インフィニット・ストラトス 遥かなる虹の輝き (雷狼輝刃)
しおりを挟む

第0話 プロローグ

 何を思ったのかスランプ中にも関わらず突然ISの話のネタが浮かびあれよあれよと書いてしまいました。

 他の作品の更新をお待ちの方々には申しありませんが、これはこれでよろしくお願いします。


 他の二作品も徐々に執筆再開しておりますので近いうちに更新出きると思いますので何卒ご容赦ください。


 追記:とるべりあさんの御指摘により誤字修正いたしました


 

 

 ホテルの部屋の窓から射す日の光が、俺に朝という時間を知らせた。

 東京でもトップ3に入る高級有名ホテルのロイヤルスイートルーム。

 目を覚まし上半身を起こし壁時計を見れば、既に起床時刻をとっくに過ぎていた。

 仕方ないことだ、昨夜はみんな揃って休みが取れるとあって遅くまで過ごしていたのだから。

 自分の左右を見れば3人の女性が生まれたままの姿でシーツにくるまれて、安らかな寝息を立てていた。

 

 

    トントントン

 

 

 部屋の扉から控えめなノックが三回、誰がノックしたのかはすぐにわかった。

 

 

 「 どうぞ、入っていいよクロエ。」

 

 

 俺が言うと扉が開き、銀髪の少女・・・義妹のクロエ・アルカンシェルと実妹のマドカ・アルカンシェルが入ってきた。

 

 

 「 おはようございますお兄様。 どうやら、お姉様達はまだおやすみのようですね。 」

 

 

 「 おはよう兄さん。仕方ないよクロエ、久々の休みにみんなで会えたんだもん! 」

 

 

 そう言ってクロエは手にしていた人数分のバスタオルをソファーに置き、マドカは数部の朝刊をテーブルに置く。

 

 

 「 おはようクロエ、マドカ。3人は後10分ほどしたら起こして、それからみんなで朝食に行こう、もっともスコールとオータムは待ちきれずに行ったのだろう。」

 

 

 「 はい、お二人とも待ちきれないと仰有って先程向かわれました。なんでも、今日こそは限定和朝食を食べるんだと言ってました。 」

 

 

 クロエの答えに苦笑した。 仕方ない事だ、二人は大の日本食好きなのだが、前回来日した際にこのホテルの一階にある和食レストランの限定朝食を寝坊して食べ損ねていたのだ。 

 このホテルの和食レストランは某ガイドブックに星がついて載ったほどの有名店、それ故に食べ損ねた事を悔やんでいた二人は、この日を待ち望んでいたのだ。

  話ながらバスルームに行きシャワーを浴びて着替える。 そろそろ三人を起こそうとした時だった。

 

 

    ドンドンドンドン!!! バン!!!

 

 

 ドアが激しくノックされて開かれる。そして凄まじい足音を立てて二人の女性が部屋に入ってきた。 

 噂をしていた二人、スコールとオータムが息をきらせながら入ってきた。

 俺達の姿を確認したスコールは俺達に向かい

 

 

 「 た、大変よ、すぐにあれを見て!! 」

 

 

 スコールが指差す先にはテレビがあり、オータムが電源を入れ、ベッドに寝ている3人を揺さぶり起こす。

 

 

 「 タバネ、シャル、刀奈、いつまでも寝てんじゃねえよ! 起きろ! 大変な事が起きたぜ!!」

 

 

 オータムに乱暴に起こされて目を覚ます3人、タバネ・アルカンシェル、シャルロット・デュノア、更識刀奈は、寝ぼけ眼でテレビを見るとそこには女性キャスターが焦った様子で原稿を読み上げる姿が写し出された。

 

 

 《 ・・・・繰り返しお伝えします。 国際IS委員会の発表によりますと先日、日本国内で世界初となりますISの男性適性者が確認されたとの事です。 男性の名前は織斑一夏さん、15才。東京都内の中学校に通う男性です。     しかもあの日本が世界に誇るブリュンヒルデの異名を持つ織斑千冬さんの弟だそうだす。  この事態を受けて国際IS委員会は同世代の男性を対象にISの適性検査を実施することを決定しました。 これにより、第2第3の男性適性者の発見が有ることが望まれております。 繰り返しお伝えします・・・・》

 

 

 余りの事態に言葉を発することも忘れていた。

 

 

 「 あっちゃー、よりによって愚兄君が公式上の世界初の男性適性者で見つかったか。 ちーちゃんの苦虫を潰した顔が目に浮かぶよ。」

 

 

 タバネがベッドから半身を起こし呟く、そう公式上の1人目、だが実際には2人目。何故なら俺こそが最初の男性適性者なのだから。 タバネの言葉に続けて

 

 

 「 確か、シュートとマドカと同時に産まれた兄さんでしたっけ? 」

 

 

 シャルの疑問に刀奈が

 

 

 「 そうよ、織斑一夏君。シュートとマドカのお兄さんで織斑家の長男よ。 もっとも戸籍上はシュートとマドカの名前は織斑家には無いけど・・・・  それにしても、何でISの適性がわかったのかしら?」

 

 

 刀奈の疑問に手元のタブレットを操作しながらクロエが答える。すぐさま情報収集をしていたようだ。

 

 

 「 どうやら彼が受験予定だった藍越学園の入試の試験会場とIS学園の入試の試験会場が同じ施設だったようです。 彼は施設内で迷子になった挙げ句にIS学園の試験会場に入り込み、会場内にあった試験用の打鉄に触れて起動させてしまったようです。」

 

 

 クロエの答えに、全員言葉を失う。 

 

 

 「・・・・・あきれ果てて何も言えないな。」

 

 

 俺の呟きにマドカも頷きながら

 

 

 「 本当にあれが私達の兄なのかしら? 」

 

 

  マドカの呟きに同意せざるを得ない。 もっとも、織斑千冬・一夏の二人とも俺とマドカの血を分けた姉弟だが産まれてこのかた、全く顔を合わせた事が無い。

 何しろ俺達は姉弟と知っているが、向こうは俺達の存在すら知らない。 戸籍に無いのだから仕方ない。

 

 ともかく、これからが大変だ。すぐさま対応にかかろうとした瞬間だった。 

 

 

 「 お兄様、ルヴェール国連最高議長から暗号通信による緊急指令が届きました。 今から開きます。」

 

 

 そう言ってクロエは手元のタブレットを素早く操作して俺達に見せる。 そこには

 

 

 [ ミッションプランA ー2を実行せよ。]

 

 

 とだけ書かれていた。 俺達はそれだけでそれが何を意味するのか理解していた。

 

 俺達には2つの顔が存在する。刀奈を除いた7人はフランス、いやヨーロッパ最大のISメーカーアルカンシェル社の経営者と社員。 刀奈は日本の更識財閥の令嬢でその傘下企業にはアルカンシェル社と業務提携を結ぶISの部品メーカー、更識重工がある。さらに刀奈はIS学園の生徒会長で日本代表を勤める。

 

 だが、もう1つの顔は国連直属の特殊秘密部隊[ファントムタスク]のメンバーだ。

 部隊の存在を知るのは国連の中でも極僅かで、俺達に指令を送る事が出来るのは国連最高議長ただ1人だけだ。 

 そこまで俺達の部隊が秘匿されるのは訳がある。 俺達ファントムタスクは対IS用の特殊部隊だからだ。

 そして国連は現状の女尊男卑の風潮を良しとせず、それを推し進めている国際IS委員会を信頼していないからだ。 

 何故なら国際IS委員会の主要メンバーの大半は女性権利団体や女性至上主義団体に所属している。

 もっとも表向きは公正な組織を謳っている上に、主要な会議や議事録、予算や経費の使い道等に国連からの細かいチェックが入る為に無茶苦茶な事は出来無い。

 だが、万が一暴走した時の為に、ファントムタスクは存在する。

 そう俺達は国際IS委員会の対抗手段として設立された部隊なのだ。 

 

 そして今回指示されたミッションプランA ー2とはISの男性適性者が発見された時の為のプランなのだ。

 目的は男性適性者のガードと外的要因の排除

 

 

 「 タバネ姉さん、織斑一夏はこのあとどうなると思う? 」

 

 

 「 国際IS委員会もすぐには手を出さないでしょ。 恐らく予定通りにIS学園に入れさせて隔離。 それから何らかの理由をつけて研究所送りか暗殺という手段にでるんじゃないかな。 まあちーちゃんの目があるから派手な手段は取れないと思うよ。」

 

 

 「・・・・となると故意に成績を落とさせて研究所送り、または病死に見せかけた暗殺にハニートラップが疑われるわね。」

 

 

 スコールが起こりうる事を淡々と述べる。

 

 

 「 やっぱり、身近でガードするしかねえか。 だが、刀奈1人じゃキツイな学年も違うし。となると・・・・」

 

 

 オータムが呟き視線を俺とマドカとシャルに向ける。

 

 

 「 同じ学年に入ってガードしないといけない訳で、それが可能なのは俺達3人か、しかも俺が現れる事で更なる男性適性者が発見される可能性を示唆し揺さぶりをかけるか・・・・仕方ないプランβで実行する。」

 

 

 俺の決断に全員が頷く。 俺達ファントムタスクはいずれこのような事態が起こる事を予見し幾つもの対処方法を立てていた。

  プランβ・・・・それは対象の側に近づきガードし、更に俺という存在を公表することで世界の目を更に集めて外的要因からのリスクを減らすというプランだ。

 

 

 「 みんな悪いけど休日は返上だ。 すぐに行動に移るよ。 スコールは刀奈と一緒にIS学園に向かって理事長と打ち合わせを。 オータムとシャルは一足先にフランスに帰国、フランス政府と会社の重役達との打ち合わせを頼む。 マドカは各国にいるファントムタスクメンバーにプランβを指示し行動開始を連絡。 俺とタバネ姉さんは更識重工に行って俺とシャルとマドカの専用機の搬入手続きと整備の打ち合わせ。 以上、質問は? 」

 

 

  全員無言だ。 俺が号令をかける。

 

 

 「 ファントムタスク、作戦開始。 」

 

 

 1週間後、フランスから世界に二人目の男性適性者が発見されたことが発表された。

 

 

 

 

 

 side:千冬

 

 

 「 はぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~ 」

 

 

 職員室に響き渡る盛大なため息。 だが、他の教師達は見向きもしない、いや見ることができなかった。

 何故なら理由を知っているからだ。 それに出来れば自分たちも盛大にため息をつきたい。男性適性者が見つかって2ヶ月、息のつく間の無い忙しさだった。

 例年に無い忙しさにどの教員達も疲労の色を隠せないでいる。 

  

 

      入学式当日だというのに。

 

 つまるところ、千冬にかまっている余裕すら無いのだ。

 そんな千冬のいる机の上には自分が担当するクラスの3人の生徒のプロフィールの書かれた用紙が並べられている。

 1人は今回の騒動の発端となった自分の弟、一夏の物。 

  だが千冬が気になっているのはあと2人の兄妹の方だった。 プロフィールに添えられているその写真の顔。

 銀髪に碧眼、白い肌。日本人とは明らかに違う、しかし千冬は2人の顔から目を離せないでいた。

 

 

 ( しかし、何度見ても似ているな私と一夏に )

 

 

 そう思うほどに兄のシュート・アルカンシェルは一夏に、妹のマドカ・アルカンシェルは自分に似ていた。

 無論、千冬には一夏以外には弟も妹もいない。 戸籍にも記載されていない。

 それでも、千冬には何か引っ掛かっていた。 他人の空似ではすまされない、何かが千冬に訴えていた。

 或いは、突如として姿を消した両親がなんら関わっているかもという疑念。

どちらにせよ、千冬は2人の動向に注視することに決めていた。




 お読みいただきありがとうございます。

 色々突っ込みたい方もおられると思いますが、未熟者の書く話なので何卒ご容赦ください。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS設定

  随時、追加していきます


 リュミエール  搭乗者:シュート・アルカンシェル

 

 外見:ヒュッケバイン

 

 タバネがシュートの為に開発したIS。 特筆すべき点はコアを3つ使用したトリプルコアシステム (但し公式上はコアは1つ またコア反応も1つしかない)。

 これにより通常のISを遥かにしのぐ性能を発揮する。

しかし、その性能故に並の人間では乗りこなす事が出来ない。 シュートはある理由からこれを乗りこなす事が出来る。

 名目上は第4世代として公表されているが、タバネ曰く 「 ある意味、究極のIS。 極世代(きわみせだい) ISだね。 」

 コアの学習システムにより装着者の望む武装やパッケージを作り出す事が出来る。

 

 

 

 ソレイユ  搭乗者:シャルロット・デュノア

 

 外見:エクサランス

 

 タバネがシャルロット用に開発した第4世代IS。

特筆すべき点はコアを2つ使用したツインコアシステム (こちらも公式上はコアは1つ、反応も1つのみ)。 トリプルコアシステムに及ばないものの、やはり現行ISを遥かにしのぐ性能をもつ。 最大の特長は状況に応じて外装の形状を変化させる量子換装システムである。 

 これにより装着者が念じた瞬間に外装が状況に応じた物に変化する。(例 エクサランスストライカーからフライヤーへ瞬時に換装 )

 

 

 

 エクレール   装着者:マドカ・アルカンシェル

 

 外見:バルゴラグローリー

 

 タバネがマドカ用に開発した第4世代IS。

シャルロットのソレイユと同じくツインコアシステムを採用している。

 最大の特長としてマルチウェポンツール[ガナリーカーバー]が取り上げられる。 十徳ナイフの喩えられるように、これ1つで近接から遠距離まで、ありとあらゆる攻撃が可能な武器である。

 実はこれ自体にISのコア( コア反応は感知されないようになっている )が内臓されており、コアの学習システムにより攻撃手段や出力等が装着者の望むように進化していく。

 また拡張領域内に予備のガナリーカーバーが30個程あり、損傷しても直ぐにコアが予備のに転移して使える。

 またコアが無くても使用する事ができ、予備のガナリーカーバーを両手で持ったり、ビットとして複数展開することもできる。 

 

 

 

 凰姫    搭乗者:更識刀奈

 

 外見:アンジュルグ

 

 表向きは更識重工がアルカンシェル社と業務提携の末に開発した第3世代ISだが、実際にはタバネが刀奈用に開発した第4世代IS。 こちらもツインコアシステムを採用している。

 最大の特長としてはナノマシンを利用してのトリッキーな戦法。 大気中の水分と結合させて分身を作り出したり、幻影を作り出し自身の姿を消したりする。

 その他に、水蒸気爆発のような攻撃方法や火と結合させて不死鳥のような物を作り出して攻撃したりする。

 驚異的な要領の拡張領域もあり、またコアシステムがナノマシンを自動精製しているために、ほぼ無尽蔵にナノマシンを使う事が出来る。

 

 

 

 グリシーヌ    量産第3世代IS

 

 外見:ゲシュペンスト

 

 アルカンシェル社が世界で初めて発表した量産第3世代IS。 

 汎用性に優れ、尚且つラファールを凌ぐ拡張領域を持つ。 また幾つかのパッケージが既に拡張領域内に納められていることから、一気に支持され世界中から注文が殺到しているが、むやみやたらと受注せず精査してから受けるようになっている。

 現在のところ、公式上はフランス空軍に10機、IS学園に3機のみだが、非公式にはスコールとオータム用のカスタム機と国連に5機存在する。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キャラ紹介

オリキャラ等の設定をのせてます。


 シュート・アルカンシェル  

 

 本編の主人公。 本来なら織斑秋十(おりむらしゅうと)の名前を与えられて生きるはずだったがとある理由から、生まれて直ぐに妹のマドカとともに両親が勤める研究所に匿われる。

 上記と同じ理由から常人とはかけ離れたオーバースペックな能力の持ち主。

 現在は表向きはフランス最大のISメーカー[アルカンシェル社]の社長代理。 もう1つの顔として国連特殊秘密部隊[ファントムタスク]のリーダーを勤める。

 

 

 マドカ・アルカンシェル

 

 兄シュートとともにある理由から生まれて直ぐに研究所に匿われた。 本来なら織斑万夏(おりむらまどか)の名前で生きるはずだった。 

 シュートと同じ理由でオーバースペックの持ち主。

 アルカンシェル社の企業代表パイロット。 

   

 

 

 タバネ・アルカンシェル   ヒロインその1

 

 本当の名前は篠ノ之束、ISの開発者。

紆余曲折をへて、シュート達の元に合流し姉弟となる。

 現在はアルカンシェル社の社長兼開発主任をしており世間には正体を隠したままISを開発している。

 正体を知るのはごく僅かでフランス政府内でもトップシークレットにされている。

 コミュ症は解消されているが、気に食わない人物に対しては相変わらず辛辣。 シュートの事が好き

 シュートの恋人、その1

 

 

 

 シャルロット・デュノア    ヒロインその2

 

 フランスのISメーカーデュノア社の社長令嬢。 偶然知り合ったシュート、マドカと友人となり徐々にシュートに引かれていく。 その後アルカンシェル社と経営統合した事を気に家族ぐるみの付き合いとなり、シュート達の秘密を知りファントムタスクに参加する。

 現在はフランスの国家代表候補生。 ちなみに原作と違い母親はデュノア社の社長夫人。

 シュートの恋人、その2

 

 

 

  更識刀奈     ヒロインその3

 

 日本の更識財閥の令嬢で、日本代表も努めている。

シュートとマドカが幼少期の数年間を更識家で過ごした事がありその時からの付き合い。 その頃から刀奈はシュートのことが好き。

 ちなみに更識財閥は元は日本の諜報組織だったが刀奈が生まれる少し前から日本政府からの依頼が無くなったことで日本政府直属の諜報組織としての活動は辞め、企業に転向した。

 諜報組織だった頃の技術を生かしセキュリティがしっかりした高級旅館を始めて、大成功を納め現在はISの部品メーカーや飲食チェーン等、幅広くやっている。

 シュートの恋人その3

 

 

 クロエ・アルカンシェル

 

 ドイツの違法研究所で人体実験を受けていた少女達の唯一の生存者。

 ファントムタスクの摘発作戦により救出されて、シュート達の妹になる。

 特殊なナノマシンの投与を受けて視力を失うもタバネの治療により回復する。 ただ、副作用として瞳の色が金色に変わってしまった。

 シュートとともに家事全般を請け負う。

 

 

 

 スコール・ミューゼル

 

 ファントムタスクの前身となる国連の秘密部隊を指揮いていた女性。

 シュート達の保護やタバネ救出に活躍をした。

 現在はシュートにリーダー座を譲り、後進の指導とシュート達のサポートに徹している。

 オータムとは相思相愛の恋人

 

 

 

 オータム・レイン

 

 スコールとともにファントムタスクの前身となる部隊に所属し活躍していた。 モンドグロッゾにもアメリカ代表として第1回大会に出場し千冬と戦った経験もある。 その時は惜しくも負けたが、大会屈指の好カードとして語り継がれている。

 

 

 

 織斑一夏    原作主人公 アンチ対象

 

 原作では正義感の強い唐変木だったが、今作品においては、表面上は優等生を演じながらも、影では女誑し。

 その事を友人達は気づいていなかった。

自分の考えこそが唯一無二で正しいと思っており、それを否定されることを嫌う。シスコンで常識無し

 

 

 

 織斑千冬     アンチ対象

 

 IS界における最強の戦士。 全てを力で解決しようとする癖がある。 ブラコンで大酒飲みで家事全般が壊滅的な女性としての資質を欠いた人物

 

 

 

 篠ノ之箒    アンチ対象

 

 束の妹。 幼少期よりわがままで癇癪持ちで直ぐに暴力に訴える少女。 現在はさらに拗らせて、自分は束の妹だから何をやっても許されると思い込んでおり、都合が悪くなると束の名前を出し脅迫する。




随時追加していきます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話  入学

それでは本編開始です。
よろしくお願いします



追記:とるべりあさんの御指摘により誤字を修正いたしました。 御指摘ありがとうございます。


 (・・・キ、キツイ! 確かにハーレム願望を満たせるかもしれないけど、この注目度は想像以上にキツイ。  だが・・・)

 

 

 そんな事を思いつつ、このクラスで唯一の男子である織斑一夏は気づかれ無いように、周囲の女子生徒をチラ見する。

 

 

 ( それにしても、このクラスは可愛い女の子がいっぱいいるな。 いまどき珍しい金髪ドリルの髪型の子なんてスタイル最高だし、それに箒のやつも見違える程美人になったしスタイルも最高だし、これからの学園生活が楽しみだな‼ )

 

 

 こんなゲスイ事を考えているとは知らずに周囲の女子生徒達は一夏を見ては色々と内緒話をしている。

 この時、一夏は気づいていなかった。 教室の最後尾の机が3つ空いていることを。

 

 やがて始業のチャイムがなり、担任の女性教師が入ってきてSHRが始まった。

 

 

 「 皆さん、おはようございます。このクラスの副担任をつとめます山田真耶といいます。 どうぞよろしくお願いいたします♪ 」

 

 

 「「「「・・・・・・・・」」」」

 

 

 真耶がそう言ってクラスの生徒達に挨拶するが、返事はかえってこない。

 だが次の瞬間、教室内の空気が凍てつき室温が一気に下がった感覚に陥る。

 

 

 「 あれ? 返事と挨拶がありませんね? おかしいですね、 挨拶と返事は人として最低限必要なマナーなんですけど? それが無いと言うことは、このクラスに人はいないのでしょうか? 」

 

 

 そう言って笑みを浮かべたままクラスの生徒を見回す真耶。

 だが、その目は笑っておらず冷酷な光を携えていた。 そして口角も僅かに上がっており、それも相まって恐ろしい雰囲気を醸し出していた。

 気弱な愛玩動物のような雰囲気を醸し出していた教師の雰囲気が一変したのだ。

 クラスの生徒達は背筋を伸ばし慌てて

 

 

 「「「「「 おはようございます。 」」」」」

 

 

 その挨拶に満足したのか、元の笑顔に戻り

 

 

 「 はい、よくできました。 皆さん挨拶と返事は最低限必要なマナーですので忘れずにお願いします。 それでは自己紹介から始めようと思います。 それでは出席番号順にお願いいたします。 」

 

 

 そう言って自己紹介を始めさせた。 だが、一夏の耳には全く入っていなかった。  真耶が教室に入って来たことで、自分への視線が減った事で気が抜けたのだ。

 

 

 「・・・・一夏君、織斑一夏君? 」

 

 

 「 は、はい。 なんでしょうか? 」

 

 

 自分の名前が呼ばれた事に気づいて、慌てて返事する。

 

 

 「 え~と、自己紹介で、織斑君の番なんですがお願いできますか? 」

 

 

 「 は、はい。 わかりました。 」

 

 

 再び、自分に視線が集中した事に緊張が増して、

本来考えていた内容は、綺麗にすっぱりと消え去ってしまった。

 

 

 「 え~と、織斑一夏です。 ・・・・以上です。」

 

 

    ズンガラガッシャーーーーン!!!

 

 

     ズッカーーーン!!

 

 

 余りの簡潔さに、クラス全員がずっこけた。 そして次の瞬間、一夏の頭にすさまじい衝撃が走った。

 

 

  「 痛って~ーーー!! 」

 

 

  「 馬鹿者、自己紹介くらいちゃんとしろ!!」

 

 

   一夏が振り向くとそこには出席簿を持った自分の姉、織斑千冬が立っていた。

 

 

 「 ち、千冬姉? なんでここに? ぐえっ?!」

 

 

 再び出席簿が一夏の頭上に振り下ろされる。

 

 

 「 織斑先生だ、馬鹿者!  公私の区別はしっかりしろ!! 」

 

 

 そう言って千冬は教壇に向かった。

 

 

 「 すまなかったな山田君。 」

 

 

 「 いえ、副担任ですから! 」

 

 

 「 さて、自己紹介させてもらう。 私がこのクラスの担任となる織斑千冬だ。 君たちを一年間かけて、指導していく。 私の指示に意見しても良いが、逆らう事は許さん。 常にハイかイエスで答えろ。」

 

 

 千冬が挨拶した瞬間、クラスから大音量の悲鳴があがった。

 

 

 「 キャー 千冬様よ! 」

 

 

 「 私、千冬様に会うために北海道から来ました。」

 

 

 「 私は小笠原から来たのよ。」

 

 

 「 全く毎年毎年、こんな状況をよく作るな。 ともかく、静かにしろ。  気づいている者もいると思うが、このクラスにはあと3人の生徒がやってくる。 飛行機の都合上で到着が遅れたが先程ついた。 入ってこい。 」

 

 

 千冬が告げると、ドアから3人の男女が入って来た。

教室の生徒達はどよめく。 そう男性がいたからだ。

 

 

 「 自己紹介をしていけ。」

 

 

 千冬が言うと左端の男性から自己紹介を始める

 

 

 「 シュート・アルカンシェルと言います。  学生の身分ですが、技術者で開発に多忙な姉に代わりフランスのISメーカー[アルカンシェル社]の社長代理を勤めております。 文化の違いに戸惑うことがあると思いますが、妹共々よろしくお願いいたします。 」

 

 

  そう言ってシュートは頭を下げる。

 

 

 「 マドカ・アルカンシェルです。 シュートの双子の妹です。 アルカンシェル社の企業代表パイロットを勤めてます。 兄共々よろしくお願いいたします。」

 

 

 マドカもシュートに習い頭を下げる。

 

 

 「 シャルロット・デュノアです。 フランスの代表候補生です。 シュートとマドカとは幼なじみになります。 どうか仲良くしてください。 」

 

 

 シャルロットも頭を下げる。 3人の自己紹介が終わった瞬間だった。 再びすさまじい悲鳴があがる。

 

 

 「 キャー、二人目の男性適性者よ! 」

 

 

 「 しかも、イケメンよ、イケメン!! 」

 

 

 「 それも、銀髪のフランス貴公子!!! 」

 

 

 「 さらにあの歳で大企業の社長代理、優良物件よ!!!! 」

 

 

 鎮まる事を知らない騒ぎに苦笑する3人

 

 

 「 やかましい! 鎮まらんか貴様ら!! 」

 

 

 千冬の一喝で鎮静化する教室。 そして千冬の指示で空いてる最後尾の席に座る。

 こうして、騒がしいホームルームは終了した。

 

 

 そして続けて行われた一時限目の授業で一夏が参考書を電話帳と間違えて棄てた、というあり得ないイベントが起きたものの、それ以外は平穏に過ぎた。

 

 

 そして最初の休憩時間になり、シュートや一夏の回りにはクラスの女子生徒が集まり話かけて来た。

 そんな中、ひとりの女子生徒が

 

 

 「 ご無沙汰しておりますシュートさん、マドカさん、シャルロットさん。 」

 

 

 声をかけてきた。 イギリスの代表候補生セシリア・オルコットだ。 実は彼女はファントムタスクのイギリス支部のエージェント候補生として幾度か顔を合わせた事があったのだ。 もっとも表向きは代表候補生同士の交流だったが。

 

 

 「 久しぶりだねセシリア、元気にしてたかい? 」

 

 

 「 セシリアさん元気でしたか? 」

 

 

 「 セシリア久しぶり! 」

 

 

 3人が挨拶を返すとセシリアは笑みを浮かべ

 

 

 「 私は変わりありません。 まさか、皆さんが揃ってこのクラスに来るとは思っても見ませんでしたわ。」

 

 

 「 まあ、いろいろと事情があってね。 」

 

 

 一応事情の知るセシリアだったが、ここでは知らない振りをする。そして

 

 「 これから一年間よろしくお願いいたします。」

 

 

 そう言ってセシリアは優雅にお辞儀をし、自分の席に戻った。

 

 

 そして、時間は流れ昼休み。 シュート達3人とセシリアは刀奈に呼び出されて生徒会室に向かった。

 ちなみに、休憩時間の度に一夏が此方に話かけて来ようとしていたが、周囲を女子生徒たちが囲み近づいてこれなかった。

 

 

 生徒会室の前につきドアをノックすると

 

 

 「 どうぞ♪ 」

 

 

 刀奈の返事がかえってきたのでドアを開けて中に入る。

 

 

 「「「「 失礼します。 」」」」

 

 

 室内には刀奈以外に数人の女子生徒とスコールがいた。 スコールは教師として今期から学園に赴任してきた事になっている。

 室内にいる女子生徒の大半は顔を合わせた事がある。 即ちファントムタスクの関係者だ。

 

 

 「 さて、取り敢えず全員揃ったところで自己紹介といきましょうか。 まずは私から二年生の更識刀奈よ。日本の国家代表を努めているわ。 」

 

 

 そう言って扇子を広げると、そこには[ 学生最強 生徒会長!! ]とかかれていた。

 

 

 「 私は三年生の布仏虚と申します。 更識家の従者で情報収集や整備を担当させていただきます。 」

 

 

 刀奈の一歩後ろにいた虚さんが挨拶をする。

 

 

 「 三年のダリル・ケイシーだ。 アメリカの代表候補生だ。 」

 

 

 「 二年のフォルテ・サファイアっス、これでもギリシャの代表候補生っス。 」

 

 

 「 三年のクリアーナ・リムスカヤよ。リムと呼んで。イタリアの代表候補生をしているわ。 」

 

 

 「 二年生のサラ・ウェルキンです。 イギリスの代表候補生をさせていただいております。 」

 

 

 「 一年のセシリア・オルコットと申します。 サラ先輩と同じくイギリスの代表候補生をさせていただいております。 」

 

 

 「 一年生のシャルロット・デュノアです。 フランスの代表候補生をしています。 」

 

 

 「 一年生のマドカ・アルカンシェルです。 アルカンシェル社の企業代表を勤めてます。」

 

 

 「 一年生のシュート・アルカンシェルです・・・ご存知かとは思いますが、ファントムタスクのミッションリーダーをしております。 」

 

 

 「 最後は私ね! スコール・ミューゼルよ。 今回のオペレーションでサブリーダーを担うわ。普段はシュート達のクラスの副担任をしているわ。」

 

 

 「 さて、自己紹介も済んだことだし食事をしながら今後の事を話しましょうか。 どうぞ召し上がれ。」

 

 

 刀奈がそう言うと、虚がテーブルにサンドイッチに唐揚げ、おにぎりにピザ等を広げていく。

 各自好きなものを手に取り食べ始める。

 

 

 「 さて、みんなを集めたのは他でもないわ。 ここにいるメンバーの殆どが見習いメンバーで、本来なら卒業してから正式メンバーに昇格予定だったんだけど、今回のミッションプランA ー 2βでは特例として学園内に於いては正式メンバーと同等の扱いをすることになったわ。 ちなみに専用機を持っていない子はいるかしら。」

 

 

 スコールの問いに手を挙げる者はいなかった。

 

 

 「 それなら問題ないわね。それぞれの専用機にファントムタスク用の識別サインと専用チャンネルを設けるから後で設定してね。 」

 

 

 スコールがそう言って設定方法の書かれた用紙を全員に渡す。

 

 

 「 学園内における指揮は基本的にスコールが担うわ。 ただ緊急の場合は私かシュートが指揮することもあるから覚えておいて。 」

 

 

  刀奈がそう話すと全員が同意する。

 取り敢えず事務的な話が終わると互いの近況やプライベートな話を始めた。

 そんな中、シュートがある疑問を口にする。

 

 

 「 なぁ刀奈、なんで簪ちゃんと本音ちゃんがいないんだ?」

 

 

 シュートの質問に刀奈と虚の表情は曇る。 そこにセシリアが

 

 

 「 シュートさん、簪さんと本音さんとは? 」

 

 

 「 更識簪、日本の代表候補生で刀奈の妹だ。 そして布仏本音、簪の付き人で虚さんの妹だ。 二人ともファントムタスクに席を置いている。 本来ならこの場にいないといけないんだけど、どうしたんだい? 」

 

 

 シュートの問いに刀奈が重い口を開いた。

 

 

 「 実は昨日、簪ちゃんの専用機を作っている倉持技研から連絡があったの。 簪ちゃんの専用機 [ 第3世代IS 打鉄弐式 ]の開発を凍結し、開発計画を無期限延期にするって・・・・それで簪ちゃんショックを受けて寝込んでいるの・・・何とか本音が慰めたり元気づけようとしているみたいだけど・・・」

 

 

 余りの想定外の答えに室内にいた全員が言葉を失った。 すぐさま立ち直ったダリルが

 

 

 「 はぁ?!  その倉持技研とやらいきなり何を言い出しやがんだ? つーか、何で更識重工で作んないんだ? 」

 

 

 「 本来なら更識重工で作る予定だったのですが、半年前に倉持技研が日本政府やIS委員会日本支部に自分達に作らせてくれと直訴し、それが通ったようで。 それで簪様の専用機は倉持技研で作る事に・・・ 」

 

 

 ダリルの問いに虚が答える。

 

 

 「 それにしてもいきなりの開発凍結や無期限の延期とは変よね。 何か理由でもあるの? 」

 

 

 マドカの問いに刀奈が顔をしかめながら答える。

 

 

 「 ・・・・男性適性者・・・織斑一夏用に専用機を与える事になって、その開発とその後のデータ解析に全力を尽くす事になったみたい。 それだけじゃないわ、日本政府はシュートにも専用機を与えるからそれの開発も平行して行うように命じたみたい。 」

 

 

 刀奈の答えに再び絶句する一同。

 

 

 「 なに、そのむちゃくちゃな理由。 それにシュートはフランス国籍を持つフランス人だよ! 何で日本政府が専用機を? 」

 

 

 シャルロットが全員の持った疑問を代表して口にする。

 

 

 「 恐らく、俺に専用機を与えることで日本国籍を持つものとして扱い、そのデータを独占するのが1つ。 さらにアルカンシェル社のトップが他所の会社のISを使っているという事で自社のISの性能を宣伝しアルカンシェル社のISの評判を落とすのが、おおよその理由だろう。」

 

 

 シュートの解析に全員が納得してしまう。 そして同時にその腹黒い政治家達の思惑の犠牲となった簪に同情する。

 

 

 「 ・・・なぁ刀奈、簪ちゃんの専用機をアルカンシェルで作る事にしないか? 表向きは更識との合同開発になるけど? ちょうど上手い具合に簪ちゃんにピッタリの機体があるんだ。 」

 

 

 「 それは私の一存では決められないわ。 簪ちゃんの気持ちもあるし、何より日本政府がどう言ってくるか・・・」

 

 

 刀奈の不安にすぐさまシュートが

 

 

 「 たぶん、そっちは心配ないと思うよ。 タバネ姉さんが動いているはずだし。 」

 

 

 シュートが言って直ぐ、生徒会室の連絡用のモニターがつき、タバネの姿が写った。

 

 

 『 ハロハロー 聞かせて貰ったよ。 まったく、日本政府の政治家も倉持技研もやってくれたわね。 私の可愛い簪ちゃんを悲しませるなんて! それ相応の罰が必要だね。 そっちは私とクーちゃんに任せて。』

 

 

 「 タバネ姉さん、ついでに開発コード[ ウラガン ]の改修もよろしく。 」

 

 

 俺の言葉にタバネは笑顔と手を振って答える。

 

 日本政府の一部の政治家と倉持技研は逆鱗に触れたようだ。 自業自得とはいえ哀れだ。

 その後は倉持技研と政治家への悪口大会となってしまった。 ついでに俺とマドカ、シャルロットが生徒会に所属することがなし崩しに決められた。 

 

 




 余り登場する回数は多くないと思いますが、今回登場したオリキャラの設定を上げておきます。



 クリアーナ・リムスカヤ  17歳  女性
 イタリア代表候補生  専用機:ビアンカネーヴェ

 IS学園三年生でファントムタスク、イタリア支部に所属する見習いメンバー。 今回特例により正式メンバーとなる。
 性格は穏やかでのんびり屋。 義兄ジョシュアの事が大好き。
 尚、ISスーツが通常の物と違いダイバースーツ型となっている。


 ビアンカネーヴェ   イタリア製第3世代IS
 外見:ブランシュネージュ ( ただし上腕部と太股の部分の装甲は無く、フェイスガードが開閉可能 )

 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話  騒乱

 今回は短いです。


 午後の授業が始まった瞬間だった。千冬が唐突に

 

 

 「 そう言えば再来週に行われるクラス対抗戦の代表を決めないといけなかったんだ。 任期は一年間、交代は認められない。 まあ、簡単に言えばクラス委員長みたいなもんだ。 自薦他薦は問わない。」

 

 

 千冬の話を聞いた瞬間からクラスからは一夏を推薦する声が次々あがる。

 最初は自分の名前が上がった事に他人事のような顔をしていたが、ようやく自分直ぐだとわかり焦りだす。

 

 

 「 えっ?! お、俺?! ちょ、ちょっと待ってくれよ。 俺はやらないぜ! 」

 

 

 「 馬鹿者、他薦された者は辞退できない。」

 

 

 慌てて辞退しようとするが、千冬にバッサリ退路を断たれる。 

 

 

 「 くっ! それなら俺はシュートを推薦するぜ。 」

 

 

 いきなりシュートの名前を出して巻き込もうとする。

だが、シュートはすぐさま手をあげて

 

 

 「 織斑先生、申し訳ありませんが俺とマドカとシャルロットは生徒会長より生徒会に所属する事が決められまして、クラス代表には慣れません。 」

 

 

 シュートの発言にやや渋い顔をしながら

 

 

 「 そうか、生徒会に所属したか。 ならば仕方無い、アルカンシェル兄・アルカンシェル妹・デュノアは除外しろ。」

 

 

 「 ちょっと待ってくれよ千冬姉、何でグハッ!!! 」

 

 

 「 織斑先生だ、馬鹿者!! 」

 

 

 シュート達が除外された事に抗議しようとした一夏だったが千冬の手から投げられた出席簿が頭に命中し、再び千冬の手に戻る。

 

 

 「 生徒会に所属した者は学校行事毎の準備や後片付け、書類業務や生徒からの陳情処理の為にそういった行事にはまともに参加出来ないのだ。 わかったか! 」

 

 

 千冬の説明に殆どの生徒は納得したが、一夏は納得出来ないでいた。 そこに千冬がさらに

 

 

 「そう言えば織斑、お前には日本政府から専用機が渡される。 」

 

 

 千冬の言葉にクエスチョンマークを浮かべる一夏。 そんな一夏に溜め息をつきながら

 

 

 「 織斑、教科書の42ページを読め。 」

 

 

 一夏は千冬に言われた通りに教科書を音読する。

 

 

 「 お前の場合は男性適性者のデータ取りの意味合いが大きい。心しておけ。 」

 

 

 千冬の言葉に一夏は

 

 

 「 なぁ千冬姉、シュートにも専用機は送られるのか? 」

 

 

 とあまりにも馬鹿な質問をしてきた。此方は先程生徒会室で事前に聞いていたので、既に対応していた。

 一夏の問いに再び渋い顔をし答える千冬

 

 

 「 あぁ、アルカンシェル兄にも日本政府から専用機が与えられる予定だったが、先程急遽撤回された。 フランス政府とアルカンシェル社からの抗議でな。 」

 

 

 苦々しい表情をしながら千冬の答え為に一夏が何を思ったのか此方に噛みついてきた。

 

 

 「 おいシュート、何で断るんだよ。 折角日本政府が専用機をくれるといってるのに! 」

 

 

 一夏の言いがかりに呆れながら

 

 

 「 おい、織斑一夏。 友人でも無いのに勝手に名前で呼ぶな、少しは常識を弁えろ。 それから専用機の件は断って当たり前だ。 俺はフランス国籍の人間でISメーカーの社長代理を勤める人間だぞ。 何故日本政府から専用機もらう必要がある。それも自社製品以外のISを。 」

 

 

 どうやらシュートの答えが気にくわなかったのか、さらに噛みついてくる。

 

 

 「 別にいいじゃん、たった二人の男性なんだから壁作らなくても。 それにフランスの人間だとかISメーカーとか関係ないじゃねえか、貰えるんだったら貰っておけよ! 千冬姉に迷惑かけんな。」

 

 

 どうやら一夏はシュートが断ったことで千冬の面子が潰されたと思ったらしく、他人の事情等、御構い無しにせまってくる。

 

 

 「 まったく、少しは冷静になって物事を考えろ! ISメーカーの社長代理が他社のISに乗っているとわかれば、うちのISはその会社のより性能が劣ると宣伝するような物だ、それくらい理解しろ。 」

 

 

 余りの傍若無人な噛みつきかたに、本来なら護衛対象にも関わらず、少し怒りを覚えてしまい乱暴な物言いになったシュート。

 そして傍観している千冬にも怒りを覚えた。

 

 

 「 織斑先生、いつまでこんなに不問な問答無用を続けさせる積もりですか? これ以上他薦が無いのなら織斑一夏がクラス代表で良いのではありませんか? 」

 

 

  議論を打ちきる事を千冬に求めるシュート。 しかし一夏は未だに止まらない。

 

 

 「 逃げるのかよ腰抜け!!! 会社をたてに逃げるようなクズの会社なんて、どうせロクな会社じゃないぜ! 」

 

 

 一夏がその言葉を発した瞬間だった、クラスの空気が変わった。 真耶の時とは比べものにならない位の殺気がシュート、マドカ、シャルロット、セシリアから放たれた。

 殆どのクラスメイトが青ざめた。 あの千冬ですら気圧された。

 肝心の一夏も呼吸出来ない位のプレッシャーを受けて大量の汗をかき、手足が震えていた。

 

 

 「 織斑一夏・・・・今の発言は流石に聞き逃せ無いな・・・・ 織斑先生、彼は俺のみならず会社を侮辱しました。 本来なら日本政府に抗議するところですが、彼のネジ曲がった精神を矯正するために、その身を以て思い知ってもらいたいので彼との模擬戦をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 

 「 織斑先生、私も兄と同じ考えです。アルカンシェル社の全ての従業員は私達にとって家族同然です。 彼はその家族を侮辱しました。 家族を侮辱した罪は大きいと思います。」

 

 

 「 会社に所属する人間にとって会社を侮辱されたことは万死に値する行為です。 正式な謝罪を織斑一夏とその保護者である織斑先生に求めます。 」

 

 

 三人の話を聞き今さらながら自分の発言の重大さに気づいたが後の祭りである。 模擬戦か千冬との謝罪かのどちらをとるかと問われれば、模擬戦を取るしかない。 これ以上、千冬に迷惑を掛けない為にも。

 

 

 「 おう、いいぜやってやるよ。 」

 

 

 一夏が答えたあと、セシリアが挙手をして席をたち

 

 

 「 織斑先生。今さらかも知れませんが、わたくしイギリス代表候補生 セシリア・オルコット クラス代表に自薦させていただきます。 彼のような稚拙な思考の持ち主をクラス代表にしてはクラスの品位を疑われます。  つきましては、選出方法としてわたくし、セシリア・オルコットと織斑一夏さんのクラス代表をかけた模擬戦の許可をお願いします。 」

 

 

 

 セシリアの突然の発言に驚いた一夏。 結局、一夏はセシリアとのクラス代表をかけた模擬戦も行う事になった。 

 後に一夏は後悔することになるだろう。自分のうかつな発言や行動が自分のみならず千冬の立場に重大な危機をもたらす一歩であったことに。

 

 

 




ちょっと無理矢理感満載ですが、何卒ご容赦を


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話  代表決定戦

御都合主義満載ですが、よろしくお願いします


 あれから一週間がたち、模擬戦の日。

シュート達はピットで一夏の準備が済むのを待っていた。

 ちなみにあの日の騒ぎは学園長の耳に入り、織斑先生は監督不行き届きで処罰を受けた。

 一夏は千冬と共に反対側にあるA ビットにおり、ここにはシュートとセシリアの他にマドカとシャルロットとスコールがいる。

 

 

 「それにしても準備に時間がかかっているな。 何をしているんだ?」

 

 

 シュートの疑問にスコールが答える。

 

 

 「織斑一夏の専用機が5分前に到着して最適化と一次移行をしている最中よ。」

 

 

 「ギリギリになって納品するなんて企業としてまずいんじゃ・・・・」

 

 

 シャルロットの感想に全員が頷く。

 

 

 「と言う事は織斑一夏はこの一週間、ISを全く触れる事なく、ぶっつけ本番で俺とセシリアに挑んでくるのか。 」

 

 

 「聞いた話ですが、織斑一夏さんは幼馴染みの篠ノ之箒さんに指導を頼んだそうですが、どういう訳か剣道のみで他は何もやられてないみたいですわ。」

 

 

 セシリアの話に全員が呆れる。 確かにISを乗るのに体を鍛えるのは必要だ。そして格闘技である以上、剣道をするのもわかる。しかしそれだけと言うのはあり得ない。 ISを動かすには機体の構造や基本的な動かし方等を学ぶ必要がある。 

 仮に訓練機が借りれなかったのならば、知識を学んだりシュミレーターで訓練する方法もあったはずだ。

 更に言えば、現在のISは悲しい事に兵器として認識されている。 それ故に武器として格闘近接武器のみならず射撃用の銃火器等も装備されている。

 つまりISに乗る以上、銃火器の扱いにも慣れなければならず、射撃練習も必要と言う訳だ。

  

 参考書を捨てた事といい、どこか織斑一夏はずれた感覚を持っているようだ。

 

 

 『 オルコット、試合を開始する。 アリーナに出ろ。 』

 

 

 そこに織斑先生から連絡が入る。

 

 

 「・・・・・まさか、一次移行してない状態で戦わせる気か?いくらなんでもあり得ないぞ。」

 

 

 

 シュートの言葉に

 

 

 「織斑先生ならあり得そうですわ。 自分が出来たから弟である織斑一夏にも出来ると思って・・・」

 

 

 セシリアがそう説明すると、何故か納得してしまった。

 セシリアは専用機であるブルー・ティアーズを展開してカタパルトに乗る。

 

 

 「 セシリア・オルコット、ブルー・ティアーズ参ります。」

 

 

 カタパルトより勢いよく射出されたブルー・ティアーズは優雅にアリーナ上空を舞う。

 反対側のビットから一夏がまだ一次移行も済んでいない専用機を纏って、おっかなびっくりの様子で現れた。

  

 結局試合は終始セシリアが一夏を圧倒し、終盤に一夏の専用機[白式]が一次移行したものの、直後にセシリアの射撃でダメージを受けて一夏が完封されて負けた。

 

 

 「 セシリアお疲れ~ 」

 

 

 ピットに戻ってきたセシリアに労いの言葉をかけるマドカ。 もっともセシリアは疲れた様子を全く感じさせない。

 

 

 「 特に疲れてはおりませんわ。 BT も使いませんでしたし・・・・使う必要もなかったですし。」  

 

 

 セシリアの言葉通り、レーザーライフルによる射撃だけで勝利した。

 

 

 「 確かに使う必要無いね。ガムシャラに突っ込んできて剣を振り回すだけ。 駆け引きすらなかったね。」

 

 

 シャルロットからも辛辣な感想がでる。 たった一週間、されど一週間 その一週間の使い方が織斑一夏と言う男の評価を決めてしまった。 

 10分間のインターバルを経て、シュートと一夏の試合時間となった。

 

 

 『 アルカンシェル兄、時間だ。 アリーナに出ろ。』

 

 

 シュートは自分の専用機[ リュミエール ]を展開し、カタパルトに乗る。

 

 

 「 シュート・アルカンシェル リュミエール出る!」

 

 

 カタパルトからしか勢いよく射出されバレルロールでアリーナの上空に飛び出した。

 アリーナに出現したシュートのリュミエールの姿にアリーナ客席から様々な反応が飛び出た。

 

 

 「 ねぇ、あれって全身装甲(フルスキン)?! 」

 

 

 「 なんだか凛々しいISね。」

 

 

 「 私知ってるわ。 あれは確かにアルカンシェル社の第4世代ISリュミエールよ。 」

 

 

 「 第4世代?! それ本当? 」

 

 

 

 「 本当よ、それにアルカンシェル社は世界に先駆けて量産型第3世代機を世に送り出した会社なのよ。 」

 

 

 「 もしかして、今年導入された新型機ってまさか? 」

 

 

 観客席から聞こえてくる話はどれもシュート関係の事ばかりだ。 一夏に関しては一切無い。

 その一夏は、アリーナ上空で待機しているものの、どこか不安定な感じだ。 

 それでもシュートの姿を見ると勇ましく

 

 

 「 来たなシュート! お前に勝って、その不恰好なISより千冬姉が準備してくれたISの方が優秀だと証明してやる。 そして千冬姉に迷惑をかけたことを土下座させて謝らしてやる! 」

 

 

 未だに自分勝手な考えで他人を傷つけ、自分の考えこそが絶対唯一無二だと思っている一夏の言葉はアリーナにいる全ての生徒を呆れさせた。

 言われたシュートの方は聞き流していた。 正確に言えば呆れており、内心計画の変更を考えていたのだ。

 

 

 ( ・・・・・・・・ヤバイな、こんな性格な男とは流石に予想出来なかったぞ。 事前調査では内面まではわからないからな。 計画の修正が必要かな。)

 

 

 シュートが無言なのをいいことに更に捲し立てる一夏。

 

 

 「 見てろよ、俺のこの白式で・・・千冬姉と同じ力でお前を倒す! 」

 

 

 その直後に試合開始を告げるブザーが鳴り響く。

 

 

 「 いくぞ、先手必勝!! うぉぉぉぉぉぉーー 」

 

 

 雄叫びを上げながら剣を振り上げてシュートに迫る一夏。 

 しかし、シュートはその猪突猛進の一撃を易々と交わし距離をとり、呼び出したマグナ・ビームライフルで撃っていく。 その正確無比なビームは次々と一夏に命中しSE を減らしていく。

 

 

 「 汚いぞ、離れてからの射撃攻撃なんて! 男ならそんな卑怯な武器を使わずに正々堂々と剣で戦えよ! 」

 

 

 突然そんな事を言い出す一夏。 

 

 

 「 はぁ?! 何を言っている? 銃の何処が卑怯なんだ? ルールには銃を使ってはならないとは書いてないぜ。 寧ろISは兵器なんだ、銃だろうが剣だろうが装備されている物は全て使って戦うもんだ。 」

 

 

 「 違う、男ならそんな物に頼らず剣一本で正々堂々と戦うべきなんだ。 それが出来ないお前は卑怯者だ。 」

 

 

 「 ・・・・・・もしかして、お前のISはその剣しか装備されて無いのか? 」

 

 

 「 !! 悪いかよ! 俺にはこの千冬姉と同じ雪片弐型が有れば十分だ。 」

 

 

  シュートは呆れていた。 ど素人の乗るISに剣一本しか装備しないなんて、何をさせたいのか? 

 データを取るなら尚更の事だ。 そして一夏が先程から言っている千冬と同じ力と言うのにも引っ掛かった。

 

 

 ( 倉持は何がしたいんだ!? こんな不完全な機体を渡して・・・それに先程から言っている同じ力と言う言葉・・・・まさか? )

 

 

 考えながらも攻手を休めないシュート。 あっという間に一夏のSEは2割を切っていた。

 一夏はセシリアの時と同じでガムシャラに接近してきて剣を振り回す。 その行動しかしてこない。

 シュートはその攻撃を難なく交わし、距離をとりビームを撃つ。 一夏はまともに回避出来ずに食らう。

 そのまま繰り返しが続いていた。

 

 

 「 ハァハァハァハァ、避けるなよ卑怯者! 剣で正々堂々戦えよ。」

 

 

 繰り返される一夏の言葉にシュートのみならず観客席の生徒達も呆れていた。 何処まで自分勝手を言い分を押し付けるのかを。

 

 

 「 攻撃されれば回避する当たり前の行動だろう? 何故受けとめる必要がある。 それに織斑一夏、お前の価値観を他人に押し付けるな。 」

 

 

 「 違う、俺の考えは万国共通の男の姿だ。 男なら相手の攻撃を真っ向から受けとめるべきなんだ。」

 

 

 そう言って一夏は再びシュートに向かって突っ込んできた。 馬鹿正直に付き合う必要は無いのでシュートは回避して距離をとり、この試合を終わらせるためにバックパックから扇状のパーツを複数射出する。

 パーツはそれぞれ連結し二つのリング状の物が出き、高速で回り始める。

 

 

 「 行け、リープスラッシャー! 」

 

 

 「 こんな玩具みたいなもの壊してやる。 とりゃぁぁーー?! えっ?! 」

 

 

 リープスラッシャーは複雑な軌道で一夏に迫る。

雪片弐型で切り払おうとするも、直前で軌道を変えてリープスラッシャーには当たらない。

  そして、そのまま背後に回り交差してスラスターを切り裂く。 

 

 

 「 がはっ!! くそっ! えっ?! いない?! 」

 

 

 一夏が背中に攻撃を受けて動揺した隙にシュートはマグナ・ビームライフルをチャージモードにし、ビームを集約しながら一夏の頭上に移動する。

 シュートの姿を見失い顔を右に左に背後に動かし必死に探す一夏、頭上にいるとは思ってないようだ。

 

 

 「 さぁ、これで試合終了だ。 」

 

 

 「 えっ?! うわぁぁぁぁぁぁーーー 」

 

 

 そう呟いてトリガーを引く。 銃口から放たれたビームは巨大な奔流となって一夏に迫る。

 その時になってようやく頭上にいるシュートに気づいた一夏だったが時既に遅く、そのままビームの奔流に飲まれアリーナの地面に叩き付けられた。

 クレーターの中央で横たわる一夏。 どうやら気絶したようだ。 そこにアナウンスが入る

 

 

 「 白式SEエンプティ、勝者 シュート・アルカンシェル。 」

 

 

 シュートは試合終了を知らせるアナウンスを聞き、地面に横たわる一夏には視線を送ることなく、ピットに戻って行った。

 

 

 シュートがピットに戻ると、そこには何故か千冬の姿があった。 しかも不機嫌な様子を隠す事なく。

 シュートがリュミエールを解除するやいなや

 

 

 「 アルカンシェル兄、お前のISを渡して貰おう。 そのISは明らかに威力過剰だ。 此方で検査した後にリミッターをかける。 」

 

 

 そんな事を言い出してきた。

 

 

 「 織斑先生、残念ですがそれは認められません。 この機体は既に学園の検査を経て使用許可を貰っています。 それに威力過剰と言いますが、この機体は第4世代です、第3世代と比べれば明らかに性能は上です。

 つまり、今までとは段互いの威力を持って当たり前なのです。 」

 

 

 シュートの説明にも納得しない千冬が更に迫る。

 

 

 「 うるさい、どうせ検査後に威力を上げたに決まっている。 それを確認するために検査するんだ。つべこべ言わずに渡せ! 」

 

 

 余りにも乱暴な物言いに場の緊張感が一気にます。 

 だが、それを唐突と破る一声が放たれた。

 

 

 「 何をしているのですか織斑先生。 」

 

 

 柔和な笑みを浮かべながらピットに入ってきた1人の老紳士。

 

 

 「 り、理事長?! これはその・・・・ 」

 

 

 そうこの老紳士こそが、IS学園の理事長を努める轡木十蔵だ。 普段は妻の幸恵に一切合切を任せ自分は用務員として働き影で様々動く遣り手である。

 

 

 「 織斑先生、アルカンシェル君の機体は学園が既に検査し使用許可を与えてます。 その証拠の検印もしっかりされてます。

 それとも織斑先生は学園の検査態勢に問題があると? それならアルカンシェル君の機体のみならず、全ての機体に対して再検査を求めるべきではありませんか? 」

 

 

 流石に十蔵に言われれば引き下がざるを得ない。

千冬は悔しそうに顔を歪めさせながらピットを出ていく。

 

 

 「 申し訳ありませんねアルカンシェル君。 どうも彼女は弟が絡むと自分を律する事が出来なくなるようです。 」

 

 

 「 気にしないでください理事長。」

 

 

 頭を下げる十蔵にシュートが声をかけると

 

 

 「 さて、改めて自己紹介させてもらいます。 私がこの学園の理事長を努める轡木十蔵と申します。 ようこそIS学園に、歓迎しますよファントムタスクのリーダーさん。 」

 

 

 どうやら十蔵は此方の素性を全て承知のようだ。

その場で互いの自己紹介を済ませる。

 

 

 「 それでは学園の事をよろしくお願いしますね。」

 

  

 そう言って十蔵はピットを後にした。

 

ちなみに織斑千冬は独断で機体を取り上げようとしたことが問題となり、再び学園長から処罰を受けることになった。




今回登場したリュミエールの能力を紹介します


 リュミエール  極世代IS
外見:ヒュッケバイン(初代デザイン)


武装
頭部10ミリバルカン砲 ×2 :額のアンテナの両脇にある2門のバルカン砲

リープスラッシャー ×6:バックパックから4つの扇状のパーツが射出されて連結しサークル状になり、ビームを纏い高速回転し切り裂く。AIのサポートにより脳に負担をかけずに操作することが出来る。 またビームやレーザーを弾く事も可能。

マイクロミサイル ×8:バックパックに内蔵されているミサイル。 内部に小型ミサイルを多数内蔵した着弾位置指定型ミサイル。

ロシュセイバー ×2: 腰のスカート部分に内蔵されている。重力波で形成された剣。

4連装ミサイルランチャー ×2: 4発のミサイルを同時発射できるランチャー。拡張領域から呼び出して脚部に装着される。

マグナ・ビームライフル ×1: ビームを発射する小型ライフル兵器。 通常モードの他に連射モード、チャージショットモードがある。

シシオウブレード ×1: 切れ味抜群の日本刀。特殊なビームコーティングがされておりビームやレーザーを弾いたり斬ったり出来る。

Gインパクトキャノン ×1: 重力波結界を発射して目標を押し潰す射撃兵器。

Gインパクトステークス ×1: 重力波を直接相手に撃ち込む事の出来るパイルバンカー


単一仕様能力:①重力操作 重力を操作できる能力。これにより重力を使った武器やシールドを使用することができる。 また、自身や他者、物体にかかる重力や重圧を緩和し浮遊させたり、弾き飛ばしたりできる。 それ以外にも重力波により光の屈折率を変更し姿を隠したり、分身を作り出す事が出来る。


武装や能力が増えたらまた記載します


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話  夜会

 代表決定戦を終えた、その日の夜。

千冬は自室となっている一年生の寮監室にいた。 室内の至るところには脱ぎ捨てた衣服に潰されたアルコール関係の空き缶、弁当殻等のゴミが散乱していた。

 そんな部屋の中で千冬は発泡酒の缶を持ったまま頭をかかえていた。  

 本来なら千冬はビール派で発泡酒は飲まないのだが、流石に二度に渡る処罰・・・減給により発泡酒を飲まざるを得なかった。

 

 

 ( ・・・・流石にやり過ぎたな。 一夏の事になると回りが見えなくなってしまうからな。 我ながら情けない。)

 

 

 そんな事を思いつつ発泡酒を一気に飲み干す。

 

 

 「 それにしてもアルカンシェル兄の機体、第4世代か・・・・確かに現存するいずれの機体と比べてもオーバースペックだな。 出来れば解析してその情報を元に一夏の機体を強化したかったが、もはや不可能か。   それにしても束の奴、何処にいるのやら。 」

 

 

 本来なら一夏の専用機は、束に作って貰おうと画策していた千冬だったが、肝心の束と連絡がとれずに倉持技研が作ることになったのだ。

 もっとも雪片弐型を搭載させた事で容量を使い果たし他の武器を乗せる事が出来なくなった欠陥機になったが、千冬としては満足いく機体だった。

 

 

 「 まさか、束の奴あの事に気づいたのか? いやまさかな・・・ 」

 

 

 冷蔵庫から新たに発泡酒の缶を取りだし飲みはじめる。

そして視線はタンスの鍵つきの引出しに向けられる。

 

 

 「 いずれ箒にも専用機を持たせて一夏と共に最強のペアにしたい、そして出来れば束の奴に作らせたいが無理ならあれを使って倉持に作らせるか。」

 

 

 そう言って発泡酒を飲み干し、再び冷蔵庫から取りだして飲みはじめる。 周囲には既に二桁になる数の空き缶が転がっていた。 こうして千冬の夜はふけていく。

 

 

 

 

 

 一方少し時間を遡り、シュートの部屋

ちなみにシュートはマドカ、シャルロットとの三人部屋になっている。

 そしてこの部屋に今、部屋の住人以外にセシリア、刀奈がいる。

 

 

 「 さて、今後の行動についてだけど・・・はっきり言って今のままでは不味いと思うけど。」

 

 

 シュートの言葉に全員が頷く。

 

 

 「 こう言ってはなんですが、彼の人格を疑わざるを得ませんね。 試合前までの言動に加えて試合中の言動、どれをとっても常識を疑うばかりですわ。 」

 

 

 対戦したセシリアがその言動を断罪した。

 

 

 「 彼自身、自分の立ち位置を理解していないのも問題ね。 公安の知り合いから聞いたんだけど、入学前についていたSPを迷惑がり、外出する度に逃げ出したり、撒いたりしたようね。」

 

 

 刀奈が入学までの間にあった事を告げる。

 

 

 「 ・・・・本当に自分の立ち位置を理解してもらわないと不味いよね。 誘拐なんてされたら大変だし。」

 

 

 シャルロットがもっともな意見を述べると、刀奈が

 

 

 「 ・・・・もう誘拐された経験をしてるのよ。」

 

 

 その話に絶句する。

 

 

 「 ドイツで第2回モンド・グロッゾが開かれた際に織斑千冬の応援として同行し渡独したんだけど決勝戦の直前で誘拐されたの。 幸いにもドイツ軍の協力もあって救助されたけど、織斑千冬は決勝戦を棄権。 これで様々な影響を及ぼしたわ。 」

 

 

 「 なのに護衛を断り、嫌がるなんて何を考えているの? 本当に学習能力が無いの? 」

 

 

 マドカが刀奈の報告に呆れ果てる。

 

 

 「 そこでだ、セシリアには申し訳ないが織斑一夏に少しでも自覚を促す為に、クラス代表に就任してもらうことにした。  責任ある立場についてもらい、自分が注目を集める存在であると認識してもらい、同時に様々な行事に出ることによってISへの認識と扱い方を覚えて貰う。 」

 

 

 シュートの計画を聞きセシリアが

 

 

 「 私は構いませんが、本当にそれで自覚しますかあの男が? 」

 

 

 「 現状、織斑一夏には言葉で言っても認識して自覚する要因が見当たらない。 それゆえにこのような方法しか浮かばなかった。 」

 

 

 セシリアの疑問にシュートは答える。

 

 

 「 それじゃあ、織斑一夏の問題はこれでとりあえずいいとして、簪ちゃんの方なんだけど。」

 

 

 刀奈の話にシュートが

 

 

 「 こっちはいいけど、簪ちゃんに意思確認はしないとな。 簪を呼んで。」

 

 

 刀奈がすぐさま部屋を出る。  

暫くして刀奈が簪を伴ってきた。 簪の表情は未だに暗く覇気がなかった。

 

 

 

 「 お久しぶりです、シュートさん。 先日はすいませんでした。  」

 

 

 「 久し振りですね簪ちゃん。 さて、単刀直入に話します。 貴女の専用機が無期限の開発凍結になったのは知っています。 そこでうちと更識重工との共同開発との名目でうちが既に完成させている第3世代機、開発コード[ウラガン]をつかいませんか? 」

 

 

 シュートの話に驚きを隠せない簪。 そのまま姉の刀奈の顔を見る。

 刀奈は優しい笑みを浮かべ

 

 

 「 簪ちゃんの思う通りにしていいよ。 」

 

 

 そう言われた簪は刀奈の顔を見つめ、そして暫く目を閉じる。 やがて

 

 

 「 はい、よろしくお願いします。 」

 

 

 そう言ってシュートに頭を下げた。

 

 

 「 それじゃあ、契約書とかは後日改めて書いてもらうから、とりあえずカタログスペックを確認して。 」

 

 

 シュートはあらかじめ用意していたタブレットにウラガンのデータを表示して簪に見せた。

 それを見た簪は驚いた。

 

 

 「 えっ?! こんなすごい! 開発されていた弐式よりもパワーも機動力も段違い。 それにこの武装の多さ! 本当にこの機体を? 」

 

 

 「 あぁ、簪ちゃんの専用機になるよ。 ウラガンという名前はあくまでも開発コードだから簪ちゃんの好きな名前に変更できるよ。それからカラーリングも。 」

 

 

 それを聞いた簪は目を輝かせた。そして

 

 

 「 シュートさん、ありがとうございます。 私、今からカラーリングと名前を決めて来ます。 」

 

 

 そう言って一礼して部屋を後にした。

簪の中では既に弐式への思いを絶ちきりウラガンへと馳せていた。

 

 

 

 

 同時刻   一夏の部屋

 

 部屋の住人である一夏はルームメイトである箒が反省会を開いていた。

 

 

 「 まったくなんだあの様は、一太刀浴びせる事なく負けるとは不甲斐ない! この一週間の修練がまったくの無駄に終わったではないか! 」

 

 

 コーチ役をかって出た箒は一夏の試合結果に納得していなかった。 

 いくら専用機である白式に銃火器がなかったとはいえ、篠ノ之流剣術を修めていれば、そんなもの関係なく勝てた。 そう箒は考えていた。

 

 

 「 いやでもよ、せ「 男なら言い訳するな!! 」  うっ! 」

 

 

 言い訳しようとしたが、箒に封じられてしまった。

 

 

 「 明日からもしっかりと鍛えてやるから覚悟しろよ。」

 

 

 「 でも箒は専用機もってないよな? 訓練機はなかなか借りれないし剣道ばかりじゃ・・・・ 」

 

 

 「 心配するな、明日からは訓練機を使う事ができる。 しかもこの先ずっと優先的に貸して貰えるからな。」

 

 

 「 へぇー そいつはすごいな! 」

 

 

 一夏は無邪気に感心する。 しかし、これには裏があった。

 箒は日本政府に脅しをかけたのだ。しかも姉の名前を利用して。 それがようやく実り、今日通知が来たのだ。

 もっとも本来なら第3世代機のグリシーヌを借りる積もりだったが、グリシーヌはアルカンシェル社との契約で専用機を持たない代表候補生を優先的に使用させる事になっており、次に三年生、二年生に優先権があり一年生の普通の生徒である箒には借りる事が出来なかった。

 

 それでも訓練機・・・打鉄を使う事ができるので文句はなかった。

 更に言えば、箒は知らなかったが千冬も箒のしたことを知っており手をまわしていたのだ。

 

 

 「 明日からビシバシ鍛えていくから覚悟しておけ。」

 

 

 「 あぁ、頼むぜ箒。 見てろよシュートにセシリア、次は俺がお前達を叩きのめしてやる。 そしてその間違った考えを正してやる。」

 

 

 だが、一夏達は気づいていなかった。 シュートとセシリアが全力を出してなかった事を。

  二人との差が大きく開いていることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話  クラス代表決定


 お気に入りが260件をこえました。
本当にありがとうございます。


 「 クラス代表は織斑一夏君に決まりました。 」

 

 

 試合の翌日、SHRが始まってそうそう真耶が告げた。

言われた一夏はもとより大半の生徒は何故? という顔をした。

 

 

 「 あの先生、俺昨日の試合で負けたんですけど? 」

 

 

 一夏の疑問はほとんどの生徒の疑問でもあった。

 

 

 「 それはですね、オルコットさんが辞退されたからです。」

 

 

 真耶の言葉を受けセシリアが席をたち

 

 

 「 私が織斑一夏さんにクラス代表の座をお譲りしたのは織斑さんの為です。 織斑さんは未だに自覚されておりませんが、織斑さんは世界に二人しか確認されていない男性適性者です。 それ故に望む望まざるに関わらず様々な事が起こると思います。 ですが織斑さんはシュートさんと違い、それに対処出来るだけの力量を持ち合わせておりません。 そこでクラス代表になっていただきその力量を身につけて頂こうという訳です。 」

 

 

  セシリアの話についていけない一夏。 自分の状況を全然理解してないようだ。

 この事を事前に聞いていた千冬にとって、セシリアの申し出は渡りに船だった。 どうすれば一夏を鍛えるのに効果的かを考え、実戦に勝るものは無いと思っていたからである。

 

 

 「 わかったクラス代表は織斑に決定する。 変更は認められない。 織斑はクラス代表になった以上、それに恥じることないように自らを律して努力するように。 」

 

 

 千冬の言葉でクラス代表が決定しクラスから拍手が送られた。 しかしほとんどのクラスメイト達の顔はどこか諦めた顔をしていた。

 

 

 (((( デザートフリーパスは諦めるしかないのか ))))

 

 

 実は来週行われるクラス対向戦の優勝クラスには全員に食堂で半年間使えるデザートフリーパスが贈られるのだ。

 しかし、一夏の二回に渡る戦いをみて、クラスメイト達には絶望があった。 駆け引きをしらないがむしゃらな戦い方が一週間でどうにかなるとは思えないからだ。

 

 そんなクラスメイト達の心の内を知ってか知らずか、一夏は拍手された事で自分が認められたと思いクラスメイト達に礼を言いながら勝利宣言までしたのだ。

 

 

 

  

 一時間目の学科も無事に終わり、二時間目の実習となった。

 

 

  「 本日よりISを使った実習を行う。今日はとりあえず見本を見てもらう。専用機持ち、アルカンシェル兄妹・織斑・オルコット・デュノア、前に出てISを展開しろ。 」

 

 

 千冬の指示をうけて、シュート、マドカ、シャルロット、セシリアは瞬時に展開する。 その場にシュートのリュミエール、マドカのエクレール、シャルロットのソレイユ、セシリアのブルーティアーズが並び立つ。

  シュートのリュミエールとセシリアのブルーティアーズは試合の際に見ることができたので驚かれなかったが、マドカのエクレールとシャルロットのソレイユは驚かれた。  やはり全身装甲が珍しいみたいだ。 

 その一方、一夏はなかなか展開できない。

 

 

 「 アルカンシェル兄妹、オルコット、デュノアは問題ない。 どうした織斑、馴れた者は一秒とかからず展開できるぞ。 」

 

 

 「 あぁぁっ! 来い白式! 」

 

 

 千冬に言われて声を出す事でようやく展開できた一夏。

 

 

 「 次は武装を呼び出せ。 」

 

 

 千冬の指示のもと、シュートはマグナ・ビームライフル、マドカはガナリーカーバーをライフルモードで、シャルロットはショットガンを、セシリアはスターライトmk-Ⅲを、一夏は雪方弐型を呼び出した。

 

 

 「 アルカンシェル兄妹、デュノアは見事だ。 オルコットはあと0.5秒縮めろ。 織斑は二秒以上かかっているぞ、一秒以内に呼び出せ。 続いて織斑以外は近接武装を展開しろ。 」

 

 

 千冬の指示により近接武装を展開する。 シュートはシシオウブレードを、マドカはガナリーカーバーの先端部分からブレードを展開し、シャルロットは左腕をクローアームに部分換装し、セシリアはインターセプターを呼び出す。

 

 

 「 まあまあだな。 ところでアルカンシェル妹、それが噂に名高い全領域対応凡庸武装システムか、それひとつで他にどんな武装が内蔵されているんだ? 」

 

 

 「 詳しくは説明出来ませんが、とりあえずミサイルとビーム兵器等があります。 」

 

 

 「 そうか、では続いて飛行してもらう。 それでは行け。 」

 

 

 シュート達の武装展開を認め、マドカのガナリーカーバーに興味を示した千冬だったが、思ったほど答えがかえってこなかったので次の行動を指示した。

 それに答えて飛び立つ専用機持ち。 そんな中、一夏だけが遅れる。 やはりまだまだ慣れていないので覚束ない様子だ。

 

 

 「 どうした織斑、スペックだけなら白式はブルーティアーズより上だぞ。 」

 

 

 下から様子を見ている千冬から激がとぶ。 やがて千冬の指示で上空で静止していたシュート達に追い付いた。

 

 

 「 なぁ、シュートなんでそんなに上手く飛べるんだ? 」

 

 

 一夏が馴れ馴れしくシュートに話かけてくる。 シュートは

 

 

 「 織斑一夏、以前にも言ったはずだ。 名前で呼ぶなと。 肉親と信頼の置ける友人以外には名前で呼ばれたくないのだ。 」

 

 

 「 別にそんなに硬くならなくてもいいじゃないか? それに俺達は友達だろ。 」

 

 

 「 何を言っている? 私はお前と友人になった覚えはない。 第一、お前は一週間前の発言に関して未だに謝罪すらしていない。 そんな人間と友人になれるはずないだろう。 」

 

 

 「 えぇーー そんなのもう気にしなくていいじゃんかよ、友達なんだしさ、恥ずかしがるなよ。 」

 

 

 あくまでも自己中心的な一夏で人に教えを乞う態度ではない為に怒りを覚えたシュート達、シュートが口を開こうとした瞬間

 

 

 「 一夏ーーー!!! 何時までそんな所にいる! さっさと降りてこ ぐぁ!!! 」

 

 

 下からスピーカー越しの箒の声が聞こえてきた。

見れば、マイクを持ったまま頭を押さえている。 側には出席簿を持った千冬と箒の持つマイクを取り上げようとする真耶の姿があった。 どうやら真耶からマイクを奪って、そのあと千冬から制裁を受けたようだ。

 

 

 「・・・・・何をされているのでしょうか? 」

 

 

 セシリアの疑問に誰も答える事が出来なかった。

 

 

 「 それでは次は急降下からの急停止を行ってもらう。 目標は地上から10cm だ。」

 

 

 「 それではお先に。 」

 

 

 シュートはそう言って急降下を開始する。 それに続いてマドカ、シャルロット、セシリアが急降下を開始する。

 

 

 「 おい、ちょっと待ってくれよ! 置いていくなよ! やり方ぐらい教えてくれよ!」

 

 

 置いていかれた一夏は、勝手に降りて行き自分には何も教えてくれないことに腹を立てたが、これは仕方のない事だ。

 非礼をはたらき謝罪すらしない一夏。 自己中心的で他人の意見に耳を傾けない、そんな一夏を許すことも友人になることもないのだ。 

 せめて授業が始まるまでに謝罪でもあれば助言することも考えていたのだが、それすらなくそれどころか、無かった事に勝手にされていた。

 ここまでくると、シュート達は友人としての立ち位置は完全に無く、単なる護衛対象として接する事にした。

 

 

 「 ほう、見事だな。 全員10cm 丁度とは凄いな。 」

 

 

 千冬の前には10cm 浮いた状態で整列するシュート達がいる。 一夏を除いた全員が成功させていた。

 そこに

 

 

  キュィィィィィィーーーーーン 

 

 

 凄まじい音をさせて上空から一夏が降りてきた・・・いや落下してきた。 しかも減速するどころか更に加速してきた。

 

 

 「 不味いな、あれは衝突するぞ! みんな他の生徒達をガードして。 」

 

 

 シュートがそういうと、みんな生徒達のガードにかかる。 そしてシュートはひそかに単一仕様能力を発動させた。

 

 

 【 単一仕様能力発動、重力操作 グラビティテリトリー全開!! 】

 

 

 先ずは見学している生徒と千冬・真耶の前にに重力を利用したシールドを張る。 そして落下してくる一夏に向けてシールドを張るも落下速度が速くシールドが間に合わず、グランドに衝突した。

 

 

  ズガァーーーーーーン

 

 

  凄まじい衝突音と共に衝撃と爆風が襲ってくる。 しかしグラビティテリトリーのお陰で周囲の生徒や千冬達には一切被害はなかった。

  グランドには巨大なクレーターができ、その中心に白式を纏った一夏がいた。上半身を埋まった状態だったが。

 

 

 「 い、一夏ーーーーー?! 」

 

 

 「 馬鹿者ーーーーー!! 誰が墜落してクレーターを作れと言った! 」

 

 

 

 箒の悲鳴と千冬の叱責がとぶ。 

 

 

 ( 私達の前に何やら見えない壁のようなものが出来て、それが守ってくれた。 恐らくアルカンシェル兄の機体の能力だと思うが、いったいどんな能力なのか? )

 

 

 そんな事を考えながら千冬はシュートに一夏の救助を命じた。

 

 

 「 アルカンシェル兄、すまないが引き抜いてやってくれ。 」

 

 

 千冬に言われ白式の脚部を掴み地面から引き抜く。

 

 

 「 アルカンシェル兄妹、オルコット、デュノア、四人とも咄嗟の判断で生徒達のカバーにはいったのは見事だ。 みんなもこのような判断力を咄嗟に出せるようなIS乗りになってくれ。  それに引き換え織斑、貴様は何をやっている! 減速し体勢を整えて着地しなければならないのに加速するとは何事だ! 」

 

 

 「 いやでもよ千冬姉 アダッ 」

 

 

 「 織斑先生だ、馬鹿者! 何度言えばわかる公私の区別をちゃんとつけろ。 」

 

 

 千冬が一夏に出席簿アタックを決めた所でチャイムが鳴る。

 

 

 「 よし、本日はここまで解散。 織斑、お前は穴をちゃんと埋めておけよ。 」

 

 

 「 えっ? ちょっと待ってくれよ。 俺が? 」

 

 

 「 お前が開けた穴だ、お前が塞ぐのが当たり前だろう。 」

 

 

 「 な?! シュート手伝ってく・・・いない! それなら箒・・・・いない! 」

 

 

 千冬に言われあわてて助っ人を頼もうとするが既に誰も居なかった。

 仕方なく一人で穴を埋め始めた一夏。 ちなみに次の授業には遅刻した。

 

 

 

 

その日の夜、食堂では一夏のクラス代表就任を祝う名目でパーティーが開かれていた。

 シュート達も誘われていたが、会社の決済書類があるという理由で参加を見合わせた。

 実際には決済書類ではなく、シュート第達の元に気になる情報がもたらされたからだ。

 シュートの部屋にはシュートとマドカ、シャルロットの他に刀奈がいる。 セシリアと本音はパーティーに参加しているものの、セシリアはISコアネットワークを通じて部屋にいないメンバーと共に会議に参加している。

 本音はパーティー終了後に簪から会議内容を聞くことになっている。

 

 

 「 それで明日、急遽編入してくる事になった中国の代表候補生というのは? 」

 

 

 シュートの問いに刀奈はタブレットを操作して空間ディスプレイに情報を映し出す。

 

 

 「 中国代表候補生序列第4位、凰鈴音 15歳 IS適性[A]。 専用機は中国製第3世代型IS[ 甲龍 ]。  」

 

 

 刀奈が画面のデータを読み上げる。 するとセシリアから

 

 

 『 何故、このような中途半端な時期に編入を? 』

 

 

 「 学園側からの情報だと2月末の段階では、別の代表候補生が入学予定だったそうよ。 3月になってその代表候補生の入学を取り止めて、凰鈴音の入学を伝えてきたの。 書類等の手続きの関係上、入学式には間に合わず編入という形になったそうよ。 」

 

 

 刀奈の話を聞いてダリルが

 

 

 『 あはっ、そりゃ誰がどう見たって織斑一夏が狙いですと言っているもんじゃねえか。』

 

 

 『 それなんだけど、面白い事がわかったわよ。 凰鈴音は1年前まで日本で約4年間生活していたの。 そして織斑一夏とクラスメイトだったわ。 』

 

 

 ダリルの言葉を引き継ぐ形でスコールが追加情報を延べる。

 

 

 『 本人の意志かどうかわからないっス、でもどう見ても織斑一夏狙いっス。 』

 

 

 『 恋する乙女の一途な気持ちってところなんじゃないの? しびれるわ~ 』

 

 

 フォルテとリムがそれぞれの考えを延べる。

 

 

 「 何にせよ、織斑一夏との接触には目を光らせて監視を強化しておこう。これで会議は終了でいいかな? 」

 

 

 『 ちょっと待って、実は少し気になる情報があるの。 3月末から世界各地で元代表候補生やIS学園の卒業生が行方不明になっているケースがあるの。 家出なのか誘拐なのかまだはっきりしていないけど、現在、警察に届けられて確認されているだけで5人、詳しく調べてみないとわからないけど、もしかしたらもっと増えるかもしれないわ。 』

 

 

 スコールがシュートの会議終了の言葉を止めて報告する。

 

 

 「 確かに気になるな・・・・スコール、各支部に連絡して情報収集をしてくれ・・・・何だか嫌な予感がする。 」

 

 

  シュートの言葉で沈黙が訪れる。

 

 




 とりあえず、少しストックが出来たので9月は週一で更新します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話  襲来の中国娘

 翌日、朝からクラスはにぎやかだった。 中国からの編入生が隣の2組に加わる事と、来週行われる学年別クラス代表戦の事だ。

 特にクラス代表戦はデザートフリーパスがかかっているので話に熱がはいっている。

 

 

 「それにしても専用機持ちが1組と4組しかいないなんて、チャンスが増えたわね。」

 

 

 「しかも4組のクラス代表、専用機持ちなんだけど、どういう訳か専用機がまだ完成してないんだって。」

 

 

 「ますます優勝の可能性が高くなってきたわね。 頑張ってよ織斑くん。」

 

 

 「まかせておけ、必ず優勝してデザートフリーパスを手に入れてみせるぜ。」

 

 

 一夏はクラスの女子に乗せられて優勝宣言をする。

 

 

  『・・・・・織斑一夏もクラスのみんなもわかっているのかな? いくら専用機が無いとはいえ簪ちゃんは代表候補生だ。』 

 

 

 シュートがプライベートチャンネルでマドカとシャルロットとセシリアに話かける。

 

 

 『たぶん、わかってないと思うわ。』

 

 

 『というか、織斑くんは代表候補生の強さをまだ認識していないと思うよ。 あれだけセシリアさんにやられたのに。』

 

 

 『つくづく学習能力の無いお方ですね。』

 

 

 あまりにも能天気な一夏に酷評を下す3人。 そこに突然、

 

 

 「その情報は古いわよ!!」

 

 

 クラスの入り口に一人の少女・・凰鈴音が腕を組み仁王立ちで此方を見据えていた。

 

 

 「この中国代表候補生、凰鈴音が2組のクラス代表になったからには、そう簡単には勝たせないわよ!!」

 

 

 そう宣言する。 そして鈴音の姿を見て一夏が

 

 

 「鈴?!、鈴じゃないか、久し振りだな。」

 

 

 「久し振りね一夏、元気にしてた?」

 

 

 「あぁ、それより何格好つけてんだ、すげえ似合わねえぞ。」

 

 

 「な、なによ! 一夏のくせに生意気よ!」

 

 

 一転して口喧嘩を始める二人、しかしそれは突然終局を迎えた。 二人の頭を衝撃が襲ったからだ。

 

 

     バン! バン!

 

 

  「「 いだぁーーー!! 」」

 

 

 「馬鹿者、チャイムが聞こえなかったのか? SHR がはじまるぞ!」

 

 

  「 くっ、一夏後で覚えてなさいよ! 」

 

 

 凰鈴音の最初の襲来はこうして幕を閉じた。

 

 

 

 昼休み、シュートは基本的に食堂にはいかないで生徒会室で弁当等を食べている。 食堂にいけば色々と騒がしくなるためだ。

 そのため一夏の監視にはマドカ達がシフトを組んで交代で監視している。 ちなみに今日はマドカとセシリアだ。

 そして二人のISのハイパーセンサーとコアネットワークを通じて状況を監視している。 それ以外にも食堂には監視カメラが幾つか設置されており、それを使っての監視もしており生徒会室のモニターに映し出されていた。

 

 

 「そう言えばシュート、倉持の一件はどうなったの?」

 

 

 サンドイッチを食べながらシャルロットが尋ねた。

 

 

 「タバネ姉さんとクロエが今回は容赦なくやってね、そしたら出るわ出るわ色んなデータが。 今はそれを整理して纏めているみたい。 そして今回関わった政治家や官僚の事を含めて検察庁、そしてマスコミに一斉に送るみたい。」

 

 

 ツナマヨお握りを食べながら答えるシュート

 

 

 「検察庁?! そんなにヤバいデータが出てきたの?」

 

 

 刀奈が驚く。

 

 

 「犯罪行為の証拠が色々とね。 GWに入る頃には世間を騒がせるんじゃないかな。」

 

 

 「どう決着がつくのでしょうか?」

 

 

 シュートの答えに虚が聞いてきた。

 

 

 「さあね、うやむやで終わるか、尻尾切りで終わるか、はたまたきっちり処罰するか、それは蓋をあけてみないとね。」

 

 

 一夏達が映るモニターでは、一夏をはさんで箒と鈴音が言い争いをする姿があった。

 どうやら、一夏のコーチを巡って言い争いになったようだ。 

 

 

 「そう言えば、篠ノ之さんに訓練機の打鉄を優先的に貸し出すように整備科に通知がきました。」

 

 

 「理事長に確認しましたら、政府からの要請ということです。 更に政府の方に探りをいれましたら、篠ノ之箒が姉である篠ノ之束の名前を使い脅したようです。 更に織斑千冬がそれを後押ししたようです。」

 

 

 虚からの突然の報告と刀奈からの補足はシュート達を驚かせると同時に納得させるに十分だった。

 実は箒は白騎士事件以降から篠ノ之束の妹と呼ばれる事を嫌うようになった。 束がISを作り出した事により家族が離散し自身も転校の繰り返しになった為に。

 しかし、中学生に上がった頃からは自分が不利な立場になった時や、自分の我が儘を押し通したりする際に束の名前を利用する事が増えた。

 

 先日も授業の最中に束の妹だと知れた際には『自分は関係ない』と言い切った反面、昼食時に一夏にコーチを申し出た上級生に対して『自分は篠ノ之束の妹だ。』と言って押し退けたのである。

と言って押し退けたのである。

 ある意味、一夏と同じく自己中心的な人物のようだ。

 

 

 「やれやれ、また面倒な事にならなければいいけど。」

 

 

 シュートがそう呟くと、その場にいる全員が何故か面倒事が起きそうな気がした。

 

 

 「あっ、それからもう1つ報告があります。織斑くんの校外での護衛です。 学園側からスリーマンセルで警備員をつけるそうです。さすがに校外で私達が常に側にいたりしたら不自然ですしね。」

 

 

 虚がそう報告してきた。

 

 

 「そうですか・・・・スリーマンセルですか、まあ前例があるだけに仕方ありませんね。 念のために彼の身の回りの品にGPSチップを仕掛けておいてください。」

 

 

 「わかりました、生徒手帳に携帯電話に腕時計等に仕掛けておきます。」

 

 

 シュートが出した指示に刀奈が頷く。

 

 

 「GW迄に仕掛ければいいよ。」

 

 

 「そう言えばシュート、GWはどうするの?」

 

 

 シュートのGWのフレーズにシャルロットが聞いてきた。 カレンダーを見ると5月の1日が土曜でそこから5連休となっていた。 しかし、留学生も多いIS学園では29日から5日迄の1週間の連休となっている。

 

 

 「今年のGWは7連休だね。 本来なら護衛任務の兼ね合いで学園待機なんどけど、流石にそれだと不満が出るから、前半と後半に分けて交代で休む事になった。それで俺たちは前半に3日間休むことになったんだ、だから温泉旅行でもしないか?」

 

 

 シュートの言葉に喜びを隠せない刀奈とシャルロット。

 

 

 「それじゃあ更識がやっている温泉宿に行きましょう。部屋は常にキープしてあるから大丈夫よ。」

 

 

 「参加メンバーは?」

 

 

 「俺にシャルロット、マドカ、刀奈、簪ちゃん、本音ちゃんに虚さんの7人だ。あっ、タバネ姉とクロエも誘ってみようから。 これそうだったら9人だね。」

 

 

 「それでは旅館の方に連絡を入れておきますね。」

 

 

 シュート、刀奈、シャルロットの会話を聞き虚が、旅館の手配を始めた。

 

 

 「さて、楽しい旅行の前には学年別クラス対抗戦があるから、それを終わらせないとね。」

 

 

 シュートの言葉に疲れた表情になる刀奈。そんな刀奈を労りながらシュートは号令をかける

 

 

  「それじゃあ、お仕事再開!」

 

 

 

 

 

 

 ちなみにその日の夜、一夏との部屋割りで箒と鈴音がもめ事を起こした。

 

 

 

 そして一週間後、クラス対抗戦が始まった



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話  クラス対抗戦


お気に入りが300件を越えました。
本当にありがとうございます。


 クラス代表対抗戦当日、1年生の試合が行われるアリーナの観客席は満席で異様な熱気に包まれている。

 その一方でシュート達は万が一の事態に備えて秘かに会場の警護にあたっていた。 シュートはマドカと、シャルロットはセシリアと二人一組となり見回っている。

 

 試合の組み合わせは3組対4組、1組対2組となっている。

 そして今まさに3組対4組の試合が始まろうとしていた。 当初は訓練機同士の対決としてそこまで注目されていなかったが試合会場に現れた4組の代表である簪が、専用機を纏っていたことで状況は一変した。

 

  そう簪の専用機はクラス代表対抗戦に間に合ったのだ。 タバネがあれから頑張って調整を重ねて前日までに完成させたのだ。 そして昨日の内に簪に手渡されフィッティングと一次移行を完了させたのだ。

 そして今、アリーナには翠色の第4世代型IS[ 翠華月(みかづき) ]の姿があった。

 

 

 

 第1試合 3組対4組

 

 その試合内容はまさしく圧巻だった。 最初から展開していた二つの武器ショットガンとガトリングシールドのみで、詰め将棋の如く相手を追い詰めていき。僅か1分で試合を終わらせたのである。

 日本代表候補生の力をまざまざと見せつけた簪。 客席に座る生徒達はその実力に惜しみない拍手を贈った。

 

 

 その一方、簪の力に危機感を抱いていたのはピットでその試合を観戦していた鈴音だ。

 

 

 (・・・・底が見えない、恐らく実力の半分も見せていないわ。 それにあの機体なんなの? 第3世代機とは思えないわ・・・一夏との試合だけを念頭においてきたけど、そういう訳にはいかなくなったわね。 手の内を明かさずに戦う必要があるわ)

 

 

 鈴音は2日前に一夏と大喧嘩をした。 きっかけは一夏が鈴音が日本を離れる際にした約束を正しく覚えていない上に、その意味を全く理解していない事だった。

 その後、売り言葉に買い言葉で口喧嘩が始まり、そして一夏がその最中に鈴音が最も気にしているNGワードを・・・体の一部分を揶揄する言葉を発して鈴音を完全に怒らせたのである。

 先程までは一夏への怒りで全力全開で打ち負かしたやろうと思っていたが、簪の試合を見て冷静になり、手の内を明かさずに勝つことに意識をシフトした。

 

 ちなみに、簪の機体についてはまだ正確に公表されておらず、誰もが第3世代機だと思っている。 

 

 

 反対側のピットでは、一夏が箒と共に試合を見ることもなく、リラックスムードで談笑していた。 

 本来なら関係者以外立ち入り禁止なのだが、箒はお構い無しに入り込んでいる。

  一夏はクラス代表決定戦の2連敗の後、箒とトレーニングを重ね、白式の力に気づいた。 姉である千冬と同じ力に、クラス代表決定戦の時にはまだ目覚めなかった力を手に入れて、一夏は自分が千冬と同じように最強の存在になったと思っている。

  

 そして入場を告げるアナウンスが聞こえてきた。

 

 

 「勝ってこい一夏!」

 

 

 「あぁ任せろ箒!」

 

 

 一夏は白式を展開してアリーナに飛び出す。

 

 

 

 アリーナにはすでに鈴音がISを纏って一夏が来るのを待っていた。

 

 

 「鈴、今日俺が勝ったらこの間の事説明してもらって、謝ってもらうからな! 」

 

 

 一夏の台詞に鈴音は

 

 

 「悪いけど一夏、その件は後回しにしてちょうだい。前座のあんたにかまっている余裕がなくなったの。 」

 

 

 バッサリと切り捨てる。

 

 

 「ぜ、前座?! どういう意味だよ鈴! まるで俺がお前には勝つことが出来ないみたいな言い方だな!」

 

 

 前座扱いされた一夏は怒って鈴音に文句を言う。

 

 

 「まさか一夏、あんた私に勝つつもりだったの? よく考えなさいよ。 私は代表候補生なのよ、ISを纏って1ヶ月にもならないずぶの素人に負けるはずないじゃない。 代表候補生の立場はね、そんなに生易しいもんじゃないのよ! 」

 

 

 「俺はもう誰にも負けない! 代表候補生だろうが何だろうが勝つ。 なんたって俺には千冬姉と同じ最強の力があるんだ。 誰にも負けるはずがねえ! 」

 

 

 その台詞を聞いた瞬間だった、鈴音の中で急速に一夏への恋心が冷めていくのを感じた。

 千冬と同じ力を持ったというだけで最強になったと妄信する姿は、鈴音が恋した一夏の姿とは余りにもかけ離れていた。

 実力が伴わない中で専用機という強大な力の象徴を得てしまったことで一夏は歪んでしまった。

 

 

 

 『 ただいまより、1組代表 織斑一夏VS2組代表 凰鈴音の試合を開始します。 それでは試合開始! 』

 

 

 試合開始の合図と同時に一夏の持つ雪片弐型は青白い光に包まれた。

 

 

 「これが千冬姉から受け継いだ最強の力、零落白夜だ。」

 

 

 いきなり、単一仕様能力を披露し自慢する一夏。

それを観客席の入口近くで見ていたシュートとマドカ

 

 

 「おいおい、初っぱなからあんなのを使うなんて何考えているんだ? あれじゃあどう足掻いても勝てないな。」

 

 

 バッサリと一夏の敗けを断言するシュート。

 

 

 「ところで兄さん、零落白夜ってどういう仕組みなの? 単に高出力のビームで相手のシールドやエネルギー武器を無効に出来るとは思えないんだけど? 」

 

 

 「あれはビームブレードの部分を更にシールドエネルギーでコーティングした二層構造になっているんだ。 例えばISのシールドに触れた場合 コーティングしているシールドエネルギーが相互干渉をおこしてシールドを中和してビームブレードで斬る。 すると絶対防御が発動せずにダメージを与える・・・斬る場所が悪ければ相手に大怪我・・いや殺す可能性もある武器だ。 」

 

 

 「そんなヤバい能力を持った武器を素人に持たせて大丈夫なの? 」

 

 

 「恐らく織斑はその危険性やデメリットに気づいてないだろうな。」

 

 

 「デメリット?」

 

 

 「スクリーンに表示されている織斑のSEのゲージを見てみろ。 徐々に減っているだろう、さっきも言った通りシールドエネルギーでコーティングしていると、つまり発動しているだけでSEが減っていく。更に相互干渉を起こせばそれに見合った分のSEが減る。 使えば使うだけ自分のSEが減っていく諸刃の剣だ。」

 

 

 

  「いくぜ、とりゃぁぁぁぁぁぁーーー」

 

 

 「そんなナマクラ当たる訳ないわ。」

 

 

 シュートがマドカに説明していると、一夏が鈴音に向かって突進していき剣を振るう。 

 しかし、鈴音は余裕でそれをかわす。そして手にしていた2本の青竜刀でカウンターを叩き込む。

 

 

 「くっそぉぉぉぉぉぉーーー」

 

 

 カウンターでダメージを受けた一夏は鈴音に向かって剣を振るうが再びかわされてカウンターをくらう。

 

 

 「それにしても、成長してないわね織斑。 上段からの幹竹割り、それが外れたらがむしゃらに剣を振るう。 パターン化してるわね兄さん。」

 

 

 「織斑は零落白夜の力を過信するあまりに練習の間に無意識の内に一撃必殺の必勝パターンを作り上げてしまった。 初撃が外れてしまい、そのパターンが崩れ混乱するんだろう。」

 

 

 シュートの話を聞きマドカは

 

 

 「ねぇ兄さん、仮に織斑を鍛える事になったとしたらどう指導する?」

 

 

 「そうだな・・・・先ずはあの欠陥だらけの専用機を取り上げて訓練機に乗ってもらい1からISの扱い方を覚えてもらい、次に生活リズムを徹底的に変える。 ちなみにこれが今の織斑の生活リズムだ。」

 

 

 そう言ってシュートは携帯電話に送られていた一夏の生活リズムの報告書を見せる。

 その内容を見てマドカは驚く。

 

 

 「何これ? 朝は7時に起床して朝食を取り登校、放課後は篠ノ之とのIS訓練、アリーナの使用許諾が下りなかった日は帰寮してテレビ観賞もしくは漫画を読む、19時に夕食を取り歓談室でテレビ観賞して21時に自室に戻り宿題をして就寝・・・・・・」

 

 

 最後のほうになるとマドカは呆れはじめていた。 IS学園に在籍する半数以上の生徒は一夏とほぼ変わらない生活を送っているだろう。

 しかし代表候補生や専用機持ちに一般生徒の中でも高みを目指す者は違う。自己を高める為の努力が惜しまない。  限られた時間の中で自己鍛練を惜しまない。

 無論シュート達もやっている。 一夏とはトレーニングの密度が違うのだ。 その差は埋るどころか広がるばかりなのだ。

 

 

 そんな話をしている間に一夏のSEは3割を切っていた。 いったん距離を取り零落白夜の発動を止めて構え直す一夏。

 

 

 「くっそぉぉぉぉぉぉーーー、次で決めてやる! えっ?!  うわっ!!」

 

 

 鈴音は青竜刀を構え直した。 次の瞬間、鈴音の姿が一夏の視線から消え、一瞬で目の前に現れた。 瞬間加速・・・ISの操作技術の1つでスラスターから放出されたエネルギーを再度内部に取り込み圧縮し解放し、その際に圧縮されたエネルギーが元に戻る力を利用して加速する。 

 瞬間加速により威力の増した青竜刀の斬撃をまともにくらいよろめく一夏。

 鈴音の攻撃はそれにとどまらず瞬間加速の力を利用して一夏の頭上を飛び越えて背後に回る。 そして一夏の背中にキックを叩き込んだ瞬間にスラスターの出力を全開にしてアリーナの壁に向かっていく。

 

 

 「ぐふっ!?」

 

 

 「さぁ一夏、これでフィナーレよ!」

 

 

 「えっ!? うわぁぁぁぁぁぁぁーー」

 

 

  ドゴォォォォォォーーーーン

 

 

 一夏は鈴音に背中を蹴られた状態のままアリーナの壁に激突した。

 その時だった。

 

 

 

    ズガァァァァァァァーーーーン

 

 

 

 アリーナの天井を赤い光が突き破って地面につき刺さる。 

 そして天井に空いた穴から見たこともない3機のISが現れた。





 翠華月     第4世代型IS
外見:ランドグリーズ・レイブン


 元々はタバネが何れ注文が来る予定だった代表候補生若しくは国家代表用に作り上げていた第3.5世代ISウラガンを簪用に改造した機体。 ツインコアシステムは搭載されていないものの、並の機体を大幅に上回る性能を持っている。 簪の希望を取り入れてマルチロックオンシステムを採用し、1対多での戦闘を可能にしている。
 なお、機体名並びに武装名は簪によるもの。


武装
ショットガン[烈火] ×1:小粒散弾・大粒散弾・一粒弾の3種類の弾丸を搭載しており、瞬時に切り替えて撃つことが出来る。


収束荷電粒子砲[春雷] ×2:本来ならリニアレールカノンを装備していたが、 簪の希望により荷電粒子砲に変更された。 


マトリクス・ミサイル[山嵐] ×4:大型ウィングに装着されている多弾頭ミサイル。発射後に15発に別れる、マルチロックオンシステムと連動して60発のミサイル全てを個別指定着弾できる。 拡張領域内に4セット予備があり、使うと同時にリロードさるる。


高周波薙刀[夢現]×2:薙刀を得意とする簪の為にタバネが作り上げた格闘用の武器。 


ガトリング内臓シールド[豪雪]×1:左腕に装着されているガトリングガンが内蔵されたシールド。 ガトリングガンはシールドに内蔵するために小型化されたが威力・射程は高めにになっている。


リニアライフル[紅葉]×2:電磁石を利用したライフル。


ステルスブーメラン[陽炎]×2:特殊な素材で作られたブーメランで、レーダーやセンサーのみならず視覚にも認識しにくいブーメラン。  またAI補助により思念誘導の負担が少ないて済む。


脚部裏側内蔵型プラズマステーク[ライダーキック]×2: 特撮好きの簪たっての頼みで付けられた武装。


腕部内蔵型ビーム砲[スペシウム光線]×2 特撮好きの簪たっての頼みで付けられた武装。  



単一仕様能力:三千大千世界  マルチロックオンシステムと連動して翠華月の全ての武装を同時起動展開し、一斉に撃ち出す能力。 




 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話  VS侵入者

 色々な方から感想をいただいております。
この場をかりて御礼申し上げます。


 謎のISが侵入してくる少し前、シュート達にファントムタスク専用の通信コードを通じて連絡が入った。

 

 

 『ファントムタスクメンバーに緊急通達、IS学園上空1500mに謎のIS反応を3機確認。 現在時速300K m で降下中、予想降下ポイントは現在一年生の試合が行われている第3アリーナ。』

 

 

 その通信の直後だった、赤い光がアリーナの天井を破り地面に突き刺さったのは。

 そしてその穴から見たこともない、尻尾を持つ爬虫類のような姿の3機の全身装甲のISが侵入してきた。

 それと同時にアリーナの観客席の出入口の扉に隔壁が降りた。 そして観客席の生徒達がパニックをおこし始めた。

 

 

 『管制室、こちらはシュート・アルカンシェルです。 観客席の全ての出入口の隔壁がおり生徒の避難が出来ません。 指示をお願いします。』

 

 

 シュートが管制室に連絡すると千冬が応答してきた。

 

 

 『こちらは管制室の織斑だ。 現在全てのシステムがハッキングされ操作することが出来ない。 今、教師や3年生が総掛かりで対処にあたっている。』

 

 

 『織斑先生、隔壁を破壊してもよろしいでしょうか? 俺やマドカ、シャルロットの武装なら可能です。 謎のISはアリーナに展開されている防御シールドを破る武装を持っています。 このまま観客席にとどまるのは危険です。』

 

 

 シュートの意見に千冬は

 

 

 『駄目だ、今[ドゴォォォォーーーーン]何だ?!』

 

 

 

 『私が許可するわ、思う存分にやりなさい。』

 

 

 

 渋っていた千冬。そこに謎のISが放ったビームが防御シールドを破って観客席に命中した。 幸いにも生徒達は出入口に殺到していたので誰も居なかったが、その惨状を見て更なるパニックを起こす。

 そして千冬にかわりスコールが許可を出す。

 

 

 『何を勝手なことをするミューゼル先生!』

 

 

 『織斑先生、あのISは天井の防御シールドを破り侵入し、今も防御シールドを破り観客席を破壊しました。 この場に留まれば怪我人どころか死者が出る可能性があります。』

 

 

 『・・・・・わかりました。破壊に同意します。』

 

 

 

 

 

 『了解しました。 マドカ、シャルロット、それから簪ちゃん、隔壁を破壊するぞ。 セシリアは生徒の避難誘導を!』

 

 

 そう言ってシュート達はISを展開する。

 

 

 「いくぞ、ロシュセイバー。」

 

 

 腰にマウントされているロシュセイバーを使い隔壁を切断する。 マドカはガナリーカーバーの先端に高周波ブレードを展開して隔壁を切り裂いていく。

 別の場所ではシャルロットがストライクアームで隔壁をぶち抜き、簪が高周波ブレードの薙刀で隔壁を切り刻む。 

 こうして生徒達の避難が始まる。 その様子を見てからアリーナの方に視線を移すと、鈴音が一人で3機の正体不明機と戦っているが、多勢に無勢の上にたいしてダメージを与えられていない。

 その上、SEが無くなり何も出来ない筈の一夏が何故か避難せずに鈴音の後ろで敵に向かっていこうとして鈴音に止められている。

 

 

 「マドカ、あとは頼む。 俺は侵入してきた無人機を排除する。」

 

 

 「やっぱり無人機なんだ。」

 

 

 「あぁ、機械の駆動音のみで生体反応がまるでない・・・・ただ・・・まあいい。」

 

 

 『織斑先生、ミューゼル先生、教師防衛隊はまだアリーナに突入出来ないのでしょうか? アリーナ内の2人がかなり追い詰められていますが? 』

 

 

 『格納庫のロック解除に手間取っていて、もうしばらく時間がかかる。 アルカンシェル君、本来ならこのような事を生徒に頼むのは心苦しいのですが、アリーナに入って教師防衛隊の到着まで何とか時間を稼いでもらえませんか?』

 

 

 そう言って許可を出すスコール。流石の千冬も一夏の身が危険だと思っているので口を挟まない。

 

 

 『了解しました。 それではシュート・アルカンシェル、アリーナ内部に向かいます。』

 

 

 そう言ってシュートは防御シールドが破れた部分からアリーナに入る。

 

 

 

 

 

 一方、シュート達が隔壁破壊を始める前。

鈴音は、侵入してきた謎のISと対峙していた。 尻尾があり、どことなく爬虫類を思わせる形状のIS。壁に激突した一夏は気絶しているのか身動き1つしない。

 そのうち、3機は鈴音に目をくれずに斜め後ろに倒れている一夏の方に向きをかえる。 そして肩の部分にある砲身らしき部分に赤い光が灯りはじめた。

 目的をすぐに悟った鈴音は

 

 

 「一夏、起きなさい! 一夏!! あぁもう仕方ないわね。 喰らえ龍砲!!」

 

 

 壁に激突した際に気を失ったのか、一夏に呼び掛けるも反応がないので、鈴音は試合では使用せずに隠しておいた龍砲を拡散モードで発射して3機のISを攻撃する。

 龍砲は命中したが、ダメージを受けたように見えなかった。それでも2機はビームの発射を中止したし、もう1機のビームも発射されたが一夏には命中せずに近くの壁に命中した。

 だが、その威力は凄まじく防衛シールドを破り観客席の一部を破壊したのだ。

 

 

 「なっ?!、なんて威力なの? それに龍砲を喰らって無傷なんて! 拡散モードだから威力が落ちたのかしら・・・・」

 

 

 今の衝撃で目を覚ました一夏は惚けたような顔をして

 

 

 「いったい何なんだ今の衝撃は? それに俺は・・・・・そうだ! 試合は? って、なんだコイツらは?!」

 

 

 「やっと目を覚ましたわね。 簡単に説明するけど、コイツらは侵入者で敵。 むちゃくちゃ強い、だから私が時間を稼ぐから一夏はピットに避難して。」

 

 

 「はぁ? 何言ってんだよ! 俺も戦う。 鈴を置いていけるかよ!」

 

 

 「あんたこそ何言ってんのよ。 あんたのSEはほとんど無いのよ、足手まといだからさっさと逃げて!」

 

 

 「嫌だ! 男が女を置いて逃げれるかよ! 俺も一緒に戦う。」 

 

 

 「こんな状況で何を言ってんのよ。 さっきも言ったけど、あんたの機体はSEがほとんど無いのよ。 戦う事なんて出来ないの、さっさと逃げて!」

 

 

 女に守られる、その事がプライドを大きく傷つける事をわかっている一夏は逃げる事を拒否する。 

 そして、その事を本能で察知した鈴音は一夏に幻滅していた。 

 

 

 「一夏!!」

 

 

 そこに敵のISから再びビームが発射された。 咄嗟に鈴音は一夏を庇いながら地面にふせる。 だが避けきれずに右のスラスターを破損してしまう。そして、甲龍のSEも大幅に減ってしまう。

 

 

  「くっ、一夏早く逃げなさい。このとおり、やつらの攻撃力は出鱈目よ。 SEの無いあんたが喰らえばあの世行きよ、早く逃げて。私がギリギリまで時間稼ぐから。」

 

 

 「嫌だ!、女に護られて逃げるなんてカッコ悪いことできるかよ!」

 

 

 敵を目の前にして言い争いになる二人。 それを見逃すはずもなく、二人を狙い敵のISがビームを放つ。

だが、ビームが二人に命中することはなかった。 

 

  

 「二人とも大丈夫か? 遅くなったが出動準備に時間がかかっている教師防衛隊の代わりに救援にきた。 この場は俺に任せて避難しろ。」

 

 

 グラビティテリトリーを展開し二人をビームから護りながら声をかけた。

 防御シールドを破り甲龍のSEを大幅に減らした高出力のビームを平然と防いでいるシュートに驚いている鈴音だったが直ぐに我にかえり

 

 

 「あ、ありがとう って、あんたは誰? 声からして男だけど、もしかして二人目の男性適性者? 」

 

 

 「そういえば、面と向かって話すのはこれが初めてですね。 申し遅れましたが1年1組、シュート・アルカンシェルです。 さあ、あとは俺に任せて避難を 「シュート! 遅いぜ、何やってたんだよ。 助けにくるならもっと早くこいよ。 」・・・・・織斑一夏、文句は後で聞くから早く逃げろ。」

 

 

 鈴音に簡単な自己紹介をして避難を促している最中に一夏に謂れのない文句を言われるがシュートは敢えて流して避難を促す。

 だが一夏は

 

 

 「何言ってんだよ。俺も戦うぜ! 」

 

 

 再び我が儘を言い出す。 そんな一夏を無視してシュートは重力操作能力を利用して一夏を防御シールドの破れている場所目掛けて弾き飛ばした。

 

 

 「えっ?! うわぁぁぁぁぁぁぁーーー グヘッ!」

 

 

 弾き飛ばされた一夏はそのまま観客席の瓦礫に頭から突っ込み気を失う。

 

 

 「あんた一人で3機も相手できるの?」

 

 

 一夏には目もくれずにシュートに言う鈴音。 相手の攻撃力を体感したからこそ、不安を隠せないでいた。

 

 

 「3機? いいえ、1機しか残ってませんよ。」

 

 

 そうシュートが言った瞬間だった。 左右にいた敵ISの手足が急に切り飛ばされ、さらに首と胴体が別れて倒れた。 

 そしてシュートのもとに4つのリープスラッシャーが戻り格納された。

 

 

 (いっ、いつの間に?! それに今の武器は何? それにあんなに簡単にやっつけた。というか殺したの?)

 

 

 「いくら装甲が丈夫でも稼働する関節部分を狙えば問題ない。 それからあれには人は乗っていない。 無人機だ。」

 

 

 鈴音の心を読んだかのように答えるシュート。よく見れば、切られた部分からは血ではなくオイルが流れ出ていた。

 シュートの実力を目にし鈴音は避難することにした。

 

 

 「・・・・・気を付けて。 それから、ついでにあの馬鹿も回収していくわ。」

 

 

 鈴音はそう言って一夏が飛ばされた部分に向かった。

 

 

 「さて、後一機というわけだけど・・・・どうやらコイツだけは他の2機とは違うみたいだね。」

 

 

 シュートは気づいていた。 このISが動くことで他の2機が合わせて動いていたことに。 つまり、目の前のISが指揮していたことに。

 シュートがロシュセイバーを構えた瞬間だった。

 

 

 『一夏ぁぁぁぁーー 何時までそんな所で寝そべっている! 男なら立ち上がって立ち向かえぇぇぇーーー!』

 

 

 スピーカーから大音量で聴こえてきた箒の声。 どうやら放送室に無断侵入したようだ。

 だが、その声は無人機に敵対行為と認識され、放送室に向けてビームを放つ。 

 

 

 『エッ?!』

 

 

 箒は放送室に向けてビームが放たれるとは考えていなかった為に、突然のことに呆けてしまった。

 迫り来る赤い光の意味を認識したとき箒は目を閉じた。

 だが、そのビームは放送室に直撃することはなかった。 

 

 

 「グラビティテリトリー全開!」

 

 

 放送室とビームの間にシュートが割って入りロシュセイバーを突き出し、更にグラビティテリトリーを展開しビームを防いでいた。

 シュートは放送室に軽く視線をやると、そこには箒が尻餅をついた状態で呆けており、更にその背後には数人の女子生徒が倒れていた。 箒が放送室に侵入した際に止めようとして倒されたのだ。 そしてそこにはシュートの知っている女子生徒・・・・虚の姿もあった。

 

 

 『誰か放送室に向かってくれ、怪我人がいる。それからついでに大馬鹿者を拘束してくれ!』

 

 

 シュートが呼びかけるとマドカが返事した。

 

 

 『わかったわ、兄さん。 シャルとセシリアを連れていくわ。』

 

 

 シュートは通信を終えて、ビームが途切れた瞬間にロシュセイバーを無人機に向けて投げつける。

 そしてそのまま背後に周りこむ。

無人機はロシュセイバーを紙一重でかわし、今度はシュートに向けてビームを放とうとするが、そこには既にシュートの姿はなく、背中を蹴り飛ばされ倒れこむ。

 

 

 「さあ、フィナーレだ。 Gインパクトステーク、セット。 」

 

 

 右手にGインパクトステークを呼び出し倒れている無人機の背中に先端を突きつけ

 

 

 「どんな装甲だろうと、撃ち貫くのみ! ゼロ・ファイヤ!」

 

  

   トリガーを3度引く。 

 

 

   ドン! ドォン!! ドォォン!!!

 

 

 Gインパクトステークの先端から杭状に形成された漆黒の重力波が3度 無人機を貫く。

 

 最初の一撃で、無人機は仰け反り、地面にめり込む。

 

 次の一撃で、無人機は四肢から火花を放ち、地面に亀裂が走る。

 

 最後の一撃で、無人機は全身を激しく震わせ煙を上げて動きを止め、地面にクレーターを作る。

 

 

  

 シュートはすぐさま無人機から離れて様子を見る。 完全に無人機が機能停止したことを確認し、

 

 

 『こちらシュート・アルカンシェル。 侵入してきた3機のISを撃破しました。 』

 

 

 管制室にいる千冬に連絡する。

 

 

 『ご苦労だったアルカンシェル。 遅くなったが今、教師防衛隊が出動した。後始末はそちらに任せて報告をしに学園長室まで来てくれ。』

 

 

 『わかりました。』

 

 

 『・・・・ところでアルカンシェル確認したいんだが、織斑を観客席に飛ばしたのはお前の仕業か?』

 

 

 『えぇ、そうです。SEもほとんど残っていないのに避難することを拒み、一緒に戦うと現状を全く理解していない発言をして私のみならず凰さんを困らせていましたので、緊急措置として致し方なく。 あのままでは生命の危険性がありましたので、何か問題でもありましたか?』

 

 

 『・・・・・・・・・いや。・・・・・・・・それでは学園長室で待つ。』

 

 

 

 こうして、学年別クラス代表戦は幕を閉じた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話  暗躍

 シュートが学園長室に入室すると、部屋には理事長の轡木十蔵の他に千冬、スコール、シャルロット、セシリア、マドカ、簪、虚、鈴音、一夏、箒、がいた。

 

 

 「よく集まっていただきました。 初めて顔を合わせる方もいますので自己紹介させていただきます。 私は轡木十蔵ともうしましてIS学園の理事長を務めさせていただいております。 それでは事情聴取をはじめます。」

 

 「それでは一連の流れからいきます。 1組クラス代表織斑一夏と2組クラス代表凰鈴音の試合の最中、突如としてアリーナ天井部分を破壊して所属、ならびに形式不明のISが3機、侵入してきました。 それと同時にアリーナ全体のシステムがハッキングを受けてロックがかかりました。」

 

 千冬がそこまで説明すると、その後を引き継いでスコールが

 

 

 「その後、パニックを起こして出入り口に生徒達が押し掛けましたが、隔壁が降りており避難することが出来ない状態になっておりました。 また、侵入してきたISに対処すべく教師防衛隊の出動を要請しましたが、格納庫の扉もロックされており、出動に時間がかかるとのことでした。 そこにアルカンシェル君からISでの隔壁破壊の提案があり、特別に許可を出しました。」

 

 

 「なるほど、わかりました。 さてアルカンシェル君、許可が出た直後の事を報告してもらえますか?」

 

 十蔵に求められシュートが話しはじめる。

 

 

 「ミューゼル先生から許可をもらい、私は1年に在籍する他の専用機持ちに連絡して手分けして隔壁を破壊して生徒達を避難誘導しました。 」

 

 「では、凰さん織斑君、アリーナでの事を報告してください。」

 

 「一、織斑君は最初のほうは気絶していたので私が報告します。 試合中に突然、アリーナ天井を破って3機の正体不明のISが侵入してきました。 そして気絶していた織斑君に対して攻撃しようとしていたので、やむを得ず攻撃しましたが、たいしてダメージを与える事が出来ませんでした。 その後、意識を取り戻した織斑君に避難するように進言しましたが拒否されました。」

 

 

 鈴音の報告を聞いて千冬が渋い顔をした。

 

 

 「織斑君、どうして凰さんの進言にしたがって避難しなかったのですか?」

 

 十蔵の問いに

 

 

 「それは鈴を一人置いて避難するなんて出来なかったからです。一人より二人のほうが何とかなると思ったからです。」

 

 「君のISはほぼSEがつきかけていたのに引き換え凰さんのは無傷でした。 そうなると凰さんは君を護りながら敵と戦うことになります。 防御シールドを破る程の攻撃力を有している敵と戦うのに、SEがほぼ残っていない君の存在が足手まといになると考えなかったのですか?」

 

 「織斑君は避難を進言した際に女を置いて逃げられない、女に護られたくないと言って避難することを拒みました。」

 

 十蔵からの一夏への質問にたいして鈴音が報告を添えた。

 

 

 「それは本当ですか織斑君?」

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 十蔵の問いに何も言えない一夏。

 

 

 「・・・・それではアルカンシェル君、君がアリーナに行ってからの事を報告してください。」

 

 「はい、避難活動がある程度進んだところでアリーナを見ると織斑君と凰さんが苦戦しているのがわかりました。管制室に教師防衛隊の出動がまだか尋ねたところ、まだ準備がかかるとの答えが帰ってきて、ミューゼル先生が私に到着までの時間稼ぎを依頼してきたので了承しアリーナに向かいました。」

 

 「格納庫のロック解除が手間取っており、このままではアリーナ内部の二人が危険だと思い依頼しました。」

 

 スコールがシュートの報告を補足する。

 

 

 「アリーナに入りますと二人がビームで攻撃されそうだったのでビームから二人を護り、避難を拒む織斑君を強制的に避難させました。 そして凰さんが避難したのを確認して敵ISと交戦を開始しました。 しかしその途中、アリーナのスピーカーから篠ノ之さんの大音量の声が聞こえてきました。避難させた織斑君に起き上がって戦えという内容でした。」

 

 シュートがそう報告すると全員の視線が箒に集まる。

 

 

 「そして敵ISはそれにより放送室に向けてビームを放ったので私が間に入り防ぎました。 その際に放送室の中を見たところ、篠ノ之さん以外にも数名の生徒が倒れているのを確認し、マドカ達に救助を要請しました。」

 

 シュートの報告を受けてマドカが代表して

 

 

 「兄からの連絡を受けてシャルとセシリアを連れて放送室に向かったところ篠ノ之さん以外に放送委員二人と生徒会役員が一人倒れていました。 幸い軽症でしたが、話を聞いたところ篠ノ之さんが放送室に乱入した際に静止しようとして竹刀で叩かれたとのことでした。」

 

 「違っ「篠ノ之さん、後で聞きますから今は黙っていてください。」・・・・・はい。」

 

 マドカの報告を否定しようとした箒だったが、十蔵に止められる。

 

 

 「そして、その後残る一機に対して攻撃を加えて撃破しました。 その後、管制室より教師防衛隊の出動準備が出来たとの連絡を受けて下がりました。」

 

 「みなさん報告ご苦労様です。 さて織斑君、君が避難しなかった理由は凰さんが、言った内容であってますか?」

 

 十蔵からの再度の問いかけに一夏は

 

 

 「・・・・・・・間違いないです。」

 

 「そうですか。 それでは次に篠ノ之さん、あなたはどうして避難せずに放送室に乱入し中にいた生徒に暴行を加えて、更に大声を上げて妨害行為を行ったのですか?」

 

 「私は妨害行為など「篠ノ之さん!」・・・・・私はただ一夏に激を飛ばそうと・・・」

 

 妨害行為をしてないと言おうとしていた箒だったが、十蔵によりその言葉は封殺された。

 

 

 「一夏が侵入してきたISに立ち向かおうとしていたのに、そこの男が邪魔をしてあまつさえ一夏を邪魔者扱いし排除したので、立ち上がって敵に立ち向かえるように激を入れたのだ。 放送室にいた連中はそんな私の正当な行動を邪魔したから排除したまでだ。」

 

 余りに身勝手で独善的な考えに言葉を失う。

 

 

 「・・・・・篠ノ之さん、織斑君のISはSEがほぼ残っていない状態というのは先程の説明だけでなく試合を見ていればわかっていましたよね。 織斑君にも言いましたが、そんな状態で戦えるとでも?」

 

 「気合いさえあれば「気合いでSEは回復しませんよ、現実を見なさい。」 くっ!」

 

 箒の非現実的な意見を否定し十蔵は全体を見回して

 

 

 「さて、それではここまでの報告を受けて公正に判断し、織斑君と篠ノ之さんには処罰を与えなければなりませんね。」

 

 十蔵の発言に一夏、箒、千冬は驚愕の表情を浮かべた。

 

 「まず、織斑君。君は自分勝手な理由で避難することを拒み敵ISに対応していた凰さんとアルカンシェル君に多大な迷惑を与えたことは明白、よって明日から3日間の自室謹慎処分と反省文30枚を申し付けます。」

 

 思ったよりも重い処分に千冬は思わず抗議しようとしたが、口を開く前に十蔵の視線により黙らされた。

 

 

 「次に篠ノ之さん、あなたは身勝手な判断により放送室にいた生徒達に暴行を加え、敵ISに対処していたアルカンシェル君の行動を妨害し、更に自分の命のみならず放送室にいた3人の生徒の命を危険にさらした行為は決して容認できるものではありません。 よってあなたには本日より14日間の懲罰室での謹慎と反省文400枚に加え、1ヶ月間の外出禁止とします。」

 

 14日間・・・すなわちGW明けまでという、かなり厳しい処分に千冬が

 

 

 「待ってください理事長。 余りに厳しい処分は束やIS委員会から「その心配はありませんよ織斑先生。」 えっ?!」

 

 十蔵に再考を求めようとしたが、それを十蔵が遮り。

 

 

 「日本政府、IS委員会そして当学園に対して先程、篠ノ之束本人からの同じ内容のメールが届きました。 そこには信賞必罰、悪いことや間違った行為をした場合、私の名前を出しても決して構うことなく罰を与えてほしい。それから今後一切、篠ノ之箒が篠ノ之束の名前を使って要求したことは全て却下してもよい。と書かれてました。 」

 

 束からのメールの内容に驚く千冬達。 

 

 

 「それではみなさんご苦労様でした。もう退室しても構いませんよ。 今回の一件は箝口令をひかせていただきます。決して学園外に漏らさぬように徹底してください。 それから織斑先生とミューゼル先生はそれぞれ織斑君と篠ノ之さんを連れていった後、山田先生の解析の手伝いに向かってください。」

 

 こうして解散となり、学園長室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 IS学園地下、そこに運びこまれた3機の無人機の解析が真耶の手により解析が行われていた。

 そこに千冬とスコールがやって来た。

 

 

 「どうだ山田君、解析は進んでいるか?」

 

 千冬の問いかけに真耶は

 

 

 「はい、まずこの3機は無人機です。それぞれの機体からコアを取り出して機体その物の解析も進んでいます。 まずコアですが、これはISコアではありません。」

 

 真耶の言葉に驚く千冬とスコール

 

 

 「3機に搭載されていたのは、コアによく似た機能を持つ、言わば疑似ISコアという物です。 能力も限定的なもので、これを使ってISを起動させることは出来ますが、量子変換機能が無く絶対防御も通常の半分程度しか働きません。」

 

 「疑似ISコアか・・・・・(ということは束は今回の一件には無関係か)・・他には。」

 

 千冬の問いかけに真耶の顔色が変わり少し青ざめた。

 

 

 「・・・・・・・・それから、この3機の無人機のうち一機の内部からこれが発見されました。」

 

 そういって真耶が示した機体はシュートが指摘していた指揮官機だった。 

 そしてモニターに映し出されたのは緑色の液体に満たされたカプセルに収められ数本のコードで接続された人の脳と脊椎だった。

 それを見た千冬とスコールは表情を歪める。

 

 

 「・・・・・そして、この脳からサンプリングしたDNAですが、学園のデータベースに一致するものがありました。 この生徒の物です。」

 

 そういって真耶がモニターに出したのは一人の女子学生のデータだった。

 

 

 「この生徒は今年の3月に素行不良を理由に退学させられています。その後母国であるオーストラリアに帰国しています。」

 

「この生徒、家族・・・父親からの捜索願いが出ているわ。それから母親も行方不明よ。」

 

 真耶の説明を引き継ぐ形でスコールが話す

 

 

 「どういうことですかミューゼル先生。 何故、先生がその事を?」

 

 スコールの話に疑問を持った千冬が問う。

 

 

 「先週末に父親とオーストラリアの警察から学園に問合せがあったの。たまたまその電話を受けて理事長に報告したのが私なの。 ともかく、その生徒は3月に帰国して一週間後に母親と共に姿を消したそうよ。 最初は母親が娘と暮らす為に日本に行ったと思っていたけど、口座の預金が引き出された形跡が無く不審に思い学園に問合せてきたの。父親は娘が退学になったことを問合せするまで知らず、母親も娘も出国した形跡が無いことで捜索願いを警察に出したそうよ。」

 

 スコールの話を聞き千冬が

 

 

 「その生徒が素行不良による退学させられたと言っていたが、成績ではなく素行不良ということは私生活に問題があったのか?」

 

 スコールはこの生徒が退学になった理由を知っていたが、言うわけにはいかなかった。理由が理由だけに関係者以外には漏らさぬように箝口令がしかれていた。

 

 

「理事長から詳しく聞いて無いからそこまではわからないわ。 ともかく、その生徒がどういう形でこんな姿になったのかは警察の方に報告して調べてもらうしか無いわね。理事長に報告してくるわ。」

 

 スコールがそう言って部屋を出ようとしたのが、千冬が

 

 

 「待ってくれミューゼル先生。 ミューゼル先生は理事長の織斑と篠ノ之に対する処分はどう思う。」

 

 「そうね、織斑君は妥当な処分だと思うわ。 自分のプライドを優先して無謀な行いをした事を自問自答する機会になるんじゃないかしら。  篠ノ之さんについてはもう少し厳しくてもいいと思ったわ。  彼女は自分勝手な理由で他人を傷つけ、自分の命だけでなく他人の命も危険にさらしたのだから。  もし、あれで彼女だけでなく3人の生徒の命が失われていたら理事長のみならず、全教員の責任問題、更に日本政府やIS委員会の対応にも議論が行くことになったでしょうね。」

 

 そこまで言ってスコールは部屋を後にした。

スコールの言ったことは正論であり千冬が反論する余地はなかった。 それでも感情論として納得出来ない部分があった。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、シュート達は秘匿通信を使いスコールから無人機の報告を受けていた。

 脳の持ち主の生徒の件になったとき、ダリルの顔色が変わった。

 

 

 『?! なんで、なんであいつが! クッソー!!』

 

 「ダリルさん、この生徒の事を知っているんですか? 」

 

 シュートはダリルに聞く。 手元のタブレットには生徒の情報が表示されていた。

 

 【ジジ・ルー 16歳    オーストラリア出身

2年3組 整備科所属   3月に素行不良により退学処分】

 

 

 「彼女は3月に退学処分になってますが、その理由は?」

 

 シュートの問いかけにダリルが答える。

 

 

 『そいつはな、3月に行われた織斑一夏の実技試験の前日に格納庫に侵入し、織斑一夏が使用予定だった打鉄に細工しようとしてしていたんだ。 事前に情報を掴んでいたあたしがマークしていて現場を取り押さえたんだ。 そしてそれが退学理由だ。』

 

 そう話すダリルの表情はどこかつらそうだった。

 

 

 『あいつの母親はオーストラリアでも悪名高い女性権力団体の幹部なんだ。 もっとも、母親がその団体に所属したのはジジがIS学園に入学してからなんだが、だから最初の頃は普通の生徒だったんだが、月日が経つ毎にその思想に染まっていったんだ。 そして事件を起こした。』

 

 ダリルの話を聞き沈黙が流れる。

 

 

 「スコール、彼女が退学してからの足取りは?」

 

 シュートの問いかけにスコールは首を振り

 

 

 『残念だけど、帰国して一週間後に母親と共に姿を消してからの足取りは掴めていないわ。 ただ、その女性権力団体なんだけど、今はもう存在してないわ。 でもその団体はある組織の下部組織だというのは掴んだわ。』

 

 「その組織って、まさか!」

 

 シュートの問いかけにスコールは頷き

 

 

 『えぇ、シュートの思っている通りよ。 第1級危険指定組織 女性至上主義団体[グローリー・キングダム]よ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ白い部屋の中には白い円卓がある。 その円卓を囲むように5つの椅子があり、そのうち4つに4人の女性が座っていた。

 

 

 「さて、Doctor とProfessorが共同で進めていた無人機計画の方はどうなりましたか?」

 

 紫色の髪を持つ20代後半らしき美女がそう言うと、白髪の老婆が

 

 

 「Professorが開発した疑似ISコアを搭載した、試作型無人機[レストレイル]のtypeーMB とtypeーAIの試験運用と実戦テストを行った。 どちらもデータ上とほぼ同じ能力を示してくれた。 まあ結果は残念な物となったが、今後の課題がわかったのでよかろう。」

 

 すると茶髪で左の目元に黒子のある30歳位の美女が

 

 

 「ですがDoctor、まだ量産を始めたばかりで数の揃っていない疑似ISコアを試験運用の度に使い潰されては困ります。 せめてコアだけでも回収する手筈を整えてください。 今後のコアのバージョンアップや疑似ISコア専用の有人型IS[ゼカリア]に[エゼキエル]、無人型IS[レストレイル]の量産にも支障をきたします。」

 

 その言葉に燃えるような紅い髪の鋭い目付きをした美女が

 

 

 「それにしてもDoctorもProfessorもいくらデータをとるためとはいえ、適性レベルBの女性を生体パーツに使用するとは、どうせならDoctorのGAMEーSYSTEMの被験体にすればよかったんじゃない?」

 

 その発言に白髪の老婆・・・Doctorは

 

 

 「適性レベルの有無による性能レベルの高低を調べるためには必要な事だったんじゃよ。 それにAssassin 、お主も知っておったろう。あの娘にはもうそれしか利用価値が無いことを。 あの娘、確かにISの適性レベルBと平均より高いが所詮それだけ。 適性が高くても成績その物が低ければ何の意味も無い。」

 

 Doctorの言葉に紅い髪の美女・・・Assassinは頷く

 

 

 「私もデータは見たわ。射撃に格闘、身体能力、学力、整備技術、全てが平均以下。 確かにそれしか使い道はなかったわね。 それにAssassin 、DoctorのGAME ーSYSTEMも被験体の本来の能力があってこそ本領を発揮するのよ。」

 

 茶髪の美女・・・Professorの話を静かに聞いていたAssassin が紫色の髪の美女に向かって

 

 

 「ところでPriestess 、IS学園にいる大罪人はどうするつもり? 3月の時点で学園のセキュリティレベルが一気に上がり情報入手が困難になったわ。 どうするの?」

 

 「それなら問題ありません、すでに種は蒔いてあります。 あとは芽を出すのを待つだけです。 今はXーDay の準備を急ぎましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話  GW

10月も週一の更新でいきます。


 侵入者による襲撃で、クラス対抗戦は結局中止となり

デザートフリーパスの権利が消失したことで多くの生徒達に悲劇が襲ったが、それを打ち消す事件がすぐに起きた。

 

 

 GWを翌日に控えたその日、日本を震撼させるニュースが報じられた。

 ニュースが報じられる2日前に検察庁や警察庁、全てのマスコミ宛に倉持技研の不正の情報が匿名で送られて来たのだ。

 

 その情報をもとに倉持技研に捜査のちメスが入った。 容疑は研究費の不正流用に不正受給。 多額の使途不明金に部品メーカーとの贈収賄、政治家への不正献金など様々な罪状があきらかになった。

 

 日本が世界に誇る第2世代機[打鉄]を世に送り出した研究機関の余りにも大きな不祥事に、あらゆるメディアが連日連夜、様々な角度から伝えている。

 

 その中には日本代表候補生の専用機の開発を立候補して受けておきながら、男性適性者の専用機開発の話が上がると政治家や官僚に手をまわして、倉持で開発するように仕向け、そして先に請け負っていた代表候補生の専用機の開発を無期限凍結しほったらかした。

 

 というのもあった。

 

 

 GW後半、2泊3日の温泉旅行から戻ってきたシュート達は生徒会室でテレビを見ながら昼食をとっていた。

 テレビでは相も変わらず倉持技研の事を報じていた。

 

 

 「まだまだ話題がつきないわね。 タバネ姉さんも徹底的にやったわね。どうなるのかなこれ?」

 

 マドカがサンドイッチを食べながらそう言った。

ちょうどその時に理事長に呼ばれていた刀奈と虚が戻ってきた。

 

 

 「今、理事長から話があったんだけど倉持は閉鎖されて研究機関としては二度と再開出来ないように解体されることになったみたい。 職員と研究者は全員解雇が決まったわ。」

 

 刀奈がそう報告してきた。

 

 

 「処分が決まるの早くないか? 」

 

 「どうやら長引かせて日本のIS研究最先端のイメージを悪くしない為にも早期決着をするための方針みたい。 」

 

 余りの処分の早さに驚くシュートに刀奈が説明する。

 

 

 「倉持技研が所有していたISコアは4つ、それらは日本政府が1度回収してから再分配するそうです。 そして再分配先はすでに決まっており、更識重工に1つ、最上重工に1つ、そしてイスルギ重工に2つとなっています。」

 

 

 「ちょ、ちょっと待って虚さん。 うちや最上が再分配でコアの数が増えるのはわかるけど、なんで実績も開発もやっていないイスルギにコアがいきなり2つも分配されるの?」

 

 虚の話にすぐさま疑問をもった簪が質問してくる。

 

 

 「その事なんだけどね簪ちゃん、実はイスルギ重工はIS分野に1年前から参入しているの。[打鉄]の生産という形で。」

 

 「私も先程初めて聞いたのですが、打鉄に関する全ての権利が1年前からイスルギ重工に移っていたそうです。 実は水面下で売買されて、それが表に出ることなく、先月まで倉持が生産していたということになっていたみたいです。 イスルギ重工の言い分では倉持からそうしてくれと言われていたとのことです。」

 

 虚が説明していく。 

 

 

 「イスルギがIS分野に進出していたのはわかったけど、それがコアが2つ分配される理由にはならないよね・・・・・・ん? まさか?!」

 

 シュートの疑問に刀奈が

 

 

 「流石シュート、気づいたわね。 そう倉持が所有していたコアは4つ、そしてその内の1つは織斑君の専用機[白式]に使われているわ。 今回の事件をうけて、織斑の白式はコアを抜かれて解体されるの。 そして新たに専用機が与えられることになったの。 そしてその専用機を作るのがイスルギ重工という訳。」

 

 「なんというか、荒れ狂う織斑先生の顔が目に浮かぶね。」

 

 刀奈の説明を聞いたシャルロットがそう言うと、刀奈と虚が目を合わせて何とも言えない表情になった。

 

 

 「刀奈、虚さん、もしかして・・・・・」

 

 二人の表情から何となく察したシュート

 

 

 「私達と入れ違いで理事長室に入っていかれたのですが、かなり殺気だっていました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 「何故、何故です理事長! 何故、一夏、いや織斑の専用機[白式]が回収されて解体されるのですか? 」

 

 「落ち着いてください織斑先生。 何も織斑君から専用機を取り上げるのではなく、1度回収してから新たに作った専用機を与えるのです。」

 

 そこで十蔵はいったん言葉をきりテレビをつける。そこには倉持の事を取り上げるワイドショーが映っていた。

 

 

  「織斑先生も知っての通り倉持の不祥事は大変なものです。 そこで政府は倉持を閉鎖することになりました。 しかも研究機関として二度と再開出来ないように解体することに。 そこで問題になるのが倉持の所有していたコアです。 日本政府はコアを回収して再分配することにしました。 その中にはもちろん織斑君の白式に使われているコアも含まれています。」

 

 「ならば白式の所属を変えればすむ話では?」

 

 「織斑先生、どこの企業も好き好んで他所が開発した機体を自分のところの機体として公表するでしょうか? ましてや男性適性者の機体ともなれば尚更です。 自分の所で一から開発した物をと思うでしょう。」

 

 「くっ、ですが・・・・」

 

 「これはすでに日本政府の決定事項で変更することは出来ません。 GW明けの初日に新たに専用機を作るイスルギ重工の社長と開発担当者が学園に来ますので、朝のうちに織斑君から専用機を預かってください。」

 

 「・・・・・・わかりました。」

 

 「織斑先生、本来ならばコアの再分配は今月末の予定でしたが、織斑君に長期間専用機が無いのは流石に不味いという日本政府の判断から、内々にイスルギに渡して専用機の開発を急がせるのです。 それだけはわかってくださいね。 あと、織斑君には専用機が戻るまでは打鉄を優先的に貸し出すことになりましたので整備科の方に申請してあります。 ただ、訓練機になりますのでカスタマイズは認めますが学外への持ち出しは厳禁ですので、そこだけは注意しておいてくださいね。」

 

 「わかりました。 それでは失礼しました。」

 

 そう言って千冬は悔しさを滲ませながら、理事長室を後にした。

 

   余談だがその日の夜、千冬は真耶を伴い飲みにでて酩酊し、路上で寝てしまい警察に保護される失態を演じ理事長から叱責と減給処分を受けることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そういえば、その織斑は今日はどうしてるんだ?」

 

 昼食も終わり、午後の作業にかかろうとしたときにシュートが思い出したかのように聞いた。

 

 

 「織斑君なら今日はクラスメイトの女の子と外出してます。 ただ、警護は断ってましたので、当初の予定通りに学園が秘かに出してます。 ちなみに聞いた話ですが、昨日までは家に戻っていたそうです。」

 

 虚が報告書してきた。

 

 

 「デート? 相手は? 確か篠ノ之はまだ謹慎中のはず?」

 

 マドカが聞いてくる。 シャルロットや刀奈も興味津々といった様子である。

 

 

 「あ~、それ多分ナーギーだ~ 昨日嬉しそうにデート、デートって 言ってたもん。」

 

 と本音が言った。 思わぬところからの情報に全員驚く。

 

 

 「ナーギー? もしかして鏡さんのこと。」

 

 シャルロットが本音の言った人物の名字を言ってようやく顔が浮かぶ。 

 

 

 「あれ? でもナーギーだけじゃなく、きよきよにかぐかぐもデートって言ってた~ あれ?」

 

 本音の話に唖然となる。 

 

 

 「・・・・・・本日、外出届けを出しているのは鏡ナギさんですね・・・・・明日が相川清香さん、明後日が四十院神楽さんとなっています。」

 

 「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」

 

 全員が言葉を失う。 この瞬間に織斑一夏に対する、この部屋にいる全員の認識は

 

 

 ((((((( プレイボーイ!!)))))))

 

 

 になった。 そして何故か謹慎中の箒に多少同情してしまった。

 

 

 

 

 

 「そ、そういえば、GW明けにドイツから転入生が来るみたいよ。」

 

 何とも言えない空気を変えようと刀奈が、転入生の話題を出してきた。

 

 

 「ドイツからの転入生? また織斑のデータ欲しさに来るのかな?」

 

 マドカがそう言うと刀奈が

 

 

 「今回は違うわよ、マドカちゃん。」

 

 そう言ってデータを表示する。

 

 

 [ ドイツ代表候補生序列第1位  ラウラ・ボーデヴィッヒ 15歳  IS適性[A ]  ドイツ軍IS配備特殊部隊:シュヴァルツェア・ハーゼ所属 部隊内役職:隊長  階級:少佐   専用機:ドイツ製第3世代型IS[シュヴァルツェア・レーゲン] ]

 

 

 「それで、彼女がこの時期に転入してくる理由は?」

 

 「本来なら彼女は4月に留学生として入学してくる予定でしたが、3月にドイツで起きた大規模洪水が起きたのは覚えておられますか?」

 

 簪の質問に虚がそう聞いてきた。

 

 

 「うん覚えているよ。 確か大雨で幾つもの川が氾濫し、土石流まで起きて大きな被害をもたらしたんだよね。」

 

 

 虚の質問にシャルロットが答える。

 

 

 「彼女は災害後にすぐさま部隊を率いて災害救助や被災地復興に参加しました。 その内、IS学園への入学時期がきたのですが、被災地をそのままにしておけないと入学時期をずらすことにしたようです。 そしてようやくメドがついたことで転入という形でIS学園に来ることになったようです。」

 

 

 虚が説明すると、刀奈が

 

 「あと、要注意事項として彼女は織斑先生がドイツで教官をしていた時の教え子で崇拝しているみたいなの。」

 

 刀奈の言葉は全員の気持ちを沈ませた。

 

 

 「また問題が起きなければいいけど・・・・」

 

 シュートの言葉は全員の気持ちの代弁であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談になるが、警備担当者からの報告書で一夏はGW後半の3日間、毎日違う女子生徒とデートしては、その後の行き先は決まってネオンの輝く建物に入っていったという。

 

 




さて前回、敵の幹部が出てきましたがどのキャラかわかりましたかね?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話  銀の転校生

 GW明けの初日、教室は連休中を楽しく過ごした生徒達が土産話に花を咲かせていた。

 だが、一人だけ不機嫌そうな表情をする少女がいた。

 

 篠ノ之箒だ。 彼女は懲罰室での謹慎で外部との接触が遮断されていた。 しかも、懲罰室での謹慎期間中に一夏との同居が解消されており、益々拍車をかけて不機嫌になっていた。

 

 

 (一夏のやつ、何故に一度も面会に来なかったのだ! しかもいつの間にか同居が解消されているし! 私に一言相談があって然るべきではないのか!)

 

 

 箒の視線の先にはクラスメイトと楽しそうに談笑する一夏の姿があった。

 色々と問題を起こしている一夏だが、それでも【千冬の弟】【世界初は男性適性者】の肩書きの効果がまだあり、イケメンということもあり一年生のミーハーの間では根強い人気があった。

 しかし真にISを学びに来ている一年生や二年生・三年生の間では、既に興味の対象外とされていた。

 

 

 その一夏だが、気になることもあった。 箒との同居解消は寂しくもあったが、それはそれで他の女の子を気兼ねなくデートに誘えるようになったので良いことでもあった。  

 

 

 (・・・・・鈴のやつ、あれ以来なんかよそよそしいというか他人行儀というか・・・)

 

 鈴の一夏に対する態度がクラス対抗戦の後から変わったのだ。

 謹慎明けから鈴は一夏の前に来ることはなかった。 食堂や廊下であっても挨拶は交わすものの、会話はほとんど無い。 以前なら仔犬のように付きまとっていたのに、今ではその影も無い。

 一夏は知るよしもなかった。 鈴にとって織斑一夏という人間に対する認識が既に変わっていることを。

 鈴は一夏への初恋の想いはすでに無くなっており、一夏に対しては小・中学校の元クラスメイト、という認識まで下がっていた。

 

  そうとも露知らず一夏は、クラスメイトと談笑していた。 チャイムが鳴り、千冬と真耶が入ってきた。

 

 

 「おはようございます。 みなさんGWは楽しみましたか? 気持ちを切り替えて授業に励んでくださいね。」

 

 「さて、まず連絡事項がある。 織斑、白式を私に提出しろ。」

 

 千冬の言葉に疑問を抱きながらも言われた通りに腕から待機状態の白式を千冬に渡す。

 

 

 「ちふ、織斑先生。 どうして白式を?」

 

 一夏の質問に不機嫌そうな表情になり

 

 

 「織斑、お前の専用機[白式]は回収されコアを外された後に解体。コアは新しく作られる専用機に付けられてお前に与えられる。」

 

 千冬の口から告げられた白式の解体、それは一夏に衝撃をあたえた。

 

 

 「な、なんで白式が!! どういうことだよ千冬姉!   イダッ!!」

 

 「織斑先生だ。 お前はニュースを見ていないのか? お前の専用機を作っていた倉持技研の事件の影響だ。 それによって倉持技研は閉鎖されることになった。 それで倉持技研の所有していたコアは回収されて再分配されることになった。 それにはお前の白式のコアも含まれている。 これは決定事項で変更は不可能だ。」

 

 千冬の言葉に不満げな表情をしたまま席に戻る。

すると別の生徒が

 

 

 「先生、打鉄はどうなるんですか?」

 

 「打鉄は既に別の企業が機体の製造・修理、部品の製造を引き継いでいるから問題無い。」

 

 千冬の言葉にクラスに安心感が広がった。 

 

 

 「それから今日から本格的にISの実施訓練に入る。怪我等しないように細心の注意を払うように。 それからISスーツは届くまでは学校指定の物を使うが、無い者は学校指定の水着でもかまわない。それでも忘れた者は下着姿で受けてもらうから覚悟しておくように。」

 

 それに続いて真耶が

 

 

 「さてみなさん、今日は重大なお知らせがあります。 なんと、このクラスに転入生が来ます。」

 

 「「「「「えぇぇぇぇーーーー!!」」」」」

 

 教室に驚きの声が広がる。

 

 

 「ボーデヴィッヒ入れ。」

 

 千冬の呼びかけに応じて扉を開いて一人の少女が入ってきた。 教壇の横に立つと

 

 

 「 ドイツ代表候補生 ラウラ・ボーデヴィッヒです。 ドイツ軍IS配備特殊部隊に所属しています。 幼少の頃から軍に入っていたために世辞に疎いので、色々と教えてもらえると助かる。」

 

 そう言ってお辞儀のする。

 

 

 「ボーデヴィッヒ、お前の席は左後ろになる。」

 

 千冬の言葉に従い席に向かうラウラ。 途中、一夏の席のところで立ち止まり

 

 

 「お前が織斑一夏か?」

 

 「そうだけど、なんだ?」

 

 「・・・・・・・・・ふん、やはり報告通りの軟弱者だな。」

 

 ラウラは一夏を観察するように眺めて、切り捨てるように呟いて席に向かう。

 切り捨てられた一夏は何でそんな事を言われたのかわからないという表情でラウラを見送った。 

 

 

 「えーと、それから連絡事項がもうひとつあります。 今月末に学年別トーナメントが開催されます。 詳しくは後日、掲示板等に発表されると思いますので確認してくださいね。」

 

 そこまででSHR は終わり、実施訓練ということで第2グランドに移動することに、 一夏は荷物を持ってアリーナの更衣室に向かう為に廊下に出る。

 シュートは荷物を持つと窓に足をかけて飛び降りる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒達が集まったグランドの上空では、今まさにグリシーヌを纏った真耶とセシリア&鈴コンビの模擬戦が始まろうとしていた。

 

 授業開始直後に、いきなり千冬がセシリアと鈴を指名して模擬戦をすると宣言、さらに相手は真耶との変則マッチだという。 そしてシュートは千冬からグリシーヌの説明をするように求められた。

 

 

 「量産型第3世代IS[グリシーヌ]ですが、最大の特徴はラファールを上回る拡張領域と安定した操作性です。  また既に拡張領域内に高機動ユニット【ラプター】と砲戦ユニット【パワード】がインストールされており瞬時に換装することが出来ます。 また第3世代兵装【スラッシュリッパー】はAI 補助により思念誘導の負担が軽減されており、非常に扱いやすくなっています。  また全身装甲を採用することで絶対防御に依存せずに、あらゆる状況下でも装着者を保護する形式にしました。 そして」

 

 

 「そこまでだ、アルカンシェル兄。 どうやら終わったようだ。」

 

 

 千冬からの制止された時、上空の模擬戦は真耶の勝利で幕を閉じた。

 最初から最後まで試合のペースを真耶が握り続けていた。 接近戦を挑む鈴を近づけないように弾幕を張り続けて、さらに援護射撃を行おうとするセシリアにはフェイントを混ぜながら、常に動き続けて的を絞らせないようにし、さらに二人の移動先を誘導しぶつかるように仕向けたりしていた。 

 最後は二人が纏まったところにスプリットミサイルを撃ち込み終わらせた。

 

 

 「このように、IS学園の教師は代表候補生二人を相手にしても勝てる実力を有している。 今後は敬意を持って接するように。」

 

 

 「いえいえ、私なんて所詮は代表候補生の序列下位止まりだったので、そこまで敬意を払ってもらえるほどではありませんよ。」

 

 

 千冬の言葉に謙遜する真耶。 一方、セシリアと鈴は面白くないという感じの表情をしていた。 

 わかりきった結末の試合・・・・見世物のスケープゴートにされたのだから。 鈴はともかくセシリアは共に訓練しているシュート達と組んでいれば違った結末であったろう。 それなのに、まともに連携もとれないペアをわざわざ指名してやらせたのだから。

 

 

 「それでは、今からグループに別れて起動訓練を開始する。 専用機持ちがリーダーとなって指導にあたってくれ、ただし織斑は専用機が無いので今回は指導を受ける側に回ってもらう。 それから先程、伝え忘れていたが専用機が再度渡される間、学園側から訓練機の打鉄が優先的に貸し出される事になっているように覚えておくように。 それでは出席番号順に別れて訓練開始。」

 

 

 こうして始まった起動訓練は、滞りなく進んでいたが

 

 

 「馬鹿者! 何をしている!!」

 

 

 ラウラが指導しているグループからラウラの怒号がとんだ。 突然の怒号に全員の視線がそちらにむく。

 

 

 「え? 何をしているったって、ただ降りただけじゃないか。」

 

 

 ラウラに怒鳴られている一夏。 何故、自分が怒られているのか理解できていない。

 

 

 「最初に説明したはずだ、降りる時は次に乗る人の事を考えて膝をついてから降りろと。 それに前までやっていた他の生徒達の訓練の様子を見ていなかったのか? みんな降りる前にちゃんと膝をつき、次の人が搭乗しやすい姿勢にしてから降りていたぞ。」

 

 

  「話は聞いてなかったし、訓練も見てなかった。 アデッ?! 」

 

 

ラウラの問いかけに一夏が答えた瞬間、千冬の一撃が一夏の頭に炸裂した。

 

 

 「馬鹿者、指導役のラウラの説明を聞いていないとは何事だ! お前は授業を受ける気が本当にあるのか? 罰として使用した、班のISの片付けを一人でやれ。」

 

 

 「・・・・・・・・わかりました。」

 

 

 千冬の有無を言わさぬ言葉に一夏は不承不承ながらも返事をした。 こうして授業は進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み シュートは相変わらず生徒会室で昼食をとっていた。 しかし、GW前からたまにではあるが食堂にも顔を出すようになっていた。 本当なら今日は食堂に行く予定だったのだが、急遽目を通さないといけない事案がでたので生徒会室での昼食となった。

 ちなみにその中には織斑一夏のGW中の不純異性交遊の事案もあった。 本来なら退学ものなのだが、IS委員会からの通達によりおとがめなしとなった。また世にも珍しい男性装着者の秘密を探るべく多くの遺伝子を残す為に一夫多妻を導入するべき、という意見も委員会の中で出始めている。

 IS委員会のメンバーの約6割は女性で更にその半数近くが女尊男卑の思想を持っているために実現には時間がかかりそうだが、それでも少しずつだが賛同は得られはじめている。

 

 室内には同じく書類と格闘している刀奈と虚がいる。

 

 

    コン、コン、コン、コン

 

 

  扉がノックされる。 虚が扉にむかい少しだけ開き、外を伺う。

 

 

 「はい、どなたでしょうか?」 

 

 

 「1年1組 ラウラ・ボーデヴィッヒと言います。 此方にシュート・アルカンシェルがいると伺い訪れました。 よろしいでしょうか?」

 

 

 虚が此方に顔をむけてきたので、無言で頷く。

 

 

 「どうぞ、こちらへ。」

 

 

 そう言って入室を促す。

 

 

 「失礼します。」

 

 

 ラウラが部屋に入ってくる。

 

 

 「どうしたんですかボーデヴィッヒさん。 私に何か用事があるのですか?」

 

 

  「フランスのISメーカー[アルカンシェル社]の社長代理を勤めるシュート・アルカンシェル殿に用があってきた。」

 

 

 そう言ってラウラは刀奈と虚に視線をやる。

 

 

 「彼女達ならご心配無く、彼女達もまたアルカンシェル社に関わりのある人達です。 この場の会話は一切外部に漏らすことはありません。 それで、御用件のほどは?」

 

 

 

「シュート・アルカンシェル殿に我が国の首相から内密に書状を預かってきた。 受け取ってほしい。」

 

  

  そう言ってラウラは厳重に封のされた封筒を差し出してきた。

 蜜蝋で封がされており、封筒もまた普通の素材とは違う厚手の物で出来ている。

 

 

 「爆発物や毒物の心配はいらない。 どうしても心配ならわたしが開けよう。」

 

 

 ラウラがそう言うのでペーパーナイフを渡し開封を頼む。 ラウラはペーパーナイフを受けとると封筒の端を切り、中から折り畳まれた書状を取りだして此方に渡す。

 シュートはそれを開いて読み始める。

 

 

 「紅茶です、どうぞ。」

 

 

 虚がラウラに紅茶を出す。 その紅茶を飲んでラウラが目を見開く。

 

 

 「美味しい! こんな美味しい紅茶を飲んだのは初めてだ。」

 

 

 虚の紅茶に感動するラウラ。 書状に目を通しながらシュートは

 

 

 「ボーデヴィッヒさんにお伺いしますが、この書状の内容は御存知ですか?」

 

 「いや知らない。」

 

 「ですが、書状の内容について見当はつけておられますね?」

 

 「何となくな。」

 

 「・・・・・・・・・虚さん、すいませんがテレビをつけてもらえますか? チャンネルはBS 501でお願いします。」

 

 BS 501は主にヨーロッパのニュースを扱う衛星放送だ。 虚がテレビをつけると、今まさにドイツの首相 リリー・ユンカースが記者会見をおこなっていた。

 

  リリー・ユンカース  ドイツの前首相マイヤー・V・ブランシュタインの愛弟子で20代半ばという若さながらも指導力とカリスマ性を発揮し国内をまとめあげていた。 また男女平等を掲げて女性権利団体からの不条理な要求を全て却下している。 

 

 

 『・・・・・・以上の理由から、我が国は欧州連合によるイグニッションプランから離脱し、フランスが提唱する

[フロンティア・プロジェクト]に参入することにしました。 これにより我が国はISの本来の姿である宇宙進出の為のパワードスーツの研究をはじめ、医療や土木工事現場への技術のフィードバックを推進していきます。』

 

 リリー首相よる記者会見が続く。   

 

 

 「ドイツはここ最近、IS委員会からの無理難題に悩まされていたんだ。 国内外の女性権利団体等からも無茶な要求が上がってくる。 イグニッションプランのデータもほとんどがIS委員会に吸収されて見返りが少ない。 そう悩んでいたところにフランスがフロンティア・プロジェクトを発表したんで、それならばと乗り換えを決めたそうだ。」

 

 そこでシュートは書状をラウラに見せて

 

 

 「そして、その一環としてアルカンシェル社から[グリシーヌ]の購入とそれをベースにした代表候補生の専用機の開発を依頼してきた。」

 

 「その代表候補生というのが私だな。 正直な話、私にとってこの話はありがたかった。 国の技術者達を酷評するつもりは無いのだが、レーゲンに搭載されているAIC は効果範囲の割には集中力の消耗が激しすぎる。」

 

 自分の専用機・・・しかも国から与えられた機体にも関わらず厳しい判断を下すラウラ。

 

 

  「わかりました、この話はお受けします。 後日、正式な書類をドイツ本国に送らせていただきます。 それからボーデヴィッヒ「ラウラだ。 ラウラと呼んでくれ。」 わかりました、ラウラさん。 貴女の専用機はご希望通りにグリシーヌをベースに作らせていただきます。 それまでは今使っている機体をお使いください。」

 

 「ありがとう感謝するアルカンシェル「シュートとお呼びください。」ありがとうシュート殿。 ・・・・ところで話は変わるが、シュート殿は織斑一夏についてどう思っている?」

 

  「どうして織斑一夏の事を?」

 

 「実は織斑一夏の姉の織斑千冬殿は、私の恩師になる。 織斑教官はドイツ軍で2年に渡り私をはじめ多くの人を指導してくださった。 その教官が常々、弟の織斑一夏の事を語っておられたので興味をもってな。」

 

 そこまで語ってラウラに落胆の表情が出た。

 

 

 「ドイツを襲った洪水の対応で学園への入学が遅れたが、それでも織斑一夏の事が知りたく学園にいるドイツの留学生達に報告を求めたのだが・・・・・余りの軟弱ぶりに呆れてしまったのだ。 専用機を貰ったのに自己鍛練等の自らを鍛える努力を一切せず怠惰な生活を送り、あまつさえ自己判断も碌に出来ず他者の足を引っ張る様は愚者と言わざるを得ん。」

 

 一夏を厳しく断じるラウラ。 

 そんなラウラに入学してからの出来事を語る。

 

 

 「・・・・・まさか、そこまでの愚か者だったとは・・・・軍人一筋の私が言うのも何だが、一般常識すらないのか?」

 

 シュートの後で刀奈と虚が顔を見合わせて苦笑する。

 

 

 「よし決めた。織斑教官には大変申し訳ないが、織斑一夏とはなるべく接触しないようにしよう。 日本の諺に触らぬ神に祟りなしともある。」

 

 ラウラはそう決意を話すのだが、3人の脳裏にはあることが浮かんだ。

 

 

 (((織斑先生がラウラに一夏の指導を依頼してくるんじゃないかな?)))

 

 

 




 グリシーヌ   量産型第3世代IS
 外見:ゲシュペンストMKーⅡ

武装
ショットガン×2: 翠華月に装備されている物と同じ

コールドメタルソード×2: シシオウブレードと同じ素材で作られた両刃剣。

スプリットミサイル×4: 背部バックパックに内蔵されているミサイル。

リニアガン×2: 翠華月に装備されている物と同じ

プラズマステーク×1: 左腕に装備されている格闘用放電端子。 相手に押し付けた瞬間に放電しダメージを与える。

スラッシュリッパー×2: 思念誘導により敵を切り裂く投擲誘導兵器。 AIの補助により装着者の負担は少ない。


パッケージ
高機動パッケージ:ラプター (外見 ビルトラプター FM モード)
バックパックに大型ウイングブースターが装着される。
また、AI制御によりこれ単体で単独支援機として使う事が出来る。

追加武装
ホーミングミサイル×30:自動追尾システムが内蔵されたミサイル

ビームランチャー×2:大型口径のビーム兵器。ウイングに装着されているが外して携帯することが可能




砲戦パッケージ:パワード  
 バックパックに2門の大型キャノンが装着される。

追加武装
ツインビームキャノン×1:大型ビームキャノン。 収束モードと散弾モードがある。






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話  女達の思惑



  お気に入りが500件を越えました。
 本当にありがとうございます。

 また、感想を書いてくださる方にこの場をお借りして御礼申し上げます。


 

 

 

 放課後、生徒会の面々にセシリア・簪を加えたメンバーがアリーナでの訓練を終えて食堂に向かっていた。

 生徒会はその業務の多忙さ故に特例として週に3日、火曜・木曜・土曜日にアリーナの特別貸し切りが許されているのだ。 無論、仕事が忙しく使えない場合はキャンセル待ちの組に貸し出される事になっているが。

 

 ただ今日は、そのメンバーに鈴とラウラが加わっていた。

 

 

 「悪いわね、急に参加を申し込んで。」

 

 

 そう言って鈴が挨拶してきた。 昼休みにセシリア達と一緒に食事した際に訓練の話になり、鈴が食いついてきて一緒に訓練したいと言ってきたそうだ。

 

 

 「別にかまいませんよ。 此方も訓練の幅が広がり助かりました。 ラウラさんはどうでしたか?」

 

 

 「こんなに密度の濃い訓練をしているとは恐れ入った。 私もこれから引き続き参加させて欲しい。」

 

 

 興奮しながら答えるラウラ。 ラウラが参加したのは昼休みにアリーナの使用法を聞いてきたのでシュートが訓練への参加を呼び掛けたのだ。

 

 

 「えぇ、かまいませんよ。」

 

 シュート達が行っている訓練は、軽いランニングと準備体操をしてから、ドローン相手の格闘&射撃訓練、複雑な動きをするドローンの後ろを同じ軌道で飛行する軌道訓練、ドローンからの攻撃をひたすら避ける回避訓練、1対1or1対多の模擬戦等、多種多様にわたる。

 また、参加メンバーも生徒会役員以外にもファントムタスクの面々がその時々で加わる。

 それ故にラウラが感心するのだ。

 

 食堂までの道すがら、訓練での反省点等をみんなで語りあった。

 

 

 

 

 

 一方、その頃 千冬は応接室にきていた。 そこには一人の女性が千冬を待っていた。

 

 

 「お待たせして申し訳ない。」

 

 

 千冬がそう言うと、真っ赤なノースリーブのチャイナドレスを纏った女性が

 

 

 「高名なブリュンヒルデにお逢いできるのです、待つことなぞ造作もございませんわ。」

 

 

 そう言って立ち上がり名刺を差し出して

 

 

 「御初に御目にかかります。この度、織斑一夏君の専用機を製作することになりました[イスルギ重工]の社長の石動光子です。 どうぞよろしくお願いいたします。」

 

 

 「織斑千冬だ。」

 

 

 千冬は名刺を受けとると座るように促す。

 

 

 「さて、ビジネスのお話ですね。 早速ですが白式をお渡し願いますか?」

 

 

 光子の言葉に千冬はスーツのポケットから待機状態の白式を取り出した。

 

 

 「渡す前に聞きたい事がある。イスルギ重工が作る一夏の新しい専用機はどのような形になる予定なんだ?」

 

 

 「政府からは、白式のような剣1本のピーキーな機体・・・欠陥機ではなく量産を見据えた汎用性の高い機体をという依頼が来ております。」

 

 

 千冬の心情を知ってか知らずか、白式を欠陥機とバッサリ切り捨てる光子。 横に置いていたバッグからタブレットを取り出して、データを呼び出して

 

 

 「イスルギが独自に開発していた実験型第2世代IS[リオン]をベースにして打鉄で得たデータをフィードバックして作り上げる第3世代型IS[ガーリオン]。 これを更に織斑一夏君用にカスタマイズします。」

 

 

 そう言ってタブレットを操作しリオンとガーリオンの姿とデータを表示していく。

 

 

 「標準装備として、アサルトブレードにバーストレールガンにマシンガンがあります。第3世代兵装として[ソニックブレイカー]があります。」

 

 

 「・・・・・・雪片を装備させるのは無理なのか?」

 

 

 データを見ながら千冬が光子に尋ねる。

 

 

 「白式に装備されている雪片弐型ですか? 流石に現状では無理ですね。 それを装備すると他の武装が何も装備出来なくなって白式の二の舞になります。」

 

 

 そこまで光子は言うとタブレットの画面をスライドし

 

 

 「しかし、ある方法を使えば雪片を装備させても問題無いと、開発主任が申しておりました。」

 

 

 スライドされて現れた画面に釘付けになる千冬。

 

 

 「・・・・・・どこまで知っている石動光子! 」

 

 

 光子を睨む千冬。 睨まれた光子は涼しい顔をしている。

 

 

 「そんなににらまないでくださいブリュンヒルデ。 一切他言いたしませんし。 それに必要な物は既に揃っております。」

 

 

 「何が目的だ!」

 

 

 「話が速くて助かります。目的は二つ、1つ目は貴女が隠し持っている設計図。二つ目は篠ノ之箒をわが社の企業代表パイロットにしたいのです。」

 

 

 光子の要求に驚く千冬。 設計図・・・・それはかつて束が失踪した後に、千冬は今は更地となっている束の実家に行き、倉庫の地下に作られていた束の秘密ラボに侵入しそこから密かに幾つかの物を持ち出していた。

 その中の1つがISの設計図・・・第3世代ISの物だ。その当時第2世代の開発が急務だったのに、束は既に第3世代の設計図を作り上げていた。

 

 

 「設計図はともかくとして、箒を企業代表パイロットにしたい? こう言っては何だが、あいつはそれほど優れたパイロットではないぞ。」

 

 

 「ネームバリューですわ。 篠ノ之束博士の妹の箒さんが、わが社の代表パイロットになる。 それだけでもかなりの話題になりますわ。」

 

 

 「機体はどうする? イスルギには白式の分を含めて二つしかコアは無いのだろう、表向きは。」

 

 

 「ご心配には及びません。日本政府との交渉の結果、民間の研究室が保有しているコアを回収してわが社に回してくださるそうです。」

 

 

 「・・・・・・わかった、その条件を飲もう。 設計図は月曜日にそちらに直接持っていく。 それから専用機は何時出来上がる?」

 

 

 「来月末には出来ます。 学校の臨海合宿には間に合いますわ。 それでは今日はこの辺りで失礼させていただきますわ。」

 

 

 そう言って光子は千冬に一礼して部屋を後にする。

 残された千冬は出ていった扉を忌々しげに睨み

 

 

 「あの女キツネめ!! 」

 

 

 だが、千冬にはどうすることもできない。 首根っこ押されられているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂では、シュート達が夕食を取っていた。 

シュートはカツ丼と鴨南蕎麦のセット、マドカはカルボナーラ、シャルロットと本音はハンバーグ定食、刀奈とセシリアはオムライス、鈴は麻婆豆腐定食、簪は天婦羅うどんと太巻き、虚はチキン南蛮定食、ラウラはトルコライスを食べている。

 そんな中、シャルロットがトルコライスを一心不乱に食べるラウラの世話を甲斐甲斐しく焼いている。

 

 

 「ほらラウラさん、口の回りにケチャップがついてるよ。」

 

 

  「すまない、しかしこのトルコライスというのは凄いな! トンカツにスパゲッティにカレーピラフにソーセージにオムレツにフライドポテトまで、こんな夢のような料理があるとは、日本とは凄いな!」

 

 

 ラウラが食べているトルコライス・・・ようは大人のお子様ランチみたいな物で、1つの皿にピラフ、トンカツ、ナポリタンが乗った料理でトルコとなっているがトルコ料理ではなく長崎の郷土料理だ。

 ちなみにIS学園のトルコライスは、オムレツの乗ったカレーピラフにナポリタンにデミグラスソースのかかったトンカツにソーセージにフライドポテトとかなりの豪華版だ。

 それを無我夢中で食べるラウラの姿はまるで年端もいかない子供のようで微笑ましかった。

 

 和やかな雰囲気の中、シュート達は夕食を食べていた。

 

 

 

 

 

 

 一方で、シュート達の席からかなり離れたテーブルでは殺伐・・・・いや一見、遠目には和やかな雰囲気のようだが、近づけばわかる程の殺気と怒気が渦巻いていた。

 

 一夏と四人の少女が夕食を食べているテーブルだ。

 

 一夏の右隣に鏡ナギ、左隣に相川清香と四十院神楽、その反対側に箒が座って食事を取っている。

 

 ちなみにその周囲のテーブルには誰も座っていない。

いや、座れないのだ。 

 

ちなみに一夏がステーキ丼、ナギは焼きうどん、清香は唐揚げ定食、神楽は天婦羅定食、箒が焼き魚定食を食べている。

 ナギ達3人が一夏の世話を甲斐甲斐しくやきながら話をしている。 その反対側で箒が3人と一夏を睨みながら食事し、たまに会話する。

 

 一夏を巡って協力関係を結んだナギ達3人対箒の構図が出来上がっていた。

 

 

 

 

 

   これが後に悲劇を生み出す事になる。

 

 

 

 

 

 




 前々回で一夏の毒牙に掛かった三人娘に関して色々な感想をいただきました。

 とりあえず、一夏を巡る戦いは箒VS三人娘の構図となりました。

箒→三人娘  一夏を惑わす女狐達
三人娘→箒   幼馴染みを傘にきる毒婦。でも単独だと強敵なので協定を結び三人が協力して一夏をものにする。
三人娘→内情 一人を除き、ある理由から一夏と関係を持つ。 思惑が色々あれど対箒で協力。 これは追々あかしていきます。
というふうになっております。 三人娘の協定は一夏争奪戦から箒が離脱するまでは一夏を共有財産とし、あらゆる面で協力し共闘する、となっております。

 まあ、これがいつまで持つかは今後の展開をお待ち下さい。
 また三人娘達はけっしてアンチ対称ではないので、それぞれ幸せな未来(あくまで本人にとって)が待ってます。
 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話  代価

 

 ラウラが転入してきて一週間がたった。 肝心のラウラはクラスメイトの殆どから受け入れられていた。

 授業中の真剣な態度と普段の愛玩動物のような仕草のギャップが女子生徒達の心をわしづかみにしたのだ。

 それは既にクラスだけに留まらず学年、いや学校中に広まっていた。

 食堂にラウラが行けば、同じテーブルに座ろうと熾烈な戦いが繰り広げられる。

 

 そして今日も熾烈な戦いが行われラウラの周囲には多くの生徒が集まってラウラと食事を共にしている。 

 ちなみに今日のラウラはサンドイッチを食べており栗鼠のように食べる姿に涙する者、顔を赤らめる者、嬉しそうに微笑む者、写真を撮る者、様々だ。

 

 

 

 

 

 その一方、シュート達は頭を悩ませていた。

というのも学園側から6月に行われる学年別トーナメントのレギュレーションが通達されてきたからだ。

 レギュレーションの殆どが例年と何ら代わり無い物だったが、たった1項目がシュート達を悩ませていた。

 

 追加された項目は、シングルトーナメントではなくタッグトーナメントに変更すると言うものだった。

 しかも専用機持ち、代表候補生同士のタッグを禁止しない内容になっていた。

 

 

 「いくらなんでも、これじゃあ一般生徒から苦情が出るしモチベーションも下がるよ。」

 

 「実習経験がある程度ある2年生や3年生はともかく1年生には酷なルールですね。」

 

 シュートの意見に同意する虚。そして刀奈が生徒会に持ち込まれた難題は告げる。

 

 

 「そうならない為のアイデアを生徒会から出して欲しいみたいなの。」

 

 「でも、何だって急にタッグ形式に?」

 

 「先日のクラス対抗戦の一件を受けての対応策の1つなの。 何かあっても四人いれば時間稼ぎなるというアイデアみたい。」

 

 マドカの疑問に答える刀奈。

 

 「ねぇシュート、どうする?」

 

 シャルロットに聞かれるも中々アイデアが出てこない。

 

 

 「あ~、でも今面白い噂が流れてるよ~」

 

 突然、本音が口を挟む。

 

 

 「本音さん、その面白い噂って何なのですか?」

 

 本音の言葉にセシリアが聞き返す。

 

 

 「んとね、何でもトーナメントで優勝したら男性操縦者と付き合える、という噂だよ。」

 

 本音の話にその場にいた本音以外は絶句した。

いったいどこからそんな話が出てきたのか見当もつかず呆れる。

 

 

    バッ!! 【名案!!】

 

 

 突然、扇子を開く音と共に何やら閃いたらしく刀奈が笑みを浮かべていた。

 

 

 ( また何か突拍子もないことを思いついたな!)

 

 刀奈の笑みをみて、全員が同じ事を思った。

大抵、刀奈がこのような顔をするときは録でもない事を考えついたときだ。

 

 

 「トーナメントの優勝ペアに生徒会から特別賞品を贈呈すると書いたらどうかしら! 無論、賞品の内容は表彰式まで秘密にして。ちなみに実際にはデザートフリーパスなんだけど。」

 

 「そ、それって、下手すると噂に真実味を与えることになりませんか?」

 

 刀奈の案に不安を訴える虚。

 

 

 「だから面白い・・・もとい、モチベーションをあげられるんじゃないかしら? ということで決定!」

 

 もう誰も刀奈を止められる者はいなかった。

 

 

 「それはそうと、織斑はともかく俺のタッグパートナーを先に決めておかないと後々不味いな。 で、どうする?」

 

 シュートがそう言うと既にシャルロット、マドカ、簪、セシリア、本音がジャンケンをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園の屋上、給水塔の影で箒が落ち込んでいた。

 

 

 「何故だ、何故こんなことに・・・・・・」

 

 一人呟く箒。  最近、一夏にナギ達がアプローチをかけているのに気づき焦った箒はある決心した。

そして昨夜、一夏の部屋に赴き 

 

『今度行われる学年別トーナメントで優勝したら私と付き合ってくれ』

 

 と言ったのだ。 そして箒は恥ずかしさのあまり、一夏の返事を聞かずにその場を去った。

 だが、箒はここでミスを犯してしまった。 告白するにあたり緊張の余り周りをよく確認しなかったこと。

 割りと大きい声で伝えたこと。 そしてよりによってライバルである清香にその瞬間を目撃されたこと。

 これを目撃した清香は神楽とナギと相談し、ある噂を流す事にした。

 

 『学年別トーナメントの優勝者には織斑一夏とデートできると。』

 

 ナギ達が、この噂を流した目的は箒の優勝の確率を極限まで下げることだ。 自分達の実力では優勝は無理なのはわかっている。だからこそ未だに織斑一夏に憧れを持つ代表候補生や専用機持ちに勝ってもらい箒の計画を台無しにするのだ。

 

 しかし、この噂は人から人へと伝わるうちに変化していき最終的には

 

 『学年別トーナメントの優勝者は男性パイロットと付き合える。』

 

 というものなっていた。これにより、シュートに憧れる生徒達がやる気になり、ナギ達の計画は図らずも叶う事になるだろう。

 

 

 そして箒は、そんな事とは露も知らず噂によりライバルが一気に増えた事で落ち込んでいる。

 もっとも大前提であるトーナメントでの優勝という目標が無謀なものなのだが、箒はその事を全く気づいていない。  そして翌日、彼女はもっと絶望する事実を知ることになるだろう。 トーナメントがタッグマッチ方式になるという事を

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 朝のSHR、教壇には千冬の姿はなくスコールと真耶がたっていた。

 

 

 「みなさんおはようございます。 今日は織斑先生は所用で外出されておりますので私と山田先生が全ての授業を担当します。それでは先ずは連絡事項があります。」

 

 スコールがそう言うと真耶が生徒達にプリントを配る。

 

 

 「今、山田先生が配ったプリントには来月行われる学年別トーナメントの開催期間とレギュレーション等が書かれています。 最大の特徴としては今回はタッグマッチ方式を導入したことです。」

 

 クラスにざわめきがうまれる

 

 

 「タッグパートナーの受付は今日の昼休みから開始する。閉め切りは一週間後、なおパートナーが決まらなかった場合は受付終了後に、くじ引きでパートナーが決められて翌日には発表されるます。 それから、今渡したプリントの中にはトーナメントで使用する機体に関する書類があります。 使用する機体、武装を記入して提出してください。 それから機体は多少のカスタマイズが認められていますので、カスタマイズする場合は別に書類を書いてもらいます。」

 

 スコールはそこまで言うと、シュートと一夏に視線をやり

 

 

 「それから男性操縦者にパートナー申請が集中することが予想される。 そこで、アルカンシェル君と織斑君は可能ならこの場でパートナーにしたい人物を指名して欲しいのだけれども可能かしら?」

 

 スコールの発言にシュートは立ち上がり

 

 

 「私は妹のマドカと組みたいと思います。」

 

 前日のジャンケンの勝者であるマドカを指名する。マドカが嬉しそうに

 

 

 「はい、喜んで!」

 

 こうして決まった事で落胆の声が聴こえてきた。

次に一夏に視線が集中する。 特に四人からの射るような視線は一夏の判断を鈍らせていた。

 

 

 「まぁ、いきなり決めることなんて出来ないわよね。そこで先生からの提案です、織斑君とタッグを組みたい人は職員室前に特別に設置するボックスにクラス氏名を書いて投入してください。 その中から織斑君に選んでもらいます。 締め切りは本日4時までです。 この事は他のクラスにも通知しておきます。 よろしいですね。」

 

 「それからもう1つお知らせがあります。来週から学年別トーナメントまでの間、時間割と授業時間の変更がされます。 授業は5時限目で終了、授業時間も50分に短縮されます。その分アリーナの使用時間に充てられます。 アリーナの使用は1つのペアにたいしてトータル6時間。 使用できる日時に関しては学園側が決定して掲示板に貼り出しますのでちゃんと確認してくださいね。」

 

 スコールの話の後に真耶が話をする。

連絡事項が終わりSHRは終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    イスルギ重工

豪華な装飾の施された応接室のソファーに一人座る千冬。

 テーブルにあるお茶に口もつけず腕を組み目を閉じ静かに座っている。

 

 

      ガチャ

 

 

 扉が開き光子が入室してきた。 

 

 

  「お待たせして申し訳ありません織斑先生、会議が長引きまして。」

 

 先日と同じ真っ赤なノースリーブのチャイナドレスを纏った光子は一礼して反対側のソファーに座る。

 

 

 「かまわない、先日は此方が待たせてしまったしな。」

 

 「それはありがとうございます。それで本日来られたということは?」

 

 千冬は足元に置いていたアタッシュケースをテーブルに置きロックを解除し開ける。

 そこから厳重に封のされたA4サイズの茶封筒を取りだし光子に渡す。

 光子は封を解き、中から数枚の紙とUSBメモリを取り出す。 紙に書かれている内容にさっと目を通し、タブレットを取りだしメモリを接続して内容を確認する。

 

 

 「確かに確認させていただきました。 ご足労をおかけしました、織斑先生。」

 

 紙とUSBメモリを封筒に再びしまう光子

 

 

 「それでは一夏の専用機を頼むぞ。 それから篠ノ之の件は来月のトーナメント終了後に本人に説明して発表でいいのだな?」

 

 「それで、かまいませんわ。」

 

 「わかった、それでは失礼する。」

 

 「おや? もう帰られるのですか? もう少しごゆっくりされたらいかがですか?」

 

 光子の誘いに千冬は

 

 

 「いや遠慮させてもらう。 それでは。」

 

 まるで、もう側に居たくないというような態度で部屋を退室する千冬。

  部屋に一人残った光子は笑みを浮かべて封筒を手にソファーから立ち上がり、背後の壁に向かい歩き壁に手を触れると、壁がスライドして隠し部屋が現れて、光子はその中に入っていく。

 

 光子が室内が入ると扉が閉まり、室内が漆黒に包まれる。

 しかし、直ぐに光子の前に四角いディスプレイの光りがあらわれ【Sound only】と表示された。

 

 

 『久しぶりですねMerchant、先日の五芒星会議にも出席せずに、どうしました?』

 

 ディスプレイから流れてくる声はPriestessのものだった。

 

 

 「表の商売が忙しく、ちょうど会議の最中は政府関係者との会食で出ることが出来なかったのですわ。」

 

 『まったく貴女という人は。ほどほどになさいな、私やDoctorはともかく、後の二人はかなりのご立腹でしたよ。』

 

 光子・・・Merchantの答えに呆れながらも決して責めないPriestess

 

 

 「まあ、あの二人も今回の私の手柄で納得してくださいますわ。  篠ノ之束の設計図を織斑千冬から手に入れる事に成功しましたわ。」

 

 『!! そうですか、遂に手に入れる事が出来たのですね。 それでは直ぐにDoctorとProfessorに送ってください。あの二人が喜びます。』

 

 「わかりましたわ、直ぐにそちらに送りますわ。それにしても、うふふふふっ愚かなブリュンヒルデ。 この設計図の真価を全く理解してないなんて。」

 

 封筒から再び紙を取り出すMerchantディスプレイの明かりがそれを照らし出す。

 

 

 『仕方ありませんわMerchant、これを見ただけでは単なる第3世代ISの設計図にしか見えないのですから。』

 

 「そうですね。 あぁ、それからコアを1つ此方に送ってくださいね。 この設計図と引き換えに織斑一夏の専用機を作るのに必要になりましたので。」

 

 『それなら仕方ありませんわね、本来なら忌むべき存在ですが、織斑一夏にはまだ織斑千冬を操る為のエサとして利用する必要があります。直ぐに送りますので大切に使ってくださいね。 何しろ組織が秘蔵する50個のコアの内の1つなんですから。それから、この事はあの三人には内密にしてくださいね。後々面倒な事になりますので。』

 

 「わかってますわ。それではまた。」

 

 そう言って通信が終わる。 ディスプレイの明かりが照らし出す紙には

 

 

 【特殊機能装置対応型IS ヴァルシオン】

 

  

 と書かれていた

 

 

 

 

 




 今回、正体が判明したグローリー・キングダムの幹部の紹介です。


 石動光子   イスルギ重工社長
グローリー・キングダム『五芒星』の一人、別名【Merchant 】


 5年前に父親の石動錬治の急死に伴いイスルギ重工の社長に就任した。
 経営が低迷していたイスルギ重工を建て直し、名だたる自動車メーカーやIS部品メーカーに肩を並べる存在になる。 その後、IS専用の武器製造を初め汎用性の高い武器を世に送り出す。
そして1年前に様々な理由から資金難に陥っていた倉持技研に打鉄に関する全ての権利を買取り、ISの開発に乗り出す。 ただし、これはイスルギ重工の表の顔であり裏ではブラックマーケットと繋がり、武器とIS部品の密造・密売・密輸をしており死の商人としての顔を持つ。
 グローリー・キングダムに何時から参加しているのかは不明だか、活動資金や物資、組織が使用しているISの武器部品を納めている。 その功績から幹部である『五芒星』に選ばれる。 ただし、本人は女尊男卑の思想は無く、グローリー・キングダムにいるのはあくまでも金儲けの為で、その事はPriestess 以外は知らない。
 
 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話  学年別トーナメント


 ストックが切れたので投稿ペースを落とさせてもらいます。


 

 学年別タッグトーナメントの開催発表から約一ヶ月が過ぎた6月7日月曜日、トーナメントの初日を迎えた。

 

 日程としては月曜は全部で10あるアリーナの内、第1から第4アリーナまでを1年生、第5・第6アリーナを2年生、第7・第8アリーナを3年生が使い1回戦が行われる。 火曜日に2回戦、水曜日に準々決勝、木曜日に準決勝、金曜日に決勝が行われる。

 

 試合時間も1年生は1回戦、2回戦は制限時間30分、それ以降は60分で行われる。 参加人数の少ない2年生、3年生は全ての試合が60分で行われる。

 2年生、3年生の参加人数が少ないのは理由があり、2年生に進級すると共に進路を整備科か操縦科に別れる為である。 

 ちなみに試合に参加しない整備科の生徒達は全ての機体の調整・整備&修理を整備員に混じって行う事になっている。

  

 

 第1アリーナ入り口の設置されている電光掲示板の前にはISスーツに着替えた1年生が集まっており、トーナメントの組合せの発表を今か今かと待ちわびている。

 

 また、トーナメントの影で学食チケットを掛けたトトカルチョが行われており、優勝候補本命にはシュート&マドカペア、ラウラ&シャルロットペアが同率で並び、対抗馬としてセシリア&鈴ペアの名前が上がっている。 簪は本音とペアを組んだのだが、本音の実力が未知数の為に10番人気となっていた。

 ちなみに一夏は抽選の結果、ナギとペアを組む事になり大穴に指定されている。 そして神楽は清音とペアを組み、箒はクラスメイトの谷本療子とペアを組んだが、どちらもトトカルチョには名前が上がっていない。

 

 

 「ねぇ兄さん、誰と当たるかな?」

 

 「誰と当たっても全力で臨むだけです。」

 

 そうシュートとマドカが会話していると電光掲示板に組合せ表が表示された。

 

 「「「「キャァァァァァァァーーー!!」」」」

 

 「?! これは!」

 

 「兄さん、これって偶然なの?」

 

 黄色い悲鳴が上がり、二人が驚いたのも無理はない。

 

 

 トーナメント表には全30試合の組合せが表示されているが、午後からの部の試合の1つがなんと

 

 織斑一夏&鏡ナギ VSシュート・アルカンシェル&マドカ・アルカンシェル

 

 となっていたからだ。 運命のイタズラとしか言い様の無い組合せだ。 ちなみにこの組合せを知り、大穴を狙い一夏のペアに掛けていた生徒達は膝をつき項垂れていた。

 

 

 

 

 

  時間は進み、何のトラブルもなく午前の部は終了した。 ラウラ・シャルロットペアとセシリア・鈴ペアは午前の部に登場し、無傷で勝利した。

 

 そしていよいよ午後の部が始まろうとしていた。 第1アリーナには多数の人が集まっていた。 それもそのはず、男性操縦者同士の試合なのだから。

 

東側のピットではシュートとマドカが入念に準備をしていた。 

 

 

 「ねぇ兄さん、ガナリーカーバーの能力は何処まで見せてもいいの?」

 

 「そうだな、ビットモードとフルバースト・・・それに

 奥の手の【B・M・X】と単一仕様能力は使うな。」  

 

 「それって通常モードのみってことじゃない。 欲求不満になるよ。」

 

 「仕方ないだろう、お前のガナリーカーバーはそれほど特殊な武器なんだ、全ての機能をそう簡単に披露するわけにはいかない。 まあ、リフレクターの使用許可は出しているんだからそれで我慢しろ。」

 

 マドカの頭を撫でながら慰めるシュート。

 

 

 『まもなく午後の部の試合を開始致します。 両ペアともアリーナに出撃してください。』

 

放送の呼び掛けにシュートとマドカはISを展開しカタパルトからアリーナに向かって飛び出す。

 

 シュートとマドカがアリーナに飛び出して少しして一夏とナギが出てきた。

 一夏は打鉄をナギはラファールを纏っていた。 一夏の打鉄は両肩のシールドがなく戦闘機のような形状のスラスターが装着されている。ナギのラファールは両手にガトリングガン、両肩にミサイルランチャー、両足にミサイルポッドを装着した重装型になっていた。

 一夏は近接ブレード『葵』によく似た刀を呼び出し

 

 

 「シュート、今日こそお前を倒して俺や千冬姉が正しい事を証明してやる。 そして白式を取り戻すんだ。」

 

 まるで白式の没収がシュートの責任のような一夏の言い方・・・・毎度の事ながらもシュートとマドカは、呆れてしまい何も言えなかった。 

 

 

 「ナギさん、打ち合わせ通りに行くよ。」

 

 「わかったわ一夏君。」

 

 何やら打ち合わせをする二人、ただし此方にも聞こえている。

 

 

 『ねぇ兄さん、あの二人の考えた作戦って何だと思う?』

 

 『大方、鏡さんが一斉射撃をして俺達を分断、もしくは視界を奪って、その隙に織斑が接近してきて斬りつける。 織斑の思考だと、そんなものだろう。 ただ、あのブレードが気になる・・・打鉄の装備の葵に似ているけど、何か違う。 一応、気にしておいてくれマドカ。』

 

 プライベートチャンネルで話ながらシュートは右手にマグナ・ビームライフルをマドカはガナリーカーバーを呼び出して構える。

 

 

 

     ブーーーーーーーーーー

 

  そして、試合開始を告げるブザーが鳴り響く

 

 

  「先手必勝!」

 

 ナギはブザーと同時にトリガーを引き、両手のガトリングガンに両肩のミサイルランチャーに両足のミサイルポッドを一斉に発射する。 狙いを完全には定めずにただ前方に撃っただけだが。 

 

 

  「「させない!!」」

 

  「キャァーーー!!」

 

  「えっ?! グワッ!!」

 

 しかし、それらは全て発射と同時にシュートのマグナ・ビームライフルとマドカのガナリーカーバーのビームで迎撃された。 そして、全てナギの側で誘爆した為にその爆風がナギを襲う。 

 いやナギだけではない、シュート達の読み通りにナギの一斉射撃と同時にシュート達に接近するために1度降下し、下から一気に上昇して行く予定だったが運悪く真上で誘爆してしまい、その爆風をまともに頭上から受けて地面に叩きつけられる。

 一夏のたてた作戦が早くも崩壊し、視界も煙で遮られ、どう動いていいのかわからないナギは一夏の姿を探す。 そして爆風で地面に叩きつけられて横たわる一夏の姿を確認する。

 だが、ここでナギは重大なミスを犯す。 

 

 

 「い、一夏君! 大丈夫なの?」

 

 「?! ナ、ナギさん避けて!!」

 

 「えっ?!」

 

 一夏の指摘に正面を向くと、煙の中から飛び出してきたシュートとマドカの姿があった。

 下から見ていた一夏はシュートとマドカがナギに向かって煙の中に飛び込んでいくのが見えていた。 そして警告をだしたが遅かった。

  試合最中に対戦相手から目を離しというミス、だがナギを責める事は出来ない。 そもそも実戦経験もなく、搭乗訓練時間も僅か、それに加えて一夏との偏った訓練、それで専用機持ち相手をするのだ。

 どう考えても無理がある。 しかし、それでも勝負は非情である。

 

 目の前に突然姿を現したシュートとマドカにナギは驚き硬直してしまった。

 

  

  「「先ずは一機!!」」

 

 シュートは左手に持つロシュセイバーで、マドカはガナリーカーバーに内蔵された高周波ブレードで斬りつける。

 

 

 「キャァー!」

 

 そしてそのまま至近距離でシュートはマグナビームライフルをマドカはガナリーカーバーをマシンガンモードで撃つ。 避けることが出来ずにナギは全ての攻撃を受ける。

 

 

 「キャァァァァァァァーーー!!」

 

 そのままアリーナの地面に墜落し、その直後にSEが尽きたのかISが解除されてしまう。

 

 

 『鏡ナギ、ラファール SEエンプティ 』

 

 ナギに駆け寄る一夏。

 

 

 「ナギさん大丈夫?」

 

 「うん、大丈夫。ごめんね一夏君、何の役にも立てなかった。」

 

 「ナギさんが謝ることないよ。 それにしても二人がかりで攻撃するなんて卑怯な奴等だ。 俺が仇をとるからナギさんはピットに避難して。」

 

 そう言って一夏はナギをピットに向かわせて自分はシュート達のもとに向かう。

 

 

 「二人がかりでナギさんを攻撃するなんて卑怯じゃないか! 正々堂々と戦えよ。」

 

 「何言ってんの? タッグマッチなんだから当たり前じゃない。 1対1、2対2、2対1の構図は想定の範囲内よ。それを頭に入れて訓練したり作戦を考えるのが普通よ。」

 

 マドカに言われ、自分達の訓練のあり方、作戦内容の不味さが露呈することになった一夏。 そう一夏は常に1対1の構図を作る事しか頭に無かった。 

 

 

 「くそー こうなったらシュート、男同士1対1の決闘で勝敗を決しようぜ。勝った方が試合の勝者だ。」

 

 起死回生とばかりに1対1の決闘を提案する一夏。 少しでも自分の都合の良い状況にしようと試みるが

 

 

 『織斑君、選手間での勝手なルール変更は認められてません。 ペナルティにより警告1を与えます。もう一度警告を与えられたら失格となります。』

 

 管制室から真耶の警告が一夏にでる。警告がでると思わなかった一夏は表情を歪める。

 

 

 「織斑、1対1がお望みなら最初は私が相手してあげる。 私を倒すことができたら兄さんと1対1で戦えるわよ。」

 

 そう言ってマドカはシュートの前に出てガナリーカーバーを構える。 そして、高周波ブレードを展開し一気に一夏に向かって接近する。

 

 

 「くそー、接近戦なら負けないぜ。いくぞ近接ブレード【断葵(たちあおい)】」

 

 一夏は手にしていたブレードの柄にあるトリガーを引く。 その瞬間に僅かだが刀身に青白い火花が散る。 そしてマドカはそれを見逃さなかった。

 

 

 (何、今のは? 放電現象みたいだったけど、用心にこしたことはないわね)

 

 マドカは直ぐ様ブレードを収納してマシンガンモードに切り替えて撃つ。 避けられないと思った一夏は断葵の刀身からマドカに向けて突きだしトリガーを引き

 

 

 「三つ葉葵!」

 

 掛け声と共に刀身を中心に三枚の葉っぱのような形状の電磁シールドが展開されてマシンガンの弾丸を防ぐ。

 

 

 「どうだ! えっ?! いない? グフッ!」

 

 電磁シールドでマシンガンの弾丸を防ぎきった一夏は得意気にマドカを見ようとしたが、既にそこにマドカの姿は無かった。 次の瞬間、頭部に殴られたような衝撃を受けた。

 マドカがガナリーカーバーの銃床部分にある突起で一夏の頭を殴ったのだ。

 更に背中を見せた一夏に対して容赦なくマシンガンを撃つ。 流石に背中に電磁シールドを張ることが出来ない一夏はまともに喰らう。

 

 

 「どうだ、ガナリーカーバーはこういう使い方も出来るんだぞ。 さあ、お次はこいつだ。」

 

 そう言ってマドカがガナリーカーバーのトリガーを引くと銃身からビームが何発も発射される。 間一髪で避ける一夏。

 

 

 「避ければビームなん グフッ!?」

 

 一夏が避けたはずのビームが何故か全て背中や太股に命中する。 避けたはずのビームが命中したことに混乱する一夏。 

 アリーナの観客達には、何が起きたのか見えていた。理由まではわからないが、ともかく一夏が避けたビームが突然、何かに当たって向きを変えたかのように直角に曲がり一夏に命中したのだ。

 

 

 「なんで? 避けたはずなのにグフッ、グワッ!!」

 

 訳も分からず混乱する一夏に容赦なく追撃を行うマドカ、先程と同じくガナリーカーバーの銃床部分の突起で連続で殴る。

 そのままアリーナの地面に再び叩きつけられる一夏。

 上空からそれを見下ろすマドカは、ガナリーカーバーの銃身を一夏に向けた、

 

 

 

 

 

 その瞬間だった、アリーナ全体に爆音と共に衝撃が走ったのは




 今回は一夏の打鉄改について紹介します


 打鉄改    第2世代型IS

 一夏が暫定的に使用することになった打鉄をイスルギ重工がカスタマイズしたもの。 当初は学園の打鉄を使用する予定だったが、イスルギ重工が新しい専用機のデーターを得るためにカスタマイズしたものを持ち込んだ。 ただし、コアは学園の物を使用。
 特筆するところは、両肩に設置されていたシールドを外し、代わりに小型スラスターを設置し防御重視から機動力重視にした。
 また射撃能力が壊滅的な一夏の為に高性能の射撃補助システムを登載し射撃能力のサポートしている。 ただこのシステムの容量が重かった為に武器は余り登載出来なかった。


 武装
近接ブレード[葵弐型]×2:ガーリオンのアサルトブレードをベースに改良した刀。 特徴としては柄の部分に交換式のエネルギーカートリッジを登載し、IS本体のエネルギーを使用しないで2つの機能を使うことができる。 なお、カートリッジ1つに付き5回発動できる。
 機能1 電撃刀[断葵]:ボイスキー+トリガーで発動し、刀身に高圧電流を纏わせたスタンブレードにする。
 機能2 電磁シールド[三つ葉葵]:ボイスキー+トリガーで発動し、刀身を中心に三枚の葉っぱのような電磁シールドを発生させる。

アサルトライフル[焔備]×1:打鉄の標準装備のライフル。射撃補助システムにより命中率は格段にアップしている。

ミサイルポット[彼岸花]×2:脚部です装着されたミサイルポット。射撃補助システムとホーミングシステムにより命中率はかなりの物。


射撃補助システム:射撃の腕前が壊滅的な一夏の為に載せられたシステム。超初心者でも、このシステムを使えば命中率が90%に到達する。しかし、実戦においてはシステムの容量の重さと超初心者向け設定が足を引っ張る事になる。 しかし一夏はこのシステムを利用しないと命中率が一桁台になるので載せている。ちなみにシステムを使用しての命中率は60%弱である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話  ローズガーデン

 

 第1アリーナに突然響いた爆音と衝撃、そして天井の一部が消失した。

 突然の事にアリーナの観客席にいる生徒達に動揺が拡がる。 そしてそこから型式は様々だが純白にカラーリングされたISが9機侵入してきた。

 

 

 『シュート、マドカよく聞いて。9機のISは何れも所属不明よ。ギリギリまで展開せずにダイブしてきて、レーダーに引っ掛からなかったみたい。さっきの爆音と衝撃は所属不明機から放たれたミサイルが第1アリーナに命中したものよ。』

 

 珍しく千冬ではなくスコールから連絡が入る。 

 

 

 「それでどう動けばいいんですか?」

 

 『今、教員部隊の出動準備に入ったけど、あと5分ほどかかるから万が一攻撃してきたら、応戦して時間を稼いでほしいわ。』

 

 「わかりました、それでは安全を考慮して観客と織斑を避難させてください。」

 

 『わかったわ、気をつけてね。』

 

 シュートとスコールの会話が終わりマドカが

 

 

 「ねぇ兄さん、クラス対抗戦に続いて2回目よね。 このIS学園のイベントは祟られているの?」

 

 「さあね、どちらにしろ無粋な連中にはご退場願わないとな。」

 

  侵入してきた所属不明機はリーダーらしき機体を中心に1列に並び、両端のラファールが真紅の薔薇の描かれた旗を掲げる。 そしてリーダー機であろう深紅のラファールカスタムが

 

 

 「私達は女性権利団体【ローズガーデン】です。 聖母【篠ノ之束】が女性の為にだけにもたらしたISを汚す大罪人、織斑一夏とシュート・アルカンシェル並びにそれに与する反逆者達に神罰を下しに参上した。」

 

 そう言ってリーダーの女性はシュートにライフルを向けた。

 

 

 「ですが、私達にも慈悲があります。 身に纏っているISを此方に引き渡せば命だけは助けてさしあげましょう。」

 

 そう言ってきたリーダーの顔にシュートとマドカは何処かで見た覚えがあった。 派手に染められたショッキングピンクの髪、きつめの化粧で年齢を隠しているが30代前半のようだ。シュートは記憶の中を探り思い出した。

 

 

 「思い出した、4年前に引退した元フランス代表候補生アタッド・シャムラン。」

 

 シュートの指摘に顔を歪めるアタッド。

 

 アタッド・シャムラン・・・元フランス代表候補生。最終序列第20位。

 フランス代表候補生として第2回モンドグロッゾを目指していたものの、国内選考会の前に行われた候補予備生との入れ替え戦で完敗し引退させられる。

 

 代表候補生を引退したら普通は軍や警察の教官、ISメーカーのテストパイロット等、就職には困る事はないのだが彼女の場合、重度の女尊男卑思想と当時のフランスが既に男女平等の風潮が定着していた事が災いし、いかなる企業も公共機関も雇う事はなかった。

 その後、彼女は姿を消すのだがシュート達はその直前に彼女と顔を合わせた事があった。

 

 彼女は姿を消す前にフランスの女性権利団体が起こしたデュノア社を陥れる計画に参加したのだ。

 だが、その計画は起業したばかりのアルカンシェル社・・・シュートとタバネにより防がれ、女性権利団体は壊滅し主な幹部は逮捕されたのだ。 

 ただ、彼女は間一髪の難を逃れて海外逃亡したのだ。

 

 

 「ふん、覚えていたみたいね。 お前達アルカンシェル社のせいで私の未来は閉ざされたのよ。 あの時の屈辱忘れて無いわ!」

 

 「何が屈辱よ、悪どい手段を使い違法行為で告発されて逮捕状が出たじゃないの、自業自得よ。 だいたいあなたはいまだに国際指名手配されているのよ。」

 

 そうマドカが言うとアタッドはヒステリックに叫ぶ。

 

 

 「あんなの無効よ。私達、女性は何をしても許される存在なのよ! ISという聖なる力を使える女性は男と違って、いかなる行為も許されるのよ!!」

 

 「まるで女王か神様にでもなったつもりかい? 私から見れば欲にまみれた俗人にしか見えないぜ。オ・バ・サ・ン❤」

 

 マドカが最後にもたらしたNGワード。 その瞬間、アタッドの顔が歪み般若のような表情となり

 

 

 「この尻の青い小娘が、言いたい放題言いやがってからに、かまわないやっておしまい!!」

 

 声を荒げて他のメンバーに命令を下す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 襲撃が起きる5分前のこと、千冬は学園に通じる幹線道路で女性権利団体の女性達と相対していた。

 ことの発端は、学年別トーナメント初日に女性権利団体が学園に向けて男性装着者の排斥を訴えてデモ行進をすると伝えてきたのだ。

 

 学年別トーナメントには学園関係者以外にもISメーカーの重鎮に各国の政府関係者などVIPが多数訪れる。 そんな最中に学園にデモ隊が行進してくのは対外的にも余り良くない。  

 そこでデモを主催する女性権利団体に中止を検討するように話し合いを申し込んだところ、織斑千冬となら交渉に応じると返答があり、学園側は千冬を交渉役に派遣することにしたのだ。

 千冬としては一夏の試合を管制室から観戦したかったのだが学園命令には従うしかなく、やむ得ずに交渉役になった。

 そして今、千冬の前で主催者の女性がデモをする理由をくどくどと述べているが、要約すれば自分達ですらなかなか触ることすら出来ないISを男の分際で纏うなんて言語道断である、研究所にでも送って人体実験に使え、と言っているわけだ。

 

 

 「・・・・・と以上の理由からデモを予定しておりましたが、かのブリュンヒルデ織斑千冬様からの願いとあっては無下に断るわけにもいきませんので、ここは千冬様のお顔をたててデモを中止させていただきます。」

 

 「こちらの要請を聞き届けていただき感謝する。」

 

 「いえいえ、織斑千冬様の頼みとあっては聞かないわけにはまいりません。 こうしてお逢いする機会を設けていただき光栄ですわ。」

 

 「いいえ、私はそれほど大層な人間ではありません。 申し訳ありませんが、そろそろ学園に戻らなくてはなりませんので失礼します。」

 

 「あらそれは残念ですわ。 その代わりと言ってはなんですが、是非とも一緒に写真をお願いしたいのですが?」

 

 「申し訳ありませんが、規約により無許可での撮影は許されておりません。御容赦ください。」

 

 「かたいことおっしゃらずにお願いします。」

 

 「規則は規則ですので。」

 

 暫くのあいだ、押し問答が始まる。 しばらくすると千冬のスマホが鳴る。 千冬は断りをいれて権利団体の女性たちから少し離れる。

 

 

 「失礼、もしもし織斑だ。 どうした?」

 

 『織斑先生、たいへんです。第1アリーナに所属不明のISが9機侵入してきました。』

 

 「何?! それは本当か山田先生?」

 

 『はい、現在アリーナにはアルカンシェル兄妹と織斑君が・・・・・待ってください、侵入者が名乗りました。女性権利団体[ローズガーデン]だそうです。目的は・・』

 

 「イヤ、言わなくてもわかる。 すぐに戻る。」

 

 そう言って千冬は通話をきる。権利団体の女性たちのもとに向かい。

 

 

 「すいませんが急遽、学園の方に戻らなくてはならなくなりましたので、ここで失礼させていただきます。」

 

 そう言って千冬は道路脇に停められていた超小型モビリティに乗り学園に向かう。

 千冬が見えなくなるまで見送った女性は笑みを浮かべ、スマホをとりだし何処かに連絡を入れる。

 

 

 「作戦通りに織斑千冬の足止めをしました。 続いて予定通りにダミーとして使用した[野薔薇の会]の痕跡を消します。 更に[ローズガーデン]の方に残っている我々との関与を示すものを処分します。」

 

 『・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 「はい、わかりした。 それでは実行します。」

 

 そう言って女性は通話を終えてスマホをポケットに入れる。 そして、女性達はその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そ、そんな、ば、バカな?!」

 

 アタッドの目の前には信じられない光景が広がっていた。 共にアリーナに侵入してきた8人の同士はアリーナの地面に横たわっている。 全員、気絶しているようで身動きひとつしない。

 わずか3分にも満たない時間であった。

その間にある者はブレードで斬られ、ある者はミサイルの直撃を受け、ある者はビームの直撃を受けて倒れた。

 

 それはアタッドにとって予想外の光景であり信じられなかった。 だが、既に自分以外のメンバーが動かない。 

 

 

 「さて、残りはあんただけだよオバサン。 観念して投降しなさい。」

 

 マドカがガナリーカーバーの銃口をアタッドに向けて勧告する。

 アタッドは悟ってしまった。なまじ代表候補生の経験があったばかりにシュート達と自分との実力の差に。

 だが、それでも後戻りは出来なかった。投降すれば自分の未来は無いのだ。だからこそアタッドは

 

 

 「誰が投降なぞするものか! 私にはまだブリュンヒルデの加護があるのだ。 【さあ今こそ我が身に降臨せよ偉大なる戦女神よ!!】」

 

 禁断の呪文を口にした。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話  VTシステム

 「【今こそ我が身に降臨せよ、偉大なる戦女神よ!!】」

 

   アタッドは禁断の呪文を口にした。 

 その瞬間だった、ラファールの装甲のの隙間から黒い泥のようなものが染みだしてきて一気にアタッドの体を覆い隠す。

 徐々にラファールの形を失い、別な何かに姿を代えていく。

 

 

 (ブリュンヒルデの加護・・・戦女神の降臨・・・・まさか!)

 

 シュートはアタッドの口にしたフレーズから何が起きているのか理解した。

 

 

 「気をつけろマドカ、VTシステムだ。 恐らく織斑千冬モデルだ。」

 

 「VTシステムって、研究や開発が世界的に禁止されているやつだよね。そんなの使ってアイツ大丈夫なの?」

 

 「・・・・・恐らく、命の危険に関わることになるだろう。それほどVTシステムは恐ろしい物なんだ。 」

 

 シュート達が会話している間にもアタッドを覆った黒い泥のような物は形をかえていった。剣を持つ、その姿は暮桜を纏った織斑千冬そのものだった。

 

 

 「ガァ・・・・コロス・・・ジャマスルヤツ・・・コロス」

 

 剣をかまえて、シュート達に向かって突撃してくる。

その太刀筋は一夏と比べて遥かに速く鋭かった。 

 だが、シュート達に避けることは容易かった。

 

 

 「速くて鋭い、でも怖れる程の太刀筋ではない。」

 

 「そうね、VTシステムは不完全ということだね。本人の能力を100%再現出来てないんじゃね。」

 

 「そうだな、織斑の5割増しくらいの能力かな。どちらにしても脅威ではないな。 さっさと終わらせるぞ。」

 

 二人が仕掛けようとした瞬間だった。 

 

 

 「ウォォォォォォーーー、千冬姉の真似してんじゃねえよ!!」

 

 アリーナのピットから雄叫びを挙げて一夏が飛び出してきて、偽暮桜に斬りかかる。 偽暮桜はそれをなんなくかわして一夏を蹴飛ばす。 アリーナの壁に激突する一夏、それでも再び偽暮桜に向かって行こうとする。

 それをシュートが押し留める。

 

 

 「何をしている織斑! お前には避難命令が出ているはずだぞ、直ぐに戻れ!」

 

 「嫌だ、あれは千冬姉だけの剣だ。俺がやらなきゃいけないんだ!」

 

 「SEが半分以下のお前では無理だ。直ぐに戻れ!」

 

 「それでも俺がやらなくちゃいけないんだ! 他の誰でもなく、弟である俺がやらなくちゃいけないんだ。」

 

 そう言って一夏は偽暮桜に再び突っ込んでいく。今度は偽暮桜の持つ剣で打ちのめされてアリーナの地面に墜落する。 どうやらSEが尽きたらしくISが解除される。

 

 

 「まったく少しは人の意見に耳を傾けて貰いたいものだ。 さて、兄さん速攻で終らせるんだろ?」

 

 「あぁ、手遅れになる前に助け出す。背後関係や組織の全容に他の権利団体の情報を喋ってもらわないと困るからな。」

 

 シュートの言葉と同時にマドカがガナリーカーバーからビームを射つ。 

 

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 偽暮桜は、それを紙一重でかわしマドカに向かって突撃しようとした瞬間、背後から避けたはずのビームの直撃を受ける。

 避けたビームは一夏の時と同じく、何かに反射されて方向を変えて偽暮桜に命中したのだ。 

 その反射した要因こそ、ガナリーカーバーに装備されている武装の1つ、リフレクターナノマシンである。 

 鏡の特性を持つナノマシンを散布しマドカの指示で起動しビームを反射させる。 

 これは偏向制御射撃(フレキシブル)とは違ってビームを弧に曲げるのではなく反射させるという方法により意表をつきやすくしたのである。

 また偏向制御射撃(フレキシブル)と違い、反射ポイント・反射角度を自在に指定出来るため、予測困難になるのだ。

 

 

  「?!」

 

 次々に襲いかかるビームの雨、避けても再び角度を変えて命中する。 偽暮桜は、その場から動くことが出来なくなった。

 そしてマドカのビーム攻撃に翻弄された偽暮桜はシュートの存在を忘れてしまった。

 ビーム攻撃が止まった瞬間、偽暮桜の背中に何が押し当てられた。

 

 

 「さぁ、これでフィナーレだ。 Gインパクトステーク、セット!」

 

 そこにはシュートがGインパクトステークを構えていた。 

 

 

 「どんな装甲だろうと、撃ち貫くのみ! ゼロ・フェイヤ!!」

 

  トリガーを3回引く。 しかし、あまりにも速射ちだった為に音が繋がって聞こえる。

 

 

   ド、ド、ドォォォォーーーン

 

 ほぼ同時に撃ち込まれた3発の重力波。その衝撃は空気を震わせアリーナ中に轟音を響き渡らせた。

 そして撃ち込まれた偽暮桜は全身に細かい亀裂が走った瞬間、ガラスのように砕け散り中にいたアタッドが空中に投げ出される。

 それをマドカが受け止める。マドカは受け止めたアタッドを見て驚く。

 

 

 「兄さん、アタッドが・・・・・」

 

 「ん? これは!」

 

 マドカが受け止めたアタッドは見るも無残な姿に変わり果てていた。

 ピンク色に染められていた髪は白髪となり張りも艶もなくボサボサとなっており、手足の肌も張りをなくし皺だらけに、そして顔も唇はひび割れて頬はこけ、深い皺も刻まれ老婆のようになっていた。 そして何よりも

 

 

 「あ・・・・・・・あ、わ・・・・・・」

 

 目の焦点が合わず、口から出る言葉も不明瞭であった。

 

 

 「VTシステムの後遺症か・・・・これ程とは」

 

 「兄さん、治療は出来るの?」

 

 「わからん、タバネ姉さんに聞いてみないとなんとも・・」

 

 変わり果てたアタッドの姿に困惑する。

アリーナのピットから打鉄やラファールを纏った教師部隊が出てきた。

 

 

 「アルカンシェル君、アルカンシェルさん、無事ですか?」

 

 ラファールを纏った教師、元インド代表候補生のラーダ・バイラバンが二人に近付いて声をかける。

 

 

 「「はい、大丈夫です。」」

 

 二人が声を揃えて答えると嬉しそうに微笑み

 

 

 「それは良かったです。 遅くなってごめんなさいね。 そちらの女性を引き渡してもらえますか?」

 

 「はい、ですがVTシステムの影響で精神・・・・」

 

 「あなた達が気にすることはありません。彼女は禁断のシステムを使った罰を受けたのです。」

 

 そう言ってラーダはマドカからアタッドを受け取り

 

 

 「それでは二人共、このあと事情聴取があるのでピットに戻り着替えてから学園長室に向かってください。」

 

 「「わかりました。」」

 

 そう言って二人はピットに向かう。

アリーナでは教師達が、気絶している他の侵入者達を拘束する作業にかかっている。  その中に混じって救助される一夏の姿もあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い室内に光を放つ3つのモニター。 その1つ・・・IS学園のアリーナの様子をじっと見つめる女性・・・Professor

 残り2つのモニターには、Merchant とAssassin が映っている。

 

 

 「ドイツから逃げてきた科学者が持ち込んだVTシステム、思ったほどではないわね。」

 

 『これならDoctor のGAMEー SYSTEM が良かったのではProfessor ?』

 

 『Assassin 、実験する必要はあったんだから仕方ありませんわ。 それにわたくしとしては金食い虫がいなくなり手間が省けましたわ。』

 

 『そんなに酷かったのかMerchant ?』

 

 『えぇ、同じ女性至上主義者とはいえ、彼処まで無駄に贅沢されたらたまったものではありませんわ』

 

 ローズガーデンの女性達を酷評するMerchant  どうやらローズガーデンの者達はグローリー・キングダムの傘下にあったようだ。

 

 

 「Assassin 此方との関係を示す証拠の処分は?」

 

 『問題無いわProfessor 、エキドナを直接派遣して指揮を取らせているわ。 ついでにダミーに使った団体の処分もね。』

 

 「それならいいわ。」

 

 『ところで、そのドイツから逃げてきた科学者はどうされるのですか?』

 

 「VTシステム自体が役にたたないですし、本人の技量も二流三流といったところ、使い道が無いわね。 だから次の作戦のスケープゴートにすることにしたわ。」

 

 Merchant の問いに答えるProfessor

 

 

 『ラズムナニウムの試験運用を開始するのですか?』

 

 「えぇ、そうよAssassin 。 そこでお願いがあるのアメリカ軍に忍ばせているアギーハとイスラエル軍に忍ばせているシエンヌに指令を出して。 どうやらなかなか面白い事をしてるみたいだし、それを利用したいの。」

 

 『わかったProfessor 。指令の内容は?』

 

 「これよ。」

 

 そう言ってProfessor はキーボードを操作する。 Assassin の元に指令の内容を送ったようだ。 その内容を確認するAssassin

 

 

 『なるほどわかった、指令を出しておく。それからMerchant 、あれから連絡があった任務の第1段階が成功したそうだ。第2段階はそちらからもサポートしてくれ。』

 

 『わかりましたわAssassin 。それでは』

 

 

 『『「すべてはグローリー・キングダムの為に!」』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話  ドイツからの来訪者


 短いですがどうぞ。


  

 

  「「失礼しました。」」

 

 学園長室での事情聴取をおえて部屋を後にするシュートとマドカ。

 二人の行動はスコールからの要請によるものなので帰された。 一夏は未だに気を失っており保健室で寝ている。 彼の場合は何らかの処分がおりるかも知れないが、いまのところはわからない。

 

 

 「シュート、マドカちゃん。」

 

 呼ばれたので振り返る二人、そこには刀奈がラウラを伴って立っていた。

 どうやら二人が出てくるのを待っていたようだ。

 

 

 「どうしたんだ何か急用でも出来たのか?」

 

 「ちょっとね。一緒に来てほしいの。」

 

 そう言って刀奈は歩き出す。

 

 

 「ラウラは知っているのか?」

 

 「イヤ、私も訳が分からぬままに更識生徒会長に先程呼び出されたのだ。」

 

 シュートの問いにラウラが答える。 ラウラも何故呼び出されたのか分からず困惑しているようだ。

 やがて【応接室】と書かれたプレートのある扉の前についた。

 

 

    コン  コンコン

 

 刀奈が扉をノックすると、扉のロックが外されて開き中から虚が顔を出して

 

 

 「お待ちしておりました。中へどうぞ。」

 

 そう言って招き入れる。 

 

 

 「「「「失礼します。」」」」

 

 礼をして室内に入るとそこには、ソファーに座るクロエ、テーブルを挟んで反対側のソファーに座るスーツを着た金髪の男性、その後ろに立つ同じようなデザインのショルダーパッド付きの色違いのジャケットを着た一組の男女がいた。

 シュートとマドカはクロエがいたことにも驚いたが、それ以上にソファーに座る男性と背後に立つ女性の存在に驚いた。 どちらもかなりの有名人だからだ。

 ソファーに座っているのはドイツの外務大臣エルザム・V・ブランシュタイン。 そして後ろに立つ女性はドイツの国家代表のエクセレン・ブロウニング。

 

 

 「わぉー、ラウラちゃんひさしぶり。元気にしてたー」

 

 そう言ってエクセレンはラウラにかけより抱きつく。

 

 

 「エ、エクセねえ様。ど、どうして日本? それにうぷっ?!」

 

  「もちのろん! ラウラちゃんに逢うためよ! もう寂しかったんだから!」

 

 「フガ、フゴ・・・・・エフフェネェヒャマ・・クルフィイ。」

 

 エクセレンの胸に顔を挟まれて窒息寸前のラウラ、ソファーの後ろに立っていた男性が止めに入る。

 

 

 「エクセレン、その辺りで開放してやれ。ラウラが苦しんでいるぞ。」

 

 「あらやだ、ごめんねラウラちゃん。」

 

 「ハァハァハァハァ、助かりましたキョウスケ教官。」

 

 「大したことではない、だが元気そうで何よりだラウラ。」

 

 「はい、キョウスケ教官もおかわりなく。」

 

 そう言ってラウラは敬礼する。

それを見てエルザムがソファーから立ち上がり

 

 

 「さて自己紹介をさせてもらおうかな。私はドイツの外務大臣を勤めるエルザム・V・ブランシュタインだ。」

 

 「ドイツの国家代表を勤めるエクセレン・ブロウニングよ! エクセ姉さまと呼んでね♥ イタッ!」

 

 「ドイツ軍所属 教導隊主任教官を勤めるキョウスケ・ナンブだ。」

 

 エクセレンに拳骨をして挨拶するキョウスケ。

 

 

 「アルカンシェル社、社長代理のシュート・アルカンシェルです。」

 

 「アルカンシェル社所属 企業代表のマドカ・アルカンシェルです。」

 

 そう言って一礼する二人。どうやら刀奈と虚とクロエは既に挨拶を済ませていたようだ。 

 そしてこの時になってラウラはクロエの存在に気づいて驚いている。

 

 

 「貴女は?!」

 

 「アルカンシェル社の社長秘書を勤めるクロエ・アルカンシェルと申します。」

 

 ラウラはクロエの顔を見つめて動揺していた。余りにも自分に似ている為に。

 ラウラが口を開こうとしたが、その前にエルザムがソファーに座るように示しながら

 

 

 「さて、積もる話も沢山有るだろうが先に重要な要件を済ませよう。」

 

 エルザムの進めに従いソファーに座る。

 

 

 「さて、先ずはボーデウィッヒ少佐。君のISを待機状態のままで出してほしい。」

 

 エルザムがそう言ったのでラウラは右腿にはめているレッグバンドを外してテーブルに置く。

 それを見てエルザムが頷くとクロエがパソコンを取り出して起動させコードをレッグバンドに接続する。

 かなりのスピードでキーボードを叩くクロエ。

 

 

 「ありましたわ。」

 

 キーボードを叩くの止めるクロエ、デッスプレイには

 

      Secret―mode―system

   Valkyrie ―Trace ―System

  MODEL―CHIFUYU ・ORIMURA ―KUREZAKURA

 

   そう表示される

 

 

 「そちらが入手された情報通りにシュヴァルツェア・レーゲンにVTシステムが隠されて組み込まれていました。 発動条件は機体のダメージレベルがDになり、装着者の精神が衰弱すること。そして【怒り・憎しみ・憤り】といった感情がトリガーとなり発動するようです。」

 

 クロエの言葉に騒然となる。

 

 

 「事の発端は先日、ドイツ軍に所属していた女性研究員が逃亡したことにある。 その研究員には背任や横領の容疑で逮捕寸前だっのだ。 しかし直前に察知した研究員は逃亡、我々はその研究員の残した物を調べていた。 そして昨日、研究員のパソコンからVTシステムに関する研究データーが発見された。」

 

 エルザムはそこまで言うと、テーブルのレッグバンドに視線をやる。

  

 

 「更に調査した結果、その研究員が関わっていたISの中にボーデウィッヒ少佐のシュヴァルツェア・レーゲンが含まれているのが先程わかり、調べたという訳だ。」

 

 「VTシステム・・・・とすると、その研究員はローズガーデンの関係者か若しくは匿われた、という事でしょうか」

 

 「恐らくな、いまインターポールを通じて国際指名手配をかけてもらった。」

 

 シュートの話に同意するエルザム。

 

 

 「VTシステムの削除が完了しました。」

 

 そう言ってクロエはレッグバンドからコードを外す。

その作業が終わったのを見てシュートが

 

 

 「そう言えばクロエ、何故今日来ているんだ? 予定では木曜日に来るはずたったよな。」

 

 「はい、本来なら木曜日からの観戦予定でしたがブランシュタイン外務大臣の来日に合わせて繰り上げたのです。 どうせならば実物を目にしていただこうと思いまして。」

 

 「もしかしてクロエ、もう出来たの?」

 

 「はい、マドカ姉様。」

 

 「なに~、もしかしてラウラちゃんの専用機なの?」

 

 クロエとマドカの会話から予測をつけたエクセレンが口を挟む。

 

 

 「ほ~、もう出来たのか速いな。流石はアルカンシェル社というところか。」

 

 「えぇ、速いですね。我が国でシュヴァルツェアを作った時は6ヶ月はかかりました。」

 

 エルザムとキョウスケが誉める。

そして漸く理解したラウラが

 

 

  「私の新しい専用機が!!」

 

  「間もなく、第10アリーナのピットに搬入されます。」

 

 そうクロエが答える。

 

 

 「そうか、それは楽しみだな。 では早速見学に向かうとしようか。」

 

 エルザムが立ち上がったのを見て全員が移動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話  テストという物

 
 あけまして おめでとうございます。

 本年もよろしくお願いいたします


  

 

 7月2日金曜日

 

   カリカリカリカリカリカリ

 

  教室に響き渡る筆記音。全員が真剣になって机の上にあるテストを解いている。

 

 期末テスト・・・IS学園において学期毎に行われる唯一の学力テストである。

 日本語・英語・数学・社会(日本史・世界史・地理)・理科(生物・物理・化学)・IS学の6教科に加えてIS実技(1学期は起動並びに基本動作)のテストが3日に渡って行われる。

 

 ちなみに赤点(50点以下)を取ると夏休み期間中に1学科に付き10時間の補習と再テストが行われる。 再テストで60点以下の場合は更に5時間の補習追加と再再テストが行われる。 下手すると夏休みが潰れてしまうこと間違いなしなので全員真剣だ。

 

 余談だが、昨年フォルテが日本語で赤点を取ってしまい補習を受ける事になり、ギリシャへの帰国の予定が大幅にずれてしまいダリルと遊ぶ時間が殆ど無くなり泣く羽目になった。

 

   キーンコーンカーンコーン

 

 

 「そこまで、テスト終了です。 筆記用具から手を離して答案用紙を裏返してください。」

 

 スコールの言葉と同時に全員が行動する。 そして後ろの席から真耶が答案用紙を回収していく。

 

 

 「これで1学期の学期末テストの全日程は終わります。 みなさんも知っての通りに赤点を取った者には夏休み期間中に補習を受けて貰うことになっています。」

 

  IS学園は世界で唯一のISの専門学校である。入学倍率もかなりの物だ。日本にある一般の高等学校に競べて高いレベルの授業が行われている。 

 課題以外にも予習復習を行い、尚且つ部活動やISの訓練を同時に行う必要がある。 即ち文武両道が求められるのだ。

 さて、ここまで説明すればわかって頂けると思うが、先程のスコールの話に顔を青くした人物がいる、一夏だ。

 彼は中学時代、赤点を取ったことはなかった。だが優秀な成績だったかと言われれば、そうでもない。

 可もなく不可もない成績だった。 そんな一夏だか、IS学園に入学してからというもの学業よりISの訓練が中心となっている、ということは・・・・

 

 

 ( ま、不味い! 半分も出来てない! もし赤点を取ったら千冬姉から怒られる・・・赤点は35点以下のはず、現段階の自己採点ではぎりぎりいけるはず・・・・)

 

 と考えてている一夏だが、事前説明の赤点ラインをちゃんと聞いていなかったことが地獄を招くことになる。

 

 

  「さて、話は変わりますが来週の火曜日から2泊3日の日程で臨海学校が行われます。 準備を怠らないようにお願いしますね。 それでは今日はこれまでです。」

 

 そうスコールが締めくくり終わった。

 

 

 

 

 

 「臨海学校の準備は終わっているの兄さん?」

 

 学期末テストのために午前中で授業が終わったので、昼食を取り生徒会室に集まったところでマドカがシュートに聞いてきた。

 

 

 「だいたいは終わっている。後は携帯用の洗面道具や水着だな。」

 

 「ねぇシュート、明日みんなで買い物に行かない? 私も水着を新調したいしさ。」

 

 「それなら私と虚ちゃんも一緒に行くわ。」

 

 シャルの話に乗ってくる刀奈。

 

 

 「実はお嬢様と私も臨海学校に同行することになったのです。理事長からの指示で。」

 

 虚の話に驚く一堂。

 

 

  「ここ最近、イベントの度に事件が起きてるでしょ。 それで理事長が万が一の事態に備えて上級生の専用機持ちを同行させる事を決めたの。そして同行するのが私とサポート役の虚ちゃんなの」

 

 「確かに2回連続でイベントで事件がおきてるしね。用心に越したことはないよね。」

 

 刀奈の話に納得するシャル。

 

 

 「ということは、明日に備えて目の前の案件を今日中にある程度目星をつけないといけないわけだ。」

 

 シュート達は現在、ある問題を抱えていた。

事の発端は先月行われた学年別タッグトーナメントにある。 ローズガーデンの襲撃によりトーナメントは中止となった。

 一応、データ取りのために1回戦のみが行われて、そのデータが国や企業に参考データとして渡されたのだが、国や企業からはそのデータの少なさに不満が噴出してきた。 それは直接又は学生を通じて学園に寄せられた。 学生側も余りのクレームの多さに、改めてトーナメントを開催することを決定し国や企業に伝えた。

 問題はそれらの日程やレギュレーションを生徒会に一任したことだ。 予定外の行事の為に教師がやっていたら間に合わないと言われたのだ。

 

 

 「今のところ、2学期の行事として9月の第2週目の金曜・土曜が学園祭の予定です。 そして9月の最終週の土曜にキャノンボールファスト、10月の第1日曜日に体育祭が予定されてます、更に11月の中旬には1年生の修学旅行が予定されています。」

 

 「となると、10月後半から11月の頭に開催するのが日程としてはベストね。」

 

 虚が2学期の行事を読み上げたのを聞いて刀奈が判断する。

 

 

 「レギュレーションだけど、専用機部門・専用機を持たない代表候補生部門・一般学生部門に別けて開催してはどうかな? 」

 

 「そうですね、それなら全体的にバランスの取れた試合が出来るとは思います。」

 

 「そうね、試合の順番もそれぞれ交互に調整すれば見る方も楽しめるわね。」

 

 シュートの提案に虚と刀奈が同意する。

この後もトーナメント乗ってくるレギュレーションを決める為の話し合いが続けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 テストが終わった後、箒は自分の部屋のベッドに腰かけて携帯の画面を見つめていた。

 そこには[姉さん]と表示されている。

 

 

 (・・・・・・・どうしよう、姉さんに連絡するべきなのか・・・・だが、今更間にあわないだろうし・・・しかし・・・もしかしたら私への誕生日のサプライズプレゼントとして用意してるかも・・・・・)

 

 携帯の画面とにらめっこしながら自問自答する箒。

箒が悩むのは訳があった。 中止となった学年別タッグトーナメントの後に千冬からイスルギ重工の企業代表に選ばれたと告げられた。 更に一夏と同型の専用機が与えられるとも。 

 箒にとって思いがけない話で嬉しかった。 だが、それと同時に不安でもあった、新鋭企業の作るISが果してアルカンシェル社の第4世代機を上回る性能を持つのか? 

 それなら姉である束に頼むほうが良いのでは。 そんな考えが浮かぶが、クラス対抗戦の時の束の声明がその考えを押し止める。

 結局、結論を出せぬまま臨海学校が近づいてきた。 唯一の希望として臨海学校の2日目の7月7日が箒の誕生日であるため、束が誕生日プレゼントとして最新鋭の機体を準備しているかも、という淡い期待だけがあった。

 

 もっとも当の束は、箒に専用機をプレゼントするつもりは全く無く、これまでの箒の行動から専用機を渡せば傲慢になると考えている。 また、箒が束の名前を利用し続ける悪癖を断つ為には荒療治が必要と考えており、その為の準備を束はしているのだった。

 

 

 

  

 

 

 

 職員室では期末テストの採点が行われていた。

そんな中、ある生徒の答案用紙を採点し終えた真耶は頭を抱えてしまった。  そこに千冬とスコールがやってきた。

 

 

 「どうしました山田先生?」

 

 そう言って真耶に声をかけるスコール、そして机の上にある答案用紙を見て納得してしまう。 千冬もまた答案用紙を見て手で顔を覆い盛大な溜め息を吐く。

 

 

 「・・・・ハァァァァーーー あの馬鹿が!」

 

 「流石にこの点数は不味いですね織斑先生。」

 

 「どうしましょうか先ぱ・・・織斑先生?」

 

 3人が視線をやる答案用紙の氏名の欄には[織斑一夏]と書かれていた。

 答案用紙には赤色のペンでいくつもの印がしてあり、何れも30点から40点台だった・・・つまり赤点である。 しかも6教科全てで・・・

 

 

 「夏休みの課題もあるから、彼は夏休み遊ぶ暇は無さそうね。」

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 目に見える形で示された弟の現状は千冬を大きく打ちのめした。 確かにIS学園の授業レベルは高いが、それでも真面目に授業を受けて居れば少なくとも6教科全てで赤点を取ることは無い。 

 そして更に追い討ちをかける事が起きる。

 

 

 「織斑先生、実は学科だけで無く実技の方でも・・・」

 

 真耶が申し訳なさそうに告げる。

 

 

 「織斑先生も知っての通り、専用機持ちの実技は一般生徒とは別の物を受けてもらいます。 一応、彼も専用機持ちですので、そちらを受けさせたのですが射撃と射撃回避が赤点です。」

 

 それを聞き肩を落とす千冬。 姉の面目丸潰れである。 だが、いまは一夏を叱る事が出来ない。 月曜日のテストの返却が終るまでなにも出来ない。

 

 

 

 

 

  

 




 
 前話で掲載するのを忘れていたラウラの専用機のデータを掲載します。 本格的な出番は臨海学校からになります


 ゲシュペンスト・レーゲン  第3世代型IS

 搭乗者 ラウラ・ボーデヴィッヒ

 外見 量産型ゲシュペンストMKーⅡ改

 ドイツがアルカンシェル社に依頼してグリシーヌをベースにして作ったラウラの専用機。
 近接・遠距離をこなせる万能型IS、またシュヴァルツェア・レーゲンのコアを移植した為に親和性が高い。
 AICの改良型が登載されており、使いやすくなっている。
 ちなみに機体の命名はエクセレンである。(機体を見たエクセレンが「わーお、ヴァイスちゃんと違って恐持てなお顔、まるで幽霊[ゲシュペンスト]ね」 と言ったところから名付けられた。)



 
 武装
 リニアガン X2 : 翠華月と同型の物。


 フォールディング・ツーウェイ・キャノン X 1: リュミエールに装備されているマグナ・ビームライフルの発展型。 速射の[ショートレンジ・S]と単射・高出力の[ロングレンジ・L]の2つのモードがある。 


 プラズマバックラー ×2: 格闘専用特殊武装。両腕に装着された着脱可能なバックラー型のプラズマステーク。 


 スプリットミサイル ×8:発射後に多弾頭ミサイルを内部から射出するミサイル。 背面のバックパック に内蔵されている。 


 プラズマカッター ×2:腰のスカート部分に収納されている、エネルギー刃。 通常形態の他にラウラの希望により、刃の短いナイフ形態への切り替えが可能。

 コールドメタルナイフ ×1:コールドメタルソードのナイフ版


スラッシュリッパー ×4:思念誘導型の手裏剣のような形状をした実体刃。 AI補助により思念誘導の負担が大幅に軽減されている。


 AIC改 :シュヴァルツェア・レーゲンに登載されていたAICの改良型。 マーカーで指定した場所を中心として直径3mの球形力場を形成し、その力場内部に捕らえた物の動きを10秒間止める。 マーカーを指定する際にのみ意識を集中させればいいが、その分拘束力が弱い。その代わり同時に5つまで力場を形成することができ、重ねて形成する事で拘束力を強くすることが出来る。 また、以前のAICと同じように使う事が出来るが、その際は集中し続ける必要がある(その際はマーカーでの力場形成が出来なくなる)。


専用パッケージ:ガルーダ (外見 FMラプターシュナーベル)

ラプターとパワードの能力を合わせ持つパッケージ
大型レールキャノンと大型ウイングを持ち、高機動と攻撃力を実現。 背面に装着されるが、単体でも自立型支援機として使用できる。 また支援機活動時に、その上に乗りサーフボードのように操る事が出来る。


武装
 ツインレールキャノン ×2:大型のレールキャノン。 

 ホーミングミサイル ×30:自動追尾機能を持つミサイル



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話  臨海学校

 

 

 臨海学校・・・・IS学園1年生の1学期最後の行事である。

 日程は2泊3日で、初日は海での自由時間。 殆どの生徒がこれを最大の楽しみとしている。 2日目は一般生徒と専用機持ちに別れての訓練。 3日目は2日目の訓練のレポートを纏めた後に昼食までの間、自由時間となり昼食後に学園に向かって出発となる。

 

 

 初日、シュート達は特にトラブルもなく海でおおいに遊んだ・・・もっとも一夏がラッキースケベのスキルを発動させて、泳いでいる最中に清香の水着のトップスを取ってしまったり、転けた拍子に神楽を押し倒したり、ビーチバレーでナギのお尻の下敷きになったりして、箒の制裁を受けたりしていたが、それ以外は平穏無事に過ぎた。

 

 

 そして、今日は2日目。 一般生徒達は訓練機を使用しての海中並びに砂浜での起動訓練。そして専用機持ち達は国や企業が運びこんだ、武装やパッケージのテストを行う。

 

 シュート達も、それぞれ新しい武装やパッケージのテストする為の準備をしていた。

 

 

 「シュート殿、私のゲシュペンスト・レーゲンの専用パッケージが完成したと聞いたが?」

 

 ゲシュペンスト・レーゲン・・・・アルカンシェル社がラウラの専用機としてグリシーヌをベースに作り上げた万能型の機体である。 

 

 「あぁ、今まではグリシーヌのパッケージを代用して使用して貰っていたが、今日からは専用パッケージになる。仮称[ガルーダ]、ラプターとパワードの能力を合わせた物だ。」

 

 

 そう言ってシュートはラウラをコンテナの前に誘導する。

 

 「ラウラ、私が手伝うからインストールしようか。」

 

 「む、すまないなマドカ。 だが、自分の機体の方は何もしなくていいのか?」

 

 「私の機体は特に追加の装備や武装が無いからな。兄さんとシャルはあるけど、そっちは刀奈や簪が手伝うみたいだ。」

 

 「だが、2人のコンテナが見当たらないが?」

 

 そう言って周囲を見渡すラウラ。目の前にはラウラの装備が入ったコンテナが1つあるだけだ。

 

 

 「俺とシャルのは既に臨海学校前にインストールしてあるんだ。」

 

 そう答えるシュート。 シャルロットのソレイユは確かに臨海学校前にインストールしたのだが、シュートのリュミエールは違う。 リュミエールのコアが自ら考えて生み出すのだ。 

 

 

 「ちなみにどの様な物なのだ?」

 

 「私のはアリーナでは試す事の出来なかった高機動用のフライヤーシステムと水中用のダイバーシステムの2つだよ。」

 

 「俺のは搭乗型の高機動砲戦ユニットだ。」

 

 そうラウラに説明してシュートは自分達の装備のテストをするために、そこから離れようと向きを変えた時、ある一団が目に入った。 石動光子と白衣を着た数人の女性が2つのコンテナの前にいた。

 そしてそこに向かって歩く3人の男女・・・千冬に一夏、そして箒。

 

 

 「イスルギ重工社長の石動光子ね。織斑君の専用機を持ってきたみたいね。 でも、何故篠ノ之さんが? まさか彼女に専用機を?」

 

 いつの間にか側にきていた刀奈がそう言う。その疑問にスコールが答える

 

 

 「そう見たいよ。イスルギ重工は篠ノ之さんを企業代表操縦者に任命するそうよ。」

 

 「篠ノ之束の妹というネームバリューは企業の看板には最適だろうしな。 もっとも本人の技量がそれに相応しい物ならだけどね。」

 

 シュートがスコールの話を聞き補足する。

 一夏と同じく箒もまた剣のみの戦いに拘り、銃火器を使う事はない。 もっとも一夏と違い、授業での成績は悪くわない。

 

 

 「・・・・・・・何も起こらなきゃいいけど。」

 

 簪の呟きが全員の心に響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬は一夏と箒を伴って光子の元に向かっていた。

 

 

 「それにしても驚いたな、箒も俺と同じ所から専用機をも貰えるようになっていたなんて。」

 

 「あぁ、織斑先生から機体を受けとるまでは他言無用と言われていたで話せなかったのだ。」

 

 「それなら仕方ないな。 箒の専用機も俺のと同型なんだろう、それなら心強いな。」

 

 「私語はそこまでだ二人とも。 お待たせして申し訳ない。」

 

 「いえいえ、むしろ機体の完成を今日までお待たせしたのは此方ですので。 さて、あなた方とは初めてお会いしますわね。私があなた方二人の専用機の製作いたしましたイスルギ重工の社長を務めます石動光子と申します。 」

 

 そう言って光子は二人に挨拶をする。 ちなみに光子の側には大きなパラソルを掲げたスーツ姿の男性が立っており、光子がその影中心になるように持っている。

 更にそのパラソルの柄からコードが伸びて男性の背負うリュックらしき物につながっていた。 光子が、この日差しの中で汗1つかいて無いのは、恐らくパラソルから冷風が吹いており光子を快適な気温で過ごさせているのだろう。

 

 

 「それでは早速ですが、お二人の専用機のご説明と最適化と一次移行を行います。」

 

 光子がそう言うと2つのコンテナが開き、中から細部が異なる白と赤の機体が姿を現した。

 

 

 「お二人の専用機は当社が開発した第3世代IS[ガーリオン]をカスタマイズしたものです。白色の機体が織斑一夏さんの機体で[ガーリオンカスタム・雪羅]機動力重視の機体です。 赤色の機体が篠ノ之箒さんの機体で[ガーリオンカスタム・紅百合]防御力重視の機体です。」

 

 そう言って白衣の女性がタブレットを取り出して通常のガーリオンの姿を呼び出して比較する。

 雪羅は、両肩のスラスターが大型化され、更にバックパックにガーリオンには無い小型のスラスターが増設されている。

 紅百合は、両肩のスラスター部分に打鉄のシールドによく似た大袖型の装甲が追加され、腰の部分にも似たような装甲が追加されている。

 

 

 「それでは最適化を開始しますので、搭乗してください。」

 

 女性がそう進めるので二人はそれぞれの機体に乗り込む。

 二人が作業を開始したのを見ながら千冬は光子に話かける。

 

 

 「ところで一夏の機体だが、例の物は?」

 

 「それなんですが、今の段階ではまだ登載されておりませんの。 例のシステムのデメリットを解消法のプランが幾つか出てますので、それを1つずつ試している最中ですわ。」

 

 そう答える光子。 そう雪片弐型を一夏の機体に装備させる予定だったのだが、そのままでは問題があると思った研究室が解消法を考えて試しているのだった。 

 

 

 「む、それならば仕方ないな・・・・ただ出来るだけ早い内に装備出来るようにしてくれ。」

 

 「わかっておりますわ。それから、篠ノ之さんの紅百合ですが高機動ブースターユニットをインストールしてあります。 時間があればテストをお願いたします。」

 

 一夏達の作業を見ながら二人はガーリオンの事で話を続ける。

 

 

 

 一次移行も終わり、いよいよ機体テストを始めようとした瞬間だった。

 

 

 「お、織斑先生~ ミューゼル先生~ た、たいへんです!!」

 

 真耶が一般生徒達のエリアからタブレットを抱えて走ってくる。

 

 

 

 

 

 

 




 
 一夏と箒の機体を紹介します。 独自の機能・武装・解釈がありますのでご注意を
 


 ガーリオンカスタム・雪羅  第3世代IS
 
 イスルギ重工の第3世代ISガーリオンを一夏専用に近接戦闘と機動性を強化したカスタム機体。
 両肩のスラスター部分が大型化され、更に背中の部分に小型のスラスターが増設されている。
お また、射撃の命中率が壊滅的な一夏にバーストレールガンを持たせても意味が無いと判断され代わりに取り扱いの簡単なサブマシンガンも装備することに。


武装
アサルトブレード ×1:打鉄改に装備していた物と同じ仕様の剣


サブマシンガン ×1:P90タイプのサブマシンガン


脚部内蔵型ミサイルポッド ×2:脚部に内蔵されているホーミングミサイルを4発装填されたミサイルポッド。


ソニックブレイカー : 機体前方にエネルギーフィールドを展開して突撃する。 ちなみに雪羅は、加速度が通常のものより高い為に攻撃力が高くなっている。




ガーリオンカスタム・紅百合  第3世代IS


 イスルギ重工がガーリオンを箒用にカスタマイズした
防御機能を強化した機体。
 両肩のスラスター部分に大袖のようなシールドと、腰の部分にも同じような装甲がつけられている。また、装甲そのものも厚くしてある。その為、雪羅と比べると機動力が劣る、その分防御力は格段に優れる。


武装
アサルトブレード ×1:雪羅に装備されている物と同じ


アサルトブレードⅡ ×1:紅百合用に作られた専用ブレード。 ブレードの峰の部分に銃身があり、トリガーを引くとレーザーが発射される。 威力はあるが射程は短い。
 

バーストレールガン ×1:携帯型レールガン。 炸裂弾を使用しているため威力は高め。


サブマシンガン ×1:雪羅の物と同じ


ソニックブレイカー :雪羅の物と同じ。 ただし、紅百合の方が加速が劣る為に威力は落ちる。


ブースターユニット :背面に装着する大型ブースター。 これを紅百合に装着した場合、機動力は雪羅を上回る。 ただし、その加速度故に小回りがきかない。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話  作戦会議

 

 

 時間を遡り、10時間前のハワイ沖

 

 そこには一隻の空母の姿があった。 何時もなら甲板には戦闘機やヘリの姿が並んでいるが、今はその姿はなく代わりに白色の大きめのコンテナが鎮座している。

 そのコンテナを艦橋の窓から見下ろす一人の女性将官。

 

 

 (・・・・・ごめんね、私の力では貴女を護る事が出来なかった。)

 

 女性将官・・・ナターシャ・ファイルスはコンテナの中で様々な計器に繋がれているであろう自分のパートナーであるIS[シルバリオ・ゴスペル]を想い悲しむ。

 

  本来なら競技用であるパートナーが軍のプロジェクトによりアラスカ条約で禁止されている軍用ISへの改造を受け、更にイスラエル軍との協同研究による無人稼動実験が行われる事になったのだ。 

 ナターシャは必死になって中止を求めたが、1操縦者の意見は黙殺された。 すべてが機密扱いのために公に訴える事も出来ず、また仮に訴えたとしても事前に妨害されナターシャは機密漏洩の容疑で拘束されただろう。

 

 みずからの無力さを感じ軍を辞めようと思ったが、パートナーであるゴスペルの事が気になり、それも出来ずにいた。 

 ナターシャは暫くコンテナを見つめた後に、艦橋をあとにした。 この時、彼女は知るよしもなかった。 ナターシャがコンテナを見つめていた時に悪しき企みが行われていた事を。

 

 

コンテナ内

 

 黒いラバースーツに奇妙な形状のヘルメットを着けた人形が台に乗せられており、様々な計器から伸びるコードが取り付けられていた。 その人形にタブレットのコードを取り付けて作業する黒髪でおかっぱ頭の女性。

 もう一人、中央の台座に固定されたIS・・・シルバリオ・ゴスペルの内部に何やら取り付ける作業をする褐色の肌に銀髪で鋭い目付きの女性。

 

 

 「無人制御デバイスへのインストールは終わったわ。 ダミープログラムもちゃんと起動しているわ。そっちはどうシエンヌ?」

 

 ゴスペルの作業をする女性に声をかけるおかっぱ頭の女性。

 

 

 「此方も取り付けは終わったぜアギーハ。偽装も完璧だ。」

 

 シエンヌにアギーハと呼ばれたおかっぱ頭の女性は金属製の鞄にタブレットを仕舞い

 

 

 「それじゃあ撤収して消えるわよ。」

 

 「りょーかい。 で、あの女はどうすんだ?」

 

 「あの科学者なら今回の一件の首謀者として、この船で最後の時を向かえて貰うわ。船を道づれにしてね。」

 

 「私達の脱出方法は?」

 

 「暴走後に、船から転落して行方不明になる予定よ。」

 

 アギーハはシエンヌにそう告げると、二人で身を潜めながらコンテナから出て行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は戻り、日本。

 

 

 旅館の宴会場の一室に集められた専用機持ち達。 宴会場は臨時の司令室として誂えられ大型モニターやパソコン等が並べられている。

 大型モニターの横に千冬とスコールが立ち

 

 

 「よし全員注目、これより現状を報告する。 今から2時間前にハワイ沖にてアメリカとイスラエルが共同開発した第3世代型、軍用IS[銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)] 今後、福音と呼称する。 福音が無人稼動実験の最中に暴走、制御不能となったうえに監視区域より離脱したと連絡があった。」

 

 千冬の言葉に全員(一夏を除く)に緊張がはしる。

 

 

 「衛星による追跡と分析の結果、この旅館の2キロ先の沖合いを通過することがわかった。 更に進行方向から首都圏に到達する可能性があるとの事。」

 

 「到達時間は今から約1時間後よ。 アメリカとイスラエルは自分達での追跡・確保・撃墜が不可能な為、IS委員会を通じてIS学園への協力を要請したわ。 協議の結果、この旅館にいる専用機持ちで対処することが決まったわ。 」

 

  千冬とスコールの話に刀奈が

 

 「ちょっと待ってください、なぜIS学園に? まずは在日米軍や自衛隊が出るのが本筋では無いのですか?」

 

 「在日米軍、自衛隊には福音に対して対処可能なISが現在無いことで協力出来ないと連絡があったそうよ。 ただ海上封鎖に海上自衛隊や海上保安庁が協力してくれるとの事だ。」

 

 「在日米軍にしろ、自衛隊にしろ殆どが第2世代型の量産機よ。」

 

 千冬とスコールが刀奈の疑問に答える。

 

 

 「説明を続ける、指定区域を海上自衛隊と海上保安庁と訓練機に乗った教師陣が封鎖警戒する。 そして専用機持ちが対処する。」

 

 「先生、目標の具体的なスペックを教えてください。」

 

 セシリアが発言すると千冬が、全員を軽く睨み。

 

 

「いいだろう、ただし重要機密の為に外部に漏らす事は一切認めない。情報漏洩が判明した場合は身柄拘束の上に裁判を受ける事になると思え。」

 

 その言って千冬はパソコンを操作して大型モニターに表示する。 

 

 

 「広域殲滅を目的とした特殊射撃兵器・・・・私のブルーティアーズや簪さんの山嵐より厄介ですわね。」

 

 「しかもこの機動性、私の甲龍は勿論だけど並みの機体じゃとても追い付かないわ。」

 

 「それだけじゃ無いわ、格闘兵器のところが空欄になっているわ。 もしかしたら追加されている可能性もあるわ。」

 

 刀奈の言葉に簪が

 

 

 「でも、そんな事あるの? 嘘とは言わないけど、データの一部を隠して此方に提出するなんて・・・」

 

 「いや、更識生徒会長の言うことはあながち間違いとは言えんぞ。 軍が重要機密の全てをおいそれと正直に出して来るとは思えん。 どの国であれ軍とはそういうものだ。」

 

 「生徒会長やラウラが言うことが本当なら、このスペックデータの数値も実際には2割3割増しの可能性もあるわね。」

 

 シャルの言葉に全員(一夏を除く)が緊張する。 全員が対応策を考えようとした。 その一方で一夏と箒は

 

 

 (みんな何でそんなに騒いでいるんだ? 無人制御ってことはドローンみたいなヤツだろ。ただの的、落とすのなんて簡単じゃないか。)

 

 (これはチャンスだ! ここで私と一夏のコンビで落とせば!)

 

 一夏は的外れな事を考え、箒はチャンスと思い千冬の顔をみる。 すると千冬は箒の視線に気づいて軽く頷く。箒の考えをわかっているとばかりに。 そして

 

 

 「これより作戦を説明する。」

 

 全員が対応策を考えようとした瞬間に千冬から告げられ驚く。

 

 

 「対象が高機動である事を踏まえて、此方も高機動の機体で対応する。 高機動型のIS2機で電撃奇襲を行い、殲滅兵器の使用する間を与えず一気に畳み掛ける。 出撃するのは織斑と篠ノ之だ。 この二人の機体は高機動を売りにしており、尚且つ攻撃力も高い。 何より同型機であるためにコンビネーションにも問題無いという理由からだ。」

 

 「待ってください織斑先生、その作戦はいくらなんでも無理があります。」

 

 スコールが千冬の作戦を否定する。

 

 

 「第一、二人は新しい専用機を受け取ったばかりで機体に慣れていません。 更に篠ノ之さんは専用機持ちに任命されたばかりで、その責務を完全に理解しておりません。 第二に二人は実戦経験が皆無です。いきなり実戦に放り込むのは問題があります。 少なくともボーデウィッヒさんや更識さんのように治安維持等の行為に携わった経験のある人間が加わるべき事案です。第三に、作戦そのものが、機体の能力に依存しすぎており不確定要素が多すぎて、成功率があまりにも低いと思います。」

 

 スコールがそこまで言ったところで真耶が

 

  

 「学園のスーパーコンピューターとリンクして成功率を割り出します。現段階での福音のスペック、二人の成績と機体スペック等から作戦成功率ですが41.3%です。」

 

 成功率50%以下、あまりの成功率の低さに千冬は言葉を失う。 千冬からすれば、スコールからの反対意見が出るとは思っておらず、更に成功率がここまで低いとも予想外だった、少なくとも70%台はあると思っていた。

 

 

 「そんな数値だけの目安など当てにはなりません。気合いさえあれば、どんな作戦だろうと成功させてみせます。」

 

 「気合いだけでは数値の差を埋めることなんて出来ないわ。 何より実戦は貴女の力を試す場でもなければ力を披露するためのステージでも無いわ。そういうのは模擬戦とかでやってちょうだい。 失敗したら後が無いの、貴女には首都圏にいる全ての人達の命を背負う覚悟はあるの?」

 

 スコールは箒の考えを読み取り、切り捨てる。反論しようとするも千冬に目で制止される。 そして千冬がスコールに

 

 

 「では聞くがミューゼル先生には何か策があるのですか?」

 

 「えぇあります。簡単に言えば専用機持ち達全員による波状攻撃です。」

 

 そう言ってスコールは大型モニターに地図を表示して説明を始める。 そこには福音の予想進路と少し離れた所にXポイントが示されていた。

 

 

 「まずは専用機持ちを幾つかのグループに分けます。とりあえずAチームには、このXポイントで待機してもらいます。 次にBチームは、このXポイントの後方にて待機。そしてCチームは福音を追跡してXポイントに誘導してもらいます。 ちなみにこのXポイントは無人の小島がありますので目標にしてください。その後は全員による波状攻撃です。 Cチームは機動性を利用してヒット&アウェイを。Aチームは小まめにシフトチェンジしながら反撃させないようにしてください。 BチームはAチームとCチームの攻撃の合間を埋めるようにアタック。この繰返しです。 時間がかかりますが、現時点での最善策です。」

 

 そこで言葉をきり全員をみる。そして話を続ける。

 

 

 「チーム分けですが、Aチームは機動性を重視して織斑君、篠ノ之さん、オルコットさんの3名。 Bチームはアルカンシェル君、更識生徒会長、ボーデウィッヒさんの3名。Cチームには更識簪さん、アルカンシェルさんの2名。 そして鳳さんとデュノアさんは遊撃手として、いつでもどのチームに加われるようにBチームの後方で待機、そして消耗した人物とシフトチェンジして参加。 交替した人物は近くに補給船を準備するので、そこでエネルギーや弾薬の補給と簡易整備を受けて再出撃。 恐らく長期戦になると思います。」

 

 そこまで説明すると全員(一夏と箒を除く)が考える。 スコールの言ったように現時点での最善策だと思ったからだ。

 

 

 「作戦成功率は75.9% 幾つかの不安要素がありますが、スーパーコンピューターは作戦内容をもう少し詰めれば成功率は上がると示しています。学園側からもこの作戦ならOKとの連絡が。」

 

 「どうですか織斑先生。」

 

 「・・・・・・・わかったいいだろう。」

 

 「それじゃあ専用機持ち達は全員出撃の準備にかかって。 パッケージや装備のインストールが終わってないなら急いでね。 出撃は20分後よ。」

 

 「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」

 

 

 こうして福音に対する布陣が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (何が力を披露するステージではないだ!! 披露して何が悪い! 命を背負う覚悟だと? そんなもの必要ない! 結果が全てだ、結果さえ出せば如何なる文句も跳ね返せる)

 

 箒は準備をしながら憤慨していた。準備も殆どすることなく2、3分で終わり箒は考えていた。

 

 

 (第一、全員でやっては全く見せ場が無いではないか! ・・・・・・そうだ!)

 

 箒の脳裏にある考えが浮かんだ。 そしてその為の行動を開始するのだった。 一夏を巻き込んで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話  福音

 

 準備が終わり、司令室となっている宴会場に集まった専用機持ち達。 だが、そこに一夏と箒の姿がなかった。

 

 

 「織斑君と篠ノ之さんが遅いわね? 誰か二人を見ていない?」

 

 スコールの問いかけに全員が首を横に振る。 そして気づく千冬の姿も無いことに。 スコールが再び口を開こうとした瞬間だった

 

 

 「えっ?! これは・・・・・た、大変です。この旅館の敷地内から2機のISが飛び立ちました! しかもこの識別は織斑君と篠ノ之さんのガーリオンです。『織斑君、篠ノ之さん、応答してください。 二人共、返事をください。』 駄目です、此方との回線を閉じているようです。」

 

 真耶の報告に緊張がはしる。

 

 

 「ちょっと待て、あの二人無断出撃したのか?」

 

 「まさか? ・・・・もしかして最初の作戦を実行する気じゃ!」

 

 シュートの話に刀奈が千冬の作戦の実行する可能性を告げる。ちょうどそこに千冬が入って来る。

 

 

 「すまない遅くなった。ん?! どうした山田先生?」

 

 「た、大変です織斑先生! 織斑君と篠ノ之さんが勝手に出撃しました!」

 

 「な、なんだと! それは本当なのか?」

 

 「本当です織斑先生。 どうやら二人は織斑先生が最初に発案した作戦を実行するつもりのようです。 ともかく、このままでは不味いので全員直ぐに出撃してください。それから山田先生は織斑君達との交信を試みてください。」

 

 スコールが直ぐに全員に出撃を命じる。

 

 

(・・・・・・まさか無断出撃とは。一夏か?それとも箒が先導したのか? どちらにせよ不味いな・・・何とか誤魔化す方法を考えねば)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、一夏と箒は予測ポイントに向かっていた。

 

 

 「なあ、箒。本当に勝手に出撃してよかったのか?」

 

 「さっきも言った通り、私達二人で千冬さんの作戦を成功させて千冬さんが正しい事を証明するのだ。 そうすれば千冬さんもきっと喜んでくれる筈だ。」

 

 「でも命令違反をしてるけど・・・・」

 

 「任務さえ成功させれば帳消しになる!結果さえ出せば、誰も文句は言わない!」

 

 「そうかな?・・・・見えた! 」

 

 二人の視線の先に高速で飛行する福音の姿があった。

 

 

 「一夏、タイミングを合わせて同時に仕掛けるぞ!」

 

 「わかった。」

 

 そう言って二人は機体の位置を調節する。

 

 「「ブレイクフィールド展開! 出力全開!」」

 

 二人の機体がエネルギーフィールドに包まれ加速する。

 

 

 「「 ソニックブレイカー!!」」

 

 福音目掛けて突撃する二人。 福音に凄まじい勢いで接近していく二人。

 

 

 「やった! な?!」

 

 命中する直前だった、福音は一気に加速して突撃をかわす。 一瞬喜んだが避けられて驚く箒。

 攻撃を避けた福音は

 

 

 『敵対行動ヲ確認。 コレヨリ迎撃モードニ移項』

 

 福音は二人に対して戦闘モードになり翼の一部が砲身となり無数の光弾が発射される。 

 間一髪で避ける二人

 

 

 「うわっ?! 何だよこの攻撃!」

 

 「くっ?! 一旦距離を取ってからもう一度行くぞ一夏!」

 

 「わかった箒! 今度は別々の方向から挟み撃ちだ!」

 

 そう言って光弾を掻い潜り、左右に別れる二人。 距離を取った所で再び突撃を開始する二人。

 

 

 「「ソニックブレイカー!!」」

 

 そんな二人に無数の光弾が襲う。 ブレイクフィールドで多少は打ち消せるものの、あまりの数にブレイクフィールドの維持出来なくなってきた。

 

 

 「駄目だ箒! ブレイクフィールドが維持出来ない。 再チャレンジだ。」

 

 「くっ?! 今度は上下からだ。」

 

 再び離れて体勢を立て直しブレイクフィールドを展開した時だった。 無数のビームが福音に命中する。

 

 

 「「な?!」」

 

 ビームが発射された方角には無数の機影が見えてきた。 

 

 

 (くっ?! もう来たのか!)

 

 箒には此方に近づいて来るシュート達の姿が見えた。セシリアのブルーティアーズを先頭に新しく装備された特殊武装ユニット[AMガンナー]に乗るシュートのリュミエール。 更にAMガンナーに掴まって刀奈の凰姫とラウラのゲシュペンスト。

 

 

 「織斑、篠ノ之、何故勝手に出撃した! 命令違反だぞ!」

 

 「ふん、お前達が遅いだけだ。 そこで見ていろ私と一夏がコイツを倒して見せる。いくぞ一夏!」

 

 「待ちなさい篠ノ之さん!」

 

 シュートの話に耳を傾けずに福音に向かう箒。 刀奈が制止するが、それをも無視する。

 そして福音に向かってブレイクフィールドを展開して突撃した。 福音まであと僅かという所で異変が起きる。 二人の機体を覆っていたエネルギーフィールドが消失したのだ。

 

 

 「「えっ?! フィールドが消えた!!」」

 

 一夏と箒はブレイクフィールドが消えたことに驚く。 そして気づく、エネルギーの残量が僅かな事に。エネルギーの残量が少なくなった事によりセーフティが働きフィールドが消失したのだ。 

 現場までの高速移動に加えて、ソニックブレイカーの無駄撃ちによりエネルギーの消費量が多くなったのだ。

 

 

 「ほ、箒! エネルギーがもう無くなりかけだ!」

 

 「くっ?! 」

 

 寸前でフィールドが消失したことで動揺する二人。そんな無防備な状態の二人を見逃す筈もなく福音は無数の光弾を放つ。

 

 

 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!」

 

 「い、いちかぁぁぁぁぁぁーーー?!」

 

 アサルトブレードを呼び出して三つ葉葵で防ごうとするが間に合わず、至近距離で光弾を喰らう一夏。 そしてそのまま海に落下していく。  

 一夏が海に向かって落下していくのを呆然と見続ける箒。 その体は震えていた。 今更ながら実戦の恐ろしさを実感したようだ。

 

 

 「鈴さんは織斑を救出して旅館まで運んでくれ。セシリアは篠ノ之を補給船まで連れて行ってくれ。 」

 

 シュートは一夏をグラビティテリトリーで護ろうとしたものの間に合わなかった。距離が離れていたこともあったが、何よりも福音の攻撃が至近距離で行われたことで防ぎようがなかったのだ。 

 シュートは一夏の救出と箒の戦線からの離脱を指示し、福音への対応を始めた。

 

 

 「刀奈とラウラは俺と一緒に攻撃。シャルとマドカと簪ちゃんは援護射撃で、いくよ!」

 

 シュートの指示と同時に全員が行動を開始する。

 

 

 「先ずは動きを止めさせてもらう!」

 

 ラウラがそう言ってAIC改を発動させて福音を拘束する。そのままF2Wキャノンを撃ちこむ。

 それと同時に刀奈が左腕を突き出すと

 

 

 「影槍乱舞」

 

 槍状のエネルギー弾が無数に発射される。 ラウラと刀奈の二人の攻撃が動きが封じられた福音に命中する。

 攻撃の煙が晴れると、傷だらけの福音が姿を現しそのまま海へと落下していった。

 あまりの呆気なさに全員が言葉を失う。

 

 

 「えっ?! 倒したの?」

 

 「軍用ISが、こうもあっさりと・・・・」

 

 刀奈とラウラ、攻撃した二人はまるで実感が湧かなかった。 カタログスペックの上ではSEは競技用ISの10倍以上ある筈なのに、倒せてしまった。

 

 

 「兄さん・・・・」

 

 「あぁ、何か変だ。 あまりにも呆気なさすぎる。」

 

 「ともかく機体を回収した方がいいんだよね? このまま私がダイバーモードで回収に行くね。」

 

 「待ってシャルロット、何か変だよ!」

 

 シャルがソレイユをフライヤーモードからダイバーモードに換装して海に潜ろうとした時だった。海面に異変が起き簪が制止する。

 海面が泡立ち、赤黒くなっていく。

 

 

 「全員散開!」

 

 シュートの号令と同時に全員が散らばる。

それと同時に海面から福音が飛び出してきた。その姿は墜落する前と何ら変わらず、傷だらけであったが

 

 

 「Wooooooooooooーーーー」

 

 叫び声と同時に傷が修復されていく。 それだけでなく、その姿が変わっていく。

 両手両足が2回り程巨大化し、獣のように鋭く尖った爪が生え、背面スラスターが先程までと違い生物の・・・蝙蝠の翼を連想させるような形状となっていた。 そしてなにより先程までは存在していなかった尻尾のような物まであり、その姿はまるで悪魔を連想させるのであった。

 

 

 「セカンドシフト・・・・・・」

 

 誰かの呟きが響く。

 

  戦いはまだ始まったばかりだということを思い知った。

 

 

 

 

 

  

 

 

  

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話  凶獣との戦い

 

 

 「シュートさん、ブルーティアーズのエネルギーが3割を切りました。」

 

 「セシリアはベース船に戻って補給を。シャルは前衛に。」

 

 「シュート、悪いけど私もエネルギーがヤバイわ。」

 

 「わかった鈴も補給に。」

 

 セカンドシフトした福音と交戦を始めて30分を過ぎ、シュートは徐々に疲弊し始めていた。

 攻撃が当たらない訳ではない。 そして福音の攻撃を受けている訳でもない。 だが、シュートは疲弊していた。

 

 

 「スペシウム光線!」

 

 水平に伸ばしていた両手を胸の前で十字に交差させた簪の腕からビームが発射される。 それは福音にまともに命中し、左腕を完全に破壊する。

 

 

 「クラッシュアーム・ストライク!」

 

 フライヤーモードのまま、右腕をストライカーのクラッシュアームに換装し福音の右腕に撃ち込むシャル。クラッシュアームは福音の右腕を破壊する。 

 

      だが・・・・・・・

 

 

 「GAAAAAAーーーー」

 

福音が雄叫びを上げると、瞬く間に破壊された腕が再生していく。

 

 

 「クソ! また再生した。 いくら攻撃が当たっても直ぐに再生するんじゃ切りがない。」

 

 「どうするシュート、このままでは此方が不利よ。」

 

 「生徒会長の言うとおりだ。何か作戦を練り直さないと不味いぞ。」

 

 「わかっているよ刀奈、ラウラ。 だが、実際のところこうして攻撃を続ける以外の方法だと、ヤツの再生が追い付かない程のダメージを一気に与えるしかない。」

 

  「でも兄さん、ヤツの再生スピードは異様だよ。」

 

 マドカの言うとおりだった。 ダメージを与えた瞬間に瞬時に再生するのだ。

 

 

 「シュートさん、私の弾薬の残りが少なくなってきた。」

 

 簪がそう言ってきた。 シュート達の機体は束が作り上げた特製のものだ。 それ故に拡張領域は通常の物よりあり、予備弾薬やエネルギーカートリッジはかなりの量があったのだが、それでも攻撃しても再生される展開に追い付かなくなってきた。

 

 

 「簪はセシリアと鈴が戻って来たら入れ違いで補給に。」

 

 シュート達はこうして話をしている間も攻撃を続けるが、やはり瞬く間に再生していく。

 

 

 「リープスラッシャー!」

 

 「蒼流旋」

 

 「ホーミングミサイル」

 

 「リフレクト!」

 

 シュート、刀奈、ラウラの攻撃に加えて福音のビームは跳ね返すマドカ。 それらは全て命中するも、やはり瞬く間に再生する。

 

 

 「それにしても一体どういうカラクリで再生しているのかしら? 自己再生機能なんて提出されたデータには無かったわよ。」

 

 刀奈の疑問を口にする。

 

 

 「セカンドシフトした際に単一仕様能力が発現したんじゃないのかな?」

 

 シャルがそう言うが、シュートとマドカは別の可能性を考えていた。

 

 

 「そのセカンドシフトだが、あまりにも奇っ怪だ。広域殲滅型の筈なのに今は近接戦闘に特化している。」

 

 ラウラは福音のセカンドシフトに疑問を口にする。

そう、今目の前で戦っている福音の戦闘方法は先程までと違い、手足の爪で切りつけてくるのをメインにたまには手からビームを撃ってくる、と近接戦闘に特化した戦法になっていた、しかもスピードも激減し鈴の甲龍とかわりなかった。

 だからこそ、シュート達は被弾することはなかった。ちぐはぐなセカンドシフト、これまでの戦闘経験を無視した形はあまりにも異様だった。

 この時点でシュートとマドカは福音のセカンドシフトと自己再生の秘密に気づた。 しかし、この場でその事を口にすることはなかった。それは自分達の秘密に関わる事になるからだ。 

 

 

 『兄さん、福音の自己再生能力とセカンドシフト・・・自己進化能力はもしかして・・・』

 

 『あぁ、あれと同じような物が組み込まれているのだろう。ただし似て非なる物、その証拠に共鳴していない。』

 

 『どうする兄さん、このままではらちが明かないし、開放しようか?』

 

 『・・・・・・・・ん?! 福音の様子が!』

 

 福音に攻撃しながら次の策を全員で話をしている合間に個人秘匿通信で話をしていたシュートとマドカ。

 そんな中、全員の目の前で破損した部分を再生させていた福音に異変が起きた。

 動きが止まり、全身が細かく震動している。

 

 

 「GoAAAAAーーーーー」

 

「まさかサードシフト?!」

 

 福音は奇妙な叫びと共に黒色の光を全身から放ち始める。 それを見て刀奈はサードシフトを始めたと口にする。 だが、シュートがそれを否定する。

 

 

 「イヤ違う。 よく見てみろ、何か苦しんでいる。」

 

 シュートの言葉通り、福音は黒色の光を放ちながらもがき苦しんでいるようだった。 

 やがて、胸の部分の装甲に亀裂が入り中から何かが押し出されてきた。 

 

 

 「GUAAAAAーーーーー」

 

福音の雄叫びと共に胸の装甲部分から正12面体の透明なクリスタル・・・ISコアが飛び出してきた。 そのまま福音から離れて海に向かって落下していく。

 全員、突然の事に呆気にとられていたがISコアが海に落下していくのを見て慌ててマドカが拾いに行き回収する。

 そしてISコアを失った福音に異変が起きた。

両肩の部分から新たに腕が2本・3本と出現し、背中からは尻尾が3本・4本と表れ、足も2本増えていき、極めつけは胸の部分に新たに頭部が出来ていた。

 

 

 「何あれ・・・・・」

 

 「まるでキメラみたい・・・」

 

 刀奈の呟きに簪が追従して呟く。

 

 

 「ISコアによって制御されていた再生機能が暴走を始めたんだ。」

 

 シュートの言葉を裏付けるように福音の姿はますます禍々しい物になっていく。 腕が10本、足が6本、尻尾が10本、頭部が3つになったところで増殖は止まった。

 

 

 「GUAAAAーーーーー」

 

まるで体のパーツを、増やす為に全ての力を使い果たしたと言わんばかりのか細い叫び。

 シュート達はその事を瞬時に理解した。

 

 

 「いまだ!!」

 

 シュートの声と同時に全員が動く。

 

 

 「AIC改発動! F2Wキャノン・ロングレンジモード! ブレイクシュート!!」

 

 ラウラはAIC改を発動させると同時にF2Wキャノンを破壊力のあるロングレンジモードにして福音目掛けて射つ。

 

 

 「全て撃ちきる! マルチロックオンシステム起動! 行け山嵐!!」

 

 簪はマルチロックオンシステムを使いマトリクスミサイルを福音目掛けて撃ち込む。

 

 

 「ガナリー・カーバー出力最大! 狙い射つ、レイ・ストレイターレット!」

 

 マドカはガナリーカーバーを構えるとガナリーカーバーから高出力のビームが光の奔流となって福音に命中する。

 

 

 「 バイパス接続完了、バレル展開。 DライフルMAXモード!」

 

 シャルは手持ちのライフルとソレイユをエネルギーケーブルで接続する。そしてライフルの銃身部分の装甲が上下に展開し、収束されたビームが放たれて福音を貫く。

 

 

 「さぁ傘は準備しているかしら?  最も激しくて役に立たないけど。 篠突く雨!!」

 

 刀奈が指を鳴らすと凰姫の頭上に多数の水の粒が現れて福音目掛けて豪雨のように降り注ぐ。 水の粒は福音の装甲に食い込んだり、装甲を削り取ったりした。 それだけではすまなかった。

 

 

 「 もう1つオマケよ。弾けなさい!」

 

 刀奈がもう一度指を鳴らすと装甲に食い込んだ水の粒が一斉に爆発して福音にダメージを与える。

 ここまでの攻撃でかなりのダメージを受けた福音。既に再生する力を失っているのを証明するかのように、損傷した部分が再生を始める気配はない。

 

 

 「これで止めだ。 リミッター解除、エネルギーフルチャージ。 フルインパクトキャノン、デッドエンドシュート!!!」

 

 ガンナーに装備されている4基のGインパクトキャノンに重力波が集約されていき、同時に発射され収束されていき1つとなり福音に命中する。

 

 ドガァァァァァァァーーーン

 

 高密度の重力波の直撃を受けて福音は爆散する。

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話  決別の時

 

 

 福音を撃破し旅館に戻るシュート達。途中、補給の為に停泊している船に寄ってセシリア達と合流した。

 

 

 「皆さん、御無事で何よりですわ。補給が間に合わず馳せ参じる事ができず申し訳ありません。」

 

 「最後の最後で力になれなくてごめんね。」

 

 セシリアと鈴がそう言ってきたが、

 

 

 「気にする事はない。こうしてみんな怪我もなく帰還できたのだから。 ところで篠ノ之はどうした?」

 

 「彼女なら教員の方が旅館の方に連行していきました。おそらく謹慎処分になるそうです。」

 

 シュートの疑問にセシリアが答える。 そこに海上封鎖をしていた教員達も戻って来たので、シュート達は旅館の方に向かった。

 

 

 

 

 旅館に戻ると、浜辺にスコールと真耶がシュート達を待っていた。

 

 

 「みんなお疲れさま。よく無事に戻って来たわね、本当に嬉しいわ。」

 

 「さっそくですが、みなさんには診断を受けて貰います。男女別になりますので、アルカンシェル君は暫くの間待っていて下さいね。」

 

 「ところで、織斑先生と織斑一夏は? それに篠ノ之はどうなったのですか?」

 

 スコールと真耶からの話を聞いたところでシュートが二人に質問する。

 

 

 「織斑君は先程、救急車で病院に搬送された。 外傷はそれほどありませんでしたが、検査の為に入院するそうです。 織斑先生はその付き添いです。」

 

 「篠ノ之さんは別室で待機してもらってます。そして今日の内に学校へ強制帰還してもらい、正式な処分がおりるまでは懲罰室で過ごして貰う事になりました。」

 

 「織斑君も篠ノ之さんも相当厳しい処分が下ると思うわ。 さぁみんなは診断よ、女子は旅館に用意した診察室に行ってね。」  

 

 スコールと真耶がそれぞれ一夏・千冬、箒について教えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、シュートは旅館から抜け出して近くの岬にやってきた。 そこには

 

 

 「お疲れさまシュー君、大変だったね。」

 

 エプロンドレス姿のタバネの姿があった。

 

 

 「タバネ姉さん、その姿は何?」

 

 「ん? あの三十路の女狐に対抗してみたの。似合う?」

 

 「確かに似合っているけど。」

 

 「ありがとうシュー君。 やっぱり愛しい弟君はわかってくれるな~」

 

 嬉しそうに、その場ですがクルッと1回転してスカートを浮かせて見せるタバネ。

 

 

 「はいタバネ姉さん、福音のパーツ。解析をお願い。」

 

 そう言ってシュートは金属製のケースをタバネに渡す。 シュートは福音を撃破した際に、その部品の一部を回収して保管していたのだ。

 

 

 「確かに預かったわ。 分析結果は一週間後かな?  たぶんシュー君の予想している通りの結果が出ると思うよ。」

 

 「あれのデータは俺達の両親が死んだ際に全て処分したはず。」

 

 「そう、シュー君とマドちゃんの御両親、織斑春斗と織斑万季・・・・二人はその命と引き換えに全ての研究に纏わるデータやサンプルを処分した。2つの例外を残して。」

 

 タバネは手にしている金属製のケースを見ながらそう言うと

 

 

 「もし、可能性としてあるならば事前に初期の頃の論文を手に入れていたということ。そして、そこから作り上げた・・・・」

 

 「それが出来るのは、俺達の両親を殺した犯人・・・俺達の祖母である織斑四季・・・・」

 

 「漸く尻尾が見えて来たわね。」

 

 「あぁ、憎むべき相手・・・自分の血縁者すら利用し簡単に殺す非情な女。 俺は絶対に許さない!」

 

 「シュー君・・・・・・?! シュー君、隠れて! 誰がここに近づいて来る。」

 

 タバネの忠告にシュートは近くの木に登り気配を消す。 やがて

 

 

 「やはり来ていたのか束!」

 

 「おやおや、誰かと思ったらちーちゃんじゃないか!ひさしぶりだね、さぁさぁ再会の抱擁を!」

 

 「冗談は止めろ束! お前に聞きたいことがある。」

 

 現れたのは千冬だった。その手にはIS用のブレードを携えていた。

 

 

 「おやおや、随分と物騒な物を手にしているねちーちゃん? それに大事な弟君の側に居なくて良いの?」

 

 「ふざけるな束!」

 

 「やれやれ、それでちーちゃんは何が聞きたいの?」

 

 「今回の一件を知っているな?」

 

 「今回の一件? あぁ軍用ISの暴走した事件のこと?」

 

 「やはり知っていたか。お前の仕業なのか!」

 

 「冗談はやめてよちーちゃん! 寧ろ私は今回の一件で怒っているんだからね。 娘をあんな風に利用されて!」

 

 「娘だと?」

 

 「そうだよちーちゃん。全てのISコアはこの束さんが心血を注いで産み出した存在。言わば娘、それをあんな風に利用されたんだよ。いくら温厚な束さんでも激怒プンプン丸だよ!」

 

 「本当なんだな?」

 

 「勿論本当だよ! 軍用ISなんてふざけた物を作った連中にはそれ相応のお仕置きが待っているよ。」

 

 「そうか・・・・・では次に聞くが、何故一夏や箒に専用機を作らなかった?」

 

 口調は明るいが、束から発せられた怒気に嘘は言っていないと感じた千冬は以前から思っていた疑問をぶつけた。

 

 

 「何で束さんが、作らないといけないの?」

 

 「何?」

 

 千冬はタバネ・・・束の答えに言葉を失った。 千冬の知る束ならば、妹の箒や自分の弟である一夏に頼まれなくても専用機を作ると思っていたからだ。

 

 

 「専用機を持つにはそれ相応の技術とたゆまぬ努力、そして律する心が必要だよ。 データ取りの必要があるちーちゃんの弟君はともかく、愚妹である箒ちゃんには専用機を持つ資格は無いと私は思っていたからね。 最も何処かの連中が名前、売る為に与えたみたいだけどね。」

 

 「お前・・・・箒の事を愚妹と言ったな・・・・それに一夏の事も名前で呼ばず弟君と・・・・どういうことだ? 以前のお前なら・・・」

 

 「ちーちゃん、人は成長していくんだよ。束さんも昔のままじゃないんだよ。 それに束さんはね後悔しているんだ、あの時の事を。」

 

 「後悔だと?」

 

 「そうだよ、あの時ちーちゃんの言葉にのせられて白騎士を起動させた事を。 私が何も知らないと思っていたのちーちゃん?」

 

 そう束が言った瞬間、千冬は震えを感じた。 白騎士事件の時の隠された真相。 それを束が知っている、それは千冬にとって恐怖以外のなにものでもなかった。

 

 

 「もう過ぎた事を今更とやかく言うつもりはないよ。 それに束さんはね、いま罪滅ぼしをしているの。 もうすぐそれは形になる、その時ちーちゃんはどうするか楽しみにしてるよ。」

 

 そう言って自分の着ているエプロンドレスを右手でつかんで振るう。 すると千冬に向かってエプロンドレスが飛んで来る。 千冬は手にしているIS用ブレードでエプロンドレスを切り裂く。 そして束の姿を見ると、そこにはISスーツ姿の束がいた。

 

 

 「そろそろおいとまするねちーちゃん・・・・・いや織斑千冬。 おいでワンダーアリス。」

 

 そう束が言うと全身装甲型のIS(外見:フェアリオンG)が体を覆った。

 

 

 「そうそう、織斑千冬に最後の忠告とお知らせがあるよ。 先ずはお知らせ、君が私の隠れラボから持ち出したコアは偽物だから使えないよ。設計図の方は肝心の部分が無いから使い物にはならないよ。 それから忠告、チャイナドレスの女キツネには気をつけてね、後ろ暗い奴等と連るんでいるみたいだし。 それじゃあね。」

 

 

そう言って束はその場から飛びだった。 

 

 

 「な、なんだと・・・・・・・」

 

 束が去り際に残した言葉・・・お知らせの内容に愕然としていた。 束がISコアと設計図を持ち出した事を知っていることも、何よりもコアが偽物で設計図も使い物にならない物だと言うことに。 その為に忠告の内容は全く耳に入っていなかった。

 それを見届けたシュートは気づかれることなく旅館に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どういうことだ! あの結末はなんだ! 試作段階とはいえラズムナニウムを使えばあの程度の奴等蹴散らせるのではなかったのか!」

 

 Assassin が激昂する。 そのAssassin をPriestess が宥める。

 

 

 「落ち着きなさいAssassin 。Professor 、Doctor 原因はわかっているのかしら?」

 

 「ISコアは回収され、機体は破壊されブラックボックスも木っ端微塵、原因を特定するのは困難ね。 ただ、私とDoctor の共通の見解である推測をたてました。」

 

 「それは?」

 

 Priestess が話を進めるように促す。

 

 

 「みんなも知っての通りISコアには自我が有るといわれているわ。 今回の結果はISコアの自我とラズムナニウムの特性の相性が悪く、福音を支配したラズムナニウムを拒否したISコアが福音から逃げたことで起きたと思われるわ。」

 

 「それは本当なのかDoctor ?」

 

 「ワシとProfessor は同じ結論をだした。最も検証しようにもISコアやブラックボックスが無い以上出来んがな。」

 

 「ということは、今後ラズムナニウムはISコアが登載された機体には使用することが出来ず、疑似ISコアを登載した機体での実験になるのですねProfessor ?」

 

 「そうなるわPriestess 。」

 

 「わかりました、それでは疑似ISコア登載の機体での実験を引き続きお願いします。」

 

 「それからもう1つ報告がある。織斑千冬から手に入れた設計図についてじゃ。」

 

 「設計図? あぁ、Merchant が言っていたやつか。確かDoctor とProfessor が解析と開発してたんだよな。」

 

 「そうじゃAssassin 。 その設計図を解析した結果、ワシらは篠ノ之束博士に踊らされておったようじゃ。」

  

 「どういうことですかDoctor ?」

 

 Priestess がDoctor に聞き返す。

 

 

 「あの設計図の幾つかの重要な機関の記載が巧妙に偽装されていた。あのままでは全く使い物にならん。」

 

 「それは本当なのかDoctor !」

 

 「Doctor の言っているのは本当ですよAssassin 」

 

 「Professor 、全く使い物にならないのですか?」

 

 「心配ご無用ですわPriestess 。私とDoctor で対応策を考えました。 ただ現状では本来の性能の50%弱、第3世代と同等位です。」

 

 「第3世代か、それじゃあ意味がねえんじゃないかProfessor ?」

 

 「勿論、そのままで終らせるつもりはありません。色々手を加えて最終的には本来の性能の70~80%位まで再現する予定です。」

 

 「わかりましたProfessor とDoctor はGAMEーSYSTEM とラズムナニウムの研究に加えて設計図のISの開発を急いで下さい。」

 

 「「わかったわ(ぞ)」」

 

 「ところでPriestess 、そろそろ本格的に動き出すのか? 下の連中が騒ぎ出しているぞ。」

 

 「支援者達からも催促がきてきますし、御二人の研究が一段落したところで最終計画を発動します。」

 

 「わかったMerchant にも知らせておく。狼煙を最初に上げるのは何処だPriestess ?」

 

 「私達がいるこの国から狼煙を上げるわ。 もう利用価値も無いですし。 それにそろそろ疑いが向けられていますしね。」

 

 「わかった、移動要塞ギャンランドに必要な機材を移しておくわ。それから密かに手配した空母やイージスも移動させておくわ。」

 

 「お願いしますAssassin 。Doctor とProfessor は最終計画に間に合うように研究と開発をお願いします。」

 

 そうPriestess が告げると三人はうなずいた。

 

 

 

 「「「「全てはグローリーキングダムのために!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

  幕間

 次の話に行く前に起こった事を


 

 

 ◇【 国際IS委員会 】◇

 

 

 

 

 ニューヨークの国連本部の側にあるビルの一室にて国際IS委員会の緊急会議が開かれていた。

 国際IS委員会・・・ISを所持する全ての国が参加しており、特に日本・アメリカ・中国・ロシア・イギリス・フランス・ドイツは主要委員として様々な権限が与えられている。

 そして今、福音暴走事件に関する話し合いが行われている。

 

 

 「・・・・・・以上が、アメリカとイスラエルが協同開発した軍用ISの暴走事件に関するIS学園側からの報告です。」

 

 日本支部長の小野寺哲哉からの報告を聞きアメリカとイスラエルの支部長の女性はそれぞれ顔色は青ざめていた。それを一瞥し哲哉は話を続ける。

 

 

 「そもそもアラスカ条約で禁じられている軍用ISの開発を行っていたことはおおいに問題が有ると思います。そこで両国に対しての制裁決議を提案します。」

 

 哲哉の発言に会場内はどよめいた。 イスラエルは兎も角アメリカは主要委員の一員、その国に対しての制裁決議を提案するなど前代未聞の事態なのだから。 更に言えばアメリカの支部長の女性は女尊男卑主義者だから尚更だ。

 

 

 「な、何を言い出すのよ男の癖に!  わがアメリカに制裁決議ですって!! アメリカは世界の警察なのよ! 世界の平和を守るためには必要なことなのよ! そんな事もわからないの! これだからISに乗れない男は使えないのよ。」

 

 アメリカ支部長は立ち上がり激昂する。 国際IS委員会のメンバーはその性質上3分の2は女性である。 更にその役半数が女尊男卑主義者だ。普段ならば彼女の発言や動議に賛同する者も多いのだが、今はタイミングが悪かった。揺るぎの無い事実がある以上、誰も彼女の発言に対して同意しない。同じ女尊男卑主義者ですら飛び火を警戒して賛同しない。

 アメリカ支部長の発言の後、沈黙が訪れる。

 

 

 「言い訳は終わりましたかアメリカ支部長?」

 

 20代後半の紫色の髪の女性はそう言った。

 

 

 「エーデル・ベルナル委員長・・・・」

 

 その女性・・・エーデルに対してアメリカ支部長が呟く。

 エーデル・ベルナル・・・オーストリア出身でありIS委員会が発足当時からのメンバー。 主要委員ではなかったものの、その清廉潔白な信条と人柄から多くの国から認められており、二年任期の委員長の座を既に3期勤めている。それ故に、アメリカの支部長も彼女の発言や意見を無視することは出来なかった。

 

 

 「アメリカとイスラエルがアラスカ条約に違反したのは、紛れもない事実であり断罪されても仕方の無い行動です。 ですが、今回は今後の両国の行動に警鐘を促す意味を含めて注意勧告に留め、両国のIS関連企業や関係施設への査察を行うというところでいかがでしょうか? 賛成の方は挙手をお願いします。」

 

 エーデルの提案に哲哉も、その辺りが落とし所と思い挙手する。当事国のアメリカとイスラエル以外の全ての国が挙手した。  アメリカとイスラエルの支部長は苦悶な表情をするが拒否することは出来なかった。

  

 

 

 小野寺哲哉・・・国際IS委員会日本支部長。 議員時代に女尊男卑の女性議員達が作った[百合の党]が女性最優先優遇法案を提出した際に、その法案のデメリットを事細かく丁寧に説明し法案が如何に無用の長物かを証明し成立を阻止し、更に百合の党の様々な不正を暴き出し女尊男卑議員の一掃に一役買う。 その手腕を認められてIS委員会日本支部長に抜擢される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇【 温泉 】◇

 

 

 「ふ~、良いお湯ね~。 やっぱり日本の温泉は最高ね~。」

 

 露天風呂に自らの肢体を隠すことなく浸かっているエクセレン。 

 

 

 「おい、エクセレン。 わざわざ俺達を日本まで呼び出して温泉に連れて来たのは何が目的だ?」

 

 同じく肢体を隠すことなく浸かっているのはロシアの国家代表のカチーナ・タラスク。 カチーナの隣に浴衣のような湯浴み着をイタリアの国家代表のグラキエース・ルイーナが嗜める。

 

 

 「そんな事言わなくても良いのではカチーナ。 せっかくエクセレンが招待してくれたのよ楽しみましょう。」

 

 「ラキは馴染みすぎだ。」

 

 グラキエースに突っ込みを入れるのは水着を着た中国の国家代表のリン・マオだ。

 

 

 「それにしても、よくこんな高級旅館を貸し切りに出来ましたわね? 」

 

 そうエクセレンに尋ねるのは水着を着たフランスの国家代表のアクア・ケントルム。

 

 

 「刀奈ちゃんに頼んだの♥」

 

 「刀奈ちゃん・・・・・更識に頼んだのか!」

 

 エクセレンの言葉に呆れるカチーナ。

 

 

 「もしかしてここって・・・・・」

 

 「そう更識家が経営している旅館の1つよ。しかも3つ星クラスの旅館よ。」

 

 エクセレンの言葉から直ぐ様、この旅館の素性を理解するアクア。

 

 

 「肝心の刀奈はいないけど?」

 

 「そう言えばそうだな? IS学園も夏休みに入っている筈だからこれそうなものなんだが?」

 

 グラキエースが刀奈が来ていない事を指摘し、リンもそれを捕捉する。その質問にエクセレンが答える

 

 

 「刀奈は忙しいみたいよ。何せもう一人の男性操縦者が色々とやらかしたみたいで、その後始末が大変みたいなの。」

 

 「もう一人の?」

 

 「ブリュンヒルデの弟よ。」

 

 誰の事か尋ねるカチーナにアクアが答える。

 

 

 「色々と噂は聞いていたけど、そんなになのか?」

 

 「学園に通っている後輩の代表候補生から色々と聞いたけど、まあ何と言うか・・・・良く言えば世間知らず、悪く言えば無知。」

 

 カチーナの質問にリンが答える。グラキエースも同じような話をする。

 

 

 「私の国の候補生からも同じような事を聞きましたわ。」

 

 「何だか更識がかわいそうに思えるわ。 さて、話は変わるけどエクセレン。私達を日本に呼んだ本当の目的は何なの?」

 

 アクアが刀奈に同情しながらエクセレンに最初から持っていた疑念をぶつける。 他のメンバーも同様の思いを持っていたので静かにエクセレンの回答を待つ。

 

 

 「・・・・みんなも知っての通り、来年モンドグロッソが開催される予定なんだけど現状開催が危ぶまれているわ。 理由はみんなもわかっているわよね。」

 

 「女性権利団体等によるテロ行為ね。」

 

 エクセレンの問いに答えるグラキエース。 エクセレンはそれに同意する。

 

 

 「そうよ、そしてそれだけにとどまりそうに無いわ。」

 

 「戦争・・・・・」

 

 「リン。」

 

 「アクア、貴女も色々と情報を得ているでしょう。」

 

 リンの言葉にアクアは顔を強ばらせる。 そしてグラキエースがアクアに追い討ちの言葉を放つ。 国家代表ともなれば色々と話を聞く事もある。 そうアクアの耳にも情報は届いていた。

 

 「戦争か・・・・本来なら兵器として使われる事が無い筈のISが戦争の道具として使われる。 最強であるがゆえのジレンマだな。」

 

 「私達は国家代表、それなりの義務も背負っているわ。 力を持たぬ者達の矛と盾になるという義務が。」

 

 「アメリカとイスラエルが軍用ISの開発に踏み切ったのも、その辺りが関係しているのかもね。」

 

 カチーナに続いてマオ、グラキエースがそれぞれの思いを告げる。

 

 

 「そうね、私達が迷ってはいけないのよね。 代表候補生や候補生にすらなっていない学生を立たせない為にも。」

 

 「そうよ、手を汚し傷つくのは私達だけでいいのよ。」

 

 アクアの決意を後押しするように告げるエクセレン。

その場にいる全員に決意の意志が瞳に宿る。

 

 

 「・・・・・・と、真面目なお話はここまでにして・・・・カチーナ、ラッセル君とは何処まで進んでいるのかな?」

 

 「?! な、何でラッセルのことを!! てか、ラッセルとは何でもねえ!! ただの友達だ!」

 

 先程までの雰囲気が一転、いきなりエクセレンが落とした爆弾にカチーナは顔を真っ赤になって慌てて否定するが、動揺しているのが丸わかりである。 更にエクセレンは次々に爆弾を落とす。

 

 

 「リンはイルム君と何処まで進んでいるのかな? それにラキちゃんはジョシュア君だっけ? どんな感じなの? それにアクアちゃん、ヒューゴ君とはどんな感じ?」

 

    「「「?!」」」

 

 まわりにはあまり告げて無い事をエクセレンがいきなり言ってきたので3人は顔を真っ赤にして動揺する。

 

 

 「イ、イルムだと?! な、何で私があんなナンパな奴と!」

 

 「ジョ、ジョシュアとは、その~あの~友達でして~その~あの~恋人~関係になりたいなんて~」

 

 「ヒュ、ヒューゴとはただの友人関係で、その恋人なんかじゃない。そ、それにヒューゴは年下だし、その、え~と・・」

 

 それぞれ言い訳をするが呂律があやしく、顔を真っ赤にしており動揺しているのが丸わかりである。

 

 

 「そ、そういうエクセレンはどうなんだ! あの鉄仮面野郎とはどうなんだよ!」

 

 カチーナがエクセレンに反撃を試みる。 だがエクセレンは顔色1つ変えずに

 

 

 「鉄仮面野郎ってキョウスケのこと? それなら心配御無用、来年のモンドグロッソが終了後に結婚することになっているわ。 キョウスケがプロポーズしてくれたの♥」

 

   「「「「えっ?!」」」」

 

 カチーナの攻撃はものの見事に防がれたあげく逆に反撃を喰らうのだった。 まさか既にプロポーズされており結婚が決まっているとは誰も予測していなかった。

 

 

 「式は盛大にやるし、みんな招待するから来てね。 なんせ3代目ブリュンヒルデの称号を手土産に結婚するんだから。」

 

 エクセレンの台詞を聞いた瞬間、その場の空気が凍りつく。

 

 

 「・・・ほ~、エクセレン面白い冗談を言うな。花嫁がブリュンヒルデ、それはあり得ないな。あたしが友人代表としてブリュンヒルデの称号と共に挨拶してやるんだからよ。」

 

 カチーナがそう言うと

 

 

 「カチーナ、冗談はよせ。ブリュンヒルデの称号を持って挨拶するのはこの私だ。」

 

 「あらあらリンさんも冗談がお好きなようで。 そもそも2代目の称号を私の先輩であるアーリィーさんが辞退している以上、今回のブリュンヒルデは2代目となります。 そして私がアーリィーさんに変わり今度の大会で2代目の称号を得るのですから。」

 

 「ラキさん、3代目ではなく2代目の称号と言う点では私も賛成ですが、それは私が頂く称号ですのでお間違いなく。」

 

 5人の間に火花が散る。 自らの力に自信を持つがゆえに譲る事の出来ない事実。 

 

 

 「なんなら前哨戦でもやる? 部屋で?」

 

 そう言ってエクセレンが右手を口元に持っていき、何かを飲むような仕草をする。 

 要は飲み比べで前哨戦をしようと言っているのである。

 

 

  「「「「臨むところ!!!!」」」」

 

 

 

 こうして前代未聞の国家代表同士によるモンドグロッソ前哨戦という飲み比べが行われることになった。

 

 余談だが翌朝、飲み比べが行われた部屋には酒ビンが部屋一杯に散らばり、5人の美女があられの無い姿で酔い潰れている光景が仲居によって目撃された。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

  幕間 その2

 

 

     ◇【 会議 】◇

 

  国連本部ビルの一室

 そこには5人の男女がテーブルを囲んでいた。

その場にいるのは、小野寺哲哉IS委員会日本支部長 レフィーナ・エンフィールドIS委員会フランス支部長 

 ショーン・ウェブリーIS委員会イギリス支部長 レモン・ブロウニングIS委員会ドイツ支部長、そして国連事務総長のワクガガ・ルヴェールだ。

 実はこの5人、ファントムタスクの存在を知る数少ない人間なのだ。

 

 

 「さて、今日集まってもらったのは最近の女性権利団体の動きについてなのだが、みんなも知っての通り最近活動が活発になっている組織がある。 第1級危険指定組織[グローリー・キングダム]だ。」

 

 ワクガガがそう言うと室内の緊張感が増す。

 

 

  「色々と話は耳にします。日本では被害はありませんですが、最新式のISや量産型ISの強奪を行っていると。」

 

 「ISだけでなく、適性のある女性を様々な方々で引き込んでいるとも。我国イギリスでもそういった女性の誘拐事件の報告が上がっております。」

 

 「パイロットだけでなく科学者や技術者も同様ですわ。我国ドイツで、VTシステムを開発した技術者がどうやら、その組織に逃亡したという情報もあります。」

 

 「それだけではありません。裏社会やブラックマーケットに流れていたISコアの強奪も行われているようです。」

 

 哲哉、ショーン、レフィーナ、レモンがそれぞれ報告する。 更にワクガガが

 

 

 「今年になって起きた2度に渡るIS学園の襲撃事件に先日の福音の暴走事件、何れも組織の影がちらついている。また、学園を襲った無人型ISには擬似ISコアという物が登載されていたということだ。」

 

 この瞬間、全員が理解した。グローリーキングダムはかなりの戦力を有していることを。

 

 

 「せめて、奴等の本拠地か幹部の正体がわかれば・・・」

 

 哲哉が悔しげに呟く。レフィーナが哲哉を慰めるように

 

 

 「仕方ありません。末端組織を摘発しても入手出来る情報は些細な物ばかり。本拠地はおろか中心人物である

Empressはもとより幹部である五芒星の正体すら掴めていないのですから。」

 

 「そう掴めていなかった、だがブロウニングドイツ支部長から有力な情報がもたらされた。」

 

 ワクガガの言葉にレモンに視線が集まる。

 

 

 「我国の諜報機関が漸く幹部、五芒星の一人の正体を掴みました。 もっとも少なからず犠牲を出しましたが・・・」

 

 レモンはそう言いながら手元の端末を操作すると壁のモニターに一人の老婆の姿と経歴が表示される。

 

 

 「アギラ・セトメ。コードネーム[Doctor ] 今から20年前け違法薬物の製造並びに人体実験、違法手術による人体改造等の罪により国際指名手配を受けている人物です。」

 

 レモンの説明を聞きレフィーナが顔を曇らせて

 

 

 「人を人とも思わぬ所業、狂っていますわね。」

 

 「あぁ正しく狂人だな。このアギラを足掛かりに他の幹部達の正体を掴まねば。」

 

 哲哉がそう言うとワクガガが

 

 

 「ICPOにアギラの捜査状況を内々に問い合わせた所、10年前に縮小されたが地道に捜査が続けられており様々な情報を提供してもらえた。」

 

 「それでは、その情報を元に我々の方でも捜査を開始します。」

 

 ショーンの言葉に全員が頷く。 漸く見えた糸口を逃さぬ決意を全員が固める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◇【 アギラ 】◇

 

 

 「・・・・・これにより、擬似ISコアは当初の予定通りの数を製造しました。 この7割を無人型IS[レストレイル]に登載し、残りを有人型ISに登載予定です。 また、それとは別にDoctor の要望通りに製造している特機型ISにも擬似ISコアをまわすとの事です。」

 

 「そうかい、そりゃあ良かった。ところでエキドナ、素体の娘達の調製はどんな具合だい?」

 

 「素体の半数は肉体強化を終えてシステムとの同調を開始しました。ですが、残りの半数が強化に耐えられず身体や精神に異常が出ました。」

 

 「やはり薬物に対する拒絶反応が出たか。仕方あるまい、個体毎にに調合した物ではなく大量生産した物を使ったからのう。 そっちの半数はtypeーMB の部品に回せばよい。」

 

 「わかりました。」

 

 そう言うとエキドナは一礼して部屋から退出する。

エキドナが部屋を出てからアギラが端末を操作するとディスプレイにカプセルに浮かぶ一人の少女が映し出される。

 

 

 「ウフフフフ、我最高傑作オウカよ。 間もなくお前の力を遺憾無く発揮できる時が訪れるぞ。」

 

 オウカ・・・アギラがある女性の遺伝子を後天的に投与することで生み出された強化兵士の唯一の成功体。

 そしてアギラが作り上げたシステムに完全対応することが可能な個体である。

 アギラが作り出したシステムはあまりにも強力すぎた。 常人では対応出来ない、そこでアギラはシステムを改良して常人でも使えるようにするのではなく、人に手を加えることでシステムに対応出来るようにする手段をとったのだ。

 

      ピーピーピー

 

 アギラがみるディスプレイの一部に何かを知らせるランプが点る。

 

 

 「おや、分析が終わったようだね。」

 

 そう言うとアギラは端末を操作して分析結果を表示した。

 先日アギラは、ある場所に落ちていた髪の毛を見つける。 ちょっとした好奇心からアギラはその髪の毛を拾い分析にかけてみることにしたのだ。 暇潰し・・・そう単なる暇潰しで行ったことだ。別段何かしらの結果を求めるつもりはなかった。 

 その分析結果がディスプレイに表示された瞬間、アギラは目を見開いて驚き無言になる。 やがて

 

 

 「・・ヒャッ・・ヒャッヒャッヒャッヒャッ。ヒャッヒャッヒャッヒャッ! まさかこんな結果が出るとは! ヒャッヒャッヒャッヒャッ面白い、面白いぞ。」

 

 ディスプレイに表示されたデータを見てひたすら笑い続けるアギラ、 それを部屋の天井の角にある防犯カメラが静かに見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        ◇【 剣と盾 】◇

 

 

 フランス アルカンシェル社の地下にある秘密ラボ。

そこには日本から戻ったタバネとオータムの姿があった。

 

 

 「はい、オーちゃん。グリシーヌの改良終わったよ。オーちゃんの希望通りに防御重視にしたよ。」

 

 「サンキュー、タバネ。これで準備万端だな。」

 

 「でも良かったの? オーちゃんもスーちゃんもグリシーヌのカスタム機で?  ちゃんとしたワンオフの専用機を造ってあげるのに。」

 

 「私もスコールもグリシーヌは気に入っているんだ。汎用性は高いし操作性も抜群だしな。 更にタバネがカスタマイズしてくれてんだ文句無しに決まってるんじゃねえか。」

 

 「それなら良いけど。」

 

 そう言うとオータムにグリシーヌの待機形態であるピアスを渡す。

 オータムはタバネから渡されたピアスを左の耳につける。 そこにクロエから連絡が入る。

 

 

 『タバネさま、[気まぐれな鋼の猫(カプリース・スチールキャット)]のテスト完了しました。 ですが、私のティンカーベル単機での起動では巡航モードでの制御が精一杯で、突貫モードと殲滅モードは、やはりタバネさまのワンダーアリスのお力が必要かと思います。』

 

 「テストお疲れさまクーちゃん。今から私とオーちゃんが行くから、その場で待機しといて。」

 

 『わかりましたタバネさま、お待ちしております。』

 

 そう言うとクロエは現在地の座標を表示して通信を終える。

 

 

 「それじゃあ行こうかオーちゃん。これからは暫くは日本を拠点にするよ。」

 

 「えっ? でもこっちの方はどうするんたよ?」

 

 「こっちの方はアーくんパパとミーちゃんママにお願いしてあるから大丈夫!」

 

 *アーくんパパとミーちゃんママとはシャルロットの両親でアベル・デュノアとミア・デュノアのことです

 

 「でも俺までいったら護衛とかは?」

 

 「それも問題なし!楯くんパパと雪ちゃんママにお願いして腕利きの護衛を派遣してもらったから。」

 

 *楯くんパパと雪ちゃんママとは刀奈と簪の両親で更識楯無と更識雪子のことです。

 

 「随分と手回しがいいな。それならとりあえず問題無いな、それじゃあ支度するから待っていてくれ。」

 

 そう言うとオータムを後ろ手に手を振りながら部屋を出る。

 

 

 

 





 グリシーヌカスタム・エペ   第3世代IS

 搭乗者:スコール・ミューゼル

 外見:ゲシュテルベン改(ゴールドカラー)

 タバネがスコール用にカスタマイズしたグリシーヌ。
機動力と攻撃力が格段にアップしている。


武装
ショットガン×2

コールドメタルソード×1

スプリットミサイル×8

バイフォーカル・ガン×1:バレルを取り外すことでロングレンジとショートレンジと使い分けることの出来る銃。銃身下部にグレネードを装備している。

バーグラー・ガン×1:大剣と一体化した遠近両用の射撃武器。

カイリー・クレイバー×1:両脚部に装着された2枚1対の近接武器。 短剣のように手に持って使う他に柄を連結しブーメラン状の遠隔誘導兵器として使える。

小型スラッシュリッパー×10:通常のスラッシュリッパーを小型化し、更に爆裂弾としての機能もあり思念トリガーにより爆発させることが出来る。




 グリシーヌカスタム・ブクリエ   第3世代IS

 搭乗者:オータム・レイン

 外見:アルトアイゼン・ナハト(EF版)

 タバネがオータム用にカスタマイズしたグリシーヌ。 重装甲化により重量が増しているが、スラスターの出力upとブースター増設により機動力は通常のグリシーヌ並。 ただし、突進力は規格外を誇る。


武装
ショットガン×2

コールドメタルソード×2

スプリットミサイル×4

シールドチェーンガン×1:左腕に装着されたシールドと一体化した五連チェーンガン。

レイヤード・クレイモア×2:両肩部のハッチに大量装填されている実弾。
 
スパイダーボム×2:両肩部の側面に内蔵されているポッドに装填されている蜘蛛型の思念誘導爆弾。 接触して爆発するだけでなく時限式、思念トリガーでの爆発が可能。

リボルビング・ブレイカー×1:右腕に装着されている回転式弾倉のパイルバンカー。 装填されている杭には螺旋状の溝が刻まれており、深く食い込み抜け難い仕様となっている。

スタッグビートルアーム×2:両肩部背面に装着されている思念誘導型の大鋏のついた折り畳み式サブアーム。AI制御により装着者の負担は軽減されている。 また、大鋏はサブアームから切り離してビットのように使える。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話  夏休み

 

 

 夏休み・・・・それは学生達にとって至福の時間。それはIS学園の生徒達にもかわりない。 殆どの生徒は帰省しており、学園に残っているのは一部の留学生と補習を受けなければならない生徒のみ。

 

 福音事件において無断出撃をした一夏と箒。 箒は事件終了と同時に学園へ強制送還、撃墜された一夏は怪我その物は軽く3日入院した後、学園戻り罰を受ける事になった。その処罰は謹慎1週間に反省文700枚とかなり緩い物だった。 これには理由があり、福音事件が国際的にも秘密裏に処理しなければならない事案であり、その事件に関わったことでの処罰は大々的に公表することも出来ず、その為に処罰その物は軽いものになったのだ。 だがその分内申にはかなり響いている。

 

 箒は謹慎期間中は懲罰室での反省文書き、一夏はそれに加えてテストの成績不振による補習が加わっている。

 

 

 一方シュート達はというと、代表候補生であるシャル達はそれぞれ国が行うイベントや合宿等に参加せねばならず忙しい。 シュートとマドカは、会社関係のイベントやパーティーに会議等、此方も忙しい。

 それでも大半はデュノア夫妻が代わりに参加してくれているのでフランスに戻ることなく、日本にとどまっていた。

 

 8月の中旬、夏休みも残り2週間程になっていた、ある日。

 

 

 「ねぇ兄さん、明日の予定は?」

 

 「ん? 明日の予定か・・・・たしか・・」

 

 「明日の予定は珍しく何も入っておりません。」

 

 生徒会室で、夏休み前から持ち越していた書類を片付けていたシュート、マドカ、虚の3人。シャル・刀奈・簪は明日まで合宿、本音は所用で実家に戻っていた。 一段落したのでお茶を始めた所でマドカからの質問にシュートがスケジュールを確認しようとすると、すかさず虚が答えてくれた。 

 

 

 「虚さんも忙しいのに、スケジュール管理を任せてごめんね。」

 

 「いいえ問題ありません。寧ろこういった物は得意分野ですのでお気になさらず。」

 

 シュートが虚を労うと虚は謙虚な態度を示す。

 

 

 「ん~、なら兄さん。明日は遊びに行かない? 折角の夏休みなんだしプールに行きたい! ほら、この間貰ったプールの招待券があるじゃない。」

 

 「あぁあれか。たしか2枚貰って1枚で4人まで入場可能だったな。そうだな、織斑の方が問題無ければ可能なんだが・・・」

 

 一応、一夏の護衛の関係もあるので即答できないシュート。 未だに補習が終わらない一夏、そこで同じく学園に残っているスコールに一夏の現状について問い合わせた。するとスコールが生徒会室に来るという。 そしてやって来たスコールから

 

 

 「シュート、織斑君は今日で補習が終了したわ。明日から一旦自宅に戻るそうよ。外出許可並びに外泊許可が申請されて条件付きで許可されたわ。」

 

 「ようやくか・・・・」

 

 一夏の補習は中々終わらなかった。再試験に合格しなかったからだ、特にIS学科が。 最後は千冬と真耶にスコールのスリーマンセルによる徹底指導が行われたのだ。

 学園内での警護はシュート達が行っているが、学園外では学園が手配したSPによる警護と、シュート達が手配した更識警備会社からの警備員が密かにつくことになっている。

 

 

 「それなら行けそうだな。スコールも一緒にどうだ?」

 

 「そうね、たまにはいいかもね。」

 

 『ちょっと待ったーーー! 私達も行くーーー!!』

 

 突然、生徒会室のディスプレイが起動し画面にタバネとクロエとオータムの姿が映る。

 

 

 「「「「タバネ((姉さん))(様)」」」」

 

 驚くシュート達。いち早く我にかえったスコールが尋ねる。

 

 

 「ちょっと待ってタバネ! 行くって言ってもあなた達はフランスにいるのよ。今からじゃ間に合わないんじゃ?」

 

 『にししししぃ~、実はタバネさん達は今、日本にいるのだーー!』

 

 「「「「えぇーーーーーー!!」」」」

 

 タバネの告白に再び驚くシュート達。

 

 

 『思うところがあって暫く日本に拠点を置くことにしたの。とりあえず今は更識重工の地下秘密ラボにいるよ。』

 

 「せめて事前に連絡してくださいよ。驚いたじゃないですか。」

 

 『にししししぃ~サプライズ成功!』

 

 「はぁ~、とりあえずわかりましたから。 ですが、タバネ姉さんが表に出ると色々と問題がありますよ。」

 

 『ノープロブレム、問題なし! ちゃんとわからないように変装するし!』

 

 こうなってはタバネを止める事は出来ない。

 

 

 「わかりました、それじゃあ明日の朝10時に駅前に集合で。」

 

 『了解~! それじゃあ明日ね~』

 

 そう言って通信はきれる。そしてスコールと虚に

 

 

 「さて、さっそくだけど明日行く予定のプールとその周辺の警備態勢の確認と強化をしないとな。」

 

 「明日行く予定のプールはたしかオープンして間もない屋内型プール[ウォーターワールド]ですね。ウォーターワールドの警備態勢は最新型のセキュリティーシステムと監視態勢で万全を誇っているようです。」

 

 シュートの言葉に虚が直ぐに端末を使いプールの警備態勢を調べて告げる。

 

 

 「念のために更識から人員を派遣して貰ってガードして貰ったほうがいいわね。」

 

 「わかりました、そのように手配します。」

 

 スコールの意見に虚が承諾して直ぐに手配はかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウォーターワールド・・・・7月にオープンしたばかりの屋内型プール施設。 1周300mの流れるプールに人工波を発生させるビーチ型プール、7種類のウォータースライダーに児童用プール・・etc. とかなりの種類のアトラクションがあり、前売り券は9月分まで既に完売しており、当日券も開園わずか30分で完売するという大盛況振り。 シュート達が訪れた日も混んでいたか、ゆったりと遊べる事を前提にしており、人がごった返す程混雑している訳ではない

 

 もっともシュートにとっては、混んでいようがいまいがあまり関係なかった。 いや、混んでいるからこそ周囲からの(主に男性からの)羨む視線が容赦なく突き刺さる。同行しているのが見目麗しき美女&美少女なのだから仕方がないことだ。

 黒のタンキニ姿にイルカの浮き輪を抱えたマドカ、白地に黄色で縁取りされたモノキニに黄色パーカーを羽織った虚、胸元から臍の辺りまで大胆にカットが入った黒いハイレグワンピース姿のスコール、同じデザインの豹柄の水着姿のオータム、花柄のワンピース姿のクロエ、金髪のウィッグにゴーグルタイプの色の濃いサングラスをかけ赤色のビキニ姿のタバネ、そして狐の着ぐるみ型の水着を着た本音。 

 本音は通信が終わった後にちょうど戻って来てプールの話を聞き、最後の一枠を勝ち取った幸運の持ち主である。

 

 

 「うわ~! 凄いなここは!!」

 

 「こんなの初めて見ました。」

 

 「ねぇねぇマドッち・クロっち、あのスライダーから行こうよ! あっお姉ちゃんも一緒に!」

 

 施設の遊具に目移りするマドカと本音とクロエ。 それを見て苦笑する虚。スコールとオータムはサーフボード型の大型の浮き輪を借りて二人で流れるプールの方に向かった。 タバネはシュートの腕を取り

 

 

 「さて、シュー君はどこに行く? 」

 

 「タバネ姉さんの行きたいところに付き合うよ。」

 

 「それじゃあ、最初はビーチの方でボディーボードでもしようか。」

 

 そう言ってビーチ型プールに向かう。

 

 

 

 

 

 

 それから2時間後、シュート達は昼食をとるために4階にある特別テラス席にいた。 ここはVIP専用の場所で、他のテラス席と違い直通のエレベーターで水着のままで入室することができ、部屋には更衣室のほかシャワールームもある。 また、周囲はガラス張りになっているが、外から中の様子を見ることは出来ず、逆に中からは外の様子を見ることはできる。

 そして最大の特徴として、併設している様々なレストランから、料理を部屋に届けさせて食べる事ができるのだ。フランス料理に中華料理、懐石料理に寿司まで色々ある。 

 そんななか、シュート達が食べているのは

 

 

 「んーーー~! やっぱりプールに来たらこれこれ、このソース焼きそばに限るわ! このソースの香ばしい薫り堪らない!」

 

 「何を言っているのタバネ、プールといったらカレーじゃない! 冷えた体にこのスパイシーな味はベストマッチじゃない! そうよねオータム!」

 

 「あぁ、スコールの言うとおりだ。」

 

 焼きそばとカレーで熱く語るタバネとスコールとオータム。

 

 

 「ねぇ、本音・・・本当にそれ美味しいの?」

 

 「うん美味しいよ。色んな味がいっぺんに楽しめてお得だよマドッちとクロッちも一口どう?」

 

 「「遠慮します」」

 

 7色のカラフルなかき氷を美味しいそうに食べる本音を見て少し引きぎみに見守るマドカとクロエ。二人はそれぞれイチゴとメロンのかき氷食べている。

 

 

 「中々本格的な豚骨ラーメンだな。とてもフードコートの物とは思えないくらいだ。」

 

 「私のきつねうどんも出汁がきいていますし、麺の腰もあって本当に美味しいです。」

 

 シュートは豚骨ラーメン、虚はきつねうどんを食べてそれぞれ感想を述べる。 シュート達はレストランではなく1階のフードコートの料理を食べている。 全員が、プールに来てまで凝った料理を食べなくていいという感覚でフードコートの物を選んだのだ。 

 テーブルには他にも唐揚げにフライドポテトにたこ焼きという物が並んでおり、思い思いに口に運んでいる。

 

  PIPIPIPIPIPI  

 

  シュートのスマホがメールを受信する。画面を見ると、一夏の護衛についている更識の警備員からの定時報告だった。

 

 

 「警備員からですか?」

 

 虚が聞いてくる。

 

 

 「あぁ、織斑が外出したそうだ。そして現在、鏡ナギと行動を共にしているそうだ。 おそらくデートだろう。」

 

 「・・・・・トラブルの予感しかありませんね。」

 

 「・・・・何事もなく終わると助かるんだが。」

 

 シュートと虚、二人揃って溜め息をつく。

 

 

 

 

   昼食をとり、再び遊び始めた一行は、更に2時間ほど存分に遊びまわり、プールを後にした。

 そして、そのあとは全員で少し早めの夕食をとった。 

 

 

 「いやーー食べた食べた。やっぱり焼肉は和牛に限るね。柔らかさとジューシーさが違うね。」

 

 高級焼肉店で全メニューを制覇したタバネはご満悦だ。 タバネに釣られるようにシュート達もかなりの量を食べ全員が満腹状態だが、それでも楽しかった。

 

 

 「兄さ~ん、お腹いっぱ~い、眠い~」

 

 「ほら、マドカ。しっかりしろ。帰ってからシャワーくらい浴びないと。」

 

 「お姉ちゃん~、私も限界~」

 

 「本音! しっかりしなさい。 」

 

 妹コンビが年長者に甘える。 それを暖かい目でで見守る面々。 なごやかな空気に包まれていたが、シュートと虚とスコールのスマホが突然鳴り響く。

 

 

 「刀奈からだ。」

 

 「私は更識警備からです。」

 

 「私は学園からよ。」

 

 それぞれ着信した相手を告げて電話にでる。

 

 

 「もしもし、刀奈どうしたんだ? 合宿から帰って来たのか?」

 

 『挨拶は後! そこにみんないるの!』

 

 「あぁ、マドカに虚さんに本音にスコールとオータムとタバネ姉さんにクロエもいるよ。虚さんは更識警備と電話中でスコールは学園と電話中だよ。」

 

 『たぶん、虚ちゃんとスコールさんの電話の内容は一緒だと思うわ。 いいことよく聞いて、織斑一夏君が襲われて意識不明の重体で病院に運ばれたわ。そして襲った相手は篠ノ之箒さんよ。』

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話  流転

 

 

 タバネとクロエ、オータムは更識重工の秘密ラボに戻り、スコールは一夏が運ばれた病院に、シュート達は学園に戻って来た。 学園には刀奈、簪、シャルが戻って来ており校門でシュート達を出迎えてくれた。

 

 

 「刀奈、どういうことなんだ詳しく話してくれ。」

 

 「悪いけど、ここではちょっと話せないの。生徒会室に行きましょう。」

 

 「今、職員室は大混乱に陥っているよ。 ただ生徒には知らせないように箝口令をしいているみたい。」

 

 刀奈とシャルがシュートに説明する。そして生徒会室に移動したシュート達。

 

 

 「シュートも連絡を受けて知っていると思うけど、今日から織斑君は実家に戻るという名目の下、外泊許可を貰って外出していたわ。  そして彼は1度実家に戻ると外出しクラスメイトの鏡ナギさんと合流し、行動を共にしていたわ。」

 

 「あぁ、そこまでは連絡を受けているから知っている。 それでそのあと何があったんだ?」

 

 「とりあえず織斑君と鏡さんの事件直前までの行動の説明は省くわね、そして事件が起きたのは二人が、ある建物から二人並んで出て来た時に起きたわ。」

 

 シュートに聞かれて刀奈は説明を始める。 刀奈は何の建物か説明しなかったが、全員がこれまでの一夏の行動を知るゆえに予測がついた。おそらく一夏がデートの度に最後による特別な建物だということに。

 

 

 「その建物を出たところで、何故か篠ノ之さんと遭遇し、二人の関係を知り激昂し織斑君に対して暴力をふるい始めたの。」

 

 「護衛はどうしてたの?」

 

 マドカの疑問に刀奈は直ぐに答える。

 

 

 「その時点で学園並びに更識の護衛が篠ノ之さんを止めに入ったのだけど、余計に大暴れをして護衛も手をつけられない状態になったの。更に織斑君が鏡さんを庇って避難させようとした行動をしたことで、篠ノ之さんは更に激昂し、とうとうISを展開し織斑君を剣で斬りつけたの。 そして織斑君はISを纏った篠ノ之さんの攻撃を避けきれずに・・・」

 

 「成る程、それで織斑の容態と篠ノ之は?」

 

 「織斑君は病院で緊急手術の最中よ。病院には織斑先生と山田先生が学園から向かったし、スコールさんも行っているから手術が終わりしだい連絡が来ると思うわ。 それから篠ノ之さんの方だけど、現在行方不明よ。」

 

 マドカが一夏と箒の現状を刀奈に尋ねる。 そして箒が行方不明ということに全員が驚く。 

 

 

 「篠ノ之さんは織斑君が血を流しているのを見て、自分の犯した事の重大さに気がつき手にしていた剣を落としたの。その瞬間に護衛が拘束しようとしたんだけど、何せ相手はISを纏っている以上難しく、そのうち篠ノ之さんは織斑君に殺したと思ったらしく『私は一夏を殺した、殺してしまった』と喚きながら飛び立っていったそうよ。」

 

 「その後の篠ノ之さんの行方は掴めないの?」

 

 シャルの問いに刀奈は首を横に振り

 

 

 「臨海工業地帯の方に向かって飛んで行くのは確認されたのだけど、その後の足取りはさっぱり。コアネットワークを使って位置情報を調べたけど、ステルスモードになっているみたいで居場所が掴めないの。イスルギ重工にも問い合わせたけど、彼方も所在を掴めていないようだったわ。」

 

 「傷害・・・殺人未遂ともなれば刑事事件として警察に任せる事になりますね それにマスコミも騒ぐでしょう。」

 

 「その事何だけど虚ちゃん、そうなるかわからないわ。 何せ被害者はブリュンヒルデの弟、加害者はISの発明者の妹。 IS委員会もこの事件の対応を巡って紛糾しているみたい。 とりあえず現状では警察には極秘そうさとマスコミへの情報シャットアウトを命じているようよ。」

 

 そこにタバネからの通信が入る。

 

 

 『はいは~い、タバネさんだよ。 愚妹ちゃんの行方なんだけど確かに臨海工業地帯に向かったことは確認出来たんだけど、そこからの足取りは不明だね。それに愚妹ちゃんのガーなんちゃらとか言うIS何だけど、完全にコアネットワークから切り離されていてタバネさんでも追跡出来ないんだ。 愚妹ちゃんにそんな高等技術があるとは思えないから、誰か第3者が手助けしているのは間違いないね。』

 

 「やっぱりイスルギ重工が絡んでいるのでは・・・」 

 

 『その辺りはわからないけど、どちらにせよ愚妹の行方を掴む為の情報が全く無いね。』

 

 「とりあえず今は警察に任せるしか無いね。」

 

 シュートはタバネと話を終える。

 

 

 「それから織斑君と一緒にいた鏡さんの方だけど、怪我はしていないけど、事件を目の前で見たショックで気を失ったの。精神的な疾患が出る可能性もあるから、病院に入院させ暫く様子を見ることになったわ。」

 

 刀奈がナギの容態についても報告する。シャルがそれを聞いて

 

 

 「鏡さん、トラウマにならなければいいけど・・・」

 

 全員が同じ事を思い、可能性の回復を願った。

 

 

 「ところで、1つ疑問があるんだ。篠ノ之が二人の前に現れたのは偶然なんだろうか? それとも彼女は二人をずっと尾行していたのか?」

 

 「いいえ、護衛の報告だと二人を尾行する者はいなかったそうよ。彼女は二人が建物から出てきたと同時に現れたそうよ。」

 

 「・・・・偶然なのか、それとも何者かに誘導されたのか・・・・ 釈然としないな。どちらにせよ篠ノ之が捕まらない限りわからないな。」

 

 シュートの疑問に刀奈が答える。 だが、謎は深まるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件から5日が過ぎた。 一夏の傷は心臓の太い血管と肺を斬られており、また倒れた時に頭部を強打しており、かなり危ない状態だったが長時間の手術と医療用ナノマシンのお陰で一命のとりとめたものの、未だに意識を取り戻さない。頭部を強打した事で脳内出血を起こしており血栓を取り除いたものの、それがどういう影響を及ぼしているのかは意識を取り戻さない限りわからないそうだ。

 

 一方、箒の行方は未だに掴めなかった。警察も必死に行方を探すものの大々的に捜査出来ない事で一向に進展が見込めなかった。

 

 鏡ナギはの方は、目の前で起きた惨劇の衝撃はやはり大きく未だに入院しており、専門医によるカウンセリングを受けていた。

 

 そしてIS学園では、夏休みも終盤に差し掛かっているため生徒達も続々と学園に戻ってきている。

 事件に関しては箝口令がひかれており生徒達には知らせないようにしているが、教師たちの間に漂う重々しい雰囲気と千冬の不在が生徒達の間に様々な憶測を生んだ。

 

 曰く、日本代表に復帰するために学園をやめた。

 

 曰く、弟の起こした不祥事の責任を取って辞職した。

 

 曰く、許されない愛を叶える為に相手と駆け落ちした。

 

 曰く、因縁の相手と決着をつけるために山籠りをしている。

 

 等、様々だ。

 

 等の千冬は一夏の入院している病院にいた。

一命をとりとめたものの、状態はあまり良くなく意識を取り戻さない事もあり未だに集中治療室に一夏はおかれていた。 病室には長時間滞在することは許されず、大半はガラス越しに見続ける事しか出来なかった。

 

 

 (・・・・・どうしてこんなことに・・・・何故だ?)

 

 ベッドに横たわる一夏。酸素マスクに点滴、心電図に血圧測定機等に繋がれている。 そんな一夏の姿を見続ける千冬はずっと自問し続けた。

 襲ったのが箒ということに加えて、一夏の直前までの行動が千冬を悩ましていた。

 

 

 (何故だ、一夏? 何故だ、箒? 何故だ・・・)

 

 千冬の問いに答える者は誰もいない。千冬に今できることも何もない。それが余計に千冬の心を苛んでいる。

 

 

 「織斑さん、面会室にお客さんがおみえですよ。」

 

 看護婦が千冬を呼びに来る。 千冬は一夏が入院して以降、ずっと付き添って泊まり込んでいた。 学園側も状況を理解し、特別休暇を与え更に身動きの取れない千冬の為に着替え等を定期的に届けさせた。 

 だからこそ千冬は学園の職員が着替えを届けに来たものと思い看護婦に礼を言って面会室に向かった。

 

 

 「いつもすまないな。」

 

 そう言って千冬は面会室に入る。 だが、そこにいたのは

 

 

 「?! 何故お前がここに?」

 

 千冬にとって思いかけない人物だった。

そして、この日を境に千冬は姿を消すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話  誘い

 

 

 千冬の突然の失踪は、関係者に衝撃をもたらした。 だが、直ぐ様IS委員会により情報統制がひかれ、その事が一般に広まることはなかった。 

 それでもIS学園の職員達には動揺が広がる。夏休みも残り5日となっており、事態を重く見た学園側は急遽、校舎の設備のトラブルによる1週間の夏休みの延長を生徒達に通達し、職員達の心のケアと体制の立て直しをはかることになった。

 

 一方シュート達はと言うと、校舎は設備トラブルの調査修復という名目により生徒の立ち入りが禁じられているために生徒会室を使う事が出来ないのでメンバー全員で外出届けを出し、更識重工の地下秘密ラボに集結していた。

 

 

 「警察のネットワークにアクセスし情報を入手しましたが、依然として篠ノ之箒さんの行方については不明のままで、その後の捜査の進展は見られていません。 そして織斑先生の行方についても依然として不明のままです。此方の方は失踪直前に病院に正体不明の女性が面会に来ていました。」

 

 虚はそう言って、空間ディスプレイに紺色のビジネススーツを着た黒髪の女性の姿を映し出す。

 

 

 「病院に設置してある防犯カメラに写っていたものです。 ですが不思議なことに周辺の防犯カメラ並びに監視カメラの映像にはこの女性の姿は写っていません。 変装等の可能性も視野に入れ顔認証システムで映像を解析しましたが発見できませんでした。 警察もこの女性が織斑先生の失踪に何らか関与したものと考えているようで行方や正体を突き止めようとしていますが、成果は上がっていないようです。」 

 

 更に端末を操作して幾つもの病院周辺の地図と監視カメラと防犯カメラの位置とそれぞれのカメラが撮影した映像が表示された。

 

 

 「ご覧の通り、病院に入る直前と出た直後の映像には女性の姿が何処にも写っていません。」

 

 「ということは、カメラの死角を熟知して移動したのか、それとも車に乗り込んで写らないように身を隠したのか? どちらにせよこの女性はただ者じゃ無いわね。」

 

 虚の報告に刀奈が意見をのべる。

 

 

 「織斑千冬、篠ノ之箒、そしてこの女性に関してはファントムタスクの諜報部と警察に任せる事になった。俺達には別の指令が届いた。」

 

 シュートはそう言って全員を見る。

 

 

 「その前に新しく加入するメンバーを紹介する、ラウラ。」

 

 そう言ってメンバーの後ろに控えていたラウラが前に出る。

 

 

 「今回、ドイツのブロウニング支部長からの要請によりドイツ代表候補生序列第1位のラウラ・ボーデウィッヒ少佐をメンバーに加える事になった。」

 

 「ドイツ代表候補生兼ドイツ軍IS配備特殊部隊の隊長を勤めるラウラ・ボーデウィッヒ少佐です。よろしくお願いします。」

 

 そう言ってラウラは敬礼をして挨拶をし、再び席に戻る。

 

 

 「さて、指令だがみんなも知っての通り[グローリーキングダム]の活動が活発化している。ルヴェール事務総長を始め上層部では大掛かりな作戦が始まる前兆ではないかとよそくしているようだ。」

 

 シュートの言葉に全員に緊張がはしる。 既に全員が認識していた 【大掛かりな作戦=戦争】 という事を。

 

 

 「それでシュート、上層部はそれをいつ頃と予測しているの?」

 

 「早ければ1ヶ月以内。」

 

 刀奈の疑問にシュートが答えると、全員があまりの短さに驚く。

 

 

 「そして俺達に与えられた指令は、有事の際において敵本拠地へ突入し首謀者達の捕縛又は排除だ。」

 

 「おいおい、始まらない内からそんなことを決めていいのか?それに、こう言っちゃ何だが、普通そういう任務は国家代表とかがやるんじゃないか?」

 

 「ダリルの疑問はもっともだ。 この事は俺達以外には直前までは秘密にされる。そして国家代表には囮の役目を引き受けて貰う事になっている。 そうすることで敵の目を欺く事になるからな。」

 

 シュートの説明に頷く面々。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太平洋上を静かに飛行する小型ジェット機。徐々に高度を落としていき海へと着水しようとする。だが、どう見てもジェット機には海上に着水出来るような装備は見当たらない。 このままでは沈没してしまう。

 だが着水する寸前で何も無かったはずの海上に突然滑走路が出現する。 ジェット機は車輪を出して、滑走路に着陸する。 そして滑走路をある程度進んだところでジェット機は突然、姿を消す。ジェット機だけでなく滑走路も消えた。 もとから何もなかったのごとく

 姿を消したジェット機はというと、滑走路の先にあった格納庫らしき場所に進んでいた。

 どうやらここは何らかの方法で外からはわからないようにカモフラージュされているようだ。

 停止したジェット機のドアが開き、中から一人の女性・・・エキドナにつれられて千冬が姿を表す。

 

 

 「ここがお前達の本拠地なのか?」

 

 「そうです、ここが私達の国であり聖地でもある【グローリーキングダム】です。」

 

 千冬の疑問にエキドナが答える。そして先導して進んでいく。

 暫く進んだところにあった扉をエキドナが開き、その先に進んで行くと千冬の目に信じられない光景が映った。

 

 

 「ば、馬鹿な?! ここは海の上で何もなかったはず。」

 

 そこには色とりどりの花が咲き乱れ、頭上からは太陽の光が降り注いでいた。背後を振り返れば、そこは仰ぎ見る程切り立った断崖絶壁。

 いや、背後だけでなく見渡せる範囲が切り立った崖に囲まれている。 足下を少し蹴ると草花の下から土が露になる。 

 

 

 「島などなかったはず、どういう事だ?」

 

 「ここは地図には載ってない島。そしてその島を特殊なフィールドで覆うことで外からは一切感知できないようになっております。 それでは此方へ。」

 

 エキドナは再び先頭にたち千冬を案内する。草花が咲き乱れる場所を横切り暫く進んだところで崖の下にたどり着く。 その一ヶ所にエキドナが手を触れると扉が出現し開く。 そしてそのまま中へと進む。薄暗くじめじめとした洞窟の中をひたすら進んで行くと再び扉が出現しエキドナが開く。

 そこには先程と同じく周囲を切り立った崖に覆われた軍事基地があった。 只の軍事基地ではなく、その中心に城を思わせる建物が建っていたのだ。

 

 

 「まさか、こんな基地を1権利団体が有しているなんて・・・」

 

 「さぁ、此方へどうぞ。Empress 達が貴女をお待ちです。」

 

 そう言ってエキドナは黒塗りの高級車に千冬を乗せて出発する。

 クルマは基地の中を走り抜けて城に向かう。 更に城の門を潜り抜けて、そのまま城内に向かう。

 城の扉を通り抜け、ホールの階段前でクルマは停まる。

 

 

 「着きました。どうぞお降りになってください。」

 

 エキドナは運転席から降りて千冬が座る席のドアを開き促す。千冬は言われるがまま降りる。 エキドナは階段の方向に手を伸ばし

 

 

 「どうぞ、このまま階段を上がってください。そこにEmpress 達がお待ちになっております。」

 

 千冬はエキドナに言われるまま階段を上がっていく。

1段、また1段と足を進めながら、ここに来るまでの事を思い返していた。

 

 

 

 

 

 ◇◇回想◇◇

 

 

 

 「?! 何故お前がここに?」

 

 面会室に入った千冬を待っていたのはIS学園の職員ではなく、以前デモの中止交渉の時に出会った女性主義団体【野薔薇の会】の主催者の女性だった。

 

 

 「【野薔薇の会】の代表の蛇尾エマだったな。もう一度聞く、何故お前がここにいる?」

 

 「野薔薇の会代表、蛇尾エマとは仮の姿です。私の本当の名はエキドナ・イーサッキ、【グローリーキングダム】の盟主Empress から貴女を御迎えに上がるように申し使って参りました。」

 

 そう言ってエキドナは一礼する。 

 

 

 「何? グローリーキングダムだと!」

 

 千冬は驚く。グローリーキングダムの名はIS学園の職員達にも多少の情報は伝わっていたからである。

 

 

 「何を言い出すかと思えばふざけた事を。私は女尊男卑等知ったことか。さっさと帰れ!!」

 

 「私達の組織には優秀な科学者と医者がおります。 私達の組織の力を持ってすれば弟さんを助ける事が出来ます。」

 

 「なに?!」

 

 エキドナの言葉は千冬の心を揺れ動かした。 病院の医者から、一夏は一命はとりとめたもののこれ以上の回復は期待できないと言われていた。 

 

 

 「勿論、私の言葉だけでは信じる事はできないでしょう。ですので実際にご自分の目で確かめて見ませんか? 私達の本拠地に来られて?」

 

 エキドナの誘いの後、千冬は長い時間悩んだように感じた。一時間いや半日・・・それほどの時間悩んだように思えた・・・実際にはものの10分程だったが、

 

 

 「よかろう案内しろ。だが嘘とわかれば容赦せぬ!」

 

 「それでは参りましょう。」

 

 

 

 それから千冬はどう歩き、どう移動したのか覚えていなかった。 気がつけばジェット機に乗り込んでいたのだった。

 最後の1段を上りきった千冬。目の前には巨大な。扉があった、しかし千冬が上がりきったのと同時に閉ざされていた扉が少しずつ開きはじめた。

 扉が完全に開ききった先に見えたのは絢爛豪華な広間と6人の女性だった。

 その女性達に向かって足を進める千冬。

 

 

 

   この24時間後、グローリーキングダムの攻撃がオーストラリアを襲った。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話  序曲

 

 

 オーストラリアの首相ケネス・ギャレットは苛立っていた。

 

 

 (くそっ!! 今までずっと上手く立ち回ってきたのにこの期に及んで、まさか捜査の手が伸びて来るとは。)

 

 ケネスはずっとグローリーキングダムの手先として様々な事を行ってきた。 男である彼が何故、女性主義団体のグローリーキングダムの手先となったのかは簡単だ。 彼は自らの保身と金銭の為にそのプライドを売り渡した。 そしてグローリーキングダム為に様々な事をした、時には彼女達が有利になるように働きかけたり、時には機密情報を渡したり、時には彼女達の犯罪を揉み消したりと。

 しかし、それも限界に達していた。それ所か自身にも危機が迫っていた。

 

 

 (このままでは不味い、地位を追われるだけでなく資産も没取されてしまう。 どうする? 金を持って逃げるか・・・)

 

 一国の首相とも在ろう者が、我が身可愛さに国を捨て逃げる算段をつけていた。

 

  PIーPIーPIーPIーPIーPIー

 

 突如、机の上に置かれていたケネスのスマホが着信を知らせる。 ケネスは画面を見て、電話の相手を確認すると慌ててでる。

 

 

 「モシモシあんたか、不味い事になった。」

 

 『貴方の現状は存じております。 ですが何も心配することはありません。既に手は打ってあります。』

 

 「そ、そうか! 大丈夫なんだな! それで、どうすればいい?」

 

 『貴方は何もする必要はありません。もう貴方の役目は終わりました。』

 

 「はっ?」

 

 『本当に愚かな男。でも貴方のお掛けで私達は力を蓄え、ついには行動を起こすことが出来ます。今までありがとうケネス・ギャレット。それではサヨウナラ』

 

 通話が切れる。 何を言われたのかわからないケネス、直ぐに我にかえると相手に問いかける。通話が切れているのも気付かずに。

 

 

 「ま、待てどういう意味だ。エー?! くそっ!! もう一度、 なん? ウワァァァァァァーーー!!」

 

 切れているのに気付いて慌てて相手にかけ直そうとした瞬間だった。突然、目映い光が窓から射し込んできた。 いや、窓からだけでなく天井を突き破りケネスのいる部屋にも光が溢れる。 

 光は凄まじいまでの熱量を有しており、ケネスが光に触れた瞬間に肉体は一瞬にして蒸発した。

 

 

 この日オーストラリアの首都キャンベラは壊滅的被害を受けた。

 

 

 

 

 

 

    同時刻 アメリカ

 

 

 「それは本当ですか? エンフィールド支部長!」

 

 「えぇ、間違いないわ。 信じられない事だけど、彼女はグローリーキングダムの最高幹部の一人よ!」

 

 「まさかと思いたいですが・・・」

 

 「小野寺支部長のお気持ちもわかりますが、これは揺るぎのない事実です。」

 

 最高幹部のうち、新に判明した2人の情報を纏めていた哲哉とレフィーナの元に突然舞い込んできた情報に戸惑いを隠せなかった。

 グローリーキングダムの6人の最高幹部。そのうちようやく3人までわかったところで、更にもう1人の幹部の正体が判明したのだから。

 

 

 「ともかくこの事を事務総長に報告しないと!」

 

 そう言って哲哉が立ち上がったところで、

  

 ビーーー、ビーーー、ビビ、ビーーー、ビーーー

 

 机の上にある電話が鳴り響く。普段とは違う独特の鳴り方、哲哉とレフィーナは知っていた。この鳴り方は緊急情報を知らせる物だと。哲哉は電話のスピーカーをONにして受話器を取る。

 

 

 『・・・ました。 繰り返してお伝えします。先程オーストラリアの首都キャンベルが大気圏外からのレーザー攻撃を受けました。かなりの被害が出ている模様ですが、音信不通の為に確認がとれません。この事態を受けて緊急会合が開かれる事になりました。 繰り返して・・・』

 

 哲哉とレフィーナは直ぐにこれがグローリーキングダムの仕業と確信した。

 

 

 「小野寺支部長・・・どうやら私達は出遅れてしまったようですね。」

 

 「これ以上被害が広がるのを食い止めねばなりません。事務総長のみならず全てのメンバーに現段階で判明している情報を知らせて準備させましょう。」

 

 哲哉とレフィーナは直ぐに行動に移った。

 

 

 

 

 

 

 

 

  日本   更識重工地下秘密ラボ

 

 

 シュート達はファントムタスク上層部より送られてきた情報に驚きを隠せないでいた。

 オーストラリアの壊滅的被害にグローリーキングダムの幹部の情報。

 それらは余りにも衝撃的だった。 シュート達が見つめる画面には軌道衛星からのオーストラリアの映像並びに日本の複数のテレビ局の緊急特別番組とグローリーキングダムの最高幹部のプロフィールが映し出されていた。

 オーストラリアの首都キャンベルの惨劇は目を覆うような有り様だった。 ビルの大半は熱で溶けて原型を留めておらず飴細工のごとく変形していた。

 レーザー余波で起きた火災が彼方此方で起きているものの消火活動も儘ならないせいで被害は広がる一方だ。

 おそらく生存者の救出活動も出来ていないようだ。

 その場にいる全員が言葉を失う程の惨劇が映し出されていた。日本のテレビ局も、それらの映像を流しながら解説者や専門家が状況の説明に原因の仮説等を述べている。

 それらの見ながらシュート達は正体が判明したグローリーキングダムの最高幹部の内の四人のプロフィールと顔写真を見ていた。

 

 

 [アギラ・セトメ 通称Doctor  違法手術並びに人体実験、更に違法薬物の製造の罪により国際指命手配中 etc・・・]

 

 [レジアーネ・ヨゼフィーヌ 通称Assassin  オーストラリア国家代表。  第2回モンドグロッソ総合部門において織斑千冬と対戦し初戦敗退etc・・・]

 

 [エルデ・ミッテ 通称Professor  IS技師でナノマシン並びに人工頭脳開発の第一人者。ISの稼働実験で幾人もの装着者を死亡させる。etc・・・]

 

 そして最後の一人・・・・

 

 

 「まさかこの事を人が・・・・」

 

 「獅子身中の虫とは言いますが・・・」

 

 刀奈と虚は表情を歪め

 

 

 「まあ、前からどうにも気に入らない人物だったんだよな。」

 

 「先輩の勘が当たったんスね。」

 

 どうやら以前から何かしら予感していたダリルとフォルテ

 

 

 「先輩・・・」

 

 「落ち着きなさいセシリア、私達が動揺しても何もなりません。」

 

 此方も動揺を隠せないでいるセシリアとそれを諌めるサラ

 

 

 「今ごろ各方面は混乱してるでしょうね。」

 

 「仕方得るまい、それほどの衝撃的な事実だからな。」

 

 リムとラウラはつとめて冷静であろうとする。

 シュート達は無言のまま最後の一人のプロフィールを見つめる。 

 

    ザ、ザ、ザーーーーザ、ザーーー

 

 突然、日本の報道特別番組を映し出している画面が全て乱れる。

 

 

 「クーちゃん!!」

 

 「はい!」

 

 タバネが指示を出すとクロエがコンソールを操作して画面にあらゆる国のテレビ番組が映し出された。

 その全てが画像が乱れ砂嵐状態となっていた。

 

 

 「何者かが、大規模なハッキングを仕掛けている模様です。 今サーチしています。」

 

 クロエの報告と同時に砂嵐状態は解除され全ての画面が同じ映像を映し出していた。

 

 宮殿の謁見の間を想わせる雰囲気の部屋。壁には白百合と剣を手にした女神が描かれた旗が飾られており、その下に玉座のような椅子が中央に置かれ、左右に5人の女性が並び立つ。

 シュート達は壁に張られた旗と先程までの見ていたプロフィールから女性達がグローリーキングダムの幹部だと確信した。

 

 全てを見下すような目付きをした白髪の老婆 Doctor ・・・アギラ・セトメ

 

 燃えるような紅い髪で鋭い目付きの凛々しい美女 Assassin ・・・レジアーネ・ヨゼフィーヌ

 

 茶髪で左目元の黒子が特徴的な知的雰囲気を持つ美女 Professor ・・・エルデ・ミッテ

 

 赤いノースリーブのチャイナ服を纏った妖艷な雰囲気を醸し出す美女、正体がこの瞬間までわからなかった幹部 Merchant ・・・石動光子

 

 

 そして

 

 

 『我々はグローリーキングダム。 女性による女性の為の女性だけの国を創る事を目指し活動してまいりました。 そしてその理想を現実のものにする為に、我々は全て国々に宣戦布告いたします。』

 

 紫髪の慈愛の笑みを絶えず浮かべている美女、国際IS委員会の委員長を勤めるエーデル・ペルナル・・・Priestess が言い放つ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話  始まりの時

いつもありがとうございます。

GWということで、三日間連続投稿させていただきます。


 玉座の右に立ち、エーデルは話し続ける。

 

 

 『偉大なる聖母、篠ノ之束様が虐げられた女性の為にもたらした神器ISは、その力を遺憾無く発揮し私達女性に救いをもたらしました。 ですが、聖母様はそれと引き換えに悪しき男達の手にかかり命を落とされました。』

 

 エーデルがそう言うと、旗の飾られた壁の下が開き中からタバネによく似た姿をした女性が納められた水晶の棺があらわれる。

 

 

 『私達は耐えがたきを耐えて力を蓄え、この日を迎えました。 そしてその決意の表れとして聖母様の命を奪った卑劣なるオーストラリアに対して裁きの雷を持って審判を下しました。』

 

 エーデルがそう言うと、画面が切り替わり空から放たれた光の条がキャンベルに直撃し都市が焼かれる映像が映し出された。 再び画面が切り替わりエーデル達が映る。

 

 

 『私達の行く末を遮るものには裁きの雷を下します。  ですが恐れることはありません、私達の元に訪れし同じ志しを持つ同胞達は温かく迎え入れます。 また、私達の元に来たくても来られない同胞達は私達が迎えに参ります。』

 

 そこでエーデルは一旦言葉をきり、両手を組み合わせ祈りを捧げるポーズをする。

 

 

 『同じ志しを持つ同胞達のなかには聖母様の訃報を聞き心落とす者も居られるでしょう。しかし希望の火は消えてはいません。聖母様と同じ血を持つ御方が私達の王として、聖母様のかけがえのない友が私達の剣として私達の元に来てくださいました。』

 

 エーデルがそう言うと玉座が床に沈む。そして再び玉座が現れると、そこには純白のドレスに真紅のマントを纏い、頭に豪華な装飾のなされた王冠を被った少女・・・箒が無表情のまま座っていた。

 

 

 『聖母様の血を受け継ぐ御方、私達を導く女帝、Empress ・・・篠ノ之箒様です。』

 

 そして玉座を挟んでエーデルの反対側に白銀の甲冑を纏い、翼の飾りが付いた兜を被った千冬が姿を現す。

 

 

 『聖母様の無二の親友でブリュンヒルデの称号を持つ御方 Paladin ・・・織斑千冬様です。』

 

 二人の紹介したところで画面が切り替わり、格納庫のような場所に整然と並ぶIS・・・見慣れた打鉄にラファールに加え、以前IS学園を襲った無人機レストレイルに見たことも無い緑色と青色の完全装甲型IS・・・が500機以上。

 

 

 『聖母様は重要なISコアの製造法を私達に伝えて下さる前にこの世を去りました。 私達は残された資料からオリジナルコアに準ずる能力を持つ疑似ISコア・・・レプリコアを作り上げました。 それによりこれだけの戦力を有することが出来ました。』

 

 再び画面が切り替わりエーデル達が映る。

 

 

 『勿論オリジナルコアも保有しており、今後は世界に散らばっている全てのオリジナルコアを回収し、私達が管理運用致します。オリジナルコアを保有している国、組織は何も言わずに私達にコアを進呈してください。拒否するのであれば申し訳ありませんが実力を持って回収させていただきます。』

 

 エーデルはそこで一旦言葉をきり、両手を大きく左右に広げて

 

 

 『さあ今より新時代の幕開けです。』

 

 エーデルの宣言の後に、画面は乱れ再び特別報道番組に戻る。 どの番組も突然の出来事に驚いているのか、誰も言葉を発せずに無言の状態が続いている。

 

 

 

 「発信源が特定出来ました・・・というか隠す気がないようです。我々以外にも逆探知を試みていた全ての組織や国が特定したようです。 グアムと日本の中間点の太平洋上です。 地図と照らし会わせても島等は確認出来ませんので船もしくは人工島だと思われます。」

 

 クロエが報告する。タバネがため息をつきながら

 

 

 「やれやれまさか死人にされるなんね。まあこればかりは感謝かな。これでタバネ・アルカンシェルとして活動しやすくなったし。さて、シュー君どうするの? 後手後手にまわっちゃているけど。 」

 

 「ルヴェール事務総長からは作戦の立案と実行、部隊の編成と運用を行う事の出来る緊急権限を与えられているから、時間も無いのでそれを執行します。」

 

 「と言うことは全員で本拠地に乗り込む寸法か?」

 

 「ダリル先輩好みの作戦スね。」

 

 「残念だけど、全員で乗り込む訳には行かない。半分はIS学園の防御に回ってもらう。」

 

 ダリルとフォルテの言葉にシュートが答える。

 

 

 「あーー、成る程。確かにIS学園を護る奴がいるか。」

 

 「そうスね。訓練機に使われているオリジナルコアに将来有望なIS装着者と整備士の卵が集まっていて、尚且つ国家施設に比べて防御能力が低いから簡単に落とせるスからね。」

 

 ダリルとフォルテはシュートの言った事を直ぐに理解した。

 

 

 「ということで本拠地に向かうのは俺と刀奈、シャル、マドカ、スコール、オータム、タバネ姉さん、クロエ。 ダリル、フォルテ、サラ、リム、セシリア、簪、ラウラはIS学園の防御に。虚さんと本音は全員のサポートを。他のメンバーは連絡が付いた時点で振り分けます。」

 

 シュートの話を聞き全員の表情が引きしまる。

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29話  発進

 

 グローリーキングダムの宣戦布告より1日がたった。

世界は混乱していた、人々は戦争が起きる事を感じとり様々な行動をとっていた。

 

 都市部は危険だからという理由で地方への疎開を試みる人、食料品が無くなると思い込み買いだめに走る人、諦めているのか楽観視しているのかわからないが普段通りの生活をおくる人。

 そしてグローリーキングダムに合流しようとする女性達、しかしそれはグローリーキングダムの思惑とは異なり、IS適性も無くISの恩恵のみで威張り散らしていた女尊男卑主義者、IS適性はあるものの代表候補生にも成れない女性もしくは代表候補生の序列下位の装着者、代表候補予備生ばかりだった。

 

 大半の国家代表や専用機を持つ代表候補生はISが女性だけでは稼働しない事を認知している男女平等の考えを持つ者だ。そんな彼女達はグローリーキングダムに合流する気は全くなかった。

 一方で少数ではあるが存在する女尊男卑主義の国家代表や専用機を持つ代表候補生達はグローリーキングダムに合流したくても出来ない状況となっていた。国家に所属しているおり、しかも宣戦布告直後から厳重な監視体制がとられ身動きが取れないのだった。

 女尊男卑の風潮が広まっているとはいえ、いまだに殆どの国の中枢にいるのは男性であり、こういった状況が起きる可能性を以前から危惧しており、常に身辺調査をし思想を持つ女性をリストアップしていたので行動は早かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 更識重工地下秘密ラボ

 

 IS学園の防衛メンバーであるダリル達を送り出したシュート達。 

 目の前のモニターにはグローリーキングダムの宣戦布告後からずっと報道特別番組を全てのテレビ局が放映しており、様々な情報が飛び交っていた。

 

 

 「アメリカを始め、イスラエル、中国、ロシアがグローリーキングダムをテロ組織に認定、攻撃することを決めたようです。」

 

  ちなみに日本はアメリカから参加を求められているが、憲法第9条の存在がそれを阻んでおり特別立法で対応するための法案を作り可決しようとしているが審議に時間がかかる為、1~2週間先になりそうだ。

 

 

 「さてタバネ姉さん、どう攻めようか?」

 

 「シュー君なら、どうする?」

 

 二人は顔をあわせると

 

 

 「「宇宙からの本拠地への電撃降下強襲作戦!!」」

 

 「でも、その前に・・・」

 

 「裁きの雷とやらをどうにかしないとね。で、タバネ姉さんはもう裁きの雷の正体をつかんでいるの?」

 

 「勿論! あれは人工衛星の高エネルギー収束砲術兵器だよ。元々はアメリカが対IS用に作ったんだけど、設計段階から連中が密かに色々とやったみたいで、出来上がったのは昨日見た通りの物に。 当のアメリカは改造されていることを知らずに打ち上げて、更にコントロールを奪われてしまい自国では制御不能で大慌てみたいだよ。」

 

 「それでタバネ、その衛星の現在地は?」

 

 「連中の本拠地の真上。 改造された後の設計図や仕様書が無いから断定は出来ないけど、あれだけのエネルギーを衛星単体で賄えるとは思えないから地上からの何らかの方法でチャージしているんだと思う。」

 

 スコールの問いにタバネが答える。

 

 

 「それなら宇宙に上がったついでに撃破しよう。」

 

 シュートの言葉で方針は決まった。

 

 

 「それじゃあ宇宙に行くための船に一同ご案内~」

 

 タバネが指を鳴らすとその場にいた全員が何処かに転送される。

 

 

 

 

 

 

 気がついた時、全員が船の操舵室のような雰囲気の部屋にいた。しかし、部屋には正面の大型モニター以外は何もなかった。 

 

 

 「ようこそ[気まぐれな鋼の猫(カプリース・スチールキャット)]へ。」

 

 フランスが主体となって進められている宇宙進出計画[フロンティア・プロジェクト]の中核をなす惑星探索戦艦型IS[気まぐれな鋼の猫(カプリース・スチールキャット)]。  タバネがその技術の全てを注ぎ込んで作り上げた逸品だ。 全長100mに及ぶその戦艦を制御するのはタバネとクロエの二人だ。

 

 

 「それじゃあ、その辺の椅子に座ってベルトを絞めてね。直ぐに発進するから。」

 

 「「あの~すいませんが~」」

 

 発進準備をしようとするタバネに声をかける()()()()

 

 

 「「「「「「「「あっ?!」」」」」」」」

 

 そう、本来なら更識重工地下秘密ラボに残るはずだった虚と本音までも転送して連れてきたのである。

 

 

 「・・・・・・・二人は予定を変更してこの船からサポートをお願いしようかな。 ポチッとな!」

 

 タバネはそう言って懐から取り出した端末のボタンを押すと何もなかった室内にシートが現れる。

 

 

 「二人はモニター前のシートに座って。そこにシステム端末を出すね。 他のみんなは適当に座ってね、それじゃあクーちゃんいこうか。」

 

 タバネがそう言って二人はISを展開する。タバネは[ワンダーアリス]を、クロエは色違いの[ティンカーベル]を纏う。

 そして天井や床から二人を固定する為のアームやシステムとリンクするための配線が現れて接続される。

 

 

 「ワンダーアリス、コネクトオン。」

 

 「ティンカーベル、コネクトオン。」

 

 「「[気まぐれな鋼の猫(カプリース・スチールキャット)]起動!」

 

 二人の声と同時に室内の機器に明かりが点る。

 

 

 「それじゃあ、早速宇宙出るから全員シートに座ってベルトを絞めてね。」

 

 スクリーンや様々な計器に色々なデータが表示され

 

 

 「タバネさま、システムオールグリーン。オフェンスシステム並びにディフェンスシステム異常なし。巡航モード、正常に機能してます。」

 

 「了解! それじゃあ宇宙に向けて発進!!」

 

 タバネの掛け声と共に振動が始まる。そして徐々に体にGがかかりだす。やがて海中から全長100mの白亜の戦艦(外見:シロガネ)が飛び出し、加速しながら空へと向かっていく。  徐々に角度を上げて、そのまま宇宙を目指し加速する。 だが、その姿を誰も見ることが出来ない。レーダーやセンサーもそうだが、視覚的にも海上に出た瞬間からステルスモードになって、ありとあらゆる目を欺いているからだ。

 やがて大気圏を突破して宇宙空間にたどり着く。

タバネとしては、こんな形であるが念願の宇宙に来た事に感慨深い思いを抱いた。 できればこのまま未知なる宇宙を見て回りたいと思うが、その思いを内に押し込み、今やるべき事をやることにした。

 

 

 「それじゃあ再突入の前に邪魔物を片付けようか! クーちゃん、主砲ショックカノン発射用意。目標敵人工衛星!」

 

 「目標を確認。主砲ショックカノン1番・2番・3番セット。発射角修正+5度、ターゲットロックオン。」

 

 「了解~! うっちゃんにほんちゃん、地上の様子は?」

 

 「ダリルさんからメッセージが届いてます。どうやらIS学園に攻めてきたようです。機影はおよそ100との事です。」

 

 「ん~、ヨーロッパの方にも兵を向けているみたい。 それから~、連中の本拠地はアメリカとイスラエルの合同部隊と中国とロシアの合同部隊が包囲して、あっ! 何かシールドのようなものを島の周囲に展開されました。」

 

「タバネさま、目標の衛星がエネルギーをチャージ開始しました。予測発射タイムは30秒後です。」

 

 「よーし、それなら発射直前に撃破するよ。 クーちゃん、計算後カウントダウンよろしく。」

 

 「了解しました・・・・・・計算終了、カウント15からスタート。14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0「発射!!」」

 

 軽い振動と共に3筋の螺旋状の光が人工衛星に向かって伸びていき命中し、人工衛星は木っ端微塵に爆発する。

 

 

 「よし、それじゃあ大気圏に再突入! クーちゃん、艦首モジュールを巡航モードから突貫モードに変更!」

 

 「艦首モジュール、巡航モードから突貫モードに変更。 大気圏再突入準備開始。」

 

 「それじゃあみんないくからね。さっきよりGがきついから覚悟してね。 それじゃあGO!!」

 

 艦首がドリルに換わった鋼の猫は敵本拠地に向け再突入するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30話  突入

 

 

 「いくぜジガン! ギガァーーントナァァックル!!」

 

 ジガンスクードの両腕に装着された盾のような巨大な手甲でレストレイルを殴り飛ばすカチーナ。

 殴り飛ばされたレストレイルは背後にいた2機にぶつかり、2機を巻き込みながら爆発する。 だが、カチーナの周囲にはまだ10機以上のレストレイルがいる。

 

 

 「オメガキャノン! ビッグミサイル! ブーストナックル!」

 

 グルンガストの背中のバインダーが肩越しに前方に向けて展開されてレーザーが、脚部からミサイルが、左腕が肘から外れて、それぞれレストレイルに向かって放たれる。

 レーザーとミサイルが複数のレストレイルをブーストナックルが1機のレストレイルを撃破する。

 だが、こちらも周回にまだ10機以上のレストレイルがいる。

 

 

 「ちっ! きりがねえぜ! 」

 

 「カチーナ、前に出すぎだ。 後方部隊と距離が開いたぞ。」

 

 「だけど、このままじゃらちが明かないぜ。」

 

 宣戦布告と共に突如として出現した地図に記載されず誰の目にも触れることなく存在した島、グローリーキングダムの本拠地とされる島。

 カチーナの所属するロシアとリンの所属する中国の連合軍は島の西側の海域から、アメリカとイスラエルの連合軍は島の東側海域から攻撃を開始したものの、直後に島の周囲を強力なシールドで覆われて上陸はおろか直接攻撃も出来なくなった。

 更に何処からか出撃したのかわからないが、見たこともないタイプのISの大軍が襲ってきたのである。

 

 

 「くそ! このままじゃ「カチーナ、うしろ!!」えっ、なっ?!」

 

 ギガントナックルでレストレイルを殴り飛ばした直後だった、カチーナの背後に今までとは違うタイプのIS・・・ゼカリアが剣を振り上げて斬りかかろうとしていた。

 

 

 (不味い、避けられない! どうする・・・スラスターをやられたら動けなくなる。間に合え!!」

 

 カチーナは姿勢をかえて腕に装着されている手甲で受け止めようと動くが間に合わない。

 

 

 バシュン!  ドガァァァーーーン!!

 

 剣が振り下ろされる直前だった、何処からか飛んできた銃弾がゼカリアの頭部に命中し、爆発する。

 周囲には遊軍機は見当たらない、だとすれば何処から飛んできたのか。もし、離れた場所から狙撃したのならば相当の腕の持ち主だということだ。

 カチーナとリンにはそれだけの腕の持ち主に心当たりがあった。 二人はハイパーセンサーで銃弾が飛んできた方向を見ると、そこには

 

 

 「パンパカパーン! 騎兵隊、只今参上!」

 

 大型輸送艇タウゼントフェスラーの機体の上に立ちオクスタンランチャーを構える純白のIS・・・エクセレンの専用機ヴァイスリッターの姿があった。

 

 

 「「エクセレン!!」」

 

 「はぁ~い、お二人さん。助けにきたわよ。」

 

 そう言ってエクセレンは一機また一機とオクスタンランチャーで撃ち落としていく。

 

 

 「助けにきたって、お前ひとりじゃ・・・」

 

 「心配御無用よ、カチーナ。私ひとりじゃないし、翔びっきりの助っ人を連れてきたから。」

 

 エクセレンがそう言うと、背後から一人の女性が姿を現した。

 ツインテールにした茜色の髪、着崩して胸元を大きくはだけた着物を纏い、赤いピンヒールを履き、右目に刀の鍔の眼帯をつけた女性

 

 

 「「ア、アリーシャ・ジョゼスターフ!!」」

 

 第2回モンドグロッソ優勝者、元イタリア国家代表アリーシャ・ジョゼスターフだった。

 

 

 「アリーシャさん、右腕の具合はどうですか?」

 

 「悪くないサね。 感謝するサね、こんな立派な義手をくれるなんてね。」

 

 アリーシャの右腕と右目はテンペスタⅡの起動実験で失った。 その後、隻腕隻眼ですごしていたが今回の作戦に当り新型の義手(タバネ作)を贈られたのである。

 

 

 「あの時の決着をつけるには万全にしとかないとサね。」

 

 その言葉でカチーナとリンは理解したアリーシャがこの場に現れた理由を。

 

 

 「ところで、あの檻をどうするつもりサね? あれをどうにかしないと中にも入られないサね。」

 

 「その心配はありませんわアリーシャさん。上から[ファントムタスク(ウチ)]の凄腕達がやって来てぶち壊してくれますから。」

 

 そう言ってエクセレンは上空を指差す。それに釣られてアリーシャにカチーナとリンも空を見る。

 一筋の光が此方に向かって来るのが見えた。

 

 

 

 

 

 「タバネさま、グローリーキングダムの本拠地の島を確認しました。あと30秒後にシールドに接触します。」

 

 「よーし、それじゃあいくよ! 艦首モジュール[超大型回転衝角エクスカリバードリル]起動。 」

 

 タバネの掛け声と共に艦首のドリルが激しく回転する。

 

 

 「みんな衝撃に備えてね。 光学迷彩解除、全速前進、気まぐれな鋼の猫(カプリース・スチールキャット)突撃!!」

 

 タバネの号令と共に艦のドリルは薄紅色の光の膜と衝突する。

 

 

  ギュルルルルルルルルルルーーーー

 

 激しく火花を散らし激突するドリルとシールド

長く続くかにおもわれた衝突は、突然終わりを迎えた。

 

 

        バシュン

 

 シールドが耐久限界を越えて消失したのだ。 艦はドリルを激しく回転させたまま島へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  遠目でそれを見届けていたエクセレン達。

 

 

 「どうやら檻は消えたみたいサね。 それじゃあいこうか、ロッソ・・・・ビアンカネーヴェ・ロッソ!」

 

 そう言ってISを展開するアリーシャ。深紅のIS・・ビアンカネーヴェ・ロッソを纏い

 

 

 「露払いは頼むサね。」

 

 そう言って島へと飛び立つ。

 

 

 「了解~! 射撃はおまかせ! んふふ~、どこを狙ってほしい?」

 

 そう言ってエクセレンはオクスタンランチャーを構えて

 

 

 「カチーナとリンも1度こっちに下がって補給しなさ~い。」

 

 そう言ってレストレイルを撃ち落としていく。

 




 
 国家代表と専用機

ドイツ国家代表:エクセレン・ブロウニング
専用機:ヴァイスリッター


ロシア国家代表:カチーナ・タラスク
専用機:ジガンスクード


中国国家代表:リン・マオ
専用機:グルンガスト


イタリア国家主席:グラキエース・ルイーナ
専用機:ファービュラリス


フランス国家代表:アクア・ケントルム
専用機:サーベラス


イタリア元国家代表:アリーシャ・ジョゼスターフ
専用機:ビアンカネーヴェ・ロッソ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31話  IS学園の攻防

 

 

 IS学園の教師のひとり、元ブラジル国家代表の肩書きを持つガーネット・サンデイは学園内に設置された作戦指令室で事態を見守ることしかできなかった。

 目の前のスクリーンにはグローリーキングダムのISと戦う同僚と生徒達の姿が映し出されていた。 本来ならぱ、ガーネットもあの場に行って戦うはずだったのだが、それが出来なくなってしまった。 彼女の胎内には新しい命が宿っていることがわかったからだ。

 

 

 「こんな時に力になれないなんて・・・」

 

 IS学園はグローリーキングダムの攻撃を受けていた。 生徒並びにISコアの引渡しを要求してきた彼女達に対して十蔵はそれを生徒達の安全等を理由に拒否。事前にシュート達から連絡を受けていた事もあり、生徒並びに一般職員を地下シェルターへと避難させており、また市街地等の競技で使用される屋外型のシールド発生機を島の周囲に設置し備えていた。これにより今のところ学園には被害が及んでいない。

 またダリル達、ファントムタスクのメンバーだけでなく教師と志願した各国の代表候補生達も防衛部隊に加わっており、持ちこたえていた。

 最初は100機程だったレストレイルも半分以下に減っていた。 だが、それに伴い防衛部隊の面々も疲弊していた。

 スクリーンの画面越しでも、それがわかる。 だからこそガーネットは歯痒かった。 そんなガーネットに十蔵が声をかける。

 

 

 「そんなに心配しなくても大丈夫ですよサンデイ先生。 まもなく飛びっ切りの助っ人がやって来ますから。」

 

 

 

 

 

 

 

 「このーーーー墜ちろーーー!!」

 

 そう言ってダリルは専用機ヘル・ハウンド・ガルムの両肩に装着されている犬の頭部を模したユニットから火球をレストレイルに向けて放つ。 火球はレストレイルの全身を炎で包み込み焼き尽くす。 その間にダリルは両手に持つアサルトライフルを周囲に迫るレストレイルに撃つ。

 

 

 「凍るっス!!」

 

 ダリルが銃弾を撃ち込んだレストレイルに、フォルテが専用機コールド・ブラッド・ピクシーの雪の結晶を想わせる形の背面ユニットから光を放つ。光が当たった場所が凍りレストレイルの動きを鈍らせる。 動きの鈍ったレストレイルにダリルが火球を撃ち込み撃破する。 二人は長期戦になることを見越して、消耗を抑える為に戦闘が始まってからずっとペアを組みサポートしあいながら戦っていた。

 

 

 「とぉりゃぁぁぁーーー!」

 

 鈴は右手で振り回していた棘付き鉄球(ブーストハンマー)をレストレイルの頭部に投げつける。頭部を破壊されて動きが止まったところで鈴は左手に持つグレネードランチャーを撃つ。 グレネードはレストレイルの胸部に命中し爆発し、レストレイルは海に向かって落ちていく。 弾が切れたグレネードランチャーを投げ棄てて拡張領域から新なグレネードランチャーを取り出す。

 鈴は事前に受けたレクチャーで長期戦になることを教えられ燃費はともかく、自分の機体の決定力不足を感じて、武器庫からグレネードランチャーと整備科の生徒が作った試作武器のブーストハンマーを持ち出してきた。

 

 次の敵を定めようとした鈴の後方から数条のレーザーが飛んできてレストレイルに命中し、破壊する。

 

 

 「鈴さん、前に出過ぎです。少し下がってください。」

 

 IS学園近くの島の崖の上にいるセシリアのブルー・ティアーズ・ストライクガンナーパワードのレーザーライフルと新に装備されたシールドビットからのレーザー射撃だった。 全ての武装がエネルギーを消費するブルー・ティアーズは今回の戦いおいて、エネルギーカートリッジを機体に取り付けた上に、崖の側にエネルギータンクを設置し、ケーブルで接続されエネルギー切れを起こさないようにしていた。

 

 

 

 

 

 

 「そろそろ交代の時間です。B班は前衛のA班とシフトチェンジします。」

 

 そう言ってグリシーヌを装着しているラーダは側にいるメンバーに告げる。 長期戦になる可能性が高いと読んだ十蔵はメンバーを2班に別けて前衛と後衛で時間毎にシフトチェンジし、消耗を抑える為に休ませながら戦う戦法をとることにした。

 そしてラーダの指示を受けてB班のメンバーが予め指定されたポジションに向かう。

 

 ダリルとフォルテの元にはリムとサラ、鈴とセシリアの元には簪とラウラが向かった。

 

 

 

 「ダリル先輩、フォルテ、シフトチェンジよ。」

 

 ダリルはリムとサラが近づいて来るのを知ると腰に付けていたチャフ入りスモーク弾をレストレイル達の目の前に投げつけて爆発させる。 銀色の粒子が混ざった赤い煙がレストレイル達を包み込む。

 その隙にダリル達はリム達と位置を変える。 ダリルが擦れ違い様に

 

 

 「どのくらい減ったんだ?」

 

 「およそ1/3程減りました。」

 

 「なら次のあたいらの出番で終われるな。」

 

 ダリルがそう言った瞬間だった。

 

 

    ピーピーピーピー 

 

 IS学園に設置されている広域レーダーを通じて各機にアラートと共にデータが送られてきた。

 

 

 「えっ?!、南東20キロの海域に船舶1の侵入を確認・・・・船舶より機影の発進を確認・・・・その数30!!」

 

 送られてきたデータを確認するためにサラは専用機アシュセイバーの高感度長距離対応ハイパーセンサー「サウザンドアイ」を起動させる。

 

 

 「・・・・・・まちがいありません、タンカー船から機体が発進するのを確認しました・・・数は30ですが、甲板に更に待機している機体が50機以上・・・」

 

 サラの報告に沈黙が流れる。

 

 

 「予定変更だ、これから大本を叩く。 いくぜフォルテ!」

 

 「待ってくださいダリル先輩! いくらなんでも無茶です。」

 

 スモーク弾の効果が切れつつある中、ダリルの発言にリムが驚き止める。

 

 

 「無茶でもやるしかねえ。 もともと長期戦は想定済みだったが、それは第1陣撃破後の第2陣襲来まで多少なりと間があると予測しての事だった。 だが、休む間もなく小出しに増援され続けられたら、いずれ此方側のメンバーの心が折れる事になる。それを防ぐ為にも今は無理してでもあの船を落とす必要があるんだ。」

 

 そう言ってダリルはフォルテを伴って船に向かおうとした時だった。

 

 

 『その必要は無いわ、あれは私達に任せなさい。』   

 

 突然飛び込んできた通信。リムはその声の主に心当たりがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 グローリーキングダム所有のタンカーの上空に専用機シルベルヴィントを纏うアギーハとイギリスから奪ったサイレントゼフィルスを纏うシエンヌ。 その二人の背後には10m近くある巨体を持つISがいた。

 

 

 「にしても、コイツを連れてくる必要あったのか?」

 

 「文句を言わないのシエンヌ。Doctor のご要望なのだから、コイツの戦闘データが御所望よ。」

 

 「戦闘データっても、コイツは例の機体を作る段階で出来た紛い物だろう? データなんか取る必要あるのかよ? しかもパイロットはエキドナが回収して実験に使われた女だろ? 」

 

 「それもデータがほしいからだそうよ。 作った以上は死蔵せずに使用してデータを取り、次の物にフィードバックする。それがDoctor のお言葉よ。」

 

 「ちっ、しかたねえな。それにしてもここにいるのも暇だな。 少し遊んでくるわ。」

 

 そう言ってシエンヌが先程増援に出したレストレイルの後を追うように飛ぼうとした瞬間だった。

 

 

 「あら?暇なら私達がお相手しますよ。」

 

 その言葉と共に先行しているレストレイルに向けて空から流星群が降り注ぐ。 流星がレストレイルに命中する度にレストレイルは凍り付き砕け散る。

 更にタンカーに向けて2条の巨大なレーザーの光が命中し、あっという間に爆発してタンカーはまだ発進していなかったレストレイルもろとも海の藻屑と消えた。

 

 

 「「誰だ!」」

 

 シエンヌとアギーハは攻撃してきた方向を見る。そこには専用機ファービュラリスを纏ったグラキエースと専用機サーベラスを纏ったアクアがいた。

 

 

 「まさかイタリアとフランスの国家代表がお出ましとは・・・・念のために確認しますが、まさか私達と敵対するおつもりですか?」

 

 アギーハの質問に

 

 

 「「勿論、そのつもりよ」」

 

 二人は答える。

 

 

 「へっ! 面白れえ。やってやるよ、アギーハはフランスの代表を。俺はイタリアの代表の相手をする。」

 

 「わかったわ。その前に、IS学園に行って暴れてきなさいアタッド。 ディカステスの力を存分に見せつけな!」

 

 「・・・・・・・リョウカイシマシタ・・・・アギーハサマ・・・スベテハ・・・・・・・グローリーキングダムノタメニ・・」

 

 「アタッド? もしかしてアタッド・シャムラン?! まさか彼女はVTシステムの影響で廃人となって病院にいるはずでわ?」

 

 アクアはアタッドがいることに驚いた。 廃人となったアタッドだったが、グローリーキングダムが千冬に自分達の医療技術を証明する為に病院からアタッドを密かに連れ出して実験したのだった。 傍目には回復したように見えるが、実際には見た目だけで精神は壊れたままで結局このような実験にしか使えないのであった。

 アタッドはアギーハの命令を受けてディカステスを発進させた。

 アクアとグラキエースは目の前の二人を相手することを決めてアタッドは代表候補生達に任せる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『・・・・・ということで、そっちにデカ物が向かったから頑張ってね。』

 

 アクアからの連絡を受けたダリル達。

 

 

 「よし、あたしとフォルテでデカ物の相手をしとくから残りの奴を頼む。 片付いたら手伝いに来てくれ。」

 

 そう言ってダリルはフォルテを伴ってディカステスの元に飛んでいく。

 




 
 今回登場した原作キャラの強化IS並びにオリジナルISを簡単に説明

セシリア:ブルー・ティアーズ・ストライクガンナーパワード
高機動パッケージストライクガンナーを装備したブルー・ティアーズに胸部装甲と顔を護る長距離用高感度センサー[サウザンドアイ]内蔵ヘッドギア一体型のバイザーを装備。 更にエネルギー消費を補う為のエネルギーカードリッジを複数装着している 
 武器として高出力レーザーライフル[スターブレイカー]と射撃能力を封じたブルーティアーズの代わりにレーザーキャノン内装のシールドビット、更に背中にハイツインランチャーを装備した。


鈴音:甲龍
 IS学園の整備科浪漫武装部が作った、威力は有るものの見た目と重量で忌避されてきた、加速ブースター内蔵刺付き鉄球・・・ブーストハンマーを装備し、更に武器庫からグレネードランチャーとアサルトライフル、手榴弾を装備した。


ダリル:ヘル・ハウンド・ガルム
 ヘル・ハウンドVer 2.8に頭部ヘッドギアと胸部装甲を追加し、更に肩部にファンググリルという火炎砲を装備し、腕部と脚部に放電式回転ノコギリを装備。背中にバウンドキャノンというレーザーキャノンを装備。


フェルテ:コールド・ブラッド・ピクシー
 コールド・ブラッドにバイザーと胸部装甲を追加し、背中にスノーウイングという雪の結晶の形をしたユニットを装備。更に肩・腰・膝・肘に白いクリスタルがついており、氷結能力を増幅する。


サラ:アシュセイバー
 イギリスがティアーズ型を参考に作り上げた第3世代試作量産型IS。最大の特徴はBT適性が低くても扱えるAI制御型BTを登載していること。 ただし、AI制御故に思念誘導と違って柔軟性がなく、プログラムで行動する。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第32話  HT砲

 

 

 島のシールドが破壊される少し前

  グローリーキングダム本部指令室にはオペレーターを勤める女性の他にエーデルとエルデがいた。

 目の前のスクリーンには島に攻撃しようとしたが、レストレイルの大軍に阻まれるアメリカ&イスラエル連合とロシア&中国連合の姿が映し出されていた。

 

 

  「Professor 、そろそろ[ジャッジメント]のチャージは終わりそうかしら?」

 

 「チャージは完了したわ。最初の発射で起きたエネルギーの逆流はプログラムエラーによるもので、既に修正したわ。 エネルギーの逆流でおきた破損も修復したわ。 何時でも発射可能よ。」

 

 「連続発射は可能なの?」

 

 「出力を40%に抑えれば2回、30%に抑えれば3回まで発射可能よ。それ以上はジェネレーターやバレルが破損する可能性があるから無理だわ」

 

 「それなら、30%に抑えて最初は目の前の邪魔者を片付けましょう。」

 

 「わかったわ。[ジャッジメント]起動、出力調整30% 広域拡散モード。目標捕捉完了、発射角修正・・・バレル展開、カウントスタート。」

 

 エルデが衛星を起動させてジャッジメントを射つ準備をする。そして

 

 

 「さあ、懺悔なさい。ジャッジメント発射!」

 

 エーデルが発射ボタンを押す・・・・しかし何も起こらない。 いや、それどころか異常をしめす赤いランプやスクリーンに赤い文字が表示させる。

 

 

 「えっ?! システムエラー? ジャッジメントのシグナルロスト?! どういうこと! ジャッジメントとアクセス出来ない!!」

 

 「何が起きたのProfessor ?」

 

 エーデルがエルデに問う、だが次の瞬間オペレーターが

 

 

 「大変です、島の上空に此方に落下してくる物体があります。」

 

 この報告で、その場にいた殆どが何かのトラブルで制御を失ったジャッジメントが落下してきていると思った。

 

 

 「万が一に備えてイージスの出力を上げます。」

 

 オペレーターが機器を操作し、スクリーンに落下してくる物を映し出す、そこには艦首ドリルを高速回転させながら島に向かって突撃しようとする艦の姿があった。

 

 

 「「なっ?!」」

 

 予想外の事に驚くエーデルとエルデ。 そして直ぐにわかった、これが束が関わっていることに。 だが、その事を口に出すことはできなかった。 何故なら束が生きていることはエーデル達しか知らないことだからだ。

 しかし、直ぐに冷静さを取り戻す。何故なら島を覆うシールド[イージス]は強力で通常とIS競技のアリーナ等に使われるシールド十数倍の強度を持っているからだ。 いくら束とは言えども、このシールドを破ることは出来ないと考えていた。 しかし・・・・

 

 

   ギュルルルルルルルルーーー

 

 シールドとドリルが衝突し、凄まじい轟音と空振をもたらす。 

 

 

 「た、大変ですProfessor !  イ、イージスの強度が急激に低下してます。」

 

 オペレーターの言葉通りにモニターを一部にイージスの耐久力を示すゲージがみるみる内に減少していく。そしてついに

 

 

      バシュッ!!

 

 「イ、イージスの耐久強度の限界点を突発! イージス消失!」

 

 「なっ?! くっ、直ぐに迎撃部隊を! レストレイルを全機発進!」

 

 イージスが消失したことをオペレーターが告げるとエルデがレストレイルを発進させるように命ずる。

 

 

 「落ち着くのですProfessor 。 予想外の事とはいえ、私達幹部が慌ててはなりません。 レストレイルが全機発進後に万が一に備えて待機中の防衛部隊と親衛隊に出動準備を命じなさい。」

 

 エーデルはエルデを宥めながら次の指示を示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「タバネ様、シールドが消失しました。」

 

 「よーし、それじゃあ島に向かって全速前進。」

 

 態勢を立て直して、艦を島に向かって発進させる。だが直ぐに島のあちこちからレストレイルが現れ、あっという間に進路を塞ぐように展開する。

 

 

 「クーちゃん、あの邪魔な小蝿を一気に片付けるよ!

艦首モジュールを殲滅モードに変更。[HT(ハイパータバネ)砲]発射用意!」

 

 「了解しました、艦首モジュールを突貫モードから殲滅モードに変更。HT砲発射用意、パイパス接続、出力調整。総員、対ショック対閃光防御。トリガースタンバイ。」

 

 タバネの目の前に銃の形をしたトリガーが現れタバネは両手でしっかりと握る。

 

 

 「ターゲットスコープオープン、ターゲットロックオン、セーフティー解除。いくよ ハイパータバネ砲 発射! 」

 

 タバネがトリガーを引くと、艦首部分から眩い光の帯がレストレイルの軍勢に向かって伸びていく。

 光の帯に飲み込まれレストレイルの軍勢は瞬く間に爆竹のように次々と弾けて散っていく。 そしてついには島の上空に展開していた全てのレストレイルの姿が消えた。

 

 

 「タバネ様、島上空の機影全て消えました。」

 

 「よ~し、それじゃあ改めて、島に向かって全速前進!」

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第33話  アタッド・シャムラン

 

  

 「喰らえ、サンダースピンエッジ。ウォォォリャァァァーー!」

 

 ダリルはディカステスの両手に装着されている大剣による大振りの攻撃をかわして懐に潜り込み膝の放電式回転ノコギリを頭頂部に叩き込む。 

 

 

   ギュィィィィィーーーーン 

 

  高速回転するノコギリがディカステスの頭部の装甲を削る。だが、おとなしくされるアタッドではなく、両手の大剣をダリルに向かって付き出す。 むざむざ刺されるはずもなく、ダリルは紙一重でかわしてフォルテの側まで下がる。 ディカステスの頭部は右の角が折れ、顔の右側の装甲が削り取られていたが、

 

 

 「・・・・・ハソンカショ・・・・・カクニン・・・サイセイ・・・」

 

 無機質な声と共に頭部の傷が瞬く間に修復されて元に戻る。そして胸部の装甲が開き

 

 

 「・・・・・・メガフラッシャー・・・・」

 

 高出力のレーザーが発射される二人はそれをかわし

 

 

 「チッ、またかよ。 」

 

 「先輩、やっぱりシュート達が言っていた福音と同じ能力ス。」

 

 「確か、[自己再生・自己増殖・自己進化]の能力を持つナノマシンだったけ?」

 

 タバネがシュートから受け取った福音の装甲の一部を解析した結果、ダリルの言った機能を持つナノマシンの残骸を見つけ出したのだ。

 

 

 「そうっス、ISコアと相性が悪くエネルギーを滅茶喰いするナノマシンっス。」

 

 「タバネ曰く、欠陥だらけの使えないナノマシンだっけ?」

 

  ナノマシンの残骸を調べたタバネは自己増殖・自己再生・自己進化能力を持つ事を解明したが、このナノマシンには決定的弱点があったのだ。 フォルテが言った通り、エネルギーの消費が激しく特に進化能力を発現させる為には莫大な量のエネルギーが必要だということ、そして意思を持つISコアとの相性の悪さである。全てのISコアは意思を持っている、だがその意思に反して勝手に増殖・再生・進化を行うナノマシンとは相容れない存在なのだ。最初のうちは問題無いのだが、ナノマシンが機能を使う度にISコアはストレスを感じ、やがてナノマシンと融合している機体を拒絶し、機体から分離するのだ。 タバネはナノマシンを徹底解析して幾つかの攻略方法を導き出していた。

 

 

 「とりあえず簡単なのは再生しないうちにダメージを与えて完全破壊するだな。」

 

 「でも先輩、その方法をとるには頭数が足らないっス。私達二人じゃ無理っス。「我らを呼んだか?」 えっ?!」

 

 突然聞こえてきたラウラの声。

 

 

 「我らを呼んだか? ダリル・ケイシー先輩、フォルテ・サファイア先輩。」

 

 二人が振り向くとそこにはラウラ、簪、サラ、リムがいた。

 

 

 「お前達!!」

 

 「既にセシリアがスタンバイして待っています。」

 

 ラウラ達の姿を見て驚くダリルとフォルテに簪が言う。

 それを聞いてダリルは笑みを浮かべ

 

 

 「よーし、それなら締めはお嬢さんに任せて全員最大火力を叩き込むぞ。」

 

 ダリルの掛け声を合図に全員が動き出す。

 

 

 「先ずは動きを封じさせて貰う。ポイントマーカー指定、AIC改発動!」

 

 ラウラがAIC改を重ね掛けで発動させてディカステスの動きを封じる。

 

 

 「いきなさい、ソードブレイカー! アサルトコンビネーション・ホーネットダンス」

 

 アシュセイバーから放たれた誘導兵器ソードブレイカーはディカステスの周囲を高速で飛び回り装甲の隙間や関節部分を狙いレーザーを撃ち込んだり、切りつけたりする。そして頭上に集結し、頭部目掛けてレーザーを一斉発射する。

 

 

 「ウェポンハンガー[アルスノーヴァ]起動、ライドオン。」

 

 リムはウェポンハンガー・アルスノーヴァを呼び出すとビアンカネーヴェごと乗り込む、そして

 

 

 「ターゲットロックオン、ライン・ロック・ランチャー シュート!」

 

 アルスノーヴァに装着されているビアンカネーヴェの換装武器、そしてアルスノーヴァの先端部分が開いた場所から一斉にレーザーが射たれる。 ディカステスの左腕は直撃を受けて消失する。

 

 

 「単一仕様能力発動 三千大三千世界。」

 

 簪が翠華月の単一仕様能力を発動させると、翠華月の周囲に全ての武装が展開されて宙に浮いている。 そして簪は両手を左右に広げて胸の前で十字に組み

 

 

 「マルチロックオンシステム起動。 ターゲットロック、 スペシウム超光波!!」

 

 全ての武装、ミサイル・リニアガン・荷電粒子砲・ショットガン・ガトリングガン・ブーメラン・薙刀・ビームがディカステスに向かって放たれる。 全身にくまなく攻撃を受けるディカステス、両足は完全に吹き飛ぶ。

 

 

 「F2Wキャノン ロングレンジモード。ツインレールキャノン、セットオン。 ダブルブレイクシュート!」

 

 ラウラはF2Wキャノンと背中のガルーダユニットのツインレールキャノンをセットし、ディカステスに向かって放つ。右腕の剣で何とか防ごうとするが、耐えきれずに剣諸とも右腕が消失する。

 

 

 「アイスクリスタル・オーバードライブっス!」

 

 コールド・ブラッド・ピクシーの各部についている青白いクリスタルが一斉に輝き、周囲に雪の結晶のようなものが浮かび上がる。

 

 

 「コキュートス・インパクト!」

 

 フォルテの周囲に浮かんでいた無数の雪の結晶が、まるで妖精のように舞い踊りながらディカステスに向かっていく。 雪の結晶はディカステスの装甲や関節部、損傷部分に貼り付く。 貼り付いた場所は白く変色し、周囲を氷が覆う。

 

 

 「 いくぜ、イグニッション!!」

 

 ダリルの言葉と同時に全身から炎が吹き上がる。 その炎はダリルの体を覆い、そのままディカステスに向かって突撃する。 全身を覆っていた炎は徐々に左の拳に集約されていく。連続瞬時加速により炎の流星の如く一気にディカステスに迫るダリル、そして

 

 

 「バーニング・ブレイカー!!」

 

 炎を纏った左の拳がディカステスの胸部に炸裂する。その衝撃で、氷ついていた箇所と胸部装甲の一部が砕け散る。 砕けた胸部装甲の隙間から内部にいるアタッドの顔をダリルは見た。

 

 

 「うっ?!」

 

 垣間見えたアタッドの顔は、頭髪の一切ない頭部に無数のコードが直接差し込まれており、左目には眼球の代わりにセンサーらしきものが埋め込まれており、血涙を流していた。

 

 

 「チッ!! お嬢さん決めろ! そしてアタッドを解放してやれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「申し訳ありません鈴さん、ボディーガード役を任せる形になってしまって。 何せ、この機能を使うと使用中はほぼ無防備になる上に、使用後は強制冷却でISが再展開まで少し時間がかかるので。」

 

 「気にしなくていいわよ。その代わり、私の分までやって頂戴。」

 

 「わかりました御約束します。 システムロックオフ、メタルジェノサイダーモード起動!」

 

 セシリアの言葉と同時にブルー・ティアーズの装甲が

顔のバイザーと手足の内部装甲を残してパージされ、スターブレイカーに装着されていく。 銃口部分をシールドビットが覆い先端に変形したハイツインランチャーが接続されたとき、巨大なレーザーキャノンが完成した。

 そして銃下部からトライポッドが現れて地面に固定される。 セシリアはトリガーを握り発射準備にかかる。

 

 

 「システムオールグリーン、エネルギーフルチャージ。 ターゲットロックオン。」

 

 そしてチャージが終わった頃、ダリルからの声が届く。

 

 

 『チッ! お嬢さん決めろ! そしてアタッドを解放してやれ!!』

 

 「ハイ。 セーフティーロック解除

 バスターキャノン  ファイナルシュート!!」

 

 銃口から眩いほどの光の奔流がディカステス目掛けて走る。

 光の奔流は半壊したディカステスを飲み込み、爆発し消し飛ぶ。

 

 

 「・・・・・・・アッ?!・・・・・」

 

 爆発する直前のディカステスのコックピット内、自我を失いISの部品と化したアタッドは目の前に拡がる眩い光の中で、アタッドは右目から涙を流していた。

 この僅かな瞬間に自我を失った筈のアタッドの脳裏に若かりし頃の記憶・・・・ISが登場する前の学生時代に恋心抱いた少年と木漏れ日の溢れる木陰で語らいあった青春の頃の風景・・・女尊男卑の思想もなく純粋な気持ちで未来を夢見ていた頃の風景が甦る。 

 アタッドは最後の瞬間、幸せだった頃を思いながら光の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第34話  亀裂

 

 

 「Doctor とMerchant と連絡がとれないですって?」 

 

 密かにオペレーターからの報告を受けたエーデルとエルデは顔を見合わせた。 グローリーキングダムの中で油断ならない人物を上げろと言われれば、二人は光子とアギラを上げるであろう。 お金に執着する光子、研究のみに執着するアギラ、この二人はグローリーキングダムの中でも異質と言ってもよかった。 表向きは女尊男卑の思想を唱っているが、決して本心からで無いのは二人は知っていた。それでも、二人は組織に対して忠誠を誓い様々な功績をあげてきた。 それ故に警戒心が薄れていたのであった。

 

 

 「Priestess 、まさかこのタイミングで・・・・」

 

 「ともかく、早急かつ内密に最後に確認された二人の位置から行き先を予測しサーチしてください。」

 

 「わかりましたPriestess 様。」

 

 磐石の体制を築いたと思っていた筈の組織に亀裂が走る。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「フム、どうやら気付かれたか。沈み行く船に何時までも乗っている訳にもいかんのでな。 急ぐぞオウカ?」

 

 「ハイ、母様。」

 

 アギラはそう言って、背後にいる少女・・・オウカに声をかける。 二人は薄暗い湿気の充満した岩の裂け目のような場所を僅な灯りを頼りに進んでいた。 ここは万が一に備えてアギラが準備していた脱出ルートである。

 アギラも早々にこのルートを使うことになるとは予想していなかった。 だが、イージスを破られレストレイルが全て撃破されたとなると、未だかなりの戦力を保有しているとはいえ、万が一の場合を備える必要がある。そこで、一旦島を離れることにしたのだ。 ただ唯一の誤算は、

 

 

 (それにしても、まさか石動光子に見つかり邪魔をされるとはな。)

 

 部屋を出て、このルートに向かう最中に光子と鉢合わせし、行動の不振さを指摘されてしまいやむなくオウカに始末させたのだった。

 

 

 (まあよい。ともかく今は一刻も早く、この島から離れて秘密ラボに向かわなければ。 暫くは身を隠して、またどこぞの裏組織に潜り込むかの。これまでの研究結果とレプリコア、それにこのデータがあれば、どの組織でも直ぐに飛び付いてくるじゃろうて。)

 

 そんな事を考えながらアギラ達は道をすすむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何?! Merchant が!」

 

 オペレーターからの内密の報告に思わず大声をあげそうになったのをこらえるエーデルとエルデ。

 

 

 「ハイ、Doctor の私室の近くで眉間を撃ち抜かれて亡くなっている所を発見したとのことです。おそらく・・・・」

 

 「Doctor の仕業ね。どうしますPriestess ?」

 

 「Merchant の遺体をなるべく人目につかないように回収し、引き続きDoctor の探索を。」

 

 「わかりました。」

 

 「たいへんです! 例の戦艦からISが出撃しました。数は5機、真っ直ぐ此方に向かってきます。」

 

 オペレーターの報告を聞きエーデルは

 

 

 「Assassin に連絡をして艦の制圧を! それから此方に向かってくるISに対して防衛部隊とPaladin に出動させて。」

 

 「Priestess 、私は万が一に備えてあそこに向かうわ。」

 

 「お願いProfessor 、私はEmpress の元に出陣をお願いしにむかうわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、出撃したシュート達。 メンバーはシュート、刀奈、シャル、スコール、オータム。だが、出撃したのはシュート達だけではなかった。 タバネとマドカが別ルートで出撃していた。 しかもタバネ特製のステルスマントを装備している為にレーダーやセンサーには引っ掛からないのだ。 タバネ達は島の外れにある滑走路から地下を目指している。 無論これには訳があった。

 島の全体をサーチしたところ、人工に作られた島であり島の地下に動力炉があることがわかったのだ。

 そこで動力炉を止める為にタバネが向かう事になったのだ、そしてマドカがその護衛ということになった。

 

 

 司令塔である城を目指すシュート達の前にISを纏った数十人の女性達が現れた。

 その先頭のAssassin ・・・レジアーネは腕に斧のようなものがついた完全装甲型ISギャノニアを纏っていた。

 

 

 「まさかたった5人で乗り込んで来るとは愚の骨頂ですね。 身の程を弁えなさい。エキドナ、私は艦の制圧に向かいます。Paladin がこられるまで貴女が指揮をなさい。」

 

 レジアーネはそう言って後ろにいるアメリカの第2世代型ISアラクネを纏ったエキドナに告げて、その場を離れようとするが、スコールがその行く手を塞ぐ。

 

 

 「何処に行くのかしら? 簡単には通さないわよ。」

 

 「それは此方の台詞です。Assassin 様の邪魔はさせません。」

 

 「お前こそスコールの邪魔するなよ。私が相手になってやるよ。」

 

 エキドナがスコールの元に行こうとするのをオータムが遮る。 それを見てシュート達は

 

 

 「よし、二人の幹部はスコール達に。俺達は他のを落とすぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第35話  裏切りの代価

  

 

 秘密のルートをたどり島の外れにある滑走路にたどり着いたアギラとオウカ。

 

 

 「やれやれ、ようやくここまで来たか。さてとこれからがたいへんだ。 沖合いには連合軍がいるから見つからないように移動しないとな。」

 

 そう言ってアギラは近くの壁に手をやるとパネルが現れてそれを操作する。 

 すると地下から一機の戦闘機・・・ランゼンが現れる。

 

 

 「オウカ、操縦は任せたよ。 こいつは特別製だステルス機能を持ち、ISとリンクして動かせる。」

 

 そう言って機体のキャノピーを開け後部座席に座る為に歩き出す。

 

 

 「へ~、分が悪くなったから尻尾巻いて逃げるんだ?」

 

 背後から声が飛ぶ。 アギラが振り向くとそこにはタバネとマドカがいた。

 

 

 「?! 篠ノ之束! それに横にいるのは・・・まさかナンバーMか!」

 

 「へ~、マーちゃんのことまで知っているなんて、アギラ・セトメあんたはオリムラプロジェクトの内容を知っているんだね。」

 

 「もちろんじゃとも、何せワシの目指す先も同じじゃからの。 オリムラプロジェクト・・・人工的に有能な人間を産み出す計画。その成功例は織斑千冬と織斑一夏の2名のみとなっておるが、実際には正式な記録に残っていない成功例が2名・・・コードMとコードSじゃったな。 もったともそれ以外の事は何もわかっておらんがな。」

 

 「あ~勘違いしているようだから言っておくけど、正しくは織斑千冬と一夏は成功例だけども完全ではないよ。 まあこれ以上は言わないけど、ともかくあんたがここから逃げようとしているのは意外だったけど見過ごす訳にはいかないな。」

 

 「ちっ! 忌々しい。 しかし何故この場所に・・・そうか、地下を目指すのか。 ならば取引といこうじゃないか? 地下への行き方とワシのパスカードとコードを渡す。その代わりに見逃すというのは?」

 

 タバネの言葉にアギラが取引を持ちかける。

 

 

 「別にそんなのが無くてもタバネさんには問題無いよ。」

 

 「ならば、このメモリーをくれてやる。これにはPriestess の秘密が納められている。 どうじゃ?」

 

 「Priestess の秘密? それはなんなのさ?」

 

 「御主達にも関係があることじゃぞ、どうじゃ?」

 

 「あ~いらないや、そんなの。何となく予測はつくからね。」

 

 「ちっ!! こうなったら仕方ないオウカ!」

 

 取引が通じないとわかるとアギラはオウカに命じた。

オウカは直ぐにIS・・・ラピエサージュを纏う。 戦う事になると思いエクレールを展開するマドカ、 だが次の瞬間

 

 

 「ガハッ?!」

 

 「「えっ?」」

 

 オウカを振り向き様に右腕に装着されているマグナムビークでアギラを切り裂く。多量の血を流しながら倒れるアギラ。信じられないといった顔でオウカを見ながら

 

 

 「ば、馬鹿な? な、何故じゃオウカ? ワシはお前の・・」

 

 「私を作り上げて頂いた事には感謝しますお母様・・・アギラ博士。 ですが、裏切りを許し見逃す訳にはまいりません。 グローリーキングダムの掟は絶対です。ましてやPriestess 様の秘密を売り渡そうとは言語道断です。」

 

 オウカのその言葉にアギラは驚く。 オウカはアギラが作り上げたブーステッド・チルドレンの唯一の成功例だ。 薬物や催眠暗示、生体調製等で強化した少女兵だ。 アギラは自分を母親だと認識し、命令に服従するように精神操作を行っており処置は完璧で、アギラに対して絶対服従しており意見や反抗の素振りは今まで一切なかった。 そのオウカが自分を切りつけた。

 つまり、自分への絶対服従に対して上書きがされているということになる。 先程まではその素振りもみせていなかったのに、今になって何故? 

 アギラは薄れ行く意識の中で必死に考える。

 

 

 (精神操作は完璧だった、とすれば上書きが行われ、ワシより上位の服従対象を作られた。その対象は恐らくPriestess ・・・エーデルだが、先程まではその素振りも無かった、とすればトリガーキーによる覚醒・・・それもエーデルへの裏切り行為か・・・だが、いつの間に?・・・)

 

 アギラは疑問の答えを出せぬまま、意識を喪いその命を終えた。

 

 

 「裏切り者の始末は終わりました。 次は貴女達、侵入者・・・いえ、敵対者の抹殺に移ります。」

 

 「タバネ姉さんは地下に! 私がこいつの相手をする。」

 

 「わかった。でも気を付けてマーちゃん、そいつのISは普通じゃないよ。」

 

 「大丈夫だ、問題ない。 それよりタバネ姉さん、リミッターを解除するけどいいよね?」

 

 「いいよ、思いっきりやっちゃって!」

 

 そう言ってタバネは通路に向かって走って行く。

 

 

 「貴女を倒してから追う事にしよう。さあ覚悟しなさい。」

 

 そう言ってオウカが構える。

 

 

 「悪いけど、お前はタバネ姉さんを追う事は出来ない。何故ならここで私に倒されるからだ。」

 

 マドカが切り返すと共に二人は激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エーデル達によって与えられた専用機ガーリオンカスタム白露・・・ガーリオンカスタム雪羅を改造して作られたカスタム機・・・を纏い侵入者を撃退する為に出撃した。 侵入者の情報は与えられていなかった。ただ敵を倒すことだけを命じられた。

 今の千冬には自分の意思は存在しなかった。 ただ命じられた事をこなす・・・・全ては一夏の為に。 

 グローリーキングダムは一夏の治療を確約してくれた。 そして治療を開始した、だが回復までには時間がかかると言われた。 それが真実かは千冬にはわからなかったが信じるしかなかった。 

 

 

 (敵を倒す・・・・・一夏の為に・・・・敵を倒す)

 

 千冬はただそれだけを思いながら目的地に向かう。そんな千冬の前に一機のIS・・・ヒアンカネーヴェ・ロッソが現れる。

 

 

 「おやおや、そんなに急いで何処に行くサね?」

 

 「お前は?」

 

 「あら? 顔を見せないと思い出さないの?」

 

 そう言ってアリーシャはヒアンカネーヴェ・ロッソのフェイスガードを開く。

 

 

 「久しぶりサね織斑千冬。」

 

 「アリーシャ・ジョゼスターフ。」

 

 「テロリストの手先に成り下がるとはブリュンヒルデも地に落ちたものサね。」

 

 「どけ、お前に構っている暇は無い。」

 

 「そうはいかないサね、あたしの任務はこのテロ組織の壊滅。とすればテロ組織に加担しているあんたも対象サね。」

 

 「ならばお前をたおして進むだけだ。」

 

 「それは無理サね。貴女は私を倒す事は出来ない出来ないサね。」

 

 千冬は改良された雪片弐式を呼び出し、アリーシャも両腕の武装を展開する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第36話  オウカ

 
 お陰さまを持ちまして、なんとか連載一周年を迎えました。

 どうぞこれからもよろしくお願いいたします


 

 

 「いけ!」

 

 ラピエサージュから無数のミサイルが発射される。しかし、

 

 

 「無駄だ、いくら撃っても私には届かない。」

 

 マドカはガナリーカーバーでミサイルを全て撃ち落とす。

 

 

 「マグナムビーク、セット!」

 

 ラピエサージュの右腕の鉤爪が伸び、そして再びミサイルを発射しミサイルの背後からマドカに迫る。

 

 

 「ガナリーカーバー、ビットモード。 ファイア!」

 

 エクレールの周囲にガナリーカーバーが8つ出現し、一斉射撃を行いミサイルを撃ち落としていく。 更にマドカは手にしているガナリーカーバーでオウカを狙い撃つ。

 

 

 「くっ?!」

 

 ミサイルを撃ち落とされ爆炎で視界が遮られ躊躇したオウカにビームが飛んでくる。間一髪でかわし、距離を取る。 

 戦闘が始まり10分が経過していた。最初の内は一進一退の攻防が続いていたが、徐々にオウカが追い詰められはじめた。  実はマドカとオウカとでは、オウカの方が実力は勝っていた。 その差を機体性能で補い互角の戦いを演じていた。 それが今になってマドカが優位になってきたのか。

 要因はオウカの纏うISラピエサージュに登載されているGAMEーSYSTEM だ。

 アギラによって極限まで強化されたシステムに適応するように調製されたオウカ、テストでは向かうところ敵無しだった。

  だが、それは飽くまで自分より格下の相手との模擬戦、いわば力でねじ伏せる方法しかやってこなかった。

 一方マドカは格上若しくは同等の技量を持つ相手のと訓練を重ね、そういった者達と戦う為の技術や駆け引きというものを身に付けている。

 言わば経験による差が生まれ、それが目に見える形で現れた。一進一退の攻防は精神的優位とゆとりを無くし精神と身体にズレを生む。それがオウカを激しく消耗させGAMEーSYSTEM の負荷に耐えられなくなってきたのだ。

 

 

 (何故だ、何故倒せない? アギラ博士は言っていた私とラピエサージュが組めば無敵だと。 なのに何故?)

 

 模擬戦やシミュレーションとは違う展開に戸惑いと怒りを感じるオウカ。 本来ならアギラによって感情制御がなされおり、戦闘中の感情の変化・・・戸惑いや怒りというものとは無縁のオウカだったが、エーデルによる短時間での命令の上書きにより綻びが生じそれが崩れていった。

 もし、命令の上書きによる感情制御の綻びがなければ、ここまで追い詰められる事はなかっただろう。

 経験による差が有ろうとも、GAMEーSYSTEM に組み込まれている様々な戦闘プログラムによる理詰めの戦いにより、互角の戦いを未だ続けていただろう。 だが、今のオウカにそれを実践する余裕も暇も無い。 混乱しているオウカにとって、GAMEーSYSTEM がもたらす戦術は煩いものとなっていた。

 

 

 (私は・・・最強の戦士・・・・ラピエサージュは・・・・無敵・・・・私は・・・・無敵の戦士・・・・敗北は無い・・・)

 

 感情抑制の綻び、精神疲弊によりオウカの脳裏に浮かんだのは最初に刷り込まれたアギラの言葉、その瞬間ラピエサージュに変化が起きた。

 

 

 「アァァァァァァァァーーーーーー。」

 

 オウカの叫び声と共にラピエサージュは翼を大きく広げ全身に血管の如く赤いラインが走る。そして姿が消える。

 

 

 「えっ?!」

 

 突然の事に驚くマドカ。 次の瞬間、展開していたビットが次々破壊されていく。

 

 

 「急にスピードがあがった! 何故だ?」

 

 突然の事に戸惑うマドカだったか、それでも体勢を崩すことなく、ラピエサージュの動きを見極めようとする。  ラピエサージュは先程とはうって変わって凄まじい速度で動き攻撃してくる。  マドカは何とか回避しているものの先程とうって変わって追い詰められつつあった。

 

 

 (いったい何が起きたの? 急に動きがかわった。)

 

 ラピエサージュに登載されているGAMEーSYSTEMはアギラによって極限まで強化されたものだ。 だがアギラはオウカには秘密にある仕掛けを施していた。

 それは装着者の意思生命を無視して機体性能を極限まで引き上げ、GAMEーSYSTEM に全てを委託し装着者をマリオネットのようにしてしまうのだ。 本来ならアギラが命じなければロックが掛かっており発動しないのだが、追い詰められたオウカの精神的負荷がそれを無理矢理抉じ開けたのだ。

  オウカの命と引き換えに。

 

 

 「このままでは不味いな。ならば私も本当の力を解放する。 エクレール、リミッター解除、ツインコアシステム・フルドライブ。 ガナリーカーバー、コネクトオン。 さあ起きておくれデエス・エクレール!」

 

 次の瞬間、エクレールを中心に爆発的な光が放たれる。 その光を浴びてラピエサージュの動きが止まる。

 

 

 「真形態移行(トゥルース・シフト) デエス・エクレール。」

 

 光が収まるとそこには各部分が若干変化したエクレール(外見:バルゴラグローリーS)が姿を現した。 両手にガナリーカーバーを2つのガナリーカーバーを構えて動きの止まっているラピエサージュに迫る。 

 右手に持つガナリーカーバーは高周波ブレードを展開して切りつける。 オウカは直ぐに反応し、それを避け再び高速移動でマドカを翻弄しようとするが、先程までと違い、マドカはそれに追随し左手のガナリーカーバーから実弾を連射する。

 

 

 「?!」

 

 自分の動きに追随するマドカに驚くオウカ。それでも直ぐに対応し、

 

 

 「マグナムビークセット。」

 

 振り返り様マグナムビークを突きだすが、高周波ブレードでマグナムビークを切断される。 

 それならばと左手にO.O.ランチャーを呼び出して零距離射撃を狙う。

 

 

 「O.O.ランチャー、Bモード。」

 

 至近距離から放たれたO.O.ランチャーの実弾。 避けられずに命中した、と思われたが実弾はエクレールの体をすり抜けていく。それと同時にエクレールの姿が掠れていき消える。 次の瞬間、ラピエサージュは背後から無数の銃弾を受ける。 振り返えると、そこには左手のガナリーカーバーから実弾を放ったエクレールの姿が。

 エクレールは残像を残す高速移動。それをオウカは見抜けなかった。

 

 

 「Eモード!」

 

 エネルギー弾を撃つ、が再びエクレールの体をすり抜けていく。 そして背後に銃弾を受ける。 

 徐々に傷ついていくラピエサージュ。 実はラピエサージュにはラズムナニウムは使われていない。 アギラが必要性とデメリットを比べてラピエサージュへの登載は不要と判断したからだ(アギラ曰く最強の兵士であるオウカと最高傑作品であるラピエサージュならば、損傷を受ける事は無い)。 それゆえにうけた損傷は修復されない。 

 ここでオウカは損傷が軽微な内に勝負をつけようと賭けに出た。

 いったん距離を取り、最大の攻撃力を持つ技を放つ事に。

 

 

 「ラピエサージュ、オーバードライブモード!」

 

 ラピエサージュは翼をひろげ、更に全身に走る赤いラインが金色に変わる。 

 オーバードライブモード・・・機体性能と出力を一時的に飛躍的に増大させる事が出来るが、エネルギーの消耗が激しく使用後は機体が強制冷却により性能が著しく低下する。 オウカ・・・いやGAMEーSYSTEMは勝負をつける為にあえて使用することにしたのだ。

 マドカもそれを感じとり、最大の技を放つ事にした。

 

 

 「アンキャニー・アルティメイタム・ネイルズ!」

 

 「ブレイク・マキシマム・クロス!」

 

 ラピエサージュが左手の5連チェーンガンを放つ、エクレールはガナリーカーバーをマシンガンモードにして実弾を射つ。

 

 

    ズガガガガガガガガーーーン

 

 互いに放った弾丸はぶつかり合い落ちていく。

ラピエサージュは切断されたマグナムビークを新しい物に取り換えて展開しエクレール目掛けて突きだす、エクレールはガナリーカーバーの高周波ブレードをマグナムビーク目掛けて切りつける。

 

 

   ガキン、 パキン!

 

 マグナムビークと高周波ブレードは互いに折れる。

ラピエサージュは少しだけ距離を取り、O.O.ランチャーのBモードで連射し、バックパックからミサイルを発射する、エクレールも距離を取り両手に持つ2つのガナリーカーバーの銃口をあわせるとそこに巨大なビームサイズがうまれ、それを大きく振りかぶって投げる。

 

 

     バシューーーーーーーン

 

 ビームサイズの刃、O.Oランチャーのエネルギー弾とミサイルはぶつかり合い消滅する。

 更に距離を取るラピエサージュ。 同じく離れるエクレール。

 

 

 「コード U・U・N!」

 

 ラピエサージュは銃身の伸びたO.Oランチャーから高出力のエネルギー弾を放つ。

 

 

 「ファイナルブレイク、B・M・X!!」

 

 エクレールは周囲に8機のガナリーカーバービットを展開し、両手に持つガナリーカーバーと同時に最大出力のビームを放つ。ビームはやがて1つとなる。

 

 ぶつかり合う、2つの光。ラピエサージュの放った青黒い光、エクレールが放った黄緑の光。

 一進一退を続ける2つの光、永遠に続くかとおもわれた攻防は徐々に変化をみせはじめる。

 エクレールの放った黄緑の光がラピエサージュの青黒い光を押し返しはじめ、ついには撃ち破りラピエサージュに命中する。

 

 

   ドォガァァァァーーーン!

 

 ビームの光に飲まれたラピエサージュ、やがて大きな爆発が起きる。

 立ち込める爆煙・・・・吹き抜ける風により徐々に晴れていく。  そこにはラピエサージュの姿があった。 しかしその姿は痛々しいものだった。

 右上半身と左腕の装甲は消失、頭部装甲も殆゛ど消失しておりフェイスガードの一部のみが残りオウカの顔の右側を隠している。 残っている装甲も破損しており、まともに動くようには見えなかった。 それにオウカ自身も多量の血を流しておりまともに動けるかも怪しい状態だった。

 それでもオウカは

 

 

 「・・・・わた・・・・・しは・・む・・・・・てきの・・・・へ・・・・・いし、む・・・・て・・・・・・・・・き・・・・む・・て・・・・・き・・」

 

  戦おうとする。 いや、オウカだけでなくラピエサージュに登載されているGAMEーSYSTEM も戦闘行為の継続をオウカに求めていた。

 

 

 「・・・・・・アン・・キャ・・・・・・ニー・ア・・ルティメ・・イタム・・・・・・ネ・・・・・・イル・・・・・・・・ズ」

 

 再び最大の技を放とうとする。だがモーションに移る瞬間だった、ラピエサージュの全身が激しく放電する。

 機体状態を無視しての技の発動、それに耐えられない機体がオーバーヒートを起こしたのだ。

 動きが止まるラピエサージュ、GAMEーSYSTEMも機能停止に陥ったのか、オウカもピクリとも動かない。

 

 

 「終わったな。」

 

 オウカを拘束しようとマドカが動いた瞬間だった。

 

 

 【GAMEーSYSTEMノキノウテイシ、ナラビニソウチャクシャノイシキショウシツヲカクニン。 コレヨリキミツホジノタメ、コードATAハツドウシマス。」

 

 突然告げられるコンピュータボイスにマドカは直感的に反応してラピエサージュから距離を取る。

 

次の瞬間、ラピエサージュは光を放ちながら内側から弾けるように爆発。

 その姿を完全に消し去った。

 

 

 

 

 

 

 

 (・・・・・・・・わたしはオウカ・ナギサ・・・・・・違う・・・・私の名前はサクラ・・・・・・鏡・・・・・サ・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第37話  立ちはだかる壁

 

 

 マドカにオウカを任せてタバネは隠されていたエレベーターを見つけてコンピューターをハッキングして操作し、地下に向かっていた。 無論監視カメラも偽の映像を流すように細工をした。

 そして最下層までたどり着き、幾つかの扉を過ぎた所に目的の場所、動力炉制御室に来た。

 

 

 「さてと、ぽちっとな。」

 

 手にしていた端末を操作して扉に設置されているパネルに触れると扉が音もなく開いた。

 タバネは部屋のなかに入るとそこにはタバネの予想していた通りの光景が広がっていた。

 

 

 「やっぱりあったね、コントロールシステム【メイガス】。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 防衛部隊を簡単に撃破し、城へと向かうシュート達。

やがて目的の城が見えた。

 

 

 「よし、上の城の部分は殆ど飾りで重要な施設は存在していないから、地下への入り口を探すよ。」

 

 そうシュートが告げた瞬間だった。 城から、高出力のレーザーが発射されてきた。 シュート達は難なくかわし、発射された方角を見る。

 そこには同じ形状の巨大な完全装甲型ISが3機いた。

 真ん中に2本の巨大な剣を持つ紅い機体、その両脇に右手に同じ形状の剣左手にレーザーライフルを持つ青い機体・・・・・ヴァルシオン、タバネのダミーの設計図を元にグローリーキングダムが開発した自称究極のISだ。

 

 

 「 我こそはグローリーキングダムのEmpress 。我等が王国に攻め入りし愚かなる者達に裁きを与えん。」

 

 中央の紅いヴァルシオン・・・ヴァルシオン・クリムゾンから聞こえてきた声はEmpress こと箒だった。 だが、その声は無機質で感情が一切こもっていなかった。

 

 

 「篠ノ之箒さん、大人しく投降しなさい。いくら犯罪者に成り下がったとはいえ、かつては同じ学舎にいた者をそう簡単に撃ちたくはありません。」

 

 刀奈が箒に降伏勧告をするが、箒からは一切反応はかえってこなかった。

 

 

 「・・・・・映像から予測はしていたが、やはり精神コントロールを受けているな。」

 

 「できれば思いたくはなかったね、どうにもならないの?」

 

 箒の反応から現在の状況を予測したシュートにシャルが尋ねる。

 

 

 「シャルロットちゃん、たぶん無理よ。 篠ノ之さんがグローリーキングダムに精神コントロールを施された以上、そう簡単に解ける代物じゃ無いはず。」

 

 シュートの代わりに刀奈が答え、シュートもそれに同意するように頷く。 

 一夏を刺し逃亡した箒は、その行動を監視していた光子の手により匿われ島へと連れてこられた。

  その時点で箒は重度の心神喪失状態にあった。 そんな状態の箒にアギラが記憶洗浄・改竄に薬物、催眠暗示等を用いてEmpress に仕立て上げたのだ。

 ただ通常と違い短期間で行った為に何かの拍子に元に戻らないとも限らないので、そのリスクを最小限に押さえる為に感情制御と自我抑制が施されており、今の箒はただ与えられた指示を忠実にこなす人形となっていた。

 

 

 「二人とも篠ノ之は俺に任せて他の二機を頼む。」

 

 シュートはそう刀奈とシャルに告げて箒のヴァルシオンに向かっていく。 刀奈とシャルは顔を見合わせて、左右のヴァルシオンにむかう。

 

 

 「さぁ篠ノ之、行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どうしたサね、ブリュンヒルデ? 息が上がっているようだけど?」

 

 「くっ?!」

 

 相対する二人、アリーシャは右腕をブレードに左腕をガトリングガンを装備。 千冬は雪片を両手で構えている。

 そしてアリーシャの言う通り千冬の呼吸は荒かった。

 

 

 「ハァァァァァァーーー!! 」

 

 千冬は瞬時加速によりアリーシャに接近し、その手にしている雪片を振るう。そして当たる寸前で零落白夜を発動されて振り抜く。

 同じ武器を使ってもその錬度は千冬が遥かに勝っている。 ずっと発動させ続けて直ぐにエネルギー切れを起こす一夏、だが千冬は当たる寸前のみに発動させて振り抜いた時には停止させている。 これだけでもエネルギーの消耗をかなり押さえられるのだ。

 

 

 「甘いサね!」

 

 アリーシャは右腕のブレードを突き出して雪片の刃を刀身で反らしながら鍔の部分まで送る。 アリーシャの右腕のブレードは鍔の部分が十手のような形式になっており刃を受け止められるようになっている。 いや受け止めだけでなく

 

 

    ガチン!!

 

 鍔の部分で受け止められた雪片の刃をL時部分が

可動して挟み込む。 直ぐに零落白夜を発動させて刃を引き抜く千冬。 だが、隙が生まれてしまい至近距離から左腕のガトリングガンを食らう。

 

 

 「おやおや、どうしたサねブリュンヒルデ? 」

 

 アリーシャのビアンカネーヴェ・ロッソはリムのものとは違い対千冬用・・・対零落白夜用にチェーンされた機体だ。その為に徹底的にエネルギー系統の武器は排除され全て実弾系の武器に変えられていた。特に右腕に装着しているブレード【ネーヴェロンペネ】は対零落白夜用にある意味特化した武装だ。 

 刀身部分は対ビームコーティングされており、更に鍔の部分には刀身を挟み込み刃を折る機能がある。 

 そして完全装甲に近い形状にすることで装着者の負担軽減を計り、開発中止となったアリーシャが怪我する原因になったテンペスタⅡに匹敵する機動性を持つことになった。

 

 

 「くっ?!」

 

 機体のダメージを確認しながら距離をとる千冬。

 

 

 (エネルギーはまだ十二分にある。 だが何故だ? なぜならアリーシャに届かない?)

 

 千冬が持つ雪片弐式はIS本体とは別に剣その物にISコアを埋め込むことでエネルギーを別々の物にすることで、機体のSEを消費するという欠点をカバーした。

 いや、それだけでなくレプリコアを複数、機体に装備しラズムナニウムの制御とエネルギー源にし、ISコアとの相性の悪さを改善させた。 その事で機体性能は大幅にアップした。 そう機体性能は・・・

 

 だが、装着者の技量には開きがあった。

千冬に敗北してからというもの、ISの開発に携わりながらもストイックに鍛練を怠らず、怪我をしてからもリハビリと鍛練を欠かさず現役時代と変わらない・・・いや現役時代以上の技量と身体能力を有したアリーシャ。

 

 一方の千冬も引退後も鍛練を欠かす事はなかったが、IS学園の教師となってからは、その密度時間共に低下していた。 教師の仕事の傍ら時間を見つけてはやっている程度であり、精々身体能力(筋力&持久力)を維持する程度であり本人はあえて意識していなかったが、現役時代に競べれば技量や勝負勘、反射神経等はかなり衰えていた。

 

 アリーシャと千冬の間には実力の壁が生まれていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第38話  墜ちる時

 

 

 「ハァァァァァァーーー!!」 

 

 千冬は手にしている雪片弐式を下段に構えたままアリーシャに向かっていく。 

 

 

 「相も変わらず突進? 少しは知恵をはたらかせたらどうサね?」

 

 千冬の攻撃をいなそうとするアリーシャ、だがその直前で突如として千冬の姿が消えた。

 

 

 「これは?! まさか!」

 

 瞬速三連瞬時加速(クイックトリプル・イグニッションブースト)・・・かつて千冬が第1回モンドグロッソでアリーシャを破り優勝を決めた技

 相手の直前で1回目の瞬時加速を発動し、左右どちらかに移動し視界から消えたように感じさせ、そのまま2回目の瞬時加速を発動し、相手の頭上まで飛び上がる。 そして3回目の瞬時加速を発動して相手に斬りかかる。

 短時間そして短い距離で3度の瞬時加速を発動し、方向を変えながら攻撃するという荒業、千冬以外の何者にも会得出来なかった技・・・いや、装着者と機体にかかる負担が計り知れない為に誰も会得しようとは思わなかった技。

 

 

 「フハハハハハハーー それを! それを待っていたサね!」

 

 アリーシャは歓喜に震えていた。第1回モンドグロッソにおいて成す術もなく破れ去った技、リベンジを誓った第2回大会では、その願いも虚しく叶わなかった。

 その夢にまで見た技が目の前で繰り出された。

自分に目掛けて振り下ろされようとしている剣、だが悲しいかなアリーシャの目から見てもその太刀筋は現役時代の物とは比べ物に成らないくらい衰えており、アリーシャにとって反応するには容易いものだった。

 

 

 「 だがブリュンヒルデ、これはあたしが待ち望んでいた技には遠く及ばないサね!」

 

 アリーシャは左腕のガトリングガンをネーヴェロンペネに変えていた。 そして

 

 

 「そんな腑抜け剣であたしを倒せると思うな!!」

 

 零落白夜を発動させた雪片弐式がアリーシャを斬り裂こうとした瞬間だった、突如アリーシャの姿が消えた。

 

 

 「 な?!・・・・・・・・・まさか?」

 

 何の手応えも感じなかった剣、そして目の前で起きた現象に驚く千冬。 直ぐに真上を見上げると、そこにはアリーシャの姿があった。

 

 

 「・・・・瞬速三連瞬時加速だと?! 馬鹿な!」

 

 自分以外には会得していない・・・いや、会得するはずが無い技を目の前で見せられる。

 アリーシャはずっと考え続けていた千冬に勝つための方法を、そしてたどり着いた答えは瞬速三連瞬時加速を会得するということだった。

 だが、それは容易な事ではなかった。 以前の愛機テンペスタでは機体性能等の理由により再現できず、テンペスタⅡでは会得まであと僅かにまで迫ったものの、技の難易度が機体に負担をかけてしまい事故を誘発してしまった。  この事故により右目と右腕を失った。

 

 だが、それでも諦めきれずアリーシャはリハビリとトレーニングを続け、そしてビアンカネービィ・ロッソという機体を得た事で遂に会得することに成功したのだ。 いや、会得しただけではない!

 

 

 「受けろクローチェ・デル・スド・スパーダ!!」

 

 手にしているネーヴェロンペネをX字に交差させるように振るう。すると千冬にむけてX字の斬撃が飛ぶ、それを雪片弐式で切り払う千冬、だが

 

 

 「そんな付け焼き刃の技など! なに?!」

 

     ドガーーーン!!!

 

 雪片弐式で切り払った瞬間だった、斬撃が爆発したのだった。

 クローチェ・デル・スド・スパーダ・・・2振りのネーヴェロンペネから放たれたX字の斬撃、だがその実態は極限まで圧縮された風・・・EF4クラスのエネルギーを内包する竜巻である。ほんの少しかすっただけでも大きく抉りとる程の威力を持つ。 この技の真の威力を発揮するのはやはり直撃したときだ。 直撃した瞬間にその全ての力を開放して爆発する、むろんただ爆発するのでない。命中したポイントから全方位に拡散的に爆発するのではなく、命中したポイントの方向に向けて開放されるのだ。

 

 

 「くっ!」

 

 クローチェ・デル・スド・スパーダの直撃をうけた千冬、纏っているガーリオンも手にしている雪片弐式もかなりのダメージを受けていた。 だがガーリオンは直ぐにラズムナニウムによる自己修復が始まる。しかし雪片弐式は修復することはない、それどころか

 

 

    ポキッン!!

 

  「なっ?!」

 

 刀身が根元から折れる雪片弐式、それを目にして動揺する千冬。 だがすぐさま雪片弐式を拡張領域にしまい新たにアサルトブレードを呼び出し体勢を立て直す。 いや、それだけにはとどまらない、千冬は無意識の内に更なる力を求めた。 そしてそれに応えたのは、

 

 

 「アアアァァァァァァーーーー!!」

 

 千冬の叫び声に呼応するかのようにガーリオンの・・・いやラズムナニウムが輝きだす。 そして

 

 

 「セカンドシフト・・・・いやサ、報告にあった強制形態移行というやつ?」

 

 アリーシャの目の前ではガーリオンが姿を変えていく。 その姿は禍々しく白かったボディーカラーは漆黒にかわり、スラスターはまるで蝙蝠の羽根のような形状になり、全体的に悪魔を想像させるような形状となった。  いや、変化はガーリオンだけに留まらなかった。ラズムナニウムはどういう訳か装着者である千冬にも侵食し千冬の肉体と精神に大きな変化をもたらしていた。 

 

 

 「グフゥゥゥゥゥゥーーー!! イチカヲタスケル! ジャマヲスルナ!」

 

 「情けないサね、それがブリュンヒルデと呼ばれた女の姿かね? IS装着者としての誇りも矜持も無くしたのか。」

 

 そんな姿の千冬に憐れむアリーシャ

 

 

 「終わらせてあげるサね。」

 

 アサルトブレードを構えて突撃してくる千冬にアリーシャは

 

 

 「単一使用能力【テンペスタ・ロッソ】発動!」

 

 単一使用能力を発動した瞬間、ビアンカネービィ・ロッソは深紅の嵐の球体に包まれる。 千冬の斬撃はそれに弾かれ、アサルトブレードは折れる。 そして深紅の嵐の球体は突如上下2つに分裂する。 分裂後に嵐の球体は消え、そこからビアンカネービィ・ロッソがそれぞれ姿を現す。 そう2機に増えた・・・いや単一使用能力により分身を生み出したのだ。 

 そして2機のビアンカネービィ・ロッソはガーリオンを

 

 

 「「ウーノ!」」

 

 2機は瞬時加速を使い同時に、上からは右肩から胸をへて左腰に向けて斬り下ろし、下からは右腰から背をへて左肩へ斬り上げる

 

 

 「「ドゥーエ!!」」

 

 再び瞬時加速を使い同時に、今度は上からは右肩から背をへて左肩へ斬り下ろし、下からは右腰から胸をへて左肩へ斬り上げる

 

 

 「「トレ!!!」」

 

 正面と背後からガーリオンに向けてクローチェ・デル・スド・スパーダを放つ。 千冬は避ける間もなくそれをまともに喰らう。

 

 

「「インフィニート・テンペスタ・ロッソ!!!!」」

 

 正面と背後から同時におこる爆発、やがて爆煙の中から落下していく人影・・・千冬。

 纏っていたガーリオンは見るも無惨に砕け散り、影も形もなかった。 そのまま眼下にある貯水地に落ちていった。

 

 

 「さらばブリュンヒルデ。」

 

 アリーシャはあえて千冬の生死を確認せずにその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第39話  ヴァルシオン

 

 

   エルデは地下にある特別な場所へと向かう専用エレベーターの中で焦っていた。その場所に向かうには3つゲートと2つのエレベーターを乗り継がなければ行けない。 その場所に行くことができるのはエーデル達、5人の最高幹部のみで、それ以外の者は立ち入り禁止となっている。 それ故にエルデは護衛もつける事なく向かっている。 

 

 

    チーン  

 

 到着を告げる鐘の音と共にドアがスライドし開く。 だが、次の瞬間

 

 

  プシュ! プシュ! 

 

 「えっ?!」

 

 

 何か空気が抜けるような音がした。 それは突然の事だった。エレベーターの扉がひらきエルデが降りようとした瞬間、その場にいた黒いライダースーツとフルフェイスのマスクを被った女性に額を銃で撃ち抜かれた。

 エルデは音を聞くと同時に額が熱くなるのを感じ、そして意識が遠退き全身から力が抜けていく。 膝と腰が落ちそのまま仰向けに倒れる。  意識を失う前のエルデの瞳には黒いライダースーツと黒い仮面を身につけ右手に硝煙の立ち上る銃を持つ女性らしき人物を映していた。

 エルデは自分が額を撃たれた事を理解する事はなかった。

 

 

 「・・・・・・・」

 

 エルデを撃った人物は拳銃をホルスターにしまうと、倒れたエルデに近づき、服の胸元の隙間に手を入れて内ポケットからUSBメモリーを取り出す。 そしてそれを自分の内ポケットに納めると、ウェストポーチからタバコの箱位の大きさの赤い突起の付いた黒いプラスチックケースを取りだし赤い突起を押し込み、それを倒れているエルデの胸元に置く。 そしてエレベーターのパネルを操作し、自身はエレベーターに乗らず扉を閉める。

 エレベーターはそのまま上へと向かう。 それを見て

その場を立ち去る女性。 

 

  エレベーターが上の階に着いた瞬間に爆発がおきるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 青いヴァルシオンと戦う刀奈とシャル、その戦いは一方的なものとなっていた。

 

 

 「種あかしされた手品は見るに堪えないわ。そろそろ終わりにしましょうか。」

 

 刀奈が相手をしているヴァルシオンの姿は見るも無惨な物となっていた。両手に持っていた剣とレーザーライフルは原形を留めておらず、ヴァルシオンの装甲もかなり破損していた。 それでもラズムナニウムの力で修復がはじまる。  だが、

 

 

 「言ったでしょう!もう終わりにすると。いくわよ、篠突く雨!」

 

 ヴァルシオンの頭上から豪雨の如く降り注ぐ水の弾丸、命中する度に連鎖的な爆発し装甲を抉りとっていく。それで終わりではなかった。

 

 

 「鳳閃火」

 

 今度はありとあらゆる角度から火球が降り注ぎ、命中する度に連鎖的に爆発する。 抉りとられたそれでもが更に深く抉りとられる。

 表面の装甲は殆ど失い更に内部の部品や電子機器にまでダメージが及んでいた。 それでも修復が始まろうとするが、刀奈はその猶予を与えず

 

 

 「リミッター解除、出力最大! コード入力、ファントム・フェニックス!」

 

 右腕に弓を持ち左手にエネルギーの矢を生み出しつがえる。 

 

 

 「飛べ 幽炎の鳳凰!」

 

 矢を放つとそれは炎の鳥・・・鳳凰の姿となりヴァルシオンに向かっていく。 鳳凰は羽ばたきながらヴァルシオンに命中する。 ヴァルシオンは炎に包まれる、自己修復能力と焼きつくそうとする炎がせめぎあうが、やがて炎の方が勝り融解し炭化していく。

 跡形も無く焼きつくされたヴァルシオン。

 

 

 

 

 

 「ソレイユ モードガンナー。」

 

 シャルはソレイユをガンナーモードに換装すると肩の

3連ミサイルランチャーと右手に持つ6連ガトリングビームガンを一斉発射する。 

 

 

 「これが本命よ!」

 

 背中に装着されているロングレンジプラズマカノンがヴァルシオンに向けて放たれる。 ミサイルとガトリングによる牽制により回避することも出来ずに直撃を受ける。 大ダメージを受けるヴァルシオン、だが此方もラズムナニウムの自己修復能力で修復が始まる。

 

 

 「ソレイユ モードガンストライカー!」

 

 ソレイユを右腕をクラッシュアームに換装した万能型のガンストライカーモードにしたシャルは

 

 

 「ガンフェアリー パージ! フローティング・タンク・モード!」

 

 背中のガンフェアリーが本体から外れ自立行動する浮遊戦車フローティング・タンクとなる。 そして背後からヴァルシオンに攻撃する。修復が完全でないヴァルシオンはダメージを受けていき更にソレイユの方に弾き飛ばされてくる。

 

 

 「いけ、挟み撃ちよ!」

 

 クラッシュアームで殴りヴァルシオンをガンフェアリーの方に弾き飛ばす。 そこに再び背後からガンフェアリーが砲撃を加えてソレイユの方に弾き飛ばす。

 

 

 「これで止めだよ! ギガント・バスターッ・アァーームッ・クラァァァッシュ!!」

 

 弾き飛ばされてきたヴァルシオンに向かい加速して突撃するソレイユ。 そして右腕のクラッシュアームを真っ直ぐ胸部に向けて突き立てる。 クラッシュアームは胸部装甲を破壊して内部を抉り貫通する。

 クラッシュアームの爪にはISコアが、そして貫通した箇所には破壊されたレプリコアがあった。

 

 

 

 

 

 そして箒と戦うシュート。 こちらの戦いもまた一方的なものとなってた。 

 

 

 特殊武装ユニット[AMボクサー]を装着したリュミエールはその巨大な拳に重力波を纏わせ接近し、ヴァルシオンを殴る。

 左のストレート 右のフック そして

 

 

 「喰らえ、ガイストナックル!」

 

 左のアッパーカットを叩き込む。 そのコンビネーションを全てまともに喰らうヴァルシオン。

 箒の纏うヴァルシオンはシュートのリュミエールの攻撃をまともに回避することも出来ずに受け続けている。

 そもそも箒はIS適正値CとISをまともに可動できる最低ラインだ。

 運動神経が良くても、武術の心得が在ろうとも適正が低ければISの性能を100%発揮することは出来ない。

 それに加えて箒のヴァルシオン・クリムゾンは他の機体と違いGAMEーSYSTEM の設定レベルが低くされている。箒はGAMEーSYSTEM と同調するための調整を受けていないためだ。 使い捨てのパイロットなら兎も角、Empress ・・・象徴としての箒の価値は必要である。 只でさえ精神操作や記憶洗浄等の処置を施してあるのに、さらにGAMEーSYSTEM の同調処置で負担をかけては廃人になる可能性もあった。  いくらお飾りの象徴とはいえ廃人では何の役にも立たない。 

 無論、だからと言ってヴァルシオン・クリムゾンがヴァルシオンより弱いかと言えばそういう事はない。

 それを補う為に装着者とシステムの差を埋める様々な方法を取り入れている。 ラズムナニウムは勿論のこと、レプリコアを複数搭載する事でパワーを補っている。また箒の適正値をカバーする為に特殊な制御システム【ブレインモジュール】・・・AIの変わりに人間の脳と脊髄を利用した制御装置・・・を3基搭載したのである。

 これにより、理論上は並のISは勿論のこと他のヴァルシオンよりも優れた能力を発揮するはずだった。

 

 

  「シーケンス、CK1!。ブースト!!」

 

 リュミエールは空高く舞い上がる。そして

 

 

 「ターゲット・ロック! 喰らえ、カタパルト・キィィィック!!」

 

 高度からヴァルシオン目掛けて重力波を纏った右足のキックが放たれて腹部に命中し、貫く。 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第40話  甦る感情

 

 

  薄暗い部屋の中に無数に横たわって並ぶ白いカプセル。 その1つが音もなく開く。 

 そこには緑色の液体に浸かる裸の女性。 やがて女性は目をあけるとカプセルの縁に手をかけて液体の中から起き上がる。 全身から緑色の液体を滴らせながらカプセルから出て立ち上がり、そのまま何も纏わない状態で自らの体を観察する。

 

 

 「・・・・・クローニングももはや限界か・・・はやくあれを手に入れなければ。」

 

 そう言って女性は壁に向かって歩き、壁の一部に手を触れると壁が開き、中から下着や服が現れる。

 

 

 「それにしても、まさかいきなり死ぬなんて予測していなかったわ。それにしても誰かしら、あんな真似をしたのわ。どちらにせよ、あの場所には戻れないから、ここで見守るしかないわね。」

 

 女性は着替えながら、そう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「カタパルト・キィィィック!!」

 

 

   イ・・・ヤ・・・・・・・・ダ

 

   タ・・・・・・・ス・・・ケ・・・・・・・・・テ

 

   コ・・・・・ワ・・イ・コ・・・・・・ナ・・・イ・・・・・デ

 

 

 リュミエールのカタパルトキックがヴァルシオン・クリムゾンに命中した。

 

 

 

  シニタクナイ!!!

 

 

 

 

 ヴァルシオン・クリムゾンの腹部をリュミエールが貫いた次の瞬間、ヴァルシオン・クリムゾンに異変が起きる。

 全身から赤黒い光を放ち、そして腹部の穴が塞がっていく。 いやそれだけでは終わらなかった。

 

 

 「シュート、これって・・・」

 

 「あぁ、たぶん強制形態移行だ。」

 

 「でも、福音の時とは何か違うけど・・・」

 

 刀奈とシャルがシュートに尋ねる。 シュートが答えようとした瞬間だった、ヴァルシオン・クリムゾンに変化が、そうシュート達にも思いもよらない変化が。

 

 

  「「「なっ?!」」」

 

 10m程あった巨体は更に一回り、いや二回りも巨大になり、更にその姿も重厚な装甲に覆われた無骨なものへと変化した。それだけでなく、胸部からまるで異物を吐き出すかのように箒を押し出して、機外に放り出した。 それを見て慌ててシャルが箒を回収に向かう。

 

 

 「シュート、いったい何が?」

 

 「わからない何故、篠ノ之を機外に放り出したのかも・・・・」

 

 シュートと刀奈は突然の事に戸惑った。 有人型ISが装着者を排除するなんて前代未聞の出来事なのだから。 

 この事態を引き起こしたのは他ならぬヴァルシオンクリムゾンに搭載されている3基のブレインモジュールなのだ。 本来なら箒の動きを補佐するはずなのだが、GAMEーSYSTEMとリンクしているブレインモジュールからの最適な行動パターンと箒の動きに起きる擦れ、それは負荷となってブレインモジュールに蓄積されていった。

 負荷はやがてストレスとして、部品となった時点で喪われた脳の機能・・・感情を僅ながら呼び覚ました。

 3基のブレインモジュールは、リュミエールから放たれたカタパルトキックをヴァルシオンのハイパーセンサーと箒の視覚を通して認識した瞬間に恐怖という感情、そして死にたくないという生への執着心を呼び覚まし、遂にはヴァルシオンを支配する事になったのだ。

 

 3基のブレインモジュールは直ぐ様、行動を開始した。 ラズムナニウムを使い破損箇所を修復し、自分達が最適に動けるようにヴァルシオンを形態移行させた。 更にGAMEーSYSTEM に掛けてあるリミッターを解除し、その機能を最大限に発揮出来るようにした。

 そして最後に自分達にとって最も不用な部品・・・装着者、箒を排除することにしたのだ。 

 この様な状況、誰も予測することは出来なかった。

 

 

 『クロスマッシャー』

 

 胸部装甲が展開し放たれる高出力のエネルギー波がシュートと刀奈を襲う。 

 

 

 「グラビディテリトリー展開!」

 

 回避が間に合わないと判断したシュートはグラビディテリトリーを展開してクロスマッシャーを防ぐ。

 

 

 「シャル、流石に篠ノ之をこの周辺に置いて置くわけにはいかない、悪いけど彼女を厳重に拘束してから一度スチールキャットに戻って特別室に隔離しておいて。」

 

 「わかったよシュート。気を付けてね。」

 

 そう言ってシャルは気を失っている箒をワイヤーで拘束してスチールキャットに向かう。

 

 

 「シュート!」

 

 「いくぞ、刀奈!」

 

 二人はヴァルシオンクリムゾン改にに向かって攻撃を開始する。

 

 

 「蒼流弾!」

 

 凰姫の周囲に浮かんだ無数の螺旋状に渦巻く水の塊はヴァルシオンに向かって放たれる。 命中すると装甲削りながら食い込み爆発する。 そして左腕に装着されている楯から剣を抜くと

 

 

 「幻影舞踏!」

 

 背中の翼を広げた瞬間、その姿が消える。  そして無数に別れた凰姫がヴァルシオンを斬りつける。

 

 

 「日、吹、巳、世、意、夢、南、弥!」

 

 八方から斬りつけ終えた凰姫はその頭上に姿を現し剣を掲げて一気に振り下ろす。

 

 

 「終演の一太刀!」

 

 剣から放たれた高圧水流はヴァルシオンを両断する。

 

 

 「?! ラ? £%$&§Åヰ∂!」

 

 言葉にならない叫びを上げながら左右真っ二つに両断されたヴァルシオン、そのまま切り離されそうになったが、ラズムナニウムが修復を開始する。 左右に別れた機体を繋ぎ止めようと、細い糸のようなものが、機体の隙間に出てきて再び1つにしようと引き合う。

 

 

 「悪いが、追撃させてもらう! アーム・リンク、開始!」

 

 重力波を両手に纏わせてヴァルシオンに殴りかかる。

右ストレート、左フック、そして右アッパー。 

 リュミエールの10倍近い巨体が宙に舞い上がる。

 

 

 「まだ、終わりじゃないぜ。 AMボクサー、パージ! スラッシュ・モード、起動!」

 

 リュミエールの纏っているAMボクサーがパーツが離れ変形し、剣のような形状となり、その上にサーフィンするかのように乗る。 ヴァルシオンの周囲を旋回しながら頭部バルカンで牽制する。 そして少し距離を取ったところでヴァルシオンめがけて直進する。

 

 

 「フィールド展開! グラビディー・ソード・ダイバー!!」

 

 剣の先端部が光を覆われ加速する。リュミエールがジャンプして離れ、ヴァルシオンに突撃する。

 

 

 「?!! $&§$%&Åヰ$!!」

 

 Gソードダイバーにより、今度は腰の部分から上下に両断されたヴァルシオン。 修復が終わらない内に両断されたことで、左右に別れるのを引き留めていた糸が失われ4分割された形になる。 再びラズムナニウムの力で修復を開始し、銀色の糸のようなもので繋ぎ止めようとする。

 だが先程までと違い繋ぎ止めようと、4分割された機体を1つにしようとする力が弱い。 凰姫とリュミエールから与えられたダメージはおおきく、GAMEーSYSTEM にレプリコア、更に3基のブレインモジュールにもダメージを与えていた。

 刀奈とシュートの攻撃、感じるはずのない体が両断される傷み・・・幻肢痛を引き起こし死を認識させた。そして死を認識した2基のブレインモジュールは機能停止・・・壊死したのだ。 

 3基で起こなっていたことが一基となり処理能力が落ちた。 それでも残りの一基は必死になって制御しようとする。

 

 

 イ・・・ヤ・ダ・・・・・シ・・・・・ニ・・・タ・ク・ナイ・・・・・

 

 「刀奈! 力を貸してくれ、一気に決める!」

 

 「わかったわ!」

 

 「AMガンナー!」

 

 リュミエールに再びAMボクサーを装着したシュートは、AMガンナーを呼び出した。そして呼び出されたを見て刀奈は何をするのか理解しAMガンナーに乗る

 

 

 「ライドオン。コントロールシステム受諾。バイパス接続、エネルギーチャージ!」

 

 更にAMガンナーの背後にリュミエールが取りつきボクサーアームがAMガンナーを固定しコードが繋がる。

 

 

 「リミッター解除、エネルギーバイパス接続。フルチャージ!!」

 

 凰姫とリュミエール、2機のエネルギーがAMガンナーにチャージされる。

 

 

 「エネルギーチャージ完了、ターゲットロックオン!トリガー開放、シュートタイミングはまかせるわ!」

 

 AMガンナーの後部に表れたトリガーをリュミエールの手が握る。

 

 

 「いくぞ! ハイパー・フルインパクト・キャノン、デッド・エンド・シューーート!!!」

 

 4門のGインパクトキャノンから放たれた重力波は福音を撃墜した時とは比べ物にならない程の威力だ。

 重力波の帯はヴァルシオンに命中する。 ヴァルシオンは漆黒の重力の球体に包まれる。 球体は徐々に小さく圧縮されていく、それに伴い内部のヴァルシオンも圧縮変形していく。

 

 

   シ・・・・・・・ニ・・・・タ?!

 

  ドガァァァァァーーーン

 

 やがて極限まで圧縮されるとヴァルシオンは爆発して完全に破壊されチリ1つ残らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第41話  喪失

 

 

 「うっ、つつつ!」

 

 グローリーキングダムのオペレーターの女性は全身に感じる痛みで意識を取り戻した。

 ただ、自分の身にいったい何が起きたのかは未だに理解できていなかった。 

 

 

 (いったい何が? 私はどうなっているの? これは床?)

 

 痛みと共に体の感覚が少しづつ戻ってきたのか、自分が床にうつ伏せに倒れているのがわかった。 そして背中に何が重いもの・・・ただし自分の力で退かす事がなんとか出来そうな位の重さ・・・乗っていることも。

 ただどういう訳かなかなか目を開く事は出来なかった。

 

 

 (・・・・思い出すのよ、何が起きたの? Empress が出陣なされて戦闘が始まって・・・・?!。そうだ、玉座の側に設置してあるエレベーターが開いて・・・)

 

 オペレーターは必死になって思いだそうとするが思い出せない。 だが、それは仕方ない事だった。

 エレベーターが開いたと同時に起きた爆発の爆音と衝撃は瞬時にオペレーターの意識を奪ったのだ。

 オペレーターは周囲の状況を何とか確認するために顔に手をやり瞼をあけようとする。 その瞬間手に何か粘りのある液体と瞼に張り付いて塞ぐ塊のようなものを感じた。

 

 

 (何これ? ともかくこれを取れば目が開くはず)

 

 オペレーターは必死になり目を塞ぐ塊を擦り落とした。 そしてようやく目が開く・・・・・そこに広がる光景は

 

 「えっ?! これは・・・・あ、あ、あ、あ?!」

 

 自分が床にうつ伏せに倒れているのはわかった。 そこから見えた光景は凄まじいものだった。 

 司令室の様相は一変していた。 ありとあらゆる物が散乱し、全てのモニターは砕け散り何も映さず、全ての機器もまた火花を散らし機能を失っていた。

 それだけではなかった目の前には同僚のオペレーターが幾人も倒れていた。見るからに助からないのは見てとれた。 

 

 

 「そんな・・・・・・そうだ、Priestess様は?」

 

 オペレーターはPriestess ・・・エーデルを探すために起き上がろうとしたが背中に乗っている物が邪魔をしていた。何とか身を捩り、背中に乗っている物による手をやり退け、起き上がる事ができた。 ただ背中の物に手を添えた時に何やら粘りのある液体にふれたのが気になった。

 

 

 「Priestess 様は何処に・・・?!」

 

 オペレーターはエーデルを探そうとした時だった、自らの手を見てしまった。 真っ赤に染まった手を

 

 

 「これって血? 何で・・・」

 

 そこで始めて気づいた。 手だけでなく、自分が倒れていた場所に血溜りができていることに。慌てて自分の状態を確認したが外傷らしきものはなかった。 そして先程、自分が退けた背中に乗っていた物に目をむける、そこには・・・・

 

 

 「?! い、イヤャャャャーーーー!!」

 

 オペレーターが目にしたのは変わり果てたエーデルの姿・・・・手足は有り得ない方向に折れ曲がり、腹部からは内蔵が溢れ、そして頭部の一部が消失していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よし、これで動力炉へのアクセスはこの端末以外は遮断できた。 あとはこのシステムへアクセスを遮断すれば・・・よし、完了!」

 

 タバネは自分のタブレットを目の前の巨大な円柱型タワーコンピューターに接続し作業していた。 

 

 

 「これであとはメイガスを・・・・」

 

 タバネがタブレットを操作すると、タワーコンピュータは中央から左右に分かれていく。そこには銀色に輝く女性像があった。 だがそれはタバネが求めているものではなかった。

 

 

 「これはレプリカ! そんな本物のメイガスは何処に?」

 

 メイガス・・・それはタバネの師匠、そしてシュート達の母親でもある織斑万季が作り上げた演算ユニットだ。

 それも現在存在するなかで最高機能を有する物だ。 タバネですら未だに作り出すことが出来ない程規格外な。 もっとも未完成だが・・・

 奪われてから、ずっと探し続けていた。 奪った人物はわかっていたシュート達の祖母にあたる織斑四季だ。

 

 

 「急いで本物を探さないと、あの女がメイガスの秘密に気付く前に。」

 

 タバネはタブレットを操作してレプリカの機能を停止させると、部屋をあとにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第42話  隠された真実

 

 

 薄暗い室内で唯一光を放つディスプレイ、そこには爆散するヴァルシオンの姿が映し出されていた。

 

 

 「まったく、なんの役にもたたなかったわね。 グローリーキングダムもここまで育てたのに・・・でもまあ良いわ。 今から私がこの圧倒的不利な状況をひっくり返してあげましょう。」

 

 ディスプレイを眺めていた女性はそう呟くと壁に飾られていた宝飾で彩られた杖を掴む。

 

 

 「ヴァルシオンにラズムナニウムにブレインモジュール、そしてメイガス。これだけ揃えば問題無いわ。」

 

 そう言って女性は部屋を出るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「タバネ姉さん!」

 

 「マーちゃん!」

 

 レプリカメイガスを破壊したタバネが部屋を出たところでマドカと鉢合わせしたタバネ。

 

 

 「マーちゃん、急いで上に出るよ。」

 

 「どういうことだタバネ姉さん?」

 

 「説明は後々! このまま天井ぶち抜いて!」

 

 そう言ってタバネはワンダーアリスを纏う。

 

 

 「わかった! いくぞガナリーカーバー出力最大、レイ・ストレイターレット!」

 

 右腕のガナリーカーバーから高出力のビームが放たれて天井を貫く。そして続けて左腕のガナリーカーバーからも時間差で放たれる。やがて貫通したらしく光が見える。 

 

 

 「開いたよタバネ姉さん!」

 

 「よし、それじゃあ行こうか! 急いでシュー君達と合流しなきゃ!」

 

 二人は天井の穴に飛び上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よし、それじゃあ城に向かおう!」

 

 刀奈にそう告げて城に向かおうとしたシュート。 

 

 

 『その必要は無いわよ。私はここにいるわよ』

 

 突然響きわたる女性・・・・エーデルの声。城の中央部分のバルコニーにその姿はあった。

 

 

 「エーデル・ベルナル委員長・・・いや、グローリーキングダム幹部Empress 、エーデル・ベルナル!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えっ?? Empress 様?! でも、そんな?!」

 

 半壊した司令室の唯一生きていたモニターに映し出されたエーデルの姿、音声は途絶えているもののしっかりとその姿をとらえた映像に驚くオペレーター。 自分の側に倒れて息絶えているはずのエーデルがバルコニーにいる。その現実に混乱するオペレーター。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まさか、ここまで追い詰められるとは思っていませんでしたわ。」

 

 「エーデル・ベルナル、グローリーキングダムもここまでだ。おとなしく投降しろ。」

 

 シュートがそう言うと、エーデルは

 

 

 「ウフフフフ、何を言い出すかと思えば愚かな事を。 まだまた終わってわいないのよ。 この私がいる限りね。」

 

 そう言うと右手の杖を掲げる。

 

 

 「さあ、今こそその姿を現しなさい。グローリーキングダムの真の最強の守護神【ライグ=ゲイオス】」

 

 杖が光を放ちエーデルの体を包む。 光は球体となり徐々に巨大化していく。 光が弾けたとき、そこにはヴァルシオンを上回る巨大なISが現れた。

 

 

 「これこそがグローリーキングダムの真の守護神、ライグ=ゲイオスです。不完全なヴァルシオンとは違いますわ。」

 

 ライグ=ゲイオス・・・エーデルが密かに作り上げたIS。ヴァルシオンのデータを元にラズムナニウムとレプリコアにブレインモジュールを加えることでより高性能のISとなった。 だが、それだけではなかった。

 

 

 「さあこのエーデル・ベルナルがくだす裁きを受けなさい!」

 

 だが、それを見ても動じないシュート、そして

 

 

 「そろそろ仰々しい芝居は辞めたらどうだい? エーデル・ベルナル・・・いや、織斑四季!」

 

 シュートの言葉に動きを止めるエーデル。先程まで浮かべていた笑みは無くなり無表情になる。

 

 

 「ふっ、驚いているな織斑四季。 織斑千冬と一夏の祖母。 そしてその両親、織斑春斗・万季夫妻を殺した張本人。」

 

 「・・・・・・・・お前は一体何者? 何故その事を知っている? 篠ノ之束に聞いたのか?」

 

 「教えてあげようか?織斑四季。」

 

 エーデル・・・四季の疑問に答えようとタバネの声が響く。 シュート達の背後にタバネとマドカが現れる。 そしてタバネはワンダーアリスのフェイスカバーを開き顔を露にする。

 

 

 「こうして顔を会わせるのは久しぶりだね織斑四季、以前と顔が違うから驚いたよ。 どこまで体を弄ればそうなるの?」

 

 「やはり君が絡んでいたのか束。 行方を眩ませてから方々探したが見つからなかったのは、どうやら何者かの手助けがあったからのようね。 それも一国ではないわね。」

 

 「師匠達はお前の思惑に気づいていた。だからこそ万が一に備えて様々な保険をかけていた。その1つが国連秘密特別部隊ファントムタスクの設立と私の保護。」

 

 「国連・・・ルヴェールの仕業か。 あの男、やはりただ者ではなかったか。」

 

 「そうよ、轡木十蔵と並ぶ伝説の男。 お前を欺くなんて朝飯前みたいよ。」

 

 「・・・・・・」

 

 「そうそう、お前の疑問に答えてあげるよ。」

 

 タバネの言葉にシュートとマドカはフェイスカバーを開く。

 

 

 「? なんの真似だ?」

 

 「まあ、顔を見てもわからないか。 面影はあるんだけどな。」

 

 「何? ・・・・・・・・まさか?!」

 

 ようやく気がついた四季。

 

 

 「そうだよ、師匠達がお前に隠していた事実。織斑家の次男と次女。織斑一夏の同じ時期に産まれた兄妹だよ。」

 

 「何故だ?! 何故、その存在を隠・・・・・まさか!」

 

 「そうだよ、この二人こそがお前が目指していたオリムラプロジェクトの真の成功例、そう言えば解るだろ!」

 

 「まさか完成していたのか、マシンセル! 究極のナノマシン、私が求める永遠の命が!!」

 

 「勘違いするな! 永遠の命なんて手に入らないよ、あくまでもナノマシンはナノマシン。 そんな都合の良いものなんて無い!」

 

 「違う、マシンセルこそが究極のナノマシンよ!伝説のアムリタ、賢者の石、エリクサーの再現。私が望む永遠の命と若さを与える奇跡の力よ。さあ私に寄越しなさい!!」

 

 先程までと違い、全く余裕の無い四季。 タバネの話に耳を貸さない。そして刀奈やタバネに目をくれずにシュートとマドカに向かっていく。

 だがそれはタバネ達の作戦だと知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第43話  ライグ=ゲイオス

 

 

 「渡せ! 渡せ!私に渡せ!不老不死を可能にする奇跡の力を!」

 

 ライグ=ゲイオスから無数のミサイルが放たれる。シュート達はそれを撃ち落としながら、それぞれ反撃する。 しかし、それらの攻撃は命中しダメージを与えるも直ぐに修復されてしまう。

 

 

 「シュート、このままじゃ此方が追い詰められてしまうわ?」

 

 「もう少しだけ、やつを引き付けるんだ。」

 

 刀奈の問いにシュートは答える。そうシュートは待っているのだ。 タバネが打つ一手を。

 

 

 「分析完了、ワンダーアリス単一仕様能力【全知全能】(ゼウス)発動!」

 

 タバネが単一仕様能力を発動させ、右腕の袖口から現れた銃口をライグ=ゲイオスに向ける。そしてそこから銃弾が放たれる。 銃弾はライグ=ゲイオスの胸部に命中し、僅なキズをつけるも直ぐに修復されてしまう。

 

 

 「ムダよムダ!その適度の攻撃等無意味だわ!」

 

 ライグ=ゲイオスからは再びミサイルが放たれる。 だが、エーデルは気付いていなかった。ワンダーアリスから放たれた銃弾を受けた場所が変色している事に。

 そして、その変色の意味が目に見える形で現れた。

ガナリーカーバーから放たれたミサイルが命中した箇所の修復スピードが落ちたのだ。まるでナメクジが這うかのような速度に。

 ワンダーアリスの単一仕様能力【全知全能】は様々な電子機器や車両、即ち機械といえるもの全てに効果を発揮するウイルスやワクチンを瞬時に作り上げ、銃弾に加工することが出来るのだ。 そして今回作り上げたのはラズムナニウムの修復能力を抑えるワクチンとラズムナニウムの増殖能力を破壊するウイルスだ。 これによりラズムナニウムの効力が目に見えて低下したのだ。

 

 

 「今なら!! ガナリーカーバー、ビットモード。ミサイル発射!」

 

 デエス・エクレールの周囲に8機のガナリーカーバーが展開されミサイルが一斉に発射される。 その全てがライグ=ゲイオスに命中し、爆煙でその姿が覆い隠される。

 

 

 「今よ兄さん!」

 

 「刀奈、タバネ姉さん、形態移行だ!」

 

 「「わかった!!」」

 

 「リミッター解除、ツインコアシステム・フルドライブ!  ワンダーアリス、ドレスコード・エクセルシオール!」

 

 次の瞬間、ワンダーアリスは光のカーテンでその姿を隠した。カーテンが消えた時、別の姿をしたワンダーアリスが現れる。

 頭部のロール状のパーツはストレートに長く伸びたものに変わり、腰のスカートアーマーには複数のプレートが付きフレアスカートのような形態となっていた。そして全体的なスタイルによりメリハリが出ていた。

 

 

 「真形態移行 ワンダーアリス・エクセルシオール!」

 

 

 「リミッター解除! ツインコアシステム・フルドライブ!  さあ目覚めなさい凰姫!」

 

 凰姫の周囲に水球と火球が生まれると高速で凰姫の周囲を回転しはじめて、その姿を隠す。 蒼と赤のマーブル模様の球体が、やがて透明となり消える。 

 6枚に増えた翼、両手に装着されたバックラー、新たな姿の凰姫がそこにいた。

 

 

 「真形態移行 凰姫・星天!」

 

 「リミッター解除! トリプルコアシステム・フルドライブ! 輝け、リュミエール!」

 

 空から虹色の光の帯がリュミエールに降り注ぎ、その姿を隠す。 光の帯が消えると、そこには今までとは違いシャープな姿となり、肩や背中にブレード状のパーツ、スライダーパーツが装着され、左腕にシールドが装着され、背中のスラスターはウイングが6枚になり大型化しており、顔にはゴーグルが装着されていた。

 

 

 「真形態移行 リュミエール・エクスプロジオ!!」

 

 3機のISが新たな姿となっておりたつ。

 

 

 「よし、いくぞ!!」

 

 「まずは私からいくよ。 ボストーク・レーザー、サウザンドシャワー!!」

 

 ワンダーアリス・エクセルシオールの肩の部分がスライドし砲身があわれレーザーがシャワーの如くライグ=ゲイオスに放たれる。

 レーザーは全てライグ=ゲイオスに命中する。一つ一つの威力は低いものの数が多いため、全身隈無く破損する。 そこではじめて機体の異変に気づくエーデル。

 

 

 「馬鹿な?!修復が始まらない?! いや、修復速度が低下しているのか! 何故?!」

 

 「ガナリーカーバー、シューティングフォーメーション。 レイ・ブラスト・ストレイターレット!」

 

 デエス・エクレールは両手の2機のガナリーカーバーを近付けるとガナリーカーバーの側面が接続される。そして展開していたビットもガナリーカーバーの周囲に集まり回りはじめる。そして周囲のガナリーカーバーと両手のガナリーカーバーの銃口からエネルギーが放出され、巨大なエネルギー弾を作り上げライグ=ゲイオスに向けて発射される。 修復能力が低下していることを認識したエーデルは回避が間に合わないと判断すると手に持つ大剣をエネルギー弾に向けてつきだし

 

 

 「バリアシールド展開。」

 

 大剣の剣先を中心にバリアが展開されてエネルギー弾とぶつかる。 エネルギー弾とバリアが接触した箇所が激しくスパークする。 一瞬エネルギー弾を押し止め防げるとエーデルは思ったが、バリアは破られてエネルギー弾がライグ=ゲイオスに命中する。

 エネルギー弾に飲み込まれるライグ=ゲイオス。 エネルギー弾が弾けて爆発する。 爆煙がはれると、大剣が折れて装甲は大半が破壊され内部のメカが露出する。

 そして頭部の破損した装甲の隙間から銀色の女性像の姿が一部見えた。

 

 

 「シューくん。あそこにメイガスがあるよ。」

 

 「わかったよタバネ姉! スライダーパージ! モード・トライスラッシャー!!」

 

 リュミエール・エクスプロジオの各部に装着されているスライダーパーツが15枚離れ3枚づつ接続し手裏剣状になる。 手裏剣は高速回転し、ライグ=ゲイオスに向かっていく。トライスラッシャーは頭部は破損箇所を集中的に切り裂き、やがて剥き出しとなるメイガス。

 そしてメイガスに接続されているコードを切り裂く。ライグ=ゲイオスと繋がっていたコードを失いメイガスは離れて落下していく。

 

 

 「トラクタービーム。」

 

 ワンダーアリス・エクセルシオールの手から放たれたビームがメイガスを捕獲し自分のもとに引き寄せる。

 

 

 「これでお仕舞いよ♥ 天に鳳閃火、地に水閃華、天地双殺!」

 

 凰姫・星天が指を弾くとライグ=ゲイオスの頭上に無数の火球、下方に無数の水球が生み出されて一気に放たれる。 火球と水球はライグ=ゲイオスの内部に深く食い込む。 そして中枢で一気に弾けて爆発する。

 

 

 「アァァァァァァーーーーーー?!」

 

 ライグ=ゲイオスはそれにより爆散する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第44話  エーデル・ベルナル

 

 

 カプセルが並ぶ部屋、その1つが開く。中にいた人物・・・エーデルは、飛び起きる。

 

 

 「!! おのれ、おのれ、おのれ!!!」

 

 自分が死んだ時の光景が脳裏にまざまざと甦る。カプセルから出た瞬間だった、エーデルはバランスを崩して膝をつく。

 

 

 「ま、まさか?!」

 

 自分の手足を見れば、先程まではなかった皺が目立っていた。 慌ててまだ開いていないカプセルを見れば、全てのクローンに異変が起きていた。 固体差はあるものの、老化が始まっていた。 

 

 

 「ば、馬鹿な?! いくらなんでも早すぎる!」

 

 エーデルが驚くのも無理はなかった。これらのクローンはほぼ同時期に作られており、一定期間ごとに新しく作られたクローンと入れ換えられているのだ。

 そして今入っているクローンは入れ換えられたばかりで、劣化が始まるにはまだ猶予があるはずだった。

 実はこれには理由があった。先程の戦闘で受けたダメージが大きすぎて、管理システムにまでダメージがフィードバックしてしまい、カプセル内の固体に影響が出てしまい老化がはじまったのだ。

 新しい固体はまだ作られておらず、つまりこの部屋以外にはもうクローンは存在しないのだ。

 

 

 「こうなれば、もう仕方がない。」

 

 エーデルは覚束無い足で壁の一部を開き、内部に納められていた注射器とヘッドギア、パッドをを取り出す。ヘッドギアとパッドには透明なクリスタル・・・ISコアがそれぞれ付けられており、エーデルはヘッドギアを装着しパッドを左胸につけてフィットさせるとヘッドギアから幾つかのコードを伸ばしてパッドと接続する。 

 そして震える手で右手に持つ注射器を首筋に当てて中身を射つ。

 

 

 「グウァァァァァァァーーーー!」

 

 エーデルの絶叫が部屋に響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「タバネ姉さん、それが?」

 

 シュートの問いにタバネは頷き

 

 

 「そうだよ、シューくん達のお母さん織斑万季が作り上げた演算ユニット【メイガス】。 そしてシューくん達の両親、織斑春斗と織斑万季の眠る場所を知るための鍵。」

 

 メイガスに隠された秘密、それこそシュート達の両親が眠る場所なのだ。  無論、これには理由がある。二人は自分達の遺体が四季に利用される可能性が高い事を認識しており、最後の力を振り絞り予め行き先をインプットしたカプセルに乗り込んだのだ。 

 そして、その場所を知るための鍵をメイガスに暗号として残してあった。 それを知るのはタバネだけであった。

 

 

 「今は船に運んで、解析は戻ってからしようね。」

 

 そう言ってタバネは船に戻ろうとする。

 

 

 「一応、俺達は城の方をチェックして来るよ。」

 

 そう言ってシュート達は城に向かおうとした時だった。

 

 

 ドォガァァァァーーーン

 

 

 突然、城が爆発したのだった。

 

 

 「タバネ姉さん、急いで船に戻って! 何か嫌な予感がする!」

 

 「わかったよ、シューくん達も気をつけてね。直ぐにシャルちゃんを向かわせるから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 島を離れる潜水艇の中、フルフェイスのヘルメットに黒いライダースーツ姿の女性がいた。

 潜水艇はステルス機能のみならず超伝導モーターにより、無音に近い状態で移動するため、感知されずらいのだ。 その中で女性はサブモニターの映像を見ていた。

 

 

 「おやおや、Priestessも随分と追い詰められたみたいね、あの未完成品に手を出すなんて。 これで新しい体に移る事は出来なくなったわね。」

 

 女性はそう呟くと胸元からUSBメモリと2つの銀色のカプセルを取り出す。

 

 

 「レプリコアの設計図、そしてラズムナニウムにTOサンプル。これがあればグローリーキングダムがなくなったとしても、どうとでもなるわ。 最後に笑うのは私よ。」

 

 潜水艇は海中を静かに進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 立ち込める煙を目をそらさず見続けるシュート達。

センサーには既にISの存在を示す光点が映し出されていた。 だが、未だにその姿を確認することは出来なかった。

 それが一層シュート達の警戒を増していた。

少なくとも巨大な城を一瞬で瓦礫に変える力を持っているのだから。

 

 

 

 

 

 風が吹き、煙がはれていく。

 

 

 

 

 

 

 

 そこには奇妙な物が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 一見すると裸の女性のようにも見える。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、全身が銀色の人・・・いや人形しか見えない。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、その姿は見知った姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 エーデル・ベルナル、先程倒した筈の人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第45話  ラズムナニウム

 

 

 空中に浮かぶエーデル、だがその異様さにシュート達は気づいた。 エーデルの身長が4m近くあるのだ、普通の人ではあり得ない高さだ。

 

 

 「ガァ、ワ、ワレハ・・・・・・・」

 

 次の瞬間、エーデルの全身から全方向にレーザーが放たれる。

 

 

 「グラビティーテリトリー展開!」

 

 シュートが刀奈とマドカの前に出てグラビティーテリトリーを展開してレーザーから護る。

 

 

 「何なのよあれ!」

 

 「わからないわよ!」

 

 「二人とも落ち着け、エーデルが何かしたのは変わりないない。 それにISのコアの反応がある以上はISなんだろう。」

 

 3人とも事態が呑み込めずに一瞬動揺したが、何とか気持ちを落ち着かせレーザー攻撃を避けはじめる。

 

 

 

  今のエーデルに自我というものはなかった。老化現象の発現という自分にとって最悪の事態にエーデルは禁断の方法を使った。

 

 ラズムナニウムの人体投与・・・・しかし、これは未だ成功した事例は1つも無かった。エルデが何度となく人体実験を試みるも、その全てで人体はラズムナニウムの力に耐えられず組織崩壊を起こして物言わぬ肉塊に変貌したのだった。

 エルデは、ラズムナニウムの再生・増殖・進化の力を人の力だけでは制御することが出来ないと判断した。そこでその力を制御する方法としてISコアを考えた。 だが、それも上手くはいかなかった。 何よりISコアとラズムナニウムの相性が悪く、失敗が続いた。 レプリコアを使ってみるも、レプリコアではラズムナニウムの制御するには能力不足だった。

 そんな中、エーデルはある方法を考えた。ISコアの生体同期による制御だった。ISコアとラズムナニウムを直接制御させようとするから問題があるのであるなら、その間に何か中継するようなものを挟めば良いのではないかと。 

 

     そう例えば人の脳とかを。

 

 エーデルは密かに実験を開始した。幾度かの実験を経て、コア1つでは制御が出来ないという結論が出た。

 最初の内は上手く制御できたのだが、時間が経過すると人の脳が耐えられずに失敗するのだった。

 そこでエーデルはもう1つコアを使い、脳にかかる負荷をコアに分散させる方法を考えたが、装置の試作までで実験を行う事は出来なかった。 

 エーデルはその装置を自身で試す事になったのだ。

 

 

 

 「皺が消えていく・・・・それに肌の艶も・・・・成功だわ!成功したのよ!!」

 

 カプセルの並んだ部屋でラズムナニウムを注入したエーデル、その効果は直ぐに現れた。

 

 

 「これで私は不老・・・・ぐ?!・・・・グワァァァーー!

 

 エーデルは自分に起きた変化を喜んだ瞬間だった、激痛が全身を駆け巡る。 激痛にのたうち回るエーデル、そんなエーデルの肌が銀色に染まって・・・いや金属に変わっていく。

 それだけに留まらず、徐々に体が大きくなっていく。

額と左胸のISコアは内部に取り込まれた。

  この時点でエーデルの自我というのは殆ど喪われてラズムナニウムとISコアに防御本能で動く事になった。 結局エーデルの考えた方法はラズムナニウムを制御するには至らなかった。もっとも別の形で不老というのを実現した、全ての細胞を金属に変換するという方法で。 

  

 

  そして彼女は人から戦闘マシーンへと変貌した。

 

 

 

 

 エーデルが右手を掲げると無数の剣が現れる。そして右手を振り下ろすと剣が一声にシュート達を襲う。

 

 

  「スライダーパージ! スラッシュダガー!」

 

 リュミエールからスライダーパーツが全て外れて、それぞれがビームブレードを展開し、迎撃していく。

 

 

 「ガナリーカーバー、シューティングフォーメーション。 スターダストショット!!」

 

 両手と周囲に展開しているガナリーカーバーがマシンガンモードで銃弾を絶え間無く射つ。

 銃弾はエーデルの体に命中するが、その傷は直ぐに治っていく。

 

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 エーデルは左手に槍を出現させ、それを掴むと穂先を向けるとレーザーが放とうとした、

 

 

 「コズミックストライク!!」

 

 シュート達の後方から飛来してきた緑色のエネルギー球体がエーデルにぶつかり、発射を阻止する。 更にエネルギー球体は無数に分かれると、四方八方からぶつかっていき、最後はエーデルを包みこみ爆発する。

 

 

 「みんな、大丈夫?」

 

 シャルロットだった。身に纏うソレイユは真形態移行しており、フェー・ソレイユとなっていた。

 

 

 「助かったわシャルロットちゃん。」

 

 「でもあまり役にたてなかったみたい・・・・」

 

 爆煙が晴れると所々破損しているエーデルがいた、しかしその傷も直ぐに修復されていく。

 

 

 「修復速度が段違いね。」

 

 「それだけじゃない、防御力も相当なものだ。スターダストショットで表面にしか傷がつけられないなんて。」

 

 修復が終わりシュート達に攻撃しようとするが、先んじて刀奈が

 

 

 「天に鳳閃火、地に水閃華、天地双殺!」

 

 上から火球、下から水球がエーデルを襲う。 だが、ライグ=ゲイオスの時と違い内部に深く、くい込む事はなく僅かにめり込んだくらいで爆発した。 それでも表面はかなりのダメージを与えたようで、エーデルは動きを止めて修復を始める。それを見て刀奈が

 

 

 「どうやら修復している時は動きが止まるみたいね。」

 

 「どうするのシュート? このままエネルギー切れが起きるまで攻撃を続けるの?」

 

 シャルロットに問いにシュートは

 

 

 「・・・・・いや、たぶん無理だろう。奴の体は殆ど例のナノマシンで構成されているみたいだ、エネルギー切れを起こすまでどれくらいかかるかわからない。寧ろ此方の消耗が先かもしれない。」

 

 シュートがそう言うと、タバネからの通信が入る。

 

 

 『タバネさんもシュー君の意見に賛成だな。かるく解析したんだけど、どうやらあのナノマシン進化したみたいでさ、自分でエネルギーを生産しているみたい。』

 

 「つまりエネルギー切れは起こさないということか・・・」

 

 『でも、そのかわり同時に複数の機能を使う事が出来ないみたいだよ。 修復している時は修復のみ、エネルギー生産している時はエネルギー生産のみ。そしてそれらを指揮している中枢となるナノマシン・・・言わば女王蜂の役割をしているクイーンが存在しているよ。』

 

 「なら、そのクイーンナノマシンを破壊すればいいんだね?」

 

 『シュー君、正解! 今から全知全能を使った超集束モードのHT砲を撃つよ。それで奴のナノマシンをある程度消滅させた上に、弱体化されるよ。もっとも効果が出るには少し時間がかかるとは思うけど。』

 

 「それなら、効果が出ると同時にクイーンナノマシンを特定させて破壊すればいいんだね。」

 

 シュートの言葉に全員が頷き、構える。

 

 

 『それじゃあ、20秒後に撃つからね。』

 

 タバネの言葉に全員が射線を塞ぐ。そして

 

 

 『いくよ!HT砲、集束モード。発射!!』

 

 一斉に散開するシュート達、そしてエネルギーの光がエーデルに命中する。 そのエネルギーはエーデルの体を蒸発させていく。

 光が収まった時、四肢を失い、ほぼ原型をとどめていないエーデルの姿があった。

 

 

 「よし、いくぞ!!」

 

 シュートの掛け声と共に全員が攻撃を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

     今、最後の戦いの幕が上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第46話  ラストバトル

 

 

 「スラッシュ・ディメンジョン!」

 

 シャルロットのフェー・ソレイユは両手に装着されたビームブレードで縦横無尽にエーデルを斬りつけていく。

 

 

 「スターダストショット!」

 

 その合間合間に、絶え間無く銃弾を撃ち込むマドカのデエス・エクレール。 だがそこで突然、エーデルを護るように周囲に球状の銀色の幕が出来る。

 更にエーデルから4つの銀色の塊が飛び出して球体から出てくる。 それらは瞬く間にそれぞれ違う武器を構える人形になる。 そしてシュート達に襲いかかる。

 しかしその行動はシュート達にあることを気づかせる結果となった。

 

 

 「どうやら修復の時間稼ぎか、となると。」

 

 「効いてきたみたいだね兄さん。あれの相手は私がするから兄さん達はエーデルを!」

 

 マドカの言葉にシュート達は人形を無視することにした。

 

 

 「お前達の相手は私だ! 単一仕様能力【万華鏡】(カレイドスコープ)発動!」

 

 マドカがデエス・エクレールの単一仕様能力を発動させると、その姿は輪郭がぼやけるように歪んでいき、やがて4機に別れる。そして人形に向かっていく。

 巨大な手甲を持つ人形、槍を持つ人形、銃を持つ人形、剣を持つ人形は、それぞれ別々の別れて向かっていく。 そして手甲と剣を持つ人形は大きく振りかぶり、槍を持つ人形は真っ直ぐ突き刺し、銃を持つ人形は銃弾を連射する。だが、その全ての攻撃は4機のデエス・エクレールをすり抜けていく。 単一仕様能力【万華鏡】、それは虚像と実像の交錯。この能力を発動することでデエス・エクレールは自身を虚像と実像に自由自在に入れ換える事が出来るのだ。自身が攻撃する時は実像、自身が攻撃を受ける時は虚像と。完全無欠の能力におもえるが、発動時間に制限があり僅か20秒。 しかも一度発動すると24時間は再使用出来ない。

 

 それでもマドカにとっては十分な時間だ。

攻撃がすり抜けた直後、カウンターを叩き込む。手甲の人形には高周波ブレードを、剣の人形にはビームサイズを、槍の人形にはマシンガンを、銃の人形にはビームを放つ。 攻撃を受けて人形は全て爆散する。

 

 

 

 「あの幕は私が!」

 

 そう言ってシャルロットはエーデルの上にまわり

 

 

 「フェー・ソレイユ、フルパワー! リアクター・フラッシュ!!」

 

 フェー・ソレイユの背中からのびるコネクターからビームが放たれる。ビームは銀色の幕に命中する、幕は波うち徐々に薄くなっていくが、まだ破れない。

 

 

 「これで、決める! ファイナルグランドクロス!!」

 

 両手を伸ばし両足を揃えて自ら十字架を形作ると全身から強力なビームを放つ。 流石にその威力に耐えきれず銀色の幕は消失し、エーデルの姿が露になる。

 

 

 「全スライダーパージ! オープン・ブレード、ローリングフォーメーション!」

 

 リュミエール・エクスプロジオの全身に装着されていたスライダーが全てパージされ、形状を変えて回転しエーデルの周囲を回る。 

 

 

 「コズミック・ブレイカー!!」

 

 エーデルの周囲を回る全てのスライダーからビームが放たれる。ビームはエーデルの全身くまなく照射され、やがてエーデルを包む光球となり爆発する。

 煙がはれてエーデルの姿が露になる。 もはやエーデルとしての姿は垣間見ることなく、原型をとどめておらずゾンビのような姿となっていた。

 

 

 「右手に幽炎、左手に幻水、今ひとつとならん!」

 

 刀奈の凰姫・星天の右手に炎、左手に水があらわれる。 それを正面でひとつに合わせると

 

 

 「双極裂破。羽ばたけ、マキシマム・フェニックス!!」

 

 白い鳳凰となってエーデルに放たれる。鳳凰はエーデルを飲み込む。鳳凰が姿を消した後には、銀色の薄い幕に覆われ、赤い粘液のような物がへばりつくISコアだけが残っていた。2つのISコアは粘液で無理矢理融合されたようで歪な形になっていた。 更にクイーンナノマシンはISコアに浸食融合し、支配しているようだ。

 そして再び体を作ろうと赤い粘液の部分から銀色の液体、しかしそれを許すシュート達ではなかった。

 

 

 「フェー・ソレイユ、単一仕様能力【エテンネル・エスポワール】発動!」

 

 シャルロットがフェー・ソレイユの単一仕様能力【エテンネル・エスポワール】を発動させた。これは対象となるものの動きを止めるものだ。ある意味AICと似ているが、此方は単に動きを止めるのではなく時間を止めるのだ、そのために対象となったものは動きを止められている間は周囲とは時間の流れが切り離されて本当に何も出来ないのである。

 無論、これも制限がありAIC以上の集中力と精神疲労が伴うもので今のシャルロットでは10秒しか発動出来ない。 しかし、その10秒でシュートと刀奈は全ての準備が出来た。

 シャルロットが単一仕様能力を発動させると同時に刀奈もまた凰姫・星天の単一仕様能力を発動させていた。

 

 

 「凰姫・星天、単一仕様能力【豊玉姫】発動!」

 

 単一仕様能力【豊玉姫】、それは対象となるISのエネルギーと損傷を回復させ、更にその力を増幅させる事が出来るのだ。ただし、その対象と出来るのは装着者とって繋がりのある大切な人のみ、となっている。

 豊玉姫の力でエネルギーが回復し、力が増幅されたリュミエール・エクスプロジオは最後の一撃を放つ、

 

 

 「スライダーパージ、いけ!」

 

 パージされた4つのスライダーは銀色の幕を切り裂く。 

 

 

 「ストライクシールド、セイバー、アクティブ。グラビティーソード!!」

 

 左腕のシールドから剣を引く抜くと、剣に重力波が集約し刀身を黒く染め上げる。 

 6枚のスラスターからは虹色の光が放たれて加速する。 スラスターから放たれた虹色の光は粒子となって舞う。 更に舞った粒子の一部はグラビティーソードに集まり、黒く染まった刀身が虹色に変わる。

 

 

 「これで決める! グラビティーソード、アルカンシェル・ストラッシュ!!」

 

 赤い粘液に浸食融合したISコアに向けて剣の一撃が放たれる。 虹色の光の軌跡、それが消えると赤い粘液のようなものの色は灰色に変わり、砂のようにサラサラと崩れさっていく。それと同時に融合し歪な形になっていた2つのISコアは分離してもとの形に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  こうして最後の戦いの幕は閉じた



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピローグ

 

 

 グローリー・キングダムとの戦いから半月が過ぎた。

世界の混乱は未だに続いている。 良くも悪くも様々な形で変革が起きていた。

  戦いの最中にレプリコアを手に入れた幾つかの国が、それを研究し始めた。後にレプリコアのデッドコピーのような物を作り上げることになる。しかしこれはISコアに遠く及ばない物であり、結局はEOSの性能を多少引き上げて様々な分野での利用を拡げることになる。

 女性権利団体や女性主義者の団体はあの戦いを切っ掛けに、様々な形で捜査が行われ過激な思想を持つ殆どの団体は、今まで行ってきた違法行為が明るみとなり構成員の殆どが逮捕され解散を余儀なくされた。

 世の中に蔓延していた女尊男卑の思想も、殆どの国で規制され女尊男卑でも男尊女卑でもない男女平等の思想を推進する国が増え始めた。

 

 

 

 グローリー・キングダムの捜査は様々面で行われている。 Assassin ことレジアーネを始め多くの構成員が逮捕され取り調べが行われている。 ただ島で発見されたMerchant こと石動光子の死体が偽者であり本人の所在が不明なこと、更にアリーシャに撃墜された千冬の死が確認されていないことなど不安材料は幾つもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太平洋 ミクロネシア連邦の外れにある小さな島。

 

 名前すらない無い小さな島の砂浜に、一人の女性・・・石動光子がビーチチェアーに横たわっていた。 しかもサングラス以外は何も身につけていない状態で。 

 だが、ここにいるのは光子であって光子ではない。今ここにいるのはカナダ人投資家のイラドーヤ・クジューアなのだから。 光子はグローリー・キングダムが崩壊した時の事を考えて幾つかの保険を用意していた。

 ひとつがカナダ人投資家イラドーヤ・クジューアという架空の人物の戸籍や資産である。 いくつもの迂回取引をへてイラドーヤ名義の資産をかなり蓄えた。

 そして次にほとぼりが冷めるまでの隠れ家である。これもイラドーヤ名義で無人島を購入し、築いた。

 そして、後は顔を整形するだけだった。これも既に手配はすんでおり、後は手術を待つばかりとなっていた。

 

 

 (来週には私は石動光子ではなく、イラドーヤ・クジューアという新しい人生を送る事になるわ。そしてレプリコアとラズムナニウムこれで世界一の企業にするわ。TOサンプルはその内なにかに使えるだろうし)

 

 光子は既にイラドーヤになってからの計画は立ててあった。 企業として死にかけているイスルギ重工を買収し、イラドーヤが辣腕経営者として腕を振るい再び一流企業に仕立てあげるという計画が。

 既に下準備はすんでおり、1ヶ月後に開始する手筈になっている。 このことを知るのはイスルギ重工のはおらず、今、この島で光子の世話をする3名の側近だけだった。

 寛ぐ光子の元に一人の少女が何も身につけていない姿で飲み物を持って近づく。

 

 

 「光・・・・・失礼しました、イラドーヤ様。飲み物をお持ちしました。」

 

 「ありがとうナギ。まだ馴れないかも知れないけど気をつけてね。石動光子はもういないの、ここにいるのはイラドーヤ・クジューアなのよ。」

 

 光子はそう言って飲み物を持ってきた少女・・・鏡ナギに笑みを浮かべながら軽く注意する。そして持ってきた飲み物を優雅に飲む。

 

 

 「ナギ、夕食のメニューは何かしら?」

 

 「今日はスズキのカルパッチョとアボカドのサラダ、ジャガイモのビシソワーズにメインがポークソテーとなっております。」

 

 「ありがとう。それから今夜の相手は貴女よ、楽しみにしてなさい。」

 

 「畏まりましたイラドーヤ様。」

 

 そう言ってナギはその場を後にする。

ナギが立ち去ってから暫くすると光子は眠りについた。

夕食までの数時間、午睡するのが光子の日課となっていた。 そして光子はこの地にいる側近に心を許していた。 だからこそ気づかなかった。立ち去る時にナギが笑みを浮かべていたことを。

 

 

 

 

 「くしゅん!」

 

 肌寒さを覚え、くしゃみをした光子は目を覚ました。 

そこで違和感を抱いた。既に日が落ちて辺りは暗くなっていたからだ。 いくら南国とはいえ、日が落ちれば多少なりとも肌寒さを感じる。まして何も身につけていないなら。

 

 

 (随分と寝てしまったわね、それにしてもこの時間になっても迎えに来ないなんて?)

 

 いくら熟睡していたとはいえ、日が落ちても迎えに来ない側近達に違和感を抱いた。 光子はそのまま側にかけてあったバスタオルを巻き付けて隠れ家となっている屋敷に向かう。 屋敷に近づくにつれ違和感は強くなる日が落ちてもなお、屋敷には明かりひとつついていないのだ。 嫌な予感がし、屋敷に近づくのを止めて島の反対側にある潜水艦が停泊させてあるドッグに向かおうとした瞬間だった。

 

 

 バチッ、バチッ バチッ バチッ!

 

 急にサーチライトが点き光子の姿を照らす。

そして周囲を銃を構えた警察官らしき姿の集団が取り囲む。

 

 

 「?!」

 

 突然の事に呆然とする光子。

 

 

 「此方はインターポールだ。国際指名手配犯、元イスルギ重工社長、石動光子。いやグローリー・キングダム最高幹部が一人Merchant 。貴女を逮捕する!」

 

 指揮官らしき男性が進み出て、そう告げると背後から数人の女性警察官が表れて光子を拘束する。

 突然の出来事に言葉を失う光子。そのまま拘束され連行されていく。その途中で漸く我に返り喚き抵抗しようとするも、拘束具をされて何もできなくなった。

 

 

 明かりひとつついていない屋敷の中でその光景を見つめるナギ。今回の一件は全てナギの主導で行われた。後二人の側近は何も知らずにナギの手で眠らされており、今は捜査員に拘束されている。

 ナギは光子に忠実な振りをしてずっと待っていたのだ、復讐する機会を。 

 ナギは両親の借金のかたとして姉のサクラと共にイスルギ重工・・・いや石動光子に引き取られた。 姉のサクラはIS適正が高かった事もありテストパイロットとして働かせられた。そしてその力に目をつけられたアギラによって実験体にされたのだった。 ナギには何も出来なかった。 その後、ナギは光子の寵愛を受ける事になり、色々な事をさせられ・・・光子の裏を色々と知ることになった。

 そして事件の後に光子に連れられてこの島に来て、ずっとチャンスを窺っていた。秘かにインターポールと連絡を取り、機会を伺い実行に移した。

 姉のサクラの死に追いやった復讐と、そして何より光子からの開放を願って・・・・体内に宿る新たな命と生きる為に。

 

 

 その後、鏡ナギの所在を知る者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件から半年が過ぎた、春。

 

 IS学園は入学式をむかえていた。 講堂には新入生が集まっている。その後中の3分の1は男性である。

 今年からIS学園は共学となったのだ。 男性がISを動かせる事が出来るようになった訳ではない。今年からは操縦科とは別にIS技術科を設立した。操縦科は相変わらず女性のみだが、IS技術科は男女共学として生徒を募集したのだ。  

 

 新入生を前に生徒会の役員が壇上に上がり祝辞を述べる。

 

 

 「新入生の諸君、入学おめでとうございます。私はこのIS学園の生徒会長を務めます操縦科2年生のシュート・アルカンシェルともうします。 本来なら操縦科3年生の更識刀奈さんが務めるはずだったのですが、今年開催される第3回モンドグロッソに集中したいとのことで私が会長職を引き継ぎました。どうぞよろしくお願いします。」

 

 シュートの挨拶に会場からどよめき共に割れんばかりの拍手がおきる。

 

  

 「さて、新入生の諸君。君たちにとってISはどんな存在ですか? 力、象徴、兵器、スポーツ競技と答える人が殆どでしょう。 ですが、忘れないでください。それが昨年悲しい事件を引き起こした事を。そして思い出してください、篠ノ之束博士が最初に言った事を。ISとは本来、宇宙へと羽ばたく為の翼であることを。未知なる宇宙へと進む為の道具であることを。私たちは歪められたISの本質を今こそ理解していく必要があるのです。 その事を弁えて勉学に励んでください。」 

 

 シュートの言葉に会場は静寂に包まれる。受かれた表情を浮かべていた新入生もシュートの言葉に顔つきが変わる。

 

 

 「私たちはこの学園でISの本質を確りと学び、卒業後に世の中にそれを伝えていく役目があるのです。どうぞ、これから3年間その事を胸に携えて頑張ってください。」

 

 そこまで言うとシュートは両手を拡げて

 

 

 「この言葉を持って祝辞を終わらせていただきます。ようこそIS学園へ!!」

 

 

 

 会場は再び割れんばかりの拍手が巻き起こる。

 





これにて本編は完結とさせていただきます。
なお、登場人物のその後に関しては別途投稿いたします。
また、幾つかの外伝というか本編では語られなかったストーリーやコラボ編を投稿予定となっております。

とりあえず、これまでおつきあいいただきありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

afters

主要人物のその後です。
もし、ここに書かれていない人物のその後がご希望なら追記させていただきます。



※注 なお人によっては御不快になる表現(性的)が一部あるのでご注意ください。


シュート・アルカンシェル

IS学園を卒業後にアルカンシェル社の社長に就任。それと同時に男性操縦者特例法の一夫多妻制度を使い、更識刀奈とシャルロット・デュノアと結婚する。なお、タバネは戸籍の関係上で入籍は出来なかったものの、結婚式はあげて妻になっている。 ファントムタスクのリーダーとして影ながら動き様々な問題の解決に奔走する。

 

 

刀奈・アルカンシェル(旧姓:更識刀奈)

IS学園卒業後、日本代表を辞任しアルカンシェル社のテストパイロットとして就職。シュートの卒業を待って結婚する。 その後、子宝に恵まれて二男二女の母親となる。 ちなみにモンドグロッソでは準々決勝まで進んだものの機体性能は兎も角、技術的に1枚も2枚も上だったエクセレンに負けてしまう。

 

 

シャルロット・アルカンシェル(旧姓:シャルロット・デュノア)

IS学園卒業後にシュートと結婚。それを機に代表候補生の座を降りてアルカンシェル社の社長秘書になる。

此方も子宝に恵まれて二人の女の子の母親となる。

刀奈と共に育児と仕事に励んでいる。

 

 

タバネ・アルカンシェル(篠ノ之束)

シュートのIS学園卒業を機に刀奈達と共に結婚式をあげる。戸籍上、姉弟となっているために入籍は出来なかったものの妻としてシュートを支える。 ISが男性でも使えるようになる研究と宇宙へ行くための研究を続ける。 男の子を一人の母親として悪戦苦闘しながら育児を頑張っている。

 

 

マドカ・アルカンシェル

IS学園卒業後にシャルロットの替わりとしてフランスの代表候補生に選ばれる。その後アクアの国家代表引退を受けて国家代表に就任。第4回モンドグロッソの優勝候補筆頭にあげられる。 最近の悩みは彼氏が出来ない事、ただし周囲に言わせれば望みが高い・・・というか、ブラコンだから出来ないとのこと。

 

 

クロエ・アルカンシェル

アルカンシェル社の秘書としてシュートとタバネを支える続ける。 ラウラとは姉妹として仲良くやっている。

ただ、ラウラがシスコン魂を全開の為になかなか良いと思った男性との仲を進める事が出来ないのが悩み。ただラウラも悪気があって行動している訳では無いので注意出来ないでいる。

 

 

スコール・ミューゼル&オータム・レイン

ファントムタスクの実働メンバーとしてなかなか動けないシュートの変わりに世界中を飛び回る。プライベートは順風満帆のようだ。

 

 

凰鈴音

IS学園卒業後、代表候補生の座を降りて中国には戻らず日本に国籍を変更しとどまる。中学時代を過ごした街で中華料理屋を開店する。その味で瞬く間に人気店となる。 ただ、どういう訳か酢豚だけはメニューに無い。

 

 

セシリア・オルコット

IS学園卒業後にイギリスの代表候補生の座を降りてオルコット財閥の総帥に就任。企業家としてその腕を振るう。数年後に企業家の男性と結婚する。

 

 

ラウラ・ボーデウィッヒ

IS学園卒業後、ドイツの国家代表兼ドイツ軍中佐に就任する。シュヴァルツハーゼの指揮のみならず後身の育成に励む。 最大の関心はモンドグロッソではなく姉のクロエにあることが周囲を悩ませる。

 

 

更識簪

IS学園卒業後に日本の国家代表に就任する。また、刀奈変わりに更識家を継ぐことになったが、苦には感じておらず本音と虚の助けを得て頑張る。

第4回モンドグロッソではマドカの対抗馬として有力視されている。

 

 

布仏虚&本音

IS学園卒業後は更識重工に就職。何れ更識家を継ぐことになる簪の為に尽くす。 なお、虚は更識重工の社員食堂に料理人として修業に来ていた青年、五反田弾と知り合い互いに想いあう仲となる。そして本音もその友人の御手洗数馬と知り合い交際を開始することになる。

 

 

ダリル・ケイシー&フォルテ・サファイア

二人共、IS学園卒業後は代表候補生の座を降りてIS学園の教員として後身の育成に励む。 ブライベートは相変わらず。

 

 

サラ・ウェルキン

IS学園卒業後、暫くしてイギリスの国家代表に就任する。 【ホーネットナイト】の異名と共に後輩たちからはその凄まじい指導ぶりから恐れられる。

第4回モンドグロッソの優勝候補の一人にあげられる。

 

 

リムカーヤ・クリスティーナ

IS学園卒業後、暫くしてイタリアの国家代表に就任。アリーシャに次ぐ天才としてモンドグロッソの優勝候補にあげられる。 最近の悩みは義理の兄ジョシュアと先輩であるグラキエースが中々結婚しないこと。

 

 

相川清香

一夏の事件後、暫く塞ぎ混んでいたものの周囲の励ましもあり、以前の明るさを取り戻す。ただ思う事があったのか二年生への進級時に学園を退学し、普通の高校に編入する。卒業事なのにに看護師になるために看護学校に入る。

 

 

四十院神楽

一夏の事件後も変わらずに過ごしていたものの、2ヶ月後に突如体調不良を理由に学園を退学し、実家のある京都に戻る。その半年後に突然結婚し子供を出産、さらに1年後に離婚と周囲を騒がすが、本人と彼女の両親は全く動じていなかった。

 

 

鏡ナギ

入院先の病院から突然姿を消し、その後の足取りは不明。 ただ、北海道で赤子を抱いたそれらしき少女を見たとの情報もある。

 

 

 

篠ノ之箒

事件後に保護されるも様々な処置が施された事によりほぼ廃人とかしており、責任能力が問えないとなり専門病院に収容されも、徐々に弱って行き半年後に死亡。

 

 

 

 

 

第3回モンドグロッソ 

紆余曲折をへてカナダでの開催となった。

優勝者はエクセレン・ブロウニング。 なお、表彰式において結婚引退を発表し周囲を騒然とさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

織斑千冬&一夏

所在不明

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殆ど人の訪れる事の無い山奥

そこにひっそりと建つ山荘。 周囲は畑らしき物があるが作物は殆ど育っていない。 山荘の裏側には大量のゴミ袋が山積みになっていた。

 

 

 

台所でレトルトのお粥を鍋に入れて温める女性、顔の右半分を包帯で覆い左腕はISらしき物を部分展開しているように見える。 お粥を白いプラスチックのお椀に移すと左足を引きずりながら別の部屋に向かう。

 

 

 

千冬が移動した部屋にはベッドがひとつあり一人の少年が横たわっている。

 

「ほら一夏、ご飯が出来たぞ。」

 

そう言って千冬がベッドに横たわる一夏を起こして、口にお粥らしき物を運ぶ。一夏はただされるがままそれを口にする。幾度かそれを繰り返し、お椀は空になる。

 そのお椀を右手に持って千冬はその場を離れる。 一夏はそれを見ることなく、ただ中空をボンヤリと眺めている。

 

 

 台所についた千冬はお椀をゴミ袋に入れる。ゴミ袋にはレトルトの袋とプラスチック容器が詰め込まれていた。 

 戸棚にはレトルト食品や缶詰が僅かにある。床にはペットボトル飲料が数本転がっている。 

 

 

 「食料も、あとこれだけか・・・・・」

 

 だが心配はしていなかった。支援する人物から食料等が間もなく届けられるはずだから。 千冬はその人物とある取引をした一夏との結婚だ。 一夏が元に戻った時に結婚しても良いという条件のもと支援を受けている。

 だが千冬にはその気はなかった。

 

再び部屋に戻った千冬は一夏の側に寝て抱きつく。

 

 

 「私の一夏・・・・・愛してるぞ一夏・・・・誰にも渡さない・・・・・お前は私のものだ」

 

 部屋に衣擦れ音がし、やがて濡れるような音と振動が響く。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

外伝
コラボ編 ×Moon Knights IS ファースト


 
 あけましておめでとうございます。
 本年もよろしくお願いいたします。


  外伝となります。
 アマゾンズさんのMoon Knights IS とのコラボです。

 どうぞよろしくお願いいたします。


 

 

 

 Moon Knights IS 側

 

 アシュアリー・クロイツェル社

束が使っている研究室。その中央に奇妙な物が鎮座していた。 直径3mの金属性のリングに無数の配線が繋がれて幾つもの計器と接続されている。

 そのリングの前で束は

 

 「これでひとまず完成。あとは実験するだけなんだけど・・・・」

 

 そこまで呟きながらも躊躇う女性・・・篠ノ之束ことタバ=サ・レメディウム。タバ=サが作り上げた装置、それはIFの世界の見る為の物。

 

 闇に堕ちた妹、箒と親友千冬の弟、一夏の二人。もし、二人が闇に堕ちなければ、もし、自分がそうなる前に手を差しのべれたら、もし、自分が白騎士事件を起こさず別の手段でISを認めさせれば、もし・・・もし・・・もし・・・ 幾つものIFがタバ=サの中で渦巻いていた。今更変える事の出来ない現実、後学の為にそれを知りたい、そんな欲求の元作り上げた装置。 だが実際に作り上げた後では、それを目にするのが怖くなった。

 

 「見てみたい、でも恐い、知りたい、でも知りたくない。」

 

 堂々巡りする束、そこに

 

 「「失礼しますレメディウム博士。」」

 

 自由の騎士【赤野政征】と城壁の騎士【青葉雄輔】の二人が入ってきた。

 

 「おや、二人してどうしたの? さては夏休みの宿題を束さんに手伝って貰おうと「違います。」ありゃりゃ・・」

 

 軽口をたたくタバ=サを雄輔が否定する。

 

 「博士が俺達を呼び出したんじゃないですか。」

 

 政征の言葉に思い出した束は頭を掻きながら

 

 「アハハハハハハ、すっかり忘れてた。ごめんごめん。実は二人に手伝ってもらいたい事があったんだ。」

 

 「全く、ん?! 博士、これは?」

 

 「あっ、それは触っちゃダメだからね。」

 

 雄輔が触れようとしているのを注意するタバ=サ。慌てて手を引っ込める雄輔。

 

 「で、これは何なんですか?」

 

 「これは願望機、望んだ世界を見せてくれるかもしれない装置。」

 

 束の答えに、何を見たいのか気づいた政征と雄輔。

 

 「「レメディウム博士・・・・」」

 

 「でもね、結局のところ叶わない夢。変えられない過去。見たところで何も変わらないのに・・・でも、それでも見たい、2度と過ちを繰り返さない為にも・・・・だけどいざ見ようとすると、足がすくんじゃうの。」

 

 そう言って束は願望機を眺める。

 

   ブウン

 

 「「「えっ?!」」」

 

 突然、リングが淡い光を放つ。

 

 「うそ!何で起動しているの? 」

 

 タバ=サは慌てて制御装置のパネルを操作する。ディスプレイには様々なデータや数値が表示される。

 

 「電源が落ちない! ちょっと待って、何で言うこと効かないの?! 」

 

 どういう訳か、制御装置はタバ=サの操作を受け付けずに勝手にどんどん起動していく。それと同時にリングの光も強くなっていき、リングの中のには黒い光が現れ徐々に大きくなっていく。

 

 「えっ?! サイトロンの数値が異常増加・・・レッドゾーンに!! 二人とも急いでこの部屋から出て!!」

 

 「「な?!」」

 

 タバ=サの指示に二人は戸惑う。タバ=サを置いていっていいのかと。

 

 「私の事はいいから、部屋から出て直ぐに隔壁を降ろしてこの区域を隔離して!! 私はこのまま制御を試みるから!」」

 

 「くっ!! いくぞ雄輔!」

 

 「わ、わかった!」

 

 二人が部屋を出ようとした瞬間だった。黒い光が突然黒い渦に変化し、政征と雄輔とタバ=サを吸い込むかのように引き寄せていく。

 

 「ぐっ?! 引き寄せられる。雄輔、ラフトクランズを展開するぞ。今ならレメディウム博士も連れて出られる。」

 

 「わかった!」

 

 二人はISを展開する。雄輔がタバ=サを抱きとめて、その場から離れようとするが、黒い渦の吸い込む威力が強く抜け出せないでいる。

 

 「政征! このままじゃ無理だオルゴン・クラウドで転移して離れよう。」

 

 「わかっ?! なに!!」

 

 転移しようとした瞬間だった、吸い込む威力が倍増し一気に渦の中に取り込まれていった。

 

 「「「うわぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」」」

 

 リングの黒い渦は3人を吸い込んだ後、消滅しリングは何もなかったかのようにシステムが停止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遥かなる虹の輝き 側

 

 

 更識重工 秘密研究室

 

 「シューくん、来月の臨海学校だけどリュミエールは新しい装備を作り上げたの?」

 

 「あぁ、高機動ユニットの【AMガンナー】を作り上げたんで、それのテストをしようかと。タバネ姉さんはシャルの新しいアーマーシステムを作っただよね。」

 

 「うん、水中用のダイバーシステムと空戦用のフライヤーシステムの2つをね。特にダイバーシステムはプールじゃテスト出来ないからね。」

 

 「ラウラのガルーダユニットは?」

 

 「今、クーちゃんが最終チェックをしているよ。」

 

 そこにクロエから連絡が入る

 

 『タバネさま、ガルーダユニットの起動試験終了しました。』

 

 「クーちゃんお疲れさま、こっちに戻って来てよ。戻ってきたらお茶にするから。」

 

 『わかりま・・・えっ?! 何ですかであれは?』

 

 「どうしたのクーちゃん? えっ?!何あれ?」

 

 モニターに映ったのはアリーナの中央のやや上空に黒い渦のような物が現れていた。

 

 「クロエ! 直ぐにアリーナから出ろ! タバネ姉さんはクロエが出たらアリーナのシールドを最大出力にして隔壁を降ろして! 俺は万が一に備えてピットに向かう。」

 

 そう言ってシュートは秘密研究室を出てピットに向かう。  研究室に残ったタバネはクロエがアリーナから出たのを確認するとアリーナのシールドの出力を最大にし、アリーナを完全に隔離するために隔壁を降ろした。

 更に様々なセンサーを作動させて黒い渦の分析を開始する。

 

 「正体不明のエネルギーを探知?! 重力波の異常?! エネルギーのサンプル採取! スーパーコンピューター【チャシャキャット】起動、エネルギーの分析開始!」

 

 やがて黒い渦から何が落下し、アリーナの地面に倒れた。 よく見れば二人の青年と一人の女性だった。だが、その女性を見てタバネは驚く。

 

 「えっ?! 私?」

 

 だが驚きはそれだけに留まらなかった。

 

 「ん?! ISのコア反応が2つ! それもあの二人から!!」

 

 側に倒れている青年達からISのコア反応がした。

 

 『タバネ姉さん、今からアリーナ内に入るよ。』

 

 「シューくん、アリーナ内の映像は見てる?」

 

 『あぁ見たよ。ともかく3人の状態を確認して場合によっては医務室や隔離室にいれないといけないしね』

 

 「シューくん、お願いね。それからその二人の青年がISを所持しているみたいだから念のために回収しといてね。 私はみんなに連絡してこっちに来てもらうよ。」

 

 『了解!』

 

 リュミエールを装着したシュートがアリーナ内に入り、3人の側に近づく。

 

 「・・・・・いったい何処から?そして何故ここに・・・」

 

 3人の状態を確認しながらシュートは呟く。外傷はなく気を失っているだけのようだ。そして二人の青年の胸元を見るとそれぞれペンダントが見えた。ペンダントトップは赤い髪の青年のは剣、青い髪の青年は楯の形をしていた。

 

 「これが・・・・」

 

 シュートは二人からペンダントを回収し

 

 「クロエ、医務室への搬送の準備を」

 

 シュートがそう告げると、ピットの方からタンカを装着した無人カートが3台入ってきた。

 シュートがそれぞれに3人を乗せるとカートはそのままピットの方に走っていく。 

 入れ替わるかのようにクロエが現れ

 

 「お兄様、それをお預かりします。」

 

 「頼むよクロエ。」

 

 シュートはクロエにペンダントを渡すのだった。 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

コラボ編 ×Moon Knights IS セカンド

 
 
 お待たせしました。コラボ編の第2話になります。

 御都合主義になります。


 

 

 更識重工秘密研究室

 医務室のベッドに3人の男女が寝ているを映し出すモニターを横目に見ながら、タバネは二人の青年が持っていたペンダントを解析していた。

 

 「ラフトクランズ・・・・この世界には存在しないテクノロジーで作られている。それにこのIDカード・・・・となると・・・」

 

 医務室で寝ている人物達が、どうやら目を覚ましだしたようだ。タバネは2つのペンダントを手にして医務室に向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 「ん、んんん・・・・・・くっ?!」

 

 政征が目を覚ますと、白い天井が目に入る。

 

 「・・・・・・見慣れない天井だな。医務室みたいだけど・・・・」

 

 自分の寝ているベッドと周囲の様子からそう判断するが、自分の記憶にある医務室とは内装が違っていた。

 よく見れば、左右対称に雄輔とタバ=サが寝ている。

ベッドから起き上がり、二人を起こそうとするとタイミングよく二人が目を覚ます。

 

 「痛つっっーーー? ここは?」

 

 「うぅぅぅーーーん、ここどこ?」

 

 どうやら二人とも見覚えの無い医務室に疑問を抱いているようだ。

 

 「「レメディウム博士・・・・・・」」

 

 タバ=サが直ぐに考えこんだ事で二人は、その答えを待つ。

 

 「・・・・・・・情報が足りないけど、ある可能性が考えられるの」

 

 「それは?」

 

 政征が尋ねると

 

 「それはね「平行世界かな?」えっ?!」

 

 医務室の扉が開け室内に入ってきタバネ。タバネを見て驚く3人。

 

 「やあやあ、初めましてかな?平行世界の私。」

 

 タバ=サとタバネを見比べる政征と雄輔。髪の色こそ違えど、同じ顔で白衣を纏う二人は戸惑っていた。

 

 

 「・・・・・・・・一応名乗るけど私の名前はタバ=サ・レメディウムよ。」

 

 「へーーー、そっちも篠ノ之束を名乗って無いんだ。それじゃあ私も。タバネ・アルカンシェルだよ。」

 

 タバネの名を聞いて驚く3人。

 

 「「篠ノ之束じゃないんですか?!」」

 

 「今、そっちもって言ったけど何かあったの?」

 

 「まあ、それは追々話すけど。それで何でこの世界に?」

 

 

 タバネの質問にタバ=サは正直に起きた事を話した。

 

 

 「ふーーん、成る程ね。という事はアリーナで採取したエネルギーが要因になっている可能性があるのかで今、分析中だから解析が終われば何か解ると思うよ。」

 

 「あのーーすいません。そもそもここは?」

 

 雄輔が質問する。

 

 「ここはねフランスのISメーカー[アルカンシェル社]と提携している日本のISメーカー[更識重工]の実験用の地下アリーナにへいせつしている医務室だよ。」

 

 「「「アルカンシェル社? 更識重工?」」」

 

 聞いた事もない企業に3人とも驚く。

 

 「そう言えば、タバネさんはタバネ・アルカンシェルと名乗ってましたよね?何か関係が?」

 

 「関係も何もアルカンシェル社はタバネさんの会社だよ。タバネさんは一応社長兼開発者なんだけど、会社の経営は弟のシューくんに殆ど委せてるだ。」

 

 雄輔の質問に答えるタバネ。

 

 「あの~、フランスにはデュノア社がありますよね?」

 

 「デュノア社はアルカンシェル社が吸収したよ。」

 

 政征の問いに答えるタバネ。益々解らなくなってきた3人。

 

 「タバネ姉さん、最初から説明しないとたぶん理解してもらえないよ。」

 

 扉が開き、入ってきたシュートを見て驚く3人。

 

 「「織斑!!」」「いっくん?!」

 

 「ん?!・・・・・・もしかして織斑一夏と間違えているのか?」

 

 「「「へっ?!」」」

 

 「仕方ないよシューくん。遺伝上は同じ遺伝子を持つ肉親なんだから。」

 

 「「「はぁ?!」」」

 

 「俺の名前はシュート・アルカンシェル。タバネ姉さんの弟でありアルカンシェル社の社長代理を務めている。それから不本意ながら、織斑一夏と同じ遺伝子を持つ兄弟だ。」

 

 「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

 予想外の事に言葉を失う3人。シュートとタバネの説明が始まり、互いの現状とそれぞれの違いを話した。

 ただし、政征達は今が6月という事を知り臨海合宿の事はあえて伏せた。 タバネは何か隠しているのに気づいたが、それを聞く事はしなかった。

 

 

 「それにしても・・・・」

 

 「あぁ・・・・・・・・」

 

 「「「世界は違えど、やっぱり織斑は織斑か・・」」」

 

 シュートと政征と雄輔は溜め息をつく。

 

 「それで、エネルギーの分析は進んでいるの?」

 

 「今、スーパーコンピューダーで分析させているけど、未知のエネルギーだしね。少し時間がかかるかも。」

 

 「それならタバ=サさんも手伝うよ。天災が二人揃えば作業も早くなるだろうし。」

 

 「そうだね、お願いしようか。」

 

 「「それまで俺達は、ここに?」」

 

 「ん?でも暇でしょ?それに日用品が少しは必要でしょ?」

 

 タバネの言葉を頷く二人。

 

 「それで、たまたま今日明日とシューくん達が休みでいることだし、買い物に行ってきたら? それから、これ!」

 

 そう言ってタバネはペンダントを二人に渡すけどそれは政征と雄輔の相棒・・・ラフトクランズの待機形態・・・だった。ただし、ペンダントトップが透明な四角いケースに被われていた。

 

 「二人の大切な相棒だよ、万が一の事態に備えて持っていて貰うよ。そのカバーはIS反応を誤魔化す為の物だよ。それからこれも。」

 

 そう言ってタバネは小型のイヤホンマイクとスマホを渡す。

 

 「それは通信用のイヤホンマイクなんだけど、変声機能もあるから。それと会社名義のスマホ、念の為に自分のは電源を切って使わないようにして。」

 

 そこにマドカとシャルが入ってきた。

 

 「兄さん、準備出来たぞ。」

 

 「へーー、その人達が平行世界は住人なんだ。」

 

 「赤野政征だ。よろしく。」

 

 「青葉雄輔だ、短い間になると思うがよろしく頼む。」

  

 「マドカ・アルカンシェルだ。二人の妹になる。」

 

 「シャルロット・デュノアです。」

 

 こうして、5人は外出することになった。

 

 

 

 

 

 5人が出掛けて、解析室でエネルギーの分析を続けるタバネとタバ=サ。不意にタバ=サが問いかける。

 

 「ところでさ、ラフトクランズのデータはとったの?」

 

 「ん、見るには見たけどコピーとかはしてないし、複製したり流用するつまりはないよ。アレはこの世界に有ってはいけない物、だから私の記憶からも消す。」

 

 「何で?」

 

 「確かに興味深い技術だけど、アレはタバ=サさん達の世界の技術であって、この世界の技術じゃない。下手すれば世界に悪影響を及ぼしてしまう程のもの、過ぎた技術だよ。だから、これは決して何も残さない。」

 

 「凄いね、同じ人物なのに全く違うんだ。」

 

 「仕方ないよ、同じ人物でも世界が違えば辿る人生にも違いが出るよ。人生には幾つもの選択肢がある、その選択肢の分だけ平行世界があると私は思う。そもそも白騎士事件の起こりに違いがある時点で私と貴女は違うんだよ。」

 

 白騎士事件というワードを聞きタバ=サの表情は曇る。 今でこそ後悔しているが、その当時はそれが正しい事だと思っていた。そして、それが切っ掛けとなって全てが歪んでしまった。悔やんでも悔やみきれないのだ。

 

 「起きてしまった事、起こしてしまった事を何時までも悔やんでも、何も変わらないよ。それならそれに対する償いじゃないけど、みんなが幸せになる為に全力を尽くすだけだよ。さあさあ、分析を頑張ろう。」

 

 そう言って二人は分析にかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○オンショッピングモール

 レゾナンスと二分する規模を誇る商業施設だ。

 

 「本当はレゾナンスに行きたかったけど、あっちはIS学園の生徒が多くいるから、此方にしたよ。」

 

 「向こうにもあるけど、俺は行った事が無かった。」

 

 「俺も、何時もレゾナンスだしな。」

 

 シュートの言葉に政征と雄輔が答える。

 

 「まあ、IS学園からはレゾナンスの方が近いし便利だしな。似たような施設なら近場を選ぶよな、余程の理由が無い限りはな。」

 

 そう言ったシュートの視線の先には一組のカップルがあった。シュートの視線の先を追った政征達は気づいた。視線の先にいたカップルは一夏と清香だったのだ。

 

 「げっ!何でアイツが?」

 

 「それに一夏と一緒にいるのって・・・・」

 

 「1組の相川清香さんですね。」

 

 「全くアイツは・・・・・・」

 

 一夏がいることに驚く政征と雄輔。雄輔の❓に答えるシャルロット、そして呆れるマドカ。

 

 「何で相川さんとアイツが?」

 

 「経緯はわかりませんがちょくちょくデートをしているようです。」

 

 政征の質問に答えるシュート。それを聞き雄輔が

 

 「織斑は相川さんと付き合っているのか?」

 

 「・・・・相川さんだけじゃないの」

 

 「「えっ?!」」

 

 シャルロットの答えに驚く二人。

 

 「相川さん、鏡さん、四十院さん、とりあえずIS学園では、この3人と交際しているようだ。」

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 シュートの答えを聞き呆れる二人。

 

 「ちなみに、することはしてるみたいだぞ。」

 

 マドカの言葉を聞き一瞬だけ怒りの表情を見せる政征と雄輔。

 

 「おいおい、此方の織斑は見下げ果てた奴だな。」

 

 「全くだ、何を考えているんだ!」

 

 「とりあえず、関わらないように移動するぞ。」

 

 シュートを言葉に従って移動しようとした時、政征が気づいた。

 

 「おい、あの二人の後方に尾行しているのが、2組程いるが?」

 

 「片方は学園が密かに手配した護衛だ。アイツは何時も護衛申請しないから、外出申請すると同時に護衛の手配がなされるようにしてあるんだ。」

 

 「片方?」

 

 シュートの話を聞き室もする雄輔。

 

 「もう片方は更識が手配している護衛だ。アイツは以前、護衛に気づいて撒こうとした事があってな。学園側の護衛では不安があるから更識からも人員を派遣してたガードしているんだ。」

 

 一夏の行動に益々呆れる政征と雄輔。

 

 

 

 

 

 

 一夏達から離れたシュート達は洋服や日用品等を買い揃えた。

 

 「悪いな、支払ってもらって。」

 

 「気にするな。」

 

 「それにしても・・・・・]

 

 シュートに支払ってもらって凝縮する政征。そしてあることに気づいた雄輔。

 

 「ん、どうした?」

 

 「いや、ブラックカードなんて初めて見たからよ。」

 

 「あぁ、なるほど。一応、世界でも有数なISメーカーだからね。カードのランクはこれくらい無いと色々とね。」

 

 シュートの話に妙に納得してしまう政征と雄輔。

 

 「さて、とりあえず昼食にしようか?たぶん、昼から長くなると思うし。何かリクエストはあるかい?」

 

 シュートは後ろで話しているマドカとシャルロットを示し二人に告げる。それだけで納得した二人、世界が変わろうとも女性の買い物の長さは共通だと認識したのだ。

 

 「此方としては出して貰う側だから、まかせるよ。」

 

 「同じく。」

 

 シュートに聞かれて遠慮する政征と雄輔。

 

 「兄さん!私はアレが食べたい!」

 

 マドカが食いついてきた。シュートは苦笑し、シャルロットが慌てて

 

 「ちょっとマドカ、今日は止めとこうよ。何時もとは違うんだからさ。」

 

 「いや、二人がまかせると言ったからさ。それなら。」

 

 尚も食いつくマドカに、政征と雄輔は

 

 「そのマドカさんが行きたいところでいいよ俺は。」

 

 「俺も構わないぜ。」

 

 「・・・・・・・・後悔しても知らないよ」

 

 シャルロットは呟きは二人の耳に届かなかった。

 

 

 マドカが先導してレストラン街を進むと、ある店の前まできた。その看板をみて政征と雄輔は

 

 「なあ雄輔、この店ってさ確か・・・・」

 

 「あぁ、俺も1回は来たいと思ってた店だよ。」

 

 全国展開しているステーキチェーンの店だった。 ただ二人の目が向いているのは店の入り口に掲げられた1枚のポスターだった。

 

 【チャレンジメニュー 延長開催】

 

 「なあ雄輔、こんなのあったか?」

 

 「いや、こんなの無かったぞ。」

 

 二人の脳裏にある光景が何となく浮かんだ。しかし、それを全力で振り払った。

 

  マドカが先頭になって店に入る。店内には、肉の焼ける匂いが充満しており、空腹を感じてしまうのだった。

 

 「いらっしゃいませ、5名様ですね。7番テーブルをご利用くださいませ。このままレジにいかれましてオーダーをお願いします。支払いが終わりましたら、プレートを持ってカウンターにお並びください。」

 

 入り口にいた店員がテーブルの番号を告げてシステムを案内する。まだ11時前ということで混んでおらず、すんなりレジの前に着いた。

 

 「ご注文をお願い・・・・・・あっ!!・・・・えーーと。」

 

 レジ前の店員がマドカの顔を見て絶句する。それを見た政征と雄輔は、何となく察してしまった。

 

 「チャレンジメニューのギガを頼む。」

 

 「・・・・・・・かしこまりました。オーダー、チャレンジギガR・C・Q(リピート・クリア・クイーン)!」

 

 その瞬間、ガラス越しで調理するシェフ達の表情が強ばったのを政征と雄輔は見た。そしてシェフ達がマドカの顔を確認し、悟った表情になるのもわかった。

 

 

 

 

 

 

 食事も終わり、店を出てマドカとシャルロットの買い物に向かう一行。その中で政征と雄輔は先頭を歩きながらシャルロットと会話するマドカを見て、未だに先程見た光景が信じられなかった。

 

 マドカの前に出されたのは1Kの肉の塊。マドカはそれを優雅に食べていった。某女性大食いタレントの如くキレイに食べ尽くした。いや、ステーキ以外にもライスとサラダにスープも全て食べたのだ。

 なのにスタイルに変化は無かった。

 

 「・・・・・・・・凄いな。」

 

 「・・・・・・・・あぁ凄いな。」

 

 もう見慣れた光景なのかシュートとシャルロットは平然としていた。

 

 

 

 当のマドカはシャルロットと共に店先で洋服を見ていた。

 

 「・・・・・・ここからが長いぞ。」

 

 「シャルロットだろ?」

 

 「確かラウラが一緒に買い物に行って、帰ってきたら凄まじく疲れたと言っていたので聞いたら、50着以上着替えさせられたと言っていた。」

 

 シュートの話に同意する政征とエピソードを披露する雄輔。 3人は近くのベンチに座り、シュートが二人に缶コーヒーを渡す。

 缶コーヒーを飲みながら政征が

 

 「なあシュート、よかったら俺と1回戦ってくれないか?」

 

 「何故だ、政征?」

 

 「たぶん俺の勘だけど、シュートは俺より強いと思う。戦いを通じて何か得られる物があると思うんだ。」

 

 「それなら俺も加えてくれ。俺達は避けれない戦いが待ってる。その戦いを勝ち抜く為にも経験を詰む必要があるんだ。」

 

 「俺の一存で決めていいのか、わからないが二人が望むなら俺は構わないと思っている。」

 

 「「ありがとう。」」

 

 そう言ってシュートと政征と雄輔は右手を重ねる。

 

      その時だった

 

 

 

 

 ズドォォォーーーーン!!!

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 5~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。