眠っていた。貸し衣装の件はこれで解決と思いきや大きな問題が発生した。

 

 衣装の細部がボロボロだったり、虫に食われていたりで貸し出せる状況では無かった。仕方ないので大徳寺先生の提案によりトメさんの伝手でコスプレ衣装の修繕を依頼して、学園祭が始まるギリギリの今日になって修繕されたコスプレ衣装が帰って来た。

 

 セキヒトはトメさんの所まで受け取りに行くジャンケンで負けてしまった為、ダンボール箱を抱えた状態で校舎からオシリスレッド寮までの道を歩いていた。コスプレ衣装の中には歳相応らしく下心丸出しの女性用衣装も何着か混ざっているがこちらから頼まないかぎり、身に着けてくれるような猛者はいないだろう。

 

 馬鹿丸出しの仲間達に対して苦笑を噛み締めるセキヒト。そんな時、何処からともなく声が聞こえた気がして周囲を見渡す。少なくともセキヒトが見渡した限り、“普通の人間”はいなかった。

 

 

『ふん、ふん、ふ~ん!』

 

 

 風に乗って耳へ届いた鼻歌に導かれて顔をそちらへ向けたセキヒトはそこで“彼女”を目撃する。

 

 

「まさか…………ね」

 

 

 今のは何かの間違いだ、そう自分に言い聞かせるセキヒトは両手に持ったダンボールを一旦地面に置く。目頭を押さえると疲労が溜まっている瞳をマッサージする。そして再び“彼女”の方へ視線を向けた。

 

 

 風に靡く美しい金色の髪、宝石のサファイアを彷彿させる翠色の大きな瞳、愛くるしい顔立ちはテレビに出てくるようなアイドルを思わせる。なにより目を引くのは右手に持った魔法の杖でも、幽霊のように空中をふわふわと浮いている事でもない。勿論、それはそれで注目するべき所なのだが、セキヒトの視線は彼女の“衣装”に集約されている。

 

 一昔前の魔法使いを思い出させる大きな青い帽子と青い靴。水色とピンク色で彩られたレオタード姿はある意味で見た人間へ眩暈を起こさせるほど強烈な印象を刻み付けてしまう。

 

 

「どうして俺に……」

 

 

 精霊が見えるんだ。そう言いたかったセキヒトは途中である事を気付いて口を塞ぐ。ダークネスの欠片――――魂を身体へ取り入れてから既にかなりの月日が経った。闇のゲームを行なう回数は減ったものの、時間が闇の力を身体へ馴染ませた。そして闇の力とは人智を超える力である。同じ人智を超える存在であるカードの精霊が見えるようになった所で不思議では無い。

 

 彼女ことブラック・マジシャン・ガールは自分がセキヒトに“視えている”事に気付いておらず、学園祭の準備に忙しくしている学生達や準備している看板などを興味深そうに覗き込んでは天真爛漫な笑顔を浮かべている。

 

 ドクン、と胸の内側に潜む何かが躍動した。楽しそうなブラック・マジシャン・ガールの笑顔を見たセキヒトは心の奥に隠れていた黒い感情が少しずつ漏れ出している事に自分で気付いた。同時に静まっていた闇の力がセキヒトの身体へ渦巻いていく。

 

 

「――――ッ!」

 

 

 これ以上この場所に居たら他の生徒を巻き込んでしまう。そう判断したセキヒトは急ぎ足で校舎からオシリスレッド寮までの道中にある人気の無い林まで移動すると道を外れて人が来ない場所まで移動する。

 

 

「これは……きついな」

 

 

 胸を撫で下ろし、溜息を吐くセキヒト。決闘に勝つ為、自分から手に入れた闇の力。闇の力を手に入れた当初はその力に酔い痴れて闇のゲームを連発していた。だが、時間が過ぎ、闇の力を身体へ馴染ませたセキヒトは学園生活に溶け込む程度の理性を取り戻していた。

 

 しかし、その理性もちょっとした切欠で簡単に吹き飛んでしまう。それでは駄目なのだ。セキヒトの究極的な目標はハーレムを築く事。その為には闇のゲームで女性決闘者を乱獲すればいい。だが、その場合は被害者が続出してしまう。ハーレムを築く上で障害となる十代達に自分の事が露見してしまう可能性もある。

 

 泥棒がお宝を手に入れる為、罠を排除するように、ハーレムを築く上で邪魔となる十代達を排除しなければセキヒトは安心して女性決闘者を乱獲出来ない。なにより、自分へ数多の敗北を刻んだカイザー亮だけは絶対に倒さなければいけない相手だ。

 

 

『あれ~、この辺りまでは気配を追えたんだけど……。あの悪い気配の正体を確かめなくちゃいけないのに』

 

 

 そんな事を考えていたセキヒトの耳に声が届いた。

 

 セキヒトが闇の力でカードの精霊が見えるようになったなら、カードの精霊にしても闇の力を感知出来ても何も不思議ではない。

 

 どす黒い闇の気配を感じたブラック・マジシャン・ガールはその気配を追ってきた。そしてその事を理解したセキヒトの中でスイッチが入れ替わった。

 

小さく溜息を吐き出し、デュエルディスクを構える。急速に溢れ出す闇の力はセキヒトとブラック・マジシャン・ガール以外の存在を排除するように漆黒の炎で周囲を囲む。

 

 

『――ッ! やっぱりこの力は!』

 

 

 逃げ場を塞がれた事に気付いて警戒するブラック・マジシャン・ガールの前にゆらりと姿を現すセキヒト。その背後に渦巻く闇の力にブラック・マジシャン・ガールは小さく息を呑んだ。

 

 

「まさか、カードの精霊と決闘する機会があるとは思わなかったが、この状況について説明は必要か? マナ……いや、ブラック・マジシャン・ガールだったな」

 

『この闇の気配は確かマスターが邪神を相手にした時の――! わかりました、貴方の闇は私が祓います!』

 

 

 ブラック・マジシャン・ガールは信頼する主の下、何度も修羅場を潜り抜けてきた。今、自分が置かれている状況を素早く把握する。

 

 

「『決闘!』」

 

 

 闇の力を行使するセキヒトと最強の決闘者と共に歩んだカードの精霊がお互いの存在をかけて激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『私のターン、ドロー!』

 

 

 お互いの存在をかけた決闘の中、始まりの一手に選ばれたのはブラック・マジシャン・ガール。ブラック・マジシャン・ガールはデッキに手を添えると躊躇わずカードを手札へ加える。手札を確認したブラック・マジシャン・ガールは小さく微笑み、動き出す。

 

 

『私は手札から闇の誘惑を発動します。効果によってデッキからカードを2枚ドロー。そして手札からお師――――じゃなかった、ブラック・マジシャンをゲームから除外します』

 

 

 ブラック・マジシャン・ガールの行動にピクリと眉を動かすセキヒト。ブラック・マジシャン・ガールにとって、ブラック・マジシャンは掛け替えの無い大事な人だ。いくら手札を増やす為とはいえ、この状況でブラック・マジシャンを手放した意図がわからない。

 

 

『そして私は裏側守備表示でカードをセット、カードを3枚伏せてターンエンド』

 

 

 伏せモンスターと3枚の伏せカード。堅牢な守りを作るブラック・マジシャン・ガール。

 

 

「……今は学園祭準備の最中だ。速攻で片付けさせてもらうぞ。俺のターン、ドロー」

 

 

 堅牢な守りを前にしたセキヒトが小さく呟き、カードを手札に加える。手札の内容を確認して歪な笑みを浮かべるセキヒト。

 

 

「俺は手札から強欲な壺を発動。カードの効果で2枚ドロー。そして天使の施しを発動。カードを3枚ドローして2枚捨てる。さあ、準備は整った。まず俺は二重召喚を発動する。効果により俺は二回モンスターを召喚出来る。まずは一人目だ。現れろ、クィーンズ・ナイト」

 

 

 クィーンズ・ナイト☆4光 ATK/1500DEF/1600

 

 

 セキヒトのフィールドに現れる真紅の鎧を纏った女性剣士。腰まで届く金髪は戦人でありながら美しい女王として彼女を際立たせる。

 

 

『まさか――――ッ!』

 

「……たったこれだけで予想が出来るとは大したも――――いや、共に戦ってきたお前なら簡単な事か。その通り、正解だ。俺は手札からキングス・ナイトを召喚! そして効果を発動する! デッキからジャックス・ナイトを召喚!」

 

 

 キングス・ナイト☆4光 ATK/1600DEF/1400

 効果・自分フィールド上に“クィーンズ・ナイト”が存在する場合にこのカードが召喚に成功した時、デッキから“ジャックス・ナイト”1体を特殊召喚する事ができる。

 

 

 ジャックス・ナイト☆5光 ATK/1900DEF/1000

 

 

 初手にして立ち並ぶ三人の剣士。セキヒトのフィールドに立ち並ぶその光景は奇しくもブラック・マジシャン・ガールがマスターと呼び、信頼する決闘者と同様の物。だからこそ、次に起こる事も予測出来る。

 

 

「俺は手札から融合を発動、絵札の三銃士を融合して現れろ、最強の戦士! アルカナナイトジョーカー!」

 

 

 アルカナナイトジョーカー☆9光 ATK/3800DEF/2500

 効果・フィールド上に表側表示で存在するこのカードが魔法カードの対象になった場合は魔法カードを、罠カードの対象になった場合は罠カードを、効果モンスターの効果の対象になった場合はモンスターカードを、手札から1枚捨てる事でその効果を無効にする。この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 立ち並んだ絵札の三銃士が消えるのと同時に颯爽とフィールドへ現れる最強の剣士。金色に輝く鎧を纏い、数多の敵を屠ってきた剣がキラリと輝く。

 

 

「守りを万全にしたつもりだろうがその守りすら打ち砕く! 行け、アルカナナイトジョーカー!」

 

 

 セキヒトの命令に従い、最強の剣士が動き出す。数多の敵を屠ってきた剣を構えると地面を蹴り上げ、空へ跳躍する。速さと力強さ、二つを兼ね備えた必殺の一撃が伏せモンスターへ届くその瞬間、アルカナナイトジョーカーの前にハデな装飾を凝らした筒が出現する。

 

 

『この瞬間、私はトラップを発動します。魔法の筒(マジック・シリンダー)! このカードは相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。攻撃モンスター1体の攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与えます!』

 

 

 このカードが発動すればセキヒトは3800のダメージを一気に受ける事となる。しかし、元々、そんな事は承知している。

 

 

「この瞬間、アルカナナイトジョーカーの効果発動! 手札から罠カードを捨てる事で魔法の筒の効果を無効にする! そして攻撃は続行だ!」

 

 

 慌てた様子も見せず、神速の刃で魔法の筒を切り裂いたアルカナナイトジョーカーは返す刃で伏せモンスターを切り捨てる。そしてアルカナナイトジョーカーが切り捨てた相手が姿を現す。

 

 

『ファイヤーソーサラーのリバース効果発動!』

 

 

 ファイヤーソーサラー☆4炎 ATK/1000DEF/1500

 効果・リバース:自分の手札を2枚ランダムに選択しゲームから除外する。相手ライフに800ポイントダメージを与える。

 

 

『私の手札は2枚。2枚の手札を除外してファイヤーソーサラーの攻撃、ファイヤーブラスト!』

 

 

 黒い帽子に黒い服、アルカナナイトジョーカーによって致命傷を受けたファイヤーソーサラーは最後の命を燃やし、両手に炎弾を作り上げるとアルカナナイトジョーカーを飛び越えてセキヒトへ炎弾を直撃させる。そして、最後の力を振り絞ったファイヤーソーサラーはそのまま破壊されてしまう。

 

 

 ダークネスセキヒトLP4000→3200

 

 

「ッ! 俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 

 身を焦がす炎に焼かれたセキヒトはその痛みに小さく笑い、ターンを終了する。

 

 ブラック・マジシャン・ガールのフィールドはがら空きで手札も無い。なによりセキヒトのフィールドにはどんなカードも無力化する最強の剣士が控えている。状況でいえば圧倒的不利。

 

 だが、ブラック・マジシャン・ガールの顔に悲観の色は無い。そう、彼女は知っているからだ。誰もが諦め、挫折する絶望的な状況でも最後まで足掻く事の意味を。絶望の中に光を見出し、その光を手繰り寄せる本当の強さ。だからこそ、彼女は少しも躊躇わない。

 

 

『私のターン、ドロー!』

 

 

 勢いよくドローしたブラック・マジシャン・ガールは横目で引いたカードを確認するとそのままデュエルディスクへ叩き付ける。

 

 

『私は手札から次元融合を発動! このカードは2000ライフポイントを払う事でお互いに除外されたモンスターをそれぞれのフィールド上に可能な限り特殊召喚します! 私はゲームから除外されている3体のモンスターを特殊召喚!』

 

 

 最強の決闘者を思わせる流れるようなタクティクス。闇の誘惑とファイヤーソーサラーの除外はこの時の為に集約されている。

 

 

 ブラック・マジシャン・ガールLP4000→2000

 

 

 ブラック・マジシャン☆7闇 ATK/2500DEF/2100

 

 

 ブラック・マジシャン・ガール☆6闇 ATK/2000DEF/1700

 効果・お互いの墓地に存在する“ブラック・マジシャン”“マジシャン・オブ・ブラックカオス”1体につき、このカードの攻撃力は300ポイントアップする。

 

 

 マジシャンズ・ヴァルキリア☆4光 ATK/1600DEF/1800

 効果・このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手は他の魔法使い族モンスターを攻撃対象に選択できない。

 

 

 ブラック・マジシャン・ガールのフィールドに現れた三人の魔法使い。最強の師弟とどんな時でも魔法使いを守護する者。個々の力はアルカナナイトジョーカーに敵わずともなんとかしてくれる。そんな印象を抱く布陣である。そして、この布陣はブラック・マジシャン・ガールによって組まれた布陣だ。

 

 

『私は伏せていたマジックカードを発動、黒・魔・導・連・弾(ブラックツインバースト)! このカードは自分フィールド上に表側表示で存在する“ブラック・マジシャン”1体と“ブラック・マジシャン・ガール”1体を選択して発動する。このターンのエンドフェイズまで、選択した“ブラック・マジシャン”の攻撃力は選択した“ブラック・マジシャン・ガール”の攻撃力の数値分アップする! ブラック・マジシャンでアルカナナイトジョーカーを攻撃、黒・魔・導!』

 

 

 ブラック・マジシャンATK/2500→4500

 

 

 背中を合わせ、杖を重ねた師弟の力が解放される。巨大な魔力を秘めた攻撃に対して、迎撃体勢を見せたアルカナナイトジョーカーは最強の斬撃をもって対抗する。剣と魔法、相反する二つの激突。軍配が上がったのは師弟の絆を持つ魔法だった。魔法の波動によって破壊されたアルカナナイトジョーカー。波動の勢いは止まらず、セキヒトを巻き込んで吹き飛ばす。

 

 

 ダークネスセキヒトLP3200→2500

 

 

『追撃です! ブラック・マジシャン・ガールでダイレクトアタック! 黒・魔・導・爆・裂・破!』

 

「~ッ! それは通さない! トラップ発動、ガードブロック! このカードは相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、自分のデッキからカードを1枚ドローする!」

 

 

 再び迫り来る魔力の波動に対して、トラップを発動するセキヒト。ブラック・マジシャン・ガールの攻撃はセキヒトのデッキから飛び出したカードが全てを受け止めて、無力化する。

 

 

『ッ、耐えましたか。でも、この攻撃はかわせませんよ、マジシャンズ・ヴァルキリアでダイレクトアタック、マジック・イリュージョン!』

 

 

 ダークネスセキヒトLP2500→900

 

 

 三度襲う魔法の力に吹き飛ばされるセキヒト。油断したつもりは無い。しかし、最強の決闘者と共に歩んだカードの精霊が持つ力は想像以上のモノだ。

 

 

『私はこれでターンエンド』

 

 

 ブラック・マジシャンATK/4500→2500

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 たった1ターンで状況が引っくり返された。今はセキヒトが圧倒的不利な状況である。だが、セキヒトの表情に焦りは無い。何故なら闇は追い詰めれば追い詰めるほど底知れぬ力を見せるからだ。そして相手を深淵の闇へ引き込む仕掛けは既に出来ている。

 

 

「俺は手札から死者蘇生を発動、墓地に眠るガガガマジシャンを特殊召喚! 効果を発動してレベルを6へ変更」

 

 

 ガガガマジシャン☆4→6闇 ATK/1500DEF/1000

 効果・1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に1から8までの任意のレベルを宣言して発動できる。エンドフェイズ時まで、このカードのレベルは宣言したレベルになる。“ガガガマジシャン”は自分フィールド上に1体しか表側表示で存在できない。このカードはシンクロ素材にできない。

 

 

 墓地から現れる一人の魔法使い。お互いににらみ合う魔法使い同士であるが彼の真骨頂は戦いでは無い。

 

 

『そのカードはもしかして!』

 

「そうだ、最初に行なった天使の施し、その内の1枚だ。そして見せてやろう、これが新時代のタクティクスだ! 俺は手札からガガガガールを攻撃表示で召喚! 効果によりレベルを6へ変更する!」

 

 

 ガガガガール☆3→6闇 ATK/1000DEF/800

 効果・自分フィールド上の“ガガガマジシャン”1体を選択して発動できる。このカードは選択したモンスターと同じレベルになる。また、このカードを含む“ガガガ”と名のついたモンスターのみを素材としたエクシーズモンスターは以下の効果を得る。

 ●このエクシーズ召喚に成功した時、相手フィールド上の特殊召喚されたモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターの攻撃力を0にする。

 

 

 互いに並んだ二組の師弟。ブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガールが古き時代を象徴する魔法使い師弟なら、ガガガマジシャンとガガガガールは新しき時代を象徴する魔法使い師弟である。

 

 

 「俺は魔法使い族レベル6のガガガマジシャンとガガガガールでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろ、全てを魅了し、相手を操る魅惑の美☆魔☆嬢! マジマジ☆マジシャンギャル!」

 

 

 マジマジ☆マジシャンギャル☆6闇 ATK/2400DEF/2000

 効果・1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、手札を1枚ゲームから除外して以下の効果から1つを選択して発動できる。

 ●相手フィールド上のモンスター1体を選択し、このターンのエンドフェイズ時までコントロールを得る。

 ●相手の墓地のモンスター1体を選択し、自分フィールド上に特殊召喚する。

 

 

 新しい時代を司る二人の魔法使いはその姿を黒き光へ変えると暗き穴へ飛び込んでいく。そして光の爆発と共に現れた一人の魔法使い。ブラック・マジシャン・ガールに似た風貌でありながら、その身に纏う雰囲気は女性的な魅力に溢れている。

 

 

『ッ! エクシーズモンスター! 新たな時代のモンスターですか』

 

 

 エクシーズモンスター。その登場にブラック・マジシャン・ガールは息を呑む。その存在は知っていた。だが、知識として知ってはいても、エクシーズモンスターを使いこなす決闘者は中々居ない。セキヒトは中々居ない決闘者の一人である。

 

 

「そしてこの瞬間、ガガガガールのもう一つの効果発動! 選択したモンスターの攻撃力を0にする。勿論、俺はブラック・マジシャンを選択。やれ、ガガガガール! ゼロゼロコール!」

 

 

 ブラック・マジシャンATK/2500→0

 

 

『ああ! お師――――じゃなかった、ブラック・マジシャンが!』

 

 

 ガガガガールの力によって戦う力を失ったブラック・マジシャンの姿に悲鳴を上げるブラック・マジシャン・ガール。しかし、セキヒトの猛攻は終わらない。

 

 

「俺はマジマジ☆マジシャンギャルの効果を発動! オーバーレイユニットを1つ取り除き、手札を1枚ゲームから除外。ブラック・マジシャン・ガールのコントロールを得る」

 

『えっ、そんな!』

 

 

 ブラック・マジシャン・ガールが驚愕の表情を浮かべるがもう遅い。同性すら魅了するマジマジ☆マジシャンギャルによって、自身の分身でもあるブラック・マジシャン・ガールがセキヒトの手に落ちる。

 

 

「ふん、これで後は露払いを済ませるだけだ。俺は墓地からトラップ発動、ブレイクスルー・スキル! このカードは相手フィールド上の効果モンスター1体を選択して発動できる。選択した相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。また、墓地のこのカードをゲームから除外する事で、相手フィールド上の効果モンスター1体を選択し、その効果をターン終了時まで無効にする。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できず、自分のターンにのみ発動できる! 効果を無効にするモンスターは勿論、マジシャンズ・ヴァルキリア!」

 

『ッ! そんなカードいつの間に!』

 

「忘れたか、アルカナナイトジョーカーが魔法の筒を無効にした時に捨てたカードの事を!」

 

『まさか、その時に!』

 

 

 息の呑むブラック・マジシャン・ガールの前でその力を失うマジシャンズ・ヴァルキリア。

 

 

「さあ、自らの師匠を倒し、自身で敗北を刻め! 俺はブラック・マジシャン・ガールでブラック・マジシャンを攻撃! くらえ、黒・魔・導・爆・裂・破!」

 

『いやー!』

 

 

 戦う力を失った尊敬する師匠へ攻撃を行なうブラック・マジシャン・ガール。嘆きの悲鳴を上げるブラック・マジシャン・ガールだが、セキヒトの手に落ちたブラック・マジシャン・ガールは攻撃を止めない。魔導の波動がブラック・マジシャンを破壊する。そして師匠殺しを成したその波動は自らへ返ってくる。そのダメージは自身のLPと同じ2000。

 

 

 ブラック・マジシャン・ガールLP2000→0

 

 

『ご、ごめんなさい。お師匠様……』

 

 

 悲しみの涙を流しながら、決闘に敗北したブラック・マジシャン・ガールはセキヒトの掲げたカードへその身を封印される。

 

 

「さてと学園祭の準備に戻るとするか……」

 

 

 ブラック・マジシャン・ガールの魂が封印されたカードをデッキホルダーへしまったセキヒトはそばに置いたダンボール箱を持ち上げて、何事も無かったかのようにその場から移動する。

 

 

「……ブラック・マジシャン・ガール?」

 

 

 ――――ただ、誰もいないと思っていたからこそ、その人影に気付く事は無かった。

 




BBAじゃないよ、美魔女だよ(震え声)


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憧れたHERO

若干タイトル詐欺です。


 なんだかんだと言いながら騒がしくも楽しかった学園祭は終了した。セブンスターズ達との戦いを繰り広げる十代達は最後のセブンスターズとなっても魂が戻らない明日香達を心配しながらも全力で学園祭を楽しんでいた。

 

 セキヒト自身も学園祭当日はコスプレ決闘大会の運営としてステージ設備を手伝ったりして忙しいながらも空いた時間で他の寮を回ったりして、それなりに学園祭を満喫した。特にラー。イエローで出されていたカレー料理はプロが作った料理と遜色のない出来であった。

 

 賑やかだった学園祭が終了して既にそれなりの日数が過ぎた。デュエルアカデミアを包み込んでいた学園祭特有の熱気は徐々に消え去り、今では本来のデュエルアカデミアへ戻っている。

 

 しかし、毎日が忙しくも騒がしいデュエルアカデミアの平穏な時間はすぐに消え去ってしまう。デュエルアカデミアの錬金術担当教師であり、オシリス・レッド寮の寮長でもある大徳寺先生が数日前から行方不明となっているのだ。

 

 セキヒトというイレギュラーのおかげで十代の闇のゲームに対する認識が甘い所もあったが少し前のタイタン戦を経て、十代は闇のゲームを理解した。その上で“七星門の鍵”を守る決闘者に選ばれながらもセブンスターズのアムナエルとしての顔を持つ大徳寺先生は十代に敗北した事で姿を消してしまった。

 

 そしてアムナエルとなった大徳寺先生と決闘を行なう中で十代達は7人目ではなく、8人目となる謎のセブンスターズが存在する事を知る。“七星門の鍵”を持つ十代達は明日香達の回復を成し遂げる為、謎の8人目を必死になって探している最中だ。

 

 十代達の予想では“七星門の鍵”を持っているかぎり、いつかは明日香達の魂を奪った人物と戦うことになると思っていた。しかし、現実は多くのセブンスターズが襲撃してくる中、学生として暮らすセキヒトが問題を起こす必要はない。十代達はセブンスターズの相手をしていたので謎の8人目であるセキヒトの捜索が満足にいかなかった。

 

 勿論、十代達が本腰を入れて謎の8人目の捜索を始めたことを知らないセキヒトは普通にデュエルアカデミアでの生活を過ごしていた。

 

 そんなセキヒトの部屋に差出人不明で1枚の手紙が届けられる。不審に思いながらも手紙の内容を確認するとそこには“ブラック・マジシャン・ガールとの決闘について”とだけ書かれていた。他に書いてあることと言えば、デュエルアカデミア全体の地図と森の中にバツと記された面会場所くらいである。

 

 呼び出しに応じるか迷ったセキヒトであったが、セキヒトの居場所が相手に判明している以上、セキヒトは呼び出しに答えていた。

 

 

「それにしてもブラック・マジシャン・ガールと決闘した時は誰もいなかったと思ったんだけどな……」

 

 

 立派に生い茂る森の中、ぽっかりと穴が開いたように木々の生えていない場所があった。その場所の中心で自分を呼び出した人物を待つセキヒトは呟き、溜息を吐く。この場所だと隠れた相手に不意打ちを食らわすことも出来ないのだ。

 

 そんな時、草木を掻き分け地面を踏み出す足音がセキヒトの耳に届く。視線を音が聞こえた方へ向けるセキヒトの前に草木を掻き分けて姿を現した翔。流石に予想外の人物であり目を丸くさせるセキヒトであったが同時に十代や万丈目ではなく、自分を呼び出したのが翔であることに納得する。

 

 本来、カードの精霊を見る力を翔は持たない。しかし、ブラック・マジシャン・ガールだけは別だ。なにより十代や万丈目ならこのように人気の無い場所に呼び出したりせず、普通に皆がいる所で話し掛けて来た筈だ。

 

 

「やっぱり、あの時の後ろ姿と帽子はコナミ君だったんスね」

 

「……一応、確認しておこう。俺を呼び出したのは翔でいいのか?」

 

 

 翔へ勝手に臆病でいつも影に隠れているイメージを持っていたセキヒトは堂々と姿を現した翔に驚きつつ、確認の為に問い掛ける。こくりと頭を縦に振って頷いた翔。そしてどうして呼び出したのか尋ねる為に口を開くセキヒト。

 

 

「それで一体、俺に何のようだ? 俺に十代や万丈目のようにカードの精霊を見ることが出来る力があって、ブラック・マジシャン・ガールと決闘した所で別に問題は無い筈だろ?」

 

「……なんでコナミ君は十代のアニキと万丈目君がカードの精霊を見られるって、知っているんスか?」

 

 

 問いかけに対する翔の返答を聞いて、小さく溜息を吐いて頭を掻くセキヒト。

 

 

「今回といい、この前といい、語るに落ちるって奴だな。やっぱり“オレ”は余計なことを喋らない方がいいみたいだ」

 

 

 やれやれと肩を竦めて、わざとらしく笑うセキヒトの姿に警戒を強める翔。そんな翔に対してセキヒトは言い聞かせるように尋ねる。

 

 

「俺が天上院明日香や天上院吹雪、枕田ジュンコや浜口ももえの魂を封じた張本人だったとして、どうするつもりなんだ? 確証が取れないから他の人に言えず、危険承知で俺の正体を確かめたつもりだろうが少しだけ無用心過ぎるだろう」

 

 

 セキヒトの客観的な意見に内心で賛同する翔。謎の8人目を必死で探している十代達の姿を見て、不確定な情報で紛らわせていけないと余計な気を回したことが裏目に出てしまった。少なくとも誰か一人くらいは相談してでも付いてきてもらうべきであった。

 

 しかし、既に翔は逃げることが出来ない。ならば、今出来る最善を尽くすのみ。自身のデュエルディスクを起動させる翔に対して、セキヒトが視線で問い掛ける。現在、両者の間にある実力差は明白。敗北が立て込んだこともあったセキヒトだが、それはセキヒトと対等以上の実力を持つ十代や明日香達を相手にしていた為だ。

 

 翔はその身に秘めた素質として十代達に負けず劣らずの素質を持っている。しかし、現在の実力は十代達に劣っている。つまり、十代達と対等に決闘を行なうセキヒトにも実力的には劣っている。

 

 なによりセキヒトは丸藤翔の兄であり、翔にとってコンプレックスの塊である優秀な兄、丸藤亮ことカイザー亮とライバル関係にある決闘者なのだ。セキヒトはカイザーに対して周囲が呆れるほど敗北を繰り返している。だが、カイザーがセキヒトとの決闘を繰り返すのはカイザーがセキヒトに対して何かを見出しているからに他ならない。そんな相手にそれでも戦うと翔は決めたのだ。

 

 顔を上げ、胸を張り、強い意志を瞳に宿した翔の想いを汲み取り、セキヒトもデュエルディスクを構えて起動させる。

 

 

「今から行なわれる決闘は闇のゲームによって取り仕切られる。痛みを伴わない敗北を選ぶなら今の内にサレンダーしろ」

 

「……そんなことは絶対にしないっス。お兄さんやアニキには追いつけなくても僕だって決闘者だから!」

 

 

 きっぱりと自分の意志を告げる翔の姿にセキヒトは笑う。意識の中で翔はどこか格下と思っていた驕りが今消えた。丸藤翔はダークネス赤人が魂を狩るに至る決闘者。

 

 

「「決闘!」」

 

 

 漆黒の炎が燃え上がり、二人を取り囲む。そして宣言と共に二人の決闘が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 始まった闇のゲーム。二人の周囲を黒炎が取り囲む中、ゲームの始まりを告げる最初のドローはデュエルディスクによって選ばれる。二人が見守る中、最初のドローを手にしたのはセキヒト。

 

 

「最初に宣言しておこう。俺は全力でお前を叩きのめす! 一人の決闘者としてな!」

 

「なら僕はコナミ君に勝って目を覚まさせてあげる!」

 

 

 デッキへ手を添えたセキヒトが翔へ宣言する。セキヒトの言葉に翔が叫び返す。セキヒトと翔の間に深い友好があった訳では無い。むしろ、セキヒトは誰よりもオシリス・レッドの中で浮いている存在だった。決闘の実力やあまり交流しようとしない性格。だが、セキヒトのことを嫌う人間はいない。セキヒトへデッキ構成について相談すると口ではボロカスにデッキ構成へ文句を言いながらも結局、親身になってデッキ構成を考えてくれる人物であるから。

 

 決闘に対して真摯な人間に悪い人間はいない。翔はそう信じている。

 

 

「…………そうか。なら、簡単に潰れてくれるなよ。俺のターン、ドロー!」

 

 

 強い意志を秘めた翔の瞳を覗き込んだセキヒトは小さく息を吐き、デッキからカードを勢いよく引き抜き、手札へ加える。手札の内容を確認して、セキヒトが手にした1枚のカード。

 

 

「俺は手札からE・HERO(エレメンタルヒーロー)エアーマンを通常召喚!」

 

「ッ! アニキと同じE・HERO(エレメンタルヒーロー)!」

 

 

 E・HEROエアーマン☆4風 ATK/1800DEF/300

 効果・このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選択して発動できる。

 ●このカード以外の自分フィールド上の“HERO”と名のついたモンスターの数まで、フィールド上の魔法・罠カードを選んで破壊できる。

 ●デッキから“HEEO”と名のついたモンスター1体を手札に加える。

 

 

 デュエルディスクへ叩きつけられ、フィールドへ現れる一人のヒーロー。機械仕掛けのバイザーを被り、背中の両翼に付けたプロペラを回転させて、名前の通りに風を纏ったヒーローが翔の前に立ち塞がる。

 

 

「俺はエアーマンの効果を発動! 俺はE・HEROアイスエッジを手札へ加える」

 

 

 セキヒトの指示にエアーマンが頷き、両翼のプロペラで強風を巻き起こすと風をセキヒトのデッキへぶつける。そしてエアーマンの発破に触発されて、冷気を纏った氷結のヒーローがデッキから飛び出してセキヒトの手札に加わった。

 

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 

 カードを1枚伏せたセキヒトは翔へターンを譲る。先攻は行動に対して相手から制限を受けない代わりに攻撃することが出来ない。ヒーローは遅れてやってくるようにヒーローの活躍はもう少し後だ。

 

 自分が尊敬し、憧れを抱く十代が扱うE・HEROと名前を同じくするヒーローが翔の前に立ち塞がっている。カイザー亮のライバルでアニキと慕う十代と同じヒーローを行使するセキヒト。翔が憧れ、慕う二人の大きな背中をどうして意識してしまう。

 

 そんな状況の中でも翔の瞳は勝利だけを見据えている。丸藤亮も遊戯十代も翔にとって憧れる人物であり、いつか越えなければならない壁。ならば今ここで二人の面影を幻視させるセキヒトに臆してなどいられない。

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 

 大胆に、そして力強くデッキからカードを引き抜く翔。横目にカードを確認して、そのままカードをデュエルディスクへ置く。

 

 

「僕は手札から強欲な壺を発動! デッキからカードを2枚ドロー。そして、スチームロイドを召喚!」

 

 

 スチームロイド☆4地 ATK/1800DEF/1800

 効果・このカードは相手モンスターに攻撃する場合、ダメージステップの間攻撃力が500ポイントアップする。このカードは相手モンスターに攻撃された場合、ダメージステップの間攻撃力が500ポイントダウンする。

 

 

 翔のフィールドへ現れる1体のモンスター。乗り物である機関車の姿をしたスチームロイドは煙突から白い煙を吐き出し、汽笛を鳴らしながらやる気をアピールしている。やる気を見せるスチームロイドに頷いて、翔が動く。

 

 

「僕はスチームロイドでエアーマンを攻撃!」

 

 

 スチームロイドATK/1800→2300

 

 

「この瞬間、俺はトラップ発動! ヒーローバリア! このカードは自分フィールド上に“E・HERO”と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする! この効果によってスチームロイドの攻撃は無効となり、エアーマンは破壊されない」

 

 

 翔の号令に従い、スチームロイドは白煙を煙突から吐き出しながらエアーマンへ突撃していく。激しい地鳴りを起こしながら徐々に速度を上げていくスチームロイドが待ち構えるエアーマンへ激突する直前、光のバリアがスチームロイドの眼前に展開されて激突。突然の妨害で完全に速度を殺されたスチームロイドは大人しく翔のフィールドへ帰還していく。

 

 

スチームロイドATK/2300→1800

 

 

「……それなら僕は手札から機甲部隊の最前線(マシンナーズ・フロントライン)を発動するっス。このカードは機械族モンスターが戦闘によって破壊され自分の墓地へ送られた時、そのモンスターより攻撃力の低い、同じ属性の機械族モンスター1体を自分のデッキから特殊召喚する事ができる。この効果は1ターンに1度しか使用できない。そして僕はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 

 戦いの最前線へ歩みを進めた翔。次に繋がる攻勢の為には決闘者自身が前へ進まなければならないことをセブンスターズと戦い抜いた十代達を見て、翔は知っている。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 デッキからカードを手札へ加え、セキヒトは引き抜いたカードを発動させる。

 

 

「戦いの中に身を置く覚悟、見せてもらった。それなら俺は俺の全力をお前に見せてやる! 見ろ、これが最強のHEROと呼ばれる一角。水の属性を持つヒーロー! 俺は手札から融合を発動する! フィールドのE・HEROエアーマンと手札のE・HEROアイスエッジを融合! HEROの名のつくモンスターと水属性のモンスターで融合召喚! 現れろ、エレメンタルヒーロー、E・HEROアブソルートZero!」

 

 

 E・HEROアブソルートZero☆8水 ATK/2500DEF/2000

 効果・このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する“E・HEROアブソルートZero”以外の水属性モンスターの数×500ポイントアップする。このカードがフィールド上から離れた時、相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

 

 

 周囲の空気を凍て付かせながら現れた一人のヒーロー。その姿は穢れを知らぬまさに純白。純白の鎧を纏い、風に白いマントを靡かせてセキヒトのフィールドへ降り立つ。絶対零度の冷気を操るヒーローでありながら、その身に秘めた闘志はマグマのように熱い。冷気という自然の力を行使する最強と呼ばれたヒーローが翔の前でセキヒトの指示を待ち構えている。

 

 

「これが属性(エレメンタル)HERO!」

 

 

 十代が操る融合ヒーローとは違う、属性を持つヒーローの登場に翔は目を開き、息を呑む。見る者を魅了する美しい姿のヒーローでありながら、その瞳に秘めた闘志は十代達のヒーローに負けずとも劣らない。

 

 視線を合わしただけで理解出来た。このヒーローを倒さなければ、翔に勝ち目は無い。

 

 

「俺はアブソルートZeroでスチームロイドへ攻撃! 瞬間氷結(フリージングアットモーメント)!」

 

「この瞬間、僕はトラップ発動! サイバー・サモン・ブラスター! このカードは機械族モンスターが特殊召喚される度に、相手ライフに300ポイントダメージを与えるっス!」

 

 

 絶対零度の冷気をスチームロイドへ放つアブソルートZero。その冷気がスチームロイドを捕らえる寸前、翔の魔法・罠ゾーンへ大きなアンテナのようなモノを備えた機械が登場する。

 

 

「…………機甲部隊の最前線でモンスターを破壊しても次のモンスターを出現させて、サイバー・サモン・ブラスターで反撃する。よく練られたコンボじゃないか。攻撃したら攻撃した分だけこちらもダメージを負う。だが、それで俺が止まると思うな! 攻撃を続行しろ、アブソルートZero!」

 

 

 フィールドへモンスターを絶やさず、攻撃してきた相手に反撃を食らわせる。抜け目無い翔のコンボに賞賛を送りつつ、それでもセキヒトは止まらない。痛みを伴わなければ得ることが出来ない勝利があるとセキヒトは知っている。

 

 

 スチームロイドATK/1800→1300

 

 

 攻撃時は速度に乗った強力な攻撃をするスチームロイドも停車している時の力は非力だ。絶対税度の冷気によって凍て付かされたスチームロイドは動力となる熱を全て奪われてしまい、破壊されてしまう。

 

 

 丸藤翔LP4000→2800

 

 

「この瞬間、僕は機甲部隊の最前線の効果発動! カードの効果によってドリルロイドを攻撃表示で特殊召喚! そしてサイバー・サモン・ブラスターの効果でコナミ君へ300のポイントダメージ!」

 

 

 ドリルロイド☆4地 ATK/1600DEF/1600

 効果・このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、ダメージ計算前にそのモンスターを破壊する。

 

 

 心臓部を凍らされ、破壊されたスチームロイドに代わって翔のフィールドに現れたドリルロイド。先端のドリルを高速回転させると地面の中へ潜む。

 

 

 アブソルートZeroを警戒するように翔の近くの地面へ潜り、冷気を遮断するドリルロイド。そして機械族のドリルロイドが翔のフィールドに現れた為、エネルギーを溜めていたサイバー・サモン・ブラスターがセキヒトへ攻撃してダメージを与える。

 

 

 ダークネス赤人LP4000→3700

 

 

「……俺はこれでターンエンドだ」

 

 

 現在の状況はセキヒトの圧倒的有利。強力な属性ヒーローを行使するセキヒトに翔が押されている状態であるが、翔も翔で成長している。フィールドへモンスターを絶やさず、小さいながら反撃もした。

 

 

「僕のターン、ドロー! 僕はドリルロイドをリリースしてユーフォロイドを守備表示で召喚! カードを伏せてターンエンド」

 

 

 ユーフォロイド☆6光 ATK/1200DEF/1200

 効果・このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の機械族モンスター1体を表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。その後デッキをシャッフルする。

 

 

 カードを確認して手札へ加える翔。立ちはだかる最強のヒーローを前にして今の手札ではどうする事も出来ない。攻撃力の高いドリルロイドをリリースする事で現れたユーフォロイド。状況を打破するほどのステータスを持っているモンスターでは無いがその効果は強力。カードを伏せて防御を増やしたものの、防戦一方である事に変わりない。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 しかし、防戦一方とはいえ、翔の瞳に諦めの色は見えない。ならば一片たりとも油断は出来ない。セキヒトは新たに加わったカードを確認すると新たな仲間を召喚する。

 

 

「俺は手札からE・HEROオーシャンを召喚する!」

 

 

 E・HEROオーシャン☆4水 ATK/1500DEF/1200

 効果・1ターンに1度、自分のスタンバイフェイズ時に発動する事ができる。自分フィールド上または自分の墓地に存在する“HERO”と名のついたモンスター1体を選択し、持ち主の手札に戻す。

 

 

 セキヒトのフィールドへ現れた新たなヒーロー。青く引き締まった肉体に杖のような武器、イルカを連想させる風貌から見ているだけで偉大な海を思わせる。

 

 

「アブソルートZero以外の水属性が現れた事でアブソルートZeroの攻撃力がアップする」

 

 

 E・HEROアブソルートZero ATK/2500→3000

 

 

「俺はオーシャンで守備表示のユーフォロイドを攻撃、ビッグウェーブクラッシュ!」

 

「この時、トラップ発動! スーパーチャージ! このカードは自分フィールド上に“ロイド”と名のついた機械族モンスターのみが存在する場合、相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。自分のデッキからカードを2枚ドローする!」

 

 

 空を飛ぶユーフォロイドへ杖を向けたオーシャンはその力を発揮させる。突如、オーシャンを中心に大きな津波が発生して空を飛んでいたユーフォロイドを巻き込み、津波の中へ捕らえてしまう。津波に囚われたユーフォロイドは最後の力で自分の仲間を呼び出すとそのまま力尽きる。

 

 

「僕はユーフォロイドの効果発動。デッキからジェット・ロイドを特殊召喚!1体のモンスターが特殊召喚された事でサイバー・サモン・ブラスターの効果、300ポイントのダメージをコナミ君へ与える!」

 

 

 ジェット・ロイド☆4風 ATK/1200DEF/1800

 効果・このカードが相手モンスターの攻撃対象に選択された時、このカードのコントローラーは手札から罠カードを発動する事ができる。

 

 

 ダークネス赤人LP3700→3400

 

 

 一度の攻撃で手札を増やし、フィールドにモンスターが現れる。戦闘機の姿をしたジェット・ロイド。

 

 

「ジェット・ロイドは手札のトラップカードを発動出来る効果を持っている。だがな、その程度で俺が止まると思うなよ? アブソルートZeroでジェット・ロイドを攻撃!」

 

「この瞬間、僕はジェット・ロイドの効果発動! 僕は手札にある生命輪を発動する! このカードはフィールド上に表側表示で存在するモンスターを1体選択して発動する。選択したモンスター破壊し、お互いのプレイヤーは破壊したモンスターの守備力の数値分のライフを回復する! 僕は勿論、アブソルートZeroを指定!」

 

 

 ジェット・ロイドを破壊しようと冷気を集めていたアブソルートZeroに対して生命輪が発動する。生命輪の効果によって破壊されたアブソルートZeroはその守備力を回復の力へ変えると二人のLPを回復させる。

 

 

 ダークネス赤人LP3400→5400

 

 丸藤翔LP2800→4800

 

 

「だが、この瞬間、最強と謳われたアブソルートZeroの効果を発動! このカードがフィールドを離れた時、相手フィールド上のモンスターは全て破壊する! 全てを死に至らしめる絶対零度の力を受けろ!」

 

「そんな!」

 

 

 アブソルートZeroが破壊されたのと同時にその身に秘めていた圧倒的な冷気が解放される。翔のフィールドにいたジェット・ロイドを容易く氷結させたアブソルートZeroの冷気。全てが凍った世界の中で、ジェット・ロイドはその機能を停止させ、破壊される。

 

 

「俺はカードを3枚伏せてターンエンド」

 

 

 アブソルートZeroを失ったのは痛手であるが既に水属性のオーシャンをセキヒトは所持している。セキヒトにとって、今の状況はそう悲観するモノじゃない。冷静に判断を下したセキヒトはカードを伏せるとターンを終了する。

 

 ターンが自分へ移った事を確認して翔がデッキへ手を添える。状況は防戦一方で終始押されている。それでもセキヒトが最強と謳ったヒーローを倒す事が出来た。充分、セキヒトに喰らいついている。後はこのチャンスを掴み取るだけだ。

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 

 カードを引き抜き、手札へ加える翔。セキヒトのフィールドへ並ぶオーシャンと2枚の伏せカードを見た翔は覚悟を決めて動く。

 

 

「僕は手札からエクスプレスロイドを守備表示召喚!」

 

 

 エクスプレスロイド☆4地 ATK/400DEF/1600

 効果・このカードの召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、自分の墓地に存在する“エクスプレスロイド”以外の“ロイド”と名のついたモンスター2体を手札に加える事ができる。

 

 

「エクスプレスロイドの効果で墓地に存在するスチームロイド・ドリルロイドを手札に加える。そして僕は手札から融合発動! 手札のスチームロイド・ドリルロイド・サブマリンロイドで融合! 現れろ、スーパービークロイド-ジャンボドリル!」

 

 

 スーパービークロイド-ジャンボドリル☆8地 ATK/3000DEF/2000

 効果・このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

 

 先端に大きなドリルを装着した巨大な機械仕掛けのモンスター。そのモンスターが持つ効果は奇しくも二人とも因縁を持つカイザー亮の代名詞とも言えるモンスター、サイバー・エンド・ドラゴンと同様の物。翔のフィールドへ現れた超大型モンスターにセキヒトは警戒を強める。

 

 

「サイバー・サモン・ブラスターの効果で300ポイントのダメージ!」

 

 

 ダークネス赤人LP5400→5100

 

 

「そしてスーパービークロイド-ジャンボドリルでオーシャンを攻撃!」

 

 

 翔の指示に従い、ジャンボドリルは先端のドリルを高速回転させるとキャタピラで地面を滑るように走行してオーシャンへ激突する。高速回転するドリルを持っていた杖で受け止めたオーシャンだったが、ジャンボドリルの突進力と巨体を受け止め切る事は出来ず、破壊されてしまう。オーシャンが破壊された衝撃がセキヒトへ届き、LPを大きく削り取る。

 

 

 ダークネス赤人LP5100→3600

 

 

「俺はオーシャンが破壊された事でトラップ発動、ヒーローシグナル! 自分フィールド上のモンスターが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時に発動する事ができる。自分の手札またはデッキから“E・HERO”という名のついたレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。俺はデッキからE・HEROフォレストマンを守備表示で特殊召喚! そしてトラップ発動! リビングデッドの呼び声! 破壊されたE・HEROオーシャンを復活させる!」

 

 

 E・HEROフォレストマン☆4地 ATK/1000DEF/2000

 効果・1ターンに1度、自分のスタンバイフェイズ時に発動する事ができる。自分のデッキまたは墓地に存在する“融合”魔法カード1枚を手札に加える。

 

 

 オーシャンが破壊されるのと同時にセキヒトのフィールドへ現れるフォレストマン。筋肉質の逞しい身体を持ちながら、その半身は木で出来ているヒーロー。守りを固めるフォレストマンの姿は何故か大樹の安定感を連想させる。そして不屈の闘志で再び復活を果たしたオーシャン。少なくともエクスプレスロイドで突破出来るような守りでは無い。

 

 

「僕はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

 

 翔の手札が全て尽きる。セキヒトと同様に守りを固めた翔。翔の守護を破り、この状況を打破できるかどうか。それが今回の決闘において勝敗を分ける。

 

 

「俺のターン、ドロー」

 

 

 セキヒトはカードを引く。手にしたカードを確認して小さく笑ったセキヒトはカードを手札に加えると宣言する。

 

 

「俺はオーシャンの効果でE・HEROアブソルートZeroをエクストラデッキへ戻す。そしてE・HEROフォレストマンの効果発動、墓地に眠る融合を回収する!」

 

「水属性のモンスターとHERO!」

 

 

 セキヒトの手札とデッキに氷結の英雄を出す為の準備が整う。翔の脳裏に純白の鎧を纏った絶対零度のヒーローが過ぎる。

 

 

「……勘違いするなよ。最初に言ったはずだぞ。アブソルートZeroは最強の一角だと。俺は手札から融合を発動! 見せてやる、オーシャンとフォレストマン、二人のヒーローが揃った時のみ召喚出来るヒーロー! 来い、E・HEROジ・アース!」

 

 

 E・HEROジ・アース☆8地 ATK/2500DEF/2000

 効果・自分フィールド上に表側表示で存在する“E・HERO”と名のついたモンスター1体をリリースする事で、このカードの攻撃力はこのターンのエンドフェイズ時まで、リリースしたモンスターの攻撃力分アップする。

 

 

 オーシャンとフォレストマン。海洋と森林を司る二人のヒーローが交わった時、一人のヒーローがセキヒトのフィールドへ現れる。白き鋼の肉体を持ち、屈強に佇む姿と冠する名前からジ・アースの背中に地球を幻視させる。

 

 

「俺は手札から融合解除発動! スーパービークロイド-ジャンボドリルを素材モンスターへ戻す!」

 

「ッ! 僕のスーパービークロイド-ジャンボドリルが!」

 

 

 予期せぬ融合解除に動揺する翔だが、機械族のモンスターが特殊召喚された事によってサイバー・サモン・ブラスターの効果が発動する。

 

 

 ダークネス赤人LP3600→3300

 

 

「そして俺はジ・アースでサブマリンロイドを攻撃、アース・インパクト!」

 

「僕はトラップ発動!進入禁止! No Entry!! このカードはフィールド上に攻撃表示で存在するモンスターを全て守備表示にする!」

 

 

 鋼の肉体を持つジ・アースがサブマリンロイドへ肉薄したその瞬間、翔の発動した罠カードによって攻撃が防がれてしまう。守備表示となったジ・アースを見届けたセキヒトはターンを終了させる。

 

 

「……俺はこれでターンエンド」

 

 

 セキヒトの宣言を受けて、翔はデッキへ視線を送る。予期せぬ形でスーパービークロイド-ジャンボドリルを失った翔は一気に形成を逆転されてしまった。今伏せているカードは敵の攻撃から身を守るカードではなく、フィールドへ並ぶモンスターもジ・アースと比べれば脆弱。しかし、それはセキヒトも同じ事。セキヒトのフィールドに伏せられているカードもジャンボドリルの攻撃に何の反応を見せなかった事から攻撃を防ぐ為の罠カードではない。

 

 自分にまだ、あのカードを使いこなす資格があるのか。それは判らない。それでも自信を持って言える事がある。

 

 

「僕は……、僕はッ! 僕は使うべき時にあのカードを使える決闘者になるんだ!」

 

 

 翔はデッキから勢いよくカードを引く。翔の覚悟に応えたデッキが翔へ最後の希望を託す。託されたカードを確認した翔はそのカードを発動する。

 

 

「僕は手札からパワー・ボンドを発動! このカードは手札またはフィールド上から、融合モンスターカードによって決められたモンスターを墓地へ送り、機械族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。このカードによって特殊召喚したモンスターは、元々の攻撃力分だけ攻撃力がアップする。発動ターンのエンドフェイズ時、このカードを発動したプレイヤーは特殊召喚したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受ける! 僕はフィールド上のスチームロイド・ドリルロイド・サブマリンロイドで融合召喚! 現れろ、スーパービークロイド-ジャンボドリル!」

 

 

 スーパービークロイド-ジャンボドリルATK/3000→6000

 

 

 再び、翔のフィールドへ現れたジャンボドリル。しかし、その身に秘めた力は以前と比べ物にならない。サイバー・サモン・ブラスターの効果が追い討ちを掛ける。

 

 

 ダークネス赤人LP3300→3000

 

 

「これで終わりだよ! 僕はスーパービークロイド-ジャンボドリルでE・HEROジ・アースを――――」

 

「この瞬間、トラップ発動! 威嚇する咆哮!このターン相手は攻撃宣言をする事ができない!」

 

「そんなッ! そのカードは!」

 

「……攻撃を防ぐカードじゃない。そう言いたいんだろ? 俺は最初に言った筈だぞ。一人の決闘者としてお前を倒すと。俺が何度サイバー流と戦っていると思っている。パワー・ボンドに対する保険はいつでも用意している」

 

 

 驚愕する翔にセキヒトが答える。セキヒトはサイバー流の後継者と何度も決闘を行なっているのだ。サイバー流を継ぐ決闘者と決闘するのにサイバー流を象徴するカードに対策していない筈が無い。

 

 

「でも、まだ、負けた訳じゃない。僕はトラップ発動、ピケルの魔法陣。このカードはこのターンのエンドフェイズまで、このカードのコントローラーへのカードの効果によるダメージは0になる」

 

「パワー・ボンドのデメリットを無効にしたか」

 

「僕はこれでターンエンド」

 

 

 翔のフィールドに残ったのは守備表示のエクスプレスロイドと攻撃力6000のスーパービークロイド-ジャンボドリル。伏せカードは無いものの、充分にセキヒトを押している。

 

 だが、だからこそ危険なのだ。追い詰められたセキヒトのドローは運命さえも捻じ曲げて自身の望むカードをドローする。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 闇がデッキへ集い、運命さえも捻じ曲げた。

 

 

「俺は手札から融合回収(フュージョン・リカバリー)を発動。墓地に眠るE・HEROエアーマンと融合を手札へ加える。E・HEROエアーマンを召喚、そして効果を発動! デッキから2枚目のアイスエッジを手札に加える! そして再び見せてやろう、氷結の英雄を! 俺は融合を発動! 手札のエアーマンとアイスエッジで融合! 降臨せよ、アブソルートZero!」

 

 

 再びセキヒトのフィールドへ舞い降りた氷結の英雄。セキヒトの意図に気付いている氷結の英雄と地球の守護者は手を取り合う。

 

 

「俺はE・HEROジ・アースの効果発動!地球灼熱(ジ・アース マグマ)!」

 

 

 E・HEROジ・アースATK/2500→5000

 

 セキヒトのフィールドへ現れたアブソルートZeroは地球の守護者へ自身の力を託すとそのまま朽ちていく。そしてアブソルートZeroを最強たらしめる効果が発動する。

 

 翔のフィールドへ吹き荒れる絶対零度の吹雪。守備状態だろうが、高い攻撃力を持っていようが関係ない。全てを凍り付かせる冷気によって氷像へ姿を変える2体のモンスター。

 

 

「これでさよならだ。やれ、ジ・アース! 翔へダイレクトアタック! 地球灼熱斬(アース・マグナ・スラッシュ)!」

 

 

 氷像となったモンスターを砕き、熱き力に燃えるジ・アースの拳が翔を捉える。思い切り吹き飛ばされて黒炎を壁に叩き付けられた翔はそのまま意識を手放す。

 

 

 丸藤翔LP4800→-200

 

 

「今はただ眠れ……」

 

 

 セキヒトがカードを掲げると敗北した翔の魂はカードへ封印される。封印された翔のカードをデッキホルダーへしまい、その場から去ろうとした時、大きな地響きと共に島全体が大きく揺れた。

 




覇王シリーズと迷い、漫画版です。
カード効果を勘違いして、一度投稿した話の改訂版です。


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決闘者・小波赤人

 その場に立っていられないほど激しい揺れが翔のと決闘を終えたセキヒトを襲う。ざわざわと周囲に生える木々から葉の擦れる音が聞こえてくる。地震によって地面が揺れている最中、地面へ膝を突いて安全を確保したセキヒト。

 

 

「…………このタイミングでただの地震とは思わなかったけど――」

 

 

 揺れが少しずつ治まり、冷静に周囲を観察出来るようになったセキヒトは目前に広がる光景を前にして口を噤む。セキヒトと翔が決闘を行った場所を中心として円に広がり、取り囲むように周辺から地面に根付いた木々を薙ぎ倒し、姿を現す石柱。セキヒト達を取り囲む全ての石柱が姿を現すと同時に地面から土煙を起こして一つの台座がセキヒトの前に現れる。

 

 

「もしかして、これが……」

 

 

 七つの鍵穴を持つ台座。パッと見るだけで厳重に封印されていると判るソレの正体をセキヒトは知っている。

 

 “三幻魔”

 

 それは神に等しき力を持つ究極のカード。封印を解除し、世界へ解き放てばそれだけで世界へ大きな影響を与えてしまう力を持つ。それが三幻魔の正体であり、故に三幻魔は厳重な封印が施されて眠っている。

 

 

「だけど、どうして封印が……」

 

 

 目前に現れた台座の姿に戸惑いが隠せないセキヒト。台座を見て、不思議そうに首を傾げている。三幻魔を復活させる為には幾つかの工程をこなさなければならない。その中の一つであり、最重要な工程として上げられるのがデュエルアカデミアの存在するこの島へデュエリストの闘志――――デュエルエナジーに似たエネルギーを島全体に満たす事だ。デュエリストの闘志はある程度高い実力を持つ決闘者同士の決闘でなければ発生しない。

 

 “七星門の鍵”を鮫島校長から託された十代達とデュエルアカデミアを襲撃したセブンスターズは島にデュエリストの闘志を満たす為、選ばれた決闘者達だ。“七星門の鍵”を守護する十代達と各々が自身の望みを叶える為に三幻魔復活を目論むセブンスターズの決闘は激闘に次ぐ激闘。島にはデュエリストの闘志が満ちている。だが、それだけでは足りない筈なのだ。その原因はセキヒトにある。

 

 セキヒトが闇のゲームによって勝利して魂を封印した相手、天上院吹雪、天上院明日香、ヴァンパイアカミューラ。高い実力を持つ三人の決闘者はセキヒトによって三幻魔を巡る戦いから排除された。つまり、セキヒトに魂を封印された事により、正史において本来行われる筈だった決闘がいくつか消滅した。本来なら高位の決闘者同士の決闘でなければ発生しないデュエリストの闘志が三幻魔復活を可能とするまで島を満たす事は不可能だった筈。

 

 ――――鍵の守護者とセブンスターズ。選ばれた決闘者同士の決闘でなければデュエリストの闘志が発生しないモノだとセキヒトは勘違いしている。事実は異なり、微弱な量であれば一般生徒が行う決闘でもデュエリストの闘志は発生する。それならば決闘者の端くれでもあるセキヒトの決闘でもデュエリストの闘志が発生するのだ。

 

 それに鍵を守護する十代達に敗北を重ねたセキヒトは自分の事を過少評価している。セキヒトの心の在り処はともかく、決闘の実力については十分にデュエリストの闘志を発生させる実力を満たしている。実際に天上院兄妹やカミューラといった選ばれた決闘者を打倒している事からその実力は証明済み。決闘において発生するエネルギーの量は彼らに匹敵する。

 

 そして最後の引き金となった翔との決闘。

 

 十代達とセブンスターズの間に行われてきた激闘。激しくぶつかり合う両者の決闘を見守り、応援してきた翔は自分も気づかない内に成長していた。セキヒトと翔の間で繰り広げられた決闘は三幻魔復活の為に必要なエネルギーを満たしたのだ。その結果として三幻魔が復活しようとしている。

 

 十代達を混乱させる為に倒した明日香から回収しておいた“七星門の鍵”が淡い光を放つ。セキヒトが驚き、懐から取り出すと手に持っていた“七星門の鍵”は勝手に空中へ浮かぶと導かれるように飛んでいく。“七星門の鍵”が飛んでいく方向には地面から迫り上がってきた台座が鎮座している。そして“七星門の鍵”は光の粒子となって消え、台座の鍵穴を埋める。

 

 セキヒトが見守る中、数分もしない内に森を抜けて次々に“七星門の鍵”が台座の下へ集まってくる。光の粒子となって台座の鍵穴が次々に埋まっていく。そして最後の鍵が飛来して台座の七つあった台座の鍵穴が全て埋まり、台座の封印が解かれた。セキヒトの目前には3枚のカードが鎮座していた。

 

 

「……これが三幻魔のカード」

 

 

 封印されていた三幻魔のカードを前にして、セキヒトは無意識の内に導かれるように三幻魔のカードを手に取る。カードを手にした瞬間、思考回路の冷静な部分が早くカードを手放せ、と激しく警報を鳴らす。

 

 

「ッ!」

 

 

 その時、セキヒトは息を呑む。ドクン、とカードを持った手を伝わり三幻魔のカードが鼓動した。無意識の内に手にしたカードの力を理解した。この感覚の正体をセキヒトは少し前にも味わった事がある。セキヒトが闇の力を使う切っ掛けとなったダークネス吹雪との決闘。闇の力の象徴として召喚した三幻神に対抗する為に作られた三邪神。デッキに入っていない筈だった邪神ドレッド・ルートを手にした時と同じ鼓動。

 

 

「あれ? なんでこんな所にコナミがいるんだ?」

 

 

 セキヒトの魂が三幻魔の力で闇の深淵へ引きずり込まれそうになっていたその時、声が聞こえた。草木を掻き分け、音を立てながら現れた人物へ視線を向ける。

 

 

「――――遊戯十代ッ!」

 

「おう、どうした、コナミ? そんな驚くなよ、それに顔色も悪いぞ?」

 

「いや、大丈夫だ。なんでもない」

 

 

 引き込まそうになっていた魂が一気に現実へ引き戻される。急な眩暈と頭痛に襲われ、片手で頭を押さえるセキヒトの姿に十代が心配そうな表情を見せる。

 

 少しすると眩暈と頭痛が治まり、三幻魔のカードが持つ力がセキヒトの身体と魂へ馴染む。少しだけ余裕の出来てきたセキヒトは十代がここを訪れた理由を思いつき、手に持った三幻魔のカードと地面へ寝ている翔へ意識を向ける。

 

 

「おいおい、翔。姿が見えないと思ったらこんな所で熟睡かよ」

 

 

 闇のゲームに敗北して魂が封印された翔。事情を知らない十代は地面へ寝転がって寝ている翔に呆れながら近付いていく。何度も翔の肩を揺らして、翔を起こそうとする十代。しかし、魂がカードへ封印されている翔が十代の呼びかけに答える事は無い。

 

 

「――――なあ、コナミ。翔がここで寝ている理由、知ってるか?」

 

「……いや、知らないな」

 

「それじゃあ、少し前に光る鍵がこっちへ飛んでこなかったか?」

 

「ああ、それなら見たよ。そこの台座にあった鍵穴を埋めて消えていった」

 

 起きる気配を見せない翔の身体を抱えて、安全な場所まで移動させる十代。十代の行動を何も言わずに見守るセキヒト。翔を運ぶ十代の瞳は既に燃える闘志が宿っていた。良い意味で人を疑う事を知らない十代でも流石にこの状況と白々しいセキヒトの態度で翔をこんな状態へ追いやった人物が誰なのか安易に予想出来た。

 

 

「おい、十代! 何がどうなっている!」

 

 

 全ての決着は決闘でつける。一々語らずともデュエルアカデミアで暮らす学生ならば当然の常識。セキヒトと十代、二人の決闘者がデュエルディスクを構えたその時、新たな乱入者が現れる。

 

 黒いコートを身に纏い、背後にカードの精霊を連れて現れた万丈目。万丈目を引き金に台座へ飛んできた“七星門の鍵”を追いかけてきた鍵の守護者達が次々に集まってきた。既に臨戦態勢になっているセキヒトと十代の姿に混乱と戸惑いを隠せない面々。状況が呑み込まず、混乱している面々の中で一人だけ冷静にセキヒトへ視線を送っている人物がいた。

 

 勿論と言うべきか、やはりと言うべきか、その人物はセキヒトが好敵手(ライバル)と認め、勝ちたいと望む相手でもあるカイザー亮。魂を封印した丸藤翔の兄である丸藤亮だ。

 

 

「――――やはりお前が最後のセブンスターズだったのか、コナミ」

 

「カイザー、何を言っている。アカデミアの生徒であるコナミがセブンスターズな訳――――」

 

『ひ~、アニキアニキ! あの黒帽子からヤバイ気配がするよ~』

 

 

 亮の言葉に万丈目が驚きの声を上げ、セキヒトの纏う気配に敏感なおジャマトリオは怯えながら我先にと万丈目の背中へ移動してセキヒトから隠れる。そんなおジャマトリオに呆れつつ、セキヒトを警戒する光と闇の竜(ライトアンドダークネス・ドラゴン)の咆哮を聞いて、万丈目も亮の言葉が事実なのだと理解する。

 

 

「そうだな。一応、訂正しておくと俺がセブンスターズかどうかと問われたら、俺はセブンスターズじゃない。俺は三幻魔へ望む事なんてない。だけど、お前達がセブンスターズの仕業だと思っている最近噂になっていた目を覚まさない生徒達の事件の犯人が誰か、と問われたら、確かに俺が犯人だ。だけど、カイザー。お前は最初から俺が犯人だと疑っていた口ぶりだな?」

 

「そうだな、俺は吹雪が倒された状態で見つかった時から心の何処かでお前の事を疑っていた。俺の知る限り、吹雪を打倒しうる決闘者は限られてくる。その中でも一番怪しかったのはお前だった」

 

 

 セキヒトの問いかけに亮が肯定する。亮の推理は当たっていた。純粋な意味で最初の被害者であるももえとジュンコの推理と同様だ。ももえ達は総当たりで犯人探しを行った結果、セキヒトに敗北してカードに魂を封印されてしまった。

 

 

「しかし、それだけだと俺が犯人と決め付けるには早いんじゃないか?」

 

「ああ、その通りだ。だが、コナミ。お前はある事を見落としていた。決闘が行われた後に起こる事だ」

 

「決闘の後?」

 

 

 亮の言葉を聞いて眉を顰めるセキヒト。亮の話はどうにも要領を得ない。決闘現場に手掛かりとなるような証拠を置いた記憶は無い。意味が判らず、亮へ尋ねようとしたセキヒトが口を開いたその時、今まで状況を見守っていた三沢が気付いた様子で口を開く。

 

 

「そうか、決闘の後に行われる事。それはつまりDPの譲渡だな。デュエルアカデミアに登録されていない吹雪さんやカミューラのデュエルディスクは別にして、明日香君のような学生の被害者であるなら決闘の結果でDP譲渡の情報がデュエルアカデミアの管理コンピューターに記録される筈だ」

 

「…………なるほど、流石にそこまで気が回らなかった。盲点だったよ。それにしてもよくそこまで調べたな。デュエルアカデミアで行われる一日の決闘が何回あると思っている」

 

 

 セキヒトが感嘆の声を漏らす。デュエルアカデミアで一日に行われる決闘の数は優に数百を超える。DPの譲渡や消費に範囲を広げれば、それこそ正確な解析は困難。膨大な情報の中からセキヒトだけの情報を洗い出して解析するのは相当な労力となった筈だ。

 

 

「実際にデータの解析を進めてくれたのは師匠――いや、鮫島校長だが、どうやらオーナーも解析に協力してくれたようだ。なんでもオーナーの知人から『デュエルアカデミアで何か起きているかもしれないよ』と情報が入ったらしい。そういえばカードの精霊がどうこうとも言っていたな」

 

「ッ!」

 

 

 亮の言葉を聞き、セキヒトはハッとなって自身の腰に提げたデッキホルダーへ視線を落とす。デッキホルダーの中にはかの決闘王と共に戦った仲間であるブラック・マジシャン・ガールの魂が封印されているカードも存在する。水面下では上手く情報を消していたセキヒトだが、着実にボロを出していた。

 

 

「そうか、ありがとう。これで疑問が解決した」

 

「へへ、もういいのか? それなら俺と――――」

 

「断る。十代以外に誰もいない状況なら決闘も致し方ないがアイツがいるなら話は別だ。デュエルディスクを構えた以上、十代との決着もいずれつけるが今、俺が戦いたい相手は別にいる。そうだろ、カイザー?」

 

 

 セキヒトが納得して、闘志に燃える十代が決闘を始めようとする。しかし、セキヒトは十代の言葉を一蹴すると視線と戦う意思を亮へぶつける。四面楚歌の状況で全員の相手を出来るほどセキヒトは力を持っていない。連戦を重ねればいつか誰かに敗北する。それだけはセキヒトにも判る。

 

セキヒトは十代達の実力を認めている。だからこそ、一人ずつ確実に潰していくつもりだった。しかし、この状況では不可能だ。ならば、セキヒトが倒したいと望む相手を全力で倒すのみ。

 

 

「…………いいだろう。それならば構えろ」

 

「ッ!」

 

 

 デュエルディスクを構えた亮の視線が向かい合うセキヒトではなく、安全な場所で眠っている翔の方へ向く。その光景を目撃したセキヒトに衝撃が奔る。決闘者として向かい合い、デュエルディスクを構えた筈なのにカイザーの心がここに無い事を悟る。カイザーはセキヒトの事を見ていないのだ。

 

 その原因に気付いたセキヒトは小さく溜息を吐き出す。カイザーの意識を惑わす原因はデッキホルダーに眠る封印された魂のカード達。最初はカイザーに対する人質として封印した魂のカード。しかし、実際にカイザーとの決闘になると人質を使う気にもならなければ、本気のカイザーと戦いたいセキヒトにとってカイザーを縛る足枷にしかなっていない。

 

 ――――今までの決闘が全て無駄になる。それでもセキヒトは本気のカイザー亮と戦いたい。

 

 デッキホルダーから無数のカードを取り出すと十代へ投げつける。

 

 

「これは!」

 

「十代、お前が持っているその鏡にカード達を映し出せ。それだけでそいつ等は解放される筈だ」

 

 

 寸分違わず十代の下へ飛んだカードの束を受け取った十代は不審に思いつつ、カードの内容を確認して息を呑む。十代の手にあるカードはセキヒトが闇のゲームで魂を封印してきた人間のカードだった

 

 

「これでいいのか?」

 

 

 十代は言われた通りに首へぶら下げていた鏡を手に持つとカードを映す。闇の力を跳ね返す力を持つ鏡はその力を発揮して映し出されたカードからそれぞれの魂を解放する。解放された魂は淡い光の球体となって身体の眠る方々へ飛んでいく。その中の一つは寝ていた翔の下へ向かった。

 

 

「…………、あれ、アニキ? それにお兄さん。皆も?」

 

「一体、どういうつもりだ?」

 

 

 まだ完全に意識が覚醒していない翔は寝ぼけた様子で周囲を見渡すと小さく首を傾げる。その光景に亮はセキヒトへ問いかける。

 

 

「俺だって判るかよ。俺は人質を取って決闘をした事のあるどうしようもない悪人だ。最初はお前との決闘でも使うつもりだったんだ。――――だけど、お前との決闘だけは全力で戦いたい。その為ならお前が危惧する要因を排除しただけだ」

 

 

 自分でも何故、全力のカイザー亮に拘るのか判らない。それでもこの時、この瞬間はこの判断が正しいのだと思ったのだ。

 

 何故なら亮が寝ている翔へ視線を向けた時に考えた事はただ一つ。カミューラ戦のように翔が、セキヒトに魂を封じられた人々を人質として亮を脅す事。その事を察したセキヒトは本気のカイザー亮と戦いたい。その一心で今まで積み重ねてきた魂のカードを解放した。

 

 

「――――そうか、それならば少しだけ待っていろ」

 

 

 亮はセキヒトへ背中を見せると安全な場所で上半身を起こしている翔の下へ向かう。

 

 

「お兄さん?」

 

「……パワー・ボンドは持っているか?」

 

「うん、このカードはお兄さんに使ってほしい」

 

「そうさせてもらおう」

 

 

 亮の問いかけに翔は全てを理解した。まだ本調子ではない身体を動かして、デッキを取り出す。その中から1枚のカードをデッキから抜き出すと亮へ託す。翔からパワー・ボンドを受け取り、デッキへ加える亮。兄弟の絆が亮へ託された。

 

 

「待たせたようだな、コナミ」

 

「……いや、いいさ。俺は今のお前と戦いたかった」

 

 

 再び向き合うセキヒトと亮。亮の瞳に宿る闘志を見れば戦慄すら生温い。背筋が凍る程の危機感を覚える。無意識の内にセキヒトは笑みを浮かべていた。セキヒトにとって最強の決闘者が今、目の前にいる。その事実だけでセキヒトの心臓が高鳴っていた。

 

 

「俺は俺が持つ闇の力の全てを使い、お前に勝つ。覚悟はいいか、カイザー?」

 

「…………お前は一体、何を言っている。そんな当たり前の事を言ってどうする。闇の力? 自身が持つ力の全てを使って決闘に挑むのは当たり前の事だろう。今、俺とお前の間にあるのは勝つか負けるか、二つに一つ。それが決闘者だ」

 

「…………そうだったな、今の失言は忘れてくれ」

 

 

 亮の言葉にセキヒトは小さく笑う。闇の力だろうがなんだろうが二人の決闘者の間ではただの付属に過ぎない。二人の間にあるものは勝敗だけ。ならば、自らの勝利の為に持てる全ての力を使う。それは確認するまでもなく、当たり前の事。闇の力という強大な力を手に入れたセキヒトはそんな当たり前の事を忘れていた。

 

 セキヒトはデッキへ視線を向けるとデッキが鼓動した。セキヒトが認める最強の決闘者を前にして、デッキも亮へ勝つ事を望む。――――初めてデッキとセキヒトの意志が重なった時、デッキとセキヒトの身体から漆黒の闇が放出される。全ての光を闇へ覆うほどの力はセキヒトとそのデッキへ集約された。

 

 被っていた黒帽子を外し、放り投げると懐から取り出した赤帽子を目が隠れるぐらい深く被るセキヒト――――いや、コナミ。

 

 

「なら俺は――、オレは三幻魔と俺の全てを掛けてお前へ挑むぞ! カイザー――――いや、丸藤亮!」

 

「ならば俺は――――、俺の信じるサイバー流とお前にしてきた全てのリスペクトを持ってお前へ挑む! 小波赤人!」

 

 

 決闘者(デュエリスト)はお互いがお互いに挑む挑戦者(チャレンジャー)でもある。

 

 最後の決闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「先攻はオレだ! ドロー!」

 

 

 決闘の始まりを告げる最初のドロー。どちらの決闘者が引き抜くのか、デュエルディスクによるランダンな先攻後攻が決められている間、先攻後攻が決まっていないにも関わらず、当然のように先攻と言い切ってデッキからカードを手札へ加えるコナミ。

 

 本来であるならルールや決闘作法に重きを置く亮も今回ばかりは自身の後攻が必然と言わんばかりに構えて、コナミのドローを見守っている。そしてデュエルディスクの決めた先攻後攻は当たり前のようにコナミから始まる。

 

 

「オレは手札からトーチ・ゴーレムを亮のフィールドへ特殊召喚! そして、トーチ・ゴーレムの効果でオレのフィールドにトーチトークンを2体、攻撃表示で特殊召喚する!」

 

 

 トーチ・ゴーレム☆8闇 ATK/3000DEF/300

 効果・このカードは通常召喚できない。このカードを手札から出す場合、自分フィールド上に“トーチトークン”(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を2体攻撃表示で特殊召喚し、相手フィールド上にこのカードを特殊召喚しなければならない。このカードを特殊召喚する場合、このターン通常召喚はできない。

 

 トーチトークン☆1闇 ATK/0DEF/0

 

 

 亮のフィールドへ突如現れる巨大な1体のゴーレム。鋼のボディを持ち、いたるところに鎖を身に着け、カーターを高速回転させながら圧倒的な威圧感を放つ。その攻撃力は3000であり、最上級モンスターとしてトップクラスの破壊力を持つ。そんな力強い亮のフィールドと違い、コナミのフィールドにはトーチ・ゴーレムと同じ姿形をした力を持たない小さなトークンが2体居るだけ。

 

 

「えっ、なんでコナミの奴、カイザーのフィールドに最上級モンスターなんて召喚しているんだ?」

 

「意図は判らないがコナミなりの理由がある筈だ。なによりあのモンスターが召喚された事でカイザーの思い描いていた戦術が狂ったのは間違いない」

 

 

 自ら不利な状況を作り出したコナミの奇行に十代が疑問の声を出し、三沢が自分なりに分析する。強力なモンスターだったとしても自分の描いていた戦術に存在しない異物がいきなり戦力として現れたのだ。いくら亮でも戦術の修正が必要なのは当然。状況だけ見ればコナミの不利であるが、相手の出鼻を挫くという意味では大きな働きをした。

 

 

「オレはカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 

 不安や躊躇いの表情を見せず、カードを伏せるコナミ。伏せられたカードを無言で眺める亮。コナミの伏せたカードがコナミの不利を巻き返すカードである事は明白。しかし、それでも亮に止まるつもりは無い。お互いの戦術をぶつけ合う。それが決闘だ。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 デッキからカードを引き抜き、手札へ加える亮。手札とフィールドのトーチ・ゴーレムを見比べた亮は高らかに宣言する。

 

 

「俺はトーチ・ゴーレムでトーチトークンを攻撃!」

 

「この瞬間、トラップ発動、洗脳解除! このカードがフィールド上に存在する限り、自分と相手のフィールド上に存在する全てのモンスターのコントロールは、元々の持ち主に戻る! トーチ・ゴーレムのコントロールはオレへ変更だ!」

 

 

 巨体を揺るがし、ボディに組み込まれたカーターを高速回転させて攻撃態勢に移行していたトーチ・ゴーレムはコナミの宣言に身体の動きを止める。コナミと亮を交互に見比べた後、本来の持ち主であるコナミのフィールドへ移動する。

 

 

「やはり早々、ダメージが通る訳がないか。しかし、これで、俺のフィールドにはモンスターがいない」

 

「ああ、そうだ。本気で来い。オレだってソイツを倒さなければ前へ進めない」

 

 

 戦いの嵐は一瞬にして終わり、お互いのフィールドに並ぶモンスターが優劣を逆転させる。しかし、この追い詰められた状況こそ、カイザー亮が本領発揮する為の舞台として相応しい。

 

 

「この瞬間、俺は手札からサイバー・ドラゴンを特殊召喚!」

 

 

 サイバー・ドラゴン☆5光 ATK/2100DEF/1600

 効果・相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

 

 

 出鼻を挫かれた亮が本来召喚する筈だった機械仕掛けのドラゴンが亮のフィールドへ現れる。太陽の光を反射する銀の装甲を持つ1匹のドラゴン。亮のデッキにおけるエースモンスターであり、亮が後継者となっているサイバー流を象徴するモンスター。亮の闘志に触発されたサイバー・ドラゴンの咆哮がコナミへ向けられる。その咆哮に身体を震わせながらコナミは嬉しそうに笑う。

 

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 

 カードを1枚伏せて堂々と佇む亮。状況だけで言えば押されている筈なのにその姿からは一切の焦りが見えてこない。コナミの戦術に乗った上で自身を守りきる。その自信に満ち溢れている。

 

 だからこそ、コナミも闘志を激しく燃やす。自分の全力を亮へぶつける。それが今、コナミが出来る最良の選択。

 

 

「オレのターン、ドロー!」

 

 

 デッキからカードを引き抜く。手札を見て、フィールドに並ぶ3体のモンスターへ目配せしたコナミは1枚のカードをデュエルディスクへ叩きつける。

 

 

「亮! いや、それだけじゃない! セブンスターズとの激闘を繰り広げたお前達全員に、このカードを見せよう! これが三幻魔の一角だ! オレのフィールドに存在する3体の悪魔族モンスターを生贄に幻魔皇(げんまおう)ラビエルを召喚!」

 

 

 幻魔皇(げんまおう)ラビエル☆10闇 ATK/4000DEF/4000

 効果・このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在する悪魔族モンスター3体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。相手がモンスターを召喚する度に自分フィールド上に“幻魔トークン”(悪魔族・闇・星1・攻/守1000)を1体特殊召喚する。このトークンは攻撃宣言を行う事ができない。1ターンに1度だけ、自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる事で、このターンのエンドフェイズ時までこのカードの攻撃力は生け贄に捧げたモンスターの元々の攻撃力分アップする。

 

 

 コナミの宣言と共に現れる1体の幻魔。晴れていた晴天の空は急激に雲へ覆われ、突風が吹き荒れ、穏やかだった海が荒れ、湾岸へ大きな波が押し寄せる。曇天の空を割り、見上げるほどの巨体を持つ幻魔。神と等しき力を持つ幻魔の登場でカードの精霊達にざわめきが起きる。

 

 

『クリクリ~!』

 

「おいおい、どうしたんだよ。ハネクリボー?」

 

『いやん、万丈目のアニキ! おいら達の力が吸われ――――――――ない?』

 

「お前は一体、なにがしたいんだ!」

 

 

 飛び付いてくるハネクリボーを受け止め、首を傾げる十代と混乱でてんやわんやになっているおジャマ達へ怒鳴る万丈目。精霊を持つ二人の対照的な行動に内心で苦笑しつつ、フィールドへ現れた幻魔の一角であるラビエルへ視線を向ける。巨大な力の鼓動がコナミの身体を満たす。下手をすれば飲み込まれてしまいそうになる程の力でありながら、不思議とコナミに危機感は無かった。

 

 目の前に君臨する最強の決闘者へ勝利する。何故ならコナミの意志と幻魔のプライドが同じ方向を向いていたから。カードの精霊の力を吸い上げずともコナミの闇が幻魔へ力を与え、幻魔の闇がコナミの闇をより強大にする。

 

 

「そして幻魔皇ラビエルがフィールドへ存在する事によって、このカードを発動する! フィールド魔法、失楽園! このカードはフィールド上に“神炎皇ウリア”“降雷皇ハモン”“幻魔皇ラビエル”のいずれかが存在する場合、そのカードのコントローラーは1ターンに1度、デッキからカードを1枚選択して手札に加える事ができる。オレは失楽園の効果発動! デッキからカードを2枚ドロー!」

 

 

 粘り気のあるドロリとした空気が十代達のいる場所を満たす。露骨に姿を変えずとも、先程までと違う空気の質になっている事を全員が理解する。

 

 

「食らえ、亮! これが幻魔の一撃だ! オレは幻魔皇ラビエルでサイバー・ドラゴンを攻撃! 天界蹂躙拳(てんかいじゅうりんけん)!」

 

 

 コナミの指示に従い、圧倒的力を秘めたラビエルの拳がサイバー・ドラゴンへ迫る。その瞬間、1枚のカードがラビエルに立ち塞がる。

 

 

「トラップ発動、アタック・リフレクター・ユニット! このカードは自分フィールド上の“サイバー・ドラゴン”1体を生け贄に捧げて発動する。自分の手札・デッキから“サイバー・バリア・ドラゴン”1体を特殊召喚する。俺はフィールドのサイバー・ドラゴンを生贄に、デッキからサイバー・バリア・ドラゴンを攻撃表示で特殊召喚!」

 

 

 サイバー・バリア・ドラゴン☆6光 ATK/800DEF/2800

 効果・このカードは通常召喚できない。このカードは“アタック・リフレクター・ユニット”の効果でのみ特殊召喚する事ができる。このカードが攻撃表示の場合、1ターンに1度だけ相手モンスター1体の攻撃を無効にする。

 

 

 亮のフィールドへ現れた機械仕掛けのドラゴン。サイバー・ドラゴンと入れ替わるように現れたサイバー・バリア・ドラゴンの尾にはバリア発生装置が取り付けられている。

 

 

「それでオレの攻撃が止まると思うなよ! 幻魔皇ラビエルでサイバー・バリア・ドラゴンを攻撃!」

 

「その攻撃は通さん! サイバー・バリア・ドラゴンの効果を発動! 幻魔皇ラビエルの攻撃を無効にする!」

 

 

 ラビエルの拳とサイバー・バリア・ドラゴンの尾から展開されたバリアが激突する。身体の奥が震える程の爆音が鳴り響き、土煙が大きく舞い上がる。振り下ろした拳を戻すラビエル。風によって飛ばされた土煙の中には無傷の状態でサイバー・バリア・ドラゴンが佇んでいた。

 

 

「幻魔の攻撃を受け止めたか。まあ、それぐらい出来なければ面白くないよな。オレはカードを2枚伏せてターンエンド」

 

 

 カードを伏せ、ターン終了を宣言するコナミ。幻魔の登場により、状況はさらにコナミへ傾いている。それでもまだ、状況は充分に立て直せる。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 デッキからカードを手札へ加え、内容を確認する亮。コナミのフィールドを確認して、1匹のモンスターを召喚する。

 

 

「俺は手札からサイバー・ドラゴン・ツヴァイを攻撃表示召喚!」

 

「この瞬間、幻魔皇ラビエルの効果も発動! 幻魔トークンを表側守備表示で特殊召喚!」

 

 

 サイバー・ドラゴン・ツヴァイ☆4光 ATK/1500DEF/1000

 効果・このカードが相手モンスターに攻撃するダメージステップの間、このカードの攻撃力は300ポイントアップする。1ターンに1度、手札の魔法カード1枚を相手に見せる事で、このカードのカード名はエンドフェイズ時まで“サイバー・ドラゴン”として扱う。また、このカードが墓地に存在する場合、このカードのカード名は“サイバー・ドラゴン”として扱う。

 

 

 幻魔トークン☆1闇 ATK/1000DEF/1000

 

 

 亮のフィールドへ現れるサイバー・ドラゴンに似た風貌の機械竜。亮との決闘で何度も目撃しているコナミはサイバー・ドラゴン・ツヴァイの咆哮に対して、特に気にした様子もなく、構えている。同時に、コナミのフィールドに幻魔のしもべたる幻魔トークンが出現する。

 

 

「俺はサイバー・ドラゴン・ツヴァイで幻魔トークンを攻撃!」

 

 

 サイバー・ドラゴン・ツヴァイATK/1500→1800

 

 

 亮の指示に従い、サイバー・ドラゴン・ツヴァイは腕を十字に交差させて守りを固めている幻魔トークンへ襲い掛かる。戦いによって力を増すサイバー・ドラゴン・ツヴァイは守りを固めている幻魔トークンへ巻き付くとそのまま幻魔トークンを自身の身体で締め上げる。守りに徹した幻魔トークンはサイバー・ドラゴン・ツヴァイの攻撃に耐え切ることが出来ず、破壊されてしまう。

 

 破壊の余波によって発生した風がコナミの頬を撫でる。トークンとはいえ、モンスターを破壊された事に悔しさや戸惑いといった感情は見えない。それは勿論、犠牲を無しにカイザーへ勝利する事など不可能だと、最初から理解しているからだ。

 

 

 サイバー・ドラゴン・ツヴァイATK/1800→1500

 

 

 戦いが終わり、力を発揮したサイバー・ドラゴン・ツヴァイは元の力へ戻ると亮のフィールドへ帰還する。

 

 

「そして俺はカードを3枚伏せてターンエンド」

 

 

 3枚のカードを伏せ、ターンを終了する亮。幻魔皇ラビエルを相手するには注意してし過ぎる事は無い。

 

 

「オレのターン、ドロー。そして失楽園の効果で更に2枚ドロー」

 

 

 幻魔を前にして揺ぎ無い精神でこちらを見据える亮の姿にコナミは小さく笑う。亮との決闘に心が高ぶっている。コナミが認めた最強の決闘者だからこそ、この決闘において出し惜しみなんてありえない。3枚のカードを手札へ加えたコナミはデュエルディスクにセットされた二つのカードを発動させる。

 

 

「オレは2枚のトラップ発動! 死霊ゾーマ、メタル・リフレクト・スライム!」

 

 

 死霊ゾーマ☆4闇 ATK/1600DEF/500

 

 

 メタル・リフレクト・スライム☆10水 ATK/0DEF/3000

 

 

 竜の姿をしたモンスターとぶよぶよと捉え所の無い姿をしたモンスターがコナミのフィールドへ現れる。2体のモンスターはモンスターでありながら何処か普通のモンスターとは違う気配を漂わせている。

 

 

「ん? なんでコナミの奴、いきなり2体もモンスターが出てきたんだ? コナミが発動したのはトラップだよな?」

 

「アレはトラップモンスターと呼ばれるモンスターだな。モンスターでもあり、トラップでもある。その特性上、魔法・罠カードゾーンとモンスターカードゾーン、二つの場所を使用するがその代わりに強力なステータスや効果を持つカードが多い。確かあの二つは――――」

 

「死霊ゾーマが戦闘によって破壊された時、このカードを破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。そしてメタル・リフレクト・スライムが高い守備力を誇るモンスター……だったな」

 

「なるほど、流石に何度も決闘で見ているからな。カードの効果も覚える訳だ」

 

 

 通常とは違うモンスターの気配に十代が首を傾げて疑問を口にして、十代達の中でも特に博識である三沢が説明する。フィールドに現れた2体のモンスターを見据えて、亮がトラップモンスターの力を解析してコナミが頷き、肯定する。

 

 

「トラップモンスターは強力な分、元々がトラップという事もあり、攻撃には向かない筈だが……」

 

「その通りだよ、三沢。だがな、トラップだって、攻撃の起点になりえる事ぐらい、お前も知っているだろ? 見せてやる、オレの全力を。オレはフィールドに存在する洗脳解除・死霊ゾーマ・メタル・リフレクト・スライム、3枚の罠カードを生贄に神炎皇(しんえんおう)ウリアを特殊召喚! これが幻魔皇ラビエルに続く2体目の幻魔の姿だ!」

 

 

 神炎皇ウリア☆10炎 ATK/0→3000DEF/0

 効果・このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に表側表示で存在する罠カード3枚を墓地に送った場合のみ特殊召喚する事ができる。このカードの攻撃力は、自分の墓地の永続罠カード1枚につき1000ポイントアップする。1ターンに1度だけ、相手フィールド上にセットされている魔法・罠カード1枚を破壊する事ができる。この効果の発動に対して魔法・罠カードを発動する事はできない。

 

 

 コナミのフィールドへ降臨する2体目の幻魔。赤い体躯に長い身体、両翼を広げて咆哮するその姿は正に最強の竜に相応しい。コナミのフィールドへ並ぶ2体の幻魔。外から決闘を見守っている十代達にも伝わってくる威圧感を亮は正面から受け止めている。

 

 

「そしてオレは神炎皇ウリアの効果発動! 亮の魔法・罠カードゾーンに伏せられた一番右のカードを破壊。やれ、ウリア、トラップディストラクション!」

 

「させるか! 俺はトラップ――――」

 

「幻魔の力を嘗めるな! トラップディストラクションに対して魔法も罠も発動する事は出来ない!」

 

「くッ、和睦の使者が」

 

 

 ウリアの雄叫びが衝撃となって亮のフィールドを襲う。ウリアの雄叫びから発生した衝撃波に耐え切れず、伏せられていた和睦の使者が容赦無く破壊される。吹き飛んだ女性の使者と視線が合うコナミ。ただのソリッドヴィジョンである筈が、コナミだけ明らかに妙な反応を見せていた女性の使者。今度も何かあるのかと身構えたコナミの予想を裏切り、女性の使者はデッキと“共に”戦うコナミの姿を認めると自身が破壊されたにも関わらず、穏やかな表情で微笑むとフィールドから去っていく。

 

 何かの見間違いと目を擦りながら再確認している十代や万丈目を余所に、コナミは呆れたように溜息を吐く。1枚のカードでありながら、彼女もまた、数多の決闘において障害となった好敵手(ライバル)だった。

 

 

「さあ、行くぞ! オレは神炎皇ウリアでサイバー・バリア・ドラゴンを攻撃、ハイパーブレイズ!」

 

「サイバー・バリア・ドラゴンの効果発動!」

 

 

 コナミの指示の下、全てを焼き尽くし、鉄すら溶解させる灼熱の炎がウリアの口から吐き出される。標的となったサイバー・バリア・ドラゴンはラビエルの拳を止めたバリアを再び展開させて、ウリアの炎を防ぐ。自身に向けられた炎を振り払い、無傷でウリアの攻撃を防ぐサイバー・バリア・ドラゴン。しかし、バリア発生装置はウリアの攻撃で熱を帯びてしまい、これ以上攻撃を防ぐことは出来ない。

 

 

「次は潰す! 幻魔皇ラビエルでサイバー・バリア・ドラゴンを攻撃、天界蹂躙拳!」

 

「トラップ発動、ガード・ブロック! 戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、自分のデッキからカードを1枚ドローする! 俺はデッキからカードを1枚ドロー!」

 

 

 ラビエルの拳が容赦無くサイバー・バリア・ドラゴンへ振り下ろされる。圧倒的なラビエルの力に二度も幻魔の攻撃を防いだサイバー・バリア・ドラゴンは呆気無く押し潰されて破壊される。ラビエルの拳がサイバー・バリア・ドラゴンを地面と挟み撃ちにして、押し潰す。その威力を物語る発生した衝撃が亮を襲う直前、亮を守るように1枚のカードがデッキから舞い降り、衝撃から亮を守る。

 

 

「……防ぎきったか、流石だな。オレはこれでターンエンドだ」

 

 

 幻魔の猛攻を防ぐ亮の姿に感心したコナミはターンを終了する。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 サイバー・バリア・ドラゴンという守りが無くなった今、亮に幻魔の猛攻を防ぐ力は残されていない。それならば後は攻勢に出ればいいだけの話。

 

 

 デッキからカードを手札へ加える亮。そのまま流れるような動作で1枚のカードを発動させる。

 

 

「トラップ発動、第六感! 自分は1から6までの数字の内2つを宣言する。相手がサイコロを1回振り、宣言した数字の内どちらか1つが出た場合、その枚数自分はカードをドローする。ハズレの場合、出た目の枚数デッキの上からカードを墓地へ送る。俺が指定する数字は5と6だ」

 

 

 ポンッという軽快な効果音と共にコナミの前に現れる六面の大きなサイコロ。とんでもないカードを持ってきた、と戦慄するコナミだったが、自身も三幻魔という規格外のカードで亮へ挑んでいるのでどっちもどっちだ。内心で苦虫を潰した顔をしながら、目の前に現れたサイコロを放り投げるコナミ。コロコロと地面を転がり、最終的に出たサイコロの目は6だ。

 

 

「この瞬間、俺はカードを6枚ドロー!」

 

 

 6枚ものカードを手札へ加える亮。決闘者にとって手札とは可能性だ。今、亮の手に幻魔を打倒するべき可能性が揃った。

 

 

「俺は手札からアーマード・サイバーンを召喚!」

 

「……この瞬間、幻魔皇ラビエルの効果で幻魔トークンを召喚」

 

 

 アーマード・サイバーン☆4風 ATK/0DEF/2000

 効果・1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に装備カード扱いとして自分の“サイバー・ドラゴン”及び“サイバー・ドラゴン”を融合素材とする融合モンスターに装備、または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。この効果で装備カード扱いになっている場合のみ、1ターンに1度、装備モンスターの攻撃力を1000ポイントダウンし、フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を破壊できる。(1体のモンスターが装備できるユニオンは1枚まで。装備モンスターが破壊される場合は、代わりにこのカードを破壊する)

 

 

 亮のフィールドへ出現した新たなモンスター。アーマード・サイバーンの登場に小さく反応を見せるコナミ。亮との決闘でこのモンスターを見るのは初めての事。コナミが亮へ対策を施してデッキを変更するように当然、亮もデッキを変更する。

 

 

「そして俺はサイバー・ドラゴン・ツヴァイの効果。手札の機械複製術を見せる事でサイバー・ドラゴン・ツヴァイをサイバー・ドラゴンに変更。そして、アーマード・サイバーンをサイバー・ドラゴンへ装備する!」

 

 

 姿形がサイバー・ドラゴンへ変化したサイバー・ドラゴン・ツヴァイへアーマード・ドラゴンが装備される。そしてアーマード・サイバーンの持つ二つの砲身を幻魔トークンへ向ける。

 

 

「アーマード・サイバーンの効果発動! 攻撃力を下げて、幻魔トークンを破壊する!」

 

 

 サイバー・ドラゴン・ツヴァイATK/1500→500

 

 

 アーマード・サイバーンから放たれた砲弾が幻魔トークンを直撃する。砲弾の爆発に巻き込まれた幻魔トークンはその威力に後方へ吹き飛ばされて、破壊される。

 

 

「そしてこの瞬間、手札から機械複製術を発動する! このカードは自分フィールド上に表側表示で存在する攻撃力500以下の機械族モンスター1体を選択して発動する。選択したモンスターと同名モンスターを2体まで自分のデッキから特殊召喚する。俺が選択するのは勿論、サイバー・ドラゴン!」

 

「――――とうとう来るか!」

 

 

 その効果によりデッキからフィールドへ現れる2体のサイバー・ドラゴン。ラビエルが幻魔トークンを生み出す傍ら、コナミは1体のサイバー・ドラゴンの名を冠するサイバー・ドラゴン・ツヴァイと2体のサイバー・ドラゴンが揃う光景を見て、息を呑む。

 

 

「そして俺は手札から融合を発動! 3体のサイバー・ドラゴンで融合! 現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!」

 

 

 サイバー・エンド・ドラゴン☆10光 ATK/4000DEF/2800

 効果・このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

 

 曇天の空を切り裂き、光の柱が立つ。光の柱から姿を現し、亮のフィールドへ降臨する1匹のモンスター。亮が丸藤亮という決闘者である為に必要なカードであり、最も信頼するモンスター。三つのアギトを持つ三首の機械仕掛けの巨竜。コナミの前に立ち塞がる威圧感と存在感は三幻魔に勝るとも劣らない。

 

 

「俺はサイバー・エンド・ドラゴンで神炎皇ウリアを攻撃! 食らえ、エターナル・エヴォリューション・バースト!」

 

 

 サイバー・エンド・ドラゴンから放たれた螺旋を描く光線とウリアが放つ灼熱の炎が激突する。大爆発を起こし、土煙が勢いよく立ち込める。そんな中、螺旋を描く光線がウリアの身体を貫き、破壊した。

 

 

「~ッ!」

 

 

 小波赤人LP4000→3000

 

 

 爆発の衝撃波がコナミを襲い、LPを削る。吹き飛ばされそうになるのを足で踏ん張り、耐える。視線の先には威風堂々と君臨するサイバー・エンド・ドラゴンがいた。

 

 

「まずは一角を崩させてもらったぞ。俺はカードを伏せてターンエンド」

 

 

 三幻魔の一角を撃破した筈の亮に喜びの表情は見えない。決闘において油断と慢心は命取りになる。そのことをよく理解している亮だからこそ、コナミという決闘者相手に隙など見せられない。

 

 

「オレのターン、ドロー。そして失楽園の効果で2枚ドロー」

 

 

 デッキから手札を加え、フィールドへ視線を向けるコナミ。

 

 状況としては非常に均衡している。お互いのフィールドにいるモンスターは一撃で相手を打ち倒すほどの力を秘めている。しかし、コナミとしては早急にサイバー・エンド・ドラゴンを排除しなければならない。

 

 

「俺は手札から強欲な壺を発動。デッキからカードを2枚ドローして、手札から幻銃士を表側守備表示で召喚! 幻銃士の効果で銃士トークンを2体守備表示で特殊召喚!」

 

 

 幻銃士☆4闇 ATK/1100DEF/800

 効果・このカードが召喚・反転召喚に成功した時、自分フィールド上に存在するモンスターの数まで自分フィールド上に“銃士トークン”(悪魔族・闇・星4・攻/守500)を特殊召喚する事ができる。また、自分のスタンバイフェイズ毎に自分フィールド上に表側表示で存在する“銃士”と名のついたモンスター1体につき相手ライフに300ポイントダメージを与える事ができる。この効果を発動するターン、自分フィールド上に存在する“銃士”と名のついたモンスターは攻撃宣言をする事ができない。

 

 

 銃士トークン☆4闇 ATK/500DEF/500

 

 

 コナミのフィールドへ現れる1体の悪魔。両翼を羽ばたかせ、フィールドに現れた悪魔は分裂して2体の分身を作り出す。

 

 

「まだまだ行くぞ! オレは手札から天変地異を発動! このカードがフィールド上に存在する限り、お互いのプレイヤーはデッキを裏返しにしてデュエルを進行する!」

 

 

 覚悟を決め、動き出したコナミが発動したカードにより世界がぐるりと反転する。そんな錯覚をしながら裏返したデッキの一番上のカードを確認したコナミは新たなカードを発動させる。

 

 

「オレは手札からデーモンの宣告を発動! 1ターンに1度だけ、500ライフポイントを払いカード名を宣言する事ができる。その場合、自分のデッキの一番上のカードをめくり、宣言したカードだった場合手札に加える。違った場合はめくったカードを墓地へ送る。ライフを払ってオレは最後の幻魔、降雷皇ハモンを宣言する!」

 

 

 小波赤人LP3000→2500

 

 

 勿論、天変地異によってデッキから次に引くカードが判っているコナミの宣言は当たり、宣言した最後の幻魔がコナミの手札へ加える。

 

 

「ふん、なんだかんだで流石コナミと言った所か……」

 

「ん? なんでだよ、万丈目。次に引くカードが判ってるんじゃあ、当てて当然だろ? でも、先の判る決闘なんて面白いのか?」

 

「いや、十代。そこは問題じゃない。コナミはあのコンボを成立させた時点でデッキのカードをドローするか、墓地へ送るか、選択する事が出来るんだ。そうだな、カードの中には墓地でこそ効果を発揮するモノがある。そういったカードを直接墓地へ送る事が出来るようになったんだ。それに恐らく、それだけでは無い筈だ」

 

 

 コナミの戦術に感心した様子で頷く万丈目。そんな万丈目の様子に十代が首を傾げて、三沢が十代へ状況を説明する。

 

 

「オレは手札から平和の使者を発動! このカードはフィールド上に表側表示で存在する攻撃力1500以上のモンスターは攻撃宣言をする事ができない。このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に100ライフポイントを払う。または、100ライフポイント払わずにこのカードを破壊する。そしてオレは天変地異・デーモンの宣告・平和の使者、3枚の永続魔法を生贄に最後の三幻魔、降雷皇(こうらいおう)ハモンを特殊召喚!」

 

 

 曇天の空に雷鳴が轟いた。数多の雷光と共に雷がフィールドへ落ちる。一際大きな落雷がコナミのフィールドへ落ちた後、最後の幻魔が降臨した。

 

 

 降雷皇ハモン☆10光 ATK/4000DEF/4000

 効果・このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に表側表示で存在する永続魔法カード3枚を墓地に送った場合のみ特殊召喚する事ができる。このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。このカードが自分フィールド上に表側守備表示で存在する場合、相手は他のモンスターを攻撃対象に選択できない。

 

 

 大きな翼と雷を纏った体躯、圧倒的な威圧感は三幻魔の中で最も強い。

 

 

「オレはラビエルの効果発動、銃士トークンを生贄に捧げて、ラビエルを強化。ラビエルでサイバー・エンド・ドラゴンを攻撃、天界蹂躙拳!」

 

 

 幻魔皇ラビエルATK/4000→4500

 

 

 幻魔トークンによって力を増したラビエルの拳とサイバー・エンド・ドラゴンが放った光線が激しくぶつかり合う。均衡は一瞬、ラビエルの拳が光線を弾き飛ばし、サイバー・エンド・ドラゴンへ迫る。

 

 

「トラップ発動、攻撃の無敵化! バトルフェイズ時にのみ、以下の効果から1つを選択して発動できる。●フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターはこのバトルフェイズ中、戦闘及びカードの効果では破壊されない。●このバトルフェイズ中、自分への戦闘ダメージは0になる! 俺は戦闘ダメージ0を選択!」

 

「なんだとッ!」

 

 

 ラビエルの拳によって正面から破壊されるサイバー・エンド・ドラゴンの姿を目撃したコナミが驚愕に染まる。このターン、何かしらの策でサイバー・エンド・ドラゴンを守りきるだろうと思っていたコナミとしては最悪、ハモンとの同士討ちでサイバー・エンド・ドラゴンを排除するつもりだった。しかし、現実は違った。自分のLPを守る為に亮は相棒であり、エースモンスターであるサイバー・エンド・ドラゴンを見捨てたのだ。コナミの中で何かがキレた。

 

 

「カイザー! お前、やる気があるのか!」

 

 

 その叫びは無意識の内に出た心からの叫びだった。最強の決闘者と最強のモンスター、最高のコンビであるペアを倒して初めてコナミは亮へ勝利する事が出来る。最高のペアと認めていたからこそ、亮の暴挙を許す事が出来なかった。

 

 

「…………俺は俺のベストを尽くす。それだけだ」

 

「ああ、そうかよ! オレはカードを2枚伏せてターンエンド!」

 

 

 幻魔皇ラビエルATK/4500→4000

 

 

 乱暴にターンを終了させるコナミ。その態度は明らかに冷静さを欠いている。そんなコナミと対象的に冷静沈着な面持ちで亮はデッキへ手を添えると小さく瞳を閉じる。

 

 薄い暗闇の中、コナミの感情が伝わってくる。自分とサイバー・エンド・ドラゴンの事を心の底から尊敬し、好敵手(ライバル)として認めていたからこその怒り。決闘者にとって、自分と自分のモンスターの為に本気で怒ってくれる好敵手がいる事は名誉な事だ。

 

 

 ――――でも、だからこそ、自身の全力を好敵手(コナミ)へぶつける必要がある。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 カードを引き抜き、確認する。カードを確認した亮が小さく笑った。

 

 

「俺は手札から大嵐を発動! フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する!」

 

「させるか! トラップ発動、魔宮の賄賂! 相手の魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。相手はデッキからカードを1枚ドローする! お前の好きにはさせん!」

 

 

 フィールドへ吹き荒れそうになった風が消え、代わりに風に乗って1枚のカードが亮の手札へ飛んでくる。

 

 

「お前は少し冷静になった方がいい。本当に俺がサイバー・エンド・ドラゴンを“無駄死”させると思っているのか?」

 

「~ッ!」

 

 

 その気迫に息を呑むコナミ。闇の力を手にして、行使するコナミだからこそ、亮の纏う気配と意志に気付いた。

 

 

「良い決闘が出来ればそれで満足? ――――いや、それは違う。それは俺の傲慢で独りよがりな我侭だった。決闘者なら相手に勝利する為の努力を惜しまない。それを俺に教えてくれたのはコナミ、お前だ。だからこそ、俺はお前に勝ちたい。――お前だけには負けたくない! だから俺は勝利をリスペクトする! 俺の持つ闇すら認めて、俺はお前に勝つ!」

 

 

 亮の持つ1枚のカードから大量の闇が噴き出した。しかし、その闇の正体をコナミは正しく理解していた。邪悪な闇ではなく、正しい闇の力。敵を排除する力ではなく、勝ちたいと願うからこそ、敵を倒すと決めた黒い心。

 

 

「俺は手札からオーバーロード・フュージョンを発動! 自分フィールド上・墓地から、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターをゲームから除外し、機械族・闇属性のその融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。俺は墓地に眠るサイザー・ドラゴンとサイバー・エンド・ドラゴンを含む6体の機械族モンスターを除外して融合! 現れろ、キメラテック・オーバー・ドラゴン!」

 

 

 キメラテック・オーバー・ドラゴン☆9闇 ATK/?→5600DEF/?→5600

 効果・このカードが融合召喚に成功した時、このカード以外の自分フィールド上のカードを全て墓地へ送る。このカードの元々の攻撃力・守備力は、このカードの融合素材としたモンスターの数×800ポイントになる。このカードは融合素材としたモンスターの数だけ相手モンスターを攻撃できる。

 

 

 サイバー・エンド・ドラゴンすら超える6つの頭を持つ機械仕掛けの竜がコナミの目前へ現れ、獰猛に哮り立つ。サイバー・エンド・ドラゴンが光なら、キメラテック・オーバー・ドラゴンは闇。勝利を見据え、自分自身をリスペクトした亮だからこそ手に入れた光と闇のエース。

 

 

「キメラテック・オーバー・ドラゴンでコナミのフィールドにいるモンスター全てに攻撃、エヴォリューション・レザルト・バースト!」

 

「――――トラップ発動、ガード・ブロック!」

 

 

 破滅の極光が目前まで迫った時、コナミは慌てて守りを固める。しかし、圧倒的な力の前にコナミは吹き飛ばされる。吹き飛んだコナミは軋む身体に鞭を打ち、立ち上がる。軽減されたとはいえ、キツイ一撃を受けた。

 

 

 小波赤人LP2500→900

 

 

 コナミのフィールドは焦土と化していた。フィールドを埋め尽くしていた幻魔とトークンは見る影も無い。三幻魔は亮によって跡形も無く撃破された。コナミの身体が小さく痙攣している。こみ上げてくる感情をコナミは抑えきれなかった。

 

 

「――――す……よ、すげーよ、亮! こんなのを見せられて燃えない訳がないよなあ! 楽しすぎるぞ!」

 

「ふッ、俺はカードを3枚伏せてターンエンド」

 

 

 デュエルモンスターズへ触れたばかりの子供を思わせるような瞳の輝きを浮かべて楽しそうに笑うコナミ。そんなコナミの表情に亮は小さく笑ってターンを終了した。

 

 

 勝利を求め、何時の日か、良い決闘――――楽しい決闘を忘れていたコナミ。

 

 相手をリスペクトして、良い決闘――――楽しい決闘を求めて、決闘者にとって大切な勝利を求める意志が希薄になっていた亮。

 

 

 勝敗は歴然でありながら、お互いがお互いを好敵手(ライバル)として認めていた理由はお互いに足りない物を本質的に理解して、お互いに相手へ見出していたから。

 

 

「俺のターン」

 

 

 コナミがデッキへ手を添える。相手に勝つ。それは決闘者にとって楽しい事とイコールだ。負ければ悔しいし、悲しい。状況は圧倒的に不利。それでもコナミの心からワクワク以外の感情が見付からない。手札は無限の可能性。ドローする瞬間こそ、決闘において最も心が躍る瞬間。

 

 コナミの持つ闇の全てがデッキへ集結する。ワクワクが止まらない、ドキドキが止まらない、手札という無限の可能性をドローするこの瞬間が本当に楽しい。

 

 

「ああ、そうか、そういうことか……」

 

 

 コナミは納得して一人頷く。

 

 小波赤人――――赤人は何処までも過去を引き摺る異分子だった。心の何処かで達観して、所詮はカードゲームと見下していた。本気で決闘と向き合わず、勝敗を気にした事も無かった。

 

 ダークネス・セキヒトは貪欲に勝利を求める修羅だった。相手を否定し、叩き潰す事で勝利を得る。決闘を楽しむ心を忘れていた。

 

 そして今、貪欲に勝利を求め、決闘が楽しくて仕方ない。ここに至ってようやく全てが揃った。完成した。

 

 “決闘者(デュエリスト)・小波赤人”のピースが揃い、完成した。

 

 

「ドロォォォォー!」

 

 

 膨大な闇の力と共にカードを引き抜く。内容を確認したコナミはそのままカードを発動させる。

 

 

「オレは手札から愚かな埋葬を発動! 自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。オレが墓地へ送るモンスターはファントム・オブ・カオス! そして手札から死者蘇生を発動! 自分または相手の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する! オレは墓地へ送ったファントム・オブ・カオスを蘇生! 最後に地獄の暴走召喚発動! 相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分フィールド上に攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から全て攻撃表示で特殊召喚する。相手は相手自身のフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、そのモンスターと同名モンスターを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する!」

 

 

 ファントム・オブ・カオス☆4闇 ATK/0DEF/0

 効果・自分の墓地に存在する効果モンスター1体を選択し、ゲームから除外する事ができる。このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、このカードはエンドフェイズ時まで選択したモンスターと同名カードとして扱い、選択したモンスターと同じ攻撃力とモンスター効果を得る。この効果は1ターンに1度しか使用できない。このモンスターの戦闘によって発生する相手プレイヤーへの戦闘ダメージは0になる。

 

 

 怒涛のラッシュによりコナミのフィールドへ並ぶ3体のモンスター。一切、姿形を持たない闇がそのままモンスターになっている。ファントム・オブ・カオス自体に戦う力は無い。だが、それを補って余りある力を秘めている。

 

 

「オレはファントム・オブ・カオスの効果発動! 三幻魔をゲームから除外する!」

 

「一体、何が起きている! 倒したはずの三幻魔が何故、復活している!」

 

 

 万丈目が戸惑うようにコナミのフィールドには影で出来た三幻魔が復活していた。思い掛けない出来事に十代達は目を丸くしている。そんな中、亮だけが楽しそうに笑っていた。

 

 

「来い」

 

「言われなくても勝手に行くさ! 最後の最後に見せてやる、これが三幻魔の究極だ! オレは三幻魔をゲームから除外する事で混沌幻魔アーミタイルを特殊召喚!」

 

 

 混沌幻魔アーミタイル☆12闇 ATK/0→10000DEF/0

 効果・このカードは戦闘によっては破壊されない。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は自分ターンのみ10000ポイントアップする。

 

 

 曇天の空が割れ、風が止む。大荒れだった海は静寂を取り戻し、世界の刻が止まる。

 

 

 ――――決闘者・小波赤人の指示に従い、最強の幻魔が降臨した。

 

 三幻魔が交わったその姿に十代達は驚きの声すら出ない。コナミという決闘者に出会わなければ、最強の邪悪として立ち塞がった可能性すらあるモンスター。そんなモンスターの登場にこの場にいる全員がワクワクしていた。

 

 

「オレは混沌幻魔アーミタイルでキメラテック・オーバー・ドラゴンを攻撃、全土滅殺転生波!」

 

「トラップ発動、ダメージ・ダイエット! このターン自分が受ける全てのダメージは半分になる。また、墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、そのターン自分が受ける効果ダメージは半分になる!」

 

 

 丸藤亮LP4000→1800

 

 

 圧倒的な力の放流がキメラテック・オーバー・ドラゴンを一瞬にして押し潰す。攻撃の余波は留まる事を知らず、亮へ襲い掛かる。トラップによって一命を取り留めた亮。たった1ターンで戦況が大きく引っくり返された。

 

 

 混沌幻魔アーミタイルATK/10000→0

 

 

「オレはカードを3枚伏せてターンエンド」

 

 

 全ての手札を伏せ、ターンを終了させるコナミ。可能性という未来を全て掛けた。

 

 そして、それは亮も同じ事。コナミは万全の守りを固めた筈。それを打ち破るにはこちらも全ての可能性を掛けなければ打ち破ることは出来ない。

 

 

「俺のターン、ドロォォォォー!」

 

 

 誰も聞いた事がない、亮の雄叫びが響き渡る。手にしたカードを確認した亮は迷うことなく、伏せていたカードを発動する。

 

 

「トラップ発動、異次元からの帰還! ライフポイントを半分払って発動できる。ゲームから除外されている自分のモンスターを可能な限り自分フィールド上に特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズ時にゲームから除外される!」

 

 

 丸藤亮LP1800→900

 

 

 自らの命を削り、ゲームから除外されたモンスターが次々に帰還する。フィールドに並ぶ3体のサイバー・ドラゴン。

 

 

「俺は手札からパワー・ボンドを発動! 3体のサイバー・ドラゴンを融――――」

 

「それが本気で通ると思っているのか! トラップ発動、魔宮の賄賂!」

 

「――――無理矢理にでも通させてもらう! トラップ発動、神の宣告! ライフポイントを半分払って発動する。魔法・罠カードの発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚のどれか1つを無効にし破壊する!」

 

 

 丸藤亮LP900→450

 

 

「オレの読み勝ちだ! トラップ発動、魔宮の賄賂!」

 

「3枚目だと!」

 

 

 悪徳商人の手によって神様へ賄賂が渡される。そして初めて亮の表情が驚愕に染まる。明らかにトラップを発動するタイミングが可笑しい。カウンター罠が二つも存在したなら、一つは異次元からの帰還に使用するべきだった。

 

 

 ――――腹の読みあい、戦術のぶつかり合いはコナミが制した。

 

 

 コナミのフィールドに伏せられた最後のカードは確実に攻撃を防ぐ為のモノ。次のターンを防ぐにはどうしてもモンスターを召喚しなければならない。

 

 

 そんな中、未だ完全復活せず、決闘を見守っていた翔が呟いた。

 

 

「お兄さんにはまだ、ドローが残っているよ」

 

「ッ!」

 

 

 翔の言葉に亮は目を見開く。翔の言う通り、亮にはまだ魔宮の賄賂によるドローが残っている。それも神様から齎されるドローだ。

 

 

 亮がデッキへ手を添える。光でもなく、闇でもない。全く別の力が亮の手に宿る。それは儚く、頼りない。だが、味方にすれば亮を誰よりも強くする最強の力。

 

 

「ドロォォォォォー!」

 

 

 ドローするカードを亮は確信していた。カードの内容すら確認せず、カードを発動させる。

 

 

「俺はパワー・ボンドを発動! 3体のサイバー・ドラゴンで融合! 現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!」

 

 

 サイバー・エンド・ドラゴンATK/4000→8000

 

 

 具現化する兄弟の絆。圧倒的なその姿にコナミはただ笑った。だが、それで負けを認めるほど、コナミは諦めが良くない。

 

 

「サイバー・エンド・ドラゴンで混沌幻魔アーミタイルを攻撃、エターナル・エヴォリューション・バースト!」

 

「トラップ発動、攻撃の無力化! 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する!」

 

 

 極大の閃光がアーミタイルへ迫る。その瞬間、光の渦がアーミタイルの前へ現れ、光の渦を呑み込む。

 

 その様子を認めた亮は手札から1枚のカードを取り出す。

 

 

「俺は手札からサイバー・ジラフを召喚、そして効果発動。このカードを生け贄に捧げる。このターンのエンドフェイズまで、このカードのコントローラーへの効果によるダメージは0になる。カードを1枚伏せてターンエンド」

 

 

 最後まで抜け目無くパワー・ボンドのデメリットを回避する亮。その姿を見届けたコナミは確信を持って言える最後のドローを行なう。

 

 

「オレのターン、ドロー!」

 

 

 混沌幻魔アーミタイルATK/0→10000

 

 

 最後のドローカードを確認したコナミは小さく溜息を吐く。最後のドローのはずなのに特に今は必要の無いカードだった。デッキが決着を付けろと言っていた。

 

 

「――――これで、オレの勝ちだ。オレは混沌幻魔アーミタイルでサイバー・エンド・ドラゴンを攻撃、全土滅殺転生波!」

 

「この瞬間、トラップ発動、決戦融合-ファイナル・フュージョン! 自分フィールド上に存在する融合モンスターと相手フィールド上に存在する融合モンスターが戦闘を行う場合、その攻撃宣言時に発動する事ができる。お互いのプレイヤーは戦闘を行うモンスターの攻撃力の合計分のダメージを受ける!」

 

「あ~、くそ! 最後の最後で引き分けかよ!」

 

 

 アーミタイルとサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃が交じり合い、爆発する。悔しそうに頭を掻き毟るコナミの表情は引き分けなのに明るい。周りを見てみれば、十代達も笑っている。

 

 そんな中、亮が最後のカードを発動した。

 

 

「――――墓地からダメージ・ダイエットを発動、ゲームから除外する事で効果ダメージを半分にする」

 

「? ッ! 亮、お前まさか!」

 

「ふッ、同じ引き分けでもこちらの方が良い」

 

 

 亮の意図にコナミが気付いた時はもう遅く、巨大な爆発が二人を包み込む。

 

 

 小波赤人LP900→-17100

 

 丸藤亮LP450→-8775

 

 

 コナミと亮は2倍に近いダメージ量で引き分けとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数ヵ月後、大勢のアカデミア生が見守る中、向かい合う二人の姿があった。二人の決闘は既にデュエルアカデミアの名物となっている。しかし、それもこれで見納め。

 

 卒業決闘、それが二人の間で行なわれる決闘。

 

 

「この決闘、よく引き受けてくれた」

 

「当たり前だ。最初の99戦は連敗で100戦からは負けたり引き分けたりした。なら、この記念すべき200戦目でオレが勝つ! 最後の最後に敗北の悔しさを知っていけ! ソレがオレに出来る最後の手向けだ!」

 

「敗北の悔しさなど、昔から知っている。だからこそ、俺は勝利すらリスペクトする!」

 

 

 二人はデュエルディスクを構え、宣言する。

 

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 

 小波赤人――――彼は遊戯王TFへ転生したハーレムを目指した…………でも、彼は結局、一人の決闘者(デュエリスト)だった。

 




本編完結でございます。
決闘者、それは最強のフラグブレイカー(笑)
Q影丸は? Aえ、何だって?
Qカイザーエンド? Aえ、何だって?
グダグダですが、これでストーリー性のある話は終わりです。
後は自分が好きなキャラの短編をいくつか更新したら、エタる前に完結させていただきます。
自分勝手なお願いかもしれませんが、それまでは応援よろしくお願いします。


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嘘予告

遊戯王TF7発売決定を知って、衝動でやってしまった。
後悔はしていない。


 はじまりの目覚めは白の世界。

 

「何処だ、ここ?」

 

『――――私の名前はZ-ONE』

 

 その出会いは必然だった。

 

『――――貴方の正体は我々が過去のデータを参考に人格情報を刷り込んだデュエルマシーンです』

 

 明かされる衝撃の事実。自身の根幹が虚像であった事。

 

「おい、デュエルしろよ」

 

 しかし、彼は動じない。

 

「偽物とか、本物とか、正直どうでもいいよ。今、ここにある事実は俺とお前は決闘者(デュエリスト)でデッキを持っている。それだけだろ?」

 

『……正気ですか? 貴方の持っているデッキを組んだのは私ですよ?』

 

 始まったデュエルは結果が分かり切っていた。

 

『だから言ったのです。貴方のデッキでは私には敵いません』

 

 ――――だけど。

 

 諦める事を止めた彼には彼の手にするデッキの鼓動が聞こえた。

 

「そっか、そうだよな。お前達は俺のデッキでも俺の仲間でもない。アイツの組んだ、アイツのデッキだ……」

 

 でも、だからこそ。

 

「人類に。デュエルモンスターズに絶望しているアイツをどうにかしたいよな。だったら俺に力を貸せ! 俺がアイツにデュエルモンスターズの可能性を見せてやるよ!」

 

 デッキと彼の間に絆は無い。それでも……同じ目的の為ならいくらでも協力出来る。力を合わせる事が出来る。可能性を生み出す事が出来る。

 

「さあ、行くぜ、Z-ONE! 勝手に絶望なんてしてんじゃねえ! 俺が見せてやるよ。お前の知らない――――可能性を!」

 

「集いし祈りが新たな可能性を切り開く! 光を超えたその先で降臨せよ! 閃珖竜(せんこうりゅう) スターダスト!」

 

『――――私の知らないスターダスト・ドラゴン!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、アキねーちゃんの所にも転校生が来たの? 俺達のクラスにもルチアーノってやつが来たんだ」

 

「確か、彼はコナミって名乗っていたかしら……」

 

「コナミだと」

 

「遊星、何か知っているの?」

 

「いや、俺の勘違いだろう。あの人がこの時代にいる筈が無い」

 

 遊星の脳裏を過るのは過去の激闘の一ページ。

 

『あの兄弟以外にサイバー・エンドを使われるのは気に食わないからな。ヨハンの方は十代がなんとかするだろ。だから、刈らせてもらうぜ、パラドックス』

 

 彼から溢れ出る力の放流は地縛神のソレに似ていて。

 

『まあ、これから色々大変だと思うが頑張りな。仲間との絆を大切に。後、十代にもよろしく言っといてくれ』

 

「ああ、コナミの奴か。アイツは悪い力を使っているけど悪い奴じゃないから大丈夫だぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その出会いは彼の好奇心から始まった。

 

「お前がジャック・アトラスか?」

 

「なんだ、貴様は!」

 

「キングのデュエルを体験してみたくてね」

 

 戦いのゴングは突然に。

 

「――――我が魂! レッド・デーモンズドラゴン!」

 

「ようやく、お出ましか。それじゃあ、俺達も行こうか。レッド・デーモンズドラゴン」

 

 ――――相対する二体の紅蓮魔龍。

 

「貴様ッ! あの時の偽物の関係者か!」

 

「さてね、俺はキング程度には負けられないんだよ。カイザーのライバルだった身としてな」

 

「ふん、勝手に言っていろ! 今の俺はチーム5D'sのジャック・アトラスだ!」

 

 自らの魂の贋作を操る彼に怒るジャックへ彼は問う。

 

「なあ、ジャック・アトラス。お前からしたら俺達は本当に貶されるだけの、見下されるだけの決闘者なのか?」

 

「――――ッ!」

 

 否定の言葉は出なかった。理性も感情も彼の事を許せない。しかし、もっと根本的な。決闘者としての本能が、彼を、彼と共に立ちふさがる紅蓮魔龍を否定する事が出来なかった。

 

「そうか、ありがとう。これで俺達は先に進める。行こうか、琰魔竜(えんまりゅう)レッド・デーモンズ」

 

 

 

 

 

 

 

 戦いの果ての邂逅は鏡合わせの存在。

 

「Z-ONE! お前達の計画は絶対に止めてみせる」

 

『まさか、ここまで来るとは……。彼の言った可能性が正しかったようですね。ですが、私にも譲れぬモノがあります』

 

 最終決戦は鏡合わせの戦いで。

 

「俺はスピード・ウォリアーを召喚!」

 

『私はスピード・ウォリアーを召喚します』

 

 激闘の果て、勝敗は彼らが信じるエースに託された。

 

「『――――飛翔せよ! スターダスト・ドラゴン!』」

 

 

 

 

 

 カミテン〜遊戯王TFへ転生してハーレム目指す--でも〜2nd

 

 はじまらない。

 




ぶっちゃけ、アニメ版時械神が強すぎて、最初のデュエル構成で止まってる。キリッ。


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