笑顔は太陽のごとく…《決戦の海・ウルトラの光編》 (バスクランサー)
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決戦の序章
影は再び


どうも皆様お久しぶりです、バスクランサーです。
「笑顔は太陽のごとく…」シリーズも、今作品でいよいよ完結です。
本格的に艦これとウルトラシリーズをクロスオーバーさせる予定です、これから改めてよろしくお願いしますm(_ _)m。

では本編どうぞ。


 ーーー第35鎮守府 会議室特殊ブース

「…というわけです。以上で我々第35鎮守府からの報告を終わります」

 俺はそう言って席に座った。

 今日は三ヶ月に一回の、極東支部内の会議の日である。安全面を考え、各鎮守府に設けられている専用の特殊ブースに提督、そしてその秘書艦が入り、仮想空間上でのホログラムバーチャル会議を行う、という方式が取られている。内容としては各鎮守府の近況報告が主だ。

「第35鎮守府、どうもありがとう。

 とりあえずまずは、レイ…仮称として、超深海生命体としよう。それについて各自少し話し合ってもらいたい」

 長官の一言で、ホログラムの他の鎮守府の提督たちが一斉に話し始める。

 

 深海棲艦の対策部として、人類は大本営を設置、世界各地に支部を設けた。ちなみに日本は艦娘を使っているが、その他の国々はというと、地中海支部や北大西洋支部は海外艦娘、アメリカ太平洋支部やアフリカ支部など艦娘がいない地区は、それぞれ艦娘の艤装を研究して作った武器を搭載した軍艦や戦闘機を使っていたりと、各地に特色が見られるのだ。それぞれの支部の長は、提督のランクである中将や大将とは別に分けられた、長官という位に就いている。

 

 ホログラムで映し出されている各地の提督たちが、一斉に話し合いを始める。ちゃんと音声も実際の会議室にいるように伝わるので、周囲のリアクションもリアルタイムで確認できるのはいい。

 が。

 

「…しかし、どうにも信じきれんな…」

「深海側のスパイではないのか?」

「よくもこんなものを受け入れられたな…」

 

 ほかの提督たちが喋っているのはだいたいこんな感じの内容だ。この手の反応の予想はついていたものの、流石に少し、なんというか心にきてしまう。脇の響も少し顔をしかめている。

「落ち着けよ、響」

「分かってる。僕も予想はできてたし」

 結局、この件については、大多数の鎮守府から不安や疑念の目を向けられてしまった。同調を見せてくれた鎮守府も、決して100%賛成や援助というわけでもなかった。

 そして会議はもう一つの議題…そう、レイを追ってきたのであろう、あのエレキングのことに移った。

 

「では、分析結果を」

「はい。」

 俺は立ち上がり、資料を読み上げる。仮想空間上のバーチャルプロジェクターには、響が制作したスライドが映し出された。

「このスライドを見てください。

 このエレキングは、かつて地球に現れた数々の個体と根本的には同じ種族です。しかし、今回の個体の特徴は、なんと言っても深海棲艦と融合を遂げている点でしょう。全身に深海棲艦と同様の装甲、艤装を纏い、今までの個体の主武器である、三日月型光線や尻尾で締め上げてからの電撃という能力もかなりパワーアップしています。また、観測所のカメラを意図的にダウンさせたり、磁場バリアーを使ってミサイルを逸らして艦娘たちに向けたりと、知能も発達していると思われます。」

「なるほど…」

 あたりはざわめきに包まれる。

「艦娘の攻撃も、命中すればダメージを与えることはできます。しかし、従来の深海棲艦とはケタ違いの能力から、もし新たな個体が出てきた場合、遭遇した場合の苦戦は免れないと考えられます。また、再び出現する可能性もありますし、その場合に融合する怪獣の種個体も分かりません。いずれにせよ、警戒はこれまで以上に厳戒とすべきとして、この件についての我々からの報告は以上とします」

「ふむ、どうもありがとう。とりあえずこの融合怪獣は、深海棲艦獣と名付けるとしよう。とりあえずこの事についても、周囲で話し合ってくれ。」

 そうとはなったものの、これについてもまだまだ情報が不足していて、進展という進展は無かった。とりあえず、世界各地の支部には、長官が世界支部長官たちの会議で報告してくれるようだし、ここで情報の共有が出来ただけよし、とするか。

 会議はそれからしばらくして終わり、周りの提督たちのホログラムは、退室という意味で次々と消えていく。しかし、俺と響はとりあえず最後まで残ることにした。ここでは余計事態をこじらせてしまうため言えなかったが、長官とだけで色々と話し合いたかった、気になっていたことがあったからだ。

 

「やはり君は残ったか。」

「はい、長官。色々と疑問点などを確認しておきたくて…」

「確かに。それで、その疑問点というのは?」

「…敵の黒幕…その正体です。

 確かにあのエレキングは強敵でした。艦娘や空軍の攻撃を平然と耐え抜き、ウルトラマンエースさえ一度は危機に陥りました。しかし、それで分かったこともあります。

 注目すべきは…エレキングが、『宇宙怪獣』である所です。」

「つまり…黒幕は宇宙にいる、と?」

「可能性は限りなく高いでしょう。ただ、地球を狙う者は、これまでドキュメントに記録されているものも数多く、新種となれば尚更厄介です。それが何者か、という疑問点、まだ全く答えはありませんが、この点は長官と共有しておきたくて」

「確かにな…。分かった、我々も協力しよう。大本営の世界支部会合でも、何とかうまく説明する。」

「よろしくお願いします。」

 俺はそう言って退室した。

 

「お疲れ様、司令官。」

 響が声をかけてきてくれた。

「ありがとうな、響。とりあえず腹が減ったし、食堂にでも行くか…」

 と、唐突にその時通信機が鳴った。

「すまん、先程君に伝え忘れていたことがあった。」

「長官。どういったことで?」

「いや、これまた申し訳ないが…また君のとこで療養を頼みたい、心に傷を負った艦娘が複数確認されている。異動の手続きや準備ができ次第、こちらも追って連絡する。引き受けてもらえるかい?」

「了解です。こちらこそ、よろしくお願いします。」

「ああ、それと」

「?」

「レイ君のこともある、私も君の優秀ぶりはよくわかっているつもりだが、やはり君1人だけでは不安だ。遠くない内に、君の鎮守府に、支援員のような位置づけで憲兵を派遣しようと思う。」

「本当ですか!

 ありがとうございます、助かります。」

「ふふ、これからも頑張ってくれ。私からは以上だ、いつもすまんな」

「いえ、こちらこそ。失礼します。」

 通信を切り、改めて食堂に向かうことにしたーーー

 

 ーーー食堂

「いただきます。」

 会議とあって、やや遅めの昼ごはん。運ばれてきたカレーを口に入れる。うむ、美味い。これはやはり絶品だ。スプーンが止まらない。

「…僕が見た限りだと、司令官はほぼ毎日必ず1回はカレーだよね」

「そういう響もカレーじゃないか」

「まあ、美味しいからね。司令官が毎日食べるのも納得だね。」

 そんなこんなで俺たち2人はカレーを食べ終えて、午後の執務へと入ったーーー

 

 ーーーしばらく後 執務室

 先程の連絡曰く、新しく艦娘がまたやって来たり、憲兵が来たりとこれから忙しくなることが予想できるので、俺は響とともに、できる限り先の執務もこなしていた。大淀や、用務員としての今日の仕事を終えた長門も手伝ってくれる。

「…ふぅ…とりあえず後は、今出撃中の第一艦隊の報告書を待つだけだな…。」

 と、通信機が鳴る。第一艦隊からのようだ。

「こちら第35鎮守府」

「提督、第一艦隊旗艦山城です。任務目標の海域にて、全敵艦隊の殲滅を確認しました」

「よし、良くやった!帰りも慢心せず、気を付けて帰ってきてくれ」

「はい、了解しましーーー」

 その時だ。

 通信機の向こうから、耳をつんざくような咆哮が聞こえた。

「な、なに?はっ…き、きゃぁぁあああ」

 ブツッ…

 山城の叫び声を最後に、通信は途絶えた。

「山城、山城!?おい山城、第一艦隊応答せよ!繰り返す、第一艦隊応答せよ!!」

 一気にその場にいる全員の顔が険しくなる。応答を呼びかけても返ってくる気配はないが、彼女の断末魔から推測するに、かなりの緊急事態が起きていることは間違いない。

「大淀、ジオマスケッティの準備を頼む!響、長門!ここは任せた!」

 俺は壁にかかっている自分のヘルメットをひったくり、駐車場へと向かったーーー

 

 ーーー同時刻 某海域

「大丈夫か、山城!?」

「大丈夫…とは言い切れないわ、那智。どう見てもこれは大破ね…。」

「とにかく、急いでここを離れましょう!翔鶴さんや朝潮ちゃんも中破しています!皆さんは、私が守りますから!」

「体力も弾薬も消耗しているあたしらじゃ、勝ち目がどうこう言ってる場合じゃないぜ!」

「もちろんよ、羽黒、隼鷹。総員、撤退体制に入って!」

 山城たちは、任務完了の報告を鎮守府にしている最中、突如として現れた巨大な魚型の怪獣に襲われた。

 現れるやいなや問答無用と言わんばかりに、背中の砲台から砲撃してきたそいつに対応しきれず、山城は大破、翔鶴や朝潮も一瞬で中破してしまった。

「とにかく、提督にこいつのデータを送るぜ!」

 隼鷹がスーパースワローを繰り出す。その機体は、怪獣の砲撃で墜落しながらも、砲弾直撃の直前に、しっかりと提督、そして鎮守府にデータを転送していたーーー

 

 ーーー「くそぅ、厄介な怪獣のお出ましかよ!!」

 俺がジオアラミスに乗り込むと同時に、隼鷹のスーパースワローから、ジオデバイザーに転送されてきたデータ。ドキュメントとの照合結果を見て、俺は思わずそう吐き出した。それはZATドキュメントに記録されていた、海獣サメクジラだったのだ。かつてバルキー星人に率いられてきて、地球の海で暴れまわり、都心部ではウルトラマンタロウと交戦したという。

 サメクジラの最大の武器は、頭部に付いている長い一本角だ。この角の一突きは、大型タンカーでさえあっという間に轟沈させてしまうほどの威力がある。さらにこの個体は以前のエレキング同様、深海棲艦との融合体であり、その体表には駆逐イ級やハ級といった深海駆逐艦の発光体のようなものが随所に埋め込まれ、さらには要塞のごとく、大量の砲台をその背に装備している。「人」でありながら、同時に「艦」でもある艦娘たちの、まさに天敵のような怪獣と言えるだろう。

 とにかく今の自分たちでは太刀打ちできないと判断した艦隊は撤退体制に入った。しかし、サメクジラはその後を執拗に追いながら攻撃を仕掛けてくる。

「山城さん、大丈夫ですか!?」

「ごめんね羽黒ちゃん、私はタダでさえ速度は遅いのに、大破したせいで尚更…」

 その時だ。

 山城と、彼女の護衛についていた羽黒の間に、サメクジラからの砲撃が襲いかかる。響く断末魔。2人とも轟沈は免れたが、互いの距離が大きく離れてしまった。

「山城さん!」

 再び近づかんとする羽黒に対し、山城は大きく叫んだ。

 

「来ないで!

 各艦は私に顧みず撤退してください!」

「山城!?貴様何をっ…!?」

 その一言を聞いた那智も山城の方を向くが、なんと山城は羽黒や那智に砲塔を向けていた。

「お願い…近づいたら撃つわよ…!みんなだけでも、早く、早く逃げて!」

 動けない2人。他の隼鷹、翔鶴、朝潮も硬直状態だ。とーーー

 

 ーーーザッパァァァーーーン!!!

 サメクジラが海中から大きく飛び跳ねてきた。そして体の向きを整え、その角の狙う先はーーー山城だ。

「……っ!!」

 全員の視界がスローモーションになる。

 咆哮を上げ飛びかかるサメクジラ。

 思わず目をそらす山城。

 届かないと分かっていても、手を伸ばさずにいられない羽黒、那智。

 しかし光は、彼女たちを決して、見捨ててはいなかった。

 

 もうだめだ、誰もがそう思った時。

 突然空中から、2本の赤い光の筋が目にもとまらぬ速さでサメクジラに命中、その地点で爆発が起こった。思いがけず横槍を入れられたサメクジラはバランスを崩し、山城を狙う軌道を大きくずらされて、離れたところに派手に着水した。

「今のは…!?」

 艦隊全員が光の飛んできた方向を見上げた。

 その空には、ぽっかりと丸く穴が空いている。そしてその穴を通り抜けてきたのか、1機の戦闘機がサメクジラの上スレスレを飛行していった。どうやら先ほどの光、というかレーザー光線は、この機体から放たれたようだ。

 そしてその機体の正体に、艦載機運用能力をもつ、山城、隼鷹、翔鶴は特に早く分かり、そして驚いた。

「あ、あれは…!?なぜあの機体がここに!?」

「ていうか、でかくねぇか!?」

「いいえ、恐らくあれがあの機体…

 ガッツイーグルαスペリオルの、本来の姿なんでしょう…」

 ガッツイーグルαスペリオル。かつての防衛チーム・スーパーGUTSの戦闘機である。しかも今飛んでいる機体は、第35鎮守府の空母艦娘たちが使うミニサイズのものではなく、翔鶴の言う通り、人間が乗り込み操縦するれっきとした正規サイズのものなのだ。

 

 そのコックピットに乗り込んでいたのは、1人の青年。その雄叫びは、山城たちに届いていたのだろうか…

 

「見たか!俺の超ファインプレー!!」ーーー




というわけで、最後まで読んでくれてありがとうございますm(_ _)m

感想や評価、よければよろしくお願いします!
また次回、お楽しみにです!


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英雄の帰還

そういえば前作書いてたとき
うつ病(?)とここに書きましたが、
無事に脱しました。

さあこの状態がいつまで保てるか(錯乱)

本編どうぞ。


 ーーー第一艦隊のメンバーたちは驚いた。

 巧みに機体を操り、なおかつ自分たちに怪獣の攻撃や自身の流れ弾が当たらないようにしている。とにかくその操縦テクニックが、上手いとしか言いようがないのだ。と、

「遅れてすまん!!みんな、大丈夫か!?」

 提督の乗ったスペースマスケッティが、救助に駆けつけた。

「私たちは大丈夫です!」

 通信機に叫ぶ山城。

「あの戦闘機…スペリオルが、私を、私たちを助けてくれたんです!」

「スペリオル…!?あれか!」

 受け答えをし、目視でそれを確認すると同時に、彼の中にある一人の人物が浮かび上がる。

「ということは…まさか!?」ーーー

 

 ーーー「救助が来たか…よし、もう少しだけ時間稼ぎだ!」

 操縦する青年は、操縦桿を大きく切り、サメクジラの砲弾を回避しつつ隙をついて攻撃を続ける。

「恐らくあの戦闘機は、あの少女たちを助けに来ている。だったら、こいつの注意さえも、あれに向けるわけにはいかない!」

 水面に垂直着水し、提督が1人ずつスペースマスケッティのコックピット・ジオアラミスに第一艦隊のメンバーを乗せている。サメクジラの注意はそっちには向いていない。

「ここで一発行くか!」

 青年は機体をサメクジラの正面に回り込ませ、そして照準を合わせる。

「スパークボンバー、発射!!」

 操縦桿のスイッチが押され、スペリオルの機体下部から、火星で発見された鉱石・SP-1を使用したその最大火器が放たれる。そして、青年の狙い通り、スパークボンバーはサメクジラの角を、正面から粉砕した!

「おっしゃ!」

 爆煙を抜け、スペリオルは宙返りで、再攻撃を背面から仕掛けようとした、が…

「なっ…どういう事だ!?」

 ほんの今粉砕したはずのサメクジラの角が…しっかりとあるべき場所に、その存在を示しているのだ。

「確かに破壊したはずじゃ…!?」

 青年の脳内に浮かんだのは、再生能力。しかしすぐに自分でそれを否定する。確かに再生能力の線もあったが、それにはいくら何でも時間が早すぎるのだ。

「じゃないとしたら…!」

 青年は賭けに出た。スペリオルを再び真正面に回らせ、敢えて攻撃をせずサメクジラに正面から近づいていく。次の瞬間、サメクジラの体はそのままの位置に、そしてその角はいきなりスペリオルに迫ってきた!

「やっぱりか!」

 体制を取っていたこともあり、青年は軽々とそれを回避。その光景は救助中の提督も確認していた。

「そうか…!

 あいつの角は…ミサイルだったのか!」

 

 背中の砲台からの弾幕をかわしつつ、青年はスペースマスケッティの方を横目で確認する。

「よしっ、間に合ったか!」

 救助がたった今済んだようだ。が、サメクジラは再び角ミサイルを放ってくる。

「やべっ!」

 コース的にちょうど危ないところにいたため、青年は撃墜を覚悟した。しかし、ミサイルはスペリオルに目もくれず、逸れていくではないか。

「助かった…?…いや!!」

 そう、このミサイルの軌道の先は、スペリオルではなく…救助を終え全員が乗った状態の、スペースマスケッティだった。

「これが狙いだったのか!」

 スペリオルを回り込ませ、ミサイルへの攻撃を試みるが、距離がもうなく、今からでは間に合わない!しかし、青年は決して諦めてはいなかった。

「本当の戦いは…ここからだぜっ!」

 青年…アスカ・シンはスペリオルを自動操縦に切り替え、そしてポケットから茶色のアイテム…リーフラッシャーを取り出す。そしてそれを持った腕を、思い切り前に突き出し、叫んだ!

 

「ダイナァァァーーーッッ!!!」

 

 その瞬間、リーフラッシャーが展開し、スペリオルのコックピットから一筋の光が飛び出ていく。そして間一髪のタイミングで、その光はスペースマスケッティを包み込み、上空の安全なところへと移動させた。ミサイルは何も無い水面に激突し、大きな水柱をあげる。

「あなたは…」

 アラミスの車内にも満ちていた眩い光は収束し、そのフロントガラスには、一体の巨人がその顔を見せている。提督は、感慨深そうに彼の名を言った。

「ウルトラマンダイナ…!」ーーー

 

 ーーー俺達の危機を救ってくれたのは、かつてこの太陽系の消滅の危機を救い、そして敵とともに宇宙の彼方に消えたと言われていた、伝説の英雄。そう、ウルトラマンダイナだったのだ。

 ダイナは、ここは自分に任せてくれ、と言っているように頷き、振り返ってサメクジラに対し構えをとった。ただ、俺ももちろん引く訳にはいかず、少し離れたところから、第一艦隊のメンバーとともに、ウルトラマンダイナとサメクジラの戦いを見守ることにしたーーー

 

 ーーー「ダァッ!」

 サメクジラに勇敢に立ち向かって行くダイナ。サメクジラは背からの砲撃で威嚇するが、ダイナは水面をスライディングするかのように避け、そしてその勢いのまま顔面に蹴りを入れる。

「すごい…!」

「なんてダイナミックな戦いなんだ…!」

 救助した我が第一艦隊も、戦いに釘付けだ。

 一方のサメクジラも負けていない。その怪力を生かした突進で、ダイナを簡単に吹っ飛ばす。尚もその距離を一気に詰めてくるが…

「ドゥアッ!」

 ダイナも素早く体制を立て直し、腕から撃ち出すフラッシュバスターで砲台を破壊し、相手の勢いを弱める。結果的にサメクジラは、崩れた体制のままダイナに突っ込み、そして抑え込まれる形になったが、それでもなお両者の力は拮抗している。

「フンッ!デヤッ!」

 ダイナも連続で手刀を背に浴びせるが、サメクジラもダイナの体や手が回っていない頭部先端から、再び角ミサイルを撃ち出してきた!

「みんな、しっかりつかまれ!」

 俺は瞬時にスペースマスケッティを急加速させ、ちょうど空中で向きをダイナの背へと変えたミサイルの後ろをとる。

「ファントニックレーザー、発射!」

 正確かつ強力なレーザーが、ダイナに迫るミサイルを破壊する。

「背後からとは卑怯だな!」

 怒りに燃えたダイナは、サメクジラを押さえつけた体制のまま、全身に力をためる。そして…

「フゥーン、デュアッ!」

 なんと、銀色の体に赤と青のラインが走り、胸に金色のダイナテクターを纏っていたダイナの体が、赤地に銀のラインが入った姿へと一瞬で変わった!

「えっ!?色が変わった!?」

 朝潮が驚くのも無理はない。これこそウルトラマンダイナの持つ、タイプチェンジ能力なのだ。ウルトラマンダイナは相手の特性に合わせ、自らを三つのタイプに変えることができるのだ。ちなみに、先ほどまでの銀・赤・青の時は、強力な光線技を幾多も有するフラッシュタイプ。そして今変わったこの赤の姿は、接近戦や格闘戦に特化した、力自慢のストロングタイプだ!

「ウォォォオオオ…!」

 ダイナはその怪力にものを言わせ、再び生えたサメクジラの角を、容易くグシャリと握り潰してしまった。そして、そこに次の角が装填される前に…

「デヤッ!!」

 かつて電脳魔人デスフェイサーの体に風穴を開けた程の威力をもつ、必殺のダイナックルを叩き込む!その威力に、角の付け根どころか、その周辺の顔までも一瞬でひしゃげた!

「ギャァァァァアアアア!!」

 あまりの痛みに叫び声をあげるサメクジラ。いくら強力なミサイルも、それを発射する機関が壊されたら、無いも同然となるのだ。そしてダイナは素早くサメクジラの後部に回り込むと、その尻尾を鷲掴みにして、自分ごとグルグルと高速回転を始める。

「ハァッ!」

 その勢いで、サメクジラを天空高くへとぶん投げる!ストロングタイプの誇る投げ技の一つ、バルカンスウィングだ!そして再びフラッシュタイプにチェンジしたダイナは、トドメの大技の体制に入る!

「ダァァァッッ!!」

 両腕を大きく回し、十字を組む。そして体内のエネルギーをスパークさせて放つは、必殺のソルジェント光線だ!

 サインカーブを纏ったその光線は、空中のサメクジラを的確に捉え、その体の周りに橙色の光輪を発生させる。その輪が中心に一気に収束したその瞬間…

 

 ドガァァァァンッッ!!!

 

 サメクジラの身は、空中で轟音をたてて大爆発したのであったーーー

 

 ーーー「よっしゃあっ!」

「やったぁー!」

「すごい、強い…!」

 歓喜に湧く俺達。そしてダイナは俺達に体を向け…

「デュワッ!」

 サムズアップのポーズを向けてくれたーーー




というわけで読んでくれてありがとうございました!

感想や評価などもらえると励みになります、よろしくお願いしますm(_ _)m

それではまた次回!


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それぞれのスタート

なんかお気に入りが結構増えていて嬉しいです。
ありがとうございますm(_ _)m

本編どうぞ。


 ーーー戦いの後。

 ウルトラマンダイナは再びその体を光に変えて、スペリオルのコックピットへと戻って行った。俺はスペースマスケッティの通信周波数を調整する。幸いにも、すぐにスペリオルの周波に合わせることが出来た。

「こちら第35鎮守府提督、救援機・スペースマスケッティ。スーパーGUTS・ガッツイーグルαスペリオル、応答願います。」

 対して、通信マイクの向こう側から聞こえてきたのは…

「こちらガッツイーグルαスペリオル・アスカ・シンです。援護ありがとうございます。そちらの方は、全員無事ですか?」

 若く活力のある、そんな声だった。

「こちらは全員無事です。こちらこそ、我が第一艦隊を助けていただいて、ありがとうございます。」

 そして俺は、ここで一つ提案することにした。

「よろしければ、我々の鎮守府にでも寄って行かれませんか?」

「いやいや!?え、いいんですか!?」

「はい。せめてものお礼がしたいので…」

「えっ、あ、じゃあ…お言葉に、甘えて…」

 どうやら彼にとっては予想外だったようだが、アスカさんは応じてくれた。スペースマスケッティとスペリオルは、仲良く並列飛行しながら、鎮守府へと進路をとったーーー

 

 ーーー第35鎮守府

「おかえり、提督。その人が、さっき言っていたアスカさん、だよね」

「ああ。」

 帰投の最中に、アスカさんとは無線で色々と話をしたのだが、どうやら彼は艦娘という存在を以前から知っていたという。

「この宇宙は広いからな、どっかで噂が入ってくるのさ」

 あの一件以降、ずっとこことは別の宇宙を旅していたらしいーーー

 

 ーーーちなみに、艦娘たちの反応はと言うと。

 鎮守府の臨時着陸場所に着陸させたスペリオルの周りには、明石や夕張といった工廠組や、飛鷹に日向といった生粋の艦載機好きが群がっている。

「おお〜…これがリアルサイズなのか…!」

「是非ともデータを取らせていただきたいですね!」

「おーおー、データ取るのは構わないけど壊すなよー?」ーーー

 

 ーーーまた、埠頭では急な来客にも関わらず、食堂の間宮や鳳翔が料理を持ってきてくれた。第一艦隊のメンバーも、高速修復材ですぐに合流し、軽く親交パーティ一みたいな感じのムードだ。と、

「あの、アスカさん、よければこれ、食べてみてください。」

 アスカに声をかけたのは、レイだった。

「お、美味しそうなスープだな。ところで、君は?」

「こいつは色々あって、二ヶ月ちょっと前に、深海からうちに来たレイっていう奴だ。普段は、私の用務員としての仕事や、厨房の手伝いをしてくれていてな。このスープも、レイが作ったんだ。」

 長門がアスカに説明する。

「ほぉー。よしっ、じゃあありがたく、いただきますっ!…んんっ、これは美味ぇ!」

「やった!ありがとうございます!」

 アスカさんに撫でられ、レイは嬉しそうにニコニコしている。最近のレイは、だいぶこのようないい笑顔を見せてくれることが多くなった。何よりだなーーー

 

 ーーー「レディとして、アスカさんの話を聞き逃すわけにはいかないわ!」

「電も気になるのです!」

「宇宙を旅してた時の話、色々聞かせて欲しいっぽい!」

 駆逐艦娘を筆頭に、様々な宇宙でのアスカさんの体験を聞こうと集まっている。

「おーし、お安い御用だ!」

「うちの者がすみません、お疲れのところを…」

「いやいや!俺も楽しいですからいいんですよ!よかったら提督さんも聞きます?」

「…ありがとうございます、そうさせてください!」

 私もまるで母親に絵本を読み聞かせてもらっている子供のように、童心に返って楽しませてもらった。

 そして、パーティーの雰囲気がだいぶ落ち着いてきた頃ーーー

 

 ーーー「そろそろ頃合いかな…提督さん、俺はそろそろここを離れようかと思います」

「えっ、いいんですか?もう少しゆっくりされて行っても…」

「それもいいけど…やっぱりなんというか、俺は宇宙を旅している方が、性に合ってるかな、って思いまして」

「…そうですか…わかりました。またこの世界に来たら、是非寄っていってください!」

「ははっ、そうさせてもらいます!」

 

 俺は響と共に、スペースマスケッティでアスカさんの乗るスペリオルを見送ることにした。

「今日は本当にありがとうございます」

「いや、こちらこそ!」

 そして俺は、パーティ一の時には言えなかった質問を、彼にぶつけてみることにした。

「…そういえば、どうして我が艦隊が、危機に陥っていることを知ったんですか?」

「うーん…一言で言うと、呼ばれた?というか、そんな感じかな」

「…呼ばれた?」

「ああ。宇宙を旅してたら、急に声が聞こえたんだ。『君の元いた世界の地球で、助けを求めている者がいる』、ってな。」

「声、ですか…。なんかすみません、変な質問をしてしまって。」

「いえいえ。それじゃ、そろそろ。」

「どうかお気をつけて」

「ラジャー!」

 アスカさんは再び、白い歯を出してこちらに笑顔を見せてくれた。スペリオルの機体が光に包まれ、いつの間にか空に空いた穴に入っていき…穴ごと消えた。

 

「声、か…」

「気になるね、司令官」

「ああ。まぁとりあえず、帰るか」ーーー

 

 ーーー宇宙空間 ガッツイーグルαスペリオル

 アスカ・シンは地球を後にし、再びスペリオルで宇宙を旅していた。と…

 

「アスカ…アスカよ…」

 

「…またあんたか。さっきはありがとうな、すんでのところで間に合った。

 んで…あんたは一体何者なんだ?」

 

 少し間を置いて、その声は答えた。

「今はまだはっきりとは言わないでおこう」

 

「…おいおい」

 

「…ただ、一つだけ言うとすれば…」

 

「………」

 

「私もまた、君と同じ類の者、という事だ」

「えっ!?

 おい、それってどういう事だよ!?」

 

 しかし、その声はそれ以上声をかけては来なかった。しかし、アスカはその言葉から、すぐに浮かんだ可能性を口にする。

 

「さっきのあの声もまた…

 ウルトラマンなのかもしれない…」ーーー

 

 ーーー翌日夕方 憲兵養成学校

「…また怪獣か…」

 その日の訓練を終え、ある青年は、寮にある自室のパソコンでウェブニュースを見ていた。そこには、あのサメクジラ、そしてそれを倒したウルトラマンダイナの写真がある。気象観測用の人工衛星が偶然捉えていたらしい。青年はそれを見ながら、一つ大きくため息をつく。

「兄さんたちも言ってたけど…深海棲艦と融合した怪獣なんて…一体何が…」

 彼ーーーヒビノ・ミライは、少し前の、故郷での会話を思い出していた。

 

 ーーーM78星雲 宇宙警備隊本部

「エース、ご苦労だった」

「ありがとうございます、ゾフィー兄さん。とにかく、深海棲艦の戦力は増強を繰り返し、怪獣までもが出てきています。このままでは地球が…」

 隊長のゾフィーに報告するのは、地球での任務を終えたウルトラマンエース。

「早急に事の真相を調べる必要がある。エース、深海棲艦や怪獣、そして君が会ったレイという超深海の生命体のことについて、皆に話してくれ」

 

 ーーーそして。

「超深海生命体を誘拐、そして改造して地球に送り込む…手口としてはそれで間違いないだろうな」

 と、ウルトラマン。

「ああ。エレキングも、私やマックスがピット星人に率いられた個体と戦ったが、それ以前に一体の宇宙怪獣だ。野生の個体もいることだろうから、兵器として手に入れることは難しくはないはずだ」

 と、セブン。

「黒幕の正体か…もしかしたら…」

「どうした、タロウ?」

「いや、私はかつて、過去に誘拐された少女が改造されてなった怪獣・メモールと戦いました。手口としても近い、と思いまして…」

「となると…ドルズ星人か?」

 

「そう決めつけるのは早いかもだぜ、隊長」

 

「ゼロ…」

「前に俺が一緒に戦った、ウルトラマンコスモスが地球を守っていた頃には、ノワール星人という奴が、地球の怪獣をメカ改造してコスモスに仕向けたらしい。改造の技術っていう観点からしたら、そっちの方が近いかもな…」

「そうか…何か他にある者は?」

 

 名乗り出たのは、ウルトラマンパワード。

「参考程度ですが、私が戦ったドラコやゼットンの個体は、バルタン星人によって徹底的な武装改造を施されていました。私を分析し尽くしていましたし、バルタン星人のもつ数々の超能力を活かせば、誘拐も不可能ではないはずです」

 

 その後も多くの候補が出たが、結局搾るには至らなかった。

「ここはとにかく、また1人地球に仲間を送る以外に方法は無さそうだな…。今は80たちがいるが、そのレイとやらの、より近くで守る必要がある…」

「ならば…」

 エースがある提案をした。

「地球に向かわせた者を、憲兵として鎮守府に着任させる、というのはいかがでしょうか?」ーーー

 

 ーーーそこで、まだ比較的若いヒビノ・ミライ…実の名をウルトラマンメビウス、彼に白羽の矢が立ったというわけだ。

 過去、彼が地球にいた時、人間のクズを体現したかのような某ジャーナリストによって正体を地球人にバラされていたのだが、皮肉にも今回それが役立ってスムーズに手続きが進み(そもそもまずGUYSのライセンスがあるだけで結構ポイントが高い)、更に憲兵養成学校の入学面接ときには…

 

「次の方、入って、どうぞ。…って!

 ミライ!?ミライじゃねえか!!」

「リュ、リュウさんっ!!」

 

 面接官、もとい養成学校の校長が、なんとかつてGUYSだった時の同僚、アイハラ・リュウだったこともあり、すんなりと入学できた(コネとか言ってはいけない)。

 だが事実彼は優秀で、最低期間を終え、必要な単位を取れれば卒業となる憲兵養成学校の独特の規定カリキュラム(その代わり結構厳しい)を次々とクリアしていき、このままのペースなら、もうすぐ一人前の憲兵として鎮守府に着任許可の知らせが届くころとなった。

 

「とにかく、まずは憲兵として着任しないと始まらないな…」

 ミライはそう呟くと、パソコンを閉じた。

 そしてその日のうちに、彼は校長に呼ばれ、間もなく憲兵養成学校を卒業、鎮守府に着任してもらいたいと言われることとなるーーー

 

 ーーー数日後 第35鎮守府

 俺は鎮守府の正面玄関に来ていた。大本営からの通達によると、療養を依頼された艦娘、及びその姉妹艦が今日ここに着任するらしい。

「あれかな、司令官」

 響が指さす先、遠くの道路に、大本営の専用車が見えた。

「ああ。どうやら、来たようだな」

 そう答え、俺は手に持っている、艦娘のデータが書かれた紙に目を落とした。そこに書かれていたのは…

 

「要療養艦娘 川内型軽巡洋艦三番艦 那珂」ーーー




※次の章にはミライさんは登場しません

最後まで読んでくれてありがとうございました!

感想や評価など頂けると励みになります、よければよろしくお願いしますm(_ _)m

ではまた次回で!


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那珂の章
海の呪縛


基本的に筆者の執筆作業は(気分によりますが)土日休業です。
土日を挟んだ更新はこうして遅くなることがそれなりにありますm(_ _)m

はいすみませんでした本編どうぞ。


 ーーー第35鎮守府 正面玄関

 正面玄関に着いた大本営の専用車から、係員に続いて、3人の艦娘が降りてきた。

「こんにちは!川内型軽巡洋艦一番艦の川内だよ!提督、よろしくね!」

「はじめまして。同じく川内型の二番艦、神通です。これからよろしくお願いします。」

 そして、彼女たちの後に続いて、

「…川内型軽巡洋艦の三番艦、那珂です…。あの、よろしく、お願いします…」

 暗そうに挨拶した娘が、今回療養を依頼された艦娘・那珂だ。この様子からでも、彼女の心の傷の深さが伺い知れる。

「ようこそ、第35鎮守府へ。俺がここの提督だ、こちらこそ、これからよろしくな」

「司令官の秘書艦・響です。よろしくお願いします」ーーー

 

 ーーー療養を要する艦娘は、前と同じように姉妹艦がいても個人部屋となる(もちろん隣同士)。

 俺は早速那珂の部屋に入り、話を聞くことを試みた。

「那珂、これからよろしくな。

 …それでさ、もし君がよければ…君がここに来た理由を、教えて欲しいんだけど…」

 しかし、那珂は依然として俯いたままだ。

「…うん、わかった。今は無理には聞かない。何か話したいことがあったら、気軽に声をかけてな」

 去り際、那珂の絞り出したような声が聞こえた。

「ごめんね、提督…那珂ちゃんのために…」

 その声に振り向いてみたが、やはり那珂は座り込んで俯いたままだったーーー

 

 ーーー川内の部屋

 そっとノックをして、中に入る。部屋の中には川内に加え、神通と響もいた。

「きっと提督が話を聞きに来るだろうって響ちゃんが言ってたからね。それまでみんなでお話してたんだ。」

 と川内。

「そっか、わざわざありがとうな」

「いえ。それよりも、那珂ちゃん…どうでした?」

 俺は神通の問に、首を横に降った。

「…そう、ですよね。」

「川内、神通。一体、那珂に何があったんだ?」

 すると、川内と神通はこう切り出して、那珂にあったということを話してくれた。

「これはね、私たち3人が前の鎮守府にいた時の話なんだけどね…」ーーー

 

 ーーー「SOS信号受信!SOS信号受信!

 〇〇海域にて、輸送船が深海棲艦の襲撃を受けている模様!

 艦隊は直ちに出撃、要救助者の救助にあたれ!繰り返す、直ちに出撃、要救助者の救助にあたれ!」

 那珂たち川内型の三姉妹のいた第29鎮守府に、ある日大本営から、1本のSOS信号が届いた。

 ちょうど当時の主力メンバーであった川内型の3人は、機動力と雷撃力を買われ、救助艦隊に揃って任命された。

 普段は「艦隊のアイドル」としてキャピキャピしている那珂も、こういった任務の時は至って真剣に挑む。ましてや今回は人命がかかっているということで、彼女のやる気もMAXだ。

「救援艦隊、出撃!」ーーー

 

 ーーーやがて那珂たちの艦隊は、現場の海域に着いた。

「輸送船は…あそこだ!」

 川内が指さした先に、小さく輸送船が見えた。時々、船体の至るところに火の手が見える。

「輸送船船長と連絡が取れました!船の状況、搭載の自動防衛システムが攻撃を受け稼働不可、装甲も一部の損傷が激しくなっています!後部ブロックでは浸水も始まった模様!」

 と、その時、船の下から大きく水柱が上がった。

「敵の駆逐艦からの魚雷よ!」

「損傷甚大、浸水が大きく進行!このままでは、轟沈は時間の問題です!」

 

「脱出艇の方は!?」

「まだ損傷はなく、使用は可能です!」

「じゃあとにかく、脱出艇護衛部隊と敵攻撃舞台に分かれよう!」

 那珂の提案で、六人の艦隊は半々に分かれ、那珂たち川内型の3人は船内の乗員の救助を担当することになったーーー

 

 ーーー輸送船内

 船に乗り込むまでの間にも損傷及び浸水は進んでいたようだ。もう長くは持たないだろう。

「船長によると、無事が確認されている乗員たちは操舵室に全員が集まっているけど、まだ6人の安否が不明だって!」

「ありがとう、那珂ちゃん。とにかく船内も狭いし、分散して探しましょう!」ーーー

 

 ーーー数日後「大丈夫ですかー!?誰かいますかー!?返事をしてください!」

 夜戦忍者の異名を持つなど、特に暗所での行動に優れた川内。受け取った船内地図のデータを読み取り、探照灯で素早く下へと進んでいく。そこには…

「助けてくれ!俺は動けるが、こいつの足がやられた!」

 二人組の乗員。片方の人は船の損傷の衝撃で

 足を負傷してしまったようだ。

「怪我をした人は、私に掴まってください!安全な場所に連れていきます!」ーーー

 

 ーーー「救助に来ました!すぐに助けますからね!」

 神通も川内同様、3人の要救助者を発見した。崩れた設備に進路を阻まれて、身動きが取れなくなってしまったようだ。

「すぐに障害物をどかします!」

 艦娘としての力を生かし、神通は素早く3人の道を開けて先導するーーー

 

 ーーー「わかった、残りは1人だね!」

 川内、神通からの通信を受け、那珂は残る1人の乗員の捜索を続ける。

「返事をしてください!誰か!」

 その時、微かなうめき声が那珂の耳に入ってきた。

「こっち…!?」

 障害物をかき分け、既に少しづつ浸水している船の廊下を無我夢中で走る那珂。その先には…

「ここだ…た、助けてくれ…!」

 そこには、苦しげに顔を歪めた1人の乗員。倒れてきた設備に、体を挟まれているようだ。

「待っててください!すぐに助けます!」

 那珂は障害物撤去を試みるが、複雑に組み合っているようで、艦娘の力をもってしてもなかなか撤去ができない。

「艦隊のアイドルを…なめないでぇーっ!」

 那珂は必死に持ち上げ、挟まれている乗員が辛うじて脱出できるほどの隙間を作り出す。

「はやく…!」

「は、はい!」

 どうやら奇跡的に怪我の度合いは軽いようだ。安堵する那珂。

 しかし、次の瞬間…

 

「さあ、早く脱しゅ…きゃあっ!?」

「うわっ!」

 どこか…おそらくすぐ近くで爆発が起こったのか、船体が大きく揺れて傾いた。そして、那珂が気づいた時には…

「ぐっ…う、動けない…!?」

 なんと、新たに倒れてきた障害物に、今度は那珂が挟まれてしまった。

「だ、大丈夫ですか!?」

 自分を案じてくれる乗員。しかし、自分の任務は救助。とにかくこの乗員の命を救わなければならないのだ。

「私はいいから、早く皆さんの所へ行ってください!」

 那珂は躊躇う乗員に、何回もそう叫んだ。そして、なんとかその乗員はこちらを振り返りながらも逃げ去っていった。

「とにかく、私も早く脱出しなきゃ…!」

 那珂は艤装を展開して、力任せにもがく。しかし、覆いかぶさった障害物は自分が抜けられるほどの動きさえも出来ないほど重い。

「どうしよう、どうしよう…!やだ、やだやだやだ…どうしよう…!!」

 水位が上がり、自身の生存率は下がり、冷静さは失われていく。地獄のような状況だ。

「いや…!いやぁっ…!!」

 それでも、もう本能的にもがく。そして…

 

 ガコッ

 

「やったっ!?」

 

 這いつくばるように抜け出す。敵の攻撃による損傷を受けていない那珂の服は、中破した時と同じようにはだけていた。もがきまくったせいだろう。

「とにかく上に!!」

 荒い息。何度も手足が滑る。爆発がどこかで起きる度に船が揺れ、転ぶ。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…!!」

 登っていたその階段はそれほど長くなかった。しかし、もはやパニック状態の那珂には、それが途方もなく長い時間となる。浸水してくる水は次々と、さっき登ったばかりの階段のステップを飲み込んで行く。その光景が恐怖を増幅させる。そんな中、目の前が突然眩しくなった。

「…出口っ!!」

 那珂は無心で光に向かって走った。

 そして知った。

 それは、出口ではなかった。

 

「出られ…きゃあああああああああああああああああ!!」

 外に出た瞬間、襲いかかる敵艦載機の機銃の嵐。そう、那珂が見つけた穴は、攻撃で、船の側面に空いた穴だった。

「いやぁぁぁぁぁあああああああああああ!!」

 出口という誤信が、彼女に一瞬の安堵と慢心をもたらしていた。そしてそれらの後に前触れもなく襲いかかる恐怖は、彼女の心をどん底、いや、さらに下にまで簡単に一瞬で追い込んでいく。

 絶え間なく振り続ける機銃弾。かつて敵の空襲によって沈んだ那珂にとって、それがどれほどのものだったかは、他人のいかなる想像をも超えるだろうものだったーーー

 

 ーーー「那珂ちゃんはその後…奇跡的に生還…厳密に言うと救助されました。船の乗員も、那珂ちゃんが助けた方も含め、全員が無事保護されました。しかしその代償として、今でも那珂ちゃんは海に出ることができないほどの心の傷を負ってしまったんです…。」

「今の那珂にとっては、海はもうトラウマ以外の何物でもないんだ…。お願い提督、那珂を…私たちの妹を助けて…!」

 目に涙を浮かべながら懇願してくる2人。響も話の壮絶さに、うっすらと涙目になっている。

 彼女が再び海で、艦隊のアイドルとして躍進できることを、川内と神通は強く望んでいる。

「わかった…やれるだけやって見よう…!」

 俺は強くそう返した。響も強く頷いたーーー




というわけで最後まで読んで頂きありがとうございますm(_ _)m

この章では誰とクロスオーバーさせるか、お楽しみに!
感想や評価もよければお願いしますm(_ _)m
ではまた次回!


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その手を握って

この前、電子辞書で那珂(軽巡洋艦)を調べたら、
なぜか「那珂型軽巡洋艦」って出てきて軽くパニック。
解せぬ。

本編どうぞ。


 ーーー翌日

「那珂…?いるか?」

 俺は那珂の部屋のドアをノックした。すぐに応答はない。だけど、2回目を叩く前、少しだけ待ってみる。すると…

「提…督?」

 中から彼女の声が。しばらくしてドアが開き、彼女の声がする。

「どうしたの…?」

 いざとなると、少し罪悪感も覚える。が、ここはやってみるしかない。

「那珂…少し、散歩しに行かないか?」ーーー

 

 ーーー「散歩って、どこに?」

「さあな。まあ、適当に進んでいくだけでも、十分に散歩ではあるからなぁ」

 俺はこの日、響や大淀に執務を頼み、那珂を連れて散歩することにした。

 俺たち2人は正面玄関を出て、町へ通じる森の小道に入っていく。やはり通常時でも恐怖は抜けきっていないのか、さっきから那珂はずっと俺の左腕にしがみついている。

「こっち、行ってみるか」

 俺はできるだけ自然を装って、海に近づく道を辿っていく。が、少しづつ近づいていくにつれ、彼女の足取りが重くなっていくのが伝わってきた。そして、ある十字路で曲がろうとした時、俺の左腕は強く引っ張られた。

 那珂が止まって、俺のことを引き止めていた。

「ごめんね、提督…。

 多分、川内お姉ちゃんと神通お姉ちゃんから聞いてると思うけど…」

「そうか…すまなかった」

「別に、謝ることないよ、これは那珂ちゃんのせいだもん…」

「那珂…」

「私だって、このままじゃダメなのはわかってるけど…その…海の方は、今もやっぱり無理かな…」

「…わかった。じゃあ代わりに、商店街の方に行って、なんか食べようか」

「ありがとね、提督…」

 俺は那珂を連れて道を引き返し、結局今日の散歩はお開きとなった。しかし、多少那珂との距離は縮められた…と信じたい。

 

 その後も、俺は那珂を連れて時々散歩に行った。

「今日は…少し、海の方…行ってみようかな…」

 そう言ってくれる日も、だんだんと増えてきた。しかし、その時はいつも、海とは反対側の俺の腕に強くしがみつき、海の方向さえ滅多に向こうとしなかった。

 うーむ、このままだと何も変わらない…。俺は鎮守府に戻ってからも、その事について考えた。と、

「提督?入っていい?」

 この声は…川内か。俺は許可を出し、彼女を中に入れた。と、さらに…

「失礼致します」

 お、神通も一緒か。

「あの…あまりこのようなことを聞くのも気が引けるのですが…那珂ちゃんの方は、どのような様子ですか?」

 おずおずと聞いてくる神通。俺は今の現状を全て話した。

「そっか…色々ごめんね。」

「いや、謝るのはこっちだ。もう少し進めればいいんだがな…」

「ありがとうございます。提督、よければ私たちも、今度散歩に一緒に行っていいですか?」

「暇な時とかはどんどん呼んでよ!」

「いいのか?正直助かるよ神通、川内。姉妹艦の君たちがいれば、那珂の気も少しは楽になるかもな。」

 すると川内が思いがけず、こんなことを言った。

「あ、そうだ!もう1人、協力してくれるって娘がいるんだ!」

「ん?」

「入ってきてー!」

 すると、執務室の中に入ってきたのは…

 

「こんにちはー!軽巡、阿賀野でーす!きらりーん!」

 

「阿賀野さん?あなたも協力してくれるのかい?」

 響の問に、阿賀野はもちろん、と答えてくれた。

「私も、史実で那珂ちゃんと関わりはあるからさ、少しでも助けられたらなぁ、って思って!提督さん、どうかな?」

「もちろんだ。ありがとうな、阿賀野。君も頼りにさせてもらうよ」

「やったー!」

 こうして3人の心強い協力者が加わってくれた。本当に有難い。

 そして次の日、俺はその3人を連れて、那珂との散歩に出かけたーーー

 

「またお留守番…ぶぅー…」

「まあまあ響ちゃん、どぉどぉ」

 …響にもなんかお土産買ってこ。俺は執務室を出た直後に聞こえた会話を聞いてそう思った。

 そして散歩の方はと言うと。

 今日も歩くは海沿いの道。だが、那珂のリアクションはいつも通りだ。ずっと海から目を背け、腕にしがみついている。

 後ろを歩く川内、神通、阿賀野の3人も、やはり実際この様子を見て、かなり驚いているようだ。しかし、

「ねえねえ、那珂ちゃん」

 阿賀野が突然、那珂の手を取った。

「あ…阿賀野ちゃん?」

 阿賀野はちょっとだけ俺の顔を見上げた。「ここは私に任せて」、そう言っているかのように。俺は頷きで返した。すると阿賀野は…

「ちょっとこっち来て!」

 いきなり那珂を引っ張って、堤防の階段を降り、砂浜へと連れていった。って、いきなりはやばいんじゃ…

「ちょっと、阿賀野ちゃん!?待って!やっ、そっちはやだ!」

「いいからいいから!」

 俺は川内、神通を連れて砂浜へ。那珂は阿賀野の腕にしがみついている。

「やだよ…那珂ちゃん、怖いよ…」

「大丈夫大丈夫。阿賀野や提督さん、それにお姉ちゃんたちがついてるから、ね?」

 そう言うと、阿賀野はその砂浜に腰を下ろした。俺たちも那珂の近くに座っていく。

「大丈夫。今、海がすごく綺麗なんだよ、那珂ちゃん」

「海が…綺麗?」

「うん。だから、ちょっとだけ。見てみようよ」

 阿賀野の言葉を受け、那珂は少しだけ顔を上げる。その目の前には…どこまでも広がる、スカイブルーの海。

「わぁ……」

「那珂ちゃんの経験したこと、川内ちゃんや神通ちゃんから私も聞いた。…きっと、すごく辛かったよね」

「うん…」

「…だから、那珂ちゃんに一つ。

 これから海に行く時や、怖いなーって思った時は…」

 そう言うと、阿賀野は那珂の手を優しく握った。

「阿賀野ちゃん?」

「ここに私がいる、そう思って」

 阿賀野はニコリと微笑んだ。

「ほら、提督さん!川内ちゃんに神通ちゃんも!」

 手招きをする阿賀野。そうだな、ここはそうするか。

「那珂」

「提督…」

「「那珂ちゃん」」

「川内お姉ちゃん、神通お姉ちゃん…」

「俺達もいつもついてる。な?」

「離れていても、一緒だからね!」

「私もです、那珂ちゃん」

 3人でもう片方の手を握る。

「みんな…ありがとう!」

 那珂はこの鎮守府に来て、初めて満開の笑顔を見せてくれた。

「提督…遅くなっちゃったけど…これからは、少しづつ海に出てみようかな」

「那珂…!」

「それとさ…また、みんなでこの砂浜に散歩行こうね!」

「「「うん!」」」

 こうして、仲間達との触れ合いで、那珂は心に光を取り戻したーーー

 

 ーーー誰もがそう、その時は思った。

 しかし、実際にはまだ、心の傷は完全に癒えていなかった。

 

 それが分かったのは、この日から10日ほど後。

 それまでリハビリとして、海沿いの散歩や、鎮守府の海上演習場を軽く航行するなどしていた。そしてその日、那珂はこう言ってきた。

「提督…そろそろ那珂ちゃん、遠征くらいには行ってみたいな」

 きっと、彼女が考え抜いて出した事だろう、そう考えて俺は、その日の遠征艦隊に那珂を組み込んだ。

 だが、遠征の最中、レーダーに敵影が映った時に、那珂は軽くパニックを起こしてしまった。那珂はその時、必死に阿賀野の言葉を思い出して落ち着こうとしていたのだが、さらにそこへ敵の偵察と思われる機体が数機、目視確認された時…彼女の心は限界を超えてしまった。

 念のため第二艦隊を急遽編成、襲撃を受けることなく全員が無事に帰還したが…

「えぐっ…提督…ごめんなさい…那珂ちゃん…限界だった…」

「いや、謝ることは無いさ。よしよし…」

 再び元の状況に、逆戻りしてしまった。俺は那珂を慰めつつ…またどうしようかを考え始めた。

 

 しかし。

 一見困難に見えたその課題に…一筋の光が差すまで、そう時間はかからなかった。

 きっかけは、ある日大本営に所用があった時の鎮守府への帰りだったーーー

 

 ーーー帰りのジオアトス 車内

「やばいな…」

「どうしたんだい、司令官」

「今日暑かったし、エアコンとか使ったろ?それに最近スカイマスケッティを使う機会も多かった。」

「つまり?」

「…車の充電が厳しいな…だいぶ鎮守府に近づいてはいるが、休憩も兼ねてどこかのスタンドに寄らないとだな…」

 そこで、俺はちょうど近くにあった、電気自動車用の急速充電スタンドもある、某ほっと、もっと、きっとのガソリンスタンドに入った。

「いらっしゃいませ!」

 気持ちのいい挨拶をしてくれる。

「急速充電ですね、こちらへどうぞ!」

 専用スペースに案内され、俺たちは充電を待つことにした。すると、先程案内してくれた店員の青年が話しかけてきた。

「あの…〇〇さんって、知ってますか?」

 …俺の祖父の名前だ。

「…私の祖父の名前ですが。祖父を、ご存知なのですか?」

「祖父…ということはお孫さんでしたか!すみません、昔お世話になって、その人に面影が似ていたもので、つい…」

「いえいえ。そういえば、どのような経緯で、祖父のことを?」

 すると青年は、

「その制服…鎮守府の提督さん、ですよね」

「はい」

「ならいいかな…僕は昔、防衛チームに務めていたことがあるんです。」

「そうでしたか!それで、その…そのチームは?」

「えーと…

 Mydoって、ご存知ですか?」

 照れ笑いしながら訪ねてくる店員。その胸にかかっていた名札を見て、俺は「この人は頼れるかもしれない」と感じられた。

 その名札には、

 

「店長:朝日 勝人」

 

 の文字がーーー




というわけで今回も読んでいただきありがとうございました!

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ではまた次回!


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君が持っているもの

更新遅れてすみませんm(_ _)m

もうすぐ期末考査…そこまでに那珂の章は終わらせたい。

本編どうぞ。


 ーーー自慢ではないが。

 俺の祖父はすごい人だった。かつては様々な防衛チームを整備士として渡り歩き、影で前線の隊員達を支え、彼らからも大きく信頼されていた。また、チームが解散する時には必ず、所属基地にあったあらゆるメカの設計図を貰ってきて、まだ小さかった自分に色々と見せてくれた。

 しかし、そんな祖父のすごさはそれだけではない。ある日、いつものように寝る前に祖父とチームのメカなどについて(機密事項はもちろん言わず、自分もこの話のことは絶対他言しないと約束の上で)話していた時、不意にこう祖父が言った。

「今じいちゃんが入ってるとこのチーム…ほら、この雑誌の写真」

 そこには、当時のチームの集合写真。不意に祖父は1人を指さした。

「この人は…きっと、ウルトラマンだ。」

 小さい俺は「えぇっ!?」と聞き返したが、

「なあに、じいちゃんは今までのチームでウルトラマンだった奴を、ぜーんぶ当ててきたんだ。間違いないぞぉ…!」

 その頃は半信半疑だったが、後にGUYSのミライさんがウルトラマンメビウスだと雑誌報道された時はびっくりした。ニュース自体もそうだが、何より以前に祖父がGUYSの紹介パンフレットの写真を指さして「ウルトラマンかもしれない」と言っていたのが、ミライさんだったからだ。

 祖父がなぜ分かったか、それは祖父が天国にいる今は永久に分からない。だがきっと、前線の彼らをいつも影で見守っていたことから、何かしらの勘があったのだろう。

 

 話を戻そう。

 そう、俺がなぜ今目の前にいる朝日勝人さんを頼れる人かもしれないと思ったかというのは、彼が祖父の言っていた「ウルトラマンかもしれない」人の1人だからだ。

 俺は思い切って、朝日さんに事情を話して、協力を仰ぐことにした。

「あの…朝日さん、少しお話をいいですか?」

「?」ーーー

 

 ーーー朝日さんと出会ってから、俺は執務の合間を縫って、朝日さんと電話で話し合いをし続けた。那珂のことを話すと、朝日さんは、「昔の自分とよく似ている」と言っていた。親しみを持ってくれたようだ。しかし、今朝日さんは店長というだけあって、こちらの都合で通うというのはいささか迷惑になるかもしれない。

 その件について、今日も俺は朝日さんと話し合っていた。そこへ、響がやって来た。

「司令官、話し合い?」

「あぁ。」

 響も話し合い最中ということを察してくれたようで、無言でお茶のお代わりを注いで来てくれた。

「お代わり、ありがとうな」

 すると、響はこう言ってきた。

「いえいえ。それでさ、司令官。通うのがダメなら…

 いっそさ、朝日さんのスタンドでバイトさせる、とかどうかな?」

 ………………!!!!

「司令官?すまない、冗だ…」

「「その手があったかぁっ!!」」

 俺とシンクロするように、電話口から朝日さんの大声が聞こえたーーー

 

 ーーーそこから話はトントン拍子だった。那珂も海自体はすっかり大丈夫になっているため、海沿いのスタンドでのバイトのことを意外とすんなり受け入れてくれた。大本営にも、これが大丈夫か聞いたところ、

「あぁ、結構他の鎮守府では、地域交流事業の一環として、バイトしている艦娘がいたりするから前例は豊富だし、大丈夫よー」

 はい、OKいただきました。

 というわけで、早速那珂のバイトが始まったーーー

 

 ーーー初日朝早く、響、川内、神通と一緒に、那珂をガソリンスタンドまで送った。二十四時間営業のそのスタンドは、どちらかと言うと田舎のこの地ながらも、俺たちが到着した時には既に数台の車の相手をしていた。

 ジオアトスの派手なカラーリングで分かったのか、朝日さんが出迎える。

「朝日さん、よろしくお願いします。那珂も、ほら」

「うん。

 那珂です。今日からお世話になります、よろしくお願いします!」

「こちらこそ。よろしくお願いします」

 互いに礼をして、早速那珂は朝日さんに案内されて事務所へ。数分後にスタンドの制服に着替えて戻ってきた。

 あ、めっちゃ似合ってるわこれ。

「じゃあ、早速那珂に初仕事だ。この車を充電させてもらいたい」

「はい!では、こちらへどうぞ!」

 前もって接客マナーなどを教えておいたおかげか、那珂はしっかり言葉を使い分け、笑顔で接してくれた。

 充電が終わり、俺たちがガソリンスタンドを去る時も、那珂はしっかり挨拶して、見えなくなるまで見送ってくれていた。後部座席の川内、神通は、少しだけ心配と名残惜しさが混じったような顔をしていたーーー

 

 ーーー那珂の仕事の様子は、執務に使うパソコンでいつでも見られるようにした。何かあれば、その様子は随時パソコンで朝日さんが報告してくれることになっている。

 時々、川内や神通、阿賀野が様子を見に来ることもある。朝日さんからの通知を見る度に心配したり、もちろん夜にはこちらに帰ってくるが、その時には一直線に那珂を出迎えに行く。こういうのを見ていると、なんか温かい何かを感じる。

 そして、那珂がバイトを始めて数日後の夜、朝日さんから連絡が来た。

「日を追うごとに那珂さんは仕事に慣れ、元気に働いています。今日はお客様からもお褒めの言葉を頂き、店長である私としても誇らしいです。明日、様子を見つつ那珂さんと少し話をしようと思います。」

 良かった、様子は良くなっていっているらしい。

「毎回ありがとうございます。

 よろしくお願いします」

 俺はそう返信し、今日の仕事を終えたーーー

 

 ーーー翌日 ガソリンスタンド

 今日も、那珂は取り戻したその本来の明るさで、次々と接客をこなしていく。その様子を、自身も仕事をしつつ見守る朝日。

「…今日で、よさそうだね」

 

 その日の夕方。

 那珂のシフト時間が終わり、他の皆や交代のスタッフに挨拶をして、那珂は鎮守府へと帰ろうとしていた。と…

「那珂さん」

 朝日が、那珂を呼び止めた。

「少し、場所移して、話し合わないかい?」ーーー

 

 ーーー2人は、ガソリンスタンド近くの、海が見える堤防へやって来た。

「あの、店長…」

「今は店長じゃなくていいよ。」

「え…?」

「君のことが知りたいんだ。今の君の抱えていることも含めてね」

「て…朝日、さん…」

「君のところの提督さんから、少し話は聞いているけど…あまり詳しくは分からないし…君がいいなら、君の口から詳しく話してほしい、な」

「…分かり、ました」

 那珂は覚悟を決めた。そして、朝日に全てを話した。

 救助中に死にかけ、そこに深海棲艦の襲撃を受けたこと。

 今もその恐怖が焼き付いてしまっていること。

 そして…自分もこの状態が嫌ということ。

「私だって…みんなと一緒に、海の平和を守りたいよ…。

 私だって…艦隊のアイドルとして…皆を笑顔にしてあげたいのにぃ…!」

 涙が溢れてくる那珂。朝日は、ただ優しく那珂の手を握った。

「朝日さん…私って…ダメな娘なのかなぁ…?」

 涙でぐしゃぐしゃの顔を向けてくる那珂に対し、朝日は、

「そんなことないよ」

 微笑んで優しく言った。

「え…?」

「僕も昔、君と同じような時があった。

 自分の弱さが、自分で嫌になった。

 すごく怖い思いをして、立ち上がれなくなった時もあった。」

 自身が昔持っていた苦手なこと、さらに未熟な能力で戦うことすらままならなかった頃。

 強敵に完膚なきまでに叩きのめされ、恐怖に押しつぶされそうになった頃。

 朝日はそんな過去を思い出しながら語った。「朝日さん…」

「でもね、那珂さん。今からいうこと、これだけは覚えていてほしい。」

「…うん」

 朝日は海を向いた。美しく広がる夕焼け空が、海に反射している。

 

「那珂さん。

 君も、勇気だったら、持っているはずだよ」

 夕焼けに照らされながら、朝日は言った。

「勇気…?」

「そう。那珂さんはダメな娘なんかじゃない。君だって、勇気溢れる、立派なアイドルさんなんだよ」

「で、でも…私…」

「大丈夫。

 君には沢山の支えがある。そして、強い気持ちもある。

 後は、最後まで諦めないで、自分を信じることさ。そうすれば誰だって、明るい未来を掴めるんだよ」

 優しく那珂に語りかける朝日。

「朝日さん、私にも…出来るかな?自分を信じることも、勇気を出すことも」

「もちろんだよ!」

「本当に…!?」

「ああ!!」

 ニッコリと真っ白な歯を見せて笑う朝日。那珂の冷たく凍っていた心は、その新しい朝日のような彼の笑顔に、もう溶かされていた。

「ありがとう…朝日さん…!!

 那珂ちゃん、頑張るよっ!!」

 那珂の顔は、またしても涙でぐしゃぐしゃだった。しかし、今度の涙は、那珂がはっきりと未来への一歩を踏み出した証のように、眩い希望の光を反射していたーーー

 

 ーーー数日後。

 那珂の状態もだいぶ良くなったということで、朝日のガソリンスタンドでのアルバイトが終了となった。

「那珂さん、お疲れ様。」

「こちらこそです、店長!」

「朝日さん、でいいよ。ね?」

「あ…はい!朝日さん!」

 迎えに来た俺たちも、那珂の様子が良くなったみたいだと、しっかりと実感できた。それほどに彼女の笑顔は輝いていた。

「じゃあ、またね」

「はい!…あっ!」

 那珂は付け加えるように、一旦去ろうとした歩みを朝日さんの元へ反した。

「朝日さんも、これからは私のこと、那珂ちゃんって呼んでくれると…嬉しいな」

 一瞬驚いた顔になる朝日さん。しかし、すぐにその顔はいつもの微笑みに戻り、那珂に言葉を返す。

「分かった。

 那珂ちゃん、これからも頑張ってね!」

「ありがとう朝日さん!じゃあ…またねー!」

 

 ジオアトスに乗り込んだ俺達は、ガソリンスタンドを去っていく。後部座席から手を振り続ける那珂に、朝日さんはお辞儀をして、確かに「まいど!」と言っていたーーー

 

 ーーーその更に数日後 某海域洋上

 既に深海棲艦から奪還したその海域を、修学旅行中の小学生たちが大勢乗った客船が航行していた。

 しかしそこに、不吉な影が忍び寄っていたーーー

 

 ーーー客船 操舵室

「あの、船長」

「ん?なんだ?」

「あの…あれ、なんですかね?」

 船員が指さす先を、目を凝らして見つめる客船の船長。

「は?どれどれ…んん?」

 彼も、船員が言ったことの対象に気づいた。

 

「なんだ、あの青い球体は…??」

 

 これが、那珂にとって最後の試練となることを、この時誰も予想してはいなかったーーー




今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!

感想や評価、よければよろしくお願いしますm(_ _)m

それと、前書きでも述べた通り、筆者の学校の期末考査が近づいているため、近々更新ペースが大幅に遅れると思われます(というかほぼ休止状態になる可能性もあります)。
ご了承くださいm(_ _)m

何はともあれまた次回!


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最後の試練

誰か筆者に時間と集中力をください。

本編どうぞ。


 ーーー第35鎮守府

 朝日さんのガソリンスタンドでのアルバイトを終えて、那珂の調子は目に見えて以前より良くなった。自然とみんなと打ち解けたり、たまに見かける鼻歌を歌う姿だったり、さらに遠征時の深海棲艦の反応にも、過剰な恐怖を示さなくなった。那珂自身も、成長を感じているようで、それが彼女をさらに奮い立たせていく、という好循環が感じられる。

「提督!今日も那珂ちゃん、頑張ってくるね!」

 駆逐艦を連れた遠征では、旗艦も務められるようになった那珂。しかし、彼女にとって最後の試練、その時は確実に来ようとしていたーーー

 

 ーーーその時、俺は食堂で、川内型の3人と昼食を食べ、のんびりと談笑していた。そこへ、響、さらには大淀が息を切らして駆け込んで来た。

「大変だよ司令官!大本営経由で、この鎮守府にSOS通信だ!」

「この鎮守府の担当する海域を航行中の客船からです!正体不明の青い球体に襲撃されているということです!」

「なんだって!?わかった、すぐ行く!」

 俺はすぐに席を立った。後ろからは川内型の3人も着いてきたーーー

 

 ーーー「こちら第35鎮守府!大丈夫ですか!?状況報告をお願いします!」

執務室に駆け込んだ俺は、すぐに客船に呼びかける。

「なんとか船の無人防衛システムで距離は取れたが、おそらくもう使い物にはならんだろう…。浸水も確認されているし、レーダーで見る限り球体との距離はだんだんと縮まっているから、いつまで持ちこたえられるか分からない!」

「おおよその乗客数は!?」

「スタッフは全部で10名ほど、修学旅行中の小学生たちと引率の教員を足せば100名余りだ!」

「分かりました、至急救助艦隊を送ります!」

「頼む!できる限り急いでくれ!」

 俺はすぐに、メンバー編成に移った。この場合、主目的はあくまで救助、襲撃してきたという青い球体は最悪追い払えればいい。だが…

「おそらくあの球体は怪獣だ、おそらく攻撃力はかなりのものだ…。ここはスピードの軽巡洋艦とバランスの重巡洋艦の艦隊で行くべきだな…」

 すると、俺の後ろから声が上がった。

「提督!だったら、那珂ちゃんに行かせて!」

「!?」

 その顔から、覚悟を決めたということがひしひしと伝わってくる。これが那珂にとって最大の試練となるであろう、しかし、那珂は今、その試練に真っ向から立ち向かおうとしているのだ。だったら…

「よし、分かった!」

「那珂ちゃん…大丈夫!?」

「無理しなくていいんだよ!?」

 心配で声をかける姉たちにも、那珂は強く微笑んで返す。

「那珂ちゃん…今、本当に艦隊のアイドルとして、みんなの笑顔を守りたいって思う。だからお姉ちゃん、お願い…!」

 真っ直ぐにふたりを見つめて宣言する那珂。2人もその大きな気持ちを受け取ったようだ。

「那珂ちゃん…分かりました!」

「私たちも那珂の気持ち、受け取ったよ!」

「ありがとう、お姉ちゃん…!」

 この感動のシーンをしばらく見ていたいが、生憎今は一刻を争う事態だ。俺は気持ちを切り替え、メンバー編成に戻る。

 最終的にメンバーは、川内型の3人、阿賀野、そして妙高、足柄の合計6人となった。正体不明ということもあり、ヘタに球体を刺激して被害を拡大させないよう、今回俺のジオマスケッティによる出撃はなしにした。

「よし、救援艦隊、出撃!」

 6人は鎮守府を出て、客船へと急行したーーー

 

 ーーー「船長!また球体が迫ってきました!」

「くそっ!全速力で振り切れ!」

「駄目です!先ほどの襲撃による損傷、さらにその際の全速回避によって、冷却装置が正常に作動しません!ここで全速を続けると、全機関停止は時間の問題ですっ!」

「何!?客室部分は!?」

「こちら客室担当、小学生たちは何とか今、引率の教員たちのお陰でパニックから一旦脱しました…ただ、現在集合しているホールは客室の最下階にあり、浸水の被害を真っ先に被ります!」

「くっ…危険はあるが、浸水のリスクは避けねばならん!判断をそっちに任せる、状況次第で全員を最上階の展望室に移すんだ!」

 悪い状況ばかりが報告される船の無線。と、そこへ一筋の光が差し込んできた。

「こちら第35鎮守府の救援艦隊!只今より救助活動を開始します!」

 救援艦隊旗艦の妙高の声が、操舵室内に響き渡る。

「助かった!待っていたよ、ありがとう!」

「私たちがあの球体を足止めします!その隙に逃げてください!」

「分かった!」

 那珂と阿賀野が船の後部について護衛し、残りの4人が球体に向かっていく。

「妙高、参ります!皆さんも続いてください!」

 一斉に球体目掛けて、4人の砲撃が放たれる。が、球体はそれを易々とかわして、4人に急接近してきた。

「うっ!やってくれるじゃないの!

 弾幕を張りなさいな!撃て、撃てぇー!」

 集中型から弾幕型へと攻撃方法をチェンジしたおかげか、数発の弾丸が球体に命中する。しかし次の瞬間、球体はお返しと言わんばかりに、青色の熱線を連射して反撃してきた!

「!?全員、回避行動をとって!」

 だが、砲撃よりも速度が速く、正確な狙いの熱線を回避するのは至難の技だ。数発が艦隊に直撃し、直撃部分の艤装が焦げる。

「くっ…!もう、降参してください!」

 力の限り砲撃を繰り返す4人。せめて少しでも距離を稼いでおきたい。だが、球体はそんな彼女達を嘲笑うかのように軽々と弾を避け続け、さらに熱線で水柱を作り、逆に彼女たちを封じ込める。

「ど、どこ!?」

「…まさかっ!!」

 そう、神通の悪い予感は当たっていた。球体は4人をスルーして、客船を猛追する体制に入っていたのだーーー

 

 ーーー「那珂ちゃん!球体が!!」

「えっ!?」

 猛スピードで迫ってくる球体。那珂、阿賀野は迎撃体制に入る。

「迎撃開始!」

 だが2人の砲撃より僅かに早く、球体の熱線が放たれた。

「やめてー!!」

 那珂と阿賀野の目の前に熱線が当たり、水面を大きく揺らす。

「はっ!客船が!!」

「急ごう、那珂ちゃん!」

 しかし、振り返ったその時には…球体は客船へ、最初の熱線攻撃を命中させていた。深海棲艦の備えとして、客船にもガッチリとした装甲が備え付けてあるが、それさえも次々と剥がされていく。

「船が、どんどん沈んでいってる!」

 熱線は船底を狙った後、最上階の屋根を一部ぶっ飛ばした。ちょうどそこに避難しようとしていた小学生たちの悲鳴が聞こえる。

「早く助けに行こう!」

「うん!」

 那珂は救助に向かいつつ、妙高に球体の注意を引きつけてくれるよう通信を入れる。

 そして2人はすぐに客船に到達、絶えず続く大きな揺れと格闘しつつ、外壁をよじ登って、空いた穴から展望室に入り込む。

「皆さん、救助に来ました!大丈夫ですか!?」

「落ち着いてください!」

 声をかけながら、船の乗員乗客を整列させ、人数確認を行う。ほとんどの者は怯えきった顔で、小学生の中には泣いている子もいた。だが、さらに悪いことが発覚する。

「えっ、うそ…足りないっ!」

 クラス委員と思しき子が叫んだ。

「どうしたの!?」

「ふ、2人いないんです!!」

「えっ!?」

 ここまでの状況を、那珂は瞬時に思い出す。ここでいないということは、揺れではぐれ、どこかに取り残されている可能性が高い。

「待ってて!すぐに探しに行くね!」

 那珂はそう言うと、階段を駆け下りて、浸水の進む下の階へと向かったーーー

 

 ーーーかつてのトラウマと似た状況、それは探索中の那珂に確実に恐怖を与えていた。しかし、もう彼女は以前の彼女ではない。

「大丈夫、みんながいる…私は一人じゃない!」

 阿賀野から教わったこと。手を開き、皆の支えがあることを胸に改めて刻み、那珂は進んでいく。そしてついに、探していた小学生たちを見つけた。

「助けて!お姉ちゃん!」

「動けないよぉ…!」

「大丈夫、すぐにどけるね!」

 次々と障害物を撤去、2人の小学生を救出する。そして、急いで2人を両脇に抱え、その場を離れる。数秒後にその場所の天井が落下したことを考えると、奇跡のようなタイミングだった。

 だが外部ではまだ戦いが繰り広げられているのか、時折大きな揺れが襲いかかる。その影響で、先ほどの道が障害物で寸断されていた。

「大丈夫だよ!」

 那珂はすぐに別ルートを探す。階段を見つけた。上の方向には崩れてしまっており通じていない。下の階から回り道はできそうだが、もう自分の首を出すのがやっとの程に浸水している。

 一瞬の躊躇い。しかし、那珂は自分の中でら朝日から教わったことを思い出す。

「君も、勇気だったら、持っているはずだよ」

 そうだ。私はこの子達の笑顔を守らなくてはいけないんだ。今こそ、私の勇気を発揮する時なんだ!

「那珂ちゃんにだって…勇気、あるもん!」

 那珂は艤装を解除、近くにあった大きなビニールのゴミ袋を二つ取って小学生に被せて空気を確保し、自ら水に飛び込んだ。

 慣れない水中、鈍る動き。しかし、那珂は着実に、前へと進んでいく。

「絶対、守り抜いてみせる!!」

 その思いが通じたのか、水中を抜けた。小学生たちも無事だ。ゴミ袋をすぐに取り除き、展望室へと上がる。

「救助、しました!」

「えっ!?」

 駆け寄ってくるクラスメイトたち、そして教師や船のスタッフ。

「よかった、よかった…!」

 しかし、その感動のシーンは、一瞬で恐怖と絶望に塗り替えられた…

 

 ドガァァーーーン!

 

 爆発音と共に、展望室の屋根が全て吹き飛ばされた!そして、空いた大穴から青い球体が姿をのぞかせる。そして、その球体は不気味に二度三度発光したかと思うと、その正体を展望室にいる人たち、さらに救援艦隊のメンバーたちにも誇示した!

 

 グィィィャァァァアア!!

 

「か、かかか、怪獣だぁぁーっ!!」

 禍々しい黒い体、背中に生えた無数の棘。さらには体中に装備された無数の深海棲艦の艤装。その姿を表現するとしたら…「宇宙の平和を乱す悪魔」、これ以上の表現はないだろう。

 川内はすぐに提督に援護を要請、同時に怪獣の出現を報告、データを送る。

「提督、こいつは何なの!?」

「待ってろ、今調べてる…あった!科学特捜隊のドキュメントに同種族を確認!

 

 こいつは、宇宙怪獣ベムラーだっ!!」




今回も読んでいただきありがとうございました!

感想や評価、よければお願いします!

ではまた次回で。


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みんなの勇気

更新がテスト前のため遅れがちです。
多分次の更新は一週間以上開くかも知れません。
ご了承ください。

では本編どうぞ。




 宇宙怪獣ベムラー。

 地球に一番最初に来たウルトラ戦士・ウルトラマンが地球上で初めて戦った怪獣だ。

 その凶暴な深海棲艦の赤い瞳が、恐怖に怯える人々を見下ろし、深海棲艦の声で嘲笑う。

「ハハハハハ!怖イカ、怖イダロウ!貴様ラノソノ怯エキッタ表情!安心シロ、スグ二ブッ殺シテヤルカラナ!」

 もう場はパニックそのものだ。泣き声、叫び声、うずくまる者、腰を抜かし後ずさりする者…

「そ、そんなこと…絶対にさせない!」

「全員、砲撃開始!」

 那珂たちの総力を挙げた砲撃。しかしそれによるダメージでも、ベムラーは全く怯まない。

「忌々シイ、虫ケラドモメガ!ソンナモノガ通用スルカ!

 全員マトメテ、沈ムガイイッッ!!」

 ベムラーは大口を開け、エネルギーをためていく。もうこの空間は恐怖そのものと化している。次に放たれるこのフルパワーの熱線を喰らえば、予想できる結果は死、一つしかない。

 もう、どうすることもできないのか。

 もう、自分は沈んでしまうのか。

 那珂の心は、いや、そこにいる全員の心も、今にも闇に覆い尽くされようとしていた。

 

「誰か…助けてっ……!」

 

 その小さな声。しかし、それはしっかりと彼に届いていた。

「那珂ちゃん…!

 君が、みんなが、呼んでいるなら…!」

 その声を聞いた彼・朝日勝人。彼はポケットから、形だけ見れば我々にも日用品として結構馴染み深いものを取り出した。

 だが決して歯ブラシとか言ってはいけない。これは正真正銘の奇跡のアイテム・ピカリフラッシャー2なのだ。

「今すぐに、そこへ行くよ!!」

 彼は、ピカリフラッシャー2を白い歯に当てた。そしてそこからさらに大きく頭上に掲げ、叫んだ!

 

「ゼアスッッ!!!」

 

 刹那、彼の体は光となり、その光は声の方向へ超光速で飛んでいったーーー

 

 ーーー客船

「コレデ終ワリダ!死ネェェェッッッ!!」

 ベムラーの口の中は、青々とした熱線のエネルギーで満ちている。今にもその一波が放たれようとしていた、まさにその時だった。

 

「そうは、させるかぁぁぁあああ!!!」

「!?」

 空から天高く響く声。思わず上空を見上げるベムラーが見たものは…

 

「ゼアス・ドロップキィーーーック!!!」

 

 ドロップキックの体制で超スピードで自分に突っ込んでくる、光に包まれた一人の巨人だった。思いもしていなかった事態にベムラーは対応し切れず、そのキックをもろにくらって大きく吹っ飛び、海面に派手に叩きつけられた。

 一方の巨人はすぐさま船の乗員乗客に向かって、目から光線を発射した。

 

「ウルトラ・ワープビーム!!」

 

 光線は展望室、さらには那珂や阿賀野といった救援艦隊など、そこにいた全ての人々を包み込み、その姿をその場から消し去った。その直後、近くの台地状の無人島に、全員がそっくりそのまま転送された。

「あれ…!?船にいたはずだったのに…?」

「俺たち、助かったのか…!?」

 事態が飲み込めず、オロオロする人々。そんな彼らの前に、先ほどの巨人が現れた。

「那珂ちゃん、みんな…大丈夫かい?」

 那珂はハッとした。自分の名を優しく呼ぶ巨人のその声に、聞き覚えがあったからだ。

「あなたは…朝日さん…!?」

「ふふ、半分正解、かな」

 巨人はゆっくりと立ち上がる。

 その勇気を体現したかのような、真っ赤で、勇ましい顔。

 同じように真っ赤な体に、銀色のラインが走る。

 輝く瞳、胸の青い灯。

「今の僕の名は…ウルトラマンゼアスだ…!」

 巨人は自らの名を告げた。

「ウルトラマン、ゼアス…」

「うん。そして、よく頑張ったね、那珂ちゃん。

 さあ、後は僕に任せてくれ!」

 遠くから、球体となったベムラーが迫ってきている。ウルトラマンゼアスは一つ、人々に向かって頷くと、ベムラーを迎え撃ちに飛び立って行ったーーー

 

 ーーー「出タナァ、ウルトラマンメェ!貴様カラ沈メテヤル!!」

「かかってこい!僕が相手だ!」

 

 ウルトラマンゼアスと、ベムラーとの戦いが始まった。那珂たちも島の上でそれを見守っている。と、そこへ一つのジェット音。

「遅れてすまん!救助用具を揃えるのに、時間がかかった…!」

「大丈夫だよ、提督ー!」

 提督のスカイマスケッティが、阿武隈たち支援艦隊と、避難用緊急艇を引っ提げて駆けつけた。

「よかった、みんな助かったようだな…」

「うん…!ウルトラマンゼアスが、私たちを助けてくれたの!今、あそこでベムラーと戦ってる…!」

「なに!?そうか…!」

 すると、那珂が提督に提案した。

「私も行っていいかな…?少しでも、恩返しがしたいんだ、朝日さん…ウルトラマンゼアスに」

「ああ、もちろんだ!阿武隈たちは救助艇の護衛を頼む!」

 那珂たちも、ゼアスの元へ急いで向かっていった。

 

 一方の戦いの方はというと、ゼアスとベムラーの一進一退の攻防が続いていた。ゼアスが正拳を突けば、ベムラーが体当たりで返す。ベムラーの尻尾の一撃に、ゼアスがハイキックで退ける。両者の力は、まるでラグビーのスクラムのごとく拮抗しているようだ。

「クッ…ナラバコレデドウダァッ!!」

 その状況に痺れを切らしたのか、ベムラーはゼアスに猛チャージ。何とか受け止めるゼアスだったが、次の瞬間、なんとベムラーはゼロ距離の状態から、自身の砲塔を全てゼアスに密着させ…

「死ネェェェェェ!!」

 一斉に砲撃した!

「ぐわぁぁぁっっ!!」

 吹き飛ばされるゼアスは、そのまま海に落ちて、消えてしまった…。

「ハッハッハ!!コノ程度カ、笑ワセルナァッ!!」

 勝利の高笑いと言わんばかりに声をあげるベムラー。一足遅かったか、俺がそう思いかけた時…

「お願い、ウルトラマンゼアス!

 最後まで、諦めないでぇーっ!!」

 那珂が思い切り、海面に向かって叫んだ。他のメンバーたちも、続々とゼアスの名を叫んでいる。最後まで、彼女たちはゼアスの勝利を信じているのだ。だったらやることは一つ。俺は大きく息を吸い、

「ゼアスーーーッ!」

 思いの丈を叫んだ。

「愚カナ人間ドモヨ!ワカランノカ!!ソンナコトヲシヨウガ、無…駄…!?」

 ベムラーはそこまでしか言えなかった。なんと、ゼアスが沈んだ海面が、急に光をまとい始めたのだ。そして…

 

「ゼアッッ!!」

 ウルトラマンゼアスが、なんと海面から飛び上がってきた!

「ゼアス!!」

 那珂が声高く叫ぶ。ゼアスは那珂に、「ありがとう」と言っているかのように頷き、空中からベムラーを見下ろす。

「馬鹿ナ…!貴様、今ノヲクラッテマダ戦エルダト!?」

 動揺するベムラー。ゼアスはベムラーを見下ろしたまま言った。

 

「絶対に負けない!負けるもんか!!

 僕にだって、僕にだって…!

 

 勇気が、あるんだぁーーーっ!!」

 

 その叫びの勢いそのままに、今度はゼアスが猛烈にベムラーとの距離を詰める。そのスピードを生かし、目にも留まらぬ速さで縦回転して繰り出す技とは…

「受けてみろ!

 

 ウルトラかかと落とし!!」

 ウルトラマンゼアスが、1度は敗れた宿敵・ウルトラマンシャドーを破るために血の滲むような大特訓の末に身につけたこの技。かかとに膨大なエネルギーを蓄積、回転の勢いを利用して思い切り叩きつける。Mydoのスカイフィッシュの攻撃さえ効かなかったウルトラマンシャドーの顔面外部装甲に穴を開けるほどの威力は、その脳天に命中したベムラーにも大ダメージを与えた。

「グハッ!!」

 堪らず苦しげな声を漏らし、倒れかけるベムラー。ゼアスはうまく体制を空で整え、そして着水と同時に、ウルトラマンやウルトラマンジャックの使うスペシウム光線とは逆の十字に腕を組み、自身の必殺光線を放った。

「スペシュッシュラ光線!!」

 青く光るその光の筋。しかし、ベムラーも体制を立て直し、自身の口から熱線を撃ってきた!両者の光線は互いの間の中央付近でぶつかり合っていたが、ベムラーはさらに、正々堂々とは真逆の手段でゼアスに攻撃する。そう、胴回りの砲塔から、再びゼアスに向かって砲撃してきたのだ!

「あいつ!なんて卑怯なっ!」

「提督!ゼアスの光線が押されてる!」

 あの熱線でベムラーは勝負をつける気だ。だが、絶対にそうはさせない!那珂の、ゼアスの勇気を、無駄にはさせない!

「ウルトラマンゼアスを援護しろ!砲弾のルートを逸らすだけでもいい、全力でやれ!」

「「「「「「はい!」」」」」」

 ベムラーから放たれ続ける砲撃。しかし、ゼアスへの命中弾数は、那珂たちの砲撃や、スカイマスケッティのファントン光子砲が相殺して次第に減っていく。

「コザカシイ!オノレェ!」

 ベムラーはさらに熱線の威力を上げた…はずだった。しかし、どれだけそうしても、ゼアスの光線がこれ以上押し切れない。むしろ逆に押し返されてきたのだ。

「貴様…ナ、ナゼダァ!?」

「僕には見える。僕を助けようと、みんなが頑張っている姿が!

 僕には聞こえる。僕の背中を押してくれる、たくさんの声が!!」

 ゼアスが避難させた、船に乗っていた人々。島の上から、彼らはずっと、ゼアスに声援を送り続けていた。

「ゼアス!ゼアス!ゼアスゼアスゼアス!!」

「ゼアス!ゼアス!ゼアスゼアスゼアス!!」

「ゼアス!ゼアス!ゼアスゼアスゼアス!!」

「「「「「「ゼアス!!ゼアス!!ゼアスゼアスゼアス!!!!」」」」」」

 みんなの思いは一つ。

 

「ウルトラマンゼアス、頑張れ!!」

 

 そして一つになったその思いが、ゼアスに「何でもできる力」を与えた!彼の闘志が最大となり、彼は文字通り、その口を大きく開けて叫んだ!

 

「みんなの勇気を…受けてみろ!!

 

 クロス・スペシュッシュラ光線!!!」

 

 十字に組まれた腕を、X字に組み換え、その腕全体から放たれるは、スペシュッシュラ光線の10倍以上の威力を持つ、ゼアスの「気」がマックスの時のみに使える最強の必殺技。そう、ウルトラマンシャドーとの戦いでも、世界中の人々の声援を受け「使うことができた」、クロス・スペシュッシュラ光線だ!

 光線はあっという間にベムラーの熱線を押し返して、ベムラーに到達。

「グッ…アァッ…!

 グワァァァアアアアア!!」

 絶叫とともにベムラーは爆発四散した。ウルトラマンゼアスの、そしてみんなの勇気が勝ち取った大勝利だ!歓喜にわく人々。その中で、那珂はウルトラマンゼアスを見上げ、言った。

 

「ありがとう」

 

 ゼアスはまたひとつ頷くと、

「シュワッチ!!」

 空の向こうへ飛び立って行ったーーー

 

 ーーーそれから。

 那珂は完全に本来の元気いっぱいの笑顔を取り戻した。最近は夜の食堂で新曲を披露してくれることもあり、なかなか好評らしい。

 また、朝日さんのところでたまに日雇いのバイトをすることもある。那珂に誘われて、最近は川内や神通も行くようになったとか。

 何はともあれ、今日も那珂は、その笑顔で鎮守府に活気をもたらしてくれている。

「みんなありがとー!

 那珂ちゃん、これからも頑張るからね!応援、よっろしくぅ!」ーーー

 

 ーーー数日後。

 鎮守府に一本の電話がかかってきた。

「はい、第35鎮守府…はい、はい。あ、分かりました…はい、失礼します」

 受話器を置くと、響が話しかけてきた。

「司令官、今のは?」

「ああ、大本営からだ。どうやら明後日、前も言った憲兵さんがここに着任してくれるようだ。」

「そうか、それはいい」

「ただそれだけでは無いんだよな。憲兵さんと同じ日に、またここに療養対象の艦娘が来るそうだ」

「…その人って?」

 

「航空巡洋艦の、利根だそうだ」ーーー




では今回も読んでいただきありがとうございました!
感想や評価、よければお願いします!

さて、勉強しないと…(白目)

何はともあれまた次回!


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利根の章
閉ざされた闇の心


ひっさしぶりの投稿です。
お待たせしました。
テストの結果はお察しで…。

あと利根の章とか書いてありますが、この回の出番は筑摩さんの方が多いです(おい)。

本編どうぞ。


 ーーー第35鎮守府 正面玄関

「来たみたいだね」

 響の声。今日は、ここに新しく着任する、憲兵と療養対象の艦娘が来る日だ。午前中に憲兵、そして午後に艦娘のほうが着任することになっている。

「確か、司令官はその人のことを知っているんだっけ」

「ああ…祖父を介して、あくまでも間接的にな。会うのは今日が初めてだ。」

 門の前に停止する車。中から降りてくる二人の男性。

「こんにちは。憲兵養成学校校長の、アイハラ・リュウです。そして…」

「はい!本日より第35鎮守府に着任することになりました、ヒビノ・ミライです!よろしくお願いします!」

 元気に敬礼して挨拶する、憲兵の緑の制服を着た青年。元GUYS隊員の、ヒビノ・ミライさんだ。そして、かつて地球を守った、ウルトラマンメビウスでもある(何度も言うようだが某人間の屑によって正体をバラされた)。

 前日に校長のアイハラさんとも連絡を取っており、挨拶などもスムーズに済んだ。

 ちなみに、憲兵関係でかつて一悶着あった高雄にも、ちゃんと大丈夫なことを確認している(というかむしろミライさんの顔写真を見てイケメンとか言ってた)。

「では、ここを案内します。アイハラ校長、ありがとうございます。」

「いやいや!これからこいつをよろしくな!」

「リュウさん、お元気で!」

「おう!しっかりやれよ、ミライ!」

 アイハラさんは再び車に乗って去っていった。敬礼して、車が見えなくなるまで見送るミライさん。とても強い絆で結ばれているように感じられた。

 

 ーーー見送りを終えたミライさんに、鎮守府を案内する。

「あっ!しれぇー!」

「あれぇ、この人は誰ー?」

 廊下の先から、雪風と時津風だ。初めて見る憲兵さんに興味を示しているようである。

「こんにちは!今日からここで働く、憲兵のミライです。よろしくね!」

「わぁー!よろしくお願いします!」

「すごーい!かっこいー!」

 早速ミライさんはフレンズを作ったようだ。何気にこの人すごい…。

 

 ーーー食堂

 時間も時間なので、案内の後は昼ごはん。

「あら、提督。えっと…そちらの方が新しい憲兵さんですか?」

 水を運んできた鳳翔に、ミライさんがこんにちは、と挨拶。

「は、はい、こんにちは…!わ、私、鳳翔と言います、よろしくお願いしましゅ!」

 あ、噛んだな。…言わずにおこう。

 …にしてもこのイケメンは反則じゃないかな、ミライさん。

 

 その後も、不知火や大潮、島風たちと追いかけっこをしたり、空母艦娘たちの練習風景を見学したりと、ミライさんはどんどん艦娘たちと仲を深め、ここに馴染んでいく。そうこうしているうちに時間は過ぎ、俺と響、ミライさんは再び正面玄関に向かった。

 ここに来る新たな療養対象の艦娘…利根を迎えるためにーーー

 

 ーーー「来たみたいだね」

 響の声。先程とは違う車がやって来た。那珂の時と同じ、大本営の所有車である。中からスタッフに連れられ、二人の艦娘が降りてきた。片方はもう片方の背中に隠れ、おっかなびっくりに顔を出して挨拶する。

「あ…あの…こ、航空巡洋艦の、と、利根…なのじゃ…」

 それだけ言うと、今度は完全に顔を隠してしまった。余程のことがあったのだろう。そしてもう片方はその事情を知っているのか、冷たく無表情でこちらを見て挨拶する。

「航空巡洋艦の、筑摩です。」

 たったそれだけだ。いきなりシリアスなムードになってしまう。とりあえず自己紹介はしなければ。

「はじめまして、ここの提督だ。これからよろしくな」

 響、ミライさんも挨拶し、俺はここの案内をしよう、と提案した。が…

「…ご遠慮いたします」

 小さくとも重みを痛いほど感じられるその一言。

 利根が…いや、この姉妹は一体どのような闇を抱えているのかーーー

 

 ーーー「直接聞かなきゃ意味無いからな…利根や筑摩の場合、いきなり同情されてもかえって反感を招くだろうし」

 俺はこの後どうするかを悩みつつ書類整理をしていた。あの後すぐに、ミライさんが案内した個人部屋にこもり切りの2人。提督や、それだけでなく仲間との間にも何かがあったとしか思えない。

「ただ、ミライさんに対しては比較的態度に関してトゲがおさまっていたからな…ここは彼に頼ってみるか…」

「なんか、前と違って司令官の出番減っちゃったね…」

 ふと響が呟いた。

「まあ、本当はこういう仕事の出番はない方がいいんだけどな…」

「そうだけど…なんとも思わないのかい?」

「ははっ、適材適所ってやつさ。ひょっとして響、俺が『ウルトラマンたちが悩みを解決してくれるなら、この仕事の存在意義ってなんなんだ?』とか思っているんじゃないか…なんて考えてるとか?」

「…司令官には敵わないな」

「安心しろ、それは杞憂だ。

 知ってるか?歴代防衛チームの中でも特にウルトラマン…当時のはウルトラマンタロウ、彼と強い信頼で結ばれていたZATは、自分たちの存在意義に悩まず、自分たちのすべきこと、出来ることをしっかり自覚して、タロウと協力し怪獣たちを撃退していたそうだ。チームの雰囲気も良くて、それに時にはタロウがZATの作戦を援護したこともある、と聞くぞ」

「ふふ、すごいね…つまり、司令官はしっかりそういう考えを持っているんだね」

「俺の提督としての願いは、ここの鎮守府のみんなが笑顔でいられることさ。なにも俺がでしゃばりすぎる必要はない。」

「また尊敬したくなっちゃうよ…司令官」

「はは、ありがたいな」

 建前なんかじゃない、本当の気持ち。微笑みをつなぐ世界を、ここから広げていきたい。提督としての俺の夢だ。

 と、不意にドアがノックされた。

「ん、誰だ?」

 ガチャリとドアが開き、入ってきたのは…

 

「私です、提督」

「…筑摩か。どうした?」

「いえ、その…提督」

 スタスタと、先ほどと変わらない無表情のまま、こちらに近づいてくる筑摩。そして…

 

「…申し訳ありませんが、今ここで消えてください」

 

「!?」

「…ほう」

 

 その言葉の直後、筑摩の腕の艤装、その砲塔が俺に伸びてくる。俺は座ったまま素早く、愛用している銃の一つーーーその日持っていたTACガンを抜き、筑摩の砲塔を後ろに薙ぎ払いつつその銃口を向けた。

 

 驚く響。だがこれは、俺にとっては想定内だった。

 着任時の挨拶、そして今この瞳…明らかに光がなく、何をしでかすかわからない感じだった。

「…。さすが提督、と言ったところでしょうか。しかし、その銃で艦娘である私と戦えますかね?」

「あいにく、こいつは怪獣より強い超獣にもダメージを与えられる優れものだ」

「………」

「それに」

 

「まずお前と戦う気は無い」

 

「…えっ…」

 筑摩の表情が僅かながら驚きのそれに変わる。

「何か理由があったから、こんなことをしたんだろう?」

 筑摩は答えない。そこへ…

 

「提督さん!大丈夫ですか!?」

 ミライさんが駆け込んできた。この状況を見るや否や、すぐさま銃を構える。あ、あれGUYSのトライガーショット…まだ使ってるんだな。

「ああ、大丈夫だ。」

 とりあえず、冷静に考えられていたこともあり、落ち着いて返事をする。

「…私の負け…みたいですね…」

 ミライの姿を見て、筑摩はがっくりと崩れ落ちた。そして、先程までの殺気はどこへやら、

「提督、響ちゃん、憲兵さん…大変申し訳ないことをしました…ごめん、なさい…」

 涙をぽろぽろと落としつつ、蚊の鳴くような声で言った。

「筑摩…」

 おそらく元の鎮守府での何かしらの事件の傷跡は、利根のみならず、筑摩にも少なからず残っていたのだろう。

「提督…もう…私のことは…好きにしていいです…だから…利根姉さんには…手を、出さな、い、で…くだ…さ…」

 そこまで言って、筑摩はパタリと倒れてしまった。

「筑摩さん!?」

 事態の急展開に固まっている響。ミライさんは筑摩の元に駆け寄り、体の様子を見る。

「…気を失っているだけです。命に別状はありません。

 …おそらく、過去のことが蘇ってきて…提督さん、僕は彼女を医務室に運んできます」

 そうしてミライさんが筑摩さんを抱き抱えようとした時、執務室のドアがまたもノックされた。

「提督、長門だ」

「そうか、入れ」

 いつものように割烹着姿の長門。だが…

「…と、利根…!?」

 なんと、長門が肩に利根を抱えていたのだ。

「部屋の掃除をしようと、利根のドアをノックしたんだが…応答がなくて、ドアを開けたら、既に倒れていたんだ…。」

「そうか…一体何が…」

「どうすればいいんだろう…とにかく、一緒に医務室に寝かせよう。」

 

 長門、ミライさん、俺と響で、利根と筑摩を医務室に運ぶ。その後、長門は用務員としての仕事に戻り、響には執務を頼み、俺とミライさん、2人だけで少し話し合うことにした。

「この2人…姉妹揃って、辛い思いをしてきたんだろう…」

「でしょうね…それに、僕の勝手な推測になるんですが、この2人は提督という存在や他の艦娘といった仲間に対し、強い嫌悪感や恐怖感を抱いていると思います。彼女たちの部屋へ案内している時も、人気の多い食堂近くの廊下は通りたがりませんでした」

「確かに…。療養対象は通達によると利根だが、筑摩も誰にも気づかれずに闇を抱えていたのか…」

「ただ、利根さんのものとは、何かしら関連があるみたいですね…」

「ああ。おそらく調べれば分かることだが、利根自身の口から聞いた方がいいだろう…

 だが俺にも恐怖を抱いているとすると…」

 俺はミライさんの方を向いて、言った。

 

「利根と筑摩を、ミライさん、あなたに任せたい」

「僕ですか…!?」

 

 目を瞑っている利根、筑摩。その心の闇は、計り知れないものだろう。

 でも、どんなにぶつかり合っても、励まし合い、その闇を超えられる道があるのなら。

 悲しみなんかない世界に繋がる道を進むのに、自分の力が役に立つなら。

 ミライは、決心した。

 

「提督さん!僕、やってみます!」

 

「シーッ!起きちゃう、起きちゃう…!」ーーー




というわけで今回も読んでいただきありがとうございました!

感想や評価、よければお願いします!

ではまた次回!


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忌まわしき記憶の果て

最近更新が遅れておりすみませんm(_ _)m

一応この章での主役は利根とミライさんです。

それから、今回精神的に結構残酷な描写があるので、苦手な方は無理しないでください。

では本編どうぞ。


 ーーー医務室

「ん…こ、ここは…?」

 利根は目を覚ました。知らない真っ白な天井が見える。

「吾輩はいったい…

 えーと、確か、部屋で…そうか…倒れたんじゃったっけ…」

 ふと、隣を見る。そこには、ベッドに寝かされた、馴染みの妹の姿が。

「!?ち、筑摩!?どうしたのじゃ、しっかりするのじゃ!」

 

 ガチャリ

 

 不意にドアノブの回る音。

「ひぃっ…!!」

 ドアの方を見ないよう、布団にこもってうずくまる利根。医務室に入ってきたのは…

「利根さん、気がついてたんですか、よかった。でも静かに…筑摩さんが起きちゃいますよ」

 水の入ったグラスを二つ載せたお盆を持つ、ミライだった。

「…はぁ、はぁ…なんじゃ、憲兵殿か…びっくりさせるでない…」

「ごめんね、急に。まだ寝てるかなって思って」

「いや…わしの方が勝手に驚いただけじゃ…こちらこそすまぬ」

 利根は布団から顔だけを出した。すると隣のベッドから声。

「筑摩…!」

 筑摩の目が覚めたようだ。

「ここは…?えーと、私は…はっ!」

 先程のことを思い出したのか、筑摩は素早く利根に振り向く。

「姉さん、大丈夫ですか!?」

「わしも今起きたところじゃ…体の方は心配せんで大丈夫じゃ」

「そう、ですか…良かったです…」

 利根の無事を知り、ほっとした筑摩はミライの方を向いた。

「憲兵さん…先程は大変申し訳ないことを…」

「大丈夫ですよ筑摩さん、気にしないでください。

 …昔のことが、フラッシュバックしてきたんですよね」

「…はい。その、通りです。本当にすみませんでした…」

「…筑摩?お主、何をしたんじゃ?」

 質問を受け、自分の先程の件を利根に説明した筑摩。それを聞いた利根は、驚きはしなかったものの、暗い顔をして俯いてしまった。

「吾輩のせいで、筑摩のことも煩わせてしまった…こんなの姉失格じゃ…やっぱり吾輩は…出来損ないの能無しだったんじゃ…」

 利根は先程の筑摩のように、大粒の涙をこぼしながら嗚咽を漏らし始めた。

「利根さん…」

 ミライは利根の隣に腰掛けた。

「もし、利根さんが良かったらだけど…あなたの身に何があったか、僕にも話してくれませんか?」

「…え?」

 それを聞いた利根は、少し考え込む素振りをした後…

「吾輩も、このままは嫌じゃから、ここに来た訳じゃ。

 …頑張って、憲兵殿に話してみるのじゃ」

 俯いたままでも、その瞳には恐怖感と戦う覚悟がしっかりと見てとれた。

「…ただ、その代わり…」

 利根はミライと筑摩を交互に向いた。

「やっぱり吾輩1人では無理じゃと思うから…吾輩の両の手を、2人に握っていてほしいのじゃ…頼めるか…?」

 その問への答えは…無言で、ミライは利根の左手、筑摩は右手を握る。

「2人とも…ありがとうなのじゃぁ…!」

 感極まったのか、再び涙を流す利根。それから話されることになる、利根の過去を考えれば、これも無理もないことだったーーー

 

 ーーー利根は、無人島に設けられた第102泊地に配属された艦娘だった。時期的には、まだ戦いが始まってから一年が過ぎようとしていた頃だった。

 当然、深海棲艦に奪われている海域は今よりずっと多く、加えて泊地という条件のため、必然的にそこは激戦地だった。

 配属された利根も、ほんのわずかな練習航海の後は、すぐに戦場へと駆り出されるような状況だった。

 

 そんなある時、大本営極東支部から大規模作戦の報が各鎮守府に届いた。

 当然その泊地も対象となり、近くにある敵の主な拠点を叩くこととなった。

 中大破者が毎日のように出ながらも、なんとか攻略を進めていき、遂にあと1歩で作戦完遂というところまで来た。

 そして、万を辞して送り出された最終攻略連合艦隊。利根もその内の1人だった。

 

 これまで以上に強大な深海棲艦が、艦隊の行く手を阻んでいく。しかし艦娘たちは、その意地で強引に突破して行った。そして、敵拠点の最奥部近くまで到達した。

 当然ここに来れば、いつどこから敵が襲ってくるかわからない。今まで以上に索敵の重要性が増す。

 航空巡洋艦へ既に改装されていた利根は、水上偵察機を用意した。数隻の空母も艦隊にいたが、既に撃ち落とされている。利根の索敵機がまさに頼みの綱だった。

 

 が。

 

「…!?ど、どうしたんじゃ…!?これ、動け!動くのじゃ、おい!」

 ここに来て、利根のカタパルトが、原因不明の故障を起こしてしまったのだ。

 史実においてカタパルトに不安があった利根は、この日のために何度も何度もチェックを重ねてきた。だが、いくら利根が呼びかけても、カタパルトは作動しない。周囲の仲間達の不安気な視線は、無意識に利根を追い込んでいく。

 

 そして、一番恐れていたことが起きた。敵が襲って来たのだ。体制が整わないうちに戦いに突入した艦娘たちに、勝ち目があるはずも無く、ほぼ全員が大破して帰還した。当然、海域の完全奪還は果たせなかった。

 命からがら鎮守府に帰還する途中、利根はみんなに謝った。仲間達は、戦いにトラブルはつきものだ、次こそ奪還しよう、そう利根を励ましてくれた。

 

 しかし、これが利根の地獄の日々の始まるきっかけとなってしまった。

 その泊地の提督は、異常なほどの完璧主義者で、鎮守府に艦隊が帰投するなり、張り手一発を利根に食らわせ、大声で怒鳴りつけた。利根も泣きながら、土下座までして謝ったが、怒りが収まらない彼は、その後もずっと利根を痛めつけた。

 さらに翌日、利根が仲間と話そうとすると、そこを偶然通りかかった提督が、無理やり2人を引き離したのだ。

「あいつのせいで作戦失敗になったのを知らないのか!?恥晒しと関わろうとするな!」

 利根は何も言えなかった。仲間も言い返したが、「上官反逆罪で解体するぞ」の言葉に、黙り込んでしまった。

 それから、そんな日々が毎日続いた。執務室への呼び出しは提督からの暴行の合図。そこに他の艦娘がいようがお構い無し。誰とも関わることを許されず、更には提督が仲間に指示し、仲間の手で暴行、暴言を受けることもあった。もちろん仲間も本心では無かったが、提督の前では逆らうことなどできず…利根は一人ぼっちになった。

 

 そんな中、そこの泊地で建造されたのが筑摩だった。姉を強く慕う性格の筑摩は、すぐに利根の受けている仕打ちに気づいた。提督に直談判しても他の仲間と同じように突き放されたが、ならばと彼女は、なんと言われようとひたすら利根を支え続けた。提督に怒鳴られようと、毎日、毎日…

 

 そしてその思いが通じたのかもしれない。

 当時、少し前に起きた、第11鎮守府での金剛の事件(第一作参照)、さらにブラック鎮守府横行などを受け、大本営の憲兵制度が始まったのだ。もちろん第102泊地にも憲兵が配属され、すぐにそこの提督は更迭された。

 

 しかし、利根の心の傷は癒えず、筑摩とともに大本営に引き取られた。提督はもちろん、本心ではないにしろ暴行を受けたことにより、仲間に対してもとてつもない恐怖感を今も持っている。筑摩も、大切な姉を傷つけられたことにより、他人を信じることが出来なくなった。

 だが、自分があの状況から逃げ出せるきっかけになった憲兵に対しては、僅かながら信頼を寄せているのだそうだ。

 そして、大本営の方で長きに渡る休養期間を経て、着任可能と彼女たちの同意の元に判断され、今日ここ、第35鎮守府にやって来たーーー

 

 ーーー利根はそう語る中、何度も何度も、深呼吸をしたり、呼吸が荒くなったりした。言葉は何度も途切れ、泣いていて、一度聞いただけでは何を言っているか分からない所もあった。

「利根さん…」

 ミライも地球にいた時、少なからず仲間との衝突はあったが、利根の受けたことはそのレベルを遥かに超えていると彼は思った。

 彼女に今出来ることは、何だろう…。

 ふと、利根が絞り出すように言った。

「ここの提督も、仲間も、前にいたところの様なことはしないと、本当は吾輩も筑摩も分かっておるのじゃ…でも、でも…どうしても昔の事が…!

 吾輩はっ…吾輩はいったいっ、どうすればいいのじゃぁ…!!」

 ついに限界を迎えたのか、大声をあげ号泣してしまう利根。

「姉さん…!」

 筑摩も、利根を握る手が震えている。助けて、そんな心の声が痛いほどミライに聞こえてくる。

「2人とも…教えてくれてありがとう。

 これからは、僕が2人を守るから」

 偽りのない、心からの言葉。ミライは、そのまま2人が泣き止んでもずっと、彼女たちを見守り続けたーーー

 

 ーーーその夜

「…そうか、そういうことが…」

「……」

 俺はミライさんから利根の話を聞いた。響は震える腕で俺の服の裾を掴んでいる。

「とにかく…俺からも全力でサポートはするが…今回の療養については、基本的には君に一任したいと思っている。大丈夫かな?」

「はい!頑張ります!」

 ミライさんの瞳に燃える使命。

 こうして、彼と利根の奮闘の日々が始まったーーー




今回も最後まで読んでいただきありがとうございましたm(_ _)m

感想や評価、よければお願いします!

暑くなってきたので、熱中症、日焼けにご注意を!←日焼けで鼻の水膨れが酷い筆者より

ではまた次回!


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利根の強さ

最近色々と忙しく更新が遅れ気味です。
すみません。

失踪とかはしませんし、出来るだけ急ぐので変わらぬご愛顧をよろしくお願いします。

それから、お気に入りが40件到達、ありがとうございます!

では本編、どうぞ。


 ーーー翌日。

 ミライは利根の部屋を訪れた。

「もしもし、利根さん?」

「お、おるのじゃ。入って、構わんぞ」

 よかった、そう安堵しつつ、ミライはドアを開ける。

「そこに、座ってくれなのじゃ。今、お茶を用意するぞ…」

「お気遣いありがとうございます」

 ミライは自然な笑顔で、座布団に座る。しばらくして、利根が急須と湯のみをお盆に載せてやって来た。

 

「…熱いから、気をつけてくれ」

「どうも」

 湯のみを差し出し、ミライの向かい側に座る利根。湯のみのお茶を口に含むと、熱さの中にしっかりとお茶の旨みが広がる。

「美味しいです」

「…ありがとう、なのじゃ…」

 ちなみに筑摩は、自ら志望した上で、提督の第二秘書艦の座に就いている。きっとこれで、この鎮守府なら安心できる、そう思えるだろう。

 一方こちらの利根の方は、まだお茶の感想以外の会話がない。ただ、ミライは全く動じていない。かつて尊敬する兄からは、「人間の心は複雑だ」、と教わっていたからだ。

「な、なんか…話、せんと…そ、その…」

 利根は必死に話題を探しているようだ。だが、どんなに利根が考えても、彼女の頭にいい案は浮かばない。

「その…すまん、なのじゃ…」

 申し訳なさそうに俯く利根。過去の恐怖からか、もう既に若干涙声になっている。そんな利根に、ミライは優しく話し掛けた。

「じゃあ…一緒に食堂でも行って、なにか食べませんか?」

 顔を上げる利根。しかし、食堂は多くの艦娘たちが常にいる場所と利根は認識しているため、思わず躊躇ってしまう。

「ど、どうしようかのぉ…」

「大丈夫です、焦らないで。行きたくなかったら、断ってもいいですからね」

 ミライの気遣いに対し、利根は…

 

「いや、行ってみることにするのじゃ」

 

 勇気を振り絞って、そう答えたーーー

 

 ーーー食堂

 比較的、その時間帯は空いていた。だが、利根のためにもミライは間隔のあいた窓側の席を選んだ。パッと見カップルにも見えなく無い2人は、メニューを見て考え込んでいる。だがその様子を見ると、ミライは比較的楽に選んでいるが、利根は周りを頻繁に気にしている。

「大丈夫かな…」

 ミライが心配する中、時間はかかったにしろ、利根はなんとかメニューを決めた。あとは運ばれてくるのを待つだけ、だったのだが…

 

「あ。憲兵さん、何か食べるの…?」

「ご一緒していいですかー?」

 駆逐艦から早くも人気を獲得したミライに、霰、大潮が駆け寄ってきたのだ。さらにその後からは…

「みなさーん、待ってくださーい!す、すみませーん!」

「補給が終わるなりすぐ…2人とも、失礼ですよ?」

 阿武隈、不知火までもが来たのだ。遠征帰還後のようだ。

 しかしこれだけ一気に人数が集まってきた以上、利根がパニックになってしまわないか、ミライは気が気でなくなってしまった。思わず利根を注視した、そしてその時彼の瞳に映ったのは…

 

「…その、良かったら…そこの机を動かして、みんなで食べるか?」

「…!?」

 驚くミライ。利根がぎこちなくも、みんなと一緒に食べようと誘っているのだ。もちろん駆逐艦達は大喜び、阿武隈もお礼を言いつつ嬉しそうだ。そんな中、ミライはひたすら利根のことを考えていた。

 

 過去の忌まわしい記憶と経験、その傷は今でも利根の心に深く残っていることは間違いない。しかし、それでも彼女は、大本営在籍時に解体ではなく、まだ艦娘として生きる道を選んだ。そこからも、ミライは利根の心の奥底にある強さに気づいていた。

 しかし、今利根は、ミライに頼らず、自らの力で前への1歩を踏み出した。もちろんトラウマによる恐怖感もあっただろう。でも、今ミライが見ているこの光景は、他でもない利根自身が未来への道しるべを見つけたからこそあるものだ。

 ミライは、利根の心の強さが、自分の想像以上であることを知った。そして確信したのだ、「利根さんならきっと、自分自身で未来を掴み取れる」と。

 だが、利根が絶えず恐怖感と戦っていることには変わりない。しかし、一生懸命彼女が戦っているからこそ、ミライも全力で利根をサポートするのだ。

 自らの兄で宇宙警備隊隊長のゾフィーは、当時科学特捜隊に在籍していた、かつてGUYSだった時のミライの上司・サコミズに、「やがて君たちも我々と肩を並べ、星々の狭間を駆ける時が来るだろう。 それまでは、我々が君たちの世界の盾になろう。」と言った。状況は違えど、ウルトラマンたちの心は変わらない。艦娘も含め、人間の持つ限りない強さと可能性を信じ、ウルトラマンは人間を助け、人間と共に未来へ進むのだ。

 

 利根を優しく導き、自然な笑顔で接する。利根も、ミライの支えが分かったのか、この鎮守府に来て初めての笑顔を見せた。

 賑やかながら穏やかな会食風景。その風景を食堂入り口見守っているのは提督と響、筑摩。

「…ここは…しばらく邪魔しないでおこうか」

「それがいいね。ハラショー」

「姉さんのあんな笑顔…もしかしたら私も初めて見たかもしれません」

 駆逐艦たちから見たら年上のカッコイイお姉さんとお兄さんが揃っている状況。話は盛り上がりを見せ、利根も本来の元気を取り戻していった。

 その後も、食後にはみんなで外で遊んだり、そうして疲れた娘たちを寝かしつけたりと、利根は関わりを深めていったーーー

 

 ーーー「…という感じです。」

「そうか、ありがとう。こちらも、今はもう就寝中だが、筑摩がこちらにだいぶ心を開いてくれるようになった。」

 その夜執務室で、俺とミライさんで互いの状況を確認。ミライさんの方も着実に進んでいるようで何よりだ。

「そうですか。

 ですが、利根さんはまだぎこちない面が残っています。また明日、少しづつでも進めるように手助けをしていくつもりです」

「そうだな。心からの笑顔を取り戻すまでには、まだまだ時間がかかりそうだな。」ーーー

 

 ーーーそう、事態はそう簡単には好転しない。

 数日を経て、筑摩は完全復活と言ってもいい状態になり、利根も仲間達との信頼関係を強固に築き、なんとか提督である俺にも接せるようにはなった。

 だがまだ利根には、出撃への恐怖を克服するという壁が立ちはだかっていた。工廠でよく、利根が1人でカタパルトを入念に整備している所を見かける。それを見かけた明石や夕張が止めたり、もう大丈夫だと説明しても、毎回すぐにはやめようとしなかった。

 そして、何度か出撃をさせた際も…

 

「すまん提督、憲兵殿…また、無理じゃった…」

 

 航空機を装備している時は決まって自信をなくし、本来のパフォーマンスが出来なくて、痛々しい姿で帰ってきては落胆していく…それが数度続いた。

 俺も、響も、筑摩も、毎回それについて悩んでいた。このままいたずらに出撃を繰り返せば、利根は余計スパイラルにはまってしまうからだ。利根もなんとかなりたいとは思っている、それは俺達もわかっている。しかし、いつまでもこのまま続かせるわけにも行かないのだーーー

 

 ーーーそんなある日。唐突にミライさんが質問をしてきた。

「この鎮守府って…かつての防衛チームの戦闘機を使ってるんですよね?」

「ああ」

「…それって、索敵とか観測とか爆撃とかの種類には…」

「いや、チームのメカは汎用性が非常に高く、一機あればそれで何役もこなせる。…どうしたんだ、そんなことを聞いて…?」

「提督さん。僕に一つ、考えがあるんです」ーーー

 

 ーーー翌日 工廠

「ミライさん、頼まれていたものはこちらになります。」

「うわぁ…すごいです!夕張さん、ありがとうございます!」

「い、いいですよ、そんなぁ…」

 満面の笑みで感謝を伝えるミライに、ちょっぴり赤面する夕張。この日、ミライはあるものを受け取りに、そしてそれを利根に渡すために工廠に赴いていたのだ。

「…それで、今利根さんは?」

「…今日もいつもの所で、カタパルトの整備をしています」

「分かった、すぐ行く。ありがとう!」ーーー

 

 ーーー「…はぁ、はぁ、はぁ…」

出撃を終えたばかりで、息の上がっている利根。そこへ…

「利根さん?」

ミライが声をかけた。

「ひゃっ!?び、びっくりさせるでない…」

「あ、ごめんなさい…」

 利根が落ち着きを取り戻したのを確認し、ミライは利根にあるものを渡した。

「…これ、は…?」

 

「かつてあった防衛チーム・CREW GUYSの戦闘機、ガンウィンガー、ガンローダー、ガンブースターです。」

「…あ、ありがとうなのじゃ…。

 ところで、なぜこれを吾輩に…?」

「聞いたんです。利根さんが、自信をなくしているって。」

「………」

 自覚はあるのか、利根は俯く。そんな利根に、ミライは…

「利根さん。今度よかったらこれを使ってみてくれませんか?」

「吾輩が、か?でも、おそらく上手く使えんぞ…?」

「大丈夫。」

 ミライは断言した。

「きっと、この翼が君を助けてくれますから」ーーー




今回も読んでいただきありがとうございました!

感想や評価貰えると励みになります、よければお願いしますm(_ _)m

また次回です!


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覚悟の瞳

暑い→喉渇く→飲み物買う→金欠のスパイラル。

皆様も熱中症にはご注意を。

では本編どうぞ。


 ーーー利根はまじまじとその3機を見つめた。

「それにしてもこの機体は…一体なんなんじゃ?」

「利根さんは多分知らないと思うけど、僕はかつて、CREW GUYSにいたことがあるんだ。」

「それは本当か…?」

「本当だよ。それで、この機体は、そこで使われていたものなんだよ。」

「そ、そうなのか…」

「うん。よかったら使ってみて」

「わ、わかったのじゃ…」ーーー

 

 ーーー利根は自室に帰り、改めてミライにもらった機体を見直した。それを触った時、不思議と形容し難い、強いて言うならばその機体にこもっている思念のようなものを感じた。

 気になった利根は、少しCREW GUYS、その中でもミライのいた、GUYS JAPANのことを調べてみた。

 すると、当時のGUYSの公式ブログが今もわずかながら一部残されており、一般公開されていた。そこに書いてあったことを、利根は隅々まで読んだ。

 GUYS JAPANは、歴代の防衛チームの中でも特に隊員同士、さらに当時地球の守りについていたウルトラマンメビウスとの絆が強いチームだったようだ。互いに助け合い、各々が成長を遂げ、地球を守りきった…そう書かれた文を読み、利根は手にしたガンウィンガーを見ながら、少し羨ましく思った。しかしすぐに、今羨んだばかりのGUYSのような所が、自分のすぐ近くにあることに気づいた。

「ここの生活…そういえばなんだか、心地よいのじゃ…筑摩も嬉しそうじゃ…吾輩も、もっと気楽に過ごしていいんじゃろうか…」

 その時。利根は手にしていたガンウィンガーから、ほんの一瞬だったが、熱を感じた。それはまるで、自分を後押しするかのような…。熱い、と言うより温かい、そんな感じがした。

「先程の思念と言い、今の熱と言い…」

 利根の脳内に、ミライの言葉が蘇る。

 

『きっと、この翼が君を助けてくれるから』

 

「憲兵殿の言葉は、本当かもしれんのぉ…」

 利根はふと外を見た。駆逐艦の娘たちが、きゃっきゃとはしゃいでいる。

「…吾輩も行ってみようかの」

 利根は部屋の席を立ち、ガンウィンガーを含めた3機を窓辺に綺麗に並べると、外へと、足取りは心なしか軽やかに進んで行った。

 そして、利根が部屋から出て、彼女の個人部屋は無人となり、静けさに包まれる、はずであるのだが…

 

「…ミライのやつ、どうやら上手くやってるようだな」

「あのレディも、なかなか見どころのあるやつだな、アミーゴ」

「当たり前でしょ?女は強いんだからね!…にしても、ミライくんとあの彼女…えーと…」

「利根さん、ですよ。でも確かに、なんか、いいムードですよね…」

「僕もこれからが楽しみになってきました!これは興味深いですよ!」

 

 どこからか聞こえてくる、小さな声たちが会話していた。しかしそれに気づく者は、当然ながらこの時誰もいなかったーーー

 

 ーーー駆逐艦と遊び終え、艦娘寮棟に戻った利根。そこへ、大量の書類を抱えた響が通る。

「響、よかったら吾輩も少し持つのじゃ。1人では大変であろう?」

「スパシーバ。利根さん、ありがとう」

 二人で協力して書類を運び、執務室へ到着する。ドアをノックする。

「…返事がないぞ?提督、どうしたのじゃ?」

「利根さん、ちょっと静かに…

 大丈夫。司令官はいるよ。ただ、今電話中みたいだね」

 声を聞き分けた響がそう伝える。会話が終わったタイミングを見計らって、2人は中に入った。

「電話か?随分と長かったのぉ。提督、書類なのじゃ」

「はは、気遣ってくれてありがとう。利根も手伝ってくれたんだな。」

「それで司令官、電話の内容は?」

「ああ、それな…利根」

「?」

 唐突に指名され、利根は戸惑う。

「これはもしかしたら、お前は聞かない方がいいのかも分からん…というのも、今運んできてくれたこの書類とも関係あるんだが、お前が前にいた第102泊地についての報告なんだ」

 第102泊地。そこは利根が過去に地獄を見た所。しかし、今の利根はそうヤワではない。一瞬躊躇いはしたものの、すぐに前を向き直り、答える。

 

「…とにかく話してくれ。どうしてもダメな時には言うのじゃ」

「…分かった。実はな…」ーーー

 

 ーーー利根が強くなったことを実感しつつ、俺は2人に話した。いずれ鎮守府全員に話すつもりだが。

 電話の相手は大本営。そしてその内容というのが、

 

「数日前から、第102泊地との一切の交信が途絶えている」

 

 との事だった。あちら側からの定期通信も来ない、大本営側から呼びかけても応答がないという。

「一体何があったのか、情報のない現時点では手がかりすら掴めない。とにかく、警戒を厳とせよ、と来たのだが…」

「そうか…」

「とにかく早急に話し合う必要がある。響、会議室に全員を集めてくれ。その書類をみんなで読み合わせよう」ーーー

 

 ーーーその後、会議室で書類をスライドに映し、ミライさんやレイも含め全員で読み合わせた。というのも、位置的にこの鎮守府は比較的第102泊地に近い方にあたり、それゆえにここを含めた周辺の複数の鎮守府は、調査艦隊を出して欲しいと要請が来ているのだ。

「という訳なんだが…。一応拒否権はあるが、どこかが出さなければ始まらない。少し話し合ってほしい」

 このように話し合いの時間が設けたのも、利根のことを気遣ってだ。利根の受けたことは数日前に知らされ、その重さは全員が知っており、それを知ったあの時の駆逐艦娘たちが謝りに来たというほどだ。

 利根もミライさんとの関わりで次第に復活してきており、駆逐艦娘たちの行動も「気にしないでいい、気遣ってくれてありがとう」と伝えられたくらいにはなっているが、それでもまだ完全復活とは行っていないのだ。

 そして話し合いの中…よく通る声が室内に響いた。

 

「提督はどう考えておるのじゃ…?艦隊を出すことについて。」

 

 利根だった。

 

「…俺は…はっきり言って利根、お前次第だと考えている」

 俺は利根の問いに、心の内を正直に言った。そして、利根からは…

 

「なら…吾輩が行く」

「利根…!?」

「ここで過ごしていて、皆がとても優しくて…吾輩も筑摩も嬉しかった。だが同時に、いつかこのような日が来るかもしれない、とも思っていたのじゃ…

 頼む提督…吾輩に行かせてくれ」

 利根はまっすぐにこちらを見つめてくる。覚悟を決めたということは明らかだ。

 俺は利根に質問した。

「利根…そこは君がかつて傷を負った所だ。それを分かった上で、だな?」

「もう覚悟は決めておる…今もいるかつての仲間だって、本当は罪はないのじゃ…頼む、行かせてくれ!」

 

 気付けば、会議室の全員が利根とのやり取りに注目していた。利根の覚悟は固いし、俺もそれを否定するつもりは…毛頭ない。

 

「分かった。

 我が鎮守府は、調査艦隊を出す。

 …利根、旗艦を頼めるか?」

 

「!!…任せてくれ!」

 

 そう答えた利根の顔は、これまで見たこともない、凛々しさに溢れた顔であった。

 艦隊の方は、ミイラ取りがミイラになる…なんてことのないように、ここを含めて参加を表明したいくつかの鎮守府が、3日後から1日ずつずらして出撃することになったーーー

 

 ーーー3日後 第102泊地付近某海域

「も、もうダメ…!」

「やむを得ません、撤退しましょう!」

「ハッハッハ!私ニ勝テルト思ウナヨ!!」

 先陣をきって出撃したのは、第41鎮守府。しかし、泊地にほど近い海域にて、第41鎮守府の調査艦隊は全員大破させられたーーー巨大な、鳥型の怪獣によって。空を縦横無尽に飛び回るその体には、やはり深海棲艦の装甲や砲塔があちこちに見て取れた。

 艦隊が撤退したことで、再びそこの海域は怪獣のワンマンステージとなる。その強さに酔いしれるかのように咆哮をあげる怪獣に、天から不気味な声が響いた。

 

「ふははは!いいぞ、行けぇアリゲラ!寄ってくる艦隊の雑魚どもを、そのままめちゃくちゃに叩きのめして、返り討ちにしてやるのだぁっ!!」

 

 その怪獣…アリゲラの背後数キロには、利根の一件の後着任した提督と、利根を知る者たちも含めた仲間たちが閉じ込められている、第102泊地がーーー




というわけで今回も最後まで読んでいただきありがとうございましたm(_ _)m

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ではまた次回!


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ミライの想い

今回初めて本格的に出撃シークエンスを書いてみました。
いやー、案外難しかったです…

では、本編どうぞ。


ーーー第35鎮守府

「はい、そうですか…分かりました、では失礼します」

俺は電話を切った。向こうの提督の悔しそうな声が、受話器を離しても耳からは離れない。第41鎮守府の調査艦隊が、全員大破で帰投、戦闘によると思われるショックで、敵の正体は不明…という。詳しいことは後で分かり次第伝えるというが…。

「どうだった、司令官」

「調査の結果はどうだったのじゃ?」

結果を気にする響、利根に、俺は首を横に振った。

「ダメだったというのか…!?」

「敵の正体も不明らしい」

「あの第41鎮守府の調査艦隊が…」

「ああ…今日は第30鎮守府で、その次…明日がここだ」

極東支部の、神奈川県横須賀の第1鎮守府や、広島県は呉の第2鎮守府を海域主力攻略部隊とするなら、昨日出撃の第41鎮守府や今日の第30鎮守府は、海域調査部隊の色が強い。作戦対象となった海域に真っ先に出向き、正確なデータを提供する…戦闘力と調査力、さらに臨機応変な対応力ではそこが双璧だ。しかしそこがこの結果となると…

「提督…こうしてはいられません!とにかく敵の正体を特定しないと!」

焦る筑摩。しかし、すかさずミライさんが止めに入る。

「落ち着いてください筑摩さん!

敵の正体はおろか、今何が起きているかの詳細すら掴めていない中…下手に動けば、余計にリスクが大きくなります」

「…すみません、憲兵さん」

「いえ。こういう時に焦ってしまうのはよくあることですし」

「とにかく、後で第41鎮守府から詳細が送られてくるはずだ。明日の出撃までまだ時間がある、できる限りのデータを集めよう」ーーー

 

ーーー数時間後。

会議室には、俺と響、利根に筑摩、ミライさん、さらに用務員としての仕事報告に来ていた長門とレイ。

「はい、はい…分かりました、はい。ありがとうございます、では」

その時再び鳴った会議室の電話は、第30鎮守府からだった。結果は…第41鎮守府と同じく、全員大破撤退、ということだった。

「精鋭部隊を二度も大破させて返り討ちにさせるとは…」

結果を聞いて険しい顔をする長門。すると、長門に着いてきたレイが質問してきた。

「あの…

おそらく、敵はかなりの力を持ってるんですよね?」

「そうとしか言えないな…。この結果を見る限り」

「…じゃあ…なんでしつこく攻めてこないで、撤退を許しているんでしょう…データを取られる恐れもゼロじゃないですし…」

「!!」

その場の全員の顔色が変わる。

「…確かに気になるね、司令官」

「ああ。何かあるとすれば…」

 

「狙いは、主力鎮守府の部隊…」

 

断言したのはミライさんだった。

「ど、どういうことなのじゃ…?」

「…そうか!」

首を傾げる利根に対し、俺はミライさんの言っていることを理解した。

「あえて完全に倒さないで撤退させる、これを繰り返していけば、第1や第2といったこちら側の主力部隊が泊地に大挙するのは時間の問題…そこで初めて本気を出し、主力部隊を全滅させる…。ミライさんの言いたいことは、こういうことじゃないですか?」

「はい、まさしくそうです。しかし、これもあくまでも仮説ですし、詳しい状況がわからない限りは…」

その時。

唐突に再び会議室に電話の音が鳴り響いた。俺は受話器をつかむ。

相手は、第41鎮守府だった。

「はい、はい。…えっ!?

 

妨害電波…!?それは本当ですか!?」ーーー

 

ーーー第41鎮守府からたった今送られてきたデータによると、艦隊の艤装に、妨害電波の痕跡が残っていたという。

「通信が途切れていた理由は、これと判断して間違いないみたいだな…」

「妨害電波なんて…いったいどういう…」

「とにかくこれだけでもありがたい。長門とレイは工廠に行って、明石と夕張に対妨害電波用の艤装を作るよう言ってくれ」

「分かった!」

「行きましょう、長門さん!」

「大淀、明日の出撃予定のメンバーをここに集めてくれ。状況の確認と対策について協議する」

「はい!」ーーー

 

ーーーその後、明日の出撃について話し合いに話し合いを重ね、気づいたらもう夜遅くになっていた。工廠からは装置完成の一報が一時間前に来ている。

「…ふう…よし、今日はもう寝るか。

響ももう、自室に戻っていいよ」

「分かった」

ドアが閉まり、俺は机の上を軽く整え、冷蔵庫の茶を飲み、大本営から支給された就寝用の浴衣に着替えた。と、その時。

 

「提督さん、夜分遅くすみません…今、大丈夫ですか?」

この声は、ミライさん?ーーー

 

ーーー「すみません、こんな遅くに」

「いいですよ、そんな気にしないでください。それで、何の御用ですか?」

 

「…実は…明日の出撃に、自分を同行させてほしいんです」

 

彼の目は真剣そのものだった。

「…理由を聞こう」

「明日の出撃、利根さんが旗艦となっていますよね」

「ああ、そうだ。」

「…なんというか、利根さんのことを信じていない訳ではないんですけど…この出撃は彼女の強い希望によるものですが、まだ彼女は完全に立ち直った訳ではありません。だからその…自分が近くにいて、彼女を支えてあげたいんです」

俺は黙って、ミライさんの話に相槌をうつ。

「…提督さんの職業柄とか、あとはあなたのお祖父さんが、僕のいたGUYSを含め数々の防衛チームにいたことからしても…おそらく提督さんは、僕の正体はご存じですよね…?」

「…ああ。」

「だから、あの…僕の力で、少しでも何か利根さんに出来ることがあるとしたら…それで、利根さんを支えたいんです」

恐らくミライさんは気づいていないだろう。彼の頬はほんのりと紅く染まっている。恐らく彼は、利根のことを…

「だからお願いします…僕も明日の出撃に、行かせてください!」

きっと共にここで過ごしていて、そのうちに利根の様々な面に気づいていったのだろう。そして、最近の利根の様子を見る限り、きっと利根も…

 

「提督さん?あの…?」

「…ああぁ、すまんすまん」

「すみません、お疲れの中…それで、その…」

ミライさんが言い終わらないうちに、俺は彼にあるものを手渡した。

「えっ」

俺がいつもジオマスケッティで出撃する時に使う、ヘルメットだ。

「…これって…!」

「ああ。

 

ミライさん、利根を頼みます」

 

はい!

ミライさんは元気に返事した。その後、俺は簡潔にジオマスケッティの装備や操縦方法をミライさんにレクチャーして、今日の執務は終わりを迎えた。

ふと布団の中で思ったのだが、ドラマでよくある娘を嫁に出す父親の気持ちが、なんとなく分かった…ような気がするーーー

 

ーーー翌日

出撃待機場所に集まった、俺が調査艦隊に命じた6人…利根、筑摩、日向、飛鷹、木曾、島風。全員、妨害電波対策用のアタッチメント式艤装を装備している。

「今回の出撃は、あくまでも調査が目的だ。だが、場合によっては救助、またこれまでの鎮守府の結果からして戦闘に巻き込まれることも十分ありえる。各自、臨機応変に対応きてくれ。

そして、目的を果たすことは重要ではあるが、絶対、命だけは持って帰ってくるんだぞ」

「「「「「「はい!」」」」」」

「それから、だ。万一に備え、今回は憲兵のミライさんにも、大型緊急避難艇を搭載したスカイマスケッティで出撃に同行してもらう」

「そ、それは本当か!?」

「姉さん、落ち着いて…」

「はっ!…す、すまん…」

顔を赤らめて俯く利根。

「利根は余程、ミライといられるのが楽しいようだな」

「お顔真っ赤っかだぁー!」

冷やかす日向、島風。

「そ、そんなこと…!う、嬉しいとか、そ、そんなのは…」

 

「嬉しく…ありませんか?」

 

そこへ突然姿を現すミライ。

「すみません、大型緊急避難艇の搭載に時間がかかりまして…それでその、利根さん…」

「あ、いやあの、その…本当は、とても嬉しいのじゃ…ありがとうなのじゃ…」

「なら、よかったです。僕もそう言ってもらえて、嬉しい、です…」

よくよく見るとミライさんの顔も紅潮している。

「これはいいムードね…!」

「いつ結ばれてもおかしくないぜ…」

コソコソと話している飛鷹と木曾。しかしそれさえも聞こえてないのか、二人は相変わらずいいムードだ。

しかしこのムードをいつまでも続けるわけにもいかない。出撃前のリラックスは大事だが、気が緩み過ぎては逆効果だ。おまけに下手すれば死亡フラグにもなりうる。

「…コホン、とりあえずだ。絶対に無理はしないで、帰ってきてくれ。

ミライさん、皆を頼む」

「はい!」

「提督、行ってくるのじゃ!」

 

調査艦隊の6人がリフトの上に立ち、艤装を展開すると、暗い出撃用トンネルに次々と明かりが手前から灯っていく。

出撃を知らせるサイレンの中、6人を載せたリフトは、ゆっくりと下にある海面に向けて下降を開始した。

「ファーストゲート・オープン!

ファーストゲート・オープン!」

大淀の声によるアナウンスに合わせ、リフトが回転して、「1」の文字が書かれた重々しい金属扉の前にリフトが到着、海面に着水した。

「システムチェック・オールグリーン!

システムチェック・オールグリーン!」

鎮守府の仲間が増えた頃に導入した、出撃前の最新鋭自動艤装チェックシステムが、異常なしをコールする。利根にもこれで精神的な余裕ができた。アナウンスに対応し、扉がゆっくりと開いていき、青い海面が目の前いっぱいに広がる。

外からは、鎮守府そばの山の岩肌が、突然開いたように見える。かつてのチーム・ウルトラ警備隊を手本に改良を重ねた出撃ゾーンは、全てこの山の中だ。

そして、扉が完全に開き、頭上のシグナルが赤から青に変わる!

 

「出撃!」

 

利根の一声。調査艦隊の6人は、一斉に脚部の推進艤装を全速作動させ、目的の第102泊地へと進んでいく。

 

一方、そことは反対側の山の表面も、同じように開き、機体下部のコンテナに大型緊急避難艇を搭載した戦闘機、スカイマスケッティが姿を現す。そのコックピットの自動車・ジオアトスには、提督の使っているヘルメットを着用したミライ。

海の中から滑走路が浮上し、ジェットエネルギー反射板が機体後部に展開した。

 

「スカイマスケッティ・バーナー・オン!」

 

スカイマスケッティのエンジンが起動し、ジェットを噴き出し、滑走路上を加速していく。やがて、コンテナ下部の車輪が地面から離れ、スカイマスケッティは完全に離陸した。

 

「こちらミライ、離陸成功。艦隊と合流し、目標ポイントに向かいます!」ーーー




今回も読んでいただきありがとうございましたm(_ _)m

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ではまた次回で!


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運命の海域

お盆休みしてたため更新遅れました。
すみません。

では本編です、どうぞ。

※1回間違えて編集途中のを投稿してしまいましたorz
重ね重ねすみません。


 ーーー洋上

「こちらミライ、現在のところ異常ありません」

「こちら第35鎮守府、了解です。切れるまで通信をつなぎっぱなしにしてください。それが切れたのか…海域に到達した合図です」

「GIG…!…はっ、すみません!」

「GUYSの名残なら、気にしないで、GIGでいいですよ」

「あ、ありがとうございます!」

 マイクからは通信独特のサァーッという音が聞こえ続けている。まだ海域に入ってはいないようだ。

 今回出撃した艦隊の全員には、妨害電波対策用の艤装を取り付けてある。しかし、第41鎮守府などから受け取ったデータ曰く、妨害電波はかなり強力であり、今回の艤装でも完全に影響を無視出来ないらしい。近距離通信なら問題ないが、鎮守府との遠距離通信は間違いなくアウト、というわけだ。ただ、逆にこことミライさんの通信を繋いでおき、それが切れれば、目標域突入ということが分かる。

「ミライさん、分かっているとは思いますが…」

「現場に着いたら、必然的に僕が指揮を執るんですよね…全力を尽くします」

「頼みます」

 会話は終わっても、通信はまだ途切れない。緊張の糸は全く緩まないまま、数分が過ぎていった時。

「まもなく、目標海域に到達しまーーー」

 

 ブツッ

 

「!?ミライさん、ミライさん!?」

 通信が途絶えた。つまり、艦隊が目標海域に突入したということになる。

「頼むぞ、ミライさん…」

 俺は無事を祈りつつ、万が一に備えての準備を始めたーーー

 

 ーーー洋上

「鎮守府との通信が途絶えました。海域に突入したということになります。…総員、これまで以上に索敵を厳重に!」

 艦隊に張り詰める緊張の糸。

「索敵機発艦可能な方、できる限りの数をお願いします!」

「分かりました!」

 筑摩が我先に、搭載していたガッツウィング1号を三機全て発艦させた。

「私も行こう!ストライクビートル発艦!」

「こっちも!マットジャイロ発艦!」

 日向、飛鷹も続々と発艦させていく中…

「…利根姉さん?」

 利根だけが、艦載機を発艦させない。よく見ると、その顔は怯えているようにも見える。

「大丈夫ですか…?」

「あ、あぁ…大丈夫なのじゃ」

 そうは言うが、手が小刻みに震えている。

「利根さん、無理はしないで。ただ、これだけは覚えていてください。

 僕が…僕達がついていますから」

 ミライが近距離無線で励ますと、利根は一度だけコクリと頷いた。

 無理もない。完全には復活していない状況で、自らの希望とはいえかつての忌まわしい海域にいるのだ。そのトラウマの根源となったカタパルトは、そう簡単に動かせるものではないだろう。

 と、その時だった。

 

「ストライクビートルより入電!敵艦見ゆ!」

 

 日向の叫びから十秒も経たないうちに、そいつは空から襲いかかってきた!

「全員姿勢を低く!」

 ミライの咄嗟の一声。反射的に身を屈めた艦隊の上スレスレを、そいつは掠めるかのごとく飛んでいった。

「こ、こいつは何なのじゃ…!?」

 それに答えたのもまた、ミライだった。

「こいつは、アリゲラ…!?」ーーー

 

 ーーー宇宙有翼怪獣アリゲラ。ミライの在籍していた頃のGUYSと、別個体が交戦したことのある宇宙怪獣だ。

 アリゲラのその特徴…それは、陸上、空中、さらに海中、果ては宇宙においても、その力を遺憾無く発揮することにある。

 空を飛べば戦闘機など簡単に抜き去り、海の中でもGUYSオーシャンの誇るメカ・シーウィンガーをも上回る機動性を持ち、陸上ではミライ…ウルトラマンメビウスと一進一退の激闘を繰り広げた強者だ。

 さらに今回のこの個体は深海棲艦との融合を遂げており、以前のような赤や青の派手な体色から一転、不気味な黒い装甲を白地の身体中に纏っている。さらに、元々アリゲラは目がなく、肩から発する超音波によって、コウモリのように位置を探るのだが、深海棲艦の瞳が、目など無いはずの顔にらんらんと二つ、怪しく光っていた。全身にはこれまでの深海棲艦獣に比べては小型の砲塔が、いくつにも取り付けられている。刃のような腕はその鋭さを増し、尻尾も屈強なものとなっていた。もはや、ミライの知っているアリゲラではないーーー

 

 ーーー「アリゲラは全身武器だらけだ、おまけにスピードも尋常じゃない!みんな、気をつけて!」

「こ、攻撃開始じゃ!」

 海上からは利根たちの砲撃、上空からはスカイマスケッティのファントン光子砲が放たれるが…

「は、速い!」

 アリゲラはその全てを容易く避けきった。そして空中で急旋回し、こんどはこちらの番だと攻撃に転じた。全身の小型砲台から、絶え間なく砲弾の豪雨が降り注ぐ。

「うわぁぁぁぁっ!」

 必死の回避行動のおかげか、艦隊の損害は軽微。しかし、アリゲラの持つ砲台の恐ろしさを気づかせるには十分すぎる一撃だった。

 これまでの深海棲艦獣の砲撃より威力は低いが、その分連射性能の高さは大型のものとは桁違いだ。それ故に素早さの高いアリゲラとの相性が良いのである。

「くっ…ガッツウィング1号の妖精さん、制圧射撃を!」

 これは一旦相手の動きを封じるしかない。艦載機を発艦させていた筑摩たちは、すぐに指示を出す。戻ってきたガッツウィング1号、ストライクビートル、マットジャイロがニードルレーザーやミサイルを放つ。しかし、アリゲラの動きは全く弱まらない。

「装甲まで強化されているのか…!?」

「このままじゃ泊地にすら近づけん!

 こいつは強敵だが…攻撃と救助の二手に分かれるか、ミライ殿…!?」

「…それしかない…!利根さんと筑摩さん、僕と一緒に泊地へ!残りの4人は、アリゲラを引きつけていてください!」

「任せてくれ!そう簡単には沈まん!」

 日向からの応答を聞き、ミライはスカイマスケッティのミサイルを全てアリゲラにぶち込み、隙を作った。

「今だ!」

 ミライ、利根、そして筑摩は、遠くにかすかに見える第102泊地へ急いだーーー

 

 ーーー第102泊地 執務室

「蒼龍…残りの食料は…?」

「持ってあと3日だよ…!」

「飛龍、資材の方は…?」

「入渠や補給を考えると、もう1回の出撃分しかありません…!」

「くっ…!みんな頑張れ、耐え抜くんだ…!きっと、きっと助けが来てくれる…!」

 第102泊地は、その維持能力を刻一刻と失いつつあった。

 数年前にここに着任した提督は、かつて利根へのひどい仕打ちをし、更迭された提督に代わって着任、なんとか全員の信頼を得て、戦いの中でもみんなで平和に過ごしつつあった。

 しかし一週間ほど前、そいつ…アリゲラはやって来た。

 大本営から深海棲艦獣に関しての注意勧告はここにも来ていたが、迎撃体制を整えるにはあまりにも突然過ぎた。

 それでも必死に抵抗をした。しかし、アリゲラの前には、現提督とケッコンカッコカリをした、二航戦の蒼龍、飛龍さえも全く歯が立たず、鎮守府の設備も今いる執務棟を含めた一部を残して更地にされ、外部との連絡も封じられた。

「提督…私達、どうなっちゃうの…!?」

「ここで終わりなんて…やだやだぁ…!」

「大丈夫…きっと大丈夫だから…!」

 いつ心が折れてもおかしくないこの状況。この3人以外のここのメンバーたちも同じだ。

「くっ!」

 提督は無駄だとわかっていても、通信マイクを取らずにはいられなかった。

「こちら第102泊地!救助を求む!

 こちら第102泊地!誰か、誰かいませんか!応答をお願いします!」

 しかしやはりというか、返答は返ってこない。

「ちくしょう、ちくしょう…!!」

 悔しさを顔に滲ませ、うなだれる提督。が、その時だった。雑音混じりのマイクが、明らかに異なる音を伝えたのだ。

 

「ザーッ…ちら…ザッ…じゅふ…ザザーッ…せよ、第102はく…応答せよ…」

 

「!!!」

 提督はそれが何かを察した瞬間、スグにマイクに呼びかける。

「こちら第102泊地!こちら第102泊地!

 我々の声が聞こえますか!?応答願います!」

 そしてその向こうからは、先程よりも随分とはっきりとした声。

 

「こちら第35鎮守府調査艦隊、旗艦利根!」

 

「利根さん!?」

「利根さんなの!?」

 その声を聞き、蒼龍と飛龍がマイクに寄ってくる。

「2人とも久しぶりじゃな。だが話している時間はない!急いで泊地の全員を、非常用出口へ集めるのじゃ!」

「わ、分かった!蒼龍、飛龍!」

「「はい!」」

 救助が来た。それが、折れかけていた心に光を差し込ませた。

 そこからの動きは素早く、程なくして全員が非常用出口へと集まった。

「利根さん!全員集まったよ!」

「よし!」

 すると、出口前の海に、スカイマスケッティから大型緊急避難艇が投下される。

「みんな、乗って!」

 上空のミライが呼びかけで、一斉に乗り込む第102泊地の面々。多少窮屈ではあるが、なんとか全員を乗せられた。

「やつが来ないうちに!急ぎましょう!」

 利根、筑摩が船の脇につき護衛する。スカイマスケッティも上空から、付かず離れず一定の距離を保っている。

 しかし…

 

「利根!利根!?こちら日向!

 すまん、こちらで食い止めているのも限界だ…!そっちにアリゲラが向かった!」

「何じゃて!?」ーーー




今回も読んでいただきありがとうございました!

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不定期更新が続いていますが、次回もぜひよろしくですm(_ _)m

ではまた!


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海域の攻防

疲れた…。
今はそれしか言えないです。

相変わらずの不定期更新ですみません。
本編どうぞです。


 ーーー少し時を遡り 洋上

 日向たちは懸命に戦った。

 しかし、アリゲラの能力はあまりにも高すぎた。

 

「「全機、攻撃開始!」」

 ストライクビートルやマットジャイロのミサイル攻撃を恐るべき機動力で全てかわし、同時に肩のパルス孔から放つ光線で全てを海にたたき落とす。ならばと砲撃を仕掛ける日向だが、アリゲラは海に潜って回避。

 しかし、この艦隊には対潜能力が高い雷巡の木曾、そして以前おおとりゲン…ウルトラマンレオによる直々の特訓により、類まれなる強さを持つ島風がいる。

「野郎!くらえっ!」

「五連装酸素魚雷、行っちゃってー!」

 木曾、島風の魚雷弾幕。やがて、水柱が上がった。

「やったか…!?」

 しかし、その水柱は、魚雷が命中したことによるものではなかった。水柱の中から、アリゲラが飛び出してきたのだから。

「おぅっ!?」

 驚く島風。あれほどの魚雷をかわされたのだから、無理もない。そして飛び出してきたアリゲラは、その尻尾から光弾を放つ。当たってもおかしくない距離だが、その高い身体能力で、なんとか2人とも避けた。はずだったのだが…

「嘘っ!?」

「あの光弾、追尾機能があるのかよ!?」

 避けたはずの光弾が、こちらに向かってくるではないか!

「このっ!」

 ギリギリのところで木曾は機転を利かせて、接近戦用の剣の艤装を使い、光弾を真っ二つに斬った。しかし光弾の威力は高く、剣の刃はボロボロになって、使い物にならなくなってしまった。

「2人とも大丈夫!?」

「何としてでも奴を止めるぞ!撃てっ!」

 飛鷹、日向も加わり、飛び回るアリゲラを全力で迎え撃つ。しかし、アリゲラは嘲笑うかのように全ての弾をかわしきり、そして彼女たちの上スレスレを超高速で通過する。そのあまりのスピードは、万物を吹き飛ばす衝撃波さえ起こせるほどだ!

「ハッハッハ!私ノ力ヲ思イ知ッタカ!」

 攻撃を受け続けて中破した日向たちを見下ろし、声高々に笑うアリゲラ。

「まだだ…!

 絶対に貴様を…ここで食い止める…!

 利根たちのところへ、行かせはしない…!」

 強い視線を向け、艤装を構える日向たち。

「ナルホド、囮カ。考エタナ。ダガ!」

 アリゲラは両手を広げ、飛行体制に入った。

「コノ私ノスピードノ前二ハ、全クノ無意味ナノダァッ!」

 再び衝撃波を巻き起こし、気付けばアリゲラは日向たちの視界の遠くへと去っていった。そこに残された日向たちは、利根へ通信を送ることしかできなかったーーー

 

 ーーーそして今。

「分かった、日向たちもよく持ちこたえてくれた!全速でこの海域を脱出する!」

 通信を受けた利根たちは、速度を一層あげる。しかし、もう既に彼女たちはアリゲラに狙われていた。

「逃ガスカァァァッ!」

「は、速い!」

「こうなったら!ガッツウィング1号、迎撃開始!」

「僕も援護します!ファントン光子砲、発射!」

 先程筑摩が飛ばしていたガッツウィング1号3機が、ミライのスカイマスケッティが、アリゲラに攻撃を仕掛ける。だが、アリゲラは急加速し、それさえも全て避けていく。

「姉さんも!」

「わ、分かったのじゃ!」

 利根も砲撃でアリゲラを狙うが、艦載機攻撃よりスピードで劣る砲撃が当たるはずもない。利根はカタパルトを見た。

「だめじゃ…まだ…吾輩は…!」

 なんとか勇気を出そうとするも、どうしてもカタパルトを動かそうとできない。そしてその隙を、アリゲラは見逃していなかった。

 

「ソロソロ犠牲者モ、出ソウト思ッテイタトコロダ…!」

 

 まずい!アリゲラは本気で利根を沈めにかかっている!

「やめろぉぉぉっっ!!」

 それを察知したミライは、叫びながらスカイマスケッティを急旋回させる。

「ミライ殿っっ!?」

「煙幕弾、投下っ!!」

 ほぼゼロ距離から放たれた煙幕弾は、アリゲラの周囲を煙で包む。

「ヌンッ!?」

 煙で前が見えないアリゲラ。超音波で位置は探れるにしろ、少しでも時間は稼げたはずだ。

「利根さん、日向さんに連絡を!とにかく合流して、脱出しないと!やつは今回、一人残さず消し去る気です!」

「分かったのじゃ!」

 連絡を入れる利根。幸い近くに日向たちが移動していたため、すぐに合流できた。全員で船を護衛しつつ、全速で鎮守府へ向かう。だが、中破艦が多く、なかなか思うように進めない。第102泊地の面々も、資材不足で艤装を展開できないのだ。

 そしてそんな中、最悪の事態が…

 

「奴が追ってきた!!」

 遠くに見える黒い点が、だんだんその大きさを増していく。しかし、もうまともに戦えるのは、ミライ、利根、筑摩の3人だけだ。

「仕方ない…ここは僕たちで食い止めます!日向さんたちは、船を護衛して、急いで鎮守府へ向かってください!」

「…分かった!」

 そうは答えたものの、日向たちも、ミライたちが心配だったが、今はそうする他なかったーーー

 

 ーーー「発射!」

 スカイマスケッティのミサイルがアリゲラのコースを塞ぎ、利根、筑摩の砲撃がそこを攻撃する。

「よしっ!」

 しかし、今のアリゲラには深海棲艦の強力な装甲がついている。そう簡単に倒せるほどのダメージは与えられない。

「少シ当タッタカラッテ、調子ニ乗ルンジャネエ!」

 アリゲラは体を高速回転させ、同時にパルス孔から光線を連射。一瞬で広範囲に、そして三次元的に弾幕が形成される。それは筑摩を的確に捉え、回避しようと必死にあがくスカイマスケッティを掠める。

「ああああああっっ!」

「ぐわっ!武装システムダウン!」

「筑摩っ!?ミライ殿!?」

 利根は大破した筑摩をなんとか支える。意識はあるが朦朧としている。

「大丈夫じゃ、吾輩が守ってみせる…!」

 しかし、もはや彼女の心は限界だった。アリゲラの攻撃から逃れられない今の状況に、地獄の過去が重なる。そして、自分はまだ、壁を乗り越えられない…

「…ぐぅ…だ、駄目じゃぁ!

 やっぱり、吾輩は…!吾輩はぁ…!」

 無力感に、ついに涙が出てきた。自分が不甲斐ないせいで…負のスパイラルにはまった利根の涙は、とどまること無く溢れ続ける。

「ハハッ!貴様ラカラ片付ケテヤル!」

 アリゲラの目がこちらをロックオンした。絶望に染まった利根は、動くことすらできない…

「姉さん…!」

「すまん筑摩…!吾輩が…吾輩がダメなせいで…!やっぱり吾輩は…役立たずだったんじゃ…!」

 

「そんなことはない!!」

 

 声が響いた。ミライだった。海面に着水させたスカイマスケッティの上から、利根に呼びかける。

 

「利根さん!あなたは強い人です!

 あなたの持つ心の強さに、僕は幾度となく感動しました!

 だから!

 絶対に諦めないでください!

 勝利を、未来を信じる心を持ち続ける限り!

 

 不可能すら、可能にできるんです!」

 

「ミ…ライ…殿…!?」

 

「ホザケェッ!

 コイツラモ、貴様モ、そして逃ゲタアイツラモ、全員マトメテブッ殺シテヤル!」

「そんなことはさせない!」

 ミライはアリゲラに強く叫び、左腕を構える。すると、そこに燃え上がる炎のごとき赤のアイテム…メビウスブレスが現れた。

 

「利根さんは…みんなは…!

 

 僕が守るっっ!!!」

 ミライはメビウスブレス中央、ボール状のクリスタルサークルに右手をかざし、そして勢いよく擦るようにその手を振り下ろし、それを回転させた。そして、エネルギーのほとばしるメビウスブレスのついた左腕を、天に突き上げ、自身の真の名を叫ぶ!!

 

「メビウーーース!!」

 

 彼の身体は光の玉と化し、アリゲラに思い切りぶつかる。

「グワッ!?」

 アリゲラを吹っ飛ばし、そしてその光は利根たち2人を優しく包み込み、アリゲラと距離を置いた海上に退避させた。同時に、光の玉はだんだんと、巨人の形を成していく。

「ミライ…殿…?」

 利根が。

 筑摩が。

 アリゲラが。

 そして、遠くの日向たちが、避難艇に乗った第102泊地のメンバーも。

「あれは…!」

 立ち上がる巨人の姿に、目を奪われていた。

 

「大丈夫かい、利根さん」

 巨人は、優しく利根たちを見下ろす。

 時の流れを見つめるかのような、銀色の目。

 胸の中央には、体に埋め込まれたような菱形の青い灯が輝いている。

 銀色の体には赤色が走り、まさに無限の力を体現しているかのごとく。

 その巨人の名を、利根は知らない。

 でも自然とそれは、彼女の口から出ていた。

 

「…ウルトラマン、メビウス…!」




今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!

感想や評価もらえると励みになります、よろしくお願いしますm(_ _)m

ではまた次回!
利根の章も、クライマックス目前です!


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不死鳥の翼 前編

なんとなくTwitter始めました。
@bsclancer16845〇

〇に入れる数字は後書きに書いてあります。ゼロじゃないです。
多分滅多につぶやきませんが、良ければフォローお願いします。

あと、ウルトラマンの名前をタグに書いてると結構文字数占めちゃうのでまもなくあらすじの方に移します。ご了承ください。

長くなりました。いつも不定期&駄文ですみません。
本編どうぞ。


 ーーーウルトラマンメビウスは利根、筑摩の無事を確認し、アリゲラへ向き直る。立ち上がったアリゲラは、メビウスを大声で罵る。

「ヨクモ…!ヨクモ邪魔ヲシテクレタナ!許サンゾ貴様ァ!」

 しかしメビウスも一歩も引かない。

「それはこっちの台詞だ!

 海の平和を、みんなの笑顔を壊したお前を…絶対に許さない!」

 いつの間にか広がっていた、不穏な黒雲の下、両者が睨み合う。互いの視線の間に火花が散る。不思議な沈黙が訪れる。

 そして、先にこの状況を破ったのは…

 

「…フッ、上等ダ…!ハァッ!」

 目にも留まらぬ速さで上空へ飛び上がったアリゲラの方だった。

「待てっ!セヤッ!」

 メビウスも追って上空へ飛び上がる。

 利根たちはしばらく見ていることしか出来なかったが、我に返るとすぐ、避難艇の護衛をしている日向たちの元へ向かった。

「利根、筑摩!大丈夫か!?」

「筑摩は大破してしまったが、なんとか大丈夫じゃ。日向たち、それから蒼龍たちも大丈夫か?」

「こちらも中破はしているが、まだ何とか戦えるぞ」

「こっちも、大丈夫だよ…」

 しっかりと答える日向に対して、蒼龍はオドオドとしている。恐怖もあるだろうが、相手が利根である、ということも間違いなく要素としてある。

「利根さん、そ、その…」

「?」

「…あの時は…ごめんなさい…!利根さんが苦しんでいだのに、何も出来なぐでぇ…!」

 泣き崩れながら、飛龍は利根に言った。避難艇の中には、他にも涙を浮かべている者がちらほらと見える。その全員が、利根が在籍していた時から、この泊地にいた面々だった。

「皆、顔を上げてくれ」

 利根の声は優しかった。

「謝ることは無い。吾輩も、きっと同じだったはずじゃ。」

「で、でも…!」

「大丈夫じゃ。

 皆のことは必ず、吾輩たちが守ってみせる」

「利根さぁん…!」

 堪らず号泣する、第102泊地の面々。利根は彼女たちを慰めつつも、心配そうに空を見上げる。

 先程から、泣き声の中に激しい衝撃音が響いている。分厚い黒雲の中から、時々瞬間的に、花火のように光が漏れ出てくる。

「メビウス…」ーーー

 

 ーーー上空にて、ウルトラマンメビウスとアリゲラの戦いは、壮絶さを増していた。

 アリゲラは両腕先の鋭い刃を、二刀流使いのようにメビウスへと向けてくる。空中という環境上、メビウスも避ける場所は困らないが、約3分という地球上での自分の活動限界時間を考えると、持久戦には持ち込めない。ならばこちらも向かっていくのみである。

「シュワッ!」

 メビウスは手刀に自身のエネルギーを込めて発生させる光の短剣、ライトニングスラッシャーでアリゲラの刃に応戦する。黒光りするアリゲラの刃と、眩く輝くメビウスの手刀がぶつかり合う度に、鋭音とともに火花が散る。もはや常人には何が起きているのか分からないほどのスピードまで達している。

「セヤァッ!」

 一瞬の隙を突き、ライトニングスラッシャーがアリゲラの腹部を切り裂く!が…

「ソンナモノガ…通用スルカァ!」

「何!?」

 なんと、アリゲラの堅固な装甲は、かつての個体の防御力とは桁違いで、ライトニングスラッシャーでさえ完全にダメージを与えられないほどだったのだ!

「墜チロォォォオオオオ!!」

 アリゲラはメビウスを尻尾からの光弾で後ろへ吹っ飛ばすと、即座にその上へと回り込み、思い切りメビウスに突っ込んだーーー

 

 ーーー「うわぁぁぁぁああ!」

 メビウスの叫び声、その直後聞こえる荒々しい着水音に思わず振り向く利根たち。

「メビウス!?」

 叫んだ時、もう利根は全速力でその方に向かっていった。

「姉さん!?」

「「利根さん!?」」

 筑摩、そして蒼龍に飛龍の声も、今の彼女には聞こえていない。

「メビウス…メビウス!…ミライ…!!

 待っておれ、今助けるのじゃ…!」

 距離が近づくにつれ、利根を阻むかのように高くなる波。時折、メビウスの声やアリゲラの咆哮が聞こえてくる。

「ミライ、ミライ…!」

 完全に呼び捨てしていることにも気づかないほど、今の利根は必死だった。

「ミライ…はっ…!?」

 そこには。

 アリゲラに空中から突き落とされ、馬乗りにされているウルトラマンメビウス。アリゲラの両腕の刃や砲撃を辛うじてなんとか防いでいるものの、防戦一方の戦いになっている。「ミライを離すのじゃぁぁっ!」

 利根は可能な限りの早さで砲撃連射を行うが、装甲のせいでなかなかダメージを与えられない。

「忌々シイ虫ケラメ!死ネェッ!」

 鬱陶しく感じたアリゲラは、利根めがけて砲撃する!

「わっ、ひぃっ…ああぁぁぁ!」

 回避を試みるも完全には避けきれず、砲弾が利根を掠める。

「まだじゃ、まだ…!?」

 利根は続いての抵抗を試みるが、動きが止まってしまった。

 自分の砲台が、全てピンポイントで破壊されているではないか!

「…貴様、何ガアッタカハ知ランガ、カタパルトガ使エナイヨウダナァ?フッ、コレデモウ何モデキマイ!」

「…」

 利根は何も言えない。

「利根さん…!僕は大丈夫だ…!早く皆と逃げるんだ!」

 必死に避難を促すメビウス。そのカラータイマーは既に赤い光の点滅が始まっている。もう、時間が無い。

「くぅ…くそぉっ…!」

 膝から崩れ落ちる利根。しかし…

 

「しゃんとしろ!

 諦めるにはまだはえぇぞ!」

「えっ…」

 どこからか聞こえる激励の声。だが辺りには自分、メビウス、アリゲラしかいない。

「こ、これは…」

「あんたのカタパルト、見てみな」

 声のままにカタパルトを見ると…

「まさか…?」

 発艦準備体制に入っている戦闘機が3機、カタパルトの上にあった。もちろん利根自身覚えはない。

「この中から…だ、誰なのじゃ?」

「俺はリュウ。CREW GUYSの隊長だ」

「CREW GUYS…!?」ーーー

 

 ーーー「かつてあった防衛チーム・CREW GUYSの戦闘機、ガンウィンガー、ガンローダー、ガンブースターです。」

「きっと、この翼が君を助けてくれますから」ーーー

 

 

 ーーー気付けば、利根は不思議な光の中にいた。目の前には一人の男性。GUYSと書かれたエンブレムの付いた、隊員服のようなものを着ている。

「ここは…」

「あそこじゃ危険すぎるからな。少しここに場所を移すことにした」

「そ、そうか…。」

 利根はもちろん知らないが、リュウは今憲兵養成学校の校長を務めている。もちろんこの場にいるはずもないし、何よりこの不思議な空間を、普通の人間である彼が開けるわけがないのだ。

「ここは…?リュウ殿は、一体何者なんじゃ?」

「うーん…強いて言うなら…生霊のような感じなのか…。ここは俺たちが作り出した即席の異空間で、外の世界とは時間の流れがかなり違っていて…って、こうしてる場合じゃねえ!」

 リュウは利根に近づく。

「あんたが利根だろ?頼みは一つだ。俺たちを使ってほしい。」

「つまり…?」

「あんたが装備している俺達の翼を、使ってほしいってことだ」

 利根は理解した。あの艦載機を使ってくれとリュウは言っているのだ。しかし…

 

「吾輩は…無理じゃ…」

 俯く利根。しかしリュウは言葉を止めない。

「あんたが経てきたことは知ってるさ。今も現在進行形で、そのトラウマに苦しめられているんだろ?」

「ああ…どうしても一歩が踏み出せないのじゃ…」

 

「だったら大丈夫よ」

 どこからか、一人の女性が現れた。リュウと同じような服装をしている。

「私はマリナ。

 利根さん、今のあなたになら聞こえるはずよ?あなたの勝利を信じている、仲間の声が。」

「仲間の、声…?」

 

「そうだ。」

 また一人の男性が現れた。

「俺はジョージ。

 利根さん、目をそらしてはいけない。君が守りたい者の未来は、君自身に託されているんだ。」

「守りたい者の、未来…」

 利根は自然に思い浮かべられた。筑摩が、日向たちが、第102泊地の面々が、自分に、メビウスに、力いっぱいの声援を送る姿が。

 

「そうですよ!」

 またいつの間にか、女性一人が加わる。

「コノミって言います。

 利根さん、あなたがいるからこそ、頑張っているからこそ、ミライ君も、仲間のみんなも全力で戦えるんです。あなたになら、きっと分かるはずですよ。」

「吾輩になら…」

 

「はい!」

 快活な男性の声が響く。

「はじめまして、テッペイです。

 利根さん。僕達が、あなたのことを信じるみんなが付いています。今のあなたになら、きっと、ミライ君を…僕達の仲間を、共に救えるはずです!」

 

 顔を上げた利根に、再びリュウが語りかける。

「ウルトラマンメビウスも…ミライも前、俺たちの仲間だった。

 その時も、俺たちは何度も壁にぶつかったり、倒れたりした。今のあんたみたいに、諦めそうになったこともあった。

 それでも俺たちは最後まで戦えた。」

 利根の肩に、リュウが手を置く。

「信じ合える仲間がいたから。

 絆は途切れないから。

 どんな希望だって、積み上げられたから。

 それに…俺たちに叶えられない未来はないからだ。」

「リュウ殿…」

「あんたも同じだぜ、利根さん。

 今なら…今のあんたなら、きっと一歩を踏み出せる!

 背中なら何度だって押してやる!未来を、俺たちを信じろ!」

 リュウの言葉が利根の心を強く動かした。

「もし…もし変われるなら…!」

 利根の瞳は、いつのまにか希望の光を取り戻していた。

「ウルトラマンメビウスを…ミライを助ける!

 皆!力を貸してくれ!」ーーー

 

 ーーーついに決心した利根。

 その瞬間、不思議な光の空間が解け、目の前に再び、先程の戦いの光景が戻る。メビウスにとって苦しい展開は変わっていない。しかし、そんな状況なんてすぐに変えてやる、そう思えるほど今の利根は強くなっていた。

 もう何も怖くない。

 ずっと超えられなかった壁を、乗り越えられたのだから。

 

 メビウスを押さえつけているアリゲラに向け、利根はゆっくりとカタパルトを構えた。

 そして、そこにある3機の戦闘機、そのコックピットの彼ら…

 ガンウィンガーのリュウに。

 ガンローダーのジョージ、コノミに。

 ガンブースターのマリナ、テッペイに。

 言うべき言葉は、彼らと話したせいか、はたまた不思議な空間にいたせいか…もう、頭に浮かんでいた。

 

「全機発艦!GUYS・Sarry-Go!!!」

「「「「「G・I・G!!」」」」」

 

 カタパルトが作動し、三つの翼が今、大空に飛び立っていったーーー




今回も読んでいただきありがとうございました!

評価や感想、お気に入り登録をいただけると、励みになります。良ければお願いします。

また次回もよろしくお願いします!

前書きの続き
〇には6を入れてください


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不死鳥の翼 後編

UAが5000を突破してました、ありがとうございます。

また、いくつかリア友からご指摘を頂いたので、後で活動報告にあげ、手直しを進めていく予定です。
大幅な内容チェンジはしません。
よろしくお願いしますm(_ _)m


 ーーー「行けぇぇぇぇ!」

 利根の魂の叫びと共に、加速していく戦闘機。唸るジェット音が、メビウスの耳にも届く。

「はっ…この音は!」

「ム!?」

 メビウスにつられてアリゲラが気づいた時は、もう遅かった。

「くらえっ!ウィングレットブラスター!」

「「バリアブルパルサー!」」

「「アルタードブレイザー!」」

 ガンウィンガー、ガンローダー、ガンブースターの主力レーザー武装が一斉に命中する。思わぬ不意打ちを受けたアリゲラ、装甲があるにしろ完全には防ぎきれない。一方のメビウスは、自身のすぐ側を飛ぶ馴染みのある戦闘機、そのコックピットにいる者達を完全に把握していた。

「リュウさん、なぜ…!?それにジョージさんにマリナさん、コノミさんにテッペイさんまで!」

 仲間達との再会の感動の念、それと同時になぜ、艦娘の艦載機サイズになっても彼らの姿がそこにあるのかという疑問の念が浮かぶ。一瞬パニックに近い状態にもなりかけたメビウス。しかしそれを正気に戻したのは、リュウの激しい喝だった。

 

「バカヤロー!!何てヘタクソな戦い方だ!周りを見てみやがれ!」

 

 反射的に周りを見回すメビウス。そこには、強い瞳でこちらを見ている、利根の姿。メビウスはなにがあったかを一瞬で理解した。

「利根さん…!」

 

「お前の大切な利根が、勇気を振り絞って立ち上がってるんだぞ!それでもウルトラマンかよ!利根の気持ちに、応えて見せろぉっ!!」

 

 その喝が、そして利根の成長が、メビウスの心に火をつけた!

「ハァァァァァ…デヤァッッ!!」

 振り降ろされた両腕の刃を腕でブロック、そして腹の下に足を回し、渾身の力でアリゲラを吹っ飛ばす!

「ノワァァァ!?」

 その反動でメビウスはバク転、一瞬で体制を立て直した。アリゲラは対照的に派手に水面に叩きつけられたが、すぐに立ち上がる。

「小癪ナァ…!ダガ、少シバカリ手数ガ増エヨウト、コノ私に勝ツコトナドデキナイ!」

 しかし、そんな罵倒などメビウスには無意味だ。

「最後まで諦めず…不可能を可能にする!

 それが…ウルトラマンだっ!」

 メビウスはアリゲラとの間合いを一気に詰め、高くジャンプ!そして急降下し、飛び蹴りを仕掛けた!

 しかしアリゲラは何もしない。その自慢の装甲で受けきるつもりだ!

 

 ズガンッッッ!!

 

 当たりに響く、足と装甲がぶつかった音。アリゲラは一歩も動いておらず、メビウスも蹴った姿勢のまま止まっている。

「メビウスのキックも通用せんのか!?」

「いや、すごいのはここからだ!」

 そう叫ぶリュウ。まさに、その言葉通りだった。

「…ハァァァァァアアア!!」

 何と受け止められたその姿勢のまま、メビウスは超高速回転!摩擦熱が装甲を痛めつけ、炎が上がる。

「ナ、ナンダトォ!?」

 その炎はアリゲラを焼き、そして包んだメビウスを更なる姿へと進化させる!着地したメビウスの体には、GUYSの象徴である、黄金で縁取られた真紅とのファイヤーシンボルが描かれていた!

 これこそ、仲間達の思いを力に変えて手に入れた姿・バーニングブレイブだ!

「セヤッ!トアッ!」

 メビウスの拳が、アリゲラをじりじりと追い詰めていく!

「ミライ…!

 リュウ殿、吾輩たちも!」

「もちろんだ!みんな!」

 さあ今度はリュウたち、そして利根の番だ。もう利根の中に、次の言葉は出来上がっている!

 

「メテオール・解禁!」

「G・I・G!

 パーミッション・トゥ・シフト・マニューバ!!」

 メテオール、それは過去のウルトラマンを含めた宇宙人の兵器や技術を応用させたオーバーテクノロジー、GUYSの切り札だ!

 メテオールを解禁したGUYSの翼たちが変形し、超絶的スピードでアリゲラに迫る!アリゲラも流石に危ないと思ったのか、その小型砲台をガトリングランチャーのごとく撃ちまくるが…

 

「そんなの無駄よ!スパイラルウォール!」

 マリナとテッペイの乗るガンブースターが、高速回転して機体の周囲に球状のバリアを展開!パワーアップした機動力を活用して、可能な限りの砲弾を次々と弾いていく。さらにそのうちの殆どは、アリゲラへと跳ね返されて逆にダメージを与え返す。機体が小さくなろうが、ウルトラメカの能力は本物と比べても遜色ないのだ!

 飛び去って行くガンブースターに変わって、今度はジョージ、コノミの乗るガンローダーがやって来た。

「オノレ、チョコマカトォ!」

 アリゲラは、今度はその腕の刃を無茶苦茶に振り回しながらガンローダーに急接近。そして…

「オラァッッ!」

 刃がガンローダーを切り裂いてしまった!

 しかし、ここでアリゲラは奇妙なことに気づく。

「ナッ…!?手応エガ…ナイ…ダト…!?」

 さらにそのガンブースターは、炎上も爆発もせず、空中で霧のように消えてしまったではないか。混乱するアリゲラ。はっと気づくと、なんと自分の背後をガンローダーに取られていた!

 

「ハハッ!今のは残像だ!」

 声高らかに言うジョージ。その言葉は正真正銘、事実である。メテオールを使用し、マニューバモードとなっているGUYSのメカは、それこそ宇宙人のUFOのように、航空力学を無視して、分身のごとき動き、ファンタム・アビエイションが可能になるのだ!そしてガンローダーは、その底面をアリゲラに向ける。

「アディオス…!ブリンガーファン・ターンオン!」

 次の瞬間、底面に隠されていたファンが起動し、二筋の巨大な竜巻が発生する!機体が小さい分、その竜巻は細いが、それでもアリゲラを投げ飛ばすには十分な威力があった。

「ヴワァッ!」

 叩きつけられるアリゲラに、さらに垂直降下でリュウの乗るガンウィンガーが迫る。

「リュウ殿、今だっ!」

「G・I・G!くらいやがれ!

 スペシウム弾頭弾・ファイア!」

 ガンウィンガーの主翼下部、展開された箱の中から、左右3発ずつ、合計6発ものミサイルが斉射された。しかもただのミサイルではなく、ウルトラマンの代名詞・スペシウム光線と同じ組成となっており、破壊力は特に優れている!

 6発のミサイルは、的確かつ集中的に当てれば怪獣1体を倒すことも出来るが、リュウは敢えて分散させた。全身武器のアリゲラの装備を、できるだけ多く壊すために。

「ギャァァァアアア!」

 肩のパルス孔、さらに身体中の小型砲台が、次々と爆ぜていく。しかしアリゲラは仰向けから素早く起き上がると、尻尾のみをガンウィンガーに向けた。追尾光弾で撃ち落とす気だ!しかしウルトラマンメビウスは見逃さない!

 

「ハッ!テヤァァッッ!!」

 素早くアリゲラに接近、すれ違いざまに、メビウスブレスから伸びる光の剣・メビュームブレードで根元からその尻尾を切断した!

「サンキューミライ、助かったぜ!」

「ミライ、ナイスプレーじゃ!」

 アリゲラの深海棲艦の瞳は、追い詰められたことでさらに恨みの光を増している。

「オノレェ、オノレェェ!

 コウナッタラ仕方ガナイ…貴様ラノ仲間ドモカラ、先ニアノ世ヘ送ッテヤル!!」

 アリゲラは加速し、避難艇の方へ飛んでいく。

「テヤッ!」

 逃がすまいと追いかけるメビウス。バーニングブレイブとなったメビウスは、その身体能力も大幅に上がっている。アリゲラの後ろにぴったりと付き、怒りの一撃を食らわす!

「ハァァァァァ…ハァッ!!」

 出た!エネルギーを巨大な火球に変え放つ、バーニングブレイブの必殺技、メビュームバーストだ!

「グワァァァァアア!!」

 超スピードで飛んでいるだけあり、完全に仕留められず、アリゲラを掠めるだけとなったが、その威力は凄まじかった。装甲が全て焼け落ち、ほとんど以前の個体と同じものとなった。そして、利根たちがやって来た!

「今です、皆さん!」

 メビウスがまだまだ抵抗するアリゲラを抑えながら言う。

「行くぞみんな!」

 利根の腕が、前に高々と伸びる!不死鳥とともに戦う、凛々しき戦士は叫んだ!

 

「ガンフェニックスストライカー・バインドアップ!!」

「「「「「G・I・G!」」」」」

 

 先頭を飛んでいたガンウィンガーの真後ろにガンローダーがしっかりと合わせ、そして合体!さらにその上からはガンブースターが!ガンローダー部分の上にその機体を載せて、今ここに一つの大きな不死鳥が完成した!

 その名は、ガンフェニックスストライカー!!

「ヴォォァァアアア!」

 支離滅裂に叫びつつ暴れるアリゲラ。しかしでたらめな攻撃などメビウスに全く掠りもせず、逆に自身に隙を作ってしまった。

「テヤッ!」

 アリゲラの体には装甲を失ってもなお強靭な外骨格があったが、それすらも今、メビウスパンチでひびが入る!

「とどめだ!利根さんっ!」

 動けなくなったアリゲラから離れるメビウス。ガンフェニックスストライカーが迫る!

「一緒に頼むぜ!」

「わかっておる!

 この一撃、食らうがいい!」

 

「「「「「「インビジブルフェニックス・パワーマキシマム!!!!!!!」」」」」」

 

「行けぇぇぇええええ!!!!」

 今、ガンフェニックスストライカーのシルエット状のエネルギー波が放たれ、ひびの入ったアリゲラの体を貫通した!

 

「バカナ…コノ私ガ…!

 コノ私ガアアアアアアアアアアアア!!」

 

 アリゲラの体内から光が漏れだし、次の瞬間、その体は爆散して粉々に砕け散った。アリゲラは成長した利根、そしてウルトラマンメビウスをはじめとする頼もしい仲間達の前に、敗れ去ったのであったーーー




今回も読んでいただきありがとうございました!

感想や評価貰えると励みになるので…よろしくお願いしますm(_ _)m

ではまた。


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心からのありがとう

色々と精神面でのトラブル等あり、更新遅れました。
すみませんm(_ _)m

不定期ですが、これからも読んでもらえると嬉しいです。
では本編。
利根の章、クライマックス。


 ーーー「やった…やったのじゃ…

 勝ったのじゃぁぁああああ!!」

 腕を天に突き上げ、喜びを爆発させる利根。その目からは嬉し涙が溢れ、何度もガッツポーズを繰り返す。

「利根さん…本当にありがとう。そして、よく頑張ったね」

 ウルトラマンメビウスがゆっくりと、利根の横に降り立った。

「ミライ…

 …お礼を言うのはこちらの方なのじゃ。ミライがいなかったら、きっと吾輩はまだ立ち上がれていなかった…感謝してもしきれん…本当に、本当にありがとう…!」

 しかし、とどまることを知らないその感謝の気持ちは、利根の心の別側面の成長もさせていて。

 

「色々ミライと過ごしているうちに…ミライのことが、すごく愛しくなってしまったのじゃ…。

 ミライ、大好きじゃ!吾輩はミライが、大好き!!」

「あ、ありがとうございます利根さ………ん!?!?!?」

 

 …ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコ!!!!

 メビウスのカラータイマーの点滅が、点滅に見えないくらいのスピードになる。

「あっえっ、いや、あの…えええ!?」

 いくらかつて地球で戦い、その中で人間達と関わりを深めたとはいえ、ウルトラマンメビウスは地球人ではない。M78星雲からやってきた異星人だ。まだ若いこともあり、メビウスはまだほかの多くの兄たちに比べて、天然というか、いい意味でも悪い意味でも純粋すぎるのである。

「す、好き…あ、あの、その…えっ、ちょ、その…」

 かつて助けた地球人から、頬にキスを受けたことはあった。しかし、今は面と向かって好きと言われているのだ。

 メビウス…ミライは、「恋」を知った。セブンやジャックなど、兄たちがかつて話していた地球人とのつかの間の恋模様(惚気とか言ってはいけない)、その中の気持ちそれを今、彼は身をもって知った。

 とはいえ、先述のように純粋すぎるミライには、どうするべきかなど分かるはずもない。しかし、何か言葉を返さないといけないのは分かる。点滅しまくるカラータイマー、パニックになる脳内。なんとか腹を括ったメビウスは…

 

「あ、ありがとうございます!!

 

 ぼ、僕も、大好きです!!!」

 

 言い終えたメビウスは、照れ隠しのように、空高く飛び去って行った。

「ミライ…」

 そして利根もまた我に返り、先程の言葉が反復される。

「………んぬぉぁぁああああああああああああああああ!!!」

 海の上、悶絶の叫び声をあげる利根。

「ははっ、初心だな」

「ぬぐぐ…」

 リュウにも突っ込まれ、しばらく顔の赤みは引かなかったーーー

 

 ーーーその後。

 大破した筑摩を支え、仲間達と避難艇を護衛しつつ行く利根。飛行システムの損傷は少なかったため、スカイマスケッティに乗り、同じく護衛を務めるミライ。結局第35鎮守府に着くまで、2人は通信の言葉さえ交わせなかったーーー

 

 ーーー「皆!大丈夫か?」

 調査艦隊帰還の報を受け、俺は急いで響とともに埠頭へと向かった。今か今かと心は急ぐ。やがて…

 

「見えた!おーい、おーーい!!」

「みんなー!大丈夫ー!?」

 全員見えた。スカイマスケッティも見える。損傷はあるものの、全員生きて帰って来た!

「提督ー!帰ってきたのじゃー!!」

 そして、その先頭を行く、とても凛々しい艦娘…利根。何があったかなどわからないが、きっと、自分の壁を乗り越えられたのだと分かった。間違いない。

 艦隊が港に着いた。既に後ろには、大本営からの特別救護班が駆けつけて待機している。

 すぐに利根たちを入渠させ、スカイマスケッティは工廠に送り、そして第102泊地のメンバーは救護班に預けた。

 

 大本営にもこの件を報告、泊地修復までの当分の期間は、提督を含め、泊地のメンバーは明日から大本営本部で預かるとの事だ。あと、長官から膨大な量の報告書も頼まれたが。

「…わ、分かりました」

「…すまないね、だがよろしく頼む…」

 少し申し訳なさそうな長官の声。ただ、書ける人が自分しかいないのでしょうがない。

「響、しばらく残業が続くぞ」

「…うん」ーーー

 

 ーーーその夜。

「利根、さん…?」

「少し、いいかな…?」

 二人の艦娘が利根の部屋を訪れた。第102泊地の蒼龍と飛龍である。

「どうぞなのじゃ。今、お茶を入れるぞ」

 かなり遠慮した様子でいる二人に、程よく温かいお茶を出して机に座らせる。

「それで、どうしたのじゃ?」

「それは…」

「その…」

 

「「利根さん、以前は本当にごめんなさい…!」」

 

 蒼龍と飛龍は、泊地にいた時から、いつかずっと利根に謝りたかった。

 自分たちが歯がゆかった。

 苦しんでいる利根に何も出来なかったことが、本当に申し訳なかった。

 なのに、今回こうして助けてくれた。

 騒動の中でも謝ったが、それでもこうしてそれを脱した今、伝えられずにはいられなかった。

 冷たい言葉を浴びせられることも、覚悟の上でここに来た。

 ごめんなさい、その言葉が言いたくて。

 

「…先程も言っただろう?

 謝る事はない」

「「え…」」

 

 驚くほど答えは意外だった。

 落ち着いた今、きっと利根は自分たちを許してはくれないだろう。

 そればかり思っていた。

「なんで…?」

「なんで許してくれるんですか…私達、何も出来なかったのに…!」

 涙を流す二人、そして次の瞬間…

 

 ぎゅっ

 

 利根は二人を、優しく抱きしめた。

「もう大丈夫じゃ。二人が気に病むことはない。

 二人の気持ちはよく分かる。一歩が、なかなか踏み出せなかったんじゃな。

 …吾輩もそうじゃった。誰しも、初めはヒーローなんかじゃない。心には弱い部分があるからのぉ」

 

「でも今は、吾輩にはちゃんとした支えがある。

 信頼できる妹が、上官が、仲間がいる。

 守りたい人もいる。

 そして…お主たちも、吾輩の支えの一つ。

 ここまでこうして吾輩のことを思ってくれているのは、とても有難い。

 だから…もう大丈夫じゃ。

 本当に、本当にありがとう」

「と…利根さぁん…!」

「うわぁぁぁああああん!!」

 その後、しばらくの間二人は泣き続けたが、最後にはみんなで笑顔を交し合えた。

 微笑みをつなぐ、笑顔の連鎖の世界がそこにあったーーー

 

 ーーー二人が帰った後、利根は装備していた艦載機…ガンウィンガー、ガンローダー、ガンブースターを机の上に置いた。まだ、中に彼らの気配がある。

「…今日は本当にありがとう。皆のおかげで、吾輩も立ち上がれた」

「礼はいらねえよ。俺達は背中を少し押しただけさ。本当に頑張ったのは、あんたさ、利根」

「みんな…」

 自然と笑顔が零れる。しかし、利根は気づいた。

「皆…薄くなってないか?」

「えっ?ああ、多分、この姿を保っているのが限界にきたみてぇだな」

「えっ」

「さっきも言っただろ?俺達は、今この世界に生きる俺達がGUYSだった頃の魂が、具現化したようなものさ。生霊というか、付喪神というようなものだな。葛藤するあんたに、俺達の思いが反応したんだろう」

「そうか、だから皆が現れたのか…」

「まあただ、永遠に保てる訳じゃないからな。こうしてまた、しばらくは消えてしまう」

「…」

「でもな、この機体に染み付いた思いは消えない。あんたの成長の証も、決して消えない。」

「皆…」

「いつでもここから、見守ってるからな」

 少しずつ、リュウたちの姿が消え始めた。もう一分もないだろう。

「皆…本当にありがとう…!」

「ははっ、大丈夫さ。

 それと…」

 光の粒となって、霧散していくリュウの最後の言葉が響いた。

 

「ミライのこと、よろしく頼むぜ」

 

 利根以外、今度こそ部屋には誰もいなくなった。利根は感謝を示すため、機体を自分で手入れしようと、工廠に道具を取りに行こうとした。

 すると…

 

「利根さん?いま…すか?」

 愛しい人の声。利根の心が、不思議な温かみに包まれる。

「ミライ…吾輩はおるぞ」

「…失礼します」

 まだ少し顔が赤いミライが入ってくる。

 机越しに向かい合う二人。しばらく沈黙が続く。

 先に動いたのは…

 

「利根さん」

 ミライの方だった。

 

「僕は…あなたも知っている通り、M78星雲から来た宇宙人です。地球人から見たら異星人ですし、そして永遠にこの星にいられるわけでもありません。

 

 それでもいいなら…短い間でもいいなら…

 

 僕と、その…」

 

 ぎゅっ!

 

「!?!?!?!?!?」

「ミライ…ありがとう!本当にありがとう!」

 利根は、ミライが言い終えないうちにその体に抱きついた。

「短い間でもいい!

 吾輩でいいなら…ミライと…ミライと一緒にいたい!!」

「利根さん…!」

 ミライの手が、利根の肩にかかる。二人は互いの体を強く抱きしめ合った。そして、ひとしきりした所で、お互いどこか心地よく赤い顔を見合わせる。

 

「…」

「…」

 自然と、利根は部屋の灯を消して、ミライは窓のカーテンを開いた。

 窓から月明かりが差し込む中、二人は目を閉じ、ゆっくりと顔を近づけーーー

 

 ーーー翌日

 妙に赤い顔の利根、ミライさん。他、調査艦隊として出向いたメンバーとともに、第102泊地の皆を見送る時が来た。

 何があったかは知らないが、昨夜きっと、利根と彼女たちの間のわだかまりが消えたのだろう。蒼龍と飛龍が、隣同士の利根とミライを口笛で冷やかしている。

 やがて、専用のバスが到着し、遠くなっていく彼女たちの姿。見えなくなるまでいつまでも、全員で手を振り続けた。

 こうして、一連の利根のことも、そして第102泊地の事件も全て…

 

 …解決してない!

 報告書が残ってる!まだこんなに!!

「司令官…大丈夫かい?」

「ああ…さすがに昨日出撃した利根たちや、憲兵の仕事もあるミライさんに頼るわけにもいかないからな…大淀も大淀で別の書類をしてるし」

 響が時々おにぎりなどを差し入れてくれるおかげで、効率はいい。だが、量が多すぎる。

 その日の夜、ヒトキュウマルマルにはだいぶ終わったにしろ…

 

「ここをどう書くか…」

 利根曰く、かつてのGUYSの仲間が艦載機の中に現れて、自分を助けて怪獣を倒したそうだが、これを報告書に書き下ろすとなると…どう書いていいかわからない。傍から見れば色々と熱くなれるかもしれないが、俺の頭が熱くなりすぎてオーバーヒートしそうだ。

 

 こうなったら仕方が無い。

「ええい、ままよぉっ!」

 俺は電話をかけた。長官に直接。

「こちら大本営極東支部」

 聞きなれた、長官の優しい声。

「こちら第35鎮守府、夜分遅くにすみません。実は…」

 事情を正直かつ手短に話す。

「…という訳で、どうすれば良いのか…」

 対して、電話口から帰ってきた答えは。

 

「そういうことか。

 なら、その件はこちらに任せてくれ」

 …え?

「あ、え、いやしかし…」

「遠慮はしないで欲しい。こちらで上手く処理しておくさ」

「は、はぁ…

 あ、ありがとうございます。」

 

 その後、もう少し長官と話して受話器を置く。

「響」

「?」

「たった今仕事が終わった」

「え?

 でもまだ、ここの部分…」

「長官から直々に、任せてほしいと言われた…」

「えぇ…?」

 気遣いはありがたいが。同時に少しの間、この事態に俺達は困惑したーーー

 

 ーーー大本営極東支部

「ふぅ」

 第35鎮守府との通話を終え、長官は再びいつもの仕事へと戻る。刻刻と変化する状況に素早く対応するため、こんな夜遅くまでの仕事も珍しくない。

「…懐かしいな」

 先程の電話の内容を思い出し、彼はそう呟いた。言葉では簡単に言い表せないほど、奇妙な現象が起き、艦載機の中に小さな人が現れて、ウルトラマンメビウスと共に怪獣と戦ったという。

 しかし、それを聞いたからこそ、彼はその部分の報告書を任せてほしいと言ったのであった。

 

「長官。エスプレッソのお代わりをどうぞ。」

「ああ、ありがとう」

「あまりご無理をなさらぬよう…」

 支部のスタッフの渡したエスプレッソが、ほんのりと湯気をたてている。好物のそれを一口飲み、彼は微笑みを浮かべた。

 

 大本営極東支部長官、サコミズ・シンゴの仕事は、もう少しかかりそうだーーー

 

 ーーー数日後

「さて、今日来る彼女が、大本営からの療養依頼艦娘の最後の娘らしい。」

「それは…誰なんだい?」

 俺と響は、これまで同様、正面玄関前で彼女の到着を待つ。今回はミライさんも一緒だ。

 俺は書類を見直して、言った。

 

「千歳型軽空母の二番艦、千代田」




今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!

気軽に感想、評価もらえると嬉しいです、よろしくお願いしますm(_ _)m

ではまた。


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千代田の章
千代田の苦悩


ミライさん主人公の番外編でも作ってみようかな、と思っていたりする今日このごろ。

拙作をいつも読んでいただき感謝しております。
今回から千代田の章です。
では、本編どうぞ。


 ーーー「千代田さんか…何があったんだろう」

 近づいてきた大本営の車を見ながら、響が言った。

「これからの関わりの中で理解していくしかないな。

 さて、ご到着だ」

 車のドアが開き、スタッフに連れられて千代田が降りてくる。

「こんにちは、その…千代田です。…よろしく、お願いします」

 …やはり、挨拶にも元気がない。もちろん強要するつもりは無いが、過去のなんらかの理由で、彼女も壁があるのだろう。

「私が第35鎮守府の提督だ。こちらこそ、よろしく」

「秘書艦の響です」

「憲兵のヒビノ・ミライです。」

 軽く挨拶を済ませ、ミライさんに千代田の案内を任せた。その場に残る俺と響。

「…千歳は、いないのか」

「確かにね。パターンからしたら、絶対一緒に来るはずなのにな…。千代田さんは、千歳さんを強く慕う傾向があるからね。」

「…だが、もしかしたらそれこそが、彼女の心の影の部分を解くヒントかもしれない。いずれにしても、しっかり見守ってやらねばな」

 この時、俺はあくまでも勝手な推測のつもりでそれを言った。

 しかし、それは思わぬ形で、当たっていることを後に知ることになるーーー

 

 ーーー「ここが、千代田さんが今日から過ごす部屋です。

 何かあったら、周りの他の仲間や僕、提督さんにいつでも言ってください。」

「あ、ありがとうございます…」

 千代田に笑顔を向け、退出するミライ。ここまでの短い間でも、彼は千代田の異変に気づきつつあった。

「…千代田さん、コミュニケーションをとりたがらなかった。だけど、前の利根さんみたいに、みんなの姿を見て怯える、なんてことはなかったし…」

 あれこれと思考を巡らせつつ歩いていると…

 

「あ、憲兵さんこんにちは」

「やあ、ミライさん」

 ちょうど掃除をしている、レイと長門に出会った。

「二人とも、こんにちは。」

「千代田の案内か?」

「といったところです。」

「様子はどうでしたか…?」

 レイの問いに、ミライは「一応、あまり人に言わないでね」と前置きして、彼女の状況をありのままに話した。

「そうか…」

「まだよくわからないですけど、他の人とコミュニケーションをとりたがらないんですね…」

「僕と話している時も、終始怯えに近いような表情をしていました。」

「…近いような…?」

「…何かが、違うような気がして…」

「そうですか。一応私達も、注意深く彼女に気を配らないとですね。」ーーー

 

 ーーー翌日

 千代田は昨日、夕食のため食堂に訪れたが、結局誰とも話をしないで部屋に帰ってしまった。

 そして今朝の食堂でも、注文などといった最低限の言葉しか話さず、黙々と食事をしていた。もちろん一人で。

「また一人で食べてる…」

「そっとしておくべきか…だが、いつまでもそのままには出来ないからな…」

 俺は千代田に声をかけてみることにした。

「おはよう、千代田。よかったら、一緒に朝ごはんを食べないか?」

「…提督…響ちゃんと2人で食べれば?」

「僕も一緒に食べたいな、千代田さん」

 響の言葉に、千代田は少し考えた後、結局了承してくれた。

「お邪魔します、っと。」

「いただきます」

 しかし、そこからなかなか話は進まず、結局何の進展もなく終わってしまった。

「ごちそうさま」

「…おう」

「またね」

 響がさり気なくまたの機会を作ろうとするも、彼女は一礼だけして去っていった。

「どうするか」

「どうしよう…これじゃ埒が開かないね…」ーーー

 

 ーーー千代田個人部屋

 朝食を食べ終えた彼女。

 何をするでもなく、ただベッドに突っ伏していた。

 頭の中をめぐるのは、過去の後悔。そしてそれは、彼女を自己嫌悪のスパイラルへと誘う。

「千歳お姉…ごめんね…今、どこにいるの…」

 負の念は心に収まらず、言葉にも出てきた。それでも、彼女の心は決して晴れない。

 

「千代田、いるか?」

「千代田さん?」

 ふと、ドアの外からの声。千代田は恐る恐る、といった感じでドアを開けた。

「…何でしょう?」

 そこに居たのは、サイズ違いでお揃いの割烹着を着た、長門とレイだった。ちなみにレイの件は、大本営にて千代田も聞いたことがあり、あまり驚かない。

「休んでいたところすまない。布団とかの交換に来た」

「ちょっとだけ、お邪魔しますね。」

「…どうぞ」

 だいぶこの鎮守府に馴染んできたレイ。用務員としての仕事も、すっかり板についてきた。長門と二人で布団、枕、シーツなどを回収、即座に洗いたてのものへと交換する。

「ありがとうございます、お邪魔しました」

「なんかあったら言ってくれ。よっこらしょ!」

 布団などを持ち上げ、千代田の部屋から出た二人は、入渠場近くの洗濯ゾーンへせっせと歩く。

「…やはり、何も話がなかったな」

「ですね…ん?これって…!」

 レイが何かに気づいた。

「どうした?」

「シーツが濡れてる…。多分これ、涙ですよ!」

「千代田のやつ…だめだ、放ってはおけない。提督たちに知らせよう」ーーー

 

 ーーー執務室

「…そうか。」

「まだ何も彼女のことは知らないが、唯一言えるのは相当の苦しみを抱えている事だ。ここは一刻でも早く話を聞く必要があると思う」

「私も長門さんに同意です。このまま見過ごすわけにはいきません」

「よし、分かった。響」

「ん」

「千代田の部屋に行くぞ」ーーー

 

 ーーー再び 千代田個人部屋

「千代田?すまないが、少し話をしたい」

「…提督?」

 千代田がドアを開けた。若干驚いている。

 まあ、俺の他に響、長門にレイまでついて来ているのだからしょうがない。ごめん。

「邪魔するぞ」

「うん」

 机の周りに五人が腰掛ける。

「…千代田。単刀直入に聞くが…君のことを知りたいんだ」

「………」

「教えて欲しい。君に過去、何があったのかを。」

「…そうだよね。

 どうせ、教えなきゃ、だよね…」

「すまない、辛いことだろうが…俺達もそばにいるから」

「分かった、あのね…」

 

「すみません、提督?ここにいますよね?」

 千代田が話をしだそうとしたタイミングで、ちょうど大淀が入ってきた。

「…その…なんか、ごめんなさい。

 大本営極東支部の方から、提督に電話です」

「俺にか?分かった。

 悪い、ちょっと抜けることになる。

 千代田のことは…頼む」

 響が頷いてくれた。きっと、千代田の件に関しては上手くやってくれるだろう。俺は彼女たちを信じ、執務室へ向かったーーー

 

 ーーー「すまなかったね、突然。」

「いえ。それで、なんの御用でしょう?」

 電話は長官からだった。少し緊張する。

「レイ君の件についてのことだ。」

「…!」

「一応こちらとしても、レイ君のことは心配でね…。今度そっちの鎮守府に、調査員を一人、派遣したいんだが。」

 俺は気づかれないよう、唾を飲んだ。そして言葉を返す。

「あの、調査って…?」

「心配する気持ちもわかるが、大丈夫だ。派遣予定の人はとても優しくて、こういったことに理解があり、経験も豊富な方なんだ。もちろん内容も、カウンセリングが中心で、決して拷問じみたことはない。」

「そうですか。ならよかったです、すみません」

「いやいや。できるだけ早く派遣させたかったのだが、あいにく経歴上人気でね」

「一体、どのような方なんですか?」

 心配はなくなり、むしろ興味の念がわく。

「そうだな…」

 電話の向こうで、長官が一呼吸おいたのが伝わる。

「君はもちろん知っているね?

 

 かつて活躍した、怪獣保護を目的としたチーム。チームEYESのことを」ーーー

 

 ーーーついつい長電話になってしまった。響たちとは、話を終えたのだろう、こちらと廊下で合流する形となった。

「みんな、長くなってしまった。それで、千代田は?」

「大丈夫、話は済んだよ。ただ、やっぱり少し辛そうだったから、今は部屋で休んでる」

「それで提督、お前の方はどうだったのか?」

「そうだな。ここで話すのもあれだし、執務室へ場所を移そう。そこでお互い、情報交換だ」

 

 そして再び執務室にて。

 響たちが、千代田のことを俺に教えてくれたーーー

 

 ーーーかつて第15鎮守府に、千代田は姉の千歳とともに在籍していた。千代田が着任した時、すでに千歳は着任しており、そこの第一艦隊でエース級の活躍をしていた。

 同一の艦娘は基本的に性能は同じだが、たまに他より能力が高い個体が発見されることがある。今は第35鎮守府の明石もそれに当たり、そしてこの千歳もまさにそうだった。

「お姉、これから頑張るから、よろしくね!」

「あなたが来てくれて嬉しいわ、千代田。こちらこそ、一緒に頑張って、海の平和をまもっていきましょ!」

「うん!約束!」

「約束!」

 

 姉に追いつこうと、千代田は必死に日々の鍛錬を重ねた。

 しかし。

 なかなかその成果が出ず、練度がなかなか上がらない。出撃も、ほとんど中破以上の状態で帰ってくることが多かった。提督は優しい人だったから、別段責めることもなかったが、千代田を責めたのは、他でもない千代田自身だった。

 片や第一艦隊で活躍を続ける姉、一方の自分はいわゆる「落ちこぼれ」。そう思い込んだ彼女は、更に鍛錬に励むも、次第に心の闇がそれさえも妨害していった。

 無力感。劣等感。そんな感情が、いつしか彼女の心を支配していった。

 

 塞ぎ込みがちにな千代田の事が、同じ鎮守府の仲間として、そして姉として、千歳は心配だった。大丈夫?声をかける機会が増えた。初めのうちは、千代田もなんとか応答出来ていたのだが、次第にその声さえ聞けなくなった。

 そんなある日…

 

「千代田…あなた、本当に最近大丈夫?」

「…ほっといてよ」

「千代田…?私、あなたのことが心配なの、ね?だから…」

 

「うるさいっ!!」

「!!」

 

「お姉になんか、私の気持ちは分かるはずないよ!どうせ私なんか、お姉みたいにすごい人になれないもん!

 

 もういいから!どっか行ってっっ!!」

 

 ごめんね…そうとしか千歳は返せなかった。

 それから、二人は一切言葉を交わさなかった。いや、とても交わせなかった。

 そして、事件は起きてしまう。

 

「何!?千歳が行方不明!?本当か!?」

 言い争いの件から数日後、千歳は任務のため、第一艦隊のメンバーと海に出た。

 そして…千歳だけが行方不明になった。

 証言によると、突然任務中に冷たく濃い霧が立ち込め、気づいた時には千歳の姿が見えなくなっていたという。

 長時間の捜索も虚しく、彼女は消息不明扱いになってしまった。

 

「どっか行ってっっ!!」

 そんなことを、自分が言ってしまったから。

 もしあの時、言わなければ。

 もし、着任したときのように、お姉と仲良くいられたら。

 タラレバは彼女を極限まで追い詰め、彼女はその心に深い傷を負い、活動が出来なくなってしまったのだったーーー

 

 ーーー「そうか…千代田にそんな過去が…」

「千歳さんの行方不明事件は、数ヶ月前に起きたみたいだ。本当は、心の底では姉のことを強く慕う千代田さんだからこそ、心のダメージが大きかったんだろうね…」

「きっと彼女は、他人を傷つけないために、出来るだけ他人とのコミュニケーションを絶とうとしているのだろう。」

「でも一方で、千代田さんは救いを求めているのかも知れない…彼女を見ていて、何となくですけど、そんな風に感じるんです…。」

 長門とレイからの報告を受け、俺はまだ今なら救える余地がある、と考えた。

「そうだな…。とにかく、彼女を見守り、立ち直らせていくしかないな。」

「そうだね…ところで、司令官。

 司令官にかかってきたさっきの電話、あれはなんだったんだい?」

 おっと、千代田のことですっかり忘れかけていた、危ない危ない。

「そうだ。その件なんだが…」

 俺は先程の電話の内容を簡潔に伝えた。レイも最初こそビクビクしていたが、最後には安心して、調査に同意する意向を示してくれた。

「ちなみに司令官?

 その人って、どんな人なんだい?」

「ああ…

 元怪獣保護チーム・チームEYES隊員で、今は地球から遠く離れたジュランという惑星で、怪獣保護に当たっている人でね。

 

 春野ムサシさん、というそうだ」ーーー

 




というわけで今回も読んでいただきありがとうございました!

感想や評価、良ければ貰えると嬉しいです。

これからもよろしくお願いします!
ではまた次回!


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涙のあとは

だんだんと秋らしくなって来ました。
皆様体調を崩さないように…

では本編です。どうぞ。


 ーーー惑星ジュラン

「リドリアス、おはよう。今日の調子はどうだい?」

 身長48メートルの、人間とは比べ物にならないほど大きい、鳥のような怪獣…友好巨鳥リドリアスに話しかける一人の青年。

 彼こそ、春野ムサシだ。

「元気そうだね、よかったよかった。

 これからしばらく空けるけど、みんなと仲良くね」

 優しくその頭を撫でると、リドリアスは嬉しそうに目を細める。撫でた後、彼はリドリアスに手を振って、ジュランのスペースポート…つまり、惑星外への玄関口に向かう準備を整えた。

「ムサシ、気をつけてね」

「ありがとうアヤノ。ソラやみんなのこと、よろしくね」

「うん!」

 妻のアヤノに荷物を受け取り、ムサシはジュラン配属の宇宙航行機、テックスピナーKS-1に乗り込む。

「久しぶりの地球か…どうなっているかな」

 深海棲艦のことは、ムサシも知っている。しかし、それでもかつての仲間達は自分の夢を応援してくれた。今は艦娘という存在が現れ、少しづつ海域奪還も進んでいるという。

 希望に胸を膨らませ、ムサシはテックスピナーを離陸させたーーー

 

 ーーー春野ムサシ。

 彼は少年の頃、人生を変える出会いをした。

 優しい心をもつ、巨人との出会い。

 巨人の名は、ウルトラマンコスモス。

 傷ついた彼を救った少年ムサシは、その後コスモスと関わりを深めていった。

 大人になり、ムサシはある時思いがけず彼と再会を果たし、彼と一体化、そしてチームEYES、ウルトラマンコスモスとして地球の守りをすることとなる。

 どんな相手であっても、時に拳を、時には優しさを持って接し、本来大人しい怪獣は無闇に倒さず、一方で真の悪には勇敢に立ち向かった。

 地球の守りの中、ムサシ=コスモスはいくつもの壁に当たった。

 怪獣に憑依し凶暴化させる、光のウイルス・カオスヘッダー。

 さらに、怪獣保護という今までに無い考えを、受け入れてくれない人たち。

 しかし、彼は決して夢を諦めず、最終的にカオスヘッダーさえ浄化し、そしてこのジュランに怪獣たちの楽園を築き上げた。

 テックスピナーのコックピットからは、考えに理解を示し、少数ながら地球から移住してきたジュランの住民、リドリアスなどの怪獣たちや、浄化された後ジュランの守護に就いたカオスヘッダーが、みんな手を振っている。

「みんなありがとう。行ってきます。」

 

 いつしか、慈愛の勇者と呼ばれるようになった彼を乗せて。

 テックスピナーは、地球に向けて加速して行くーーー

 

 ーーー第35鎮守府 フタフタマルマル

「分かりました、はい、ありがとうございます。では、よろしくお願いします」

 ジュランから地球へ向かっているというムサシさんと、初めて会話を交わした。声からもとても優しい雰囲気が伝わり、レイのことも「会うのが楽しみだ」と言ってくれた。

 さて、レイの方は心配は要らなそうだが…

 

「響、千代田の様子は?」

「少しずつ話ができるようにはなってるけど…まだあまり本質的には変わらない感じだな…。」

「そうか。ありがとう」

「レイの件は?」

「大丈夫そうだ。レイの心の状態を考慮して、検査は一日に一、二項目だけだと。ここに滞在する期間が長くなるけど、お互いを知るにはむしろ丁度いいね」

「よかった。それで、いつごろここには着くんだい?」

「宇宙航行にはそれなりの時間がかかるからな…数日後になるらしい。」

「じゃあ、歓迎の準備が出来るね」

「はは、そうだな。長門や鳳翔たちと話し合っておいてくれ」

「了解」

 

 響が退室し、執務室には俺一人。

「さて、どうしたものかな…」

 俺は話を聞いたあと、千代田のこと、そして千歳の失踪事件を詳しく調べた。

「…この海域か。このままだと千代田とのコミュニケーションは難しい…一つの手段としては、千歳を探すことだな。」

 俺は明日の分の任務表を見直す。運良く、当該海域近くを通る任務があった。

「…頼んでみようか」

 失踪事件があったのは、二ヶ月あまり前。失踪扱いとなった艦娘は、規定により二ヶ月を過ぎると所属鎮守府の籍が失効となる。生存の可能性は限りなく低いが、ゼロではない限り、確かめてみる価値があるーーー

 

 ーーー翌日

「と、言うわけだ。今この件を、響が千代田に話をしに行ってる。任務と並行し、安全第一で頼む」

「分かりました」

 例の遠征任務の旗艦を任せた神通が答える。後ろに控える駆逐艦たちも、真剣な眼差しだ。

「よし、第二艦隊出撃!」

 無事に鎮守府を発ったのを確認し、俺は千代田の部屋を目指した。

「さて、と。」

 ノックすると、「司令官?」と響の声。

「いいか?」

 千代田との確認のためか、少し間が空いた後、ドアが内側から開いた。

「いいって」

「分かった、ありがとう。千代田、邪魔するぞ」

 小さくぺこりと頭を下げる千代田。俺は座布団に腰掛ける。

「響から聞いてると思うが…。君のお姉さん、つまり千歳の捜索を、任務と並行して行うことにした」

「そっか…ありがとね、提督…。」

 しかし、言葉とは裏腹に千代田の表情は沈んだままだ。

「…千代田?」

「でももう、いいんだよ…。

 私は千歳お姉にひどいこと言っちゃったし…きっとこれは、私への罰なんだよ。

 だからさ、そんなに私のこと考えなくていいよ…どうせこれからも、足引っ張るだけだし…」

「…千代田」

「私なんか能無しだし…いっそのこと解体ーーー」

 

「そんなことを言うなっ!!」

 気づけば俺は声を荒らげていた。

「千代田、そんなことを言ってはいけない。今、必死にみんなが、君を思って行動しているんだ。

 みんな、千代田にまた笑ってほしいから、という思いでしているんだ。

 だから、そんな言葉で、彼女たちの気持ちを裏切らないでくれ。これ以上…俺は千代田に、何も失って欲しくない。皆も同じさ」

「…てぇ、とく…」

「千代田。君の辛さも知っている。自暴自棄になってしまうことも分かる。でもそういう時こそ、前を向かなきゃ。な?

 みんなもいる。いつでも頼ってくれ。そのために、この場所があるんだから。」

「ひぐっ…えぐ…ぅわぁぁぁあああ!!」

 どうやら心が限界になってしまったようで、千代田は大声で泣き始めた。

「よしよし、大丈夫大丈夫、な?一歩ずつでいいから。千歳もきっと大丈夫だ、必ず見つかる」

 涙の止まらない千代田を抱き寄せながら、俺はそう声をかけた。

 二ヶ月のブランクは重い。元の所属先である第15鎮守府も、事件後数日間の捜索を行ったが、何もなかったという。しかし、千代田に希望を見出させること、今この状況ではそうすることこそ価値がある。

「ありがどぉ…でぇどぐぅ…」

「うんうん。ほら、もう大丈夫だから…」

 しばらく泣き続けた千代田だったが、その後はこの鎮守府に来て初めての微笑みを見せてくれた。一歩を踏み出せたことは大きい。

 

「じゃあ千代田、またね」

「いつでも来ていいよ」

「二人ともありがとう…じゃあ。」

 若干後ろ髪を引かれる思いで、俺たちは千代田の部屋をあとにした。とにかく、これからは千歳の安否確認の捜索にも力を注がなければならない。レイの検査のこともある。やることは多い。

「というわけだから頼むぞ、響…って。

 なんだ、拗ねてるのか」

「そんなんじゃないもん。拗ねてないし」

 とか言いつつ、隣を歩く響はふてくされている。

「なんか、その…悪かったな」

 …なんで謝ってるんだ、俺。まあでも、さっきの抱き寄せが、響を嫉妬させてしまったようだ。しょうがないと言えばしょうがないのだが…ん?

 響、お前何やってんだ。胸なんかいじって…。まさか嫉妬の先はそれか?確かに千代田のそれはかなりのアレだが…

 だめだ、これは見なかったことにしよう。

「…これくらい、僕も大きかったら…」

 おいやめてくれ。心の声ダダ漏れだーーー

 

 ーーー数時間後

「第二艦隊、只今帰還しました。資材を目標数確保しました。

 それと、千歳さんの件は、残念ながら…。」

「大丈夫だ、報告ありがとう。遠征も、別任務もお疲れ様。検査を受けたらゆっくり休んでくれ。」

「はい、失礼します。」

 収穫なしか。まあいきなり上手くは行かないし、想定内といえば想定内。しかし、安否が分からない以上、出来るだけ早く的確な行動をとることに越したことは無い。明日の出撃の時や、空いている時にスカイマスケッティで上空から捜索することも視野に入れなければーーー

 

 ーーー数日後

 千歳の捜索は一向に成果がないままだった。上空からの捜索も同じ。しかし、ここでやめたらなんの意味も無くなってしまう。

「みんな、すまんが今日も頼むぞ」

「謝ることはありません、大丈夫です!お任せ下さい!」

 出撃する本日の第一艦隊の榛名たちの表情に少しだけ救われた気がした。千代田も明日から、自身の鍛錬を再開することになっている。

「第一艦隊、出撃!」

 俺は彼女たちを見送り、鎮守府内の航空機発着場に向かった。そう、大本営経由で今日あの人が到着することになっているのだーーー

 

 ーーー発着場

 既に響、長門、ミライさんにレイが待機していた。大本営からの連絡によると、間もなくのはずだ。

「あれですかね?」

 ミライさんの指さす先、ジェット音を響かせながらこちらにやって来る一つの機影。

 間違いない、あれはチームEYES時代から改良を経た、テックスピナーKS-1だ!

 やがてテックスピナーは上空で減速すると、垂直離着陸機能を駆使して正確に着陸した。コックピットが開き、一人の青年が降りてくる。

「こんにちは、あなたが?」

「はい、お待たせしました。

 

 春野ムサシです」




今回も読んでいただきありがとうございました!

よければ評価や感想、気軽にお願いしますm(_ _)m

ではまた次回お会いしましょう!


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ムサシの到着

咳がひどいです。
多分アレルギーです。やばいです。

以上です、本編どうぞ。


ーーー「はじめまして、第35鎮守府の提督です。我が鎮守府へようこそ。」

「秘書艦の響です、よろしくお願いします」

「憲兵のヒビノ・ミライです。」

「用務員の長門です、そしてこちらが…」

「あ、あの、普段は長門さんの、お手伝いをしています、レイといいます。何卒よろしくお願いします」

「ふふ、そこまで畏まらなくても大丈夫だよ」

ムサシさんはレイの目線に合わせてしゃがみこみ、よしよしと頭を撫でる。

「あ、ありがとうございます…」

ニコニコと微笑むレイ。ムサシさんも嬉しそうだ。

「じゃあ、早速鎮守府の方を案内しましょうか。ぜひ、レイさんも一緒に来て、手伝ってください」

ミライさんに連れられ、ムサシさんはレイと建物の中へ入っていったーーー

 

ーーー「こちらが、ムサシさんの部屋になります。何かあれば、いつでも言ってください」

憲兵よりホテルマンのほうがしっくりくるような言い回しである。ひとしきり案内を終えて、ミライは部屋を出ようとする。すると…

「あ、憲兵さん」

「はい?」

「少し時間ありますか?」

「まあ、ありますけど?」

「少し、話しませんか」

ムサシの誘いを快く承諾したミライは、座布団に座る。

「いきなりですけど…お久しぶりですね。別の時空で、ギンガたちと共に戦った以来ですかね。

 

ウルトラマン、メビウス」

ミライは瞬時に意図を察した。そして、ムサシのもう一つの姿のことも。

「こちらこそ久しぶりです…

ウルトラマン、コスモス。

ゼロから前々から話を聞いていましたが、僕も会えたらいつか、あなたと話したいって思っていました。

まさか、こんなところで会えるなんて…」

「本当に、不思議な縁ですね。何から話せばいいですかね…」

 

お互い、ウルトラマン同士ということで、知っているようで知らなかったことをたくさん交換していく二人。そして話はいつしか、この鎮守府に来た経緯へと移っていった。

「僕は極東支部のサコミズ長官に、レイさんの調査を頼まれてきた訳ですけど…ミライさんは何故ここに?しかも…憲兵さんとして」

「あ、実は…」

ミライはここまでのことを簡潔に話した。

深海棲艦の勢力が増えていること。

レイの出現。

そしてレイを、地球を守るために、この地球に派遣され、そして憲兵となってこの鎮守府にいるということ。

 

「そうか…今の深海棲艦は、怪獣との融合体まで出てきているんだね。」

「はい…」

「でも、元はレイさんみたいに、僕らと分かり合える存在なんだよね…

深海棲艦とも、同じように分かり合うことができれば…」

「優しいんですね、ムサシさんは」

「互いに違っても、いつか心の底で理解しあえればいい。出来ることなら、全ての命を助けたい。僕はそんな風に考えているんだ。」

「すごいです…応援してます!」

「ありがとう、ミライさん」

 

ミライとムサシは、似ているようで異なる。

ミライはウルトラマンメビウスの人間態であるのに対し、ムサシはウルトラマンコスモスと一体化している地球人である。

しかしその違いがあってこそ、互いに様々な意見を交換して、それを深めることが出来ている。

 

「そう言えば」

「はい」

「ここでは、艦娘の療養をしているって聞いたんだけど…レイさんの調査とは別に、個人的にそっちも気になるんだ」

「あ、それだったら、提督さんの所、行ってみませんか?」

「提督さんの所?」

 

ーーー「なるほど」

「そうなんです。というわけで、その、お願いします」

ムサシさんが、うちの艦娘たちを療養した際のエピソードを聞かせて欲しいらしい。今日は長旅お疲れ様ということで、ムサシさんによるカウンセリングは明日からだし、ちょうど書類仕事もひと段落付いたところである。

「分かりました、ではまず…」

一人一人のことを、もちろんプライバシーにも配慮しつつ話す。ムサシさんはメモまでとっている。彼曰く、ジュランの怪獣にも時々心のトラブルが起こったり、また傷ついた怪獣を保護した時、その傷が体のみならず心にも到達していることがあったりするらしい。その際の参考にしたい、ということだった。

まあはっきり言って、人脈を紹介して、その人が立ち直らせてくれたこともあるが。

「…なるほど、利根さんはそんなふうなことが…」

利根の件で大きく関わったミライさん、説明に苦労している。当然だ、奇妙な現象が起きたらしいしなぁ。

 

「それで、今は?」

「今は、千代田という艦娘の療養をしているんです。今、ちょうど演習場でリハビリを兼ねた発着艦練習をしていますね」

「そうですか。

…その、色々頼むようで申し訳ないんですけど…。

 

その様子、見せていただけませんか?」

 

ーーー演習場

「だいぶコツが掴めてきたみたいですね。」

「あ、ありがとうございます…」

「ふふ、素直に喜んでいいんですよ?」

鳳翔からの指導は、着実に千代田に力をつけさせていた。最初は難しそうにしていたウルトラメカの扱いも、回を重ねるごとに上達していく。

「では、少し休憩をして、そしてもう一度やってみましょう…あら?」

「すまんな。失礼するぞ」

「提督にミライさん、そして確か…」

「はじめまして。

レイさんの調査に来た、春野ムサシです」

 

ーーー「というわけなんだ…。決して強制ではないけど…

君のことで、もし何か僕にできることがあったら…力になりたいんだ」

ムサシさんの言葉を聞き、唾を飲み込む千代田。

「…分かりました」

千代田は包み隠さずに、ここに来た理由を話した。彼女は、自身の前にある現実と向き合えているようだ。

「そっか…

よく話してくれたね、ありがとう。」

「ううん、いいの。

私のために、お姉のために、提督やここの人たちがたくさん動いてくれているから…私も早く、その人たちに追いついて、お姉のことを見つけて…成長した私の姿をみせたいの」

「すごくいいことだと思うよ、千代田さん」

「あ、ありがとう…」

少しだけ俯き、赤面する千代田。

「よかったら、少し練習の様子を見させてもらっていいかな?」

「あ、は、はい!」

「ありがとう」

鳳翔がお茶を持ってきてくれた。それを飲みつつ、練習へと戻った千代田を見守る。

「上達がはっきりと目に見えてわかる…」

「きっと、お姉さんのためにも頑張ろうと、一生懸命なんでしょうね…」

練習に励む千代田。

その瞳は、覚悟を決めた強きものだった。

そして…どこか、思い詰めたような瞳でもあったように感じた。

「…」ーーー

 

ーーー翌日

ムサシさんによるレイの調査が本格的に始動した。もちろん血液検査など以外は体に負担がかからないような内容であり、また時間もさほど長くないので、レイもリラックスしているようだ。

「じゃあ、次にこの事について話してほしいんだけど…」

初日ということで少し心配な面もあり、見学をさせてもらおうかとも思ったが、その必要は無さそうだ。

 

廊下を行き、窓から外を見る。

今日も千代田は練習に励んでいるようだ。

頼もしく思える反面、やはりその瞳のどこかに影があるのかもしれない、そう思うと心配になる。

「…今は邪魔しないでおこう」

名残惜しくも、俺は執務室へと戻ることにしたーーー

 

ーーーその日の夕刻 某海域

「撃てーっ!」

第35鎮守府ではない所の艦隊が、深海棲艦と交戦していた。

艦娘から放たれた砲弾がクリーンヒットし、最後の一体となっていた敵の戦艦が沈む。

「敵艦隊撃破を確認しました。只今より母校へ帰投します」

周囲に索敵機を飛ばし、警戒を怠らないながらも、彼女たちは戦いを振り返って、つながりを深めていた。

「さすが、今回も鳥海さんの独壇場だったね」

「他の所の鳥海さんとは、一回りもふた回りも強いからね、当然だよ!」

この艦隊の中心は、他の個体より能力の高い鳥海であった。その戦闘能力から、仲間からも厚い信頼を寄せられている。

「そんなことないですよ。皆さんと共に、今日の勝利も勝ち取れたんですから」

生憎の黒雲だが、微笑ましい光景が広がっていた。

しかし、それは突如として終わりを迎えることとなる…。

 

「…何、これ…」

「冷たい…。妙ね、霧が立ち込めてきたわ…」

「ねえ、なんかすごい勢いで増えてるよ…!?」

やけに冷たい、不気味な霧に包まれたその艦隊は、完全に身動きが取れなくなってしまった。

「どうなっているの…」

少し経ったあとに、その霧は今度は急激に引いていった。そのことに安堵する艦娘たち…しかし。

その場にいるのは、5人。

「あれ…!?

 

鳥海さんが、鳥海さんがいない!!」

 

その状況は、第15鎮守府の千歳の事件と、全く同じものであったーーー




今回も読んでいただきありがとうございました!

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ではまた次回で。


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絆を胸に

風邪をひいてしまった。
黄色い鼻水+止まらない咳+鼻づまり。
もうヤダ何このデスコンボ。

皆様もお気を付けて。
では、本編どうぞ。


 ーーー第35鎮守府

「そうですか、順調ですか」

「はい。調査が始まってから数日経ちましたが、いつもとてもいい子ですし、ちゃんとこちらに心を開いてくれているので、こちらとしても助かっています。」

「ありがとうございます。」

 廊下ですれ違ったムサシさんは、どこか嬉しそうだ。しかし、顔色とともに話題を変えてきた。

「それと…千代田さんのことなんですけど…。

 きっと、彼女なりに奮闘しているとは思うんですが、何かまだ、心に拭いきれていない何かがある、そう感じるんです」

 一瞬驚いたが、すぐに納得できた。

 人とも、さらに怪獣とも分かり合えるムサシさんだ。千代田の心の中に気づいていたに違いない。

「ムサシさん、やはりあなたもですか…。」

「このままでは彼女が心配です。しかし、焦って下手に話しかければ、余計に彼女を傷つけかねませんし…」

「ですね。とにかく今は、見守るしかありませんか…。直接聞かないにしても、いつも見守っている、彼女からそんな信頼を得られれば…」ーーー

 

 ーーーその日の夜 食堂にて

「はい、千代田さん。今日もお疲れ様でした。

 間宮さんが、アイスをサービスしてくれましたよ」

「あ、ありがとうございます」

 鳳翔から注文の日替わり定食を受け取り、席につく千代田。一口目を食べようとした時、自然にムサシさんが近づいた。

「千代田さん、よければ相席いいですか?」

「どうぞ」

 少し面食らったようだが、すぐに了承する千代田。

「…司令官は行かないのかい?」

「こないだ千代田とは話したばかりだし、これ以上俺が出たら帰って彼女の心の負担になる可能性もある。仮にも俺は上官だし、そういう面でも気を使わせてしまうかもしれない。」

 少し離れたテーブルで、カレーを食べつつ俺は響に答えた。確かに、ムサシさんと千代田は、変に遠慮することなく、自然な会話を続けられているようだ。

 

「ムサシさん、私の話、聞いてくれてありがとね」

「とんでもないよ。むしろ、君の心に負担をかけてないか、心配だった」

「ううん。かえって、ムサシさんにもわかってもらえて、楽になれたんだよ」

「なら良かった。」

「ねぇねぇ、ムサシさんはさ、怪獣を保護するお仕事をしているんでしょ?」

「うん、そうだよ」

「よかったらさ、ムサシさんの話も聞かせて欲しいな…なんて」

「僕の話でよければ、いいよ」

 

「仲がいいね二人とも。まるでカップル…」

「響。念の為に言っておくが、ムサシさんはちゃんとした既婚者だからな」

「…そ、そうだよね。まあね、そうだよね」

 俺は知っている。響が最近、スポコン漫画はそのまま、恋愛系少女漫画にも手を出し始めたことを。

 よく漫画を借りている榛名から聞いた。可愛い。

 それにしても響の言う通り、確かに二人は楽しそうだ。今はどうやら、ムサシさんが昔の話を千代田に話しているようだ。

「さて、そろそろ俺たちは上がろう。」

「もういいのかい?」

「後はムサシさんが、上手くやってくれるさ。もし話があったら、千代田の方からしてくれるだろう。

 今彼女が抱えているかもしれない影は、きっと自分の心のいちばん弱い部分なんだ。それを自分から話せる人なんて、余程の信頼がない限りいないからね。」

「うん、わかったよ司令官」ーーー

 

 ーーーその日の夜遅く、時刻はフタフタマルマルを回った頃。

 ムサシさんが今日の調査結果を提出しに来た。あとは二人でそれを整理すれば、今日の業務は終了となる。

「えーと、ここの点数はこんな感じです。体の方も、特に異常はなく…」

 二人で考察などを話し合いながら、パソコンに数値を入力していく。

 

 トントン

 

 突然、ドアがノックされた。こんな遅い時間、響が何か連絡をしに来るはずもない。さっき寝かせたし。

「入っていいぞ」

「誰ですかね…」

 ドアが開かれ、そこにいたのは…

 

「…提督、ムサシざぁん…」

 涙目の千代田だった。

「おーおー、どうしたどうした」

「あのね…ぁ…ぁの…」

 最初はよたよただった足取りは、俺とムサシさんに近づくにつれ急加速していき、まるで倒れ込むようにその体を擦り付けてきた。

「…ゎぁぁぁぁあああ…!…ごめんなさぁぁぁい…!!!」

「しっかり、どうしたの?」

「よしよし、大丈夫大丈夫…」

 突然号泣とともに謝罪の言葉を言う千代田。

「思い切り泣いていいよ。」

「辛いこと全部、吐き出していいから。」

 

 しばらく泣いて、落ち着いたのか、千代田はポツポツと心境を語り始めた。

「あのね…怖いの…

 もし、千歳お姉が見つからなかったらどうしようって、もしも自分の頑張りがとどかなかったらって…

 最近、練習のときもそればっかり考えてて…すごく辛くて…でも、みんなわたしのために頑張ってくれているし、申し訳なくてなかなか言えなくてぇ…!」

「そうだったのか…ごめんな…」

「ううん…いいの、提督は悪くないから…」

「ありがとう、辛かったのに、よく言ってくれたね」

「…ひっく…えぐえぐぅ…どうしよぉ…怖いよぉ…やだよぉ…!」

 よしよしと、赤ん坊のように泣く千代田を慰める。

「千代田さん、大丈夫大丈夫…」

「ありがとう、ありがとね…」

 

 数十分後、ようやく千代田は落ち着いた。ずっと抱えていた分、心の負担は計り知れないものだっただろう。千歳の捜索もなかなか成果が得られず、それによって不安も増大していたはずだ。

「千代田さん、大丈夫だよ、ね?」

「ムサシさん…」

「今、確かに君は、不安に押しつぶされそうになってる。でも、きっと大丈夫だよ

 夢を信じ続ける限り、必ず奇跡は起きるから」

「ほ、ほんとに…?」

 すがるような目でムサシさんを見つめる千代田。

「うん。どんな時だって、君はひとりじゃない。

 君と千歳さんは、強い心の絆で、いつだって結ばれているはずだ。そうだろう?」

「…うん」

「大丈夫。きっと千歳さんも君のことを信じている。君もまだ、守れるんだ。僕たちも力を貸す。ね?

 一緒に、前へ進もう。」

 ムサシさんの差し出した手を、しっかりと握る千代田。俺とも握手をした彼女は、また笑顔を向けてくれた。

 ただ、きっとまた時間が経てば、影はまた出てきてしまうだろう。だからこそ、俺は千代田に言った。

「いいか?辛いと少しでも思ったら、またいつでも遠慮なく来てくれ。

 俺も全力を注いで、サポートする。」

「うん、ありがとう提督。それとさ…」

「ん?」

「お姉の捜索にさ、私も加えて貰えないかな…」ーーー

 

 ーーー翌日

「行ってらっしゃい、千代田さん。」

「必ず命だけは持って帰るんだよ。

 じゃあ、気をつけて。」

 この日、鳳翔と話し合った結果、彼女の心の状態なども考慮しつつ前線に出すという結論に至った。

 いつもの言葉をかけ、ムサシさんと共に見送る。

「よかったです、彼女がとりあえずとはいえ、立ち直ってくれて」

「元はとても素直な娘ですからね。だからこそ、守りたいもののために一生懸命になれると思うんです」ーーー

 

 ーーー千代田たちの艦隊は、任務海域に到達した。

「そろそろトドメを刺しちゃおっかな!」

 生き生きとした様子の彼女。艦載機を発艦させ、深海棲艦を次々と沈めていく。

「おめでとうございます、千代田さんがMVPみたいですね」

「あ、ありがとうございます!」

 霧島に褒められ、上機嫌の千代田。

「とにかく、任務を達成しましたし、警戒を続けつつ、千歳さんの捜索に移りましょう」

「は、はい…!」

 一段と気合を入れる千代田。彼女自身も艦載機を使って広範囲を捜索する。

「やっぱり…簡単にはいかないよね」

 しかし、彼女は諦めなかった。自分のために、大切な姉のために、提督やムサシさん、そして支えてくれるみんなのために。

「もうちょっとあっちの方も行ってみて、妖精さん!」

 その日は結局何の成果も得られなかったが、千代田は下を向かない。

「必ず…奇跡は起こる!

 起こしてみせる!」

 

 そして二日後、その気持ちが実を結ぶ。

 その日も艦隊の一員として例の海域に赴いていた千代田。

「今日は、何か見つかるといいな…」

 そう思いながら探していた時だった。飛ばしていたダッシュバード2号の妖精さんから、通信が入ったのだ。

「どうしたの…?

 

 …え?千歳お姉の航行記録レコーダーを見つけた!?」ーーー

 

 ーーー同時刻 大本営極東支部

「長官…これを」

 スタッフから手渡された資料を読む長官、サコミズ・シンゴ。それらは、鎮守府の報告書だった。

「二ヶ月前の第15鎮守府の千歳の失踪事件、それと同じ状況の事件が、ここ最近相次いでいるようです。

 数日前、第22鎮守府の鳥海、さらに第43鎮守府の秋月、そして昨日は第105泊地の伊168が、いずれも同じ海域、そして突如立ち込める冷たい霧とともに姿を消すという報告を受けています」

「確かに…これは危ないね」

「さらに気になる点があります。その事件で、姿を消した艦娘の全員が…

 他の同一個体に比べ、能力が格段に高いという所です」

 スタッフからの報告、そして資料を隅々まで読んだサコミズは、スタッフに告げる。

 

「明日マルキュウマルマルより、この件に関する緊急会議を開くと、全ての鎮守府に早急に通達を出してくれ」

「はっ」ーーー




今回も読んでいただきありがとうございました。

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これからも頑張ります、また次回!


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恐怖の霧

旅に…旅に行かせてくれ…。

最近スケジュールが合わない。やだもう。
相変わらず風邪も酷いです…。

ごめんなさい本編どうぞ。


 ーーー第35鎮守府 執務室

「臨時の対策会議か…」

「どうしたんだい?司令官」

 先程、極東支部から急ぎの通達が来た。それ曰く…

「最近、特定の海域で、同じ状況における艦娘の失踪事件が相次いでいるらしい。そしてそれがどうも、千歳のものと同じなんだ。」

「え!?」

「狙われるのは他の個体より高い能力の艦娘ばかり、突如立ち込める冷たい霧とともに姿を消す…な、同じだろ?」

「確かに、これはまずいね…」

「それで、明日マルキュウマルマルから、この件に関する対策会議がある。」

「千代田さんにも、帰ってきたら知らせなきゃだね…。」

「そうだな…」

 一旦今の仕事を中断し、明日の会議に備えての準備を進めることにした。

「千歳の件の資料、コピーしてあったよな」

「これだね、はい」

「ありがとう。他になにか要る物はあるかな…」

 とその時、通信が入った。

「司令官、書類整理は任せて、通信に出て」

「ありがとう響、頼む」

 俺はマイクを握る。千代田たちの艦隊からのようだ。

「こちら第35鎮守府、どうした?」

「提督!

 お姉の…お姉の航行記録レコーダーが見つかった!!」

「何だって!?それは本当か!?」ーーー

 

 ーーー艦隊が帰還して検査をした後に、すぐさま会議室に移り、データの解析を行うことにさた。念の為、千代田の他、響、大淀、明石、そして千代田のいた艦隊の旗艦・霧島、レイ、ムサシさん、そしてミライさんにも同席してもらっている。

 ちなみに航行記録レコーダーというのは、報告の補助や万が一の事態を考慮して、全ての艤装に搭載されている記録用の小型装置のことだ。

 よく航空機などに搭載されであるアレの艦娘艤装バージョンである。小さいながらも、音声や操作記録などを正確に記録することができる優れものだ。

 

「まず、レコーダーの見つかった海域は?」

「今、スクリーンに出します」

 霧島がカタカタと手際よくパソコンを打ち、プロジェクターによってスクリーンに海域が映し出された。

「千歳が失踪したという海域から、しばらく南に行ったところの海域か。でも何故今、そして何故ここで?」

「私の方で分析をしましたが、おそらく海流に乗ってきたのでしょう。

 千歳さんはまず、生死は考えない事として間違いなく完全に海の中に入りました。その時、彼女は自らの意志でこれを離脱させたのでしょう。これは艤装の内部に搭載されていますからね。

 ちょうど例の海域には、水深の深いところを南に進む海流がある事が分かりました。レコーダーはその海流に乗って、長い時間流されていたと思われます。そして、その海流が水面へと浮上するのが…」

「見つかった地点近く、というわけか」

「はい。可能性はかなり高いでしょう。」

「ありがとう霧島。それで明石、レコーダーに記録されていたデータは?」

 明石が頑丈なケースから、中のレコーダーを取り出しながら答える。

「内部を確認しましたが、奇跡的にほぼ損傷はありませんでした。とにかく、中身を再生してみましょう」

 レコーダーをコンピューターに接続する。果たして、その中身は…

 

「ちょうどここからのようですね…霧が出てきた時の記録は。」

 波音がスピーカーから流れ始めた。やがて、一人の声がそこに入ってくる。

「何よ、この霧…何も見えないし、冷たい…」

「お姉の声だ…!」

 思わず声が漏れる千代田。スピーカーからは、変わらず千歳の声が流れ続けていた。しかし…

「…はっ、何よ、これ…!?

 足が…凍ってる…!?そんな馬鹿な…!」

「今、確かに凍ってるって!?」

「どういうことだ…!?」

 ありえない言葉が聞こえ、それはさらに続く。

「何で…体が凍ってくの…!?や、やだ…体が、動か、ない…!」

 怯える千歳の声とともに、緊迫した空気が会議室に流れる。そして…

 

 ガシャッ!!

 

「ツカマエタ…!サァ、コイ…」

「ひゃっ…!深海棲艦…!?

 やだっ、引っ張らないで!やめて、やめてよぉ…」

 鋭い金属音、その後の深海棲艦と千歳の声を最後に、スピーカーからはブクブクという水の音しか聞こえなくなってしまった。

 

「お姉…お姉ぇぇええ!!」

「千代田さん、落ち着いて!きっと大丈夫、大丈夫だから!」

 涙を流す千代田を、ムサシさんが抱き寄せて慰める。

「凍らせて確実に動きを封じ、そして海中に拉致する…卑怯なやり方だな…。」

「でも、レコーダーを離脱させたということは、まだ千歳さんは意識があった…」

 響がつぶやく。しかし、今の言葉でピンと来た。

「…いや、あったじゃない。

 おそらく、今も彼女は生きてる。可能性はそっちの方が高いかもしれない」

「本当!?」

「あくまでも可能性の話だが…もし千歳を沈めるつもりなら、ピンポイントだろうと霧の中で始末することも出来たはずだ。

 おそらく海底に連れ去り、艦娘の分析でもするつもりだろう。他の個体より高い能力の艦娘たちばかり狙っていたのも、これなら説明がつく…!」

「でも…どうやって助ければいいんでしょう…?」

「問題はそこだ。

 危険ではあるが、奴の狙う高い能力の艦娘を連れていき、やつを誘き出すしかないのか…。

 とにかく、明日の会議で情報交換するしかないな…」ーーー

 

 ーーー翌日 第35鎮守府

 会議室特殊ブース

「ーーーこれが昨日発見されたレコーダーです。」

 仮想空間に、レコーダーに記録されていた音声が流れる。

 昨日、長官に何とか報告を間に合わせて、今日の会議でこのデータを出すことが出来た。ホログラムの他の提督たちの反応は様々だったが、とりあえず、危険性は全員が周知したようだ。

 とりあえず、海域を野放しにするわけにもいかず、高い能力の艦娘を入れない艦隊で、定期的に巡回をするという結論に至った。

 しかし、今回も俺は残った。昨日報告と一緒に、あることを頼んでおいたのだ。

「やあ。貴重なデータをありがとう。

 それと、君に頼まれていたこと、分かったよ」

「本当ですか、ありがとうございます」

「他の個体より高い能力の艦娘…その共通点といったところだったね。確かに、あの海域や、千代田さんのためにも分かっておきたいよね」

「はい。それで、具体的にはどのような点が?」

 すると、長官はこう答えた。

「…妖精さんだよ。」

「妖精さん?」

「どうやら、そういう艦娘に付く妖精さんは、他の妖精さんと違うんだ。平均的な艦娘のものと艤装を交換しても、いつの間にかその艤装にも発生している。」

「なるほど…」

「さらに、ここからが最も今回の件に関しては重要だろう。その妖精さんは、特殊なオーラのようなものを発生させていることがわかったんだ。それが直接艦娘の強さに影響を及ぼす訳ではなさそうなのだが、おそらく敵はそのオーラを感知して、目標を定めているはずだ。

 深海棲艦は、レイ君のような超深海生命体を改造したもの、地球のエネルギーを司る存在が元なら、感知できても何ら不思議ではない」

「なるほど。ありがとうございます」

 俺は長官からの言葉を受け、早速考えを巡らせたーーー

 

 ーーー翌日。

 考えがまとまったので、俺は重要になるであろうある艦娘に声をかけた。

「明石?頼みたいことがある」

「え、私ですか?」

 

 俺が考えた作戦。

 それは、例の海域に、艦隊とともに明石を同行させるという事だ。明石は高い能力の個体、加えて工作艦という珍しい艦種だ、敵も見逃しはしないはずだ。

 ただ、明石は戦闘力には難がある。そこで、応急修理要員として、スカイマスケッティに乗せていく、というものだ。

 このことを彼女に話すと…

「分かりました!お役に立ってみせます!」

 よかった、快く引き受けてくれたーーー

 

 ーーーその一方で、ムサシさんによるレイの調査が終了した。身体及び精神状態、共に異常はなく、基本的には他の脊椎動物と同じ体の構造らしい。

「ありがとうございます、ムサシさん」

「ありがとうございます」

 二人でお礼を言う。

「こちらこそです。レイさんも提督さんも、調査へのご協力ありがとうございました」

 すると、ムサシさんはその後にこう続けた。

「あの、実はひとつお願いがありまして…」

「何でしょう?」

「…僕を、千代田さんと千歳さんに関する、事件のめどが立つまで、この鎮守府に置かせていただけませんか?

 千代田さんも心配ですし、何よりこれからその海域に行くことでしょうし、お力添え出来ることがあれば、してあげたくて…」

「分かりました。そちらのスケジュールなどが良ければ、こちらとしては大歓迎です。」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

「こちらこそ。

 よろしくお願いします」

 千歳の救出作戦に向け、また一歩前進した。ムサシさんが見守ってくれる、千代田にとってもそのことは大きい。

 俺は、来る作戦決行の日に備え、準備をさらに進めることにしたーーー




というわけで今回も読んでいただきありがとうございました(`・ω・´)

よければ評価や感想、お気に入り登録よろしくお願いしますm(_ _)m

それとこの場を借りてお知らせです。
現役学生の筆者、十月中旬に中間考査を控えております。
なので、その前後で更新スピードが遅くなったり、もしくは更新を一時停止する可能性が高いです。
何卒よろしくお願いしますm(_ _)m

何はともあれまた次回です!


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魔の海域へ征け!

風邪が治りません。
そしてこの間の行事で体の節々が痛いのです。
さらにプライベートのあれこれ…

まあ、頑張りますずい。

本編どうぞです。


 ーーーついにこの日が来た。

 千歳の救出作戦決行の日である。入念に準備を重ね、何とかこぎつけた。

「今回のメンバーは、昨日発表した通り、旗艦を金剛として、加賀、千代田、川内、不知火、そして響。

 それからスカイマスケッティで、俺と明石、ムサシさんも同行する。

 何か質問は?」

 一瞥し、質問はないという意思を確認し、俺は言葉を続ける。

「いいか?必ず命だけは持って帰ろう。千歳と一緒に!」

「了解!!」

 出撃の準備を整え、俺たちはスカイマスケッティの格納庫に、艦娘たちは出撃ドッグへと向かう。

「お姉…必ず、助けるから…!待ってて!」ーーー

 

 ーーー艦隊は今のところ、順調に例の海域へと向かっていた。常にレーダーに気を配り、索敵も最大警戒のもと行う。ミイラ取りがミイラになるなんてことになったら元も子もない。

「提督、到達予想時刻は…?」

「予定通りならあと約四十分だ。」

「そっか…」

 千代田、焦ったらいかん。急いては事を仕損じる…が、真っ直ぐそうは言えない状況だ。彼女だって、愛する姉のことが気が気でないのが、出撃以前から、もっと言えば出撃のメンバー入りを伝えた時から感じられているーーー

 

 ーーー「千代田。千歳の救出作戦の日程、それから出撃メンバーが決まった。

 もちろん、お前もその一人だ」

「本当!?いいの!?」

「当たり前だろ?千代田が一番、千歳のことを心配してるのはよく分かってるつもりだ。

 お前自身伝えたいこともあるし、成長した姿を見せたいんだろ?」

「うん」

「…なら、千歳のためにも、出撃してくれるか?」

「…もちろん!私、頑張る!!」ーーー

 

 ーーー「成長したな、千代田も」

「どうしたんですか提督、いきなりそんなことを」

「いや、そう感じたから言っただけだ。深い意味は無いよ、明石」

 スカイマスケッティの中、話し合う俺達。

「でも、僕から見ても本当に…頼もしくなったなって感じます。多分、以前より今の自分と向き合うことができるようになっているんだと思います。」

 スカイマスケッティのコックピット、ジオアトスのフロントガラスのその向こう、前に進む艦隊を、そして千代田を見ながら言うムサシさん。

「千代田さん…大丈夫ですよね…」

「大丈夫だ。彼女ならきっと。

 …それと明石、艤装はいつでも展開できるようにしておいてくれな」

「…はい!」

 

 ーーー幸いにも敵の艦隊と交戦することなく、俺たちと艦隊は例の海域へと辿り着いた。

「加賀、千代田。索敵の様子は?」

「こちら加賀、敵影は見当たりません」

「千代田、同じく確認できません」

 …おそらく、この海域は一連の事件の主犯が支配しているようだ。

「よし。

 スカイマスケッティはこれから、ワイズ・クルージング機能を利用、同時に明石の艤装を展開させて敵をおびき出す。総員、これまで以上の警戒を頼む。

 敵は必ず千歳たちの居場所を知っているはずだ。気を引き締めていこう」

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 ワイズ・クルージング機能とは、元はGUYSオーシャンのメカ・シーウィンガーに搭載されていた機能だ。海面スレスレを飛行することにより、燃料が節約でき、レーダーにも映りにくくなる。海上限定だが、かなり役立つ機能であり、このスカイマスケッティにも、明石のチューニングによってつけられている。さらには明石についている妖精さんのオーラを、より届きやすくする、という効果も得られる。

 

「今のところレーダーに目立った反応はなし…か。」

「もうちょっと頑張ってね、妖精さん…」

 やはりすぐには食いつかない。しかし、まだまだ粘る。千代田のためにも、行方不明になった千歳たちのためにも…!

 

「テートク!こちら金剛デース!」

 突然通信が入った。金剛からのようだ。

「霧が、冷たい霧が、急に立ち込めてきたデース!」

「なんだって!?」

 見ると、金剛たちから見て二時の方向、押し寄せる波のように白いものが近づいているではないか!

「霧が来る…!加賀、今だ!」

「ガンローダー、発艦します」

 あらかじめ、霧が立ち込めた瞬間、加賀にガンローダーを発艦させるように頼んでおいた。

「メテオール解禁。

 パーミッション・トゥ・シフト・マニューバ」

 淡々と、しかし正確に作業をこなす加賀。ガンローダーがマニューバモードに変形し、機体下部を霧に向ける。

「ブリンガーファン・ターンオン…!」

 マニューバモードのガンローダーが、二筋の竜巻を発生させ、霧を全て吹き飛ばした!

「提督!霧の発生地点が掴めたよ!」

「こっちも目視で確認した!だが…」

「海の中からか…!」

 スカイマスケッティの俺たち三人も、その状況の異常さを理解する。なんせ、海の中の一点から霧がもうもうと、火山ガスのように吹き出しているのだから。

「ですが提督、おそらく敵はそう深い位置には居ないはずです!今ここで叩けば…!」

「よし!川内、不知火、響!

 魚雷一斉発射だ!念の為扇状に、広範囲を頼む!」

「分かった!不知火ちゃん、響ちゃん!」

「いくよ…!」

「正体を…現せっ!」

 三人横一列から、扇の骨のように広がる魚雷。そしてその魚雷は…そのまままっすぐ進み、全てが着弾した。

 もう一度言う。広がっていて、全弾命中することは考えにくいのだが、今ここに全てが着弾した。

「なぜだ…!?」

「敵の攻撃に相殺されたとか!?」

「いや、あの爆発の仕方から、それはありえない!

 考えられる状況は一つしかないです、提督さん!」

「まさか!」

 ムサシさんの言葉に、俺は急いで艦隊に呼びかける。

「総員後退!その場から距離を取れ!急ぐんだ!!」

「What!?」

「いいから!奴が浮上してくる!」

 既に艦隊が後退運動に移ったとき、海面には巨大な影が。なんとか全員が安全と思われる位置まで回避した時には…

「まさか…こいつだって言うの!?」

「でも、そうとしか考えられないデス…!」

 奴が、その禍々しい姿を海上に見せていた。

 

 左右の手先は、鋭い大小の鋏。

 その目は青くらんらんと光っている。

 甲殻類のようなその見た目からも、その体の堅さは確実に分かる。

 さらにその体の至る所に、茶色ベースの地に黒光りする深海棲艦の装甲、そしてこちらを狙う砲台。

 

「怪獣…!?」

「ああ、間違いない!

 コイツこそが、一連の事件の犯人だ!

 

 宇宙海獣レイキュバス!!」ーーー

 

 ーーー宇宙海獣レイキュバス。データによると、かつてウルトラマンダイナとの交戦記録がある。

 その時は、強烈な冷凍ガスでダイナを一時戦闘不能まで追い込んだという。おそらく艦娘誘拐の際も、これを使ったに違いない。

 また、両腕の鋏の威力も侮れず、その装甲で相手からの攻撃を寄せ付けない。

 かなりの強者だ。

 そしてレイキュバスは、その口を開き、青い目で艦隊に狙いを定める。

「気をつけろ!冷凍ガス攻撃だ、回避しろ!」

「Roger!!」

 金剛たちがさらに後退し、冷凍ガス攻撃を避ける。さっきまで彼女たちがいた所には、氷の地面が出来上がっていた。捕まっていたら間違いなく危なかっただろう。

 が。

「提督、千代田さんが!!」

「え?…はっ!

 千代田、何をやっているんだ!?」

 なんと千代田は、氷の地の向こう側、つまり、レイキュバスのすぐ側にいたのだ。他の者達が後ろに避ける中、彼女だけは前に避けて冷凍ガスを逃れたのだろう。

 しかし、今の状況は、一番危険なものだ。

「千代田っ!!」

「千代田さんっ!!」

 レイキュバスを見上げる千代田、千代田を見下ろすレイキュバス。両者の距離はほんのわずかだ!

「くそっ!ミサイル発射!」

 スカイマスケッティのミサイルがレイキュバスに命中する。大してダメージを与えられてはいないようだが、隙は作れたはずだ。

「千代田!今のうちに逃げろ!」

 が、彼女は一向に引く様子を見せない。…もしや!?

「あいつ…自分一人で千歳たちを奪還するつもりか…!?」

「無茶よ!!」

「戻るんだ、千代田さん!」

 俺たちの呼びかけにも応じず、千代田は必死な眼差しでレイキュバスに叫ぶ。

「あなたがお姉たちをさらったの!?」

「…アア、ソウダナ。」

「…!!

 今すぐお姉を、お姉たちを返して!!」

 少しの沈黙の後、レイキュバスは答えた。

「フム、デハソウシヨウカ…

 

 …トデモ、言ウト思ッタカァ!!」

 

 レイキュバスは右腕の鋏を振り上げる!

「野郎っ!!

 ファントン光子砲、発射!!」

 正面から攻撃を仕掛けるも、レイキュバスはまたも動じない。

「…チッ、虫ケラメ…!」

 そう言ったレイキュバスの目が…青から赤へ変わる。

「えっ!?」

「まずい!!」

 俺は回避行動に専念することにした。文字通り目の色が変わったレイキュバス、赤い目の時の攻撃は…

「…そんな、火炎弾!?」

 明石が驚くのも無理はない。冷凍ガスと火炎弾を同一の怪獣が使いこなすなど、まず誰も想像しない。

「しっかり掴まってください!」

 俺は全速で火炎弾の弾幕を回避した。

 レイキュバスの火炎弾、威力もさる事ながら、いちばん怖いのはその長すぎる射程と高すぎる命中精度だ。かつては南極の地上から、成層圏付近の戦闘機隊を撃ち落としたほどである。

「外シタカ…シカシ、私ノ力ヲ思イ知ッタダロウ?」

 怯えた目の千代田だが、すぐにそれを隠すかのごとく言葉を返す。

「で、でも…!

 私はお姉たちを取り返すまで、絶対に退かない!」

「ホゥ…ナラバ、

 

 特別ニ、姿ヲ見セテヤロウ」

 

 そう言った瞬間、先程できた氷の地面がひび割れ、何かがせり上がってくる。後ろを向いた千代田は、上がってきたものに気づき…愕然とした。それは、俺たちも、金剛や響たちも同じだった。

 

「お姉っ!?」

 そこには十字架の形をした、四つの氷の磔台。

 そしてその中にそれぞれ、磔となった千歳、鳥海、秋月、伊168の姿が見える。意識はないようで、ガックリとその首を傾け、目を閉じている。

「ハハハ、安心シロ、空気穴ハ作ッテアル」

「そんな問題じゃない…!」

 千代田の怒りの声を無視して、レイキュバスは言葉を続ける。しかしそれが、怒りに燃える千代田を一瞬でどん底に突き落とした。

「デモ…

 モシ、下手ニオマエガ、イヤオマエタチガ動コウモノナラ…

 

 モット大キナ穴ガ、

 コイツラノ体ニ空クコトニナルゾ…?」ーーー




というわけで今回も読んでいただきありがとうございました!

よければ評価や感想、お気に入り登録お願いしますm(_ _)m

また次回…多分テスト勉強のためまた遅くなりますが、
気長に待って頂けると嬉しいです。
では。


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守るために…

えー、大変長らくお待たせいたしました。
行事や体調不良などて書くだけの暇が無かった、ていうのが大体の理由です。

これからはまた更新ペースを元通りにしていけたらなと思っておりますので、よろしくお願いしますm(_ _)m

では、本編どうぞ。


ーーー「人質!?…なんて卑怯なの…!」

怒りの表情の千代田。

「とにかくだ、千代田、一旦引け!」

「待って提督!!」

千代田の声が響いた。

「お姉は…私が助ける!」

磔にされた千歳たちを見つめて、千代田は決意した。そして全速で向かっていく。

「こうなったら、もう止まらないな…」

そうなれば後は、彼女の思いに応えるべく、全力でサポートをするしかない。

「総員、千代田を援護しろ!こちらは上空から牽制する、金剛たちはその位置からでいいから後方支援に徹してくれ!」

「了解ネー!fire!」

「ウラー!」

「みんな…ありがとう!

よし、私も!」

千代田は飛行甲板を構え、装備していたマットアロー1号を2機発艦させるーーー

 

ーーー「サッキノ言葉ガ聞コエテイナカッタノカ?愚カナヤツダ、喰ラウガイイッ!!」

レイキュバスが火炎弾を連続で放つ。速射機関砲を撃ちつつ向かってくるマットアローを粉々に破壊、更には千代田と磔の千歳たちを諸共焼き尽くそうと迫るが…

 

「させるかよっ!」

飛んできたミサイルが火炎弾を相殺した。スカイマスケッティの援護射撃だ!

「卑怯な真似なんかさせるかよっ!」

さらに追い討ちをかけるように、川内、響、不知火の魚雷がレイキュバスに襲いかかる。

「ソンナモノガ、キクカ…!」

だが、レイキュバスの固い装甲の前には、ダメージを与えることさえ困難である。

「諦めるな!とにかく攻めて攻めて、隙を作るぞっ!」

「はいっ!」

しかし、遠距離から仕掛ければ相手からの砲撃や冷凍ガス、火炎弾が襲い来る。だからといって至近距離を攻めれば、鋏で威嚇されてしまう。状況は明らかにこちらに不利だ。少しの隙を作ることさえできない。

「鬱陶シイヤツラメ…!散レェッ!」

「ぐわっ!!」

レイキュバスから放たれた砲弾が、スカイマスケきッティの後部に直撃してしまった!

「提督!?」

「司令官!?大丈夫!?」

「三人とも怪我はないけど、メインエンジンがやられた!一旦戦線を離脱する、すまない!」

炎上し、損傷している機体を懸命に安定させつつ、少し離れた海上に不時着するスカイマスケッティ。

「ど、どうしよう…!」

しかしそう焦っている間にも、レイキュバスの攻撃はほぼ一方的に続く。こちら側の健闘も虚しく、レイキュバスの勢いは衰えるどころか加速していくように感じられる。

しかもだ。レイキュバスは、だんだんとこちら側を退けさせつつ、千歳たちの磔台へと歩みを進めているのだ。

「このままじゃ…!」

千代田は再び艦載機を放つが、まともに攻撃の機会すら与えられず、冷凍ガスの餌食になってしまった。

「やっぱり…駄目なの…!?」

思わず漏れる、心の声。それに対して返ってきたのは…

 

「そんなことはないよっ!」

通信機からの、ムサシの声だったーーー

 

ーーー「ムサシさん…!」

「千代田さん…!君はまだ、守れるんだ!大切なものを守る力を、持っているんだ!お姉さんに、伝えたいことがあるんだろう?一人でだめでも、みんながついている!」

その言葉に、俺も、明石、そして響たち艦隊のメンバーも頷く。

「…エエイ!ヌルイ茶番ハソコマデダ!オマエラ全員、海ノ底へ沈メテヤル!」

「そんなことはさせない!

みんなは、僕が守る!

みんなと一緒に…未来を、掴む!」

「黙レ黙レ黙レ!沈メッ!!」

こちらに向けて火炎弾を放つレイキュバス。しかしムサシさんの意図を汲み取った俺は、すかさずコックピットとなっている、ジオアトスのスイッチを押す。

「アトスレーザー、発射!」

ルーフの砲台からレーザーが放たれ、火炎弾を相殺。そしてスカイマスケッティのウイング上に出たムサシさんは、懐から棒状のアイテムを取り出した。

「君の力を貸してくれ…!」

ムサシさんの願いに反応するかのように、そのアイテム…コスモプラックが淡く光る。それを見たムサシさんは、コスモプラックを天高く掲げ、叫んだ!

 

「コスモーース!!!」

 

眩い光がムサシさんを包み、一体化して空中へ昇っていく。そして、徐々にそれは巨人の形へと変わっていく。

深い青と、煌めく銀の体。

溢れ出る優しさを感じさせる表情。

今ここに降臨した、巨人の名は…

 

「ウルトラマン、コスモス…!」

「ムサシさん…!」

 

ゆっくりと、波を立てないように海面に足をつけるコスモス。そして、レイキュバスを正面に見据える。

「誰ガ来ヨウト同ジダ!クラエッ!!」

レイキュバスの砲撃が、一斉にコスモスに迫ってくる。が、コスモスは一歩も引かない。腕を前に突き出し、そこからエネルギーを壁のように展開させていく。

 

「ムーンライトバリア!!」

バリアに当たった砲弾は、全て上下に逸れていく。当然、コスモスにダメージはない。

「小癪ナ真似ヲ…!」

突進してくるレイキュバス。しかしコスモスは、最小限の無駄のない動きで、受け流すように交わしつつその背中に張り手を突く。

「ムッ!?」

突進空振りの勢いも相まって、レイキュバスは止まることが出来ず、バランスを崩して海面に思いきり顔を突っ込む形となる。

「千代田さん、今だ!

一緒に、お姉さんたちを助けよう!」

「は、はい!」

コスモスに名を呼ばれた千代田は、勇気を振り絞って力強く前に進む。その行先には…千歳たちの囚われている磔台。

 

「ルナレインボー!!」

その磔台に向かって、コスモスは突き出した両手から光線を発射した。七色の輝きをまとう光線が氷の地面ごと磔台を包み込む。すると氷の中から、千歳たちが救い出されていくではないか。そう、ルナレインボーは、怪獣の体内などに取り残された人を救出できる力を持つ。それを今、氷に閉じ込められていた千歳たちの救出に応用したのだ。

「よし、すぐに安全な場所へ…」

 

「運バセルカァ!」

なんと、体制を立て直していたレイキュバスから、遠距離砲撃と火炎弾の弾幕がコスモスに襲い来る!

「しまった!」

コスモスは咄嗟に、防御技のリバースパイクバリアで防ぐことを試みた。

だがおかしい。本当に自分を狙っているようには思えない。いくつかの弾、半分ほどは海面に落ちて派手に水面を揺らす。言うなれば手当り次第に撃ちまくっているような…まさか!?

その瞬間、レイキュバスの真の狙いに気づいたコスモス。そう、レイキュバスはコスモスのみならずその周囲にも攻撃することで、コスモスの救助を妨害すると同時に、必然的に千歳たちを再び海底へ誘おうとしていたのだ!

磔台から解放され、彼女たちを縛るものは無い。しかし、この状況ではそれは最も危険なパターンなのだ。意識のない彼女たちなど、降り立ったところで攻撃で海面を荒らしさえすれば勝手に沈むだろう。たとえ意識が目覚めても、それにあがなうほどの体力があるはずもない。下手に手を加えて彼女たちの身を砕くよりよほど楽で、さらに分析の続きもしやすい。

コスモスは防戦一方、彼女たちを救えるまでの余裕はない。

 

そう、ウルトラマンコスモスには。

 

「ムサシさん!」

一人の少女が、コスモスに呼びかけた。千代田だ。

「後は私に任せて!お願い、もう少しだけ、持ちこたえて!」

千代田は次々と立ちはだかる、荒れ狂う波たちを乗り越えつつ叫ぶ。

「千代田さん…分かった!」

千代田を信じ、コスモスは防御に徹する。精一杯のエネルギーを使い、バリアの強度と範囲を大きくする。

「お姉…今助けるからね!」

水霧の中、千代田は水面に浮かぶ千歳たちを追って…消えた。

 

「千代田…」

「千代田さん…?」

 

全員が、見えない霧こ中を見つめる。数秒が何十分にも、何時間にも感じられる。

無事なのか、救出はできたのか…

コスモスもバリアを保ちつつ祈る。

 

そして…

未だ立ち込める水霧の中から、微かに複数のジェットエンジンの音が響いてきた。

 

「あれは…!」ーーー




最後まで読んでいただきありがとうございました!

よければ評価や感想もらえると嬉しいですm(_ _)m

また次回です!


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レイキュバスの脅威

今回真面目にアイデアでどっちを取るか悩んで遅れました、すみません。

本編どうぞです。


 ーーー「提督ー!みんなー!」

 水霧の中に浮かんだ影が、どんどん濃くなっていく。

「千代田…!千代田ー!!」

 ついに外に出た千代田。そして数秒遅れて、ジェット音の正体も飛び出した。

「テックスピナー2号だ!」

 チームEYESの多目的用途機が、四機。そして各機は機体下部から、怪獣保護を目的としたEYESならではの装備・保護捕獲用レーザーラックを展開していた。その中には…

 

「司令官!千歳さんたちだ!」

「他の鎮守府で行方不明になっていた艦娘たちもいるデース!」

「レーザーラックをこのような形で応用するなんて、すごいわ!」

 口々に感嘆の声をあげる、響、金剛、明石。

 テックスピナーを引き連れ、俺と明石の乗るスカイマスケッティへと千代田は到達。レーザーラックを解除し、千歳たちをこちらに引き渡した。

「明石、機体の修理は俺がやる。すぐに千歳たちの応急処置に移ってくれ!」

「はい!」

「千代田…本当によくやった。お前の諦めない気持ちが、ついに実を結んだんだ!」

「うん…ありがとう提督…!」

 そして千代田は、コスモスにも感謝の言葉を伝える。

「ムサシさんも…本当にありがとう!私の背中を押してくれて…」

 敵の攻撃を防ぎつつも、コスモスは…ムサシはこちらに頷いた。まるで、千代田に「よく頑張ったね」と、褒めているように…

 

 

「エエイ!ヨクモ貴重ナ実験台ヲ!許サンゾ貴様ラァ!」

「許さないですって!?それはこっちのセリフよ!よくもお姉たちを、こんな目に遭わせてくれたわね!」

 レイキュバスに毅然と返す千代田。そうだ、まだ戦いは終わっていない。

 ここはウルトラマンコスモスと協力し、こいつを何とかするしかない。ほうっておけば、千歳たちと同じような悲劇が繰り返すかも分からないのだ。

 幸い、艦娘たちには損傷はない。

 

「艦隊に告ぐ!ここでケリをつけるぞ!!」

「「「「「「了解!」」」」」」

 修理で汚れた手でマイクを握り、俺は叫んだ。

 しかし、奴の強さは想像以上だったーーー

 

 ーーー「深海棲艦も、元は地球の生命体…もしかしたら…!」

 ムサシ=コスモスはレイキュバスの攻撃を受け流し、その青い姿・ルナモードの得意とする技を放つ。

 

「フルムーンレクト!」

 

 倒すことよりも「全ての命を守る」ことに特化したルナモードを、そして慈愛の勇者という異名を体現するかのような技。敵を沈静し、落ち着かせる効果を持つ。

 

 しかし、それを受けてもレイキュバスは猛牛のごとき突進を仕掛けてくる!

「どういうことだ…おかしいぞ…!?」

「よほどの悪意を持っているのか…」

 なんとか突進をかわしたコスモスは、今度はルナ・エキストラクトを使った。かつて一年余りほど地球を守った時には、カオスヘッダーに取り憑かれた怪獣たちをこの技で幾度も救ってきた。要は、生物に取り憑いた異物を取り除く光線と捉えていいだろう。

 

 しかし、これもまた結果は同じだった。レイキュバスの勢いは止まらず、むしろ増してくるばかりだ。

「くっ…倒すしか、無いのか…!」

 無念を残しつつ、ムサシが体制を整え、本格的な戦闘のための姿へと変身しようとした。

 その瞬間!

 

「遅イワッ!!」

「ぐぉっ!?」

 

 なんと、レイキュバスの鋏の一撃が、コスモスの鳩尾を突いたのだ。

 

「ムサシさん!?」

 川面を跳ねる水切りの石のように、なす術なく吹っ飛ばされるコスモス。

「提督、コスモスの動きが…鈍ってるように感じられるのですが…!?」

 加賀からの通信。たしかに、モードチェンジの隙があったとはいえ、普通ならかわせていたはずだ。しかし。

「確かに…コスモスは長時間にわたるバリアの使用、さらには浄化系の技を連射している…。元々ウルトラマンの多くは、地球上でエネルギーを急速に消耗するんだ、見ろ!」

 なんとか起き上がったコスモスの胸、カラータイマーが警告音を発しながら点滅している。何よりの証拠だった。

「全員、総力を挙げてコスモスを援護するんだ!」

 砲撃や艦載機のレーザーが、これまで以上の勢いでレイキュバスに襲いかかる。

「ムッ!?邪魔ヲスルナァ!!」

 レイキュバスからの砲弾が爆ぜる。

「みんな、大丈夫か!?」

「Shit!私の装備ガ…!」

「くっ…魚雷発射管に損傷…!」

「まずいな…みんなの損傷も酷くなってる…!」ーーー

 

 ーーー「コノ私ノ力ヲ、思イ知ッタカァ!」

 敢えてだろうか。ゆっくりとレイキュバスは、コスモスに歩みを進めていく。

「まだだ…僕は、まだ…!」

「…フン。悪アガキモ、程々ニシテオイタ方ガイイゾ?」

「…いいや…絶対に諦めるもんか…!

 僕らは…まだ守れるんだ…!」

「マダソンナコトヲ言ッテイルノカ?ダガソレモソコマデダ!」

 

「待ちなさいっ!!」

 レイキュバスの行く手に立ちはだかったのは…

「千代田さん…!?」

「ムサシさん…あなたは私に、前に進む力をくれた…勇気を、守ることを、教えてくれた…!

 今度は…私があなたを助ける!」

 

 千代田の飛行甲板から、テックスピナー1号が二機発艦した。

「貴様ミタイナチッポケナ者ガ私ニ歯向カウトハ…愚カサヲ思イ知ルガイイッ!」

 レイキュバスから放たれる砲弾。しかし、千代田の思いが乗り移ったかのように、テックスピナー1号は華麗な動きで次々と避けていく。

「ナッ…!?」

「そこよ!発射ーーー!」

 二機の同時レーザー攻撃が、レイキュバスの砲台を一部だが粉々に破壊した。思わず後ずさりするレイキュバス。だがすぐに、怒りを前面に押し出したかのような顔で、レイキュバスはこちらを睨んできた。

「オォォォノォォォレェェェエエエ!!」

 その目は、赤でも青でもなく、二つの入り交じった不気味な紫色だった。過去の個体には全く確認されていない色だが、深海棲艦と融合している地点ですでにそんなものは通用しない。

 そして単純にその色から導き出される結論は一つだ。

 

「まさか…炎と氷…相反する二つのエネルギーを、まとめて叩き込むつもりか…!?」

「千代田さん、ムサシさん逃げて!!」

 応急処置中の明石の叫び。しかし、二人は一歩も引こうとはせず、依然としてレイキュバスの前に立ちはだかる。

「潔ク死ヌ道ヲ選ンダカ…ナラバセメテ苦シマヌヨウ、一撃デ葬リ去ッテクレル!」

 レイキュバスの口から凄まじい勢いで、氷の渦を纏った炎が吐き出された。矛盾やら何やらあらゆるものを超越し、破壊するためだけの光線が襲い来る。

 

「千代田ぁぁぁあああ!!」

「ムサシさぁぁぁあああん!!」

 

 その光景から、目を離せなかった。

 自分たちには間に合わないと分かっていても。

 だから、気づかなかった。

 

 遥か上空から、超スピードで、眩く輝く光の粒子が降ってきたことに。

 

 俺達が気づいたのは、それがレイキュバスの光線を包み込み、千代田とコスモスに到達する前に完全に無力化させた時だった。

 

「あれは…!?」

 

 突如、光の粉はコスモスの体に入り込んだ。コスモスが叫び声をあげる。

「ぐっ…!?うぉ、ウォォォァァァアアア!!」

「ムサシさん!?」

「まさか、また新たな敵!?」

 心配する艦隊のメンバー。しかし、そうではなかった。

 点滅していたコスモスのカラータイマーが、青へと戻っているのだ。

「エネルギーを回復させているの…!?」

「ていうか司令官、あれ、何…?」

「いや、分からん…」

 

 ただ一人、コスモスだけがその答えを知っていた。

「来てくれたのか…?」

 コスモスの問に、光の粒子は段々と集結しつつ、言葉を返している。

「君が危ないという声を聞いたんだ。

 エネルギーを急速に君に与えつつ、この姿になるには、こうするしか無くてね…遅れてすまない」

 そこまで言い切る頃、その光は完全に巨人の形をなしていた。

 そして、その姿に全員が釘付けとなった。何にせよ…

 

「ウルトラマンコスモスが…もう一人…?」

「すごくよく似てる…いや、似てるなんてもんじゃない!」

「ムサシさん…その、巨人は…?」

 

 見上げる千代田に、ムサシが答える。

 

「彼は…カオスヘッダー。

 

 いつもは惑星ジュランを守ってくれている、頼もしい味方さ」ーーー




今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!

感想や評価もらえると励みになります、よろしくお願いしますm(_ _)m

次は出来るだけ早く更新できるよう頑張ります…
また次回です!


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THE DESTINY BATTLE ~COSMOS&CHAOS~

えーと、かなり予想以上に更新ペースが下がっています、すみません。
できる限り急ぎます。

なのになんでまたもうすぐ考査があるのか(現実逃避)

なにはともあれ本編どうぞです。


ーーー「カオス、ヘッダー…?」

不思議そうな目で、千代田はそれを見上げ続けている。

「君が千代田さん、だね?

衛星通信で、ムサシから君のことは聞いている」

「あ、はい…その、はじめまして…

あと、助けてくれて、ありがとうございます…。」

改めて見ても、その巨人はコスモスそっくりだった。

「…ああ、私も一応実体は持っているが、この姿の方が今はいいだろう。とにかく、この状況を何とかしないとだな。

共に戦おう、コスモス」

そう言って、カオスヘッダーはコスモスに手を差し伸べ、コスモスはそれを握って再び立ち上がる。

「あの…」

「ん?」

そんな彼らに、千代田は聞いた。

「…私も…私も行きます!」

しかし、その答えは意外な所から帰ってきた。

「ノー!ノーデース!!」

「金剛さん…?」

千代田に近づく金剛。やはり、自分では力不足なのか…

そう思索を巡らす彼女の頭に、金剛は優しく手を置いた。

 

「『私』じゃなくて、『私達』デスヨ?

皆さんも、そうですヨネ?」

「はい。私達で、壁を乗り越えましょう」

「力を合わせれば、絶対大丈夫だよ!」

加賀、川内…そして不知火に響も。

いつの間にか、千代田の周囲を艦隊のメンバーたちが囲んでいた。

「…ありがとうございます!よろしくお願いします!!」

笑顔で頷き合う一同。

 

「By the way、その、コスモスを助けてくれたYou…なんと呼べばいいデス?」

「確かに、カオスヘッダーだと物騒な響きがするからな…

カオス、ウルトラマンカオスとでもしてくれ」

「All right!」

 

カオスヘッダー…もとい、ウルトラマンカオスに吹き飛ばされたレイキュバスが、再び彼らに対峙する。

「エエイ!人数ガ増エタトコロデ同ジコトダ!全員マトメテブッ潰シテヤル!!」

激昴するレイキュバス。しかし、コスモスたちは毅然と言い返す。

「仲間の力を知らないお前が、僕達に勝てる理由はない!」

「そうよ!例え一人の力が弱くたって、皆の力が合わされば、何倍にもなるんだから!」

「黙レ黙レ黙レーーー!!」

猛烈な勢いで突撃してくるレイキュバス。

「行くぞっ!」

まずはカオスが向かっていく。勢いはいいが、逆に言うと興奮状態で隙は多かった。

「ハァッ!」

腹に回し蹴り!

「デヤッ!」

さらに同じ箇所に正拳を叩き込む!たまらずその重さにたじろぐレイキュバス。しかし、そこへ間髪入れずにコスモスが走る。

「ウォォォオオオ!!」

そして走りながら、コスモスはモードチェンジを行った。

蒼き月のごとき優しさのルナモードから、紅き太陽のごとき強さのコロナモードへ。

「セイヤァッ!」

そして踏み切って大きく跳躍。宙を舞う中でさらに、金色の日食の光のごとき輝きの、優しさと強さを併せ持った、エクリプスモードへと変身を遂げた。

そして回転を利用し、レイキュバスの脳天にかかと落としを決める!

「ギャァァッ!?」

形勢逆転とはまさにこのこと。レイキュバスはこうなったらと、再び先程の炎と氷の同時発射攻撃を仕掛ける体制に入る。

「させるか!」

しかしそれに素早くカオスが気づき、自身の体を再び光の粒子へと変えた。そしてレイキュバスの体内、果ては精神へとあっという間に侵入する。元はといえばカオスヘッダーは生命体に取りつき洗脳する光のウイルス、こんなことは造作もないのだ。さらには取りつかれた怪獣を攻撃しても、カオスヘッダーはほとんど無傷。敵対していた時は厄介だったが、こうして味方になれば、とても都合の良い能力なのだ。

「すごい!怪獣の動きが鈍っている!」

レイキュバスは思うように体の制御が出来ていないようだ。取りつかれた影響だろうか。しかし、カオスとコスモスは、一気に攻めようとした面々を制した。なぜなら…

 

「くっ…!?大人しくしろ!

こいつめ、なんて力だ!奴の精神を完全に制御しきれない!」

「みんな気をつけろ!カオスの能力にあがらうほどの奴だ、かなりの力を持っている!」

下手に近づきすぎるのは危険ということか、だったら!

俺はマイクに指示を送る。

「艦隊は下手に近づくな!川内と響、不知火は魚雷を使って動きを封じろ!

金剛、千代田、加賀は遠距離から砲撃と艦載機でそれぞれ攻撃!奴の艤装部分を集中攻撃だ!俺も援護する!」

接近戦はコスモスに任せ、せまい車内ながらも俺がアトスレーザーを操作しようとした、その時だった。

 

「ぅ…ぅう…!」

「!千歳さん!!」

急いで彼女に寄る。

「明石…さん?それと、あなたは…」

「詳しく説明している暇はないが…要するに、君は助かったんだ」

「…え?」

ちょうどそこに、声が響いてきた。

「行っけー!!」

「千代田!?…痛っ!」

「ダメですよ千歳さん、安静にしていないと…あくまでも応急処置の段階ですから」

明石が再び千歳を寝かせる。

「すみません…つい」

「大丈夫です、分かりますよ。あなたの、たった一人の妹さんですからね」

「じゃあやっぱり、あの千代田は…」

「ああ。かつて君が第15鎮守府で一緒だった千代田だ。」

窓から、遠くの千代田を見つめる千歳。

「あの子が戦っているんですね…」

「ああ。この世界を守るために。

そして、遠きあの日の約束を、果たすために…」ーーー

 

ーーー「よし!やつの突破口が分かったぞ!」

「本当か!?」

カオスが、レイキュバスの口を通じて話す。

「先程の氷と炎の同時攻撃…あれを撃つ瞬間に、口の奥にある冷気と熱気を操る器官が揃う。その時に口の中を直接攻撃出来れば…」

「いっぺんに両方を叩ける…!」

「だが、やつの抵抗力が思いの外高い!このままだと作戦を実行することすら困難だ!」

「分かった、僕が抑えこもう!」

コスモスがレイキュバスの背後に回り込み、羽交い締めの体制でレイキュバスを抑える。

「千代田さん!みんな!頼む!」

「千代田!Youがやるネー!」

「はい!」

無線で伝わる彼女の決意。千歳が祈るように見つめている。

「everyone、千代田を援護するデース!FIRE!!」

「ウラー!」

「アトスレーザー、発射!」

全員で総力をあげ、足掻くレイキュバスを抑え込む。

「グウッ!ヤメロォ!!」

必死にレイキュバスも抵抗を試みるが、力を合わせ、一体となって攻め込む艦隊の前には手も足も出ない。

「敵の全砲台を破壊したよ!」

「カオスさん、お願いします!」

「任せろ!うぉぉぉおおお!!」

レイキュバスの口が、ゆっくりと開いていく。

「今だ!千代田さん!」

「はい!

テックブースター、発艦!!」

奥の手としてとっておいた、チームEYESの最強航空機・テックブースターが、今、勢いよく甲板から飛び立った!

「決めてみせるっ!お姉のために、私のために!

私を支えてくれる、みんなのために!」

 

「ディレクトルビーム砲・撃てーっ!!」

 

放たれた光の筋。

吸い込まれるように口の中へと入り、

 

次の瞬間、大爆発を起こした。

「ギャァァァァアアアアアア!!」

叫び声をあげるレイキュバス。そこから即座にカオスが分離し、再び巨人の形をなす。

「でかした!」

「あとは任せてくれ!」

二人はアイコンタクトをとり、同時に走り出し、飛び上がる。レイキュバスにはもう二人を止める術はない。

「「セイヤァーーーッ!!」」

ダブルキックが決まった!海面に叩きつけられるレイキュバス。

「まだまだ!」

「行くぞ、コスモス!」

カオスがコスモスへと飛び込むと、コスモスは彼を掴んでジャイアントスイングの要領でぶんぶんと振り回していく。そして、回転がまで高まったところでその手を離すと、カオスはブーメランのようにその体を回転させながらレイキュバス目掛けて飛んでいく。

「何ッ!?」

突然の予想外の攻撃に対応しきれず、もろに攻撃を食らうレイキュバス。しかも、ブーメランの要領なので、行きと帰りの二回連続だ。

「コノ私ガ…アリエナイ、アッテハナラナイ!!」

「言っただろう!仲間の力を知らないお前が、僕達に勝てるはずがないと!」

「分かりあった我々の力、見せてやる!」

コスモスとカオスが手を組み、そして互いのエネルギーを一気に放出した!

混沌と秩序、相反するもの同士が分かりあった、神秘の光線が今走る!!

 

「クロスパーフェクション!!」

 

二人の腕から発射された二筋の光は、やがて一つになり、レイキュバスの体を一気に貫いた!

「グワァァァァアアアア!!!」

断末魔を上げながら、レイキュバスは大穴を開けたその体を爆散させたのであったーーー




今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!

評価や感想頂けると励みになります、よろしくお願いしますm(_ _)m

また次回です!


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深海棲艦の秘密…

えー、テストやら本体の不調やら更にはめっちゃくちゃ案を選ぶのに迷ってこんなに遅くなりました。
大変申し訳ございませんm(_ _)m

これからも頑張りますのでよろしくお願いします。

※尚、今回で鋭い人は敵の正体がもしかしたら分かってしまうかもしれませんが、感想欄へのネタバレ投稿はご遠慮いただくようお願いします。


ーーー「やった…やったぁぁああ!」

「よしっ!やったぞ!!」

歓声に包まれる艦隊。強敵撃破、そして救出の完遂。いくつもの困難も、仲間たちの力を合わせて乗り越えたからこそ、この大勝利は得られたのだ。

「ありがとう、コスモス、カオス…」

「こちらこそだ。君たちの力が無くては、この勝利はなかった。」

「よく頑張ったね。

それから千代田さん、あそこを見るんだ。」

「え?」

言われるがままに指さされた方向を見る千代田。

そこには…

 

「…お姉…お姉!!」

両脇を明石と提督に抱えられながらも、しっかりとその目は千代田を見つめていた。

「いっておいで」

「…!はい!」

戦いの疲れなど、もう気にもならない。

出せる限りの速度で、千代田は尊敬する姉の元へと向かった。

「千歳お姉ーーー!!」

「千代田…千代田…!!」

互いの名を叫び合い、そして抱き合う。

「千歳お姉…!よがっだ、本当によがっだぁぁ…!」

「千代田…ありがとう…助けてくれて、本当にありがどぉぉ!!」

お互い顔は涙でぐしゃぐしゃ。それでも、この再会を喜ばずにいられるはずなどなかった。

よかった、本当によかった。二人だけでなく、その場の全員が思った。

「さて、とりあえず千歳たちの治療をしなくてはならないな。スカイマスケッティも、鎮守府までの飛行が出来るほどには修理ができている」

「他の皆さんも、意識こそ戻っていませんが、命には別状ありません。とにかく、この海域を離脱して鎮守府に戻りましょう」

艦隊は撤退の準備を整え始めた。

一方で…

 

「どうした?コスモスよ」

「いや…少し考え事さ。

あいつ…僕の浄化技が全く効かなかったんだ。落ち着くどころか、動きの鈍りさえ感じられなかったんだ…カオス、君はあいつに取りついた身として、何か分かったかい?」

しかし、コスモスの呼び掛けに、今度はカオスが思索を巡らせてなかなか答えない。

そして唐突に、彼は顔を上げた。

「…そうか…そういうことだったのか!

ありがとうコスモス、私も少し違和感があったのだが…

君の話を聞いて、有力な仮説が浮かんだ。状況が落ち着いたら、提督さんとやらたちにも話さねばな」

「分かった、とにかく彼らを護衛して、鎮守府に戻ろう」ーーー

 

ーーー第35鎮守府

千歳を含め、捕えられていた艦娘たちをすぐにドッグへと送り、俺は大本営本部や彼女たちの元いた鎮守府への連絡に追われた。

「はい、はい…じゃあその日に…」

「…という形です、詳しいことは報告書にて…」

中でも一番厄介と思われたのが、千歳の所属していた第15鎮守府との連絡だった。

他の艦娘は失踪から今までの期間がそれほど長くはなかったが、千歳は2ヶ月を超えている。2ヶ月を超して失踪扱いになった艦娘は、所属の鎮守府にある籍が無効になるという規則があるのだ。

ただ見つかった以上、このことはやらなければならない。俺は覚悟を決め、執務室の電話の受話器を取った。

「こちら第35鎮守府です」ーーー

 

ーーー幸い、損傷自体は少なかったため、千歳は氷の磔台による凍傷や低体温症の治療と入渠だけで済んだ。

「…体の方は大丈夫か?まだ慣れていないだろうし、何かあったらすぐに周りの仲間に言ってくれ。あと、服も新しいものに交換しておいた」

「ありがとうございます、長門さん」

ドッグの脱衣場で、長門から受け取った新しい服に袖を通す千歳。しっかりと礼を言い、外の廊下へと向かう。

すると、そこに提督がいた。

「千歳、少し失礼する。

急だが、君の所属について話があるんだ」ーーー

 

ーーー千代田の部屋

座布団に腰掛けながら、千代田は待っていた。尊敬する姉のことを。

しばらく前に、スマホで検査も問題ないという明石からの知らせを受け取ったが、やはり心配だった。と、そこへ…

「千代田、いるか?」

提督の声だ。

「提督?今開けるね」

ドアを開ける千代田。

「どうしたの、提督ーーー」

その瞬間、彼女は驚きの表情を見せた。

 

「助けてくれて本当にありがとう、千代田。あなたの戦っている姿…とても格好よかっあわ」

「千歳お姉!!」

感動のあまり抱きつく千代田。千歳も笑顔のまま抱き返す。

「君に朗報だ、千代田。少し部屋に邪魔するぞ」

やがて全員がちゃぶ台の周りに腰掛ける。

 

「先程、第15鎮守府との話し合いをして、その結果…千歳、君のここへの異動が正式に決まったんだ。あちらの提督さんからも、千歳と千代田を応援している、という励ましをもらった。」

「ってことは…私、お姉と一緒にこれから過ごせるの!?」

「そうよ千代田。改めて、これからよろしくね」

一瞬信じられない、という顔をしていた千代田だが、

「うん…こちらこそよろしくね、お姉!

あと、それと…」

キョトンとする千歳に、千代田は申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。

ずっと、謝りたかったのだ。

「お姉が、行方不明になる前…酷いこと言っちゃって…本当にごめんね」

千歳は少し面食らったような顔をしたが、すぐに笑顔に戻り、

「大丈夫よ。私こそ、あなたの気持ちを汲みきれなくてごめんなさい。

…あなたが戦っているところ、本当に格好よかったわ。すごく成長したじゃない!」

「お姉…」

千代田もまた、笑顔に戻った。

「ありがとう…!

この提督さんや周りのみんな、それから…あのウルトラマン達が私を支えてくれたの。

だから…私は成長できたんだな、って思う」

なんだか少し照れくさい気持ちになってしまった。

しかし、そんな時に一本の通信が入った。

 

「提督さん?ムサシです。

あなたたちに話したい、重要なことがあります。都合がよければ会議室へお願いします」

ムサシさんか…。重要なこととは?

「…すまない、少し用ができた。

しばらく、姉妹水入らずの会話を楽しんでいてくれ」

「分かったわ。

提督、本当にありがとう」

「ああ。

それから千歳、俺からも、これからよろしくな」

「はい!」

俺は二人にそう言ったあと、会議室へ急いだーーー

 

ーーー会議室

メンバーは、俺に加え、響、レイ、そして長門に大淀、ミライさん。ムサシさんがパソコンとプロジェクターを操作して、スクリーンに映し出す。

「今日の戦いで、分かったことがあってね。

僕は明後日から別の依頼があるし、カオスもジュランに戻らなければならない。

だからこれは、どうしても今話さなければならないんだ。」

ムサシさんはそう言いつつ、パソコンのキーボードを叩き、スクリーンに画像を映し出す。そこには、全身金色の、巨大な天使のようなものが。

「…これは?」

「ああ、カオスヘッダー…つまり、先程のカオスと同じものだよ」

「えっ、コンピューターの中にも入れるんだ…」

「まあ、カオスヘッダーは光のウイルスだからね…だから、試しにコンピューターに侵入してもらったら、こんな感じで上手くいったんだよ」

「コンピューターウイルス…」

若干放心状態の響。多分何が起こっているか分かりきっていないのだろう。

「まあ、ここからの解説はカオスヘッダーに頼もうか」

「よし、分かった。」

スピーカーを通じて、コンピュータ回線上のカオスの声が響く。

「今回私がこれから話すのは…

ズバリ、深海棲艦獣の精神の構造についてだ。」

「奴らの精神構造?」

「ああ。

君たちも見ただろう。コスモスの浄化技は、あのレイキュバスに全く通じなかった。以前、コスモスと敵対関係にあった頃の私は、怪獣に取りついた時何度も技をくらって、ようやくそれに対する抗力…言わば免疫のようなものをつけたんだ。」

「確かに、あの怪獣はコスモスとは初めて戦う怪獣だ。技に対する抗体のようなものがあるとは思えない…」

「でも何故それと、怪獣の精神に関係が…?」

納得する響、そして問題を投げかける大淀。

「うむ、これから少し例え話をしよう。」

カオスヘッダーは画面の右側に動き、手を差し出す。そしてそこには…

「…セーター…?」

何故か画面に映し出されたのは、白いセーターだった。

「このセーターは、『白い羊の毛をそのまま使った』ものだと思ってほしい。そして同時に、普通の怪獣の精神だと仮定してくれ。」

カオスの話が続く。

「白、つまり汚れなき状態は、怪獣は大人しい。そこへ、かつて敵対していたころの私が取りつき、精神を凶暴化させたのが…このような状態だ」

すると、画面のセーターが、インクのようなものを浴びせられ、黒く汚れてしまった。

「かつての私は、このような形式で怪獣を凶暴化させ、その体を借りてコスモスと幾度も戦ったんだ。ここでは、黒=悪意のある心と思ってほしい。

そしてコスモスが、怪獣に対して浄化技を使う…どういうことか、もう分かるな?」

「…そうか、分かったぞ!」

長門が目を見開く。

 

「コスモスの浄化技は、カオスの汚れに対し、それを落として心のセーターを綺麗にする…洗剤や石鹸のようなものか…!」

 

「その通りだ。」

画面のセーターは石鹸の泡に包まれ、再び真っ白な状態に戻る。

「でも…だったら深海棲艦獣は、どのような点が違うんだろう…?」

レイが考え込む。

「…私は通常の怪獣を、『白い羊の毛をそのまま使った』セーターに例えた。それに対し、深海棲艦獣の、いやおそらくはすべての深海棲艦の心は…

 

『黒い羊の毛をそのまま使った黒いセーター』とでも表現すればいいだろうか…?」

 

「…黒い羊の毛を、そのまま…まさか!?」

俺の脳内に閃光が走った。

「確かに…元から黒い毛は、洗剤や石鹸で色を落とすことはできない…!」

「正解だ。これこそが、深海棲艦の精神構造の秘密なのだ。コスモスの技も、改心の余地がなく、根本からの悪には通用しない。」

しかし、そんな中レイが呟く。

「でも…私たちの仲間は、みんなとても優しくて…なのに、なんで…

みんなの心は、カオスヘッダーさんが言っていた、『白いセーター』なはずなのに…」

すると、カオスヘッダーはこう言った。

「それこそが最大の注目すべき点だ。

二つの精神構造を例えたセーター、その毛の元となる羊は全くの別物。

ここは私の推測が入るが…

敵の技術は、洗脳という言葉の定義を超越したところまで行っている可能性が高い。

洗脳、つまり心の中身を書き換えるのではなく…

 

レイ君のような元の生物から、心を抜き取って、そして、元から用意していた百パーセント悪の、別の心と入れ替える…

心そのものを移植するんだ。

あくまでも推測だが、現状これ以外に事の真相を証明できる可能性のある説がないんだ。

敵にとって、確実に作戦を実行するには、何かのきっかけで善の心を取り戻す可能性がある洗脳に比べ、この方法はこれ以上ない効果的な方法なんだ。」

 

「そんな…!!」

絶望的な表情になるレイ。

「もう…みんなは…深海棲艦になってしまった仲間は、元には戻らないのですか…?」

ボロボロと涙をこぼし出すレイ。嗚咽が漏れる中、答えたのはムサシさんだった。

「いや、まだ可能性はある」

「…え?」

「心を入れ替えた、ということは、先程の『白いセーター』の心がまだどこかにあるはずだ。

生き物の心は、決して消滅させることなどできない。敵は必ず、どこかにその心を保管しているはずだ…!」

「その心を取り戻せれば…!」

ミライさんの言葉に頷くムサシさん。

「元の心は、その生物本来の心。きっとそれを取り戻すことが出来れば、レイさんの仲間たちも元に戻るはずだ!」

「しかし、それには敵の正体が分からないと…」

長門が悔しそうに言うが、ムサシさんはこう返した。

「いや、でも今カオスが伝えたこと…それだけでも、敵の正体を探る手がかりにはなる」

「そうですね。少し話を整理しましょう。」

大淀がホワイトボードに書き込んでいく。

「敵は超深海生命体を誘拐、心を移植して完全な悪に仕立てた上で、改造を施し、深海棲艦として地球の海に送っている…ということで間違いないですね?」

「はい。」

「それから…おそらく心の移植技術は、洗脳を基礎とした技術の延長線上の果てにある…敵はおそらく、高い洗脳技術を有しているに違いない」

「なるほど…」

「それからこれまでの事例を見て、敵は宇宙にいて、生命体の身体改造技術も高い…これもまず間違いないね」

「ああ。だいぶ条件的には絞れてきたが…該当するものがあるのか…」

…ん?んん!?

「…どうしたんだい、司令官」

「…いや、なんでもない」

俺は、一瞬浮かんだ考えを自ら否定した。自分の思った勢力は、とっくに滅んだはずなのだ。

 

その後もしばらく議論がかわされたが、正体の特定までには至らなかったーーー

 

ーーー「ムサシさんもカオスヘッダーも、これ以上は厳しそうなので、とりあえず今回はここまでにしておきましょうか。

ここからは我々が敵の正体を探ります。

ムサシさん、そしてカオスヘッダー…本当にありがとうございました。」

俺は彼らにお礼を言った。

「こちらこそ、色々と意見交換が出来て学ぶことができた」

「あとはよろしく頼む」ーーー

 

ーーー翌日 マルハチマルマル

第35鎮守府 航空機発着場

ムサシさんは別の依頼、そしてカオスヘッダーはジュランの守護に復帰すべく今日ここを発つ。

「本当に…ありがとうございました!

お姉や提督、ここのみんなと…これからも一緒に頑張っていきます!」

「その意気だよ千代田さん!僕も応援しているからね!」

ムサシさんは千代田と握手を交わした後、乗ってきたテックスピナーへと再び乗り込んだ。

「みんな、どうかお元気で!」

「ありがとうございましたー!!」

青空の中、一つの機影と一つの光の天使が、空の彼方へと飛んでいったーーー

 

ーーー宇宙空間

「…そういえば、今思ったんだけど…

カオスはなぜあの時、僕たちのピンチが分かったのかい?」

ムサシが、並行するカオスヘッダーに問いかける。

「いや…それが…

声に呼ばれた、としか言いようがないというか…」

「声?」

「ああ。

ジュランのパトロールをしていたら、急に空の彼方から、『お前の大切な者が、地球で危機に陥っている』と聞こえたんだ。

それで、地球に行っていた君を思い出し、駆けつけたというわけだ」

「そうか…

いったいその声は…何者なんだろう…。」ーーー

 

ーーーM78星雲 宇宙警備隊本部

「ゾフィー兄さん、メビウスから敵の正体に関する議論の結果が送られてきました」

「おお、そうかタロウ。」

ウルトラ兄弟を始めとする歴戦の勇士たちが一堂に会し、ミライ=メビウスからのデータを共有し、話し合っていた。

「…これが敵の精神構造…」

「心を移植する技術とは…なんという…!」

「とにかく、これで敵の正体に一歩近づくことが出来るかもしれない。」

「…そういえば、大隊長はどこに行ったんだ?」

大隊長…つまりウルトラの父がここにいない事に、ウルトラマンが気づいた。

「大隊長は、先程別に大切な用事があると、今は席を外している」

「そうか。よほど重要なことなのだろう…。」

そんな中。一人の戦士は、何も言わず考え込んでいた。

 

「まさか…いや、奴らは…だがしかし…」

彼にとって、どこかに引っかかるものがあった。頭の中に、かつて戦った敵の姿が思い浮かぶ。

そしてそれは、第35鎮守府の提督が思い浮かべていた敵と、一致していたのであるーーー

 

ーーーM78星雲 プラズマスパークタワー

「…ベリアルが復活した時と同じだ…やはり異常な反応が強くなっている。」

宇宙警備隊大隊長・ウルトラの父は、目の前のエネルギーを見つめながら呟いた。その時…

「…やはり、そちらの宇宙にも干渉が入っているのでしょう…。

こちらとしては、だいぶ敵の正体が掴めてきましたぞ、ウルトラの父よ」

「それは本当ですか?」

「はい。

まだ確証には至らぬが…我々が戦っているもの、そしてあなた方の宇宙においての地球で、『深海棲艦』などというものを操る存在…

おそらくそれらは同一の存在じゃろう。」

「わかりました。ありがとうございます。」

会話の相手はそこにいない。ウルトラの父は、プラズマスパークタワーにある、光の国の生命線・プラズマスパークエネルギーを応用し、別宇宙のある者と話し合っていたのだ。

「こちらも正体を確実に突き止めたら、また連絡する」

「よろしくお願いします」ーーー




というわけで最後まで読んでいただきありがとうございましたm(_ _)m

励みになるので、評価や感想よければお願いしますm(_ _)m

繰り返しになりますが、感想欄へのネタバレ投稿はご遠慮くださいm(_ _)m

それではまた次回。


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レイと仲間たちの章 〜前〜
特異点から


自分って文才ないなー(今更)。

軽い自虐ネタから始まりましたが、何が言いたいのかというと
いつもこの作品を読んでくださってありがとうございます、ということです(唐突)。
UAもいつの間にか10,000突破、重ねて感謝申し上げます。

完結はまだまだ先の話ですが、
ストーリーはこの話がターニングポイントとなります。

何卒これからもよろしくお願いしますm(_ _)m。

それでは本編どうぞ。


 ーーー第35鎮守府 執務室

「…長門、最近レイの様子はどうだ?」

「やはり気づいていたか…。どうもムサシさんたちから深海棲艦についての話を聞いて以降、どこか元気がないんだ」

「…ショックだったんだろうな、余程。今は…とりあえずあいつの反応を待とう。落ち着くための時間が必要だ」

 夕方、仕事が早く終わり、秘書艦の響は既に帰している。そこへやって来たのは長門だった。

 彼女曰く、ムサシさんから深海棲艦についての話を聞いて以降、レイの元気がないのだそうだ。

 こちらとしても打つ手がなく、今は長門にレイのことを一任している状況である。

「…とりあえず、出来ることを探すしかないか…」

「ああ。とりあえず、またレイの部屋に行って話をしてみようと思う」ーーー

 

 ーーーレイの部屋

「レイ?入るぞ。」

「あ、長門さん…どうぞ」

「すまないな。食堂で、間宮から饅頭と茶をもらってきて、一緒に食べようかと思ってな」

「わざわざありがとうございます…」

 お盆に積まれた数個の饅頭をちゃぶ台の真ん中に置き、湯気を立てている湯のみを渡す。向かい合って座り、早速自分も美味しそうにそれを啜りながら長門は尋ねた。

「どうだ?少しは落ち着いたか?」

「…はい。前よりは、だいぶ…。

 本当にすみません、お仕事をこちらのわがままで断ってしまって…」

「気にすることは無い。これでも少しは、お前の気持ちは分かっているつもりだ。ゆっくり休めばいいさ」

「あ…ありがとうございます…」

 お茶を啜り、レイは言葉を続けた。

「…以前北斗さんに言われたように、そばにいなくても、私は今も仲間を信じ続けています。

 でも、あの話を聞いて…みんなの心が、どんどんその面影すら無くしているって…」

「そうか…」

「それに」

「?」

 きょとんとする長門に、レイは更に告げる。

「最近…ちょうど一週間前くらいからでしょうか、夢を見るようになったんです。

 深い海の底で…私の仲間たちが住処を追われ、私に助けを求めている…最近はずっとこの夢ばかり見るんです。何か意味があるように思えて仕方ないのですが…」

 …って、すみません、こんな話まで聞いていただいて、とおずおずと謝るレイ。一方、レイの話を聞いた長門は…

「なるほどな…

 よし、提督に相談しに行くか」

「え?でも、そんな申し訳ないですし」

「何が申し訳ないんだ?」

「えっ…

 それは、その…」

 自分で言い出したことなのに、レイはうまくそのあとの言葉を思いつくことは出来なかった。

「レイ、前も言っただろう?

 我々はみんなお前の味方だ。全員でお前を、そしてお前の仲間たちも、必ず守り抜いてみせる。

 何かあったら、何でも遠慮なく言ってくれ。力になりたいんだ。」

「長門さん…」

 じっと長門を見つめるレイ。

「とにかく、提督の所に行ってみよう。」

「…はい!」

 二人は部屋を出て、執務室へと向かったーーー

 

 ーーー執務室

 長門から、レイが最近見ているという妙な夢の話を聞いた。

「私からしても、意味の無いもののようには思えないんだ。近頃毎日見ているというし…」

「提督さんとしては、どう思いますか…?」

 聞いた限り、出せる結論は一つ。

「おそらく夢の内容は事実だ。深海棲艦はますます、超深海生命体たちの住処を襲っているに違いない。レイの仲間たちは、何とかして助けを求めているんだろう。」

「何か…何か仲間たちを助けられる方法はないのか?提督。」

 そう聞いてくる長門。

「…残念だが、情報が少なすぎる。場所が分からないし、仮に分かったとしても未知の海底までどう救助すればいいのか…。」

「そんな…。」

「なんとか、なんとか手がかりだけでも」

 レイと長門は机に乗り出してきた。その心情は痛いほど分かるが、今自分が返すことができる答えは、彼女たちの望むものでは無い。歯がゆかった。無力感を感じながらも、俺は言うしかなかった。

「…まず最低限度、確実に超深海生命体たちと情報交換できるようにはならないとな…。居場所の他にも、どれくらいの数がいるのか、付近の深海棲艦の状況とか…」

「私のテレパシー能力は、距離が離れている以上今は使えない…なんとか海に私を出すことはできないんですか?」

「…出たとなれば、一斉に深海棲艦たちが寄ってきてしまう。リスクが大きい」

 押し問答が続いてしまう。本当は、こんなこと話したくないのだが…。

「ごめんなレイ…だが貴重な情報をありがとう。出来る限り急いで策を考えるようにする。」

「ごめんなさい提督…」

「『ごめんなさい』はこの件に関しては言うな。レイは謝るようなことはしていないじゃないか。

 これも俺の…俺たちの仕事だ。」

「提督…」

 とは言え、暗いムードが漂う執務室。長門が悔しさを言葉に滲ませる。

「スマホとかなら…場所を変えれば電波とか良くなって、使えるんだけどな…」

 

 だな…ん?

 レイ?レイどうした?

 

「それだよ!それだ!」

「それって?」

 突然大声を出したレイに驚きながらも、俺はその真意を聞いた。

「…提督さん、明日連れて行って欲しい場所があります」ーーー

 

 ーーー翌日。

 ジオアトスに長門、レイ、そして秘書艦の響を乗せて、レイの案内である場所へと向かった。

「確か…ここを右で…あ、ここです!」

 ジオアトスを停めた、そこには。

 

「…何もない…よ?」

「レイ、なぜこの場所に行きたかったんだ?何か関係があるのか?」

 と、

「あー!」

「わっ!?長門さん?どうしたんですかいきなり」

「ここって確か、北斗さんに言われて、レイが仲間たちの声を聞いたっていう所じゃないか!」

「そうなんです。

 長門さんの昨日の言葉で、閃いたんです!」

「言葉って…さっき鎮守府を出る前に司令官が話してくれた、『スマホとかなら場所を変えれば』っていう?でも、それとなんの関係があるのかい?」

 疑問符を浮かべる響、その時俺はあることを思い出した。

「…なるほど、そういうことか。」

「え?」

「ここは、所謂電波特異点なんだ。それも、レイのテレパシー波に関してのな」

「電波…特異点?」

「ああ。

 絶対に双方の電波…というか波長が伝わらない状況下でも、例外的にあるポイントだけ、互いに波長を伝え合うことができる場所がある。それが、電波特異点というものだ。

 かつては、ここより遥か遠く離れた惑星ギレルモへ、宇宙人によって連れ去られた特捜チーム・Xioのルイ研究員とチームの基地が、ウルトラ・フレアによって消滅したある研究所の跡地を通じて、通信することができたという例があるんだ」

「そうか!もし、レイが仲間たちの声を聞いたことに、電波特異点の地理的要素があるなら!」

「ああ。希望はあると見ていいだろう。

 この近くにはかつて、電波の研究所があったらしいからな。まあ、沿岸部に位置していたこともあって、深海棲艦によって破壊されてしまったが」

「とにかくやってみよう!」

「わかりました!」ーーー

 

 ーーー数分後

「…どうだ?レイ」

「ダメです、聞こえません…。感じは掴めているんですけど、なんというか、ノイズが混じっているというか…あの時はちゃんと声を聞けたのに、なんで…。」

「提督、何か考えられる原因はあるか?」

 長門の問いに、俺はエレキングが襲来した時の情報を思い出しながら、暫定的な結論を出した。

「おそらく…あの時から時間が経ったが故に、超深海生命体の方から発せられる波長が弱まっている可能性がある。それにあの時襲ってきたエレキング、その磁力操作能力が波長を伝わりやすくしていたとなれば…尚更聞こえづらいだろうな。

 ただ、条件的には揃っている場所だ。ここが電波特異点と見て、間違いはないはずなんだが…」

「なんとか、コミュニケーションをとることは出来ないのかな…」

「…波長を増幅したりすれば、可能なのかもしれないが…専門的な知識が必要となる。

 とりあえずもう少しこちらで試してダメだったら、俺が少しこういうことに詳しい研究所や機関を探してみるよ」

「ありがとうございます、提督さん」

 その後も、周辺の様々な場所を試してみたものの、状況は変わらず、この日はそれで終わりとなったーーー

 

 ーーー第35鎮守府

「はい、そうですか…すみません、はい、失礼します」

 大本営極東支部に許可をもらった上で、俺は研究所や機関を探しては、片っ端から電話をかけていた。

 だが、虱潰しにやるしかなく、いくつかの所は嫌味っぽく応対された所もあった。

「あぁ…随分と久しぶりにメンタルをここまで削られた気がする…」

 そこへ響がやってくる。

「司令官?無理しないでよ?

 ボルシチ作ってきたから、よかったらこれ食べてひと段落しようよ」

「ありがとう響、気が利くな。」

 そうだな、ここは一休みすべきだろう。

 俺はスプーンでボルシチをひと口、口の中に流し込んだ。

「はぁ…温かくて美味しい…。

 ありがとう響、疲れも吹き飛ぶよ」

「喜んでくれて私もうれしいよ、司令官」

「ああ。

 …あれ響、一人称『私』にしたのか?」

「あ、うん…最近、スポコンの他に少女マンガ読み始めたんだけど…すごくハマっちゃって」

「なるほど。」

「おかしいかな?まあ、一人称が本来は『私』なんだけどね…」

「まあ、自分の言いたいものでいいんじゃないか?」

「そうだね。

 …やっぱり、自分は『僕』でいいか」

 久しぶりにこんな日常的な会話をした気がする。ボルシチと合わせて、いい息抜きになった。ありがとう響。

 ちなみにその時、「時代劇とか歴史小説にハマったら『拙者』とか『わらわ』になるのか…?」などと思ったのは内緒であるーーー

 

 ーーーその後

「ここも、ダメか…」

「数はあるけど、やっぱり難しいか…」

「事情を下手に話して、誤解される訳にもいかないからな…」

「もう少し分野を広げて当たってみる?」

「うーん…とりあえず、リストをざっと見てからにしよう」

 そう決めて、結構分厚いリストを、パラパラとめくりながら眺めていると…

 

「ん…んん!?」

「どうしたの?」

「いや、もしかしたらここなら…っていう所が見つかったんだ」

「え!?本当かい!?」

「ああ、ここなんだが…」

 指さしたそこに書かれていた文字は…。

 

「城南大学附属物理学研究所

 

 所長・高山我夢

 副所長・藤宮博也」ーーー




最後まで読んでいただきありがとうございました。

評価や感想いただけると励みにも参考にもなりますのでよければお願いしますm(_ _)m。

また次回お会いしましょう!


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研究所へ…

ぶっちゃけ説明要素が強い回です。
そして今年最後の更新です。

気付けばこのシリーズが1年以上続いているんですよね…皆様ありがとうございます。

では本編どうぞ!


 ーーー「あ、すみません、こちら第35鎮守府というところなのですが…」

 ここを逃すわけにはいかない、受話器を握る手に力がこもり汗が滲む。

 ひと通り要項を話すと、相手方はわざわざ所長に代わってくれるという。

「はい、ありがとうございます…」

 脇では響が片時も目を離さず見守ってくれている。やがて、電話口から、男性の声が聞こえてきた。

「電話代わりました、城南大学附属物理学研究所、所長の高山です」

「第35鎮守府の提督です…」ーーー

 

 ーーー通話を終え、響に向き直る。

「どうだったかい、司令官。」

 その問に、俺ははっきりと答えられた。

「事情を話したら、快く話に乗ってくれた。

 今度こちらの都合のいい時に、研究所に来て詳しいことを話し合うことになったよ」

 響の顔は変わらない。先程向き直った時から安心した笑みのままだ。

「だろうね、よかった。

 話している司令官、とても楽しそうだったし、電話口から漏れてくる相手の声もそんな感じだったよ。」

 そう答えながら、響はあるものを持ってきた。その笑みは、苦笑いに変わっている。

「ただ、少し話しすぎじゃないかな…?」

「…あっ」

 響が持っていた時計の針は、電話を始めた時間から40分後を指していたーーー

 

 ーーー三日後

 その日の最低限の仕事を終えた後、ジオアラミスに鎮守府の面々を乗せ、俺は研究所へと向かった。ちなみに同行しているメンバーは、響、長門、レイ、そして技術などの専門家ということで明石である。

「研究所か…どんな所だろう」

「わくわくしてきました!」

「おいおい、遊びじゃないんだからな」

 社会科見学的なムードが漂う中、ジオアラミスは数時間後に研究所に到着したーーー

 

 ーーー研究所

 来客用の駐車場に車を停めると、ご丁寧にそこには二人の男性が既に待機していた。

「お待ちしておりました、提督さん。ようこそ、城南大学附属物理学研究所へ。改めまして、所長の高山我夢です」

「副所長の、藤宮博也です」

 どちらも精悍な顔つきだ。

「第35鎮守府の提督です。今回はありがとうございます。」

「秘書艦の響です。」

「あ、あの…レイです」

「用務員の、そしてレイの保護役の長門です」

「明石です。今回、技術担当ということで来ました。」

「皆さん、はるばるお疲れ様です。

 既に会議室の準備は整っていますが、よければその前に、この研究所を大方見てみませんか?」

「わあ!それはいいですね!

 …ってすみません、つい…!」

 思わず喜びを爆発させた明石。しかし、響も言葉こそ発していないものの、その目がキラキラしているし、レイや長門も興味深そうだ。また何より、ここを知る上でもこの提案に乗らない手はない。

「是非、お願いします。」ーーー

 

 ーーーそして二人の案内で、俺たちは研究所の中を巡った。

「これは?」

「ああ、これは反陽子浮揚システム、リパルサー・リフトの改良研究の部屋です。現在は国際救助ステーションとなっている、赤道上の成層圏に浮かぶエリアル・ベース3号機は、この研究室から誕生した現在最新のリパルサー・リフトを使っています。」

 ん?聞いたことのある用語が出てきたぞ?

「エリアル・ベースって、前は確か特捜チームXIGの基地でしたよね?」

 高山さんと藤宮さんはこう答えた。

 

「はい、怪獣頻出期はそうでした。当時の敵・根源的破滅招来体との戦いのさなかに1号機は敵の襲撃にあい最終的には自爆、2号機は既に破滅招来体の去ったあとに起動したので、防衛拠点と言うよりは空の研究所のような役割でした。やがてその後に怪獣保護チームのチームEYESが誕生、2号機も役目を終えたんです」

 

「しかし、あなた方が今現在戦っている深海棲艦が数年前に出現したことで、人類は再び、XIGなどのようなチームを作ることを考えましたーーー最も、その前に響さんたち艦娘が現れたことでその必要性は無くなりました。

 しかし、深海棲艦は世界中の海に出現し、多くの被害をもたらしています。その被害をできるだけ減らすため、そして艦娘たちや大本営の方々の負担を少しでも軽くするため、現在のエリアル・ベース3号機は深海棲艦の襲撃及び、深海棲艦出現が原因の、多発する異常気象から人々を救出する、救助研究機関の役割を担っているんです。」

「深海棲艦が、異常気象の原因?」

 長門が首を傾げるが、その問に答えたのはレイだった。

 

「…私たち超深海生命体は、地球のエネルギーバランスを保つものです。それが深海棲艦になり、バランスを保つものがいなくなる…いや、もし深海棲艦たちが私たちから得た調整能力を悪用して意図的に崩しているとすれば…」

「必然的に、異常気象は多発します。これを見てください。」

 藤宮さんはタブレット端末を俺たちに見せた。折れ線グラフが表示されている。

「これがその証拠です。地球上で重大災害が発生した件数は、深海棲艦の出現前と比べ、出現した後は年を追うごとにどんどん増えているんです。最近は艦娘たちの活躍で、ペースは緩まってきていますが、依然として増え続けてはいるんです。」

「そうですか…」

 確かに、一ヶ月に一度以上のペースで、新聞に世界各国の災害のニュースが載るようになっている。

「とりあえず、次の場所に向かいましょう」ーーー

 

 ーーーやってきたのは、研究所の建物の外だった。前には海が近く見える。

「…外?それで、ここには何が?」

「あれを見てごらん」

 そこには、不思議な形のタワーが。それも、向こうには同じものがある。

「最新鋭のバリアシステムです。ここと、向こう、さらにもう二機がこの研究所の敷地の四隅に建てられています。

 この研究所は先程のエリアル・ベースの他にも数多くの重要な研究をしているので、怪獣などの襲撃を想定して、かなりの出力を出せるようにしているんです。」

「実際、深海棲艦の戦艦クラスの砲撃、敵艦載機の絨毯爆撃にも余裕で耐えた実績があります。なので海沿いにも関わらず、この研究所はここら辺一帯の地区の避難場所のひとつにもなっているんですよ」

「へぇ…すごいんですね…」

 

 その後も色々な所を巡った…のだが、これ以降は専門用語のオンパレードだった。ちなみに各々の反応としては、キラキラ状態の明石、ギリギリ理解出来るか出来ないかの自分、ちなみに残りの響、長門、レイは全員ポカーン状態であったーーー

 

 ーーー会議室

 ムサシさんから頂いたレイのデータ、そしてここまでの経緯を二人に話す。

「それで、電波特異点の詳細を調べてほしいんですね…」

 頷く高山さん、

「確かに、理論上ありえない事じゃない。確かめる価値はありそうだ」

 微笑む藤宮さん。

「ありがとうございます」

「特異点の状況に関しては、ここからでも十分調べることはできます。だけど、やはりまずは一回、機材を持ち込んでそこに行く必要がありそうですね」

「それに、波長増幅が上手く行けばコミュニケーションもとれ、上手く行けば、もしかしたらレイさんたちのような超深海生命体を救出できるかもしれないな」

「そ、それは本当ですか?」

 思わず椅子から立ち上がるレイ。

「可能性は限りなく高いでしょう。な、藤宮」

「そうだな…こちらとしてはすぐにでも取りかかりたいですね。その方がいいでしょうし」

「え、いいのですか!?」

「もちろんです。地球にはたくさんの生命があります。僕たちはそれを守る義務がありますから。」

「都合のいい時は言ってください、すぐに必要な機材を持ってその特異点に向かいます。やれるだけやってみましょう」

「ありがとうございます!」

 こうして、城南大学附属物理学研究所に正式に協力してもらえることになった。

 超深海生命体救出のための一歩が、ここに踏み出されたのだったーーー

 

 ーーーM78星雲 宇宙警備隊本部

「…んで、なんで俺を呼んだんだ?ゾフィー隊長」

 光の国の若き最強戦士、ウルトラマンゼロ。そして、宇宙警備隊隊長のゾフィー。今日、ゼロはゾフィーに呼ばれてここに来ていた。

「大隊長・ウルトラの父から、お前に任務を預かってきた。」

「ウルトラの父から?

 そう言えば大隊長、最近見てねえなぁ…」

「大隊長は今、独自のルートで敵の正体を探っているらしい。そしてそれが大方特定できてきたのだが、まだ確証も情報も足りない。そのために、今回お前にある任務を頼みたい」

「分かった。

 …それで、何をすればいいんだ?」

 引き受けたゼロに、ゾフィーは告げた。

「別宇宙…アナザースペースのお前の仲間たち、ウルティメイトフォースゼロの内に、グレンファイヤーという炎の戦士がいるだろう」

 ウルティメイトフォースゼロ…ゼロがかつて、アナザースペースで暗躍していた悪のウルトラマン、カイザーベリアルとの戦いのさなかに得た仲間たちを中心とした(尚、カイザーベリアルとの戦いの後にも一人加わった)独自の宇宙警備隊だ。

「グレン?あいつに何か用なのか?」

「正確には彼というより、彼の元いたところだ。」

「…炎の海賊?」

 ゼロは思い出した。グレンファイヤーは、ゼロの仲間になる前、自由を愛し宇宙をさすらう炎の海賊の船、アバンギャルド号の用心棒として、彼らとともに銀河を旅していたことを。

 ゾフィーはそんな彼に、ひとつの物を手渡した。

「大隊長が手を加えたこのブレスレットには、その炎の海賊たちに今回聞いてきてほしいことをデータ化して入れておいた。この任務は時空を超える能力をもつお前にしか頼めない、引き受けてくれるか?」

「もちろんだ。

 …でも、何故全員を動かさない?さっさと片付けちまえばいい話じゃねえか」

「私もそれに関しては、大隊長に聞いたんだが…

『今回の敵は、おそらくかなり強大だ。下手に動けば、それこそ相手の思うつぼになる可能性がある』だそうだ」

「なるほどな…分かった。それじゃあ早速行ってくるぜ!」

 警備隊本部から、飛び立っていくゼロ。それを見送るゾフィー。

「頼んだぞ、ゼロ」

 果たして、敵の正体はいったいどのようなものなのだろうかーーー

 




今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!

感想や評価、よければお願いします!

皆様良いお年を!(あとがき書き忘れてましたごめんなさい)


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招かれざる刺客

新年初更新。
まあ今年も頑張っていきますので皆様よろしくお願いします。

では、本編どうぞ。


 ーーー数日後 ヒトヒトマルマル

「提督、おはようございます。任務スケジュールに余裕ができました。」

「そうか、ありがとう大淀。そうと決まれば、早速研究所に連絡してみようか」

「はい」

 あれ以降タイミング悪く、立て続けに任務が舞い込んできてしまったが、それを何とか皆の力で乗り切った第35鎮守府。その影響で、今は反動というか、あまり任務が来なくなっていたのだ。

 俺は受話器を取り、研究所の番号をプッシュしたーーー

 

 ーーー城南大学附属物理学研究所

「もしもし、高山です。…あ、提督さんですか、どうも。はい、荷物の確認を終え次第、そちらに出発します。少々お待ちください」

 第35鎮守府から昨日電話を受けた高山は、藤宮とチェック作業をしていた。

「モレやヌケはなさそうだな。荷物をトラックに積んだら、すぐに出発しよう、我夢。今からなら、夕方前には着くはずだ」

「そうだな。」

 再び受話器を手に取って、高山は話す。

「では、荷物を積み込み次第、そちらに向かいます」

「ああ、ありがとうごさーーー」

 次の瞬間、電話口の向こうでけたたましくサイレンが鳴り響いた。

「どうしたんですか!?」

 思わず聞き返す高山。藤宮の顔にも、一瞬で緊張の色が浮かぶ。

「すみません、少し失礼します!」

 提督が受話器を戻さず、机の上に置いたのであろう音が聞こえた。通話が切られてはいないため、向こう側の音が聞こえてくる。高山と藤宮は、全神経をそれに集中させた。

「どうした!?」

「大変です提督!沖合の無人定点観測装置が、本鎮守府に向け水中を猛スピードで進む、巨大な生命体を感知!」

「なんだって!?大淀、それは本当か!?」

「間違いありません!このままだと、生命体は残り二十分以内で鎮守府近海に到達します!」

「分かった!至急、周辺住民に避難指示、迎撃体制を整えろ!」

 そして、その数秒後。唾を飲み込む我夢、藤宮。

「すみません、緊急事態が発生してしまいました、一旦通話を切ります」

「分かりました。どうか、ご無事で」

 その言葉を言い終わるか言い終わらないかのうちに、電話口の声は不通音に変わっていた。

 

「巨大な生命体…まさか、最近出てきているという、深海棲艦獣か…!?」

「そうだったらまずいぞ、鎮守府が危ない!藤宮、すぐに向かおう!」

「…待つんだ我夢」

 部屋を出ようとする高山の肩を、藤宮が掴んだ。

「…確かにお前の気持ちも分かる。だが…俺たちは…」

「藤宮…」

 高山は懐から、ウルトラマンのカラータイマーを模したようなもの…エスプレンダーを取り出し、見つめる。

「今は行くべきじゃない…そう言っているのか、藤宮」

「いや…正直、俺も迷っているんだ。行くべきか、行かないべきか」

 藤宮も、その腕に装着された、同じくカラータイマーのような意匠のブレスレット…アグレイターをじっと見た。

 どのくらいだろうか。沈黙が二人を包む。

「…力を自由に使えないことが、こんなにも辛いことだなんて…」

 悔しそうにつぶやく我夢に、藤宮は今度は優しく肩に手を置いた。

「我夢、とりあえずはニュースで様子を見よう。それを見て判断すればいい。」

「ああ…」ーーー

 

 ーーー第35鎮守府

「鎮守府に大型生物が接近していることにより、避難指示が発令されました。住民の皆さんは、落ち着いて避難所に避難してください。繰り返します…」

 大淀が防災無線に鎮守府のマイクを接続し、住民に避難を呼びかける。工廠では明石と夕張が、シルバーシャークGの起動準備に追われる。そして埠頭には、既に迎撃体制を整えた艦娘たちが集まっている。

「避難誘導は、地元警察と駆逐艦、軽巡洋艦の艦娘が当たってくれている。俺たちで奴を足止めするぞ!」

「「「「「はい!」」」」」

 俺もランドマスケッティで迎撃だ。緊迫感がひしひしと伝わってくる。全員がじっと前を睨む中、水面に映る巨大な影がはっきりとこちらに近づいてくる。

「…来るぞっ!」

 艤装が一斉に構えられる中、影はその正体をついに現した。

 

「ミンナミンナ沈メ…破壊サレテシマエ!」

 

 恐ろしい声の

「やっぱり深海棲艦獣…!提督、あれの正体は!?」

 榛名に言われる前から、俺はジオデバイザーで奴の正体を探っていた。

「今照合してる…分かった!

 ドキュメントDASHに同個体の記録存在!

 宇宙古代怪獣エラーガだ!」

 

 宇宙古代怪獣エラーガ。

 かつて南極で発見された謎の女・ニーナによって操られ、チームDASHとウルトラマンマックスを大いに苦しめた強敵怪獣だ。頭部には刺々しい赤い角をもち、腕などには水かきもみられる。例に漏れず、深海棲艦との融合体のため、巨大な砲塔も複数確認できる。

「住民の避難は!?」

 すかさず響に避難状況を確認するが、

「だめだ司令官、まだ完了していない!」

 確かに、この時間帯は昼の買い物客のピーク時間帯。必然的に商店街の人数も多くなっていた。

「何とか食い止める、できるだけ急いでくれ!

 総員、攻撃開始!!」

 号令とともに、空母艦娘たちは一斉に艦載機を発艦させ、それ以外の者達は砲撃で迎え撃つ。

「シルバーシャークG、発射!」

「ファントンレールキャノン、発射!」

 さらに明石たちと、ランドマスケッティによる追撃だ。連続攻撃に耐えかねたのか、エラーガは数歩後退する。

「よし、そのまま押していくぞ!」

 しかし相手も相手だ。放たれた第二波を、肩からの破壊光線で相殺してしまう。そしてその体の砲台を動かし、砲撃。艦娘たちを制圧してきた。

「きゃぁぁあああ!?」

 悲鳴が上がる。しかし幸い、中破以上の損害を受けたものはいないようだ。

「怯むな、撃て!撃てー!!」

「はいっ!!」

 だがエラーガは、巨体を動かし大波を起こしてきた。そしてそれは艦娘の動きを阻む。

「うっ!」

「これじゃ、思うように動けないよ!」

 更には相殺に使っていた破壊光線で、直接こちらへ攻撃してきた!

「まずい!みんな避けろ!」

 しかし、荒れ狂う破壊光線は、的確に艦娘たちにダメージを与える。

「提督、翔鶴姉と加賀さんが中破だよ!」

「こちら高雄、愛宕と妙高さん、それぞれ中破!」

「くそっ、予想以上のパワーだ、このままじゃ持たない!」

 一方エラーガは、艦娘たちの混乱をよそに、その砲塔の先を市街地へ向けた。

「しまった!」

 まだ避難は完了していない!

 だが、その時ーーー

 

 ーーー「メビウーーースッッ!」

 その名の叫びとともに登場、ウルトラマンメビウス!すかさずドロップキックでエラーガを吹っ飛ばし、市街地への砲撃を阻止した。

「大丈夫ですか!?」

「ミライ!助かったのじゃ!」

 ナイスタイミングだ。利根の言う通り、本当に助かった。

「よし、反撃開始だ!」

 

 まさにそこからは形勢逆転。メビウスの強力な打撃が、次々にエラーガを押し戻していく。敵が反撃に転じようとするならば、すかさず艦娘たちが砲撃やら艦載機のレーザーやらでダメージを与えていく。

「司令官、住民の避難が完了したよ!」

「よくやった響!みんな!

 よし、一気に行くぞ!」

 皆の攻撃のペースも増し、戦況はこちらに優勢だ。

「よし、トドメだ!」

 艦娘たちの攻撃で作った隙に、メビウスが一気に飛び込む。左腕にエネルギーを集中、そのままエラーガの土手っ腹に叩き込む!ライトニングカウンター・ゼロだ!

「ギャウウゥゥ…」

 表面で大爆発が起きた。エラーガは装甲もあったが、ライトニングカウンター・ゼロの威力が勝り、エラーガは吹っ飛んでそのまま海面に倒れ込み、沈んでいった。

「よしっ!」

 何とかこれで、ひとまずは危機が去ったーーー

 

 ーーーそう考えるのは、早すぎた。

 突如として空の彼方から、禍々しい赤黒の光線が降ってきたと思うと、それは今さっきエラーガが沈んでいった場所へと吸い込まれていった。そして、次の瞬間…

 

「ハハハハハハハハハハ!!」

 

 何と、エラーガが蘇ったのだ。

「馬鹿な!?」

「何が起きてるの!?」

 俺はすぐさま、エラーガのさらなる分析を行った。そして衝撃を受けた。

「そんな!?こいつ、不死身なのか…!?」ーーー

 

 ーーーエラーガの能力の中でもとりわけ厄介なものに、蘇生能力がある。かつての出現の際も、自分の主であるニーナからエネルギーを補給されれば、例え倒されようと何度でも復活することが出来る。おまけに復活する度にその戦闘力が上がるという、反則級の能力なのだ。

「気をつけろ!奴の戦闘力はますます強くなっている!」

 事実、メビウスの打撃や、艦娘たちの砲撃の効きも薄くなっている。

「提督、どうすればあれを倒せるんですか!?」

 千歳が助けを求めるように聞いてくるが、俺はそれに答えを返せなかった。

 以前は主のニーナをDASHが仕留めたことにより、能力にストップをかけられたのだが、今のこの状況では、あのエネルギー光線を撃ってきた存在の正体も場所も掴むことができない!

 どうすれば、どうすればいい…!

 

 しかしそうしている間にも、エラーガは暴れ狂う。破壊光線も一層強力になり、艦隊に大破者も出始めた。

「こうなったら…!」

 対するメビウス、再びその拳にエネルギーを集中させはじめた。だが…

 

「遅イワァッッ!」

「何っ!?」

 何とエラーガは、スピードまで強化されていたのだ!そして一気に間合いを詰め、メビウスを押し倒す!

「ぐっ!?」

 メビウスをも圧倒するそのパワーで彼を押し倒し、さらにその鋭い牙で彼の右腕に思い切り噛み付いた!

「ぐわぁぁぁあああ!うぁっ、ぁあっ!」

 動かせる体の部位を無我夢中で動かし、必死の抵抗を試みるメビウスだが、エラーガの牙は離れない。

「総員、メビウスを救出するんだ!」

 指令を飛ばし、何とかメビウスの援護にかかる。次々と砲弾やらレーザーがエラーガに命中するが、相変わらずの破壊光線による相殺が続き、なかなか成果を得られない。そんな中…

 

「ミライを…ミライを放せぇっ!」

 恋人のピンチにじっとしていられる利根ではない。エラーガがメビウスと砲撃の対処に気をとられている隙に、一気に近づき…

「くらえっ!」

 至近距離から砲撃。砲弾はエラーガの片目に命中し、噛み付く力が弱まった。

「利根さん…!うぉぉおおおお!!」

 彼女の奮闘に、ミライも応える!エラーガの腹に足をセットし、渾身の力でぶっ飛ばした!

「よし!」

 何とか立ち上がったメビウス。しかし、噛み付かれた右腕を抑えている。カラータイマーの点滅も始まった。

「傷が深いのじゃ…!ミライもあまり長く戦えん、提督、奴を何とかして攻略する方法はないのか!?」

「とにかく、避難誘導を終えた駆逐艦と軽巡洋艦をこっちに向かわせてるが…」

 と、通信マイクにひとつの声が割り込んできた。

 

「話は聞かせてもらったよ!」

「響!」

「司令官、エネルギーの出どころが叩けなくても、怪獣がエネルギーを受け取れなくしてしまえば、結果的に意味はなくなる!」

「…そうか!なるほど!」

 響の助言を聞いてすぐ、俺はエラーガの解析を始めた。

「…分かった、角だ!奴の頭頂部の角が、エネルギーを受け取る部分になっている!そこを破壊するんだ!」

「「「了解!」」」

「僕が奴の動きを止めます、その隙に角を破壊してください!」

 メビウスはそう言うと、すぐさま強化形態のバーニングブレイブへとチェンジする。負傷した腕は当然ながら痛む。だがそれでも、この星を守るため、メビウスは力を振り絞って、後ろからエラーガを押さえつけた。

「今です、皆さん!」

「よし!

 全員、撃てーっっ!!」

 これでもかという火力で、エラーガの角へ集中攻撃。

「主砲、撃てーっ!!」

「どっかーん!!」

「鎧袖一触よ…!!」

 凄まじい爆発が起き、その角は粉々に砕け散った。途端にエラーガの力が弱まったのを、メビウスは感じ取る。

「みんな、ありがとう!今度こそトドメを刺してみせる、離れてくれ!」

 言葉を受けた艦娘たちが距離を置いたのを確認し、メビウスは最後の気力で、奥の手中の奥の手を使う!

「ぅぅうぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!」

 叫びとともに、メビウスは全身を燃え盛る炎のごとく高熱化させ始めた。カラータイマーの点滅が一気に速くなり、警告音も高くなっていく。しかしメビウスはその場を動かず、エラーガをガッチリと固めたまま…

 

 ドガァァァァアアアアンッッ!!!

 

 エラーガ諸共自爆した。これぞ捨て身の大技、バーニングメビュームダイナマイトだ。やがて晴れていく煙の中、空中の一点に光が集まっていき…メビウスは再生を果たした。だが…

「やっ…た………」

 バーニングメビュームダイナマイトは強力な技だが、その反面、性質上体への負担はとてつもなく大きい。エネルギーを使い果たしたメビウスは、その姿を維持出来なくなり、海面に倒れ込むと同時に…消えた。

 

「メビウスーーーーーー!!」

「ミライィィィイイイイ!!」




今回も最後まで読んでいただきありがとうごさいました。

評価や感想などもらえると嬉しいです、よろしくお願いしますm(_ _)m

では、また次回(`・ω・´)ノシ


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誓いを胸に

活動報告にも書いた通り、「笑顔は太陽のごとく…」シリーズに、挿絵が入ることになりました!
イラストレーターのつく様、ありがとうごさいますm(_ _)m

では、本編どうぞ。


 ーーーその日の夕方 第35鎮守府医務室

 点っていた「使用中」のランプが消え、ドアが開く。夕張の押すストレッチャーの上には…目を閉じたミライさんが寝かされていた。

「明石、夕張、状況は…!?」

「ミライは、ミライは助かったのか!?」

 俺と利根を頭に、艦娘たちから一斉にミライの身を案じる言葉が飛ぶ。

「皆さん!落ち着いてください。」

 とりあえず皆を諌めて、明石は話し始める。

 

「ミライさんは…なんとか一命を取り留めました。今は治療の影響で眠っているだけです」

 ほっ…安堵のため息があちこちから聞こえる。だが、明石はさらに続ける。

「しかし…ミライさんは先程の戦いで負傷し、更には持っているエネルギーをほとんど使い切ってしまいました。当分の間は、ウルトラマンとして戦うことは不可能でしょう…。」

 その言葉を聞いた皆に、不安が広がる。

「…恐らく、敵がこの機を見逃すはずはない。ウルトラマンが手負いの隙に、畳み掛けてくる可能性も十分に考えられる。警戒をより強めないとだな…」

 しかし、そうなると必然的に、レイの件に人手をかけられなくなってしまう。工廠の二人は、このように医務関係も兼任しているのだ。

 どうしようか、思索を巡らせていると…

 

「皆…さん?」

「ミライさん…!」

 なんと、ミライさんの目が開き、寝かされていながらこちらを見ていたのだ。

「先程は、すみません…こんなことに、なってしまって…」

 途切れ途切れに言葉を紡ぐミライさん。

「そんなことはない…あなたはよく戦ってくれました。自分ももう少し怪獣を、速く、詳しく分析できていたら…」

 …本当にそうだった。慢心せず、もっと気を引き締めていれば…

「提督さんは、悪くありません…」

 そう言ってくれたのは、他でもないミライさんだった。

「僕は、大丈夫です。怪獣は強敵でしたし、自分も倒したと油断していたところもありましたし…。とにかく、これくらいの傷は、すぐに治しますから」

 そう言って起き上がろうとするミライさんであったが…

「…ぁぐっ…!?」

「ダメです!安静にしていてください!深手を負っているんですよ!?」

 明石の剣幕に押され、謝りつつ再びその身を横たえるミライさん。

「…でも、僕は本当に大丈夫ですから…明石さんたちも、レイさんの件に当たってあげてください。救出の計画には、あなたたちの力が不可欠なはずです…」

「ミライさん…」

 なお心配そうな明石。だが…

「ミライの面倒なら吾輩と筑摩が見るのじゃ。だから、心配せんでよい」

「万が一容態が急変した時は呼びますけど…それ以外なら、私たちでお世話を致しますから」

 若干それを聞いて顔を赤くするミライ。言ってる本人もやや赤くなっている利根。それをニコニコと見ている筑摩。そんな様子を見て、大丈夫だと思ったのだろうか。

「…わかりました。よろしくお願いします」

「任せるのじゃ!」

「じゃあ、私と明石さんはレイさんの件にあたります。提督、研究所へ協力再開の要請をお願いできますか?」

「ああ、もちろんだ」ーーー

 

 ーーー「分かりました、ありがとうごさいます。では、明日の昼頃に伺います。」

 夜、鎮守府から電話を受け、明日こそ行くことが決まった高山と藤宮。電話が終わったのを確認し、再び藤宮はテレビの音量を上げる。

「町への損害がなかったのは奇跡だ…ただ、その対価は大きすぎるな…」

「もし、僕らが行っている時に、敵が再び襲撃を仕掛けて来たら…いや、僕達は僕達にできることをしよう」

「そうだな、我夢…」

 決意を固めたような表情で、テレビを見つめる二人。

 画面のニュース番組は、エラーガ襲撃の件を繰り返し伝えていた。

「本日昼過ぎ、○○町にある大本営第35鎮守府沖合に、深海棲艦獣が出現しました。種個体の怪獣はエラーガと断定され、第35鎮守府の艦隊と駆けつけたウルトラマンメビウスの活躍で、町への被害はありませんでした。しかし、戦闘の際ウルトラマンメビウスが怪獣によって負傷するような様子が確認され、依然として町は緊張に包まれています」ーーー

 

 ーーー翌日

「本日から、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 ついにやってきた、高山さんと藤宮さん。

 互いに挨拶を交わしたあと、早速例の特異点と思われるポイントへと向かった。こちらからはレイの他、響、長門に加え明石、夕張の工廠組が手伝いに来ている。

 現場に着いたあとは、早速機材を下ろし、周辺に仮設テントを整えて接続作業だ。

「このコードは…」

「あ、それは3番の電源装置のAの穴に刺してください」

「こことここはこう繋いで、その後この機械に繋いでください」

「分かりました!」

 皆の奮闘もあり、一時間弱で接続作業は終了。

「では、ここが本当に電波特異点なのかを調べます」

「少々お待ちください」

 二人がコンピューターを操作し、解析している。じっと見つめるレイ。そして…

 

「…!?」

「これは…すごいな」

 二人がこちらに振り向き、モニターを見るよう勧めてきた。

「どうだったんですか?」

「ここの数値がこれで、なおかつグラフの赤いこの線がこのように変則的に動いている…」

「間違いありません。レイさんの波長との適合率も高い。ここが、電波特異点で間違いないでしょう」

 皆の顔がぱっと明るくなった。

「よかった…よかった…!」

 感極まるレイに、高山さんが言葉をかける。

「まだまだここからさ。君の力が不可欠だ、協力を頼む」

「はい!!」ーーー

 

 ーーーその一方

 ミライが休んでいる部屋に、利根が見舞いにやってきた。

「ミライ、りんごの差し入れなのじゃ」

「あ、ありがとうごさいます利根さん。わあ、この切り方可愛いですね!」

「そうじゃろう?地球ではポピュラーな、うさぎ切りなのじゃ。」

「美味しそうですけど、食べるのが勿体無いですね…でもせっかくですし、いただきます」

 そう言って皿に手を伸ばすミライ、だったが…

「待つのじゃ」

 利根に制止されてしまう。何事かと首を傾げると…

「ほ、ほれ…あーん、なのじゃ…」

 爪楊枝を刺し、りんごを自分の口元へと運ぶ利根。その顔はりんごの皮のように赤みを帯びている。ミライはその仕草に心を射抜かれ…

「い、いただきます…」

 同様に、完熟りんごのように顔を赤らめながら、甘く甘く味わったのであった。

 なお、その様子をこっそり覗いていた筑摩が、部屋の外であまりの甘い光景に悶絶していたことは、二人は全く知らないーーー

 

 ーーー再び、特異点

「レイさん、早速テレパシーを試みてください。波長を分析して増幅します」

「分かりました。」

 レイが目を閉じ、集中する。その周りにはいくつものアンテナが並んでいる。

「レイさんのテレパシー波長をキャッチ、パターン1で増幅開始」

「了解」

 何が何だか分からないような研究装置のスイッチを次々と切り替えていく藤宮さん。高山さんは、レイとモニターを繰り返し見ている。

「レイさんは大変だけど、1パターンごとにこれを最低三分は続けてほしい。頑張って」

「分かりました」

「レイ…」

 長門や工廠組を始め、手伝いの艦娘たちが見守る中、三分が経過した。

「何か手応えは?」

 そう問いかけてみるが…

「若干ノイズが少なくなった感じがしなくもないけど…まだまだ聞き取れない」

「そうか…よし、パターン2だ。回路のD2セクションの出力を上げてくれ」

 

 一時間後。

「はぁ…はぁ…まだです。でも最初より、良くなっている感じは、するので…もう一回、パターンを変えて、お願いします」

 テレパシーを多用したことにより、息の上がっているレイ。

「レイさんダメだ、疲れているじゃないか。一時間くらい休もう」

「だめです!」

 休憩を促す高山に、思わず強く当たるレイ。

「私がここで頑張らなきゃ…仲間を、私の大切な仲間たちを見殺しに…!」

「レイ!」

 藤宮さんが怒鳴るようにレイの名を呼んだ。流石にびっくりしたのか、レイは言葉を止める。そんなレイに、彼は表情を緩めて…

「焦っていては結果は帰って遠くなる。より良い作業のためにも、休憩は必要だ。

 それに君が頑張っていることは、きっと君の仲間たちも知っているはずさ。」

「藤宮さん…」

「藤宮の言う通りさ。温かいお茶でも飲んで、一旦ゆっくり休もう?」

 長門が用意していた水筒から、程よく湯気が立つ茶を紙コップに注ぎ、レイに手渡す。

「熱いから気をつけろよ」

「ありがとうごさいます…」

 紙コップの茶を飲み干し、レイは落ち着きを取り戻したようだ。

「すみません、取り乱してしまって…」

「大丈夫だよ。しっかり休んだら、また再開しよう」

 その後も何度かパターンを変えてみたが、意思疎通が取れるレベルまでには結局到達しなかった。

「みんな…必ず助けるからね…!」

 沈む夕日に、レイはそう強く誓っていたーーー

 

 ーーー深夜 第35鎮守府

 鎮守府に出向いているため、高山と藤宮は空き部屋を与えられ、眠りに就いていた…はずだったが。

「…藤宮」

 藤宮は窓から夜の海を見ていた。我夢がベッドから身を起こし、隣に立つ。

「…眠れないのか?」

「…またあの夢を見たんだ。」

「あの夢…僕もだ。」

 

 深海棲艦の出現が確認された直後。右も左も分からない中、正体解明に研究所が忙しかった頃の、ある日の夜だった。

 研究所の寮、深夜までの激務から解放され、つかの間の就寝中だった我夢と藤宮は、不思議な、しかしどこか覚えのある光で目を覚ました。

 誰か、そこにいる。

 

「君は…」

「リナール…リナールじゃないか!」

 

 かつて関わりがあった、深海生命体リナール。セレファス海溝の水深8000メートルに海底都市を築いている、超深海生命体とはまた別の存在だ。そしてそれは、以前藤宮の前に現れた時のように、少女の姿だった。

「君たちはまだ、無事だったのか」

 藤宮が近づくが、少女…リナールは悲しそうな顔で首を横に振る。

「…まさか」

 

「私たちの文明は、深海棲艦の襲撃を受け…もうまもなく完全に消滅します」

 

「そんな…!」

 愕然とする二人。

「でも、だからこそ…私たちに出来る最後の事として、あなたがたに再び力を渡しに来ました」

 淡く光るリナールの姿は、今にも消え失せてしまいそうだ。

「私たちで用意できたエネルギーは…これが限界でした…ごめんなさい…」

 リナールが両手を開くと、それぞれの手の中にはエネルギーと思しき光が、小さくもしっかりと輝いていた。

「お願いです…この星を…私たちのこの最後の力で、守ってください…

 それから、どうか…私たちを…忘れ…な、い、で…」

 リナールの両手からエネルギーが解放され、我夢と藤宮のアイテム…エスプレンダーとアグレイターに吸い込まれたと同時に…リナールは、消えた。

 二人は悟った。たった今、リナールたちが全滅したと。同時に、今託されたその力で、地球を守ることを誓った。

 

 ウルトラマンガイア、ウルトラマンアグル。

 高山我夢と藤宮博也が変身する、地球が生んだ巨人たち。

 リナールから与えられた最後のエネルギーで、ウルトラマンに変身して戦うことが出来るのは…一回が精一杯。ここまではまだ使っていない。

「必ず…守り抜こう。リナールたちのためにも」

「…ああ」

 月の光に照らされた二人。互いを見つめ、アイテムを見つめ、改めて決意したーーー




今回も読んでいただきありがとうございました!

評価や感想いただけると励みになります、よろしくお願いしますm(_ _)m

ではまた次回。


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蠢く陰謀

今回、分かる人にはもう敵の正体がはっきり分かってしまうと思います。
感想欄などでのネタバレ的な投稿は、御遠慮お願いしますm(_ _)m

では本編どうぞ。


ーーーアナザースペース

「ありがとな、付き合ってもらって」

「いいってことよ!ゼロちゃんの頼みの一つや二つ、どんとこいってんだぁ!」

ウルトラマンゼロは、別宇宙で得た仲間、炎の戦士グレンファイヤーとともに、宇宙を旅する炎の海賊たちを探していた。海賊、とは言っても彼らは基本的に略奪行為などはせず(しても宇宙の平和を乱すベリアル軍からのみ)、ただ自由を愛し、宇宙を放浪する者達である。

「多分、今日はここら辺の宇宙にいると思うんだけどな…おーい、船長ー!!」

すると…

 

「グレンかー!ひっさしぶりだなぁ!!」

「おおっ、その声は!」

目の前に突如として、炎に包まれた宇宙戦艦・アバンギャルド号が現れた。グレンファイヤーはここで、ゼロと会うまで炎の海賊の用心棒として過ごしていたのである。

「今日はどうした?急に呼んだりして」

冷静沈着な三兄弟の船長の長男・ガル。

「ん?お前まさか…」

のんきな性格の次男・ギル。

「寂しくなっちゃったとか!?」

同じくのんきな三男・グル。彼の言葉に、グレンはすかさず「そうじゃねえ!」と突っ込む。

「んで?要件は?」

「いや、今日は俺じゃなくてよぉ…ほら」

グレンに促され、ゼロが船長たちの前に出た。

「久しぶりってとこだな、船長」

「おお!グレンの仲間だ!ベリアルをぶっ倒した奴だ!」

「あいにくその後復活したがな…しつこい奴だぜ…って、それじゃなくて」

「ん?」

「俺たちが今戦っている敵がいるんだが、まだまだその情報が少なすぎるんだ。だから、ウルトラの父…うちの大隊長曰く、炎の海賊なら何かを知っているんじゃないかってな。これが、質問事項や今知っている限りの情報を詰めたブレスレットだ」

ゼロはブレスレットを手に取ると、念力を込めてガルたちでも扱えるような大きさにし、そして船内へと転送した。

「分かった、受け取ったぞ。少し航海の休憩がてら、ここで中身を見てみるとしよう。こいつを研究室の方へ持って行ってくれ」

「ありがとう、船長」ーーー

 

ーーーそして数分後

「君たちの聞きたいことはよく分かった。このブレスレットの中に、我々の知る限りの情報を書き加えておいたぞ」

「しかし、まさかこんな所で奴らの名を聞くとはな…」

「最近見ないと思っていたら、別宇宙に手を出していたのか…とりあえず、受け取れ」

「お、おう」

コメントする兄弟達からブレスレットを受け取るゼロ。

「なぁゼロちゃん?一体なにがそっちの宇宙で起きてんのよ?」

「実は、こっちの宇宙にある地球って星に、今聞いた敵が侵略しているみたいなんだ」

「まじかよ…地球って、ゼロちゃんの親父さんたちが代々守ってきた星だろ?」

「ああ。うちの大隊長は独自ルートで敵を探っているから…標的はこっちの地球だけではなく、別宇宙の別の星も同時並行で進めている可能性があるんだ」

「おいおい、それ相当まずい奴じゃねえかよ…。船長、そいつら一体何者だよ?」

グレンの問いに、ガルは重々しく答えた。

 

「お前も聞き覚えはあるだろう。

数々の星々で、侵略や略奪行為を繰り返す…

 

『ブラックパイレーツ』の名を」ーーー

 

ーーー宇宙のどこか 謎の宇宙戦艦

「進言いたします」

暗黒に包まれた、巨大な宇宙戦艦の中。その艦長室と思われる部屋に、一人の男が、部屋の中央に位置する、艦長席に座る者の元へと座った。

「我々の計画に、再び邪魔が入ろうとしております。何でも、例の鎮守府とやらが、我々の手が及んでいないやつらへと交信を試みているようです」

「…それは、本当か」

冷酷にそう答える、艦長席の男。

「鎮守府から送られる、やつらがテレパシーに使う波長をキャッチしています。間違いありません」

「…ほう」

言葉数少なく返すが、その黒い瞳が一瞬、怪しく光った。

「まだもう少し様子を見ろ。準備は出来ているだろうな?頃合いを見て送り込め。ただし、前にエラーガがウルトラマンメビウスに負わせた傷が、癒えきらぬうちにな」

「はっ」

コツ、コツ…側近と思しき男の靴の音が響き、やがて遠ざかっていく。

一人となった艦長室で、男はひとつため息をつく。

眼帯をつけ、全身を大きな漆黒のコートで包み、頭にはシルクハット。地球の提督とは真逆の容姿の色彩から、黒く冷たいオーラを放つ。

「…どこまでも、しつこい」

水晶玉らしきものを先端につけたステッキで、男は静かに、しかしどこか煩わしそうに、コン、と一度だけ床を突いたーーー

 

ーーー電波特異点

テレパシー波長増幅実験開始から三日目。

この日の昼過ぎまでに、かなりの進歩があった。レイ曰く、かなり仲間たちへと近づいているように感じるという。

「このペースなら、もしかしたら今日の夕方までには、コミュニケーションが取れるかもしれないね」

「はい!頑張ります!」

レイもやる気満々だ。…ん?

「あっ!」

響の指さす先には、複数の機影。鎮守府からスカイホエールが、昼食を運んできてくれたようだ。

「時間もいいし、ここら辺で昼食休憩にしようか」

「そうですね」

弁当を受け取り、シートの上に広げる。

「じゃあ、いただきます」

やはり絶品だ。一口運んだだけでもその美味さが分かる。

「これ、本当に絶品ですね!」

「ああ。こんな美味しいものを毎日食べられる君たちが、羨ましいくらいだな」

高山さんと藤宮さんも絶賛だ。…ん?

「…すみません、失礼」

通信が入っている。どうやら、今朝出した遠征艦隊の暁たちからのようだ。少し離れた場所に移動し、答える。

 

「提督だ、どうした?」

「暁よ。とりあえず、目標量の資材はちゃーんと集めたわ」

「そうか、よかった。お疲れ様だな」

「一人前のレディとしては当然よ、ただ…」

ん?どうしたんだろう…

「今いる所の南あたりの天気が、急に変わってるみたいなの。結構荒れ始めてるわ」

「分かった、報告ありがとう。影響が出ないうちに、早めに撤退してくれ」

「了解したわ、すぐに帰るね!」

通信を切り、再び食事の席へ戻る。

 

「どうしたんだい、司令官」

「遠征に行っている暁から、南方で嵐が発生しているという報告を受けたんだ。幸い既に撤退はしている、大丈夫だろう」

「えっ」

何気なく状況を伝えただけ…だったのだが、それに高山さんが小さく声を漏らした。藤宮さんもピクリと反応する。

「…それは本当ですか?遠征の海域は?」

思わず端末に海域図を表示し、二人に見せる。

「妙だ。この季節に、この海域で嵐なんて…」

どうやら、嵐は通常なら発生しないようなのである。

「深海棲艦によるエネルギーバランスの乱れが引き起こしたのかもしれませんね…」

そう俺は結論付けたが…

「念の為、エリアル・ベースに確認の問い合わせをしてみます」ーーー

 

ーーー「こちらエリアル・ベース。…我夢かに藤宮か、どうした?」

「石室コマンダー、実はエネルギーバランスの乱れによる嵐が、○✕海域で発生している模様なんです。一応、進路予想を立ててもらえますか?」

「よし、分かった」

空高くに浮かぶ、研究兼救助ステーション、エリアル・ベース。その長であり、また元XIGの司令官でもあった石室章雄が、我夢からの通信に答えた。

「気象研究班、データを頼む」

「はい」

直ちにコンピューターを操作し、解析にあたる研究員たち。だが…

「どういうことだ…ありえないぞ…」

「ん?」

「見てください。この嵐は、比較的小規模ながら台風とよく似た構造をしているんですが…進路が、直線なんです。いっさい曲がりくねったりしていません」

理系分野は決して得意ではない石室だが、台風はよく進路が変わることぐらい知っている。おかしい。

嫌な予感を覚えた彼は、すぐにデータを我夢と藤宮にも転送、指示を仰ぐ。

「確かにこれはおかしすぎる…いくらエネルギーバランスの乱れから台風が発生したとしても、こんな進み方はしないはずだ」

「コマンダー、その台風をあらゆる観点から分析してください。たとえ関係がなさそうなものも、できるだけお願いします。」

「分かった」

そしてその判断が、衝撃の結果を知らせることになる。

 

「コマンダー、至急高山さんと藤宮さんのいる所に、避難指示を!このままのペースで直進を続けると、彼らのいる場所に直撃します!」

「なんだと!?分かった!」

彼が避難指示を出すために動こうとした時、もう一人の研究員が驚きの声をあげた。

「こ…これは…!?」

「どうした!?」

彼が発見したのは、全く思いもよらないことだった。

「台風にサーモグラフィースキャンをしたところ、中心の温度が異様に高くなっていて…まさかと思いながらも、バイタルサインのサーチをかけたんです、そしたら…!」

コンピューターの画面は、台風の目の部分が真っ赤に光っていた。つまり…

「なんて強い生命反応だ…!」

「これほどの強さから、中心部には怪獣クラスの体長を持つ生物がいるとしか考えられません、しかも…

 

反応は、二体分です!!」ーーー




というわけで今回も最後まで読んでいただきありがとうごさいました。

評価や感想、よければお願いしますm(_ _)m

また次回をお楽しみに(`・ω・´)ノ


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迫り来る嵐

寒波来たりインフル流行ったりしてますが
筆者はピンピンしております。
皆様もお気をつけて。

では本編どうぞ。


 ーーー「怪獣の生命反応が二体分!?」

 その報告に、実験中の全員が驚愕した。

「一体ならまだしも、二体となると相当厳しくなる…ましてや今はミライさんにも頼れない…!」

「とにかく、奴らはこっちに向かってきているのだろう!?提督、早く住民を避難所に避難させないとだ!!」

「まだ猶予はある、急ごう司令官!!」

 長門と響の言葉にはっとする。そうだ、状況に飲み込まれている暇はない。

「実験を中断、すぐに体制を整えよう!」

 高山さんと藤宮さんも、すぐに行動を始めた。

「最低限の機材を載せて、すぐにここから撤退しましょう。」

「大丈夫だレイさん、僕達や提督さん、響さんたちが、必ず何とかしてくれる。今は身を守るのが優先だ。」

「は、はい…!」

 藤宮さんに手を引かれ、なんとかその場から走り出すレイであったーーー

 

 ーーー第35鎮守府

「二体の怪獣がこちらへ接近しています!総員、直ちに迎撃態勢を整え、周辺住民の避難誘導を!」

 大淀の緊迫した声が、鎮守府に響き渡る。それは当然、病室で療養中だったミライにも届いていた。

「怪獣!?しかも二体来たか!」

 慌ててベッドから起き上がろうとするミライ。しかし、腕はまだ固定を外せない状況だ。

「ぅがっ…!」

「ミライ、ダメじゃ!まだお主の傷は回復しておらん!」

「でも怪獣が二体も接近しています…!利根さんたちだけに負担をかけられません、僕も…!」

「ミライ!」

 恋人の強い叫びに、はっとして動きが止まるミライ。

「ここは吾輩たちが食い止める…いつも助けてくれる恩返しじゃ。

 必ずまた戻る、吾輩を…吾輩たちを信じてくれ」

「利根さん…」

 尚も心配な表情のミライ。そんな彼を、利根は優しく抱きしめた。

「大丈夫じゃ」

 若干頬を赤くしつつ、利根は決意の表情で病室を出ていった。

「利根さん…」

 そして彼女と入れ替わるように、長門とレイが入ってきた。

「ミライ殿、ここも決して安全とは言いきれない。この鎮守府の地下には堅固なシェルターが建造されている、治療器具もあるから、そこへ避難しよう」

「は、はい」

 長門に抱えられ、用意されたストレッチャーに乗せられるミライ。二人に移動しながら、ミライは思いにふけった。

 今の自分は確かに戦えない。おそらく足でまといになるだけだろう。冷静に考えればすぐに分かることだった。歯がゆくも感じたが、ミライは今の自分に出来る唯一のこと…利根の無事を祈ることに決めた。

「どうか、ご無事で…」

 

 その一方、町では艦娘たち総出で避難誘導が行われていた。昼時とあって、買い物客で町は溢れていた。

「落ち着いてください!こっちです!」

「慌てないで、押さないでください!」

 奮闘の中、なんとか全員を避難させた時には、町の中からでも遠くの黒々とした雲がはっきりと見えるようになっていた。遠征帰りの暁たちも、顔を青くしている。

「あの嵐の中に、怪獣がいたなんて…」

「あとどれ位でここに到達するんですか!?」

 阿武隈が聞いてくる。すぐにコンピューターを操作し、予想時刻を割り出す。

「俺達が電波特異点から移動したからか、やはり台風の進路も変わって、こっちに向かってきているな…まずい、あと三十分ないぞ!」

 そこへ、工廠から通信が入る。

「提督、シルバーシャークGの起動、完了しました!いつでも撃てます!」

 確かに、台風の中にいる怪獣たちをそのまま狙うのは困難だ。ここはすぐにでも迎撃すべきだろう。

「待ってください!」

 しかし、それに高山さんたちが待ったをかけた。

「台風を解析した結果、中心部にエネルギーを帯びた竜巻があることが判明しました。ただ砲弾を撃っても、おそらくは、それがバリアの役割をして弾かれてしまいます!」

「じゃあどうすれば!?」

「台風の目です。そこだけはエネルギーが及んでおらず無防備でした。上空からそこを直接攻撃出来れば、上手くいくはずです!」

「上空から直接…分かりました!」

 二人のアドバイスを受け、俺は工廠に通信をつないだ。

「今のアドバイスの通り、シルバーシャークGによる迎撃は中止だ。代わりに成層圏から直接台風の目を攻撃する。

 ウルトラホーク2号、出撃スタンバイ!」

 

 工廠の側にある、基地航空隊の艦載機発着場。そこに、ウルトラ警備隊の大気圏外専用ロケット型戦闘機・ウルトラホーク2号が三機、出撃準備に入った。

 元々その機体の形状や大気圏外専用という特徴により、配備はされていなかったが、深海棲艦獣の出現を受け、今後の需要を先読みして、基地航空隊にごく最近配備されたのだ。

「出撃準備完了!」

「「「いつでもいけます!」」」

「よし、出撃!」

 明石と妖精さんたちの報告を受け、俺は発進命令を下した。

 

 三機のウルトラホーク2号は、全速力で台風の影響のない空高くへと到達した。

「もくひょうをかくにん!」

「たーげっと、ろっくおん!」

 ロケットの機首を台風の目へと向け、狙いを定める。

「よし、撃て!」

「りょうかい!

 れーざーほう、はっしゃー!」

 レーザーなら台風による暴風の影響も受けない。針の穴に糸を通すような精密な射撃が、徐々に台風の勢いを削いでいく。

「もう少しだ!」

「正体を現せ…!」

 やがて、その雨がこちらに降ってこようかという時、台風はついに勢いを失い、その中心部にいた存在が目に入ってきた。

 

「「ギュィャァァアアアアア!!!」」

 

 二体の形はそっくりで、やはり深海棲艦の砲台や装甲も見られる。

 頭頂部や背中には巨大な角。

 目に見えてわかる両者の違いは、体色。片方は黒地なのに対し、もう片方は真っ赤だ。

「出た!あいつらは!?」

「…いたぞ!

 ドキュメントMACに同種族を確認!

 

 黒いのが双子怪獣ブラックギラス、

 赤いのが双子怪獣レッドギラスだ!!」ーーー

 

 ーーー双子怪獣ブラックギラス、そしてレッドギラス。どちらもかつて、サーベル暴君マグマ星人に率いられて地球にやってきた怪獣だ。

 双子怪獣の名に恥じずそのコンビネーションは強力で、当時地球の守りについていたウルトラセブンに深手を負わせ、戦闘不能にしてしまったほどだ。その後駆けつけたウルトラマンレオも、地球に来たばかりでまだまだ未熟だったとはいえ、大いに苦戦を強いられたのであるーーー

 

 ーーー「みんな、攻撃開始だ!!」

 号令とともに、双子怪獣に向けての一斉攻撃が始まる。俺もランドマスケッティで援護する。

「まずは動きを分断させろ!互いを近づけるな!」

「はい!」

 双子怪獣とあって、コンビネーション攻撃はかなりの威力と予想できる。なら、まずはそれを封じる必要がある。

「撃ちます!FIRE!」

「狙いよし!全門、斉射!!」

 幾多もの戦いを重ね、深海棲艦獣との戦い方もだいぶ掴めてきたのか、艦娘たちの攻撃も効果が上がっている。双子怪獣は角から破壊光線を放ったり、胴回りの砲台から砲撃を仕掛けてくるが、不規則なそれを上手くかわし、隙あらば即座に砲弾や艦載機のミサイルが叩き込まれていく。二体を相手に全く引けをとっていない。

「こっちもいくぞ!ファントンレールキャノン、発射!」

「シルバーシャークG、発射!」

 全員の獅子奮迅の活躍で、とりあえずは二体の間に一定の距離を置かせることが出来たーーー

 

 ーーーしかし、その様子を宇宙の彼方から、謎の宇宙戦艦の男が見ていた。

「ふふふふ…まだまだこんなものでは無いぞ…!双子怪獣の真の力を見せる時だ!

 やれ、ブラックギラス、レッドギラス!

 

 ギラススピンで全てを吹っ飛ばせ!!」

 

 男の言葉と同時に、戦艦から謎の光線が放たれたーーー

 

 ーーー「いいペースよ!このまま一気に行きましょう!」

「反撃の隙は与えません!」

 その時だった。突如天から、二筋の光線が降り注いできたのだ。

「みんな、一旦下がれ!」

「あれ何よ!?」

 やがてその光線は、双子怪獣の角に吸い込まれた。

「気をつけろ!」

 それを受けた双子怪獣は、互いに向き合うやいなや猛ダッシュ。そしてガッチリとスクラムを組む。待てよ、これは確か…!?

「まずい!ギラススピンだ!!」

「ギラススピン!?」

 艦娘たちが即座に身構える中、双子怪獣は互いの間を軸に高速回転を始めた。やがてエネルギーがその周囲を纏い、空の暗雲を巻き込んで、暴風と大雨を伴った台風が発生していく。

「さっきの台風はこれだったのね!!」

「…ダメ、これじゃ近づけない!!」

「仕方ありません、遠距離から砲撃を仕掛けます!!」

 風の影響が弱まるところまで下がり、艦娘たちは再び攻撃を仕掛ける。しかし、砲撃やミサイルは、全て弾かれてしまった。さらにはギラススピンしつつこちらに破壊光線で反撃してきた!

「きゃぁぁぁっ!」

「…くっ、威力が上がってる!?」

「ギラススピンの効力だ!このままだと手に負えない!ウルトラホーク2号、再攻撃だ!」

「「「わかりました!」」」

 上空待機の妖精さんたちにより、レーザーがギラススピンを真上から攻撃する。しかし…

「「我々ノ、邪魔ヲスルナ!!」」

 なんと、ギラススピンをしながらこんどは上空に向けて砲撃を開始したではないか!

「「「わぁぁぁ!?」」」

 妖精さんの悲鳴を最後に、ウルトラホーク2号との通信が途絶えた。射程まで上がるのか!

「我々ニ歯向カオウトハ愚カナ!」

「身ヲ持ッテ思イ知レ!」

 乱射される砲弾と光線。あちこちから艦娘たちの苦しみの叫びが聞こえるーーー

 

 ーーー第35鎮守府

 地下シェルターに設置されたモニターで、海に出ていない大淀や間宮、さらに避難してきたミライや我夢、藤宮が戦いの様子を見ていた。しかし、劣勢の戦局に、皆不安そうな顔をしていた。

「なんて強いのでしょう…!」

「みんな、頑張ってくれ…!」

 そんな中…

 

「藤宮」

「我夢…まさか」

「…ここでは不便だ、少し場所を移そう」

 

 次の瞬間、二人は駆け出した。

「高山さん!?藤宮さん!?どこへ!?」

 大淀が叫んだ頃には、二人は地下シェルターから出て、鎮守府の一階へと続く階段を駆け上がっていた。

「私が行きます!皆さんはここで待っていてください!」

「レ、レイ!?」

 二人を追って、レイは駆け出したーーー

 




今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

評価や感想等もらえると励みになります、よければお願いしますm(_ _)m

それではまた。


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地球の勇士、最後の勇姿 前編

色々とお待たせしました。

だらけ癖がお友達になりましたとさ。

本編どうぞー。


ーーー第35鎮守府 廊下

微かに戦闘の爆発音などが響いてくる中、我夢と藤宮は適当なスペースを見つけて話していた。

「藤宮…もしかしたら、今かもしれない。

この力を使う時が」

「…我夢。それは本当か?」

「もう決意した。

最後の一回…リナールたちが僕らに託した力を、ここで使う」

藤宮はそれを聞いてもなお、考え込んだ表情が変わらない。

「我夢…今俺達がウルトラマンとして戦うこと…それが何を意味するか、わかっている上での決意なのか」

「…ああ」

ガイアとアグルは、地球が産んだウルトラマン。故にその力は地球に由来する。そしてそこから導き出される最悪の結論を、藤宮は計算していた。

「エネルギーバランスが崩れた今の地球の状況を考えると…そう長くはもたない。満足に戦うことすら、出来ないかもしれないんだ。

いや、それだけならまだいい、最悪エネルギーバランスの崩れの影響をモロに受ければ…俺たちは死ぬかもしれない…。

 

それでも…行くと言うのか?」

 

念を押すように聞いてくる藤宮に、我夢は答える。

「僕は…僕に出来る、精一杯のことをしたい。それだけなんだ」

「…お前らしいな」

そう返す藤宮の顔、しかしそれは笑みを浮かべていた。

 

「行くというなら、俺も行こう」

「藤宮…分かってくれると信じていた」

「最初から俺も分かっていたさ、なんて」

互いに握手をする二人。と、そこへ…

 

「高山さん、藤宮さん…」

レイがいた。多分自分たちの後を追ってきていたのだろう。

「ごめんなさい、話を聞いてしまいました…

怪獣と戦うつもり、なんですか?それに、死ぬかもしれないって…」

「レイ…」

「嫌です…行ってほしくないです…

二人が死んだら…私は…私は…!」

今にも泣き出しそうなレイの頭に、我夢と藤宮はそっと手を乗せた。

「提督さんや艦娘のみんなは、今必死に戦っている。彼らに出来る限りのことを。

だからこそ、僕も、藤宮も、自分に出来ることをしようって決めたんだ」

「大丈夫。必ずまた、ここに帰ってくるからな。約束だ」

「高山さん、藤宮さん…」

二人を見上げるレイ。頭に置いた手を二人は戻し、レイに敬礼した。

「どうか、僕たちを信じてくれ」

「じゃあ、行ってくるよ」

「…必ず、帰ってきてくださいね」

その言葉に頷き二人は正面玄関の方へと歩いて行く。

「二人とも…どうかお気をつけて」ーーー

 

ーーー鎮守府正面海域

「まずいわ、押されてる!」

「みんな怯むな!絶対にここで食い止めるぞ!」

不利な戦況の中でも、必死に艦娘たちはブラックギラスとレッドギラスの双子怪獣を食い止めていた。しかし、怪獣はそれを嘲笑うかのごとく暴れている。

「フフフ…ソロソロ我々ノ真ノ力を見セテヤロウ!」

「コレデ全員…終ワリダァァアアア!!!」

ブラックギラスとレッドギラス、それぞれの角から、破壊光線とは別の光線が放たれた。そしてその標的は艦娘たちではなく…海面だった。

「何をするつもりだ…!?」

すると、みるみるうちに光線が照射された所へと海水が集まり、ひとつの巨大な波と化した。

 

「津波だ…!」

「うそ…でしょ…!?」

全員の顔が青ざめる。そう、ブラックギラスとレッドギラスには、文字通り巨大津波を起こせる津波発生光線というこの上なく恐ろしい能力があるのだ。

その威力は自然現象としての津波を遥かに超え、島ひとつくらいなど簡単に壊滅させられる。いくら深海棲艦や怪獣と渡り合うことが出来る艦娘と言っても、これほどの津波を食い止める力はない。

「みんな、退避するんだ!」

「でも…あの大きさでは、確実に鎮守府や町に甚大な被害が!」

津波という想像もしていなかった事態に、ただ飲み込まれてしまう艦娘たち。このままその体も、鎮守府も町も飲み込まれてしまいそうになった、その時だった。

 

「行くぞ藤宮!」

「おう!」

鎮守府の埠頭を、海に向かって二人の男…高山我夢と藤宮博也が走る。

「あと一回ッ!」

「最後の一回ッ!」

 

リナールに託された使命に、その命を燃やし。

レイと交わした約束に、その心を燃やし。

誰かのために、自分のために、命の光を使う時。

光を宿した各々のアイテム…エスプレンダー、アグレイターが輝く時。

 

二人は全ての思いを、巨人の名に変えて叫ぶ!!

 

 

「ガイアァァァァアアアアア!!」

 

「アグルゥゥゥゥウウウウウ!!」

 

 

二つのアイテムから飛び出た、それぞれ赤と青の光が二人を包み、一気に空へと舞い上がる。

赤い光はそのまま、上空で巨人へと姿を変えた。

大地の力を象徴するかのごとき赤き体に走る銀色のライン、胸には黒のラインと蒼き光。

巨人は飛翔した体制のまま、腕をL字に組み、逆転の光線・クァンタムストリームを発射、一気に津波を薙ぎ払って消滅させた!

「えっ!?」

「す、すごい…!!」

驚く艦娘たちや提督、さらには双子怪獣。

「我々ノ津波ガ消サレタダト!?」

「ナ、何者ダッ!?」

 

しかし、怪獣たちへ反撃の隙を与えず、もう一つ、巨人となった青い光が、双子怪獣へと猛スピードで迫る!

赤い巨人と対をなしたような、深き海のごとき青色の巨人は、そのまま腕から必殺光弾・フォトンスクリューで怪獣たちをぶっ飛ばす!

 

やがて、二人の巨人はゆっくりと舞い降りるように着地した。

「あれは…!」

ピンチの連続、もうどうにもならない…そんな危機を救ったのは、地球の産んだ二人のウルトラマン!

大地の巨人、ウルトラマンガイア!

海の巨人、ウルトラマンアグル!ーーー

 

ーーー「提督さん!僕らも行きます!」

「全員で、こいつらを倒しましょう!」

二人のウルトラマン、ガイアとアグルが声をかけてくる。そしてその聞き覚えのある声に、ハッとした。

「高山さん、藤宮さん!ありがとうございます!」

艦娘たちも一段と気合いが入った表情をしている。

「数ガ増エタクライデ調子ニ乗ルナァ!」

「全員マトメテ蹴散ラスマデダァ!」

威嚇の言葉を放ち、こちらに向かってくる怪獣たち。

「行くぞっ!」ーーー

 

ーーー先行して飛び込むは二人のウルトラマン。ガイアはレッドギラスへ、アグルはブラックギラスへと突撃していく。

「デュワッ!」

「デヤァッ!」

二人同時に、怪獣の鳩尾に鉄拳を叩き込む。思わず後ずさりする怪獣だが、さらに追い打ちをかけるように艦娘たちによる砲撃が再び鳩尾を痛めつける。

「艦載機は背後に回って攻撃!」

「ミサイル発射!」

空母艦娘たちの的確な指示で、艦載機のミサイルが双子怪獣の背中で爆ぜる。

「怪獣はウルトラマンたちが抑えてくれる!俺たちは怪獣の艤装から破壊し、攻撃の芽を摘むぞ!」

「はい!」

全員の奮闘により、海岸と距離が開いたため、俺はすぐさまランドマスケッティからスカイマスケッティへと転換し、上空から攻撃しつつ指揮を執る。

「ファントン光子砲、発射!」

「撃ち方、始めてください!」

「アウトレンジで、決めてみせる!」

一気にこちら側優勢となる戦局。いいぞ、これなら行ける!そう思っていた。

 

突如、二人のウルトラマンがもがき苦しみ始めるまでは。

 

怪獣をキックで吹っ飛ばし、再び走り出そうとしたまさにその時だった。

「グォォッ…!?」

「どうした我夢…ヴゥッ!?」

その場に倒れ込むウルトラマンガイア、ウルトラマンアグル。

「高山さん!?藤宮さん!?」

「どうしたんですか!?」

立ち上がれない二人は、双子怪獣にいとも容易く蹴り飛ばされてしまう。

「一体どうしたんだ…!?」ーーー




今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。

評価や感想など貰えると筆者が喜ぶので、よければお願いしますm(_ _)m

ではまた次回。


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地球の勇士、最後の勇姿 後編

書いたデータがぶっ飛んだりした影響でかなり間が空いてしまいました。すみません。
今回でこの章は終わり、次回からは本格的に救出作戦に入ります。

それでは本編どうぞ。


ーーー第35鎮守府

鎮守府に設置されていた双眼鏡で、レイは戦いの様子を見ていた。そしてその視界に、倒れ込むウルトラマンガイア、ウルトラマンアグルが入る。

「!!」

レイの脳裏に、先程聞いた言葉がよぎる。

 

『エネルギーバランスが崩れた今の地球の状況を考えると…そう長くはもたない。満足に戦うことすら、出来ないかもしれないんだ。

いや、それだけならまだいい、最悪エネルギーバランスの崩れの影響をモロに受ければ…俺たちは死ぬかもしれない…。』

 

いてもたってもいられず、レイは走り出した。階段を駆け下り、地下シェルターに戻る。

「レイ!どうしたんだ慌てて!二人は!?」

しかしそんな長門の言葉をよそに、レイは一直線に大淀に駆け寄る。

「大淀さん!提督さんと通信繋げて!」

「えっ!?」

「いいから急いで!!」

そのあまりにも真剣な様子に、大淀はシェルターに設置されている通信設備を操作する。

「これで…」

「ありがとう!」

するとレイは、マイクをひったくるように取ると、すぐさま叫ぶ。

「提督さん!」

「レイ?どうしたんだ!?」

「高山さんと藤宮さんが、ウルトラマンになって、戦っているんだ!」

「レイ、お前も知っていたのか!?」

「でも…戦う前に二人が言ってたんだ、最悪エネルギーバランスの崩れの影響で、死ぬかもしれないって…!

お願い!二人を…二人を助けて!!」

「分かった!あとは任せろ!」ーーー

 

ーーー洋上

レイからの通信により、今二人に何が起きているのかを知ることが出来た。そして、上空から二人の姿を見る。

「高山さん、藤宮さん…いや、ガイアとアグル…」

双子怪獣は再びギラススピンを始め、再び相手の一方的展開と化している。光線や砲弾が、容赦なく二人に直撃していく。発生する暴風が艦娘たちを阻んでいる。そしてついに、二人の胸、ライフゲージが青から赤に変わり、警告音とともに点滅を始めた。

「うぉぉぉおおおお!!!」

気付けば、自分はスカイマスケッティを急上昇させていた。上空で急旋回、機首を真下に向け、ギラススピンの中心部へとミサイルを放つ。

はるか下、爆発が起き、双子怪獣が引き離される。

「みんな、よく聞いてくれ!」

俺はマイクに叫ぶ。

「今…ガイアとアグルは、地球のエネルギーバランスの乱れのせいで、命を落とすかもしれない、そんな状況の中で必死に戦っている…。

彼らを全力で援護するんだ!彼らの思いに応え、全員で守りきろう!」

 

了解!!!!

マイクの向こうから、決意に満ち溢れたその声がいくつも返ってきた。

「行動開始だ!」

 

「駆逐艦、軽巡及び雷巡の者は機動力を生かして奴らの動きを封じるんだ!」

「はい!

魚雷一斉発射、行きます!」

大井の号令とともに、双子怪獣それぞれを取り囲んだ彼女たち。何十もの魚雷による攻撃が襲いかかる。足元に大きなダメージを喰らい、たじろぐ双子怪獣。だが、そんな中でもその砲台を、ウルトラマンたちの方へと向けた。

「重巡!二人を守るんだ!」

「了解!弾幕斉射、開始!」

答えた足柄をはじめとし、巨大な敵の強力な攻撃を完璧に見切り、的確に弾幕を張って全てを相殺していく。

「戦艦と空母!敵の艤装を集中攻撃だ!」

「分かりました!全力で参ります!」

榛名を先頭に、一気に間合いを詰める戦艦たち。

「皆さんを援護して!艦載機の皆さん、やっちゃってください!」

千歳たちによるXIGファイターの援護射撃とともに、強烈な砲撃が次々と命中していき、艤装の一部が破壊される。

「ナンナンダ、コイツラ…!」

「サッキヨリ、強クナッテイルダト…!?」

双子怪獣も恐れ始めるほど、確かに艦娘たちの動きが良くなっていた。

「ギリギリまで踏ん張るっ!」

「大切なものを、守るために!」

「最後の力が、枯れるまで!」

「ここから、一歩も、下がらないっ!」

戦局は完全にこちらに傾いていた。しかし、双子怪獣もどこまでも食い下がる。

「オノレ、調子ニ乗ルナア!」

「今度コソ、全テ破壊シツクシテヤル!!」

まずい!双子怪獣の角にエネルギーが溜まっていく。津波発生光線を撃つつもりだ!

「「終ワリダァァァァ!!」ーーー

 

 

「そうはっ!!」「させるかぁ!!」

 

 

ーーー二つの影が宙を舞い、双子怪獣に飛びかかる。

ウルトラマンガイアとウルトラマンアグルだ!!

「「グオオッ!?」」

勢いのままに押し倒され、津波発生光線はまたしても不発に終わる。頷く二人を見て、提督は咄嗟に指示を出す。

「今だ!奴らの頭頂部の角を破壊しろ!」

抑え込まれた双子怪獣に、艦娘たちが総攻撃!爆煙が晴れた時、その角は完全に崩れ去っていた。

「何故ダ…何故屈サナイ…!」

「ウルトラマンドモメ、貴様ラニハモウ戦ウ力ナドモウ残ッテイナイハズダ…!」

なんとかガイアとアグルを振り払った双子怪獣の問に、二人はこう答えた。

「守りたいものがある限り!」

「何度倒れようとも、俺たちはその度に強くなり、立ち上がることが出来る!」

「「ホザケェェェ!!」」

猪突猛進とはこのことか、感情に任せて突っ込んでくる双子怪獣。

「ガイア、変身だ!」

「おう!」

ガイアは天に両腕を突き上げ、胸に下ろすと同時にそれを勢いよく左右に広げた。エネルギーが全身を包み、そして両腕が下ろされた時、ガイアの姿は、赤が増し、さらに黒、青の入った、より神々しいものへと変化した。

これこそウルトラマンガイアの最強形態・スプリームヴァージョンだ!

「デュワッッ!!」

ガイアはアグルとタイミングを合わせ、突進してくる怪獣を、二人で軽々と受け止めた!

そのまま、ガイアは受け止めたレッドギラスを連続で投げ始める。首を掴み勢いよく前に投げたと思えば、即座に背部の角を掴んで後ろに強引に投げ倒す。さらには倒れたレッドギラスを高々と持ち上げ、海面に投げ落とす。パワー抜群の投げ技の連続に、もうレッドギラスはボロボロだ。

一方アグルも、右手に発生させた光の剣・アグルセイバーを使い、鋭い突き攻撃でブラックギラスを翻弄する。洗練された動きで相手に反撃の隙を一切与えず、次々と攻撃を決めていくさまは、まさに『蝶のように舞い、蜂のように刺す』という言葉を体現したかのようだ。

もちろん二人には、バランスの崩れによるダメージが絶えずのしかかっている。しかし今、戦っている彼らは、艦娘たちや提督の援護、さらには、

「頑張れ!ウルトラマン!」

「負けるな!ウルトラマン!」

鎮守府のシェルターの艦娘たちや、町の避難所に避難していた住民たちの声援。これら全てが、彼らを支えていた。その支えを受けた彼らは、まさしく無敵の地球の勇士。どんな敵にも、決して負けないのだ!

「「グァァァァァァァァ!」」

ギラススピンで最後の抵抗を試みる双子怪獣。しかし、提督のスカイマスケッティが即座に行動に出た!

「させるかっ!照明弾、発射!!」

近づく二体のちょうど中央で照明弾が炸裂。目を潰された双子怪獣の動きが止まった!

 

今だ!!ウルトラマン!!

 

皆のその思いを一瞬で感じ取り、ガイアとアグルは並び、前に怪獣を見据える。

その体にエネルギーを巡らせて放つは、ガイア最強の光線・フォトンストリーム、アグル最強の光線・アグルストリーム!

そして二つの光線は交じりあって一筋の強烈な光となる!

 

見よ!必殺の合体技・バーストストリームを!!

 

「「グワァァァァァァァァァァァ!!!」」

 

光線が双子怪獣をまとめて貫く。そして次の瞬間、二つの断末魔を残して、その体は木っ端微塵に爆発したのであったーーー

 

ーーー第35鎮守府

勝利を手に収めた艦娘たちが、提督とともに帰還してくる。そして皆を守るように、二人のウルトラマンもその後を飛んでくる。

「皆さん!おかえりなさい!」

レイを筆頭に、避難していた鎮守府のメンバーが寄ってくる。勝利を共に分かち、喜び合っている。そしてその輪の中に…

「みんな」

「お疲れ様。そして、ありがとう」

我夢と藤宮が、入ってきた。

「君たちの支えがあったから、僕達は最後まで戦えた。」

「この勝利も、みんなで掴み取ったものだな。本当にありがとう。」

艦娘たちから巻き起こる拍手。レイが二人に駆け寄る。

「帰ってきてくれて…よかった…!」

「当たり前さ。約束しただろう?」

涙目のまま抱きついてきたレイを、藤宮は優しくなでる。

「もう僕達は…ウルトラマンとして戦うことは出来ない。それでも、今の自分に出来ることを、最大限やっていくつもりだよ」

「そうすれば、いつの日かきっとまた、光になれる。

まだまだレイの件も終わっていない。また、頼めるな?」

「はい!これからもよろしくお願いします!!」ーーー

 

ーーー翌日

俺たちは再び、特異点へと足を運んだ。実験機材を並べ、装置を調節する高山さんと藤宮さん。明石と夕張が手伝う。

「前回のデータからして、これなら行けるかもしれない」

「やってみます」

目を閉じ、レイが意識を集中させる。俺が、響が、長門が、明石が、夕張が、そして高山さんと藤宮さんが。

全員が固唾を飲んで見つめる中、レイの表情が一瞬変わった。口角が僅かながらもしっかりと上がり、口も若干開いたように見えた。

 

そして、その数分後。

「皆さん、ありがとうございます…!仲間たちとコミュニケーションが取れました!!」

満面の笑み、はつらつとした声で成果を報告するレイ。

「よし!やった!」

「よく頑張ったな!!」

「これで、一歩前進です!」

「すごい!奇跡みたいです!」

高山さんと藤宮さんも、レイの頭をわしゃわしゃと撫でる。

「君の思いが通じたんだ!」

「おめでとう、やったじゃないか!」

「はい!ありがとうございます!」

「ああ!

 

…それで、どんなことを話したのかい?」

 

高山さんの問に、レイが再び思いつめた表情になる。

「確かに、仲間は生き残って、ちゃんとコミュニケーションも取れましたが…もう、数がどんどん少なくなって…連絡のつく仲間は、千人を下回ったそうです…本来は、二、三十万人はいたんですが…」

「減少ペースは尋常じゃないな。地球が新しい超深海生命体を生み出したそばから誘拐していっているのか…」

「いずれにせよ、これからが本当のスタートだ。ですね、提督さん」

藤宮さんの言葉に、俺は大きく頷いた。

 

「これより、超深海生命体救出作戦を本格的に始動する。

皆、協力をよろしく頼む!」ーーー




今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!

評価や感想など貰えると嬉しいです、よろしくお願いしますm(_ _)m

また次回をお楽しみに!


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レイと仲間たちの章 〜後〜
大本営本部会議


一ヶ月以上お待たせしてすみませんでした…m(_ _)m

物語はまだまだ続くので、どうかこれからもよろしくお願いしますm(_ _)m

本編どうぞです。


ーーーその日。

富士山の麓の道路に、何台もの物々しい黒塗りの大型バスが通っていく。

外からは見えることのない客室部分では、様々な国からやってきたであろう人々が、黙って前を向いていた。

沈黙の中、車内にはバスのエンジン音とタイヤと路面の摩擦音だけが響き、雰囲気の異様さをより強くしていた。

 

やがてバスはトンネルに入る。

しばらく行ったところで、分岐点に差し掛かる。速度をほとんど緩めず、バスは左側の道へと入っていった。

ちなみにここのトンネルは一般道でもあるが、今日は工事という名目の元、「一般車両」は通行禁止となっている。地図を見ても、このトンネルは単に右に緩やかにカーブするだけ。地図にない左側の道へとバスは進み、それを確認したかのように、トンネルは轟音とともに、壁を動かして分岐点を消したーーー

 

ーーー富士山。世界文化遺産にも登録され、古くからこの日本のシンボルとして、人々に愛されてきた、標高3,776mの言わずもがな日本一の山。

しかし、その山にもう一つの顔があることを知る者は少ない。

かつてのウルトラ警備隊、TACなど、防衛チームの拠点にもなっており、防衛拠点でもあるのだ。

そして今、ここは陸海空の軍、大本営の全てを統括する本部基地となっている。

 

シークレットトンネルを進んできたバスは、やがて入口と思しき部分で停車する。

そこから降りてきたのは、各国の大本営支部の長官たち。極東支部のサコミズ・シンゴをはじめ、南太平洋支部のアーサー・グラント、西アメリカ支部のラッセル・エドランドなど、古くから世界を守り抜いてきた歴戦の勇士たちが、厳重に警備された入口から本部内へと入っていく。

今日は半年に一回の、各国支部の長官などの重役たちによる大本営本部会議の日。ここに入れるのは、大本営の中でもごく限られた上層部の人間だけである。

しかしこの日は違った。極東支部の海軍・第35鎮守府の提督とその秘書艦・響が、会議出席者の中に名を連ねていたのだからーーー

 

ーーー「長官、このような機会を頂き、ありがとうございます。」

「礼はいらない。それよりも、報告内容については大丈夫だね?」

待機室で長官と話す。今回俺と響は、レイの件についての報告のため、特別にこの会議に出席することになったのだ。

「時雨、久しぶりだね。元気にしてた?」

「私は元気だよ。

…長官の隣は、譲れないからね。とは言っても、いつもは極東支部直属の艦隊にいるから、隣にいること自体は、そこまでおおくないけどね」

「色々と相変わらずで、安心したよ」

響はサコミズ長官の秘書艦・時雨と話し中だ。ちなみにこの時雨、長官に出会って0.5秒で一目惚れしたらしく、少女マンガを読みまくって、一人称が「私」である。僕っ娘の響、私っ娘の時雨、なんだか一部が入れ替わったようだが、響が極東支部にいた時からの仲良しである

「さて、そろそろのようだ。我々も移動しよう」

「はい、長官」ーーー

 

ーーー大本営本部 第一会議室

「では、これより大本営本部会議を始める」

大本営のトップ・所謂元帥の男がそう告げて、会議が始まった。

広々とした会議室の中は薄暗く、重々しい雰囲気を醸し出している。

この会議にて話し合われるのは、大方各支部ごとの戦況報告、並びにそこから導き出される地球全体の戦況。さらに、何か新しく判明した事実があれば、それを世界中の大本営支部で共有する場でもある。

 

「では極東支部、超深海生命体についての進捗状況について、発言を。」

「はい。」

元帥に指名を受け、サコミズ長官が立ち上がる。

「極東支部では現在、レイと仮名を付けた超深海生命体を保護していることは、ここにいる方々も承知のことと存じます。そして、一ヶ月ほど前、城南大学附属物理学研究所の協力のもと、現地点で深海に存在するレイの仲間の超深海生命体との交信に成功しました。

この件について、今回、保護元の第35鎮守府の提督、及び秘書艦の響に、詳細を話していただきます。

色々と意見があるかと思いますが、まずは彼らの話をお聞きくださるよう、お願いします」

サコミズ長官は礼をして席に戻った。いよいよだ。緊張する体を必死に制御し、俺は席から立ち上がった。

「ご紹介に預かりました、極東支部、第35鎮守府の提督です。」ーーー

 

ーーー高山さんと藤宮さんの協力のもと、レイの仲間の超深海生命体との交信に成功してからというもの、俺達は超深海生命体の現状について聞いた。

その結果、分かったことは。

 

龍脈のある地点ならば、超深海生命体はどこでもエネルギーバランスの修正を行うことが出来る、ということ。

 

現在でも、その数は減り続けていること。

 

少なくなった超深海生命体たちは、身を寄せるようにレイとの交信を行っている地点、ただ一箇所に集まりつつあること。

 

そしてそれは、敵の密集地のうちのひとつ…

そのど真ん中の海底ということーーー

 

ーーー「…主な報告については以上です。それから…」

俺は周りに気づかれないように息を整え、この会議で最も伝えたかったことを伝える。

「我々は、サコミズ長官の許可の元…

 

生き残っている超深海生命体の、救出と保護を検討しています」

 

静寂に包まれていた会議室が一気にざわめく。

「…静粛に」

元帥の重々しい一言で、そのざわめきはおさまったように見えるが、明らかに先程までと、雰囲気は異なっていた。

「しかし、我々だけでは救出はほぼ不可能です。そこで、無理を承知で皆様にお願いします。

どんなことでも構いません。

救出作戦に、協力できるという方は、いませんでしょうか」

 

先程とは違い、今度は異様すぎる沈黙がその場を支配した。

「…極東支部第35鎮守府からの報告及び要請は、以上です」

緊張を悟られないように座る。

「では、この件について質問及び意見がある者は、挙手をして述べるように」

いくつかの場所で手が上がる。

 

「救出作戦について、方法などは決まっているのでしょうか」

「厳しい状況にあり、まだ有効な方法は見つかっていません」

 

「敵の密集地のど真ん中、とありましたが、そこまで行くこと自体、可能なのですか?」

「周辺の基地や鎮守府に協力を要請する予定でいます」

 

その後も質問が絶えない。しかも、だんだんと作戦自体に否定的なものが多くなっていく。

 

「というか、まず超深海生命体自体、助けるほどの価値があるのですか?」

 

「そこまで超深海生命体なんかに、情けをかける必要があるのですか?」

 

俺は今にも爆発しそうな心を抑えつつ、なんとか質問に答えていく。終わった時に、机に置かれた水を飲むことも増えてきた。

「司令官…」

「…大丈夫だ」

「風潮もかなり厳しい、無理そうならいつでも私に言ってくれ」

響、サコミズ長官が声をかけてくれる。そのおかげで、なんとかもう少しは持ちこたえられそう…そう思っていた。

だがその幻想は、次の発言でいとも簡単にぶち壊された。

 

大きな円形の机、ちょうど自分の向かい側に座っていた男が、嫌味たらしくこちらを見ながら口を開いた。

「そもそも、あなたはここがいかなる場所か分かっているのですか?

先程から口を開けば自身の理想論や夢物語ばかり語っていますが、そういったことは全く馬鹿馬鹿しく、そして無駄なんですよ!」

「…!」

「もっと現実に目を向けて、くだらない夢など捨ててからここに来てください?完全で矛盾の無い、我々が納得できるような意見が出来たら、ですが」

 

落ち着け…落ち着くんだ…!

自分の拳が震えている。俺があいつの顔面を砕いてやろうか、そう拳が訴えている。しかし、そんなことなんかしたら、後どうなるかは明白だ。理不尽だが、ここは抑えねばならない。

「酷い…酷すぎる…!」

響も、いつもの冷静さを失いかねないほどの敵意をその男に向けている。

「確かに…。

これは意見なんかじゃない、侮蔑発言だ…!提督くん、ここは私がなんとかしよう」

サコミズ長官も、表情こそそれほど変わらないが、その語気の中に怒りを容易に見いだせる。そして長官が、席に備え付けてあるマイクを取ろうとした時だったーーー

 

ーーーバンッッッ!!

 

静かな会議室に、突如響く大きな音。その場の全員が向き直った、その視線の先には…

 

机に腕を立てて席から立ち上がっていた、元帥の姿があった。

「さっきから聞いてみれば、ふざけたことをベラベラと…!」

誰がどう見ても激怒している様子の元帥。

先程の侮蔑発言の男は、こちらを勝ち誇った顔で見ている。ほうら、元帥閣下もそう言っているだろう?そう言いたげに。

 

しかし男は気付いていない。そして彼以外の全員が気づいている。

元帥の視線は、他でもない彼に向けられていることに。

数秒遅れて気づいた男は、顔色を一変させた。

「い、いやしかし元帥殿、彼の言っていることは荒唐無稽ですし、くだらない夢を語っているのは…」

「うるせえ!!」

男にとっては必死の弁明だったが、それは元帥の怒りの炎に油を注ぐことになった。再び机を叩く元帥。その振動で小さくズレた彼の机のネームプレートには、「元帥 ヒビキ・ゴウスケ」の文字が刻まれていた。

 

「お前は何も分かっちゃいねえ。お前は、俺達が何のために深海棲艦と戦っているのか分かっているのか!?」

「ひぃ…」

蛇に睨まれた蛙とはこのことか、男は先程の余裕に満ちた表情はすっかり消え去り、青ざめている。

「俺達が戦って、人を守るってことは…その人たちの持っている、大切な夢を守るってことなんだ。

お前はそんなことも分からないのか!?」

「あ…ぁあ」

「第35鎮守府の提督の語ってくれたことは、今は確かに実現の可能性は低い。だがよ!

だからって言って、それを可能性だけで、現実性だけで判断していいわけがねえだろ!」

一呼吸置いて、元帥は語り出す。

「前、俺の部下が言っていた。

『夢がある限り、人は前に進めます。どんな困難にも、何度でも挑戦できるはずです』ってな。

あいつは、本当にそれをやって見せたんだ。かつて地球に迫った危機を、あいつは救ってくれたんだ。

今はこの星にはいないだろうが、あいつはきっと今も、この宇宙のどこかで夢を追いかけ続けてる。そして、自分と同じように夢を見る者達を救っているはずだ」

「伝説の英雄、ウルトラマンダイナ…いや、アスカ・シン…」

サコミズ長官の口から、ヒビキ元帥のそのかつての部下の名が、小さな声で呟かれた。

「不完全でもいいじゃないか!矛盾だらけでも構わねえ!人の数だけ夢がある、俺はそんな世界の方が好きだ!

ここは軍の会議室だが、同時に、守りたい夢を、叶えたい夢を語る場所でもあるんだ!本当にここがどういう場所か分かってねえのは…お前の方だ!」

もはやその男のみならず、その周りで、提督に向けて心無い意見をぶつけていた者達までも、顔が強ばっていた。

「くだらねえだの無駄だの、そんな言葉で人の夢を蔑むなんてことは、絶対にやっちゃならねえ事なんだ!そいつだけじゃねえ、周りの奴らも!

もう一度そんなことを言うようなら…すぐにここから出ていってもらうぞ!!」

「す…すみませんでした…」

ガタガタと震えながら、男はおずおずとこちらに頭を下げてきた。それを見届けたヒビキ元帥も、こちらに頭を下げる。

「…中断させてしまい、済まなかった」

「あ、いえ、その…ありがとうございます」

緊張のあまり、言葉が詰まってしまった。しかし、元帥は先程の鬼の形相はどこへやら、とても爽やかな笑顔を向けてくれた。

「そう固くならなくても大丈夫だ…さて。

 

君の夢の続きを、私に聞かせてくれないか?」

「…はい!」

自分はさらに救出作戦について語った。先程の元帥の言葉もあってか、頭ごなしに否定されることはなくなった。

こうして、波乱もありながら、大本営本部会議は幕を閉じたのであったーーー




今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。

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それではまた次回。


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