俺の彼女は妖狐……だけど可愛い。 (恋愛物)
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第1話 尻尾と耳のある彼女

「れ〜い〜? 遊びに来たよぉ〜!」

 

 

 今日もまた、外からそんな声が聞こえ、玄関の扉がドンドンと叩かれる。

 声の主はとても明るく、元気そうに喋っている。

 ソファから体を起こした俺こと「上代 零(かみしろ れい)」は、コップに入っていた麦茶を一気に飲み干し、玄関へと向かう。

 

 

「やっほー、久し振りぃ!」

 

「いや、昨日会ったばかりなんですけど!?」

 

 

 扉の先、俺が見たのは、腰まで届きそうな長い黄色の髪に、黄色い目をした見た目は中学生ぐらいの女の子。

 白いワンピースを着ており、露わになった肌はとても白く綺麗で、彼女が妖狐ということを忘れてしまいそうだった。

 

 

「お前、山の方は大丈夫なのかよ」

 

「大丈夫大丈夫! ぜーんぶ、お父さんに任せたから!」

 

「それでいいのか…」

 

 

 腰に手を当て、その平たい胸を張らす彼女には、えっへん、と威張る仕草が良く似ている。

 

 

「……にしても、すっかり尻尾と耳、隠すの上手くなったな」

 

 

 彼女は妖狐――だけれど今は尻尾と耳をうまく隠し切っているのか、妖狐が持っている特有の耳と尻尾はどこにも見当たらない。

 

 昔はよくモフモフさせてもらってたのに。

 

 

「まぁね、これだけ下に降りて来る機会も増えればこうなるよ。 何、まさかモフモフしたいとか?」

 

「させて下さい」

 

「やーだよ、零のへんたーい!」

 

「おまっ、どっからその言葉を…!」

 

 

 よく下に降りてきてるとはいえ、人間の言葉を完璧に覚えているわけではないだろう。

 それなのにその単語を一体どこから…?

 

 ま…さ…か……

 

 

「あっ、浮気とか思ってる? やだなぁ、零。 私がそんなことするわけないじゃん」

 

「じゃ、じゃあどこからだよ…」

 

「この前、零にすまほ? とやらを貸してもらった時にね。 零が友達と喋ってたあの――めーる とやらの文章中にその言葉があってさ〜、使って見たかったんだよね〜… あっ、なになに? 勘違いしちゃった? ねえ、勘違いしちゃった?」

 

 

 彼女は俺の方を肘で軽く小突きながら、茶化すようにそう言う。

 ……にしても、本当に恥ずかしい…… どうしてこうもいらないところまで深読みしてしまうのか…穴があったら入りたい。

 

 

「まぁ零がそれだけ私のことを考えてくれてるって言うのは、嬉しいんだけどね!」

 

 

 彼女はそう言って笑顔を見せる。

 

 

「…そ、そりゃ考えるだろ…一応、彼氏なんだから……」

 

 

 人差し指で頰を掻きながら俺は言う。

 俺の言葉に驚いたのか、彼女は少しだけ目を見開いた後、俺の手をギュッと握って言った。

 

 

「ありがと! 零こそ紛らわしいことしないでよ? 私、結構妬いちゃうから…」

 

「お、おう。 当たり前だよ。 ってお、お前尻尾! 耳!」

 

「わ、え? あぁぁぁあああ……」

 

 

 彼女は顔を赤くしながら尻尾と耳を隠そうとするが、彼女の特性として1つ。 焦っている状態では戻すことはできないのだ。

 何かに照れた時、何か恥ずかしいことがあった時、彼女は本能が現れてしまうらしい。

 

 もふもふ。

 

 …にしても、本当に柔らかい。 永遠に触り続けたいほどだ。

 

 

「ちょ、ちょっと…ひゃうっ!…もう、今戻してるんだから触らないでよ!」

 

「ごめんごめん、あまりにも触り心地よくて…」

 

「もう…」

 

 彼女は手を頭に置き、頰を膨らませてそう言った。

 

 

「…取り敢えず家上がろうか。 見られたら困るしな。」

 

「うん!」

 

 彼女は満面の笑みで頷くと、長く、少し大きい黄色の尻尾を揺らし、ピョコピョコと俺の玄関に足を入れる。

 

「お邪魔しまーす! あ…零」

 

「何?」

 

 

 

 

「油揚げあるよね?」

 

 

 

 

 

「多分」

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、普通なら絶対にありえない人間の俺と、山暮らしである妖狐との物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第2話 笑顔と元気のある彼女

「あっぶらあげ〜あっぶらあげ〜♪」

 

 

 家の中に入った彼女はキッチンまでつくと、ふんふんと鼻歌を鳴らしながら冷蔵庫の扉を開けた。

 

 冷蔵庫の中を数秒間、黄色い耳を立て、長い尻尾を揺らしながらじーっと見ていた彼女だが、数秒後、冷蔵庫の扉をゆっくりパタンと閉めると、こちらへ向かって歩いて来た。

 

 

「ない」

 

「えっ?」

 

「あ ぶ ら あ げ が無いよおぉぉぉぉぉ!!」

 

「あっ、ごめんごめん」

 

 

 何に使ったっけ…あぁ、そうか。

  一昨日友達が遊びに来た時にうどんを作ったんだったな。 すっかりあるつもりでいたよ。

 

 手をポンっと叩き、俺は彼女の方を見る。

 彼女は赤く頰を膨らませ、こちらをジトーっと見ている。

 

 

「その…買いに行くか」

 

「待ってました!」

 

 

 彼女は元気よくそう言うと、耳と尻尾を隠し、「早く早く!」とでも言っているかのように俺の服の裾をグイグイと引っ張る。

 

 

「子供かよ…って待って待って!!」

 

 

 麦茶の入ったコップを流しに持って行こうとしたが、それを彼女は止め、玄関に俺を引っ張る。

 女の子とは言え、彼女は妖狐。 それなりの力は持っているのだ。

 

 

「むっ…3秒間だけだよ」

 

「わ、分かってるって」

 

 

 ガラスのコップを急いで流しに置き、彼女の方へ戻る。

 

 

「よし、じゃあ行こうか」

 

「うん!」

 

 玄関に置いてある黒い長財布をとった俺は、それを後ろのポケットにしまい、家を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっわぁ〜何これ何これ!!」

 

「あ〜、それはお菓子だな。 ポテトチップスっていう」

 

「ぽてとちっぷす?」

 

「そうそう、ジャガイモから出来てるからそう言うんだよ」

 

「へぇ〜」

 

 

 そう、ポテトチップス。

 今は確か、北海道がジャガイモ不足とかで、北海道のジャガイモを使ったポテトチップスは、あまり出品はされてないみたいだけど、地域で取れたジャガイモで作ったオリジナルのポテトチップスは販売していた。

 

 

「え…えぇ!?」

 

「ど、どうしたんだ?」

 

 

 何か驚くものでも見つけたのか、彼女はビックリしたように目を見開きながら、その商品棚から一歩身を引いている。

 

 どれどれ…

 

 そう思って見て見ると、そこには一つのカップ麺があった。

 

 

「こ、これ、()()()うどんって書いてある…まさか…私たち…を…」

 

「そんな訳無いよ!? 普通のうどんだよ、上に油揚げが乗ってる普通の」

 

「なーんだ、ビックリしたぁ…狐を擦り刻んでうどんにしたのかと思った」

 

「怖いこと言うなよ…」

 

 

 

 

 

「いらっしゃーい、試食はいかがですか〜? 当店自慢の豚肉で調理した肉巻きですよ〜!」

 

「肉巻き…?」

 

「どうせなら食べるか?」

 

「うーん…食べる」

 

「何、別に変なものじゃないから」

 

 

 試食コーナーにはあまり人は並んでおらず、比較的直ぐ肉巻きをもらえた。 肉巻きと言ってもそこまで大きくはない。

 ちゃんと一口サイズで、小さい子供でも食べられるようにはしてある。

 

 爪楊枝を使って、肉巻きを口の中に入れる俺と彼女。

 

 

「美味し〜」

 

 

 彼女はそう言って嬉しそうに笑みをこぼす。

 そんな彼女を見て俺もフッと笑みをこぼし、隣に置いてある豚肉のパックに手を伸ばし、それをカゴに入れた。

 

 

「あら、ありがとね零くん。 何その子、彼女さん? かなりお似合いじゃない」

 

「うっ…聡子さんにはバレましたか…」

 

「あら当たり前じゃない。 小さい頃からあなたを見ているのよ?」

 

 

 予想外だった。

 試食コーナーの隣の店員が聡子さんだったなんて…

 聡子さんは俺が3歳の頃から、付き合いがある面倒見のいいおばさんで、よく聡子さんの家には遊びに行ったことがあった。

 

 

「それじゃ、また遊びましょうね〜」

 

「子供じゃないんだから遊びませんよ!」

 

 

 カゴをしっかりと掴み、俺たちはその場から早く離れると油揚げがあるコーナーへと足を進める。

 

 

「ふふ…ふふふ……」

 

「どうした? そんなに油揚げが嬉しいのか?」

 

 

 彼女は四角い油揚げの袋を手に取り、下を向きながら肩を震わしている。

 

 

「それもあるけど…1番は、ね?」

 

「?」

 

「私たち()()()()だってさ…ふふ…」

 

「あ、あぁ…それか…まぁ、確かに嬉しいな」

 

 

 油揚げの袋をカゴに入れた彼女は、カゴを持っていない逆の手を掴んだ。

 

 

「えっ…あっ…」

 

 

 親指から小指にかけて彼女は一本一本ゆっくりと、俺の指に絡ませる。

 

 恋人繋ぎだ。

 

 コレをするのは初めてのはず。

 

 

「嫌…だった?」

 

 

 彼女は上目遣いでこちらをチラッと見る。

 流石の俺も、これには動揺をしざるを得ない

 

 

「ぜっ、全然そんなことない…ただ…」

 

「ただ?」

 

「ここがスーパーじゃなかったらな…って」

 

「ま、いいじゃんいいじゃん!」

 

 

 明るく笑って見せた彼女は、とても可愛く、どこか幼げだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第3話 大胆不敵で積極的な彼女

 買い物を済ませ、スーパーを出る。

 

 家からスーパーまでの道はそう遠くはないが、俺の住んでるところが山の麓ということもあって道中はかなり人通りが少ない。

 

 だからこそ、俺と彼女が二人で歩いているとより目立つ。

 

「ふんふんふふ〜〜ん」

 

 ご機嫌長に鼻を鳴らす彼女を横目に、俺は「頼むから同級生に会いませんように」とだけ願っていた。

 

 しかしまぁ嘘から出た真か、備えあれば憂いなしだったのか、俺の思念はこれでもかと言う風に粉々に砕け散る。

 

「……課題やったの? はやぁ。 私、まだ全然手もつけてないよ」

 

 既に前方から同級生が歩いて来ていた。 片方は知らないが、もう片方はクラスが同じで結構話すような女子だ。

 

「ごめんリノ」

「んー?」

 

 リノとは、彼女が麓に降りて来たときに呼ぶ用に付けた名前。 照れ臭いが名付け親は俺と言うことになる。

 

「俺の後ろにあの人から見えないよう隠れてくれないか?」

「どうして?」

 

 まぁ、そう返されるだろうな。

 

「何というか、照れくさいからだよ。 それに、正体がバレたら大変だろう? だから……」

「だいじょーぶだよ! 私、今は変化上手になったし、堂々と歩けば気にされないよ」

「いやでも同級生だから万が一があったら……」

「同級生なら尚更見せつけないと! 零に変なむしが寄ることが一番だめだからね」

 

 悲報、人生終了のお知らせ。

 

 別にバレてもいいだろ。 という意見に関しては否定できないが、この件はバレた後がとてもめんどくさい。 何故なら、同級生の彼女はこの数ヶ月仲良くなって分かったが、基本的に誰にでもフレンドリーで、人一倍頭がキレるし、尚且つリノのような少し小さめの女の子に滅茶苦茶接したがる。

 

 これに関しては語弊が生まれないように言うと、彼女には妹がいるのだが、両親離婚で離れ離れになったらしく、中々会えていないからだそうだ。

 

 もしリノと仲良くなればリノの正体が何なのか、恐らくではあるが彼女の頭のキレの良さから、すぐに気づかれてしまうだろう。

 

「でさ〜、ん?」

「お前だな!? 零に取り付く悪いむしは。 私がたいじしてやる!」

 

 人生終了。

 

 ちょっと悩んでいる間に、既にリノは行動していたらしい。 相変わらず行動力の凄さには目を見張るものがあるが、それとこれとは別問題だ。

 

 なんて言おう……そんな事を考えながらリノの元に駆け寄ろうとすると……

 

「何この子ちょーかわいい」

「わわっ!?」

「そー言えばあんたそんぐらいの年の子好きだもんねぇ」

 

 彼女は軽々とリノを持ち上げ、何も聞いていないかったかのように頬をスリスリと彼女に寄せた。

 

 ズルい、俺でもまだそんな事した事ないのに……って違う違う。

 

「零ー、助けてぇ〜!」

「んん〜〜って、あれ、零?」

 

 半ばあきらめた状態で俺は彼女達の元に近づいた。 俺が近づいたのを確認するとリノは勢いよく彼女の腕から離れ、こちらに近づく。

 

「あーごめん、親戚の子でちょっと預かっててな」

「ちがっ! むぐ……!!!」

 

 彼女の口元を押さえ、なるべく話を早く終わらせようとする。

 

「なるほどね、そうだ、今度私の家に連れて来てよ」

「……そ、そうする」

「うん、それじゃあ。 またね!」

 

 意外にも彼女の方から早く話を終わらせてくれた。

 

「あ、あぁ……またな」

「まだ終わっ……ふぐぅ……!!!」

 

 逃げるように俺はその場を去る。

 彼女も負けじと抵抗するが、本気ではなく甘え程度なので男の力ならまだ何とかなった。

 

 

「ふぅん……()()()()……ね」

 

 

 この時、この出会いがこの後もっと面倒臭いことを生むとは思いもよらなかった。

 




三年振りに更新しました……(小声)


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