天災兎と人喰いトカゲ 〜Armour Zone〜 (TearDrop)
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第1章 Armour Zone
EP.1 Amazonz


こんにちは、TearDropと申します。
あらすじにもある通り、仮面ライダーアマゾンズとインフィニット・ストラトスのクロスオーバー作品です。苦手な方はお戻りください。

それでもいいという方は、どうぞご覧ください。


 不思議の国のアリスを彷彿とさせるような衣装に身を包んだ女性ーー篠ノ之束は、ある人物からのメールでとある研究所に来ていた。

 本来なら、心を許した人物にしか心を開かない束だったが、メールの内容に惹かれた。

 メールの内容は、簡単な物だった。〝君が面白いと言える物がある〟とだけ。

 後は研究所の場所だけが記載されていた。束はそんなメールに興味を惹かれ、研究所へとやって来た。研究員達は居ないのか、それとも姿を消したのか分からないが、束は奥へと進んでいく。

 途中、血の臭いがした事から、束は嫌な予感をしていた。

 もしかしたらという考えを捨てず、奥へ進むと〝デンジャー〟と英語で表記された巨大な扉が目の前に現れた。

 束は扉に手を触れて開くかどうか確認しようとした時だった。

 むわっと血の臭いがドアが開いた瞬間、臭ってきたのだ。束は鼻を抑え、顔をしかめつつ奥へ進んでいくと其処には液体が入った一つのポッドがあった。

 それを見た束は呟いた。

 

「……面白いねぇ」

 

 束の目の前にあるのは、〝人間の少年〟が入った一つのポッド。

 しかし、ポッドの周りには幾つもの無惨な死体が転がっており、中には臓器を撒き散らしたまま死んでいる研究員。頭部がない研究員。心臓を抉られた研究員など、様々な死体が転がっていた。

 

「この死体の山は、まさかこの子が全部やったって事かな?」

 

 束は近くにあるコンソールに視線を移すと、其処にはポッドに入った少年のデータが残されていた。データを見た束は怒りが込み上げてきた。

 この少年は〝人工的に作られたクローン〟であり、束の親友とも言える人物〝織斑千冬〟の遺伝子から作られたクローンだった。

 

「あははは、面白いねぇ……笑えないけどね」

 

 束はコンソールを操作し、ポッドを開閉する。

 開閉した瞬間、中の液体がドバッと流れ出る。それと同時に、少年がポッドから落ちてくるが束が少年をキャッチする。

 

「なるほどねぇ。この子、クローンの割には華奢な身体つきをしてるねぇ。ちーちゃんに似せて造られたのかな……許せないなぁ。まぁ、束さんがこの子を造った奴をコテンパンにするけどねぇ」

 

 束がふと、視線を少年から外した時だった。ポッドの下に不思議な物を見つけた。

 束は少年を床に寝かせ、ポッドの下にある不思議な物を手に取る。それは、黒いベルトだった。しかし、ベルトの中央にはグリップが二つ取り付けられており、その中央には目のような物が二つくっついていた。

 もしかすると、このベルトは少年の物なのだろうと考える束。すると少年が目を覚まし、フラフラと立ち上がるが直ぐに膝をつく。

 寒いのか、身体を擦る少年。そんな少年に死んだ研究員の白衣を着せる束。

 

「キミ、名前はあるのかな?」

 

 唐突な質問に、少年は何も答えられない。

 しかし、少年は首を横に振ると束は笑みを浮かべて更に質問を投げかけた。

 

「じゃあ次の質問ね。ココにある死体は、キミがやった物かな?」

 

 束の質問を聞き、少年は視線を周りに移す。

 死体を見て、一瞬驚くが果たして自分がやった物なのか、そうでないのか見当が付かない少年は首を傾げる。

 

「そっかぁ……なら最後の質問ね。キミーーーココで束さんに殺されるか、束さんに着いてくるか、どっちがいい?」

 

 束の質問に、目を見開く少年。少年はさっきまで優しそうな笑みを浮かべていた束が怖く思えてきた。しかし、少年は首を横に振る。

 

「それじゃあ、束さんに着いて来るんだね?」

 

 必死に首を縦に振る少年を見て、束は笑みを浮かべると少年を抱き上げる。少年は一瞬驚くが、束の体温を感じ取って眠くなったのか、そのまま眠りについた。

 

「こうしてると、ちーちゃんそっくりだなぁ。でもまぁ、この子は面白そうで良いかもね」

 

 束は少年を連れ、そのまま部屋を後にする。研究所を出てから数分、研究所は爆発し炎上した。

 束の手には、研究所から拝借した研究資料と黒いベルト、そして〝銀色の腕輪〟が握られており、少年は燃える研究所を見ていた。

 

「どうかした?」

「あ……あ……うぅ……」

「もしかして、寂しい?」

「うぅ……あぅ……」

「大丈夫だよー。キミにはこの天才、篠ノ之束さんがついてるんだから!」

 

 束は少年を優しく抱きしめる。

 少年は束の急な行動に驚くが、少年も同じように束を抱きしめる。暖かいからか、それとも寂しさを紛らわす為か分からない。

 しかし、少年は不思議と束を〝優しい人〟なんだと思い始めた。

 

「そうだ。キミにも名前が必要だよね。ちょっと待っててねぇ……」

 

 束は少年から離れるが、少年はまだ離れたくないのか、束の腕に抱きつく。

 束は少年に笑みを浮かべながらも、近くにあった小枝で地面に文字を書き始める。次々と文字を書いていく束は、少年にぴったりな名前は無いか考え始める。

 すると、少年は束が書いたある文字を指差す。それを見た束は、少年に話しかける。

 

「この文字が良いの?」

 

 少年は首を縦に振ると、束は少年に〝これから少年の人生がどこまでも長く続くように〝にと〝悠《ハルカ》〟と名付けた。

 

「キミの名前はハルカ。良い名前でしょ?」

「うぅ……あぅ……!」

 

 少年ーーハルカは頷く。ハルカの顔は心なしか、笑みを浮かべているように見えた。

 ふと、千冬の事を思い出した束だったが、ハルカが束を見つめている事に気がつき笑みを浮かべる。

 

「それじゃあ悠、行こっか!」

「うぅ……!」

 

 束はハルカと共に歩み始めた。その足取りはゆっくりと、ハルカが歩きやすいように。束は考える。これからハルカはどうなるんだろうか、と。

 もしかすれば、一生話せないかもしれない。こうやって束に甘える事しか出来ないのかもしれない。しかしそんな事はどうでも良かった。今だけは、ハルカと共に歩みたいとさえ思った。

 

 ◇◇◇

 

「アマゾン細胞……人の肉を食らう怪物……計画だと4,000体造られたみたいだけどその内の一体がハルカで、その他の3,999体は動作確認出来ず廃棄処分。代わりに人の肉を食べることの無い〝シグマタイプ〟を開発中ねぇ」

 

 ラボに戻って来た束は研究資料に目を通しながら、コーヒーを飲む。隣では、ハルカがスヤスヤと寝息を立てながら、束の肩にもたれかかっていた。

 ハルカの為に部屋を用意したが、束と一緒に寝たいと駄々をごねた為、こうしている。

 研究資料には、アマゾン細胞というとんでもない細胞について記載されていた。どうやら、様々なクローンを造り、ゆくゆくは4,000体のアマゾンでISに匹敵する程の兵器を開発しようとしていた。

 しかし、束が言うように唯一完成したアマゾンはハルカのみ。

 残りは廃棄処分された。

 

「ISに匹敵って、ISを舐めすぎだよ。だって、束さんが〝造った子〟だよ?アマゾンとか訳の分からない物が勝てるはずないじゃん」

 

 幾ら生物兵器でも、ISに勝てる筈がないのだ。

 しかし束は隣で眠るハルカに視線を移した。スヤスヤと眠るハルカだが織斑千冬のクローンでもあり、体内にアマゾン細胞を宿らせている実験体でもある。

 人を喰う怪物であるなら、いつか自分を喰うのかもしれないと思う束だった。

 しかし、不思議と束は怖くなかった。ハルカはそんな事する子じゃないと、どこか確信めいた物があったからだ。

 

「うぅ……」

「あっ、起こしちゃったかな?ごめんね、直ぐに電気消すから」

「あぅ……」

「ねぇハルカ。ハルカは、束さんの事好きかな?」

「うぅ……うぅ……!」

 

 ハルカは頷く。

 〝好き〟という感情がどういった物なのか分からないが、束は自分にとって命の恩人でもあるのだ。それを見た束は笑みを浮かべ、悠を抱きしめた。

 

「ありがとう。束さんも悠の事好きだよ」

 

 傍から見れば、まるで母と息子のような光景。

 しかし、二人の実態を知っている者から見れば、〝天災〟と〝実験体〟。変わった関係だが、お互いに信頼関係の様な物が築かれている。

 〝束〟はハルカの為、千冬の為に研究者を見つけようとしている。〝ハルカ〟は束の為に何か力になりたいと思っている。

 そんな二人の関係がどうなるのか、物語がどうなるのかそれはまだ、誰にも分からない。

 

「さて、次はどうしようかな。ハルカの服を見つけるのも手だけど先ずはそうだなぁ……あっ」

 

 束はふと、ある事を思い出す。

 先日、〝面白い物〟を見つけた。其処には、ハルカと似たような境遇を持つ〝人造人間の少女〟が眠っているのを思い出した束は、ラボを操作し始めた。

 もちろん向かう先は、〝人造人間の少女〟が眠る研究所だった。




如何でしたでしょうか?
少しでも楽しめたなら幸いです。

本来ならパソコンで投稿しようと思っていたのですが、パソコンの調子がどうも悪く、スマホの方で投稿しております。その為、改行できておらず読みにくいと思われますが、パソコンが直り次第修正致します。何卒ご了承ください。

→ハルカ
アマゾン細胞を体内に宿す織斑千冬のクローン。
篠ノ之束に助けられ、束に懐いている少年。今後、オリジナルの千冬と絡むかは謎である。

→篠ノ之束
ISの開発者であり、天災。
ハルカを助けた事によって、恐ろしい計画を知る事になる。


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EP.2 Beast claw

 ハルカは束と共に、束が言う〝面白い物〟があるという研究所へとやって来ていた。

 其処は既に廃棄された研究所で、研究員の姿は誰一人と確認出来なかった。ハルカはショルダーバッグを提げながら、束の後ろを歩いていく。

 ハルカのバッグには、束が研究所から持ち出して来た黒いベルトが入っており、もしもの時はそれを使えと言われた。

 そして、ハルカの左腕に付けられた銀色の腕輪。

 起きたハルカに、束が痛いけど我慢してねぇと言われながら付けられたものだったが、痛くて涙が出たが束に抱きしめられ、泣き止んだハルカ。

 カルガモのように、束の後ろを歩くハルカ。途中、束が歩みを速くしたり遅くしたりなどすると、ハルカは一生懸命に束に付いてくる。

 そこが可愛いんだよねぇと、束は思う。

 

「やれやれ、ようやく到着したね〜。此処、無駄に広いんだもん」

「うぅ……!」

「ハルカもそう思う?だよねぇ〜。束さんだったらもっと狭く出来たと思うんだけどぉ」

「あぅ……!」

「よしっ!じゃあ入っちゃおうか〜。お邪魔しま〜す!」

 

 束が目の前の扉を開けると其処には、一つのポッドが置かれていた。ポッドの中には、ハルカと同じように液体に浸かる〝一人の少女〟が居た。

 流れるような銀髪の少女は目を開くと、二人が見えているのか、じっと二人を見つめる。束はニカッと笑うと近くにあったコンソールを操作し始めた。

 

「キミってアレでしょ?試験管ベビーってやつ。〝人造人間〟として開発されたけど、使われなくなったから廃棄処分されちゃった可哀想な女の子。ハルカと同じだね。この子もね、キミと同じでそうやってポッドに容れられてたんだよ」

「ーーーーーー」

 

 何を伝えたいのか分からない。口にマスクが装着されている為、会話が出来ない。ハルカが少女に視線を向けていると、束の操作が終わったのかポッドの扉は開き、中から液体と共に少女が流れ落ちてくる。

 

「ゲホッゲホッ……あなたは……篠ノ之束……?」

「そうだよぉ〜!で、この子がハルカ。私の可愛い家族。本当に可愛いんだよ?さっきだって私の後ろをカルガモのように付いて来たんだから!」

「そう……ですか。……それで、私に何の用が……」

「キミ、私に殺されるのと私に付いてくるの、どっちがいい?」

「えっ……」

 

 少女は束の問いに疑問を浮かべる。前者は兎も角、後者は何なのだろう。自分は廃棄処分された身。なのに目の前にいる束は、自分を救おうとしている。

 喜びと戸惑い、二つの感情が少女の中で湧き起こっていると束が急かすように口を開く。

 

「ねぇどっち〜?束さん、早く帰りたいんだけど早くしてくれないかなぁ?」

「えっ、えっと……」

「うぅ……あぅ……」

 

 ハルカは裸のままでいる少女が可哀想だと思ったのか、自分が来ていた上着を少女に着せる。少女は突然の事に驚いたが、ハルカに感謝の言葉を告げる。

 

「あ、ありがとう……ございます……」

「ねぇねぇ早くして〜。あと5秒の間に答えないと死んじゃうよぉ。いーち、にー、さーん……」

「い、行きます……私を、連れて行って……ください」

「よし!なら決まりだね。それじゃあキミはこれから〝クロエ・クロニクル〟って言う名前ね!どう、可愛いでしょう?」

「は、はい……可愛い、です……!」

 

 初めて、〝人間〟として扱ってもらったのが嬉しかったのか、少女ーークロエは笑みを浮かべる。

 ハルカはクロエを立ち上がらせるが、筋力が衰えているのかガクッと膝をつきそうになるが、ハルカがクロエを支えた。

 

「ありがとう、ございます……ハルカさん」

「あぅ……!」

「うんうん!仲睦ましい兄妹愛だねぇ!」

「兄妹、ですか……そうかもしれませんね」

「それじゃあ、早く此処から出よっか!束さん、歩き疲れちゃっーーーー」

 

 その時だった。

 突如、研究室のアラームが鳴り響く。ハルカとクロエが驚く中、束は険しい表情を見せる。

 恐らく何かしらの事故、もしくは緊急事態に備えていたのだろう。何故ポッドやコンソールが稼働していたのか、納得ができる。

 廃棄処分するなら、ポッドやコンソールや研究所の電源は全てオフにして行く筈だ。

 

「大丈夫だよ。束さんに掛かれば、これくらいちょちょいのちょいだからね!」

 

 二人を安心させる為か、束はそう言うと何処から出したのか分からない小さなメモリーを取り出し、そのままコンソールへと接続し、研究所のシステムにアクセスし始める。

 

「ちょっと待っててねぇ。直ぐに出してあげーーーーは?」

「どうかしましたか……?」

「ハルカ、バッグの中にあるベルトを出して!早くっ!!」

「うぅ……!」

 

 ハルカは束が怒った顔に怯えつつも、束に言われた通りにバッグから黒いベルトを取り出す。

 次の瞬間、ポッドの近くの床が起動音を上げながら開いて行く。まるで何かが射出されるかのように出てくるそれは、一人の男性だった。

 しかし、それだけならまだいい。

 研究所に誰かが残っていたならば束一人でも蹴散らすことが出来た。しかし、男性の左腕にはハルカと同じ〝銀色の腕輪〟が装着されていた。束は直ぐに理解した。

 目の前にいる男も、ハルカと同じ〝アマゾン〟だと言うことを。

 男はカッと目を見開き、クロエへ向かって走り出しだが、それを防ぐようにハルカがクロエを庇い、束が男を蹴り飛ばした。

 

「あぁもう!早く帰りたいのに何で邪魔するかなぁ!」

 

 束は怒りながら、再びコンソールを操作し始める。すると、蹴り飛ばされた男の方向から爆発音と熱風が吹き荒れた。

 そして、其処に居たのは既に男の姿をしたものではなく、異形の姿をしていた。そう、男が姿を変えたのはアリの姿をした〝アマゾン〟だった。

 

「篠ノ之束、試験体第一号、確認。排除します」

 

 まるでロボットのように、淡々と喋るアマゾン。

 感情が無いのか、もしくはただのロボットになってしまった男なのか。しかし、束は思い出した。

 ハルカが居た研究所から拝借した研究資料に書かれていた内容ーーー〝シグマタイプ〟の事を。

 

「あれがシグマタイプっ!?なんで所にシグマタイプがいるのさっ!」

 

 アリアマゾンは束に向かって走り出した。アリアマゾンの腕が束の胸に伸びるーーーー

 

「あぁああああっ!!」

 

 ーーーー事は無く、ハルカがアリアマゾンに突進し、突き飛ばす。

 しかし、アリアマゾンはすぐさま立ち上がり、ハルカも排除しようと目標の更新を設定した。

 

「目標、更新。〝オメガタイプ〟、排除します」

「っ!ハルカッ!ベルトを付けーーー」

 

 束がハルカに叫んだが、時既に遅し。

 アリアマゾンの突進を喰らい、血を吐き出しながら壁に激突した。

 

「ハルカッ!?」

「ハルカさん!」

「オメガタイプ、排除完了。篠ノ之束、試験体第一号を確認。排除します」

 

 アリアマゾンは束とクロエにゆっくりと近づいて行く。着実に、確実に、二人の元へ歩みを進める。束は念の為にと用意していたISを持ってきているが、展開るのが先か、自分が殺されるのが先か。

 束がクロエを背中に隠しながら、そう考えていた時だった。研究室に爆発音と熱風が響き渡る。

 何事かと、アリアマゾンはハルカの元に視線を送ると同時に、束とクロエも視線を向ける。

 其処に居たのはーーー

 

 《Omega…!Evolu…Evo…Evolution…!》

 

 ーーー緑色の体表面、オレンジ色の胸部装甲、赤い釣り目状の複眼。全身が鎧のように無機質な形状を持ち、四肢の末端を包むブーツ及びグローブ状の部位にも形状の差異が見られるが、腰のベルトを見て一瞬で理解した。

 あれはーーーハルカだと。

 

「ウゥ……アァアアアアアアッ!!!」

 

 ハルカーーーアマゾンオメガが雄叫びを上げ、目の前の敵に視線を向け、走り出す。

 アリアマゾンもオメガに向かって走り出し、両者は拳を突き出す。しかし、一瞬オメガの方が早かったのか、アリアマゾンはオメガの拳を叩き込まれ、吹き飛ぶ。

 オメガは跳躍し、吹き飛ぶアリアマゾンの腹部を脚で踏み抜くと地面に叩き込まれた瞬間、腹部からは血が噴き出る。

 アオメガはアリアマゾンから脚を引き抜き、無理矢理立たせると拳を握り、アリアマゾンの心臓を貫いた。

 そして最後には、そのまま振り上げた。真っ二つとなったアリアマゾンは血を噴き出しながら、黒い泥となって絶命した。

 

「凄い……」

「ハルカ……凄すぎるよ……!」

 

 クロエと束がそう呟く中オメガは息を整え、ベルトを外す。その瞬間、オメガの姿からハルカへと姿を変えて行くと、そのままハルカは地面に倒れる。

 束とクロエがハルカの名前を叫ぶ中、ハルカは意識を無くしつつあった。ふと、〝何か〟が見えた気がしたがそのまま意識を手放した。

 

 ◇◇◇◇

 

 夜景が一望できる最上階のビルに男女は一糸まとわぬ姿で、一夜を共にしていた。

 女性はタオルケットを胸の部分まで隠し、隣の男性は同じくタオルケットを腰の部分まで隠しながら、酒を飲んでいた。

 

「成る程……〝オメガタイプ〟は篠ノ之束の元にいるのか……」

「えぇ、あなたの研究成果だもの。やっぱり嬉しいのかしら?」

「さぁね。嬉しいのか嬉しくないのかって聞かれたら……嬉しくないって答えるね」

「あら、なぜ?」

「そりゃ、近くにいた方が俺が殺せるからな。元々は人類をアマゾン化しようって言ったのは俺だが、4,000体も必要なかったんだよ。最後に残った1匹を俺の手で殺す……まぁ、俺に内緒でアンタらが〝シグマタイプ〟を開発していたのは驚きだが」

「うふふ、ごめんなさいね。アマゾンがどんな物なのか見てみたくて遂……」

「まぁいいけど。〝シグマタイプ〟は人の肉を喰らわずに生きられる代物だ。運用コストもそんなにいらないし、居るのはアマゾン細胞と人間の死体だけ。そんだけありゃ、人間なんていらないからなぁ」

 

 男性は酒を飲み干し、近くのテーブルにグラスを置くと女性を抱き寄せる。あんっと艶めかしい声を出す女性の髪を撫でる男性は、何処か儚げだった。

 

「しかし、アンタ俺と変わらない見た目してるけど俺より年上だろう。まぁ、良い女なのは変わりないけどな」

「フフッ、あんまり女性の歳を気にしちゃダメよ?いつか後ろから刺されるわよ?」

「オータムの事か?アイツはダメだな。アイツは男なんて嫌いってオーラを出してやがる。アイツ、お前にゾッコンだぞ、スコール」

 

 スコールと呼ばれた女性は、男性の頰に触れ、艶めかしく笑みを浮かべる。

 

「フフッ。気にしないでちょうだい。私はあなたにゾッコンなんだからーーージン」

「言ってくれるねぇ」

 

 ジンと呼ばれた男性は、スコールを押し倒すと再び情事を始めた。スコールの声が部屋に響く。それと同時に部屋に置かれていた一輪の花が、花びらを落としていった。




クロエ・クロニクルとの出会い、そしてハルカがアマゾンオメガへと変身を遂げた中、亡国企業〝ファントム・タスク〟が登場。そしてジンと呼ばれた男性。
シグマタイプとは何なのか、オメガタイプが何なのか分からないかと思われますが、追々明かしていきたいと思います。

次回は少し投稿が遅れると思います。何卒ご了承ください。
それでは、次回もよろしくお願いします。
感想や評価、お気に入り登録よろしくお願いします。


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EP.3 Call of machine

お待たせしました。
意外に閲覧されててびっくりしたんじゃあ……!
今回は少しばかり長めになっておりますが、パソコンの調子が悪い為、中々改行が出来ない始末。iphoneめ……絶対許さねぇ!

そして、今回はオリジナル設定が出て来ます。いつか設定集とかを出せたらいいなと思っております。出せたらいいなぁ。


 ハルカが意識を取り戻したのは、クロエ救出から既に三日経った日の事だった。

 目を覚ましたハルカは、束に会いに行くと真っ先に抱きしめられた。豊かな胸が当たって少々息苦しかったのもあるが、ある事に気付いた。

 〝シグマタイプ〟のアマゾンによって受けた傷が既に塞がっていた事だ。本来、普通の人間なら死ぬであろう怪我が、三日も経たないうちに治っていた。その事について、束はこう予測した。

 

「束さんが思うに、もしかしたらハルカの体内にあるアマゾン細胞がアマゾンズドライバーに刺激されて活性化したんじゃないかなと思うんだ。もしくは、ハルカが普通のアマゾンと違うかだね」

 

 束の言いたいことは分かったが、アマゾンズドライバーとは何なのだろうか。

 もしかすると、あの黒いベルトの事を言っているのだろうかと、ハルカはそう考えた。束に問いかけようと声を出そうとした時だった。

 

「束、アマゾンズドライバーってーーーあれ?」

「……ハルカ、今喋ったよね?」

「う、うん。というか、なんで喋れるんだろう」

「……ハルカ、ちょっと血を採らせてもらってもいいかな?」

「うん、いいけど……」

 

 束はハルカから血を採取すると、二人の元に銀髪の少女ーークロエがやって来た。ふと、ハルカがクロエに視線を移す。

 流れるような銀髪には黒い蝶のようなリボンが結ばれており、華奢な身体には何処かのお嬢様が着るような白と紫を基調とした衣装を身に纏っていた。

 

「ハルカ様、身体はもう大丈夫ですか?」

「うん。もう傷も塞がってるし、多分大丈夫だと思うんだけど……その服、似合ってるよ」

「あ、ありがとうございーーーハルカ様、今喋って……」

「う、うん。何故か喋れるようになってて……それより、ハルカ様って?」

「束様とハルカ様は私を助けてくれました。助けてくれた人にはちゃんとした礼儀をと思いまして」

「束はともかく、ハルカでいいよ。歳もそんなに離れてないし……」

「ですが……分かりました。では、ハルカさんとお呼びします」

「うん、その方が僕も助かるよ」

「ハルカ、くーちゃんと一緒に席を外してくれないかな?束さん、ちょっと忙しいからさ」

「えっ……うん、いいけど……」

 

 束に言われ、ハルカはクロエと共に束の部屋を後にした。束はそれを見届けると、ハルカのデータをモニターに表示する。

 モニターにはハルカの様々な情報が記載されており、体重や身長は人間とは変わらない事が分かった。しかし、血液型が他の人間と一致しないのだ。

 

〝BLOOD TYPE:Ω〟

 

 こんな血液型は存在しない。

 特に遺伝子は、織斑千冬の遺伝子を使っている為かそのままである。だが、遺伝子情報にある物が記載されていた。それは〝アマゾン細胞〟だった。

 研究資料によれば、アマゾン細胞は極微小サイズの人工生命体であり、これを人間サイズの大きさにまで培養して造り出されたのがーーアマゾンたちである。

 細胞レベルの段階ですでに人肉を好む本能を有しているが、特殊な薬剤を定期的に投与すれば、その本能を抑制できる。

 そして、ハルカが装着していた銀色の腕輪は一種の安全装置にして位置情報装置。

 特殊薬剤を定期的に装着者の体内へ自動で投与する機能を持ち、薬剤の容量は最長で2年間ほど抑制可能な程度で、薬剤の残りが少なくなると腕輪の眼の部分が赤く変化するーーと、研究資料に記載されていた。

 

「束さんもビックリだねぇ……まさか、こんな事を考えてる奴がいるなんて。束さんはいいとして、これを考えて作った奴は頭がイかれてるか、または別の意味で天才なんじゃないかな?」

 

 そして、資料にはハルカの情報が記載されていた。

 

 〝オメガタイプ〟と〝シグマタイプ〟の違いが記載された資料に、束は視線を向ける。

 〝シグマタイプ〟は人間の死体にアマゾン細胞を投与した事によって生まれたアマゾンであるが、人間のように感情はなく、まるでロボットのように、指示だけを聞く〝人形〟であると。

 〝オメガタイプ〟は人間の遺伝子にアマゾン細胞を投与した事によって生まれたアマゾン。今回選ばれた遺伝子のオリジナルは〝織斑千冬〟であり、〝白騎士〟の操縦者であると。

 〝オメガタイプ〟と〝シグマタイプ〟の違いは運用コストにある。〝オメガタイプ〟は人間の遺伝子が必要である反面、〝シグマタイプ〟は先述通り、人間の死体があれば何体でも量産できる。

 しかし、〝オメガタイプ〟は〝織斑千冬〟のクローン一体しか生産できていないのが現状である。

 

 二つのタイプについての情報は、既に他の研究資料でも目を通していた。しかし、何故〝織斑千冬〟が〝白騎士〟の操縦者だという事を知っているのか。

 それだけが、束は謎だった。嘗て〝白騎士事件〟と呼ばれるIS起動実験を行った際には、束は千冬に協力してもらった事がある。

 しかし全世界の人間全員、白騎士が千冬だとは知らないはずである。それを知っているのは束だけ。

 何処かで情報が漏れたか、あるいは何処かの誰かが束のラボのデータベースに侵入したかのどちらかだ。

 しかし、そんなヘマをする束ではない。

 束は狡猾な部分があるが、親友を売ったりする事は絶対にしない。もしかするとーー。

 

「いいねぇ。何処の誰だが知らないけど、この束さんに喧嘩を売ろうだなんて、百万年早いのさ!」

 

 そう言うと、束は座っている椅子からキーボードを取り出すとカタカタッと打ち始める。束の顔は笑っていたが、その目は笑っていなかった。

 

◇◇◇

 

 ハルカはクロエと共に、束から与えられた自室に戻って来ていた。クロエが淹れてくれた紅茶を飲みながらハルカはアマゾンズドライバーを見つめる。

 このドライバーを付けた瞬間、自分の中のアマゾン細胞が呼応したのを感じたハルカだったが、アマゾンオメガへと姿を変えた瞬間から記憶が飛んでいた。

 気づけばベッドの上だった。ふと、目の前に座るクロエはずっと眼を閉じていた。寝ているのか分からなかったが、念の為に声を掛けた。

 

「……クロエ?」

「はい、なんですか?」

「ずっと眼を閉じてるけど、どうかしたの?もしかして何処か具合が悪いの?」

「いえ、そうではありません。ただ……お見せできる物ではないので余り眼を開きたくないんです」

「束はクロエの眼の事は知ってるの?」

「はい。ハルカさんが寝ている時に……」

「そっか……でも、大丈夫だよ。束だって、アマゾンである僕を受け入れてくれたんだ。クロエの事だってクーちゃんって呼ぶほどだから、どんな姿でも受け入れてくれてるよ」

「ハルカさんは、優しいですね。初めて会った時も、私に服を着せてくれました。あれは、今までで二番目に嬉しかったです」

「二番目なんだ。やっぱり一番目は束から名前を貰ったこと?」

「それもありますが、お二人が私を〝人間扱い〟してくれた事です。私は今まで〝機械〟のように扱われてきました。お二人と出会えた事が、私にとって一番嬉しかった事です」

 

 クロエの笑みに、少しばかり照れるハルカ。

 歳が近いというのもあるが、クロエと出会うまでは束と一緒に居たハルカは女の子に慣れていない。その為どのように接していいのか分からない。

 束に接するようにしていいのか、それともクロエに対しての接し方をすればいいのか分からない。とは言ってもクロエが来てから四日ほどしか経っていない。

 その内の三日間は意識がなかった為、クロエに関しては束の方が詳しいだろう。

 

「それにしても、このドライバーは何なんだろう。このドライバーを付けた瞬間、力が湧き上がったっていうか……変身した直後の事は忘れてるけど」

「念の為ですが、そのドライバーの事で少しお話があります」

「お話?」

「はい。ハルカさんが使うアマゾンズドライバーには体内のアマゾン細胞を活性化させる効果が植えつけられています。アマゾンズドライバーとハルカさんのアマゾン細胞が共鳴した事によって、ハルカさんはあの姿になったのだと思われます」

「あの姿って言われてもよく分からないけど、つまりこのドライバーは、僕の中のアマゾン細胞を刺激して変身させる道具って事?」

「はい。それとそのドライバーはハルカさんにしか扱えないようです」

「僕だけ?」

「はい。アマゾンズドライバーを調べた際、過去のログが見つかりました」

「ログって?」

「ログというのはそうですね……簡単に言えば、日記のような物でしょうか。過去の日記を見れる物をログと言うのです」

「へぇ、クロエって物知りなんだね」

「ありがとうございます。話を戻しますが、アマゾンズドライバーの過去のログにはハルカさんのデータと〝シグマタイプ〟のデータなどもありました」

 

 クロエは端末を取り出すと、操作し始めた。

 ちゃんと見えているか不思議でならなかったが、クロエが〝普通の人間〟とは違うという事をハッキリと分かったハルカは、クロエが表示したログに視線を移した。

 

【◯月◯◯日 午前10時40分。第一試験体〝オメガタイプ〟へ対するドライバーとのシンクロ実験を行った。何度か振れ幅はあるものの、第一、二、三、四回目の実験は全て成功】

 

【◯月◯◯日 午後2時30分。第ニ試験体〝シグマタイプ〟へ対するドライバーとのシンクロ実験を行ったが、実験は失敗に終わった。現段階でアマゾンズドライバーは〝オメガタイプ〟にしか使用不可能という事が実験結果であった。今後、ドライバーの改良を行い、〝シグマタイプ〟とのシンクロ実験を行う】

 

【◯月◯◯日 午前7時30分。第一試験体〝オメガタイプ〟と第二試験体〝シグマタイプ〟のデータ採集を行った。模擬戦闘では〝シグマタイプ〟はダメージを感知しないものの、〝オメガタイプ〟は〝織斑千冬〟の遺伝子を宿しているからか、戦闘力は段違いであった。今後のクローン開発並びに〝オメガタイプ〟の量産の為、多くのデータが必要である】

 

 そこから、様々なログを見ていくハルカとクロエ。

 しかし何故、アマゾンズドライバーに過去の研究データが保存されていたのだろうか。

 

「恐らく、研究所にもしもの場合があった場合、データをアマゾンズドライバーに隠しておこうとしたのでしょう。そのログがあれば、〝オメガタイプ〟の量産化や〝シグマタイプ〟のアマゾンズドライバーとのシンクロ実験を行えるからです」

「………」

「ハルカさん?」

「………いや、なんでもないよ。少し目が疲れたのかも。それにしても、束が言っていたアマゾンズドライバーって言うのは名称だったんだ。束が考えたのかもって思ったけど……もしかして、束はこのログを見たって事かな?」

「恐らくは。ですが、その事を言わなかったのはハルカさんを思ってのことだと思います」

「そっか。束には感謝しなきゃね」

「……怒らないんですか?」

「えっ?」

「束様は、ハルカさんにこの事を黙っていました。普通なら怒るのでは?」

 

 怒る筈がない。束はハルカの自分の事を思って、黙っていてくれた。それは、ハルカを家族のように思っているからだ。ハルカはそれを分かっているから、怒ろうとは思わない。

 

「怒らないよ。それに、クロエだって自分の目の事を僕に言わなかったでしょ?その事に対して、僕がクロエに怒ったりした?」

「……いいえ、してません」

「それと同じだよ。家族を心配させたくないから黙ってるって事は、その人の事を大切に想ってるっていう証拠だよ。クロエも、僕に心配させたくないから黙ってたんでしょ?」

「それは……そうかもしれません」

「だったら怒る必要はないよ。いつか、それを言わなきゃいけない時が来るんだから。だから、今は無理に言わなくてもいいんだよ」

 

 ハルカの笑みに、クロエは罪悪感が生まれる。

 この人は私の事を大切に想ってくれている。束がハルカを想っているように、ハルカもクロエの事を想っているという気持ちが分かり、クロエはハルカに申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。

 

◇◇◇◇

 

 後日、束達が乗る移動用ラボで海外にあるという〝オメガタイプ〟と〝シグマタイプ〟の研究が行われている研究所に向かっていった。

 各地の研究所から拝借した実験データや研究資料などを照らし合わせた結果、海外に研究者達の主任が居る事が分かった。移動用ラボが全速力で海外の研究所に向かう道中、ラボではハルカの身体チェックが行われていた。

 

「……はい。終わったよ〜」

「束、僕の身体の中はどうなってた?」

「うん、何処も異常はないね。ただ、ハルカの中のアマゾン細胞は今も健在。いつ異常が起きるか分かんないけど、その腕輪から投与されてる薬剤のおかげみたいだね。その薬剤自体、アマゾン細胞が起こす食人衝動を抑えてるみたいだし」

「効果は二年だっけ?それじゃあ、二年の間に決着を付けなきゃね」

「ハルカ。二年の間にハルカがどうなるのか束さんも分からないけど、絶対に死なせないし、人を食べるような真似は絶対にさせないからね」

「うん、ありがとう束。それじゃあ、クロエ。今回の作戦の事を聞いてもいいかな?」

「はい。まず、今回の作戦ですがーーー」

 

 クロエから聞いた作戦はこうだった。

 ハルカはクロエと共に研究所内へと侵入し、研究資料の奪取と〝シグマタイプ〟の駆除、もしくはサンプルを入手する事。

 そして、研究所内と外に複数のIS反応が見られた事から、研究所護衛の為のISである事が分かった。これは現場のクロエとラボにいる束が対処するとの事。

 しかし、ハルカが疑問を浮かべる。

 

「僕と束は分かるけど、クロエは大丈夫なの?ISは持ってないんじゃ……」

「実はね、束さんは今!くーちゃん専用のISを開発中なのさ!」

「それに、私は〝ある機能〟を持っています。もしもの時はそれを使用し、ハルカさんを援護します」

「そっか……でも大丈夫だよ。もしもの時は、クロエは僕が守るから」

 

 ハルカの言葉に、クロエは頰を赤く染める。しかしそれを見ていた束が二人をガッと引き寄せた。

 

「むぅ〜、誰も束さんを守ってくれないのかい?束さん悲しいなぁ〜」

「大丈夫。束も僕が守るから、安心してバックアップをお願い」

「………ハルカ、女の子には気をつけなよ?女の子はちょっとした優しい事でも好きになる子はいるんだからね?」

「そうなの?」

「そうだよ。束さんは女の子に超鈍感な子を知ってるんだから。くーちゃんも、男の子には気をつけてね!男は獣って言うから」

「は、はい。分かりました」

 

 束の言葉に、少しばかり戸惑うハルカとクロエ。

 それから二時間後、ハルカとクロエは海外にある研究所へと侵入を開始した。

 

「……よし。束、研究所に侵入したよ」

『うん。こっちからも見えてるよ〜。あ〜、中が結構めんどくさい構造になってるねぇ。侵入者を惑わす為に設計されてるみたいだけど、そんなの束さんには関係ないね!』

 

 束はハルカが掛けているーー不思議の国のアリスを模した装飾が施されているーー眼鏡型のバイザーから、ハルカを通して内部を見ていた。

 正体を隠す用に作られたバイザーは、クロエにも掛けられていた。もし、ハルカやクロエを造った研究者がいた時の為に作られたバイザーは色々多機能らしく、それを明かすにはまだ早かった。

 

『ーーよし、見つけたよ〜。ハルカ、くーちゃん。そこから真っ直ぐ進んだ所に実験データと資料が保管されている場所があるから気をつけて進んでね。IS部隊が見回りをしてるみたいだから』

「分かりました。ハルカさん、行きましょう」

「うん」

 

 ハルカとクロエはその場から真っ直ぐ進み、データが保管されている研究室へと向かった。

 途中、研究員とIS部隊と鉢合わせしかけたが、何とか研究室へとたどり着いたハルカは研究資料を、クロエはコンソールを操作しデータを探し始める。

 

「ーー束様。実験データを見つけました。そちらへ送信します」

『はいはーい!……よし、無事に送られてきたよ〜。ハルカはどう?研究資料見つかった?』

「う〜ん、中々見つからなくて……あっ、これかな?暗くてよく見えないけど……」

『うん。それっぽいね。よし、後はそこを出て〝シグマタイプ〟をーー』

 

 束が次の作戦行動を指示しようとした時だった。

 突如研究所内の警報が鳴り響き、研究所内がざわつき始める。アナウンスでは研究所内にガスが充満し始めたらしく、引火すると危険の為、研究所外に避難しろとの事だった。

 

「束、今のは?」

『あ〜……恐らく罠かもね。敵さん、こっちの行動を把握してるのかそれとも束さん達をおびき寄せようとしてるのかのどっちかだね』

「束様、どうしたらいいでしょうか?」

『う〜ん……〝シグマタイプ〟は駆除したいし、サンプルも欲しいけど、二人を危険に晒す訳にはいかないし……』

「だったら僕は行くよ。クロエは先に戻ってて。僕がサンプルを取っててくるから」

『ハルカッ!束さん言ったでしょ!?危険に晒す訳には……』

「大丈夫、無茶はしないよ。それにもしもの時は変身して脱出するからさ」

『でも……』

「束様、ハルカさんは私に任せてください。危険だと判断した場合は、外に待機している無人機を使って救出をお願いします」

『くーちゃんまで……あぁもう!二人とも、帰ったら束さんのお説教だからね!』

「あはは……よし、行こうクロエ」

「はい」

 

 二人は研究室を出ると束の指示に従い、〝シグマタイプ〟の駆除、そしてサンプルが置かれている研究室へと向かった。

 途中、クロエは何かを感じ取ったが今はそんな時間はないと考え、ハルカの後を付いて行った。

 

◇◇◇◇

 

「ーーーーーーーー」

 

 それは、獣のような姿をした何かだった。それは、機械の姿をした何かだった。それは、獣と機械が融合したかのような姿をした〝怪物〟だった。

 〝怪物〟は声を出せないのか、それとも声を出さないのか分からない。しかし、その目は殺意に満ち、目の前の研究員達を殺戮、貪り始める。バキッゴキッと音が響き、研究員の断末魔が響き渡る。

 

「ーーーーーーーー」

 

 〝怪物〟は研究員達を貪り尽くすと、自分の元へやって来ている二人の侵入者の元へ歩みを進めた。

 遅い足取りだが、その足はゆっくりと確実に、二人の侵入者の方へと進んで行った。




如何でしたでしょうか?
何処まで表現していいのか分かりません。あまりにもグロいのはR−15タグじゃ無理だったんじゃないかなぁ。少し確認してみますが、ここはマズいだろと思った方はご報告下さい。

→オメガタイプとシグマタイプ
本文にある通り、〝オメガタイプ〟は人間の遺伝子にアマゾン細胞を投与したアマゾン。〝シグマタイプ〟は人間の死体にアマゾン細胞を投与したアマゾン。コストは〝シグマタイプ〟の方が安い反面、〝オメガタイプ〟となると人間の遺伝子が必要となる。

→アマゾンズドライバー
原作の仮面ライダーアマゾンズでは〝ベルト〟と名称されていたが、今作では、〝オメガタイプ〟しか使用できないベルトとして実験データにアマゾンズドライバーと名称が記載されていた。

→獣と機械が融合した怪物
これは次回で登場予定。恐らく賛否両論あるかもしれないし、ないかもしれない。それはまだ分からない。

次回は少し遅れる可能性があります。ですので、気長にお待ちください。そして、閲覧・お気に入り登録・感想・ご意見ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。
お気に入り登録・ご意見・ご感想をお待ちしております。


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EP.4 Destruction blade

今回は不完全燃焼回かもしれぬ……!
ですが、第1章はこんな感じです。束とクロエのキャラ、これで合っているのだろうか……。



 ハルカとクロエは、共に〝シグマタイプ〟が保管されている研究室へと向かっていた。

 道中、血の臭いを感じたが、嫌な予感が身体の中を渦巻きながらも研究室へと歩みを進める。

 しかし、何故こうも血の臭いが充満しているのか。

 恐らくは〝シグマタイプ〟の暴走が考えられるが、束の通信では〝シグマタイプ〟は研究室にいると言う情報があった。

 ならば何故ーー前方から何かを引きずる音が聞こえてくるのか。ハルカはクロエは一刻も早く研究室へと向かう為、急いだ。

 

「ーー束、研究所内をスキャンしてこっちに送ってくれないかな?」

『いいけど、どうして?』

「念の為さ。緊急事態に備えてねーーほら、目の前にIS部隊が現れたから」

『そういうこと。分かった、すぐに送信するね』

「お前達、此処で何をしている!まさかお前ら、〝アイツ〟の仲間かっ!?」

「アイツ?一体誰のこと?」

「ハルカさん。今はこの人達を相手している時間はありません。此処は私に任せて、先に行って下さい」

「でもーー」

「大丈夫です。私を信じて下さい」

「ーー分かった。後は任せたよ」

 

 ハルカは後の事をクロエに託し、IS部隊を飛び越えて研究室へと走り出した。IS部隊がハルカを逃がし、クロエへ視線を向ける。

 

「貴様、私達を一人でどうにか出来ると?よく見たら丸腰じゃないか。貴様一人で、私達を相手ーー」

「ーー出来ますよ。〝私〟なら……」

 

 次の瞬間、クロエが目を開いた。

 眼球の白い部分は黒く、瞳の色は金色だった。これがハルカに見せたくない理由だった。しかし、今はそんな事はどうでもよかった。

 今は、目の前のIS部隊を鎮圧するのみ。クロエはゆっくりとIS部隊へと近づいていくと、小さく、自分に聞こえる程度の声で囁いた。

 

「ーーワールド・パージ、起動」

 

◇◇◇◇

 

 ハルカは研究室へと到着し、中へと入る。

 中へ入った瞬間、血の臭いが今までよりも強くなっていく。思わず鼻を抑えるハルカは、目の前の惨状に目を背けたくなった。

 身体半分、何かに食われた痕が残った死体。頭部だけが残った死体に、臓器が出たまま放置された死体など様々な残骸が残っていた。

 それをハルカのバイザーから見ていた束も、思わず吐き気を催した程だった。ハルカは研究室の内部の調査を開始する。

 

「酷い現状だけど、此処に〝シグマタイプ〟が保管されているんだよね?」

『う、うん。そこに腕輪の反応があるから〝シグマタイプ〟はそこにいるよ。もしもの時は駆除、もしくはサンプルの回収をお願いね〜……束さん、ちょっとトイレに行ってくる』

 

 ハルカの時はそこまで酷くない惨状だったが、目の前の惨状には流石の束も吐き気を催した。

 束の通信が切れ、ハルカは研究室の内部を調査し始める。目の前のポッドに〝シグマタイプ〟が容れられていたのだろうか。

 ポッドは破壊され、液体は床に垂れていた。ハルカはコンソールを操作し、メモリーを差し込む。コンソールからメモリーにデータが送信されていくのを見ていたハルカだったが、突如背後から殺気を感じた。

 次の瞬間、ハルカがその場から避けるとコンソールが破壊された。

 

『ハ、ハルカ!今の音は何!?』

「分からない!僕も何が起こったのかーーーーなんだあれ……束、〝シグマタイプ〟は今目の前にいるんだよね?」

『うん!間違いなく〝シグマタイプ〟だーーーーなんだこれ……なんで?なんで〝IS〟の反応が目の前にあるのさ!』

 

ハルカの目の前にいるのは確かに〝シグマタイプ〟のアマゾンだった。

アマゾンオメガに似ているが、銀色のボディに紫の瞳が目立つ姿をしている。

さしずめ、〝アマゾンシグマ〟と言ったところだろうか。腰にはハルカが持つ〝アマゾンズドライバー〟が装着されているが、それ以上に一つだけ違うものがあるーーー〝IS〟が装着されているのだ。

 

「ーーーーーーー」

「っ!?ーーーアマゾンッ!!」

 

《Omega…!Evolu…E…Evolution…!》

 

 とてつもない殺気を感じたハルカはすぐさまアマゾンズドライバーを装着し、グリップを捻る。

 その瞬間、ハルカの身体は緑色の炎と共に爆風と熱風が発せられる。

 アマゾンオメガへと変身を遂げたハルカは、目の前の〝ISを纏ったアマゾンシグマ〟に向かって走り出し拳を叩き込む。

 しかし、シグマにダメージが通っていないのか、それとも〝IS〟の操縦者を守るシールドバリアーが張られているのか、ビクともしなかった。

 シグマはオメガの腕を握ると、そのまま空中に投げ飛ばすと天井に叩きつけられ、地面に落下し激突するオメガ。

 

「ガッーーーー」

「ーーーーーー」

 

 シグマはそのままオメガの方へゆっくりと歩みを進める。ISを纏っている為、空中を浮きながらオメガを見つめている。

 そして、ゆっくりと手を差し出すーーー瞬間、オメガはその場から起き上がるとシグマを蹴り、地面に着地する。

 

『ハルカッ!大丈夫!?』

「分かんない……シグマを止められるかどうかも分からないけどーーーその前に駆除とサンプルの回収は難しいかも。コイツ、ISを纏ってるからダメージが通らないんだ」

『ISを装着してるってことは女性だね。でも、アマゾンズドライバーを装着しているって事はアマゾンって事だし……二つの力を合わせて使うなんて……流石の束さんもびっくりだね』

 

 束は〝IS〟を開発する際、〝人間〟が使う事を想定してISを開発した。

 しかし、〝アマゾン〟が使う事を考えてなかった。束の範疇を超えている為か、ハルカの耳元に掛けられているインカムから何かを呟いていた。

 

『ISをアマゾン用に改造したって事?でも、どうやって?コアを初期化したならまだしもISのコア自体を製造することは出来ないはず……あれは束さんにしか出来ないのに……まさか、アイツらが……』

「束、考えるのは後だ。今はコイツをどうにかするしかない……ウォオオッ!」

 

 オメガはシグマの頭上に跳躍すると、拳シグマへと叩き込んでいく。しかし、ISを纏っているからかダメージが通らない。

 シグマはオメガの拳を払い、右手に専用武器である一本の刀を展開し、オメガに向かって刀を振るう。

 オメガはそれをなんとか避けていき、反撃の隙を伺うがシグマの攻撃は中々隙を見せない。

 ふと、この場をどうやって切り抜けるかをオメガは考えていた。恐らくクロエはIS部隊に苦戦しているだろう。ならば早く助けに行かなければ。

 しかし、シグマを置いて行けば必ずオメガを追ってくるだろう。どうすればいいのか考えていると、腹部を刀によって切り裂かれ、血を吹き出した。

 

「ぐっ……」

 

 一か八かの勝負を掛けるオメガ。

 シグマが刀を自身に向かって振り下ろそうとした瞬間にグリップを捻る。

 

《Violent Punish……!》

 

 その瞬間オメガの右腕の刃が鋭利な刃となり、シグマの刀と右腕の刃がぶつかり合った瞬間、オメガはそのまま力の限りに刃を振るった。そしてシグマの刀の刀身が折れ、ISの鎧を傷つけた。

 

「ーーーーーー」

 

 何が起こった理解出来ないシグマは呆然とする。

 オメガはその隙にその場から走り去り、研究室を出て行く。オメガがクロエの元へ向かう途中、シグマはオメガが居ない事に気付き、オメガを追いかける。

 

「くっ……クロエッ!」

「ハルカさん。〝シグマタイプ〟はーーー」

「話は後!今は逃げるよ!」

 

 オメガはクロエを抱き上げ、走り出す。

 突然の事について行けないクロエを他所に、オメガは出口へと走り出す。先ほど、束に送ってもらった研究室内部の見取り図を思い出しながら走るオメガだったが突如天井が破壊され、シグマが現れた。

 

「ーーーISを纏ったアマゾン……?」

「くっ……クロエ、ちゃんと捕まって!」

「ーーーーーー」

 

 オメガは出口とは違うルートへと走り出すと、それを追いかけるシグマ。

 クロエは追いかけてくるシグマを見て、オメガを問いただす。

 

「ハルカさん!あれは一体……!」

「見ての通りアマゾンだよ。でも、ISを纏ってる時点でおかしいんだ!束は少し混乱してたし……束、外に置いてある無人機を僕が言う所に!」

『分かった!』

「あとは、僕の合図で僕達を回収して!あとそれからーーーー」

 

◇◇◇◇

 

「まさか〝シグマタイプ〟がISを纏うとはね……アンタも恐ろしい事を考えるねぇ」

「フフッ……本来なら〝人間〟にしか装着する事が出来ないISのコアを初期化し、アマゾン専用に変更するシステムを埋め込む。それにより、ISのコアはアマゾンを〝人間〟と認識する。これなら、アマゾンでもISを扱える……」

 

 ジンとスコールはモニターでオメガとクロエがシグマから逃亡の光景を見ている中、ジンの傍に座るスコールはジンに説明していた。

 

「しかし、〝シグマタイプ〟にとってISは無理があったんじゃないか?コイツ、声も出せないほど苦しんでるぜ?」

「大丈夫よ。〝彼女〟は従来の〝シグマタイプ〟より強力な力を宿したアマゾン。廃棄処分する予定だった〝アマゾン〟の中に紛れ込んでいた〝彼女〟の闘争本能は絶大よ」

「へぇ〜……しかし〝オメガタイプ〟も馬鹿だな。女一人を守る為にシグマから逃げるとは……ガキが考える事はよく分かんねぇなぁ」

 

 ジンはモニターに映るオメガを見ながら、そんな事を呟いた。まるで、面白くない映画を見ているかの様な目をしているジンだったが、その目は徐々に面白いものを見たと言わんばかりの目に変わるのだった。

 

◇◇◇◇

 

 シグマから逃げるオメガとクロエ。

 それを追うシグマ。獲物を必ず逃さず、喰い殺すと言わんばかりの殺気がオメガとクロエに当たる中、着々と出口とは違う場所に近づく二人。

 

「よしッ!束!」

『オッケー!』

 

 オメガの合図の元、ラボに居る束が遠隔操作で無人機を操作し、研究所の壁をぶち破る。瓦礫は研究所内に崩れ落ち、外には無人機が待機していた。

 

「クロエッ!」

「はいっ!」

 

 オメガがクロエを降ろすと、クロエは真っ先にISの元へ走り出す。オメガはシグマを食い止める為、シグマと戦闘を開始する。

 

「お前の相手は僕だッ!」

「ーーーーーー」

 

 オメガはシグマの刀を避け、着実にIS部分に拳や蹴りを叩き込んでいく。オメガの猛攻にビクともしないシグマだったがほんの一瞬、シグマがよろけた。

 その隙を狙っていたオメガはグリップを捻り、シグマへと走り出し、そしてーー

 

《Violent Strike……!》

 

「ウォオオオッ!!」

 

 飛び蹴りを放つオメガは、シグマをその場から吹き飛ばす。流石にIS全部を破壊する事は出来なかったが、これでいい。

 飛び蹴りによってシグマをバネにし、跳躍したオメガはそのままISを纏ったクロエにキャッチされ、研究所の上空へ飛翔する。

 

「束ッ!今だッ!」

『りょーうかいっ!』

 

 その瞬間、研究所内のシステムをハッキングしていた束が研究所内に備え付けられていた証拠隠滅用の自爆スイッチを遠隔操作で作動させた。

 爆発が起こらない場所まで二人は飛翔し、研究所が爆発する光景を目の当たりにする。

 

「終わりましたね……」

「うん。サンプルは確保出来なかったけど、研究資料は手に入っーーー嘘だろ……」

 

 オメガの視線の先には、ISの装甲の数箇所だけが爆発によって破壊されたシグマがこちらを見つめていた。

 

「アレで死なないのか……」

「〝シグマタイプ〟……私達が思っているより、恐ろしい敵ですね……」

『二人共、シグマはISが損傷しているみたいだし、此処まで来られない。今の内にラボへ戻って来て』

「……分かった」

 

 オメガはクロエに抱えられながら、束がいるラボへと戻っていった。それを地上から見ていたシグマを通して、ジンは笑っていた。

 

「あはははははっ!まさか研究所の自爆スイッチをあんな風に使うなんてなぁ……流石は俺が作った〝オメガタイプ〟……これは面白くなりそうだ」

 

 笑っているジンを見て、スコールは笑みを浮かべる。

 それはまるで、愛しい人を見る眼差しだった。




如何でしたでしょうか?
楽しんで頂けたら幸いですが、シグマの件に関しては謝罪しないといけません。ISファン、アマゾンズファンの皆様、こんな展開になってしまい申し訳ございません。
ですが、第2章まではシグマがISを纏った形で登場する予定です。
アルファはもちろん出て来ます。オメガとアルファ、シグマの戦いにご注目下さい。

それとお気に入り登録、評価をしてくださった方々、ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。
ご意見・感想・評価・お気に入り登録よろしくお願いします。


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EP.5 Enemy to encounter

お待たせしました。
今回はバトルシーンはありませんが、ようやくあのアマゾンを出すことが出来ました。そしてあとがきの方で少しばかり補足をしておりますので是非ご覧ください。

サブタイ考えるの中々難しいなぁ……!


 ISを纏ったシグマとの戦闘から数時間後。

 移動用ラボでは、ハルカがクロエと共に束からの説教を受けていた。今後無茶はしない事。

 作戦に支障をきたさないようにと注意を受けた。

 それから、束がハルカのバイザーからスキャンしていたシグマのデータを解析していた。

 どうやら、ISとアマゾンズドライバーが同期しているらしく、ISには出来ない動作をアマゾンズドライバーが補い、逆にアマゾンズドライバーに出来ない動作をISが補う仕組みになっているらしい。

 ハルカはどちらかを破壊しない限り、シグマは倒せないと束から告げられた。

 

「でも、なんで〝シグマタイプ〟がISを装着しているんだろう?本来ならISは〝人間〟しか扱えないはずでしょう?」

「多分亡国機業だろうね。アイツら、ハルカと出会う前から束さんに接触して来た事が何度かあったからね。幾らでも情報を盗む時があったんだろうね」

「亡国機業……何処かで聞き覚えがあるんだけど……まさかその亡国機業が〝シグマタイプ〟を?」

「可能性はあるけど、どうして〝シグマタイプ〟にISを装着させたかだよ。コアは束さんにしか製造出来ないし、もし可能ならば束さんが居なくてもどの国もISを作れるよ。もしかすると、コアを改造して〝アマゾン〟専用に作り直したとか?」

「あの〝シグマタイプ〟は、初めて戦ったアマゾンとは明らかに違っていたんだ。なんていうか、無理矢理ISを装着させられているっていうか……どこか苦しそうだった」

「ハルカさんの言う通りです。あの〝シグマタイプ〟はどこか苦しそうでした。まるで、助けを求めているかのように……」

「二人の言う通り、データを解析した結果、あの〝シグマタイプ〟のバイタルは異常だったよ。死んでいるにしても、その他のバイタルが普通の人間と比べ物にならないぐらい……ううん、人間がISを纏った以上のバイタルを出してる。これ以上バイタルが上がれば、あの〝シグマタイプ〟は死ぬね」

 

 束の言う通り、ハルカが戦ったシグマのバイタルは異常な程の数値を叩き出していた。アマゾンやISをも超える力が、あのシグマから出ていたのだ。

 これ以上の戦闘を行えば、恐らく、いや確実にあのシグマは死んでしまう。

 それだけは止めないといけなかった。シグマの駆除とサンプルの回収も先決だが、無理矢理ISを装着させているならば話は別だった。

 

「ーーとにかく、今日はお疲れ様。二人ともゆっくり休んでね。明日は少し忙しくなるから」

 

 そう言って、束はハルカとクロエを休ませた。

 束は一人残って、モニターに直結しているコンソールを操作し始めた。モニターには、ある研究資料のデータが映し出されていた。それはハルカとクロエが回収した研究資料だった。

 研究資料には、〝オメガタイプ〟と〝シグマタイプ〟の実験を行っていた研究員の情報や今後の実験予定が記載されていた。

 研究員の名前はーー雨宮ジン。

 オメガとシグマの実験を行っていた第一人者であり、計画の発案者。束はコンソールを操作し、画面をスクロールしていく。

 

「雨宮ジン……検索してもどれもこれも惨い研究成果を出してるね。動物実験で恐ろしい結果って……一体どんな結果を出したのさ……雨宮ジンは現在生死共に行方不明である、か。きっとそこら辺でくたばってるか亡国機業と一緒だったりして……」

 

 束はコンソールを操作しながら、そんな事を呟いていた。これからどうするかを束は考え始める。現在ラボは次の研究所へと向かっていた。

 しかし、あのISを纏ったシグマにもう一度出会う可能性がある。それだけは避けたい。ハルカとクロエを危険に晒す訳にはいかないと同時に、あのシグマを死なせる訳にはいかなかった。

 考え抜いた結果、束は決心した。これ以上考えても仕方ない。今はとにかく寝ようと。

 

 その翌日、ラボはイギリスへと向かっていた。

 どうやら研究資料によると、計画の立案者である雨宮ジンがイギリスにある自分の研究所で様々な研究を行っていたらしい。

 もしかすると、其処に有力な情報があると考えた束は移動用ラボの進路を変更したのだった。

 

「イギリスかぁ……動画や画像でしか見た事ないけどどんな所なんだろう」

「そうですね。私も楽しみです」

「こらこら二人共〜。観光に行くんじゃないんだからね?仕事で行くんだから、其処のところしっかり〜」

「そう言って束だって、僕達にお土産リストを渡してたじゃないか。束も実は行きたいんじゃないの?」

「うっ……た、束さんは全世界から狙われてるから行きたくても行けないんだよ!まさかこんな所でミスを犯してしまうとは……」

「まぁでも、ちゃんとお土産は買ってくるからさ。それで観光の話は置いといて、今回はどんな任務?」

「えっとね〜……さっきも言ったように、ハルカとくーちゃんには雨宮ジンの研究所を見つけ出して、研究資料を持ってきて欲しいんだ。多分、あのシグマがやって来る事はないだろうけど、何が起こるか分からないから準備はしっかりね……おっ、イギリスに着いたみたいだね」

 

 移動用ラボがイギリスにたどり着き、ハルカとクロエは準備を整え、ラボを出た。移動用ラボは光学迷彩で周りから見えていない為、今回はイギリスの街から少し離れた場所に置かれていた。

 ハルカとクロエがその場から歩き出そうとした時だった。束が二人を呼び止めた。

 

「あっ、二人共!これに乗って行った方が楽かもよ?」

「えっ……それって、バイクだよね?」

 

 ハルカの視線の先に会ったのは、束の隣に佇む赤いバイクだった。姿形がアマゾンに似ており、少し変わった形をしていた。

 

「束様、これは?」

「束さんがハルカに内緒で作っていたバイク!その名もーーージャングレイダー!」

「ジャングレイダー?」

「研究資料に、アマゾン専用マシンの設計図が残されていたから束さんが急ピッチで作ったのさ!これなら移動も楽だし、アマゾンを追いかけるのにも役立つと思ってね」

「でも、僕免許なんて持ってないし、バイクなんて乗った事も運転した事もないよ?」

「大丈夫。ハルカの中のアマゾン細胞とシンクロする仕組みになってるからほぼ自動運転だよ。まあ、念のためにハルカの免許証を作って置いたから安心してよ」

 

 そう言うと、束は胸の谷間からハルカの写真が貼られた免許証を取り出した。

 それを受け取ったハルカは苦笑いを浮かべながら、ジャングレイダーに乗った。束からヘルメットを受け取り、それを被るとエンジンを掛ける。

 ジャングレイダーのエンジン音は獣のような雄叫びを上げ、ハルカの中のアマゾン細胞とシンクロし始める。言い表せない何かを感じたハルカだったが、今はそんなことよりも、目の前のジャングレイダーに目を輝かせていた。

 その姿は、車やバイクに格好良さを感じる子供そのものだった。

 

「凄い……ほら、クロエも乗ってご覧よ」

「は、はい」

 

 クロエも束からヘルメットを受け取り、それを被ってからハルカの後ろに乗る。

 

「これは、凄いですね……」

「でしょでしょ?束さんに掛かればこんなの朝ごはん前なのさ!さぁ、二人とも行ってらっしゃい!お土産楽しみにしてるからね!」

「うん。それじゃあ、行って来るよ」

 

 ハルカはエンジンを蒸し、ジャングレイダーを発進させる。行き先はイギリスの街。これからどんな事が起こるか分からないが、一抹の不安と期待に胸を膨らませながらイギリスへと向かった。

 

 ◇◇◇◇

 

 イギリスの街にたどり着いてから、ハルカとクロエは驚いてばかりだった。おしゃれな街並みに、多くの人々が賑わっている。

 赤い二階建てバスが道路を走り、橋の下に流れる川には船が行き来し、多くの光景が其処にあった。ハルカとクロエは束に言い渡された任務を忘れる程、イギリスの街を堪能していた。

 ある程度満喫したハルカ達は、近くの公園で休憩していた。

 

「初めてだよ、こんなに凄い光景があったなんて……今までは研究所の中しか知らなかったから、こういった場所に来られて嬉しいなぁ」

「私もです。私も、造られてからは研究所の中しか知りませんでした。ですが、ハルカさんと一緒に来られて嬉しいです。束様も一緒だったらなお良かったのですが……」

「束にはお土産を沢山買って帰ろう。何がいいかな、やっぱりお菓子とかーーーん?」

「どうしました?」

「いや、あの子……」

 

 ハルカの視線の先には、一人の女の子が俯きながらトボトボと歩いていた。

 何処か悲しげな表情を浮かべ、目には涙を溜めた少女が公園の前を通り過ぎていく。しかし、横を歩いていた通行人とぶつかってしまい、転倒する。

 ハルカ達はすぐさま少女に駆け寄り、声を掛ける。

 

「キミ、大丈夫?」

「は、はい……このくらい、平気ですわ……っ」

 

 少女は立ち上がり、歩き出そうとするが膝から血が流れており、その場にしゃがみ込む。

 

「怪我してるじゃないか。ほら、彼処にベンチがあるから彼処で手当てしよう」

 

 ハルカ達は少女を連れ、公園内にあるベンチに座らせると持ってきていたバッグから絆創膏を取り出し、傷口に貼り付けた。

 

「あ、ありがとうございます……」

「どういたしまして。キミ、名前は?」

「セシリア・オルコットと申します。手当てしてくれてありがとうございます」

「お気になさらず。所でセシリアさん、どうして悲しげな表情を浮かべていたのですか?」

「それは………」

 

 セシリアはハルカ達から目を背ける。恐らく、他人には言えない悩みがあるのだろう。ハルカが声を掛けようとしたが、セシリアが口を開く。

 

「……実は、私の母は会社を幾つも経営してるんです」

「会社を幾つも……凄いじゃないか。でも、どうしてそんな悲しそうな表情を?」

「母は会社を幾つも経営していますが、何時も忙しくて休みの日でも仕事で家を空けていて……父は母に対して顔色を伺うばかりの人で……」

「そうでしたか……」

「だから私、今日母に言ったんです。何処かに連れて行って欲しいって……ですが、母は仕事だからまた今度と言うばかりで……その言葉は何回聞いたか忘れてしまいましたわ……」

「……だから、一人で街に?」

 

 ハルカの言葉に、セシリアは頷く。

 

「私はただ、お母様と一緒に居たかっただけなのに……!」

 

 セシリアは堪えていた涙を流す。

 セシリアの隣にクロエが座り、そっと寄り添うとセシリアはクロエの胸で泣き始める。嗚咽を漏らし、肩を揺らすセシリアを見て、ハルカは口を開いた。

 

「……家族がいるって、良い事だと思うよ?」

「……えっ…?」

「僕とクロエは生まれてからずっと、両親すら居なかったんだ。ずっと一人で生きてきて……毎日が残酷な日々で……そんな僕らにでも、家族って呼べる人が出来た」

 

 ハルカは束の姿を思い出す。

 初めて会ったあの日のことは忘れる事が出来ない、掛け替えのない思い出。

 恐らく、クロエもそう思っている。束と出会わなかったら処分されていただろうあの日、束と出会ったからこそ、ハルカにも出会えた。クロエにとって、それは掛け替えのない日であった。

 

「キミのお母さんは、キミの事を大切に思ってるはずだよ。お母さんの仕事が忙しいのは、キミを育てていくために必要な事なんだよ。それに、きっとキミのお父さんだって、君の事を愛してるはずだよ……って、キミのお父さんとお母さんの事をよく知らない僕が言ってもしょうがないけど……」

 

 ハルカは頰をポリポリと掻く。柄にも無い事を言ってしまったからか、頰が少しばかり赤い。そんなハルカを見つめるセシリアと、笑みを浮かべるクロエ。

 

「だからーーーッ!」

 

 ハルカが言葉を紡ごうとした時だった。インカムから束に通信が入る。

 

『ハルカ!くーちゃん!〝シグマタイプ〟が現れたよ!』

「シグマタイプが!?もしかしてーーー」

『ううん!ISを纏ったシグマじゃないみたい。どうやらマンション内で覚醒したアマゾンだね。被害が出る前に駆除をお願い!』

「分かった。クロエはセシリアちゃんと一緒に!」

「はい。お気をつけて……」

 

 ハルカはジャングレイダーに乗り、ヘルメットを被るとセシリアが駆け寄ってきた。

 

「あの!お名前をお聞きしても……」

「ーーー僕はハルカ。じゃあまた後でね」

 

 ハルカはそう言って、その場からジャングレイダーで街中を掛けていく。

 ジャングレイダーに乗ったハルカは腰に装着したアマゾンズドライバーのグリップを捻り、叫ぶ。

 

「うぉおおおっ!アマゾンッ!」

 

 《Omega…!Evolu…Evo…Evolution…!》

 

 アマゾンオメガへと変身を遂げたハルカは、〝シグマタイプ〟のアマゾンが覚醒したマンションへとジャングレイダーを走らせる。

 マンションにたどり着いたオメガは束から通信で聴いたマンションの四階へと跳躍し、廊下へ着地する。四階のどの部屋か束に通信で聞こうとした時だった。

 突如、目の前の扉が吹き飛んだ。

 何が起きたのか分からずにいると、部屋から〝シグマタイプ〟のアマゾンがフラフラと現れる。オメガが構えると、そのアマゾンは血を噴き出しながらその場に倒れ、泥へと変わっていった。

 

「一体何が……?」

「ーーほぉ、まさかこんな所で会えるとはな」

「ッ!?」

 

 突如、部屋から男の声が聞こえてきた。部屋から出てきたのは身体中に緑色の傷があり、腰にはアマゾンズドライバーを装着し、赤いボディに緑色の複眼のアマゾンだった。

 赤いアマゾンは胸を鎧を掻きながら、目の前のオメガを見つめる。

 

「貴方は一体……?」

「俺か?俺はーーージン。お前らが探してる、雨宮ジンだ」

 

 赤いアマゾンーーアマゾンアルファとアマゾンオメガの二人のアマゾンが、今ここに邂逅した。




如何でしたでしょうか?
楽しんで頂けたら幸いです。此処で、少しばかり補足を。
今作の時間軸は原作から五年前の出来事になっております。その為、今回出てきたセシリアはおよそ10歳程度であり、両親がまだ生きている頃になっております。
さて、次回はアルファとのバトルになっておりますが、EP.6以降は時間を二年ほど飛ばし、物語を本格的に動き出させようと思います。構成上仕方ないことなんや……。

次回もよろしくお願いします。
よろしければご意見・質問・ご感想・評価をお待ちしております。


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EP.6 False power

お待たせしました。
バイトが忙しく、家に帰るとそのまま死んだように眠る日が続き、挙句に風邪を引いた中、何とか時間を見つけて書き上げました。
短いですが、次回から少し時間が飛びます。タグにもある通り、オリジナルストーリーとなります。

それでは、お楽しみください。
……アマゾンズseason2は僕のメンタルをどんどん削っていく。

※こちらのミスにより、EP.6の足りなかった文章を加筆、修正しました。誠に申し訳ありませんでした。


「雨宮……ジン……!」

 

 ハルカーーアマゾンオメガの目の前にいるのは、シグマタイプを駆除した赤いアマゾンーーアマゾンアルファ。そして、〝オメガタイプ〟と〝シグマタイプ〟の発案者である雨宮ジンが、目の前にいた。

 

「聞いてるぜ?お前、篠ノ之束についたらしいな。本来ならお前は俺が殺そうと思ってたんだが……お前はある意味面白い存在だ」

「答えろ……何故貴方がこんな所に……」

「何故って言われてもな……俺の研究所が今もあるかと思って来たんだが、なんだ。お前らも研究所に用があったのか?それならもう遅いぜ?研究所なら此処に来る前に亡国機業が破壊してくれたからな」

「ーーーーー」

 

 絶句。有力な情報を得られると思っていたが、時すでに遅かった。オメガは拳を握りしめ、アルファに叫んだ。

 

「答えろ!どうしてアマゾンなんて恐ろしい物を……それに人間の死体を使って〝シグマタイプ〟を……!」

「……俺さぁ、人間がどうして此処まで進化したのか考えたんだよ。人間は皆、誰かを蹴落として這い上がって来てるんだ。お前だってそうだ。他の試験体を蹴落として〝オメガタイプ〟に至ったんだよ」

「そんなの理由になってーーーー」

「あぁそうだ。理由になってないんだよ。お前言ったよな、どうして人間の死体を使ってシグマを産み出したのかを……あいつら全員、〝誰かに蹴落とされて来た〟連中ばかりだ。だから俺がアイツらをアマゾンにしてやったんだ……まぁ、どれも失敗に終わったがお前やシグマは合格だ。俺の想像を遥かに超えてる」

「だからって、シグマにISを無理矢理ーーー」

「あれに関して俺は無関係だ。あれは俺がやりたかった事じゃない。ISなんかに頼らず、自分自身の力で強くなるのが、アマゾンだからな……」

「……貴方は間違ってる。自分自身の力で強くなる方法なら幾らでもあったはずなのに……!」

「ガキに何が分かる。お前はただのクローン。オリジナルである〝織斑千冬〟の遺伝子を宿してるだけのただのガキだろうが。それはお前の力じゃない。オリジナルの力だろ?」

「ーーーーッ!」

 

 またしても絶句。

 今までの戦いでハルカはシグマタイプのアマゾン、そしてISを纏ったシグマを退けて来た。しかし、その高い身体能力は全て〝織斑千冬〟の遺伝子があってこそ成せる事であり、自分の力ではなかった。

 

「ったく……お前の相手をしてる暇はないんだけどなぁ。〝シグマタイプ〟は勝手に覚醒するし、俺の仕事がどんどん増えるだろうが……」

「勝手に覚醒……どういう意味だ」

「あ?あぁ、知らなかったのか。本来〝シグマタイプ〟は人間を喰わなくて済むように造られた実験体だ。だから覚醒もしないし、人も喰わない。アマゾンは人の肉を喰らうアマゾン細胞を宿してる。それを無くそうと造られたのが〝シグマタイプ〟だ。お前は今後の観察次第だし、〝オメガタイプ〟がどうかは知らないが……お前もいつか、人を喰いたくなる時が来るだろうよ」

「そんな事……!!」

「無いとは言い切れないだろう?俺だってそうだ。俺の手で自らアマゾン細胞を移植した時から、人を喰いたい衝動が無かったとは言えねぇからな。俺もお前もいつか……人を喰う怪物になるんだよ」

「黙れぇえええっ!!!」

 

 オメガはアルファに向かって走り出すと同時に拳を叩き込もうとするが、アルファはそれを軽々と避け、回し蹴りをオメガに叩き込んだ。

 倒れるオメガはすぐさま立ち上がり、アルファに腕の刃で斬りかかろうとするがアルファも腕の刃でそれを防ぎ、鍔迫り合いに持ち込む。

 

「ほぉ……流石はシグマを追い込んだ事はある。だがーーーーまだまだ甘い」

 

 《Violent Slash……!》

 

「ラァアアアアッ!!」

 

 アルファはオメガの腕を振り払うと、腕の刃でオメガを切り裂いた。血が噴き出るオメガは膝をついた瞬間、変身が解除され元の姿へと戻っていく。

 

「今回はこのくらいにしといてやる。今度は俺を楽しませる位に強くなってろよ?」

 

 ジンはそう言うと、その場から去っていった。

 ハルカは拳を地面に叩きつける。ハルカの目からは悔しさからか、涙が流れていた。ジンはハッキリ言って強かった。オリジナルに頼ってる自分では太刀打ち出来ない……。

 そんな思いが、ハルカの中で渦巻いていた。

 

 ◇◇◇◇

 

「それじゃあ、またね。セシリアちゃん」

「はい。ありがとうございます」

 

 ハルカはクロエ達と合流した後、セシリアと別れようとしていた。ジンの研究所が破壊された今、イギリスに残る意味が無くなった二人は、束がいるラボに戻ることにした。

 恐らく、ジンや亡国機業が残りの研究所を破壊している事だろう。

 そうなる前に残りの研究所を見つけ、研究資料を回収しなければならない。

 

「ハルカさん、そろそろ……」

「そうだね。それじゃあ、セシリアちゃん。お母さん達と仲良くね」

「はい。ーーーーまた会えますわよね?」

「……うん。またきっと会えるよ」

 

 ハルカとクロエはヘルメットを被り、エンジンを掛ける。獣のようなエンジン音が響き渡り、ハルカはセシリアに視線を向ける。手を振るセシリアに、ハルカとクロエも同じように手を振ると、その場から走り出したのだった。

 それから一時間もしないうちに、ハルカ達はイギリスを去っていった。残る研究所を見つけ、研究資料を回収しなければならない。

 それが、今のハルカ達の目的だった。シグマの件もあるが、あの戦いでISが損傷している為、修復には時間が掛かるだろう。

 

「雨宮ジンの言う通り、亡国機業は他の研究所を破壊しているみたいだね。そろそろ束さん達も本気を出さないといけないね」

「亡国機業に先を越される前に資料を回収しないとね。それにしても、雨宮ジンが変身したあの赤いアマゾンは一体……研究資料を見ても、あの赤いアマゾンに関しての記載が無いし……それに、あの人は自分でアマゾン細胞を移植したって言っていた。なんでそんな事を……」

「今の所、雨宮ジンに関しての情報が少なすぎる。でも、亡国機業が何かを企んでるのは間違いないね。これは本格的に本気出さないと……それにしても、二人が買ってきたこのお菓子美味しいねぇ」

「なんか有名なシェフが作ってるみたいだよ。名前は忘れたけど、凄く有名なシェフなんだって」

 

 束はハルカ達が買ってきたイギリスのお土産店のお菓子を頬張っていた。束の頰一杯に詰め込まれるお菓子はすぐに胃の中に消えていく。

 

「束、次の目的地は何処?」

「そうだねぇ……他の研究所は各地に点在しているから何処からでもいいよ。でも、亡国機業が破壊した研究所もあるから望みは薄いけど……全部を探すのには結構時間が掛かるよ」

「それでもだよ。僕たちはやらなきゃいけない。一度乗った船だ。最後までやり通さないと……」

「……うん、そうだね。なら、束さんも最後まで付き合うよ。ねぇ、くーちゃん!」

「はい。ハルカさんは私の命の恩人です。最後まで付き合います」

「……ありがとう、二人とも」

 

 ハルカは決意を新たに、亡国機業との戦いに足を踏み込んだ。

 三人の旅は、ここから始まる。そして月日は流れ、二年の歳月が流れた。これからが、本当の戦いの始まりでもあった。

 

 ◇◇◇◇

 

「まったく、お前は加減って言うのを知らないのかよ……もうちょっと加減して欲しかったぜ」

「うるせぇ。お前の指示なんか聞きたくなかったんだ。でもスコールが手伝えって言うから仕方なく……」

「オータム、静かになさい。此処はまだ警官達が彷徨いてるんだから……まぁでも、そこら辺の処理はオータムに任せましょうか」

 

 イギリス。

 ジンとスコール、オータムと呼ばれた長髪の女性はジンの研究所だった場所から少し離れた場所にいた。視線の先には、研究所だった場所の前に警官達が捜査をしていた。

 〝突然の爆発事故〟が原因で、警官達は捜査を開始していた。しかし、それはオータム原因だった。オータムが無闇矢鱈に研究所を破壊したせいで、警官達が来てしまったのだ。

 だが、それは仕方ない事だった。研究所を破壊し、爆破すれば警官達はやって来るのは分かっていた事だった。ジンはため息を吐きながら、その場から去ろうとする。

 

「何処に行くの?」

「先に戻ってる。此処にいちゃあ、警官達に見つかるかもしれないからな」

 

 そう言って、ジンはその場から去っていった。

 

「……スコール、なんであんな奴なんか仲間に入れたんだ?あいつ、何考えてるかわかんねぇし……」

「あら、謎に包まれている男って素敵じゃない。でも、確かにジンは謎が多い部分があるわ。どうして自分自身にアマゾン細胞を投与したのかも分からないけれど……」

 

 スコールの視線の先には、森を歩くジンがいた。

 その背中はまるで、死に場所を探しているかのように見えた。オータムは舌打ちをし、警官達に視線を向けた時だった。

 

「……オータム、お願いがあるのだけれどいいかしら?」

「お、おう。なんだ?」

「例の〝シグマタイプ〟の事なんだけれど、〝彼女〟を連れて例の場所に向かってほしいの」

「よりによって〝アイツ〟かよ……アイツ、ジン以上に何考えてるかわからねぇから苦手なんだよなぁ……まぁスコールの頼みだから仕方ないか」

 

 オータムはその場から離れ、その場にはスコール一人が残った。スコールは笑みを浮かべながら、空を見上げる。この空の何処かに、篠ノ之束達がいる。

 そろそろ篠ノ之束を探し出さなければ……。そう心の中で誓い、その場を去っていった。




如何でしたでしょうか?
短くて申し訳ないです。次回は長く書けるよう頑張ります。
雨宮ジンに関しては、次回の後書きにて紹介します。

中々思い通りに書けないですが、こんな作品でも読んでくれてるんだなぁと思うと頑張れます。感想も気長にお待ちしております。ただ面白かったや、次回も楽しみにしていますだけでも僕の励みになるので是非とも感想をお送りください。

この作品について、何かご意見などがあれば答えますので、是非ともよろしくお願いします。

ご意見・ご感想・評価・お気に入りよろしくお願い致します。


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EP.7 Game in the dark

お待たせしました。
第七話でございまーす。セシリアに続き、一夏との出会いになりますが次回は千冬との出会い。
この作品がどうなるのか、最後までお楽しみください。

お気に入り登録や評価が増えて来て素直に嬉しいです。
もちろん、評価1もありますがそれを真摯に受け止め、これからも精進していきたいと思います。


 あれから二年の月日が流れた。

 ハルカとクロエは成長し、クロエは12歳となった。束も二年の月日が流れたせいか、それとも自堕落な生活の所為なのか定かではないが、服のサイズがきつくなって来たとボヤいていた。

 しかし、仕事はきっちりとこなしていた。各国に点在するアマゾンの実験場や研究所を破壊し、研究資料を回収している。

 これからまで駆除した〝シグマタイプ〟は合計で数体程度しか駆除しきれていない現状だった。

 〝シグマタイプ〟が何体存在するかは定かではないにしても、亡国機業がアマゾンを生み出しているのは確かである。

 それに関わっているのがいい雨宮ジン。

 ハルカは初めてジンと戦闘を繰り広げた際、手も足も出なかった。正に〝野生〟とも言える戦い方で、ハルカを圧倒した。

 ハルカはこの二年でジンに対抗できるよう、特訓やシグマタイプとの戦闘で少しずつだが強くなって来ていると、束はそう思っている。

 そして今まさに、モニター越しではあるがオメガと六体のシグマタイプとの戦闘が行われていた。

 オメガの目の前には蜂、蟹、百舌、蟻、蝶、蜻蛉のシグマタイプアマゾンがオメガを睨みつけていた。

 

「ウォオオッ!!」

 

 オメガはアマゾン達に向かって走り出し、拳や回し蹴りでアマゾン達を圧倒していく。

 時には反撃を喰らうが、地面に倒れかけた際には片膝で回転し、回し蹴りをアマゾン達に叩き込む。

 

「〝オメガタイプ〟との戦闘、苦戦。直ちにこの場から撤退する」

「逃すかっ……!」

 

 オメガは、その場から撤退しようとするアマゾン達に向かって、アマゾンズドライバーから引き抜いた右グリップをスピアモードに生成するとアマゾン達に向かって投擲する

 アマゾンスピアに貫かれた蜂、蟻、蝶のアマゾン達は泥となり腕輪だけ残して絶命した。オメガはアマゾンスピアを引き抜くと、アマゾンスピアらサイズモードへと生成される。

 

「アァアアアッ!!」

 

 オメガは跳躍し、蟹のアマゾンに向かってアマゾンサイズを突き刺す。蟹アマゾンから赤黒い体液が噴き出すが、オメガは躊躇なくそのまま切り裂いた。

 絶命する蟹アマゾンは泥となり、残り二体となったアマゾン達は赤黒い体液に塗れるオメガに恐怖したのか、その場から逃げ出そうとする。

 

 《Violent Break……!》

 

 だが、オメガはサイズモードからウィップモードへと生成させ、百舌、蜻蛉のアマゾン達を自身の元へ引き寄せるとグリップを捻ると、音声が流れる。

 オメガは右腕の刃で二体のアマゾンを横に一閃ーーー二体のアマゾンを切り裂く。泥となり、絶命するアマゾン達だった者を見つめるオメガは肩で息をしており、自分の手を見つめる。赤黒い体液で汚れており、自分の身体も赤黒い体液に塗れていた。

 

「フゥ……フゥ……!」

 

 獣のような唸り声を上げながら、二年前に雨宮ジンに言われた言葉を思い出す。

 

『……貴方は間違ってる。自分自身の力で強くなる方法なら幾らでもあったはずなのに……!』

『ガキに何が分かる。お前はただのクローン。オリジナルである〝織斑千冬〟の遺伝子を宿してるだけのただのガキだろうが。それはお前の力じゃない。オリジナルの力だろ?』

 

 その言葉が、オメガーーーハルカを苦しめていた。

 この二年間、ハルカは〝シグマタイプ〟を駆除して来た。しかし苦戦しながらも戦い続け、アマゾンの体液で汚れようがハルカは戦い続けて来た。

 だが、二年経とうがジンの言葉がハルカの心に刻まれていた。

 

 〝お前はただのクローン〟

 

 その言葉が、ハルカーーーオメガを苦しめる原因である言葉だった。オメガは拳を握り、怒りに震える。

 

「僕は……僕は人間だ……!!」

 

 怒りに震えながら呟いた言葉は、研究所の中に静かに消えていく。

 

 ◇◇◇◇

 

「……束、それ何?」

「あぁ、これ?これはね、ハルカの専用アイテムって言った所かな」

「専用アイテム……新しいアマゾンズドライバーって事?でも、アマゾンズドライバーの設計図は……」

「そうだね。ハルカが以前見つけてくれた設計図では束さんでも開発できない危険な代物だ。でもコレはただのアマゾンズドライバーじゃないんだなぁ。まぁ、完成したら報告するよ」

 

 束はそれだけ言うと、再び専用アイテムの開発に取り掛かった。束の目の前のモニターには、3Dスキャンされたアマゾンズドライバーと鳥の顔を模したアイテムが画面に映し出されていた。

 ハルカは気になったが、今はクロエが作った朝食のクロワッサンと目玉焼きを食べることにした。

 当のクロエはというと、束の指示で亡国機業が狙いそうな研究所をコンソールで捜索していた。

 幾つもの計算で叩き出された結果で、ハルカ達は研究所を見つけていた。こういった地道な作業で、ハルカ達は二年間戦い続けて来た。

 しかし、それだけではなかった。

 

「……二年経った今でも、腕輪は青いまま。幾ら調べても結果は出てこない……僕は一体、何者なんだ」

 

 ハルカに付けられた腕輪は青いままだった。

 研究資料によれば、食人衝動を抑える為の投薬が腕輪によって行われている。

 それによって食人衝動を一時的な抑えられるのだが、タイムリミットは二年しか無く、二年を過ぎれば人を喰う怪物になってしまう。

 しかし、二年が経った今でもハルカは食人衝動すら起こさなかった。一度も人を食べたいなどと思ったこともそういう発言をした事がないハルカ。

 何故自分の腕輪は青いままなのか、それがわからなかった。それと同時に、自分は他のアマゾンとは違うことを自覚するようになった。

 

「僕は人間だ……オリジナルでもクローンでもない、ただの人間なんだ……」

 

 その時だった。

 何やらモニターに赤い点と〝emergency〟と言う文字が映し出されていた。赤い点が指している場所は某国にある廃倉庫。

 何が起きたのか、もしかすると亡国機業が現れたのかとハルカは束に問いかけようとした時だった。

 

「嘘!?なんで亡国機業がいっくんを!?」

「た、束?」

「亡国機業が、ハルカさんのオリジナル元である織斑千冬の実弟ーーー織斑一夏を誘拐したみたいです」

「織斑、一夏?」

「はい。現在モニターにも表示されている通り、織斑一夏は廃倉庫に囚われているようです。他に、シグマタイプのアマゾンの反応とIS反応があります」

「シグマタイプ……」

「恐らく、亡国機業かもしくはーーーアマゾンシグマかもしれません」

 

 ハルカはクロエの言葉に、二年前の雨宮ジンを思い出した。少し手が震えていたが、ぐっと拳を握ると束に視線を移す。

 束は何故こんな事になってしまったのか理解できないのだろうか、少しばかり混乱していた。

 今までこんな束を見た事がないハルカは、そっと束の手を握る。

 

「ハルカ……」

「大丈夫。僕が行くよ」

「でも……!」

「僕のオリジナルーー織斑千冬の弟が危ないんでしょ?おまけに亡国機業だけじゃなく、アマゾンだっているんだ……だったら僕が行くよ」

「ハルカ……うん、お願い。いっくんを助けて」

 

 ハルカは頷くと、すぐさま出撃の準備を始める。

 束とクロエはラボの進路を某国へと変更し、フルスピードで某国へと向かう。

 

 ◇◇◇◇

 

「オータム、その子をしっかり見ておきなさい。その子は織斑千冬を釣る餌でもあって、篠ノ之束を釣る餌でもあるのだから」

「あぁ、分かってるぜスコール。今日はあのジンが居ないんだ……今日は良い仕事日和になりそうだ」

 

 織斑一夏の目の前には、亡国機業のスコールとオータムが立っていた。そして、二人の周りには銀色の腕輪を付けた男女六人が囲むように立っていた。

 一夏は何とかその場から逃げようとするが、手首に巻かれた縄がキツく、その場から逃げ出す事が出来なかった。すると、額に何か冷たいものが当たり、それを確認した一夏は驚愕する。

 

「ーーーッ!」

「変な事考えるなよ?変な事してみろ?この拳銃がお前の頭を撃ち抜くぞ?」

「やめなさい。その子が死んだら計画が狂うわ」

「分かってるよ、スコール。ただ脅してるだけだ」

 

 拳銃が額に当たっており、引き金を引こうとするオータムをスコールが止める。

 言い表せない恐怖に怯える一夏だったが、嫌な予感を感じていた。今日は姉である織斑千冬の試合が行われる予定だ。

 千冬はモンド・グロッソ世界大会に出場するIS操縦者である。恐らく、千冬の大会出場を阻止しようとしているのだろう。

 だから自分が攫われた……一夏はそう考えていた。千冬は自分を必ず助けに来るだろう。優勝を捨ててでも必ず来る。

 それだけは何とかしなければ、いつまでも千冬に助けてもらってちゃダメだと、一夏はこの場を切り抜ける方法を考える。

 

「スコール、このガキどうするんだ?」

「そうねぇ……その子は織斑千冬と篠ノ之束を釣る為に利用する価値があるわ。その子をただ生かしておくだけじゃつまらないわね。……いっその事、アマゾンにでもしようかしら」

「なんでアマゾンに?」

「たった一人の弟が人喰いの怪物になったと知れば織斑千冬は絶望するでしょうね。それに篠ノ之束も、その子がアマゾンになったと知れば、私達に是が非でも協力する筈よ」

「ア、アマゾン……?それに、人喰いって……」

「あぁ、お前はこれから人喰いになるんだ。お前はアマゾンとして、織斑千冬と篠ノ之束を釣る餌として働いてもらうぜ」

 

 人喰いになる。

 アマゾンになる。

 そうする事で、織斑千冬と篠ノ之束を誘き出そうとしている。一夏は許せなかった。大切な姉を、その友人を利用しようとするスコールとオータムを。

 そして、自分の弱さを許せなかった。自分は強くなりたかった。姉を守れる程、強くなりたかった。大切な誰かを守れる程の力が欲しかった。

 だが一夏のそんな思いを、目の前のスコール達は踏みつぶそうとしている。一夏はそれが許せない。するとスコールが注射器に酷似した物を取り出すと、一夏の元へ歩みを進める。

 

「少々痛いだろうけど、我慢してちょうだい。大丈夫、悪いようにはしないわ」

「く、来るな……!」

「うるせぇ、お前は黙って私達に従えばそれでいいんだよ……!」

「ーーーッ!」

 

 スコールが一夏の元へ歩みを進め、オータムがそれを笑みを浮かべながらそれを見つめる。こんな所で怪物になんかなりたくない。誰か助けてくれとさえ、心の中でそう叫んだ程だ。

 そしてスコールが一夏の腕に注射器をーーー

 

 

 

「ーーーーアマゾンッ」

 

 

 

 ーーー刺そうとした時だった。突然外から起こった爆風によって廃倉庫の扉が壊され、近くにいたシグマタイプが吹き飛ぶ。そのうちの一人がスコールとぶつかるとスコールが持っていた注射器が地面に落ち、粉々に砕けた。

 

「まさか……オメガタイプかっ!」

「意外と早い到着ね……」

 

 スコールとオータムの視線の先には、アマゾンオメガへと変身を遂げたハルカが立っていた。ゆっくりと歩みを進めるオメガに対し、オータムはキレながらもシグマタイプに指示する。

 

「テメェら!オメガタイプを殺せっ!!」

「了解。オメガタイプ、排除します」

 

 その言葉に、六人のシグマタイプがアマゾンへと姿を変える。

 女王蟻、兵隊蟻、蜂、蜘蛛、蝙蝠、百舌の姿に酷似したアマゾン達がオメガに向かって走り出した。

 オメガは迎え撃つべく構えると、飛びかかってきた蜂と蝙蝠を回し蹴りで地面に叩き落とす。

 更には女王蟻と兵隊蟻がオメガに向かって襲いかかるが、振り向きざまにオメガが兵隊蟻の身体を拳で貫き、そのまま上へと拳を振り上げ、絶命させる。

 そして、襲いかかる女王蟻の腕を掴み、地面に倒すとそのまま覆いかぶさるように女王蟻の上に立つと、勢いよく女王蟻の腕を引きちぎる。

 それを見ていた一夏は吐き気を抑えるのに必死でありながらも、オメガの戦いをずっと見ていた。正に自分を救いに来てくれたヒーローそのものだった。

 そんな一夏の目には、オメガは〝怪物〟として映っておらず、〝ヒーロー〟として映っていたのだった。

 

「ガァアアアアッ!!」

 

 雄叫びを上げながらオメガは蝙蝠アマゾンの羽をもぎ取り、地面に投げ捨てる。そして右腕の刃で蝙蝠アマゾンを切り裂き、絶命させる。

 続けざま、蜂アマゾンを捕らえ、空中へ投げると落下と同時に右腕を蜂アマゾンの腹部に叩き込む。

 

 《Violent Punish……!》

 

 そのまま振りかぶるように、右腕の刃で蜂アマゾンを切り裂いた。上半身と下半身が分かれた蜂アマゾンはそのまま絶命。

 蜘蛛アマゾンは空中からオメガに襲いかかり、そのまま蜘蛛の糸で天井へと吊るし上げる。しかしオメガは蜘蛛の糸を切り裂き、右グリップを引き抜くとサイズモードへと生成させ、蜘蛛アマゾンに突き刺す。

 

 《Violent Break……!》

 

 アマゾンサイズによって、蜘蛛アマゾンは刺された場所から赤黒い体液を噴き出しながらオメガに蹴り飛ばされるとそのまま絶命し、泥となる。

 最後の一匹となった百舌アマゾンはその場から撤退しようとしたが、サイズモードからスピアモードへ生成されたアマゾンスピアを百舌アマゾンに向かって投擲したオメガ。

 アマゾンスピアは百舌アマゾンを貫くと泥となり、そのまま腕輪を残して絶命した。

 

「す、スゲェ……!」

「コイツッ……前より強くなってねぇか?」

「……その子を返してもらうよ。邪魔をするなら、誰であろうと容赦しない」

 

 オメガは脅しで、右腕の刃をチラつかせる。

 しかし、それで脅される亡国機業ではなかった。スコールは一夏の腕に巻かれた縄を解くとオメガの元へ歩ませる。

 

「スコールッ!?」

「……どういうつもりだ?」

「今の私達じゃ貴方には勝てないわ。ISで対抗しようと思ったけど、それはヤメね。下手したら私達が殺されるわ」

「……随分と潔い良いけど、何か企んでーーー」

「いいえ。織斑千冬と篠ノ之束が来なかった時点で私達の作戦は失敗よ。今日の所は此処でお別れよ、オメガタイプ。行くわよ、オータム」

「で、でもよ……チッ!」

 

 二人は光を放ち、見たことないISを纏うと、その場から飛び去る。オメガは追いかけようとしたが、一夏がいることに気づく。

 

「あ、あの……」

「大丈夫?怪我はないかい?」

「は、はい……ありがとうございます……」

「それより、早く此処から出よう。君のお姉さんの元へ行かなきゃ」

 

 オメガは廃倉庫の前に停めてあったジャングレイダーに乗り、一夏にヘルメットを投げ渡す。一夏はヘルメットを被り、オメガに掴まるとそのままジャングレイダーで走り出した。

 向かう先は、オリジナルーーー織斑千冬の下だった。




如何でしたでしょうか。
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→織斑一夏
原作《インフィニット・ストラトス》の主人公。今作ではオメガに助けられ、オメガの強さに憧れる人物として登場する。第二章ではもっと活躍する予定。あくまで予定である。

→織斑千冬
織斑一夏の実姉であり、ハルカのオリジナル元である。今後、ハルカとの出会いでどうなるかはまだ不明。

→雨宮ジン
アマゾンアルファに変身する男性であり、アマゾン化計画の発案者でもある。前回の話でもあったように、〝誰かに蹴落とされた連中〟をアマゾンにした男だが、その真意は不明。


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EP.8 He is dangerous

お待たせしました。
EP.8です。ようやく第1章が終わりに近づいてきました。
第2章からは更に時間が飛び、原作開始となると思われます。

それでは楽しんでご覧ください。

※EP.6についてこの場でご報告を。本来なら、最後にジンとスコール、オータムのやり取りの場面を入れていたのですが、投稿する際にこちらのミスで入れてなかった為、加筆修正しました。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。

アマゾンズseason2の結末次第でこの物語の結末も変えるんだなぁ。


 オメガは一夏を連れ、千冬の居るモンド・グロッソ世界大会が行われるスタジアムまでジャングレイダーを走らせていた。

 一夏はオメガにガシッと掴まっており、時折オメガの顔を覗くが誰かと喋っているのか、一夏の方を一度も見なかった。

 自分を亡国機業から救ってくれた恩人だが、こうやって何も喋らないと不安になってしまう。一夏は意を決して声を掛けた。

 

「あ、あの……!」

「何かな?織斑一夏くん」

「な、なんで俺の名前を……じゃなくて、どうして俺を助けてくれたんですか?」

「君を知ってる人から君が誘拐されたと聞いてね。此処までやって来たんだけど……まさか奴等が君をアマゾンにしようとしてたなんて驚きだけど……」

「俺を知ってる人って……まさか、千冬姉が?」

「そこは想像に任せるよ。所で、君はなんで彼奴らに攫われたか心当たりは?」

「それが、心当たりがないんです。千冬姉の試合を見に来たのは覚えてるんですけど、そこからの記憶が無くって……」

「なるほど……ということは、織斑千冬の試合を妨害する為にか……それともーーー」

 

 そこから、オメガは独り言をブツブツと呟き始めてしまった。気まずい空気が嫌だったから話しかけたのだが、まさかまた気まずくなるとは……と、一夏は心の中で囁く。

 すると、一夏の視線の先に大きなスタジアムが見えて来た。そのスタジアムこそ、モンド・グロッソ世界大会の決勝戦が行われる場所だった。

 

「あれが世界大会が行われるスタジアムか……意外と大きいんだね」

「俺も初めて見た時は驚きましたけど、2回目で慣れました……」

 

 オメガはスタジアム前にジャングレイダーを停め、一夏からヘルメットを受け取る。

 

「あの、ありがとうございました……!」

「気にしなくていいよ。早くお姉さんの所に行ってあげなよ。お姉さん、心配してるだろうし……」

「はい……!」

 

 一夏はオメガに礼を告げ、その場から走り去る。

 オメガはそれを見届けると変身を解除し、インカムから束へと連絡する。

 

「こっちは無事に終わったよ。そっちは?」

『ごめん。亡国機業、意外と早いみたいでこっちじゃ追いきれなかった。でも、いっくんが無事でよかったよぉ。もしもの事があったら、ちーちゃんに会わせる顔がなかったからね』

「でも、無事に助けられたんだから良しとしよう。それじゃあ、急いでそっちにーーー」

 

 その時だった。ハルカは何者かの視線を感じ、すぐさま振り向いた。其処に居たのはーー

 

「ーーーーーー」

 

 ーーハルカを凝視するオリジナルである〝織斑千冬〟の姿だった。

 千冬はISスーツを着たまま、ハルカの元へ来たのだろう。千冬の目は、何か恐ろしい物を見たかの様な目をしており、ハルカをじっと見つめていた。

 

『ハルカ?どうかしたの?』

「……ごめん、また後で連絡する」

 

 ハルカは束との通信を切り、ジャングレイダーから降りると千冬をじっと見つめる。じっと見つめあったまま数秒、千冬が口を開いた。

 

「……何故、私と同じ顔をしている」

「それは僕が聞きたいよ……でも、僕は貴女のーー織斑千冬の遺伝子から生まれた〝人間〟だ」

「私の遺伝子から……まさか、私のクローンとでも言いたいのか?何故私の遺伝子からお前が生まれたかは知らないが……どうしてお前が此処にいる?」

「それは……」

 

 ハルカは言うべきか悩んだ。

 織斑千冬に事実を伝えていいものかと。自分は束の指示で織斑一夏を助けに来たと。一夏を千冬の元へ送り届けたのだと言って、信じてくれるだろうか。

 ハルカが言い淀んでいるのを見つめていた千冬は、ハルカに近づく。するとハルカのインカムを取り、自分の耳へ装着する。

 

「……束、お前の仕業か?」

『やぁやぁちーちゃん、お久だね〜……すいません怒らないで聞いてくださいお願いします』

「怒らないから話せ。まぁ、話の内容次第ではお前の元へ行き、アイアンクローをお見舞いするがな」

『酷いッ!!』

 

 其処から、半端強引に束の事情聴取が行われた。

 ハルカやクロエとの出会い、束達が〝アマゾン細胞〟と呼ばれる細胞を研究している研究所を調べていることや、亡国機業の事。

 そして、今回の一夏の誘拐事件の事を全て千冬に偽り無く説明した。束からの説明に千冬は少しばかり溜息を洩らすが、ハルカに視線を移す。

 

「私の目の前にいるハルカは、私の遺伝子から生まれたと言っていたな。何故そんな事が?」

『束さん達もそれを調査してるんだけど、中々手がかりが見つからなくてねぇ。でも、ハルカの体内を調べた結果、ちーちゃんの遺伝子が見つかったから正しくその子はちーちゃんの子供ーーーー』

「馬鹿者。私はまだ二十一だ。恋人もいなければ子供もいない」

『冗談だよぉ〜。でも、どうしてちーちゃんの遺伝子が使われたのか謎なんだよねぇ。他の人間の遺伝子を使ってもよかった筈なんだけど……』

「私に聞かれても分からん。それはお前達が調べろ……まぁいい。今回はお前達に助けられた。感謝している」

 

 千冬は束に、ハルカに礼を告げる。

 突然の事に驚きを隠せないハルカだが、千冬にインカムを投げ渡されるとポンッと頭に手を置かれる。

 

「お前の好きなように生きろ。お前は私の遺伝子から生まれた存在だが、〝私じゃない〟。〝お前はお前だ〟、ハルカ」

 

 千冬はハルカにそう告げ、その場から去っていく。

 それを見つめるハルカは、スタジアムへと入っていった千冬を見届ける。数分もしないうちに、スタジアムからは歓声が聞こえる。

 どうやら、千冬の試合が始まったらしい。ハルカはジャングレイダーに乗りながら、千冬の言葉を思い出していた。

 

 〝お前はお前だ〟

 

 ハルカは千冬に言われた言葉の意味を考えながら、ジャングレイダーを駆り、その場から走り去る。

 その後、束からアマゾンの奥地でISを纏ったシグマの反応が見つかったと報告があった。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 場所はアマゾンの奥地。

 其処に、ISを纏ったアマゾンシグマとジンが見つめあっていた。ジンの腹部にはアマゾンズドライバーが装着されており、手には注射器が握られていた。

 アマゾンシグマはジッとジンを見つめ、静かに佇んでいた。

 

「お前には悪いんだが……此処で死んでもらう。お前は俺が求めてた〝完成体〟じゃない。俺が求めてるのは、〝本能のまま命を狩る生命体〟だ。生きてないヤツを生かしておくわけにはいかないんだよ……」

 

 ジンの言葉に、シグマは何の反応も示さない。その反応に流石のジンも苦笑いを浮かべるしかない。ジンはアマゾンズドライバーのグリップを捻り、音声が流れた瞬間、叫ぶ。

 

「ーーーーアマゾン……!」

 

 《Alpha……!Blood&Wild!W…W…W…Wild!!》

 

 その瞬間、爆音と熱風が周りを吹き飛ばす。

 木々は揺れ、小さな池に張られた水は全て蒸発し、ジンの身体は赤いアマゾンーーアマゾンアルファへと姿を変えた。胸の装甲を掻きながら、アルファはシグマに向かって言葉を紡ぐ。

 

「そういやお前……二年前にオータムと〝エム〟と一緒に何処行ってたんだ?スコールに聞いても何も言わねぇし……俺に内緒で何してたんだ?」

 

 アルファの言葉にシグマは答えを出さない。

 いや、もしくは言葉が〝喋れない〟かのどちらかであった。アルファは溜息を吐きながら、シグマを睨みつける。

 

「困るんだよなぁ、そういうの……勝手に〝お前みたいなヤツら〟を造られると……まぁいいさ。お前を此処で屈服させて喋らせればいいだけだ」

 

 アルファが構えを取り、シグマを緑の瞳で睨む。

 走り出したアルファの拳はシグマの装甲に叩き込まれたが、シグマはビクともしなかった。

 

「フッ……流石はISを纏ってるだけはある。だがなぁ!!」

 

 アルファは立ち上がると同時に走り出し、立ち上がったシグマの装甲に拳や蹴りを叩き込んでいく。ISには、装着者を守るシールドバリアーがある事を知っているジンだが、そんな事お構い無しに激しい猛攻がシグマを襲う。

 

「ーーーーーーー」

「何か反応してくれてもいいんじゃねえのかっ!」

 

 アルファの拳がシグマの顔面に叩き込まれる。

 しかし、ビクともしないシグマにアルファはイラついたのか一旦その場を離れ、牽制の体勢に入る。

 何の反応も示さないシグマ。アルファが牽制の体勢に入ってから攻撃の一つもしてこない。アルファの出方を伺っているのか、それともただ単に攻撃する気力がないのかだ。

 

「……お前、もしかしてーーー」

「ーーーーーーー」

 

 何を話したのか、アマゾンに棲む動物たちの鳴き声で何一つ聞き取れなかった。

 しかし、アルファは確かに聞こえた。シグマがアルファを攻撃してこない理由を。アルファは溜息を吐きながらアマゾンズドライバーを外し、元の姿に戻るとその場から歩き出す。

 

「やめだやめ。やる気無いヤツと戦っても俺がメンドくさいだけだ」

「ーーーーーーー」

「お前が何を考えてるか知らないが……〝オメガタイプ〟を舐めない方がいい。アイツは研究所で〝養殖〟として育てられたが、まだ自分の中の〝本能〟に気づいちゃいない。それが目覚めた時、アイツはお前を殺すかもな……」

 

 そう言って、ジンはその場から去っていった。

 

 ◇◇◇◇

 

「あつぅい……くーちゃんお水〜……!」

「はい、束様」

「なんでこんなに暑いんだろう……」

 

 ハルカ達は、アマゾンの奥地で反応がISを纏ったシグマを捜索していた。本来なら、ハルカ一人でシグマを見つけるつもりだったのだがーーー

 

『束さんも一緒に行く!もう留守番はごめんだ!』

 

 ーーーなどと叫びながら、アマゾンに行くための準備をしていた。そして案の定、このアマゾン熱帯雨林の気温の熱さである。

 

 アマゾンーーー通称アマゾン熱帯雨林。

 南アメリカ・アマゾン川流域に大きく広がる、世界最大面積を誇る熱帯雨林である。面積は550万平方kmに及び、700万平方kmのアマゾン盆地の大部分を占め、地球上の熱帯雨林の半分に相当する。

 熱帯雨林では一年中熱帯収束帯ーー赤道低圧帯ーーの影響を受けるため、年間を通して降水量が多い。

 また太陽高度が年間を通して高いため気温は年中高く、年較差が少ないらしい。

 気温が高いため蒸発量が多く、湿度が高い。また雲による遮蔽や高緯度地域に比べて夏も昼間があまり長くならないことなどから、日照時間はあまり多くない。

 昼間を中心に海洋では積乱雲が発達し、スコールと呼ばれる突風と激しい雨に見舞われることが多いが、その後は冷たい空気が降りてくるため、適度な風もあってスコールの後は涼しくなる。

 しかし、そんな悠長な事をしている暇は無い為、早くシグマを見つけなければならなかった。

 

「それにしても、なんでシグマはこんな所に……束が調べたけど、各国に研究所があったのに対して、アマゾンには研究所なんてなかったし……」

「そりゃあこんなに暑いと研究員達もやる気が出ないんじゃない……?そもそも此処、電気通ってるか分からないし……」

「そんな理由で研究所作らなかったのかな……それにしても暑すぎるよ……!」

「あつぅい……もう我慢できない!束さんは脱ぐからね!!」

「落ち着いてください、束様。ハルカさんが見てますよ」

「大丈夫。束の裸は見慣れてるから」

「えっ……?」

「束、しょっちゅう着替えをお風呂場に持って行くのを忘れるからさ。たまに裸の束と鉢合わせしたりしてて……」

 

 事実である。

 ハルカが夜食にクロエのクロワッサンを食べようとラボ内にあるキッチンに行くと高確率で風呂上がりの束と鉢合わせする。しかも真っ裸である。

 中々のプロポーションを持っている束に対してハルカは特に何の意識もしない。時折、良い肉付きだなと思うことがあるが特に何の意識もない。

 

「そ、そうですか……ーーー私がおかしいのでしょうか……?」

「ハルカ〜おんぶして〜……束さん歩き疲れちゃったよぉ……」

「暑いからヤダよ。でも、流石に暑すぎるね……スコールでも降れば、止んだ後に涼しい風が吹くらしいけど、今のところ雨雲は見えなーーー」

「ん?どうしたのハルーーー」

「お二人ともどうしまーーー」

 

 ハルカが絶句しているのを見た束とクロエはハルカの視線の先の物に絶句する。視線の先に何があったのか、それはーーーー




如何でしたでしょうか。
楽しんで頂けたら幸いです。
久しぶりに感想が来て嬉しかったです。やはり感想が来るとモチベーションが上がりますが、何より見てくださってる方がいるので頑張らなきゃなと思います。

最後のハルカと束、クロエの絶句のシーン。三人が見たものは何なのか、それは後の番外編か何かで。

批評やご意見ご感想・評価・お気に入り登録をお待ちしております。

〝アマゾン熱帯雨林・熱帯雨林の参照:Wikipedia〟


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EP.9 I am are broken

お待たせしました。
今回はアマゾンシグマとの決着回です。
次回からはクライマックスに向けて物語が動き出します。

第1章最終回までぶっちぎるぜぇ。


「いやぁ、〝あの人〟が居なかったら僕達今頃殺されてたね」

「そうですね。あの人もハルカさんと同じく、大切な者を守る為に戦ってるんでしょうね」

「束さん、もう二度とアマゾンに来ないからね……」

 

 アマゾンにやって来たハルカ達一行は、ISを纏ったシグマの反応があった場所へと向かっていた。

 途中、不思議な事に巻き込まれてしまったが、これはまたいずれ話すとしよう。ハルカ達は汗を流しながらアマゾンの奥地へと進んでいく。

 束がシグマの反応を調べていると、何処からか機械音が鳴り響く。

 ハルカ達は近くの茂みに隠れると上空に数人のIS部隊が飛翔していた。どうやら、ハルカ達を探している訳ではなかった。

 IS部隊はその場から飛び去っていくと、ハルカ達は茂みから出る。

 

「あのIS部隊……僕達を探してる訳じゃなさそうだね。もしかして、シグマを捜索してるのかな?」

「そうみたいだね。反応があった場所にシグマの反応が無くなって各地を転々としてるし……兎に角、今はシグマを探すのが先決だね」

「ですが、どうやってシグマを見つけるのですか?反応が転々としているなら場所を特定するのは難しいのでは……」

「そうだね……どうすればシグマを見つけられるんだろう……」

 

 ハルカ達はどうやってシグマを見つける事が出来るのかを考える。シグマを探し出し、助け出すことが今回の目的でもありサンプルの確保でもあった。

 しかし、アマゾンの各地を転々としているシグマを探し出すのは難しかった。せめて何処かに点在してくれさえすればその場に行けるのだが……。

 

「悩んでいても仕方ない。取り敢えず歩いてみよう。何か手がかりが見つかるかもしれない」

 

 ハルカ達はそう言うと、その場を歩き始めた。

 

「だけど、何故シグマはこんな所に?こんな所に研究所なんて無いのに……」

「でもIS部隊がいるって言うことは、亡国機業がこのアマゾンに来てるってことだよね。もしかすると束さん達が考えてる事よりヤバイことをしでかそうとしてるんじゃあ……」

「ですが、束様が言うようなヤバイことをしようとするなら、何故アマゾンに来たのでしょうか。此処は研究所も無ければ電気も通らないような場所です。そんな場所で一体何を……」

「亡国機業が何を企んでるか知らないけど、恐ろしい事なのは間違いないと思う……だからーーー」

 

 その時だった。

 遠くの方から爆発音が鳴り響き、炎と黒煙が上がっているのが見えた。ハルカ達は頷き、急いで爆発音が鳴り響いた場所まで走り出した。

 辿り着いた場所には、ISを纏ったシグマがIS部隊を襲っていた。

 ISの装甲を剥がされたIS部隊の一人がシグマの手によって腹部を貫かれ、息絶える。更には、シグマの攻撃によってIS部隊の一人一人が怯え、その場から逃げ出していく。

 その光景を見て、ハルカは静かにアマゾンズドライバーを装着した。

 

「ハルカ……」

「束とクロエは下がってて。多分無事じゃすまないけど……何とかしてみせるよ」

「ハルカさん……無茶だけはしないでくださいね」

「うん……!」

 

 ハルカは頷き、束とクロエが物陰に隠れるのを確認するとシグマに視線を向ける。

 シグマはハルカの姿を確認すると、静かに紫色の瞳をハルカに向ける。

 

「うぉおおおおっ!!アマゾンッ!!」

 

 《Omega…!Evolu…Evo…Evolution…!》

 

 アマゾンズドライバーのグリップを捻り、シグマに向かって叫ぶと緑色の炎と爆風に身を包み、アマゾンオメガへと姿を変えるハルカ。

 静かに構えるオメガとシグマ。

 それを見つめる束とクロエ。そして、オメガが走り出すとシグマに向かって跳躍し拳を放つーーが、シグマはそれを受け止め、オメガは投げ飛ばす。

 

「ぐっ……!ガァアアアッ!!」

「ーーーーーーー」

 

 オメガは立ち上がり、シグマに回し蹴りや拳を放つがシグマはそれを防ぎ、オメガに拳を叩き込む。シグマの力にISの力が加わり、オメガは吹き飛ぶ。

 

「やっぱり、一筋縄じゃ行かないみたいだ……」

「ーーーーーーー」

「何か喋ってくれないかな……何を考えてるのか分からないからさ!」

 

 オメガは跳躍し、シグマに飛びかかると拳を叩き込んでいく。しかしISのシールドバリアーによりオメガの攻撃が通らないのか、ビクともしなかった。

 シグマはオメガを掴み、地面に叩きつける。地面に叩きつけられた事によって、激痛で声も出せないオメガを何度も地面に叩きつけるシグマ。

 そして、シグマはオメガに視線を向ける。地面に倒れるオメガを見て、シグマは急に動きを止めた。

 

「ーーーーーーー」

「動きが止まった……?」

「束様、これは一体……」

「分からないけど、ハルカ!今がチャンスだよ!」

 

 束の叫びにオメガは身体を捻らせるとシグマの手から離れ、その場をバックステップで後方に下がるとシグマに向かって走り出す。

 

 《Violent Punish……!》

 

 トドメを刺さず、ISだけを破壊しようとISのコア部分を右腕の刃で切り裂こうとした時だった。シグマの瞳に視線を向けた時、不思議な感覚に陥った。

 シグマの変身者であり、ISの操縦者であろう幼き少女がオメガのーーハルカの目の前に立っていた。

 少女はハルカを見つめながら、何かを呟く。小さくて聞こえない少女の声を聞き返そうとすると、少女の瞳から涙が流れ始めた。

 少女は涙を流しながら、頭を抑えながらその場に膝をつく。頭の痛みに耐えているのか、少女は声にならない叫びを上げながらその場でのた打ち回る。

 ハルカは少女に近づこうとした時だった。少女はこんな言葉を叫んだ。

 

 ーーー誰か私を殺してッ!!

 ーーー私は壊れてるッ!!

 ーーーこれ以上、私を苦しめないでッ!!

 

 そんな言葉と共に、夢から醒めたようにハルカーーオメガはシグマのISコアの目の前で手を止めた。

 動きを止めたオメガを不思議に思ったのか、束が声を掛けた。

 

「ハルカ、どうしたの!?」

「………この子、苦しんでる」

「えっ……?」

「殺してほしいって……束、僕はどうすれーーー」

「ーーーーーーー」

 

 その瞬間シグマがオメガを薙ぎ払い、オメガを吹き飛ばした。地面を倒れ、立ち上がろうとするオメガだったが先ほどのダメージで立ち上がれずにいた。

 シグマはISの武装武器である刀を展開し、オメガに斬りかかろうと構える。

 束とクロエがオメガに駆け寄ろうとするが、シグマの刀は着実にオメガへと降りかかる。死を覚悟したオメガは身構えるーーーが、一向に刀は振り下ろされなかった。何故ならーーー

 

 

「おいおい、俺を仲間外れにするなんて寂しいじゃねえか。俺も仲間に入れてくれよ」

 

 

 ーーーアマゾンアルファが腕の刃でシグマの刀を防いでいた。

 

「雨宮……ジン……!?」

「やっぱり亡国機業も来てたみたいですね」

「亡国機業がなんでこんな所に!」

「そんな睨むなって。別に俺たちはアンタらの邪魔をしに来た訳じゃない。コイツを止めに来たんだよ」

 

 アルファは刀を振り払うとシグマを蹴り飛ばし、オメガに手を差し伸べる。オメガは一瞬躊躇するが手を振り払い自分で立ち上がる。

 

「おいおいそんな怖い顔すんなって。まぁ、分かんねえけど……」

「それより、シグマを止めに来たってどういうこと?亡国機業はシグマを操ってたんじゃ……」

「確かにあのアマゾンシグマは俺たちが死体の少女に特殊なアマゾン細胞を投与して蘇らせたアマゾンだ。そうする事で感情を持たない殺戮兵器にしようと考えたが……正直に言うと、彼奴は失敗作だ。本来ならシグマタイプは感情なんか持たない。ただ、彼奴は感情を持った。感情を持ったらいざという時に戸惑いが生じるからだ。だからーーー」

 

 オメガがアルファの肩に手を置く。その手は怒りに震えていた。

 

「もういい……もう喋らないでくれますか。それ以上喋るとーーー僕は貴方を殺さないといけない」

「ほぉ……言うようになったじゃねぇか。ならどうするんだ?アマゾンシグマを殺すのか?」

「そんなことする訳ない。僕はシグマをーーーあの子を助け出す。だから、貴方が邪魔をするなら……」

「邪魔なんかしない。彼奴を殺そうが生かそうが俺の自由にしていいってスコールに言われてるんでな……だから、今回限りはお前に力を貸してやるよ」

「別にいいですけど……僕の邪魔だけはしないでくださいね。束とクロエは下がってて」

 

 アルファとオメガはシグマの目の前に立つと、シグマに構える。二人の獣が、機械を纏った獣に立ち向かう。

 今ここに、二人の獣の共闘が始まる。オメガとアルファは走り出すとオメガは跳躍し蹴りを、アルファは拳を叩き込む。

 シグマはオメガを薙ぎ払い、アルファに刀を振り下ろすがそれを避けるアルファは回し蹴りをシグマが纏うISの装甲に叩き込む。

 少しばかり仰け反るシグマにオメガが追撃を叩き込んでいく。跳躍し連続蹴りを叩き込んでいき、膝をついたまま回転し、シグマの足を薙ぎ払う。

 アルファはオメガの肩に手を置き、シグマの腹部に飛び蹴りを放つとシグマは吹き飛ぶ。

 敵同士であるオメガとアルファの息ぴったりのコンビネーションに感嘆の声を上げる束とクロエ。

 

「凄いです……敵同士の二人があんなコンビネーションをするなんて……」

「喧嘩するほど仲が良いって言うからね。実はあの二人、仲が良いんじゃ……」

『良くないッ!!』

 

 二人の声が重なり、束にツッコむ。

 同時にシグマに視線を向けるオメガとアルファはシグマに向かって走り出す。シグマはISのブースターで飛翔し、オメガとアルファに襲いかかる。シグマはオメガを掴み、空中へと飛ぶ。

 しかしアルファは跳躍し、シグマのISのブースター部分に飛びかかると両腕の刃でブースターを破壊していく。空中でバランスを取れなくなったシグマはオメガと共に地面へと落下する。

 地面を転がるオメガはフラフラと立ち上がり、地面に着地したアルファに近づくと肩を大きく叩く。

 

「ちょっと!僕がいるのになんで真っ先にブースターを破壊するんですか!」

「仕方ないだろ。空に逃げられたら元も子もない。それに油断してたお前が悪いんじゃないのか?」

「ならそう言ってくださいよ!」

「やっぱり二人、仲良いんじゃあーーー」

『だから良くないッ!!』

「ーーーーーーー」

 

 二人がコントのようなやり取りを繰り広げているとシグマは立ち上がる。ISの装甲はボロボロになり、肩や脚の装甲は地面に落ちていく。

 

「ジンさん、あの子を助ける為にはやっぱり……」

「あぁ。アマゾンズドライバーとISコアを破壊すればシグマタイプを助けることが出来る。だが、一瞬でも打ち所を間違えれば、確実に死ぬ」

「なら、貴方のタイミングに合わせます。束、あの子を助けたいんだ。悪いけど……」

「うん、大丈夫。あの子を助ける為だもの。壊したって束さんが直して上げるよ!」

「ありがとう、束……行きますよ、ジンさん」

「ふん……あぁ、俺に合わせろよ」

 

 オメガは走り出すとシグマに飛びかかり、連続蹴りを叩き込むと地面に着地する。それと同時にアルファがグリップを捻ると構える。

 

 《Violent Slash……!》

 

 アルファは走りだし、シグマに向かって突進すると右腕の刃でシグマのISコアを切り裂くとコア部分から火花が散る。続けざまにオメガがグリップを捻る。

 

 《Violent Strike……!》

 

 オメガは走りだし、シグマのアマゾンズドライバーに向かって右足を突き出すとアマゾンズドライバーに直撃する。

 吹き飛ぶシグマは地面を転がり、フラフラと立ち上がるとISコアとドライバーが火花を散らしながら砕け散ると、シグマはそのまま地面に倒れる。

 変身が解除されると、地面に倒れているのは幼き少女が其処にいた。

 束とクロエが少女に駆け寄り、息をしていることを確認する。意識を失っているらしく、命に別状はなかった。

 オメガとアルファは変身を解除する。息を整え、視線を合わせる。

 

「ジンさん……」

「俺の仕事は終わりだ。次に会う時は敵同士だ……覚悟しておくんだな」

「ちょっと待ってください。一つだけ聞かせてください」

「……なんだ?」

「……どうして、人間をアマゾンにしようと?」

「ーーーー〝アマゾン計画〟。俺たち亡国企業によって様々な人間の遺伝子を使い、生物兵器アマゾンを造る為に起こされた計画の事だ。其処に居る篠ノ之束が作ったISに対抗する為の計画だが……お前と其処のガキやシグマタイプ以外の3,900体以上のアマゾンは廃棄処分されたがな……」

「なんでそんな計画を……!」

「計画したのは俺じゃないぞ。ーーー俺の親父が計画したんだ。まぁ、親父はその後行方不明になったがな……まぁ、阻止したきゃ阻止すればいい。その時は俺はお前を殺しにくるがな」

 

 そう言って、ジンはその場を去って行った。ハルカはそれを見届け、束達の元へ駆け寄る。その後、少女を連れてラボへ戻って行ったのだった。




如何でしたでしょうか。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。批評・ご意見・感想・評価・お気に入り登録をお待ちしております。

→アマゾン化計画
雨宮ジンの父親が亡国機業と共に人間の遺伝子を使い、生物兵器アマゾンを創り出そうとした計画。現在、ジンの父親は行方不明になっている為、その後の計画がどうなったかは知る由もない。

→アマゾンシグマに変身していた少女
シグマとISを纏っていた幼き少女であり、シグマタイプ。本来ならシグマタイプに感情は無い様に作られているのだが、何故少女に感情が生まれたのかは謎である。


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EP.10 Justice is not

お待たせしました。
あとがきの方で少しご報告がございますので、本編をご覧になった後ご覧下さると助かります。

それでは、EP.10をお楽しみ下さい。


 移動用ラボではハルカと束、クロエが交代交代で少女の看病を行なっていた。あれから一週間、少女は一向に目を覚まさなかった。

 恐らく、亡国機業によってアマゾンズドライバーとISを無理矢理装着させられたせいだろう。

 アマゾンズドライバーとISは束が調べた結果、システム上併用する事は出来ないのだそうだ。

 しかし、亡国機業によってISのシステムとアマゾンズドライバーのシステムを書き換えた事によって併用させる事が出来たのだろう。それが、少女の身体に負担を掛けさせていた。

 その結果、少女の潜在意識までをも蝕み、苦しませた事によって少女の身体は休息を求めているのだろうと束は推測した。

 

「あれから一週間……あの子は一向に目を覚まさないけど、大丈夫かな?」

「一応あの子の身体を検査してみたけど何処も異常は無かったよ。でも、シグマタイプだからかな?心臓は動いてなくても身体は正常に動作してる。あの子、本当に死んでるんだね……」

「今までシグマタイプと戦ってきたけど、元は人間なんだよね……それってつまり、僕は人間をーーー」

「ハルカ、束さん達は正義の味方じゃない。ううん……束さん達は〝正義の味方になっちゃいけないんだよ〟。束さん達は亡国機業を潰す為に戦ってるの。正義の為に戦ってるんじゃないんだよ。だから……そんな風に考えちゃったら、戦えないよ……」

 

 ハルカの手を握る束は、何処か悲しそうだった。

 束も思う事があるのだろう。自分達が只の人間と戦ってる訳じゃないことを。自分達は〝死んだ人間〟と戦ってるのだ。

 それがどれ程辛いことなのか、今回の少女の一件で思い知らされた。いやーーー見て見ぬ振りをしてきたのだ。〝死んだ人間〟と戦っているという事を。

 

「ごめん束……少しだけでいいからーーー抱きしめてくれないかな?」

「うん、いいよ……」

 

 そう言って束はハルカを抱きしめ、ハルカも束を抱きしめる。お互い黙ったまま、お互いの温かさを感じながら、強く抱きしめる。

 いつ振りだろうかと、ハルカは思い出す。初めて会った時も抱きしめられ、二回目はクロエと一緒に抱きしめられた。

 二年も経っていたのかと、ハルカは思い出した。久しぶりに抱きしめられたからか、安心したハルカは束から離れるとジッと見つめる。

 ふと、心臓の鼓動が速くなるのを感じるが恐らく気のせいだろう。

 この〝感情〟が一体何なのか、知る由もない。お互い見つめあっているのが恥ずかしくなったのか、二人は頰を紅くする。視線を逸らす二人だったが、治療室からクロエが出てきた。

 

「束様、ハルカさん、あの子がーーーどうかしましたか?」

「う、ううん!なんでもないよくーちゃん!ねぇ、ハルカ!?」

「う、うん!なんでもないよクロエ!ところで、どうしたの?」

「は、はい。実は先ほど、あの子が目を覚ましたのですがどうすればいいのか分からなくて……」

「えっ?」

 

 ハルカと束はクロエと共に少女がいる治療室まで付いていく。

 治療室の中には、少女が上半身だけを起こして周りを不思議そうに見渡していた。少女はハルカ達に気づくと、無表情のまま見つめる。

 不思議な感覚に陥った時に見た少女の表情はクロエやセシリアのように生気を感じられたが、今目の前にいる少女の表情からは生気が感じられなかった。

 本当に死んでいるんだと、ハルカは改めて実感した。

 

「ここは何処?」

「此処は束さんのラボだよ〜。君、ハルカと雨宮ジンに助けられたんだ。それから先の事は覚えてる?」

「覚えていない……私はこれから何をすればいい」

「えっ?」

「指示を。私は如何なる命令も聞く」

「命令って……もしかして、亡国機業にいた時もそんな風に命令されてたの?」

 

 少女は束を無表情のまま見つめ、頷く。

 まるで、感情を持たない人形のように。どうしたものかとハルカと束が悩んでいると、クロエが少女の目の前に置いてある椅子に座り、笑みを浮かべる。

 

「貴女はもう、誰の命令も聞かなくていいんです。もう貴女を縛る物はもうないんです」

「私は……捨てられるのか?」

「いいえ、貴女はもう自由です。どんな生き方をしたって、貴女を咎める人はいないんです。だから……貴女は貴女の人生を歩んでほしい」

「私の……人生……?」

 

 少女はクロエの言葉に疑問を抱く。無表情ながらも必死にクロエの言葉の意味を考えているのだろう。少女は自分の手を見つめる。

 

「私は………人を殺したのか?」

「……はい」

「私は………たくさんの人に迷惑を掛けたのか?」

「……はい」

「私は………生きていいのか?」

「はい……生きていいんです。私は、此処にいる束様とハルカさんに助けてもらいました。名前を貰いました。幸せな時間を貰いました。だから貴女も……生きていいんです」

「………そうか」

 

 少女はクロエの言葉に頷く。

 ふと、ハルカは二年前の出来事を思い出した。クロエの姿が、ハルカとクロエに幸せな時間を与えてくれた束に見えたからだ。

 すると、少女はベッドから出るとクロエの手を握る。

 

「貴女は私に自由に生きていいと言った。これから私は貴女にーーークロエに従う」

「……そうですか。でも、貴女の人生です。貴女の思うように生きてくださいーーー〝イユ〟」

「イユ?クロエ、もしかして……」

「この子の名前です。束様が私に〝クロエ・クロニクル〟という名前をくれたように、私もこの子に名前をあげようかと思って、昨日から考えてたんです」

「イユ……私の名前か?」

「はい。貴女の本当の名前は存じ上げません。ですからイユーーー貴女はこれから〝イユ〟として新たな人生を生きてください」

 

 少女ーーーイユはクロエの言葉に頷くと、べったりとくっつく。まるで、姉に甘える妹のような光景が目の前に広がっていた。

 ふと、ハルカが束に視線を向けると束はハンカチで目元を拭いていた。号泣している束の姿はまるで、娘の成長を見て感動した母親のようだった。

 それに対して苦笑いを浮かべるハルカだったが、クロエの笑みを見て嬉しくなったのは秘密である。

 

 ◇◇◇◇

 

「さて、これから束さん達は本格的に亡国機業に喧嘩を売ろうと思います!」

「唐突だね……まぁ、束らしいけど。でも、喧嘩を売ろうって言ってもどうやって?研究所の殆どは亡国機業が破壊してるから意味ないんじゃあ……」

「亡国機業は何人もの構成員で成り立ってる組織だからね。一人一人に喧嘩を売ってたら時間の無駄。だから束さん達は〝亡国機業そのもの〟に喧嘩を売る事にしました!」

「亡国機業本体に喧嘩を売る……それはそれで大変そうだけど?」

 

 ハルカの言葉に、束はふふんと鼻を鳴らすとコンソールを操作する。

 二人の間に浮かび上がるホログラムには亡国機業のアジトと思われる基地が幾つも点在していた。各国に亡国機業のアジトがあるとすれば、全部を回るのは時間の問題だ。

 

「各国に亡国機業のアジトがあるなら、一つ一つ潰していくのが妥当だけど……当てはあるの?」

「束さんの推測だけど、亡国機業の本拠地とも言える場所には目星をつけてあるよ。恐らく、イギリス。彼処はISを開発してる企業があるし、なにぶん人材も多い。イギリスはISの実用化を他の国よりもリードしてるみたいだし、うってつけかもね」

「イギリスかぁ……二年前に行ったきりだもんね。セシリアちゃん、今頃元気にしてるかーーー」

「ハルカ、そのセシリアって誰?」

「えっ?あぁ、言ってなかったっけ?僕とクロエがジンさんの研究所に向かう途中に出会った子でね。なんでもお母さんと喧嘩してて、家を飛び出してきたんだけど、ちゃんと仲直りできたかなぁ?」

「ふぅ〜ん……そうなんだぁ。束さんの知らない間に他の子と仲良くなったんだぁ〜。そっか〜……」

 

 束は頰を膨らまし、ハルカから視線を逸らす。その顔はまるで、頰一杯に餌を詰め込むリスのような表情だった。

 束の衣装は不思議の国のアリスをモチーフにしており、頭には機械的なウサミミが付けられている。矛盾してるなぁとハルカは思ったが、何やら不機嫌な束を怒らせる訳にもいかず、話を元に戻す事にした。

 

「そ、それで?またイギリスに行くことで決まりかな?」

「うん。束さんの推測が正しければね。でも、気をつけて。亡国機業の構成員が何を仕出かすか分からないから」

「うん、気をつけるよーーー所で、イユは何をしてるのかな?」

 

 ハルカは視線をイユに向ける。

 其処には、イギリスのガイドブックらしき本を黙々と読んでいるイユの姿があった。他にも様々な国のガイドブックが多く積まれており、イギリスのガイドブックをハルカに見せつける。

 

「イギリスに行くのか?なら私も連れて行け。彼処は亡国機業の構成員が複数人存在している。私は其処に何回か行った事がある。それにーーー美味しい料理屋も知っている」

「観光に行くんじゃないんだけどなぁ……でも、イユがいれば好都合かも。構成員が複数存在してるなら場所を突き止める事が出来る」

「ですが、イユは既に亡国機業を抜けた身です。バレればそこで終わってしまいます」

「そこら辺はラボに残ってハルカに指示を出してもらおっか。そうすればバレる事もないしね」

「ハルカさん、念の為にこれを」

「これは?」

 

 クロエから渡されたのは、小さな指輪だった。

 銀色に輝く指輪はハルカの薬指に嵌められる。

 

「クロエ……こういうのは男の僕が女の子にすることなんじゃ……」

「ち、違いますっ。これは単なる指輪ではなく、発信機になっています。本来ならその腕輪ーーーアマゾンズレジスターの発信機を使えればいいのですが、先日の戦闘の際に発信機そのものが起動しなくなっていたので……」

「そ、そうなんだ……僕も指輪を誰かに嵌める時が来るのかなぁ……」

「もしかして、セシリアの事を言ってる?ハルカってセシリアみたいな子が好きなの?」

「何の話をしてるのさ……僕は恋愛っていうものを知らないし、何より僕はーーー」

 

 その時だった。

 ホログラムの映像がニュース速報へと変わり、事態は急変する。イギリスで運行されている列車がハイジャックされたとの情報だった。

 

 ◇◇◇◇

 

『ハルカ、本当に此処からで大丈夫なの!?』

「うん!此処なら変身して飛び乗れそうだ!」

 

 ハルカは今、ハイジャックされた列車の上空を束が作った無人機に乗って飛んでいた。

 列車の中を束が作った不思議の国のアリスを模して作られた眼鏡型バイザーを使って中を透視する。

 乗客は座席に座っており、その通路側にはハイジャック犯が立っていた。

 そして分かったのは、ハイジャック犯の左腕にはアマゾンズレジスターが装着されていた事だ。

 恐らくこのハイジャック事件には亡国機業が関わっている事は確かだろうと確かめるため、ハルカはイギリスにやって来た。

 

「これ以上高度を下げるとバレるかも。此処から列車に飛び乗るよ!」

『分かった!気をつけてね!』

「うん!ーーーアマゾンッ!!」

 

 《Omega…!Evolu…E…Evolution…!》

 

 ハルカは無人機から列車に向かって飛び降りる。

 アマゾンズドライバーのグリップを捻り、緑色の炎に包まれ、爆風と共にアマゾンオメガへと変身を遂げると無事に列車の屋根に着地ーーー

 

「あっ……!」

 

 ーーーする事はなく屋根を突き破り、乗客がいる車両に着地した。突然の事に、乗客は勿論シグマタイプ達も驚愕する。

 シグマタイプはオメガの姿を確認すると蒸気を放ちながらアマゾンへと姿を変えた。

 いつの間にか、複数のシグマタイプがオメガの下に集結しており、蜂やトンボ、蝶といった虫系のアマゾンがオメガを睨んでいた。

 オメガは襲いかかる蜂アマゾンの攻撃を避け、拳を叩き込んでいき、なるべく乗客から遠ざけようと攻撃を与えて行く。

 しかしトンボアマゾンがオメガに飛びかかり、乗客の方へオメガを蹴り飛ばす。

 悲鳴を上げる乗客を他所にトンボアマゾンがオメガに襲いかかるが、拳で蟻アマゾンの頭部を貫く。

 余りにもショッキングな光景が広がり、悲鳴を上げる乗客や失神する乗客達。トンボアマゾンは絶命し、泥となる。オメガは立ち上がり、残りの蜂アマゾンと蝶アマゾンを相手に戦闘を開始する。

 

『ハルカ、早く。その列車にはーーー』

「ゴメンッ!今話してる時間はないんだっ!」

 

 イユの言葉を搔き消すオメガ。蜂アマゾンの上半身と下半身を真っ二つに切り裂き、蝶アマゾンの首を腕の刃ーーーアームカッターで切り裂いて行く。

 しかし、次々と現れるシグマタイプ達に苦戦するオメガは乗客を守りながら戦っていた。

 狭い通路の中で戦いに慣れていないオメガだったが、何とかしなければならなかった。

 

「ウォオオオオッ!!」

 

 オメガはアマゾン達をアームカッターと脚部のフットカッターで切り裂いて行き、グリップを捻る。

 

 《Violent Punish……!》

 

 アームカッターが更に鋭くなり、アマゾン達を切り裂いて行く。異形の存在であるアマゾン達に恐れる乗客達だが、それと同時に今乗客達を守ろうと必死に戦っているオメガに対しても、恐怖を持ち始めていた。

 人間は自分とは異なる存在を目にした時、恐怖の感情を持つものである。その感情をハルカが知った時、果たして彼は戦えるのか……。

 順調にアマゾン達を倒していくオメガは、更に襲いかかるアマゾンに攻撃を放とうとした時だった。突如、インカムから束の叫びが聞こえた。

 

『ハルカ!逃げてっ!!』

「でも!!乗客を見捨てる訳にはーーー」

 

 その言葉を最後に、束からの通信は途絶えた。何故ならばーーー突如列車が爆発したからだった。

 

 ◇◇◇◇

 

「ハルカ……ハルカァアアッ!!」

 

 束の悲痛な叫びがラボに響き渡る。

 車両の映像はハルカを通してモニターに映し出されていたが、爆発によってハルカが付けていたバイザーからの通信が途絶え、何も映らなくなった。

 束はハルカからの連絡が途絶え、終いには列車の爆発が起きてしまった。

 何の罪も無い乗客達をも巻き込み、挙げ句の果てには乗客を守る為に戦っていたハルカをも巻き込んだ。

 束は何も映らないモニターをじっと見つめながら、膝から崩れ落ちた。

 

「束様……!」

「くーちゃん……ハルカは死んでないよね……きっと無事だよね……?」

「それは……」

「嘘だよね……お願い……嘘って言ってよ……ハルカは死んでなんかいないって……!」

 

 束は涙を流しながら、クロエに泣きつく。

 クロエは束を抱きしめ、モニターに視線を移す。スノーノイズしか映らないモニターを見つめるクロエと、無表情でコンソールを操作するイユ。

 イユは何かを見つけたのか、コンソールを更に操作し始めた。




如何でしたでしょうか。
楽しんで頂けたら幸いです。

ここで今後の投稿に関してご報告がございます。現在、第1章のエピソードを二日〜三日空けながら投稿しております。ですが、第2章からは少しばかり投稿が遅れると思います。理由に関しましては、第2章の物語をどう展開していくかです。
その為、投稿が大幅に遅れると思われます。遅れると申しましても一ヶ月は掛からないと思われます。何卒ご了承下さると助かります。

→イユ
シグマタイプのアマゾンであり、元亡国機業所属。洗脳され、アマゾンシグマとしてISを纏わせられていたが、ハルカとジンによって助け出される。


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EP.11 Keep a world

お待たせしました。
残す所あと二話。
残り2話で、ハルカと束の物語はどう変わっていくのか。果たして、亡国機業を倒せるのか、第1章最終回までぶっちぎるぜぇ。


 爆発によって燃え上がる列車からオメガがフラフラと歩いてくる。膝をつき、地面に倒れるオメガの変身が解除されると元の姿に戻るハルカ。

 ハルカの身体は傷つき、赤黒い血が流れていた。

 その場を這いずるように、ハルカは前へ進む。意識が薄れゆく中、前へ前へと這いずる。先ほどから束に通信を試みているが、応答がない。

 恐らく、先ほどの爆発によって機器がダメになってしまったらしい。

 そんな中、ハルカが倒れている乗客を見つける。痛みに震える身体を何とか立ち上がらせ、ハルカは乗客の下へ駆け寄った。

 

「大丈夫でーーーー」

 

 駆け寄った乗客の身体を見て、呆然とする。

 何故なら其処にあったのは、胸から下が無くなった乗客の姿はだった。更に周りを見渡すと、黒焦げになった乗客や、肉片と化した乗客、列車に押しつぶされた乗客の姿が転がっていた。

 余りの惨状に、ハルカは胃の中の物を全て吐き出したのではないかと言うぐらい、その場に吐いた。治らない吐き気に涙を流すハルカ。

 再び、周りの惨状に目を向けたハルカだったが、自分の腕を掴む者が居た。目を向けると其処に居たのは、血だらけの子供だった。

 

「お、お兄ちゃ……ん……痛いよぉ……助けて……」

「あぁ……あぁ……!!」

「お……お兄ちゃん……助けて……」

「ごめん……僕は君を……助ける事が出来ない……」

 

 何故ならーーー子供の下半身は列車に押しつぶされていたからだ。子供はハルカの言葉を聞いたのか、もしくは聞こえる前に逝ってしまったのか、既に息をしていなかった。

 ハルカは拳を握り、地面に叩きつける。何度も何度も地面に拳を叩きつける。自分は何の為に戦っていたのか。みんなを助けたかった。例え正義の味方じゃなくても、みんなを救いたかった。

 それがこの結果だ。

 結局、自分は誰も救えなかった。怒りが収まらないハルカは叫んだ。血を吐き出そうが、涙を流そうが、痛みで身体が苦しもうが、ハルカは叫んだ。

 

「亡国機業……何処だぁ!何処にいる!出てこい!何でこんな事を……何で……何で……!!」

 

 ハルカはその場にいない亡国機業の名を叫ぶ。

 叫んだ所で亡国機業が現れる筈もなく、ハルカは泣きながら蹲る。血だらけの拳を握り、顔を上げる。ハルカの目はーーー殺意に満ちていた。

 

「殺してやる……絶対に殺してやる……!!」

 

 殺す。殺す。殺す。

 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス。

 

 殺意の感情がハルカの中で渦巻いていた。

 自分の中の本能に従ってしまえば、どうなるのか分からない。しかし、本能に従えば自分はもう後戻り出来なくなるだろう。

 精神が壊れてもおかしくない惨状が広がる中で、ハルカは殺意を含んだ目で空を見上げる。

 

「何が正義だ……正義なんてこの世にないんだったら……僕はもう人じゃなくてもいい……亡国機業全員を喰ってーーーー」

 

 その時だった。ハルカの言葉は、それ以上続くことはなかった。何故ならーーー

 

「……ハルカ」

「束……なんで……!?」

 

 ーーー束の姿が、目の前にあったからだ。

 ハルカとの通信が途切れた時、イユがハルカの薬指に嵌められたクロエ特製の発信機付きの指輪の信号をキャッチし、束は此処までやって来た。

 ハルカの血だらけの手を握る束は、目の前の惨状に目を伏せる。流石の束でも耐えきれないのだろう。

 束はハルカに視線を移し、殺意に満ちたハルカの目を見て悲しげな表情を浮かぶ。ハルカは心に誓っている事がある。束の為に戦うと。

 束の為なら、自分は何だってする。例えこの身が朽ちようと、束の笑顔を守る為なら自分は戦い続けようと。それなのに……。

 

 ーーーなんで僕は……〝愛する人〟を悲しませてしまったんだろう……!

 

「ハルカ……帰ろう?くーちゃん達が待ってるから……」

「束……僕は守れなかった……みんなを助けられなかった……僕は一体何の為に戦って来たんだ……!」

「ハルカは十分に戦ったよ。だからもう、一人で抱え込まないでよ……ハルカ一人で戦ってるんじゃないんだから……!」

「でも……助けられなかった!僕の目の前で子供が死んだんだ!何の罪も無い人達が死んだんだ!ねぇ束、教えてよ!僕はどうしたらいいのさ!僕はどうしたら……みんなを守れるのさ……!」

 

 ハルカは蹲り、涙を流す。

 そんなハルカの姿を見て、束はハルカを抱き寄せ、力強く抱きしめる。今の束には、こうする事しか出来なかったからだ。そして、ハルカはただ泣くことしか出来なかった。

 

 後日、ニュースではあの出来事は列車〝事故〟として扱われていた。

 恐らく何故爆発が起きたのか検討が付かないのか、整備不良で済ませたのか、テロなのか、真意が掴めないまま仕方なく〝事故〟で済ませたのだろう。

 ハルカはここ数日、部屋から出てこなかった。

 最初の三日はクロエの食事に手を付けない日があったが、何とか食事だけはと束がハルカを説得し、今は食事を取るようにしていた。

 そんな日が続く中、ハルカが偶々部屋から出て来た時だった。モニターにニュースの映像が映る中、ハルカはその時の惨状がフラッシュバックされたのか、吐き気を催し、その場に吐いてしまった。

 胃の中の物が全て出てしまうほどの吐瀉物。イユがハルカに駆け寄り、背中を摩る。クロエはハルカの震える身体を摩り、優しく抱きしめる。

 ふと、ハルカが視線をモニターに再び移した時、モニターには追悼式の映像が流れていた。映像は追悼式に並ぶ参列者に場面を変え、参列者を映していた。

 その時だった。

 知っている人物を見つけたのはーーー。

 

 ◇◇◇◇

 

 少女ーーーセシリア・オルコットは両親の墓標の前に立っていた。両親の死を聞き、つい先ほどまで追悼式に出ていた。

 母は強い人だったと彼女は言う。

 父は母の顔色を伺う人だったと彼女は言う。

 しかし、それでも二人はセシリアのかけがえのない家族であった。事故から数日、セシリアは遺産目当ての人間達に飽き飽きしていた。

 遺産目当ての人間達は、セシリアを可哀想だと言う割に遺産の話を持ちかけてくる。

 終いには、オルコット社の存続をどうするかを幼いセシリアに話す始末。セシリアはそんな大人達に飽き飽きしていた。

 ふと、誰かが近づいてくる足音が聞こえる。また遺産目当ての大人だろうと呆れながらも振り向いたセシリアだったが、それは違った。

 其処に居たのはーーーハルカだった。

 

「……やぁ、元気だった?セシリアちゃん」

「ハルカ……さん……?」

「久しぶりだね……追悼式をニュースで知ってね。偶々セシリアちゃんが映ってたから……」

「そうでしたか……ハルカさんも、お元気そうでなりよりですわ。初めて会った時よりも、随分と見違えましたね」

「セシリアちゃんも、大人っぽくなったね……英国淑女ってヤツかな……ご両親に、挨拶していいかな?」

「はい……」

 

 ハルカはセシリアの両親の墓標の前に立ち、静かに目を閉じる。

 目を閉じて数秒、セシリアから事情を聞いた。列車事故があったその日は、両親は二人きりであの列車に乗っていたそうだ。理由は分からない。

 どうしてその日に限って一緒にいたのか、未だに分からない。しかし、一度に両親を失ったセシリアは気丈に振る舞っていた。

 

「……そうですわ。この後、一緒にお茶をしませんこと?いい紅茶を振舞いますわ」

「……セシリアちゃん、無理しなくていいんだよ?」

「ーーー無理なんてしてませんわ……」

「嘘。だって、目の下のクマ凄いよ?」

「これは……ただの寝不足ですわ」

「………此処には僕以外誰もいないから。辛かったら泣いていいんだよ?」

「………ハルカさん、少し……胸を貸してもらえませんか?」

「うん……」

 

 セシリアはハルカの胸に飛び込み、嗚咽を漏らす。涙で服が濡れるが今はそんな事を気にしている程、セシリアの心の痛みに比べたら何でもなかった。それから数分、セシリアが泣き止むまで待ち続けた。

 

「ーーーーありがとうございます……だいぶ落ち着きましたわ」

「それなら良かったよ……セシリアちゃーー」

「セシリアとお呼びください、ハルカさん。私はもう、あの時の泣いていた私ではありませんわ……」

「そうだね……セシリア。僕はこれからとんでもない事をしようと思ってるんだ」

「とんでもない事……ですか?」

「うん。僕がこれからしようとしてる事は許されない事だと思う。一生背負い続けなきゃいけない罪だと思う……でも僕は、怖いんだ。また助けられなかったらどうしようって……僕は何の為に、生きているのかさえ分からなくなる程に……!」

 

 ハルカは掌を見つめる。その手は、震えていた。

 自分に助けを求めてきた子供を助けられなかった時の恐怖が、ハルカの中に蘇ってきた。あの惨状がハルカのトラウマとして、心中に刻み込まれていた。

 するとセシリアが、ハルカの震える手をそっと、優しく握った。

 

「ハルカさん……覚えてますか?初めて会った時の事を。私はあの時、一人で心細かったんです。でも、そんな時、ハルカさん達と出会いました。見知らぬ私に声を掛けてくれて、親身になってくれて……凄く嬉しかったんですのよ?」

「セシリア………」

「ハルカさんが私を助けてくれたように……今度は私がハルカさんを助けますわ。だから……私はあなたの事を信じます。例え許されない罪だとしても、〝ハルカさんはハルカさん〟ですもの」

 

 ハルカはハルカーーーー。

 その言葉を聞いたハルカは、二年前に初めて会った千冬の言葉を思い出した。

 

『お前の好きなように生きろ。お前は私の遺伝子から生まれた存在だが、〝私じゃない〟。〝お前はお前だ〟、ハルカ』

 

 ようやく、その言葉の意味が分かった気がする。

 セシリアの手を握り返し、笑みを浮かべる。ハルカの瞳にはーーー決意の色が宿されていた。

 

「……ありがとう、セシリア。僕は、僕だ。例え許されないとしても、それでもやり通すよ」

「えぇ、それでこそハルカさんですわ」

「うん。………セシリア、お願いがあるんだけど」

「なんですの?」

 

 ハルカの言葉を聞いたセシリアは、一瞬目を見開くがすぐに笑みを浮かべた。

 

 ◇◇◇◇

 

 ラボへと戻ってきたハルカは、すぐさま束の下へ向かった。急に束の研究室に入ってきたハルカに驚きを隠せず、手に持っていたお菓子を隠した。

 

「束ッ!」

「な、なに!?別に、ハルカが大事に取っておいたおやつなんて束さんは食べてーーー」

「おやつなんかいいから。亡国機業のアジトの場所は割り出せた?」

「う、うん。幾つかの候補を探ってみたけど、イギリスのアジトには既に亡国機業の影も形もなかったから別の国に逃げたのかもね。そして、その居場所はーーー」

 

 束がコンソールを操作すると、地球がホログラムによって投影される。そして、更にコンソールを操作すると赤い点がある国に表示される。

 その国はーーーー日本だった。

 

「日本……其処に亡国機業のアジトが……」

「色々と計算して、次の目的地や行動を逆算していった結果、日本にアジトがある事が分かったよ」

「……束、もし僕が亡国機業全員を殺すって言ったらどうする?」

「……それでも束さんはこれから先、どんな結末になろうが……ハルカを信じるよ」

「………ありがとう」

 

 ハルカは束に礼を告げ、笑みを浮かべる。

 そして、亡国機業との戦いが幕を開ける。束の言うようにこれから先、どんな結末になるのかーーーそれはハルカすら分からない。

 死ぬかもしれない。死なないかもしれない。喰われるかもしれない。喰うかもしれない。それでも束は信じている。

 ハルカがきっとーーー自分の声に従う事を。




如何でしたでしょうか。楽しんで頂けたら幸いです。
残り2話でどう物語が変わるのか、自分もまだ分からない部分がたくさんあり、不安がありますが、みなさんと一緒に楽しんでいけたら嬉しいです。

次回もよろしくお願いします。そして、ご意見・感想・評価・お気に入り登録、批評などをお待ちしております。


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EP.12 Labyrinth of love

お待たせしました。
EP12です。そして次回は第1章最終回。ハルカとジンは一体どうなるのか、乞うご期待。

アマゾンズseason2の最終回、一体どうなるのか。結末次第では、この作品の第2章ラストがどうなるのかが決まります。


 亡国機業のアジトが日本にあると分かり、移動用ラボはすぐさま日本へと進路を変えた。

 ハルカは傷ついた身体を癒し、クロエは自分にできることをしようとイユと共に、料理やドライバーのチェックなどを。

 そして束は、移動用ラボ内にある自分のラボで二年前に届いた謎のメールに目を通していた。

『君が面白いと言える物がある』とだけ書かれた文章を懐かしむように見る束。

 このメールのおかげで、ハルカと出会えたとも言えるのだが二年前から気になっていた事があった。

 

 ーーー果たしてメールの差出人は誰なのか?

 

 これだけが、気になってしょうがなかった。

 この二年でハルカは束、クロエやイユ、セシリアと出会い、戦い、傷ついてきた。時にはハルカの死を覚悟した束。

 そして今日ーーー亡国機業に殴り込みを行う。

 果たして勝てるだろうかと言う不安があるが、心の何処かで不思議と勝てるのではないかという気持ちがある。ふと、視線を自分のデスクに向ける。

 其処にはハルカとクロエ、イユと束が写った写真が置かれていた。

 写真を撮ろうとハルカが言い出した時は驚いた。写真なんて、数年程撮っていなかったからだ。

 撮ったと言えば、当時中学生だった千冬と小学生だった一夏の写真を撮ったぐらいだ。

 

「ーーー箒ちゃん、元気にしてるかなぁ」

 

 自分の妹であり、最愛の妹の篠ノ之箒。

 箒にはだいぶ迷惑を掛けてしまった。もしかすると自分を恨んでいるだろう。そうに違いないと、束は苦笑いを浮かべながら自傷する。

 その時だった。自室の扉が開き、ハルカが入ってきた。

 

「束……今、大丈夫?」

「うん。どうかしたの?」

「…………」

 

 一向に話さないハルカを不思議がる束は、いつものように笑みを浮かべる。

 

「何々……どうしたの〜?もしかして、束さんに愛の告白でもしてくれるのかな?」

「告白か……うん、多分そうだと思う」

「えっ……そ、そうなんだぁ〜」

 

 急な事に一瞬驚くが頰が熱く、赤くなるのを抑えられない束。

 いつも通り自分の冗談にツッコんで来るかと思っていた束は、急にハルカに視線を合わせられずにいる。

 すると、そんな束を見かねたハルカが話を始める。

 

「……初めて会った時からもう二年経つんだなぁ」

「……そうだね。色んな事があったね。ハルカとくーちゃんに出会って、イユとも出会って……嬉しい事もあったけど、それ以上に悲しい事もあった」

「……僕は、ずっとオリジナルーーー織斑千冬から言われていた言葉を考えてた。その言葉の意味が理解できなかった……でも、ようやく理解できた気がするんだ。ーーー僕は僕だ。僕の中の僕に従う……」

 

 ハルカは笑みを浮かべる。ハルカの瞳には、迷いはなかった。

 二年前の幼かった時の面影は既になく、一人の男として束の目に映っていた。束はそれが嬉しくもあり、同時に寂しくもあった。

 

「……大きくなったね、ハルカ」

「そうかな?でも、まだ束には追いつかないなぁ。もう少し大きかったら、並んで歩けるのになぁ」

「無理に大きくならなくてもいいんじゃない?ハルカはそのままでも十分だからね」

「そうだね。無理に大きくならなくてもいいか」

 

 互いに笑いあう二人。

 ふと、ハルカが束の手を握ると束が頭を傾げる。

 

「……あの時、僕は亡国機業を殺したくて堪らなかった。何の罪もない人を殺して……まだ小さい子供も死んでいった……」

 

 結局、イギリスのあの事件は列車事故として扱われてしまった。

 真実を話したところで、国民に不安を与えてしまうだろう。それと同時に、自分の不甲斐なさに怒りを覚えていた。助けられた筈の命が、自分の目の前で消えていった。

 

「でも……あの時、束が来てくれなかったら僕は後戻り出来なかったかもしれない……ありがとう、束」

「う、うん……」

 

 突然の礼に、少し戸惑う束。戸惑う束を何度も見て来たハルカは笑みを浮かべ、更に言葉を紡ぐ。

 

「……それと、分かった事が一つあるんだ」

「なに?」

「………僕は、貴女の事を愛してます」

「ーーーーーーー」

「初めて会った時から、今日まで……そしてこれからもずっと好きです。だからーーー僕と最後まで一緒に………生きてくれますか?」

 

 自覚したのは、数日前。

 何の罪もない人々が死に、亡国機業全員を喰い殺そうと殺意が芽生え始めた時、その場に現れた束の悲しそうな顔を見た時だった。

 自分は束に笑っていてほしいから戦う。

 束にはいつも通りの可愛いらしい束でいてほしいから戦う。束を悲しませたくないから戦う。そんな想いで今まで戦ってきた。

 多分、自覚する前からハルカは束に好意を抱いていたのだろう。自分を助けてくれた恩人としてという感謝の気持ちもあるだろうが、一人の女性として愛していたのだろう。

 イユとシグマタイプの件で悩んでいた時に、束と抱きしめあった時に感じた感情はーーー〝恋〟。

 それは紛れもなく、ハルカが人間であるという証拠でもあった。

 

「僕は〝人間〟として、束とこれからの人生を生きていきたいと思ってる。もう一度言うよーーー僕は、貴女を……束を愛してます」

 

 ハルカの告白に束は頰を赤くする。どうしていいのか分からず、混乱している。どう答えていいものか悩んでいると、ハルカと視線が合う。

 ハルカは笑みを浮かべ、束の答えを待っている。

 

「えっと……束さんは……」

 

 束自身も、答えを出さなければならない。ハルカがセシリアの話をした時、嫌な気持ちになった。

 ハルカがクロエやイユの一緒の時には出なかった感情が、会った事もないセシリアに対して〝嫉妬〟の感情が束の中で渦巻いていた。

 何時からと聞かれれば、それは分からない。

 この二年間で共に笑い、共に泣き、そしてーーー何時も一緒に居るうちに自分はハルカに〝恋〟をしていたのだろう。

 自分で天才と豪語している束でさえ、それは分からなかった。

 

「束さんも……ハルカの事がーーー好きです」

 

 精一杯の告白。心臓が押しつぶされそうな感覚に陥りながらも、ハルカに自分の想いを伝える。ハルカは笑みを浮かべ、照れくさそうに頰を掻く。

 

「ありがとう……それじゃあ、また後で」

 

 ハルカはそう言い、束のラボから出て行った。束はそれを見送った後、その場で立ち尽くしていた。

 遂に言ってしまったと、恥ずかしさと同時に顔がにやけているのが分かる。

 

「こ、恋人になったって事だよね……恋人かぁ……束さんにはそんなラブコメは来ないものだと思ってたけど……まさか来るなんてねぇ……えへへ」

 

 嬉しさからか、機械的なウサミミをぴょこぴょこと動かす。笑みを浮かべる束は、ふと扉に視線を向けた時だった。イユが束をジッと覗いていた。

 

「イ、イユ!?いつから其処にいたのかな!?」

「〝恋人になったって事だよね〟の所から」

「思いっきりバレちゃってる!?イ、イユ?この事はくーちゃんにはーーー」

「安心しろーーー既にバレている」

「えっ……えぇええええっ!!?」

 

 その日、ラボ内に束の叫び声が響き渡った。

 

 ◇◇◇◇

 

「全く……アイツらも馬鹿な事を考えるもんだな」

 

 場所は代わり、ホテルの屋上。

 ジンは夜景を一望していた。手にはスマホを持ち、先ほど構成員から届いたメールに溜息を吐いていた。

 メールには明日の早朝、篠ノ之束達が乗り込んでくるとの内容だった。構成員達が篠ノ之束達を調査したわけではない。篠ノ之束本人から〝殴り込み〟のメールが届いたのだ。

 

「だがまぁ……面白くなりそうだな」

「ーーーージン、隣いいかしら?」

「……スコール」

 

 ふと、スコールがジンの目の前に立っていた。スコールはジンの隣に立つと、夜景を一望する。

 

「いよいよね。勝てるかしら?」

「おいおい、亡国機業のエースが何言ってんだか……だが、勝てるか負けるかって聞かれたら分かんねぇな。篠ノ之束も厄介だが、〝オメガタイプ〟とあの人造人間も厄介だ。あのシグマタイプは……どうだろうな。篠ノ之束側に着いたとはいえ、もうドライバーもない以上、戦力として考えるのは無駄だな」

「でも、篠ノ之博士はISの開発者。もしかすると彼女のISを開発してるかもしれないわ」

「そうだな。でもまぁ……殴り込んでくる以上、こっちも本気で殺しに行くがな」

 

 ジンはスマホをポケットに入れ、夜景を見つめる。

 すると、スコールに対して少しばかりの違和感を覚えた。

 

「………スコール、お前少しおかしくないか?」

「やっと気づいた?私ーーー貴方の子供を身籠ったのよ。今日メディカルチェックを受けたら、お腹に赤ん坊がいるって聞かされたわ。戦闘はなるべく避けろとの事よ」

「………そうか」

「何か感想は無いのかしら?」

「……俺が父親ねぇ……そんな凄いもんになる資格なんて俺にはねぇよ。だがーーー生きて帰らなきゃな」

 

 ジンはスコールを抱き寄せると、優しく抱きしめる。

 お互い抱きしめ合う二人。ジンは生き残らなければならなくなった。本来、〝オメガタイプ〟ーーーハルカを殺す為に動いていたジン。

 明日の戦いでハルカを殺す。もしくは相打ち覚悟で戦おうと覚悟していた。しかし、こうやって愛する人が自分の子供を身籠った。

 死ぬわけにはいかない。自分の〝家族〟を守らないといけないからだ。

 

「ジン……死なないでちょうだい」

「あぁ……死なないさ。もし、この戦いが終わったらーーー二人だけで旅に出るか」

「……そうね。それもいいかもしれないわね」

 

 二人は熱い抱擁と共に、夜景をバックにキスを交わす。ジンは決意する。明日の戦いでハルカをーーーオメガを殺すと。

 

 ◇◇◇◇

 

 そして、翌日。

 ハルカと束、クロエとイユは亡国機業のアジトの前までやって来た。そして、アジト前には数人もの亡国機業のIS操縦者が立っており、中央にはジン、スコール、オータム、そして白と紫を基調としたISを纏った少女が立っていた。

 

「わざわざアジトの前までやってくるとはなぁ……まぁ、そういうのは嫌いじゃないぜ」

「御託はいいですから。僕達は貴方達を倒す為にここまでやって来たんです」

「ほぉ、言うようになったな。そんじゃあ、始めるとしーーーー」

「その前にーーー質問に答えてもらっていいですか?」

「……なんだ?」

「………数日前の列車での爆発。あれは貴方達亡国機業がやった事ですね?」

「だったらなんだ!御託はいいから早くーーー」

「オータム、少し黙ってなさい。あの子ーーー今凄くキレてるわよ?」

「………なんで、何の罪もない人達を巻き込んだんですか?狙うなら僕達を狙えば……」

「悪いが、狙ってたのはお前じゃない。あの列車には俺たち亡国機業が極秘裏に入手したISコアを盗んだ夫婦が居たんだ。それを阻止する為に、あんな大規模な事をしたのさ」

「その夫婦ってまさかーーーオルコット夫妻の事ですか?」

「なんだ、知ってたのか。なら話は早いな……殺したいんだろ、俺たちを。殺したい程憎いんだろ?だったら戦え……戦ってーーー俺たちを殺してみろ」

 

 ジンの言葉に、静かな怒りを滾らせるハルカ。

 アマゾンズドライバーを装着すると、それを合図にジンもアマゾンズドライバーを装着する。そして同時にグリップを捻る。

 

「うぉおおおおおっ!アマゾンッ!!!」

「アマゾンッ!」

 

 《Omega…!Evolu…E…Evolution…!》

 《Alpha……!Blood&Wild!W…W…W…Wild!》

 

 二人の叫びに呼応するかのように、アマゾンズドライバーから音声が鳴り響く。

 それと同時にハルカは緑色の炎に包まれ、ジンは赤色の炎に包まれていく。爆風と共に炎が消え、其処には二体の獣が立っていた。

 オメガとアルファはそれぞれ構え、睨み合う。曇り空から太陽が差し込んだ瞬間、両者は走りだし、腕の刃をぶつけ合った。

 今ここに、亡国機業とハルカ達の戦いが幕を開けた。




如何でしたでしょうか。
ハルカとジンはお互い愛する人の為に戦い、そして喰らいあう。
血を血で洗う物語はこれからどうなるのか、次回をお楽しみに。

そして、次回は少し遅れます。ですが、六月中には第1章を終わらせたいと思いますので、ご了承ください。

少しでも楽しんで頂けましたか。もしよろしければ、ご意見・感想・評価・お気に入り登録・批評をお待ちしております。


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EP.13 Miracle as life

お待たせしました。
第1章最終回です。今回は少し駆け足気味かもしれませんが、その反省を第2章で活かして生きたいと思います。

それでは、第1章最終回をどうぞお楽しみください。


 二体の獣がぶつかり合う。

 養殖の獣は拳と蹴りを叩き込み、野生の獣は腕の刃で切り裂いていく。血を血で洗う物語は最終局面へと進んでいく。

 

「ウォオオオオオッ!!」

「ラァアアアアアッ!!」

 

 養殖の獣は愛する人と共に生きていく為、野生の獣を殺す事。

 野生の獣は愛する人とそのお腹の子供を守る為に養殖の獣を殺す。互いに守りたい者の為に殺しあう。

 どちらが死んでもおかしくない戦いは、激しさを増していく。一方、束達はIS部隊と戦闘を繰り広げていた。

 細胞レベルでオーバースペックの束は生身でIS部隊を圧倒していく。

 クロエは自身の体に同期されているISを使い、翻弄していく。そしてイユは亡国機業の構成員達に拳と蹴りを叩き込み、時には腕や足をへし折っていく。

 

「エム、篠ノ之束を捕らえろ!篠ノ之束を捕らえればコッチのーーーー」

「分かっている。お前も、少しはまともな援護をしろ」

 

 エムはオータムに悪態を吐くとISーーーサイレント・ゼフィルスのブースターで一気に束に近づく。

 束はエムに気づき、近くにいたIS部隊の一人を蹴り飛ばすとエムの攻撃を軽々と避けていく。

 

「くっ!すばしっこい……!」

「あはは。束さんは細胞レベルでオーバースペックだからね〜。それにしてもーーーー君、何処と無くちーちゃんに似てるねぇ?」

「………っ!?」

 

 急に、サイレント・ゼフィルスの攻撃が止む。

 束の言葉に動揺したのか、エムの動きが鈍ってしまった。それを好機と見た束はエムの装甲を蹴り、高く跳躍するとくるりと一回転し、着地する。

 

「ちーちゃんに似てるって事はもしかしてーーー」

「黙れっ!!私は織斑千冬の……姉さんの……」

「おいエムッ!そいつの言葉に惑わされてんじゃねえ!!」

 

 動揺するエムの後ろから蜘蛛のようなISを纏ったオータムが束に向かって襲いかかる。

 束はそれをヒラリと避けた瞬間、イユが蹴り飛ばした構成員がオータムに激突した。倒れるオータムと構成員を見て、束は笑みを浮かべる。

 余裕がある束と、動揺するエム。そして、束に怒りを覚えるオータム。殺意の感情が、オータムの中で沸き起こっていた。

 

「もう我慢の限界だ!篠ノ之束を捕らえて俺たちに協力してもらおうと思ったがそれはもうヤメだ!ここでお前を殺して〝オメガタイプ〟をーーー」

「オータム、落ち着きなさい」

 

 束を殺そうと奮起するオータムを抑えるスコール。

 スコールもまた、金色のISを纏っていた。ふと、束がスコールに視線を移した時だった。何処と無く、違和感を覚えた。

 その違和感に気付いたのか、笑みを浮かべていた顔が解かれ、真剣な表情へと変わった。

 

「………もしかしてーーー」

「そうよ。私のお腹には、ジンの子供が宿ってる。戦いは辞めておけと言われたけど……愛する人が戦ってるんだもの。私だけ逃げるのも悪いでしょ?」

「そっかぁ……束さんと同じだ。束さんもハルカと一緒に生きるって約束したからね。何が何でも生きないといけないんだよ、束さんは……」

「私もよ。この戦いが終わったら、ジンと二人で旅に出ようと思ってるのよ。どう、一緒に来ない?」

「あはは、遠慮するよ。束さん、今のままで十分幸せだしねぇ。それにーーーハルカと一緒に生きるって決めたから」

「そう。残念ね……旅は多い方がいいと思ったのだけれど。でもーーー私もジンと何処までも付いて行くと決めたもの。私達、似てるかもしれないわね」

「そうだねぇ〜」

 

 束とスコールは笑い合う。

 側から見れば、女同士の会話で生まれた笑み。しかし二人の目はーーー笑っていなかった。この時、周りにいた構成員達は心が一つとなった。

 〝女は怖い生き物である〟と。目的の為なら、手段を選ばない女達の戦いは暫く中断した。

 一方、クロエとイユはIS部隊と構成員達を次々に倒して行く。

 イユはクロエを守るかのように、構成員達を殴り飛ばし、クロエは束とハルカの元へIS部隊を行かせないように立ち塞がる。

 

「何故〝シグマタイプ〟のお前が篠ノ之束に着いたんだ!?お前は誇りある亡国機業の構成員の筈……」

「ーーー彼女はもう、あなた達亡国機業の構成員ではありません。イユという名を授かった、一人の〝人間〟です」

「人間だと……化け物は人間になれる筈など無い。そいつも、〝オメガタイプ〟も一匹の獣だ。化け物と人間を一緒にするな!!」

「いいえーーーアマゾンも元は人間です。その人間をアマゾンにしたのはあなた達でしょう。そんな理不尽な理由……通る筈がありません」

「クロエ、指示を。私はクロエに従う」

「……えぇ。イユ、あの人達をーーー倒しなさい」

「了解」

 

 クロエの指示を聞き、イユは走り出す。

 そして、IS部隊はクロエに視線を向ける。クロエは手に持っていた杖を地面に落とすと、目を開く。

 黒い眼球に金色の瞳が光り輝く。その瞬間、IS部隊の動きが止まった。

 

「なんだ!なんなんだこれは!!」

「ワールドパージ……対象者に幻覚を見せる事で対象者を外界と遮断し、精神に影響を与える……これが私が持つ生体同期型IS、〝黒鍵〟の能力。この瞳がその証拠ですーーーと言っても、今のあなた達には分からないでしょうが」

 

 IS部隊は幻覚によって混乱していた。見えない敵に翻弄され、もがき苦しむ様をクロエはただじっと見つめていた。

 その時だった。アルファとの戦闘でクロエの元までオメガが吹き飛ばされてきた。

 

「ハルカさん!」

「クロエ、下がっーーーークロエ、その目は……」

「……これが、私の秘密です。以前、お話ししたことを覚えてますか?お見せできる物ではないので余り眼を開きたくないと。ハルカさん、こんな私でもーーー受け入れてくれますか?」

「……もちろんだよ。束が僕を受け入れてくれたように、僕もクロエを受け入れる。だって、こんな綺麗な瞳をしてるんだ……クロエだって、人間だよ」

「ありがとうございます……ハルカさん、此処は私達に任せて、ハルカさんは雨宮ジンとの決着を付けてください」

「うん、頼んだよ!」

 

 オメガはクロエとイユにその場を任せると、再びアルファの元へと走り出した。クロエはオメガを見届けると笑みを浮かべ、IS部隊へと視線を移した。

 

 ◇◇◇◇

 

 オメガとアルファは戦いを繰り広げていた。

 両者は獣の様に戦う。オメガがアルファに拳を叩き込んでいくが、アルファは回し蹴りでオメガを蹴り飛ばし、追撃を叩き込む。

 オメガとアルファの刃が両者を切り裂き、黒い血が傷口から噴き出る。

 しかし、それでも二匹の獣は戦いを辞められない。互いの愛する者を守る為、目の前の獣を殺す為に。

 弱き動物を強き者が食らう。正に弱肉強食の世界で生きている二匹の獣。

 どちらが死んでも、世界は変わらないだろう。どちらかが生き残っても、世界は変わらないだろう。しかしどちらも生き残ったらーーー果たして世界は変わるのだろうか。

 それは誰にも、ハルカやジンにも分からない。ただ愛する者と生き残る為、目の前の敵を殺す為に二人は戦っているのだから。

 

「お前、俺達を殺すんだろ?その程度か?」

「殺しますよ!あなた達を殺して……束と一緒に生きていくっ!!」

「奇遇だな。俺もお前を殺して、旅にでる。どうだ、一緒に来るかーーーと言いたい所だが……俺とお前の理想は合わねぇ。養殖の考えなんざ、野生には通用しねぇからな」

「元から、通用するなんて思ってませんよ!僕と貴方は相容れない……例えどんな事があってもそれは変わらない!!」

「ほぉ……ならどうする?例えば、今此処に亡国機業の構成員の子供が現れたら、お前はその子供を殺せるのか?」

「それは……!」

「そこなんだよ、お前が甘いのは。お前は目の前の敵を殺したいんじゃない。ただ気に入らない奴等を殺したいだけだ。選り好みしてるんだよ、お前は……」

 

 動揺するオメガの頭を掴むアルファはそう告げ、腹部に膝蹴りを叩き込む。そして、倒れこむオメガに対して追撃を叩き込んでいく。

 地面に倒れるオメガに視線を向けるアルファは、胸の装甲を掻くと視線を束へと向ける。

 

「こんなもんか?……そういやぁお前、篠ノ之束と一緒に生きていくって言ってたな。篠ノ之束を殺せばお前は本気になるのか?」

「や、やめろぉ……!」

 

 アルファはオメガの下から、束の下へ歩み始める。

 オメガがそれを止めようと腕を必死に伸ばすが、ダメージの反動で動けずにいた。アルファは束へと近づいていく。

 このままでは束が殺される。早く立ち上がらないといけないのに、身体が動かない。着々と束へと近づいていくアルファを睨むオメガ。

 

「やめろぉ………やめろぉおおおおおっ!!」

 

 オメガが叫んだ、その時だった。オメガの身体から無数の〝棘〟が飛び出し、周りの物を次々と刺していく。

 建物や車、更にはIS部隊の武器までも次々と刺していく。束やクロエ、イユはオメガの姿に驚愕しているがそれはスコール達もだった。

 オメガの無数の〝棘〟は体内に収縮し、元の姿へと戻っていく。突然の事に、その場にいた者は何が起きたかさえ分からない。しかしアルファは笑い声を上げていた。

 

「お前はやっぱりスゲェなぁ……そうこなくっちゃな!!」

「ぐっ……!」

 

 アルファはオメガに拳と蹴りを叩き込む。

 だが、オメガもやられてばかりではなかった。腕の刃でアルファの胴体や首元を切り裂いていくオメガは、更に追撃を叩き込んでいく。

 そして膝蹴りを腹部に叩き込み、膝立ちで回転し足払いでアルファを地面に倒すと上に跨り、アルファの顔面に拳を叩き込む。

 だがアルファはオメガを蹴り上げ、地面に倒す。

 そして両者は獣の様に戦いを繰り広げる。オメガは拳を放つがアルファはそれを膝蹴りで防ぎ、オメガに蹴りを叩き込む。

 しかし、アルファは腕の刃で切り裂こうとしたがオメガはそれを刃で防ぎ、鍔迫り合いに持ち込み、お互いの首に刃を突き立てる。

 そして、同時にお互いの首元から胴体を切り裂く。

 両者は膝をつき、睨み合う。

 

「ぐっ……!」

「ふふふ……あはははははっ!やっぱりお前は凄いなぁ。お前は他のアマゾンよりも優秀だ。このまま殺すのは惜しいほどになぁ……」

「貴方がそう思うのは自由ですよ……でも僕は一人の〝人間〟だ。貴方がなんと言おうが……僕は〝人間〟として束と生きる……!」

「いいねぇ……でもお前は選り好みして生きていくことになるだろうぜ。その行為が、篠ノ之束を苦しめる事になると思わないのか?」

「束にそんな思いはさせない……苦しむのは僕だけでいい。それに……僕は僕の声に従う。貴方が言う〝選り好み〟で生きていく事になるのなら……僕は狩らなきゃいけない物は狩る。守りたい物は守る……僕が狩るのはーーーアマゾンだけとは限らない事だ!」

「ならやってみろ!俺は何度でも来るからなぁ!お前を殺しに……!!」

 

 両者は立ち上がり、アマゾンズドライバーのグリップを捻る。

 

 《Violent Punish……!》

 《Violent Slash……!》

 

 オメガとアルファは同時に走り出し、腕の刃をぶつけ合う。

 そして、両者の首元に刃を突き立てるとそのまま振り下ろす。その瞬間、首元から黒い血が噴き出し二人はそのまま地面に倒れ、変身が解除された。

 

「ハルカッ!」

「ジンッ!」

 

 束とスコールは走りだし、お互いの愛する者の下へ駆け寄る。

 クロエとイユもハルカの下へ駆け寄ると、クロエは血を流すハルカの首元をハンカチで抑える。

 スコールはジンを抱え、起き上がらせる。血を流すジンは笑みを浮かべていた。

 

「スコール……悪いな。アイツ、中々手強くてな……まさかあそこ迄強くなってるとはなぁ……」

「もういいわ。貴方は良くやったわ……それに、貴方に死なれては困るもの」

「……そうだったな。俺、お前と旅に出るって約束してたんだったなぁ……!」

 

 スコールはジンを抱きしめる。そして束もハルカを起き上がらせていた。

 

「ハルカ……よく頑張ったね……!」

「束……僕は……!」

「無理しないで。すぐに手当てするから……」

 

 その時だった。ハルカの周りを亡国機業の構成員とIS部隊、オータムが武器を構えて囲んでいた。

 

「逃がすかよ……お前達はここで死んでもらうぜ?ったく手こずらせやがって……!」

「オータム、辞めなさい」

「スコール……なんでだ!此処で此奴らを殺しておかないと、またやって来るんだぞ!」

「周りを見てみなさい。被害は甚大よ……このまま戦えばどうなるか分かるでしょう?」

「くっ……!」

「篠ノ之博士、此処はお互い引き分けという事でよろしいかしら?そっちも、その子を失いたくないでしょう?」

「そうだね。亡国機業と意見が合うのは癪だけど、此処は引き分けって事で」

 

 束とスコールが同意すると、周りの構成員とIS部隊はその場から下がる。オータムは納得いかない様子だったが、スコールの指示通りその場から下がる。

 束はハルカを背負い、クロエとイユを連れて、その場から去って行った。

 

「スコール……」

「えぇ……分かってるわ」

「スコール、やっぱり納得ーーースコール……?」

 

 オータムがスコールに視線を向けた時だった。

 既にジンとスコールの姿は無く、影も形もその場から消え去っていた。すぐさま捜索が行われたが、二人が見つかる事はなかった。

 

 ◇◇◇◇

 

 あれから、世界は少し変わり始めた。

 亡国機業の戦いによって、〝アマゾン〟の存在が世間に知られるようになった。しかし〝アマゾン〟の存在は都市伝説として扱われ、世界を揺るがす程の影響はなかった。

 亡国機業があの戦いの後どうなったのか知る者はいない。しかし、今でも暗躍している事は確かであったが雨宮ジンとスコール・ミューゼルは亡国機業を裏切り者扱いになってしまい、行方を眩ましている。

 結局、世界は少し変わっただけで世界を揺るがす程の影響は無く、ハルカ達の戦いは世界からしてみればちっぽけな出来事である。

 一方ハルカ達は、亡国機業との戦いの後、世界中を転々としている。これまでの戦いの傷を癒すというのもあり、ハルカの傷を癒すという目的があった。

 あの戦いの後、ハルカの精神面は落ち、情緒不安定な日々が続いてしまったが束やクロエ、イユの看病があり、だいぶ落ち着きを取り戻したのだった。

 そして数ヶ月の時が過ぎ、ハルカ達はどこかの国にある海岸へと足を運んでいた。

 

「ーーーハルカ、気分はどう?」

「うん……だいぶ良くなってると思う。あれから色々とあったから」

「そうだねぇ……ねぇ、ハルカ」

「なに?」

「ハルカはこれからどうするの?やっぱり、雨宮ジンに言ったように、狩りたい物を狩るの?」

「……うん。それが、僕の選択だから……狩らなきゃいけない物は狩る。守りたい物は守る……ジンさんが言う選り好みだとしても、僕は僕の声に従う」

「そっか……束さんは反対しないよ。それがハルカの選択なら、束さんはそれに着いていく。ハルカにだけ辛い思いはさせないから」

「……ありがとう、束」

 

 お互いの手を握る二人。

 二人の視線には、沈みかけている夕陽があった。良い雰囲気に包まれる二人だが、それは遠くの方から響き渡った悲鳴とアマゾンの叫びで終わりを告げた。

 あれから、各国にいるシグマタイプの捜査を行なっていたハルカ達。二年前、イギリスでシグマタイプが勝手に覚醒した件があった。

 亡国機業の戦い以来、覚醒し人を襲うシグマタイプが増えていると発覚した。

 それを防ぐ為、ハルカは戦いを続けていた。そして今回も人を襲うシグマタイプの駆除へ向かう。

 

「束、行ってくるよ」

「うん、気をつけてねハルカ」

「大丈夫。すぐに帰ってくるよ……ウォオオオオッ!アマゾンッ!!」

 

 ハルカはドライバーを装着し、グリップを捻ると叫び声を上げ、オメガへと変身を遂げる。

 そして守りたい物を守る為、狩らなきゃいけない物を狩りに行く。

 

 

 〝生きている事は奇跡〟なら〝生きている事が罪〟でもある。しかしそれは誰にも分からない。最後まで生きてみなければ分からない。

 それが、自分自身を変えてしまったとしても。だが、ハルカは自分自身の声に従うと決めた。例えどれだけの罪を重ねようと、ハルカは戦い続けて行くのだった。




如何でしたでしょうか。
少しでも楽しんで頂けましたか?まだまだ謎が残る部分がありますが、それは第2章で追々明かしていきたいと思います。
余談ですが、アマゾンプライムで漸くアマゾンズseason2を見たのですが、どう見ても千翼がラスボスじゃないですかやだぁー。
これは第2章の結末を変えるしかない……。

次回は第2章に移る前に少しばかり番外編をと思います。この番外編はEP.8の最後にハルカ達が何を見たのかを明かしていきたいと思っております。

それでは、番外編でお会いしましょう。
もしよろしければ、ご意見・感想・評価・お気に入り登録・批評をよろしくお願いします。


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番外編 Amazon Rider
EP.8.5


お待たせしました、番外編です。
アマゾンズseason2終わってしまいましたね。千翼とイユはあれで良かったんだと思います。最後に千翼はイユの笑顔を見ることが出来、仁さんは千翼を送ることが出来たんですから。

そして、この作品はまだまだ続きますのでよろしくお願いします。

※今回の番外編は、仮面ライダーアマゾンとのクロスオーバー作品になっております。そういったクロスオーバーが苦手な方はお戻りください。尚、オリジナル設定等が含まれますのでご注意を。


 時間は、ハルカ達がアルファと共にISを纏ったシグマタイプーーイユと戦闘を開始する一時間前。ハルカ達は蒸し暑いジャングルを歩いている時だった。

 

「ハルカ〜おんぶして〜……束さん歩き疲れちゃったよぉ……」

「暑いからヤダよ。でも、流石に暑すぎるね……スコールでも降れば、止んだ後に涼しい風が吹くらしいけど、今のところ雨雲は見えなーーー」

「ん?どうしたのハルーーー」

「お二人ともどうしまーーー」

 

 ハルカが絶句しているのを見た束とクロエは、ハルカの視線の先にあったものに絶句した。目の前に広がっていたのは、既に風化した遺跡だった。

 まるで古代遺跡のような外観に、建物などはボロボロに風化していた。ハルカ達は歩みを進め、遺跡を探索し始める。

 

「これって……昔の古代遺跡とかかな?」

「そうだねぇ。束さんはこういうのには興味ないけど、調べてみる価値はありそうだね」

「ハルカさん、束様、これを見てください。これはもしかすると……」

 

 クロエが見つけたのは、大昔に描かれたであろう壁画だった。よく見ると、トカゲのような戦士と下半身が巨大な顔をした怪物と戦っている絵が其処には描かれていた。

 ふと、束がトカゲのような戦士の絵を見て呟いた。

 

「う〜ん……これって雨宮ジンが変身した時の姿に似てるねぇ」

「アマゾンアルファに似てる戦士……でも、腕輪をしてるって事はアルファじゃないし、何処となくシグマにも似てるね」

「色も違いますし、強いて言えば、ハルカさんが変身したアマゾンオメガにも何処となく似ていますね。それにしても……この怪物は何なのでしょうか」

 

 クロエが言う、怪物の絵は赤い身体に下半身には大きな顔があり、それに対峙するアルファとオメガに似ているトカゲの戦士。

 三人が壁画を見て悩んでいると、後ろの方からハルカ達を呼ぶ声が聞こえてきた。振り向くと其処に居たのは、白い髪に白い髭を蓄えた老人だった。

 

「お主達、ここで何をしておる?」

「あっ、ごめんなさい。怪しい者じゃないです。僕たち、少し探し物をしていて……途中でこの場所を見つけて……あの、ところで貴方は?」

「儂はこの遺跡に住んでおる〝バゴー〟という者じゃ。お主達は?」

「僕はハルカって言います。この人は篠ノ之束で、そしてこの子はクロエ・クロニクルって言います。あの、ここは一体何なんですか?」

「ここはかつて、古代インカ帝国があった場所じゃ。そこに描かれている壁画は、かつてこの村の戦士ーーアマゾンが悪しき怪物ーー十面鬼と戦った時の絵じゃ。〝ギギの腕輪〟と〝ガガの腕輪〟を巡っての激しい戦いにアマゾンが勝ち、この村は平和になった」

「戦士アマゾン……僕たちの知ってるアマゾンじゃないね」

「そうだね。もしかしたら、束さん達が戦ってるアマゾンと大昔のアマゾンは別の存在なのかも」

「少しよろしいでしょうか。バゴー様が言う、〝ギギの腕輪〟と〝ガガの腕輪〟とは一体何なのでしょうか?」

「そうじゃな……簡単に言えば、インカ超古代文明のオーパーツじゃ。合体させることで超古代文明のパワーを発揮する事ができ、超人的な力を得る事ができる代物じゃ」

 

 ハルカは壁画に視線を移す。

 確かに、戦士アマゾンと十面鬼の腕には腕輪が嵌められている。大昔に存在した戦士と怪物はこの腕輪を巡って対立していた事が分かったハルカ達。

 

「でも、一度でいいからその腕輪を見てみたかったねぇ。腕輪って今でもあるの?」

「〝ガガの腕輪〟はもうこの世にはない。今代のアマゾンと今代の十面鬼の戦いの後、〝ガガの腕輪〟は消えたと言われておる。不思議な事が起こらん限り、二度と見ることはできんじゃろう」

 

 バゴーはそう言うと壁画から離れ、その場から歩き出す。ハルカ達はバゴーについて行くと、歩きながらバゴーに話しかける。

 

「あの、〝ガガの腕輪〟がこの世に無いのなら、〝ギギの腕輪〟はどうなったんですか?」

「〝ギギの腕輪〟は代々受け継がれておる。数十年前に儂が今代のアマゾンに〝ギギの腕輪〟を授けた。彼は今でも世界の平和を守っておることじゃろう」

「もしかして、今代のアマゾンさんはこの村で……?」

「そうじゃ。彼はこのアマゾンで育ち、アマゾンとして十面鬼の悪事を阻止したのじゃ。その後の事は儂には分からんが、この世界が平和だという事は彼は世界を守ったのだろう」

 

 ハルカ達が知らない出来事。

 そんな出来事が数十年前に起こっていたとは、束ですら知らない事だった。一度でいいから、バゴーの言う彼に会ってみたいと思ったハルカ。

 ふと、遠くの方から機械音が聞こえてきた。恐らくIS部隊がシグマを探しているのだろう。一刻も早くシグマを見つけなければならない。

 ハルカ達がバゴーに話しかけようとした時だった。

 突如地面から黒いモヤのような物が現れ、モヤは人型へと姿を変えていく。その数は多くて五つ。

 そしてモヤは消え、その場には五体の異形が其処に居た。クモの異形ーークモ獣人。コウモリの異形ーー獣人吸血コウモリ。カニの異形ーーカニ獣人。ハチの異形ーーハチ獣人。そして嘗て戦士アマゾンと戦い、敗れた十の顔を持つ異形ーー十面鬼ゴルゴス。

 

「ゴルゴス!何故お主が此処に……!?」

「我々ゲドンはこの時を待っていたのだ!嘗てギギの腕輪を奪ったアマゾンに復讐する為に……!」

「復讐じゃと……!お主は何処までやれば気が済むのじゃ!お主は野心に囚われすぎておる!」

「ええい、黙れ!!獣人達よ、やってしまえ!」

 

 ゴルゴスは獣人達に指示すると、獣人達はハルカ達に襲いかかる。

 ハルカは獣人の攻撃を避け、束達を下がらせた。クモ獣人の攻撃を避け、ハルカは手に持っていたアマゾンズドライバーを装着し、グリップを捻る。

 

「アマゾンッ!!」

 

 《Omega…!Evolu…E…Evolution…!》

 

 緑色の炎と爆風で獣人達を吹き飛ばし、ハルカはアマゾンオメガへと姿を変える。その姿を見たゴルゴスとバゴーは驚愕した。姿こそ違えど、アマゾンに似ていたからだ。

 

「アマゾンだと!?何故お前がその姿に……!」

「彼もまた、戦士アマゾンだというのか……?」

「生憎、僕はあなた達の知るアマゾンとは違います。だけどこの状況は見過ごせない。十面鬼!僕が相手だ!」

「ふんっ!我々が用があるのはアマゾンだけだ!お前などに興味はない!獣人達よ、やってしまえ!」

 

 獣人達はオメガへ襲い掛かるが、オメガは獣人達の攻撃を避けていき、拳と蹴りを叩き込む。しかし、今まで戦ってきたシグマタイプとは違って、獣人達は油断ならない存在だった。

 獣人達の攻撃がオメガに直撃する度、痛みと共にアマゾンに対する獣人達の復讐の思念が伝わってきた。

 

 ーーアマゾンに復讐を……!

 ーー貴様のせいで我々は……!

 ーー我々は蘇った……!

 ーー人間を食わせろ……!

 

 獣人達の怨念とも言える思念が、獣人達の攻撃によって身体中に伝わってくる。

 オメガに着々とダメージが通るが、オメガは攻撃を振り払いグリップを引き抜くとアマゾンサイズへと生成し、獣人達を切り裂いていく。

 しかし獣人達に痛みは無いのか、切り裂かれてもお構いなしにオメガにダメージを与えていく。

 

「我々に実体はあっても、貴様のダメージなど通らない!我々はアマゾンに復讐する為に蘇った残留思念!貴様の攻撃など、我々には通用しない!!」

「そんな……!」

「そんなの卑怯です……!」

「卑怯で結構だ。我々はアマゾンに復讐する……その為にも、お前達は邪魔だ!!」

 

 ゴルゴスが腕を振るった瞬間、下半身の顔面部分から火炎を放出し、オメガに襲いかかる。火炎によって周りを包まれるオメガ。

 このままではやばいと感じたオメガはすぐさま空中へ跳躍したが、巨体を浮かせたゴルゴスがオメガに突進し、地面に叩きつける。

 地面に叩きつけられたオメガに対して、ゴルゴスは更に顔面部分から溶解液を放つ。オメガはすぐさま溶解液を避け、自分が倒れていた場所に視線を移す。

 溶解液によって地面は溶け、ゴルゴスの恐ろしさを実感した。

 

「くっ……!迂闊に近づいたらやられてしまう……それなら!」

 

 オメガはグリップをアマゾンウィップへと生成し、ゴルゴスに叩きつけていく。

 数発の攻撃を喰らったゴルゴス。

 しかし、ゴルゴスはアマゾンウィップを掴み、オメガごと地面から空中へと放り投げると、自分の下まで引き寄せ拳を一発ーーーオメガへ叩き込んだ。

 

「ガッーーーーーー」

 

 余りの衝撃にオメガは目の前が真っ暗になるのを感じたが、地面に落ちた瞬間に目が覚める。ダメージが大きすぎたのか、オメガは動けずにいた。

 ゴルゴスは獣人達に指示すると、獣人達はオメガに向かって走り出し、オメガに襲いかかる。未知の敵との戦いに慣れていないオメガは苦戦を強いる。

 切り裂かれていくオメガは、黒い血を流しながら獣人達に蹂躙される。

 そんなオメガの姿を見てる事しかできない束達。ふとクロエが両手を合わせる。自分に出来るのはこれくらいしか無い。祈る事しかできない。

 

 ーーーお願いです……神様や悪魔でも構いません。どうかハルカさんを……助けてください!

 

 その時、不思議な事が起こった。

 突如、遺跡中に声が響き渡った。獣のような叫び声と共に、空中に浮遊していたゴルゴスが謎の攻撃によって切り裂かれた。

 一体何が起きたのか、ゴルゴスと獣人達は分からなかった。それはオメガ達も一緒だった。しかし、オメガの前に立つ一人の戦士を見て、バゴーやゴルゴスは驚愕する。其処に居たのはーーー

 

「「アマゾンッ!?」」

 

 ーーー嘗てゴルゴス率いるゲドンと戦い、そしてガランダー帝国を壊滅、真のゼロ大帝を倒した英雄である戦士〝アマゾン〟が其処に居たのだ。

 壁画で見た絵と全く同じ姿をしており、まさしくトカゲの戦士だった。

 迷彩色の身体に、ド派手な背鰭や額から生えたツノ、垂れた赤い目や白いマフラー、そしてブーツ。腰のベルトもオメガやアルファ、シグマが装着しているアマゾンズドライバーと似ており、銀色の腕輪もオメガが付けているレジスターと酷似していた。

 アマゾンは振り返り、オメガに手を貸す。オメガは一瞬躊躇したが、アマゾンの手を取り再び立ち上がる。

 

「あなたが、アマゾン……?」

「アマゾン、声、聞こえた。助けてっていう女の子の声。アマゾン、助けに来た」

「女の子の声……もしかしてクロエが?」

「まさか……くーちゃんがアマゾンを呼んだの?」

「わ、私は唯、ハルカさんを助けてって祈っただけです……まさか、本当に来てくれるなんて……」

 

 クロエの祈りは、確かにアマゾンへと届いたのだ。

 アマゾンはクロエの下へ歩むと手を組み、小指だけを立てる。その仕草は嘗て、アマゾンが幼い少年〝マサヒコ〟から教わった〝トモダチ〟の印である。

 

「アマゾン、クロエ、トモダチ。アマゾン、トモダチ、必ず助ける」

「トモダチ……」

 

 クロエもアマゾンの見よう見まねで手を組み、トモダチの印をアマゾンに見せる。アマゾンは頷き、オメガに視線を向ける。言葉は交わさなくとも、想いは同じであった。オメガとアマゾン、二人の戦士が今、蘇ったゴルゴスに立ち向かう!

 

「アマゾンライダー……!お前に倒された我々の恨みを思い知れっ!!」

 

 ゴルゴスの叫びに、獣人達は吠える。

 アマゾンとオメガも雄叫びを上げると、獣人達に立ち向かっていく。拳と蹴りを叩き込み、腕の刃で獣人達を切り裂いていく。

 その光景は正しく獣の戦い。

 しかし、一つだけ違った。オメガとアマゾンは〝守りたい者〟の為に戦っている。壊す事しかできないゴルゴス達とは訳が違った。

 オメガはカニ獣人とハチ獣人を腕の刃ーーアームカッターで切り裂いていく。オレンジ色の血と黄色い体液が身体から噴射しながら苦しむカニ獣人とハチ獣人にトドメを刺すべく、オメガはグリップを捻る。

 

 《Violent Strike……!》

 

 足の刃ーーフットカッターが鋭く伸び、逆回し蹴りでカニ獣人とハチ獣人を切り裂く。二体の獣人は血を噴き出しながらその場に倒れ、絶命した。

 

 一方アマゾンは、ワイルドな戦い方でクモ獣人と獣人吸血コウモリを圧倒していた。嘗ては苦戦したゲドンの獣人でも、今のアマゾンが負けるはずがない。

 アマゾンは腕の刃で獣人達を切り裂いていく。時には跳躍し、クモ獣人の腕に噛み付くとそのまま腕を引き千切る。苦しむクモ獣人だったが、それを援護するかのように獣人吸血コウモリが羽を振り回しながらアマゾンに襲いかかる。

 しかしアマゾンはそれを避け、跳躍しコウモリに飛びかかると羽を切り裂いていく。血を噴き出しながら地面に膝をつく獣人達目掛けて、アマゾンは跳躍すると腕の刃で獣人達を切り裂き、絶命させる。

 一気に四体の獣人を倒されたゴルゴス。

 

「何故だ……何故我々が……!?」

「貴方は僕達が持っているものを持ってない。僕達は〝守りたい者〟が居る。貴方は〝守りたい者〟が無い。それが、貴方の敗因だ!」

「黙れ……黙れぇええええっ!!」

「行きましょう、アマゾンさん!」

 

 ゴルゴスが顔面部分からミサイルを放つとアマゾンはオメガと共に跳躍する。

 それと同時にオメガは左腕を、アマゾンは右腕を天に掲げる。

 それは今までの獣人を葬ってきた、これから先も受け継がれるであろう技。〝大いなる悪を切り裂き、平和を脅かす悪を断つ技〟ーーその名は……!!

 

「「大切断っ!!」」

 

 二人の刃が、ゴルゴスを切り裂いた。二人の必殺技を喰らったゴルゴスは赤い血を噴き出しながら、苦しみながら地面に倒れる。もがき苦しむゴルゴスは、アマゾンを睨む。

 

「これで終わったと思うな……我々は必ず蘇る!アマゾン!お前を倒すまでは……フハハハッ……ガアァアアアアアアアアッ!!」

 

 断末魔と共に、ゴルゴスと獣人達は黒いモヤと共に消え去っていった。突如として蘇ったゴルゴスと獣人は再び倒されたのだった。

 

 ◇◇◇◇

 

「それじゃあ、僕達はこれで」

 

 ハルカ達は先を急ぐ為、バゴーとアマゾンに別れを告げていた。

 

「関係のないお主達を、儂らの戦いに巻き込んでしまった。すまなかった」

「気にしないでください。それに、僕もアマゾンさんに助けてもらいましたから」

「アマゾン、束、トモダチ」

「と、トモダチ……アハハハ……」

 

 流石の束も困惑しているのか、それともアマゾンの姿に少しばかりビビっているのか分からなかった。しかし、こうしてアマゾンと出会えた事はハルカにとって大きな出来事になった。

 

「それじゃあ、僕達はこれで……」

「お世話になりました」

「バイバーイ」

 

 ハルカ達はその場を後にする。アマゾンとバゴーが見送り、ふとハルカが振り向いた時だった。

 アマゾンの隣に立っているバゴーの姿が、少しずつ消えていったのだ。何が起きたのか分からないハルカだったが、きっとまた何処かで会えるだろうと、心の中で囁いた。

 すると、アマゾンがハルカの下へ駆け寄ってきた。

 

「アマゾンさん、どうしました?」

 

 ハルカが問いかけると、アマゾンはトモダチの印をハルカに見せた。

 

「アマゾン、ハルカ、トモダチ」

「ーーーありがとうございます。僕もアマゾンさんとトモダチです」

 

 ハルカもアマゾンにトモダチの印を見せる。時代を超え、時を超え、こうして二人のアマゾンの物語は幕を閉じた。




如何でしたでしょうか。楽しんで頂けたら幸いです。
今回は仮面ライダーアマゾンズと仮面ライダーアマゾンのクロスオーバーになっております。公式でもアマゾンと繋がっている部分は無かったので、今回の番外編ではアマゾンとクロスさせようと前々から思っていました。それでは、少しばかり世界観設定を。

→今回の世界観設定
本文にある通り、嘗て大昔に初代アマゾンと初代十面鬼がガガの腕輪とギギの腕輪を巡って戦いを繰り広げていた。
それから時が経ち、今代のアマゾンーー山本大介ーーが十面鬼とゼロ大帝を倒し、世界に平和をもたらした。
それは、束達が生まれるずっと前の話である。原典の仮面ライダーアマゾンとは少しばかり設定が異なる部分がある為に、原典とは言えない。いわゆるパラレルワールドである。

→ゴルゴスと獣人達
本文にある通り、残留思念が具現化し蘇った姿。本来なら大ショッカーのせいにしようかなと思っていましたが、そんな事をするとややこしくなる為ボツ。当時の子供は獣人達に怯えていたのかな?

次回は第2章の幕開けになります。少し投稿に時間が掛かると思いますがよろしくお願いします。


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第2章 DIE SET DOWN
EP.14 Neo


お待たせしました。
今回から第2章に突入します。新しい物語が始まるので、今後とも気を引き締めて、皆さんに少しでも楽しんで頂けるように頑張りますので今後ともよろしくお願いします。

それでは、第2章スタートです。

お気に入りと評価が増え、評価バーが黄色になっていて、僕の中のアマゾン細胞が溶原性細胞になってしまいました←


 目の前を飛び交う無数の銃弾。

 飛び散る鮮血と肉片。命だった者たちが、そこら中に転がっていく。

 赤い獣と緑の獣。二体の獣は命を削り合い、血を流しながら戦っていた。赤い獣は緑の獣を切り裂き、幼き少年の下へ歩んでくる。

 しかし、鎧の様な物を纏った女性達が放つ銃弾が赤い獣を撃ち抜いていく。血を噴き出す赤い獣は、それでも少年の下へ歩んでくる。

 緑の獣は少年の下へ行かせない様にしているのか、赤い獣に飛びかかると地面に押し倒し、腕の刃で赤い獣の緑色の複眼を切り裂いた。

 目から血が噴き出し、切り裂かれた目を抑えながら赤い獣は苦しみ、悲痛な叫びを上げながらそこら中を転がり回る。

 少年の名を叫びながら苦しむ赤い獣。

 それを見下ろす緑の獣は、ゆっくりと自分の下へ歩みを進める。少年は手に持っている物を抱えながら緑の獣を見つめる。

 緑の獣は少年が持っている物を見た途端、固まる。少年が持っていた物はーーー何処の誰かも知らない、細い女性の腕だった。

 

 ◇◇◇◇

 

 街灯が照らすだけの暗い夜道。

 フードを被る少年は、小さい頃の夢を思い出しながら赤いバイクに跨っていた。耳には小さなインカムらしき物がはめ込まれており、仲間である少女から指示を待っていた。

 少年の名はーーーチヒロ。今では都市伝説として扱われている〝アマゾン〟に育てられた少年。小さい頃の記憶は余り覚えておらず、気づいたら仲間である少女と共に行動していた。

 チヒロの任務は、都市伝説と扱われているアマゾンの駆除だった。幾ら都市伝説と扱われていても、各地でアマゾンが発見されている。

 チヒロと少女は自分達を保護したIS学園の教師である織斑千冬からの指示を受け、アマゾン駆除を行なっている。

 そしてもう一人、チヒロ達の同行者が来ているが恐らくは二人の監視も含まれているのだろう。すると、チヒロのインカムに少女の声が聞こえる。

 

『ーーーチヒロ、アマゾンを発見した。例の合流地点に追い込む。後は頼むぞ』

「分かったよ、マドカ……」

 

 少女ーーー織斑マドカの指示を受け、チヒロは赤いバイクーーーネオジャングレイダーを駆り、合流地点へと向かった。

 そして、合流地点へと着いたチヒロはジャングレイダーを降りると丁度良いタイミングで白い機体ーーーサイレント・ゼフィルスを纏ったマドカが豹に酷似したアマゾンと共にチヒロの下へ現れた。

 チヒロは背負っていたバッグから赤い鳥の顔を模したベルトーーーネオアマゾンズドライバーを腰に装着すると、注射器の様な物を取り出しドライバーのスロットに差し込み、スロットを上げると注射器の中の液体をドライバーへと注入する。

 そして、チヒロの目は赤く光りーーー

 

「ーーーーアマゾンッ!」

 

 《NEO…!》

 

 次の瞬間、チヒロの身体は赤い炎に包まれていき、爆風が三回巻き起こる。

 そして炎が消えた瞬間、其処に居たのは血管のような赤い模様が入った青色の体表面に垂れ目状の赤い複眼。その上から黄色のバイザーと銀色の装甲を全身に装着した戦士ーーーアマゾンネオが立っていた。

 そして、ネオが走り出すと現れたヒョウアマゾンに向かって走り出し、ラリアットを叩き込む。地面に倒れるヒョウアマゾンに追撃を叩き込んでいくネオ。

 

「ガァアアアアアアッ!!」

 

 ヒョウアマゾンはネオの猛攻を防ぐ事が出来ず、次々と攻撃を叩き込まれていく。

 しかしヒョウアマゾンはネオの攻撃の隙を突き、ネオの腹部に攻撃を叩き込む。怯むネオだったが、ドライバーに嵌め込まれている注射器ーーーアマゾンズインジェクターのレバーを押し込むと、ドライバーから電子音声が流れる。

 

 《Blade…Loading…!》

 

 その瞬間、右腕のパーツが開くと右腕からアマゾン細胞が変異した武器ーーーアマゾンネオブレードを展開すると、ヒョウアマゾンを切り裂いていく。

 黒い血を噴き出すヒョウアマゾンは成す術もなく、ネオの攻撃で切り裂かれていくが負けじとアマゾンネオブレードを掴む。

 しかし、ネオはそのままヒョウアマゾンの腕ごとブレードで切り裂いた。黒い血を噴き出すヒョウアマゾンは地面に倒れ、ネオはブレードをヒョウアマゾンに突き刺していく。

 まるで今までの恨みを晴らすかの様に、自分の中の怒りを全てぶつけるかの様にーーー。

 気づけばヒョウアマゾンは形を残したまま絶命していた。ネオはブレードを上げ、ドライバーからインジェクターを取ると変身を解除する。

 

「ハァ……ハァ……」

「……チヒロ、大丈夫か?」

「マドカ……俺、またやっちゃった……このアマゾンは〝母さんを殺した奴〟じゃないのに……!」

 

 チヒロの言葉に、マドカは顔をしかめる。すると、二人の下に蒼いISを纏った少女ーーーセシリア・オルコットが着地した。

 

「チヒロさん、マドカさん。任務ご苦労様です。お疲れでしょうが、学園に戻り次第メディカルチェックがありますのでお忘れなく」

「……分かったよ」

「それと、マドカさん。メディカルチェックの後、織斑先生がお話があるそうですわ。」

「あぁ……」

「アマゾンの死体は調査班が回収しますので、私たちは戻りましょう」

 

 セシリアはその場から飛翔し、飛び去る。マドカもセシリアを追いかける様に飛び去り、チヒロもネオジャングレイダーに跨り、その場を去る。

 

 ◇◇◇◇

 

 ーーーIS学園。

 アラスカ条約に基づいて日本に設置された、IS操縦者育成用の特殊国立高等学校。操縦者に限らず専門のメカニックなど、ISに関連する人材はほぼこの学園で育成されるーーーが、もう一つ理由がある。

 三年前の〝ある出来事〟により、アマゾンの存在が知られてしまった。しかし、アマゾンの存在は今では都市伝説として扱われているが、人知れずアマゾンの被害は絶えない。

 だが、アマゾンに対抗する為にISを用い、アマゾンの駆除を試みている。その事実を知るのは、数人しかいなかった。

 IS学園の教師である織斑千冬、山田真耶。IS学園の生徒であるセシリア・オルコット、織斑一夏。一夏に関しては、三年前にアマゾンを目の当たりにしている為である。

 

「はい、これでメディカルチェックは終了です。お二人とも、今日はゆっくり休んでください」

「はい……お休みなさい」

 

 メディカルチェック後、チヒロとマドカは医療室から出る。マドカはチヒロと分かれ、千冬の下へ向かうとチヒロは与えられた部屋へと戻る。

 チヒロとマドカがこのIS学園に来てから一週間が立っていた。色んな事情で、チヒロとマドカはこのIS学園にやって来た。

 初めて織斑千冬と会った時は呆然とした。何せ、マドカと千冬が余りにも似ていたからだ。しかし、マドカや千冬にどういう関係なのか聞いても何も答えてはくれなかった。

 言えない事情でもあるのだろうと、チヒロはそう考えることにした。自分の部屋に戻ると疲れからか、ベッドに倒れる様に眠りについた。

 

 そして場所は変わり、モニタールーム。

 其処には織斑千冬とマドカが、大きなモニターに映る画像を見ていた。其処には、先ほどの戦闘でネオが駆除したヒョウアマゾンの死体が映っていた。

 

「アマゾンの事は、束や一夏から聞いている。本来なら駆除されたアマゾンは泥となると……。しかし、この三年で駆除してきた内の数体は、〝形を残したまま〟死んでいる。心当たりはあるか?」

「……私が知っているのは、死んだら泥となるアマゾンだ。形を残したまま死ぬアマゾンなんて聞いたこともない。もしかすると、新しいアマゾン……」

「念の為、束にもこの事は伝えてはいるが、あいつらも何かと忙しい。結果が来るまで時間が掛かる。それとーーーチヒロの事だが……新種のアマゾンから検出された細胞とチヒロの中の細胞が一致している。これは何か関係がーーー」

「違うッ。チヒロは何も関係ない……チヒロはただの〝人間〟だ……」

「ーーーそうか。私は別に、チヒロを駆除しようとは思っていない。だが、亡国機業がチヒロを狙っているのは確かだ。〝元〟亡国機業のお前が何故チヒロを連れて此処に来たのかは深く聞くつもりもないが、いつか話してもらうぞ?」

「……分かっている、姉さん」

 

 ◇◇◇◇

 

 ーーー翌日。

 チヒロとマドカ、セシリアと一夏はアマゾンの被害が起こったと報告があった現場までやって来た。

 街から少し離れた場所にある家屋の前に車とネオジャングレイダーを止めると、既に家屋の前に調査班が立っていた。

 

「お疲れ様です。被害状況は?」

「既に家屋の中は確認しましたがアマゾンの姿はありませんでした。しかし此処から少し離れた場所にある教会の方へ血痕が続いている為、恐らくは街へは行っていないでしょう」

「そうですか……私達はこのままアマゾンの捜索へ向かいます。後の事はお任せしますわ」

 

 セシリアは調査班にそう告げ、チヒロ達を連れて血痕が続く教会へと向かった。血痕を追ってやって来たチヒロ達は大きな教会の扉の前に立つ。扉にはベッタリと血痕が付いており、セシリアが指示を出す。

 

「チヒロさんと一夏さんは裏口から、私とマドカさんはISを纏って上空から中を偵察します」

「分かった。チヒロ、行こう」

「うん……!」

 

 チヒロは一夏と共に教会の裏口へと向かい、セシリアとマドカはISを纏い、空中へと飛ぶ。裏口へとやって来たチヒロと一夏。

 一夏が扉を開け、中を確認するとアマゾンがいないか調べる。中にはアマゾンの姿は無く、一夏がチヒロに頷くとチヒロは裏口から教会へと入り、それに続いて一夏も中へ入っていく。

 教会の中は既に使われていないのか、あちこちに椅子やろうそくが倒れていた。祭壇やカーペットも埃だらけであり、長年使われていないのが分かった。

 

「チヒロ、どうだ?アマゾンの気配はするか?」

「うん……多分、二階にいる。それに、血の臭いも……」

 

 チヒロと一夏は二階へ続く階段を上がり、二階の待合室らしき部屋の前に立つ。そして、インカムでセシリアとマドカに通信を送る。

 

「二人とも、待合室の前にいるけど、空から何か見える?」

『えぇ。待合室の中にアマゾンが居ますわね……人を食べていますわ……』

『チヒロ、こっちは何時でもいける。準備はいいな?』

「うん……!」

 

 チヒロと一夏は頷き、扉を開ける。クワガタに酷似したクワガタアマゾンはチヒロ達に気づくが、いち早くチヒロがネオアマゾンズドライバーにインジェクターを装填し、スロットを上げる。

 

「アマゾンッ!!」

 

 《Neo…!》

 

 インジェクターを押し込み、アマゾンネオへと変身したチヒロ。

 爆風で窓ガラスが割れ、一夏は廊下へ吹き飛び、クワガタアマゾンは怯む。ネオはクワガタアマゾンと共に窓ガラスを突き破り、地上へと落下する。

 地上に叩きつけられたクワガタアマゾンとネオは立ち上がると、ネオがすぐさまクワガタアマゾンに攻撃を叩き込んでいく。

 クワガタアマゾンも応戦するが、ネオは攻撃を避けていくとインジェクターを押し込む。

 

 《Blade…loading…!》

 

 アマゾンネオブレードを生成し、クワガタアマゾンに斬りかかる。

 クワガタアマゾンは切り裂かれ、黒い血を噴き出す。ネオはさらなる追撃を叩き込もうとするが、クワガタアマゾンの腹部にある肢がネオに突き刺さる。

 

「ぐっ……!」

 

 ネオが膝を付いた瞬間、クワガタアマゾンがネオに攻撃を叩き込んでいく。一気に形勢が逆転し、クワガタアマゾンの猛攻がネオを襲う。しかし、それを阻止する白い刃。

 

「チヒロ、大丈夫か!?」

「一夏……!」

 

 白いISーーー白式を纏った一夏が、雪片二型をクワガタアマゾンに斬りかかる。クワガタアマゾンは雪片二型の斬撃を避けていく。

 それでも、クワガタアマゾンに斬りかかる一夏だったが、彼は白式を纏ってまだ数日しか経っていないのである。まだISの技術が未熟である一夏が勝てる相手ではなかった。

 ネオもアマゾンネオブレードで、一夏の雪片二型と共にクワガタアマゾンに斬りかかるがクワガタアマゾンはそれを避け、ネオに追撃を叩き込む。

 しかし、一夏とネオをサポートするかのように上空から一発の蒼い銃弾がクワガタアマゾンの右肩を撃ち抜いた。

 

「セシリアッ!?」

「マドカさんっ!」

 

 次の瞬間、マドカのサイレント・ゼフィルスの武装の一つであるライフルーースターブレイカーがクワガタアマゾンの腹部を撃ち抜いた。

 黒い血を噴き出すクワガタアマゾンは、フラフラとその場から逃げ出そうとする。

 

「ま、待てッ!」

「おい、チヒロッ!」

 

 トドメを刺そうと、ネオがクワガタアマゾンを追いかけようとした時だった。クワガタアマゾンの先に黒い服に身を包んだ一人の少女が立っていた。

 

「此処は危険だ!逃げろっ!」

「アイツは……!?」

 

 ネオが少女に叫ぶが、マドカだけは違った。少女に見覚えがあったからだ。何せ、その少女はーーーー。

 

「ーーーターゲット、確認」

 

 三年前の戦いで、ハルカ達と共に行動していた、元亡国機業の構成員ーーーイユだったからだ。イユは左腕に装着されている鳥の顔を模した腕輪のスイッチを押すと、静かに呟いた。

 

「ーーーーアマゾン」

 

 何処からか、カラスの鳴き声が響き渡る。

 その瞬間、イユの身体は炎に包まれていき、炎が消えると其処にはカラスに酷似したアマゾンーーーカラスアマゾンが立っていた。

 そして、カラスアマゾンはクワガタアマゾンに向かって走り出した。

 クワガタアマゾンは腹部の肢でカラスアマゾンに襲いかかるが、カラスアマゾンは跳躍すると右足でクワガタアマゾンの頭部を蹴り飛ばした。

 瞬殺だった。ネオが苦戦したアマゾンを一瞬で駆除したのだから。

 

「ターゲット、排除」

「君は一体……?」

「もしかして敵か……?」

 

 ネオと一夏が武器を構えるが、セシリアがそれを制止した。

 

「お待ちなさい、二人とも……彼女は敵ではありません」

「だけど、あの子もアマゾンじゃないか」

「アマゾンだからと言って、悪い人ばかりではありません。実際、チヒロさんは私たちの味方ですし、決してアマゾン全員が敵だとは限りませんわ」

「……そうだな。悪かった……君、一体誰なんだ?」

「私はイユ。篠ノ之束の命を受けて、お前達のチームに加入する事になった」




如何でしたでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。此処で少し皆様にご報告があります。第2章では本来、原作に合わせて物語を作成しようと思っておりました。
ですが、考えていたシナリオだと大幅な原作改変になってしまう事になる為、第1章に引き続き、同じように第2章もオリジナルストーリーで進めていく事になりました。このような結果になってしまって申し訳ないです。

次回も少し時間が掛かりますが、どうかお楽しみに、

もしよろしければ、ご意見・感想・評価・お気に入り登録・批評をよろしくお願いします。


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EP.15 Obligation of a boy

お待たせしました。EP.15です。
今回の話は少し分かりにくい部分が出てくると思われます。書いてる自分も少しばかりややこしくなって、何度も溶原性細胞やオリジナルについて調べて書きました。wikipedia先生、ありがとう。それでは、お楽しみください。
ーーー先生、ギャグ回が書きたいです←


 クワガタアマゾンの駆除を完了したチヒロ達は、クワガタアマゾンの死体の回収を調査班に任せ、一足早くIS学園へと戻ってきた。

 チヒロとマドカはすぐさまメディカルチェックを受けに行き、セシリアと一夏は報告書の制作の為、自室へと戻って行った。そしてイユはというと、千冬と共にモニタールームに来ていた。

 

「……なるほど。束の命令で此処に来たのは分かった。全く、そういう事は早目に言ってもらわないと困るんだがな……。まぁいい、イユと言ったな。今日からオルコットが率いるチームに所属してもらう」

「分かった」

「……束から話は聞いていたが、まさか本当に死んでいるとはな……。一応、メディカルチェックをさせてもらったが、心臓は動いていなかった。しかし身体は正常に動作している……これが束が言っていた〝シグマタイプ〟か」

「織斑千冬、私は何をすればいい。私の主であるクロエ・クロニクルからは織斑千冬の言うことをちゃんと聞きなさいと言われたが」

「そうだな……ある程度の事は好きにしていい。しかし、学園の生徒や教師、スタッフには迷惑を掛けるなよ。ここはお前がいたラボじゃないんだからな」

「分かった」

 

 イユはそう言い、モニタールームから退出する。

 千冬はスーツのポケットからスマホを取り出し、電話帳を開く。電話する相手は勿論ーーー

 

『もしも〜し、ちーちゃん!どうしたの?ちーちゃんから電話してくるなんて珍しいね』

「そうだな……少し聞きたい事があってな。お前の所のイユがこっちに合流したが、本当に死んでいるとは思いもしなかったぞ」

『そうだねぇ。束さんも最初は驚いたけど、今は慣れたよ。それで、話はそれだけじゃないでしょ?』

「あぁ……そっちに送ったデータの解析はどうだ?何か新しい事は分かったか?」

『解析は順調……とは言い難いね。何せ、〝アマゾン細胞〟が変異して生まれたのが、今回の新種のアマゾンだからね。束さんはこれを〝溶原性細胞〟と名付けたよ』

「溶原性細胞……」

『そう。それと、今回の新種のアマゾンを調べて、分かった事が一つあるよ』

「なんだ?」

『アマゾン細胞が溶原性細胞に変わるのは条件があるんだよ。それはーーー〝人間の遺伝子〟を持っているかどうか……チヒロは〝人間の遺伝子〟を持ってるでしょ?』

「……あぁ」

 

 千冬は束の言葉を否定しなかった。否定した所で、束はすぐに気づくと思ったからだ。

 しかし、〝人間の遺伝子〟を持っているならば、千冬のクローンであるハルカも溶原性細胞を持っている可能性がある。千冬が言葉を紡ごうとした時だった。

 

『ハルカの事を考えてる?』

「ーーーやれやれ、お前は何でもお見通しだな」

『まぁね。ちーちゃんが考えるように、ハルカも人間の遺伝子を持ってる。でも、それが溶原性細胞に変わるかは分からないし、今後の経過次第かな……ねぇ、ちーちゃん』

「なんだ?」

『……もし、ハルカが溶原性細胞のせいで人を食べるようになったら……束さんはどうすればいいかな?ハルカを……殺さないといけないのかな?』

 

 初めてだった。

 いつも陽気で人を巻き込み、とんでもない奴かと思えば、一人でISの基礎理論を考案、実証し、全てのISのコアを造った自他共に認める天才科学者。そんな束が初めて、千冬の前で弱気な発言をした。

 こんな時、どうすれば良いのか分からない千冬だったが何とか考え、言葉を紡ぐ。

 

「……さぁな。だが、あいつはアマゾンだ。いつ人を喰うか分からない。でもーーあいつは立派な〝人間〟だ。自分の声に従って、守りたいものを守る……お前が私にそう言ったんじゃないか」

『……そうだね。ありがとう、ちーちゃん』

 

 千冬は照れながらも、笑みを浮かべる。じゃあなと告げ、通話を切ろうとした時だった。

 

『そうだ、ちーちゃん。一つだけ伝えておく事があったんだけど』

「………?なんだ?」

『チヒロとまどっちが初めてIS学園に来た時、チヒロは〝腕〟を持ってたよね?』

 

 初めて千冬がチヒロと出会った時、チヒロはアマゾンと思われる腕を持っていた。

 念の為、束に連絡して束のラボへチヒロが持っていたアマゾンの腕を送ったのだった。

 

「あぁ。お前の方に送ったあの〝腕〟か。それがどうかしたのか?」

『あの腕を調べたんだけど……チヒロの細胞と腕の細胞が一致したよ』

「なんだと……?それはおかしい。先日倒した新種からもチヒロの細胞が見つかった。何故あの〝腕〟からチヒロの細胞が見つかるんだ?」

『一応、ちーちゃんから送られたデータを調べて見たんだけど……改竄された痕跡が見つかったよ。多分、チヒロを今回の溶原性細胞のオリジナルとして断定させて駆除させようとしてる奴がいるのかも……』

「なら、チヒロは溶原性細胞のオリジナルじゃないと……」

『ううん、チヒロはオリジナルかもしれないってだけ。でも、チヒロの体内から溶原性細胞は検出されなかった。もしかすると……』

「オリジナルは二体いるということか……」

『束さんの方でも調べてみるけど、ちーちゃんも気をつけてね。誰が怪しいか分からないんだから』

「分かった……」

 

 ◇◇◇◇

 

 翌日。モニタールームでは千冬がチヒロ達を招集していた。先ほど、街の工場で新種のアマゾンが現れたと報告があった。

 その為、ブリーフィングが行われていた。チヒロとマドカ、セシリア、一夏、イユの五人がブリーフィングを行なっていたが、モニタールームに一人の生徒が入って来た。

 それは、一夏とセシリアが知っている生徒だった。

 

「箒、なんで此処に……?」

「失礼します。織斑先生、お呼びでしょうか」

「来たか、篠ノ之。今回から篠ノ之にはお前達のサポートに回ってもらう事にした」

「なんでだよ、千冬姉!箒はアマゾンの事なんて何も知らないーーー」

「織斑先生だ。篠ノ之には今回の件や、アマゾンの存在について説明はしてある。だが、篠ノ之は専用機を持っていない為、調査班と共に後方でお前達のバックアップをしてもらう」

「よろしく頼む、一夏」

「あ、あぁ……でも、いいのか?かなり危険な任務だぞ?それに……見たくない物だって見る事に……」

「それは覚悟している。嫌でも見る事になる事ぐらい……だが、私だけ安全な場所で生きるのは嫌だ。私にも、できる事があるはずだ」

 

 箒の決意に、千冬は笑みを浮かべる。

 

「よし。今から作戦を開始する。お前ら、死ぬなよ」

『了解!』

 

 チヒロ達はその場にあった荷物を持ち、モニタールームから退出していく。しかし、千冬がチヒロを呼び止めた。一瞬、マドカがチヒロに視線を向けるがセシリアに呼ばれ、その場を後にした。

 

「チヒロ、身体は何ともないのか?」

「うん……大丈夫だけど?」

「そうか……すまない、それだけだ。気をつけて行ってこい」

「うん、分かった……」

 

 チヒロは首を傾げつつ、その場を後にした。千冬はそれを見届け、昨日の束の言葉を思い出す。

 

『チヒロはオリジナルかもしれないってだけ。でも、チヒロの体内から溶原性細胞は検出されなかった。もしかすると……』

『オリジナルは二体いるということか……』

『束さんの方でも調べてみるけど、ちーちゃんも気をつけてね。誰が怪しいか分からないんだから』

 

 誰が怪しいのか、今は分からない。

 もしかするとIS学園にデータを改竄した者がいるのかもしれない。それが誰かは分からない。

 そしてオリジナルの件。チヒロがオリジナルかもしれないという事は束の話で聞かされた。しかし、もう一体は何処にいるのか。謎が深まるばかりで、千冬は頭を抱えるしかなかった。

 

 現場に到着したチヒロ達は、工場の前にバイクと車を止めると中の状況を確認する為、事前に到着していた調査班に話を聞くことにした。

 

「セシリア・オルコット、他4名到着しました。中の状況はどうなっていますか?」

「我々が到着した時には、工場の職員数名が捕食されていました。中にはアマゾンが三体。どうやら、生き残った工場の職員達を探している模様です」

「生き残った職員達は今何処に?」

「工場の中には幾つか倉庫があり、其処に隠れているようです。ですが倉庫から連絡があった為、電波が悪くどの倉庫にいるかまでは……」

「分かりました。では、チヒロさんとイユさん、マドカさんは工場の中を。私と一夏さんは生き残った職員がいる倉庫を。箒さんは此処で私達のバックアップをお願いしますわ」

「分かった。一夏……気をつけてな」

「おう。箒もな。危ないと思ったら逃げろよ?」

「あぁ、分かっているさ」

 

 箒はそう言い、車の中に戻るとタブレットを操作し始め、中の状況を確認する。チヒロとイユ、マドカは工場の中へ潜入、セシリアと一夏は工場の中にある倉庫へと歩みを進めた。

 チヒロ達が工場の中に入ると、中は血の臭いで充満していた。チヒロ達は中へ進んでいき、アマゾンを探しに歩みを進める。

 インカムから届く箒の声に耳を傾けながら、工場の中を探索していく。

 

『その工場は業務用のウォーターサーバーを開発、提供している会社らしい。だが、数ヶ月前にウォーターサーバーの水に人体に影響がある〝菌〟が発見されてからは営業成績が悪化し、今じゃ赤字続きの様だ』

 

 そう、この工場は数ヶ月前までは黒字続きの会社だった。しかし、箒が言ったように数ヶ月前にウォーターサーバーの水に人体に影響がある〝菌〟ーーー溶原性細胞が見つかった。

 それを知った政府はすぐにウォーターサーバーを回収したが、既にウォーターサーバーの水を飲んでしまった人々が万単位いる事が発覚した。

 政府は大規模な血液検査や身体検査を水を飲んだ人々に対して行ったが、感染した者と感染しなかった者の二つのタイプが分かった。

 どうやら溶原性細胞は特定の条件が揃わない限り感染しない事、そして、溶原性細胞は水分が無いと死滅する為、空気感染や接触感染などの二次感染はない事が分かった。

 

『一夏、セシリア。そっちの状況はどうだ?』

『こちら織斑。中を探索しているが、倉庫が多すぎて生存者が何処にいるか分からない。チヒロ、そっちはどうだ?』

「こっちも見つからない。ただ……血の臭いがだんだん強くなってるから、アマゾンがすぐ近くにいると思う……」

 

 チヒロ達がウォーターサーバーの製作所にやって来た時だった。血の臭いが一掃に強くなった。チヒロ達が扉を開けると、其処にはーーー〝人間だった者〟が其処ら中に転がっていた。

 三体のアマゾンがチヒロ達の匂いに気づいた。カマキリ、サイ、ヘビに酷似したアマゾンがチヒロ達に襲いかかる。

 

「アマゾンを発見!交戦にーーーうわっ!」

 

 チヒロはアマゾンの攻撃を何とか避け、腰に装着していたネオアマゾンドライバーにインジェクターを装填し、スロットを上げ押し込む。

 イユは左腕に装着しているネオアマゾンズレジスターのスイッチを押すと、二人は同時に叫ぶ。

 

「アマゾンッ!」

「アマゾン」

 

 チヒロはアマゾンネオに、イユはカラスアマゾンへと姿を変え、三体のアマゾンに攻撃を仕掛ける。

 二対三という数の方は相手が多いが、此処で駆除しなければ生存者の方へ向かってしまう。早く駆除して生存者を見つけなければならない。

 ネオはカマキリアマゾンの両手の鎌をいなし、拳と蹴りを叩き込む。

 カラスアマゾンはサイアマゾンとヘビアマゾンの攻撃を避け、壁を土台としてサイアマゾンとヘビアマゾンに回し蹴りを叩き込む。

 マドカはこの場でISを使うと被害が大きくなると察したのか、懐に隠していた拳銃でカマキリアマゾンを牽制する。

 

「チヒロ!今の内に武器を出しておけ!」

「わ、分かった!」

 

 《Blade…loading…!》

 

 ネオはアマゾンネオブレードを生成し、カマキリアマゾンを切り裂いていく。カマキリアマゾンも両手の鎌でネオを牽制し、ネオの攻撃を防いでいく。

 カラスアマゾンはサイアマゾンとヘビアマゾンの攻撃を防ぎ、二体のアマゾンの頭上を飛び越えると蹴りを叩き込んでいく。

 しかし、ヘビアマゾンはカラスアマゾンの隙を突き、右腕が変化した蛇の尻尾でカラスアマゾンの首を掴むとサイアマゾンは突進し、頭部の角をカラスアマゾンの腹部に突き刺した。

 黒い血を吐き出すカラスアマゾン。それを見ていたネオはすぐさまカラスアマゾンを助ける為、二体のアマゾンをアマゾンネオブレードで切り裂く。

 

「イユ!大丈夫!?」

「問題ない」

 

 カラスアマゾンは地面に膝をつき、立ち上がろうとするがサイアマゾンの攻撃が効いているのか、立ち上がれずにいた。

 ネオはサイアマゾン、ヘビアマゾンをすぐさま倒す為スロットを一度下げ、再び上げると電子音声が響き渡る。

 

 《Amazon break…!》

 

 ネオは走り出し、サイアマゾンとヘビアマゾンの胴体を真っ二つに切り裂いた。形を残したまま絶命した二体のアマゾン。残すはカマキリアマゾンだけとなったが既にカマキリアマゾンの姿は無かった。

 何処に行ったかを周りを見渡すと、インカムから箒の悲鳴が響き渡った。

 

『箒!どうした!?』

『こっちにアマゾンがーーーうわぁ!!』

「マドカ、ここは任せた!」

 

 ネオはカラスアマゾンから元の姿へ戻ったイユをマドカに任せるとカマキリアマゾン追いかけ、工場の外へ走り出した。

 工場の外へ出た時、カマキリアマゾンは調査班達を切り裂き、車の外に出ていた箒に襲いかかろうとしていた。ネオはインジェクターでさらなる武器を生成しようと考えるが時間が掛かる。

 ネオはカマキリアマゾンを止めようとその場を走り出した。だが箒は腰が抜けているのか、立ち上がれずにいた。間に合わない……ネオがそう思った時だった。

 その場に、獣のようなエンジン音が響き渡る。

 ネオとカマキリアマゾン、箒がエンジン音が響き渡った方向へ視線を向けた時だった。突如、カマキリアマゾンを赤いバイクが跳ね飛ばした。

 地面を転がるカマキリアマゾンは立ち上がり、跳ね飛ばした相手を睨みつける。赤いバイクに乗った人物は箒とカマキリアマゾンの間にバイクを停め、ヘルメットを脱ぐ。その姿を見た箒は呟いた。

 

「ーーーー千冬さん……?」

 

 其処に居たのは、箒がよく知っている人物に似ている少年だった。マドカとイユ、セシリアと一夏が工場の外へ出てくると少年の姿を見て、驚愕する。

 マドカとイユ、セシリアはその少年をよく知っているが、一夏は箒と同じリアクションを取っていた。

 

「ーーーー千冬姉……?」

 

 しかし、少年をよく知っている三人は明らかに千冬ではないと知っている。何故ならその少年はイユの仲間であり、セシリアの友人であり、そしてーーーマドカの敵だったからだ。

 その少年の名はーーーーハルカ。

 ハルカは箒を一瞥し、カマキリアマゾンに視線を向けると赤いバイクーーージャングレイダーから降りると腰に装着していたアマゾンズドライバーのグリップを捻り、呟いた。

 

「ーーーアマゾン」

 

 《Omega…!Evolu…E…Evolution…!》

 

 ハルカの身体は緑の炎に包まれ、爆風が起きる。炎が消え、其処に居たのは緑の獣ーーーアマゾンオメガ。かつて、亡国機業と戦った織斑千冬の遺伝子とアマゾン細胞を宿した少年だった。




如何でしたでしょうか。少しでも楽しんで頂けら幸いです。
最後に出てきた第1章の主人公、ハルカ。ハルカは第2章でどう活躍するのかは、次回から少しずつ明かしていきたいと思います。

ご意見・感想・評価・お気に入り登録・批評をよろしくお願いいたします。


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EP.16 Painful memory

「ーーーアマゾン」

 

 《Omega…!Evolu…E…Evolution…!》

 

 ハルカーーーオメガは自身を睨みつけるカマキリアマゾンに向かって、ゆっくりと歩み始める。

 カマキリアマゾンが立ち上がり、オメガに両手の鎌で斬りかかるがそれをいなすオメガ。

 カマキリアマゾンは両手の鎌で、次々と斬りかかって行くが、それを避けるオメガには余裕があるようにネオ達には見えた。まるで長い間戦い続けてきた歴戦の戦士のように……。

 オメガはカマキリアマゾンの鎌をいなし、拳と蹴りを叩き込んでいく。

 怯むカマキリアマゾンに攻撃のチャンスを与えないつもりか、オメガは更に追撃を叩き込んでいく。

 その光景を見た一夏は思い出す。

 三年前、自分を助けてくれた時のことを。あの時よりも、確かにオメガは強くなっていると。しかし、それ以上に気がかりなのが一つだけあった。

 

 ーー何故千冬姉に似てるんだ……!?

 

 初めて会った時は、オメガの姿のままだった。顔も姿も分からなかった。しかし、こうやってオメガーーーハルカと出会った事により更に混乱する。

 圧倒的な力の差を見せつけられたカマキリアマゾンはその場から逃亡を図ろうとしていた。しかし、それをオメガが許すわけもなくーーー。

 

 《Violent Punish……!》

 

 オメガはその場から跳躍し、カマキリアマゾンの胴体を縦に一閃ーーー真っ二つに斬り裂いた。オメガは形を残したまま絶命したカマキリアマゾンを一瞥し、ネオの方へ視線を向ける。

 

「あんた……何処かで……?」

「…………ウォオオオッ!!」

 

 オメガは咆え、ネオに向かって走り出すと拳を叩き込むーーーが、それをギリギリで防ぐネオ。

 

「あんた……味方じゃないのか……!?」

「………………」

 

 オメガは何も答えない。オメガの突然の行動にネオだけでなくマドカと一夏、箒は驚愕する。

 何故、オメガがネオを攻撃したか理解出来ない。箒を助けたかと思えば、今度はネオを攻撃した。

 理解出来ない三人だったが、オメガはそんな事関係なくネオを振り払う。

 ネオはオメガに回し蹴りや拳を放つが、オメガはそれを避け、ネオの拳を払うと蹴りと拳をネオに叩き込んでいく。

 叩き込まれた場所から血を流すネオは地面に膝をつくが、何とか立ち上がると腕の刃で斬りかかると同時にオメガもネオの刃をアームカッターで防ぐ。

 火花が散り、鍔迫り合いに持ち込もうとするネオだったが、オメガが腕を振り払い、地面に叩きつけ、蹴り飛ばす。オメガがネオに近づこうとした時、オメガの前に白式を纏った一夏が立ち塞がる。

 

「待ってくれ!どうしてアンタが……三年前に、アマゾンにされかけた俺をアンタは助けてくれたのに……どうして……どうしてチヒロを襲うんだ!」

「織斑一夏くん………元気そうで何よりだよ。お姉さんはーーー織斑千冬は元気にしてる?」

「質問に答えろよっ!どうしてチヒロを……!」

「………悪いけど、答えるつもりはないよ。これは僕と……〝彼女〟の問題だ」

 

 オメガが一夏に近づこうとした時だった。

 オメガの足元に一発の蒼い銃弾が撃ち込まれる。銃弾が放たれた方向へ視線を向けると、ブルーティアーズを纏ったセシリアがライフルの銃口をオメガに向けていた。

 

「ハルカさん……それ以上動くと、今度は容赦しませんわよ?」

「セシリア……」

「もうすぐ更識家の調査班の方々が到着します。死にたくなければ、今日は大人しく帰った方がよろしいかと思いますわ」

「…………」

 

 オメガはドライバーを取り外し、元の姿へと戻る。ハルカはジャングレイダーに跨り、ヘルメットを被るとセシリアを一瞥する。

 セシリアの目は、真っ直ぐハルカを見つめていた。

 ハルカは少しばかり〝笑み〟を浮かべ、ジャングレイダーを駆り、その場から走り去った。

 その後、調査班が現場に到着し、セシリア達と共に生き残った職員達を無事に発見された。

 負傷者もいた為、調査班の数人はすぐさま負傷者を病院へ運んだ。そしてチヒロとマドカ、イユは車の中で治療を受けていた。

 箒がマドカとイユの治療を済ませ、最後の一人であるチヒロの治療を済ませる。

 

「これで大丈夫だ……チヒロ、彼を知ってるのか?」

「分からないけど……でも、何処かで会った気がするんだ。子供の頃に、何回か……」

 

 それは、チヒロの幼い頃の記憶。ハルカと戦っていた時、少しばかり昔の記憶を思い出した。

 あれは、自分がまだ幼い頃。顔も覚えていない母親が自分を抱きかかえている。

 チヒロの視線は母親から、チヒロを見つめるハルカの笑顔へと。手には、子供が喜びそうなおもちゃの数々が握られており、ハルカはおもちゃをチヒロに渡すと優しい笑みを浮かべる。

 

「ハルカ……兄ちゃん……?」

「……チヒロ?どうかしたのか?」

「う、ううん。なんでもない……」

 

 箒の言葉に、首を振る。

 しかし何故だろうか。何故ハルカはチヒロに襲いかかったのか。目的が分からない以上、深入りは禁物だった。ふと、箒の腕に視線を向ける。

 〝柔らかそう〟という印象もあるが、剣道を嗜んでいるためか、〝肉付き〟もいい。

 チヒロがジッと箒の腕を見つめていると、少しばかり涎が口から垂れていた。

 

「……チヒロ、涎が出ているぞ」

「……えっ?」

 

 マドカの言葉に、チヒロは口元を拭う。何故涎が出たのだろうか。もしかすると、箒の腕を〝美味しいそう〟に見つめていたからだろうか。

 ーーーそんな事を思っていた事に気づくチヒロは、自分の中の本能に恐怖を覚えた。

 自分はアマゾンじゃない。一人の〝人間〟なんだと心の中で叫びながら、唇を噛んだ。

 

 場所は代わり食堂。

 任務終わりに、チヒロ達は昼食を取っていた。定食や洋食が並ぶ中、チヒロはいつもと変わらぬゼリーを食べていた。

 甘い物が好きというわけではない。これしか食べれないのだ。どうしても〝味が濃いもの〟は苦手であるチヒロは、此処に来てからゼリーしか食べていない。

 

「……あのさ、一夏。一夏はハルカって人と知り合いなの?」

「あぁ……三年前、見知らぬ奴らに誘拐された時に助けてもらったんだ。その時は素顔とか分からなかったからさ……でもまさか、千冬姉に似てるとは思わなかったし、チヒロを襲うなんて……」

「そっか……セシリアさんは、あの人の名前を知ってたけど……?」

「えぇ。昔、イギリスでお会いした事がありまして。その時に少々……」

 

 そこから、セシリアは口を閉ざした。

 言いたくないのだろうかと、チヒロはそう思う事にした。ふと、食堂に置かれているウォーターサーバーに視線を向ける。

 先程、水が切れており、丁度いいタイミングでやって来た職員が空のタンクを入れ替えていた。

 しかしどうしても、溶原性細胞の事を思い出してしまう。身近にある水が、恐ろしい怪物へ変貌させる細胞が入ってとは思いもしないだろう。

 もしかすると、食堂に置かれているウォーターサーバーにも溶原性細胞が……。そう考えてしまう。

 

 ◇◇◇◇

 

 場所は代わり、モニタールーム。そこには、千冬と眼鏡を掛けた女性ーー山田真耶がモニタールームに完備された端末を操作していた。

 

「失礼します。織斑先生、何かご用でしょうか?」

「来たか、更識」

 

 モニタールームに入って来たのは、水色の髪に扇子を持った少女ーー更識楯無。その隣に立つ、楯無と同じ水色の髪を持った眼鏡を掛けた少女ーー更識簪の二人だった。

 

「先ずは更識妹、ISの調整はどうだ?」

「ブルーティアーズと白式は問題ありませんでした。ですが、改良型の打鉄二式の調整がまだ終わってません……」

「そうか。更識姉、調査班の方はどうなっている?」

「暗部の方から数人程、調査班に回しました。今、工場内を調査しています。あの工場には、篠ノ之博士が言う溶原性細胞は検出されませんでした」

「そうか、ご苦労だった。山田先生、何か見つかったか?」

「今の所、アマゾンの反応は確認されません。ですがいつ覚醒するか分からないので、調査班の方々の連絡を待つしかありませんね」

「私の方からも今の所、調査班の方から連絡はありません。やはり篠ノ之博士が以前調べた様に、感染して発症する人としない人がいる様ですね」

「やはり溶原性細胞は、特定の条件が揃わない限り感染しないらしい。溶原性細胞は水分が無いと死滅する為、空気感染や接触感染などの二次感染がない事が唯一の幸いだな……だがーーー」

 

 千冬はモニターに映されたオメガーーーハルカに視線を向ける。以前会った時よりも、雰囲気や目つきも変わっていた。

 まるで、この三年間〝嫌なもの〟を見て来たかの様な雰囲気だった。

 束に聞いても答えるつもりは無いだろう。束の事だから何か考えがあっての事だろうと、何となく察しがついた千冬。

 

「でも、本当に織斑先生に似ていますね。篠ノ之博士が送って来た研究資料を見させていただきましたが、織斑先生の遺伝子とアマゾン細胞から生まれたクローンなんですよね」

「あぁ……何故私の遺伝子を使ったのか分からないのもあるが、どうやって私の遺伝子を採取したかだ。考えられる要因は幾つもある……あり過ぎて頭が痛くなるがな……」

 

 血液検査や遺伝子検査などが考えられる。しかし、どのタイミングで採取されたかが分からない以上、手の打ち様もない。

 その時だった。モニターから警告音が響き渡る。アマゾンのお出ましであった。

 

 ◇◇◇◇

 

 調査班が運転する車の中で、箒がチヒロ達に今回の作戦のブリーフィングを行なっていた。

 

「今回、アマゾンの被害が確認されたのは街中にある耳鼻科病院。そこの医師と看護師がアマゾンへと覚醒したらしい。先に着いている調査班からの話によると被害者は……ッ」

「箒、どうした?」

「……耳からチューブ状のようなもので脳髄を吸われた痕跡が残されていた。床には被害者の脳漿が落ちていたとの事だ……」

 

 想像するだけで恐ろしい。

 被害者は恐らく、生きたままアマゾンに脳髄を吸われたのだろう。どれだけ怖かったのか分からない。しかし、話はそれだけでは終わらない。

 

「二体のアマゾンは市街地へ逃げ、今でも逃走しているとの事だ。追いかけた調査班から先程連絡があり、街中の廃病院へ逃げ込んだらしい」

「なら、手分けして捜索した方が良さそうだな。セシリア、どうする?」

「そうですわね……なら、チヒロさんと私は正面から。イユさんとマドカさん、一夏さんは裏口から捜索してください。箒さんは調査班の方と共に待機という事で。何か分かりましたら連絡を」

 

 廃病院に着き、セシリアの指示通り、チヒロはセシリアと共に正面から。イユとマドカ、一夏は裏口へと向かった。チヒロは正面玄関の扉を開け、セシリアと共に廃病院へと入っていった。

 

「チヒロさん、アマゾンの気配はしますか?」

「うん。でも、血の臭いが混じってて、何処にいるかまでは……」

「そうですか……一夏さん、そちらはどうですか?」

『イユが気配を探ってるけど、血の臭いが混じってて分からないらしい』

『アマゾンにはそれぞれ個体差がある。感覚に鋭い奴と鈍い奴がな……』

「マドカさん、随分とお詳しいんですのね。やっぱり貴女ーーー」

『私を詮索する位なら、黙って仕事をしたらどうだ?それとも何か?私が使ってるサイレント・ゼフィルスが気になるのか?』

 

 マドカが使用しているサイレント・ゼフィルス。

 元々はイギリスで開発されたブルー・ティアーズの試作二号機であるサイレント・ゼフィルス。

 亡国機業から奪われて以来、行方不明だった物が突然セシリアの前に現れたのだ。

 もしかするとマドカは奪った者達と繋がっていると、セシリアは考えていたが、〝とある人物〟からの情報でチヒロとマドカの事を聞かされた時は、争っている場合ではないと、そう思う事にした。

 

『ふん……チヒロ、アマゾンの気配はどうだ?』

「だいぶ近づいてると思う……ッ!」

 

 その時だった。

 何処からか、微かだが女性の声が聞こえ、チヒロとセシリアは女性の声がした方へ走り出した。

 手術室の前に立ち、扉を開けると其処にはーーー女性の耳から脳髄を吸い出そうとしているゾウアマゾンとゾウムシアマゾンがいた。

 あまりの光景に、セシリアは目を逸らした。

 チヒロはそんな光景を見つめながら、ドライバーを装着し、インジェクターを差し込む。

 

「……アマゾンッ!」

 

 《Neo…!》

 

 爆風でゾウアマゾンとゾウムシアマゾンは吹き飛び、アマゾンネオに変身したチヒロは二体のアマゾンに飛びかかる。

 

「イユ!アマゾンだ!」

『了解』

 

 軽い会話で済まし、ネオは二体のアマゾンに拳と蹴りを叩き込んでいく。ゾウムシアマゾンは怯みながらもその場から立ち去る。

 立ち去った所で、その場に向かっているイユ達がいると知らず。

 ネオはゾウアマゾンに攻撃を叩き込んでいくがどうも動きがおかしかった。ゾウアマゾンはその隙を突き、ネオを吹き飛ばす。

 吹き飛ばされたネオはすぐさま立ち上がろうとしたが、自分の後ろにいる女性に視線を向けた。女性は痙攣しながら呻き声を上げていた。ふと、女性の腕に視線を移した時だった。

 

 ーーーー食べたい……!

 

 そんな感情が湧き上がってきた。それを見ていたゾウアマゾンはネオに語りかける。

 

「食いたいなら食っちまえよ。お前もアマゾンなんだろう?自分に正直になれよ……!どうせ俺たちは本能に抗えない怪物だ!」

 

 ゾウアマゾンの言葉に、セシリアのライフルから放たれた一発の銃弾を放つ。銃弾はゾウアマゾンの鼻に向かって放たれるが、ゾウアマゾンはそれを何とか避けると、その場から逃走した。

 

「チヒロさん!追いますわよ……チヒロさん?」

「はぁ………はぁ………!」

 

 ネオは女性の腕から滴る赤い血を見ていた。その腕が苦しそうにしているネオにとってのーーー〝餌〟だと気付いたセシリアはライフルをネオに向ける。

 だが、それは防がれた。セシリアの横から現れたイユーーーカラスアマゾンに。

 

「はぁ……はぁ……イユ……?」

「………………」

 

 ネオの言葉に、カラスアマゾンは答えない。ただ一言だけを、ネオに呟いた。

 

 ーーーーターゲット、確認。

 

 ◇◇◇◇

 

 遡る事数分前。

 逃げたゾウムシアマゾンは、その場に居合わせたカラスアマゾン達と戦闘を繰り広げていた。

 

「一夏、横から挟み撃ちだ!」

「分かった!」

 

 マドカと一夏は、ISの武装でゾウムシアマゾンに攻撃を仕掛ける。

 しかし、機動力の問題か、ゾウムシアマゾンはそれを軽々と避けていく。だが、頭上から現れたカラスアマゾンの蹴りを喰らい、地面に倒れる。

 それを好機と見た一夏は雪片二型でゾウムシアマゾンを突き刺し、それと同時にマドカもスターライト・ブレイカーでゾウムシアマゾンの腹部を撃ち抜く。

 

「イユ!今だ!!」

「了解」

 

 一夏の叫びに応じるカラスアマゾンは走り出し、ゾウムシアマゾンの頭部に飛び蹴りを叩き込む。

 頭部を吹き飛ばされたゾウムシアマゾンは形だけを残し、絶命した。

 二体の内一体を駆逐したイユ達。マドカはチヒロにインカムで通信を試みる。

 

「チヒロ、こっちは終わった。そっちはーーー」

『食いたいなら食っちまえよ。お前もアマゾンなんだろう?自分に正直になれよ……!どうせ俺たちは本能に抗えない怪物だ!』

 

 その言葉を聞き、マドカは嫌な予感がした。前々からこうなる予感はしていた。

 チヒロは人間を守る為にアマゾンと戦っているが、チヒロも〝アマゾン〟であると。

 

「おい、マズイんじゃないか……チヒロ、もしかしてーーーー」

「違う!チヒロは絶対に人は喰わない……だって〝あの時〟、チヒロは言ったんだ……だからーーー」

「マドカ………おい、イユはどうした?」

「なに……まさかっ!」

 

 マドカは嫌な予感がし、その場から居なくなったカラスアマゾンを探しに向かう。一夏もマドカを追い、カラスアマゾンを探しに向かった。

 そして、廃病院に辿り着いた時には既に遅かった。

 何故ならーーーカラスアマゾンがネオの胸部を切り裂いていたからだ。

 




如何でしたでしょうか。少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

ハルカとチヒロの関係に関してはまだまだ明かせない秘密があります。どうしてチヒロが幼い頃にハルカと会っているのか、それは今後のお楽しみという事で。
そして、イユがチヒロを攻撃した理由。これは何故でしょうかね。

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EP.17 Question

新年あけましておめでとうございます。
そして、約二年ほど投稿出来ずに申し訳ありませんでした。
難航するプロット製作で中々いいアイデアが出ず、モチベーションが下がっておりました。申し訳ありません。
今年も投稿が遅れると思いますが、何卒よろしくお願いします。
そして、後書きの方にご報告がございます。


 チヒロはあの後、すぐに医療室へ運び込まれた。

 ゾウアマゾンとゾウムシアマゾンに脳髄を捕食された女性に〝食人衝動〟が起こってしまったチヒロを攻撃したイユは、マドカに詰め寄られていた。

 

「何故チヒロに攻撃した! 答えろっ!」

「落ち着けマドカッ!」

「こんな時に言い争ってる場合ではないだろう!」

「離せっ!! こいつだけは許せないっ!!」

 

 一夏と箒に抑えられるマドカは、二人の制止を振り切りイユに詰め寄る。しかしイユの無表情が気に食わなかったのか、睨みつける。

 

「イユ、なんでチヒロを攻撃したんだ? 確かにチヒロに食人衝動が起こってたなんて知らなかったけど……だけど仲間を攻撃するなんて……」

「チヒロはあの時、アマゾンに襲われた女性を捕食しようとした。だから止めた」

「止め方にも限度があるだろう!」

「マドカ、一つ聞きたい。チヒロは今まで食人衝動が起こった事はあったか?」

「──ッ! ……お前に答えるつもりはない……」

「…………そうか。ならいい」

 

 マドカの答えを聞いたイユは、そのままその場を後にした。マドカが制止の声を上げようと、イユは立ち止まる事はなかった。

 イユがその場から離れて数分。目の前の人物が視線に入り、立ち止まる。其処に居たのは──。

 

「イユ、少し話がある」

「────織斑千冬……」

 

 千冬は笑みを浮かべ、イユを連れて学園の屋上へと赴く。夕陽が照らし、二人はオレンジ色に染まる。イユは千冬に視線を移し、視線に気づいた千冬はようやっと口を開く。

 

「お前がチヒロを攻撃したのは聞いている。食人衝動を止める為とは言え、やりすぎだ。まぁ、あの場合はあぁするしかなかったのかもしれないがな……」

 

 缶コーヒーを口にする千冬は、再び言葉を紡ぐ。

 

「だが、過ぎた事を責めてもしょうがない……。イユ、これからお前は私が質問する内容に答えてもいいし、答えなくてもいい。いいな?」

「分かった……」

「よし……先ずは一つ。お前は束の指示で私達に合流して来た。それは本当だな?」

「そうだ」

「二つ目。お前はチヒロの食人衝動を止める為にチヒロに攻撃した。これは合ってるか?」

「そうだ」

「…………三つ目。お前……本当にチヒロの食人衝動を止める為に攻撃したのか?」

「…………」

「…………なら、最後の質問だ。チヒロを攻撃したのは、〝自分の意思〟か? それとも──〝ハルカからの指示〟か?」

「…………」

「……そうか。質問は終わりだ。時間を取らせてすまなかったな。今日はゆっくり休め」

「了解」

 

 イユはその場を後にし、一人屋上に残される千冬。

 夕陽を見ながらコーヒーを飲む姿は、これから残業に入るOLのようだった。

 千冬は携帯を取り出し、束に電話を掛けようと思ったが、聞いたところで彼奴が答えるわけもないかと諦めると携帯をしまい、最後の一口を飲み干す。

 夕陽はまだ、眩しかった。

 

 ◇◇◇◇

 

 イユは千冬と別れた後、そのまま自分専用の部屋へと向かっていた。IS学園の生徒の何人かがイユをジロジロと見ていたが、そんな事すら興味がないイユ。

 そのまま自室へと向かっていると、部屋の前に一人の生徒──ーセシリア・オルコットが立っていた。

 

「イユさん、少しよろしいかしら?」

「なんだ?」

「ここではアレなので……部屋の中に入れてもらっても?」

「…………」

 

 イユは何も言わず、セシリアを自室へと招き入れた。すると、セシリアはポケットから小型の端末を取り出し、イユに渡す。其処には、イユの知っている人物からのメールだった。

 

「──ーハルカか」

「えぇ。詳しい事はまだ伝えられていませんが、次の作戦では自分も合流するとの事です」

「合流? ハルカはチヒロを攻撃したのにか……いや、それは私も同じだな」

「イユさんが次の作戦に参加するかは、織斑先生の指示が無いと分かりません。幾ら私が班のリーダーと言えど、其処までの決定権はありませんから」

 

 セシリアはそう言い、イユから小型の端末を受け取るとポケットにしまう。ふと、セシリアは窓の外へ視線を向ける。陽は傾きかけ、時期に夜が訪れようとしている光景を目に焼き付けながら。

 

「……少し、お聞きしてもよろしいかしら?」

「なんだ?」

「……三年前、ハルカさんに何があったのですか?」

「──────」

 

 セシリアの問いに、イユは答える事が出来なかった。

 言っていいのか、分からない。セシリアはハルカを信頼している。だが、IS学園に入学する前の晩、ハルカと出会った時の事は今でも忘れない。

 久しぶりに会ったハルカは、何処か人が変わったかのような雰囲気に身を包んでいた。何があったのか聞く事も出来なかった。

 ハルカとは少しばかりの世間話とIS学園の事を話しただけだったが、別れ際に一言。

 

『────チヒロをよろしくね、セシリア』

 

 最初は良く分からなかったセシリアは、チヒロと会うまでその言葉の意味を考えていた。いや、会ってからも考えていた。

 チヒロを守ってほしいのか、それとも駆除してほしいのか未だに分からない。だが、別れ際の時のハルカの表情は今までのハルカと同じ、優しい表情だったのは確かである。

 

「……悪いが、教える事は出来ない。それは直接ハルカに聞いた方が早いと思うぞ」

「……そうですわね。そうする事にしますわ」

 

 二人は、共に月に視線を移す。

 ────夜が訪れる。

 

 ◇◇◇◇

 

 深夜。

 人が通らない裏路地にゾウムシアマゾンは隠れていた。

 ゾウムシアマゾンは人間の姿に戻ると一人の男性へと姿を変える。男性はその場に座り込むと、息を整える。

 その時だった。

 裏路地に足音が響き渡る。男性は警戒して周りを見渡すが、後ろを振り向いた時には既に遅かった。

 首を切り裂かれ、地面に首が落ちていた。

 悲鳴を上げる間もなく、男性は形を残したまま絶命した。

 形を残したままの男性を見た襲撃者は舌打ちをし、自身の後ろにいる人物に声をかけた。

 

「おい、代わりに殺ってやったんだ。情報は渡してもらうぞ」

 

 その場に月明かりが差し込み、襲撃者を照らした。

 そこに居たのは、オータム。

 かつてハルカ達と死闘を繰り広げた亡国機業のメンバーであった。

 そして、オータムの目の前に居たのは──。

 

「アイツは……チヒロはどこに居る、()()()()()()

 

 ──ハルカだった。




いかがでしたでしょうか?
よろしければ、ご意見・感想をよろしくお願いします。

そして前書きにも書きましたがご報告がございます。
この天災兎と人喰いトカゲですが只今展開している第二章が終了次第、第三章に突入し、第三章が終わったら次回作を書きたいと思っております。まだどういった作品にしようか検討中ですが、決まり次第何かしらの形で皆さんにお知らせできたらいいなと思っております。

それでは、次回お会いしましょう。


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