世界を忌み嫌う武器商人と過去を捨てた兵士 (のんびり日和)
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1話

「ぜひ君の腕を僕の妹に貸してあげてくれないかな?」

 

一人のプラチナブロンドの男性は目の前にいる人物にそう言う。その人物は黒髪で年頃はまだ中学生くらいだがその目は多くの死線をくぐり抜けてきた兵士の目だった。

 

「何故僕にそんな依頼を頼むんですか?」

 

「実は君のことを妹に話したらぜひ自分の部隊に入れたいって言ってさ、それで連絡先を交換し合ってることを知ってぜひ聞いてくれって頼まれたんだ」

 

「なるほど、そう言う事ですか」

 

「それでどうだろうか?無論君には毎月給料も支払われるし、あっちこっち戦場を渡り歩くより楽しいと思うよ。後は君次第だ、ネイサン」

 

ネイサンと呼ばれた人物は、暫く考えた後首を縦に振り、依頼を引き受ける。

 

「いいでしょう。貴方には色々お世話になった恩もありますし、引き受けます」

 

「そうか!いや~、ありがたいよ。妹から連れてくるまで連絡するなって言われてて、断られたらどうしようって思ってたんだ」

 

「キャスパー、それでこの荷物はどうするんだい?」

 

そう言って黒髪の女性がキャスパーと呼ばれたプラチナブロンドの男性の背後から荷物を持って現れた。

 

「あぁ、チェキータさん。その荷物は彼に渡してください」

 

そう言われチェキータと呼ばれた女性は大きめのアタッシュケースをネイサンに渡す。

 

「これは?」

 

「以前の仕事で僕誤って君に渡すはずの報酬を少なめに渡してたんですよ。それはその時の残りの報酬の代わりと今回の依頼を引き受けてくれた僕からの餞別だ」

 

そう言われネイサンはアタッシュケースを開けると中にはブッシュマスターACRをカスタマイズした物が入っていた。アンダーレールには小さめのヴァーティカルグリップが付けられており、サイドレールにはフラッシュライトが付けられており、マウントレールにはホロサイトとAN/PEQ-15レーザーポインターが付けられていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「気前がいいですね、これだけカスタマイズされた銃を渡すなんて」

 

「君の銃に関する腕は僕やチェキータさん達が認めるほどですからね」

 

「ネイサンにはそう簡単に死んでほしくないっていうキャスパーなりの親切心よ」

 

「ちょっ、チェキータさん!」

 

チェキータの言い方にキャスパーは一瞬焦るがすぐに平静を取り戻す。

 

「兎に角、妹は今東欧のF国の首都に居るから会いに行ってあげてくれ」

 

そう言われネイサンはキャスパーから飛行機のチケットを受け取り、F国へと行く。

 

 

F国へと着いたネイサンは空港の出入り口で立っているキャスパーと同じプラチナブロンドの女性を見つけ目的の人物と思い、近づく。

 

「貴女がキャスパーの言っていた妹さんですか?」

 

「そうだよ、ネイサン・マクトビア。今日から君の雇い主になるココ・ヘクマティアルだ。」

 

そう言って手を差し出され、ネイサンも同じように手を差し出し握手をする。

これが一人の兵士と武器商人の出会いだ。

「……ネイサン。お~い、ネイサン!」

 

「…う、うん?」

 

トラックの助手席で寝ていたネイサンは目を擦りながら体を起こすとトラックを運転していた壮年の男性が漸く起きたかと呟く。

 

「レームさん、もしかしてもうすぐ目的地ですか?」

 

「あぁそうだ。仮眠も此処からはするなよ。」

 

レームにそう言われネイサンは頷き、手元にキャスパーから餞別で貰ったACRを持ち窓から景色を眺める。

 

「…君にとっては久しぶりの光景か?」

 

「いや、僕の記憶にはこんな景色ありませんよ。街の景色なんて何処もほとんど同じですし」

 

そう返されレームはポケットから煙草を取り出し火をつける。レームとココとその私兵たちはネイサンのある過去を知り、出来るだけ触れないようにしているのだが今日の仕事だけは彼には外してあげたかったが、本人はそれを拒否しこうして一緒にトラックに乗り目的地へと向かっていたのだ。

 

『ネイサ~ン、起きてる?』

 

ネイサンは首に掛けていた片耳用のヘッドセットを耳にかける。

 

「起きてますよ。」

 

『それは良かった。…もうすぐ目的地に着くけどやっぱり「ココさん、僕のことは大丈夫ですから」…分かった。けど無理だと思ったらトラックに乗ってていいからね』

 

そう言って通信は切られた。ネイサンは苦笑い気味となっていると他のトラックに乗っている仲間からも心配される。

 

『ネイサン、あんまり無理すんなよ。お前にもしものことがあったらお嬢が心配して仕事が手に付けられなくなっちまうからな』

 

「大丈夫ですよ、アール。自分のことは自分がよく分かってますから」

 

ネイサンはアールと呼んだ男性に心配ないと伝えると他の仲間からも心配の言葉が送られてくる。

 

『本当に無理すんなよ』

 

『そうだぞ、お前はまだ甘えていい年なんだから年上に時には甘えて、何処かでぱぁーとしてきた方がいいぞ』

 

『子供を持っている親としてもルツの案に賛成です』

 

『そうだな。時には甘えてもいいと思うぞ』

 

『ネイサン、ココや皆は貴方のことが心配してこう言っているので今からでも休みに行った方がいいですよ』

 

『無理して倒れたりしたらみんなが心配するからな』

 

それを聞き、ネイサンは苦笑いで答える。

 

「皆心配してくれてありがたいですけど、僕だけ省かれるのは流石に寂しいので止めてください。あとこれ以上休むように言ってくる場合は、向こう一週間料理を作りませんよ」

 

『『『『『『『それだけはやめて‼』』』』』』』

 

ネイサンの料理を作らないと言うとレーム以外全員からやめてと叫ぶ声が通信越しで聞こえ、ネイサンは笑いながら冗談ですと言う。そうこうしている内に目的地が見えてくる。

 

『みんな~、目的地が見えて来たよ~』

 

ココからの通信を聞きネイサンは目的地の建物を見る。その目つきは嫌悪感等が籠ったモノだった。

 

「あれが…」

 

―――IS学園




次回予告
IS用の武器を届けに来たココとその私兵たちは荷物を発注したIS学園の学園長である轡木と会う。ココはその背後に付添人として山田真耶と織斑千冬がいることに気づく。そしてトラックに積んでいるIS用の武器を下ろしている最中、千冬はトラック近くにいたネイサンの顔が数年前行方不明となった一夏に似ていることに気づく
次回兵士とブリュンヒルデ~俺はネイサン・マクトビアだ~


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2話

ココ達が乗っているHCLI社のトラック群は本土と学園を結ぶ橋を渡り、学園の荷下ろし場へと到着した。トラックに乗っていたココ達が降りて周辺を警戒していると3人組の学園の関係者と思しき人物たちがココに近寄った。

 

「初めまして、Ms.ヘクマティアル。当学園の学園長をしております、轡木と言います」

 

「これはどうも、Mr.轡木」

 

ココは挨拶を返しながら握手を交わす。そして轡木の背後にいた人物に気づく。

 

「所で後ろの方々は一体?」

 

「あぁこちらは付き添いとして来ていただいて当学園の教師たちです」

 

轡木がそう言うと黒髪の女性と緑髪の女性は挨拶した。

 

「は、初めまして。当学園で教師をしている山田と言います」

 

「同じく織斑だ」

 

ココは最後の織斑の挨拶を聞き、こいつがと内心呟く。

 

「どうも初めまして、HCLI社から参りました。ココ・ヘクマティアルと言います。それとお会いできて光栄です、ブリュンヒルデ」

 

「よしてください。その名はあまり好きではないので」

 

ココはそうですか。と言いそしてレーム達に荷物を下ろすように伝える。

 

「それにしても此処は他の学園と違ってデカいよなぁ」

 

金髪男性の元警察対テロ特殊部隊狙撃手のルツがそう呟くと、一緒に作業していた元自衛隊員のトージョが同意するように頷く。

 

「此処はISを学ぶための学園だ。そりゃ他の学園とは違って金は結構掛けてるだろ」

 

そう話していると元イタリア軍陸軍情報担当少尉で、ベルサリエリに所属していたアールも会話に混ざってきた。

 

「しかも女学園なんだろ。まじあの学園長が羨ましいぜ」

 

「そういや、此処の教師ほとんどは女性だったな。男性はほとんどいないらしいし」

 

ルツが思い出すように言うとトージョとアールが何だと言わんばかりの顔でルツに顔を向けた。

 

「けど、此処に入るにはISに乗れるか、ISの専門技師になるかのどっちかだよな」

 

「確かに。まぁ俺たちにとっちゃどうでもいい話になると思うが」

 

「確かに」

 

3人が談笑しながら作業をしている中、作業は着々と進んでいく。千冬は作業をしているレーム達を眺めているとふとトラック付近で銃を下げながら辺りを警戒しているネイサンを見つける。千冬はその横顔が数年前行方不明となった弟の一夏に似ていると思い、気になって近づく。その光景をレームとバルメも気づいており、バルメはインカムでココに警戒を呼び掛ける。

 

『ココ、ネイサンに例の彼女が近づいてます』

 

ココはこっそりと目線をネイサンの方へと向けると確かに千冬がネイサンに近付いているのが見て取れた。

 

『万が一があったら不味いから警戒しておいて』

 

ココはインカムでそう言うとレーム達は作業をしつつ何時でも動けるように警戒した。

 

「……一夏?」

 

千冬はそう呼びかけるが、ネイサンは目線だけを千冬の方に向けるが、また周辺警戒へと戻った。千冬はめげずに近づくとその横顔を見て確信したように言い寄る。

 

「や、やはり一夏じゃないか! 今まで何処にいたんだ! ずっと心配していたんだぞ!」

 

そう言って一夏の肩に手を置くが一夏はその手を振り落し、千冬は一夏の行動に驚く。

 

「誰と勘違いしているか知りませんが、自分はネイサン・マクトビアと言って貴女の言う一夏という名前ではありません。仕事の邪魔なので向こうに行っててもらえませんか?」

 

そう言ってネイサンは周辺警戒へと戻ろうとするが、千冬はそれを否定して自分の弟だと言おうとしたが。

 

「織斑先生、彼らの仕事の邪魔をしてはいけませんよ」

 

轡木にそう注意されるが、千冬は自分の弟だとネイサンに言い寄るがアールがネイサンを呼ぶ。

 

「おーい、ネイサン。悪いがマオと警備を交代してこっちの手伝いをしてくれないか」

 

そう呼ばれネイサンはマオと交代してアールの元へと向かう。千冬はネイサンの腕を掴もうとしたが学園長が止めた。

 

「織斑先生、何度同じことを言わせる気ですか? もう貴女は戻っていただいて結構ですよ」

 

そう言われ千冬は顔をネイサンの方へと一度向けた後、学園長に言われた通り学園の中へと入って行った。

 

「……申し訳ありません、Ms.ヘクマティアル。実は彼女の弟さんは今行方不明になっていまして。それで彼を行方不明の弟さんと思い込んであんなことを言ったんだと思うんです。どうか許してやってください」

 

「あぁいえ、大丈夫ですよ」(流石ネイサンの元姉だ。横顔で本人だと見抜くとは、油断ならないわね)

 

ココは内心千冬の観察眼に驚きつつもアールのファインプレーに感謝しつつ、轡木に荷物の受領完了の手続きへと入った。

 

その頃、アールに呼ばれたネイサンはトラックの荷台に入っていた武器等を下ろしていると、一機のISがトラックの奥で鎮座していた。

 

「アール、これは?」

 

「荷物表にはこいつのことは書かれて無い。お嬢にこいつのことを聞かないとな」

 

そう言ってアールはインカムでココに連絡をとっている中、ネイサンは何でこれがと思いながらISに触れた瞬間頭の中に情報が入ってきた。

 

『あ、お嬢。今いいか? いや、トラックの後ろに……ISが…………。ネ、ネイサン?!』

 

アールの叫びを聞いたココ達は急いでアール達が居るトラックへと向かい中を覗くと、中では驚いた表情で固まっているアールと深緑色のISを身に纏っているネイサンがいた。

 

「「「「「「「「え、えぇぇぇーーーーーーー!?」」」」」」」」

 

ココ達は驚き大声で叫んだ声が学園に響いた。




次回予告
次の話から本編が始まるので、ネイサン・マクトビアこと元織斑一夏がどうして今の名前を名乗っているのか、そして何処で銃の技術などを磨いたのか、その過去の話をしようと思う。
次回閑話ネイサンの誕生と成長~今日から俺がお前の義父だ~


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閑話・ネイサンの誕生と成長

ネイサンこと元織斑一夏は、普通の子供だった。違いがあるとすれば家族が姉一人ということだけだ。その姉こと織斑千冬は両親が蒸発した後、自分の手で弟を育てるために必死にアルバイトなどをこなして、弟を育て上げていた。

周りの大人達は手を差し伸べて助けようとしたが、千冬はそれらの手を取らず自分の手で育てると言った。

千冬は何時もアルバイトの為帰りが遅いため、弟の一夏は何時も一人寂しくご飯を食べていた。更に周りの姉の事を心酔している人達からの期待の声と眼差しのプレッシャーに肩を重くしていた。勿論子供でも今姉は忙しいと分かっているが、一度姉にそのことを打ち明けたが

 

「悪いが、今忙しいから後にしてくれ」

 

そう言われ一夏は一度は仕方がないと思っていたが、姉と一緒に居られると思う時間に勉強を見て欲しいや、相談に乗って欲しいと言っても帰ってくる言葉は何時も

 

「忙しいからまた後でな」

 

その言葉を何時も聞いていた一夏は、遂にこう思い始めたのだ。

 

(お姉ちゃんは僕の事なんてどうでもいいんだ。…こんな思いするくらいなら僕もお父さん達と一緒に何処かに行きたかった)

 

そう思い始めた一夏は小学生ながら、家から出て行こうと考え始めたのだ。何時でも出て行けるように、着替えやお菓子などを入れたカバンを机の下に隠しているとそのチャンスは突然やって来た。千冬がドイツで行われるISの大会、モンドグロッソに出場するため出掛けるぞと言ってきたのだ。一夏はチャンスだと思い、家出用のカバンを背負いドイツへと出発する。

一夏は大会関係者用のホテルへと連れて来られた後、用意された部屋に入り要らない荷物などをある程度ホテルに置いていき、家出用に用意したカバンを背負い部屋から抜け出す。ホテルには日本人観光客が多くおり、その中を掻い潜りながら一夏はホテルの外へと出た後、一夏は何処か遠くへと思い山の方へと向かって走り出した。

暫く走り続けていた一夏は、道端の置かれている石に腰を下ろしカバンに入れているお菓子を取り出して食べていると

 

「Hey, buddy. What are you doing in such a place?《おい、坊主。そんなところで何をしているんだ?》」

 

英語でそう声を掛けられ一夏は声がした方に顔を向けると、髭を生やした男性が立っていた。一夏は仲の良かった年上の友達に教えてもらった英語を使う。

 

「えっと、Running away from home(家出)

 

男性は一夏が家出と聞いた瞬間、顎に手を添え考えるような素振りをする。《※此処から英語は使いません》

 

「そうか、だったらそんな物食ってても後で飢えるぞ」

 

「おじさんには関係ないじゃん」

 

一夏は突然現れた男性に警戒しながらお菓子を食べ終え、何処かに行こうとしたが男性の腕が一夏を掴み上げ何処かに連れて行く。

 

「は、離してよ!」

 

「いいから黙って大人しくしてろ」

 

そう言いながら男性は一夏を肩に担ぎ何処かへと向かって歩き出した。暫くして到着したのは一軒のお店だった。男性は迷うことなく店に入ると店内はモダンな木造でカウンターには一人の初老男性がカップを磨いていた。

 

「うん? ジェイソン何か用かって、その子供どうしたんだ?」

 

カウンターにいた男性はジェイソンと呼んだ男性が担いでいた一夏に驚きながらそう聞くとジェイソンは頭を掻きながら訳を話す。

 

「そこで拾った。こいつが言うには家出したって言うんだ。取り敢えず何か食い物を用意してやってくれ」

 

そう言いながらジェイソンは一夏を椅子に座らせる。一夏はとりあえず大人しくしていたが、家族の所に引き渡されると分かればすぐに逃げる用意だけはしていた。だが

 

「逃げようとか思うなよ。逃げようとすればすぐに家族の所に引き渡すからな」

 

そう言われ一夏は大人しく席に着く。暫くして奥から店の男性がスパゲッティーを持ってきて一夏の前に置く。

 

「ほれ、どんな子供でも大好きなスパゲッティーだ」

 

「うん? おい、ギャズ。俺の分は?」

 

「あ? あるわけねぇだろ。その前にこの前のツケさっさと払え。じゃなきゃ出さん」

 

そう言われジェイソンはチッ。と舌打ちした後、一夏の方へと顔を向ける。一夏は食べてもいいのかと思い悩んでいると、ジェイソンがため息交じりで促す。

 

「な~に固まってんだ。さっさと食わねぇと俺が食うぞ」

 

そう言われ一夏はフォークを手に取り、ズルズルとスパゲッティーを食べ始めた。ジェイソンやギャズと呼ばれた男性は安堵したような顔を向けながら一夏が食べ終えるまで見守っていた。そして食べ終えた一夏に家出した理由を聞く。一夏は二人を信用出来ると思い、訳を話した。家のこと、姉にちゃんと自分を見てもらってない事、周りの態度を。

一夏の話を聞いた二人は呆れたような顔を浮かべる。

 

「お前の姉ちゃん、ひでぇ奴だな」

 

「全くだ。まだ幼い子供がいるのに周りの大人達を頼らないとは、虐待に等しいぞ」

 

一夏は自分が今まで貯めていた愚痴を出したおかげか胸が軽くなったような表情を浮かべているとジェイソンがある提案を出す。

 

「なぁ、一夏。お前俺の息子になる気はないか?」

 

「お、おいジェイソン! 本気か?」

 

一夏はジェイソンの言っていることが理解できないと言った表情を浮かべているとジェイソンが訳を話す。

 

「お前さんをこのまま放置するのも後味が悪いからな、だから俺の息子になれや。もし俺の息子になったらお前さんに伝説の傭兵の技術を伝授してやるよ」

 

「え? 伝説の、傭兵?」

 

一夏は目の前にいるジェイソンが伝説の傭兵とは思えないと思っているとカウンターにいたギャズが反論する。

 

「おい、ジェイソン! この子をお前と同じ道を歩ませる気か! それだったら俺の店で預かった方が「なる! 僕おじさんの息子になる!」ぼ、坊や?!」

 

一夏の返事を聞いたジェイソンはなる訳を聞く。

 

「…僕は今まで自分からやろうとした事を何時も姉に止めさせられてた。だから僕ジェイソンさんの息子になって伝説の傭兵の技術を身に付けたい!」

 

「よし、いい心がけだ。これからよろしく頼むぜ!」

 

「……はぁ~、全く子供は無知で恐ろしいよ」

 

ジェイソンは大笑いしている中、ギャズは呆れたような顔でため息を吐く。

 

「さて、俺の息子になるんだったら新しい名前を決めねぇとな」

 

そう言ってジェイソンはうぅ~んと頭を捻ってしばらくして閃いたと言わんばかりの顔を表す。

 

「よし、お前は今日からネイサンだ。ネイサン・マクトビア、それが今日からお前の名だ」

 

「ほぉ~う、ネイサンと来たか。その訳は?」

 

ギャズはジェイソンが出した名前の訳を聞くとジェイソンは笑いながら訳を話す。

 

「ネイサンはヘブライ語で[ネタン]って呼ぶ。その意味は【神からの贈り物】って言う意味さ」

 

「なるほど、神からお前さんへの贈り物って言う事か」

 

「そう言うわけだ。さて、ネイサン。これからよろしくな」

 

「うん、よろしくね。お父さん!」

 

ネイサンの笑顔からの父さんという言葉を聞き、ジェイソンは顔を手で覆う。

 

「どうしたジェイソン?」

 

「やべぇ、ギャズ。お父さんっていう単語の破壊力侮ってたわ」

 

「あっそ」

 

ギャズは呆れた様子で言う。そうしてネイサンとジェイソンは家族となりジェイソンはネイサンに銃の知識、格闘術、戦術、交渉術など傭兵に必要な知識と技術を伝授した。それから数年が経ち、一夏が中学1年と同じ年に運命の別れが訪れた。ネイサンが街で買い物を済ませ、街から離れた湖近くに建てられているウッドハウスに帰ってきた時、リビングで倒れているジェイソンを見つけたのだ。ネイサンは急いで救急車を呼び、ジェイソンを病院へと運びそこで医者から信じられないことを告げられたのだ。

 

「が、ガン?」

 

「はい。ジェイソンさんの肺に悪性のガンが出来ており、残念ながらもう手の施しようがありません。」

 

そう告げられ、ネイサンは暗い雰囲気を出しながらジェイソンが寝ている病室へと入る。病室ではジェイソンがベッドで寝ており、ネイサンは告げるべきかどうか迷っていると

 

「……俺はもう長くないのか?」

 

「……うん」

 

ジェイソンがネイサンの気配を感じ取り目を開けながらそう聞くと、ネイサンは隠すべきではないと思い、頷く。

 

「……ネイサン、俺の部屋にあるクローゼットに金庫がある。暗証番号は0421だ。中に入ってるものはネイサン、お前が好きに使え」

 

「と、父さん? まさかこのまま死ぬ気なのか? そんなのダメだ! まだ俺は父さんといたい! まだ教えて貰いたいことが沢山あるんだ!」

 

「…聞けネイサン! 俺がガンだって言う事は随分前から知ってたんだ」

 

「え?」

 

「お前と初めて会ったその日に、友人の医者からガンだって告げられてたんだ。 あの時は家に帰って死のうと思ってた。 だがお前と会って最後に死ぬ前にお前を立派な傭兵に育て上げてから死ぬのも悪くないと思ってお前を息子にしたんだ。わるいな、お前を俺のような兵士に育てたのは間違っていたんじゃないかって最近「そんなことない! 俺は父さんみたいな傭兵になりたい。そう思って父さんの息子になったんだ!」…へへへ、どうやら俺はいい息子を持ったみたいだ」

 

するとジェイソンの目から涙が流れ始め、ネイサンはもうすぐ別れが訪れると思い、ジェイソンの手を握る。

 

「……ネイサン、立派な傭兵になって俺を超えるんだぞ」

 

「うん、絶対父さんを超えて見せる。父さん以上の傭兵になってみせる」

 

「……頑張れよ、俺の息子…よ……」

 

ジェイソンが最後の言葉を呟くと同時に機械からピィーと機械音が鳴り響き、ネイサンは声をあげながら泣く。病室の前で見舞いに来たギャズは声を殺しながら先に逝く友に涙する。

 

 

それからネイサンは湖近くに墓を建て、ジェイソンを弔った。ネイサンはジェイソンが言い残した部屋のクローゼットにある金庫に番号を入れ、扉を開ける。中には数百万ドル分の札束と一丁の銃が入っていた。そして手紙も一つ入っており、ネイサンはその手紙を手に取り、中身を取り出す。

 

『ネイサン、これを読んでいるって言う事は俺はもうこの世に居ないということだな。金庫に入っている金は今後の活動資金として使え。それと一緒に入っている銃は俺が愛用していた物だから大事に使ってくれ。そう言えば、ネイサン。金庫を開けた際に使った番号を覚えているか? 0421、この番号はお前と俺が初めて会った月日だ。それじゃあネイサン、死ぬ間際に言ったかもしれないが、俺を超える傭兵になれよ』

 

ネイサンは手紙に涙を零しながら、ジェイソンが愛用していた銃を手に取る。銃はM1911A1にアンダーレールを取り入れ、バレル、ハンマー、グリップなどがカスタマイズされていた。

 

 

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そしてネイサンは身支度を済ませ、荷物を持ってギャズのいる店へと向かう。中に入るとギャズは変わらずカップを磨いており、ネイサンが入ってきたことに気づきカップを置き、ネイサンに近づく。

 

「…もう行くのか?」

 

「うん、父さんみたいな傭兵になるためには戦場に赴く必要があるからね」

 

「俺としてはこのまま此処で一緒に働いてほしい所なんだがな」

 

ネイサンはギャズの提案を首を横に振る。

 

「それはありがたいけど、父さんと約束してるから」

 

「……分かった。それじゃあ何か必要な物があったら何時でも連絡をくれ。武器から車まで何でも用意してやるからよ」

 

「ありがとう、ギャズ。それじゃ行ってきます」

 

そう言ってネイサンは店を後にした。ギャズは店の棚に飾られている写真に目を向け、懐かしむように呟く。

 

「泣き虫だった、ネイサンが今じゃ立派な男になったな。そう思うだろ、ジェイソン」

 

そう呟くと、何処からか「そうだろ!」と言いながら笑う友人が何時もの席に座っているような気がした。

 

 

 

それからネイサンは多くの戦場を渡り歩き着実に父と同じ傭兵としての道を歩き続けていく途中で武器商人ココ・ヘクマティアルと会ったのだ。

 

 

 

 

 

 

人物

ジェイソン・マクトビア

多くの戦場を渡り歩き、伝説と言われるほどの実力を有していた人物。一夏に会った時に友人の医者からガンと言われ、自宅に戻って自殺を考えたが一夏と出会い、一夏を息子に向かえ自分を超える傭兵に育て上げるために知識と技術を与えた。その後、一夏が中学一年と同じ年になった時に、ガンによって亡くなる。

 

ギャズ

ドイツの片田舎で飲食店を営んでいる人物。裏で武器から車まで用意できる販売屋。ジェイソンとは現役の頃からの友人で、口喧嘩をするほど仲がいい。ジェイソンが亡くなってからネイサンを引き取ろうとしたが、ネイサンは父親を超える傭兵になるため戦場へと向かうと言い、ならば裏の人間として力を貸すと言う。時折ジェイソンの墓に行き、ネイサンの近況報告などをしている。




次回予告
学園へと入学が決まったネイサンは、必要な着替えなどが入ったカバンを背負い学園へと向かった。そしてクラスに席に着くと副担任の山田がきてSHRが始まった。
次回入学そして騒動~ネイサン・マクトビア、まぁとりあえずよろしく~


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3話

えぇ~、1組にネイサンを入れず3組に入れて、真耶さんも3組の副担任にしました。担任は例の3人の中で、教師に向いてそうな人を選びました。後の二人は何処かで出ます。


入学式当日、ネイサンは余裕をもって行こうと荷物などを詰めたカバンをとろうとしたが、前日に準備したはずのカバンがそこにはなくネイサンは寝ぼけてほかのところに移したのかと思い部屋中を探したが見つからなかった。

 

「可笑しいな、この部屋にないとすると何処に。……あ!」

 

暫く考えていたネイサンはカバンの行方が何処か見当がつきその場所へと向かう。そして泊まっているホテルのある一室の前へと着き扉をノックする。

 

「ココさん、入りますよ」

 

そう言ってネイサンはココの部屋へと入ると、ネイサンが前日に用意したカバンを渡さんと言わんばかりに力強く抱いてベットの上に座っているココと、どうしようかと思い悩んでいるバルメがいた。

 

「……やっぱりココさんでしたか。そのかばん返してください」

 

「嫌」

 

「嫌って、それがないと僕が困るんですが」

 

ネイサンは困り顔になりながらもココからカバンを返してもらおうとするが、ココは力強く抱きしめ、返そうとしなかった。

 

「ココ、寂しいのは分かりますがネイサンを困らせるのは流石に可哀想ですよ」

 

バルメもやんわりとネイサンにカバンを返してあげるように言うが、ココは返す素振りを見せなかった。

 

「はぁ~、ココさん。本社からの指示ですから仕方がないじゃないですか」

 

ネイサンがISを動かせるという事は本社にも伝えられ、本社からネイサンにHCLI社の企業代表として学園に入学するよう、指令がきたのだ。学園に入学しても給料は支払われ続ける上に、何かしら希望があるならば可能な範囲で叶えると言う条件付きでだ。そこでネイサンは入学するにあたって、寮の部屋を一人部屋にすること。織斑千冬が担任じゃないクラスにするように頼んだ。本社からの返事は部屋に関しては学園がどうにかしてくれるとのこと、そしてクラスは学園が協議したところ、本来は1組の所を3組に変更しましたと通達がきたそうだ。学園側も千冬がネイサンを自分の弟だと思い込んでいることが後々問題になるのではと危惧し、事前に考えていたとのこと。

 

「むぅ~、どうしてネイサンにISが乗れる反応が出るのよ! そこはルツやトージョでいいのに!」

 

「ココ、文句を言っても仕方がありませんよ」

 

バルメはやんわりなだめながら、ココがカバンを離した一瞬の隙をついて、カバンを取り返す。

 

「はい、ネイサン」

 

「すいません、バルメさん」

 

「あぁ~! ちょっとバルメ、何するの!」

 

ココは頬を膨らませながら怒る。それを見たネイサンはある提案をココに提示する。

 

「ココさん、毎晩携帯に電話するからそれで我慢してもらえませんか?」

 

ネイサンの提案にココは暫く悩み、最後は諦めたように息を吐く。

 

「……分かった。けどちゃんと毎日電話すること。一日でも遅れたらその分私の元に戻ってきた時にデートすること。いい?」

 

ココの提示した条件に苦笑い気味となるネイサンだが、それくらいならいいかと思い、ココの条件を飲んだ。そしてネイサンはココやレーム達に見送られながらIS学園へと向かった。

 

 

 

 

それからネイサンは学園の門へと到着し、自分のクラスに連れて行ってくれる学園職員を待っていると一人の女性が走りながらやって来た。

 

「す、すいませぇ~ん! 遅くなりました~!」

 

女性はネイサンの元へと着いた途端、膝に手を置きながら息を整える。ネイサンは先日、学園に荷物を届けに行った際にいた女性だと気付く。

 

「えっと、大丈夫ですか山田先生?」

 

「え? あ、はい大丈夫です。も、もしかして名前、憶えててくれたんですか?」

 

「……まぁ仕事先で会った人物の名前は出来るだけ憶えておくようにしてるので」

 

「そ、そうなんですか」

 

真耶は乱れた呼吸を整え終え、改めて自己紹介を始めた。

 

「では改めて自己紹介をさせていただきます。今日から貴方と同じ3組の副担任を務めます、山田真耶と言います。よろしくお願いしますね」

 

「こちらこそお願いしますね。山田先生」

 

互いの挨拶を終え、学園へと入って行った。クラスへ向かう途中で真耶は職員室にネイサンの着替えなどが入った荷物を運びに行き、ネイサンは3組のクラスへと向かった。3組に着いたネイサンは中へと入ると談笑していた女子生徒達は突然入ってきた男性に驚いた表情を浮かべていた。ネイサンはそれらに気にせず席に着き、教材などを入れたカバンを机の横に引っ掛け、学生手帳に書かれている施設の位置や規則などを確認し始めた。突然入ってきたネイサンにクラスにいた女子生徒達は取り合えず、どう話しかけるか相談し始めた。それから数十分後真耶が出席簿を持って中へと入ってきた。教壇の前に着いた真耶は空中投影で名前を出して挨拶を始めた。

 

「はぁ~い、皆さんおはようございます! 私が本日から皆さんの副担任を務めることになりました、山田真耶と言います。どうかよろしくお願いしますね!」

 

「よろしくお願いします」

 

「「「よ、よろしくお願いします」」」

 

真耶の挨拶の後、ネイサンが率先するように挨拶するとその後を続くように数人の生徒達も同じように挨拶を返す。

 

「はい、お願いしますね。では廊下側の人から自己紹介と何か一言お願いします」

 

「は、はい。有澤智花と言います。中学では手芸部に入ってました」

 

その後もクラスの女子達の挨拶は続いて行く中、前方の扉が開き一人の女性が入ってきた。女性はそのまま教壇へと着き、挨拶をする。

 

「自己紹介の途中ですいません。このクラスの担任を務めるスコール・ミューゼルって言います。どうかよろしくお願いしますね」

 

そう言うとクラスの生徒達はお願いしますと言い、頭を下げる。

 

「ふふふ、まだ肩の力が抜けてないようね。それじゃあ時間も押しているようだし、最後にマクトビア君の自己紹介で終わりましょう」

 

スコールにそう言われ、ネイサンは立ち上がり挨拶を始めた。

 

「ネイサン・マクトビア。まぁよろしく」

 

そう言って席へと着くと、スコールはやんわり注意を飛ばしてきた。

 

「もぉう、それだけじゃ何もわからないわよ。他に言う事は?」

 

「時間が余りないので休み時間にでも聞きに来てくれ。答えられる範囲だったら答えるので」

 

そう言うとスコールはため息を吐く。

 

「それじゃあ質問がある人はマクトビア君の言う通り、休み時間に聞きに行ってちょうだい。ではこの後は授業があるから遅れないようにね」

 

そう言ってスコールと真耶は教室から出て行った。2人が出て行った後に生徒達はネイサンに群がり、質問を投げ渡す。ネイサンは答えられる範囲で答えつつ、一人ひとり丁寧に対応していった。

 

 

 

その様子を廊下で見ていた一人の女性は舌打ちをして去って行った。




次回予告
放課後となり、ネイサンはスコールに屋上に来るよう呼ばれる。そして屋上に来たネイサンにスコールは自分の正体と目的を伝える。それを聞いたネイサンはスコールの上司によろしく伝えておいてと伝え、屋上を後にする。その後ネイサンは自分の寮の部屋の場所を真耶から聞き驚く。
次回幼き頃からのあしながお姉さん~何時も見守っていてくれてありがとうって伝えておいてくれ~


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4話

学園初日の最後の授業が終わりネイサンは、カバンに教科書などを入れ立ち上がる。そして廊下を出て、ある場所へと向かっていた。ネイサンの手元には紙切れがあった。そこには―――

 

『放課後、屋上に   Byスコール』

 

そう書かれていた。この紙切れはネイサンが席を外し、暫くして戻ってきた時に机の上に置いておいた筆箱に挟まっていたのだ。その為ネイサンは屋上へと向かっていたのだ。そして屋上に通ずる扉に到着し、扉を開けるとスコールが夕方の海風を受けながら立っていた。

 

「すいません、お待たせしました」

 

「大丈夫よ、そんなに待ってないから」

 

ネイサンは軽く謝りつつ、スコールの元に寄る。

 

「それで、自分を此処に呼んだ理由は?」

 

「その前に私の正体を明かしておくわ」

 

そう言い、スコールは自分の正体を明かし始めた。

 

「私の名前は朝に言った通り、スコール・ミューゼル。この学園での任務は2つ。1つ目はネイサン・マクトビアの身辺警護。2つ目が織斑千冬、篠ノ之箒の監視よ」

 

「へぇ。と言う事は貴女はHCLI社の社員なんですか?」

 

ネイサンがそう聞くとスコールは首を横に振る。

 

「残念ながら私はHCLI社の社員じゃないわ」

 

「じゃあ誰の指令で此処に?」

 

「この世界で唯一『天災』と呼ばれた人からよ」

 

スコールのその言葉で、ネイサンは全て理解した。自分が戦場に立って暫くしてから、影から見守っていてくれた女性だと。

 

「そうですか。それで、自分の身辺警護は分かりますが、なぜあの2人の監視も頼まれたんです?」

 

「彼女が言うには、あの2人は暴力を使ってでも貴方を取り戻そうとするはずだから、それを阻止するために監視しておいてほしいってことよ」

 

スコールの返答にネイサンはなるほどと呟く。

 

「それじゃあ、僕の身辺警護お願いしますね」

 

そう言ってネイサンは屋上を後にしようと歩き出したが、この際だからとあの人に伝えて欲しい事をスコールに投げ掛ける。

 

「そうだ、あの人に伝えておいて下さい。【何時も影から見守っていてくれてありがとう】って」

 

「……分かった。伝えておくわ」

 

返答を聞いたネイサンはそれでは。とスコールに言い、屋上を後にする。

屋上に一人残ったスコールは、口元を緩ませながら、誰にもいないはずなのに言葉を投げる。

 

「だ、そうよ。篠ノ之博士」

 

そう言うと、建物の影から鼻水を垂らす上に泣きながら出てくる束と黒髪の少女。

 

「うぇぇ~ん、ネイ君が感謝の言葉を送ってくれるなんて。束さん感動し過ぎて涙と鼻水が止まらないよ~。うわぁ~ん!」

 

「はぁ~、感謝の言葉送られたくらいで普通泣く?」

 

黒髪の少女がそう言うと、スコールは苦笑いになる。

 

「別にいいじゃない。あの子がいなくなって一番焦ったのは篠ノ之博士なんだから。それじゃあ篠ノ之博士、私はまだ仕事があるので此処で失礼するわね」

 

「うん、ズズズ。ネイ君のことお願いね、スーちゃん」

 

そう言われ、スコールは頷き屋上を後にした。残った束と黒髪の少女は沈んでいく夕日を眺める。

 

「……それでマーちゃんはネイ君を見てまだ復讐する気はある?」

 

束は夕日を眺めており、マーちゃんと呼ばれた黒髪の少女からは、どのような顔になっているのか分からなかった。

 

「いや、逆に復讐しようなんて思わなくなった。むしろ直に会ってお前の妹だと言って一緒に暮らしたいと思った」

 

そう言うと、束はいい笑顔を黒髪の少女に向ける。

 

「良い思いだよそれ。何時かは分からないけど、束さんが何時かその思いを叶えさせられるよう尽力してあげるよ!」

 

そう言われ黒髪の少女は一瞬キョトンとするが、次第に頬を赤く染めながら視線を明後日の方向へ向ける。

 

「……馬鹿じゃないの。けど、ありがとう」

 

その言葉に束は、優しい笑みを浮かべる。

 

 

 

その頃屋上を後にしたネイサンは荷物を取りに行くのと同時に、自分の寮の部屋の場所が何処か聞く為に職員室へと向かっていた。そして職員室へと到着し、中へと入る。

 

「失礼します。山田先生はおられますか?」

 

そう聞くと一人の教師が気付く。

 

「山田先生? 彼女だったら少し前に此処から出て行ったわよ」

 

「そうですか。どれくらいで戻ってきますか?」

 

「さぁ、ちょっとわからないわね」

 

するとネイサンが入って来た扉が開き、中に入って来たのは、真耶だった。

 

「あ、マクトビア君此処に居たのですか」

 

「えぇ、荷物を取りに来たのと、部屋の場所を聞きに」

 

「そうでしたか。私もマクトビア君に荷物を渡さないとと思って探しに行ってたんですよ」

 

そう言い、真耶はネイサンの荷物を取り出す為に、自分のロッカーへ向かいロッカーから荷物を取り出す。そして自分の机に置かれているネイサンの部屋の鍵を取り、ネイサンに荷物と一緒に渡す。

 

「では、こちらがネイサン君のお部屋の鍵です」

 

「どうも。……あの、山田先生。これってどういうことですか?」

 

「はい?」

 

ネイサンの突然の問いに、真耶は何かと思い、ネイサンが見せたものを見る。ネイサンが真耶に見せたのは、寮の部屋番号が書かれているネームプレートだ。本来であれば、寮の部屋番号が書かれているはずなのだが、そこには番号ではなく言葉が書かれていた。

 

「えっと、『教員部屋(山田)』……はい?」

 

真耶はそこに書かれている言葉に思考が停止した。そして思考が暫く停止してから突然―――

 

「えぇぇぇーーーーー!?」

 

叫び声を出した真耶は、急いで鍵をネイサンから回収し、急ぎ職員室から出て行った。ネイサンは職員室に長居するべきじゃないなと思い、荷物を背負い職員室を後にした。

 

ネイサンは寮の入り口付近で佇んでいると、真耶が長めのアタッシュケースを持ちながら走ってネイサンの元にやって来た。

 

「はぁはぁ、すいません。マクトビア君」

 

荷物を下に置き、両膝に手を置きながら呼吸を整える真耶に、ネイサンはどうだったか聞く。

 

「それで山田先生。俺の部屋はどうなったんですか?」

 

「は、はい。学園長に聞いたところ、部屋割りは試行錯誤したのですが、どうしても1人部屋が出来なかったそうです。なので教員の方と同じ部屋にしようと学園上層部の会議の結果決まったそうで、それなら何処の部屋にするか会議した結果がその、……私の部屋だったそうです」

 

ネイサンは呆れと困惑の表情を浮かべる。

 

「……そうですか。それでしたら、自分は学園から程近いホテルを取るんで、1人部屋が用意できるまでそこから通いますね」

 

そう言ってネイサンは、ホテルを取りにモノレール駅へと歩き出そうとしたが、真耶がそれを止める。

 

「そ、それが学園上層部の指令で学園外のホテルからの登校は、警備の問題があるため容認しないと言われているんです」

 

その言葉を聞き、ネイサンは舌打ちする。そして確認の為、真耶にあることを聞く。

 

「……山田先生はそれでいいんですか?」

 

「え? 何がですか?」

 

「突然自分の使っていた部屋に、男子と一緒に暮らすよう言われて。普通拒否するはずでしょ」

 

そう言うと真耶は頬を赤く染めながら言う。

 

「た、確かに突然入ってくることに驚きました。ですがホテルからの登校を許して、もし何者かに襲われたりすることがあるのは、教師としてはそれだけは避けたいのです。だから生徒を守るためだと思えば大丈夫です!」

 

ネイサンは真耶の答えを聞き、若干呆れると同時に面白い人だと思った。そして諦めたと言わんばかりの息を吐く。

 

「分かりました。ではお世話になります」

 

そう言い頭を下げるネイサンに真耶は慌てて自分も頭を下げる。

 

「い、いい、いいえ! こ、こ、こちらこそお世話になります!」

 

そしてネイサンは真耶と共に部屋へと向かおうとした時、ネイサンは真耶が持っていたアタッシュケースのことを聞く。

 

「そう言えばそのアタッシュケースは?」

 

「あ、これは学園長室に行った帰りにマクトビア君の仲間の方から渡しておいてくれと頼まれた物なんです」

 

そう言いアタッシュケースをネイサンに渡す。

 

「そうですか。その人物ってどんな人物でしたか?」

 

「えっと、眼鏡を掛けた黒髪の日本人男性でした。あ、それと手紙も渡されました」

 

そう言って真耶は手紙をネイサンに渡す。ネイサンは早速手紙を開封し、中身を読む。

 

『ネイサンへ ホテルに自分の武器を忘れるのはけしからんぞ。ちゃんと自分の手元に置いとかなきゃ。学園生活は大変かもしれないけど頑張るように ココより』

 

ネイサンは手渡されたアタッシュケースには、自分の武器とカスタム用のパーツが入っているんだと分かり、ココの気遣いに心の中で感謝していると手紙の下の方にまだ文章が続いていることに気付く。

 

『P.S.私以外の女の子に愛想振舞ってたらロケットに括りつけて打ち上げるからね♡』

 

「……」

 

ネイサンがこの文章を読んで、背中に嫌な汗がダラダラと流れ続けたのは言うまでもない。ココはやると言った事は絶対にやる人だからだ。




次回予告
結局、教員用の部屋で下宿することとなったネイサン。ネイサンは真耶と部屋の利用に関するルール決めをして、電話をしに部屋から出て行く。
次回寮の部屋~ふ、ふふふ。ネイサンが他の女と同じ部屋だって……。~


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5話

寮の入り口から中へと入ったネイサンと真耶は、荷物を置きに真耶の部屋へと向かっていた。そして暫くして壁に立て札で山田真耶と書かれた部屋へと着いた。中へと入ると簡易的なキッチンが入り口付近にあり、奥へと行くと机と椅子が置かれているリビングの部屋となっており、その隣の部屋が寝室となっていた。

 

「結構整理整頓が行き届いてますね」

 

「は、はい。どうしても散らかっていると落ち着かなくて。それで休みの日はよく掃除しているんです」

 

真耶は頬を赤く染めながら部屋が綺麗な理由を話し、ネイサンはなるほどと呟く。

 

「そう言えば、寝室に置かれているベッドって、今一つしかないんですよね?」

 

「は、はい。用具室に簡易ベッドがあるはずなので、後で持ってくる予定ですけど、それがどうかしましたか?」

 

「いや、何でも」(一応そう言った用具も備えられているのか)

 

ネイサンはベッドが無かったら廊下に布団でも敷こうかなと考えていたのだが、要らぬ心配だったなと思う。

 

「それじゃあ、暫く一緒に住むという事になるので、簡単にルールでも決めておきましょうか」

 

「は、はい!」

 

真耶は照れながら、ネイサンが提示するルールをメモしつつ、自分が風呂に入る時間などを伝えた。そしてある程度ルールが決まった後、ネイサンはスマホを持って部屋から出て行こうとする。

 

「あ、山田先生。俺、ちょっと上司に電話して来るんで」

 

「あ、はい! お気を付けて」

 

 

ネイサンは何に?と真耶の発言に疑問しつつ、部屋から出て人が少ないと思われる屋上へと足を向けた。

ネイサンが部屋から出て行き、部屋に一人残った真耶は、ネイサンと暫く同室となるため簡単に歓迎用の料理でも出そうかなと思い、キッチンへと向かった。

 

 

寮の屋上に到着したネイサンは、スマホの電話帳からココの番号を選び、呼び出す。数回コールした後、電話に出る音が鳴った。

 

「もしもし、ココさん。そっちはどうですか?」

 

『うん、ネイサンがいないから皆と外食に来てるんだけど、やっぱりネイサンの料理が食べられないから皆少し残念がってる感じ』

 

その返答を聞き、ネイサンは笑いながらそうですか。と言う。

 

「こっちはまぁ特に問題とかはない感じです。あるとすれば部屋割り位でしたか」

 

『部屋? 確か一人部屋にしてくれって、本社を通して学園にお願いしたんだっけ』

 

「えぇ。それで放課後に部屋の場所を聞いたら――――」

 

ネイサンは部屋が一人部屋では無く、教員と同じ部屋になったと報告。ココはホテルではダメなのか聞いたが、警備上の問題で駄目だと言われたと報告する。

 

『はぁ~、それじゃあネイサンは今、教員と同じ部屋で暫く暮らすっていう事なんだ?』

 

「えぇ。まぁ、こればっかりは流石に仕方がありませんよ。何しろこの学園一つで世界中のISのパイロット達を育成しているんですから、部屋だって限られてくるから仕方がありません」

 

ネイサンの言葉にココは盛大なため息を吐きつつ、注意を促す。

 

『……はぁ~~、分かった。手紙で書いた事は無しにしてあげる。あ、それとハニトラとか注意するように。あぁ言う連中はどんな手段を使ってでも、ネイサンから情報を引き出そうとしてくるから注意してね? ……それと、織斑千冬にも』

 

ココからの忠告にネイサンは同意するように返事する。

 

「えぇ、分かってます。ハニトラしてくるような奴らが出てきたら、部隊流で歓迎してやりますよ」

 

そう言うとココもふふん。と笑う。

 

『そう言えば、同室になった教員の名前って何? 一応受け入れてくれたお礼の手紙と粗品を送りたいから教えて』

 

「分かりました。名前は山田真耶先生。僕が入ったクラスの副担任で、荷物を届けに行った際に学園長と一緒にいた先生です。」

 

『……へぇ~、あの人とね』

 

ネイサンはココの返事が可笑しいことに気づき、内心冷汗が流れっぱなしだった。

 

「こ、ココさん?」

 

『うん? 大丈夫。何でもないよ』

 

ネイサンがココの名前を呼ぶと、何時もの口調に戻っているが、あ、やばい怒ってると瞬時に判断できた。

 

『それじゃあ、ネイサン。また明日もちゃんと掛けてきてよ』

 

「え、えぇ分かってますよ」

 

そう言うと同時に電話が切れ、ネイサンはココと久しぶりに会った時に、マジでロケットに括り付けられて打ち上げられるんじゃ?と思い、冷汗を滝のように流しながら屋上から去って行った。

 

 

 

一方ココはと言うと、自分達が宿泊しているホテルからほど近い料亭で食事を終え、ホテルに戻ってきて、プライベートバーでお酒を飲んでいた際にネイサンから電話が掛ってきたのだ。ココは内心ウキウキしながら電話を取り、ネイサンと話していたのだ。そして同室の住人が教員で、しかも荷物を届けに行った際にいた胸のデカい人物と同じ部屋だと知り、オデコに青筋を浮かべていた。

 

その様子は同じプライベートバーにいたココの私兵達も、ココが怒っていると瞬時に読み取れた。

 

「お、お嬢? どうかしたのか?」

 

アールが心配そうに聞くと、ココは小刻みに震えながら呟く。

 

「フ、フフ、フフフフ。ネイサンが、あの教員と同じ部屋だって……」

 

その様子に恐怖を感じたアール達はそっと逃げ出したかったが、あの教員とは誰なのか気になり、トージョがココに聞く。

 

「……こ、ココさん。あの教員って誰なんだ?」

 

「……学園長と一緒にいた山田って言う先生」

 

山田と言う名前を聞いたアール達は誰だと思い、トージョはパソコンでIS学園の教員で山田と言う先生を調べる。そして数分で山田と言う名前を見つけ詳細を出す。それを見たアール達は絶叫をあげた。

 

「アイツ、この凶悪ボディーの持ち主と一緒の部屋だとぉ!!」

 

「IS学園に行くだけでも羨ましいのに、こんな胸デカボディーの持ち主の教員と同じ部屋とか、羨ましすぎるぞ!!」

 

「チクショーー!! ネイサンが帰ってきたら思いっきり殴ってやる!!」

 

アール、トージョ、ルツはネイサンに嫉妬の声をあげている中、ココはと言うと

 

「バルメ、離して。ネイサンをロケットに括り付けるために許可を貰わなきゃいけないんだから」

 

と、ロケットにネイサンを括り付けるために企業に許可を貰おうと携帯を手に取っていた。

 

「ココ!? そ、そんな早まっては駄目です!」

 

バルメは必死にココを押さえつけ、電話させまいと頑張っていた。レーム達はそんな様子をただただ笑って見ていた。




次回予告
次の日となり、3組ではクラス代表が選ばれようとしていた。女子達はネイサンが良いなと推薦するが、面倒ごとが嫌いなネイサンは断ろうとしたが、代表選で勝てばデザートフリーパスが貰えると聞き、引き受ける。放課後となり、ネイサンが帰ろうとしたところに一人の女性が現れた。
次回クラス代表~面倒ごとは嫌いだが、報酬があるなら話は別だ~


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6話

電話を終えたネイサンは真っ直ぐ部屋へと戻ってくると、真耶が手料理をテーブルの上に並べ、椅子に座って待っていた。

 

「あ、マクトビア君。電話終わりましたか?」

 

「えぇまぁ。それよりこの料理は山田先生がお一人で?」

 

ネイサンの問いに真耶は、頬を赤く染めながら頷く。机の上に置かれている料理は、ハンバーグにポテトサラダなど、色鮮やかな料理が並べられていた。

 

「は、はい。簡単にマクトビア君の入学をお祝いしようかなと思って」

 

「そうでしたか。それはありがとうございます。では冷めないうちに食べましょうか」

 

そう言いながらネイサンは向かいの席に座り、ハンバーグを食べ始めた。

 

「ど、どうでしょうか?」

 

真耶は心配そうに聞くと、ネイサンは優しい笑みを浮かべる。

 

「凄く美味しいですよ」

 

「そうですか! それは良かったです」

 

真耶は照れながら手を合わせる。それからは談笑を交えながら食事をした。

夕食後、ネイサンはアタッシュケースに入っているACRを取り出し、整備の為分解し始めた。一つ一つ油を指したり、汚れを拭き落としたりし終え、ACRを組み立て始めた。組み立て終えると風呂に入りに行っていた真耶が部屋に戻ってきた。

 

「えっと、マクトビア君何しているんですか?」

 

そう言いながら真耶はネイサンの手元にある銃に目が行く。

 

「えっ! どうして銃を持ってるんですか?」

 

「あぁこれですか? 先生が渡したアタッシュケースは俺の武器が入ってたんですよ。因みに学園には許可は貰ってるので大丈夫ですよ」

 

ネイサンの説明に真耶はな、なるほど。と納得する。そしてネイサンの近くに寄り、銃をまじまじと見つめる。

 

「えっと、これってACRって言うアサルトライフルでしたよね?」

 

「えぇそうですよ。もしかして先生、銃にお詳しいんですか?」

 

「は、はい。私、ISの武装でよく使うのが実弾系の武器なんです。だから自然とそう言った銃に詳しくなっちゃったんです」

 

へぇ~、とネイサンは納得している中、ネイサンは試しにとACRを真耶に渡す。

 

「試しに持ってみます?」

 

「え!? いいんですか?」

 

「えぇ。マガジンは外してるので持っていただいても大丈夫ですよ」

 

そう言われ真耶は恐る恐るとネイサンのACRを持ち、構える。

 

「やっぱりいいですね。この軽量で取り回しの良さ。それにレールシステムを取り入れている為、オプションパーツがたくさん付けられる所がさらにいいですね」

 

そう言いながらACRを褒める真耶。ネイサンはやっぱり面白い先生だと思いながら見ていると、ネイサンの視線に気づいた真耶は頬を染めながら銃をネイサンに返した。そしてネイサンは銃をアタッシュケースに仕舞い、風呂へと入りに行った。風呂から上がった後はそのまま布団へと入り、一日が終了した。

 

 

次の日、ネイサンは真耶より先に起き、体を動かしに外へと行き、ナイフの素振り、近接格闘術の訓練を数十分ほどやり、部屋へと戻った。部屋に戻り次第汗を流し朝食の準備をしていると真耶が起きてきた。

 

「ふわぁ~、おはようございます、マクトビア君」

 

「おはようございます、山田先生。席に着いててください、もうすぐ準備できるんで」

 

そう言ってネイサンはフライパンで焼いていたベーコンと、もう一つのフライパンで焼いていたスクランブルエッグを皿へと移し、トーストとコーヒーと一緒に真耶の前へと置く。

 

「うわぁ~、凄く美味しそうですぅ!」

 

「そうですか? そう言っていただけるとありがたいです」

 

そう言いながらネイサンは席に着き朝食を食べ始めた。朝食をとり終えた後は、ネイサンは教室へ、真耶は職員室へと向かった。

そして時間は1時間目開始の合図が鳴った後。チャイムが鳴った後にスコールと真耶が教室へと入ってきた。

スコールが教卓へと立つと、体を生徒達の方へと向ける。

 

「実はクラス代表を昨日決めるのを忘れていたから今から決めるわ。誰かやりたい人っている?」

 

そう聞くとほとんどの生徒は手をあげると言った動作はせず、隣の生徒と相談を始めた。すると一人の生徒が手をあげた。

 

「ん? 何かしらメルトリアさん」

 

「あの、推薦っていいですか?」

 

メルトリアと呼ばれた青髪の少女はそう聞くとスコールはふむ。と考え、頷く。

 

「別に構わないわ。ただし、推薦された人には拒否権があるからそこは分かってね」

 

「分かりました。私はマクトビア君を推薦します」

 

ネイサンを推薦すると言うと周りの生徒達もそれがいいかもと声を上げ始める。

 

「それだったら私もネイサン君を推薦します!」

 

「私も!」

 

次々と推薦が上がって行く中、ネイサンは面倒くさいと言った顔になる。

 

「……自分はやりたくないんだが」

 

「えぇ~、このクラスで専用機を持っているのはマクトビア君以外いないんだよ」

 

「「「うんうん」」」

 

「……マジかよ」

 

ネイサンはそれでも嫌だと言おうとしたところでスコールがあることを言う。

 

「因みに、クラス代表同士の戦いである、クラス代表戦で優勝するとデザート半年間フリーパスが貰えるわ」

 

「何?」

 

スコールの呟きを聞いたネイサンは目を鋭くした。

 

「スコール先生、それは本当ですか?」

 

「えぇ本当よ」

 

「本当だったら引き受けたくないが、報酬があるなら引き受ける」

 

そう言い、クラス代表を引き受けた。生徒達はやったーと喜び、スコールは現金ねと苦笑いで思い、真耶は

 

(マクトビア君って甘い物が好きなんですかぁ)

 

と思った。

 

「それじゃあクラス代表はマクトビア君とします。では本日のSHRをするので静かに聞いてね」

 

スコールはそう言いSHRを始めた。

 

 

時間は飛び、時刻は放課後となりネイサンは荷物をカバンに仕舞い、寮へと帰ろうとしたところでクラスに黒髪の生徒が入ってきた。生徒は何も言わずネイサンの元へとやって来た。ネイサンはその顔を見てアイツか、と思いつつ帰ろうとすると

 

「待て!」

 

そう言って生徒はネイサンの腕を掴もうとするが、ネイサンは反射的にその手を払う。

 

「済まないが、俺はこの後用事があるからまた今度にしてくれ」

 

そう言って廊下に出ると別の生徒が話しかけてきた。

 

「こんばんわ」

 

そう言ってきたため、ネイサンはどうも、と言って頭を下げて帰ろうとすると生徒は声を荒げる。

 

「待ちなさい! わたくしが折角を声を掛けてあげたのに一言だけとは何事ですか!」

 

「はぁ?」

 

ネイサンは突然切れた生徒に、瞬時に面倒くさい女尊男卑の奴だと分かり、さっさと帰ろうとする。

 

「待ちなさい! まだ話は「おい! 今私が話を掛けているんだ、後にしろ!」篠ノ之さん、いきなり割り込まないでください!」

 

2人はそこから口論を始め、ネイサンは2人を放置して寮へと帰っていった。

 

部屋へと戻ったネイサンは夕飯の準備でもしようかなと、冷蔵庫を漁る。冷蔵庫の中身は真耶からどれを使ってもいいと許可を貰っている為、ネイサンは2人で十分な献立を考え始めた。そして数十分後、豚バラが有ったためネイサンは生姜焼きを作り居間のテーブルへと置くと同時に真耶が帰ってきた。

 

「ただいまです。あれ、凄くいい匂いが」

 

そう言いながら部屋の奥へと行くとネイサンが夕飯の準備を終えた状態で待っていた。

 

「あ、お帰りなさい」

 

「た、ただいまです。こ、これマクトビア君が用意したんですか?」

 

「えぇ、そうです」

 

真耶は凄い、と呟き何時も自分が座っている席へと着き、生姜焼きに手を付ける。

真耶は自分が作った生姜焼きより美味しいことに驚いた。

 

「す、凄く美味しいです!」

 

「そうですか? それだったら嬉しいです」

 

ネイサンも生姜焼きを口に入れ、満足そうに頷いていた。そして夕食が終わりテーブルでお茶を飲んでいると真耶が何かを思い出したような表情を浮かべる。

 

「そうでした。実は1週間後にマクトビア君のISが届くと、HCLI社の方から連絡がありました」

 

「そうですか。因みに誰が持ってくるとか言ってました?」

 

「いえ、特に何も言ってませんでした」

 

ネイサンはそうですか、と呟きお茶を飲む。




次回予告
1週間後ネイサンは自分のISを受け取ろうとアリーナのピットへと行くとキャスパーがいた。そしてコンテナを開き1機のISが鎮座していた。そしてISを身に纏い真耶に起動チェックを見てもらおうとしたところで、1機のISがアリーナに出てきた
次回お呼びでない客~弾代はお前に払ってもらうからな~


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7話

1週間後、ネイサンは自身の専用機を受け取りにアリーナへと行くと、入口に真耶とスコールが立っていた。

 

「山田先生それに、スコール先生も。何故ここに?」

 

「あら、知らされて無いの? ISは使用者の設定を入れないとまともに動かすことが出来ないのよ。だからその設定を私達教師が手伝うっていう事で此処に居るのよ」

 

「あぁなるほど。そうだったのですか」

 

ネイサンはスコールの説明に納得し、2人と一緒に建物の中へと入って行った。アリーナに備えられているピットへと行くと其処にはネイサンのよく知っている人物達がいた。

 

「やっぱり貴方でしたか、キャスパー」

 

ネイサンがそう呼ぶと、キャスパーは笑みを浮かべ手を差し出す。

 

「やぁ久しぶりだね、ネイサン。勿論僕の担当地域はアジア圏だから僕が来るのは当たり前だろ?」

 

ネイサンも同じように手を差し出し握手を交わす。

 

「そうでしたね。それとお久しぶりですねチェキータさん」

 

ネイサンはキャスパーの隣にいたチェキータに挨拶をする。

 

「久しぶりネイサン」

 

そう言いチェキータはネイサンの頭を撫でる。突然の事にネイサンは照れながら慌てた。

 

「ちょっ、チェキータさん! 突然頭を撫でないでくださいよ!」

 

「あらいいじゃない」

 

そう言いながらチェキータはふふふ。と笑いながらネイサンの頭を撫で続けた。その光景を見ていたキャスパーは笑いながら止めに入った。

 

「チェキータさん、ネイサンを弟みたいに可愛がるのはいいですが、今日来た目的忘れないでくださいよ」

 

「……止める気があるなら笑わないでくださいよ」

 

そして漸く解放されネイサンはキャスパーにISのことを聞く。

 

「それで僕のISは?」

 

「こいつだよ」

 

そう言ってキャスパーは背後にあったコンテナを指さす。そしてキャスパーはコンテナを開けると其処には以前トラックに載っていた時と同じ深緑色に染められた一機のISが収められていた。

 

「A-10thunderboltⅡ。開発チーム曰く、火力だったら今世に出ているISの中で断トツトップに入るって言ってたよ。因みに武装は僕が選定させてもらったよ」

 

「えっ!? マジですか?」

 

ネイサンはキャスパーの言葉に驚く。

 

「キャスパーが選んだってことは色々エグイ武装とかにしてるんじゃ?」

 

ネイサンの呟きにチェキータが答えた。

 

「キャスパーったら、子供みたいに生き生きした表情で選定してたわよ」

 

それを聞いたネイサンはあ、これはマジな奴だ。と自身が乗るISに不安を覚え始めた。

 

「だって面白そうじゃないですか! 僕のお気に入りの傭兵が乗るISだったら、そんじょそこらにあるISとは全く違うんだぞって見せしめたいじゃないですか!」

 

キャスパーの生き生きとした表情での力説にネイサンは呆れ顔になる。

 

「……人が乗る物で遊ぶなよ」

 

「仕方ないじゃない、キャスパーだもの」

 

チェキータのその一言にネイサンも、そう言う人物だったと思い出させられた。

 

 

「さて、武装について説明するよ。まず両肩にGAU-8アヴェンジャー。使える弾種は36㎜砲弾と120㎜砲弾だ。36㎜砲弾は劣化ウラン貫通芯入り高速徹甲弾(HVAP弾)で、120㎜砲弾は劣化ウラン貫通芯入り仮帽付被帽徹甲榴弾(APCBCHE弾)装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS弾)、キャニスター弾、粘着榴弾(HESH/HEP弾)だ。勿論今回は全ての弾種を用意してあるから好きに使ってくれ。弾が無くなったら僕に連絡をくれたらすぐに配達するよ。」

 

「GAU-8アヴェンジャーって確か航空機のA-10に載せられている装備ですよね?」

 

「そうだよ。こいつは航空機のA-10をコンセプトに造られたISらしい。だから僕はこいつを装備させたんだ」

 

ネイサンはキャスパーの言い方に違和感を覚えた。

 

「もしかして最初は別の装備が載ってたんですか?」

 

「そうなんだよ。開発チームの連中、最初はこいつじゃなくて20㎜口径のM61バルカンを載せてたんだ。全く面白みの欠片もないから外してやったよ」

 

ネイサンは、開発チームに武装のことでケチを付けている光景がすぐに思い浮かべてしまい、呆れた表情を浮かべる。

 

「そして更に両肩にはアヴェンジャー以外にもサイドワインダー(AIM-9)を計6本載せてある。空中にいるハエはそれで叩き落してやれ」

 

「……空対空ミサイルまで積んだんですか」

 

ネイサンはもうこれ以上驚くことはないだろと思い、手持ち武器について聞く。

 

「肩の武器についてはよく分かりました。で、手持ち武器は?」

 

「手持ちの武器は2種類ある。1つ目はAMWS-21戦闘システムと言う、36㎜突撃機関砲(チェーンガン)に120㎜滑腔砲が付けられた武器だ。それとこの武器にはレーザー測距装置が組み込まれているから120㎜を使う場合重宝するよ。それともう一つの武器が近接用のナイフだ。これがこいつに積んだすべての武器だ」

 

「……さいですか」

 

ネイサンはキャスパーの説明を聞き終え、実弾兵器ばっかだなと思いつつ自身のISに手を触れる。

 

「それじゃあマクトビア君、早速フィッティングを行いましょうか?」

 

スコールにそう言われネイサンは頷き、ISの身に纏い方を真耶にレクチャーされながら身に纏う。そしてフィッティングを行い、一次移行を終わらせアリーナへと出る。

 

『ではマクトビア君、簡単に動き方などを教えますので言う通りにやってみてください』

 

管制室に移動した真耶からのアナウンスにネイサンは頷き、指示通り動かそうとすると、反対のピットから1機のISが出てきた。

 

『あれ? 確か1組のセシリア・オルコットさんでしたか? 今アリーナは関係者以外立ち入り禁止ですよ』

 

そう真耶が言うとセシリアと呼ばれた生徒はネイサンに指を指す。

 

「ネイサン・マクトビア、わたくしと勝負しなさい」

 

「はぁ?」

 

突然の申し込みにネイサンは呆れた顔になる。

 

「お前さっきの放送が聞こえなかったのか? 今アリーナは関係者以外立ち入り禁止だ。さっさと出て行け」

 

「男のくせしてわたくしに命令しないでくださる? それにわたくしは織斑先生に頼まれて此処にいるので問題ありません」

 

「なに?」

 

ネイサンはセシリアが言った事を確かめるため、管制室に通信を繋げる。

 

「山田先生、今アイツが言ったことは本当ですか?」

 

『い、いえ。私達はそのような事は聞いてません。『私が指示した。問題ない』お、織斑先生!?』

 

ネイサンは突然通信に入ってきた織斑に小さく舌打ちする。

 

「……訳を聞いても?」

 

『ISをモノにするには実戦が一番だ。だからわざわざそいつに頼んだんだ、ありがたく思え』

 

(何がありがたくだ、ありがた迷惑だ)

 

ネイサンは心の中で文句を言いつつどうするか悩んでいると、次に通信してきたのはキャスパーだった。

 

『ネイサン、やってあげたらどうだい?』

 

「……どうせ宣伝の為でしょ?」

 

『勿論それもあるが、彼女は女尊男卑と言う僕が一番嫌いな風潮に染まった人間の様なんだ。だからそいつをぶちのめしてほしいと思ってね』

 

「なるほど」

 

するとセシリアは何時までも返事を返さない事に苛立ち、挑発する。

 

「まったく、どれだけ待たせる気ですか? これだから男は嫌いなんです。そう言えば此処に来る途中で見かけた黒髪の女性、なぜあんな優男の様な男と一緒にいるのか意味が分かりませんわ」

 

(あぁ~あ、言っちゃいけないことを)

 

ネイサンはセシリアが言ってはならんことを言った事にご愁傷様と心の中で合唱していると、キャスパーから

 

『ネイサン、宣伝とかもういいからあいつぶっ飛ばしてくれ。チェキータさんをバカにするのは流石に僕でも許せないからね』

 

「……まぁいいですけど。あ、そうだ。隣にいるチェキータさんの事、ちゃんと抑えておいてくださいよ」

 

そう言いネイサンは管制室にいる真耶に通信を繋げる。

 

「山田先生、審判してもらってもいいですか?」

 

『え!? やるんですか? む、無茶ですよ! まだISにまともに乗ったことが無いマクトビア君とじゃ勝負になりませんよ!』

 

「大丈夫です。大体5分か10分くらいでモノに出来ると思うんで」

 

ネイサンの言葉に真耶は驚いた。本来ISは練習を重ねていく内に、漸くまともに動かせるようになる。だがネイサンはそれを5分か10分でモノにすると言っているのだ。

 

『む、無理ですよ! 5分か10分だなんて、そんな時間だけでは!』

 

すると真耶と一緒にいたであろうスコールが出てくる。

 

『マクトビア君、本当に5分か10分でモノにできるのね?』

 

「えぇ、問題ないです」

 

スコールはしばし考えた後に返答する。

 

『……分かったわ』

 

そう言いスコールは真耶に審判をするよう告げた。そしてネイサン、セシリアはアリーナ中央へと移動する。アリーナ中央に着いたネイサンにセシリアはまた挑発してきた。

 

「漸くですか。全くこれだから男は嫌なのですわ。何かを決めるのに時間がかかる。貴方、本当に愚図な男ですわね。」

 

セシリアの挑発をネイサンはただ黙って聞いていた。ただしボイスレコーダーで録音しながらだが。そしてネイサンはあることを閃く。

 

「なぁ一つ提案があるがいいか?」

 

「いいでしょう。言いなさい」

 

「もし俺が勝ったら、今日使ったこいつの弾代、お前が払え。逆に俺が負けたら次のクラス代表戦、俺は出ない」

 

セシリアはネイサンの提案に、少し考えた。メリットは勝てばクラス代表にネイサンが出ない。そうなればクラスのみならず全学年から使えない男として見られると考えつく。逆にデメリットは、負けた場合弾代を請求される。だがセシリアは自分は今年の学年で主席の成績を出したから負けるはずがないと考えが行き付き、セシリアはネイサンの提案に乗った。

そして試合開始のアラームが鳴り響いた。

 

 

 

用語

・劣化ウラン貫通芯入り高速徹甲弾

36㎜チェーンガンなどに使用される通常砲弾。ケースレス弾となっており、射撃時に排莢は行われない。

 

・劣化ウラン貫通芯入り仮帽付被帽徹甲榴弾

120㎜用の砲弾。発射後にロケット推進による補助加速が行われる事で、初速を上昇させ装甲貫徹力を向上させている砲弾。

 

・装弾筒付翼安定徹甲弾

高い貫通力を発揮する120㎜砲弾で、上と同じく初速を上昇させるためにロケット推進を採用している。硬い装甲などを貫くのに適している。

 

・キャニスター弾

120㎜砲に用いられる散弾。発射された砲弾が空中で分散して、無数の小さな弾が広範囲にばら撒かれる。高速力を必要としないためロケット推進ではない。近接戦闘でも威力を発揮する。

 

・粘着榴弾

弾頭部分が対象物にへばり付くように潰れてから起爆する。ホプキンソン効果によって目標内部が飛散して、内部に打撃を与える。こちらも速度を必要としないためロケット推進ではないが、一方で運動エネルギーを利用しない弾種であるため遠距離目標に対してもある程度有効である。

 

・サイドワインダー

正式符号はAIM-9。短距離空対空ミサイルで、その飛び方が独特の蛇行した軌跡を描きながら飛行する様子と、赤外線を探知して攻撃することから、ヨコバイガラガラヘビにちなんで名づけられた。




次回予告
勝負することとなったネイサンとセシリア。勝負はセシリアが優位だと真耶は思っていたが、最初はそうだが後半から大きく変化した。そしてネイサンの戦い方に真耶は、なぜか見入るように見てしまう、そんな自分に疑問する。
次回初戦闘~そりゃあ慰謝料は請求されるでしょ?~


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8話

「さぁ舞いなさい!」

 

そう言い、セシリアはビット兵器を展開してきた。ネイサンはまず操作慣れからとISを動かし始める。

管制室にいた真耶はネイサンは大丈夫かと心配しながら見ていた。

 

「山田先生、やはり心配ですか?」

 

スコールはそう聞くと真耶はデータを取りながら頷く。

 

「……はい。彼はまだISに乗ったのが今日が初めてなんです。それなのにいきなり実戦なんて酷過ぎますよ」

 

真耶は心配そうにアリーナを見ていると管制室に1組の男女が入ってきた。

 

「あら、Mr.キャスパーどうかしましたか?」

 

「いや、観戦室で見てても今一ネイサンの状況が分かりづらいから此処に来たんだ。別にいいでしょ? 彼が乗っているISは、わが社が開発した機体なのだから」

 

キャスパーにそう言われ、スコールは別にいてもいいと言い、モニターでアリーナの様子を見る。するとスコールはネイサンの動きが徐々に良くなっている事に気づく。

 

「……本当に5分程でモノに出来るって言うの?」

 

スコールのつぶやきにキャスパーは笑顔で答える。

 

「勿論彼なら出来ますよ。彼は武器の特性を誰よりも直ぐに理解できる。今まで触ったことが無い銃や乗り物でも、彼だったら最長で1時間もあればモノにできる。そいう人物なんですよ彼は」

 

キャスパーは自慢するようにネイサンの事を伝えると、真耶もさっきまで有った不安な気持ちが、徐々に消え去って行った。一方アリーナの方はと言うと、さっきまで動きにムラがあったはずのネイサンの動きが、今は無駄の無い動きへと変貌しセシリアは焦っていた。最初こそ攻撃を掠めつつSEを削っていたのだが、今はそれが出来ない。

 

「なぜ当たりませんの! いい加減当たりなさい!」

 

そう叫びながら攻撃してくるが、ネイサンはそれをひょいひょいと躱す。

 

「そろそろ反撃するか」

 

そう呟きネイサンは手に持っていたAMWS-21と、両肩のアヴェンジャーを構える。ネイサンはアヴェンジャーの弾種を120㎜のAPFSDS弾にしているとある事に気づく。

 

「ん? これ手持ちの武器も自動照準に設定されてるのか?」

 

ネイサンは攻撃を躱しつつ、設定画面を開き手持ち武器のみ手動照準に変える。そしてAMWS-21をセシリアに構え、トリガーを引く。上空にいたセシリアは攻撃を躱しつつビット兵器で反撃するが、激しい砲火で次々とビットを撃ち落とされていく。

 

「こ、この!」

 

セシリアは自棄になりスターライトmarkⅢで攻撃しようとした瞬間、激しい砲火で発生した煙の中から2発のミサイルが飛んでくることに気づき避けようとしたが間に合わず命中し、セシリアは墜落した。地面に落とされたセシリアはライフルを杖替わりに立ち上がるのを見つけたネイサンは、アヴェンジャーの弾種をキャニスター弾に変更する。

 

「さて、先に言っておくが俺のモットーは……」

 

そう言いながらネイサンは、AMWS-21のマガジンを交換する。セシリアはネイサンから滲み出る殺気に恐怖し後退る。その時足がもつれ尻もちをついてしまう。

 

「『敵なら、殺せ』だ」

 

そう呟きネイサンはAMWS-21とアヴェンジャーをセシリアに向ける。

 

セシリアは恐怖し、体中から冷や汗が滝の様に流れ出す。

 

「……お、お願いです。お、お、お許しを」

 

セシリアは震える唇で懇願するが、ネイサンの返答は

 

Farewell, Limey.(くたばれ、ライミ―。)

 

ネイサンは英語でそう言い、引き金を引く。アヴェンジャー、そしてAMWS-21から大量の弾丸が放たれ、セシリアは避けることなんて出来ず弾丸の雨に晒された。

ネイサンの攻撃はアヴェンジャーに装填されているキャニスター弾が切れるまで続き、弾丸が切れた頃にはセシリアのSEは無くなっており、セシリアは腕や足などに青痣が出来ており、恐らくISスーツで見えないところまで青痣が出来ているだろう。そしてネイサンはセシリアを放置してピットへと戻っていく。

管制室にいた真耶、スコールは信じられないと言った表情を浮かべ、キャスパーとチェキータは笑みを浮かべていた。

 

「ハハッ、流石はネイサンだ。敵に容赦しないその姿勢、僕は好きだよ」

 

「や~ね、何自分の好みを言ってるのよ」

 

キャスパーとチェキータが談話している中、真耶はアリーナで起きた出来事に魅入られるような感覚に襲われていた。真耶はセシリアが集中砲火されている光景に、目を離せなかった。それは嫌悪感とかではなく、まるでショーを見ているかのような楽しいと言った感情だった。どうしてそんな思いが出てくるのか、それが真耶は不思議で仕方がなかった。

 

「山田先生?」

 

「は、はい!」

 

突然スコールに肩を叩かれたことで、真耶はさっきまで浮かんでいた疑問が何処かに飛んで行った。

 

「私は今回の事を学園長に報告しに行くから、貴女は情報を纏めて明日報告できるようレポートにしておいてもらえるかしら?」

 

「わ、分かりました」

 

スコールは真耶の了承を聞き、管制室から出て行く。すると今度はキャスパーが話しかけてきた。

 

「えっと、山田先生でしたか? 実は妹からこれを山田先生って言う人に渡しておいてくれって頼まれたんですよ。何でもネイサンとの同室を引き受けてくれたとかで、そのお礼だそうですよ」

 

そう言い、キャスパーは紙袋を手渡す。真耶は頬を赤く染めながら受け取りを拒否する。

 

「そ、そんな私は教師として、生徒を守るためにやっている事なんで。そんなお礼だなんて!」

 

「いやいや、先生がやっている事は大変素晴らしいことなんでぜひ受け取ってやってください」

 

そう言われ、真耶は照れながらもお礼の品を受け取る。

 

「では僕はネイサンに会ってから帰ります。ネイサンの事、どうかこれからも仲良くしてやってくださいね?」

 

そう言ってキャスパーとチェキータは管制室から出て行った。真耶は受け取った紙袋を見つめ、仕事が終わってから中身を見ようと思い、仕事に取り掛かる。

 

 

 

その頃ネイサンはと言うと、アリーナから戻ってきた後、使用した弾丸の量を計算していた。

 

「キャニスター弾は2500発全弾で、APFSDS弾は500発、36㎜チェーンガンの弾丸はマガジン2本で4000発か、締めて大体4450万ドル(日本円で約50億円)くらいかな」

 

そう言いネイサンはメモした紙をポケットに仕舞い、ピットを後にしようと扉に向かうと、織斑が入ってきた。

ネイサンは一応会釈だけして横を通り過ぎようとすると

 

「待て」

 

そう言ってネイサンを止めた。

 

「なんですか? 自分もう疲れたんで早く帰りたんですが」

 

「貴様のISは危険な為、こちらで預からせてもらう」

 

「はぁ?」

 

織斑の突然のISの取り上げ宣告にネイサンは何言ってんだこいつ、と言った表情を向ける。

 

「企業にちゃんと許可貰ってからしてください」

 

「許可なら貰った」

 

「それでしたら自分の所にそう言った連絡が来るはずですが、全くないので来たらお渡しします」

 

そう言ってネイサンはピットから出て行く。

 

「待てッ!?」

 

ネイサンを掴もうと腕を伸ばした瞬間、喉元にナイフを向けられている事に気づく。

 

「あんまり私の弟を苛めないで貰えるかしら?」

 

ナイフを織斑の喉元に突き付けながら言ったのはチェキータだった。その傍にはキャスパーもいた。

 

「許可なく我々が開発したISを取り上げようとしないでくれませんかね、Ms.織斑」

 

「……」

 

織斑は睨むような形相をキャスパーに向ける。

 

「……マクトビアのISは、火力が大きすぎる。その為レギュレーションをチェックするために取り上げようとした。それのどこが悪い」

 

織斑の言い訳にキャスパーは呆れるようなため息を吐く。

 

「僕はちゃんと、彼のISはIS委員会が提示しているレギュレーション以内で火力を抑えられるよう、武器の選定は入念にしています。それに彼女が倒されたのは単に経験の差と言う物じゃないですか?」

 

「……何?」

 

「ネイサンは戦場を渡り歩いていた傭兵なんですよ? そんな戦場を渡り歩き続けてきた傭兵と、ぬるい訓練を続けて代表候補になった小娘とでは場数が違うって言う事なんですよ」

 

そう言われ織斑は信じられないと言った表情をネイサンに向けるが、そんな織斑の顔なんて一切見ずにキャスパーにある物を渡す。

 

「はい、キャスパー」

 

そう言って渡したのはボイスレコーダーだった。

 

「はい、確かに受け取りました。それじゃあ僕は彼女の所に行って請求してくるよ。またな、ネイサン」

 

「またね、ネイサン」

 

そう言ってキャスパーとナイフを仕舞ったチェキータはセシリアが居る保健室へと向かった。ネイサンもさっさと帰ろ、と思い織斑を放置してアリーナを後にした。

その後織斑には学園長の許可も無く、しかも初心者相手に代表候補生と戦わせたという事で5ヵ月の減俸を言い渡されたそうだ。

 

 

 

保健室で寝かされていたセシリアは、痛みから目を覚まし体に出来た痣を見て驚いていた。体中シップや包帯でグルグルに巻かれていたからだ。そしてセシリアは自分は負けたんだと思い出し、ネイサンの戦いを思い出し体を震わせる。そしてクラス代表戦でまたあの悪夢を体験しないといけないと言う恐怖にかられた。

 

「……ま、また戦わないといけないと言うのですの」

 

そう呟きながら震えていると、保健室の扉が開き、1組の男女が入ってきた。

 

「やぁ、どうやら起きていたようだね」

 

そう言ってプラチナブロンドの男性はセシリアの寝台の近くにあった椅子に座る。

 

「ど、どちら様ですの?」

 

「おや? 君は僕の事知ってたんじゃないのかい? アリーナでチェキータさんの事なんだか馬鹿にしたような挑発をしてたし」

 

そう言われセシリアはアリーナに行く途中で見かけた男性だと気づく。

 

「そ、そ、その、あの時不躾なことを言ってしまい申し訳ありません」

 

「へぇ~、謝るんだ」

 

セシリアの謝罪にキャスパーは驚いていた。そして膝が震えている事に気づき、ネイサンに恐怖を植え付けられたのかと思い、口をニンマリとさせる。

 

「まぁ、僕は気にしていないし、別にいいが。それじゃあ早速請求書があるから読んでくれ」

 

そう言ってキャスパーはセシリアが寝ている寝台にある机の上に請求書と書かれた紙を置く。

 

「こ、これは?」

 

「え? まさかもう忘れたのかい? 君が負けたら、ネイサンが今日使った弾代全額払うって約束したじゃない」

 

そう言われセシリアは、試合前に約束したことを思い出す。

 

「た、確かに約束しましたね。えっとお幾らなんですか? って何ですかこれは!」

 

そう言ってセシリアは請求書を見て驚いた。其処には

 

『請求書

セシリア・オルコット様に以下の通りの請求をします

・APFSDS弾……500発……2500万ドル

・キャニスター弾……2500発……1250万ドル

・36㎜チェーンガン用のケースレス弾……4000発……200万ドル

・サイドワインダー……2発……500万ドル

・HCLI社社員に対する暴言の慰謝料……550万ドル

合計5000万ドル(3440万ポンド)

上記の金額が払えない場合は法的手段で徴収を行います』

 

と書かれていた。

 

「こ、こんな大金払えませんわ!」

 

「と言われても、約束は約束ですし。それにちゃんと証拠あるんですよ」

 

そう言ってキャスパーはネイサンから貰ったボイスレコーダーの再生ボタンを押す。

 

『もし俺が勝ったら、今日使ったこいつの弾代、お前が払え。逆に俺が負けたら次のクラス代表戦、俺は出ない』

 

『えぇ、構いませんわ。わたくしは今年のエリート中のエリートなんですから負けるわけありませんわ!』

 

そこでボイスレコーダーは再生を終了した。

 

「ほら、ちゃんと君が了承しているじゃないか」

 

「そ、それでもそんな大金払えません」

 

証拠のボイスレコーダーを聞かされても、セシリアは払わないと言い続け、キャスパーは呆れるようにため息を吐く。

 

「全く、これだから女尊男卑とか言う風潮は嫌いなんだ。分かった、もう君には請求しないよ」

 

そう言われセシリアは払わなくて済む。そう思ったが

 

「君の政府にこれを請求するよ」

 

「え?」

 

キャスパーの言葉に耳を疑った。

 

(せ、政府に? もしそうなったらわたくしの失態が公に!)

 

「ま、待って下さい! せ、政府にだけは! 政府にだけは言わないでください!」

 

「けど、君は払えないんだろ? だったらこの請求書は誰が払ってくれるんだい?」

 

そう言われセシリアは、ぐぅの音も出なかった。

 

「それじゃあ僕はこれで失礼するよ」

 

そう言ってキャスパーとチェキータは出て行った。セシリアはただ政府からくる、通告に恐怖しベッドの中で震えていた。




弾の金額はほぼ、妄想です。

次回予告
寮へと戻ってきたネイサン。そしてその後紙袋を持って真耶も帰ってきた。真耶はココが送ったお礼の品を確認すると、中には高級バスローブが入っていた。
そして次の日、教室にいるとセシリアがやって来た。そして面倒な奴も引っ付いていた
次回面倒ごと~いい加減にしてほしんだが~


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9話

アリーナから寮へと戻ってきたネイサンは、ISの運用方法が書かれている本を読みながら、夕飯のカレーを焦がさない様にお玉でかき混ぜている。

すると居間に真耶が紙袋を持って帰ってきた。

 

「あ、お帰りなさい。今日の夕飯はカレーにしてみました」

 

「わぁ~、寮に入ろうとした時、カレーのいい匂いがすると思ったらマクトビア君が作っててくれたんですか」

 

真耶は喜びながら椅子に座りそして、ココからのお礼の品が入った紙袋から中身を取り出す。中に入っていた物は丁寧に包装されており、真耶はそれを丁寧に剥がし中身を取り出すと中にはある高級店のバスローブが入っていた。真耶もその店の事は知っており、最初はお菓子や紅茶の葉だと思っており、まさか高級バスローブが入っているとは思ってもいなかったのだ。

 

「す、凄い。まさかあの高級店のバスローブを送ってくださるなんて」

 

「それって、もしかして僕の上司からですか?」

 

ネイサンはそう言いながら、カレーがよそわれた器を真耶が座っている席の前に置く。

 

「は、はい。なんでもマクトビア君と同室になってくれたそのお礼だそうです」

 

「そう言えばそんな事言ってましたね」

 

ネイサンは自分の器を置き、席に着きカレーを食べ始める。そして夕飯を終えたネイサンはスマホを持ち、何時も通りにココに電話をしに行く。真耶はネイサンが夕飯を作ってくれたため、自分が洗い物をすると言い出し、ネイサンはその言葉に甘え、真耶に洗い物を頼んだのだ。

 

『―――そっか~、兄さんがネイサンのISの武装をねぇ』

 

「えぇ、本当に驚きましたよ」

 

ネイサンはココに電話すると、開口一番がネイサンのISの事で、キャスパーがネイサンのISの武装を選定したことを、笑いの種に話が盛り上がっていた。

 

『それにしても織斑千冬、やっぱり動いたんだ』

 

「……えぇ、俺が織斑一夏だと言う証拠を掴もうとしたんでしょう。あの時キャスパーが居なかったら本当に撃ちそうになりました」

 

そう言いながらネイサンは、腰のホルスターに挿しているコルトを取り出す。

 

『それは流石に不味いからやめてね。次に会う時が刑務所だなんて私嫌なんだから』

 

「分かってます。向こうが武力行為をしてこなければこっちは何もしませんから」

 

ネイサンはそう言いコルトを腰のホルスターに戻す。

 

『あ、そうだ。実は『ココ、もうそろそろ出発しないと商談に間に合いませんよ』え? もうそんな時間? ごめんねネイサン、そろそろ切るね』

 

「いえ、構いませんよ。ではココさん、また明日」

 

『うん、また明日。それとおやすみ』

 

ココが電話を切ったのを確認したネイサンもスマホをポケットに仕舞い屋上を後にする。

屋上から部屋へと戻ると、部屋に備え付けられている風呂からバスローブ姿の真耶と鉢合わせとなった。バスローブ姿の為、真耶の強調された胸が、更に強調されて突き出ており、ネイサンはそれを見てドキッと大きく心臓を跳ね上げ、真耶も帰ってきたネイサンと鉢合ったことに驚き、自身が今バスローブ姿と言うことを思い出し、顔を真っ赤にさせる。

 

「え、え、えっとお、お、お帰りなさいです」

 

「え、えっとただいまです」

 

互いに顔を赤くさせており、ネイサンは居た堪れなくなり、部屋の奥へと行きパジャマを持って風呂場へと入って行く。真耶も真っ赤に染まっているであろう自分の顔を冷まそうと冷蔵庫に入っている牛乳を飲み、布団に入って寝始めた。風呂から上がってきたネイサンも布団に入って寝ようと寝室に入ると、バスローブ姿で寝ている真耶を見つけた。ただしその格好は紐が解けかかっているのか、若干肌が露になった状態で、ネイサンは此処で寝ると非常に不味いと思い、布団を持って廊下に敷きそこで一日を明かすこととなった。

 

次の日、色々大変な一日だったにも関わらず、ネイサンは特に問題も無いと言った感じで部屋から出て簡単に体を動かしてから部屋へと戻る。すると真耶が先に起きて朝食を作っていた。服装はバスローブ姿から普段の服装だった。

 

「あ、マクトビア君おはようございます!」

 

「え、えぇ、おはようございます」

 

そして汗を洗い流し終えたネイサンと朝食の準備を終えた真耶は、朝食をとり部屋を後にした。

 

クラスに着いたネイサンは、クラスメイト達に挨拶を交わしながら自分の席に座り予習を始める。

 

「ふむ、……アーシアさん、少しいいですか?」

 

「え? なにマクトビア君?」

 

「此処の問題が少し分からないんだ。教えてもらってもいいかな?」

 

「別にいいわよ。えっと此処の問題は、この文章を簡単に説明すればいいんだよ」

 

クラスメイトにそう言われネイサンはなるほど。と納得しお礼を言い、予習を続ける。すると教室の前の扉が開き、包帯姿のセシリアが入ってくる。3組の生徒達は突然包帯姿のセシリアに驚き、ヒソヒソと話し始める。

 

「し、失礼します」

 

「ねぇあれって1組のセシリア・オルコットさんじゃないの?」

 

「うん。確か今年の主席って聞いてるわよ」

 

「でもなんでボロボロなんだろ?」

 

全員首席で入学したセシリアが何故ボロボロなのか疑問に思っている中、セシリアはネイサンのいる席へと着く。ネイサンは目線を一度セシリアに向けるも、また視線を下へと向ける。

 

「……何か用か?見ての通り今予習で忙しいんだ」

 

「じ、実は昨日の請求書のことで、ご相談が」

 

請求書と言う単語に、周りにいた生徒達は騒然となる。

 

「そう言えば幾ら位になったんだ。弾代は知ってるが、慰謝料も含めるとなるとどの位になるか知らないからな」

 

そう言いネイサンは、セシリアに請求書を見せる様、手を差し出す。セシリアは請求書を取り出し、ネイサンに渡す。周りにいた生徒達も気になり、その請求書を覗き見る。其処には合計5000万ドルと書かれていた。日本人の子達は幾らか分からずにいるが、ドルが分かる生徒達はその金額に、唖然となった。

 

「う、嘘。こんな金額普通じゃ払えないわよ」

 

「ね、ねぇ。この5000万ドルって日本円で幾らなの?」

 

「今は1ドル、約114円で5000万ドルで56億円って言ったところよ」

 

その金額を聞いた日本人の生徒は金額に驚き、口が開いたままとなる。

 

「へぇ、やっぱりこれだけの金額になったのか。まぁ当たり前と言えば当たり前か。で、相談って言うのはこれの金額の事か?」

 

「は、はい。我がオルコット家にはそれだけの金額を払える程の財力が無いのです。ですのもう少し、金額の方を下げていただけませんか?」

 

セシリアは、何とか下げてもらおうとネイサンの元にやって来たが、ネイサンの返答は

 

「悪いが、そう言った交渉はキャスパーとしてくれ。俺じゃあどうにも出来ない」

 

「そ、そんな!」

 

「と言うか、払えないなら政府に相談すればいいじゃないか」

 

そう言うとセシリアは苦渋に満ちた顔付きとなり、拳を力強く握りしめる。

 

「……そ、それが出来ればこんなにも悩みませんわ」

 

「あぁ~、まさかとは思うがお前の中にあるちっぽけなプライドがそれを許さないってことか。まぁ俺には関係ない事だ。兎に角キャスパーの連絡先は教えてやるから、後は自分で何とかしてくれ」

 

そう言いネイサンは、メモ用紙にキャスパーの仕事用の電話番号を書き、セシリアに渡す。

するとまた前の教室の扉が開き、今度入ってきたのは篠ノ之だった。

 

「貴様、金を巻き上げると言う事をしていたのか!」

 

そう怒鳴りながらネイサンの元に来る。

 

「はぁ~、今度は誰だ?」

 

「なっ!? 幼馴染の私を忘れたと言うのか、貴様!」

 

ネイサンは心底呆れたような顔を浮かべる。

 

「悪いが、何処かで会ったことがあったか? 俺はお前の事知らないんだが」

 

そう言うと篠ノ之は、何処からか木刀を取り出しネイサンに襲い掛かった。

 

「えぇいその態度を叩き直してやる!」

 

そう言い上段の構えで振り下ろしてくる。周りの生徒達は悲鳴を上げる中、ネイサンは単純な攻撃だなと思いつつ、腕の部分展開で木刀を掴む。

 

「全く。幼稚園児かお前は?」

 

そう言いネイサンは掴んでいた木刀を奪い取る。すると悲鳴を聞き駆けつけてきたのか、真耶とスコールが教室へと入ってきた。

 

「な、何事ですか!」

 

「マクトビア君、一体何があったの」

 

スコールはネイサンが部分展開をしている手に持っていた木刀を見てある程度状況は理解できたが、一応確認の為ネイサンに何があったのか聞く。

 

「最初はオルコットが請求書の金額の事で相談してきたんです。けど自分ではどうすることも出来ないと言って、帰そうとしたんです。そしたらそこの生徒が突然来て、木刀で襲い掛かってきたんです」

 

「みんなそうなの?」

 

スコールが確認の為周りにいた生徒達に確認すると、全員が頷きスコールは篠ノ之に近寄る。

 

「どうやら全員が目撃していたようね。それじゃあ篠ノ之さん、一緒に生徒指導室に来てもらうわよ」

 

「な、なぜですか! それだったらこいつも一緒に来るべきです!」

 

篠ノ之はネイサンに指さして言うが、スコールは首を横に振る。

 

「確かにISを許可なく展開することは禁止よ。けど自身の命が危ない場合はそれに該当しないの。貴女だったらそう言う事はよく知ってるはずでしょ、篠ノ之束の妹さん」

 

「!? あ、あの人は関係ありません!」

 

「あらそう。まぁ私にはどうでもいいことだけどね」

 

そしてスコールは篠ノ之を連れクラスを後にした。その後セシリアもトボトボと3組から出て行った。




次回予告
SHR終了後、生徒達はセシリアがどうして包帯姿なのかネイサンに聞く。そしての訳を聞き、呆れた表情を浮かべる。そして数日後、クラスに一人の生徒が挨拶に来た
次回転校生


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10話

セシリア達が出て行った後、真耶がスコールの代わりにSHRを始めた。そしてSHR終了後、真耶が教室から出て行くと、生徒達は真っ先にネイサンの元へと集まる。

 

「ねぇねぇ、マクトビア君。彼女が持ってきた請求書って何なの?」

 

「あと、彼女何であんな包帯姿になってるの?」

 

多くの生徒達がネイサンの所に集まってきた為、ネイサンは全員に落ち着くように言う。

 

「皆さんちょっと、落ち着いて。説明するから」

 

そう言うと全員少し落ち着いた感じとなり、ネイサンは順序よく説明する。

 

「事の始まりは、昨日俺の専用機を受領した時に起きたんです。最初はアリーナ内で簡単な動作確認等をした後に、武装の確認をするはずだったんですが、1組の織斑先生が突然自分のクラスにいる代表候補生と対戦させるためにアリーナ内に出撃させてきたんです。自分は報酬が無いと働く気は起きないほうなんで、その試合で使った弾代を彼女に請求することにしたんです。勿論こちらだけしか報酬が無いのは向こうにとって不利でしかない。だから僕が負けたらクラス代表戦には出ないと言ったんです」

 

そう言うと周りにいた生徒達は驚いた表情を浮かべる。

 

「そ、そんな賭けをしてたなんて」

 

「それって、負けたら私達半年間デザートをタダで食べられないってことじゃない!」

 

全員騒然としている中、一人の生徒が騒然とした空気を沈める。

 

「皆ちょっと静かに。マクトビア君、続きを」

 

「分かりました。彼女は勿論この賭けに乗りました。恐らく自分は今年の首席だから簡単に勝てる。自分が勝てば相手はクラス代表戦に出ない、そうすればクラスの人たちから役立たずのレッテルが貼られる。そして学園から追い出せると思ったんでしょう」

 

「それじゃあ、彼女が包帯でグルグル巻きだったという事は」

 

「えぇ、僕が勝ちましたよ」

 

そう言うと、また騒然となり生徒達は勝機が見えた!と叫んでいた。

 

「1組の彼女は今年の首席。そんな彼女をボロボロに出来るほどの実力を持ったマクトビア君が居るなら、私達の半年間デザートフリーパスは貰ったも当然よ!」

 

「やったーーー! いっぱい甘い物が食べられる!」

 

生徒達はまだ先のクラス代表戦はさも勝ったも当然と思い叫んでいる中、またさっきの生徒によって沈められる。

 

「もぉう、みんな騒ぎすぎ! ところでマクトビア君、一つ気になったことがあるんだけどいい?」

 

「えぇ、構いませんよ」

 

「実は私の父、軍に所属してて、その所為か兵器関連の事は多少わかるの。それでね、請求書に書かれていたAPFSDS弾なんだけど、あれって120㎜砲弾だから500発も撃つ必要は無かったんじゃないのかなって思ったんだけど」

 

生徒がそう言うとネイサンは、さっきまでの朗らかな笑みだが少し悪い笑顔を混ぜる。

 

「そりゃあワザと多めに撃ったに決まってるじゃないですか」

 

「え? ワザと?」

 

「えぇ、僕は女尊男卑と言うくだらない風潮に染まった人が嫌いなんです。だからちょっとお仕置きを含めて500発ほど撃ったんです」

 

ネイサンの屈託のない笑顔を見た生徒達は、あ、この人怒らせるとやばい人だと瞬時に理解でき、この日からネイサンを絶対に怒らせてはいけないという暗黙のルールが出来たとか。そして生徒達はセシリアの行動に呆れたと呟き始める。

 

「それにしても、オルコットさんって女尊男卑ぽかったからまさか。とは思ってたけど本当に女尊男卑だったんだ」

 

「そうだよね。と言うか確か代表候補生や代表生には、ルールが設けられてたよね?」

 

「うん。【何人も男性に侮辱などの行為はせず、代表候補生として尊厳と常識を守ること】って書いてあったはず」

 

「何で貴女そんなこと知ってるの?」

 

「私の姉の友達が、スペイン代表候補生だったからその伝手で知ったのよ」

 

「それにしても請求書の額やばかったよね。あれじゃあきっとオルコットさん払えないわよね」

 

一人の生徒がそう言うと全員うんうん。と首を縦に振り、生徒達は女尊男卑と言うくだらないモノに染まった結果、散々な目にあわされると理解し、嫌だ嫌だと思いながら談笑を始め、ネイサンも同じように談笑へと加わる。

 

 

 

それから数日が経ち、この数日で起きた事は、セシリアはネイサンに教えてもらった電話番号に掛け、キャスパーと交渉して支払期日を学園卒業まで伸ばしてもらったとのこと。キャスパーは、今回の件は彼女一人に背負わせても請求書の半分くらいしか払われないと考え、更に政府に言っても恐らく彼女一人に責任を負わせるだろうと判断し、今回の件の原因となった千冬にセシリアに課せられた請求の半分を請求したのだ。勿論学園側は今回の件はこちらに非があるという事で、織斑の給料から引いていくと決めたとのこと。

 

そんな中、ネイサンは何時も通り教室へと入り生徒達に挨拶しつつ席へと着くと、一人の生徒が話しかけてきた。

 

「ねぇねぇ、マクトビア君。隣の2組に転校生が来るって話聞いた?」

 

「いや、知らないですね」

 

そう言うと、そうなんだぁ。と呟き転校生の事を話し始める

 

「実はその転校生、中国の代表候補生って噂でね」

 

「なるほど、そうだったんですか」

 

そう呟くとクラスの前扉から一人の生徒が入ってきた。

 

「入るわよ。このクラスの代表って誰?」

 

そう呟きながら見渡している生徒に、近くにいた生徒がネイサンを指さす。

 

「彼がこのクラスの代表だけど……」

 

そう言うと入ってきた生徒は、ネイサンの元へと行く。

 

「あんたがこのクラスの代表ね?」

 

「あぁそうだが、君は?」

 

「私は隣の2組に転校してきた中国の代表候補生、凰鈴音よ。クラス代表は私に変更されたから簡単に勝たせる気はないから。それじゃあね!」

 

そう宣言して凰と呼ばれた少女は教室から出て行った。突然現れ、何かを宣言して帰って行った凰に3組の生徒は唖然としている中、ネイサンだけは一人鋭い視線を凰が出て行った扉を見つめていた。

 

(凰か。確か、日本にいた時に小学4年の頃転校してきた少女がそんな名前だったかな。取り合えず、彼女は俺のデザートフリーパスを狙う敵の一人という事だけは確信できたな)

 

そう思いネイサンは視線を扉から外し、教科書とノートを取り出し何時もの予習を始めた。

 

 

その頃とある某所に建てられている束の隠れ家では、イライラした表情を浮かべた束と、そんな束と同じ部屋で本を読みながら冷や汗を流しているマーちゃんことマドカ、そしてパソコンで夕飯の献立を考えている落ち着いた感じを出しているクロエがいた。すると部屋に栗色の長髪の女性が疲れ切った表情で入ってきた。

 

「あぁ~疲れた。ほれ、博士。ご所望のISだ」

 

そう言い白色のガントレットを束に投げる女性。束はそれを受け取り、ISを展開する。そしてパーツを一つずつ無理矢理引き剥がしていき、コアを取り出す。

 

「……ありがとうね、オーちゃん」

 

そう言い束は、コアを取り出し只の鉄屑に変わったISに蹴りを入れて《資材置き場》と書かれた場所に叩き込む。

 

「おいおい、折角このオータム様が苦労して手に入れたISをそんな蹴り一発でゴミ箱に捨てるかぁ?」

 

「……オーちゃんには感謝してるよ。けどねあのISを見るとマジでムカついてくるからさ」

 

オータムと呼ばれた女性やマドカ達の方からは束の顔は見えないが、雰囲気からして相当イラついた表情を浮かべていると伺えた。

 

「で? 俺にあれを盗ませた理由って何だよ?」

 

オータムは束に只『倉持技研って言う場所に白式って言うISがあるからそれ盗ってきて』と言われ、なぜそれを盗んでくる必要があるのか理由を聞いていなかったのだ。

 

「……あのISはある無能教師が、ある生徒に渡そうと企業に許可も取らずに造らせたものなんだよ」

 

束がそう言うと、オータムは頭に疑問符を浮かべているがマドカだけは誰なのか分かったのか、鋭い視線を蹴とばされた白式と呼ばれたISに向ける。

 

「まさかその無能教師って、織斑千冬か?」

 

マドカがそう推論を述べると、束は首を縦に振る。

 

「うん、そうだよ」

 

そう言いながら束は蹴とばした白式に近付き、踏みつける。

 

「ネイ君はジェイソンと呼ばれる、傭兵の一人息子だ。それなのに何度も何度もネイ君を自分の弟だって決めつけて近付きやがって。そして今度は自分が乗っていたISと同じ能力を積んだピーキーな機体を渡そうとした」

 

束は何度も何度も白式を踏みつけ、遂に装甲にヒビが入る。

 

「ネイ君は過去を捨てて、新しい人生を歩みだしてるんだ。それを邪魔する奴は誰であろうと絶対に許さない」

 

束の雰囲気は鋭利な刃物その物で、ネイサンに邪心で近付いたらで殺されると3人は直感できた。

 




次回予告
昼休み、ネイサンは何時もの通り食堂へと向かう途中、真耶と廊下で会い一緒に屋上でお昼をとることとなった。
そして昼食後、真耶とネイサンは銃の事で話が合い、残りの時間を楽しんだ
そして数日後クラス代表戦が始まった
次回クラス代表戦~悪いが速攻で片付けるからな~


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11話

鈴がネイサンに宣戦布告をした後の昼休み。ネイサンは授業で使った教材などを机の中に仕舞い、席を立つ。そして教室を出て食堂へと足を向ける。

ネイサンは食堂で出されるデザートが大好きで、特にクレープを重ねて作ったミルフィーユが特に好物なのだ。

 

(さて、今日は何を食べようかな)

 

そう考えながら廊下を歩いていると曲がり角から大きめの巾着袋を2つ持った真耶が出てきた。

 

「あ、マクトビア君此処に居たんですね。よかった~、食堂に行っても居なかったのでもうお昼をとり終えて帰っちゃったのかなって思ってたんです」

 

「何か用ですか山田先生?」

 

ネイサンがそう聞くと真耶は頬を赤く染めながら持っていた巾着袋の一つをネイサンへと手渡す。

 

「え、えっと実は今朝方マクトビア君には内緒でお弁当を作ったんです。その、一緒に食べませんか?」

 

そう言われ、ネイサンは別に一緒に食べるくらいならいいかと思い、真耶の提案を承諾する。

そして2人は人目が余りない屋上へと行き、手近にあったベンチへと腰かけネイサンは真耶から受け取った巾着袋から弁当を取り出し、ふたを開ける。

中身は定番の卵焼きにミートボール、更にカイワレ大根のお浸しなど栄養が偏らないバランスのいいおかずが入っていた。

 

「へぇ~、バランスのいい弁当の中身ですね」

 

「そ、そうですか? そう言っていただけるとありがたいです」

 

そう言い真耶はご飯に手を付け、ネイサンも弁当のおかずに手を付け始める。

 

 

「―――ご馳走様でした」

 

「お粗末様です」

 

弁当をきれいに食べ終えたネイサンは手を合わせてそう言い、真耶もお礼を込めてそういう。

そしてネイサンはスマホを取り出し、ギャズから送られた最近出た新しい銃のカタログを見始めた。

 

「えっと、マクトビア君。何を見ているんですか?」

 

真耶は何を見ているのか気になりそう聞くと、ネイサンは特に隠すことではないなと思い、スマホの画面を見せる。

 

「いや、知り合いから新しい銃や、カスタムパーツなどのカタログを送ってくれたんで、確認をしていたんです」

 

「へぇ~。あ、このアサルトライフル中々良さそうですね」

 

ネイサンは真耶が良いと言ったアサルトライフルを見ると、それはKTR-08だった。

 

「なるほど、確かにKTR-08はいい銃ですね」

 

KTR-08は、AKの弱点の一つである拡張性の低さを無くすために、レールシステムを追加されている。更にリロードをしやすくする為にマガジンキャッチ部分を改良しグリップを握ったままの状態で、人差し指でマガジンキャッチを押しマガジンの排出が出来るよう改良されているのだ。

 

「弱点だった拡張性をレールシステムを取り入れて、ヴァーティカルグリップなどを組み込めるよう出来てますし、ストックはM4と同じ伸縮可能の物なので取り回しも良さそうです」

 

真耶が楽しそうに説明しているのを見て、ネイサンは本当に銃とかが好きな人なんだなと思いながら、真耶の銃の解説を聞きながら昼休みを過ごした。

 

 

 

そして数日後、クラス別代表戦が開かれた。

ネイサンはアリーナのピット横にある休憩室に行く途中にクラスメイト達から

 

「マクトビア君、頑張ってね!」

 

「デザートフリーパスの為に勝ってね!」

 

「目指せ優勝!」

 

と応援を受け、ネイサンはクラスの想いを背負いながら試合に臨もうとした時アナウンスが入った。

 

『お知らせします。1組対3組の試合なのですが、1組のセシリア・オルコットさんが体調不良の為、試合を棄権いたしました。その為3組は不戦勝の為、このまま2組対3組の試合を行おうと思いますので、選手はピットへと移動してください』

 

「なんだアイツ。試合棄権したのか」

 

ネイサンはそう呟きながらピットへと移動した。その途中、タンカで運ばれていくうなされたセシリアを目撃したが、特に心配すると言ったこともせずピットへと入り準備する。

そして準備を終えたネイサンはアリーナへと出ると、向かいのアリーナから鈴も出てきた。

 

「まさか、こんなにも早くアンタと戦えるとはね」

 

鈴は好戦的な目つきでそう言い、ネイサンも負けられないと言った真剣な表情を浮かべていた。

 

「コッチは誰が来ようと負ける気はない」

 

そう言いネイサンはAMWS-21を両手に展開すると、鈴も双天牙月を両手に持ち構える。

そして試合開始の合図が鳴り響く。

 

「悪いが速攻で片づけるからな!」

 

そう言いネイサンはAMWS-21を鈴へと向けトリガーを引く。36㎜チェーンガンの弾丸は真っ直ぐと鈴の方へと行き、鈴はそれを難なく躱していく。

 

「射撃主体のその機体であたしにどれだけ持ちこたえられるかしら?」

 

そう言いながら鈴は攻撃を躱しつつ接近する。そしてある程度の接近されたところで鈴はネイサンの懐に潜り込み斬りかかる。ネイサンは攻撃を掠る程度で躱す。

 

「まさかあの攻撃を躱しながら接近するとはな」

 

「これでも反射神経はずば抜けてるのよ」

 

ネイサンは片方のAMWS-21を仕舞い、近接ナイフを構え、更にアヴェンジャーの弾種をキャニスター弾へと変更し近接を許さないようにする。

 

「さて、これは避けれるかしら!」

 

そう叫び、鈴は自身のISの2つの浮遊ユニットから何かを飛ばす。ネイサンはその場からブースターを吹かし躱す。

 

「……圧縮空気か」

 

「へぇ~、初見で躱せるなんてあんたが初めてよ!」

 

そう言い鈴は次々と衝撃砲から圧縮空気を放つ。ネイサンは兎に角躱しつつ状況打破の一手を探す。そしてネイサンは顔に付けているバイザーの機能で鈴の顔を観察したところ、衝撃砲を撃つ際に目線をその方向へと向けている事に気づく。

 

「……なるほど。照準機能を使っての射撃は不得意な感じか」

 

そう呟きネイサンはアヴェンジャーを照準機能を自動から手動へと切り替え、地面に銃口を向け、一斉射する。その結果は分かり切ったように大量の土煙が発生した。

 

「!? ……なるほど、姿を隠して隙をついて攻撃って訳ね。けどそんな方法が効くわけないでしょ!」

 

そう言い鈴は衝撃砲で土煙を晴らそうと適当に撃ち込む。何発か撃ち込んだ後、土煙は晴れて行く。だがネイサンの姿が見えずにいると背後からミサイルの接近を知らせるアラートが鳴り響く。

 

「後ろ!?」

 

そう言いミサイルを躱す鈴。だがその躱した位置が悪かった。鈴は目線をアリーナの地面へと向けると自分の方にアヴェンジャーとAMWS-21の銃口を向けているネイサンの姿が見えたのだ。鈴はさっきのミサイルは囮だと気づく。

 

「しまっ!」

 

「Checkmate」

 

そう呟くと同時にネイサンはキャニスター弾とチェーンガンを放つ。鈴は何とか体勢を整えつつ躱すが、キャニスター弾だけはどうしても避け切ることが出来ず数発ほど貰う。

 

「チッ! やったからにはこっちだって!」

 

そう叫び鈴は攻撃を繰り出そうとしたが、その前に試合終了のアラームが鳴り響く。

 

『そこまで! タイムアップの為、双方のSEの残量で勝敗を決めます』

 

そうアナウンスされ、ネイサンと鈴はどっちだと思い固唾を飲んで見ていると、スクリーンに結果が出た。

 

『SEの残量の結果、僅差でA-10thunderboltⅡの方が多かったため、優勝は3組です。おめでとうございます!』

 

そう言われネイサンはガッツポーズを掲げる。隣にいた鈴は悔しそうな顔を浮かべる。

 

「あぁ~、負けた! ……ねぇ」

 

ネイサンは鈴に呼ばれ体を向ける。

 

「次は絶対に負けないから!」

 

「こちらも、そう簡単に負けるつもりはない」

 

そう言い互いに手を差し出し握手を交わす。

 

『では、これにて第○○回クラス代表戦を終了します!』




次回予告
デザートフリーパスを勝ち取ったネイサンは早速デザートを食べに食堂に行く。そしてその帰り道、篠ノ之と遭遇。いきなり道場に来いと言われるがネイサンは断り帰ろうとする。篠ノ之は無理矢理連れて行こうとしたが、ねじ伏せられる。そしてGWに突入し、ネイサンは突然ココから学園の門前へと来るよう言われ行くと、何故かココが居た。
次回償いのデート~ロケットで宇宙にお散歩しに行くか、私とデートするかどっちにする?~


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12話

クラス代表戦を終えた後、ネイサンは教室へと行くとクラスメイト達が出迎え、待っていた。

 

「マクトビア君優勝おめでとう!!」

 

「いや~、まさか優勝してくれるなんて、夢みたいだよ」

 

「本当、本当! これでもし夢だったら今すぐ神様をぶん殴ってやるけどね」

 

そう言いながらネイサンの優勝を祝っていると、教室に真耶が入ってきた。

 

「は~い、皆さん! 注目してください。マクトビア君が優勝した為皆さんに景品のデザートフリーパスを配りますので、並んで下さ~い!」

 

そう言われ全員一列に並び始め、ネイサンも後ろの方に回ろうとしたが

 

「マクトビア君は一番最初に貰わないと!」

 

「そうだよ! マクトビア君のお陰でゲットできたものなんだし、最初に貰わなくちゃ」

 

多くのクラスメイト達に言われ、ネイサンはそれではと言い、フリーパス券を受け取り早速食堂へと向かった。その途中、ネイサンは小柄なツインテールの少女を見つけ声を掛ける。

 

「凰さん、今から食堂ですか?」

 

「あら、ネイサンじゃない。そうよ」

 

そう言いネイサンの隣を歩く。

 

「それにしても今回の試合、惜しいところまで行ったのに負けるとか本当に悔しんだけど」

 

そう言いながら睨むような目つきでネイサンに見つめる鈴。ネイサンは、ははは。と乾いた笑い声を上げながら視線を明後日の方向へと向ける。

 

「と言う訳で、こんな悔しい思いをさせた罰として私の訓練に今度付き合いなさい」

 

「それ本気で言ってます?」

 

鈴の突然の命令にネイサンは困惑した顔で聞くと、鈴は当たり前といった顔で返す。

 

「当たり前でしょ。それに私はアンタの事好敵手として認めてあげるんだから感謝しなさいよね」

 

「……マジですか」

 

ネイサンはこりゃ諦めるしかないかと苦笑いでいると、2人は食堂へと着きそれぞれ定食を注文し席へと着く。鈴は醤油ラーメンとチャーハンのセット。ネイサンはカルボナーラと、デザートのミルフィーユクレープを頼んだ。

 

「で、訓練は何時頃やるんですか?」

 

ネイサンは席でカルボナーラを食べながら鈴に聞くと、鈴はう~んと。と考えながら答える。

 

「そうね。GW明けからでいいかしら?」

 

「えぇいいですよ」

 

ネイサンはそう答えつつ、最後のデザートを食べ終え食器を持って席を立つ。

 

「では、また凰さん」

 

「鈴で良いわよ。凰って呼ばれるのは慣れてないし」

 

「分かりました。ではまた来週、鈴」

 

そう言いネイサンは食器を返し、食堂から出て行った。

 

食堂を後にしたネイサンは人気のいない廊下を歩いていると、前方から箒が歩いてくるのに気づくが無視して通り過ぎようとしたが

 

「一夏! あの戦いは何だ!」

 

そう怒鳴りながら箒は近付いてきた。ネイサンは呆れるように息を吐く。

 

「すいませんが、一夏って誰ですか? それとどう戦おうと僕の勝手です」

 

そう言いネイサンはそのままその場から去ろうとすると、箒は行かせまいと腕を掴む。

 

「そのひん曲がった根性を叩き直してやる! 道場に来い!」

 

そう言い箒は道場へと無理やり連れて行こうとしたが、ネイサンは自身を掴んでいる腕を取り払う。

 

「悪いんだが、お前に教えてもらう事なんて何もないんだ。これで失礼する」

 

そう言いネイサンはイラついた表情を必死に隠しながらその場を後にしようとしたが

 

「待て!」

 

そう言い箒はもう一度掴もうとしたが、その前にネイサンの膝蹴りが箒の腹に当たった。

 

「ガハッ!?」

 

箒は突然加えられた膝蹴りに、腹を押さえながら蹲る。

 

「しつこいんだよ。道場に行きたかったら一人で行け」

 

そう呟くネイサンに箒は顔をあげその顔を見ると、ネイサンの顔は真顔で、体からは殺気が出ていた。

 

「これ以上しつこくするなら容赦はしないからな」

 

そう言いネイサンはその場を去ろうとする。箒はネイサンから出た殺気に怖じ気づくも、それでも道場に連れて行こうとネイサンの腕を掴もうとした。すると今度はネイサンの回し蹴りを横顔に加えられ、そのまま宙を一回転し廊下に叩きつけられた。その近くで彼女の歯だと思われる物が転がり落ちる。

 

「言ったはずだ、次は容赦しないって。お前の頭は鳥頭以下か?」

 

そう言いネイサンはその場を去って行った。箒は痛みと衝撃で薄れゆく意識の中、必死にネイサンを呼び止めようとするも、意識はそこでブラックアウトした。

 

 

 

それから数日が経ち、GWへと突入した。生徒達は学園で訓練をしたり、街へ買い物に出掛けたりなどしている中、ネイサンは昨日の夕方にココから学園の門に来るよう言われ、疑問を持ちつつも学園の門へと行くと其処には

 

「あれ? 何で此処に居るんですかココさん」

 

そう言うと、プラチナブロンドを靡かせながら麦わら帽子をかぶったココが、笑みを浮かべながらネイサンの元へと近寄る。

 

「そりゃあ私の大切なネイサンが、ちゃんと学業に励んでいるか確かめにね」

 

ココは優しい笑みを浮かべながら言うと、ネイサンはそうですかと返答する。

 

「と言ってもそれは建前だけどね」

 

「……はい?」

 

突然の建前発言にネイサンは困惑した表情を浮かべていると、ココの髪で隠れていた左頬を見た瞬間、戦慄した。

 

(や、やべぇ~。青筋がはっきりと浮かんでるんだけど~!!)

 

ネイサンはココが完全にご立腹状態だと分かり、冷や汗を流しつつも、こうなった原因を思い返す。そしてある一つの結論に達した。と言うよりもそれ以外問題が無い。

 

「ま、まさか教員が同じ部屋だったことでご立腹になられているんですか?」

 

「あ、分かる? うん。その通りだよ」

 

ココは笑顔で肯定しているが、その目は明らかに怒っている状態だった。

 

「ロケットに括り付けて打ち上げるのだけは勘弁してください!」

 

ネイサンはサラリーマンもびっくりな綺麗な土下座をして許しを請うと、ココはだったらと呟く。

 

「それじゃあ私とデートして」

 

「……それ以外の贖罪は?」

 

「宇宙に飛び出して散歩するか、私とデートする以外の贖罪はありません」

 

ココのハッキリとした口調に、ネイサンは選択肢がもはやないと思いつつ、諦めるように息を吐く。

 

「……分かりました。ココさん、デートしましょう」

 

そう言うと、ココは嬉しそうにネイサンの腕に抱き着く。

 

「ふふん。そう言うと思ってたよ。それじゃあしゅっぱ~つ!」

 

そう言いながらネイサンの腕にしがみ付き、街へと引っ張っていった。ネイサンは引っ張られながら苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

そんな二人の後姿を遠目で見ていた真耶は、胸の中がモヤモヤとした気分になり、そのモヤモヤの正体について悩んでいた。

 

(何ででしょう? あの二人を見ると胸の中が、何だかモヤモヤして気持ち悪いです)

 

そう思いながらも、真耶は二人の後姿を見つめていた。




次回予告
GWが終わり、ネイサンは鈴と訓練したりと学園生活を楽しんでいたある日、1組に2人の転校生がやって来た。そして一人は男子らしく、部屋割がされて漸く一人部屋が貰えると思っていたネイサン。だがスコールからその男子が女子だと聞かされ、めんどくさそうな奴だったと思い始めたのだった
次回欧州からの転校生~初弾は何時でも撃てる様に込めておくか~


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13話

GWが明け、多くの生徒達が学園へと戻ってきている中、ネイサンはアリーナにて鈴と共に模擬戦を行っていた。

 

「このぉ!」

 

そう叫びながら鈴は持っていた牙月を振り下ろす。ネイサンはバックステップで攻撃を躱し、アヴェンジャーに装填されているキャニスター弾を放つ。

鈴もその場を素早く躱しつつ間合いを取る。そしてタイムアップのアラームが鳴り響く。

 

「また残量判定? アンタと模擬戦しても全然SEが空になった試合にならないわね」

 

「確かに。まぁそれだけお互いの実力が高いってことなんじゃないんですかね」

 

ネイサンの推論に鈴は納得できなさそうな表情だが、それで納得するように頷く。

 

「さてそろそろ戻りましょうか」

 

そう言い鈴はネイサンと共にアリーナを後にした。

そんなある日の朝、ネイサンは何時もと変わらない時間帯に教室へと到着し中へと入ると、クラスメイトの一人から話しかけられた。

 

「ねぇねぇ聞いた、マクトビア君?」

 

「何をですか?」

 

「もしかして知らないの? 1組に転校生が来たんだって。しかも2人も!」

 

クラスメイトは興奮した様子でそう話すと、もう一人のクラスメイトも会話に混ざってくる。

 

「しかもその内の1人が男性らしいのよ!」

 

「へぇ~、他にもいたんですか」

 

ネイサンは、もう1人が見つかったなら部屋割もいい加減1人部屋を用意してほしいと思っていると、チャイムが鳴りクラスメイト達は自身の席へと戻る。

そしてクラスの前にある扉から真耶とスコールが教室内へと入ってきた。

 

「はい、皆さんおはようございます。朝のSHRを始めるから静かにしててね」

 

そう言いスコールはSHRを始め、そして伝達事項を伝え終え2人は教室を後にしようとした時にスコールはもう一つ伝えないと、と呟き体を生徒達の方へと向ける。

 

「1組に転校生が来ているって話はもう知ってるわね。会いに行くなら2限目以降が良いと思うわよ」

 

そう言い教室を出て行った。生徒達は何故と思っていると一人の生徒が思い出したかのように話す。

 

「そう言えば、今日は1組と2組が合同で授業をするって言ってたわ」

 

「なるほど、それでスコール先生はあぁ言ったのね」

 

生徒達は来る2限目と3限目の休み時間になるまで教室で待機していた。

そして時間は進み、2限目と3限目の休み時間になった瞬間クラスにいた生徒達は全員1組へと突入したとか

 

時間は更に進み、放課後となりネイサンは教科書などをカバンに入れ終え、カバンを持ちクラスを後にする。

 

「それじゃあ皆さんまた明日」

 

「うん、また明日ねぇ~」

 

「またね~」

 

クラスメイト達と別れた後、ネイサンは教室を出て廊下を歩いていると、人気のない廊下に差し掛かったところで、ネイサンは誰もいないはずなのに言葉を投げる。

 

「……スコール先生、僕に何か用ですか?」

 

そう呟くと、廊下脇の柱の影からスコールが笑みを浮かべながら出てきた。

 

「あら、よく気が付いたわね」

 

「そりゃあ、香水の匂いがすれば誰だって気が付きますよ。それにこの香水の匂いは何時も貴女がよく使用している物でしたからね」

 

そう言われスコールは、流石伝説の傭兵の息子ね。とネイサンを褒める。

 

「ちょっと、屋上に付いて来てもらってもいいかしら?」

 

そう言われ、ネイサンはスコールの後に付いて行き、屋上へと出る。

そして屋上へと着いたスコールは、ネイサンにあることを聞く。

 

「今日転校してきた2人の生徒、もう会ったかしら?」

 

「いえ、まだ接触してませんよ?」

 

「そう。なら警戒しておいた方がいいわよ」

 

そう言われネイサンは頭に疑問符を浮かべつつ、自身の推論を伝える。

 

「……厄介な事なんですか?」

 

「厄介と言えば、厄介ね」

 

そう言いながらスコールは、あるレポートの束をネイサンへと渡す。ネイサンは怪訝そうにその中身を読む。

 

「転校してきた2人の内、一人が二人目の男性操縦者って言う事は知ってる?」

 

スコールの問いにネイサンは噂くらいは、と呟く。

 

「その生徒、そこに書いてある通り男性じゃなくて女性よ」

 

そう言われネイサンはレポートに書かれているプロフィールを見る。

 

「シャルロット・デュノア。フランス生まれで、父親がデュノア社の社長で、実の母親は死去。……男装して此処に来たという事は?」

 

「確実に貴方のISの情報でしょうね」

 

スコールの返答に、ネイサンはため息を吐く。

 

「まぁこいつに関しては、どうにかするとして、もう1人はどう言う人物なんですか?」

 

そう聞きながらレポートを読むネイサン。

 

「もう1人はドイツの軍人で、IS部隊の隊長をしているらしいわ。……数年前、織斑千冬が訓練教官としてドイツにいた際に、彼女とその部隊を鍛えたらしいわ。その為彼女は織斑千冬を心酔しているようよ」

 

ネイサンはレポートに書かれているもう一人の転校生のプロフィールを読む。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、ドイツ軍IS部隊、黒ウサギ隊隊長。……確かに面倒ごとを持ってきそうな奴ですね。ところでどうして僕にこの二人のプロフィールを見せたんですか?」

 

「博士からも気を付ける様伝えて欲しいと頼まれたから、こうして貴方に教えに来たっていう訳よ」

 

そう言われネイサンは、相変わらず心配性な人だ。と心の中で束の行動に苦笑いを浮かべつつ礼を言う。

 

「情報ありがとうございます。取り合えず本社と上司にこの情報をそれとなく伝えておきます」

 

そう言いながら、ネイサンは屋上を後にした。

一人残ったスコールは、これで良し。と内心思い息を吐く

 

「それにしても、彼女って本当に彼に関することだと、過保護になるわね」

 

そう呟きながら、数時間前の事を思い返す。

 

スコールが職員室で明日使う授業の準備をしていると、スマホに電話が掛りスマホを持って職員室を後にし人気のいない場所で出ると、相手は束だった。スマホ越しでも判るくらいの殺気を放ちつつ、用件を伝えてきた。

 

『其処に入ってきた2人の転校生、ネイ君に知らせた?』

 

「……まだ知らせてないわよ。放課後になったら伝える予定でいたけどどうかしたの?」

 

『ちょっとね。……スーちゃん、もしあいつ等のどっちかがネイ君に迷惑な事したらすぐに連絡をちょうだい。束さん自らそいつらの事バラしに行くから』

 

殺気を含んだ言葉に、スコールも流石に冷や汗がじんわりと流れ始める。

 

「別に連絡を入れるのはいいけど、流石にやり過ぎると後が大変だから程々にね」

 

そう言うと束は分かったと伝え、電話を切った。スコールは額の冷や汗を拭い、何時の間にか束から送られていたメールに添付していた2人のプロフィールを印刷し、ネイサンに忠告しに来たのだ。

 

屋上から去ったネイサンは寮の部屋へと戻る途中、誰もいないことを確認しコルトを取り出し、マガジンを一度抜きスライドが正常に稼働するか確認し、マガジンを戻しスライドを引く。

 

「初弾はいつでも撃てるようにしておくか」

 

そう呟きセーフティーをして、コルトを腰のホルスターに戻し、部屋へと帰って行った。




次回予告
部屋へと戻ると、真耶から1人部屋が用意できたとのことで明日から引っ越しです。と言われネイサンは豪華な料理を作りその日を終えた。
次の日、クラスへと行く途中シャルルこと、シャルロットと会うが適当に挨拶を交わして、ネイサンはその場を去った。
次回男装女子との出会い~(宜しくするつもりは無いんだがなぁ)~


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14話

屋上から戻ってきたネイサンは部屋へと戻り、リビングへと行くと落ち込んだ表情を浮かべている真耶が椅子に座っていた。

 

「山田先生? どうかしましたか?」

 

ネイサンに声を掛けられ、真耶は肩を跳ね上げながら顔を後ろへと向ける。ネイサンの心配そうな顔を見た真耶は、こんな顔を見せちゃいけないと考え、直ぐに笑顔に変える。

 

「い、いえ、大丈夫ですよ。そうだ、実はマクトビア君が要望していた一人部屋の方が準備できたと学園上層部から通達がありました。ですので明日からそちらのお部屋にお引越しになります」

 

「漸くですか。それじゃあ今日は少し豪華な夕飯にしますね」

 

そう言われ真耶は首を傾げていると、ネイサンが訳を話し出す。

 

「いや、今日まで僕と同じ部屋で暮らしてくれたんで、そのお礼をしたいと思ったからですよ」

 

そう言われ真耶は納得し、手伝おうと申し出るがネイサンにやんわりと断られ、席に座りながらネイサンが料理をしている姿を眺めていた。

そしてネイサンが作ったのは、和牛ハンバーグとポテトサラダだった。2人は美味しくその夕飯を頂き、ネイサンはココに電話をしに行き真耶はネイサンの代わりに洗い物をしに台所に立つ。

 

 

『―――なるほど、わかった。こっちでも調べる様会社に伝えておくね』

 

「お願いします」

 

ネイサンはココに、今日スコールに教えてもらった転校生の一人、シャルル・デュノアの事を伝えていた。

 

『それにしても、遂に手段を選ばないほど追い詰められたか、あの企業』

 

「デュノア社の事知ってるんですか?」

 

ネイサンがそう聞くと、ココは真剣そうな雰囲気を出しながら答えた。

 

『うん。あそこの企業は第2世代のラファールの製造で上位企業に入っていたんだ。けど最近の企業は第3世代型の開発に着手し始めていて、デュノア社は金銭的理由でそれが遅れてるって噂が前からあったの』

 

「なるほど。それで自分の娘を男に変装させて、僕からデータを盗み男でも動かせるISの開発に着手しもう一度上位企業の仲間入りしようとした訳ですか」

 

ネイサンは呆れたような雰囲気で言うと、ココも同じような雰囲気で返す。

 

『だろうね。まぁネイサンからデータを盗める訳ないと思うけどね』

 

「その根拠は?」

 

『ネイサンは私の部隊の一員だし、私の一番のお気に入りだから』

 

ネイサンはココの返答に苦笑いを浮かべる。

 

「それ、根拠になってませんよ」

 

『いいの! ……ネイサン』

 

さっきまで明るい声だったココの声は、突然暗い感じの声へと変わる。

 

「何ですか?」

 

『……気を付けてね。ネイサンに何かあったら私……』

 

「……大丈夫ですよ。僕がそう簡単にやられるわけないじゃないですか」

 

そうネイサンが返すと、ココは暗かった雰囲気から明るい雰囲気へと戻る。

 

『そうだよね。ネイサンは私の部隊の一員だし、私の一番のお気に入りだからね』

 

「だから根拠になってませんって」

 

ネイサンは苦笑いをしつつ、ココと他愛のない会話を続け門限ギリギリまで喋った後、ネイサンは部屋へと戻りベッドへと入り眠った。そんなネイサンの隣にいた真耶は、悲しそうな表情を浮かべながら自問自答を繰り返していた。

 

(マクトビア君と一緒にいるときは何ともないのに、彼と明日別の部屋になると聞いた瞬間胸が引き裂かれるほど痛いと感じたのは何でだろぅ? それにマクトビア君とヘクマティアルさんが、一緒に何処かに行こうとしている姿を見たときも、胸の中がモヤモヤして気持ち悪かったし)

 

真耶は中々でない答えを悶々と考えながら一夜を過ごした。

 

 

次の日ネイサンは早めに起き、引っ越す先の部屋に持って行く荷物を纏めていると真耶が起きてきた。

 

「ふわぁ~、マクトビア君おはようございます」

 

「おはようございます、山田先生。ちょっと待っててくださいね、直ぐに朝食の準備をするので」

 

そう言いネイサンは立ち上がって、キッチンに立とうとしたが

 

「い、いえ! 今日は私が用意しますからマクトビア君はお引越しの準備を続けていてください」

 

「そうですか? でしたらお言葉に甘えさせていただきます」

 

そう言いネイサンはまた荷物を纏め始めた。

そして数十分後、真耶が準備した朝食をとり、その後朝食をとり終えた2人は部屋を出た。

 

真耶が職員室へと向かい、ネイサンは教室へと向かっていると前方から金髪の男装をした生徒が歩いてきた。

 

「えっと、ネイサン・マクトビア君だよね?」

 

そう聞きながら近づいてきた生徒に、ネイサンはこの生徒が。と近づいてきた生徒に警戒心を表さないよう警戒する。

 

「何か用か? 早く教室に行って今日の授業の予習したいんだが?」

 

「えっと用と言うか、挨拶をと思って」

 

そう返され、ネイサンはふぅ~ん。と納得したような雰囲気を出し、デュノアの隣を通り過ぎ

 

「要件がそれだけなら、これで失礼する」

 

そう言い去って行った。デュノアは困惑したような表情を浮かべ、その場で茫然と立ち尽くしていた。

 

 

(すき好んでスパイと仲良くする気なんて無いんだがな)

 

そう思いながらネイサンは教室へと向かった。




次回予告
授業を終えたネイサンは寮の部屋へと帰る途中、鈴から訓練をするから付き合ってほしいと頼まれ、一緒にアリーナへと行く。面倒な人間に絡まれるとは知らずに
次回
模擬訓練~実戦と模擬戦は大きく違うからな~


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15話

男装した女子、シャルル事シャルロットを放置したネイサンは教室へと入り、クラスメイト達に挨拶を交わし自分の席で何時もの予習を始める。

それから時間は経ち、放課後。ネイサンは教材の入ったカバンを背負いクラスを後にし廊下を歩いていると、壁にもたれるように誰かを待っている鈴を発見した。

 

「鈴、こんなところで誰かと待ち合わせですか?」

 

「ん? あぁ、アンタを待ってたのよ」

 

そう言われネイサンは首を傾げると、直ぐに何をするのか見当がついたのか手を叩く。

 

「もしかして訓練に付き合えってことですか?」

 

「正解。どうせこの後することって、アンタの場合明日の予習とかでしょ? だったら少しだけ私の訓練に付き合いなさいよ」

 

「まぁいいですよ」

 

そう言いネイサンは鈴と共にアリーナへと向かった。

 

アリーナへと到着し、ISを身に纏いアリーナへと出ると鈴が先に出て待っていた。

 

「所で鈴、今日はどういった訓練をするんだ? 一応言うが、今日は他の生徒達もいるみたいだから模擬戦みたいな事は今日は無理だぞ」

 

「そうね。それじゃあ近接訓練やらない? この前はアンタの指導の下で龍咆の訓練したし」

 

「構いませんよ」

 

ネイサンは鈴と近接訓練を行うため、拡張領域から近接用のナイフを取り出し構える。鈴も同じように双天牙月を構え訓練しようとするとピットから一機のISが出てきた。

 

「おい、お前ら」

 

そう呼ばれ鈴とネイサンは顔を向けると、銀髪の少女がISを身に纏って立っていた。ネイサンはスコールから渡されたレポートにあった人物、ラウラ・ボーデヴィッヒか。と内心思いつつ用件を聞く。

 

「何か用ですか? 今から訓練をするんですが」

 

「……中国代表とHCLI社の企業代表だな? どちらでもいい、私と戦え」

 

ネイサンはうわぁ戦闘狂かよ。と思いつつ隣の鈴に目線を向ける。鈴はめんどくさいと言わんばかりの顔で答えた。

 

「悪いんだけど、今からこいつと訓練するからまた今度にして」

 

そう言い鈴はネイサンに続きをさせようと促す。ラウラはそれが気に食わなかったのか、キャノンを2人の方へと向ける。すると

 

『其処の生徒、何をしているの! 学年と名前を言いなさい!』

 

そうアナウンスが聞こえ、ラウラはISを解除し舌打ちをした後アリーナから去って行った。

 

「……アイツ撃つ気だったわよね?」

 

鈴は睨むように目線をラウラが出て行った方向へと向ける。

 

「まぁ戦わせるために撃とうとしたでしょうね。鈴」

 

ネイサンに呼ばれ、鈴は目線をネイサンの方へと向ける。

 

「あぁ言った奴の挑発は乗らない方がいいですよ。後で手ひどくやられる可能性がありますから」

 

「……分かったわ」

 

ネイサンの忠告に鈴はイラついた思いを胸に仕舞いつつネイサンと訓練を開始した。数十分後、ネイサンと鈴は訓練を終えアリーナを後にする。2人が出た後、ISを身に纏った黒髪のポニーテールの生徒が大声で怒鳴っている姿が目撃されたとか。

 

寮へと続く廊下を歩いていると、鈴がさっきの事を聞いた。

 

「ネイサン、アイツの挑発には乗るなって理由、訳を聞いてもいいかしら」

 

「ん? あぁ、それですか。あぁ言った戦闘狂は最初に相手を挑発させて怒りで調子を狂わせるんですよ。だから頭に血を上らせる前に一度冷静に考える間を作れば、相手のペースに乗せられずに済むっていう訳です」

 

「なるほどね。って、それじゃあ私が短絡的って事じゃない!」

 

鈴はフガァー!と怒鳴り、ネイサンに肩パンを繰り出す。

 

「ちょっ! 痛いですって」

 

「うっさい。アンタが余計なことを言わなきゃこうならなかったのよ!」

 

そう言われそんな理不尽な。と心の中でツッコミを入れつつ寮へと戻っていった。

 

 

一方シャルル事、シャルロットは今朝のネイサンへの挨拶に何かミスでもあったのかと思い、寮の部屋で一人考え込んでいた。

 

「挨拶の仕方とかは間違ってなかったし、別段不審がられるようなこともなかったはずなんだけど。何でだろう」

 

既にネイサン、そして一部の教師には既にシャルロットの正体が既にバレているという事はシャルロットはまだ気が付いていなかった。

 

「……明日もう一度挨拶をして、友好関係を結べるようにしよう。もしそれがダメだったら……」

 

シャルロットは目線を机の上に置いてあるピッキング道具へと向けた。シャルロットは自身が自由になるためなら仕方がないと自分に言い聞かせながら。

 




次回予告
次の日、また3組の近くでシャルルことシャルロットと会ったネイサンは、前回と同じような対応をしてクラスへと入る。放課後、射撃訓練をすべくアリーナへと向かう途中、鈴と合流して中へと入ると、ある光景が広がっていた。

次回
問題事~特にならない仕事はしたくないんだが~


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16話

ラウラが喧嘩を吹っ掛けてきてから翌日、ネイサンは漸く用意された一人部屋で朝食を済ませ部屋を後にした。

そして何時もと変わらない時間に教室前へと着いたネイサン。

 

「おはようマクトビア君」

 

ネイサンはそう声を掛けられ目線を掛けられた方へと向ける。其処には作った笑顔を浮かべたシャルル事シャルロットが立っていた。

 

「今度は何だ? また挨拶だけならもう教室に入りたいんだが」

 

「その、ほらお互い世界に二人しかいない男性操縦者なんだし仲良くしたなぁ~と思ったんだけど……」

 

シャルロットは必死に仲良くなるきっかけを作ろうとしたが、ネイサンはそんなきっかけを作る隙すら与えなかった。

 

「そうか。悪いが、俺は本当に仲良くなれる奴と思った奴しか仲良くする気はない」

 

そう伝えネイサンは教室へと入って行った。シャルロットはまた失敗したと落胆した表情を浮かべ、もうあの手しかないと思い教室へと戻って行った。

 

 

 

昼休み。ネイサンは食堂へと向かおうと廊下に出ると、丁度隣のクラスから鈴が出てくる。

 

「あらネイサン、今から食堂行くところ?」

 

「えぇ。鈴も今からですか?」

 

「そうよ。そうだ、一緒に行かない?」

 

鈴の提案にネイサンは頷き、鈴と共に食堂へと向かった。

食堂へと着いた2人はそれぞれ昼食を注文し席へと着く。

 

「そう言えば、アンタってもう就職してるらしいけど本当なの?」

 

「えぇ、HCLI社社員の警護しているPMCの一人です。その前はフリーの傭兵をしていましたけど」

 

ネイサンの最後の傭兵と言う言葉に鈴は驚いた表情をネイサンに向ける。

 

「アンタ元傭兵なの?」

 

「えぇ。父も傭兵で、戦場にいる傭兵達からは伝説と言われるほど凄い人なんです」

 

ネイサンは嬉しそうな顔で父ジェイソンの事を語りだす。鈴は本当に自慢のできる父親なんだと、その顔を見て理解できた。

 

「……本当に良い父親なのね」

 

「えぇ自慢のできる父でした」

 

「え?」

 

ネイサンのでした。と言う過去形に鈴は思わず声を漏らす。

 

「数年前に父はガンで亡くなったんです」

 

それを聞いた鈴は思わず顔を逸らす。

 

「ごめんなさい。辛い事思い出させたわね」

 

「いや、大丈夫ですよ」

 

ネイサンはご飯を食べながら空気を換えようとある提案をする。

 

「そうだ鈴。話は変わるんですが、放課後暇ですか?」

 

「放課後? まぁ時間はあるわよ。何? 訓練に付き合ってほしいの?」

 

鈴はネイサンが空気を変えようと、話題を変えたことにはすぐに気付き心の中で感謝しつつ答える。

 

「えぇ。ほら、もうすぐトーナメント戦があるじゃないですか? だから模擬戦をして技術を磨きたいのでね」

 

「なるほどね。良いわよ、あたしもアンタとの訓練のお陰か最近教科書に載ってる訓練が物足りない気でいたのよ」

 

では、放課後に。とネイサンは伝え昼食を終えた。

 

 

そして放課後、ネイサンは約束した通り隣のクラスにいるはずの鈴に会いに行くべく向かい中へと入る。

 

「すいません、凰さんいますか?」

 

「えっと、鈴だったらさっきアリーナへと向かったわよ」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

そう言いネイサンは2組から出て、アリーナへと向かう。アリーナからは激しい戦闘音が聞こえ、ネイサンは誰かが模擬戦でもしているのかと思いつつ入口付近まで近付くと、鈴が立っていた。

 

「あら遅かったわね」

 

鈴は若干イラついたような表情でネイサンを迎えた。

 

「……何かあったんですか?」

 

「昨日の銀髪がまた絡んできたのよ。ネイサンの忠告通り頭に血が昇り来る前に一呼吸入れたらスッて頭が冷静になったから挑発に乗らずに済んだんだけど……」

 

鈴は哀れんだ眼をアリーナの方へと向ける。

 

「あたしが此処に来た時に丁度1組のイギリス代表候補生と会ったのよ。一緒に訓練しないかって誘われて断ろうとした時にあの銀髪が来たのよ。で、例の如く挑発して来てあたしは乗らず、彼女だけが挑発に乗って今中で戦っているみたいなのよ」

 

そう言われネイサンはアリーナから聞こえる激しい戦闘音はそれが理由かと納得する。

 

「そうですか。それじゃあ終わったらやりましょうか」

 

「そうね」

 

そして鈴とネイサンはアリーナへと入ろうとすると、一人の生徒が慌てた様子でアリーナから出てきた。

 

「た、助けて! セシリアさんが殺されちゃう!」

 

そう叫びながらネイサン達に助けを求めてくるが、ネイサンは若干嫌な顔を浮かべる。

 

「いや、助けてくれって言われても」

 

「模擬戦してるんだったら監視をしている先生が止めるんじゃないの?」

 

それぞれそう言うが生徒は首を横に激しく振る。

 

「そ、それが管制室に誰もいないのか全然止めに入らないの!」

 

そう言われ2人は呆れたような顔つきとなりため息を吐く。

 

「どうする鈴?」

 

「今日はもう訓練は中止して止めに行きましょう」

 

「得にならない仕事はしたくないんだがなぁ」

 

そう言って鈴はアリーナへと入って行った。ネイサンは嫌な顔になりながらも付いて行く。

 

そして2人がアリーナへと入ると、ISをボロボロにされ地面に今にも倒れそうになっているセシリアと全く余裕な表情で佇んだラウラが居た。

 

「本当に止められていないな」

 

「あれ下手したら国際問題になるんじゃない?」

 

鈴とネイサンはそんなことを言いながらピットへと入る。ピットへと入ったネイサンはスマホを取り出し何処かに電話を掛ける。

 

「あ、スコール先生。何人か教師の方々を連れてアリーナに来てください。トラブルです。はい、どうやらイギリス代表候補生とドイツのが模擬戦をして一方的にイギリス代表候補生を攻撃している様です。いえ、管制室に人はいないのか止めが入ってないです。はい? ……そう言う事ですか。分かりました、失礼します」

 

ネイサンは電話を切りISを纏う。

 

「アンタのところの担任に電話したの?」

 

「えぇ、教師部隊の出動をお願いしました。それとある事を教えてもらえました」

 

そう言うと鈴は疑問符を浮かべながらそのある事を聞く。

 

「ある事って?」

 

「どうやら管制室にどうやら人はいるみたいですよ。で、その人って言うのが―――」

 

ネイサンからそのある人物を聞いた鈴は呆れた顔を浮かべ、息を吐く。

 

「なにそれ。つまり今の現状は問題無しって捉えているってこと?」

 

「恐らくそうでしょうね。全く教師として最低ですね」

 

「そうね。まぁいいわ、早い所あのイギリス生徒助けに行きましょうか」

 

鈴はそう言いネイサンと共にアリーナへと出た。アリーナへと出ると待っていたと言わんばかりに笑みを浮かべるラウラ。

 

「漸く出てきたか。さぁ私と勝負しろ!」

 

「なぁ鈴。やっぱり帰っていいか? あれと戦うとか本当に面倒なんだが」

 

「あたしだって嫌よ。さっさとあれを拾って帰りましょう」

 

鈴にそう提案されネイサンはやる気の出ない自身に何とか言い聞かせ、武器を構える。

 

「機動力はあたしの方が上だから、アンタはあれを抑えて。あれを回収したらサッサとピットに引っ込みましょう」

 

「了解です」

 

鈴の作戦を聞いたネイサンはアヴェンジャーとAMWS-21をラウラへと向け、トリガーを引く。大量の弾丸がラウラに迫るが、ラウラは何かを展開し攻撃を防ぐ。

 

「……例のAICとか言う機能か」

 

ネイサンはココに以前教えてもらったドイツが開発した機能を思い出す。そして本来だったら全体的に覆われるはずのAICはラウラは一部しか展開できないことにネイサンはまだ未熟という事かと瞬時に読み取った。

 

(あれは結構集中力が必要だから、弾幕を張り続けておけば時間くらいは稼げるか)

 

そう思いネイサンは攻撃を続け、動きを取らせまいと撃ち続けた。

流石のラウラはネイサンの弾幕にイラついたのか、罵声を浴びせる。

 

「それだけしかしないのか! 伝説の傭兵の息子だと聞いたが聞いてあきれる!」

 

その言葉を聞いたネイサンは一瞬眉をピクッとさせるが、挑発にそうやすやすと乗らなかった。

 

「そうか、ならお前はどうなんだ? あの織斑に訓練を付けて貰いながら、今何も出来ないお前は?」

 

そう言うとラウラは目をキッと鋭くさせ睨む。だがそれと同時に集中力が切れアヴェンジャー、そしてAMWS-2の弾幕に曝された。

 

「クッ!? 舐めるな!」

 

そう叫び、ラウラはネイサンを攻撃しようとしたが、そこにネイサンは居らず、アリーナ内にはラウラ一人だけしかいなかった。

 

「何処へ行った!」

 

そう叫ぶが、自身の声しか返ってこなかった。

 

「誰もお前と戦うなんて言ってないだろうが」

 

ネイサンは鈴達と共にピットに避難しており、ピットで呟く。

 

「さて、救助は成功したしこの子どうする?」

 

鈴はセシリアに目を向けながらネイサンに聞く。セシリアは既にISがボロボロな状態で体も痣などが出来ていた。

 

「取り合えずもうすぐ来る教師達に引き渡そう。後の処理はやってくれるだろうし」

 

そう言うと、鈴はセシリアをピット近くにある椅子へと座らせる。そしてピットから出ると丁度教師が入ってきた。

 

「スコール先生が言っていた生徒ね?」

 

「えぇ。彼女のことお願いしますね」

 

ネイサンはそう言うと教師は頷き、セシリアの容体を確認しに傍へと向かった。そしてネイサンと鈴はアリーナを後にした。

その頃アリーナにいたラウラは、ピットから現れた教師部隊に囲まれ大人しく拘束され連れていかれる途中だった。

そして近くにいたスコールが罰則を伝えた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒさん、学生規則に則って貴女を拘束するわ。期間は次のトーナメント戦までよ」

 

そう言われラウラは舌打ちをするも大人しく教師達に連れていかれた。

すると教師達の前に千冬が現れ道を阻む

 

「そいつをコチラに引き渡せ」

 

突然現われた千冬に教師達は警戒し何時でも動ける様構える。

 

「それは出来ないわ。彼女に言い渡された罰則は学園長直々に下したもの。貴女がそれを取り消す権利は無いわよ」

 

スコールは千冬の前に立ってそう言い放ち、教師達に先に行く様指示する。

スコールの指示を聞いた教師達は千冬に警戒しつつラウラを罰則用の牢屋へと連れて行った。残ったスコールと睨むような目線の千冬はその場でジッと動こうとしなかった。

 

「織斑先生、貴女にも学園長からの伝達事項があるからよく聞きなさい」

 

「なんだ?」

 

千冬は睨む視線をスコールへと向けたままその伝達事項の内容を聞く。

 

「今回のボーデヴィッヒさんの一方的な攻撃でオルコットさんが多大な被害を受けたにも関わらず、貴女は管制室に居たのにそれを止めなかったことで、学園長は貴女に任されている全ての主任権を全て凍結との事よ。以降の主任権は私が引き継ぐことになったから」

 

そう言いスコールはその場から去ろうとする。

 

「待て! 全ての主任権を凍結だと、そんなのが認められるか!」

 

「貴女が認めなくても、これは学園長がお決めになったこと。貴女に拒否権は無いわ」

 

「私はブリュンヒルデだ!」

 

スコールは千冬のブリュンヒルデと言う発言を聞いて呆れた様にため息を吐く。

 

「ブリュンヒルデは只の称号であって、何の権力も無いわ」

 

そう言いスコールは今度こそその場から去って行った。千冬は苛立ちから壁を思いっきり殴りつけた。

 

 

その頃アリーナから戻ったネイサンはと言うと、部屋で草臥れ儲けした。とぼやきながら部屋で寛いでいた。すると部屋の扉がノックされ誰だと思い声を掛ける。

 

「どちら様ですか?」

 

『あの、1組の相川清香って言うんだけどちょっといいかな?』

 

ネイサンは声の掛け方、声量などから相手がどういった人物か観察し、女尊男卑の生徒じゃないと判断し、扉を開ける。

 

「僕に何か用ですか?」

 

「えっと、私のクラスのデュノア君がマクトビア君に話があるから呼んできて欲しいってさっき連絡を貰ったの」

 

「? 本人が直接来れないのですか?」

 

「なんか、今手が離せないって言ってたの」

 

ネイサンは怪訝そうな顔を受けながらも、チラッと部屋を見た後目線を相川の方へと向ける。

 

「分かりました。それで今どこに?」

 

「うん、ピットに居るって言ってたよ。それじゃあ私はこれで」

 

手を振りながら相川は去って行き、ネイサンは部屋に鍵を掛けてピットへと向かった。

ネイサンが部屋を後にして数分、脱衣所の扉が急に開かれシャルロットが出てきた。

 

「……ごめんね、マクトビア君。でも僕が自由になれるにはこれしかないんだ」

 

そう言いつつシャルロットは机に置かれているISの待機形態と思われる物にコネクターを挿しデータをコピーする。そしてデータの抽出が完了したと画面に表示され、シャルロットは安堵した表情を浮かべる。

 

「よし、これで僕は自由に―――」

 

「なれる訳ないだろ」

 

突然今此処にいないはずの人間の声が聞こえ、シャルロットはその方向へと顔を向けると、其処にはシャルロットに拳銃を構えているネイサンが立っていた。

 

「ど、どうして……」

 

「初めからお前がこの部屋に侵入していたことは気付いていたよ。で、スパイ行為の証拠を掴む為に本物に似せたISの待機形態を置いておいたわけさ」

 

そう言われ、シャルロットはさっき抽出したデータは全て偽物だと気付かされ、逃げないとと思ったがその前にネイサンの方が早かった。持っていた拳銃でシャルロットの眉間を的確に射貫いたのだ。眉間に強い衝撃を受けそのまま後ろに倒れ込んだシャルロットは衝撃から意識を失ってしまった。




次回
Way to the freedom that collapsed(崩落した自由への道)





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17話

「うぅぅ……こ、此処は?」

 

シャルロットはズキズキと痛む額を押さながら辺りを見渡す。周りはコンクリートで覆われており鉄の扉と簡素なベッドと机、そして用を足すための便座が備えられていた。

 

「此処は一体?」

 

「あら、目が覚めたの」

 

その声が聞こえ、シャルロットは声がした方へ顔を向ける。其処には格子の向こうからこちらに顔を覗かせているスコールが立っていた。

 

「せ、先生。どうして、僕は?」

 

「マクトビア君が貴女に撃ったのは、硬質ゴム弾よ」

 

そう言いスコールは説明を始めた。

 

「あの時、マクトビア君が貴女に向けていたのはマテバって言うリボルバーで、装填されていたのはさっきも言った硬質ゴム弾よ。で、貴女を撃った後私に連絡をして貴女をこの独房へと放り込んだって言う訳」

 

スコールは淡々と説明をし、次に哀れんだ目線でシャルロットを見下ろす。

 

「それにしても貴女って言われた事しか出来ない機械のような人ね」

 

「ど、どう言う事ですか?」

 

「だって、貴女が本当に自由になりたいと思っているなら、この学園の規則をよく読んでおけば良かったのに」

 

そう言われシャルロットはどう言う訳かと疑問の顔持ちでスコールへと向ける。

 

「はぁ~、本当に何も知らなかったようね」

 

そう呟き、スコールはシャルロットに生徒手帳を放り投げた。

 

「35ページを読んでみなさい」

 

「“当学園は如何なる政府、企業からの要請などが有っても生徒の引き渡し等はしない”……こ、これって」

 

「そう、この学園に入った後は学園にいる間は政府、企業から如何なる要請だろと生徒の身柄は学園が保護するって言う事よ」

 

シャルロットは何故これに気が付かなかったのだろうと、自身を責め続けた。だがある事に気付く。

 

「あの、先生。なら僕が産業スパイをしてもフランス政府に僕の身柄は……」

 

「えぇ、引き渡されないでしょうね」

 

シャルロットはその言葉を聞き安堵したような表情になろうとしたが

 

「けど、貴女が犯罪をしたという経歴は消えないわよ」

 

「え?」

 

「貴女が盗んだデータを確認したらHCLI社で開発したIS、つまりマクトビア君が乗っているISの基本データだと確認できたそうよ」

 

そう言われシャルロットは嫌な汗が引き出し続ける。

 

「そ、そんな! あの時マクトビア君はISに似せた物だって言ってたんですよ! だから入っていたデータだって偽物のはずです!」

 

「そう言うけど、HCLI社が本物だって言ってるしそれに、マクトビア君自身もこのデータは本物だって言ってたのよ。つまり貴女が言っている事は虚偽だと判断せざるを得ないのよ」

 

シャルロットはもう訳がわかないと言った表情で頭に手を置き、顔を下に向ける。

 

「そう言えば、今区画監視カメラと集音装置が停止しているのよ」

 

突然のスコールの呟きにシャルロットはそれが何といった表情を浮かべる。

 

「今から私が言う事は只の独り言。信じるかどうかは貴女次第よ。今回の1件、マクトビア君は前から予期していたのよ。それで貴女が何もしてこなければ無視を決め込んでいた。けど貴女がデータを盗みやすくするために、仲良くしようと近付いて来るのがストレスを溜めていたらしいのよ」

 

スコールの呟きにシャルロットは、もう前からバレていた事に驚いた表情を浮かべつつ、続きを聞く。

 

「で、二度と自分の目の前に現れないようにする為に彼は今回の計画を立てたの。そして貴女はその計画に上手く引っかかったって言う訳」

 

「じゃ、じゃあどうして僕を助けようとしなかったんですか」

 

「助ける? 貴女を?」

 

スコールは信じられないって言う表情を浮かべ、失笑する。

 

「スパイと仲良くしたいって言う人なんかこの世にいる? いる訳ないでしょ」

 

そう言われシャルロットは肩をビクッとさせる。

 

「さて、そろそろ私は帰るわ。それじゃあさようなら、哀れなスパイさん」

 

そう言いスコールは独房から去って行った。

 

「そ、そんな嫌だ! 僕は只自由になりたかっただけなんです! お願いです、此処から出してください! デュノア社からの指令などを全部喋るから!」

 

そう叫ぶ声が響くがスコールはそれを無視して独房を後にした。

 

 

シャルロットをスコールに引き渡し終えたネイサンは机に置いておいたISに似せた物をアタッシュケースに仕舞い部屋を後にする。

そしてネイサンは学園前の門付近まで行くと其処にはキャスパーとその私兵達が立っていた。

 

「やぁネイサン。それは役に立ったかい?」

 

「えぇ大変役に立ちました。これお返ししますね」

 

そう言いネイサンはアタッシュケースをエドガーに手渡す。

 

「なぁに君が必要となる物は僕が手配するよう言われているからね。そう言えば本社の奴からネイサンにお礼を言っておいてくれって言ってたよ」

 

「はい? 別に自分はお礼をされることをした覚えは無いんですが」

 

キャスパーの言葉にネイサンは疑問を浮かべそう伝えると、キャスパーはその訳を話し始めた。

 

「実は、本社がデュノア社が有しているラファールの開発権利を買い取ったんだ。しかも安価でね」

 

「なるほど、それでですか」

 

ネイサンはシャルロットのスパイ行為を脅迫に安価にさせたんだろうなと思っていると、キャスパーがあることを聞いてきた。

 

「そうだ、ネイサン。もうすぐ休みだよね?」

 

「えぇ、トーナメント戦が終えた後ですけど、それが何か?」

 

「いやぁ、僕久しぶりに休暇を貰おうと思ってね。それでレゾナンス近くに美味しいお店とかないかなって、それでネイサンに案内してもらおうと思ってさ」

 

キャスパーの要件にネイサンはなるほどと納得した面持ちで、休日の確認をする。

 

「そうですねぇ…。まぁいいですけど、僕もあまりレゾナンス近くのレストランとかは知らないですよ」

 

「別にいいよ、ついでに一緒に探せればいいし。それじゃあ僕は帰るね」

 

そう言い、キャスパーはチェキータ達と共に車に乗って帰って行った。

 

 

それから数日後、デュノア社は倒産し社長と社長夫人は横領やら産業スパイの指示などの罪で逮捕となった。




次回予告
トーナメント戦がタッグマッチとなり、ネイサンは鈴と組むこととなった。そして当日ネイサンと鈴の対戦相手はラウラと箒だった。
次回
軍人VS傭兵


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18話

トーナメント戦が行われる数日前、ネイサンは食堂で昼食をとっていると鈴がラーメンの器が乗ったトレイを持って向かいの席へと座ってきた。

 

「やっほー、ネイサン。此処座るわよ」

 

「やぁ鈴。別にどうぞ」

 

鈴は席に着きラーメンを啜っていると、何かを思い出したのか顔を上げる。

 

「そう言えばネイサン。来週のトーナメント戦、ルールが変更されたって聞いてる?」

 

「えぇ。何でもタッグマッチ戦を行うと聞いてますよ。噂では次のモンドグロッソで組み込まれる競技の一種で、そのテストも兼ねて今回変更されたって言うのが一番有力な説です」

 

ネイサンの話に鈴はへぇ~。と納得するような返事をした後、ある紙をネイサンへと渡す。

 

「これは、タッグ希望票?」

 

「そっ。私のクラス他に出る子が居なくてね。で、仲の良いアンタに頼もうと思って」

 

「なるほど。……いいですよ。僕も相手が居なかったので当日のランダムで決めようかなと思ってたので」

 

そう言いネイサンは持っていたペンで紙に自身の名前とクラスを書き、自身の名前が書かれた紙と一緒に鈴に渡した。鈴もネイサンから渡されたタッグ希望票に名前とクラスを書いてネイサンに手渡す。

 

「それじゃあ放課後に訓練ね」

 

そう言うと鈴は食べ終えた器を持って食堂を後にした。

 

 

 

そしてそれから数日が経ちタッグマッチトーナメント戦当日。

ネイサンは整備等を終えた後、対戦相手を確認しに待機室のモニターへと向かっていた。するとモニター付近に鈴が居ることに気付き手を挙げる。

 

「鈴、対戦相手は誰だか分かりましたか?」

 

「えぇ。自分の目でも確認してみたら」

 

鈴はうんざりと言った感じでそう言うと、ネイサンは相手を大体察したがそれでも確認する。モニターには『ラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之箒対ネイサン・マクトビア&凰鈴音』と出ていた。

 

「やれやれ、面倒な人達と当たっちゃいましたね」

 

「そうね。ラウラって言う銀髪の方は実力は分かるけど、この篠ノ之箒って言う子実力ってどれ程あるの?」

 

「さぁ? ウチのクラスにいる剣道部の子が言うには中学に剣道で優勝したことがあるとは聞いた事があるって言ってました」(まぁどうせ力任せにやって勝ったんだろうが)

 

ネイサンはそう言うと、鈴はふぅ~ん。と大して脅威にはならないと判断した。

 

『これより、Aグループの第一試合を始めます。出場する選手はピットへと移動してください』

 

真耶のアナウンスにネイサンと鈴はピットへと移動した。

ピットでISを展開しながら鈴はネイサンにあることを尋ねた。

 

「それでネイサン、どう言う戦法で行くの?」

 

「そうですね、ドイツの方は僕がやります。彼女のISにはAICって言う物体を止めたりすることが出来る機能を持っているので、接近戦を得意としている鈴では不利なんで僕が対処します。もう一方はお任せしますね」

 

「分かったわ。と言うよりも剣道を得意としてても、所詮は一般生徒。実力はたかが知れてるわね」

 

鈴は余裕と言った表情で言うと、ネイサンは苦笑いで答える。

 

「確かにそうですが、油断だけはしないでくださいよ」

 

「分かってるわよ」

 

そう言いながら出場準備を終える。

 

『では双方アリーナへと出て下さい』

 

そのアナウンスと共に2人はアリーナへと出ると、向かいのピットからも対戦相手の2人が出てきた。

それぞれ武器を取り出し開始地点で待機する。

 

『ではこれより試合を開始します。カウント5秒前!』

 

アナウンスのカウントを聞きながら双方睨みあった。

 

『2…1…試合開始!』

 

その合図とともにネイサンは持っていたAWMSでラウラをけん制し箒から引き離す。

 

「ふん。私と一騎打ちと言う訳か。いいだろうその挑発買ってやる!」

 

そう言いレールキャノンで攻撃するラウラ。ネイサンはアヴェンジャーで弾幕を張るなどをして距離を一定にとっていた。

一方鈴と箒の方はと言うと、ほぼ一方的な勝負だった。バランスが訓練機の中で一番良い打鉄を箒は使用しているのだが、箒は近接の刀以外一切使おうとしない。その為打鉄の良さをほぼ無駄にした状態で勝負しているのだ。一方の鈴はネイサンの訓練によって龍咆の目線での照準合わせをしなくなり、ワザと目線の先に撃つように見せかけ反対に撃ち込むなど出来る様になっていた。更に近接でも無駄な大振りをしないようにし、地面を這う蛇の如く相手の懐に入り込み斬り込んでいった。

箒は逃げ場として上に飛んだが、鈴はそれを見逃さなかった。

 

「くっ! さっきから飛び道具を使うとは卑怯だぞ!」

 

「馬鹿ね! ISを使った勝負に卑怯も何もないのよ! それと上に飛ぶって言う事はどうにでもしてくれって言う合図よ!」

 

そう言い鈴は龍咆を飛び上がった箒に向け、圧縮空気を叩き込んだ。箒は避ける間もなく圧縮空気によって壁に叩きつけられ、残りのSEを削り取られ敗北した。

 

「さて、ネイサンはと。別に手を貸さなくても良さそうね」

 

そう言いながら鈴はネイサンとラウラが戦っている様子を眺めた。

ネイサンとラウラの戦いは熾烈で、ネイサンは一定の距離を取りながら戦っておりその付近には空になったマガジンが数個程落ちていた。ネイサンは特に焦っているといった様子はしておらず、逆にラウラの方は呼吸を荒くしており、焦った表情を浮かべていた。

 

「どうした? AICに集中し過ぎたせいで呼吸が荒くなってるぞ?」

 

「クソ!」

 

ラウラは一定の距離を開けながら戦う戦法に苛立ちを募らせていると、突然何かがモニターに表示された。

 

『力を欲するか? YES/NO』と。

 

ラウラは何の確認だ?と疑問にしながらも、力を欲していた為ラウラは躊躇いなくYESを押した。

 

『VTシステムスタンバイOK』

 

と表示された瞬間、ラウラは違法システムだと気付いたが時すでに遅かった。意識はそのまま暗い闇の中へと落ちていった。

ネイサンは突然動きが止まったラウラに警戒した様子で観察していると、突然機体からスライム状の物体が現れラウラを包み込んでいった。そしてその形は暮桜へと変貌しつつあった

 

「……VTシステムか」

 

ネイサンはココから教えてもらった違法システムの一つだと気付き、そう呟いていると傍に鈴がやって来た。

 

「ちょっと、何よあれ?」

 

「違法システムの一つのVTシステムです。鈴、あそこで転がっている奴を引っ張ってピットに「駄目よ。アンタ一人でやれる相手じゃないでしょ」……ですが、下手すると奴を殺す事になります。貴女にそれが出来るのですか?」

 

ネイサンは鈴に覚悟があるのか、確認をすると鈴は一瞬肩を跳ね上がらせるが、覚悟したかのような目つきへとなる。

 

「……えぇ」

 

「分かりました」

 

ネイサンは残弾を確認し、管制室に連絡を入れる。

 

「スコール先生、これよりVTシステムに取り込まれたISを破壊します」

 

『無茶よ! 相手は恐らくモンドグロッソ時代の織斑千冬よ。勝てる可能性は「今やらなきゃ被害が多く出ます

。許可を」……分かったわ。撃退の指示を出します。但し無茶だけはしないように』

 

「了解です。それと劣化ウラン貫通芯入り高速徹甲弾(HVAP)等の使用許可も下さい」

 

『……了解、許可するわ』

 

許可を貰ったネイサンはアヴェンジャーの弾種を36㎜のHVAP弾へと変更した。

 

「鈴、近接攻撃は控えて圧縮空気で援護を」

 

「了解よ」

 

鈴は龍咆を展開し、圧縮空気を撃てる様構える。

完全に乗り込まれたのか、ISは刀を振り上げながら迫ってくるがネイサン達は特に慌てた様子を見せずにその場から離れ、ネイサンはHVAP弾を叩き込む。鈴も圧縮空気を放つが大してダメージがある感じでは無かった。

 

「くっ! 威力不足だって言うの!」

 

鈴は悔しそうな目で暮桜に向ける。一方ネイサンのHVAP弾は腕や脚を的確に射貫いていた。だがどれも決定打となるダメージを受けている感じでは無かった。

 

「これじゃあらちが明かないな」

 

そう言いネイサンは弾種を120㎜の劣化ウラン貫通芯入り仮帽付被帽徹甲榴弾(APCBCHE)へと変更し一気に勝負に出た。

 

「鈴! 一斉射で叩くから退避してください!」

 

「分かったわ!」

 

鈴は出力限界の圧縮空気を暮桜に放ち、ネイサンの背後に移動する。

 

「これで墜ちろ!」

 

そう叫び、ネイサンはAWMS、そしてアヴェンジャーとサイドワインダーを暮桜に向け一斉射した。鈴の出力限界の圧縮空気で動きにムラが出来ていた暮桜はネイサンの攻撃をもろに喰らい、そのまま弾丸の雨に晒された。

そしてアヴェンジャーの弾丸、そしてAWMSの36㎜チェーンガンの弾が切れ、ネイサンはトリガーを離す。

 

「やったの?」

 

鈴はネイサンにそう確認の声を掛けながら煙が蔓延している方へと目線を向ける。

 

「分かりません」

 

そう言いながらネイサンは警戒しながら、アヴェンジャーの弾種を変更しAWMSのマガジンを交換する。

そして煙が晴れた先の地面にはラウラが倒れ込んだ状態でいた。鈴はホッと息を吐いて、ラウラを回収しようと近付こうとしたが、ネイサンが止めに入った。

 

「何で止めるの?」

 

「これをやらないと、鈴も汚染されますよ」

 

そう言いながらネイサンは特殊なグレネードを取り出し、ラウラに向け投げた。それは放射性物質を除染する特殊な物質が入った物だった。グレネードは爆発し、辺りに白い粉状の物が舞い広がった。

 

「これで良し。スコール先生、教師達には後5分は彼女に近付かないよう伝えておいてください」

 

『分かったわ。2人ともご苦労様。あと学園長が今回の件を聞きたいから学園長室に来て欲しいそうよ』

 

「分かりました」

 

そう言いながらネイサンは通信を切りピットへと向かった。

 

その後、教師達がアリーナへとやって来てラウラを回収し、放射線を確認する。ネイサンが投げた放射性物質除去用のグレネードが功を奏したのか、ラウラは体に害を成すほど量を有しておらず拘束し医療室へと連れていかれた。

 

その夜、束は隠れ家の研究室である人物からの電話を待っていた。そして目的の人物が掛かってくると、仮面を付けたかのような顔付で電話に出る。

 

「モスモス終日~! 久しぶりだね、箒ちゃん!」

 

『姉さん、あの……』

 

「分かってるよ! 箒ちゃんだけのISが欲しいんだね。大丈夫! もう作ってあるから、今度持ってくるから待っててね!」

 

そう言い電話を一方的に切った。そしてふぅ~。と息を吐いて口をニンマリとさせた。

 

「ちゃんとデータ採取に協力してよね、私の大っ嫌いな箒ちゃん」

 

そう言いながら目の前にある一機のISを見つめた。そして束は隣にあるケーブルに繋がれたISへと目を向ける。

 

「もうすぐだ。もうすぐ君は彼の隣で立つ女性の一人に渡す。その時は彼女に手を貸してあげてね」

 

そう言いながら束はその研究室を後にした。束が見つめたケーブルに繋がれたISはネイサンと同じA-10ThunderboltⅡだった。




次回予告
タッグマッチ戦から数日後、ネイサンはレゾナンス近くに行きキャスパーと合流し、料理の上手いお店を探して歩いていると、鈴と会った。鈴は父親の中華飯店が近くにあるとのことでキャスパー達を誘うと、キャスパー達は承諾し鈴の父親の中華飯店へと向かった。
次回
別れは唐突に~お願いネイサン、私に人殺しの技術を教えて~


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19話

タッグマッチ戦中止から数日後、学園にある取調室には手枷を付けられ、目の下に隈をつくったラウラが椅子に座らさせられ、スコールに尋問されていた。

 

「それじゃあもう一度確認します、ラウラ・ボーデヴィッヒさん。貴女が乗っていたISにVTシステムが搭載されていたのは貴女は知らなかった。そしてタッグマッチ戦で試合中に投影モニターに『力を欲するか?』というメッセージが突如表示され、貴女は疑問を抱かずに決定ボタンを押した所で、VTシステムだと気付いた。そう言う訳ね?」

 

「……そうです」

 

ラウラはぼそぼそとした声で答えた。

 

「分かりました。彼女を医務室に戻して」

 

そう言うと、部屋の隅に居た教師達がラウラを立たせ医務室へと連行した。一人残ったスコールは手元にある資料、報告書に目を向ける。

資料にはラウラが乗っていたISに関するデータなどが記載されており、報告書にはドイツからのVTシステムに関する報告などが書かれていた。

ラウラが乗っていたISには、確かにVTシステムらしき物が組み込まれていた事が分かり、多数のプログラムなどでカモフラージュされていた為、発見は困難を極める物だった。そしてこのシステム発動の条件が搭乗者が強い欲望を抱いた瞬間に最終チェックまで行き、後は欲望に忠実となった本人が決定キーを押すことで発動することが分かった。

そしてこのVTシステムを載せたと思われるドイツ側は、全く知らない。本人が織斑千冬になりたいと言う欲望でVTシステムに手を出したかもしれないと報告してきた。

本来ならばそれで納得するが、一人の天災はそんなことで納得するはずもなく、VTシステム開発に携わったドイツの研究員から軍の幹部、そして政府高官を次々にネット上にそのプロフィールなどをばら撒き、真相を赤裸々に晒した。その結果ネット上にあげられた人物達は次々に逮捕されていった。

報告書にはラウラの怪我の状況なども記載されていた。ラウラはVTシステムに飲み込まれた後も、何とか意識は有ったものの、体が自由に動かずにいるとネイサンと鈴の激しい攻撃、そして最後のネイサンのフルバーストを受けた結果、ISに乗ること、そして暗い場所などに行くとVTシステムに飲み込まれた記憶が呼び覚まされ、体が痙攣する症状を患ってしまったのだ。いわゆるPTSD、心的外傷後ストレス障害に陥ってしまった。

 

「これで彼に馬鹿な真似をしてくる人物が減ればいいんだけど」

 

スコールはそう言いながら、資料などをまとめ取調室を後にした。

 

寮の自室で学生服ではなく私服へと身に纏ったネイサンはレゾナンスへと向かっていた。そしてモノレールを乗り継ぎ、目的のレゾナンスへと着くと入口に目立つ人達を見つけ、近付く。

 

「お待たせしました、キャスパー」

 

「やぁネイサン。それじゃあ早速旨い料理屋を探しに行こうか」

 

そう言い私兵達とネイサンと共にキャスパーは歩き出した。暫くレゾナンスを歩いていたが、キャスパーが行きたいと思えるお店は結局無く、レゾナンスから少し離れた場所を探すこととなった。

 

「う~ん、なかなか美味しそうと思えるようなお店は無いなぁ」

 

キャスパーがそう言いながら歩いていると、ネイサンは見覚えのあるツインテールの少女を見つけ声を掛けた。

 

「鈴」

 

「ん? あらネイサンじゃない。それと、そっちは?」

 

鈴は綺麗な髪色と思いつつ誰なのか聞くと、キャスパーは名を名乗った。

 

「初めまして、僕はキャスパー・ヘクマティアルだ。彼とは友人みたいなものだよ」

 

そう言い手を差し出すキャスパー。

 

「凰鈴音と言います。中国の代表候補生をしています」

 

そう言い差し出された手を握り返す鈴。ネイサンはどうして此処に居るのか気になり、鈴に聞く。

 

「ところで、鈴。こんな所で何をしているんですか? 臨海学校の準備をするならレゾナンス内がいいはずなのに」

 

「えぇ、実はこの近くにお父さんが経営している中華料理屋があるの。昨日連絡したら久しぶりにご飯を食べようって事で今向かってるのよ。そうだ、皆さんも来ますか? 父の中華料理、凄く美味しいんですよ」

 

そう言われキャスパーと僕は賛成と即決し、ネイサンも中華も悪くないかと思い賛成し鈴と共にその中華料理屋へと向かった。

そして鈴の案内でそのお店の近くまで来たネイサン達。

 

「あそこのお店です」

 

そう言い鈴が指さした方向には『劉中華飯店』と書かれた看板が有った。キャスパーはへぇ~と声をあげている中、ネイサンと私兵達はその店の前にある車へと注意を向けていた。すると店から数人の男女が出てきて店の前に停まっていた車へと乗り込み何処かに去って行った。

それを見ていたチェキータとネイサンは鋭い目線を去って行った車へと向けていた。

 

「……ネイサン」

 

「えぇ、嫌な予感がします」

 

そう言っていると、着メロが鳴り響き鈴はポケットに手を入れスマホを取り出す。

 

「あ、お父さんからだ。もしもし、お父さん。『り、鈴、はぁ、はぁ。今、何処だ?』え、お店の近くだけど、お父さんどうしたの? 『く、来るんじゃない、鈴!……ブツッ』お父さん? お父さん!」

 

鈴は突然切れた事に不安に感じ店に向かって走り出そうとした瞬間、店の入口から突然爆発が起きた。ネイサンは直ぐに鈴を守る様に覆い被さる。キャスパーもチェキータや他の私兵達が盾となって守った。

鈴は突然の爆発に放心となっていたが、直ぐに我に返り店の方へと顔を向ける。

 

「嫌。……そんなの嫌。……お父さぁーーーん!!?」

 

鈴は涙を流し叫びながら燃え盛る店に突入しようとネイサンの腕の中で暴れる。

 

「ダメだ鈴! 入ったら君も危ない!」

 

「離して! お父さんが! まだお父さんが中にいるの!」

 

鈴は泣き叫びながら手を伸ばす。そしてお店からまた爆発がした瞬間、流石に鈴ももう父は助からないと分かり力なく項垂れた。その後消防車や警察が到着し消火活動が始まり、火は数時間後に鎮火した。そして燃えた店の奥にあるキッチンから一人の男性遺体が見つかった。遺体は警察署へと移送され鈴は元とは言え実の親の為確認するべく警察署へと向かった。そして遺体安置所へと入った鈴と付添人のネイサン。警察官はゆっくりと顔に置かれている布を捲ると、酷い火傷の状態だがそれでも顔は確認できた。鈴は顔を見た瞬間に涙が流れ始める。

 

「ち、父です。うぅぅ、お父さん、なんで……」

 

鈴は涙を流しながら崩れ落ちそうになったのをネイサンは抱き留め、安置室から退出し近くにあった椅子へと座らせる。

 

「……鈴」

 

「うぅぅ、ひっく。何で…。お父さん……」

 

ネイサンは涙を零す鈴をどう慰めるべきかと悩んでいると、キャスパーがやって来た。

 

「ネイサン、ちょっといいかい?」

 

そう言われネイサンは泣く鈴を置いて、キャスパーと共に警察署から出て人気のない場所へと移動した。

 

「それで何ですかキャスパー?」

 

「さっき知り合いの警察官に聞いたんだけど、彼女のお父さん。どうやらある組織からお店を追い出されそうになっていたようなんだ」

 

「追い出されそうになっていた?」

 

「うん。その組織って言うのがあの辺で強引な方法で土地を奪い取って新たな店を建てさせている奴らみたいでね。しかもその組織の社長は僕の大っ嫌いな女尊男卑の屑って言う訳」

 

キャスパーの説明にそう言う訳かとネイサンは納得するように頷く。

 

「なるほど。つまり鈴のお父さんは頑なに土地を明け渡さなかったために、しびれを切らしたその組織が直接手を下しに来たって言う訳ですか」

 

ネイサンはイラついた表情を浮かべていると、キャスパーは珍しい物を見たと言わんばかりに顔に笑みを浮かべる。

 

「へぇ~、君でもそう言った表情をするんだね」

 

「僕だって人間です。ムカついた事やイラっとすることがあれば、顔には出ますよ。けど普段は見せないようにしているんですが、流石に親友の親が殺されたことを聞けば我慢できませんよ」

 

そう言っていると、ネイサンはふと背後に気配を感じ振り向くと其処には鈴が立っていた。

 

「り、鈴。聞いていたのか……」

 

「……ねぇ、ネイサン」

 

鈴は真っ赤に張れた目をし、憤怒に染まった顔をネイサンへと向ける。

 

「私に人殺しの技術を教えて」

 

鈴の頼みにネイサンは難色の顔を浮かべる。

 

「……一応聞きます、一体何の為にですか?」

 

「決まっているわ! お父さんを殺したあいつ等を皆殺してやる為によ!」

 

鈴は父親を殺され、その復讐に囚われている。そうネイサンは瞬時にそれを感じ取った。

 

「……駄目です。復讐を成し遂げた所で貴女に待っているのは破滅しかありません」

 

「破滅が何なのよ! もう私には破滅以外何もないわよ!」

 

そう叫び、涙を流す鈴。そしてぽつぽつと語りだした。

 

「私の親は中学の時に離婚したの。そしてお父さんは日本に。お母さんと私は中国に帰った。当時の私は何故離婚したのか全然分からなかった。けど私が代表候補生になって数日が経ったある日に家に警察が来たの。君のお母さんは見ず知らずの男を脅迫して金を巻き上げた。って言われたわ。お母さんはそのまま逮捕されて刑務所に入れられた。そして数日後に刑務所内で首を吊って死んだ。だから私には家族と呼べたのがお父さんだけだった。けどそのお父さんが殺された。もう私には家族と呼べる人が誰一人いないのよ!」

 

鈴が涙を零し続けるのを見たネイサンは、鈴の気持ちに応えてやりたいと思う反面、復讐に囚われた人間がその復讐を成し遂げた後、その人間は目的が無くなった後に待っているのは自殺と言う悲惨な末路だと言うことを知っている為に鈴に復讐をして欲しくないと言う気持ちが有った。

 

「それじゃあ僕から提案を出そう」

 

突然のキャスパーの発言にネイサンと鈴は顔を向ける。

 

「……提案?」

 

「そうだ凰さん。君が人殺しの技術を欲するならそれを僕が提供しよう。だが世の中は物を与えるなら何かを貰わなきゃいけない。言っている意味は分かるね?」

 

キャスパーの提案にネイサンは鋭い視線を向ける。

 

「キャスパー、それは彼女の殺人に手を貸すって言う意味ですよ。どう言う訳ですか?」

 

「おいおい、まだ話は終わってないぞネイサン。凰さん、君に払って欲しいのは君のそのISに乗る腕だ」

 

「え? お金じゃなくて……私の腕?」

 

鈴は訳が分からないと言った表情でいる中、キャスパーは続けた。

 

「そうだ。実は商談に行くともう少し安くしろとか、タダで商品を渡せってISを使って脅してくる奴らが多いんだ。僕の妹も同じように商人として世界中を回っているんだけど、妹が居る地域はアジア圏に次ぐ女尊男卑が激しい場所でね。僕はチェキータさん達が如何にかしちゃうけど、妹は分からない。もしISを使って襲われたりしたらISを使えるネイサン一人では護衛が厳しい。だから君には抑止力の一人として妹に加わってあげて欲しいんだ」

 

そう言われ鈴は考えさせられた。提案に乗れば父を殺した連中に復讐が出来る。だがそれは今まで頑張って会得出来た代表候補生の地位を捨てなければならない。そして悩みに悩んだ末に鈴は答えを出した。

 

「……分かりました。貴方の提案に乗ります」

 

その答えにキャスパーは笑みを浮かべ、持っていたカバンから紙を一つ取り出し手書きでサラサラと何かを書き、鈴の方へと見せた。

 

「それじゃあこの部分に自身の名前と指印を押してくれ。それとちゃんと条件部分はしっかり読んでおくようにね」

 

「分かりました」

 

そう言い鈴は受け取った紙の条件の部分をしっかりと読んでいると、突然紙を握っていた手に力を籠めるが直ぐに力を抜き名前と指印を押し紙をキャスパーへと手渡した。

 

「うん、確かに。それじゃあネイサン、彼女の教育任せたよ」

 

「……どういう事ですかそれ? 後、さっきの答えを聞いていないんですが」

 

「おっと、そうだったね。まぁ簡単に言えばこれが彼女の一番いい選択だと思ったから提案したんだ」

 

そう言いキャスパーは鈴が署名した紙をネイサンへと見せた。紙には以下の条件が書かれていた。

 

『・今回の復讐をすべてをネイサン・マクトビアに一任する(一日で殺しの技術なんてものは身につかない)

 ・殺しの技術、知識などはネイサン・マクトビアに教えてもらう

 ・ある程度知識、技術等を身に付けたらネイサンの相棒として共に行動する』

 

「……なるほど。こういう訳ですか」

 

ネイサンはキャスパーの考えに驚きを越え、呆れた表情を浮かべる。すると鈴は俯いた状態でネイサンに近付き、袖を掴む。

 

「ネイサン。本当だったら私があいつ等に手を下したいけど……。私にはアンタみたいに殺しの技術も知識もない。だからお願い……」

 

俯いた状態でいる鈴の顔から涙がポタポタと落ちていくのを見たネイサンは、はぁ~。と息を吐き鈴の頭に手を置く。

 

「分かりました。だからもう泣かないでください。後は僕が如何にかしますから」

 

そう言いながら頭を撫でるネイサン。鈴は小さく「ありがとう。」と言った。

 

そして鈴を先に学園へと帰し、ネイサンはキャスパーにある事を頼む。

 

「今回の件、貴方にも手伝ってもらいますからねキャスパー」

 

ネイサンのジト目にキャスパーは笑いながら頭を掻く。

 

「まぁ勿論いいよ。それに潰す予定の組織は僕のビジネスにも関係しているみたいだしね」

 

そう言われ、ネイサンは首を傾げる。

 

「何処かの組織と繋がってるんですか?」

 

「組織と言うよりも同業者かな。最近女尊男卑を撤廃しようとしている国に居る女性権利団体に武器を売ってる商人が例の組織と繋がっているみたいでね。武器を買う金は組織が用意し、そして商人が武器を買って世界中に居る女性権利団体に売っているみたい。僕としては担当地域で勝手にそんなことをする奴は見過ごせないからね」

 

そう言いながら、待機していた車へと向かうキャスパーとネイサン。

 

「明日までに学園に戻れば大丈夫だよね?」

 

「えぇ、明日も休みだし担任の教師にも会社から呼び出しが有った為帰りが最悪明日の朝になりますって伝えてありますし、問題ないですよ」

 

「それじゃあ今日の夜にでも決行しちゃいましょうか」

 

キャスパーはそう言いながらネイサンと共に車に乗り込み、その場を後にした。




次回予告
チェキータ達と共にネイサンは鈴の父を殺した組織へと乗り込み、組織を壊滅させた。そして学園へと戻ってきたネイサンを出迎えた鈴。そしてネイサンは殺しもとい傭兵としての技術を教え始めた。数日後、臨海学校が始まった。
次回
相棒(バディー)


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20話

投稿遅れて申し訳ないです。リアルが本当に忙しくなってきたため、今後もちょくちょく投稿が遅れますが、どうかよろしくお願いします。


夜、ネイサンとチェキータ達はとあるビル近くに停めた車の中にいた。

そしてそれぞれ黒い服装をしていた。

 

「それじゃあ、作戦を説明するわね。目的はこのビル内に居る要人の暗殺で数は3人。企業を運営している女幹部2人に、武器を密売している女よ。ISは持ってないから直ぐに片が付くわ」

 

チェキータはそう言いながら三枚の女性の顔が写った写真を見せる。

 

「それじゃあ、そろそろ行きましょうか」

 

そう言い、チェキータ達はドクロが描かれたバラクラバを被る。一人は車に残り、残りの4人はビルへと向かう。

ビル内へと入った4人。ポーはブレーカーがある部屋へと向かい、3人はエレベーターを使わず、外に置かれた非常階段を使い最上階まで昇る。そして扉をピッキングで開き中へと入る。そして長い廊下を進むと一際派手な扉が有った。

 

「この部屋ね」

 

チェキータはそう呟き中の様子を伺う。

部屋の中にはネイサン達の目的の女性3人が机をはさんで向かい合うように談笑していた。

「全くうまくいったわね」

 

「えぇ。警察はガス漏れによる事故だったと処理したらしいし、後はあそこに儲けになりそうな店を建てるだけよ」

 

「本当に事が上手くいきすぎて怖いわぁ」

 

そう談笑している3人中、チェキータ達は持っていた拳銃のスライドを引き、初弾を込める。

 

「消灯のお時間よ」

 

そう無線越しにチェキータが言うと、ブレーカーのある部屋へと向かったポーがブレーカーを落とした。当然部屋は真っ暗となり部屋の中にいた女性達はうろたえた。

 

 

「いきなり何なのよ!」

 

「ちょっと何でいきなり電気が消えたのよ!?」

 

「わ、分かんないわよ!」

 

3人が狼狽えている中、3人は平然と中へと入りそれぞれ銃を構える。

 

「こんばんわ~」

 

チェキータがそう言うと、部屋に居た女性たちは一斉に声がした方向に向くと月明かりにドクロのバラクラバを付けたチェキータ達を見つけた瞬間、額に衝撃を受け絶命した。

 

「さて、仕上げをして帰るわよ」

 

そう言いそれぞれ絶命した女達の手に持っていた拳銃を握らせ引き金を引く。撃った相手は死体となった女だ。

 

「さて仲違いによって金を奪い合った結果による殺し合いと言う感じに出来たわね」

 

「だったらこれもばら撒いときますか」

 

そう言いネイサンは机の上に金の入ったアタッシュケースを置いておく。そしていくらか札を血の海にばら撒く。

 

「工作完了ね。それじゃあ撤収よ」

 

そう言いチェキータ達はビルから脱出し、その場を去った。

その後、電気工事士が電気整備の為ビル内に入り現場を発見した。業者はすぐに警察に通報し、到着した警察はチェキータ達の工作によって金を巡っての仲違いによる殺し合いだと判断し、容疑者死亡のまま送検した。

 

仕事を終えたネイサンは学園の門前まで送って貰い、学園内へと入って行った。するとネイサンは門にもたれる様に座っていた鈴を見つけた。

 

「鈴、そんなところで何をしているんですか?」

 

そう声を掛けると、鈴は顔をあげる。

 

「……あいつ等を殺してくれたの?」

 

「えぇ。君が望んだとおり片付けてきました」

 

そう言いながら学園内に入ろうとするネイサン。

 

「ありがとう、ネイサン。お父さんの仇をとってくれて」

 

鈴は力の無い自分に悔しがるように手を握りしめ、ネイサンに感謝する。ネイサンは素直にその感謝を受け取れずにいるが、気持ちを切り替え鈴に話しかける。

 

「……それじゃあ鈴、条件の通り今日から殺しの事教えていくから後でアリーナに来てください」

 

そう言い学園内へと入って行くネイサン。鈴は涙が溜まっている目を拭い、自身の新しい道を歩む為に頑張ろうと歩き始める。

 

(お父さん、御免ね。けど、もう大切なモノを失いたくないから、この道を進むって決めたの。だからこんな娘でも空から見守っててね)

 

鈴はそう思いながら学園内へと入って行った。

 

アリーナで動きやすい服装に着替え終えた鈴は軽く準備体操をしていると、大きめの箱を持ったネイサンがやって来た。

 

「それ何なのネイサン?」

 

「これですか? 訓練用の銃と、実銃が入ってます」

 

そう言い箱を置き蓋を開ける。中には2丁のアサルトライフルと2丁のハンドガンが入っていた。

 

「実弾を使った訓練はまだ早いのでまずは訓練用のを持ってもらいます」

 

そう言い銃口がオレンジ色に塗られているアサルトライフルと拳銃を渡される鈴。

 

「それとこれを付けてください」

 

そう言いネイサンが鈴に渡したのはチェストリグとレッグホルスターだった。

 

「これを? 分かったわ」

 

そう言い鈴は不器用ながらチェストリグとレッグホルスターを付ける。

 

「それじゃあまずレッグホルスターに拳銃を。そしてアサルトライフルを体から斜めになるようかけてください」

 

ネイサンにそう言われ鈴は拳銃をレッグホルスターに仕舞い、アサルトライフルを掛ける。

 

「では基本的な構えをするので、真似てください」

 

そう言いネイサンはマガジンのささっていないACRを構える。

 

「構える際に注意してほしいのは、撃つときは足を肩幅程開きます。そして銃を前に出すようにして肩、左手、右手、頬の4ヵ所で銃を抑えます。こうしないとライフルの反動に体が耐えきれず銃を大きく跳ね上げてしまい大変危ないです」

 

そう言われ鈴はライフルをしっかりと握りしめ、肩や頬で抑えるように構える。

 

「サイトを覗いている際、もう片方の目は周囲を警戒するために使うため閉じないように」

 

「わ、分かったわ」

 

鈴は慣れない銃の扱いに悪戦苦闘しながらも訓練に付いて行った。

 

「よし、では次にアサルトライフルからサイドウェポンに代えてください」

 

そう言われ鈴はライフルを下ろし、レッグホルスターから拳銃を抜く。

 

「サイドウェポンはライフルの弾が切れた場合、もしくは銃が故障した場合に使います。他にも狭い空間において拳銃はライフルより取り回しが容易の為、重宝出来ます。ではもう一度ライフルを構えてください」

 

そう言われ鈴はアタフタしながら拳銃をレッグホルスターに仕舞おうとしたが、うっかり落としてしまう。

 

「まだ初日だからそんなに焦らなくても大丈夫ですよ。落ち着て」

 

そう言われ鈴はう、うん。と言い落した拳銃を拾いレッグホルスターに仕舞いライフルを構える。

 

「では続けます。サイドウェポンに切り替えて」

 

そう言われ鈴はライフルを下ろし拳銃を構える。その際、鈴は片方の手で構えてしまう。

それにネイサンはすかさず注意する。

 

「鈴、片手で銃を撃つのは出来るだけ避けるように」

 

「え? でも映画とかドラマで片手で拳銃を撃ってるシーンとか一杯あるわよ」

 

「あれはテレビだからこそ出来ることなんです。実際に片手で拳銃なんか撃ったところで当たる確率なんて低いんですよ」

 

へぇ~と鈴は感心しながら拳銃を両手で構える。

 

「ではそろそろ的当てをしましょうか」

 

そう言い的を置くネイサン。

 

「チェストリグにマガジンがささってますよね? それを銃にさしてください」

 

そう言われ鈴はマガジンを銃に差し込む。

 

「鈴に渡している銃はガスの力で弾を飛ばす物なので、実際の銃と同じ動作が必要です。では次に横にあるレバーを引いて下さい」

 

そう言われ鈴はレバーを引き、放す。

 

「ではサイトを覗きながら的を撃って下さい。今回は何処を撃っても構いません」

 

そう言われ鈴は引き金を引く。バスバスバスと弾が飛び出て的に当たる。そしてカチカチと音が鳴り、弾が切れたと鈴は判断した。鈴は射抜いた的を見て、ふふぅ~ん。と鼻を鳴らす。

 

「案外簡単ね」

 

「そりゃあガス銃だったら誰だって簡単に的を射抜けますよ。けどこれだったらどうですかね?」

 

そう言いネイサンは耳あてと銃口に何も塗られていないライフルと実弾が装填されているマガジンを鈴に手渡す。

 

「ちゃんと耳あてをしてくださいよ」

 

そう言われ鈴は言われた通り耳あてをして先ほどと同じようにマガジンを挿し、銃を構えて撃つ。だが最初の一発で肩に来た衝撃に顔を歪める。

 

「ちょっ!? さっきと全然違うじゃない!」

 

「そりゃあ実弾ですからね」

 

そう言いながらネイサンは鈴からライフルを回収し、マガジンを抜き本体から弾を抜く。

 

「今回は1発のみですが、これから先はもっと撃てる様に指導していきますので、ちゃんと付いて来てくださいね」

 

そう言いながら実銃とマガジンを箱に仕舞うネイサン。

 

「分かったわ。その代わりちゃんと指導してよね相棒(バディ)!」

 

鈴は肩を抑えながら笑顔をネイサンに向ける。ネイサンは朗らかな笑みを浮かべながら首を縦に振った。

 

 

鈴に殺しの技術を教え始めて数日が経ったある日、1年生達は臨海学校の為旅館へと来ていた。

 

「では、皆さん。それぞれパンフレットに書かれている部屋へと移動してください」

 

そう言われ生徒達はそれぞれパンフレットに書かれている部屋へと向かっている中、ネイサンは一人パンフレットを見ながら首を傾げていた。

 

「僕の名前が無いですね」

 

そう呟いていると、一人残っているネイサンを見つけたスコールが近寄る。

 

「どうかしたの?」

 

「いや、部屋割に自分の名前が無くて」

 

「それだったら心配ないわよ。貴方には離れの客室に「あの、少々宜しいでしょうか?」あら、女将さんどうかされましたか?」

 

スコールに話しかけた女将は申し訳なさそうな顔である事を打ち明けた。それを聞いたスコールは驚いた表情を浮かべ、直ぐに了承し考え込みネイサンに謝った。

 

「マクトビア君ごめんなさい。実は女将さん曰く離れにある客室の洗面所とかの水周りが今故障してるらしのよ。だから悪いんだけど教師と同じ部屋でもいいかしら?」

 

そう言われネイサンははぁ。と渋々と言った感じで了承し相部屋となる教師の部屋へと案内された。スコールは扉をノックすると、部屋から出てきたのは真耶だった。

 

「あれ、スコール先生どうしたんですか? それにマクトビア君も」

 

「実は――――」

 

スコールは先ほどの件を話し、同室を真耶にお願いした。話を聞いた真耶は任せて下さい!と胸を張って了承した。

そしてネイサンは部屋の中へと入り荷物を置く。

 

「すいません、山田先生。突然同室になって貰って」

 

「い、いえ! 大丈夫ですよ!……むしろ嬉しいくらいですし」

 

「はい? 何か言いました?」

 

「い、いいえ!? 何も!」

 

頬を真っ赤に染めながら首を激しく横に振る真耶に、ネイサンは首を傾げつつも海パンなどを入れた袋を持って立ち上がる。

 

「それじゃあせっかく海に来たので行ってきます」

 

「は、はい! 行ってらっしゃいませ」

 

部屋から出て行ったネイサンに真耶は頬を真っ赤に染めながらカバンに入れている水着を取り出す。出てきたのは黄色のビキニでこれを着た自分を想像する。

 

(マクトビア君……うんん、ネイサン君がこれを見たら綺麗って言ってくれるでしょうか?)

 

そう思いながら水着を着た自分に感想を送ってくれるネイサンを想像し真耶はイヤんイヤんと茹蛸みたいに染まった顔を手で隠し顔を振る。

その頃水着に着替え終えたネイサンは浜辺へと到着し、近くにある自販機で飲み物を買っていた。

すると背後からそぉーと近付く人物に気付き、気付いていないふりをしているが背後ギリギリになったところで手を鉄砲の形にし背後に居た人物に向ける。

 

「まだ気配が殺しきれてませんよ、鈴」

 

「あぁ~、もう! あと少しって処だったのに!」

 

鈴は悔しそうにネイサンの横を通り自販機にお金を入れジュースを買う。

 

「ですが、以前よりかは気配が殺しきれてますよ。後は射撃技術ですね」

 

そう言われ鈴はうぅ~ん。と悩んだ声をあげる。

 

「ナイフはISでも使ってるから、大丈夫だけど銃だけはねぇ」

 

「出来ないと部隊ではお荷物になっちゃいますから、それだけは回避しないといけませんからね」

 

そう言われ鈴は、ネイサンに世話になりっぱなしのため少しでも恩が返せるよう努力しないとと思いあることを頼む。

 

「ねぇネイサン。夏休みって何処か行く?」

 

「夏休みですか? 実家に一度帰りますよ。 それと久しぶりに部隊の皆にも会いますし」

 

「だったら、私も一緒に行きたいんだけどいい?」

 

「一緒にですか? まぁ雇い主にも鈴の事を報告しないといけませんし、別に良いですよ」

 

そう言いネイサンは、バルメさんあたりに鈴の訓練を見てもらうのもいいかもしれないと考えを浮かべていた。

そして鈴とそこで別れ、ネイサンは一人浜辺を歩いていると、背後から声を掛けられた。

 

「あ、ネイサン君此処に居たんですか」

 

そう言われ振り向くと其処には頭に麦わら帽子をかぶり、黄色のビキニを着た真耶が立っていた。

 

「どうも山田先生。その水着お似合いですね」

 

そう言われ真耶は頬を染めながらあ、ありがとうございます。と言う。

 

「えっと、ネイサン君は泳がないんですか?」

 

「そうですね、もう少ししたら泳ぎに行きますよ」

 

そう言いネイサンはパラソルがある場所に移動し、日陰に座る。真耶もその横に座る。

 

「そう言えば、呼び方替えられたんですね」

 

「え!? えっともしかしてダメですか」

 

真耶は少し悲しそうな表情を浮かべながらそう聞くと、ネイサンは首を横に振る。

 

「いえ、何時もネイサンと呼ばれていて下の方で呼ばれたのは余り無かったものですから。そっちの方がしっくりくるので大丈夫ですよ」

 

そう言われ真耶はそうですか!と喜び海を眺める。

 

「……ネイサン君は学園を卒業したら何をするんですか?」

 

突然の真耶からの質問にネイサンはうぅ~んと悩んだ声を出すが、直ぐに答えを出した。

 

「まぁ変わらずHCLI社社員護衛PMCの一員ですかね」

 

そう言われ真耶はそうですか。と元気のない声で返した。ネイサンはそのことに気が付いていたが、生徒が危ないことをするのが心配なためなんだろうと解釈しまた海を眺め始めた。真耶はネイサンの傍に居たいと言う思いがずっとあったが、言った所で彼とは離れ離れになるしかないと言う未来しかなかった。自身に身に付けているのはISに乗る技術、それも大会などで有利に戦うための物。実戦で、しかも生身の状態で戦えると言えば否である。だからこの思いが言えなかった。

そして時間は過ぎていき、遊ぶ時間は終了しネイサンは結局泳ぐことは無く旅館で夕飯をとり眠った。




次回
臨海学校2日目、専用機持ち達は訓練の為岩場に来ていると束が一つのコンテナと共にやって来た。そして箒を呼び自身が作ったISを渡す。そしてネイサンに箒と戦って欲しいと依頼される。箒は負けるはずないと思っているが、渡された機体にある秘密がある事を知る由も無かった。
次回
モルモット~ISはあげるとは言ったけど、強いISを渡すなんて一言も言ってないよぉ~。~


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21話

臨海学校2日目の朝、1年達は現場指揮を任されているスコールの元全員岩場へと集合していた。

 

「ではこれより郊外訓練を行います。では「お邪魔しま~~す!!」……どちら様ですか?」

 

スコールは知っているが、知らないふりをして束に話しかける。

 

「ん? 私に聞いてるのかい? 私はISの生みの親事、篠ノ之束さんだよ」

 

お決まりのポーズをとりながらそう言い、辺りを見渡す。そして目的の人物を見つけちょいちょいと手招きをする。

 

「はいは~い、箒ちゃ~ん。こっちにカモン!」

 

箒はついに自分のISが貰えると知っている為、口元が若干上がっていた。

 

「それじゃあ本日は箒ちゃんの誕生日って事でISのプレゼントだ!」

 

そう言うと上空から一機の若干薄い茶色のISが落ちてきた。

 

「これが箒ちゃんのIS、『天竺』だよ。箒ちゃんが得意な刀とか入れといたから有効に使ってね」

 

そう言い束は箒に乗るよう急かし、そしてあっと言う間にフィッティングを終えた。そんな光景を見ていた一般生徒達は不満を零す。

 

「身内だからって専用機を送るって……」

 

「なんかずるい……」

 

それを聞いた束はニンマリとした表情で生徒達の方へと向く。

 

「おんや~、この世界が何時から皆平等だって言われたのかな? 有史以来この世界に平等なんて言葉は何処にもないよ」

 

そう言われ、生徒達は何も言えず黙る。

 

「さて、それじゃあこの機体の性能を見たいから誰か相手をと」

 

そう言いながら首を左右に振り、相手を探す束。そんな中ネイサンは束が持ってきたISに疑問を感じていた。

 

(何故束さんはあのISに天竺何て名前を付けたんだ? 天竺っていうとインドの旧名が一番思い浮かぶ名前だ。それ以外に何か訳があるのか?)

 

ネイサンは考えに耽っていると、隣にいた鈴がネイサンの脇腹を小突く。そしてネイサンは意識が戻り辺りを見渡すと、生徒達は全員ネイサンへと顔を向けていた。

 

「えっと、何か?」

 

「何かじゃないわよ。博士がアンタをご指名よ」

 

鈴は呆れた表情で言うと、はい?とネイサンは呟き束の方へと向く。

 

「もぉ~、何度も呼んでるのに無視は酷いぞ~。君に対戦相手になってもらいたいんだぁ。良い?」

 

「申し訳ないDr.篠ノ之。自分は報酬が無い仕事は「それだったら大丈夫だよ。報酬付き」……なら引き受けましょう」

 

そう言うと、ネイサンはISを纏いに行く。すると鈴の元にネイサンからメッセージが届き、鈴は周りに見られないようにコッソリと開く。

 

『鈴、篠ノ之博士があのISに天竺と名付けた理由を探ってください。天竺に関連するものだったら何でも構いません』

 

そう書かれており鈴はネイサンに言われた通り天竺に関する情報を調べ始めた。

 

「それじゃあルールを説明するよ。勝負はどちらかのSEが尽きるまで。棄権とかは無しね。」

 

そう言いながら束はポケットから玩具の火薬鉄砲を取り出す。2人は飛び上がり武器を構える。

 

「ではよ~い、始め‼」

 

束は掛け声とともに火薬鉄砲の引き金を引く。音が鳴ったと同時に箒は刀を出して真っ直ぐ突っ込んできた。ネイサンはそれを難なく防ぎ、そのままAMWSで殴り飛ばす。

 

「ぐっ!? クソォ!!」

 

そう叫び箒はまた刀で攻撃してくるが、ネイサンはそれも難なく躱して今度は蹴りをお見舞いする。

 

「先ほどから突撃攻撃しかしてきませんね。そんな実力でISを願ったのですか? もはや努力して代表候補生になった人達に対する冒涜ですね」

 

ネイサンは箒にそう貶すと、箒は五月蠅い!と大声をあげ攻撃するが全て躱され、ネイサンから殴る蹴るを受ける。

地上に居た生徒達は、機体が最高でも乗り手が下手糞だとあぁなるのかとしみじみと実感していると、一人の生徒が束の方を見て戦慄した。束の顔が面白くないと言った表情だったからだ。

上空に居たネイサンはそろそろ終わらせるかと思っていると、突然ネイサンと箒に束が通信を入れてきた。

 

『御免ね~、ちょっと待ってもらってもいいかな?』

 

「何でしょうかドクター? まさかとは思いますが今更依頼を取り消すとは言いませんよね?」

 

『そんなんじゃないから安心していいよ。……ねぇ箒ちゃん』

 

束はネイサンに見せた笑顔から突然真顔へとなり、箒に問う。

 

『なんでそんなに弱いの? ISが欲しいって言うから強くなってると思ったのに全然弱いじゃん。どう言う訳?』

 

「っ!? 私が弱いんじゃないんです! このISが『私が作ったISが弱いって言う訳?』そ、そう言う訳じゃ……」

 

『もういい。そのISから降りろ』

 

束から突然ISから降りろと言われ、箒は信じられないと言った表情を浮かべる。

 

『私に電話を掛けてきたって事は、ISに乗れる位の実力が身に付いたと思ってた。けど実際はどうだ。全く機体の性能を引き出せてないじゃん。そんな奴はその機体に乗る価値は無い。さっさと降りろ』

 

束のドスのついた声には近くに居た生徒達は恐怖し後ずさる。

 

「い、嫌です! これはもう私のモノです! だから降りません!!」

 

箒は駄々っ子の様に拒否すると、束は真顔で返す。

 

『ふぅ〜ん。そう言うんだ。だったらそのまま乗っときなよ』

 

箒は束が折れてくれたと思った。だが実際は違った。

 

『死んでも知らないからね』

 

「え? どいう意味ですか?」

 

そう言うと同時に目の前にディスプレイが投影された。

 

「『オートモード起動』だと……。姉さんこれは一体…っ!?」

 

束にこのディスプレイの事を聞こうとした瞬間、自らの意思に反して突然ISが動き出した。ネイサンは突然動き出した箒に対処しようとAMWSを構え撃つが、先ほどと動きが違い躱しながら接近してくる。

 

(さっきと動きが違う。動きからしてアイツじゃない。という事はIS自体が勝手に動いているのか? まぁ何にしても依頼に変わりはないか)

 

そう思いネイサンは迎撃態勢に入る。

地上に居た生徒達は先ほどとは違う動きをしている箒に、遂に本気を出したのかと思っていると教師陣の中にいた千冬が束に詰め寄った。

 

「束! 貴様箒のISに一体何をした‼」

 

「別に何もしてないよ」

 

「嘘をつくな‼ あれは明らかに操縦者自身の動きじゃない!」

 

そう言われた束はニンマリとした顔つきで答えた。

 

「やっぱり気づいちゃったか。そうだよ、今あれは操縦者の意思とは違いIS自身が動かしてるんだよ」

 

「な、何でそんなことを?」

 

一人の生徒がそう聞くと、束が笑みを浮かべながら話す。

 

「何でかって? そりゃあ彼は私のお気に入りだからだよ。女性しか動かせないISを男性で動かした世界初の操縦者。ならあらゆるデータを取りたいのは研究者として当たり前の事。で、あのISにデータ収集用のシステムを組み込んでいたの。最初は無人で動くあのISを予定してたんだけど、ISが欲しいってアイツが言ったから有人機に変更したんだぁ。けど思っていた以上に弱くて、あれじゃあデータ採取が出来ない。だから載せたままにしておいたオートモードを起動したわけ」

 

そう言うと千冬は束に掴みかかる。

 

「今すぐあれを停めろ‼」

 

千冬の怒声に束はどこ吹く風の様に返す。

 

「無理」

 

「何!?」

 

「だってあれ、一度起動したらデータ採取が終わるまで停まらないもん。しかも外部からの停止指示も受け付けない。まぁ乗ってる人は絶対防御が張られているから大丈夫だよ」

 

そう言い自身を掴んでいる千冬の腕を外し、ディスプレイを確認すると嬉しそうな顔となる。

 

「お! さっきと違ってもう30%まで集まってるじゃん。このままいけば後数十分で終わるね」

 

上空では自身の意思に反して動くISを抑えようと箒は声を荒げるが、全く操作を受けつけ無かった。

 

「言う事を聞け‼」

 

そんな箒に構わずネイサンはAMWSとアヴェンジャーを構え、天竺を攻撃し続けた。そして天竺は攻撃を躱しつつデータ採取として相応しい攻撃方法を見出し、ネイサンに攻撃を繰り出す。

 

(束さんは一体何の為にあんなシステムを組んだんだ? データ採取くらいならハッキング等で直ぐに入手できるはずだ。それなのに依頼をだしてこんな事をさせた。何が目的なんだ?)

 

ネイサンは攻撃を躱しつつそう考えを巡らせるが、答えが見つから無かった。

 

(まぁ、夜にでも聞いてみるか)

 

そう思いネイサンは単一機能を発動する準備に入る。そして天竺は一気に接近してきた。ネイサンは待ってましたと言わんばかりに、AMWSを仕舞う。その行動を見た束は何をする気だ?とワクワクした表情で見る。

 

「単一機能、“エターナルディフェンス(不滅の防御)”‼」

 

そう言い天竺が振り下ろした刀を両手で止めた。いわゆる真剣白刃取りである。これを見た束は大興奮となった。

 

「凄いよ! そればっかりは束さんも思いつかなかったよ!」

 

「あの博士。どう言う事なんですか?」

 

束の興奮に生徒がどう言う事なのか気になり聞く。束はニンマリとした顔で興奮が治まらない状態で話す。

 

「彼が起動した単一機能不滅の防御はSEを消費せず、どんな攻撃にも耐えられる。戦闘機のA-10は片羽が故障しようが、エンジンが一つ無くなろうが基地へと帰還し、そして修理を施してまた戦場へと飛び立つ。正に戦闘機と同じどんな攻撃を受けても戦場が自身の居場所と言っている様な単一機能なんだよ。彼が武器を仕舞い、そして単一機能をどうして起動して攻撃を止めたか? そんなことは決まっている。動きを封じるためさ」

 

そう言いもう決着付ける気でいるみたいだし。と付け加える様に言いまたディスプレイの確認に戻る。

刀を掴み逃がさない様にした後、ネイサンは両肩のアヴェンジャーを天竺へと向ける。

 

「や、止めてくれ。 頼む一夏」

 

箒はこの距離からの攻撃に恐怖しネイサンに懇願するが

 

「悪いんだが依頼を受けた以上全うするのが傭兵なんだ。それと俺は一夏じゃない」

 

そう言いアヴェンジャーに装填されているAPFSDS弾を発射した。近距離から発射された弾は天竺の装甲を意図も容易く貫通し、絶対防御で守られている箒へと命中していった。弾は止められても衝撃は止められず体に激痛が走るほどの衝撃が襲った。

箒は声にならないほどの声をあげ、必死に逃げようともがくがISは言う事を聞かなかった。そして束の方は投影していたディスプレイに表示されているデータ収集率が100%を迎えようとしていた。

 

「97…98…99…100! はい終了‼」

 

そう言うと同時に箒のISに機械音声が流れた。

 

『データ収集終了。操縦権を搭乗者に移行します』

 

そう言うと操縦が箒へと戻るが、箒は体の痛みから動かせずそのまま落ちていき、下にあった無人島へと不時着した。

箒はISを解除しようとしたが、解除が出来ず焦った。

 

「な、何故だ! 何故解除されないんだ!」

 

解除しようとあれこれしていると、ディスプレイが突然現れ映ったのは束だった。

 

『ねぇ人の話聞いてた? SEが尽きるまで勝負は終了しないって。つまりSEが無くならない限りそのISは解除できないよ』

 

そう言われ箒は束に解除してもらおうと声を荒げようとした瞬間、目の前にA-10を身に纏ったネイサンが降りてきた。

 

「も、もう止めてくれ‼ 降参する‼」

 

もう立つことさえままならない箒は体を引きずりながら後退り、ズタボロの顔から涙を流しながらネイサンに懇願するがネイサンはAWMSとアヴェンジャーを箒へと向ける。

 

「悪いが、そんな事言おうが知ったこっちゃない」

 

そう言いアヴェンジャー、AWMS、そしてサイドワインダーを一斉発射し天竺の残りのSEを刈り取った。天竺のSEが尽きたのをハイパーセンサーで確認したネイサンはISを解除し地面へと降り立ち、土煙が立ち昇っている方へ眼を向ける。

そして土煙が晴れた先には生気の無い瞳から涙を流し、体中に痣が出来た箒が倒れていた。

 

「これ連れて帰らなきゃいけないのかよ」

 

ネイサンは気絶寸前で止めれば良かったと後悔しながら、箒へと近づいた瞬間背後にいる気配に気づき銃を構える。

 

「誰だ」

 

そう言うと手をあげ目を閉じた銀髪の少女が草むらから現れた。

 

「お初にお目にかかります。私はクロエ・クロニクルと申します。ご安心ください、敵ではございません」

 

「だが味方だと言う証拠もない」

 

そう言い構わず銃を構えていると、クロエの近くに束が映ったディスプレイが現れた。

 

『その子は私の助手だから、敵じゃないよぉ』

 

そう言われ束さんが言うのなら本当か。と思いネイサンは銃を仕舞った。

 

「それで、何故ここに?」

 

「束様に頼まれましてそちらに転がっている人を回収しに参りました」

 

クロエはそう言い箒に指をさす。

 

「そうか。だが君みたいな体格が小さな子がこいつを持てるのか?」

 

ネイサンは身長差がある箒をこのクロエが運ぶのは無理があると思っていたが、クロエは笑みを浮かべる。

 

「ご安心ください。私は束様から頂いたISを持っていますので」

 

そう言いクロエはISを展開し箒を担ぎ上げる。

 

「では束様が報酬を持ってお待ちしておりますので、一緒に来ていただけますか?」

 

「分かりました。ではそれをお願いします」

 

クロエは突然口調が変わったネイサンに首を傾げる動作をし、ネイサンは訳を話した。

 

「普段はこっちの口調を使っているんですよ。素は先ほどの口調ですが。イライラが募るとどうしても素の口調が出てしまうんですよ」

 

そう言いA-10を身に纏うネイサン。クロエはなるほど。と納得しネイサンと共に束達が居る岩場まで戻って行った。




次回予告
岩場へと戻って来たネイサンに束は報酬としてネイサン用のIS武器をプレゼントする。すると真耶が大慌てでやって来て緊急任務が舞い込み専用機持ちは招集された。だが戦力が圧倒的に少ないことに悩んだスコールに束がある人物を連れてきた。
次回
銀の福音戦~この子も戦力の一人に加えてあげて~


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22話

岩場へと戻って来たネイサンとクロエに束や他の生徒達が出迎えた。

 

「いや~、お疲れ様ぁ! クーちゃんも」

 

「いえ、大したことはしてませんよ束様。それでこちらはいかがいたしましょうか?」

 

そう言いクロエは担いでいた箒を地面へと降ろす。降ろされた箒に束は無言で近づき、箒に渡したISの待機形態である髪飾りを取り上げ、頭を掴み持ち上げる。そして目と鼻の先ほどの高さまで顔を持ち上げ黒い笑みを箒に向ける。

 

「データ採取に手伝ってくれてありがとうね、箒ちゃん」

 

そう言い掴み上げていた箒をまるでゴミの様にその辺に投げ捨てた。その光景には周りに居た生徒達、そして教師達は驚きが隠せなかった。いち早く千冬が箒に駆け寄り容体を確認する。

 

「お、おい箒大丈夫か!? 此処までする必要があったのかマクトビア‼」

 

千冬がネイサンにそう怒鳴るが、ネイサンはため息を吐きながら答える。

 

「僕は博士の依頼をこなしただけです。SEが尽きるまで勝負は終了しない。ならどちらかのSEが尽きるまで戦うしか道が無いでしょ」

 

そう言いネイサンは束の方に顔を向ける。

 

「ではドクター、報酬の方は何ですか?」

 

「うん、これが君への報酬だ」

 

束がそう言うと何処からともなくコンテナが現れ、そしてコンテナが開くとドイツが製造している汎用機関銃ラインメタルMG3をモチーフにされたLMGが現れた。

 

「ラインメイタル MK-57。57㎜砲弾を最大で毎分120発発射できるLMGだよ」

 

そう言いMK-57をネイサンに渡す束。

 

「確かに」

 

ネイサンはISを展開したままMk-57を受け取り武装を確認する。

 

「早速試し撃ちしてみるかい?」

 

束は笑みを浮かべながらそう言うとネイサンは疑問符を浮かべつつも頷く。

 

「え、えぇ。ですが狙えるような的がありませんよ?」

 

そう言うと束は大丈夫!とVサインをして、ある方向に指をさす。

 

「あそこを見て」

 

そう言われ全員束が指した方向を見ると、白い何かが海面上に浮いていた。

 

「あれは?」

 

「ん? 只の的だよ?」

 

ネイサンは、はぁ。と了承しMk-57を構える。千冬は箒を地面へと横たわらせ容体の確認を1組の副担任に任せ、束が言った的とは何だと思い副担任が持っていた双眼鏡で確認する。するとその的は自身が倉持技研に依頼させて造らせていたISだと気付く。千冬は待ったを掛けようとするが間に合わず、Mk-57の銃口から大量の57㎜弾が放たれISと言う名の的に命中し、木っ端微塵に破壊した。数十発ほど撃った後ネイサンはトリガーから指を放し的が有った海面に目線を向けた後ISを解除し束に感想を伝える。

 

「中々いい銃ですね」

 

「ふふぅ~ん。そりゃあ私が作った物だから当然だもん」

 

束はドヤ顔でそう言っていると、千冬が束を殴り飛ばそうと拳を振り下ろしてきた。だが束はそれを難なく掴み横目で見る。

 

「なに? ちーちゃんに殴られるような事してないんだけど」

 

「なぜあのISを的にした‼」

 

周りはあの的がISだと知り全員驚いた表情を浮かべ束へと向ける。

 

「別に良いじゃん、別段必要とされていないISなんだし。それにコアも外してあるからあれは只の鉄屑。ゴミをどう処理しようが束さんの勝手じゃん」

 

そう言い掴んでいた拳を振り捨て、目線を外す。

 

「さて私の目的は達したしそろそろ帰るね。それじゃあバイビィ~‼」

 

そう言って束はスキップをしながら去って行った。スコールはやっと帰ったわね。そう思い訓練を始めようと号令を掛ける。

 

「……ではイレギュラーは有ったものの訓練を「ス、スコール先生大変ですぅ‼」……またぁ?」

 

真耶が旅館から大慌てで来るのを見てスコールは、束の登場は予期できたことだが、流石に2回目のイレギュラーは想定できず声を漏らす。

 

「これを!」

 

そう言い真耶は持っていたPDAをスコールへと見せる。スコールは一体何事?と思いつつPDAを見た瞬間目つきが変わり顔をあげる。

 

「訓練は中止! 一般生徒達は全員それぞれの部屋に至急戻る様に。また許可無く部屋から出た場合はそれ相応の罰則が科せられるため全員出ない様に!」

 

そう声が岩場に響き、一般生徒達は一体何が?と疑問に持ちつつも教師達に連れられて旅館へと戻って行った。

 

「専用機持ちである貴方達は私に付いて来て」

 

そう言われネイサン、鈴、セシリアはスコールの後に付いて行き旅館へと戻って行った。

 

「―――ではこれより緊急指令を伝えるわ」

 

旅館の一室に集められたネイサン達にスコールは開口一番にそう言った。

 

「スコール先生、緊急指令とは一体何が起きたんですか?」

 

「その前にみんなに聞いておきたいことがあるわ。この指令は下手をすれば命をも落としかねないものよ。その為今すぐこの部屋から出て行ったところで別段責められることもないわ」

 

そう言うとセシリアと鈴は顔に若干暗い影が差すが、ネイサンに関しては特に何もなかった。

 

「…覚悟は良い様ね? では具体的な内容を説明するわ。今から4時間ほど前、アメリカとイスラエルが合同で軍事用のISの研究をしていたらしいんだけどそのISが暴走し、此方に接近中とのことよ」

 

スコールから出た軍事用と言う言葉にネイサン達は顔が歪む。

 

「…軍事用ですか」

 

「何よそれ、アラスカ条約ガン無視のISって言う事?」

 

「そ、そんなISを私達でどうしろと?」

 

セシリアの問いにスコールは真剣な表情で答えた。

 

「IS学園上層部から下された指令はこの暴走したISの撃破よ」

 

「「!?」」

 

その指令に鈴とセシリアは驚いた表情を浮かべ、ネイサンはやっぱりかと言った表情を浮かべる。

 

「貴方は予想出来たって言う表情ね」

 

「えぇまぁ」

 

「本来であれば、自衛隊が今回の件に対処するんだけど残念ながら接近しているISにいち早く対処できる駐屯地が接敵まで時間がかなり掛かるため、ISから最も近い所に居る私達が対処することになったわ」

 

そう言われスコールはネイサン達を見渡すが、口から息が零れる。

 

「けど、現状私達には軍用に対処できるほどの戦力が無いわ。その為自衛隊が「それよりもっといい方法があるよ~」…帰ったのでは?」

 

突然天井からぶら下がる様に現れた束に部屋に居た教師達はギョッと驚いた表情を向ける中、束は笑みを浮かべながら訳を話す。

 

「な~んか私の大切な子供で悪いことをしているって知って戻って来たんだぁ。それで戦力が不足してるんだよね? だったらこの子を連れて行ってあげてよ」

 

そう言い束は部屋と廊下を隔てる襖の一つを開けると、バイザーを付けた一人の少女が居た。

 

「この子は私の部下の一人だよ。それでどうかな? 別段報酬やら何やらは要らないし」

 

束の部下を貸してあげると言う申し出に、鈴達はありがたいと思う。

 

「それはありがたいです」

 

「別にお礼とかはいいよ。ただ戦力不足が原因でお気に入りである男子操縦者が死ぬのは見たくないだけだからね」

 

そう言って束はそれにしてもと言いため息を吐く。

 

「IS学園って無能な生徒が多いの? 聞いた話じゃ2人の専用機持ちが独房や格子付きの病室に放り込まれているって聞いてるよ。しかも其処にいる縦ロールも私のお気に入りに喧嘩売ったそうじゃん。まぁボコボコにされて借金背負う事になったみたいだからいい気味だけど」

 

そう言い目線をセシリアへと向ける束。

 

「あ、あれは織斑先生に頼まれて「けど頼まれる前にも喧嘩売ってるそうじゃん」そ、それは……」

 

「言い訳があるなら聞いてあげるよ。けど言い訳したところで真実は変わらないから」

 

そう言い束は目線を外しスコールの方へと向ける。

 

「それで作戦は今始めるの?」

 

「えぇ。マクトビア君達は「……申し訳ありませんが、わたくしは降ります」…そう。それじゃあこの部屋で聞いた事は他言無用よ。香澄先生彼女を一般生徒達の所に」

 

セシリアは俯きながら教師に連れられて部屋から出て行く。それを見た束は廊下から顔だけを出してセシリアの後姿に目線を向けながら、セシリアに聞こえるような声で呟く。

 

「何だよ、自称エリート様は肝っ玉が小さいなぁ!」

 

そう言われセシリアはビクッと背中を跳ね上がらせ、そっと後ろを見るとニタニタした顔を自身に向ける束を見て足早に教師と共に去って行った。

 

「あの篠ノ之博士、あまり本校の生徒を苛めないでくれませんか?」

 

スコールは呆れた表情でそう言うと、束はてへっと舌を出す。

 

「それじゃあマクトビア君、凰さん、そして……貴女達3人で撃退をお願いね」

 

スコールがそう言うとネイサンと鈴、そしてバイザーをした少女は頷き部屋を後にした。砂浜に整列しそれぞれISを身に纏いそれぞれ砂浜を発った。

ネイサンは束が連れてきた少女に気付かれない様に目線を向ける。少女はネイサンと同じ全装甲(フルアーマー)タイプの機体でネイサンと同じAWMSを両手に持ち、背中にも同じAWMSを1丁と長い刀を付けていた。

 

(束さんが連れてきた彼女は一体何者なんだ? 見た目からして十代前半辺り。恐らく俺より下か)

 

ネイサンは束が連れてきた理由を考えに耽っていると、無線がそれぞれに入り意識を戻す。

 

『こちら本部、皆さん聞こえますか?』

 

無線の相手は真耶で、心配しているのか声に張りが無かった。

 

「こちらネイサン、感度良好。接近中のISに関する新たな情報が入ったのですか?」

 

『その、篠ノ之博士がアメリカ政府のネットワークにハッキングして入手した情報を今からそちらに送ります』

 

真耶からの報告に一部国際問題待ったなしの発言が含まれており、鈴はうぇっ!?と声をあげた。

 

「……了解です。データ確認しました。……オールレンジ型のISで、人は乗っていないですね」

 

「こ、これ攻撃を受けたら本当にヤバいヤツよね?」

 

鈴は今から相手にするISが本気で人を殺す為のISだと分かり、声が若干震えていた。

 

(タッグマッチの時みたいな相手じゃ、甲龍だと対処できない)

 

鈴は自身のISでは太刀打ちできないかもしれない。そう思い暗い影が落ちる。

 

「鈴」

 

すると突然ネイサンが鈴を呼ぶ。鈴は顔をあげるとネイサンが顔を自身に向けていた。

 

「怖いのは分かります。僕だって怖いです。ですが今此処で逃げたら多くの人があのISで犠牲になるかもしれません。少しでも時間を稼ぎ増援の到着を待ちます。現状僕達が出来るのはそれしかありません。倒そうとは考えず少しでも時間稼ぎをすることだけを考えてください。それと僕の相棒になるんでしょ? この位でへこたれないでください」

 

そう言われ、鈴は胸にあった不安が拭われ自身を奮い立たせるよう叱責する。

 

(そうよ。私はこれからアイツの相棒になるのよ。これからこういった戦いが何度もあるかもしれないのに、こんな初っ端で挫けてどうするのよ!)

 

そう言い気持ちを再度引き締め直し、前だけを見据え始めた。するとずっとダンマリしていた少女が口を開いた。

 

「目標と接敵までもうすぐ。安全装置解除(セーフティーアンロック)

 

そう言うとネイサンもセーフティーを解除し撃てる様に構える。

 

「目標を目視で視認! これより作戦に移ります‼」

 

目標のIS銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を確認したネイサンはそう言いAMWSの引き金を引き、攻撃を開始した。少女と鈴もネイサンの掛け声とともに散らばり距離をとりつつ攻撃を開始した。

 

「喰らえ‼」

 

鈴は龍咆を展開して、最大圧縮した空気を叩き込む。福音は最大まで圧縮された空気の攻撃を受けるも体勢を取り直し、攻撃を繰り出す。

 

「……」

 

少女は特に言葉を出さず淡々と言った感じにAMWSを構え、36㎜チェーンガンと120㎜を撃ちだす。射撃による攻撃が来たのを察知した福音はエネルギー弾を展開し、弾丸を消滅させて攻撃を防いだ。全方位にエネルギー弾を展開し移動を再開する福音にネイサンはサイドワインダーを発射し、動きを鈍らせようとするが、福音は接近するミサイルを検知しサイドワインダーに向けエネルギー弾を放った。

 

「クソ。実弾兵器では足止めにもなりそうにも無いな」

 

ネイサンはイライラが募りだし、素の口調が現れ始めた。

 

「だったら、単一機能を使って足止めをするのが良いんじゃないのか?」

 

するとネイサンの傍に少女がやって来てそう言うと、それしかないかと呟きネイサンは鈴に通信を繋げる。

 

「鈴、俺のワンオフでアイツを止める。その間に彼女と共に一斉攻撃を」

 

『た、確かにそれでアイツの動きは止められるかもしれないけどアンタが一番危険じゃない!?』

 

「これ以外方法は無い。本部、自衛隊の増援は後どの位で到着する?」

 

普段とは違う口調に通信に出た真耶は驚くも、自衛隊の位置を直ぐに確認し報告した。

 

『え、えっと現在航空自衛隊のF-4Jの2個小隊がそちらに向かっています。到着予定時間はおよそ20分です!』

 

「了解。それまで俺のワンオフで抑えます」

 

その報告をしたと同時にネイサンは通信を切った。旅館に居た真耶は驚いた表情を浮かべ通信越しに止めさせようと叫ぶ。

 

「ま、待って下さい! それは危険です! ネイサン君? ネイサン君‼」

 

後ろに居たスコールは険しい表情を浮かべながら隣にいた束に目を向ける。

 

「彼なら大丈夫だよ。あのISが持っている武器で彼のワンオフを如何にかできる可能性なんてほぼ不可能に近いからね」

 

束はそう言いながら、空間ディスプレイで何かを探っていた。

 

「ワンオフを起動する。出来るだけ注意を引いておいてくれ」

 

「……分かった」

 

ネイサンは隣にいた少女に援護を頼み、ギリギリでワンオフを起動する為一気にブースターを展開し福音の懐へと飛び込みに行く。

 

「聞こえたな? アイツの援護をするぞ」

 

通信越しに鈴へそう言い少女はAWMSで出来るだけネイサンに気が向かない様に援護を始めた。通信を聞いた鈴は無茶しないでよ!と内心そう怒鳴りながら圧縮空気のチャージを始めた。

そして2人の援護が功を奏しネイサンに気が囚われていない福音に、ネイサンはそのまま福音の前へと出て正面からタックルをするような形で動きを封じた。福音はエネルギー弾を展開してネイサンを引き離そうともがく。

 

「大人しくしろぉ‼」

 

ネイサンはワンオフが発動していられる間までは何とか耐えようと考えていると、福音はネイサンを引き剥がそうと腕を高く上げ振り下ろした。

 

「ネイサン‼」

 

そう叫び鈴は双天牙月で振り下ろされてきた腕を防いだ。

 

「下がれ鈴‼」

 

「ワンオフで攻撃は防げても、引き剥がされたら意味がないでしょ!」

 

そう叫び、ネイサンに向け振り下ろしてくる腕を鈴は必死に防いでいると、もう片方の腕を振り上げてくるのが見え、鈴は急いでそちらも防ごうとしたが福音の方が早く、ネイサンに振り下ろされようとした瞬間

 

「甘い!」

 

そう言い少女は背中に背負っていた刀で攻撃を防いだ。

 

「助かったわ!」

 

「礼はいらん。腕を破壊するぞ!」

 

少女はそう言い刀で腕を破壊しようと攻撃を繰り出した。鈴も同様に持っていた牙月で腕を破壊しようと攻撃を始めた。だが軍用のISの所為か、2人の攻撃のダメージは微々たるものだった。

 

「硬すぎる!」

 

「クソッ! 流石軍用と言うべきか」

 

2人が腕を破壊しようと頑張っている中、ネイサンはモニターに映っているワンオフの残りの起動時間に焦っていた。

 

(不味い。攻撃が激し過ぎてワンオフのタイムリミットが予想より早い!)

 

ネイサンはどうすれば。と悩んでいると、突然束からの通信が開かれた。

 

『マーちゃん、首の部分にスピアを刺して!!』

 

その言葉に少女は拡張領域から針のようなモノを取り出し、それを福音の首におもいっきり刺し込んだ。そして暫くして突然福音から『ギガガ』と機械が軋む音が鳴った後、福音は事切れる様にネイサンにもたれるように倒れ込んできた。ネイサンは突然福音が停止した事に驚き、少女が持っている針が何なのか聞く。

 

「そいつは?」

 

「これか? こいつはハッキングとかに使用する道具だ。まさかISにも使えるとは驚きだったがな」

 

そう言い針を拡張領域に仕舞い、オフレコだぞ?と少女は鈴とネイサンに言い現場から去ろうとした。

 

「ちょ、ちょっと何処に行く気よ!?」

 

「忘れたのか? 私は博士の部下だぞ? この国の役人共に見つかると五月蠅いから早急に退出させてもらう」

 

そう言い少女はネイサン達の元から去って行った。

 

「いいの、ネイサン?」

 

「まぁ彼女の言う通り、政府の連中に色々聞かれるより早急に去るのは得策だろ。それよりこいつを持つのを手伝ってくれ。結構重い」

 

そう言われ鈴は慌てて銀の福音を持つのを手伝う。それから数分後に航空自衛隊のF-4Jが現れ、最寄りの駐屯地まで銀の福音を運びネイサン達の任務は終了した。




次回予告
事件終了後、ネイサンは鈴と共に海辺が見える岸壁まで行くと其処には束が居た。すると束はネイサンに連れてきた少女をネイサンの妹として連れて行ってあげて欲しいと頼む。そして束は鈴にもある依頼を出す。
次回臨海学校~銀の福音編後半~

―――君が進もうとする道には必ず必要となる物だよ


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23話

銀の福音を航空自衛隊の駐屯地に運び終えたネイサンと鈴。二人が旅館へと戻って来た頃には陽が落ちていた。旅館へと戻って来たネイサン達を目に涙を溜めた真耶と、安心したような表情を浮かべたスコールが出迎えた。

 

「二人共お疲れ様。報告は明日の朝に聞くから、今日はもう休んでもらってもいいいわ」

 

スコールはそう言い、2人を労った後旅館へと戻って行く。

 

「グスッ。本当にお2人とも無事で良かったですぅ!」

 

涙声で真耶はそう言い、2人を旅館で待機していた保健医の元へと連れて行った。其処で身体検査を終えたネイサンはスコールに外出許可を貰い、旅館から出ようとすると

 

「何処に行くのネイサン?」

 

背後から声を掛けられ振り向くと其処にはジャージ姿の鈴が立っていた。

 

「ちょっと散歩ですよ」

 

そう言い立ち上がり出て行こうとすると、鈴も同じように靴を履き始めた。

 

「ならあたしも行くわ。ちょっと外の風に当たりたいし」

 

そう言われ、ネイサンは別に良いかと思い鈴と共に旅館を出た。

暫く道を歩いた後海が見渡せる岬へと続く山道へと入り暫く歩いていると、風に乗って怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「――――する気だ、束‼」

 

「別に、お前には関係ないじゃん。いい加減消えてくれない? お前と一緒に居ると折角の月見酒が不味くなるんだよ」

 

その声を聴いた鈴は織斑先生と篠ノ之博士?と小さく呟いた後、力強い足音が自分達の方に向かっている事に気付き、ネイサンは咄嗟に鈴を抱え草むらの中に隠れた。突然抱きしめられ草むらに連れ込まれた鈴は顔を真っ赤にして、ネイサンを怒鳴ろうと口を開こうとしたがネイサンが手で口を塞いだ。

 

「むぅーーー‼」

 

「しっ!」

 

ネイサンは人差し指で口を閉じる様言うと鈴は顔を真っ赤にしたまま黙る。そしてその前に怒り顔の千冬が通り過ぎて行った。千冬の気配が無くなったのを確認したネイサンは鈴を抱えたまま草むらから出てきた。

 

「行った様ですね」

 

「何が行った様ですね。よ! この変態!」

 

そう言いネイサンのすねに向かって蹴りをかました。咄嗟に避けることが出来なかったネイサンはそのまますねに蹴りが入り、ふごぉ~!?と悲痛な声をあげながら屈みこんだ。

暫くして痛みが引いた後、鈴と共に岬へと向かった。そして森を抜けて開けた場所へと出ると其処には地面にシートを敷いて日本酒だと思われる瓶とおつまみのスルメイカの入った袋を置きながら月見酒をしている束が居た。

 

「やっほ~、ネイ君。来ると思ってたよ。それとようこそりーちゃん。私の月見スポットへ」

 

束は2人を歓迎した後、コップを口に付け飲む。

 

「ぷはぁ~、やっぱり月見酒をするなら満月の日だね!」

 

そう言っていると顔をネイサン達の方へと向ける。

 

「それで、ネイ君。今日私に会いに来てくれたのはあの子の事だね?」

 

「えぇ。彼女が何者で、何故連れてきたのかそれを聞きに。後」

 

「アイツに渡したISの事だね」

 

2人が親しい者同士の会話をするのを鈴は訳が分からなかった。

 

「ちょっ、ちょっと待って下さい! ネイサン、アンタ篠ノ之博士と知り合いだったの!?」

 

「えぇ、傭兵時代に彼女の護衛を数日程してたんですよ」

 

ネイサンは昔から知っている事を隠し、仕事で知り合ったという感じで説明すると鈴はそれで納得した。

 

「さてそれじゃあ先にあいつに渡したISについて説明しようか。と、その前にりーちゃんにこれをあげよう」

 

そう言い鈴に向け束が投げたのは、束が箒に専用機と言ってデータ採集用に作ったと言ったISの待機形態だった。

 

「……あの、これってアイツが乗ってた天竺じゃあ」

 

そう言うと束は顔をニンマリとした状態で説明しだした。

 

「確かにそれは天竺だよ。けど本当の名前は天竺じゃないよ」

 

「どういう事なんですか?」

 

「君が想像している通り、天竺って名付けたのは天竺鼠(モルモット)にかけて付けたんだ。だって本当の名前は日本向けじゃないもん」

 

そう言い良いから展開してみなと束は鈴にISを展開するよう言い、鈴は不安な気持ちを抱きつつISを展開する。展開されたISは変わらず薄茶色だった。

 

「あの、これのどこを見れば日本向けじゃないって言えるんですか?」

 

「まぁまぁ待ちなって。はい、ポチっとな」

 

そう言い束は投影したディスプレイのボタンを押すと鈴の目の前にディスプレィが現れ、

 

『一次移行に移行します……完了』

 

そう表示されるとさっきまで薄茶色だった装甲が赤を基本とした装甲となった。

 

「こ、これって」

 

「これが本来のその子の姿。そしてその子の本当の名前は『紅龍』。中国やインドの神話に登場する紅い龍にちなんでつけたんだ」

 

そう言い酒を飲む束。

 

「ぷはぁ~、勿論武装も全て日本物から君がよく使っていた武装に変更してあるよ。あ、心配しなくてもオートモードも取り外してあるからね」

 

束からの説明を聞きISを解除し地面へと降り立つ鈴。鈴は何故このISを自分に渡すのか分からないと言った表情を浮かべていると束が訳を話した。

 

「その顔はそのISを何で自分に?って顔だね。訳はね、君の今後の為だよ」

 

「今後の為?」

 

「君はネイ君の相棒になるんでしょ?」

 

そう言われ鈴はどうしてそれを?と驚いた表情を束へと向ける。束は笑みを浮かべながらおつまみのスルメイカを食べる。

 

「ハムハム。君とネイ君が銃の練習をしてるのを偶々見ちゃってね。それでその理由を探ってたら君のお父さんが亡くなった事件があった時、ネイ君とあともう一人との会話がISの会話ログに残ってたんだよ」

 

そう言われ鈴はあの時のか。と落ち込んだ表情を浮かべる。

 

「そして君は今年の夏休みに専用機と代表候補生を国に返すんでしょ? そうなると君にはISが無い。そうすると契約の時交わした条件が守られない」

 

そう言われ鈴はキャスパーと交わした条件『ISの腕』が払えない事を理解し、首を縦に振る。

 

「だからそのISをあげたんだよ。おまけとして戦闘データと一緒にね」

 

そう言われあの戦いはその為の物だったのかと理解する。するとネイサンが待ったを掛けた。

 

「待って下さい束さん。そうなると貴女には全く利益がありませんよ」

 

そう言うと束は酒を一口飲んだ後、笑顔にした顔をネイサンに向ける。

 

「あるよ。君の戦闘データと言う利益、そしてあの子の笑顔」

 

そう言うと近くの木の影からバイザーを付けた少女が現れた。

 

「博士、私は別に笑顔になった覚えがないぞ」

 

「何言ってんのさぁ。ネイ君達と別れて戻ってきた時『……兄さん、かっこよかった』って言ってたくせに。うっささささ」

 

束は変わった笑い声をあげながら言うと、バイザーの少女は月明かりでも判るくらい顔を真っ赤にして言うなっ‼と怒鳴った。

 

「さてそれじゃあネイ君のもう一つの疑問、その子について話そうか。マーちゃんバイザー外して素顔見せてあげて」

 

そう言われマーちゃんと呼ばれた少女は顔に付けているバイザーを外す。その素顔を見たネイサンは僅かに驚いた表情を浮かべ、鈴は何処かで見たことがある顔と思い首を傾げる。

 

「この子はネイ君、君の実の妹だよ」

 

束がそう言うと鈴はえっ!?と驚いた声をあげ、ネイサンは何か心当たりがあるのか納得するような顔をする。

 

「やっぱりですか。父さんからお前にはもう一人妹が居るとは聞いていたんですが、まさかこんな形で会うことになろうとは驚きです」

 

「そりゃそうだろうね。それでネイ君にお願いなんだけど……」

 

束が何かを言いかける前にネイサンが先に答えを言った。

 

「その子と一緒に暮らしてほしいのでしょ? 僕は構いませんよ。ですが」

 

そう言い顔をマーちゃんへと向けるネイサン。

 

「僕の意思はいいですが、本人の口からちゃんと聞きたいんです。僕と一緒に暮らしてくれるのか」

 

そう言うとマーちゃんは顔をあげてハッキリとした口調で言った。

 

「私は、兄さんと居たい。血の繋がった家族と一緒に居たい」

 

そう言うとネイサンはやさしい笑みを浮かべ、手をマーちゃんの頭に乗せ撫でた。

 

「分かった。それじゃあえっと「マドカ。私の名前はマドカだ、兄さん」そうか、これから宜しくなマドカ」

 

そう言うとコクンと頷いた。

 

「さて、悪いんですが鈴。先に帰っててもらえないでしょうか」

 

「え、何で?」

 

「いや、長い間離れ離れに暮らしてた妹と色々話したいので。お願いします」

 

そう言うと鈴はあぁそう言う事ね。と呟く。

 

「分かった。じゃあ先に帰ってるわね」

 

そう言い鈴は旅館へと帰って行った。鈴が去っていき3人だけになったのを確認したネイサンは束に話しかけた。

 

「それで束さん。マドカはアイツのクローンで間違いないですよね?」

 

「やっぱり気づいてたんだぁ。そうだよ、マーちゃんはアイツのDNAで生まれた子だよ。ところでどうしてクローンだって気付いたの?」

 

「傭兵時代の時にある噂を聞いたんです。”織斑千冬のクローンが造られている”という噂を」

 

そう言うと束は、やっぱりかぁ。と呟きコップを口に付け傾ける。

 

「んっ。 確かにその噂は事実だよ。どっかの馬鹿な研究者が第二の織斑千冬を造ろうと画策してDNAを入手。それを元に作成したみたいなんだ。まぁそんな計画直ぐにばれるもんだけどね」

 

そう言い笑いながら酒を飲む束。ネイサンは大方噂を聞いてその研究者を探し出して襲撃したんだろうなと思い、苦笑いを浮かべる。

 

「所でネイ君。……君は今の世界は好きかい?」

 

「唐突ですね。……はっきり言えば好きじゃないですね。束さんの夢を兵器としか見てない政府連中。ISが乗れるだけで威張る女尊男卑連中。そんな女尊男卑を焚き付ける女性権利団体。そしてこんな世界にした白騎士こと織斑千冬」

 

「!?」

 

千冬の名前が出た事に束は驚いた表情をネイサンに向ける。

 

「何時から知ってたの? アイツが白騎士だってこと」

 

「今の勤め先に着いてからですよ。当時の映像が残っていた様なので見せてもらい、俺がまだ名を捨てる前の記憶から導き出した答えです」

 

そう言うと束はそう言えば道場に何回か連れて来られたことがあったね。と呟く。

 

「そうなると、私の事も「別に束さんの事は嫌いじゃないですよ。むしろ僕の姉だったら良かったのにって思えるほど好きですよ」……そっか~。ありがとうね!」

 

束が嫌いと言いかける前にネイサンが遮り、束は頬を赤く染めながらお礼を述べる。

 

「さて、そろそろ僕は旅館に戻ります。マドカ、○月×日にドイツの△□国際空港で合流な」

 

そう言うとマドカは分かった。と言いネイサンは岬から去って行った。ネイサンが岬を去ってから暫く無言だった2人。するとマドカが口を開く。

 

「所で博士。さっき織斑千冬と会話した内容、兄さんに話さなくて良かったのか?」

 

「ん~? あぁあれね。別に良いんじゃない、ネイ君に話さなくても」

 

そう言い束は先ほど千冬と会話したと言うよりも一方的に言ってきた内容を思い出す。

 

【何時からだ? 何時からネイサン・マクトビアが一夏だと知っていた‼】

 

【彼がいっくんだって? おいおい冗談は程々にしときなよ。あといっくんは死んだんだよ。遺体だってつい最近見つかったのに】

 

束がそう言うと千冬は驚いた表情を浮かべる。

 

【う、嘘だ!? じゃあ今旅館に居るネイサン・マクトビアは一体誰なんだ!】

 

【だから、彼はネイサン・マクトビア。誰でもなくジェイソン・マクトビアの息子だよ】

 

そう言い束は酒を飲む。千冬は束が何かを隠していると思い、殺気を出しながら問いただす。

 

【ふざけるなよ束……。あいつは私の弟の一夏だ。本当の事を言え!】

 

【ふざけてもいないし、本当の事言ってるし】

 

【いやお前は嘘をついている‼ 箒の事だってそうだ。専用機と言ってデータ採取用のISを渡した。束、貴様一体何をする気だ‼】

 

【別に、お前には関係ないじゃん。いい加減消えてくれない? お前と一緒に居ると折角の月見酒が不味くなるんだよ】

 

そう言うと千冬はこれ以上聞いても何も言わないと思い、拳を握り締め岬から去って行った。

 

「アイツは自分の弟の遺体を確認するまで兄さんの周りをチョロチョロし続けるだろな」

 

マドカの推察に束はニンマリとした表情で大丈夫と言う。

 

「もう手は打ってあるよ。恐らく昔からいっくんの事を知っている人達にとっては悲しい事だけど仕方ないよね。けど苦しい人生から解放されたと思えば、直ぐに前向きになってくれるでしょ」

 

そう言いコップを月へと掲げる束。

 

「ネイ君の今後の人生に幸が有らんことを」

 

そう言いグイっと束はコップに注がれている酒を飲みほした。

END




今回で第1期終了です。
今後の予定は夏休み編をやって第2期の文化祭までやって終了予定です。


次回予告(設定をあげた後の次話)
夏休みが始まりネイサンは国に専用機と代表候補生の席を返した鈴と共にドイツへと向かった。そして現地でマドカと合流しココ達が待っているホテルへと向かった。その頃真耶は何故か束に拉致されていた。
次回
新たな仲間
~君はネイ君と共に歩んで行きたいかい?~


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設定

※人物

・ネイサン・マクトビア(旧姓織斑一夏)

今作主人公で、原作の主人公。幼い頃から両親がおらず親の愛情を受けずに育った。唯一の家族である姉千冬に全く見向きもされなかった為、家出を考えドイツに行った際にホテルから飛び出し一人当ての無い旅へと出た。その際に父ジェイソン・マクトビアと出会い家族となる。それから数年後にジェイソンが肺がんで亡くなり、父と同じ傭兵の道へと歩みだす。父が残したコルトガバメントカスタムを大切にしており、自分が許した人間以外が触れるのを嫌がる。

傭兵としての性分の為、利益の無い仕事は引き受ける気はない。

交友関係は政府諜報機関から軍関係者、PMCの社長から国のトップ陣営などかなり広い。人の視線や殺気などは敏感だが、恋愛に関しては鈍感でココからの抱き着きや頬にキスなどは過剰シップじゃないのか?と首を傾げるなどしてレーム達から呆れられている。更に天然の女たらしの為何時の間にか真耶を堕としていた。最近は鈴が堕ち掛けている。

 

・ココ・ヘクマティアル

ヒロイン1号。性格等は原作通り。兄キャスパーがお気に入りと言っているネイサンの事が気になり呼んでもらうよう頼み、ネイサンと出会う。最初は護衛と雇い主と言った感じであったがいろいろ接していく内に恋心を抱き、抱き着いたり頬にキスなど過剰スキンシップをしてアピールしているが、ネイサンの唐変木のせいでなかなか気付いてもらえてない。しかも最近新しい女の影がチラついている事にカッチーンと頭に来ているが、他を愛人という事にするなら別に良いとも考えている。世界が嫌いで、戦争が無くなれば死んでいった者達への報いになるのではと考え友人の博士と何かを作っている。

 

・山田真耶

ヒロイン2号。IS学園の教師で元日本代表候補生。銃器を扱うのが得意で、実習などでは特にラファールをよく扱っている。学園へと入って来たネイサンと暫くの間同棲していて気付けば恋心を抱いていた。ネイサンと同じ道に行く為の方法を探している。

 

・凰鈴音

ヒロイン3号。原作通り活発で明るい子。中国代表候補生だったが、父親が女尊男卑に染まった連中に殺された為ネイサンと同じ傭兵となるべく代表候補生と専用機を返した。母親は女尊男卑に染まり、恐喝をして金を巻き上げて生活費にして暮らしていたが警察に捕まり刑務所に入れられた。それから数日後に長い刑期にうんざりし紐で首を括り自殺した。

復讐に囚われていた自分を助けようとしたネイサンには感謝しており、銃の扱いを教えてもらっている。最近胸を高鳴りを感じているとのこと

 

・篠ノ之束

ネイサンの自称姉。ネイサンが名前を変える前から気にしており、一人ぼっちになったり悲しそうな場面になったら何処からともなく現れて慰めていた。一夏がドイツに行った際はIS委員会の問題が舞い込んでいた為、それの対処に当たっていた。そして解決し終えた頃に一夏が行方不明になったことを知り実際にドイツに行ってあちこち探しまわっていた。それから数年後にISを戦争に使おうとしていた政府軍を排除させに行ったオータムの報告から反政府軍側に一夏とそっくりな人物を見たと報告を受け、光学迷彩を使ってこっそりとその人物、ネイサンから髪の毛を入手し、DNA検査で一夏だと分かりこっそりと手助けをしたりと陰ながら支えていた。

一夏事ネイサン第一で、ネイサンに危害を加えたりその周りでウロチョロして探ったりする人物は徹底的に排除する。だが純粋な恋心を持ち近付く者なら何もしない。むしろ応援する。

 

・マドカ・マクトビア

とある研究者が織斑千冬のDNAを元に作成したクローン。当初は自身が生まれる原因となった織斑一家を恨んでいたが束とスコール達に助けられた後、束が一夏について話すと同じように苦しめられていたこと、その後新しい人生を歩んでいると知り妹として一緒に傍で歩いて行きたいと考えていると、その夢を束に叶えてもらった。ネイサンの事が兄として好きで、ブラコン気味になり始めている。本人は否定しているが胸のペンダントにネイサンの写真を入れている。

 

・スコール・ミューゼル

束の部下で元亡国機業の構成員。ISを戦争の道具に利用しようとした亡国機業に反論したため牢屋にオータムと共に入れられていた所、束が無人機を使って亡国機業を潰しに来たところ助けられた。その後束の手足となりISを戦争利用に企てている政治家、軍関係者を暗殺していた。そんな時束からIS学園に入学するネイサンの身辺警護を頼まれ、教師として学園に潜入する。元から子供に勉強を教えるのが好きの為教職の免許を持っていた。教師を目指さなかった理由は誰にも分らない。

 

・オータム

束の部下で元亡国機業の構成員。スコール同様亡国にISの使い方に反論した為牢屋に放り込まれていたところを束に助けてもらった。スコールとは違いオータムは戦場に突如現れてはISを使っている側を攻撃し、ISコアを回収している。スコールが学園に行くことになった後も、世界中を飛び回り戦争に利用されようとしているISからコアを抜き取る仕事をしている。

 

・レーム達は原作通り

 

※アンチ人物

・織斑千冬

第1,2回モンドグロッソ覇者。ブリュンヒルデと言う称号を有している。一夏を自身のたった一人の家族と見ていて、本人は一夏を守る為に必死に生活費を稼ぐためバイトをしていたが、その行為が逆に一夏を苦しめていたとは知らなかった。一夏が行方不明になった後はギリギリまでドイツで一夏の捜索をしていたが、結局見つからず捜索を手伝ってくれたドイツ軍のIS部隊の訓練を見た後日本に帰って来た。それから数年後に政府の依頼でIS学園の教師をしていた時、IS用の武器を届けに来たココの私兵の中に一夏にそっくりなネイサンを見つけ一夏だと決めつけ話しかけるもあしらわれる。出来た溝が既に埋まらないほど深い事に気付かず、自身が乗っていたISと同じ単一機能を乗せたISを渡そうとしたが束の部下、オータムに盗み出され臨海学校の2日目にネイサンのA-10用の新兵器の的にされた。その日の夜に束に言われた一夏の遺体が見つかったと言う話を信じていない。

 

・篠ノ之箒

篠ノ之束の妹。(束本人は只の同じDNAの持ち主としか思っていない)中学の時に全国大会を優勝するほど剣道の実力はある。束の妹と見られるのを嫌がるが、自身が不利な状況に陥ると束の名前を出す。自身だけのISを束に依頼し、臨海学校の時持ってきてもらうがそれがデータ収集用の機体(実際は鈴専用のIS)で、それを知らずにISに乗り束の提案でネイサンと勝負することになったがズタボロにされ負けかけていたところ、束からの通信でデータ収集用の機体だと知りその後オートモードが束の手で起動し、自身の意思で動かなくなったISに乗ったまま勝負は続き更にズタボロにされ負けた。勝負後保険医の元に連れていかれ、背中に激しい痛みがあると訴え病院で見てもらった結果脊髄が損傷していることが分かり、その所為か下半身が動かなくなり車いす生活を余儀なくされた。

 

・セシリア・オルコット

イギリスの代表候補生。典型的な女尊男卑で、女性だったら憧れるブリュンヒルデの千冬から入学してきたネイサンのISの対戦相手になるよう言われ、名誉な事と男をこの学園から追い出せると思い引き受けるが、実戦経験の差などでネイサンにズタボロに負けその試合で使われたネイサンのA-10の弾代と侮辱などの慰謝料を請求され、御家復活が遠のいていくことに嘆き、何故引き受けてしまったのかと後悔し続けている。この試合以降周りの生徒達からの評価は底辺で、1組では浮いている存在となっている。

 

・シャルロット・デュノア

フランスの元代表候補生。母親と静かに暮らしていたが、母親が病死し一人で山小屋で暮らしていたところ父親に呼び出され、すべて終われば自由にすると言われ仕方なく産業スパイを引き受けた。だがIS学園に入学してくる人物全員を徹底的に調べていた束がシャルロットの偽の身分証明書に気付き、その情報がネイサンの元に送られた。そしてネイサンと仲良くなろうと近付くも、事前に情報が入っているネイサンは仲良くしないとはっきり言われた為、部屋へと侵入し直接データを盗むがネイサンが仕掛けた罠によって拘束され現在は牢屋へと放り込まれ、2学期までは牢屋の中で、現在は牢屋の中で通信教育で授業を受けている。(解放されても監視の目が付く予定)

 

・ラウラ・ボーデヴィッヒ

ドイツの元代表候補生。ドイツ軍IS部隊に所属しており数年前に千冬に訓練を付けて貰った為、千冬を心酔していた。学園に転入後、生徒達の多くがISをアクセサリーみたく扱っているのが我慢できず、その憂さ晴らしに強い相手に喧嘩を吹っ掛けるなどして教師達を困らせていた。注意しても千冬が言い聞かせると言って連れて行き、千冬が注意するが全く改めるつもりが無かった。その後タッグマッチ戦の時、ネイサンと鈴のタッグにやられそうになった時にVTシステム発動のトリガーを自ら引いてしまいVTシステムに飲み込まれた。飲み込まれた後も意識が残っており、ネイサンと鈴の激しい攻撃を受けるのを目の当たりにしたせいかIS、そして暗闇に恐怖するようになり精神科医からPTSDと診断され、現在は格子付きの医務室で治療に当たっている。

 

※IS

・A-10thunderboltⅡ

武装

>GAU-8アヴェンジャー×2門

7砲身のガトリング砲。航空機のA-10に載せられているガトリング砲と同じで大量の弾薬を敵に向けばら撒くことが出来る。

使える弾種:36㎜砲弾、120㎜砲弾

36㎜砲弾:劣化ウラン貫通芯入り高速徹甲弾(HVAP弾)

120㎜砲弾:劣化ウラン貫通芯入り仮帽付被帽徹甲榴弾(APCBCHE弾)装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS弾)、キャニスター弾、粘着榴弾(HESH/HEP弾)

>AMWS-21戦闘システム×2丁

36㎜チェーンガンと120㎜滑腔砲が合体したアサルトライフル。レーザー測距装置が組み込まれており即座に相手との距離が算出され、120㎜咆を使う際に重宝できる。

>近接用格闘ナイフ

>空対空ミサイル AIM-9

>ラインメイタルMK-57

57㎜砲弾を毎分120発発射できる軽機関銃。束お手製で、その製作方法は不明。詳しい情報を開こうにも束の許可が下りない限り情報は開示されない。

>単一機能『不滅の防御(エターナル・ディフェンス)

発動すると時間制ではあるがあらゆる攻撃を無力化する目に見えないシールドが張られ、SEを削られること無く攻撃を無力化する。但し許容範囲以上の攻撃を受けた場合は残りの時間を削られる。(絶え間ない攻撃を受けた場合でも削られる。)

例(ダメージ1000までの攻撃を無力化できるシールドを張った場合、500のダメージを受ける攻撃を受けても無力化される。逆に1500のダメージを受ける攻撃を受けた場合、1000までは防げるが残りの500は時間から削られ単一機能の終了を早める)

ネイサン専用の機体。HCLI社がある企業から安く買い取ったコアで、自社開発したISを企業展覧会に出そうとしたが手違いで、IS学園に武器を届ける為に用意されたトラックに載せられ、そのまま学園へと運ばれそしてネイサンが手を触れた瞬間身に纏ってしまい、そのままネイサンが企業代表に選ばれた。武装はキャスパーが選定した。当初付けられていた武装をキャスパーが開発者達の目の前で批判し、そのまま自分がこれが良いと思う武装を付け、現在の装備となった。

 

・紅龍

武装

>変形性グルカビームナイフ

刃の部分がビームになっており、変形させることが出来る。基本はグルカナイフのようになっており、変形させれば中国刀や大刀(代表武器:青龍刀)に変形させることが出来る。

>投擲用ビームクナイ

名前の通り投擲用クナイで、刃がビームになっている。太ももや拡張領域に12本ほど装備されている。ロックオン機能は無く目視で投げるほかない。

>GWS-9突撃砲

束が射撃用武器として載せた。ネイサンのA—10に載せられているAMWSより銃身が短く取り回しが利くが、命中率は若干悪い。

>単一機能『真龍解放』

紅い装甲が黄金に輝き、機動性、格闘性が跳ね上がり相手は近接戦闘戦に持ち込まれると勝機はほぼゼロに等しくなる。

束が鈴用に開発したIS。戦闘データも何もない状態で渡すより、ネイサンの戦闘データを集めておくことで連携が取れやすくなると考え、箒に渡し戦闘データを集めようとしたが思った以上にデータが集まらない事に束がキレて、万が一に備えて載せていたオートモードを起動してデータ収集を続けた。データ収集が完了した後、箒からISを取り上げて武装とオートモードを取り外し、鈴用に用意した武装に乗せ換え鈴に手渡した。専用機として鈴に送る為、カバーストーリーとして束が用意したペーパーカンパニー『宇宙兎』と言う企業の代表に選ばれたという事にしてある。



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24話

「―――では、今までお世話になりました」

 

そう言い鈴は中国大使館に居たIS委員会に別れの挨拶をして、ISと代表候補生の座を返却し大使館から出てきた。

門の所まで行くと、キャリーバッグと大きめのアタッシュケースを持ったネイサンが立っていた。

 

「もしかして迎えに来てくれたの?」

 

「そりゃあ僕の相棒(バディ)になる人なんですから、置いて先には行きませんよ」

 

そう言うと鈴は笑みを浮かべ、ありがとう。とお礼を言い、自身の荷物を背負い直す。

 

「さてそれじゃあエスコートをお願いね」

 

「えぇ分かりました」

 

そう言い2人は空港へと向け出発した。空港に到着した2人は荷物を預け、ドイツ行きの飛行機に乗りマドカが待っている△□国際空港へと出発した。数時間後、飛行機は空港へと到着し辺りは明るくなり始めていた。

 

「うぅ~ん。ねぇネイサン。今何時なの?」

 

「今ですか? 今は朝の6時位ですよ」

 

ふぅ~ん。と鈴はそれで人が疎らなのかと納得していると、黒髪の少女がネイサン同様のキャリーケースとアタッシュケースを持って近付いてきた。

 

「おはよう兄さん。それと鈴」

 

「おはようマドカ。それじゃあココさん達の所に向かいましょうか」

 

そう言い2人と共に空港から出てタクシーを拾い、ココが泊っているホテルへと向かった。空港を出発して数十分後、タクシーはある高級ホテルの前で止まった。

 

「ね、ネイサン。もしかしてアンタの上司が泊っているホテルって此処?」

 

「えぇ。昨日連絡をしたところ、此処の1階を丸ごと借りているそうです」

 

そう言われ鈴はあわわわ。と驚いた表情を浮かべ、マドカは興味なさそうな顔で見上げていた。

 

「さて行きましょうか」

 

そう言いネイサンは荷物を持ちホテルへと入る。ホテルの中に入った3人はエレベーターに乗り込みある階で下り、ある部屋の前に到着した。そしてネイサンは扉をノックする。暫くした後、鍵の開く音がし扉が開かれると扉を開けたのはレームだった。

 

「よぉネイサン。元気にしてたか?」

 

「えぇ。レームは?」

 

「ぼちぼちって言った所さ」

 

そう言いながら3人を招き入れた。中へと入る3人をレームは部屋の住人達に報告する。

 

「おぉ~い、懐かしい仲間と新しいお仲間が到着したぜ」

 

そう言うとソファに座っていた人たちは一斉に顔を向ける。そして最初に声を掛けたのは金髪のルツだった。

 

「よぉネイサン。久しぶりだな」

 

「お久しぶりです、ルツ。僕が居ない間にまたケツを撃たれたりして無いですよね?」

 

「撃たれてねぇよ‼」

 

「ハッハハハハ! 帰って来て早々それを聞くか、ネイサン?」

 

笑いながらネイサンにそう聞いてきたのは黒髪の日本人、トージョ。

 

「まぁ確認みたいなものですからね、トージョ」

 

「確かにこの隊では一番ケツを撃たれているのはルツだからな」

 

そう言い哀れんだ眼でルツを見る茶髪のアール。

 

「そ、そんな事「いえ、確かにルツはここ最近被弾率が高いですね。今度行う訓練は厳しめに行いましょう」 姉御!?」

 

アールの指摘にルツは否定しようとしたが、それを遮るように言葉を重ねたのは黒髪ダイナマイトボディの持ち主のバルメだ。

 

「まぁまぁそう言う話はまた今度にしようじゃないか。それよりお帰りネイサン」

 

黒人男性のワイリーは読んでいた本を仕舞いながらそう言う。

 

「ただいまワイリー。そう言えばウゴとマオは?」

 

「マオはお嬢の買い物に付き合わされている。ウゴは変わらず運転手だ」

 

なるほど。と納得していると、その背後の扉が開き大荷物のマオが入って来た。

 

「だ、誰か荷物を持つを手伝ってくれないか? ま、前が見えない」

 

「おいおい、どれだけ買ってきたんだよ」

 

そう言いながらレームはマオの荷物を持つのを手伝う。すると廊下から駆け出す音が響き、そして

 

「ネイサ~~ン!!」

 

と声と共にネイサンに抱き着くココ。

 

「あの、ココさん。いきなり抱き着くのはどうかと?」

 

「むぅ~、久しぶりの再会なのになんか冷たくないかネイサン隊員」

 

頬を膨らませながら文句を言うココ。ネイサンは何とも言えない表情を浮かべ、周りに居たレーム達は笑みを浮かべる。鈴は顔を赤らめ、マドカは面白くないと言った表情を浮かべココを睨んでいた。

 

「何時まで兄さんに抱き着いてるんだ。いい加減離れたらどうだ」

 

そう言いネイサンから無理矢理ココを引き離すマドカ。

 

「えっと、ネイサン。今兄さんってこの子が言ったんだけど……」

 

「あぁそうでした。実はこの子は僕の妹なんです」

 

そう言いマドカの頭に手を置くネイサン。その一言に部屋の中にいた鈴以外全員一瞬思考が停止し、そして

 

「「「「「えぇぇーーーーー!?!!」」」」

 

全員が驚きの声をあげた。そんな中、マドカは睨むような眼をココに送り続けていた。

 

「……」

 

「えっと、何かな?」

 

ココはマドカと同じ目線になるよう屈み、笑顔で問うとマドカはジッと睨み続けていると、ココが聞こえる程度の声の大きさで。

 

「……兄さんは渡さないからな」

 

そう言いギュッとネイサンに抱き着くマドカ。

 

「おっと、どうしたマドカ?」

 

「何でもない」

 

そう言いネイサンにギュッと抱き着くマドカ。ココは目の下をピクピクと痙攣させていた。その様子を見ていたレームは面白い奴が来たもんだと思いながら笑みを浮かべていた。

それから暫く経った後、それぞれ楽な姿勢を取りつつココが切り出した。

 

「それじゃあ今日からこの2人が我が隊の新しい仲間だ。皆仲良くするようにねぇ!」

 

「「「「「うぃ~す!」」」」

 

「それじゃあ自己紹介をお願いね」

 

そう言われ最初に鈴が名を名乗った。

 

「凰鈴音です。まだこの世界に不慣れなところがある為、色々学んでいき足を引っ張らないよう頑張りますのでよろしくお願いします」

 

「マドカ・マクトビア。兄であるネイサンの敵は私の敵」

 

マドカの自己紹介を終えた後、レーム達の自己紹介が行われ、そしてココが口を開く。

 

「はい、それじゃあ今日から暫く仕事とかは無いから親交を深めるってことで自由時間としま~す。ネイサ~ン、デ「兄さん、銃のカスタマイズのレクチャーをお願いしたいんですが、良いですか?」ちょっと~、私の方が先でしょうが~!」

 

「デートなら其処にいるバルメって言う人に頼めばいいじゃないですか。兄さん早く行きましょう」

 

「いや、ココさんが呼んで「……付き合ってくれないと大声で泣きます」 えぇ~」

 

(妹から銃のレクチャーの依頼、ココさんからはデートの誘い。どうすればいいんだ)

 

ネイサンは困った表情を浮かべ悩んでいる中、鈴はバルメの元に向かい話を聞く。

 

「えっと、バルメさん。実は私、ナイフの扱いを得意にしているんですがバルメさんも得意だって聞いたんですが本当ですか?」

 

「えぇ、得意ですよ。何でしたら今から屋上で見てあげましょうか?」

 

「本当ですか‼ ぜひお願いします!」

 

そう言い鈴とバルメは屋上へと向かい、レーム達はホテルに備えられているバーへと向かう。ココとマドカ、そしてネイサンの3人を残して。

 

「だーかーらー! 私とデートだって言ってるじゃん!」

 

「貴女と兄さんは一緒に居た時間が長いじゃないですか。家族である私との時間はあまり無かったんですよ。少しは家族と一緒に過ごさせると言う配慮は無いんですか?」

 

「あ、あの2人ともその辺で「「兄さん/ネイサンは黙ってて‼」」……はい」

 

2人の口論が終わるのをネイサンはただ黙って見ておくことしかできなかった。

 

その頃真耶は、臨海学校の一件を報告書にまとめ学園長の元に届け、部屋のベッドで体を休ませていた。

 

「はぁ~、凄く大変でした」

 

そう言いぼぉーと天井を見つめる真耶。そして頭に浮かんだのはネイサンの事だった。

 

(ネイサン君は今頃実家に帰省されているんでしょうね。はぁ~、私も一緒にネイサン君のお家に行ってみたかったなぁ。凰さんが羨ましいですぅ)

 

そう思いながら、ネイサンと鈴、そしてココが一緒にネイサンの実家で過ごしている事を想像し顔を真っ赤にする真耶。

 

(わ、私は何を考えているんですか!? あの3人以外にもお仲間の方々も一緒に居るんですから3人だけで過ごすわけじゃないんです! けど……)

 

真耶は3人だけで過ごすわけでもないのに羨ましいと言う気持ちが膨らみ、その考えを振り捨てようと顔を振りベッドから立ち上がり冷蔵庫へと向かった。

 

「ちょっと頭を冷やしましょう」

 

そう言い冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターを口にする。すると急に眠気に襲われ、真耶はペットボトルを机に置きそのままベッドの上に寝ころびそのまま目を閉じる。ベランダに居るうさ耳をした女性に気付かずに。

 

「うぅ~ん。あれ此処は一体?」

 

真耶は寝ぼけた目を擦りながら辺りを見渡す。辺りは暗く自身が座っている椅子の部分だけスポットライトが当てられ明るくなっていた。

 

「やあやあ目が覚めたかい?」

 

「!?」

 

声が暗闇の中から響き、そして一人の女性が真耶の目の前に現れた。真耶は現れた女性の格好とその顔には見覚えがあった。

 

「し、篠ノ之博士!?」

 

「はろはろ~、お久しぶりだね」

 

そう言いポーズを決め終えた束は腰に手を当て、真耶を見下ろすように口を開く。

 

「単刀直入に聞くけど君、ネイ君の事好きなんでしょ?」

 

「な、何で知ってるんですか!?」

 

束のストレートな問いに真耶は慌てた表情を浮かべ、顔を真っ赤に染め上げた。その姿に束はニンマリとした表情を浮かべる。

 

「そりゃあネイ君は私のお気に入りなんだからその周辺に居る人物については詳しく調べてるからね」

 

そう言われ、真耶はそうだったと思い出す。そして次に想像したのが自身の立場であった。

 

「わ、私をどうするつもりなんですか?」

 

真耶は自身も箒の様に何かの実験に使われるのではと思い、恐怖から震える唇で束に問う。

 

「ん? もしかして束さんが君を何かの実験動物としてここに連れてきたと思ってる?」

 

そう束が問うと、真耶は首を縦に振った。その行動には束はクスクスと笑い出し、そして大声で笑い始めた。

 

「アハハハハ! 安心しなよ。君には危害は加えないよ。むしろ君が欲している道を提供するために此処に連れてきたんだよ」

 

そう言われ真耶は道?と頭に疑問符を浮かべる。

 

「君はネイ君と同じ傭兵の道を探してるんでしょ?」

 

「えっ!? ……まさかそれも調べ上げていたんですか?」

 

「もっちろん! 君が使っているパソコンをちょちょいとハッキングして検索した言葉とかサイトの閲覧履歴とか調べ上げてね」

 

そう言われ真耶は何時の間に!?と驚愕の表情を浮かべながら、ある推論が導いた。

 

「もしかして、博士が言っている提供する道って……」

 

「そう。ネイ君と同じ傭兵になる為の最短ルート。勿論確実になれる道だよ」

 

そう言われ真耶は驚いた表情を浮かべると、疑問が沸き起こった。

 

「どうして私にそんな道を……」

 

「どうしてって、そりゃあネイ君のためさ」

 

ネイサン君のため?と真耶は首を傾げると、束が説明をする。

 

「ネイ君はあぁ見えてまだ18にも満たない内に人を殺す戦場に立ち、亡き父と同じ伝説を掴もうとしている。けどそれは1人では出来ない。多くの仲間に支えてもらうことで伝説を掴むことが出来る。だからこそネイ君には多くの仲間が必要だから、君にもその一人になってもらうためさ」

 

そう言われ真耶はこの人は、それほどまでに彼の事を気に入っているんだと理解する。

 

「さて、そろそろ答えを聞かせてほしいなぁ」

 

束の問いに真耶は答えは既に決まっていると言った表情を向ける。

 

「……答えは決まってます。お願いです博士、私にその道を教えてください!」

 

そう言うと束は満足そうな顔で頷き、ポケットからリモコンを取り出しボタンを押す。すると暗かった周囲が明るくなり、其処から訓練用のアスレチックや、壁に選り取り見取りの銃が掛かっている射撃場が現れた。

 

「それじゃあ早速、始めていこうか。まややん傭兵化プロジェクトを‼」

 

束の宣誓に真耶は大きく頷いた。




次回予告
実家へと戻って来たネイサン達。銃のカスタマイズについてマドカに教えたり、鈴の射撃練習を見たり、ココとデートをしたりと大変なスケジュールをこなすが、絶対に此処だけは行くと決めていた場所へと向かう。
その頃真耶は束、そしてオータムの厳しい訓練を受けていた。
次回
久々の帰宅
~ただいま、父さん~


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25話

ホテルで一泊し終えたネイサン達はそれぞれホテル下で用意した車両へと乗り込み、出発した。一番前の車両には運転手にウゴ、助手席にマオ、後ろの席にバルメとココが乗っている。

 

「全く、ネイサンの妹はどれだけブラコンなのよ! 結局昨日はデート行けなかった!」

 

ココはぷんすか文句を言いながらタブレットで休み明けに直ぐに動けるよう仕事の手配などを準備していた。

 

「まぁまぁいいじゃないですか。ずっと離れ離れになっていた兄と一緒に暮らせると思って色々甘えたいんでしょう」

 

「そうですね。子供を持っている私もマドカちゃんはお兄さんであるネイサンに甘えたい為ああ言ったのだと思いますよ」

 

バルメはやんわりと宥め、マオは子供を持つ親としての経験を元に推測を言う。その頃2台目の車両の運転をしているレーム、助手席に座る鈴、後部座席に座るネイサンとマドカは学園であったことや、ネイサンが離れていた間に起きた出来事などを話していた。

 

「それじゃあネイサン、お前さんがその臨海学校に行った際に篠ノ之博士から専用の武器を貰った、そう言う訳かい?」

 

「えぇ。仕事の報酬で貰ったんです」

 

「へぇ~、昔からの知り合いだとは聞いていたが専用の武器まで送るとはよほど君の事を可愛がっている様だねぇ」

 

レームはそう言いながら加えていた煙草の灰を灰皿に捨てる。鈴はレーム達には本当の事を教えてるのかと思い、タブレットでネイサンが出題した戦略に関する問題を解く。マドカは使い慣れているハンドガン、USPのマガジンに弾を込めていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

3台目に乗っている運転手のルツ、助手席のワイリー、後部座席にアールとトージョ。

 

「……なぁ」

 

「ん? なんだルツ。喉でも乾いたのか?」

 

「いや、何で俺達だけ男4人の車になってんだろうな……」

 

ルツは悟りを開いた様な顔付で言うと、後部座席の2人も同様の顔付きになりワイリーは静かに本を読んでいた。

 

「確かに女性が増えたが、姉御以外は全員ネイサンに気が有る女性だもんな」

 

「お嬢は前から知ってるが、鈴はその気があるのか? マドカは妹として兄であるネイサンの事を好いているみたいだが」

 

「分かんねぇ。事前にお嬢から傭兵になった理由は聞いているが、日本は胸糞悪い連中が多すぎるだろ」

 

ルツは鬱陶しそうな顔付きで言うと、トージョも同じ日本人でもあの国はもう腐ってる。と呟く。

そして3台の車はドイツの片田舎へと到着し、とある喫茶店の前で止まった。

 

「じゃあちょっと待っててください」

 

そう言いネイサンは車から降り、店の中へと入って行く。助手席の鈴は店の外観を注意深く観察し、マドカは店に入っていたネイサンに付いて行こうと、USPにマガジンを挿す。その光景を見たレームはやんわりと止めに入った。

 

「おっと、マドカちゃん。心配しなくてもネイサンだったらすぐに戻ってくるから車から降りる必要はないぞ」

 

そう言われ、マドカはUSPをホルスターに仕舞い座席に座り直す。

店の中に入ったネイサンはカウンターでコップを磨く男性を見つけ、相変わらずだなと思いながら近付く。

 

「相変わらずお客さんが居ないな、ギャズ」

 

「ん? おぉ、ネイサン! 久しぶりじゃないか!」

 

そう言いコップを置きカウンターから出てきて手を差し出す。

 

「久しぶり、ギャズ」

 

そう言い差し出された手を握り返すネイサン。再会の握手を終え、ギャズはカウンターの中へと入って行き、下の戸棚から何かを探すように屈む。

 

「お前が帰って来たという事は、必要な物はこれだな」

 

そう言い戸棚から取り出したのは、キーホルダーが付いた鍵だった。

 

「ありがとうギャズ。俺が居ない間、何時も掃除とかしてくれたんでしょ?」

 

「まぁな。それとこいつも持って行け」

 

そう言い下から花束を取り出す。

 

「サルビアの花? 確か花言葉は……」

 

「思い出そうとするのはいいが、外で仲間が待ってるんじゃないのか?」

 

そう言われネイサンはそうだったと思い、花束を受け取り扉へと向かう。

 

「それじゃあギャズ、また時間が出来たら来るよ」

 

「おう。俺は何時でも此処に居るから、気長に待ってるよ」

 

そう言われネイサンは店を後にした。

ネイサンは車へと戻り、車を出発してもらいネイサンの家へと向かう。それから数十分後、綺麗な湖のほとりに佇んだウッドハウスへと到着した。

車から降りたネイサンは、家を見上げ朗らかな笑みを浮かべる。

 

「ただいま」

 

そう言いカギを持って扉へと近づき、鍵を開ける。そして全員を中へと入れると、ココは真っ先にソファに座る。

 

「いや~、それにしても相変わらず此処から見る湖は綺麗だねぇ」

 

ココはソファから見える湖に感想を述べている中、ルツやアールなどは持ってきた荷物などを解く。

 

「さてと、それじゃあネイサン。部屋は前と同じ感じでいいか?」

 

アールは自身の荷物を背負いながらそう言うとネイサンはそれでいいですよと頷く。

 

「あ! 鈴とマドカはココさんと同じ部屋だからバルメさんと一緒に荷物を持って行ってくださいよ」

 

そう言われ鈴は、分かった。と言い荷物を持つ。

 

「私は兄さんと同じ部屋が良いんだが……」

 

マドカはウルウル目でお願いする。

 

「えっ!? さ、流石に良い年した兄妹が同じ部屋は……こうお互いのプライベートな事とかあるし」

 

「大丈夫。別に兄さんに見られて恥ずかしい物なんて無い。……もし見られたら責任を「駄目に決まってるでしょうが! それと嘘泣きして懇願するな!」……チッ」

 

ココはそう言いマドカの尻の部分のポケットに手を突っ込み、目薬を引っ張り出した。

 

「全く油断も隙もあったもんじゃない!」

 

そう言い荷物を持ってドアプレートがしてある扉を開けようとするが

 

「ココさん、貴女も言えるような立場じゃないでしょ」

 

そう言いネイサンはココの肩を掴む。ココが入ろうとした部屋はネイサンの部屋なのだ。

 

「むぅ~、今日なら行けると思ったのにぃ」

 

そうぶつくさ文句を言いながらバルメ達と共に二階へと上がって行った。

そして時刻は進みお昼前、ネイサンは部屋で愛銃であるコルトカスタムを分解し一つ一つ油を挿したり、汚れを拭きとったりしていた。

 

「さて、掃除はこれで終わりっと。後は組み立てる『兄さん、入ってもいいか?』 ん? 鍵は開いてるぞ」

 

そう言うとマドカは大きめのアタッシュケースを持って部屋へと入って来た。

 

「どうしたマドカ?」

 

「この銃のカスタマイズを手伝って欲しいんだ」

 

そう言いアタッシュケースを床に置き、ふたを開ける。中に入っていたのはネイサンと同じACRであるが、ストックを固定式にし、装弾数20発のPマグを付けた物だった。

 

「これは?」

 

「博士の所で世話になっていた際にスコールの相方が選別にくれたんだ」

 

マドカの説明を聞きつつネイサンはACRを手に取る。

 

「ふむ、ストックを固定式にした理由は分からないが、マガジンを20発にしたのは恐らく操作性をあげるためだろうな。30発のマガジンよりかは素早くマガジンを挿せるし、重さも抑えられるからな」

 

そう言いながら構える動作を取る。

 

「それで、このライフルをどの様にカスタムしたいんだ?」

 

「私が扱いやすようにカスタムして欲しいんだ」

 

「……なるほど、身丈に合わないんだな」

 

ネイサンの理由を察したかのような言い方にマドカは口を尖らせる。

 

「う、五月蠅いぞ兄さん。それで出来るのか?」

 

「外装のカスタマイズだったらすぐに出来るよ。それじゃあ地下の射撃場に行こうか」

 

そう言い机の上に置かれているコルトを手早く組み立て、マドカと共に地下の射撃場へと向かった。

地下へと着いたネイサンとマドカ。ネイサンは机の上にマドカのACRを置き、ストックを取り外し折り畳みが可能なストックへと変え、更に色々な光学照準機器やライトなどを取り付ける。

それから数分後

 

「出来たぞ」

 

そう言いマドカにカスタムしたACRを渡す。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ありがとう兄さん。早速撃ってみるよ」

 

そう言いマドカはACRを持って射撃場へと入って行く。すると階段から

 

「あら、ネイサンじゃない」

 

そう言いながら鈴は階段から降りて来てネイサンの元へと向かう。

 

「おや鈴、どうかしたんですか?」

 

鈴はちょっとね。と言い、ネイサンの隣にあった椅子に座り射撃場の様子を見る。其処にはネイサンがカスタムしたACRで狙いを付け的確に的を射抜くマドカが居た。

 

「彼女、自前の銃を持ってたの?」

 

「博士の家から出立するときに彼女の同僚から貰ったそうです」

 

「ふぅ~ん。あ、実は私もココさんから明日なんか新しい装備に一新する予定だったから武器を渡すって」

 

「装備を? それはまた突然ですね」

 

そう言いながらマドカの射撃姿を眺める2人。鈴は目線をマドカから外し部屋の奥に掛かっている銃器に向ける。

 

「色んな銃があるわね」

 

「全部父さんが、集めたものです。そうだ、鈴の射撃練習と行きましょうか」

 

ネイサンはそう言い立ち上がり、ガンラックから一丁の銃を取り出す。

 

「MP5、H&K(ヘッケラー&コッホ)社製のSMGです。SMG内では命中精度の高さは指折りです」

 

 

【挿絵表示】

 

 

そう言い鈴に手渡すネイサン。

 

「命中精度が高い銃でも、使い手が下手じゃあ意味無いんじゃないの?」

 

「まぁ確かにそうですが、扱いに慣れておくだけでも損にはなりませんよ」

 

そう言われ鈴はまぁそうだけど。と呟き、MP5とマガジンを受け取り耳あてを持って中へと入る。

マドカは入って来た鈴に一瞬目を向け、また目線を的へと戻す。

マドカの射撃術を見ていたネイサンは賞賛の声を送った。

 

「いい腕だなマドカ。流石僕の妹だ」

 

そう言い鈴が先に入っている射撃レーンへと向かう。突然褒められたマドカは顔を真っ赤にして明後日の方向を撃ってしまった。

 

「……不意打ちはずるいぞ兄さん」

 

そう言いマドカは空になったらマガジンを抜き、射撃場から出て飲み物を取りに行く。

鈴がいる射撃レーンの後ろに立ち鈴の射撃の様子を見るネイサン。鈴は最初にセミオートを選択し、一発ずつ的確に的を射抜く。そして数発撃った後にフルオートでマガジンの残りを撃ち切った。

 

「本当に撃ちやすいわね、これ」

 

「使用している弾丸が、拳銃用の9㎜口径だからですよ。その為低反動で速射性に優れているんです。但し中遠戦には向きませんけどね」

 

そう言い射抜かれた的を見る。

 

「35mですと、若干弾はばらけますがいい感じに中心付近を当ててますね」

 

「この銃のお陰よ。さて、もう少し射撃訓練するから付き合ってくれない?」

 

「えぇ構いませんよ」

 

そう言いネイサンは鈴の射撃訓練に付き合った。

時刻はお昼過ぎになり、学園から出された夏休みの宿題を淡々と進めていると扉をノックする音が部屋に木魂した。

 

「ん? どうぞ」

 

そう言うと入ってきたのは普段のリクルートスーツから普段着を着こんだココが立っていた。

 

「ココさん、どうかしたのですか?」

 

「いやぁネイサンが暇だったら、買い物に付き合って欲しいなぁと思って来たんだけど、勉強中みたいだね」

 

「別に買い物位でしたらいいですよ。丁度夕飯の食材を買いに行かないとマズかったですし」

 

そう言いペンを置き、引き出しに入れていたコルトカスタムを取り出し、ショルダーホルスターを身に付けホルスターに銃を仕舞う。

 

「それじゃあ行きましょうか」

 

そう言いながらハンガーポールに掛かっている上着を着こみ、入り口付近に行く。

 

「そうだね。レッツGo!」

 

そう言いネイサンの腕に抱き着くココ。

 

「あの、抱き着く必要あるんですか?」

 

「いいの! ほら早く行こ!」

 

そう言いネイサンの腕を引っ張って外へと出るココ。その顔は終始笑顔だった。

その頃地下では

 

「まだ脇の締めが甘いですよ鈴」

 

「す、すいません!」

 

鈴はバルメに銃の構え方に指摘されながら射撃練習をしており、マドカは

 

「す、凄いなレームは……」

 

「へっへへ。そりゃあ俺は超神兵だからな」

 

そう言いながら愛用のM4を構え降ろすレーム。レームは複数の的を的確に一発も外さずに射抜いていたのだ。

 

「ムッ!」(なんか兄さんの傍にあの雌猫の気配が……)

 

マドカは突然変な第6感が働き、家の入口がある方向に鋭い視線を送る。

 

家からウゴの運転で程近い街へと到着し、ネイサンと共にネイサンの行きつけの店を回る。

 

「さて、今日は鈴とマドカの入隊儀式を行うんですよね?」

 

「そりゃあ新しく我が隊に入隊するんだから、当たり前じゃん」

 

ネイサンが言った入隊儀式とは、ココの部隊に新しく入った者は卵を使った料理を作る儀式なのだ。この儀式を考えたココ曰く『軍・国家・家族を一新した玉子君を迎い入れるため』とのこと。

 

「それでは卵を多めに購入しておきますか」

 

そう言い卵を売っている馴染みの店へと向かう。

 

「よぉ! ネイサンじゃないか。何だ彼女を連れてデートか?」

 

「えぇ、そうなんで「違いますよ、今やっている仕事の雇い主ですよ」むぅ~」

 

ココが肯定しようとしたのを、ネイサンは被せる様に否定しココは口を尖らせた。

 

「ハッハハハハ‼ 全くお前さんはどれだけニブチンなんだよ」

 

「……どういう意味でニブチンと言ったのかは聞きません。それより卵10個入りを2つ下さい」

 

「はいはい。……お嬢ちゃん、こいつの朴念仁ぷっりは筋金入りだから頑張りなよ。あとおまけで挽肉付けといてやるよ」

 

そう言い卵とおまけの挽肉を手渡す店主。

 

「ありがとうございます」

 

ココは軽く会釈をしてお代を払ったネイサンと共に他のお店へと回った。

その後ろ姿を店主と厨房に居た店主の奥さんはニコニコと見ていた。

 

「あの子にもようやく春が来たのかしらねぇ?」

 

「今はまだ冬の終わり付近だが、何時か春が来るだろ」

 

そう言い優しそうな顔で見送った。その後他の店に行っても同じような対応をされ、ネイサンははぁ~。とため息を吐き、ココは楽しかったと言わんばかりの笑顔でネイサンの隣を歩いていた。

 

「皆優しい人達だったね」

 

「……父に引き取られた時からこの街には色々世話になってましたからね。慣れないドイツ語で必死に欲しい物を伝えて買い物をしてましたし、店の人達もそんな自分に優しく接してくれましたしね」

 

「そっかぁ」

 

食材を買い終えた頃には日が落ち始め、綺麗なオレンジ色が帰り道を照らしておりココは楽しい買い物はもう終わりかぁと思い、ふとネイサンの方を見る。

 

(やっぱりどんなに考えても私はネイサンの事が好きなんだって結論が行き着いてしまう。ネイサンが居なかった半年間、ずっと心の中で何かが欠けている感じがあった。プライベートの時間になっても、仕事をしているときも何かが欠けている感覚に襲われて、夜眠れなかった事もあった。……だから離したくない。もう何処にも行かないで欲しい)

 

そう思っていると視線に気づいたネイサンが顔をココに向ける。

 

「どうかしましたか?」

 

「ううん。何でもないよ」

 

そう言いネイサンに笑顔を向けるココ。仕事などで見せる仮面の笑顔ではなく心の奥から来る笑顔を。

 

街での買い物を終え家へと帰って来たネイサン達を出迎えたのは不機嫌顔のマドカだった。

 

「何処かに行くなら一声欲しかったぞ、兄さん」

 

「すまんすまん。夕飯の食材を買いに行くくらいだから声はかけなくても大丈夫だろうと思ったんだ」

 

そう言い家の中へと入って行くネイサン。そしてココがマドカの傍まで行くと。

 

「君がネイサンを渡さないと言うなら……」

 

そう言い目線をマドカと同じ位置まで持って行き、挑戦的な笑顔を浮かべる。

 

「私は諦めないよ。必ず貰うからね」

 

そう言うとマドカは、ふっ。と笑みを浮かべる。

 

「やってみろ。そう簡単に兄さんはあげないからな」

 

そう言い互いに笑みを浮かべながら家の中へと入って行った。

その後、鈴とマドカの入隊の儀式が行わられ、鈴は天津飯、マドカは出汁巻きを作った。

夕飯が済み、月が昇った夜。ネイサンは一人湖近くに作られているジェイソンの墓へと来ていた。

 

「遅くなってごめん、そしてただいま父さん」

 

そう言いながら手土産として持ってきた酒を墓にお供えする。そしてギャズから渡された花束を置く。

 

「ギャズから聞いたと思うけど、ISに乗れることが分かって女子しかいないIS学園に入れられるわ、元家族と鉢合うわ、ストレスが溜まる事しかなかったけど、仲間や友人が居たからそんなに苦では無かったよ。……父さん、やっぱり俺一人で伝説になるのは難しいわ。父さんがどれだけ凄い人物か改めて思い知らされたよ。けど諦めないからな。たとえ一人では無理でも仲間や友人が居れば伝説を越えられると、俺はそう考えているからな」

 

そして立ち上がり、また来るよ。と言いネイサンは墓から去った。そしてネイサンはギャズから手渡されたサルビアの花言葉を調べ、花言葉が『家族愛』と書かれており死して尚家族の絆は切れないって言う意味で渡したのか。と思いギャズに心の中で感謝する。

 

 

 

場所は代わり束の隠れ家ではけたたましい発射音が鳴り響いていた。

 

「こ、こんな銃撃の中どうやって反撃しろって言うんですかぁ!?」

 

真耶はカバー位置から一歩も動けず、泣きながら文句を言う。真耶に向けられた銃はどれも非殺傷性の武器だが当たるとかなり痛い。

 

『だから言っただろうが、不用意に部屋に突撃するなって‼ ……シミュレーション終了!』

 

すると激しい銃撃が止み、真耶はうぅぅと泣き顔で出入口へと向かう。それをモニターで見ていたオータムはハァとため息を吐き、部屋に居る束に苦言を零す。

 

「おい、博士。アイツを夏休み期間中に傭兵に仕立て上げるのは難しいぞ」

 

「確かに厳しいかもしれない。けどそれは覚悟の上でやってるんでしょ?」

 

そうだが。と苦い顔を浮かべるオータム。真耶の訓練を始め、最初は武器の特性や扱いには慣れている為、直ぐに成長すると考えていたのだが、人に向けて尚且つISを身に纏っていない人を銃を撃ったことが無い為腰が引け撃てず、更に小心者とあってか、積極的に攻められなかったのだ。先程は狭い空間、言わば室内での訓練を行い部屋に居る敵を殲滅する訓練を行っていたのだが、意を決して突入を考えた真耶がオータムの制止も聞かずにドアを蹴破り中に突入、そして訓練ロボ達の一斉発射に遭ったのだ。

 

「で、どうすんだよ。このままじゃあ夏休み終了までには間に合わないぞ」

 

「うぅ~~~~~~ん。どうしたものかぁ……。‼ そうだいい事思いついたぜ‼」

 

そう言い部屋から出て行く束。オータムは何をする気だ?と怪訝そうな顔を浮かべながら次のシミュレーションの準備をする。

 

その頃控え室で涙を零す真耶。

 

「うぅぅ。撃たなきゃいけないのは分かるけど、ISと違って当たったら死ぬって分かると……」

 

そう言いギュッと手を握りしめる真耶。すると控え室の通風孔から

 

「ヤッハロー! 束さん登場!」

 

「きゃぁ!? は、博士驚かせないでくださいよぉ!」

 

「メンゴメンゴ。……実はある事を告げに来たの」

 

そう言うと束はさっきまでのチャランポランタンとした雰囲気から真剣な表情に変わった。

 

「な、なんですか?」

 

「このままいくと夏休み終わりまでに、君は傭兵にはなれない」

 

えっ!?と真耶は驚きの表情を浮かべ、その訳を聞く。

 

「ど、どうしてですか?」

 

「この束さんが計画していたスケジュールだと、今日あたりには基礎中の基礎の更に基礎は出来上がると思ってたの。けどまだその基礎の半分しかできていない。原因は分かるよね?」

 

そう言われ真耶は自身の小心が原因だと思い、首を縦に振った。

 

「このまま基礎が完成しなかったら、……君には傭兵の道を諦めてもらう」

 

「っ!? そ、それだけは嫌です‼」

 

束から告げられた言葉に真耶は泣き顔で受け入れらないと告げる。

 

「けど、このままだと間に合わない。そうなると君は中途半端な傭兵となってしまう。だから――」

 

すると突然束は冷めた様な目線を真耶へと送る。

 

「ネイ君に中途半端な気持ちを持って育った君を送りたくないの」

 

そう言われ真耶は自身の思いを中途半端と言われ、怒りが込み上がった。

 

「―――してください」

 

「ん? なんか言った?」

 

「訂正してください‼ わ、私の気持ちは正真正銘ネイサン君を、彼を愛している気持ちなんです‼ 決して中途半端な気持なんかじゃありません‼」

 

そう言うが束は冷めた視線を送り続ける。

 

「だったら行動で示してよ。何時までもこんなところで泣いてないでさ」

 

そう言われ真耶は分かりました。と言いAKを持ち、控え室から出て行った。その後ろ姿を束は満足そうに見送った。

 

「上手くいったぜ。……さて後は君次第だよ真耶やん」

 

控え室から戻って来た真耶はオータムにもう一度シミュレーションを起動してほしいと頼み、オータムは頷きシミュレーションを開始した。真耶は今まで上手くいかなかった原因を考え出し、扉付近まで近づきブリーチングチャージをセット。そして爆破し、中へと突入する。爆風によって何体かのロボットは倒れ、残りのロボットは爆発が起きた方に銃を構えようとするが、突入した真耶が素早く制圧。そのまま奥へと進み扉の前に着く。するとHQことオータムから指令が入る。

 

『真耶、その部屋には要救護者が居る。無傷で助け出せ』

 

「了解です」

 

真耶は取り回しが難しいAKを置き、サイドアームのPx4を構える。そしてドアにブリーチングチャージをセットし扉横に退避する。そして扉が爆破されたと同時に真耶は中へと突入、そして4体の練習ロボの頭を射抜き、部屋の中心に居た人物に銃を構える。

 

「いい腕だね。さっすが真耶やん」

 

そう言い腕を組みながら笑みを浮かべた束が居た。

 

「どうして……」

 

「理由は簡単だよ。この目で君のネイ君に対する思いを見ておきたかったからさ」

 

そう言い真耶の傍に行き頭を下げる束。

 

「御免ね、まややん。君の思いを貶すようなことを言って」

 

「あ、頭を上げてください! こちらこそ、なかなか前へと進めずにいたのを思いっきり押してもらった事非常に感謝しております」

 

そう言うと束は顔を上げ、ありがとうね。と言い真耶と共に出口へと向かった。真耶の顔はスッキリと言った表情を浮かべていた。

 

(そうです。ネイサン君と同じ道に進むならこれくらいの覚悟がなければいけません。覚悟していると思っていたのですが、まだ踏ん切りがついていなかったのですね)

 

そう思い自虐的な笑みを浮かべながら廊下を歩いて行った。




次回予告
束が言っていた一夏の遺体が見つかったと言う言葉を信じず、千冬は家へと帰って来た。だが家ではある行事が行われていた。
次回
亡き親友の為の拳
~お前があいつを殺したも同然だ‼~


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26話

「……久々に戻って来たな」

 

千冬はそう言いながら上に着ていたスーツを持ちながら、カッターシャツの腕を捲りあげ家へと帰っていた。

一夏が行方不明になった後、ドイツに一夏の捜索に行ったり、学園で生徒達に教鞭をとるなどしたため家に帰ってくる時間が無かったのだ。そして久しぶりの実家へと戻ってくると喪服を着た人達が家へと来ていた。

 

「……一体何が?」

 

「あら、もしかして千冬ちゃん?」

 

そう言い一人の年配の女性が千冬に近付く。

 

「えっと、お久しぶりです雪子さん」

 

そう言い頭を下げる千冬。雪子は箒の伯母で、篠ノ之神社の管理をしている方なのだ。

 

「本当に久しぶりね。それと……この度はご愁傷様です」

 

雪子はそう言い頭を下げた。千冬はその言葉の意味が分からず、慌てた表情を浮かべる。

 

「あの、雪子さん。い、一体何がご愁傷様なんですか?」

 

その言葉に雪子は驚き顔をあげる。

 

「え? 何も知らされて無いの? 貴女の弟さんが遺体とはいえ漸く見つかったのよ」

 

その言葉に千冬はえ?と呟き、持っていたスーツを落とす。

 

「雪子さん、何の冗談なんですか? い、一夏の遺体が見つかったなんて、そんな」

 

千冬は雪子が言ったことが信じられず、家に入って行く。雪子はその後を追い、共に家へと入って行く。玄関に入り奥へと行くと、お坊さんが木魚を叩きながらお経を読み、一夏と親交があった人達が涙を流しながら、手を合わせていた。

 

「……い、一体これは」

 

「千冬ちゃん、本当に何も知らされて無いの?」

 

そう言われ千冬は雪子に、事の始まりを聞く。

 

「葬式を取り仕切っている人達が言うには、数日くらい前にドイツで身元不明の遺体が見つかったらしくて、それで行方不明者のDNAから検索したら一夏君のDNAと一致したらしいの。その後政府の方達が一夏君の遺体をドイツから輸送してこの家まで運んでくれたの。その後に葬式の準備や親交のあった人達に手紙とかが送られたの」

 

雪子は葬儀を取り仕切っている人達から聞いた話を千冬にも聞かせると、千冬は臨海学校の時の束との会話を思い出す。

 

『彼がいっくんだって? おいおい冗談は程々にしときなよ。あといっくんは死んだんだよ。遺体だってつい最近見つかったのに』

 

千冬は束が言っていた言葉はこれの事だったのか。と思う中、自身の中で一夏が死んだわけないと現実を否定する考えが頭を占める。

すると一人の赤髪の少年が足音を立てながら千冬に近付く。

 

「お前のせいだっ‼」

 

「ご、五反田まっグッ!??!」

 

赤髪の少年からの拳に千冬は避ける間もなく殴られ倒された。殴った少年はもう一度殴ろうと近付くが、その後ろから連れだと思われる少年に羽交い締めされる。

 

「弾、気持ちは分かるが、落ち着け!」

 

「離せ治人‼ この女のせいで一夏が死んだんだ!」

 

弾と呼ばれた赤髪の少年は治人と呼んだ少年からの拘束を振り解こうと暴れる。すると赤髪の少女が弾の元へとやって来てビンタをする。

 

「いっつぅ。何をするんだ蘭‼ お前は「私だって殴りたいよ! けど死んだ一夏さんの前で止めてよ!」ッ!?」

 

蘭と呼ばれた少女は涙を流しながら。弾を怒鳴る。弾は一夏の写真を一瞬見て、暴れるのを止めた。

 

「……千冬さん」

 

そう言い蘭は体を千冬の方へと向け、泣き顔を向ける。

 

「もう2度と食堂に来ないでください。もし来たらおじいちゃんが貴女を刺すかもしれないので」

 

そう言い蘭は家から出て行った。蘭の言葉の意味に千冬は意味が分からず、呆然とその後姿を見送っていると弾が説明した。

 

「……お前が一夏を放っておいてバイトに明け暮れていた時に一夏は何時も俺の食堂に来て飯を食べに来てたんだよ。そん時に爺ちゃんに料理を教えてもらっていたんだ。爺ちゃんはぶっきらぼうな雰囲気を出しながらももう一人の孫の様に一夏を可愛がってたんだ。そんな一夏を死なせたアンタが爺ちゃんの前に現れたら、爺ちゃんは迷いなくアンタを殺そうとするかもしれないからあぁ言ったんだよ」

 

そう言い弾は治人と共に家から出て行った。千冬はただ茫然と見送っているとふと複数の視線を感じ後ろを振り向くと様々な視線を向けられていた。一夏が保育園の時からの友人からは殺気を込められた視線を。一夏を幼少の頃から知っていた近所の方達からは軽蔑の視線を。その場に千冬に同情する人物はほとんどいなかった。

傍にいた雪子は、固まっている千冬の肩に手を置く。

 

「千冬ちゃん、一夏君の所に行きましょ」

 

そう言い支える様に傍に寄り添い、千冬を祭壇の元に連れて行った。そして祭壇の元へと連れて行くと大きめの骨壺が置かれており、千冬は何故棺ではなく骨壺がと思っていると、隣にいた雪子が説明した。

 

「千冬ちゃん、残念だけど一夏君の遺体はほとんどが白骨化してたらしいの。だから棺は用意されず骨壺に納められたのよ」

 

そう言われ千冬は最後まで弟の顔が見られないのかと、祭壇の前で泣き崩れてしまった。

 

その後葬儀は進み、千冬は葬儀者の人達から明日ご遺体の骨を火葬場に持って行くことを言われ、今日はこれで終了と言われた。

千冬はただ茫然と一夏の祭壇がある部屋で座っていた。その姿を見つめる隠しカメラがある事に気付かずに。

 

 

「―――どうやら上手くいった様だねぇ」

 

そう言い束はモニターに映る千冬にニンマリとした表情を向ける。

 

「お前もえげつない事をするよなぁ」

 

そう言いオータムは持っていたコーヒーを飲む。

 

「当たり前じゃん。私は天災だよ? 親しいもの以外には徹底的にやる。それが束さんだよ」

 

そう言い人参ジュースを飲む束。

 

「にしてもあいつ等、あの遺体がクローンで出来た骨だとは気付かなかったな」

 

オータムはお気の毒にと呟きながら椅子に座る。

 

「そうだねぇ。それにしても何となく拾っておいたこの実験データがこうも上手くいくなんてねぇ」

 

そう言い束はディスプレイを投影する。其処に映っていたのは

 

『第2の織斑千冬計画』と書かれていた。

 

「あの研究所を破壊した時に偶然見つけて、何となく回収して放置していたけどこんなことに役に立つなんていい拾い物をしたよ」

 

そう言いながらその計画データを『完全消去』を選択しデータを抹消する束。束が臨海学校で言っていた手とはこのことなのである。

マドカを救助した際に見つけた実験データをもとにネイサン事一夏のDNAから一夏が行方不明となった時と同じ位の骨を生成し、それを人が寄りつかない様な場所に遺棄。それから暫くしてオータムに第一発見者を装ってもらい見つける。

後は警察がDNA鑑定をして行方不明となっていた織斑一夏の遺体だと判別し、正式に一夏は死んだことになる。そして日本政府に扮したオータムがその遺体を持って日本へと帰国し、後は葬儀等を準備して一夏が本当に死んだと一夏と繋がりがあった人達に思わせる。そうなれば千冬は一夏は本当に死んだと信じるしかない。束はそれを狙ってこの計画を実行したのだ。

 

「さてと、もうこれでアイツはネイ君に近付く事も無くなるだろうね」

 

そう言い束は千冬の映ったディスプレイを切り、真耶の訓練状況を確認に向かう。

 

 

その頃千冬の家では、未だに千冬は一夏の祭壇の前で動こうとしなかった。

 

「私が悪かったのか? 私は只一夏の為に頑張っていたのに。一体どこで間違えたんだ」

 

【プルル~、プルル~】

 

そうぶつくさ呟いていると一本の電話が鳴り響いた。

この電話がネイサン達の新たな戦いの序曲だとは誰も知る由も無かった。




次回予告
夏休み終盤に差し迫ったある日、ネイサンは新たな装備を受け取った鈴と共に訓練をしているとアールに呼ばれ、ある人物に会いにアールと共に行く。その人物はネイサンの父、ジェイソンの知り合いだった。
次回
警告
~気を付けろ、ネイサン。奴は必ずお前の前に現れる~


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27話

ネイサンがドイツに戻って来てから数日が経ち、夏休みが残り数日となったある日。ネイサンの家の地下ではココが新しい武器をレーム達に配っていた。

 

「はい、では此方が我々の新しい装備。マグプルMASADAです!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

そう言いレーム達に見せるココ。レーム達はおぉーー!と声を揃え上げる。

するとマドカが手を挙げた。

 

「何で新しい装備を配るんだ? 金の無駄じゃないのか?」

 

「ん~? それは皆とマガジン、弾薬を統一するのが目的だよ。因みにネイサンとマドカはそのままで良いよ」

 

そう言うとルツが新しい装備という事でサイドアームもかと聞く。

 

「という事は拳銃もか、お嬢?」

 

「そうだよぉ」

 

そう言いハンドガンケースから一丁の拳銃を取り出した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「SIG SAUER P226。拳銃は共通の弾薬を目的としたものだから、今まで9㎜以外を使ってた人は今のを使ってもいいけど、そっちは予備用として持っててね」

 

そしてそれぞれ新しい武器を持ちレンジに立ち的を射抜く練習を始める。ネイサンは鈴の射撃レーンで見守っていた。

 

「以前より大分良くなってますよ、鈴」

 

「そう? まぁ、バルメさんのお陰よ。それとアンタとの訓練もね」

 

そう言われネイサンは笑みを浮かべ、どういたしましてと言う。

 

「ネイサン、ちょっといいか?」

 

そう声を掛けられ、声の方に目を向けるとアールが其処に立っていた。

 

「どうしたんですか、アール」

 

「あぁ、ちょっと話があるんだが、3時頃時間あるか?」

 

「えぇ、大丈夫ですよ」

 

「じゃあ後でな。練習の邪魔して悪かったな、鈴」

 

そう言いアールは弾薬などを置いている机の方へと行き、空になったマガジンに弾を装填し始めた。

 

「何か用なのかしら?」

 

「さぁ? まぁいいでしょう。それより鈴。手が止まってますよ」

 

そう言われ鈴は再度、サイトを覗き込み的を撃ち始めた。そして時刻は進みアールとの約束の時間となり、ネイサンはコルトをショルダーホルスターに仕舞い、P226を拡張領域に仕舞った。そしてリビングに行くとアールが既に準備を終え待っていた。

 

「すいません、お待たせしました」

 

「いや、構わねぇよ。それじゃあ行こうか」

 

そう言いアールはネイサンと共に家を出た。車に乗って街から少し離れた位置にあるギャズの店へと到着する

 

「何でまた此処に?」

 

「ちょっと此処で待ち合わせをしててな」

 

そう言い、店の中へと入って行く。店内は相変わらずガランとしていたが、一人だけ客が居た。その人物はネイサン達に気付き手を挙げる。

 

「久しぶりだなぁ、アール。そしてネイサン」

 

そう言い持っていたフォークとナイフを置く、眼鏡を掛けた太った男性。アールはネイサンの名を出したことに驚いていた。

 

「ネイサンの事を知っていたのか、ソウ?」

 

「勿論。彼の父親とは友人だったからな。そうだろ、ネイサン?」

 

「えぇ。お久しぶりです、ブラックのおじさん」

 

そう言い笑みを浮かべるネイサン。

 

「さて、話をする前にこいつを食べ切ってもいいか?」

 

「はぁ、食べ過ぎは体に悪いですよ」

 

「良いんだよ。これが俺の唯一の楽しみみたいなものなんだからな」

 

ネイサンは5段も重ねられた皿を見て呆れるように息を吐き、忠告をするがブラックは笑いながら忠告を蹴とばしヒレ肉を頬張る。それから数十分後、ヒレ肉を食べ終えたブラックは口元を拭き笑みを浮かべる。

 

「さて、食事も終えたし話し合いと行こうか」

 

「その前にアールとはどういう関係なんですか?」

 

ネイサンは食事を終えたブラックに呆れ顔でアールとの関係を聞く。

 

「ん? アールとはボスニアでの紛争時に彼がベルサリエリに所属していた時からの知り合いだ。それで色々と連絡を取り合ったりと親しい関係だ」

 

ブラックがそう言うと、ネイサンはふぅ~ん。と嘘を見抜くような鋭い視線を送る。

 

「……嘘はついていないみたいですね。……半分は」

 

そう言われフッと笑みを浮かべるブラック。

 

「やはり気付いていたか」

 

「えぇ。アール、本名レナート・ソッチがブラックのおじさんの部下だと言うのは僕がココさんの分隊に入ってから暫くした後知りました」

 

そう言うとアールは驚いた。自身の経歴はそう簡単にはバレない様に2,3重にもカバーしたにも関わらずネイサンにあっさりとバレていたからだ。

驚いた顔を浮かべるアールにネイサンは笑みを浮かべる。

 

「安心してください、アール。僕は別に皆に言いふらすつもりはありませんよ」

 

「……そうか。だが安心しろネイサン。もうこいつとは仕事上の付き合いとしか思っていない。今日会いに来たのはあることを確認するためだ」

 

そう言うとアールは鋭い視線をブラックに送る。

 

「この前、俺達はお前らCIAが送った殺し屋で殺されかけたんだぞ」

 

アールから出た言葉にネイサンは驚く。そんな報告はココやレーム達から教えてもらっていないからだ。

 

「アール、それは本当ですか?」

 

「あぁ。お前がIS学園に行っている間、俺達はアレクサンドリアで仕事をしていたんだ。そんな時に殺し屋が襲撃してきた。何とかそいつらを撃退し、ボスに依頼主は誰なのか口を割らせたところ、ある人物の名前を言った。そいつをHCLI社が調べたらCIAの人間だと分かったぞ」

 

そう言うとアールは鋭い視線をブラックへと送り続ける。

 

「……済まないが、その情報は初耳だ」

 

「本当か?」

 

アールはワインを飲みながら、ブラックの表情を観察し続ける。

 

「レナート。君の護衛対象のお嬢さんは我々にとって要注目人物だ。彼女が動けば少なからず世界に変化をもたらす。そんな人物を監視するのが私らの仕事だ」

 

「知ってるよCIA欧州課長ジョージ・ブラック課長。だがな、お前等CIAや私利私欲のためにお嬢を傷付ける奴は俺が許さないぞ」

 

アールは殺気を滲み出しながら、ブラックを睨みつけているとネイサンが声を掛ける。

 

「アール、殺気を抑えてください。ブラックのおじさん、いやブラック課長。貴方は先程“その情報は初耳だ”と仰いました。つまり他の事で何か知っているという事ですか?」

 

ネイサンは普段の呼び方ではなく、仕事時の呼び方でブラックに問うとブラックは頷く。

 

「あぁ。ネイサン、学園行事の臨海学校2日目にある出来事があっただろう?」

 

「……えぇ。戒厳令が敷かれている為詳しくは言えませんが、ありました。まさかその出来事に関することですか?」

 

「……その通りだ」

 

ブラックの肯定の言葉に、アールはお嬢ではなくネイサンの命を狙ったのかと思い懐に仕舞っているM9に手を掛ける。

 

「アール、抑えてください。それでブラック課長。その出来事に貴方は関わっていますか?」

 

「いや、私自身君を傷付ける理由が無い。それに君を殺そうものならアメリカは各国の首脳陣から企業まで見限られる可能性がある」

 

そう言いグラスの水を飲むブラック。

 

「では、一体?」

 

「うむ。実は先日、あるアパートの一室で一人の男性遺体が見つかった。警察は自殺として案件処理した。だが我々がその男を調べると可笑しな部分が見つかった」

 

「可笑しな部分?」

 

「あぁ。遺体となった男は本業はコンピュータープログラマー、そして副業としてコンピューターウイルスを作っては裏の連中に販売する男だったんだ」

 

そう言い眼鏡をあげるブラック。

 

「可笑しな部分は此処からだ。男は最後に何かしらのウイルスを作り、誰かに渡している。だがそのウイルスを作ったと思われるパソコンが無い」

 

「警察が押収したわけではないとすると、処分したのでは?」

 

「私も最初はそう思った。だが奥にある寝室の衣装ケースの天井裏からある紙が見つかった」

 

紙?とネイサンとアールは首をかしがる。

 

「その紙には日時、ウイルスの性能が書かれていた。恐らく何かあった時の為に残していたんだろう」

 

ブラックはそう言い折り畳まれた紙を手渡す。ネイサンはその紙を開き中身を確認する。

 

「日時は7月の○日。ウイルスは予め決めておいたシステムにコンピューターのシステムを書き換えるタイプ」

 

「これが一体、ネイサンの何に関係するんだ?」

 

アールは一体なんの関係があるんだとブラックを睨む。だがネイサンは何かが繋がったのか顔をブラックの方へと向ける。

 

「なるほど、そう言う訳ですか」

 

「気付いたか、ネイサン」

 

「えぇ。ウイルスの作成を依頼した連中はココさん達が駄目だった為に……」

 

ネイサンは其処で一呼吸を入れる。

 

「僕の命を狙ったという訳ですか」

 

「っ!?」

 

ネイサンの突然の発言にアールは驚く。

 

「あぁ。恐らくお嬢さんを狙ったが失敗に終わり、なら最近入った隊員。つまりネイサン、お前を殺そうと考えたんだろう」

 

ブラックの淡々とした説明に、アールは怒りから懐の銃を引き抜こうとしたが

 

「店内での銃抜きは禁止だ」

 

ギャズはそう言い銃を掴んでいるアールの腕を抑える。

 

「おい、ブラック。そいつは俺とアイツの大切な息子だ。それを命を狙われていると知っておきながら放置していたのか? もしそうなら……分かってるだろうな?」

 

ギャズからの鋭い殺気を含んだ視線にもブラックは冷静に返す。

 

「勿論分かっている。私だってネイサンが狙われていると知って急いでウイルス作成を依頼した人物を調査している。……ネイサン」

 

ブラックに呼ばれ、ネイサンは顔をブラックの方へと向ける。

 

「恐らくお前とお嬢さんを狙った奴は同一人物だろう。気を付けろ、恐らくまたソイツはお前かお嬢さんを狙ってくるかもしれん」

 

そう言い金を置いてブラックは店の出口へと向かう。その時アールはブラックにそっと折り畳まれた紙を手渡す。ブラックは怪訝そうな顔を浮かべながらもそれを受け取り店を後にした。

 

「それじゃあ俺の方でも調べておく。確かアールと言ったか? お前達の元に送られた殺し屋達の依頼主は本当にCIAの連中なのか?」

 

「お嬢の会社の情報部はそう言っているらしい。詳しい事はまだ時間がかかるって言っていた。そして依頼した人物の名前が“ヘックス”という人物くらいだけど」

 

ギャズからの問いにアールが答えると、ヘックスという単語が出た瞬間、顔を嫌そうな感じに変える。

 

「よりにもよってヘックスかよ」

 

「ギャズ、知ってるんですか?」

 

「噂くらいだけならな。パラミリの中では最も戦場で会うとやばい奴としてトップに立つ程の女だと聞いている。ドイツ語でヘックスは魔女だ。その名の通り魔女の様な残忍さを持った奴だと噂されている。俺が知っているのは此処までだ。また何かわかったら教えてやるよ」

 

そう言われネイサンとアールはギャズに調査を頼み店を後にした。家へと帰る道すがら車の中でアールはネイサンに質問を投げる。

 

「ネイサン、お嬢達にも今回の事話しておくか?」

 

「……そうですね。アール達を襲った殺し屋を雇ったのはCIA、しかもパラミリの可能性が高くなった以上、警戒は厳にしておいた方が良いでしょう。ですがそのヘックスがどういった人物なのかしっかりと調べ、裏付けした後に言いましょう」

 

そう言いながら、長い付き合いのある情報屋達にも情報収集を依頼するネイサン。




次回予告
夏休み終了の2日前。ネイサンは集めた情報、そしてギャズの情報を持ってレーム達を集めた。そして集めた情報をココ達に発表した。その頃ブラックはある人物に電話を掛けていた
次回
因縁


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28話

ブラックと会い、数日が経ち夏休みが後2日となった日。ネイサンは自室で裏情報に詳しい人物と電話越しで会話をしていた。

 

「では、確かなんですね。このヘックスという人物がCIAのパラミリ所属というのは」

 

『あぁ確かだ。以前奴の部隊と交戦したことがある奴に話が聞けたから信憑性のある情報だ』

 

「そうですか。それ以外の情報もこれで間違いは無いんですね?」

 

『間違いないぜ』

 

そう言われネイサンはパソコンでとある銀行口座に値段を打ち込み、送金ボタンを押す。

 

『……おいおい、こんなにもくれるのか?』

 

「相手はあのパラミリですからね。それだけ危険な人物の情報を頂いたんです。それだけこの情報は貴重ですから」

 

『ヘッ。お前さんとお前さんの親父さんくらいだけだぜ、危険を伴って入手した情報にそれに見合った料金を払ってくれる奴は。今度依頼をくれた際は安く引き受けてやるよ』

 

そう言い男は電話を切った。ネイサンは電話を掛けた相手から送られた情報を確認する。

 

「……やっぱりこの女は頭のネジが何本もぬけているのかもしれないな」

 

そう言い今まで集めた情報を、全員分行き渡る様部数を揃え部屋を出る。するとリビングでは既に全員が集まっていた。

 

「ネイサン、皆に話があるって言ってたけど何?」

 

「……先日ココさん達が襲われた殺し屋の依頼主に関することで集まってもらったんです」

 

そう言うと全員が驚いた表情を浮かべた。

 

「ネ、ネイサン、誰から聞いたのそのこと?」

 

ココはネイサンに心配を掛けまいと黙っていたのだが、何故知っているんだとネイサンに聞くとアールが手を挙げた。

 

「お嬢すまん。俺が話した」

 

そう言うと、ココはそう。と言いネイサンに顔を戻す。

 

「では続けます。先日ココさん達を襲った殺し屋の依頼主は確かにCIA、しかもパラミリの連中でした。そしてヘックスという人物もパラミリの所属でした」

 

ネイサンは報告しながら集めた資料を全員に配った。

 

「資料に書いてある通り、ヘックスは元アメリカ陸軍士官学校で最優秀な成績を叩き出し、ある部隊のリーダーに選ばれようとしていたんです」

 

「部隊? 聞いた事が無いねぇ」

 

「俺も聞いた事が無いな」

 

元アメリカ軍デルタフォース所属のレーム、ワイリはそう言い首を傾げる。

 

「知らないのも無理が無いです。部隊はあらゆる記録から抹消されなかったことにされましたからね」

 

「無かった事だと?」

 

ルツはそう言い資料を見ながら呟く。

 

「えぇ。ヘックスをリーダーに創立しようとしたのは女性だけの部隊。以前から構想が軍上層部にありましたが、頭の固い将軍達の手によってその計画は白紙。それが気に喰わなかったヘックスは軍を辞めたんです」

 

「そんな計画が」

 

「女性は戦場では役に立たないと言う固定観念にとらわれた馬鹿の所為ですか」

 

マオは悲観そうな感じを出し、バルメは当時のアメリカ軍上層部に嫌悪を出す。

 

「そしてヘックスはその後、CIAのリクルーターにスカウトされCIAに所属。そしてパラミリに入ったわけです」

 

「軍を辞めた時はまだ正常で、CIAに入った後もまだ正常な人格。一体いつからこんなぶっ飛んだ人格になったんだ?」

 

トージョはそう言うとネイサンは次のページにそれが書いてあります。と言い次のページに進ませた。

 

「同時多発テロ? てことはつまりアイツは9.11の被害者って事か?」

 

ルツの問いにネイサンは半分は。と言い説明を始めた。

 

「彼女、実は婚約者がいたみたいなんです。当時付き合っていたその婚約者は貿易センター、しかも丁度飛行機がぶつかった階で仕事をしていた様なんです」

 

「それが原因で人格が大きく歪んだって事か」

 

「そう言う事です。そしてテログループを狩る為、PMCや軍で扱いに困る人物を集めて構成された組織、カットスロート(喉切り)と言う部隊を編成したようです。そして世界中にいるテロ組織を襲撃しては壊滅、更にテロリストに武器を売っている武器商人にも標的に定め殺しまわっているようです」

 

そう言うと全員苦い顔を浮かべる。

 

「武器商人って。てことはお嬢もその一人という訳か」

 

「えぇ。ですが、普段ココさんは周りに護衛が要る為殺せる可能性が0に等しいとココさん達に送った殺し屋によって分かった。だから標的を変えた」

 

「「「「はぁ?」」」」

 

ネイサンの標的を変えたと言う言葉に全員首を傾げた。

 

「今から僕が言う事は他言無用でお願いします。学園行事の臨海学校2日目に僕が篠ノ之博士から僕の専用機用の武器を貰いその日は訓練をして終了したとココさん達には報告しましたが、実際は違うんです」

 

そう言うと鈴はネイサンが何を言おうとしているのか理解したのか声をあげる。

 

「ちょっ!? ネイサン、それは緘口令が敷かれているでしょ! 喋ったら「大丈夫です。皆さんに話してもいいと許可は貰っています」え? それって一体?」

 

「許可をくれた人物については後で説明します。話を戻しますね。実は臨海学校2日目、博士から武器を貰った後に訓練をして終了していません。緊急を要する事案が発生した為訓練は行われず、その事案の対処に専用機持ちは招集されました」

 

「緊急事案? 一体何があったの?」

 

ココがネイサンに聞くと、ネイサンの近くの席にいたマドカが口を開いた。

 

「……軍用ISの暴走だ」

 

「「「「ぼ、暴走?!」」」」

 

マドカの口から出た言葉に部屋にいた鈴とネイサン以外は驚き、口をそろえ声をあげる。マドカはその声に気にせず説明を続ける。

 

「アメリカ軍がイスラエルの技術開発所と共同開発していたISが謎の暴走を引き起こし日本に向かって飛び出した。そいつの撃墜指令が臨海学校に行っていた兄さん達に下されたんだ。因みにその時に私は兄さんと会い、共に作戦に従事した」

 

「そ、そんな事が……」

 

マドカの説明にココ達は言葉を失った。そんな中、アールはマドカの説明の一つ【謎の暴走】と言うキーワードに引っ掛かりを憶えた。

 

(謎の暴走? 軍のファイヤーウォールはトップクラスを誇るから暴走が起きる可能性は低い。となると誰かが故意に暴走、もしくはウイルスとか。……ウイルス? まさか!?)

 

アールはハッと顔を上げネイサンを見る。ネイサンはアールが突然顔を上げ見てくることに気付き、頷く。

 

「アールの推測通りですよ」

 

「マジかよ。じゃあ本気でお前を標的にされているって事じゃないか‼」

 

突然2人だけで会話をする光景に、バルメが待ったを掛けた。

 

「2人とも、自分達だけで会話をせず私達にも説明してください!」

 

そう言われネイサンはブラックの時と会話した内容をココ達にも説明した。自殺したコンピュータープログラマーの男。そして副業としてコンピューターウイルスを作成し裏の人間に売っていた事。そして最後に作られたウイルスの性能と引き渡しだと思われる日時などを。その説明を聞いたレーム達は憤りを感じ、ココは自分の所為でネイサンが最も危険な人物に目を付けられたと感じ、椅子の上から落ちそうになった。

 

「ココ!?」

 

そう言い近くに居たバルメがすかさずココを抱き留めた。

 

「……ココを部屋で寝かしてきます」

 

「部屋にある棚の中に精神安定剤の入った薬箱があるはずです」

 

ネイサンはそう言い、バルメはココを支えながらリビングを後にした。

 

「……ネイサン。その男の情報は一体何処から入手したんだ?」

 

レームは煙草を咥え火をつける。

 

「……父の友人、CIA欧州担当課長ジョージ・ブラックです」

 

ネイサンが言った情報源がCIAだと聞いた瞬間、全員驚いた表情を浮かべた。

 

「そいつが俺達に殺し屋を送ったと言う可能性は?」

 

「まず無いと断言できます。理由になるかは分かりませんが、メリットが無いんです。ココさん達を殺した所で彼には何の得もありません。更に僕を殺そうものなら、アメリカは父と親交がある企業等から見放される可能性があります」

 

そう言うとレームはそうか。と呟き煙草の灰を灰皿に落とす。

 

「じゃ、じゃあさっき俺達に緘口令が敷かれている事案を話してもいいと許可をくれたのも」

 

「えぇ。ブラック課長からです」

 

ルツの問いにネイサンは答え、懐からシグを取り出しスライドを引き初弾を込め机の上をレームの前に行くように滑らせた。

 

「……ネイサン?」

 

「CIAに知り合いがいると皆に内緒にしていた。そして皆に何も言わずにそのCIAと情報交換をしていたんです。僕の処分は皆の纏め役である貴方にお任せします」

 

そう言い目を閉じるネイサン。全員何も言えずレームを見つめていると、レームは目の前に来たシグを掴みとる。

 

「お、おいレーム。まさか本気で撃つ気か?」

 

ルツはレームにそう問うが、レームは何も言わずシグを掴み、ネイサンを見ているだけだった。ネイサンの隣にいたマドカはもしレームがネイサンを撃つようなら撃ち返す為、拡張領域にしまったシグを何時でも取り出せるようにいた。

鈴も同じだった。ネイサンは自身の命の恩人。撃たれそうになったら身を挺して守るつもりでいた。

シィーンと静まり返ったリビング。すると最初に静寂を打ち破ったのはレームだ。

 

「全く命賭ける様な真似はするんじゃねぇよ、ネイサン」

 

そう言い笑みを浮かべマガジンを抜き、スライドを引き薬室から弾を出した。

 

「君がCIAと繋がりが有ったのは驚きだ。だが君はあの伝説の傭兵と言われたジェイソン・マクトビアの息子だ。それくらいの繋がりはあると思えば納得する。だから俺は君を処分しない」

 

そう言い銃とマガジン、そして弾をネイサンに投げ渡すレーム。その光景に全員ホッと一息を入れた。

 

「但し、今後そう言った機関と連絡を取る際は俺達にも一言いう様に」

 

そう言いレ―ムは俺からは以上だ。と笑みを浮かべながら椅子から立ち上がり外へと出る。

 

「ネイサン、俺達も別にお前が裏切ったとかは思っちゃねぇからな」

 

「だな。これまで色んな仕事を一緒にしてきたんだ、そんな中にはお前が情報屋から買った情報で命を救われた事だってあるからな」

 

そう言いルツとトージョは地下の射撃場へと向かう。

 

「ネイサン、一人で抱え込んで考えないようにするんだ。俺達は仲間でもあり、家族でもあるんだからな」

 

「ワイリの言う通り。私もネイサンの事はもう一人の息子みたいに感じているんだから」

 

ワイリとマオはそう言い外へと向かう。

 

「俺もお前は弟みたいな奴だと思っている。一人で抱え込むんじゃないぞ」

 

ウゴはそう言って車の洗車に向かった。

 

「ネイサン、わりぃ。お前さんばっかり汚れ役みたいな物背負わせちまって」

 

アールは申し訳なそうな表情で言うと、ネイサンは首を横に振った。

 

「いえ、別に気にしてませんよ。みんなとこれからも仕事をしていくんですからこれ位へっちゃらです」

 

そう言うとアールはそうか。と朗らかな笑みを浮かべ、二階の部屋へと向かった。

そして

 

「心配かけてすいません」

 

そう言い鈴とマドカに頭を下げるネイサン。

 

「……もし私を一人ぼっちにする様な事が今後有ったら、後追い自殺しますからね」

 

マドカは若干怒気を含んだ声でそう言い昼食の準備に向かった。

 

「……取り合えず一発殴らせなさい」

 

「な、何で鈴だけ暴力なんでしょうか?」

 

「うっさい‼ 兎に角心配かけさせた罰よ!」

 

そう言い殴り掛かってくる鈴にネイサンは避けて逃げた。

 

「暴・力・反・対!」

 

「うるさい! うるさい! うるさい~! 兎に角殴らせなさい‼」

 

そう言い外へと逃げて行ったネイサンを追いかける鈴。追いかけっこは20分も続き、最後は鈴のスタミナ切れで終わったと思われたが、鈴を介抱しようと近づいたところを狙われ腹パンを一発受け、その場で悶えたそうだ。

 

 

 

 

アメリカ、バージニア州CIA本部

ブラックは自室である所に電話を掛けていた。先日、ネイサン達と会話をした際に別れ際にアールから貰った折り畳まれた紙には人名だけ書かれており、ブラックはその人物に電話を掛けていたのだ。そしてコール音が鳴り響いた後電話に出る音が鳴った。

 

『お久しぶりです、ブラック課長』

 

「久しぶりだな、ヘックス。率直に聞くがお前、例のお嬢さんの所に殺し屋を送ったのか?」

 

『……何のことでしょうか? 私にはさっぱり分かりませんが?』

 

ヘックスは知らないと言った雰囲気を出しながら答えるが、ブラックは恐らくこいつだと確信した。だが何が目的なのか明確にすべくあえて本当に知らないと言った雰囲気を出す。

 

「そうか、ならいいが。……一応忠告しておく。例のお嬢さん達は要観察対象に過ぎない。手を出すのはご法度だ。それと……数年前から入って来ていた隊員もだ。いいな?」

 

『分かりました。では』

 

そういいヘックスは電話を切った。

 

「……恐らく釘は半分しか刺せてないな」

 

そう言い部下の一人を呼びヘックスの行動を監視するよう指示した。今後起きる可能性がある戦いに備えるべく。




次回予告
夏休み最終日、真耶は学園へと戻る為に荷物を纏めているとオータムが選別という事でライフルをプレゼントした。そして束も傭兵の技術と知識を学び終えたプレゼントとしてある物を渡した。
次回
同型機
これだとペアルックだね!


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29話

夏休みが終わりへと近づき、真耶は博士にお願いして持って来て貰っていた服等をカバンに詰めていると、扉をノックする音が鳴り響いた。

 

『おぉ~い、真耶。ちょっといいか?』

 

そう呼ばれ真耶は扉を開けると、扉の前にはオータムが立っていた。

 

「どうしたんですか?」

 

「ちょっとお前さんに渡したいものが有ってな。付いて来てくれ」

 

そう言われオータムと共に真耶は部屋を出て長い廊下を歩き、ある部屋へと到着した。

 

「おぉ~い、博士! 連れて来たぞぉ!」

 

そう言うと部屋の奥で空間ディスプレイで何かをしていた束は作業を止め、振り向く。

 

「お! ナイスタイミングだよ、オーちゃん‼」

 

そう言いちょいちょいと手招きして真耶を呼ぶ。

 

「さて、この度真耶やんの傭兵化プロジェクトは無事終了したので束さんとオーちゃんから修了祝いという事でプレゼントがあります!」

 

「ぷ、プレゼントですか?」

 

真耶は束から突然のプレゼントと言う言葉に驚きながら聞き返した。

 

「そうだよ。さて先にオーちゃん、プレゼントの発表を‼」

 

そう言うとオータムは長めのアタッシュケースを突然手元から現し真耶に手渡す。

 

「俺からはそいつだ。開けてみろ」

 

そう言われ真耶は傍にあった机の上にアタッシュケースを置き中身を確認すると、中にはココ達が新しく装備したマグプルマサダが入っていた。

 

「あいつ等と同じ装備にしておこうと思って用意した。それとハンドガンはこれだ」

 

そう言い拡張領域に入れていたのか、突然何も握っていない手からハンドガンが現れ真耶に手渡された。手渡されたのは9㎜口径のベレッタM9A1だった。

 

「信頼性と扱い易さNo.1のM9だ。お前さんにはこれが一番だと思って用意しておいた」

 

そう言われ真耶はありがとうございます!と大声でお礼を述べ頭を下げた。

 

「さて、次はこの束さんのプレゼントだぜ! 此方をご覧あれ!」

 

そう叫び、手を後ろへと指す。すると暗くて奥まで見えなかった箇所が、ライトで照らされ、見えなかった奥に鎮座する一機のISがライトアップされた。

 

「これが束さんのプレゼント。ネイ君と同じA-10thunderboltⅡ! 武装やら何やらほぼネイ君と同じ! いや~、これが並んで立ったらもはやペアルックだね!」

 

「ぺ、ペアルックですか!?」

 

束のペアルックと言う発言に真耶は顔を真っ赤にさせながらISを眺める。

 

「ほら、フィッティングするから乗った乗った!」

 

そう言い束は笑顔で真耶をISに乗せ、ササっとフィッティングを行う。するとエプロンを身に付けたクロエがやって来た。

 

「皆様、お食事のご用意が出来ました」

 

「お! それじゃあちゃちゃっとやらないと! ……はい終了!」

 

「相変わらず早すぎるだろ……」

 

オータムは束の入力などの速さに呆れながら部屋から出て行き、真耶も束たちの後に続き部屋から出て行った。

 

昼ご飯を取り終え、束達は真耶を見送るべく束の隠れ家出入口へと来ていた。

 

「それでは篠ノ之博士、オータムさん、クロエちゃん、お世話になりました!」

 

「此処で学んだこと、ちゃんとネイ君の為に活かしてよ?」

 

「達者でな」

 

「お体にお気を付けてください」

 

そう言われ真耶は再度、お礼の言葉を送っていると

 

「あら、丁度いいタイミングだったようね」

 

そう声が聞こえ、真耶は後ろを振り向くと其処にはスーツ姿のスコールが居た。

 

「ス、スコール先生!? どうして此処に居るんですか?」

 

「ん? そりゃあ私は博士とは臨海学校以前からの知り合いよ」

 

そう言われ真耶はえぇ~~~!?と大声をあげ、口をアングリと開きっぱなしとなった。

 

「さて、真耶。驚いているところ悪いけど、これから学園に帰るわよ」

 

そう言い真耶の荷物を持ち上げるスコール。

 

「えっと、帰ると言ってもどうやってですか?」

 

「外にロケットがあるからそれによ」

 

そう言いスコールは外へと向かう。真耶は再度束達にお礼を言いスコールが出て行った扉へと向かい、スコールが言っていたロケットに乗り込んだ。

 

『それじゃあ行くわよ』

 

そう言いスコールは発射スイッチを押し、2人を乗せた人参型ロケットは学園へと向け、飛んで行った。




次回予告
学園へと帰って来たネイサン達。何時も通り訓練をしていると、真耶がやって来て一緒に訓練をする事となった。そして部屋へと戻ると何者かが侵入した痕跡を見つけた。

次回
2学期の始まり


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30話

夏休みが終わり、ネイサン達は学園へと戻って来ていた。荷物をそれぞれ持ちながら学園の門をくぐり抜けると、スコールと真耶が立っていた。

 

「おはよう、3人共」

 

「おはようございます、皆さん!」

 

「おはようございます、スコール先生、山田先生」

 

「おはようございます!」

 

「おはよう」

 

スコールと真耶の挨拶にネイサン達はそれぞれ返す。

 

「それで、お2人が此処に居るのはマドカの事ですね?」

 

「えぇ、朝のSHRまでに書いて貰わないといけない書類が幾つからあるから迎えに来たのよ」

 

スコールの説明をしている中、真耶はマドカから荷物を受け取った。

 

「お荷物の方は私が預かっておきますので、寮のお部屋が分かりましたら鍵と一緒にお返ししますね」

 

「分かりました」

 

真耶の説明にマドカは了承し、スコール達と共に職員室へと向かった。

 

「それでは僕達も教室に向かいましょうか」

 

「そうね」

 

そう言い2人は教室へと向かった。

 

階段を上がり1年のクラスがある階へと到着し、教室に向かうと前方に車椅子を押しながら教室に向かう黒髪のポニーテールをした生徒が居る事に気付く。

 

「ねぇ、あれって篠ノ之さんよね?」

 

「えぇ、まだ学園に居たんですね」

 

そう言いながら教室に向かう2人。2人が後ろに居る事に気付いていない箒は車椅子を押しながら自身の教室へと入って行った。箒が教室に入って行った後、廊下に居た女子生徒達はヒソヒソと話し始めた。

 

「彼女、あんな体になりながらまだこの学園に居る気なの?」

 

「そうみたい。あの状態じゃあISだってまともに動かせないのに、何時までいる気なのかしら」

 

「噂じゃあ織斑先生が学園長に直談判して、残させたんだって」

 

「それって本当? 教師が一生徒の為だけに直談判って、彼女だけ依怙贔屓してるように感じるんだけど」

 

そう言いながら教室に居る箒に鬱陶しそうな目で見ていた。

 

「彼女、相当周りから恨まれているみたいね」

 

「そりゃあ、普段姉は関係ないと言っていたのに突然自分だけのISを貰おうとしたんです。恨まれて当然でしょう」

 

そう言いながらネイサンは3組の教室に入って行き、鈴も2組に入って行った。

 

それから時間は経ち朝のSHRの時間となると、真耶とスコールが教室に入って来た。

 

「はい、皆さん。おはようございます!」

 

「「「おはようございます!」」」

 

「あらあら、皆元気が良いわね? フフフッ」

 

元気よく挨拶を返す生徒達を見てスコールは笑みを浮かべながら教室の生徒を見渡す。

 

「さて、実は今日から転校生が入ってきます。皆さん静かにしておくように」

 

そう言いスコールは扉に向け、入って来て。と声を掛ける。扉が開かれ、黒髪の小柄な少女が入って来た。

 

「それじゃあ、名前と何か自分の事とか話して」

 

「…マドカ・マクトビア。ネイサン・マクトビアの妹。これからよろしく」

 

そう言い頭を小さく下げ、自己紹介を終えた。短い自己紹介にスコールは苦笑いになり、ネイサンも同じような表情だった。

 

「もう、短い自己紹介で終えないでよ。他に言うことは無いの? 好きな物とか、趣味とか」

 

スコールからそう言われ、マドカはしかめっ面でスコールを見た後、はぁ~。と息を吐き口を開く。

 

「好きな物は、兄さんが作った料理。趣味は本を読むこと」

 

そう言うとスコールは満足し、ネイサンは自分の料理が好きなのかと笑みを浮かべると、それを見たマドカはしかめっ面になりながら頬を紅く染めた。

 

「えっと、それではマドカさんのお席はネイサン君のお隣です」

 

そう言うとマドカは席へと向かい、席に着く。生徒達はキャーキャーとは騒がず、静かにSHRを聞く。

 

「それじゃあSHRを始めるわね。もう知ってると思うけど再来月に学園祭が行われるわ。出し物についての討論は後日、全校集会で学園祭の説明をされた時に行うからそれまでに案を考えておいてね。それと変な出し物とかは考えない様に。以上でSHRを終えるわ」

 

そう言うとネイサンは、起立、礼。と言いSHRを終えると教室にいた生徒達は挙ってマドカに群がった。

 

「マクトビア君の妹って言ってたけど、本当?」

 

「好きな物がマクトビア君の手料理って言ってたけど、どんな料理が好きなの?」

 

「マクトビア君の普段の私生活ってどんな風なの?」

 

大勢の生徒達がマドカの元に向かった為、マドカは対処しようにもどうしたらいいのかと、ネイサンに助けを求める目線を送る。

 

「皆さん、マドカが困っているので一人ずつ質問をしてあげて下さい」

 

ネイサンは苦笑いを浮かべながらそう言うと、質問がある者はじゃんけんをして順番を決めマドカに質問した。

時間は経ち、放課後となりネイサンとマドカ、そして鈴はアリーナへと向かっていた。

そしてアリーナへと到着しISを身に纏いアリーナ中央に集う3人。

 

「さて、どう訓練する?」

 

「僕は射撃訓練をするんで、2人は近接訓練をするって言うのはどうでしょう?」

 

「私は別にそれでもいい」

 

そう言いネイサンは離れると、鈴は紅龍に装備されているグルカビームナイフを装備する。マドカも自身のIS、F-22に装備されている長刀を構える。そして互いに近接訓練を始めた。

 

「さて、自分も射撃訓練を「ネ、ネイサン君、ちょっといいですか?」おや、山田先生どうしたんですか? ISスーツまで着て」

 

ネイサンはISスーツを着た真耶にそう声を掛けると、真耶は恥ずかしそうに訳を話した。

 

「えっと、最初はマドカちゃんの荷物を届けようとしたんですが、スコール先生から荷物を届けるついでに訓練をしてきたらどう?と言われて、来たんです」

 

「訓練をですか、ですが何でまた訓練を?」

 

「実は私も専用機を持つようになったんです」

 

「えっと、専用機をですか?」

 

そう聞き返すと、真耶はコクンと首を縦に振った。

 

「まぁ、いいですが」

 

そう言いネイサンは真耶のISはどう言う物だろうと思っていると、真耶がISを身に纏った瞬間目を疑った。真耶が身に纏ったのは自分と同じA-10なのだから

 

「えっと、山田先生。何処でその機体を?」

 

「えっと、ウサギさんがプレゼントしてくれたんです」

 

そう言うとネイサンは誰なのか直ぐに理解すると同時に、何故ISを渡したのだろうか?と疑問を浮かべた。

 

「何で山田先生にISを渡したのか、聞いてます?」

 

「えっと、私にもわかりません。ただ何となくだそうです」

 

真耶はネイサンに本当の恋心を抱いている女性で、傍で支えられる度胸があるからという理由で選ばれたとは言えず、尤もらしい嘘で誤魔化した。

 

「そう、ですか」

 

ネイサンは何処か納得がいかない様な表情を浮かべながらも、納得し訓練を始めた。互いに同じ武装、同じ性能の為互いのISを操縦する腕が勝負となった。

 

数時間後、訓練は終了となった。服などを着替え終え、ネイサンはアリーナの出入り口にいると荷物を持ったマドカと鈴、そして真耶が出てきた。

 

「それでは山田先生、また明日」

 

「はい、今日は訓練に混ぜて下さってありがとうございます!」

 

「いえ、私もいい訓練になりました」

 

「私も回避訓練とかが出来たので、いい経験になりました」

 

そう言い3人は寮へと帰り、真耶も教員用の寮部屋へと帰って行った。3人は寮へと到着し、廊下を歩いていると鈴が思い出したようにマドカに話しかけた。

 

「そう言えば、マドカって何処の部屋なの? 今度遊びに行きたいし」

 

「ん? 私の部屋は『1123』だ」

 

部屋の番号を聞き、ネイサンは少し驚いた表情を浮かべマドカに向けた。

 

「その部屋は僕の部屋だ。どうやら相部屋の様だな」

 

そう言うとマドカは若干嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「そうなの。それじゃあ今から行っても良い? この前アンタが出した宿題の答え合わせとかしたいし」

 

「えぇ、構いませんよ。では先に鈴の部屋に行ってから行きましょう」

 

そう言い3人は鈴の部屋に先に行き、鈴は中に入ってタブレットを持って部屋を出てネイサン達と共に部屋へと向かった。

 

「それにしてもアンタが出した宿題、難しかったわよ。バルメさんやレームさん達にお願いして教えてもらわなきゃ、解けなかったじゃない」

 

「そうですか? 自分は父に貰った参考書で学びましたが大して難しくありませんでしたよ」

 

「アンタが難しくなくても、私には難しいの!」

 

そう言いながら廊下を歩ているとネイサンの部屋の前へと到着した。

 

「さて、此処が僕の……」

 

部屋だと言い切る前に、ネイサンは違和感を覚えた。

 

「兄さん?」

 

「どうしたのよ?」

 

マドカと鈴は怪訝そうな顔でネイサンの様子を伺うと、鋭い視線を扉に向けていた。

 

「……誰かが部屋に入った跡がある」

 

「「!?」」

 

その言葉を聞いた2人はすぐさま拡張領域からP226を取り出しスライドを引き、初弾を薬室に送る。

 

「……確かなの、部屋に誰かが入ったって?」

 

「えぇ。鍵を差し込む部分に僅かに、新しい傷が出来ているんです。恐らく誰かがキーピックを使用して中に入ったかもしれません」

 

そう言いながらネイサンはコルトを取り出し扉に鍵を差し込み、ロックを解除する。そして一気に扉を開き、銃を構える。中には誰もおらず、3人は警戒しながら進む。そして部屋を一つずつ確認していき侵入者が居ないか確認する。部屋をくまなく探したが、結局侵入者は居なかった。

 

「侵入者は居なかったわね。何でアンタの部屋に?」

 

「分かりません。荷物も確認しましたが盗られた物は一切ありませんでした」

 

「なら、考えられるのはあと一つしかない」

 

そう言いマドカは拡張領域からある機械を取り出し、電源を入れる。

 

「マドカ、何それ?」

 

「盗聴器発見器。兄さんの周辺でコソコソ動く奴等から兄さんを守る為に、博士から貰った。……有った」

 

そう言いコンセントに差し込まれている2叉のコンセントを取る。

 

「マドカ、他にもありそうか?」

 

「まだ鳴っているから、恐らくあると思う」

 

そう言い部屋中を探し回ると、合計8個の盗聴器が見つかった。

それを見た鈴は信じられない。と言った表情を浮かべた。

 

「アンタが世界最初の男性操縦者だからって、これじゃあプライバシーも何にもないじゃない」

 

「えぇ。これを一体誰が仕掛けた知りませんが、舐めた事をしてくれますね」

 

「そうだな。こいつを仕掛けた奴には徹底的に潰さないと気が済まない」

 

そう言いマドカは盗聴器を壊そうと、盗聴器を掴もうとするとネイサンが待ったを掛けた。

 

「それは大切な証拠だ。学園長に話しに行って暫く別の部屋か、新しくキータイプではなくカードリーダータイプの物に替えるかなどして貰わないと」

 

そう言い盗聴器を袋に詰め、部屋の荷物も纏める。

 

「私も行く。私もこの部屋に下宿する予定だったんだ」

 

マドカはそう言い付いて行くと言うと、ネイサンはいいぞ。と了承する。

 

「私は自分の部屋で待ってるから、どうするか決まったら教えてね」

 

そう言い鈴は部屋から出て行こうとすると、マドカが盗聴器発見器を鈴へと投げ渡した。

 

「もしかしたら鈴の部屋にもあるかもしれないから、一応見ておけ」

 

「……そうするわ。有ったら私も学園長室に行くわね」

 

そう言い鈴は部屋へと戻って行った。そしてネイサンとマドカは学園長室へと向かった。




次回予告
盗聴器を持って学園長に会いに行ったネイサンとマドカ。するとスコールと真耶が鈴を連れて慌てたような様子で入って来た。内容がネイサン達と同じ盗聴器がらみで、鈴の部屋からも見つかったのだ。学園長はある案を出した。
次回
学園長の権限
~この様な碌なことをしない人には、しっかりと“お話”しないといけませんね~


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31話

部屋から出て、マドカと共に学園長室へと来たネイサン。扉をノックすると中から

 

『どうぞ』

 

と入室許可が下りたのを確認し、中へと入って行った。

 

「失礼します学園長」

 

「おや、マクトビア君。それに今日入学された妹さんもご一緒ですか。如何なさいましたか?」

 

学園長は朗らかな笑みを浮かべながら用件を聞く。ネイサンは「では単刀直入に」と言い机の上に、袋の中にいれていた盗聴器を出す。

 

「これは……二又コンセント、それにこれはクリップ型。どれも盗聴器ではありませんか!」

 

学園長は驚いた表情を浮かべながらネイサン達の方へと顔を向け、ハッ!となった。

 

「ま、まさかマクトビア君の部屋にあったのですか?」

 

「えぇ、そのまさかです」

 

そう言うと学園長は何てことなんだと重い息を吐き、俯く。すると扉をノックする音が部屋に鳴り響いた。

 

「誰です?」

 

『スコールです。早急にお伝えしないといけないことがあるのですが、宜しいでしょうか?』

 

そう言われ学園長はどうぞ。と声を掛ける。扉を開け中に入って来たのは慌てた表情を浮かべたスコールと真耶。そして

 

「あれ鈴。……まさか」

 

マドカはもう一人入って来た鈴に、すぐに察した。

 

「そのまさかよ」

 

鈴はそう言いため息を吐いた。

 

「どういう事ですか? まさか、凰さんのお部屋にも……」

 

「……はい、3つ程見つかりました」

 

そう言いスコールは学園長の机の上に盗聴器を置く。盗聴器はネイサンの部屋にあった物の内3つと型が同じ二又コンセントだった。

 

「まさか、凰さんのお部屋からも、とは……」

 

「……学園長、今分かったことがあるんですがいいですか?」

 

ネイサンはジッと鈴の部屋、そして自分の部屋から見つかった盗聴器を見比べながら話しかけた。

 

「何でしょう?」

 

「これは僕の予想なんですが、僕の部屋には2人以上入った可能性があるんです」

 

「「「「「!?」」」」」

 

ネイサンの推測の言葉に全員が言葉を失った。

 

「ど、どう言う事なんですか?」

 

「このクリップ型はコンセントのカバーを外して中にある配線に傷をつけて電源を入手し盗聴します。逆にこのコンセントタイプは差し込むだけで盗聴が出来るものです。したがって、今日このクリップ型を仕掛けるには余りにも時間がない気がするのです」

 

「なるほど。確かに今日は早めに授業は終わり、クラスから寮の部屋に戻ってくる生徒が多かった。そんな中でクリップ型を仕掛けるには余りにもリスクが高すぎる」

 

スコールはネイサンの説明に納得した表情を浮かべている中、学園長は申し訳なさそうな顔を浮かべていた。

 

「はぁ~、学園創設以来これほどトラブルが舞い込むのは初めてです。マクトビア御兄妹、凰さん、御不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」

 

そう言い学園長は頭を下げた。

 

「いえ、学園長が悪いわけではないので、頭を上げてください」

 

そう言いネイサン達はまさか学園長が頭を下げて謝罪をするとは思わず、慌てて声を掛けた。

 

「それで学園長。今回の件どう対処するんですか」

 

マドカはそう聞くと、学園長はしばし口を閉ざし考え込む。そして口を開いた。

 

「ネイサン君達には申し訳ないのですが、暫くの間教員の方と同居してもらってもいいでしょうか?」

 

そう言われネイサン達はえっ!?と驚いた表情を浮かべた。

 

「あの、学園長。生徒を守る為とは言え、生徒と教師を同じ部屋にするのはどうかと」

 

「ですが、これしかありません。それにマクトビア君は暫く山田先生と相部屋ではありませんでしたか」

 

そう言われネイサンは、うっ!?と思い出された。鈴は何故だか分からないが真耶に嫉妬に近い何かを抱き、マドカはこの胸デカの教師と兄さんが同じ部屋にいただと。とジト目で真耶を見ていた。

 

「た、確かに山田先生とは暫くの間同居しておりました。ですがそれは部屋の準備が出来るまでであって「今回も暫くの間です。マクトビア御兄妹、そして凰さんのお部屋をカードリーダータイプに変更、更に保安システムなどを他より徹底する準備が終わるまでの間だけです」……分かりました」

 

ネイサンは徹底的に準備するためだと言われた為、仕方なく了承した。

 

「では凰さんはスコール先生のお部屋。マクトビア御兄妹は山田先生のお部屋で宜しいでしょうか?」

 

「あの、この場合教員一人に生徒ひ「はい、任せてください!」「まぁ生徒を守る為と思えば大丈夫です」……人の話を聞いて下さいよ

 

ネイサンの話を遮る様に真耶とスコールが了承の言葉を口に出され項垂れた。

 

「では、皆さん。それぞれ部屋から荷物などを持って教員部屋に向かってください。あ、それとスコール先生少しお話があるので残ってください」

 

そう言われスコール以外の面々は退室して行き、残ったスコールと学園長は話を始めた。

 

「今回の件、篠ノ之博士の耳には…」

 

「恐らく届いている可能性があります。彼女は(ネイサン)に関することは地獄耳以上に敏感なのですぐさま仕掛けた人物を特定すべく既に動いていると思います」

 

そう言うと学園長ははぁ~。と重い息を吐く。学園長がどうして篠ノ之博士とスコールが繋がっていると知っているのかと言うと、ネイサンが学園に入学する数日前まで遡る。

 

 

――――ネイサンが入学する数日前

 

学園長は世界初の男性操縦者が入学する為、向こうが提示した条件等必要な書類などを書いていると突然部屋に人の気配を感じ、机に向けていた顔をあげると目の前に奇抜な格好をした女性が居たのだ。

 

「ッ!?」

 

「お、流石元傭兵なだけはあるね。この束さんの気配を殺している状態にも拘らず気配を察して顔を上げるとは」

 

轡木は突然部屋に居た人物が束と言うと直ぐに篠ノ之博士と分かり、この場にいる理由を問う。

 

「あの、私が傭兵だなんてそんな……。それと貴女は篠ノ之博士とお見受けして宜しいでしょうか?」

 

「そうだよ、私が篠ノ之束さんだよ。それと貴方が元傭兵だという事はとっくに調べがついてるよ」

 

そう言われ轡木は、内心驚きで一杯となった。幾つものカバーストーリーで自分の経歴を書き換えてあるにも拘らず目の前の博士は意図も容易く自身の過去を見つけ出したのだ。

 

「……流石天災と言われているだけのお方だ。私が用意したフェイクストーリーを見破って過去を見つけ出すとは、御見それしました」

 

「伊達に天災と言われて無いからね。それでさ、実は今回お願いが有って来たんだ」

 

そう言われ轡木はお願い?と首を傾げた。

 

「この学園に私の部下の一人を入れて欲しい。勿論タダとは言わない。私が用意できるものは何でも用意するよ。但しISのコア以外で」

 

「それはまた何故?」

 

轡木は突然自身の部下を入れて欲しいと頼みに来た理由を問うと、束はニンマリとした表情を向けながら答えた。

 

「この学園に入ってくるネイサン・マクトビア。彼は私のお気に入りの子なの。だからその生活の様子を出来る限り見守りたい。けど私は世間からはお尋ね者。なら私の部下をこの学園の教師として赴任させれば見守ることが出来る。それが理由」

 

そう言われ轡木は考え込む。そして分かりました。と口にした。

 

「貴女のお願い聞き入れましょう。その代わり条件があります」

 

「何かな?」

 

「はい、それは―――」

 

学園長が提示した条件、それを聞いた束は一瞬驚いた表情を浮かべるがニンマリと笑みを浮かべた。

 

「良いよ。と言うか、そんなので良いの?」

 

「えぇ、構いません。それだけで十分です」

 

そう言うと束は分かった。と言い部屋から忽然と姿を消した。そして暫くして束の部下であるスコールが教師として赴任して来た。

 

「―――あの時博士にお願いしておきながら、私自身が出来ないとは学園長失格ですかね」

 

「いえ、学園長はしっかりされていると思いますよ。博士もその辺は評価されおりましたし」

 

束からも評価されていると聞き、轡木は若干苦笑いを浮かべた。

 

「そうですか。……それにしてもこんな物を仕掛けるとは。これを仕掛けた人とはいずれ“お話”しないといけませんね」

 

轡木はそう言い普段見せた事もない鋭い視線で盗聴器を見つめた。スコールは若干冷や汗を流しながら部屋を退室して行った。

スコールが出て行った後、轡木は机の引き出しから一枚の写真を取り出す。

 

「全く、貴方の息子は色々トラブルに見舞われる様ですね。しっかりと空の上から見守っているのですか、ボス?」

 

そう言い轡木は朗らかな笑みで写真を眺めた。写真にはジェイソンとギャズ、そして轡木が戦場と思われる場所で肩を並べながら撮られた物だった。

 

 

 

 

人物設定

・轡木十蔵

IS学園学園長。朗らかな笑みを浮かべながらも自身の信条は貫き通す確固たる意志を持った人物。昔ジェイソンの部下として共に戦場を駆け回っていた。自身の過去を幾つもののカバーストーリーで覆い隠し今の地位にいる。裏の人物とも繋がりがある。最初、ネイサン・マクトビアと言う名前を聞いてジェイソンの息子だと知った時はかなり驚き、学園長としてではなく、彼の父親の元部下として裏から学園生活を見守ろうと色々根回しをしている。




次回予告
ネイサンの部屋に盗聴器を仕掛けた人物を探すべく、学園にハッキングして生徒、教師のPCを調べる束。すると一人の生徒のPCに中にあったあるものに目が留まり、キレた。そしてその生徒の元にスコールが向かった。
次回
やっていい事と、やってはいけない事
~これ、どう言う事なのか教えてくれるかしら?~


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32話

――束の隠れ家

 

隠れ家のある一室にて束は、おでこに青筋を浮かべながら複数の空間ディスプレイを見ながらキーボードを操作していた。

すると傍に居たクロエが話しかけた。

 

「束様、1年生全員のパソコン、スマホの中身を確認しましたが怪しいものはありませんでした」

 

「分かった。それじゃあ次は3年生のをやって」

 

そう言われクロエはディスプレイを開き、一人一人確認していく。2人がやっているのはIS学園在学の生徒、そして教師達のパソコン、スマホなどにハッキングし盗聴していた人物の特定を行っていたのだ。

 

「全く、漸くあの脳筋女(織斑千冬)からネイ君はいっくんじゃないって思い知らせたのに、今度はネイ君のプライベートを詮索する馬鹿が現れるなんて、あの学園には束さんの邪魔しかしない蛆虫共しかいないのかよ」

 

束はネイサンに楽しい高校生活を送らせようと色々しているのに、それを邪魔しようと動く連中にイライラが募っていた。

 

「ん? 何だこのファイル?」

 

束はある生徒のパソコンの中にあった謎のファイルに目が留まり、そのファイルを開く。

 

「さてさて一体何が……」

 

ファイルを開き中身を確認した束はイライラした表情が、イライラが限界を超え真顔となりそのファイルの中身を見ていた。

クロエは突然黙ってしまった束を心配し声を掛けた。

 

「束様? 如何なさいましたか?」

 

「何でも無いよ。ちょっとスーちゃんに電話して来るね」

 

そう言い束は席を立ち、部屋から退室して行く。クロエは雰囲気、声量などから本気で怒っておられると察し、怒らせた人物は一体誰なのかと思い束が見ていたディスプレイを見る。そして怒った理由を察した。

 

「なるほど、確かにこれは酷いですね。束様が本気で怒られる理由も分かります」

 

そう言っていると、ドッン!!!と音がすると共に部屋が一瞬揺れ、クロエは束が外で怒りを放出されたのだろうと思い作業へと戻った。

 

 

 

そして次の日、IS学園2年2組では朝のSHRが始まるのを、談笑しながら待つ生徒達。すると教室の前の扉が開きスコールが入って来た。

 

「失礼するわね」

 

そう言いスコールはテクテクと一人の生徒の元へと歩む。

 

「少しいいかしら?」

 

そう声を掛けられたのは眼鏡を掛け、私物だと思われるカメラを弄る生徒であった。

 

「えっと、何ですか先生?」

 

「黛さん、貴女に少しお話があるの。付いて来てもらってもいいかしら?」

 

「え? でもこれからSHRが「担任の瑠莉奈先生には、私から事情は話してあるから大丈夫よ」そ、そうですか。分かりました」

 

そう言い黛は立ち上がり、スコールと共に教室を出て行く。生徒達は何かやらかしたのか?と話し合い始めた。

その頃黛がスコールに連れて来られた場所、それは生徒指導室だった。

黛は何故この部屋に連れて来られたのか、訳が分からず目の前に居るスコールに訳を聞く。

 

「あの、スコール先生。何故私は此処に連れて来られたんでしょうか?」

 

「そうね。訳を話しましょうか」

 

そう言いスコールは訳を話し始めた。

 

「実は最近、生徒達の間で新聞部の記者が捏造した新聞記事を掲載しているって噂が挙がってるのよ」

 

「ね、捏造記事ですか!?」

 

黛は驚いた表情を浮かべ、顔をしかめる。

 

「私も新聞部の一人ですが、そんな事をしている人が居るなんて信じられません! 直ぐに犯人を「実はもう見当がついてるのよ」……へ?」

 

犯人はもうわかっているとスコールの言葉に、黛は可笑しな声をあげる。

 

「実は新聞部の部長にお願いして部員全員のパソコンを調べさせて貰ったの。因みに自前のパソコンもよ」

 

そう言うと、黛の顔から滝の様な汗が流れ始めた。

 

「そしたらあなたのパソコンからこんな記事が見つかったのよ」

 

そう言いスコールは紙を机の上に出し、黛の方に置く。その紙には記事が書かれており内容が

 

『噂の男性操縦士、夢はハーレム王!』と書かれていた。

 

「これ、一体どういう事かしら?」

 

「えっと、わ、私には何のことかさっぱり……」

 

黛は汗を大量に流しながら、目を明後日の方向に向ける。

 

「そう。けどこの記事、厳重に色んなファイルに隠すようにされていたんだけど? しかもご丁寧にこの記事があるファイルにはロックさえかけられてあったし」

 

そう言われ黛は、汗が更に激しく落ちていく。

 

「何か言い訳は?」

 

「だ、だって噂の男性操縦士のマクトビア君に取材を依頼しても、全部断られるんですもん。そうなったら記事が書けないから捏造するしか……」

 

そう言い黛は言い訳を述べていると、指導室に置かれているロッカーがガタガタと動き出しそして

 

「このぉ、恥知らずがぁ~~~!!!」

 

そう叫びながら黛を殴り掛かったのは

 

「ぶ、部長!? ブベラッ!!???」

 

突然ロッカーから飛び出してきた部長に、黛は驚きの余り身動きが取れずそのまま部長の拳を貰った。

 

「貴様ぁ! 捏造なんて言う歪んだ記事を世に出そうとは、貴様それでジャーナリストかぁ!」

 

そう叫びながら黛の胸倉を掴み、ブンブン振る部長。黛は「く、苦しぃ~」と零しながら、意識を失った。意識を失った黛を部長は廊下の外に居た部員達を呼び、持って来させた担架に乗せた。

 

「先生、こいつの不始末は我々新聞部が片付けます」

 

「そう? 此方は今後捏造した記事を掲載しない様にと警告するだけだから、別に良いけど」

 

そう言われ部長は「では、失礼します!」と言い部員達と共に拘束した黛を運び出て行った。

 

後日黛は部長からジャーナリストとしての心を一から叩き込むと言われ、部活の時間終了一杯までマンツーマンで心得を教えられているとのこと。

 

 

 

そんなことがあった日の放課後。学園のとある一室にいる一人の女子生徒。机の上にはネイサンの入学時の資料が置かれていた。

 

「突然薫子ちゃんが、先生に生徒指導室に連れていかれたのは、偶然にしては出来過ぎてる。それに今になって噂を調べるなんて可笑しい。やはり彼の後ろに居る篠ノ之博士が何かしたのかしら。動いた理由はあれよね……」

 

そう呟きながら外を眺める生徒。

 

「どちらにしても彼は一体何者なのかしら」

 

そう言い扇子を開く。其処には『何者?』と書かれていた。




次回予告
何時もと変わらず鈴やマドカ、そして真耶と訓練をするネイサン。そんなある日、ネイサンはISの定期メンテの為アリーナ横に設置されているメンテナンスルームへと向かう。其処には作りかけの一機のISが鎮座し、一人の生徒が作業していた。
次回
努力をした者ほど、その見返りは大きい
~迷惑と思われることは分かっています。ですが、それでも手伝わさせて下さい~


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33話

ネイサン、マドカの部屋と鈴の部屋から盗聴器が見つかって翌日、ネイサン達はアリーナでライフルの射撃練習を行っていた。

 

「鈴、夏休みから随分成長しましたね」

 

「私だって努力すればこの位余裕よ!」

 

鈴は70m程先に置いたマンターゲットの頭部、胸部を的確に射貫いていた。

 

「ですが、まだ装填辺りがぎこちないですね」

 

そう言われ鈴は、うっ!?と鳴らした。ネイサンが後ろで鈴の射撃を見ていたが狙い撃つのは上達したが、まだ動作にぎこちない所が幾つかあったからだ。

 

「マガジンをポーチから取り出しやすいように向き等は全て同じ向きにしておく。以前教えていたはずですよね?」

 

ネイサンは苦笑いでそう言うと、鈴は両手の人差し指をちょんちょんとぶつけながら訳を話す。

 

「だって、ネイサンに早く上達した腕見せたかったから」

 

そう言われ、ネイサンは一瞬キョトンとした顔を浮かべ苦笑いをまた浮かべた。

 

「見せてくれるのは嬉しいですが、射撃の腕だけではなく基礎などもしっかりと磨けているのか見せてくれないと」

 

そう言われ鈴は、わ、分かってるわよ!と顔を真っ赤にしながら答えた。そしてポーチに挿しているマガジンの向きを取り出した際に直ぐに挿し込めるように向きを揃え始めた。その頃真耶とマドカは互いにカバーを取りながら前進する射撃訓練を行っていた。

 

「山田先生凄いですね」

 

「そ、そうですか? 何時も一人での訓練ばかりで上手くいくか心配でしたが良かったです」

 

真耶は前進を始めたマドカを狙う可能性が高いマンターゲットに制圧射撃を行い、カバーに着いたマドカが真耶を動かせるようにマンターゲットに対して制圧射撃を行う。そして2人は奥にある的に撃って行く。2人の息はピッタリで初めて連携したとは思えないほどの動きであったのだ。

 

「二人共息ピッタリでしたね」

 

ネイサンは訓練を終えた2人にそう声を掛けると、マドカは褒められた事に顔が赤くなり見られたくないと思い明後日の方向に顔を向け、真耶は頬を染めながら「エへへ」と照れていた。

 

そんな訓練など行っていたある日、ネイサンは自身のIS、A-10をメンテすべくアリーナ横にあるメンテナンスルームへと来ていた。

 

「さて、やりますか」

 

そう言いメンテナンス用の台座にISを展開するネイサン。すると部屋の奥の方からガタっという物音が聞こえ、ネイサンはISを回収しそっとコルトを取り出し構えながら近付く。

 

「誰かいるのか?」

 

そう言い近付く。すると手を挙げた女子生徒が怯えながら出てきた。

 

「ご、ごめんなさい。邪魔するつもりはなかったの。私も作業中だったから」

 

「あ、いえ。此方こそ銃を構えてしまい申し訳ありません」

 

そう言いネイサンは慌ててコルトを懐に仕舞った。

 

「えっと、「私は更識簪。名字は嫌いだから簪でいい」そうですか、ご存知だと思いますがネイサン・マクトビアです」

 

そう言い簪の元へと行く。すると簪が居たメンテナンスコーナーに一機のISが鎮座していた。

 

「このISは?」

 

「……私の専用機」

 

そう言い簪はISの前に座りディスプレイを開く。ネイサンはISを注意深く観察すると所々パーツなどが無く、未だ未完成と言った感じであった。

 

「この機体何故未完成のまま貴女の元に?」

 

「……途中で中止にされたの。それで私が自分の手で作ろうと思って引き取ったから」

 

「中止?」

 

ネイサンは本来専用機は途中での中止はそうそう無い。そう考えていると簪が訳を話し始めた。

 

「このISが造られている途中に、開発に携わっていたメンバーが別のプランに移された。それが」

 

簪は言葉を区切り、顔をネイサンの方へと向ける。

 

「男性用機体の作成だったらしい。けど完成間近だったそのISは盗み出されたみたいだけど」

 

そう言われネイサンの眉間にしわが寄った。

 

「まさか、臨海学校の時に篠ノ之博士が持ってきたISが、その?」

 

「うん、私がこれを取りに行った際に隣の開発室に置かれていたのと似ていたから多分」

 

簪がそう言うと、ネイサンは心の中であの糞女がと千冬を侮蔑し、深々と頭を下げた。

 

「知らなかったとはいえ、君に迷惑を掛けてしまい本当に申し訳ありません」

 

「貴方が悪いわけじゃない事は知ってるから、頭を上げて」

 

簪は突然頭を下げたネイサンに驚いた表情を浮かべ、頭を上げてもらおうとそう言葉を掛けた。ネイサンはそう言葉を掛けられ、申し訳なさそうな表情を浮かべながらある申し出を出した。

 

「それで、その迷惑と思われるかもしれないが、僕もこのISの開発に手伝わせてもらえないでしょうか?」

 

「けど、貴方は企業の代表なんでしょ? 私のISの開発に携わったら情報を盗み出したスパイだと思われるよ?」

 

「確かに……ッ! では、こうしませんか?」

 

「なに?」

 

ネイサンが何か閃いたのか簪に提案を出す。

 

「自分は開発のお手伝いは出来ません。なら開発を手伝ってくれる人を紹介するのはどうでしょう? 勿論その人は何処の企業にも属していない人です」

 

「……魅力的な話だけど、このISは自分の力で作るからいい。お姉ちゃんだって……」

 

そう言い簪は作業をまた始めた。ネイサンはその後姿が昔の自分を見ているように感じた。

 

(彼女は昔の俺にそっくりだな。誰からも本当の自分を見てくれない。だから必死に抗うところが)

 

そう思いながら、言葉を掛けた。

 

「簪さん、貴女の心意気は立派です。ですがそれには限界があると思います」

 

「! 何も知らない貴方に何が「自分も昔、同じように周りから本当の自分を見てくれる人が居なかったんです」!?」

 

「自分も周りから見られているのは、自分ではなく偉大な人物の息子という感じでした。ですが信頼できる仲間や友人が出来始めるとそんな目がどんどん少なくなり始め、気づいたら本当の自分を見てくれる人でいっぱいになったんです。簪さん、一人で抱え込まず周りを頼ることは時には必要だと思いますよ。この部屋の前に居る人も心配なのか、こっそり覗きに来ているみたいですし」

 

そう言われ簪は驚き、メンテナンスルームの扉の方を見ると扉のスキマから見ていた人物に居る事に気付き、覗いていた人物も気付かれた事に驚き入って来た。

入って来たのはダボダボの袖をした生徒だった。

 

「なんで分かったのぉ?」

 

「僕がこのメンテナンスルームに入った後、扉から若干軋む音がしたんです。だからISのハイパーセンサーを使ってみたら覗いている人が見えたんです」

 

そう言われ、生徒はそうなんだぁ。と納得した。簪は少し驚いた表情浮かべながら覗いていた理由を聞く。

 

「本音、何時も覗いてたの? もしかしてあの人の指示?」

 

「ッ! ち、違うよ! かんちゃんは私の大切な幼馴染だもん。心配しな方が可笑しぃよ!」

 

本音と呼ばれた生徒は、若干覗いていたことを申し訳なさそうな表情を浮かべながら言う。

 

「……ちゃんと貴女事を心配してくれる人が居るじゃないですか。では、僕はこれで「待って!」何か?」

 

ネイサンはその場を去ろうとすると、簪が待ったを掛けた。

 

「その、このISの開発を手伝ってくれる人、私に紹介してくれませんか?」

 

そう言われネイサンは一瞬キョトンとした表情を浮かべながら、訳を聞く。

 

「急にまたどうして?」

 

「……一人で出来ないなら、周りを頼る。貴方が言った言葉」

 

そう言われネイサンは朗らかな笑みを浮かべ了承した。

 

「分かりました。では、その研究者には僕から連絡しておきますね」

 

そう言いネイサンはメンテナンスルームから出て行った。それから数十分後、メンテナンスするの忘れてた。と部屋で思い出したとさ。




次回予告
次の日簪に、ISの開発を手伝ってくれる人を紹介したネイサン。そして学園祭が刻々と近付いている中、ココ達は日本へと来ていた。その訳は兄キャスパーに呼ばれたからだ。そして指定されたレストランに行くと2人の男性が居た。
次回初コラボ編
商談
~初めまして、Ms.ヘクマティアル。私はPEC社社長Mr.Kです~



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34話

今回初のコラボ編です。

コラボしたのは悪維持さんの作品『煉獄の義姉弟』とです。しっかりコラボできているか不安ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。


簪と本音と会ったその日の夜、部屋へと帰って来たネイサンはある所に電話を掛けていた。コール音が暫く鳴り響いた後、電話が取られた。

 

『はろはろ~、ひっさしぶりだね、ネイ君!』

 

「お久しぶりです、束さん」

 

ネイサンが電話を掛けた先は、束の携帯だった。

 

『用件は大体把握しているよ。例の眼鏡っ子のISの開発を手伝えば良いんだよね?』

 

「……相変わらず、何処からそう言った情報を入手して来るんですか?」

 

ネイサンは既に用件を知っていると言わんばかりに説明する束に、苦笑いを浮かべる。

 

『そりゃあネイ君に関することだったらいち早く情報収集するからね。さて、その眼鏡っ子のISの開発のお手伝いなんだけど、今私手が離せないの。だから、クーちゃんと護衛の人を送るね』

 

「クロエちゃんでしたっけ? 彼女一人で大丈夫なんですか?」

 

『大丈夫、大丈夫! 必要なパーツやらシステムとか全部クーちゃんに渡して、後はそれを説明書通りに取り付けたら完成するから!』

 

「は、はぁ」

 

相変わらず用意周到だなぁ。とネイサンは思いながら、苦笑いを浮かべていると、先程までとは違う雰囲気で束が口を開く。

 

『そう言えば、ネイ君の部屋に盗聴器を仕掛けた蛆虫って見つかった?』

 

「蛆虫って……。まぁ、まだ見つかっていないところですね。スコールさんから聞いた話ですが、僕の捏造記事を出そうとした新聞部の部員の荷物には盗聴器等は確認できなかったらしいので、恐らく別の人物だと思います」

 

『チッ。なかなか尻尾を掴ませないとか、マジ腹立つ。それが2匹もいるとか、本当にイライラさせてくれるよ』

 

束がイライラした口調で洩らす。ネイサンは心配性だなぁと思い、安心させようと声を掛けた。

 

「大丈夫ですよ、束さん。そいつの目的が何であれ、僕の周りでウロチョロするなら撃滅しますから」

 

そう言うと束からイライラした雰囲気が和らいだのか、口調が戻り始めた。

 

『おぉ~、さっすがネイ君。けど、無茶は駄目だよ? さて、そろそろクーちゃんにパーツやらシステムとか渡さないといけないから切るね』

 

「分かりました。お休み、束さん」

 

そう言うと、束も『お休み~!』と言って電話を切った。

 

 

次の日、ネイサンは簪が居るであろうメンテナンスルームへと来た。

中へと入ると、変わらず奥のコーナーで作成を続けていた。だが一つ違っていたのは

 

「こんにちは簪さん、本音さん」

 

「あ、こんにちは」

 

「やっほ~、ネイネイ」

 

「ネイネイ?」

 

本音から自身の呼び名に、首を傾げるネイサンに簪が訳を話す。

 

「本音は変わったあだ名を付けたがるの」

 

「なるほど、そう言う事ですか」

 

疑問が解消されたネイサンは、用件を伝えるべく口を開いた。

 

「昨日頼まれた技術者の件なんですが、向こうが了承して下さったので具体的な日にちが分かったらまたお伝えしますね」

 

「も、もう了承して下さったんですか!?」

 

簪はたった一晩で了承した技術者は一体どういう人物か気になり、ネイサンに聞く。

 

「その技術者って本当に無所属なんですか?」

 

「えぇ、無所属ですよ」

 

「……そうなんですか「ですが、少し問題が」えっと、問題って?」

 

ネイサンは少し苦笑いを浮かべた状態でその問題を口にする。

 

「実はその技術者本人が来れず、そのアシスタントが来られるようなんです」

 

「そ、そうなんだ。そのアシスタントの方は、手伝えるの?」

 

「技術としての腕は分かりませんが、技術者の方が言うには問題無いそうです」

 

そう言われ簪は一抹の不安を感じながらも、「ありがとう」とネイサンにお礼を口にした。

 

 

その頃、ココ達はと言うと

 

「ひっさしぶりの日本だぁ!」

 

そう言い腕を上げるのはココだ。その周りには元気あるなぁ。と苦笑いを浮かべるレーム達が居た。

 

「それでココよぉ。なんでまた日本なんかに来たんだ? ネイサンの文化祭はまだ先だぜ」

 

レームはそう言うと、ココは何時もと変わらない笑みを浮かべた表情を向けながら説明した。

 

「うん、実はキャスパー兄さんから少し話があるって先週電話があったの。で、今日はネイサンの文化祭が始まる前にも関わらず日本に来たって言う訳」

 

そう言うと、レーム達は「「「へぇ~」」」と声を漏らす。

 

「さてそれじゃあバルメ、一緒に来て。ウゴは運転宜しく」

 

そう言いココはバルメとウゴと共に空港を後にする。

 

「で、俺達はどうするんだ?」

 

「何時も通りさぁ。ローテーションでココを陰から護衛する」

 

「だな」

 

そう言いレーム達はそれぞれ歩き出し、空港を後にした。

 

レーム達より先に空港から出たココ達は、空港から車で一時間程にあるとあるレストランへと着いた。

 

「ウゴ、私達は兄さんに会いに行ってくるから車で待っててね」

 

「了解だ、お嬢」

 

腕を上げ了承するウゴ。ココはバルメと共にレストランへと入って行き、奥へと進む。

 

「さて、兄さんはと「おぉ~いココ。こっちだ」あ、いたいた」

 

そう言い2人はレストランの奥の席に座っているキャスパー達の元に向かう。

 

「久しぶり兄さん。えっとそちらは?」

 

ココはキャスパーとチェキータの向かいに座っている2人の男性に目を向けた。

 

「あぁ此方の方々は「Mr.キャスパー、自己紹介は私が」そうですか」

 

男性は席を立ちココの傍へと行き手を差し出す。

 

「初めまして、Ms.ヘクマティアル。私はPurgatory.Eden.Company、通称PECの社長、Mr.Kです」

 

「初めましてMr.K。HCLI社所属のココ・ヘクマティアルです」

 

そう言い手を握り返す。そしてココはもう一人の方に目を向ける。

 

「そちらの方は?」

 

「あぁ、此方は私の護衛に来て貰った」

 

「鬼鉄一輝と言います。本日は社長の護衛として参りました」

 

一輝は自己紹介をして、一礼する。

 

「初めまして」

 

「さて、ココは其処の席に着いてくれるかい。今から商談を始めるから」

 

そう言われココは商談?と首を傾げながら席に着く。バルメはココの左後ろに立ち警護に着く。

 

「さて、詳しい話を始めようと思う。実は先日此方のPEC社社長のMr.K氏からある条件を呑んでくれたら幾つかの商品を安価で提供して下さる様なんだ」

 

「なるほど。……Mr.K幾つか質問があるのですが、宜しいでしょうか?」

 

ココは疑問に思った事を聞こうと、Mr.kに聞く。Mr.Kも「勿論構いませんよ」と笑顔で了承した。

 

「貴方の企業で開発されたパワードスーツ、確か『ダークネクロム・スーツ』通称DNスーツは男性でも扱え、噂ではISと同等の力を有していると聞いています。そんな商品を何故我々に?」

 

「それは貴女方が幅広い地域に武器を販売されているからです。我々は商品を開発できてもそれを販売する為のルートを開拓できていないのです」

 

「なるほど。海運であちこちに武器を販売している我々に武器を売り込めば、貴方方は儲けられる。そして我々も新たな商品を調達できる企業を入手できる上に、男性も扱えるパワードスーツもあって更に多くの顧客を得られる。顧客が増えれば貴方方の需要は増え更に儲けられる。そう言う訳ですね?」

 

キャスパーがそう説明すると、Mr.Kは「そうです」と頷く。

 

「なるほど。では、そちらの言う条件とは何ですか?」

 

ココはキャスパーが言っていたPEC社の提示する条件を聞く。

 

「現在IS学園で身柄が拘束されているシャルロット・デュノア、彼女の身柄を我々に引き渡す。それが条件です」

 

「シャルロット・デュノア? 確か男性操縦者と扮して学園に入学した生徒ですよね? 何故また彼女の身柄を?」

 

「調べた所、彼女は只父親や会社の言いなりで仕方なく産業スパイをしたと分かりまして、実の父親にその様な扱いを受けているのが何とも可哀想で仕方がないと思ったのです。だから我が社で保護しようと考えたのです」

 

Mr.Kの説明にココ達はなるほど。と納得した表情を浮かべながらも、相手の考えが読めずにいた。

 

「そちらのご提示した条件は理解しました。まぁ、此方も別に彼女の身柄をそちらに引き渡しても何ら問題はありませんので、条件を呑みましょう」

 

そう言われMr.Kは笑みを浮かべた。

 

「では、商談成立で宜しいでしょうか?」

 

「えぇ、これから宜しくお願いします」

 

そう言いキャスパーは手を差し出すと、Mr.Kも同じように手を出して握手を交わす。そしてMr.Kは護衛の一輝と共にレストランを去り、キャスパーとココはレストランで商談の事を話し始めた。

 

「それで兄さん。なんで私もこの話し合いに参加しないといけなかったの? 別に兄さんだけで良かったと思うんだけど?」

 

「向こうから、被害に遭われた男性操縦者の雇い主にも同席頂きたいとお願いされたんだ。それに向こうはココには幾つかの商品を無償提供するって言ってたんだ」

 

そう言われココは驚いた表情を浮かべた。

 

「それ本当?」

 

「あぁ。呼ばれて良かっただろ?」

 

キャスパーにそう言われ、ココはニンマリと笑顔を浮かべる。

 

「確かに。……ん? もしかして後日ネイサンに会いに行くの?」

 

「ネイサンに会うかは分からないけど、IS学園には後日Mr.K氏と行くよ」

 

IS学園に行くと聞き、ココは少し考え込む。

 

「ん~。私もIS学園に行きたいけど、欧州に残してきた仕事もあるしそれ片付けないといけないから戻るね」

 

「そっかぁ。分かった、ネイサンにはココが日本に来ていた事は伏せておくよ」

 

「お願いね、兄さん。それじゃあ」

 

ココは席を立ちバルメと共にレストランを後にした。




次回予告
数日が経ったある日、ネイサンはメンテナンスルームにクロエ、オータムを連れ訪れた。そして簪のISの開発を始める。そんな中、学園長室ではキャスパーとMr.K、そして学園長とシャルロットと千冬を交え会談を行っていた。
次回
最後の自由への切符
~サインするかは君の自由だ~


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35話~コラボ編第2話~

あれから数日が経ったある日、学園前に一台の車が到着した。降りてきたのは栗色の長髪の女性と銀髪で目を閉じた少女だった。

 

「さて、迎えの方は「すいません、宜しいでしょうか?」はい?」

 

降りてきた2人に声を掛けたのはネイサンだった。

 

「博士の元から来られたアシスタントの方と護衛の方で宜しいでしょうか?」

 

「はい、私は巻紙礼子。此方は」

 

「クロナ・アナハイムです」

 

そう言い2人はお辞儀をする。

 

「ネイサン・マクトビアです。どうぞ此方に」

 

そう言いネイサンは2人をメンテナンスルームへと案内を始めた。3人は学園へと入って行き、人の気配が余り無い場所へと着きネイサンは2人へ向く。

 

「少し確認したいのですが、クロナさん。貴女はクロエさんで宜しいでしょうか?」

 

「はい、そうです。学園に入る際に偽名を使いませんと、バレる恐れがありましたので」

 

「そうですか。それでそちらは?」

 

そう言いネイサンはもう1人の巻紙の方へと目を向ける。

 

「俺はオータム。スコールと同じ博士の元で世話になってる」

 

そう言い先程と違う口調で自己紹介をする巻紙事オータム。

 

「そうですか。では博士から僕の事も?」

 

「あぁ。あの天災様から溺愛されているネイサン・マクトビア。そして本名織斑一夏だろ?」

 

そう言われネイサンは苦笑いを浮かべる。

 

「溺愛なんでしょうか? 只の心配性なだけで色々されているだけだと思うのですが?」

 

そう言うとオータムは呆れた表情を浮かべる。

 

「心配性だぁ? あれはもはや溺愛以外何でもないだろ」

 

そう言われクロエも「私もそう思います」と頷いていた。

 

「は、はぁ。まぁ博士が心配性か溺愛しているとか、今はいいじゃないですか。それよりもクロエさん、ISの開発を任されている様なのですが、大丈夫ですか?」

 

「はい、大丈夫ですよ。これでも博士の元で色々お手伝いの方をしておりますので、機械関連の扱いには慣れております」

 

そう言われネイサンは「そうですか」と言い、2人をメンテナンスルームへと案内した。

そしてメンテナンスルームへと到着し3人は中へと入る。奥の方では変わらず簪と本音が作業をしていた。

 

「かんちゃん、このシステムこれで良いの?」

 

「うん、多分合ってるはず」

 

そう言いながら作業していると本音がネイサン達に気付き、袖を上げ振った。

 

「あ~、ネイネイだぁ。やっほ~」

 

「こんにちは、お2人とも。簪さん、以前言っていたアシスタントの方をお連れしましたよ」

 

そう言いクロナ事クロエは前へと出てお辞儀をする。

 

「クロナ・アナハイムです。本日は私の上司に代わりまして参りました」

 

「私は護衛の巻紙です」

 

そう言われ簪は慌てた様子でお辞儀を返す。

 

「さ、更識簪です。本日はよろしくお願いします」

 

互いの紹介を終えクロナは早速簪のISの元へと行く。

 

「では失礼しますね」

 

そう言いクロナはISの詳細情報を確認すべくディスプレイを開く。

 

「システム面とパーツ不足ですね。では先にパーツ関連を付けるのから始めましょう。すいませんがお手伝い宜しいでしょうか」

 

「私ィ? いいよぉ」

 

そう言いクロナは近くに居た本音にパーツの取り付けを一緒にするよう頼む。

 

「簪様はこちらのシステムを入れておいて貰ってもいいですか?」

 

「う、うん」

 

簪はクロナから渡されたUSBを受け取り、それをコネクターに挿し込みデータをインストールし始めた。

すると壁際に居たネイサンはクロナにある事を聞く

 

「クロナさん、大体どれ位でISは完成しそうですか?」

 

「そうですね。おおよそ2時間ほどあれば。それがどうかしましたか?」

 

「いえ、完成したらアリーナの方で試運転出来る様、手配しようかなと思ってまして」

 

「それは有難いです。完成しても上手く出来ているかどうか、実際に動かさないと分かりませんからね。申し訳ありませんが、申請の方をしておいてもらってもいいですか?」

 

「分かりました」

 

ネイサンはそう言ってメンテナンスルームから出て行きアリーナの管制室へと向かった。

 

その頃IS学園学園長室ではキャスパーと護衛のチェキータとPEC社社長のMr.K、そして轡木が居た。すると扉をノックする音が鳴り響く。

 

「織斑です。デュノアを連れて参りました」

 

「どうぞ、お入りください」

 

そう言われ扉が開き、千冬とシャルロットが入室してきた。千冬は部屋の中にいたキャスパー達に気付き、轡木に声を掛ける。

 

「あの、学園長。HCLI社の隣に居る者は?」

 

「そちらはPurgatory.Eden.Companyの社長、Mr.K氏です」

 

轡木がそう紹介すると、Mr.Kはソファーから立ち挨拶をする。

 

「初めまして。Purgatory.Eden.Company社長、Mr.kです」

 

そう挨拶をすると、千冬とシャルロットも初めまして。とお辞儀をしてソファーへと座らせられる。

 

「さて、本日此方のお二方が参られたのは、シャルロットさん貴女の今後に関するお話なんです」

 

「ぼ、僕の今後の話ですか?」

 

シャルロットは驚きながら2人の方へと顔を向ける。するとキャスパーが思い出したかのように口を開く。

 

「おっと、君と僕は初めて会ったんだった。初めまして、シャルロット・デュノアさん。僕はHCLI社アジア広域運搬部門担当のキャスパー・ヘクマティアルだ」

 

そう言いキャスパーは握手をしようと手を差し出すも、シャルロットはHCLI社と聞き、自分は退学を言い渡されると思い、手が上がらなかった。キャスパーは肩を竦め手を引っ込め、本題に入った。

 

「実は此方に居られるMr.K氏が、君の身柄を保護させて欲しいと頼まれてね。僕の方でもそれが良いかなと思い、こうして君に会いに来たんだ」

 

「え? …あの、どうして?」

 

シャルロットは突然自分の身柄を預かりたいと言ってきたMr.Kに聞く。

 

「実は貴女の事を少し調べさせていただきました。産みの母親と死別し、実の父親に呼び出されてスパイ紛いな事をされたと」

 

そう言われシャルロットは膝の上に置いていた手を力強く握りしめる。

 

「私はそんな貴女が可哀想で仕方がないと思い、今回此方のMr. キャスパーに取引を持ちかけ貴女を保護しようと思ったのです」

 

そう説明していると千冬が鋭い視線を向けてくる。

 

「待て。取引だと?」

 

「えぇ。此方は彼女の身柄。そしてMr.k氏からはPurgatory.Eden.Companyで開発された幾つかの商品を安価で提供。これが双方で出した条件です」

 

キャスパーがそう説明すると千冬が怒り顔で立ち上がった。

 

「ふざけるな! 貴様らが行おうとしているのは人身売買ではないか!」

 

そう叫ぶと、キャスパーは呆れた様なため息を吐く。

 

「話は最後まで聞いて下さい。シャルロットさん、此方の用紙にサインしてくれたら貴女はPurgatory.Eden.Companyに保護されます。そうなれば貴女はある程度自由な生活が約束されます」

 

そう言いキャスパーは机の上に紙とペンを置いた。シャルロットは自由という言葉に、頭の中を占め震える手でペンを取ろうとする。

 

「ま、待てデュノア! それに名前を書いたら国を捨てる事になるかもしれないんだぞ!」

 

千冬がそう言うと、自身の生まれ育った家に置いてきた母の墓もそのままになると思い手が止まった。するとキャスパーが忠告するように口を開いた。

 

「織斑先生、生徒の事を考えられ発言しているなら大変素晴らしい。ですが、いいのですか、この話を白紙にしても?」

 

「何だと?」

 

千冬は鋭い視線をキャスパーに向けながら、その訳を聞く。

 

「この話を白紙にした場合、シャルロットさんはこの学園を卒業と同時にフランスに強制送還され逮捕されるんですよ?」

 

そう言われシャルロットは逮捕という言葉に体を振るわせた。

 

「現在フランスでは今回のスパイ行為に携わった組織に警察が捜査に乗り出しており、既にデュノア社の社長夫妻は逮捕されております。そしてフランス警察及び政府はスパイ行為を働いた彼女も逮捕する予定でいます。今は学園規則によって彼女は守られていますが、卒業となれば彼女を守ってくれるモノは何もありません。ですが此方のPEC社との取引が成立されれば、HCLI社は彼女に掛けられているスパイ容疑を取り消してもらえるよう働きかけます。生徒の今後を考えればどちらがいいか、貴女も容易に想像できますよね?」

 

そう言われ千冬はぐうの音も出なかった。そして千冬は学園長に目線を向けるも、学園長は首を横に振った。

 

「残念ながら日本政府にもデュノアさんの亡命を打診しましたが、スパイ行為を働いた者を亡命させるのは無理だと言われました」

 

そう言われ千冬は血が出るほど拳を握りしめた。そんな中シャルロットの頭の中では

 

(逮捕……。何時出られるかもわからない刑務所に入れられる。自由もない。それに、もしかしたらあの義母が居るかもしれない。そうなったら何をされるか分からない。そんなの嫌だ……。嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!)

 

そう思いながら体を振るわせる。その様子を見たMr.Kはシャルロットに声を掛ける。

 

「大丈夫ですか、シャルロットさん?」

 

そう声を掛けられ、シャルロットは顔をMr.Kの方へと向ける。その顔は心配している顔だった。

 

「ほ、本当に僕を保護してくれるんですか?」

 

「えぇ。約束します」

 

優しい笑みを浮かべながらMr.Kはそう言うと、シャルロットは意を決した様にペンを取る。

 

「待てデュノア! 私が何とかしてやる! だから「どうやってですか?」デュ、デュノア?」

 

シャルロットから低い声で質問された。

 

「どうやって僕を助けるんですか? まさかブリュンヒルデだからとか言う訳じゃないですよね? そんなのが何の役に立つんですか‼ それにどうせ女性権利団体とかIS委員会に頼む気だったんじゃないんですか? それで僕が自由になれる保証が何処にあるんですか!」

 

そう叫ぶシャルロット。シャルロットはIS委員会や女性権利団体などとの強い繋がりのあるかもしれない千冬が信用できなかった。例え自身を助けてもらえてもまたスパイみたいなことをされるかもしれない。そうなれば自由な生活なんて送れない。そう思えば今目の前に居るMr.Kは信用できる。自分を本当に自由な生活へと救い出してくれると。

 

「此処に名前を書けばいいんですか?」

 

「えぇ、其処に名前を書けば卒業後は此方のPurgatory.Eden.Companyに保護してもらえるよ」

 

そう言われシャルロットは、名前を書く欄に名前を書き拇印を押した。

 

「確かに。では僕達はこれで失礼するよ」

 

そう言いキャスパーはソファーから立ち上がる。すると隣にいたMr.Kがシャルロットに声を掛けた。

 

「シャルロットさん、もう苦しい思いをしなくて済みます。だから安心して学園生活を送ってくださいね」

 

そう言われシャルロットは、本当に自由になれると思い涙を流しながら「ありがとうございます!」と深々と頭を下げた。Mr.Kはそれを優しい笑みで頷き席を立ち部屋から出て行った。

3人が出て行った後、轡木はシャルロットに頭を下げた。

 

「デュノアさん、この度は貴女がスパイを強要されているにも拘らず、それに気付けず更に助けてあげられず本当に申し訳ない」

 

「い、いえ! もう過ぎた事ですから」

 

そう言われ轡木はシャルロットに今後の学園生活の事で話をする為、後で話し合う事を約束し先に退出させた。

そして次に轡木が目線を向けたのは千冬だった。

 

「織斑先生、貴女ももう戻って頂いて「学園長はあれで宜しいというのですか!」……何が言いたいんですか?」

 

轡木は真剣な表情を浮かべながら千冬の話を聞く。

 

「あいつ等が行ったのは人身売買に等しい事ではありませんか! それなのに貴方はそれを見逃すと「いい加減にしろよ、小娘」っ!?」

 

突然轡木からの殺気交じりの鋭い視線に千冬は恐怖から体が硬直する。

 

「人身売買は本人の意思等関係なく、人をモノの様に扱って取引を行う事だ。今回の場合、PEC社はデュノアさんを助けるべく自社で開発している商品を安価で提供する代わりに彼女を保護させて欲しいと取引したんだ。それに彼女自身の意思をはっきりさせるべく書面での同意書を書いて貰ってだ。本人の意思がある以上、これは正式な取引になる」

 

そう言われ千冬は奥歯を噛み締める。

 

「話は以上です。私はこれからシャルロットさんに必要な書類などを準備しないといけないので、さっさと此処から出て行きなさい。」

 

先程の鋭い口調から何時もの穏やかな口調で言われた千冬は部屋から出て行った。

廊下へと出て暫く歩いていると、突然千冬のポケットに入れているスマホが鳴り、千冬はそれに出た。

 

「もしもし。……なんだ貴様か。一体何の用だ? ……分かった、何とかする。だが貴様も約束を忘れるなよ? もし嘘だったら、分かっているな」

 

そして電話は切れた。

 

「……一夏を取り戻すためだ。……そうだ、多少の犠牲は仕方がないんだ」

 

そう自分に言い聞かせ千冬は廊下を歩いて行った。




次回予告
キャスパー達が学園長室で会談が行われている頃、アリーナでは完成した簪のISの試運転が行われていた。ネイサンはその様子をアリーナの観客席で眺めていると、その傍に鬼鉄一輝がやって来た。
次回
似た者同士~何だか貴方とは何処か僕と似ている気がするんです~


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36話

キャスパーやMr.Kが学園長達と会談を行っている頃、アリーナでは一機のISが立っていた。

 

「クロナさん、此方の準備は出来ました」

 

そう言いIS【打鉄弐式】を纏った簪はそう言うと、管制室に居たクロナが返事した。

 

『了解しました。此方もデータ収集のシステムは全て準備OKです。ではまず、指定のポイントを歩行で回ってください』

 

そう言われ簪の目の前にポイントとそのポイントまでの距離が表示された。

 

「分かりました、移動を始めます」

 

そう言い簪は歩行で移動を始めた。その頃ネイサンはアリーナの観客席で様子を見ていた。自身は企業代表の為、データ収集を行っている管制室に居ては不味いと思い観客席に居たのだ。

 

「歩行システムは問題なさそうですね。あと5項目、無事にチェックをパス出来ればいいのですが」

 

そう言い、テストを眺めているとその傍に人がやってくる気配を感じ顔を向けると、一人の男性がネイサンの傍にやって来た。

 

「お隣宜しいでしょうか?」

 

「別に構いませんが、貴方は?」

 

そう聞かれ、名を名乗った。

 

「おっと、それは失礼しました。私は鬼鉄一輝。Purgatory.Eden.Companyの社長護衛官を務めております」

 

そう言い一礼する一輝。

 

「Purgatory.Eden.Company……。確かISとは異なるパワードスーツで急成長している企業でしたか。それで社長の護衛官がどうして此方に? 護衛官が護衛対象から離れるのは不味いのでは?」

 

そう言うと一輝は苦笑いを浮かべながらその訳を話した。

 

「実は社長から、余り来れる様な場所じゃないから散策してきたらどう?と言われて、最初は断ったのですがMr.キャスパーからも、自分の護衛官が付いているので大丈夫ですよ。と言われて、それでこうして散策しておりましたら此方に足が赴いた次第です」

 

「そうですか。まぁ、見ての通りISの試験運転をしているのみですよ」(キャスパーが此処に? PEC社が居るという事は大方商談か何かでしょうね)

 

そう言いネイサンはキャスパーが此処に居る訳を予想しながら、顔をアリーナの方へと向ける。一輝もネイサンの隣に座り、アリーナを眺める。

 

「彼女は確か、日本代表候補生の更識簪さんでしたか?」

 

「えぇ。よくご存じですね」

 

「社長の護衛官をしておりましたら、各国の代表や代表候補生の情報は嫌と言うほど入りますからね」

 

そう言いアリーナを眺める一輝。

すると今度はネイサンが口を開いた。

 

「そう言えば先程キャスパーの名前を出しましたが、何故彼と貴方の社長は此処に?」

 

「HCLI社に我が社が開発した製品の販売をお願いしようと思いましてね。その際此方の条件を呑んでくれれば、安く提供すると持ち掛けたのです。それで今日はその商談を成立させるべく、此処に来たのです」

 

「なるほど。それで、その条件とは?」

 

「シャルロット・デュノア。彼女の身柄引き渡しです」

 

そう言うとネイサンの顔に若干驚いた表情を浮かべた。

 

「それはまた……、何故?」

 

「社長は、身寄りの無い人や家族等から迫害されている人を見つけては、保護されているのです。……自分もその内の一人なんですけどね」

 

「えっ?」

 

ネイサンは突然の一輝の告白に驚いた表情を浮かべた。

 

「実は僕、家族に見捨てられたんです。その後社長に保護されてこうして今も生きて来られたんです。だから僕は社長に恩返しがしたくて、社長の護衛官になれるほど体を鍛えているのですが、なかなか社長の強さに追い付けないんですよ」

 

「な、なるほど。そんなことが」

 

そう言いネイサンは何とも言えない表情を浮かべ、アリーナの方へ顔を向ける。

 

(何だか俺と似ている。実の両親に見捨てられ、血の繋がった姉からも見てもらえない。だが本当の自分を見てくれる人との出会いなところが)

 

そう思いながらアリーナを眺めるネイサン。

 

『データ収集終了しました。それとチェック項目も全てクリアです』

 

そうアナウンスが入り、ネイサンは立ち上がった。

 

「僕は彼女の元に行きますが、貴方はどうします? 御宅の商品を宣伝するいい機会だと思いますよ」

 

「そうですねぇ。では【プルルルル、プルルルル】おっと、すいません」

 

そう言い一輝はポケットに入れているスマホを取り出し、電話に出る。

 

「はい、一輝です。終わったんですね。分かりました、正門の方に車を着けておきます。では、失礼します」

 

そう言って通話を切り、体をネイサンの方へと向けた。

 

「申し訳ない、社長達の商談が終わったようなので、これで失礼させていただきます」

 

「そうですか。では、また何処かで会ってお時間が有ったら話しませんか?」

 

「えぇ、構いませんよ。ではこれで」

 

そう言い一輝はその場から去って行き、ネイサンも簪が戻って行ったピットへと向かった。




次回予告コラボ編最終話
正門に着けられた車にMr.Kが乗り込み、キャスパーに別れを済ませ学園から去る2人。そして一輝とMr.Kこと鬼鉄陽太郎は本来の仕事の事を話し始めた。

次回
転生者が居ない世界


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37話

学園長室から退室し、学園の正門へと向かうMr.Kとキャスパー、そして護衛のチェキータ。

そして正門へと着くと、一輝が一礼し車の後部座席の扉を開ける。

 

「どうぞ社長」

 

「ありがとう。それじゃあMr.キャスパー、後日商品の方ご用意いたします」

 

「えぇ。お待ちしてますね」

 

そしてMr.kは「では、これで」と言い車は本島と繋がっている道へと向かった。それを見送るキャスパーにチェキータが話しかけた。

 

「それで、キャスパー。彼、どう言った人物か分かった?」

 

「いやぁ~、全く。何度か商談の打ち合わせとかしたけど、彼の本性、目的とか一切分からなかったよ」

 

両手を上げ、肩をすくめるキャスパー。多くの企業社長と商談を交わしてきたキャスパーは相手のペースに呑まれる前に、自身のペースに呑ませる腕に自信があった。だが、Mr.Kにはそれが効かなかった。逆にキャスパーのペースに合わせて、自身の目的に誘導すると言った話術を使ってきた。なぜそうしたのか。その目的などを悟らせずに商談は終わった。

 

「まぁ、あちらがどういった目的を持っていてようが、新しい顧客を得られるチャンスを得たんだ。どうでもいいけどね」

 

そう言いキャスパーも車に乗り込み、走らせた。

 

その頃、先に本島へと向かったMr.K達は車の中で話し合っていた。

 

「それで義兄さん。商談の方は上手くいったんですか?」

 

「えぇ、無事了承してもらえました。まぁ、彼女の担任が阻止しようとしましたが、何とかなりましたよ」

 

そう言いMr.K事鬼鉄陽太郎はふぅ~。と息を吐きながら首元のネクタイを緩める。

 

「担任……。()()()()織斑千冬だったんだよね?」

 

「えぇ。ですが原作以上に無能と言いますか、生徒からの信頼は余り無いようですね」

 

そう言い外を眺める陽太郎。外は既に日が沈み始めており、夕日が照らされていた。

すると運転席に居た一輝が気になっていた事を陽太郎に聞く。

 

「そう言えば、義兄さん。この世界の事なんだけど気になることがあるんだ」

 

「ん? もしかしてこの世界が原作と大きく違う事かい?」

 

「うん。初めてこの世界に来た時、世界初の男性操縦者の名前が『織斑一夏』ではなく、『ネイサン・マクトビア』と言う傭兵。そして本来なら存在しないはずの『ヨルムンガンド』のHCLI社のキャスパー・ヘクマティアル達。原作と大きく異なっている理由は転生者がこの世界に侵入したからじゃない。まるで織斑一夏や、原作に登場する主要キャラ達が登場する以前から原作が大きく変換されている感じなんだ」

 

一輝は陽太郎達家族と共に多くの世界に行き、原作を崩壊させようとする転生者を狩っているが自分達が降り立ったこの世界に転生者と言う存在が感じられなかった。それなのに原作と大きく違う事に一輝は疑問に思っていたのだ。すると陽太郎が笑みを浮かべながらその訳を話し始めた。

 

「恐らくだけど、<神の防護システム>が働いたんだと思う」

 

「神の防護システム?」

 

「そう。一輝も知っていると思うけど、転生者は神の不手際で死んだ者を漫画やアニメなどの世界にイレギュラーのキャラ、もしくは原作キャラに憑依させて転生させた者を言う。勿論転生させるのは自分達が管理している世界でだ。だが、神の中には他所の神が管理している世界に自分の管理している世界で死んだ者を放り込んで好き放題暴れさせてその光景を楽しむ最低な神もいるんだ」

 

陽太郎がそう言うと一輝はハンドルを握る手に少し力を入れる。

 

「そんな時対転生者用システム、<神の防護システム>が現れたんだ。一体誰が、どうやってできたのか不明なこのシステムは転生者を入れたくない神にとっては有難いシステムだった。そして幾つもの神はこのシステムを導入し自分達が管理している世界を守った。だがこのシステムにはある欠点があったんだ」

 

「欠点?」

 

「このシステムは転生者が侵入しようとするのを感知したら即座に侵入しようとした世界の本来のストーリー、つまり原作を大きく改変させるんだ。しかも一度発動すればもう誰にも止められない。更にこのシステムは転生者が結局侵入してこなかった場合でも止められないんだ」

 

「そ、それって不味いんじゃ?」

 

「えぇ。ですが、転生者の手によって崩壊するくらいなら致し方が無いと判断する神もいれば、それは出来ないと判断しシステムを外し何かしらの手で転生者を止める方法を模索する神もいます」

 

そう言われ一輝はなるほど。と納得し、転生者を防ぐか原作の改変を守るか。どちらか一択しかない選択なのか。と思った。

 

「この世界の神は幾つもの世界を見守って来たが、どの世界も神の防護システムが起動し物語が変換されていると言っていた。そして物語に登場する人物は辛い目や酷い目にあいながらも最後は幸せな日が来る者が居れば、そのまま地獄を見る者が居る様だった。そんな時、この世界もまた神の防護システムが発動した時、神はこの世界の結末を覗いたら、シャルロット・デュノアが刑務所に収監され二度と塀の外に出ることが出来ない結末だったそうなんだ。流石の神もこの結末が来るのは非情に不味いと思い掟を破って助けるか、このまま結末通り進めるか悩んだそうだ」

 

「そんな時に義兄さんが助けに入ったと言う訳?」

 

「そう。神自身も助ける事には賛成してくれたけど、条件を付けられたんだ」

 

「条件?」

 

「シャルロット・デュノアが卒業するまではそちらの仕事には加担させない事。それが神の出した条件だよ」

 

そう言われ一輝は何故神がそのような条件を出したのか、頭を捻りある仮説を口にした。

 

「神はもしかして他の未来を見たとか?」

 

「えぇ、そのまさかです。近い将来あの学園で事件が起きると。だからその出来事に備えて少しでも戦力があった方が良いとの事です」

 

そう言いながらパソコンを取り出し画面上にISと思わしき設計図を出した。

 

「さて、その出来事が起きるまでにこれを作らないといけませんね」

 

そう言い陽太郎はパソコンの画面を閉じた。




次回予告
商談が終わった数週間後、放課後の職員室で書類チェックを行っていた真耶とスコール。すると1組の副担任が千冬に文句を言っていた。
その頃真耶の部屋でネイサン、鈴、マドカ。そして簪と本音はお菓子を食べていていると、とあるお客がやって来た。
次回
鬱憤
~担任の仕事を私に押し付けないでください!~


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38話

商談から数週間が経ったある日。授業を終え、職員室へと戻って来た教師達は明日に使う教材の準備や、小テストの採点などを行っていた。

その部屋の一角で明日の教材の準備をしていたスコールは隣にいた真耶に言葉を掛けた。

 

「ごめんなさいね、山田先生。手伝ってくれて」

 

「いえいえ。副担任として当たり前の事ですから」

 

そう言いながら真耶はコピーした生徒達に配る教材をトントンと纏める様に机に当て綺麗に纏めた。

 

「さて、明日の教材は準備できたしちょっと休憩「いい加減にしてくださいよ、織斑先生!」……ん?」

 

スコールは休憩を取ろうと真耶にコーヒーを淹れようと立ち上がろうとした瞬間、職員室奥に座っている教師、1組の副担任の春野先生が千冬に怒鳴っていた。

 

「この資料は担任である貴女が見て貰わないといけない資料なんですよ! それを代わりに私が見て生徒達に発表してくれって、仕事放棄もいい加減にしてくださいよ!」

 

春野は我慢の限界と言わんばかりに周りにお構いなく大声で千冬に怒鳴っていた。

 

「それにこの書面、担任がシャルロットさんに直接渡さないといけない物なんですよ! それをまるで知らない書面みたく書類の束の中に放り込まないでください!」

 

そう言い春野が千冬に見せた書面はPEC社がシャルロットの身を守る術として、PEC社で改良したISを渡すという書面だった。

 

「彼女はPEC社に保護されても、彼女を利用しようとしたデュノア社の生き残りや女性権利団体とかが彼女の命を狙っているかもしれないからと、自衛とデータ収集を目的にISを渡すという大事な書面なんですよ!」

 

「……済まない」

 

副担任からの叱りに千冬は小さく謝罪の言葉を口にするも、春野は怒りが静まらなかった。

 

「もう本当にいい加減にしてくださいよ! そんないい加減な態度だから生徒達から信用もされなくなるんですよ! 最近生徒達が織斑先生の事どう思っているか知っていますか? ただ暴力で物事を教える軍人みたいな人で、特定の生徒を贔屓する教師だって思われているんですよ!」

 

そう叫びシャルロットに渡さないといけない資料を手に椅子から立ち上がった。

 

「もういいです、この書面は私が渡しに行きます。それと今後授業は私がやりますから、織斑先生は何もしないでください!」

 

そう言い職員室から出て行った。千冬はその後姿を只茫然と見送っていると、春野が出て行った扉から轡木が怪訝そうな顔で入って来た。

 

「今先程春野先生が怒り顔で出てきましたが、何かあったのですか?」

 

そう聞くと職員室に居た教師達は千冬の方に目線を向けた。その動きに轡木はすぐに訳を察し、ため息を吐いた。

 

「織斑先生、またですか?」

 

「……申し訳ありません」

 

「流石にこれ以上は此方も擁護しきれませんよ。去年も貴女が自分の仕事の一部を副担任に回した結果4人も別の人を担任に付けて欲しいと願ってきたのですよ。その時にこれ以上副担任を怒らせるようなことをした場合、貴女を担任から外すという取り決め、忘れたわけじゃありませんよね?」

 

「っ!? ……はい」

 

「宜しい。では、今後1組の担任は春野先生に任せますから貴女は副担任になって貰います」

 

そう言い轡木は職員室から出て行き、千冬は暫く手を握りしめた後職員室から出て行った。千冬が出て行った後、数人の教師達はヒソヒソと話し始めた。

 

「またよ、あの人」

 

「最近生徒達から信頼されて無いって聞いてたけど、そんなに深刻なんだ」

 

「そうみたいよ。そりゃあ彼女の教え方は軍隊みたいで、平然と生徒に暴力奮っているみたいだもの」

 

「今の2年生でも織斑先生は優秀な人じゃなくて、只の暴力教師として見ている生徒が多いもの。よく教員免許が取れたと思うわよ」

 

「それ、噂なんだけど女性権利団体が教員の基礎を少しだけ教えてそのまま教員免許を渡したって言う噂があるみたいよ」

 

「それ、案外本当だったりして。それだったらあの暴力的教え方に納得がいくもの」

 

「確かに」

 

そんなうわさ話を交えた話を遠巻きで聞いていたスコールは呆れた顔付きで居た。

 

「以前にも問題を起こしてたのね、彼女」

 

「は、はい」

 

「……さて、変な空気が漂ってるし外の喫茶店にでも行きましょ。奢るわ」

 

「い、いえ。自分の分は「いいのよ。今日手伝ってくれたお礼」で、では頂きます」

 

そう言い2人は職員室から出て行く。

 

その頃ネイサン達は真耶の教員部屋でお菓子を食べながらゲームをしていた。すると扉をノックする音が鳴り響き、マドカが扉を開けに行く。

 

「はい、どちら様で?」

 

「えっと、マクトビア君にお誘いを受けました更識簪と」

 

「布仏本音でぇす」

 

そう言うとマドカは扉を開けた。

 

「兄さんから聞いてます。どうぞ」

 

そう言い2人を招き入れた。そして奥へと行くと丁度ゲームの決着がついたのか、結果が発表が出されていた。

 

「やっぱり鈴は強いですね」

 

「ふふん。体術だとか射撃はアンタに負けているけど、これで勝てるのは少し嬉しいわね」

 

そう言っていると鈴は後ろに居た簪達に気付き、手を挙げた。

 

「やっほー。えっと「簪って呼んで。こっちは本音」そう、よろしくね簪、本音」

 

「うん、よろしくねリンリン!」

 

「あぁ?」

 

鈴は本音がリンリンと言った瞬間に睨むと、本音はビクッと恐怖し簪の後ろに隠れた。

 

「り、鈴。本音が怖がってる……」

 

「あ、ごめん。昔あたしを苛めてたやつらもそのあだ名で呼んでたから、つい……。ごめんなさいね、本音」

 

「う、うんん。こっちも御免ねぇ、リンじゃくてスズリン」

 

そう言いながら2人は空いているところに座る。そしてゲーム機近くにあったゲームケースに目が行き手に取る。

 

「このゲームって最近出たリズムゲームだよね」

 

「そう。なかなか面白いって評判だったからつい買っちゃったのよ。簪もやってみる? これ対戦もあるし、本音とやってみたら?」

 

そう聞かれ簪はうん。と頷き、本音もコントローラーを受け取り対戦を始めた。

―――それから数分後。

 

「か、勝てない」

 

「いぇ~~い3連勝!」

 

そう言いダボダボの袖を上にあげながら喜ぶ本音。

 

「まさかリズムゲームで本音に負けるとか、初めて」

 

「格闘ゲームとかはかんちゃんが強いけど、これだと私の方が強いのだぁ!」

 

そう言いお菓子を食べようと後ろを振り向く本音。すると其処には

 

「いやぁ~、流石ネイ君だね。このラスク美味しいよ!」

 

「そうですか? キッチンにあった食パンで作った物だから、誰が作っても同じ味になると思いますよ」

 

「そぉう? アンタが作るのと他が作るのとでは何か違うような気がするのよね」

 

「確かに。兄さんが作るからこそ、この旨い味が出るんだと思うぞ」

 

そう言いながらお菓子とジュースを飲む4人。本音は何時の間にか増えている人物に目が点になりながら茫然としていると、次の選曲を終えた簪がそれに気付き後ろを振り向く。

 

「あ、そうだ。これ、クロエちゃんに渡しておいて下さい。体にいいバランス料理とか僕なりに考えた物を載せたレシピ本です」

 

「おぉ~~! この世で1冊しかない貴重なレシピ本じゃないか! 有難く頂戴しやす!」

 

「確かに、ネイサンの作る料理ってスタミナも付くし、体にいい料理だから偏食なあたしでさえ続けられるのよね」

 

「兄さんの料理は何処のミシュラン料理より旨いからな」

 

そう言いネイサンを褒める鈴とマドカ。簪は部屋に増えていた人物が誰なのか直ぐに検討がつき、震える口を開く。

 

「し、しししし篠ノ之博士!?」

 

「おりょ、ゲーム終わったかい? それだったらこっちでお菓子食べようよ。ちょっと君とお話したいし」

 

そう言われ簪と本音は恐る恐るその横に行き、ラスクに手を付ける。

 

「お、美味しい」

 

「お、お店に売ってるものより美味しいよ、これ!」

 

そう言い本音はモグモグとラスクを頬張る。

 

「にゃはははは。無類のお菓子好きみたいだねこの子? さて、かんちゃん。実は君に提案があるんだけどいいかな?」

 

「え? て、提案ですか?」

 

「そっ。君、この学園卒業したらこの国の代表になるのが夢?」

 

そう聞かれ簪は少し悩んだ表情を浮かべた。

 

「い、いえ。まだそこまで具体的な夢は……。日本の代表候補生になったのも姉を見返したくてなったものなので。日本の代表とかは特に…」

 

そう言うと束はなるほどなるほど。と呟き頷く。

 

「じゃあ将来の進路の一つにさぁ、加えておいてよ」

 

「な、何をですか?」

 

「束さんと共に将来ISを使った宇宙開発」

 

そう言うと簪は一瞬何を言われたのか理解できず、呆然としていたが数秒後に理解でき驚いた声を上げた。

 

「し、しし篠ノ之博士と、共にう、う、宇宙開発をですか!?」

 

「そう! 束さんはいずれ表舞台に戻る。その時、ぜひ君の力を貸してほしいんだ。君のその諦めない努力の力を」

 

そう言われ簪は「私の努力の力……」と呟く。

 

「まぁ、候補の一つとして考えておいてよ。それじゃあそろそろ帰る「あの!」ん? なに?」

 

「どうして、私なんですか?」

 

簪は何故自分を誘うのか分からなかった。確かに自分は努力を怠ったことは無い。姉を見返す。それだけを目標に日々頑張っていた。それだけの理由で将来共に宇宙開発をしようと誘う理由にならないと思っていたからだ。

 

「そりゃあ、君はこの()()が認める努力の()()だからだよ」

 

「えっ? 努力の天才……。それだけの理由なんですか?」

 

「そっ。ネイ君から聞いたけど、君今まで一人で製作途中のISを作ろうとしたらしいじゃん。その諦めない姿勢。人が無理だと思わることも果敢に挑戦し、失敗も恐れず前に進もうとする姿勢。宇宙開発をするには必要な姿勢だ。それが理由」

 

そう言われ簪は驚いた表情を浮かべながらも、何故だか分からないがやってみたいという挑戦願望が芽生えるも、まだ少し迷いがあった。だから

 

「博士のお誘い嬉しいです。ですがその、返答は進路時期でもいいでしょうか?」

 

「もっちいいよぉ。時間はあるから、ゆっくり考えなよ。それじゃあ今度こそばいびぃ~」

 

そう言い束は窓から外へと出て行った。

 

「良かったわね、簪。あの篠ノ之博士にスカウトされたじゃない」

 

鈴はそう言うと簪は未だ信じられないといった表情を浮かべながら首を縦に振った。すると隣にいた本音は何か決めたかのような顔を浮かべた。

 

「かんちゃん、私決めた!」

 

「な、何を?」

 

「将来もしかんちゃんが篠ノ之博士の所に行くなら、私も行く! それでかんちゃんの傍で支える!」

 

そう決心したような眼で本音が言うと、簪は目を点にしながらも「う、うん。宜しくね」と口にしながらラスクを頬張った。




次回予告
ネイサン達の部屋から退室した束は、隠れ家に帰る前にとある生徒の元に足を運んだ。ネイサンの周りをチョロチョロするなと警告する為に
次回
好奇心は猫をも殺す。


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39話

束はネイサンの部屋の窓から出た後、人気のない学園の廊下を普通に歩いていた。

 

「ふんふんふ~ん♪ えっとあそこは何処だっけ」

 

そう言いながらポケットから学園の見取り図を取り出し指でなぞりながら目的の場所を探し、指で指す。

 

「あった、あった。さて、ちょっと警告に行こうかな」

 

そう言いながら束は目的の場所へと向かって歩き出した。その顔は耳まで届きそうな鋭く口角を上げ笑っていた。だが目はまるで、ウサギと言う皮を被った獲物を狩る狼の様な目だった。

 

 

――生徒会室。其処は主に学生達からの要望などを話し合ったりして決めたり、学園行事の進行役などを行う生徒会の為の部屋だ。そんな部屋に一人の生徒が溜まっていた書類を片付け終え、固まった筋肉を解そうと体を伸ばす。

 

「ん~‼ やっと終わったぁ~。全く虚ちゃんは厳しいわね」

 

そう言いながら書き終えた書類を『チェック済み』と書かれたバスケットへと入れる。

そしてパソコンの電源を入れる。そしてパスワード入れ終えログインした。

 

「さて、彼が何者か。やっぱりコソコソ調べるより直接聴けるポジションに連れてくればいい。私だって暗部の長よ、政府の指示を全うできずして何が更識楯無よ」

 

そう言い楯無はパソコンで作業をしようとした瞬間

 

「なるほどねぇ~、屑な政府共の指示でやったんだ?」

 

突然背後から声を掛けられた事に驚き楯無は首を後ろへと向けた瞬間

 

「かはっ!??!」

 

突然首を絞められそのまま持ち上げられた。しかも片手でだ。楯無は持ち上げた人物に驚く。

 

「し、しの…のの博士」

 

「やぁ、初めましてだね。暗部組織、更識の長」

 

そう言いながら束は笑みを浮かべながら首を絞める。

 

「い、一体何がも、もく、てきなんですか?」

 

「目的? そりゃあ決まってるじゃん。お前がこれ以上ネイ君の周りをうろつくの止めさせる事。それ以外にお前みたいな奴に会いに来るわけないじゃん」

 

なに? 知ってるくせに聞いたの?と言わんばかりの真顔を浮かべ、首を絞める力を強める。

 

「かっ!! ぐぅっ?!!」

 

楯無はこのままでは絞殺されると思い、ISを展開しようとしたが開かなかった。

 

「無駄だよ。お前のISは展開できない様にこっちでロックしたからね。……一度しか忠告しない。ネイ君の周りをうろつくな。もし続けたら、お前がネイ君の部屋に侵入し、盗聴器を仕掛けたことをばらす」

 

そう言うと、楯無は目を見開き驚く。

 

「何で知っているのと言った表情だね。私はISの生みの親だよ? お前のISから位置情報とか色々調べたら分かるんだよ」

 

そう言いながら顔を束の前へと持って来て殺気の篭った目で睨む。

 

「いいな? 二度とネイ君の周りをうろつくなよ?」

 

束にそう聞かれ、楯無は本気で殺されると思い首を激しく縦に振った。

これだけすればもうしないだろうと思った束は楯無を放そうとした瞬間

 

『ティロリ〜ン』

 

とパソコンから音が鳴った。

束はその音に反応し目を向けるとパソコンのディスプレイ端に『新着メールあり』と表示されていた。そして束の視線はその表示の下にあるファイルへと行く。

 

「『学園祭特別プログラム計画書』? 面白そうな物みっけ~」

 

そう言いながら片手で束はファイルを開く。

 

「ふむふむ、なるほどね。ネイ君を景品みたいなモノにして部活同士で争わせる。そしてそれを生徒会が横から掻っ攫うと。ふぅ~~ん。本当に面白い計画だねぇ」

 

そう言うと束は放そうと思っていた楯無の首を絞める力を強める。

 

「あがっ。 ぐぅぅう……」

 

「これ見た瞬間気が変わった。今此処で殺す」

 

そう言い束は首を絞める力を強めようとした瞬間生徒会の扉が開かれた。

 

「お嬢様、全校集会の日程が決まり、お、お嬢様!!?」

 

眼鏡を掛けた女性は生徒会室に入った瞬間楯無が殺されそうになっている事に驚き大声をあげる。

 

「チッ。命拾いしたな」

 

そう言い束は楯無を女性目掛けて投げる。楯無はそのまま女性にぶつかり、女性共々床に倒れ込む。

 

「きゃっ!!? お、お嬢様だ、大丈夫ですか?!」

 

女性は投げられてきた楯無の容体を確認しようと慌てて声を掛ける。楯無は漸くまともに呼吸できず、荒々しく呼吸をする。

 

「ゲホッゲホッ。う、虚ちゃん?」

 

「は、はい。ご無事ですか?」

 

「え、えぇ何とか……。っ!? 篠ノ之博士は?!」

 

そう言い楯無は部屋の中を見るが其処には束の姿は無く、更にパソコン本体も消えていた。

 

「お、お嬢様。まさか先程の女性は……」

 

「……えぇ、篠ノ之博士よ。直接警告してきた」

 

そう言い楯無は壁にもたれて呼吸を落ち着かせる。そして虚と呼ばれた女性は顔を俯かせた後、意を決して口を開く。

 

「お嬢様、もうこれ以上彼を調べるのは止めましょう。これ以上調べたら確実に今度は殺されます」

 

そう心配そうな声で言うが、楯無は苦渋そうな顔で横に振る。

 

「駄目よ。これは政府からの指示。我々がそれを断る権利は「では、死んでもいいというのですか! 相手はあの篠ノ之博士なんですよ! 我々が相手に出来る様な相手ではないのですよ!」……」

 

そう言われ楯無は手を握りしめる。確かに相手との力量は確かに天と地の差がある。それでも自分は更識の長。仕事を放棄するわけには。と頭に響く。

 

「……無礼をお許しください」

 

「え? 《バチンッ‼》ッ!!??」

 

突然虚は楯無の頬を平手打ちした。楯無は突然平手打ちした虚に茫然とした表情を浮かべながらその顔を見る。虚の顔からは涙が溢れ流れていた。

 

「更識の長である前に貴女は一人の人間なのですよ! わざわざ死にに行くような事をしないでください! それに貴女が死んでしまったら、一体誰が簪お嬢様を守るのですか!」

 

「っ!」

 

虚の言葉に目が見開き直ぐに俯く。自分は危うく大切な妹を一人ぼっちにさせる所だった。そう思った楯無は口を開く。

 

「……分かったわ。もう彼の調査から手を引きましょ」

 

そう言うと虚は少し安堵した表情を浮かべ「分かりました」と静かに返した。




次回予告
学園祭に関する事で全校集会が行われた。そして集会を終えたネイサン達はクラスで出し物を決めた。そしてクラスの出し物の為の買い出しへと出掛ける。

次回
買い物~3組は何をしましょうかね?~


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40話

全校集会当日、ネイサン達は体育館へと集合していた。

体育館に集まった生徒達は静かに佇み、学園長(十蔵の奥さん)の挨拶から始まり次々に注意事項等の説明が行われた。

 

『では最後に、生徒会長からのお言葉です』

 

そうアナウンスされ、壇上に楯無が立つ。

ネイサンは壇上に立った人物に注意深く観察する。

 

(あれが日本政府直轄のカウンターテロ組織の長、更識楯無か。俺の部屋に盗聴器を仕掛けたとすればアイツだと思うが、証拠が無いんだよなぁ)

 

そう思いながら壇上に立った楯無を眺める。

 

「皆さん、おはようございます。IS学園生徒会長、更識楯無です。1年生の方々は初めての学園祭となりますので、精一杯クラスの人達と協力し盛り上げてください。2年生の皆さんも1年生に負けない程の気合で頑張ってください。3年生の皆さんは今年最後の学園祭になります。最後の学園祭、悔いのない出し物に期待しております。以上で終わります」

 

そう言い楯無は一礼し壇上から下りて行った。すると2,3年生の生徒の間で少しざわつく。

 

「ねぇ、更識さんが今普通に進行したわよね?」

 

「うん、一瞬見間違えたかと思っちゃった」

 

「今年も変なイベントを盛り込んでいると思ってたけど、何も無かったわね」

 

そう言いながらどよめく上級生達。そんなどよめきを無視し進行役は生徒達に解散を言い渡した。

 

クラスへと戻ってきたネイサンは教壇に立ち、クラスメイト達と出し物について話し合いを始めた。

 

「えっとそれじゃ、何かアイデアがある人挙手をお願いします。それと先に言っておきますが、僕がメインになる様な出し物の場合は即却下しますので」

 

そうネイサンが言うと、クラスの何人かの生徒がガクッと肩を落とした。そんな中、肩を落とす生徒達以外はそれぞれ思い思いの案を出していく。

 

「『喫茶店』、『科学実験』、『ゲームセンター』……。う~ん、どれも他のクラスが出しそうなものですね」

 

黒板に出されていく案を書いていくものの、ネイサンは他のクラスが出しそうなものだと感じた。

 

「それじゃあ、マクトビア君は何か案があるの?」

 

生徒の一人がそう言うと、ネイサンはうぅ~ん。と考え込む。

 

「喫茶店は休憩などで寄って行って貰えるうえにコーヒーやサンドイッチなどの軽食を出せば売上が出ますが、他と被る可能性が大きい為寄ってもらえる可能性が低いです。其処に何か気を引けるものが有れば大勢招けて、売り上げが上がる為黒字になるし……ブツブツ」

 

「……マクトビア君。貴方深く考え過ぎよ」

 

スコールは呆れた様な表情を浮かべながらそう注意すると、ネイサンは我に返り苦笑いを浮かべる。

 

「すいません。つい癖が」

 

「あ、いい事を思いついたぞ兄さん」

 

そう言ってマドカが手を挙げる。

 

「ん? 何だマドカ?」

 

「教室の中に出店を幾つも出すのはどうだ? ジンジャという場所でマツリという行事が行われるときに幾つもの店が出て射的だとか綿あめだとか色んなものを出していると聞いた。この教室なら2つか3つくらいはいけると思うぞ」

 

そう言うと生徒達は

 

「それいいかも!」

 

「お祭りの出店みたいな感じ……。いいんじゃない? 売り上げも出るし、小さな子供とかにも人気がありそうだし」

 

「それにお祭りに出る料理って、調理も簡単だし手軽に食べられる所が良い所だもんね」

 

次々と祭りの出店風にしようと言う声が上がり、ネイサンはパンパンと手を叩く。

 

「はい、皆さん静かに。それじゃあこのクラスの出し物はお祭り風出店でいいですか?」

 

「「「「異議なし!」」」」

 

そしてネイサンは黒板に『お祭り風出店』と書く。

 

「それじゃあこのお祭り風出店に出すモノを考えましょう。それと衛生面から出す料理は火が通ったモノにしましょう」

 

そう言うと生徒達は次々に手を挙げて出していく。

 

「焼きそば!」

 

「たこ焼きは外せないでしょ」

 

「フランクフルトも定番じゃない?」

 

「それだったら焼きトウモロコシは?」

 

「あれは季節が違うでしょ」

 

「射的とかもいいんじゃない? 子供と大人の人が一緒に遊べるし」

 

「それもいいねぇ。それだったら金魚すくいは?」

 

「生き物は駄目でしょ。代わりにヨーヨーすくいは?」

 

「それも面白そうだね」

 

生徒達は自分達が見てきた出店を次々に案として出していく。そして黒板一杯となりネイサンはこの中から選ぼうと決め体をクラスメイト達の方へと向ける。

 

「結構出ましたね。それじゃあこの中から多数決で3つ決めましょう」

 

そう言いネイサンはクラスメイト達に顔を伏せる様に言い、案を一つずつ言っていき手を挙げた手の数を数えていく。そして最後の案を言い終え、全員が顔を上げる。

 

「それじゃあ集計の結果、『フランクフルト』、『飲み物屋』、『ヨーヨーすくい』を出店に出します。宜しいですか?」

 

「「「「「いいでぇ~す!」」」」

 

こうしてネイサン達の3組は祭り風出店となり、出すモノなどが決まった。

そして放課後、ネイサンは出店に必要なモノ、特に生徒で用意できるモノを買いに行こうとしていた。すると

 

「あ、ネイサン君何処かに行くんですか?」

 

そう声を掛けてきたのは真耶だった。真耶の腕の中には書類などが抱えられていた。

 

「えぇ、少し買い物に」

 

そう言うと真耶は少し考えこんだ表情を浮かべ、直ぐに顔を上げる。

 

「それでしたら私もご一緒してもいいですか?」

 

「え? 僕は別に構いませんが、何を買われるんですか?」

 

「実は以前売り切れで無くなっていた服が最近入荷したらしいので、買いに行こうと思ってまして」

 

「そうなんですか。分かりました、それじゃあ此処で待ってましょうか?」

 

「い、いえ! 先に行ってて下さい!」

 

真耶は慌てた声でそう言うとネイサンは首を傾げながらも先に出発した。ネイサンを見送った真耶は胸をドキドキさせながら部屋の中に入り書類を机の上に置き、最近気になって買ってみたフローラルな香りがする香水をする。

 

「うぅ~、緊張しますがこれもネイサン君と共に行く為の第一歩です!」

 

そう自分に勇気づけ部屋を後にした。

 

 

先にレゾナンスへと来ていたネイサンは最も人目が付きやすい噴水付近でジュースを飲みながら真耶の到着を待っていると、

 

「あら、ネイサンじゃない」

 

「ん? あぁ鈴でしたか。学園祭の買い出しですか?」

 

鈴はそんなところ。と返しながら自販機で買ったであろうスポーツドリンクを口にする。

 

「それでアンタは何で此処に?」

 

「僕も同じですよ。それと山田先生の買い物も少し」

 

「……ふぅ~ん、そう」

 

鈴は面白くないと言った無表情を浮かべながらネイサンの隣に立つ。

 

「あ、あの、鈴。買い物に行かないんですか?」

 

「行くわよ。どうせ行くところは同じだろうし私も山田先生を待つわ」

 

そう言いスマホを取り出し操作する鈴。ネイサンは、荷物持ちに抜擢された。と思いため息を吐き顔を鈴から外すと女性が3人の男性に絡まれているのが見えた。

 

「山田先生?」

 

そう呟きネイサンはその場へと向かう。

 

「で、ですから私は約束があるんです!」

 

「いいじゃねえかよ、そんな約束ほっといてよ。俺達と遊ぼうぜ」

 

「あ! もしかしてその約束してるのって女の子? だったらその子も一緒に遊ぼうぜ」

 

「ほら、行こうぜ」

 

そう言い一人の男性が真耶の腕を掴もうとすると、横からその腕を掴まれた。

 

「あ? 何だてめぇ?」

 

「あ、ネイサン君」

 

「この人の約束していた者ですよ。だから何処かに行って貰えませんか?」

 

ネイサンは笑顔でそう言いながら、掴んでいた男の腕を突き放し真耶から遠ざけた。3人は睨んだ表情を浮かべ、ネイサンを睨んでいた。

 

「うるせんだよぉ! 横からしゃしゃり出てくんじゃねぇ!」

 

そう言って男は殴り掛かってくるがネイサンはそれを難なく躱しその殴ってきた腕を掴み相手の膝部分を思いっきり蹴る。男は蹴られた膝から崩れるとネイサンはそのまま掴んでいた腕を捻り男を完全に転ばせ顔目掛けて蹴るように見せて地面を思いっ切り踏む。

 

「ひぃいい!!??」

 

男は恐怖から情けない声をあげる。

 

「もう一回言います。……さっさと失せろ」

 

ネイサンはそう言うと残った男達はネイサンから出る殺気に怖気づき倒れ込んだ男を立たせて足早に逃げて行った。

 

「ふぅ~大丈夫ですか、山田先生?」

 

「は、はい! ありがとうございますネイサン君!」

 

真耶は頬を赤く染めながらお礼を言いネイサンと共に噴水の元に向かう。

 

「あら、お帰り」

 

そう言いスマホを片付ける鈴。

 

「えぇ、最近の日本はあぁ言った男性が増えたんですかね?」

 

「この国は女尊男卑(糞風潮)に染まった国ですもの。下手にナンパしたら即警察沙汰ですもの。だから山田先生みたいな若干内気な女性を狙ったんでしょうね」

 

そう言いながら鈴は嫌だ嫌だと今の世の中に呆れていた。

 

「そうですね。以前の私だったら泣き出してたかもしれませんが、今は護身用のこれがありますから」

 

そう言いながら真耶は肩下げ鞄からスタンガンを見せる。

 

「……ネイサンが助けに入らなかったら、彼らもっと痛い目に遭ってたかもしれなかったわね」

 

鈴はそう言いながら真耶が持っていたスタンガンを見せてもらう。すると裏の注意書きに目が行く。

 

「『最大電力250万ボルト放電します。濡れた手などで操作しないでください。大変危険です』め、滅茶苦茶危ないわね、これ」

 

そう言い鈴はスタンガンを真耶に返す。

 

「そうですね。けど、これ結構電池を食うんですよ。だからこれが万が一使えなかったら最終手段を使うしかないんですよね」

 

そういうと2人は何を出すのか見当がつき、あぁ~。と声を揃えてあげて頷く。

 

「まぁIS学園の教師の為護身用として持っていたと言えば、問題ないはずです」

 

「そうね。そう言えば私達は学園から許可を貰って携帯してるのよね?」

 

「はい。僕達は企業代表ですし、ちゃんと学園に銃器携帯許可を貰っているので大丈夫です」

 

そう言うと鈴はそうよね。と返し当初の目的を口にする。

 

「さて、トラブルはあったけど買い物に行きましょ」

 

そう言うとネイサンはそうですね。と返し3人はレゾナンス内へと入って行った。




次回予告
レゾナンスで必要な物を買い物し、学園へと戻って来たネイサン達。ネイサンは電話をすべく屋上へと行きココに報告を行う。その帰り楯無と鉢合った。
次回
本当に守ろうとした物


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41話

レゾナンスで買い物をすべくして来ていた3人は目的の店目指して歩いていた。

すると真耶は先程の騒ぎの後、聞きそびれていた事を鈴に聞く。

 

「そう言えば凰さんはどうしてあの噴水に?」

 

「学園祭でウチのクラスに必要な物が学園だと集まりそうにないと思って、クラスの代表として買いに此処に来たんです。そしたらネイサンが丁度噴水に居たので荷物持ちに手伝ってもらおうと思って一緒に居たんです」

 

そう言うとネイサンは苦笑いを浮かべながら、マジですか。と呟く。

 

「あははは、そうだったんですか」

 

真耶もネイサン同様に苦笑いを浮かべていると、3人は目的の店へと到着した。その店は雑貨を主に扱っている店で、パーティーグッズやら行事関連に使われるような道具が多種多様に扱われている店である。

3人は店の中へと入って行きそれぞれ目的の物を買い物かごに入れ会計を済ませた。

そして店へと出てきた3人は大きめの買い物袋を下げながら近くのベンチへと行く。

 

「さて、僕と鈴の目的は達成できましたし後は山田先生の服だけですね」

 

「は、はい。では、買いに行ってきますので少し待っててくれますか」

 

そう言い真耶は立ち上がりその目的の服屋に行こうとすると、鈴も一緒に立ち上がった。

 

「それじゃあ私も行きます。そろそろ肌寒くなってきたから厚めの服が欲しかったし」

 

そう言って真耶と鈴は服屋へと向かった。

2人は真耶が欲しいと言っていた服が売っている店へと入り目的の服を探す。

 

「あ、すいません。以前電話でご連絡をいただきました山田真耶です」

 

「はい、お待ちしておりました。どうぞ、こちらの商品でお間違えありませんか?」

 

そう言って店員がカウンターから出したのは濃い青色の肩出しのトップスだった。

 

「は、はい。こちらです」

 

「かしこまりました。ではお会計の方をさせていただきます」

 

そう言い会計を済ませ、真耶は服の入った紙袋を持ちながら鈴を探すと

 

「えっと、凰さんは何処に……。あ、居ました居ました」

 

そう言いながら真耶は鈴の元へ向かった。鈴はうぅ~ん。と悩んだ声をあげながら服を見ていた。

 

「凰さん、良い服は見つかりましたか?」

 

そう声を掛けられ、鈴は真耶に気付き苦笑いで首を横に振った。

 

「いえ、なかなか見つかりませんでした。また今度見に来ようと思います」

 

そう言われ真耶はそうですか。と返し店を出ようとすると

 

「あの、山田先生。一つ聞いてもいいですか?」

 

鈴にそう声を掛けられ体を向ける。

 

「なんですか?」

 

「あの、先生は、その…。あいつ、ネイサンの事どう思ってますか?」

 

鈴は少し顔を赤らめながらそう聞いてきた。真耶はすぐにそう聞く理由が察せた。あぁ、この子も彼の事が好きになっているんだ。と。

 

「……以前は分かりませんでした。けど今ならはっきり分かっているんです。彼の事が好きだと。生徒ではなく一人の男性として」

 

そう言うと鈴はやっぱりと言った表情を浮かべ、挑戦するような目つきに顔付きを変えた。

 

「私も前まではモヤモヤとして気持ち悪かったんですが、今分かりました。私もアイツの事が好きだって事が。だから負けませんよ。先生にも」

 

そう言うと、真耶は自分とあともう一人ライバルがいると捉えすぐに誰なのか分かった。ココ・ヘクマティアルだと。

 

「私も負けませんよ。凰さんにも。そして彼女にも」

 

そう言うと鈴は真耶が何故ココの事を知っているんだと疑問に思ったが、ネイサンの上司は彼女だからそれで知ったんだろうと考えついた。

そして2人は互いに握手をして店を後にしネイサンに合流した。

 

「お目当ての服はありましたか?」

 

「はい」

 

「私は良いのが無かったからまた来るわ。そん時は荷物持ちお願いね」

 

鈴は意地の悪い笑みを浮かべながら頼むと、ネイサンは予定が合えば。と言って荷物を持ち3人はレゾナンスを後にした。

学園へと着いた3人はそれぞれ部屋へと帰った。部屋へと着くとマドカがエプロン姿で出迎えた。

 

「おかえり。夕飯の準備はもう終わってるぞ」

 

そう言い奥へと向かう。そしてネイサンと真耶はリビングへと行くと、カレーが机の上に並んでいた。

 

「へぇ~、カレーか。マドカ一人で作ったのか?」

 

「当たり前だ。私は兄さんの妹だぞ? 料理くらい練習すればこれくらいできる」

 

そう言いエッヘンと胸を反らすマドカ。ネイサンは笑みを浮かべ、ありがとうとお礼を述べ頭を撫でた。

そして3人はカレーを頬張り、夕飯を済ませた。

 

夕飯を終えたネイサンは屋上へと向かった。部屋から出て行くネイサンを見たマドカは真耶に何処に行ったのか聞く。

 

「兄さんは一体何処に?」

 

「屋上で何時も上司の方に電話をされているそうですよ」

 

そう言うとマドカはアイツか。とジト目で扉を見た後、お風呂行こ。と呟き風呂場へと向かう。

 

『―――いや~、もうすぐ学園祭だね、ネイサン』

 

「そうですね。……まさかと思いますけど、来る気じゃないですよね?」

 

屋上でネイサンはココの携帯に電話をして会話をしていると、学園祭の事が話題となった。

 

『勿論そのつもりだよ。あ、勿論レーム達も一緒に行くし』

 

ココがそう言うとネイサンは少し不安があった。

 

「ココさん、さすがに不味くないですか? 当日は一応学園の警備は強固にされると聞いていますが、完璧とは言えません。もしこの時にあいつ等の襲撃が有ったら…」

 

そう言うとココもそれを分かっているのか、声が仕事時の張りで返ってきた。

 

『確かに。けど今最も狙われているのはネイサン、君だ。アイツが最初に狙ったのは私だが、私の周りにはレーム達が居て守られていた。そして次に狙われたのは君だ。学園が世界で一番安全と言われていても、学園祭みたいな行事では警備が薄い所は必ず出る。奴の事だ、今回の学園祭で奴は襲撃してくる可能性が高い。学園の教師達だけでアイツを止めるのは恐らく無理だ。だからレーム達が必要になる』

 

「ならレーム達だけ此方にと言いたいですが、そうなるとココさんの護衛が少なくなりますね。……キャスパーは?」

 

『残念だけど無理みたい。今東南アジアで商談中で手が離せないってさっき連絡を貰ったの』

 

「そうですか……。……分かりました。ココさん、学園祭来られるんでしたら、ちゃんと服の下に防弾チョッキ着て来てくださいよ」

 

『ふふん、勿論着ていくよ。当日、学園祭の案内宜しくね? それじゃあお休み♪』

 

そう言ってココは電話を切った。ネイサンはため息を吐き、屋上から下りて行った。

 

 

屋上から下り部屋へと戻ろうとしていると下から上がってきた楯無と鉢合った。

 

「こんばんは、更識会長」

 

「え、えぇこんばんは。何処かに行ってたの?」

 

「えぇ、ちょっと屋上で夜風を当たりに」

 

ネイサンの返答に楯無はそう。と短く返す。

 

「では、自分はこれで失礼します」

 

そう言ってネイサンは階段を降りていこうとすると思い出したかのようにネイサンは歩みを止めた。

 

「そうだ更識先輩、聞きたいことがあるのですが良いですか?」

 

「え? えぇ、構わないわよ」

 

「では、貴女は何故僕の身辺調査をしようとしたんです?」

 

そう聞かれ、楯無は内心驚くも顔に出さないようにする。

 

「えっと、何のことかさっぱり「しらばっくれないでくださいよ。暗部組織更識の長、更識楯無先輩」……やっぱり知ってたのね」

 

「えぇ、学園内で怪しい人物と言えば他にも何人かいますが最も怪しいのは貴女位しかいません。更識と言えば裏方の人間であればすぐに分かりますからね」

 

そう言うと楯無は近くの壁にもたれる様に立つ。

 

「そう。…確かに貴方の身辺調査はしてたけど、もう止めたわ」

 

「……へぇ、更識は仕事は最後まで完遂すると聞いていましたが、それはまた何故?」

 

そう聞くと顔を暗くさせながら答えた。

 

「……篠ノ之博士よ」

 

「あぁ、なるほど。大方警告に来られたんでしょう」

 

「えぇ、それも私を本当に殺そうとするほどにね」

 

そう言うとネイサンは、それほどの事を計画していたのかこいつ。と思いながら次の質問を投げる。

 

「なるほど。僕の身辺調査は中止された事は分かりました。では次に、簪さんとの事をお聞きしても?」

 

「……中々酷な質問ね、それ」

 

「お2人が仲が悪くなった原因はお聞きしています。簪さんは昔貴女に『無能のままで居なさい』と言って、自分の今までの努力を貶すように聞こえた。そう思っているそうですよ」

 

そう言うと、楯無はやっぱりそう思っているわよね。と思いながら俯く。

 

「貴女が何故簪さんにその様なことを言ったのか、大体想像は出来ます。ですが、少し言い方が悪かったのでは?」

 

「……分かってるわよ、そんなの。言って暫くして私から距離を置き始めているって言うのは薄々感じてたわ」

 

そう言いながら楯無は悔やんだ表情を浮かべる。

 

「……それで、貴女は一体何のために当主になったんですか?」

 

ネイサンはそう問うと楯無は落ち込んだ表情を浮かべながら首を振る。

 

「分からない。妹を守る為に当主になったのか。それとも更識家を守る為に当主の座に就いたのか」

 

そう言い楯無は壁にもたれたまま蹲ってしまった。

 

「…力に溺れれば、目的を見失う。目的を見失えば、其処が自分の終点だ」

 

「え?」

 

ネイサンがふと口にした言葉に楯無は顔を上げた。

 

「父が生前言っていた言葉です。目的の為に力を身に付けるのは良いが、目的を見失うな。見失えば、何もかも失うと。僕はこの言葉を胸に刻みながら力を付けてきたんです。更識先輩、もう一度過去の自分を見つめ直されてはどうですか? 自分は何の為に当主になったのか。家の為か? 大切な妹の為か?」

 

そう言いネイサンは帰って行った。

一人残された楯無はその場で蹲りながら

 

「私が当主になりたかったのは……」

 

と呟きながら過去の自分を思い返していた。




次回予告
学園祭間近に迫っているある日、ネイサン達は整備室で簪と本音とで談笑していた。すると楯無が其処にやって来た。

その頃海外ではある事が起きていた。

次回
あの頃の自分に帰る


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42話

学園祭が間近へと迫っているある日、ネイサン達は溜まり場の様になっている整備室の一角で自分達のISを整備し終え、談笑をしていた。

 

「それで、簪のクラスは何をするの?」

 

「私のクラスはISの解説。小さな子供や普段ISに触れた事が無い人達に、ISとは何かを分かりやすく教えようって」

 

「へぇ~、かんちゃんのクラスってそう言うモノなんだぁ。私のクラス、コスプレ喫茶をやるって決まったんだけど、なんかクラスの中がそんなに明るい雰囲気じゃないから面白いって感じしないんだぁ」

 

「うわぁ、なんか1組の学園祭の出し物の相談がウチとはえらく静かだと思ってたらそう言う訳だったのね」

 

鈴は本音達のクラスが静かだった訳を聞き、何とも言えない表情を浮かべながらお菓子を食べる。

 

「そう言う鈴はどう言った出し物を出すんですか?」

 

「ウチは中華喫茶。クラスの皆はチャイナ服を着て対応するのよ。……悩殺されてみる?」

 

そう言い学生服で悩殺ポーズをする鈴。

 

「……マドカ、そのお菓子僕にもくれないか?」

 

「……はい」

 

「何か言いなさいよ‼」

 

フシャー!と怒った表情を浮かべる鈴。そんな光景を簪は楽しそうに見ていると、整備室の扉が開き、一人の生徒が入って来た。

その人物はしっかりとした足取りでネイサン達の元へやって来た。

 

「ちょっとごめんなさい」

 

そう声を掛けられると、簪の体が強張った。そして顔をゆっくりと向けると其処には楯無が立っていた。

 

「あぁ、どうも更識先輩。何か?」

 

「えぇ、ちょっと簪ちゃんとお話があるの」

 

そう言い顔を簪の方に向ける。簪は少し嫌そうな顔を浮かべていた。

 

「私には話なんか「分かりました。それじゃあ僕達はジュースとお菓子を買ってくるので、ごゆっくり」えっ!? じゃ、じゃあ私も行く!」

 

ネイサン達は簪だけ置いて買い物に行こうと立ち上がると、簪も立ち上がろうとしたが本音がその肩に手を置き座らせた。

 

「ううん。かんちゃんは此処で待ってて。主のジュースやらお菓子を買ってくるのは従者の役目なのだぁ」

 

そう言って本音は行こうとする。

 

「じゃ、じゃあ本音だけでいいんじゃないの?」

 

「ネイネイ達は荷物持ちだよぉ」

 

「そうですね。ついでにお菓子を大量に買って来そうですから、その監視も含めて行きますか」

 

「そうね。1人より2人。2人より3人てね」

 

「カラ○ーチョが食べたくなったので、私も行きます」

 

そう言って4人は整備室から出て行った。残された楯無と簪は何も話さず、ただお互いに口を閉ざしていた。すると最初に楯無が口を開く。

 

「あのね、簪ちゃん」

 

「……何?」

 

「その、……御免なさい!」

 

「えっ?」

 

突然謝りだした楯無に簪は思わず声を漏らし、顔を向ける。其処には深々と頭を下げている姉楯無が居た。

 

「危険な目から簪ちゃんを守る為とは言え、傷付けるようなことを言って御免なさい。それに簪ちゃんが困っていたのに、全然助けてあげられなくて御免なさい」

 

そう涙声で謝ってきた。簪は突然謝りだした姉に、自分が今まで感じていた事を全部吐き出そうと思った。だが、姉が自分の本心を言ったんだ。だからあの時思っていた事を言おう。そう思い口を開く。

 

「……昔『貴女は無能のままで居なさい。私が守るから』って言われた時確かに私は酷く傷付いた。私だって、私だって、お姉ちゃんを守れるくらい強くなれるって思っていたから!」

 

そう訴える簪。

 

「……そうだったの。御免なさいね、簪ちゃんがそう思っていたのに知らずに、酷いことを言って。本当に、本当に御免なさいね」

 

「ううん。私も意地張って、御免なさい。私も何であの時あんなことを言ったのか、もっとお姉ちゃんの気持ちを理解してさえいれば、こんなに長く擦れ違いなんかしてなかった」

 

そう言い二人は涙を流していた。そして自然と手が上がり二人は握手を交わした。その顔は笑顔が浮かんでおりもうそこには擦れ違っていた姉妹はおらず、仲の良い姉妹が其処に居た。

 

 

 

 

その頃、砂と岩が広がるS国にある女性権利団体の過激派の秘密基地にオータムが居た。だがその表情は酷く焦った表情を浮かべており、通信機で連絡を取っていた。

 

『はぁ~い、束さんだよぉ。オーちゃんどうかし「不味いことになったぞ束!」ん~? もしかして其処に居る馬鹿共がもう逃走してたの?』

 

「逃走してたとかじゃねぇ、血祭りにあげられてやがる」

 

そう言いオータムは周りを見渡すと其処かしこに絶命した女性達が転がっていた。どの死体も射殺された状態だった。

 

『どう言う事? 生き残りは一人も?』

 

「あぁ、一人もいねぇ。それにお前が回収を頼んだISも消えてる」

 

『ッ!? すぐにその辺で何があったのか調べる。オーちゃんはすぐに其処の処理をして戻って来て』

 

そう言われオータムは足早に秘密基地に爆弾を設置して脱出した。

建物から出たオータムは束特製のステルス迷彩を展開しそのままその場を離脱する。そんな中、ある疑問を零した。

 

「情報だと、3,4体の何処からか強奪したISがあると聞いていたが、何で展開して応戦しなかったんだ?」

 

そんな疑問を残しながらオータムは隠れ家へと戻って行った。

 

 

 

―――S国のとある街に建てられている寂れた倉庫内では何人かの女性と男性が居り、それぞれ武装していた。

 

「それで、回収したISはどうするんですか?」

 

「まぁ、本国にでも送っておきましょう。テロリストが使っていたとはいえ、ISは貴重なものですもの。それに私達には()()があるでしょう?」

 

男性からの質問にリーダー格の女性はそう答え、座っていた椅子から立ち上がる。

 

「さて次の戦いに行きましょうか。貴方達が満足いく戦いが待っているわ。……Stand By Ready Move!」

 

狂気じみた笑顔で言うと、彼女の部下達は「いえぇあーー!」と声をあげ、一斉に銃を掲げ、引き金を引く。銃声と共に薬莢が落ち、辺りに硝煙が漂った。

 

 

移動を始めたグループを衛星で監視していたブラックははぁ。とため息を吐いた。

 

「やはり、杭の刺さりが甘かったか」

 

「ブラック課長、如何しますか?」

 

部下の一人がそう聞くと、ブラックは眼鏡のブリッジ部分を持ち上げ、掛け直す。

 

「監視の続行、及び奴が何処で、誰から、何を買ったのかの監視もだ」

 

「分かりました」

 

そう言いブラックは指令室から出ると、食堂へと歩み出す。すると仕事用の携帯にメールが届き、ブラックはそれを開き中身を見る。

 

「……こいつはちょっと不味いな。少し手を回しておいた方が良いな」

 

そう言い食堂へと向かった。




次回
日が経ち、学園祭が翌日に控えたある日。ネイサンは学園長の元に行きあるお願いをしに行く。
それと同時にそれぞれ目的を持った者達が動き出した。

次回
学園祭前日


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43話

学園祭を翌日に控えたある日、ネイサンはとある部屋へと訪れ、ノックする。

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

そう言い中に入ると学園長の奥さん、轡木佳代子が居た。

 

「あら、マクトビア君。どうかしましたか?」

 

「えぇ、少し。学園長は今何方に?」

 

「夫でしたら今花植えに行ってますよ。もう少ししたら帰ってきます」

 

そう言うと扉が開き、作業着姿の十蔵が入って来た。

 

「おやぁ、マクトビア君ではありませんか。如何しましたか?」

 

タオルで汗を拭いながら十蔵はそう聞く。

 

「はい、明日の学園祭の事で少しお話がありまして……」

 

そう言い学長席に座っている奥さんに少し目を向けるネイサン。それで理解した十蔵は頷く。

 

「分かりました。では、隣の会議室を使いましょう。私は服を着替えてきますので、少しお待ちください」

 

そう言われネイサンは隣の会議室へと移動した。そして数分後、スーツ姿の十蔵が飲み物が入ったカップを載せたトレイを持ってやって来た。

 

「御持たせして申し訳ない。自家製のハーブティーです」

 

そう言い十蔵はカップをネイサンの前に置き、自分の分も向かいの席に置き、席に着く。

ネイサンは頂きます。と言いハーブティーを口にする。

 

「いい香りですし、味も美味しいですね」

 

「そうですか? そう言ってただけて作った甲斐があります」

 

そう言い自身も口にする。そしてカップを置き皿に置き手を組む。

 

「それで、お話とは一体何でしょう?」

 

「はい、実は自分の上司が明日の学園祭に護衛の方達と此方に来られるんです」

 

「あぁ、聞いてますよ。先日Ms.ヘクマティアルから連絡が来まして、自分の部下が出している出し物をぜひ拝見したいと、申し出がありましてね。来ていただくのは別に構いませんよ。と伝えて、人数分のチケットは既にお送りしておりますよ」

 

そう言われネイサンは行動早っ!と内心驚き、若干呆れた笑みを浮かべた。

 

「もしや、そのお話ですか?」

 

「あ、えっとそれもあったんですが、もう一つあるんです」

 

そう言われ首を傾げる十蔵。

 

「それで、もう一つのお話とは?」

 

「はい、学園祭当日来られる上司の部下達に銃器の携帯許可を頂きたく思い、参りました」

 

そう言われ十蔵は少し顔付きを真剣そうな表情へと変える。

 

「それはまた、何故?」

 

ネイサンも真剣な表情に変え、その訳を話す。

 

「実は、自分が部隊を離れている間にどうやら襲撃があったらしいのです。その襲撃者は撃退できたものの、また襲われる可能性があるとみているんです」

 

「なるほど。その為にMs.ヘクマティアルの護衛の方々に銃器の携帯許可が欲しいという訳ですね」

 

「そうです。どうかお願いたします」

 

そう言ってネイサンは頭を下げた。暫く沈黙が漂っていると

 

「マクトビア君、頭を上げてください」

 

そう言われネイサンは頭を上げる。其処には朗らかな笑みを浮かべた十蔵が居た。

 

「彼女が言った通り仲間思いの方ですね、貴方は」

 

そう言いカップに残っていたハーブティーを飲み干す十蔵。

 

「ご安心ください。武器の携帯許可は既にMs.ヘクマティアルに出しています。人目に付かない様に携帯するのであれば大丈夫ですと言ってありますよ」

 

そう言われネイサンは茫然の余り目を何回か瞬きした。

 

「……い、何時の間にそんな」

 

「彼女から連絡を貰った際に、彼女からお願いされたのですよ」

 

そう言われネイサンは何だよそれ。と言いたげな呆れた表情を浮かべ、溜息を吐き項垂れた。

 

「全く、そう言った報告は僕にも回してほしかった」

 

「仕方ありません、彼女は貴方をからかうのが好きなようですから、恐らく今こういった状態になっているのを飛行機で笑っているかもしれませんよ」

 

そう言われネイサンは困った笑みを浮かべ、自分もそう思います。と言いハーブティーを口にした。

 

 

 

その頃飛行機に乗っているココ達はと言うと

 

「クシュンッ!!」

 

ココは飛行機で盛大にくしゃみをしていた。

 

「大丈夫ですか、ココ?」

 

「う、うん。誰かが私の事噂してるのかもね」

 

そう言い隣に座っているバルメからティッシュを受け取るココ。

 

「案外、ネイサンが噂してたりしてな」

 

「かもな」

 

後ろの席に居たトージョとルツはそう言い笑っていた。

 

「日本かぁ。子供達に絵ハガキを送ろうと思うが、日本らしい絵ハガキはありますかね?」

 

「さぁ? だが日本は見どころが一杯あるからそう言った物くらいあるだろ」

 

マオは自身の子供達に送る絵ハガキがあるのか、ワイリーに聞いていた。ウゴは機内のゲームで遊んでおり、レームはワインを嗜んでいた。そんな中アールは一人難しそうな顔を浮かべていた。

 

(ヘックス。奴がもしお嬢達の前に現れる様なら、俺が奴の息の根を止める!)

 

そう思いながら、眼下に見える日本の都市を眺めた。

 

 

 

―――ジョージア州CIA本部・食堂

ブラックは食堂で食事を取っていると、仕事用の携帯にメールが届いた。ブラックは口元を拭き、そのメールの中身を確認する。

 

[ヘックス、銃弾9000発を調達。及び現地協力者を何人か雇った模様]

 

と書かれていた。

 

「やはりか。……ヘックス、お前は国の為だと言って暴れる回るのを、私は黙認してきたがネイサンを殺そうものなら話は別だ」

 

そう呟き、何処かに電話を掛け始めた。

 

「もしもし、私だけど。悪いんだけど、アジア支部のエルドア君に繋げてくれない? お願いね」

 

そう言いブラックは裏方の仕事を始めた。

 

 

 

―――IS学園・資材倉庫

 

「……言う通り手配した。それで、次は?……分かった」

 

千冬は人気のない資材倉庫で電話越しに誰かと話し終え、携帯を閉じる。そして懐から写真を取り出した。それは家族写真だった。男性と赤ん坊を抱いた女性、そして黒髪の少女が写っていた。だがその写真の男性と女性の顔はペンでぐちゃぐちゃにされており、はっきりと顔が確認できなかった。

 

「……一夏は私の弟だ。アイツを守るのは私だけで良いんだ。他の奴らなんかいらない。私だけで…私だけで良いんだ」

 

そう言い写真を仕舞いその場を去って行った。

 

 

―――束の隠れ家

束は一人パソコンである作業をしていた。ディスプレイには束が昔使っていた隠れ家の映像が映っていた。

 

「さて、加工は上々。後はこれを公開する日が来るのを待つだけだ」

 

そう言い束は机の上に置いてある拳銃、デザートイーグル

【挿絵表示】

を取り壁に貼られている写真に向け数発撃った。.50AE弾は真っ直ぐ写真を射抜き、風穴を開けた。

 

「待ってろよ。お前も、腐った政府も、世の中の腐った女共。お前等全員地獄に叩き落してやるからな」

 

そう言い束は席を立ち部屋から出て行った。壁に貼られていたのは千冬の顔写真だった。だが、それ一枚と言う訳ではなく、何十枚も貼られておりどれも風穴が開けられていた。

 

 

そして翌日、様々な思惑が渦巻く中学園祭が開かれた。




次回予告
学園祭が始まり、ネイサンは自分のクラスの出し物を手伝い昼頃、ココ達と出店巡りに出た。その裏ではヘックス達が襲撃を仕掛けようとしていた。
そして銃声と共に学園は戦場へと変わった。

次回
戦場へと変わる学園


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44話

<バンッ! バンバンッ!>

 

空に祝砲が上がると同時に、多くの学園の親御さんや学園が許可したセールスマン達がやって来た。

そんな中ゲート付近でIDカードを見せて中へと入るココ達。ココ以外はそれぞれ大きめのリュックサックを背負っていたり、長めのアタッシュケースを持っていた。

 

「いやぁ~、マジで人が多いな」

 

「本当だな。それより俺達リュックサックを背負ってるの、結構目立ってね?」

 

トージョはそう言いながら背中のリュックサックに苦い顔を浮かべる。

 

「仕方ねぇだろ。武器の携帯に適している物と言えばこれ位しかねぇんだから」

 

レームはそう言いながら歩く。彼らの背中にあるリュックサックにはマグプルMASADAや予備のマガジンなどが入っているのだ。因みにルツとレームが持っているアタッシュケースには狙撃用のLRS2とレミントンM700が入っている。

 

「それにしても色々な出店が出ているみたいですね。食べ物や遊技場とか色々出てますよ」

 

マオは貰った学園マップを見ながらそう言うと、ココもそれを見る。

 

「まぁ確かに見て回るのは面白いけど、私は先に行きたい場所があるんだよねぇ」

 

そうココは口をニンマリとさせながら言うと、周りのレーム達もニンマリと口を笑わせていた。

 

「だなぁ」

 

「最初はやっぱりあそこだよな」

 

「ですね」

 

「他より先に気になりますからね」

 

「他でもないあそこだよなぁ」

 

そう言いココ達は学園内へと入って行った。

その頃ネイサン達はと言うと、お祭り風の出店という事で3つの店を出しているのでお客の対応に忙しかった。

 

「はい、冷えたコーラです!」

 

「フランクフルト如何ですかぁ! 焼きたてですよぉ!」

 

「おっ! 頑張れ、頑張れ! おぉ~上手!」

 

それぞれの出店を担当する生徒達はそれぞれ法被を着てお客さんの対応をしていた。お客さんの多くは親子で、小さな子供達はヨーヨーすくいを楽しんでいた。その裏方では

 

「マクトビア君、ヨーヨー後どれだけある?」

 

「後、200個ほどですね。これだけあれば、午後から来られるお客さんにも対応できると思いますよ」

 

そう言いながらネイサンは幾つかヨーヨーを作り籠の中へと入れていた。

するとマドカが裏方の方にやって来た。

 

「兄さん、フランクフルトがそろそろ無くなりそうです」

 

「それじゃあ其処の赤色のクーラーボックスに入ってるのを出してくれ」

 

そう言い赤色のクーラーボックスの方に指をさす。

 

「分かった」

 

そう言いマドカは赤色のクーラーボックスを開けると、フランクフルトが大量に入った袋が幾つかあり、その一つを取り出す。

 

「飲み物は青色か?」

 

「ん? あぁ、青色のクーラーボックスに入ってる」

 

マドカはフランクフルトの袋を担当している生徒に渡し、飲み物が入った青色のクーラーボックスを引いて飲み物を出している出店へと行く。

ネイサンは裏方で3店の出店の手伝いをしていると、同じく法被を着た真耶がやって来た。

 

「あ、裏方お疲れ様ですネイサン君」

 

そう言い真耶はジュースを手渡す。

 

「あぁ、すいません。ありがとうございます」

 

そう言いネイサンはジュースを口にする。

 

「大盛況ですね」

 

「裏方に居てもお客さんが喜んでくれている声が聞こえるので、やって良かったですよ」

 

そう言い裏方からお客さん達の方を見ると、子供達が喜んで遊んでいたり食べている姿に親達は笑みを浮かべながら見ていた。

 

「本当に幸せそうな表情を浮かべてます」

 

「そうですね。これもネイサン君のお陰ですよ」

 

真耶は笑みを浮かべながらそう顔をネイサンに向けると、ネイサンは少し照れた表情を浮かべた。

 

「いえいえ、皆さんのお陰ですよ」

 

そう言い裏方に戻ろうとすると

 

「やぁ、ネイサン頑張ってる?」

 

そう声を掛けられ振り返ると其処にはココ達が立っていた。

 

「ココさん、それに皆さんも」

 

「ほぉ~。その法被姿も中々良いね」

 

そう言い腰に手を当てながら見るココ。そんな中やって来たココ達の事を生徒達は話し合っていた。

 

「あれって、もしかしてマクトビア君の上司?」

 

「凄く綺麗な髪…」

 

「うん、プラチナブロンドだよね。あそこまで綺麗なの初めて見たかも」

 

そう言いながら眺める生徒達。

 

「ん? 何か注目されてる感じ?」

 

「そりゃあ、後ろに何人も連れて此処に現れたら目立つし、ココさんの髪色とかは結構目立ちますよ」

 

ネイサンは苦笑いで言うと、ココはおっとそっか。と言い笑みを浮かべる。

 

「まぁ、目立つのは嫌だけどネイサンのクラスだし別にいっか」

 

「はぁ。一応言いますが、僕の休憩はお昼頃までありませんよ」

 

「なんと! それじゃあ私此処で待ってるから皆は他のクラス見て来てもいいよ」

 

そう言われバルメとレ―ム以外は「「「うぃ~す」」」と言って他のクラスへと見に行った。

 

「さて、それじゃあヨーヨーすくいからあ~そぼぉ! バルメも一緒にやろ」

 

「はいっ! 喜んでお供します!」

 

そう言いココとバルメはヨーヨーすくいへと向かい、子供達に混ざって遊び始めた。

 

「なんか子供みたいですね」

 

「まぁ、いいじゃないの。こう言った所で息抜きできるのはいい事だしな」

 

そう言いながらレームは飲み物屋の方に向かう。

 

「悪いんだけど、ソーダ貰えるかい?」

 

「は、はい。160円になります!」

 

「あいよ」

 

お金と引き換えにソーダを貰い呑むレーム。対応した生徒達は

 

「すっごくダンディな人…」

 

「The大人って感じだよね、あれ!」

 

「服を着てても分かる。あの人滅茶苦茶鍛えてる」

 

「あぁ言う人とお付き合いしたぁい!」

 

と、かなり好感度高めの呟きが零れていた。

 

3組に綺麗な人が来ているという噂は他のクラスにも届いており、2組ではチャイナ姿の鈴が、ココさんが此処に来てるんだ。と思い休憩時間になったら会いに行こうと思い作業を続ける。

1組でも噂は届いているが、誰も行こうと思わなかった。その訳が自分達のクラスにもイケメン2人がやって来たからだ。

するとイケメンの一人は近くに居た生徒、本音に声を掛ける。

 

「すいません、シャルロットさんを呼んで来ていただいても宜しいでしょうか?」

 

「ほぇ? 少々お待ち下さぁ~い」

 

狐の着ぐるみを着た本音はそう言い店の裏方で休憩していたシャルロットを呼びに向かった。

 

「シャルルン~、お客様がシャルルンをご指名だよぉ~」

 

「え、僕を? 何だろう?」

 

そう言い裏方から出てきて自身を呼んだ人を本音に教えてもらう。

 

「えっと、本音さん。誰が呼んだの?」

 

「あそこの人ぉ」

 

と指を指した方に目を向けるシャルロット。すると其処にはMr.K事鬼鉄陽太郎と護衛の義弟鬼鉄一輝が其処に居た。

 

「こんにちは、シャルロットさん」

 

「こ、こんにちは、社長さん。ど、どうして此方に?」

 

シャルロットは突然来られた陽太郎達に驚いた顔を向けながら近付く。

 

「いえ、学園祭が開かれると聞きましてシャルロットさんがキチンと生徒の皆さんと頑張っているのか、見に此方に」

 

「そ、そうだったんですか。この通り皆と楽しんでやってます」

 

そう照れた表情で言うシャルロットに陽太郎は朗らかな笑みを浮かべ頷く。

 

「その様ですね。さて本当はもう少し此方に居たかったのですが、あいにくこの後仕事が入っているので、そろそろ帰りますね」

 

「そうなんですか? その何の御持て成しも出来ず申し訳ないです!」

 

そう言うと陽太郎は、大丈夫ですよ。と笑顔で言い一輝と共にクラスから出て行った。その後、クラスメイト達からあのイケメンとどんな関係なんだと質問攻めにあうシャルロットであった。

 

 

 

その頃、ブラックはCIA本部の作戦司令部で偵察衛星でIS学園の様子を見ていた。

 

「今現在で確認で出来た女性権利団体の人間は何人だ?」

 

「10人です」

 

学園内に侵入している女性権利団体の過激派の顔を一人ずつピックアップさせていた。すると携帯に連絡が入り、表示名には『エルドア』と書かれており、ブラックはそれに出た。

 

「もしもし、どうかした?」

 

『今○○港に来ているんだが、どうやらあいつ等船を使って学園に接近するかもしれん』

 

「なるほど、船を使って追えば追跡がバレる。後はこっちで追跡する」

 

『分かった』

 

そう言い電話を切ると、ブラックは偵察衛星を○○港から出る船を探すと、丁度港から出る大型船を発見した。

 

「あの船を追跡しろ」

 

そう指示を出し、船の後を追跡させた。そして港を出て暫くして船は突然停止した。

 

「ん? どうしたんだ一体?」

 

そう言い監視を続けていると、一隻の漁船が近付いてきた。漁船は大型船に近付き、漁船の乗組員が乗り込んだ。暫くして乗り込んだ乗組員は漁船へと戻る。ブラックは急ぎ漁船の無線を傍受させた。

 

『此方民間漁船の藤丸。誰も乗ってないクルーザーが沖に流されているのを発見しました。誰か人を寄越してください』

 

「何ッ!? 無人だと!」

 

ブラックはしてやられたと思い、急ぎ指示を出しヘックス達を探させた。

 

 

その頃IS学園では出し物を生徒達に任せている教師達は巡回を行っていた。巡回は2人1組で行われており、それは千冬も同様で春野と共に巡回を行っていた。すると千冬は履いていたヒールが折れた。

 

「ん? すまん、ヒールが折れた様だ。私は靴を取りに戻るから先に行っててくれないか」

 

そう言い千冬は近くにあったベンチに座り履いていたヒールを脱ぎ、折れた部分を確認する。

 

「でしたら私も一緒に戻ります」

 

そう言い近くで待機する春野。

 

「……いや、一人で戻れる。先生は先に巡回に行ってくれ」

 

「そう言う訳には行きません。巡回は2人1組で行うよう決められています」

 

そう言い残る春野に、千冬は何も言わなくなり折れたヒールをポケットに仕舞う。春野はそろそろ立つと思い、一瞬顔をそらした瞬間、千冬は手刀を思いっきり春野の後頭部に振り下ろした。

 

「がっ!!? お、おり…むら先生、な…にを…」

 

そう言い春野は気を失い倒れ込んだ。倒れた春野を千冬は抱え上げその辺の草むらへと放り捨て、海の中にひも付きの電源を入れたペンライトを入れ上下に振る。そして縄梯子を降ろすと、海からダイビング姿の人達が何人も現れ縄梯子を上ってきた。

 

そして最初に上ってきたダイビング姿の人はシュノーケルを外し顔を見せる。それはヘックスだった。

 

「ご協力感謝するわ、織斑千冬さん」

 

「感謝などいらん、約束の物をさっさと出せ」

 

そう言い千冬は手を差し出すが、ヘックスは首を傾ける。

 

「あら、まだこちらの仕事は終わってないのよ。それに貴女もまだ仕事があるでしょ」

 

そう言われ千冬は舌打ちをして去って行った。

去って行った千冬にヘックスは笑みを浮かべながら着ていたダイビングスーツを脱ぎ、鞄から服を取り出し着替え、チェストリグなどを身に付ける。アタッシュケースの様な物を持つ者と、ぶ厚めのアタッシュケースを持つ者達がそれぞれヘックスの前に立つ。

 

「さて、パーティーの時間よ」

 

そう言うと部下達は狂気じみた笑みを浮かべ頷く。

 

 

 

時刻がお昼頃、ネイサンは休憩を貰いココとバルメ、そしてレームと交代してアールとマドカの4人と同じく休憩を貰ってきた鈴とで外で出されている出店巡りをしていた。

 

「ふぅ~、あっちこっち回って疲れちゃった」

 

そう言いながらココは近くにあったベンチへと腰を下ろす。

 

「あれだけ回っていればそりゃあ疲れますよ」

 

ネイサンは苦笑い気味でそう言っていると、突然スマホが震えた。ネイサンはスマホを取り出し画面を見ると、『ブラック』と表示されていた。

ネイサンはまさか。と思いながら電話に出る。

 

「もし『ネイサン、奴らが「死になさい、ネイサン・マクトビア!」』ッ!?」

 

電話に耳を傾けていたネイサンの背後に銃を構えようとした女性が居た。

 

そして銃声が轟いた。

 




次回予告
突然の銃声にパニックになる学園。突然の銃撃の中、ネイサン達は応戦していく。そして相手はISを出してきた為にネイサン達もISを出そうとしたが、思いもしない事が起きた。

次回
戦場となる学園#2


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45話

突然ネイサンの背後の人混みから現れた女性は拳銃をネイサンに向けようとしてきた。ネイサンは咄嗟に空いている左手にシグを拡張領域から出そうとした瞬間、銃声が響いた。

ネイサンを撃とうとした女性は眉間を撃ち抜かれ、そのまま後ろに倒れた。銃を撃ったのは真耶だった。

周りに居たバルメ達は驚きながらも冷静に即座に出せる拳銃を構える。

突然の銃声に生徒達は驚き固まっている中、人混みの中にいた何人かが持っていたアタッシュケースのロックを外す。すると持ち手の部分以外、つまり箱の部分だけ落ちた。箱の中から出てきたのはG36だった。そしてストックを広げコッキングレバーを引き初弾を込める。その突然の複数の落下音に気付いた人達は、音がした方向を見ると銃を持った男や女が居ることに驚き悲鳴を上げた。

 

「きゃぁああーーー!!!?」

 

その叫びを聞いたネイサン達はそちらに目を向けると銃を持った者達が居る事に気付き、すぐさまココを安全な場所に避難させるべく行動した。ネイサン、アール、バルメはココを守れるように銃を持った男達の方に体を立たせ、マドカ達はココを連れ物影へと連れて行く。

男達は銃を撃とうと構えた瞬間、一人が撃たれ倒れた。

突然男が倒れたことに驚いた男達の一人が上を見ると、3階の窓から銃を構えているマオを見つけた。

そして撃ち合いが始まった。

敵がマオに気を取られている間に、ネイサン達はココ達が居る物影へと移動し、装備を取り出し身に付ける。

 

「まったく、いきなりだな!」

 

「愚痴を言っていても仕方がありません。それより…」

 

バルメは目線を真耶へと向ける。

 

「確か、IS学園の教師の」

 

「や、山田真耶です」

 

「どうして銃を持ってるんです?」

 

バルメは真耶が何故銃を持っているのか聞く。

 

「その、「彼女は篠ノ之博士の所で暫くお世話になったらしいみたいなんです。その時に餞別にいただいたらしいです」…です」

 

そう言われバルメはネイサンがそう言うなら本当かと思い、物陰から様子を伺う。すると銃弾が何発か此方に向かって飛んできた。

 

「数はおおよそ6人程。どれもG36でした」

 

「アタッシュケースを改造して、直ぐに作戦に従事できるようにしておいたんでしょう」

 

「それで、迎撃するのか?」

 

マドカはネイサンの説明を聞きながらも、現状どうするのか聞く。

 

「勿論迎撃するよ。折角の楽しみをぶち壊したんだから責任を取ってもらう」

 

ココにそう言われそれぞれ頷き、物陰から出て銃を撃ち始めた。

 

 

マオが居る3階では突然の銃撃戦に騒然となっており次々に避難所へと向かって走って行く。そんな中には銃を持った男達も居りマオに向かって撃とうとしたが、トージョがMASADAで応戦する。

トージョもマオと共に行動しており、下に居るココ達を援護すべく撃っていた。

 

「まったく、学園の警備はザルなのか!」

 

「かなりの人数が侵入しているみたいだ。ココさん達に近付かれない様、撃ちまくるぞ」

 

そう言っていると自分達が居る廊下の奥から銃を持った女達が攻撃してきた。

 

「くたばりなさい!」

 

「お前等男なんてくたばればいいのよ!」

 

そう言いながら銃を撃ってくる女達。周りに気にせず弾をばら撒くため、周囲に居た来客や生徒達は巻き添えを喰らい、悲鳴が上がる。

 

「チッ! マオ、下を頼む。俺は廊下からくる敵をやる」

 

「分かった!」

 

 

 

その頃レーム、ウゴ、ルツ、ワイリーはそれぞれ高台へと向かっていた。

 

「レーム、お嬢達から無線は?」

 

「さっききた。今は3階からマオが援護。下ではネイサンとバルメとアール、それと鈴とマドカ。それとあの山田先生が応戦しているらしい」

 

「山田先生って、ネイサンのクラスの副担任じゃないか。一体何処から武器を?」

 

ワイリーは驚いた表情をレームに向けながら聞く。

 

「なんでも、あの篠ノ之博士から貰ったらしい。しかも相当腕が良いらしい」

 

レームはそう言いながら一旦止まる。

 

「よし、俺達はこっちの高台に向かう。お前等は向こうの高台に向かってくれ」

 

「分かりました」

 

「急ぐぞワイリー!」

 

そう言いルツとワイリーは高台に向かい、レームとウゴももう一か所の高台へと向かった。

 

 

 

ココ達は上からの援護をもらいつつ応戦している中、ネイサンはスマホでブラックと連絡を取っていた事を思い出し通話用のワイヤレスイヤホンを耳に付ける。

 

「もしもし、ブラックのおじさん。用件は?」

 

『そっちは大丈夫か?』

 

「大丈夫じゃないよ、連中周囲にお構いなく銃を撃ちまくってる。それに―――」

 

『女性権利団体もいる。だろ?』

 

ネイサンが言おうとした台詞をブラックは被せる様に言う。

 

「…どれだけ侵入してるかわかる?」

 

『こっちでざっと数えて10人程確認できた。だが恐らくそれ以上居る可能性があるかもしれん』

 

「…カットスロートの連中は?」

 

『そっちは12人程居る』

 

その報告にネイサンは舌打ちをする。

 

(こっちは11人。向こうはその倍かよ)

 

「ネイサン、敵のISが出てきた!」

 

「ッ!? すいませんが、一旦切ります!」

 

鈴からの報告にネイサンは意識を戻し、物陰から覗くと3機のラファールを纏った女権達が居た。

 

「一体何処から盗んできたんだよ!」

 

「大方、展示会とかから盗んだんだろ」

 

「厄介ですね。ネイサン、彼女たちの相手をお願いしても?」

 

バルメにそう言われ、ネイサンは頷き鈴達の方に顔を向ける。

 

「鈴、マドカと一緒に来て下さい。山田先生、すいませんがココさん達をお願いします」

 

「分かった」

 

「さっさと終わらせよう」

 

「任せてください!」

 

3人はISを展開しようとした瞬間

 

「待って下さい、様子がおかしいです」

 

そうバルメが言う。ネイサン達は何だと思いながら見るとISを纏っていたはずの女権達がISを解除していた。だがその様子から彼女たちの意思で解除した様子ではなかった。

 

「な、なんで突然ISが解除されたのよ!」

 

「分からないわよ! 再展開も出来ないし、何でよ!」

 

そう慌てていると、カットスロート達はライフルを女権達に向け引き金を引く。

 

「ちょっ、ちょっと私達は味方かはっ!!?」

 

「な、まさか貴方達最初からこれがっ!?」

 

そう言いながら次々に撃たれていく女権達。

 

「何で連中は女権達を?」

 

鈴はそう呟くと、ココがすぐにその訳を察した。

 

「なるほど、お膳立てか」

 

そう言うとネイサン達は納得した。鈴や真耶はまだ少し理解できていないのか、首を傾げる。

 

「どういう事ですか?」

 

「つまり女権が暴れている、だから掃討した。その過程でお嬢とネイサンが死んだ。そう言う筋書きなんだろうよ」

 

アールはそう説明している中、女権達が全員倒された。

 

「次は俺達か。このままやられるつもりは?」

 

「あるわけないでしょ。この部隊の敵に対する扱いは?」

 

「「「即撃滅」」」

 

「そう言う事。バルメとアールは応戦を。ネイサン達はISで一気に片を付けて」

 

ココの指示にネイサン達は頷き、ネイサン達3人はISを展開しようとした。だが

 

「展開できない?!」

 

「私のも出来ない!」

 

「こっちもだ!」

 

そう言い何度展開しようとしても出来なかった。

 

「……女権の連中がISが強制解除されて、こっちは展開できないとなると何かしらの妨害が働いているのか?」

 

「恐らくそうだと思う。さっきから無線でレーム達を呼んでるんだけど繋がらない」

 

「妨害電波ですかね?」

 

「議論は後にしましょう。今は迫ってくるカットスロートの連中の応対をしましょう」

 

ネイサンはそう言い置いたACRを拾い上げカットスロート達に応戦する。バルメ達もライフルを手に応戦を開始した。




次回予告
ISが展開が出来ない上に、レーム達と連絡が取れなくなったネイサン達。執拗に攻撃を繰り返してくるカットスロート、そしてISに乗った仲間をやったのがココ達だと思い込む増援の女権達。すると突然自分達以外の攻撃がカットスロート達に襲い掛かった。そして最終決戦が行われようとした。
次回
学園決戦 魔女対傭兵


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46話

ISが展開できなくなったネイサン達は、兎に角応戦すべく物陰から撃っていた。

 

「クソッ! さっきから敵の数減ってるのか? 増えてる気がするんだが?」

 

「減っているようですが、どうやらさっきから倒しているのは女権の連中がほとんどですよ。どうやら私達が何かしらの方法でさっきのIS操縦者たちを殺したと思い込まされているようですよ」

 

アールが悪態をつきながら撃っているのを、バルメがマガジン交換をしながら答える。鈴やマドカ、真耶も各々撃ちやすい物陰に移動して攻撃をする。

 

「鈴、左方向!」

 

「了解!」

 

「また来ます! 2時の方向!」

 

互いにカバーを取りながら敵を撃つも、カットスロート達は女権達を煽ってネイサン達に差し向けている為一向にカットスロートを片付けられなかった。

 

「女権が邪魔で片付かないな」

 

ネイサンはマガジンを交換しながら応戦し、女権達を片付けるも肝心のカットスロート達が減らず絶えず攻撃をしてくる。

 

 

 

学園のあちこちで銃撃戦が起きている中、学園長室に居た十蔵は鋭い眼光を外に向けていた。

 

「……私の大切な学園を戦場に変えるとはな。いい度胸だ」

 

そう呟き十蔵は部屋の一つに掛かっている絵画を外すと、電子キーが壁についていた。十蔵はそれに数字を入れると隠された扉が開かれた。十蔵はその中へと入ると、其処にはさまざまな銃火器が置かれており、十蔵はタクティカルベストを着こみマガジンをポーチへと入れ、壁に掛かっているAKM

 

 

【挿絵表示】

 

 

を持ち部屋を出て行った。

 

 

ヘックスはじりじりとココ達を追いつめて後は女権達を片付けるだけ。そう思っていた。

 

(課長は何もわかっていない。ココ・ヘクマティアルはいずれ我が国を脅かす怪物になる。監視だけ? そんな悠長なことしていれば、あっと言う間に我が国は崩れる。なら此処で消し去るのに限るのよ)

 

そう思っていた瞬間、突然無線から声が入った。

 

「ッ!? 何をしているの! 何故ジャマーを『なるほど、彼等が持っていた装置はそう言った物でしたか』誰だ!?」

 

突然部下とは違う男性の声にヘックスは驚き声を荒げる。

 

『私ですか? 元傭兵の学園長ですよ』

 

そう言われ、ヘックスは目つきを鋭くさせる。

 

「なるほど。それで、私の部下を射殺されたわけは?」

 

『決まっている。お前達は此処に争いを持ち込み、何の関係も無い生徒達を巻き込んだ。なら私はお前達を殲滅する』

 

無線越しからでも分かる殺気を込めたヘックスはこれ程の殺気を出す者に会うのは初めてだったが、頭は冷静に動いていた。

 

「そうですか。ですが、貴方の行動は間違ってます。撃つべきはココ・ヘクマティアル達です。彼女達は戦争を延長させ、多くの国民を殺させる兵器を売っている。つまり犯罪者です」

 

『そうですか。ですが、そんなのは今此処では関係ない。何の関係も無い者たちが集まっているところで突如銃撃戦を行った。そして彼等はそれに反抗すべく武器を出し応戦している。そしてお前達は争いを持ち込んだテロリスト集団だ』

 

そう十蔵が言った後無線は切れた。ヘックスは何も知らない爺が。そう思い当初のプランを変更させる。

 

「ジャマー部隊がやられた。プランBに移行。アルファーは女権の援護を止めて狙撃位置に行け。ブラヴォーは女権を片付けつつ奴らを撃て」

 

そう指示を出すと、突如アルファーから無線が入る。

 

『こ、こちらアルファー! 一部学園教師が武器を手に反抗! マルコがやられた! [ジャックダウン!ジャックダウン!] ジャ、ジャックもやられた! 応援を―――』

 

「おい! アルファ―! 報告をしろ!」

 

ヘックスは突然無線が切れた事に奥歯を噛み締める。どいつもこいつも私の邪魔をする。と。

 

 

 

 

女権やカットスロートが混乱しているのはネイサン達でも感じられた。

 

「どうしたんだ? 向こうの統制が乱れだしたぞ」

 

「どうやらアクシデントが起きてるみたいですね」

 

「なら有難いですね。こっちはもう弾が尽きそうだったんで」

 

アールやバルメ、そしてネイサン達は向こうの統制が乱れだしてきた事に好機だと感じ取り、一気に制圧射撃をしていく。

すると遠方から射撃音が響き、2人のカットスロートの頭が撃ち抜かれた。

 

「ッ! レーム達の狙撃!」

 

『待たせて済まねぇな。今から狙撃していくから射線に入るなよ』

 

『同じく位置に着いた。クソッタレの野郎どもをどんどん頭撃ち抜いてやるぜ』

 

「無線が回復してる。ネイサン、ISは?」

 

ココにそう言われネイサンは腕の部分展開をすると、A-10の腕が現れた。

 

「行けます!」

 

「よし。一気に片を付けて」

 

「了解!」

 

ネイサンはA-10を身に纏うと、鈴やマドカ、そして真耶もISを纏う。

 

「一気に片を付ける。射撃用意!」

 

そう言ってネイサンはMK-57を構える。マドカ達もそれぞれ武器を構える。ISが出てきた事に女権達はISを持っている者達は既に死んでいた為、逃げ始めカットスロート達はダメもとに撃ち続けた。

 

「撃てぇー!」

 

ネイサンの掛け声と共に引き金を引き、弾をばら撒く。弾丸は次々に女権やカットスロート達に命中していく。すると屋上にM72 LAWを持った女権達が現れ、撃とうとしたがレーム達の狙撃により撃たれていく。

 

次々に部下やついでに潰す予定だった女権の過激派達が撃たれていく姿にヘックスは苦渋に満ちた顔を浮かべる。そして傍に居た2人の生き残りがヘックスに寄る。

 

「ヘックス! 生き残っているのは我々のみです! 指示を!」

 

そう言われヘックスは手を握りしめる。

 

「撤退する。邪魔する者は何であろうと撃て」

 

「了解…」

 

2人の部下と共にヘックスはその場から逃げ出す。

ヘックス達が逃げ出すのを目撃したアールはすぐさまその後を追った。

 

「逃がすか!」

 

「アール! ネイサン、アールと行って!」

 

ココがそう叫ぶと、ネイサンはアールが走って行く姿を見つけその後を追う。

 

 

ヘックス達は脱出しようと学園と本島を繋ぐ橋の所まで行き、用意されていた車へと乗り込もうとする。

 

「まて、ヘックス!」

 

そう呼ばれヘックスは顔を向けると其処にはMASADAを構えたアールが居り、引き金を引こうとしていた。

ヘックスも同じく銃を構え引き金を引こうとする。

 

「この、裏切り者がぁ!!」

 

そう叫ぶヘックス。2人は同時に引き金を引くと弾丸は互いに放たれた。ヘックスが撃った弾丸はアールのこめかみをかすり、アールの弾丸はヘックスの右目を貫きそのまま倒れた。

ヘックスが撃たれたのを見た2人はヘックスを置き去りに逃げようとしたが、追い付いたネイサンのアヴェンジャーによって蜂の巣にされ絶命した。

 

 

その後女権の生き残りも捕縛、もしくは射殺され戦いは終わった。




次回予告
悲鳴と銃声が木魂していた学園は静かになっていた。
だがその静かになっている中、ネイサンは最後の仕事をすべく動いた。

次回最終回+エピローグ

過去を捨てた傭兵


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47話

思っていた以上にエピローグが長くなりそうだったので、別けました。


悲鳴や銃声で木魂していた学園は今は静まり返っていた。被害は甚大で、学園に来賓していた民間人や学園に通っていた生徒を含め約50人以上の死傷者が出た。

女権達は多くは射殺され、生き残った者は拘束され連行された。カットスロート達は全員射殺されていた。

生徒や一部教師達は突然銃撃戦が起きたことに精神的に参っている者が多く、特に友人や親が目の前で撃たれた生徒は酷くカウンセラーが付いていないといけなかった。

 

生徒達がカウンセリング受けている中、政府から派遣された検視官達が死亡したカットスロートや女権の過激派の検視を行い、死体を運び出していた。

 

「女権以外に武装した死体はアメリカ人などが多いな」

 

「学園の門前で死んでいたのはアメリカ人みたいだったぞ」

 

「国際問題待った無しかもな」

 

検視官達はそう呟きながら死体を見て行き死体を袋に詰めていく。

 

それから深夜1時程にはほぼ終わり、死体を詰めた袋を車へと積み込んだ検視官達は学園を去って行った。

 

シーンと静まり返る学園の中、コツコツと廊下を歩く人物が居た。その者は誰もいない職員室に到着し鍵を開け中へと入る。そして机の一角に置かれているパソコンの元へ行き電源を入れる。そして立ち上がったパソコンの本体にUSBを挿し込む。そしてUSBのファイルを開いた瞬間、ドクロマークが画面いっぱいに現れた。

 

「ッ!?」

 

『ガッハハハハハ! これは偽物だ!』

 

そうパソコンから音声が漏れたと同時に職員室の電気がついた。

 

「アンタが欲していたUSBはもうこっちで回収している。残念だったな、織斑千冬」

 

職員室の扉に居たネイサンはコルトカスタムを構えながら職員室に居た人物、千冬に言う。他の扉にはスコールや真耶、そしてマドカが居た。

 

「…一体何の真似だ?」

 

「織斑千冬、貴女にはテロ幇助の容疑が掛かっている。いえ、ほぼ確定よ」

 

スコールは鋭い視線を千冬に向けながら、そう宣告する。

 

「テロ幇助だと? 一体何のことだ?」

 

「しらを切るつもり? 春野先生が証言したわよ、貴女に突然殴られ気絶させられたって。その後あの事件は起きた。なら貴女しかいないし、証拠映像もあるわよ」

 

そう言いスコールは空間ディスプレイを投影し、千冬に見せる。それは衛星からの映像で春野と千冬が歩いていると、突然千冬が止まる。そして暫くして千冬は春野を殴り倒し何かをしている様子が映り、海に何かを投げた後海から上陸していく者達が映った。

 

「海から出てきたのは恐らく今回のテロリスト達でしょうね。そして貴女は手を差し出すような仕草をしている。貴女はテロリストに何かを引き換えに手助けをした。そしてその引き換える物はこれでしょ?」

 

そう言いスコールはポケットからUSBを出した。

 

「中は見させてもらったわ。どれも貴女の亡き弟さんに関する情報が入っていたわ。そしてネイサン・マクトビア君が織斑一夏だと言う証拠も入っていたわ」

 

そう言うと千冬は若干動揺が走った。

 

「…やはりお前は「けどどれも捏造された物だったわ」な、なに? だったら私にも見せろ」

 

そう言いスコールに詰め寄ろうとしたが、真耶とマドカが銃を突きつけた。

 

「山田先生、誰に銃を突き付けているのか分かっているのか?」

 

「テロリストに手助けした犯罪者に銃を突き付けているんです。何か問題でも?」

 

そう言い真耶は鋭い視線を向けながら銃を突きつける。

 

「さて、織斑千冬。貴女を拘束する。大人しく拘束されるなら手荒い事はしない。けど、反抗するならば容赦はしないわよ」

 

スコールはそう言い手錠を出す。

 

「拘束だと? 私はブリュンヒルデだ。そんなことをすれば日本政府は『あの無能な政府共がお前を救う訳ないじゃん』た、束?」

 

突然スコールのディスプレイから束が現れ、無表情でその訳を答えた。

 

『お前がテロを手助けした事を委員会、特に女尊男卑に染まっていない幹部連中に垂れ込んだのさ。それと国連にはあの事件の真相をぶちまけてやったよ』

 

そう言われ千冬はあの事件とはすぐに察せなかった。

 

「お、おい束。あの事件とは何だ?」

 

『おいおい、お前が引き起こした白騎士事件に決まっているだろう。なぁ、白騎士?』

 

そう言われ真耶は驚いた表情を浮かべ、他は前から知っていた為表情は変わら無かった。

 

「な、何を言っている? あの事件の真相はお前と私がやった。そうだろう?」

 

『はぁ? 何言ってるんだよ。あの事件の真相は全く違うだろうが』

 

そう言い束はある映像を出した。それは束が隠れ家で見ていた映像だった。

 

『これは昔、まだ私がとある場所に作った秘密基地の映像だよ。…日付を見て何か分かるよね?』

 

そう言われそれぞれ日付を見る。

 

「これ、白騎士事件が起きた日ですよね?」

 

真耶がそう言うと、束はコクリと頷く。

 

『そう。そして暫くしてコイツが現れた』

 

そう言われ映像には千冬が現れ、何かをしていた。

 

『こいつは事もあろうに、私が留守にしている間にISを勝手に持ち出した。そしてあの事件を起こした』

 

そう言われ千冬は驚愕に染まった顔を浮かべる。

 

「な、何を言っているんだ束! あれはお前と私とでやった事じゃないか!」

 

『はぁ? お前と私とで? ふざけんなよ、お前。私はISを宇宙で使うために作ったんだ。それを戦争兵器みたいな事を計画するわけないじゃん。それにこんなものも見つけたしね』

 

そう行って束はまた別の空間ディスプレイを出しある文章を見せた。

 

『これは女権幹部の一人に送られたメールだ。これにはお前がこいつらに各国の軍上層部に紛れ込んでいる女権に日本に向けて巡航ミサイルを撃つよう指示し、女性しか使えないISでそれらを撃墜すれば、女性だけの権利を勝ち取れる。って言う内容だった。お前はこれを消去したつもりだったけど、詰めが甘いね。携帯の自動バックアップで携帯会社に残ってたよ』

 

千冬は自分の知らないメールを見せつけられ、直ぐに反論した。

 

「そ、そんなメール、私は知らない! お前が捏造した奴じゃないのか!」

 

『そんな証拠何処にあるのさ? それと、さっきも言ったけど国連にはこのメールや映像はすでに提出済みだから。それと、日本政府の中で特に反女尊男卑の議員にもこれを提出したし。今頃政府の中に居る膿を出してるだろうね』

 

そう言われ千冬は自身の逃げ道を次々と潰す束に恐怖しだした。

 

「お、お前はそうまでして私に罪を擦り付ける気か?」

 

『何言ってるのさ。私の罪? 私は別に人殺しなんてしたことないもん。いや、未遂なら一回あるか』

 

そんな感じに言いながら束は見下すような目線で千冬を見つめる。

 

『兎に角もうお前に逃げ道なんてない。大人しく拘束されれば? それじゃあ束さんは色々準備しないといけないことがあるから』

 

そう言って束は通信を切った。

 

「という事よ。もう貴女には逃げ道は無いわ。大人しく拘束されなさい」

 

そう言いスコールは千冬にゆっくりと近づく。近付いてきたスコールに千冬は捕まるわけにはと逃げ出した。

 

「待ちなさい!」

 

そう叫びスコールは逃がすまいと掴もうとスーツを掴むも、上着を脱ぎそのまま窓に向かって飛び出そうとしたが、ネイサンは冷静にコルトカスタムの引き金を引き千冬の左膝を撃ち抜いた。

 

「がぁ!」

 

撃たれた千冬はそのまま前のめりに倒れた。ネイサンは警戒しつつ近付く。

 

「逃がすかよ」

 

そう言いネイサンは千冬を拘束した。

 

「ありがとうね、マクトビア君」

 

「いえ、後の始末はそちらにお任せしても?」

 

「えぇ、分かったわ」

 

スコールに後の始末を任せ、ネイサンはマドカと一緒に職員室を出て行こうとする。

 

「な、なんで私を撃ったんだ一夏!」

 

千冬は痛みで顔を歪ませながらそう聞く。ネイサンは冷めた視線を千冬に向けながら答えた。

 

「何故? そりゃあ決まっています。依頼を遂行するため、それだけですよ」

 

そう言いネイサンは淡々と言った口調で言い職員室から出て行った。

 




次回エピローグ
旅をする武器商人と仲間達


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エピローグ

―――学園襲撃から多くの季節が過ぎた。その間に起きたことを此処に記す。

 

束は国連、そして女尊男卑に染まっていないIS委員会の幹部に学園襲撃に手を貸した千冬、そして女権達のやり取り。そして白騎士事件の真相を記した資料を提出した結果、千冬にはブリュンヒルデの称号が剥奪され、テロに手を貸した罪人として刑務所への投獄が決まった。勿論女性権利団体の多くも逮捕された。特に多くの女権の人間が逮捕されたのは日本だった。政府の中には女権と繋がっている者が多く居り、襲撃に手を貸したのではと叩かれ、横領やら着服など別の埃がわんさかと出てきてしまい、同じく捕まった。

 

IS学園には教育委員会、IS委員会が査察として入り学園内で揉み消された事案などが見つかり再度調査し厳正な処分を下す事が決まった。

そして日本政府の元に置かれていたIS学園は国連の管理の元に置かれ教師などは厳正な審査で合格した者のみを採用することが決まった。学園長は、学園を守るべく戦った轡木十蔵のまま継続となった。(因みに轡木が元傭兵だという事は伏せられた)

 

そして学園生徒や関係者たちのそれぞれの人生はと言うと……

セシリア・オルコットは何とか学園襲撃時は生き残り、淡々と学園行事をこなしながら借金を返済できるよう手配し、卒業する頃には借金はほぼ返しきれていた。

そして卒業した後両親から受け継いだ企業が傾き出し、立て直すべく率先して現場に立つようになった。結果業績は安定し会社を守れたが、その後も現場に立ちつつ会社の為に働いているそうだ。

 

篠ノ之箒は体の不自由などが有る為、別の学校への転校が決定した。本人はISが有れば大丈夫だと言うも、政府からIS学園に通う為の補助金などは打ち切ると言われ仕方がなく転校した。その後県立の高校に転校しても周りに馴染めず孤立し不登校に。現在は家の手伝いを淡々とこなす日々を過ごしているとか。

 

シャルロット・デュノアは卒業後、PEC社に入社。鬼鉄陽太郎の秘書として頑張っていた。

因みに2度と帰れないと思っていた故郷であるフランスには陽太郎が気を利かして休みの日には帰れるよう手配してくれているとのこと。最近母親の墓の前で片思いの人が出来た。と報告しているらしい。

 

ラウラ・ボーデヴィッヒは学園でカウンセリングを受け2年後にはある程度回復したが、やはりISに乗ることだけは無理だった。結果軍を除隊するも、家族もいない自分に行くところが無いと思っていた所、轡木佳代子が養子としてウチに来ない?と言われラウラは轡木家の養子となった。その後公務員の資格を取るべく勉強。その後無事に合格し、IS学園の用務員となり花壇や草木の手入れを養父の十蔵と共にやっているとか。

 

簪は本音と学園卒業後、束の元に行き宇宙開発の手伝いをしていた。数年後、彼女をリーダーに立ち上げられたプロジェクトチームが宇宙へと飛び立ちコロニー建設が行われた。

 

楯無は日本政府の大規模内部変更に伴って暗部業をたたんだ。その後はロシアの国家代表も辞め自身も束の企業に就職。簪の手伝いをするも簪から「お姉ちゃん、ちょっと邪魔」と言われ暫く寝込んだそうだ。その後企画部のリーダーになり、色んなイベントの計画を任されるようになったとのこと。

 

篠ノ之束は国連に保護された後、国連直属の企業ムーンラビットを設立。クロエやオータム達、更に簪と本音の手を借りてISを宇宙にあげるべく研究を続けているとのこと。最近ネイサンの伝手で知り合ったココの計画に興味を示し、陰ながら手を貸している。

 

スコールはIS学園で学年主任に就き、生徒達に勉学を教えているとのこと。因みに副担任に春野がつき、次期学年主任として育ているらしい。最近の鬱憤はオータムとイチャイチャできていない事らしい。

 

 

そしてネイサン達はと言うと現在砂ばかりの国に居た。4台のトラックに1台のフォルクスワーゲン トゥアレグ。そしてその5台にはM134ミニガンやM2重機関銃を積んだハンヴィー3台が守る様に走っていた。この車両に乗っているPMC達はネイサンの知り合い、『パーフェクト・ディフェンダー・ユニット社』の兵士である。社長とネイサンはネイサンの父ジェイソンの繋がりで知り合い、そして今回ネイサンが社長に依頼、更にHCLI社からも依頼されと言う事で、社内で特に精鋭を選び今回の任務に従事させた。

 

「あぁ~、暑い」

 

トラックの一台に乗っていたマドカは助手席で文句を零しながら警備していた。

 

「へっへへへ。マドカちゃんはこう言う砂漠には慣れていない感じかい?」

 

「あぁ。兄さんに会うまでは比較的温暖な地域でしか戦った事が無いからな」

 

そう言い若干ぬるくなった水を口にする。

 

「それにしても、何で武器商人が学校用の建材やら何やらを運ぶんだか」

 

「まぁ、武器だけを売ると会社の評判は悪くなっちまう。だからイメージアップをするためだとさ」

 

レームは煙草を吸いながらそう言い運転する。

 

その頃ココはルツの運転するトゥアレグの後部座席にいた。隣にはバルメが座っており前の助手席には真耶が居た。

何故真耶がココ達の分隊に居るのかと言うと、束がその腕を売り込んできたのだ。

 

『この子、ウチで育てた傭兵なんだけど中々実力があるんだよ! あの事件の時に見たと思うけどどうよ?』と。

 

レームもその腕を見たが、良い腕だと褒め入隊をココに推薦した。結果ココはムッとした表情を浮かべながらも真耶を雇ったのだ。

 

「へぇ~、それじゃあルツさんの狙撃術はその対テロ部隊時代から培ってきたんですかぁ」

 

「おう。でも、マヤの方がすげぇと思うぜ。夏休みっていやぁ2ヵ月ちょっとしかないのに、その短期間でレームに納得されるだけの実力を付けられるなんてすげぇぞ」

 

ルツにそう言われ真耶はいやぁ。と照れた表情を浮かべる。

 

「マヤ、余りルツを褒めたりしない方が良いですよ。調子に乗ってまたケツを撃たれるかもしれませんし」

 

「姉御! なんで俺が調子に乗ったらケツを撃たれるんだよ!」

 

バルメの発言にルツは声をあげながら訂正をぉ!と言っていると、ココの無線機にPDU社の護衛隊の隊長から無線が入った。

 

『此方ガーディアン1から、Ms.ヘクマティアルへ。現在目的地の半分まで到着しました』

 

「あ、わざわざ報告して下さってありがとうございます」

 

『いえいえ、それが仕事ですから。それと先ほど遭遇したPMCですが、本部に確認したところやはり屑の集まりで構成されたPMCだったようです』

 

「あ、やっぱりそうでしたか」

 

PDUの隊長からきた報告にココはやっぱりかと納得した表情で返した。ココ達がPDU社の護衛と共に港を出て、数時間後道を塞ぐようPMC『エクスカリバー』が居たのだ。向こうは格安で護衛してやると言ってくるが追い返していたのだ。

 

「皆ぁ、さっきのPMCはどうやら屑な集まりで出来たPMCみたいだからもし襲ってきたら撃滅して良いからねぇ」

 

ココは無線機で全員に送ると

 

「「「「「うぃ~~~~す」」」」」

 

と気の抜けた様な返事を返す。PDU社は一瞬気が抜けるも、多くの戦場を渡り歩いてきたから出来る上に互いに信頼し合っているからこそ余裕が出来ているんだろうと思った。

 

ココからの無線を聞いた鈴は運転席に居たトージョにある事を聞いた。

 

「あのトージョさん。一つ聞いてもいいですか?」

 

「ん? なんだ?」

 

「どうしてワイリさんが一番前で運転しているんですか? 護衛の車両を先に行かせた方が良いのに」

 

そう言いうとトージョは、あぁそれか。と笑みを浮かべながらその訳を話し始めた。

 

「鈴はまだこの隊に入って日が浅いけど、ワイリが元アメリカ軍の工兵だと言うのは聞いてるよな?」

 

「はい。以前ワイリさんの軍人時代のお話を聞かせてもらった時に」

 

「俺もレームから聞かされた話で詳しくは知らないが、ワイリの家は実は建築家だったんだ。で、どう言う訳か建物を潰す軍人になったんだ。で、レームとその仲間達と共にある工場を潰しに向かったらしい」

 

「その話は聞いてます。確か爆薬が足りず、現場にあった爆弾を使って潰したと…」

 

「そっ。で、それから暫くしてココさんの護衛についていたレームのおっさんの元にワイリもやって来て護衛に就いたらしいんだ」

 

そう言いトージョは可笑しそうな笑みを浮かべながらある事を聞く。

 

「そう言えば、鈴は俺らの中でFBIにマークされている奴って知ってるか?」

 

「FBIにですか? ん~、ココさんは明らかだとして…、誰なんですか?」

 

「ワイリだよ」

 

トージョの口からワイリの名前が出たことに鈴は驚いた表情を浮かべる。あの温厚そうな方がそんなFBIにマークされるような人物に見えなかったからだ。

 

「ど、どうしてワイリさんがマークされるんですか?」

 

「ワイリって実は爆弾に関してはエキスパートなんだ。レームのおっさんから聞いた話なんだが、その昔俺や姉御達がまだココさんの部隊に入隊する前、とあるホテルに泊まることになったらしいんだ。だが運悪く其処に爆弾を仕掛けた奴がいたらしいんだ。けど、ワイリがすぐに見つけて細工を施したらしい」

 

「細工? どういった細工何ですか?」

 

鈴がそう聞くとトージョは若干引きつった笑みを浮かべながら口を開く。

 

「爆弾を仕掛けた奴が、起爆しない爆弾を見に行ったのを遠くで確認して6階建てホテルを5階建てに変貌させた」

 

そう言われ鈴は顎ががくんと開き唖然となった。あの優しくて本で蓄えた知識豊富のワイリにそんな技術があるなんて。と。

 

 

別のトラックの助手席にいたネイサンは外から見える砂漠に若干うんざりと言った表情を浮かべていた。

 

「流石に見渡す限りの砂には飽きますね」

 

「だな。もう少し代わり映えのあるものが有ったらいいんだが」

 

運転席にいたアールはそう言いながら片手でミネラルウォーターの蓋を開け口にする。すると無線機からワイリの声が流れる。

 

『1号車からココさん、全車へ。60秒後減速停車しても?』

 

『了解ワイリ。トラップの気配?』

 

『えぇ。この先のカーブ、アンブッシュ臭いですね。私がもし仕掛けるなら――』

 

『ふふ~ん、ワイリがそう言うなら当たってるかもしれないよ。恐らくさっきのエクスカリバーだろね。先制攻撃なんてさせん! ぜんた~い、止まれ!』

 

その指示が飛ぶと、全車ブレーキを掛けた。

 

『PDUの皆さん、すいませんが今から襲ってくるかもしれない連中の撃退に当たります。ご協力をお願いします』

 

『喜んでお手伝いしましょう』

 

『ほら、皆! 降りて迎撃準備!』

 

そう無線が飛び全員トラックから降りる。

 

その頃カーブ近くにあった岩場ではエクスカリバーの待ち伏せ班がイラついた表情を浮かべていた。

 

「クソッタレ。なんであんなところでトラックが止まったんだよ」

 

「分かりません社長。ん? あいつ何してるんだ?」

 

エクスカリバーの社長の横に居た兵士はそう呟くと、社長は双眼鏡を覗く。その先にはワイリが何かをしている様子だった。

 

「なんだ? IEDをいじってるのか?」

 

そんな様子を見ている間にもコンボイ群の後ろからテクニカルが3台やって来た。乗っていたのはエクスカリバー達でそれぞれAK-47を持っており、テクニカルの荷台にはM2重機関銃などが装備されていた。

 

「社長から連絡が来た。トラックが変な所で止まったってよ」

 

「変なとこだぁ? 構う事はねぇ、皆殺しに」バシュッ

 

助手席の男は突然窓ガラスに穴が開くと同時に運転していた男が撃ち殺された事に驚き慌ててハンドルを取る。

 

「撃ってきた! 撃ってきた!」

 

荷台に居た男はそう叫びながら反撃する。

 

『M2機関銃に警戒! 撃たせるな!』

 

「あいよ」

 

レームは道に寝そべりながら愛用のレミントンM700で狙撃していく。バルメもM249で制圧射撃を行う。

 

岩場に居たエクスカリバーの社長達も始まったことに焦り出す。

 

「クソッ! 始まっちまった」

 

そう言っている横で、兵士の一人がIEDをいじっていたワイリが居ない事に気付く。

 

「おい、あの男どこ行った!?」

 

「援護射撃! 奴も見つけたら撃ち殺せ!」

 

そう声が響き、兵士の一人は援護射撃をすべくバレットM82を構えるもスコープ越しに頭を撃ち抜かれた。撃ったのはLRS2を構えたルツだった。次々に撃ち殺されていくエクスカリバーの兵士達。すると見失っていたワイリを見つけた兵士が社長に報告する。

 

「IEDで吹き飛ばしてやれ!」

 

「野郎ぉ」

 

そう言い兵士は携帯でIEDを起爆しようとしたが、

 

「はっはっはは」ピピピピッ、カチッ

 

電話がなるのを確認したワイリは笑いながら無線機のスイッチを押す。押した瞬間岩場の一部が吹き飛ぶほどの爆発が起きた。それを見た追手側の兵士達は驚愕の表情を浮かべる。

 

「ま、待ち伏せ班との通信途絶…」

 

「ザッケンなよ!」

 

「おい、あれを出せ! 生きてるか?」

 

そう言い車両からある物を引きずり出した。それを見たココは慌ててインカムで指示を出す。

 

「全員、射撃中止! ワイリ、人間爆弾だ」

 

『分かりました、今行きます。全く絵に描いた様な下種な連中ですな』

 

ココも全くだなと心の中で同意していると、ワイリが続けて無線を入れてくる。

 

『道のトラック側は占拠できてますか?』

 

「出来てる。それにしても危うく撃つところだったよ。見た感じ現地人ぽいね」

 

『了解』

 

そして無線は切れた。

 

 

ワイリはトラックの傍まで戻ると近くに居たPDU社のオペレーター達に目を向ける。

 

「済まないが、あっちの丘から虫の息の奴を一人連れて来てくれないか?」

 

「ん? 別に構わないが、何に使うんだ?」

 

「なに、ちょっとした仕返しだ」

 

そう言われPDUのオペレーター達は首を傾げながらも丘へと向かった。

 

 

 

「神よ…何故私はこのような目に…」

 

爆弾を付けられた男はそう言いながら歩いて行くと

 

「おい、おじさん」

 

「え?」

 

道路端に匍匐したココとワイリが居た。

 

「こっちにこけろ、おじさん」

 

「だ、だれ!? でも爆発する…」

 

「大丈夫だから、さっさとこっちにこけろ」

 

そう言われ男はバレない様に自然に見える様にココ達の方へとこけた。

 

その様子を見たエクスカリバーの兵士達は驚く。

 

「なっ!? 野郎こけやがった!」

 

「クソッ! クソォ!! 何てざまなんだよ!」

 

「クソォ! 鴨狩が逆に俺達が滅ぼされかけてるじゃねぇか! 何にもない砂漠のど真ん中で退路まで断たれてよぉ!」

 

「俺に怒鳴んじゃねぇよ!」

 

「もういい! 起爆だ。起爆しろ!」

 

そう叫び、生き残ったエクスカリバーの兵士は起爆用の電話を掛ける。だが

 

ピピピピッ!

 

「はっはっははは。はい、もしもし」

 

とワイリは早々に解除をしていた。

起爆用の電話をコールするも、爆発は起きず男達は茫然となった。

 

「……起爆しない?」

 

「ファーーーック!!」

 

と空に向かって大声で叫ぶエクスカリバーの兵士。

 

 

その頃ココ達の元には、PDUのオペレーター達が生き残った者を引き摺りながら連れて来られていた。

 

「すいません、彼に生き残りを連れてくるよう頼まれたんだが…」

 

そう言いまだ息のあった赤いシャツを着た男を地面に転ばせた。するとネイサンはもう一人連れて来ていた事に気付く。

 

「そいつは?」

 

「まだ息のあった奴なんだが、一人で十分と言われたんだがどうする?」

 

そう聞かれネイサンはどうしようと思いながら男が付けていたバラクラバを外す。

 

「誰だコイツ?」

 

「さぁ? まぁ取り合えず放置しておいても『ピピピピッ』ん、誰だろう?」

 

そう言いネイサンはイリジウム電話を取り出し出る。

 

「もしもし。あぁ、お久しぶりです。何か用ですか?……え? はぁ、まぁいいですが……。ちょっと待って下さい、今から顔写真を送るんで確認してくれませんか?」

 

そう言いネイサンはスマホを取り出し写真を撮り、何処かに送る。

 

「今送りましたが、こいつですか?…あぁこいつでしたか。それじゃあ迎えの車両今からこっちに送ってくれませんか? えぇ、お願いします。では、また」

 

そう言い電話を切るネイサン。

アールは若干嬉しそうな顔を浮かべるネイサンにその訳を聞いた。

 

「こいつの身元が判明したのか?」

 

「えぇ。どうやらコイツ、英国内務省の高官の息子みたいです。で、こいつの身柄が欲しいと言う人から依頼が来たんで拘束しておきます」

 

ネイサンはそう言いながら男の腕を拘束バンドで拘束し、その辺に転がす。

 

「それで、もう1人の男は…あっ」

 

ネイサンはある光景を見つけ、アールやPDUのオペレーター達はその方向を見ると全員時が止まったような感覚に陥った。

 

 

 

その頃エクスカリバーの生き残った兵士達はどれ程経ったのか分からず照りつく太陽の下で動けずにいた。すると誰かが自分達の元へ歩んできたのが、見えてきた。

 

「おい、あれって社長じゃねぇか?」

 

「た、確かに社長だよな?」

 

そう言い合っている間にも社長は彼らの元へやって来た。

 

「な、なぁお前等…」

 

そう言いながら社長は腹の部分を見せると、其処には自分達が現地人に取り付けた爆弾が付いていた。

 

「これ、外せるか?」

 

そう聞くと同時に、トラックに居たワイリは起爆スイッチを押した。結果は言わずもがな、爆弾は爆発して今まで生き残っていたエクスカリバー達は全員死亡した。

 

全員片付いたと一息を付いていると、何処からともなくMi-24ハインドが飛んできた。そして近くに着陸し一人の男性がアタッシュケースを片手に降りてきた。ネイサンはその男性の元に行き握手を交わす。

 

「お久しぶりですね、ナザル中尉」

 

「えぇ、お久しぶりですMr.マクトビア。それで例の者は?」

 

「あそこです」

 

そう言いネイサンは顔を向けると地面に転がされている高官の息子が居た。

 

「確かに。الحصول على طائرة هليكوبتر!(ヘリに乗せろ!)

 

そう言うと、ヘリに乗っていた兵士達は息子に麻袋を被せ、ヘリに積み込んだ。そして人間爆弾にされていた現地人も兵士がヘリへと乗せる。

 

「さて、これが約束の報酬です」

 

そう言いナザルはアタッシュケースを開けると、其処にはドル札が詰め込まれていた。

 

「確かに。それより一つ聞いても?」

 

「なんです?」

 

「僕がイラクに来たのは何時お気付きに?」

 

「ふっふふふ。内緒です」

 

そう言いナザルはヘリに乗り込み去って行った。ココはネイサンの傍へと行く。

 

「彼は誰なの?」

 

「彼はイラクの軍事保安局の方です。昔仕事で一時期お世話になって、それから色々な情報を交換し合ったりするんです」

 

そう言われココはふぅ~~ん。と呟く。

 

「それで、そのお金はどうするの?」

 

「これですか? 特別報酬としてPDUの方にいくらかお支払いして、残りは街で豪勢なお食事の代金にでもしましょう」

 

そう言うとルツやトージョ達はやったぜ!と声を揃えあげた。PDUのオペレーター達も特別報酬と言う事で喜びを見せていた。そしてココ達はトラックへと乗り込み目的地へと向け再出発をした。

 

※ネイサン・マクトビア

学園卒業後もココ達と共に旅を続けている。着実に名が知れ渡り始め、ジェイソン・マクトビアの息子として見られるのではなく、ジェイソン・マクトビアの再来として語られている。最近鈴、真耶、ココから同時にアプローチを掛けられるようになり、絶対その手には『ゼク○ィ』が握られていた。それから数年後、ドイツのウッドハウスには3人の綺麗な女性と一人の男性、そして色々な髪色をした子供達が遊んでいる姿が目撃されたとか、してないとか。

 

※ココ・ヘクマティアル

ネイサンが部隊に戻って来てアプローチを再開。そして鈴や真耶と『ネイサン、嫁の座決定戦』みたいなのが密かに開かれた。が、結局決着がつかず、3人同時にアタックをしようと決まりネイサンにアタックし続けているとのこと。

友人と開発している物は開発を続けているものの、起動はもう少しこの世界の様子を見てからと呟いたそうだ。

 

※山田真耶

ネイサンが学園卒業と同時に学園を辞め、ネイサン達の元に行く。束と、真耶の腕を見たレームの推薦により入隊。相変わらずドジっ子の様な雰囲気を出すも、戦闘になれば真剣そのものになった。ココや鈴と共に共同戦線をしき、ネイサン攻略の為奮闘する。

 

※凰・鈴音

学園卒業後はネイサン達とともに世界中を飛び回る。バルメの様にナイフの扱いに慣れ始めるも、バルメに指導してもらっている。鈴も真耶達同様共同戦線をしきネイサン攻略の為、あの手この手を使って堕としにかかった。

 

※マドカ・マクトビア

卒業後もネイサンと共に部隊の元に戻りネイサンの傍に居た。部隊の皆からは妹の様な扱いを受けており、試しにウゴを「お兄ちゃん」と呼んだ瞬間、ウゴは良い笑顔でGJしながら気絶したとか。ココにルツ達にもやってみたらと言われたが「やっても良いがアイツらのケツに鉛の弾とナイフが刺さるが、いいか?」と聞かれ、ルツ達は全力で首を横に振ったそうだ。

 

※レーム達

変わらずココの護衛をしつつ、色々アプローチをする鈴や真耶、そしてココの姿を見て楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を衛星で見ていた人物がいた。

 

「ほぉ~、良かった、良かった。もし無理そうならゴー君を送ろうかと思ったけど、そんな心配しなくてよかったやぁ、ネイ君の仲間は相当強いみたいだし」

 

空間ディスプレイで見ていた束であった。そしてディスプレイに向けた目線を次に向けたのは、目の前の強化ガラスの向こうに居る人物。

 

「で、どうなのさ、刑務所の飯は? 織斑千冬」

 

そう言い束は冷淡な笑みを浮かべる。千冬は全身を強化拘束着を着せられていた。その顔はやせ細っており、目にも光が無かった。

千冬が投獄されているのは国連が束と共に計画、建設したISを使って重犯罪を行った者を投獄する刑務所である。勿論犯罪を行ったIS委員会の幹部や女性権利団体の過激派もこの刑務所に投獄されている。

 

「返事も出来ない程か。まぁ、体はやせ細るけど、死にはしない。お前の中にあるナノマシンが絶えず生命活動を行う。自殺しようとしても即座に感じ取ってお前を生かそうとする。死んで楽になろうなんざさせねぇからな」

 

そう言い束は座っていた椅子から立ち上がる。

 

「それじゃあ、生き地獄を味わいな。元ブリュンヒルデ様」

 

そう言い束は出て行った。残された千冬は返事もなく、ただ浅い呼吸を続けながら虚空を見つめていた。




これにて「世界を忌み嫌う武器商人と過去を捨てた兵士」を終えます。


グダグダなうえに誤字脱字、ガバガバすぎる設定で書き始めた小説でしたが、最後まで読んでいただきありがとうございます。


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