男達の戦車道 (那由他01)
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01:出会う、四号戦車。

 ガルパン大好きで、いつかこういう作品を書いてみたいと思っていました。全力で書いているので、文字量が非常に多く、読みにくいかもしれませんが、面白いと思ってもらえたら嬉しいです!


 マッコイとハルが二人して双眼鏡を覗きこむ。その先には、七両の戦車が鶴翼の陣を形成して移動している。チャーチル7一両、マチルダ四両、クルセイダー二両と初心者が多く集まった本日の相手としては強敵過ぎるような気がする。だが、戦車道経験者と趣味で戦車に乗っている奴も混ざっているから、善戦は出来ると踏んだ。

 

「流石にチャーチルとマチルダはナメクジみたいな速度してるな、ここから撃ったら二三両食べられるぞ」

「この試合は勝つための試合ではござらん、初心者の皆様に試合の緊張感を味わうための試合でござる。我々は最終的に倒しきれなかった敵を掃討する遊撃部隊、行動は最後の最後でござるよ」

「それもそうだな」

 

 双眼鏡を下ろして静かに戦車に乗り込む。キューポラから他の戦車を確認する。

 ポルシェのティーガーが学園艦のどこかに隠されている筈なんだが、見つけられなかった。まあそれでも、一年ちょっとで九両も戦車を取り揃えられたのは奇跡だな、と、マッコイは考えた。

 

「じゃあ、作戦開始と行きますか」

 

 

 少年は酷く感じていた、居辛い雰囲気シミシミと。

 面白半分で入学した大洗女子学園という高校。女子学園と名前が付いているが、共学の計画を学園側が提示して、日本中から四人の男子生徒を集めた。いや、募集点員は十人だったのだが、全国から集まったのは四人という心細い人数だった。その中の一人、松本浩二、親しい友人の間では、マッコイという愛称で親しまれている少年は少し後悔の念に苛まれていた。

 

「選択肢ミスったかもしれないな」小さな声で弱音を吐くと、隣の席に座っている男子生徒、中学からの友人、ハル、本名、春山春樹、身長152cm、体重49kgと見た目も顔も女の子だが、一応は男となっているにその独り言を聞かれてしまった。

「面白半分で入学したマッコイ殿が悪いでござるよ……まあ、付いてきた拙者も大概でござるが……」彼もまた、弱音を吐き出した。

「いや、募集点員十人だから振るい落とされると思ってたんだよハル、それが蓋を開けたら四人だけ、軽い恐怖があるぜ、どれだけ人気ないんだよこの高校」本当に面白半分で願書を出したが、蓋を開けたらなんとやら、他の高校も普通に受かっていたのだが、悪ノリの果てに入学してしまった。そして、その悪ノリに付いてきたハルはとばっちりだ。

 

 二人は神妙な顔で大量の視線を身に受ける。男女の対比が色々と可笑しくなっている学園、学園艦の中には男性も住んでいるが、それでも女子生徒が圧倒的に多いのが現状だ。制服も汎用品の学ランに特注のボタンが付けられている程度の簡素なもの、それなりに目立つ。

 しばらくすると教師が現れて、SHRをはじめる。そして、授業は普通に流れていった。

 

 

 時間は経過して昼休み、深い溜め息をマッコイは吐き出して、それに誘われてハルも溜息を吐き出す。何もされていないとは言えど、色々と居心地の悪さを感じてしまう。最大の救いは中学時代からの友人のハルが隣に居ることだ。彼が居なかったら不登校になっていたかもしれないと心の中で呟いてみせる。

 ハルは教科書類を机に仕舞って、突っ伏す。

 

「色々と疲れるな、この高校」

「それを選んだのはマッコイ殿でござるよ……」正論を言われたマッコイは少ししゅんとする。

 

 離れた席に座っていた二人の男子生徒が静かに二人の元にやって来た。

 マッコイも182cmの大柄な体格をしているが、それを軽く超える193cmの巨体と下手くそな化粧をしている大男がにっこりと笑みを浮かべて、声をかけた。マッコイもハルも苦笑いをみせて、どうも、と、声を揃えて挨拶をする。

 

「私の名前は岩下六郎よ、よろしくね♪」

「あ、ああ、俺の名前は松本浩二、親しい友人の間ではマッコイって言われてる」苦笑いを見せながら、自己紹介をするマッコイ。

「拙者は春山春樹でござる。ハルと呼ばれているでござるよ」マッコイに続いて自己紹介をするハル。

「二人ともあだ名があるのね? なら、私はロックでいいわ、中学の頃の友人にそう呼ばれてたの♪」六郎もとい、ロックは二人にアダ名で呼ぶように告げる。二人も静かに頷いてみせた。

 

 ロックが一歩下がって、もう一人の男子生徒、身長はロックと打って変わって170cmと平均的で、中性的で柔らかい顔立ちの少年が代わりに前に出た。

 

「僕の名前は山崎新八だよ……中学の頃は……ジミーって呼ばれてた……」少し悲しそうな表情で静かに自己紹介をする。三人は地味にあだ名で呼びにくいな、なんて、心の底から思ったが、今のところ三人があだ名で呼び合うことを決めているため、心苦しいがあだ名で呼ぶことを決める。

「ハル、ロック、ジミー、そして、俺が四人の男子生徒か。まあ、少ない男同士、仲良くしようぜ」とマッコイ。

「これからよろしくでござる!」とハル。

「ええ、楽しくやりましょ」とロック。

「うん、よろしくね」とジミー。

 

 四人全員が握手を交わして、信頼関係を強くする。四人は自己紹介を終わらせた後に学食に足を運びながら、中学時代の話に花を咲かせる。マッコイとハルは長崎県の中学出身でロックは青森の農家の長男。唯一地元茨城出身のジミーは色々なところから入学しているんだな、なんて、感心していた。

 学食に到着すると多くの女子生徒の視線が四人に注がれる。四人は苦笑いを見せつつ、食券を購入しておばちゃんから注文したものを受け取り、四人がけの席に腰掛けた。

 視線は徐々に分散され、最終的に注がれる視線はマッコイに集中する。世間一般から見て、一番整った顔立ちをしているのはマッコイであり、身長も高く、中性的から離れ、男性的な顔立ちをしている。テレビで見るようなアイドルタイプでこそないが、一昔前の俳優のようなイケメンではなく、ハンサムと呼べる顔立ちをしている。逆に、中性的でイケメンと呼べるのはジミーだ。

 

「うん、学食の品質はカレーの味で決まるよなぁ」注文したカレーを視線なんて気にしないで食べ進める姿にハルは苦笑いを見せる。なんやかんやで中学時代のマッコイのことを知っているので、女子生徒の視線の集まり方を理解している。こういう視線に強いのがマッコイのいいところだ。

「でも、男子生徒が四人だと部活とか作れないね」ジミーは少し沈んだ表情で部活動の話をはじめる。

「部活か……まあ、テニスとか卓球なら四人でも出来るだろう」マッコイはカレーを飲み込んでからそう告げる。だが、ジミーは首を振って、野球とか、サッカーみたいなメジャーなスポーツとか新設したかったんだよね、なんて言うが、テニスと卓球を一応はメジャーなスポーツだろうとマッコイからツッコミが入る。

「サクセスストーリーだよ、そういうのに憧れているんだ」三人は静かに頷いた。そして、ジミ―が少し面倒臭いやつなんだな、なんて、思ってしまった。

 

 四人は少し考えて、新しく部活を作るなら何がいいかを考える。ハル以外は体格がよく、色々とスポーツに向いている。だが、誰一人運動部の発案はせず、四人それぞれが割れた。

 

「麻雀部」とマッコイ。親戚とそれなりの頻度で打っていたので、発案した部活だ。

「やっぱり王道を行く文芸部でござろう」とハル。見た目も心も基本的に文系だ。

「私は手芸部とかいいと思うわ」とロック。見た目は大男だが、心は乙女ということを示している。

「僕は将棋部とかがいいかな」とジミー。特別な意味はない。ただ、将棋を指せるからだ。

 

 それぞれ深く考えて、静かに全部却下と告げる。流石に男四人で静かに文系の部活をするのは健康的ではない。なら、他の一人二人で出来る部活動。それを考えるのだが、思い浮かばないのがこの四人のキャパシティの低さだ。露呈している。

 

「じゃあ、放課後に部活巡りしようぜ、めぼしい部活があったら男子部を作ればいいわけだし」マッコイは三人にそう提示すると全員が了承した。

 

 

 放課後、帰宅部の生徒達は即座に帰宅して、部活動をしている生徒達は部室に移動したりしている。学ランを着込んだ四人の男子生徒はシャキッとしない足取りでめぼしい部活を探していた。運動部を中心に探しているのだが、野球やサッカーというそれなりの人数が必要な部活ばかり活発に活動していて、めぼしい部活がなかなか見つからない。

 マッコイは倉庫の前で嗅ぎ慣れた油の香りを感じる。

 

「……戦車?」マッコイは倉庫の扉を開ける。他三人はどうしたのだろうと思ってついていくと古びた四号戦車が静かに倉庫の中で眠っていた。マッコイは履帯の劣化具合や装甲のサビを確認し、最後にオイルが漏れているかを確認する。そして、最終的に下した判断はこの四号戦車は軽い整備で動くということだった。

「どのくらいで乗れるようになるでござるか?」ハルが質問するとマッコイは部品と工具があったら一日で余裕と返した。ロックとジミーは驚きの表情を見せる。

「実家が戦車整備工場なんだ。俺はそこの次男坊」ロックとジミーは静かに頷いて、四号戦車を眺める。

 

 マッコイは少し考えて、四号戦車を撫でる。流石にこのまま放置されて、最終的に動かなくなるのは可哀想だ。自分は戦車整備工場の息子だ、戦車に思い入れはある。この程度の劣化なら、国から補助金を貰えばお釣りが帰ってくるくらいの金額でどうにかなる。

 

「なあ、戦車道をやらないか?」マッコイは三人にたずねる。

「でも、戦車道って女の子がやる武道だし」ジミーは少し違和感を感じているが、ロックが肩を叩く。

「私はやってみたいわ、戦車道。女の心もってるのに戦車道やれなくてイライラした時もあったし」ロックは了承してくれた。

「拙者はマッコイ殿の家のことを知ってる故、了承するでござるよ」ジミーも少し違和感を感じていたのだろうが、静かに頷いてくれた。

 

 マッコイはこの戦車を綺麗にしてやらないといけないな、と、思ってもう一度四号戦車を撫でた。

 

 

 後日。

 生徒会室に入室して、生徒会長に一枚の書類を手渡す。生徒会長、角谷杏はその書類を見て、少し驚いた表情になる。その書類には、男子戦車道部と書かれている。戦車道は女性が行う武道として認知されているが、一応は男性の人口も辛うじて存在しているのが現状だ。だが、高校生で戦車道を行っている男子生徒は現状確認されていない。それに、戦車道は学科科目として選択する部分もある。だからこそ、部として存在させるかどうかは少し悩ましかった。

 

「会長? どうしますか」河嶋桃は会長にこの申請書をどうするかを尋ねる?

「まあ、戦車道って補助金すごいらしいし、部費もたいしてかからないから別にいいでしょ。ルールブックにも男がやっちゃだめってことは書かれてないわけだし」一応は戦車道の知識があるので了承の方向に向かう。

 

 目の前に立っていたマッコイ以下三名は胸を撫で下ろす。

 会長はマッコイに指をさし、なんの戦車に乗るのかを確認する。マッコイは倉庫に眠っている四号戦車を補助金で修復すると提示する。すると彼女は静かに頷いて、申請書に判子を押した。

 

「うちの学校、結構昔に戦車道やってたみたいだから戦車見つけたら修復しといて。もしかしたら戦車道復活させるかもしれないから」

 

 その昔、大洗女子学園は戦車道が盛んな高校として有名だった。だが、時代の流れか、戦車道の人気は落ち、この高校では戦車道をやめた。高額で取引される戦車は売却されたが、微妙な価格の戦車は手付かずの状態で放置されているため、見つけ次第、整備して使える状態にしておいてくれとお願いされる。

 

「そうなんですか、わかりました。国への申請はこっちの方でやっておくので」

「助かるねぇ、この時期は生徒会が色々と忙しいんだよね」

 

 四人は静かに生徒会室から退室する。

 

「男子戦車道部ですか、一応は戦車道の男性人口は存在しますが……」男が戦車道をすることに違和感を感じる桃だが、会長は手をひらひらと仰いで、それを否定する。

「うちの学校ぜんぜん入学生こないし、こいう目新しい部もあっていいんじゃない? それに、なんだったかな、戦車道の世界大会が日本で行われるとか行われないとか、それもあるし戦車を見つけて整備してくれる存在は結構貴重だと思ってね」桃は戦車道と縁の無い四人が整備なんてできるのかと考えていると、マッコイの書類を会長が静かに手渡してみせた。そして、彼女は静かに納得する。

「日本で三番目に大きい長崎の松本戦車整備……そこの次男坊ですか……」会長はにこやかに笑って、そうそうと返した。

 

 この時、学園の全員が知り得なかっただろう、一年後の彼らの活躍を。

 

 

 国からのGOサインが出たのは二週間後のことだった。国の行動にしては早いな、なんて、マッコイは思いつつ、実家に連絡を入れて四号戦車の部品と自分が使っていた工具一式を送るように頼んだ。パーツと工具が到着するのは早くても一週間後になる。その間、いや、国からの許可が出るまでの間に倉庫を片付けて戦車を収納できるスペースを確保したりしていた。

 

「パーツの発注完了。倉庫も粗方片付いたからな、新しい戦車探すのも悪くない」

「本当に捨てられているでござろうか? それに、エンジンが悪くなっていたり」

「その時はその時だ。中身は俺の実家から取り寄せればいい」

 

 ピンク色のエプロンと赤色のバンダナをつけたロックがゴミ捨てから帰ってきて、額から流れる汗を袖で拭う。マッコイとハルは酷く暑苦しいな、なんて、心の底から思ったが、それは言わぬが花と言ったがものだと発言は控えた。

 次に倉庫に戻ってきたジミーがノートを手に持ってにこやかに笑っている。

 

「図書室から戦車道をやってた頃の記録を書き留めてきたよ。何かの情報になったらいいね」マッコイはジミ―からノートを受け取り、パラパラと捲って内容を確認する。中々綺麗な文字だと感心しながら読み進めていると 38(t)の情報が目に入った。倉庫から近い場所に置いていると書いている。

「 38(t)が一番近い場所にあるな、油の匂いがわかれば一発で見つかるだろう」

「マッコイ殿は嗅覚が優れているでござるからな」

 

 四人全員がジャージに着替えて、なぜだか倉庫に投げ捨てられていた虫あみと虫カゴを首にかけて学園艦の森の中に歩みを進めた。その姿を見た生徒はまだ寒いのに虫取りに行くとは夢にも思わなかったと語っている。正直、これはマッコイの悪乗りだったのだが。

 

「お、バッタがいる……」マッコイは無言でそのバッタを捕まえようとするが、ハルが小学生じゃないんだからやめろと言われて悲しそうに捕まえることをやめた。高校一年生になる男が小学校低学年のような行動をしたらいけない。

 

 四人は軽いハイキング気分で森の中を踏破していると獣道を発見する。野犬や野良猫が作ったものだろうか、そう思いつつ、好奇心から四人は獣道に足を踏み入れる。するとマッコイの鼻が反応する。油の香りが漂い始めた。

 

「近いな」

「そうなんでござるか?」

「ああ、すぐに見つかる」

 

 獣道を通り、そして、発見する―― 38(t)を。

 

「おお、本当にあったわね」ロックは可愛らしい戦車ね、と、装甲を撫でた。

「チェコ・スロバキアが製造した軽戦車 38(t)、まあ、本国で使用されることはあまりなくて、侵略された後にドイツの電撃戦を支えた戦車だ。こいつは比較的有名で、カスタムパーツも大量に出回っている。それに四人乗り、四号より乗りやすいかもしれないな」

「四号が嫉妬するでござるよ」違いないとマッコイが告げると三人は苦笑いを見せた。

 

 マッコイは車両の劣化具合を確かめて、何日で修復できるかを計算する。そして、最終的に出された日数は一日か二日、小型の車両ということで整備が比較的楽という部分と開けた場所に捨てられていたので重機の使用が楽だという点もある。なんなら、修復した四号で牽引することも可能だ。

 

「よし、木に印をつけて帰るか」

 

 通った道の木に尖った石で傷をつけながら倉庫に戻る。四号戦車の修復が終わったらすぐに取りに来ようと心に誓った。

 

 

 四号戦車と追加で注文した 38(t)の修復部品が一気に到着して四人は心を踊らせていた。まず手始めにマッコイが四号戦車のエンジンを取り出し、オーバーホールを開始する。その間に細々としたパーツを他三人が準備して、マッコイが手早く作業出来るようにする。

 そして四号戦車がエンジンサウンドを響かせたのは、夜十時という時間帯だった。ツナギを着たマッコイは顔中、体中黒く汚れて、他三人もどこかしらに油汚れをつけていた。

 

「流石に一人でオーバーホールするのは辛いぜ、でも、これでエンジンが動く。次は履帯の交換と車内の清掃なんだが、時間も時間だ、一旦家に帰ろう」

「了解でござる」

「わかったわ」

「結構作業したね、腰が痛いよ」

 

 

 翌日の放課後。

 履帯交換を素早く行い、四号戦車を外に出す。すると運動部の面々に驚いた表情をされるが、そんなことお構いなしで上着を脱ぎ捨てて水着姿になる。今日は比較的暖かいので水着姿でも構わない。

 マッコイは鍛えられた屈強な筋肉を女子生徒に見せつける。その姿を見た生徒は後にこう語る。松本くんの筋肉は本物で、抱きしめられたいと。

 ロックも女性物の水着姿になる。その姿を見た生徒は後にこう語る。松本くんと同じくらいの筋肉なんだけど、女性物の水着は少し……。

 ハルも水着姿になるが、即座に他の生徒に連れて行かれ、なぜだかさらしを胸に巻かれてしまった。一応は男子生徒となっているのだろうが、他の生徒には女子生徒と見られているのだろうか? 三人は苦笑いを見せた。

 ジミーも水着姿になる。軽く鍛えられていて、まあ、普通だった。感想に困る。

 

「なんでござろうか……拙者、男子でござるのに……」

「ご愁傷さま」

「早く洗いましょ、この子も油まみれじゃあ可哀想だし」

「ホース持ってきたよ」

 

 ブラシと洗剤を駆使して四号戦車を綺麗にしていく。

 三時間後、外装内装も綺麗になり、実戦に使用してもなんら問題ないくらいになった。

 マッコイは熱い視線を感じて、その視線の方向を見ると癖毛の生徒が物陰から目を輝かせて四号戦車を眺めていた。彼が手招きをするとヒャイッと可愛らしい叫び声をあげて、物陰に隠れなおす。だが、マッコイが手招きを続けると恥ずかしげに彼らの元にやってきて、顔を赤らめながら一礼。

 

「戦車好きなの? 名前は」

「あの、えっと……秋山優花里です……」

「俺の名前は松本浩二、隣が春山春樹、その隣が岩下六郎、そして……その隣がジミーだ」

「なんで僕だけ本名忘れてるのさ!? 山崎新八だよ!!」

 

 ジミーの鋭いツッコミが入る。流石は新八の名前を持つ者、ツッコミの才能はピカイチだ。

 

「松本殿、春山殿、岩下殿、ジミ―でありますね!」

「なんで僕だけ殿をつけてくれないのさ! 下に見られてるの!?」ジミーはシクシクと涙を流しながら、地面に崩れ落ちた。まあ、おまえは色々とネタキャラ枠だからな、と、マッコイ達は思った。

 

 マッコイは運転席に移動して、エンジンをかける。すると、

 

「ヒヤッホォォォウ!最高だぜぇぇぇぇ!!」と優花里が声を上げた。心地いいエンジンサウンドが身に沁みたのだろう。

「今からもう一両戦車を取りに行くんだけど、一緒に来る? 一応は五人乗りだから」 38(t)の牽引作業に付いてくるかを確認する。

「いいんですか!?」 一つ返事で了承してくれた。四人はよっぽど戦車が好きなんだろうと苦笑いを見せた。

 

 マッコイが運転席に座り、全員が戦車に乗ったかを確認する。五人全員が四号戦車に乗り込んだので、手慣れた手付きで操作し、 38(t)がある森林に向かった。

 

「試合で使うなら俺が戦車長になる必要があるからな、誰か運転したい奴って居るか?」

「僕が運転手になりたいな、乗り物動かすのって楽しそうだから」とジミー。

「じゃあ、拙者は砲手になりたいでござる」とハル。

「じゃあ私は装填手かしら」とロック。

「じゃあ、わたしは通信手ですね!」と優花里。

 

 こうして、四号戦車は五人の乗組員を手に入れた。ついでに一人部員が増えた。

 段差を超え、雑草を超え、木々をかき分けて、 38(t)が放置された場所に到着した。優花里は興奮気味に 38(t)を頬擦りして、感動している。そして、 38(t)の歴史を語ったり、色々と満足しているようだ。マッコイは苦笑いを見せつつ、ワイヤーを取り出して、四号戦車に連結、 38(t)の引っ掛けに取り付けて牽引を開始する。

 

「劣化が酷いですが、パーツはあるのですか?」

「四号戦車のパーツと一緒に送ってもらってる。まあ、今日はもう遅いから明日の作業になるがな」

「あ、あの! わたしも来てもいいでありますか!?」

「いいよ、オカマだけじゃあ花がないし」

「私に花がないって言いたいの!? 怒るわよ!」

 

 全員で笑い合って倉庫に 38(t)を搬入した。

 

 

 

 

 

 to be continued

 

 

 

 

 

【おまけ】

 

 少女、武部沙織は恋をしていた。恋に恋する少女ではなく、真剣に一人の男に恋をしている乙女になっている。お相手は、隣のクラスの松本浩二、マッコイである。高身長、高いルックス、落ち着いた貫禄、それでいて遊び心を忘れない仕草、そのすべてが彼女の女の部分を高ぶらせていた。

 だが、彼女は恋の方向性を少しばかり間違えてしまう。本日開かれる写真密売会、彼女はそこに足を運ぼうとしていた。もちろん、密売写真ということは許可を得ないで撮られた写真の売買であり、撮られている存在は、まあ、男子生徒だ。女子校の大洗女子学園に颯爽と現れた一人のハンサム、一人の男の娘、一人のオカマ、一人の地味。誰の売り買いが激しいかは一目瞭然だ。

 

「あの、沙織さん? こんな場所でコソコソして何を」

「ヒャイッ!?」

 

 挙動不審に密売場に足を運ぼうとしていたら友人の五十鈴華に声をかけられてしまった。沙織はオドオドとした表情で写真を買いに行くのと隠さないといけないのに、素直な自分に押し負けて、密売写真を買いに行くことをばらしてしまう。華は写真集でも本屋に買いに行くのだろうかと思ってご一緒しますと告げると沙織はいや、大丈夫だから! と、突っぱねるが、華は好奇心から彼女についていってしまう。

 

「松本くんの水着写真500円、データなら250円」

 

 密売場と化した体育館の倉庫、そこには多くの女子生徒が血眼になってマッコイの写真を買い漁っていた。沙織は身を乗り出して千円札をチラつかせ、マッコイの水着写真を二枚購入する。その姿を見た華はポカンとした表情で事態を飲み込めないでいた。

 

「コレクションに追加だね!」

「沙織さん……ここは……」

「あ、華……ここは恋心を抱いた女の子の集いだよ……」

 

 沙織は二千円分の写真を購入して満足げな表情で倉庫を出た。華は十分くらい困惑してから、その場を去った。




【松本浩二】
 マッコイと親しい友人の間では呼ばれている。実家が戦車整備工場ということもあり、小さい頃から戦車の重たい部品を運んだりして体は綺麗に出来上がっている。中学時代は重たい部品を運びたい一心で筋トレに励んだりして、細マッチョとゴリマッチョの中間くらいの筋肉になっている。この物語の主人公。

【春山春樹】
 ハルと親しい友人の間では呼ばれている。体格も顔も女の子なので、中学時代は男子生徒から告白の荒らし。それを避けるためにござるという変な口調を取り入れたが、猛者達はそれを萌え要素として受け取り、告白の数は増加した。

【岩下六郎】
 マッコイとハルがあだ名で呼び合っているので、中学時代に呼ばれていたロックというあだ名を取り出して、三人にそう呼ばせている。青森のリンゴ農家の長男。女の心を持っており、大洗女子学園に入学した。

【山崎新八】
 小中高と親しい友人からジミーと呼ばれ、色々と悲しみを背負っている。四人の中で唯一の茨城出身で、大洗にも詳しい。入学理由は友人に進められて、断れなかったから。


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02:発見、三号突撃砲。

 今日は土曜日。

 職人という立場もあり、休みだろうが、早寝早起きが大得意なマッコイは自室の布団を押入れに収納してあくびを一つ。時刻を確認すると六時十五分と集合の時刻は九時なので物凄く早く起きすぎた部分がある。このまま九時までダラダラと過ごすのは職人としてのプライドが許さないのであろう、綺麗な青いツナギを身に纏って最低限の身嗜みを整え家を出る。

 本日の予定は38(t)の整備、これは五六時間で終わるだろう。余った時間は戦車捜索、これは四号戦車を使用して目ぼしい場所に移動して捜索すればいい。マッコイは頭を掻きながら、確か、倉庫から一番近い戦車の情報は、三号突撃砲だったな、と、呟いた。

 

「考えることは同じでござるな」通学路をツナギ姿で歩いているとジャージ姿のハルがにこやかに挨拶をしてきた。マッコイも同じように考えることは皆同じだと告げて、一緒に登校していると次はロックと遭遇する。

「あらあら、皆早起きねぇ」ロックは赤色のジャージ姿で、今日も厚化粧。ロックの攻撃! SAN値を削るウィンクを投げつける。マッコイとハルのSAN値が2減った。

 

 三人で登校していると次は学校指定のジャージ姿のジミーが現れる。だが、三人は平然とスルーする。

 

「ちょっとちょっと! 君達は普通に挨拶したんだよね!! 何で僕だけスルー!?」

「「「あ、ごめん。面白そうだったから」」」三人は本心からそう告げてしまった。

「なんでハルくんに至ってはござる捨ててるの!? 傷つくんだけど!!」ジミーはアスファルトに崩れ落ち、シクシクと涙を流しはじめた。流石に虐め過ぎたかもしれない。

「まあ、おはよう。早いな?」マッコイが苦笑いを見せながら朝の挨拶をするとジミーの表情はパッと明るくなり、自分がツッコミを入れたことなんて忘れて普通に学校に向かう。

 

 校門前に到着するとなぜだかテントが設営されている。ご丁寧に所有者の名前も書かれており、確認すると秋山優花里と書かれていた。四人は神妙な顔でテントを開けてみると気持ち良さそうに眠っている優花里がいた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

唖然とした表情で四人は彼女のことを眺めていたら、パッと目を見開き。

 

「あ、おはようございます」

「うん、おはよう。先に倉庫行くから、テント片付けて来いよ」

「了解であります!」

 

 なんというか、秋山優花里という生徒のアグレッシブさが垣間見えた瞬間だと四人は思った。

 四人は校門を抜けて、倉庫に入る。そこには薄汚れた 38(t)と四号戦車が佇んでいる。

 マッコイは工具の有無を確認し、注文し忘れた部品が無いか入念にチェックする。すべての工具、部品があることを確かめて、 38(t)のエンジンを確認する。四号戦車より劣化が酷いが、オーバーホールで動くようになる領域だ。即座に整備にとりかかる。

 マッコイがエンジンのオーバーホールを開始したと同時にテントを仕舞った優花里が戻ってきて、マッコイに見とれる。主に器用に動いている指先の方向だが。

 

「手慣れた手付きでありますな」

「マッコイは松本戦車整備の次男でござるからな」

「え、日本で三番目に大きい戦車整備工場の松本戦車整備の?」

「そう、そこの社長さんの次男坊でござる。小さい頃から戦車整備を叩きこまれて、一通りの整備はお手の物、パーツ屋とも繋がりが深く、補助金の範囲内で色々と見繕ったり大助かりでござる」

「ああ、ゴム類めっちゃ劣化してるじゃん。付け替えないと」取り寄せたゴム類を加工して付け替える。優花里はその姿に目を輝かせていた。

 

 時刻は正午になろうとしていた、エンジンの整備を一通り終わらせて、キューポラから車内に入り、エンジンをかけてみる。すると四号戦車とはまたちがうエンジン音を響かせた。優花里はまた、ヒヤッホォォォウ! 最高だぜぇぇぇぇ!! と叫び声を上げて、興奮している。その反対で、マッコイはほぼすべての作業を一人で完遂したので、息切れしながら疲れを隠しきれないでいた。

 

「私達も手伝えれば良いんだけど、こういう作業はやったことないからねぇ」とロックが呟きながら、自販機で購入したポカリスエットをマッコイに手渡す。マッコイはそれを勢い良く飲み干して、溜息を一つ吐き出す。

「中身は古めかしい自動車と大差ないんだが、一つ一つのパーツが重いからな、バラすだけでも一苦労だ。実家みたいに職人が沢山いて、使い勝手の良い機材があれば半分の時間でどうにかできるんだが……」汗を袖で拭って38(t)を洗車するために倉庫の外に出す。

 

 今回は水着なんて着用せずにツナギ姿、ジャージ姿で洗車を行う。その姿を見ていた売人は高値で取引される写真を撮れなかったと悔しげに語った。

 徐々に輝きを取り戻していく38(t)の姿に感動を隠しきれない優花里はいいが、マッコイはエンジンの整備も合わせて色々と疲弊しているので三分ほどでダウンしてしまった。体力に自信がある彼でも、一両の戦車を一人で修復するのは肉体的にも、精神的にも堪えるということだ。

 

「綺麗ですなぁ……」

「にしても……この学校の戦車はガソリンエンジンが多いな。国からの補助金が手厚いといえど」ジミーが纏めたノートを読み進めていたマッコイ。

「ガソリンエンジンと言いますと、どのような車両が?」ガソリンエンジンを使用している車両は数多く存在している。どんな車両が残されているのだろうかと優花里は質問する。

「うーん、有力な戦車は多分売られてるだろうから……このノートの中のラインナップを見る限り、三号突撃砲、M3中戦車、ルノーB1bis、八九式中戦車(甲)、ポルシェティーガーは微妙だが、まあ、あるかもしれない。唯一のディーゼルは三式中戦車だけだ」ほぼすべての車両がガソリンエンジン。ディーゼルなら燃費をあまり考えずに乗ることは出来るが、ガソリン車となると色々と維持費が高くなる。だが、この中にお宝戦車が二台入っている。それは八九式中戦車と三式中戦車だ。日本戦車はマニアから根強い人気があり、この二両合わせて下手をすると億単位の値段で売買出来るかもしれない。それに、戦車のトレードを申し出れば、T34みたいな生産数の多い車両が三四両くらい入ってくる可能性もある。

 

 洗車を終わらせて、38(t)と四号戦車に給油。使用の準備は整った。

 マッコイは少し考えて、三号突撃砲のページにペンでチェックを入れる。最後に使用した場所が学園艦に存在する溜池の周辺と書かれている。ここから比較的近い場所、四号戦車を走らせれば十五分くらいで到着する。38(t)を倉庫に収納し、四号戦車に全員で乗り込む。

 

「三突を探しに行くぞ」とマッコイ。

「三突なら溜池の周辺だね、日がくれないうちに探しに行こうか」とジミー。

「戦車を探すってわくわくするでございますなぁ」と優花里。

「移動手段があるっていいでござるな」とハル。

「どんな戦車なんでしょうね」とロック。

 

 手慣れた手つきで四号を走らせていると学園艦に住む人達から温かい声が聞こえてくる。

 

「あら、四号久し振りに見るわねぇ」

「若い頃が懐かしいわぁ」

「三突はいないのかしら」

「私は三式に乗ってたわねぇ」

 

 案外戦車道経験者が多く乗っているのだな、なんて五人は感心しながら溜池まで流す。そして、溜池に到着すると周辺をくまなく捜索するのだが、戦車らしい影は見当たらない。だが、マッコイの戦車センサーはビンビンに反応していて、普通なら発見できないような部分を発見する。

 

「油……いや、ガソリンだな」

 

 溜池に浮かぶ油、それを瞬時にガソリンと理解する辺り、マッコイの嗅覚は本物だ。

 

「池の中に多分沈んでる。三突は結構高値で売買されるからそれを阻止しようと沈めたのかもしれないな」マッコイは着込んだツナギを脱ぎ、パンツ一枚の姿になる。優花里は顔を真赤にして顔を隠すが、指の間から普通に見ている。彼女も乙女なのだ。

 

 潜って確かめてくるから、ワイヤーの準備を頼むと四人に頼んで勢い良く溜池の中に飛び込む。そこそこ深い溜池の中を息が続くまで潜っていると戦車らしき姿が確認できた。三号突撃砲発見、マッコイは浮上して発見とピースサインを見せた。

 

「ワイヤー投げ渡してくれ、引っ掛ける」ロックが四号戦車と連結したワイヤーをマッコイに投げ渡す。それを受け取ってもう一度溜池の中に潜り、三突の引っ掛けに取り付ける。後は牽引するだけだ。

 

 陸に戻って持ってきていたタオルで最低限体を拭いてツナギを着込む。その後はいつものように四号戦車に乗り込んでエンジン点火、方向展開してから牽引作業をはじめる。徐々に姿をあらわす三突に優花里は目を輝かせ、よだれまで垂らしていた。

 

「三号突撃砲、ドイツ対戦車自走砲だ。こいつ一両で戦車数十両に匹敵する火力を持ってるとか持っていないとか」優花里はいつものように頬擦りしている。その姿に四人は苦笑いを見せながら、外装と内装の確認をはじめる。流石に水の中に長い間放置されているため、色々と劣化が激しい。三号突撃砲がメジャーな戦車じゃなければ、修復は難しいと言わざる負えない状態だったが、一応はメジャーな戦車なので修復は可能だ。

「どうですか? 動きそうですか?」と優花里。

「ああ、普通に使える。ただ、パーツ取り寄せないといけないからな。それに生徒会に報告とか」マッコイは三突の装甲を撫で、すぐに動ける状態にしてやるからな、と、小さく呟いた。

 

 後日。

 生徒会長角谷杏はあっけらかんとした表情でマッコイの報告を聞いていた。まだ一ヶ月も経っていないのに三両の戦車を発見し、その中の二両は既に稼働できる状態にあるというのだ。彼女は尋ねる、この学校に残っているであろう戦車は後何両くらいだと。マッコイは少し考えて、多分、あと五両はあると思いますと告げる。彼女はこのままのペースで戦車が発見され続ければ、戦車道を復活させるのも悪くないと考えた。国からの補助金も手厚い戦車道を行えば、色々と学園艦の維持も楽になる。公式戦に出て知名度を向上させることも不可能じゃない。

 

「いいねぇいいねぇ、このままのペースで戦車探してちょうだい。来年戦車道復活させるのも視野に入れておくから。もちろん、復活させたら君達男子生徒四人も大会に出させてあげるよ。ルールブック的には男子OKだし」会長はにこやかに背伸びをしてマッコイの肩を叩く。

「あ、そうだ。男子戦車道部に入部希望者が出たんですが、女子生徒なので部の名前を普通の戦車道部に変更したいのですが、大丈夫ですかね?」優花里から預かってきた入部届。それを会長は受け取って、気さくに了解と一言告げる。

 

 マッコイは一礼してから生徒会室を後にする。

 

「一ヶ月も経たないうちに三両も戦車を発見。幸先いいねぇ」呟くと隣で鎮座していた桃がそうですね、と、相槌を打った。

 

 

 大洗女子学園に入学して約一ヶ月、四号戦車を主体とした練習をはじめた。実家から三突のパーツを取り寄せたのだが、次の寄港まで離れているため、三突の整備は繰り上げとなっている。戦車の捜索もやりたいところなのだが、戦車道部として戦車を動かしたいという気持ちもある。だから、一日置きに稼働練習と戦車捜索を繰り返していた。

 

「クラッチはもっと丁寧に繋げ、変にエンジン音響くから相手に位置がバレる」マッコイは車長席からジミーに指示を飛ばす。

「難しいね……でも、動かしてるって実感はわくかな……」ジミーは慣れない操縦に四苦八苦しながらも、徐々に上達している。

「流石に学園に残されていた砲弾が全部湿気ていた時は涙でござる……」砲手を任されているハルは溜息を吐き出して、自分の役割が果たせないことに落胆していた。纏まった砲弾が届くのは三突のパーツと同日だ。

「私も装填する砲弾がなければやること無いのよねぇ」ロックも自分の役割が果たせなくて顔をしかめている。

「自分なんて通信する相手がいないでありますよ……」優花里も自分の役割が果たせないで悲しそうになっている。

 

 三人の視線がジミーに降り注ぐ。

 

「「「(ジミーが地味に活躍してる……少しショック……)」」」

「(なんか物凄く心が痛むことを言われたような……)」

 

 車長のマッコイは四人のことなど知らないという表情でジミーが纏めたノートに目を通す。三式中戦車の目撃例がなぜだか駐輪場の周辺に集中しているな。マッコイは登下校をしていた時のことを思い返す。そして、ダラダラと汗を流しながら、小さく、あった。そう呟いた。

 日本戦車は色々と影が薄い。対戦車戦闘を視野に入れず、歩兵支援車両として製造されていた部分がある。そこがイギリス戦車と日本戦車の共通点だ。装甲の差は敵の危険度の差だろう。

 

「ジミー、駐輪場の方に行ってくれ」操縦初心者のジミーに無茶振りを入れる。

「えっ? あの細い道を通るの……怖いんだけど……」ジミーは流石にあの細い道を操縦をはじめて数日の自分が通るのは難しいと意見するが、そうしないと上手く操縦できないぞとマッコイに強く言われ、断れずそのまま駐輪場に四号戦車を走らせる。

「でも、どうしていきなり駐輪場なんですか?」優花里が静かに質問すると影が薄い戦車が一両あるんだよな。と、苦い顔をしながら説明する。頭上に?マークを作りながらも、駐輪場に到着した瞬間に!マークに変貌する。そこには三式中戦車が寂しそうに鎮座しているからだ。

 

 マッコイはこいつの影の薄さに脱帽したと一言告げて外装と中身を確認する。不動車ということである程度劣化が進んでいるが、四号や38(t)、三突に比べれば断然綺麗な状態で残っている。腐った燃料を排出して、消耗部品の交換をしたら普通に動くようになるだろう。

 

「……なんか、見たことあります。ですが、認識出来てなかったであります」戦車大好きな優花里がアスファルトの地面に四脚をついた。戦車を愛してやまない自分が、この三式中戦車を発見できなかったことに色々と負の感情が巡っているのだろう。マッコイの方も、戦車整備工場の息子なのに戦車をスルーしてしまって、悩ましく思っている。

 

 ロックが二人のことを察したのか、黙って四号戦車と三式中戦車をワイヤーで連結する。流石に牽引作業は慣れていないから怖いと言ったジミーと交代する形でマッコイが操縦席に座る。

 

 

 徐々に集まりはじめる戦車達。だが、一つ大きな問題がマッコイの前に立ちはだかった。それは三式中戦車のパーツである。チハやハ号のような生産台数の多い車両はパーツを入手することが容易であるのだが、三式中戦車のような本当にレアな車両はどうしてもパーツの手配が難しくなる。日本戦車に精通するマニアに知り合いはいるのだが、気分屋な性格の人のため、協力してくれるかどうか、それが問題だった。

 

「比較的綺麗な状態でござるから、修復も容易でござろうな」

「いや、三式中戦車のパーツってあんまし流通してないんだよな。専門の業者に頼んだら俺達の予算すべて掻っ攫われるかもしれないし……叔父さんに頼るしか無いのかね……」

「あの変人の叔父さんでござるか……」ハルは叔父さんという単語を出した瞬間に顔をしかめる。

 

 他三人はキョトンとした表情になるが、マッコイとハルの表情は徐々に渋くなっていく。

 あの叔父さんというのは、日本日本戦車愛好連盟会長、松本高志その人、そして、マッコイの叔父さんだ。マッコイがティッシュペーパーから戦車までなら、叔父さんは日本戦車のネジから幻の四式中戦車、五式中戦車までという超弩級の日本戦車好きの変態だ。多分、三式中戦車のパーツは腐る程に取り揃えていて、無いなら作っているだろう。だが、この人は本当に気分屋でコレクションに余裕がなかったら何も与えてくれないような性格の人だ。協力してくれるかどうか、本当にわからない。

 

「……ダメ元で連絡してみるか」マッコイは気乗りしない表情で携帯電話を取り出して登録されている叔父さんの番号にかけてみる。すると1コールで電話に出た。

「どうしたんだいコウちゃん、面白そうな日本戦車見つけた?」

 

 マッコイは物凄く渋い表情になりながら、三式中戦車のパーツが余っていないかを尋ねる。

 

「どの部分が欲しいの? エンジンパーツなら腐る程あるから大丈夫だけど。というか、作ってる」

「エンジンの消耗品を少々と砲塔の旋回装置」旋回装置の故障と聞いた瞬間にごめん、それは余ってないかな、と、冷たい口調で帰ってきた。ああ、これは貰えないパターンだと察して、そのまま電話を切ろうとする。が、叔父さんが一つ余ってるのあったわ、と、言った瞬間に切ることをやめた。

「三式中戦車の砲塔旋回装置は無理だけど、二式砲戦車の砲塔は普通にあるよ。三つくらい余らせてる。砲は駆逐戦車(甲)仕様の57 mmを付けるね。あと、オークションで間違えて買っちゃったM22軽戦車もあげるよ。日本軍鹵獲仕様のM3軽戦車って書いてたのに送られたのはM22軽戦車なんて笑っちゃうよね」

 

 一式中戦車、二式砲戦車、三式中戦車の車体は共通している。砲塔は少しの加工で取り付けられる。三式中戦車の砲塔は重たいから、機動力に悪影響を及ぼしている節があるが、二式砲戦車の砲塔を付ければ機動力が改善され、ディーゼルの燃費も享受できる。四号はなんやかんやで燃費が悪い。

 

「じゃあ、大洗にそれらを送ってください。お金は」

「その三式中戦車の砲塔と砲でいいよ」

「いいんですか? それだと結構な赤字に」

「お金なんてどうでもいいんだよ。腐る程持ってるし」

 

 マッコイはそうですね、と一言返して電話をきった。なんだろうか、あの人のペースに飲まれたら何も出来ないと心の底から思ってしまった。だが、必要なパーツとおまけで戦車まで貰えた。色々と目まぐるしいが、事態が好転したことに胸を撫で下ろす。

 

「交渉成功、あの人やっぱり苦手だわ……」ぐったりと苦い表情を見せる。ハルは叔父さんのことを多少なり知っているので、背中を撫でて介抱する。

「で、どのくらいの収穫があったのでござるか?」

「ああ、三式中戦車の形は失ってしまうが、二式砲戦車の砲塔と57 mm砲を送ってくれるって言ってる。駆逐戦車(甲)の仕様だな。あと、M22軽戦車もおまけでプレゼントしてくれるとか」

「おお、五両目はイナゴでござるか」またガソリン車だよとマッコイは苦笑いを見せる。

 

 マッコイとハル以外の三人はマッコイが本当に凄い家の出身で、凄い人と知り合いなんだなぁ、と心の底から思った。

 

 

「やあやあ、最近は生徒会室に来ること多いねぇ、何かあったの?」会長はマッコイの登場に少し疑問を抱きつつも、明るい歓迎をしてみせた。マッコイの方は苦笑いを見せて、

「知り合いから戦車を譲ってもらったんですが、リースか学校の保有にしないと補助金が出ないので、どっちにするか生徒会の方で決定してもらわないと」

「え、実家から戦車持ってきてくれたの?」流石に戦車整備工場の次男坊でも自分の一存で戦車を持ってきたりすることが出来るのだろうか、少し疑問を抱きつつも、彼がこの学園に持ってくる戦車の資料に目を通す。

 

 M22軽戦車 Locust、アメリカが製造した空挺戦車だ。まあ、アメリカ本国が使用する目的ではなく、イギリスの要望で製造された部分が強い。

 会長は少し考えて、マッコイに質問を投げつける。

 

「リースと学校保有、どっちが使い勝手がいいの?」

「リースだったら国からの補助金で借りられることになりますし。取り押さえられた時は貸してる側に車両が戻るだけで済みます。学校保有だったら国からの補助金が学校側に入ってきて、生徒会側が決済やら色々とやらないといけなくなりますね。個人的には、リースという立場で国からの補助金を受けて、その補助金を全部戦車道部の経費にあてたいところなんですが」会長は考える、大洗女子学園の財政はそこはかとなく危うい。ここは学校保有という形にして一円でも予算を確保しておきたいと。

「うーん、こっちも財政厳しいから学校保有にさせてくんない?」マッコイはわかりましたと返事を返す。会長は判子を押した。

 

 マッコイは一礼してから生徒会室を離れた。

 

「まさか探すだけじゃなく、戦車を引っ張り出してくるとは。奴の行動力は底なしですね」桃は会長にそう言葉を投げかける。会長も静かに頷いて、物事が上手く運びすぎて怖いくらいと弱音を吐いてみせた。

 

 

 

to be continued

 

 

 

【おまけ】

 

 松本高志、四十五歳、一児の父であり、日本日本戦車愛好連盟の会長を努め、職業は投資家を名乗っている。無類の日本戦車好きであり、彼の家の地下には幻の日本戦車が数多く眠っている。その最たるものが彼の目の前で見事に輝いている四式中戦車だ。池に沈んでいるという噂を聞きつけた彼が一人で潜って探し当てたらしい。多くの調査団が探し当てられなかった戦車を見つけ出した彼の勇姿に世界各国の日本戦車ファンが泣いた。そして彼も泣いた。

 付け加えて、四式中戦車をおかずにご飯三合は食べたらしい。夜のおかずにも。

 

「パパは本当に戦車が好きだよね」今年で小学三年生になる長女の葵が彼の隣に立って四式中戦車を眺める。

「葵は日本戦車好きかい?」即答で弱いから嫌いという返事が返ってきた。これは父親でも苦笑い。

 

 彼は静かに四式中戦車の装甲を撫でて、狂おしい表情を娘に見せる。流石に小学三年生とはいえど、父親の奇行に引いてしまっている。だが、日本戦車に関わっていない時の父は普通の人間だから嫌いになれない。

 

「この四式中戦車はシャーマンにすら負ける雑魚、五式もペラペラの雑魚、その後ろでデカい図体してるオイ車も基本的には雑魚、故障魔神。だけどね、僕はそういう日本戦車の欠点だらけのところが大好きなんだ! 葵も僕の遺伝子を受け継いでいるからすぐにそうなるよ!!」

「ぱぱ……嫌いになるよ……」

「ごめんなさい……」




【松本高志】
 日本日本戦車愛好連盟会長。職業は投資家で、色々と金持ち。自宅の地下には日本戦車展示スペースがあり、幻の四式中戦車、五式中戦車、オイ車やら色々とキチガイじみたラインナップが揃っている。仕事をしている時は真面目な人なのだが、プライベートは奇人である。

 8800~9500文字くらい安定かな?


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03:入部者現る。

 ガルパンはいいぞ(少し短め)


 季節はぼちぼち梅雨の季節に突入しようとしていた。だが、ここは学園艦、梅雨の影響はそこまで受けず、一番の脅威は勢力を落とさないで進行する大型台風くらいのものだ。戦車道部の面々は気怠そうに空を見上げていた。三突以降、学園艦に隠された戦車を見つけることが出来ない五人は色々と気を落としていた。

 

「大洗女子学園が比較的小型の学園艦とは言えど広大だからな、それに入り組んでいる部分もある。探しにくいたらあらしないな……」

 

 四両の二度目と五両目一回目の洗車作業を終わらせて溜息を一つ。五人で五両の洗車作業は日曜日で時間を持て余しているとは言えど気が落ちる。マッコイは生温い麦茶を飲みながらもう一度空を見上げる。そして、部員を後に二三人かき集めたいと心の底から思った。

 三式中戦車から駆逐戦車(甲)に姿を変えたそれの上に乗って、色あせてきたジミーが記したノートに目を通す。M3中戦車の目撃例がウサギ小屋に集中している。お宝戦車の89式を血眼になって探した部分があるから、どうしても近場の目撃情報に足を運ぶことをしなかった。マッコイは自分のミスだな、と、渋い顔をした。

 

「おお、日に日に戦車が増えてる……」

 

 瓶底眼鏡をかけた少女が駆逐戦車(甲)を見上げている。マッコイは優花里と同じデジャブを感じる。

 

「戦車好きなの、入部する?」過酷な洗車作業や整備作業の疲労度軽減の為に部員をかき集めたいと思っていたマッコイ。即座に入部するかと尋ねた。

「マッコイちゃん、流石にいきなり入部を迫るのはどうかと思うわ。お名前は?」ロックは入部を迫るマッコイをなだめて、名前を尋ねる。

「あの、えっと……ぼく猫田です。ねこにゃーって呼ばれてます……」ねこにゃーはもじもじしながら自己紹介を終える。

 

 マッコイは叔父さんから貰ったM22軽戦車に飛び移り、操縦席に移動。そのままエンジン点火。言葉で入部を迫るより、乗せて自分と相性が良いかを確認させた方がいいと考えての行動だ。

 

「ジミー、そこら辺流すぞ。ねこにゃーこっちに乗りな」キューポラから手招きをする。ねこにゃーは初戦車だと興奮気味にM22軽戦車に乗り込み、キューポラから笑みを浮かべていた。

「流石に軽戦車と中戦車じゃあ速度の差が出るねぇ……」ジミーは駆逐戦車(甲)を動かしながら呟いた。

「いえ、今は駆逐戦車(甲)ですよ、中戦車じゃありません」優花里から鋭いツッコミが入り、苦い顔を見せる。

 

  街中を走らせていると目を輝かせている少女が一人で手を振っている。入部希望者かと思ってマッコイは即座に停車、乗っていくかどうかを確認する。すると彼女は目を輝かせて乗車した。

 

「戦車道復活したちゃね!」

「いや、復活はしてないが、部活として存在してるんだなぁこれが。おっと、自己紹介がまだだったな、俺の名前は松本浩二、親しい奴らからはマッコイって言われてる」

「……ぼくは猫田です。ねこにゃーって呼ばれてます……」

「ねこにゃー? もしかして、ねこにゃーさんですか!?」少女は嬉しそうにぴよたんとねこにゃーに告げる。するとねこにゃーも同調して、まさかぴよたんさんですか!? と、驚きながらも感動の表情を隠せないでいた。マッコイはなんのコミュニティなのだろうかと思いながらも、学園艦を流して走らせる。

 

 ロックはモテモテな男は辛いわね、なんて思いながらM22を眺める。優花里は少し速度が落ちましたね、と、冷静に分析する。ジミーは若干追い付きやすくなったと内心喜んでいた。ハルは女ったらしが再発したかと苦笑い。

 

「携帯無線機取ってくれ」マッコイがねこにゃーに無線機を要求する。

 

「あ、はい」ねこにゃーは携帯無線機を取り出し、運転中のマッコイに手渡した。

 

 マッコイは運転しながら器用に無線機を操作して駆逐戦車(甲)に連絡を入れる。出たのは無線手をやっている優花里だった。マッコイは胸を撫で下ろす。もしロックの声が響いたらSAN値がまた削れて、発狂まで近いと思っていたからだ。案外マッコイのSAN値は低めに設定されている。

 

「あら、私の悪口を言わなかったかしら?」男の勘なのか、女の勘なのかわからないが、マッコイが自分の声を聞きたくなかったことを感じ取ったロックが優花里から無線機が奪い取って声を聞かせる。

「SAN値が削れるだろうが……」マッコイのSAN値が1減った。

 

 無線機は再び優花里の元に戻り、マッコイは内容を伝える。簡単に説明すれば、M3中戦車の目撃例があるウサギ小屋から倉庫に戻るという単純なものだ。

 

「M3中戦車の目撃例があるからね」ジミーは自分が記したノートの内容を思い出し、静かにM22軽戦車に付いていく。

 

 十分後にウサギ小屋に到着し、何故か小屋の中にM3中戦車が入れられていた。その隣には兎が飼われている。兎小屋周辺には足を運んでいないから流石に見覚えはないなと思いながらどうやってこのM3中戦車を取り出すかを考える。

 

 

「うーむ、これどうやって入れたのやら?」

「オカルトちゃね……」

 

 マッコイもジミーもエンジンを切って兎小屋を周囲から確認してみる。するとニッパーで切られた後とガスバーナーで接着された後が確認できた。おいおい、M3中戦車はたいした価値にならないから別にこんな場所に隠す必要ないだろう。三突を池に沈めた奴らに触発されてこんな場所に隠したのか、なんて、マッコイは心の中でツッコミを入れまくるが、ここに隠した奴はこの場所にはいない。

 

「こんな場所に隠した先輩方に脱帽であります」優花里も流石に発見の感動より、隠した先人達の発想に呆れ果てていた。

「リー先生は六人乗りだったかな……」

「確かそうだっちゃね」

 

 駆逐戦車(甲)の中からニッパーを取り出し、金網を切りはずす。バーナーは流石に持ってきていないので、後日接着に向かうことにした。牽引が出来る程度の穴を作り、中に入って劣化具合を確認する。38(t)のように野ざらしだったわけではないので、保存状態は四号戦車に近いものになっている。

 

「またパーツ注文しないとなぁ」マッコイは駆逐戦車(甲)にワイヤーを連結、M3中戦車にワイヤーを引っ掛ける。

 

 マッコイはジミーに牽引出来るかどうかを確認する。ここからは広い道の連続だからギリギリ大丈夫という返事が返ってきたので、牽引作業を彼に任せてM22軽戦車の操縦席に戻る。 

 

 

 後日。

 もう頻繁に現れ過ぎて生徒会のメンバーなのではないのかと錯覚しはじめた生徒会の三人。いつものように会長は気さくな笑顔で戦車あった? そう告げる。するとM3中戦車を見つけました。パーツが届き次第使えるように手配しますと説明する。六両目の戦車、乗る人間さえ集めれば試合に出れる車両数だ。

 

「それにしても仕事が速いねぇ」

「色々と情報が残ってますから探すことは容易ですよ。倉庫まで持っていくのが一苦労ってだけで」

 

 マッコイはねこにゃーとぴよたんの入部届を会長に渡す。入部者も徐々に増えてるねぇと笑みを浮かべて入部届を受け取った。

 そのまま生徒会室を退室しようとするが、結構な頻度でここに来て学校側に貢献してくれているのだ、お茶でも飲んでいったらという言葉がかけられる。流石に生徒会長の誘いを断ることは出来ず、ソファーに腰掛けてお茶が出されるのを待つ。

 

「粗茶ですが」副会長の小山柚子が緑茶を淹れた。

「ありがとうございます」マッコイは少し恐縮気味にお茶を受け取って、口にする。柔らかい良い味が出ていた。

「それにしても、学校の戦車を見つけるだけじゃなくて、他の場所から戦車を持ってくるとは夢にも思わなかったよ。凄いね君」会長は干し芋を口に加えながら、ソファーに腰掛けた。

「まあ、親戚の叔父さんが手違いで購入したものを貰っただけですし、車両数が多ければ多い程に補助金も増えます。学園の維持費に当てられるとしても、パーツ代程度は部に回るわけですから、増やすことは悪いことではありません」会長は静かに頷いて、やっぱり戦車道は補助金が凄いから最近は維持が非常に楽だと語った。

 

 小型の学園艦とは言えど維持費はかかる。大洗女子学園は目立った何かを持っているわけではなく、本当に普通の学園艦なので収入は学費だとか、国からの補助金だとかが頼りになる。だが、最近は補助金が少なくなったり、燃料費が高騰したり、色々と負の連鎖が続いている。そこに現れたらマッコイ率いる戦車道部はこの学園艦の維持に大切なお金を産み落としてくれる金の卵を産み落とす鶏だ。

 

「ごめんね、松本くんの戦車を学園保有にしちゃって」一応は彼の所有物としての意味合いが深かったM22軽戦車を補助金のために学園保有にした。言い放った時は何も思わなかったが、戦車という高価な物をタダで学園側に寄付しろと言ったようなものだ、少し経ってから罪悪感を感じはじめる。

「いいんですよ、実家の肥やしにするくらいなら、この学校で末永く動かしてもらう方が。それに突発的に譲り受けた品なので思い入れはありません。思い入れがあるのは……いえ、語るが野暮ですわ。罪悪感は抱かないで結構ですよ」マッコイは最後の方にお茶を濁す。思い入れがあるのは、少し詮索したい気持ちにはなるが、顔を見ていると彼が言った語るが野暮という言葉がしっくりくる。この学校に来る前に何かしらがあったのだろう。生徒の長として詮索はやめておこうと決めた。

 

 マッコイはお茶、ありがとうございますとお礼を言って生徒会室を出る。

 

「最近は少子高齢化で学園艦の統廃合推進が騒がれてるからね。うちもなにか目新しいことをしないと潰されちゃうかも」会長は頭を掻きながらこの学園艦が置かれている立場を呟く。柚子と桃は渋い顔をしてその言葉に頷いてみせた。

「そこで戦車道ですか」最近は人気が振るわない戦車道だが、なんやかんやで知名度は高い武道。国からの補助金も手厚く、世界大会の誘致やら、プロリーグの設立やらで揺れている。そんな状況で戦車道を出来る状態を作るのはとてもいい判断だ。彼女達はなんやかんやで四号戦車を見つけて整備して、そして部を立ち上げたマッコイに感謝している。

「タイミングが重要だよね、今年は無理にしても、戦車道を復活させるみたいなアクションは大切だと思う。結構厳しい立場に立たされてるんだよね、この学校」

 

 この生徒会長の考えが廃校阻止の一歩になるとは誰も思わなかっただろう。

 

 

「こちら駆逐戦車(甲)、聞こえるか?」マッコイがM22軽戦車に無線を入れる。

「……ばっちり聞こえてるよ」戦車に乗るようになって性格が若干明るくなったねこにゃーが返事を返す。

「操縦って、難しいですね」優花里は目を回しながら操縦している。だが、筋はいいのか綺麗に走れているとマッコイは驚いている。

「早く撃ってみたいっちゃ」砲手兼ね装填手のぴよたんは興奮しながらスコープを覗き込んでいる。

 

 ようやく纏まった砲弾が届き射撃訓練もある程度出来るようになった今日此の頃。今日は戦車捜索の日なのだが、三人も入部してくれたのだ、二三日は普通の戦車道の練習をして問題ないだろうというマッコイの判断だ。結構昔に戦車道をやっていたとは言え、訓練場はあって普通に射撃訓練は出来る。戦車で少し整地したりはしたが、それは一日で終わるような単純な作業、今は来てすぐに砲撃の練習がはじめられる。

 

「狙って、狙って、狙って、撃て、それだけ」マッコイは酷く大雑把に砲撃の説明をする。簡単に説明をさせてもらえば、マッコイは整備したり動かしたりすることは得意だが、どうしても撃つことに慣れていない。整備する立場の人間が頻繁に砲手として戦車に乗ることはまず無い。使用過多になった砲のバレルを掘り直したりする作業で何回か撃ったことはあるのだが、二桁程度の回数だ。得意になれるわけがない。

 

「ネットで確認したっちゃ」

「拙者も同じく」

 

 一応はやり方を理解しているようで、砲撃訓練は順調に進んだ。M22軽戦車も駆逐戦車(甲)も口径が小さく、弾速が早い主砲を搭載しているのでブレが少なく初心者には撃ちやすいのが影響しているのだろう。砲弾が半分程使用された後に走行の練習を開始する。

 

「この部分は俺の十八番だ。簡単に説明させてもらうと出来る限り早く走れ、クラッチ丁寧に、止まる時は止まれ。これだけで基本的には大丈夫だ。高等技術は後々教える」ジミーと優花里は言われたように全速力で走り抜け、クラッチを出来る限り丁寧に繋ぐ。そして停止命令が出たら停止して、蛇行運転をしろと言われたら蛇行運転を開始する。なんやかんやで筋がいいと酷く感心する。

「(ジミーがここまで上手く動かせるとは夢にも思わなかった)」

「(なんか、悪口が聞こえたような……)」ジミーは人の悪意に敏感な人間だ。

 

 マッコイはこのまま試合に出しても申し分ない練度だと率直に思った。だが、今動かせる車両は二両、本当に良心的な学校じゃないと練習試合なんてさせてもらえないだろう。マッコイは少し考えて一人だけ練習試合を了承してくれそうな人を思い出した。アンツィオ高校の安斎 千代美、松本戦車整備のお得意さんの一人だ。

 今更だが、日本の三大戦車整備工場の説明をさせてもらおう。

 まず、日本で一番勢力を持っているのが熊本戦車整備だ。西住流の本拠地である熊本に本社を置き、主に西住流に関係する学校や社会人戦車道の戦車整備を行っている。料金は非常に高いが、高い技術力と整備の速さ、完成度の高さ、どんな無茶振りにも対応出来る適応力が評価されている。西住流の影響力もあるのだろうが、金があるなら熊本戦車整備に頼れという言葉も残されている程に信頼が厚い。

 次に日本で二番目の勢力を誇る戦車整備工場、針山戦車整備。この戦車整備工場は横浜にあって、そこそこの技術と熊本整備工場に匹敵する整備の速さが売りだ。だが、アフターサービスが悪く、整備士の質も低いと悪評があり、扱う戦車のパーツも海外生産の物を多く使っているため耐久力が低い。それでも安いからという理由で針山戦車整備で整備を行う高校も多いが、安物買いの銭失いと言われる。

 次に日本で三番目の勢力を誇る戦車整備工場、松本戦車整備。長崎県に本拠地を置き、非常に礼儀正しい整備士が整備に向かうと評判がいい。技術力は高く、希少な戦車でも普通に修理し、パーツを自社で製造したり徹底した品質管理を行っている。だが、慎重で丁寧な仕事をするため整備時間が長く、パーツの発注に時間がかかったり質は最高なのだが速さが足りないと言われている。費用は比較的安く、半年の品質保証もついていて、部品の販売も行っている。珍しい戦車に乗るなら松本戦車整備が一番という格言も残されている程だ。

 話を戻そう。アンツィオ高校は針山戦車整備のお得意様だったのだが、品質の悪さと耐久力の低さを問題視し、最初は熊本戦車整備を検討していたが、予算の都合上やもをえず松本戦車整備に整備の依頼を出した。夏休み期間中だったので、職人と一緒に戦車整備に向かったマッコイはなぜだかドゥーチェとか呼ばれて讃えられている安斎 千代美、アンチョビと仲良くなってメル友になっている。整備の方は部品の耐久力が高く、壊れた時でも数日で整備士が駆けつけて整備してくれるので、快速戦車を主軸にしているアンツィオ高校は大変満足、それ以来松本戦車整備のお得意様だ。

 

「練習試合したい? 知り合いに戦車道やってる人いるけど」マッコイは面白半分で部員全員にそう尋ねてみる。すると今の練度で大丈夫なのかと質問されるが、これだけ動かせたら余裕と返すと悪い気持ちはしなかったのだろう、やれるならやりたいと返ってきた。

 

 マッコイは携帯電話を取り出して、アンチョビに『戦車道部作ったから練習試合やらない?』そんな軽い感じでメールを送信したら十秒後には返事が返ってきて、色々とヤンデレの片鱗を感じさせた。女ったらしのマッコイはそんなこと微塵も感じないで内容を確認する。

 

『学校の許可貰ってくる。こういうのはノリと勢いが大切だからな!』

 

 ノリと勢いが大切。マッコイはこの世界に名言が一つ誕生したと感心していた。そのまま『許可取れたら電話して、愛しのアンチョビ姉さん』と返信、三秒後になぜだかアンチョビの名前やら住所やらめちゃくちゃ個人情報が書かれた紙切れの写真が送られた。そしてそれをよく見てみると婚姻届だった。しかもゼクシィに付属されているピンク色の婚姻届。マッコイは『冗談キツイっすよ姉さんw』と返信して携帯電話の電源を切った。色男の本能なのだろうか、これ以上のメールのやり取りは危険と感じた。

 

「逃さないぞ、マッコイ……」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 そんな声がどこからか聞こえたような気がした。

 

 

 

to be continued

 

 

【おまけ】

 

 

 少女は自分のことを至って正常な人間だと思っていた。いや、今でも自分が正常な判断をして、正常な行動を行っていると思い込んでいるだろう。だが、彼女の正常な判断は、松本浩二という彼女より一つ年下の少年によって破壊されていた。恋は盲目、人を変えるなど色々なことが言われているが、彼女は色々と変えられている。

 ヤンデレという言葉をご存知だろうか? 少なからず、メンヘラという言葉よりかは認知度が高く、そして、彼女に似合っている。彼女はヤンデレだ。色々と病んでいる。独占欲が強いのか、月に一回はマッコイ監禁計画を練ってしまう程だ。

「姉さん、また写真の人にうっとりですかい? 飽きないっすねぇ」ペパロニが苦笑いを見せながらアンチョビに意見する。アンチョビは壊れた笑みを見せて好きだからしょうがないだろうと平然と言ってのける。好きだから監禁計画を練ったり、婚姻届の写真を送りつけたり、これは好きの範囲なのだろうか?

 

「すぐに許可を下ろしてやるからな……」

 

 アンチョビのマッコイ監禁計画は徐々に進んでいた。




 絵はあんまし得意じゃないので汚いですが、無いよりあった方がいいかな? なんて。
 誤字脱字の報告や感想は好きなので何度でもOKですよ、キツイ言葉も勉強になるので構いませんぜ。

 追記

 ももがーが一年生だという事実を知って書き直しました。次の話もももがーが出演していたので、ちょっと書き直すのに時間がかかります。


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04:練習試合

 ももがーが原作基準で一年生だということを知らないで作品を書いていました。

 この話しもももがーが居ることを前提で書いていたので、ももがーの描写を全部切り取って、優花里を操縦手にしました。

 ですが、速攻で書き直したので、ももがーの描写が残っている可能性があります。

 その場合は報告してくれたら嬉しいです。


 新聞部の五人は青褪めた表情を見せながら、四号戦車に乗り込んでいた。

 

「正直、頭痛くなるよね……取材料高いよ……」車長の赤岩が涙を溜めながら呟く。

「赤ちゃんのせいだよ……戦車道部の男子を取材しようなんて言った」装填手の青峰が溜息を吐き出した。

「発案したのは青ちゃんじゃなかった?」通信手の黄瀬が青峰を指摘する。

「運転難しいんだけど……」操縦手の緑野が目を回しながら操縦桿を握る。

「全部全部、政治が悪い……」砲手の黒田がすべてを放り投げて気を落としていた。

 

 新聞部に所属している一年生。入学してまだまだ一ヶ月とちょっとしか経っていないが、面白い記事を書けていないと新聞部部長百敷に怒られてスクープの宝庫、戦車道部に足を運んだのだが、マッコイに丸め込まれて戦車に乗せられていた。

 

「「「「「取材料高いよ……マッコイ……」」」」」

 

 

 アンツィオ高校との練習試合が近い。流石に二両で練習試合は心細さを感じる。愛の囁きのおまけで聞かれた大洗側の車両数。二両と答えるとそれは部活として成立するのかと久し振りに病んでいないアンチョビの声を聞けて嬉しいと思えたマッコイだが、確かに二両では心細い部分がある。人数を割って三両連れていくのも出来ないことはないのだが、五人乗りの戦車なら五人、三人乗りの戦車なら三人と乗るべき人数と役割は決まっている。一人でも欠けたら戦闘に若干だが不具合が生じる。そう考えるとやはり二両が一番なのではないだろうか。

 

「どうもどうも、新聞部の赤岩と言います。取材いいですか?」カメラを構えた赤岩と他四人の新聞部に所属している生徒。マッコイはニンマリと悪い笑みを浮かべて三両目の乗組員が見つかったと心の中で呟いた。

「あら、新聞部の取材? お化粧直した方がいいかしら」汗で軽く化粧が剥がれていたロックが取材陣に生温い麦茶を振る舞う。その姿に苦笑いを見せながらもありがとうございますと麦茶を受け取りグビグビと飲み干した。

「まあ、四人だけの男子生徒と突然結成した戦車道部、取材されるのもわからないこともないでござるな」ハルは満足げにふんぞり返っている。男の娘大好きの性犯罪者が居たら即座にハイエースに連れ込むだろう。

 

 マッコイ倉庫から四号戦車を連れてきてニンマリと見せつける。新聞部の一年生は写真を取りマッコイとは真逆の方向性の明るい笑みを見せる。マッコイは今度試合があるんだけど、間近で見たくない? なんて色々な部分をへし折って試合のことを説明する。すると是非取材させてください! そう赤岩は名乗りを上げる。

 マッコイは静かに頷いて観戦の許可が必要だからこの書類にサインちょうだいと笑いながら五枚の書類を倉庫のダンボールの中から取り出して、ボールペンを手渡す。

 

「そこに名前書いてね」新聞部一年の一年達はマッコイのことを疑わず、自分の名前を書き記した。

 

 ロックはその書類を覗き込んでみると頭を抱えた。その書類は観戦許可の書類でも、外出許可証でもなく、戦車道部への入部届だった。この学校は兼ね部が許可されており、部に所属していても助っ人のような立ち位置で入部することは出来る。それを逆手に利用したマッコイの悪知恵だ。

 

「はい、戦車道部入部ありがとうね」五人から入部届を受け取った瞬間に眩い笑みを浮かべて入部を歓迎する。新聞部の五人はぽかんとした表情でなぜ戦車道部に入部したのか? なんて思い始めるが、赤岩は目を凝らして名前を記入した書類を見てみると普通に入部届と書かれていた。なぜ自分達はそんな初歩的なことに気づかなかったのだろうか、そう思い詰めるが時既に遅し。

 

 マッコイは見た目に似合わないスキップをしながら入部届をジャンクショップに投げ売られていた金庫の中に仕舞い込んで自己紹介をしようかと提案する。新聞部一年は冷や汗をダラダラと流していた。

 

「俺の名前は松本浩二、フレンドリーにマッコイって呼んでいいぜ」眩い笑みでマッコイ。

「ごめんね、うちの部長は強引だから。私は岩下六郎、ロックって呼んでいいわよ」苦笑いでロック。

「何がなんだかわからぬでござるが、拙者は春山春樹、ハルと呼んでいいでござるよ」少し違和感の残る表情でハル。

「僕は山崎新八……ジミーでいいよ……」悲しい表情でジミー。

「秋山優花里であります! 一緒に頑張りましょう!!」普通に入部を歓迎する優花里。

「……ぼくは猫田です。ねこにゃーと呼んでください……」ノートパソコンでオンライン戦車ゲームをしているねこにゃー。

「ぴよたんっちゃ!」協力プレイをしているぴよたん。

 

 新聞部一年は中々に濃ゆい面子が揃っているなと若干引き気味になるが、それでも入部したからには仕方がない。自己紹介をしなければならないと碇シンジ並の逃げちゃだめだ精神で一歩前に出る。

 

「新聞部所属の赤岩です」

「同じく、青峰です」

「同じく、黄瀬です」

「同じく、緑野です」

「同じく、黒田です」

「うんうん、これからよろしくね!」マッコイは一人一人と握手を交わし、満面の笑みを見せていた。

 

 これで三両試合に持っていける。だが、この子達は戦車に乗ったこともないひよっこ。練習試合は一週間後だ。もちろん生徒会から許可は降りている。

 

「じゃあ、練習しようか、練習風景はいくらでも取材していいよ」マッコイは笑みを見せて四号の装甲を撫でる。

「あ、はい」いつものようにカメラを構えて戦車道部の面々の写真を撮る。

「じゃあ、君達は四号に乗ってね。操縦は俺がするから。操縦手になる人は見て覚えて感じて、後、マニュアルよく読んで」マッコイの早速戦車乗ろうか宣言に冷や汗を流す新聞部五人。もう逃げられないことを感じ取った。

 

 

「松本くんも強引だねぇ、新聞部を騙して入部させるなんて」苦笑いを見せながら五名の入部届を受け取り判子を押す会長。流石に練習試合があるとしても無理矢理に入部を強要するとは思わなかったのだろう。

「練習試合がありますから乗員欲しくて。まあ、練習試合が終わったら退部してもらって構わないので」使い捨てはよくないよ、カイロじゃないんだからと会長からのツッコミに苦い顔を見せる。

 

 会長は新聞部の五人をどの車両に乗せるのかを確認する。マッコイは四号に乗せますと説明する。会長の方はあの時代のベーシックに近しい車両だから悪くない判断だね、そう告げて頷いてみせた。マッコイの方も扱いやすい車両ですし、拡張性も高いので初心者には持って来いですよ。そう明るく言ってみせた。

 

「それにしても、戦車整備工場の息子にもなると戦車道が根付いてる学校との繋がりが深いものだよねぇ」マッコイは苦笑いを見せて、確かにうちの工場を贔屓にしてくれている学校とは必然的に繋がりが深い関係になりますね。そう告げると会長はどの高校が一番関わり深い? 率直に尋ねてくる。

「そうですね、やっぱり地元ってわけで、サンダースとは関係が深いです。休みの日とかに職人さんと一緒に学園艦に行ったことあります。知り合いも沢山居ますし。今回練習試合をすることになってるアンツィオは一年前にお客さんになってくれたんですけど、整備の腕を買ってくれて、仲がいい知り合いがチラホラといます。知波単もレアな日本戦車を扱っているわけで、必然的にお客さんになってますね」会長は流石は日本で三番目に大きい戦車整備工場の次男坊だと感心して、何度も頷いてみせる。

「その話を聞いてると、今すぐにでも戦車道復活させたい気持ちにはなるねぇ。でも、国への申請や予算の確保やらで今年は出来そうにないなぁ」会長は渋い顔を見せた。今現在の学園艦の運営状況は何度も話しているが悪化の道を辿っている。だが、戦車道部が誕生して少しだけ首が回るようになっているのが現状だ。金の為に戦車道を復活させたいと表現したら聞こえは悪いが、どちらかと言えば、お金のためというよりは、戦車道を目当てに入学する生徒を募りたいと思っている。学校の運営に必要なのは学生が学ぶために落とす学費であり、国からの補助金がすべてじゃない。魅力少ないと呼ばれているこの学校を戦車道一点集中型の学校にするのは心苦しさこそ存在するが、魅力の存在しない学校よりもいくらかマシだ。自分が卒業しても、この学園艦が存続できるように行動するのが生徒会長、この学園艦の頭脳の仕事だ。

「戦車に乗ってみたいならいつでも訪ねてきてください。一杯車両あるんで、好きなのに乗せてあげますよ」その時は頼むよ、そう告げてニッコリと微笑んだ。

 

 

 今日は練習試合当日。新聞部の五人は飲み込みが早かった。四号戦車に無理くり乗せられ、数週間の練習を強要され、それでもめげずに練習を続けていたら、なぜだかマッコイ達と同等の実力を身に着けていた。元々の連携力が伸びた結果なのだろうが、これは部長であるマッコイも困惑する程だ。

 車両を業者に引き渡し、学校が所有しているマイクロバスを借りて練習試合に出る十二人を乗せてマッコイが運転席に座る。

 

【注意:ガルパンの世界は免許区分が曖昧です。】

 

「松本殿は運転も出来るんでありますね」優花里が不思議そうに尋ねるとマッコイは財布の中から免許証を彼女に渡す。するとその免許証を見た全員が口を大きく開けた。

「大型バイク、大型自動車、大型特殊まで……」マッコイはそらそうだろ、実家が実家だし、国から特殊許可もらって取得したんだと言った。すると優花里がバイクは特別使わないのでは、そう質問すると細々としたパーツを忘れた時にバイクで走らされるのさ、と、顔を青くしてマッコイは告げた。

「アレはマッコイ殿が中学三年生の時、職人が工具を忘れたからと長崎から千葉までバイクで走らされた冬。拙者も……後に乗せられていたでござる……」ハルの顔色も非常に悪くなる。

「CB1300SFだったからまだましだっただろ……あれが250ccだったら本当に死んでたぞ」マッコイも顔色を悪くする。

 

 実家が実家だと苦労するのだなとハル以外の全員が納得した。

 野太いバスのエンジンサウンドが響き練習試合の会場までマッコイの比較的安全運転で移動することになる。久々に戦車以外の大型車両を運転すると言うが、路線バスとまでは言わないが運転の丁寧さに驚かされる面々。ハルはというと久々にマッコイの運転する車両に乗っているな、そう静かに思っていた。

 

 

 

 バスを走らせて数時間、早朝朝早くから出発しただけあって、女性陣は目を瞑って安眠を貪っている。マッコイ以外の男性陣は事前の作戦ノートに目を配らせていた。一応は戦車道部を立ち上げた主犯格である自分達が彼女達を纏め上げないといけないという自覚が眠気を消したのであろう。

 

「相手は快速戦車を主軸とした高校、貫通力の低い機銃戦車が大半を占めているでござるな」ハルは相手が出してくるであろう車両、CV33の情報に目を通す。

「確かにCV33を軸に車両を揃えてくるだろうけど、M41型セモヴェンテはこっちが用意した車両全部の装甲を貫通する砲性能を持ってるね」ジミーは頭を掻きながら対戦車自走砲のセモヴェンテにどう対処するか考える。

「可愛らしい戦車なのに持ってるものはBIGなのねぇ」ロックは口紅を塗りながら横目で資料を眺める。

「大会じゃなくて練習試合なんだ緊張するな。おまえ達も寝ろ、どうせ寝てないんだろ」マッコイは無表情で三人に寝るように指示を下す。だが、三人は溜息を吐き出して練習試合でも勝ちを拾えるなら拾う主義なのだと告げる。するとおまえ達も好きだねぇ、そう返事が返された。

 

 高速道路から降りると見るからに田舎の盆地に辿り着く。ここが今日の試合場所だ。

 女性陣も目的地が近くなるとポツポツと目を覚まし始め、大きなあくびが転々と広がる。そして駐車場にマイクロバスを止めると見知った顔がチラホラ、サイドブレーキをかけ、結構疲れたと一言弱音を吐いてから降車する。

 

「やあ……マッコイ……久しぶりだな……」艶めかしい声色でマッコイに話しかけるアンツィオ高校のデゥ―チェアンチョビ。声をかけられた張本人の方は何かしらの危機を感じたのか顔を引きつらせている。

「姉さん……元気だった。病気してない?」そう告げると病気はしていない、だが、強いて言うなら恋煩いをしているかもな、と、ハイライトの存在しない目を流す。二人のその姿を見ていたハルはレベル3だと心の中で呟いた。そして、レベル3ならまだマシか、そうとも呟いた。

 

 

 マッコイはこの雰囲気を打破しようとアンチョビ以外の生徒達に声をかけて握手を交わす。そして最後になぜだかアンチョビが迫り、両手を恋人繋ぎで握られた。これは握手なのだろうかと顔をもう一度引きつらせるマッコイだが、実家のお得意様の一人なので何も出来ない。

 ハル以外の戦車道部全員は色男には修羅場が付き物なのだと再認知させられていた。

 ようやく両手のホールドが解かれ、マッコイはバックステップを駆使してアンチョビと距離を放す。

 

「もうこの手……二度と洗わない……」そうやって右手をぺろりと舐めた。アイドルの追っかけでもここまで気持ち悪くないよ、そう思ったが、誰もそんなこと言えるわけがなかった。

「で、でで、で、姉さん……そっちは六両なの?」冷や汗をダラダラと流しながら質問するマッコイ。

「アンツィオの車両は装甲が薄いからな。だが、そっちは戦車に乗って間もない新人揃い。そう考えると倍の車両数が一番フェアだと思ってな」いつもの姉さんに少しだけ戻ったかと安堵の溜息を一つ。

 

 大型トラックが戦車道部の車両を運び入れる。少し遅かったな、そう思いながらも自分達が乗る戦車が無事に到着して一安心。今回戦車道部が用意した車両は、駆逐戦車(甲)、四号戦車、M22軽戦車と戦車道部の面々がいつものように乗り回している車両だ。

 

「よし、車両を定位置に移動させよう」マッコイはアンツィオのメンツに軽く敬礼して運び込まれた戦車に乗り込んでいく。

 

 車長席に座った瞬間にぐったりと項垂れて若干過呼吸気味になる。そしてキツイっすよ姉さんと小さな声で連呼する。その姿を無表情で眺める四人は因果応報なのだろうが、少し可哀想に思えるな、そう思った。

 マッコイの精神疲労が若干回復し、携帯無線機を手に取り各車両に連絡を入れる。

 

「練習試合だが、相手は小型軽量な車両が多い。機銃戦車のCV33で誘い出しを行って対戦車自走砲のM41型の射程に誘い出す作戦に出てくると思う。だから無闇矢鱈にCV33を追っかけるな、ただ、M41型を発見したら容赦なく追っかけろ、ただ、正面から撃ち合うなよ」セオリー通りの作戦を通達する。全車両から二つ返事でわかりましたと声が響く。

 

 マッコイはマップを片手にCV33が誘い出しを行いそうな場所に赤マーカーでチェックを入れる。左右両方に小高い丘と隠蔽率を底上げする雑木林、確実に両方に潜んでくるだろう。アンツィオが用意した車両はCV33が四両とM41型セモヴェンテが二両だ。

 

「はじめての練習試合だからな、焦る気持ちを極力持つな。冷静に状況を把握しろ。把握できなかったらこっちに連絡入れろ」大洗側の車両に最終通達を入れて一言、戦車前進、勝ち拾って帰るぞ。

 

 

 アンチョビは乗り慣れたCV33に乗りマップを確認する。M41型をセオリー通りに雑木林に移動させ、自分達が陽動を行う準備を行っていた。だが、マッコイ程の乗り手がこの程度の陽動作戦に引っかかる訳がないと理解している。なぜ、このような普通の陽動作戦を提案したのか、それは……。

 

「マッコイの陰部は右曲がりだからな……右側のセモヴェンテを狙ってくるだろうさ……」彼女がマッコイの陰部の事を話した瞬間にマッコイは悪寒を感じた。そして、本当に右側の雑木林に潜んでいるM41型を処理に動いていいのだろうかと自問自答を繰り返した。

 

 アンチョビが考えていたのは自分が乗り込んでいるCV33をマッコイ達が乗る駆逐戦車(甲)に差し向け、そして、処理に動いる筈のM41型に処理させるという若干リスキーな作戦だ。だが、彼女は色々と恋狂っていった。マッコイに倒せれても快感で、マッコイを倒せても快感。色々とアレだった。

 

「で、姉さん。どうしてこんな危険な賭けに出たんッスか? 確かに相手の隊長を叩けば試合が楽になるのはわかるんッスけど、その逆の隊長車両以外を倒した後に数の暴力で畳み込む方が安定してるんじゃ……」操縦手をやらされているペパロニが率直な質問を告げる。するとアンチョビはマッコイを甚振るのは私の特権だと艶めかしい声で告げた。よくわからないという表情になりながら、そうなんすね、と、明るく返事をした。彼女は世渡り上手なのだろう。

 

 

 

 所変わってここは四号戦車の中だ。二週間足らずの練習で頭角を表した新聞部の五色のメンツは熟練の操縦者を思わせる表情で一人一人の仕事をこなしていた。戦車長のレッド赤岩はマップを確認し、アンツィオのCV33が仕掛けてくるであろう座標にマーカーで印をつける。もちろんマーカーの色は赤だ。

 

「もうそろそろ仕掛けてくるだろうから気を引き締めて、青ちゃんは本気で狙って、黒ちゃんは相手が仕掛けてきても追っかけないで、一旦停車して青ちゃんが狙いやすいようにアシストお願い」的確に指示を飛ばし、キューポラから身を乗り出して双眼鏡を使用し、辺りの様子を確認する。

 

 赤岩が通信手緑野にハンドサインを送る。そのまま緑野がマッコイ達が乗る駆逐戦車(甲)に連絡を入れる。マッコイが応答し、相手車両を発見したのかと尋ねた。もう一度赤岩のハンドサインを確認すると一両発見を意味していた。

 

「そこから狙い撃てるか?」マッコイが冷静な口調で撃破可能かの有無を確認する。

「微妙みたいですね、砲撃の練習は三日しかやれませんでしたから」そう告げるとマッコイは威嚇でいいから一発撃って相手を動揺させろと告げる。

「マッコイから通達、当たらなくてもいいから一発だって」赤岩は少し考えて徹甲弾から榴弾に切り替えてと装填手の黄瀬に命令を下す。

 

 赤岩が相手車両が存在する場所に砲塔を旋回させ、打ち方はじめと声をかけた瞬間に榴弾の炸裂音が響いた。結果的には命中こそしなかったが、榴弾特有の爆発によって履帯が外れて身動きが取れない状態になってしまっている。だが、修理を行えば戦線復帰が可能な破損なので嫌々もう一発徹甲弾を打ち込んで白旗を出させる。

 

「こちら四号戦車通信手緑野、相手車両一両撃破。このまま敵の殲滅に動きます」緑野が全車両に通信を入れるとお見事と各方面から激励の言葉が帰ってくる。

「じゃあ、虱潰しって言ったら聞こえが悪いけど、四号がこっちの戦力として一番強いから全力で頑張るよ」車長の一言で燃え上がる新聞部の面子であった。

 

 

 CV33が一両落ちて相手は残り五両、作戦を変えてくるのではないかとマッコイは考える。だが、機銃戦車のCV33で大洗側の車両の装甲を貫くことは出来ない。やはり、作戦としては王道過ぎるが、比較的安全な場所にM41型を潜ませてくる。それか一両だけ忍ばせて、残り三両のCV33と同伴して足りない火力を補ってくる可能性も否定できない。

 

「ん? エンジン音……CV33か」キューポラから顔を出して辺りを見渡す。するとアンチョビがニンマリとCV33から顔を出してマッコイを見えていた。ひッ!? と、女の子のような声を上げてしまうが、深呼吸三回で平常に戻る。

「何か見えたでござるか?」ハルがそう質問すると、雑木林を縫うように抜けてる。多分、俺達を誘い出してM41型に処理させようと考えてるんじゃないか、そう返答する。

 

 誘いを受けるかどうかを瞬時に考える必要があるが、こうも容易に相手側の隊長が突っ込んでくるものだろうか? 隊長の車両同士の殴り合いは戦車道の醍醐味ではあるが、彼女達が乗り込んでいるCV33は自分達が乗る駆逐戦車(甲)より断然装甲が薄く、砲も機銃で貫通力に欠ける。だからこそ必然的に誘い出しからの撃破を狙うはず。だが、地図を確認する限りアンブッシュしているであろう場所まで距離がまだある。

 

「……男は女の尻を追っかける生き物だからな、誘いを受けるぞ」賭ける必要のないギャンブルに出るのは男の特権と言ったものだと小さく呟いてジミーに舵を切らせる。

 

 アンチョビはニンマリと嬉しそうな笑みを浮かべて全速力でM41型がアンブッシュしている雑木林まで突き進む。マッコイも笑っていた、交流戦という枠組みにはなっているが、部としての初めての戦車道。普段勝ち負けなんて考えないで突き進む彼にとって、久しぶりに感じる勝ち負けを天秤にのせ考える戦い。男として一番失ってはいけない勝負師の度胸が彼を奮い立たせる。

 

「マッコイ……最高にかっこいいぞ……」

「姉さん、本当に俺のことを良くしてるな。生粋の勝負師で、負ける可能性なんて一ミリも考えないってこと」男の本質、それは最終的に勝負師であること、勝負することが男としての本能。不利だろうが、有利だろうが、勝負することに意味を感じるからこそ、男であると考える美学。

 

 マッコイは一対二の戦闘に備えろと宣言し、瞳に炎を灯していた。全員が了解と大きく声を上げ、完璧な戦闘態勢に突入する。

 戦車長兼ね通信手、松本浩二。

 砲手、春山春樹。

 装填手、岩下六郎。。

 操縦手、山田新八。

 練度十分、初めての実戦とは思えない領域に達していた。

 

「マッコイ……勝負だ!」アンチョビは強い笑みで宣言する。

「姉さん、今の姉さん最高にかっこいいよ!」マッコイも強い笑みで宣言。

 

 アンブッシュしていたM41がCV33がクロスするように現れ、至近距離で駆逐戦車(甲)を撃破しようと突っ込む。だが、ジミーが弾道を予測したかと言わんばかりの操縦によって、打ち出された弾は掠めることなく後方に着弾する。

 

「砲塔旋回! M41を各個撃破……狙え!」

「了解でござる!」

 

 アンチョビはペパロニに超信地旋回を命じ、駆逐戦車(甲)の正面装甲に機銃を放つ、だが、機銃程度で貫通される甘い装甲ではない。マッコイはロックにハンドサインを送り、正面機銃で応戦してくれと指示を出す。即座にロックは機銃を手に取り、アンチョビが乗るCV33に狙いを定める。

 

「姉さん、この人達強いッスねぇ!」

「M41をやられたら勝ち筋が小さくなる、こっちも動くぞ」トリガーに指をかける。

 

 装甲に弾かれる機銃の甲高い音が雑木林に響き渡る、これが戦車道であることを戦っている三台の乗員にわからせ、そして、エンドルフィンを分泌させる。戦車に乗るものだけが感じられる境地、それがここに存在していた。だからこそ、戦車道は人々を魅了する。

 

「ジミー、CV33は確実に履帯を外しに側面に回り込む! 方向は足で指示するから間違えるなよ!!」

「わかってるよ!」

 

 転輪を狙う為に行動を開始するCV33、確実の砲弾を当てられる距離に詰め寄るM41、その両方を対処する駆逐戦車(甲)、すべての戦車が自らのポテンシャルを遺憾なく発揮している。

 

「射線に入った!」射線に入ったCV33に砲弾を打ち込む。

「ただで終わらせないぞ!」放射された機銃弾が駆逐戦車(甲)の転輪を撃ち抜き、そして、それらを外す。

 

 マッコイはキューポラから顔を出し、M41の砲塔の向きを確認する。そして、ギリギリ間に合うとハルに砲塔旋回を命じ、そして、次弾装填と同時に二つの砲から弾が放たれる。

 白旗が上がった三台、二対三の構図が出来上がった。

 

 

「マッコイ負けちゃったみたいだにゃー」ねこにゃーは地図に赤いマーカーで丸を描く。

「でも、二台も倒してくれたみたいちゃ」ぴよたんはマッコイの功績を褒めた。

「どこに行きますか?」優花里はねこにゃーの指示を待つ。

 

 車長のねこにゃーは少し考えて、マッコイ達が撃破された雑木林の少し手間の草原に行くように指示を出す。優花里は了解と一声かけて、全速力で指示された地点に足を運ぶ。空挺戦車として運用されたM22は60km近い速度で駆け抜ける。

 ねこにゃーは瓶眼鏡を外し、双眼鏡で辺りを確認する。すると履帯の痕跡を発見する。そして、痕跡がどこに続くかを地図を見て確認そして、それがまだ倒されていない車両だということを肯定させる。この痕跡はマッコイ達の駆逐戦車(甲)が倒された雑木林ではなく、その先の小高い丘に続く。

 

「もしもし、新聞部さん? 履帯の痕跡を発見したから、一緒に倒しに行かないかな……」無線機で四号戦車に連絡を入れるとM22は装甲が薄いから高原を狙える雑木林に行って抑止力になってと説得される。ねこにゃーは少し考えて、その意見を受け入れた。

「で、どうしますか?」ねこにゃーはマッコイが撃破された雑木林の反対側でM41を撃破しに行くと告げると優花里は了解と告げて、雑木林に舵を切る。

 

 雑木林に到着するとねこにゃーの第六感が反応し、木陰に隠れて、そう叫ばせた。そして、優花里が木陰に舵を切った瞬間にその木に砲弾がぶつかり、鈍い音を響かせて倒れていく。

 

「装填時間があるから、出来る限り詰め寄ろう……」ねこにゃーは前進の指示を出して、優花里は木を盾にするように移動する。

 

 発見、その言葉が響いた時には、もうこちら側の砲から弾は発射されていた。

 

「履帯に当たったっちゃ!?」放たれた砲弾はM41の履帯に当たり、旋回不可能になっている。

「大丈夫、ゲームみたいに一瞬で治るわけじゃないから、確実に倒しに行こう」冷静にM41の背面にまわり一撃で撃破した。

 

10

 

「残りは機銃戦車だけだから安心して倒しに行けるね」赤岩が双眼鏡を片手にそう告げる。

「一応、機銃でもエンジンにヒットしたら負けちゃうから、絶対に油断しないでね」緑野が油断するなという感じで赤岩の発言をいなし、警戒心を忘れないでくれと告げる。

 

 二つの双眼鏡の光がキラリとひかり、それが交戦の合図になる。

 

11

 

 戦闘終了、最終的には戦車道部の勝利になった。勝因は早い段階からM41を撃破出来たことにあるだろう。マッコイは業者に戦車の運搬を頼んで、戦車道部の11人の元に戻る。

 

「いやはや、新聞部チームがMVPだわ」マッコイは若干申し訳なさそうな表情で新聞部の五人を見つめる。

「思いの外、善戦できました」赤岩は袖で汗を拭う。

「楽しかったか?」マッコイが質問すると全員が楽しかったと笑顔で言った。

 

 今回の練習試合、確かに強い一歩になったと空を仰ぐ。

 

「マッコイ、今日は完敗だ。戦車道部の面々を少し侮っていたようだ」アンチョビが苦い笑顔を見せながら、マッコイと普通の握手を交わす。

「今日は俺達に風が吹きました」

「じゃあ、今度は私達に風が吹くだろうな」アンチョビはマッコイの首に手をかけて、口づけを交わす。

 

 あらら、という表情でマッコイは頬を人差し指でかく。

 

「今日は早く帰らないといけないんだろ、だから、作戦はお預けにしておくぞ」マッコイはなにの作戦なんですかねぇ、と、乾いた笑い声を響かせた。

「じゃあ、アンチョビ姉さん、また試合したくなったら連絡入れますね」

「ああ、今度はこっちの車両全部持ってくるさ」それは怖いと笑みを浮かべる。

 

 

 

【おまけ】

 

「姉さん、なんかする予定じゃなかったんッスか?」ペパロニがアンチョビが持ってきた重々しい鞄の中を覗き込むすると手錠やロープが詰め込まれている。

「なんというか、今日は晴れやかだから、行動に移せなかったのさ」アンチョビは唇を人差し指でなぞる。

 

 そして、心の中で、今度、二人になったら行動開始だ、そう、呟いた。

 

 

【挿絵表示】

 




 一万一千文字、読み応えがあると思います。

 流石に一万文字近い文章を作るのは骨が折れますので、少し時間をいただきます。


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05:地下探索ウォー

 機動戦士ガンダム、それはリアルロボットジャンルを開拓した名作である。スーパーロボット物が多く出回っていたあの時代にリアルロボットを流行らせ、ボトムズと一緒にリアルを追求した作品。ギアスやアルドノア・ゼロもこれらのリアルロボットに触発されたのが容易に考えつく。

 マッコイは軽いガノタである。そこまで重度なガノタではないのだが、ガンダムという作品が好きなのである。だが、彼は連邦軍の機体を愛してはいない。彼はジオニストなのだ。

 

「やっぱりイフリートはカッコイイな……」マッコイは組み上がったイフリート改のプラモデルを目を輝かせて、全周囲から眺めている。

「珍しい機体ね、どの時代のガンダムなの?」ロックが尋ねると一年戦争の機体なんだけど、一年戦争の派生作品に登場するんだよなぁ、と、饒舌になる。

 

 今日は学園艦としては珍しい雨の日である。そんな雨の日こそ悪天候時の戦闘を考慮して訓練をしなければならないのだが、この戦車道部は自由にやるのが基本であり練習試合くらいの時にしか、対戦車戦をやるようなことはないのでこういう日は戦車倉庫でダラダラするのがいつものことである。

 ねこにゃー達は自前のノートパソコンで戦車のゲームをしている。

 新聞部の五人は戦車道部の記事をどう纏めるかを五人で話し合っている。

 ジミーとハルは自分のか弱い体をどうにか男らしくするために筋トレに励んでいる。

 

「こういう日も時々は必要よね」ロックは毛糸を編み込んで人形を制作しはじめる。

「まあ、公式戦に出るわけじゃないし、英気を養うのも部活の醍醐味だ」イフリート改のプラモを棚に飾って、ケンプファーのプラモに手を伸ばす。

 

 こうして、時間は流れていく、わけもなく、部活に顔を出していない一人が駆けつけてダラダラ流れていた時間に終止符が打たれるのである。

 遅れました、と、明るい声と同時に邪魔するよーというマッコイだけが聞き慣れた声が響く。マッコイはニッパーを机に置いて、あれ会長さん、どうしたんですか、と、声の主に質問を投げつける。優花里が連れてきたのは生徒会の三人娘、角谷杏、河嶋桃、小山柚子である。頭上に?マークを作りながらも、一応はお客さんなので面白半分で制作したこの倉庫で作れる飲み物のメニューを手渡した。

 

「こういう物も作っているのか」桃が若干呆れた表情でメニューを受け取る。

「じゃあ、抹茶オーレ!」会長が切り出してから、二人も飲み物を注文する。

「かしこま、少々お待ち下さい」マッコイは倉庫の片隅に設置してある簡易キッチンに足を運び、慣れた手付きで三人分の飲み物を仕上げる。

 

 会長がうっわ、喫茶店並みで気持ち悪いと表現してから、会話がはじまる。

 マッコイはどうしたんですか、急に現れて、と、不思議そうな表情で単刀直入に要件を聞き行く。すると丁度暇になったから戦車道部を覗きに来たと簡単に内容を話した。マッコイは困った表情になり、今日は雨だから練習も捜索も休みにしてるんですよ、でも、練習を見たいんだったら男子だけで動かしますよ、そう話した。

 会長はうちらもゆるい感じで生徒会してるから大丈夫、そう告げて、飲み物に手を伸ばす。

 

「じゃあ、飲み物が無くなったら言ってください。俺はプラモ作るんで」マッコイは作りかけのケンプファーのプラモデルに手を伸ばす。が、会長がチョイマチと声をかけてプラモデル制作に待ったを出す。

「松本ちゃんも暇なんだよね?」マッコイは暇ですよ、だからプラモデルを作ってるんですと不思議そうな表情で返事を返す。会長は暇潰しにこのビラを地下まで届けてくれないかな? そう尋ねる。マッコイはビラを手に取り内容を確認する。内容は酷く簡単で授業受けろという文字がいっぱいいっぱい書かれていた。

 

 会長は饒舌に語り始めた。この船の地下には色々とヤバイ連中が蠢いていると。流石に女の子三人で乗り込んで何か出来るわけものないので男子の力を借りたい。マッコイは「どのくらいヤバイんですか」と質問する。会長は「刃物持ってる子が少し居るくらいかなぁ?」そう返した。

 

「ロック、一緒に行こうぜ。一人だと寂しい」ロックは喧嘩にならないといいけど、そう言って編み物をしている手を止めた。

「流石は男の子、こういう時に頼りになるなぁ」会長は肩をトントンと叩いて激励する。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 マッコイはダンボール箱の中から学園艦の地図を取り出して、地下に続く場所を深く確認する。「結構近い場所にあるな」そう言って地図をポケットの中に仕舞い込んだ。

 

「じゃあ……優花里、まとめ役頼む」今、倉庫に居る面子の中で一番暇そうで責任感の強い優花里にまとめ役をお願いする。

「了解であります!」優花里はハッキリとした声で任されたことを受け入れた。

 

 マッコイとロックはスタスタとスッキリした足取りで地下へと続く道を歩いた。

 

 

 薄暗い地下の中を携帯の懐中電灯アプリを駆使しながら進んでいく。マッコイは「学園艦の地下って小汚いんだな」そう言って掃除も何もされていない壁を人差し指でなぞり、溜まった誇りを一息で吹き飛ばした。ロックは「だだっ広い学園艦、それも地下を掃除する人なんて居ないわよ」と言って若干ぬめりをおびた地面に顔を歪めている。

 

「お、第一村人発見」

 

 なんか、ビールのようなものを飲んでいる第一村人、もとい、地下で何かをしている生徒にビラを手渡そうとするが、「そんなのいらねぇよ」そう突っぱねられて、ビラの受け取り拒否をされてしまう。さて、どうしたものだろうか、会長からは地下まで届けろと言われただけで、それ以外は基本的には何も言われていない。ビラの枚数も限られているわけだし、一人一人に満遍なく行き渡らせるなんてことは無理だろう。

 マッコイは少し考えて、流石に第一村人に渡さないのも駄目なのでビラを二つに折り、第一村人の胸元をぴょいと開けて差し込んだ。第一村人は顔を真赤にして何するんだ! そう叫んだが、マッコイの顔を見て何も言えなくなる。

 

「お嬢さん、未成年の飲酒は肝臓をダメにするから程々にね」

「は、はい!」

 

 ロックは「色男は何でも許されるのね」と言って第一村人に手を振った。

 二人でテクテクと歩いて途中に有刺鉄線で通れなくなった場所がある。マッコイは辺りを見渡して、足に付けられた鞘からサバイバルナイフを抜き取り、一刀両断。ロックは口笛を吹いて「凄いテクニックね」そう言って褒め称えた。マッコイはナイフ仕込んでること誰にも言わないでくれと念を押して先に進む。

 第一村人発見から三十歩と言ったところだろうか? 大量の村人達が飲んだくれたり刃物をチラつかせたりしている。マッコイは「ビジュアル系ロックバンドの溜まり場みてー」と素直な感想を述べた。さて、女の子率ほぼ99%に色男が一人だけ迷い込んでいる現状だ。どういう声をかけられるか?

 

「良い男だね……一発どう……」

 

 真っ金金に髪を染め上げた女の子がマッコイの首に手をかける。マッコイは飄々とした表情で彼女の胸を揉んだ。すると村娘Aはヒッと可愛らしい声を出して顔を真赤にする。マッコイの攻撃は終わらない、村娘Aのスカートをたくし上げ、色を確認する。彼女は驚きのあまりその場に座り込んだ。

 

「真っ金金なのにくまさんパンツとは……最高だな!」

 

 村娘Aは「ひどいよー!!」と大きな声を上げて消えていった。マッコイは一発どうなんて言ったのに行動がまるで生娘だな、なんて苦笑いを見せた。さて、ビラ配りはまだ終わっていない。集落が形成されているのだ、この場で出来る限りビラを配ろうと思う。

 

「あ゛あ゛!?」

 

 物凄く威嚇する村娘Bのスカートを無表情でたくし上げ、パンツに折りたたんだビラを挟む。威嚇していた少女は顔を真赤にし「彼氏にも下着見せたこと無いのに」なんて弱々しい言葉を言い放った。地下の女の子達は見た目以外は基本的に生娘のそれなのだなと鼻で笑った。

 だが、集落の村娘達の堪忍袋はもう切れていた。自分達のテリトリーに土足で踏み込んでくるよくわからない男二人、これは殺さなくてはならない。そう思って各々が武器を構え、マッコイとロックに立ち向かった。

 村娘Cの攻撃、回避された。

 マッコイの攻撃、胸を揉みしだいた。

 村娘Cに精神的なダメージ、ビラを受け取って崩れ落ちた。

 マッコイはニンマリと変態染みた笑みを浮かべながら向かってくる女の子一人一人にセクハラ行為をしまくる。防犯カメラも何も設置されていない場所だ、どれだけセクハラしても許される。だから今日は羽目を外して欲望のままにセクハラをしようと思っている。ロックは女の子には興味が無いので少し離れた位地でマッコイのセクハラ劇を静観していた。

 さて、十分くらい経っただろうか、ほぼ全員にセクハラが完了し、中にはパンツを濡らしている子まで現れている始末。マッコイは女の体って良いよな、なんて気持ち悪いことを平気のへの字で言っているが、大半の村娘達は胸をときめかせていた。

 

「あと三枚か。地図によると……」

 

 マッコイは地図を取り出してこれ以上深い場所はあるのかどうかを確認する。あるにはある。だが、そこまでのスペースは設けられていない。三枚あれば足りるだろうと言った。ロックはうちの部長が変態でごめんなさいね、そう村娘達に言ってマッコイの後を歩く。

 

「……オナネタが出来たぜ」

 

 村娘の艷やかな声が後方から響いた。

 マッコイは地面に散乱しているゴミを革靴で払い除けてハシゴを登ったり、下ったり、ポールを滑り落ちたり色々と冒険をする。さて、最終的に行き着いた先は行き止まりになっていた。マッコイは地図を確認し、この先に部屋があることを理解する。

 

「この辺りか……」マッコイが岩造りの壁を蹴るとクルリと一回転して道ができる。ロックはすごい仕掛けね、と、素直に驚いている。

「お、ネオンライトの光……風俗か? 三万円しか財布に入ってないんだが」ロックが学校の中に風俗なんてあるわけないでしょ、なんてトゲのある言い方で否定した。

 

 マッコイは臆することなくネオンライトの光が輝く扉を開いた。すると物凄く濃ゆい四人が酒を楽しんでいた。マッコイは何食わぬ顔で席に座り、バーテンダー的な格好をした少女を見る。

 

「ジャックダニエルを一本開けてくれ。ロックも何か飲もうぜ」

「じゃあ、適当な芋を一本開けて」

「……かしこまりました」

 

【未成年の飲酒はいけません!】

 

 気前よく一瓶開けた。バーテンダーは棚からジャックダニエルと赤霧島を持ってきた。そしてかち割り氷とグラスを用意し、どうぞ、と、ひと声かけた。マッコイは慣れた手付きでグラスに氷を一個投げ入れてガブガブと注ぎ、濃ゆい一杯を喉を鳴らして飲み干す。

 

「ああ、久しぶりの飲酒だぜ」マッコイはもう一杯ジャックダニエルを注ぎ、今度はチビチビと煽る。

「悪くないわね」ロックも赤霧島を注いでチビチビと煽る。

 

 壁側の席に静かに座っている少女がチラリとマッコイのことを見た。マッコイは意味深に親指を人差し指と中指に差し込んで彼女にチラつかせる。彼女は顔を真赤にしてグラスをマッコイの顔に投げつけるが、それを平然とキャッチしてジャックダニエルを注ぎ、スチャッと滑らせて渡す。

 

「あんた達……見ない顔だね……」壁際の席に座っていた少女が質問した。

「ああ、生徒会長からこれを渡すように頼まれてな」マッコイは三枚のビラを取り出してカウンターに置く。内容は前に説明したように授業を受けろという文字がただ大きく書かれたものだ。

「はっ、わたし達に授業を受けろとは……」彼女は鼻で笑ってそのビラを投げ捨てた。

 

 マッコイはジャックダニエルを飲み干してロックを見る。ロックは笑って赤霧島を飲み干して、立ち上がる。二人が立ち上がる姿を見てバーテンダーは白マーカーを取り出し、キープしますか? そう尋ねる。マッコイは三ヶ月来なかったら常連に飲ませてくれと言ってロックと一緒に名前を書いた。

 

「一万で足りるだろ、お釣りはいらん」マッコイは財布の中から一万円札を取り出してバーテンダーに渡す。

「ちょっと待ちな、色男が二杯飲んだだけで帰るのはいけないねぇ」壁際の席に座った少女がマッコイに熱い視線を向ける。マッコイは仕事が終わったら帰るだろと率直に言うが、酒場は娯楽場の一つ、職場じゃないと返されると少し考えてしまう。

「松本浩二……わたしはお銀、竜巻のお銀さ」キープしたボトルを見てマッコイの名前を言う窓際の席に座る少女改め、お銀。

 

 マッコイは背後から迫る少女の攻撃をスッと躱す。気付かれていないと思っていた大柄な少女は大振りな攻撃だったため、ゴトンと大きな音を立てて倒れた。マッコイは「まあ、酒場ならこうなるわな」そう言って苦笑いを見せる。

 

「酔っ払いの少女さん達よ、地の文を書いてる人が書きにくいから全員自己紹介しなさいな」マッコイが露骨にメタいことを言い放つ。

「まあ、書きにくそうだったもんね」ロックも私の苦労を理解している。

 

 少女五人が戦隊モノのように並んで一人一人自己紹介をはじめた。

 

「二度目の自己紹介だが、竜巻のお銀さ」褐色肌の黒髪の少女。

「なんかよくわかんないけど、爆弾低気圧のラム」赤毛のパンチパーマ少女。

「私はサルガッソーのムラカミ」筋肉質で大柄な少女。

「大波のフリント!」銀髪のひょろ長い少女。

「生しらす丼のカトラス」バーテンダー姿の金髪少女。

「色々なものを取り揃える頭の可笑しい男マッコイ」マッコイが面白半分で付け足す。

「青森の林檎農家の長男、ロックよ」ロックも続いた。

 

 マッコイの温情で全員の自己紹介が済んだ。さて、お銀が何をしたいのかと言えば、この学園艦では珍しい男子生徒を色々と調べたかったというところがある。正直な話をするとこの地下に燻っている自分達には珍しい男子生徒、生娘を捨てる機会なのでは? ロックは論外だが、マッコイは誰から見ても色男。悪くない。

 

「……一つ聞きたいんだが、貴方達は何年生?」マッコイが名前だけでは学年がわからないという顔で何年生なのかを尋ねる。

「全員一年生さ」お銀が胸を張って言い放つ。ロックはその発言を聞いて腹を抱えて笑いはじめた。

 

 マッコイは五人を笑い飛ばした。「流石に一年生からこんな地下に閉じ籠もってどうすんの?」とゲラゲラ笑いながら一人一人の肩をたたいて――「全員外の空気吸いに行くぞ」そう言って二つの手とロックの二つの手を使って来た道を引き返す。カトラスという少女は何も言わないで二人と引きずられる四人に付いてきた。

 

 

 さて、倉庫に帰ってきた二人を出迎えたのはメイド服に着替えた優花里だった。マッコイはお銀とフロントの襟首を掴んだまま、「どうしたんだよ優花里? メイド喫茶みたいな格好をして」と質問する。すると優花里は「生徒会の人達にやられちゃいました」と素直に言った。そして、似合ってるかの是非を問う。マッコイは素直に似合ってると言ったら赤面してありがとうございますと言った。

 

「おお、船舶科の問題児五人じゃん」会長さんはポカンとした表情でマッコイとロックが連れてきた五人を眺める。

「ああ、この引き籠もりに外の空気吸わせるついでに勉強させようと」カトラス以外の四人は露骨に嫌そうな表情になる。だが、マッコイは知り合った縁、同じ一年生、二年と少しの間同級生として勉学に励まないといけないという責任感のようなものを感じている。

 

 マッコイは五人を座らせて、自分の教科書を鞄の中から取り出す。船舶科は頭が良い奴が多いのだが、見る限り頭が悪そうな四人にはキッチリと勉強させなければならないと思った。鞄の中から最初に取り出したのは数学の教科書だ。

 

「さて、勉強しましょうか?」マッコイの狂気を滲ませる笑みを見て四人は反論することが出来なかった。

 

 その後は早かった。何やかんやで船舶科に所属している生徒達、頭はそれなりに良く、スポンジのように勉学という水を吸収していく。性格も積極的な部分が多く、わからないところはマッコイに質問して自分なりに答えを導いていく。

 

「……松本、この部分はどうやるんだ」お銀が用意されたコピー用紙に方程式を書き記しているが、躓いている。

「ああ、ここはコレを利用するんだよ」マッコイは的確にわからない部分を教えて次の質問者に移る。

「……松本、これはどうやるのだ」なぜだか参加している河嶋桃にマッコイは蔑みの表情を浮かべていた。その表情を見て桃は会長に言われたから参加しているだけだ! そう叫ぶが、手元にあるコピー用紙には酷く雑な方程式が書かれている。マッコイは最初から間違っていますよ、これはここで、ここはこうですと答える。そして、先輩に勉強を教えることになるとはと聞こえない声で呟いた。

 

 さて、六人に勉強を教えていると日が暮れ始めた。マッコイが切り上げの時刻だな、そう呟くとカトラス以外の五人が深くため息をついた。マッコイは忘れないように気にかけろと言って、六人に方程式を書いたコピー用紙を持たせる。

 

「勉強したくなったら放課後に来い、練習してなければ大体はいる」マッコイがそう言うとお銀は顔を赤くしながら勉強以外の用事で来ては駄目か? そう尋ねる。するとマッコイはテストが終わって、教師から何も言われなかったら付き合ってやると返した。

「松本ちゃんって勉強も出来るんだね」会長が驚いたという表情でマッコイに尋ねた。マッコイは「将来は実家の営業をしようと思ってるから、勉学には人一倍尽力してるんです」と返した。会長は天は二物を与えるわけかぁと頷いた。

 

 会長はメイド服の優花里に目の保養になったよ、そう言って二人を引き連れて帰った。

 

「じゃあ、おまえ達も解散」マッコイはクタクタになった船舶科の五人を開放する。各自は疲れたから自宅に帰るという会話を繰り広げながら出ていった。

 

 マッコイはその姿を見て、一週間後に授業に出ているかどうか会長に聞いてみようと思った。

 戦車道部の面々は帰りの準備を開始するが、優花里がどうしようという情けない声を出して一斉に準備の手を止める。マッコイが「どうしたんだよ」そう尋ねるとメイド服のファスナーに手が届かないという事態が起きていたらしい。マッコイは俺がやろうと一言告げてファスナーを下ろす。手癖の悪さが現れた。

 優花里のヒャ!? という声で全員が注目する。マッコイは「あ、やべぇ……」と口を開ける。何をしたかと言えば、ファスナーを下ろす瞬間に優花里のブラのホックを外したのだ。優花里は顔を真赤にしてマッコイを見る。マッコイは事故だと言って難を逃れようとするが、優花里が意図的に外された感覚がありましたと言ってマッコイにセクハラ摘発の片道切符を提供する。

 

「……もうしないでくださいね」優花里の鋭い視線がマッコイを攻撃する。

「……はい」今日はセクハラをし過ぎてセクハラOKな日だと体が勘違いしていたようだ。

 

 許されたが、仲の良い女友達に不信感を与えたのはマッコイ最大の誤算だった。

 

 

【おまけ】

 

 角谷杏は歴代の生徒会長達が残した書類に目を通していた。歴代と言っても、ここ十数年のものではなく、戦車道がまだ盛んだった頃の生徒会長達が残した書類。現代の紙よりずっと安っぽい紙が使用されている。彼女はこの紙の中に戦車の情報が無いのかと思って詮索している。

 

「うちの学校、戦車道に特化した時期もあったんだねぇ……」

 

 歴代の生徒会長の一人が戦車に乗っている写真がファイルの中に挟まっていた。それを見て彼女は素直に「楽しそうだなぁ」そう呟く。マッコイ達は楽しんで戦車に乗っている。マッコイ達のおかげで身動きがとれる金額が学校側に入る。味をしめてしまっているのだ。

 何の魅力もない学校、「大洗女子学園」将来的には「大洗学園」になる予定。だが、男子生徒を四人入れただけで偉い人が頑張りなさいと言ってくれるという確証はない。戦車道、それを復活させるタイミングは来年度だ。来年度に戦車道を復活させる。綺麗な状態の戦車をオープンスクールなどで展覧したら少数だろうが、アンツィオなどに行くような戦車道目当ての生徒も集まるかもしれない。

 

「杏、そんなに気を詰めたら熱出しちゃうよ」小山柚子が心配そうに彼女のことを見つめる。

「おっと、いけないいけない。松本ちゃんを見習って緩くやらないと」会長は頬を赤くして頭を掻いた。

「杏って年上が好みだと思ってたけど、年下もイケるのね」会長は顔を真赤にする。

「そ、そそ、そんなわけないにゃいしゃん!」顔を両手で隠してそっぽを向いた。

 

 何度も言うが、マッコイはハンサムである。日本人の平均身長を十センチ近く上回り、体は鍛えられ、容姿は男らしく整っている。濃ゆい日本人の色男を想像した時、浮かび上がるのがマッコイの顔。性格も良くも悪くもひょうきんで人見知りしない社交的な性格、男女に分け隔てなく好かれるタイプ。家柄も恵まれている。戦車道が続く限り食いっぱぐれは絶対にしないであろう戦車整備工場の息子、親族経営なので将来的には実家の経営者に連なる可能性が高い。

 一言で言えば、理想の高い女性が求めている男性像にドンピシャなのである。

 

「確かに……松本ちゃんは色男だけどタイプじゃないかなぁ……」

 

 会長の嘘に柚子が笑みを溢した。

 

「松本浩二……死すべし……」河嶋桃は強い嫉妬の念をメラメラと沸き立たせていた。




 短くてセンセンシャル。


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