二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~ (祭永遠)
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SAO
1!!


ええーと…ここどこですか?

目を開けたらいきなり知らない天井だったんですけど。

 

 

しかもなんか体が重いし。

すっげー動き難いんだ。

 

つーかおかしいな…昨日は朝が早いからって早めに寝たはずなのに、まだまだ余裕で眠い。

 

 

とりあえずは現状確認しておかないとだな。

さすがにバイトに遅刻はまずい。

 

 

「おぎゃあああ(よいしょ)」

 

 

………………………は?

俺は確かに起き上がるために、よいしょって言ったはずだがなぜか赤ん坊の泣き声が聞こえたぞ?

 

 

「はーい、今行きますよー」

 

え!?いや、誰!?

確か俺一人暮らしだよ!?

 

「よしよし、どうしたんですかー、もしかしてお腹すいちゃったかな?」

 

いや…確かに腹はすいているが………

ってえええええええぇぇぇぇぇ!?

俺、持ち上げられてる!?

この女性(推定20代前半)どんだけ筋肉あんの!?

成人男性持ち上げるとかどんだけよ!?

 

 

…………………あれ?

ってなんか俺小さくなっとるううううう

しかも本当に赤ん坊だよ!

さっきのは俺の声だったんかい!

 

 

いや、待て………俺が赤ん坊ってことは…

もしかして、これ死んだ系?

 

 

転生ってやつ?

いや、どっちかというと生まれ変わりか?

前世の記憶があるだけで……あれ?これを転生って言うだったっけ?

 

 

ってそんな事は今は重要じゃない。

大事なのは俺は本当に死んだのかってことだ。

でも、意識がこの赤ん坊にあるってことは死んだ線が濃厚だよな……

 

 

とりあえず前世(?)の記憶はあるんだが……

ってああああああ!

思い出した!俺死んだよ!確かに死んだ!

 

 

そこの記憶だけすっぽり抜けてたが、早めに寝たのは昨日の晩で俺は早起きしたんだよ。

んで、仕事に行く途中でトラックにドーン!ってわけだ。

 

まだ暗かったし、ついでにチャリのライトつけ忘れてたし…

やっちまった……まだやりたいこといっぱいあったのに……自業自得っぽいんで何も言えん。

 

 

「あら?急に静かになっちゃってどうしたのかしら?」

 

 

やべっ、いきなり静かになるのは不自然だな。

とりあえず喋ると泣き声っぽい感じになるらしいからなんか喋っておこう。

 

「ぎゃあああ、おぎゃあああああああ」

 

ちなみに今自己紹介したんだが、わかった?

まあ、無理でしょうね。

 

 

というわけで自己紹介(前世)

 

名前は仙場啓

ごく普通の成人男性です。

いや、でした。の方が正しいのか。

 

 

高卒で企業に入ってそこそこの給料を貰って自由に生きてきた。

前述で述べた通りチャリで通える程度のとこに住んでたんだが、死にました。

 

 

やりたいこといっぱいあったけど、それは新しい生命の方で後々やっていこう。

そして、今、大変な事に気付いた。

 

 

俺、自分の名前知らねえ……

まあ、おいおいわかっていくと思うからあまり気にしないでおこう。

 

 

さて、生まれ変わったと言っても神様とかに会った訳じゃない。

気付いたらこうだ。

少しくらい説明があってもいいと思ったまる

 

 

よくある転生物SSでは、神様が出てきて好きな世界に送ってやろう。とか言うのにさ……

でも、そっちの場合死因は神様のミス、そして俺は自分のミス。

そんな都合のいいことあるわけないよね。

 

 

なんか自己紹介とか言いつつ関係ないことばっか話してる……

ちなみにSSという言葉が出てきたので大体の人は予測がついてるだろうが、俺はヲタクでした。

 

 

ああ、あんなに積み本やらゲームやらがあったのに…やりたかった……

 

 

これから本当にどうしよ……俺の思考が入ってる訳だからこの子の人格はなくなってしまったわけだよな…本当申し訳ない。

聞こえないとは思うが謝っておこう。

その分、この子の代わりとしてこの子の人生を最高なものにしたいな。

 

 

「あら?オムツが汚れてるわね、交換しましょうか」

 

 

………早くも挫折しそうです。

 

 

~割愛~

 

 

いや、なんでカットしたかって?

俺が恥ずかしいからだ!

成人男性(精神)が耐えられるわけがないだろう。

 

 

ってかうちの母親若いな、見た目だけか?

それだったら最早不老の薬でも使ったのかと疑うな。

 

 

なーんか抱かれてると眠くなってくんな…

これも赤ん坊だからか?

 

 

赤ん坊は寝るのと泣くのが仕事って言うしな。

このまま寝ちまうか。

 

 

そんじゃ、おやすみなさい…。

 

 

 



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2!!

皆さまおはようございます。

俺が転生してから早くも10年の月日がたちました。

 

 

いやー、早いね!!

もう精神年齢で言えば三十路オーバーですよ。

実年齢は10歳ですけど。

 

さてさて、ではこの10年でわかった事を報告させていただきます。

 

 

 

まずは、この世界での名前。

 

工藤夏希という。

 

いい名前だよねー。

これで俺が女の子だったらもっと良かったのにね。

 

文句なんざないけどこの字を男の子に使わないでほしかったな。

 

俺の顔が女の子っぽい、俗に言う男の娘とかならまだマシかと思うんだけど普通に見た目も男だし………完っ全に名前負けしてるよね………超落ち込む。

 

 

 

親も普通にいい人たちでした。

親父が教師で母親が専業主婦。

母親の方はなんか近所のおじいさんが剣道の師範代やってるとこの臨時コーチ?みたいなこともたまにやってる。

 

凄いよね、見た目めっちゃのほほーんって感じなのに胴着着ると人変わるんだもん。

 

 

そんで小さい頃(今も小さいだろとかの突っ込みはなしね)に連れて行ってもらったんだけど………その時に道場にいた子どもを見てびっくりしたのを覚えてる。

 

だってさ、なんか前の世界のアニメで見たことあるような感じの子どもがいたんだよ。

もしかして、とか思ってそこの道場の持ち主さん家の表札確認してみたら………うん、ご想像通り「桐ヶ谷」って三文字か並んでたよ。

 

 

この時ばかりは、恥も外聞もなく大声で叫びました。

だってねえ、大体二次小説とかの転生って神様経由でアニメとかマンガとかの世界行くじゃん?

でも、俺の場合は普通の輪廻転生、ただ前世の記憶があるだけで特殊能力なんざ1つも持ってない。

それなのにこんなとこに転生とかどんな嫌がらせだよ!?とか思ってました。

 

 

 

でもそれを理解した後の行動は早かったと思う。

第一目標は例の黒の剣士様と仲良くなるところから。

 

 

まず、一緒に剣道習い始めました。

そして、その他もろもろの努力の結果………お泊まりの許可が出るくらいには仲良くなれましたー!!わーわー、ぱちぱち。

 

 

でも、ここまで仲良くなるのにめっちゃ時間かかったんよ?

原作じゃあリズとかクラインとかすぐに仲良くなってたけどあれが異常だってことがわかった。

だってキリトくんってば全然心開いてくれないんだもん。

マジ内気とか人見知りとか生易しい表現だよ………

SAOにログインするまで友達いなかったんじゃん?ってレベルだよアレ。

 

 

暇さえありゃ機械弄りばっかやってたし、たまにゃ外で遊んでみないかい?なーんて誘ってみても反応は変わらず、別にいい。って断られてばっかでした。

 

 

 

最終的には二人で遊ぶときは機械弄り(弄るのはキリトのみ、俺は見てるだけかキリトの説明を聞いてるだけ)かゲームだけとなりました。

まあ、楽しかったので全然良かったのですが。

 

 

そしてキリトくんの妹の直葉さんなのですが当時はお兄ちゃんを取られたと思ったのか敵対心が凄かった。

今ではすっかり仲良くなりましてたまに道場に行って模擬戦なんかをやる。

キリトくんはまだ辞めてはいないものの稽古に顔を出す回数はめっきり減ってしまった。

こりゃ原作通りに辞めちゃうのも時間の問題じゃね。

そんでなぜ俺がわざわざ直葉さんの相手をやるのかというと相手がいないらしい。

この辺の同世代の女の子じゃあ最強無敵らしい。

ちょー怖いんですけど………

まだ負けることはないけど本当強いんです、この子。

さすが将来剣道の推薦で高校を決めるだけの事はある。

 

 

 

ちなみに呼称なのですがキリトくんについては、どちらでも呼べるようにキリに決まりました。

どうせ俺もSAOやるし。

そんで、直葉さんはそのまま妹さんって呼んでます。

これ、癖なんだよねー。

同級生に妹いるとつい妹さんって呼びたくなる。

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここがソードアート・オンラインの世界だということはあともうちょいでSAOのテスターが募集されるはずです。

今は2018年なので4年後にはあのデスゲームがスタートされるということ。

とりあえずは、今できることやSAOで起こったことなど色々考えてみよう。

 

 

 

まず、今できることはそのまま剣道を続けること。

システムアシストがあるとはいえ確実に役立つはず。

回避には反応速度なども必須になってくるし。

 

あとは両親に伝言とかかな?

これは手紙とか体の上に置いてきゃいいかなとか思う。

わからないでナーヴギアを外されてお陀仏とかはなんとしても避けたい。

だってそれで死亡とか超お馬鹿っぽいじゃん?

 

 

 

 

SAOで起こったことはなんか大体覚えてる。

月夜の黒猫団………うん。助けたい。

幸い日時と場所は覚えてるからなんとかしたい。

 

詳しくはログインしないとわからないから今後考えを煮詰めていこう。

 

 

 

まあ、何をするにしてもベータテスターに選ばれる方が都合がいいのは確かだ。

それに関する情報もしっかりと集めておこう。

 

 

 

 

 

 

 



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3!!

 

 

皆さんついにこの日がきましたよ!!

 

 

 

私は今、モーレツに感動しております!!

まさかアニメの中のブツに触れるなど思ってもみませんでしたからな!!

 

 

えーと?すみません、取り乱しました。

 

 

 

ベータテストも一応しっかりと体験したんですがね…

 

 

 

やっぱり手元に本物がくると…こう、ね?

胸の内側から溢れるものがあるわけですよ。

 

 

 

 

まあ、俺の感想は箱にでも詰めて置いておいて…とりあえず起動させましょ。

コンセントにナーヴギアをぶっさしてー、頭に被ってー、電源入れて、初期設定して………あとは一言。

やっべえ、めっちゃテンション上がる、これ言ってみたかったんだよ。

さて、深呼吸して………せえーの!!

 

 

 

「リンクスタート!!」

 

 

 

うおおおおおおおやっぱすげっ

何回体験してもこの感動は収まらないな。

えー…なになに?

身長に体重………その他もろもろ…これの設定でSAOでアバターじゃなくて自分の姿になるわけね。

とりあえず全部正規のもの入れとこ。

デスゲームで自分の姿に変わったのに俺だけアバターっぽいまんまだったらおかしいし、脱出したあとなんて説明すればいいかわかんなくなるし。

 

 

 

ほいほい、オールグリーン。

ほにゃらばSAOの世界にレッツゴー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おおー、ベータテストの時も思ったけど………始まりの街超でけえええええ

いやー感動ですよ。何回見ても感動です。

 

 

 

 

さて、とりあえずはベータテストの時との変更点などを探してみますか。

 

 

 

 

メニューウィンドウを開くと………ほう、まだログアウトボタンはあるのね。

もう十年以上前だから細かい設定とか忘れとるなー

 

 

 

まあ、大事な事は覚えてるので問題なしですね!!

それでは始まりの街の探索へレッツ&ゴー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

…………誰よあの子。なーんかめっちゃおろおろしてんだけども。

しかも、良い年したおっさん共が超声かけてるし…

どうしましょうかねー?なーんか助けてあげられる良い方法はないものだろうか………

 

 

 

 

はっ…!?妙案を思い付いたぞ!!

昔から知らない男に絡まれてる女の子を助ける方法と言えばこれだよ!!

 

 

 

 

 

「おーす、悪いな。待たせたみたいだな」

 

 

 

 

「うん?なんだね、君は。今は僕がこの子と話しているのだが」

 

 

 

 

「ナンパ中申し訳ないけどその子俺の連れだからさ」

 

 

 

 

「なんだ、男連れかよ」

 

 

 

 

ええええ?キャラ作りすぎでしょ…

男連れだとわかった瞬間、手のひら返したような態度になるとは……

 

 

 

 

「さて、ごめんね?勝手に俺の連れ扱いしちゃって」

 

 

 

 

「あ、いえ…大丈夫です、ありがとうございました……」

 

 

 

「いいえー、どういたしまして。ここにはああいう連中けっこういるから気をつけてね?そんじゃ俺はこれで失礼するよ」

 

 

 

 

それじゃあ、探索の続きをしますかな。

だいたいどこに何があるかは把握したけど路地裏とか細かいとこも見ておきたいし…

 

 

 

 

「あ……あの!!」

 

 

 

「はい?まだなにか困ったことでもあるの?」

 

 

 

「はい…私こういうゲーム始めてで…良かったら遊び方とか教えてくれませんか!?」

 

 

 

おうふ、そうきたか。

この後は探索の続きやってとなりの村まで安全に行けるレベルにまで上げようと思ってたんだけどなー、どうしよ…

 

 

 

でもでも、ここで初プレイの女の子置いて行くのも後味悪いどころか…この後デスゲームになることを考えると…ただの最低になりそうだし………

 

 

 

 

よっしゃ、決めた!!

この子の面倒は俺がみよう!!

 

 

 

 

「……うん、大丈夫だよー。まずは自己紹介しようか?俺はクゥドよろしく。君はなんていうの?」

 

 

 

「あ、わたしはシリカって言います!!あのよろしくお願いします!!」

 

 

 

「え!?あっ、ごめん、なんでもない。じゃあどうしよ。フレンド登録する?これに登録するとメールができるようになるんだ。」

 

 

 

「えっと、それじゃあお願いします」

 

 

 

なんだこの子は。本当にあのシリカなのか?

いや、でも実際シリカがああなったのは残念な野郎たちのせいだってあったな。

デスゲーム宣告前、及びそんな野郎たちと接触する前はこんな感じのアクティブな子だったのかも。原作でも仲間内では今のような感じだし。

 

 

 

「はい。じゃあ登録完了っと。他にも色々な機能があるから試してみなよ。わからなかったら聞いてくれて構わないからさ」

 

 

「ありがとうございます!!それじゃあ早速なんですけどこれはー………」

 

 

 

なんて感じで色々説明してたらあっという間に一時間が過ぎた。

 

 

 

「さて、それじゃあある程度の説明は終わったしそろそろ街の外に出て戦闘訓練に入ってみようか。」

 

 

 

「はい!!お願いします!!」

 

 

 

 

なんだろう、デスゲームっていう重圧がないからか、シリカさんのやる気が凄いわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せえのっ!!やあああ…………ってきゃあああっ!?」

 

 

 

「んー?おしいなー。もうちょっとこう、1回剣を動かした時に溜めて、なんか体にぞわわあって感じたら今度はこうスッて感じでやれば………」

 

 

 

「そんなこと言われてもー………表現の仕方がアレ過ぎて分かりにくいです。」

 

 

 

「んなこと言われてもそうとしか表現出来ないのだからしょうがないじゃん」

 

 

 

なんか言いたそうにこっち見てるけど大体誰が教えてもこんなもんだからな?

お、これは………

 

 

 

「シリカ!!そこでスッて感じで剣を振れ!!」

 

 

 

「はい!!やああああああっ」

 

 

 

 

やったね、シリカ!!ソードスキル発動おめでとう。

 

 

 

「ややややったあー!!見てましたクゥドさん!?ちゃんとできましたよ!!

 

 

 

「おう、ちゃんと見てたよ。1日でよくここまでできたもんだ。」

 

 

 

 

そう言って頭を撫でてあげたら嬉しそうにしてたのでそのまましばらくシリカの頭の感触を確かめてた。

うん、やっぱ妹キャラは癒されますな。

べ、別にロリコンとかじゃないんだからねっ

 

 

 

 

……俺は誰を相手にツンデレなんぞやってるんだ、気持ち悪い。

 

 

「さて、そんじゃあシリカもスキル発動出来たしキリもいいからここらでログアウトしようかね」

 

 

 

「そうですね。今日は色々教えてくださってありがとうございました!!よかったらまた明日もお願いできませんか?」

 

 

 

「了解。ほんじゃ気をつけてな。」

 

 

 

 

「えへへ。ありがとうございます。えーとそれじゃあログアウトは………と、クゥドさんログアウトボタンはどこにあるんですか?」

 

 

 

………ついにきたか。デスゲーム………。

あと1時間もすれば茅場が始まりの街へ強制転移させるはず。

それまでは普段通りにしておこう。

 

 

 

「ログアウトボタンならメニューを開いた一番下にあるよ?」

 

 

 

「いや、ないですよ?ほら」

 

 

 

「ん?本当だ。さっきまでは確かにあったんだけどな。」

 

 

 

「ええええええ!?それって大丈夫なんですか!?」

 

 

 

「んー、珍しいな。ここの発売元のアーガスって会社はユーザー重視の会社なんだ。こんな大きなポカをやらかしちゃ意味がなくなる。」

 

 

時刻は………5時半過ぎか。

そろそろかな。

 

 

 

 

 

リンゴーン、リンゴーン

 

 

 

 

 

「え!?なんですかこれ!?」

 

 

 

シリカの体が青い光の柱が包みこんでいる。

多分俺もそうなのだろう。

シリカが目を見開いてこっちを見ている。

 

 

 

「大丈夫だよシリカ。何かあっても俺がいてあげるからさ。」

 

 

 

 

なーんてくっさ。

自分で言っててスゲー鳥肌たった(感覚だけ)けどシリカは安心したっぽい。

 

 

あまりの眩しさに目を閉じた。

青い光が収まったのを感覚で理解して目を開くとそこはやはり始まりの街でSAOにログインしている全プレイヤーが集まっていた。

 

 

 

 

 

 



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4!!

 

「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ」

 

 

 

ええ、ええ、来てやりましたよ。デスゲームだってわかってんのにそれでもSAOに参加するのは狂人と言っていいよね。心配するな、自覚はある。

 

 

 

「私の名前は茅場晶彦、今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ」

 

 

 

周りの驚きっぷりが凄い。………シリカはなんでみんなが驚いてるのかがわからないみたいだな。そこまでゲーマーってわけじゃないんだな。

 

 

 

「プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく[ソードアート・オンライン]本来の仕様である。諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない。……また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合―――ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる」

 

 

 

「………クゥドさん」

 

 

おわっ…集中して聞いてたからびびった。

 

 

「あの茅場?っていう人のことって本当なんですか……?」

 

 

 

「………原理的には十分有り得る話だよ。ナーヴギアの3割はバッテリセルというもので作は (サンチとは)。これだけの容量があれば脳細胞中の水分を高速振動させ、摩擦熱によって脳を焼くことができる。簡単に言うと電子レンジと同じようなことが俺たちの脳内で起こると考えてもらってかまわない」

 

 

 

「そ……そんなっ………嘘ですよね…?」

 

 

 

「いや、こればっかりは事実だよ。茅場が本当にそれを実行するのかは別としてね」

 

 

 

まあ、実際にはやるわけなんですけどね。

今までの説明だけで全部がわかってしまったら変な疑いをかけられるので自重しよう。

 

 

 

「諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。先に述べた通り、アインクラッド最上部、第百層まで辿り着き、さこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう」

 

 

 

あれ?知らないうちにずいぶんと説明が進んでる。

考え事に集中しすぎたかな?

 

 

 

「それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してみてくれ給え」

 

 

 

あい、了解っと。…………いやー、どうでもいいけど1万人分のサウンドエフェクトってすげー音でかいわ。

 

 

 

「クゥドさん。この所持品の一番上にある[手鏡]ってアイテムでいいんですか?」

 

 

 

「そうだよー」

 

 

 

「んー……何も起こらないですよ?………きゃっ…」

 

 

 

 

何回も言ってるけど……すげー。1万人を白い光が一気に包みこんでいる。

んー……どうやら収まったみたいだね。隣は………うん、シリカだね。

 

 

生前?なんて言えばいいんだ?転生前?にアニメで見たシリカそのままだ。いやー、アバターよりかわいい現実の容姿っていったいどうなのよ?と製作者を小一時間問い詰めたい。

 

 

 

「やっぱり何も変わってないように見えるんですけど…………あれ?クゥドさん髪の色が変わってますよ?どうなってるんですか?」

 

 

 

…………あっれー?もしかしてシリカってけっこうな天然さんだったりする?原作じゃあそこまで詳しい描写なかったし…。

でもまあ、気がつかないのも無理はないと思う。だって俺のアバター現実の容姿のまま髪の色変えただけなんだよね。

 

 

実際、こうなるのわかってたからめんどくさかったなんて理由でアバターを適当にしたわけでは断じてない。ないったらない。

 

 

 

「まあ、とりあえずもっかい鏡見てみ?」

 

 

 

「………?まあ、別にいいですけど……うん、やっぱり私が映ってるだけでおかしなことはなにも……………っえええええええええ!?あれっ!?私が私になってる!?」

 

 

 

「いや、元からシリカはシリカだろ」

 

 

「あっ、いやそうじゃなくてえっと、現実の姿に変わってるんです!!アバターじゃなくて」

 

 

 

うん、ナイスリアクション。

 

 

 

「それは俺もだよ?」

 

 

 

「ええええ?でもでもクゥドさん髪の色以外何も変わってませんよ!?」

 

 

 

「そりゃ髪の色以外全部そのままアバターにしたもん」

 

 

 

「そ……そうなんですか!?でも、なんでこんなことをするんでしょうか?」

 

 

 

「それはわからないけど、これもすぐに説明してくれるさ」

 

 

 

そろそろ周りも慌ただしくなってきてる。

 

 

 

「諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は――SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか?これは大規模なテロなのか?あるいは身代金目的の誘拐事件なのか?と。私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら……この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、観賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた。………以上で[ソードアート・オンライン]正式サービスチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の―――健闘を祈る」

 

 

 

これで説明は全て終わりか。なら、さっさと行動あるのみだな。

 

 

 

「そんじゃ行きますかー。…………?どうしたの、シリカ?」

 

 

 

よく見れば分かりやすいぐらいに震えている。やはり怖いのだろう。今までは我慢してたみたいだけど………切っ掛けは俺の行動かな?

 

 

 

「何なんですかこれ?意味わかんないですよ。ゲームから出られないって嘘ですよね?何か私悪いことしました?なんで私がこんな目にあわなきゃ……」

 

 

 

「シリカ、まずは落ち着いて。そして俺の話をよく聞いて。………非常事態の時は物事は常に最悪を想定して動かなくてはならない。俺はそう教わった。だから俺はこれを現実の物として考えることにした。そうなるとこの始まりの街にいる意味はなくなるから俺はすぐにでも次の村にまで行こうと思う。俺はこれでもβテスターだからレベルが低くても安全に村まで行けるルートを知ってるし、シリカ一人ならば庇いながらでも十分に余裕がある」

 

 

そこで俺は一息ついて、

 

 

 

「シリカ、君はどうする?俺に着いてくるか、この始まりの街でゲームがクリアされるのを待つか………君が自分で決めるんだ。」

 

 

 

これでここに残るって言われたらもうしょうがない。俺もキリみたいにソロでやろう。

 

 

 

「私は――迷惑じゃなかったら着いて行きたいです……!!多分ですけどここに残っても何も変わらないだろうし……それに、一人じゃ不安で………」

 

 

 

「迷惑だったら誘ってないって。それじゃさっさと行こうか。今日のうちには村に着いておきたいからね」

 

 

「はい。わかりました」

 

 

 

「それと途中で、モンスターと遭遇することもあると思うけどこれは全部潰していこう。基本方針は村まで最短距離を進んでく。そして、戦闘方針はます、俺がスキルをぶちこむからそのあとスイッチ、でシリカのスキルで止めだ。第一層のモンスターは攻撃力もないから焦らず練習通りにやれば問題ない。もちろん危なくなったらすぐに助けるから安心してほしい。できるね?」

 

 

 

少し厳しいかもしれないけどこれくらいは今のうちからできるようにならないとすぐに死んでしまう。これはシリカを死なせないためとも言っていい。

 

 

 

「………はい。ちょっと怖いけど…頑張ってやってみます!!」

 

 

 

よーし、いい返事だ。立ち直るのがけっこうはやい。

やっぱり一人だけの時と他に誰かがいるっ場合だと精神的にも変わってくるもんなのかな?

 

 

 

「それじゃシリカにパーティー申請を出すからそれを受けたらここを出よう。今日から俺とシリカはコンビだ。よろしくな」

 

 

 

「はい!!こちらこそよろしくお願いします!!」

 

 

 

 

 

そのあとは道中危険なこともなく、シリカも危なげなくスキルを使いこなし予定よりも早く村に着いた。

ちなみに村に着いたのは、夕日が落ちてから一時間ほどたってからだった。

 



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5!!

 

 

 

「ほい、到着っと…」

 

 

 

やっと着きました、ホルンカの村。

すでに俺ら以外のプレイヤーもちらほらと見える。

 

 

キリの姿は見当たらないな。すでにクエストに行ったか。

まあ、俺らはコンビ組めたし問題なかったけどモンスターとは基本戦闘してたからな。

おかげでレベルは俺、シリカ共に3になっている。

 

 

これからキリも受けているクエストを受けに行くつもりだ。

俺もスキルの一つは片手用直剣なので3層まで使えるアニールブレードは欲しい。

 

 

 

「シリカ、この村でクエを受けたいから悪いけど付き合ってもらえないかな?」

 

 

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

 

 

「このクエは片手用直剣使いには重要なクエでさ、短剣使いのシリカには申し訳ないけどね」

 

 

 

「そんなこと気にしないでください。ここまでSAOのやり方とかで色々お世話になってますから」

 

 

 

………ええ子や…ちょっとおじさん感動で涙が……

 

 

 

「ありがとう。そしたらクエ受けに行くからついてきて」

 

 

 

シリカがうなずいなのを確認してから俺は村の奥にある一軒家に入る。

うん、キリが村のおかみさんって言ってたからどんなもんかと見てみると本当にそう表現するのが一番ぴったりだ。

 

 

 

「こんばんは、旅の剣士さん。お疲れでしょう、食事を差し上げたいけれど、今は何もないの。出せるのは、一杯のお水くらいのもの」

 

 

 

「それで大丈夫ですよ」

 

 

 

NPCのおかみさんは俺とシリカの前に水を出してくれた。

それを飲んでると隣からシリカに話かけられた。

 

 

 

「クゥドさん、あの人お鍋かき回してるのに食事を出せないってどういうことなんですか?」

 

 

 

まあ、最もな疑問だよね。

 

 

 

「そこがこのクエのヒントなんだよ。もうしばらくこのまま待ってればわかるよ」

 

 

 

シリカとそのまま待ち続けているとドアの向こうから子ども特有の少し高めの声の咳が聞こえてきた。

するとおかみさんの頭上にクエスト発生の証の金色の?マークが点灯した。

 

 

どう?という視線を込めて隣を見るとシリカはなるほどといった表情でうなずいている。

若干表情が曇っているのは子どもの咳を心配してるからだろう。

俺は?マークが消えないうちにおかみさんに話しかけた。

 

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

 

これもNPCクエスト受諾のフレーズなんだよね。

幾つかってキリは言ってたけど基本的に質問になってれば受けられることがわかった。

 

 

 

「旅の剣士さん、実は私の娘が……」

 

 

 

大変長いおかみさんの説明を聞いたあとすぐに任せてください。と言うと家から出る。

 

 

 

「クゥドさん!!頑張って胚珠を手に入れてあの子に届けてあげましょうね!!」

 

 

 

シリカのやる気が物凄いんだけど…さっきの説明聞いて助けてあげたくなったみたい。

 

 

 

「じゃあ、これからその胚珠を取りに行くんだけど戦闘はここに来るときと同じ方針で。ひたすらターゲットのリトルネペントを倒す」

 

 

 

シリカは黙ってうなずいて説明を聞いてくれている。

 

 

 

「そして、こいつの注意点なんだがやはり毒状態にならないこと。もしなってしまったらすぐにスイッチ、結晶で回復。判別方法は口が開閉するとき口の中に花が見えるから。今回のターゲットはそれだ。また、花つきと同じ割合で出るのが丸い実をつけてるネペント、こいつの実を割ってしまうとデカイ音出して破裂して嫌な匂いを撒き散らす。こいつはプレイヤーにとってはなんでもないが周りから仲間のネペントを呼び寄せるという特性があるんだ。さて、こんなところだが何か質問は?」

 

 

 

…………うん、大丈夫そうだね。

確認をとってから俺とシリカは村から西の森へ移動した。

 

 

 

 

 

 

 

西の森に着いてから俺とシリカはひたすらにリトルネペントを倒していた。

そして数えるのも疲れるくらいに倒したところでシリカが声をあげた。

 

 

 

「なかなか花つき出ないですねー」

 

 

 

「普通のネペントを倒してれば通常よりPOP率は上がるはずなんだけどな」

 

 

 

 

なんてしばらく話しているとついに花つきが出てきた。

 

 

 

「シリカ!!花つきが出てきたぞ!!援護頼む!!」

 

 

 

「はい!!」

 

 

 

シリカの返事を聞く前に走り出した俺は花つきネペントにスキル、スラントを叩き込む。

一撃では倒せなかったらしくスキル後の硬直を狙ってネペントが攻撃を繰り出してくる。

 

 

 

「ちっ、シリカスイッチ頼む!!……………スイッチ!!」

 

 

 

ネペントの攻撃より早く硬直の解けた俺はすぐさまシリカとスイッチする。

そしてスイッチした後、ネペントの攻撃より早くシリカのスキルが当たった。

ポリゴンの砕ける音と共に俺のアイテムストレージに胚珠が加わる。

 

 

 

「ふー、長かったな。ありがとうシリカ、おかげで助かったよ。一人だったら今日中にクリアできなかったかも」

 

 

 

「えへへ、お役に立ててよかったです」

 

 

 

ヤバイ……俺、ロリコンじゃないのに今の笑顔はグラッときたぜ………

その時どこかでパアアアアンという凄まじい音が響いた。

 

 

 

「………っ!?今の音って………」

 

 

 

「ああ、誰かがネペントの実つきを割ったみたいだな」

 

 

 

「それなら早く助けに行かないと……!!」

 

 

 

「そうだな、とりあえず行くだけ行ってみよう。もし助けが必要なさそうなら引き返すからな。余計なお世話になるだろうし」

 

 

 

そう言って俺は音のした方に走り出す。後ろからはシリカがピッタリとついてきている。

そのまま走り続けること約5分。一人の剣士の周りにネペントが20体程度いた。

 

 

 

「シリカ!!とりあえず隠れるぞ!!」

 

 

 

俺は小声で叫ぶという器用とも言えることをしながらその剣士の様子を見る。

 

…………おいおい…奴はどうした?ちょっと引き寄せすぎじゃね?周りをよく見たらスモールソードと円盾が落ちてる…ってことはもう退場したあとか………

だとしたらおかしいだろ……くそっ、考えてる暇はないみたいだ。

 

 

 

「ちょっとあの人危なくないですか?助けに行きましょうよ!!」

 

 

 

「…………そうだな。今の俺とシリカなら問題ないかもしれない。だけど十分に気をつけて、一歩の油断が死につながるから…………じゃあ行くぞ!!」

 

 

 

数秒だけ悩んだフリをして決断をする。

ここからはもう、殲滅あるのみだ。

助走の勢いをそのままにスキルを叩き込む。

今は俺もシリカもリトルネペントならば複数体を同時に相手にしても十分やれるので今回はバラバラで動いている。

 

 

 

「おいキリ!!驚くのはわかるが説明は後だ。お前も手を貸せ」

 

 

 

そう言われて状況を再確認したのか急いで戦線に加わる。

キリはなんでこんなとこにいるんだって目をしてたな、その説明も考えておいてつじつま合わせを頑張ろ………

 

 

 

「やあああああぁぁ」

 

 

 

シリカのスキルが最後の一体を貫き、なんとかキリの周りに集まったネペントたちを倒した。

そしてキリは何か聞きたそうな顔をしている。

 

 

 

「……よう、キリ。久しぶり?」

 

 

 

「久しぶり?じゃないだろ!!なんで………クゥドがこんなとこにいるんだ!?」

 

 

 

名前の前でどもりやがった、絶対夏希って言いかけてたぜ。

 

 

 

「いやー、ニュースで茅場が色々言っててなー。事実かどうか確かめるために飛び込んでみました」

 

 

 

もちろん嘘です。その前からログインしてるしね。

 

 

 

「ちなみにお前の親と妹さんには手紙書いて渡してあるからお前のナーヴギアが外されることはないから安心しな」

 

 

 

まあ、他にもいつくらいに目を覚ますとかもろもろ書いたけどいいよね?

問題はあるかもだけど情が湧いちゃったんだもん、仕方ない。

 

 

 

「この事は現実でもニュースになってるのか。やはり茅場の言っていたことは事実としてとらえた方が良さそうだな」

 

 

 

「だからそう言ってんじゃん。まあ、とりあえず村に戻ろうぜ。俺の相棒も紹介したいしな」

 

 

 

そこでシリカに視線を向けると若干恥ずかしげな表情で頭を下げた。

 

 

 

 

ホルンカの村に戻ると二人の自己紹介が始まった。

 

 

 

 

「さっきは助けてくれてありがとう。俺はキリトだ。これからは顔を合わせる機会が何度もあると思うけどその時はよろしく頼む」

 

 

 

「はい、よろしくお願いします。私はシリカって言います。ナーヴギアを使ったゲームとか初めてでそこをクゥドさんに色々教えてもらいました」

 

 

 

ちなみにシリカには余計な事を言わないように釘を刺してある。

俺ってこういうところが黒いなって思うけど今更変えられないよねー

 

 

 

「それじゃ、互いの紹介もすんだことだしさっさとクエ完了させますか」

 

 

 

やっと終わったー。

ネペント狩り大変だよ、早くベッドで休みたいぜ。

 

そのまま三人で会話もそこそこにクエを受諾した家に入る。

そこでおかみさんに話しかけるとクエが終了したようでその娘が奥の部屋から出てきた。

 

 

 

その娘にお礼を言われる。

そしたら隣で嗚咽をこらえるような感じの声が聞こえてきた。

シリカもそれに気づいたらしくキリに声をかけようとしていたが俺はそれを止める。

 

 

 

「あいつには妹がいてな……それを思い出したんだろ、今はそっとしておいてやってくれ」

 

 

 

「わかりました。それじゃ出ましょうか」

 

 

 

そのままキリを置いて二人で家の外に出る。

外はすでに深夜と言って構わないくらい静まりかえっている。

その中を俺とシリカは二人で歩みを揃えながら宿やに向かった。

 

 

 

次の日、恥ずかしがるようにしてキリがメッセージで昨日助けた事への感謝と、先に次の村に行くと書いてあるものが届いたのはここだけの秘密だ。

 



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6!!

 

ここは第一層迷宮区の十五階、俺とシリカはここをレベリングの拠点としひたすらに雑魚モンスターを狩っている。

 

 

 

 

ふう……そろそろ疲れてきたねえ、POTの残りや武器の耐久度なんかも心配になってきたし、なによりあと少しでここのボス部屋まで到着するはず。

 

 

 

ここは余裕を持って早めに街に帰ろうかな。

 

 

 

 

「シリカー!!あとPOTはどれだけ残ってるー!?」

 

 

 

「そうですねー、あと五本です!!」

 

 

 

「了解、ならそれが無くなる前に街に帰るよー」

 

 

 

「はーい、わかりましたー」

 

 

 

 

シリカさんは、大変素直に育っております……戦闘もそれ以外もやりやすいったらありゃしない。

 

 

 

本当にさ…鍛えるほど強くなってくよね、やはりメインキャラなだけあってチート入ってるよ?じゃなきゃ、MMO初心者がここまでできるかアホがっ

 

 

 

 

よし、ここのモンスターはあらかた片付いたな。

じゃあ、戻りますか。

 

 

 

「そろそろ帰るぞ、帰り道も敵とエンカウントするだろうからなるべく油断は禁物な」

 

 

 

「はーい!!ねえ、クゥドさん私って強くなれてますかね?」

 

 

 

ええ、大変強くなられておりますよ、最前線で攻略組として活躍できるくらいにはね……

 

 

 

もう、俺の立場はあってないようなものだね……笑えてくる。

あれ、おかしいな、笑えてくるはずなのに…目から汗が出てくらぁ

 

 

 

 

「まあ、そういう話は街に戻ってからゆっくりしよう。今はまだ一層で俺らのレベルも高くないしね。気を引き締めて帰らないとな」

 

 

 

 

 

そう言って俺とシリカは街に帰るために迷宮区をあとにした。

 

 

 

 

なお、その時十八階付近では後の閃光のアスナが無茶苦茶なレベリングをしてたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、街に到着っと………いや、マジ早く転移結晶使いたいわ。

街に戻るまでが冒険です!!って遠足じゃねえんだからささっと帰りたくなるのは俺だけじゃないはず。

 

 

 

 

「じゃあクゥドさん、街に着いたことですしさっきのお話の続きしましょう!!」

 

 

 

「さっきの話?なんか途中だったっけ?」

 

 

 

「もう、そうやって誤魔化すんだから。私がちゃんと強くなれてるかって話ですよ!!」

 

 

 

 

あー、それね…つい話した気になってたよ。

ちょっと本音を言うのはMMOの先輩としてのちっぽけなプライドが邪魔するので、ここはあえて辛い評価をします!!

 

 

 

 

「とりあえずは問題なく強くなれてるね、だけどやっぱり問題点はいくつかある。未だにスキル発動までに若干のタイムラグがある。これはもうそろそろ慣れてもらわないと苦しくなってくるから早めに改善したいね」

 

 

 

 

「ううー……だってタイミングがまだちゃんと掴めてないんだもん、あと少しで上手く出来そうなんだけど…」

 

 

 

 

実際はそこまで言うほど目立っちゃないがこのコンマ一秒が生死を分けるからここに妥協はできない。

 

 

 

 

シリカもそれをわかっているから何も言わず練習を繰り返してくれるんだろうな、こんな後輩を持てておじさんは幸せですよ。

 

 

 

 

「さて、それじゃあそろそろ宿に戻ろうな。明日はオフにするから遊ぶなり休むなり練習するなり好きに過ごしてね。そろそろボス部屋までマッピングされて集合もかかるはずだからそれまではリラックスして過ごすように」

 

 

 

それじゃ、俺はやることあるしささっと行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその翌々日、シリカに噴水広場に四時に来るように指示したあと、俺は近場のベンチを覗いていた。

 

 

 

 

うはは、これが後に夫婦となる二人の会話とは思えんな。

 

 

 

あ、どうも。野次馬根性丸出しの工藤夏希です。

 

 

 

 

主人公とメインヒロインのやり取り、内容は知ってても本人たちがいるとなれば聞きたくなるのもしょうがないよね?

 

 

 

 

俺が一方的に悪いけど気になるものは仕方ない、だってSAO大好きだったんだもの。

 

 

 

 

おっと、そんなこんなしてるうちに広場の方にシリカが見えた………え、あいつまたナンパされてんだけども、モテすぎだろう、少しそのモテ力をわけてほしい。

まあ、とりあえず早く行かないと後が恐いからさっさと合流しますかね…

 

 

 

 

「おーい、シリカー、お待たせー」

 

 

 

「あっ…クゥドさん。えっとそれじゃあすみません、私あの人とパーティー組んでるのでそれじゃあ…!!」

 

 

 

うん?なんか鋭い視線を感じるよ?

シリカが何かいったのか…?もし視線で人が殺せたら三回死んでお釣りがくるほどの殺気だぜ…いやー、そんな視線向けないでほしい、実は小心者なんだよ。

 

 

 

 

え?小心者だったらこんなとこいないって?

そりゃ、違うな。俺の2次元への憧れは命より重かったのだよ、ワトソンくん。

実際、今は楽しくてしょうがないもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、今回ここに集まったのはー………四十六人ね…

うーん……原作にそのまま俺とシリカが加わっただけの人数か。

 

 

 

 

「なんか人数がそこまで多くないですね…なんというか今からこれだけの人数だと層が上がるたびに辛くなりそうな気がします」

 

 

 

 

「多分逆にまだ様子見をしてるプレーヤーもいると思う。ここで一回でここのボスを倒せばクリアできることもわかってボス戦に加わる人も増えてくるんじゃないかないかな?」

 

 

 

 

「なるほど、そういう考え方もあるんですね。だったら早く解放されるためにもここは一回でクリアしましょう!」

 

 

 

 

 

やる気が上がったようでなによりです。

そろそろ始まるようだし集中しますかね。

 

 

 

「はーい!それじゃ、五分遅れだけどそろそろ始めさせてもらいます!みんな、もうちょっと前に……そこ、あと三歩こっち来ようか!」

 

 

 

 

えらいイケメンがそこにいた。

…………っは、ハルヒコなんてやってる場合じゃねえ、イケメン過ぎて意識飛んでたわ。

しっかりしたタイプのイケメンだのー、正直羨ましいよこんちくしょー

 

 

 

「あははっ、あの人面白いですね、職業はナイトだそうです」

 

 

 

 

イケメンなうえに面白いと評価される人間か…これが産まれついて持った才能の差か………

 

 

 

 

「さて、こうして最前線で活動してる、言わばトッププレーヤーのみんなに集まってもらった理由は、もう言わずもがなどと思うけど……今日、オレたちのパーティーが、あの塔の最上階へ続く階段を発見した。つまり、明日か、遅くとも明後日には、ついに辿り着くってことだ、第一層の……ボス部屋に!」

 

 

 

 

すると、周りからは驚いたような声が上がる。

シリカには話してあるのでそこまで驚いた様子はない。

心の準備は早いに越したことはないからね、良い緊張感を持ってくれてるみたいだ。

 

 

 

 

いやー、このままこの状態が続いてくれるといいね。

 

 

 

 

「……ドさん、クゥドさん!!聞いてますか!?」

 

 

 

「え?ごめん、全く聞いてなかった。そんで何かあった?」

 

 

 

「何かあった?じゃないですよ!!なんなんですか、あのキバオウって人!!さっきっからずっとベータテスターのこと悪く言ってるんですよ!!クゥドさんみたいな優しい人もいるのに!!」

 

 

 

 

ええと、うん。あまりにもどうでもよすぎて興味なかったよ、キバオウさんの話。

正直そういうとこも含めてゲームなんだし、テスターを擁護する訳じゃないけどある程度差が出るのは仕方ないと思う。

よく、運も実力の内って言うしねー?

 

 

 

そのあとは特に変わったこともなく、会議は順調に終了した。

ただシリカの怒りがなかなか収まらなかったのがちょっと怖かったりしたけど。

 



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7!!

本日の日付は十二月三日、ついにボス部屋を発見する日だ。

俺とシリカも朝から迷宮区の二十階でマッピングを続けている。

 

 

 

 

すると案外すぐ近くから雄叫びのような歓声が聞こえてきた。

 

 

 

 

「おおー、ついにボス部屋を発見したみたいだな」

 

 

 

「え!?本当ですか!?」

 

 

 

「まあこの歓声はそうでしょうね、とりあえずボス部屋も発見されたし一足先に戻ろうか」

 

 

 

レベルは二人共十分な域になってるしボス部屋が発見された今、いつまでもここにいてもしょうがないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆より先に街に戻った俺らは特に何をするでもなくそのまま夕方の会議に参加した。

 

 

 

 

「うわあ……この攻略本凄いですねー…色んな情報が綺麗に纏められてて見やすいです」

 

 

 

「だな、さすがはアルゴってところかな」

 

 

 

そこまで親しい訳じゃあないが何回か情報を買ってるしやっぱりアイツの腕は素晴らしいの一言につきる。

 

 

 

 

全く………裏面にこんな注意書きしちゃって…キリト君の表情を見なさいよ、あんな顔しちゃって!!

ってまあ本人のアルゴはここにいないから見られないのだけどね。

 

 

 

いや、アルゴの事だからもしかしたらどこかで見てる可能性も捨てきれなよなー。

 

 

 

 

でも本当に偵察戦をしなくていいのは誰にとっても助かるよね。

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、早速だけと、これから実際の攻略作戦会議を始めたいと思う!何はともあれ、レイドの形を作らないと役割分担もできないからね。みんな、まずは仲間や近くにいる人と、パーティーを組んでみてくれ!」

 

 

 

………ヤバイ…爆笑しそう………キリト君のあの戦慄した表情なんて滅多に拝めないぞ。

 

 

昔から二人組作ってーとかだと必ず俺が相手してたからなー

本当にこういうの苦手なコミュ障なんだから…

 

 

 

「さて、じゃあシリカさんや、他は全部六人でパーティー決まったみたいだしアブレた者同士あそこの二人組に声をかけようじゃないか」

 

 

 

「なに言ってるんですか?何人も誘ってくれたのに全部断ったのはクゥドさんじゃないですか。どうせ初めからあの人たちと組むつもりだったのはわかってますからさっさと行きましょう」

 

 

 

おうふ、バレていたなら仕方がない。

というかシリカも知ってる人がいたり女性がいたりした方がやりやすいかなーと思って断ったって理由もあるんだよ?

 

 

 

 

「あのー、すみません…私たちも二人組なんですけど良かったらパーティー組みませんか?」

 

 

 

 

ってシリカったらもう声かけてるよ!?置いてかれた!!

 

 

 

 

「……?君は確か…ペネントのイベントで助けてくれた…シリカだったっけ?」

 

 

 

覚えていてくれたのが嬉しかったのかシリカは笑顔になった。

 

 

 

 

「はい!!お久しぶりです、キリトさん!!」

 

 

 

「君がいるってことは、アイツもいるの?」

 

 

 

 

その時ちょうどシリカが来た報告からよく通る声が三人に届いた。

 

 

 

「こらー!!酷いぞシリカ、お師匠さまを置いていくなんて」

 

 

 

「だってしょうがないじゃないですか、クゥドさんぶつぶつ言って全く動こうとしないんですから」

 

 

 

 

あれ?お師匠さま発言にツッコミはなしですか?

ちょっと寂しいよ、シリカ…………

まあいい。それよりキリト君とアスナさんですよ、二人共特に問題は無さそうなのでそのまま四人で組むことになった。

 

 

 

 

 

「とりあえず簡単な自己紹介でもしますか。………俺はクゥド、よろしくな」

 

 

 

パーティー組むなら名前くらい知っておかないとまずいっしょ…いくら端のゲージの上に出るからと言ってこういうのを省くのは良くないと思います!!

 

 

 

 

「あ……!!わたしはシリカって言います。MMO自体が初めてなので迷惑をかけるかもしれませんがよろしくお願いします!!」

 

 

 

 

「二人共知ってるとは思うが俺はキリト。ボス戦ではよろしく頼む」

 

 

 

 

「私はアスナ。よろしく。というかあなたそんな名前だったのね」

 

 

 

 

あるえ?もしかして今まで二人共お互いの名前知らないまま行動してたわけ?

逆にそれは凄いと思うぞ。

 

 

「あれ…?もしかしてアスナさんって女性の方だったりします……?」

 

 

「ああ、フード被ってるからわかりにくいよね」

 

 

 

そう言ってアスナはちょいちょいと手招きをしてシリカを呼ぶと、軽くフードを上げてみせた。

 

 

「ふあー…///すっごく綺麗ですねー…」

 

 

「ううん、そんなことないよ。それにもう何日もお風呂に入れてないし……」

 

 

「え?お風呂ですか?それなら………」

 

 

とそこまで言いかけたところで二人の会話は中断となる。

ティアベルがこちらに近づいて来たのが見えたため、俺が二人の会話に入ったからだ。

 

 

 

「つもる話はさて置いて、簡単な自己紹介も終わったところで騎士様がこちらにいらっしゃるようなので話を聞きましょう」

 

 

するとちょうど俺たちの前で止まり、しばらく考えた様子を見せたあとこう言い放った。

 

 

 

 

「君たちは、取り巻きのコボルドの潰し残しが出ないように、E隊のサポートをお願いしていいかな」

 

 

 

あ、俺とシリカが加わってもここは変わらないわけか。

まあここだけ四人だし、正直変わるとも思ってなかったから想定内だね。

 

 

 

シリカが納得できない顔をしてたけどここは抑えてもらう。

 

 

 

 

「了解。重要な役目だな、任せておいてくれ」

 

 

 

「ああ、頼んだよ」

 

 

 

そう言ってナイト様は噴水の方に戻っていった。

 

 

 

シリカからの視線が凄く痛い…!!答えたのはキリト君なんだから俺をそんな目で見ないで……!!

 

 

 

 

「……どこが重要な役目よ。ボスに一回も攻撃できないまま終わっちゃうじゃない」

 

 

 

「そうですよ、キリトさん。ちょっとこれはないと思います」

 

 

 

「仕方ないだろ、四人いるとはいえ、 スイッチでのPOTローテだってけっこうギリギリになるかもしれないだろ?ここで無意味に意地張ってもいいことはないんだよ」

 

 

 

うーん、ちょっと静観してますが、特に異論はないよね。というかこういうとこの話し合いはキリト君が率先してやってくれるので助かる。

 

 

 

「……スイッチ?ポット……?」

 

 

 

「失礼しますがキリトさんや、まさか何も教えないまま一緒に行動してたのですか?………まあ、その話は後で詳しくしようか。とりあえずそろそろ終わるみたいだし」

 

 

 

さて、特にコルやアイテムの分配方針は原作とかわらないようだね。

 

 

そして俺たちは予想通りキバオウ率いるE隊の手伝いに決まった。

 

 

 

まあ、そのあとは予定通り解散となった。

 

 

 

これからどこで話そうか?

シリカという女性プレーヤーもいることだし、できれば酒場とかレストランとかが気楽でいいんだけどなー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、このあと少しでいいからキリ、顔貸してくれ」

 

 

 

「ああ、わかった」

 

 

 

「シリカとアスナさんはどうしますか?このまま俺らに着いてきて一緒に聞きたい事とか聞いちゃった方がはやいとは思いますが」

 

 

「あっ、もちろん私は一緒に行きます!キリトさんともいろいろ話したいですし!」

 

 

「うーん、私はどうしようかしら……」

 

 

「アスナさんもよかったら一緒に行きませんか?私……アスナさんともお話してみたいんです、なにせ初めて会えた前線での女性プレーヤーですし……あっ、でもでも!!迷惑とかだったら全然断ってくれても大丈夫なんで!!気にしないで下さい!!」

 

 

シリカよ…それは余計断りにくくさせてるぞ。

あー、ほら、アスナさんにしょうがないかって顔させちゃったじゃないか。

 

 

「うん、わかった。シリカちゃんがそこまで言うなら私も行こうかな」

 

 

 

 

 

 

 

そのまま四人で近くの酒場に入り今後のことを相談した。

内容としてはさっきのスイッチなどの説明など、MMO初心者の二人にわかりやすく例えなどを交えながら話した。

 

一応シリカには俺から説明はしてあるが復習として聞いてくれていた。

最終的には、ただの下らない雑談になったのはいうまでもない。

なにせ宿の話になったらキリト君の話にアスナが食い付き、俺らもキリ程じゃあなくてもいいところに借りてる(少なくとも風呂はついてる)と知ると見るからに羨ましそうな視線をもらった。

 

 

 

だってねー?シリカという女の子がいるんだもん。

そういうところにも気を使うのは当然だろう。



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8!!

 

 

 

さて……今俺はちょっとした問題を抱えている。

今日は十二月四日。ボス戦の日なのだが何が問題かってただいまの時刻が十時を回ってることだ。

正直こんな落ち着いている場合じゃない。

 

今は状況を整理してる反面、手や足は忙しなく動いている。

本音を言えば今すぐにでも取り乱してどこかの三國志(武将は全員女の子)に出てくる蜀軍の軍師みたいになりたい。

だが、それで状況が好転するわけじゃないのでネタに走るのはまたの機会にする。

 

 

 

そんなことを考えているうちに用意も整って宿を出る。

ちなみに俺が借りてる宿からいつもの広場までは案外近い。

とりあえず猛ダッシュして着いたのだが……パーティーの三人の視線が痛い。

 

 

「あははー、待ったー?」

 

 

「おい、少しは悪いと思わないのかよ」

 

 

いやいや悪いとは思ってますよ、ええ。ただ遅れちゃったのはしょうがない、もう覆せない事実なので諦めてほしい。

 

 

「クゥドさん…昨日はあれだけ遅刻しないで下さいって言ったじゃないですか……」

 

 

「おい、その言い方だといつも俺が遅刻してるみたいじゃないか」

 

 

「いつも私との待ち合わせに遅刻してるのは事実です」

 

 

ぐすっ…この頃シリカちゃんが反抗期のようです…

いや、まあ自業自得なんですけどねっ

 

 

「おい」

 

 

「はいな」

 

 

なんか後ろから不意に声をかけられたため癖で返事をした俺は悪くない。

振り向いてみるとそこにはダミ声とサボテン頭が特長と言っても過言ではないキバオウさんがいらっしゃった。

 

 

 

「随分と余裕そうやのう。まあええ、それよりも今日はずっと後ろに引っ込んどれよ。ジブンらは、わいのパーティーのサポ役なんやからな」

 

 

「へいへい、というかいまさらそんなもの確認しなくてもわかってますよ。わざわざその事を言うために来たんですか?」

 

 

キリト君が反応しなかったので、まあつい売り言葉に買い言葉的な感じになったけど相手はあまり気にしてしないらしい。

 

 

「大人しく、わいらが狩り漏らした雑魚コボルドの相手だけしとれや」

 

 

ここまで言ったところで言いたいことは無くなったのであろう、キバオウは身を翻すと自分のパーティーの方に戻っていった。

 

 

「何ですか、あの人…失礼にも程があります!!」

 

 

「本当、何あれ」

 

 

さあねー?何を考えてるのかよくわからないってのは原作読んでて思ったけど、実際に相対してみても全くわかんねーな。

 

 

「さ、さあ…、ソロプレーヤーは調子に乗るなってことかな……」

 

 

「はいはーい!俺とシリカはソロプレーヤーじゃありませーん。コンビですよー!?」

 

 

とりあえず小学生みたいに質問する形で発言してみた。

 

 

「……さ、そろそろティアベルも始める頃だと思うし雑談はこれくらいにしとこう」

 

 

…またスルーされた、今度はキリト君に……PCとか機械系がないから対人スキルは多少良くなったみたいだけど、それと同時にスルースキルまで上げてくるとは……!

キリト君恐るべし……

 

 

心の内でキリトの成長を喜んだり若干のショックを受けたりしていると、いつの間にか噴水の縁に立っていたティアベルが声を張り上げた。

 

 

「みんな、いきなりだけどありがとう!たった今、全パーティー四十六人が、一人も欠けずに集まった!!」

 

 

……あるえ?もしかして俺ってばそんなに急ぐ必要なかった…?

十時って言われたから急いで来たのに……

 

 

「今だから言うけど、オレ、実は一人でも欠けたら今日は作戦を中止しようって思ってた!でも……そんな心配、みんなへの侮辱だったな!オレ、すげー嬉しいよ……こんな、最高のレイドが組めて……まあ、人数は上限にちょっと足りないけどさ!」

 

 

それでも通常よりは二人多いんですよ?

それと、みんな浮き足だってるのかはしゃぎ過ぎのように思える。

 

 

キリトも同じ意見のようで二人で視線を交わす。

どうやらエギル他数人も同じように感じているらしく、厳しい表情をしていた。

 

 

それからティアベルのみんなを鼓舞する言葉に反応して、巨大な鬨の声が上がった。

今までは多少の差異はあれど大まかには原作通りに進んでいる、これからは戦闘も含まれていくため、俺の心には幾ばくかの不安があった。

 

 

「……?どうかしましたか?早く行きましょう」

 

 

「っ…!おお、ごめんね。ちょっと考え事してたよ」

 

 

シリカに声をかけられた途端、心にあった不安が少し軽くなった気がした。

全く………俺の不安ってのはいろんなものに左右されやすいようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやー、凄いですね。

こんな人数が一つの目的地に向かって行軍するさまは、なんというか…圧巻の一言に尽きる。

他人事のように話してますが俺もその一角を担ってるのですが。

 

 

今はキリト君とアスナさんは二人で話してます。

まあ、遠足がどうとかなんたらかんたら話してるんだろうけど。

 

 

「それにしても凄いですねー…ここまで誰も欠けることなく来れましたよ」

 

 

「まあ一瞬というかけっこうヒヤヒヤする場面はあったけど、そこは的確な指示があったからね。素直に称賛の言葉をかけたいね」

 

 

ふむ、なんという上から目線。俺は一体何様のつもりだろうか。

 

 

「なんか凄い上から目線ですね…」

 

 

はい、シリカからもツッコミが入りましたー。

そんなこたぁ俺もわかってらい!

 

 

「クゥ、シリカ、ちょっといいか?」

 

 

「はいはい、なんでごさいましょう」

 

 

「なんですか?」

 

 

「いや、今日の戦闘で相手をするコボルドについてちょっとな」

 

 

ちなみにクゥというのは俺の略称である。

けっこう違和感があるが、それはそれ。

そんなものはどこかの開いてる小さな宝箱にでも詰めて横へ放り投げる事にする。

 

 

「アスナには説明したし、二人共前線で戦ってるし、倒し方もわかってるだろうけどけど、もう一度確認しよう」

 

 

「ん、オーケー。俺とキリでひたすら武器の跳ね上げ、んでシリカとアスナさんでトドメ。なるべく鎧には攻撃しない、こんなもんだったっけ?」

 

 

「だいたいの方針はそうだ。それに加えてアスナとシリカのHPがヤバくなったら俺とクゥの二人で対応って形にする」

 

 

キリトは同じベータテスト出身である俺がそこまで危なくなることはないと思っている。

ゆえに、この形をとることにしたのだろう。

 

 

「俺はそれでいいよ。一層のボスの取り巻きが相手だし、油断さえしなければ無傷でいけると思う」

 

 

「私もそれで大丈夫です。武器が短剣なのでちょっと危なくなる場面もあるかもしれませんが、その時は二人にお願いしますね!」

 

 

「私も大丈夫だとは思うけどボス戦なんて初めてだしね……危なくなったら二人に任せるわ」

 

 

さて、基本的な方針が今決まったところでボス部屋の前に到達した。

デスゲームになってからの初めてのボス戦……周りからもいつもとは違う緊張感が漂う。

 

 

ティアベルは己の得物を高々と頭上に掲げる。

それに応えるように他のレイドメンバーもそれぞれの得物を頭上にかざす。

 

 

とりあえず俺もやってみた、やらないとなんか流行に乗り遅れた感じになりそうだったし…

 

 

「………行くぞ!」

 

 

扉の中央に左手を当てながら一言だけ叫んだ後、思い切り押し開けた。

 

 

ヤバイ、緊張で手汗が…

っと……んなこと考えてる場合じゃないね。

俺たち余りグループはボスに攻撃しないけど余波とかにゃあ注意しないと。

それじゃあ、第一層のボス戦……スタートだ!

 

 

 







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9!!

 

 

「「スイッチ!!」」

 

 

俺とシリカの声が重なる。

すでに第一層のボス攻略はスタートしている。

 

横目で状況を確認してみても、今のところ問題はないようにみえる。

逆方向を見ると、キリトとアスナがセンチネルの相手をしているのがわかる。

 

 

――――パリイイイイン

 

 

ちょうど俺ら二人が相手をしていたセンチネルが、青い結晶となって散ったのを確認してシリカに提案してみた。

 

 

「シリカ、ちょっと前後交換してみない?」

 

 

「…いいですけど…突然どうしたんですか?」

 

 

「いや、少し嫌な予感がするんだ…念には念を、ということで頼まれてくれ。なーに、武器をかち上げるだけの簡単な作業だ。シリカならレベル的にも技術的にも問題ない」

 

 

ここまで言ったところでボスのHPゲージの一本目が消えた。

それと同時に壁の穴からセンチネルが飛び降りてきた。

 

 

「それじゃあシリカ、手筈通りに。最初のタイミングは指示してあげるからリラックスして」

 

 

ボス戦の最中にリラックスも何もないのだが、あえて言っておくとする。

 

シリカがセンチネルの前に立ってタイミングを見計らっている。

センチネルが武器を降り下ろす瞬間、

 

 

「そこだ!!」

 

 

俺が合図をするのが早いか、シリカがセンチネルの武器を跳ね上げたのが早いか……それがわからない程度にはタイミングはバッチリだった。

 

 

「スイッチ!!」

 

 

シリカから声がかかり片手剣スキル、ソニック・リープでダメージを与える。

 

 

「ナイスシリカ!!」

 

 

そう褒めるとシリカが小声でありがとうございますと言ったのが聞こえた。

 

 

 

うーん、この分だとシリカが前でも特に問題はなさそうだな……

 

 

 

俺がこの事をシリカに提案したのにはある理由がある。

それは、ティアベルだ。

 

 

 

原作知ってる人はわかると思うけどこのあとティアベルさん死ぬんだよね…

全部が全部救えるとは思わないけど、やっぱり自分でできることはやっておきたいんだ。

 

 

今二匹目のセンチネルにトドメをさして思考をより深い方へ巡らせる。

完全に安全とは言い難いがこの位置はボスとは離れているし、センチネルも粗方片付いているので問題ない。

 

 

すると、キバオウがキリトの背後に立っているのが見えた。

ボス戦の最中、しかも隊を任されているリーダーが何をやっているのかわからなかったので、聞き耳をたてる。

 

 

え?セリフなんて一言一句覚えてるわけないじゃん。ここまで十四年…一回もSAO見てないんだから。

でもさー…リーダーがこれでよく周りはついていくよね、勝手な行動とりすぎだろ。

 

 

「アテが外れたやろ。ええ気味や」

 

 

「…………なんだって?」

 

 

ちなみにセンチネルは残り一匹、先程アスナと俺が一匹ずつ倒しているので会話をする余裕はあるようだ。

 

 

「ヘタな芝居すなや。こっちはもう知っとんのや、ジブンがこのボス攻略部隊に潜り込んだ動機っちゅうやつをな」

 

 

「動機……だと?ボスを倒すこと以外に、何があるって言うんだ?」

 

 

「何や、開き直りかい。まさにそれを狙うとったんやろが!わいは知っとんのや。ちゃーんと聞かされとんのやで……あんたが昔、汚い立ち回りでボスのLA取りまくっとったことをな!」

 

 

…へえ……汚い?

 

 

俺はその感情がよく理解出来なかった。

前世でもPCゲームをやってたが、そういうのは基本取った者勝ちで騙し合いの化かし合いだったイメージしかない。

 

むしろどうLAを取るか、策を巡らすことも楽しんでいた俺としてはしょうがない事だとすら思える。

 

 

しかしなんでだろう?

ベータテストではそこそこキリト君と行動を共にしてたのに俺のところには一切そういった輩はこない…

 

なに?俺ってばオマケ扱い?

目の敵にされるのも困るが全く相手にされないのも、それはそれで複雑な気持ちです。

 

 

恐らくだがベータテストの時俺はフィールドの把握やらなんやらをメインにしてたので、特にLAなどには興味がなかったのでそのせいかもしれない。

 

ボスのHPを見るとあとわずかで三本目が無くなろうとしていた。

 

そのタイミングで俺はキリトに声をかけた。

 

 

「キリ、少し相談があるんだが大丈夫?」

 

 

「あ……ああ。俺は平気だけど…」

 

 

ちらりと横にいたキバオウを見る。

 

 

「すみませんね、キバオウさん。ちょっと隊について話したいのでE隊のリーダー殿は戻っていただきたいのですが」

 

 

俺がそう言うと、露骨に興味のなさそうな顔をして戻っていった。

 

 

「それで?話ってなんだ」

 

 

「次に来るセンチネルだけど、一匹を四人で倒したい。なんだか嫌な予感がする」

 

 

久しぶりに俺の真面目な顔を見たせいか、キリトはひどく神妙な面持ちで頷いた。

 

それを合図にしたかのように最後のセンチネル、三匹が飛び出してくる。

 

 

「シリカ、アスナさん、最後は四人で一匹のセンチネルを相手にするからこっちに来て」

 

 

二人は首を傾げながらも指示に従ってこちらに来てくれた。

 

 

「とりあえずよくわかんないけど、敵が来たわよ!!」

 

 

アスナの声に反応してそれぞれの得物を構える。

 

 

「シリカ!!頼む!!」

 

 

「え!?あ…はい!!」

 

 

一瞬何のことかわからなかったが、すぐに理解出来たのだろう。

シリカはセンチネルに飛び込み武器を跳ね上げる。

 

 

そこにスイッチの声と共にアスナとシリカが入れ替わり、アスナの細剣スキルリニアーが叩き込まれる。

 

 

キリトの方は先程のキバオウの言葉について考えているようだった。

 

次の瞬間、キリトは何かを思い出したかのように叫んだ。

 

 

「だ……だめだ、下がれ!!全力で後ろに飛べ――――ッ!!」

 

 

なっ……!!

このタイミングだったのか!!

くそっ、正直忘れていた!!

 

 

しかも、C隊は全員一時的な行動不能状態……つまりはスタンしていた。

 

この状態が長続きするのはかなりの危険を伴う。

俺はいきなりのことで硬直しているであろうシリカとアスナに声をかけた。

 

 

「シリカ!!アスナさん!!このセンチネル、任せても大丈夫!?」

 

 

俺の声で我に返ったのかすぐに武器を構え直して、

 

 

「ええ、大丈夫よ!!」

 

 

「こっちは二人でも問題ありません!!」

 

 

との返事をもらった。

 

 

「キリ!!ぼさっとすんな!!行くぞ!!」

 

 

未だに動けずにいるキリトに声をかけて、全速力でボスコボルドの追撃を阻止しようと走り出す。

 

 

キリトも動き出し、さらには俺の横に並んでくる。

 

 

しかし、ボスコボルドはそんな俺らに目もくれずに次のスキルを繰り出そうとしていた。

 

 

ギリギリでスキルの発動前に間に合った俺とキリトは、目でお互いに合図しそれを阻止するため同時にソードスキルを発動させる。

 

 

しかし、それでもダメだった。

ボスコボルドはそのままソードスキル浮舟を発動させ、ティアベルの体を浮かせた。

 

 

う…嘘……だろ!?

 

 

追撃の阻止に走った俺とキリトはその余波で一気に後方まで押し戻される。

 

 

おいおい、マジかよ……こいつ、絶対ベータテスト時よりパワーアップしてやがる…

そして何より原作より強いんじゃないかってくらいのヤバさ……

 

 

「クゥドさん!!キリトさん!!」

 

 

「二人共!!大丈夫!?」

 

 

二人が心配して、俺らのところに駆け寄ってくる。

 

 

「もう!!どうしてあんな無茶したの!?」

 

 

「それは……またあとにしてほしいですね…」

 

 

俺がそう言ったところで、空中で刀スキル緋扇が繰り出され、それをまともに喰らったティアベルはそのまま二十メートル以上吹き飛ばされ俺とキリトの近くに落下した。

 

 

俺たちはそのままティアベルの元へ向き直った。

 

 

やっぱり俺にはわからないな……本当にベータテスト時にいたのかどうか…でも、キリトには心当たりがあるみたい。

 

するとティアベルは近くにいる俺らにしか聞こえない程の声量でこう言った。

 

 

「……後は頼む、キリトさん。ボスを、倒」

 

 

 

彼は、最後まで言い終えることなく体青い欠片へと変えていった。

 

 

 

正直俺がもっと覚えていれば救えたんじゃないかと、自分に問い掛ける。

 

 

 

はあ……やっぱりなかなか上手くいかないな……

重い……人の命って重いなぁ…

 

 

俺が硬直していると、今度はキリトの方が声をかけてきた。

 

 

「おい、しっかりしろ!!お前がそんなんでどうする。俺はそんなお前、見たくないぞ。それにここまでシリカを連れてきた責任を放棄するな、お前がそんな状態だといつシリカに危険が迫るかわかったもんじゃないぞ!!」

 

 

「反省は後にして…ボス攻略を続けるぞ」

 

 

ははっ…目の前でレイドの指揮官が死んだのになあ……

むしろ、顔見知りのあんな姿を見たのにもう立ち直り始めてる……

 

 

いや立ち直ってなどいないのかもしれない。

ただ今はそれを胸の内にしまいこんで振る舞っているだけかもしれない。

 

 

それでも……それでも、さすが主人公だよ…俺には敵わない。眩しすぎてくらみそうだね……さて!!キリトがやる気になっているようだし俺もいつまでも落ち込んじゃいられない。

 

 

「悪かったね、キリ。おかげさまで目が覚めたよ。それじゃあボス退治と行きますか」

 

 

俺の言葉に満足したのか笑顔を浮かべたキリトと頷き合った。

 



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10!!

周りからは叫び声、もしくは悲鳴ともとれるような声がボス部屋を満たしていた。

 

レイドメンバーのほぼ全員が一時的なスタンになったように動くことができない。

 

 

とりあえずこの状況を何とかしないと勝てるものも勝てなくなってくる。

正直なところここで退くということは、恐らくこの先……このSAOというデスゲームのクリアそのものの失敗が濃厚となってくる。

 

 

だからというわけじゃあないが、俺には撤退するという選択肢はない。

 

さっきもキリトにたしなめられたしな。

 

 

「さてと……そんじゃまあ行きますかね」

 

 

「……いや、ちょっと待ってくれ」

 

 

キリトは何故か待ったを掛けた。

前線はすでに崩壊に近く、未だに動けずにいるプレーヤーも何人かいたりする。

 

すると、キリトは近くで項垂れていたキバオウの肩を掴んで、無理矢理引っ張り上げた。

 

 

「へたってる場合か!」

 

 

キリトが叫ぶと、キバオウの目にはかすかな敵意が宿っていた。

 

 

「……な……なんやと?」

 

 

「E隊リーダーのあんたが府抜けてたら、仲間が死ぬぞ?いいか、センチネルはまだ追加で湧く。そいつらの処理はあんたがするんだ!」

 

 

「……なら、ジブンはどうすんねん。一人とっとと逃げようちゅうんか!?」

 

 

「そんな訳あるか。決まってるだろ?」

 

 

 

「――――ボスのLAを取りに行くんだよ」

 

 

 

あーあ、言っちゃった。

まあこういうやり方しかなかったのかもしれないけど、なんか進んで孤独の道を走りに行ってる気がするよ…

 

すると、キリトと目が合った。

そろそろ行くつもりらしい。

シリカとアスナは置いていくみたいなのでこれから説明に入る。

 

 

「二人は後方に留まり、前線が決壊したら即座に離脱してくれ」

 

 

「私も行く。パートナーだから」

 

 

キリトの言葉にアスナが一拍も置くことなく答える。

 

 

「それは大丈夫です。アスナさんの代わりに俺が行きますので」

 

 

「それでも行くわ、数は少ないより多い方が良いでしょう?」

 

 

「わかりました……じゃあ、シリカは……聞くまでもないみたいだな、という訳でおミソパーティー全員参加だとさ」

 

 

「……解った。行くぞ!!」

 

 

思い切り呆れたような溜め息が聞こえた気がしたが、そこは気にせずキリトの声で、四人で走り出す。

 

俺とキリトが前に出て、その後方からアスナとシリカが追いかけてくる形だ。

まだティアベルに続く死亡者は出ていないらしいが、それもすでに時間の問題となっているようだった。

 

前衛部隊の平均HPは全て半分を下回っていて、さらにリーダーを失ったC隊に至ってはすでに二割を切っていた。

完全に恐慌して逃げるだけのプレーヤーをいるので、このままでは一分にも満たないうちに隊列は崩壊するだろう。

 

それを阻むにはまず、皆のパニックを鎮めなくてはならない。

その手段はすでに考えてあり、そのサインを俺がアスナに出す。

 

すると周りに一瞬だけだが静寂が訪れる。

シリカもいたのでこの方法が成功するかは不安だったが、どうやら上手くいったみたいだ。

 

その方法とは、まあ、普通にフードを取って頂いただけです。俺がハンドサインでアスナに指示を出す。そこで上手くいけば、そのままキリトが

 

 

「全員、出口方面に十歩下がれ!!ボスを囲まなければ、範囲攻撃は来ない!!」

 

 

という感じで周りに指示を出す形にした。これが上手くいかなかった時のものも一応考えてはいたが、上手くいったのでそれは必要のないものとなった。

 

 

「みんな、手順はセンチネルと同じだ!!それを四人でやるだけだ。……行くぞ!!」

 

 

「「「了解!!」」」

 

 

前方で、コボルド王が野太刀を左の腰だめに構えようとしていた。

すると、キリトもそれに気づいたのかソードスキルを発動させ、一瞬でボスとの距離を縮めた。

キリトのレイジスパイクとボスの辻風の軌道が交差し、甲高い金属音と共に大量の火花が弾け、二人は互いの剣技を相殺させた。

 

そこで生まれた隙に俺、アスナ、シリカの三人で同時にソードスキルを発動させる。

俺たちの攻撃はボスの脇腹、両足のちょうど鎧が覆っていない箇所を正確に打ち抜く。

 

すると、確かに少量だがボスの四段目のゲージが減少するのを確認できた。

しかし、それでもボスのHPは膨大であり、なおかつ原作より、ベータテストよりパワーアップしている。

それでも四人でやれるところまでやるしかない。

 

 

「考えるのは後にしろ、次……来るぞ」

 

 

なーんでこうも考えてる事がわかるのかな。

やっぱり十年以上も一緒にいると大体わかってくるのかねー…

 

 

 

 

 

うん、そろそろかな……

 

 

「キリ!!」

 

 

キリトは俺が声をかけたと同時に一歩下がりアスナとシリカに並ぶ。

代わりに俺が今までキリトがやっていたボスの剣技の相殺を担当する。

 

しかし、これを何回か繰り返したところでキリトの集中力が途切れた。

 

 

「しまっ………ッ」

 

 

キリトの毒づいた声が聞こえた。

同じモーションから上下ランダムで発動する幻月。キリトは上からくると読んでいたのだろう、しかしそれはくるりと半円を描いて、真下に回った。

必死に武器を引き戻していたが、急にキリトの動きが止まった。

 

 

「キリ!!」

 

 

俺が叫んだ時には、キリトの正面を野太刀が捉えていた。

キリトのHPが一気に三割以上減っていた。

 

それを見ていたアスナとシリカは、そのまま今まで通りにコボルド王に突っ込んだ………ところで高く斬り上げられたままの刃が、ぎらりと血の色に光った。

 

 

「クゥ!!」

 

 

「わかってる!!」

 

 

キリトの言葉が発せられる前に俺はスタートを切っていた。

まずは軽くシリカに追い付き、襟元を掴んでキリトの方にぶん投げる。その時ちょっとした悲鳴が聞こえたが気にしない、死ぬよりかマシだろ。

 

ギリギリの間合いまで詰めていたアスナには、申し訳ないが技の範囲外まで軽く蹴り飛ばす。

そうなるとアスナのいた位置に俺がいるわけで、太刀が俺を襲うとき、先程アスナを蹴り飛ばした勢いでソードスキルを発動させようとしたが、

それは思わぬ形で阻止された。

 

 

「ぬ……おおおッ!!」

 

 

野太い雄叫びが轟いて、俺の頭上を掠めるようにして、巨大な武器が撃ち込まれる。

 

ボス部屋全体に震える程のインパクトが生まれ、ボスが大きく後方にノックバックした。

俺を助けてくれたのはエギルだった。

 

しかし、何やら二つの視線を感じる。振り返ってみるといかにも怒ってますと言わんばかりの表情をしたアスナとシリカがいた。

 

 

「ちょっとクゥドさん!!いきなり投げ飛ばすなんて酷いじゃないですか!!」

 

 

「シリカちゃんはまだマシだわ。私なんて蹴り飛ばされたのよ?」

 

 

「しょうがないじゃないですか……ボスの緋扇が発動寸前だったわけですし、二人は二人でなんかすぐに走って行っちゃうし……死ぬよりかマシじゃないですか」

 

 

「それにしても、もうちょっとやり方を考えてくれても……」

 

 

「考えてる時間がなかったのでああいう結果になったのです。悪いとは思ってますけどね」

 

 

どうやら前に出てきたのはエギルだけではないようだった。傷の浅かった者が回復を終えて戦線に復帰したようだった。

 

キリトに視線で問いかけると頷きが帰ってきたので、この場の指示はそのままキリトに任せるとする。

 

 

「ボスを後ろまで囲むと全方位攻撃がくるぞ!!技の軌道は俺が言うから、正面の奴が受けてくれ!!無理にソードスキルで相殺しなくても、盾や武器できっちり守れば大ダメージは食わない!!」

 

 

「おう!!」

 

 

キリトの指示の声に野太い声が答える。

センチネルの湧出回数も増えているので早めにボスに止めをさしたい。

 

キリトが後ろからソードスキルを判別して逐一指示の声をこちらに飛ばしてくれている。

エギル達は一か八かの相殺には挑まず、盾や武器でガードに徹している。

俺、アスナ、シリカのメインアタッカー三人は、その間を縫うようにしてスキルによる攻撃を繰り返す。

 

ボスの憎悪値も三人で攻撃、なおかつ壁のプレーヤーもヘイトスキルを適宜使用してくれてタゲを取り続けてくれている。

 

しかし、それが五分近く、ボスのHPが赤く染まったところで壁役の一人が脚をもつれさせた。

 

その場所が運悪くボスの真後ろだった。

 

 

「そこはダメだ!!」

 

「早く動け!!」

 

 

俺とキリトの声が重なるように聞こえた。

だが、間に合わなかったのかボスが取り囲まれ状態を感知し、一際獰猛に吼えた。

ぐっ、と巨体が沈み全身のバネを使って大きく垂直にジャンプ。その時点で全方位攻撃、旋車をさせようとしているのがわかる。

 

 

「……っ…クゥ!!頼む!!」

 

 

「はいよ!!」

 

 

キリトは自分が出そうになったところを俺に任せるように言った。

俺は右肩に剣を担ぐように構え、左足で床を蹴りつける。

俺は体を上空へと向け、砲弾のように飛び出させる。

このスキル、ソニックリープは軌道を上空にも向けられる。

 

 

「よい……しょおおお!!」

 

 

気合いを入れて思い切り剣を振るった。

剣の切っ先が空中に長いアーチを描き、旋車が発動寸前のボスの左腰を捉えた。

 

すると鋭い斬撃の音とともに、クリティカルヒット特有の激しいライトエフェクトが俺の視界をふさぐ。

次の瞬間、ボスの体は空中で傾き、床へと叩きつけられた。

 

ボスのコボルド王は立ち上がろうと手足をばたつかせる。人形モンスター特有のバッドステータス、転倒の状態―――

 

 

それを見るやいなや、キリトが叫ぶ。

 

 

「全員、全力攻撃!!囲んでいい!!」

 

 

「お、おおおおおお!!」

 

 

今まで防御に専念してきた壁役のプレーヤー達が周りを囲み、一斉に攻撃を始める。

 

俺はようやく地上に脚をつけて、攻撃に参加する。

しばらくするとボスはもがくのをやめて立ち上がろうとしていた。

 

 

「くそっ……クゥ、アスナ、シリカ!!最後の攻撃、まとめて行くぞ!!」

 

 

「はいよ」

 

 

先に六人の武器が光り、ボスの体を包み込む。しかしその光が薄れるのを待たずにボスが雄叫びとともに立ち上がる。

 

ゲージの方は少ないながらも確実に残っているのがわかる。

エギル達はスキル発動後のディレイを課せられ、動けずにいる。

 

「「「「はああああああッ!!」」」」

 

 

四人の声が重なりボスにダメージを与える。

 

まずアスナのリニアーがボスの左の脇腹に撃ち込まれる。

すぐにシリカが間髪を入れず、短剣スキルのラピッド・バイトを同じところへ叩き込む。

二人がそれぞれ退いたところで俺もまたソードスキル、ホリゾンタルを喉元へ当てる。

 

俺が落下するタイミングでキリトが飛び上がり、キリトの剣がコボルド王の肩口から腹までを切り裂いた。

 

HPゲージは減り切らなかった。

ボスが笑った気がした。それに対してキリトも笑い返していた。

 

 

「おおおおおおっ!!」

 

雄叫びとともにキリトが剣を跳ね上げる。

前の斬撃と合わせてV字の軌道を描きボスの左肩から抜ける。

片手剣の二連撃スキル、バーチカル・アークが炸裂した。

 

不意にボスの巨体から力が抜け、両手が緩み、野太刀が地面に転がった。

 

直後にアインクラッド第一層フロアボス、イルファング・ザ・コボルドロードは、その姿を青い欠片へと代えて盛大に散った。



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11!!


だいたい、毎回3000~4000文字くらいにしようと思ってたんです。

他の方はどうかわかりませんが、俺はそれくらいが一番すらすら読めるので…


しかし、ここ最近は何故か一話の文字数が多くなってきています。
区切りが悪いところで終わらせるのもなんなので、まとめてしまってるのですが……もし読みにくかったりしたら教えてください。
以後、気をつけます。




辺りが静寂を包む。

まだ誰もボスを倒した実感が湧かないようだった。

するとボス部屋が不意に明るくなり、これまでの激闘を称えるかのようだった。

 

しかし、それでも誰も動こうとはしない。

キリトですら、剣を振り上げたままの体勢で辺りを伺っている。

 

その時、俺の目の前を栗色の長い髪が通にすぎた。

その髪の持ち主はキリトの剣をおろさせ、一言だけ声をかけた。

 

 

「お疲れ様」

 

 

すると、その声を待っていたかのように俺の視界に新たなメッセージが流れた。

そこでようやく安心感から言葉を発する事ができた。

 

 

「うっはー……疲れた…いや、マジで…」

 

 

「本当ですね……まさかボス攻略がここまでとは思ってなかったです…」

 

 

俺の言葉にシリカが返す。

それと同時に周りでも歓声が上がり始めた。

ここまできたら、あとはそのまま。無邪気に喜ぶ者、仲間と抱き合う者、中にはすでに次のボス戦を考えているように見える者もいた。

 

そして、その歓声の中、床から立ち上がりこちらに近づいてくる人影があった。

 

 

「あー、あの時はありがとうございます。助かりましたよ」

 

 

俺が声をかけると、気にするなというような笑みを浮かべる。近づいてきた人影は斧使いのエギルだった。

 

 

「……見事な指揮だった。そしてそれ以上に見事な剣技だったぞ。この勝利はあんたのもんだ」

 

 

そう言って右手を拳にしてキリトの方に突き出してきた。

キリトは照れたような表情を浮かべて、何を言おうか迷っているようだった。

 

 

「あっれー?キリってば柄にもなく照れちゃってますー?こんなストレートに褒められたことなんてないもんねー?」

 

 

横から肘でつんつんしながら話しかけると凄いジト目で見られてしまった。

とりあえずエギルにかける言葉が見当たらなかったようなので、無言で笑いかけながら拳を合わせようとした時だった。

 

 

「―――何でだよ!!」

 

 

突然そんな叫び声が聞こえた。

ほとんど泣いているかのようなその声に、広間の歓声が一気に静まりかえる。

 

声の主に注目していると、どうやらキリトに話しかけているようだった。

 

 

「―――なんで、ティアベルさんを見殺しにしたんだ!!」

 

 

その言葉は俺ですら疑問を覚えるものだった。

しかし、ティアベルのC隊の仲間はそうではないらしい。

顔をくしゃくしゃにして立っていて、同じような表情でキリトを見ている。

 

 

「見殺し……?」

 

 

キリトは言葉の意味がわからないといった風だった。

 

 

「そうだろ!!だってアンタは、ボスの使う技を知っていたじゃないか!!アンタが最初からあの情報を伝えていれば、ティアベルさんは死なずに済んだんだ!!」

 

 

そのような叫びに、他のレイドメンバーたちもざわつく。

 

なんで?やら、攻略本にも書いてなかったのにとか、そのような声が生まれ、徐々にそれが広がっていく。

 

その疑問に答えたのは、キバオウではなく、彼の指揮するE隊の一人であった。

 

 

「オレは知ってるぞ!!こいつは、元ベータテスターだ!!だから、ボスの攻撃パターンとか、旨いクエとか、全部知ってるんだ!!知ってて隠してるんだ!!」

 

 

その言葉を聞いてもレイドメンバーの顔に変化はなかった。

誰もが初見のはずのボスの刀スキルを見切った時点で、うすうす全員が気づいていたのだろう。

 

 

「んー、でもさ、昨日配られた攻略本にも攻撃パターンはベータ時代のものだ、って書いてあったじゃん?もしアイツが本当に元テスターなら、知識は攻略本……もといここに参加したオレらと同じなんじゃない?」

 

 

そう言い放ったのは、最後まで壁役を務めたプレーヤーだった。

そう言われると、E隊のメンバーは何も言えなくなり、若干バツの悪そうな顔をした。

 

しかし、そうやって言われる事を考慮していたのか、C隊の一人が憎悪に満ちた表情で一言返した。

 

 

「あの攻略本が嘘だったんだ。アルゴって情報屋が嘘を売り付けたんだ。あいつだって元ベータテスターなんだから、タダで本当のことなんか教えるわけなかったんだ」

 

 

ここまで言われると、例えキリトがこれからどんな糾弾を受けるのかを知っていても、原作をブレイクする恐れがあるとしても黙っていられなくなる。

 

そこで、俺は流れを変えるべく言葉を発してみる。

 

 

「いや、あのさ……アルゴさんがもし偽の情報を売っていたとしてもですよ?感謝こそすれ憎む謂れはないと思うんですが…」

 

 

俺の言葉に周りが注目する。

何人かは何を言ってんだ、こいつは、という表情で俺を見ている。

特に元C隊のメンバーが分かりやすくターゲットをこちらに変えた。

 

 

「はあ!?何を言ってんだ!?情報がちゃんとしていればティアベルさんは死なずに済んだんだぞ!?それを憎むなだと!?ふざけるのも大概にしろよ!!」

 

 

「だったら最初からアルゴさんの情報なんて鵜呑みにしないで、自分たちで偵察戦を行えば良かったんじゃないですか?まあ、そうしたらティアベルさんだけじゃなくあなたたちもどうなってたかわかりませんけどね……そろそろ、元ベータテスターたちのせいにして、色々糾弾するのはやめませんか?」

 

 

「………アンタ、なんでそんなに元テスターを養護するんだ?もしかして、お前も元ベータテスターなんだな!?」

 

 

そこまで言ったところで、急にキリトの表情が変わり、こちらに近づいてくる。

 

 

ああ、結局は止められなかったみたいだ。

世界の帳尻合わせっていうのかな……どうしてもキリトはこうなるらしい。

 

 

「元ベータテスターだって?俺をあんな素人連中と一緒にしないでもらいたいな」

 

 

俺と話していたせいで、いきなり出てきたキリトに誰も反応出来ないでいると、そのまま構わずキリトは次の台詞を言葉に乗せる。

 

 

「いいか?よく思い出せ、SAOのベータテストは有り得ない倍率での抽選だったんだ。受かった千人のうち、本物のMMOゲーマーがどれだけいたと思う?五十人もいれば良い方だったよ。ほとんどはレベリングのやり方すら知らない初心者だった、今のあんたらの方が全然マシだ」

 

 

空気が一気に変わった気がした。

他のプレーヤーたちの冷たい視線がキリトに集まる。

 

 

「………だが、俺はあんな奴らとは違う」

 

 

キリトをよく知るこちらからしてみれば、あまりにも似合わなさすぎる笑いを浮かべ、その続きを口にする。

 

 

「俺はベータテスト中に、数少ない人数しか到達出来なかった層まで登った。ボスの刀スキルを知っていたのは、その層で刀を使うMobと散々戦ったからだ。他にも色々知ってるぜ?アルゴなんか目にならないくらいにはな」

 

 

すると、周囲からは、チートじゃないか、ベータのチートだろ、という声が生まれる。

それらは次第に混ざり合い、ビーターという単語となった。

 

 

「ビーター……か、いい呼び方だな、それ」

 

 

ボソッとキリトが呟き、この場にいる全員を見渡し今度ははっきりと、部屋全体に響くような声で告げた。

 

 

「そうだ、俺はビーターだ。これからは、元テスター如きと一緒にしないでくれ」

 

 

するとキリトは先程のボスからドロップしたアイテム、コート・オブ・ミッドナイトを羽織り、そのままボス部屋奥の扉へと向かって行った。

 

 

「二層の転移門は、俺が有効化しといてやる。この上の出口から主街区までは少しフィールドを歩くから、ついてくるなら初見のMobに殺される覚悟をしとくんだな」

 

 

そう言って歩きだそうとするキリトに視線を投げかける。

そうしているのは俺だけではなく、エギル、アスナ、シリカも見つめていた。

 

キリトはその順に目で笑いかけると最後に俺を見る。

俺は皮肉の意味も込めて、バカ野郎と声には出さず視線を送る。

向こうも言いたい事がわかったのか、それはお互い様だろ?というような視線を送り返される。

 

どうやらこれからどう行動するかはバレているみたいだった。

 

そこまでしたところでキリトは第二層へ繋がる扉を押し開け、そのまま見えなくなった。

 

 

 

「はあああああ…、昔から甘いとは思っていたけどまさか見ず知らずのテスターたちまで庇うか……」

 

 

わかってはいたが、実際にキリトの幼馴染みとなってしまっている今は、なんだか複雑な感じがした。

一人言のように呟いたつもりだったが、それは聞こえていたらしい。

 

 

「やっぱりキリトさんはいい人ですね……多分ああいうのは誰でも出来ることじゃないですから……」

 

 

シリカの言葉に頷いておく。

 

 

「さて、シリカ……君はここからどうする?俺はさ、先に言っておくがキリトが言ってた数少ない人数のうちの一人だ。つまりビーターになるな」

 

 

そこまで言ったところで一息入れる。

ここからは、シリカのこれからにも関わるので真剣な表情で語りかける。

 

 

「俺はこれからキリトを追いかけて扉を抜ける。そして、そのまま二層の主街区まで走り抜けるつもりだ。これがどういう意味かわかるか?」

 

 

「ええっと……ちょっとよくわかりません……」

 

 

「詳しく言うと、ここでレイドメンバー全員で帰る事を選択するのではなく、二層へと行くということは本人にその気は無くとも、周りからしたらビーターについていく裏切り者とされてもおかしくはないってことだ。だから、シリカ……君はこのままここに残るか?それとも俺とキリトを追いかける?どちらを選んでも構わない。任せるよ」

 

 

本当に裏切り者扱いになるのかはわからないが、これくらい言っておけばついてくるにしろ、残るにしろそれなりの決断力が必要となる。

この先、何か大切な分岐点に差し掛かった時にこの経験も役に立つはずだ。

 

そして、シリカの迷いは一瞬だった。少し俯いたあと、ゆっくりと顔を上げ、俺の目を見て、こう言った

 

 

「私は最初……始まりの街でクゥドさんに助けてもらいました……それからこの第一層のボスを攻略するまでずっとです……」

 

 

そして、さらに目の力を強くさせ俺にしか聞こえない声で告げた。

 

 

「……私は始まりの街で助けてもらった時に決めたんです、何があってもこの人について行こうって……例え足手まといになるとわかっていても、貴方について行きたい、

そう思ったんです。そして、その思いは今も変わっていません。だから私は、ここには残りません。なので裏切り者扱いになっちゃったらそのあともよろしくお願いします」

 

 

「………了解、それじゃあさっさと追いかけよう。早く行かないと離されちまう」

 

 

二人で並んで歩きだす。

周りはこちらに聞こえない声で何かを言っている。

 

そこで、周りの空気が驚愕の物へと変わった気がした。

二層へと続く扉へ手をかけようとした時、一人の女性プレーヤーから声がかかった。

 

 

「私も行くわ」

 

 

そのプレーヤーは、綺麗な栗色の髪の持ち主のアスナであった。

シリカにああ言った手前、はい、そうですか。と簡単に一緒に連れていくわけにはいかないので、同じような言葉をかけておく。

 

 

「わかりました…ですが、リスクはわかってますか?」

 

 

「リスク?そんなのないわよ。だってすぐにここに戻ってくるつもりだしね」

 

 

俺の言葉にあっさりと返す。

そこまで話したところで扉を開け放った。

 

扉の向こうには螺旋階段が続いている。

階段を登りきる前に、扉が目に入った。

その扉を開けると、近くのテラスに座っているキリトを見つけた。

すると、向こうも気づいていたのだろう。やれやれといった表情でこちらを見て、次いで驚いた表情でシリカとアスナを見た。

そして、ため息をつきながら喋りだした。

 

 

「……来るなって言ったのに……クゥはわかってたが、二人もいるとはな」

 

 

「あら?そんなことは言ってなかったわよ?死ぬ覚悟があるなら来い、って言ってたわ。ねえ?」

 

 

最後のねえ?の部分だけはこちらに向けて発していた。

 

 

「そうですよ、それに私にはクゥドさんがいますし…死なないから大丈夫です!!危なくなったらきっと守ってくれますしね!!」

 

 

ちょっと色々言いたくなったが、ここは我慢をしておく。

 

 

「まあ、そういうことだ。それに俺だってお前と同じビーターだ。簡単に死ぬつもりはないしシリカを守りながら二層の主街区へ行くことくらい訳ないさ」

 

 

キリトの表情が度を越えてに呆れていた。

今にでも恨みがましい視線を送りながら、盛大な溜め息とともに叫びだしそうな顔をしていた。

 

 

「それじゃあ、俺とシリカは先に行ってるぞ。ぼやぼやしてたら有効化、俺らがしちまうかんな」

 

 

そう逃げるように言い残し、シリカを伴い歩きだす。

後ろでは多分アスナが何か、言伝てや感謝の言葉などを述べているだろう。

それをわざと聞かないように、少しペースを上げる。

 

誰だって聞かれたくない言葉の一つや二つはあるものだからな。すぐにキリも追い付いてくるだろう。

 

するとお話が終わったのか、キリトが一人で歩き出すのが遠目に見えたので声をかけてみる。

 

 

「おーい、せっかくだから一緒に行こうぜー。一人だと寂しいだろー?」

 

 

「うるさい!!余計なお世話だ、バカ野郎!!」

 

 

などと言いながらも、こちらに笑いながら近づいてきた。

 

俺とキリの間柄じゃあ、これくらいのからかいは普通だからな。慣れたものだ。

 

しばらく進んでいるとキリトが何かに気づいたように足を止めた。

 

 

「どうしたんですか?キリトさん」

 

 

俺はわかっているので、声をかけないでいると、疑問に思ったシリカが声をかけた。

 

 

「いや、アルゴからメッセージが届いただけだ。なんかさっきのお礼とかでなんでも情報をタダでくれるらしい」

 

 

「ほー、あのアルゴ姐さんがねー。そんで?何を売ってもらうか決めてんの?」

 

 

俺の問い掛けにキリトはニヤリと悪い笑顔を浮かべた。

 

 

「もちろんだ……さて、返信もしたしさっさとウルバスに向かおう」

 

 

「え!?待ってくださいよ、私たちには教えてくれないんですか!?凄く気になるんですけど……クゥドさんも気になりますよね!?」

 

 

どうやらシリカはその売ってもらう情報が気になるらしい。

キリトと仲の良い俺が自分に着けば教えてもらえると思っているようだ。

 

 

だが、甘い!!

なんせ俺はすでに知っているのでわざわざ聞く必要がない。

 

 

「シリカ、それはキリトだけが売ってもらえる情報なんだ。俺らにも売ってもらえる訳がないだろうよ」

 

 

えええ……そんなー…というシリカの残念そうな声が聞こえ、教えてあげたくなるが、ここも我慢をする。

 

 

「ほらほら、もう諦めてさっさと歩く!!」

 

 

「……はあい…」

 

 

とぼとぼと俺の横を歩くシリカを眺め、キリトと軽く苦笑する。

 

しばらく歩いていると、二層主街区、ウルバスが見えた。

 

一番乗りと有効化はキリトに譲り、シリカと二言三言話しているとすぐに始まりの街の門とウルバスの転移門は連結された。

 

 

 





やっとこさ第一層が終わりました。

クリアが見えない…←


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12!!

筆が乗るときと乗らないときの差が激しいです……


第二層の転移門の開通が終わると、キリトはダッシュで近場にあった建物の中へ消えて行った。

 

俺もシリカの手を引いてそことは別の建物の中へ入る。

 

いきなり手を引かれたシリカは、ふえあ!?などとよくわからない言葉を口にした。

 

すぐに落ち着けそうな所を見つけ、一息ついたところでシリカが呼吸を整えながら話しかけてきた。

 

 

「はあ……はあ……。あの……どうして、急に走ったん、ですか…?」

 

 

「……もしかしたら俺たちは、裏切り者扱いになっているってさっき話したよな?転移門の目の前でボサッとしてたら、どうなるかは簡単に想像がつくんじゃない?」

 

 

「………あっ、なるほど…でも、それってなんだか少し寂しいですね…」

 

 

「今更後悔しても遅いよ?もう俺もシリカも戻れないんだから」

 

 

「後悔はしてませんよ、私にはクゥドさんもキリトさんもいます。そして、アスナさんやあのエギルさん?って人みたいにわかってくれる人は必ずいますから」

 

 

シリカはそう言うが不安が残らないはずはない。

これは言わないでおくが、俺たちの場合はそれだけじゃすまない可能性もある。

キリトはビーターを名乗りそのまま姿を消した、しかしそれだけならばゆくゆく関係性は改善できるかもしれない。

 

だが俺たちは、初心者の癖にビーターについて行っておこぼれを貰おうとするような卑怯な奴ら、という風に見られている可能性すらある。

 

そこを踏まえて考えると、若干キリトより分が悪いと思われる。まあ、勝負をしているわけではないのでどうでもいい話ではあるが。

 

 

「あれ?なんででしょう?キリトさんが出ていきましたけど」

 

 

「はあ!?どれどれ……ああ、あれならほっといて大丈夫だよ。アルゴの姐さんが追いかけられてたから、いてもたってもいられなくなったんでしょ」

 

 

「ええ!?それって大変じゃないですか!!助けに行きましょう!!」

 

 

そう言って、今にも走り出しそうなシリカの腕を掴んでそれを止める。

 

 

「だから、大丈夫だって言ったでしょうに。ちょっと見えたけど、追いかけてた奴らはベータテストの時に見たことあるからな。キリト一人でも問題ない」

 

 

俺がそう言うと理解はできるけど、納得ができないという風にわざとらしく音を立てて乱暴気味に俺の隣に座る。

 

今だに落ち着きを取り戻さない転移門周辺を窓からながめる。

二層に登ってきたのは、やはりほとんどが後々最前線のプレーヤーになるような人間ばかりだった。

 

中には俺がベータテストの時に見かけた格好をした奴もいたが、格好が似ているだけで本人かはわからないので遠目で懐かしむだけにしておく。

 

その時だった。俺の視界のはじでブレンドメッセージが受信されたのを確認した。

差出人の名前を見てみたら、なんとアルゴからのメッセージを受信していた。

 

内容がこれまた面白いもので

 

 

「キー坊がヘタレすぎるのでどうにかしてほしい、幼馴染みなんダロ?責任取レ」

 

 

といったものであった。

 

それにしても、責任ってなんの責任なんだろう。

あ、ちなみにアルゴとのブレンド登録は、一層で偶然出会った時にしてある。

向こうは俺のことをキリトと仲の良いプレーヤーとして、ベータ時代のときから認識していたらしく、俺も情報が欲しいときは便利なため登録するに至った。

 

俺とキリトが幼馴染みと知っている理由は、俺が後々第三層に行けた時点で立ち上げようとしているギルドに誘うためである。

 

最初は断られていたが、この情報はキリトにも有効(かもしれない)ですよ?と揺すりをかけてみたら最終的には落ちた。

 

流石は一級フラグ建築士、いつでも、どんなところでもフラグを乱立してくれますね。

 

 

「はあ、それにしても暇だな…なんかお話しよーぜ」

 

 

「なんかってなんですか…せめて話題を提供して欲しいんですけど……」

 

 

「んー……話題ねえ?じゃあ、シリカって何歳なわけ?少なくとも俺より下に見えるんだけど……っ!?」

 

 

何かよくわからない激痛が足の指先を襲う。

下を向くとシリカのかかとが俺の爪先を思いきり踏みつけていた。

 

 

え?あれ?激痛?なんで?圏内ってダメージ…っつか、犯罪防止コードは?女→男には反応しないの?

 

 

「女性にいきなり年齢を聞くなんて失礼ですよ!!」

 

 

なんかよくわからないことを仰っていらっしゃるので、一言だけ言い返すことに……

 

 

「マセガキ」

 

 

いだああああああっ!?

 

 

 

その後はシリカの機嫌を直すのに時間をかなり使った。

それと、アルゴのメッセには一応返信はしてある。

 

 

「あれは昔からです。自分はモテないとか不器用だとか言っておきながら、然り気無い気づかいとか優しさとかをみせるのです。それで落ちた女性は数知れず。しかし、キリはそれを普通のこととしか考えてないので、その程度では好意を持たれないと思っております。つまりライバルは多いですよ?」

 

という内容である。

ちなみに返信はまだきていない、むしろこないだろう。きっと今頃は絶望しているに違いないと勝手に予測を立てる。

 

シリカの機嫌が直ったところで窓の外を見てみると、先程よりは落ち着いていたのでそろそろ頃合いかと思い外に出る。

長いこと屋内にいたせいか、太陽の光が眩しく見えた。

 

 

「さて、それじゃあ寝床を確保しに行きますか」

 

 

「あれ?一層で泊まったところじゃダメなんですか?」

 

 

「ちょうど昨日で宿泊費分が終わったからなー、ちょうどいいしここでまた探すよ。それにすぐにマロメの村、次に拠点にする村に行くし一泊するだけだからな」

 

 

「わかりました。それじゃあ私もここで探しますね。まだ一人でそこまで行動する勇気はないので、一層と同じようになるべく近場で泊まりたいですし」

 

 

一層と同じように近場で泊まれるところか……

 

なかなか難しいことを注文してくる。

どこか良いところがあったかと、ベータ時代を思い出し二人で歩いていると目の前に武具店を見つけたところで思い出した。

そして、その向かい側には防具店がある。

 

そう言えばここの武具店と防具店はNPCの兄弟が営んでいて、少々値は張るがなかなかよかったと記憶している。

 

確かベータの時はキリトと街中探し回って、やっとの思いで見つけたと思ったら所持金が足りなくてモンスターを狩りに出た苦い思い出がある。

 

 

「よし、シリカここにしよう。ここは武具店と防具店だが、ある手順を踏んで話しかけると泊まらせてくれる」

 

 

「ある手順ってなんですか?」

 

 

「ああ、それは簡単だ。二人で店に入り話しかける。それを武具店から防具店の順番で三回繰り返すだけだ。三回繰り返したあと、もう一度武具店に入ると店主の頭上に?マークが出るからそのタイミングで話しかける。それだけだ」

 

 

シリカに説明をしたあとそれを実行し、これからの寝床を確保したところで本日二度目のメッセージが届いた。

 

差出人はアルゴ、内容は短く

 

 

「キリえもん爆誕」

 

 

とだけ書かれていた。

 

 

素早く俺は

 

 

「明日見に行く」

 

 

とだけ返信し、向かいの防具店で寝泊まりしているシリカにメッセージを飛ばす。

 

 

「明朝八時に店の前に集合、行き先は東にある岩山の頂上付近。マップは明日買うので心配ない。そのままここには戻らないでマロメの村に直行するからPOTなどアイテム系も完全装備で頼む」

 

 

という訳で明日に備え、早めの就寝準備に入る。

 

便利なことにこの部屋には目覚ましがありそれを朝七時にセットして布団に潜る。

 

そうしたところで、視界のはじで手紙のアイコンが点滅し、メッセージが届いたことを知らせる。

 

シリカからの返信で中には了解と書いてあり、それと何かあるのかという疑問があった。

 

それに明日になればわかる、ただし面白いことには間違いないとだけ返信し、そのまま睡魔に体を預けた。

 

 

 

 

 

二層に到達した翌日、アルゴからのメッセでキリえもんが誕生したことを知った俺は、シリカを連れて目的地へと向かう。

 

道中はかなりの過酷を極めた。まさかこんなところでロッククライミングやウォータースライダーを体験することになるとは誰が想像しただろう。

 

ちょくちょく戦闘もあったりしたが、問題なく例の場所へ到着する。

 

周囲は岩壁に囲まれたところに小屋が一つ建っていた。

 

その岩壁の端の方で何やら誰かが素手で、二メートルはあろうかという岩を割ろうとしていた。

 

ちょうど近くにいたアルゴに声をかける。

 

 

「アルゴ姐さん。あれはどういうことですかね?」

 

 

「おー、クゥ坊カ。よく来たネ……おや?隣の女の子は初めて見る顔だヨ、まあ、誰かは想像に難しくはないガ」

 

 

「知ってるとは思いますが、こいつがシリカです。始まりの街で見つけてからコンビを組んでるんです」

 

 

「あ…初めまして、シリカです。よろしくお願いします!!」

 

 

シリカは少し緊張気味に挨拶をする。アルゴはよろしくと挨拶を返し、本題に入る。

 

 

「さて、それでは準備はいいかイ?笑わないでいられたら……そうだネ、ギルド結成の際に誓うヨ。ギルド専属の情報屋になることをナ」

 

 

あのアルゴがここまで言うということは、それほど面白いことになっているのだろう。

そのままアルゴに、キリトを呼びに行ってもらう。

 

キリトが二言三言話して、こちらを振り返る。

 

 

「「……ぶっ」」

 

 

これは酷かった。

遠目で見てもこの威力。

近づいてきたら最早笑いをこらえるのは難しいだろう。

 

なにせシリカですら、キリトから顔を背けて手を口元にやって笑いを噛み殺しているのだから。

 

キリトがアルゴと共にこちらに来る。

隣のアルゴは昨日で見慣れているはずなのに、まだ笑いが込み上げてくるようだった。

 

そして、キリトが目の前まできて話しかける。

 

 

「昨日ぶりだな、どうしてここに?」

 

 

「いやな……昨日…アルゴ姐さんから……キリえもんが……誕生したって……聞いたから…来てみたんだ……ああ!!もう無理!!うはははは!!なんだその顔!!マジキリえもんだな!!キリえもーん、またいじめられたよー、なんか道具出してよー。うはははははははは!!」

 

 

「キリトさん、すみません……そのお顔…ちょっと笑いを堪えられそうにありません……」

 

 

そして、シリカもあははは、と声を大にして笑い転げる。

 

 

「そんなに酷いことになってるのか……?」

 

 

「気になるなら、泉で見てみりゃいいじゃない」

 

 

切ない表情を作り出すキリトだが、それがまた面白くうつり笑いが止まることがない。

 

しばらく堪能して、そろそろ笑いの方も落ち着いてきたところでマロメに行くことを伝える。

 

 

「それじゃあキリえもん、俺らは先にマロメの村に行っておくな。修行がんばっ」

 

 

「な……お前はこの体術のクエ受けてかないのか!?というか受けろ!!そして一緒にひげをつけようじゃないか!!」

 

 

「いや体術とかいらないし、拠点確保したいし、レベル上げたいから遠慮しとく」

 

 

そう断りを入れてから移動を始める。

 

 

「それじゃあ、キリトさん、頑張ってくださいね。アルゴさんもまた機会があればよろしくお願いします」

 

 

シリカも別れが済み、俺のあとを追いかけてくる。

今回は最短でマロメに向かうのではなく、Mobが出やすいルートを選択しながら先へ進む。

 

道中のいくつもの戦闘でお互いにレベルが一つずつ上がり俺のレベルが13、シリカが12となった。

 

マロメの村に到着すると、すでに何人かのプレーヤーが通りにいた。

なるべく見つからないように行動しながら、腰を落ち着けられる場所を探す。

 

 

「さて、これから村のクエを一通りクリアしたら、東の岩山で狩りをする。そのモンスターが片手剣用の素材に使えるのと、近場には短剣用の素材に使えるモンスターと両方いるから都合がいい」

 

 

「わかりました。そしたらもうお昼も過ぎちゃいましたし、今日は村のクエだけにして明日の朝一から狩りをしませんか?ちょっと強行軍で疲れちゃいましたし……」

 

 

「そうだな……それほど出遅れてる訳じゃないし…むしろトップに近いからな……それなら今日は村のクエを中心に、明日朝一で狩りに出かけよう。そうと決まればまずは昼飯だな」

 

 

少し離れたところにあった食事処に入って腹ごなしを終えたあと、二人で別々にクエを受注しそれをお互いが手伝うという方針で進めていく。

 

ベータ時代にあったクエの中で、今の俺とシリカに必要そうなクエを中心にひたすら受ける。

 

 

そしてある程度必要なクエをあらかたクリアしたのは、夕日が落ちる寸前であった。

 

 

「よーし、こんなもんかな」

 

 

「思い返せば、今日は動きっぱなしでしたねー。今日はぐっすり眠れそうです」

 

 

昼にお邪魔した食事処がけっこう良かったので、夜もここで食べながら今日を振り返る。

 

 

「それにしても、キリトさん面白かったなー…私もやりたいかと言われれば絶対やりたくないですけど」

 

 

「あー、あれは傑作だったな…なぜここにはケータイがないのだ…待ち受けにしたかったのに」

 

 

キリえもんの話でまた盛り上がり、ゆったりとした時間はあっという間に過ぎていく。

 

すでに時計の針は十一時を回っており、さすがに眠くなってきたので解散といく。

 

 

「じゃあ、今日はここまでにしようか。そろそろシリカも眠いだろ?遅くまで付き合わせて悪かったな」

 

 

「いいえ、こちらこそこんな遅くまですみませんでした」

 

 

店で会計を済ませて帰路につく。

また、ここでも宿泊先は近くにしてあるので、途中までは一緒に歩きながら話す。

 

 

「いや、楽しかったよ。それじゃあ、明日は朝一にこの店の前に集合でいいか?」

 

 

「はい、大丈夫です。遅刻しないでくださいね」

 

 

「わかってるよ、それじゃあ俺はこっちだから、それとも送って行こうか?」

 

 

別れ道になったところで会話を終わらせる。

 

 

「いえいえ!!大丈夫ですよ、すぐそこなの知ってるでしょ?それと、今日はご飯ありがとうございました。それじゃあ、おやすみなさい」

 

 

「おー、気にするな。気を付けて帰れよ」

 

 

そう言って別れたあとは俺も自分の宿に戻り、明日の予定を確認しながらいろいろ済ます。

 

明日も何も問題がなければいいなと思いながら、キリトに……じゃなくキリえもんに一通だけメッセージを飛ばし布団に入り瞼を閉じた。

 




シリカってSAOスタート時で12歳、しかも誕生日が10月なんですよ…つまり小学6年なんです……そう考えるとどれ程シリカが凄いのかわかる。


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13!!

ここ第二層の東の岩山エリアは、片手剣用の素材を集めるのにはちょうどいい場所だ。

 

今日は朝一からシリカの短剣用の素材集めに時間を使い、だいたい強化分の素材が集まったところで俺の方も手伝ってもらっている。

 

シリカの方の目的のモンスターはPOPしやすく、今日の行動予定、12時間のうちの10時間足らずで集まった。

 

しかし、こちらの目的のモンスターがなかなか厳しく、二人で狩っても少なくとも明日一杯はかかりそうなくらいだった。

 

 

「はああああああ……全然モンスターがPOPせんのだけども」

 

 

「本当ですねー、目当てのより関係ないのばかり出てきますね」

 

 

辺りを見渡しても、お目当てのモンスターは見当たらない。

そんな状況が長らく続いているのか、周りのプレーヤー、俺と同じように片手剣の強化素材を集めようとしてたプレーヤー達が続々と村の方へ歩き出している。

時間的にもすでに日は落ちているし、もしかしたら狩られ過ぎてPOP率が変動したのかもしれない。

 

 

「しょうがねえかなー、俺らも今日はこの辺にして帰ろうか」

 

 

「……すみません、私に付き合ってもらっちゃったばっかりに、クゥドさんの素材集め全然できなくて」

 

 

「うんにゃあ、気にしない気にしない。コンビの強化も立派なお仕事さあ。これでシリカの武器の性能が上がるなら十分来た甲斐はあるよ」

 

 

「……!!ありがとうございます…!!」

 

 

「それじゃあ、帰るとしますか」

 

 

マロメの村まで帰るとそこにはひげの取れたキリトと、またもやフードを目深く被っているアスナを見かけたので軽く挨拶をかわす。

 

 

「こんばんはー、キリ、アスナさん。こんな時間にどうしたんですか?」

 

 

「こんばんは、キリトさん、お久し振りですアスナさん」

 

 

「こんばんは、クゥド君、シリカちゃん。私はやっとこの村に着いたから、これから宿探しよ」

 

 

「よう、クゥ、シリカ。俺もついさっき着いたばかりなんだよな…とりあえず宿は知ってるし困らないから、これから片手剣用の素材集めに行くところだ」

 

 

アスナとキリトはこの村に着いたばかりであるらしい。

さらにキリトはこれからあの全然POPしなくなったモンスターを狩りに行くようだった。

俺は先ほどその岩山から帰ってきたばかりなので、現状を教えて明日にした方が良いことを伝える。

 

 

「でもなー……それでも遅れを取り戻すためには、多少の無理は必要だし今日も一応出てみるよ」

 

 

「あーそうかい。それなら気を付けて行けよ。油断してると危険だからな」

 

 

俺がキリトにそう言うと、わかってるよ、と苦笑気味に走って東の岩山エリアに向かって行った。

 

俺はなぜ苦笑されているのかわからかったが、後ろの女性陣を見るとキリトと同じような表情をしていたため、少し気になったので視線で問いかけると二人はその表情のまま話してくれた。

 

 

「なんかクゥド君って本当にキリト君のこととなると、過保護に見えてくるのよね」

 

 

「そうですね、多分ですけど誰よりも大事にしてるというか……なんだか壊れ物を扱うような繊細な感じがします」

 

 

そうだろうか?

確かにキリトのことは大切に思っているし、十年来の付き合いにもなるのでそれなりに……って、ああ…そうか。

この二人は俺たちが幼馴染みで、リアルで長いこと一緒にいることを知らないからそういう風に見えるのだろう。

昔からあいつの精神を安定(?)させるのは俺の役目みたいなものだったからな。

 

誰にも心開かないし、俺もかなりの時間をかけた記憶がある。

 

 

「それでも過保護は言い過ぎじゃないですか?これくらいなら普通だと思うんですけど……」

 

 

「キリト君も私たちと同じように思ってるわよ、だって同じ表情してたんだから……でもキリト君もめずらしいわよ?普通男の子がそこまで過保護にされたら嫌がるものなのに、呆れはするものの全く嫌がる様子がなかったし……君たちこんな短い時間でどれだけ仲良くなったのよ」

 

 

確かにこのSAOという仮想世界に来てからは、キリトは俺よりアスナ、俺はキリトよりシリカとの方が長い時間一緒にいるであろう。

だからこそアスナもシリカも疑問に思っているらしい。

どうしてそこまで接点のない俺たちがこれほど心を許し合っているのか。

 

 

「そうですねー、これは俺たちの秘密ということで。いつかは話そうと思いますが、それは今じゃないので」

 

 

「えー、今教えてくれてもいいじゃないですかー」

 

 

シリカが頬に空気を入れて若干膨らませながら聞いてくるが、いずれ話すという形で納得してもらった。

そうしないといつまでもこの話が終わりそうになかったからである。

 

 

「それよりアスナさん、宿なんですけど良いところ知ってますが教えましょうか?」

 

 

「え!?本当に!?」

 

 

アスナは光を置いていくのじゃないかという速度で、この話に食いついた。

 

 

「確か俺が泊まってるところは俺だけの分で一杯だったけど、シリカのところなら大丈夫だったよな?」

 

 

「え?あ…はい。一応クゥドさんが予備で二部屋取ってくれたうちの一部屋が使ってない常態でありますけど」

 

 

「ちなみに金を出してるのは俺で、予備部屋は直接話したい時に使おうと思って取って置いたんです。さすがに仮想世界とはいえ、年頃の女の子の部屋に上がるのは無遠慮すぎろかと思ったので……シリカさえ良ければアスナさんに貸してあげようと思うんだけど、……どう?」

 

 

「はい、大丈夫ですよ。お金払ってるのはクゥドさんなのでお任せします」

 

 

「あ……ありがとう二人とも!!これで宿の方は全く心配がなくなったわ!!」

 

 

アスナは物凄く嬉しそうにしていた。

それほどあのキリトの泊まっていた部屋で入った風呂が良かったのだろうか。

 

同意も得られたところでシリカに道案内を任せる。

明日も朝一で、今度は岩山エリアで俺の素材集めに行く約束をして別れた。

 

 

 

 

この日、俺とシリカは主街区のウルバスまで来ていた。

目的は剣の強化ではない。

POTなどの補給物質を購入するためである。

マロメにも道具屋はあるのだが、品揃えがイマイチなのでここまで来たのだ。

 

アイテム欄に二人して思いっきり補給物質を詰め込み、さて帰ろうかというところで向こうの大通りでふざけんなよという大声が聞こえてきた。

シリカにどうする?と声をかけると、どうやら気になるらしい、一回だけ頷いて声の方向へ歩き出す。

 

俺もそれに着いていくと、何やら問題が起きていたらしい。

どうやらその問題というのがプレーヤー鍛冶屋がアニールブレード+4を+0、つまり四回連続で強化に失敗してそれに腹を立てて怒鳴っていたらしい。

 

しかし俺はそれよりも気になることがあった。

それは見覚えのある後ろ姿だったのだが、頭には変な縞模様のバンダナをつけていた。

あれが正直十年来の幼馴染みだとは考えたくない。

 

レザーアーマーにバンダナはアンバランスすぎる。変装するにしても、もっとマシなチョイスはできなかったのだろうか。

むしろあれで変装できてると思っているらしい、若干抜けている幼馴染みを生暖かい目で見ていると、すぐ脇をフードを被ったプレーヤーが通り過ぎた。

その際に軽く二人で挨拶をかわす。

通り過ぎたプレーヤーも手で挨拶を返してくれる。

 

それが終わるとプレーヤーは変なバンダナの幼馴染みの隣に立ち会話を始める。

そこに加わろうかとも思ったがここはシリカと二人でいることを優先する。

 

 

ぼやぼやしているうちに一連の騒動が終わり周りにはプレーヤーが殆どいなくなっていた。

 

今この広場にいるのは俺とシリカ、そして目の前の変なバンダナ野郎と怪しいフードだけである。

 

 

「ちょっとかわいそうでしたね……強化を頼んだ人もあの鍛冶屋の人も…」

 

 

「正直これは確率的には起こりうることだから、本当にどうしようもないんだよなー」

 

 

なので俺はここでは剣の強化を頼まないことにしていた。

強化詐欺の話を読んでいたので、なんとか気づけただけであるのだが。

すると前方の変な二人組も話が終わりそうなのかこちらに振り返った。

 

 

「そうと決まったら、さっさと狩場に行きましょう。二人なら、暗くなる前に百匹は狩れるわね」

 

 

「…………………え?」

 

 

すると、変な二人組……キリトとアスナはこちらに向かい歩き出してきた。

そして、キリトと目が合ってしまった。

その時のキリトの目は、俺らにも何かを協力させようとしている目であった。

なるべく目を合わせないようにシリカに話しかける。

 

 

「なあシリカ、お前ウインドワスプ狩りに行きたい?」

 

 

「いいえ、だってあれ飛んでるし、攻撃も当たりにくいのであまり必要じゃなければ行きたくないです」

 

 

「よし、じゃあ逃げるか!!」

 

 

シリカもキリトのなんとも言えない雰囲気に気づいていたのか、俺の言葉と同時に走り出す……がキリトの方が一歩早かったのかすぐに捕まってしまった。

 

 

「ふははは、二人ももちろん手伝ってくれるよな?」

 

 

「「……は……はい」」

 

 

あまりにもらしくない雰囲気に思わず二人して頷いてしまった。

 

 

「アスナー!!協力者をもう二人ゲットした!!これでさらに効率アップだな!!」

 

 

「あら、クゥド君とシリカちゃんも手伝ってくれるの?」

 

 

「ええ、まあ、そういうことになりました」

 

 

さすがにここまで来てしまうと逃げられないことは、シリカですらわかっているようだった。

なにせアスナの目の色でさえも嬉々としているのだから。

 

 

この四人でパーティーを組むのは第一層のボス攻略の時以来だ。

二層主街区ウルバスの西門を出て、しばらく歩くと天然の石橋があるのでそれを渡る。

そこで一旦足を休め、アスナが俺たちを順番に見渡しこう告げた。

 

 

「さあ、さっそく始めましょう。目標は……そうね、四人いるし二時間で三百にしましょう!!」

 

 

…………いや、無理でしょうよ……と思わずシリカと目を合わせてしまったのは仕方がない。

こうなってしまったのはすべてキリトのせいだと判断し、これが終わったら多少強引でも晩飯を奢ってもらうことにする。

 

 

 

 

「シリカ!!」

 

 

「はい!!」

 

 

このウインドワスプ狩り、俺とシリカはいつも通りにお互いに連携を意識している。

 

そのおかげで一匹にかける時間は少なく、効率よく狩れている。

 

しかし、残りの怪しい装備(一人は過去形)組はどうだろうか、二人して競い会うようにして狩っていく。

連携も、効率もあったもんじゃなかった。

 

たまに「二十二!!」とか「二十四」とか声が聞こえてくるが、すでに俺とシリカは五十を余裕で越えている。

 

 

「………あの二人……俺らみたいに連携して狩った方が効率良いのわからないのかなっと!!」

 

 

話しかけている最中に、ウインドワスプの攻撃を受けそうになったのでギリギリでかわしてスキルを放つ。

 

そしてすぐにシリカにスイッチ、敵の攻撃前にシリカのスキルが当たり、ウインドワスプは青い欠片となって飛び散る。

 

 

「二人はああして、競争してる方がいいんじゃないですか?なにか賭けてるみたいでしたし……でも、私たちであの二人の合計より多く狩りたいですね」

 

 

確かにその通りだ。

少なくともあの二人の倍は狩りたい。

それをあの二人のどちらかに報告をして、晩飯を奢ってもらおう。

あ、あとシリカのためにデザートも頼んでおいてもらおうかな。

この中では断トツで最年少だし、軽く頼めば二人とも奢ってくれそうだ。

 

 

一時間後真っ白になったキリトに声をかけた。

 

 

「どんまい、七十五匹」

 

 

今回の二人の勝負内容は、一時間でどれだけ多くのウインドワスプを狩れるか、というものだったらしい。

ちなみにアスナは七十八匹。

俺たちは合わせて二百三匹だった。目標のアスナとキリトの合計数の二倍とはならなかったが、確実に連携の方が効率がいいことが確認できたのでよしとする。

 

 

「ところでキリトさんや、うちのシリカちゃんがな、あそこの店のケーキ食べたいって言ってるんだけど……奢ってくれない?」

 

 

「え!?ちょっ……ちょっと待ってくれ!!確かにアスナとは勝負してたけど二人とはなんの賭けもしてないじゃないか!!」

 

 

「でもさー、俺ら二人で二百オーバーよ?二人より圧倒的に倒したし、アスナさんにも貢献したと思うんだけどなー、誰かさんに無理矢理連れて来られたシリカには、ちょっとのお礼くらいあってもいいんじゃない?」

 

 

ぐぬぬ、と唸るとやがて諦めたようにわかったよ、と呟いた。

 

 

「クゥド君もシリカちゃんもありがとうね。凄く助かっちゃった。二人にも晩御飯奢るから好きなもの食べてね」

 

 

俺も奢ってもらえるとは思ってなかったので、素直にお言葉に甘えさせて頂くことにした。

 

東西のメインストリートからあっちゃこっちゃ行ったところにお目当てのレストランはある。

ちなみにこの店のケーキはお高いながらも絶品なのは、ベータ時代に確認済みで今回でベータ時代含め二度目の来店となる。

 

奥のテーブル席に四人で座り注文を済ませる。

 

 

「……で、なんでアスナはこの店を知ってるんだ?もしかして、クリームの匂いで嗅ぎ当てて……あだっ!!」

 

 

思いきり頭に拳骨を落とす。

正面の二人が半眼で睨んだような表情から、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔に変わった。

 

 

「キリ……家族じゃないんだからな?失礼な発言はほどほどにしなさいな。そんなんだからデリカシーに欠けるとか言われたりするんだよ」

 

 

正面の二人からお母さん?という呟いた声が聞こえたが、そんなことはないのでスルーする。

 

アスナはアルゴから情報を買ってこの店を知ったようだった。

その際、キリトが思い出してはいけないことを、思い出しそうになっていたのでそれをアスナが諫める。

 

キリトがやぶ蛇な質問をしたので、またもやピンチに陥っていた。

 

 

「キリの全情報ねえ……三千コルとか…まあそんなもんか?」

 

 

「……なんだか、中途半端な値段ね。それくらいなら試しに……」

 

 

「の、ノォ!!そ、そんなら俺もアスナの全情報買うぞ!!」

 

 

「いや、よしとけよキリ。多分アスナさんの情報とシリカの情報は高いぞ?攻略組と言われるプレーヤーで女性はこの二人しかいないから、必然とそうなりそうだ」

 

 

「え?私の情報も高いんですか?」

 

 

「だろうなー、なんせSAOプレーヤーの中でも相当低い年令だし、それで最前線にいるんだ。高くもなるだろうよ」

 

 

シリカがほえーと呆けたような声を出し、またもやキリトが地雷を踏みそうになったところで、ウェイターが料理を運んできた。

 

サラダ、シチュー、パンという普通のメニューを平らげる間もアスナのキリトを見る視線は、大変危険なものだった。

しかしそれも、デザートのケーキが運ばれてくるまでだった。

ウェイターが二つのケーキを運んできた途端女性陣の目が輝きだす。

 

キリトが馬鹿なことを言って場を白けさせ、アスナがショートケーキのうんちくを話す。

 

 

「クゥドさん、良かった食べませんか?ちょっとこの量……私一人じゃ食べられませんし、残すのも勿体無いので…どうですか?」

 

 

「そう?じゃあ遠慮なく貰うね……おお…!!なかなかいけるね、これ」

 

 

予想以上の美味しさに若干感動を覚えていると、隣から羨ましそうな視線が飛んできた。

それを見てアスナは苦笑しながらキリトにフォークを渡し、一言付け加えた。

 

 

「もう、そんなに二人を見なくてもちゃんと分けてあげるわよ」

 

 

「本当か!?ありがとう」

 

 

アスナがフォークを渡してたのを見て思ったが、そう言えば俺はシリカの使ってたものを使ってしまったようだ。

シリカから何も言われたりはしなかったが、今度からは気を付けることにする。

 

 

店を出るとすでに夜も遅くなり、シリカは若干眠そうにしていた。

それでもあのケーキの余韻が忘れらないのか、幸せそうな表情をしていた。

 

 

「クゥ……あのケーキ…なんか、ベータ時代より更に美味くなってた気がするな」

 

 

「全面的に同意。味覚エンジンのデータ更新はされてるな、確実に」

 

 

「そうなの?ベータテスト正式サービスでそこまで変わるとは思わないけど」

 

 

アスナの言葉にキリトが真面目に返す。

 

 

「ベータの時にはこのケーキで支援効果なんてなかったから」

 

 

二人が支援効果を有効に利用する方法を考えていた。

するとキリトが何かを思いついたように指を鳴らした。

俺は正直あまり興味がなかったし、シリカもけっこう疲れが出ているようなので二人とはここで別れる。

 

挨拶もそこそこに済ませて、シリカを送った。

 

しばらくしてキリトに一通だけ

 

 

「お前…またデリカシーのないことをやったな?」

 

 

と送ったらすぐに

 

 

「………してない」

 

 

とだけ返信があった。

この返信だけを見ても、どんなことがあったのか想像するのは難しくなかった。

 

 

 

 



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14!!

本当は昨日投稿する予定だったのに、予想外のアクシデントに見舞われ断念。

更新速度がバラバラで本当にごめんなさい。


アインクラッド各層にはフィールドボスと呼ばれる、いわゆる名前付きMobが存在する。

 

それらは要所に配置されており、だいたいが迷宮区へ至るための関門的な役割を担っている。

 

この二層のフィールドボスは一体のみで、巨大な牛の姿をしている。

今フィールドボスと対峙しているのは、十五人のプレーヤーではあるのだがどうやら一筋縄ではいかないようだった。

 

パーティー間の連携は全くなく、それぞれがタゲを取り別々で行動をしている。

これでは実質一パーティーで戦っているのとかわらない。

シリカもそう思ったらしく微妙な表情で語りかけてくる。

 

 

「これじゃレイド組んでる意味がありませんね。ただのMobの取り合いじゃないですか」

 

 

「まあ、いい。それよりちゃんと見極めておけよ。あそこのフィールドボスを倒せば迷宮区近くの村まで一直線で行けるからな。目指せ一番乗りだ」

 

 

俺らがフィールドボスとの戦闘を見ているだけなのは、あのパーティーが倒してマロメに戻る時を狙い、迷宮区攻略時の拠点となる村、タランに行くのが目的だからだ。

 

眼下ではフィールドボスのHPゲージがレッドゾーンに入っており、そろそろ頃合いかと思考する。

 

ボスの姿が青い欠片に変わり、対応していた十五人のプレーヤーが村へ引き返し、姿が確認できなくなったところで姿勢を低くしながら一気に駆け抜ける。

 

すると正面に見覚えのある背中が二つほどあった。

どうやらあの二人も俺と同じように考えていたらしく、タランに向かうようで追い抜くタイミングで声をかける。

 

 

「こんにちは、二人とも。俺らは少し急いでるから先に行くね?じゃ!!」

 

 

「あっ!!私挨拶してないのに!!すみませんアスナさん、キリトさん、お先に失礼します!!もー!!待ってくださいよー!!」

 

 

後ろを振り返る余裕はないが二人はポカンとした表情を浮かべているだろう。

このスタート付近で二泊三日の差は大きい。

事実俺はその分Mobと戦ってたりしたので、今のキリトよりはレベルが高い。

 

二人を差し置いてタランの村に一番乗りをした俺らは、早速村のクエストを一通り受けてから迷宮区に足を運ぶ。

 

まずは宝箱を物色し、必要そうなものだけストレージに入れ、必要のないものは丁寧に宝箱に戻す。

 

二階でも同じことをして、マップを埋めていく。

ここのMobは時間POPなので乱狩りは出来ないが、ボスの使うスキルを使うのでタイミングの取り方をシリカに教える。

 

 

「………これ絶対牛じゃないですよ……首から上だけの牛は牛とは言いません!!」

 

 

「それでもシステム的には牛扱いだしな、諦めろ」

 

 

確かに首から上だけの牛は牛じゃないよな、と思いながらも続々とレッサートーラスという名前のMobを青い欠片へと変えていく。

 

二階のマップもほとんど埋まったところで三階へと足を運ぶ。

そこでも牛頭のモンスターが闊歩しており、宝箱を物色する傍ら戦闘をこなしていく。

 

とりあえずストレージがいっぱいになるまでは、迷宮区から出るつもりはない。

モンスターが落としたアイテムも、いらない物といる物で分けて、なるべく効率が良くなるように立ち回る。

 

最初から飛ばしすぎではないかと思わなくもないが、これもRPG系ゲームの醍醐味ということで気にしないことにする。

 

さらに俺らは一つ階を上がった四階で、ストレージがいっぱいになり、引き返すことにした。

帰り道、なるべく他のプレーヤーたちに遭遇しないように気を付けながら迷宮区を抜け出す。

 

タランの圏内に入ったところで一息つき、周りを見渡すとすでにメインの通りは人で溢れかえっていた。

恐らくマロメの村を拠点にしていたプレーヤーたちが、一気になだれ込んできたのだろう。

 

このあとすぐにアルゴへ迷宮区四階途中までマッピングした物を渡すために、これから会合する予定があるのでシリカと二人で待ち合わせ場所まで向かう。

 

村の外れにある酒場まで足を運ぶと、そこにはすでにアルゴの姿があった。

 

 

「お待たせしました、アルゴ姐さん」

 

 

「こんばんは、アルゴさん」

 

 

「おー、クゥ坊にシーちゃん、そんなに待ってないから大丈夫ヨ」

 

 

軽い挨拶を済ませそれぞれ注文をしてから本題へと入る。

 

 

「はい、四階の途中までですが一応マッピングした物です」

 

 

「すまないネ、いつも助かル。でも今回はもしかしたらキー坊より進んでるんじゃないカ?」

 

 

「まあ、多分そうだと思いますよ?この層は出だしであいつ躓いてましたしね」

 

 

アルゴとシリカが揃って吹き出すような動作をする。

恐らくあのキリえもんを思い出したのだろう。

 

 

「ところで報酬はどうするんダ?規定の情報代ならいつでも……」

 

 

「それについてはもう十分すぎるほど貰ってるから大丈夫です。なにせあの情報屋のアルゴがギルドに入ってくれるんだ。これ以上は望めないですよ」

 

 

「はァー、これまた随分と高評価を貰ってるみたいだナ」

 

 

ニャハハという独特な笑い方で苦笑をするとその話は一端打ち止めとなり、他愛もない話に花を咲かせる。

そうなると必然的に女性二人の会話になり俺は蚊帳の外になる。

 

先程ウェイターが持ってきた飲み物で時間を潰しながら、二人の会話を右から左へ素通りさせていると、急にこちらに話が振られた。

 

 

「え、ごめん、全く聞いてなかった。何の話?」

 

 

「クゥドさん……はあ、もういいです」

 

 

シリカの言葉を聞いて、少し申し訳なかったかな、と思う。

そこで会話に一区切りついたところで、アルゴが別の話を切り出す。

 

 

「ところで二人とも、この後は暇カ?これからキー坊と会うんだがどうダ?」

 

 

このどうダ?は恐らく一緒に来るか?という意味なんだと思う。

すぐに続けてこう言った。

 

 

「二人ならキー坊と仲が良さそうだからナ。着いてきても問題ないゾ?」

 

 

そう言われどうするかシリカと相談をする。

 

 

「んー、別に俺は構わないですけど……シリカー、どうする?」

 

 

「この後予定があるわけじゃないし、いいんじゃないですか?」

 

 

ということで、アルゴに着いていくことを決めたので行動しようとするが、待ち合わせの場所はここらしいので上げかけた腰を下ろす。

 

すると、キリトから今から来るという事とアスナもいるというメッセがアルゴに届いたらしい。

今いる席は四人掛けの席でアスナも来るとなると、座れなくなってしまうのでウェイターに声をかけ、六人掛けの席に移動させてもらう。

 

席を移動して数分もしないうちに件の二人が店内に姿を表した。

こちらに気づいたようで、アルゴ以外に人がいることを驚き、開口一番にそれを言った。

 

 

「驚いたな……まさかアルゴが情報提供の場にクゥとシリカとは言え人を連れて来るとはな…」

 

 

「ニャハハ、それは済まないナ。だがこの二人とはいずれギルメンになる仲だからナ、それまでにある程度の信頼を築こうと思っただけダ」

 

 

「はあ、なるほどなー……って、はあ!?お前がクゥの立ち上げるギルドに所属するって!?いや!!その前にクゥがギルドを立ち上げることすら初耳だぞ!?」

 

 

アルゴの言葉を聞いてキリトは先程以上の驚き様を見せた。

隣で、我関せず、と言った表情で、会話に入ってこなかったアスナのその目も、驚きを映していた。

 

 

「あれ?二人には言ってなかったっけか?三層に登った後、すぐにギルクエを受けて立ち上げようと思ってたんだ。ちなみに立ち上げ時のメンバーはここ三人だ」

 

 

そう言って、俺はアルゴとシリカの二人を指す。

まだキリトとアスナの表情からは驚きが取れない。

 

それを無視して

 

 

「ふぅーン」

 

 

とアルゴのなるほどという声。

そのあと我に帰ったキリトの

 

 

「違うぞ」

 

 

の一言。

さらに火に油を注ぐべく俺が

 

 

「照れ隠し」

 

 

と呟いた直後、キリトに軽く殴られる。

しかしそれでも俺は次の言葉を繋いだ。

 

 

「でもさ、別に二人はコンビでも良くないか?」

 

 

「私がイヤ」

 

 

とアスナのバッサリとキリトを抉る口撃(誤字ではない)にキリトは、そこまではっきり言わなくても……と若干落ち込む。

しかし落ち込んでいたのは少しの間だけで、すぐに復活してコンビとはなにかみたいなことを饒舌に話しているが、最初の、俺たちは二人パーティーでコンビというのはクゥとシリカみたいに……の辺りからシリカ以外は誰も聞いていなかった。

 

話をちゃんと聞いてくれるシリカで存分に癒されてくれ、と思いながら先程と同じようにキリトの話を右から左へ素通りさせる。

 

ようやく一段落ついたのか本題に入り、キリトからマップのデータを受け取ったアルゴがキリトに言った。

 

 

「今回は、クゥ坊の勝ちだナ」

 

 

言葉の意味がわからず頭上に?マークが出そうな顔でこちらを見てくるので、アルゴは苦笑しながら続ける。

 

 

「今回は先にクゥ坊から、マップのデータを貰ってたんダ。それでクゥ坊は四階途中まで、キー坊のは二階までだったから、クゥ坊の勝ちだナ、って言ったんダ」

 

 

「なるほどな……というよりやっぱりなって言う方が正しいのか。なにせ迷宮区の中身が入ってる宝箱には、ほとんど必要なさそうなものしかなかったからな。そんな事ができるのは、俺より先に行った二人以外には有り得ないからな」

 

 

それでもマップのデータを提供したことに代わりはないので、情報代の話になったところで今回は珍しくキリトが交換条件を出してきた。

 

その条件とはレジェンド・ブレイブスなるチームの情報であった。

どこかで聞いたことあるなと考えていたが、あまり気にしないことにした。

 

 

「でも、これは憶えといてくれよナ。オネーサンが、商売のルールよりキー坊への私情を優先させたってことをナ」

 

 

この言葉にアスナが反応を示した。

それを目敏く感じた俺は、隣のシリカにコソリと話しかける。

 

 

「なあなあ、アスナさんのあれって嫉妬かな?かな?それとも独占欲?禁断の三角関係になるかーも」

 

 

「んー、それとはちょっと違うと思いますが、似たようなものじゃないでしょうか」

 

 

「はああああ、マジキリトさん天然ジゴロ。こりゃ将来刺されんな」

 

 

実際三角どころか五角とか六角になるので、あながち間違ってはいないと思う。

 

二人がシステムとはいえ結婚したというのに、諦められない人が何人もいたしな。

 

 

「クゥドさんも人のこと言えないですからね……」

 

 

シリカが何か言っていたみたいだが、小声で聞き取れなかった。

 

すると、突然寒気がしたのでそちらを見てみると、アスナがこれでもかというくらいに冷ややかな視線でこちらを見ていた。

まさかとは思うが、あれが聞こえていたのかもしれない。

それを確かめるべく自殺行為ともとれる言葉をシリカに呟く。

 

 

「さっきの言葉……アスナさん聞こえてたみたい……なんたる地獄耳…」

 

 

寒気が一段上のものとなり、もはや殺気に近い視線が送られてきた。

間違いない、確実に聞こえていた、と思う半面、ああ俺やばいな、と考えていた。

 

この性格は良くないと自覚はあるが、変える気はさらさらない。

 

しばらくして話が終わったのか、キリトとアスナの二人は席を立った。

その際アスナに笑顔でこう言われた。

 

 

「クゥド君……次はないわよ?」

 

 

……正直般若より怖かったのは言うまでもない。

これからあの人は、なるべく怒らせないようにしようと誓った。

 

まあ、そこは俺なので……しかもなるべくなので同じようなことを言って、また怒らせるのだろうな、と思っていたのも言うまでもない。

 

 








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15!!

 

今、俺とシリカは迷宮区の中程にいる。

他の攻略組はボス部屋にて戦闘を行っているはずである。

 

それなのになぜ俺とシリカは未だにこんなところにいるのか、それにはいくつかの理由があった。

 

一つはアルゴから協力要請のメッセージが入ったこと。

もしかしたらボスの新しい情報が入るかもしれないということでその手伝いだ。

一時は攻略組の人たちにも待ってもらっていたが、何か予定外のことがボス部屋であればすぐに引き返す、ということで先に行ってしまった。

 

もう一つは俺とシリカも参加したかったのだが、レイド上限人数を一人上回ってしまうため、誰か一人がレイドから外れることになってしまう。

コンビなのに同じレイドに入れないなんて話になっても困るだけだ。

それなら最初から参加を諦めて、他でコンビネーションやそれぞれの個人技を鍛えるという選択もありだと思う。

 

 

そして、アルゴからメッセを受け取った俺はシリカを伴い、待ち合わせ場所へと向かった。

アルゴはすでにそこにおり、詳しい内容を話始めた。

そのボスの情報を手に入れるにはクエストをクリアする必要があるらしくそのために俺へメッセを飛ばしたらしい。

 

どうも一つではなくいくつかクエストをクリアする必要があるらしく、今回はボスの攻略に参加しない俺たちに白羽の矢を立てたという。

 

例えボス戦に参加しなくともクリアを望んでいる俺たちは

、二つ返事で了承し三人でそれぞれ必要なクエストをクリアしていく。

 

全ての情報が出揃った時は驚いた。

この層ではボス自体が変わっているらしく、それを知った俺たちはすぐに迷宮区に入った攻略組を追いかけて今に至る。

 

俺とシリカの後ろから足音が二つ余計に聞こえる。

この足音の持ち主の一人はアルゴである。

二人で大丈夫と言ったのだがどうしても自分の口からこの情報を言いたいらしく着いてきている。

さしずめ俺とシリカはアルゴの護衛だ。

 

そしてもう一つの足音の持ち主はネズハという青年のものだ。

この青年はウルバスで鍛冶を行っていたのだが、とある理由から例の体術スキルを身につけ、今回のボス戦に参加したいということだった。

 

ここまできて、ようやく記憶の片隅からプログレッシブの二話の内容が頭に蘇ってきた。

正直十四年もたっていて、本編ですらかなり薄れてきているのに、プログレッシブまで覚えていられなかったようだ。

余談だが、赤鼻のトナカイに関しては、すでにその回だけで何百と見ているので、脳内再生が可能なレベルに至っている。

 

ネズハは迷宮区の前で一人でオロオロしながらうろついていたので、どうせ迷宮区に入るのだからさらに一人くらい増えても問題はなかったので、声をかけてこの珍妙なメンツとなったのである。

 

 

寄ってくるモンスターを、俺とシリカの二人で凪ぎ払いながら進む。

アルゴはAGI全振りのため戦闘は出来ないし、ネズハにはボス戦のために力を温存させる。

 

最悪、俺とシリカはボスとは戦わないので、迷宮区で力を使いきってしまっても構わない。

その分三層へ行くのが遅くなってしまうが、死者が出るよりはいい。

 

迷宮区の最上階に到達し、あとは道なりに真っ直ぐ突き進むだけなので、ここでスピードをあげる。

 

俺、アルゴ、ネズハ、シリカの順で一応警戒はしながらボス部屋の前まで移動する。

シリカには最後尾で後ろを警戒してもらっているので、何かあっても対応はできる。

 

そんな警戒は杞憂となり、あっさりとボス部屋に到達した。

ここで一端止まり、声をかけた。

 

 

「さて、ネズハさん。心の準備は?」

 

 

「大丈夫です!!」

 

 

ネズハは気合充分といった様子で、今にも走りだしそうな感じだ。

するとアルゴが少し焦ったように言葉を出した。

 

 

「少しボス部屋が騒がしい気がすル……急ごウ」

 

 

アルゴがそう言うので開いていた扉からボス部屋に入り奥に行くと、今まさにトーラスキング…二層、真のフロアボスが大暴れする寸前であった。

 

しかも、ボスの前にはキリトやアスナ、レイドのリーダーであるリンドやキバオウも倒れていた。

恐らくボスのブレスをもろに喰らい、麻痺しているようだった。

 

それを確認すると、すかさず後ろから来たネズハに指示を出す。

 

 

「ネズハさん!!投擲スキルでボスの王冠を狙ってください!!ディレイしているうちに近くに倒れているプレーヤーを回収します!!」

 

 

「わかりました!!多分僕でもディレイさせられ、しかもそのあとしばらくタゲを取れるので、その間になんとかある程度HPを回復させてあげてください!!」

 

 

「了解です!!シリカ!!とりあえずキリとアスナさん回収だ!!俺がキリを運ぶからアスナさんを頼む!!シリカのステータスなら抱えてもほとんど動ける!!」

 

 

「はい!!」

 

 

シリカの返事とともに、全員行動を開始する。

まず、ボスの圏内に入らないよう近づきネズハにサインを送る。

ネズハの了承のサインが送られるのと同時に、ネズハの体が投擲スキルを発動させるためにモーションに入る。

 

 

「やああっ!!」

 

 

ネズハの手から武器が飛び、綺麗な曲線を描きボスの王冠の下辺りにぶつかり、カアアアアンと甲高い音が響きボスがディレイした。

 

 

「シリカ!!」

 

 

「はい!!」

 

 

そのチャンスを逃さないように、俺とシリカはボスの足元付近に転がっているキリトとアスナを回収する。

 

 

「油断すんなって言ったのによ」

 

 

「………悪かったな…」

 

 

キリトを抱え壁側に放置し、後をエギルに任せたあとアスナを運んでいるシリカを手伝う。

 

他のメンバーもネズハがタゲを取ってボスを引き付けているうちに、全て避難が完了していた。

 

するとボスの目が光り、雷のブレスを放とうとする。

 

 

「避け………ろ…」

 

 

キリトが掠れた声で呻く。

叫ぼうとしていたようだが麻痺のせいでこうなっていた。

俺は安心させるようにキリトに教えた。

 

 

「ああ、大丈夫だよ。ブレスのタイミングならネズハさんは知ってるから」

 

 

俺がそう言うとブレスがくるタイミングを察知し、ネズハは余裕をもってかわしている。

 

キリトの顔が驚きに変わった時だった。

一緒に迷宮区を上がってきたもう一人のプレーヤー、アルゴの声が近くで響いた。

 

 

「ブレスを吐く直前、ボスの目が光るンダ」

 

 

キリトはいきなり現れたアルゴに、呆然とした視線を送っていた。

 

しばらくそうやっていたのでいつの間にかキリトの麻痺が治っていて、アルゴに突っ込まれてから気づいたように起き上がった。

 

アルゴはキリトが起きたのを見ると、キバオウとリンドの方向へ歩き出した。

一言か二言か話して、撤退するかボス戦を続行するか決めている。

 

どうやらアルゴはボス戦を続行するなら、タダで情報を教えるらしい。

数秒悩んだ結果レイドのリーダー格二人は、続行させることを決めたようであった。

 

アルゴがプレーヤーたちに情報を教え終わったところで攻略に入る。

俺たちはすることもなくなったので、端にいるのも邪魔だし部屋の外でのんびり待つことにした。

 

 

「いやー、間に合って良かったなー」

 

 

「本当に良かったです。ネズハさんも喜んでましたし、これからボス戦で会うことも増えますね」

 

 

「んー…多分ネズハたちは今回っきり……もしくはこの層の攻略が終わったら、しばらくは出てこないだろうね」

 

 

シリカの言葉に否定の言葉を返す。

あれだけボスの攻略に憧れを持っていたネズハが、今回だけでこれからはボス戦に参加しないことがシリカには不思議に感じられたらしい。

 

そこで俺はネズハたちが行っていた強化詐欺について話す。

詳しくは覚えていないので、かいつまんで重要と思われた部分だけ話した。

 

キリトたちと蜂狩りに行く前に見てたやりとりは、強化詐欺の一連であったこと。

一度はアスナも詐欺にあったが、それはキリトが裏技を使いなんとか武器は取り戻したこと。

フィールドボスと戦っていたリンド派でもキバオウ派でもないプレーヤーたちは、実はネズハとパーティーを組んでいて強化詐欺で奪った武器を売り、それで自身の武器や防具を強化して前線にまできたこと。

 

そして、今に至るまでの経緯を話したところ、シリカは悲しそうな顔をして呟いた。

 

 

「どうして詐欺なんて手を使ったんでしょう?……そんなことをして、バレたらただじゃ済まないことくらいわかるはずなのに…」

 

 

「出遅れたくなかったんじゃないかな……多分すぐにでもボス戦で活躍したい、攻略組と呼ばれたい、そういう色々な理由があったんじゃない?それにはどうしても邪道に手を出すしかなかった…とか、そんな理由じゃなくてただ単に優越感に浸りたかったとかもしれない。まあわからないことだし、想像するだけ無意味だよ。俺たちはクリアを目指すためにも、こんなところで止まるわけにはいかないからね」

 

 

少しだけ冷たいような、突き放すような言い方になってしまった。

強化詐欺をしていたプレーヤーをカバーする気はないし、感じ方は人それぞれなので、と納得させる。

 

 

 

二人で色々話していると、不意にアルゴが姿を現しこちらに声をかけてきた。

 

 

「お二人サン、ボス戦は終わったゾ。キー坊とアーちゃんは先に三層へと続く扉へ入っていっタ。オネーサンは後から転移門が開通したら行くから先に行っててくレ」

 

 

アルゴはそう言うとまたボス部屋の方へ消えて行った。

俺たちもそのあとに続き、三層へ向かう途中ボス部屋をぐるりと見渡した。

 

周りのプレーヤーたちはまだ興奮が冷めないようで、わいわいと勝利の余韻に浸っている。

 

そこを通りすぎ、一層の時と同じように扉を開けて、くぐった先にある階段を登って行く。

 

 

「さて、これから三層に入るけど、いつも通りやってくれれば俺とシリカのレベルなら問題ない。油断はせずに、だけどもリラックスして行こう。限界ギリギリまでこのゲームを楽しもうぜ」

 

 

ちなみに現時点で俺のレベルが16、シリカが15となっている。

ボス戦を経て、キリトがレベルアップしてたら確か15でシリカと同レベルになるはずだ。

二人でコンビネーションを確認するために、何回、何十、何百と続けていくうちにどんどんレベルが上がった。

 

 

「はあああああ……途中まではそこそこ良いこと言ってたんですけど、最後で台無しですよ。こんなゲーム楽しめるわけないです」

 

 

シリカから盛大な溜め息と鋭い突っ込みを受けながら、俺は三層へと続く扉を開け放った。

 

 




第二層これにて終了。


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16!!

 

第三層の主街区へと到達した俺たちは、まずギルドの結成をするための準備を進めている。

 

初期のメンバーは俺、シリカ、アルゴの三名となっているが、今度キリトに会った際に声をかけることを伝えた。

 

月夜の黒猫団……これを救済するためには、キリトを他のギルドへ先に所属させてしまえばいいと俺は考えて、自分のギルドを結成することを決めた。

 

キリトには、ソロプレイでもいいし何かどうしようもない時に保険として入っておいてくれと頼めば、断られないはずである。

 

 

そしてなかなか決まらないのがギルドの名前だった。

ポジション(リーダーが俺、副リーダーがシリカ)はかなり早めに決まったのだが、特に名前にこだわりのない三人では決められないのも当然であった。

 

 

「ほらクゥ坊、さっさと決めロ。オネーサンも暇じゃないんだゾ?」

 

 

「そんな事言われましても俺の案に二人してケチつけるんだからそりゃ決まらないですわ」

 

 

「それは………クゥドさんがあまりにもセンスの欠片もないネーミングなのがいけないですよ……なんですか、チーム動物園とか意味がわかりません」

 

 

アルゴは鼠屋だし、フェザーリドラをテイムするシリカがいるしぴったりだと思う。

他にも進行形中二病軍団とか、必要な悪とか、いろんな案を出したが全て却下されてしまった。

何がいけなかったのだろう。

 

 

「別にわたしは中二病でも悪でもありませんし」

 

 

「心を読むな……ならどうすんだよー、決まらねーじゃんよー………って、んー?」

 

 

転移門が見える場所で相談していると、転移門が光ったタイミングで偶然そちらを振り替えると、茶色の髪に顔のそばかすがポイントになっている女性プレーヤーがいた。

 

ついガタッと音を立てて立ち上がってしまったが、すぐに冷静になり椅子に座り直し二人に断りをいれる。

 

 

「ちょっと外行って頭冷やしてくる。そしたら良い案も浮かぶかもしれない」

 

 

そう言って店を出る。

向かう先は、もちろん先程見かけた女性プレーヤーのところだ。

そのプレーヤーは辺りをキョロキョロと見渡していて、少し挙動不審であった。

誰かを探しているというより、間違って三層まで来てしまった感じがしている。

 

どうも最前線であるここに興味はあるらしく、戻るか街の中を軽く歩くかで悩んでいるようなので声をかけた。

 

 

「あのー、さっきからキョロキョロしてますけど、誰かお探しですか?」

 

 

「ひゃああ!?びっくりしたああ……ええと、誰かを探してる訳じゃないんだけど、最前線ってのがどんなのか見てみたくてね。ちょっとした好奇心ってやつよ」

 

 

どうやら間違って来たわけでもないようだった。

けっこう行動派であるらしくちょくちょく一人でフィールドに出たりもしているらしい。

まだ特定のパーティーに入ったりしていないようなので、これから立ち上げる俺のギルドに誘ってみる。

 

 

「いきなりで申し訳ないんですけど、特定のパーティーとかに入ってないなら…良かったらですけど俺が立ち上げるギルドに入ってくれないですかね?」

 

 

「え?なんでよ?どこか今の話であんたの興味を惹くようなことを言った覚えはないんだけど」

 

 

「そうですね、確かにそんなお話はしてないですけど、なんというか俺のギルドに必要な人だなって思ったんです。直感で……」

 

 

「直感ってねー……そんなんでスカウトされても他のメンバーは納得してくれないでしょ?それに私はレベルも低いし最前線で戦える人材じゃないわ」

 

 

スカウトは意外に難しいことが判明した。

なかなか色好い返事が聞けない。

それでも、どうしてもギルメンに欲しいので諦めずに説得を続ける。

 

 

「別に最前線で一緒に戦ってくれって訳じゃありません。そりゃ最低限レベルは上げてもらいますけど、基本的には自由にしてもらって構わないんです」

 

 

「なによそれ……ギルドの意味あるの?」

 

 

「通常時は拘束することは何もありませんが、ギルメンの非常時には何があっても駆けつける、そんなギルドを目指しているので」

 

 

女性プレーヤーの肩がピクッと反応する。

仲間は何があっても見捨てない方針が上手く効いたのだろうか。

そのまま押してみる。

 

 

「なので、何もないときは商売職だろうが職人だろうが、何をしてても問題ありません。ただギルメンには多少融通を利かせてもらいますけどね」

 

 

「………他のメンバーは…?」

 

 

心が動いたようだった。

内心でガッツポーズを取って話を続ける。

 

 

「攻略組のシリカと情報屋のアルゴです」

 

 

「はあああ!?なんでそんな有名人が所属するようなギルドに私が必要なわけ!?絶対いらないじゃない!!」

 

 

「必要か必要じゃないかは、俺が決めてます。俺が必要だと思ったからあなたをスカウトしたまでですよ」

 

 

そのプレーヤーは、はあああああ、と思いきり溜め息をついたあとこう言った。

 

 

「いいわ、あなたのギルドに入ってあげる。その代わりちゃんと他のメンバーの説得はちゃんとしてよね」

 

 

「ありがとうございます。ええと……」

 

 

自己紹介をしていないことに気づいて、どう呼ぼうか悩む。

俺は一方的ではあるが相手の名前を知っている。

なぜ自己紹介もしていないのに名前がわかるのか…答えはこれだ。

 

 

「ああ、そう言えば自己紹介がまだだったわね。私はリズベットよ。長いからリズで構わないわ」

 

 

そう、俺が店から見た女性プレーヤーとは、後に名鍛冶屋となるリズベットであった。

 

 

「俺はクゥドです。これから長い付き合いになるのでよろしくお願いします」

 

 

握手を交わしたところで悪寒が背筋を駆け巡る。

その悪寒をした方を振り向いて見ると、店の中からシリカがこちらを見ていた。

 

同じテーブルに座っているアルゴは爆笑している。

放置していた時間やその他もろもろ、全部シリカとアルゴにやってしまったことは同じなのに、どうしてあの二人に差あんなにもがあるのか。

 

それを見ていたリズが呟くように言った。

 

 

「あはは、あの子を説得するのは大変そうね、頑張ってよ、リーダー」

 

 

俺は呻くように、わかりました…と答えるのが精一杯であった。

 

 

店に戻ってテーブルに付いた後の第一声は物凄く冷えていた。

 

 

「そちらの方はどなたですか?頭冷やしてくるって言って出て行ったのに、他の女性プレーヤーをナンパですか?まだまだ決まってないことはたくさんあるのに随分と余裕ですね?ああ、成る程、全部決まったからナンパしてきたんですね。それならそうと言ってくれれば良いじゃないですか。別にリーダーはクゥドさんですし文句は言いませんよ?さあ、胸を張って発表してください。まさか決まってない、なんてことはないですよね?だってナンパしたプレーヤーをここに連れてくるくらいの余裕があるんですからね。さあ、どうぞ?でも……下らないことを言ったらどうなっても知りませんからね?」

 

 

テーブルの温度の差が激しすぎた。

シリカは言葉を捲し立てるように早口で話す。

その隣ではアルゴがニャハハハと爆笑しているだけ。

アルゴの向かいに座るリズは、早まったか…なんて表情をして顔を青くしている。

そして俺はというと、もう本当に土下座でもなんでもしてただスカウト(シリカから見たらナンパ)してただけです、ごめんなさい。と言うべきか悩んでいた。

 

今のシリカは怖すぎる。

声は穏やかなのに顔が全く笑っていない。

ここで、正直に話す…というギャンブルをしていいのだろうか…

適当にこの場を誤魔化してしまえないだろうか。

 

いや、俺の力では今のシリカに太刀打ち出来るような立派な案を出せない。

 

しかも下手な案だと何をされるかわかったもんじゃない。

ここは腹をくくるしかない…

 

俺はフロアボスに一人で挑んでるような威圧感を受けながら、ここまでの流れを話し始めた。

 

 

「ふ……二人とも…実はだな」

 

 

そう切り出してこれまでの経緯を事細かに話す。

それはもうシリカの逆鱗に触れないように、慎重に、慎重にだ。

全てを説明し終わったあとシリカの反応を伺う。

 

 

「ええっと…こんな感じです」

 

 

つい怖くて敬語になってしまっていた。

シリカの冷ややかな視線が恐ろしい。

すると、シリカは肩の力を抜いたあとにこう続けた。

 

 

「今回はまあメンバーを集めるためということで納得してあげます。これからはメンバーを増やすにしても私達にも一言お願いします。知らないうちに増えてても対応ができなくなるだけですからね?わかりましたか?」

 

 

俺は小さく頷くことしか出来なかった。

どこに言っても男は弱いということだろうか、いや今回は確実に俺が悪いので関係はないのかな。

 

 

「さて、それじゃ簡単な自己紹介としてレベルと主要武器を聞きたい。それでこれからの方針を決めたいと思う」

 

 

ということでまずはリーダーとなっている俺から始める。

 

 

「俺の名前はクゥド。ギルド(名前はまだ決まっていない)のリーダーをやることになっている。主要武器は片手剣でレベルは17だ」

 

 

「わたしはシリカと言います。ギルドでは副リーダーを勤める予定です。主要武器は短剣でレベルは15です、多分あとちょっとで16になると思います」

 

 

「ン?オネーサンの番カ。情報屋のアルゴだ。武器はそうだナ……情報と足ダ。レベルは……お前らギルメンにならいいカ、ちょうど13になったところダ」

 

 

「最後は私ね。初めまして、リズベットよ。長いからリズでいいわ。主要武器はメイスかしら、レベルはまだ8よ。これからよろしくね」

 

 

個人の自己紹介が終わり、アルゴにここで出た情報はあまり出さないように約束させる。

最初は渋っていたが必殺、キリトのマル秘情報をプレゼントしたら快く承諾してくれた。

 

すまんな、キリよ。

この情報が出たところで奴が恥ずかしがり、悶える姿が見えるだけなので、SAOをプレイするうえでは問題ない。

 

という訳でギルド名を決める会議を続ける。

 

 

「さて、一段落したところでギルドの名前を募集しまっす!!いい案がある方は挙手!!」

 

 

「いやいやいや、まだそこすら決まってないわけ?」

 

 

俺が言った途端リズに突っ込まれる。

 

 

「二人してケチつけるから決まらないんですよ」

 

 

「クゥドさんのネーミングセンスがなさすぎるので決まらないんですよ」

 

 

「ネーミングセンスがないって例えばどんなのよ?」

 

 

「チーム動物園に必要な悪、進行形中二病軍団などです」

 

 

「あちゃー、そりゃ確かにダメだわ」

 

 

リズにすらセンスがないと判断されてしまった。

そらなら他で決めればいいのに、こういうのはリーダーが決めるべきだと譲らないので会議が長引いている。

 

 

「攻略組に名前を連ねることになるギルドになるんだから、後ろ向きな名前は良くないわね」

 

 

リズが思案顔で言った。

凄く真剣に考えてくれているようで感動してしまった。

 

 

「そしたらこれから犠牲者を無くす、負けを無くす、という意味でゼロ。後ろにそれらしく騎士団とかつければいいんじゃない?」

 

 

「それちょっとカッコいいかも!!」

 

 

シリカがリズの提案したギルド名に賛成の票を投じる。

 

 

「オネーサンはなんでもいいゾ?クゥ坊の考えたやつ以外ならな」

 

 

だってら俺のでもいいじゃないか、と言おうとしたら先を越されてしまった。

賛成が三票入った時点で決定となり、ここに俺がリーダー(団なのでここからは団長)を勤めるギルド発足した。

 

 

ギルド名ゼロの騎士団

団長クゥド

副団長シリカ

構成員アルゴ、リズベット

 

 

ギルド名が決まったあと、急いでギルドクエストをクリアし、ここにゼロの騎士団の結成となった。

 

 

 






なんでリズかって?
俺はSAOのヒロインでリズが一番好きなんだ。


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17!!

今回、多少の独自解釈が含まれております。

ご注意ください。


二〇二三年の二月、デスゲームが開始してから約五ヶ月がたっていた。

 

今の最前線は十六層となっており、日夜攻略のためにレベルを上げていく日々が続いていた。

 

ゼロの騎士団のメンバーは結成当初から一人増えて五人となっている。

そう、キリトを説得してメンバーに入れたのだ。

 

非常時の際に、きちんと駆けつけてくれれば他は自由にしていいのと、アルゴの情報がいち早く入るという事が決め手になったらしく加入するに至った。

 

ホームは十二層の主街区の一角を四人でコルを出し合って購入。

けっこう穴場的なところであったので満場一致で即決となった。

 

 

現在はシリカがリズのレベリングを協力しており、俺はホームでお留守番、アルゴはいつも通りに情報収集を行っている。

 

レベルの方も少数ギルドではかなり高く、平均値で三十を越えたあたりである。

 

内約としては俺が34、シリカが32、アルゴが31、リズが27となって、ギルメン非常時には、ここにキリトの34が加わることになる。

 

ちょうど昼時なのでそろそろみんな帰ってくる頃だ。

すると予想通りレベリングに行っていた二人が帰ってきた、ただし意外なものを連れてだったが。

 

 

「クゥさん!!クゥさん!!見てください!!フェザーリドラをテイムしちゃいました!!」

 

 

この五ヶ月の間でシリカもかなり打ち解けてきて呼び方が変わった。

俺の方もリズとアルゴ、二人の歳上への敬語が外せるようになった。

二人はギルドの団長なんだからそれでいい、というかゲームで敬語を使っていると気持ち悪いと言われてしまった。

結果、ギルメンには敬語は使わなくなり自然体でいるようになった。

 

 

「この子ったら凄いのよ、寄ってきたフェザーリドラにレベリング行く前に買ったナッツをあげたら、テイムしちゃうんだもの」

 

 

「いやいやいや、二人はどこにレベリング行ってたのさ」

 

 

「十三層ね」

 

 

確か十三層にフェザーリドラはMobとして出ないはずである。

それを言うと話はこれからだという風にやれやれといった表情で続けた。

 

 

「で、問題はそのあとよ。私の武器の素材を集めに六層へ降りたわけ。そこが一番POPするからね。そんで森を少し入ったらこのフェザーリドラがいたわけよ。そっからはさっき言った通りね」

 

 

そんな偶然があるのだろうか。

もしくは原作の強制力というやつなのか。

例えシリカは攻略組にいようとフェザーリドラのピナを、テイムすることは決まっていたのだろうか。

 

そうなってくると、俺が考えている月夜の黒猫団の救済方法は確実に使えないことになる。

そうなった場合は少々やっかいだ。

だが手がないわけではないので今は置いておく。

 

 

「あの、このフェザーリドラ飼っちゃダメですか?」

 

 

いきなり何を言い出すのか、テイムしたのはシリカなのだから好きにすればいい。と言いかけたところで、ハッとなり、思いついた言葉を並べる。

 

 

「いいや、ダメだ。うちはフェザーリドラは禁止です」

 

 

「ええー!!ちゃんと御飯もあげるし毎日お散歩にも連れてくから!!飼っていいですよね?」

 

 

「どうせすぐに俺任せになって面倒も見なくなるんだから、もといたところに戻してきなさい」

 

 

「あんたらはペットの事で揉める親子か」

 

 

リズから突っ込みが入り、俺とシリカは言い合いを止める。

実際、テイムしたのはシリカなのでわざわざ俺の許可を取る必要はないのだが、どうやらシリカもこのやり取りがしたかったらしく、満足そうな表情をしていた。

 

名前はすでに決まっているようでピナと呼んでいた。

家で飼っていた猫の名前をつけたそうで本人は大変喜んでいるが、フェザーリドラ…いわゆる竜種に猫の名前をつけるのはどうなのだろうと思ったのは俺だけではないと信じたい。

 

しばらくするとアルゴも情報収集から帰ってきた。

アルゴはいつも通りこの情報はいくらで売れるか考え込んでいたが、それはストップさせていただいた。

 

これがバレたら(いずれはバレる。早いか遅いかの違い)ここにはしばらく帰ってこれなくなる。

恐らくだがテイム方法を聞きに来るプレーヤーが溢れてしまうだろう。

 

なので俺はもう少し上の層に行って、仮のギルドホームを買ってからにしようと提案した。

 

ここは全員が気に入ってるところなので反対意見は出なかった。

別のギルドホームを買うまでは、アルゴも黙っていてくれることを約束してくれたのでそこは安心している。

アルゴの意外な点は身内にはけっこう融通が効くところである。

 

これにはけっこう助けられていて、いまだ俺たちギルメンの情報は売っていないそうだ。

証拠(?)に今まで他のプレーヤーにとやかく言われたりしないで前線でやってこれているので本当だと思っている。

 

ちなみにここを買ってからは、ギルメンは全員ここに住んでいる。

 

そのおかげか、ハーレムっぽいことになってはいるが、そんなことはない。

 

アルゴはキリトにお熱のようだし、リズ、シリカ共にそれらしい挙動を見せないのでそれはないと言える。

 

前にその話題になったときにアルゴは堂々と宣言していたし、リズに至ってはそんなことを気にする余裕もないらしい。

俺たちのレベルに追いすがるので精一杯だそうだ。

 

シリカには聞くまでもなく、小学生のうちから恋愛なんて個人的には難しいと思っている。

 

なぜかそう言ったらシリカが拗ねたような顔をしていたが、多分見栄を張っているようなものだと解釈した。

 

すると、アルゴがいつもの報告を開始する。

 

 

「今の攻略ペースだと、上手くいけばあと五日程でボスの部屋にたどり着けるナ。迷宮区もすでに半分以上マッピングされていル、まあほとんどキー坊の働きのおかげだがナ」

 

 

「確かに今回は俺もシリカもあまり籠らなかったからな。今から合流して少しでも役に立ちに行くか?」

 

 

「ちょっと待った!!そしたら私のレベリングはどうなるわけさ?」

 

 

「だってもうリズも27だろ?だったらマージンは十分だしトドメは譲るから経験値もリズに入る。何の問題もない」

 

 

「そういう事が言いたいんじゃなくて、心構えが出来てないっての!!今から最前線の迷宮区に行くぞって言われてはい、そうですか。とはいかないの!!」

 

リズは聞き分けのない子供に言い聞かせるようにして、どうにか自分は迷宮区に行かなくて済むようにしたいようだった。

 

無理矢理連れて行っても、うちのギルドの初期からの決まりを破ることになるので、今回は引くことにした。

簡単に引くとリズは納得出来ないような表情をするが、これもご愛敬というやつである。

 

ということで、今回もシリカと二人で迷宮区の残りをマッピングするために行動を開始する。

 

今まで通りコンビネーションを軸に、次々とMobを片付けていく。

 

特に問題はなく奥に進んで行くと、見知った顔に出会った。

 

 

「あれ?そこにいるのはアスナさん?」

 

 

「え?ってシリカちゃんにクゥド君じゃない!!久しぶりね、この層の迷宮区じゃ初めて会うわね」

 

 

「そうですね、あまり日にちは経ってないのに久しぶりに感じます。今回もソロで活動ですか?」

 

 

俺の意味深な発言に少し呆れた表情をする。

 

 

「クゥド君、あなた私とキリト君をセットで考えてない?」

 

 

「そんなことありませんよ?」

 

 

すみません、セットで考えています。

 

 

「まあ、別にそれは良いのだけど…シリカちゃんの肩に停まってるの、それフェザーリドラよね?どうしたの?」

 

 

話しますか?というような視線をこちらに向けてきたので、アスナなら不用意に口外しないだろうと俺は判断しオーケーサインを出す。

するとシリカは興奮したように、今日の出来事を話した。

 

 

「実は今日、六層でテイムしたんです!!」

 

 

アスナの表情が驚きに染まった。

それはそうだろう。竜種をテイムしたとなれば、確実に心強い。

テイム方法がわかっていれば教えるのも吝かではないが、いかんせん不透明なことが多すぎるので、ということを正直に話すと納得してくれた。

 

 

レベル30オーバー(ちなみにアスナは30フラットらしい)が三人もいれば、話しながらでもこの層のMobは問題なく対処できたためそのまま会話を続ける。

しばらくそうしていると、上に続く階段を発見しそれを登る。

 

どうやらマップを見る限り俺たちが最初らしく、キリトは別のところをうろついているようだった。

 

今回はこの階のマッピングが全て終了したところでアスナと別れギルドホームへと帰る。

夕食時にアルゴへデータを渡し、そのあとはそれぞれの目的のために動く。

 

アルゴはいつも通り情報収集なのだが、シリカとリズは違った。

俺に話しかけ今日全く出番のなかったピナの力を試したいとのことで、急遽今より下層の十層まで降りた。

 

リズはそれのついでに、自分のレベリングもするとのことで着いてきた。

 

一言で言うならピナは非常に優秀であった。

逐一シリカの言葉がなくても思った通りに動いてくれ、ブレスや回復などもこなした。

 

どうやらテイムモンスターもレベルが上がるらしく、しばらくはピナとリズのレベリングを手伝った。

 

夜も遅くなりそこそこ効率的に狩れ、満足したところでホームに帰るとすでにアルゴは本日最後の情報収集終えてい就寝準備をしていた。

 

 

他のメンバーも汗を流し、就寝準備を終える。

ちなみにキリトみたいに補正はないので、ラッキースケベなど起こらなかったのは言うまでもない。

 

 

アルゴの予想通り、その日の五日後にボス部屋が発見された。

ゼロの騎士団からは俺とシリカのみの参加となる。

全員レベルは問題ないがアルゴは情報屋の本分があり、リズは参加したいらしいが気持ちに踏ん切りがつかないそうだ。

 

迷宮区を上がり、すでにほぼ同じ面子となりつつある攻略組を見渡す。

その中には当然キリトとアスナもおり、それぞれ緊張の面持ちでレイドリーダーの話を聞いている。

 

キリトはいつも通り冷静にボスに対応していた。

攻撃がくる瞬間を見極め、隊のメンバーに指示を出す。

同じ隊のプレーヤーはそれを忠実に聞き、言葉通り実行する。

 

この層でも犠牲者を出さないでボスを倒し、キリトはいち早く、しかし無理はせずに次の層へ登っていった。

 

後で本人から聞いたのだが、この層のLAボーナスもキリトがゲットしたらしい。

 

それがなんだったのかは結局教えてはくれなかった。

 

 

 

 

 





お分かりでしょうか?
今回の独自解釈とは、シリカがピナをテイムした場所となっております。

原作シリカのホームが八層で、なんとなく降り立った層でテイムした、とありました。
もし、八層でテイムしたのならこういう言い方はしないんじゃないかと思ったのです。

そしてなぜ六層にしたかと言いますと、原作シリカはピナをテイムするまで頼れる人もおらず、ずっと一人で怯えていたとありました。
そうするとなんとなく、なんて理由で自分がホームにしている層より上に行くのかな?と思い、こうした次第でございます。

納得いかない方もいらっしゃると思いますがご了承ください。


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18!!

さっちゃん助けるお



ある日突然キリトからメッセが入り、ギルドを抜けたいという申し出があった。

 

一応理由は聞いたのだか教えてはくれなかった。

そして自分のウィンドウについている時計見て悟った。

本日は二〇二三年の四月八日…今は夜となっている。

 

 

ついにこの日がきた。

俺が救済する方法として、まずキリトを月夜の黒猫団と関わらせない、というのは失敗したらしい。

 

今、最前線は二十六層、迷宮区には到達したばかりであった。

アルゴからの情報でキリトが少し不安定と聞いていたし、時期もそろそろだとわかっていたので驚きはない。

 

キリトの脱退を認めるメッセを送る。

それには反対するものもいたが、なんとか納得させた。

 

この頃にはリズのレベルも俺たちと変わらぬ程になり、ちょくちょく攻略組にも参加するようになった。

 

本業にする予定の鍛冶屋は、まだスキルを上げてる最中ということで本格的にはスタートしていない。

 

それでもスキル上げに協力するため、俺とシリカの武器のメンテナンスなどは、リズに全て任せている。

 

本格的に鍛冶屋をスタートさせたら、攻略組からは外れると本人からも伝えられている。

 

リズが俺たちに追い付いたことにより、ギルドメンバーの全員が、最前線でしかもソロで戦えるほどの実力を持っているので、このゼロの騎士団の名前が有名になるのに、そう時間はかからなかった。

 

キリトが抜けても四人の平均レベルは40を超え、リズとシリカは敵のスキルを自身のスキルで相殺することもできるようになっている。

 

俺が教えたことを、スポンジのように吸収し、すぐに自分のものにしていった。

 

もちろん、うちのギルドはコンビネーション主体のチームなので、単独行動をしているのは情報屋のアルゴと、キリトだけであった。

 

そして、リズの直感はなぜかよく当たる。

例えば迷宮区に空けられていない宝箱があり、それを空けようとして止められたことがある。

直感、なんとなく止めた方がいいと思ったらしい。

イマイチ信じられなかったが言う通りにした。

するとその宝箱を他の攻略組のプレーヤーが開けたら、トラップが発動。

リズの直感に助けられたというわけである。

そんなようなことが多々あれば、さすがに信じざるを得ない。

そして今回もそのよくわからない直感が働いたらしい。

俺に一つの提案をしてきた。

 

 

「なーんかこれからキリトに良くないことが起こりそうな気がするのよねー。しばらく……というかキリトが前線に復帰するまで私たちも離れない?」

 

 

「さすがにそれは不味い。今すぐって訳じゃないならダメだな。攻略組に名を連ねているプレーヤーが、一度に四人も抜ける影響は計り知れない」

 

 

「でもでも、クゥさんはキリトさんが心配じゃないんですか?」

 

 

「リズの直感がそこだっていう時に、キリのところに行けばいいだろ?」

 

 

俺がそう言うと、リズはそれもそうね、と納得して引き下がった。

そのかわり、ここだという時には攻略から抜けてキリトの元へ駆けつけるということになった。

 

 

そんなやり取りから、すでに一ヶ月以上がたった。

 

まだキリトは攻略組には帰ってきていない。

すでに二十八層まで来たのだが、ボス戦にすら参加をしていないキリトを心配する声はかなりあった。

 

アスナやエギル、この世界でキリトの初めての友人であるクライン、そのギルドメンバーである風林火山のプレーヤーたち。

などなど挙げればキリがない。

 

中にはキリトの情報をアルゴから買おうとするプレーヤーもいたが、そちらの方は俺が言うまでもなく売らなかったらしい。

今回は、ギルド内での問題だからギルド内で解決する、の一点張りでかわし続けたようだった。

 

キリトが名前だけとは言え、ゼロの騎士団に名を連ねていることも攻略組からは知られているので、それを逆手に取ったかわし方だ。

 

 

「それで?姐さんなら知ってるんだろ?」

 

 

「当たり前ダロ?オネーサンに入手出来ない情報はないからナ。今、キー坊は何を思ってか二十三層付近をメインに活動している月夜の黒猫団というギルドに所属しているゾ」

 

 

「どうしてキリトさんは最前線のゼロの騎士団を抜けて、わざわざ下層のギルドに入ったんでしょうか」

 

 

こうしてアルゴから確実性のある情報を聞くと少し緊張が走る。

 

キリトが月夜の黒猫団に加入するのは、避けられないものだった。

アルゴが情報屋になったように、シリカがテイマーになったように、である。

 

これは元から変えられないシナリオであったようだった。

 

 

「リズ、直感の方は?」

 

 

まだ時期ではないことを知りながらもあえて聞く。

俺という原作にはない不確定要素があることで、ズレが発生するかもしれないので念には念を入れたい。

 

 

「うん、まだ大丈夫みたい。でも先月よりは近づいてきてるからそろそろかも」

 

 

こちらとしては、何がなんだかさっぱりだが、リズがこう言うのだからまだ大丈夫なのだろう。

 

その時がくるまでは、大人しく攻略を続ける。

 

 

そこからさらに一ヶ月近くが経過した。

キリトは約二ヶ月間、ついに一度も攻略組の方には顔を出さなかった。

 

少し前からキリトは死んだんじゃないか、何か問題を起こして地下牢送りにされたんじゃないか、などの噂が飛び交っている。

 

しかしそれはキリトをよく知らないプレーヤーたちが言っているだけ。

 

クラインなんかは、前にフィールドで会ったらしい。

それを聞いたアスナたちは夜にそこら辺のフィールドに出たりしてるらしいが、結局一度も会えていないという。

 

そしてついに六月もついに十日、ギルメンを集め交渉を始める。

内容はキリトのことなので、反対意見なんぞ出るわけがないのだが、形としてやっておく。

 

 

「さて、そろそろきたらしい……」

 

 

昨日リズからそういう話を聞かされた。

ギルメンの三人を見る。何が言いたいかはわかっているようだ。

 

 

「OK、何も言わないっつーことは反対はなしだな?よし、行くぞ」

 

 

そう言って、俺は軽く三人に視線で促し、ギルドホームから出る。

 

向かう先は二十七層。

トラップのレベルが一段上がり、各人ソロで攻略できる俺たちも、最初は警戒し、宝箱がある場所や他の怪しいところなどは、絶対に一人では行かないようにしていた。

 

そして、二十七層の主街区へと到着した俺たちは、とりあえず宿を確保し、キリトたちを探すが見つからない。

 

どこかの迷宮区にでもいるのだろうか。

と、そこで思い出す。

今はキリトはパーティーでもギルメンでもないので、居場所を確認できないのだった。

 

 

 

 

アルゴがいるにも関わらず、なぜかキリトたちを見つけられないまま二日がたった。

六月十二日になりいよいよ焦り始める。

しかし、ここでアルゴからメッセーが届いた。

 

 

「今からここの迷宮区に潜る。迷宮区を張っていた姐さんからの情報だと、黒猫団はここ、二十七層の迷宮区に入ったらしい」

 

 

「確か黒猫団ってずっとミドルゾーンにいたわけよね?どうして急に?」

 

 

「ここの迷宮区は知っての通り稼ぎがいい。しかもレベル的には安全圏らしい」

 

 

ちなみにアルゴの情報は、必ず俺を通してからシリカとリズに報告される。

今回もそれは守られ、俺が黒猫団のレベルを知っているのも、それが原因だと二人は思っている。

 

 

「だがここからトラップの難易度も上がるし、おかしい量のトラップが設置されている。しかも中にはえげつないものもある。それを引いた場合キリだけじゃカバーしきれない……最悪キリですら死ぬかもしれない」

 

 

「だったら早く追いかけましょう!!もしかしたら今にもそのトラップにかかりそうかもしれないんですから!!」

 

 

「だから、迷宮区に潜ると言ったんだ。リズはどうする?」

 

 

「行くに決まってんでしょ?」

 

 

「なら、決定だな。急ぐぞ」

 

 

こうして、俺たちは一番遅いリズに合わせ、迷宮区へと入る。

一階からくまなく探し回ると、黒猫団の四人とキリトを発見した。

 

今のところは問題がないようなので、後ろから気づかれないようにつける。

そのまま何も起こらず帰ってくれ、と願う。

 

しばらく様子を伺っていると、何階か降りたところで一番前を歩いていたシーフの男が、隠し扉を見つけそれを開ける。

ここだと思い二人にサインを出し、一人先に飛び出す。

 

するとシーフの男が宝箱を開ける直前だった。

俺はなるべく嫌味にならないように声をかける。

 

 

「すみません」

 

 

その場にいた黒猫団のメンバー全員がビクッと反応した。

キリトは表情を驚愕の色に染めて俺を、俺たちを見ていた。

なぜ、ここに?と聞きたいような顔をしていたが、目で黙らせる。

キリトが黙ったのを確認すると、呆然としているシーフに話かける。

 

 

「いきなりすみません、ビックリしましたよね…ただその宝箱…開けない方がいいですよ?多分トラップの可能性が高いです」

 

 

「なんでわかるんだ?」

 

 

シーフに聞かれたので、そのまま答える。

 

 

「それは俺たちがすでにここの迷宮区をクリアしている……だけじゃダメですかね?」

 

 

「へえ、ってことは攻略組か……もしかして自分たちが発見出来なかったから、横取りしようとしてんな?」

 

 

少し意地悪そうに、それでも嫌味には映らない、友達同士で見せるようなからかいが入ってる笑顔で言う。

それをシリカが否定する。

 

 

「違います!!確かにそれは私たちは見つけられなかった物ですけど、ここはトラップの多発エリアで無防備に宝箱を開けるのは危険なんですっ」

 

 

「この人たちの言う通りかもしれない……だから開けるのはやめないか?」

 

 

シリカの言葉にキリトが便乗し、キリトのそばにいる女の子、サチもしきりに頷いていた。

しかしシーフや他の二人は笑ってこう言う。

 

 

「大丈夫だって。キリトもサチもビビってんのか?」

 

 

「攻略組すら発見出来なかった宝箱だぞ!?きっとすげーアイテムが入ってんだって!!」

 

 

「よっし、んじゃ開けますか!!」

 

 

また、宝箱を開けようとしたシーフを、今度は本気で止めようと俺とリズが声を上げた。

 

 

「やめろおおおおお!!」

 

 

「開けちゃダメえええええ!!」

 

 

もう俺とリズの声には、振り返る事もせずに宝箱に手をかけ、それを開けた。

 

すると一面青かった部屋が、赤色へと変わり、防犯ブザーのような音が部屋中に鳴り響く。

 

 

ビ―――――――――――

 

 

音と同時に入り口が閉まり、別の扉が開く。

その扉は三つあり、そこからモンスターが雪崩れ込んできた。

一応転移クリスタルを試すが、やはり無効エリアであった。

しかもあり得ない……数が多すぎる。

どうやらこの部屋は原作と違い、トラップにかかった人数によって、最初に出てくるモンスターの数が変わるようであった。

最前線で幾度となく戦ってきたシリカやリズ、キリトでさえ軽度のパニックに陥る。

それは無理もないことであった。

こうなる事を予測していた俺でさえ、このモンスターの多さに冷静さを欠いていた。

それでも何とかするために、心を落ち着かせすぐに二人へと指示を飛ばす。

 

 

「くそっ……パニクるな!!リズは左!!シリカは右の扉だ!!そこから出るモンスターを中心に対処しろ!!俺は真ん中を抑える!!」

 

 

「「………っ、了解!!」」

 

 

俺たちはモンスターを切り捨てながら、少しずつ進む。

 

 

「前の三人!!しゃがめ!!」

 

 

俺の声に驚き、どうするか悩んでいたが、自分たちでは対処できないようで、俺の指示に従いそこで伏せた。

 

 

「いいか!!多少攻撃は喰らうが死にはしない!!そのまま伏せてろ!!シリカ!!ピナのブレスで三人の辺りを焼き尽くせ!!」

 

 

「はっ、はい!!ピナ、お願い!!」

 

 

すると、ピナの口からその姿からは想像できないような強力なブレスが炸裂する。

 

三人の周辺にいたモンスターは、倒せはしないもののほとんどが、HPゲージがレッドゾーンへと突入していた。

 

 

「よし!!三人とも立て!!HPは問題ないな!?」

 

 

三人が頷くのを見て、さらに指示を出す。

 

 

「今のMobのHPなら、スキルも使わず、ただ殴るだけでほとんどが倒せる!!そのままキリトというプレーヤーの周りに固まれ!!」

 

 

指示を出しながらも、俺たちは扉から、次から次へと出てくるモンスターの対応に追われている。

これの解決法はトラップそのもの、すなわち宝箱を破壊してしまえば、扉は閉まりモンスターは出てこなくなる。

そしてこの対応はキリトたちに投げる。

 

 

「よし!!五人固まったな!?そしたら五角形になれ!!頂点をキリト君として、宝箱へ向かって壊してくれ!!それさえ壊せば扉は閉まり、モンスターも出なくなる!!」

 

 

指示を出すと、それに従い五角形になって宝箱の方へ進んでいた。

Mobを相手にしながら横目でそれを確認する。

俺は二人に指示を出し、それぞれモンスターをスタンさせるスキルを発動させた。

 

モンスターの間を縫うように進み二人と合流、ここで個人の無双は終わり、本来のコンビネーション中心の戦い方に切り替える。

 

三人で背中合わせになり、死角が出来ないように構える。

Mobたちが多方向から攻撃を繰り出すが、それを上手くいなし懐が空いたところにスキルを叩き込む。

 

その同じような作業を五分ほど続けたところで、宝箱がある方向から何かが壊れるような音が響き、次いで耳障りなアラームが音を潜め、開いていた三つの扉が閉まる。

 

だが、扉が閉まっただけで開くことはなかった。

どうやら出てきたMobたちを全て倒すまでは、脱出は出来ないようだった。

 

しかしモンスターが出てこなくなってからは、黒猫団も冷静さを取り戻し、事に当たる。

 

そして、全てのモンスターを倒し終わった頃には、黒猫団はキリトを除く全員が疲弊しきった様子だった。

HPもイエローゾーンを下回っており、あと少しでレッドゾーンの危険域へ入るところで、ギリギリもいいところ。

 

これで最大の目標を達成した俺は安心して扉が開くのを待っていた。

 

 

 

 

 

 



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19!!

あれで終わるわけがない。

にしても戦闘描写がどうしようもなく書けない…


いつまでたっても扉が開かない。

不思議に思い動き出そうとしたところで、扉の開く音がした。

 

不安そうにしていた黒猫団のメンバーも、思わず笑顔になり回復をするのも忘れ、我先にと扉の方へ駆け出す。

 

それをキリトとサチが苦笑し

ながら見ていると、突然横からリズが叫んだ。

 

 

「あっ……そこはダメ!!」

 

 

何かと思い叫んだリズを見ると、何かが物凄いスピードで飛んできた。

 

その後に遅れてザザーと何かが滑るような音と、ドンッという壁にぶつかる音が聞こえた。

 

そちらの方向へ視線をやると、先程駆け出した三人のうちの一人、シーフの格好をした男が倒れていた。

 

みるみるHPゲージが減っていき、それがやがてレッドゾーンへ突入、ついにはゼロになりその体を青いガラスへと変えて散っていった。

 

その場にいる全員が、扉の方へ向き直る。

扉から慌てたように残った二人が飛び出してきた……と思ったが槍を使っていた男が後ろから攻撃を受けた。

 

その男は徐々にHPバーを減らしていき、最終的にはそれをなくした。

 

扉の奥からは、背丈がおよそ三メートル程度のモンスターが出てきた。

斧を片手に一本ずつ持っており、その姿は人間の体に獅子の頭というもの。さながらソロモン72柱の一角、プルソンのような見た目であった。

 

違うところと言えば、手に持っているものだろうか?

しかしそれでも全体から醸し出す威圧感は半端なものではない。

 

この迷宮区の隠しボスといったところなのだろう。

クリアには支障はなく、しかし倒せば相応の経験値が入り、特別なアイテムもドロップする。

だが、こういう隠しボスは大抵の場合バグレベルで強い。

この層をクリアできる程度のレベルのプレーヤーが六人では、歯が立たない可能性がある。

しかもそのうちの二人は先の攻撃で怯んでおり、なおかつHPも危険域に近いイエローゾーンとなっており、正直戦力としては数えられない。

 

それでも、負ける気はない。

こちらも最前線で気張っているプレーヤーが、四人もいるのだ。

ここは二十七層で、最前線から三層しか変わらないが、四人全員がその最前線をソロで攻略出来るレベルにある。

 

そしてキリトが夜中にレベリングが出来ない間も、俺たちは最前線でモンスターと戦い続けてきた。

この二ヶ月黒猫団に合わせていたキリトとは、確実にレベルも二つか三つの差がついているはずである。

 

それにしてもこのモンスター、攻撃をしてこない。

意外と紳士なのだろうか。もしくはこちらから攻撃を仕掛けない限り、攻撃はしてこないとか。

どちらにしろこいつを倒さないと出口は開かないみたいなので、結局は戦闘になるのだが、とりあえず、これ幸いと作戦会議を敵の前で行う。

 

あくまで他人の振りを貫くキリトを含む、黒猫団三人を呼ぶ。

敵にちょいタイムな、と声をかけておく。

言葉がわかるとは思っていないが、僅かに頷くような仕草をしたような気がした。

 

 

「さて、敵さんもなぜか待っててくれているようなので、作戦会議を始めます。俺が考えた方針としては、壁役として俺とキリで勤めて、攻撃役はリズとシリカでいこうと思います。それで何か意見のある方は挙手をお願いします。ちなみに暫定として、パーティのリーダーは俺が適任なので俺がやらせていただきます」

 

 

こうなってしまえば、俺たちがキリトと知り合いということを隠し切ることは難しいので、いつもの呼び名に戻す。

 

 

「ええっと……俺たちはどうすればいいのかな…?」

 

 

それを気にしながらも、挙手をしながら発言をしたのは、メイスを使う男性プレーヤーだった。

それに冷静な声で、ゲームのプレーヤーとしては受け入れたくないだろう答えを返す。

 

 

「お二人は正直戦力に数えられないので、なるべく攻撃が届かないところで待機しつつ、Mobが出てきたらそれの対処を。さすがに敵さんも回復はさせてくれないでしょうしね」

 

 

若干だがそのメイサー、テツオが悔しそうな顔をしたが、この面子の中では弱いと感じているのだろう、そのまま何も言わずに引き下がる。

 

次に挙手をしたのは、キリトであった。その発言に耳を貸す。

 

 

「俺は壁役なんかほとんど経験ないんだが……」

 

 

「それは俺も一緒だ。それでも技量的にはこれが適任だろ?シリカにはピナもいるから後方支援も出来るし、リズに至ってはまだまだ危なっかしいからな」

 

 

そうか、と一言だけ吐く。

リズは、別に危なっかしくないわよ!!、と抗議をするが華麗なるスルースキルを発動。

 

すると次におずおずといった感じで挙手したのは、サチであった。

 

 

「……どうしてキリトがあなたたちと一緒に行くのかな?それにあなたの……キリトの呼び名……凄く親しい感じがする。それはどうして?」

 

 

キリトが焦る。

俺はキリトの肩に、もういいよな、という意味で手を置く。

キリトは何も言わない。それを了承とし、俺たちの関係を話す。

 

 

「俺たち三人はギルド、ゼロの騎士団のメンバーです。メンバーは全員で五人という少数精鋭の最前線ギルドでした。ですが約二ヶ月前、一人がギルドから抜けました。そして別のギルドへ加入したんです」

 

 

ここまで言えば、なんとなく黒猫団の二人も想像できたのだろう、驚愕の表情でキリトを見る。

 

 

「そいつが加入したギルドの名前は……月夜の黒猫団、つまりキリトは元々攻略組の人間だったんです。でも勘違いしないでほしいのは、黒猫団のみなさんを騙すとかそういうのじゃなかったんです。収まらないものもあるでしょうが、今は流してくれませんか?ここを生き残るために」

 

 

恐らくサチは知っていたのだろう、驚きは少ないようであった。

しかしメイサーのテツオはさらに驚愕し、いろいろ言いたい事があったようだが、そんな場合じゃない、と思い直したのか素直に頷く。

 

 

「では、手筈通りに。スイッチのタイミングは俺が出す。キリは二人との連係なんてやったことなかっただろ?」

 

 

素直に頷くキリト。

ここまで俺主体で挑むのは始めてだが、そんなことも言ってられない。

 

 

「それでは各々HPには気をつけていきましょう。さて、大変お待たせ致しました」

 

 

そう言って敵の方に向き直る。

こちらが武器を構えると、ボスの方も斧を構える。

 

キリトと二人、並んで飛び出す。

それに合わせボスが斧を降り下ろすが、それを左右へかわし側面へ。

パワータイプの武器を持っているので、動きは遅いと踏んでいたがそれは外れる。

 

すぐに斧を持ち上げると、片方ずつ俺とキリトへ両腕を広げるように降り下ろした。

 

 

「くううう…っ……いけっ!!」

 

 

俺の言葉を聞く前に、二人は敵へそれぞれのスキルを叩き込む。

 

さらに敵が怯み、斧で押さえつける力が弱くなったところで、それをかち上げ、横からキリトとタイミングを合わせ、スキルを発動させる。

 

それが上手く決まり、敵はたたらを踏む。

そこで追撃をかけようとしたところで、ボスはたたらを踏んだ最後の一歩を軸にし、斧を持った両腕を広げ、回転。

 

俺たちは一気に壁際まで吹き飛ばされる。

横目でHPを確認。全員思ったよりも減っていない。

全方位攻撃だったので、威力が弱いと判断した。

 

敵が大きく口を開き、そこから炎のブレスを吐いてくる。

こちらはピナのブレスで相殺……はできず、しかし勢いは殺せたので悠々とかわす。

 

避けた勢いで攻撃を出す。

左、右、下、上、と休むことなく続ける。

その横からキリトがスキルでアタックしたのを合図とし、リズとスイッチ。

キリトに意識を割いたボスにリズのスキルが当たる。

 

すぐさまリズと場所を替わり俺は後衛二人の壁となる。

こちらが一方的に攻撃をしてるように見えるが、壁となっている俺とキリトのHPは、すでにイエローゾーンへ入っており、油断をしたら一発で持っていかれる。

 

斧を使いこなす相手は、一撃でこちらのHPをかなりの量で削るので、上手く立ち回り続けても限界はくる。

ボスの攻撃を剣で受け、後ろへ飛ばされたタイミングで俺のHPバーがイエローを割りそうになった。

 

 

「すまん、リズ。スイッチ!!」

 

 

「オーケー!!任せて!!」

 

 

「シリカもキリトとスイッチだ!!」

 

 

「はい!!行きます!!」

 

 

二人へ指示を出し、俺とキリトは一時後方へ下がる。

回復を待ちながら、チャンスがあれば飛び込めるように神経を尖らせておく。

 

リズもシリカも攻略組であるので、攻撃が当たらないように上手く立ち回っている。

しかし時おり回避が間に合わず、ガードで防ごうとする場面もあり、その場合ガードの上からダメージをくらっていた。

 

このまま押しきれそうだったが、ボスのHPが残り一段のイエローゾーンに入ったとき、この場に変化が訪れた。

 

先程まで閉まっていた扉が開き、そこからMobが五体出てきた。

そいつらは扉の近くにいたサチらの方へ向かい、攻撃へと移る。

 

さすがにあの二人では、五体ものMobを相手取るのは厳しいと判断。

キリトにそちらへ援護に行くように言う。

 

 

「だが、こいつは三人で平気か?」

 

 

「俺らをナメんな。さっさと助けてこい」

 

 

「…………っ…すまん」

 

 

そう言ってキリトは黒猫団の二人の元へと助太刀に向かう。

今、前で踏ん張ってくれている二人のおかげでそろそろ終わりそうであった。

 

後ろからはMobが倒れる音が続けざまに聞こえる。

ボスのHPもレッドゾーンへ突入、しかし二人のHPもイエローを割りそうだった。

 

 

「リズ!!シリカ!!スイッチ!!」

 

 

俺の言葉とともに二人は一瞬で後方へ下がる。

それと同時に前に出てスキルを発動。

ボスの動きが一瞬止まる。

止めを指すのには充分であった。

その一瞬を逃さず、リズは重攻撃のスキル、シリカは刺攻撃のスキルを敵に当てる。

 

スキル後の硬直から開放された俺は、おまけとばかりにスキルを発動させた。

 

コンビネーション主体の攻撃を食らった相手は、残りのHPを無くし散っていった。

 

 

 





久々に4000文字割った。

これからは更新が多少遅くなるやも。


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20!!

赤鼻のトナカイだけでこんなになるとは超思わなかった





 

「終わった……のか…?」

 

 

さすがの俺たちも息を切らして、周りを警戒する。

すると部屋の一ヶ所が、ガガーという音をたて、扉が開く。

 

今度は先程の二の舞にならないよう、注意しながら外を見る。

外はただ迷宮区の通路が広がるだけで、今はモンスターの気配などもない。

 

そのことを確認し、伝えると全員がその場に腰を落とす。

誰もが満身創痍であった。

数えきれないMobとの戦いの後に隠しボスとの戦闘。

こうならない方が不思議であった。

 

しかし、助けられなかった人がいる。

犠牲者を無くす、という意味で作ったこのギルド。

早くも名前だけのものとなってしまい、どうしようもなく悔しい気持ちが込み上げてくる。

 

確かに今回だけじゃないかもしれない。

俺らがギルドを発足してから、今日までで何人もログアウトしているのは知っていた。

だが、自分らの前でこうなってしまったのは初めてだった。

 

その現実に少なからずダメージを受ける。

 

 

「……さあ、帰ろうか。いつまでもここにいたってしょうがない。まずは迷宮区を出よう」

 

 

それぞれが重い腰を上げ、歩き出す。

道中会話はなく、雰囲気も重苦しいなか迷宮区を出口に向かい歩みを進める。

 

 

「ああ、そうだ。これから二人……いや、三人は黒猫団のリーダーのところへ行くんですよね?俺もついていっていいですか?」

 

 

「……どうしてだ?」

 

 

多少落ち着いたところで、俺が年下だとわかったのだろう。

敬語ではなく、普段通りの言葉使いで聞いてきた。

 

 

「宝箱……開けるの止めきれなかったから……あのとき気絶させてでも止めれば良かったんです、だからと言ってそこを出られるかと言われればなんとも言えないですけど………謝って済む問題じゃないですけど…」

 

 

今更ながら気づく。

どうしても止めたければ、自分がオレンジになろうとも止めれば良かったのだ。

 

どちらにしろ自己満足にはかわりないし、後悔しても時間は戻らない。

どんな罵倒の言葉が聞こえようと、真摯に受け止めようと思いテツオの反応を待つ。

 

しかし聞こえた言葉は、俺には全く予期せぬものであった。

 

 

「……最初はそう思った。宝箱の時もそうだしフェイクの扉が開いた時も……。でも君らが来なければ間違いなく俺もサチも生き残れてない。あの二人が死んだのはすげー悲しいけどさ……それで君を責めるのはちょっと違うかなって思ったんだ」

 

 

そう言って少し俯く。

心の整理はついてないだろうに、冷静に場を思い出しながら出した答えであった。

 

客観的に見れば、どちらが悪いなどという話ではないのはわかる。

しかし、長い付き合いであろう友人を二人も失ってなおその判断ができるものなのか。

 

まだ年齢は高校生あたり、つまり一番上でも18となる。

その年齢でこういった答えが出せるのは素直に尊敬できる。

 

もしくは自分が年下だったから、というのもあり年長者の意地みたいなものだったのかもしれない。

 

仮に助けに入ったのが年上であったのならこうはなってないのでは、とも考える。

最終的には年上の意地もあるんだろうな…という形で納得をつけた。

 

 

「いや……俺がケイタに会うのは止めておく……」

 

 

キリトはそう言ったかと思うと、突然トップスピードで迷宮区を駆け出した。

 

それぞれのキリトを呼ぶ声が重なるが、振り向かずに駆け抜けていった。

最後に一言俺に、すまん、後は頼む。とだけ言い残して。

 

追いかけようと思ったのだが、いかんせんいきなり過ぎて誰も反応出来ず、二人を放置するわけにもいかない。

気づけばキリトの姿は見えなくなってしまい、追いかけることすら出来なくなっていた。

 

 

迷宮区を抜け、まずはウィンドウを操作し、アルゴにメッセを飛ばしキリトを追いかけさせる。

そして二十七層の主街区に到着する。

ちょうど転移門の辺りで、月夜の黒猫団のリーダー、ケイタが待っていた。

 

 

「おーい!!こっちだ、こっちー…………?」

 

 

ケイタの声が聞こえたが、だんだんと小さくなり、やがては疑問符になった。

 

さらに自分のギルドメンバーが三人おらず、かわりに見たこともない人物が三名いることに気づいて混乱している。

 

なぜこのようなことになっているかテツオが説明を始めた。

 

まず、ギルドの所持コルがほぼゼロになったので、自分の提案で迷宮区へ稼ぎに行ったこと。

その際隠し部屋で宝箱を見つけ、俺たちの制止も聞かず開けてしまったこと。

宝箱を開けた瞬間にトラップが発動し、一端はそれを凌いだが、後から出てきた隠しボスに二人がやられてしまったこと。

 

それを聞いてケイタの顔はどんどん青ざめていく。

何回も取り乱しながら、テツオに先を促し、なるべく詳しい情報を得ようとする。

隣ではサチが思い出したかのように泣いていた。

 

テツオの説明が終わったのは日も暮れた後で、その頃にはケイタもなんとか落ち着きを取り戻していた。

 

俺はタイミングを見計らい頭を下げる。

 

 

「本当にすみませんでした。俺がちゃんと止めていればこんなことにはならなかったはずです……」

 

 

「……二人のことは残念だよ…だけど君らはテツオとサチを守ってくれた。もし君らがいなければ間違いなく全滅だったと思う……だから謝らないでくれ、むしろお礼を言わせてほしい。二人を助けてけれて本当にありがとう」

 

 

その言葉を聞いた瞬間に涙が溢れそうになった。

後ろで同じく頭を下げていたリズとシリカは、堪えきれずに涙を流していた。

 

 

「………もう、夜も遅くなる。何もないけど、良かったら買ったばかりのギルドホームで休んでいってほしい」

 

 

「……何から何まですみません、お世話になります…」

 

 

断ろうかと思ったが、テツオもサチも同じ意見のようなので、三人揃って世話になることにした。

 

そこは主街区の中心部にあり、そこそこ値段の張りそうな物件であった。

その分作りは他と比べると豪勢であり、これから攻略組に名を連ねようとしていたギルドの門出を祝福しているようにも見えた。

 

ケイタが呟くように言う。

 

 

「やっと攻略組に参加できると思ってたんだけどな……メンバーが三人も欠けちゃどうしようもないな…」

 

 

自虐とも言える一人言を聞いてしまい、申し訳無い気持ちが込み上げてくる。

それからも聞こえないように気は使っているものの、耳に届いてしまう。

 

 

「……ねえ、クゥさん、私たち何の為に強くなろうとしてたんでしょう……?こういう人を少しでも減らしたいのに、なんで上手くいかないんでしょう……?」

 

 

「そうだな……世の中こんなはずじゃなかったことばっかりだよ……それでもそれを受け入れて前に進まなきゃいけない……それで人間は成長するんだ、簡単に切り替えろとは言えない。でもいつまでも後ろを向いてないで前を見なきゃだ。落ち込むのは今日だけだ。明日からはこんな人が出ないように今まで以上に気合い入れていくぞ。リズもだ、いいな」

 

 

ここに来る前……転生する前の世界で見たアニメに出てくる執務官の言葉を引用する。

そして、こんな気持ちだったのかな、と想像をする。

 

 

「………うん、わかった…」

 

 

リズは、はじの方で震える声を抑えながら答えた。

 

その夜、アルゴからメッセが届いた。

その内用は、キリトが狂ったようにレベリングを始め近寄り難い雰囲気を放っていた。というもので、しばらくは話しかけることも止めておいた方がいいとのこと。

 

昔の記憶を呼び起こす。

確かキリトが無理なレベリングをしたのは、サチが死んだのが原因のはず。

今回はサチは生きている、ならなぜそのようなレベリングをするのか。

答えは明白で、自分が許せないのである。

キリトはサチを守ると宣言している。

確かに今回は俺らが合流していたから守れた。

それでもキリトは、本当の事を言っていれば二人も死ななかった、と後悔している。

 

たまたま運良くサチが死ななかっただけである。

それをわかっているキリトは、こうして無茶なレベリングを始め、月夜の黒猫団から姿を消したのだろう。

 

 

「……大丈夫だよ。こっちのケアは任せとけ」

 

 

静まり返った部屋の中で一人呟く。

いつだって二人で欠点をカバーしていた頃を思い出して。

 

 

 

 

 

翌日になると、全員が明るく振る舞っていた。

空元気なのは丸わかりだが、沈んでばかりいるよりはマシかもしれない。

そしてケイタがそのトーンのまま、重大な言葉を放つ。

 

 

「ちょっと……どころかかなり言いにくいが、ギルド…月夜の黒猫団は解散とする。今でも攻略組に入りたいし、強いプレーヤーになりたいとも思ってるけど、二人……いやキリトも入れて三人……そして俺たち……この全員が揃ってないと黒猫団じゃない」

 

 

「……うん、そうだね」

 

 

ケイタの言葉にサチが同意の言葉をかける。

テツオも同じ意見のようであった。

 

まさかの月夜の黒猫団の解散である。

三人にこれからどうするのか聞いたが、おいおい考えていくらしい。

今は何も決めてないそうだ。

 

その言葉を聞いた俺はあるメッセを三人に飛ばす。

よく聞く機械音が三つほど鳴り響く。

 

三人は一斉に顔を見合せメッセを開き、表情を驚きに変え俺の方を向く。

三人の視線が一気に俺へ向いたことで、シリカとリズの二人も俺を見る。

 

俺は三人へこう言った。

 

 

「ギルド…ゼロの騎士団、団長のクゥドです。あなたたちは友人を失ってなお攻略組に入りたいと仰った。その心意気、大変素晴らしく思います。なのでどうでしょう?是非、ゼロの騎士団の団員となってはいただけませんか?」

 

 

そう、俺が三人へ送ったのはギルドへの勧誘のメッセである。

 

そっとしておけよ、なんで今なの?という言葉もあるだろう。

だが、ケイタはまだ攻略組に入りたいと言っていた。

今ここで離れてしまうと俺たちに追いつけるわけもない。

指導者もいない、攻略組経験者もいない、ベータテスターもいない。

ないない尽くしだ。

 

ならばゼロの騎士団で攻略組として活躍させてあげたい。

そう思った。

 

シリカとリズの二人は驚いていたが、メンバーの勧誘ということなので、この場では問い詰めてきたりはしなかった。

 

表情を見る限りでは、ケイタとテツオは乗り気らしいが、サチは顔を俯かせておりパッとしない。

それもそうか、と考えていたら顔を上げ、不安そうな表情をしながらも答えを決めたようであった。

 

俺のウィンドウがメッセが届いたことを知らせる。

一通ずつ開封していく。

 

ケイタ………ギルド入り。

テツオ………ギルド入り。

サチ………もギルド入り。

 

 

「それじゃあ三人とも、よろしくお願いします」

 

 

「「「よろしく」」」

 

 

三人の声が重なった。

 

俺たちはギルドホームへ案内するべく、元月夜の黒猫団のメンバーと共にいる。

そこで不意にケイタが口を開いた。

 

 

「まさかサチがゼロの騎士団に入るとは思わなかったよ。このまま始まりの街まで戻って引きこもるもんだと思ってた」

 

 

「……うん、本当は私もそうしようと思った。でも今は二人も死んじゃって…信頼できる人と離れたくなかった。今一人になると何をするかわからないから……」

 

 

サチはそう言って俯いた。

そうさせてしまった罪悪感を抑えながら案内を続ける。

 

十二層へ到着したところでケイタに質問された。

 

 

「なんで攻略組なのにこんな下層にギルドホームを?」

 

 

「それはですね…ここは始めて買ったギルドホームなんですけど、予想以上に良い場所でして……愛着も沸いてきちゃいましたしね」

 

 

そう言ってシリカとリズにも視線を送ると、嬉しそうに頷く。

 

ギルドホームに着き、中へ入る。

アルゴには説明をしてあるので、すでにここに戻っており部屋の中でくつろいでいた。

 

 

「これはこれは新入りの皆さン、初めまして、情報屋のアルゴダ。よろしくナ」

 

 

それぞれが挨拶を交わすのを確認し、これからの行動内容を決める。

 

 

「さて、そうしたらケイタさんとテツオさんは攻略組としてバンバン前線に出たい、サチさんは乗り気ではない、ということで大丈夫ですか?」

 

 

俺の問いかけに頷く三人。

 

 

「それならばリズとテツオさん、シリカとケイタさんでこれからは組んでください。リズとシリカは、二人に経験値を優先してやってくれ。勿論すぐに戦えるように最前線の迷宮区でやってもらう。サチさんは……そうだな、姐さんの助手みたいな形でどうですか?それなら前線に出ないで済みますし、ちょうど姐さんも人手が欲しいって言ってたし。ああ、ちなみに姐さんっていうのはアルゴのことですよ」

 

 

するとサチは安心したように頷き、うちの三人も問題はないという表情、しかしケイタとテツオは違った。

 

 

「ちょっと待ってほしい…いきなり最前線は無理だ。せめて一つか二つ下の層にしてくれないだろうか?」

 

 

ケイタの言葉に焦りが映っている。

それでも俺は変更はしない。

 

 

「二人とも、大丈夫ですよ。シリカもリズも最前線の迷宮区をソロでクリア出来るくらいの実力の持ち主です。それに二人で行動といっても、迷宮区の中のMob戦だけですから。狩り場までは俺を含めて五人ですから問題はありません」

 

 

二人は安心したように息を吐く。

他のメンバーに意見は無いようなのでここで終了とする。

 

その日の夜は三人の歓迎会を開催した。

なるべく傷を残さないように温かく迎え入れて、これからは最前線で戦う仲間として、いろいろなことを教えていく。

 

質問が多すぎて、結局朝までそれは続いたが大変有意義な時間だった。

 




次で赤鼻のトナカイ最後になると思います。


クリスマスに現れるリア充……じゃなくて血で染まった赤い服を来たおじいさん…じゃなくて……年一のボス倒すまでが赤鼻ですので。




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21!!

本文が今までで一番長くなった。
分割すると微妙だったのでムリヤリ詰め込んだらこうなってしまった…


あれから半年もたてば、元黒猫団のメンバーだった三人もかなりのレベルになる。

 

今は十二月の半ばとなり、外の空気は肌を刺すように冷たい。

四十八層で見つけた建物で武具店を開くことにしたリズは、すでに最前線からは外れ、本格的に鍛冶屋へと転向を果たした。

 

本人が最前線にいたこともあり、攻略組のプレーヤーの用途に合わせられるので、かなり繁盛していると言えよう。

 

そして最近になり、どのNPCも、とあるクエストの噂話をしている。

例のクリスマスに現れるボスの話を。

 

噂になる前から、アルゴによってその情報を聞いていた俺たちは、それを倒すべく四人でレベリングの総仕上げを行っている。

 

今は昼時、三つ下の層にある大変効率のいい狩り場は、人が集まり過ぎて逆にイマイチと言えた。

 

なので俺たちは、あえて最前線の迷宮区で二人一組となり狩りをしている。

 

テツオと組んでいる俺は、なるべく経験値を譲りながら迷宮区を奥へと進んでいく。

何匹目かは数えてないが、Mobを倒したあとテツオのレベルが上がったようだ。

 

 

「おしっ……!!ついに俺も60の大台に乗ったぞ!!」

 

 

「そりゃ良かった。だけど常々言ってるけど油断はダメだからな」

 

 

「わかってんよ、アレを経験してんだ。油断がとれほどの危険を招くかなんて痛いほどわかってる」

 

 

そう言って、喜びを噛み締めながらも視線は辺りを見渡し、警戒を解く様子がないので心配ないかなと思う。

 

シリカ・ケイタ組もこの迷宮区でレベリングをしている。

途中の分かれ道で別行動をとった。

そうすれば迷宮区も速くマッピングでき、回転も速くなるので、レベルも四人でいるときよりもより上がる。

 

 

現在ゼロの騎士団は少数ギルドの中で最強と言われていた。

数多くのメンバーが在籍するギルドには、当たり前だが敵わない。

だがパーティの連係ならば、攻略組の中ですらトップに躍り出るほどである。

 

一層から攻略組に参加している俺とシリカ。

今は外れているが、そのシリカにも劣りはしないリズ。

ほんの三ヶ月あまりの期間死に物狂いのレベリングで、あっという間に攻略組で戦えるレベルにまでなったケイタとテツオ。

そして、ギルドの後方支援として情報屋のアルゴ。

戦闘も行えるその助手のサチ。

 

少数だからこそ、全員が全員これ以上はないというタイミングで連係が取れ、レベリングも効率が良くなる。

 

それぞれのレベルでも、最低がサチの55となっており、平均も60を越えている。

 

この、メンバーの平均レベルの高さ、連係の完成度の高さ、精神力の強さを以て最強らしい。

 

そんな話は置いておきテツオのレベルが60、サチのレベルが55なんて話を出したのでここでギルメン全員のレベルを整理しておく。

 

 

俺―――――69

シリカ―――67

アルゴ―――58

リズ――――64

ケイタ―――61

テツオ―――60

サチ――――55

 

 

こうしてみると、ある種の化け物集団に見えなくもないが、二人は寝る間も惜しんでレベリングしたし、それを放置は出来ないので、それに付き合ってると自然と上がっていた。

 

しかも場所が常に効率的な狩り場だったり、もろ最前線だったりするので、コンビネーションも自然と良くなった。

 

 

 

ここでの狩りも大分慣れてきたようで、目の前で戦闘を続けているテツオも様になってきたといえる。

これなら何かあったとしても、冷静に対応できれば問題ない。

 

そのことを話すと、嬉しそうに笑い自分の拳を眺めた。

狩りも一段落し、日も落ちてきたので、今日の昼の狩りは終了となりシリカたちと合流し、四十八層にあるリズの武具店に顔を出す。

 

 

「いらっしゃー…いって、なんだ…あんたたちね。それならほら、さっさと武器置いて。ちゃちゃっと済ませるから」

 

 

「俺らの命預けてる得物をちゃちゃっとで済ませないでくれよ」

 

 

「なーに言葉の綾よ、言葉の綾。ちゃんと誠心誠意やらせてもらうわ」

 

 

軽く挨拶のようなやり取りを交わしながら、それぞれが己の武器をリズへ渡す。

 

 

「あー、やっぱりだけどケイタとテツオのはけっこう耐久力が落ちてるわね……でもまあこれくらいなら……うん、夜にギルドホームへ帰る頃には出来ると思うからその時に持っていくわ、もちろんクゥとシリカのも一緒にね。それまではのんびり休んでなさい。ただでさえあんたらずっとレベリングしてるんだから」

 

 

「じゃあ毎度悪いけど頼むな」

 

 

「ドーンと任せときなさい!!それじゃあさっそく作業に入るわ。気が散るから先に帰っといて」

 

 

「了解……っとそうだ。今日はクリスマスのボスについての会議やるから、一応リズも参加はしてくれ。ギルド会議だからな」

 

 

「えー、まあいっか…なるべく早く帰るようにするわ」

 

 

そう言ってリズは作業に入った。あまり刺激をしないよう静かに外に出る。武器を預けてしまいやることもなくなってしまったので、ホームに帰り言われた通りにのんびりと過ごす。

 

アルゴとサチはまだ帰ってきてはいないようだった。アルゴはサチという助手を得てから、フロアボスの情報を集めるのが速くなった。

今まで一人ではクリア出来ないものや、討伐系のクエストは避けてきたが、助手が苦手とはいえ戦闘をこなせるおかげでそういった情報が絡むクエストは、周りより一足早くクリアして情報を持って帰る。

 

サチの方もこういう事が続いていくので黒猫団の時代よりは多少慣れたと言えた。それでもなるべく戦闘は避けたいと言っていたが。

 

しかしそう言いながら、俺たちについてこられるレベルまで上がってることを考えると、アルゴにこき使われてるんだなと思わずにはいられない。

 

ただ何も言ってこないということは、問題なくやれているのだろう。そこは自称オネーサンに感謝する。

 

 

「さあて、ちょっと早いけど先にシャワー浴びてくる。どうせ今日はもう外に出ないしな」

 

 

「あっ!!それなら私が先にもらってもいいですか?ちょっと汗(らしきもの)も流したいので」

 

 

「ん、あいよ。それならお先にどーぞ」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

そう言ってシリカはリビングからシャワールームへ移動した。

さて、ここのリビングには男が三人、そしてシャワールームには女が一人。

……やることは決まったな。

最低と罵られようとも、ここまでシチュエーションが揃っていながら行動に移さないのは男にあらず。

 

 

「……という訳だ、覗きに行くぞ」

 

 

「何がどういう訳でその結論に至ったのかわからないよ」

 

 

「おっ!?いいんじゃねえか?」

 

 

ちなみに乗り気なのはテツオである。

ケイタはけっこう真面目なタイプなので、覗きなどにはあまり興味を示さない。

 

 

「それにシリカはまだ中学生になるかならないかくらいじゃないか。それを覗くって正直犯罪くさいぞ」

 

 

「まあ、確かにな。でもなケイタ……よく考えてみろ…こんな絶好のシチュエーションが揃ってて覗きに行かないってのは逆に失礼だと思うんだ」

 

 

「………テツオは頭を一回、とは言わず十回くらい見てもらった方がいいんじゃないか?」

 

 

「まぁまぁ、そう言わずにさ、覗きに行ったら何かかわるかもしれないぜ?」

 

 

おー、俺が言い出した事が勝手に進んでいくわ。

なかなかいい返事が返ってこない。

ここで俺は新たな、そして革命的な一言を告げることにした。

 

 

「そっかそっか、ケイタはサチのことが好きなんだもんね。そりゃシリカに興味なくて当然か」

 

 

「なっ!?違うぞ!?サチのことは嫌いじゃないがそういった感情を持ったことは……ない!!」

 

 

「ちょっと間があったのが気になるけど、まあそう言うなら覗きに行けるよな?別サチのことは好きじゃないんでしょ?ならいいじゃん」

 

 

「だ、だからそういうことじゃなくて!!覗き自体に行きたくないんだって!!」

 

 

だんだんボロが出始めてきた。

なんだかんだ言っても男はみんなえっちぃのです。

そしてケイタみたいなタイプは強引に出られると断りきれない。そこを攻めて攻略していく。

 

 

「大丈夫だからさ、行こうぜ?」

 

 

「俺は絶対行かないからな!!」

 

 

「おいおいケイタよー、んなこと言わずにさ。同じギルドの仲間だろ?」

 

 

「つーかさ、もう連れて行こう。引きずって行こう。早くしないとシリカが出ちゃうし」

 

 

これも大いなる意思の導きなのだ。

何者かが覗きに行けと俺の心に命じるのだ。

 

ということで、乗り気ではないケイタを無理矢理引きずり、バレないようにシャワールームへと向かう。

道中、諦めたケイタは自分の足で歩き始める。

 

 

「でもよー、覗くのはいいとしてだな…どうやってやんだ?」

 

 

「そんなの決まってる……スキルを使うんだよ。何のために隠蔽スキルがあると思ってるんだ」

 

 

「……確実に覗きのためではないな」

 

 

ケイタから突っ込みをもらう。リビングからそこまで離れてないのですぐにシャワールームへ到着する。

 

洗面所と一体となっているシャワールームの壁には

[女性陣使用中]

と掛けられている。

 

それを華麗に無視して第一陣として突入する。

ちなみにこの使用中のプレート、全員が持っており俺らの場合は男性陣使用中になる。

 

本来ならここでいろいろ物色するのだが、いかんせんここはゲームの世界。下着なども装備品としてストレージにしまえるので何もない。

 

そして本格的に行動に移そうとしたところで時は止まった。

いや、止まったと錯覚したのだ。なぜならいきなりシャワールームと洗面所を隔てる扉が開き、タオルを巻いたシリカが仁王立ちしていたのだ。

 

 

「……クゥさん、索敵スキルって便利ですよね?こうやって不埒な人たちの接近にも気づけるんですからね…」

 

 

「おうふ……いや、これには狭く浅い訳があってだな………」

 

 

後ろを振り向いても、二人はすでに非難済みらしく姿が見えない。

あ、終わったわー。と言おうとしたところで急に視界がぐらついた。

 

シリカを見てみると拳を振り抜いたモーションをしている。

つまり顎に一発もらい、脳が揺れたため視界がぐらついているのだ。

 

ここまで思考したところで、シリカからの追撃で俺の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

「それでは、ギルド会議を始めます」

 

今この場にいるのはゼロの騎士団のメンバー全員だ。

ちなみに覗きの件は、一回だけシリカの言うことをなんでも聞くというのを承諾したことでお流れとなった。

正直どんな無理難題を突きつけられるかわからないので怖い。

 

 

「今回の議題は例のクリスマスボスについてだ。あれから何か情報に進展は?」

 

 

「特にはないナ。ただキー坊も狙ってるみたいだし、ギルド風林火山のリーダー、クラインへいくつか情報を売ってル」

 

 

それを脳内で吟味する。

そしてこの戦闘に参加するメンバーを選別し伝える。

 

 

「そうだな、こいつはフロアボスじゃないから全員はいなくてもいいだろ。ということで今回は俺を含めた四人で行く。俺以外の三人は、ケイタ、テツオ……そしてサチだ」

 

 

最後の名前を出した瞬間に多少のざわつきみたいなものが出た。

それもそうだろう。今まで一度としてこういうところにサチを連れて行っていない。

それでも今回はちゃんとした目的がある。

キリトは普通に一人でクリスマスボスに挑む。それはサチが生きていても変わらないようだった。

なので逆にチャンスと言えた。

 

 

「ちょっと待って……!!私は無理だよ……だって今までアルゴの手伝いしかしてこなかったし、そんなボスと戦うなんて初めてだし…!!」

 

 

「大丈夫、それでもサチは成長してる。それにな……キリはまだ引きずってんだよ。お前らの仲間を死なせたことをな……だからさ、死ぬような心配がないくらい強くなったってことをあいつに見せてやれ。そうすれば少しは楽になると思うんだ」

 

 

するとテツオが舌打ちをしながら言った。

 

 

「あいつ……まだ気にしてたのか……だったら……!!………サチ…!!」

 

 

「……うん、そうだね…!!まだキリトがあの事を気にして前に進めないなら、あの事を引き起こしてしまった私たちがなんとかしてあげないと……!!」

 

 

「つーことだ。悪いけどシリカたちは今回お留守番だ。俺だって手伝う程度で本格的には参戦しない。これは元黒猫団のことだしな」

 

 

そう言って俺はリビングを出て自分の部屋へと戻る。

 

その日はもちろん三人が危なくなったら俺が盾になるつもりだ。

そのためにも少なくとも、三人よりは強く毅然としてなければならない。

予定外のことが起きても動じず冷静に……そう自分に言い聞かせてクリスマスを待った。

 

 

 

 

クリスマス当日、目的地の層へと到着した。

その日は雪が降っており、まさにホワイトクリスマスといった感じである。

しかしこのSAOプレーヤーたちはピンク色の空気など微塵も感じさせない。NPCの情報だけではどこにボスが出現するかわからないので、プレーヤーたちは血眼になって情報を集めている最中であった。

 

一方アルゴの情報網で恐らくだが、大体の出現位置は掴めている俺たちはギリギリまでレベル上げを行っていた。

 

他にも狙っている連中がいるなか、原作のような形にするのは骨が折れるであろう。

しかしそこは事前にリズとシリカにお願いしてある。

どうせなら風林火山とも協力していい、ということも秘密裏に伝えてある。

 

ボス出現の時間が迫るなか、目星の場所へ到達した。

周りには木々が広がり、ここだけぽっかりと穴が開いているようである。

するとその中から人影がこちらに来るのが見えた。

 

 

「全員警戒。気をつけろ」

 

 

「「「おう(うん)」」」

 

 

しかしこの警戒は別の意味で役に立つ。

まず森の中から出てきたのはキリトであった。

こちらは予想通り一人で、恐らく風林火山のメンバーに先に行かせてもらったのだろう。

そして、キリトが現れてすぐに例のボスが姿を見せた。

その姿はよく言われる、サンタクロースの赤い服はは血の色で染められたもの、という逸話を彷彿とさせるぐらい凶悪なものだった。

 

 

「な……!!おいおいずいぶんいきなりだな!!よっしゃ、フォーメーションWだ」

 

 

「そんなフォーメーションは知らないし、こんな時に遊ばない!!」

 

 

俺の言葉にケイタの冷たい声が突き刺さる。

見た感じだとそこまで強そうではない。

俺はボスと同時に出現したMobの相手をすることに決めた。

 

 

「Mobは俺に任せといて。そっちのボスは……四人いれば問題ないっしょ。キリ、そっちの三人は俺が鍛えたから、お前にも負けない精鋭になりつつあるぞ。今回は守る必要はない。そしてケイタ、テツオ、サチ。キリに守られてたあの頃とは違うことを見せてあげな。LAをキリからぶん取っちまえ」

 

 

「「「了解!!」」」

 

 

俺は一人でMobの相手をしているが、正直期待外れだった。二体いるのに俺だけで十分なんて、仮にも年一のボスの取り巻きとしては不相応である。

 

そしてボスへのファーストアタックはテツオのスキルだった。

ケイタが攻撃をいなしながらうまく交わす。

相手に少しの隙が出来るとテツオがスキルを打ち込む。

 

キリトは最初、本当に呆然としているだけであった。

戦闘スキル、タイミング、敵のモーションからのスキル判別、半年前からは考えられないような成長っぷりに驚いていた。

 

 

「キリ、いつまであいつらだけに任せるつもりだ。今ならサチでもお前の背中を守れるんだ。恐れることは何もない。いざとなったら俺もいる」

 

 

するとキリトはふっと軽く息を吐いてこう言った。

 

 

「本当にお前は昔からそうだよな。多分俺はお前がいなかったら、もっとダメになってたんだと思う。お前は俺にとって最高の友人だよっ!!」

 

 

最後は発した言葉とともにボスへと駆け出した。

 

 

「俺にとってもそうだよ」

 

 

キリトには聞こえないだろうがそう呟いた。

 

今までも互角以上に戦っていたが、キリトが入ったことによりさらに此方側が有利になった。

四人になれば前衛二人、後衛二人とバランスよく回せる。

しかも全員が黒猫団の一員として戦ってきたプレーヤーだ。

タイミングや連係などは全く問題なさそうであった。

 

取り巻きに最後の一撃を与え止めを刺す。

まだボスは健在なので、あの四人に茶々を入れるMobやプレーヤーが現れないか常に警戒はしておく。

 

四人の方に視線を向けると、まだサチには若干の恐怖心はあるものの問題なく戦えている。

キリトは……うん、なんか楽しそうだ。善きかな善きかな。

油断してる訳でもない。

慢心なんて欠片も感じられない。

それでも楽しそうに見えた。

 

その後も特に問題など起こらず、順調にボスのHPを減らしていく。

そして残りが一撃分ほどとなったところで前に出る。

 

ボスの武器が降り下ろされる瞬間、自身のソードスキルをぶつけ敵をディレイさせる。

 

 

「さ、後は止めだけだ。四人でいきな」

 

 

全員が口角を上にあげ、四人は走り出し、それぞれが今使える中で最高の攻撃をボスへ与える。

 

それを受けたボスはそのまま動きを止め、もう見慣れた欠片へと姿を変えた。

 

 

「おーおー、全員タイミングばっちりじゃん。んで?LAは誰が取ったん?」

 

 

四人がウィンドウに見入っているとテツオが声をあげた。

 

 

「うおっしゃ!!LAボーナスだってよ!!やべー、人生初のLAだよ!!マジテンション上がる!!」

 

 

「そうか、良かったな。物はなんだった?」

 

 

ケイタがテツオに問いかけるとあっさりと教えてくれた。

 

 

「ちょっと待てよー……ああ、やっぱアルゴが言ってたモンだわ。ただし死んでから10秒以内ってあるからあいつらには使えねえな」

 

 

少し考えるようにして言ったあと、そのままそれを俺に渡した。

 

 

「これはクゥが持っててくれ。万が一サチが死んだ時に使ってほしい。俺が死んでも使うな」

 

 

「……わかった。これは俺が預かっておく。それでいいか?」

 

 

全員が頷く。

ボスとの戦闘が終わると、キリトが来た方向から何人か来るのが見えた。

 

 

「おーい!!キリトー!!大丈夫かー!?」

 

 

野太い声が辺りにこだました。

この声で誰か来たのかわかる。

 

 

「おお!?クゥドもいんのか!!例のボスはどーなった!?」

 

 

現れたのはクラインを先頭に風林火山の面々とリズ、シリカであった。

 

 

「もー!!大変だったんだからね!?途中でよくわかんないことが起こるし!!もうこれは奢ってもらうしかないわね!!」

 

 

「これでクゥさんへの貸しが二つに増えました。何をして貰おうかなー」

 

 

リズのはいいとして、シリカの発言が怖すぎた。

取り敢えず聞こえないふりをしてクラインに答える。

 

 

「それなら問題ないですよ。元黒猫団の四人が片付けてくれました。俺は見てただけです」

 

 

「そっかそっか!!それにしてもオメエはいつまで敬語なんだよ?いい加減やめてくんねえか?」

 

 

「うちのギルドに入ってくれれば考えます」

 

 

無理なことはわかっているが勧誘はしておく。

かなり素晴らしい人材なのだ、クラインという人物は。

 

そりゃ、無理だとクラインが言ったところでみんなで笑いあう。

なんだかんだあったが、解決したようだし、キリトも黒猫団の三人も溝みたいなものが消えてスッキリしたようだった。

 

 

全てが上手く回った気がしたところで、お疲れさま会でも実施しましょうかね。

 

 

もちろんキリトも呼んでな。

 

 





アンケート実施中です。

ご協力お頼み申す(´・ω・`)


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22!!

 

 

ある日の朝。

俺は攻略会議に来ないおバカ様を捜していた。

血盟騎士団のサブリーダー様も大変お怒りだったので、あの空気から逃げ出すためというのが本音であるが。

 

 

「えー…なにこれ……」

 

 

おバカ様……キリトを見つけたのはいいが、先の血盟騎士団サブリーダー様……アスナも一緒にいた。

それだけなら普通に声をかければいいだけである。

しかし二人はあろうことか横並びで、仲良く気持ち良さそうに寝ていたのだ。

 

取り敢えず記録結晶で記念撮影をしておく。

後で揺すってみよう、とかは考えてない。

 

しばらくその様子を観察しているとキリトが目を覚ました。すぐに俺と目があったのでにこやかに手を挙げて挨拶をする。

するとなぜだろう。キリトから大量の冷や汗が出てるではないか。

すぐに記録結晶(動画撮影モード)を手に持ち、余すことなく記録していく。

 

ちなみに周りに人はいない。

なぜならば俺が人避けを頼んでいるからだ。こんな面白いものを他人に見せてたまるか。

 

もう一度キリトを見て、今度はニヤリ、と笑う。

キリトが焦ったように首を横に激しく振る。

 

ちなみに内約としては

 

俺―――これ、ばらまいたら面白くなりそうじゃない?

 

キリト――頼むから止めてくれ、俺の命が危なくなる。

 

である。

 

そこからは記録結晶を何回も取り替えながら、アスナが起きるまで撮影し続ける。

それから正午を過ぎ、さらに二時間以上たったところでアスナが目を覚ました。

 

まず、隣のキリトを見て顔色を三回ほど変える。その後キリトがちょいちょい、とこちらに指を向ける。

アスナの視線がこちらに向いたところで……ダッシュで逃げる。

こんなところでこれ程の面白映像を失う訳にはいかない。

 

キリトと俺の間で視線を右往左往させたあと、俺の方を諦めキリトに言い訳を始めていた。

逃げ切った安心感から一息ついているとメッセが届いた。

ちなみにアスナとは、第一層の時点でフレンド登録はしてある。

 

内約は、次の攻略会議の時にお話があるから、というものだった。

俺としてはO☆HA☆NA☆SHIじゃないことを願うばかりである。

肉体言語のお話なんて誰が考えたんだ……!!くそっ…19才になっても魔法少女なんて名乗りや…がっ……て……!?なんだ!?今なんか寒気がしたぞ!!

 

寒気のことは気にせずにホームへと戻る。

珍しいことにアルゴとサチがいたので、先程撮った映像を二人に見せた。

するとやはりアルゴは涙目になりながら爆笑し、サチはのほほんとした表情でそれを見ていた。

 

 

「それで?これはいくら出せば売ってくれるンダ?」

 

 

「いくら姐さんでもこれは売らないよ。ことあるごとにネタにしてからかうんだ!!」

 

 

「うわあ……クゥっていい性格してるね」

 

 

褒められたと思っておこう。

記録結晶は大切にストレージにしまう。後で編集して見易いようにするという大事な作業が出来てしまった。

次の攻略会議までには完成させる予定である。会議中にスクリーンで流したら面白そうとか考えてない。

赤い顔で二人して言い訳してる姿を想像して笑いそうになってもいない。

 

まず完成させたらキリトに見せてあげることにした。

今からどんな反応をするか大変楽しみです。

 

すると外からシリカが慌てたようにリビングへ入ってきた。

 

 

「大変です、クゥさん!!今さっき五十七層で圏内PKがあったみたいです!!」

 

 

「圏内PKだあ!?どういうことだよ?」

 

 

「それが方法とか全くわかってないみたいなんです…せいぜい判明してるのは死んだプレーヤーの名前くらいらしいです……」

 

 

「………姐さん、出番だ。どんな些細な情報でもいい。場合によっては、俺以外の全人員を使っても構わないから情報を集めてほしい」

 

 

「わかっタ。とりあえずサチと、そうだナ……テツオを連れていくゾ。何かわかったらすぐにメッセを入れル」

 

 

そう言ってサチを連れて出て行った。

ここで俺たちが出来ることはほぼ何もない。その少ない出来ることをちゃんとやっておく。

そしてメッセが届き、先程シリカが言った内容と、警戒体制はしておけ、と記載されていた。

 

 

「しばらくはケイタたちもここに寝泊まりさせよう。離れるのは得策じゃない」

 

 

普段ケイタたち元黒猫団の三人は、黒猫団で使うハズであったギルドホームで寝泊まりをしている。

今回こんなことがあったのでしばらくはこちらに滞在してもらうことにする。

 

 

「一番心配なのはリズだな……あいつも元攻略組だから遅れを取ることはないと思うが……」

 

 

「一応リズさんにもメッセは飛ばしておきました。なので警戒はしてくれると思います」

 

 

さすがシリカ。仕事が速い。

この後は特に進展もなく、犠牲もなく終わる。

 

次の日、迷宮区の攻略を早めに切り上げた俺、シリカ、ケイタの三人は、二十層の主街区にある小さな酒場に来ていた。

 

アルゴからの情報で、また新たに圏内PKの犠牲者が出たのを聞き、その人物が立て続けにギルド、黄金林檎のメンバーらしくそれ経由で漁ってみたところ、グリムロックというプレーヤーの名前が浮上したらしい。

 

しかし酒場についてすぐにまたもやアルゴからのメッセが届く。

 

 

「ああ…思い出した……シリカ!!ケイタ!!急いで十九層に行くぞ!!そこにカインズがいるらしい!!どうやら死んでなかったみたいだ!!」

 

 

「ふえええ!?どういうことですか!?実は死んでなかったって意味わかりませんよ!!」

 

 

「話は後だ!!姐さんによるともしかしたらこの件……レッドの奴等が絡んでいる可能性があるみたいだ!!」

 

 

それを聞いた途端、二人の表情が変わり急いで転移門で十九層へ行く。

主街区に降り立った俺たちはさらにスピードを上げてフィールドを走る。

 

 

「二人とも!!迷宮区帰りだし回復結晶は持ってるな!?」

 

 

「「もちろん(です)」」

 

 

すると横から猛スピードで駆け抜けていく馬が一匹。その背中には見慣れた《黒の剣士》が跨がっていた。

どうやら行き先は同じようである。さすがに馬の足と人の足とでは、差がありすぎるのでどんどん引き離されていく。

 

俺たちが到着したのは、キリトと殺人ギルド《ラフィン・コフィン》の幹部三人が対峙しているところであった。

 

「………援軍が駆けつけるには充分だ。いくらあんたらでも、攻略組三十人を三人で相手できると思ってるのか?っとか言ってる間に先行グループの三人が到着したぞ」

 

 

「やあやあ、ラフコフの三名方。初めまして、最前線攻略組のギルド《ゼロの騎士団》団長のクゥドです。お見知りおきを。こっちの二人は俺のギルドのメンバーだ」

 

 

「そうだ。言っておくがクゥドの方は俺よりレベル高いぞ?女の子は俺とトントン、男は少し低いけどソロプレイも可能なレベルだ。さて……これで数の有利もあってないようなものだな?」

 

 

ちっ、と短く舌打ちをしリーダーらしき人物が捨て台詞を吐いて消えていった。

残りの二人もそれを追うように消え、場は静寂に包まれた。

 

 

「んで?なんでキリがいんの?また巻き込まれてんの?問題児は問題起こし過ぎじゃない?俺らがいなかったらどうするつもりだったの?クラインと風林火山に頼んである?クラインさんはお前のパシりじゃねえぞ?どんだけあの人に甘えりゃ気が済むんだ、このバカタレ」

 

 

ひとつひとつの疑問符にキリトは丁寧に答えていく。

最後は多少拗ねた子どものようになったが、これくらい言わないとまた繰り返すので気にしない。

 

目の前には他に三人のプレーヤーがいた。

この三人が元黄金林檎のメンバーなのだろう。

ここからは関わっていないので、先に道を戻ることにした。

 

それにしてもラフコフの三人の威圧感はヤバかった。

手が汗でびっしょりになっている。それはどうやら横にいる二人も同じらしく、シリカに至っては多少震えもきているようだった。

 

 

その後、この圏内PK事件の真相としてヤラセだったことが発覚し、全プレーヤーを安心させることとなった。

 

この事件をきっかけに、キリトとアスナの距離が一気に縮まった気がした。

 

これは余談だが、例のお昼寝映像の編集が終わったのでそれを見せるために、二人をギルドホームへ案内した。

いきなりのメッセでの招待に疑問符だらけの二人であったが、映像を見せると顔色を変えるので忙しくしていた。

 

その後映像を見ていた全員で二人をからかいまくったのがいけなかった。

記録結晶だけはなんとか守り抜いたが、色々なものが閃光さんの手によってボロボロになってしまったのは言うまでもない。

 





ただいま活動報告にてアンケートを実施しております。

よろしければご協力よろしくです。


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23!!

 

 

「リズとキリトが行方不明?」

 

 

その話は、我がギルドホームへ駆け込んできたアスナからもたらされたものであった。

 

 

「そうなの!!メッセも送れないから多分ダンジョンにいるのは間違いないと思うんだけど……」

 

 

「いや、別にあの二人なら心配することないじゃないですか」

 

 

「そうなんだけど!!別の意味で心配というか……」

 

 

乙女心全開である。

あの二人がピンチになるようなことなんてそうそうない。

よく聞くと、まだ連絡が取れなくなってから一日しかたっていないという。

それでもいてもたってもいられなくなったアスナは、こうしてリズの所属ギルドのリーダーである俺のところへ来たらしい。

 

 

「はいはい……というかいつの間にそこまでキリに惚れ込んだんですか?あいつのフラグ建築士っぷりには驚かされるばかりだ」

 

 

「なっ……!!別にそんなんじゃないわよ!!ただ純粋にリズの身に何か起きないか心配なだけで、キリトくんのことなんかこれっぽっちも考えてません!!」

 

 

それはそれでいかがなものだろうか。

ちょっとキリトが可哀想な気がする。

とりあえず、情報が入り次第アスナにも連絡するということで納得してもらい、今日のところはお引き取りいただいた。

 

二人して行方不明ということは、十中八九素材集めをしてるのだろう。

場所は竜の巣穴とか、そんなところだったと記憶している。

原作通りに進んでいるとしたら今日には戻るだろう。そうでなくても、あの二人であれば遅くとも明日には戻るはずである。

 

そう思って呑気に構えていたが、その日から三日たっても二人は俺たちの前には戻らなかった。

 

 

 

「で、姐さん。何か情報は?」

 

 

「それがナ……その竜の巣穴に向かうのを見たのは何人もいたんダ。しかしそんなものに挑戦するのが、あの二人しかいないものだからそれ以上は何もないのが現状ダナ」

 

 

あそこはダンジョン扱いになってるから追跡も出来ないし、メッセも届かない。

巣穴に落ちて出られなくなり、竜の尻尾に捕まって出てきたはずである。

ならばもし竜が巣穴を複数持っていたり、帰ってくることがない日などがあった場合はどうなるのだろうか。

 

もちろん出てこれないで巣穴で何日も過ごすことなる。

もしくは巣穴を出た先でなにか起こったとか。いや、それこそあり得ない。二人とも安全マージンを取れるレベルは優に越えているので、たかだか五十五層のモンスター程度に苦戦するわけがない。

 

こうなってしまったら仕方がない。直接捜しに行くしかないか。

 

 

「それじゃあ捜索隊を編成するか。とは言ってもいつも通りだけどな。あー、アスナさんにも声かけとくか。絶対行くって言うだろうから。つーわけで……情報集めはアルゴ、伝達役にサチ、あとは俺と一緒に実働隊だ。ケイタは逐一俺たちの位置情報をサチに送るように。どこからダンジョン扱いされるかわからんからな」

 

全員が頷き、各々行動を始める。俺たちは万が一に備え結晶関係を持てるだけ持ち、その中にキリトたちの分も含める。

アスナにも連絡を済ませ、今からきっかり一時間後に、五十五層の転移門前に集合ということになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、準備はいいな?リズベット捜索隊出発だ!!」

 

 

「ちょっ!!ちょっと待って!!キリトくんは!?」

 

 

「え?あいつはついでですよ?なんせ殺しても死なないようなやつですからね」

 

 

俺の発言にアスナが色々反論をしてくるが、あの子は主人公補整がきっちり入っているので問題ないのである。

まあ、そんなことを言ったらリズにもサブヒロイン補整が入ってんじゃないかと言われるが知らん。

 

それをここの人達に言っても通用しないので、ギルメン優先になるのは仕方ないということを話す。

 

 

「まあ惚れた男がついで扱いされたら怒りますよねー」

 

 

―――――ぐるんっ

 

 

俺の言葉に全員が一斉に振り向く。

 

 

「え!?どういうことですか!?アスナさんいつからなんですか!?」

 

 

「ほうほうほうほう、大変興味深いな。あの閃光様がキリトに恋してるとな?」

 

 

「………やめとけって…」

 

 

 

上からシリカ、テツオ、ケイタの順である。

 

 

「なっ……なななな…!!そ、そんな訳ないでしょ!?何回言わせるのよ!!」

 

 

「「「ニヤニヤニヤニヤ」」」

 

 

この赤面と狼狽っぷりが物語っているのは、誰の目から見ても明らかである。

いい加減にバレてるのだから認めたらいいのに、本人はまだ隠せているつもりらしい。

 

目的の村に着き、まずはここで小休止する。

ここから西に行ったところの山にドラゴンがいるらしいので、恐らくは二人ともそこに向かったのだろう。

四人で急ぎ足とは言わないものの、若干ペースを上げて進む。

 

険しい雪道の登ること数十分。モンスターともあまり遭遇することなく頂上に到着。

周りには巨大なクリスタルが伸びており、幻想的な景色を生み出している。

 

そして山頂の中央にはさらに巨大な穴が開いていた。

 

 

「あの二人が帰ってこれなくなる要素と言ったら、これくらいしかなさそうだな」

 

 

周りには戦闘をしたような形跡などなく、のどかなものであった。オブジェクトなのですぐに元通りになっただけかもしれないが。

 

 

「……そうね。それにドラゴンは夜行性って言ってたわよね?今は昼間だけど私たちが縄張りに来たのに姿も見せないわ。巣穴から出てくる様子もないし……」

 

 

巣穴に帰らないドラゴンってなんなの?とか思いつつ先見隊を派遣する。

 

 

「という訳でレッツゴーシリカ」

 

 

「ええええ!?私だけですか!?それはかなり無理がありますって!!」

 

 

「お前には便利な空飛ぶ相棒がいるじゃないか」

 

 

お忘れかもしれないがシリカはテイマーである。

本人が強いので出番がほとんどないが、お供のフェザーリドラも立派な竜種なのである。

そのフェザーリドラ―――ピナにちょっくら巣穴の中を見てきてもらおうというわけだ。

久しぶりの出番に気合充分なピナは、シリカの命令とともに巣穴へダイブしていった。

 

ピナが戻ってくる前にドラゴンが現れたら放置することにして帰りを待つ。

すると、十分もしないうちにピナは戻ってきた。かなり優秀である。

 

 

「やっぱり二人は中にいるみたいです。それとなんかピナの脚に手紙ついてます」

 

 

なんであいつは紙なんか持ってるんだ。

四次元ポケットでもデフォルトで装備されてるんじゃなかろうか。だとしたら羨ましい。

シリカから手紙を受け取りそれを読む。

 

 

「なになに?ほうほう……」

 

 

「……?何が書いてあるの?」

 

 

一向に手紙の内容を伝えない俺に業を煮やしたアスナが促す。

 

 

「いや……リズと二人きり…ぶっちゃけ得しかねえ。って書いてある」

 

 

――――ぴきっ

 

 

アスナの額に青筋が浮かぶ。

ほんの冗談だが、心配をかけた罰として存分に報いを受けるがいい。フラグ乱立ダメ絶対。

 

ちなみに本当はこう書いてあった。

 

 

―――金属を取りに来たはいいがドラゴンと戦闘になり、吹き飛ばしにより巣穴に落下。今のところ問題はないが自力で出るには何もなさすぎて無理。救出は早めに―――

 

 

突っ込み所満載である。

何もないのにペーパーを持ってる意味とか、どんなドジ踏んで吹き飛ばしをもろに喰らったのか、色々聞きたいことはある。しかしそれは後にして、どうやって救出するか作戦を練らねばならない。もういっそのことロープでも腰にくくりつけて、現実の救助隊みたいにいくか、と考えていたら遠方から飛んでくる影が見えた。

 

それが近づくにつれだんだんと大きくなる。その影の形がわかるくらい大きくなったところで全員に目で合図を送る。

 

―――巣穴に帰るようであれば放置。こちらに攻撃を仕掛けてくるなら迎撃―――

 

その意図を悟った四人は瞬時に身を隠す。誰か一人でも見つかれば、この作戦はパーとなりまた別のものを考えなければいけなくなる。

しかしその心配は杞憂となり、ドラゴンは俺たちに気づくことなく巣穴へと入っていく。

それを見届けた俺たちはそーっと巣穴を覗く。

すると中からドラゴンの鳴き声らしきものが聞こえ、そのあまりのうるささに思わず全員飛び退き耳をふさぐ。それが良かったらしく、すぐに巣穴からはドラゴンが出てきた。あのまま覗いていたら恐らく轢き殺されていただろう。

そしてドラゴンをよく見ると、リズを抱いた格好のキリトが尻尾に捕まっていた。

俺がやることはただひとつ。

近場にいるアスナを煽ることだけであった。

 

 

「アスナさん。見てくださいよ、あのドラゴンの尻尾。キリトがリズを抱き締めてますよ。リズのレベルならそんなことする必要ないんですけどねー」

 

 

「…………別にいいんじゃない?キリトくんが危ないって思ったからああしてるんじゃないの。…………ぐすっ」

 

 

最早半べそ状態であった。

可哀想だとは思わない。本人が別にキリトのこと好きじゃないって言ってたし気にする必要はない。ただ、俺の性格がだんだんと曲がっていってるのは事実だと思われる。

 

キリトの楽しそうな声で思考の中から現実(?)へと戻る。

こっちの気も知らないで大変楽しそうである。

きっとアスナの前に戻ってきた時が一番大変だろう。

 

それにしてもここからじゃよく見えないが、リズもキリトに抱かれたままとなっている。リズのレベルならあの高度から落ちても、着地は楽々できるはずなのに。ああ、やはりキリトに惚れたか。心なしか表情が女らしくなっている。多分俺以外は気づいていないだろう。

アスナは自分の世界に込もってぶつぶつ一人で喋ってるし、他の三人は驚きでそこまで見る余裕がないと見えた。

 

とりあえずは二人の無事は確認できたので、今回の目的はこれで終了である。特にドラゴン狩りをしにきた訳ではないのでさっさと帰る。

俺はまだ正気に戻らないアスナを引きずりながら雪山を後にした。

 

 

 

 

 

俺たちは村に引き返したあと、転移結晶で四十八層の主街区であるリンダースへ戻った。なぜ村にまで引き返したかというと、それまでアスナが正気を取り戻さなかったからである。

少々思い込みが激しすぎるが、原因は自分にもあるのでしょうがない。

リンダースへ戻ったあと、すぐに《リズベット武具店》へ向かう。

するとまだ工房では、リズが武器を生成中だったので大人しく待機していると、アスナが誰もが振り返るような天使にも見紛うほどの微笑みとともに、キリトへ渾身の一撃を繰り出した。

完璧に油断していたキリトは、それをもろに喰らい妙な呻き声とともに、その場で崩れ落ちた。

 

表情ではうわあ…というものを作りながらも、内心ではちょっとスッキリしている。

フラグを乱立するからこうなるのだ、馬鹿者め。某誠くんのようにはなるなよ、と思いながらキリトの武器が出来上がるのを待つ。

 

しばらくすると奥の工房から、リズが一振りの剣を片手に持ちながら出てきた。

長年ギルメンとして一緒にいた俺たちすら驚愕するほどの笑顔とともに。

 

 

「キーリトっ!!お待たせ!!お待ちかねの武器が出来た……わ……よ……ってうわああああ!?な、なんであんたらまでいんのよ!?それにアスナも!!」

 

 

「なんでって、五日近くも姿を見せないから捜しに行ったら、問題なく出てきたので一言文句でも言いに来たんだけど……いやはや、これはこれは」

 

 

「―――――っ!?なんなのよ!?何が言いたいの!?」

 

 

「「「ニヤニヤニヤニヤ」」」

 

 

煽り耐性のついてない人には大変有効であるこのニヤニヤ攻撃。

さらに恋愛経験のない者には大打撃を与えられる優れものとなっている。

ちなみにアスナは意味がわからずにキョトンとしている。

ああ、色んな意味で鈍感なのは似た者同士なのか。

 

 

「さ、そしたら私たちは帰りませんか?お邪魔したら悪いですし」

 

 

シリカの表情が物語っていた。これは面白くなりそうだと。全面的に賛成の俺は、そのままキリト、アスナ、リズを残し他を連れて店を出る。

 

もちろんそのまま素直に帰るわけがない。野次馬根性丸出しで中の様子を伺う。

それにならいシリカとテツオもそっと窓に顔を近づける。

というかシリカはいつの間にこんな子に……前にも言ったかもしれないが、俺の影響を多大に受けすぎな気がしてならない。

 

――――まあ、それはそれ、これはこれ。ということで覗きを慣行していると、リズが店から飛び出した。

 

アスナを伴い、店の奥に入ったと思ってすぐのことだった。アスナは訳がわからずオロオロするばかりであった。

それを見たキリト、さすが主人公、何もわからずとも店を飛び出したリズをすぐに追いかけていった。

 

 

「……多分これ以上見てても面白いものはないから帰ろうか」

 

 

「だなー。それにしても若いっていいなあ……超青春してんじゃんか。なあケイタ」

 

 

「テツオ、俺はまだそこまで歳を取ったつもりはないぞ。せいぜい一つくらいしか変わらないじゃないか」

 

 

青春ねえ……そんなものは前世に置いてきたかもしれん。中学になってもろくな恋もしてなかったからな。キリトのご機嫌取りで忙しいのなんのって。

 

 

「シリカも俺みたいにはなるなよ。ちゃんと青春しな。きっと楽しいぜ」

 

 

「………そうですね、とはいってもそういう風に感じてる人が少ないので、どうなるかわかりませんけど」

 

 

シリカはそう言って苦笑した。

俺は頑張れよ、とだけ言ってシリカの頭を撫でた。

 

その時にシリカが何か呟いたような気もしたが、声が小さすぎて何も聞こえなかった。

 

 

ただいま《ゼロの騎士団》のギルドホームでは、なかなかに変なものが見られる。

それはリズが店を飛び出したあと、キリトが追いかけていった時の夜のことであった。

あんなことがあったので、どんな暗い顔をして戻ってくるのかと思ったら、なんと満面の笑みで戻ってきたのである。

これはその時の一部始終である。

 

 

 

「よー、どしたんリズ。なんかご機嫌だな」

 

 

「えー?そう?別になんでもないわよ?」

 

 

心なしか口調も柔らかい気がする。

口角が緩みっぱなしで、たまに気持ち悪い笑い声まであげる。

その際には「キリトが私の剣で………」とか「現実に戻ったら……」とかこのままゲームクリアをしない方が、キリトにとって幸せなんじゃないかと思ってしまうほどであった。

このよくわからない脳内妄想は、しばらく続いた。これが終わったのは、キリトとアスナが結婚の報告に来たときである。

その日二人の前では気にしてない風に装っていたが、ホームに帰ってから部屋に閉じ籠り泣いていた。

 

失恋など珍しいことではない。むしろ叶う方が稀有なのである。これも社会勉強だ。これも経験しておいて損はないはずである。まあ、経験しないに越したことはないのだが。

 

リズは思ったよりも強く、次の日には今までと変わらない状態で、俺たちの前に出てきた。

 

 

「………もう大丈夫なのか?」

 

 

「全然平気!!……って言ったら嘘でしょうね。それでもあの二人はお似合いだもの。それこそ嫉妬する気もおきないくらいね」

 

 

そう言っていたリズの表情は晴れやかであった。

 

 

 

 

 





まだまだ活動報告にてアンケート実施中です。
是非ご協力を。

74層まであと二話ほど挟む予定なので期限は次話投稿の時に決めます。

ちなみに今はALOまでの方が三名、それ以降の方が二名となっております。

五名の方、ご協力ありがとうございます♪ヽ(´▽`)/


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24!!

 

先日、俺たち攻略組は六十九層のフロアボスを撃破し、ついに大台の七十層へ到達した。

 

今日はそのお祝いということで攻略は一休み。

どこもお祭り騒ぎとなっていた。俺たちも例外に漏れず楽しもうということで、何をするか検討中である。

娯楽施設はけっこうあるが、それだけではつまらない。なにか、画期的な提案はないものだろうか。

 

いきなり問われても、今まで攻略に専念してきたメンバーである。そう簡単にいい案が浮かぶはずもなく時間ばかりが過ぎていく。

もういっそのこと、リアル暴露大会でもやってしまうか。

もちろん実名や住所などがバレるようなものは禁止だが、今までにあった恥ずかしい体験だとか過去の残念な出来事などなら大丈夫だと思う。

 

という訳でさっそく生け贄となってもらうキリトを呼び出す。ついでにキリトが来るなら、ということで釣られたアスナも含め九人での暴露大会がスタートした。

 

 

「さて、ドキッ!!人数的には女性が多いよ?暴露大会!!を始めたいと思います」

 

 

わーわー、ぱちぱちー。

こうしてまばらな拍手とともに暴露大会はスタートした。

 

 

「じゃあまずはどうする?俺が言い出しっぺだし、質問っつか聞きたい事があるならだいたい答えるよ」

 

 

「それじゃあ……ずいぶん昔だけどキリトくんとの関係を聞いたことがあったよね?私はそれが知りたいなー……なんて」

 

 

いつだったか忘れたが、確かにそんなような事を聞かれた気がする。

 

 

「んー……それはキリ次第だよね。どうする?喋っちゃってもいい?」

 

 

これは俺だけのことではないのでキリトにも確認する。

 

 

「あ?別にいいけど……というか、もうとっくに言ってるもんだと思ってたよ」

 

 

「はい、キリからのお許しが出たので言っちゃいます!!実は…俺とキリは………生き別れの双子の兄弟だったのだ!!」

 

 

「嘘をつくな!!」

 

 

――――――パシーン

 

どこから取り出したのかわからないが、ハリセンが俺の頭にヒットする。

 

 

「ふっ……キリよ……ナイス突っ込みだぜ……これでお前に教えることはもうない……頑張るのだ……!!ガクッ」

 

 

つまらないギャグは場をシラケさせるには充分すぎた。みんなの視線が痛い。

気を取り直して本当のことを話す。

 

 

「あー……オホンっ……んで俺とキリの関係だよな?別にたいした事じゃないさ。そこのケイタやテツオ、サチと一緒でリアルでも知り合いってだけだよ。まあ、三人と違う点は、俺たちは物心つく前から一緒だったから、所謂幼馴染みってやつかな」

 

 

そこで反応が二つに分かれた。

まずは普通に驚く側と、ああ、そうだったのかと納得する側である。ちなみに後者はアスナとシリカだ。他は前者の反応を示していた。

 

 

「なるほど、だからキリトくんにたいしては多少過保護になったり、扱いが適当だったりするのね。初期からの疑問がようやく解消したわ」

 

 

「さあ、他にはー?キリのことならなんでも答えちゃうよー」

 

 

「それはやめろよ!?」

 

 

キリトの他人には絶対に知られたくないことまで知っているので本人は焦る。すると今度はアルゴから質問がきた。

 

 

「これはずっと疑問なんダガ、キー坊とクゥ坊……どっちが強いンダ?」

 

 

考えたこともなかった質問に、俺とキリトは目が点になった状態で視線を合わせる。

 

 

「んー、リアルでは俺だな。ここだと多分キリじゃない?」

 

 

「そうか?お前はずっと俺の前にいるイメージがあるんだけど」

 

 

「あんまり興味なかったからねー……めんどくさいしキリでいいよ」

 

 

「はあ……やっぱりこれだよ。という訳で俺の方が強いみたいだぜ?」

 

 

溜め息とともにキリトが結論を出す。

どうでもいいことには行動を起こさない俺をよく理解していた。

そしてこういったことで、めんどくさいという言葉が出るとその話は終わりだということも。

 

 

「全然納得出来ないガ、そういうことにしておくゾ」

 

 

「ありがとうねー。ここでデュエルしてみてとか絶対やだからごめんねー」

 

 

そんな話になっても断固拒否である。なんでせっかくの休み的な日にすらバトらなきゃならないんだ。俺はバトルジャンキーではない。至って正常な思考回路の持ち主である。きりっ

 

 

「なんか俺とキリのことばっかでつまんないな。よし、ちょっくらベクトルを変えようじゃないか」

 

 

「………なんか嫌な予感がします」

 

 

「大した事じゃないさ。これから順番に誰かの、本人は秘密にしてるけど自分は知ってることを話そうぜ。えー、つまり恥ずかしいことが明るみになる可能性は大きいよ」

 

 

どういう事か詳しく説明をする。

今回俺が例に出したのが、黒猫団時代のキリトとサチの話。サチが行方不明になりそれをキリトが見つけて、その夜以降サチは枕を持ってキリトの部屋で寝ていた。

これを話した時の周りの反応が面白かった。

サチは真っ赤になりうつむき、キリトはやましいことなど何もなかったと弁明を始め、アスナはそれに詰め寄り、リズはなにかショックを受けたように茫然とし、ケイタとテツオは井戸端会議のおかあさん方みたいにヒソヒソと噂をするようにキリトとサチへあらぬ疑いの視線を向け、アルゴは重要な情報として記憶し、シリカはこの混沌を招いた俺を冷ややかな目でみつめ、俺は爆笑。

 

こうなることが分かっていてやったのである。

騒ぎが落ち着いてきたところで、キリトが苦笑いをしながらこんなことを言い出した。

 

 

「なんでそんな事知ってんだよ……もしかして他にも知ってて言ってないこととかありそうで怖いな」

 

 

そこまで言うなら期待に答えよう。そんなに火に油を注ぎたい自殺願望のような事をしたがるなんてキリトも変わったやつである。

 

 

「そんなことないよ?実は一層攻略後にアルゴに後ろから抱き締められて、思わせ振りなことを言われたにもかかわらず圧巻のヘタレっぷりでスルーしたとか知らないし、この間リズと行方不明になってたときは、夜寝るとき実は手を繋いだままだったとかも知らないし、前にアスナの手料理をご馳走になったことも知らないよ?」

 

 

「なんで知ってんだよー!?」

 

 

あーあ、墓穴掘った。

ほら、君に惚れてる数名の空気が冷たいものに変わってしまったじゃないか。

断じて俺のせいではない。

 

 

「それにこの前はシリカが妹さんに似てるって言って、つい世話をやきたくなるとも言ってたのも知らないな。というかあんま似てないと思うけど。雰囲気的には分からないでもない……かな?」

 

 

「なっ!?お前それは言うなって!!」

 

 

「………キリトくーん…?ちょっといいかしら?」

 

 

「………は………はい…」

 

 

そのまま怖い笑顔をしたアスナにキリトは連れて行かれてしまった。ちなみにその後ろにはシリカ以外の女性陣がついていった。

付き合ってもないのにお仕置きとか言って、意味わからないことをするような人たちじゃないのでそのまま放置する。

多分詳しい話を聞きたいだけだろう。

 

そして、本当に生け贄になってしまったキリトは置いといて。シリカが話しかけてきたのでそれに答えるために向き直る。

 

 

「あの、キリトさんに妹っていたんですか?」

 

 

「おー、いるいる。俺ら……俺とキリの一つ下だな」

 

 

「へえ、どんな方なんですか?」

 

 

どんな……どんな人だったかねー。あんまり意識して見たことないから感じたままに言うか。

 

 

「そうだな……一言で言うなら強い子だったよ。まあ面白いくらいお兄ちゃんっ子だったけどな。何をするにもいつもキリの後ろにはあの子の姿があったよ。キリと遊ぶ時はだいたい妹さんも一緒だったさ、ある出来事から二人は疎遠になっちまったけどな」

 

 

その疎遠になった理由も聞かれたがそれは話さない。

これは兄妹の問題であり、俺が口出しするべきことではないからだ。

それにこのSAO事件が解決すれば、自然と元の関係に戻るはずである。

リアルでのプライベートをこれ以上喋っても仕方あるまい。

 

 

「それにしてもみんな戻ってこないな。なにしてんだ?」

 

 

「完璧にクゥが悪いぞ。うちのサチまであんなんになっちまった」

 

 

それも俺のせいではない。

もともときっと恐らく多分サチにはそういう要素があったのだ。

それが今回の出来事で開花しただけで、決して周りの影響でこんなことになった訳ではない。というかもしそうだとしたら周りの影響受けすぎということでお説教だ。自分は自分なのだから周りに合わせなくても大丈夫だということを教えてやらねばなるまい。

 

 

「つか帰ってくんの遅すぎだからもう解散で。俺はこれから一人で行くところがあるからお先な」

 

 

そう言い残し、皆の帰りを待つことなくギルドホームを出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は今血盟騎士団のギルドの本部へと来ている。

何故かというと、先日俺のスキルカテゴリにキリトの二刀流と似たようなスキルが出ていたからであった。

 

専用の武器などどこにも置いてないし、今までの層でドロップした形跡もないので、それならいっそのこと本人に聞いてしまおうと思いたった。

しかしそれにしても本部はなぜこんな厳重なのだろう。それにヒースクリフと会うのになんでアポが必要なんだよ。圏内PKなんて結局は出来ないことが分かってるんだから、素通りでいいじゃないか。奴は本物のチートなんだしそう簡単にくたばらないっつーの。

 

なんて悪態を吐きつつ、本部内を進んでいく。

見るからに高そうな物がそこらかしこに飾ってある。

そして無駄に通路も長い。ギルメンが全員ここに住み込みな訳じゃないのだから、ここまでする必要はないと思う。

というか住み込みだとしても部屋数はメンバーの人数をはるかに越えていた。

数える気も無くすくらい通路を曲がり、恐らくここが最奥部であろう、目的の部屋へ到達する。

 

扉も例に漏れず高い。自分の背丈の五倍はありそうなくらいの高さがあった。

正直ノックしても聞こえないんじゃね?と思ったので呼び鈴的な物がないか扉の前を何回も行き来しながら探す。

 

すると扉がいきなり動き始めたので慌てて後ずさる。

外へ向かって開くタイプだったので、避けないと潰されそうであった。

もしこれが遊び心で上に持ち上げるタイプだったらキレてるところだ。こんなデカイのどうやって持ち上げんねん!!と。

 

 

「入っていいかーい?つーか入りまーす」

 

 

とりあえずの礼儀として声だけはかけておく。

そもそも門番やらから話は通ってるので、来ることは分かっているはず。特に返事がなかったのでそのまま入ってこいという意味で解釈をする。

 

 

「おー、いたいた。こうして二人で話すのは初めてだな。ヒースクリフ」

 

 

「そうだな、クゥド君。ところで君はなんの用があってきたのだね?私も暇じゃないのでね……手短にしてもらいたいのだが」

 

 

そりゃまあ、最強ギルドの団長ですからね。うちみたいな小数ギルドとは訳が違うだろう。しかしそんな事を言っていられるのも今だけだ。

 

 

「まあそんな事を言わずにゆっくりと話そうぜ?とりあえず聞きたいんだが、俺のスキルカテゴリにユニークスキルが出てきたんだが、これどういうこと?」

 

 

「ほう……そうだったのか。私以外には初めて見るな。どんなものか教えてもらいたいものだ」

 

 

「別にいいけど…二刀流とおんなじような《双剣》っつーやつだな」

 

 

ヒースクリフはあっさりと自分のスキルを話した俺に驚愕している。

俺じゃあこいつには勝てないので隠す必要もあるまい。こいつを倒すのはキリトの役目だ。俺は本当にただこのスキルについて知りたかっただけでここまできたのである。

ついでに武器も出してほしいなーなどと考えたりはしているが。

 

 

「………いいのか?私に手の内をさらけ出すようなことをしてしまっても」

 

 

「だってお前に勝てないし。普通にチートじゃねえか」

 

 

「それは面白い意見だな。その根拠とやらはあるのかね?」

 

 

こっちには俺の記憶という根拠がある。

実際にキリトとデュエルをしたときイカサマしたのでチートでいいと思う。

 

 

「……もういいんじゃね?俺がお前にユニークスキルについて聞きにきた時点で、なんとなく察しはついてんだろ?」

 

 

「………なんの事だかさっぱりなんだが、説明してくれないか?」

 

 

「俺がお前のところに来たのは、お前がSAOの開発者だからだよヒースクリフ……いや茅場晶彦」

 

 

俺の言葉にヒースクリフ……茅場はよく見ていないと分からないレベルではあるが表情を変えた。

勿論茅場もたかだか一回そんな事を言われた程度では己の正体を晒しはしない。

なので俺の過去話をする。

当たり前だが俺が工藤夏希となる前の話だ。

 

 

「なかなかユニークな発想だね。どうして私が茅場だと思ったのか、詳しく聞かせてくれないか?」

 

 

「そうだな……実はな、俺前の世界の記憶を受け継いで産まれたんだよ。よくTVとかでやってる前世の記憶ってやつをな。そして前世だとよ、このSAOってのは人気作だったんだ。……現実ではない、小説……ライトノベルとしてな」

 

 

「……なに?」

 

 

そこから俺は茅場にその事を話始める。

さすがに他人のステータスに触れるようなことは言わないが、それでも出来る限り簡潔に、なおかつ真実であると分からせるために。

これまでの事も、これから起こりうる事も全て話した。俺がいるせい、もしくは俺が話したことでまた少し改変される可能性がある事も含めて。

 

 

「なるほど、そこまで分かっているのであれば隠す必要は皆無だな。確かに私が茅場だ。それが分かっていてどうして私を殺そうとしない?」

 

 

「結局は俺も狂人だからさ。お前とは同じ穴の狢だよ。それにお前を倒すのは俺じゃない」

 

 

「ふっ……そうか……それでは私を倒してくれるプレーヤーが来るのを大人しく待っているとしよう」

 

 

「楽しみにしとけよ?それまでアイツの枷になることは全て俺が排除する。………でそれはそれでいいんだけど、双剣の武器ってなくね?どうすんのよ!?宝の持ち腐れなんだけど……いや、割とマジで」

 

 

………ん!?今茅場がずっこけた!?あまりの切り替えの速さにびっくりしたのか?あいつってけっこう面白いやつなのかもしれん。顔に出ないだけでリアクションは面白いというわけか。なかなかやるな。

 

 

「……その双剣スキルは少々特殊でな、本来は出ないはずだったのだか……君というイレギュラーのせいで出現してしまったようだ。だから武器もどこにもないのだよ」

 

 

それを聞いてうちひしがれた。まさかバグだとは思わなかった。ちゃんと茅場が出現条件を満たせばスキルカテゴリに出てくるように設定してあるものだと思ってた。

それじゃあ本当に宝の持ち腐れになってしまった。

 

 

「だが私の権限であれば、武器も出すことは出来る。ただそれには条件がある。聞いてもらえれば武器を授けると約束しよう」

 

 

「条件次第だ。言ってみろ」

 

 

「もし彼が私を殺せなかった場合………君がこの、私が渡す剣で私を殺しに来てほしい。それだけだ」

 

 

「そんな事はないがな。アイツは絶対にお前を倒す。だがいいだろう。万……いや、億が一お前に破れたら、その時は俺がお前を殺してやる」

 

 

手間をかけるな、と言って茅場はウインドウを操作する。

しばらくすると俺のアイテムストレージに一つ武器が加わっていた。

 

 

「今君のストレージにアイテムを転送しておいた。その武器は性能的には百層まで使えるものとなっている。だがその事を怪しまれないよう性能に鍵をかけている。その鍵は一つ層を上がるごとに自然と外れるようになっているので心配は無用だ」

 

 

なるほどね。それなら全力を出しても大丈夫というわけだな。

二刀流と違うところは二刀一対ってところと、あとは連撃スピードが全武器中一番ってところか。その分パワーの方は二刀流より若干落ちるようである。

 

 

「うん、ありがとな。じゃあまた死ぬ時に会おう」

 

 

「ああ、それが君でないことを祈っておこうか」

 

 

最後にちょっとしたジョークを挟んで血盟騎士団のギルド本部を後にした。

それにしても、案外話の分かるやつであった。

 

いや、狂人同士気が合っただけかもな……

 

敬語?

敬語ってのは言葉通り敬う人に使うもんでしょ。

この騒動の元凶と言えるヒースクリフに俺たちが知るところで敬うべき箇所があるか?

 

 





今、ALOまでとGGO以降が同数となっております……

というか同数の場合は決めてなかった


なので同数の場合はSAO編で終了させていただきます。
票数が同じなのにALOやGGOまでいくと投票の意味がなくなってしまいますので。


投票の期日は今月末までとさせていただきます。
よろしければご協力お願いします。


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25!!

 

俺は先日ヒースクリフから貰った双剣を手にフィールドで戦闘をしている。

ただ時間があまりにも少ないので、そこまで使えるものになるかは分からない。

しかしそれにしてもこの双剣スキル……最低でも八連撃と確かにヒースクリフが言っていたように、連撃数は群を抜いている。

ただバグということもあり、最高連撃数が百というバカげた数値となっていた。まあこの技は、スキルの熟練度が900を越えないと使えないので、クリアまでに使えるようにはならないだろう。

 

今から約一ヶ月ではせいぜい上がっても500だ。ちなみにそれくらいまでなら簡単に上がるが、それ以降は技も強力になるぶん習得も難しく熟練度も上げにくくなる。

武器の威力が高いので最前線でも通用するが、まだ公にはしたくないので攻略組から外れて熟練度を上げている最中だ。

 

もちろん初めて使う武器なので、一人でやるなんて馬鹿げたことはしない。必ずシリカを連れて必要以上の安全マージンを取り行動する。

今も俺の熟練度上げに付き合ってくれているシリカに、いつかはお礼をしないといけないと思いつつ向かい合う敵に集中。先程使えるようになったソードスキルを試してみる。

 

 

「ええ……と?これでいけるか?」

 

 

ソードスキルを発動させるためには、システムアシストが発動するまでのモーションを自分で作らなければならない。

それが上手くいかないと、ソードスキルが発動しなかったり、不発で終わってしまうこともある。

故に一つの技でも、どの体制からでもモーションに入れるようにするために何回も練習を重ねる。

 

そして俺が今発動させようとしているのが双剣スキルの下位技である【絶影】。

この技は一撃毎に攻撃箇所が変わる。目の前で剣を振り、何回もダメージを与えるのではなく、すれ違いざまに一撃を与えることを計十回ほど繰り返すもので、どの位置からでも同じようにダメージを与えられるので重宝している。

 

うん、上手く発動した。

これでこの下位技は習得したと言っても過言ではない。

ちなみに技が解放されただけで習得とは言えない。どのような状況下においても繰り出せ、ダメージを与えらる算段をつけられなければ意味がない。

 

今日の最終チェックということでシリカとデュエルをする。

ここ最近このスキルの熟練度上げの作業をしたあと、シリカと戦闘を行うのが定例となっていた。

 

俺もシリカもどちらかと言えばスピードタイプなので、対人戦の相手としては申し分ない。

シリカは応用力や戦闘技術が上がるし、俺も完成度を見ることが出来るのでお互いに良いことばかりであった。

 

場所を決闘場に移しお互いに向き合う。

 

 

「それじゃいつも通りに。どちらかのHPがイエローゾーンに突入したら終了な」

 

 

「わかりました。それじゃあ……行きますっ!!」

 

 

シリカが声と共にダッシュをして俺の懐に入ってこようとする。そのダッシュを利用し短剣を右手に構え、左上から袈裟斬りのように振り下ろす。

俺は体を捻ってそれをかわす。

 

かわしたところでシリカはそのまま剣の軸を水平にずらし、回転。遠心力を使い横凪ぎに払おうとする。

それを左の剣で受け止める。

多少たたらを踏む程の威力だがそこは足腰で支え、余っている右の剣で左の剣の真横を通るようにシリカの剣を跳ね上げる。

 

それと同時にシリカはその跳ね上げられた武器の遠心力を利用し後方へ宙返り、着地と共にバックステップで距離を空ける。

 

シリカがバックステップしたのと同時に、俺は距離を詰めるため前進。

そのまま片方の剣で突くように腕を伸ばす。それをシリカが避ける。また同じ方の剣で突く。シリカが避ける。突く。避ける。突く。避ける。

 

幾度か繰り返したあと、シリカが慣れてきたころに不意討ちで、手持ちぶさたになっていたもう片方の剣でシリカの胴体めがけ払う。

シリカは虚をつかれたが、しゃがんでこれを回避しそのまま足払い。

 

それに引っ掛かってしまった俺は、受け身を取れず背中から地面に落ちる。

これを好機と見たか、シリカはすぐに立ち上がり俺めがけ剣を振り下ろす。これを横に転がることで回避。その際シリカの足を巻き込むことも忘れない。

そのままシリカも地面へ倒れこみ、これでお互いに地面で寝転がる形となった。

一瞬目を合わせたあと二人同時に立ち上がりそのまま戦闘を再開する。

 

慣れていない双剣を使っている影響だが、シリカにはいつも押されてしまう。

攻撃速度や回数はこちらの方が上であるにも関わらずだ。

理由としてはシリカの戦い方にある。シリカはなるべく堅実に戦うタイプで、あまり無茶をしない。

避けるための反射を鍛え続け、ただ振り回しただけではロクに攻撃も当たらない。

隙が出来れば絶対に見落とさず、確実に攻撃を当ててくる。

手数で勝負する双剣では分が悪いのも当然であった。

しかしだからこそシリカとの模擬戦が役に立つ。

シリカ以上のスピードは攻略組でもなかなか見かけない。

血盟騎士団のアスナが互角くらいと言えるレベルであった。

 

シリカのスピードと戦っていると、最前線のMobたちの動きが止まって見えたりする。

だから双剣スキルの練習に付き合ってもらっているのだった。

熟練度の低い状態でシリカとの戦闘に慣れておけば、いずれ熟練度が高くなった時楽になる。

それがシリカに熟練度上げを手伝ってもらっている理由であった。

 

そして今回も俺の敗けで模擬戦は終了した。

少し隙が出来たところに、直ぐ様ソードスキルであるアーマー・ピアースが懐に決まってしまった。

これは短剣スキルでも下位技であり、単発となっているので攻略組ではあまり使われなくなっているが、状況に応じてシリカは使い分けていた。

 

 

「あ…そう言えば今度お礼をしてくれるって言ってましたよね?」

 

 

「おー?まあ、出来ることなら」

 

 

「そしたら……今からご飯食べに行きませんか……?ええと……出来れば…二人…で」

 

 

「うん?そんなんでいいの?別に俺は構わないよ」

 

 

やたっ!!と小さくガッツポーズを決めて喜んでいたが、どうしたのだろう。

飯なんざいつも一緒に食べてるのに。

 

とりあえずギルメンに今日俺とシリカの二人は、外で食べてくることを伝えて店に向かった。

道中シリカが頻繁にメッセを開きぶつぶつと顔を赤くしながら何か呟いていたので、気になって覗こうとしたら怒られてしまった。

 

そして着いたお店は見たことがあるところだった。

 

 

「ここにしましょう」

 

 

シリカに確認をする。

 

 

「本当にここでいいのか?俺の驕りなんだからもっと良いところでも平気だぞ?」

 

 

「違います……ここがいいんです……私たちの出発地点……ギルドを立ち上げた時に相談したところ」

 

 

そう。シリカが望んだところはギルド、ゼロの騎士団が発足した酒場であった。

特に何かが美味しかったような記憶はないがここがよかったようだ。店内に入り注文をする。

 

 

「懐かしい……今でも不思議です。私がこうして最前線で攻略組として生き残っていることが……全部クゥさんが引っ張っていってくれたおかげです。今日はお礼を言いたかったんです……あの時私を見つけてくれてありがとうございます。私を連れて行ってくれてありがとうございます。そしてそのあともずっと私のそばにいてくれてありがとうございます」

 

 

俺は早継ぎに聞こえた言葉にほとんど反応も出来ず頷いているだけだった。

どうしてこのタイミングで?

その答えはすぐに出た。

 

 

「私は……クゥドさんが好きです…多分出会った時からすでにそうだったんだと思います。ゲームをしていてあんなに楽しかったのは初めてでしたし、そのあとこんな状況になっても自分を見失わないでこれた……全部全部クゥさんの期待に答えたかったんです」

 

 

今度こそ本当に言葉が出なかった。

脳内ではなぜ?とかシリカはキリトにじゃないの?とか色々な言葉が飛び交っている。

正直訳がわからなかった。

 

 

「……クゥさんが私の事を妹みたいな感じでしか見ていないことは知ってます…まあ、寂しいですけど。これからは私の事をちゃんと意識して下さい。それからお返事は頂きます。このいつ死ぬかわからないゲームの中でやっと決心がついたんです……私はクゥさんが好き。多分これ以上ないってくらいに……だから……!!」

 

 

シリカが続きを言おうとしたところでウェイターのNPCが料理を運んできた。

 

食べましょうか、とシリカがにこやかに言ったのがこの会話の終わりとなった。

しかし俺は先程の告白が現実のものとは思えず、ずっと頭の中で反芻してばかりでそれ以外は何も頭に入ってこない。

 

そのまま気がつけばギルドホームへと戻っており、シャワーを浴びて自室にいた。

それまでの経緯は全く思い出せない。

どうやってここまで帰ったのかも、その帰り道でシリカと何を話したのかもである。

 

しばらくはこの状態で悩み続け、周りからは心配な顔で見られたが平気なふりをした。

そしてそれを振り切ったのは一週間後のこと、まずはシリカをちゃんと見てあげよう、全てはそこからだと思った。

 

多分結論はそう遠くないうちに出る。

なぜなら悩んでいるのに幸せな気分なんて、そうそうあるものじゃないだろう?

 

これはこれで贅沢なのかもなと思いながら、今日も熟練度上げに付き合ってもらうのだった。

 

 



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26!!

今日も迷宮区に篭り、他の三人と共に日夜攻略に勤しんでいる。少し早目ではあるが日没前に主街区へたどり着くために本日は引き返す。

 

すると帰り道の途中で逃げ足の早いモンスターと遭遇。周りに人がいないのを確かめ双剣を装備する。実はこの双剣スキルには、なぜか投擲技が登録されており、それを使いモンスターを撃破。そしてすぐにアイテム欄をチェック。お目当ての物が見事あったので、その場で小躍りしてしまった。

 

そそくさと急ぐように七十四層の主街区を目指し走り出す。俺はこんなところで結晶は使わない。四人もいれば充分安全だと言えるからだ。

だが誰かにバレても面倒なので走っている。

主街区に到着したあとアイテムストレージの物を売り捌くため、エギルの元へと向かう。

 

するとそこにはキリトがいた。どうやら順番待ちをしているようで、大人しくキリトの後ろに並んで待つ。

 

 

「よー、キリ。お前も何か売りに来たん?」

 

 

「ん?なんだクゥか。ちょっとレアなアイテムをゲットしたんでな」

 

 

そう言ってニヤリと笑った。

エギルがかなり安値でアイテムを買い取ってご機嫌なところでキリトがそのアイテムの名前を見せた。

 

 

「おおっ、ラグーラビットの肉か!!これS級食材だかいいのか?」

 

 

「まあな、持ってても料理できるヤツがいないからな」

 

 

その時誰かが店に入ってきた。

――――ピカーン

 

俺の脳内で雷が落ちた。

面白いことが起きそうな予感にワクワクが止まらない。

その人物はこちらに目を向けて軽く手を上げたあと、キリトの方へ歩みを進めた。

 

 

「キリトくん、こんにちは」

 

 

「シェフ捕獲」

 

 

「え?なんのこと?」

 

 

今来たばかりのアスナは状況が飲み込めていない。

キリトが丁寧に説明し、ようやく状況を理解、ラグー・ラビットの肉を調理する代わりに半分奪うことで手打ちになったようだ。

エギルは自分も食べたいと遠回りに言っていたが、感想文を提出されるだけという悲しい結果になった。調理場だがアスナの家でやるらしくキリトは多少どぎまぎしていた。するとずっとアスナの後ろにいた、影の薄い痩せ細った男が急に声を上げた。

 

 

「アスナ様!!いけません!!こんな汚ならしいところに顔を出すだけではなく、訳のわからない男を家に招くなどもっての他です!!」

 

 

「ブフォっ!!!!汚ならしい……訳のわからない男……アスナ様……ぐはっ…!!あひゃひゃ……」

 

 

つい笑いが堪えられず、汚ならしいでエギル、訳のわからない男でキリト、アスナ様でアスナを指差す。ひーひーと笑いを殺しながら涙を拭う。

 

 

「もー……失礼ですよ、クゥさん」

 

 

然り気無く俺の隣に来たシリカに言われるが、面白いのだから仕方がない。しかも笑い出したら、その発言をしたヤツが軽く睨んできたがお構い無しに笑い続ける。

 

 

「あー……笑った笑った。おっと失礼。続きをどうぞ」

 

そう言って先を促すとアスナが呆れたように切り出す。

 

 

「様って私が呼ばせてる訳じゃないからね!?……全く…それよりもクラディール、あなたが訳のわからない男と言った彼は多分あなたより十はレベルが高いわよ?」

 

 

「そんな馬鹿な!!私がこんな奴に劣るとでも!?」

 

 

こんな言い合いをしているうちに、周りに野次馬が集まって来てしまったのでそれを捌けさせる。ここはあくまで店であり見世物小屋じゃない。

憧れ(笑)のアスナを一目見たい気持ちはわからなくもないが、エギルの迷惑となってしまうので用がない方はお引き取りいただく。

すると話が纏まった、というかアスナが強引に切り上げたようで、護衛のクラディールとやらを放置して店を出ていってしまった。

俺はクラディールに近づき肩に手をおき一言だけ呟いた。

 

 

「……ど…どんまい……ブフッ」

 

 

「うるさい!!!!………っち…くそがっ!!」

 

 

最後に吹き出してしまったのがいけなかったのか、クラディールは怒ってしまいそのまま残っていた見物客に八つ当たりをするように怒鳴りながら出ていった。それを見送ったあと、俺はリズにメッセを一通送り、返事を待つ間ストレージに溜まっているアイテムをエギルへ売る。

するとそのなかの一つを目敏く見つけ、エギルが声を上げた。

 

 

「なっ!!お前もラグー・ラビットの肉を持ってたのか!!」

 

 

「まあ、そうですね。でもさっきのやり取り聞いてたら俺も食べたくなったんで売るのやめます」

 

 

「……しかしだな…誰か調理出来るヤツはいるのか…?」

 

 

「シリカが出来ますよ?用事が終わったら調理を頼みます」

 

 

「え、私ですか?……出来るかなー……」

 

 

そのあとエギルが次の言葉を発しようとしたところでリズからの返信がきた。それを見て素早く残りのアイテムを適当な額で押し付ける。俺の次の目的地はセルムブルグに決まった。

そうと決まれば後は早い。

エギルの話を聞くまでもなく放置、シリカたちには先に帰ってるように言い付け店を出る。転移門までダッシュして六十一層へと転移。あとは本人たちに見つからないように近場で待ち伏せる。

空が暗くなったころ二人が転移門から姿を見せた。俺の前を通り過ぎるのを待ってから尾行を開始する。

 

大通りを進む二人は何かを話していて、大変いい雰囲気と言えた。当然の如く記録結晶を常備している俺は、そのまま二人にバレないようにこそこそと後をつけ、その姿を記録していく。しかしこの記録結晶、遠いところの音が拾えないのが残念である。

 

すると二人が細めの路地へと姿を消した。慎重にその路地へ入り込むと、そこには二人の姿はなかった。辺りを見回しても姿を見つけられなかったため、諦めて後ろを振り向いて引き返そうとしたが、振り向いた方向には二体の鬼がいた。

俺の背中から仮想の冷や汗が流れ、額からは仮想の脂汗が流れ始める。

 

 

「三十六計逃げるが勝ちよ!!」

 

 

俺がその場で選んだのは逃げの一手である。化け物二体と戦闘をするぐらいなら即座に逃げる。

 

 

「「逃がすかあ!!」」

 

 

俺が逃げるのを見て追いかけてくる化け物、アスナとキリトの二人。転移門まで逃げてしまえば、どこに転移するかなどわからないのでこちらの勝ちになる。人の波を掻き分け、時には人の間を縫うようにして駆ける。さながらアイシールド○1になった気分だ。

大通りを全速力に近いスピードで駆け抜ける。すると転移門が見えてきた。俺はそのままスピードを緩めることなくラストスパートをかける。

 

 

――――これで俺の勝ちだ

 

 

転移門へ手をかけようとしたのだが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その前に俺の肩に手がかかる。

恐る恐る振り返ると、そこには息を切らしつつも得意気に笑うアスナがいた。これが普通の笑顔であれば見とれるようなものであったのは間違いない。しかし今の笑顔は、まさにニヤア……というかドヤアみたいなものであったため震えるのも仕方がないであろう。

 

 

「フフ……フフフフ……ついに現行犯で捕まえてやったわ……!!これまで散々からかわれてきたこと……忘れてないわよ?」

 

 

「はははは、やだなぁ……俺がそんなからかうだなんて……俺は二人の距離を縮めようと思っただけであって……」

 

 

「問答無用!!さっさとついて来なさい!!」

 

 

俺は半ば引きずられるようにしてアスナに連行されていく。途中でキリトと合流したのだが、奴も同じような笑顔を携え俺を見る。正直生きている心地がしない。しかもキリトが合流してからは、逃げないようにとの配慮のためか二人の間を歩かされた。これではさながら警察に連行される犯罪者のようである。

 

 

「ここが私の家よ。特別に入れてあげるんだから感謝しなさい」

 

 

「あ、じゃあ俺は特別じゃなくていいんで帰ります。お疲れっしたあ………ぐへえっ」

 

 

大人しく引き返そうとしたら

襟首を掴まれ、変な声が出てしまった。

 

 

「クゥドくん……大人しく言うことを聞いてね?」

 

 

「さーせんっしたあ」

 

 

アスナの顔を見て即座に土下座態勢。もうまともに見ていられる顔ではなかった。キリトですらひきつったような笑みでアスナを見ているのだから、俺が土下座をしてしまったのも無理はない。と思いたい。

 

中に入ると二人は装備を変えて部屋着のようなものになっていた。それから俺への尋問が始まった。

 

 

「それじゃあ、クゥドくん、なんで君は私たちの後ろをついて来たのかしら?」

 

 

「そりゃあ……二人きり、手料理、夜、悪くない仲、これだけ揃えばなにか起きると思った。というか起きなきゃ枯れてるとしか……」

 

 

「はあ……起きるわけないだろ……お前は俺らの仲を勘違いしてるんじゃないか?」

 

 

「え?だってアスナさんはお前のこと「わああああああ!!」たよ?」

 

 

近所迷惑にもなりそうな大声で俺の台詞を遮ったのはアスナ。アスナの隣にいたキリトは、予想外のところから大声が聞こえたので思いきり耳をふさいでいた。

 

 

「あ、アハハハ……もうこの話はいいわ。それよりも二人ともお腹すいたでしょ?すぐ用意するわ。あっ、そうだ。クゥドくんも食べていくわよね?それなら三人分用意しなきゃだね。久々に人の食事を作るけど、腕はいいから安心してちょうだい。さあ頑張っちゃうよー」

 

 

俺とキリトは目を点にして元気よくキッチンへ向かったアスナを見る。二人の様子を見るにどうやら誤魔化せたようであった。あのままだったらどんな恐ろしいお仕置きがあるかわかったもんじゃない。命拾いした俺は緊張感が一気に抜けた。

 

そのまましばらくキリトと雑談をしていると、キッチンの方から食欲をそそる匂いがしてきた。今日のメニューはシチューであるらしく、すでに盛り付けられた皿がそれぞれの目の前に置かれていく。

 

 

「それじゃあ食べよっか」

 

 

「なんかなしくずし的に俺まで……すみませんねえ、二人の時間を邪魔してしまったようで……」

 

 

キッとアスナに睨まれそれ以上は言えなくなってしまう。三人でいただきますをして、シチューを口にした瞬間にわかった。これは今まで食べてきたどの食材よりも間違いなく美味い。S級食材の名に恥じない美味さであった。それに料理人の腕も良かったのだろう、それぞれの素材の味が極限にまで活かされている。ゲームではあるが当然ながら料理にも腕が必要である。そしてそれぞれの食材をここまで完璧な味に仕上げるとは、さすがスキルをマスターしただけのことはあった。俺は最初の一皿で遠慮しておいたが、二人の食べるペースは全く落ちることなく大鍋にあったシチューを完食していた。

 

 

「美味かったなあ、アスナさん御馳走様でした」

 

 

「本当に美味しかった……ここまで生きてきて本当に良かった……」

 

 

かなり実感の籠った言葉だった。それほどまでにラグー・ラビットの肉は美味かったのだろう。気持ちはわからなくもない。三人で余韻に浸っていると不意にアスナがこんなことを切り出した。

 

 

「ねえ、クゥドくん。君ってシリカちゃんに告白されたんだって?」

 

 

「え?なんで知ってんですか」

 

 

「リズに聞いたから」

 

 

「俺知らないんだけど。クゥ……お前告白なんてされてたのか」

 

 

「まあなあ」

 

 

唐突すぎることで、特に警戒もすることなく正直に答えてしまう。しかしそれがいけなかった。アスナの目が興味を示しているし、キリトの目はイタズラをする子供のように輝いて見えた。アスナはわからなくもないが、キリト、お前はなんなのだ。そんな恋バナに興味があるのか。気持ち悪い。

そこから何を話しても結局は話を戻される。どうやら言外に話せと言っているらしかった。俺は諦めの溜め息とともに言った。

 

 

「はあー……別に聞いても面白くないぞ?」

 

 

「いいから早く」

 

 

そう急かされ、話すことにした。ありのまま、言ったこと言われたことをそのまま話す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――告白されてから大体どれくらいたっただろうか…答えは出ているがそれを言い出す機会がなく、ずるずると返事を返せないままでいる。今日こそはと思いながらも、そう簡単に二人きりになれる時間などない。

それならばシリカがやった時のように呼び出してしまえということで、夕食後シリカを俺の部屋へと呼んだ。はっきり言って心臓に悪い。この待ってる時間はどんな時よりも緊張した。それこそ迷宮区の攻略の方が全然楽チンだとは思えるくらいの緊張具合である。

突然こんこん、と俺の部屋の扉が二回ノックされる音が聞こえた。とりあえず「どうぞ」と言うとシリカが静かに入ってきた。

 

 

「今日もお疲れさま。とりあえず座れよ」

 

 

「あ、はい、ありがとうございます」

 

 

俺は空いている椅子へ座ることを勧めたのだが、シリカはなぜか俺が座っているベッドに腰をかけた。しかもすぐ隣である。先程から心臓の音がうるさい。隣にいるシリカにも聞こえるのではないかというくらいに、心臓の音は大きくなり、さらには速度も上がっていく。しばらく無言の時間が続き沈黙が辛くなった俺は、軽く気合いを入れて立ち上がる。

 

 

「………クゥさん?」

 

 

急に立ち上がった俺に反応を示すシリカ。

 

 

「あのさシリカ……これから俺が何を話そうとしてるかわかるか?」

 

 

「………はい……」

 

 

「そっか……ならいいんだ」

 

 

ようやく心が固まる。ここまで……いやそれ以上に大変な思いをしてシリカは想いを伝えてくれた。俺には出来そうもないなと内心で苦笑し続きを言うために口を開く。

 

 

「俺はシリカに告白された時嬉しかったよ。驚きとか焦りとかよりもまず嬉しかった。すぐにでもOKの返事を出したい気分だったよ……それがこんな世界じゃなかったらね」

 

 

「………どういう……ことでしょうか……」

 

 

「この世界は安全じゃない。危険度で言えば俺たちがいた日本よりは数段上だ。俺はさ、シリカと付き合えたら油断して下手したら死ぬかもな。守るために強くなれる人間もいるけど俺はそうじゃない。まずは隙が出来るんだ……嬉しくてな。つまりな……悪いがここでは付き合えない。俺のせいでシリカを危険に晒すことはしたくないんだ」

 

 

「………そう……ですか」

 

 

シリカの顔が歪む。それを見ていると心が痛む。俺も本当はそういう関係になるのも悪くないと思ってる。それでも死ぬかもしれない可能性は少しでも潰しておきたい。付き合って舞い上がって油断して……そんなことにはなりたくないし、させたくもない。

 

 

「だからさ、ごめん。現実に帰ることが出来たらその時は改めて俺からシリカに告白するよ」

 

 

「え?」

 

 

シリカが驚いて俯いていた顔を上げる。言っていたことがわからなかったのだろうか?

 

 

「いや、だから現実に帰れたら告白するって言ったんだけど……SAOはどんな些細なことでも死に繋がる可能性があるからさ、なるべく避けたいんだ。でも現実ならばそうはならないから……」

 

 

「それって……つまりどういうことですか?」

 

 

「まだわからんか!?」

 

 

危険だとか死ぬとかなんだかんだ理由をつけてたが、結局のところ俺が今回シリカの告白を断る理由は一つだけである。

 

 

「俺からシリカに告白したいから現実に帰るまで待てよ。女から告白されてそれを受けるのはなんかやだ」

 

 

「ふ……ふふっ……なんですかそれ。それじゃ頑張って生き残りましょうね」

 

 

「ああ……お前は何があっても死なせねえよ」

 

 

「私もクゥさんを守ります」

 

 

こうして夜は更けていく。

次の日の朝は多少ぎこちなくも普通に過ごせたと思う。

その次の日にはほとんど違和感がなくなり、またその次の日には告白される前のような感じに戻っていた。しかし俺らの根本にある気持ちは出会った頃とは全く違う。人間なんてそんなものだろう、日々変わってくのもなのだ――――

 

 

 

 

「とまあこんな感じで断った」

 

 

「そういう事ね。付き合ってる訳でもないのに二人の距離がけっこう縮まってたから気になったのよね。納得」

 

 

話終えた俺は席を立つ。

 

 

「あら、もう帰るの?」

 

 

「まあね、これ以上邪魔しちゃ悪いし、シリカにも帰るって言ってるから」

 

 

「はいはい、そういう事ね。S級食材の料理なのにあんまり食べなかった理由もそこにあるのね?」

 

 

「そこは黙秘権を行使させていただこう」

 

 

それこそ見る人を全て振り向かせるような微笑をしたアスナ。アスナは気づいていないが、キリトはそれを見て少し顔を赤くしていた。二人がくっつくのも時間の問題だろう。そう思いながら俺はアスナ邸を後にし、シリカ(やギルメン)の待つホームへと足を急がせた。

 

 

 




アンケートの結果まさかのGGOまでです。
そこまで見たいと言ってくれる方がいることを嬉しく思います。

というかSAO編で終わりでいいと言う方がいなかったのはビックリです…
これからも精進しますのでよろしくお願いします。


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27!!

 

朝から七十四層の主街区で問題が起きている。

よくそんな元気あるよな……と思いつつ、この騒動に至るまでの経緯を思い出す。

 

俺たちは今日も攻略に精を出すため、朝から七十四層の迷宮区へと足を運ぶ。転移門を経由し主街区へ行こうとしており、今はその準備が完了したところで、いつものシリカ、テツオ、ケイタと共にゲートに入る。目の前が青く光りその眩しさに目を閉じる。そして目を開くとそこは七十四層の主街区であるのだが、その前に見えたのが幼い頃からの親友であるキリトの姿だった。目が合ってしまったので挨拶をするべきかと思い声をかける。

 

 

「おはよーさん。お前こんなとこでなにやってんのさ。さっさと攻略に行けばいいのに」

 

 

「ああ、待ち合わせだよ。昨日お前が帰ったあと、なぜか組むことになってな……」

 

 

「それでアスナを待ってるわけだな」

 

 

すると転移門が青く光り、新たなプレーヤーを連れてくる、のだがなぜかそのプレーヤーは上空から現れたかと思うと、キリトへとダイブしていった。心底キリトの位置にいなくて良かった。何故ならばキリトはそのプレーヤーと勢いよく転がり、下敷きになっていたからだ。キリトは何を思ったのか、自身の上に跨がっているプレーヤー……待ち人のアスナの胸へと手を伸ばし一回揉み、そのあと二回、三回と揉みしだく。胸を揉まれたアスナは悲鳴を上げながら後退り、自身の両腕で胸を隠す。起きたキリトはそのアスナの格好を見て、自分が何を仕出かしたのかわかったらしく顔を青く染める。

その様子を始めから結晶にて記録している俺には目もくれず、己の武器を抜くか検討しているアスナ。するとまたもや転移門が光る。それを見たアスナは急に立ち上がったかと思うと、先程まで親の敵と見紛うような視線で見ていたキリトの後ろへ隠れた。

 

 

「アスナ様!!勝手な行動をされては困ります!!さあ私とともに本部へ戻りましょう!!」

 

 

転移門から現れたのは、昨日のクラディールであった。板挟みにされているキリトは完璧に巻き込まれたようであった。

そして何やら話を聞いているとこのクラディール、なんと活動日ではないアスナを本部に連れて行こうとしているらしい。しかもアスナの家の前で待ち伏せまでしてだ。

 

 

と、まあこんな感じである。

そんな中テツオが思ったままを言葉にした。

 

 

 

「なあなあ、これってさあ……ストーカーじゃね?」

 

 

「こらテツオ。そういうことは本人に聞こえるように言わなきゃダメだろうが」

 

 

「クゥ……それはやめといた方がいい。ああいうタイプは下手に刺激すると厄介な事になる」

 

 

そういう俺らも勝手で失礼なことをコソコソと話す。

 

 

「シリカはどう思うよ?女の敵だぜ、あれ」

 

 

「許せません!!嫌がる人にあんなことするなんて信じられない!!」

 

 

本気でアスナの身を案じ、怒りを顕にするシリカ。ここまで怒るのもめずらしい。滅多にないのだが今回のこれは琴線に触れたようだった。

傍観に徹していると、キリトとクラディールがデュエルすることになったのだが、そこでシリカが誰にも予想できないことを口にした。

 

 

「……ねえ、そのデュエル……私としません?」

 

 

シリカの言葉に全員が唖然とする。今のシリカは表情では笑っているが、目が笑っていない。そしていつも笑顔が絶えないシリカからは想像がつかないような顔をしていた。このようなシリカを見るのは初めてである。若干……というかかなりの恐怖心が沸き上がってきた。

 

 

「もちろん私に勝てたらアスナさんと本部に戻っていただいて結構ですよ?どうです、キリトさんとやるよりは勝ち目……多くありそうに見えませんか?」

 

 

「え!?ちょっとシリカちゃん!?」

 

 

「……大丈夫です。あんな女の敵なんかには負けませんから。あの無駄に高いプライドを、私みたいな年下が負かすことによってボロボロに折ってあげます」

 

 

「小娘がぁ……!!そこまで言うのなら受けてやろうじゃないか……!!」

 

 

今のシリカは言葉で表すなら狂戦士だろうか。普段なら考えられない言葉や行動をしている。正直に言うが怖い、恐すぎる。

そしてシリカの挑発に乗り、いとも簡単にその条件を許可してデュエル申請のメッセージを飛ばす。

シリカはデュエル申請を受諾し、それぞれの武器を構えカウントがゼロになるのを待つ。興味本意で集まった野次馬たちが三々五々、言いたいことを好き放題言っている。

ここまでの経緯を知らないのだかや無理はない。クラディールはそれを気にして、うまく集中できないでいる。一方シリカはというと相手の全てに意識を集中し、先程から構えをしきりに変え、相手に手の内を読ませないようにしていた。クラディールはそれを苛立つように見て、己もシリカ構えから色々なものを予測し、対応するために構えをかえる。

 

カウントの数字が減るにつれて、シリカの集中力が高まっていくのが目に見える。迷宮区にいるときとなんら変わらない状態まで高め、その目にはクラディールのみを見据えている。一方クラディールの方は、カウントが減ってもいまいち集中ができない状態であり、視線をシリカとカウントが出ているであろうウィンドウの間を右往左往させている。

 

カウントがついに一桁となり周囲の緊張感も高まってくるなか、シリカとクラディールの間の空間にDUELの文字が踊った。

先に動いたのはクラディールであった。シリカとの距離を一気に縮め、先手必勝とばかりに突っ込んでくる。シリカはそれを落ち着いて観察。シリカが自分のスピードについていけてないと判断したクラディールはソードスキルを発動させる。そこでシリカが動く。今まで何の動作もしていなかったシリカは不利と思われたが、それをいとも簡単に覆す。クラディールの選んだスキルは《アバランシュ》。これは両手用大剣の高レベル剣技となっている。対してシリカが選んだものは《アーマー・ピアース》で、こちらは短剣用ソードスキルの初期から使えるもの。

そしてスキルが発動するまでにかかる時間は、当然の如く高レベルの剣技の方が長い。故に一撃終了のこのデュエルで、シリカは初期のスキルを選んだのだ。

 

結果、クラディールの方が先に動いたにも関わらず、シリカのスキルが先に発動する。

そしてシリカのスキルは完膚なきまでにクラディールへと吸い込まれ、スキルを繰り出そうとしていたクラディールはそれをキャンセルさせられ、甘んじてその攻撃を喰らうしかなかった。

いくら初期のソードスキルとはいえ、扱う者のレベルが高ければそれなりの威力にはなる。例えばデュエルの勝敗をつける程度には。攻撃を喰らいHPが減るクラディール。それを認識したシステムからデュエルの終了と勝者を告げる文字列が羅列した。

 

シリカの後の先を取るこの戦法は、人間のプレーヤーには大変有効だった。スピードならばすでにシリカは攻略組でも名高い『閃光のアスナ』と同程度かそれよりも上である。扱う武器が短剣である故にパワーはそれほど必要ない。そしてアタックをしたあと、短剣であるため壁役として最前線ではほとんど通用しない。なので即離脱が基本となる。他にも似たような要素が揃い、今のシリカのスピードが完成されたのである。

 

 

「クラディールさん、私の勝ちです。さあ、本部には一人でお戻りください」

 

 

シリカの宣言とともに、周りにいたギャラリーも一気に湧く。その容姿も相まってシリカの勝利を喜ぶ者たちばかりであった。

 

 

「………つ!!………があ…!!…………この……小娘……」

 

 

恐らく認められないのだろう。その目からは憎悪の感情が表れていた。しかしその対象はシリカが2、キリトが8であり、やはりクラディールとしてはアスナの護衛役を取られた事の方が屈辱的らしかった。そしてクラディールはシリカに負けた時の約束を果たそうとせず、そのままキリトへデュエルを仕掛けようとした。

 

 

「おっと、女の子との約束を守らないとは……栄光ある血盟騎士団のメンバーとは思えませんね。そもそもシリカにも勝てないあなたが、キリトに勝てるなんて思えません」

 

 

俺はキリトとクラディールの間に割り込むようにして入った。憎悪の視線が俺に突き刺さる。するとクラディールは、何かを呟きながらキリトとアスナを軽く睨み付けると、結晶で本部のある階層へと転移した。

 

 

「それにしても……シリカがあんな事言うなんてな……ちょっとびっくりしたよ」

 

 

「……勝手にあんなことしてすみません……」

 

 

「死ななきゃいいよ。それに許せなかったんでしょ?ならそうしたのは間違いじゃないよ。少なくともアスナさんはああいう風に言われて嬉しかったと思うし、感謝もしてるんじゃないかな?」

 

 

ねえ?という風な視線をアスナに投げ掛けると、笑顔で頷くアスナ。

 

 

「でもごめんね、シリカちゃん……もしかしたらめんどくさいことになっちゃうかも……あとついでにキリトくんも」

 

 

「私は大丈夫ですよ!!何かあってもクゥさんがなんとかしてくれますし!!ねえ、クゥさん」

 

 

そんな風に言われてしまうと頷くしかない。被害が大きくなりそうなキリトがついで扱いと思うと少しだけ不憫になる。しかしそれでも一緒にいようとするのだからお互い大切に思っているに違いない。

 

俺はギルドのメンバーに二人の邪魔をしないよう、先に行くことを指示する。目的地は同じだ、しかしその道中で距離を縮める出来事があるかもしれない。それを記録結晶に収めるために俺は二人の後ろをついていく。隠蔽スキルを十全に使いこなし、バレないように慎重に歩みを進める。

 

しかし案の定、迷宮区へ入る前で二人を見失ってしまった。仕方がないと諦めながら俺はシリカたちに合流すべく一人迷宮区へ潜るのだった。

 

 



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28!!

 

七十四層の迷宮区の攻略を始めてから今日で九日目、そろそろ終わりが見えてくる頃である。迷宮区の最上階であろうフロアでシリカ、テツオ、ケイタとともにそれぞれモンスターを狩っていく。すると俺とシリカより、少し先の位置で敵である骸骨の剣士と戦っていた二人が、どうやらフロアボスの部屋を見つけたらしかった。

 

まだ俺らの周りにいる骸骨たちを全方位攻撃のスキルで、一気にHPを削り取り二人の隣まで急ぐ。通路には円柱が何本も等間隔に立っている。その通路を駆け抜けると突き当たりとなり、そこには灰色と青色を混ぜたような色の巨大な二枚扉があった。

今まで何度も見てきた、フロアボスの部屋へ続く扉である。

 

 

「そんで?どうするよ……開ける?それともマッピングは済んだし引き返すか?」

 

 

テツオが指示を仰ぐ。俺がそれに答えないでいると後ろから足音が聞こえた。恐らく攻略組の誰かだろうと思っていたが、来たのはアスナとキリトの二人であった。

 

 

「あれ?私たちが一番乗りかと思ったけど先客がいたわね」

 

 

「結局二人きりの時間を邪魔しちまう結果に……」

 

 

「あーあーあー!!聞こえませんー!!」

 

 

アスナは相も変わらず往生際が悪いというかなんというか。キリトのような鈍い主人公はこれくらいじゃ気づきません。今だって俺とアスナの会話が全くわかってないのだから。

 

 

「みんなはこんなところで何をやってたの?」

 

 

「ああ……このボス部屋、開けるか引き返すかクゥに決めてもらおうかと思って相談してたんですよ」

 

 

「んで?クゥはどうするつもりなんだ?」

 

 

「六人かー……よし決めた!!総員転移結晶準備!!これから様子見として扉を開けたいと思います!!」

 

 

「よっしゃ!!そうこなくっちゃな!?」

 

 

なし崩し的にキリトとアスナも巻き込んで、全員で扉を押してみる。その扉は一押しするとあとは自動扉のように、勝手に奥へと開いていく。先頭に俺とキリト、真ん中にシリカとアスナ、最後尾にテツオとケイタ、という順番で二列になり部屋へ入る。

部屋の中は真っ暗で何も見えない。それでも一歩踏み出す。すると入り口付近の床の両側に、青白い炎が音を立てて煌めいた。思わず全員が体を強張らせてしまう。すぐにまた先程の位置から一メートル離れた辺りに炎が灯る。それが次々、部屋の奥へ向かっていき、最後には炎の道が出来上がった。

今まで何度も経験してきているが決して慣れるものではない。最後に部屋の最奥で一際大きな火柱が上がり、全体が薄い青の光に照らされる。徐々にだが、確かにボスと思われる巨大な影の輪郭が見えてきた。

 

その姿は正に悪魔と呼ぶに相応しいものだった。体は人間、尾は蛇、頭は山羊という誰しも見たこと、聞いたことは一度はあるような、悪魔の代名詞である姿で現れた。SAOが始まってから初の悪魔型のボスモンスターである。ここは一度引き返し、作戦を細かく練ったり、偵察隊を何度も出して攻撃パターンなどを調べた方がいいだろう。

 

そこまで考えてボスの名前を確認してないことに気づいた。それを確認するため視線を上げた途端に、突然悪魔が雄叫びをあげた。空気の振動で部屋全体が揺れたような感覚を受けた。悪魔を見ると口と鼻から青白い炎を出しながら、巨大な剣を振りかざして真っ直ぐこちらに向かってきた。

 

 

「はい、全員回れ右だ!!というか歩幅の違い!?超速いんですけど!?」

 

 

俺が声を上げるまでもなく、全員が即座に逃げ始める。

 

 

「いやいやいや!!あれなんだよ!!やっべーよ!!」

 

 

「口を開いてる暇があったら走れバカ!!」

 

 

テツオが軽く笑いながらパニックになっていた人間驚きが強すぎると笑ってしまうこともある。それをケイタが諫める。

そして、シリカの姿が見えないと思ったが、一人早くも離脱済みであった。敏捷パラメーターは恐らくこの中で一番高いため、俺たちより早く階段を降りて行くところを見つけた。そのすぐ後をアスナが追い、男四人は最後尾から安全エリアへ向けて懸命に走り抜けた。

 

 

全員が安全エリアまでたどり着くと、一斉に安堵の息が漏れる。それほど恐怖心を煽る姿のボスだったことは間違いない。ボス部屋までのマップデータは後程アルゴに渡すとして、ようやく余裕が出てきたのかそれぞれがボスについての意見を交わし始める。

 

 

「……凄く怖かったですね……思わず一目散に部屋を飛び出しちゃいました……」

 

 

「気づいたらシリカいなかったもんなー。つか逃げ足早すぎだろ」

 

 

「……だってー……怖かったんだから仕方ないじゃないですかー……」

 

 

テツオの言葉にシリカは顔を赤くしながら俯きがちに答える。ぷくーという擬音が聞こえるかのように頬を膨らませながら。

 

 

「テツオー……あんま俺のシリカを苛めるなよ?」

 

 

「ふええっ!?」

 

 

「……どったのシリカ?いきなり変な声出して」

 

 

「いいいいえ!!なななななんでもないです!!……ふふふ……えへへへへ」

 

 

シリカはさっきから赤くしたりニマニマしたり俯いたり忙しそうにしている。一人で顔芸をしているシリカは置いておいて、これからの対策を練っている。先程俺が考えたこと以上のことは出なかったが、全員で確認が取れたので意味はあった。

 

しかし本来なら二人きりの時間のはずが、俺たちがいるせいでそうならないのは大変心苦しい。それでもなんとなく二人の距離は縮まってる気はする。二人からそれとなく距離を取って俺たちは安全エリアから離れる。階を幾つか上がるとモンスターがうろちょろし始めたので暇潰し、もしくは八つ当たり気味にテツオが無双モード(もしくはモテない男の叫びモード)に突入する。ケイタはそれを見てやれやれと言いたげに首を左右に振ると、暴れまわるテツオを止めに行った。

 

すると近くからガチャガチャ音を立てて近づいてくる集団を見つけた。無駄に規則正しいその音に俺たちは警戒することもなく、目を合わせることもしない。その音は俺たちの脇を通り抜けて行った。ボス部屋へ真っ直ぐと向かっているようだった。それを見た俺たちは周りに敵がいないことを確認すると先の集団について話す。

 

 

「なーんか怪しくねえかあいつら……軍の奴らだよな?久しぶりに見たと思ったらいきなりボス部屋ってか?」

 

 

「正直なところ様子を見に行った方がいいと思う。あの人数で勝てるとは思えない」

 

 

「私もそう思います……人が死ぬのはもう見たくありませんし……」

 

 

うちも大概お人好しの集まりだなと思う。自分たちも死ぬかもしれないのに、さらに赤の他人の心配もできるとはなかなかどうして素晴らしい。

俺も元よりそのつもりだったので、軍の集団に気づかれないように後をつける。やはり先頭にいるリーダーらしき人物はボス部屋へ入るらしく、大きな扉を押し開け隊列を崩すことなく進んでいく。その後に続き俺らは辺りを警戒しながら進む。

早くも軍の集団はボスとの戦闘に入っていた。どうやらボスのみで手下となるモンスターはいないようである。それを確認し、俺たちも戦闘に加わる。リーダーらしき男が余計なことをすんなみたいな目で訴えかけてきた。

 

しかし初めて見るタイプのボスが相手では何人いても困らない。むしろ多ければ多いほど攻撃パターンを解析しやすくなる。そこで俺はなるべくタゲを交互に持たせながら攻撃パターン等を見極めようとしたが、何を思ったのかリーダーらしき男は部下を並べて突撃させた。

 

それに反応してボスは持っていた巨大な剣を降り下ろす。幸いそれに当たった者はいなかったが、その衝撃で何人かのプレーヤーが飛ばされ隙が出来ていた。

 

 

「勝手に動くなよっ……!!軍ってのはバカばっかりか!!行くぞお前ら!!ぼさっとしてたらあっという間に全滅だ!!」

 

 

そう言って一足早く駆け出す。そのあとを三人がついてくる形となりボスの足下へ近づき初めての攻撃を当てる。するとタゲが俺にかわり、ボスの動きが俺を目掛ける物へとかわる。細心の注意を払い一挙手一投足も見逃さないよう集中する。こちらは四人なのでこれを分けても意味がない。なので一つに固まり男三人を壁として、シリカにアタッカーを務めてもらう。まだ軍に犠牲者がいないことは良かったのだが、先程の攻撃を見てもリーダーの男は攻め方を変えずに突撃あるのみであった。今はボスのタゲが俺に向いているのでまだいい。しかしこれが軍に向いたらどうなるかわかったもんじゃない。

 

ボスがこちらに攻撃を仕掛けてきた。手始めに先程見せた巨大な剣での攻撃だ。バラけるのは得策ではないので同じ方向にかわすように指示。剣が叩きつけられた衝撃で俺らは宙を舞うが、同じ方向へ避けているので固まって飛ばされる。上手く着地をして、同じように三人で壁となりシリカを援護する。

 

通常攻撃の合間を抜けてシリカがスキルを打つ。さらに追撃とばかりに軍の奴らが一斉に攻撃を始める。不意打ちの形で背中に攻撃を喰らったボスは、怒りの叫びとともに持っていた剣を降り下ろした。それを回避できる者は軍にはおらず、なすすべなく攻撃を喰らった。するとHPバーが一気に下がった。恐らく三分の一は下がっただろう。圧倒的な破壊力で一気に軍は統率が取れなくなった。

するとそれをチャンスだと思ったのかそのボスは立て続けに攻撃を開始する。なぜかこちらには目もくれずに。

それが気にくわないのか、テツオがタゲを取りに攻撃を仕掛ける。スキルが当たり少々ボスのバーが減るも、意に介さないように軍に攻撃を続ける。まるで意思があるようであった。多対一では基本的に弱い敵から叩いていくのがセオリーであるが、それを誠実にこなしているようにも見えた。

 

どうしようもなく、なんとかタゲを返せるように四人で後ろからスキルを当てまくる。しかしついに一人目の犠牲者が出てしまった。それから二人目は早かった。ボスのHPの上段が無くなるかという頃に、突然仁王立ちになった。俺は嫌な予感が止まらずに声の限り叫んだ。

 

 

 

「総員退避ー!!」

 

 

俺の言葉に従ったのは、やはりギルドの三人だけで、軍の人間は構わず突っ込んでいった。するとボスは口から眩い噴気を全方位に撒き散らした。突撃した十人が一斉にダメージを喰らう。どうやらあの息にもダメージ判定があるらしかった。

 

ダメージを喰らった十人目掛け、すかさずボスが大剣を突き立て、そのうちの一人をすくい上げる。そのプレーヤーはボスの頭上を越え、さらには俺たちの上すら越えて、入口付近まで飛んでいき落下した。

気づかなかったがそこにはキリトやアスナ、ギルド風林火山のメンバーがいて、その光景を見て絶句していた。

落下したのはリーダーらしき男で、キリトたちの目の前で自分の体を無数の欠片として散った。これでいよいよ軍の統率も取れなくなってしまった。

 

 

「くそったれが……!!お前ら!!タゲはこっちで取ってやる!!さっさと結晶使って離脱しろ!!」

 

 

俺は叫び、ボスに向かって走り出した。

 

 

「だめ――――ッ!!」

 

 

走り出した俺の横を見慣れた後ろ姿が追い抜く。後ろを振り返ると焦ったように追いかけてくるキリトの姿が見えた。見慣れた後ろ姿の持ち主……アスナが背中を目掛け、渾身の力で攻撃をした。それは命中したのだが、今までどうしても振り向かなかったボスが、こちらに攻撃をしてきた。一撃目はなんとかかわしたアスナだが、完全には避けきれず衝撃で地面に倒れこんだ。そこにすかさず次の攻撃が容赦なく襲う。

 

 

「アスナ―――ッ!!」

 

 

そこへようやく追い付いたキリトがアスナの前に身を投げ出した。そのタイミングで何をしたいか理解した俺は、キリトが弾こうとしてる方向へボスの剣目掛け、己の武器を突くようにして当てる。

 

俺はその反動でノックバックしたが、おかげでわずかに攻撃の軌道が逸れて、キリトがさらに自分の剣で攻撃の軌道を逸らす。

アスナからほんの少し離れた所にボスの剣は降り下ろされ、その衝撃でアスナはこちらに吹き飛ばされてきた。

 

その間にキリトはボスと対峙していた。俺はアスナを即座にシリカに任せテツオとケイタを連れてキリトの援護に向かう。風林火山の面々は軍のプレーヤーの援護に回した。すると軍のプレーヤーの一人がこちらに向かって叫んだ。

 

 

「―――ッ!!ダメだ!!何回やってもクリスタルが使えない!!」

 

 

思わず反応してしまいそうになるが堪える。ボスと対峙している今、油断は禁物である。クリスタルが使えない状況ならば自力で部屋から出てほしいのだが、部屋の中央を戦場にしてしまっているためなかなか動けないでいた。

 

 

「ぐっ!!」

 

 

今まで四人で何とか回していたがついにキリトが攻撃を喰らってしまった。今まで攻撃をかわしきれずに徐々に減っていった分を考えても、半端じゃないバーの減り方だった。

 

 

「頼む!!全員で十秒持ちこたえてくれ!!」

 

 

いきなりそう叫ぶとボスの攻撃範囲から抜け出した。代わりにシリカ、アスナ、クラインが飛び込んで六人で応戦する形となった。それでもすでにゼロの騎士団の面々は俺も含め、バーがイエローゾーン近くまで減っている。

 

それを見たアスナとクラインは積極的に前に出て、ボスの攻撃を捌いてくれる。

 

 

「こンのおおおお!!」

 

 

ボスの降り下ろされた剣を、刀の刃で滑らせるようにかわすクライン。重さに堪えきれず膝をつくと、そこにすかさずボスが攻撃を仕掛けてくるが、先程と同じように、今度はシリカと二人で剣の腹を突いて軌道を逸らす。

 

 

「いいぞ!!」

 

 

キリトの声が聞こえ、アスナとボスの得物がぶつかり合い合間が出来るとキリトが「スイッチ!!」の言葉と共に敵の間合いへと入り攻撃を始めた。

 

ここまで来るとあとの結果はわかるので、警戒しながらも様子を見てみるもどこかおかしかった。ボスに比べてキリトのHPバーの減り方が早かったのだ。これではどう見てもキリトは死ぬ。そう思った俺はボスの後ろに回り込みスキルを放ち援護を始める。

 

他のメンバーも同じように思ったらしく、それぞれ別方向からスキルを打つが、キリトが与えるダメージが大きすぎてこちらにタゲが回らない。早くもキリトのバーはイエローゾーンを下回りそうであった。俺はウィンドウを開き装備を変更する。先程までは隙がなかったのでどうにも出来なかったが、キリトが一人でタゲを取っている今がチャンスであった。

 

スキルカテゴリは双剣。

武器の名称はオルトロス。

二刀一対の唯一の武器である。

 

 

スキルを発動させて敵へと向かう。

右手の剣で外に払い、左の剣でも外に払う。手首を返し両腕を交差させるように払い、またも両腕で外に払う。右、左、右、左、両、両、右、右、左、両。

 

武器を逆手に持ち変えたりしながら、幾度となく攻撃を繰り返す。

双剣スキルの中位剣技、スクウェア・エンペラー。

連続三十七回攻撃となっている。前も言ったが最高連続攻撃回数が百というふざけたスキルだ。スキルの数値が低いので今使えるの双剣スキルではこれが最高位の技だ。

 

 

「「らああああああああ!!」」

 

 

俺とキリトの叫び声が重なる。タゲはずっとキリトのままだ。しかしボスのバーの減り方が、先程よりはるかに速くなりキリトのそれを下回る。二刀流より攻撃速度が速い双剣。キリトの最後の攻撃がボスの胸を貫き、俺の最後の攻撃が背中を引き裂いた。

 

俺は横目でボスのバーを確認する。するとボスは膨大な青い欠片となって散った。

それを見たキリトは安心したのか、自分のバーを確認したあと倒れるように意識を失った。

 

俺も内心ヒヤヒヤであった。俺の記憶もほとんど薄れてしまっているみたいで全く当てにならなくなり始めている。キリトに駆け寄ったアスナを見ながらそう思った。

 

 

 



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29!!

 

 

「キリトくん!!キリトくんってば!!」

 

 

ボス部屋の中に悲鳴にも聞こえるアスナの声が木霊する。キリトは顔をしかめながら上体を起こし、辺りを見回す。

 

 

「大丈夫か?ちなみにキリが気を失ってからまだ一分もたってないよ」

 

 

俺が遠くから声をかけると「……そうか」と言ってキリトは目の前のアスナを見た。

 

 

「ばかっ……!!無茶しないでよ……!!」

 

 

叫ぶと同時に自分へしがみついたアスナを見て、キリトは目を白黒させた。すかさず俺は記録結晶を取り出し、撮影を始めようとするも、ここがクリスタル無効化なのを思い出して項垂れる。ポーションを口に突っ込まれたキリトは気だるそうにしていた。

 

クラインがキリトの方へと足を運び、状況を説明している。こちらもこちらでそれぞれ回復を済ませたのでキリトの方へ向かう。

 

 

「そりゃあそうと、オメエらなんだよさっきの!!」

 

 

「……言わなきゃダメか?」

 

 

「当たり前だろー」

 

 

「「「「お前もだよ!!」」」」

 

 

おうふ。なんという息のあった突っ込みなんだ。というかシリカとアスナを除いた全員て息が合いすぎである。

 

 

「……エクストラスキルだよ。二刀流」

 

 

キリトの言葉にどよめきが起こる。すると視線は俺の方へ。後ろに誰かがいるのかと思い振り返ると誰もいない。訳がわからないので首を傾げてみる。

 

 

「「「「だからお前だよ!!」」」」

 

 

またもや言われてしまったので仕方無く説明を始める。

 

 

「エクストラスキル。双剣です」

 

 

「あン?二刀流と双剣って具体的には何が違うんだ?」

 

 

「連続攻撃回数が双剣の方が多い。その分二刀流より攻撃が軽い。あとは双剣は二刀一対じゃないとダメ。同じ剣が二本でも双剣にはならない。双剣専用の武器がある。こんなものですかね?」

 

 

このスキルは意外とめんどくさいのだ。バグだし、専用武器しか装備できないし、最高攻撃回数が百の技が解放されるのはスキルポイント千だし、いろいろしんどい。

当然これに興味を浮かべたクラインは出現条件を聞いてきた。

 

 

「「解ってたら公開して(る)ます」」

 

 

俺とキリトは声を揃える。

まあそうだよなと唸るクライン。しかしこれほどの人数の前で、初見のスキルが二つも出てしまったのだ。瞬く間に広がってしまうだろう。

 

スキルの出し方さえ判明していれば隠しておいたりはしない、キリトはそう言うが俺に至ってはバグなのでどうしようもない。さすがにこのデスゲームでバグがあることが判明すると、かなりのパニックが引き起こされそうなので当然俺は沈黙を貫く。

 

俺もキリトと同じ答えだと判断したのか、深く頷いて言葉を続けるクライン。

あえて途中で言葉を止めてニヤニヤ笑いこう続けた。

 

 

「……まあ、苦労も修業のうちと思って頑張りたまえ、若者よ」

 

 

腰をかがめてキリトの肩を軽く叩くと、軍の生存者の方へ歩いていって声をかける。

一言二言話すと軍のプレーヤーたちは続々と立ち上がりキリトやアスナ、それとこちらに向かい頭を下げて部屋を出ていくと、次々に結晶を使い街に戻っていく。

 

 

「さてと、お前らはどうする?俺たちはこのまま転移門のアクティベートをしに行くが、お前らの誰かがやるか?」

 

 

ほとんど顔見知りの身内しかいなくなったところでクラインが問う。キリトたちが来る前から戦闘をしていた俺たちはもちろん、キリトも疲れきったのかそれを断る。

クラインは仲間に合図をして部屋の奥の扉へと歩いていく。しかし扉の前で立ち止まり振り返ると、大きな声でこう言った。

 

 

「キリト!!おめぇが軍の連中を助けに飛び込んだ時よぉ……オレはなんつうか、嬉しかったよ。そんだけだ、またな!!」

 

 

意味がわからないと言った風に首を傾げるキリト。だが俺にはわかる。キリトはこのデスゲームを通してどんどん変わっていっている。それがわかるのが俺だけではないことを知り、少し嬉しくなった。

 

 

「……おい、アスナ……そろそろ……」

 

 

まだキリトの肩に頭を乗せているアスナに向かい声をかけたキリト。

 

 

「……怖かった……君が死んじゃったら……ううん……クゥドくんがいなかったら絶対死んでた……」

 

 

その声はアスナの物とは思えないほどにか細く震えていた。

 

 

「そうか、クゥすまなかったな」

 

 

「おうよ、気にするな」

 

 

俺は軽く返事をするだけに留めておく。というかこちらに声をかける暇があったらアスナを慰めんかい、などと内心思っている。ボソッとキリトがアスナに呟き、肩を引き寄せたのを見て俺は精神的ダメージを喰らう。

 

 

「なあ、なんでこの部屋はクリスタル無効化なんだ?ふざけてんのか?俺のキリトくん成長記録に残せないじゃないか……!!」

 

 

「本当にこの部屋がクリスタル無効化で良かったです」

 

 

シリカの言葉にうんうんと頷くケイタとテツオ。

これはあとで抗議をしなければならない。本当にこれだけは許せなかった。俺は今、茅場に一番憎しみを抱いているに違いない。

三人に背中を押されながら部屋を後にする。どうしてもそのあとが見たい俺は必死に抵抗するも、呆気なく転移結晶で街に戻らされた。

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、俺はゆったりとした時間を過ごしていた。エクストラスキルがバレたにも関わらず、俺の所へは誰も来ていない。何故かと問われればいつものギルドホームにはいないから、としか言えない。昨日の夜、即座にあの場にいなかった三人へ連絡し、こういう時の為に残しておいた旧月夜の黒猫団のギルドホームへと寝床を移動したのだ。

しかし俺のゆったりとした有意義な時間は、突如終わりを告げる。メッセージが届き差出人を見ると顔をしかめる。そこに書いてある名前はヒースクリフ。この前対面したときにフレンド登録をしておいたのだ。内容は至ってシンプル。クラディールを倒した女の子を連れて本部まで来い、とあった。

 

それからシリカを呼んで五十五層までわざわざ赴き、本部に入り長い道のりを経てヒースクリフの待つ部屋へ入る。するとそこにはヒースクリフ以外にも四人のプレーヤーがいたが、誰も見覚えがないのでスルーした。

 

 

「久しぶりだね、クゥド君。すまないが少し待っていてくれないか。あと一人ここに呼んでいるのでね」

 

 

「うえー、めんどくさっ。帰っていい?」

 

 

俺の乱雑な言葉使いに血相を変えて立ち上がろうとした男が一人、それを手で制した。

 

 

「そう言わないでくれないか?君にとっても恐らく重要な話になると思う」

 

 

そう言われたら引き下がるしかない。シリカはさっきからオロオロしてるだけだし、なんで連れてこさせたのか。俺にとっても重要ということは恐らくシリカが関係するはずだ。そんなことを考えていると後ろの扉が開き二人のプレーヤーが入ってきた。振り返るとそこにはアスナとキリトの二人が驚いた顔をしてそこにいた。

 

 

「クゥドくん?シリカちゃん?………どうしてここに?」

 

 

「どうしても何もあれに呼ばれたんだよ。それも直接」

 

 

そう言ってヒースクリフを指で示す。さすがにそれには我慢がならなかったのか四人のプレーヤーが全員立ち上がろうとした。しかしヒースクリフが視線で牽制すると大人しく座り直した。

俺の言動にも驚いたアスナだが、そのまま俺の脇を通り抜けヒースクリフの前まで歩を進めて言った。

 

 

「お別れの挨拶に来ました」

 

 

そこから三人でやり取りが交わされる。その間俺とシリカは手持ち無沙汰となり、本当に来た意味があるのかわからなくなっていた。いつの間にかキリトとヒースクリフがアスナを賭けてデュエルすることになった。それを欠伸を噛み殺しながら見ていると不意にこちらに話を振られた。

 

 

「先程も言ったようにこちらも戦力は常にギリギリなんだ。だからクゥド君、シリカ君、二人さえ良ければ是非うちのギルドへ入ってくれないか?なに悪いようにはしないさ。クゥド君は私と同じユニークスキルの使い手、シリカ君もクラディールを倒した腕があれば充分だ。すぐにメンバーにも認められるさ」

 

 

「……興味なし。それに俺はこれでもギルドマスターなんですー。自分のギルドを捨てる訳がないだろ」

 

 

「すみませんが私もお断りします。今のギルドが好きですし、攻略に全てを賭ける気にはなれません」

 

 

二人して丁重に断りの言葉を投げつける。何より俺のギルドのメンバーは全員俺が誘って入ってもらった人材である。一人でも渡そうとは思わない。

 

 

「というかさ……忘れてると思うから言っておくけど、キリも名前はうちにあるからな?」

 

 

キリトがそうだった、とでも言いたげな顔でアスナとヒースクリフ、俺を見る。アスナは不幸中の幸いとばかりに顔を明るくしたが、次に出たキリトと俺の言葉に唖然とした。

 

 

「クゥ……すまんが脱退させてくれ。どうしてもやらなきゃいけないんだ……」

 

 

「あいよー」

 

 

呆気なくキリトの脱退を認めてきちんとした条件まで持っていく。アスナは口をパクパクさせて何かを言おうとしていたが、驚きで声が出ないようだった。俺たちはそれをスルーして話を続ける。場所は新たに開通した七十五層の主街区となった。時刻は追って連絡するとのことでその場はお開きとなった。

 

 

アルゲードのエギルの店の二階でアスナはキリトを責め立てていた。俺たちは全員部屋から追い出され、一階に蹴り落とされた。仕方がないのでシリカにはエギルの店の手伝いをしてもらっている。

では、なぜ俺が中の様子をわかっているのか。それは簡単だ。俺は蹴り落とされた程度で、諦めるような人間ではないということだけである。ただの野次馬根性。それだけで後の事を全く考えず、扉を薄く開けて記録結晶にて撮影をしている。

 

 

キリトが座っている椅子のひじ掛けに腰を乗せているアスナは、小さく拳を作りぽかぽかという擬音がぴったりな強さで叩いていた。キリトが拳を掴まえて軽く握ると、少々顔を赤くしながら今度は頬を膨らませた。

 

なんですか、このギャップは。萌えそうになるのを懸命に堪えて撮影を続ける。

ほとんど声が聞こえないので、バレるのを承知でさらに扉を開く。耳を澄ませてようやく声が聞こえた。

 

 

「…………負けたら私がお休みするどころか、キリトくんがKoBに入らなきゃならないんだよ?」

 

 

どうやら扉が開いていることには気づいていないようだった。更に耳を澄ませて一言一句聞き逃さないよう、一挙手一投足録り逃さないように神経を集中させる。

 

 

「考えようによっちゃ、目的は達するとも言える」

 

 

「え、なんで?」

 

 

「その、俺は、あ……アスナといられれば、それでいいんだ」

 

 

キタキタキタキタ――――――――――ッ!!!!

いいぞ!!よく言った!!緊張で声が若干震えてたし、どもっていたりしたが合格点だ!!

 

 

「……もう、バカ……」

 

 

そう言ってアスナはキリトの肩に頭を預けた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところで俺はついに我慢出来なくなってしまった。

扉が邪魔な物に思えてしまい、立ち上がると同時に開け放った。二人がビクンッ!!と反応してこちらを振り向く。その顔はみるみる赤くなっていた。そして二人に背を向けて思いきり叫ぶ。

 

 

「キタコレ―――――ッ!!!!」

 

 

言い逃げするように、記録結晶に保存、ドタバタと階段を駆け降りる。二人が意識を取り戻したのか慌てて追いかけてくるのを背後に感じられた。一階に降りて手伝いをしているシリカに記録結晶を渡す。

 

 

「それ絶対無くしたり誰かに渡したりすんなよ!!そんなことになったら絶交だかんな!!」

 

 

シリカは記録結晶を受け取ると、あわあわしながら自分のストレージにしまった。それを確認してから店の扉を開き、人の波を掻き分けながら逃走を続ける。後ろからはいつかのように二人が凄い形相をしながら追いかけてくる。

 

今回は俺が勝てるようだ。目の前には転移門、二人はまだ遠い。

 

 

「転移。始まりの街」

 

 

それだけ言うと視界が青く染まり始める。俺は笑いながら二人に手を振り、眩い光に当てられ目を閉じた。

 

 

 



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30!!

1

 

今日はついにキリトとヒースクリフのデュエルのある日。俺は一足早く七十五層へと赴き、入場チケットをギルドメンバー分購入する。コロシアムの入り口には、色々と怪しい物を売っていたりする商人がいたり、他の見物客で賑わっていた。

 

 

「あー!!いたいた!!やーっと見つけた!!」

 

 

特徴的な髪の色をしたプレーヤーが五人ほど引き連れて俺の所までやってきた。

 

 

「おー、リズ。こっちだ。チケットは買ったけど自由席みたいだからな、早く入らないといい席は取られるぞ」

 

 

「なんだ……と?アンタそれを早く言いなさいよね!!そうお分かればさっさと行くわよ!!」

 

 

そう言ってチケットを俺から奪い取るとそそくさと先に行ってしまった。そのすぐあとを同じように俺の手からチケットを奪い、アルゴとサチの二人が続く。キリトのこととなんとも言えない感じになるあの三人。ちなみにまだ記録結晶は見せていない。どうせなら二人の結婚式とかで流したい。というかSAO内でしか使えないからいっそのことここで挙式もあげさせよう、そうしよう。勝手に決めた、二人の許可とか知らん。

 

今まで貯めた記録結晶の使い道が決まった所で、戦闘メインの残り三人を引き連れてコロシアムへ入る。

すでに席は八割は埋まっていた。それなのにあの三人は凄く良い席に座っている。無理矢理武力行使でとかしてなきゃいいんだけど。そんな三人を見ながら四人で並んで座れそうな所を探すが見当たらない。

仕方がないので俺とシリカ、ケイタとテツオで別れて見ることにした。二つ並んで空いてる席を見つけそこに座る。ほとんど見えないような上段ではあったが、モニターがいくつもあったのでどこに座ろうとあまり変わらなかった。

 

 

「クゥさんはどっちが勝つと思いますか?」

 

 

隣に座っているシリカが急に問いかけてきたので、俺は思ったことをそのまま答えた。

 

 

「ヒースクリフ」

 

 

「やっぱりそうですよね……なんかあの人……雰囲気というかオーラが凄かったですから。私なんて萎縮してほとんど喋れなかったですし」

 

 

シリカも同じ意見らしく、本部へ顔を出した時の印象を話した。

 

 

「そういう割にはギルドの誘いにははっきり断りをいれてたじゃないか」

 

 

俺がそう言うとシリカは顔を赤くしながら言った。

 

 

「だって……受けたらクゥさんと一緒にいられなくなりますし……」

 

 

周りの雑音に阻まれほとんど聞こえなかったが、シリカはさらに顔を赤くし、そわそわもじもじとしきりに動き落ち着きがなくなった。

 

 

「それもそうだな」

 

 

こう答えておけば無難だろうと思われる返答をすると、シリカはボンっと音を立てる勢いでさらに顔を赤くした。一体この子の顔はどこまで赤くなるのだろうか。最早リンゴと区別がつかないレベルにまで達してしまった。

 

 

「……えへへへっ……はい…そうですね……ふふふっ、えへへへへー」

 

 

なぜか幸せそうにしているシリカに腕を組まれてしまった。座った状態で腕を組まれたら胸が当たる―――ほどシリカにはなかった。少しドギマギしながらシリカを見ると視線がぶつかる。シリカは視線が合うと「えへへっ」と軽く笑い、視線を逸らすと然り気無く俺の左腕に頭を預けた。

 

 

―――いや、別にいいんだけどこの状態じゃまともに試合を見れないじゃないかっ……

 

 

この幸福感と二人の試合のどちらかを取るかで、俺の脳内でバトルが繰り広げられていた。聞くまでもなくシリカの方に旗が上がったのだが。

それからはシリカばかりが気になり、試合がいつ始まったのかすら意識の外にあった。気づけば試合も終わっており、帰りに他のメンバーと合流するまで腕は組んだままだった。シリカは離れたあともあの状態が続き、目が合う度にニコッという擬音がぴったりな表情で笑いかけてくる。恋愛経験の少ない俺はそれはもう落ち着かなかった。精々それに顔を赤くして視線を逸らす程度しかできない。そんな自分に嫌気が差した。

 

 

「ちょっとクゥ!!聞いてるの!?」

 

 

自己嫌悪に陥っていたところを、急に大声で話しかけられてしまい大袈裟に驚いてしまう。それにリズは反応してさらに憤る。

 

 

「もう!!やっぱり聞いてなかったのね!!さっきの試合の話よ!!途中まではキリトが有利だったのよ!?それなのに最後だけ変な風に攻撃を止められて一発喰らっちゃってさ!!絶対あれはおかしい!!」

 

 

ずっと同じようなことを延々と言っていたらしい。同じく別の二人からその話を聞かされていたテツオとケイタは若干やつれているようにも見えた。

 

 

「それでも敗けたんだろ?勝負は非常なんだよ」

 

 

「そ・れ・で・も!!納得できないもんはできないのよ!!」

 

 

これは何を言っても無限ループになりそうな気がして、同じ境遇の二人を見ると諦めろと視線で言われたように感じた。なので俺は先頭を一人で歩くシリカの背中を見つめながら、リズの話は右から左へと受け流すのだった。

 

 

 

 

その日の夜にはキリトの血盟騎士団加入の知らせがそこら中を駆け回った。そう言えばそんな話してたなー……程度にしか記憶していない俺は、関係ないとばかりに布団を被る。今日は色んな意味で疲れた一日だったので、俺はすぐに眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

「あははははははッ!!似いいい合わねええええ!!お前本当明るい色が似合わないよなー」

 

 

「………うっせー」

 

 

あのデュエルから二日たち、キリトが初めて血盟騎士団の制服に身を通すということでエギルの店まで行ったのはいいが、これが壊滅的に似合わない。昔から暗い色を好んで着用してたからか、見慣れないキリトの服装に俺は爆笑するしかない。キリトは自分でも自覚があるので、明るい色は着てこなかったのだがデュエルのせいでこんな羽目になっている。

 

もちろん記録結晶は忘れていない。なんというかこれが俺のアイデンティティになり始めている気がしなくもない。そして然り気無くキリトがへこんでいる。

 

 

「だ……大丈夫だよ…?似合ってるよキリトくん」

 

 

「……いいんだ、わかってるんだ。俺には明るい色が似合わないことくらい……」

 

 

微笑ましいやり取りを記録結晶に納める。これでユニークスキル使いが二人、KoBに所属することになり戦力は僅かにだが確実に上がることだろう。

その次の日二人は血盟騎士団のギルド本部へと向かった。あの姿で攻略に励むキリトが見たかったので、一緒に迷宮区に入ろうと約束していたのだが、どうやらめんどくさいことになったらしく、他の団員とパーティーを組んで五十五層の迷宮区に行くと連絡がきた。副団長権限の乱用が原因なのか、アスナも含む五人一組となり向かったらしい。そうとわかれば記録結晶を持って二人を追いかけるしかない。

 

俺は一人で五十五層のフィールドに出て、フレンドリストから現在の二人の位置情報を確認すると、迷宮区手前の辺りで二人を示す点が止まっているのを確認できた。二人の実力ならすぐに踏破できるこの層で、何をしているのかと思った。五人一組で向かって、なおかつアスナがいるのなら、パーティーのリーダーはアスナになり、現在位置が確認できる所にいるのはおかしい。俺の考えすぎならばそれで構わないが嫌な予感がする。俺は急いで情報が示す場所へと走り出した。

 

道中、モンスターと出くわしそれを撃破。その間も二人の位置は全く変わっていない。これは本当に想定外の事が起きた可能性があることも考えられる。そこからはモンスターが出ようとスルー。ようやく二人のいる場所へと到達したのだが――――特に問題は見られなかった。どうやらただの勘違いだったようだ。見た感じでは休憩中らしく、それでマップから二人が動いてなかったらしい。その事実に安堵していると――

 

 

 

「ああああああああ!!」

 

 

悲鳴が聞こえた。

 

 

 

俺は即座に切り替えトップスピードで悲鳴が聞こえた方へ走る。悲鳴が聞こえた先はキリトたちが休憩していた場所。近づくにつれて、何が起きているのか理解する。すると先程悲鳴を上げたプレーヤーが聞き慣れた音と共に青い欠片となった。

 

 

「お前らああああッ!!」

 

 

叫びながら倒れているキリトとアスナを庇うように割って入る。立っているのは二人。片方には見覚えがあった。アスナのストーカーと化していたクラディール、もう一人は見覚えはなかったが血盟騎士団の制服を纏っていた。

 

 

「ちっ……まさか他にプレーヤーが出てくるとはなぁ…」

 

 

「お前ら……何をしてるかわかってるのか……?」

 

 

俺の問いには、にやにやと笑みを浮かべるだけで何も答えない。

 

 

「……俺のシナリオではなァ……ここで運悪く犯罪者集団に遭遇……善戦空しく三人死亡ォ……俺とこいつだけ生き残って本部へ帰る予定だったんだかな……」

 

 

――――もしかしてこの五人一組でということ事態が仕組まれていた?

 

俺は戦慄した。あまりにも用意周到すぎる。アスナとキリトは状態異常のようで、回復していない様子を見ると結晶の類いは持っていないようだった。さらに二人のHPバーはすでに半分ほどまで減っており、二人がいたぶられていたのが目に見えてわかった。そして目の前の二人はオレンジ――――つまり犯罪者を示すカラーとなっていた。

 

 

「……ここに来たのが運の尽きだ……だからお前も死ね」

 

 

状態異常が切れるまで一人で喋ってくれれば楽だったのだが、そうはいかないようだ。脇差し程度の長さの双剣を構え犯罪者二人と対峙する。二対一の対人戦など初めてだ、どこから攻撃がきてもいいように全神経を高めていく。俺は後ろの二人も守らねばならないため、簡単には動けない。どうすれば二人を守りつつ、目の前の犯罪者たちに勝てるのか脳を回転させる。

 

 

「なんだぁ?来ねえのならこっちから行くぞ」

 

 

クラディールはそう言ってゆらりとした足取りから両手剣を降り下ろした。

 

 

「ぐうううう……らぁっ!!」

 

 

普段ならば避ける攻撃を双剣を交差させて受け止める。クラディールはさらに押してくるが、それを力任せに押し戻すと両手剣は弾かれる。今度はもう一人の槍使いがすかさず攻撃を入れてくる。主に突攻撃がメインの槍ならば、後ろの二人には当たらないのでこれはかわす。槍使いの方は攻撃から見てクラディールよりもレベルが低い感じがした。それならば槍使いから止めてしまおう。多対一の時の鉄則は弱い敵から叩く。その方が早く一対一の状況をつくれる。

 

ターゲットを槍使いの方に移し、俺はクラディールの動きに警戒しながらも反撃に転じる。レベルが低いと言っても最前線でトップクラスの精鋭を集めたと言われるKoB、少なくとも楽に勝てる相手ではない。感覚に任せて槍使いが動き出す前に懐へ入る。慌てて槍を反すようにして柄で対応される。右へ避けたがかわしきれずに、左腕に打撃判定が入り俺のHPが少し削れたがそれを気にせず右の剣で力の限り一閃。

 

槍使いはそれで怯み大きな隙を作った。そこを逃さず追撃をかける。左の剣で右手を追うように斬り、そのまま手を返して下から斬り上げ、そこからハの字に払い、両腕を横に交差させ、さらに戻しながら斬りつける。スキル技でもないただの連撃だが、槍使いのHPが一気に三割近くまで減る。

 

そこでクラディールに動きが見えたので槍使いから離れ、横から体当たりをするようにぶつかる。剣を振り上げてキリトを攻撃しようとしていたクラディールは、いち早く俺の体当たりに気づき後ろにかわす。かわされた俺はその勢いを殺すため倒れこみ受身と同時に立ち上がる。双剣を構え直し斬りかかるが、呆気なく防がれたので後退し息を整え目の前の犯罪者と向き合う。

 

 

「さすがあの女といただけはあるなぁ」

 

 

「………あの女?」

 

 

「俺に勝った女に決まってんだろォ?本当ならアイツもここで殺る予定だったんだよぉ……そのためにわざわざ団長に推薦してやったんだが……なかなか上手くいかねえもんだなァ」

 

 

そう言ってクラディールは口の端を吊り上げてにやりと笑う。

 

 

「お前……ほとほと救いようのないやつだな……!!」

 

 

キリトとアスナだけではなく、シリカまでターゲットとして狙われていたらしい。それを聞いた俺は覚悟を決める。

 

 

「キリト、アスナさん……悪いけど少しだけ放置する。すぐに片付けて戻ってくるから待っててくれ」

 

 

そう呟いて二人が何かを言う前にそこから離れ槍使いを即座に“殺す”べく行動をする。もう慈悲はかけない。

 

 

「らあああああああ!!」

 

 

双剣スキルの高位剣技、ヘクタゴン・サイス。つい先日解放されたばかりのスキルで、離れた位置から瞬時に敵の懐まで入り、四方八方から斬りつけるスピードタイプの技である。連撃回数は七十七回だけに、かわしきるのは至難の技だ。

 

右に左に縦に横に、下から上から、さらには回り込んで後ろからも攻撃を当てる。幾つかは反応されて防御されたりかわされたりするが、みるみる槍使いのHPは減っていく。しかし相手も最前線で活躍しているプレーヤーだ。何回も反撃をくらい、自身のHPも減っていく。七十七回目の攻撃を当てたと同時に悲鳴があがる。

 

 

「ダメええええええ!!」

 

 

そちらを振り向くとHPがついに危険域にまでなっているキリトに、止めをさそうとしていたクラディールが目に飛び込んだ。俺はスキル後の硬直が解けたと同時に飛び出し、自分の背中でクラディールの剣を受ける。横目で槍使いを見るとすでに姿はなく青い欠片の残りがあるだけだった。

 

クラディールの剣を受けたのだが、どうやらスキルは使われておらず、俺のHPは危険域に入ったところで止まった。

 

 

「あの位置から反応して飛び込んでくんのかぁ……お前化け物かよ」

 

 

「はっ……はっ……はっ……当たり前だろうが……!!やっと素直になったこいつらを守るんならなあ……鬼にでも化け物にでもなるし、邪魔をすんなら神だろうが殺してやるよ……!!」

 

 

「そっか……ならお前から死んどけよ」

 

 

今までとは違い本気で仕掛けてきた。うまく双剣でいなしつつもHPは少量ずつ減る。クラディールはまだまだHPを残している。未だイエローゾーンにすら入っていない。それでも諦めるわけにはいかない、力を振り絞り攻撃を仕掛ける。

 

 

「はっ……はっ……くそっ!!」

 

 

「おいおい、どうしたんだァ?息が上がってるぞ」

 

 

「余計なお世話だ……っ!!」

 

 

横に一閃。その攻撃がクラディールの顔に当たりHPが少し多めに削れる。ここが最初で最後のチャンスだと思った。満身創痍の俺から攻撃を受けたのが、プライドに触ったのかわなわなと震えだしたのだ。ここで決めるべくスキルを発動させる。

双剣スキルの高位剣技、ホロウ・クラウン。双剣スキルの中で二つしかない重攻撃の一つである。その分攻撃力は他の技より高いが、連撃回数が十四回と少ない。クラディールに一撃当たるたびに目に見えてHPが減少していく。他の技に比べスピードもない、しかしそれでも双剣は早い。重攻撃のはずなのに、目にも止まらぬ早さで斬りつけられるクラディールは、焦りの表情を見せ始めた。

 

 

―――もっとだ!!もっともっと早く!!反撃させる隙を与えるな!!

 

 

自分の限界を越えるような斬撃の繰り返しに、脳が焼け切れそうな感覚があった。それでも気にしていられない。最後の攻撃が終わり、全ての攻撃が当たった感触があった。クラディールを見ると表示されているHPバーの色は無色になっていた。

 

 

「お前も俺らの仲間入りだなぁ。それとついでにだがアイツも連れてってやるよ」

 

 

HPがゼロになったはずのクラディールがよろよろと歩きキリトの方へ向かい、持っていた大剣を降り下ろした。

 

 

「「やめろ(て)――――ッ!!」」

 

 

今度こそ動けない俺は、キリトが止めをさされるのを見ているしかできなかった。クラディールは笑いながら体を硝子に変えて消えていった。

そしてキリトのHPもゼロになり、同じようにしてその体を硝子の欠片とした。

 

 

 

「いや……いやよ……キリトくん……ッ!!……いや―――――――――ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナの絶叫が辺りに響きわたる。俺は膝をつき、黒猫団につぎ、また守れなかったことを―――――ッ!!

 

 

「いや!!まだだ!!まだなんとかなる!!」

 

 

俺はそう言って急いでアイテムストレージを開く。ざっと目を通して、飛び込んできた一つのアイテムをオブジェクト化した。その名も還魂の聖昌石。あのクリスマスのイベントボスを倒した際に、俺がケイタたち元黒猫団の三人から預かっていたものである。

 

 

「蘇生!!キリト!!」

 

 

俺がそう発した瞬間、キリトのいた空間が何かに照らされたように明るくなり、アスナと俺は思わず目を閉じる。眩しい光が収まり、おそるおそる目を開けると四散したはずのキリトのアバターがそこにあった。

俺は即座に駆け寄りHPバーを確認、危険域のままだったのでアスナも含め二人に回復結晶を当てて「ヒール」と唱えた。するとアスナは当然ながらキリトのHPも瞬く間にフル回復する。それを確認したら安心感からか一気に緊張感が抜けてしまい俺はそこで意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……い!!おい!!しっかりしろ!!」

 

 

誰かの呼ぶ声で目を覚ます。目を開けるとそこには、すでにお馴染みと言える顔が二つ並んでいた。

 

 

「おー……キリ、アスナさん。どうやら大丈夫みたいだな」

 

 

「大丈夫みたいだな。じゃないでしょ!!なんであんな無茶な真似をしたの!!」

 

 

「しかもお前……俺のために例のアレを使ったみたいだな……アスナに聞いたぞ、どうするんだ?ケイタたちにはなんて説明するつもりだ?」

 

 

一気に言われても困る。俺は聖徳太子じゃないのでいっぺんにそんなには聞き取れない。

 

 

「無茶でもなんでもさ、やっとキリにいい人が見つかったんだぜ?どうしたって守りたくなるじゃん……」

 

 

「クゥドくん……」

 

 

「それにケイタたちなら正直に話せば許してくれるさ。その程度の友情は築いてきたつもりだ」

 

 

「クゥ……」

 

 

俺は回復結晶をオブジェクト化し自分にあて、「ヒール」と唱えた。HPバーは全快になったが気だるさは全く消えない。そして人を殺した罪悪感からか今頃になって手が震えてきた。

 

 

「クゥ……俺たちのせいで……すまん!!」

 

 

「なーに言ってんの。お前がやるよきゃマシさ。悪いと思うんならアスナさんとずっと仲良くいてくれ。そうすれば俺のしたことは意味のあるままだから」

 

 

「それについては言われるまでもないわね?」

 

 

アスナはキリトに視線で同意を促す。それに間髪いれず答えられるようになったキリト。それが見られただけでも成長を感じられた。

 

 

「それと……キリトくんが死んじゃった時、蘇生アイテムを使ってくれてありがとう。私、もう本当にダメかと思ったんだ……」

 

 

「俺も本当にキリが死んだ瞬間に思い出したんだよ。いや、間に合って良かった」

 

 

ちなみにキリトに死んだあとのことを聞いてみたが、自分の体が散ったあとの記憶はないなしく、気づいたらHPが全回復していて状態異常から回復したアスナに叩き起こされたそうだ。

 

 

「さて、それじゃあ戻りますかね……俺は先に戻ってるから、二人は後からゆっくり来なよ」

 

 

「そうはいかないわよ。クゥドくん疲れてるでしょ?私たちが街に戻るまで護衛をしてあげるわ。いいわよね?キリトくん」

 

 

「当たり前だろ。俺も一人で行かせる気は無かったしな」

 

 

この二人も変わらずのお人好しである。俺なんか放っておいてデート感覚で帰ってくればいいのにわざわざ心配してくれる。ちょっと照れ臭くなり、ぶっきらぼうにこう言った。

 

 

「そうかい、そんなに俺の護衛がしたいなら好きにすればいいよ」

 

 

俺が歩き出すと二人は横に並んでついてくる。俺の記憶が正しければもうそろそろこのデスゲームも終わりとなる。キリトとアスナに挟まれ、これからのことを考えながら街に戻った。

 

 

 



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31!!

 

 

街へ戻るとすぐさま俺たちは血盟騎士団本部へと足を運んだ。アスナの脱退を認めてもらうためである。三回目ともなればこの長い道も慣れてきた。無駄に大きな扉を抜けてヒースクリフに話をつける。予想外にすんなりいってしまい拍子抜けしたが目的は達成できたので長居は無用とばかりに颯爽と本部を出た。

 

 

「じゃあ俺はこれで失礼するよ。二人はごゆっくり」

 

 

そう言って別れようとするものの肩を二人に掴まれて阻止された。

 

 

「これから皆に謝りに行くんでしょ?私も行くわよ」

 

 

キリトを見ると同じように頷いていた。せっかく二人の時間を増やしてあげようとしているのに、残念ながら俺の気持ちは伝わらないようだった。

 

そのまま三人でゼロの騎士団のギルドホームまで向かう。正式には黒猫団のギルドホームだがケイタからどっちでもいいと言われてしまったので、それならば第二のギルドホームとして使おうという話になったのだ。俺のユニークスキルがバレてしまったので、ほとぼりが冷めるまでここをホームにすることにしたと説明をしながら二人を案内する。すでにメンバーはそこに揃っているはずである。ちゃんとメッセで連絡したし重要な話があるとも追記しておいたので、いくらなんでもいないとは思いたくない。

 

 

「ここだ。キリにはごめん。あんまりいい思い出はないだろうけど我慢してくれな」

 

 

「その事については大丈夫だ。俺は守れなかった事を背負って生きていく。そう決めたから」

 

 

ずいぶんと強くなったキリトを見つめる。どうやら強がりなどではなく本心から出た言葉のようだ。三人で皆が集まるリビングへ顔を出す。どうやらきちんと時間までに集まってくれていたようだった。

 

 

「どうしたんだ?いきなり集まってくれだなんて。キリトとアスナさんが一緒にいることと何か関係があったりするのか?」

 

 

ケイタが代表して問いかける。俺はそれに答えることなく素早く日本の文化である土下座をお見舞いする。

 

 

「どーも……すみませんでしたあッ!!」

 

 

「「「えええええ!?」」」

 

 

部屋にいたメンバーの声が重なる。キリトとアスナすらそうだった。まさか土下座までするとは二人も思ってなかったのだろう。口をポカーンと開いた状態で俺を見ていた。そして俺は誰かが口を開く前に状況を説明する。

 

 

「いや……実はですね…大変言いにくいのですが……クリスマスのイベントで協力してボスを倒したじゃないですか……その時のレアアイテム……使っちゃいました!!ごめんなさいッ!!」

 

 

「え!?それで!?」

 

 

「………いや、それでもなにもそれだけなんだけど……」

 

 

「んだよ!!びっくりさせんなよなー……重要な話があるとか言ってたからどんなもんかと思ってたら……それだけかよ。緊張して損したじゃねえか!!」

 

 

けっこう重要な話だと思うのだが周りは一気に気を抜いていた。どうやら深刻に考えていたのは俺だけだったようで、他のメンバーもなんとも思っていないようだった。顔を上げて理由を聞いて見ると「クゥが使ったってことは、多分一緒に来たキリトかアスナさんが目の前で死んだんだろ?それで使ったなら文句はねえよ。むしろ使わなかったら責めてたくらいだな」とのこと。

 

一応状況は詳しく聞かれたのでありのままを説明し、シリカに泣かれ、申し訳なく思ったところでお開きとなった。キリトとアスナは二人でどこかに行ってしまった。今日くらいは二人にしてやろうということで女三人衆を気合いで止めた。その夜のこと、俺はシリカに部屋へ呼ばれた。ノックをすると中から「どうぞ」と返事があったので扉を開けて部屋に入る。

 

 

「どうしたんだシリカ。こんな遅くに呼び出したりして」

 

 

「……なんであんな無茶したんですか……」

 

 

「それは説明しただろう?あの二人が危なかったんだ。ああするしか方法がなかった」

 

 

「……それでクゥさんが死んじゃったらどうするんですか……」

 

 

「……そん時はしょうがないよ。もともと俺はここにいない筈の人間だ。あの二人を守れて死ぬなら本望かな?」

 

 

「ふざけないでくださいッ!!!!」

 

 

静かなやり取りだったのだがシリカが急に怒鳴った。俺は訳がわからず疑問符を頭に浮かべるだけである。

 

 

「なんでそんな事言うんですか!?私といてくれるって嘘だったんですか!!約束したじゃないですか、元の世界に一緒に帰ろうって!!それなのに死んでも本望って……ねえ……あの時の言葉は嘘だったんですか……?」

 

 

シリカの声がどんどん小さくなり、最後には涙を流しながら俺に問いかけた。俺はそれに答えられないでいた。嘘じゃないと言うのは簡単だ。しかしシリカを納得させるだけの理由が言えない。思い付かないのだ。なのでシリカの言葉を黙って受け入れる他ないのである。シリカの涙を拭おうと手を伸ばしたがそれを拒絶される。俺の手が空中で止まり静かに下ろされる。その時俺は内心で酷く傷ついたのをはっきりと自覚した。同時にシリカへの想いが自分の中で予想以上に大きくなっていることにも気づき、泣いているシリカをそのままにしておけずにそっと近づく。

 

 

「……なんですか……あまりこっちに近寄らないでくださ……ッ!!」

 

 

言い終わる前にシリカの唇を自分のそれで塞ぐ。シリカは俺を押し戻そうとするが、筋力パラメータが俺より低いのでそれは出来ない。それでも抵抗を続けていたが、それもついになくなり俺に身を任せるようにもたれかかってきた。その行為は何秒だったかわからない。もしくは永遠にも感じられたような時間だった。触れるだけの口付け。倫理コードに触れる行為でありシリカのウィンドウにはそれが出ているはずである。それでも俺はこうしてここにいる。

 

 

「……クゥさん……それはズルいです……こんなことされたら……全部許しちゃうじゃないですか……」

 

 

「……工藤夏希……」

 

 

「……え?」

 

 

「工藤夏希。それが俺の名前だよ。俺はちゃんと現実に戻る。そしてお前を見つけてみせる。だから覚えておいてくれないか?」

 

 

「ふふっ……わかりました……夏希さん……ちゃんと私を見つけてくださいね?待ってますから……」

 

 

そう言って微笑むシリカは誰よりも輝いて見えた。そして思い出したようにこう言った。

 

 

「私の本当の名前は綾野珪子って言います。名前も知らないと探すのに時間がかかりそうですから……特別ですよ?」

 

 

「珪子ね……いい名前じゃん」

 

 

そう答えてもう一度シリカと唇を重ねる。その日の夜は月明かりが綺麗な夜だったことだけは覚えている。

 

 

 

次の日の夜、俺たちは本日の七十五層の攻略を終えて、ギルドホームへ帰ってきたところに客が訪れた。その人物はなんと先日に来たばかりのキリトとアスナの両名であった。なんの用かと思って問いただしたところ、しばらくは前線から離れて二十二層の小さな村で暮らすらしい。そしてついにキリトがプロポーズを決めたらしく、結婚もしたそうだ。

 

それを聞いた瞬間リビングには冷たい一陣の風が吹いた。それは主に女三人衆から吹き荒れていた。しかしそれも一瞬だけで一気にお祭り騒ぎとなったのだが、男三人は内心冷や汗が止まらない。二人が帰った時のことを考えると憂鬱になってきたが、それを吹き飛ばすように一緒に騒ぎ出す。しばらくそれが続き二人は二十二層の家に帰っていった。すると三人は不意に立ち上がった。俺たちはついに来るか!?という気分で身構えていたが、それぞれの部屋に戻っただけで拍子抜けしてしまった。そしてそれぞれの部屋からは、泣き声や壁ドンの音など色々聞こえてきたが、意識すると怖いのでその日は早めに休んだ。これから毎晩こんな怖い思いをしなきゃいけないのかと悩んだのだが、それは杞憂に終わった。女性陣は思いの外回復が早く、次の日にはリズ、三日後にはアルゴ、五日後にはサチがそれぞれ自分の仕事に戻っていった。

 

 

そして俺はサチが回復した次の日、結婚報告から六日後の朝、二人の新居を見に行くついでに二十二層の森に出るという噂の幽霊をハンティングしに行くことにした。七十五層はすでに半分以上マッピングされているので、一日くらいいいだろうということで前線組四人全員で向かう。二十二層は狭く、モンスターも出ない。のんびりと歩いて湖畔を辿っていると、遠目から見てもわかる綺麗な栗色の髪、俺たちの目的の一つ、アスナとキリトがいた。何故か肩車をして。こちらが手を振るとアスナも手を振り返してくれる。キリトは恥ずかしいのか顔を背けてしまっていた。

 

 

「なんであの二人は肩車なんてしてんだ」

 

 

「言い出したのはアスナさんだろうね」

 

 

「……仲良しですねー」

 

 

「マジ爆笑。記録結晶で撮影されてるとも知らずに……」

 

 

三人のまたかよという溜め息が聞こえたが知ったことじゃない。便利なズーム機能を使って二人を撮り続ける。そのまま二人に合流する寸前まで撮影を続けた。そして向こうはまさか俺たちとは知らずにいたようで、こちらを確認できると急いで降り、体裁を取り繕うように言い訳を始めたのだが、誰も聞いていない。分が悪いと思ったのかキリトは話題を変えた。

 

 

「それよりもだ!!なんで前線にいるはずのお前らがここにいるんだ?」

 

 

「噂の幽霊を捕獲しに来たのだよワトソン君」

 

 

「誰がワトソンだ……ということはクゥたちも目的は一緒か……どうだ、一緒に行かないか?」

 

 

せっかくの二人きりの時間なのに俺らを入れていいのか新郎さんよ。アスナをチラッと見ると特に何も思っていないようで、そんなんでいいのかよ新婦さんよとそれぞれに突っ込みを入れたかった。新婚さんから異が出ないのなら従うしかないじゃないか、ということで計六人で噂の幽霊を探す。

 

しばらく探索していると木々の間に白い布が見えた。そこをよく見てみると噂で聞いた幽霊と瓜二つの少女がいた。

 

 

「全員あそこに注目」

 

 

指を差して全員の視線をそちらに向ける。すると女性二人から「ひぃっ」と悲鳴が聞こえ、他の三人も表情が固くなっていた。幽霊――――ユイちゃん捕獲作戦は思いの外、ヘタレ勢が集まってしまったようだった。俺は五人を置き去りにして颯爽とユイの元へ走り出した。「ヒャッホー!!」と奇声を上げながら走ると一瞬だけビクッと反応してフラッと倒れそうになった。すんでのところで俺は倒れる前にユイを抱き止めた。どうやら気を失っているらしく起きる気配がない。後から来た五人に説明してキリトとアスナの新居で寝かせることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「ここまで移動させられたってことはNPCの可能性はないな」

 

 

キリトの言葉に全員が頷く。NPCであれば抱き止めた瞬間にハラスメントのウィンドウが開き警告が流れる。それでも無視をして続けるとプログラムにより吹き飛ばされてしまう。それがないということはプレイヤーであるという可能性が一番高いのだ。仮にクエストの発現条件だとしても、ウィンドウが出てない時点でその線は捨てられている。相談の結果、目を覚ますまでここで面倒を見て、それから始まりの街で知り合いがいないか当たってみるそうだ。俺たちは攻略に戻って二人の分も進める事を約束する。

結局夜になっても目を覚まさず、俺たちはキリト夫婦の新居を後にした。俺は転移門まで見送りに来てくれたキリトに「気を付けろよ」と一言残してゲートをくぐった。

 

 

 



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32!!

 

 

 

ユイを見つけた次の日、俺たちは約束通りに迷宮区の攻略をしていた。出てくるモンスターは七十四層の時とあまり変化はない。しかしモンスターのPOP数は格段に上がっており戦闘回数は自然と多くなっていた。恐らく迷宮区の上部辺りであろう、まだマッピングされていない所を隅々まで攻略していく。骸骨の剣士を次々と硝子片に変えていく中、道が途中で切れた。どうやらこちらの道は先へは行けない行き止まりのようだった。来た道を戻り、分かれ道を別の方向へ進む。この階は先程の行き止まりを含めれば、大体マッピングされたので今進んでいる道が次の階へ続く階段があるはずだ。

 

しばらく進むと予想通り階段を見つけた。階段の前は大きな広間となっており罠があります感満載な見た目であった。様子を見てみると俺たちが来た道と、他の通路から繋がる道が二つで、そこの広間から通路が三つほど伸びていた。

 

 

「……クゥさん、どうしますか?」

 

 

「どうするも何も俺らが一番最初みたいだし、行くしかないだろうよ」

 

 

まずは俺が広間に入る。続いてシリカ、ケイタ、テツオと順番に入ったところで全ての通路が塞がれて閉じ込められる形となってしまった。

 

 

「やっぱり罠かよ……かあーッ!!めんどくせえ!!」

 

 

「そう言うなテツオ。最初からわかってた事だろう。さっさと倒して攻略を続けよう」

 

 

ケイタが言うとそう簡単にはいかないとでも言いたげに目の前に二体の骸骨剣士が出てきた。通常の骸骨より一回り巨大な体をしており、俺たちの二倍はあろうかという大きさであった。HPバーはそれぞれ二本あり、恐らくはこの迷宮区の小ボス扱いだと思われた。

 

 

「テツオとケイタは左の骸骨!!シリカは俺と右の骸骨だッ!!それぞれ倒したらもう一方の戦線に加われッ!!言うまでも無いが最優先は自分の命!!以上だ!!戦闘開始!!」

 

 

そう言ってまずは俺とテツオが飛び出しそれぞれ別の骸骨へ攻撃を当てる。すると骸骨のタゲが俺とテツオに別れる。敵を引き寄せながらお互い離れて戦闘を始める。二対四で戦うよりも、一対二で戦う方が意識を一体に集中できる。そうすることで早期決着も望める。俺が壁役、シリカが攻撃役でスムーズに骸骨のHPを減らしていく。Mobの骸骨より攻撃力や防御力は高いものの、使うスキルなどは一緒であり見極めも容易い。特に手こずることもなくシリカのソードスキル、トライ・ピアースで一気に巨大骸骨のHPは削れていきすぐにゼロになった。

もう片方の骸骨の方に目をやるとこちらもすでにHPバーは危険域の赤になっており、ケイタの一撃でゼロになったところであった。二つの骸骨がパリ――――ンと体を青い欠片に変えると同時に、閉まっていた扉全てが上に開き、階段及び通路へ続く道が開けた。俺たちはすぐに階段を駆け上がると、先が長く幾つにも枝分かれしている通路が飛び込んできた。

 

一番最初に上がってきたのでまだ宝箱などは開けられていない。まだ見ぬレアアイテムがあればと思い左の通路から順番にマップを埋めていく。うろちょろしているMobを斬り倒しながら進んでいく。どうも階を上に行く毎にモンスターのPOP数が増えている気がした。二十五層と五十層の二つの区切りの層でもそうだったことを思い出し、それならば七十五層もそうであっても可笑しくはなかった。

 

大体この階全体の三分の一ほどマッピング出来ただろうか、というところでいい時間になったので今日の所はこれまでということになり、ホームまで引き返した。

 

 

 

 

その六日後、ついにボス部屋へと続く扉を発見した。一番最初に見つけたのは俺たち四人。テツオはボスの姿だけでもと扉を開き入ろうとしたのだがそれは俺が止めた。原作知識など薄れてしまったが、今までの区切りの層のボスの強力さと、前の層のボス部屋が結晶無効化空間だったことを考えて結果を伝えると、納得してくれたのか満場一致で大人しく引き返すことに決まった。それに部屋の前に立っているだけで嫌な感覚が止まらないのだ。とりあえずは他の攻略組にも伝えるため街に戻った。

 

攻略組を集めた緊急攻略会議でボス部屋を見つけたことと、偵察には万全を期すべきだと伝えると、ヒースクリフはギルド合同のパーティ二十人を偵察隊として指名した。その中に俺たちの名前はなく、どうやら大規模ギルドの精鋭から選んだようだった。会議が終わると偵察隊以外は解散となる。結果はしばらくわからないがギルドホームで待つことにした。

 

その日の夜ギルドリーダーに送られる一斉送信のメッセが届いた。そこには不穏なことが記しており、俺はいつもの三人を連れて会議場へと急いだ。そこにはすでに風林火山のメンバーや慣れ親しんだギルドのメンバーが揃っていた。会議場の中央に立っているヒースクリフが重苦しい空気の中話し出した。

 

 

「今日の昼頃送り込んだ偵察隊の二十人の内十人が帰って来なかった」

 

 

ヒースクリフの言葉に周りが浮き足立つ。仮にもヒースクリフが選んだ精鋭が十人も死んだのだ。周りがこうなるのも仕方がない。

 

 

「話によると十人が後衛としてボス部屋入口で待機し、最初の十人がボス部屋の中央に到達し、ボスが出現した瞬間に入口の扉が閉じたそうだ。それからは何をしても扉は開かなかった。五分以上たち、ようやく扉が開いたのだがそこには十人の姿も、ボスの姿もなかった。転移結晶を使った形跡もない。念のためモニュメントの名簿を確認させに行かせたのだが―――」

 

 

長い台詞のあとに首を左右に振って、その先は言葉にしなかった。

 

 

「そこで私は考えた。今回はボスの出現と同時に退路も絶たれてしまう構造らしい。ならば統率の取れる範囲で可能な限りの大部隊をもって当たるしかない。もし怖いのならばこのまま帰ってくれて構わない。これほど危険なものでもボスに当たっていく勇気のあるものだけ残ってほしい」

 

 

ヒースクリフの言葉に反応して帰る者が多数出てきた。一人、また一人と会議場を去っていく。今回ばかりはリーダーも何も関係ない。風林火山からも何人か離脱するメンバーが見えるが、リーダーたるクラインはそれを気にすることなく笑顔で送り出していた。それを見る限りではクラインも参加するようだった。他にもどうやってこの会議を嗅ぎ付けたのかエギルの姿もあり、彼も残っていた。俺も漏れることなく三人に声をかける。

 

 

「三人とも、できれば帰ってほしい。俺は皆を死なせたくない」

 

 

「クゥさんが残るなら私も残ります」

 

 

「だなー。一度命を救われてんだ、ここは絶好の恩返しのチャンスだろ」

 

 

「俺も同意見だな。テツオとサチ、二人を助けてくれた恩返しをさせてほしい」

 

 

どうやら三人とも帰る様子は微塵も見えない。そして帰る者がいなくなった所でヒースクリフが人数を数えた。残ったプレイヤーは三十四人。誰も彼もが歴戦の猛者たちばかりである。

 

 

「ふむ……それならば明日の午後一時に七十五層コリニア市ゲートに集合。それまでは各自、自由だ。では解散」

 

 

そう言うとヒースクリフは颯爽と会議場を去っていった。まさかここまで大変だとは思ってもみなかった。結晶無効化空間に加え、ボスが出現した瞬間に入口が閉じるとはもうムリゲーに近い。命を大事にを選択しても回復がポーションのみでは心許ない。慎重に慎重を重ねても足りないくらいにはなりそうだった。それにしても明日午後一時まで自由時間か。とりあえず帰って全てのステータスをMax値に戻さないといけない。

 

 

「よおー、おめェらも参加すんのな。当日はお互いやられねえように気をつけようぜ」

 

 

気さくに話しかけてきたのはクライン。その後ろには参加することを決めた風林火山のメンバーが二人程いた。

 

 

「どうも。風林火山は随分と小さくなりましたね」

 

 

挨拶がてらのちょっとした嫌味を飛ばす。それでも嫌な顔をしないのだから、予想以上に出来た人間だ。

 

 

「今回はな……なるべく参加させたくねェんだよ。これでもギルメンの命背負ってんだ、本当はコイツらにだって帰ってほしかったんだがよ」

 

 

そえ言って後ろのメンバーを差すのだが、自身たちはどこふく風である。どうやら俺についてこい以外の命令を受け付けないように出来ているようだった。

 

 

「本当にメンバーに愛されてますね。男ばっかですけど」

 

 

「くぅぅううう!!どうしてキリトの野郎はあんな可愛い彼女が出来たのに俺にはできねえんだよッ!!」

 

 

「下心が丸見えだからじゃないですかね?黙ってればいい男なのに、喋るせいで台無しにしてますよ」

 

 

「なんだとッ!!俺に喋るなって言いてえのか!?そんなことじゃあアプローチもかけられねえよ!!」

 

 

「だからそういうのがいけないと言ってるのに……」

 

 

これから大事な一戦を目前としているのにいつもと変わらないやり取り。内心は誰もが不安で仕方ないはずだが、それを押し殺して普段通りにしている。目の前のクラインもそうだろう。だからわざとらしく大声を張り上げて緊張を解そうとしている。俺は別の意味で落ち着かない。きちんとキリトたちが来てくれるかそれが問題でもある。新婚さんなのにごめんと今のうちに心で二人に謝っておく。

 

 

「それじゃあ今日はこの辺で……また明日頑張りましょう」

 

 

「おう!!ぜってえボスをぶっ潰そうぜ!!」

 

やっぱりクラインはこういう時のリーダーシップは人一倍強い。男は案外クラインみたいな男に惹かれると思う。普段は下心満載なのにこと戦闘となると別人のようになる。このギャップが格好良かったりするのである。俺だって多少ならずクラインに憧れみたいな気持ちはあった。誰にでも物怖じしない性格と裏表のない明るさ、多分女よりも男に好かれるタイプであるのは間違いない。だから友人も男ばかりが集まって女は逃げてく。しかしこれを教えても結局は意味がない。クラインはクラインなので仕方がないとしか言い様がなくなる。

 

さて、と長いクライン思考に区切りをつけてギルドホームへと戻る。道中、特に目立った会話もなく静かに戻る。これもいつも通りといえた。ボス戦が始まる前のいい緊張感が生まれている。リズたちもそれを感じ取り、余計な事は言わないでおいてくれている。それぞれ部屋に戻ると不意に俺の部屋の扉がノックされた。

 

 

「開いてるよ」

 

 

入って来たのはシリカだった。寝巻き姿であり、なぜか枕を持参していた。

 

 

「どしたの、シリカ。そんな格好で……風邪ひくぞ」

 

 

「……二人の時は珪子って呼んでください」

 

 

「お前なあ……それはネトゲではタブーだぞ?わかってんの?」

 

 

「それくらいわかってます。それでも二人の時はそう呼んでほしいんです。……ダメですか?」

 

 

シリカはこれだけは譲らないぞっていう目をしていた。しかも目元が若干ウルウルしてる気がする。そんな目で見られたら断りきれないのは明白であった。

 

 

「……はあああ、二人きりの時だけだからな」

 

 

「………ッ!!ありがとうございます」

 

 

長い溜め息をついて結局は俺が折れると、シリカは満面の笑みを見せて礼を言った。シリカはこちらに近づいてきて俺のベッドに腰をかける。もともと俺もベッドに座っていたので、その隣にシリカが座ったため二人の距離はゼロに近くなっていた。すると俺の手にシリカの手が重なる。シリカをよく見てみると体が小刻みに震えていた。

 

 

「ほら、言っただろ。そんな格好でいたら寒いに決まってんじゃない」

 

 

「違います。寒くて震えてるんじゃありません。むしろ体は暖かいですよ?こうしてクゥさん―――夏希さんと手を繋いでますから」

 

 

本名のことを突っ込もうとしたが、別にシリカならいいかと思ったのでそのままにした。それにしても恥ずかしいことを堂々と言えるその肝はどうなってんだと問いただしたい気分になった。それも空気を読んで華麗なスルースキルを発動させる。

 

 

「それならどうして?」

 

 

俺の質問に震える声で答えた。

 

 

「私……本当は怖いんです。今までのボス戦より格段と苦戦しそうで……もしかしたら明日で終わっちゃうかもしれないって考えると不安なんです……」

 

 

「それは毎日がそうだったじゃないか」

 

 

「それはそうですけど……今回は危なくなっても結晶は使えない、入口からも退避できない、こんなこと初めてじゃないですか……」

 

 

確かにそうだ。というかこんなムリゲー具合が前半から続いていたら全員クリアを諦めるだろう。

 

 

「でも、夏希さんといたらそんな不安も無くなるような気がして……だから今日は一緒にいたいなって……迷惑でした?」

 

 

微笑、というのだろうか。儚げな笑い方をしたシリカは、俺の目には今までのどのシリカよりも脆く写った。それに恐らく今日がアインクラッドで過ごす最後の夜となるはず。最後くらいはいいかなと自分に言い聞かせる。結局は最後までシリカの甘えに抵抗できることなく言われるがままに許してしまった。まあそんなことがあってもいいんじゃないだろうか。人間だもの、いつだって誰かに負けて誰かに勝つのだ。今回負けた相手がシリカだったということだけだ。惚れたら負けだなんて先人は上手いことを言ったもんである。

 

俺はそのままベッドに横になり布団に入る。シリカもおずおずと俺の隣に入ってきた。俺が何も言わないでいるのを了承と取ったのか、さらにシリカは布団の中で手を絡ませてきた。

 

 

「……ねえ、夏希さん……手…繋いでいいですか?」

 

 

「もう繋いでんじゃん」

 

 

「ふふっ……そうですね……それじゃあ、手を繋いだまま寝てもいいですか?」

 

 

「……好きにすればいいよ」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

しばらくするとシリカの整った呼吸音が聞こえてきた。この状況でしっかり寝られるとはどれだけ信用されてるのか。好きな子が隣で寝てるのに我慢できる男がどれだけいるのだろう。というか眠れる気がしない。しかしそれでも体が正直なのか脳が正直なのか、早く睡眠を取れと訴えかけてくる。次第に目蓋が重くなりそのまま睡魔に身を任せた。

 

 



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33!!

 

 

 

二〇二四年十一月七日、午後一時。アインクラッド第七十五層コリニア市ゲート。そこには計三十六名の攻略組プレイヤーが揃っていた。これから七十五層のフロアボスの討伐が始まる。これだけ少ない人数は初めてかもしれない。それだけこれからの戦いが過酷な事を表しているようでもあった。周りを見渡すとキリトやアスナを始め、どこから見てもハイレベルプレイヤーとわかる者たちばかりだ。単純なレベルならここで俺を上回るのはやはりヒースクリフのみであろう。そして恐らくギルド的な強さでもメインが全員揃っており、なおかつ連携も阿吽の呼吸と呼べるところまで昇華させたゼロの騎士団が今回では一番上だと言えると思う。

 

俺とシリカはレベルを大台の三桁に乗せ、ケイタとテツオも九十半ばまで上がっている。人数さえ同程度ならばどこのギルドにも負けない自信がある。俺たちはそこまで強くなっていた。それでも今回のボス戦は懸念材料が尽きない。ヒースクリフは団員を四人引き連れて現れた際キリトの方へまっすぐ向かった。キリトの側にはアスナ、クライン、エギルなど見慣れたプレイヤーがいた。俺たちはキリトたちのやり取りを少し離れたゲートの隅の方で見ていたが、特に長話などする様子もなくヒースクリフはこちらに向き直り言葉を発した。

 

 

「欠員はないようだな。よく集まってくれた。状況はすでに知っていると思う。厳しい戦いになるだろうが、諸君の力なら切り抜けられると信じている。――――解放の日のために!!」

 

 

周りを震わせるような叫び。それに答えるように集まったプレイヤーたちが声を上げる。そのあとに一瞬だけだがヒースクリフと視線が重なった。しかし俺からはすぐに視線を外しキリトへと声をかけていた。ここからではなんて話したのかわからないが、キリトが重苦しく頷くとそれを見たヒースクリフは腰のパックから濃紺色の結晶を取り出した。

 

ヒースクリフが取り出したのは《回廊結晶》という名のアイテムである。これは任意の地点を記録し、そこに向かって瞬間転移ゲートを開くことができる素敵アイテム。しかしこれは非常に希少度が高く通常の転移結晶は高値だがNPCショップでも買えるが、それとは違い迷宮区のボックスか、強力なモンスターからしかドロップしない。

 

まあ、管理者権限でどんなアイテムも手に入るのだからこれを使うことに躊躇いはないだろう。「コリドー・オープン」の言葉とともにヒースクリフの目の前に青く揺らめく光の渦が出現した。すぐにヒースクリフとKoBの四名が渦の中に入っていき、それを皮切りに次々とボス戦に参加するプレイヤーが入っていく。隅の方にいた俺たちは自然と最後方となる。

 

 

「そんじゃあ、行きますか」

 

 

「頑張りましょう!!」

 

 

「さくっと片付けてさっさと次に行こうぜ」

 

 

「七十五層でこれだと先が思いやられるな」

 

 

ある種の戦闘前の鼓舞をしてから渦に向かう。その際キリトたちを追い越して軽く肩を叩き視線を合わせる。キリトが頷き俺は笑う。そして渦をくぐると軽い目眩にも似た感覚がある。それが終わるのを目を閉じながら待つ。平行感覚が戻り目を開けると、そこはすでにボス部屋の前であり最初に発見した時と同じような感覚に襲われる。今までにない緊張感が俺を含めたプレイヤーたちにのし掛かってきた。いつの間にか回廊結晶によってできていた渦は閉じており、その後には何事もなかったかのように通路が伸びていた。俺らのあとにくぐった筈のキリトらの姿がなぜか見えないので視線を動かす。それだけでは見つからなかったので足を動かして探し始める。すると通路の柱の影に二人の姿を見つけた。ちょうど他のプレイヤーたちからは死角となっており、探そうと思う余裕がなければ見つけられないだろう。

 

 

※以下主人公の妄想

 

 

「……なあ、アスナ…」

 

 

「え……どうしたの?キリトくん」

 

 

キリトはアスナを抱き寄せた。アスナは驚いてはいるものの、嫌がるような素振りは見せていない。よく見るとアスナを抱き寄せたキリトの腕は微かに震えているようだった。まるで自分の中の何かを押さえつけているようにも見える。

 

 

「俺、もう我慢できない……」

 

 

「え!?ちょっとこんなところで!?さすがにまずいよ!!」

 

 

二人は耳元で囁くようにやり取りをしているせいで、こちらからは何を言っているのか聞き取れない。

 

 

「頼むよアスナ……いいだろ?」

 

 

「……もう、ちょっとだけだからね……」

 

 

「ああ、ありがとう」

 

 

そして二人の姿が重なっ……

 

 

※ここまで全て遠目から二人を見ていた主人公の妄想

 

 

……た?……っは!!どこからか視線を感じる。

 

 

「「「……………」」」

 

 

うちの三人が残念なものを見るような目で俺を見ていた。

 

 

「……よーし!!ボス戦頑張ろうぜ」

 

 

「バカ」「アホ」「最低です」

 

 

どうやら全て聞かれていたようだった。

 

 

「そんなことしてる暇があったらさっさと装備とかチェックしてください」

 

 

「おおう、シリカが冷たいよ」

 

 

そう言いながらウィンドウを操作し双剣を装備する。すると腰の辺りに鞘が出現した。後ろから見ればちょうど腰で鞘が交差しているだろう。ちなみに抜くときは両手とも逆手である。不便なので鞘の位置を変えたかったが無理なのは実証済み。

キリトとアスナの二人もいつの間にか柱の影から出てきており準備は万端。あとは戦うのみである。ヒースクリフがボス部屋の扉を開け先陣を切って飛び込みその後ろにKoBのメンバーが続く。そして全員が部屋に入りボスの姿を探すために立ち止まる。すると背後で扉の閉まる音が聞こえた。これでボスを倒すか自分等が全滅するまでここから出られなくなったわけである。全員が床一面に注意を払うなか俺は壁や天井を見る。するといた。骨だけで形成されている百足のようなボス。姿をしっかり確認し叫ぶ。

 

 

「上を見ろ!!」

 

 

プレイヤー全員が視線を上に向ける。無数の脚を蠢かせ天井を這うようにして動いていたモンスターは不意に脚を広げて落ちてきた。

 

 

「固まるな!!距離を取れ!!」

 

 

ヒースクリフの鋭い叫び声とともに全員が落下予測地点から距離を取る。しかしモンスターのほぼ真下にいた何人かのプレイヤーが、どこに移動していいか迷うように立ち止まっていた。

 

 

「こっちだ!!」

 

 

キリトが叫ぶ。その声に反応してそちらに向かうプレイヤー。だが直後に落下してきたモンスターの着地の時の地響きにたたらを踏んでしまう。しかしそこでなんとか転ばないように踏ん張ろうとする。そこを狙うようにして骨百足は、右腕にあたる部分についている鎌を振るおうとしているのが見えた。

 

 

「逆らうな!!そのまま一度コケろ!!」

 

 

瞬時に俺の言葉に反応できたのは五人のプレイヤーのうち三人。残る二人は鎌の攻撃を喰らってしまう。その二人のプレイヤーはみるみるうちにHPバーを減らしていき、地面へ辿り着く前にその体を青い欠片にしていった。

 

 

「一撃…だと……?」

 

 

誰かが呟く。目の前で散ったのを見て助かった三人は喚きながら攻撃圏内から離脱した。ここにいるプレイヤーは全員が高レベルである。それが一撃死したともなればパニックは広がる。それも物凄く早い速度で。

 

一瞬にして二人の命を奪ったボスは雄叫びを上げると、新たなターゲットを求めプレイヤーの集団に突進していく。その方向にいたプレイヤーは恐怖に悲鳴を上げる。再び鎌が振り下ろされる瞬間、その真下に飛び込む影があった。最強のプレイヤーことヒースクリフである。巨大な盾で鎌を迎撃すると激しい火花とともに衝撃音が聞こえる。しかし鎌は右だけではなかった。それは左腕にあたる部分にもついており、それを凍りついたプレイヤーの一団に突き立てようとした。しかしそれも防がれる。黒ばかりの装備品が目立つ、よく知る顔―――キリトが剣を交差させ防ぐ……が押しきられそうになっている。それを防いだのは、こちらもよく知る顔となったアスナ。下から鎌に攻撃を命中させ、勢いが削がれたところをキリトがありったけの力で押し返し難を逃れる。

またボスの攻撃が繰り出されるが、それは二人の息のあった攻撃で鎌を弾き返してしまった。それは完璧なシンクロ。俺たちはそのチャンスを逃さないように側面へ回る。するとすぐにキリトの声が聞こえた。

 

 

「大鎌は俺たちが食い止める!!みんなは側面から攻撃してくれ!!」

 

 

俺たちから遅れて他のプレイヤーも側面へ回る。俺たちはその時にはすでにスキルで攻撃を始めていた。四人の攻撃が終わった直後、ボスのHPバーを確認すると四本のうちの一本目が五分の一辺りまで減っていた。攻撃力もだが防御力もかなり高いように見える。見た目は脆そうな骨だけのモンスターなのに。するとボスは槍のような尾を使い攻撃を始めた。尾の付近にいたプレイヤーが悲鳴を上げながら飛ばされていく。こちらも鎌程の攻撃力はないものの、一気にゲージを削られているようだった。

 

 

「……ちっ、今度は尻尾かよ……行くぞ!!」

 

 

俺は悪態をつきながらもそれを止めるべく走り出す。後ろからはしっかりとギルメンの三人がついてきている。到着したときに見えたのは、尻尾がまるで別の生き物のように振り回されているところであった。正に縦横無尽、縦かと思えば横に薙ぎ、横かと思えば上から叩き付けられる。両方を警戒しても尻尾の先端についている槍で突かれる。どう対処していいのかわからず、一方的に攻撃を受けるばかりであった。

俺たちは尻尾を挟み左右に分かれる。尾が振り払われるタイミングに合わせてスキルで攻撃を相殺する。それは鎌と対峙しているキリトたちと同じ方法であり、周りに被害が出ないよう弾き返す。

 

 

「尻尾は任せろ!!これは俺たちが引き受けた!!」

 

 

鎌を迎撃しているキリトたちにも聞こえるように大声で叫ぶ。二人が落ち着いて鎌に対処できるように。すると再び尾が振り上げられる。全神経を集中させどのような攻撃でどちらに仕掛けてくるのか観察する。尾の先がピクリと動いた。振り下ろされる軌道は俺たちのいる場所の反対方向。ケイタとテツオの方向だった。

 

 

「ケイタ!!テツオ!!」

 

 

俺が叫ぶ前にはすでにスキルによる迎撃準備、そして振り下ろされたと同時に発動させていた。どうやら心配はいらないようであった。二人は尻尾を弾き返してこちらに視線を向ける。その視線は大丈夫だと言っているようで安心して見ていられそうな物であった。そして次はこちらに振り下ろされる。

 

 

「シリカッ!!」

 

 

「大丈夫ですッ」

 

 

俺とシリカのリンクした攻撃によって尻尾を弾き返す。これならいけそうである。その間にも他のプレイヤーによって着々とボスのHPは減っていく。ボスの攻撃手段は主に前方の鎌二本と尻尾での振り払いらしい。他の部分から武器のような物が生えてきたりはしていない。そしてその攻撃手段にはそれぞれ迎撃要員として何人もプレイヤーがついている。そのおかげか他のプレイヤーは攻撃に集中できていた。死なないことを最優先にしているので、攻撃するプレイヤーの入れ替わりが激しいが、それでもなんとかポーションを遣り繰りしてHPを回復させ戦線に復帰していく。

 

 

それをひたすら繰り返す。すると一時間はたっていないだろう。ボスがその体を青い結晶に変えて四散した。

 

 

 



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34!!

 

 

ボスがいなくなってからも今までのように歓声は起きない。全員が精神をすり減らし結晶無効化という中戦い切り、その場で座り込む者や仰向けに倒れ込む者がほとんどだった。この場でそういう素振りを見せないのはヒースクリフただ一人だけである。

 

 

「何人やられた……?」

 

 

「……七人だ」

 

 

そう、一番最初の犠牲者以降も五人やられたのだ。決して手を抜いていたわけではない。それでも対応が追い付かず何人かはボスの攻撃の餌食となってしまった。俺は立ち上がる。するとヒースクリフは視線をこちらに向けた。その目は慈悲に満ちていて哀れむような物でもあった。その背後でキリトが音もなく立ち上がり剣を構える。スキルによって補正された動きで一気にヒースクリフまで距離を詰めた。ヒースクリフはそれに反応し盾を構えるが、その動きを予想していたかのような立ち回りでキリトは攻撃を当てた。しかしその攻撃は通らない。ヒースクリフの目の前で不可視の壁に阻まれたように剣が弾かれ、衝撃音が辺りに響いた。

 

キリトとヒースクリフの間に出た一つのメッセージ――――Immortal Object。それが見えた瞬間キリトに駆け寄ろうとしていたアスナが立ち止まる。他のプレイヤーたちも動けずにいた。

アスナがヒースクリフへ問いかける。それに答えたのはキリトであった。ヒースクリフのHPは何があってもイエローまで落ちない。システム的に保護されている、と。そしてキリトはヒースクリフが茅場晶彦であることを看破した。そしてそれを聞いた茅場は俺を見た。俺は何もしていないという意を込めて首を横に振る。再度キリトを見て気づいた要因を問う。キリトはデュエルの時のことを話した。すると納得したかのように頷きこう宣言した。

 

 

「―――確かに私は茅場晶彦だ。付け加えれば、最上層で君たちを待つはずだったこのゲームの最終ボスでもある」

 

 

「……趣味がいいとは言えないぜ。最強のプレイヤーが一転最悪のラスボスか」

 

 

「なかなかいいシナリオだろう?盛り上がったと思うが、まさかたかが四分の三地点で看破されてしまうとはな。……彼を除けば君はこの世界で最大の不確定要素だと思ってはいたが、ここまでとは」

 

 

辺りを静寂が包む。その中で一人だけ動いたプレイヤーがいた。KoBの正規の服装に身を包み、なにやらぶつぶつと言ったと思ったらヒースクリフに向かって走り出した。そして巨大な斧を叩き付けようとしたが、それより早く茅場は左手を振りウィンドウを操作した。すると駆け出した男は急に動きを止め地面に倒れ伏した。

周りも似たように不自然な格好で膝をついたり、地面に倒れたりする者が相次いだ。それはすぐに俺にも襲いかかってきた。体が思うように言うことを効かず座り込む。HPバーは緑の枠が点滅しており倒れた全員が麻痺状態となっていた。

 

キリトと茅場は何かやり取りをしている。それは周りも聞こえているらしく、アスナやクラインなどが声を上げている。しかし俺の耳には届かない。ここは結晶無効化空間である。そのためウィンドウを開き結晶を取り出しても意味はない。それでも俺はなんとかウィンドウを出そうと力を振り絞る。印象に残っているSAO編最後のシーンを思い出す。キリトと茅場以外の全員が麻痺で倒れる中、アスナがキリトの前に飛び出しその刃を受けたことを。ならば尋常じゃない精神力があれば動くことは可能なはずだ。それを信じて懸命に左手を持ち上げようとする。しかひ腕は全く動かない。それでも諦めたらそこで終わりである。

 

その間にもキリトと茅場は壮絶な打ち合いを始めた。するとなぜか急に腕のみが動くようになった。理屈はわからないがこれはチャンスだ。ウィンドウを操作し新たな武器を手に出現させる。それは剣がものを言う世界では異質な武器―――銃である。

 

スキルカテゴリは射撃。

そしてまさかの二丁拳銃。

 

 

一丁は俺の左手へ、残りは座り込んでいる俺の腹の上に落ちてきた。茅場はキリトへ対応していて気づいていない。そしてキリトは終盤でシステムアシストがつくスキルを使ってしまった。スキルは茅場により作られた物だ。いつ、どのタイミングで剣が出されるのかをわからないはずがない。そしてその全てを防ぎきったあと、キリトの剣は一本折れ、スキル後の硬直に入る。そこを狙って茅場の剣がキリト目掛けて振り下ろされる瞬間、二人以外に動き出す影があった。もちろんアスナである。アスナはキリトの前に立ち庇うようにして茅場の剣を己の体で受け止めようとする。

アスナの体に剣が振り下ろされるタイミングを見計らい左手にもった銃を使う。聞き慣れない、パ――――ン!!という音とともに弾薬が経口から飛び出す。それは思い通りの軌道を描き、アスナの体に剣が食い込む前に茅場の剣へとあたる。キ―――ンという衝撃音が辺りを包んだ。誰一人として現状を理解できている者はいない。ただ一人、この状況を招いた俺以外は。

 

 

「さすがにアスナさんをやられるのは困るんだ。うちのキリのやる気が落ちるんでね」

 

 

「やはり君か……それにしてもその射撃スキルは投剣スキルと体術スキルの双方を極めなければ出現しないはずだが……どうしてそれを君が?」

 

 

「へー……そうだったのか。じゃああれじゃね?バグだよバグ。アスナさんはなぜか完璧に麻痺が解けてるし、俺も左腕のみだが解けてるんだ。ほら、お前のゲームには今更じゃないか」

 

 

とは言ったが実は両方ともスキルの数値は最大となっている。ヒースクリフがラスボスとわかっているし、こうなることもわかっていたので誰にも話さないで隠しておいたのである。わざわざ言う義理もあるまいし、いくらGMと言えど常に全てのプレイヤーを監視できるはずもない。

 

 

「それよりも、よそ見してて良いのか?ほら最強タッグがくるぞ」

 

 

茅場がキリトの方へ向き直るとすでに剣を振り上げた二人の姿があった。それを盾によって防御する。キリトの得物はダークリパルサーのみとなっている。それでも慣れ親しんだ片手剣、影響はあるが問題はないように見える。そしてその影響はアスナがカバーしていた。先程も見せた思考すらリンクしているような合わせ技。息も尽かせぬ応酬に徐々に茅場にも余裕がなくなり始めていた。そしてキリトやアスナのHPバーが減少するよりも速く茅場のそれが減っていく。ついに危険域のレッドに入り、止めとばかりに二人は猛攻を仕掛ける。するとその攻撃は茅場の持っていた盾を弾いた。それは茅場の手から離れ床に転がっていく。盾のなくなった茅場はなんとか持っていた剣のみで対応を続けるも追い付かない。

 

 

「「はあああああああああ!!」」

 

 

二つの剣が二つの軌跡を描いて交差する。そして茅場のHPバーがなくなった。

 

 

「この勝負、君たちの勝ちだ」

 

 

パリ―――――ン。

聞き慣れた音とともに茅場の姿が青い硝子片となり散っていった。そしてすぐにアナウンスが聞こえてきた。

 

 

ゲームはクリアされました―――ゲームはクリアされました―――ゲームは―――――

 

三回目のアナウンスが聞こえてきたと思ったら、俺の意識は急に暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここはどこだ?」

 

 

辺り一面が真っ白な空間、そこに俺はいた。病院でもなければアインクラッドでもないここはどこなのか。試しに歩いてみるも進んでいる感覚がない。どうしようかと考えていると不意に声がかかった。

 

 

「ここは君の精神の世界とでも言うべき場所だ」

 

 

声の方に視線をやるとそこには茅場晶彦がいた。

 

 

「なるほど…確かにここには君ではない君の記憶もあるようだ。すまないが勝手に見させてもらったよ」

 

 

「本当に趣味が悪い。人の過去を検索して何がしたかったんだ」

 

 

「なに、これから起こりうることに多少なりとも興味が出てきてね。まあ、それでも君が覚えている以上のことは残念ながら見れなかったのだが……一つ興味深い物があった」

 

 

勿体ぶるようにして口を閉ざす。さっさと先を言えと視線で促す。茅場はやれやれと嘆息すると続けた。

 

 

「私の後輩……須郷君が……と言っても後輩であること自体君の記憶で思い出したのだが、何かをやらかすようだね?これは餞別だ。その時に使うといい」

 

 

そうして茅場は俺に何かを投げ渡す。俺はそれをキャッチし見つめる。なにか結晶のような物だが使い道や用法がわからないでいた。

 

 

「それは一度きりだが私の権限を使用することができる物だ。ナーヴギアで私のソードアート・オンラインを軸にしたゲームをプレイするのならばどれにでも使用できるはずだ」

 

 

「なぜ俺にこんな物を?」

 

 

「言っただろう?君の過去からこの先の未来を見たと……その通りに進むのじゃあつまらない。あれとは違う未来にしてみたい、ただそれだけだ」

 

 

「それならば別に権限を渡す必要はないだろう?ただ俺が行けばそれだけで未来は変わる」

 

 

「……私も人間だ。そしてソードアート・オンラインは私の世界だ。そこへログインしたプレイヤーは私の世界の住人と言っても過言ではない。私はそう思っている。それを勝手に掠め取るような事をされては私でも不愉快になる。つまり代わりに仕置きをしてきてほしいだけだ」

 

 

簡単に言うと、自分のおもちゃを横取りされて面白くないから泣かせてこいという訳か。とりあえず利用はできるので、有り難く受け取っておくことにする。そして気になる点を一つだけ聞いておく。

 

 

 

「俺はこのあと人体実験のサンプルにされんのかね?」

 

 

「ここにいる時点でその線は消滅したと言ってもいい。あとは帰るだけだ、安心するといい。それに君がサンプルにされてしまえば、それも無駄になってしまうだろう?」

 

 

そう言って俺が受け取った結晶を指差す。

 

 

「それではそろそろ失礼するよ、私もいかなくてはならないからね。最後に……ゲームクリアおめでとう、クゥド君」

 

 

そう聞こえた。同時に目が眩み、思わず目を閉じる。そして次に来たのは自分が寝ている感覚。目を開けると電灯が見えた。さらに視線を左右に振ると窓と壁が見えた。自分の周りには何もなく、隣には花瓶に花が活けてある机があるだけだった。そして思う。

 

 

(予定通りかな?)

 

 

声帯が弱っているのか声が出ないことはわかっている。よろよろと立ち上がり他の病室へ足を運ぼうとする。キリトとは家が近所なので同じ病院に搬送された可能性が高い。病室の扉を開き点滴がぶら下がっている物を杖がわりにして歩く。病室を出た途端にガラガラと隣の病室の扉が開く音が聞こえた。そちらを見ると同じようにそれを杖がわりにして歩いてきたと思われるキリトの姿があった。

 

視線が合い、声は出ないが表情で笑う。

 

 

――――お疲れさま、キリ

 

 

――――お互いにな

 

 

 

どちらからともなく歩みより、震える体で拳をコツンとぶつけあった。

 

 

 





SAO編これにて完結!!


活動報告にてこれからの予定などを書きますので気になる方はそちらをご覧ください。


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ALO開始前
35!!


大変長らくお待たせしました。

え?待ってないって?それは失礼しました。


ここまで遅くなったのは、主に私生活が忙しかったからですかね。


決して7月から始まる○畳間の侵略者!?のアニメの情報を集めたり、アニメ化記念とか言って原作を最初から読み直したりしてた訳ではありません。


…………ごめんなさい


 

 

 

 

少し調子に乗り過ぎたようだ。キリトと拳を撃ち合わせたあと、それぞれの想い人を捜しに動こうとしたら急に体の節々が悲鳴をあげた。その場で二人して踞り、動けないでいると巡回に来たナースによってベットに戻された。

ナースによると、二年間も飲まず食わずの点滴だけで過ごしていたのだから仕方のないことらしい。むしろ病室の外まで行けたことが信じられないようだった。

しかし実際に行けてるのだから問題ないと思い、ナースが医者を呼びに退室した際に動こうとしたら、感じたことのないような痛みが俺を貫いた。冷静に考えて、先程はゲームクリア直後であり、脳内でアドレナリンが分泌されてたおかげで動けていたのだろうと推測する。そうとわかってしまえばここで無理に動いて、筋肉が戻るのを阻害しても良いことはないので大人しくしておく。シリカの事は気になる。なんせ原作では少ないながらも帰って来れず、さらに数ヵ月寝たきりで過ごしたプレイヤーがいたのだ。シリカが含まれていないか心配で堪らない。そしてキリトには悪いが、アスナはその少ない内の一人になるだろう。実行犯が婚約者なのだ、見逃すハズがない。

 

これから起こりうるであろう事などを考えていると、いきなり病室の扉が開いた。入って来たのはこちらでの母親と父親であった。二人は特に焦る様子もなく、落ち着いていた。

 

 

 

 

少しの会話をしたあと、俺の体の上に置いてあった手紙の話に移った。うちの両親は驚く程あっさりと俺の話を信じてくれた。実は前世の記憶があるって話も結局はお前はお前だ、みたいな結論に至ったようでそれを聞いてちょっと泣きそうになったのは自分の心の内だけに留めておく。

 

両親が病室から出て行ったあとまたもや病室の扉が開いた。はて、両親以外に俺を訪ねる人間なんぞいただろうか?なんて考えていると、見た目は優男風だがその目は何を考えているのかわからないようなスーツの男が入ってきた。

 

 

「初めまして、僕は菊岡と言います。少しの間時間を貰ってもいいかな?」

 

 

「はあ……まあいいですけど……」

 

 

許可を出したら露骨に安心そうな溜め息をついた菊岡と名乗る男。先を促すとどうやらSAOであった事を知りたいようだった。それならキリトがいるはずだが、そちらには既に話を聞いた後らしい。

 

 

「だったら俺に話を聞く意味はないんじゃ……?」

 

 

「それがそうでもないんだ。君は他にも何かを知っていそうだったんでね。例えば……まだ目を覚まさない三百人のこととか」

 

 

見かけによらず強かな人だった。詳しい話を聞くとSAOに囚われていたプレイヤーはそのほとんどが一斉に目を覚ましたそうだ。ここまでは原作知識として俺も知っている。しかしここからが違った。

 

 

「三百人を除く全てのプレイヤーが一斉に目を覚ました。だけど、君だけは違って唯一タイムラグがあった。僕はそこに何か秘密があるんじゃないかと思っているんだけど……どうかな?」

 

 

「どうかな?……と言われましてもヒースクリフ……茅場と少し話していただけですしそれらの秘密については全くわかりません」

 

 

何かで読んだが嘘をつくときはある程度の事実を織り込めばいいというのを試してみた。今回茅場と話したって事実と、三百人について全くわからないという嘘。これで大人しく引き下がってくれると嬉しいんだが。

 

 

「そうか。いや、いいんだ、元から期待してた訳じゃないしね」

 

 

どうやら上手くいったようだ。でも茅場と話したってのはスルー?多分こいつ頭いいな。恐らくだが本能で三百人については茅場は関わりがないことをわかっている。事実それが正解だからこちらから藪をつつく必要はない。それよりも向こうの質問に答えたのだ、対価としてこちらも欲しい情報をいくつか提供してもらおうか。

 

 

「こちらからも一つだけいいですか?」

 

 

「ん?何か気になる事でもあった?」

 

 

「いえ、俺のギルドのメンバー……シリカたちはどうなってますか?」

 

 

「……すまない、プレイヤーネームだとわからないんだ。せめて本名がわかれば調べられるんだが……」

 

 

本名じゃないと無理なのか。くそったれ、俺が知ってるのは原作知識からのリズと本人が教えてくれたシリカの二人だけだ。他は聞いてないし原作ですら載ってなかったからわからない。

それでも―――

 

 

「綾野珪子と篠崎里香。この二人はどうなってますか?」

 

 

―――誰の行方もわからないよりは全然マシだ。そして恐らくサチ、ケイタ、テツオは名前の響きからして本名から取っているはず。サチはもしかしたら名字と名前から一文字ずつ、という可能性も捨てきれない。しかしアルゴの場合は正直検討もつかない。名前をローマ字読みにして入れ換えればアルゴになったりするのか、ただ無関係につけたのか……あの情報屋の事だ、性格からしても無闇に自分に繋がる名前にするとは考えにくい。

 

 

「すみませんが、もう一ついいですか?」

 

 

どこかに電話をかけている菊岡に悪いとは思いつつ話しかける。

身振りでちょっと待ってくれと、表すと通話をやめてこちらに向き直ってくれた。

 

 

「それでどうしたんだい?他にも調べて欲しい人でもいた?」

 

 

「はい。まずは高校生くらいの男限定で本名がケイタ、テツオと読める人の情報。それとこちらも高校生くらいの女子限定でフルネームのどこかしらにサとチの二文字が含まれる人の情報、そして最後は身長が目測で百五十未満であろう成人女性の情報です……お願いできますか?」

 

 

「……そこまでわかっているのなら特定はそこまで難しくなさそうだ。わかった……それらしき人が収容されている病院があったら教えよう」

 

 

「ありがとうございます。それと前者二つは三人が幼馴染みと言ってましたので、全員同じ病院に収容されている可能性が高いと思います」

 

 

一つと言っておいて三つも要求するという無茶を聞いてくれる菊岡に感謝の述べ、さらに三人についての情報を渡す。恐らくこの広い日本でもこれならば見つかるハズだ。何せSAOには女性プレイヤーが圧倒的に少なかった。それも女子高生ともなれば尚更である。さらにその少ない所にケイタ、テツオと読める人間が同じ病院にいる可能性はぐっと低くなる。

 

そしてアルゴの場合だが、この人たちの仕事がSAOプレイヤーの監視であるなら、身体のデータなど必要な物は揃っているはずだ。そして女性プレイヤーが収容されていない病院はカットされ、なおかつ成人女性で百五十未満はなかなか数が少ないと思う。

 

ここまで情報を渡してもダメならば、もう全員で集合等は諦めた方がいい。それでも無駄な努力はする。俺は皆を纏めていたギルドリーダーなのだ。無事に帰れたのを確認するまではリーダーとしての責任を持つつもりであった。

 

 

そして電話を終えた菊岡がこちらに向き直った。

 

 

「申し訳ないけど人数が人数だから二、三日時間が欲しい。だけど必ず君の期待には添える形にするよ」

 

 

「すみません、お願いします。どうせ俺もリハビリが終わるまでは動けないですし、捜しにも行けませんからゆっくりで大丈夫です」

 

 

「悪いね。それじゃあ今日は失礼するよ。今度来るときは今言ったメンバーの情報を持ってくる」

 

 

そう言って菊岡は部屋を退出していった。

このあとやることと言えば……とりあえずはリハビリか。目指すは一ヶ月で軽く走る程度なら出来る筋肉を取り戻すこと。それとギルメンにも会いに行く。そして菊岡が接触したのは原作ではキリトだけだった……なので生存者の情報を与えられたのはキリトのみだったが、なんの因果か(原因はタイムラグだろうが)ここでは俺にも接触してきた。つまり俺から会いに行くしかALO開始前に集まることは不可能になる。

 

 

そこまで考え、すぐにリハビリを始める。

まずは握力と腕力を取り戻す。なぜなら握力がなければ何も掴めず、腕力がなければ体を支えることも出来ず足腰のリハビリにまでたどり着けない。

 

 

 

とりあえずまずは握力から。

今の状態ならば、両手をぐっぱーするだけでもリハビリになるのでベッドから出る必要もなく、また看護師さんに怒られる心配もない。

それとついでに並行して足の指もぐっぱーしておく。これが意外に難しく、万全の状態でも手のようには上手くいかない。なぜならば人間は手先は器用でも足先は不器用だし、足の指は長くないので手を動かすような形でやろうとすると変な所に力が入ってしまう。

 

しかし、今はそれでいい。

色んな所に力を入れて、翌日には筋肉痛を迎える。そこから更にまた筋肉を痛めつける。多分しばらくは箸すら持てないような筋肉痛に襲われるだろう。

そして手に筋肉痛が来なくなったら本格的に歩行訓練の開始だ。その頃には恐らくだが変な所に力を入れてた分、腕や足も些かではあるが筋肉が戻っているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐっぱーをやり始めて三十分くらいたった頃だろうか、またしても病室の扉がノックされた。

 

 

「はーいー。開いてますよ」

 

 

ベッドから動けないのだから鍵なんてかかってる筈もない(むしろ病室に鍵はない)のだが、建前としてこう返事をすると控え目にカラカラーと扉が開いた。

 

 

「夏希さん……今、大丈夫?」

 

 

そこにいたのはシリカよりはサチに似た幼馴染み、桐ヶ谷直葉―――キリの一つ下の従姉妹であり、ついでに言えば次に起こるALOが舞台の物語のヒロイン―――であった。

 

 

「おー、妹さんじゃん!!キリの方はもういいの?」

 

 

「あっ、うん。お兄ちゃんとはけっこう話したし、和解?って言うのも変だけど、また前みたいに……三人でいた時みたいに仲良くできそうだよ」

 

 

「あーあれね。あれは全面的にキリが悪いから妹さんが気にする必要はなかったんだよ?」

 

 

「それでもやっぱりこんなことになるなら、ちゃんともっと話しておけば良かったって後悔したんだ。だから……」

 

 

「うん、言いたいことは分かったし妹さんがキリのこと大好きなのもわかったからノロケは止めてくれ」

 

 

「べ……っ!!別にノロケって訳じゃ……!!それにお兄ちゃんはお兄ちゃんだもんっ!!こここ……恋人とかっ……そんなんじゃないしっ。そんなことよりまだ名前で呼んでくれないの?」

 

 

誰も恋人とまでは言ってないが。そして露骨に会話を反らしてきた。

 

 

「だって妹さんは名前で呼んだら怒ったじゃん?だから不思議とこれが定着しちゃって……」

 

 

「もうっ、いったい何年前の話をしてるの?本当にそろそろ名前で呼んでね……あ、それと早くリハビリして剣道できるようにしてよ、夏希さんには結局一回も勝ててないままだからねっ」

 

 

「まあ善処しますよ……それと剣道はリハビリ次第だなー、すぐには無理でも年末には相手が出来るようにしとく」

 

 

こうしてしばらく世間話に花を咲かせていたのだが、不意に直葉が俯いてしまった。

 

 

成る程……ここまでの世間話は前哨戦ということか。

そして恐らくだが本題は例の手紙のことだろう。

 

その例の手紙とは俺がデスゲームが始まる前に直葉に書き置きを残していた物のことだ、しかも名指しで。ここに直葉しか来ていないことを考えると、ちゃんと一人で読んでくれたようである。もしこれで直葉の両親まで来ていたらもっと絶望に苛まれていた。

 

まあ、今でもどう言い訳しようか絶賛考え中な訳で絶望的な状況に変わりはない。というかなんでこんなことしたのだろう……ああ、インフィニティモーメントに入った場合の保険だった、結局は七十五層で終わったので杞憂となったが、先に理由を考えておくべきだった。

 

いや、でもまだ突入理由がそれとは限らないし、本当に雑談だけかもしれない。

 

 

……あ、なんかこれフラグっぽい気がする。

 

 




ちなみに少しずつではありますが、進めてはいたのでそこまで可笑しなことにはなってないと思いたい。

それと直葉のキャラが違う気がする。ちょっとこの子書きにくい。
あ、ちなみにALOはかなり早めに終わります。

SAOが約30話に対して、およそ半分以下の容量で終わりそうです、はい。


それと、この話から感想に返信をしなくなります。
感想は普通に読ませていただきますが、本気で時間がないのです。
一日が48時間だったらいいのに……

あ、ちなみに感想はモチベに繋がります。それ次第で次話の投稿が速くなったり遅くなったりします←


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36!!

 

 

 

あのデスゲームが終わってから早くも一ヶ月の時が流れた。

直葉がわざわざ俺の病室に訪ねて来た理由は、やはりというかなんというかあの手紙のことだった。直葉には二年経って戻らないかった場合の早期解決のため、と言っておいた。どうして私なの?という問いには、妹さんがおばさんの子供でキリの従兄妹だし剣道もやってるから。と答えた。直葉はALOというMMORPGをプレイしてるはずなのでこれだけ言えばおおよそわかってくれると思った。

事実直葉は納得とまではいかないものの、理解はしてくれたようであった。

 

そして菊岡は約束通りあの日の二日後に俺の病室を尋ね、ギルメン全員の情報を置いていった。

こちらのリハビリも良い調子で進んでいる。さすがに走るのは難しいが、それこそ日常生活を送るのには問題ないな、というところまで戻ってきていた。

 

俺たちはすでに退院もしており、食事の方も普通の物を摂っている。

ただ全員がそうであるわけじゃない。例えば男に比べて筋肉の戻りが遅い女性の中には未だに退院できていない者もいた。

そのなかにリズ、シリカ、サチ、アルゴの四名の名前も含まれているのを菊岡から聞き、これは今しかないと思いそろそろお見舞いという名のメンバー集めを始めようと行動を始める。

 

菊岡からアドレスやら住所やらを聞けば早いじゃないかと思ったのだが、そこはさすがに菊岡でも厳しいようだった。今回病院名や病室を教えるだけでもけっこうな綱渡りだったらしく、これ以上やると首が飛ぶそうだ。

個人情報は政府の対策室で万全の状態、どこにも漏れません、のイメージを崩すわけにはいかないらしい。

 

 

そんなわけで俺は今日、二つの病院を訪ねようとしている。

まずは神奈川県にある総合病院。ここにはサチがいるらしく、すでに退院しているがケイタとテツオもここに運び込まれたそうだ。

埼玉県の川越から大宮で乗り換えてそのまま神奈川へ、ざっと二時間以上かかったが、これもリハビリだと思えばどうってことない。

 

ここの総合病院は見た感じだと大きいが、原作の所沢の病院ほど警備は厳重ではない。

あそこは恐らく金持ちが使う病院だろうし、ここは世間一般でいう普通の家庭が使う病院である、あっさりと院内に入り、受付の看護師に病室と患者名を言ってから病室へ向かう。

 

サチの病室はすでに他の入院患者との相部屋となっているようで、騒がないようにと注意を受けた。

俺はリハビリとしてエレベーターは使わずに階段で五階まで上っていく。そして三つ目の病室の前で止まり患者名が書いてあるカードを確認してから扉を開けた。

 

 

そこにはベッドが四つ並んでおり、それぞれがカーテンで区切られていた。窓際の右側がサチのベッドのようで、二人も見舞いに来ていたのかケイタとテツオと楽しそうに話している声が聞こえる。

俺はわざと気配を殺しベッドに近づく。そしてカーテンで区切られている所からそっと顔を出して言った。

 

 

「久しぶりだな、元気にしてたか?」

 

 

「「は?」」

 

 

二人の目が点になった。

 

 

「クゥ……なの?」

 

 

「おう、サチ正解」

 

 

「「「えええええええ!?」」」

 

 

「ちょっ……声デカイって!!ここ病院だから」

 

 

「あ……ああ、すまん……じゃねえ!!なんでここにいるんだよ!?」

 

 

テツオが体を椅子から浮かせて問う。

 

 

「え?そんなんお前らに会いに来たに決まってるじゃないか」

 

 

「だけど……どうやってここがわかったの?」

 

 

「禁則事項です……ってえ!!」

 

 

ふざけたらサチから枕をいただいた。

そしてここからは少し真面目に説明を始める。

ある程度のことを話して納得してもらい、俺がここまで来た理由を話す。

 

 

「そしてまだ目を覚まさないSAOプレイヤーがいるんだ……そのなかに……アスナさんが含まれている」

 

 

三人は絶句といった表情を浮かべた。自分達は問題なく帰還できたが、それが出来てない者がいるということ、それもそのなかに一人でも知り合いがいたこと、この二つに驚きが隠せないでいた。

 

 

「必ず目を覚まさない人たちには原因があるはずなんだ……アスナさんが目を覚まさないことによってキリが目に見えて落ち込んでる。だから俺はかつての仲間である三人に協力してほしくてここまで来た……もしかしたらもう一度仮想世界にダイブすることになるかもしれない、それでも協力してほしい……頼む!!」

 

 

誠心誠意、土下座もいとわない覚悟で頭を下げる。すると三人を代表してサチからの返答があった。

 

 

「今さら水くさいよクゥ。確かにSAOは怖かったけど私たちはクゥとキリトに助けられて、黒の騎士団っていう居場所も与えてくれた。今度は私たちが二人を助ける番だよ」

 

 

顔を上げるとその言葉に同意をするように頷くケイタとテツオの姿が写った。不覚にもその優しさにジーンときてしまい口早に礼の言葉を言ったら三人に笑われてしまった。

 

 

「そうしたら……連絡先を教えてくれ。メンバーはあと三人を予定している」

 

 

「もしかして……それって」

 

 

「ああ、ケイタの予想通りにリズ・シリカ・アルゴだ。この三人にもこれからコンタクトをとって協力してもらうつもりでいる」

 

 

それから連絡先を交換し、昼過ぎになったところで俺は病院を後にした。

 

アドレス帳にはそれぞれ

 

榊智恵

仁岡慶太

矢上哲生

 

の文字が増えた。

 

 

 

 

 

次に向かったのは関東地方から飛び出して北は福島に来ていた。

 

東北地方ということでそこからさらに時間がかかってしまったが福島の病院にはアルゴがいるらしい。

さっそくサチたちの時と同じように受付を済ませ、病室へ向かう。

検問所?そんなのは金持ち限定だからなかった。多分うちのギルドにはそんなのはいないだろうな。アスナが例外中の例外ってだけだ、あれは。

 

 

今回は三階ということで先程よりは短い階段を登り病室を目指す。アルゴの病院は一番奥のようである。

ネームプレートを確認し、病室の扉をノックする。アルゴは個人部屋なので三人の時のように驚かすなんてことは出来そうになかった。

 

 

「どうぞ、開いてますよ」

 

 

一瞬誰かと思ってしまった。

しかし聞こえてくる声はアルゴそのもの。違和感が半端ない、なるほどあのしゃべり方は作ってたようだ。

 

 

「失礼するよ」

 

 

そう言って入るとそこにいたのはやはりアルゴであった。

もしかしたら違う人なんじゃないかなとも思ったが、顔はしっかり覚えているため間違えるはずはない。そ

そのアルゴはさっきの三人と同じように目を見開いて驚きを表していた。三人もそうだが現実世界でも会うことになるとは思ってなかったのかもしれない。そこは俺のギルドに所属してたのが運の尽きだと思って諦めてほしい。

 

 

「久しぶり、アルゴ」

 

 

「その顔と声……やっぱりクゥ坊か」

 

 

「まあね、捜すのに一番苦労したよ、なんたってアルゴって全く関係ないんだから」

 

 

「当たり前でしょ?いくら進化したと言ってもネトゲの世界よ。本名に繋がるものにするわけないじゃない。でもまさかここまで来るとは思ってなかったわ……何かあった?」

 

 

「うわっ……本当そのしゃべり方違和感ありすぎ。そんで相変わらず鋭いね。ちょっと協力してほしいんだ」

 

 

そこから先程したような話をアルゴにも繰り返し話す。

するとアルゴは了承する代わりにちょっとした条件を突き付けてきた。

 

 

「協力するのはやぶさかではないわ。なんたってSAOで助けてもらった身だしね……でも申し訳ないけど仮想世界にはダイブしたくないの。もし、その話が本当ならば私は現実世界からそれを調べる。その事が協力することへの条件よ」

 

 

内心そんなことで良いのかと安堵してしまった。

元よりアルゴには子安……じゃなかった、アスナの許嫁の身元やら黒い噂やらを調べてもらおうと思っていたのだ。逆にこちらからお願いしたいくらいだった。

 

 

「ギルド会議なんかは恐らく関東圏でやることになると思う。アルゴにはリハビリが済んだらうちに来てもらいたい。わざわざ福島から来るのも大変そうだしな」

 

 

「それはありがたいけど…でも親御さんとかは大丈夫なの?」

 

 

「問題ない。すでに話はつけてあるし」

 

 

「はあ……用意周到なことですこと。だったら退院が済んだらクゥ坊に連絡するわ。連絡先を教えてちょうだい」

 

 

こうしてアルゴとも連絡先を交換した。ここから埼玉に帰るのが凄く億劫だったが、親が心配するので帰らなくてはならない。なので長居もできるはずもなく、とんぼ返りとでもいうふうに病室を後にする。が、幾つか聞き忘れたこともあったので顔だけアルゴの方に向けて言った。

 

 

「ああ……そうだ。アルゴの方は大丈夫なの?親とか彼氏とか」

 

 

「それは嫌味かしら?おあいにくさま、大丈夫よ。今は一人暮らしだし、彼氏なんていないわ。仕事に忙しいから」

 

 

「仕事って何してるの?」

 

 

「……フリーライターよ」

 

 

「まさに情報屋、ネズミのアルゴに相応しい職業だな」

 

 

「ありがと、それじゃあそちらに行く時は連絡するわ。それまで元気でね」

 

 

「おう、そっちもな」

 

 

病院を後にした俺は、急いで帰りの列車に乗り込み停車駅を過ぎないよう眠らないで携帯の画面のアドレス帳を開く。

 

 

そこには新たに

 

 

後藤舞

 

の三文字が加わった。

 

 





病室でなんで携帯使えるのとか突っ込まないでほしい←

とりあえず名前は適当です。
気分で決めました、ごめんなさい((((;゜Д゜)))


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37!!


今回は筆?が進みました。
それもけっこうな速度で。

楽しんでいただけたら幸いです。


後半……もしかしたら、人によってはブラックコーヒーが必要となるかもしれません。



 

 

 

サチやアルゴのお見舞いという名の須郷を社会的にピーする会の会員に勧誘した次の日、俺は……まあ想像通りに筋肉痛となっていた。

正直ベッドから出るのも億劫で歩くたびに身体中が軋むような痛みを訴えてくる。

 

 

しかし俺の住んでいる家は埼玉県川越市にあり、今日赴く予定である二人が入院しているのは東京都であるため、多少の筋肉痛であれば問題なく動けるので予定に変更はなしだ。

 

 

 

 

 

 

二人の入院してる病院はそんなに離れていない。なんせ山手線の真逆に位置する駅が一応の最寄りであるからだ。

まあそこからバスやら徒歩やらで時間を使うが、昨日のような強行軍にはならないだろう。

 

まず目指すのはどちらかと言うと近い位置にあるリズの病院だ。菊岡から聞いた話だとリズの退院日が今日、シリカが明日らしい。なので選択肢的にも退院する前にリズに会えるのは今日で最後となってしまうため、後々のことを考えるとやはり先にリズの病院へ向かうのが吉だろう。

そしてリズの退院する時間がわからないため、なるべく早めに行動して、病院のロビー辺りで待ち伏せが無難かなー、とも考えている。

 

そんな考え事をしていると気がつけば時計の針は八時を指していた。

早朝にいきなり、はい退院です。さようなら。となるわけではないだろうが、早いに越したことはない。すれ違いになるわけにもいかないし、せめて昼前には病院に着いていたい。もしかしたらそれでも遅いかもしれない、なのでさっさと着替え朝食も取らずに家を出た。

 

 

 

特に道中で記入することもないので色々と割愛する。

 

 

 

 

そこは少し小さめの病院であった。入院患者はせいぜい十人ほどというくらいの規模で、よくここにSAOプレイヤーを搬入出来たな、と思う程である。

 

とりあえず病院の中に入り受付のお姉さん(おばさんと言うと恐らく目が光って威圧感が増すような年齢の人)にリズの病室を訪ねることにした。

 

 

「すみません、本日退院予定の篠崎さんってまだいますかね?」

 

 

「はい、まだ準備をしていると思いますよ」

 

 

「ありがとうございます。ちょっと退院したら会う機会も少なくなると思うんで顔だけ見ていきたいんですけど大丈夫ですかね?」

 

 

「まあ、それくらいでしたら問題ないと思いますよ。ご両親が迎えに来ると仰ってましたのでそれまででしたら篠崎さんも退屈してると思いますし……」

 

 

「申し訳ないです、ありがとうございます」

 

 

そう言って俺は病室も聞かないまま歩き出した。これくらいの小さい病院ならば聞かなくても短時間で見つかると思ったからだ。そしてその予想通り、探し始めて十分程度でプレートに篠崎里香と書かれた病室を見つけた。

どうやら個室のようで中からは荷物を纏めているのか物音が聞こえる。俺は二回コンコン、とノックをしながら

 

 

「ノックしてもしもーし」

 

 

と発した。

 

中からは「え?嘘?早くない?いや、でもお母さんたちはこんな変なこと言わないし……しかもこの声……つい最近までずっと、それこそ毎日聞いてたわよね……というかこのふざけた感じでこの声って……もしかして……」と聞こえる。

 

 

「というか選択肢なんて一つしかないじゃない!!」

 

 

リズの声とともにガラッと扉が開いた。

 

 

「よっ、元気そうで」

 

 

「当たり前じゃない!!いつまでも入院なんてしてたらそれこそ気が滅入っちゃうわ」

 

 

いかにもリズらしい元気で明るい声であった。

 

 

「それで?目出度い退院の日に何の用よ」

 

 

「それはスマンなあ……そうだよなあ、リズとしてはキリの方が良かったよなあ」

 

 

「は……はあ!?アンタ何言ってんの!?バカじゃない!?どどどうしてそこでキリトが出てくんのよ!!」

 

 

「いや、どもってるから、隠しきれてないから」

 

 

リズはくうううう、と顔を多少赤くしながら俯きがちに唸る。

なにこのかわいい生物、おもしれえ。

 

 

 

三〇分程リズをからかい笑ったところで本題に入る。

 

 

「アスナさんがまだ目を覚ましていない」

 

 

「……詳しく話して」

 

 

これからボス戦に挑むような空気が部屋に溢れる。アスナはリズの友人でもある、気が気でないのだろう。ゆっくりと順序立てて三回目になるこの話を説明していく。

 

 

 

「なるほどね……それでクゥはギルメンを集めてアスナを助けようとしてるわけね?」

 

 

「その通りだ。だからどうかリズにも協力してほしいんだ」

 

 

「任せなさい!!アスナのためにもキリトのためにも……私に出来ることはやるわ!!」

 

 

「助かるわ、それなら連絡先だけ教えておいてくれ。アルゴが家に合流でき次第作戦を始めるから」

 

 

「わかったわ」

 

 

赤外線でアドレスを交換したあと俺はすぐにリズに別れを告げた。

 

 

「もう行くわけ?もうちょっとゆっくりしていってもいいのよ?」

 

 

「こんな場面をリズの両親に見られてみろ……俺は死ぬぞ」

 

 

娘を思う親父の力はハンパじゃない。退院日に娘を迎えに来てみたら娘が知らない男と談笑していたらどう思うだろう。よく考えてみよう。まず絶対にそういう関係だと誤解されてしまう、それはなんとしても避けたい。

 

 

「もう、何よ大袈裟ねー」

 

 

大袈裟ではないんだよこれが。恐らくだがリズは一人娘のはずだ。それこそ本当に目に入れても痛くない程に溺愛しているはずである。

 

 

「リズはもうちょっと自分の素材の良さを自覚した方がいい」

 

 

これは紛れもなく俺の本心である。本人は嫌いであろうそばかすも俺からすればそんなことはない、むしろそれこそがリズのチャームポイントだと言っても過言ではない。

 

リズが顔を赤くしながら俺の言葉の意味を模索しているが今の状態で両親が来たら本当にまずい。

 

 

「そんじゃあな、また今度会おうぜ」

 

 

そう言って俺は病室を後にした。リズの病室からクゥのバカー、なんて叫び声が聞こえた気がしたが、俺にはまだ回るところがあるので聞こえないフリを決め込んだ。

 

 

 

 

 

リズの協力を得られることも確定し、俺は最後のメンバーの元へと足を運んだ。

 

その人物の病室の前で一度深呼吸を入れる。どうしてかわからないが凄く緊張しているみたいだ。たかだか一ヶ月程度会わなかっただけなのにずいぶんと会ってない気もした。

 

気を持ち直して二回ノックをする。

すると中から「どうぞー」と聞き慣れた……それでいて飽きない、俺にとって何よりもこちら側で聞きたいと思っていた声が返ってきた。

 

意を決して扉を開ける。

そこにはベッドに腰をかけて足を外側に投げ出し、ぶらぶらと揺らして思いきりリラックスしているシリカの姿があった。

 

そして俺が病室に姿を見せた瞬間シリカの動きがフリーズした。

みるみるうちに表情が変わっていく。それはリラックスからの驚愕、そして安堵の表情へと変わり、最終的には泣いてるような喜んでいるような中途半端な表情になった。

 

そしてそれは俺も同じだと思った。いくら菊岡の話から聞いていても、やっぱり自分の目で確かめないと安心は出来ないし、確証も得られない。恐らく、もし、万が一シリカも巻き込まれていた場合、俺もキリトと同じようにしばらくは行動を起こせないかもしれなかった。

俺がシリカの病室を一番最後にしたのは主にこういうところを考えてのことだ。

 

 

「クゥさん……?」

 

 

シリカが信じられないといった風に訪ねてくる。

俺は肯定の意として一つ頷く。

返事にならないのは安心しすぎて声がでなかったから。

 

 

「本当に……本当にクゥさんなんですね」

 

 

「ああ……そうだよ」

 

 

今度はちゃんと言葉を返せた。

するとシリカはベッドのスプリングを上手く使い飛び上がる。

 

 

「クゥさん!!」

 

 

俺の名前を呼ぶとそのまま抱きついてきた。

 

 

「……ぐすっ…クゥさあん……会いたかったです……」

 

 

ついには泣き出してしまうほどである。優しく抱き止め頭を撫でながら言う。

 

 

「会いたかったのは俺もだよ。無事で本当に良かった」

 

 

「でもクゥさん……どうしてここに……?」

 

 

「ああ、ちょっと長くなるけど大丈夫?」

 

 

「はい……それならベッドの方に行きましょうか。いつまでもこうやって……その、抱きついてるのも恥ずかしいですし……」

 

 

そう言ったシリカは俺の手を取ってベッドまで進んでいく。俺は引かれるままに行くが、さすがに女の子のベッドに座るのは気が引けるので手を離して脇にある椅子に座ろうとしたが、シリカが手を離してくれない。

 

シリカはさっさとベッドに座ってしまう。そしてこちらを見ながらポンポンと隣を二回叩いた。隣に座れということらしい。

俺は大人しくそこに座るとシリカは満足したように頷いた。それだけじゃなく俺の腕を抱くようにして、体を預けてくる。そして隣に座っているので距離がほとんどない、おかげでシリカの体温が直に伝わり鼓動が早くなるのがわかる。

 

 

「話しを聞くんじゃなかったの?」

 

 

それを誤魔化すために真面目な雰囲気で聞いてみた。

 

 

「ええええ……もうちょっとー」

 

 

が意味がなかったようである。

この間もずっと手は離さないままだが、顔を赤くしながら首をイヤイヤと振って甘えてくるシリカを見てると、しばらくはこうしててもいいかなと思える。

 

しかしそれがいけなかったのかもしれない。シリカはそのまま倒れ込んでしまった。

 

 

「ちょっ!?シリカ!?大丈夫か!!」

 

 

「……クゥさん……えへへへ」

 

 

だがシリカは俺の腕を離し、その手を腰に回して太ももに頭を乗せてベッドへ寝そべってしまった。

今のシリカは膝枕の状態で頭を体の方に向け腰を抱くようにしている。

 

 

「座ってるのが辛くなったのか?それなら普通に寝てていいんだぞ?」

 

 

「違いますー、別に辛くないですよ、ただこっちの方が……うん、いいってだけです……」

 

 

「そうかよ、ならシリカの好きにしてくれ」

 

 

「あ!!あと名前!!ちゃんと呼んでください夏希さん」

 

 

夏希と呼ばれた瞬間にまた心臓が一つ跳ねた。シリカの本名を呼ぼうとするが、なぜか鼓動が早くなる。SAOではあんなに簡単に呼べたのに、である。

 

 

「……わかったよ……珪子」

 

 

 

そして名前を呼んだ瞬間、さらに鼓動が早くなる。人間の心臓が鼓動する回数って決まってるって聞いたことがある。もしそれが本当ならば確実に俺は早死にしそうな気がした。

 

 

「やっと名前で呼んでくれましたね……えへへ……嬉しいです……でも、ちょっとなんだか恥ずかしいです……」

 

 

下を向いてシリカがどんな顔をしてるのか確認したかったのだが、いかんせんシリカの顔は俺の体で隠れてしまっているので後頭部しか見えない。

まあ、真っ赤になっているのは耳を見てわかるので確認するまでもなく照れているのはわかる。そしてそれは俺も同じ。

 

 

「はああああ、ったく……」

 

 

「あはは、溜め息つかれちゃいました。でも……今はそれすらも感じられることが凄く嬉しいです」

 

 

俺もだよ、と言いかけたがやめておいた。かわりにシリカを撫でてやる。すると「ん……」と声を出してそのまま俺の手を受け入れてくれた。

 

 

 

 

 

 

しばらくたつと静かな寝息が聞こえてきた。

 

 

「寝たのか……やっぱり疲れてたんだな」

 

 

起こすのも悪いと思い、起きるまで大人しく待つことにすた。

 

 

 

しかしまさか面会時間目一杯まで寝てるとは思わなかった。

 

 

「ふああああ……ごめんなさい……つい気持ちよくて寝ちゃいました」

 

 

てへっ、と効果音がつきそうな可愛らしい笑顔で謝られると、痺れた足以上の価値はあったなと思う。

 

 

「気にすんなよ。それじゃあそれそろ面会時間も終わりだし帰るな」

 

 

「はい、今度はちゃんとお話してくださいね?」

 

 

「ああああ!!結局話せなかったし!!大事なことなのに!!ごめんシリカ、アドレスだけ教えて!!あとでメールで教える!!」

 

 

「え、メールで大丈夫なんですか?」

 

 

「まあ、あんまよくはないけど色んな意味で時間もないから!!」

 

 

「わかりました、じゃあ赤外線で送りますね」

 

 

そうやってシリカの連絡先を教えてもらい、看護師が巡回に来る前に病室を出ようとしたら、声をかけられた。

 

 

「夏希さん!!何度も言いましたけど会えて嬉しかったです……今度デートしましょうね!!大好きです!!」

 

 

「おーよ、デートな、楽しみにしてる。今さらすぎるけどなー、俺も大好きだ」

 

 

俺はすぐ顔に出るタイプだから言いたいことはちゃんと言ってすぐ病室を出た。

何回も赤くなった顔とか見られたくないし。

 

 

後日、シリカにはちゃんと経緯を話し協力も取り付けた。

これで全員が揃うことになった。多少オーバーキルになりそうだがそれはそれ、これはこれ。

ソフトを何本手に入れられるかはわからないが必ず痛い目に合わせてやるよ。

 

 

 

俺はそう心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 




リズとシリカをメインに置いたら前話より文字数が1500近く増えた……
勝手にキャラが動き始めて大変なことになってます……
主にそれが1500文字の原因でしょうorz


文字数とか大丈夫ですかね?読みにくくないですか?
二次創作なのでなるべく気軽にスラスラ読めるものを目標にしているので、そこら辺の感想もお願いします。

あっ、もちろん普通の感想もお待ちしております♪ヽ(´▽`)/


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38!!

 

 

 

 

各ギルメンの病室巡りが終わり、筋肉痛も取れた頃、俺はSAOに捕らわれる前の生活に戻っていた。

朝起きてから軽いランニングをして、キリの家の道場に顔を出して稽古に励む。

その時にはもちろん直葉もおり何回も試合を申し込まれたが、まだ筋肉は戻りきってないので断っていた。

 

どうせやるなら万全の状態でやりたいし、いくら全国経験者と言えど同じ剣道をたしなむ者として年下の女の子には負けたくないというくだらないプライドもあった。

 

 

「夏希さーん、そろそろ試合してよー。私が本気でやっても勝てないのってここら辺じゃ夏希さんだけなんだよ?」

 

 

「あー?そんなん知らんがな。それに筋肉が戻ったらいくらでもやってやるって」

 

 

「なるべく早くしてよね!!」

 

 

「はいはい……妹さ……じゃなくて、直葉もわがままになったもんだ」

 

 

今までの癖で妹さんと呼びそうになったが、それを言おうとした瞬間直葉からのキツイ視線が飛び、慌てて訂正すると満足したように頷く。

 

最後にお疲れと言って先に道場を後にする。

今日はアルゴが家に合流するため、少し早めに上がらせてもらいキリトの家から徒歩五分圏内にある自分の家に戻る。

親にもちゃんと話してあるので寝室の準備なども問題ない。家に誰かが来るなどキリトと直葉以外には滅多にないことなので無駄に気合いを入れていたりする。

長くて二ヶ月近くにもなるが大丈夫なのかと聞いたが、「あらあら、そんなにいるの?それだったらいっそずっと家で暮らせばいいんじゃない?」と言い出す始末である。

その提案はさすがのアルゴも断り、今回の用件が片付けば福島に帰ると言っていた。

 

すると俺の携帯が誰かからの着信を知らせる。

発信者の名前は後藤舞となっていたのでアルゴからの連絡であった。

何事かと思い電話に出る。

 

 

「はい、こちらクゥです」

 

 

「あ、クゥ坊?ごめん、東京駅まで来たはいいのだけど、広すぎてちょっとわからないのよ」

 

 

「あー、そこは色んなとこに繋がってるからなー。上の案内板通りに進めばどうとでもなるんだけど……」

 

 

「えーと?何線だっけ?」

 

 

「京浜東北だよ。東京の京に浜で京浜だからな?読み間違えるなよ。もしくは山手線の方に行けば自然と見えて来るよ」

 

 

「そこまでバカじゃないわよ私は。……あ!!山手線は見つけたわ!!ありがとう、助かったわ。またわからなくなったら電話するから、じゃあね」

 

 

それだけ言うと電話は切れた。あんま東京駅なんて行かないから自分でもいまいちわかってないんだよな。この説明でちゃんと来れるといいんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先ほどの電話からおよそ三時間後、またアルゴから電話があり川越駅に着いたとの連絡があった。

それから家を出て歩いて迎えに行く。

駅に着くとちゃんとアルゴは改札近くのみどりの窓口にいてくれた。

 

 

「アルゴ、待たせたな」

 

 

「それほどでもないわ。それよりちゃんとシリカに説明してるんでしょうね?私は嫌よ?修羅場になるの」

 

 

「それについては問題ない。納得もしてくれたし……」

 

 

それまでに一悶着あったことは言わなくてもいいだろう。「貸し一つですからね」と言われたが、どうなるか今から不安でたまらない。

 

 

「それじゃあ長旅で疲れたろうし家に行くか」

 

 

「そうしてもらえると助かるかな?そろそろお昼も過ぎるしお腹もすいてきたし」

 

 

「飯だったら家に用意してあるけどどうする?それともどっかで食ってく?」

 

 

「あら?クゥが作ってくれたのかしら。それだったら無駄にするのもなんだしいただこうかしら」

 

 

「あいよー。そんなら家はこっちだから」

 

 

俺はアルゴと並んで歩き出す。車の通りが多い場所を抜けると、そこそこ自然が多くなり場所によっては歩道すら無くなってくる。そんな道をしばらく進むとキリトの家が見えてくる。

そこを通り過ぎようとしたところで後ろから声が上がる。

 

 

 

「あー!!夏希さんが女の人と歩いてる!?」

 

 

「そこは黙ってるべきじゃないかなあ!?ねえ、直葉さんや!!」

 

 

俺なら黙って後をつけて、状況を見極めてから後で問い詰める。まさか堂々と真正面からこう言われるとは思わなかった。というか会うことが想定外、いや、確かに近所なんだから想定しとけよと思うかもしれないが、そこまで頻繁にばったり会うことなんてそうそうない。

だから今回も平気かなー、なんて気持ちだったのだがミスだったようだ。

 

 

「だってお兄ちゃんと私以外に遊んでるのなんて見たことないんだよ!?そんな夏希さんが知らない女の人と歩いてるんだよ!?そりゃ声も出ちゃうよ!!」

 

 

「失礼な!!お前ら以外にも友達くらいいるわ!!」

 

 

いや、確かに遊んだりしてたのはキリトと直葉が圧倒的に多いが、それだけで他に友達がいないというのは言い過ぎである。

 

 

「ちょっとクゥ坊?この子誰なの?」

 

 

「しかも工藤でも夏希でもなくまさかのあだ名呼び!!どれだけ距離が近いの!?」

 

 

「ええい!!ややこしいからアルゴは黙っててくれ!!」

 

 

「夏希さんもあだ名で読んでる!?そんなの滅多にないのに!?」

 

 

「ああああ!!もう本当にめんどくさい!!」

 

 

思わず叫んでしまった。

 

 

「SAO内のクゥ坊しか見てないと工藤夏希って可愛らしく感じるわ。病室でアドレスもらった時も多少なりとも驚きがあったもの」

 

 

「うん、そうね。今は俺の名前はどうでもいいよね。それよりもこの子は桐ヶ谷直葉、アイツの妹みたいなもんだよ」

 

 

「……アイツ?……ああ、キリトのことね。初めまして直葉さん、私は後藤舞よ。貴方のお兄さんとは一緒に戦った仲よ、よろしくね」

 

 

そこまで言ったところで直葉も俺とアルゴがどんな仲かわかったらしい。明らかに表情が先ほどと違う。

 

 

「あら?そんな顔しないでよ。私もクゥ坊もキー坊もちゃんと生きてるわ。確かにこの二年間……辛いこともあったけど楽しいこともあったんだから」

 

 

アルゴが見せる会心の笑み。それを見て直葉も笑顔を浮かべる。

直葉もアルゴに挨拶を交わし当時のことを色々と質問したりしている。

 

 

「お兄ちゃ……兄のこと、もっと詳しく聞きたいんですけど……」

 

 

その後によろしいですか?と続きそうな表情でこちらを伺う。アルゴは俺にどうする?と表情で語りかけてくる。

 

 

「しゃあない……アルゴ、少し飯は遅くなるかもしれないがかまわないか?」

 

 

「それくらいなら平気ね」

 

 

「ならキリのこと、話してあげるよ。家でいいかな?」

 

 

「夏希さん……!!後藤さん……!!ありがとうございます!!」

 

 

たまにはこんなのもいいだろう。俺からもキリトの話はしなかったし、キリト自身も話すのは遠慮してたし、辛くなるから避けていたんだろう。

 

俺としてはいつまでも引き摺りたくないので、ここらで思い出にしてしまおうと思う。直葉には悪いが今回は俺の精神の成長のため、言い方は悪いが利用させてもらう。

 

 

 

 

 

 

そこから直葉が夕飯で家に帰るまで話は続いた。なるべく気落ちするような場面は話さないようにして、キリトの活躍を全面的に押し出した。そうなると自然と俺の話しも多くなるのだが、そこは勝手に俺が脚色し誤魔化した。

 

 

だって昔から知ってる相手に知られるのって少し恥ずかしい気がしたからね。

 

 

 

 

「結局遅くまで話し込んだな」

 

 

「まさかあんなに聞かれるなんて思ってなかったわ」

 

 

「直葉はキリのこと大好きだからしょうがないよ」

 

 

驚いたような表情でこちらを見てくる。

 

 

「お兄ちゃんっつってもあの二人は従兄弟だから問題はないよ」

 

 

今度は納得の表情を浮かべ、今では懐かしいアルゴスマイルを見せてくれた。恐らく今度会ったら直葉はからかわれるんだろう。ざまあ。

 

 

「「ただいま」」

 

 

すると玄関から両親の帰ってきた声が聞こえる。

どこで二人は合流したのだろう。珍しく母親も出掛けていたので駅あたりかもしれない。

 

 

「あら、その方が舞ちゃん?」

 

 

母親が普段はいないアルゴを目敏く見つけ声をかけた。

 

 

「初めまして、今日からしばらくお世話になります後藤舞です。よろしくお願いします」

 

 

アルゴが見たこともない礼儀正しさで挨拶をする。両親は顔を綻ばせてアルゴを歓迎すると、荷物がそのままなのに気付き今日からアルゴの部屋となる洋室へ案内することとなった。

 

 

「それじゃあ家にいる間はこの部屋を使ってちょうだい。室内にあるものは自由に使ってかまわないからね」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「荷物を置いたら居間に来てね、せっかくだからおばさん、今日は頑張って料理しちゃうから」

 

 

母親は無駄に張り切ってリビングの方へ消えていった。父親の方は先に着替えてリビングにいるようだ。二人の会話がこちらにまで聞こえてくる。

 

 

「いい両親じゃない。大事にしなさいよ?」

 

 

「本当にな、俺にはもったいないくらいだよ」

 

 

心の中で俺とアルゴの関係に探りを入れてこなければな、と付け加える。

どこの親もこういうところは一緒なのだろうか。弁解する必要があるため無駄に力を使ってしまう。

それさえなければ本当にいい両親なのに。さすがにそこまで望むのは贅沢者か。

 

 

 

 

その夜、本当に無駄に張り切った母親の料理のレパートリーに驚いた。

結局この日は今後のことなど何も話せず終わったのは言うまでもない。詳しい日時は覚えてないのであやふやだが、ALO開始まですでに一ヶ月を切っていたと思うが大丈夫だろうか……

 

 

 





文字数が話によってバラバラ……

でもなるべく3000~5000になるようにしてますので見捨てないでください←


気づいたらお気に入りが800超えとか((((;゜Д゜)))
こんなダメ投稿者の作品を呼んでいただいて本当にありがとうございます。


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39!!

 

 

 

アルゴが家に来た次の日、他のメンバーにも連絡を取り、全員の予定が合った二日後に会議を開くことになった。場所は外ではあれだと言うことでなぜか家になってしまった。理由としては二人がすでに一ヶ所に纏まっているからとついでにリハビリも兼ねてだそうだ。

 

全員して遠いのにわざわざ来てくれるから正直ありがたかった。

そして申し訳ないが母親には出掛けてもらっている。この話はおいそれと外で出来るものでもないし、かと言ってSAO関係者でもないのに巻き込むわけにもいかない。

父親の方は普通に仕事に出掛けている。

まだ十二月の半ばだが、普通の学校へ復帰出来ない俺たちには平日でも問題ない。

 

 

そして今日がその二日後にあたる日だ。個人的にはなんとか原作より早く終わらせてアスナのリハビリ期間を長くし、無理なくSAO関係者が集まる学校に入学させてあげたい。原作では相当無理なリハビリをして入学に合わせたって話だから、そんなことはさせたくない。

 

ゆっくりとキリトと共にリハビリをしてもらって、さらに二人の距離を縮めてもらいたい。そしてそれを俺が盗撮すれば完璧なホームビデオの完成だ。SAO内であんなに貯めた記録結晶はどうせALOにログインしたら使えなくなるし、今の内から現実用に撮り貯めておこう。

 

いずれ行われるであろう二人の結婚式のために!!

そのためにはまずアスナを助けて、なおかつご両親を説得させなければならない。アスナはええとこのお嬢だからな、これがまた厳しそうな気がする。

 

 

さて、話が逸れてしまったがシリカたちを迎える準備は整っている。気軽につまめる茶菓子は和と洋で両方揃えてあるし、飲み物も完璧だ。これぞおもてなしの心。

 

 

「今日はそんな軽いお茶会みたいな感じでいいの?もっと重要なことだと思っていたのだけれど」

 

 

「わかってないな。こういうのは気持ちだよ、気持ち。少なくとも飲み物は消費するだろうよ、なんたって会議だからな」

 

 

アルゴとそうこう話しているうちにインターフォンが鳴った。

 

 

「さてさて、一番は誰でしょうねー。つか本当に早いよ、まだ昼前なんだけど」

 

 

「あら、早く集まるのはいいことじゃない」

 

 

アルゴの声を背に部屋を出ていく。まあ確かに何時集合とか時間は決めてなかったからあれだけど、せいぜい昼過ぎになると思っていた。俺は玄関についている覗き穴から誰が来たのか確かめる。

 

そこにいたのは男二人と女の子一人の三人組であった。それを確認たので扉を開けて迎え入れる。

 

 

「お前ら随分早いな。すでに半分以上のメンバーが集まっちまったよ」

 

 

「何時に行けばいいかわからなかったからな。とりあえず早めに来てみたんだが……大丈夫だったか?」

 

 

「大丈夫だ、問題ない。それと迷ったりしなかったか?」

 

 

「大丈夫だったよ。そこまで遠くなかったし複雑でもなかったから」

 

 

俺の問いにケイタとサチが大まかに答える。

 

 

「そうかい。んじゃまあとりあえず入れよ。俺の部屋に案内するぜ」

 

 

三人はお邪魔します、と一声出して靴を揃えて上がってきた。二階に上がり一人で貰うには広めの自分の部屋へ向かう。俺の部屋の間取りはおよそ十二畳、入口から見て正面と右手に窓がついており右手奥にベッド、左手奥に勉強机が置いてある。右側手前には収納スペースがあり、そこには春夏秋冬季節など関係なしに衣服が詰め込まれている。そして壁に沿うようにして本棚がズラリと並んでいる。これは俺がこの世界に転生してから集めたマンガやライトノベルである。どんな作品かはご想像にお任せします。

部屋の中央には電機カーペットが敷いてあり、その上にこたつを鎮座させ、そこに先ほどまで用意していた茶菓子などが置いてある。

 

三人に暖かい飲み物を出すと携帯が鳴る。それはメールの新着通知を知らせる音で、差出人はシリカであった。

どうやら駅でリズと合流したらしいが、いまいち文面だと家がわかり難いので迎えに来てほしいとのことだった。

 

しかし家にはすでにサチたちが来ていて、そのまま放置するのは申し訳ないので電話をかける。

 

 

「もしもしシリカ?家がわからないってこと?……はいはい……もう三人は家に着いてるから電話で説明するからその通りに歩いて。……うん、そんなかからないから……そうそう、そこで曲がってそのまま真っ直ぐ行くと無駄にでけぇ日本屋敷みたいな家があるから……信号とかも全部真っ直ぐな……その屋敷を過ぎて五件目の家がそうだから」

 

 

そうやって十分ほど説明し、終えたところで電話を切る。それから五分もしないうちにチャイムが鳴った。

 

内側から見るとシリカとリズの姿があったので鍵を開ける。

 

 

「「お邪魔しまーす」」

 

 

「ようこそ、会議室は二階の部屋になるから上がってくれ」

 

 

こうして俺の部屋に約一ヶ月半ぶりにギルメン全員が揃った。シリカとリズにも飲み物を出して一息ついてから話を切り出す。

 

 

「さて……皆、寒いなかわざわざありがとう。今さら自己紹介とかいらないよな?どうせ本名で呼ぶわけじゃないんだし。今回皆に集まってもらった理由は全員にすでに説明はしてあるから省こうと思う。ならば何をするのか、それは役割分担だ」

 

 

「ま、そうなるでしょうね。それで、主な分け方としてはどうする?」

 

 

「ああ、まずは大まかに俺と一緒にALOにダイブするメンバーと、アルゴと現実で須郷の黒い部分を見つける二つに分ける。俺と一緒にダイブする方はソフトの入数によってかわる。それだけは覚えておいてくれ」

 

 

リズの質問に軽く答えると全員が頷いてくれる。

ちなみにすでに黒幕がアスナの許嫁である須郷ということはあらかじめ話してある。なかなか理にかなった説明を考えるのに時間を要したが、なんとかアルゴでも納得できるような理由をでっち上げられた。

 

まあ、須郷がヒースクリフ―――茅場の後輩で、昔から自分は茅場より出来る人間だと思い込んでるって知り合いから聞いて、もしかしたら繋がってるかもしれないという説明をさもあり得そうに言っただけだが。

 

 

「そしてALOにログインする際、ダイブするメンバーは全員SAOのプレイヤーデータをALOへ移す。こればかりは運次第だが、この二つのゲームのセーブデータのフォーマットがほとんど同一だから恐らく上手くいく。ちなみに他も色々とSAOとALOは根本的なプログラムやら何やらが似通ってるから他に良いこともあるかもしれん。つまり初っぱなからチート全開ってわけ」

 

 

「うーん……反則ですけど仕方ないですよね?私たちはゲームをするんじゃなくてアスナさんを助けるのが目的なわけですし」

 

 

「というかアンタはそんな情報をどっから仕入れてきてんのよ……」

 

 

「情報元はテレビ。アーガスが潰れたあと、それをレクト?っつう会社のなんとか部がSAOのサーバーを買い取ったって言ってた。それを元にALOは作られたっぽい。そうじゃなきゃここまで似通ったゲームがポンポンと出来るわけがねえ。……それじゃあまずはソフトが入手出来た時の所有者の優先順位を決めよう」

 

 

「あっ……ごめん、クゥ。私はこっちでもアルゴと組みたいからソフトはいいや」

 

 

「了解、じゃあサチとアルゴはこっちで情報集める係だな」

 

 

それからしばらく会議に時間がかかる。

その結果、二つ目以降ソフトが入手出来た時の優先順位はこうなった。

 

 

 

2シリカ

3リズ

4テツオ

5ケイタ

 

 

 

まさかここまで決まるのに一時間以上かかるなんて思ってもいなかった。ログアウト不可なんてゲームをようやくクリアしたばかりだというのにどれだけゲーム好きなのか。

 

 

「ちょっと待ちなさい。どうして二つ目以降の話をしてるのかしら。まだ手元には一つもないはずよ?」

 

 

アルゴの疑問は最もだ。

 

 

 

「それがな……一つはあるんだよ」

 

 

俺はそう言いながら机の引き出しを開け、ALOのソフトを取り出す。

 

 

「実はお前らの入院先を教えてくれた人がな……くれたんだよ。まさか目の前でソフトを見せられた時はビビったけどな」

 

 

そう、菊岡はなぜかALOのソフトを持っていたのだ。どうやら何かの参考になればと所持していたのを無理をいってもらってきた。

 

 

「そしてこれがネットで見つけたアスナさんと思われるキャラ」

 

 

そして俺は一枚の用紙をテーブルに置く。

これは原作でエギルがキリトに見せた物と同じ。普通にネットで発見出来たので正直驚いた。

それをみんな食い入るように見つめて、俄然やる気が出てきたようである。

 

 

「ソフトに関しては同じ人に無理を言って手配してもらってる。つっても大人気らしいからもう手に入らない可能性もある」

 

 

「そ……そしたら、どうするんですか……?」

 

 

「んなもん俺が一人で行くに決まってる。そうじゃなきゃこのソフトを貰った意味がないからな」

 

 

全員が何かを言いたそうにしているが、SAOと違い直接的な危険性はない。それだけ言うとしぶしぶ納得してくれたようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルゴチームの方は下手したらなんの収穫もなく終わるかもしれない。なぜならば相手はあの茅場の後輩なのだ、恐らく巧妙に隠しているだろう。なので俺はアルゴにあるものを渡しておく。

 

 

「アルゴ、こいつは俺が密かに造ったお手製のボイスレコーダーだ。キリトに渡して、アスナさんの病室に入ってから出るまでずっと電源をつけてもらっといて」

 

 

「クゥ坊……あなたなんでこんなもの造れるのよ?」

 

 

「キリトは十歳で似たようなもん造ったぞ?そんな奴と俺はずっと一緒だったんだ、これくらい当然だろ」

 

 

初めて見たときは呆然としたのを覚えてる。というか化け物か、とツッコミをいれたくなったのは懐かしい思い出だ。

 

 

「恐らくアスナさんはいいとこのお嬢様だ。入院してる場所からしてみんなと違ったからな……それと許嫁もいるしな」

 

 

「ふーん、なるほどね……キー坊にはその許嫁かそれに近い人物が病室に来たら使うように言っておけばいいのね?」

 

 

「その通り、しかし上手く録音出来て警察に持って行っても相手が相手だ。すぐに提出するのは避けさせろ」

 

 

「本音は?」

 

 

「あの二人の仲を割くような奴はとりあえずフルボッコにしたいのでALOでの権力から現実の社会的地位まで全てを一度で底辺まで落としたい」

 

 

リズは頷いてくれてるが、他からはドン引きしているようだった。こちらでのアルゴの情報収集能力がどれほどかわからないがなんとか情報を持ってきてほしいものだ。

 

 

「ちなみに行動開始日は新年一発目……つまり一月一日を予定している。なにか異論はないか?」

 

 

「そうねえ……私ってこんな状態だし予定もないのよね……皆はどうなの?」

 

 

「俺らもそんな感じだ。とりあえず家で大人しくしてろって感じ」

 

 

テツオの言葉にサチとケイタは頷く。シリカも特に問題はなさそうでアルゴは言わなくてもわかる。

 

 

「……決まりだな。年末までにソフトを集められた数だけの人数で事に当たろう。集められなかった分の奴はアルゴたちの手伝いになる。それでいいか?」

 

 

全員を見渡し確認を取る。異論はないようなのでこれで会議は終了となった。

 

 

「あ、最後に情報収集は事に当たるまでは全員で行う。少しでもいい、どうでもいいことでも構わない。多く須郷の情報が欲しい……協力してくれ」

 

 

「そんなの当然じゃない!!むしろ言われなくてもやるつもりだったわよ!!」

 

 

「リズ……サンキューな。さて、これでだいたいの方針も決まったし、けっこういい時間になった。飯でも食べに行こうか」

 

 

それからぞろぞろと七人連れで駅近くのファミレスに入りのんびりと過ごした。周りからしたら相当うるさかったと思うが今日だけは許してほしい。なんせ初めて現実でメンバーが揃ったのだ。それは全員があの二年間を生き抜いた証拠であり、なにより絆の証明でもあるのだから。

 

 

 



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40!!

 

 

 

 

十二月三十一日、今日まででなんとか用意出来たと言われたソフトの数は自分の分も含めて三つだけと聞いた。あれからもう一度だけ集まり、その時ログインは皆でやろうということが決まり、今日も全員が家に来ることになっている。

 

シリカとリズにはナーヴギアを持ってきてもらい、除夜の鐘が鳴り終え、挨拶をしてからログインすることとなる。初詣は別に一日でなくても構わないし、行くにしても昼頃だろう。皆もそう言ってたので遠慮なく三人でALOをプレイしようと思う。

 

 

今日は全員が夜になってから家に来る予定で、両親には予め家の近場で初詣をするため、現地集合じゃ集まりも悪くなりそうだから泊まりに来ると伝えてある。

この理由ならば全員で雑魚寝をしてて初詣に行くのが遅くなっても怪しまれないと思う。

 

これから俺は菊岡からソフトを受け取りに近くの喫茶店まで足を運ぶ必要がある。

そのため外出する準備をしてから家を出た。

 

外は寒く、雪は降っていないが、口から出る息が白く染まっていた。黒い皮の手袋をはめて自転車をこいで目的地まで向かう。菊岡はわざわざこちらまで出向いてくれるので楽だった。普通ならこちらから出向くのが礼儀だろうと思ったのだが、なぜかそこは譲ろうとしなかった。

もしかしたら菊岡は原作と多少変わっているのかもしれない。こちらから見た印象だと凄くいい人である。それでも原作ではキリトを巻き込みまくっているのだから油断は出来ない。警戒心が高いからそれを解こうとして、いい人を装っている可能性も否定出来ないためなんとも言えない状況である。

 

 

 

今回指定された場所は駅から少し離れている喫茶店、電車で来ればいいのにわざわざ車を出してまで駅から離れている所にするらしい。それには理由があるのだろうか、いまいち考えてる事がわからない。

 

 

ペダルを漕ぎ始めて十分ほどしたところに目的地が見えた。見たところ個人経営っぽきゃ気がする。木造の外観によくわからない模様がペイントされている。外に出てる看板には【喫茶店ルルー】と書いてあった。

 

店の入り口の端に自転車を止めて、しっかりと鍵をかけてから引くタイプの扉を開く。

 

店内は静まりかえっており、客がいる様子は微塵もない。この店の主であろう人に待ち合わせなのでテーブル席を使う許可を得て、 ブレンドコーヒーを注文する。

よく見るとメニュー表も手書きのようで、いささか字も古ぼけていた。

 

二、三分待つとすぐにコーヒーが出てきたのでそれを飲んで待っていると、十分ほどしたころだろうか、菊岡が扉を開けて入ってきた。そして俺の座っているテーブル席の対面側に座った。

 

 

「すまない、待たせたようだね」

 

 

「そんな待ってませんよ」

 

 

お決まりのやり取りをしてから菊岡も俺と同じブレンドコーヒーを頼む。

同じく二、三分で出てきたのだが、その間会話などなく、菊岡は何かを考えているような感じだった。

その沈黙を破ったのは菊岡、ソフトをテーブルの上に出す。

 

 

「これが今日までで手に入れられたソフトだ」

 

 

「ありがとうございます。これでもしかしたら目覚めない人たちの手掛かりが見つかるかもしれません」

 

 

鞄から出したALOのソフトを受け取り無くさないようしっかりとバックに入れる。

 

 

「……未だに半信半疑なんだが本当にそこにいるのかい?」

 

 

「それはわかりません、しかしSAOにいたアスナさん……この画像の女性は確かにALOにいます。ならば試してみる価値はあるんじゃないかと」

 

 

「それは前も聞いてるからわかっている。だからこそこうやって少しでも手掛かりを得ようとソフトを手に入れて君たちに託してるんだ。VRMMOのことなら僕らより君たちの方が詳しいからね」

 

 

「ならば何が言いたいんです?」

 

 

「僕らは……こうしてそこに閉じ込めた容疑者も探しているんだ……それでさっきの質問だ、そこにいるのかい?」

 

 

「もし目覚めない人たちがALOにいれば、少なくとも介入していることは確実です。それだけでも大きな前進となるでしょう?」

 

 

「……そうだね、僕は先を急ぎすぎているのかもしれない。それほどSAOからの事件は大変なものなんだ」

 

 

それはこちらもわかっている。茅場はあんなんだったが確かに天才であった。字面にしたら天災の方が正しいかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのあとしばらく近況を報告してから解散となった。

一応進展があればまた報告することにして、家に引き返す。自分の部屋に戻りSAO開始前にある程度書き溜めておいたノートを取り出し、改めてALO開始日を確かめる。

 

 

ノートには一月二十日にキリトがエギルから例の話を聞いてALOに飛び込むことになっていた。俺が教えてやれよと言う人もいるかもしれないが、原作でエギルが言っていたように確実ではないのだ。それでもキリトはなんの躊躇いもなく行くだろう。

 

だが、なぜ助けに行くのがキリトである必要がある?

どうせならロマンチックに、アスナが目覚めた時にキリトがベッドの脇にいる方が面白い……じゃなくて感動するだろう?

 

よって俺個人の目標としては二十日までにアスナさんを助け出す。無理ならキリトの力を借りる。これで万事抜かりなし、問題ない。

当然ながらデジカメはアルゴに渡してあります、病室の外からこっそりと撮ってもらう予定です。

 

盗撮?あの二人に関しては今さら過ぎてなんの罪悪感も湧いてこない、披露宴で流す予定なので多目に見てもらいたい。

ちなみにSAO生還者が通う予定の学校でもバッチリ活躍する予定なので大切に扱おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が落ちてから数時間たち、我が家ではNHKの年末恒例歌番組を見ている。この二年の間によくわからないアイドルやら歌手やらが出てきて、その一部も紅と白に分かれて歌っていた。

 

アルゴは母となにか話しているが詳しい内容は聞こえない。やっぱり女の子も欲しかったんだろうな、なぜかいくら頑張っても俺の下は授からなかったみたいだ。もしかして父親の種全部死んだのかね?

 

そんなどうでもいいことは丸めてゴミ箱へ捨てておき、そろそろ皆が来る時間が近づいてきている。

 

 

「舞さん、そろそろ時間ですし部屋に行きましょ。母さん、前も言ったけど友達が来るから部屋で準備してくる」

 

 

「わかったわ。年越しそばはちゃんと人数分用意してあるから遠慮しないで言ってちょうだいね」

 

 

母親の言葉に頷き返してアルゴと部屋に向かう。

先ほどまでリビングにいたので、部屋の中は暖房など効いてるはずもなく、室内だというのに息が白くなる。テーブルの上に置いてあるリモコンを操作しエアコンの電源を入れる。

十分もするとだんだん部屋も暖まり、外から来た皆がついついあったけーと言える温度に設定をしてリモコンを元の位置に戻す。

 

 

それから三十分ほどたった頃だろうか、インターフォンが鳴り、母親か父親のどちらかが対応していた。自分で出るとは言っていたが、距離的にはリビングの方が近いし、何より二人して自分らが対応するから部屋にいろと言うものだからお言葉に甘えた。

 

どちらが対応したかわからないが、すぐに俺の部屋に案内されたらしく、階段を上がってくる足音が聞こえる。すぐに扉をノックする音が響いたので軽い返事を返す。

 

今日最初に姿を見せたのはシリカであった。

 

 

「今晩は、お邪魔しますね」

 

 

「おーう、今日はシリカが一番だな」

 

 

「クゥさん……リラックスしすぎじゃ……」

 

 

シリカにそんな事を言われた俺はベッドの上で仰向けに寝そべっている。脇を開いて肘を立て、視線の先には携帯電話のアプリを見つめている。

 

 

「おいおい、シリカさんや。今から気張っててもしょうがないって。まだ一日まで三時間近くあるし、本番はアスナさんを助けてからだ。それまでは急ぎつつもゆっくりいこう」

 

 

「クゥ坊、それは矛盾してるんじゃない?」

 

 

アルゴは部屋の中央に鎮座しているテーブルの前に座っている。シリカもそこに座るのかと思いきや、堂々と人のベッドに腰かけてきた。しかも座った場所が俺の頭の脇なので、ついついそちらに目がいくのは男として仕方がないと思う。

すると視線を感じ、目線を上げてみるとシリカがこちらを見ていた。

 

 

「……夏希さんのえっち」

 

 

シリカが少し頬を赤く染めて俺にだけ聞こえるように囁く。

クゥドに計り知れないダメージ!こうかはばつぐんだ!

 

 

一瞬だが電波を受け取ってしまったが、それほどシリカの台詞と表情の相乗効果はヤバい破壊力があった。危うくアルゴの目の前でシリカを押し倒してしまうところだった。

 

 

「……二人の時ならいつでもいいですからね……?」

 

 

うん、これは吐血する。

シリカも言った後になって恥ずかしさが込み上げてきたのか、目に見えてわかるほどに真っ赤となっている。

 

 

「はあ……二人とも?ピンクな空間作るのは二人の時だけにしてちょうだい……私には毒にしかならないわ」

 

 

「そそそそそんなピンクな空間だなんて……!!」

 

 

おろおろしてるシリカも可愛らしい。もうこの子は何をやってても可愛いんじゃないだろうか?切実な疑問である。

 

 

「……んんっ、クゥさん、一応ナーヴギアは持って来ましたがソフトは大丈夫ですか?」

 

 

シリカは軽く咳払いをして、恥ずかしさを誤魔化すようにして話を戻した。

 

 

「それは皆が来てから説明するよ。いちいち一人ずつ説明するのはしんどい」

 

 

そこからしばらく沈黙が続く。今さら俺らの仲間内で沈黙が気まずいなんてことはなく、思い思いのやり方で時間を過ごす。ちなみに俺の場合はアプリ、魔法少女なんちゃらフェイトとかいうものだ。このアプリ、物語はフェイトという主人公がいきなり異世界に召喚されたところから始まる。周りの召喚された人物は歴史上の偉大な人物なのに、なぜか彼女だけは別の世界の今を生きる魔法を使う女の子なのだ。

色んな世界観がごちゃ混ぜになってるようなアプリだが、なんとなく始めてしまったので空いてる時間でコツコツと進めている。

 

 

時計を見るとそろそろ十時を回ろうとしていた。その頃にようやく二人目のお客が来る。

 

 

「お邪魔しまーす!!はあああ……暖かいわねー……」

 

 

部屋に着くなりノックもせず、まるで自分の部屋のように上着をハンガーにかけてリズはアルゴの近くへ座る。

 

 

「お前なあ……一応男の部屋なんだからノックくらいしろよ」

 

 

「何よ、同じ屋根の下で一年くらい一緒に住んでたんだから今さらじゃない?」

 

 

「そうじゃなくて、俺は常識の話をしてるんだが……」

 

 

「こんなことすんのはアンタの部屋くらいよ。それより何か飲み物とかない?出来れば温かいヤツ!!」

 

 

「はあ……まあそれもお前のいいところか。ちょっと待ってな、持って来る。アルゴとシリカはどうする?」

 

 

最初の一言は一人言のように呟く。

ついでだからアルゴとシリカにもリクエストを聞いておき、リビングでえっちらおっちら飲み物の用意を開始する。

 

タイミングが良いのか悪いのか、その途中でズッコケ三人……仲良し三人組が現れた。

リビングから顔を出して挨拶を交わす。

 

 

「三人ともいらっしゃい、今飲み物持ってくとこなんだけど三人は何か飲む?」

 

 

「あっ……クゥ、ありがとう。なら私は紅茶が飲みたいかな」

 

 

「ようクゥ、邪魔するぜ。俺はコーヒーな、砂糖とミルクも忘れずに!!」

 

 

「今晩はクゥ。こんな遅い時間になって悪いね。俺もテツオと一緒でいいよ。砂糖とミルクはいらないけど」

 

 

「了解、淹れたら部屋に持ってくから先に行っててくれ。もう全員揃ってるから適当に話でもしてて」

 

 

そう言って三人を見送りご要望である紅茶とコーヒーを淹れる。面倒くさいので砂糖はスティックタイプ、ミルクは牛乳で我慢してもらおう。ファミレスとかにあるタイプのミルクは家に置いてなかった。父親が砂糖を入れてコーヒーを飲むだけで、俺と母親はブラック派だからミルクは使わないのである。

 

全員分の飲み物をトレンチに載せ、自分の部屋まで待っていくと、けっこう盛り上がってるらしくわいわいと楽しそうな声が聞こえる。

 

 

「お待たせー。紅茶が三つにコーヒーが四つな。ミルクは牛乳で代用しろ、家にはなかった」

 

 

ちなみにお察しだろうが、紅茶はシリカ・リズ・サチ。

コーヒーが俺・ケイタ・テツオ・アルゴである。

 

どうやら砂糖や牛乳を使うのはテツオだけのようで、他はストレートやブラックで飲んでいる。まあ、正直これからやることに対しての眠気覚ましみたいな意味合いが強いからそんなものだろう。

全員が一息つき、俺は手持ちのコーヒーが無くなるとベッドにダイブし、ゴロゴロする。時刻はすでに十一時の方が近くなり始めていた。

 

 

「よっしゃあ、そろそろ説明を始めようと思うけど大丈夫かーい?」

 

 

「私らはいつでも大丈夫よ、というかアンタが一番大丈夫そうに見えないわよ!!」

 

 

「まあまあ、俺はこの姿勢のままやらせてもらいまーす。どうも夜は力が出ない、顔は濡れてないから平気だと思ったんだけどな……」

 

 

「いいから始めなさいっ!!」

 

 

どうしよう、リズがいるとツッコミにキレがあるな。ついついふざけてしまいがちになるが、そろそろ真面目にやりましょうか。

 

 

 





次でようやくALO本編に入れそうです。

キリトの出番……下手したらなくなるなー
原作は多分行方不明になるかも……


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ALO
41!!


 

 

 

前回あんな雰囲気を出しておきながら、今俺たちは七人揃って年越しそばを食べている。毎年なぜか家は早いのだ。確か正式な年越しそばって除夜の鐘を聞きながら食べるんじゃなかったっけ?

 

しかしそんなもんはどうでもいいとばかりに十一時を少し回った時点で母親が部屋に乱入、年越しそばを食べる事となった。

 

これじゃあ年越しそばと言うよりただの夜食だよね、美味しいから問題ないんだけど。

俺ら男性側は麺類故に食べ終わるのが早い。十分もした頃には食べ終わり、のんびりと三人で話している。

そこからさらに十分ほどして女性陣も食べ終わり、食器を片付けてからようやく本題に入る。

 

 

「今回新たに手に入ったソフトは……二つだ。俺が最初から持っていた物を含めると全部で三つ、つまりALOにログインするのは俺・シリカ・リズの三人になる」

 

 

「あーあ、やっぱそんな集まるわきゃねーよなー。仕方ねーけどこっちで情報係として頑張っとくわ」

 

 

テツオの残念そうな声にリズが悪いわねと言いながら、自らアスナを助けに行ける事を喜んでるように見える。

 

これから最終確認としてログインをしたあとの行動を反復する。

 

 

「まずキャラ設定だがそこまで変える必要はないだろ。スタート地点は決まってるがお互いに一目見てわかるようなアバターにしとこう。確認取るのがめんどい」

 

 

「それって確実に最後のが本音よね」

 

 

アルゴから冷静な指摘が飛ぶが図星なので放置する。

 

 

「種族については好きに決めていい。どちらにせよステータスはSAOと同等になるんだからどれにしても簡単には負けないだろ。ちなみに俺はサラマンダーにする」

 

 

「私は特徴からして当然ながらレプラコーンよねっ」

 

 

「それなら私はケットシーです」

 

 

わざわざ言う必要もないが俺が言ったからか、リズもシリカも自分が選択する種族を言った。

そうなるとここで一つの問題が発生する。

 

 

「しかし上手く三角形に分かれたな」

 

 

「あ……確かスタート地点ってその種族のホームタウンなんでしたっけ?」

 

 

「あちゃー……どうする?」

 

 

「別にやることは変わらない。まずはそこで種族の一番偉いのをなんとか説得して十日までに三種の合同会談をしてもらう。無理だったら各自……そうだな、それはまた後で決めよう。ログインしないうちからあれこれ考えても仕方ない」

 

 

ちなみにここまでのALOの話はログイン組の三人で進めている。非ログイン組はアルゴを中心にまた別のことを話している。主に情報収集の基本だとか選別の仕方などを話し合っているようだ。

 

 

 

「……そろそろか。いっちょアスナさんを取り戻してきますか」

 

 

「もちろんよ、何よりも何度死んでも死なないってのは気が楽でいいわね」

 

 

「あはは……」

 

 

シリカの渇いた笑いが響く中、各自ナーヴギアを取り出しALOのログイン準備を始める。その様子を見てアルゴたちもこちらに激励の言葉を発する。

まあなにも囚われる訳じゃないのでいつでも聞けるのだが、やっぱり最初のスタートだからだろう、やる気がみなぎってくる。

 

 

「よっしゃ、二人とも準備は出来たか?」

 

 

「問題ないです」

 

 

「こっちもオーケーよ!!」

 

 

二人の準備も万全ということで、本来ならば何回も言葉に出来るはずだったのだが、三人揃って今までで一度しか発したことのない台詞を声に出す。

 

 

「「「リンク・スタート」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二年以上見ていなかったフルダイブ空間へ接続するための項目に次々とOKの文字が入力されていく。

五分ほどしたところで全ての準備が整い、ALOの初期設定選択へと移る。

 

まずはプレイヤーネーム。少し考えてからクゥドではなくクードと入力する。特に意味はないがわざわざ「ゥ」の文字を打つのがめんどくさくなっただけだ。

次は性別の選択、もちろん男を選ぶ。容姿はどうやら旧SAOプレイヤーならば引き継ぎが出来るようなので、迷わず引き継ぎを選択した。

そうすることでステータスも旧SAO時代の物に出来ると勝手な予測を立てる。

そして最後に種族の選択、先ほどシリカたちにも宣言した通りサラマンダーを選び、全ての項目の入力が完了した。

 

最後にこのゲームの簡単な説明や注意事項がアナウンスで流れ、恐らくあれがサラマンダー領のスタート地点なのだろう、赤く光る壮大な城が徐々に近づいてきた。

 

しかしそこで予想外の出来事が起こる。

なんとそこで全てがフリーズしてしまったのだ。景色が流れ、次々とどこだかわからない場所が撮し出される。

気がつけば俺は盛大に夜空へと放り出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

クゥさんとリズさんと一緒に私もALOへログインすることとなった。

そうなったのは未だに目を覚まさないアスナさんを助けるため。

 

私は私たちを苦しめたナーヴギアを再び被りALOへとログインした。

 

 

全ての項目に入力が終わるとケットシーを選んだプレイヤーが最初に降り立つ場所が見えた。

 

するとなぜか周りが全てフリーズし、ポリゴンとなって消えていった。

残された私は気がつけば夜空を舞っていた。

 

 

「なんでですかあああああ!?」

 

 

ついそう叫んだ私は悪くないと思う。

 

 

 

 

 

どうしてアスナは目を覚まさないのか……その答えをクゥは持ってきてくれた。本当は怖いけど、何から何まで任せっぱなしなのは性に合わないから、勇気を振り絞って私もALOに参加することを決めた。

 

久しぶりの電脳空間へダイブする感覚。当時はまさかあんなことになるなんて思ってもみなかった。それでもこうやってアスナやキリト、黒の騎士団の皆と仲良くなれたのは良かったと思ってる。

 

だから私はSAOであったその数少ない良かったことを、現実にも持って帰りたかった。

 

私はALOで使用するキャラの必須項目を入力し、アナウンスを軽く頭に入れてレプラコーンのスタート地点へ降り立つ。

 

 

 

 

 

ものだと思っていた。

 

だけど私がスタートした位置はなぜか地上ではなく空中。

思考がフリーズした。

直後に出てきたのは誰に発した訳でもない罵声だった。

 

 

「ばばばば……バカじゃないのおおおおおお!?」

 

 

ALOの新米プレイヤーがそう簡単に羽を出して翔べる訳もなく、私は重力に従い落ちていくのであった。

 

 

 

 

あー……やっぱ二人も空中に放り出されてる。

そこそこ近い位置から二人の悲鳴が聞こえてきた。

理由はなんとなく想像がついている。恐らくだがSAOデータをコンバートしたおかげで、俺らの最終セーブ地点……つまりアインクラッドの七十五層からゲームが再開されたのだろう。

 

しかしここにはアインクラッドはなく、そこまで高い場所には出れない。なので適当な空中に放り出されたのではないかと推測する。

まあ、これで三人が合流するという目的は早くも達成された、ポジティブにいこうじゃないか。

 

 

ガサガサガサガサッ……ドンッドンッ……ドンッ

 

 

ちょうど森がクッションになってくれたようでそれほど怪我もなく地上に墜ちられた。

 

 

「おーい……二人とも生きてるかー?」

 

 

「な……なんとか……」

 

 

「最初っからこれなんて……随分な歓迎ねっ」

 

 

シリカとリズも無事なようで各々立ち上がり服に付いた汚れなどを払っていた。

 

 

「とりあえずはログアウトの項目があるか確認しよう」

 

 

俺の言葉を聞いて慎重にシリカが確認を始めた。

 

 

「……はあ、大丈夫です。ちゃんとありました」

 

 

口から安堵の溜め息をこぼす。俺もリズもきちんと自分のメニューにもログアウトの項目があることを確認してから本題に入る。

 

 

「あの……本題に入るのはいいんですけど……ここ、どこですか?」

 

 

もちろん誰もわかる者はいない。なぜなら三人とも全員がALO初プレイだからだ。

 

 

「まずは持ち物や装備を確認して、それから人里を目指そう」

 

 

こうして俺らのALOは右も左も上も下もわからない、八方塞がりな状態からスタートした。

 

 

 



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~番外編~
そのいち!!


時系列とか何も考えてません。
クリスマスなのでそれっぽいことしたかっただけです。

本当に何も考えてない話ですので、それでもよければお読みください。


聖なる夜は性なる夜になりません。
うちのシリカは純情ですから!
甘み成分多目で作りたかったのに……センスがないから普通になってしまった。難しいですね……はあ…

甘ッ!!と思ってくれる方がいれば嬉しいなー……←


「「「メリークリスマース!!」」」

 

 

そんな声とグラスを叩き合う音が聞こえる。今日は十二月二十四日。世間でいうクリスマスイブである。御徒町にあるエギルの店では知り合いが集まりパーティーを開いていた。もちろん店は貸し切りである。そうでもしなくては店に入りきらないほどの人数が集まっていた。キリトやアスナを始めとしたSAOのデスゲームで知り合った人や、その後のALO、GGOというゲームで知り合った人物も混ざっている。俺はそれをカウンターから見ている。どうも若い連中のノリに入れないでいたのだ。

 

俺こと工藤夏希は転生者である。いや、正確には前世の記憶を持ったまま新しく生を受けたと言うべきか。肉体的な年齢は十七であるが、精神だけは四十前、つまり三十路オーバーなのだ。そんな人間が心も体も思春期真っ只中の輪に入れる筈もなく、カウンターで大人しくクラインやエギルと言った成人組とだらだらとしている。

 

 

「おめぇも遠慮しねえであの中に入ってこいよ」

 

 

「遠慮してるつもりはないんですけど……どうも若い連中のノリにはついていけなくて」

 

 

「おめぇは定年間近のリーマンか」

 

 

失礼な、定年まであと二十年以上はある。クラインの言葉に内心で反論しつつ苦笑いを作る。早く合法的に酒が飲める年齢になりたい。そうすれば酒の力を借りてあの中に入れるというのに。

 

 

「エギルさん、俺は生で」

 

 

「ウチは未成年に出す酒はねえんだ、すまねえな」

 

 

ダメ元で言ってみたのだがダメなものはダメだった。クラインが美味そうに生を煽っている。喉をごくごくと鳴らすたびにジョッキの中の黄色い液体が減っていく。ドンッとジョッキを置いて口元を拭うクラインはプハーと息をはいた。

 

 

「やっぱ一杯目は冬でも生だよな!!おめぇも一口飲むか?」

 

 

チラッとエギルを見ると、俺は何も見てねえと視線をキリトたちの方に向けていた。心の中でエギルに礼を言う。

 

 

「クラインさん……いいんですか?」

 

 

「おうよ!!そんな飲みたそうに見られちゃしょうがねえかんな!!一口くらいやんよ!!」

 

 

了承を得ると、まだ半分ほど残っていたジョッキに手をかけて煽るようにして傾ける。中身は一気に無くなり空になったジョッキをカウンターに置く。

 

 

「……はー、生うめえ……超うめえ。クラインさん、もう一杯」

 

 

「誰が残り全部持ってっていいって言ったよ!!つうかオッサンくせえぞ!!」

 

 

「生は舌で味わうんじゃない、喉で味わうんだ。だから半分くらい一気に減るのは仕方ないことだと思う」

 

 

「それも高校生が言っていい台詞じゃねえかんな!?酒飲みの台詞だぞ!!……ったくよー」

 

 

クラインが何やら言っているが、今時の高校生だって酒くらい飲むと思う。エギルに追加の酒を頼むとクラインに視線で今度はやらんぞと釘をさされる。向こうは向こうでジュースで大盛り上がり。俺にもあんな時代があったんだろうな、と感慨に浸っていたところシリカと目があった。手を振ってきたので振り返すと照れ笑いのような表情を浮かべ輪の中に戻っていく。シリカがいたところには直葉がいた。二人は同じ妹的存在としてここにいるメンバーには可愛がられている。ゆえに気が合うし、気兼ねなく話せるのだろう。

 

 

「彼女持ちは羨ましいねえ……俺なんか……俺なんか……」

 

 

先程のやり取りを見ていたのだろう。クラインがカウンターに突っ伏し、どこかのギャグマンガのように滝のような涙を流していた。

 

 

「まあまあ、良い出会いがありますよ」

 

 

「勝ち組の余裕かよばっきゃーろー!!」

 

 

そんなつもりで言ったわけではないのだが、そう聞こえてしまったのかエギルに愚痴り始めていた。クラインは忘れていないだろうか、エギルはすでに既婚者だということを。エギルはクラインの愚痴を華麗に聞き流しながらカウンターで作業を続けている。

 

――これがプロか……!!

 

 

客の話に嫌な顔を一つせず、しかも適度な相づちとそれを肯定するような言葉を時たま言って話を聞いているように見せるエギルの姿に俺は戦慄が走った。恐らくエギルの一日はクラインの愚痴によって終わるだろう。頑張れとせめてものエールを送ってカウンターから離れ、勇気を出して未成年組のグループの輪へと入る。

 

 

「ちょっとクゥ!?遅いわよ!!シリカが待ちくたびれたじゃない!!」

 

 

「ええええ!?リズさん!?私そんなこと言ってないですからね!?」

 

 

「でも実際さっきからクゥのいるカウンターばっかちらちら見て上の空だったじゃない」

 

 

「―――――――っ!!」

 

 

リズの言葉が図星だったのかシリカの顔が一気に赤くなった。この頃シリカはいつもリズにかわれている。俺がこれで何かを言うと余計な事になってしまうのは経験済みなので黙って菓子を口に運ぶ。するといつの間にか回復したシリカが俺を見ていた。その視線は俺と俺の手の中にある菓子の二つを行き来していたので、なるほどと思った。俺は自分の食べている物と同じ菓子を手に取った。

 

 

「食う?」

 

 

「アホかっ」

 

 

パシーンといい音が鳴った。俺の頭をどこからか取り出したハリセンでリズが叩いたのだ。理由はちゃんとわかっている。俺は誰かさんとは違い、にぶちんではないのだから。

 

 

「これ作ったのシリカっしょ?いつも通り美味いよ」

 

 

「……へへ、ありがとうございます」

 

 

「わかってんならボケを挟むんじゃないわよ」

 

 

クリスマスだから一回くらいいいかなーと思っただけだ。

 

ちなみに今日のパーティーに持ち寄った菓子は女性陣が手作りしたものも含まれていたのである。俺はシリカが作った物をたまたま手に取り口に入れたのでその感想が気になったらしい。俺はシリカの作った物ならなんでも美味いと思うんだから、俺の感想はそこまで意味ないと思ったのはここだけの話。

 

 

時計の針はそろそろ七時を差そうとしていた。帰宅時間としてはそろそろかな、と思ったところでキリトから声がかかった。

 

 

「夏希、そろそろ帰るぞ」

 

 

「あれ?キリはアスナさんとお泊まりじゃぶっ!?」

 

 

思いきり叩かれてしまった。キリトが帰るならば当然ながら直葉も帰宅となる。そしてその近所に住む俺にも声がかかるというわけである。高校生にしては早い帰宅ではあるが、直葉もいるし御徒町から家まではけっこうな時間がかかるので、家に着く頃には九時近くになるであろう。

 

これを合図にして帰宅する者と騒ぎ続ける者とに別れた。後片付けの方は店に残る人がやっておいてくれるというので、お言葉に甘えておいた。店を出ると外のイルミネーションが輝いていた。

 

 

「綺麗だね……」

 

 

「……そうだな」

 

 

従兄妹同士で良い雰囲気になってしまっていたので入る隙がなく後ろから二人についていく。すると後ろからちょんちょんと肩を叩かれた。振り向いてみるとそこにはシリカがいた。

 

 

「夏希さん……この後って暇ですか?」

 

 

「この後って……もう夜だから家帰って寝るだけなんだけど……」

 

 

「ちょっといいですか?」

 

 

そう言ってシリカは俺の腕を引いて歩く。前にいたキリトと直葉は全く気づいていなかったので、メールで拉致られたことを伝えておく。

 

 

「どうしたのさ……どうせ明日も会うんだしなんで今なの?」

 

 

そう、俺とシリカは明日も会うのだ。二十四日はみんなでパーティー、二十五日は二人で過ごそうとパーティーが決まった時から決めていたのである。俺がそう言うとシリカは立ち止まり予想していなかった言葉を口にした。

 

 

「実は私……今日帰る家が無いんです。あまり遅い時間まで出歩けないから両親には友達の家に泊まって来るって言っちゃって……迷惑じゃなかったら夏希さんの家にお邪魔したいなー……なんて」

 

 

上目遣いでちらちらとこちらを伺うように見るシリカは大変可愛らしいと言えた。しかし今の俺にはそんなシリカを見る余裕すらない。この子は今なんと言った。家に泊まる?誰が?シリカが?脳内ではパニック寸前の大騒ぎとなっていた。別に家に泊まるのは千歩譲ってよしとしよう。ただ問題は俺の両親がいないことだ。うちの両親は毎年クリスマスはいい年こいて泊まりがけで出掛ける。その間は俺はいつもキリトのお宅にお邪魔しており、そのため今日も一緒に帰りそのまま泊まるつもりでいたのだ。しかしシリカが家に来るとなるとキリトの家には行けなくなる。それの何が問題があると言いたくなるが実は問題ばかり起きる。

 

まずは毎年泊まりに行ってたのでキリトの両親(正確には叔父叔母)が勘繰る。そしてキリトが様子を見に来る。それがうちの両親に伝わり訊問される。まだ彼女がいることを伝えていないので根掘り葉掘り聞かれることだろう。それが恥ずかしいやらなんやらである。しかしこんな寒空の下、シリカを放置できるほど冷めた人間ではない。どうしたものかと一人悩んでいると返事がない俺を疑問に思ったのかシリカが声をかけてきた。

 

 

「夏希さん?……もしかしてダメでした……?」

 

 

だからその涙目+上目遣いは卑怯だろう。毎回これで折れてしまう俺もダメなんだろうけども、これには勝てないのである。先が思いやられるがこうなってしまったものは仕方がないと諦めてついてくるように促した。嬉しそうに返事をしたシリカと手を繋いで駅までの道を歩く。もちろん空いている手ではキリトに今夜は自宅で過ごす旨を伝えるメールを打っていた。

 

 

 

 

 

 

「はい、到着。ここが俺の家だよ」

 

 

「ここが夏希さんの家……」

 

 

ちなみにシリカは感動したように見ているが、なんてことはない普通の庭付き二階建ての一戸建てだ。

 

 

「それよりもここに来る途中いかにも日本家屋って感じの門があった家があっただろ?」

 

 

「あー……ありましたねー。それがどうしました?」

 

 

「ちなみにそれがキリと直葉の家なんだよね」

 

 

おお、けっこう驚いてる。だいたい始めて見る人は驚く。場違い感が半端ないんだよなあの家だけ。洋風ばかりの一戸建ての中に和風家屋が混ざっているのだ。それも仕方がないと言えよう。俺は玄関の扉を開けて明かりをつける。

 

 

「ほら、寒いから早く入って。今日親はいないから寛いでくれていいよ」

 

 

「ありがとうございます……お邪魔しまーす……」

 

 

シリカを通したリビングには炬燵が置いてある。それのスイッチと暖房のスイッチをそれぞれつける。さすがに静かすぎるのでテレビをつけると部屋が一気に騒がしくなった。たまたまつけたチャンネルではクリスマスの特番がやっていた。変えるのも面倒なのでそのままにして風呂の用意をしに行く。

 

俺がリビングに戻るとシリカは炬燵に入ってテレビを見てちょこちょこ笑っていた。この特番、笑う要素などなかったはずであるがまあそれは人それぞれ。俺も冷えきった体を温めるため炬燵に入る。するとシリカは炬燵を出て俺の隣に入ろうとしてきた。しかしスペースが狭いためいくらなんでも二人は入れない。そえ言おうとしたのだが、それはシリカの言葉と行動によって阻まれてしまった。

 

 

「こうすれば二人で入れますね」

 

 

俺は元々足を伸ばして炬燵に入っていたわけではない。普通に胡座をかいているその膝の上にシリカが座ってきたのだ。炬燵の布団が持ち上がり暖かい空気が外に抜けていく。それでもシリカは俺の上から退こうとしない。

 

 

「これ寒いんじゃない?つうか炬燵の意味……」

 

 

「大丈夫ですよ。夏希さん暖かいですし……」

 

 

後ろから顔を一つ覗いてみると照れているのか、顔が赤く染まっていた。

 

 

「恥ずかしいならやらなきゃいいのに」

 

 

「……確かに恥ずかしいですけど、それよりもこうやって一緒にいられる事が嬉しいんです……それに夏希さんを感じられますしね」

 

 

こちらを見上げそう言ったシリカはさらにこう続けた。

 

 

「それに……こうやって現実でも夏希さんと一緒にいられて私は幸せです……」

 

 

夏希さんはどうですか?そう聞かれているような気がした。しかしそれは聞くまでもないだろう。俺の膝に座るシリカを後ろから抱き締めて肩に顎を乗せて耳元で言う。

 

 

「……そうだな、俺も幸せだよ。珪子……これからも一緒にいような」

 

 

「……はい、もちろんです」

 

 

そして唇が触れあうだけの軽い口付けを交わす。それだけで俺の心には言い表せないような幸福感が溢れる。シリカは自分の唇を軽く指で触れると微笑んだ。

 

 

「今日は久しぶりに一緒に寝ましょうね」

 

 

「……ダメだって言ってもムダなんだろ?」

 

 

「そんなことないですよ?断られたら潜り込むだけですし」

 

 

「やっぱムダなんじゃないか」

 

 

すると家にピンポーンというチャイムの音が響いた。こんな時間に誰だろうと考えたがすぐにそれを放棄する。この季節のこの時間に家のチャイムを鳴らすのは特定できる。しかしシリカが膝の上にいるので出られない。

 

 

「シリカー、ちょっと退いてくれ。出てくる」

 

 

「……わかりましたー……」

 

 

少し不満そうにしたシリカに苦笑して炬燵を出る。玄関に向かい、カメラを見るとそこには案の定キリトがいたので玄関を開けて招き入れる。すると靴が多いのがわかったのがキリトが訪ねてくる。

 

 

「す、すまん。誰かお客さんが来てたのか?俺は帰った方がよさそうだな」

 

 

「別に大丈夫だけど?つーかキリも知ってる奴だし……おーい、お客さん連れてきたぞー」

 

 

「いらっしゃいませー……ってのは違うか……あれ?キリトさん?」

 

 

「…………シリカ?」

 

 

「とりあえず空いてるとこ座れよ。そして珪子は退きなさい。俺が座れない」

 

 

はーい、と言ってシリカは一端退いたのだが俺が座り直すとやはり膝の上に座ってきた。人前なんだから自重するかと思ったが甘かった。というかキリトだから隠す必要もないからなのだろう。しかし反面キリトはかなり気まずそうにしていた。そして実際十分もしないうちに席を立って帰ると言い出した。一応送って行こうと思ったのだが、ついてくるなとまで言われてしまったので仕方なしにそのままの体勢で別れを告げた。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「……ただいま」

 

 

暗い声が木霊する。キリトというこの少年は親から言われて幼馴染みの家に行って様子を見てきたのだ。

 

 

「あっ、お帰りお兄ちゃん。夏希さんどうしてた?」

 

 

「どうもこうもない……胸焼けがしたよ」

 

 

え、どういうこと?と聞いたがキリトは答えない。毎年来るはずの直葉にとってもう一人の兄とも言える少年が気になった。

 

 

「んー……夏希さんが気になるし私も行ってくるね!!」

 

 

そう言って飛び出そうとした直葉の肩をキリトが掴む。その顔はやめとけとでも言いたげな表情であり、さらに首を左右に振ってこう言った。

 

 

「今あそこの家は無法地帯だ」

 

 

「……お兄ちゃん?何があったの?」

 

 

それ以上は問いかけても返ってこない。しかし行こうとすれば止められる。仕方なく直葉は諦めるのだった。

 

 

――――――――――

 

 

今日も一日が終わる。

すでにパーティーで夕食は済ませ、風呂にも浸かったので後は寝るだけである。出てきたばかりのシリカの髪を乾かしてやり、先にベッドに入らせる。壁側をシリカに譲り俺もベッドに潜ると、やはりというかシリカが手を絡ませてきた。

 

 

「こうやって手を繋いで寝るの……あのとき以来ですね」

 

 

あのときとは恐らくSAO最後の夜のことだろう。あの日は不安で一杯だったシリカを落ち着かせるようにして一緒に寝たのを覚えている。

 

 

「……腕枕してくれませんか?」

 

 

俺は黙ってベッドと枕、シリカの首の三点の間にできる隙間に腕を入れる。これ腕枕じゃねえじゃんと突っ込まれるかもしれないが、本当に枕にされるとこちらは腕が痺れて一時間程度で目が覚めてしまうのだ。そのあともしばらく感覚が無くなり酷いことになるのは目に見えている、と聞いたことがある。

 

 

「ありがとうございます。夏希さんおやすみなさい」

 

 

「ああ、おやすみ珪子」

 

 

腕枕をしながら手を繋ぐとかけっこう無理な体勢だがシリカの方を向いてしまえばなんてことはない。寝息を静かにたてるシリカはこちらに体を寄せて、少し丸くなるようにして寝ていた。

 

 

「愛してるよ、珪子」

 

 

普段は絶対に言えないがこんな時くらいは勇気を出してみようと思った。すると寝ていたと思っていたシリカがクスッと笑うのが聞こえた。

 

 

「私も愛してます、夏希さん」

 

 

「……聞こえてたか」

 

 

自分で顔が赤くなっていくのがわかる。恥ずかしさのあまりにシリカの顔がまともに見られない。それでもたまには悪くない、そう思った。

 

 

 



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そのに!!

明けましておめでとうございます。

一ヶ月以上開いてしまいました。原因は他のSSを読みふけっていたことにあります。
すみませんでしたー。
お正月とは1月いっぱいまでのことらしい。なので今この話を投稿しても問題ない!!

ちなみに今回は甘くありません。
ただのデートです。砂糖は吐けません。ブラックも用意する必要もございません。もしかしたらキャラ崩壊してるかも?

それでもよろしければお読みください。


 

除夜の鐘がテレビから鳴り響いて早数時間。俺は正月も変わりなく早朝トレーニングをしたあと家に戻りシャワーを浴びる。汗を流し終え、正月定番の雑煮を食べる。今日はこのあとシリカと初詣に行く予定なので、早めに準備を整え家を出た。池袋の駅にて待ち合わせをしているので、最寄りの駅から一本で行ける。カードの残高を確かめて、往復分があることを確認し改札を通る。周りには同じように初詣に向かう人が多く、わざわざ袴や振り袖を着ている者もいた。

 

駅のホームで電車が来るのを待つ。電光掲示板には次の列車の到着時刻が表示されており、時計を確認するとあと五分ほどで到着時刻になる。自販機でコーヒーを買い、熱さと格闘しながら喉に通す。ちょっとした苦味が口の中に広がり、それが胃の中へ落ちて行くのを感じ体の芯から温まる。電車を待つ人たちはどうもカップルが多い。

 

 

『まもなく一番線に急行池袋行きの列車が参ります。黄色い線の内側まで下がってお待ちください』

 

 

聞き慣れたアナウンスが耳に響く。それからすぐに列車がスピードを落としながら入ってくる。俺のいる位置は十両編成の列車の一番前。電車の出口が池袋の改札に一番近いところに立っている。目の前で電車が止まり、乗客が降りるのを待ってから乗り込む。正月だからか車内は満員となっており、おしくらまんじゅう状態である。そこからさらに乗り込もうとする人もいるので息をするのも苦しくなる始末。早く車の免許を取りたいと切実に思う。

それから電車に揺られ約三〇分、目的の池袋に到着し待ち合わせ場所である駅構内の某ふくろうの銅像へ足を運ぶ。そこにはまだシリカの姿は見えない。俺の方が先に到着したようである。それもそのはず。今の時刻は九時過ぎで、待ち合わせ時間は十時。およそ一時間も早く来ているのだ。いくら待たせる訳にもいかないとは言っても少し早すぎたか、と思いつつこれでどこか店に入って時間を潰している間にシリカが来ては元も子もないので、大人しく銅像の前で待っているとする。

 

銅像の前を待ち合わせ場所に指定する人はそれなりに多いようで、次々と人が入れ替わる。大人数でわいわいと目的地へ向かう人や、カップルで仲睦まじく手を繋いで行く人、池袋の駅から近いのか家族連れて歩く姿もちらほらと見かけた。

 

そうやって人間観察をしていること三十分。見慣れた影が姿を現せた。

 

 

「お早うございます夏希さん。お待たせしました」

 

 

「いーや、俺も今来たとこだから待ってないよ。それにしても俺はてっきり振袖で来るもんだと思ってたわ」

 

 

「私も最初はそうしようかと思ったんですけど……やっぱり移動を考えたらこっちの方がいいかなーって」

 

 

そう言うシリカの服装はいつもと変わらない私服だ。ジーンズ生地のショートパンツに黒のニーソックス、靴は脛の部分が埋まるくらいのブーツ。上は(インナーは見えない)ベージュのコートを着ていた。個人的な感想で言えば寒くないのだろうか、というのが一番にくる。特に下など男で言えば靴下のみ。以前気になって聞いてみたところ、きちんと夏用や冬用で生地が別らしく見た目以上には寒くないとのこと。

 

 

「じゃ、ちょっと早いけど行こうか」

 

 

「そうですね」

 

 

そう言ってから人が流れていく方面へ向かって歩きだす。階段を登り地上へ出ると空気の冷たさを感じる。するとシリカがおもむろに手を差し出してきた。

 

 

「手……寒いです」

 

 

「それは気が効かなくて申し訳ない……はい」

 

 

俺が渡したのは冬の便利なお供、ホッカイロ。もちろん先程まで自分が使っていたのでシリカが使うには問題ない温度となっている。

 

 

「………………」

 

 

しかし何が不満だったのか無言のまま返されてしまった。しかし他に何があるだろうか。シリカは手袋などつけずに素手のままである。ちなみに自分は手袋はガッチリ装備済み。そこまで考えたところで合点がいった。俺はつけていた手袋をいそいそと外し、シリカに渡した。

 

 

「確かにホッカイロじゃ片手しか温かくならないもんな、気づかなくて悪かった」

 

 

「……前々から思ってたんですけど夏希さんって時々物凄くバカですよね」

 

 

俺は何か悪いことでもしたのだろうか。自分の手を犠牲にしてまで手袋を差し出したというのにこの言われよう。

 

 

「もっとこう別のがあるじゃないですか。周りを見てください」

 

 

そう言われて周りをよく観察してみると俺たちと同じような男女の二人組、もといカップルはだいたい手を繋いでいた。

 

 

「そう言うことね。……はい、これでいいですか?」

 

 

「普通はすぐ気づくものなんですけどね……」

 

 

シリカの手を取り目的地までの道のりを歩いていく。何せ時間はたっぷりある。少々時間はかかるがそれもたまにはいいだろう。

シリカは歩くペースが遅い。身長から見て歩幅も狭いし、本人の性格から見ても案外のんびりしている。目指すは御嶽神社、西口から徒歩十分にあるはずなのだが、結局は倍の時間をかけてしまった。

 

 

「それじゃお参りでもしますかね……まあ、本来なら初詣って地元でやるべきらしいけどねー」

 

 

「多分気にしてる人は少ないですよ?」

 

 

「だからこそ……かな?神社に屋台とかさ、お祭りじゃないんだからとか思う訳よ。ずっと先の未来では初詣もクリスマスとかハロウィーンみたいに変な解釈されそうで怖いわ」

 

 

「……なんかあり得そうですね……」

 

 

そうこう話している内に賽銭箱の前に到着した。三ヶ日の最終日だからか人の姿は疎らである。元々そこまで有名な神社ではないし、初詣と言えば一日と思っている人が多いためだと思う。ちょっと奮発して五百円玉を賽銭箱に投入、二礼二拍手一礼を済ませてお参りは終了となる。

余談ではあるが、御願い事は二拍手の内に済ませるらしい。これって二拍手の間が不自然に空くと思うのは俺だけだろうか。ここの神社は厄除けがメインと言われているので俺の周りの人達の厄除けを御願いしておいた。

 

 

「お参りも済ませた事ですしおみくじ引きましょう!!」

 

 

「引っ張らなくてもおみくじは逃げないから」

 

 

シリカに引きずられるようにして売り場まで着く。窓口から中を見ると受付の人の後ろには番号が書かれた棚があった。恐らく何かを引いて書いてあった番号の棚から結果を渡されるタイプのおみくじなのだろう。

 

 

「おみくじ二つお願いしまーす」

 

 

「はい、それでは二回分で六百円になります」

 

 

「じゃあこれで」

 

 

俺は懐から財布を取り出し、千円札を差し出す。シリカがおみくじなんだから自分で払わなきゃ意味がないと言ったので後で貰うと伝える。受付のお姉さんに少し笑われてしまった。

 

 

「お預かりいたします。こちら四百円のお釣りです。それでは此方を下に向けて、棒が出てくるまで振ってください。書いてあった番号をお伝えください。結果をお渡しいたします」

 

 

係員のお姉さんが両手でなんとか持てるくらいの筒を渡してくる。それをシリカに渡し、先にやれと視線で促す。

 

 

「ん……しょ……っと、二十七番です」

 

 

「はい、じゃあこちらです」

 

 

シリカは大事そうに結果が書かれた用紙を受け取る。俺が引くまで結果は見ないようだ。俺もさっさと引いて百七十八と書かれた棒を筒へ戻す。

 

 

「百七十八です」

 

 

「はい、こちらです。ありがとうございました」

 

 

俺も紙を受け取り、シリカと受付から離れる。

 

 

「それじゃあいいですか?せーので開けますよ?」

 

 

「「……せーのっ」」

 

 

ぴらっ……そんな音と共に結果を見る。結果は小吉、金運がほぼなし。恋愛運は現状維持、健康運が下降気味。総合運でやや下降であった。隣のシリカを見るとなぜかフリーズしていた。

 

 

「」

 

 

「おーい、どったの?」

 

 

おみくじとシリカの間に手を入れて振ってみるも反応がない。悪いなー、とは思いつつもシリカのおみくじを覗き見た。

 

 

「うっわ……大凶とか本当にあるんだ……初めて見たわ」

 

 

「うううう……夏希さあん……恋愛運があああ……」

 

 

そう言われ恋愛運の欄を見てみると驚く程にフルボッコだった。曰く付き合っている男性がいる場合は確実に別れるとか。

 

 

「まあまあ、おみくじなんて気の持ちようだよ。あんま気にすんな。それにそれを避けるためにあのくくりつける奴があるんだしな」

 

 

「うううう……でも……でもおおおお……」

 

 

「大丈夫だって。今さらおみくじ一つでどうこうなるような関係じゃないでしょ?ほらさっさとくくりつけて昼飯にでもしよう」

 

 

隣で涙目になりながらおみくじをくくりつける作業に必死になってるシリカは可愛らしく見えた。おみくじで一喜一憂するところは女の子らしい。

神社から出てMのマークがシンボルのファーストフード店へ入る。シリカは未だショックから立ち直れず、「なんで恋愛運が一番悪いの?金運とかから引いてよ……」とか呟いている。

 

 

「ほらいつまでしょげてんだよ……もうすぐ順番だから頼む物考えといて」

 

 

「……いつものでお願いします」

 

 

「はい了解」

 

 

ここでシリカの言ういつものはテリヤキのセットSサイズのことである。自分の分とシリカの分の料金を払い禁煙席へ座る。四人がけの奥がソファーになっている席が開いていたので、ソファーの方をシリカに譲り、俺はシリカの対面の椅子へ座る。

 

 

「「いただきます」」

 

 

これは物を食べるときには、絶対に欠かしてはいけない。これ鉄則。適度に塩がかかっているシューストリングポテトを消化していく。どうやら揚げたてらしく舌が火傷するかと思うくらい熱かった。それにびっくりした俺は外見冷静、内心大慌てでセットのドリンクへと手を伸ばす。コーラの強い炭酸が喉を通る。これは生や発泡酒を飲んだ時に近い感覚があり、ついぷはーっとやってしまうのは愛嬌と言うことで勘弁していただきたい。

 

 

「……恋愛運……恋愛運……」

 

 

正面からポテトを消費しながらぶつぶつと言っているシリカは少し怖かった。目のハイライトが消えており、朝は……いや、おみくじを引く前はあんなに元気だったのに今は見る影もない。それをしばらく観察しているとポテトが無くなった。それなのにシリカの手は空の袋に手を伸ばし見えないポテトを口に運んでいる。思ったより更に重症であった。ちょっと見るに耐えたないので、自分の手元にあったポテトをシリカの口に運んでみた。すると手が動きを止め口だけが動き出す。

これは小学生の時に学校で飼っていたウサギを思い出す。奴らも野菜スティックをこんな感じでポリポリと消化していた。

 

 

「なあなあ、いつまで落ち込んでんの?」

 

 

「だって恋愛運ですよ?私と夏希さんの今年を占う物でよ?どうしたって気になっちゃうんですよ……」

 

 

「でもなー……俺の方は現状維持って書いてあったし……これを考えたら問題ないじゃん?しかも別れるって書いてあったのはシリカの方でしょ?なら結論から言うに振られるのは俺じゃん。なのでシリカが落ち込む必要はどこにもないさ」

 

 

「私は別れるつもりなんてないですよ。一年以上かけてやっと実ったんですから」

 

 

「なら尚更心配する必要はないでしょ。俺も珪子も別れる気はなし。来年も再来年もこれだけは変わらないよ」

 

 

「そ……そうですよね!!うん……私も気にしないことにします!!そうとなればいつまでも落ち込んではいられません。せっかくのデートです。このあとも付き合ってくれますよね」

 

 

半ば強引に付き合うことが決定されているものの、否を唱えるつもりもない。時間は何時だって有限だ。

そして決断したときのシリカの行動は早い。残っていた物をさっさと食べ終えると俺の手を取って店を出る。二人で出掛ける時は必ずと言って良いほど本屋へ立ち寄る。まあ、俗に言う二次元関係の物ではあるが。

 

 

「あっ、これ新刊出てたんだー……」

 

 

「え!?これラノベ!?」

 

 

「……?そうですけど」

 

 

シリカは目的地に着くとラノベコーナーへ一直線、新刊をチェックしている。俺が狼狽した理由はタイトルにある。なぜならばリリカルおもちゃ箱とあったからだ。この作品、前世ではとあるエロゲのファンディスクだった。これをアニメ化したものが魔法少女リリカルなのは。この二つの作品はコンセプトが違うのでほとんど別作品となっているが、どちらも懐かしい作品である。少し興味が湧いたので手に取ってパラパラとページを捲ってみると、そこは鳴海市ではなくミッドチルダが描写されていた。

 

 

「……これどんな作品?」

 

 

「これはですねー……」

 

 

シリカの話によると、なんというかほとんどリリなのであった。違うところはフェイトの立ち位置にクロノがいて、なのはとは付き合っていること。そしてクロノの立ち位置にフェイトらしき女性がいたこと。あとは概ねリリなのと変わらないようだった。

どうやら話から察するにシリカは結構お気に入りらしいので一巻だけ買ってみた。

 

 

「買わなくても貸しますよ?」

 

 

「こういうのは自分で買ってこそだろう?」

 

 

俺にも自称オタクとしてのプライドがある。中にはそんなプライドなんていらないと言う人もいるだろう。だが俺には数少ない譲れない物なのだ。

 

二人で買い物を終えたあと恒例のウィンドウショッピングである。男である俺には退屈であると言わざるを得ない。それでもシリカの笑顔が見られるのならば、俺の退屈などくそ食らえ。報酬としては破格のものだと思っている。

 

 

「あっ、これ可愛い」

 

 

「んー……!?」

 

 

シリカが見つけたのはちょっとしたイヤリング。何の事もないシルバーのものである。ダイヤがついている訳でもない。特別何かを使っている訳でもない。見た目から判断して安そうなら買おうかと思っていたのだが、値段を見て正に目が飛び出した。少し目を擦って値段を見直して見てもゼロの数は変わらない。これは諦めざるを得なかった。

 

 

「さて、そろそろ日も暮れてきたなー。帰るか」

 

 

駅に向かいながら切り出す。

 

 

「えー、私としてはもうちょっと一緒にいたいなー、なんて……」

 

 

「俺と出掛ける度に遅くなってんだろ?たまには早く帰ってやれ」

 

 

不満そうなシリカを抑え、駅に着いたところでカードにお金をチャージする。

駅が集合場所だった事からわかるように、俺とシリカでは乗る電車が違うのでここでお別れとなる。

 

 

「むうううう……じゃあまた来週デートしてください」

 

 

「あいよ」

 

 

シリカの乗る電車の改札付近で、電車が出るギリギリまで話す。これもお決まりだった。

 

 

「あっ、そろそろ時間……あーあ、帰りたくないなー……」

 

 

「帰れ。来週のデート無しにするよ?」

 

 

「はい!!帰ります!!じゃあ気を付けてくださいね」

 

 

「おー、お前もな」

 

 

チラチラとこちらを伺って目線を送ってくるシリカを一蹴。即座に意見を翻すシリカも面白い。

シリカが改札を通る前にちょいちょいと手招きをした。

 

 

「どうした?」

 

 

「……んっ」

 

 

「」

 

 

唖然とした。こんな公共の場、しかも帰宅者がかなり使う時間帯の池袋駅で頬とは言えキスをされた。

本人はさっさと改札を通り抜け、してやったりみたいな顔をしている。

 

 

「何してんだアホ!!」

 

 

「べーっだ」

 

 

そんな仕草をしてそそくさとシリカは階段を降りて姿を消す。しばらくそこに立っていたが周りの視線が気になり、俺も改札方面へ急ぎ足で向かった。

 

 

 



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