コードギアス・謀略のカナメ (JALBAS)
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《 第一話 ―― 魔神と遭遇した日 ―― 》

コードギアスのシリーズを通じての扇は“いい人だけど頼りない”というキャラでした。無能で優柔不断、どっちかというと癒し系のキャラです。
ですが、『裏切り』での扇はキャラが違います。
いきなり皆の前で“ゼロはずっと俺達を騙していたんだ!”って、自分はずっと敵の士官のヴィレッタと繋がって皆を騙していたのに……“いい人”ならそんな発言できないでしょう。良心の呵責に苦しみます。優柔不断なら尚更です。
しかし、もっと酷いのはその後です。ゼロを引き渡す代わりに、日本を返せとシュナイゼルに要求。何故、この場で突然そんな要求ができるの?仲間を敵に売って、見返りに日本を返してもらう?“いい人”なら絶対こんな事はしません。できません!
“信じた仲間を裏切るんだ、せめて日本くらい取り返さなくては、俺は自分を許せない!”って、自分が許せなければ、普通は自分の身を削るような事しませんか?平気で他人を犠牲にして、何で自分が許せるんですか?自分さえ良ければ人はどうなってもいい、自己中心主義の考え方ですよ。完全な悪人ですよね?これ……
本当に信じてたんなら、普通は裏切りきれ無い。扇のようなキャラなら、尚更です。公然と裏切るって事は、最初から信じて無い、利用してたって事でしょ?
極め付けは、シュナイゼルは“引き渡せ”と言ったのに、4号倉庫では最初からゼロを射殺しようとしていました。何故?
これは、仮にシュナイゼルに引き渡しても、ギアスを使って逃げ出すかもしれない。そうなると、裏切った自分の身も危なくなる。ならば、ここで危険の芽を摘み取っておこうという策略では無いのでしょうか?

という訳で、『裏切り』での扇には“らしくない”言動が目立ちます。ただ、もしこの話での言動こそが彼の本性で、それまでの彼の言動が全て計算された偽装だったとしたら?
ディートハルトなんかより、ずっと腹黒い男になってしまいます。




公歴2010年、8月10日、神聖ブリタニア帝国は日本に宣戦布告した……日本は帝国の属領となり、自由と、権利と、そして、名前を奪われた……エリア11……その数字が、敗戦国日本の新しい名前だった……

 

その7年後、俺“扇要”は、親友の紅月ナオトと共に、ブリタニアの支配に抵抗するレジスタンスを率いていた。

ブリタニアの支配下では、イレブン(日本人)はまともな生活はできない。かと言って、立派な家柄も無ければ、特出した技能も無い俺には“名誉ブリタニア人”になってもおいしい事は何も無い。逆に、日本人から“裏切り者”のレッテルを貼られるだけだ。それならば、日本を取り戻そうという連中と行動を共にする方が良い。特に、親友のナオトは、心の底から日本を取り戻そうと行動していた。また、周りにそれを期待させる雰囲気を持っていた。俺は、ナオトに付いていった。ナオトがリーダーの組織で、彼の補佐役を勤めていた。

昔から、自分の事は良く理解していた。自分は、リーダーには向かない。リーダーを務める者には、絶対条件として必要な力が3つある。

ひとつは、洞察力・状況判断力。短時間で状況を把握し、適切な判断を下す。当然、決断力も含まれる。事態が深刻であればある程、即座に対応できなければその組織は生き残れない。

ふたつ目は、行動力。リーダー自らが動かなければ、部下は動かない。士気も上がらない。

そして3つ目は、統率力。カリスマ性と言っても良い。皆に魅了され、皆をまとめあげる力。これが無いと、人はついて来ない。

俺には、この全てが欠けていた。それに対し、ナオトは全てを持っていた。奴こそ、理想のリーダーだった。だから、俺は奴に付いていく事を決めた。常にナンバー2の位置に居て、自分の無能さを隠し、甘い汁を吸うために……そのための悪知恵にだけは、昔から長けていた。

常に温厚な態度で、優柔不断を装い、上にも、下にもいい顔をした。

ナオトがレジスタンスのメンバーと対立する時は、どちらにも付かずにその場は何とか誤魔化す。後で、ナオトにはしっかりと“俺だけは、お前を信じてる”とフォローを入れる。皆にはこっそり“ナオトには、俺から言っておくから”と言って、意見を聞く振りをする。そのお陰で、人望だけは人一倍あった。

 

しかし、悲劇は突然訪れた。ナオトが、作戦中に行方不明になってしまった。

生きているのか、死んでいるのかも分からない。その後、人望だけは高かったため、俺がナオトに代わるリーダーにされてしまった。

まずい、非常にまずい!このままでは、直ぐに俺の無能さが露見してしまう。一度失った信用は、取り戻すのが難しい。そもそも、リーダーの資質が無いのだから取り戻しようも無い。それ以前に、俺がリーダーでは直ぐにレジスタンスは壊滅してしまう。とにかく、急いで新しいリーダーを探さなければ!

しばらくは、既にナオトが立ててあった作戦を実行していた。その過程で、次のリーダーに適した人材を探していた。一番の候補は、ナオトの意思を継ぎ、レジスタンスに新加入したナオトの妹カレンだった。流石にナオトの妹だけの事はある。リーダーに必要な3つの力を、カレンは全て持っていた。

だが、彼女はまだ学生だ。それに、彼女は純粋な日本人では無い。

兄のナオトは日本人だが、カレンは父親が違う。彼女の実父は、ブリタニアの貴族シュタットフェルト家の当主であるため、ブリタニア人とのハーフだ。“カレン・シュタットフェルト”という、ブリタニア人としての国籍も持つ。

彼女自身は“自分は日本人だ”と言っているが、この点を不満に思う者も居るかもしれない。ならば、俺の補佐として傍に置き、実質リーダーとしての行動をさせればいい。

そんな彼女の実力を、皆に示す機会がやってきた。ブリタニア軍の基地で、化学兵器(毒ガス)の製造がされているという情報が入った。俺達は、この毒ガスを強奪する事を考えた。これには、ナオトが計画していた“軍の兵器強奪作戦”が適用できたからだ。

カレンに功績を上げさせるために、強奪の主担当を永田とカレンに任せた。カレンはナイトメアの操縦にも長けていたので、京都から提供されたグラスゴーも同乗させた。

ナオトの作戦は完璧だった。作戦通りに動けば、強奪作戦は問題無く完遂できる筈だった。そう、あの男さえ居なければ……

 

俺は、レジスタンスに入って、初めて自分よりも無能な人間に出会った。いや、もう有能とか無能とかという次元ですら無い。あいつは猿以下だ。計画性は全く無く、学習能力も無い。お調子者で、その場その場の気分で行動する。とにかく、作戦通りに動かない。その上、秀でた才能が何も無い。組織最凶の悪性腫瘍、玉城!

奴がナオトの作戦通りに動かなかったため、強奪作戦はブリタニア軍に嗅ぎ付けられ、永田とカレンは危機に陥った。だが、それだけでは済まなかった。この毒ガスがブリタニアにとってそこまで重要だったのかと驚くが、ブリタニアは新宿ゲットーごと全てを排除しようとして来た。玉城ひとりのために、俺がここまで築き上げてきた牙城が脆くも崩れ去ると思われた時……遂に現れた、彼が……

 

『西口だ!線路を利用して、西口に移動しろ!』

サザーランドに追い詰められたカレンに、謎の男からの指示が入る。

「誰だ?どうしてこのコードを知っている?」

『誰でもいい!勝ちたければ、私を信じろ!』

彼は、合わせて俺達にも指示を出して来た。

『お前達も、線路を伝って西口に向かえ!』

藁にもすがる気持ちで、俺達はこの指示に従った。そして、無事サザーランドを撃破する事ができたカレンと合流する。

「おーい、カレン!さっきの通信は何だ?」

「扇さん達にも?」

「ああ、吉田達ももう直ぐこっちに……」

そこで、また通信が入る。

『……お前がリーダーか?』

「あ……ああ……」

『そこに止まっている、列車の積荷をプレゼントしよう。勝つための道具だ。』

列車のコンテナを開けると、中には何台ものサザーランドが……

『これを使って勝ちたくば、私の指揮下に入れ!』

まるで、夢でも見ているようだ。どうやって、こんな物を手に入れた?何者なんだ、この男は?……いや、声は男だが、本当に男なのか?

10分後に、謎の男からまた指示が入った。

『P1、動かせるか?基本は、今迄のと変わらない筈だ。』

「君は何者だ?名前だけでも……」

『それはできない、通信が傍受されていたらどうする?それより、Q1が予定通りなら、23秒後に敵のサザーランドがそこに来る。おそらく2機。壁越しに撃ちまくれ!』

この男の言葉には、人を信じさせる魔力のようなものを感じた。常にリーダーの後ろに隠れていた俺には、特に良く分かる。場の空気すら読めない玉城は全く信じようとしなかったが、こんな馬鹿に付き合っていたら皆あの世行きだ!

俺は、全員にこの男の指示に従うように伝えた。はっきり言って、俺にはこの状況では大した指示も出来ない。ナオトの過去の行動を思い返しても、似たようなケースは思い浮かばない。今は他に方法が無いため、皆も従った。

「3・2・1・撃てっ!」

男の指示通り、サザーランドが現れ、俺達の銃撃で一蹴された。彼の言った通りだ。

「ようし、この声に従え!」

俺は確信した。この声に従っていれば、勝てる!

更に、次々と指示通りに敵が撃破されて行く。

この男は本当に何者なんだ?ブリタニア軍の動きを的確に読んで、常に先回りをしている。まるでナオト・・・いや、それ以上だ!

 

敵のサザーランド部隊はほぼ全滅し、もう勝利は目前……と思われた時、状況は一変した。

突如現れた白いナイトメアが、俺達のサザーランドを次々と撃破し始めた。敵は、たった1機なのに。

謎の男の指示に従っても、成す術無く俺達は撃破されてしまった。

「おい、ナイトメアは撃破されてしまった!この後は、どうすればいい?」

何とか脱出した俺は、慌てて次ぎの指示を求める。しかし、何の返答も無かった。まさか、あの男もやられてしまったのか?

一応リーダーは俺なので、皆は俺に指示を仰ぐ。頼られても、この俺に名案が出せる訳も無い。とりあえずは、逃げるように伝える。そうして、住民達が避難している倉庫に逃げ込んだ。そこで、カレンとも合流する。

「扇さん、あの声の人は?」

「分からん、呼びかけにも答えないし、死んじまったかも?」

本当に死んでしまったのか?やっと、見つけたと思ったのに……

その時、倉庫のシャッターが破壊され、戦車とブリタニア兵が雪崩れ込んで来た。

「ほら見ろ、訳の分かんない奴に従うくらいなら、毒ガスを使うべきだったんだよ!」

玉城が吼える。

町中で毒ガスを使って、市民を虐殺してどうするんだ?本当に何も考えて無いな、こいつ……

「永田のバカヤロー!」

元々お前のせいじゃないか?言ってて恥ずかしく無いのか?

しかし、本当にもう万事休すと思った、その時……

『全軍に告ぐ、直ちに停戦せよ!……』

クロヴィス総督からの、突然の停戦指示。俺達は、九死に一生を得た。

 

何故、最初は新宿ゲットーごと俺達を抹殺しようとしたクロヴィスが、停戦、並びに負傷した日本人の手当てまで指示をして来たのか……

狐につままれたような気分だったが、俺にはやはり確信があった。あの男だ、あの男が何かしたのだ。あの男は生きている。

ついに見つけたぞ!ナオトの代わりに、この組織を統べる男。俺のナンバー2の座を揺るぎ無いものにする人身御供!

何処の誰かは知らんが、必ず見つけ出す!必ず!

 

だが、捜そうにも何の手掛かりも無かった。その上、先日の事件のせいで軍の警戒が厳しくなっているため、今は思うように動けない。

当面はレジスタンスの活動もできないので、カレンには学校に戻るように伝えた。もうカレンを無理にリーダーに仕立てる必要は無い。あの男さえ見つけ出せれば……

元々、ナオトは、カレンをレジスタンスに入れる事には賛成していなかった。今となっては、止めろと言ってもカレンが聞かないだろうが。

 

そんな時、ブリタニアからクロヴィス総督が暗殺されたとの報道があった。そして、その犯人は、名誉ブリタニア人の枢木スザクと発表された。

俺達は、アジトのテレビでそのニュースを見て驚いていた。

「だから、さっさと声明を出せば良かったんだ!俺達の手柄になったのによお!」

玉城が、文句を言って部屋を出て行く。

何を言ってるんだあの馬鹿は?声明を出す?何の?今ニュースを見るまで、俺達はクロヴィスが死んだ事すら知らなかったんだぞ……

ナオト、やっぱり、俺には無理だ。あんな馬鹿の居る組織をまとめ上げるなんて……

そう考えていると、携帯の着信音が鳴った。カレンからだ。

『扇さん、例の声の主から連絡が入ったわ!』

「な……何だって?」

『明後日の16時に、旧東京タワーの展望室にひとりで来いって!』

「ほ……本当か?」

まさか、向こうから連絡して来るとは……このチャンス、絶対に逃しはしない!

 




何か、扇を扱き下ろすつもりが、玉城を扱き下ろす話になってしまいました。
でも、コードギアスって、扱き下ろしたくなるキャラが多すぎるんですよね?スザクとかニーナとか……

本編で、扇は何でゼロにリーダーを頼もうと思ったんでしょうか?親友の意思を継いでレジスタンスを引き受けたなら、そんなに簡単に得体の知れない男に協力するでしょうか?周りの反対を押し切ってまで。
カレン以外は、はっきり言ってゼロを信用していませんでしたよね?優柔不断で、周りにばかり気を使う人間が、このような冒険をするとは考え難い。
色々と胡散臭いです、扇は。


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《 第二話 ―― 奴の名は“ゼロ” ―― 》

コードギアス本編では、扇はナオトの意思を継ぎレジスタンスのリーダーをやっていました。しかし、もしそうでは無く、無理やりリーダーにされただけだったら……
ゼロにリーダーを頼んだのも、レジスタンスの組織や日本を取り戻すためでは無く、単純に自分に都合の良い居場所を作るためだけだったとしたら……

第2回は、扇達レジスタンスが“ゼロ”と初めて顔を合わせる話。
全て、扇視点で書いています。




例の声の主との待ち合わせに、俺達は旧東京タワーの展望室に行った。

“カレンひとりで来い”との指示だったが、俺は杉山と吉田を連れて、3人で少し離れた所で様子を伺っていた。ここで取り逃がす訳にはいかない、絶対に正体を掴まなければ。

杉山達は“枢木スザク”が軍に捕らえられる前に連絡して来たのではないかと疑っていたが、俺は違うと思った……いや、そう思いたかっただけかもしれない。もし、声の主が

枢木だったら、もう俺達のリーダーに宛がう事も出来ない……

指定の時間に、カレンに連絡が入った。俺達共々、環状5号線外回りに乗れとの指示だ。

俺達が一緒に来ている事もお見通しか、やはり、こいつは抜け目が無い。

電車の中で、また連絡が入った。租界とゲットーを比較させ、カレンのコメントを求めた。そのコメントに納得したのか、今度は先頭車両に来いと指示があった。俺達は、指示に従った。

先頭車両に着くと……居た!

そいつは、車両の端にこちらに背を向けて立っていた。何故か、この車両には乗客がひとりも居ない。隣の車両には沢山乗っていたのに、誰もこの車両に移ろうとはしない。何故だ?こいつ、いったいどんなマジックを使ったんだ?

「なあ、新宿のあれは……停戦命令もお前なのか?」

カレンが尋ねる。しかし、彼は答えない。

「おい、何とか言えよ!」

杉山の言葉に、彼は振り向くが……その顔は、黒い仮面で隠されていた。

「租界ツアーの感想はどうだ?」

彼は、俺達に尋ねて来る。

「正しい認識をして貰いたかった、租界とゲットー。」

彼の質問の意図は分からなかったが、とりあえず俺は答える。

「確かに、我々とブリタニアの間には差がある。絶望的な差だ。だから、レジスタンスとして……」

「違うな!テロでは、ブリタニアは倒せないぞ!」

俺は、言葉に詰まる。まあ、口論は得意では無い。理詰めで来られると、反論出来なくなる。

「やるなら戦争だ!民間人を巻き込むな!覚悟を決めろ!正義を行え!」

し……痺れる台詞だ……やはり、こいつにはリーダーの資質が備わっている。

「ふざけるな、口だけなら何とでも言える!顔も見せられないような奴の言う事が、信じられるか!」

カレンが叫ぶ。

「そうだ!」

「仮面を取れ!」

杉山達も続く。ここは、俺も合わせておかないとまずいと思い、

「ああ、顔を見せてくれないか?」

と続ける。これで、本当に顔を見せてくれれば儲けものだ。

「分かった、見せよう……但し、見せるのは顔では無い、力だ!不可能を可能にして見せれば、少しは信じられるだろう?」

な……何を、見せてくれるというんだ?やはり、この男の言葉には魔力がある。つい、何かを期待してしまうような魔力が!

「で……いったい何をする?」

俺は尋ねる。

「そうだな、枢木スザクを救って見せようか?」

『な……何だと?!』

全員、驚きの声を上げる。

「お前達も、薄々感づいているんだろう?クロヴィスを殺したのは、奴では無い!」

「ま・・・まさか、お前が?」

「そうだ!クロヴィスを殺したのは私だ!」

「やはり……」

「しかし、どうやって救う?牢獄に潜入するのか?」

今度は、カレンが尋ねる。

「奴は明日の夜、沿道を軍事法廷まで護送される。そこを狙う。」

「馬鹿な!どれだけ厳重な護衛が、配備されると思ってるんだ?」

「だから言っただろう、不可能を可能にすると!」

俺達には、もう言葉が無かった。

「ただ、お前達の協力も頼みたい。」

「何?」

「1時間後、新宿ゲットーのスクラップ置き場で待っている。そこで、返事を聞かせてくれ。」

「ま……待ってくれ、せめて、名前を聞かせてくれ。」

俺は、最後にそう尋ねた。

「我が名は、ゼロ!」

『ゼロ?!』

 

アジトに戻って、俺達はゼロと名乗る男からの言葉を皆に伝えた。

皆、やはり直ぐには信じ難いようだが、先日の新宿の件もあるため迷っている風だった。俺がうまく懐柔すれば、その気になってくれるかと思ったところに、玉城が口を挟む。

「俺はごめんだね!あんな胡散臭い奴を信じたら、命が幾つあったって足りねえや!」

お前がそれを言うのか?こっちこそお前なんかと一緒に居たら、命が幾つあっても足りないぞ。

しかし、玉城のこの言葉に引っ張られ、皆“協力はできない”方に流れてしまった。協力を受け入れたのは、結局、俺とカレンだけだった。

本当に邪魔な奴だ、何の役にも立たない癖に、俺と同じで悪運だけは強くていつも生き残る。ナオトが生死不明になった時だって、生き残ったのは俺とこいつだけだった。先日の新宿で、死んでくれればどれほど良かったか……

 

仕方なく、俺とカレンのふたりだけで、ゼロとの待ち合わせ場所に向かった。

「そうか、お前達だけか?」

「すまない、もう少し時間をくれないか?ちゃんと話せば、他の皆も……」

だが、俺の言葉にゼロは、

「いや、ふたりも居れば十分だ。」

『え?!』

「馬鹿言うな!相手が何人いると思ってるんだ?」

カレンが怒鳴る。

「お前達が協力してくれるなら、条件はクリアしたも同然だ……」

そう言ってゼロは、設計図のような紙を渡した。そこに描かれた物を、明日までに作れと言うのだ。ただ、外側だけそれらしく見えれば良いとの事だ。

それは、クロヴィス専用の御料車だった。

 

「本気で、あんな奴の言う事を信じてんのか?頭がおかしいんじゃねえのか?お前ら!」

相変わらず玉城は文句ばかり言って、何も協力しない。俺はこんな馬鹿は無視して、手を貸してくれる仲間達と、ゼロに依頼された御料車の張りぼてを作った。

彼は言ったんだ。不可能を可能にして見せると……あの男、枢木スザクを救って見せると。彼は、根拠も無しに強がりを言う奴じゃない。ナオトもそうだった。奴をレジスタンスの皆に認めさせるためにも、この計画は絶対に成功させたい。

 

翌日、何とか造り上げた“クロヴィス専用の御料車の張りぼて”を持って同じスクラップ置き場に行く。ゼロは、俺たちが強奪しようとした毒ガスのカプセルを用意していた。ただ、中身は空っぽだった。それをニセ御料車に乗せ、衝立で隠す。カレンは運転手として、ゼロと行動を共にする。俺は脱出用のトロッコを引いて、骨格だけのナイトメアもどきで沿道脇の線路上で待機した。

全てゼロの指示だが、この配置なら、万一作戦が失敗しても俺だけは逃げ延びられる可能性が高い。カレンには申し訳ないが、相変わらず悪運は強いようだ。

カレンは運転、俺は脱出の手助け、それ以外は細かい指示は無かった。

だから、ゼロがいきなり護送車に正面から接近したのには驚いた。

「馬鹿な、真正面から……どうするつもりなんだ、あいつ?」

その後、ゼロはその名を名乗り、敵が隠していたサザーランドを出し包囲されたところで、

毒ガスのカプセルを見せて脅す。その後、カプセルと枢木スザクの交換を持ちかける。更に、クロヴィス殺害犯が自分である事も告げる。

最初は、交換には応じないの一点張りだったジェレミアだが、ゼロがジェレミアに近づいて何事か告げた時、状況が一変する。

「分かった……おい、その男をくれてやれ!」

ジェレミアが、ゼロに枢木スザクを引き渡す事を命じたのだ。

その場の、誰もが驚いた。当然、俺とカレンも。

周囲の反対を跳ね除け、ジェレミアは枢木を開放する。ゼロ、カレン、枢木が沿道の中央集まったタイミングで、ゼロがカプセルからガスを噴出させる。当然、毒ガスなんかでは無いが、これが脱出の合図だ。

俺は、トロッコの上に着地用のテントを張る。その上に、ゼロ達が飛び降りて来る。テントがクッションになり、3人は無事トロッコ内に着地する。

「やった!これで……」

喜んだのも束の間、護衛のサザーランドの銃撃で俺のナイトメアもどきは破壊される。

「うわっ!」

俺は、脱出ポットで脱出。そのサザーランドは、何故かジェレミアに制止されて追って来なかったので、ゼロ達もトロッコで無事脱出した。

 

アジトに戻って来て、俺とカレンは一息付く。見事に、枢木スザクの救出は成功した。皆も、驚きの声を上げる。

「まさか、本当に助け出すなんて……」

「何なんだ?あいつは?」

感心する杉山達。しかし、玉城だけは、

「馬鹿馬鹿しい、あんなはったりが、何度も通用するかっての!」

馬鹿はお前だ!あの男が、同じはったりを何度も使う訳が無いだろう。だが、ここは無難なコメントをしておこう。

「しかし、認めざるをえない。彼以外の、誰にこんな事ができる?日本解放戦線だって無理だ。少なくとも、僕には出来ない。皆が無理だと思っていたブリタニアとの戦争だって、やるかもしれない、彼なら。」

そう、俺達の……いや、俺の隠れ蓑になるリーダーはあの男しかいない!

 

ゼロは、枢木スザクを仲間に引き込もうとしたが拒否されたようだ。枢木は、せっかく命を拾ったというのに、自分から軍事法廷に出頭するため戻って行った。

枢木が去った後、俺は、ゼロと2人きりで話をした。

「ゼロ、俺達のリーダーになってくれないか?」

「何?」

「今日、あんたの力を見せて貰った。あんな事は、俺でも、他のレジスタンスにだってできない。あんたなら、信頼できる。」

直ぐにOKが貰えると思ったが、意外にもゼロは無言だった。そして、少し間を置いて、

「……少し、考えさせてくれ。」

「何故だ?俺達を引き込むために、あんな忠告をしたり、力を見せたんじゃ無いのか?」

「それはそうだが、お前の仲間は納得しているのか?」

「そ……それは……」

「今日の作戦も、協力したのはお前とあの女の2人だけだ。いきなり私のような余所者がリーダーになって、はいそうですかと従ってくれるのか?」

確かに、カレン以外はまだゼロに対して懐疑的だ。特に、玉城に至っては全く信用していない。いきなりゼロをリーダーに据えるのは、思わぬ反発を呼ぶかもしれない。

「また連絡する。それまでに、お前は仲間達をまとめておけ。リーダーを引き受けるかどうかは、その時に改めて話をしよう。」

「あ……おい!」

そう言って、ゼロは去って行った。

あいつ、枢木を救出するために、一時的に俺達を利用しただけなのか?それとも、他のレジスタンスにも声を掛けていて、品定めをしているのか?どちらにしても、奴を他の組織に取られる訳には行かない。

逃がさないぞ、ゼロ!俺は、絶対にあんたを俺達のリーダーにしてみせる!

 





本編中で、扇が玉城を罵倒するようなシーンは一度もありませんでしたが、玉城を頼っているシーンもありませんでした。内心では、この話のように思っていたのでは無いでしょうか?
何か、扇のキャラがどんどん崩壊して行きます。この話を最後まで書いたら、扇ファンの恨みを買いそうです。


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《 第三話 ―― 黒の騎士団 ―― 》

何とか、レジスタンスのリーダーにゼロを宛がいたい扇。しかし、ゼロ(ルルーシュ)の方は既に疎ましく感じていて、切り捨てようかと考えていました。
ところが、ここでも扇の悪運の強さが物をいいます。
コーネリアに対しての、屈辱的な敗退。組織の重要性を痛感したルルーシュは、再び扇達と手を組む事に……




枢木スザク救出作戦以降、ゼロからは連絡が無かった。

一応連絡先は教えてもらっていたので、俺の方から何度か電話をしたが、“今はまだ待て”と言うばかりで、奴をリーダーに据える俺の計画も進まなかった。

そうしている内に、クロヴィスに代わるエリア11の新しい総督に、第二皇女のコーネリアが就任して来た。

コーネリアは“戦闘皇女”と呼ばれるだけあって、自ら親衛隊を率いて出陣して、次々と日本の反ブリタニア勢力を潰して行った。俺は焦ってゼロに連絡するが、相変わらず答えは同じだった。

 

そんなある日、突然ゼロの方から呼び出しがあった。

待ち合わせ場所に行って、俺達は驚いた。ゼロは俺達の移動するアジトとして、巨大なトレーラーを用意していた。

「どうした、早く入れ。今からここが、私達のアジトだ。」

「それは、あんたが俺達と組むと考えていいのか?」

「ああ、私達は仲間だ。」

やった、ようやくその気になってくれたようだ。これで、俺のナンバー2の地位も安泰だ。

しかし、ハイテク技術満載の凄い車だ。どうやってこんな物を手に入れたのか聞くと、

「頼んだら譲ってくれたよ、道楽者の貴族がな。」

との事。

そんな訳は無いだろう。だが、別にそこは追及しなくとも良い。彼には、それだけの力があるという事だ。俺達は、それを利用させて貰えばいい。

「テレビまで付いてる。」

南が、リモコンのスイッチを入れると、テレビにニュースが映し出される。

『はい、こちら、河口湖のコンベンションホテルセンター前です。ホテルジャック犯は、日本解放戦線を名乗っており……』

車内が騒然とする。

日本解放戦線の草壁元中佐が、河口湖に集まったサクラダイト配分会議のメンバーや従業員・観光客を人質に取って立て籠もった。そして、ブリタニア軍に対して、投獄されている仲間の釈放等を要求して来た。

「動いて来たな。」

玉城が言う。

「日本最大の反ブリタニア勢力だからな、意地もあるんだろう。」

俺はそう答える。

「俺達への?」

南が問う。

「かもな?」

「喜ぶべきか、悲しむべきか?あれじゃ玉砕しかねえだろう?」

再び、玉城が言う。

確かに、こんな程度でブリタニア軍が簡単に要求を呑むとは思えない。俺達への意地よりも、次々とコーネリアに反抗勢力が潰されて行く事に、焦ったのかも知れない。

 

ゼロは何も語らず、2階の自室でこのニュースを眺めていた。その間、俺達は車の中に荷物を運び込んでいた。車の中には、俺達専用のコスチュームまで用意されていた。俺は、それを持ってゼロの所へ行く。既に、カレンと何か話をしていたが、割って入る。

「おーい、ゼロ、これ皆に配っていいのか?これさあ、恰好いいとは思うんだけど、俺達レジスタンスだし……」

「違う!私達はレジスタンスでは無い!」

「じゃあ、何だよ?」

「私達が目指すもの……それは、正義の味方だ!」

正義の味方?じゃあ、ブリタニアが悪だと?

相変わらず、この男は人の心を掴むのがうまい。こういう言葉は、味方の士気が上がる。

「そ……それで、ホテルジャックの件はどうする?このまま静観するのか?」

「いや、私達は、正義の味方だと言っただろう?」

『ま……まさか?』

俺とカレンが、同時に言う。

「奴らを排除し、人質を助け出す!」

『な……何だって?!』

 

その後、下に降りて皆にもその説明をしたところ、当然の事ながら口論となった。

「日本解放戦線は、俺達と同じ日本人だ!日本を裏切れってのか?」

杉山が言う。

「奴らの行動が、日本人の総意なのか?」

「い……いや、そうとは思えないが……」

「この組織と、日本解放戦線は仲間なのか?仲間なら、何故行動を共にしていない?」

「確かに、俺達と日本解放戦線は仲間じゃ無い。考え方も、主旨も違っている。でも、お互い日本を取り戻そうと闘っている。いわば同志だ。」

俺が答える。

ただ、日本解放戦線は旧日本軍の残党だ。民間人の寄せ集めの俺達とは、組織形態が違いすぎる。軍人としてのプライドもあるだろう。俺達なんかとの共闘は、望まないかもしれない。

「個々に闘っていては、ブリタニアは倒せない!ブリタニアを倒すには、より大きな組織が必要なのだ!」

「だったら、逆に協力して、日本解放戦線をこちらに取り込むべきじゃ無いのか?」

そう言いながら、本当は、そんな事は望んでいなかった。日本解放戦線と組めば、民間人の俺達なんか下っ端だ。俺も、ナンバー2の地位には居られなくなる。

「違うな!こちらの主旨に賛同して参加したいと言って来るなら別だが、こちらが奴らに合わせる事は無い!」

「何故だ?」

「言っただろう、テロ等は幼稚な嫌がらせに過ぎない。やるなら戦争だと。」

「戦争するなら、尚更軍属と手を組むべきじゃ無いのか?何故、日本解放戦線を否定する?」

皆の手前、一応正論を言っておく。

「奴らのやっている事は、クロヴィスと変わらん!目的のために、民間人を平気で巻き込み、容赦無く殺す。正義は何処にも無い!」

「し……しかし……」

「テロでは何も変わらないというのは、そういう事だ!極一部の反逆者が支持しても、世論は“悪”としか見ない!正義が無ければ、世論の支持は得られない!」

もっともらしい意見だ。だが、懸念事項はまだある。

「だ……だが、下手をすれば、ブリタニアだけで無く、他の日本の反抗勢力までも敵に回す事になるかもしれないぞ。」

「そうはならない。」

「何故、そう言い切れる?」

「これが、正義の闘いだからだ!」

結局、俺達は半ば洗脳されたような感じで、ゼロの計画に従う事になった。

 

河口湖に到着して直ぐに、ゼロが放送車両を奪って来た。大した騒ぎも起こさずにどうやって奪って来たのか不思議だが、今はそんな事よりも、この計画の第一段階がうまく行くのかどうかが心配だった。何とゼロは、その放送車両に全員を乗せて、いきなりコーネリア軍の真っ只中に進ませたのだ。

ゼロは、上のデッキに立っている。運転席には、俺とカレンが座っていた。俺は、不安を紛らすためにカレンに話し掛ける。

「なあ、彼が言う正義って、どういう意味なんだろうな?」

「さあ?でも、その前に殺されるかも?」

カレンも、不安でいっぱいのようだ。前回の枢木スザク救出作戦の時もそうだったが、とても生きた心地がしない。しかし、俺は彼をリーダーにすると決めたんだ。自分の直感と、悪運を信じる。きっと、今回もゼロが何とかしてくれる。

目の前に、グロースターが3機現れて道を塞ぐ。真ん中の機体から、コーネリアが姿を現す。

「また会えたなゼロ。お前は、日本解放戦線のメンバーだったのか?それとも、協力するつもりか?しかし、今はこちらの都合を優先する。義弟クロヴィスの仇、ここで討たせてもらう!」

「コーネリア、どちらを選ぶ?死んだクロヴィスと生きているユーフェミア?」

ゼロの言葉に、コーネリアは動揺する。

ユーフェミア?ユーフェミアって、ブリタニアの第三皇女のユーフェミアか?

「ユーフェミアを救い出そう、私が。」

「ゼロ、何を言っているのか分からないな?」

「救ってみせる!私なら!」

コーネリアを言いくるめて、ホテルへの橋を通過する事に成功する。

しかし、何故人質の中にユーフェミアが居る事を知っていたんだ?俺達はゼロと一緒にテレビを見ていたが、そんな報道は全く無かった。いつも思うが、彼はどこからそのような情報を手に入れているのか?また、ブリタニア内の情勢にも異様に詳しい。彼は、本当に日本人か?いや、素性が分からないんだ、日本人とは限らない……

 

日本解放戦線も相手が“ゼロ”という事で、中に通してくれた。これで、ゼロの言う前提条件は全てクリアされた。

ゼロは、草壁中佐に呼ばれて彼の待つ部屋に行った。しかしこれは陽動で、その間に俺達は、ホテル内に爆薬を仕掛けた。ゼロに指定された場所に。

一方で、ブリタニア軍もこの隙に作戦を展開していたようだ。ホテルのライフライントンネルを通って例の白いナイトメアが侵入し、ホテルの基礎ブロックを破壊した。だが、その時にはこちらの準備も全て完了していた。ゼロは、爆薬の爆破スイッチを押す。ホテルは爆煙に包まれ、人質もろとも爆破されたと思われた……が、直後に、ゼロの姿がテレビ画面に映し出される。

「ブリタニア人よ、動じる事は無い。ホテルに囚われていた人質は、全員救出した。あなた方の下へ、お返ししよう。」

そして画面には、俺達が救出し、救命ボートに乗せて脱出させた人質達が映し出される。

「人々よ、我らを恐れ、求めるが良い!我らの名は、黒の騎士団!」

今度は、脱出艇に並んで立つ俺達に画面が切り替わる。スポットライトで黒い団員服に身を包み、ゴーグルで顔を隠した俺達が照らし出される。

「我々黒の騎士団は、武器を持たない全ての者の味方である!イレブンだろうと、ブリタニア人であろうと。日本解放戦線は卑劣にもブリタニアの民間人を人質に取り、無残に殺害した。無意味な行為だ。故に、我々が制裁を下した。クロヴィス前総督も同じだ。武器を持たぬイレブンの虐殺を命じた。このような残虐行為を見過ごす訳にはいかない、故に制裁を加えたのだ。」

ブリタニア軍も、俺達を黙って見ているしかない。下手に攻撃すれば、周りに居る民間人やユーフェミアにも被害が及ぶ。

「私は闘いを否定しない。しかし、強い者が弱い者を一方的に殺す事は、断じて許さない!撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ!」

ゼロは、話続ける。堂々と、ブリタニア軍の目の前で。

「力ある者よ、我を恐れよ!力無き者よ、我を求めよ!世界は、我々黒の騎士団が、裁く!」

 

成程、こういう事か。ホテルジャック事件をうまく利用し、我々を“正義の味方”に仕立て上げ、メディアを通して大々的にアピールする。ここまで全て計算に入れていた……凄い、本当に凄い男だ、ゼロ。

お前の、真の目的は分からない。お前にとって、俺達は都合のいい駒でしかないのかもしれない。しかし、それはこっちも同じだ。俺達……いや、俺のために、とことん利用させてもらうぞ、ゼロ!

 





この話では、河口湖に行くまでのゼロと扇達の会話が重要なので、原作では省略されていた部分も勝手に想像して書いています。草壁への粛清を、扇達が2つ返事で了承するとは思えませんので。

原作では、扇はゼロを信じていて、自分達が“駒”だとしか思われていなかった事を知って憤慨していました。常に何も考えていない玉城はそうかもしれませんが、少なくとも『裏切り』での扇の言動からは、それは“有り得ない”というのが私の見解です。最初から知っていたんです扇は、ゼロにとって自分達が“駒”でしか無い事を……


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《 第四話 ―― ナリタ攻防戦 ―― 》

遂に、ゼロをリーダーに据える事に成功した扇。しかし、彼はゼロの言う“ブリタニアとの戦争”について、深く考えてはいませんでした。
“正義の味方”としての断罪行為は、結果的に賞賛される心地の良いものでしたが、いざ、本当の戦争に突入する事になると……




ホテルジャック事件の華々しい登場以降、世間は黒の騎士団一色に染まった。黒の騎士団は、ゼロの宣言通り弱者の味方だった。民間人を巻き込むテロ、横暴な軍隊、更には汚職政治家、営利主義の企業、犯罪組織等、法では裁けない悪を一方的に断罪していった。

俺達は、あっという間に英雄になった。協力者も増え、参加希望者も集まり組織が大きくなった。更には、ナイトメアまで再び手に入れる事ができた。京都が無頼を始め、最新型の紅蓮弐式まで回してくれた。完全日本製の、初のナイトメアだ。

もちろん、表立っての話しでは無い。リーダーのゼロはクロヴィスを殺しているのだから。仲間内でも、彼の素顔を知りたがっている者も多い。でも、無理強いすれば彼は居なくなってしまうだろう。それでは困るので、俺が何とか仲間を言いくるめた。もう、俺達は、彼無しではやっていけないだろうから。団員の中には、玉城のように未だに不満を漏らす者も居るが、大多数は、ゼロの行動を支持していた。

何より、日本人からは圧倒的な支持を得ていた。ブリタニアは嫌いだが、テロという手段には賛成できない。それが、大多数の日本人の意見だ。

おかげで集団での行動が取り易くなった。民衆が、大勢側に通報しないだけでも大助かりだ。情報提供も、格段に増えた。

逆に、日本解放戦線の方は酷い有様だ。

ホテルジャック事件の件で、ブリタニア軍の一番の標的にされた上に、日本人からの信頼も失われた。あの事件で草壁中佐以下大勢のメンバーが減った事もあり、組織は大きく弱体化していた。

ちょっと気の毒な気もするが、逆に俺達を逆恨みしていないかという不安も感じる。

 

そんな折、入団希望のブリタニア人から、ブリタニア軍の極秘作戦の情報が通報されて来た。送って来たのは、ディートハルト・リートという報道局の人間だ。その内容は、“コーネリア軍が、日本解放戦線を完全に壊滅させるため、成田連山を攻める”というものだった。

発信者が、ブリタニア人というのが気に掛かる。入団希望者なので“主義者”とも思われるが、罠という可能性も有る。当然俺には決められないので、早速ゼロに相談する。

「ゼロ、ちょっといいか?」

紅蓮弐式の前で、カレンと何やら話しているところに割って入る。

「変な情報が上がって来た。入団希望のブリタニア人からだ。」

俺は、通報内容が書かれたファイルをゼロに渡す。

「我々を誘い出す罠じゃ無いのかな?裏を取ろうにも、この男にうかつに接触するのは危険だし。けど、無視するには大きすぎる情報だ。どうすればいい?」

ゼロは、ファイルを閉じて即答する。

「週末はハイキングかな?成田連山まで。」

「え?……それじゃあ……」

意外な反応だった。ゼロは、日本解放戦線のやり方には否定的だった。見捨ててもおかしくないと思っていたが、やはりここでも“正義の味方”を貫くのか?それとも、ここで日本解放戦線に恩を売って、我々に従わせようという腹か?

いや、まさか……

「ゼロ、まさかこのタイミングで、ブリタニアに戦争を仕掛ける気か?」

「……そうだ。」

「ええっ?」

カレンも驚く。

「じゃ……じゃあ、日本解放戦線と共闘するのか?」

「いいや……奴らが、日本解放戦線に気を取られている隙に、奇襲を掛ける。」

「何だって?」

 

週末、俺達は現時点の全部隊を率いて、成田連山に来ていた。コーネリア軍にも、日本解放戦線にも見つからないルートを使って。

麓で一端待機し、ゼロからの連絡を待つ。先行したゼロからの合図で、山を登る。

「ゼロからの合図を確認した。我々は、第2地点へ移動!」

移動しながら、団員達が疑念の声を上げている。

「ハイキングって、どういうつもりかしら?」

「軍事教練だろ?」

「ゼロだけ別のところに居るってのに?」

「温泉でも掘るんじゃないの?」

「ああ、そのための掘削機か?」

団員達には、目的は何も伝えていない。ゼロからの指示で、目的を知っているのは俺とカレンだけだ。

「カレン、何か聞いて無いか?」

玉城が聞いて来る。

「さあ?」

「扇は?」

「いや、何も……」

ゼロは、通信による逆探知を裂けた。やはり本気か?元々、黒の騎士団はブリタニアと戦争をするために作られた組織だ。ようやく地盤固めが終わって実戦という訳だが、いざその時が来るととても平静ではいられない。だが、ゼロは戦略に長けた男だ。勝算も無しに戦いを挑む事は無いだろう。この場は、奴を信じるしか無い。

 

第2地点で、俺達はゼロと合流した。合流して直ぐ、ゼロは掘削機で辺り一面を掘らせる。地下水脈まで掘り進み、電極をセットさせる。

「なあ、本当にやるのか?」

掘削機の進行具合を見ながら、俺はゼロに問い掛ける。

「相手はコーネリア、ブリタニアでも屈指の武力を誇る軍だ!」

「だから、日本解放戦線と協力して……」

「今更?扇、私を信用できないか?」

「何言ってるんだ?俺が君に頼んだんだぞ、リーダーになって欲しいと!」

「なら、答えはひとつだ。」

「あ……ああ……」

そう言われても不安になる。本当に、コーネリア軍をこの小部隊で相手にできるのか?俺には、勝利の方程式が全く見えない。まあ、元々俺にそんな才能は無いんだが……

 

しばらくして、遂にコーネリア軍が行動を開始した。山の麓から、次々とナイトメアが山頂に向けて進行して来る。更には、何機もの輸送機が空を覆い、ナイトメアを降下させて行く。その数は優に100を超えている。

「始まったな?」

俺達は、呆然とその光景を見詰めていた。

「冗談……冗談じゃねえぞ、ゼロ!あんなのが来たんじゃ、完全に包囲されちまう!帰りの道だって……」

玉城が吼える。

「もう封鎖されているな!生き残るには、ここで戦争するしかない。」

「戦争?ブリタニアと?」

「真正面から戦えってのか?囲まれてるのに?」

「しかも、相手はコーネリアの軍。今迄と違って大勢力だぞ!」

ゼロの言葉に、井上、玉城、杉山が噛み付く。

「ああ、これで我々が勝ったら奇跡だな?」

「ゼロ!今更?」

その言葉に、俺まで、思わず叫んでいた。勝算があって、この作戦を決行したんじゃ無いのか?俺はてっきり、この劣性を覆す秘策があるとばかり思っていたのに。

「メシアでさえ、奇跡を起こさなければ認めて貰えなかった!だとすれば、我々にも奇跡が必要だろう?」

こ……これも芝居か?本当は策があるが、あえて退路を断って団員の底力を出そうとしているのか?

「あのなあ、奇跡は安売りなんかしてねえんだよ!やっぱりお前にリーダーは無理だ!俺こそが……」

玉城がキレて、肩に掛けた機銃をゼロに向けようとする。だが、それより早く、ゼロが玉城に銃を向ける。

「あっ?」

皆、固まって動けなくなった。しかし、ゼロは引き金から指を外し、銃を回転させ俺達に差し出すようにする。

「既に退路は絶たれた。この私抜きで勝てると思うのなら、誰でもいい、私を撃て!」

未だに、皆は固まって動けない。

「黒の騎士団に参加したからには、選択肢は2つしかない!私と生きるか、私と死ぬかだ!」

口論している間に、戦闘は開始される。包囲された日本解放戦線は一点突破での脱出を試みるが、ブリタニアの大群の前に次々と撃破されていく。

「どうした?私に挑み、倒してみろ!」

結局、玉城達は根負けする。

「けっ!好きにしろよ!」

「ああ、あんたがリーダーだ。」

「ありがとう……感謝する。」

ふっ……見事な誘導だ。ここまで追い込めば、皆ゼロに頼るしかない。生き残るためには、ゼロをリーダーと認めるしか無い。俺も、もう腹をくくるしか無い。団員達が認めているのに、俺だけゼロを否定する訳にはいかないからな。但し、生き残るために、俺はお前の側を離れないぞ。

「よし、全ての準備は整った!黒の騎士団、総員出撃準備!」

全員、覚悟を決め、武器を取り出撃の準備をする。

「これより我が黒の騎士団は、山頂よりブリタニア軍に対して奇襲を慣行する。私の指示に従い、第3ポイントに向け一気に駆け降りろ!作戦目的は、ブリタニア第二皇女、コーネリアの確保にある!突入ルートを切り開くのは、紅蓮弐式だ!」

カレンの駆る紅蓮弐式が、その鋭い爪の付いた右手で、掘削機により掘られた貫通電極のひとつを掴む。そして、輻射破動を放つ。

すると、凄まじい轟音と共に地面が大きく揺れ、岩が弾け飛ぶ。地下水に輻射破動を浴びせて、水蒸気爆発を起こしたのだ。山の一部が砕け、巨大な崖崩れが発生する。その崖崩れは、ブリタニア軍の一角を飲み込んで行く。約半数近くのブリタニア軍が、この崖崩れの餌食となった。更に、これによりコーネリアの部隊が他の部隊と孤立することとなった。

そこへ、俺達黒の騎士団が奇襲を仕掛けた。

やはり、ゼロは策を練っていた。日本解放戦線を囮に山頂近くに敵を集めさせ、崖崩れで大半を一蹴する。更にコーネリアを孤立させ、山頂から一気に攻め込む。これなら少数部隊でも、十分に勝機はある。

しかし、ここにジェレミア率いる純血部隊が現れたため、思わぬ苦戦を強いられてしまう。

最初はカレンの駆る紅蓮弐式が、ジェレミア達数機を次々と撃破したが、作戦のため紅蓮は離脱。それにより、ゼロを含む俺達の部隊は純血部隊の攻撃に圧され、防戦一方となってしまった。このままでは作戦は失敗かと思われた時、遅れて参戦した日本解放戦線の精鋭部隊が介入して来た。俺達はこれを機に転進して、作戦エリアに向かう。

ゼロ、まさか、ここまで読んでいたのか?それとも、運か?どちらにしても、これでより勝率は高くなった。

そして、完全に部隊と分断されたコーネリアを、紅蓮弐式と俺達で包囲した。抵抗するコーネリアだが、紅蓮相手では分が悪く苦戦を強いられる。その上、ゼロに背後から撃たれて機体は大きく損傷する。

「卑怯者!後ろから撃つとは!」

「ほう?なら、お前達の作戦は卑怯では無いと?」

これで勝利は確実と思われた時、また、奴が現れた。

突然、岩の壁を吹き飛ばして、白いナイトメアが我々の前に飛び出して来る。

「おい、まさか、あのナイトメア?」

「ああ、新宿や、河口湖に居た奴だ。」

俺達の腕と無頼では、全く歯が立たない。カレンの紅蓮弐式で、やっと互角の闘いだ。しかし、運悪く崖を背にしたため、足場が崩れて紅蓮は崖下に落ちる。

「おい!大丈夫か?」

俺と玉城は、崖を下って紅蓮の所に行く。そこに、ゼロからの通信が入る。

『扇、紅蓮は?』

紅蓮の右腕が、回路がショートしたのか火花を散らしている。

「右手が駄目だ、修理しないと……」

『ぬうううう……引くぞ!』

「えっ?」

『全軍、脱出地点に移動させろ!これ以上は消耗戦になる、撤退だ!』

俺達は指示に従い、3機だけで脱出地点に向かう。ゼロと離れるのは不安だが、今はカレンの紅蓮の近くに居た方が安全だろう。いざとなれば、玉城を弾除けにもできる。

「なあ、本当に引いちゃっていいのかよ?」

玉城が問う。

「勝ったのは事実だし、これ以上は……」

ゼロの目的のコーネリアの捕縛はできなかったが、戦いは俺達の勝ちだ。正攻法では無かったにしても、ブリタニア軍に、特にコーネリア軍に土を付けたという事実は大きい。

「日本解放戦線を囮にして、逃げるしか無いってかあ?」

「そんな言い方、嫌いなんだけど。」

玉城の言葉に、カレンが苦言を呈す。

「ああ、人間はゲームの駒なんかじゃ無いんだ。ゼロだって、そんな事は考えていない筈さ。そうじゃなきゃ、俺達まで駒として使われてるって事になってしまうよ。でも有り得ない、彼のブリタニアに対する怒りは本物だ。怒りを知る人間は、悲しみも知っている筈だから……」

なんてな……全て、ナオトの受け売りさ。俺の本心じゃ無い。

間違い無く、ゼロは俺達も駒として使っている。完全に捨て駒の、日本解放戦線よりはマシだがな。ゼロとは少し違うが、俺も奴を利用しているから良く解る。ただ、ゼロがブリタニアを憎んでいるのは確かだ。異常な程にな……

 

ブリタニアは俺達を追って来る事は無く、ゼロとも無事合流して俺達は逃げ延びた。後で知った事だが、日本解放戦線も大きな打撃は受けたが、生き残った者は何とか逃げ延びたようだ。俺達に手酷くやられ、ブリタニア軍も撤退を余儀無くされたのだろう。結果的に、日本解放戦線にも貸しを作る事が出来た。本気の戦争で生き残った事により、団員達には自信も付き、士気もより高まった。そう、また奇跡を起こしたのだ。ゼロは…………

 





多少危ない展開はあっものの、ゼロの勝運か、扇の悪運か、藤堂と四聖剣の介入でコーネリア軍に勝利した黒の騎士団。これにより、名声はまた高くなり、協力者も増えていきます。
組織も大きくなり、扇もどんどんおいしい思いができるようになっていきます。
そして、次はいよいよ京都と……


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《 第五話 ―― キョウトからの使者 ―― 》

ナリタ攻防戦で、ゼロをリーダーと認めたかと思われた、黒の騎士団幹部達。
しかし、良くも悪くも組織のムードメーカーである玉城の機嫌をゼロが損ねた事から、思わぬ亀裂が……
組織存続の危機に、元々統率力が無いのでオロオロするだけの扇。
ところが、やはりここでも、持ち前の悪運がものをいいます。




 

成田での勝利は、やはり大きかった。京都が俺達の功績を認め、直接会いたいとの勅書を送って来た。更に、

「京都から、紅蓮弐式をうまく使ったって褒められたよ。感動だったな。」

ゼロと玉城の間に座っているカレンに、俺が伝える。

「でも、あの白兜に……」

「気にすんなって!引き分けだろ、引き分け!あははははははは……」

玉城がバカ笑いをしている横で、ゼロは何か考え込んでいる。そこに、俺は京都からの勅書を渡す。

「これ。」

「ん?何だこれは?」

「ラブレター。」

「はあ?お前……」

「けはははははは、こいつに冗談は通じねえって!」

「玉城、笑いすぎ!」

相変わらずバカ笑いをする玉城を、カレンが諌める。俺は無視して、話を続ける。

「京都からの勅書だよ。是非、直接俺達に会いたいって。」

「それ程騒ぐ事か?」

「それ程って、京都ですよ!」

ゼロの素っ気無い反応に、カレンが口を挟む。

「認められれば、資金援助もして貰える。俺達の苦しい財政だって……」

「財政?私の組んだ予算通りだったら、問題無かった筈だが?」

「そ……それが……」

ゼロの鋭い指摘に、俺は説明に困り玉城の方を見る。何故かナオトの時代から、金の管理は玉城の役目だった。

「お……俺のせいじゃねえぞ!もう、俺達は大組織なんだ、人間が増えりゃ予定外の……」

「大物ぶって、新入りに奢りまくるのが予定外?」

焦って言い訳をする玉城を、またカレンが諌める。

「お前なあ……」

「私知ってんだからね!どんなとこ行ってんのか!」

「え?そうなの?」

玉城は、更に焦って言葉に詰まる。そんなやり取りに、呆れたゼロは、

「ふん……とりあえず、会計は扇が仕切ってくれ。」

「待てよ!昔っからな、金は俺が預かって来たんだ!それを……」

ゼロの言葉に、玉城が食って掛かる。

「信用されたければ、相応の成果を示せ!」

「て、お前が言うか?仲間とか言って、顔も見せねえ奴が?」

玉城の言葉に、全員が反応してゼロの方を向く。

「どうなんだよ?ゼロ!ああっ?」

「待てよ、それは……」

ちょっと、まずい雰囲気になってしまった。その場を凌ごうにも、うまい言葉が出て来ない。

「ゼロの正体がどうかなんて、問題じゃ無いでしょ?ゼロは、あのコーネリアを出し抜く実力を持った、私達黒の騎士団のリーダーよ!他に、何が必要だって言うの?」

「ちっ……」

カレンの弁護で、何とかその場は玉城も引き下がった。

 

しかし、やはり皆それでは収まらないようだった。その後、ゼロとカレン抜きで、幹部(元々のレジスタンスのメンバー)だけでの話し合いになってしまった。

「なあ、どうすんだよ?」

玉城が、俺に詰め寄って来る。ゼロに、正体を明かすように説得しろというのだ。そうでないと、もうゼロには従えない、そんな雰囲気だ。

「そ……それは……」

別に、玉城が居なくなるのは全く困らない。逆に清々する。しかし、他のメンバーまで居なくなってしまうのは非常に困る。

「俺達は、元々ナオトのチームだ。」

「妹のカレンは構わないが……」

杉山と南も、不満を言う。

「二代目のお前が、リーダーを譲るから。」

と、玉城。

「成田の時は皆も……」

俺は、何とか説得しようとするが、

「でも、脅迫に近かったし。」

「俺達幹部にすら、秘密だなんて。」

井上と吉田もこうだ。

「んん……」

言葉に詰まる。どうする?このままでは、組織が崩壊する。

「と……とにかく、少し時間をくれ。もう一度、ゼロと話をしてみるから……」

その場は、何とかそれで収めた。ただ、いつまでもこの状態は続けられない。

しかし、ゼロに正体を明かす事を強要すれば、奴はこの組織を抜けてしまうかもしれない。それだけは、絶対に阻止しなければ。何か、いい方法は無いものか……

 

何も思いつかないまま、京都との顔合わせの日となった。京都からは、ゼロを含む4名の指定があったので、ゼロと俺、カレン、玉城の4人で京都の招待に応じた。

カレンを入れたのは、紅蓮弐式のパイロットであったため。4人目は幹部なら誰でも良かったのだが、玉城が“俺が行く”と言って聞かないので、周りは辞退した。能力は一番低い癖に、何故か発言力だけは一番有る。本当に邪魔な奴だ。

迎えの車に乗って、長い地下トンネルを延々進んだ後、止まったと思ったら今度はコンベアか何かで車ごと上に上がる。上がった先でまた車は少し動いて、ようやく止まる。

「不自由をお掛けしました。主が、皆様をお待ちです。」

車のドアが開かれ、降りた先は広いホールのような場所だった。その窓の外の景色を見て、俺達は驚く。

「こ……ここ、富士鉱山?」

「嘘だろ、おい!そんな所に、来られるわけ……」

「でも、間違い無いわよ!この山、この形!」

「ってことは、この下にサクラダイトが?戦争の元になったお宝だろ?侵入者は尋問無しで銃殺だってのに……」

「こんな所にまで力が及ぶなんて、やはり、京都は凄い。」

俺とカレンと玉城が驚嘆の声を上げていると、背後から声がする。

「醜かろう?かつて山紫水明、水清く緑豊かな霊峰として名を馳せた富士の山も、今は帝国に屈し、なすがままに寮玉され続ける我ら日本の姿そのもの。嘆かわしき事よ。」

振り向くと、奥に玉座があり、そこに籠が置かれている。籠の中には声の主(老人のようだ)が居るが、垂れ幕で顔が隠されている。その両脇には、黒いサングラスを掛けたSPが2名居る。

「顔を見せぬ非礼を詫びよう。が、ゼロ、それはお主も同じ事。わしは、見極めねばならん!お主が何者なのかを!その素顔、見せて貰うぞ!」

突然、ホールの奥から4機のナイトメアが現れ、俺達を包囲する。

すかさず、カレンがゼロの前に立って彼を庇う。

「お待ち下さい!ゼロは我々に、力と勝利を与えてくれました!それを……」

「黙るのだ!……扇という者は?」

「あ……はい、私です。」

俺が答える。

「お主がゼロの仮面を外せ!」

「なっ?」

声の主から、俺が指名される。俺は、その言葉に従い、ゼロの前に立つ。

「扇さん!」

カレンが止めようとするが、この状況ではこの声に従うしか無い。

「済まない、ゼロ。でも、俺も信じたいんだ、お前を。だから、信じさせてくれ。」

別に、俺はゼロを信用していないから、こいつの正体が何であっても関係は無い。ただ、利用するにあたっては、正体を知っている方が都合が良い。うまくすれば、弱みを握れる可能性も有る。これは、またと無いチャンスだ。

ゼロは、全く動じていない。無言で、ただ立っている……まてよ、そういえばこいつ、京都の迎えの車に乗って以降、一言も喋っていない。何故だ?

俺は、ゼロのマスクに手を掛け、ゆっくりと外す。

「?!」

そこにあったのは、緑色の長い髪をした女性の顔だった。

「お……女?!」

「そんな?」

「違うわ!この人はゼロじゃない!私は見た、ゼロが、この人と一緒に居たのを!」

カレンが叫ぶ。

その姿を見た、声の主が問い掛ける。

「そこな女、真か?」

その問いに、それまで無言だったゼロの影武者が、ようやく口を開く。

「ああ……」

「しかもお主、日本人では無いな?」

「イエスだ、京都の代表、桐原泰三。」

「な?……御前の素性を知る者は、生かしておかぬ!」

「それが日本人にあらざれば、尚更!」

SP達が銃を抜き、我々を包囲しているナイトメアも銃口をこちらに向ける。

「待ってくれ!俺は関係ねえからよお!」

玉城は、見っともなく命乞いをする。

情けない奴だ。ここまで来て、自分だけ無関係のような事を言うな!だったら最初から来るんじゃ無い!別に、お前が来る必要は全く無かったんだ!

しかし、その中の1機が突然反旗を翻す。他の3機のナイトメアを撃破し、銃口を桐原に向ける。

「ぬるいな、それに、やり方も考え方も古い。」

そのナイトメアの中から、ゼロが姿を現す。

「だから、あなた方は勝てないのだ!」

こいつ、京都の裏をかいて、先に潜入していたのか?

「い……いつの間に……」

SPのひとりがゼロを撃とうとするが、

「止めろ!遠隔射撃されるぞ!」

ゼロの左手には、遠隔操作のコントローラーが握られていた。

「いいな!誰も手を出すな!」

ゼロは、ナイトメアから降り、桐原に近付いて行く。

「桐原泰三、サクラダイト採掘業務を一手に担う桐原産業の創設者にして枢木政権の影の立役者。しかし、敗戦後は身を翻し、植民地支配の積極的協力者となる。通称“売国奴の桐原“。しかし、その実態は、全国のレジスタンスを束ねる、京都六家の重鎮。面従腹背か?安いな?」

「貴様、御前のお気持ちを……」

SPが怒りの声を上げるが、

「やめい!」

桐原はそれを諌める。

「ふっ……あなたがお察しの通りだ。私は、日本人では無い!」

『ええっ?』

俺達も、驚きの声を上げる。

「マジかよ……そりゃあ、顔見せられない筈だ……」

と、玉城。

「日本人ならざるお主が、何故闘う?何を望んでおる?」

「ブリタニアの崩壊を。」

「そのような事、できると言うのか?お主に?」

「できる!何故ならば、私にはそれを成さねばならぬ理由があるからだ!」

そう言いながら、ゼロは桐原の前でその仮面を外す。しかし、俺達には背を向けているため、その顔はこちらには見えない。

「ふっ……あなたが相手で良かった……」

「お……お主……」

「お久しぶりです。桐原公。」

「やはり、8年前にあの家で人身御供として預かった……」

「はい、当時は何かと世話になりまして……」

「相手がわしでなければ、人質にするつもりだったのかな?」

「まさか?私には、ただお願いする事しかできません。」

「8年前の種が、花を咲かすか……はっはっはっはっはっ……」

何だ?何の話をしている?ゼロと桐原公は、過去に面識があるのか?

ゼロは、日本人では無い。そして、ブリタニアと深く関わっている。という事は、ブリタニア人なのか?主義者という事か?

「くそっ、見えねえ!」

ゼロの顔を覗き込もうとする玉城を、カレンが制止する。

「扇よ!」

「は……はい!」

「この者は偽り無きブリタニアの敵、素顔を晒せぬ訳も得心がいった。わしが保証しよう。ゼロに付いて行け!情報の隠蔽や、拠点探し等は、わし等も協力する。」

「ありがとうございます!」

流石はゼロだ。京都の正体も掴んでいたし、相手の出方も全て予測して先手を打っていた。やっぱり、俺達のリーダー、俺の隠れ蓑はこの男しかいない。今回の件で、京都のお墨付きも得られた。素性は明かされないが、信用たる人物である事は桐原公が保証してくれる。これならば、黒の騎士団の幹部達も納得するだろう。

 

ただ、俺の身の安全のためには、やはりこいつの弱みが何か欲しい。ナオトにとって、カレンがそうであったように…………

 






黒の騎士団内の序列(ゼロを除いた)ですが、この話くらいまでの序列はこんな感じでしょうか?
扇>玉城>南>杉山・吉田・井上>カレン
南はちょっと上そうな気がするんですが、杉山・吉田・井上は同格かと。カレンは新入りなんで仕方無いですね。
問題は玉城なんですが、原作見てると扇の次くらいに見えるんですよね?何で?
どう見てもこの中で一番能力低いし、馬鹿だし、出撃してもいつも瞬殺だし……
京都の話も、何で代表メンバーに入ってるのか?終いには“俺は関係ねえ”って、本当に情けない……


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《 第六話 ―― ブリタニアの女 ―― 》

京都の公認により、黒の騎士団幹部のゼロへの不信感も何とか無くなります。
しかし、ゼロの露骨な囮作戦に、扇の方は気が気ではありません。ゼロの本性を見抜いているだけに。
そんな時、遂に扇に運命の出会いが……




 

桐原公のお陰で、黒の騎士団は京都から、全面的にバックアップをしてもらえるようになった。

だが、それに合わせて、日本解放戦線の援助も要請されていた。成田での戦闘で拠点も失い、人員も大幅に減った。もうブリタニア軍とまともに闘う事も難しく、海外への逃亡も考えているらしい。可能であれば、黒の騎士団に受け入れる事も考えて欲しいとも言われたが、俺には賛成し兼ねる話であった。

日本解放戦線のリーダーは、旧日本軍の片瀬少将だ。軍の将校が組織に加われば、まさか俺達の部下という訳にはいかない。リーダーのゼロは立てるとしても、まずナンバー2の座は片瀬少将のものだ。そうなれば、日本解放戦線のメンバーが幅を利かせてくる事も考えられる。俺達の幹部の座も、危ういものになるかもしれない。ならば、海外に逃亡してもらった方がずっといい。

そんな時、またディートハルトがコーネリア軍の極秘作戦の情報を持って来た。成田での情報提供の功績が認められ、彼は正式に黒の騎士団への入団を認められた。

 

俺達は隠れ家の倉庫で、団員全員を集めて作戦会議を行っていた。

「ちょ……ちょっと待ってくれゼロ。確かに京都からも頼まれたし、こちらの受け入れも問題無い。日本解放戦線にしたって、海外に逃亡するよりは、我々と共に歩む事を選ぶ筈だ!しかし……」

俺は、何とか日本解放戦線には海外に逃げて欲しいと思っていたため、ゼロに意見をする。

「情報提供者、ディートハルトと言ったか?」

「はい、お目にかかれて光栄です。ゼロ。」

ディートハルトは、まだ俺達に完全に信用されている訳では無いため、離れたところで、団員に見張られて立っている。

「コーネリアが、海兵騎士団を投入し、日本解放戦線の片瀬少将の捕獲を目論んでいる。本当なんだな?」

「はい、局では、報道特番の準備に入っています。」

日本解放戦線の片瀬少将は、貿易用のタンカーに偽装した船で、流体サクラダイトを持って海外に亡命する事を企んでいた。だが、その計画は既にコーネリア軍に漏れていて、完全に待ち伏せされているという事だった。

「藤堂中佐は、片瀬少将と合流できず終い。つまり、今の日本解放戦線に確たる武力は存在しない。逃亡資金代わりの流体サクラダイトだけが頼り……」

「だから、コーネリアと闘うよりも、片瀬少将を逃がす事を優先して……」

俺は、人情派を装う発言をする。

「扇!我々は何だ?」

「う……く……黒の、騎士団……」

「ならば、成すべき事はひとつだ!コーネリアの部隊を壊滅させた上で、日本解放戦線の残存部隊を救出する。成田での忘れ物を、今日、この夜に取り戻すのだ!」

「勝算は?」

「愚問だな?」

「分かった。」

ゼロは日本解放戦線がどうこうよりも、コーネリア軍を討つ事に拘っている。これ以上は、言っても無駄だろう。日本解放戦線を取り込んだ後の事は、またその時に考えるしか無い。

「作戦準備を開始する。皆、先程の指示通り待機しろ!」

「あ……あ、ゼロ……」

突然カレンが、ゼロを呼び止めるが、

「私はやる事がある。話があるなら、後にしてくれ。」

そう言って、ゼロは倉庫を後にした。

 

そして、いよいよコーネリア軍の作戦が開始される時間となった。

俺は、戦況を確認してゼロに報告するためと、監視を兼ねて、ディートハルトと見晴台の上に居た。

日本解放戦線の逃亡用のタンカーの待機する港に、魚雷の攻撃があったような水しぶきが上がる。

「始まったぞ、ゼロ。まだ出ないのか?ゼロ!おい、聞こえてるんだろう?日本解放戦線を……」

『今はまだ駄目だ。』

「え?」

『思ったよりコーネリアの動きが早い。今動くと共倒れになる。』

もしかして、また日本解放戦線を囮にする気か?しかし、これじゃやり方が露骨すぎないか?せっかく京都のおかげで幹部たちに信用されたのに、また疑念を持たれるような事をするのは……

 

遂に戦闘が開始された。

日本解放戦線のタンカーに、ブリタニア軍の攻撃が始まる。水中からは、水陸両用ナイトメアが迫り、港からは、タンカーの甲板に向けてサザーランドからの銃撃が始まる。

痺れを切らして、タンカーは港を出て行く。

「くそっ、これじゃ手遅れになる!ゼロは、いつ動くつもりなんだ?」

俺は、少し焦っていた。ここで片瀬少将が命を落とすのであれば、その後の残存兵を黒の騎士団に取り込んでも、俺達の立場が危うくなる事は無い。だが、日本解放戦線を囮にしたと京都にばれたら、大変な事になる。

「ゼロが、唯の理想論者で無い事を祈るばかりだが……」

と、ディートハルトが呟いた。何だ?何を言ってるんだ?こいつ……

水中から接近したナイトメアが、とうとう日本解放戦線の船に取り付く。

「ナイトメアが船に取り付いた!」

『そうか……』

相変わらず、切迫感が無い。

「ゼロ、早くしないと!」

『分かっている、出撃。』

ようやく重い腰を上げたかと思ったその時、突然タンカーの底から、凄まじい閃光が発生した。その光はたちまちの内にタンカーと、それに取り付いていたブリタニア軍を飲み込んでいく。タンカーに積んであった、流体サクラダイドが爆発したのだ。

「あ……ああっ……」

『流石だな、日本解放戦線!ブリタニア軍を巻き込んで自決とは。』

「自決?!しかし、そんな連絡は……」

『我々はこのまま、コーネリアの居る本陣に突入する!それ以外には構うな!結果は全てにおいて優先する。日本解放戦線の血に報いたくば、コーネリアを捕らえ、我らの覚悟と力を示せ!』

自決?馬鹿を言え、そんな事をする筈が無い。コーネリアと心中するならまだしも、あんな雑魚共と一緒に死んで何の意味がある?待てよ、ゼロは作戦会議の時に確か……

“私はやる事がある”

それは、日本解放戦線のタンカーに爆薬を……これは、ゼロの仕業?

「これじゃ、成田の時と同じじゃないか!」

思わず叫んでいた。露骨すぎる。ゼロらしくないぞ、こんな作戦!

「こうでなければ!」

そう叫んで、ディートハルトは突然に梯子をつたって下に向かう。

「あ……おいっ!何処へ行く?」

俺の呼び掛けには答えず、ディートハルトは滑るように下へ降りて行く。

「逃げる気か?おいっ!」

俺は奴に向けて発砲するが、動きが早くて当たらない。だが奴は、逃げるのでは無く、タンカーの爆発があった戦場の方へ走って行く。

何だ?報道に居た者の性か?事件のある方へ引き寄せられる……いや、あいつ、変な事を言っていたな?“こうでなければ”って、まさか、こうなる事を望んでいた?

ゼロの無頼やカレンの紅蓮を乗せた大型ボートが、コーネリアの本隊が待機する倉庫に飛び込む。そして、ボートから一斉に飛び出し、ナイトメアに搭乗する前に奇襲を仕掛けて行く。

以降は、爆炎に包まれて見晴らし台からでは状況が分からない。ディートハルトを追いながら、俺も戦場に近づいて行く。逐次ゼロを呼び掛けるが、戦闘中のためか、何度呼び掛けても全く返事が無かった。

 

しばらくして、俺は戦場から少し離れたコンテナ置き場に隠れ、再度ゼロに呼び掛ける。

「ゼロ、応答してくれ!ゼロ!」

『扇か?私だ。C.C.だ。』

何?C.C.か?いつの間に現れた?作戦開始の時には居なかったよな?そもそも、何なんだこいつは?いつも突然現れて、ゼロ同様に俺達に接して来る。ゼロと、どういう関係なんだ?

「ゼロはどうなった?」

『無事だが、今は動けない。お前が、撤退命令を出せ。もたつくと全滅するぞ。』

俺がC.C.と話をしているところに、コンテナの陰から、ディートハルトが姿を現す。

「そ……そうだな、分かった。」

とりあえずそう答えて、通信を切る。直ぐさま、幹部達に撤退命令を出す。

それらを終えた後、ディートハルトと対峙する。

「何処に行っていた?」

「近くで、ゼロの行動を観ていました。私には、それを観て、記録する義務がある。」

「はあ?」

何を言っているのか、その時にはまだ分からなかった。

 

翌日、移動するトレーラーの中で、皆が前日の作戦について振り返っていた。

「惜しい事したよな、もう少しで……」

「次は、白兜もまとめて倒すから……」

「気にするなって。」

「そうそう、玉城なんか直ぐやられちゃって。」

そこで、皆大爆笑を始める。結局コーネリアは捕らえられず、ゼロも負傷した。日本解放戦線の片瀬少将も戦死。とても“勝った”と言える内容では無かったが、皆の様子は明るい。そんな中、俺がわざと水を差す。

「解放戦線の船、どうして爆発したのかな?」

「え?」

誰も、昨日のゼロの行動に疑念を抱いていないのか?それならば、問題は無いのだが……

「自爆だろ?」

玉城が言う。

「連絡はしたんだよな?助けるからって……」

「そのために、ゼロが動いたんじゃないか?あ、そっか!顔を見るチャンスだった?なはははははは……」

玉城は、またバカ笑いをする。

「まさか、ゼロを疑ってるんじゃ?」

カレンが俺に詰め寄る。

「いや……でも……」

「あまりにもタイミングが良すぎると?もし、あれがゼロの仕業だとしたら、どうするつもりです?」

2階から降りて来た、ディートハルトが口を挟む。

「何?その言い方。」

カレンが、食って掛かる。

「おい、ディートハルト。この前は、怖くて逃げ出したらしいな?チキンなブリキ野郎が!俺達幹部に向かって、タメ口聞いてんじゃねえ!」

玉城も、文句を言う。

「戦況の把握に努めただけです。扇さんも認めてくれましたが?」

「ええっ?」

驚いて、カレンがこちらを向く。

「あ……ああ、ゼロも、構わないって……」

こいつは間違い無く、ゼロがタンカーを爆破した事に気付いている。それでいて、あえてゼロに付いて行こうとしている。何を考えている?目的は何だ?

 

夕方、俺は、ひとりで昨日の港に来ていた。既に後始末はされていて、ブリタニア軍はもう居ない。

「ゼロ、昨日の君はらしくなかった。どうして、そんな気がするんだろう?」

成田の直ぐ後で、また日本解放戦線を捨て駒にする様な事を……京都の目もあるのに……

幹部達が誰も疑念を持たなかったからいいが、何か、いつものゼロらしくない。何かに、焦っているような……事実、ミスもしている。自分の銃を無くして、俺に探らせている。

その時、ふと、テトラポットの辺りに赤いものが見えた……血だ!

良く見ると、テトラポットの間に人が倒れていた。俺は、慌てて駆け寄る。それは、女性だったが、ブリタニアの軍人だった。撃たれて気絶しているようだ。もしかして、死んでいるのか?

「大丈夫ですか?……しっかりして!おい、君!」

触って見ると、海の水に濡れて体が冷えてはいるが、まだ温もりがある。生きている。

すると、突然、その女性がうわ言のように呟いた。

「……そうか、お……お前が……ゼロ……」

い……今、何と言った?ゼロだと?まさかこの女、ゼロの顔を見たのか?それで、ゼロに撃たれたのか?

「?!」

その顔を良く見て、俺は衝撃を受けた。

「ち……千草?」

似ている……千草に…………

 






扇が、もしここで本当にゼロに疑念を抱いていたんなら、『裏切り』であそこまで衝撃を受ける事は無いと思います。そもそも、この話以降、全然ゼロに疑念抱かなくなっちゃいます。R2の1話でブリタニアに捕まっている時も、全く疑っていません。
となると、ここで疑念を抱いているのはポーズという事になります。じゃあ、何故そんな事をするか?皆の反応を見るためではないでしょうか?

この話とは関係無いんですが、原作の13話で私が一番突っ込みたいのはスザクのセリフ。
「ゼロのやり方は卑怯だ!自分で仕掛けるのでも無く、ただ、人の尻馬に乗って、事態を掻き回しては、審判者を気取って勝ち誇る。あれじゃ、何も変えられない!間違ったやり方で得た結果なんて、意味は無いのに!」
矛盾だらけです。
自分で仕掛けずにって、いつも自分で仕込んでますがな。それを気付かせないところが策士なんでしょ?解って無いねえ……
尻馬に乗って、事態を掻き回してるのはあんたの方や!審判者は気取ってませんが、完全な偽善者を気取ってます。スザクのやり方こそ、何も変えられません。
“間違ったやり方”って、そんなの誰が決めたの?あんたの勝手な価値観でしょ?意味が無いってのはあんたにとってってだけで、ゼロを信仰する大勢の日本人には立派に意味はあります。
「結果ばかり追い求めて、他人の痛みが解らないのか?」
偉そうに言ってるけど、あんただって全然解って無いよ。
「平然と命を囮にする、お前はただの人殺しだ!」
平然とって、素顔見てもいないのに何で解るの?勝手にそう思ってるだけじゃん。だいたい、生身の日本解放戦線兵士を撃ち殺す命令実行しようとしてた奴が、何言ってんだ?お前こそただの人殺しになってたよ。ゼロが仕掛けなければ。
「どうしてお前は、無意味に人の血を流す?」
あんたにとって意味が無いだけでしょ?ゼロが、意味の無い血を流す訳無いじゃん!あんただって、父親殺してるでしょ?旗から見たら、無意味な人殺しだよ。

序盤のスザクって、本当にウザイですよね。まあ、ルルーシュと対峙させるために、わざとそういう風に作ったんだろうけど。


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《 第七話 ―― 千草 ―― 》

港で見つけた、ブリタニアの女士官。
ゼロの正体を知るようなうわ言を言った事から、扇はその女を助け手当までします。
しかし、女は記憶を失っていました。
更に、その女は、過去に扇が知っている女性に面影が……




俺は、日が暮れるのを待って、ゲットーの俺のボロアパートにその女を運び込んだ。相手はブリタニアの軍人だ。下手に人に見られたら厄介だ。それが、仲間達に知れたら尚更だ。

だが、この女は、ゼロの顔を見た可能性が高い。ならば、この女からゼロの情報が聞き出せる。うまくすれば、そこからゼロの弱みを握る事ができるかもしれない。

服を脱がせ、銃弾を摘出し、手当てを施す。死なれては元も子も無い。そのまま、ベッドに寝かせ、意識が戻るのを待った。

何時間が過ぎて、やっと女が目を覚ます。

「ん……んんっ……」

「気が付いたか?」

俺は、作業デスクの椅子に腰掛けたまま、右手に銃を持って女に語り掛ける。

「……はい……」

「どうして、あんな所に倒れていたんだ?君の名前は?」

「わたし……名前?……」

「ん?」

「何だろう?」

「ま……まさか、記憶が?ぜ……ゼロの事は?お前は、あの時……」

「ゼロって?」

「えっ?」

本当に、記憶を失っているのか?それじゃ、わざわざゼロが倒した敵の女士官を、逆に助けてしまっただけか?何やってるんだ、俺は!裏切るような真似をして、このザマか?

「だって、分からないのよ!」

そう言って、女は体を起こすが、肌着を何も着けていない事に気付いて、

「うっ?な……何も?」

慌てて毛布で胸を覆い、体を背ける。

「す……すまない!そ……その、脱がせるのは目を瞑ってもできたんだが、着せるのは……」

と言って誤魔化したが、全部嘘だ。脱がせる時も別に、目は瞑っていない。そもそも、目を瞑っていたら手当ても出来ない。服を着せて無いのは、万一の時の用心だ。いくら軍人でも女なら、素っ裸で大暴れする事はできないだろうと思ったからだ。

「でも、部屋も暖かくしたから、大丈夫かと……」

「ふう……良かった……」

「えっ?」

「とりあえず、いい人に拾ってもらったみたい。」

そう言って、女は俺に微笑みかける。

「うっ……」

その顔を見て、また衝撃を受けてしまう。本当に、千草に良く似ている……

 

―― 千草 ―― 昔、付きあっていた恋人の名前だ。

まだ、日本がブリタニアに占領される前、大学生だった頃の話だ。

結局、俺の表裏のある本性を見抜いてしまい、それを嫌悪して去って行った。その後会う事も無かったが、共通の友人であったナオトから、ブリタニアの本土攻撃の際に、戦闘に巻き込まれて死んだ事を聞かされた。

 

結局俺は、その女をそのままアパートに匿っていた。

黒の騎士団内では、ディートハルトがどんどん頭角を表して来ていた。

自ら、組織展開のシミュレーションをゼロに提案し、それが受け入れられると、東京租界内のブリタニアの各機関内に、スパイを潜り込ませて行った。元々放送局に居た事もあり、その辺のパイプラインを持っていた。

またゼロは、軍事力の拡張にも力を入れ出した。この辺もディートハルトからの提案もあったのかもしれないが、日本解放戦線の事実上の壊滅により、拠り所の無くなった藤堂中佐と四聖剣を取り込む事。更には、中華連邦との協定にまで手を伸ばそうとしていた。

そうなってくると、俺のナンバー2の地位も、いつまでも安泰とはいかなくなってくるかもしれない。

情報戦略や人員配置では、俺はディートハルトの足元にも及ばない。そこにもし藤堂中佐が加われば、戦闘指揮に長けているから、戦闘でのゼロの右腕は彼になるだろう。そうなれば、俺には何も無くなる。あるのは人望だけ。誰にでもいい顔をして、ご機嫌を取る事しかできない。やはり、何かゼロの弱みを握っておかないと……

そのためには、何とかあの女に記憶を取り戻してもらい、ゼロの情報を聞き出すしか無い。

 

黒の騎士団での任務が終わり。アパートに帰って来る。厳重なロックを外し、部屋の中に入る。

「おかえりなさい。」

キッチンから、あの女が声を掛けて来る。

「あ……ああ、ただいま。」

「直ぐ、お食事できますから。」

「食事って、買い物に出たんですか?外に?」

「いいえ、あり合わせですから……外は、まだ、ブリタニアが怖くって……」

彼女は、誰に、何で撃たれたかは覚えていない。しかし、本人はブリタニア人に撃たれたと思い込んでいて“そいつがまだ自分を狙っていないか”という事に怯えている。

「何か、思い出した事は?」

「すみません、何も……」

「いいんですよ。慌てなくても。」

そう言いながら俺は、監視カメラの映像をパソコンで確認する。

「怪我の事もあるし、ゆっくり思い出してくれればいい。」

確かに、外に出てはいないようだ。

「さあ、出来ました。お口に合うといいんですけど……」

「ああ……」

俺は食卓に付き、彼女の手料理に口をつける。

「うん、おいしい。」

「本当?良かった!」

「えっ?」

彼女は、嬉しそうに微笑む。それを見て、思わずはっとしてしまう。こういう仕草も、千草に良く似ている。

 

彼女は、俺の弁当まで作ってくれた。

アジトでひとりになった時に、俺はこっそり食べようと、蓋を開けて中を見てみる。

「?!」

そして、またしても衝撃を受ける。

いくら姿が似てるからって、片や日本人、片やブリタニア人でこんなに似るものなのか?その弁当は、付き合っていた頃に千草が作ってくれたものに良く似ていた。もしかして、記憶を失った彼女に、千草の魂が乗り移ったのか?いや、それは有り得ない。もしそうなら、俺に弁当など作ってくれる筈が無い。俺の利己的な本性を嫌って、彼女は俺から去って行ったのだから……

「あの……」

「いや、こ……これはつまり……」

突然声を掛けられて、俺は、慌てて弁当箱を閉じて言い訳を捜す。

「お客さんですが……」

「えっ?」

「京都の紹介状もあります。」

井上の視線の先に目をやると、日本軍の軍服を来た4人の軍人が整列していて、こちらに向かって一礼する。

「まさか?四聖剣の?」

俺は立ち上がって、礼を返す。すると、一番端の、白髪の年配の男が話し始める。

「短刀直入に言う。お力を拝借したい。」

「ん?と、言うと?」

「藤堂中佐が俘虜とされた。我らを逃がすため、ひとり犠牲になって。」

藤堂中佐の救出の協力を、俺達に要請して来た。

俺は直ぐにゼロに連絡をして、事の詳細を説明した。するとゼロは、

『分かった、引き受けよう。』

「いいのか?」

『黒の騎士団は、正義の味方だ。不思議は無いだろう?』

俺は、目の前で様子を伺っている、四聖剣にOKサインを出す。彼らは、安堵の息を漏らす。

とうとう、懸念していた通りになった。これで無事救出できれば、藤堂中佐も四聖剣も、黒の騎士団に取り込まれるだろう。そうなると、俺の存在価値は・・・

 

夕刻、ゼロに指示された場所に、移動アジトのトレーラーと輸送車を移動させ、紅蓮の最終整備を行っていたが、複雑で思うように捗らない。その横で、四聖剣がそれを眺めながら、何やら話し込んでいる。

「いいから、押し込んでとっとと蓋閉めちゃえよ!出撃まで時間が無いんだって!」

玉城が囃し立てると

「もっと丁寧に扱いなさいよ!」

玉城達に苦情を言う声が。

「はあ?」

声のする方には、白衣を着た技術者と思われる者が3人居た。中央のひとりは女性で、インド系の黒い肌で、額にチャクラの化粧をしている。

「あんたらの100倍はデリケートに生んだんだから!」

「だ……誰だ?あんた!」

「その子の母親!」

「間に合ったようだな?」

そこに、ゼロが姿を現す。

「は?あんたがゼロ?よろしく、噂は色々聞いてるわ。」

「こちらこそ、ラクシャータ。君のニュースは以前、良くネットで拝見したよ。」

そうか、彼女が紅蓮弐式の設計者、ラクシャータか。

ゼロとラクシャータは握手を交わす。更にラクシャータは、手土産としてナイトメア搭乗用のパイロットスーツを渡す。早速、カレンがそれに着替えるが、

「あの、本当にこんなので、連動性上がるんですか?」

「上がん無いわよお。」

「はあ?」

「生存率が上がるの。」

 

そして、藤堂中佐救出作戦は開始された。先に突入したのは四聖剣、京都から新たに送られた紅蓮に続く日本製のナイトメア“月下”を駆り、収容所に突撃して行く。その月下の動きを、移動アジトのトレーラーの中でラクシャータ達がチェックしている。俺達は、じっとそれを眺めているだけだった。ナイトメアの操縦技術は、四聖剣の方が圧倒的に高い。紅蓮のカレン以外は、出る幕は無いという事だ。

四聖剣が陽動で収容所の警備隊を引き付けている間に、ゼロの無頼とカレンの紅蓮弐式が、藤堂中佐を無事救出して来た。そして、藤堂中佐も指揮官機の“月下”に乗り込み、後は残存部隊を片付けるだけというところで、また現れた!あの、白兜が!

「あれかい?ゼロが手こずってる、白兜ってのは?」

ずっと画面を見詰めていた、ラクシャータが聞いて来る。

「あ……はい。」

俺は答える。ラクシャータは更に目を凝らして、その動きを追う。

白兜には、流石の四聖剣も手を焼く。しかし、ゼロも対策を考えていた。白兜の行動パターンを読んで、的確に指示を出す。しかも、今回はカレンの紅蓮だけで無く、藤堂中佐と四聖剣も居るのだ。白兜は徐々に追い詰められていく。留めは藤堂中佐の三段突き、しかし、白兜は何とかこの攻撃をかわす。それでも、コックピットの上部が剥ぎ取られ、中が丸見えになってしまう。

『う……うそだ……』

『スザクくんなのか?』

『え……ええっ?』

ゼロ、藤堂、カレンが衝撃を受ける。何と、コックピットに居たのは、枢木ゲンブ日本国首相の息子、名誉ブリタニア人の枢木スザクだった。

カレンはゼロの指示を仰ぐが、ゼロは何故か何も答えない。その間に、藤堂と四聖剣がスザクとの闘いを再開してしまう。だが、やはり苦戦を強いられる。

『やめろ!』

少しして、ようやくゼロが指示を出す。

『闘うな、これ以上は!目的は達成した。ルート3を使い、直ちに撤収する!』

そこにブリタニアの援軍が迫っているのを確認し、藤堂中佐と四聖剣も、納得してこの指示に従った。

作戦は成功したが、戻って来たゼロの様子がおかしかった。無頼のコックピットに残ったまま、いつまでも出て来なかった。カレンに聞いても、理由は分からなかった。

白兜のパイロットが、名誉ブリタニア人の枢木スザクだった事がショックだったのか?確かに驚きはしたが、それ程深い衝撃を受ける事でも無いような気がするが・・・

 

そんな事よりも、俺は自分の身の方が心配だ。

これで、藤堂中佐も黒の騎士団に入る事になるだろう。技術顧問として、ラクシャータも加わった。増々、俺の存在意義が薄れて行く。このまま、ナンバー2の地位を維持できるのか?全ては、ゼロの判断次第だが…………

 





原作には“千草”という名前の由来に何の設定も無かったですが、勝手に“扇の昔の恋人の名前”としてしまいました。
“昔の恋人に似ている”という理由くらい無いと、たまたま拾った敵の士官に、扇が惚れる必然性が無いので。
扇は、“脱がせるのは目を瞑ってもできたんだが……”と言っていましたが、絶対に嘘です。そのまま見殺しにするのならいいですが、手当てをしないと死んでしまいます。ドクターX・大門未知子だって、目を瞑ったまま手術なんかできません。
それに、ボタンの無いシャツなら目を瞑ったって着せられます。脱がす方が余程難しい。
嘘が下手ですね。それを信じるヴィレッタもどうかしてますが……

またこの話とは関係無いんですが、16話でのマオのスザクへの言葉には非常に共感を持てました。
「お前の善意は、ただの自己満足なんだよ!」
全くその通りです。押し付けた善意は、悪意と何ら変わりません。ルルーシュも言っていました。


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《 第八話 ―― お飾りの副司令 ―― 》

ディートハルト、藤堂、ラクシャータが加わり、組織が充実して来た黒の騎士団。
人当たりが良い事しか取り得の無い扇は、自分の存在価値が無い事に不安いっぱいです。そんな中、新たな黒の騎士団の人事の発表が……
果たして扇は、ナンバー2の地位を維持できるのか?




ここに来て、黒の騎士団は人員も装備も、以前とは比べ物にならない程強大になった。

諜報力に長けたディートハルト、技術顧問のラクシャータ、精鋭戦闘部隊の藤堂中佐以下四聖剣の参入。新型のナイトメア各機の配備。更には移動要塞として、新たに専用の大型潜水艦も配備された。

「それでは、黒の騎士団再編成による、新組織図を発表する。」

その専用潜水艦の作戦室で、ゼロは新たな組織内の人事を発表する。

「軍事の総責任者に藤堂鏡志朗!」

当然と言う顔で、四聖剣の面々が頷く。

「情報全般、広報、諜報、渉外の総責任者にディートハルト・リート!」

艦内が騒然とする。

「このブリタニア人が?」

玉城が、不平の声を上げる。更には、四聖剣の面々も、

「しかも、メディアの人間だぞ!」

「ゼロ、民族に拘るつもりは無いが、わざわざブリタニア人を起用する理由は?」

「理由?では、私はどうなる?」

ゼロのこの言葉に、皆、沈黙する。

「知っての通り、私は日本人では無い。必要なのは、結果を出せる能力だ。人種も、過去も、手段も関係無い!」

「わかった、わかったよ!」

玉城も、この人事を認める。

「副司令は、扇要!」

「俺が?」

「不服か?」

「い……いや……」

驚いた。てっきり降格されるものだとばかり思っていた。はっきり言って、ゼロにとって俺の利用価値はもう無いに等しいのに。

「ま、元々のリーダーは扇だし。」

「新参者じゃ、ちょっとな。」

元のレジスタンスの仲間が、俺に祝福の声を送る。

そうか、組織が大きくなったと言っても、元々のメンバーの割合は圧倒的に多い。藤堂やディートハルトが副司令では、反発も大きいだろう。だから、とりあえず俺を副司令の地位に置いておくという訳か?

ふっ、所詮はお飾りの副司令という事か?だが、それで十分だ。飾りだろうとなんだろうと、“副司令”という肩書は大きい。元々、俺もそれを望んでいたんだからな。今迄通り、誰にでも“いい顔”を貫くだけだ。ゼロも、俺に期待しているのはそれだけだろう。

「技術開発担当に、ラクシャータ!」

「当然。」

ラクシャータは、キセルを吹かしながら呟く。

「ゼロ番隊隊長、紅月カレン!」

「ゼロ番隊?」

「ゼロ番隊だけは、私の直轄となる。親衛隊と考えてもらえればいい。」

「親衛隊……ゼロの……」

カレンは、満足そうな笑みを浮かべてそう呟く。

その後、各隊の隊長が発表され、最後に、

「第二特務隊隊長、玉城真一郎!以上だ!」

「よっしゃあーっ!」

玉城が、待ってましたとばかりに奇声を上げる。

しかし、“第二特務隊”って何だ?四聖剣が率いる各本隊と、カレンの親衛隊が居るのだ。そんな例外的な部隊は、ひとつあればいい。何故“第二”が必要なのか?何か役に付けておかないとうるさいから、適当にでっち上げただけじゃないのか?ゼロも、あの男の扱いにだけは手を焼いているようだ……

「ゼロ、ひとつ宜しいでしょうか?」

ディートハルトがゼロに進言する。

「ん?」

「後程、協議すべき議題があります。」

 

会議終了後、上層部だけで集まり、ディートハルトの言う議題について話し合った。メンバーはゼロと俺、藤堂、ディートハルト、ラクシャータの5人だ。今後は、この5人が黒の騎士団の核になる。

「枢木スザク。彼は、イレブンの恭順派にとって、旗印に成り兼ねません。私は、暗殺を進言します。」

「暗殺?枢木をか?」

と、ゼロ。

エリア11の副総督、神聖ブリタニア帝国第三皇女のユーフェミアが、自分の騎士に、名誉ブリタニア人である枢木スザク、あの白兜のパイロットを選んだのだ。

「なるほどねえ、反対派にはゼロってスターが居るけど、恭順派には居なかったからねえ。」

ラクシャータが納得したような事を言う。

「人は、主義主張だけでは動きません。ブリタニア側に象徴足りうる人物が現れた今、最も現実的な手段として暗殺という手が……」

「反対だ。そのような卑怯なやり方では、日本人の支持は得られない。」

藤堂が、ディートハルトの提案を否定する。

「そうです!俺達黒の騎士団は、武器を持たない者は殺さない!暗殺って、彼が武器を持ってないプライベートを狙うって事でしょ!」

俺も、それに続く。

「私は、最も確実でリスクの低い方法を申し上げたまで。決断するのは、ゼロです。」

この場はこう言ったが、その後、ディートハルトは独自の判断でカレンに枢木スザクの暗殺を依頼した。それは未遂に終わり、ゼロの知るところとなった。ゼロは改めて、幹部を集めて最終指示を出す。

ユーフェミア副総督が、本国からの貴族の出迎えに式根島に来るとの情報が入った。騎士である枢木スザクも当然同伴する筈なので、そこを襲撃するというのだ。

「作戦目的は、枢木スザク及びランスロットの捕獲!戦場で勝って、堂々と捕虜にする!」

「うむ。」

藤堂は、そうでなくてはという顔で頷く。カレンも同様だ。

「捕虜にして、どうすんだ?」

玉城が突っ込んで来る。

「そこから先は、私に任せてもらおう。」

 

こうして、枢木スザク捕獲作戦は開始された。

まず藤堂達がブリタニア軍の基地を襲撃し、ランスロットをおびき出す。ランスロットが現れたところで、ゼロが姿を現す。当然の事ながら、ランスロットはゼロを仕留めようと追って来る。広い窪地で、ゼロの無頼を追い詰めるランスロット。だがそこには、あらかじめラクシャータにより、ゲフィオンディスターバーが仕掛けられていた。

ランスロットの動きを止められ、操縦席から降りるのを余儀無くされる枢木スザク。これで、枢木を捕える事に成功したかに思えた。

しかし、その時、ブリタニア軍からの非情な命令が、枢木に下される。地対地ミサイルを撃ち込むので、自らそこにゼロを足止めせよというのだ。部下に死を命じる事に衝撃を受けた一瞬の隙を突かれ、ゼロは逆に枢木に捕らえられ、ランスロットのコックピットの中に押し込まれる。慌ててカレンの紅蓮が窪地に飛び込んでしまい、同様に動きを封じられる。カレンはコックピットを降りて、何やら叫びながらゼロ達の所へ走る。

そこにミサイルが飛来して来る。藤堂達が必死に打ち落としたが、更に頭上には、巨大な浮遊航空艦が姿を現した。そしてブリタニア軍は、ランスロット諸共、加粒子砲でゼロを攻撃して来たのだ。

だが、命中の寸前に、何故かランスロットは突然脱出。俺達もそのどさくさで脱出したが、ゼロとカレンは消息不明となってしまった。

 

俺達は潜水艦に逃げ込み、海底に潜んでゼロからの連絡を待つしか無かった。時間ばかりが経過して行き、とうとう潜水艦内では、藤堂とディートハルトの対立が始まってしまった。

「やはり、これ以上この海域に留まるのは危険だ。引き返そう。」

藤堂が、俺に進言して来る。一応、俺が副司令なので。

「ああ。」

俺は、力無く答える。

「いえ、あくまでここに留まり、ゼロを捜すべきです。」

ディートハルトが、これに反論する。

「確かに。」

その意見にも同意してしまう。俺は、相変わらずどっちつかずだ。

「だが、捜索隊すら出せない状況……ラクシャータのおかげで隠れている事はできても、もはやゼロやカレンが生存している保障すら無い。一歩間違えば、組織の存亡に関わる。」

「何を言うのです!逆です!ゼロあっての私達、ゼロが居て、始めて組織があるのです!」

「人あってこその組織だ!貴様の物言いは、実にブリタニアらしいな。」

この言葉には、ディートハルトも顔を顰める。

「では、お聞きしたい。ここには様々な主義主張の人が集まっています。しかし、曲がりなりにもそれがまとまっているのは、何故ですか?結果が出ているからでは?そして、その結果を出しているのは、誰なんですか?」

「結果は認めよう!しかし、全員の命と比べられるのか?」

「時として、ひとりの命は億の民より重い。元軍人なら常識の筈です!」

「ここでそれを言うか?」

「あ……あの……」

やはり、俺では全くまとめられない。だがそこに、あの女が口を挟んで来る。

「仕方ない、教えてやろう。あいつは生きているぞ。」

「願望を聞いている暇は……」

「確定情報だ。私には分かる。」

藤堂の言葉を遮って、C.C.は断言する。

「預言者かお前は?そんな事より、ナイトメアの練習しとけって言ったろ!このどアホ!」

玉城が、また口を挟む。

「どアホう……久しぶりだぞ、私に向かってそんな口の利き方をした奴は。」

「何だ偉そうに、ゼロの愛人だからって!」

「違うと言っただろう。下衆な発想しかできん男だ。」

「俺が言いたいのは、幹部に向かってだなあ……」

玉城とC.C.の言い合いになってしまったので、俺が止めに入る。

「ちょっと待ってくれ!話しが反れてる!」

この馬鹿が、お前が入るとかえって話がややこしくなる。だいたい、何でお前がC.C.に命令するんだ?お前の部下は、第二特務隊だけだろう。

「ともかく、こうしよう!ブリタニアの警戒網の外、安全な海域ぎりぎりで、とりあえず明日いっぱい待つっていうのは?時間制限をつければ……」

C.C.の発言もあり、何とかその場はそれで収まった。

特に役職には付いていないが、この女はまるでゼロの代わりだ。常にゼロの傍らに居て、皆の知らないゼロを知っている。恐らく、その正体も……実質、この女が副司令と言っても過言では無い。

 

その後、C.C.の言う通り、ゼロはカレンと共に無事帰還した。“ガウェイン”というブリタニアの最新試作ナイトメアの手土産まで持って。枢木スザクの捕獲には失敗したが、流石はゼロ。転んでもただでは起きない男だ。

ガウェインには、ブリタニア軍が式根島でゼロを抹殺しようとした強力な加粒子砲“ハドロン砲”が装備されていた。まだ未完成だったが、ラクシャータにより完成に至り、この機体は総司令であるゼロの専用機とされた。フロートシステムにより単体での飛行も可能という、とんでもない機体だ。但し、機能が高すぎるため、全機能を活用するには乗員を2人必要とする。ゼロと一緒にこれに乗るのは、当然C.C.だ。

 

そして、早速、そのガウェインの活躍の場がやって来た……

 





原作でも、扇はこの段階で“自分が副司令でいいのか?”という感じでした。
ゼロの「不服か?」というセリフが、凄く皮肉っぽく聞こえました。
ゼロも扇については“お飾りの副司令”というつもりだったんじゃないでしょうか?
そして、C.C.を実務上の副司令としていたのでは?

式根島でのスザクの行動ですが、自分が死ぬ事に対して“ルールを破るよりいい”と言っていましたが、逆ならどうしたんですかね?“お前の部下を、ゼロ共々砲撃しろ”って命令出されたら?軍人だから従うんですか?絶対従わないでしょ。
本当に、藤堂中佐の銃殺をスザクにやらせて見たかった。私は実行できない方に千点懸けます。


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《 第九話 ―― その名前で ―― 》

副司令の肩書を手に入れ、無理にゼロの弱みを握る必要も無くなった扇。
しかし、昔の恋人に似たヴィレッタに、徐々に心が惹かれていってしまいます。
そんな折、ひょんな事からふたりで租界に出掛ける羽目に……




第二次枢木政権時の官房長官、澤崎敦が、亡命した中華連邦の協力を得てキュウシュウブロックのフクオカ基地を占拠し、“独立主権国家日本”を謳って来た。

テレビでは、黒の騎士団が関与しているかどうかは調査中と言っていたが、

「関係ねえって!」

玉城が、テレビに向かって文句を言う。

「京都は、何と言ってるんだ?」

俺は、ディートハルトに確認する。

「ああ、知らなかったようです。サクラダイトの採掘権についてのみ、一方的に通告して来たと。」

「ゼロ、私達どうすれば?」

カレンが、ゼロに問い掛ける。ゼロは、その場では何も言わなかった。

 

当然コーネリア軍はこれを殲滅に向かったが、悪天候も災いして上陸もままならなかった。

沈黙を続けていたゼロは、作戦室に全員を集め、黒の騎士団の対応を発表する。

「澤崎とは合流しない。あれは独立では無く、傀儡政府だ。中華連邦のな。」

「しかし、日本を名乗っている。」

「名前と主君が変わるだけ、未来は無い。無視するべきだ、あの日本を。」

「ふ~ん、でもさあ、それって……」

「ブリタニアの行動も放っておくのか?」

朝比奈と卜部の言葉に、ディートハルトが進言する。

「ゼロ、組織としての方針を明確にしておいた方が。」

「そうだな、澤崎の件は置いておくとしても、当面の目的くらいは。」

俺も続く。それに対してのゼロの答えは、

「東京に独立国を造る。」

艦内は騒然とする。

「待ってくれ!いくら黒の騎士団が大きくなったと言っても……」

俺の言葉に続き、幹部達からも反発の声が……

「敵は世界の1/3以上を占める大国。」

「俺達だけでそんな事を?」

「では聞こう!お前達は、誰かがブリタニアを倒してくれるのを待つつもりか?誰かが、自分の代わりにやってくれる?待っていれば、いつかはチャンスが来る?甘えるな!自らが動かない限り、そんないつかは絶対に来ない!」

この言葉に、皆、沈黙してしまう。

「但し、澤崎の日本は認めないが、放置もしない。」

「え?どういう事だ?」

俺の問いに、ゼロは、

「黒の騎士団は、正義の味方だろ?」

その後ゼロは、C.C.と共にガウェインに乗り込み、単独で発進して行く。

 

嵐がおさまり、コーネリア軍は再び作戦を再会する。加えて本隊が上陸するまでの搖動も兼ね、枢木スザクがランスロットで単身本陣に切り込んだ。しかし、流石に多勢に無勢、エナジーフィラーも尽きて万事急須となるところに、ゼロの駆るガウェインが介入した。

完成したハドロン砲で、中華連邦のガン・ルゥを一掃し、ランスロットに替えのエナジーフィラーを渡す。そして共に、敵司令部を強襲する。

ガウェインとランスロットが共闘する事により、コーネリアの本隊到着前に、澤崎を捕獲してしまった。

俺達は、モニターでこの光景を見詰めていた。

「ブリタニアから逃れるためにも、ガウェイン単独での作戦は成功でしたな。」

ディートハルトの言葉にカレンは、

「でも、紅蓮が壁になればもっと楽に。どうせ私はもう家にも学校にも帰れないし、今更、ランスロットなんかと手を組まなくたって……」

「必要な事は、勝利ではありません。」

「え?」

「この戦いに、黒の騎士団が参加したという事実です。無論、表立っての報道はなされないでしょうが、噂は流せます。ゼロが言う通り、これは私達の立場を、全世界に伝える役に立つでしょう。」

ディートハルトはこの介入に意味のある事を皆に解いた。

 

その後、事実この件は噂になり、ゲットーに住む日本人達の心も揺れていた。

「ゲットーでも意見が分かれてるんだって?」

「恭順派と反抗派でね。」

格納庫内で、旧レジスタンスメンバーがこの件について話している。俺は、壁に寄り掛かって、他の事を考えていた。そう、あの女の事を……

「しかし、皆驚くだろうな。ゼロが、国を造るつもりだって知ったら。」

「そうそう、無茶苦茶だよ。」

「もう少し現実的に……」

「俺は賛成だ、ゼロに。」

玉城が言う。

『えっ?』

全員が、意外そうな声を上げる。

「だってそうだろ!あいつに付いて行けば、人生一発大逆転だ。官僚になるって、俺の夢も……」

ずいぶんゼロに懐いたようだな?以前は、何かにつけてゼロに反発していた癖に。単純な男だからな、一度信じれば、もう何の疑いも持たないんだろう。

「官僚?本気で?」

カレンが突っ込む。

「あったんだよ!俺にだって夢が。黒の騎士団やってなきゃ、今頃リフレインでも決めてるって!」

「リフレインって、お前……」

俺は、その言葉にはっとする。頭に、あの女の顔が浮かぶ。

リフレインなら過去を、ゼロの正体を……しかし、知ってどうする?もう、必要な地位は手に入れた。これ以上、高望みしなくとも、俺は……

「扇さん?」

「うっ……」

カレンに呼ばれて、我に返る。

「例の件ですけど、指示を仰ごうにもゼロと連絡が取れなくて……」

「じゃあ、予定通り俺が……」

「罠だって!やめとけよ!」

玉城が言う。

「でも、情報ルートは必要よ!あそこには、入団希望者も居るって言うし……それに、ディートハルトが作った逃走ルートが使えるのは、明日しか……」

先日の神根島の一件で、カレンが黒の騎士団の紅蓮弐式のパイロットである事が、枢木スザクに知られてしまった。そのため、その情報はブリタニア軍にも東京租界にも知られ、アッシュフォード学園にも知れ渡っていると思われた。

しかし、カレンの元にアッシュフォード学園生徒会長のミレイさんから連絡があった。明日の学園祭に、是非参加して欲しいと。という事は、アッシュフォード学園には、カレンの正体は知られていない。枢木スザクが漏らしていないという事になる。ならば、カレンは学生として、アッシュフォード学園に潜入できる。情報ルートとしてまだ使えるという事だ。更に、アッシュフォード学園内でメイドとして働いている、篠崎咲世子という女性からの入団希望も来ている。

もちろん、罠の可能性もある。だが、明日は学園祭のため、ディートハルトが逃走ルートとして放送車両を学内に配置する事も出来る。

結局、カレン自らが確認しに行く事となった。但し、念のため、俺も学校の外から見張る事にした。

 

そして当日、イレブンがひとりで租界をうろうろすると怪しまれるので、カモフラージュのためにあの女にも同行してもらった。

「すまない、ゲットーのイレブンがひとりで出歩くと……」

「いえ。」

「ブリタニアが怖いようなら……」

「そんなに、気にしなくても……それより、こんな事が、お仕事の助けになるんですか?」

彼女は足を止め、手前に指を翳す。そこに、飛んで来た蝶が止まる

「ああ、開発計画の資料集めだから。」

俺も足を止め、振り向いて答える。

「そうですか、良かった。」

笑う彼女に、俺も笑みを返す。

何やってるんだ、俺は。できれば、このまま彼女を警察か病院に……いや、駄目か、俺の情報が漏れると、他の皆を巻き込んでしまう。だからと言って、始末するなんて俺には……

そんな事を考えながら歩いていると、目的地の、アッシュフォード学園の正門の前に着いた。

「ここだな?」

「どうかしました?」

「あ、いや、昔学校の先生やってたから、懐かしいなって……」

「どうして、辞めちゃったんですか?」

「子供の頃からの親友が居てね、けど死んじゃって……そいつの夢を、俺が代わりにって……」

これも嘘だ。大学で教職課程を学んでいたが、ブリタニアの侵略で卒業は出来なかった。租界で教師をやるには、名誉ブリタニア人にならなきゃならない。ゲットーで教師の真似事もやったが、あんな環境じゃまともな授業はできない。ブリタニアの監視も厳しい。下手な事を教えれば、直ぐテロ予備軍として拘束される。

ふっ……また、嘘ばかり付いているな、俺は。それが全部ばれて、千草は去って行ったってのに……

すると、突然彼女は俺の腕を掴み、学校の門の方に引っ張る。

「な?」

「入りましょ!」

「え?……な……中はちょっと、それに、イレブンは……」

そこに、門の中に居た学生達が寄って来る。

「関係無いでしょ!」

「うちはオープンですから!」

「おふたりさんごあんな~い!」

学生達に引っ張られ、俺達は中に連れ込まれてしまう。

その後、案内されるままに学内を回った後、お化け屋敷に入った。流石にここでは無粋と思ったのか、案内の学生は居なくなった。ふたりで、お化け屋敷の中を回る。時折仕掛けに驚いて、彼女が俺に抱き付いて来る。何か、学生時代に戻ったようで、悪い気はしない。

そこまでの仕掛けは大した事は無かったので、俺は驚かなかったが、突然目の前の墓石が捲れ上がってゾンビが、

「早くしろお!」

と大声まで上げたので、俺も驚いて目を瞑ってしまう。

「あれ?扇さん?」

「え?」

名前を呼ばれて目を開けると、目の前に居るのは、ゾンビに扮したカレンだった。

「……無事だったのか?」

「……お陰様で……」

その後、着替えたカレンに連れられ、備品倉庫に移動する。

「どうして学校の中まで?」

「あ……私が……」

カレンの問いに、とっさに彼女が答える。

「誰ですか?あなた。イレブンじゃありませんよね?名前は?」

「あ……」

彼女は、返答に困って俺の顔を見る。

「こ……この人は、俺の……」

「カレンか?ここは関係者以外立ち入り禁止だから、早く外に……」

奥から、学生がひとり出て来る。カレンの友達か?まずいな、あまり顔を見られるのは……

「あれ?カレン?」

更に、入り口からもう2人……え?後ろに居るのって、枢木じゃ?

「ひと騒ぎ起こします。その隙に……」

カレンはわざと悲鳴を上げ、パネルを崩して騒ぎを起こす。何故か、煙まで噴出して来る。俺達は、その隙に何とか外に逃げ出した。

校舎裏の大きな木の所で、俺達は息を整える。

「すみません、変な事に巻き込んで。」

「いいえ、何だか楽しかったです。こういうドキドキって久しぶり。」

俺は体を起こし、彼女を見詰める。

そうだな、もう彼女の記憶を無理に戻す必要も無い。記憶が戻らなければ、大人しいただの女だ。俺達の障害になる事も無い。

「出ませんか?エリア11を?そうすれば、あなたを撃った人も追って来ないかと。」

「扇さん、以前の私、今よりも幸せだったのでしょうか?だから……」

「え?」

「さっきの言葉の続き、聞かせてもらえませんか?」

「な?」

「この人は、俺の……何ですか?」

「そ……それは……」

「私、イレブンになってもいいです。」

「そ……そんな、君は、千草じゃ無いんだから……」

「千草?」

し……しまった!つい……

「それ、私に付けてくれた名前ですか?」

「い……いや、違うんだ!この名前は……」

「私を、その名前で呼んで頂けますか?」

「え?」

「お願いします。」

彼女は、すがるような目で俺を見詰めている。

だが、結局俺は、彼女をその名で呼ぶ事は出来なかった。

彼女は、酷く寂しそうだった…………

 

カレンの無事が確認されたので、俺達はそのままゲットーに戻った。

篠崎との接触は、ディートハルトが行った。

しかし、その後にひと騒動起こっていた。エリア11副総督のユーフェミアが、お忍びで学園祭に来ていて、それが発覚して学園内はパニック状態になった。

しかもその席で、ユーフェミアはとんでもない発表を行ったのだ。

 

エリア11内に、“行政特区日本”を設立すると。

 





今回は、ちょっとメロドラマ風になってしまいました。
話も、かなりアレンジしてしまっています。
原作では、何でカレンや扇が学園祭に行ったのか、良く分かりませんでした。自分なりにカレンの言葉をキーワードに推察して、この話の展開になりました。咲世子は、ここで黒の騎士団に入ったのでしょう。
扇が昔教師だったというのが、原作の設定ですが、大学生の時代にブリタニアに占領されたので、占領後に教師をやっていたとは思えません。ゲットーじゃまともな学校も無いだろうし、名誉ブリタニア人でも無い扇が、アッシュフォード学園の教師にはなれないでしょう。
最後に、ヴィレッタは“千草”という名前を何時知ったのか?自分で付ける訳は無いし、扇がそう呼ぶのはブラックリベリオンの時が初めてです。という事で、その名を知るのはこのタイミングしか無いかと。


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《 第十話 ―― 行政特区日本 ―― 》

ユーフェミアが宣言した、“行政特区日本”の設立。
それは、扇の心にも大きな迷いを起こさせます。
特区に参加するか?黒の騎士団に残るか?苦渋の選択を迫られる扇。
しかし、事態は彼の思わぬ方向に流れて行きます。




 

エリア11副総督にして、神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアは、エリア11内の富士山周辺に“行政特区日本”を設立する事を宣言した。

この特区内ではイレブンは“日本人”の名を取り戻し、イレブンへの規制、ブリタニア人の特権は存在しない。正に、ブリタニアの中の独立国だ。

これは、日本人にとっては、衝撃的な大ニュースであった。日本人の枢木スザクを騎士に任命したユーフェミアの発言である事もあり、行政特区日本は瞬く間に日本人に受け入れられた。恭順派だけで無く、反抗派からも特区への参加者が現れた。

 

「支持者だけでは無い。第七区からも特区に参加する人間が出て来ている。」

藤堂が事態の深刻さを説く。俺達は、アジトトレアーラーの中で、この件について協議していた。

「黒の騎士団と違って、特区日本にはリスクがありませんしね。」

「それに、由緒正しいお姫様と、正体不明の仮面の男じゃ、どう見てもあっちの方が良さげだし。」

ディートハルトもラクシャータも、冷静に一般的な見解を述べる。

「京都も、向こうに協力するって話だ。」

「何だよ、そりゃ!」

南の言葉に、玉城が不満を漏らす。

「平等って言われちゃな。」

「平等なんて、口だけで信用できないって!」

「賛成……でも今は、早急に対応決めないと。」

杉山の言葉を否定するカレンに、朝比奈も同意する。

俺は、昨日の千草の言葉を思い出す。

 

「特区に参加したいって?」

「あそこなら、ブリタニアとかイレブンという縛りは関係無いし。」

 

もし、本当にブリタニアに支配されずに、日本人として暮らせるのなら、行政特区日本に住んでもいいんじゃないか?そうすれば、千草と一緒に……

「なあ、ユーフェミアの提案通り、黒の騎士団ごと参加する訳には行かないかな?」

「だからブリタニアの約束は……」

俺の言葉に、玉城は異を唱えるが、

「ゼロが言っている事と、特区に参加する事は矛盾しないだろう。」

「でも、それは……」

「まず、平和という名目で、武装を解除させられるな。」

カレンが何か言い掛けたが、それを遮って千葉が言う。

「そりゃ困ったわあ。」

ラクシャータは、自分のやりたい事が出来なくなる事を心配している。

「我々は大勢に取り込まれ、独立は失われる。」

と、藤堂。

「しかし、参加しなければ自由と平等の敵となる。」

ディートハルトは、参加しない場合の懸念点を述べるが、

「だったら、まず参加して……」

と俺が言うと、

「何の保証も無くですか?」

と、返して来る。

「でも、無視はできない!」

黒の騎士団を辞めて、行政特区に行くか?しかし、それじゃ皆を裏切る事になる。いや、もう既に千草を匿っている時点で、俺は皆を裏切っている……

どの道、裏切り者なんだ。実務上、黒の騎士団にもう俺は必要無い。だったら、黒の騎士団を抜けて、千草とふたりで特区で暮らせば……

もしそうなるんなら、もう一度千草とやり直せるのなら、もう嘘は止めて、真面目にあいつとふたりで……

 

この件に関しては、中々ゼロからの指示が来なかった。それだけに、黒の騎士団内部では対応について揉めに揉めた。

それでも、やはり皆ブリタニアを信用できないという気持ちが強く、特区には参加しないと考えている者が殆どだった。そんな中で、俺だけは、黒の騎士団を辞めても特区に参加したいと、本気で考えていた。

 

ゼロからの指示が出たのは、日が暮れた後だった。

しかし、幹部どころか、俺や藤堂ら首脳部にも、作戦の詳細は語られなかった。

まず、ゼロが単独でユーフェミアと話をする。黒の騎士団各位は、万一に備えて式典会場の近くで、いつでも戦闘に入れる状態で待機せよとの事だった。

 

式典開始時間、ゼロは、ガウェインで単独で会場に向かう。そして、ユーフェミアとふたりだけで別室に入って行く。その間、俺達は指示通り式典会場周辺で、自在戦闘装甲騎に乗って待機していた。

待ち時間が長く、玉城からは不満の声が上がる。

『なあ、俺達いつまでここに居りゃあいいんだよ?』

『ゼロがここで待てって言ったのに、信じられないの?』

『だってよお……』

「全てはブリタニアの真意を確かめてからだ。」

もし、本当にブリタニアが特区を認めるのなら、俺は……

『副司令。』

藤堂が、話し掛けて来る。

「は……はい。」

『その真意が分かっているからこそ、全軍を四方に伏せてあるのでは?』

「断定は危険です。」

そうだ、ブリタニアが本気で特区を認めるなら、いくらゼロでもそれを覆して攻撃は出来ないだろう。“正義の味方”の口実が無くなる。それでもブリタニアと戦い続けたかったら、もう日本を出て行くしか無い。

 

式典開始時刻をかなり過ぎても、始まる様子も無く不安に思っていたところ、突然、会場内から銃撃のような音と大勢の悲鳴が聞こえて来た。

『何?会場で何が起こったの?』

『今確かめてるよっ!』

困惑するカレン。玉城も混乱して答えられない。

いったい何が起こってる?放送を見ていないこちらには、状況が分からない。

すると、会場の壁を突き破って、ブリタニア軍のナイトメアが外に飛び出して来た。更に、ゼロのガウェインが会場の上に現れ、ブリタニア軍と戦闘を始める。

そこで、ゼロからの指令が全員に入る。

『黒の騎士団総員に告げる。ユーフェミアは敵となった!行政特区日本は、我々を誘き出す卑劣な罠だったのだ!自在戦闘装甲騎部隊は、式典会場に突入せよ!ブリタニア軍を壊滅し、日本人を救い出すのだ!急げ!そして……ユーフェミアを……見つけ出して殺せ!』

皆、衝撃に言葉を失う。

何だと?罠だった?ぜ……全部嘘だったのか?俺は、そんなものに振り回されていただけなのか……

黒の騎士団の自在戦闘装甲騎部隊は、全機発進し式典会場を目指す。

藤堂、カレンらが正面から突入して大半のブリタニアのナイトメアを引き付ける。その隙に、俺は裏から式典会場に飛び込み、真っ先に桐原公を救出する。

「ふん……やはり、こうなるのか……そうだよな、俺が、お前の生まれ変わりのような女と、ありきたりな幸せを掴むなんて……お前が……千草が、許す筈無いよな……」

余計な夢を見なければ、こんな気持ちにはならなかった。ぬか喜びだけさせて、一気に突き落すなんて……

残存のナイトメアが数機いたが、とにかく撃ちまくって撃破する。全ての怒りをぶつけるが如く。

「許せない!俺の気持ちを踏み躙りやがって……ユーフェミア!」

 

黒の騎士団により、行政特区に配備されたブリタニア軍は一掃された。

そしてユーフェミアは、ゼロが射殺した。

戦闘終了後、俺は救助した桐原公と途中合流した京都六家の代表達と共に、ゼロと合流した。

「やっとお会いできましたね!」

京都六家の代表のひとり、紅一点の皇神楽耶様が、笑顔でゼロに語り掛ける。

「ゼロよ、これからの事だが、わし等の元で……」

「逆だ!」

桐原公の言葉を、ゼロが遮る。

「こうなった以上、京都六家の方々は私の指揮下に入って頂く。反論は許さない!他にお前達が生き残れる道は、無くなった!」

この言葉に、京都六家の代表は、反論は出来なかった。

 

その後、俺達は、生き残った日本人達を再び式典会場に集めた。

会場の周りは、黒の騎士団が守りを固めている。ステージの上には、ゼロを中心に、俺と京都六家の代表達が立つ。ディートハルトは民衆側に居て、中継を流すための撮影隊を指揮している。

そして、ゼロが演説を始める。

「日本人よ!ブリタニアに虐げられた、全ての民よ!私は待っていた。ブリタニアの不正を影から正しつつ、彼らが自らを省みる時が来るのを……しかし、私達の期待は裏切られた、虐殺という蛮行で!そうだ、ユーフェミアこそ、ブリタニア偽善の象徴、国家という体裁を取り繕った人殺しだ!私は今ここに、ブリタニアからの独立を宣言する。だがそれは、かつての日本の復活を意味しない。歴史の針を戻す愚を、私は犯さない!我らがこれから造る日本は、あらゆる人種、歴史、主義を受け入れる広さと、強者が弱者を虐げ無い、矜持を持つ国家だ。その名は、合衆国日本!」

会場に集まった日本人達から、大歓声が上がる。続いて、“ゼロ”コールが沸き起こる。

皮肉な事に、行政特区日本が悲惨な結末を迎えたその式典会場で、ゼロによる新たな独立国、“合衆国日本”が誕生した…………

 






原作の23話での、扇の表情は異常です。これも、キャラが違う。
ディートハルトは、ユーフェミアの日本人虐殺に嬉々としていました。これで自分の思惑通りに進むというのもありますが、ゼロが何か仕組んだ事を見抜いています。
それに対して扇は、そこまで見抜く事はできないにしても、何の違和感も感じなかったのでしょうか?それまで日本人に対して理解が有り、日本人であるスザクを自分の騎士にまでするユーフェミアが、理不尽に日本人を虐殺する事に。もし最初からそんな女なら、河口湖で日本解放戦線を皆殺しにしています。
あまりの怒りに周りが見えないという考えもありますが、扇にとって、そこまで怒る事でしょうか?馬鹿の玉城や、ブリタニアに強い憎しみを持つカレンなら分かります。でも扇は、そこまでブリタニアを憎んでません。ブリタニアの女に惚れてるくらいですから。
じゃあ、何で扇はここまで怒っているのか?と考えて、この話の展開になりました。
ようやく改心仕掛けて、真面目に暮らそうかと考えていた扇の未来は、皮肉にも、ゼロにより台無しにされたのです……

原作の23話では、ニーナが酷く衝撃を受けて壊れてしまいます。ですが、彼女が衝撃を受けたのは“ユーフェミアがゼロに殺された”事だけで、あの優しかったユーフェミアが、“日本人を大虐殺するという狂気に及んだ”事には、全く何も感じていません。
所詮イレブンなど、虫けら以下としか見ていないのでしょう。もしR2でフレイアが爆発したのが租界上空じゃなくて、ゲットー上空だったら、何のショックも受けずにその威力に満足していたでしょう。
“残虐皇女”など目じゃありません!本当に最凶最悪の女です。


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《 第十一話 ―― 敗北 ―― 》

各地の暴動に便乗して、一気に東京租界を攻める黒の騎士団。
そんな中で、千草の事が気がかりで、任務に集中できない扇。
しかし、扇の知らない間に、ヴィレッタは記憶を取り戻していました。
そして、最終決戦の最中、全てを思い出した彼女が扇の前に……




 

特区日本でのユーフェミアの日本人大虐殺の映像は、ディートハルトらの手により日本全土に流された。これにより、エリア11各地で、ブリタニアに対する反乱が勃発した。

この機に乗じて、黒の騎士団は、特区でブリタニアから奪取した巨大陸戦艇を母艦として、東京租界に向けて進軍を開始した。これに、各地のレジスタンス達も合流し、勢力を拡大しつつ進撃して行った。

 

東京租界に向かう巨大陸戦艇の中で、自在戦闘装甲騎の整備を指示しながら、俺は千草に電話を掛けた。各地で日本人がブリタニアに対して暴動を起こしている。そんな中で、ゲットーにひとり残して来た彼女が心配になったからだ。

「ひとりで大丈夫か?とにかく、ドアはしっかりとロックして、外には出ないようにしろよ。」

『分かってます。要さんの方こそ大丈夫?確か、静岡で仕事だって。』

「ああ、こっちは何とか……なあ、千草、帰ったら大事な話しがあるんだが……」

『うふ……』

「ん?どうした?」

『初めて、その名前で呼んでくれましたね。』

「ああ、すまない。変だったかな?」

『いいえ!それじゃあ、待ってます!』

それで、電話を切った。本当なら側に居てやりたいが、これから東京租界に攻め込もうって時に、お飾りとはいえ副司令が抜ける訳にはいかない。

だが、この戦いに勝ったら、今度こそ俺は、黒の騎士団を辞める気でいた。辞めて、千草と何処かに姿を隠すつもりでいた。

これで東京租界を落とせば、事実上エリア11は“合衆国日本”の領土となる。そうなれば、今度はブリタニア本土との戦争だ。そして、現在エリア11にいるブリタニア人と、日本人の立場は完全に逆転する。

千草は、“イレブンになってもいい”と言ったが、それはブリタニアの支配の中での話だ。日本の支配下になれば、いくら日本人になりたいと本人が言っても、日本人が許さないだろう。今のエリア11でイレブンが受けている迫害を、今度は千草が日本人から受ける事になる。俺が公に庇おうとすれば、裏切りが発覚して、俺自身もどうなるか分からない。行政特区日本なら、前に彼女が言ったように、そんな縛りは無く一緒に居られたかもしれないが……

 

東京租界に到達して、ゼロはブリタニア本隊に降伏勧告をしたが、当然の事ながらそれは受け入れられなった。そして、遂に最終決戦の幕が開いた。

ゼロはあらかじめ工作員を忍び込ませていたようで、開戦と同時に租界外延部が崩れ、こちらを迎え撃とうとしていたブリタニアの前線部隊は大打撃を受けた。そこに、藤堂率いる自在戦闘装甲騎隊が突入する。コーネリアを含む生き延びたブリタニア残存部隊は、一時政庁まで退いて行く。

ゼロは、更に指示を送る。

『ゼロ番隊は特務隊と共に、学園地区を優先して抑えろ。その中のひとつに、司令部を置く。扇、お前もそこで配置に付け。』

俺は、千草が心配で電話を掛けていた。そのため、返事が遅れた。

『扇!』

ゼロの呼び掛けに、俺ははっとして返事をする。

「あ……ああ、分かった。」

いくら電話を掛けても、千草は出なかった。どういう事だ?何かあったのか?

ゼロはガウェインで先行し、ブリタニアの航空部隊をハドロン砲で一掃する。

『ディートハルト、航空戦力は片付いた。G-1は神楽耶に任せろ!お前は予定の位置に移動しろ!』

『分かりました。』

『吉田は雷光の準備!』

『おう!』

ゼロは、次々と指示を出す。そして、当然現れるであろう“奴”への対策も忘れない。

『玉城、ラクシャータは?』

『移動中だよ!』

『カレンはバックアップに回れ!』

『はい!』

『藤堂、対称が現れたら、』

『分かっている。』

『よし!扇、協力者の名は?』

「あ……ああ、篠崎咲世子と言って……」

『何?』

ん?何だ?この反応は……知っているのか?

 

ディートハルト達は全ての放送局を押さえ、ゼロと俺達は司令部を置くために、アッシュフォード学園を占拠した。

その時、俺に連絡が入った。俺は、急いでゼロに告げる。

「ゼロ!ランスロットが!」

「やはり来たか?」

ランスロットは、こちらの自在戦闘装甲騎を次々と撃破、雷光も撃破してアッシュフォード学園に迫る。カレンの紅蓮が立ちはだかるが、激戦の末、左腕を犠牲にして紅蓮の右腕を破壊したランスロットに、紅蓮は追い詰められてしまう。

しかし、そこにゼロのガウェインが介入。1対1の勝負を呼び掛け、罠を張ったエリアにランスロットを誘い込む。そして、式根島の時と同様に、ゲフィオンディスターバーでランスロットの動きを封じた。

 

俺は学園内に設置した司令部で、全軍の状況を確認しながらゼロの補佐をしていた。

「T4が政庁方向に?敵の航空部隊がもう着いたのか?」

「いや、1機だけらしい。」

「なら、大勢に影響は無いだろう。学園地区は我々が、メディア地区はディートハルト達が抑え、後詰めとして神楽耶様達も居る。あとは後方さえ抑えれば勝てる。死んでいった吉田達のためにも……」

「副司令、不審者を捕らえました。」

後ろからの団員の声に、俺は振り向かずに答える。

「学生か?なら、逃がしてやれ。監禁する理由など無いのだから。」

「いえ、裏門から校内に侵入しようとしたところを……」

「侵入?」

振り向いて、俺は驚く。そこには、団員に拘束された千草の姿があった。千草は、俺が港で発見した時の服装だった。連絡がつかなかった理由は、こちらに向かっていたから?

「か……彼女は、直属の協力員だ。別室に案内を、俺が、直接報告を聞こう。」

 

拘束を解いて、別室で千草とふたりだけで話をする。

「千草、どうしてこんな戦場に来たんだ?安全な所を捜すから、ひとまず俺と……」

肩を抱こうとすると、彼女はそれを避けるように後ずさりする。

まさか、俺が黒の騎士団の一員である事を、隠していたのを怒っているのか?

「その、隠していて悪かった。でもこれは、平和のためにやっている事なんだ。ゼロがブリタニアから日本を開放すれば、俺達は一緒になれる。

「気持ち悪い事を言うな!」

千草は、素早く俺の背後に回り込む。そして俺の上着の右ポケットから拳銃を奪い取り、俺に突き付ける。

「私と、お前みたいなイレブンが一緒になる?ふん、私の名は“ヴィレッタ・ヌウ”、ブリタニアの騎士候だ。」

「あ……あの……」

振り向いた俺に、彼女は引き金を引く。

「うっ!」

腹部を撃たれ、俺はその場に崩れ落ちる。

「そ……そうか、千草、記憶が戻っ……たのか……」

彼女は、俺の生死は確認せず、そのまま部屋を出て行ってしまう。

う……迂闊だった……良く考えれば、あの争い事を嫌う千草が、こんな戦場の真っ只中に来る筈が……あの服装だって、過去の自分を嫌って、全く着ようとしていなかった……

ふ……本当にあいつは、千草の生まれ変わりだったのかもな……千草の代わりに、俺に、引導を渡しに来た…………

そのまま、俺は意識を失った。

 

しかし、俺の悪運はまだ尽きてはいなかった。弾は急所を外れていて、南の呼び掛けで俺は意識を取り戻した。ただ、重症は重症で、動く事もできない。団員達に運ばれて行く中で、現在の状況を南から聞かされた。最初は優勢だった戦況も、ブリタニアに援軍が来たせいでかなり劣勢になっている。更には、ゼロが指揮を放棄して、戦場を離れてしまったとの事だ。何処へ行ったのかは、誰も聞かされていない。

その時俺の目に、上空を横切っていく白いナイトメア、ランスロットの姿が映った。

俺は、横にいる団員に話し掛ける。

「か……カレンに、れ……連絡を……」

「馬鹿を言わないで!そんな状態で!」

彼は止めるが、

「た……頼む……」

俺が必死に頼むので、団員は根負けしてカレンに連絡し、携帯を俺の顔に近づける。

「か……カレン……」

『扇さん?だ……大丈夫なんですか?』

「ああ……それより……カレン……ゼロを、追え……彼の、行動には……意味が、ある筈……助けるんだ……ゼロ……ナオトの、夢を、継ぐ者……」

『でも、どうやって捜せば?』

「そろそろ、見えるだろう……」

『え?……あれは?ランスロット?あいつがここを離れる理由なんて……』

「ラクシャータが、発信機を……な……」

『分かりました!』

これでいい。ナオトの名を出せば、カレンは必ずやり遂げる。この状況で、ゼロが逃げる事はあり得ない。きっと、ブリタニアとの戦争よりも優先すべき、何かがある。それこそ、ゼロの弱み…………

そこまで考えたところで、俺は、再び意識を失った。

 






原作のヴィレッタの行動ですが、どうにも腑に落ちません。
何で、扇の所に行ったのでしょうか?単にゼロの正体をばらして出世したかったら、ブリタニア軍に真っ先に戻るべきです。わざわざ黒の騎士団に捕まるような事をして、万一問答無用で撃たれたら、どうするつもりだったんでしょうか?それに、潜入するならブリタニア軍の服では無く、千草の時の服の方がいい筈です。もし最初に見つかった相手が玉城だったら、本当に撃たれてたかもしれません。

ところで、扇はここで重症なんですが、何でブリタニア軍は助けたんですかね?多分、治療を続けなければ死んでいます。これだけ大きな反乱を起こしたんですから、黒の騎士団の幹部なんて大罪人ですよね?下っ端の兵士はいいとしても、副司令なんて真っ先に公開処刑されそうなんですが……


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《 第十二話 ―― ゼロ再び ―― 》

ゼロの裏切りにより、敗北した黒の騎士団。
幹部の殆どが捕えられ、扇も牢の中で処刑を待つしかない状況でした。
しかし、1年の沈黙を経て、ゼロが、再び動き始めます。




 

ブラックリベリオンから約1年が過ぎた。

土壇場でゼロを失った黒の騎士団は、指揮系統が混乱し、一気に劣勢を強いられた。お飾りとはいえ、副司令の肩書きを持つ俺の離脱も影響した。特に、元からの黒の騎士団メンバーの動揺は大きかった。多くの団員が命を落とし、生き残った者もブリタニア軍に捕らえられた。逃げ延びたのは、ゼロを追って行ったカレン、ディートハル達諜報部とやラクシャータ達技術開発部、神楽耶様と卜部の率いる極少数の部隊だけだった。

俺としては、逆に捕虜になった事で生き延びられたのかもしれない。あのまま戦闘が長引けば、まともな治療も受けられず命を落としていた可能性もある。直ぐに捕らえられた事で、軍の医療施設でしっかりとした治療が受けられた。これも、俺の悪運の強さなのだろうか?

また、本来なら黒の騎士団の副司令となれば、大罪人として公開処刑されてもおかしくないところだ。しかし、あまりにもリーダーのゼロのインパクトが大きすぎて、副司令と言ってもお飾りの俺では“公開処刑してもレジスタンスに対して殆ど効果は無い”と思われたのか、他の団員と共に1年間牢に繋がれていた。

「ぐわっ!」

拘束着で拘束された玉城が、衛兵に突き飛ばされて通路に倒れ込む。

「ぜ……ゼロさえ居れば、お前らなんかに……」

「もう言うな!裏切り者の事は。」

牢の中で、同じように拘束着で拘束された千葉が言う。

「裏切ってなんかいねえよ!ゼロは!」

「静かにしろっ!」

「ぐわっ!」

千葉の言葉に反論する玉城を、衛兵が銃で殴り飛ばす。

「わ……わかった、ご……御免なさい……」

見っとも無く謝る玉城だが、衛兵はここぞとばかりに殴りまくっている。

俺も、同じように拘束着で拘束されて、牢の中だ。流石にこんな状況ではいい気味とも思えず、顔を背けて言葉を返す。

「何か、事情があったんだろう。」

「事情?最終決戦で、指揮官が居なくなる理由なんて……」

「やめろ!」

更に反論する千葉を、藤堂が制する。

「いずれにせよ、ゼロは死んだのだ。」

藤堂の言葉に、俺は衝撃を受ける。

「し……死んだ……」

治療を受けていたため、俺が牢に入れられたのは皆よりかなり後だ。皆は、ブリタニア軍からゼロの死亡を聞かされたようだが、俺は直接聞いてはいない。

そこで、ふと疑問が湧いてきた。ゼロは本当に死んだのか?なら、何故俺達をいつまでも生かしておく?新しいエリア11の総督カラレスは、“しつけ”と銘打ってやたらとレジスタンスを処刑している。なら、真っ先にブラックリベリオンの主犯の俺達を処刑する筈じゃ無いのか?

もし、俺達を生かしておく理由があるとすれば、ゼロだ。ゼロが死んだ確証が無いから、再び彼が現れた時のために、人質として俺達が必要なんじゃないのか?

 

その俺の考えは正しかった。数日後、元エリ11総督でブラックリベリオン以降消息不明となっているコーネリアの騎士、ギルフォードが俺達の前に現れた。

「ここまで、お前達を生かしておいた価値があったな?」

「何?どういう意味だ?」

「ゼロが現れた。」

『何っ?!』

牢の中の全員が、一斉に驚きの声を上げる。

やはり、ブリタニアはゼロの生死を確認できていなかった。黒の騎士団の残党や、レジスタンスの士気を下げるため、ゼロが死んだというデマを流していたんだ。

「ほら見ろ!俺のゼロが、簡単に死ぬもんかよ!」

玉城は、呑気に奇声を上げる。

馬鹿め、手放しに喜んでる場合か!わざわざ、親切に俺達に教えに来る訳が無いだろう。そう言って来たという事は、俺達を利用するために決まってるだろう。

「明日、お前達の公開処刑を行う!」

「な……何だと?」

ほらな、当然そうなる。

 

ゼロは中華連邦総領事館内に、再度“合衆国日本”を立ち上げ立て籠もった。総領事館内は中華連邦の領土となるため、ブリタニアも手出しが出来ない。ギルフォードは、ゼロを総領事館の外に引きずり出すため、俺達を囮に使う。

総領事館の前に、俺達を収容した3台の大型護送車が並ぶ。車の中には捕らえられた全ての団員達が、拘束着で拘束され収容されている。俺達幹部は、その護送車の屋根に磔にされて並んでいる。

「聞こえるか?ゼロよ!私はコーネリア・リ・ブリタニア皇女が騎士、ギルバート・G・P・ギルフォードである!明日15時より、国家反逆罪を犯した特一級犯罪者、256名の処刑を行う!ゼロよ、貴様が部下の命を惜しむなら、この私と、正々堂々と勝負をせよ!」

ギルフォードが、ゼロに対して声明を述べる。

 

夜になって、玉城は不安そうに俺に聞いて来る。

「なあ、復活したゼロって、あのゼロかな?」

何だ?昼間はあんなに浮かれてた癖に、今頃心配になったのか?

「さあな?」

俺は、そっけない返事を返す。

「どちらにしろ、また見捨てるつもりだろう。私達を……」

相変わらず、千葉はゼロを全く信用していない。

俺にとっては、復活したゼロが本物であろうと偽者であろうと構わない。俺達は、元々ゼロの正体を知らないんだ。例え中身が昔のゼロで無かったとしても、同じ能力を持っていれば、それは以前のゼロと何ら違いは無いのだから……

 

そして、処刑当日。

刻一刻と処刑の時間は迫る。しかし、一向にゼロが現れる気配は無い。

総領事館の前には、グラストンナイツを含め何機ものナイトメアが配置されている。その後ろに俺達が収容されている護送車。その後ろにまた何機ものナイトメアが配置され、単独での奇襲はまず不可能だ。

その更に後ろには硬質ガラスのゲートが有り、その外に大勢の日本人が集まっている。

「ゼロは我々を裏切ったのだ。助けに来る筈が無い。」

「絶対来る!あいつが本物なら!生きていたなら!奇跡を起こしにやって来るんだ!」

否定的な発言を続ける千葉を、今度は玉城が否定する。

「奇跡……か……」

藤堂が、吐き捨てるように呟く。

流石に、分かっているな藤堂は……8年前の戦争で“厳島の奇跡”を起こして、唯一ブリタニアに土を付けた男。だが、それは奇跡でも何でも無い。多少の運はあるだろうが、綿密に練られた計画と、現場での状況を的確に読んだ対応、それがあって初めて勝利の女神は微笑む。何時、何処ででも起こせるものでは無い。例え、復活したゼロが本物であったとしても、策が行使できなければどうにもならない。

 

とうとう処刑の時刻となったが、ゼロは、姿を現さなかった。

「ゼロ様!」

「お願いです!」

「どうか、奇跡を!」

集まった日本人達が、ゼロにすがる様に声を上げる。そこに、ギルフォードの声が、

「イレブン達よ、お前達が信じたゼロは現れなかった!全てはまやかし、奴は私の求める正々堂々の勝負から逃げたのだ!……構え!」

目の前に並ぶナイトメア各機の機銃が、俺達に狙いを定める。

俺は、覚悟を決め目を閉じる。

「いやだ~っ!」

玉城は、相変わらず見っとも無く悲鳴を上げる。

「もういい、良くやったよ、俺達……」

昨日の今日では仕込みは出来なかったか?更に、総領事館は四六時中ブリタニアに監視されている。流石のゼロでも、これでは手の打ちようが無かったということだ。

「違うな!」

「ん?」

突然、聞き覚えのあるあの言葉が、辺りに響き渡る。

「間違っているぞ!ギルフォード!」

背後の、集まった日本人達の後ろに、無頼に乗ったゼロが現れた。

「ギルフォードよ、貴行が処刑しようとしているのはテロリストでは無い!我が合衆国軍、黒の騎士団の兵士だ!」

「ゼロが?」

「どうして?」

朝比奈と千葉は、未だに信じられないという様子だ。

「本物なのか?」

あっさりと姿を現した事に、俺も疑問を感じてしまう。

「決まってんだろ、ゼロ~っ!」

玉城は、何の考えも無く叫んでいる。

そのままゲートを通り、ゼロはギルフォードの前まで来る。そして、ギルフォードの誘いに乗って、ナイトメアでの1対1の決闘を申し込む。しかし、武器をひとつずつと条件を出しておきながら、ギルフォードのランスに対して、ゼロが選んだのは暴徒鎮圧用の盾だった。

辺りは騒然とする。藤堂までもが、ゼロは自決するのかと疑った。

だが俺は、心の中で笑っていた。

あいつは本物のゼロだ。あの男が、正面から馬鹿正直に闘う筈が無い。盾を選んだ時点で、もう決闘の意志が無い事が分かった。既に、仕込みは終わっている。だからこそ、奴は姿を現した。

「質問しよう、ギルフォード卿。正義で倒せない悪が居る時、君はどうする?悪に手を染めてでも悪を倒すか?それとも、おのが正義を貫き、悪に屈するを良しとするか?」

「我が正義は、姫様のもとに!」

ギルフォードは、真っ直ぐゼロの無頼に突進して来る。

「成程、私なら、悪を成して、巨悪を討つ!」

ゼロがこう話した瞬間、その場を凄まじい振動が襲う。

「じ……地震?」

「いや、この作戦は?」

突然、俺達が居た階層が崩れ、総領事館側に倒れていく。ブラックリベリオンで、租界外苑を崩壊させたのと同じ作戦だ。俺達が乗る護送車も、ブリタニア軍も、まとめて総領事館内に滑り落ちていく。ゼロの無頼は、盾をスケートボード代わりにして、悠々と総領事館内に滑り込む。

「黒の騎士団よ!敵は我が領内に落ちた。ブリタニア軍を壊滅し、同胞を救い出せ!」

紅蓮弐式を先頭に、自在戦闘装甲騎隊がブリタニア軍に攻め込み、俺達は無事救出される。

ギルフォード達は、何とか総領事館内に滑り落ちるのは免れたが、中華連邦からの警告も有り、この場は退却せざるをえなかった。

 

晴れて俺達は自由になり、カレンと卜部達が用意してくれてあった団員服に着替える。1年振りの団員服に、皆一気に気分が高まり、もう日が暮れたというのに、総領事館の中庭で大騒ぎとなる。

だが、俺達が助かった影で、尊い犠牲も出ていた。詳細は語られなかったが、ゼロを復活させるために、卜部を含む何人かの団員が命を落としていた。

『ゼロだ!』

そこに、ゼロが姿を現した。皆、一斉にそちらを向き、中庭は騒然とする。

「待て、待てっ!」

歓声に近い声が上がる中、千葉と朝比奈が皆を制して前に出て行く。

「助けてもらった事には感謝する。だが、お前の裏切りが無ければ、私達は捕まっていない。」

「ひと言あってもいいんじゃない?」

このままでは収まりがつかないと思い、俺もひと言口を出す。

「ゼロ、何があったんだ?」

だが、ゼロの答えは、

「全ては、ブリタニアに勝つためだ。」

「ああ、それで?」

「それだけだ。」

『はあ?』

流石に、千葉や朝比奈はこれでは収まらない。

「他に無いの?いい訳とか、謝罪とか……」

「やめろ!」

朝比奈の言葉を遮って、藤堂が前に出て行く。

「ゼロ、勝つための手を討とうとしたんだな?」

藤堂は、ゼロの所まで歩み寄って行く。

「私は常に結果を目指す。」

「分かった。」

そう言って、藤堂はゼロの横に立つ。

「作戦内容は、伏せねばならない時もある!今は、彼の力が必要だ!私は、彼以上の才覚を他に知らない!」

その言葉に同意し、俺もゼロの横に立つ。

「俺もそうだ!皆、ゼロを信じよう!」

「でも、ゼロはお前を駒扱いして……」

南の呟きが耳に入るが、俺はあえてそれを無視した。ゼロが俺達を駒扱いしている事なんか、俺は最初から気付いている。

「彼以外の誰にこんな事ができる?ブリタニアと戦争するなんて、中華連邦だって無理だ!EUもシュナイゼル皇子の前に負け続けているらしいじゃないか!俺達は、全ての植民エリアにとって希望なんだ!独立戦争に勝つためにも、俺達のリーダーはゼロしかいない!」

「そうだあ~っ!ゼロ!ゼロ!ゼロ……」

玉城の掛け声を号令に、“ゼロ”コールが沸き起こる。

黒の騎士団は、再びゼロをリーダーと認め、ひとつに結束した。

 

ゼロ、俺にとっても、お前はまだまだ利用させてもらわなければならない。だから、しばらくはお飾りの副司令を続けさせてもらう。だが、もし利用価値が無くなった時は、容赦無く切らせてもらう。そう、お前が1年前に、俺達にそうしたように……

 






原作では、この時点で扇は全然ゼロを疑っていません。ブラックリベリオンの職場放棄も“何か事情があったんだろう”だし、南の“駒扱い”の言葉にも耳を貸しません。更に、カレンにゼロを追わせておいて、ゼロが職場放棄した理由をカレンに問い質そうとすらしません。
そこまで信じ、信頼していた相手を、ただ“ギアスで人を操れる”と知っただけであそこまで公に否定するのは、それまでの扇の性格ではあり得ません。それに、自分達にもギアスを使われていたかもみたいに言っていますが、扇は実体験者のヴィレッタから話を聞いているので“記憶の喪失”の事も、当然聞いている筈です。自分にそれが無い事には直ぐ気付くだろうし、その事を仲間には一切言っていません。
“独立戦争に勝つために”ゼロの力が必要なんです。逆に言えば、その障害になるのならもう不要という事です。
一方のゼロですが、扇など殆どあてにしていないのが原作のこの話でも良く分かります。
黒の騎士団員の救出を画策している時に、“明日には藤堂達が処刑されてしまうのだから”と言っています。必要としているのは藤堂です。

話は違いますがR2の1話で、カルタゴ隊がC2を発見したんで、もう用無しのルルーシュを殺そうとしましたが、こいつら皇帝直属ですよね?ルルーシュの素性は隠していたとしても、“餌は殺しても構わない”という話になってたんでしょうか?だとすると、シャルルはもうルルーシュの生死に拘っていない。完全に捨てていますよね?
「お前ら親は、俺とナナリーを捨てたんだよ!」
その通りですね。


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《 第十三話 ―― ナナリー総督 ―― 》

ゼロの策略で、無事救助された黒の騎士団メンバー。
しかし、戦力的にはブラックリベリオン以前と比べて、圧倒的に低すぎます。
そんな時、エリア11にまた新しい総督が就任して来ます。
それに対してゼロは……




 

カラレスに代わり、エリア11の新総督に神聖ブリタニア帝国第十二皇女のナナリー・ヴィ・ブリタニアが就任する。しかし、公にはその名前と素性は伏せられていた。

例によって、何処からかゼロがその情報を入手して来て、新総督の誘拐作戦を企てた。

 

その作戦の直前、突然、俺はカレンに呼び出された。

「扇さん、以前扇さんが、アッシュフォード学園の学園祭に連れて来たブリタニア人ですけど……」

「え?」

「“直属の地下協力員”って言ってましたよね?でも、どうやってブリタニア人の協力員を見つけたんですか?」

「う……」

千草の事か……そういえば、学園祭の時にカレンには見られていたんだったな。

ブラックリベリオンの時は“協力員”と言って誤魔化したが、その彼女に俺は撃たれている。それで協力員は、説明が付かない。ブリタニアのスパイと繋がってるって、疑われているのか?

「扇さん?……」

答えられない俺に、カレンは怪訝そうな顔をする。

が、その時、俺はある事を思い出した。

「……カレン、最終決戦の時、俺はお前に“ゼロに付いて行け”と言ったよな?」

「え?あ……はい。」

「それで、ゼロの目的は何だったんだ?あの場の戦闘より、優先される重大な案件があったんだろ?」

「そ……それは……」

今度は、カレンが返答に困って黙り込む。

おそらく、カレンはゼロの秘密を何か知った。それは、ゼロの弱みに繋がる事かもしれない。だが、今はそこを追及する時では無い。下手に突っ込めば、こちらも千草の事を追及される。

「それは、俺達にも言えない事なんだろう。でも、カレンはゼロを信じてるんだよな?」

「は……はい……」

カレンは申し訳なさそうに答える。

「俺も、そのカレンの判断を信じる。ゼロを信じる……だから、俺の事も信じてくれないか?」

俺は、優しく微笑んでカレンに言う。

「は……はい!分かりました。私も、扇さんを信じます!」

うまくいった。これで、カレンは大丈夫だ。問題は、ゼロがカレンからこの事を聞いているかどうかだが……まあ、向こうも後ろめたい事はいっぱいあるんだ。直接俺に聞いて来るとは思えない。だとすれば、要注意は……ディートハルトか?

 

そして、ナナリー総督誘拐作戦は開始された。

こちらの戦力は紅蓮を含め数機のナイトメアだけだったので、カリフォルニア基地からエリア11に向かうところに、ナイトメアを航空ユニットで空輸し奇襲を仕掛けた。

しかし、本隊はゼロの作戦に翻弄されるだけだったが、ギルフォード率いるコーネリア親衛隊と、帝国最強の騎士ナイトオブラウンズまでも援軍に駆け付けたため、この奇襲は失敗に終わった。

紅蓮以外のナイトメアが全て撃破された上、四聖剣のひとり、仙波が命を落とした。

 

無事エリア11の新総督に就任したナナリー・ヴィ・ブリタニアは、その就任の挨拶でとんでもない発言をした。

『私は、行政特区日本を再建したいと考えています。』

この発言は、日本人だけで無く、ブリタニア人達も震撼させた。そして最後に、

『黒の騎士団の皆さんも、どうかこの特区日本に参加して下さい。』

我々、黒の騎士団にも参加も訴えて来た。

「えっ?」

「またか?」

皆の反応はこんなもの。俺も、

「今更……」

もう、千草は居ないんだ。仮に今度はブリタニアが本気でも、俺ひとりで特区に参加したって……

 

この特区への参加要請に対して、ゼロからの指示は中々来なかった。その前の誘拐作戦の失敗が応えているのか、ゼロからは、しばらく何の連絡も来ていない。

俺達はディートハルトとの合流のため、ヨコハマ港で潜水艦をタンカーに偽装していた。

船の中でも、話題は特区日本の話だ。

「へっ、あの総督も虐殺皇女ユーフェミアと同じって事だ。」

「確かに、日本人は誰も参加しないだろうな。」

玉城の言葉に、俺はそう答える。

「甘い言葉で誘い出して皆殺しってか?舐めやがって!」

「で、これからどうするんだ?」

南が聞いて来る。

「それはブリタニアと決戦を……」

「うちのナイトメアは紅蓮一機しか残ってないのに?」

痛いところを突かれて、玉城は返答に困る。

「だから、ゼロが……」

「そうですわ!」

そこに、神楽耶様が入って来る。

「神楽耶様?」

「玉城さんの言う通りですけど、どうしてゼロ様は居ないんですの?折角新妻が来たのに……中華連邦に居た時も、文の一通も頂けなくて……」

「浮気でもしてたんじゃないですか?」

「ば……馬鹿……」

玉城がとんでも無い事を言い出すので、俺は慌てて奴の口を塞ぐ。本当に無神経な男だ。

「馬鹿な事言わないでよ!う……嘘ですからね、神楽耶様!」

というカレンに、

「あら、構いませんよ。」

と、神楽耶様は、あっさりとそれを受け入れる。

「ええっ?」

逆に、カレンの方が戸惑ってしまう。

「“英雄色を好む”と言いますし、成人男子の生理を鑑みれば。」

「な……何言ってるんですか?」

「助かるよ。見かけより大きな女で。」

それまで無言だったC.C.が、神楽耶様に言葉を返す。すると、神楽耶様はC.C.の方に向き直り、

「私が居ない間、お相手ありがとうございました。」

そう言って、C.C.に握手を求める。

「ふっ……礼には及ばん。」

C.C.は、ゆっくりとそれに応じる。

「ほら、カレンさんも。」

「えっ?わ……私は……」

うろたえるカレンの手を取って、神楽耶様は3人の手を重ねる。

「ゼロ様を支える3人の……はっ!私達、三人官女ですね?」

『官女?』

C.C.もカレンも、唖然とするだけだった。

 

その後も、依然としてゼロからの連絡は無かった。

船の中では、今後の動向について意見が割れていた。

先日の作戦で殆どの戦力を失った俺達には、ブリタニア軍とまともに戦える戦力は無い。1年前の敗戦で、既に京都の後ろ盾も無くなった。中華連邦の総領事館を出た今、カントウブロックに留まる事は自殺行為に近かった。

「ここも、いつブリタニア軍に嗅ぎ付けられるか分からん。一刻も早く、ディートハルトの待つ中華連邦へ移動するべきだ。」

藤堂は、今直ぐに出航すべきだと主張する。

「いや、ここはゼロを待つべきです。万一、ブリタニア軍に待ち伏せされていたら?」

俺は、あくまでゼロの指示があるまで、動くべきでは無いと主張する。

「だが、奴からは一向に何の連絡も無い。本当に、ここに戻って来るのか?」

「ひょっとして、もう俺達の事なんか見捨てて、ひとりで逃げちゃったんじゃないの?」

千葉と朝比奈は、当然の如く藤堂の意見に賛同する。

「馬鹿野郎!ゼロが俺達を見捨てる筈がねえだろ!」

と玉城。

「どうかな?既に前科があるしな?」

千葉は、相変わらずブラックリベリオンの時の事を根に持っている。

「どうなんだ?カレン?」

俺は、カレンに問い掛ける。ゼロを迎えに行ったが、結局彼女はひとりで戻って来た。

「は……はい……き……来ます、ゼロは、必ず……」

そうは言っているが、何とも頼りない返事だ。戻って来てからの様子もおかしい。服も着替えていない。

「いったい、何処に居るんだゼロは?我々には秘密で何をやっている?」

「そ……それは……」

「相変わらず秘め事が多いよね?」

千葉と朝比奈の言葉に、カレンは答える事ができない。

「何を言ってるんですか!ゼロ様は必ず来ます!」

そこに、神楽耶様が口を挟む。

「きっとゼロ様は、私達が思いつかないような凄い作戦を考えているんです!私達が、ゼロ様を信じないでどうするんですか?」

「しかし、いつまでもここに居るのは危険だ。ゼロを待つにしても、場所を変えた方がいい。」

藤堂は、冷静に意見を言う。

「分かった。夜まで待って、沖合いに移動しよう。カレン、ゼロにはそのように伝えてくれ!」

「は……はい!」

 

夜になって、偽装船は沖合いに移動すべく出航した。

ところが、その行く手にブリタニア軍の艦隊が現れた。こちらの行動が読まれていたのだ。指揮を取っているのは、ナイトオブラウンズに昇格した枢木スザクだ。

ブリタニア軍の攻撃に対し、俺達は偽装船を爆破し潜水艦で海底に逃れる。しかし、その行動も読まれており、爆雷と水中戦用ナイトメアの攻撃が続く。

徐々に追い込まれ、絶体絶命の危機……その時、

『Q-1聞こえるか?Q-1!』

「この声?」

「ゼロ?」

ようやく、ゼロからの連絡が入った。

『ダウントリム50度、ポイントL40に向けて、急速潜行しろ!』

「間に合った!」

「ったく、遅せえよ!」

俺も玉城も、歓喜の声を上げる。しかし、次のゼロの指示は……

『正面に向けて、魚雷全弾発射!時限信管にて40秒だ!』

「正面って?」

「敵なんていないぞ!」

俺達が戸惑っていると、

「撃ってみましょう。」

神楽耶様が言う。

「信じるより他に、手がありますか?」

神楽耶様の言葉に、皆ゼロを信じ、命令通りに魚雷を発射する。

『アンカーを撃って艦を固定しろ!』

次の指示に従い、アンカーを海底に向けて撃つ。

『アンカー固定後、各員、衝撃に備えろ!』

皆、姿勢を低くして身構える。

魚雷が爆発すると同時に、凄まじい衝撃が潜水艦を襲う。皆、何かに捕まって衝撃に耐える。すると、モニターに何かが映し出される。

「く……空気?」

俺は、思わず呟く。

「そうか、メタンハイドレート。」

と、ラクシャータ。

放たれた魚雷は、海底のメタンハイドレート採掘装置の周辺で爆発。装置は破壊され、大量のメタンが気化したのだ。それによって発生した大量の泡が、爆雷とナイトメアを一掃する。更には、ブリタニアの全艦隊を飲み込み、転覆させてしまった。

す……凄い、一瞬で、完全に形勢をひっくり返してしまった。流石はゼロ、地の利までも全て把握している。

それでも、空にはまだ帝国最強の騎士、ナイトオブラウンズが居る。枢木スザクを始めとして、3人も。だが、そこにゼロが姿を現す。

ゼロは、ランスロットに似た、総領事館での戦闘から仲間になった機体の手に乗っていた。そして、攻撃しようとした枢木に告げる。

『撃つな!撃てば、君命に逆らう事になるぞ!』

続いて、枢木の目の前で、黒の騎士団全員に指令を伝える。

『ゼロが命ずる!黒の騎士団は全員、特区日本に参加せよ!』

 






この原作で疑問に思うのは、何で黒の騎士団員は、ナナリー総督の誘拐作戦に従ったのかってとこです。カレン以外はナナリーを知らないから、コーネリアみたいのを予想したんですかね?あんな感じで攻め込まれたらたまらないから、就任前に捕まえちゃおうって思ったのか?
だとしたら、就任会見でその姿を見た時のショックは大きかったでしょうね。危うく、少女誘拐犯にされるところでした。(中華連邦では幼女を誘拐してるけど……)

ヨコハマ港から偽装タンカーで出航するところは、原作では何の説明も無かったので勝手に想像して書きました。ゼロが居ないのに何で出航したか?まあ、いつまでも港に居たら片瀬少将の二の舞ですから……
当然、それを進言するのは藤堂一派でしょう。千葉と朝比奈は、ゼロを信用していませんから。
一方のゼロを庇う側は、カレンは失意のルルーシュを見ているので、ゼロが必ず戻って来るとは言い切れません。玉城の言う事など、誰も聞く耳もちません。そうなると、弁護人は神楽耶様しか居ないでしょう。


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《 第十四話 ―― 百万のキセキ ―― 》

エリア11の新総督ナナリーは、行政特区日本の再施行を宣言しました。
黒の騎士団を始め、日本人の参加者は誰も集まらなかったところに、ゼロからの指令が出ました。
“全員、特区日本に参加せよ”と。
この命令に、扇や藤堂達は……




 

ゼロの特区日本への参加表明により、戦闘は中断されブリタニア軍は撤退した。

俺達幹部は潜水艦の作戦室に集まり、ゼロが来るのを待っていた。

「行政特区に入るって、何考えてんだろうね?」

「さあ?」

朝比奈と千葉が、ゼロの命令に不満を漏らしている。

「扇、ゼロの判断が、我ら日本人のためにならないものなら……」

「藤堂さん?」

まさか、クーデターを起こすつもりか?だとしたら、まだ早過ぎる。

今は、戦力が無いに等しい。ここでゼロを失ったら、昔のレジスタンスに逆戻りだ。さっきだって、ゼロの指示が無ければ俺達は全滅していた。ゼロを切るのは、ブリタニアと十分戦えるだけの戦力が整ってからだ。それまでは、まだまだゼロを利用しなくては。

ゼロが、作戦室に入って来る。

「ゼロ……その……」

「ゼロ様~っ!新妻をこんなに待たせて~っ!」

カレンが話し掛ける前に、神楽耶様がゼロに抱き付いていく。

「神楽耶様、変わらぬ元気なお姿、安心しました。」

「ゼロ様こそ、相変わらず人を驚かせてくださいますのね?特区日本に参加するだなんて。」

「そ……そうだ、あれは、どういう事なんだ?」

ちょっと遅れて、俺は問いかける。

「だから、誘いに乗った振りして、ブリタニアを潰すんだよ!」

考え無しの玉城が、適当な事を言う。

「戦って、戦って、それでどうする?」

『ええっ?』

ゼロの返答に、皆、驚きの声を上げる。

常に戦う事ばかり選択して来たのは、お前じゃないのか?

「待てよ!仲良くしようってんじゃねえよな?」

と、玉城。

「それとも、あるのか?戦わずに済む方法が?」

俺は、ゼロに問う。

さっきは地の利を利用できたが、いつもこうは行かない。戦わずにこの場を凌げるのなら、それに越した事はない。

「ブリタニアの中から変えるつもりか?我らは、独立のために……」

「藤堂!日本人とは何だ?」

「んんっ?」

藤堂の言葉に、ゼロは逆に問いかけで返す。

「民俗とは何だ?……言語か?それとも土地か?」

「な……何を言っている?」

「私は、ブリタニアに交換条件を出す。特区に百万の日本人を参加させる、その代わりに、ゼロを国外追放処分にせよと。」

『何?』

また、全員が驚きの声を上げる。

「じ……自分だけ逃げる気か?」

玉城が吠える。

「そうでは無い!」

「じゃ……じゃあ、何だってんだよ?」

「扇、」

玉城の問いには答えず、ゼロは俺に話し掛けて来る。

「ん?何だ?」

「お前は特務隊を連れて、ゲットーへ行け。そして、行政特区に参加する日本人達と協力して、これを作れ!参加者全員分だ!」

そう言って、ゼロは俺に何かの描かれた紙を渡して来る。

ん?何か前に、似たような事があったような?

「な?こ……これは?」

「な……何だあ?」

そこに描かれたものを見た俺と、覗き込んだ玉城が驚きの声を上げる。

『ええ~っ?』

神楽耶様やカレンも、何事かと覗き込んで来て、驚いて声を上げる

「外見だけ、それらしく見えればいい。」

「い……いや、しかし……」

「急げ!式典まで、時間が無い!」

「面白そ~!私も手伝います!」

急かすゼロに、神楽耶様が答える。

「神楽耶様が?」

「私、こう見えてもお裁縫得意なんですよ!幼い頃から、習い事は厳しく仕込まれてますから。」

「それは頼もしい、是非お願いします。」

「は~い!」

神楽耶様がここまで乗り気になってるのに、断る訳にも行かない。それに、これを見た事で、ゼロの目的も理解できた。

「分かった、何とか、式典までに間に合わせる。」

 

そして、式典の当日、シズオカ・ゲットーの式典会場には、ゼロに動員された百万のイレブン……いや、日本人が集まっていた。その中には、俺達、黒の騎士団のメンバーも入っていた。

会場の周りには、暴動が起こった時の備えにナイトメア隊が待機している。例の、ナイトオブラウンズの機体も見える。

「あっ!」

俺は、思わず帽子を深く被って顔を隠す。ステージの上に、ブリタニアの女士官が現れたのだが、その女性は……

まさか?千草か……どうして、彼女がここに?

千草は、誰かを捜すかのように、辺りを見回している。俺を、捜しているのか?何故?

そうしている内に、式典の開始時間となり、まずはナナリー総督が挨拶をする。

「日本人の皆さん、行政特区日本へようこそ。沢山集まって下さって、私は今、とても嬉しいです。新しい歴史のために、どうか力を貸して下さい。」

続いて、特区に関する契約内容が、総督の補佐官の女性から語られる。

「それでは式典に入る前に、私達がゼロと交わした確認事項を伝えます。帝国臣民として、行政特区日本に参加する者は、極謝として罪一等を減じ、三級以下の犯罪者は執行猶予扱いとする。しかしながら、カラレス前総督の殺害など、指導者の責任は許し難い。エリア特法十二条第八項に従い、ゼロだけは国外追放処分とする。」

『ありがとう!ブリタニアの諸君!』

そこで、ゼロの姿がモニターに映し出される。

『寛大なる御処置、痛み入る。』

「来てくれたのですね?」

ナナリー総督が答える。

「姿を現せ、ゼロ!自分が安全に、君を国外に追放してやる!」

そこに、枢木スザクが割って入り、ゼロに語り掛ける。

『人の手は借りない。それより枢木スザク、君に聞きたい事がある……日本人とは、民族とは何だ?』

「何?」

『言語か?土地か?血の繋がりか?』

「違う!それは……心だ!」

『私もそう思う。自覚、規範、矜持、つまり、文化の根底たる心さえあれば、住む場所が異なろうと、それは日本人なのだ!』

「……それと、お前だけが逃げる事に、何の関係が?」

この言葉を合図に、全員鞄に仕掛けた装置を起動し、会場全体にスモークを発生させる。

異常事態に、新総督は避難させられ、待機していたナイトメア各機が戦闘態勢に入る。

「待て!相手は手を出していない!」

枢木がこれを制止する。

そして、煙が晴れるとそこにゼロの姿が……

「ああっ?」

「ゼロが?」

枢木も、ブリタニア軍も驚愕する。そこには、会場を埋め尽くす、百万人のゼロの姿があった。ゼロの指示で、俺達がゲットーの日本人達と協力して、徹夜でこのコスチュームを作り上げたのだ。

『全てのゼロよ!ナナリー新総督のご命令だ!速やかに、国外追放処分を受け入れよ!何処であろうと、心さえあれば我らは日本人だ!さあ、新天地を目指せ!』

「ゼロの皆さ~ん、新天地へ行きましょう!」

「皆で国外追放されようぜ!俺達は、ゼロなんだからよ~っ!」

ゼロの言葉に続き、神楽耶様ゼロ、玉城ゼロが掛け声を上げる。

「そうだ!俺達はゼロだ!」

「国外追放だ!」

「行こう、ゼロ!」

掛け声に釣られて、会場中のゼロから声が上がる。

このタイミングで、海の向こうから、この岸に向かって巨大な解氷船が接近して来る。

「あれに乗るの?」

「でも、氷だよ?」

「溶けちゃうじゃないの?」

「大丈夫よ~、あの解氷船は特性の断熱ポリマーと超ペルチェフィルムでバッチリ氷をガードしているから。」

不安な声を上げるゼロ達に、ラクシャータゼロが説明をする。

その時、千草が、ステージを降りて来てゼロ達に銃を向ける。

「仮面を外せ!イレブン共!」

「けっ、ブリキ女が!」

対抗して銃を抜く玉城ゼロ。

「撃つな!」

俺は、玉城ゼロの銃を下げさせ、彼女の前に出る。

「我々は、戦いに来たんじゃ無いんだ!」

「まさか?扇?」

「あ……いえ……俺は、ゼロです。」

千草に問い掛けられ、俺は、とっさに誤魔化した。

一方、メインステージでは、先程契約内容を述べた女が、銃を装填する。

「枢木卿、百万の労働力、どうせ失くすなら見せしめとして……」

「待って下さい!」

枢木はそれを制止し、ゼロに向かって訴える。

「ゼロ、皆に仮面を外すように命令しろ!このままだと、また大勢死ぬ!」

「スザクくん、正体を誰も知らぬ以上、そこに意味は無いよ。」

藤堂ゼロが呟く。

『枢木スザク!これは反乱だろう?攻撃命令を!』

「違う!これは、戦う以外の方法として……」

会場を包囲しているギルフォードからの声に、俺は反論する。

『どうするんだスザク、責任者はお前だ!』

ラウンズのひとりが、スザクに判断を問う。

迷っている枢木を横目に、さっきの女が、銃をゼロのひとりに向ける。

「死になさい、ゼロ!」

しかし、枢木はこれを止める。そして、

「ゼロは国外追放!約束を違えれば、他の国民も我々を信じなくなります。」

「国民?イレブンの事か?あなたがナンバーズ出身だからと言って……」

「ナンバーは関係ありません!それに、国策に賛同せぬ者を残して、どうするのです?」

「この百万人は、ブリタニアを侮蔑したのですよ!」

「そのような不穏分子だから、追放すべきではないんですか?」

「しかし……」

「約束しろ、ゼロ!彼らを救って見せると!」

『無論だ!枢木スザク、君こそ救えるのか?エリア11に残る日本人を?』

「そのために、自分は軍人になった!」

『分かった、信じよう。その約束を……』

そこまで言って、モニターからゼロの姿が消える。

『聞こえたか?全てのゼロよ!枢木卿が宣言してくれた!不穏分子は追放だとな。これで我らを阻む者は無くなった。いざ進め、自由の地へ!』

本物のゼロが解氷船上に姿を現し、百万のゼロに指示を出す。

『おお~っ!』

百万のゼロが、一斉に解氷船に向けて歩き出す。俺も、千草に別れを告げて歩き出す。

「さ……さようなら、ブリタニアの人……」

千草は、何とも言えないような表情でそれを見送っていた。

 

こうして俺達は、一切戦う事無く、安全にエリア11を脱出できた。

しかし、特区日本の条件を逆手に取り、百万人全てをゼロにして合法的に国外に脱出させる。ゼロ以外、いったい誰がこんな事を考えつくだろうか?まだまだこの男は、俺達に必要だ。

ただ、あの時、もし枢木が攻撃命令を出していたら?何の武力も無かった俺達は、一方的に鎮圧されるしか無かった。ゼロは、枢木が攻撃命令を出さない事を確信していた。何故、そこまであの男を信じられる?自分をブリタニアに売って、ラウンズの地位を手に入れた男を?それも、ゼロの正体と関係があるのか?

 

そして……千草。

何故、彼女はここに来た?どう見ても、警備兵として来ていたようには見えなかった。

俺に会いに来たのか?どうして……俺との関係を清算するために、あの時お前は俺を撃ったんじゃ無かったのか?

 






この話の原作でスザクがゼロの事を“犯罪者”と言っています。ナナリーも“私の一存で全ての罪を許す事は”とゼロを罪人扱いです。これって、“ブリタニアが正義”という前提の話ですよね?綺麗事ばかり並べていますが、結局はふたりともシャルルと同じ“勝者こそ正義、敗者は悪”の考えに染まってるんです。
ワンピースのドフラミンゴの言葉を思い出します。
「正義は勝つって?そりゃあそうだろう。勝者こそが、正義だ!」
という事で、スザクは何ひとつ変えられていません。最初から間違ってるので……

またこの話とは関係無いのですが、ナナリーとローマイヤさんの絡みが、クララとロッテンマイヤーさんみたいに見えてしまうのは私だけでしょうか?


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《 第十五話 ―― 中華連邦 ―― 》

国外追放処分により日本を離れた黒の騎士団は、当面、中華連邦領土内の蓬莱島を拠点とします。
そして、ブリタニアに対抗するため、中華連邦を取り込んだ合衆国連合を造り上げようとします。
その過程で新たな仲間も加わりますが、カレンが……




 

中華連邦、世界最大の人口を誇る連合国家。しかし、その実態は既に老人と言っていい。

国家の象徴たる天子、その地位を影で操る支配僧が、専横を極めており、人民は貧困と停滞にその活力を奪われていた。

 

日本を脱出した俺達は、中華連邦の領土内の黄海に浮かぶ潮力発電用の人工島、“蓬莱島”を貸し与えられた。事前に、ゼロが大宦官と話を付けており、ディートハルトが先行して上陸し、俺達の受け入れ準備を進めていた。

この島は、当面“合衆国日本”の国土となった。ゼロとして俺達と共にエリア11を追放されて来た日本人達は、ここに住居を構え生活する事になる。中華連邦の領土内なので、ブリタニアも迂闊に手出しは出来ない。

ディートハルトが事前に準備を進めていたので、軍備も一気に整った。インド軍区からも、大量のナイトメアが支給された。ラクシャータが手配した物だが、ここまで協力的なのは、本気で中華連邦から独立したがっているのかもしれない。更には、俺達の新しい母艦として、浮遊航空艦“斑鳩”が用意され、最終調整に入っていた。これには、ガウェインで使われていたフロートシステムが使われている。

更には、ブリタニアと対等に戦える国力を整えるため、中華連邦を抱き込む事も、ゼロとディートハルトは画策していた。

 

ところが、その出鼻を挫かれるような大事件が起こった。

中華連邦が、神聖ブリタニア帝国第一皇子オデュッセウスと、天子との婚姻を決めた。その婚礼の儀の招待状が、神楽耶様に届いたのだ。

「何?政略結婚?」

「ええ、皇コンツェルンを通して式の招待状が届いたのですけど……私を友人として招きたいと。」

と、神楽耶様。

「用意していた計画は間に合いません。まさか、大宦官が……」

「いや、ブリタニアの仕掛けだろう?」

ディートハルトの考えを、ゼロが訂正する。

「だとしたら、俺達は……」

俺は、その先は言葉にできなかった。もしブリタニアと中華連邦が手を結べば、やっと手に入れたこの蓬莱島も安住の地では無くなってしまう。

「最悪のケースだな。」

そう言って、ゼロは黙り込んでしまう。

「何心配してんだよ!俺達はブリタニアとは関係無いだろ!」

そこでまた玉城が、能天気な発言を始める。

「はあ?」

呆気に取られるカレン。

「国外追放されたんだからさ。」

「あの、罪が許された訳じゃ無いんですけど……」

「それに、政略結婚ですし……」

「中華連邦が、私達を攻撃して来る可能性だって……」

全く、本当に人類か?こいつ?オペレーターの女の子でさえ思い浮かぶような事を、全く考えられないとは……

「じゃあ何かよ?黒の騎士団は、結婚の結納品代わりか?」

「あら?うまい事言いますね?」

「使えない才能に満ち満ちてるな。」

呆れ顔の神楽耶様と、珍しく口を開いたかと思えば思いっきり皮肉を言うC.C.。

言われてみれば確かに、実務上何の役にも立たない事にばかりに才がある。お笑い芸人にでもなった方がいいんじゃないか?

「呑気こいてる場合か!大ピンチなんだぞ、これは!」

「だからさあ……」

ようやく事態を理解して吼える玉城に、ラクシャータも呆れる。

「それを話してるんだよ、今!」

俺の口調も荒くなる。

頼むから、今直ぐ何処かに消えてくれ!

「ゼロ、この裏には……」

「ああ、もうひとり居るな?険悪だった中華連邦との関係を一気に……こんな悪魔みたいな手を打った奴が。」

ディートハルトとゼロが、この婚礼の裏に黒幕がいる事を示唆する。

 

探りを入れるため、ゼロは神楽耶様の付添として婚約披露パーティーに出席した。一時一触即発の事態にもなったが、この政略結婚を仕組んだ張本人、神聖ブリタニア帝国第二皇子シュナイゼルの計らいで、その場は事無きを得た。しかし、婚礼の儀には、ゼロの参列は許可しない事を告げられた。

シュナイゼル、ゼロに勝るとも劣らぬ策士だ。かつで式根島でも、彼の計略でゼロは危機に陥った。ゼロも、この男に対しては過剰な程にライバル心を燃やしていた。

 

翌日、婚礼の儀は恙無く進行して行った。ゼロの参列を禁じられたため、神楽耶様はカレンひとりを付添に参列した。

が、突然、ある一団が式に乱入して来た。

『我は問う、天の声、地の叫び、人の心、何をもってこの婚姻を中華連邦の意思とするか?全ての人民を代表し、我はこの婚姻に意義を唱える!』

その一団を率いていた者こそ、総領事館で何度もゼロに手を貸してくれた男、黎星刻であった。彼は、かつて天子に命を救われた事が有り、以来天子に真の忠義を尽くしていた。元々大宦官達が私利私欲を貪る情勢に不満を持っており、クーデターを企てていたが、天子が意に沿わぬ政略結婚で悪政の道具に使われる事に激昂し、ここで行動を起こしたのだった。

しかし、彼の天子奪還は成功しなかった。何故なら、このような好機を、我らがリーダーゼロが見逃す筈が無いからだ。

真っ直ぐ天子に向かう星刻。その目の間で、天子の上にブリタニアと中華連邦の旗が覆い被さる。

『感謝する、星刻!君のお陰で、私も動き易くなった。』

旗が捲れ上がった後、天子の真横にゼロの姿があった。

『ゼロ、それはどういう意味だ?』

『動くな!』

ゼロは、天子に銃を突き付ける。

『黒の騎士団には、エリア11での貸しがあった筈だが?』

『だからこの婚礼は壊してやる。君達が望んだ通りに。但し、花嫁はこの私が貰い受ける。』

藤堂も新型の専用機“斬月”で応援に駆け付ける。カレンも千葉の運んで来た紅蓮可翔式に乗り込み援護して、まんまと天子の誘拐は成功した。

誘拐の目的は、中華連邦を合衆国中華として立て直し、合衆国日本との合衆国連合を造るためだ。まだ天子は幼いため、天子の説得役は、今迄友人として接して来た神楽耶様に任せることになった。

その後、中華連邦はゼロ達を追って軍を派遣して来た。しかし、これもゼロの読み通りで、待ち伏せしていた朝比奈率いるナイトメア部隊がそれを殲滅した。

無事作戦を終了したゼロ達は、斑鳩に帰還した。

 

ゼロが、ブリッジに上がって来て俺とディートハルトに尋ねる。

「蓬莱島の状況は?」

「インドからの援軍は、既に到着しています。」

「あとは帰って合流するだけだが、天子様の方は……」

その時、俺の言葉を遮るように、前方に閃光と砲撃音が響く。

「先行のナイトメア部隊が、破壊されていきます!」

「止まれ!全軍停止だ!」

オペレーターの報告に、俺はすかさず停止命令を出す。

モニターに、攻撃を仕掛け来た敵の姿が映し出される。それは、たった1機の青いナイトメアだった。が、その機体は、こちらの最新鋭機と同じ飛翔滑走翼を装備していた。

また、その機体を見たラクシャータが、驚いた顔をしている。

相手が1機と侮って突撃したこちらの3機が、あっという間に撃破される。更には飛翔滑走翼を装備した千葉の暁も、跳ね飛ばされてしまう。

『聞こえているか?ゼロ、ここは通さん!』

何と、追って来たのは星刻だった。

『さあ、天子様を返してもらおう。今ならば命までは……』

『星刻!』

そこに、カレンの紅蓮可翔式が戦闘を仕掛けた。

紅蓮の輻射破動に対して、星刻のナイトメアは胸部を開いて何かをしようとする。

「いけない!あれは……」

ラクシャータのチームのスタッフが、それを見て声を上げる

「知っているのか?」

「そ……その……」

ゼロの問い掛けに、口ごもるスタッフ。代わりに、ラクシャータが答える。

「作ったのはうちのチームだからね。」

「ラクシャータの?」

「紅蓮と同時期に作ったんだけど、ハイスペックを追求し過ぎてね、扱えるパイロットが居なかった孤高のナイトメア。それが、神虎よ。」

紅蓮の輻射破動砲に対して、神虎は天愕覇王荷電粒子重砲を放つ。その威力はほぼ互角で、凄まじいエネルギーが両者の中間で相殺された。

「それが何故、敵の手に渡っている?」

「インドも一枚岩では無い、という事でしょう。」

怒るゼロに、ディートハルトが他人事のように言う。

「弱点は無いのか?」

俺は、何やら小言を言っているラクシャータに問い掛ける。

「他のシリーズとは別の概念だからね、輻射機構は無いんだけど、あとはパイロットが居なかったって事くらい?」

「そんな……でも、今乗りこなしてる奴が居るじゃないか!」

「ねえ。」

“ねえ”じゃ無いだろ!どうすんだよ?

勝負は長引くかと思われたが、意外な形で決着は付いてしまう。補給無しで飛び出した紅蓮はエナジー切れになってしまい。神虎に捕らえられてしまう。ワイヤーで機体を絡め取られ、脱出も出来なくなってしまった。朝比奈と千葉が助けに向かうが、神虎は紅蓮のコックピット付近に剣を突き付ける。

『このような真似したくはないが、私には目的がある。』

そこに、中華連邦の援軍が掛け付け、カレンはそのまま連れ去られる。この事態に、ゼロがカレンに向かって叫ぶ。

「カレン!無線はまだ生きているか?」

『す……すみません、失態を……』

「そんな事はいい!諦めるな、必ず助けてやる。いいな、下手に動くな!」

『は……はいっ!分かっています、諦めません!これ……』

そこで、電波が乱れ、通信は途絶えた。

「斑鳩を回頭させるんだ!今直ぐ!」

俺の指示に対して、

「私は撤退を進言します!」

ディートハルトが異を唱える。

「何故です?カレンを取り戻さないと!」

「紅月カレンは一兵卒に過ぎません!」

「え?」

「見捨てろというのか?」

南も食って掛かる。

「南さん、これは選択です。中華連邦という国と、ひとりの命、比べるまでも無い。ここは兵力を温存し、インド軍との合流に供えるべきです。ゼロ、ご決断を!紅月隊長には、先程お掛けになった言葉で十分です。これ以上は変改“贔屓”と取られ、組織が崩れます。」

「し……しかし……」

カレンが唯の一兵卒だと?ふざけるな!カレンは、ナイトオブラウンズとも互角に闘えるパイロットだぞ!カレンひとりで、何人力に相当すると思ってるんだ?式根島の時に、“時として、ひとりの命は億の民より重い”と言ったのは貴様だろう!

「情けと判断は、分けるべきでは?大望を成すためには時に犠牲も必要です。」

しかし、ゼロの決定は、

「決着を付ける!全軍、反転せよ!」

「何故です?組織のためにも……」

「インド軍が、裏切っている可能性もある。」

「そ……それは……」

「千葉と朝比奈に赫奕の陣を引かせろ!星刻に教えてやれ、戦略と戦術の違いを!」

「あ……ああ!」

「ありがとう、ゼロ!」

俺と南が、嬉々としてこの指令に従う。

良かった。やはりゼロも、カレンの重要性を理解している。失うべきでは無い駒だと。

何より、あいつは親友ナオトの妹だ。俺にとっても妹も同然だ。見捨てる訳にはいかない。

だけど、ゼロがあそこまで取り乱すのは初めて見たな。それこそ、ナオトみたいに……ん?まさか?ナオトの魂がゼロに乗り移って、だからカレンも、あそこまでゼロを信頼して……って、そんな訳ないか。どうも、千草の件もあったから直ぐそんな事を考えてしまう。

 

星刻率いる中華連邦軍と、ゼロ率いる黒の騎士団。戦力を比較すると物量では中華連邦軍が勝るが、最新鋭のナイトメア暁を主力とするこちらの方が性能面では上。勝負はリーダーの戦略に委ねられた。

しかし、ゼロは星刻の力を甘く見ていた。彼は、枢木スザク並みの戦闘能力を持ち、ゼロ並みに戦略に長けた男だった。そして、何よりもこの中華連邦の地の利を熟知していた。

まんまと干害開拓地跡に誘い込まれ、運河の決壊によりその場は泥沼と化す。こちらのナイトメア隊の脚が止められてしまい、形勢は一気に劣勢となってしまう。

「ゼロ、私は進言しました。撤退だと!」

思わぬ緊急事態に、ディートハルトは再度撤退を訴える。

「いいだろう!動力部を護りつつ、後退する!」

流石にゼロも、後退を余儀無くされる。

「蓬莱島に戻っても……」

「分かっている!扇、例の場所は?」

「あ……ああ、一応、偵察と測量は済んでいるから……」

C.C.の言葉に、ゼロは俺にあらかじめ偵察を指示していた場所の事を聞いて来る。

天帝八十八陵、歴代の天子を祭る陵墓だが、今は大宦官の専横もあってかつての神聖さも消えかけ、過疎化して来ている。俺達は一旦その中に逃げ込んだ。

中華連邦にとっては聖地であるので、敵もこの場を破壊する訳にはいかない。俺達だけを攻撃する場合は、正面から参道に沿って来るしか無い。そうなれば、斑鳩のハドロン重砲の餌食となるので、篭城にはもってこいの場所だった。

 

ところが、中華連邦の大宦官達は、総攻撃で天帝八十八陵と天子諸共、俺達を葬ろうとして来た。更に、ブリタニア軍にも援軍を要請したのだ。シュナイゼルの率いるアバロンとナイトオブラウンズが、天帝八十八陵に迫る。

「大宦官は私達だけで無く、星刻までここで抹殺するつもりだな?」

C.C.の言葉通り、大宦官達は星刻達にまで攻撃を仕掛けて来た。

「ディートハルト、仕掛けの準備は?」

「な?ここでですか?」

「全て揃った、最高のステージじゃないか!」

中華連邦の航空戦力に対して、飛翔滑走翼を有するナイトメア部隊で応戦するが、流石に劣勢は免れない。徐々に天帝八十八陵も破壊され、斑鳩が丸裸にされていく。ここでゼロは、大宦官達に対して直接交渉を行った。

「どうしても攻撃を止めないつもりか?このままでは、天子も死ぬ!」

『天子などただのシステム。』

『代わりなどいくらでも居る。』

『取引材料にはならぬな!』

「貢物として、ブリタニアの爵位以上を用意しろと?」

『ほほ、耳聡いことを……』

『安い見返りだったよ、実に。』

「領土の割譲と、不平等条約の締結がか?」

『我々には関係無い。』

『そう、ブリタニアの貴族である我々には。』

「残された人民はどうなる?」

『ゼロ、君は道を歩く時、蟻を踏まないように気をつけて歩くのかえ?』

『尻を拭いた紙は捨てるだろう?それと同じだよ。』

「国を売り、主を捨て、民を裏切り、その果てに何を掴むつもりか?」

『驚きだな、ゼロがこんな理想主義者とは?』

『主や民など幾らでも沸いてくる。』

『虫のようにな?』

『おおっほっほっほっほっ!』

全く話にならない大宦官達。が、これこそがゼロの狙いだった。

その時、天子が戦いを止めさせようと、ひとりで甲板に出てしまった。それに気付いた大宦官達は、これ幸いとばかりに甲板に向けて一斉攻撃を仕掛けて来る。

星刻もこれに気付き、単身神虎で天子を護ろうとするが、とても防ぎきれない。

『誰か……誰でもいい、彼女を救ってくれ!』

星刻の悲痛な叫び、これに応えたのは、

『分かった、聞き届けよう、その願い。』

そこに、ゼロが駆る蜃気楼が姿を現す。

全方位エネルギーシールド・絶対守護領域で中華連邦の一斉攻撃を全て防いで、神虎と天子を護る。

「ナイトメアフレーム・蜃気楼、その絶対守護領域は、世界最高峰の防御力なのよお。」

ラクシャータが自慢げに解説する。

更に、胸部からの拡散構造相転移砲で敵を一掃する。

『哀れだな星刻、同国人に裏切られ、たったひとりの女も救えないとは。だが、これで分かった筈、お前が組むべき相手は私しかいないと。』

『だからといって、部下になる気は無い!』

『当たり前だろ?君は、国を率いる器だ!救わねばならない、天子も、貴行も、弱者たる中華連邦の人民全てを!』

『そのナイトメアで、この戦局を変えられると思っているのか?』

『いいや、戦局を左右するのは戦術では無く、戦略だ。』

その時、中華連邦の各地では、人民による反乱が勃発していた。先程のゼロと大宦官の会話を、俺達がネットにより全土に流していたのだ。

『そう、君のもうひとつの策略、クーデターに合わせた人民蜂起!』

『つまりは、援軍無き篭城戦では無い!』

「援軍は存在する。この大地の飢えた人民、全てが援軍!」

これこそがゼロとディートハルトが画策していた計画であり、事前に星刻達が仕込んでいたクーデター計画に便乗した物だった。

 

大宦官が既に、中華連邦の代表とは成り得ない事を悟ったシュナイゼルは、軍を引いてこの場は撤退した。

そして民衆の支持も、ブリタニアの後ろ盾も無くした大宦官達は、星刻の手により成敗された。しかし、カレンと紅蓮は、大宦官達によりブリタニア軍に引き渡されてしまった後だった……

 

全てが終わり、斑鳩の甲板で再会を果たす星刻と天子。それを見詰める、俺達黒の騎士団幹部。そこでディートハルトは、黒の騎士団の誰かと天子の政略結婚を進言するが、神楽耶様がこれに猛反発、珍しく、C.C.も神楽耶様に賛同する意見を述べる。

最初はディートハルトの進言に同意しそうだったゼロだが、一旦玉城に呼ばれて席を外した後、戻って来た時には180度考えを変えていた。

「天子よ!あなたの未来は、あなた自身の物だ!」

「流石ですわ、ゼロ様!」

神楽耶様が絶賛する。

「しかし、力関係をはっきりさせねば!」

と、未だに異を唱えるディートハルトに、

「力の源は心にある!大宦官達に対して決起した人々も、私達黒の騎士団も、心の力で戦ってきた!」

と説く。

「ああ……ああ、そうだな!」

俺は、この言葉に強く同意する。人情派で通しているから……

「心の……力?」

ディートハルトはまだ不満そうだ。正直、天子の事はどうでもいいが、ディートハルトの面子が潰れるのはいい気味だ。

「ゼロ、君という人間が、少しだけ分かった気がする。」

星刻が握手を求めてくる。ゼロは、これに応じる。

「進むべき道は険しいが……」

「だからこそ、明日という日は我らにある。」

しかし、何でゼロは急に考えを変えたのか?

おそらくゼロは、政略結婚の相手に玉城でも考えていたんだろう。こっちもそれなりの相手を立てなければならないから、少なくとも候補は幹部以上になる。かといって、手駒を中華連邦に取られるのは今後の計画に支障をきたす。居なくてもいい幹部となると、玉城くらいしか選択肢は無い。

だが、実際本人と話をしてみて、あんな馬鹿を出せば全てが台無しになると悟った。これ以上考えるのが馬鹿馬鹿しくなったんだろう。

おかげで、星刻に対するゼロの印象が非常に良くなった。この男を味方に引き込む事ができたのは大きいだろう。

 

中華連邦は事実上崩壊したが、それは逆に、大宦官による悪政から各国が“独立”したと言っても良かった。

 






原作のR2の9話でのニーナ。
カレンが“私は日本人よ”と言ったのに対し、“日本人?イレブンでしょ?”と、まるで日本人は人間では無いかのような言い方。それで泣き崩れるニーナを見て、スザクは“これも、ゼロが引き起こした悲劇”と心の中で言いますが、どこがゼロが引き起こした悲劇なんですか?
ニーナのこの異常性格と人種差別は、ブリタニアのせいでしょ?シャルルの強者絶対主義が、“ブリタニア人以外は人では無い”という考えを根付かせたんでしょうが。ブリタニアが引き起こした悲劇でしょ?何でもかんでもゼロのせいにすんじゃねーよ!
じゃあ、スザクの性格が捻じ曲がったのは、誰が引き起こした悲劇だ?

そもそも、スザクは何で大宦官に手を貸しているのか?
大宦官は、黒の騎士団諸共天子を亡き者にしようとしています。そんなの、戦況を見れば一目瞭然で分かります。更にナイトオブラウンズは、天子を護ろうとする星刻を妨害しています。これは、スザクにとって正義なんですか?人を死なせないために軍人になったんじゃ無いんですか?
日本人で無ければ、人が死のうがどうしようが構わないの?それとも、ゼロを倒すためには何人犠牲になっても構わないの?もう、偽善すら存在しなくなった……
そんな奴が、フレイヤぶっ放した程度でショック受けてんじゃねーよ!


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《 第十六話 ―― 再会 ―― 》

中華連邦が崩壊し、新たに合衆国中華が誕生します。
それに元EUも含めたブリタニアの侵略に反抗する勢力も加わり、徐々に合衆国連合が形になって行きます。
そんな中、扇の元にヴィレッタから連絡が……
彼女に会いに行こうとした扇は、ディートハルトから衝撃の事実を聞く事になります。




旧中華連邦が崩壊し、中国大陸は各地の軍閥が割拠する状態になっていた。その混乱を平定し、ブリタニアに対抗するため、黒の騎士団と星刻の率いる元中華連邦軍が中心になって動いていた。

反乱を起こす軍閥の鎮圧には、星刻や藤堂ら実動部隊が当たり、俺やディートハルトは賛同する軍閥と連日のように会議を行っていた。ゼロは、多忙のため主には会議には顔を出さず、俺やディートハルトを介して指示を出していた。

その各地の代表との会議中に、突然玉城が入って来た。

「何だ?会議中だぞ!」

「知るかよ!俺が呼ばれて無い会議なんてよ!」

突然、何を言い出すんだこの馬鹿は?黒の騎士団内の話し合いじゃ無いんだぞ!お前のその礼儀をわきまえない態度が、日本人全体の信用を落とす事になり兼ねない。そんな事も分からない馬鹿だから、こういう席に出られないんだろうが!

しかし、俺のそんな危惧もお構い無しで、玉城は俺に寄って来る。そして、耳元で囁く。

「ゼロから緊急通信だ。何か様子がおかしい。」

「え?」

俺は一旦席を外す。別な部屋に移動し、通信機でゼロに話し掛ける。

「ゼロ、扇だ。何かあったのか?緊急って?台湾の人達なら今……」

『お……扇……』

「?……その声は?ち……千草か?」

『……話がある。ふたりだけで、会えるか?……可能なら、私が中華連邦まで行く。』

話?いったい何を?

「ん?ああ、明日なら多分……」

「それでは……」

千草は、待ち合わせ場所を俺に告げて、通信を切った。

どういうつもりだ?この間もそうだが、何故今更俺と……いや、それもそうだが、何でこの回線を彼女が使える?これは、黒の騎士団員しか使えない筈だ……

 

翌日、俺は千草に会うため、こっそり蓬莱島を抜け出そうとする。

ところが、本部ビルを出ようとしたところで、ディートハルトに呼び止められる。

「副司令、何処へお出かけですか?」

「ん……いや、ちょっと……」

俺は、口を濁してそのまま行こうとするが、

「ヴィレッタ・ヌウ。」

と言われ、立ち止まってしまう。

「ブリタニア機密情報局、皇帝直属の組織の女指揮官。」

「ど……どうしてそれを?」

「咲世子が、彼女とあなたが会話しているところを目撃しています。」

「何?」

「ご存じでしたか?実は彼女は、あなたとの関係をブリタニアに伏せる条件で、今迄ゼロに協力していたんですよ。」

「な……何だと?じゃ……じゃあ、ゼロは、俺と千草の事を……」

「知っています。」

衝撃に、俺はその場に立ち尽くすだけだった。

 

中華連邦の千草に指定された場所で、岩に腰掛けて俺は彼女を待っていた。

待ちながら、ディートハルトに言われた事を考えていた。

ゼロは、俺が千草と関係していた事を知っていた。それでいて、あえて放置……いや、千草を利用するために、知らない振りをしていた。

ふっ、団員に対するフィルターとしてだけで無く、そんな事にも利用されていたのか俺は。こっちがゼロを利用しているつもりが、俺の方が遥かに便利に使われていたって事か?

だが、当然か……俺には、ゼロやディートハルトのような才覚は無い。騙し合いで、あいつらに適う筈が無い……

ディートハルトには、そのまま彼女をこちら側に寝返らせるように命じられた。もしそれが無理な場合は、始末しろと……だが、俺には千草を殺す事なんて……

考えているところに、千草が現れた。俺は立ち上がる。

「千草……」

「それは、私が記憶を無くしていた時の名前……本当の名前は、」

そう言いながら、彼女は俺に拳銃を向ける。

「……ヴィレッタ。」

彼女は何も言わず、俺を睨み付けている。

「でも、俺にとっては……」

「私はブリタニアの男爵、たとえどんな理由があろうと、イレブンとの汚点は消し去らなければ、この世界では生きては行けない。」

「はっ、そうだよな……どうせなら、日本で死にたかった。」

俺は、彼女から目を逸らす。

「殺されると知って、ここに来たのか?」

「死ぬ時くらいは、自分で選びたいから……」

これも嘘だ。ディートハルトが書いたシナリオだ……

「私を殺すという手だってある筈だ!そもそも、何故テロリストがブリタニア軍人を助けた?」

「最初は、ゼロの情報を聞き出そうと思った……君を騙して、監視して、でも、君と暮らす内に……」

もう駄目だ!これ以上は……

「私は敵だぞ!」

「でも、好きなんだ!」

もうシナリオは止めだ!

「馬鹿か、貴様は?」

「敵だけど、馬鹿みたいだけど……でも、君を好きになってしまったんだ!」

俺は彼女に向き直り、今の素直な気持ちをぶつけた。

「で……出会わなければ良かったんだ!」

彼女は、少し潤んだ目で、それでも銃口は俺に向けたまま叫ぶ。

こちら側に寝返らせろと言われたが……駄目だな……もう、彼女に嘘はつけない。千草の生まれ変わりのような、彼女には……

その時、千草の背後の木の上から物音がして、彼女は振り返る。俺も慌て木の上を見る。そこには、篠崎咲世子の姿があった。

「ちょ……諜報部の?」

ディートハルトめ、最初からこうなる事を読んでいたのか?

篠崎は、千草に襲い掛かる。彼女を始末するつもりだ。

「くっ!」

篠崎は、忍者のようにクナイを投げて千草を攻撃する。千草は、銃で応戦するが、それこそ忍者のように素早く動き回るので弾は当たらない。戦闘をしながら、ふたりは次々と場所を変えて行く。

「止めろ!止めてくれ、ふたりとも!頼むから!」

そう叫びながら、俺は後を追う。

千草は崖に追い込まれ、逃げ場が無くなってしまう。更に、銃弾も尽きてしまった。

「良い関係が築ければと思っていましたが、残念です!」

そこに、篠崎の放つクナイが彼女を襲う。

「止めろ!」

俺は、とっさにふたりの間に飛び込んで、彼女を庇って篠崎のクナイを体に受ける。

「うっ!」

一応、彼女に問答無用で発砲された時の用心に、防弾チョッキを着込んでいた。なので、クナイはちょっと肌を傷付けただけだったが、勢い良く飛び出したところに強い衝撃を受けたので、俺はそのまま崖から落ちてしまう。

「扇!」

何?!

何と、千草はとっさに崖から飛び降り、俺を庇うように抱き締める。

お……俺を、助けようというのか?千草……

そして、ふたりとも崖下の川に墜落して行く……

 

だが、俺達は助かった。崖下には、予めディートハルトが配置していた、諜報部の団員が居たからだ。

 

数日後、遂に中華連邦から独立した国々と、ブリタニアの植民エリアとなった亡命政権の賛同が得られ、“超合衆国”が設立される事となった。超合衆国憲章批准式典が、合衆国日本首都の蓬莱島で開かれる。

その式典の控え室に、俺はディートハルトに連れられ、遅れてやって来た。

「おお、やっと来たな。」

「こんな時に遅刻してる場合か?」

部屋に入るなり、南と杉山が寄って来る。

「いや……すまない。」

「扇、大した寝坊だな?」

藤堂も、声を掛けて来る。何か、後ろで千葉がむくれているみたいだが……

「遅れてすみません。実は……」

「急ぎましょう!今日は、歴史に残る日ですからね?」

ディートハルトが俺の肩を叩き、“余計な事は言うな”という目配りをする。

 

そして、超合衆国憲章批准式典は始まった。この様子は、メディアを通して、ブリタニア本土や植民エリアにも流された。当然、日本……エリア11にも。

参加47ヶ国全てが、合衆国憲章への批准を終え、超合衆国はここに成立した。そして、憲章内容が述べられた後、最後に超合衆国最高評議会議長の神楽耶様が話す。

「合衆国憲章第十七条、合衆国憲章を批准した国家は固有の軍事力を永久に放棄する。その上で、各合衆国の安全保障については、どの国家にも属さない戦闘集団、黒の騎士団と契約します!」

「契約、受諾した。我ら黒の騎士団は、超合衆国より資金や人員を供給してもらう。その代わり、我らは全ての合衆国を護る盾となり、外敵を制する剣となろう!」

神楽耶様の言葉に、ゼロが答える。

黒の騎士団も、ここに新たに組織が改変された。日本人だけでなく、中華連邦やそれぞれの賛同する国の兵達が加わり、ブリタニア軍にも引けを取らない大組織となった。

ゼロは最高責任者であるCEOとなり、総司令に星刻、俺は事務総長となった。ナンバー2の座は星刻となるが、藤堂、ディートハルト、ラクシャータ達と共に今後も首脳部という位置付けになる。

「それぞれの国が、武力を持つのは騒乱の元。超合衆国では最高評議会の議決によってのみ、軍事力を行使します。」

天子の言葉に続き、再び神楽耶様が話す。

「それでは、私から最初の動議を。我が合衆国日本の国土は、他国により蹂躙され不当な占領を受け続けています。黒の騎士団の派遣を要請したいと考えますが、賛成の方は、ご起立を!」

式典に参加した、全ての国の代表が起立した。

「賛成多数、よって、超合衆国決議第一号として、黒の騎士団の日本解放を要請します!」

「いいでしょう、超合衆国決議第一号、進軍目標は、日本!」

ゼロは右手を高々と上げ、その手を日本の方角に向けて言う。

「取り戻す、我々の日本を!」

藤堂が、決意を言葉にする。

「これでカレンちゃんも……」

「あ……ああ、そうだな。」

ラクシャータに言われて、ずっと上の空だった俺は慌てて答える。

その時、突然モニターの画面が乱れ、直後に、ブリタニア皇帝シャルルの姿が映し出された。

『ゼロよ!』

電波ジャックされたのだ。

「予備ラインを使え!接続を切るんだ!」

『だめです!予備も抑えられています!』

ディートハルトは接続を切ろうとするが、ハッキングは解除できなかった。

『ゼロよ、それでわしを出し抜いたつもりか?だが、悪くない。3局のひとつEUは既に死に体。つまり貴様の造った小賢しい憲章が世界をブリタニアとそうでないものに色分けする。単純、それ故に明解、畢竟この戦いを制した側が、世界を手に入れるということ。いいだろうゼロ、挑んで来るが良い。全てを得るか、全てを失うか、戦いとは元来そういうものだ。オールハイル、ブリターニア!』

ゼロは、うろたえているのか、何も言わない。シャルル皇帝の呼称を、ブリタニア軍兵士達が復唱しているのが聞こえて来るようだ。

「日本万歳!」

これに対抗して、藤堂が叫ぶ。

この呼称を、黒の騎士団全団員が復唱する。

ここに、ブリタニア軍と黒の騎士団の、全面戦争の幕が切って落とされた。

 

まずは、総司令の星刻の指揮で、竜胆を母艦として主力部隊がカゴシマ租界へ進軍した。

これを陽動として、斑鳩を母艦とした俺達別働隊は、海底深く潜行して東京湾に向かっていた。

その進行中、俺はディートハルトに呼び出され、ふたりだけで話をしていた。

「全く……咲世子も、彼女を殺すつもりではありませんでした。動きを封じて捕縛するように命じてありました。」

「だが、俺には“始末しろ”と……」

「そう言われても、あなたには始末できないでしょう?」

「ちっ……」

全てお見通しか、嫌な奴だ……

モニターには拘束されて、ベットに横たわる千草の姿が映し出されている。今度は、俺に言う事を聞かせるための人質という訳か?

「それで、俺を脅して何をさせるつもりだ?」

「脅し?いえいえ、今まで通り、黒の騎士団の一員として働いて頂きたいのです。」

「どういう意味だ?」

「私は、ゼロの邪魔をしないで欲しいだけなのですよ。」

「だったら、俺を追い出せばいいんじゃないのか?」

「とんでも無い、あなたには、このまま事務総長を続けて頂かないと。」

「何故だ?俺の代わりなんていくらでも……」

「あなたの存在は、平凡であるからこそ価値がある。」

「ああん?」

「組織というものは、太陽ばかりでは立ち行かぬものです。」

ふん!面と向かって無能だと言われているのと同じだ。まあ、その通りだから仕方が無いが、どうにもこの言い方には腹が立つ。

「ゼロがそう言ったのか?」

「いいえ、これは私の見解です。」

ふん、本当に嫌な奴だ……

 

カゴシマ租界では、ナイトオブワンとナイトオブテンを相手に、星刻は苦戦を強いられていた。そこで、ようやくゼロが動き出す。東京租界に単身蜃気楼で向かったゼロは、予め仕込んでおいたゲフィオンディスターバーで都市機能を完全に停止させる。

『よし、条件はクリアされた。藤堂!』

『承知した!7号作戦開始!』

ゼロからの連絡で、藤堂が指示を出す。

『斑鳩浮上!』

艦長の南が命令する。

斑鳩は、一気に浮上しそのまま大空に舞い上がる。

俺達も、個室を出てブリッジに向かう。

「扇さん、今は……」

「分かっています!」

ディートハルトが釘を刺して来る。言われなくとも、千草を人質に取られていては逆らえる訳が無い。今迄通り、お飾りの副司令……今は事務総長か?続けてやるよ!

「本艦隊は、このまま東京湾を抜け、東京租界に突入、ゼロと合流する!」

斑鳩は、小型可翔艦を引き連れ、東京租界に到達した。

『黒の騎士団、斑鳩艦隊に告げる。ゲフィオンディスターバーによって、東京租界のライフライン、通信網、そして第5世代以前のナイトメアは機能を停止した。敵の戦力は半減している。各主要施設を叩き、東京租界の戦闘継続能力を奪い取れ!シュナイゼル率いる、主力部隊が到着するまでが勝負となる。防衛線を敷きつつ、ブリタニア政庁を孤立させろ!ナナリー総督を抑えれば、我が軍の勝利だ!』

ゼロの指令で、ナイトメア隊が一気に攻め込む。藤堂も出撃したので、斑鳩の指揮は俺に代わる。だが、出撃したナイトメア隊の中に、何故かジェレミアが居た。

「……それよりも教えて欲しいのは、何でジェレミアが仲間になってんのかって事よ。」

ラクシャータも、疑問を口にする。俺にも、さっぱり訳が分からない。

こちらの策が嵌ったかと思われたが、シュナイゼルは東京決戦を読んでいた。思わぬ抵抗を受け、思うように戦局は進まない。

更には、

「蜃気楼、通信不能!」

「ゼロが?」

「ナイトオブシックスと、交戦状態に入ったようです!」

「橋本隊への指示はどうしますか?」

「九十九里の供えもありますが?」

「ああ……ええと……」

ゼロに通信できないため、皆俺に指示を仰ぐ。しかし俺には、即座に戦況を判断して、的確な指示を出す事などできない。

「橋本の連絡は俺に回せ!」

さり気無く、南がフォローしてくれる。こういう時、昔からの仲間は助かる。

「杉山、ゼロの援護として動ける部隊は?」

俺は、まずゼロを援護するしかないと杉山に問う。

「それが、玉城しか……」

な……何だって?それじゃ、援軍にも何にもならないじゃないか?ど……どうすればいい?駄目だ、何も思い浮かばない。せめて、C.C.でも居てくれれば……

あらためて、自分の無能さを思い知らされた。仕方無く、俺は玉城にゼロの援護を指示した。

そうしている内にゲフィオンディスターバーが破壊され、租界の都市機能が復活してしまう。これで、戦力的には立場が逆転してしまった。

ゼロは、何とかナイトオブシックスからは逃れられたようだが、今度は、カゴシマから掛け付けたナイトオブテンの部隊に捕まっていた。

「大変です!太平洋上に、新たな敵影が!」

「何?また、ナイトオブラウンズか?」

「いえ……これは、ブリタニア皇帝の旗艦です!」

「な……何だって?し……蜃気楼との通信は回復したか?」

「は……はい!」

「直ぐに、ゼロに繋ぐんだ!」

「ゼロ!聞こえますか?ゼロ!」

『こちらの援軍はどうなった?』

「間も無く玉城さんが……それより、太平洋上に敵影です!」

『それがどうした?』

「ゼロ、俺だ。敵影の正体は、ブリタニア皇帝の旗艦らしいんだが?」

『何?奴が……』

まずい、この状況で、ブリタニア皇帝まで加わったら……

ようやく玉城がゼロの援護に到着したが、思った通り瞬殺された。何の役にも立たない、もう万事休すかと思われた時、ゼロを捕らえていたナイトオブテンの取り巻きナイトメアが一瞬で撃破され、蜃気楼の前に紅蓮の姿が……

『ゼロ!親衛隊隊長紅月カレン、只今をもって、戦線に復帰しました!』

篠崎達の潜入部隊が、カレンを救出したのだ。何故かパワーアップされている紅蓮に乗って、カレンが応援に駈け付けた。

「プリン伯爵と、あれはセシルのエナジーウイングか?あいつら勝手にあたしの紅蓮を!」

それまで、やる気無さそうに寝転がっていたラクシャータが、立ち上がって不満をぶちまける。

「しかし、これでカレンが戻って来られた訳だし……」

正直言って、これ程頼りになる援軍は居ない!玉城など、百人集まっても足元にも及ばない。味方の士気も一気に上がった。

それだけでは無い、ラクシャータは文句を言ったが、改造された紅蓮の性能は第7世代ナイトメアのみならず、ナイトオブラウンズの機体すらも凌駕する究極のナイトメアと化していた。その上、扱うのはラウンズ級の腕前のカレン。もう、今の紅蓮に戦場で敵は無かった。瞬く間にナイトオブテンを撃破、枢木スザクのランスロットをも圧倒した。

その時、

「艦内第4居合区画にて、爆発反応あり!」

「え?」

オペレータの声に、俺ははっとする。まさか、千草か?

 

カレンの紅蓮が、とうとうランスロットを追い詰めた。勝負は決まったと思ったその時、ランスロットが背中に隠していた銃を取り出し、一発の砲弾を放った。それは、直ぐには爆発せず、租界上空で激しい輝きを放ち燻っている。それを見たブリタニア軍が、突然戦場から避難を始めた。

「何かまずい、斑鳩を最大船速で後退させろ!」

こちらも、全軍に撤退命令を出す。

すると、その光は一気に広がり、東京租界全体を包み込んだ……

 





咲世子の上官でもあるディートハルトが、ヴィレッタの事を知らないというのはおかしいと思います。そして知っていれば、扇との関係も知っている筈。なので、原作とは展開を変えました。扇はヴィレッタに殺されに行ったんでは無く、ディートハルトの命令で完全に寝返らせるために行ったんです。ただ、扇を信用していないディートハルトは、ちゃんと手を回していました。だから、崖下に落ちたふたりも無事だったのです。
斑鳩での扇とディートハルトの会話も、原作のままだと何かうまく繋がらないので、少し会話を継ぎ足しました。

ところで、C.C.やV.V.が不死身なのは分かりますが、咲世子さんも何気に不死身っぽく無いですか?
ジェレミアに背中から切られて、地下の機密情報部のアジトではかなり重傷そうで、点滴までされてました。しかし、その直ぐ後にロロと一緒にルルーシュのところに向かってるし、翌日にはピンピンして蓬莱島でディートハルトの指令を受けてます。そしてそのまま、中華連邦の山中でヴィレッタとバトル……ひょっとして、咲世子さんコード保持者だったんですか?

最後に、今回も関係無い話です。
ジェレミアのギアスキャンセラーについて、ちょっと疑問があります。
これは、ギアス能力者が発動させているギアスを打ち消すのと、命令・記憶の改竄を無効にするんですが、過去の完了した命令に対してはどうなんでしょうか?
例えば、ルルーシュはカレンにギアスを掛けて新宿の事を聞きましたが、それはそこで完了してます。そのカレンにギアスキャンセラーを掛けたら?無効にするものは、もう何も無いんですが……まさか、ルルーシュがカレンにギアスを掛けた過去が“無かったこと”になるんですかね?
それと、もしマオとジェレミアが対峙したら?マオのギアスはオフにできないから、常時発動します。それを自動的にキャンセルするとなると、ギアスキャンセラーはずっと稼動し続けなければならなくなります。オーバーヒートしてしまわないですかね?
もうひとつ。ジェレミアは最後にアーニャにギアスキャンセラーを掛けましたが、もし、マリアンヌがまだ中に居る時に掛けてたらどうなったでしょうか?自らの力で、マリアンヌを消滅させていたでしょう。そうなったら、ジェレミアは完全に壊れて、二度と再生できなくなったでしょうね。


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《 第十七話 ―― 豹変 ―― 》

いよいよ、『裏切り』です。
そもそも、この話を書きたくてこの二次創作を始めたんですが、書いている内にだんだん扇がそれ程“鬼畜”でも無くなって来てしまっていました。
しかし、この話では完全に“冷徹な悪役”に変貌します。




 

フレイヤの爆発で、現場は敵味方共々混乱していた。ゼロも異常な程取り乱し、“ナナリーを捜せ!”を連呼するだけだ。

俺は、現場はそっちのけで、斑鳩内を滑走路に向かって走っていた。

いつの間にか、ディートハルトがブリッジから消えていた。逃げ出した千草を追って行ったに違い無い!下手をすれば、千草が殺されてしまう。

「逃亡者は、左滑走路なんだな?」

『待って下さい、それより軍の再編成を……』

インカムから、オペレータが俺に指示を仰いで来る。

「分かっている、直ぐ戻るから!」

「扇、」

急に呼ばれて振り返ると、

「千草?」

千草が、開けたドアにも垂れかかるようにして、こちらを見ている。

逃亡者って、千草の事じゃ無かったのか?なら、ディートハルトに見つかる前に船外に……

「話がある……ゼロの事だ。」

「何?」

他の者に聞かれるとまずいのと、何より彼女の姿を他の団員に見られるのもまずいので、俺達は一旦、千草が監禁されていた部屋の中に入りカギを掛ける。

相変わらず、インカムでオペレータが俺に指示を仰いで来る。しかし、今はこっちの方が重要なので、俺をインカムを外す。

「そ……それで?」

俺は、話の続きを聞く。

「あ……ああ、ゼロの正体は、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、神聖ブリタニア帝国の第十一皇子だ。」

「な……何だって?」

ブリタニア人だとは思っていたが、まさか、皇族だったとは……

「彼は、幼い頃に妹であるナナリー総督と共に、外交の道具として日本に送られた。その後、第二次太平洋戦争が勃発したため、その戦争で亡くなったとされていた。」

早い話が、捨てられた訳か。彼がブリタニアに強い憎しみを抱いているのは、そのためか?

「それから、ルルーシュは“ギアス”という特殊な力を持っている。」

「ギアス?」

「私も、詳しい事は知らないが、コード保持者と契約する事により得られる、人知を超えた力だ。」

「コード保持者?」

「これも良く知らないのだが、ルルーシュのギアスはC.C.により与えられたものだ。」

「何?」

そうか、それで、C.C.は常にゼロの傍らに居たのか?

「ギアスの能力は、人によって異なる。ルルーシュのギアスは、“絶対遵守の力”。どのような者にも、絶対に逆らう事のできない命令を下す事ができる。」

「な……何だと?じゃあ、“死ね”と命令されたら、その者は自殺するのか?」

「そうだ!」

し……信じられん!そんな力が、この世に存在するのか?

「私も、一度ギアスに掛けられている。シンジュク事変の時、それでサザーランドを奪われた。」

そうか、あの時、ゼロは何処から手に入れたのか、大量のナイトメアを俺達に渡した。あれにはそういうカラクリがあったのか?

「ギアスに掛けられた時は、何故か記憶の喪失が起こる。操られている間の事は、何も覚えていない……」

まさか、俺達もギアスに掛けられて……いや、待て。それは無い。奴は、俺達を信じさせるために、何かと奇跡を起こして見せた。俺達を思うままに操りたいなら、そんな回りくどい事をする必要は無い。“私の命令に従え”とでもギアスを掛ければいい。だいたい、千草の言う“記憶の喪失”は俺は体験していない。元々俺はゼロの言いなりになっていたから、ギアスを使う必要も無かっただろう。

奴の戦略には、有効に活用しただろうがな。あの頭脳にそのような力が加わるのであれば、正に鬼に金棒だ。

「ジェレミアが仲間になったのも、ギアスで操られているのか?」

「いや、それは違う。」

「ん?何故、そう言い切れるんだ?」

「ジェレミア卿は、元々ギアス教団が、ルルーシュを始末するために派遣した刺客だった。教団でサイボーグにされ、ギアスを無効にする力を持っている。」

ギアス教団?サイボーグ?何か、どんどん化け物染みて来てるぞ。

「じゃあ、何でジェレミアはゼロに従う?元々、彼はゼロのせいで軍を追われたんだろ?」

「それは、私にも分からん。ただ、ルルーシュは反逆者とはいえブリタニアの元皇子だ。ジェレミア卿は、皇族への忠義に最も厚い方だったから……」

皇子としてのルルーシュに、忠義を尽くしているという事か?

ん?待てよ……

「そう言えば、さっき“妹のナナリー総督”と言ってなかったか?」

「ああ、ナナリー総督はルルーシュの実の妹だ。ブラックリベリオン以前は、ふたりはアッシュフォード学園内に一緒に住んでいた。その身の回りの世話をしていたのが、篠崎咲世子だ。」

「な……」

それで分かった。さっきのゼロの取り乱しよう、以前ナナリー総督を誘拐しようとした事、全ては、妹のため……奴の、ゼロの弱点は、妹のナナリーか?

ふっ……妹が弱点とは、どこまで似てるんだナオトに……千草といい、ナオトといい、俺の親しかった奴は、死んでも生まれ変わって関わって来るのか?

しかし、この事はまだ皆には秘密にしておいた方がいい。ゼロにそんな力があると分かると、皆、疑心暗鬼に駆られてゼロを信用出来なくなってしまう。

 

話が終わり、再びインカムを付けると南が俺に呼び掛けている。

「扇だ。」

『扇!何で全然出なかったんだ?今、何処に居る?』

「何だ?何をそんなに慌てている?」

『ブリタニアのシュナイゼル皇子が、和平交渉に来てんだよ!』

「何だって?」

 

俺は、急いで会議室に向かった。俺の代わりに玉城が出ているとの事だが、とんでもない!

あんな馬鹿に、交渉なんて出来る訳が無い!せっかくの交渉の場を、台無しにされるだけだ!

和平かどうかは定かでは無いが、交渉の役に立つかと思い、千草にも一緒に来てもらった。

会議室の前まで来ると、いきなり玉城の大声が聞こえて来る。

『何だと?』

『神聖ブリタニア帝国元第十一皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、私が最も愛し、恐れた男です。』

『ばかな?』

『ゼロが、ブリタニアの皇子様だって?』

何だ?ゼロの正体を暴露している?和平交渉じゃ無かったのか?

俺は、直ぐには中に入らず、しばらく扉の前で中の会話を聞いていた。

『……そのような戯言で、我らを混乱させようなど。我々はゼロを系譜では無く、起こした奇跡によって認めているのですから。』

『しかし、その奇跡が偽りだとしたらどうでしょう?』

『偽り?』

『ゼロには特別な力、ギアスがあります。人に命令を、強制する力です。強力な、催眠術と考えて貰えば……』

な……ギアスの事も……そうか、こうやって、俺達にゼロに不信感を持たせ、内部分裂を起こさせる気か?まずいな、やっとブリタニアと対等な戦力が整ったというのに、今組織がばらばらになるのは……

ギアスの事を知った以上、ディートハルト以外の幹部はゼロを信じられ無くなるだろう。俺が説得すれば、元のレジスタンスメンバーは何とかなるかもしれないが、それでも藤堂達は無理だ!どちらにしても、組織は分裂する……ならば、ゼロを切るか?

もう、黒の騎士団は、十分ブリタニア軍に対抗できる組織になった。ゼロが抜けても、軍師としては藤堂も星刻も居る。元々、利用価値が無くなれば切ると決めていた。今が、その時だ!

「扇?」

千草が、ずっと立ち止まっている俺を不審に思い、声を掛けて来る。

「あ……ああ、入るぞ。」

扉を開けると同時に、玉城の大声が飛び出して来る。

「皇子とか、ギアスとか、証拠はあんのかよ?証拠は?ああ~っ!」

「証拠ならある!」

その声に答えて、俺は会議室に入る。

「お……扇?」

「彼が言った通りだ。ゼロの正体は、ブリタニアの元皇子ルルーシュ。ギアスという力で人を操る、ペテン師だ!」

「ど……どこに、そんな証拠があるんだ?」

玉城が聞いて来る。

「証拠ではなくて、証人だ。彼女は、ゼロの正体を見ている。」

俺は、千草の方に顔を向けながら話す。

「そんな事言っても、そいつはブリタニアの女だろうが!」

「ブリタニア人では信じられないと言うなら、諜報部の篠崎咲世子も証人だ!彼女は、元々ルルーシュの家の使用人だ!」

「ま……マジかよ?」

「ゼロは、ずっと俺達を騙していたんだ。ずっと、俺達を駒として……」

ふん、今更俺が、自分の事を棚に上げて良くこんな事が言えたもんだ。つい、笑ってしまいそうだ。だが、ここは“いい人”の仮面は捨てないとな。今、この時だけは、本性を見せる時だ!

「何言ってんだよ、扇!」

「しかし、それが本当なら……」

「だからと言って、これまでのゼロの実績が否定されるものでは無い。それに、本当にギアスがあるのなら、頼もしいじゃありませんか?ブリタニアに対抗する強力な武器になる。」

ディートハルトは、千葉の言葉を遮って、立ち上がって力説する。

やはりこいつは、ギアスの事を知ってもゼロを支持する気だ。だが、こちらの意見が割れるのはまずい。ここは、あえて不信感を煽らせてもらう。

「その力が、敵に対してだけ使われるものならな?」

「何?」

「まさか?私達にも?」

「そうだ!奴は、実の妹のユーフェミアを操って、特区日本に集まったイレブンを虐殺させた!」

コーネリアが、口を挟む。

「どあほう!ゼロは正義の味方なんだよ!そんな事は……」

「証拠ならあります。」

玉城の叫びを遮って、シュナイゼルはボイスレコーダーを取り出し再生する。

『ルルーシュ、君がユフィにギアスを掛けたのか?』

『ああ。』

『日本人を、虐殺しろと、』

『俺が命じた!』

枢木と、ゼロの会話だ。

「では、あの虐殺は?」

「ゼロがやった事だ!我が妹では無い!」

こんな物まで用意していたのか?流石はシュナイゼル、抜かりが無い。

「ゼロが、日本人を殺せと?」

未だに、信じ難いという感じの藤堂。

「ニセものに決まってる!」

玉城は、まだゼロを信じている……いや、信じたいだけなのかも?

「こちらが、ギアスの掛けられた疑いのある、事件、人物です。」

シュナイゼルの側近の男が、藤堂の前にリストを差し出す。

「……あ?草壁……片瀬少将まで……」

ギアス被害者のリスト?草壁中佐はともかく、片瀬少将は無いだろ?ゼロは、片瀬少将とは面識は無いんだ。あれはギアスでは無く、船に爆弾を仕掛けただけだ。まあ、裏切り行為には違い無いがな。

「そんな?」

「クロビス、」

リストを見て、皆衝撃を受ける。

「私も掛けられている。」

千草も口を挟む。更に、シュナイゼルが、

「私だって、彼のギアスに操られていないという保証は無い。そう考えると、とても恐ろしい。」

よく言う……あんたがギアスに掛かっていたら、俺達はこんなに苦戦していない。もうとっくに、ブリタニアに勝っている。

「まさか?」

「俺達も?」

まあ、こいつらを疑心暗鬼にさせるには十分だがな。

「そしてもうひとつ、私達は事前に、フレイヤ弾頭の事をゼロに通告しました。無駄な争いを避けたかったからです。ランスロットに通信記録が残っています。しかし……」

「我らに伝えなかった……」

フレイヤの事前通告をした?それが何だ?

戦闘の真っ最中に、敵の攪乱戦術を真に受ける司令官が何処に居る?だいたい、その時点ではフレイヤがどんな物か、こっちは全く知らなかったんだぞ。それに、通告をして来たのは売国奴の枢木スザク。黒の騎士団の誰が、あんな裏切り者の戯言を信じると言うんだ?

だが、皆がゼロに強い疑念を持ってる段階で言えば、実に効果的だ。クソ真面目な藤堂は、これで余計にゼロが信用出来なくなってる。

もう一押しだな、悪いがゼロ、最後の芝居を打たせてもらう。

俺は、デスクに両手をついて、俯いて嘆く。

「俺は、彼を信じたかった。信じていたかった!でも俺達は、彼にとってただの……」

「駒だってのか?ちくしょう!ゼロの野郎よくも、ちくしょおおおおっ!」

俺の演技に乗って、とうとう玉城も折れる。

「皆さん、私の弟を、ゼロを引き渡して頂けますね?」

シュナイゼルが言って来る。その時、俺にある事が閃いた。

「条件があります!」

「取引できる状況だと思っているのか?」

反論仕掛けたコーネリアを、シュナイゼルが制する。

「聞きましょう。」

やはりこの男、ルルーシュに対しての執着が異常に強い。今なら、途方も無い交換条件でも呑んでくれそうだ。

利用し、利用されたのはお互い様だが、最後に、最大限に利用させてもらうぞ!ゼロ!

「日本を……返せ!」

室内が騒然とする。

「信じた仲間を裏切るんだ、せめて日本くらい取り返さなくては、俺は自分を許せない!」

少し考えて、シュナイゼルはゆっくりと答える。

「分かりました。即答はできませんが、前向きに検討しましょう。」

「お願いします。」

 

その後、黒の騎士団幹部だけで再度集まり。この後の事を話し合う。但し、カレンだけは呼ばなかった。カレンは、ゼロの秘密を知っている。その正体も、ギアスの事も知っている可能性があるからだ。

まずは、会議に出ていなかった者達に、ゼロの正体とギアスについて説明する。皆、酷く衝撃を受けていた。

「それで、どうやるんだ?扇?」

玉城が聞いて来る。

「4号倉庫に奴を呼び出して……射殺する。」

「何?」

「こ……殺すのか?仲間を?」

南と杉山が驚く。

「いや、奴は仲間では無い!私達を、利用していただけだ!」

千葉が、ゼロは仲間では無いと断言する。

「で……でも、シュナイゼルは引き渡せって……」

情けなさそうな声で、玉城が言って来る。

「“生きたままで”とは言っていない。」

「そ……そりゃあ、屁理屈じゃねえのか?」

「下手にギアスを使われると、こちらが抵抗出来なくなる。」

それもあるが、生かしておいて、万一報復されたら厄介だ。危険の芽は完全に摘み取ってしまう方がいい。

「……そうだな……」

「仕方ありません。」

藤堂も、ディートハルトも俺の提案に同意した。ディートハルトが素直に従ったのが、少し意外だった。

俺は、携帯を取り出してカレンに電話をする。

「カレン、済まないが、ゼロを4号倉庫まで連れて来てくれ。大至急だ。」

『は……はい、分かりました。』

 

俺達は、完全武装して4号倉庫に向かう。

シュナイゼルには、ゼロは射殺する事に決まったと告げる。彼は、あらかじめ予想していたのか、特に驚く様子も無く“分かりました”と答えるだけだった。

俺達は倉庫の2階のデッキに機関銃を持って並ぶ。1階には、ナイトメア隊も配備させた。

エレベータが到着して、扉が開く。カレンに続いて、ゼロが倉庫内に入って来る。

そこで、一斉にサーチライトをゼロに向けて照らす。

そして、藤堂が叫ぶ。

「観念しろ!ゼロ!」

「よくも我々をペテンに掛けてくれたな?」

「君のギアスの事は分かっているんだ!」

千葉と俺もそれに続く。

ゼロもカレンも、状況を理解するのに少し時間が掛かっているようで、立ち竦んでいる。そこに、1階のナイトメア隊の前でビデオカメラを回しながら、ディートハルトが語り出す。

「伝説の英雄ゼロは、志半ばにして戦死。しかし、その勇敢なる生き様は、永遠に語り継がれる事でしょう。」

「ディートハルト、それがお前の台本か?」

ようやく、ゼロが口を開く。

「本当なら、あなたがブリタニアに勝利するところまで撮りたかったのですが、残念ながら、番組は打ち切りです。」

2階からは、南と杉山もゼロに非難の声を浴びせる。

「皆お前を信じていたのに!」

「井上も、吉田も、お前の為に死んだんだ!」

そこに、カレンがゼロを庇って叫ぶ。

「待って!一方的過ぎるわ、こんなの!ゼロのお陰で、私達ここまで来られたんじゃない!彼の言い分も……」

「どけ!カレン!」

と、玉城。

「ゼロと一緒に死にたいのか?」

「まさか、ギアスに掛かっているんじゃ無いよな?」

杉山、南もこれに続く。

カレンは、何かゼロに話し掛けている。声が小さくて、こちらには聞こえない。しかし、ゼロは何も答えないので、カレンは叫びに近い声を出す。

「ねえ、お願い!答えて!」

「はははははは……馬鹿が、今頃気付いたのか?自分達が利用されている事に、貴様らは、駒に過ぎないという事に。」

そう言いながら、ゼロは仮面を外し、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの素顔を晒す。

初めてみる顔……いや、前に一度どこかで?そうか、アッシュフオード学園の学園祭の時に……

「ゼロ、君はやはり……」

「ゼロ~っ!」

また、玉城が情け無い声を上げる。

カレンは衝撃を受けている。ゼロ……いや、ルルーシュは、そのカレンに追い討ちを掛けるように言う。

「カレン、君はこの中でも特別優秀な駒だった。そう、全ては盤上の事、ゲームだったんだよ、これは。」

以外にも、ルルーシュは言い訳も何もせず、カレンをも突き放した。あまりにも、潔すぎないか?カレンを抱き込む事だってできただろうに……

カレンは項垂れ、ルルーシュに背中を向けて、ゆっくりと離れて行く。

もう、全て諦めたのか?それとも、こんな状況下でも、まだ逆転できる策があるのか?

「構え!」

藤堂が指示を出す。全員が、一斉にルルーシュに狙いを定める。

「撃てっ!」

一斉にルルーシュに銃撃を浴びせるが、一瞬早く、蜃気楼が現れてルルーシュを庇った。銃弾は、全て蜃気楼の装甲に防がれる。

『なっ?』

『大丈夫?兄さん?』

この声?中に乗っているのはロロか?

「構わん!蜃気楼ごと撃てっ!」

更なる藤堂の指令で、下に待機していたナイトメア隊が一斉に蜃気楼を狙う。

「待って~っ!」

叫ぶカレン。が、次の瞬間、俺達の目の前から蜃気楼は忽然と姿を消した。ルルーシュと共に……

「な?き……消えた?」

「蜃気楼が……」

いったいどういう事だ?これも、ギアスか?まさか、ロロの?

う……迂闊だった、ここでルルーシュを射殺する話をしていたのを、ロロに聞かれていたんだ!まずい、ここで彼を逃がしたら、どんな形で報復を受けるか……

ディートハルトが、直ぐに船外に居る部隊に指令を出す。

「各員に告げる、蜃気楼が奪取された!戦闘可能な部隊は、蜃気楼を破壊せよ!繰り返す、蜃気楼を破壊せよ!」

しかし、結局蜃気楼を破壊する事はできず、そのまま、姿を見失ってしまった……

 






『裏切り』の原作には、腑に落ちない点がいっぱいあります。
だいたいはこの話の中でツッコミを入れましたが、捕捉を少し。
まず、扇が入って来るタイミングが良すぎます。玉城の“証拠はあんのかよ?”の言葉に“証拠はある!”と後ろから部屋に入って来ますが、まるで今迄会議に参加してたかのように状況を理解しています。何で?
この会議は上層部だけで、内容は団員には伏せて行っている筈です。だから、居なかった扇は、何の話をしているか知っている訳がありません。傍から見れば、ブリタニアと和平交渉でもしてるのかと思うでしょう。そうでないと、扇がヴィレッタを連れて来た説明がつきません。わざわざ、自分が敵と内通している事を発表に来る馬鹿は居ません。
それで、あのタイミングで全てを理解して入って来たという事は、部屋の外でしばらく会話を聞いていたと思われます。それ以外にはあり得ません。
何で直ぐに入らなかったのか?それこそ、ゼロを見限るかどうかの判断をしていたんです。
しかし、扇は悪知恵は働いても、策を弄する事はできません。その能力が無いからです。ルルーシュを射殺する事だけに頭が行って、周りには目が届きません。倉庫にロロが居る事にも気付かずに、処刑準備を進めていたんでしょう。ロロがギアスを使える事は、ヴィレッタから聞いていたと思います。なのに何の対策も打たなかった……いや、打てなかった。所詮凡人ですから……
そもそも、カレンがゼロを庇って離れなかったらどうするつもりだったんでしょうか?
一緒に撃ち殺したんでしょうか?

次に、“駒”について。
皆、ゼロに駒扱いされていた事を怒っていますが、それって怒る事でしょうか?
普通、戦争において、兵士は指揮官の“駒”じゃないんですか?駒扱いを怒っていますが、じゃあ、どう扱えばいいんですか?VIP待遇ですか?指揮官が兵士に気を使ってたら、戦争には勝てませんよ。本編で誰かさんは“人間は駒じゃ無いんだ”って言ってましたが、戦場では人間だろうと“駒”です。辞書で“駒”を引いても“自分の勢力下にあって、意のままに操れる人や物”って書いてあります。

最後に、何でシュナイゼルは玉城の事を知ってるんでしょうか?
まさか、敵である組織の人間は一兵卒まで熟知してるって訳では無いでしょう。何の功績も残して無いので、ブリタニア軍の要注意人物リストに載っている筈は無いし、何の権力も無いので、利用できる要人とされている筈もありません。ゼロの正体を暴露して不審を抱かせるのには恰好の標的ですが、こんな突然思い付いた作戦のために、以前から玉城の情報を集めていた訳がありません。
“玉城真一郎、ゼロの最も古い同志であり歴戦の勇士と聞いています”
誰が言ったの?そんな事?黒の騎士団どころか、ブリタニア軍含めて、誰一人として口が裂けても言わないよ、そんな事。


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《 第十八話 ―― 裏切りの果てに ―― 》

黒の騎士団の内部分裂を防ぐためと、かつての報復も兼ね、ゼロを追放に追いやってしまった扇。
最初から決めていた事とはいえ、何とも言えない後味の悪さが残ります。
そんなところに、ディートハルトから、悪魔の囁きが……




 

「蜃気楼の現在地は?」

ディートハルトが、捜索部隊に問い合わせる。

『それが、未だ……』

「ブリタニアの協力も得られている。確認次第、全軍を挙げて蜃気楼を破壊するんだ!」

『分かりました!』

その後も捜索を続けたが、黒の騎士団もブリタニア軍も、蜃気楼を発見できなかった。

「仕方無い、ゼロの戦死を発表しましょう。」

両手を机に付き、ディートハルトが言う。

「まだルルーシュが見つかっていないのに?」

「既成事実にしようと言うのか?」

俺と、藤堂が問い掛ける。

「あのさあ、ゼロが裏切っていたってのは分かったんだけど、ギアスの事も発表するつもり?」

シートに寝そべりながら、ラクシャータが聞いて来る。

「私達がおかしくなったと思われ、放逐されるだけです。あり得ない!」

ディートハルトは、ギアスの事は伏せるつもりだ。ならば、ゼロの正体もこのまま伏せるつもりだろう。

「本物のゼロが出て来たら?」

との藤堂の問いに

「本物だとどうやって証明するのですか?」

「あ?」

俺は、はっとする。

「仮面の英雄など、所詮は記号。認める者が居なければ成り立ちません。」

そうか、だからゼロの正体も伏せる。幹部の俺達が認めなければ、今後ルルーシュが現れて何を言っても、それはゼロの名を語るニセ者でしかなくなる。

幹部の皆も同意し、ゼロは戦死と公式に発表する事となった。但し、神楽耶様や星刻には事実を伝えなければならないが。

 

話が終わり部屋に戻ろうとすると、部屋の前に千草が立っていた。

「千草……」

「扇……」

「コーネリア達と、一緒に戻らなかったのか?」

「……ど……どんな顔をして、戻れと言うんだ?私は、お前と……敵の幹部と内通していたんだぞ!ゼロに使われていた事は、ギアスのせいにすれば済むかもしれないが、そっちは、言い訳のしようが無い!」

「あ……ああ……」

「爵位は剥奪され、軍法会議に掛けられるだけだ!戻っても、もう私にブリタニア軍人としての未来は無い!」

「す……済まない……」

「だ……だから……」

「え?」

俯きながら、か細い声で彼女は続ける。

「せ……責任を取ってくれ……」

「あ……ああ、分かった!」

俺の言葉に彼女は、満面とはいかないが、優しい笑みを返してくれた。

 

その後、ブリタニアとは正式に停戦が成立し、細かい話はカゴシマから神楽耶様や星刻が戻ってから、改めて行う事になった。この事は、ゼロの件も含め、メディアで発表された。

『こちらは、KTテレビです。スタジオが無くなってしまったため、ここ、アッシュフォード学園臨時スタジオより緊急速報をお伝えします。先程シュナイゼル殿下は、黒の騎士団と停戦条約を結んだと、公式に発表しました。また、黒の騎士団からは、CEO“ゼロ”の死亡が発表されています。ゼロは東京租界での戦闘で負傷し、旗艦斑鳩内で治療を受けていましたが、本日未明、艦内で息を引き取ったとの事です。』

このニュースに、蓬莱島の合衆国日本の人々は大いに悲しんだ。

休息室で、かつてのレジスタンスメンバーだけで話をしているところに、公式発表を聞いたジェレミアから通信が入った。

『どういう事だ扇?ゼロが死亡したとは真なのか?』

「ああ、残念ながら公式発表の通りだ。」

『では、せめてお顔だけでも。』

「済まない、今は何かと立て込んでいて、この件は後で。」

そう言って、俺は通信を切った。

「本気なんですか?」

カレンが聞いて来る。

「黒の騎士団に、もうゼロは必要無い!」

そう、もうゼロが居なくても、俺達はブリタニアと十分戦える。何より、ゼロを切ったおかげで、今は停戦もできている。このままうまく和平にもって行ければ……

「あたし達、ゼロのおかげでここまでやって来たのに……こんな、使い捨てるような……」

俺は、戦死した吉田や井上の写真に合唱しながら、カレンに答える。

「皆を使い捨てたのはゼロの方だ!彼は、皆を騙していたんだ、ギアスなんて卑劣な力で!」

やはり、言っていて少し気が咎める。俺だって、皆を騙していたんだからな。だが、利用し、使い捨てるのはお互い様だ。この点は、彼に同情はできない。

「俺だってさ、親友だって思っていたんだよ。好きだったんだ、あいつの事が!」

玉城が吼える。しかし、親友だと思っているのはお前の方だけだろう。誰が、お前みたいな奴を親友だと思うのか?ゼロだって、お前の事なんか何とも思って無い。

「でも……」

杉山は、ゼロに同情気味だ。

「あいつは、ブラックリベリオンの時も、扇を使い捨てにしようとして……いや、それ以前からも。」

南は、ゼロを許せないようだな。

「そうだ!人は、皆は、ゲームの駒じゃ無いんだ。生きているんだよ!」

そう言いながら、何か、自分の言葉に矛盾を感じる。

そうだ、俺は自分達が駒扱いされていた事を知っていた。それを承知で、あいつを利用していた。じゃあ、俺も同類じゃ無いのか?間接的に、俺は皆を駒扱いしていたんじゃないのか?

「扇さん、少し宜しいですか?」

そこに、ディートハルトが入って来る。

「何ですか?」

「これからの事で、話があります。」

 

俺は、先日千草の件で脅された部屋で、ディートハルトとふたりだけで話す。

「いや、私はあなたを見くびっていたようです。感心しました。」

「ん?何の事ですか?」

「あなたの豹変ぶりには驚きました。とても、いつもの温和な事務総長と同一人物とは思えません。」

な……何を言っている?まさか?

「あれが、あなたの本性だったんですね?私も、まんまと騙されましたよ。」

「言っている意味が分かりませんが?」

「確かに、あそこでゼロを庇っても、組織が分裂するだけです。あなたの判断は正しい。」

こ……こいつ……

「あなたは、最初からゼロを信用していなかったんですね?自分達が、駒として使われているのも承知の上で、彼の力を利用していた。」

やめろ……

「そして、黒の騎士団がブリタニアに対抗できる組織になるのを待っていた。そうなった暁には、容赦無く彼を切るつもりで。」

もう、やめろ……

「そう、ブラックリベリオンの時、彼があなた達にしたように……」

「やめろっ!」

俺は、思わずディートハルトを殴り付けた。

「……ふふ……図星を突かれて、頭に来ましたか?」

俺は、ディートハルトを思い切り睨み付けた。だが、奴は話を止めない。

「残念ながら、ゼロはもう退場してしまいましたが、あなたがこの物語を引き継ぐ気はありませんか?」

「何?」

「ゼロをも謀った男、扇要が、今度はブリタニアを倒し、世界を手に入れるんです!」

「ほ……本気で言ってるのか?」

「確かに、あなたにはゼロのような才覚も、ギアスも無い。しかし、今迄培って来た人脈がある。ゼロよりも、友好的に他人を駒として使える。」

この言葉に、俺の中で何かが切れた。

「シナリオは私が書きます。戦略は星刻総司令、戦術は藤堂幕僚長も居ます。紅月隊長を、今度はあなたの親衛隊長に……」

「もう、やめろおおおおっ!」

俺は、無我夢中で奴を殴り付けていた。気付くと、奴はその場に蹲っていた。顔中腫れ上がって、口からは血を流している。

俺は、項垂れる奴に背を向け、部屋を出て行こうとする。

「……野望は無いんですか?」

奴は、掠れた声で俺に問い掛ける。

「あなたには……野望は無いんですか?……なら、なぜ……ゼロを利用した……」

「……俺は……ただ、平和に暮らしたいだけだ……」

「ふん……要は、強者の影に隠れるだけの……」

「……好きに取ってくれていい……」

「いいんですか?……私が、あなたの本性を……皆にばらしても……」

「ふん、お前の言う事など、誰が信じるんだ?お前の言った通り、俺には今迄培って来た人脈がある。それに、ここは合衆国日本。俺は日本人で、お前はブリタニア人だ!」

そこまで言って、俺は部屋を出て行った。

 

しばらくして、カゴシマから神楽耶様達がやって来た。ブリッジに通信が入る。

『扇か?洪古だ、着艦許可を頼みたい。天子様と、神楽耶様をお連れした。』

「あ……ああ、じゃあ、シュナイゼルの方にも連絡を取るから。」

ディートハルトは、仏頂面でこちらを睨み付けている。顔を腫らしている理由を周りに聞かれたが、“派手に転んだ”と言うだけだった。俺が言った通り、自分の味方がこの艦には居ない事が分かっているようだ。

ただ、俺に言った誘いを、他の幹部に唆す心配もある。しばらくは、目を離さない方が良いかもしれない。

 

シュナイゼルとも連絡を取り、シズオカ・ゲットー上空で停戦条約及び日本返還についての協議を始めた。

ブリタニア側は前回と同じく、シュナイゼル宰相、コーネリア第二皇女、カノン伯爵の3名。こちら側は、神楽耶様、天子様、星刻総司令、そして、俺とディートハルトだ。

しかし、開始早々、神根島に向かったブリタニア皇帝が、クーデターに合ったという情報が飛び込んで来る。その一方で、ゼロの身柄を受け取るために斑鳩に留まっていたナイトオブシックスが、突然何処かへ姿を消してしまった。

「モルドレッドとは、まだ連絡がつかないの?」

カノン伯爵の問いかけに、

『はい、目的地は、神根島かと。』

との報告が返って来る。

「とすると、先程の情報を受けて、皇帝陛下の元へ移動したのかな?」

そう言って、シュナイゼル宰相は立ち上がる。

「神楽耶様、申し訳ありません。これから、神根島に向かわなければなりませんので……」

「では、私達も参ります。」

この言葉に、皆はっとする。

「この状況下で、ブリタニア皇帝に刃を向ける人物に、私はひとりしか心当たりがありません!」

「私も同じです。」

神楽耶様の言葉に、同意する星刻。

「とすると、確認すべき点が幾つかありそうです。会談の続きは、この件が済んでからと致しましょう!」

涙目で、俺達を見ながら、神楽耶様は言う。

時間が無かったため、ゼロの正体と公式発表が嘘である事は、まだ神楽耶様達には話していなかった。この会談の席で、それも話すつもりだった。

 

結局会談は仕切り直しとなり、俺達はシュナイゼルと共に神根島に向かう事になった。

反乱鎮圧の為に、黒の騎士団も力を貸す事になり、戦闘可能な者はナイトメアで出撃する事になった。

黒の騎士団幹部には、反乱鎮圧以外にも、もうひとつ指令を出した。

そう、“ゼロの抹殺”を。

「ああ、俺はこれから、神楽耶様や星刻総司令に事情を説明する。理解を得られるか分からないが、ひとつだけはっきりしている事は……」

『分かってるよ!ゼロは、もう生きてちゃいけないんだろう。』

泣きながら、命令を受け入れる玉城。この時ばかりは、少しこいつが気の毒に思えた。

 

だが、俺達がゼロ……ルルーシュの姿を、神根島で見る事は無かった。

反乱は鎮圧されたが、ルルーシュ、C.C.、シャルル皇帝、枢木スザクは、この時を境に我々の前から忽然と姿を消してしまった。

 






蜃気楼の確認・破壊を指示するディートハルト。
“蜃気楼が奪取された!”
誰に?
“ブリタニアの協力も得られている”
え?じゃあ、第3勢力なの?相手はEUの亡霊ですか?
まさか、幹部以外にもゼロの正体ばらした訳じゃ無いでしょ?通信だけで説明できるとも思えないし……

ヴィレッタは、何と言って扇の所に留まったのか?
あのプライドの高い強気の性格で、素直に恋の告白をするとは思えません。その時だけ、記憶喪失時の性格に戻る訳もありません。
となると、照れ隠しでそれと無く伝わるような感じでやるでしょう。相手が玉城で無くて良かったです。玉城なら、こんな言い方じゃ絶対伝わりません!

扇が“皆を使い捨てたのはゼロの方だ!”と言っていますが、やられたらやり返すでは憎しみの連鎖は止まりません。ゼロに駒扱いされた事を怒っていますが、同じ事をした時点で、もう自分達もゼロと同類になっている事を分かっているんでしょうか?
もしここにオーブ首長国連合のカガリさんが居たら、こう言いそうです。
“駒扱いされたから、駒扱いして、それで最後は本当に平和になるのかよ!”

“扇も少しは変わったかと思ったが、やはりミスキャストか“
ディートハルトのこの言葉の意味を、ずっと考えていました。“ミスキャスト”と言っているという事は、扇をキャスティングしているという事です。何の話の?
それは当然、扇のストーリー。ゼロを、魔王をも欺いた男の物語です。
しかし、生涯ナンバー2主義の扇が受ける訳がありません。逆鱗に触れられ、怒ってディートハルトを殴りまくった。その結果が、あの顔です。

『ラグナレクの接続』での玉城のセリフ。
“分かってるよ!ゼロは、もう生きてちゃいけないんだろう”
思わず、“お前もな”と突っ込んでしまいそうですが、何で泣きながらこんな事言ってるのか?原作では語られていませんでしたが、神楽耶や星刻は、まだゼロの生存を信じています。既成事実を公表した事を説明はするでしょうが、その前に既成事実を真実にしてしまおうとしたんでしょう。
殆ど“暗殺”です。カレン以外はこの命令を受け入れているんですが、昔、ディートハルトがスザクを暗殺しようとした時、何て言いました?あなた達?


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《 第十九話 ―― 皇帝ルルーシュ ―― 》

遂に、ルルーシュがブリタニア皇帝となって、扇達の前に立ちはだかります。
そして、スザクが、ナイトオブゼロとして彼の右腕に……
かつて無い強敵を前に、黒の騎士団は……




神根島での反乱鎮圧後、神楽耶様と星刻にゼロの正体とギアスの事を説明した。神楽耶様は非常に衝撃を受けていたが、何とか俺達の措置への同意は得られた。

その後、シュナイゼル宰相と会談し、日本の返還について交渉を行った。

しかし、植民エリアの開放には皇帝陛下の承認が必要で、シャルル皇帝が居ない今、シュナイゼル宰相の権限で日本を開放する事はできない。生死不明なので、新たな皇帝を即位させる訳にもいかない。

そのような理由で、皇帝の消息がはっきりするまでの間は、エリア11を超合衆国と神聖ブリタニア帝国の中立地帯とする事になった。“日本”の名前は取り戻せないが、エリア11全体が“行政特区日本”と同等の扱いになる。ブリタニア人、日本人間の差別は無くなり。対等の立場での共存が可能となった。これにより、蓬莱島から帰って来る日本人も多く、逆に、ブリタニア本国に帰って行くブリタニア人も多かった。

この会談後、シュナイゼル宰相も何処かへ姿を隠してしまった。そして、ディートハルトも、シュナイゼル達に付いて行ってしまった。最も、彼は元々ブリタニア人なので、それを疑問に思う者も少なかった。

 

1ヶ月後、突然、シャルル皇帝が重大発表を行うとの報道がされた。

この様子は、帝都ペンドラゴン後宮より国際生中継で全世界に流された。黒の騎士団も、幹部全員斑鳩のブリッジに集まり、メインモニターでこの会見を見ていた。しかし、そこに現れたのは、シャルル皇帝では無かった。

「うそ……どうして?」

カレンが呟く。俺達も、驚いてただ佇むだけだった。

ステージに現れ、皇帝の玉座に腰を降ろしたのは、1ヶ月間消息不明だったルルーシュだった。

『私が、第99代ブリタニア皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです!』

後宮内は、騒然としている。そんな中、オデュッセウス第一皇子が、ルルーシュに歩み寄る。

『良かったよルルーシュ。ナナリーが見つかった時に、もしかしたらと思ったけど……しかし、いささか冗談が過ぎるんじゃないか?そこは、父上の……』

『第98代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアは私が殺した。よって、次の皇帝には私がなる!』

『何言ってんの?あり得ない!』

『あの痴れ者を排除しなさい!皇帝陛下を弑逆した大罪人です!』

ギネヴィア第一皇女の命令で、ブリタニア兵がルルーシュに迫る。しかし、颯爽と天井から舞い降りた人影が、兵達を一掃する。その人影は……

「スザク……どうして?」

動揺するカレン。

『紹介しよう。我が騎士、枢木スザク。彼には、ラウンズを超えるラウンズとして、ナイトオブゼロの称号を与える!』

「あの方と、スザクが?」

神楽耶様は、信じられないという顔で呟く。

オデュッセウス皇子が、再度ルル-シュとスザクに声を掛ける。

『いけないよ、ルルーシュ。枢木卿も、国際中継で、こんな悪ふざけを……』

『そうですか。では、分かり易くお話しましょう。』

ルルーシュは立ち上がり、右手を両目に翳す。そして、一言。

『我を認めよ!』

すると、今迄不満を述べていた皇族や貴族達が、一斉にルルーシュを認める。

『イエス・ユア・マジェスティ!』

『オール・ハイル・ルルーシュ!』

こ……これは?あれだけ、不満を募らせていた人々が、一瞬で……

これが、ギアスか?

 

ルルーシュ皇帝は歴代皇帝陵の破壊を強行し、貴族制度を廃止した。それにより、皇族も平民と同等の扱いを受け、事実上ブリタニア帝国内では身分の差は無くなった。更には財閥の解体、ナンバーズの開放も行い、そのお陰で、日本はその名を取り戻した。

 

「すっげえなあ、あいつ!」

ルルーシュ皇帝の大改革のニュースも見ながら、玉城が言う。

「完全にブリタニアを造りかえるつもりか?」

「“壊す”の間違いじゃないの?」

藤堂の言葉に、ラクシャータが茶々を入れる。

「ルルーシュの、ブリタニアに対する怒りは本物だった。」

改めて、それを再認識する。自分を捨てた、シャルル皇帝への恨みと思っていたが、ブリタニアの体制そのものを憎んでいたのか?

「逆らう勢力は、全て潰しているし。」

「超合衆国でも、ルルーシュ皇帝を支持するという声が殆どです。」

千葉と神楽耶様が言う。

「やっぱりあいつは、俺達の味方だったんだよ!」

玉城は、まだゼロを信じているようだ。

「民衆の、正義の味方という報道もありますし。」

という香凛の言葉に、

「報道といえば……ディートハルトは?」

と、杉山が聞いて来る。

「戻る気は無いんでしょ?」

「ああ、シュナイゼルやコーネリアと身を隠した以上……」

千葉、藤堂がそれに答える。

ある意味、俺が追い出したようなものかもしれない。ゼロが居なくなった今、彼の本当の理解者は黒の騎士団内には居ない……いや、彼の創作意欲を掻き立てる人物が居ないと言った方が良いか?

「それよりさあ、どうすんだよ、これから?」

玉城が聞いて来る。

「これからって?」

ラクシャータが聞き返す。

「だってよ、ブリタニアの皇帝がいい事やってんだからさあ……」

「それは……」

神楽耶様が、何か言い掛けたところで、

「いいや、違う!」

『え?』

星刻が玉城の意見を否定する。その言葉に、皆、彼の方を振り向く。

「そうだな。」

藤堂は、既に分かっているかのように頷く。

「ルルーシュ皇帝の、いや、ゼロの目的は、世界の実権を握る事だ!」

『ええっ?』

皆、驚きの声を上げる。

一件、ブリタニアの悪政を正しているかのようなルルーシュの行動を、世界制覇のためだと言い切った。星刻には、ルルーシュの企みが見えているのか?

 

そんな中、今迄沈黙していたナイトオブラウンズが、ルルーシュ皇帝に対し反乱を起こした。ナイトオブワンを中心に、4人のラウンズが配下を引き連れて帝都ペンドラゴンを襲った。自分達はシャルル皇帝の配下であり、ルルーシュ皇帝を認めないと。

それを迎え撃ったのは、ナイトオブゼロ、枢木スザクひとりだった。この様子は、全世界に中継で流された。

並居る強敵を、圧倒的力で撃破していくランスロット・アルビオン。紅蓮聖天八極式と同じ第九世代ナイトメアの前に、ナイトオブラウンズとはいえそれ以前の機体はもはや敵では無かった。そして、ナイトオブワンまでも、スザクの前に敗れ去った。

『全世界に告げる!今の映像で名実共に、私がブリタニアの支配者とお分かり頂けたと思う。』

この映像に合わせて、ルルーシュ皇帝は語り出す。

『その上で、我が神聖ブリタニア帝国は、超合衆国への参加を表明する!』

『な?』

「それって?」

「ブリタニアが、仲間になる?」

ラクシャータに続いて、俺も驚きの言葉を放つ。

「ほら見ろ!やっぱりあいつは、俺達の味方だ!」

玉城が、またゼロ寄りの発言をする。

『交渉には、枢木スザクを始めとする武官は立ち合せない。全て超合衆国のルールに従おう。但し、交渉の舞台は、現在ブリタニアと超合衆国の中立地帯となっている、日本、アッシュフォード学園を指定させて頂こう!』

これで、中継が切れる。

「やはりな、超合衆国への加盟を求めて来た。」

星刻が言う。

「どういう事だ?」

俺は聞く。

「超合衆国の決議は、何で決まる?」

『あっ?』

ほぼ全員が、はっとする。そうか、ルルーシュの狙いは……

 

そして、交渉当日、皇帝専用機でルルーシュ皇帝がアッシュフォード学園に到着する。超合衆国の要人が集まっているのと、ルルーシュ皇帝が“武官は立ち合せない”と宣言した事もあり、アッシュフォード学園内部は黒の騎士団の団員が警護していた。

学園の外には民衆が集まり、ルルーシュ皇帝に声援を送っている。悪政を正しているだけあって、かなりの人気だ。

案内役のカレンが、ルルーシュと対峙する。俺達は、斑鳩のブリッジでその様子を監視していた。

「ゼロは……ルルーシュは、ここで何か仕込むつもりか?」

「無理だ!机上のシステムは全て停止させたし……」

おれの疑念を、千草が否定する。

「警護の者達には、ゴーグルの着用を徹底させてある。ギアス対策は問題無い。」

「紅月からは、自分がギアスに掛かっていると思われる場合は、狙撃して欲しいとの申し出も受けている。」

洪古と千葉も、ギアスによる仕込みはできないと断言する。

「心配しすぎだろ?あいつは、仲間になりに来たんだからよ!」

と、また玉城が、何も考えていないかのような発言をする。

こいつ、神刻の話を聞いて無かったのか?いつまでそんな事を言ってるんだ?

カレンとルルーシュは、遠回りをして最高評議会会場に向かう。カレンは盛んにルルーシュに問い掛けているが、ルルーシュは何も答えない。痺れを切らしたカレンは、ルルーシュに口付けをする。見ているこっちは、思わず目を伏せる。しかし、それでもルルーシュは何も言わない。淋しそうにカレンは会場の場所を伝えて立ち去った。

ルルーシュは会場の体育館に到着し、最高評議会が開始される。

檀上に最高評議会議長の神楽耶様が立ち、床側の申請者席にルルーシュが立つ。その申請者席後方を、各国代表の席が囲む。

『超合衆国最高評議会議長、皇神楽耶殿、我が神聖ブリタニア帝国の超合衆国への加盟を認めて頂きたい。』

ルルーシュ皇帝が、神楽耶様に加盟の申請をする。

『各合衆国代表、2/3以上の賛成が必要だと分かっていますか?』

『もちろん、それが民主主義というものでしょう?』

『そうですね。』

そう言って、神楽耶様は卓上のスイッチを押す。すると、ルルーシュの周りに鋼鉄製の衝立が競り上がり、彼を遮蔽空間に閉じ込める。

『やはりこれは失礼では無いかな?』

『ブリタニアの悪業は、先代シャルル皇帝のせいかと。』

各国の代表は、この措置に異議を唱える。ギアスの事は余計な混乱を招くので、各国代表には伝えていない。理解を得るのは困難だが、ギアスを使われては元も子もないので仕方が無い。

衝立の中にはモニターとカメラが有り、神楽耶様と、斑鳩内の俺達の姿が、ルルーシュを囲むように映し出される。逆にルルーシュの姿は、中のカメラでこちらのモニターに映し出される。

『あなたの狙いは何ですか?悪逆皇帝ルルーシュ?』

まず、神楽耶様が切り出す。

『これは異な事を?今のブリタニアは、あなた達にとっても良い国では?』

「果たしてそうかな?超合衆国の決議は多数決によって決まる。」

と、星刻。

「この投票権は、各国の人口に比例している。」

と、藤堂。

「中華連邦が崩壊した今、世界最大の人口を誇る国家は……」

「ブリタニアだ。」

星刻の言葉に、俺が続く。

「ここで、ブリタニアが超合衆国に加盟すれば、」

「過半数の表を、ルルーシュ皇帝が持つ事になる。」

『つまり、超合衆国は事実上、あなたに乗っ取られてしまう事になるのでは?』

この神楽耶様の言葉に、

「そうか!やっぱりあいつは悪人か?」

と、やっと状況を理解する玉城。

「あなたって、本当にお馬鹿さんだったのね?」

「何だと!」

ラクシャータに馬鹿にされ、怒鳴る玉城。

俺はもう、こんな馬鹿は無視して話を続ける。

「どうなんだ?ルルーシュ皇帝?」

「違うと言うのなら、この場でブリタニアという国を割るか、投票権を人口比率の20%まで下げさせて頂きたい。」

しかし、俺や星刻に問い詰められても、ルルーシュは顔色ひとつ変えない。そして、

『神楽耶殿、ひとつ質問してもいいだろうか?』

『何でしょうか?』

『世界を統べる資格とは何ですか?』

『矜持です。人が人を統べるには。』

『いい答えだ。』

『え?』

『あなたはやはり優秀だ。しかし、私の答えは違う。』

『聞かせて頂けますか?』

『壊す覚悟!』

『壊す?』

『世界も、自分自身すらも!』

そう言って、ルルーシュは右手の人差し指を立てて天に翳す。

これを合図とばかりに、突然、体育館の天井を突き破り、ランスロットが会場に乱入した。

『皇帝陛下に対する無礼は許しません!』

ランスロットは、スーパーヴァリスを各国代表たちに向け、会場を占拠した。

「索敵班!何をしていた?」

藤堂が怒鳴る。

『申し訳ありません!海中からいきなり!』

やられた!俺達が多数決の事に気付くことなど、全部計算の内だったんだ!

「アッシュフォード学園に急げ!神楽耶様を救い出すんだ!」

と、艦長の南が指示を出すが、

「ブリタニア軍が、移動を開始しました!」

オペレーターが叫ぶ。

「何?」

「黄海から、日本の領海に入りつつあります!」

「ここで奇襲とは、」

驚く藤堂。

「超合衆国への加盟も、学園を指定したのも、全ては自分自身を囮とするため……」

「しかし、国際的な信用を裏切ってまで……」

俺は、星刻の言葉に異を唱えるが、

「いいえ、もはや信用などいらないという事でしょう。」

と周凛が言う。

「やっぱり、目的は独裁政治。」

「貴族性を廃止しながら、自らは皇帝を名乗り続けた男。」

ラクシャータ、藤堂に続き、星刻が決定的な言葉を口にする。

「そうだ、ゼロは、ルルーシュは世界の敵となった!」

校内に隠してあったナイトメアで、出撃しようとするカレン達を星刻が制止する。

「引け!ここは引くんだ紅月くん!」

『ルルーシュを倒すのは私です!それに、あのランスロットと闘えるのは紅蓮しか……』

「ここで戦闘になれば、各国代表も失う事になる。いきなり国の指導者が居なくなったら。」

『でも、天子様だって危ないのに!』

「分かっている!だが、相手はルルーシュだ。人質を殺す覚悟があってのこその行動。ここは、各国の判断を待たねば、超合衆国そのものが崩壊する。勝つのは、ブリタニアとなってしまう!」

衝立もカメラも破壊され、もう斑鳩からは、体育館内の様子は全く分からなくなってしまった。

「大変です!」

また、オペレーターが叫ぶ。

「今度は何だ?」

俺も、思わず叫んでしまう。

「て……帝都ペンドラゴンが、しょ……消滅しました!」

『なにいっ?!』

ブリッジの全員が、大声を上げる。

帝都消滅?そ……そんな事ができるのは……フレイヤ?

という事は……遂に、あの男が動き出したのか?

 





ルルーシュが、皇族や貴族達をギアスで従えるシーン。
ルルーシュやスザクの登場に、黒の騎士団が驚く場面はあったんですが、肝心のギアスを使うシーンのリアクションが無かった。話は聞いていても、その目で見た事は無かった筈です。何かリアクションが欲しかった。
伝説巨神イデオンのギジェ・ザラルの“これが、イデの、発現か……”みたいな。

原作では、アッシュフォード学園での交渉の場で、黒の騎士団幹部皆でゼロの目的を暴露していましたが、オープニングのところでは星刻以外は、皆ゼロの偽善行動に完全に騙されていました。(藤堂は違ってたかもしれませんが)“玉城だけが馬鹿”みたいに描かれていましたが、最初から見破っていたのは星刻だけです。
さすが星刻、ゼロに勝るとも劣らぬ戦略の才があります。でも、シュナイゼルの企みには全然気付いていませんでした。最後は、シュナイゼルの思い通りに駒として使われていました。所詮星刻も、世界を統べる器では無いか……


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《 最終話 ―― その命尽きるまで ―― 》

いよいよ、扇達黒の騎士団と、ゼロ……ルルーシュの最終決戦です。
しかし、善戦空しく扇達は敗北……
そして、扇は、再びルルーシュと対峙する事に。
今明かされる、扇首相誕生の秘密!これが、最終話です。




 

帝都ペンドラゴンを消失させたのは、やはりシュナイゼルの放ったフレイヤ弾頭だった。

シュナイゼルは、ルルーシュの妹ナナリーを真のブリタニア皇帝と祭り上げ、ルルーシュ皇帝を否定して来た。更には、天空要塞ダモクレスにフレイヤ弾頭を装備し、ルルーシュ皇帝に宣戦布告した。

俺達黒の騎士団も、ルルーシュ皇帝を全世界の敵と認識し、シュナイゼルとの共同戦線を申し入れた。

 

一夜明けて、決戦当日となった。

神聖ブリタニア帝国は帝都が消滅したために内政機能が麻痺、各エリアの軍隊も黒の騎士団と対峙しており下手に動けない。そのため、こちらと戦えるルルーシュ軍は、日本を再占領した部隊のみとなっていた。

「シュナイゼルが我々に合流した以上、彼我の戦力は伯仲している。フレイヤを使ったダモクレスを認める気は無いが、この場は世界がまとまる事を優先したい。この戦いが、世界を掛けた決戦となる!」

星刻総司令の号令と共に、シュナイゼル・黒の騎士団連合軍は進軍を開始する。

シュナイゼルからも、全体にメッセージが流される。

『ルルーシュは、世界の全てに悪意を振り撒く存在だ。平和の敵は、この地で討たねばならない。過去のしがらみは捨て、私達も、黒の騎士団も、ここは共に手を携えたい。世界中の人々が待っている。私達の凱歌を……そして願わくば、これが人類にとって、最後の戦争である事を祈りたい。』

そこに、オープンチャンネルでルルーシュからの通信が入る。

『ごきげんよう、シュナイゼル。』

『ルルーシュ、降伏するなら今の内だよ。こちらには、フレイヤの用意がある。』

『フィレイヤ?撃てるかな?あなたに。我が旗艦アヴァロンには、各合衆国の代表方が居られるが?』

そう言ってルルーシュは、アヴァロン内に閉じ込められている、神楽耶様を始めとする各合衆国代表達をモニターに映す。

「人質を盾とする気か?」

星刻が、怒りの声を上げる。

『シュナイゼル、あなたにとっては関係無い人達ではあるが……』

『そうだね、ルルーシュ。世界の平和と僅かな命……』

「撃つなよ!シュナイゼル!」

ルルーシュとシュナイゼルの会話に、星刻が割り込む。

『各合衆国では、代表代行が選出されたと聞きましたが?』

「いざという時の覚悟はある。しかし、だからと言って無駄にしていい命など存在しない!」

『ははははは……』

ルルーシュは、不適に笑う。

『黎星刻、我が方の戦力は、このダモクレス以外はモルドレッド1機のみ。フレイヤを使わないのであれば、この場は全体の指揮権を私に預けて欲しいが。』

「相手はルルーシュだ!」

『心配はいらないよ。私はね、一度だってルルーシュに負けた事は無いんだ。』

「分かった……」

星刻は、仕方無く指揮権をシュナイゼルに譲る。俺は、心配で星刻の方に振り返る。

「神虎を出す!全軍に、指揮系統を伝達してくれ!」

そう言って、星刻は神虎で出撃する。

ここに、ルルーシュ率いる神聖ブリタニア帝国軍と、シュナイゼル率いる黒の騎士団の最終決戦の幕が開いた。

だが、しばらくはお互い陣形を動かすだけの攻防が続く。そして、戦闘が開始されるや否や、一気に大激戦が展開される。だが、ルルーシュのギアスに操られているだけの兵士と、歴戦の黒の騎士団では戦術に大きな差があった。こちらが、徐々にルルーシュ軍を追い詰めていく。

『今かな?両翼を砕こう!』

シュナイゼルの指揮で、南が指示を出す。

「艦首拡散ハドロン重砲セット!」

「敵軍、両翼に向けて発射!」

斑鳩のハドロン重砲が、ルルーシュ軍の両翼の部隊を次々に撃破していく。

ゼロ、皆の力を合わせれば、君を倒せる!

俺がそう思ったその時、オペレーターが叫ぶ。

「エネルギー反応、下からです!」

「何?!まさか、このタイミングで?」

突然、富士山が大噴火する。あらかじめ、サクラダイト採掘場に爆薬が仕掛けられていたのだ。斑鳩を含む黒の騎士団の本隊、そればかりか、ブリタニア軍の地上部隊をも巻き添えにした非情な戦略だった。斑鳩は、完全に爆発に飲み込まれた。

「ゼロ……」

俺の脳裏に、千草の姿が浮かぶ……出撃前に、俺は、全てを彼女に打ち明けた……

『俺は、ルルーシュが……ゼロが俺達を駒として使っている事を知りながら、奴を利用していた……皆を騙していた。だから、その責任だけは取らなきゃいけない……しかし、新しい命は巻き込みたくない。勝手なお願いなのは分かっている。でも、君にはこの蓬莱島に残って欲しい。』

意識が、薄れて行く……やはり、俺が、ゼロに勝とうなんて……俺の悪運も、ここまでか……

『扇!』

『扇さん!』

「ん……んんっ……」

『死んだ振りしてる場合か!』

い……生きてる……何故?

目の前には、カレンの紅蓮と、玉城の暁の姿があった。

「ま……まさか、お前達、盾になって……」

『へへへっ、ブリッジくらいしか、護れなかったけどよ!』

た……玉城、お……お前が、俺を助けてくれたのか?心の中でだが、ずっと、お前を馬鹿にし続けていた、俺を……

『まっ、後は自力で何とかしてくれ。行くぞ!カレン!』

『何よ!偉そうに!』

そう言い合いながら、ふたりは戦場に復帰して行く。

くっ……俺は……ようやく気付いた……俺が、お前を嫌っていたのは、お前を妬んでいたんだ。お前が、羨ましかったんだ……

俺は、いつも嘘で自分を隠し、周りにいい顔ばかりして人望を集めていた。なのにお前は、いつでも素の自分で、ありのままを晒していた。それなのに、何故か人気があって、誰もお前を憎みきれない……いや、だからこそか。飾らない、表裏の無いお前だから、誰にでも好かれたんだ。俺は、そんなお前が、眩しかっただけなのかもな……

 

黒の騎士団は主力部隊の殆どが落とされたため、とうとう、シュナイゼルはルルーシュ軍に対してフレイヤでの直接攻撃を開始してしまう。

俺は、南とラクシャータ達に、生き残った斑鳩のクルー達を連れて脱出艇で逃げるように伝えた。但し、俺は斑鳩に残った。

『本当にいいのか、扇?』

南が、脱出艇から俺に聞いて来る。

「ああ、俺には皆を避難させる責任がある。」

『しかし……』

「いや、俺こそすまないと思っている。お前達を、フレイヤが支配する戦場に……」

ルルーシュとこんな形で戦う事になったのも、奴を追放に追い込んだ俺のせいかもしれない。ならば、せめて生き残った団員達だけでも助けないと、今度は本当に自分が許せなくなってしまう。

何とか無事で格納庫に残っていた車両を使い、生き残った団員を収容して戦場を離れる。

運転しながら、俺は、ナオトに問い掛ける。

なあナオト、俺達、これで良かったのかな?

 

俺が小学校高学年の頃、ナオト達は、俺の家の近所に越して来た。

幼い頃、ナオト達はブリタニアに住んでいた。ナオトが物心付かない内に、父親が亡くなった。困っていたところを、名門、シュタットフェルト家が援助をしてくれて、ナオトの母親はシュタットフェルト家に仕えていた。しかし、ある事件がきっかけで、ナオト達はシュタットフェルト家を追われた。ナオトの母が、シュタットフェルト家の当主との間に子を身籠ってしまったのだ。そう、カレンを……

俺とナオトは、直ぐに仲良くなった。何故か、俺達は妙に気が合った。俺は、こんな表裏のある性格だったが、奴はそんな事には気付かず……いや、気付いていたのかもしれない。それでも、俺を受け入れてくれていたのかも?

俺達が大学生の時、日本はブリタニアに占領された。幼い頃にブリタニアを追われたせいもあってか、ナオトもカレンもブリタニアを酷く憎んでいた。ナオトは、昔の日本を取り戻すために立ち上がった。レジスタンスを率いて、ブリタニアに抵抗を続けた。

俺はナオトに付いていった。いつも、あいつの後ろに隠れていた。しかし、あいつは突然居なくなってしまった。周りの皆は、俺に、ナオトの代わりを求めた。だけど、俺は自分で分かっていた。俺には、ナオトの代わりはできない。そんな力は無いと。

そんな時、奴が、ゼロが現れた。正に奴は、ナオトの再来だった。だから俺は、ゼロにナオトの夢を託し……

違う!そんな綺麗な話じゃ無い!俺は、ゼロを利用した。ナオトの夢を実現する道具“駒”として、奴を……そして、自分の勝手な都合で切り捨てたんだ!

この結果は、そんな俺に対するお前の怒りなのか?ナオト……

 

星刻の善戦もありアヴァロンは墜ち、人質は救出された。

ルルーシュは直接ダモクレスに乗り込み、以降は、ルルーシュとシュナイゼル本人同士の直接対決に持ち込まれた。

その一方で、カレンの紅蓮はスザクのランスロットと最後の対決をし、ほぼ相撃ちでランスロットを撃破した。ナイトオブゼロ、枢木スザクはカレンが討ち取った。

しかし、シュナイゼルはゼロの軍門に下り、ルルーシュがダモクレスを奪い取った。ルルーシュの放つフレイアが、空に大きな閃光を上げる中、絶望的な言葉が全世界に流される。

『全世界に告げる。私は、神聖ブリタニア帝国皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアである。シュナイゼルは我が軍門に下った。これによってダモクレスもフレイヤも、全て私の物となった。黒の騎士団も、私に抵抗する力は残っていない。それでも抗うと言うのなら、フレイヤの力を知る事になるだけだ。我が覇道を阻むものは、もはや存在しない。そう、今日この日、この瞬間をもって、世界は我が手に落ちた。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる、世界よ、我に従え!!』

 

この戦いで、黒の騎士団は殆どの戦力を失い、団員達は疲れ果て、酷く傷付いていた。もはや、ルルーシュ軍に抵抗する力も無く、生き残った団員達の殆どが捕えられた。超合衆国は軍事力を持たないため、フレイアで脅されてはルルーシュに従うしか無い。

ルルーシュは、神聖ブリタニア帝国の超合衆国への加盟を認めさせ、自身は超合衆国の最高評議会議長となった。超合衆国に加盟するにあたり、神聖ブリタニア帝国も軍事力を放棄するのだが、そうする代わりに、黒の騎士団に現ブリタニア軍を組み込んだ。俺達旧幹部は全て解任され、反乱分子として投獄された。黒の騎士団は、実質ジェレミア率いる元ブリタニア軍が牛耳る事になり、ルルーシュが再びCEOの座に就いた。

死に体のEUでは、超合衆国には全く抵抗できず、ほぼルルーシュの言いなりで合衆国憲章を批准し、超合衆国の傘下となった。

こうして、世界は、皇帝ルルーシュに完全に支配されてしまった。

 

 

 

日本は、皇帝直轄領となり、ルルーシュはブリタニア本国では無く日本に滞在していた。俺達元黒の騎士団幹部やギアスの事を知る者は、ブラックリベリオンで敗北した時のように拘束具で拘束され、日本の収容所の牢に入れられていた。

戦闘終結から2ヶ月近く経った頃、突然俺は牢から出され、ルルーシュ皇帝の前に連行された。ルルーシュは玉座に腰かけており、俺は、拘束されたままその前に座らされた。俺を連行して来た兵は直ぐに出て行き、部屋には、俺とルルーシュのふたりだけになった。

ルルーシュは、玉座に腰かけたまま、冷ややかな目をこちらに向けている。

「何だ?皇帝自ら、裏切り者を処刑しようってのか?」

「裏切り者?……ふん、傍から見ればそうなるんだろうがな。」

「何?」

「お前は、最初から私を信用してはいなかっただろう?自分に都合のいい道具として、ずっと利用していただけだ……そして、利用価値が無くなったから見限った。これを、裏切りと言えるのかな?」

「き……気付いていたのか?」

「お前の小賢しい悪知恵等、見抜けぬ私だと思ったか?こちらにも利があるから、見逃していただけだ。」

「ふっ……流石は、魔王ルルーシュ……騙し合いも、お前の勝ちという事か……もう諦めもついた、殺すなら殺すがいい。」

「殺す?そんな楽な罰を、お前に与えると思っているのか?」

「何だと?」

「私が言えた義理では無いが、自分の利己的な理由でこれだけ大勢の日本人を巻き添えにしておいて、死んで楽になるなど言語道断!お前には、死ぬよりも辛い罰を与えねばな。」

「な……何をする気だ?」

ルルーシュは、右手を自分の両目に翳す。手が離れた時、その両目が赤く輝いているように見えた。その直後、俺の意識が飛んだ……

 

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる!お前はこれから日本の真のリーダーとなり、私利私欲を捨て、その身を日本人の幸せのために捧げよ!その命尽きるまで!」

 

気が付くと、俺はまた牢獄の中に居た。あの後、ルルーシュと何を話したのか?それは、一切思い出す事が出来なかった。

 

数日後、とうとう俺達が処刑される事になった。

特別な護送車のデッキに磔にされ、俺達はトウキョウ租界の大通りを処刑場まで連行される。その後方に、ルルーシュ皇帝専用御料車が続く。この車には後部に玉座が設けらえており、ルルーシュはそこに座り、高いところから俺達を見下している。沿道には多くの民衆が集まり、何とも言えない気持ちでこの光景を見詰めていた。誰も、不満は言えない。下手な事を言えば、一族まとめて処刑される。この様子は、メデイアでも全世界に生中継されていた。

俺達は、まるで晒し者だ。だが、一番酷いのはシュナイゼルとナナリーだ。元皇族とは思われないみすぼらしい恰好をさせられ、シュナイゼルは御料車の先頭に磔、ナナリーは玉座の直ぐ下に、動かない両足を鎖で繋がれている。実の妹に、この仕打ちはあまりにも酷い。元々、ルルーシュはナナリーのために、ブリタニアを倒そうとしていたのでは無かったのか?

その時、沿道にいる民衆からざわめきが起こる。護送車の向かう先、大通りの中央にひとりの人影が現れた。だが、その姿は……

『ゼロ?!』

皆、揃って声を上げる。

「うそ?ルルーシュはあそこに?」

カレンが驚いて、玉座のルルーシュと目の前のゼロを見比べる。

ゼロは、真っ直ぐこちらに向かって来る。護衛のナイトメアが銃撃するが、そのゼロは常人離れした反応で素早く銃撃を交わし、どんどん近づいて来る。

「撃つな!私が相手をする!」

ジェレミアが、ナイトメアを制し、ゼロを迎え撃つ。しかし、ゼロはジェレミアの剣を難無く交わし、彼の肩を足場に御料車に飛び乗る。シュナイゼル、ナナリーの眼前を飛び越え、玉座に一気に飛び上がる。

「この、痴れ者がっ!」

ルルーシュは銃を向けるが、ゼロは手に持った剣でそれを弾き飛ばす。そして……

そこからの動きは、何故かスローモーションのように感じられた。大きく剣を引いたゼロは、それをルルーシュの胸に突き当てる。剣は、ルルーシュの胸を一気に貫いた。

その時、気のせいかもしれないが、俺には一瞬ルルーシュが笑ったように見えた。

ルルーシュは玉座から転げ落ち、妹のナナリーの前に倒れ込む。

そして、ナナリーに見守られながら、ゆっくりと息を引き取った。

「魔王ルルーシュは死んだぞ!人質を解放しろ!」

ここぞとばかりに、コーネリアや千草達が、俺達を助けに飛び出して来た。それだけでは無い、今迄静観していた民衆達も、沿道を囲む兵士達を抑え込む。

「いかん、引け!この場は引くんだ!」

ジェレミアの号令で、ナイトメアを含むルルーシュの兵達は、こぞってその場を逃げ出した。

「まさか……あれは?」

藤堂が言う。まさか、あのゼロが何者か心当たりがあるのか?

「ゼロです!」

「え?」

しかし、カレンがそれを否定する。

「あれは……ゼロです!」

周囲からは、“ゼロ”コールが湧き起こる。

そんな中、息絶えたルルーシュの体にしがみ付き、ナナリーは大声で泣きじゃくっていた。史上最悪の、人類の敵が倒された。本来なら喜ぶべきところなのに、その光景は、何故か酷く胸を打たれ、何とも言えない虚しさしか感じられなかった……

 

 

 

皇帝ルルーシュは、ゼロにより討たれた。

ゼロの正体は、黒の騎士団幹部と一部の者しか知らない。公式発表では、ゼロは第二次東京決戦の直後に死んだ事になっていた。殆どの人々は、ゼロは本当は死んでは居なくて、復活して世界を救ったと歓喜した。

俺達は、ゼロの正体がルルーシュである事を知っているから、今のゼロが昔のゼロとは違う人間である事が分かる。だが、それは公にするべき話では無い。ゼロが誰かなどという事は、この際関係無い。“ゼロによって世界は救われた”この事実こそが、人々にとっては重要なのだ。

ただ、ゼロが復活しても、もう俺はゼロの陰に隠れようとはしなかった。

 

ルルーシュが討たれた後、ルルーシュのギアスで奴隷と化していた兵士達は、皆元に戻った。ルルーシュが死んだために、ギアスの呪いが解けたのか?その辺は定かでは無かった。ギアスの事を知っていながらも、ルルーシュ皇帝に忠誠を尽くしていたジェレミア卿は、この事件の後何処かへ姿を消した。千草の話では、彼はギアスを無効にする力を持っていた。兵士達のギアスが解けたのは、もしかしたら彼の力かもしれない。しかし、それはルルーシュ皇帝に逆らう事になるので、もしそうなら、彼がそのような事をする理由が分からない。いずれにしても、当のジェレミアが居ないのでは確認のしようが無い。

 

次期ブリタニアの皇帝には、神聖ブリタニア帝国第十二皇女のナナリー・ヴィ・ブリタニアが即位した。ナナリー皇帝は、改めてブリタニアの超合衆国への参加を表明した。議席数を、人口の20%にするという条件も認めた上で。

そして、黒の騎士団は、ブリタニアも含めた各国からの人員で再構成された。CEOは、当然ゼロが再任し、シュナイゼルが総司令となった。星刻は、健康上の理由で脱退した。コーネリアも、黒の騎士団に加わった。

日本は再び独立国に戻り、俺は、新制日本の初代総理大臣となった。

神楽耶様は、超合衆国の最高評議会議長となるため、日本の代表という立場からは外れた。藤堂は、黒の騎士団の統合幕僚長を続けるため除外。他に適任者が居なかったという事もあるが、俺自身が率先して立候補した。今迄、常にリーダーの陰に隠れて責任というものから逃げていた自分が、何故か分からないが、日本の復興のためにその全てを投げ出すつもりになっていた。

千草は、俺のその決意を聞き、完全に日本人となった。“ヴィレッタ・ヌウ”の名前を捨て、“扇千草”となり、俺の妻となった。

カレンは、黒の騎士団を辞め、学生に戻った。これでナオトも、安心して眠れるだろう。

玉城は、何故かバーのマスターになった。“官僚になるのが夢”と言っていたのに、どういう風の吹き回しか?ただ、あいつにはその方が似合っていると思う。あいつもあの戦いで、本当の自分を見つけられたのかもしれない。

 

俺が変わったのは、良くも悪くも、ゼロ……ルルーシュと関わった事が原因だと思う。

俺にとってあいつは、本当に、ナオトの生まれ変わりだったのかもしれない……

 






最後まで読んで下さって、ありがとうございました。

最後をどうするかは、かなり悩みました。鬼畜のまま無理やり総理大臣にされ、今度はナナリーをうまく利用しようとして、握手の時に見抜かれて一気に失墜する……という展開も考えたんですが、それだとあまりにも荒んだ話になって、後味も悪いので止めました。
ただ、人はそんなに簡単に変われるものではありません。いくら今迄の自分を悔い改めようとしても、いきなり聖人君子になるのも変なので、ギアスの力をお借りしました。
ルルーシュの命令で総理大臣になったのなら、ひとりだけおいしいとこ取りした事にもならないので、こちらの気も収まります。日本のリーダーではありますが、その実は日本人の奴隷同然ですので。
まあ、シュナイゼルと似たようなもんです。
しかし、日本の代表としてあの頭は、世界の代表に対して失礼じゃないんですかね?

原作でも、扇はルルーシュに親友のナオトを重ね合わせていた筈です。ナオトの、親友の夢をルルーシュに、ゼロに託していたんです。
それだけに、『裏切り』でのあの行動は解せません。玉城の言葉じゃありませんが、“俺はあいつを親友だと思ってた”のだと思います。
その親友を、駒のように使い捨てる……普通できません。シュナイゼルならやるでしょうけど、扇には無理です。もっと信じられないのは、ゼロを一方的に切り捨てた事を、それ以降も少しも悔やんでいない事です。悔やんでいるのは、ゼロを信じた事だけ……扇の性格を考えれば、これは有り得ないんです。
ついでですが、私の主観でナオトやカレンの過去も創作してみました。

結局黒の騎士団って、最初はゼロに踊らされていて、次はシュナイゼルに踊らされていただけ……やはり、世界を統べる器では無かった、“駒”でしか無かったという事ですね。

話は変わって、ここでも、また不死身の咲世子さん。
かなりの重傷でシュナイゼルの所から逃げ帰って、ジェレミアに助けられてベットで休んでいました。体に包帯を巻かれ、かなり辛そうでした。
翌日、何も無かったかのようにブリッジでルルーシュを手伝ってます。
本当にコード保持者じゃ無いの?この人……

あとニーナですが、ルルーシュに対しては“ゼロは許せないけどルルーシュは別”みたいな態度になって、視聴者の好感度を上げてましたが、日本人に対してはどうなったんでしょうか?その辺は描かれて無かったんで、全く分かりません。
もし、日本人を差別するあの思想が直っていないなら、私はニーナを認めません。

最後に疑問がひとつ。コード保持者って、一度死んだ後どのタイミングで蘇生するんですかね?最初のC.C.って、死んでから生き返るのに随分時間掛かってましたよね?でも、V.V.やシャルルは、死んで直ぐに生き返ってました。もしかして、自分でコントロールできるの?
もし、不定期だったら困りますよね。ナナリーが大泣きしてる最中に、いきなりルルーシュが生き返っちゃったら身もふたもありません。ゼロレクイエム台無しです。


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