艦隊これくしょん -The world of the afterlife- (Garuda)
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序章 ~Prologue~
Act. 1 終ワリノ始マリ -The beginning of the end-


ドン!!!!!!!!!


鈍い音と共に一人の人間が突き飛ばされ宙を舞う、
それは決して綺麗なものではない。


刹那、
突き飛ばされたそれは地面に叩きつけられ、
ピクリとも動かなくなった。




──誰か!!誰か救急車を!!!人が轢かれた!!!!


──キャァァァァアアアアア!!!!!!!!


──ありゃあ…もう助からねぇだろ……


──お、おい!!アイツ逃げるぞ!!!!


──あのクソ野郎がぁ!!


──にぃさん、しっかりして!!
  にぃさん!!にぃさぁぁぁん!!!!…………


薄れゆく意識の中で彼が最後に見たのは、
涙を流しながら自分を揺さぶる少女の顔だった。






 自分の感覚が無に還った。

 

 

視界は暗転し、さっきまであった痛みも消え、周囲に広がっていた耳障りな喧騒や悲鳴がパタリと止む。

 

手足の感覚も無く、まるで先程体験した宙を舞うような感覚と似ていた。

 

 

だが、これだけは理解している。

俺は事故で死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 俺の名前は五木 亮司(いつき りょうじ) 24歳、しがない陸上自衛官だ。

 

東千歳駐屯地の第11普通科連隊 第3普通科中隊で小銃小隊長を務める二等陸尉…だった。

 

 

 

 

 

事故で死ぬ前の俺はいつもと同じように、

何気ない休日を過ごしていた。

 

 

 俺はゲームをすることが大好きで、

その日も朝から行きつけのゲームセンターへ行き、アーケード版の艦これをプレイする。他にも、休み休みに色々なゲームをプレイしながら、夕方までゲームセンターに居ることが当たり前になっていた。…我ながら体たらくなものだと思う。

 

 

 1600(ヒトロクマルマル)頃、近くのコンビニに寄り、

夕食の弁当を買って官舎への帰路についた。

 

明日から新しい1週間が始まると思うと、ブルーな気持ちになってしまうが、ブルーマンデー症候群とまではいかない。(からす) の鳴き声に感傷的になりつつも、俺は明日から2週間近くかけて行う長期演習の事を考えていた。演習前教育で安全係幹部が話していた【不安全は気持ちの揺らぎから起こる】を思い返し、自分の両頬を叩き自らを戒める。

 

 

 

そんなことを思いながらバスを降り、国道77(R-77)

渡って自衛隊官舎へと足を進める。暫く歩くと、官舎はもう目と鼻の先だった。その時、見知った人物が目に飛び込んだ。

当人も俺の存在に気付き、こちらに向かって走り寄ってきた。

 

 

「にぃさん!」

 

 

「お~、沙美ちゃん。久しぶりだなぁ!」

 

 

 彼女は本城 沙美(ほんじょう さみ)。今年から高校一年生になったばかりの女の子だ。両家の父親が自衛官と言うこともあり、俺が自衛隊に入隊する前の高校生からそこそこ交流があったので、血縁者ではないが【にぃさん】と呼ばれている。

 

 

「にぃさんこそ、また“山に行ってたの?”」

 

 

「いんや~?それは明日からだよ、準備も終わったしな。次のやつも長い山籠もりだ。」

 

俺が笑いながらそう言うと、

 

 

「じゃあ、帰ってきたら美味しいご飯を食べさせてあげないとねぇ~。」

 

 

そう言いながら俺の買い物袋を覗き込む。

 

 

「ははははっ、…まぁ良いじゃねぇか。」

 

 

「良くないよ!休日だからって、コンビニ弁当だったりファストフードばっかり!!いくら自炊してるって言っても、休日もちゃんとした食事を取らなきゃダメだよ!!!!」

 

 

「ホント、沙美は俺の母親かっての…。まぁでも、帰ってきたら沙美の飯が食えるなら演習頑張るよ。」

 

 

「分かれば宜しい!」

 

 

そんなやり取りが面白おかしくて、気付けば二人そろって笑いあっていた。俺が先程まで考え込んでいた事などきれいさっぱり消え去り、明日から頑張ろうと心から思えるようになっていた。

 

 

 

 

 

 

………だが、俺に明日は来なかった。

 

 

 

 

 

 俺が笑い終えたその時、

俺の目に飛び込んできたのは蛇行運転をしながら猛スピードで走ってくる1台のワンボックスカーだった。

 

状況を正確に理解する前に内心悟った

 

 

(このまんまじゃ二人とも轢かれる!!)

 

 

咄嗟に沙美の手を取ると、俺は彼女を無理やり引き離して進路上から遠ざける。

彼女が驚きの表情を見せるが、1秒か2秒くらいたってから、突如としてその顔が首をかしげたように見えた。

 

だが彼女の首は曲がっていない。

ではどういうことか?そして判った。

 

 

 

 

 

 

 

俺自身が傾いているんだと(・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

突き飛ばされたと理解できたのは、

嫌な音を立てて地面に叩きつけられた後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(話す事も出来ない上に実体も無いのか。これが死後の世界で“霊魂”って存在なのかねぇ。)

 

 

暗転した世界の中で、どこに行くわけでも無くフワフワと何も無い空間を漂う。

 

 

(……このまま消えて無くなるか、地縛霊として現世に舞い戻るんだろうな。)

 

 

 そう思っていた次の瞬間、

強い光が差し込むとその光に吸い込まれていく。

 

何が起こってるのか判らないでいると、視界が徐々に開けていく。すると、先程までなかった身体が現れる。4肢を視界に入れながら、恐る恐る顔がある位置に両手を当てる。顔もある!!

 

状況を確認するため周囲を見渡すと、

まるで雲の上にいるようだった。

 

それも空想世界によくありがちな、明るく・清んだ空間を感じさせる、言わば【天界】いや【冥界】なのかもしれない。

そんな場所に俺は立っていた。

 

 

 

───その通り。ようこそ、冥界へ

 

 

 声がした方に振り向くと、

身長は160cmくらいで黒のストレートロング、紅色で染色された和服を着込み、女性らしい豊満な胸、そのあまりにも綺麗な容姿から、如何にも【女神】と思える女性がそこに佇んでいた。俺は声をかけようとするも発声出来ない事に気が付く。

 

 

───貴方の言いたいことはわかります、私の名は【アマテラス・オオミカミ】。日本神話における日本人の総氏神。

 

 

(アマテラス・オオミカミ……。)

 

 

───まず初めに、貴方を誤って死なせてしまったことに非礼をお許しください。

 

 

(?それはどういう………)

 

 

 

…つまりこういう事だった。

 

 

蛇行運転していた運転手(後に飲酒運転と知ったが)を地獄に堕とす際に、何らかの影響で外界の力が働き結界が損傷、その反動が現世に影響を与えた。結果、地獄に落とす筈だった者が一時的に生き残り、俺が巻き添えを喰らったという事だった(飲酒運転野郎はもちろんその後は事故死し、地獄に堕とされたそう)。

 

 

(……ということは、アマテラス様が非礼を詫びる必要などありません。それに、あの時の私は使命を全うしただけに過ぎません。)

 

 

────貴方は本当に心優しき人間(ひと)ですね。…そこで、私から提案があります。

 

 

(提案?)

 

 

────貴方を別世界に転生させるのです。もちろん、貴方の希望にそった艦これが存在する世界で。

 

 

(………まさかとは思いましたが、そんな事が本当に出来るのですか?)

 

 

────可能です。それに……貴方が望む世界は、並行世界として実在します。

 

 

マジかよ、

この神様しれっと凄いこと言いきりやがったぞ。

 

 

(…では、来世でも自衛官としていられるのですか?)

 

 

────そればかりは出来ません。ですが、各種装備品から兵器までなら召喚することが出来ます。………勿論、ただでとはいきませんよ?

 

 

(召喚する方法は?)

 

 

────大妖精配下の工廠妖精に精製する知識を与えておきます。貴方はそれに見合った資材を注ぎ込めば問題なく生産されます。…ただ、それでは希望にそったとは言えないので、転生直後は貴方の装備一式を与えましょう。

 

貴方は今後、現世とは比べものにならない程の試練に見舞われます。それを乗り越えるためにも、貴方には私の持てる全ての力を与えたいと考えております。

 

 

(…アマテラス様……何故そこまで?一介の人間にここまで固執する理由は?)

 

 

────あなた方の言葉で【神のみぞ知る】とでも言っておきましょう。

 

 

(…フフフッ…なんだそれ。)

 

 

俺は呆れつつも、アマテラスから発せられた言葉に含み笑いを浮かべる。

 

 

────さて、名残惜しいですがそろそろお時間です。……貴方に、神々の御加護が有らんことを。

 

 

アマテラスがそう言うと、瞬く間に光が身体を包み込む。俺は光に身をゆだねた。優しくて、暖かい…そんな事を思いながら瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 




「………ここは……どこだ?」


周りには現世の護衛艦とは違った艦艇がズラリと並んで停泊していた。


「人っ子一人居やしない……とりあえず散策するか。」


「提督は……戦死されたわ…。」


「俺も君たちと…共に戦う!!」



次回、
艦隊これくしょん -The world of the afterlife-

Act. 2  接触 -The first contact-


 あなたはこの世界で、何を思うのでしょうか?


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Act. 2 接触 ーThe first contactー

不運な事故によって生涯に幕を下ろした自衛官、五木 亮司。

自らを総氏神と名乗る女性、
アマテラス・オオミカミと出会い、
その死が偶発的に起こってしまった事だと知る。


その事を咎めることも無く、自分の使命を全うしただけだと言う五木に対し、
アマテラスは新たな世界で生を授けることを決める。
彼の希望に添う形で、
五木は艦隊これくしょんが実在する世界へと転生する事になったのだった。






 眩い光に包まれてからどのくらい経ったのだろう。

身体に程よい熱を感じた為、ゆっくりと目を見開く。若干、太陽の日差しが視界に入り目を瞑りそうになるが、直ぐに別な物が視界に飛びこんできた。

 

複数の大木、熱帯雨林のようだ。それも高く、葉がたくさん生い茂っている。

 

 

「………ここは……どこだ?」

 

 

 

 上半身を起こし、辺りを見回す。…見渡す限り、木々がそびえ立つ森。傾斜が少しあることから、山の中にいるようだ。艦これの世界に飛ばされたのに、初めに見たのが山中の森林とは如何なものかと一瞬思った。直ぐさま身体を起こし、その場に起立する。

 

 

 自分の身体を見ると、服装は陸上自衛隊の戦闘服3型を着込んでおり、各種装具品、靴も戦闘靴2型を履いていた。

 

 

「……よし。とりあえず、装具点検だ。」

 

 

 88式鉄帽、防弾チョッキ2型に戦闘弾嚢(せんとうだんのう)が大・小2つ、その中に実包入りの30発弾倉が6つ、水筒、救急品袋、認識票(ドッグタグ)、防護マスク、89式多用途銃剣、89式 5.56mm 小銃、そして何故か既に発砲可能(・・・・・・)な9mm拳銃と15発入り弾倉2つ……

 

 

「……現世の頃じゃ考えられねぇ装備だな。にしても、なんだって9mmの仕様が海自さん(特別警備隊:SBU)のP226なんだ?」

 

 

細かい事を気にしつつも、身体の隅々まで全て異状ないことを確認し、前世で身につけていた日付も確認できるデジタル電波時計を見た。

 

 

 

「現在時、1516(ヒトゴーヒトロク)。1942年、5月6日か。……感覚的には死んだ時から一日たったようなもんだが、実際は75年も前に居るのか…。」

 

 

時間と日付を確認、俄にも信じがたいがどうやら本当に転生したらしい。しかも現代の防人(自衛官の姿)でだ。この格好が決して悪いとは言わない、寧ろ身を守れるから有り難いくらいだ。

 

 

 

 言わなくても分かると思うが、この世界は深海棲艦と戦争の真っ只中……の筈だ。まだ確証こそ得られていないが…。そんなところへ武器を持たずに転生よりかは、幾分マシだと言える。

…だが、これから遭うであろう人々にこの姿を見せるとなると、自ずと警戒される様子が容易に想像出来る。

考えれば考えるほど俺は気怠くなり、ついに盛大な溜め息を吐いていた。

 

 

自分で願ったことなのに、難儀なものだ。

 

 

「……しっかし、現在位置が判らないのが痛いな。とりあえず、そこに置いてある(はい)のうの中身を見てから散策するか。」

 

 

そう言って、

俺は倒れていた近くに置かれていた戦闘背のう1型に目を向ける。中身を見てみると、上側には替えの戦闘服上下1着、戦闘雨衣、5日間分のTシャツ・下着・靴下、裁縫セット、2Lのペットボトル(水)が2本、

下側には日用品として携帯歯ブラシ・ジッポライター・ポケットティッシュ2つ、十徳ナイフ(アーミーナイフ)戦闘糧食(レーション)と併せて加熱材・加熱袋が朝昼晩の2日分、小袋に入った各種飴玉が少々だった。もちろん、全てが圧縮袋やジップロックで防水処置されている。

外観の収納スペースには飯ごう。そして、左側面には縛着(ばくちゃく)された戦闘シャベル(携帯エンピ)。……うん、完全に俺が演習前の隊容検査で入れてたやつだ。

 

今回の演習は、実際に背のうを使うと伝達されていた。そのため、本来の入れ組品の他に必需品を入れていたんだ。

 

 

 

「だけどよ、アマテラス様。流石にそのまま持ってくるとは思わなかったわ…。」

 

 それもその筈。

よくよく見てみると、今身に付けている装具一式全てが【俺の名前が書かれている官品(かんぴん)】だからだ。今頃、俺の武器装具がないとかで補給陸曹(ほきゅうりくそう)武器係陸曹(ぶきがかりりくそう)がてんやわんやしてるんだろうと思うと、非常に申し訳ない気持ちになってきた。

 

 

ここまでくると気になるのは、戦闘服のポケットだ。案の定、身分証明書や俺のスマートフォンまで出てきた為、もう驚くことすら疲れにしかならなくなっていた。

 

 

「……とにかく、時間も無いことだし散策するか。出来ればサバイバルは避けたいからな。」

 

 

その場にいても仕方ないので、情報収集をするべく歩き始める。通信機も無い、コンパスも無い、地図も無い、頼れるのは己の知識と訓練で培った技術だ。……それにしても、装備品が多くて重い・歩きにくい・取り回しが悪いときたもんだ。幸先はあまり宜しくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫く道なき山中を下山していると、潮のにおいが漂いはじめ、林の向こう側に軍港のような施設が見えてきた。規模はそれなりのようだが、しっかりと柵が立てられており簡単には入れない。

 

 

「見た感じは小規模の軍港だが、どこの軍の物かは判らんな。気付かれずに入るには………おっ?」

 

 

ふと気になった方へ目を向けると、監視塔に立つ歩哨が眠りこけており、おまけに通用門は開いたままであった。これはチャンスだと思い、直ぐさま行動に移す。気付かれぬように、かかとから爪先にかけて音を出さぬよう、ゆっくりと歩みを進める。

 

 

 

 

 内部に侵入出来た頃には日が西へ傾き、水平線には夕陽が輝いていたが、真反対からは闇夜が迫っており今にも沈みそうな明るさだった。

 

俺はいま、この軍港の埠頭らしき場所にいる。

右手には【工廠】と書かれた大きなレンガ造りの建物があり、

後ろには先ほど通ってきた様々な隊舎の様な建物が何棟もある。

付近には何らかの工事をした形跡も有り、未発展なのがよく分かる。

 

 

そして左手には大型のガントリークレーンを含む各種起重機やそれを搭載した船舶、

停泊中の戦闘艦は、現代の護衛艦とは違った艦艇が2隻並んでおり、眼前には大海原が広がっていた。

 

その先には幾つかの島が点在しているが、呉や佐世保ではなさそうだ。

 

 

施設の確認は出来た……しかし、

辺りには人の声や航行中の船舶の気配がない。

 

 

 

(おかしい、軍港なら絶対に誰か居るはずなのに人の気配が感じられない。…と言うより、人が外に出歩いていないのが異状だ。この戦闘艦も、護衛艦じゃないな。確実に旧日本海軍の艦艇だし。…駆逐艦と軽巡洋艦みたいだが……明かりが少なすぎてハッキリとは判らねぇな。)

 

 

「……まずは誰かしらと接触しねぇとな。工廠ならリスクが低そうだし、そっちに行ってみっか。」

 

 

 

 

 工廠の前まで来ると通用口を見つけた。

直ぐさま入り口横に立ち、小銃に弾込めを行う。

槓桿(こうかん)を引ききり、小銃の左側に付いているスライド止めを上に押し上げてから槓桿を放す。これによって遊底部(ゆうていぶ)を固定し、薬室を確認してから小銃に弾倉を差し込み、槓桿を引き離して初弾を送り込み、防塵蓋(ダストカバー)を閉じる。その後、右側の切り替えレバーを人差し指のみで操作し、(安全)から(単発)へ流れるように切り替えた。

 

 

 

 呼吸を整えてから扉を開け、小銃を下向き姿勢(ロウレディ)で構えつつ死角を確認する。……やはり此所にも人はいない。

中を見てみると大型の船が1隻分、目測で約300mほどある屋内型のドックが現れた。小規模の軍港が持つにしては大きすぎる。

 

 

「あそこが事務所か。」

 

 

足下に注意しつつ、

事務所の前まで来ると話し声が聞こえてきた。

 

扉の横に付き、

通用口と同じ要領をとるが、

小銃は安全装置をかけて負い紐(おいひも)に自重を預けさせると、防弾チョッキに着けられた9mm拳銃を手に取る。

今度は扉を3回ノックした。

 

 

「はーい」

 

 

日本語でハッキリと若い女性の声が耳に入る。

 

 

 

 次の瞬間、扉が開いたのを皮切りに、

その場に立っていた作業着を着込んだ女性に対し、素早く左手で口をふさぎ込む。

同時に身柄を躊躇(ちゅうちょ)無く拘束し、

銃口を室内に居る他の者へと向ける。

 

 

中には中学生と大学生くらいの女性3人が、

作業着姿で椅子に座っていた。

彼女たちは突然の事に驚き、

反射的に立ち上がり声をあげようとするが、

こちらが先に声をあげる。

 

 

「…全員、動くな。動いたり声を上げるのなら、このお嬢さんが怪我をするぞ。…君も妙な真似はするな。」

 

勿論、俺にその気など無い。

無用な事態を避けるためワザと警告している。

 

俺の言葉を聞くと、

大学生くらいの女性が1人睨みを利かせ、中学生くらいの少女は怯えていた。もう1人の大学生くらいの女性と、俺に拘束されている女性は黙って頷く。

 

 

「宜しい。…こちらの女性を解放するが、もう一度言う、“妙な真似はするな”。無論こちらは、撃つ気など毛頭無い。…遭ってそうそう信用できないだろうが、俺は意識を失い、気がついたらここの港の近くで倒れていた。その為、君達と話がしたい。ここが何処なのか、君達は何者なのか。その代償として、俺が何者なのかを君たちに教える。…………言ってる意味は分かるね?」

 

 

ご託を並べつつ、会話の余地があることを諭すと、2人を除き、渋々といった様子で今度は全員が頷いた。

俺は直ぐさま女性を解放し、彼女達へと還す。

 

そして、ゆっくりと9mm拳銃をしまいながら話しかける。

 

 

「まず最初に、手荒なまねをしてすまなかった。自己紹介から行こう。………自分は日本国 陸上自衛隊 北部方面 第7師団隷下 第11普通科連隊 第3中隊 所属 五木 亮司 二等陸尉だ。歳は24になる。軍隊の階級では中尉に当たるが、気軽に亮司と読んでくれても構わない。」

 

 

「……私は兵装実験軽巡洋艦の夕張よ。ここで工廠長を担当してるわ。」

 

 

「夕張 砲雷長妖精です。」

 

 

「副工廠長 妖精です!!」

 

 

「同じく、工廠 妖精です……。」

 

 

それぞれ名乗りはしてくれたが、夕張とその砲雷長 妖精(睨んでいた女性)工廠 妖精(怯えていた少女)はこちらを完全に敵視していた。唯一敵視していないであろう、【副工廠長を名乗る妖精(もう1人の大学生くらいの女性)】が元気に自分の事を名乗っていたのが少し気になったが……まぁ、こうなるだろうとは思っていた。いきなり現れた不法侵入者を怪しまない方が逆におかしい。

 

そして何より、3人の少女は自身を【妖精】女性は【夕張】と言い放った。

この事から俺自身は確実に艦これの世界に飛ばされたとこの時までは思っていた………いや、

正確には思いたかったが正しいのかもしれない。

…すると、続けて夕張が

 

 

「…あなた、本当に何者なの?どこから侵入してきたわけ?そもそも、陸上自衛隊なんて組織は無いわ。それに、ここに日本人は居ないはずよ!」

 

 

「そんな躍起になって質問を投げかけないでくれないか?……まず、俺は軍人と呼べる存在じゃない。いま説明すると長くなってしまうので簡潔に話すが、俺は一人の日本人であり、陸上自衛隊という組織に所属する自衛官だ。それ以上でもそれ以下でもない。俺は気がついたらこの地域に居たんだ。……ここに侵入出来たのは、見張りに立っていた歩哨がうたた寝をこいてたからで、目的は日本語を介せる者を探してここに立ち入った。」

 

 

嘘はついていない。現に転生した直後は森の中で倒れていたし、日本語か英語を介せる者を探していたのは事実だ。“あの子ったら…”と夕張が言う。……どうやらアイツは彼女の兵員妖精なのだろう。そんな事はどうでも良いが、日本人ということを聞いた彼女達は、ほんの少しだけだが警戒心を和らげてくれた。

 

 

「……ところで、ここには君達しか居ないのか?それに、ここは何処で、日本人がいない(・・・・・・・)って言うのはどういうことなのか説明してくれないか?」

 

質問をされたからには、次はこちらの番だと言わんばかりに疑問を投げかける。

 

 

「…こ、ここには……夕張さんと駆逐艦の五月雨さん……そ、それぞれの艦の兵員妖精が……、一時的に寄港して……ます。そして…日本人がっ、いない理由は……此所は ハルマヘラ島 北マルク州 マバにある“仮設 第八八警備府”に……なります。ここから近いのは、北北東にあるパラオのコロールで………直線距離だと約1010km……です。」

 

俺の質問に対し、工廠 妖精が恐る恐る答える。

……まだかなり警戒されているようだ。

ただ、まず最初に分かったことと言えば、この世界は【前世と地理的条件は同じ】という事だ。これは有り難い。

 

 

「なるほど、日本人がいない理由は分かった。……しかし何でまたこんなところに警備府があるんだ?」

 

と、俺が問いかけると、副工廠長 妖精が代表して答えてくれた。

 

 

「実は……ここには元々、警備府は存在しなかったんです。……事の発端は一月前に行われた、とある輸送船団によるタウイタウイ泊地への緊急輸送を支援するため、本土から定期整備を終えて護衛任務に付いていました。

その際、旗艦である夕張さんが魚雷攻撃を受け、直援についていた五月雨さんが必死に曳航していたんですが、曳航作業は思うように進みませんでした。……その時、突如として現れた光に包まれ、我々は意識を失い、気付けばこの島の15km地点にいました。 夕張さんの破孔(やぶあな)は直っており原因は不明、一緒に居た僚艦や輸送船も五月雨さんを除いて見失い、ここの近海で深海棲艦の潜水艦と対峙。 辛うじて撃退には成功しましたが、残燃料も少なかった我々は、ここに仮拠点を設ける以外、乗員554名が生き残る方法が残されていませんでした。建築する際には、既存の湾港施設を再利用しつつ、近傍に駐屯していた陸軍の支援を経て造り、警備府の名前もあくまで自分たちで名づけたんです。……かく言う自分も、少し兵器の扱いに長けてるという事で“副工廠長”なんて肩書きがありますが、本来は“夕張の機関兵曹長”を担当しているんです。こういった事は、艦長である夕張さんの方が長けてるんで、私は専ら補佐みたいなもんですよ。」

 

 

と、副工廠長 (かねて) 夕張 機関兵曹長 妖精はそう言う。

その話ぶりから、生き残る為に苦渋の決断を行ってきたのがよく分かった。というか、陸と共同で造ったとは言えど、よくこんな立派な警備府を造りあげたな……そこが凄すぎるよ。

 

 

何はともあれ、俺は五月雨が夕張を曳航することになった史実を知っている。だがそれは1944年(昭和19年)3月2日に、当時の南洋諸島の呼び名である内南洋(うちなんよう)諸島への緊急輸送(松輸送)作戦であるし、聞いてる限りでは、どうも全く別の緊急輸送任務のようだ。……そして、史実と全く異なる日に編成され、被雷している上に、当の夕張は沈没すらしていない。これはどういう事なのか?【光に包まれた】という事や、艦娘が艦長という【職】についてることなど、他にも気になる事が多々あるが、疑問を頭の片隅に追いやって次の質問を投げかける。

 

 

「…では、艦隊の指揮官は?旗艦となると、督戦として座乗する提督とかもいるんじゃないのか?」

 

 

そう問いただした瞬間、全員の表情が一気に暗くなった。やってしまったと思った時にはもう遅い。

夕張が重い口を開く。

 

 

 

 

 

「提督は…………護衛任務の被雷時に……近くにいた妖精を庇った際、爆発で吹き飛んだ破片が刺さり……戦死されたわ。胸をひと突き、即死よ……。」

 

 

彼女たちの顔がより一層に暗くなる。聞けば提督になったばかりの新米だったらしく、将来を期待されていたという。

 

 

「すまない、辛いことを聞いて。…では、次級者は誰にあたるんだ?」

 

 

何とかこの空気を打開するため、俺は話題を変えようと代理責任者が居るのか問いかける。

 

 

「…作業着を着てるけど、い・ち・お・う“大佐”よ。あなたより私の方が位は高いわ。ただ、現状は五月雨ちゃんがこの警備府を統括しているわ。」

夕張が答える。

 

 

「…これは失礼しました、夕張大佐。申し訳ありませんが、その五月雨さんに……面会許可をお願い出来ませんか?今の会話で多少なりとも分かったことは、自分はあなた達とは別の世界からきた人間って事だけです。今の自分には身寄りがない上に、何より衣食住が危ぶまれている。その事をここに居るあなた方の仲間に知って貰いたいし、その点を含め、情報収集の為にもこの世界の実情を詳しく聞きたい。そして、可能であれば身の安全の保証が欲しいです。」

 

 

「……分かったわ。そういうことなら良いです、少しそこにかけてて下さい。」

 

 

「すみません、お願いします。」

 

 

夕張が出て行った後、俺は垂れ下がた状態だった小銃を手に取る。副工廠長を除く2人の妖精が身構えるが、そんな事は他所に銃口を下にする。安全装置が掛かっていることを確認、弾倉を外してから槓桿を数回引く。

その際、薬室から実包(実弾)が飛び出て事務所の床に落ちるも、目で追いながら槓桿を引ききり、スライド止めを押し上げて固定する。

 

 

それを終えると実包をしゃがんで拾い上げ、

外した弾倉に入れ直し、弾嚢に入れた。

その後、薬室を点検し弾が無い事を確認した後、各部位を一つひとつ丁寧に触りながら破損が無いか確認し、全てが終わると扉の方向に向きつつ銃口を下方へ向け、ドライ・ファイアの動作を行って安全装置をかけた。

 

同じ要領で9mm 拳銃も弾抜け安全点検を行う。

 

 

一通り弾抜け安全点検を終えた俺は、背のうを下ろし、近場の椅子に座る。その際に小銃は腰掛けたときに両足の間に置き、左手で脚部を持ち倒れないようにする。

 

一連の動作を見ていた3人の妖精たちは、

その洗練された動きに魅了されていた。

 

 

 すかさず、

見た目が大学生くらいの副工廠長 妖精(夕張 機関兵曹長 妖精)が質問してくる。

 

 

「凄く綺麗な執銃動作(しつじゅうどうさ)ですね!それに、私たちはその銃を初めて見ました!!亮司さん、その銃は何て言う名前なんですか?」

 

 

「お褒めの御言葉ありがとう。やっぱ気になるかい?……これは89式 5. 56mm 小銃と言ってね、俺らの組織では“はちきゅう”って呼んでる。その名の通り口径は5. 56x54mmの弾丸を発射する自動小銃(アサルトライフル)で、連射(フル・オート)3発制限点射(3バースト)単射(セミ・オート)を選んで撃てる銃なんだよ。俺の世界……と言った方が良いな。そこでは、隊員一人一人にこの銃が行き渡ってるよ。」

 

 

その後は妖精達の質問責めにあった。“空撃ちをしても大丈夫なのか?”とか、“連射速度はどのぐらいなの?”等々、本当に色々と聞いてくる。睨みを利かせていた砲雷長 妖精や、さっきまで恐る恐る話していた工廠 妖精もだ。

 

 

 一般人や少しかじった程度のミリタリーオタクに誤解されがちだが、現代の軍用銃は信頼性が向上しているため、空撃ち(ドライ・ファイア)する事によって撃針(げきしん)、つまりファイアリング・ピンを痛める事は、殆ど気にする必要がない。

それらを答える毎に、「おぉ~!」とか「へぇ~!!」などの歓声が沸き上がる。

 

 

 

 

 

 

暫くすると夕張が戻ってきた。

その後ろには、不思議な透明感のある青髪のロングヘア、前髪は一部長い毛先が淡い金色に、後ろ髪は毛先が銀色に染まっており、白いセーラー服を着た見た目は高校1年生くらいの少女が居た。その少女が俺に話しかけてくる。

 

 

「初めまして。あなたが……私に面会を求めてきた……侵入者さんですか?」

 

うん、笑顔で開口一番これは酷いと思うが、事実なのであまり咎めないようにしよう。

 

 

「そうです、貴女がここの責任者の“五月雨”さんですね?」

 

 

「はい!一等駆逐艦、白露型駆逐艦6番艦の五月雨です!“階級は中佐”に値します!!」

 

 

「日本国 陸上自衛隊 北部方面 第7師団隷下 第11普通科連隊 第3中隊 所属 五木 亮司 二等陸尉です。歳は24で、中尉の階級に値しております。部下からは“五木二尉”と呼ばれていましたが、特段、呼び方は気にしておりませんので好きに呼んでもらって構いません。お会いできて光栄です、五月雨中佐。」

 

 

彼女の自己紹介に続いて、俺自身も軽く自己紹介をする。やはり此所は艦これの世界のようだ。

…だが、またも不確定要素が出て来た。俺は彼女が自己紹介で発言するよりも前、夕張が言い放った【階級】という単語が気になっていた。本来、それはユーザー(提督本人)にしか適用されないものであり、艦娘が名乗るものではない(・・・・・・・・・・・・)。ますます、悩みの種が増えてくる。

 

 

「夕張さんからお話は聞いています。あなたは帝国陸軍の方では無いようですが、危害を加えるつもりは無いとの事なので、特別に今回の行動は不問に致します。……ですが、武装解除だけはさせて頂きます。宜しいですか?」

 

やはりそう来るか。

 

 

「銃剣を除いて、とっくに武装解除してますよ。実際にあなた方を()る為に拳銃を抜こうものなら、3アクション+a(プラスアルファ)はかかります。現にこちらは丸腰。そちらは薬室に装填済みの十四年式拳銃が2丁。…それでも不服でしょうか?」

 

俺の言葉に2人が驚く。そりゃそうだ、隠せてると思ってるのか、彼女らが持つ拳銃は俺の視界にさっきからチラチラと映っていた。素人じゃないんだから分かるに決まってるだろうよ…。

 

 

「……はぁ……警戒するだけ無駄って事ですね。それで、あなたは本当に………何者なんですか?」

 

 

2人は拳銃を机に置き、俺と正対する。

 

 

「それについては……今から言う話を嘘だと思わないで聞けるのなら話してあげますよ、五月雨中佐。」

 

 

「……分かりました。」

 

 

俺は、彼女達にこれまで身に起こった事を全て包み隠さず話した。俺が転生者であることも。最初こそ懐疑的に聞いていたが、日本の歴史……特に第二次世界大戦の話をすると、あからさまに表情が変わった。そこからの終戦、復興への道のり、自衛隊発足までの過程を伝えた。

 

 

「……これが、俺の居た世界です。」

 

 

彼女達は驚きのあまり多少ショックを受けているが、五月雨だけは俺の話しに対し、一部ショッキングな事には表情を僅かに変えつつも、それ以外は真剣に耳をかたむけていた。

 

 

「…よく分かりました。五木ちゅう……じゃなくて、二尉(にい)ですね。…貴方が居た世界の事を。次は、私たちの世界ですね。」

 

 

そう言うと、五月雨は語り出した。

だが、俺は彼女から発せられた話の内容を聞いて言葉を失った。

何故なら、この世界は艦娘という存在は居るが、それらはあくまでも、口寄せによって人間の身体を捨てた【巫女】のような存在であり、元は人間だったという事。そしてその艦娘は、一つの戦闘艦の艦長であること。なにより【似て非なる第二次大戦中の世界】だからだ。この世界は、前世とは全く異なる歩みを進めているが、一つだけ違った点がある。それは【あの無謀な作戦行動を行ってない】という事だ。という事は、事の運び方によっては結末を変えられるのかもしれない。そう考えながらも、俺は次の確認をとる。

 

 

「なるほどね…。ということは中佐、ここの燃料・弾薬・食糧を含む兵站は、あまり宜しくないのですか?」

 

 

「…そんな、階級なんてお気になさらないで下さい!歳は私の方が下ですし。あと、敬語も気にしませんから。……そうですね、燃料・弾薬・鋼材等の資源は限られています。事情をこちらに駐屯している陸軍の第32師団の師団長と族長にお話ししたのですが、ここの土地や衣類、食糧を分けてもらうのがやっとな状況です……。」

 

 

階級的には五月雨が上にあたるのだが、

彼女はそれをあまり気にしないタイプなようだ。

それにしても参った………ここに本来1944年4月頃に来る陸軍が駐屯してるとはいえ、兵站が確立されているのが最低限の衣食住だけとなると、ここから一番近いパラオまで向かうのは無理だ。ましてやこの時代は、米軍とは戦争状態になってはいないものの、深海棲艦と戦争状態にある状況だ。

 

付近に潜水艦が潜んでいるかもしれないのに、兵站がこれでは厳しい限りだ。

 

 

「では、何とかして燃料だけでも確保しないとならないのか。……宛はあったりするのか?」

 

 

「1週間前に陸軍の将校さんに頼んで、タウイタウイ泊地の提督に連絡をとってもらい、何とか油槽船1隻をこちらに回して貰える事になりました。」

 

今までの話の中で最大の朗報だ。ここの陸さんとは良好な関係を築けているらしく、相手さんは空路でタウイタウイまで飛んで行って2人の生存と油槽船(タンカー)を回すことを手配してくれたようだ。

 

 

「それは良かった。…では、五月雨さん達は補給後はタウイタウイへ?」

 

 

「…そうもいかないんです…。」

 

 

「えっ?」

 

 

「この島は今、私たちや陸軍さんが居るからこそ、周辺の安全が保たれているんです。」

 

 

「…潜水艦……か。」

 

 

「鋭いですね、その通りです。…そうなると、通商破壊艦隊…延いては敵の港湾施設がある可能性が高いです。今回こちらに向かってる油槽船も潜水艦を警戒して護衛を含めて向かってるのですが、戦力としてはこちらに回す事が出来ないので、事実上、私たちだけでこの近辺の制海権をとらなければなりません。………それをしてからじゃないと帰れません……ここの人達から受けた御恩を返してからじゃないとダメなんです!!」

 

 

五月雨は力強くそう言い切った。

彼女等は現地人の協力があってこそ、今を生きている。脇目を振らず・真っ直ぐに、驕れることなく、ただ一心に“誰かの力になりたい”という思いを込めて、これから先の事を見据えている。

 

……本当はここに来たときから決めてはいたが、まぁ良い。俺の腹積もりを話すとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら、俺も君達と…共に戦う!」

 

 

決意に満ちた表情で言い切る。

 

 

「「「「「!?」」」」」5人が一斉に驚く。

 

 

部屋の窓から見える景色はすっかり暗くなり、

一日が終わる事を告げていた。

 

 

 

 

 

 




「あなたはこの世界の人間ではないのですよ?!」


「この世界に生を受けたからには、彼女の言っていた試練とやらを乗り越えてみようじゃないか。」


「海軍とは勝手が違いすぎるのよ!?」


「言ったじゃねぇか、俺に任せとけって。」






次回、
艦隊これくしょん -The world of the afterlife-

Act. 3 初仕事 -Let's coking!-


 あなたはこの世界で、何を思うのでしょうか?


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Act. 3 初仕事 -Let's coking!-

不運な事故によって生涯に幕を下ろした自衛官、五木 亮司。


林を抜けた先の軍港で出会った艦娘、
五月雨、夕張とその妖精らに話を聞く五木だったが、

そこで艦娘が、口寄せによって人間の身体を捨てた“巫女”のような存在であると共に、“似て非なる第二次世界大戦を歩む並行世界”だと知る。


異国の軍艦である自分達を助けてくれた現地人と陸軍師団に恩返しをすると決めている彼女らに賛同する形で、
五木もまた、
彼女らに自らの胸中を吐露するのであった。






「なら、俺も君達と…共に戦う。」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

決意に満ちた表情で俺は言い切ると、

それに5人全員が驚く。

 

部屋の窓から見える景色はすっかり暗くなり、

一日の終わりを告げていた。

 

 

 

 

俺の言葉に五月雨が、

「い、いきなり何を言うんですか!?この戦いに無関係なあなたが赴く必要はないのですよ?!」

と、狼狽えながら言ってきた。

 

 

突拍子もない発言だと思っているのだろう。

他の4人より明らかに動揺しており、

語気も自然と強く、そして、口調も早くなっていた。

 

 

「俺はもう転生した時から決めてるんだ。この世界に生を受けた?…からには、彼女(アマテラス)の言っていた試練とやらを乗り越えてみようじゃないかってね。」

 

 

 

原因不明の外的要因によって死ぬことになり、

新たな世界に転生させて貰う代わりに試練を乗り越えろ等と言われたら、

俺のように納得出来る者は限られてくるだろう。

 

俺はあの時、確実に死ぬと分かっていても沙美を救うために身を挺した。

それは、自衛官としての使命もあるだろう。

 

 

だが、

俺はそんなちゃちなもの(本音と建前)では無いと感じている。

それは、本能と言うべきか……純粋に俺の本心が【彼女を守れ!】と突き動かしていたからだ。

単に彼女との親睦が深かったからと言えばそれっきりなのだが。

 

 

もちろん、

それとは別に未練はあるし、

まだまだやりたいことも沢山あった。

異性と付き合い、幸せな家庭を持って平和に暮らし、一生を終えたいと切に願っていた。

……現実は非常であったが。

 

 

 

 

しかし、

俺は死後の世界で彼女(アマテラス)に出会っても、

不思議と憎悪などの嫌悪感は全く湧いてこなかった。

 

 

それに…彼女(アマテラス)は、

自分自身のせいではないにも関わらず、

【自分が招いてしまった事だ】と謝り、

試練を乗り越える際は、一介の人間に力を与えるとまで公言していた。

 

例えがこちら(自衛隊)の話になるが、

女神である彼女は俺が死んでしまったとはいえ、まるで、

定年や任期満了で退職する自衛官をサポートする援護担当の自衛官のように手厚く手引きし、この世界へと転生させてくれた。

 

 

 

まぁ、世界は違えども同じ日本人が危機的状況にあるのは変わらない。異世界でも防人(自衛官)でいられるからこそ、この気持ち(戦いへ赴く事)に嘘偽りは全く以て無い。

無論、ある程度は自衛隊法の部隊行動基準(Rules Of Engagement )(のっと)ってだが。

 

 

寧ろ、

俺はこの手の転生物を前世で見ては楽しんでいたタチであり、

自分の望む世界にそのままの容姿で転生させてくれた彼女(アマテラス)に感謝さえしている。

 

彼女らに省略しつつも、俺はこの気持ちを吐露し、これで締め括ろうとした。

 

 

 

 

そこに透かさず、

 

「だけど、あなたは陸軍でしょ?!海軍とは勝手が違いすぎるのよ!?!?」

 

と、今度は夕張が食ってかかる。

 

 

五月雨よりも大きな声で、

尚も肯定的な発言をする俺の身を案じているのと同時に、

【陸のお前に何が出来る】と言いたいのだろう。

 

確かに、

俺には操船技術や艦隊指揮能力は無い。

ゲームの艦これとはわけが違う。

 

 

俺は【自称ミリヲタの成れの果て】と豪語するほど、

その点に関して(軍事関係)は徹底的に調べ上げる程の物好きだ。

 

 

だが、

海軍系列で知ってるのは精々、

歴史と艦艇のスペックや装備、戦略・戦術、海自式の号令・礼式くらいであり、実際に操船・操艦指揮を執ったことはない。

はっきり言って、

これだけでは本当に使い物にならない。

 

 

 

しかし、

何も【陸の士官が艦隊を動かす事】に重点を置く必要は無い。

艦隊の指揮が執れないのならば、他にも出来ることは沢山ある。

 

 

「陸軍言うな、陸上自衛隊(・・・・・)だ。…まぁ、とりあえずこれから追々見せますよ。丁度、頃合いでもあるし。」

 

 

「…頃合い……ですか?」

夕張 砲雷長 妖精が小首をかしげる。

 

 

俺は腕時計を見た。

現在時、1812(ヒトハチヒトニー)。俺自身にとっては遅い夕食時だ。

 

 

「あぁ。まず一つ目は、俺が君たちに“温食(おんしょく)”を出してやる。…“缶飯(かんめし)”じゃなく、ちゃんとした糧食(りょうしょく)をな。」

 

 

そう、

俺が最初に業を見せられるものであり、

海・空自衛隊に負けず劣らず出来ること。

所謂、【兵站支援(炊事)】だ。

 

俺は妖精さん達に小銃の説明をしてる間でも、

周囲の観察を忘れてはいなかった。

その際、

机の一角に置かれていた戦闘糧食を発見し、

説明ついでの駄賃として妖精さんに質問した。

 

 

案の定、

ここに来てからは温食を取ってはいるものの、

食事の殆どは備蓄の戦闘糧食で腹を満たしていたらしい。

 

聞くところによると、

護衛任務分の携行食しか積載しておらず、

温食が作れなかったので当初はそれを食していた。

先の事象によりこちらに流れ着いてからは、

現地人からの心優しき食材提供もあるのものの、

異国の人々にそこまでお世話になるわけにもいかない。

 

 

そのため、

譲り受けた食材に頼りすぎずに効率よく消費しようと、中佐(五月雨)は配慮し、調理はするも極力保存できる物は保存し、大半の食事は携行食で済ましていたということだった。

 

 

また、

妖精さん達は食事を取らなくとも、

艦娘が食事さえ取ればそれが霊力に変換され、

活力がみなぎるのだとか。

妖精さん達すげぇ……。

 

 

戦闘に陥った場合でも特に問題ないというが、

流石にレパートリーがほぼ同じ物を全体の食事の8~9割近く食べ続けるとなると、

艦娘である彼女たちは、

飽きもくれば栄養失調にもなりかねない。

 

 

…逆を言うと、

よく一ヶ月も保たせられたなと俺は感心した。

彼女たちを見る限りでは、

偏食による体調不良は見受けられない上、

血色も良い状態にあるが、

これ以上長くは保たないだろう。

 

 

こればかりは現地の人々に感謝だ。

 

 

そこで、

俺は考えるまでもなく結論に至った。

俺は部隊で炊事の経験があり、大抵の料理は容易く作れてしまう。プライベートでも料理は得意としており、生前に開かれた部隊内での炊事競技会では、第3中隊の代表メンバーの1人として活躍し、見事に全9チーム中1位に選ばれた程だ。

自信は大いにある。

 

 

「…とりあえず、俺がいま出来る事って言ったらそれくらいだし、皆腹減ってるだろ?毒なんか盛りゃしねぇから、誰か図々しいことを承知で俺を調理場へ案内してくれるか?」

 

 

「はぁ……、じゃあ私が自分の艦まで案内します。烹炊所は綺麗にしてあるけど、食材はそんなにないわよ?」

 

 

「問題ありません、有るものだけで何とかしますよ。」

 

 

「……分かったわ、着いてきて。後、階級は大佐だけど歳は同じだから敬語はやっぱ要らないわ。普通に話してちょうだい。」

 

 

「了解、じゃあ頼むよ。夕張。」

 

そう言って、置いていた背嚢を再度背負う。

 

 

(……大丈夫なのかしら……いきなり押さえ込まれた時は驚いたけど、悪い人ではなさそうだし。ていうか、料理出来るのかしら……)

 

 

夕張に怪奇の眼差しを向けられながらも、

彼女を先頭に埠頭へと向かう。

 

 

 

 

現地に着くと、舷門に男の妖精。

 

 

恐らく、

海上自衛隊の舷門当直の役割を担うと思われる彼が、

先頭から夕張・五月雨・俺・妖精達の準でこちらが艦へ乗り込んで来るのを確認すると、艦長(夕張)に対し海軍式の敬礼をする。

 

 

「お疲れさまです艦長、五月雨艦長!異状ありません!!」

 

 

夕張はそれに“お疲れさま”と優しく声をかけて答礼し、“来訪者がいるから丁重に扱ってね?”と小声でささやく。それに対し、彼が頷く。……俺は聞き取れたが、近くに居た五月雨は聞き取れなかったようだ。

 

五月雨もそれに続き答礼しながら“ご苦労さまです!”と労いの言葉をかける。

俺自身も彼に陸軍……いや、陸上自衛隊式の敬礼をするもあからさまに警戒される。

 

階級章等を見る限りは工作科の上等兵……いや、

史実等が合っているのならば、11月頃に改正する前の【二等工作兵】、【自衛隊では士長】の階級だな。つまり、彼は【応急修理要員(ダメコン)】さんか。

 

 

“まぁ、そりゃこんな格好してたら怪しむよな”と思いながらも、

足早に調理場への道案内をしてもらいながら、

俺は鉄帽(てっぱち)を脱ぎながら夕張艦内へ進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は今、

調理場もとい夕張艦内にある烹炊所(ほうすいじょ)で装具と上衣を脱ぎ、

工廠で遭った五月雨を除く彼女達と、夕張 士官妖精8名に提供する食事を汗だくになりながら作っていた。

夕張の下士官はもう携行食で済ませてしまったらしい。

五月雨も同じのようだ。

 

 

 

時刻は1957(ヒトキュウゴーナナ)を過ぎた頃。

烹炊所には食欲のそそる匂いが立ち込め、

その場に留まるところを知らずに艦内全体へと拡がっていく。

 

 

 

元々、今日は糧食で済ませる予定だったため、

いきなり来て“調理をするから食材を渡してくれ”とは言えないので、

 

そこは夕張に軽く事情を説明してもらい、

この艦の主計科長である主計兵曹長 妖精の許可を頂いたのだが、

 

“どんなもんか見てやろう”と言わんばかりの眼差しを終始向けられていた。

 

…無論、

それは夕張に乗艦している主計科・烹炊班の下士官 妖精も同じだった。

 

 

…というか、

さっきの奴もそうだが、

男の妖精もいるんだな。あと彼は腹が出てる。

 

 

 

そんな事は置いといて、

下準備を含めて1時間半くらい掛かったが、

とりあえず食事は完成した。

 

あり合わせの食材で出来たにしては上出来だろう。

 

 

・ご飯(備蓄米+麦)

・豚小間ボールの肉じゃが

・沢庵

・牛蒡と人参の根菜味噌汁

 

 

沢庵は缶詰として保存していた彼女たちの戦闘糧食のものだが、

それ以外は一から俺が作り上げた。

 

 

特に力を入れたのは肉じゃがで、

最初に豚肉を小間切れにしてから丸め、

片栗粉をまぶしてコロコロと転がしながら焼き上げ、1人当たり4個当たるよう豚小間ボールを48個作る。

 

 

作った内の半分程の豚小間ボールを、

1個につき1本クローブ(丁子)を刺して下準備を整え、

鍋に油を熱し、切ったじゃが芋、人参、玉ねぎをサッと炒める。

全体に油がなじんだら、水、多めに作っていた根菜味噌汁用の昆布だし、酒、みりん、はちみつを入れ、軽くアクを取りながら煮立たせる。

 

 

煮立ったら醤油と豚小間ボールを入れて全体をさっと混ぜる。

大釜用のおとし蓋をして、余熱で約20分待つ。その後は、

盛り付け時に豚小間ボールに刺したクローブを抜きとる。

これで、

ほっこり豚小間ボールの肉じゃがの出来上がりだ。

本来は、これに糸こんにゃく(つきこん)をサッと茹でてから入れたり、

いったん冷ましてから食べる直前に再度温めると良いのだが、

生憎、そこまで待てる気がしない。

 

 

「「「「………。」」」」

 

 

そして、

士官食堂には夕張以下11名の乗員妖精達が、姿勢を正しつつ盛り付けられた料理をマジマジと見つめていた。

 

 

「どうぞ、お召し上がりください。自分は器具の後片付けをしてきますので、失礼します。」

 

俺は足早にその場を去る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「…頂きます。」」」」

 

 

俺達は合掌してそれぞれの料理に箸を付ける。

 

 

各々、豚肉の小間切れを丸くした物を口に運ぶ。

 

一口サイズのそれは、噛みしめる度、

肉汁と煮汁が口の中いっぱいに広がり、

途端にご飯が欲しくなる。

 

 

豚肉は丁子によって臭みが取れており、

小間切れ肉を使ったとは思えないほど肉厚で、短時間にもかかわらず煮汁をよく吸い込んでいる。

 

 

…“旨い”。その一言に尽きる逸品だった。

 

俺自身も艦長に召喚されて以来、部下である航海士達と暇な時に魚を捌き、それを軽く調理してから一緒に飯を食う事もあったが、これほどの物を戦地で食べられるとは……。

 

 

 

「……料亭の食事を味わってる気分だわ、最低限の材料でここまで美味しく作れるなんて……!」

 

 

艦長は驚きながらも箸が止まらなくなっていた。

かく言う俺も、他の奴らも“旨い”だの“こんな飯は久しぶりだ”と言いながら、同様に無我夢中で食に有り付いていた。俺自身もこんなに旨い飯を食うのは久しぶりだ!

五月雨 艦長が召し上がれないのが残念だが…。

 

 

 

 

「………言ったじゃねぇか、俺に任せとけって。」

 

 

包丁を片手にドヤ顔を決める士官。

この食事を作った張本人だ。

どうやら片付けは終わったらしいが、

これから何かするのだろう。

 

 

もう片方の手は篭を掴んでおり、

中には、人数分のバナナが入っていた。

 

遅れてやって来たのは、

主計兵曹長 妖精以下6人の隊員達が、空の皿やレモン汁を持ってきていた。

 

 

 

比較的小ぶりな空の皿を、

各人の食器横に置いていく。

 

 

何が始まるのかと思っていると、

例の士官が一本のバナナに縦半分の切り込みを入れ、皮を剥いて中身を取り出す。

 

その後、丁寧な包丁さばきで中身のバナナを一口サイズにスライスしてから中身を皮に戻し、後からやって来た隊員が持ってきたレモン汁をふるっていた。

それが空の皿に次々と順番に乗せられていく。

もちろん、五月雨 艦長の分もだ。

 

 

「これは……?」

 

 

飾り切りバナナ(バナナボート)のレモン汁振りです。この地域はそろそろ本格的な暑さになると思ったので、南国のフルーツであるバナナにレモン汁をふるっただけですが、酸味によるサッパリとした味で食べやすいと思います。食後の甘味(デザート)としてお召し上がり下さい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…結果から言うと、

乗員の胃袋を掴むことは出来た。

 

 

初めは警戒していた妖精士官達も、

俺の作った飯を貪るように食べ尽くし、

その技量を賞讃してくれた。

デザートは、

食事を済ませてしまった五月雨にも行き渡らせる事が出来たので、こちらとしても万々歳だ。

 

 

 

逆もまた然り。

 

主計科の妖精達にも、

俺好みの軽いまかない飯を振る舞ったがこちらも上々、

“是非とも作り方を教えて欲しい!”と言われた。

 

後日、作り方を教えてあげることにしよう。

 

 

 

 

そんなこんなで時刻は2230(ニーニーサンマル)過ぎ。

 

夕張の計らいで、

俺は1人分空いている士官室の部屋で休息する準備をしていた。

ここには、俺の他に航海長 妖精と航海士 妖精の2人がいる。階級はそれぞれ、少佐と中尉だ。

 

 

元々3人部屋で一つだけ空きがあったのを、

彼等が快く承諾してくれた事から、

夕張からこの部屋を使うように言われて今に至る。

 

 

「しっかし、飯も旨ければ寝床支度も上手いとはな。アンタ本当に何者だよ。」

 

ベッドメイク中に、

航海長から声を掛けられた。

 

 

「まぁ、自分にとっては当たり前の事ですからね。言うなれば、教育隊の時からベッドメイク一つでも一人が手を抜けば、それが仲間にしわ寄せが行く事を、身を以て知っているからこそ……ですかね。詳しくは明日にでも説明しますよ。」

 

 

「その方が良いですね、私も少し寝たら交代しなければなりませんからね。……航海長が羨ましいですよ。」

 

 

「変わんねぇっての、どのみち明日の先任は俺なんだからよ。」

 

 

この部屋に来てから、

短時間で随分親密な関係になったと思う。

 

と言うのも、

初めは警戒されるとばかり思っていたので、

正直ここまで気さくに話せるのは、

夕張の計らいとこの部屋の主である航海長、

そして航海長自身が俺を信用してくれたからだろう。

夕張と俺は流石に待ったをかけたが、

彼が“良い”言うもんだから、小銃や装具品も纏めてこの部屋に置いてる。気さくを通り越して自由な方だ。

 

 

 

「ははははっ、じゃあそろそろお開きにして就寝しましょう。それじゃ、お休みなさい。」

 

 

“おうよ”、“おやすみなさい”とそれぞれから返事をもらい、俺は毛布を被る。

 

そして、

直ぐさま板のように身動ぎもせずに横たわる。

ここに来て眠気がピークに達していた。

 

 

(明日からが…本格的な状況(実行動)だ…………)

 

 

戦闘服の胸ポケットにしまっていたスマートフォンとイヤホンを取り出し、操作する。

音楽プレーヤーを起動して好きな曲を聴きつつ徐々に意識を預けていく。

 

 

意識が薄れ行く最中、

最後に聴いた曲は俺の心を落ち着かせてくれた。

 

 

 

 

 

 




「急げ急げ急げ-!!!!」

戦闘配置のラッパが鳴り響く夜明けの警備府


「弾ぁ持って来ぉい!!!!」


「早く撃たないと!」


「まだだ、まだ引きつけるんだ。」

焦る皆を取りまとめる亮司


「射撃用~意……………射てぇぇ!!!!!」

妖精達と共に、一斉に射撃を開始する。




次回、
艦隊これくしょん -The world of the afterlife-

Act. 4  総員、戦闘配置 -All hands, man your battle stations-


 あなたはこの世界で、何を思うのでしょうか?


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Act. 4  総員、戦闘配置 -All hands, man your battle stations-

自らの意思と総氏神によって、
艦娘が存在する世界に転生した五木亮司は、
艦長である艦娘と兵員妖精に、自身が作った食事を提供する事によって信用を勝ち取ることに成功する。

一部の水兵とも良好な関係を築く事が出来た五木だったが、それと同時に、これから先の出来事に一抹の不安を覚えるのであった。





※本編には一部、
残酷な表現やグロテスクな描写が含まれます。
苦手な方は閲覧をご遠慮ください。


──“…………!……ッ!!!!”──

 

 

──“!?……………!!!!!”──

 

 

──“……!!……!!………ッ!!!!”──

 

 

 

 俺は夢を見ていた。

(まぶた)を閉じてから暫くした頃、視界は白黒で彩られた世界を映し出し、同時に数多くの兵士が様々な様相でその場に広がっていた。

既に息絶えている者や辺りを駆け回る者、怒号を放っているのか大口を開けてる者など様々だ。

周りの音は全く聞こえはしないが、その状況から切迫した雰囲気が否応なしに脳裏まで直に伝わって来る。曳光弾(えいこうだん)が混じっているのか、機銃や砲弾の雨が目に見えて飛び交うものの、それらは何一つ俺自身には当たらずに擦り抜けていく。嫌でもこの状況を見てとれば、誰しも真っ先に感じることだろう。

 

 

 

 

ここは“戦場”だと。

 

 

 

 

 実際、俺もそう思った。

 

飛来した砲弾による直撃を受けて跡形もなく吹き飛ぶ者、直撃を受けずともその余波によって四肢や頭を吹き飛ばされた者、はたまた銃撃によって身体にいくつもの穴を空けて絶命した者。とても夢とは思えないほど現実味(リアリティ)が高かった。

 

…しかし、火薬の臭い・砲爆音・銃声・人の声。それらは一切聞こえない。まるで、昔に撮られた無音の白黒映画を観ている感覚と似ているが、これには、その後に在るべきナレーションも後付けの音声すら無い。普通の人間にとっては、無音だとしても、その光景を見ればたちまち恐怖心に駆られると同時に、本当に夢なのか? と一瞬でも思ってしまうだろう。…だが俺は違った。

 

 

 

(これは、帝国陸軍と……何処が戦っているんだ?)

 

 

 

 夢だと確信していた俺は、次に“誰が誰と戦っているか”という推察に至っていた。恐怖が無いわけではないが、単純にこの“夢”の事を気にとめていた。

周囲にいる彼らは、その容姿から大日本帝国陸軍ということだけ、辛うじて判別することは出来たが、戦ってる相手は遠いのか姿は確認できない。

 

視点は固定されていないようなので、

俺は顔を動かしながら情景全てを隅々まで見渡してみる。

 

 

 白黒ではあるが、立っている位置から右側の中間に海岸線、遠くの方には海が見え、さらにその先には煌々と照らされる太陽が見える。日の出のように見えることから、右は“東”と仮定した。だから必然的に身体が向いている方向は、大まかではあるが“北の方角”だと判断する。

 

 

しかし、それだけだ。

 

 

東寄り、あるいは西寄りなのかまでは、流石にこの判断材料から決定付けることには無理がある。

場所もまた然り。

現在地は山々が周囲に見えはするものの、

島か何処かの沿岸に居るのかさえ見当もつかない。

見えるのは陸地と海。そして、眼前で今も戦っている兵士達。

 

 

 

 

 ふと何気なく、足元を見やる。

そこには、誰かが持っていたであろう三八式歩兵銃(さんはちしきほへいじゅう)が落ちていた。

 

 

(………まさかな……。)

 

 

頭では“あり得るわけがない”と思いつつも、

今の状況によく似たとあるFPSゲーム(Battlefield1)の冒頭部分を予感していた。

 

 

 

恐る恐る、三八(さんぱち)に手を伸ばし……掴んだ。

 

 

 

 

いや、掴めた(・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 すると突然、 

それまで感じることの無かった事が次々と起こった。

 

激しい目眩に駆られたと思えば、途端に吐き気を催してくる。それまで感じられなかった五感の全てが、一気に俺の身体へ襲いかかって来たからだ。周囲の音や空気、状況が手に取るように判る一方、それまで経験する事の無かった戦場特有の……言葉だけでは言い表せない死臭にやられ、俺はその場に吐瀉物(としゃぶつ)を盛大に撒き散らした。

 

 

「おい!!しっかりしろ!!!!」

 

 

大声で怒鳴られると同時に、身体を左側へ勢いよく引っ張られる。直後に銃弾が右側を何発も通り過ぎたと思えば、今度は走れと急かされる。

俺は気力を振り絞って、俺を助けたそいつと一緒に前方15(15m)の位置にある塹壕まで駆ける。その間も銃撃が止むことは無く、ひたすらにこちらを撃ち殺そうと見えない相手は攻撃を続けてくる。

 

命かながら、俺とそいつは塹壕まで辿り着く事が出来た。…俺にとっては夢であり、転生したと言っても死人には変わりないのだが、ここまで来ると俺も“本当に夢なのか”?と疑い始める。だがそんなことより、俺を助けた奴に礼を言うのが先だと考え、呼吸を整えながら顔は下向きのまま、助けてくれたそいつに声を掛ける。

 

 

「…すまない、助かっt「この大馬鹿野郎がァ!!」っ!」

 

 

礼を言おうとしたが、突如として胸ぐらを掴まれ、そのまま思いっきり顔を殴られた。滅茶苦茶いてぇ…。

 

 

「テメェ!あんな所で吐いている場合か!!敵の良い的だぞ?!死にてぇのか!!!!」

 

 

……死にてぇのか…というか、既に逝ってますけどね。

まぁ、吐いてた事に変わりは無い上、普通ならあんな所に居れば死んだも同然だったから否定はしないが。…ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……あれ?俺ってこんな声(・・・・)

だったか?

 

ってか、何で俺の声が上から聞こえるんだ(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

俺は驚き、咄嗟に顔を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには憤怒する自分が居た。服装は陸上自衛隊の物であり、紛れもなく自衛官としての自分だった。

 

殴られた時こそ顔を認識する事が出来なかったものの、

今ならハッキリと見られる。

 

俺は何が何だか分からず、唯々呆然と不届き者を叱る自分を見つめる事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

────────────────────…………………

 

 

 

「………何なんだいまの…………。」

 

 先程の出来事で、俺は反射的に飛び起きた。

背中には嫌な汗を掻いておりとても不愉快極まりない。

それと同時に既視感を覚えた。

まるで既に体験したことが有るような感覚だ。…いや、だった(・・・)

 

 

…あり得ない!あり得るわけが無い!!

 

そもそもこんな戦いを生前に経験した事などすら無い。

…なのに………何故、

 

 

 

………五木二尉、どうかしましたか?

 

 

小声で声をかけられる。航海士 妖精(中尉)の声だ。どうやら起こしてしまったらしい。

 

 俺はいま、二段ベッドの一番上に寝ているので、必然的に振動が下の者に伝わってしまう。顔を乗り出して下を覗くと、

薄暗い部屋の明るさでも、ハッキリと判るくらい目元を擦りながら、寝ぼけ眼でこちらを気に掛ける中尉の顔が見えた。

 

 

…あぁ、中尉。起こしちまったか、悪い。…少し嫌な夢を見ちまってな。

 

 

俺はそんな中尉の顔を見ながら、起こしてしまった事を小声で謝罪し、起こしてしまう原因を軽く説明した。その際、彼とは反対側に寝ている航海長を横目に見たが、爆睡な上に大きないびきを掻いている。それに付随して寝相が悪いおかげでとんでもない有り様になっていた。…滅茶苦茶だらしない。

 

 

それは驚きますね…。でも大丈夫ですよ、自分は見張りから戻って、つい1時間前に寝床に入ったばかりですし。それに、あと1時間もしたら夜明け(0500)です。0600(マルロクマルマル)になったら起床ですから、あと約2時間、ゆっくり休んで下さい。

 

 

彼はそう言って俺に向かってサムズアップしてきた。腕時計のライトを点け、時刻を見やると0353(マルサンゴーサン)と表示されていた。飛び起きた事も相まって、腕を垂れ下げると共に、うつ伏せに項垂れる。

 

 

…もう直ぐで夜明けなのか……、分かった。寝れるか分からないけど、休むことにするよ。

 

 

そう言って中尉にサムズアップを返す。それに応えるかのように、中尉は笑顔を見せると再び目を閉じる。

 

俺は身体を枕元に戻そうとしたが、その際、背中に違和感を覚える。枕元を見やると、左右のイヤフォンが乱雑に置かれていた…いや、取れたが正しいな。寝る前にスマホで曲を聴きながら寝てしまった為、寝ている途中で取れてしまったのだろう。

 

 

時間的に余裕はあるが、曲を聴く気分にもならなかったので、俺はイヤフォンを退かしてスマホから端子を取り外す。きれいに束ね、戦闘服の左胸ポケットにイヤフォン・スマホの順で仕舞うと、態勢を仰向けに変えて目を閉じた。

 

気遣ってくれた中尉の為にも、疲れてしまった自分()の為にも、兎に角いまは身体を休めなければと思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…だがそれも、突如として本艦(夕張)から鳴り響いた警告信号(短音5回の汽笛)によって崩れ去った。

 

 

直後に対空戦闘用意(航空機防御)ラッパが流れ

 

 

対空~戦闘用~意!!!!!」と、

当直士官から号令が掛かった。

 

 

俺や中尉、爆睡していた航海長も直ぐさま飛び起きて身支度を整える。先程会話していた俺と中尉は、反射的に動いた為に少しだけ身体を痛めたが、悠長な事はしていられない。身支度が整った者から、次々と自分の担当部署へと駆けていく。

 

 

俺は愛用のイーグル(89式小銃)を手に取り、甲板へと急ぐ。実は前日に、万が一戦闘になった場合は、機銃要員として着いてくれと夕張に頼まれていた。ルートは予め教えられており、迷う事無く進むことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「急げ急げ急げ-!!!!」

 

 

「こっちにも弾ぁ持って来ぉい!!!!」

 

 

 甲板上では怒号が飛び交っていた。

ところどころで揚弾作業が進められている。辺りは明かりが差し込めて来ており、地平線には、今にも目を瞑りそうな輝きを放つであろう太陽が昇る寸前だった。

朝方と言えど暑さは日中に近い暑さだ。

…風が無いせいもあって、汗を掻いた戦闘服のままだと不愉快極まりないが、そこは仕方ないと俺は割り切り、作業の邪魔にならないよう、彼等を避けながら艦尾へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 現地に着くとそこには、

自衛隊では見慣れた重機関銃(・・・・・・・・・・・・・)が備わっていた。

 

 

ブローニングM2重機関銃

 

 

またの名を“Caliber .50(キャリバーフィフティ)”や“.50 Cal(フィフティーキャル)”と呼ばれており、俺は実際に聞いたことは無いが、米軍では“Ma Deuce(マデュース)” 、“Big Mama(ビッグママ)”と呼ばれてるらしい。

自衛隊では、“口径”の英語をそのまま使用したキャリバー、HMG(エイチエムジー)MG(エムジー)と呼んでおり、入隊したての自衛官候補生や一般曹候補生(自候生や2士の新隊員)には一環して【12.7mm重機関銃(M2)】と教育している。

 

 

…少し、と言うかかなり(・・・)話がズレるが、

俺は“MG”という呼称は嫌いだ。

Machine Gun(機関銃)”と混同する上に、別の機関銃の名称と同じ頭文字になるからだ。

 

俺は正直、隊内で“MG”とだけ言われたら、

隊内用語で連装機銃(同軸機銃)と呼ばれている74式車載7.62mm機関銃を除いて、

汎用機関銃の62式7.62mm機関銃(無い方がマシンガン)

或いは、一昔前まで軽機関銃と呼ばれていた分隊支援火器であるMINIMI(M249)と、コイツ(ブローニングM2)が頭に浮かぶ。唯一許せるのはHMG(重機関銃)だ。自衛隊にある重機関銃は、これだけ(ブローニングM2)だけだしな。

 

 

ここで更に深く掘り下げる事にしよう。

何故“軽機関銃”と呼ばれていた(・・・・・・)のか。

 

 

 今日(こんにち)までの、歩兵が有する機関銃の部類は、

“軽機関銃”、“中量(級)機関銃”、“重機関銃”の3種類に分かれていた。

それが現代では、7.62mm級小銃弾を使用し、

かつ持ち運びが容易い空冷式の機関銃を“汎用機関銃(General purpose machine gun, GPMG)”と、差す事が多くなった。

対して、5.56mm級小銃弾を使用する、軽量・短射程の機関銃は主に分隊支援火器(Squad Automatic Weapon, SAW)と、分類されるようになった。

 

これは、機関銃そのものの運用構想が大いに関係している。

 

 

 

 

 

 話を戻そう。こいつは夕張曰く、対舟艇(たいしゅうてい)用に実験的に搭載されていた為、元々の輸送任務が終わったら取り外される予定だったらしい。流石は兵装実験軽巡と言われるだけはある。

…しかしながら、弾薬その物は大量に搭載しており、この場には1200発(API 800発、TB 400発)徹甲焼夷弾(Armor Piercing Incendiary)曳光弾(Tracer Bullet)があった。特にAPI(徹甲焼夷弾)に関しては、その焼夷効果によって航空目標にはとても有効だ。彼らが一般的に使用している25mm機銃と比べれば豆鉄砲だが、役立たずとは謂わせない。この時代の物は、生前居た部隊で使っていたQCBタイプ(簡易銃身交換型)ではないものの、扱い方は教育を受けているため大丈夫だ。

 

 

 

 俺は即座に銃座へ付くと、遊底覆いを開放し、遊底に付いている給弾機構が左側になっているかを確かめる。これを確認しなければ、弾が正確に装填されない。次に、槓桿(こうかん)を引ききって薬室内を点検する。弾や汚れは見当たらなかったため、槓桿を戻してから撃発し、遊底から飛び出た撃針を上から確認。最後に全ての点検を終え、弾込め準備完了だ。

 

 

 俺の直ぐ近くには、弾薬手として付いてくれている女の子の妖精が居た。“宜しく”と軽く挨拶し、相手もそれに頷く。元々は衛生兵長(看護科) 妖精のようだが、今回は俺の補佐として付いてくれているらしい。見た目が中学生くらいで緑髪のショートヘアーの彼女は、“150発です!”と言ってリンクで繋がれた50口径(12.7x99mm)弾を適切な位置に引っ掛ける。

 

 

150発!!

 

 

俺は大きく返事を返すと、遊底覆いを閉じ、槓桿を1回だけ引いて半装填(はんそうてん)の状態にする。

 

 

半装填よぉぉし!!!!

 

 

周りに聞こえるよう、更に大きな声で発声した。

まだこの状態では撃てない。

 

 

 実はこの重機関銃(ブローニング M2)には“安全装置”が無い。その為、撃てないようにするには、槓桿を一度引き、薬室内が空な事を確認して遊底と薬室の間に木製等で出来た“T型ブロック”を(はさ)めるか、今の状態(半装填)又は弾薬そのものを装填しないのが基本だ。他にも様々なアタッチメントを着けた際には、それぞれ別な方法で安全装置を掛ける事は出来るが、銃本体(・・・)はこれしか方法が無い。…射手自身が安全装置とはよく言ったものだ。

 

 

 

この間にも不明機(・・・)は刻々とこちらへ近づいてくる。後方に停泊している五月雨を見ると、向こうも対空戦闘の用意は整ったようだ。

 

 

 

 

 

 約40分が過ぎた頃、

この対空戦闘を指揮する者が大きな声で報告してきた。

 

 

「航空目標、艦首より左20度(ひだりふたじゅうど)から接近中!距離、12000(ひとじゅうふたせん)!!」

 

 

距離は約7.5mile、目視できる距離まであと僅かだ。

俺と彼女は艦尾に居るため、

直ぐさま報告のあった方向へ銃口を向ける。

その際にも注意喚起は忘れない。…だが、

 

 

「…クッソ、日が出て来やがった!」

 

向いた方向から見て右10度くらいの位置、

忌々しいほど眩い光を放つ太陽が姿を現していた。

 

 

 

【逆光】だ。

 

 

 

サングラスでもあれば良いが、

生憎、そんな物は無い。俺は目を細めつつ、水平線から来るであろう機体を見つけようとする。

 

 

その時だった。

 

 

 

「機影確認!!高度、低し!!!!」

 

誰かが機影を確認した。俺も声がした方を向き、そいつの目先を凝視した。逆光によって捉えずらかったが、機影を辛うじて認識出来た。

 

 

 

PBY カタリナ

 

 

当時の連合国各国で対潜哨戒、沿岸警備、海難救助などに用いられていた飛行艇だ。

巡航速度こそ遅いが、エンジン換装を行ったPBY-4の場合、4,110mile(6614km)もの長い距離を飛行できる厄介な相手だ。

 

 

「目標の国籍知らせ!!」

 

 

「航空目標は……PBY-4 、機体塗装、黒。深海棲艦の哨戒機です!機数1!!当基地に向け、低速で接近中!!!!」

 

 

国籍はハッキリした。この世界でのおおよそ共通の敵であろう奴らだ。…しかしながら、哨戒機とはいえ奴もこいつ(ブローニング M2)30.cal(M1919)を装備している。油断は出来ない。俺は自然と、銃尾板部(じゅうびばんぶ)握把(あくは)に力が入ってしまう。これから行うのが実戦だからだ。恐怖はある。

 

 

…そして今更だが、

こいつ(50.cal)で本当にやれるのか不安が出て来た。

架台(がだい)は対空用銃架ではなく、船舶用の360°回頭可能な銃架(じゅうが)照準具(サイト)も元々備えられている物で、対空用照準具では無い。…ほぼ全ての事が、最終的には俺の実力と運次第とは如何な物か……。1度目を閉じ、深呼吸して気持ちを落ち着かせると、俺は次の行動に移る。

 

 

重機関銃~、全装填弾込め!!

 

 

大きく発声した後、再び槓桿を引き、手放す。

“ガシャ、コン”という重厚な音の後に、“カランカラン”とリンクが落ちた。

 

 

全装填よぉぉぉし!

 

 

射撃準備完了、これでいつでも撃てる。他の銃座は既に装填済みの状態であるため、必然的に俺が最後だ。…しかし、射撃準備が出来たもののまだ距離があり過ぎる。いま射撃すれば、散発的な制圧効果しかない。

 

 

…各銃座、打ち方よぉぉぉい!!!!

 

 

だが違った。俺の装填でも待っていたのか、あの馬鹿(対空戦闘指揮官)、この距離から撃って当たるとでも思ってるのか?

 

 

各銃座、打ち方、待てぇ!!

 

 

俺は咄嗟に、母音を含めてそいつよりも遥かに大きい声量で射撃態勢のまま待機するように発令した。

まさか、自身の号令が昨日今日の人間に止められるとは思っても見なかったのか、一瞬唖然とした顔を見せたが、直ぐにキッと顔をしかめる。俺は相手が反論するよりも早く、間髪を入れず怒鳴りつけた。

 

 

馬鹿がァ!!この距離で散発的な射撃をする奴があるか!!!もっと引きつけてからにしやがれ!!!!敵に回避させる(いとま)を与える気か!?…俺が指揮を執る、お前は銃座の補佐にでも着いてろォ!!!!!

 

 

こうなると、最早どちらが本当の指揮官か分からない。

俺に怒鳴り散らされた指揮官は、俺の高圧的な態度に反発するどころか、怖じ気づいて固まってしまっていた。しばらくしてから近くの銃座に向かって行ったようだが…まぁ、見た目は大学生くらいの女性(妖精)指揮官だったから仕方ない。後で謝っておくとするが、何で後部甲板で指揮を執っていたんだ?阿呆なのか?…まぁ、これから俺がやるだけで根本的には彼女と大差無いが。

 

 

……各25mm機銃座、これより五木2尉が統制射撃の指揮を執る!目標、敵性偵察機!…艦首、1番から左舷3番銃座、距離1200(せんにひゃく)追随射(ついずいしゃ)!4番から中部10番銃座、右舷6・8番を除き艦首射撃5秒後に固定射、上下制限無し!11番以降、16番銃座の指示の元、船体より左20(にじゅう)度から自由射撃!!準備完了したならば後部16番銃座まで報告!!!!

 

 

 各銃座の妖精達は、先ほどの一悶着があったものの、俺の飛ばした指示を素早く口頭伝達ないし、伝声管を使って自らも指示通りの行動をとる。2分と経たずに、艦首から伝声管を通して準備完了の報告が舞い込んできた。俺はそれに答えると、他の銃座も準備が整った。敵偵察機も有効距離まであと僅かだ。

 

 

 

「は、早く撃たないとやられます!」

 

 

隣では弾薬手の衛生兵長が恐怖に駆られていた。

元々戦闘要員でもないので無理も無い。

 

 

「まだだ、まだ引きつけるんだ。大丈夫、誰もやらせはしない。…各銃座、間もなく射撃を開始する!

 

 

衛生兵長を励ましつつ、全員が指示通りの行動をとれるよう焦る気持ちを抑えさせる。

 

 

 

 

 

 

 

…そして、敵機が有効射程に入った

 

 

 

 

 

 

1番から3番、射撃用~意…………()てぇぇぇえぇ!!!!!

 

 

 

 

 

その号令と共に、25mm機銃が雄叫びをあげた。

 

 

 

 

 

 




「…艦長、彼は本当に…何者なんでしょう?」


「その気持ち、五月雨にも分かります…私もそうでしたから……」


「We are Japanese Imperial Navy, toss your weapon!!!!」




次回、
艦隊これくしょん -The world of the afterlife-

Act. 5  対空戦闘ト非常事態 -Emergency “Tango”-


 あなたはこの世界で、何を思うのでしょうか?



──────────────────────

五月雨「提督の皆さん。お疲れ様です!白露型駆逐艦 6番艦の五月雨です!…ほら、提督も早くこちらに!」


Garuda「はいはい。…改めまして、作者のガルーダです。まず始めに……投稿期限が遅れてしまい大変申し訳御座いません(土下座)

元々は読者の立場であったために、他の作者さんの小説を見たり誤字報告したり、仕事が終わっても手付かずの状態だったりした結果こうなりました(血涙)。


…謝罪はこのくらいで、
本作品である【艦隊これくしょん -The world of the afterlife-(ザ ワールド オブ ジ アフターライフ:来世の世界)】、楽しんで頂けてますでしょうか?

あまり文才が良いとは言えないので、至らない点があるとは思いますが、感想なり評価なり付けて頂ければありがたいです。


次話から本当の意味で不定期投稿になります。
物語は未だ不透明な所がありますが、
今後明かされていきますので今暫くお待ち下さい。


…ちなみに、次話ではうちの初期艦でもある五月雨が活躍するそうです。ドジっ娘だけど大丈夫かな……?ボソッ」


五月雨「んもぅ、提督!!…だ、大丈夫です、みなさん!わたし、がんばっちゃいますから!」


Garuda「では、次回の『対空戦闘ト非常事態 -Emergency “Tango”-』をお楽しみに!ノシ」


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Act. 5  対空戦闘ト非常事態 -Emergency “Tango”-

1番から3番、射撃用~意……………()てぇぇぇえぇ!!!!!

 

 

 

 伝声管に向かって大声を張った。俺の射撃指揮の元、艦首側に位置する25mm機銃3挺が、敵偵察機に向けて射撃を開始する。

 

 

俺が敵機をこんな距離(1.2km)まで接近させたのには三つの理由(わけ)があった。

 

 

 

一つ目は、

ここは2隻が流れ着いた仮設基地であるため、恐らくだが近隣に位置する陸軍の守備隊を偵察する目的があるのだろう。その点を考慮すると、相手がここに日本海軍の戦闘艦がいると思っていないと判断した。

 

 

それと一概には言えないが、現時点で海上を低高度で飛ぶということは、相手が油断若しくは戦闘機等に発見されない為か、何らかの理由で敢えて(・・・)低く飛ばなければならないからだという結論に至ったからだ。正直なところ、確証は無い。無論、敵に打電される恐れもあるが、日出(ひので)によって船体に光が反射しているため、敵側からはうんと近くに寄らなければ艦型を確認する事は困難だろう。

 

 

二つ目は、

現在の日出の影響等もあるが、それとは別に彼ら(夕張乗員)が使用している“九六式(きゅうろくしき)二十五粍高角機銃(にじゅうごみりこうかくきじゅう)”に問題がある。

 

 

 

 一般人からすれば、“25mm”という弾丸の大きさから、【威力が高い】ということは容易に想像がつくだろう。…しかしながら、こいつには【様々な欠点】が見え隠れしている。威力こそある程度は申し分ないが、如何せん【銃座の旋回性能・一弾倉あたりの総弾数・連射速度・射程距離・射撃要領】と、上げればきりが無い。正直言って、対舟艇用の方が良いと思うこともある。…無論、それは航空目標に対する評価であって、俺個人の見解としては、全体的に優れているほうだろう。撃たれる側からすれば、射撃による制圧効果は否めない上に、1発でも当たればひとたまりも無い。

 

 

…だが制圧効果はあれど、如何せん弾幕形成能力には欠ける。

 

 

 そこで俺は、彼我(ひが)の距離を近くする事によって敵機の回避行動を取る(いとま)を無くす事を重視した。

 

 

敵偵察機であるPBY-4は機速が遅く、機体形状は比較的大きい部類だ。その為、元の世界では巡航速度が初期の新幹線(約200km/h)並か、最高でも500系新幹線並(運用最高速度300km/h)だ。また、射撃を受けてから回避する際には、現状どちらに旋回しても自らの急所(胴体・翼面)をさらけ出す事になる。その上、ここの艦隊の仮停泊地は入り江になっており、Cの字の左底辺に2隻が停泊しており、周囲は小高い山で囲まれている。北の方向か、艦隊の後方に抜け出せる空間はあれど、前述の通りリスク(被弾確率)は低くない。

 

 

そして三つ目は、結論から言おう。

迷いがあったん(・・・・・・・)だ。

同時に俺は戦いたくなかった(・・・・・・・・・・)

 

だがこればかりは、俺自身どうする事も出来ない。

 

避けようと思えば避けられるだろうが、その代償は陸軍と海軍…あるいはここの島民を含めた(むくろ)の山だろうな。それこそ夢で見たような惨状だ。

 

 

 

正確に述べると、俺はこの戦闘(・・・・)を避けたかった。いつ如何なる時に戦闘が起こるのか分からない所へ、自らが望んでこの世界(並行世界)へ転生したのにも関わらず、矛盾にも程があると感じるだろう。

 

しかし、

それでも俺は無用な戦闘(この戦闘)を避けたかったんだ。戦う必要性を感じられなかった、戦う気持ちがなかった、戦う意義が見出せていなかった。…だが、やるしかない。世界こそ違えど、今ここには日本人や現地人(陸軍・艦娘・島民)が居る。俺は自衛官(・・・)であり、仇なす敵性勢力から国民の生命・財産・国土を死守しなければならない。ここで細かい事(自衛隊法等)を考え迷っていては、いまの自分を殺し、この世界で出会った者たちを死へ(いざな)う事になる。

 

 

【指揮官がしっかり構えていないと、部下は不安に駆られる。ドッシリと偉そうに構えろとは言わないけど、“馬鹿な指揮官、敵より怖い”という言葉がある。これから小隊をまとめる身となる君たちは、先輩幹部からの助言を受けながら、一部隊の指揮官を務める事になる。時に己の判断を信じる事も必要だが、自己完結せず、部下となる曹士(下士官)と密接な信頼関係を築き、彼らを引っ張っていく事が大切だ。…これから宜しく頼むぞ!】

 

 

戦闘開始前。

 

俺は連隊配置後、数日経った時に開かれた幕僚会議(3中隊ミーティング)終わりに、若手幹部のみを集めて話をしてくれた3中隊長(所属中隊長)の言葉を、鮮明に思い出した。その言葉を胸に、俺は集中する。

 

 

 

 

しかし、

初実戦に於いての戦闘指揮を執ると同時に、内心では誰でも起こりえる動揺(・・)を押し殺していた。

 

大きな動揺を(・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はその時、艦橋から一部始終を見守っていました。

彼が銃座についた時からずっと…。も、もちろん戦闘指揮も執っていましたよ!?

 

 

 彼は夕張さんの砲術長が発した号令を誰しもが振り向く程の大声で制止すると、彼女に代わって対空戦闘指揮を執りはじめました。私が艦橋に居たこともあり、彼が夕張の後部甲板で発する言葉・号令を一言一句も聞き逃す事無く耳にする事ができ、本来は砲塔も使用するところを、彼の号令に基づいて機銃のみとしました。そもそも、あの時間から予備で動かしていた物以外、直ぐさま未稼働の汽罐(ボイラー)に火を入れて電力を確保したとしても、当時は間に合わなかったと思います。

 

 

 敵機来襲と同時に、彼の号令で夕張さんの艦首にある3挺が射撃を開始しました。

敵機はこちらが撃って来ないので油断したのでしょう。

機体は一瞬、左右にブレつつも直ぐに態勢を立て直しますが、ここで再び彼の号令。

 

4番から10番、射撃用~意……………()てぇぇえぇ!!!!!

 

 

上下の制限が無い広範囲の弾幕形成。

翻そうにも、艦首からの追随射・艦中央の弾幕が放たれており、敵機は回避するのに苦労しています。

 

 急激に高度を落として高角機銃の射角から逃れようとしますが、そこへ残りの銃座が号令と共に自由射撃を開始しました。…偵察機とはいえど、流石に可哀想にも思えてきます。これには敵機も為す術なく命中弾が出てきます。

…しかし、もう既に夕張さんの船体中央まで機体は差し掛かっており、墜ちる気配はありません。

 

 

 

 そして、いよいよ私の艦首に差し掛かると思い、射撃命令を配下の妖精へ出した矢先、今まで撃たなかった“彼”が射撃を始めました。射撃間隔は短く、少し撃っては角度を素早く変えて銃撃を加えていました。その異質な射撃に、私は素晴らしく感じると共に怖ろしかったです。弾帯に曳光弾が混じっている事と、比較的気象条件が良かった事もあって、まるで敵機に弾丸が吸い込まれて行くような弾道を見る事が出来ました。それは次々に敵機を貫き、最終弾を撃ち終わる前に左翼の発動機(エンジン)が火を噴きました。その一瞬を、私は見逃しません。

 

 

 

「各銃座!一斉射撃!!」

 

 

「各銃座一斉射!逃がすな!!」

 

 

私の指示を副長(かねて)船務長が伝声管を使って伝えます。それぞれの銃座は、それまで以上に大量の弾丸を放ち、敵機を墜とそうと弾幕を張り続けます。

 

 

その時でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 こちらが撃った数発の弾丸が、右翼のフロート・補助翼(エルロン)を貫き、機体の制御を大幅に損なわせました。見る見るうちに、機体は穴だらけになった右翼へ少しずつ右に傾きながら急速に高度を失っていき、海面から100ft(約30m)程で左翼の発動機が爆発した後に1回転し、胴体から海面へと叩きつけられました。

甲板上では皆が歓声を上げており、私も脅威が去った事にひと安心と言った所です。

 

 

 ふと夕張さんの後部甲板を見ると、彼が隣にいた乗員に何かを話してから装備を抱えて艦首へと走って行きます。…どうしたんでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 射撃開始から約10分程度で戦闘が終わり、皆が安堵の表情を浮かべていた最中、彼は艦橋に上がり込んで来るや開口一番「内火艇を出してくれ!!」と言ってきた。彼が上がってきた時に、当初こそ私は砲術長の件に関して叱責しようと思っていたの。でも私はその一瞬で、彼がこれから何をしようとしているのか。理解するのに全くと言って良いほど時間はかからなかった。

 

 

 先程の件に関しては後で問いつめることにし、直ぐに内火艇を一艇降ろすよう下命(かめい)すると、私も同行することを彼と副長に伝える。彼は礼も早々に足早に去って行く。副長と私はそれに応じると、

 

 

「…艦長、彼は本当に…何者なんでしょう?」

 

準備を進める中、副長が私に問いかけてきた。

 

 

「急に……と言うわけではないわよね…。正直、私にも分からないわ。俄には信じがたい事だけど、日本人なのに帝国軍人ではなく“自衛隊”という組織にいたって言う話……そして、私達が惨敗した第二次世界大戦。でも、確証こそ無いけどこれだけは言える。個人の見解としては、彼は少なからず何かを変える力を持っていると思うの。」

 

…半信半疑だが、私はそう答えた。

彼はまだまだ解らないところばかりだが、少なくとも信用しうる人物に値すると感じていた。副長は苦笑いすると、

 

 

「…“女の勘”ですか。まぁ、艦長の勘は大体当たります。艦の方は任せて下さい、お気を付けて。…艦橋要員、気をつけ!艦長に~、敬礼!!」

 

副長はそう言って、

艦橋にいる他の要員を含めて私に敬礼してくれた。

みんなからの気合いが伝わってくる。

 

 

「ありがとう副長、みんな。行ってくるね!」

 

それに負けんばかりの声を張りつつ、

彼らに答礼すると、雑囊(ざつのう)を持って艦橋を出る。途中医療箱を医務室で受け取り、内火艇へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分は隣に艦長(夕張)と船首に例の男(・・・)を乗せて、海上に叩き落とした蚊とんぼ(PBY-4)の辺りに拡がりつつある燃料を避け、機体の残骸へと近づいて行きました。生存者が居れば助けようとしていたようですが

…。

まさか、あんなことになるとは思いも寄らなかったです。

 

 

当該地点に到着し、内心“これは生き残っていないな”と思っていました。どうするのかを男に聞くと「油膜を避けながら操船してくれ」と言い、愛用の銃を下向きに据銃(きょじゅう)しながら、辺りをジッと睨むように見渡したり、時折、水面下に目を凝らしていました。

表情こそ強張った印象を受けましたが、何処か哀愁感を漂わす雰囲気が最終的に見受けられました。

 

 

…無理も無いと思います。

 

 

敵は善悪の違いはあれど、自分たちと変わらない存在(妖精)………同じ“ヒト(・・)”を討つわけですから…。

 

 

 後に知った事ですが、男はこれが“初の実戦”だったそうで、下士官の身である自分も少なからず同情はします。五月雨艦長と話す機会があり、その際この事を告げた所

 

「…その気持ち、五月雨にも分かります…私もそうでしたから……」

と、意味深な発言をしておられました。

 

 

 

ある程度見回した頃、男が何かを見つけたようで、指示された方向へと操船しました。

 

 

 

 

…案の定、敵兵の死体を発見しました。

 

 内火艇を亡骸から見て右側に操船し、その横で停船させると、男は操舵席左側に着いて敵兵をしばし見つめていました。

 

 敵兵は、銃弾に貫かれてこそいなかったものの、身体は機体の残骸によって腹部を大きく抉りながら突き抜けており、背中から飛び出た残骸の切っ先が水面下に浮かび上がっていました。身体の損傷は墜落時の衝撃をもろに受けており、内出血や一部の四肢に大きな切り傷、細かい破片が刺さっている状態で、誰がどう見ても“死んでいる”と言い切れるほど、見るも無残な有様だったのを憶えています。…階級は大尉のようで、創傷こそなければ顔立ちの良い男の敵兵士(妖精)でした。

…男は亡骸を見つめ終えると、哀愁感を漂わせながらも、見事な海軍礼式(海自式)の敬礼を行い、敵兵へ黙祷を捧げました。

 

 これには自分や隣にいた艦長も驚くと同時に、すかさず同じように黙祷を捧げました。別の世界で陸軍の後身(陸上自衛隊)に所属しているというのは耳にしてましたが、その彼が陸軍礼式(陸・空自式)にも引けをとらぬ見事な敬礼をしてみせたのです。そして、敵兵でありながらも死者を弔う姿勢を崩さない確固たるその様相。その時から自分は“ただ者では無い”と感じました。武士道(・・・)を体現してると言っても良いです。

 

男………いえ、彼は黙祷を捧げ終わり

 

 

「…Enemy aviator 1 KIA(敵操縦士1名の戦死), 確認。どうか安らかに。」と、彼は米軍の言葉を交えて何かを発しました。

その意味は自分にはよく分かりませんでしたが、“確認”ということから、攻撃評価に近いことを発したのでは?と考えました。…まぁ、その後に聞いた話で意味は全然違っていましたけどね。そしてその時、

 

 

……夕張さぁん、五木2尉ぃぃ!どうしたんですかぁぁあ!!」

 

 五月雨艦長が手を振りながら、配下の水兵(妖精)と共に、彼女の艦に搭載していた内火艇を使って、後方から此方に向かっていました。…しかしながら、どうしてうちの艦長も五月雨中佐も自艦から離れられるのでしょうか……。本来艦長は、艦をそう簡単に離れてはいけないですし、万が一何かあった時の留守を預かる副長たちの身にもなってもらいたいものです…。

 

艦長や呼ばれた彼も振り返り、艦長は手を振りながら「大丈夫よぉぉぉぉ!!!!」と声を張り上げ答えました。彼も振り返り様に声を上げようとしましたが、何かを見たのか直ぐさま驚いた顔をすると

 

 

「五月雨!!逃げろォ!!!!」

 

彼が咄嗟に叫んだ時には既に遅かったです。

 

 

 

 

 

 

「きゃあ!!!!」

 

 

 生き残りであるもう1人の敵兵が、五月雨の内火艇後部から乗り上がると、その場にいた五月雨艦長を捕らえて海面に飛び込みました。五月雨艦長は悲鳴をあげながら水面下に没し「艦長!!」と五月雨の隊員(妖精)らが甲板上で最初こそオロオロしていました。

 

 

「……っぷぁっ!」

 

数秒と経たない間に五月雨艦長が海面に現れますが、その後ろにはナイフを構えた女性兵士(敵深海妖精)がいました。

 

 

「───────っ!!」

 

 

敵兵が喚いていますが、自分達にはそれが分かりません。敵である彼女(・・・・・・)は英語で我々に話しているので、自分や艦長(夕張)そして五月雨乗員は銃を構える事しか出来ませんでした。

 

 

「艦長を離せ!!武器を捨てるんだ!!」

 

 

 五月雨乗員の1人が三八を構えつつ怒号を張ります。それに呼応して他の乗員も各々の銃を構えますが、以前として敵兵は態度を変えません。五月雨艦長も抵抗しますが、しっかり拘束されているようで抜け出せません。とうとう敵兵は、五月雨艦長の首元にナイフを突き立てながら陸地側へ下がろうとしていました。

 

 

「…ひっ!

 

これには五月雨艦長も動揺し、か弱い悲鳴を上げます。

 

 

これに五月雨乗員も我慢ならず「馬鹿な真似はよせ!」「やめろ!」「艦長に手を出すな!」等の怒号の嵐です。敵も言葉が通じないことに苛立ちを露わにしており、一触即発の事態でした。艦長(夕張)も、

 

 

「みんな撃たないで!いま撃ったら駄目よ!!」

と言うだけで精一杯でした。

 

…状況は悪化し続けるかと思っていたその矢先、

 

 

 

彼がその流れを止めました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「HEY, FREEZE!! Hold right there we are Japanese Imperial Navy, TOSS YOUR WEAPON!!!!」

 

(おい、止まれ!!その場から動くな、我々は帝国海軍だ、武器を捨てろ!!!!)

 

 

彼のその言葉を聞いて、

自分を含めた全員が彼の方を向きました

 

 

 

 

 

 




「WHAT THE HELL' S GOING ON!?」


「Captain, I got the radar. ...TAO, Unknown inbound Emergency tango bearing 1-7-0 air track fourteen!!」


「General Quarters, General Quarters. All hands man your battle stations!」


「What is that?」


「Impossible...There is nothing like this!!」


Next time,
Combined Fleet Girls Collection-The world of the afterlife-


Ex edition - file 1. USS Nathan James -ネイサン・ジェームズ-



So...whim of God or necessarily? We still don't know.


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ガルーダ「…えぇ、まず投稿日詐欺をしてしまい申し訳ありませんでした。作者のガルーダです。仕事がたて込んだり、震災(北海道)にあったり、ちょっとばかし体調を崩したりした挙げ句、読者側に戻って作品を延々と閲覧していた結果がこれです。大変申し訳ありません…。」


ガルーダ「意外にも、当作品を見て頂いてる人が多くいらっしゃるようで自分でも驚いています。並びに、重ね重ね自分の都合で投稿が遅れてしまいすみませんでした…。」


五月雨「っもう!提督はだらしがないんですよ!!決めたことは、キチンとやり遂げないといけないんですから、しっかりして下さいね!!」


ガルーダ「面目ないです。(大見得切ったわりに取っ捕まったドジっ娘は誰だっけな…」


五月雨「…………。」


ガルーダ「……え、えぇっと(裏声)次回はちょっと趣向を変えて、この作品に新たに登場する作品のお話を書いてます(((」


ガルーダ「次回は、とある海外ドラマに登場する艦が出てくる英語重視の話です。英語がズラリと並ぶ小説は自分が初めてだとおもいますが、作者は殆ど専門的な用語にしか精通しておらず、日常英会話はほぼ皆無なので誤った文章を書くかもしれません。その点に留意して頂きつつ、どなたか分かる方がいらっしゃれば【ここはこう言う発言ですよ】と仰ってもらえれば幸いです。」


ガルーダ「正直、他の物でも良いかな?とも思ったのですが、その海外ドラマを見入ってしまった挙げ句、折角出すなら英会話じゃなきゃ駄目だろ!という理由だけで次話(外伝)を書いてます。←」


五月雨「…まぁ、こんなひとですけど、温かい目で見てもらえると嬉しいです。」


ガルーダ「では、また次話でお会いしましょう!」ノシ


五月雨「…提督はこっちですよ。」ニコニコ


ガルーダ「oh...」


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