支配少女の日常は色彩に充ちる (八又ノ大蛇)
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プロローグ

 

 暖かい、楽しい、嬉しい。三拍子揃ったら幸福。

 冷たい、痛い、苦しい。三拍子揃ったら牢獄。

 

 なら、無い、無い、無いが揃ったら何になる?

 

 広く何も無い部屋にポンッと一人佇むは私。そんな部屋に取って付けたような一つの窓。私は足を進め窓に近づく。

 

 そこに映し出される風景は、様々な青一色。

 清んだ青、揺らめく青、煌めく青、濃く深い青。

 

 綺麗だ。この色の無い部屋からは到底見ることも考えることも出来ない美しい青。それがこの窓の外には広がっている。もっと、間近で見たい。あそこに、立ってみたい。私は足をかけ、窓を乗り越える。

 

 そして私は目を見開く。

 

 赤、朱、緋、赭、紅ーー……

 

 何故?私の"青"は何処に消えた。

 ぬるっと足に絡み付く、むせ反るような血生臭さ。足から崩れ落ち私は"赤"に引きずり込まれる。

 

 あぁ……そうだ。私は確かに青に憧れ焦がれた。だが望みはしなかった。妬み嫉妬をするが、けれどアレは私の手に入るものではないんだ。

 綺麗だ、美しい、愛らしい。

 醜くて、汚いくて、浅ましい、私には見ることしか出来ないだ。

 

 きらびやかな舞台上には立てない、舞台裏が望ましいのだろ。それでも舞台上に立ちたいのであれば、それは染まるしかない。裏から這い出て、黒と赤を身に纏い劇場を壊すのさ。お邪魔虫に。

 

 

 だから、私は黒と赤にどうしようもなく安堵するのだ。

 

 

 「さぁ!私に青を見せてくれ!」

 

 青は届かないからこそ美しいのだ。狭い窓から見えるからこそ際立つのだ。有り余った青など私は妬まない。切り刻み、抉り出し、潰し、私は青を見る。

 

 無色のキャンパスに落とす色か。様々な色があるだろ。けど、私のキャンパスはもう一色で塗り潰され、描き込めないだ妬むよ。私は妬みカラフルなキャンパスを染め上げてやるんだ。

 

 

「けど……やっぱり美しい……」

 

 

 ズルいよね。そんなに色があるなら私にも一色ぐらいくれてもいいのに。意味がないかも知れないけどそれでもやっぱり望んじゃうんだ。

 幸せかい?幸福かい?楽しいかい?暖かいかい?

 

 羨ましいなぁ……、だから私は今日も殺す。

 

 

 正義感に溢れる人を。

 

 誰にでも優しい人を。

 

 芯の通った強い人を。

 

 安心できる笑顔の人を。

 

 ヒーローだろうと一般人だろうと誰もかれも私からすると妬みの対象だよ。だって幸せなんだろ?だったら分けてくれよ。信念なんてっカッコイイものは無いけど憧れる。いつか私にもそれが持てるようになるかな?

 だから探そう。探しているんだ。けれど見つからないんだ。

 

 誰か私にそれを示してくれ。

 

 




 書きたいことが上手いこと纏まらない。主人公は性格と価値観がひねくれています。それでもよければ読んでくださると嬉しいです。


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第一章 雄英高校入学
一空~暗闇に映えるは牡丹~


 ヴィラン連合が好きです。


 

 春の訪れを感じるようになる季節。

 しかし夜はまだ空が高く冷たい外気に厚着を着る人々が行き交う。街の賑わう喧騒、離れないように手を繋ぐ家族や恋人達。

 それらとは逆に路地裏は静寂に包まれ、まばらに歩く人々は皆顔を見られることを恐れているように伏せている。そこには活気の文字はなく錆び付いた通りだ。

 

 そこに人陰が佇んでいた。

 

「あぁ~……今日も空が澄んでいる」

 

 見上げれば空一面を覆い隠す曇り空は今にも雨が降りだしそうだ。だが少女は「綺麗だ、美しい」と嬉しそう頬に弧を描き、軽快な足取りでステップを3つ踏み屋根の上に飛び上がる。

 両手を空に掲げ愉快そうにクルクルと回る。すると青みを帯びた長い月白色の髪が風に流れる。

 

「こんな素晴らしい夜には……」

 

 少女はピッタと止まり、後ろを振り向く。藍色の瞳に写るは五人のヒーロー達。個性を発動させいつでも攻撃可能な体勢である。

 だが、少女は顔に張り付けた笑顔そのままに目を細めヒーロー達に話しかける。

 

「《赤が映える》。君達もそう、思うだろ?」

 

 まるで明日の天気を聞くように気軽に笑いかける少女にヒーロー達の警戒心はピークに達する。

 

「お前が……【チラバラシ】なのか!?」

「ハッハハ……なんだいそれ?何とも適当なネーミングだね。もっと良いのは無かったのかい?」

 

 【チラバラシ】発見された遺体全てが四脚がもげ、肉片が飛び散っていることから付けられた名前だ。暗い路地裏や人通りの少ない場所や時間に犯行に及ぶ殺人犯として新聞乗っている。だが目立った目撃情報も特徴は無く。

 【ヒーロー殺し】と呼ばれる者とは違い、ヴィランだろうがヒーローだろうが一般人だろうが関係なく殺す愉快犯としてヒーロー達が血眼になって探している。

 

 捕獲が望ましいが、殺害も視野に入れるべきではないかとの意見も出ている。

 

「貴女は何でこんな酷い事をしたの!罪の全くない一般人まで殺すなんって!」

「……何でねぇ~。……そうだなぁ~……君はさぁ、手を繋いでラブラブ発情カップルを見て何を思う?」

「はぁ!?なにを言っているの!?」

「まぁまぁ、怒らずに。答えてよ」

「……微笑ましいじゃないの……」

「……フッフフ……。流石ヒーロー様だ」

 

 女性ヒーローは怪訝そうに眉をしかめ、チラバラシと思わしき少女を睨む。しかし少女はニヤニヤと笑い、女性ヒーローに向け大袈裟いに拍手をする。

 だが「私は……ね」と電源が切れたようにフッと顔から表情が抜け落ち。能面のような感情の読み取れない無表情になり、舞台役者さながら両手を広げこう宣言する。

 

「生憎とそうは思えないのだよ!苛ついてムカついて仕方ない!カップルだろうが関係なく幸せそうなヤツら全てが憎くて憎くて堪らないのだよ!」

 

 単純であり、子供じみた発言にヒーロー達は暫し惚ける。そしてジワジワと怒りの感情が染み出てくる。理不尽極まりない理由にならない理由で殺されたもの達がいることに抑えきれない感情がヒーロー達を支配しする。

 

「貴女だけは許さないわ!」

「ここで捕まえて牢獄送りにしてやる!」

「お前ほど酷いヤツを俺は見たことがない!」

「子供だろうがこれだけのことをしたんだ痛い目をみてもらうぞ!」

「覚悟しなさい!」

 

 ヒーロー達がいっせいに飛びかかり少女を捕まえようとする。その事に少女は再び先程の何倍も深く黒い笑顔を作り手を横に振る。

 

 このときヒーロー達は目の前の悪に対し感情を熱し過ぎた。理性で判断出来れば応援を呼びにいくべであったのだ。少女は一般人はともかく、ベテランのヒーローや凶悪なヴィランを手にかけているのだから。それは一人の時もあれば五人六人と複数の時もある。

 一対多数の戦闘になろうがそれは勝利を納めてきたということに他ならない。

 

 だからこそ、彼ら彼女らヒーロー達の運命は決まった。

 

「妬みだよ、妬ましいよ。本当に羨ましいよ。私からすると君達も妬みの対象だ。だから……」

 

 少女は花が咲いたような笑顔でヒーロー達にこう言う。

 

「私の為に死んでくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『またもや【チラバラシ】か!?ヒーロー五人が死亡!!』

 

 新聞、ネットニュースの見出しはこれだ。凄惨な死体で発見されたヒーロー達の身元探しは困難を極めた。なぜなら遺体は人かどうかも分からないほどにグチャグチャに切り刻まれまるでミンチになっていたのだから。捜索する方も気が滅入る状態であった。

 

「ハッハハ…………爽快なヤツらだったなぁ~」

 

 コーヒーが入ったコップを片手に新聞をバシバシ叩き、笑う少女。場所は廃墟と化した建物の屋上。

 

「ねぇ、【ステイン】さん?」

「……煩い【機奇】」

 

 顔の半分を覆うマスクをした黒髪の男。世間一般ではヒーロー殺し呼ばれるその人だ。彼は武器の手入れをしながら機械チックな椅子に腰掛ける少女を【機奇】と呼び鬱陶しいそうに「話しかけるな」と言う。

 だが、少女はお構いなしにコーヒーを啜りながら独り言のようにけれど問いかけるように話す。

 

「一番最初に私に攻撃してきた女性ヒーローはね、まずその長い髪をチョキンと散髪して。次に捕らえた仲間の前で服を剥いで指、手、腕、足、と順々に潰してあげたんだぁ~。それはそれは、甲高い悲鳴を上げてくれてたいへん可愛らしかったよ」

 

 次に男のと、殺害したヒーロー達の殺し方を淡々と笑いながら話す少女にステインはため息を吐きたい気分だった。場所を替えども何故か当然のように場所を突き止め挨拶程々に昨日は誰を殺しただのを言ってくるのだ。

 それはステインが相槌を打とうが打つまいが関係なくたらたらと話すのだ。いったいどうして欲しいのか全く検討がつかない。電柱にでも壁にでも話してろと思う。

 

「そうだ、はい」

「あぁ?何だこれは……」

「何って、クッキーだけど?高級だし味は保証するよ」

「そうではなく、何故俺に渡す」

「一人で食べてもつまらないじゃないか」

「…………要らない」

 

 どこから取り出したのか、出された高級そうな器に入ったクッキーにステインは目を武器に戻す。だが機奇は器を持ったままコップを地面に置き、椅子から降りステインの隣の地面に座る。

 

「まぁ、そう言わずにさ。一人で食べる食事は味気ないものなのだよ」

「…………クッキーはご飯とは言わないだろ」

「それはそれ、一緒に食べてくれたらここを立ち去るからさ」

「…………」

「ここに~、この街のヒーロー達の個性が書かれた紙があります~」

「……一つだ」

「うん、ありがとう。一つと言わずにたくさん食べてよ」

 

 機奇は先程の笑顔とは質の違う、その年の少女がするような純粋な笑みでステインに笑いかける。その笑顔から目を離すようにクッキーを一つ口に放り込む。

 甘さ控えでしっとりとしたクッキーだ。機奇の差し出したコップを受けとり、それを流し込むように飲む。そして自然と口からため息が溢れる。

 

「……はぁ……」

「おや、お疲れかい?」

 

 再び溢れそうなるため息を飲み込み、早く去れと思うステインであった。

 




 不定期更新です。【四罪忌・機奇】(しざき・きき)と読みます。
 あと全く関係ないですが、この小説「支配少女の日常は色彩に充ちる」の元のタイトルは「灰色の空の下に枯れ花」でした。結構気に入っていたのでしたが弟に意味不明と言われ変えました。
 どうです!分かりやすくなったでしょう!

弟「あんまり変わってない」


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ニ空~睡魔後に時計は大破する~

 
 書きながらムズいなぁと思います。
 


 

ーー空は青くて綺麗だねーー

 

 ボヤける視界に荒れる呼吸音。体の節々が悲鳴を上げ、頭に何度も何度も激痛が走る。

 

ーー僕は大きくなったらーーーーになりたいんだーー

 

 ごめんなさい、ごめんなさい。許してください。未だに動く口で紡ぐ言葉は謝罪。

 

ーー私とーー時は全力でお願いーー

 

 感覚のない足に力を込めてもガタガタと震えるばかりで目の前の光景を見ることしか出来ない。

 

ーー笑ってよーー私達は貴女のことがーー

 

 腕が鉛のように重い。手に持つ刃物が生暖かく今すぐ捨ててしまいたい。あぁ、嫌だ。これはとてつもなく嫌だ。

 

 思考が曖昧になり霧がかかり霞がかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【四罪忌・機奇】彼女には家族と呼ぶべき対人関係がなく、親戚もおらず血の繋がりがあるものが誰もいない。普通なら孤児院に入ればいいと思うだろうし、大人の助けなしに子供が生きれる訳がない。

 しかし彼女は孤児院に入ることを嫌い独立している。故に彼女の生活費は全て自分で稼がなければならない。家賃、水道費、食費、学費等など言えば切りのないぐらい人が一人、ある一定の基準に生活するには何かとお金がかかる。

 

 成人した大人でも難しいことを齢十三歳の子供がするのは到底不可能だろう。だがその理屈を押し曲げ彼女はそれをやってのけ今年十六歳になる。彼女それやってのける才能があった。

 

 ただそれだけ、だがあまりにも無茶であり秀才、天才と呼ぶにはまだ生ぬるい、そう鬼才だ。無論それまでに裏の仕事に手を出していないかと言えば否定の意だろう。

 しかし、そうしなければ生きれないのであれば、誰が彼女を咎める事が出来ようか。

 

 

 それ故に彼女が、鳴り響く目覚ましを掴み壁に投げつけることもまた仕方なのないことだろう。

 

 目覚まし時計はガンッと音をたて乱雑物が転がる床に落ち音を止める。

 

「んっ…………眠っ……」

 

 機奇は目を擦りながらベットから這いで、比較的ましなクローゼット地帯に足を向ける。二日前に殺したヒーローのことをにステインに語るのに夢中になりつい遅くなってしまった。

 首を擦りながら服を着替え、出かける準備をする。今日は雄英高校の模試を受ける日だ。

 

「……面白いといいのだが」

 

 冷蔵庫に入っている紙パックのジュースにストローを通し、鞄を肩にかけ扉をでる。機奇が外に出れば自動的に個性により扉のロックがかかる。

 

 個性、今や人口の八割が個性をもつ超人社会だ。そのなか彼女また個性を持つ。

 

 機奇の個性それは【支配】だ。

 ありとあらゆるモノを支配することが出来る。支配したものは支配下となり自身の意思により操ることが可能になる。その支配対象は彼女の想像力によるところが大きく支配するイメージが大事になる。

 

 

 端から見ればプロヒーローでも十分に通用する強力な個性だ。だが力が適していたとしても意思までもが相応しいとはならない。

 

「可愛い子がいるといいなぁ~」

 

 彼女の思考はヒーローのそれとは真逆に位置する。ヴィランも真っ青になるほどに残虐なのだ。人を殺そうとも何とも思わないどころかその行為を楽しんでいる。その性格は彼女の過去に関することが大きい。

 そんな機奇がヒーローを目指す若者が集まる雄英高校の受験を受けに行くのはただの暇つぶしに他ならない。

 

 好みの子がいれば、仲良くなっていたぶって殺したいと考えている。中学の時はあまり好みの子が学校にいなかったから適当にムカついたヤツを吊し上げをしていた。

 

 生徒なら悪さをしたところを写真に納めネットに晒し、教師なら結婚しているなら誤解を受けるような写真を捏造しばら蒔いた。

 そう言った悪いところがなく友達とも関係も良好な子は個人情報をヤバそうなサイトに載せる。これだけで拐われ監禁や身代金を要求される事態になる。

 

 彼女はどうしようもなく歪んでいた。人の幸せが妬ましくて羨ましくて憎らしくて仕方無いのだ。一種の病気と言っても良いだろう。なのだが、彼女が疑われるとこと苛められることは無かった。

 腐った部分を一切表に出さず、いつもニコニコと人の良さそうな笑顔を絶さず完璧に演じていた。寧ろ嫌われるどころか成績優秀、文武両道で先生からの覚えもいい真面目な生徒。委員長を毎回指名されるほど人付き合いも優れた人物だ。

 

 故に誰も彼女が昨日同級生を殺した人物だとは想像しない。友達が突然死んで悲しく落ち込んでいる生徒の肩を叩き励ます慈愛に満ちた人としての模範生。

 その評価を聞くたびに彼女は更に歪みを深み、喉の奥で笑う。

 

「フッフフ……いい子がいれば今度ステインさんに聞かしてあげよう~」

 

 こんな機奇だがいったって普通の感性も持っている。一人で食事をするのは寂しいや服が血で汚れるのは嫌だとか寝るときはフカフカのベットで寝たいとか当たり前のことだ。

 だからかより、この事実を知るものがいれば歪だと思うだろう。

 

「楽しみだ……じっくりと時間をかけ殺すに値する者がいればいいなぁ……」

 

 薄く笑い機奇は雄英高校に向け歩を進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ……凄いなぁ」

 

 筆記試験を終え会場に移った受験生一同。彼らの彼女らの目の前にあるのは丸々一個抜いたような街だ。ビルや家に道路と住めるのではないかと思うほど見事だ。それと同時に資金は大丈夫なのかと思う。

 

 事前にボイスヒーロー【プレゼント・マイク】こと山田氏により説明された試験内容を機奇は頭の中で思い出す。

 

 一、街の中にヴィランとして配置されたロボを破壊すればポイントが貰える。Aタイプ1ポイント、Bタイプ2ポイント、Cタイプ3ポイント。それとは別の0ポイントのお邪魔虫ロボがいる。

ニ、他の受験生の妨害行為は禁止。

三、時間内により多くのロボを排除する。

 

「ロボかぁ~……あんまり楽しくならないなぁ……」

 

 機奇の声に眉をしかめる受験生達。しかし回りのことなど全く見向きもしない機奇は呑気に手をブラブラさせ「暇だ、暇」だと言っている。

 

《ハイ、スタート!!》

 

 プレゼント・マイクの機械越しの声が会場に響く。それと共に困惑する受験生。

 

《どうしたあ!!?実践じゃカウントなんざねぇんだよ!!走れ走れ!!匙は投げられてんぞ!!!》

 

 意味を理解するのに数秒を要し、受験生達はいっせいに駆け出す。その中に深緑色の少年が取り残されていたが、彼も遅れて後を追うように慌てて走り出す。

 

 今スタート地点に立つ受験生は一人を除き存在しない。

 

「……皆元気だなぁ~」

 

 アクビを噛み締めながら、一人ぽっつんと残った機奇も静かに歩きだす。

 

 

 



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三空~暇に想うは少女一人~

 視点が難しいです。


 

 それぞれの受験生が合格を目指し必死で、ロボを撃退する。誰もが一番を取ろうと体を動かす中、一人は街中を散歩するように気軽に歩いていた。

 

「へー……、皆色んな個性がいるねぇ~。わぁ、爆破とか凄っ。あの人は足が速いなぁ。あっ、浮いてる、浮いてる」

 

 そう機奇である。ロボが現れれば攻撃を最低限の動きでかわし。ちょんとロボに触れる。それだけでロボの動きは停止し、次に動き出すときには他のロボに殴りかかるようになる。

 これが機奇の個性【支配】だ。

 

 支配したものは思い通りに操ることが出来る。そして機奇が支配を解除しなければ解けることはなく命令に従い動き続けるだろう。これは機奇を気絶、もしくは殺害しようが解けることはなく本人の意思で解除させなければいけない。

 無論、何百何万もを永久的に支配し続けることは不可能だが、この街に存在するロボを実践試験が終わるまで支配することは機奇には容易い。

 

「確かここら辺にいたと……」

 

 受験生達がいるビルの横からビルと同じぐらいの動く影が出現する。緑塗りの無機物なロボ。各試験会場に二体いる0ポイントのお邪魔虫ロボの一体である。

 

「なんだよ、あれ……!!」

「大きすぎだろ!!」

「ヤベェ!こっちに来るぞ!!」

 

 機奇を除いた一同は皆上を見上げ、暫し呆然と口々に悲鳴に近い声をあげる。先程まで対峙していたロボよりも遥かに大きい。あの巨体なら歩くだけで威圧的だ。それが自分達にの目の前に現れたとなれば、受験生達の行動は一つ。

 

 背を向け走り出す。いや、この場合は逃げ出すが正しいだろうか。仮に倒したとしてもポイントは入らない、プレゼンテーションに倒すとしてもこれを時間内に倒せるとは限らない。

 ならば早々にこの場を離れることが最善だと皆そう思う。

 

 一人を除いて。

 

「おぉ!これはこれは、大きいな!」

 

 面白いオモチャを見つけた子供のように目を輝かせる機奇。逃げる受験生の波を逆に走り出す。その動きは先までの気だるそうな様子からは想像出来ないぐらいに俊敏だ。足に力をいれ跳び、ビルの壁を駆けロボに接近する。

 

「……!」

 

 その時巨大ロボの腕が機奇に向け振り下ろされビルが大破する。機奇はそれをジャンプし軽々と回避し、飛び散るビルの破片を足場にロボの頭部に乗り移る。

 

「ハッハハハ、掴まえた~」

 

 手をバンと叩きつければ、ロボの動きは先程機奇が支配したロボ同様に動きを停止させる。そして、機奇が「よし!」と言えばロボは再びその巨体を始動させる。

 

「さぁ!いくのだ!」

 

 機奇の命令に従いロボは進み、巨大ロボからすれば圧倒的に小型なロボに容赦なく腕を振り下ろす。それだけで小型ロボは鉄屑へと早変わりする。

 指揮官になったつもりで機奇は黙々とロボを操り、1ポイント2ポイント3ポイントを次々に撃破していく。

 

《あと、十秒~!!》

 

 そのアナウンスを聞き、機奇はロボから飛び降り。ビルの影に隠れ。最後の命令をする。

 

「三、ニ、一!」

 

 終了のアナウンスと共に街のいたる所でロボが突然爆裂する。巨大ロボも例に漏れず爆音をたて、機奇の命令に従い盛大に"自爆"する。

 

 これにより、雄英高校模試は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 受験生達が入試を終え帰る中、ある会議室は荒れていた。

 

「おい、おい!なんだありゃ!マジかよ!」

「緑のボサボサ頭のヤツも凄かったが……あのロボを手懐けた上、自爆?させるとわ!」

「今年の受験生はレベルが高い……」

 

 スクリーンに映し出される映像はたくさんのロボが自爆する場面のものだ。受験生の個性だと言うことは分かるがそれでもなお初見なら驚くだろう。

 それに続くように会議室に驚愕すべきことが告げられる。

 

「何者が雄英高校のサーバーにロボを通しアクセスしてきた事が確認されています」

「「「!!?」」」

「あと、無名のメールが送られております」

「「「はぁ!!?」」」

 

 パソコンの画面に開かれたメール内容は「ご安心を盗んだのはロボの配置場所だけですので、機密的なやつには触れてません。ただちょっと、セキュリティ甘いんじゃありませんか?」と書かれていた。

 メールの端にウィンクをするドクロのスタンプがついている。この事からこれを送ってきた人物の余裕が感じ取れる。

 

 大方の予想としてはロボを操作する雄英のサーバーを介してアクセスされたのだろう。直接指示を出すため薄手ではあるが、防護システムがないわけではない。だがそれを越え"無名の誰か"はハッキングしてきたのだろ。

 皆口には出さないが、誰がこれを行ったのかは容易に想像がつく。

 

 会議室に痛い沈黙が生じる。

 この事から会議室の話題は受験生の話から一変して学校のセキュリティ方面の強化のものに変わることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空が暮れオレンジ色の光が水平線に沈んでいく午後六時。子供達は遊んでいた友達と別れ家族の待つ家に帰る。飲食店は増える客に店内を駆け巡る。夜の賑わいに替わる街通りにあわせ、暗い路地裏も賑わいを増す。

 

「フフフン~♪」

 

 機奇はその暗い路地を鼻唄を口ずさみながら歩く。とたもご機嫌そうだ。

 

「いやぁ~良い子がたくさんいたなぁ。流石ヒーローの名門校」

 

 指を折りながら数える。笑った笑顔が可愛らしい空飛ぶ少女、真面目そうな眼鏡少年他にも教師陣も中々にいいのが揃っている。「だがやっぱり一番は……」と笑う。

 思い出すはモジャモジャ頭の地味系の少年。少女を守るために飛び出しお邪魔虫ロボをワンパンで撃破していた。正義感に満ちており尚且つやる気が人一倍ある、けど個性を使いこなせていない不思議な少年。

 

 あぁ、愉快だ愉快だと機奇は言う。"アレ"はきっと強いヒーローになる。仲間のピンチには必ず駆けつける、困っている人に手を差しのべるお節介者。ステインがいつも言っている偽物ではない本物の英雄の卵というヤツだろ。

 

 機奇がそう思っていると後ろから声をかけられる。

 

「君ここにはいない方がいい。最近は【チラバラシ】と呼ばれるヴィランが出現するから危ない」

「ヒーローさん?」

「あ、あぁ、今はパトロール中でね」

 

 人の良さそうなヒーローの青年は一度言葉につまる。振り向いた機奇の姿にだ。白く一つの傷もない肌に絹のようなさらっとした長い髪、ガラス細工を思わされる儚い少女。こんな暗い路地にいることがとても場違いに見てる。

 

 ヒーローは機奇の手を引き人通りの多い道に出ようとする。しかし、彼の手が機奇の手に触れることは無かった。

 

「あっ……?」

「ご心配無用ですよ」

 

 青年の頭が地面に落ち、残った胴体も時間差で崩れ落ちる。冷たく笑う少女、それが青年の最後に見たものだった。

 

「それ、私ですから。バイバイヒーローさん」

 

 機奇は鞄から棒付きの飴を取りだし口にくれる。甘い、美味しい。それだけで今殺した青年のことは頭の中から無くなる。どうでもいい、男を殺してもどうでいいの感情しか湧かない。

 やはり……

 

「殺すなら、いきがいいものに限る」

 

 機奇が再び歩き出そうとする目の前に黒い靄ができ、中からこれまた黒い靄で構成された人物が現れる。

 

「どうも、私は【黒霧】此度は貴女に用がありまして、一緒に来てくれますか?」

 

 

 

 




 イエー!苦労人黒霧さん登場!
 そして唐突に主人公《プロフィール》です。

主人公:【四罪忌・機奇】(しざき・きき)
個性:支配
年齢:十五歳
身長:161㎝ 体重:45㎏
誕生日:四月四日
髪:月白色 瞳:藍色
職業:学生、開発者、情報屋等
趣味:読書、散歩、研究、殺人
好き:飴、クッキー、お菓子全般、人殺し
嫌い:匂いのきつい食べ物、幸せな人、幸福な人
性格:快楽主義者、残虐非情、お気楽


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四空~純粋無垢に笑うは悪意~

 ちょと短いです。


 

 

 「この餓鬼があの【チラバラシ】?」

 

 機奇がワープゲートなる個性で連れてこられた場所はバーだった。木製のカウンターに並ぶ椅子に座り、気だるそうに睨む、全身黒服に身を包む痩せた男。血のように赤い瞳に銀に薄い水色が合わさった髪をしている。

 

「チラバラシねぇ……私名前あるからそっちで呼んでくれると嬉しいね」

「お前の名前知らねぇよ」

「そっか、私は【四罪忌・機奇】。機奇でいいよ、貴方は?」

「……【死柄木・弔】だ」

「死柄木・弔ね、うん。覚えた、どうも初めまして死柄木くん」

「なんで「くん」なんだよ。「さん」だろ普通年上だぞ」

「君はくんの方がしっくりくるから」

 

 フッフフと笑う機奇に心底嫌そうに舌打ちをし死柄木は首を掻く。しかし機奇は気にしたようすもなく横の椅子に座り、鞄からクッキーを取りだしカウンターの上に置く。

 

「おい、もっと向こうに座れ」

「別に良いじゃないか、ほらクッキーあげるよ」

「誰がいるかそんなもん」

「えぇ、美味しいんだよコレ。高いし、私一押しの洋菓子店のクッキーなのだよ?」

「知るか一人で食ってろ。黒霧コイツ本当にチラバラシってやつなのか?」

 

 機奇は残念そうに渡せなかったクッキーを口に入れる。こんなに美味しいのに何で食べないだろうと思う。

 

 間違っているんじゃないかと指をさす死柄木を機奇は黙って見つめていると、所々跳ねた髪は柔らかそうで触ってみたくなる。しかし話し中なので口は出さない。それなりに空気は読めるのだ。

 「本人に聞いた方が早いでしょう」と黒霧が言い死柄木は目を値踏みするように機奇を見やる。

 

「私が【チラバラシ】であった方が死柄木くんは嬉しい?」

「はぁ?」

「私が殺すのは幸せそうな人、幸福な人なんだよね。見てて妬ましくて堪らない、そんな人」

「嫉妬かよ」

「そう、嫉妬だよ。だってズルいと思わない?私は幸せじゃ無いのに幸せなやつらいるんだよ?妬ましいよ」

「お前とんでもなく自己中だな」

 

 普段から我が儘なお前がそれを言うのかと黒霧は思ったが面倒なことになりそうなので言わないでおく。機奇自分語りの様に話す。

 

 場所を選ばずイチャつくカップルがウザイや、友達と仲良く話しているやつらが目障りだ。仲間を気遣いながら仕事をするヒーローが鬱陶しいや助けた子供にお礼を言われているヒーローが胡散臭いなど。一般からヒーローまで口を開けば不満の数々。日常的にある全ての光景に対する妬み、嫉妬。

 殺されたもの達がこれを聞けば何とも身勝手な言い分だと激怒するだろ。しかし、死柄木はそれの言い分を怒ることも責めるでもなくただ聞いている。

 

「おや?怒らないのかい?だいたいこれを言うと皆怒鳴るだけどね」

「俺に関係ないからな、他人がどうなろうがどうでもいい。寧ろヒーローが減るのは俺的には両手を上げて歓迎する」 

「そうかい、そうかい!それは良かった!いやぁ、嬉しいね、握手しようか」

「なんでそうなる……」

 

 機奇は純粋な笑顔でニコニコしながら死柄木に握手を要求する。脈略のない機奇の行動に死柄木は意味がわからないとただその手を見つめる。

 

「どうしても俺と握手したいのか?」

「あぁ、したいね!私の話を最後まで手を出さず聞いてくれたの君が初めてだからね!」

「……俺の個性が五本指で触ったものを崩すことだとしてもか?」

 

 死柄木がそう言うと一瞬驚いたような顔をするが直ぐに元に戻り、一段笑顔を深める。

 

「うん、握手しよう!」

「お前馬鹿か?」

「おや、酷いな。考えなしに言っている訳じゃいないよ。五本で崩れるなら四本ですればいいだろ?」

「俺が五本で触ったらアウトだが?」

「しないでくれると嬉しいね」

 

 そう言って再び握手を求める機奇の手を死柄木は今度は拒否せず握る。嬉しそうに上下に振りながら笑う機奇に死柄木はまた舌打ちをする。

 

「それで黒霧さん用ってなにかなぁ?」 

「はい、それは貴女にヴィラン連合に入って頂きたく」

「ヴィラン連合?」

「その名の通りヴィランで構成された団体です」

「ふぅ~……、そうだねぇ……。それ入ると私にメリットあるの?」

「何が欲しいのですか?」

 

 機奇は考える。特に今のところ欲しいものは大抵自分の力で手に入れられる。金も地位も名誉も、魅力的に感じない。

 

「ん~……、今は思いつかないから帰ってから返事でいいかな?」

「はい、構いませよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《私が投影された!》

「へー……」

 

 雄英高校からの手紙を開けると机の上にムキムキのマチョマン平和の象徴オールマイトが投影された。機奇はそれをリンゴジュース片手に薄い反応をしながら見ていた。

 

 機奇は他にも滑り止めとして受験しているので別に雄英に合格していなくてもいいと思っている。皆が目指して受験していたから便乗して受けただけだ。特別ヒーローになりたい訳ではない。

 皆がしていることを真似してただけ、動機としては不純だろう。

 

《初めましてだね、四罪忌・機奇君!私がオールマイトだ!君は今何故私が投影されたか驚いているだろ?》

「いえ、とくには」

《それは私が!この春から雄英の教師として勤めることになったからだ!》

「そうですか、おめでとうございます」

《えっ……時間押してるから本題を話せ?それさっきも言ってなかったか……》

「…………」

 

 中身の無くなったコップにさしたストローをガジガジ噛みながら話を聞く。

 

《では試験内容について話そう!筆記試験は問題なし、実技は99ポイント文句なしの合格だ!》

「そうですか……」

《レスキューポイントがないながらも入試1ち……》

 

 合格の言葉を聞くとその投影機をゴミ箱にポイっと投げ入れる。それだけ聞ければ十分であると機奇はコップの中の氷をガリガリ砕きながら思う。

 機奇は人の話を聞くのはあまり好きではない。決まった返答しか話さない機械ならなおのことだ。

 

「あっ……」

 

 機奇はスマホを操作し電話をかける。たった今いい案が思いついたのだ。

 

「やぁ、黒霧さん欲しいものが思いついたよ」

『そうですか、それは良かった。それでなんですか?』

 

 彼女の手に無いもの、手に出来なかったもの。密かに焦がれ憧れたもの。

 

「弔くんと黒霧さん、私の"友達"になってよ!」

 

 機奇が望んだもの、それは"友達"。

 

 電話の奥から聞こえる間抜けな声を聞きながら、機奇は満足そうに笑った。

 

 




 話が中々進まない。四話になって主要人物達との会話が皆無です。次ぐらいで多分学校に行くと思います。


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五空~殺意に刃は絡めて~

 
 てっきり、ヒロアカ体育祭が終わったらアニメも終了するものだと、思っていてらまだあるみたいで嬉しい作者です。やったぁ!ステインさんでるよね!


 

 星明かりが空に疎らに散らばり、月が上空へと昇った夜の刻。街が明かりを灯し人々が行き交う中、暗い路地に赤い飛沫があがった。

 

「……ハァ……私利私欲にまみれたヒーローは"粛清対象"だ……」

 

 ヒーロー殺し【ステイン】。血が付いた武器を払い鞘に納める。壁には喉を捌かれヒーローのコスチュームだっただろう服を着た青年が血を流し倒れている。そしてステインはもう用はないと言うようにその場を去ろうとする。

 

 すると、そこに聞き慣れたよく通る少女の声が響く。

 

「やぁ、ステインさん。悪いニュースと良いニュースどっちから聞きたい?」

「何のマネだ?……消えろ」

「相変わらず、つれないねぇ~」

 

 足を進め、屋根から屋根へと飛び移るステインを後を同じ速さで走りながら機奇は愉快そうに笑う。いつも以上に機嫌が良さそうな機奇にステインは嫌なものを見たと顔をしかめる。大抵彼女の機嫌が良いときはろくでもない事が多数派を占めるからだ。

 

 今日殺したヤツはいきが良かった、泣き顔が最高だった、恋人を捨てて男が逃げた、ヒーローが命乞いをした、等々何とも血生臭い。この年の少女がするような話題でない。

 その話題事態はどうでもいいと思うステインだが、機嫌が良いときの彼女は饒舌なのだ。嫌気が差すぐらい粘っこく返事のないステインに話しかけてくる。痺れを切らし刃を向けたのは一度や二度ではない。しかし彼女は隙だらけに見えて全く油断がなく、笑いながらも周囲の警戒を怠らないぐらい用心深い。

 

 身軽な振る舞いからも彼女はとても速く、回避に専念されるとステインは攻撃を当てることが出来ない。その上攻撃を避けながも会話と言ってもいいのか微妙だが止めることはせず、ひたすら話す。

 体力と精神力を両方を削られる。

 

「……ハァ……で、何だ?」

「じゃあ、まず良いニュースから!」

 

 だから、満足し去ってもらう方が消耗することなく最善の方法であり、仕方なくステインは折れて話を聞き流す事にする。彼女の取り扱い説明書が欲しく思うステインだった。

 

「な、な、なんと!私に友達が出来たのです!」

「……そうか……っハァ!?」

 

 嘘だと言う顔で見るステインにしてやったりと笑う機奇。

 

 友達と言ったのか?この狂人が?友達?……あり得ないとステインは思う。だが彼女はクラスメイトのことを話すとき一度も友達と言う単語を使った事がない。今の今まで機奇が"友達"と呼ぶ相手をステインは聞いたことがない。なら、相手はともかくコイツはその誰かを友達だと思っていることになる。

 そして機奇は妙に律儀なところがあり名前を呼ぶにしても許可を得ようとする。ステインの時もそう呼んでいいかと、許可を出すまで何度もしつこく聞いてきたのだ。即ち彼女が友達と言うのなら相手もそれを認めた事となる。

 

「……ハァ……誰か知らないが、そいつは相当の馬鹿だな」

「ん?片方は結構落ち着いた人だよ。もう片方は子供ぽいけど」

 

 平気で人を殺すぐらい狂った機奇だが頭はよく、物事を客観的に見る事が出来る。彼女が落ち着いた人と言うのなら言葉通りで子供ぽいならその通りなのだろ。

 勘だが落ち着いた人と呼ばれた者は苦労してそうだとステインは感じだ。

 

「そして、デッデデン悪いニュースです」

「…………」

「私高校に通うことになったのです」

「そうか」

 

 悪いニュースと言うわりには普通だと誰もが思うだろう。だが機奇は少し残念そうにしている。

 

「だってステインさん会う時間減っちゃうよ?あと折角友人出来たのに明日から学校なのだよ」

「それは俺からすると嬉しいニュースだな」

「おや、酷いな。でも時間が空いたときには会いに来てあげるから寂しがらなくていいよ~」

「とうとう、脳まで狂ったか?」

 

 寂しがる?誰に言っている?……ステインはもう相手にするのが面倒だと感じる。そんな彼に機奇は鞄から飴を取りだし一つ手渡す。

 初めて会ったときから機奇は何故か御菓子を一つ渡してから帰るのだ。それをステインが受け取ろうとしなかろうと彼女はそうする。そしていつしかそれが機奇とステインの決まりの様になっていた。

 

「じゃあ、またね。ステインさん」

「……ハァ……もう来るな」

「やーだ、バイバイ」

 

 手を振り別れの挨拶を終えるとステインの目の前から機奇が姿を消す。

 ステインは溜め息を吐き、手にある飴を口に入れる。

 

「……ハァ……」

 

 昆布味であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜から時は進み日が登り人々が目的地に歩き出す。機奇も現在向かっていた。普通の扉の倍はある扉の前にいる、中からは声が聞こえる。賑やかだなぁと思いながら機奇が扉に手をかけると後ろから声をかけられる。

 

「お、おはよう!」

「ん?……あぁ、おはよう」

 

 深緑色のモジャモジャした髪に頬にそばかすのある少年。機奇は会えたことに嬉しくなる。キラキラとした目に元気いっぱいな健康そうだ。

 

「確か、【緑谷・出久】くんでしたっけ?」

「そうだよ……って何で僕の名前知ってるの!?」 

「たまたま知っただけだよ、出久くん」

 

 驚き目を見開く出久に機奇は笑って曖昧に濁す。さすがに、クラスに殺しがいのある子がいないかと雄英のサーバーを一時的に気づかれないように個性を使い乗っ取り調べた、とは言えない。

 そして一応同級生の顔と名前は全て覚えた。手順が普段殺したいヤツを探るものと同様だが機奇は細かいことは気にしない主義だ。

 

「まぁ、ここで立ち話もなんだ。中に入らない?」

「あぁ、うん!そうだね!」

 

 オロオロしながら頷く出久に笑いかけ機奇扉を開ける。

 喧騒と賑やかな話し声に一際目立つツンツンした薄い金髪の目の吊り上がった少年と真面目そうな黒髪の眼鏡少年。

 

「足を机から下ろしたまえ!」

「あぁ?なんだ、眼鏡!お前どこ中だぁ?」

 

 それを見つけ機奇は心がワンテンポ弾む。素晴らしい逸材がいっぱいの食べ放題だと、思う。この場合の逸材とは殺しがいのある者と言う意味なるが誰も機奇が目を輝かせた理由には気づかないだろう。

 

 若々しい学生らの声が響く中、気だるげな声が聞こえる。何処からだろうと生徒達が教室を見回せばもぞりと動く巨大芋虫。

 

「はい、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たち合理性に欠けるね」

 

 ボサボサの黒髪に無造作に生やされた髭をした男は、担任の相澤・消太だ、と名乗る。そして唐突に体操服を寝袋から出し能力テストをするからグランドに集合しろと命令する。

 機奇はその担任をじっと見つめてから、更衣室に向かう。そして誰にも聞き取れないぐらい小さく呟く。

 

 

「彼は確か……【イレイザーヘッド】だったかなぁ?……良いねぇ~、ヒュー!流石だよ、雄英。私がかねてより殺したいと思っていたヒーローに会えるとは嬉しい限りだ。生徒も粒揃いと来たものだ、これはこれはなんとも……フッフフ」

 

 互いを移動しながら紹介する挨拶をする生徒達に混ざりながら、機奇は楽しくなりそうだと黒い笑みを奥に隠し歩く。

 

 

 

 




 日に日に近づくテストに目眩がします。やーだ、やーだ、テストやーだ。地学基礎以外さっぱり勉強していません。宇宙良いよね、なんだか和みます。英語、数学、古典、歴史全て無くなって欲しいです。
 美術科だけど、造形がムズい。いいアイディアが出なくてマトリョーシカみたくなってしまった。

 愚痴を誰かに聞いて欲しく思う作者でした。すいませんでした。


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六空~能力テストに面倒は付き物~

 
 いい感じのサブタイトル思いつきません。「~に~は~」にあう中二的なやつ難しいです。あと、ヒロアカアニメ、ステインさんかっこ良かったです!


「よし、機奇これ個性を使って投げてみろ」

「はい、分かりました」

 

 機奇はボールを手で握り、個性を使う。

 

「支配……」

 

 するとボールは形を変え全長一メートル程の元のボールよりも明らかに質量の増えた槍状になる。そして機奇はグラウンドを見て、白線の引かれた円内で足を前に出しボールを垂直に投げる。

 ボールはそこに空気が存在しないように真っ直ぐに一定の速度を保ち空を直進し続ける。

 

「……おい、機奇あれどこまで行くんだ?」

「私が個性を解くまで、ですね」

「……無限と記録しとくぞ」

「は~い」

 

 生徒達は驚いたように機奇を見つめる。

 

 機奇がやったことは、まずボールの支配をし形状を飛びやすい物にする。傍から見れば質量が倍になったように見えるが質量自体は変わらずボールの生地を極限まで薄くした。その上で強度を鉄程の固さに強化する。

 次にボールの周りの重力を支配し、空気抵抗を無いものとする。それによりボールだけがまるで宇宙空間を飛行するようになり、機奇が支配を解かない限り飛び続ける。

 

 これにはこれと言ったデメリットはなく、支配を継続するため常時個性を使っていることになる。それによる体力の消耗も無いわけでないが、たった一本程度なら機奇が疲労を感じることはない。

 

「ヒーローになる為の三年間……お前そんな腹づもりで過ごす気でいるのか?」

 

 緩んだ空気に相澤の言葉で緊張が走る。

 

 最下位は除籍処分すると言う相澤の一言で生徒達は気を引き締める。その中機奇は一人空を見上げながら、「空が青いなぁ~」と言っておりなんとも気楽だ。

 

 

 

 

 

 

 

 一種目・短距離走。

 

「飯田と四罪忌」

「はい!」

「はーい」

 

 クラウチングスタートの姿勢でいつ合図がかかっても走り出せるようにゴールを見据える飯田。ゆらゆら片足を振り両手を後ろで組み、気だるげな機奇。

 対照的な二人だ。

 

「よーい、ドン」

 

 地面を蹴り飯田は弾け出すように走る。そのスピードは早くクラスで一番ではないかと思われた。

 

「四罪忌、0秒10」

「飯田、3秒04」

 

 機奇がいなければ。飯田は速さで自分が負けたことに驚くが、当の本人は何てこと無いように空を見上げている。

 

 機奇がやったことは先程のボール投げより単純である。白線の引かれた一直線上の空間を個性でゴール地点まで支配し、スタートの合図と共にゴールまで飛ぶ。いや、この場合は転移と言った方が適切だろう。

 支配した空間は色がつくわけでも無いので事情を知らない人から見ればいきなり目の前に現れたようになる。

 

 これは支配する空間が巨大で有ればあるほど体力を消耗する。

 

 なら、ゴール地点だけを支配すればいいように思えるが、空間と空間の間をあけて支配することは出来ない。ワープなどの座標が分かれば行ける個性と違い、有効範囲は機奇の視界に写っていることや、1度はその場所を自身で訪れている事が条件となる。

 

「機奇くん、君早いな!」

「ん?そうかなぁ?」

「あぁ、凄いな!僕も精進しなければ!」

「うん、頑張って」 

 

 機奇は手をひらひらさせ、愛想笑いをしながら受け答える。その緊張感のない態度とは相反し彼女の能力テストの成績は比例しなかった。

 

 二種目・握力測定。計測機械を支配し、最高値を叩きだし。三種目・立ち幅跳び。土を飛び上がる瞬間上に上げ、六十メートル。四種目・反復横飛びは素の身体能力で六十回。

 

 そして現在ボール投げである。

 

 緑谷がボールを投げたが相澤が個性を消し、生徒達は困惑した面持ちで事の成り行きを見まもっている。その緊迫した空気に一つ気の抜ける様な声が上がる。

 

「出久くん、頑張れ~」

「!……機奇さん」

 

 手を振りながら一人緑谷の応援をする機奇。最下位は除籍処分になると言うのに人の応援をする彼女に生徒達は驚いた顔を向ける。相澤は睨むように目を向けるが機奇は気にした様子も見せずただただ笑顔を崩さない。

 機奇の能力結果的に最下位になることはまず無いから出来る行為だ。最下位になりそうな人間は応援など敵に塩を売る事はしない。

 

 あまり行動の読めない機奇だが、これが善意でないことは確かだ。

 

 折角殺しがいのある生徒を見つけたのに早々に退場されては面白くない。この試練を乗り越えてもっと強くなって欲しい。今のままでは駄目だと機奇は思う。

 

 支配の個性を持つ故にか他人の個性には敏感だ。だから彼女は緑谷の個性に違和感を覚えた。相澤に消されたが、瞬間的に緑谷の腕に集中した個性はそのまま打てば彼の身に何らかの反動がきただろう。

 

 完璧に操れていない個性を持つ少年。個性の発覚は四歳までとされいる現在、それなりの時を共にする個性を把握出来ていないのは可笑しい。機奇は更に個性を使い緑谷の周りの空間を支配し調べようと考えるが相澤の目があり、今回は断念する。

 

「ッーーー!!」

 

 緑谷の放ったボールは空を切り「705.3m 」と言う記録を叩き出す。クラス内でも中々の記録である。

 だが、その代償か緑谷の指は赤黒くなっているが、彼は目に涙を滲ませながら「まだ……動けます」と笑って見せた。

 

「……良いねぇ」

 

 手で口元を隠し機奇は笑う。その笑いは先の作り笑いとは違い正真正銘の心からの笑みだろう。見込み通りだ。嬉しく愉快だと彼女は緑谷に溢れんばかりの怒気を身に宿した爆豪・勝己を目の端で捉えながら笑いを呑み込む。

 

「どーいうことだ、こら、ワケを言え!デク、てめぇ!!」

「うわああ!!」

 

 そんな爆豪は相澤が止め、滞りなく能力テストは終了した。

 

 そして結果発表と生徒達が気を引き締めるなか相澤から言葉の爆弾が投下された。

 

「除籍処分は嘘。お前達の実力を計るためだ。合理虚偽だ」

「「「合理虚偽ーー!!?」」」

 

 一部の生徒を除いた生徒の声がハモり大声を上げる。それを見ながら機奇はクスクス笑う。彼女は嘘でも本当でも正直どっちでも良かったがクラスメート一人も欠けず能力テストを無事終えた事を嬉しく思う。

 皆若き良き人材だ。これを一から探すとなると骨が折れる。

 

 機奇は靴を翻し生徒達の喧騒から遠ざかるように着替えをした部屋に足を進めようとする。そこへ声がかかる。

 

「あなた凄い個性ね」

「ん?あぁ……そうかもね?」

「何で疑問系?私は蛙吹・梅雨。梅雨ちゃんと呼んで」

「私は四罪忌・機奇。好きに呼んでくれたら良いよ」

 

 艶やかな濡れたような髪をした少女、蛙吹・梅雨。機奇はさっと人の良さそうな笑顔を浮かべ挨拶をする。機奇がクラス内で目指すポジションは気軽に話せる友達と言ったところだ。親しすぎず、だが遠すぎず一定の安定した距離のある友人。

 

 今までの学校生活でこのポジションが一番都合がいいと機奇は学んだ。近すぎれば何か事件が起きた時に怪しまれる。遠すぎれば疑われる事はないが、それでは面白くないと機奇は思う。

 彼女はギリギリを攻めるのがスリリングで楽しい。何より表面上、友人関係にある者が涙を流しその事件を起こした犯人である自分に泣きつく姿はとても滑稽で機奇は愉快なのだ。

 

 だから、機奇は笑みを顔に張り付ける。

 

「宜しくね、梅雨ちゃん」

「うん、四罪忌ちゃん」

 

 

 

 




 
 テストで補習にかかるとスマホ没収とか熱中症+なんとかウィルスで入院とか色々忙しかったです。


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七空~平和の象徴に向けるは苛立ち~

 
 区切りが悪くて、文字数がいつもより少いです。前が2800字ぐらいなのに対し2200字ぐらいになります。


 グラスに入った氷がカランと音をたてる。薄暗バーのカウンターには雄英の制服を着た少女が空になったグラスを目の前のモヤの男、黒霧につき出す。

 その少女の横に座る猫背の男はカウンターにうつ伏せになっている。

 

「もう、一杯お願いします」

「……貴女、どんだけ飲むんですか…………。もう、そのぐらいにした方が良いと思いますが……」

「大丈夫です。あっ、あれ飲んでみたいです。ほら、マティーニとか。ね!死柄木くん」

 

 横に座る死柄木の背中をトントン叩きながら、いつもよりほんのり赤い頬を緩ませ機奇は笑う。

 だが叩かれる死柄木は反応らしい反応はせず、静かに横目で機奇を見るだけだ。その顔は機奇より数段赤く誰が見ても酔いが回っている事が分かる。

 

「あれ?死柄木くん?もう、ギッブ?」

「…………煩い……」

「ほら、どうしたの?死柄木くんが誘ってきたのに~?」

「…………もう、無理……。……なんで、お前……平気なんだよ……」

「ハッハハハ。まだまだ、いけるね!」

 

 こうなった原因は、冗談半分に死柄木が機奇を酒を飲まないかと誘ったからだ。最初はニヤニヤ笑いながら飲んでいた死柄木だが、予想外に機奇が酒に強く。逆に死柄木がダウンしてしまったのだ。

 その成り行きを見た黒霧は作ったカクテルを機奇に出しながら、静かにため息を吐いた。

 

「機奇貴女、明日学校があるのですからこれぐらいにしといた方が良いですよ」

「うん~……。そうだね、もっと飲みたいけどこれで終わりにしとくよ」

 

 そう言いグラスを傾けくいっとまるで水を飲むように飲み干す。そして、「あのさぁ」と機奇は鞄から絵の書かれた紙を取り出す。

 

「名も売れてきたし、【チラバラシ】のコスチュームを作ろうかなぁと思うんだよね。これ代案」

「コスチュームですか……」

 

 はて、ヴィランにコスチュームは必要なのだろうか?と言う疑問はこのさい置いておき。黒霧は紙に目をやる。

 全体的に黒が印象深いマジシャンの様な服装。頭にちょこと乗せるような小さなシルクハットの帽子に黒の燕尾服似の裾の長いコート、中に着込むは灰色のシャツに黒と青のベスト。下は黒のズボンに革靴。

 

「なんと言いますか……派手ですね」

「フッフフン、結構自・信・作☆」

 

 派手だと言う黒霧の認識は正しいだろう。確かに黒は目立ちにくい色だろうが、彼女の提案した服装はその効果を意味無くするものだ。

 それ自体は彼女の好みだからと否定的な意見をしない黒霧だがフッと疑問に思う。

 

「これ、男物ではありませんか?」

「おぉ、流石黒霧さん。よく分かりましたね」

 

 そう、女が着ても問題はないだろうがこのコスチュームは男が着るものに感じる。

 機奇は説明するように口を開く。なんでも、チラバラシは男であった方が似合うからだと。機奇は機奇自身を支配し、他人になることは出来ないが性別を変えることが出来る。そこでこのコスチュームだ。

 

「神出鬼没ってキャラ付け面白くないですか?」

「はぁ、そうですか……」

「でも、顔バレしちゃうから何か顔に着けないと」

 

 強盗がつけるようなマスクではキャラが崩れる。マスクとグラサンも駄目だ。

 

「……仮面でも……つけりゃあいい……だろ」

「おっ、そうですね!ナイスアイデアです、死柄木くん」

 

 項垂れる死柄木の背中を機奇はバシバシ叩く。普段の死柄木ならその叩く手を掴み崩そうとするだろうが、今は酒が回っており睨むだけに止める。

 

 しかし、死柄木が抵抗しないことをいいことに機奇は笑いながら彼の頭をアハハハと撫でる。癖毛っのある髪を気に入った機奇は一通り撫でた後、「じゃあ、また」と言って家に帰っていった。

 

 なんとも自由奔放な彼女であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、眠気眼に学校に登校し机に伏せていた彼女の前に筋肉隆々のアメリカンチックの男が教室に現れた。

 

「わーたーしーがー!!普通にドアから来た!!!」

 

 機奇は半開きであった目を見開く。

 

 平和の象徴と名高い【オールマイト】。それを目の前にして機奇の目に悦びと憎悪のどす黒い火が灯る。あることによりヒーローそのものを憎む機奇だが、そのヒーローNo.1に立つオールマイトを見て少しばかし動揺する。

 普段ヒーローと対峙する時とは何かが決定的に違う違和感を覚えたからだ。

 

「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地をつくる為様々な訓練を行う課目だ!」

 

 高らかに宣言するオールマイトを機奇は静かに見つめる。そこには感情がなく冷たい笑みを浮かんでいた。

 

「早速だが今日はコレ!戦闘訓練!」

 

 機奇は盛り上がる生徒達の中、自身の言い様のない感情に戸惑っていた。表情は笑顔ながらも、その実内面はかなり荒れていたのだ。

 

 意味が分からない。何が分からないのかが分からない。理解できない。決定的に違うこと。機奇が今まで殺してきた者達との違いとは何だろうか。

 殺意が湧かない訳ではない。なんなら今すぐにでもその喉元目掛けて切り裂いてやりたく思う。

 

 苛々する。

 

 機奇には珍しく感情の波が荒立った。前日ヒーローを殺した時でもこうも意識が揺れることは無かった。自分自身の理解できない感情に機奇は、ただただ喉に小骨が引っかかる様なジリジリと焦がす苛立ちを覚える。

 

「四罪忌ちゃん、皆着替えに行ってるわよ?」

「あっ、あぁ。ちょと考え事をしていて……行こっか!」

「そうね、皆のヒーロー着気になるわ」

「梅雨はどんなの?」

 

 機奇はいつもと変わりなく瞬時に猫を被る。その変わり身の速さは目を見張るものだ。

 そして、皆の後に続きながら感情の整理をする。

 

 

 

 




 アニメを見た勢いで書きました。いつもこのぐらい筆が乗ればいいのに、と思う作者です。次は死柄木さんが出ないので更新は遅くなると思います。


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八空~悪役に彼女は徹する~

 
 やっとやって来た戦闘訓練!なんだかたどり着くまで長かったです。
 書きたい事を詰め込んだ為、文が急ぎ足です。後で付け足すかもしれません。


 何かを言い合う二人が画面に映される。緑谷と爆豪だ。

 

 オールマイトの合図により二対二の戦闘訓練が開始された。ルールは単純、ヒーローチームとヴィランチームに別れ、ヴィランチームは核爆弾を守りヒーローチームは核爆弾を捕獲する。

 画面にはその戦闘が中継されている。それをクラス達と機奇は観ていた。

 

 時間の経過と共に決着がつく。ヒーローチームの勝利として、だが勝った緑谷は腕の怪我によりリカバリーガールの所に行くこととなる。負けた方は無傷で勝った方が怪我をする。

 勝負に対する指摘も、緑谷の行動はあまりよいとは言えないものだ。爆豪も一人で突っ走りチーム戦を放棄するという問題行動だ。

 

 けして完璧によいとは言えない結末だが、機奇は嬉しそうに嬉しそうに笑う。

 

 緑谷は思ったとおり、勝ちを納めた。あぁゆう自分の弱さを分かっている子は強い。自分の力を自身を持ってる彼もまた強い。

 きっといいヒーローになるだろうと機奇は思う。

 

「うんうん、二人とも良いね」

 

 

 

 

 

 

 そして、試合は進み機奇の順番が回ってきた。

 

「よろしくね!私【葉隠・透】個性は【透明】」

 

 空中に手袋と靴だけが浮かんでいる。声からしか少女だと判断出来ない。

 

「僕は【尾白・猿夫】個性は【尻尾】。話したのは、初めてだね」

 

 柔道着らしきものを着た少年。その服から尻尾が出ている。

 

「はい、よろしくです。【四罪忌・機奇】好きに読んでくれたら良いよ~。個性は【支配】」

 

 膝下まである黒いトレンイコートにこれまた黒のトータルネックを着込み、実用的な黒のブーツ。手にも黒の手袋と肩に黒の縦長のケースをかけている。

 そう、この黒ずくめの少女は機奇である。

 

「機奇さん、黒いね……」

「うん、黒いね」

「私の個性的にはこれが良くてね」

 

 確かに黒い。しかし機奇の月白色の髪が加わわり、相殺されるたのか黒々と重々しい印象は受けない。

 

 ヴィランチームに選ばれた機奇達は人数が多い事から仲間内で通信機が使えないというハンデがかせられる。機奇達は建物に入り作戦を練る。

 

「どうする、攻める?守る?」

「うん~……。相手轟くんなんだよね」

「あぁ、特別枠の入学生だったけ」

「強そう……」

 

 尾白と葉隠は考えるが、いい案が思いつかない。

 機奇はその様子を見ながら、核兵器に手をつけ個性を発動させる。

 

「私、ある一定空間なら通信機みたいに意思を届けること出来るよ」

「えっ、そうなの!機奇ちゃん凄いね!」

 

 早々にハンデが意味を無くした。そして、機奇は二人は核兵器を守ってと言い残し、部屋を出ていった。えっ?と惚ける二人だがその場に機奇はもういなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、ヒーローチーム【轟・焦凍】【障子・目蔵】は建物の前に立っていた。

 

「二人は核兵器がある部屋にいる、そして何故か一人は最上階にの屋上にいる」

 

 障子は個性【複製腕】で耳を作り敵の居場所を探る。障子から敵の位置を聞いた轟は建物の壁に手をつければ白い冷気がたつ。

 

「後の一人がなんでそこにいるのか、分からねぇのが不気味だが……」

 

 轟が個性【半冷半燃】の片方【半冷】を発動させる。すると建物は瞬く間に凍りつき、迫る氷にどうすることも出来なく葉隠と尾白は足が凍り動けなくなる。

 轟はその横を通り核兵器に手を伸ばす。呆気なくヒーローチームの勝ちだと誰もが思った。

 

 その瞬間、核兵器が消え。轟の後に続いていた障子が壁に打ち付けられる。

 

「なっ……!?」

 

 続け様に飛んでくる瓦礫を氷で盾を作り防ぐ轟。彼の前にはニタニタと笑う機奇が立っていた。

 

「おっ、良いねぇ。その個性、かっこいい~!」

 

 ガッンガッンと、そこいらにある瓦礫を轟に蹴る機奇の登場にその場にいた全ての者が驚愕表情だ。

 

 彼女が突然現れた方法は能力テスト短距離走のさいと同じだ。核兵器がある部屋の空間を支配し転移した。ただそれだけ、だが支配という個性を知ってはいても何が出来るのかまでは知らなかった尾白と葉隠は驚き。

 個性がなんであるか知らない轟は驚きと共に警戒する。そして、現れると共に大ダメージを負わされた障子は地面に伏せながら体を動かそうとするが、出来ないことに困惑と気味の悪さを覚える。

 

「ハッハハハ!ヒーロー油断し過ぎだぞ?どうかね?自分の怠慢に足を掬われる気分は?」

「お前……どうやって現れた」

「自分から弱点を教えると思うか!と普通なら言うんだけどね……」

 

 顔を嬉しげに歪め悪役フェイスで問いかける機奇。コイツこんなヤツだったけ?と疑問に感じる轟に、機奇はさも舐めきった態度で鼻で笑い。

 

「どうせ、君じゃあ……私に勝てないから教えてあげるよ。私の個性は【支配】だ」

「そうか、で?お前はどうやっその個性で俺に勝つんだ?」

「フッフフ……君に個性を使う必要ないよ」

「はっ?」

 

 それはどういうことだと、口を開きかけた轟に機奇は地面に落ちた割れたガラスの破片を手に倒れる障子に近づく。そしてガラスを彼の首筋に当てる。

 

「!!……お前……」

「機奇ちゃん!?」

「機奇さん、流石にそれは卑怯だよ!!」

 

 信じられないものを見るような目で轟は機奇を睨む。チームメンバーも否定的意見を言う中、一人彼女は笑う。

 

「卑怯?はっ!それがどうした、私はヴィランだぞ?寧ろヴィランとしてはとても正しいと思うが?絶望的な状況から奇跡を起こすのがヒーローではないのか?なぁ、轟ぃ?」

「ッ!!」

 

 まさにそうの通りの機奇の言い分に轟は苦しげに顔をしかめる。だが、障子が人質に取られては攻撃が出来ないりなにか隙を作ろうと考える。

 

「お前、仲間を信用してなかっただろ」

 

 苦し紛れの言葉だが、的を得ているとも言える。何故なら彼女が核兵器を飛ばすことができたのなら、尾白と葉隠はそもそも守る必要が無かった。それでも彼女は守ってと言ったのは尾白と葉隠をその場に止まらせる行為だ。そして尾白と葉隠を氷で捕縛した為、轟は油断した。そこを突いての奇襲だった。

 

 機奇はフッフフと笑い、凍りつくような笑顔でこう言う。

 

「"仲間"?……可笑しな事を言う。ヴィランが"他人"を信用しちゃあいけないでしょう!」

 

 仲間を仲間として扱わず、囮のため駒として使った戦法に機奇はそもそも仲間とは思ってないと言う。それが演技なのだろうと轟は理性で思うが、あまりの自然に言い放つ彼女に本当に演技なのか怪しく感じる。

 

 そして彼女はなおも続ける。

 

「轟、君は何色が好きだい?」

「何故、そんなことを聞く?」

「君の死体を箱に詰めて郵送してあげようと思ってね!好きな色の方が嬉しいだろう?」

「……お前本気で言ってるのか?」

「んん?何を当たり前のことを言っているんだい?」

 

 目にいるのは自分と同じ同級生で、これは命をとる訓練ではない。その筈だ。だがヒヤリと嫌な汗が垂れる。

 

「君の死体を見たエンデヴァーはどんな顔をするだろうね?あぁ!考えただけでゾクゾクするねぇ!!」

 

 満面の笑みでそう言い放つ彼女に轟は戦慄した。これが演技だと言うのなら彼女にはきっと役者の才能があるのではないか。そんな狂気に満ちた笑顔だ。

 

 そこに声が告げられる。

 

「ヴィランチームの勝利」

 

 と。

 

 

 

 




 遅くなりましたが、月姫紗菜さん、oribeさん、muneさん、誤字報告ありがとうございます。


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