水泳部これくしょん (BroBro)
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御神体のD格無双

ジオン水泳部好きだけど小説ってなかなか無いので出来心で作っちゃいました


 

 

 

西方海域。

 

呉鎮守府から出撃した戦艦1、軽巡2、駆逐3で形成されている艦娘は、深海棲艦と呼ばれる人類の敵と認識されている者達と対峙していた。

 

深海棲艦の編成は呉側と同じ。戦力は五分五分の筈なのに、深海棲艦側は押されていた。

 

戦艦金剛が35.6cm連装砲の一番、二番を放ち、深海棲艦側の駆逐艦イ級2隻が大破する。戦艦の砲撃を受けて轟沈しなかっただけ良かった方だが、航行するのがやっとな状態である。これ以上のダメージを受ければ轟沈は避けられない。

 

軽巡であるホ級2隻も小破と中破と言う軽くないダメージを負っている。それに対して、艦娘側は殆ど損傷が無く、有効打も与えられてなかった。

 

 

(コレ以上ハ耐エラレナイカ…)

 

 

旗艦であるル級は戦況を見極める。艦隊は壊滅状態。戦艦である彼女は装甲が厚く、今の所無傷に等しい。しかしそれも味方が生きていて戦力が分散されているが故である。この状況では何時全滅するか分からない。

 

撤退が正しい選択である。しかしここで艦娘に背を向けると集中砲火を受ける。逃げても地獄、戦っても地獄。八方塞がりとは正にこのこと。

 

艦娘側の戦艦の主砲がル級に向く。他艦の始末は水雷戦隊だけでも出来ると思ったのだろうか。実際、現在の深海棲艦の状態では、駆逐艦達だけでも相当な打撃を受けるだろう。

 

イ級達に砲撃が集中する。低速になってしまった体を無理矢理引きずる様にイ級達は逃げているが、それも長くは持たないだろう。

 

 

(流石ニ無理カナ……)

 

 

戦艦の主砲が遂にル級を捉える。今までの精密な砲撃から見て、回避は恐らく不可能。味方も満身創痍。この状況で、ル級は諦めた様に目を瞑った。

 

しかし、この危機的状況で、予想外の電文が入ってきた。

 

 

『我、戦闘海域ニ侵入セリ』

 

 

瞬間、艦娘達の足元から大きな水しぶきが上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソレデ、初メテノ戦闘ハドウダッタ?」

 

「------」

 

 

西方海域カスガダマ島。現在深海棲艦の拠点の一つであるこの島の港湾施設で、島の長の一人である飛行場姫が、緑色のデカイ物体を見上げていた。

 

ずんぐりとしたわがままボディ、その両手の先に伸びる3本の爪は黄色く、体の割に小さめな印象を持つ。前後左右で対象になっているその体に首と思わしき部分は無く、不気味に光る黄色のモノアイが中心から少し上でグポ〜ンと輝きを増した。

 

その物体の正体は、先日深海棲艦が海底から引き上げた未知なる機械。この世界で存在しない筈の新たな戦力。

 

そして、ジオン公国の水陸両用型MS(ジオン水泳部)にして、強力なビーム兵器を備える我らが御神体。

 

どういう訳か全長2m程になってしまった、MSM-10『ゾック』が、そこにはいた。

 

 

「ソウ、気ガ付ケバ敵ノ足元ニイタト…」

 

「-------」

 

「良ク分カラナカッタカラ一人ヅツボディーブローヲ決メテ」

 

「---------」

 

「砲撃シテ来タカラビーム砲で撃チ落トシテ」

 

「------」

 

「白イ服ヲ来タ艦娘ニモウ一発ボディーブローヲカマシテ来タト……」

 

 

チカチカ点滅するゾックのモノアイから解析した言葉を、飛行場姫が一つ一つ口にする。独り言ではなく、すぐ後ろにいる回復したてのル級に聞こえる様に話している。

 

そしてル級に向き直り、一言言った。

 

 

「マジ?」

 

「マジデス」

 

 

既に言葉を準備していたのであろう、ル級は戸惑うことなく答え、その答えに飛行場姫は頭を抱えた。

 

ゾックからの答えは、余りにも非現実的であった。ビームに関してはまだ分かる。友人のレ級だってやろうと思えば尻尾から出せる。しかし寸分の狂いも無く敵砲弾を撃ち落とし、更にボディーブローを食らわしたと言うのだ。冗談にしたってもうちょっとマシな冗談がある。艦隊戦で敵に格闘を仕掛けるなんて何処の愚か者か。

 

 

「イヤ、私モビックリシタンデスヨ……複縦陣ノ敵艦隊ノド真ン中ニ現レテグルット一回転シテ艦娘ヲハジキ飛バシテ、最終的ニ戦艦金剛ヲ腹パンシテタンデスヨ。艦隊戦中デスヨ?普通格闘戦シマス?」

 

「シナイヨ普通ハ」

 

 

ル級が混乱したように説明し、飛行場姫が吹っ切れた様に笑った。既にこのゾックと名乗るものに、深海棲艦の"普通"と言う言葉は通用しない事が分かった。

 

 

「ゾックデシタッケ?アレヤバイデスヨ。腹パンスッゴク痛ソウデシタモン。爪ハソレホド鋭利デハ無イデスケド、チョット金剛浮イテマシタヨ」

 

「流石ニ同情スルワヨ……」

 

 

金剛もグーで腹を殴られるとは思わなかっただろう。流石の飛行場姫も金剛への同情を禁じ得なかった。

 

攻撃の方法は酷いが、艦娘に攻撃した時点で味方である事に間違いは無いのだろう。しかし、どこからどう見ても深海棲艦では無いし、何処からどう見ても元艦娘ではない。正に正体不明の謎の戦力。

 

潜水でき、ビームを放て、戦艦すらも一撃で大破させるその拳。そして駆逐艦や軽巡程度の砲では沈まない装甲。正に、化け物と呼ぶに相応しいものだ。

 

その存在が味方である事に、飛行場姫は安堵する。しかし、確実に味方である訳では無い。ゾックが裏切り、深海棲艦を攻撃した日には、一体どれだけの損害が出るのだろうか。そうなった場合の対処法は?集中砲火で倒せるだろうが、倒すまでの損害は一体どれだけ出るのだろうか?

 

そこまで考えて、飛行場姫に小さな頭痛が襲う。

 

 

「モシカシテトンデモナイ奴ヲ広ッタノカモ……テ、奴ハドコ行ッタ?」

 

 

その頭痛の元凶であるゾックはイ級を海まで投げ飛ばして遊んでいる。楽しいのか、イ級やハ級の行列が出来ていた。中にはリ級やチ級も混じっていた。

 

 

「何ヤッテンダオ前ラ!!」

 

「ア、飛行場姫様モドウデスカ?楽シイデスヨコレ。飛ベルンデスヨ」

 

「飛ベルダロウヨ飛バシテンダカラ!ブン投ゲラレテルダロ!」

 

 

そう言って飛行場姫がイ級を投げようとするゾックに指をさす。ゾックは両手でイ級をガッチリ掴み、グルングルン回る。そして何回か繰り返し回り、最後にぶん投げ、イ級が彼方の海へと吹っ飛ばされる。遠くから見れば恐怖でしかない光景だ。しかしゾック自身は楽しんでいる様で、次から次へと深海棲艦をぶん投げて行っている。

 

飛行場姫はカスガダマ島の中ではかなりの常識人であり、大人である。戦闘以外で怪我をしたくないし、何よりよく分からない余所者に身体を任せるなんて恐ろしくて出来たもんじゃない。

 

 

「勝手にヤッテナサイ」

 

 

大きな溜め息を吐き、飛行場姫はル級と共に施設内に入って行った。

 

その後、施設の窓から飛んで行くイ級やニ級が見え、飛行場姫は更に頭を痛めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督。カスガダマ島への偵察に出ていた偵察艦隊から報告がありました。『我、カスガダマ島ニテ敵基地ヲ発見セリ』」

 

 

「ふむ、やはりカスガダマ島だったか」

 

 

呉鎮守府の提督室で、眼鏡を掛けた艦娘と緑色の軍服らしき服を着た40代位の小太りの男が対峙していた。

 

男の服の襟には金色の片翼の様な階級章があり、その上から日本の中佐を示す海軍の階級章が貼ってある。日本の勲章を貼っているにも関わらず、その顔は日本人とは違う堀の深い顔をしていた。

 

 

「我々人類の反撃開始から早一年少々、ようやく深海棲艦に大きな一撃を加える事が出来るのだ。この敵地攻略作戦は、いつも以上に慎重に動かねばなるまい」

 

 

そう言って、男は机に置いてある写真立てを静かに見る。

 

そこには海軍を示す白い軍装の男が、艦娘達と共に写っていた。艦娘も男も、とても楽しそうに笑い合っている。

 

男はその写真を数秒間凝視し、黙祷を捧げる様にゆっくりと目を瞑り、艦娘に向き直った。

 

 

「大淀くん。カレー洋制圧作戦に出ていた艦隊の具合はどうなっている?」

 

「金剛が大破、多磨と球磨と夕立が中破、睦月と如月が小破です。金剛さんは吐き気を訴えてますが、今の所嘔吐等は無く、全員と共に入渠しています」

 

「まさか先んじて金剛が大破するとはな……報告では、未知の深海棲艦に海中から狙われたと言うことだが、何か分かったか?」

 

「えぇと……多磨さんからの報告では「緑色の巨大な物体に殴られた」とありまして、他の皆さんも同じ報告がされています。金剛さんは反撃したらしく、姿形をハッキリ見ている様です。「今まで見た深海棲艦とは似つかない、とても不気味な深海棲艦だった」と」

 

「不気味な深海棲艦か……私にはどれも不気味に見えるが、あの中でも異彩を放っていたと言う事かね?」

 

「はい。海中から現れたその深海棲艦は、卵の様に丸い緑色の体型、二本の腕に、体から直に生えている様に見えた四つの赤い砲門、そして体の中心には、大の字の様な模様の中に光る黄色い光が一つと言う様な奇妙な形状らしいです。今まで確認された深海棲艦の中に、こんな深海棲艦の報告は無いのですが……提督?」

 

 

そこまで説明して、大淀は提督の様子がおかしい事に気付いた。大きく目を見開き、考え事をする様に顎に手を当てる。そして、うわ言の様に何かを呟いていた。

 

 

「まさか……いや、私がこの世界にいるなら有り得ない話ではない……」

 

「あの、提督?どうしたんですか?」

 

 

独り言を暫く呟き、真剣な顔で考え事をしている提督。大淀は、こんな提督を初めて見た。いつもは冷静沈着、どんな事態にも瞬時に対応し、勝利に導く司令官が、ここまで動揺する事が無かった。

 

暫くして、思案を巡らせていた提督は大淀に向き直った。

 

 

「大淀くん、悪いが緑の敵には近づかない様にと全艦に警告して欲しい。駆逐艦から戦艦、空母も潜水艦も全てだ」

 

「は、はい!」

 

 

今まで以上に緊迫した声と表情に事の重大さを感じ取った大淀は、大急ぎで提督室を出ていった。

 

独り残された提督は、襟の日本ではない方の階級章を優しく弄り、小さく溜め息を吐いた。

 

 

「まさか、敵に回ってしまうとはな……志を同じくした同士を撃てとは、命令出来ん」

 

 

悲しげに提督は窓の外の水平線を眺めた。

 

 

「ゾック……何とか仲間に引き入れられればいいのだが……」

 

 

そう呟いた提督「ノイエン・ビッター少将」、もとい中佐は、また静かに目を瞑った。




MSM-10 ゾック(ZOCK)

前後対称の機体。両面で8門のメガ粒子砲を備え、頭部にフォンメーサー砲を装備する。機動性は低いが、装甲、火力共にとても高く、一機でジオン軍一個中隊に匹敵すると言われている。
水泳部の中では体が大きい方で、地上での足はとてつもなく遅い。ただしジャンプ力はザクよりも高いと言われている。


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