勇者「服など無粋、真の勇者は全裸で戦う!」魔王「いいから服着なさいよ、この変態っ!」 (トマトルテ)
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1話:裸の勇者

 その男は無敵の勇者だ。邪悪なる魔王を倒すべく女神より選ばれた者だ。

 

 暴虐の限りを尽くさんとする悪を討ち、守るべき弱者のために戦い続ける戦士。

 誰よりも強く、誰よりも高潔な精神性を持ち、誰よりも美しい。

 ただの1つも見返りを求めず、その服装は貧者のそれにしか見えない。

 

 されど、男の姿を見れば敵は皆、男の正体を理解する。

 彼が前に立てば、如何なる敵もその威容を前に体を固くし一刀のもとに切り伏せられるのを待つしかない。

 

 そして、それは敵だけではない。守るべき民もまた彼の姿を見れば噂の勇者だと悟る。

 彼らも敵と同じように体を固くし、その戦いぶりに恐れを持って勇者から目を逸らす。

 そして口々に言うのだ。

 

 勇者は人にあらず、と。

 

 

 

 

 

「ふふふ……これが今まさに私の魔王城に攻め込んでいる噂の勇者か。なかなか面白そうじゃない。今まで挑んできた雑魚とは違い楽しめそうだわ」

 

 昼間であるというのに光1つ差し込まぬ魔王城、玉座の間。

 そこで玉座に座り妖艶な笑みを浮かべるのはこの城の主、魔王。

 禍々しいまでの赤く長い髪に男ならば誰しもが虜になるプロポーションを持つ絶世の美女。

 

 されど、勇者との出会いを待ちわび、浮かべる表情は魔王のそれ。

 常人であればそれだけで死を直観するほどのもの。

 そんな超越者たる魔王の下に近づいてくるのは勇者。

 

 何百年と続く宿命の戦いだ。

 

「さあ、すぐそこにまで来ているのは分かっているのよ。入ってきなさい」

「…………」

 

 玉座の間へと続く扉の前で、男が悩む気配が伝わってくる。

 恐らくは罠の可能性を疑っているのだろう。

 しかし、それもすぐに終わり、ゆっくりと巨大な扉が開かれる。

 それと同時に魔王も立ち上がり、勇者を迎え入れる。

 

「よくぞここまで来ることが出来たわね、勇者…て、え……?」

 

 魔王はここに勇者が来るまでに考えておいたセリフを、途中まで言ったところで固まる。

 何故か? それは勇者の姿が想像の範囲外のものだったからだ。

 

 噂のようにその強さは本物らしく、男の体にはかすり傷一つない。

 強い意志を持った瞳はその魂の清廉さを如実に表している。

 そして、超越者である魔王ですら美しいと思ってしまう、美貌と体つきをしていた。

 

 だが、そこまでは驚くことではない。では、何が魔王から言葉を奪ったのか。

 それは―――

 

「魔王城城主、ルシフェリア殿とお見受けする。

 人と魔族、長きにわたる因縁を今ここに終わらせる!」

 

「なんで鎧どころか服すら着てないのよ、あなたは!?」

 

「服など無粋、真の勇者は全裸で戦う!」

「いいから服着なさいよ、この変態っ!!」

 

 ―――勇者が全裸だったからである。

 

 相手も最終決戦に相応しい口上を読み上げ聖剣をかざしているのだが、全く耳に入らない。

 魔王も今まで多くの勇者を相手にしてきたが、こんな者は前代未聞だ。

 普通は伝説の鎧とか兜とか身につけてくるだろう。

 なのになんで、全裸に聖剣なのだ。下半身の聖剣も合わせて二刀流とでも言うつもりか。

 

「うむ? そもそも拙者が裸であることに何の不都合があるのだ?」

「あるわよ!? 大ありよ! おかしいでしょ常識的に考えて!?」

「ふ、魔王から常識を説かれるとは……拙者も耄碌したものでござるな」

「はっ倒すわよ、あなた?」

 

 やれやれとばかりに肩を落とされ、額に青筋が入る魔王。

 しかし、伊達に長年魔王を務めているわけではない。

 思考は常に冷静に考えを巡らせる。そして、これは作戦に違いないという解に到着し、落ち着きを取り戻す。

 

「ふぅ……でも、考えたわね。確かにあなたの行動は私の意表を突くものだったわ。でも、動揺した程度やられるほど私は弱くはないわ」

「いや、拙者は常日頃からこの格好でござるが?」

「………マジで?」

「大マジでござる」

 

 真顔で頷かれて再び頭が混乱する。

 勇者には嘘をついている様子は見られない。

 いや、だっておかしいだろう。

 

 仮にも勇者なのだ。人間の代表としてここまで来ているのだ。

 もしも自分が全裸で相手と対決したら、間違いなく魔族総出でバッシングされるだろう。

 魔王だって自分達の代表が全裸とか死んでも嫌だ。というか死ぬ。

 

「いや、でも、こんな情報初めて聞いたんだけど、私」

「百聞は一見に如かずとは、まさにこのことでござるな」

「あんたの情報だけは知りたくなかったわ!」

 

 無駄に口が上手い勇者に苛立ちながら、魔王は過去の情報を思い出していく。

 

「勇者の服装は貧者のそれっていうのはつまり……」

「無駄な武具はつけぬ主義なのでな」

 

 どう考えても必要必須なものだろう、それは。主に下半身部分に関しては。

 

「そう言えば勇者の姿を見た者は皆体を固くするって……」

「うむ。何故か初動を遅らせてくれることが多いな。不思議だ」

 

 そりゃ、いきなり全裸の男が目の前に現れたら誰だって固まるだろう。

 そう心の中で思いっきり毒づきながら、魔王はさらに情報を整理していく。

 

「その戦いぶりに恐れを持って勇者から目を逸らすのは……ああ、うん、そういうことね」

「仕方のないことだ。凄惨なる戦いは民草には辛かろう。特に子供は親に目を塞がれるほどだ」

「どう考えても、あなたの格好を見せないようにしているんでしょうが!?」

「……確かに血に染まったこの身は軽蔑されてもおかしくはないな」

「まずは服を着ろって言ってんのよ!」

 

 これだけツッコミを入れているというのに相手はまるで理解しない。

 こっちは久々のツッコミで息が上がっているというのに不平等だ。

 そう思って魔王が睨みつけるが相手はどこ吹く風だ。正直ムカつく。

 

「いや、流石に戦う時以外は着ているぞ?」

「あ、よかった。てっきり普段の生活も裸なのかって」

「まあ、マント一枚しか身にまとっていないが」

「余計に変態度が上がっているじゃない!?」

 

 この男、よく今まで衛兵に通報されなかったな、と思ってしまうのも無理はない。

 変態でないにしても、変態という名の勇者であることには変わりはないのだから。

 

「そもそもなんで裸なのよ、この露出狂!」

「む、露出狂とは失礼な。この格好にはれっきとした理由があるのだ」

「理由…?」

 

 真面目顔で言われて面食らう魔王。

 そんな様子に、勇者は話しても問題はないだろうと判断し語り始める。

 自らの出生に隠された秘密を。

 

「そもそも拙者は王家の生まれだ」

「人間の国、大丈夫かしら……」

 

 魔王、敵国を本気で心配する。

 

「茶々を入れないでもらうか。とにかく拙者は王家として生を受け、女神からの守護を強く受けた。そして、我が母は拙者に不死の加護を与えるべく聖水に私を浸けた。その結果私の肉体は無敵となり鎧を必要とせぬようになったのだ。重い鎧がなければそれだけ早く動けるからな、女神と母上には感謝してもしきれぬ。……もっとも、この力のせいか父上には勘当されてしまったがな」

 

「なるほどね、鎧を必要としないのは分かったわ。後、勘当されたのは全裸になったからだと思うわ。まあ、それと、これだけは言わせてもらうわ。―――パンツぐらい履きなさいよ!!」

 

 パンツ1つで動きが阻害されるわけがないのだ。

 だから、パンツぐらい履いて欲しいと魔王は切に願う。自分と世界のために。

 

「ふぅ、話はまだ終わっておらぬぞ。魔王ともあろうものがせっかちでは品格を疑われるぞ?」

「勇者の癖に変態なあなただけには言われたくないんだけど?」

 

 やれやれ感を出す勇者に今すぐ消してやろうかと、顔を引くつかせる魔王。

 だが、敵の情報を引き出すために我慢をする。魔王は意外と我慢強いのだ。

 

「母上は聡明だが、聖水に拙者を浸かす際に体の一部分だけは失念していた」

「浸かす際に掴んでいた(かかと)かしら?」

 

 

「否―――私のおいなりさんだ」

 

 

「滅びろ、人間!!」

 

 真顔で言い切る勇者に、魔王はかつてない程に人間への殺意を抱く。

 いくら赤ん坊の時に浸かしたからといって、なんでその部分を持つのだ。

 生殖器とか普通に考えて弱点にしかならないだろう。

 

「というか、それなら尚更パンツを履くべきでしょうが! 弱点を晒す方がおかしいでしょ!?」

「弱点を隠すなど誇り高き騎士のすることではなかろう」

「騎士は全裸になんてならない!」

 

 まるで子供が、中の人なんていないと叫ぶような声を出す魔王。

 正直、精神的に限界に近付きつつあるのだ。

 

「考えが甘いでござるよ、魔王殿。

 古来より堅牢なる城には常に一か所だけ弱点というものが存在する。

 それは設計ミスではなく、そこを狙ってくる敵を一網打尽にするための罠。

 すなわち弱点を晒すという行為は合理的な判断の上。さらに、常に背水の陣であることが全身の感覚を冴えわたらせ、通常以上に力を発揮することが可能となるのでござる。

 すなわち、全裸とは伝説の鎧にも勝る究極の防具!」

 

「黙れ変態!!」

 

 無駄に合理的な説明をされても納得できない。

 というか、魔族とか人とかの誇りにかけて認めたくない。

 

「もういいわ、あなたとの話にも飽きた。というか、もう聞きたくない」

「ふっ、それもそうか。もとよりここに来たのは戦うため」

 

 魔王は髑髏がついた杖を振るい、勇者は聖剣を構える。

 今までの話は何の意味もない。結局は勝った方が正義なのだ。

 魔族だろうと、人間だろうと、変態だろうと勝ちさえすればいいのだ。

 それがこの世の絶対的な摂理。幾度も繰り返される人と魔族の運命(さだめ)

 

「我が名は、勇者マクシミリアン。魔族の王よ―――」

「我の名は、魔王ルシフェリア。人間の勇者よ―――」

 

 二人同時に地面を蹴り、爆音を打ち鳴らす。

 

『いざ尋常に勝負ッ!』

 

 人類と魔族の未来を賭けた最後の戦いが今始まった。

 

 

 

 

 

「くっ…殺せ…ッ!」

「意外と早く終わってしまったな、魔王殿」

 

 そして10分後には決着がついていた。

 勝利し地に立つは勇者。敗北し地に伏すは魔王。

 勇者は変態であるが実力は本物であったのである。

 歴代最強の勇者と言っても過言ではない程に。同時に歴代最狂の変態であるが。

 

「しかし……魔王殿よ、やけに動きに精細を欠いておられたな?」

「う…っ」

「何というべきか、これでは勝った気がしないのだ。理由だけでも教えてくださらぬか?」

 

 勇者の実力は本物だった。しかし、魔王の実力もまた本物であったはずなのだ。

 であるのに結果は圧勝。勇者でなくとも何かがおかしいと思うだろう。

 そんな勇者の問いかけに対して、魔王は顔を赤らめて勇者の体から顔を逸らす。

 

「………からよ」

「うむ? すまない、もう少し大きな声で」

「あなたの下半身が気になって仕方がなかったからよ!」

 

 何故かやけっぱちのような声で叫ぶ魔王。

 対する勇者は何のことか分からないとでも言うようにポカンと口を開ける。

 

「……なぜ? 少なくとも戦闘が始まれば気にならないと思うのだが。というか、ここに来るまでの敵は、始めはともかく戦闘中に気にとられたことはなかったが?」

「それは幹部が全員男だったからでしょ!? 私は女なのよ! 乙女なのよ!?」

 

 言われて初めて気づいたとばかりに目を丸くする勇者。

 この男、全力でセクハラを働いている認識が全くなかったのである。

 

「あなたが弱点とか言うから嫌でも見ちゃうでしょ!?

 しかもあなたが飛んだり跳ねたりする度に

 下の聖剣までブルンブルン振るわれたら集中できるわけないでしょ!

 この変態! 変態ッ! へんたいッ!!」

 

 涙目になって変態と叫び続ける魔王は、見た目と裏腹に少女にしか見えない。

 そんな姿を見て勇者はある可能性に気づく。

 

「魔王殿……そなたまさか―――生娘か?」

 

「殺せ! ころせ! ころせっ! 一思いに、ころしなさいよぉおおッ!」

 

 顔を真っ赤にして涙目になりながら半狂乱に陥る魔王。

 そんな姿にやってしまったと勇者は顔を手で覆う。

 

「ああ、いや、すまなんだ。決して馬鹿にしたつもりではない」

「なによ、『魔王のくせに処女だとかウケる(笑)』とか言いふらすんでしょ!?」

「いや、そのようなことはするつもりはないのだが……」

「じゃあなに!? 『俺が大人の階段を上らせてやるよ、へっへっへ』とか言って私を犯すつもり!? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!!」

「少し落ち着きなされ」

 

 何やら一人で興奮している魔王の頭を小突く勇者。

 なんかもう色々と台無しである。

 

「何か勘違いしているが……拙者はそなたを殺すつもりもないし酷いことをするつもりもない」

「へ…? 後半はともかく前半は勇者の務めでしょ?」

「うむ、もっともだな。しかし、考えてみてほしい。そなたを殺した場合、配下の魔物達の管理は誰がやるのだ? 仮にそなたを殺して魔物を力で押さえつけようとすれば、今以上の全面戦争となり被害の拡大は免れん」

「せ、正論だけど、なんだか悔しい……変態のくせに、変態のくせに」

 

 魔王の今の心情を表すと『悔しい、でも理解できちゃう、ビクンビクン』という所だろう。

 

「そこでだ、拙者が望むのは和平だ。拙者が生きている間だけでいい。お主が統括して魔物が人を襲うのを止めさせて欲しい」

「……完璧には無理よ? それに私が生きていると知ったら人間は許さないんじゃないの?」

「できる限りで十分。それにそなたは封印したことにでもしておけばよい。そなたの顔を見て、生きて帰った者が拙者しかおらん以上はバレることもなかろう」

「……あなた本当に人間の味方なの?」

 

 信じられないものを見るような目で勇者を見つめる魔王。

 それに対して勇者は柔らかな微笑みを浮かべる。

 

「そもそも拙者が勇者となったのは、父上に勘当を取りやめさせてもらうため。そなたの首が欲しかったわけではない。それに―――」

 

 一度言葉を切り、魔王に手を差し伸べる勇者。

 そして、殺し文句を言う。

 

 

「―――そなた、そこまで悪い奴でもなかろう」

 

 

 その言葉に魔王は今までとは別の意味で顔を赤くし下を向く。

 だが、返事だけはしっかりと返すのは魔王としての最後の意地か。

 

「……ふん、後で後悔しないことね」

「そうならんことを女神に祈っておこう」

 

 仮に何度反旗を翻してもこいつは同じことをするだろう。

 そんな予感に溜息を吐き、赤く染まった頬を隠すために顔を背けて手を差し出す。

 そのせいで―――柔らかく弾力のあるものを掴んでしまう。

 

 

「すまない、それは私のおいなりさんだ」

 

 

「この変態勇者がぁああッ!?」

 

 魔王、XXX歳。花も恥じらう乙女である。

 

 




リハビリ完了。ただ二次創作のネタが思いつかない。


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2話:乙女な魔王

 あらすじ

 

 勇者マクシミリアンは魔王との死闘の末に勝利を収めることに成功する。

 そして、和平を結ぶことにより仮初であっても平和を実現してみせた。

 このことにより、世界は一時の平穏を取り戻したかのように見えた。

 

 ……だが、時代の波は彼に安寧を与えることを許さない。

 地の底より封印されし災厄が目を覚ます時。

 勇者と魔王は手を取り合うだろう。

 

 これは勇者と魔王の織り成す、愛と勇気と正義の物語である。

 

 

 

 

 

「先っちょだけ! 先っちょだけでよいから入れさせてくれぬか!?」

「先っぽどころか影すら入れたくないに決まってるでしょ、このド変態!!」

 

 魔王城、玉座の間。そこではかつて殺し合った二人が話し合っていた。

 何でもいいから早く帰ってくれという表情を隠さない魔王。

 そして、何やら必死の形相で頼み込んで土下座をする勇者。無論全裸で。

 一体なぜこのようなことになっているのかと言うとだ。

 

「なぜ魔王城に住まわせてくれぬのだ!?」

「何故って、ダメに決まってるでしょ! あなたは勇者で私は魔王よ!?」

「種族の違いなど愛さえあれば乗り越えられる!」

「あんたへの愛なんて1ミクロもないわよ!!」

 

 勇者が突然、魔王城に住まわせてくれと言い出してきたのだ。

 そして、なぜ勇者がそんな突拍子もない願いを言ってきたのかと言えば。

 

「では、国から出禁食らった拙者はどこで寝泊まりをすればよいのだ!?」

「ゴミ捨て場で寝たら?」

「そなた、悪魔か!?」

「魔王よ」

 

 魔王を倒したはずの勇者が何故か国から出禁を食らったからである。

 より正確に言えば、国王直々に国から出て行けと言われたのだ。

 

「というか何で出禁なんて食らうのよ、あなた仮にも勇者でしょ?」

「……大いなる力は災いを呼ぶ。それを父上は案じられたのであろう」

「ふーん……あなたも大変ね」

 

 勇者の境遇に思うところがあるのか、少しだけ同情する魔王。

 

「ああ……父上から『正直、国民からのクレームが凄くて、お前の性癖を庇うのはもう無理』と言われた時は流石に堪えた」

「完全に自業自得じゃないの、この露出狂!」

 

 魔王、あっさりと手の平を返す。

 

「国民総出で追い出されるとか、少しは反省しなさいよ」

「いつの時代も貴族は平民から恨みを買うものだからな」

「あなたと同じ行動したら誰だって追い出されるわ」

 

 未だに自分が追い出された真の意味を理解できずに、首を捻る勇者。そんな様子に魔王は溜息を吐きながら、やたらとツッコミが板についてきた自分を憂う。

 

「というか、人に頼み事をする時ぐらい服着なさいよ」

「拙者は何一つ包み隠さず、嘘もつかない主義者でな」

「少しはこっちの気持ちも考えて隠しなさいよ!?」

「なるほど、嘘も方便という言葉はそのためにあるのだな」

「いいからパンツぐらい履きなさい!」

 

 ポンと手を叩き、なるほどという顔をする勇者に青筋を立てる魔王。

 しかし、この男にまともに取り合っていては埒が明かないと思い直し、顔を振る。

 

「そもそも、あなたマントは羽織るって言ってたわよね? すぐに羽織って欲しいんだけど、切実に」

「家の中でマントを羽織るなどマナー違反であろう?」

「人の前で全裸でいる方が余程マナー違反よ!」

 

 何を当たり前のことをと呆れた表情を見せる勇者。

 魔王はその表情に猛烈な殺意を抱くが、戦っても勝てないのである物を投げつける。

 

「む、これは…?」

「パンツよ、パンツ。一先ずそれを身につけたら住む件は考えてあげるわ」

「そなたのか?」

「違うに決まってるでしょ!? 部下に取り寄せさせた男もののブリーフよ!!」

 

 顔を真っ赤にして否定する魔王。

 自分のパンツを異性に履かせるとかどんなプレイだろうか。

 少なくとも魔王にはそんな性癖はない。

 魔王様は少女漫画を隠れて読みあさる程度に、ノーマルな恋愛がお好みである。

 

「ふむ…? しかし、なぜ取り寄せさせたのだ。拙者が来るとは伝えてなかったはずだが」

「へ…? そ、それはあんたがいつ来てもリベンジできるようによ!」

「なるほど、再戦のためか。研鑽に励むのはよいことだ」

「い、いいから、とっとと履きなさいよ!」

「そうさせてもらおう」

 

 今度は別の意味で顔を赤くした魔王に気づくことなく、勇者は着替え始める。

 魔王もそんな表情を隠すためと、着替えを見ないために後ろを向く。

 

「身につけたぞ、もうこっちを見てよい」

「そう、これでやっとまともに……は?」

 

 振り返り勇者の姿を見て、魔王は固まってしまう。

 何故か。勇者は確かにパンツを身につけていた。

 しかし、そこは股間ではなく―――頭だった。

 

「どこに身につけてるのよ、この変態!?」

「失礼な。言われたとおりに身につけたではないか?」

「股間に履けって言ってんのよ、股間に!!」

「魔王殿、淑女がそのように股間と連呼するものではない」

「誰のせいよ! 誰の!?」

 

 涙目で叫び続ける魔王。彼女の内心は「もうヤダ、お家帰りたい」という所だ。

 もっとも、既に彼女の家に居るので帰る場所は他にないのだが。

 

「いいからちゃんと履きなさい! できないなら出て行ってもらうわ」

「……良いのだな?」

 

 何故かこちらを気遣うような視線を送ってくる勇者に戸惑う。

 どう考えてもパンツを履かせることは、魔王にとってメリットにしかならない。

 だというのに、勇者はこちらの心配をしているのだ。

 あの、セクハラという概念を親の腹の中に置いてきたような男が。

 

「い、良いに決まってるでしょ。早くしなさいよ」

「仕方あるまい。女性に見せたい姿ではないのだが……」

「いや、全裸の時点で遠慮しなさいよ」

 

 気にすべきポイントがズレ過ぎていると思いながら、魔王は再度後ろを向く。

 そこでふと気づく。自分が何も警戒せずに背中を見せているということに。

 自分はあんな変態に信頼を置いているのかと思わず愕然としてしまう。

 

 だってあり得ないだろう。相手は勇者で自分は魔王。

 何より変態。女性の敵だ。というか歩くセクハラを信頼とかどうかしている。

 きっとこれは動揺していたからだろうと、結論付けて心を落ち着かせる。

 

「……もうよいぞ」

「今度はちゃんと履いている…よう……ね…?」

 

 そして、勇者の声に振り返り股間を確認し、頭が真っ白になる。

 勇者しっかりとブリーフを履いていた。

 魔王の目から見ても全部隠れていた。

 しかし、その中で―――

 

 

 勇者の聖剣はパンツを突き破らんとばかりに猛っていた。

 

 

「きゃぁああ!? 変態! 変態ッ! やっぱり私を犯すつもりなのね!?」

「だから酷いことはせぬ。よく説明を聞いて欲しい。拙者はパンツを履くと……」

 

 顔を真っ赤にし、手で目を覆いながらも指の隙間から覗く魔王。

 そんな魔王の姿に勇者は一度戸惑う仕草を見せて、一気に言い切る。

 

 

 

「おいなりさんが―――ソーセージさんになるのだ」

 

 

 

「説明になってないわよ!?」

 

 天をも突かんと自己主張をする勇者の聖剣。

 それを、恥ずかしがりながらも見つめる魔王。

 この場はひたすら混沌に吞まれるのであった。

 

 

 

 

 

「つまりだ。拙者はおいなりさんだけが無敵でないために、衣服との接触の際に常人よりも強く刺激を感じてしまうのだ。別に性的興奮を感じているわけではない。これは生理現象なのだ。分かってくれたか?」

 

「わ、私を襲おうとしてるわけじゃないのよね?」

「勿論だ。合意を得ずに女性を抱くなど獣畜生にも劣る行為。王家の誇りにかけてそのようなことはせん」

「私の中で王家の威厳は、あなたのせいで地の底に落ちているのだけど?」

 

 混乱から時間が経ち、落ち着いて話を行う魔王と勇者。

 その間にもパンツの中で、勇者の聖剣は抜き放たれる時を今か今かと待ちわびているが、本体が紳士(変態)のため不審な行為は一切行われない。

 

 そのせいか魔王のツッコミにも繊細さが取り戻されている。

 もっとも、今でもチラチラと勇者の聖剣を盗み見ているが。

 

「……これが聖剣の真の姿なの…? 普通の状態でも凄かったのに…」

「何か言われたか、魔王殿?」

「な、なんでもないわよ!」

 

 恥ずかしそうにブンブンと首を振りながら、魔王は自身をたしなめる。

 男性の下半身ばかり見るなどそれこそ変態みたいではないかと。

 

「まあ、よいか。それでこれでよいのか? 見たくないのであれば裸になるが」

「今でも十分裸のようなものだと思うんだけど?」

「これは裸ではない……半裸だ」

「ぶっ殺すわよ、あなた?」

 

 何だか魔王として看過できない言葉を言われたようで殺意を抱く。

 しかし、勇者は優雅に紅茶を飲むだけである。

 

 因みにこの紅茶は勇者が持ってきて淹れたものだ。

 勇者が言うには料理もできるらしい。

 その発言に料理のできない魔王は内心でちょっぴり焦ったりしていた。

 

「それで、魔王城には住まわせてくれるのか?」

「……私と会う時にはしっかりと股間を隠してくれることを約束するなら」

「中々難しい条件だが、相分かった。感謝する」

「私にはこの条件のどこが難しいのか分からないけど……」

 

 何はともあれ、住む場所を確保できた勇者はホッと息を吐く。

 しかし、次の瞬間には歴戦の勇士を思わせる顔つきに代わる。

 そもそも今からの会話の方が勇者にとっては重要なのだ。

 

「さて、魔王殿。最近また魔物の活動が活発化しているのは知っておられるな?」

「……ええ、これでも魔王ですもの」

「和平を結んだ条件は覚えておられるな」

「勿論よ。その上で……また人間が襲われ始めたことを聞きたいのね」

「その通り」

 

 ピンと張り詰めた空気が流れる。

 和平を結び人間は襲わせないと誓った魔物が再び人を襲い始めている。

 これは勇者にとって見過ごせないことであった。

 

 人の国を追われようとも彼は人類の守護者である。

 人間に害為すものは決して許してはおけない。

 それを魔王も分かっているのか、いつでも戦えるように神経をとがらせている。

 

「単刀直入に聞こう。そなた―――人を襲わせてはいないか?」

「いえ、魔族の誇りにかけて契約は違えていないわ」

「……即答でござるな」

「ええ、あなたがここに来た時からこの話だとは思っていたから。それに、あなたも私を疑っているからこそ、私を見張るためにここに住んでいいかなんて聞いたんでしょ?」

 

 先程まで見せていた少女らしさとは打って変わり、魔王に相応しいオーラを醸し出す。

 

「いや、住んでよいか聞いたのは本当に住む場所に困っていたからでござるよ」

「あ、あら? じゃあ、なんでこっちの話を最初にしなかったの?」

「なんでも何も、拙者ははなからそなたが約束を破ったとは思っておらん」

 

 あっけからんと言ってのける勇者に、魔王は面食らう。

 要するに勇者は単なる確認を取っただけなのだ。

 この話が本命であることには変わらない。

 だが、魔王の仕業だとは欠片も疑っていなかったのである。

 

「……どうしてか聞いてもいいかしら?」

「なんだ、忘れたのか? そなたは、そこまで悪い奴でもないだろう?」

「……呆れた。そんな確証の無いことを信じてたの?」

 

 バカバカしい。そう口にするが魔王の口元は微かに緩んでいた。

 まるで、どこにでもいる普通の少女のように。

 

「因みに私が犯人だったらどうしたの?」

「人間と魔物全員に魔王は処女だと言いふらしていた」

「あなた鬼か悪魔じゃないの!?」

「否、勇者だ」

 

 勇者の手段を択ばない脅しに、思わず殴りかかってしまう魔王。

 しかし、それは本気のものではなく、どこかじゃれつくような雰囲気であった。

 が、その空気も長くは続かない。時の流れは彼らを逃してはくれない。

 

「魔王様ー! 魔王様ー! 大変です、敵襲ですぅー!!」

 

 敵の来襲を告げる、魔王の部下の大声が扉越しに聞こえてくる。

 そんな、声に反応し勇者が即座に立ち上がる。

 ついでに下の聖剣が大きく揺れるが、魔王は見なかったことにする。

 

「異変の元凶に関しては後程話すとしよう。今は敵の迎撃だ」

「……魔王の敵は人間と相場が決まっているわよ?」

「分かっておる。だが、そなたが敵でないのは先程確信した。ならば無益な血は流させるべきではない。拙者が先行して話をつけてくる」

「そう…勇者も大変ね―――って、なにパンツ脱ごうとしてるのよ!?」

 

 キリリとした顔で告げながら、自然な動作でパンツを脱ごうとする勇者。

 それに慌てた魔王が慌ててパンツの裾を持ち阻止する。

 

「む? 何をするのだ、魔王殿。これでは戦いに行けぬではないか」

「させない! させないわ! あなたにセクハラされる被害者は私が最後でいいのよ!!」

 

 魔王、なにやら奇妙な使命感に目覚めた模様。

 

「いや、別に誰も傷つける気はないのでござるが」

「というか、せっかく全裸を止めさせたのに、また元に戻してたまるかぁッ!」

「な! 全裸の何がいけないというのだ!?」

「全てよッ!!」

 

 共に勇者のパンツに手をかけ合いながら、ギャーギャーと騒ぐ二人。

 そして、そんな二人の状況など知る由もない魔王の部下が玉座の前に到着する。

 

「大変ですぅ、魔王様! 敵襲ですって………へ?」

 

 扉を勢いよく開けて飛び込んできたのは、メイド服を着た小さなサキュバス。

 そして、金髪のサキュバスは目の前の光景をまじまじと見つめる。

 自らの主が―――男のパンツに手をかけている光景を。

 

「リ、リリス…? 誤解しないで聞いて欲しいのだけど」

「大丈夫ですぅ、魔王様」

 

 リリスと呼ばれた金髪のロリサキュバスは、二人に軽く頭を下げる。

 それを見て誤解はしてないのかと思う魔王と勇者だったが、それは勘違いであった。

 

「万年処女な魔王様が、処女であることを気に病んで、人間の勇者様を襲って処女卒業しようとお取込み中だったって分かっていますからぁ。でも、緊急事態なので空気ぐらい読んでくださいね、色ボケ年魔(としま)王様ぁ」

 

「あなた私の部下なのに辛辣すぎない!?」

 

 可憐な見た目とは裏腹に強烈な毒を吐くリリス。

 そして、割と本気で涙目になる魔王。

 どちらが主従か分からない光景であった。

 

「魔王殿、今は一刻を争う状況。私情を優先させるのは為政者としていかなるものかと」

「そうですよー、焦るのは分かりますけど空気読みましょうねぇ」

「あなた達分かってからかってるでしょ!?」

 

 執拗な精神攻撃に魔王は膝と手を床につける。

 イジメ、かっこよくない。

 

「む、こうしている場合ではないな。では、拙者は行ってまいるぞ!」

「あ! まだ、状況の説明を……て、行っちゃいましたねぇ」

 

 リリスの静止も聞かずに勇者は聖剣を片手に駆け出して行くのだった。

 

 ―――パンツをその場に脱ぎ捨てながら。

 

「ああもう…情報ぐらい聞いて行きなさいってのよ、あの変態」

「……魔王様」

「なに、リリス。敵の情報かしら?」

 

 子供ぐらいの身長しかないリリスに合わせるためにしゃがむ魔王。

 そんな魔王の耳元に口を寄せ、リリスはハッキリと告げる。

 

 

「すごく……大きかったですぅ」

 

 

「そんな情報いらないわよ!?」

 

 抜き放たれた勇者の聖剣は、魔王すら一撃で貫ける程のものだったらしい。

 




勇者の聖剣に魔王様もタジタジ(意味深)


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3話:変態VS変態

 あらすじ

 

 かつての争いの歴史を乗り越え、手を取り合う勇者と魔王。

 しかし、そんな折に魔王城へと敵の魔の手が伸びてくる。

 自らが止めると勇み飛び出していく勇者だったが、彼はそこで信じられないものを見ることとなる。果たして、そこで勇者が見たものとは?

 

 これは新たなる戦いの幕開けの物語である。

 

 

 

 

 

「待ちなさい、勇者! この城は私の城、守るべき義務は私にあるわ!」

「……魔王殿、これはどういうことだ?」

 

 飛び出していった勇者を追いかけていた魔王は、遂に最上階のテラスにて勇者に追いつく。しかし、追いついた勇者の表情は困惑しており、先程までとは打って変わっていた。

 人間と戦うことになるかもしれないのも承知で、飛び出していった勇者がこれほど動揺しているのだ。

 

 一体敵は何をしているのかと思い、魔王もテラスから敵を見降ろし、絶句する。

 

「………うそ…」

 

 魔王城を襲うのだから当然人間だと思っていた。

 だが、しかし。魔王に剣を向けていたのは、魔物(・・)の軍隊だったのだ。

 そしてなにより、魔王を驚愕させたのは彼らの容姿であった。

 

「魔王殿……言いたいことは多かろうが、一先ずこれだけは言わせてもらおう」

 

 勇者は魔王を気遣うような仕草を見せるが、敵の軍団からは目を離さない。

 否、その異様な姿から目を離すことが出来ないのだ。

 そう、誰だってガン見してしまうだろう。敵の軍団が―――

 

 

 

「全兵士に魔法少女のコスプレをさせるのは流石に引くぞ」

 

 

 

 ―――魔法少女のコスプレで襲い掛かって来ていたら。

 

「知らないわよ!? 私はこんなの知らないって!」

 

 涙目で否定する魔王だが状況証拠は揃ってしまっている。

 オークやゴブリン、果てにはドラゴンまで魔法少女の衣装を着ているのだ。

 しかも、何故か女性の姿は見えずに男ばかりだ。

 

 魔王の性癖は一体どこで歪んでしまったのかと、勇者は優しい目で見つめる。

 ただし、その足は魔王からジリジリと遠ざかっているが。

 

「人の趣味嗜好というのは人それぞれ。どんなものであったとしても尊重するべきであるし、拙者も否定はせぬ。ただ―――半径1メートル以内に入らないでもらおうか」

「違うから! 私の趣味じゃないから! というか、あなたに変態扱いされるとかものすごく納得いかないんだけど!?」

「恥ずかしいのは分かる。しかし、己の過ちを認めねば成長はないぞ?」

「だから違うって言ってるんでしょうが!!」

 

 顔を引きつらせ、苦笑いを浮かべる勇者に割と本気で傷つく魔王。

 彼女は本当に身に覚えがないのだ。

 というか、命令するにしてもリリスみたいな可愛い女の子にやらせる。

 一体誰がこんな見るもむさ苦しいガチムチ共に魔法少女をやらせるのか。

 

「ほら、正直に拙者に話すでござる。本当は魔法少女が大好きだと」

「違うわよ! 確かに子ども時代には魔法少女に憧れたことはあるわよ。でも、それだけ。子ども時代なんて、もう何びゃ……コホン、何年も前なんだから憧れなんてないわよ。というか、あっても部下にはさせないわよ」

 

 何百年前と言いそうになったのは単なる言い間違えだろう。

 そう、乙女的には完全なる言い間違えだ。

 

「それを聞いて安心しましたぁ。リリスも魔王様に、あんなコスプレさせられるかと内心冷や汗ものでしたからぁ」

 

 魔王の言葉を聞き、陰からひょっこりと現れるリリス。

 どうやら彼女も魔王の性癖に対して若干の不安を抱いていたようだ。

 

「リリス! あなた何でこんな大切な情報を伝えなかったの!?」

「リリスは、大変な変態が編隊を組んでやってきたって、伝えようとしましたけど、お二人とも聞かずに飛び出して行ったんじゃないですかぁ」

「大変な変態が編隊を組むとは……世も末でござるな」

「勇者の癖に変態なあなたが言えることじゃないでしょ!」

 

 3人集まれば文殊の知恵というが、現状では小学生ぐらいの知恵にしかなっていなかった。とにもかくにも、3人揃ったところで勇者が第一に思っていたことを告げる。

 

「一先ず、現状はクーデターという認識でよいか?」

「きっと魔王様が、魔法少女のコスプレをしろなんて言うから反旗を翻したんですよぉ」

「だから、私はそんな指示を出してないって何度言えば…! ……とにかく、見た感じだと確かにクーデターよね」

 

 改めて現状の異常性に気づき溜息をこぼす魔王。

 これでも為政者だ。自分の民が反乱を起こしたことにショックを受けているのだろう。しかし、ショックを受けているだけでは為政者は名乗れない。

 

「……とにかく、私が目当てなのは間違いないでしょうから、要求だけでも聞いてみるわ」

 

 民の不満を受けるのも自分の役目だと割り切り、地に群がる魔族に朗々と語り掛ける。

 

「聞け! 我が名は魔王ルシフェリア! 汝らの主にし、全ての魔を統べる者。此度の狼藉、本来であれば即刻消し飛ばしているところ。しかし、私は慈悲深い。汝らが要求を述べるのであれば聞くこともあるやもしれん。汝らが言葉を持たぬ獣でないのならば、まずは述べてみよ!」

 

 普段のキャラとは打って変わって、尊厳のある声で語り掛ける。

 その堂々とした振る舞いにざわついていた敵軍も静まり返り、一人の男が進み出てくる。

 

 男はオークだった。

 長い牙と鬼のような顔つきを持ち、手には人一人分は軽くある巨大な斧。

 体躯は他のオークと比べても巨大で腹は膨れ上がっていた。

 そんな、屈強で如何にも怪物と言う魔物が、魔法少女のコスプレをしているのだ。

 

 正直、魔王はどんな表情で男を見ればいいのかと真剣に悩んでいた。

 

「俺の名前はモウブ。この隊の隊長を務めるものだ。偽りの魔王」

「偽りの魔王ですって…?」

「そう、俺達はお前の配下の魔物ではない! ―――魔帝様の部下だ!」

「うそ……魔帝ですって…?」

 

 魔帝という言葉に信じられないという表情を見せる魔王。

 リリスもまさかという顔で驚いている。

 ただ一人勇者だけは人間なので何者なのかが分からない。

 

「リリス殿、魔帝とは一体?」

「リリスも詳しくは知らないんですけど……魔帝は初代魔王様の俗称ですぅ。魔族と人間の戦いを始めた人で、すっごく強かったんですけど、勇者に封印されたらしいですぅ」

「拙者の前にも何人も勇者は居たのは知っているが……それ程の魔王と戦ったという話は聞いたことが無いな」

「魔族ですら薄っすらと伝わっている程度ですからねぇ。人間は代替わりも早いので伝わってなくても不思議ではないと思いますぅ」

「…確かに。しかし、そうなると人間を襲っていた魔物は魔帝の配下の者か」

 

 リリスからの説明に頷く勇者。

 敵の言う魔帝という存在が本人であれば、恐らくは封印が解けたということだろう。動機としては、復活したのでかつての部下を使い、現在の魔王を追い出そうとしている。

 これが今、魔帝について分かることだろう。

 

 そして、何より。

 

「つまりはあの魔法少女のコスプレは……」

「魔帝の趣味になりますよねぇ……」

 

 魔法少女軍団(おっさん)は魔帝が作り上げたことに他ならないのだ。

 正直に言ってドン引きである。

 人間の方で伝わっていなかったのは、これを伝えたくなかったからではないかと疑ってしまう。

 

「……そう、魔帝ね。それで、あなた達は何を求めているのかしら?」

「俺達は魔帝様より一つの指示しか受けておらん」

「へぇ、何かしら?」

「聞いて驚くな、我らが受けた指示は……」

 

 明らかに平穏な指示でないことを感じ取れる笑みを浮かべる、モウブ。

 それに伴い魔王も冷たい目線で、彼らを見下ろす。

 

 

 

「女は殺せッ! 男は犯せだぁッ!!」

 

 

 

「全員ホモとかふざけてるの!?」

 

 モウブの言葉にドッと湧き上がる軍団。

 そう、彼らはホモで女装癖の集まりだったのである。

 自らの体を魔法少女の服で覆いモチベーションを上げる戦士だ。

 女を見て聖剣を萎えさせ、男を見て聖剣を抜き放つ神聖(しんせい)のホモだ。

 

 要するに変態である。

 

「つまり女のお前なんてお呼びじゃねえんだよ! おらっ! 男出せ、男出せ! わざわざ楽な人間の国(・・・・)じゃなくて、こっちに配属されたんだ。男が居なきゃ、やってらんねーだろ!!」

「ふ…ふふふふ……あいつら全員消してやるわ」

 

 女のプライドに触ったらしく、魔力を滲み出しながら冷たく笑う魔王。

 そして、変態共を消し飛ばしてやろうと杖を手に取る。

 しかし、その手は勇者にやんわりと抑えられてしまう。

 

「勇者…?」

「魔王殿はここで待っていればよい。敵と言えど同族を殺すのは辛かろう」

「いえ、全く。というかあれを魔族呼ばわりしないで」

 

 魔王、即答で嫌悪感を表す。

 

「まあ、とにかくだ。拙者も戦おう。ところでリリス殿以外の戦力は?」

「あなたが全員病院送りにしたのを忘れたの?」

「正直すまんかったでござる」

 

 不幸なことに勇者が魔王を倒した影響で、魔王城には戦力がほとんどいない。

 もっとも、居たとしてもほとんどが男なので尻を押さえて逃げるだろうが。

 

「それでは拙者が先行しよう。魔王殿は援護を、リリス殿は城の防衛を頼む」

「え、勇者様が行くんですかぁ? 勇者様が行ったらそれこそ飢えた猛獣の折の中にお肉を投げるようなものだと思うんですけどぉ」

「いいのよ、リリス。ほら、変態()を以て変態()を制すって言うでしょ?」

「何やら含みのある言い方のよう気がするが……そう言うことだ」

 

 しっかりと剣を手に持ち、下に居る敵を睨みつける勇者。

 既にそこには歴戦の戦士の風格が漂っていた。見た目は全裸であるが。

 

「では、行ってまいる」

「一応、背後には気をつけなさいって言っておくわ」

「ふ、心配無用。拙者は―――菊の花もまた無敵なのでな」

 

 そう言い残して、勇者はテラスから飛び降りる。

 不死故にどのような高所から飛び降りようとも死ぬことはない。

 しかし、飛び降りていく過程で慣性の法則により、下の聖剣が天を向く。

 

 さらに暴風が容赦なく叩きつけ上に下にと大暴れである。

 両サイドの装飾は風の冷たさにより縮んでいる状態だ。

 これが俗に言う玉ひゅんというものだろう。

 

 何はともあれ、勇者は傷一つなく地上に着陸する。

 そして、そこで待ち受けていたものは。

 

「うほ、良い男!」

「親方、空から美味そうな男が!」

「今夜はソーセージとミートボールだぁッ!」

「ねえ、僕と契約して兄弟(意味深)になってよ?」

「―――やらないか?」

 

 当然のごとくホモである。

 しかも魔法少女のコスプレをしている魔物という一際醜悪な部類。

 だが、勇者は眉一つ動かすことなく口を開く。

 

「ミートボール? 否、おいなりさんだ」

 

 口を開くと同時に剣を振るい、彼らの首を一瞬で斬り落とす。

 これで5人分のミートボール(R18)が即座に出来上がる。

 だが、この程度で怯むようであれば真のホモとは言えない。

 

「ヒュー、強い男は好きだぜ。なあ、尻を貸してくれよ」

「いや、むしろ貸してやる! おホモ達になろうぜ!」

「やれやれ、命知らずな者達も居た者でござるな」

 

 そんなどこまでも自分の欲望に忠実なホモに、溜息を吐く勇者。

 それをチャンスと見たのか、敵がバックから襲い掛かってくる。

 だが、結末は全て同じ。聖剣が煌めき、赤い雨が地面を濡らすだけだ。

 

「我が名はマクシミリアン! 王家に連なるものにして、一騎当千の勇者!

 雑兵如きが、指一本触れられると思うなッ!!」

 

 高らかに謳い上げ、勇者の戦いが始まるのだった。

 

 

 

 

 

「くそっ、殺せ!」

「そうか、では死ぬがよい」

「いやいや! このセリフの後は普通、俺を犯し―――あべしっ!?」

 

 最後に生き残ったモウブを串刺しにし、勇者は聖剣を収める。

 無論、この聖剣は武器の方だ。

 流石の勇者も魔法少女のコスプレをしたオークを犯す趣味はない。

 

「意外とあっさり終わったわね」

「これも魔王殿の援護のおかげだ」

「あなたの尻を追う敵を私が爆撃。あなたは前のを倒す。…酷い絵面だったわね」

「違いない」

 

 二人がとった戦術は非常に合理的だった。

 敵は勇者の尻を狙って後ろを付け回す。

 それを勇者の不死性を活かし、魔王が勇者諸共に魔法で爆撃する。

 そして、前から来る敵は勇者が叩き斬って終わりだ。

 ホモは死すべし、慈悲はない。

 

「馬までホモで、あなたの下に来るし……」

「うむ、まあ拙者には既にゼゼーンラという白馬が居るので要らなかったが」

 

 我先に俺に乗ってくれと、押し寄せてきた馬達であったが全て切られていた。

 馬刺し美味しいです。

 

「というか全裸に白馬って……」

 

 思わず、全裸で白馬に乗って草原を駆け抜ける勇者を想像する魔王。

 身分と実力的には正しく白馬の王子様であるが、絵面が酷い。

 子どもの夢を破壊すること間違いなしだ。

 

「風が体に当たって気持ちいいのだが、魔王殿もやらぬか?」

「やるわけないでしょ!?」

「これは拙者以外にも同好の士が居るのだが」

「なん…ですって…?」

 

 魔王、世界の広さを知る。

 

「まあ、それはともかく。拙者は一度王国に帰ろうと思う。父上と兄君が心配だ」

「私は魔帝について調べるつもりだからついていけないわ」

「む? ついてきてくれるつもりだったのか?」

「い、一応、借りぐらいは返すわよ。敵を一緒に倒してくれたんだから」

「それもそうか」

 

 顔を赤くして話す魔王の様子に気づくことなく勇者は口笛を吹く。

 すると、先程話に出てきた白馬が駆け寄ってくる。

 その白馬にひらりと飛び乗り、勇者は手を軽く上げる。

 

「では、しばしの間さらばだ」

「もう帰ってこなくてもいいわよ」

「1週間以内には帰ってくる。行くぞ、ゼゼーンラ!」

「話聞きなさいよ!」

 

 怒る魔王の様子に勇者は快活そうに笑い、白馬と共に駆け出していく。

 魔王はしばらくその後ろ姿を見つめていたが、やがて憂いのある息を零す。

 まるで、恋破れた少女のように。

 

 

「……白馬の王子様の夢が壊れたわ」

 

 

 魔王、実は白馬の王子様に憧れていたのだった。

 




ストーリーはおまけ程度だと思ってください。
基本ネタが使えるような構成にしているだけですから。


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4話:勇者(変態)の帰還

 あらすじ

 

 かつて封印された魔帝の復活。そして襲い来る魔の手。

 勇者と魔王は何とかそれを退けることに成功する。

 だが、勇者無き王国では魔帝の配下が暴虐の限りを尽くしていた。

 

 されど、陰差す場所には必ず光あり。魔物が集まれば勇者が立ち上がる。

 王国に帰還し、祖国を魔の手から救おうとする勇者。

 しかし、そこにあったのは祖国の変わり果てた姿だった。

 

 今、勇者の絶対に負けられない戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 魔帝の軍団の侵攻に晒された王国は地獄絵図と化していた。

 

「へっへっへ、先っぽだけ、先っぽだけだからよ」

「や、やめ、あ―――ッ!?」

「おら、女に用はねえ。男だけ出てきやがれ! 俺は玉転がしがしたいんだよ!」

 

 平和になったと思われた矢先に現れた、魔物の軍団に人々は為す術が無かった。

 屈強な王国な兵士達が次々と倒され、バックから蹂躙されていく。

 城下には男の野太い声だけが響き渡り、女子供は耳を塞ぎ震えることしかできない。

 

 極まれに、バラの花が咲き誇っていると息を荒げる剛の者も居るがそれはカウントに入れないで良いだろう。

 

「おっと、こんな所に可愛い坊やが…じゅるり…!」

 

 そして、今ここにも路地裏に追い込まれ、身を縮こまらせる少年と女性が居た。

 女性は少年の姉らしく、必死に弟庇うように抱きしめている。

 

「やめて! 私なら何をしたって構わないから、弟だけは、弟だけは…!」

「なんだ女か、萎えちまうからとっとと失せな」

「オーク風情が調子に乗るんじゃないわよ!!」

 

 オークの、女は眼中にないという実にホモらしい言動に女性がキレる。

 流石に色々と女性としてのプライドに触れたらしい。

 しかし、如何に威勢が良くなったからといって彼女は一般人だ。

 

「うるせぇな。面倒だからこいつから殺しちまうか」

「しまった…!」

 

 オークはジリジリとにじみより、女性に向かい手斧を振り下ろす。

 だが、その斧は彼女に届くことなく、握っていた腕と共にボトリと地面に落ちた。

 

「は…?」

「無抵抗の女子供にまで手を出すとは、活かしてはおけぬな」

 

 そして、背後から聞こえてきた声に振り返ることすらできず、一瞬で切り刻まれて消えていく。

 

「無事か?」

「あ、あなたは…!」

 

 女性は差し出された腕を見て、目の間前の人物が誰かを悟る。

 弱者が強者の手によって蹂躙されようとしたときに、手を差し伸べる。

 誰もが心で望みながらも、現実に阻まれ諦める美しい行為。

 そんな行動をどこまでも平然と自然体で、生まれたままの姿で行う男。

 そのような人間を彼女は一人しか知らなかった。

 

 

「変態ッ! あ、いえ、勇者様!」

 

 

 そう、変態と名高き勇者である。

 

「うむ、最初の言葉は聞かなかったことにしよう。して怪我はないか?」

「は、はい。私もこの子も大丈夫です」

「そうか、ならばよい。ここは危険だ、城内に逃げるのだ。あそこならば、そう簡単には敵も攻め入れまい」

「あ、あの、勇者様はこれから…?」

「拙者か? 拙者はこれから敵本拠地にうって出た父上の援護に向かう。……父上が捕らえられたという噂が流れておるからな」

 

 勇者という最大戦力を失っていた国王は、最後の賭けとも呼べる特攻を行っていた。

 そして、そこで捕らわれたという嫌なうわさが流れていたのである。

 そのため、すぐさま援護に向かおうとする勇者だったが女性に止められる。

 

「お待ちください! 私達はあなた様を追い出しました。あなたがわいせつ物陳列罪を犯しているのは疑いようのない事実。ですが、それでもあなたは救国の英雄。……あなたはなぜ追い出した私達を救ってくださるのですか?」

 

 勇者が変態だというのは疑いようのない事実だ。

 だが、国から追い出したというのは、英雄に対して余りにも酷い仕打ちだ。

 見捨てられてもなんらおかしくはない。

 しかし、勇者はこうして命を懸けて助けに来てくれたのだ。

 女性はそれが不思議でならなかった。

 

「なぜ…か。正直な所、理由などないのだ。

 体が勝手に動くからな。仮に、理由をつけるとすれば一つだけ」

 

 勇者は女性に向かってニッコリと笑みを浮かべて告げる。

 己が戦い続ける行動原理を。

 

 

「拙者は勇者でござるからな」

 

 

 それだけ言い残し、勇者は一人駆けだしていく。

 民のために、全裸で下の聖剣を振り回すその姿は正しく勇者であった。

 

 

 

 

 

 長男の王子に城を任せ、自らは決死の特攻に出た国王。

 しかし、勇者でもない人間が魔物に勝てるわけがない。

 すぐに捕まり捕虜とされてしまったのである。

 そして勇者が到着した時には。

 

「ち、父上…? 何故拙者に剣を向けられるのですか…?」

「…………」

 

 無表情で、王家の宝剣カリバーンを勇者に突き付けてきていたのである。

 何故か猫耳メイド服を身につけた状態で。

 

「クックック、そいつは既に洗脳されて私の部下となっているのだ」

「何奴!?」

「私の名前はギガマーラ、魔帝様の命によりこの国を滅ぼしに来た者だ」

 

 そう言って、国王の後ろからヌッと現れ出た男は―――マッスルであった。

 オイルでテカった黒い肌にスキンヘッドで、目には黒いサングラス。

 鍛え上げられた筋肉は岩のごとく、見る者に威圧感を与える。

 そして、その服装もまた当然の如く猫耳メイド服であった。

 

「貴殿、父上に何をした!?」

「ククク、なに大したことはしていない。私の魔剣で屈服させてやっただけだ」

「魔剣だと…?」

 

 ギガマーラはこれ見よがしに国王の尻を撫でてみせる。

 つまりは、「魔剣になんて絶対に負けない(キリッ)」「魔剣には勝てなかったよ(アへ顔)」という攻防があったのだ。

 そして最後は弱った心に漬け込み洗脳完了と言うわけだ。

 

「魔剣…何と恐ろしい力だ…!」

「貴様もすぐに俺の魔剣で親子丼にしてやるよ。

 と、言いたいところだが、お前の相手はお前の父親だ」

「拙者の聖剣で父上を貫けというつもりか!?」

「おっと、嫌なら父親の宝剣に貫かれてもいいんだぞ? クックック」

 

 下種な笑みを浮かべて笑うギガマーラに、勇者は歯軋りをすることしかできない。

 ギガマーラの真骨頂はその悪辣さであり、近親もののAVが好きな所である。

 この男に人生を狂わされた親子は数知れない。

 

「さあ、いけ! お前の宝剣で息子を突き殺してやれ!!」

「くっ…! 父上、ご覚悟を!」

「…………」

 

 父と息子。悲しき運命の戦いが始まった。

 父はメイド服のスカートをはためかせ、豪快にパンチラをしながら。

 息子は全裸で生まれ持った聖剣を振るいながら戦う。

 内容自体はシリアスだが、絵面はどう見てもギャグである。

 

「どうした勇者、聖剣の振りが弱いぞ?」

「黙れ…!」

「流石の勇者も身内相手では本領が発揮できないか。

 だが、そこから先に吹っ切れてしまえばこれほど甘美なこともないぞ?

 さあ、その手で父親を刺し貫くがいい」

 

 本来であれば勇者と国王の戦闘力は天と地ほどに差がある。

 しかし、今はギガマーラの傀儡となっており、その実力は跳ね上がっている。

 だが、所詮は傀儡。真の勇者に勝てるわけもない。

 もっとも、勇者が普段通りに戦うことが出来ればだが。

 

 今の勇者にとっての敵は父親。しかも操られている。

 殺したくない、傷つけたくない。そんな心が刃を鈍らせる。

 それを示すかのように下の聖剣の揺れ方もいつもよりも控えめであった。

 

「ククク、私に許しを請い、魔剣の下に屈するというのなら止めてやってもよいのだぞ?」

「誰がそのようなことを!」

「だが、状況はマズいのではないか、勇者よ?」

 

 ギガマーラに言われずとも状況がまずいのは分かっている。

 勇者は人を殺さずに気絶させる剣技も持っている。

 しかし、それは格下相手にのみ通用する技だ。

 

 人を殺すよりも無力化する方がよっぽど難しいのだ。

 残念なことにギガマーラに操られている国王は手を抜ける相手ではない。

 それ故にこうも苦戦を強いられているのだ。

 

「くそっ! せめて、せめて父上の洗脳を一瞬でも止めることが出来れば…ッ」

「ククク、私の洗脳に死角はない。

 何よりこの洗脳を解くことは人間にはできん。例え勇者であってもなぁッ!」

 

 洗脳が一瞬でも止まれば動きが止まる。

 その瞬間を狙って気絶させればいい。

 しかし、その術を人間である勇者は持たない。

 万事休すかと思われたその時、聞きなれた声が聞こえてくる。

 

 

「ふーん、じゃあ―――魔王ならどうかしら?」

 

 

 そう、人間ではダメだが、魔族である魔王ならば話は別だ。

 一瞬の詠唱で真紅の六芒星を生み出し、国王の動きを封じ込める魔王。

 これにより、一時的に洗脳が解除される。つまり、お膳立ては整ったのだ。

 

「感謝するぞ、魔王殿!」

「なっ! 貴様は偽りの魔王。なぜ人間の国に!?」

「借りを返しに来ただけよ。それと―――私が(・・)魔王よ」

 

 どこまでも冷たい視線でギガマーラを睨みつける魔王。

 「私が」という部分を強調している辺り、魔王としてのプライドがあるのだろう。

 だが、今はそんなことはどうでもいい。ようやっと巡ってきたチャンスなのだ。

 勇者は戸惑うことなく、国王を剣の腹で殴り飛ばしにいく。

 

「……マクシミリアン、後は頼んだぞ」

「御意に、父上」

 

 洗脳が解けても状況は分かっているのか、大人しく剣の腹に打たれる国王。

 しかし、最後の瞬間には宝剣カリバーンを息子に押し付けるように倒れる辺り、言いたいことはあったのだろう。

 

「さて、父上を愚弄してくれた罪……高くつくぞ?」

「クッ…! 偽りの魔王よ! 貴様は魔族のくせに人間に肩入れするのか!?」

「勘違いしないで。私は借りを返しただけ。これ以上あなたをどうこうするつもりはないわ」

「ク、ククク。そうか、そうか、なら私が負けることはない!」

 

 魔王が加勢しないと分かると同時に、余裕を取り戻すギガマーラ。

 こいつ意外と小物である。

 と、そんなことを考えながら勇者は間髪を入れずに、ギガマーラの腕をカリバーンで斬り落とす。だが、瞬く間にその腕は再生し元通りになり、少しだけ眉をひそめる。

 

「再生能力か…?」

「そうだ! 私の体は無限に再生する!! 故に私が負けることは―――」

 

 ギガマーラが言葉を続けることはできなかった。

 何故なら、勇者がもう片方の腕に持つ聖剣エクスカリバーで首ごと斬り落としたからである。

 

「無限再生、結構ではないか。……拙者も少々怒っていてな?

 一度やった程度では収まるものも収まらなかったのだ」

 

 凍えるような声でギガマーラに告げる勇者の姿は、魔王と戦う時ですら見せなかった濃厚な殺気に満ち溢れていた。これが、勇者が本気で相手を殺すと決めたときの姿である。

 

「だから、何度殺しても無駄だと…!?」

 

 ―――黙れ。

 

 そう言っているかのように、右手のエクスカリバー、そして左手のカリバーンが煌めき、一瞬でギガマーラをダルマに変えてしまう。

 その目にも止まらん早業にさしものギガマーラも顔を青ざめさせる。

 

「拙者の奥の手、二剣一槍をお見せしよう」

「二剣一槍…?」

 

 聞きなれぬ言葉に魔王が首を傾げる。

 というか、こいつは自分相手に本気で戦っていなかったのかと今更ながらに憤りを覚える。

 そんな魔王のために勇者が説明を始める。

 

「右手に聖剣エクスカリバー、左手に宝剣カリバーン。

 そして―――拙者の聖槍ロンゴミニアド!

 これをもって、二剣一槍となすッ!!」

 

「最後の一本はただのセクハラじゃない!?」

 

 勇者の力を最大限にまで解放した時にだけ使われる二剣一槍。

 これには魔王でなくともツッコミを入れたくなるだろう。

 特にアーサー王辺りは全力で抗議をしてきそうである。

 因みに、下が聖剣ならば三刀流となり、どこかの海賊狩りからクレームが来そうである。

 

 何はともあれこの二剣一槍、見た目はともかく強い。

 特に一槍は役に立っていないが、再生するギガマーラを容赦なく切り刻んでいく。

 

「グウッ! 再生が間に合わんだと…ッ!?」

「さあ、我が聖剣の錆となれ!」

「ク…! 聖剣になど絶対に負けるものか!」

 

 そして1時間後。

 

 

「聖剣しゅごいのぉぉおおッ! 何度も何度も突かれてビクビク止まらないのぉおッ!!」

 

 

 再生するたびに切り刻まれ、体をビクンビクンと震わせるだけの肉塊となり、アへ顔ダブルピースを決めるギガマーラがそこに居たのだった。

 

 

 

 

 

 無事に魔帝の軍団を退けることに成功し、魔王と共に状況を王城の兄に伝えに行く勇者。そんな姿を誰もが顔を見合わせながら見守っていた。

 

「ねえ、勇者様の隣居る女の人って……」

「ええ、あの勇者といるんだから間違いないわ」

「そうですよね、普通の人が一緒に居られるわけがない」

「つまり―――」

 

 

『あの女の人も変態に違いない!』

 

 

 魔王、知らぬ間に変態扱いを受ける。

 

「……ねえ、勇者。なんだかすっごく嫌な噂をされている気がするんだけど」

「仕方あるまい。部外者などそうそう来る場所ではないからな、ここは」

「違う……絶対なにか致命的なことを噂されている気がする」

 

 ブツブツと呟きながら歩いていく魔王。

 知らぬが仏と言う言葉があるが、魔王の彼女にとっては果たしてどちらの方がいいのだろうか、それは女神にも分からぬのであった。

 

「何はともあれ、兄上への報告が先だ」

「……流石のあなたもこういう時はマントを羽織るのね」

「勿論、部屋に入れば脱ぐぞ?」

「ああ、うん。あなたに期待した私が馬鹿だったわ」

 

 知ってたという呆れた視線に首を捻りながらも、勇者は扉を開く。

 するとそこには、臨時で国王を務めている、何故か勇者とあまり似ていない(・・・・・)兄が居た。

 

「兄上、ただいま戻りました」

「うむ、久しぶりだな。マクシミリアン……それとそちらの女性は?」

「……ルシフェリア殿という。拙者の同居人だ」

 

 魔王と言うわけにもいかずに同居人と呼ぶ勇者。

 しかし、その返答に兄は天変地異でも起きたと言わんばかりの表情を見せる。

 

「あー……その、ルシフェリア殿。少し体調がすぐれていないのではないか? 王国随一の医者を呼んでこよう。そこでよく診てもらうといい。具体的には頭とか、頭とか」

「ちょっと、私をこの変態と同じ目で見ないでもらえる!?」

「しかし、この愚弟と共に生活をしているのだろう? 悪いことは言わぬから、一度は医者に…」

「だから変人じゃないって! 大体、勇者も勇者よ! どれだけ身内から信頼が無いのよ!?」

「いやはや、昔からやんちゃだったせいだろうな、はっはっは!」

「少しは兄の苦労を分かって欲しいものだ……」

 

 快活に笑う勇者に胃の辺りを押さえて苦しそうにする兄。

 この人も苦労しているんだろうなと、魔王は何となく親近感を覚える。

 自分を変態扱いしていることは許さないが。

 

「コホン、とにかくだ。二人とも此度の助勢感謝するぞ。父上に代わって、この第一王子ローラン、心から感謝をする」

「当然のことをしたまで。して兄上、父上の容態は?」

「今は安静にしておられる。肉体はともかく、精神の疲労が大きいようだ」

「そうですか……」

 

 ホモに襲われた精神的苦痛は計り知れない。

 ましてや完落ち寸前の催眠状態までいったのだ。

 これが薄い本ならそのままBADENDと表示されてもおかしくなかったのだ。

 

「まあ、しばらく休めば元通りになるだろう。それよりも、今回の襲撃の話があるのだったな?」

「うむ、実は―――――」

 

 魔帝と呼ばれる魔王の復活。それによる人間と現代の魔物への被害。

 現在人を襲っているのは魔王の配下とは別の魔物であること。

 などなどを話していき、勇者は言葉を切る。

 

「なるほど、魔帝か……初代勇者の伝承に微かに出てくる魔王だな」

「知っておられるのですか、兄上?」

「魔帝については伝承の中に名前だけ出てくる。だが、初代勇者に関してはお前と同じで不死の肉体を持ち、絶世の美男子だったと聞く。そもそもお前の名前はその勇者から取ったものだぞ」

「……初耳でござる」

「うん? おかしいな、一度ぐらいは話したつもり(・・・)だったんだが」

 

 軽い違和感を覚えながらも話を続けていく、ローラン。

 魔帝はリリスが話していた通りに、初代勇者に封印されたという話だけが伝わっている。その能力、容姿などは全くと言っていいほど伝わっていないらしい。

 

 それを聞き、勇者は何百年も前だからそれもそうかと疑わずに聞き流す。

 一方魔王の方は何となくおかしさを感じ、一人首を捻るのだった。

 

「とにもかくにも、魔帝は拙者が打ち取って参りますゆえ、ご安心くだされ」

「心強いな。しかし、その魔帝とやらの居場所は分かるのか?」

「それは……」

 

 口ごもる勇者に代わり、今度は魔王が口を開く。

 

「目当てはついてるわ。かつて封印された所は魔王領と王国の狭間にある地下神殿らしいから」

「ふむ……すまぬが愚弟の案内を頼んでもよいか、ルシフェリア殿」

「戦力は多いに越したことはないわ」

「うむ、まお……ルシフェリア殿がついて来てくださるなら百人力でござる」

 

 こうして魔帝を討伐の作戦決行が決まったのだった。

 そして、勇者と魔王は目を合わせ頷き合う。

 

「どんな奴か知らないけど消し飛ばしに行くわよ」

「無論、我が民へ犯した愚行の数々、必ず贖わせてみせよう」

 

 無言で拳でぶつけ合い、互いの健闘を祈る。

 そうして最後の戦いの幕を開けるのだった。

 

 

 

『ふふふ……やっと来てくれるんだ、僕の愛しい人』

 

 

 

 待ち受ける狂気を知ることもなく。

 




次回か次々回で完結します。なので今回は少々真面目になりました。
というか、魔王様がいないとツッコミが居ないので序盤ボケきれなかった。
やはり魔王様は偉大。


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5話:最終決戦

真面目に書いたら長くなりました。


 あらすじ

 

 王国を窮地から救い出すことに成功した勇者と魔王。

 しかし、敵の頭を叩かなければこの悲劇は繰り返されるだろう。

 故に魔帝を討たなければならない。

 勇者と魔王は手を取り合い、魔帝が封印されし地へと向かうのだった。

 

 今、全ての因縁が終わりを告げる……。

 

 

 

 

 

「この扉の奥が魔帝の封印された場所か」

「そう伝わっているわ。もっとも、封印が解かれたのならここにいるとは限らないけど」

 

 魔帝が眠る地下神殿の最下層。

 そこに、数々の罠と試練を難なく乗り越えてきた勇者と魔王が居た。

 光など届かない闇の中、松明の火に照らされて二人の瞳は赤く輝いている。

 まるで、今からの戦いに闘志をたぎらせているかのように。

 

「……しかし、かつては剣を交えたそなたとこうして肩を並べるというのも不思議でござるな。あの時は思いもしなかったでござる」

「私もあなたみたいな変態と仲間みたいになるとは全く思ってなかったわ」

「ふ、その暴言は照れ隠しと受け取っておこう」

「100%本心なんだけど?」

「世に言うツンデレというものだな」

「デレなんて欠片もないんだけど? ……嫌いじゃないけど」

 

 軽口を叩き合いながら、高ぶる心を落ち着かせる二人。

 もっとも、魔王の方は若干本気でイラついてきているが。

 

「……それじゃあ、行くわよ。準備はいいわね?」

「無論。既に衣は全て脱ぎ終えておる」

「準備って言うのは普通は着こむものなんだけど……もういいや」

 

 もう、ツッコむのにも疲れてきたのか、投げやり気味に答える魔王。

 だが、警戒は怠ることなく慎重にかつ大胆に、石造りの扉を開ける。

 

 扉の先にあったのは白い空間だった。

 何もない、虚無と言う言葉をそのままに表したような空間。

 だが、その中心には異物とも呼ぶべき、黒いローブを頭から被った何者かが居た。

 

「やあ、待っていたよ。後輩魔王君、そして……勇者マクシミリアン」

 

 魔王への挨拶も程々にその人物は勇者に熱い視線を向ける。

 まるで、恋人との逢瀬を待ちわびていた少女のように。

 

「貴殿が魔帝か?」

「うん、そうさ。ボクが魔帝こと初代魔王さ。それと、ボクは女性だよ」

「む、すまない。貴女であったか。して―――覚悟は良いか?」

 

 勇者の問いかけに魔帝は嬉しそうに応える。

 自身の首に容赦なく剣を向けられたにもかかわらずに。

 そんな異常な態度を、不気味に感じながらも魔王が重ねて問いかける。

 

「今まで封印されていたご老体が、どうして今頃、私達にちょっかいをかけてきたのかしら?」

「ふ…ふふふふ…ふふふふっ!」

 

 だが魔帝はその問いかけに応えることなく、クスクスと笑うばかりである。

 その不気味な姿に、魔王と勇者はどこかおぞましさを感じてしまう。

 

「今になって? 違うね。僕はずっと前から復活していたのさ。だっておかしいだろう? 魔王が倒されると同時に、別の魔王が復活なんてそんなに上手くいくと思う?」

「つまり……ここに来るまでは、全て貴女の掌の上ということか?」

「ご名答! 流石は勇者だ。うんうん、勇者は頭の回転も早くないとね」

 

 何が嬉しいのか黄色い声を出しながら拍手をする魔帝。

 魔帝は当の昔に封印を破っていた。

 そして陰で暗躍しながら、今日この日に勇者がここに訪ねてくるように仕向けていたのだ。

 

「そうまでして、あなたは何がしたいのかしら?」

「魔王の君は別に来なくても良かったんだけど、勇者にここを教えてくれたからね。

 ご褒美に僕の目的を教えてあげるよ。僕の目的は2つある」

「2つ…?」

「そう、1つ目は―――」

 

 闇が裂けるように魔帝の口が開き、目的が告げられる。

 

 

「全人類をホモにしての世界征服だよッ!!」

 

 

「なんで私の周りには変態しかいないのよ、もうヤダ!!」

 

 告げられた目的は、「全人類総ホモ化計画」。

 その余りの変態的な目的にツッコミ役の魔王だけでなく、勇者も唖然とするしかない。

 

 要するに魔帝は新たな人が生まれないようにして征服をしようとしているのだ。

 実に合理的かつ確実な方法だと言わざるを得ないだろう。

 

「というか、それだと魔法少女のコスプレは何なのよ!?」

「趣味」

「そんなことだろうと思ったわよ!」

 

 魔王、最近人間不信に陥っているらしい。

 一体誰が悪いのだろうか。

 

「大体、そんなことで世界征服しても、ホモしかいないんだから結局魔族も滅びるでしょ!? そもそもあなた女性って言ったわよね!?」

「後輩君はせっかちだね。ここでボクの2つ目の目的が重要になるのに」

「2つ目の目的…?」

「そう、人類と魔族が滅びた世界で、ボクは―――イブになるのさ」

 

 イブ、つまりそれは神話における全人類の母のこと。

 そうなるためには当然アダムが必要となる。

 そして、魔帝にとってのアダムとは。

 

 

「勿論、マクシミリアン。君がボクのアダムさ」

 

 

 勇者マクシミリアンのことである。

 

「お断りするでござる」

「ふふふ、恥ずかしがらなくてもいいんだよ? 君とボクは結ばれる運命なんだから」

「運命を乗り越えていくのが勇者というもの」

「そういう素直じゃない所も好きだよ」

 

 即答でお断りを入れる勇者だったが、魔帝はめげない。

 そもそも勇者の言葉を聞いているのかすら分からない。

 それ程までに魔帝は勇者への恋心に狂っていた。

 

「というか、拙者にはそなたに好かれる要素が欠片も思いつかないのだが」

「そんなことはないよ。だって君はボクの好きな要素、全て(・・)で作られているんだから」

「作られているだと…?」

「そうか、そうだよね。まずはボクの昔話からしないと分からないよね」

 

 顔の見えないフードの下で、これでもかとばかりに笑みを浮かべ話し始める魔帝。

 

「ボクが魔王だった2000年前、1人の勇者がボクの下に訪れた。初代勇者、マクシミリアンさ。彼は強かった。戦い、僕の体をその力強い腕で捻じ伏せて僕を封印した」

「伝承で聞いた通りだな」

「うん。でも、ボクが何を思ったのかは君達は知らないでしょ?

 ボクはね、勇者に―――恋をしたんだ」

 

 うっとりと、声に乗せた熱を隠すことなく話す魔帝。

 その姿は、どこからどう見ても恋する少女であり、おぞましい何かだった。

 

「マクシミリアンは美しかった! 強かった! 高潔だった!

 あれほど心が躍り、眠れぬ恋慕の熱にうなされたことはないよ!

 だから、封印を解いたら真っ先に彼の下に行こうとしたッ!!

 でも―――その時に彼は既に死んでいた」

 

 魔帝がその狂おしい程の恋心を伝える相手は、既にこの世にはいなかった。

 当たり前だ。ただでさえ、人と魔族には寿命の違いがある。

 さらに魔帝は何百年も封印されていた。

 目覚めた時に恋した相手が居なくなっていても何も不思議はない。

 

「辛かったなぁ、何もする気が起きなかったんだもん。

 魔王に戻ることもなく、ただボーっと200年くらい過ごしたかな」

 

 ここで終わっていれば、ここで諦めていれば、ただの悲恋で終わっていた。

 だが、彼女は諦めなかった。

 

「でも、途中で気づいたんだ。

 マクシミリアンが居ないなら―――ボクが“君”を作ればいい」

 

 愛する人がいなくなったら、また作ればいい(・・・・・)

 そんな狂った思考を彼女は実行してしまった。

 何より、実行する力があった。

 

「何度も何度も勇者を生み出して魔王と戦わせた。でも、失敗作ばっかり。

 君と顔が同じにならない奴も居たし、魔王に負けるなんて軟弱な勇者も居た。

 でも、そんな奴らは()に相応しくない。

 君は強いんだ、魔王になんて負けない。

 君は美しいんだ。ゴミ共とは魂から違う存在じゃなきゃいけない。

 だって、君はボクの愛した人なんだから」

 

 どこまでも情熱的で、狂気に満ちた視線で勇者を見つめる魔帝。

 その視線は勇者の姿を余すことなく見ているようで、その実、彼本人のことは欠片も見ていなかった。

 

「………つまり、今までの勇者と魔王の戦いは、貴女が仕組んだものだったのか…?」

 

「うん。だっておかしいでしょ?

 何百年もどちらも滅びずに戦い続けるなんて普通はあり得ない。

 魔王が倒れてもあっさり別の魔王が出るのも普通は上手くは行かない。

 勇者だって、そう簡単に素質のある人間が生まれるわけがない。

 でも、この戦いは一度たりとも途切れたことが無い。

 君という最高傑作が生まれ、魔王を倒すまでは……ね?」

 

 何もかも魔帝の掌の上で転がされていたに過ぎない。

 その事実が勇者の心に影を落とす。

 たった一人の少女の我が儘のために、数えきれない人と魔族が死んでいったのだ。

 許せるわけがない。勇者の瞳に怒りが宿る。

 

「あははは! そう、そうだよ。君は怒らないとね! だって君は勇者だ!

 悪事が許せない、ボクのことが憎くて堪らない!!

 そうして、あの時だってボクと戦ったんだ! これで君は完成する!

 君こそが―――勇者マクシミリアンだッ!!」

 

「そのよく回る口、二度と開けなくしてやろう…ッ!」

 

 普段ではありえない程に激高した勇者の剣が走る。

 二本の剣は、手加減などなしに首を斬り落としにかかる。

 しかし、魔帝もさるもの。

 待っていましたとばかりにローブを脱ぎ捨て、変わり身の術のように避ける。

 そして、ワザと勇者にその姿を見せつける。

 

「馬鹿な……その姿は…ッ!」

「そう言えば、まだ言ってなかったね。どうして人間がボクの思い通りに動いたのか。

 魔物は魔王なんだから難しくなかった。でも人間は違う。

 何でも言うことを聞かせられる存在が必要だった。

 だからボクは―――女神になったんだよ」

 

 絶句する勇者をよそに魔法少女の服を着た魔帝はクスクスと笑う。

 その姿は人間が信仰する女神と寸分違わぬ姿であった。

 輝く銀色の髪に、真紅の瞳。そして母性を表す女性らしい体格。

 

 そう、魔帝は魔王として魔族を、女神として人間を操っていたのである。

 それ故に人間は情報の違和感に気づくこともできず、思い込まされていた。

 自分達が全ての選択を行ってきたのだと。

 

「君が不死の肉体を得たのも、浮世離れした顔を持っているのも、全部は君が生まれる前から決まっていたんだ。ふふふ、何年も待った。でも、これでやっと熟れた果実を食べることが出来る。さあ、ボクと一つになろうか?」

 

 魔帝改め、女神は妖艶な笑みで舌なめずりをし、勇者を見つめる。

 勇者は衝撃のあまりに動くことが出来ない。

 後はゆっくりと熟した果実を楽しむだけ、そう魔帝は思うがこの場に居るのは二人だけではなかった。

 

「何を勝手なことを言ってるのかしら? そこの勇者は私のものよ」

「……なんだい、後輩君。誰が何と言おうと1から作り上げたボクのものさ」

「いいえ、先輩(・・)。勇者は私の城に住まわせている。つまりは私の所有物よ」

「いや、拙者そもそも、まだ誰の物になった覚えもないのでござるが……」

 

 魔王に対して抗議の声を上げる勇者だが無視される。だが魔帝にとっては無視できる内容ではなかったらしく、あからさまに不機嫌な顔になる。

 

「後輩君、君は邪魔だ。勇者は魔王と肩を並べたりなんかしない」

「あら、それはつまり先輩の言う、君とやらでないという証明にはならない?」

「いいや、君を消せば、元通りボクだけの勇者だ」

「ハッ、いいわ。もとから魔王は2人もいらないもの」

 

 先程までとは違い、楽しみではなく苛立ちの表情を見せる魔帝。

 一方の魔王は言ってやったとばかりに清々しい表情をみせる。

 

「いくわよ勇者、この時代遅れの先輩を消し飛ばしましょう」

「もとよりそのつもりだ。だが……そなた何をそんなに気合を入れているのだ?」

「な、なんでもいいでしょ。そんなことより、準備は良い?」

 

 顔を赤くして誤魔化す魔王。

 勇者を奪われると思った時に湧き出た黒い感情。

 それが何だったのかは魔王にも分からない。

 だが、一つだけ分かっていることはある。

 

 目の前に居る女が心底気に入らないということだ。

 

「我が名は、勇者マクシミリアン。魔族の王よ―――」

「我の名は、魔王ルシフェリア。人間の勇者よ―――」

 

 かつて向かい合って言った言葉を、今度は肩を並べて発する。

 

『いざ共に参らんッ!』

 

 勇者と魔王、異なる道を歩んできた二人が、今同じ道を歩み始めた。

 

 

 

 

 

「おいなりさんがッ! 拙者のおいなりさんがぁああッ!?」

「ふふふふ、どうやら『ドラゴンブレス』が効いたようだね」

「だから、あれ程パンツを履けって言ったじゃない、このバカ勇者!!」

 

 自らの股間を押さえ、のた打ち回る勇者。

 今までの戦闘において勇者の弱点を突くことが出来た者はいなかった。

 だが、勇者を生み出したとも呼べる魔帝の前では、そんな実績は意味がない。

 

 因みに『ドラゴンブレス』とは魔法ではない。

 人が殺せると評判の辛さの唐辛子のことである。

 戦闘力で表すとすると、タバスコが1200、ハバネロが10万。

 その中で『ドラゴンブレス』は―――240万を誇る。

 

 その辛さは宇宙の帝王の第三形態に匹敵する。

 何せ「戦闘力5のゴミめ」と粋がっていた奴と同程度のタバスコの2000倍だ。

 簡単に星を壊せてしまえても、何らおかしくはない。

 

 そんなものをおいなりさんにぶつけられた勇者の苦痛は語るまでもない。

 

「い、痛みでおいなりさんの感覚が全くない…ッ」

「大丈夫だよ、ボクが後で優しく気持ちよく看病してあげるから」

「ただでさえ劣勢なのに、こんなくだらない理由で勇者が離脱するなんて…!」

 

 戦局は完全に魔帝に傾いていた。

 股間の負傷により戦闘不能な状態になっている勇者に、息も絶え絶えな魔王。

 繰り出す技は勇者と魔王を知り尽くす魔帝に全て読まれ、防がれる。

 まさに詰みというべき状態だった。

 

「さあ、もう諦めてボクと一緒になろうよ。子どもは男がいい? それとも女?」

「まだ……戦いは終わってないわよ、先輩」

「ああもう、いい加減しつこいな、後輩君は。世界にはボクと勇者だけが居ればいい。だから、消えちゃいな」

 

 魔帝が魔王に手をかざすと、紅蓮の炎が彼女の腕を中心に渦を巻き始める。

 この一撃で決めるつもりだと、判断した魔王は自身も同じ技を繰り出す。

 

「災厄をまき散らす火の粉よ! 神羅万象を焼き尽くす紅蓮の炎よ!」

「煌々と燃え上がる冥府の業火よ! 今、その強欲に従い全てを呑み込めッ!」

 

『―――インフェルノッ!!』

 

 最強最悪の火炎魔法が放たれる。

 紅蓮の炎は竜の頭を象った姿となり、互いの体を貪り食う。

 一進一退の攻防。しかし、体力、地力の劣っている魔王の炎が徐々に押され始める。

 

「ぐ…っ!」

「無駄だよ、同じ魔王でも年季が違い過ぎる! さあ、終わりだよッ!!」

「…ッ!? 食い破られ―――ッ」

 

 保たれていた均衡が一瞬にして崩れ去り、巨大な炎の竜が目前に迫る。

 

 ―――死んだわ、私。

 

 竜の顎にかみ砕かれる瞬間、魔王は自らの死を悟り、目を閉じる。

 そして、紅蓮の業火に飲み込まれ消えて―――

 

「させんッ!」

 

 消えると思った瞬間、力強い腕に引かれ、守るように胸に抱きかかえられる。魔王であっても一瞬で焼き尽くされるほどの業火を、その男は身一つで受けきってみせた。

 

 男の肉体は不死身であり、傷一つ付けることはできない。

 彼は勇者であり、名を―――マクシミリアンと言う。

 

「間に合ったようだな」

「ゆ、勇者……」

 

 頬を朱に染めてふにゃりとした表情で見上げる魔王。

 そんな彼女に、股間に受けた致命傷を気にさせないように勇者は笑う。

 だが、触れただけで麻痺を引き起こす『ドラゴンブレス』のダメージは隠し切れずに、脂汗をだらだら流している。

 

 しかし、そんな姿でも今の魔王には最高にかっこよく見えた。

 俗に言う吊り橋効果である。魔王、ちょろ甘である。

 

「……気に入らないね。その体は魔族を守るためにあげたんじゃないんだよ?」

「どう使おうが、拙者の自由であろう」

 

「いいや、勇者(・・)は魔王を庇わない!

 だって()はボクを容赦なく封印したじゃないか!? 

 そうだ、そこの魔王がいるから君がおかしくなるんだッ!」

 

 自分の理想とズレ出してきている勇者に激高する魔王。

 結局の所、彼女は勇者のことなど見ていないのだ。

 彼女が見ているのは、かつて自分を封印した初代勇者だけ。

 その理想を無理矢理、今の勇者に押し付けている狂人にすぎない。

 

 だから、その理想を勇者は砕く。

 

 

「確かに。拙者は魔王殿に―――惚れた女におかしくされているな」

 

 

「ふぇッ!? い、いきなり何言ってるのよ…!?」

 

 突然の告白に、目を白黒させて錯乱状態に陥る魔王。

 しかし、そんな様子を気にすることもなく勇者は言葉を続ける。

 

「故に、体が屈し、心が壊れようとも、貴女のものになることはない」

 

「黙れッ! ()はそんなことを言わない!!

 君と魔王はお互いを殺し合うんだ! 互いを認め合うなんてしない!!

 君は魔王に―――恋なんてしないッ!!」

 

 ―――だって、魔王に恋をする勇者なら自分を封印するはずがない。

 

 そんな考えを打ち消すように、狂った悲鳴を上げる魔帝。

 それは恋破れた少女のように痛々しいさまであったが、勇者は容赦しない。

 確実にとどめを刺しに行く。

 

「いい加減、幻想を抱くのはやめなされ。貴女が愛した人物は二度と現れない」

「違う! 違う! 君が勇者マクシミリアンなんだッ!?」

 

「初代勇者は貴女を封印し、拙者は魔王殿を封印しなかった。

 これだけでも十分な違いのはずだ。

 そして、拙者が封印しなかったのは魔王殿に惚れたから。逆に言えばだ。

 封印した初代勇者は―――貴女のことをなんとも思っていないということだ」

 

 ブツリ、と何かが切れる音がする。

 それは切れてはいけない何かのようで、壊れなければならない何かだった。

 

「……ふふふ…ふふふふ! ふふふふはははははッ!!

 そうだ、また失敗したんだ。だって勇者がボク(魔王)を愛するはずがないッ!

 勇者は愛を持たず力を振るう! 魔王を殺すものだ! そう、君は偽物だッ!!」

 

「ようやっと、気づいたか。

 しかし、自分は愛するのに愛されるのは嫌とは悲しい性だな」

「黙りなよ、もう君に用はないんだ。早く次の準備をしないといけないからね」

「残念ながら、貴女には……いや、貴様に次はない」

 

 狂気を通り越した何かを見せる魔帝だったが、勇者は興味を見せない。

 ただ、相手を消し去るだけの存在とみなして冷たく見つめるだけだ。

 

「ゆ、勇者…? 聞きたいことが山ほどあるんだけど……それは後にするとして、どうやって魔帝を倒すのよ? 二人がかりでも倒せなかったのに」

 

 顔を赤らめ、もじもじとしながらも魔王の言っていることは確かだった。

 何か秘策でもなければ魔帝の前に敗れ去るだけだ。

 しかし、勇者にはその秘策があるらしく自信ありげに頷く。

 

「準備は既に整っている。だが、魔力が足りん。魔王殿少し魔力をくれぬか?」

「……少ししか残っていないから、全部あげるわよ」

「かたじけない」

 

 最後に残ったなけなしの魔力を全て勇者に渡し、魔王は座り込む。

 もう、自分にできることはない。後は信じて待つのみ。

 目の前の女神ではなく、勇者のくせに魔王(自分)に惚れたという男を。

 

「二剣一槍の神髄、とくとご覧あれ」

「神髄…?」

 

 勇者が両手に持った聖剣エクスカリバーと宝剣カリバーンが砕け散る。

 何事かと驚く魔王と魔帝に勇者は語り始める。

 

「二つの剣に宿る聖なる力を全て拙者の体の中に溜め込む、一度きりの技。

 そして、勇者の力と魔王の力を融合させ、全てを一点に集中させる」

 

 勇者の体が神々しい光を放ち始め、その光がゆっくりと集中していく。

 全ての力は凝縮され、この世の全てを、世界をも破壊しかねない力となる。

 

 

 そして、勇者は力の全てが集中し黄金に輝く―――股間を魔帝に向ける。

 

 

「我が聖槍ロンゴミニアドの真の力、とくと味合うがいいッ!!」

 

 

「どうせそんなことだろうと思ったわよ、こんちくしょう!」

 

 魔王が何やらやけくそ気味に叫んでいるが、その力は本物である。

 魔帝が股間に向かい攻撃を放つが、光り輝く股間はビクともしない。

 勇者は遂に真の意味で無敵の勇者となったのである。

 

「うそだ…! そんな技、ボクは知らないッ!」

「当然、これは拙者のオリジナル。さあ、覚悟するがよい魔帝よッ!!」

 

 勇者の股間が一層強く光り輝き、波動砲のように周囲にオーラを飛ばしていく。

 そして、全ての力が乗った光の一撃が今、放たれる。……勇者の股間から。

 

 

 

「世界を繋ぎ止める栄光の槍、受けてみよ! ―――ロンゴミニアドッ!!」

 

 

 

「なんで、あなたは緊迫した場面をこうも酷い絵面にできるのよぉおッ!?」

 

 魔王の泣き声と、破壊音が響き渡る中。

 魔帝は断末魔の悲鳴すら上げることなく―――光の中に消えていったのだった。

 

 

 

 

 

「終わったのね……」

「そうだな」

 

 戦闘によりできた瓦礫の山に座りながら、魔帝が消えた方向を見る勇者と魔王。

 勇者はいつも通りどこまでも自然体で。

 魔王は距離感を計りかねているように、チラチラと勇者の顔を盗み見ていた。

 

「ねえ……今どんな気分?」

「一応は女神を殺したからな。何とも言えん気分だ」

「まあ、あなた達人間が信じていたものだものね」

「全くだ。その実態が勇者狂いの元魔王とは……人生は驚きの連続だな」

 

 消してしまったとはいえ、思う所はあるのかため息をつく勇者。

 魔王はそんな勇者の前に、本題を振る勇気が湧いてこずに、さらに別の話題を振る。

 

「あなたは勇者って何だと思う? 魔帝は力を持って魔を倒すものって言ってたけど」

 

 その問いかけに少し考える仕草を見せ、勇者はフッと笑う。

 

「それも間違いではござらん。ただ、拙者の考えは違う」

「なんなのかしら?」

 

「勇者に力はいらんし、勇気もいらん。

 ただ、大切な何かのために歯を食いしばって立ち上がれればよい。

 それさえ出来れば、皆―――勇者だ」

 

 世界を救う力などいらない。人一倍勇敢である必要もない。

 ただ、譲れない何かのために、震える両足を叱咤して立ち上がれればいい。

 家族のために懸命に働く父親や母親。友を助けるために頑張る子ども。

 

 みんながみんな勇者なのだ。

 

 救った数の問題ではない。守った人数の問題でもない。

 どんなに小さくつまらないものであっても。

 救うという行動を、守るという行動を、行った者が勇者と呼ばれるのだ。

 

「そして、その大切なものが、拙者にとってはそなただっただけだ」

「ひゃ!? そ、そういう大切なことはいきなり言わないでよ……」

「一目惚れだ。拙者と添い遂げて欲しい」

「だ、だから……あうぅ…」

 

 真面目な顔でプロポーズをされて、魔王はあうあうと口を開くことしかできない。

 だが、答えを待っている相手が目の前に居るのに、返さないわけにはいかない。

 なので、魔王は混乱してトマトのように赤い顔のまま口走る。

 

「ふ、不束者ですが、お願いします!」

「そうか! そうか! その……必ず幸せにすることを誓おう」

 

 勢いで言ってしまった魔王だったが、別に勇者のことは嫌いではなかった。

 なんだかんだ言って、その性格は好いていた。露出癖は別だが。

 そもそも好きでもない男と一つ屋根の下で生活できるほど、彼女は大人でない。

 あくまでも乙女なのだ。精神年齢は。精神年齢は。

 

「では、これからもよろしく頼むぞ」

「え、えっと……よろしくね…?」

 

 ハニかんで上目遣いで見つめるという仕草で、完全に乙女ムーブに入る魔王。

 魔王としての威厳? そんなものより婚期だ。ということなのだろう

 これでリリスも色ボケ年魔(としま)王様などと呼べなくなるはずだ。

 

 そう、浮かれまくっていたのが悪かった。

 いつもなら絶対にこけない程度の瓦礫に躓き、勇者に倒れ掛かってしまう。

 そして、定番のアレを掴む。

 

 

「すまない、それは私のおいなりさんだ」

 

 

「なんでこんなのばっかりなのよぉおおッ!?」

 

 魔王の不遇なツッコミ生活はまだ始まったばかりだ。

 




完結です。お付き合いいただきありがとうございました。
感想評価よろしくお願いします!





〇後書き
この作品で唯一真面目に設定を考えたのが魔帝さんです。
当初は勇者は魔帝のクローンで魔帝は自分しか愛せないホモで、そのために勇者を作って呼び寄せたという設定にしようと思っていましたが、ヤンデレ女神になりました。理由は「君はそんなことしない!」って言わせたかったからのと最後ぐらい絵面をよくするため。

それと最終的にヒロイン化した魔王様。特にくっつく予定はなかったけど、あんまりに不憫なのでせめてヒロイン化させました。後、行き遅れにならないですむという配慮。というか、この作品どちらかというと魔王様メインな気もします。

勇者は語ることはありません。ひたすら変態性が上がるように書きました。最後だけ真面目になったのはネタ切れのせい。ロンゴミニアド? 気にするな。

さて、5話にもなって少しずつネタの量が無くなってきたので、ここで完結します。元々短編だったのでこれが限界。今度はまともな冒険章でも書きたいと思います。

それでは、改めてお付き合いいただきありがとうございました!


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