歌と共に舞うひと夏 (のんびり日和)
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閑話集
閑話:風邪


次の話を書こうとしたら、まさかの風邪をひいてしまいました。

だから風邪の閑話を投稿することにしました。
皆さんも気を付けてください。


「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!! あぁ~、だるいぃ」

 

そう咳込みながら零したのは、イチカだった。彼は今ベッドの上で横になりマスクをして寝ていたのだ。

――ピピピピ!

 

脇からそう機械音が鳴り響き、脇に手を伸ばし体温計を取り出し数値を見ると

 

「……39.4℃。完全に風邪だなこりゃあ」

 

そう言い体温計を仕舞い、天井を見上げるイチカ。

 

「あぁ~、安静にしてよぉ」

 

そんなイチカの呟きが部屋を木魂した。

 

 

 

「―――と言う訳で本日はイチカが風邪の為、訓練は俺達のみで行う。質問ある奴いるかぁ?」

 

ハンガー横に設けられている会議室でミーティングを行っていたデルタ小隊の面々はイチカが体調不良で休みという事で、一人抜けて訓練を行おうとしていた。

 

「いや特にないが、イチカの奴大丈夫なのか?」

 

ここ(エンシェントセキュリティー社)の医者が言うにはただの風邪らしい。2,3日したら全快だとよ」

 

ハヤテの質問に心配ないとアラドが説明し、他にある奴は?と首を振る。

 

「はい! イッチーのお見舞いに行っていいですか?」

 

「フルーツ持って行きたい」

 

マキナとレイナがそう言うとアラドが、苦笑いを浮かべた。

 

「あぁ~、すまん。イチカが移すといけないから見舞いは別に良いって言ってたんだ」

 

「えぇ~! 折角レイレイとフルーツの盛り合わせ買ってきたのにぃ」

 

「…ショック」

 

落ち込む二人にアラドは、だがと続ける。

 

「ちゃんと移らない様に対策して行くなら問題無いだろ。病は気からって言うからな、2人の元気をあいつにやったらすぐに元気になるかもな」

 

そう言うとマキナとレイナは嬉しそうな笑顔を浮かべ、後で行こうっと約束し合う。

 

「よし、他に質問ある奴はいないな? それじゃあ訓練を始めるぞ!」

 

そう言い各々機体へと向かった。

 

アラド達が訓練をしている頃、イチカは部屋で未だに咳込んでいた。

 

「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ。うぅ~、チキショぉ。なんだってこんな日に風邪なんかひいちまったんだよぉ。久しぶりにバルキリーに乗れると思ったのにぃ」

 

そう零しながら風邪のウイルスを恨みながら寝ていると、扉をノックする音が鳴り響いた。

 

「はい、どちら様ですか?」

 

「スコールよ、入るわね」

 

そう言って扉を開け入って来たのはマスクをしたスコールだった。手には風邪によく聞くと言われる葛根湯の入った袋があった。

 

「大人しくしている様ね」

 

「……そりゃあ大人しくしていないと、あれが拘束して来ますからね」

 

そう言ってイチカが指さした先には、人と同じサイズのゴーレムがプラカードを持って立っていた。

プラカードには『大人しく寝ているように。部屋から出ようものならゴー君が捕まえるよ。By束』と書かれていた。

 

「……束なりの思いやりよ」

 

「……思いやりなんですかね?」

 

そう言いながらぼぉーと天井を眺めるイチカ。

 

「まぁ、これでも飲んで体を休めなさい。貴方は十分すぎる程働きづめているんだから」

 

「そんなに働いた覚えが無いんですけどね」

 

そうイチカが言うとゴーレムの持っているプラカードに書かれていた内容が何時の間にか変わっていた。

 

『いや、いっくん働き過ぎているから。ちゃんと休みも取らないと(´。` ) =3』

 

「……聞いてたのね」

 

「……今初めて知りましたよ」

 

その後スコールは部屋から出て行き、また暫くシーンと静まり返る部屋。

するとまた扉をノックする音が鳴り響く。

 

「どうぞ」

 

「邪魔するぜ! おいおい、風邪なんかにやられるなんて鈍ってるんじゃないのか?」

 

「オータム、病人なんだからあまり大声上げないの!」

 

部屋に入って来たのはオータムとエリシアだった。

 

「なんですか? お見舞いですか?」

 

「それ以外何があるって言うんだよ? ほれ、見舞い品のポカリだ」

 

そう言ってオータムは袋から2Lのポカリのペットボトルを机の上に置く。

 

「私はこれ」

 

そう言ってエリシアが机の上に置いたのはゼリー飲料だった。

 

「あまり食欲が無いと思ってね」

 

「あぁ助かります」

 

イチカはゼリー飲料の蓋を開け、ちゅるちゅると飲み始めた。

 

「それじゃあちゃんと治せよ」

 

「それじゃあ失礼するわ」

 

そう言いオータムとエリシアは部屋から出て行った。

 

――3時間後

 

「…ん。あ、寝てたのか」

 

貰ったゼリー飲料を飲んだ後暫し寝ていたイチカ。目を覚まし時間を確認すると、既にお昼前だった。

 

「もう昼か。……お腹空いたな」

 

そう思いながら机の上に目を向けるも、既にゼリー飲料は無く残っているのは医者が処方した薬とポカリのみだった。

※葛根湯は不味いのが嫌いな為速攻胃に流し込んだ。

 

――コンコン

ノックする音が鳴り響き、また誰か来たのかと思い声を掛ける。

 

「どうぞ」

 

「お邪魔しまぁ~す!」

 

「お見舞いに来た」

 

そう言って入って来たのはマスクをしたマキナとレイナだった。

 

「……二人共俺の風邪うつるといけないから「大丈夫! タバタバ特製のマスクしているから!」「全然耳も痛くならないし、超快適」……さいですか」

 

諦めたイチカはレイナの握られている物に目が行く。

 

「それ、フルーツか?」

 

「うん、食べる?」

 

「あぁ。ちょうど腹が減っててどうしようかと思って悩んでいたんだ」

 

そう言うと二人は、そっかぁ!と嬉しそうな顔を浮かべフルーツの盛り合わせを机の上に置きレイナがリンゴを取る。

 

「おいおい、まさか自分で切るとかする気じゃないよな?」

 

「その気」

 

そう言って果物ナイフを取り出し切ろうする。だがその手は若干震えており、慣れていないと誰でも見て取れた。するとゴーレムがひょいっとナイフとリンゴを取り上げた。

 

『怪我したら危ないよ。ちゃんと包丁の握り方を勉強してからやりなさい。(*'へ'*)ぷんぷん』

 

そうプラカードを見せ直ぐにシャリシャリとリンゴを剥くゴーレム。

 

「ありゃりゃ、怒られちゃったねレイレイ」

 

「仕方ない。ちゃんと練習してからイチカに食べてもらおう」

 

イチカはふぅ~と安堵のため息を吐く。

そして紙皿に載せられたリンゴを頬張りながら、今日の訓練の様子を楽しげに話し始める3人。

ハヤテがまたミラージュと喧嘩を始めスコア対決を始めたり、何故かチャックを執拗に追いかけ回し楽しんでいたマドカだったりと会話は弾んでいた。

 

「ハッハハハハ。うん? そう言えば二人共、この後歌のレッスンじゃなかったのか?」

 

イチカは机の置き時計に目が行きそう言うと、二人はそうだったと思い出したように立ち上がる。

 

「いっけなぁい、カナカナに怒られちゃう!」

 

「急げ、急げ」

 

そう言い二人は扉を開け部屋を出て行く。するとまた扉が開き2人が顔を覗かせる。

 

「「早く元気になってね。チュッ」」

 

とマスクを外して投げキッスをして扉を閉めて行く2人。

2人の行動に顔を若干赤くしながら暫し扉を眺めるイチカ。するとゴーレムからピンポンと鳴り、そちらを顔を向けるとプラカードには

 

『モテモテだねぇ、いっくん‼ ☆ヒューヒュー♪ヾ(^ε^ゝ)“☆』

 

「……」

 

プラカードを見たイチカは更に顔を真っ赤に染め、頭から布団をかぶり顔を隠す。

 

「―――てな感じで皆見舞いに来てくれた」

 

「そう、良かったわね」

 

あれから暫く経ち、今度は美雲がお見舞いにやって来ていた。美雲もイチカのお見舞いに行きたかったが、お見舞いの品をどうしようかと色々と悩んでしまい結局最後になってしまったのだ。

 

「それで、私が作った雑炊はどうかしら?」

 

「滅茶苦茶美味い」

 

そう言いイチカは茶碗に入っている雑炊を頬張る。机の上には小さな土鍋が置かれている。

 

「そう。頑張って作った甲斐があるわ」

 

美雲は嬉しそうに笑みを浮かべながらイチカが頬張る様子を見続けた。

 

「ご馳走様でした」

 

「お粗末様でした、で良いのかしら?」

 

綺麗に食べ終えたイチカを見て満足そうに頷く美雲。

 

「熱も下がり始めてるの?」

 

「少しだけな。まぁもう少し休んでおくよ」

 

そう言い横になるイチカ。

 

「早く元気になってちょうだいね」

 

そう言いイチカの手を握る。

 

「あぁ、良くなったらデートに行こう」

 

「えぇ。なら早く良くなってね」

 

そう言い別れを惜しみながらも美雲は部屋から出て行く。

早く治そうとイチカはそう心に決めながら、またゆっくりと目を閉じ眠りについた。



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本編
プロローグⅠ


ヨルムンガンドに続いてこちらも始めました!
……更新スピード確実に落ちるかも。


ドイツ・とある廃墟

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

一人の少年は薄暗い廃墟の中を息を切らしながらも必死に走っていた。その後ろから自分を探しているであろう男たちの大声が聞こえてきて、少年は走り続けた。そしてとある潰れた工場の中へと入り身を隠す。

 

「…畜生、全部あいつのせいだ。あいつが俺を此処に無理矢理連れて来なければこんな目には合わなかったんだ。何時もそうだ、大切にしているとか言って蔑ろにしている癖に!」

 

少年は今までの恨みをさらけ出していると身を隠している場所から程近くに大きめの穴みたいなものを見つける。

 

「これなんだ?」

 

そう言って近づくと少年はその穴に吸い込まれる感覚に襲われ、穴から離れようとするが間に合わず、少年は穴のなかへと吸い込まれる。

 

「う、うわぁぁぁぁぁーーーー!」

 

少年が吸い込まれた後、穴はそこにはなかったかのように消え去り、少年もこの世界から忽然と消え去った。

 

「うわぁぁぁーー!……グヘッ!」

 

どれくらい穴にいたのかわからないうちに少年は何処かに転がり落ちた。強くぶつけた部位をさすりながら少年は辺りを見渡すと、戦闘機だと思われるものやミサイルなどが置かれており、少年はすぐに何処かの格納庫だと把握した。すると武装した兵士たちが少年を囲み、少年は抵抗すれば殺されると思い手をあげ大人しくする。

 

「おいおい、ただの子供相手に銃を構える奴があるか」

 

そう言って一人の男性が現れ、兵士たちの銃を下ろさせた。

 

「で、ですが何処から侵入したかわからないんですよ。もし、何らかの犯罪組織の工作員だったら」

 

「こんなまだ14,5歳の子供がそんなことするか。おい、坊主」

 

そう言って男性は少年に近付き同じ目線になるよう膝を曲げる。

 

「名前は?」

 

「え、えっと一夏って言います」

 

「そうか。俺はアラドって言うんだ。じゃあ一夏、お前さんは何処から来たんだ?」

 

そう聞かれ一夏は困ったような顔付きで答える。

 

「えっと、最初はドイツにいてそしたらいきなり誘拐されて「誘拐?!」…は、はい。それで隙を見て逃げ出して、何かの工場に逃げ込んで隠れていたら変な穴があって、それで穴から抜けたら此処に」

 

一夏の話を聞いた兵士の多くは嘘だと思っていたがアラドはだけはそうは思わなかった。

 

「お前さんの話はよ~く分かった。まぁ、取り合えず飯食いに行くか」

 

「「「え?」」」

 

周りにいた兵士達は何を言っているんだと言うような目でアラドを見ていると、アラドは一夏に笑いかけながら言う。

 

「さっきからお前さんの腹に住んでる虫が飯食わせろって鳴いてるのが聞こえてたんでな。色々大変な目に遭ってるみたいだし、飯食えばすぐに元気なるから行くぞ」

 

そう言って一夏を立たせ、ご飯を食べに行かせようとする。そして兵士の一人に近付く。

 

「こいつの面倒は俺が見る。何か分かったら報告するからよ」

 

「はぁ~、分かりました。ではお任せします」

 

そう言われアラドは一夏を連れご飯を食べさせに外へと出に行く。




次回予告
アラドは一夏を連れ、此処が何処か説明しながらとある食堂へと連れて行く。そこにはアラドの部下たちがいた。そしてアラドは一夏に飯を食わせていると食堂に4人組の女性たちが入ってくる。
次回運命の出会い~こいつは今日から俺の息子だ~


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プロローグⅡ

外へと出た一夏はそこが自分の知っている場所とは全く違うことに驚く。廃工場とかでは無く周りは海と山で囲まれている場所だったのだ。

 

「こ、此処って?」

 

「此処は惑星ラグナ。そしてあそこに見えているデカいロボットはマクロス・エリシオンだ」

 

そう言われ一夏は遠くにそびえたっていたモノを見て驚く。その姿は人型の大型ロボットだったのだ。

 

「す、すごい」

 

「あれを見て驚くって言う事はお前さんはやっぱりどこか別の世界から来たのかもな」

 

そう言われ一夏もそう思わざるを得なかった。自分のいた世界にあのような物はなかったからだ。そしてアラドと共に一夏はバレッタシティと呼ばれる場所に連れていかれ、その街の一角に船のような物があり、看板には『裸喰娘々』と書かれていた。

 

「あの、このお店は?」

 

「此処は俺の部下が営んでる飲食店だ。ほれ恥ずかしがらずに入りな」

 

そう言われ一夏はアラドと共に店内に入るとアラドは見知った人物たちがいることに気づき、手をあげながら近づく。

 

「よぉ、お前らも昼飯か?」

 

「どうも隊長。まぁそんなところです」

 

そう言いながら黒髪、切れ目の男性はそう言いながら昼食をとっていた。

 

「お、隊長も食べて行きますか?」

 

奥の方から天然パーマの様で頭の上で髪を括った男性がそう聞いてくる。

 

「おう。一夏もぼぉーとしてないで俺の横に座れって」

 

一夏はアラドに誘われながら席へと着き、メニュー表を見る。そんな中天然パーマの男性がアラドに一夏のことを聞く。

 

「隊長、その子供は?」

 

「うん? こいつか、こいつは今度俺が面倒を見ることになった一夏だ」

 

そう言われ一夏は名前を呼ばれた気がしたため顔をあげる。

 

「えっと、一夏です」

 

「おう、俺はチャックだ。よろしくな!」

 

そう言って手を差し出され、一夏はチャックの手のひらに水かきのような物がついていることに気づく。

 

「うん? もしかしてラグナ人とは初めて会った感じか?」

 

チャックにそう聞かれ一夏は首を縦に振る。

 

「ははははは、そうか。この惑星のラグナ人は手のひらに水掻きがついているからな。この惑星じゃ珍しくないんだぜ」

 

そう言われ、一夏はやっぱり宇宙人っていたんだと考えを改めさせられた。

 

「俺はメッサーだ。隊長と同じデルタ小隊に所属している」

 

そう言ってまた昼飯を食べ始めるメッサー。アラドはメッサーの態度に苦笑いになる。

 

「悪いな、一夏。メッサーは冷静沈着な奴で、普段からあぁなんだ。」

 

「そ、そうなんですか」

 

そうこうしていると、チャックがご飯を持ってアラド達の元へと運んできた。

 

「ほい、ラグナ天津飯と餃子お待ち!」

 

「ほれ、一夏。チャックのおごりだから好きなだけ食べろ」

 

「ちょっ、隊長?!」

 

アラドは冗談だ。と笑いながら言い、一夏はお言葉に甘えご飯を食べ始めた。ご飯を食べていると店に4人組の女性が入ってきた。

 

「やっほ~、ご飯食べにやってきたよ~!」

 

「お腹空いた」

 

「もうマキナったら、他のお客さんもいるんだから騒がないの」

 

「ふふふ、いいじゃない。何時も元気があるって言う証拠みたいなものだし」

 

ピンクヘアーの巨乳の女性に続いて緑髪の大人しそうな子、その次に朱色の女性、最後に薄紫色とプラチナブロンドが混ざった髪を巻き上げている女性が入ってきた。一夏は常連かなと思いながら餃子を頬張る。

 

「お、ワルキューレ達も昼飯か?」

 

アラドがそう言うと朱色の女性が頷く。

 

「はい。 ところでアラドさん、そこにいる彼は?」

 

「おぉこいつか。こいつは今日から俺が面倒を見ることになった」

 

「一夏って言います。」

 

一夏はそう挨拶すると髪を巻き上げている女性が一夏に近付く。

 

「…貴方、何処から来たの?」

 

「…え?」

 

女性からの突然の質問に一夏は驚く。

 

「その服装、この惑星じゃ見たことないしそれに、貴方からは他の人とは何か違うような気配がするのよ」

 

そう言われ一夏はアラドに顔を向けると、アラドは乾いた笑みを浮かべる。

 

「まさか気が付かれるとはな。 美雲の言う通り一夏はこの惑星の人間じゃない」

 

「じゃあ何処の惑星なの?」

 

緑髪の子がそう聞くとアラドは観念するように説明し始めた。

 

「こいつは地球にいたんだ。しかも異世界のな」

 

アラドがそう説明した瞬間、アラド達が居る所だけ静寂が漂った。そんな静寂が漂っているところに赤紫色の髪をした長身の女性が入店してきた。

 

「お邪魔します、お昼を頂きにきました。…なんで皆さん固まっているんですか?」

 

そう聞きながら近づいた瞬間

 

「「「「えぇぇぇーーーーー?」」」」

 

「ビ、ビックリした!」

 

一部を除いた人以外全員驚きのあまり絶叫をあげ、赤紫色の髪の女性は突然の絶叫に驚く。

 

「た、隊長。つまり一夏は異世界から来た人間って言う事なんですか?」

 

「ほ、本当に異世界ってあったんだ~」

 

「今までで一番驚いた」

 

「これって私たち、銀河で初めて異世界人と会ったて言う事よね」

 

全員それぞれ思ったことを口にしている中、赤紫髪の女性は訳が分からず、近くにいたメッサーに事情を聴く。

 

「これは一体どいう事なんですか? 異世界人って一体?」

 

「ミラージュか。隊長の横にいる奴が、俺たちの知っている地球とは別の地球から来たって隊長が言ってこの有様だ」

 

メッサーの説明を聞いたミラージュは頭に疑問符を浮かべつつ、騒動になっている方に目を向ける。問題となっている一夏は質問攻めに遭っており、どうしたらいいのか分からないと言った感じで慌てふためていた。すると美雲が手を叩く。

 

「ほらほら、彼がどうしたらいいか分からないって言う表情浮かべてるから落ち着きなさい」

 

そう言われ騒いでいた人達全員落ち着き、改めて確認する。

 

「それじゃあ一夏君は、本当に異世界の地球からやって来たの?」

 

朱色の女性がそう聞くと一夏は同意するように頷く。

 

「はい。この街に来る途中で見えた、マクロス・エリシオンでしたっけ、あんなロボット今まで見たことがありません」

 

そう一夏が言うとミラージュも質問してくる。

 

「ですがそれではまだ確信できません。何かもっと証拠となるようなものはないのですか?」

 

アラドは一夏の方を見ると一夏はどうしようか考えていた。そしてポケットに手を入れた瞬間、犯人から奪い返したスマホがあることを思い出し、それを机の上に置く。机に置かれた物に全員目を向け、これは?といった表情で一夏を見る。

 

「これは俺が居た世界で広く使われているスマホって言う携帯です」

 

一夏がそう言うとピンク髪の女性が興奮した様子でスマホを手に取り驚く。

 

「こ、これが異世界の携帯なの?! 凄~い!」

 

「確かに私たちが持ってるものと違う」

 

全員一夏が本当に異世界から来た人だと改めて思い知らされた後、どうして此処に来たのか聞く。そして一夏はアラドと同じように説明する。

 

「以上が俺がこの世界に来た経緯です」

 

「う~ん。その穴が気になるわね」

 

「確かに。フォールド反応とかは無かったのですよね隊長。」

 

「あぁ。謎のエネルギー反応を感知して警備部の連中が格納庫へと行った時に一夏がいたんだ。その時には穴なんてものは無かった」

 

全員一夏が通ってきた穴について考えている中、美雲はある質問を一夏に投げる。

 

「それで一夏はどうしてドイツって言う国にいたの?」

 

そう質問すると一夏は嫌なことを思い出したのか苦い顔になる。美雲は一夏の顔を見て嫌なことが遭ったんだと理解し、謝る。

 

「御免なさい。聞いちゃいけないことだったかしら?」

 

「いや、話しておくべきことだと思いますし、話します。」

 

そう言うと穴のことで議論していた組も美雲と一緒に一夏の話を聞く。

 

「俺がドイツにいたのは姉に無理矢理連れて来られたからなんです」

 

「無理矢理? どいう事なの?」

 

美雲がそう聞くと一夏は自分の家庭内事情、そしてそれのせいで受けてきた苛めなどを説明し始めた。

 

「俺には家族が姉しかいないんです。姉は色んな人から崇拝されるような人物で、それの所為で俺は変な期待を向けられて、出来ないと出来損ないって言われて苛められてたんです。姉からも俺に得意じゃない剣道を無理矢理やらされたりして、出来ないって言っても帰ってくる言葉が『私の弟なら出来るだろが!』っていつも怒鳴られてたんです。自分では大切にしているって言っているがあれはただの家族って言う鎖だけしか見ていないって最近になって思い始めたんですけどね。で、ドイツにいたのはある大会があって、姉がそれに参加するらしくそれで無理矢理ドイツに連れて来させられたんです」

 

一夏の話を聞いたワルキューレとデルタ小隊の面々は何とも言い難い表情を浮かべていた。そんな中ピンク髪のマキナが涙を零しながら同情した。

 

「うぅぅ、いっちーは一杯酷いことに耐えてきたんだね。」

 

「え、えぇまぁ」

 

一夏はまさか自分の話を聞いて涙する人がいるなんて思わずどう対処したらいいのか困惑していると、アラドが決心したかのような顔で一夏に詰め寄る。

 

「よし、一夏。お前今日から俺の息子にする」

 

「「「はい?」」」

 

アラドの突然の宣言に全員変な返事を出してしまった




次回予告
アラドの一夏を息子にすると宣言し、その訳を話すがマキナがそれに反対した。そして言い争いとなり、チャックとミラージュ達が止めに入って行く中、一夏はメッサーにワルキューレ達とは何者か聞く。
次回家族~なら私も混ざろうかしら~


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プロローグⅢ

全員唖然としている中、アラドは一夏を息子にする理由を述べ始めた。

 

「最初は家族の元に帰さないと。と思っていたが、自分の弟を蔑ろにする様な奴の所にお前を帰すわけにはいかん。なら俺が育てて、立派な男にした方がいいと思ってな」

 

アラドの提案に一夏も流石に驚いたが、向こうの世界でも姉の元からさっさと逃げ出し、仲のいい束の元に行こうと考えていたのだ。だったらこの人が自分の親になってもいいんじゃないかと考えていると

 

「ちょっと待った!!」

 

そう叫んだのはマキナだった。

 

「な、何が待ったなんだ?」

 

「いっちーは私たちと一緒に暮らした方がいい! だって歳の近い人と一緒にいた方がいっちーの心の傷を癒せるはずだもん!」

 

そうマキナが言っている隣で緑髪の少女も同意するように頷いていた。大人のアラドは女の子の家に男と一緒に暮らすのは世間的にまずいと言って反対するが、別にいっちーは誠実そうだから問題ないと言って反論するマキナ。そんな言い合いをミラージュやチャックは止めようとしている中、一夏はメッサーの所に避難する。

 

「あの、メッサーさん。質問があるんですが聞いてもいいですか?」

 

「うん? 別に構わないぞ」

 

「メッサーさん達デルタ小隊の皆さんの名前は聞いたんですが、ワルキューレって呼ばれている彼女たちって一体何者なんですか?」

 

一夏がそう聞くとメッサーはそんな事かという表情を浮かべ、ワルキューレについて説明する。

 

「ワルキューレって言うのは音楽ユニットの名前だ。メンバーはあそこにいる4人で、リーダーが朱色の髪の女性で名前がカナメ・バッカニアさんだ。それであそこで隊長と言い争っているピンク髪の女性はマキナ・中島だ。その隣の緑髪の女性はレイナ・プラウラーで、マキナとレイナは仲が良く一緒の家で暮らしているんだ。お前が異世界人だと見破った女性は、ワルキューレのエースボーカルの美雲・ギンヌメールだ。」

 

「へぇ~、そうなんですか。それじゃあ、あの赤紫色の髪の女性は?」

 

「あいつは俺たちと同じデルタ小隊に所属しているミラージュ・ファリーナ・ジーナスだ。」

 

「あ、あの人もデルタ小隊のメンバーだったんですか」

 

その後も一夏はメッサーにこの世界についての質問をしている中、マキナとアラドの言い合いは未だに終わりを見せてなかった。

 

「だから、女の子がそんな簡単に男子を家に住まわせると言っちゃいかんって言ってるじゃないか」

 

「家主が良いって言ってるから問題ないの! レイレイも良いって頷いてるから問題無しだもん!」

 

「ふ、2人とも落ち着いてください!」

 

「た、隊長。流石に店の中で口論はよしてください!」

 

2人が口論しているのを何とか止めようとするチャックとミラージュをあざ笑うかのように、突然美雲が特大爆弾を投下した。

 

「それだったら私の家に一夏を泊めようかしら」

 

美雲の突然の発言に口論していた2人と2人を止めようとしていた2人も驚いた表情を美雲へと向ける。

 

「な、何言ってるんですか、美雲さん?」

 

「あら? 私、可笑しい事言ったかしら? ただ住む場所がないなら私の家でもいいんじゃないのって言っただけよ?」

 

美雲は淡々とした表情で言うと、案の定アラドとマキナが反対した。

 

「だから、女の子の家に男子を簡単にあげちゃダメだって言ってるでしょうが!」

 

「漁夫の利を得ようなんてずるいぞ~、くもくも~!」

 

こうして口論はさらに激しくなり、結局3人でじゃんけんすることとなった。結果は一夏はアラドの元で一緒に暮らすことになり、マキナと美雲は何時でも家に来ていいからと言って、カナメと共にお店から出て行った。

 

 

それから数日となり、一夏は名前をイチカ・メルダースと変えた。イチカが名前を変えて更に数日後、イチカはアラド達デルタ小隊が利用しているハンガーに来ていた。その手には大きめの重箱を入れた袋を持って。

ハンガー内に入ると訓練を終えて戻ってきたのか、汗を拭きながら休憩室に入ってきたデルタ小隊にイチカは手をあげながら挨拶する。

 

「お疲れ様。はい、昼飯」

 

そう言って重箱を机の上に置き、広げる。重箱の段には色とりどりのおかずと、おにぎりが入っていた。

 

「お、旨そうだな」

 

「本当ですね」

 

「確かにな」

 

「料理店を営んでいる者としては、この腕を是非ともうちの店で活かしてほしいぜ」

 

デルタ小隊全員から高評価で褒められ、イチカは照れているとふとハンガーに置かれている大きめの機械に目が行く。

 

「父さん、あれは?」

 

イチカは父親となったアラドに機械のことを聞く。

 

「うん? あれか。あれはバルキリーの操縦シミュレーターだ」

 

「へぇ~」

 

「……やってみるか?」

 

アラドの問いにイチカは一瞬驚くも、バルキリーに興味を持ち始め、操縦方法を勉強していたからアラドに首を縦に頷く。

 

「よし、それじゃあ昼飯食ったらやるぞ」

 

そう言ってアラドは昼飯を食べ始め、他のメンバーも昼飯に手を付け始めた。それから数十分後、昼飯を終えたアラド達と共に、イチカはシミュレーターに向かう。イチカはシミュレーターの中に入ると、中はバルキリーと同じ様なコックピットの形となり、イチカは教本通りだなと思いながらコックピットに乗り込む。

 

「動かし方は大体分かるよな」

 

「うん」

 

「よし、まずは小手調べだ」

 

そう言ってアラドはシミュレーターのモニターにレベル1と打ち込み、スタートボタンを押す。

コックピットにいるイチカの周りは大空が広がっていた。

 

『レベル1、スタート』

 

機械音声が鳴ったと共にイチカは滑走路からスロットルを吹かし、出撃する。出撃して暫くして固定された的が出現した。イチカはその的を難なくバルカンで撃ち抜く。

 

『レベル2、スタート』

 

的を撃ち抜いていく毎に次々とレベルが上がって行くシステムの為、レベルが上がる毎に的は敵バルキリーとなり、反撃や回避行動をしてくるようになった。

 

「……あいつ本当に素人なのか?」

 

「もう38超えましたよ」

 

「まさか天性のパイロット気質があるのか?」

 

「……凄いな」

 

アラド達はイチカの腕に驚く。そうこうしている内にレベルは80を超えた。そこからは新統合軍にいた腕利きのパイロット達も出てくる為が、イチカは油断なく対処していく。背後から飛来するミサイルを超低空飛行で海面擦れ擦れで避け、ミサイルを海面にぶつけ落とす。

 

「……マジか」

 

「あんな高度な技が出来るって、本当に天性のパイロットじゃないのか?」

 

「……」

 

それから更に数十分後、レベルはいつの間にか120を超えていた。そこからは新統合軍、民間の傭兵機関などに所属しているネームドと呼ばれるエースパイロット達も出てくる。そこからは流石のイチカも苦戦し始めた。

 

「そろそろ限界そうだな」

 

「その様ですね。けどこのレベルまでこれたのはある意味凄いですよ」

 

「全くだ」

 

「……」

 

そして遂にイチカの機体ダメージが限界に到達し、ディスプレイに『Aircraft crash』と表示され、イチカはシミュレーターから出るとアラド達が盛大に褒めた。

 

「全く大した腕だな、イチカ」

 

「本当すげぇよ、イチカ!」

 

「全くです」

 

突然褒められた事にイチカは戸惑っていると、メッサーが近付いてきた。

 

「イチカ。お前、あれ程の技量を何処で身に付けたんだ?」

 

メッサーの質問にアラド達も疑問を持った。

 

「コックピットは父さんのお下がりの教本で分かってたけど、操縦方法は向こうの世界にあるゲーセンのリアル戦闘機ゲームでよく遊んでいたからそこで培ったと思う」

 

イチカの返答を聞いたメッサーはなるほどと呟き、アラドに体を向ける。

 

「隊長、イチカの腕を俺の手で育てたいのですが、宜しいでしょうか?」

 

「なに?」

 

メッサーの突然の願いにアラドは驚く。チャック達も珍しい物を見たと言わんばかりに驚く。

 

「イチカの腕を更に磨けば、良いパイロットに育つと思うんです」

 

「ふむ。……そいつは俺が決めることじゃない。本人が決めることだ」

 

そう言ってアラドは視線をイチカに向ける。イチカは答えは決まっていると言わんばかりの顔でメッサーに向ける。

 

「……この腕が誰かの役に立つのなら、俺はこれを活かしたい」

 

その答えを聞いたメッサーは明日から始めるから、遅れるなよと言ってハンガーから出て行った。こうしてイチカはメッサーの下で技量磨きが行われることとなった。

それから更に数日が経つとイチカはデルタ小隊に配属された。




次回予告
月日が経ち、多くの出来事が起きた。デルタ小隊に新たにやって来たハヤテ、そしてワルキューレに入ったフレイヤとの出会い。そしてウィンダミア王国との戦争、そしてイチカにとって兄貴的存在だったメッサーの死。そして惑星ラグナからの撤退。そんな不幸な出来事が続きながらもイチカやデルタ小隊メンバーは懸命に戦い、そして戦いを終局させた。全てが終わったイチカは自分の想いをぶつけに一人の女性に会いに行った。
次回赤い糸の先~君が好きだ~


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プロローグⅣ

イチカがデルタ小隊に入隊して2年が経った。その間に色々な出来事があった。惑星アル・シャハルでヴァ―ル発症者による暴動が起きた際、一人の少女を助けるためにVF-171を扱った、ハヤテ・インメルマンのデルタ小隊の入隊。そしてハヤテが救助した少女がフォールド細菌を抑制出来るフォールドレセプターと言う受容体を持っていて、ワルキューレに新たに入団したフレイア・ヴィオン。

そして、惑星アル・シャハルで初めて遭遇したアンノウンの正体、ウィンダミア王国との戦争。

戦争が始まって暫くしてから、デルタ小隊のエースパイロットだったメッサーの死。メッサーの死はデルタ小隊のみならずワルキューレ達にとっても悲しい別れだったが、それでも全員前へと進んだ。

そこからは更に苛烈を極め、遂に惑星ラグナから撤退を余儀なくされた。だがそれでもデルタ小隊、そしてワルキューレ達は前へと進むことを止めなかった。そして遂に惑星ラグナの奪還、そして終戦をもたらすことが出来た。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

終戦から数日が経った今も、街は倒壊している建物が目立っていたが、それでも着々と復興が進んでいるのが見て取れた。そんな中イチカは夜中にも関わらず、ある場所へと向かって走っていた。そして走り続けて到着したのが街が一望できる展望台だった。展望台には一人の女性が海風を受けた髪を靡かせながら立っていた。イチカは女性に息を整えながら近付く。

 

「すいません、お待たせしました」

 

イチカがそう言うと女性が振り返った。

 

「それで、イチカ。私を此処に呼んだ理由は何かしら?」

 

女性がそう質問すると、イチカは大きく鼓動する心臓を落ち着かせながら自分の想いをぶつけた。

 

「美雲さん、ずっと前から貴女のことが好きでした。だから俺と付き合ってください!」

 

そう言いイチカは思いっきり頭を下げ、手を前へと差し出す。イチカの前にいた美雲は驚いた表情を浮かべるが、直ぐに悲しそうな表情を浮かべる。

 

「……駄目よイチカ。私は普通の人じゃない。だから貴方の言葉は嬉しいわ。けど私じゃなくマキナ達の方がきっと貴方には似合うはずよ」

 

美雲の言葉にイチカは反論した。

 

「そんなことを言わないでください! 例え貴女がクローンだろうが何だろうが俺はそんなこと関係ない。ただ美雲・ギンヌメールと言う一人の女性に恋をしたんです!」

 

「!?」

 

イチカの詞を聞いた美雲は驚きつつもそれでもと言い、断ろうとする。

 

「……それでも、それでも! 私と貴方とでは……」

 

「……美雲さん」

 

胸の前でギュッと手を握り涙を零す美雲を、イチカはそっと抱きしめた。美雲は突然イチカに抱きしめられたことに驚く。

 

「以前、俺がメッサーが死んだのは俺のせいだと自責していた時に、貴女はこうして俺を慰めてくれましたよね」

 

メッサーがデルタ小隊を助けるために、自分のバルキリーを駆使して白騎士と壮絶なドッグファイトを繰り出している時、イチカはその場所からほど近い場所で同じように敵とドッグファイトを繰り出していたのだ。そしてイチカが敵を倒したと同時に、メッサーが死んだのだ。それ以来イチカは、自分がもっと早く敵を倒してさえいたなら、メッサーは死なずに済んだんだ。と、自責の念に押さえつけられていたのだ。そんなイチカを救ったのは、他ならぬ美雲だった。ロッカールームで落ち込んでいたイチカを、そっと美雲は抱きしめ――――

 

『貴方は十分戦った。けどあなた一人の責任じゃない。皆それぞれ責任を感じているの。だからあなた一人だけじゃないわ』

 

その言葉を聞いたイチカは目元から涙が溢れ、溜まらず声を荒げながら泣いてしまった。美雲はただ黙ってそっとイチカを抱きしめていた。

それからイチカは立ち直り、メッサーの次に凄いパイロットになると目標を掲げ、前進しだしたのだ。そんなイチカは何時の間にか美雲と一緒にいることが多くなり、段々と美雲と一緒にいると胸の高鳴りを覚え、自分は美雲に恋したのかと思ったのだ。勿論美雲も同じ感覚を持ち始め、歌った時とは違う胸の高鳴りに不安を覚え、ワルキューレメンバーのカナメに相談したら――――

 

『美雲、それってもしかしたら恋かもしれないわよ』

 

そう言われ、初めて感じたこの胸の高鳴りが恋だと知らされ、美雲は悪くないと思った。だがウィンダミア王国の元宰相ロイド・ブレームに捕まった時に、自身がクローンの人間だと知らされた。その結果、自分の今思っているこの恋は紛い物だと思い込んでしまった。それは助けられた後も、心の中で引っかかっていたのだ。

 

「……確かにそんなことがあったわね」

 

「美雲さん。貴女が普通の人じゃなくても、ちゃんと心で感じられたなら、貴女は歴とした人です。だから辛いことがあっても、俺があなたの傍で支え続けます」

 

イチカの真剣みを帯びた目を見て美雲は、心の中に仕舞っていた思いが沸々と込み上がってきた。

 

「……私歌を歌うくらいしか、得意なものは無いわよ?」

 

「それでもいいです」

 

「料理とかあまり得意じゃないわよ?」

 

「俺が時折教えてあげます」

 

「こう見えても嫉妬深いところがあるわよ?」

 

「どんとこいです」

 

美雲から投げられる質問に、イチカは胸を張ってこたえる。

 

「それじゃあ最後に、……こんな私でもあなたの傍にいてもいい?」

 

「勿論です」

 

その言葉を聞いた美雲は胸にあった手をイチカの腰に手を回す。

 

「ありがとう……イチカ。そして大好きよ」

 

「俺も貴女のことが大好きです。美雲さん」

 

そう言って二人はギュッと抱きしめ合っていた。

 

 

 

数分程抱きしめ合った二人は、自宅へと足へ向ける。イチカは美雲を家へと送り届け、自分も家へと帰ろうとした。

 

「それじゃあ、美雲さん。また明日」

 

「えぇ、また明日ねイチカ」

 

イチカは頬を赤く染めながら家へと帰り、美雲も頬を赤く染めながら家へと入ろうとした時、2人の女性が家の柱の影から現れた。

 

「マキナ、それにレイナも。どうしたの2人ともこんな時間に?」

 

出てきたのはマキナとレイナだった。

 

「今日、いっちーが走って何処かに行くのを見つけちゃってね」

 

「それで、もしかしてっと思って、後を付けたの」

 

美雲は2人の言動から、自分とイチカの告白現場を目撃されたと分かった。

 

「……そう」

 

「ねぇ、くもくも」

 

マキナに呼ばれ、美雲はマキナを見ると、マキナは挑戦的な顔つきで高らかに宣言した。

 

「いっちーとくもくもが付き合っても、絶対にいっちーは私達が奪うからね!」

 

「負けない!」

 

2人の宣言を聞き、美雲は2人もイチカに惚れていると分かると、笑顔になる。

 

「そう簡単にイチカは渡さないわよ。イチカと私の絆は誰にも切れないんだから」

 

「言ったな~! 絶対に負けないからね!」

 

「ワルキューレのメンバーでも、恋愛事ではライバルだから」

 

そう言い、互いに健闘し合う為、握手を交わす。

 

 

 

だが全員知らなかった。運命の時が刻々と近付いていることに




次回予告
デルタ小隊に珍しく、哨戒任務が回ってきたため全員出撃する。そんな時、謎のエネルギー反応を感知したイチカはその場所へと向かう。するとこの世界に来た時と同じ穴が突如出現しイチカはその穴へと吸い込まれる。そしてその穴の先は自分がいたISの世界だった。
次回帰ってきてしまった世界~この世界に帰ってくるって、不幸すぎるだろ~


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プロローグⅤ

すいません、一度プロローグⅤの方を消してもう一度書き直しました。
感想で「メッサーの機体じゃないの?」「VF-30? VF-31じゃないの?」という質問をいただき、少し考えさせられたので一度消しました。

イチカの専用機は結局VF-31Aカイロスを改良したものにしました。不満等あるかもしれませんがご了承ください


イチカが美雲に告白して数日が経過した。イチカが所属しているデルタ小隊に、珍しく哨戒任務が出され、デルタ小隊の面々は各々のバルキリーに搭乗し出撃した。

 

「それにしても、俺達に哨戒任務が回ってくるなんて珍しいですね」

 

イチカ専用のバルキリーVF-31Aカイロスの改良型機、VF-31A2に乗っているデルタ2ことイチカがそう言う。するとデルタリーダーのアラドも同意するように返事する。

 

『まぁ戦争は終わったが、新統合軍の人手不足はまだ解消できてないから仕方がないだろ』

 

『にしても今更哨戒任務って、もう戦争は無いのに出る必要があるのか?』

 

デルタ5ことハヤテがそう言うと、デルタ4ことミラージュがハヤテを咎める。

 

『油断は出来ない。未だウィンダミア王国には戦争継続を望む連中がまだいると聞いているからな』

 

ミラージュにそう言われ、全員嫌な顔になっていると、デルタ3のチャックが嫌なムードを変えた。

 

『ま、まぁ、そんな連中はウィンダミアの休戦派の連中が何とかしてくれるだろ。そう言えばイチカ、お前さん、美雲さんとは何処までいったんだよ?』

 

「はぁっ!?」

 

突然質問を振られたイチカは驚く。

 

「ど、何処までって。そんな質問に答える必要あるか?」

 

『そう言えば、イチカ。お前、この前口が赤く染まっていたがまさか……』

 

「や、やってないからな! 頬にはされたが……。はっ!?」

 

イチカはアラドの口車に乗せられたと気付いた時には既に遅く、通信越しからヒューヒューと茶化す口笛が聞こえてきた。

 

『おぉ~おぉ~、俺の息子は初心だね~』

 

『仕方がないですよ、隊長。男は誰だって、初心で不器用な人間なんですから』

 

アラドとチャックがそう話している中、ハヤテは笑っており、ミラージュは『……羨ましい』と覇気のない声でそう呟いていた。

 

「だぁーーー! この話題は終了! 終了と言ったら終了だからな!」

 

声を荒げながら終了と言い渡し、イチカは哨戒を続けていると、マクロス・エリシオンの艦長、アーネスト・ジョンソンから通信が入ってきた。

 

『デルタ小隊に通達だ。そこから5時の方向に謎のエネルギー反応が僅かに確認できた。至急調査を頼みたい』

 

『了解した。よし、デルタ小隊。俺に続け』

 

アラドの呼びかけに全員返事を返し、反応があった場所へと向かった。現場に到着したデルタ小隊は散開し、反応の正体を調べ始める。

 

『デルタ5からデルタリーダーへ、こっちは特に何にもないぜ』

 

『こちらデルタ4、こちらも特に反応等ありません』

 

『デルタ3、同じく何もない』

 

イチカ以外の全員からの報告を受けアラドは、壊れたバルキリーのせいでエネルギー反応が出たのかと思いつつ、イチカの報告を聞く。

 

「デルタリーダーからデルタ2へ、そっちはどうだ?」

 

『特に反応は無いみたい。反応があったのは壊れたバルキリーが原因かもしれないね』

 

イチカの推論を聞いたアラドは自分の仮説と合っていると思い、全員を集合させようと思い、通信を繋げようとした瞬間、突然強大なエネルギー反応を検知する。

 

「おいおい、マジか!」

 

アラドは急いで、エネルギー反応があった方を調べるとイチカのいる方向だと分かり、全員をイチカの救助へと向かわせた。

アラドはイチカに通信を開き、現状を報告させようとする。

 

「イチカ、大丈夫か! 今そっちに向かってるが、何か変化はあるか?」

 

『………。あ……だ、引っ張られ…‥。…父‥さ…ん!』

 

そう呼びかけると、帰ってきた言葉には、ノイズが入っていてハッキリと聞こえなかった。アラド達はブースターを吹かし、イチカのいる現場へと向かっていると遠目で見にくいが、強大な穴へと吸い込まれそうになっているイチカが乗っているVF-31A2が必死にブースターを吹かして逃れようとしてるのが見えた。

 

「イチカ、持ちこたえろ! 今向かっているからな!」

 

アラドの通信が聞こえたのか、イチカから通信が入ってくる。

 

『父さん!……ブースターが…限界…! 美雲に…戻るって…伝えて…!』

 

その通信が入ってきたと同時に、VF-31A2は穴へと吸い込まれていき、穴は何もなかったように消さった。

 

「イチカーーーーーー!!!!」

 

アラドの悲痛な叫びは暗い宇宙で響き渡った。その後、マクロス・エリシオンに所属している全部隊でイチカの捜索に当たったが、イチカが乗っているVF-31A2は結局見つからず、イチカはMIA(作戦行動中行方不明)に登録された。イチカが行方不明となったことは美雲たちにも伝えられ、イチカに好意を持っていたマキナとレイナはワンワンと泣き出し、恋人の美雲は突然のことに気を失ってしまった。

 

 

 

 

 

その頃イチカはと言うと、謎の穴が突然現れ、また吸い込まれると思い逃げようとブースターを吹かした。しかしブースターが限界まで到達し、成す術なく穴へと吸い込まれた。イチカは、何処かの宇宙空間に吐き出され、宇宙を漂っていた。

 

「こちらデルタ2! 誰かこの通信を拾っていないか? エリシオン! デルタリーダー! ハヤテ! 皆!」

 

そう呼びかけるが、通信は依然として雑音しか流れていなかった。イチカは仕方がなく近くに惑星があるかと思い、周りを調べると一つの惑星を発見しそこへと向かうと、地球と同じ惑星だと思い、大気圏に突入し惑星へと降り立った。

大気圏から出たVF-31A2はそのまま近くの無人島へガウォーク形態で着陸し、イチカはコックピットから地面へと降りた。

 

「はぁ~、一体俺は何処の惑星に降りたんだ?」

 

そう呟きながら海からの夜風を受け、焚火の準備でもするかと思い、近くの森へと足を向けた。

 

~某所~

とある施設のモニターで、世界の状況を確認している機械のうさ耳をした女性は、ぶつくさ文句を言いながら見ていた。

 

「全く、どいつもこいつもISを真の目的で使わないなんてマジうぜぇ」

 

ぶつくさ文句を言っている女性の部屋に、銀髪の少女が入ってきた。

 

「束様、謎の飛行機がX島に着陸したのを確認しました」

 

「マジで! 未知の飛行物体が地球来訪!?」

 

そう言って束と呼ばれた女性は、見ていたモニター画面を換え、銀髪の女性が言った島に衛星のカメラを向けると、確かに戦闘機のようなロボットが着陸しており、その近くで焚火をしている人影を見つけた。

 

「本当にいたよ。しかも焚火してるし」

 

束は取り合えず会いに行ってみるかと思い、人参型ロケットへと乗り込み出発した。

 

 

イチカは近くの森から薪を拾い集め、火をつけ黄昏ていた。そして胸に垂らしているロケットペンダントに入れている写真を眺めていた。写真はイチカに抱き着いている美雲と一緒に撮ったものだった。

イチカは悲しそうな表情を浮かべるが、直ぐに決心した表情を浮かべる。

 

「必ず君の元に戻るからな、待っていてくれ美雲」

 

そう決心を呟いているとバルキリーのレーダーが何か感知したのかアラームが鳴り響いた。イチカは急いでバルキリーに乗り込みレーダーを確認すると、高速で自分のいる所に向かって来ていると分かり、イチカは急いで島から離れようとしたが、その前に何処からか声が聞こえてきた。

 

「そこの未知の飛行機の人、ちょっと待ったーーーーーーー!!」

 

と聞こえ、イチカはまさか。と思いその場で待っていると、近くの浜辺に人参が降ってきた。そして扉だと思われる場所から人が飛び降りてきた。ポーズを決めてまで――――

 

「束さん、登・場!!」

 

イチカはやっぱりかと思いつつ、コックピットから降りる。

 

「いや~、間に合って良かったよ。えっと、言葉って分かる?」

 

そう言って束は必要とあらば、ジェスチャーでもするかと思っているが、イチカは首を縦に振って答える。

 

「普通に分かりますよ、束さん」

 

そう言うと束は凄い形相で見つめ返してくる。

 

「え、今の声って?」

 

そう聞き返すと、イチカはヘルメットを外す。そして束はその顔を見て驚いた。

 

「い、いっくんなの?」

 

「えぇ、俺ですよ。束さん」

 

そう返したと同時に、束は涙を流しながらイチカに抱き着く。

 

「生きてて、生きてて本当に良かった!」

 

そして束が泣き止んだ後に、イチカはこの世界のことを聞く。

 

「束さん、今って何年ですか?」

 

「今? 20××年で、●月△日だよ」

 

イチカは自分があの世界に行って2年が経過しているのかと思い、束にあの日何があったのか説明した。イチカの報告を聞いた束は驚いており、特にバルキリーの事を聞いた束は目を輝かせていた。

 

「す、凄い! そんな技術がある世界に行ってたなんて、羨ましいよ!」

 

束の返答にイチカは苦笑いになっていると、束のポケットから音楽が鳴り響いた。束はポケットに手を突っ込み音源を取り出すとそれはスマホだった。

 

「もしもし終日? クーちゃん? あ、スーちゃん達帰って来たんだ。はぁ~い、それじゃあこっちも用事が終わったからそっちに戻るね。うん、バイビ~!」

 

そう言って束は電話を切り、スマホをポケットに仕舞う。

 

「束さん、今の電話は?」

 

「うん、束さんの助手のクーちゃんからだよ。そうだ、いっくんも家においでよ。どうせ行く場所もないし、その機体も隠さないといけないしさ」

 

そう言われイチカは束の提案に乗り、コックピットに乗り込もうとした時、束がイチカの肩を叩く。

 

「ねぇねぇ、いっくん。物は相談なんだけど、そのロボットに束さんも乗りたいんだけど、良い?」

 

「別に後ろにも席があるからいいですけど、あの人参はどうするんですか?」

 

「大丈夫、大丈夫。自動操縦で家に帰るよう指示できるから問題無しだよ!」

 

そうですか。とイチカは言い、束を後ろのコックピットに乗せる。

 

「束さん、分かってると思いますが装置には一切触れないでくださいよ」

 

「はぁ~い」

 

束の返事を聞いたイチカはバルキリーをガウォークからファイターに変形し、束の家がある方向へと飛ばした。

バルキリーを飛ばしている中、イチカは内心この世界に戻ってきたことに酷く落ち込んでいた。

 

(またこの嫌な世界に戻ってくることになるなんてな)

 

 

 

 

 

用語

VF-31A2

VF-31Aカイロスをマキナとレイナがイチカ用に改良した機体。当初はVF-31Jを渡される手はずだったが、サポートするワルキューレが居なかった。その為、VF-31Aでの戦闘面のサポートと言う役割の為にこれが回ってきた。

メッサーの死後、メッサー機に乗ろうと考えたが自分の翼でメッサーのようなパイロットになると決め、機体をハヤテに譲ったのだ。




色々捏造設定がされていますがご了承ください。


次回予告
束の家へと到着したイチカはそこで、暮らすこととなった。そんなイチカに一人の少女が現れた。そしてこの世界の汚さを更に知ることとなった。そしてイチカは一機のISと邂逅した
次回妹?と専用機~お前もアイツのことが嫌いなんだな~


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プロローグⅥ

イチカは束が教えた方向へとバルキリーを飛ばしていると、島の多い地域へと到着した。

 

「それで束さん。束さんの言う家って何処にあるんですか?」

 

「ちょっと待ってね」

 

そう言って束はスマホを取り出し、電話を掛ける。

 

「あ、クーちゃん? 今飛んでる飛行機って確認できてる? うん、それそれ。滑走路の方出して。うん、お願いね~」

 

そう言って束は電話を切る。するとさっきまで何もなかった島群の一角に巨大な滑走路が現れた。

 

「束さん、これって?」

 

「降りたら説明するよ」

 

そう言われ、イチカは取り敢えず降りるかと思い、VF-31A2を滑走路へと進路を向け着陸させる。イチカは機体を進ませると停止線が書かれている場所へと到着し、そこで止めると機体は地面の下へと降りて行った。

 

「まさか、ここって空母だったんですか?」

 

「ううん、違うよ。結構昔にこの辺りで秘密の航空基地を建造しようってことで、建てられてたんだけど、途中で計画は中断。此処はその建設途中だった航空基地を束さんとその仲間達とで完成させたんだ」

 

イチカはそんな計画がと呟いていると、エレベーターは下まで到着し、イチカはVF-31A2を動かし、空いている場所に停めた。そして荷物を持って機体から降りると銀髪の少女が機体の近くに歩いてきた。

 

「束様、お帰りなさいませ。それと初めまして、一夏様」

 

そう言いながらお辞儀をしてきた

 

「君は?」

 

「私は束様の助手をしております、クロエ・クロニクルと申します」

 

「クーちゃんはね、束さんの助手でもあり、娘でもあるんだよ」

 

そう言いながら束はクロエの後ろから抱き着く。クロエは恥ずかしがりながらも抵抗せずジッとしていた。

 

「……束様、恥ずかしいので止めていただきたいのですが」

 

「やだよ~」

 

そう言ってギュ~と抱きしめ続ける束にクロエは諦めたかのようにため息を吐く。

 

「あら、博士今戻ってきたの?」

 

そう言いながら一人の金髪の女性がやって来た。

 

「あ、スーちゃん。お疲れ~」

 

そう言いながら束はクロエの頭に胸を置きながら手を振る。

 

「全くよ、あそこの連中ったらいろいろ危ない物作ってたから本当に危なかったわよ」

 

そう言いながら金髪の女性はやれやれと言った感じで手を上げた後、イチカに気づく。

 

「それで、貴方ってもしかして」

 

「そうだよ~。彼はいっくんだよ」

 

束は当然と言った感じで言うと女性は驚いた表情をイチカに向ける。

 

「えっ!? だって彼はドイツで行方不明になって死んだんじゃなかったの?」

 

「いや、それは……」

 

イチカは異世界に行っていたなんて言えるわけがないと思っていると

 

「いっくんは異世界に行ってて、ついさっきこっちに戻ってきたんだ~」

 

「ちょっ、束さん!?」

 

イチカはいきなり暴露した束に驚く中、スコールはどいう事と言った疑問の表情を浮かべた。

 

「言っている意味が分からないわよ、博士?」

 

「まぁ説明は束さんがやるから、取り敢えずいっくんは疲れているだろうし、クーちゃん。いっくんを部屋に案内してあげて。確かまだ使ってない部屋があるはずだし」

 

「畏まりました。」

 

束に頼まれたクロエは、イチカを連れ部屋へと案内していく。束はスコールを連れて格納庫を後にした。

 

「こちらがイチカ様のお部屋になります」

 

そう言ってクロエがイチカに案内した場所は、宿直室だと思われる場所で、かなり広めの部屋だった。

 

「ありがとうな、クロエ」

 

「いえ。では何か必要な物がありましたらそちらの壁に掛かっている受話器を取っていただきましたら束様か私に繋がりますので。それでは失礼します」

 

そう言いお辞儀をしてからクロエは部屋を後にした。一人残ったイチカはバルキリーに載せていた服に着替え、この世界の状況を確認しておこうとパソコンを開こうとしたところで扉からノックする音が響いた。

 

「ん? どうぞ」

 

そう言うと扉が開かれ一人の黒髪の少女が入ってきた。その顔を見たイチカは驚愕の表情を浮かべた。

 

「初めましてだな、兄さん」

 

そう言って黒髪の少女は近づいてくる。イチカはなんでアイツに似ている少女が。と疑問で頭が一杯だった。

 

「……やはり驚くよな。この顔を見れば」

 

少女は自虐的な笑みを浮かべているとイチカは閉ざしていた口を開いた。

 

「……お前は一体誰なんだ?」

 

「私か? 私は織斑マドカ。お前の姉、織斑千冬のクローンだ」

 

マドカと名乗った少女にイチカはある言葉に驚いた。

 

「く、クローンだと?」

 

「あぁそうだ。私は織斑千冬のクローンだ」

 

イチカはマドカの言葉を聞き、手で顔を覆い怒りを零した。

 

「クソッ! 結局この世界でも人の命を兵器みたいに創造するのかよ!!」

 

イチカの突然の怒りの言葉、そしてまるで自分と同じような人間を知っているかのような言葉にマドカは疑問を浮かべた。

 

「どういう事だ? まるで私と同じような人間と会ったかのような口ぶりだったぞ」

 

マドカの問いにイチカは正直に話した。自分が異世界に行ったこと、そこであった出来事、そしてマドカと同じように命を造られ、兵器として利用されようとした自分の恋人のことを。

 

「――――これがさっきの口ぶりの理由さ」

 

マドカはイチカの言葉を聞いて自分と同じように造られたのに、仲間やイチカのお陰で救われたんだと、羨ましいと思ってしまった。

 

「……そうだったのか。けど私とその彼女じゃ違うな。私は信頼できる奴がいない」

 

マドカの言葉にイチカはただ黙ってマドカの頭を撫で始めた。マドカは突然のイチカの行動に驚きつつも胸に安心するような気持ちが芽生え、黙って受けていた。

 

「お前は信頼できる奴がいないと言っているが、此処には束さんもいるし、クロエ、そしてスコールさんだっけ? 信頼できる奴らが沢山いるじゃないか? 勿論俺もお前の傍にいてやるからよ」

 

イチカにそう言われ、マドカは何故か分からなかったが目元から涙が流れ始め、イチカは泣き止むまで頭を撫で続けた。

 

 

 

 

イチカが束の家?に居候を初めて4日が経った。そんな中で変わったこととすればマドカが、名前をイチカと同じ『マドカ・メルダース』へと改名したことくらいだ。

ある日、イチカは束に呼ばれある一機のISの前にいた。

 

「それで束さん。このISは一体何なんですか?」

 

「これは最近起動もしなかったISのコアを積んだ機体なんだけど、実はこれを見て欲しいの」

 

そう言って束はイチカに、レポートを見せた。そこには此処1週間ほどのデータだと思われるものが書かれていた。

 

「これのどこを見ればいいんですか?」

 

「この表なんだけど、実はこのISのコア、いっくんがこの世界に帰ってきてから起動したんだよ」

 

「はぁ? どいう事ですかそれ?」

 

「束さんもそればっかりは分からないんだ~。もしかしたらこの機体はいっくんにのみ反応する特別な機体かも知れないんだ。だから試しに」

 

そう言って束はイチカの方に体を向ける。

 

「この機体に一度触れてみて欲しいんだぁ」

 

そう言われイチカはえぇ~と言った嫌な表情を浮かべる。

 

「束さん、それは流石に…」

 

「お願い! この通り!」

 

そう言って束は思いっきり頭を下げてきたため、イチカは仕方がないと思いISに近付き触ると、突然目の前が光で覆われ気付いたらISを身に纏っていた。

 

「やっぱりか。ねぇいっくん、何処か可笑しいとことかない?」

 

「いや、特に何も」

 

イチカの報告を聞いた束はフムフム。と空中モニターに何かを入力していた。

そして束は何かを決断したのか真剣な表情になる。

 

「よし、いっくんIS学園に行こう」

 

「はぁ!?」

 

突然の言葉にイチカは驚く。

 

「な、なんでそんなとこに行かなきゃいけないんですか?」

 

「理由はデータが余りないからそのデータ取集が目的と、いっくんをこのまま此処に居させてもただ時間を潰すだけ。それだったら此処から出てISの扱いになれておけば向こうの世界に戻った場合でも少しでも役に立つかもしれないからね」

 

そう言われイチカはまぁ確かにそうだがと思い、仕方がなく了承する。

 

「勿論いっくんと同じようにマーちゃんもいるから安心してね」

 

束はそう言ってイチカが乗っていたISを回収する。

 

「この機体はいっくんが入学する前日に渡すから、それまで楽しみにしててね」

 

こうしてイチカはIS学園に行くこととなった。




次回予告
IS学園に入学したイチカとマドカ。入ったクラスが4組でイチカ、そしてマドカは取り合えず自己紹介をしてクラスメイト達と仲良くなり始めた。面倒な奴がクラスに訪れてくるまでは
次回IS学園入学~仕方がないな、兄さん。私が勉強を見てあげるよ~


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1話

「民間軍事会社『エンシェントセキュリティー』社で戦闘機のパイロットをしてる、イチカ・メルダースだ。世界初の男性操縦者と言う事で、色々迷惑を掛けるかもしれないがよろしく頼む」

 

イチカがそう自己紹介をし席に着くと、拍手が起きた。イチカが今いるのはIS学園の1年4組のクラスだ。

 

「同じくエンシェントセキュリティー社でパイロットをしているマドカ・メルダースだ。名前の通り、イチカ・メルダースとは兄妹だ。兄共々よろしく頼む」

 

そう言いマドカの自己紹介を終えた。マドカの自己紹介を終えた後クラスの担任であるエリシア・長谷部がSHRを始めた。

 

「はい、ありがとうございます。では先ほどの自己紹介の通り、今年から世界初の男性操縦者が我がクラスに入っております。皆さん、女尊男卑なんてくだらない風潮で彼に喧嘩を売らないように。ではまずクラス代表を選ばないといけないので誰かやる人はいませんか?」

 

エリシアがそう言うと周りは一斉にイチカに目線を向けるが、イチカは立ち上がり拒否する。

 

「済まないが、俺とマドカは何時仕事の依頼があるか分からないから、学園側からそう言った役割にはならなくてもいいと許可を貰っているんだ」

 

そう言われ多くの生徒が残念と落ち込み、クラスの中にいる代表候補生が代表という事でいいかとエリシアはクラスに聞くと、全員賛成と手をあげた。そしてクラスの中で唯一の日本代表候補生の更識簪が選ばれた。本人は不服そうだったが全員から頼まれ、仕方なく簪は引き受けた。

そしてSHRは終わり、エリシアは今日から授業が始まるため、遅れないようにと言い教室から出て行く。イチカは参考書(束作)を机から取り出し勉強を始めようとした。ある程度理解はできるが、バルキリーと違いISは強化スーツを身に纏うと言った物の為、イチカには少し難しいなと思っているとき、マドカはイチカの横に移動し、横から勉強を覗く。

 

「……ふむ。難しいな」

 

「兄さんはずっとパイロットをしていたからそりゃあ難しいよね」

 

そう言いマドカはジー。とイチカの勉強を見ていた。イチカはマドカの行動が頼って欲しいと思ってジー、と覗いているんだろうなと思いある提案を出した。

 

「マドカ、悪いが勉強を教えてくれないか?」

 

「…! し、仕方がないな兄さん。私が分かるところまで勉強を見てあげる」

 

頬を赤く染めながら明後日の方に視線を向けながらそう言った。イチカはありがとうな。と言いマドカの頭を撫でてやると嬉しそうな顔を浮かべた。そして授業開始前までマドカに勉強を見てもらい、1限目の授業でイチカは問題なくついてこれたとのこと。

 

そして2限目の開始前の休み時間、イチカはマドカに教えてもらった所をもう一度復習しているとクラスの生徒達がイチカに話しかけてきた。

 

「えっと、今いいメルダース君?」

 

「ん? 別にいいが」

 

そう言うと生徒達は疑問に思っていた事を質問してきた。

 

「えっと、メルダース君達って民間軍事会社の社員なんだよね?」

 

「あぁ、そうだ。と言っても入ったのは2年くらい前なんだけどな」

 

「そうなんだぁ。あ、という事はISはどうするの?」

 

一人の生徒がそう聞くと周りにいた生徒達も確かにと思い始めた。イチカは世界初の男性操縦者の為、データ収集を行う必要がある為だ。

 

「ISはわざわざ会社が用意してくれたんだ。因みにマドカもISを持ってるぞ」

 

イチカがそう言うと生徒達はマドカにも視線を向けた。

 

「え! つまり兄妹共々会社から専用機を送られているって言う事? 凄~い!」

 

全員イチカ達の企業がペーパーカンパニーだと知らずに、自分も入りたいと言い出しているとイチカが釘をさす。

 

「いや、やめておいた方がいいと思うぞ。PMCは金を貰って仕事をする。それは人を殺す事だって含まれてるからな。だから酷い光景を見ることだってあるから、人生を棒に振りたくなかったらやめておいた方がいいぞ」

 

そう言われ、生徒達は確かにと思い始めた。PMCは警護、戦闘など軍事的サービスで経営している会社であるからだ。派遣される場所は色々あり、虐殺された子供の死体がある場所もあれば、人間の臓腑がまき散らされた戦場に送られることもある。更に作戦中に死亡した場合は、事故死として世間や親族に詳細を告げられずに墓地へと送られることもあるのだ。その為多くのPMCは軍人、特に特殊部隊などに所属していた精神が鍛えられた人物でなければきつい仕事なのである。

 

「そ、そうね。ごめんなさい、ちょっと考えが浅かったわ」

 

「……うん」

 

全員落ち込んでいたが、直ぐに明るくなり他の質問をイチカに投げたりした。

そして時刻は放課後となり、イチカとマドカは寮へと行こうとすると教室にスーツを着た女性が入ってきた。イチカはその姿を見て

 

(うわぁ、いるとは聞いていたが本当にいたのかよ)

 

と内心嫌悪感を出していた。

 

「マドカ、帰るぞ」

 

「うん」

 

イチカとマドカは寮へと帰ろうと教室の後ろの扉から出て行こうとすると、スーツの女性が止めた。

 

「待て、一夏!」

 

そう言ってイチカ達の元に寄ってきた。イチカは面倒くさいと思いつつその場で止まった。

 

「何か? 早く寮の部屋に帰って明日の予習をしたいんですが」

 

イチカがそう言うと女性は、言い方に違和感を覚えたような表情を浮かべるがすぐに振るい去りイチカの肩に手を置こうとする。

 

「今まで何処にいたんだ! ずっと心配していたんだぞ!」

 

そして肩に手を置こうとした瞬間、イチカはその手を払った。

 

「!?」

 

「誰と勘違いしているか知りませんが、止めてもらえませんか?」

 

そう言い、イチカはマドカを連れ帰ろうとする。

 

「ま、待て一夏!」

 

そう言い女性はイチカの腕を掴もうとするが、マドカがその手を払った。

 

「止めろ。さっきから兄さんの家族みたいに近付いて、兄さんの家族は私と父以外いないんだからそれ以上兄さんに近付くな」

 

そう言いマドカはイチカと女性の間に入る。

 

「邪魔をするな!」

 

そう言って女性はマドカを出席簿で叩こうとすると、振り下ろそうとした腕が掴まれた。

 

「私の生徒に何をしているんですか、織斑先生」

 

腕を掴んだのはエリシアだった。

 

「……邪魔しないでください。これは私と一夏の問題です」

 

「邪魔? 私は自分の生徒を守るため行動しているんです。それと彼は貴女の弟さんじゃないんですよ」

 

エリシアは織斑の腕を力強く握りしめ、離さまいとしていた。

 

「2人とも、もう帰っていいわよ。彼女は私が抑えておくから」

 

そう言われイチカとマドカは、エリシアに頭を下げてから寮へと向かった。

 

 

寮の部屋へと入った2人は大きく息を吐いた。

 

「全く、いるとは聞いていたがまさかストレートで来るとは思わなかったな」

 

「本当だね。それにしてもあそこまで暴力的だとは思わなかった」

 

「あれが、アイツの本性さ。自分の思い通りいかないとすぐに暴力を振るう。昔と全然変わっちゃいない」

 

イチカはカバンに入れていたミネラルウォーターを口にし、肩の力を抜きペンダントの写真を見る。

 

「そう言えば、そのペンダントって何時も身に付けているけどそんなに大切なモノなの?」

 

マドカはイチカが何時も身に付けているペンダントに気になりそう聞くと、イチカはペンダントに入っている写真をマドカに見せた。

 

「あぁ。これは前、お前に言った俺の彼女と一緒に撮った写真が入っているんだ」

 

「へぇ~、綺麗な女性だね」

 

マドカは素直にそう思い褒める。そして夕飯を食べ、風呂に入り、布団に入って初日を終了した。




次回予告
朝SHRをしようとした4組に織斑が入ってきて、イチカを1組に入れると言い出した。そんな我儘が通るはずもなく織斑は出て行かされた。そして放課後、自身のISを確認したい為、マドカと共にアリーナへと向かう。そこでイチカは自身のISが他とは違う単一機能だと知る。
次回VF-31A2 ファルコ始動!~こんなワンオフ聞いたことが無いよ!~


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2話

翌日、イチカとマドカが教室に入り、イチカは昨日と同じように予習を始め、マドカはイチカの隣で勉強を教える。そんな光景を見ていた生徒達は兄妹仲が良いなぁと見ていた。そしてチャイムが鳴り、それぞれ席へと戻るとエリシアが教室へと入ってきた。

 

「はい皆さん、おはようございます!」

 

「「「おはようございます!」」」

 

全員初日の頃とは違い、肩の力が抜けエリシアの挨拶に元気よく返すと、エリシアは笑顔になる。

 

「いい返事ですね。ではSHRを始め「失礼する」……織斑先生、今SHR中なんですが」

 

突然織斑が入ってきたことにエリシアは嫌悪感たっぷりの顔を織斑に向ける。

 

「イチカ・メルダースを1組に入れるためここに来た」

 

「はい? 何をいきなり言い出すんですか貴女は?」

 

織斑の突然の言葉にエリシアは呆れた顔を出す。勿論イチカとマドカも同様に。

 

「貴女では彼の世話は難しいと思ったから、提案したんです」

 

「別に結構です。私は自分が持ったクラスの生徒には親身に接して育てるというモットーがあるんです。それを突然横から奪うようなことはしないでいただきたいですね」

 

エリシアはそう言い、織斑を睨む。織斑もエリシアを睨んでいると、織斑が入ってきた扉から初老の女性が入ってきた。

 

「織斑先生、一体何をしているんですか?」

 

「……が、学園長」

 

学園長と呼ばれた女性に織斑は体は向けるが視線を合わせようとしなかった。

 

「山田先生から突然4組のメルダース君を迎えに行くと言って出て行った、と報告を受け見に来たら一体何をしているんですか?」

 

そう言われ、織斑は肩をビクッと跳ね上げ視線を更に明後日の方向へ向ける。

 

「……このまま此処で問いただしてもエリシア先生にも生徒達にも迷惑が掛かるので続きは学園長室で行います。織斑先生、付いてくるように」

 

そう言われ織斑は悔しそうな顔を浮かべながら出て行く。学園長もクラスにお騒がせしましたね、と言って頭を下げて出て行った。

 

「ふぅ~、五月蠅い人も出て行った様だからSHRの続きをしますよ」

 

そう言い、エリシアはSHRを続けた。クラスにいた生徒達はある意味織斑千冬より凄い先生だと思ってしまった。

 

放課後となり、イチカはマドカと共にアリーナへと向かうと丁度使用していた生徒達が出てきた。

 

「お、終わったみたいだな。マドカ行こうか?」

 

「うん」

 

そしてイチカとマドカはアリーナへと入り、イチカは自身のISを展開する。

 

「それが兄さんのISの……」

 

「俺が乗っていたバルキリーをコンセプトに束さんが造りあげた機体、VF-31A2 ファルコって言う名前らしい」

 

イチカは自身が乗っていたバルキリーのバトロイド形態をコンセプトに創り上げられたISに、バルキリーに乗っていた時と同じ感覚が舞い込む。

 

「初めて乗ったはずなんだが、なんだかよく乗っていたっていう感覚があるな」

 

「え? う~ん、本来はそんな感覚は無いはずなんだけど、何でだろう?」

 

イチカとマドカは頭を必死に捻るが答えは出ず、まぁいいかと結論付けIS操作の続きを始める。

 

「えっと、武装はと」

 

そう言いイチカはファルコの武装を確認するためディスプレイを投影する。其処には両腕にビームバルカン、そしてマイクロミサイル、背中にビームガンポッド、そして近接用のアサルトナイフと表示されていた。

 

「ほぼ俺のバルキリーと同じじゃん」

 

「やっぱり博士って、凄いね。」

 

イチカとマドカは束の技術力に驚きを通り越して、呆れた顔を浮かべた。

 

「えっと、それで単一仕様はどうなってるの?」

 

マドカは話題を変えようとファルコの単一仕様を聞くと、イチカはディスプレイをスクロールし下の方を見る。ディスプレイの下の項目にあったが、そこには

 

『単一仕様:女神達の歌 

 内容:特定の条件が満たされることで発動することが出来る。発動した場合、その条件によって効果はそれぞれ違う』

 

「何これ?」

 

「分からん、本来条件とか無いんだろ?」

 

イチカの問いにマドカはうん、と頷く。

 

「取り合えず、武装だけ先に確認するか」

 

そう言いイチカは準備しておいた的に両腕のバルカン、そしてビームガンボットを的に向け発射する。バルカンとガンボットは快調に発射され的を射抜く。

 

「次、マイクロミサイル」

 

そう言ってミサイルを複数の的にロックし、発射する。ミサイルも特に問題なく的に命中していった。

 

「次、アサルトナイフ」

 

イチカはアサルトナイフを取り出し近接用の案山子に向けナイフを振る。案山子はズバッと音を立てて切り捨てられた。

 

「さて、武装は問題ない。だがやっぱりワンオフが問題だよな」

 

そう言いイチカはワンオフを起動するが、ディスプレイが表示される。

 

『ERROR:条件が満たされていません』

 

「条件って何なんだよ」

 

そう言ってイチカはISを解除する。マドカはイチカの元に寄り、ミネラルウォーターを差し出す。

 

「はい、これ」

 

「サンキュー、マドカ」

 

そう言いイチカは水を飲む。閉館までまだ時間があるし、しばし休憩。とマドカに伝えイチカはスマホを取り出し、イヤホンを耳に装着し音楽を流す。その光景を見ていたマドカはイチカがどんな曲を聴いているのか気になりイチカの肩を叩く。イチカはイヤホンを片方外し用件を聞く。

 

「どうしたマドカ?」

 

「いや、兄さんはよく音楽を聴いているから、どんな曲を聴いているのか気になって」

 

そう言われ、イチカは外した方を戻し反対の方のイヤホンをマドカに差し出す。マドカはイヤホンを受け取り耳に装着する。

 

「いい曲だね」

 

「あぁ。俺の彼女が所属している音楽ユニットが出している曲だ」

 

イチカが今聞いているのはワルキューレが出している曲の一つ『いけないボーダーライン』だ。

 

「何だかこの曲を聴いていると、不思議と体の奥から力が湧いてくるみたいだ」

 

マドカの何気ない一言にイチカは、ある一つの可能性を閃く。イチカはファルコの待機形態であるドッグタグにコネクターを挿しスマホと繋げる。そしてさっきまで聴いていた曲を入れる。すると曲はERRORと表示されずに入り、他の曲を入れようとしたが、『ERROR』と表示されイチカは1曲までしか入らないのかと思い、コネクターを外す。

 

「ど、どうしたの兄さん?」

 

「いや、ちょっと試したいことが出来た。マドカ、的の準備をしてくれ」

 

イチカにそう言われマドカは疑問を持ちながらも的の準備をしに行く。そして準備が終わり、イチカはISを展開する。

 

「……頼む」

 

そう呟きイチカは単一仕様を発動すると、機体から歌が流れ始め、そして淡い緑色の光が漏れ出した。マドカは突然イチカの機体から光が出てきたのと、歌が聞こえてきたことに驚く。

 

「行くぞ!」

 

そう言ってイチカは両腕のバルカンを出し、的を射抜いていく。そのスピードはさっきまでとは違い格段に速くなっていた。そして次にミサイルを発射するときもさっきまでとは違いロックオンするスピードが早く、発射するスピードも速くなっていた。

そして的をすべて倒し終えた頃には歌が止み、光も出ていなかった。

 

「す、凄い」

 

マドカはさっきまでとは違う動きをしたことに驚きが止まらなかった。そしてISを解除したイチカに駆け寄る。

 

「まさかあれが兄さんのISのワンオフの力なのか?」

 

「あぁ。しかもこの歌を入れてあの技が出たという事は、他の歌を入れるとこれとは違う力が出るのかもしれないな」

 

「!?」

 

イチカの言葉にマドカは驚く。マドカは、一つしかない能力だが、歌を入れ替えることでいろんな技を出すことが出来ると思ったからだ。

 

「凄いよ、兄さん! そんなワンオフ、私今まで聞いた事が無いよ!」

 

マドカは興奮気味でイチカに寄る。イチカは突然興奮した様子で近付くマドカに苦笑いになる。

 

 

 

今回発動した能力

発動後、数分の間攻撃速度が数倍上がる。




曲ごとに発動する能力はゲームの方から選んでいきます。
嫌、それは無理があるだろとかの批判は止めてくださいね。自分としてはこれがいいと思ったからこうしたので

次回予告
イチカがIS学園に入学して暫くした後、2組に転校生が入ってきた。その人物はイチカのよく知っている人物だった。そして昼休み、同じクラスにいる更識簪から相談を受け、一緒に食堂に行く。そこで信じられない事を聞かされる。
次回転校生登場~いや、知らないぞそんな話~


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3話

イチカがIS学園に入学して数日が経ったある日、イチカとマドカが教室に入ると、クラスは何かの話題で持ちきりだった。

 

「何かあったのか?」

 

「さぁ?」

 

二人は頭を傾げているとクラスメイトの一人が2人に近付き、挨拶を交わす。

 

「おはよう、2人とも。ねぇ聞いた? 2組に転校生が来るんだって」

 

「転校生? 此処に転校生が来るってそんなに珍しいのか?」

 

「本来は入学式に来るのが多いけど、代表候補生とかだと専用機の受領とかで遅れることが偶にあるって聞いた事があるの。もしかしたら……」

 

「転校生は代表候補生かもしれないと。それで騒然としていたのか」

 

イチカは代表候補生が入学して来ることに対して、全く興味無しと言った表情になり、マドカもイチカ同様興味無しと言った表情で席に着く。

すると教室の前側の扉が開かれ、一人の生徒が入ってきた。

 

「ねぇこのクラスのクラス代表って誰?」

 

「え? えっとあそこにいる彼女だけど……」

 

クラスの一人がそう言うと、生徒は簪の元に行く。簪は空間ディスプレイで何かの作業をしており、近づいてきた生徒に一切目もくれず作業を続けつつ、対応する。

 

「なに?」

 

「あたし2組のクラス代表になった、凰鈴音よ。よろしく!」

 

「そぉ。じゃあそろそろ戻ったら。もうすぐ先生来ると思うし」

 

簪の素っ気ない態度に鈴は、カチンとなる。

 

「……あんた作業を一度止めて、こっちに顔を向けるのが一般常識じゃないの?」

 

「今忙しいから無理」

 

2人の周りが険悪な雰囲気になったところでチャイムが鳴り、エリシアが入ってきた。

 

「はぁ~い、皆さんチャイムが鳴りましたよ。全員席に着きなさい、それと凰さんは早く2組に帰りなさい」

 

エリシアにそう言われ、鈴はしかめっ面を出しつつクラスから出て行こうとすると、1組の男女に目が行く。

 

「この公式はこうやって解くんだ。で、次の問題はこれを応用すれば解けるぞ」

 

「なるほど、航空学はどうしても分からなかったが、兄さんの教え方は旨いから頭にスラスラと入ってくるぞ」

 

男子は、ははは、そうか。と笑いながら、問題が解けた女子の頭を撫でる。女子は照れながら笑みを浮かべている。

 

「……一夏?」

 

鈴は行方不明となった幼馴染の名前を呟き、その男女に近付こうとした瞬間、首根っこを掴まれ上げられる。そして顔を捕まえ上げた人物の方に向ける

 

「凰さん、先生は早く戻りなさいって言ったわよね」

 

其処にはニコニコと笑顔を浮かべつつも、額には青筋を浮かべているエリシアがいた。鈴は小猫の様にガタガタと震え始める。

 

「さっさと教室に戻りなさい!」

 

そう言ってエリシアは鈴を廊下に放り投げると、鈴は、はい!と大声で叫んで自身の教室に戻って行く。

 

「全く、それではSHRを始めます。その前にメルダース君、体を妹さんの方から私の方に向けてね」

 

「あ、はい」

 

イチカは体をエリシアの方に向け、SHRを聞く体制になる。そしてSHRが始まった。

 

 

そして時刻は昼時となり、イチカとマドカは食堂に行こうと立ち上がると、

 

「ねぇちょっといい?」

 

そう言って話しかけてきたのは簪だった。

 

「ん? 別にいいが」

 

「少し相談があるの」

 

イチカは相談?と頭を傾げていると、マドカが一つ提案する。

 

「此処じゃ何だし、食堂のプライベートルームに行かない?」

 

そう言われ、簪は了承し3人は食堂へと向かった。食堂に着いた3人はそれぞれ定食などを頼み、食堂の奥にあるプライベート用の個室に入る。入る際、食堂の入り口付近で人だかりが出来ていたが、3人は気にせず中へと入っていた。プライベート用の個室とは、周りに聞かれたくない事などを特定の友達に相談したい時などによく使われている防音対策が施された個室である。使用には教師に、使用目的などを明確に伝えないと使用できないと言う制限付きだが。今回は簪が、食堂に行く途中でエリシアの携帯に電話し、使用許可を取っている。

 

「で、相談ってなんだ?」

 

イチカはご飯に手を付けつつ、簪に相談内容を聞く。簪は言いづらそうな顔でいたが、直ぐに意を決したような表情で言う。

 

「実は私の専用機がある理由で凍結にされたの」

 

「凍結? つまり開発中止って言う事か?」

 

イチカの返答に簪は頷く。

 

「確か、更識さんの「私の事は簪でいい」それじゃあ簪さんで。で、簪さんって確か日本代表候補生だよね?」

 

マドカの問いに簪は頷き、肯定する。

 

「でしたら本来代表候補生のISの製作が優先されるはずです。けど凍結されると言う事はそれなりの理由があるってことですよね」

 

「貴女の言う通り、向こうから一方的な理由で凍結にされたの」

 

「一方的? どういう理由なんだ?」

 

イチカの問いに簪は、ため息を吐くように答える。

 

「……男性操縦者用のISを作るから君のISは凍結が決まったって言われたの」

 

「はぁ? 何だよそれ、俺知らねぇぞ」

 

イチカは呆れたような表情で答えると、簪は首を縦に振る。

 

「多分そうだと思ってた。だって私もあのクラスで貴方が専用機を持っている事は聞いてたから、必要ない事は知ってたし」

 

「じゃあ何でそんな話が出てくるんだ?」

 

イチカの疑問に簪がその理由を答えた。

 

「勿論メルダース君が専用機を持っている事を研究員の人に言ったけど、上からの指示だから無理だって言われた。で、誰からの依頼なのか聞いたら」

 

「織斑千冬だろ?」

 

「え? 何でわかったの?」

 

マドカの推論に簪は驚いていると、イチカは舌打ちする。

 

「全く、問題事しか起こさないなあいつは」

 

「だね。兄さんはお前の弟じゃないって今度は体で教えてやろうかな」

 

「止めとけ、後処理がめんどい」

 

突然二人が物騒な事を言いだし、簪は流石PMCに所属してるだけの事はあると思っていると、イチカが突然スマホを取り出し、何処かに電話を掛け始めた。

 

「あ、もしもし、イチカです。はい、実はさっき聞いた話なんですが、自分の専用機が許可なく作られているって聞いたんです。はい、何処のかですか?ちょっと待って下さい」

 

イチカは耳からスマホを離し、簪に顔を向ける。

 

「簪さん、簪さんのISが作られている会社の名前は?」

 

「倉持技研って言う研究所だけど」

 

企業の名前を聞いたイチカはスマホを耳に戻し、話を続けた。

 

「倉持技研って言う企業みたいです。で、依頼したのが織斑千冬みたいです。はい、では後はそちらでお願いします。はい、失礼します」

 

イチカはそう言って電話を切る。

 

「えっと、何処に掛けてたの?」

 

「何処って、俺が所属しているPMCの社長だ。正式に抗議の電話出しておくって言ってたよ」

 

そう言い、簪は行動が早いと思っているとマドカがあることが気になり、簪に質問を投げる。

 

「そう言えば、簪さんのISは今どうなってるの?」

 

「今は学園の整備室の一つを借りて、そこでISを組み立ててる」

 

「え!? まさか一人で作ってるの?」

 

マドカの問いに簪は頷き、肯定した。

 

「一人で作るなんて、無茶だよ」

 

「大丈夫。機体自体はもうほとんど出来てるんだけど、システムがまだ出来てないの……」

 

簪はそう言い、落ち込む。イチカとマドカはどうするかと悩んでいると、そのシステムのどこがまだなのか聞く。

 

「そう言えば、システムと言うが結構あるんだが、何処の部分のシステムなんだ?」

 

「歩行、飛翔などは出来ている。武装もある程度出来ているけど、ある発射システムがまだ出来てないの」

 

「発射システム?」

 

「マルチロックオンシステムって言う、複数の目標にロックオンしてミサイルを発射するシステムなんだけど、どうしても複数の目標にロックが出来ないの」

 

そう言うと、イチカは自身のISに積んでいるシステムもマルチロックシステムだよなと思い、ディスプレイを展開する。

 

「なぁ、簪さん。そのシステムなんだが、俺のISにそれと似たシステムを積んでいるんだが」

 

「え!? 本当に!」

 

そう言い、イチカが展開しているディスプレイを見ようとするが、イチカが寸でで止める。

 

「お、おい! 少し待てって。今から見せられないところを塗りつぶしていくから」

 

そう言い、イチカはディスプレイ上に出ているマルチロックシステム以外の部分を見られないように塗りつぶしていく。

 

「はい、これがそのシステムの内容だ」

 

そう言いディスプレイを簪の方に向けると、簪は食い入る様に見る。

 

「……す、凄い。これ私が構想していたシステムとほぼ似てる」

 

「そうなのか?」

 

「うん。……羨ましいな、ちゃんとシステムまで作ってくれる研究員が居る所で」

 

簪は落ち込みながらそう呟くと、イチカはふむ。と手を顎に添え暫く考え込むと、おもむろにスマホをもう一度取り出し、またどこかに電話を掛ける。

 

「あ、もしもし。うん、マドカも元気にしているよ。所で今大丈夫? うん、実はクラスの代表候補生のISが凍結されたって、社長から聞いてる? うん、それ。実はその子の機体自体は出来てるらしんだけど、あるシステムがまだ出来てないらしくて、そのシステムが俺のISに積んでる、マルチロックシステムと同じものらしんだ。それでそのシステムデータをコピーして渡してもいいかな? 良いの? ありがとう。うん、分かった。ちゃんと帰りますよ、それじゃあ」

 

イチカは電話を切り、簪に電話の内容を伝える。

 

「簪、そのマルチロックシステムのデータ、コピーとってもいいぞ」

 

「本当に! けど良いの? 企業のデータだよねこれ」

 

「さっき掛けた相手は、こいつを作ってくれた博士だよ。で、聞いてたと思うが、二言返事でOKが出たんだ。それとメールにこれを送ってくれたよ」

 

そう言ってイチカはあるソフトを簪に送る。

 

「これは?」

 

「一人でISを作るって事は、色々不具合が隠れている可能性があるから、その不具合を発見してくれるソフトらしい。重宝してくれってさ」

 

そう言われ、簪は手を貸してくれたイチカ、そしてその博士に心から感謝した。

 

「……ありがとう。本当にありがとう!」

 

そう言い簪は頭を下げる。

 

「まぁ、クラスメイトが困ってるならそれを手助けするのが、クラスメイトだからな」

 

「うん、私も出来ることがあれば手伝うよ」

 

そう言われ簪は涙ぐみながら、ありがとう。と何度も言いながら頭を下げた。




次回予告
教室でイチカとマドカが勉強していると、一組の箒がやって来た。そしてイチカを2年前行方不明になった織斑一夏ではと聞くが、イチカは知らないと言う。箒はしつこく聞いていく内にマドカのイライラが限界を超え、箒を気絶させ廊下に放り捨てる。それから数日後クラス代表が行われた。
次回クラス代表戦~クラスのみんなの想いを背負ってるんだから頑張らないと~


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4話

「で、戦闘機に乗る際はこのテクニックが重要とされるんだ」

 

「なるほど、このテクニックが習得できないとミサイルの回避は難しくなるのか」

 

教室でイチカは、戦闘機乗りに必要なテクニックについてマドカに教えていた。すると教室の前の扉から一人の生徒が入ってくる。イチカはその生徒が束の妹、篠ノ之箒と気づき、我関せずと言った感じでマドカの勉強に付き合っていると、箒は2人の元へとやって来た。

 

「……ちょっといいか?」

 

「……」

 

「なに? 今勉強で忙しんだけど」

 

イチカは返事をせず、目線を一度箒に向けまた目線を教本へと戻す。マドカは返事こそするが勉強を邪魔されたことに対し、かなりイラついた表情をさらけ出す。

 

「……お前、千冬さんの弟の一夏じゃないのか?」

 

「はぁ? お前何言ってんだ?」

 

マドカは突然現れた箒に呆れた表情を浮かべ、そう言うとイチカも同じように否定する。

 

「悪いが、俺は織斑先生の弟じゃないぞ。と言うか、織斑先生の弟は既に死亡したと聞いているが」

 

そう言うと、箒は机に思いっきり手を叩きつける。

 

「嘘をつくな! お前は千冬さんの弟で私の幼馴染の一夏だろ!」

 

そう叫んできたため、周りの生徒は何事だと顔を向ける中、イチカやマドカはうんざりと言った顔を浮かべる。

 

「悪いが、本当に知らないんだ。もういいだろ? 妹の勉強を見てやっている途中なんだ」

 

そう言いイチカはマドカに続きをさせようとする。箒はそれが気に食わなかったのか、拳を造りイチカに殴り掛かろうとしたが、その前にマドカの拳が箒の鳩尾に入り箒は膝から崩れ落ちた。

 

「……勉強の邪魔をするな糞野郎」

 

そう呟き箒の髪を掴み上げ廊下に放り捨てる。廊下に放り捨てた際、マドカはもう一度箒の鳩尾に向け蹴りを一発お見舞いしてから教室へと戻ってきた。

教室は突然の事に驚いていると、エリシアが教室へと入ってきた。

 

「廊下で篠ノ之さんが、お腹を抑えて蹲ってたけど何かあったの?」

 

教室にいた生徒達全員何も見てないと首を横に振り、イチカとマドカは勉強を続けていた。

 

「そう、何もなかったのね。それじゃあ3時間目の授業を始めます。メルダース君、体はこっちに向けてね」

 

「は~い」

 

こうして何時も通りの授業が始まった。その中生徒達はさっき見た光景は胸の内に仕舞っておこうと決めたそうだ。

 

 

それから数日後、クラス代表戦が始まりイチカとマドカは、クラスメイト達と観戦室で眺めており、今は2組対4組の試合が始まろうとしていた。

 

「それにしても簪さん、凄いな」

 

「うん。1組のクラス代表、しかもBT兵器が搭載されているISに勝てたからね。けどあれだけの実力が付けられたのは兄さんのお陰でもあると思うぞ」

 

簪は自身のISを完成した後、クラス代表戦が始まる前日までイチカとマドカに訓練を付けて貰っていたのだ。最初でこそ簪はイチカやマドカにものの数分でやられていたが

、訓練を付けて貰ってから数分が数十分へと伸び簪の実力は着実に積んだのだ。

1組と4組の戦いでは簪は落ち着いた気持ちと程よい緊張感をもって試合に臨んだ結果、簪は今年の首席と呼ばれた1組のクラス代表に勝てたのだ。

 

「さて、次の対戦相手は2組か」

 

「そのようですね。そう言えば兄さん、小さなツインテールの生徒に付き纏われていると前に言ってましたが、あれから大丈夫でしたか?」

 

「ん? あぁ、まぁ大丈夫だったぞ」(それにしても何処かで見たことがある奴だったが、何処で見たかな?)

 

イチカは何処かで見たことある生徒に頭を捻りながら考えていると、アリーナに簪と鈴が現れた。

 

「ん? 兄さん、あそこにいる生徒って」

 

「あ。俺をストーキングしてた奴だ」

 

そう言うと周りにいた4組の生徒達は驚いた表情を向ける。

 

「嘘? 彼女、中国の代表候補生なのよ?」

 

「え? 中国だと」

 

そう言うとイチカは2組のクラス代表をよく見て、思い出したと呟き手を叩く。

 

「思い出した! アイツ、凰じゃないか」

 

「え? 兄さんの知り合いなのか?」

 

「あぁ、俺の幼馴染だ」

 

そう言いながら試合を見ていると試合開始の合図が鳴った。

 

その頃アリーナでは。

 

「さぁて、ちゃっちゃと倒してやるから覚悟しなさい!」

 

「負ける訳にはいかない。皆の想いを背負ってるんだから!それに、イチカ君やマドカちゃんに折角訓練を付けて貰ったから!」

 

そう言い、簪は薙刀の柄をギュッと握る。

 

(やっぱりあそこにいたのは一夏だったんだ。それにしてもアイツの傍にいた女ってマドカって言うの。どういう関係かしら?)

 

鈴はイチカの傍にいたマドカがどう言った人物か考えていると、試合開始のアラームが鳴った。

鈴はアラームが鳴ると我に返った頃には、目の前に薙刀を振り下ろそうとしている簪がおり、鈴は急いでその場から飛び退く。

 

「危ないわね!」

 

「よそ見していた貴女が悪い」

 

簪も同じく鈴から距離を置き、薙刀を再度握りしめる。鈴も双天牙月を構え直す。

 

「……言ってくれるじゃない。いいわ、本気で行ってあげる!」

 

そう叫び、鈴はブースターでジグザグで移動しながら近づき、双天牙月を構える。簪はジグザグで動く鈴本人をロックするのは難しいと思い、鈴が移動する方向を予測しミサイルロックする。

 

「地点ロック完了、……ミサイルファイヤ!」

 

そう叫ぶと、数十発のミサイルが発射されロックされた地点へとミサイルが向かう。鈴は移動していたポイントにミサイルが飛来してくるのが見え、急いで機体を反転させてミサイルを交わす。

 

「チッ! どんだけミサイルを撃つのよ!」

 

そう言いながら鈴は、龍咆を展開し圧縮した空気弾を放つ。放たれた空気弾は接近するミサイルを巻き込みミサイルを別の場所へと落とさせる。

 

「やるじゃない」

 

「あんたもね」

 

そう言い、鈴は展開した龍咆の照準を簪へと向けつつ笑みを浮かべ、簪も同じように薙刀を構え直し、笑みを浮かべていると突然避難アラームが鳴り響いた。突然の事に簪達は驚いていると、アリーナの上に張っていたシールドが破壊され一機のISらしき機体が降りてきた。その機体は濃い緑をしていた。

 

「ちょっと、いきなり乱入だなんて何処の誰よ」

 

「……」

 

緑の機体は何も言わず、ただ沈黙しており左腕に付けたビーム砲を突然鈴達の方に構え攻撃を開始する。

 

「いきなり攻撃!?」

 

鈴と簪は急いでその場から離れる。

その頃観戦室にいたイチカは驚いた表情を浮かべていた。

 

「何でこの世界にドラケンⅢが……」

 

イチカはこのままでは不味いと思い周りを見ると、観戦室にいた生徒達は急いでアリーナの出入り口へと向かい、外へと脱出を開始していた。すると突然通信が入り、イチカはそれに出ると画面にはスコールが映っていた。

 

「スコールさん何か用ですか?」

 

『今さっきIS学園の学園長から、其処に出現している所属不明のISの撃退を依頼してきたわ。2人は直ぐにアリーナにいるISの撃滅をお願い。それと指示は随時こちらから出すから、現場指揮を任されている織斑千冬の指示には従わなくてもいいわ』

 

「了解です」

 

そう言いイチカは通信を切り、マドカに顔を向ける。マドカはその顔を見て事情を察する。

 

「依頼が来たんだな?」

 

「あぁ、行くぞ」

 

そう言うとマドカは頷き、イチカと共に駆け出す。

 

イチカとマドカは避難する生徒達の反対方向へと行き、ピットへと入り出撃準備をする。すると通信が入りそれに出ると千冬だった。

 

『そこで何をしているメルダース兄妹!』

 

「何って、学園からの依頼であれの討伐の為此処に居るんです。あ、それと我々の指揮権は貴女にはありませんので。では失礼します」

 

そう言いイチカは通信を一方的に切り、マドカと共にアリーナへと出る。アリーナへと出ると鈴と簪の状態は酷く、既に装甲がボロボロだった。

 

「交代だ」

 

「っ! イチカ君、マドカちゃん!」

 

「まさかあんた達2人でやる気? 無茶よ! 此処は私達も」

 

「既にSEなどが乏しい2人が居ても邪魔なだけ。だから早くピットに引っ込んで」

 

マドカがそう言うと、鈴は顔を真っ赤にさせて怒鳴る

 

「邪魔ですって! 大体私は「分かった。2人とも気を付けてね」ちょっと、離しなさいよ!」

 

簪は暴れる鈴を引きずってピットへと避難し、アリーナにはイチカとマドカしかいなかった。

 

「さて、マドカのISは何時でも戦えるよな?」

 

「勿論。足手まといになるつもりはない」

 

そう言いマドカは自身のIS『サイレント・ゼフィルス』に装備されているBT兵器を展開する。

 

「さて。おい、お前。一つ聞く、その機体は何処で手に入れた?」

 

「……」

 

イチカの問いに緑の機体は何も言わず、ただ黙って攻撃をしてくる。

 

「無視か。なら機体から引きずり降ろして聞くまでだ!」

 

そう言いイチカはミサイルを発射させ牽制する。緑の機体は左腕に付けているビーム砲を背中に付け、元から付いていたであろうビームバルカンでミサイルを撃ち落とす。

 

「やっぱりドラケンⅢに似ているな。マドカ、奴の背中に付いているビーム砲を破壊してくれ。あれを撃たれるとシールドを貫通して生徒達が危ない」

 

「了解」

 

マドカは展開したBT兵器を、あちらこちらに配備し、攻撃を開始する。BT兵器から放たれたビームはドラケンⅢとは違う方向へと発射されるが、突然ビームの方向が変わりドラケンⅢへと向かう。ドラケンⅢは突然自分の方向へとビームが曲がり迫ってくることに対応できず攻撃を受ける。ビームの一つが背中にあったビーム砲に命中し爆発し、背中から強い衝撃と熱を受けたドラケンⅢは倒れ込む。

 

「……どういう事だ?」

 

イチカは今見えている光景に疑問しか湧かなかった。

 

「兄さん、あれって」

 

「あぁ、機械だな」

 

ドラケンⅢの背中から見えたのは、本来人が居るところが機械で一杯で、其処に人なんていなかった。

 

「ロボットなら躊躇いなくできるな」

 

そう言い、イチカはワンオフを起動する。流れ始めた曲は『AXIA~ダイスキでダイキライ~』だ。

 

発動した後、イチカは一気にドラケンⅢの懐に入り込みアサルトナイフで切り込む。本来だったら浅くまでしか刺さらなかったナイフは、ワンオフ発動中は深々と刺さりドラケンⅢから黒煙が上がり始める。イチカはその後、何度もナイフで斬り込み完全に動かなくなったのを確認しその場から退避すると歌は終了し、同時にドラケンⅢは爆散した。

 

「エネミー、シャットダウン」

 

「お疲れ、兄さん」

 

マドカの労いの言葉に素直にありがとうと言い、イチカもマドカを褒める。

 

「マドカの援護がなければ、こんなに早く片付かなかったし、マドカもお疲れ様」

 

そう言い頭を撫でると、マドカは照れた表情をあまり見せないように顔を下に向ける。

すると通信が入り、イチカが出ると画面には学園長が現れた。

 

『お2人ともお疲れ様です。お疲れの所大変申し訳ないのですが、学園長室に来ていただいても宜しいでしょうか?』

 

「報告ですか? それでしたら構いませんが」

 

『ありがとうございます。では学園長室でお待ちしております』

 

そう言い、学園長は通信を切り、イチカはマドカと共に学園長室へと足を向けた。

 

 

発動した効果

起動中は攻撃力が数段上がる




次回予告
報告をしに学園長室へと向かったイチカとマドカ。中に入ると千冬や担任のエリシアなどの教師と他に1年の専用機持ちがいた。イチカとマドカは報告をして、部屋から出て行こうとすると千冬がイチカのISを没収しようとしたが学園長に阻止される。そして寮へと戻る途中に鈴が話があると言ってイチカを屋上に呼ぶ。
次回報告~この機体は私の専用機だから~


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5話

イチカとマドカはアリーナから学長室がある場所へと向かっていた。そして学長室へと到着し扉をノックする。

 

『どうぞ、お入りください』

 

そう中から聞こえ、イチカとマドカは中へと入る。学長室へと入ると、現場指揮を任されていた千冬、そして管制室にいたであろうエリシアと緑髪の教師と専用機持ちの2組の凰、1組のセシリア、4組の簪が居た。

 

「御足労いただきありがとうございます」

 

「いえ、こちらも依頼を受けた身。依頼主に報告するのは当たり前なので」

 

そう言いイチカは報告を始める。

 

「では、報告を始めます。学園長がエンシェントセキュリティー社に依頼後、社長から自分達に依頼の事を伝えられ、ピットへと行き出撃しました。アリーナへと出ると更識代表候補生と凰代表候補生が、アンノウンと交戦中で2人の機体は既にボロボロだった為、2人をピットへと退避させマドカと共にアンノウンと交戦しました。交戦の最中、敵が装備していたビーム砲をマドカが破壊したところ、本来人が乗るところが機械で埋め尽くされており、無人機と判明し、単一機能を用いて撃破しました。報告は以上です」

 

「……そうですか。無人機についての詳細を山田先生、お願いします」

 

学園長はそう言い緑髪の教師、山田真耶にアンノウンの詳細を報告させる。

 

「はい。あのISには確かに人は乗っていませんでした。機体についての詳細なんですがコアは何とか無事でしたが、他が相手に知られないようにする為なのか分かりませんが、ほぼすべてが黒焦げの状態でデータの抽出は恐らく無理だと思います。コアの方も初期化されており、分かったのはコアに残っていたシリアルナンバーで、調べたところ2年前イスラエルにあるIS研究所で盗まれたコアだと判明したことだけです」

 

「……そうですか。分かりました、では今回の件は皆さん学外に漏らさないようお願いします。エンシェントセキュリティー社側も今回の件を外部に漏らさないようお願いしてありますので」

 

そう言い学園長は全員退室してもいいと言おうとしたところで、セシリアが手をあげる。

 

「学園長、少し宜しいでしょうか」

 

「何か? オルコットさん」

 

「彼女の持っているISの事です」

 

そう言いセシリアはマドカに指さす。マドカは怪訝そうな顔を浮かべており、イチカも同様だった。

 

「マドカさんのISがどうかしましたか?」

 

「……彼女の持っているISは我が祖国、イギリスで開発されていたサイレントゼフィルスです。テロリストの襲撃で盗まれたと聞いてましたが、何故貴女がその機体を持っているのか、それを聞きたいのです」

 

そう言うと周りにいた人は全員マドカの方へと視線を向ける。マドカは呆れたような顔つきでため息を吐く。

 

「何だそんな事か」

 

その言葉にセシリアは頭にきて、声を荒げる。

 

「そんな事ですって! その機体は元々我が祖国の物です! 即刻返しなさい!」

 

「この機体はもう私の専用機になってる。返してほしかったら会社に連絡して返還用の手続きをとれば? けどその代わりお前が国から怒られるのが先だと思うけどな」

 

「な、なんですって?」

 

セシリアはうろたえるようにそう聞くと、マドカはめんどくさいと言った目つきで答える。

 

「だって、この機体をテロリストから奪還したのはうちの会社なんだよ? で、私のBT適性値が高いことが分かったから機体を売ってくれって社長が言ったら喜んで売ってくれたよ。つまりこの機体はうちの会社が政府にちゃんと手順に則って買い取った機体だから」

 

そう言いマドカはイチカに帰ろ。と言い帰ろうとするとセシリアは納得できないのか声を荒げる。

 

「待ちなさい! そんなことで納得できるはずないでしょ!」

 

「そんなに信じられないなら、国の役人に聞いたらどうなんだ?」

 

イチカはめんどくさいと思いながらそう促すが

 

「黙りなさい! 男の癖にわたくしに指図しないでくださる?」

 

そう言うとイチカはあ、バカ。と思ったと同時にセシリアの首が何者かに捕まれ持ち上げられる。

 

「……お前、今兄さんに何て言った?」

 

セシリアの首を持ち上げていたのはISを展開したマドカだった。

 

「もう一度聞く。今兄さんに何て言った?」

 

マドカは殺意の篭った目をセシリアに向けながらゆっくりと首を絞めて行く。

 

「あがっ!…、がっ!……」

 

セシリアは必死に首を絞めている手をどかそうとするが、相手はIS。外れることは出来ず、成す術なく只足をバタつかせることしかできなかった。

 

「マドカ、その辺にしておけ」

 

イチカがそう言うと、マドカはISを解除する。セシリアは床にドサッと落ち、むせるように呼吸を整える。

 

「……マドカさん、今回は目を瞑っておきますがあまりそう言ったことはしないようお願いします」

 

学園長は冷や汗を額から垂らしつつそう促すと、マドカはフンッ。と鼻を鳴らして踵を返し、イチカと共に学園長室から出て行く。

 

「山田先生、彼女を保健室へ」

 

「は、はい!」

 

そう言い真耶は、セシリアに肩を貸して保健室へと連れて行く。その後簪や凰も退出してもいいと伝え、残った2人に学園長はあることを伝える。

 

「さて、貴女方に残ってもらったのは他でもありません。イチカ君とマドカさんの事です。」

 

「イチカ君達が何か?」

 

エリシアがそう言うと、千冬が進言する。

 

「学園長、メルダース兄妹の機体は提出されたデータと大きく違いがあると思われます。再度こちらで調べ直す必要があります」

 

そう言うと、学園長は大きく息を吐く。

 

「……織斑先生、彼らはPMC所属の生徒です。実戦経験があるかどうかは分かりませんが、元軍人などが所属しているPMCなどではこのような事態にも対処できるよう訓練されているはずです。その為提出されたデータは基本的な機体性能で、戦闘になった際のパイロットの技量などを含めたら、提出されたデータと大きく誤差が出るのは当たり前です。その為調査の必要はありません」

 

そう言われ、千冬は奥歯を力強く噛み締める。

 

「では続きを話します。エリシア先生、今後こう言った事態に陥った際に恐らくまた彼らに依頼を出すと思われます。その為彼らには学園長権限で特例の学園警備権限を与えようと思っております」

 

「それはつまり、彼らに教師部隊の様に学園の警備に出てもらうってことですか?」

 

エリシアがそう言うと学園長は頷く。

 

「そうです。その際に学園警備の主任は今織斑先生になっておりますが、彼らに指示を送るのはエリシア先生、貴女にお願いしたのです」

 

学園長がそう言うと、真っ先に千冬が反対した。

 

「待って下さい! 学園の警備主任は私です。それなのになぜ私ではなく、彼女に任せるのですか!」

 

「この際ですから、エリシア先生の本職を話しておいた方が宜しいのでは?」

 

学園長がそう言うと、エリシアはそうですね。と同意し、自身の所属を明かす。

 

「私はエンシェントセキュリティー社から派遣された社員よ。メルダース君達が問題なく学生生活が送れているか、その観察と我が社の社員に侮辱等を行ってくる人間が居ないかの監視を社長から頼まれて、此処に居るの」

 

「な、なぜこのような人物を入れたのですか!」

 

「先ほど彼女が言った通り、世界初の男性操縦者という事なので、妹さんだけ警備につかせていても不安があるという事なので彼女も学園に所属させたいと、先方から頼まれたので受け入れた次第です。現に問題を起こしている教師や生徒が居るようなので受け入れてよかったと思っておりますし」

 

学園長からの鋭い視線を受け、千冬は視線を逸らす。

 

「では、話は以上です。エリシア先生、彼らにもこのことは伝えておいて下さいね」

 

「えぇ分かっております。では」

 

そう言い、エリシアは学園長室から出て行った。

 

「……では、私も」

 

千冬もそう言い出て行こうとしたが

 

「待ちなさい。貴女には色々と聞かないといけないことがあるので、もう暫く此処に残ってもらいます」

 

「聞きたいこと? 何ですそれは?」

 

「エンシェントセキュリティー社に許可なく、メルダース君のISを製造したことです」

 

そう言われ、千冬は体を強張らせた。

 

「エンシェントセキュリティー社から、抗議の電話が来ましてね。一体どういう事なのか詳しく聞かせてもらいますよ」

 

その後、千冬には1年間の減俸とイチカに授業以外の話しかけ禁止を言い渡された。

 

 

 

 

その頃イチカとマドカは廊下を歩いて食堂へと向かっていた。

 

「マドカ、あの金髪の首を絞めたのは俺が侮辱されたからか?」

 

そう言うとマドカは特に返事することなく、首を縦に振る。

 

「そうか。……ありがとうな」

 

そう言いイチカはマドカの頭を撫でてやった。マドカは怒られると思っていたのかイチカの手が頭に乗った瞬間、体が一瞬ビクッとなったが撫でる行為だと分かると大人しく受けていた。

 

「ねぇ、ちょっといい?」

 

そう声を掛けられ、2人は後ろを振り向くと鈴が立っていた。

 

「何か用か凰さん?」

 

「私の事は鈴で良いわよ。ちょっと話があるんだけど、いい?」

 

そう言われイチカはマドカにお金を渡し、トンカツ定食を頼んでおいてくれと頼み鈴と共に屋上へと行く。

 

屋上へと着いた鈴は柵の方へともたれるように立つ。イチカは向かい側で立っていた。

 

「で、用ってなんだ?」

 

「うん。アンタって織斑一夏じゃないの?」

 

そう言ってきてイチカは怪訝そうな顔を浮かべる。

 

「何でそう思ったんだ?」

 

「そりゃあ何となくかな? 小4の頃から一緒にいたからそう思っただけ」

 

そう言うとイチカは屋上の入り口に目線を一瞬目線を向けた後、目線を戻す。

 

「悪いが、人違いだと思うぞ」

 

そう言うと鈴は、何か言いたげな表情を浮かべるが、口をつぐむ

 

「……そう。分かったわ。ごめんなさいね、手間とらせて」

 

「いや、構わない。じゃあな」

 

そう言い屋上を後にするイチカ。鈴は悲しそうな顔を浮かべつつ夕日を眺める。

屋上の出入り口の扉を開け、建物内に入ったイチカは陰に隠れている人物に向け、言葉を投げる。

 

「コソコソするのは構わないが、あまりそう言ったことをすると間違えて撃つかもしれないので、用があるならちゃんと面と向かって言ってくれ」

 

そう言い階段を降りて行く。影から現れた人物は簪と同じ水色の髪をした女性だった。

 

「……そうね。面と向かって言える日が来たらちゃんとお礼を言うわ」

 

 

屋上を後にしたイチカは、食堂で待っていたマドカ、そしてその隣には簪がおり、イチカも席に着いて一緒に夕飯をとった。

 

 

その夜、イチカは鈴をもう一度屋上に呼び出した。

 

「悪いな、今度はこっちが呼び出して」

 

「別に良いわよ。で、用って何よ」

 

そう聞かれ、イチカは簡潔に言うぞ。と言う。

 

「夕方、お前が言った通り俺は織斑一夏だ」

 

そう言うと鈴ははぁ?と言った顔になる。

 

「ちょ、ちょっと待って。じゃあなんであの時違うって言ったのよ」

 

「いや、俺達以外の人が居たからな、あぁ言わざるを得なかったんだよ」

 

「な、なるほど」

 

鈴は納得するよう頷き、拳を握り締めるが、直ぐに解く。

 

「で、アンタこの2年何処に行ってたのよ? めちゃくちゃ心配してたのよ?」

 

「悪いが、それは言えない。それと―――」

 

「分かってるわよ。織斑はもう捨てた名だ。でしょ。何年アンタと付き合ってたと思ってるのよ」

 

そう言われイチカはフッと笑みを浮かべる。

 

「……それよりさイチカ、一つ聞いてもいい?」

 

「なんだよ急にしおらしく聞いてきてよ?」

 

イチカは頭に疑問符を浮かべていると、鈴は言いづらそうな顔になりつつも必死に口を開く。

 

「その、この2年にさ、す、す、好きな人とかって出来たの?」

 

「はぁ? 何だよいきなり?」

 

「い、いいから答えなさよ!」

 

そう怒鳴られ、イチカは怪訝そうな顔になりつつも答える。

 

「あぁ、いるよ」

 

そう言うと鈴は一瞬驚いたような表情を浮かべ、直ぐ乾いた笑みを浮かべる。

 

「そ、そっか、いるんだ。……その、その子大切にしないさよ」

 

そう言われイチカはさっきから何なんだと疑問に思いつつあぁ。と答える。

 

「そ、それじゃあ私部屋に帰るね」

 

「お、おう」

 

イチカの返答を聞いた鈴は、屋上を後にして寮へと入って行く。鈴は段々と歩きが早くなり気づいたら走って部屋のベッドで寝ていた。そしてイチカに恋人がいる事を思い出した鈴は隣で本を読んでいたティナが驚くほどの大声で泣きだす。暫くして泣き止み、スッキリとした顔で風呂へと向かった鈴。親友のティナは何だったんだ一体と疑問を思いながら風呂へと向かう親友の背中を見送った。




次回予告
学園はGWに突入し、イチカとマドカはISの整備の為エンシェントセキュリティー社へと戻った。ISの整備中、イチカは久々に乗るかとバルキリーに乗り込む。するとマドカが格納庫に現れ、一緒に乗ると言いイチカは乗せ、空へと飛び出す。そしてGW終了後、学園にまた転校生がやって来た。
次回飛ぶ楽しさ~ISと違って楽しいぞ!~


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6話

クラス代表戦から数日が経ち、学園はGWに突入した為イチカとマドカはISの整備をする為エンシェントセキュリティー社へと帰ろうとしていた。

 

「忘れ物は無いよな?」

 

「あぁ。ナイフも持ったし、拳銃も腰のホルスターに入ってるから大丈夫だ」

 

そう言いイチカとマドカは部屋から出て学園の門へと足を向ける。その途中前方から簪と鈴が歩いてやってきた。

 

「あら、あんた達どっか行くの?」

 

「あぁ、ISの整備の為一度エンシェントセキュリティー社に帰るんだ」

 

「イチカ君とマドカちゃんの所属しているPMCだっけ? 気を付けてね」

 

簪にそう言われイチカはおう。と短く返事をしてマドカと共に歩き去って行く。

 

「それにしてもアイツがPMCにねぇ」

 

「鈴はあの2人がPMC所属だって知らなかったの?」

 

「えぇ。イチカは昔から戦闘機の操縦ゲームは結構得意だってのは知ってたけど、まさか本当の戦闘機のパイロットになってたのは今の今まで知らなかったからね」

 

簪はふとマドカのことを言ってない事に気づき聞く。

 

「マドカちゃんは?」

 

「マドカは私が昔あいつと遊んでいた時には見たことが無いわ。前に聞いたら生き別れた妹だって、言ってたからそれで初めて知ったのよ」

 

そうなんだ。と簪は呟き、仲の良い兄妹で羨ましいと思ってしまった。

 

「そうだ、簪。この後暇?」

 

「え? う、うん特にすることは無いけど。どうして?」

 

「レゾナンス近くに新しいケーキ屋が出来たの知ってる? あそこのケーキ食べ放題の券を友達から貰ってね。で、これ3人1組の券だからアンタともう一人誘って行こうかなと思ったんだけど。どう?」

 

簪は幼馴染の子が喜びそうと思い、鈴の提案に乗り自身の幼馴染を呼びに鈴と共にその場を後にした。

 

 

 

学園の門へと着いたイチカとマドカの元に一台の車が停まった。

 

「よぉ、お二人さん。お迎えに来てやったぞ」

 

そう言い運転席から顔を出したのは栗色の髪の女性だった。

 

「お久しぶりです、オータムさん」

 

「久しぶりオータム」

 

そう言い2人は後部座席へと乗る。

 

「それじゃあ出すぞ」

 

そう言いオータムは車を発進させ空港へと向かわせた。車の中では先日学園を襲撃してきたISについての話題が出ていた。

 

「で、束さんは先日襲撃してきたISについて何か言ってました?」

 

「……いんや、何も言ってないぜ。」

 

オータムは何かを隠すかのような言い方をし、イチカはそれを見過ごさなかった。

 

「オータムさん、何か知ってるんですか?」

 

「オータム、別に話してもいいと思うぞ」

 

イチカとマドカの言葉にオータムは深く息を吐き、答えた。

 

「わーったよ、話してやるよ。あの機体は1年程くらい前に俺達を襲ったISに酷似していた」

 

「襲った? どういうことですか?」

 

イチカの問いにマドカとオータムは苦虫を潰すような顔で話し始めた。

 

「俺達は昔『亡国機業』と言う組織に所属していた。目的はISを戦争利用しようとしている国からISを強奪だ。もちろんきれいごとな仕事じゃないことは知ってる。だがこれ以外の方法は知らなかったし、これ以外の方法はなかった。そんなある日だ、あいつ等が襲ってきたのは―――」

 

オータムは悔しそうな顔で思い出すように呟く。

 

「当時、俺達は本部で休息をとっていた時に突然攻撃を受けたんだ。勿論俺達は迎撃に出たが、強力なビーム砲を装備し、更にあちこちに組織の人間を派遣していたから本部には迎撃に出れるほどの戦闘員はいなかった。その為すぐに本部は陥落、重役のほとんどを殺されたが、俺達は何とか逃げ切ったのだが何機かに追尾され遂に追い付かれここまでと思っていた。だが突然黒色のISが何処からともなく現れ追尾していたISを撃退した。そのISが現れてすぐに人参型ロケットが現れ束が出てきたのだ。そして束は俺達3人を保護し、襲ってきた連中を仕返すために各地に隠れた工作員を集めるため束と共に行動していたんだ。」

 

「そんなことが」

 

「それでオータム。今エンシェントセキュリティー社にはどれほどの人員が集まったんだ?」

 

オータムは悔しそうな顔を浮かべながら息を吐く。

 

「まだ戦闘員と非戦闘員を合わせても半分くらいだ。しかも戦闘員だけにするとまともに戦えるほどの人数はいねぇ」

 

「……そうか」

 

マドカは仕返しはまだ無理かと思い座席に深く座り込む。

オータムはニヤリと顔をマドカに向けた。

 

「そう落ち込むな、マドカ。何時か俺達に攻撃した連中に報いを受けさせてやるからよ」

 

そう言われマドカも口元を少しだけ上げて、分かってると呟く。

 

「と、そろそろ空港に着くぞ」

 

そう言いオータムは車を空港の滑走路内へと進め、大きめの輸送機へと車をその中へと入れた。

 

「C-130ですか。よく手に入りましたね」

 

「ISの導入で、軍縮となった国から安く買い取ったってよ。因みにパイロットはウチの元工作員だよ」

 

そう言いながら車から降り、奥へと行くオータム。イチカ達もオータムに続き奥へと進み座席へと座る。すると機内アナウンスが流れ始めた。

 

『アテンションプリーズ、当機は間もなくエンシェントセキュリティー本社へと向かいます。お客様はシートベルトをしっかりと締めてください。なおシートベルトランプが消えるまでは座席から立たたないでください。センキュー!』

 

「……パイロットの方ってあぁ言う性格なんですか?」

 

イチカは困惑した表情でオータムに聞くと、我関せずと明後日の方向に顔を向け

 

「知らん」

 

とだけ呟いた。その間に機体は動き出し速度を上げ高度を上げた。イチカ達は本を読んだり椅子を幾つか倒して仮眠をとったりとエンシェントセキュリティー社到着までの時間を潰した。

 

そして暫くして機体の高度が下がり始めるを感じ、イチカは窓から外を見るとエンシェントセキュリティー社本社を置いている航空基地が見えた。その様は自身とマドカが出た時とは違い、様々な駆逐艦にフリーゲート艦、更に航空母艦まで置かれていた。地上には色々な戦闘機、更には戦闘ヘリまであった。

 

「戦闘ヘリまで調達したんですか」

 

「凄いね」

 

「お前らが居ない間に本格的なPMCとして活動を始めたからな。と言っても人員不足が問題だがな」

 

オータムの呟きを聞いていると、地上の一角に戦車など大型戦闘車両もあった。

 

「地上用の戦闘車両とかも用意したんですか」

 

「航空と海上だけ戦力を集結しても地上戦力が無ければ、仕事にならないからな」

 

そう言われイチカはなるほどと思いつつ席へと着く。そして機体は滑走路に着陸しC-130はそのまま近くの格納庫へと機体を入れた。イチカ達は機体から降り指令室が置かれている地下へと降りて中へと入ると、中にはスコールが指示を出していた。

 

「そうよ、南アフリカに恐らくまだ潜伏しているはずだから必ず見つけて」

 

『了解です。ですが……』

 

「分かってるわ。また殺されているかもしれないって言うんでしょ。今ここで死んでいると決めつけるわけにはいかないの。私達は一人でも多くの仲間が必要なの」

 

『…分かりました。全力を尽くします!』

 

そう言い画面に映っていた女性工作員は通信を切り、スコールはふぅ~。と息を付くように席へと座る。

 

「ただいま戻りました、スコールさん」

 

そう呼ばれ後ろにいたイチカとマドカに笑みを浮かべ出迎える。

 

「あら、2人とも今戻ったの? ごめんなさいね、バタバタして気付かなかったわ」

 

「いや、気にしないで下さい。人員が不足しているのはオータムさんから聞きましたから」

 

そう言いイチカとマドカはスコールが見ているディスプレイを眺める。ディスプレイには世界地図が出ており、所々に赤い点が打たれていた。

 

「この赤い点が亡国機業の工作員が潜伏している場所なんですか?」

 

「! そうよ。オータムから聞いたの?」

 

「えぇ。スコールさん達が亡国機業と言う組織に所属してISを正しい使い方をしない国から奪っていると聞きました。そしてIS学園で現れたIS群に襲われたと」

 

スコールはそう。と呟き自身の右手を眺める。

 

「ねぇイチカ君。この手、何処かおかしなところがあると思う?」

 

「? いや、特にありませんが」

 

イチカがそう言いと、スコールは第1関節部分を何かをすると、そっと腕を取り机の上へと置いた。

 

「!? スコールさんそれって…」

 

「えぇ。あのIS達に襲われた際に第一関節から右腕を撃ち落とされたのよ。その後博士に助けてもらった際に義手を作ってもらいこうして今も仕事が出来ている状態なの」

 

「そうだったんですか……」

 

イチカは悲観に見ているとスコールは明るい笑みを浮かべる。

 

「そんな顔を出さないの。別に命が奪われたわけじゃないんだから。ほら、博士にISを診せに行ってらっしゃい。今日帰ってきたのはそれが目的でしょ」

 

そう言われイチカとマドカは指令室を後にした。

イチカ達が出て行った後、スコールは腕をはめ直し感慨深い顔を浮かべる。

 

「本当にやさしい子ね。束が目を掛ける訳が分かるわ。さて……」

 

スコールは先ほどの顔から真剣な表情を浮かべ指示を出す。

 

指令室を後にして束のいる研究室へと入ると束はパソコンで何かしらの打ち込みをしていた。そして2人の気配に気づき笑顔で出迎えた。

 

「あ、2人ともお帰り~。何かいろいろあって大変だったみたいだね」

 

「えぇまぁ。束さんISの整備お願いできますか?」

 

そう言いイチカとマドカはISを差し出すと、束はアタッシュケースに2人のISをしまった。

 

「はい、確かに預かりました~。それじゃあ2人共暫く休んでいていいよ~」

 

そう言われイチカとマドカは研究室を出てそれぞれの部屋へと休みに行った。

 

イチカは部屋で少し休んだ後、格納庫へと向かうと自身のバルキリー『VF-31A2』が置かれていた。この機体だけは束以外の整備は禁止とされていたのだ。

 

「久しぶりだな」

 

そう言いイチカは機体を撫でるように触る。

 

「久しぶりに乗るか」

 

そう呟き、イチカはパイロットスーツに着替えに行く。暫くして着替え終えたイチカは機体の元へと戻ると、機体近くでパイロットスーツを身に包んだマドカが地面に座っていた。

 

「マドカ? 何してるんだ其処で?」

 

「あ、兄さん。いや、この機体って2人乗りできるんだよな?」

 

そう聞かれイチカは頷く。イチカはマドカはこの機体に乗りたいというのは直ぐに気づいた。

 

「……後ろの席に乗れ。その代わり機械には触るなよ?」

 

「う、うん!」

 

マドカは無理と断れると思っていたが乗せてもらえると嬉しくなり、普段使わない了承の言葉を出す。

 

そして2人はコックピットに乗り込み滑走路に出るためのエレベーターへと乗る。

 

「管制室、こちらデルタ2。空中散歩に行きたいから離陸許可を貰いたい」

 

イチカがそう通信すると、管制室にいる管制官から返答がきた。

 

『こちら管制室。デルタ2、空のお散歩の許可を出す。風速は5ノット、優雅な空のお散歩を楽しんできてくれ』

 

「デルタ2、了解」

 

そう言いイチカはスロットルを踏み込み、バーナー全開で滑走路を走り空へと上がった。

 

「ひゅー。良い飛び方だな、あのパイロット」

 

戦闘機のメンテナンスをしていた整備員の一人がそう呟くと、周りにいた整備員たちも頷いた。

 

「あぁ、まるで風に乗ってるみたいだったぜ」

 

 

 

空へと上がったVF-31A2は雲の上辺りまで上がっていた。

 

「す、凄い。此処までISで上がったことなんかない」

 

「そりゃあこの機体だったらこのまま大気圏を突破して宇宙でも活動できる機体だからな。お前が着ているスーツが俺と同じものだったら宇宙に上がれたんだがな」

 

「そ、そうなのか!?」

 

マドカは後ろから目を輝かせていた。

 

 

「さて、そろそろ帰るぞ」

 

そう言いイチカは基地へと帰ろうとしたところでマドカがある提案を出してきた。

 

「兄さん、最後に戦闘機の何か技を見せてくれないか?」

 

そう言われイチカはふむ。と考え込み、頷く。

 

「分かった。だが余りやりすぎるとお前の体に負担が掛かるから簡単な技だけな」

 

そう言いイチカは操縦桿を握りしめ、機体を急速反転させ降下した。

 

「うおっ!」

 

マドカは突然かかったGに驚きつつ持ち手をしっかりと握りしめる。イチカはそのまま海面まで降下し機体上部を一気に持ち上げ、海面擦れ擦れを飛行する。

 

「うおっと!? す、凄い」

 

マドカは放心したように呟き、イチカはそのまま基地へと帰還した。帰還し、機体を地下の格納庫へと仕舞い、機体から降りたイチカとマドカはそのまま部屋へと帰ろうとした時、マドカは興奮したように話しかけてきた。

 

「兄さん、今日は楽しかったぞ! またアレに乗せてくれ!」

 

「別にいいぞ」

 

そう言うとマドカはやったー。と手を高らかに上げ、イチカは女の子らしい所もちゃんとあるんだなと思いつつマドカと共に部屋へと帰って行った。

 

 

GWが終わり、イチカとマドカは本社を後にし学園へと戻ってきた。教室へと入ると既に何人か教室におり、簪も既に教室で本を読んでいた。

 

「おはよう簪さん」

 

「あ、おはようイチカ君、マドカちゃん」

 

イチカとマドカは簪と談笑していると、一人の生徒が会話に入ってきた。

 

「ねぇねぇ今職員室で聞いたんだけど、転校生が1組に来るんだって」

 

「転校生? また珍しいな」

 

そう言っているとチャイムが鳴りそれぞれ席へと着く。

そして教室内にエリシアが入ってきた。

 

「はぁ~い、皆おはよう。それじゃあSHR始めるわよ」

 

そう言いエリシアはSHRを始めた。

 

そしてSHRを終えた後、エリシアは教室を出ようとしたところで、ある事を思い出し体をもう一度生徒達へと向けた。

 

「多分もう知ってると思うけど1組に新しい生徒が2人ほど来ているらしいわ。興味があったら見に行ってみたら」

 

そう言い教室から出て行ったエリシア。暫くしてイチカのスマホに一通のメールが届き差出人を確認すると、エリシアからだった。

 

「えっと何々、『転校生の一人が男に見せた女だから注意するように。詳細は添付した資料を確認するように』……なるほどね」

 

そう呟き、イチカは嫌だ嫌だと思いながらスマホを仕舞った。




次回予告
教室で本を読んでいると金髪の男子が現れ、挨拶してきた。イチカは適当に挨拶を返し終了した。そして放課後寮の部屋へとマドカと帰るときに、今度は銀髪の小さな少女が現れた。そして織斑一夏じゃないのかと聞いてくるが、知らないと言いその場を去って行った。
次回転校生~面倒このうえなし~


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7話

今回は短めです

次は長めになるよう頑張ります


エリシアからのメールを受け取り、イチカはマドカにもその内容を伝える。マドカは最初その話を聞いた瞬間、顔を真顔へと変え殺気を滲み出していた。

 

「兄さん、今からソイツを殺しに行ってもいい?」

 

「こらこら。まだ証拠が無いんだ。証拠をつかんで突き付けて行動を塞ぐ。今はまだ動くな」

 

イチカはそう小言で伝えると、マドカは不満そうな顔で頷く。そして4時間目の授業が終わり、イチカとマドカは食堂へと向かうべく教室を出ると

 

「あ、ちょっといいかな?」

 

そう声を掛けられ2人は顔を向けると金髪の女性の顔立ちをした男装した生徒が立っていた。

 

「あぁ、お前か。1組に入ってきたもう1人の男性操縦者は」

 

「うん。シャルル・デュノアって言うんだ。よろしくね」

 

そう言いシャルルは手を差し出す。イチカは手を差し出そうとせずただ

 

「あぁよろしく」

 

そう言い、マドカを連れてその場を去って行った。シャルルは困惑した表情を浮かべながらもその後を付いて行った。

 

「さて、今日は何食う?」

 

「昨日は五目御飯と焼き秋刀魚の定食食べたし、今日はボロネーゼにしようと思う」

 

そう言いマドカは食券販売機でボロネーゼを注文し、イチカはそれだったら俺はとカルボナーラを注文する。

食券を食堂のおばさん方に渡して暫くし、マドカとイチカはそれぞれの昼食を受け取り空いている席へと向かうと、鈴が席に座りながら手招きをしていた。その隣には簪も座っていた。

 

「あんた達、此処空いてるわよ」

 

そう言われイチカとマドカはその席へと向かい、席へと着いた。

 

「助かるよ、鈴。さっきからあいつに後ろから尾行みたいにされていて、どう撒こうか考えていたんだ」

 

「あいつ?」

 

鈴がそう聞くと、イチカはフォークの先をある方向へと向ける。向けた先には女子生徒達に囲まれ、アタフタしているシャルルが居た。

 

「あら、1組の男性操縦者じゃない。……なに、アイツもしかしてコッチ系?」

 

そう言い鈴は右手の甲を左頬に向ける。

 

「さぁな。もしそうだったら持てる武力でアイツを遠ざけるぞ」

 

イチカは冗談交じりでそう言いながらカルボナーラを頬張った。

 

 

そんなことがあった後、時間は経ち放課後。イチカとマドカは教材をカバンに仕舞う。

 

「さてと、それじゃあ簪さんまた明日」

 

「またな」

 

「うん、また明日」

 

簪に別れを告げ、イチカとマドカは教室を出て寮へと続く廊下を歩いていると、前方に一人の銀髪の女性が歩いてきた。イチカとマドカはクロエの親戚か何かか?と思いつつその横を通り過ぎようとすると

 

「待て」

 

そう声を掛けられ、イチカとマドカは嫌々ながらも顔を向けた。

 

「何?」

 

マドカはイチカの代わりに用件を聞く。

 

「お前じゃない。お前の隣にいる奴に用がある」

 

そう言い鋭い目線をイチカへと向けていた。

 

「お前、織斑一夏と言う名前か?」

 

「……織斑一夏は2年前死亡したと聞いているが?」

 

イチカがそう聞き返すと、銀髪の女性は暫く鋭い視線を向けていたが、興味を無くしたのか目線を外す。

 

「……そうか」

 

そう言い女性はその場から去って行った。

 

「……兄さん、アイツからあの女(織斑千冬)と同じ気配が感じられた」

 

「……あぁ。恐らく関係者だろうな」

 

イチカは、なんでこう何度も面倒ごとが舞い込んでくるんだか。と心の中でぼやきながらマドカと共にその場から去って行った。

 

 




次回予告
シャルルと銀髪の女性が入学してきて数日が過ぎたある日。イチカとマドカは何時も通りにアリーナへと出て訓練をしようとする。するとシャルルがISを身に纏って訓練に参加したいと出てくる。マドカはイチカが相手ではなく自分がすると言い出し、模擬戦をする。そして訓練終了後、イチカは後片付けをしてから戻ると言いアリーナに残り、シャルルは先に帰る。その背後にいる人物に気付かずに
次回目論んでいる事は大抵スグにばれる~殺されたくなかったら正直に話せ~


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8話

噂の転校生が入ってきて数日が経ったある日。イチカとマドカはアリーナへと向かっていた。

 

「訓練に付き合ってくれて悪いな、マドカ」

 

「別にいいよ」

 

そう言ってる間に2人はアリーナへと到着し、ISを身に纏ってフィールドへと出た。

 

「それで兄さん。今日はどういった訓練をするんだ?」

 

「そうだなぁ、空中で回避行動しつつ的を射抜く訓練かな」

 

そう伝え、イチカは倉庫から的を持ってきてあちこちに置いていると、ピットから一機のISが現れた。

 

「えっと、ちょっといいかな?」

 

そう呼ばれ2人は顔を向けると、其処には色違いのラファールを身に纏ったシャルルが居た。

 

「何の用?」

 

「えっと、メルダース君と模擬戦してみたいなって思って、ダメかな?」

 

マドカの問いにシャルルは申し訳なさそうに頼むが、イチカは若干嫌な顔で答えた。

 

「……悪いんだが今から訓練するところなんだが、今度でもいいか?」

 

「えっと、そこを何とかお願いできないかな?」

 

イチカはこれしつこく頼んでくるパターンだなと思っていると、隣にいたマドカが案を出した。

 

「でしたら私と模擬戦をしてください。兄さん以外の男性とはやったことが無いので」

 

「え? ま、まぁそれでもいいけど」

 

決まりですね、とマドカはそう言い管制室にいる教師に通信し、模擬戦をする申請を出す。そしてイチカはピットへと移動し、模擬戦を見守る。

 

『ではこれより、模擬戦を行います。ルールは通常試合と同じで、どちらかのSEが尽きたところで勝負ありとします。ではカウント5秒前!』

 

審判役の教師のカウントを聞きながら2人はそれぞれの武器を展開する。

 

『1、……試合開始!』

 

その合図とともにシャルルは、ヴェントを展開し攻撃を加えてくるがその前にマドカは間合いを詰めた。

 

「!? だったら!」

 

シャルルはシールド・ピアースを展開し接近してくるマドカを貫こうとしたが、背後から突然攻撃を受ける。

 

「グッ! まさかビット兵器!?」

 

シャルルは何時の間にか配備されていたビット兵器に驚きつつもその場から逃げようとしたが、ビットに一瞬気をそらされた所為で自身の懐に、潜り込まれている事に気が付か無かった。

 

「しまっ!?」

 

「遅い!」

 

そう叫びマドカは近接ナイフでシャルルを斬りつける。その結果シャルルは大幅にSEを削られた。

 

(……つ、強い!)

 

シャルルは自分の腕には自信があった。だが今目の前にいるマドカは自身のそれ以上の腕を持っていた。

 

「そろそろ終わらせます」

 

そう言いマドカは、ブースターを吹かし一気に接近する。

シャルルは接近してくるマドカを向かい討つべく、アサルトライフルなどを展開し接近を許すまいと弾幕を張るが、接近できなければビットを展開し遠距離から攻撃を加えるなどをして着実にSEを削られ遂に、シャルルのISのSEが底をついた。

 

『そこまで! 勝者マドカ・メルダースです!』

 

そう宣言され双方ISを解除し、地面へと降り立った。

 

「……つ、強いねマドカさん」

 

シャルルは疲れ切ったような顔でそう言うと、マドカは当然と言った表情で返す。

 

「当たり前じゃん。素人とPMC所属の人が勝負しても結果は明らかじゃん」

 

「さて、2人の模擬戦でアリーナを借りられる時間がほとんど無くなったからな。出した的とかの後片付けをしてくる」

 

そう言いイチカは的を片付けに行った。マドカもそれに随伴するように一緒に行く。

シャルルも手伝おうとしたが

 

「別にいいぞ。疲れた奴に更に労働をさせるほど俺は鬼じゃないんでな」

 

そう言われシャルルは仕方がなく、ピットへと戻り着替えに行った。

 

更衣室へと入ったシャルルことシャルロットは着替えている最中、背後に人の気配を感じ振り向くと其処には機械のうさ耳をした女性が立っていた。そう束である。

 

「だ、誰ですか!?」

 

それを知るもしないシャルルはISを展開しようとするが、その前に束の手に早く腕を掴まれ、動けないよう拘束される。

 

「動くな、叫ぶな、産業スパイ君? いやスパイちゃんの方が正しいかな?」

 

束はニンマリと黒い笑顔をシャルルに向けながらそう聞くと、シャルルは慌てるように否定する。

 

「ぼ、僕は男「下手な嘘つかない方がいいよ。とっくに分かってるんだから」!?」

 

束の目は殺気を含んでおり、シャルルは体を強張らせながら大人しくする。

 

「さて今から言う質問に正直に答えて。あぁ、喋っちゃダメだから。……君は男ではなく女。間違いないね?」

 

束の質問にシャルルは大人しく首を縦に振る。

 

「次の質問、君は会社からいっくんのISから情報を盗むよう命令された。合ってる?」

 

次の質問にもシャルルは首を縦に振った。

 

「じゃあ次の質問、今から言う事にどっちがいいか答えて。1、このまま此処で私に殺される。勿論死体なんて此処には残さないよ。どこか別の、そうだなぁ。君の母親が眠っているお墓に一緒に埋めてやるよ」

 

「!?」

 

束の提案にシャルルは激しく首を横に振った。

 

「2、学園にさっさと自分がスパイをする為に偽装して入学して来たと、正直に告白する。勿論告白したらスパイ行為で逮捕されるかもしれない。どっちが良い?」

 

そう聞かれシャルロットは震える唇で何とか口に出す。

 

 

「……に、2が良いです」

 

「……分かった。ならさっさと言いに行け」

 

そう言い束はシャルロットを廊下へと突き放す。転んだシャルロットは、更衣室の方へと顔を向けるが其処にはもう束の姿が無かった。だが突然声が響いた。

 

『肝心なことを伝えるのを忘れてたよ。お前の右手にチョットした物を付けといたよ』

 

そう言われシャルロットは自身の右手を見ると、其処には銀色で装飾された腕輪が付いていた。

 

『それはお前の位置、会話などを全て私が聞ける物だよ。しかも爆薬付きだ。お前がもし選択した行為とは違う事をした瞬間に、その腕を爆発させる。因みにその爆薬結構威力があるから人一人殺す事が出来るからね』

 

そう言われシャルロットは体をガタガタと震えさせながら腕輪を見つめる。

 

『君がちゃんとスパイ行為を目的に入学してきたと学園の職員に言えば、その腕輪を外してやるよ。それじゃあバイビ~』

 

その言葉を最後に声は聞こえなくなり、シャルロットは膝から力が抜け崩れ落ちる。そして束から当てたらた殺気で乱れた呼吸を整える

 

「はぁ、はぁ、はぁ。……い、急いで行かないと!」

 

そう呟き、シャルロットは急いで職員室にいる教師に自分の正体を暴露しに走った。

 

シャルロットが去った後、柱の影から束はクスクスと笑いながら出てきた。

 

「まさか暇で作った玩具の腕輪があんな役に立つなんて思いもしなかったよ」

 

そう呟きながら束はその場から去って行った。




次回
模擬戦乱入者~また訓練できなかったじゃねえかよ~


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9話

「この前は訓練できなかったから今日こそはやるぞ」

 

そう言いながらイチカは、マドカと共にアリーナへと向かっていた。

 

「そう言えば、あの日以降例の男装女子見掛けないね」

 

マドカが思い出すように言うと、イチカも確かにと同意するように思い出す。シャルル事、シャルロットは先日の模擬戦以降、一度も見掛けていないのだ。簪の友人が1組にいるらしく、その子が言うには風邪をこじらせたため暫く部屋で休んでいると、2人は簪に教えてもらったのだ。

 

「まだ仮病と言う名の病気に掛かってるんじゃないのか?」

 

「どうなんだろうね。……何か作戦でも考えているなら早急に叩き潰したんだけど」

 

「向こうが絡んでこないだけでも、いいじゃないか。絡んで来たら撃滅すればいいだけだしな」

 

そう言いながらアリーナへと到着した2人。早速前回出来なかった訓練をやろうと、的を適当に置いていると、隅の方で訓練していた生徒達が驚いた様な声をあげながら、ある物を見ていた。

 

「ねぇ、あれって?」

 

「うん、ドイツの最新機体だよね」

 

「まだトライアル中だって聞いてたわよ」

 

そんな声が聞こえ、イチカとマドカは生徒達が向けている視線の先を辿ると、黒い機体を身に纏った銀髪の生徒が自分達の方へと向かっていた。

 

「イチカ・メルダース、私と勝負しろ!」

 

そう宣言してくるが、イチカとマドカはえぇ~と面倒くさいと言った顔で呟く。

 

「悪いんだが、また今度でもいいか? 今から訓練したいんだよ。前回できなかったから」

 

イチカはそう提案するが、銀髪の少女は拒否と受け取ったのか表情を歪める。

 

「だったら戦うしかない様にしてやる!」

 

そう叫びキャノンをマドカの方に向け放つ。放たれた弾はマドカが居たところに着弾し、爆風が起きた。

 

「キャーーー!?」

 

突然の事に隅の方にいた生徒達は悲鳴を上げる。銀髪の少女はこれで戦うと思っていた。

 

「ふん。お前の妹は容易くやられたな。さぁ今度はお前だ!」

 

そう叫ぶが、イチカの表情をうんざりと言った表情だった。

 

「はぁ~、また訓練出来なくなったじゃねぇか。どうするマドカ?」

 

そうイチカが言うと、煙からはISを身に纏った無傷のマドカが立っていた。

 

「どうするも、アイツがやった行為ってさ規則違反だから、あの人達が如何にかしてくれるんじゃない?」

 

そうマドカが顔を向けたところには教師部隊が立っており、先頭にはエリシアがISを身に纏った状態で立っていた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒさん。学生規則第45条の違反として一緒に来てもらいます。拒否した場合は強硬手段をとる。すぐにISを解除しなさい」

 

そう言われ、ラウラと呼ばれた銀髪の少女はチッと舌打ちをしてISを解除した。そして複数の教師に囲まれ、拘束用の手錠を掛けられ連れていかれた。エリシアはイチカとマドカの傍に向かう。

 

「2人とも大丈夫?」

 

「えぇ、大丈夫ですよ」

 

「大丈夫。そう言えばどうして私達が攻撃を受けたって分かったんですか?」

 

そう言いながらマドカは肩に付いた埃を掃う。

 

「篠ノ之博士から銀髪の生徒が2人の元に向かっているって情報を貰ったのよ。で、仲のいい教師たちを連れてここに来たって訳。『ピピピピ』ん? はい、エリシアです。……何ですって! 何で解放したの! ……分かった、私が後で訳を聞いておくから、皆は先に戻ってて」

 

突然掛かってきた電話にエリシアは怒鳴り、そして電話を切った。

 

「どうしたんです?」

 

「……さっき拘束したラウラ・ボーデヴィッヒさんを、織斑が勝手に拘束を解いたのよ。自分がちゃんと言い聞かせるって言って」

 

エリシアはイラついた表情を浮かべる。

 

「はぁ~、また絡まれる可能性ってありますよね?」

 

「恐らくね。2人共、もし訓練するなら私に一言くれる? くれたら陰ながら警護するし」

 

「助かります。そう言えば本来こういった事態は、アリーナを監視している教師が事前に止めるはずですよね? 何であいつが攻撃しようとした時、止めようとしなかったんだ?」

 

イチカがそう呟くと、エリシアは驚いた表情を浮かべる。

 

「イチカ君、それは本当?」

 

「えぇ。此処に居た生徒達に聞いてもらってもいいですよ」

 

「……分かったわ。情報ありがとうね」

 

そう言いエリシアはピットへと戻っていった。

 

「それじゃあ兄さん、訓練再開するか」

 

「そうしたいところだが、残念ながら時間切れだ」

 

そう言い、時計を見せる。マドカは時計を見るとアリーナで訓練できる時間を既に過ぎており、マドカははぁ~。と息を吐く。

 

「……また出来なかったね」

 

「……本当だな。俺、この学園に来るのは間違っていた気がしてきた」

 

そう呟きながら2人はアリーナを後にした。

 

次の日、イチカは次の授業が始まる前にトイレにと、クラスから少し離れた男性用トイレへと向かっていた。その途中、イチカは廊下の途中にある中庭で2人組が何か話している声が聞こえた。

 

「……先日は申し訳ありませんでした」

 

「もういい。二度とあのような事はするな」

 

ラウラは頭を下げ、了承する。そしてラウラはあるお願いを千冬に出す。

 

「……織斑教官、お願いがあります」

 

「ドイツに戻るつもりはないぞ」

 

「!? なぜですか! 此処に居る奴らはISを只のイヤリングだとか装飾品としか思っていません! このような所で貴女の才能を発揮できないのは、私は遺憾でしかありません! だから―――」

 

「ほう、言うようになったな小娘が」

 

「ッ!?」

 

千冬から滲み出る殺気にラウラは体を硬直させうなだれる。

イチカは自分には関係ないことかと思い、そのまま廊下を歩き過ぎて行く。

 

「い、一夏」

 

そう声が聞こえ、首を少しだけ後ろへと向けると、中庭から入って来た千冬が何か言おうとしていた。だがイチカはそんなのを無視して歩き出した。

 

「ま、待て一夏!」

 

そう言い千冬はイチカの腕を掴もうとしたが、イチカはその腕を払う。

 

「話しかけないで貰えますか、織斑先生」

 

そう言いイチカはその場を去って行った。

 

「待ってくれ一夏!」

 

そう叫び、もう一度腕を掴もうとしたが

 

「メルダース君、此処に居たんですね」

 

廊下の角から出てきた学園長がそれを阻止した。

 

「何か用ですか、学園長」

 

「えぇ。学園の警備依頼の事で少し伝達事項があるのでお昼休み第1会議室に来てもらっても宜しいですか?」

 

「分かりました」

 

そう言いイチカは学園長に頭を下げてから去って行った。学園長は去って行ったイチカの後姿を見送った後、鋭い視線を千冬へと向ける。

 

「織斑先生、彼には授業以外では話しかけるのは禁止だと言ったはずです」

 

「……申し訳ありません」

 

「次はありませんからね」

 

そう言い学園長は去って行くと、千冬は拳を握りしめた。

 




次回予告
 アリーナでの一件から数日後、学園上層部が突然個人別トーナメント戦をタッグマッチトーナメント戦へと変更した。イチカはマドカとペアを組み、試合へと臨む。
次回
 タッグマッチトーナメント戦


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10話

アリーナでの一件から数日が経ったある日、学園では学年別タッグマッチトーナメント戦が行われようとしていた。

イチカとマドカもこのトーナメントには出るつもりで前日から機体のチェックは特に入念に行っていた。

トーナメント戦を行う前にイチカとマドカは整備室で再度の機体チェックを行っていた

 

「よし、今日はこの曲の能力を調べるか」

 

そう言いながらイチカは『Hear The Universe』と言う曲をファルコの中へと入れる。

 

「そう言えば兄さん、今日のタッグマッチに簪と鈴がタッグを組んで出るって聞いたんだけど本当?」

 

「あぁ、何でも相性が良いから組んだそうだ。まぁあの二人が一緒に訓練している光景はよく見かけたからな」

 

イチカは思い出しながらそう呟く。簪と鈴はイチカが訓練に付き合えない時は、2人だけで訓練しタッグマッチ戦が行われる前には早くからタッグの訓練を行っていたのだ。

 

「強敵になりそうだな」

 

「確かにな。だがそう簡単に落とされるつもりはないからな。マドカ準備は?」

 

「何時でもいいよ」

 

イチカの問いにマドカはニヤリと口角を上げ、ISを待機状態にさせる。

そして2人は整備室から出て、対戦相手の確認に向かう。

 

「お、鈴達も対戦相手の確認か?」

 

イチカとマドカはアリーナの選手控室に付くと、モニター前に鈴と簪が居ることに気づき声を掛ける。

 

「まぁね。それより1組にいたイギリスの代表候補生。何でもイギリスに今帰っているらしいわよ」

 

「何だよアイツ、何かしたのか?」

 

「多分この前マドカが持っていたISを取り返そうとした事と、あんたに暴言を吐いたことが原因だと、私は思うわね」

 

鈴の推測はほぼ正解なのである。イチカとマドカは知らないが、実は束はIS学園の全システムを既に手中に収めており、監視カメラのデータだろうが何だろうが全て手に入れることが出来るのだ。そしてIS学園に謎のISが襲撃した時、束は学園長室に報告に行ったイチカ達が心配でコッソリ監視カメラから覗き見ていたのだ。その時にセシリアがマドカ、そしてイチカに対し暴言を吐いた事にキレた束がイギリス政府に、スコール経由で忠告したのだ。

 

『お前等の所のイギリス代表候補生がウチの部下を侮辱し、更にはこちらが公式の手順に則て買い取ったISを取り返そうとしてきたがどう言う事だ?』と。

 

束がイギリス政府に文句を言うと直ぐ様に政府は動いてセシリアを自国へと呼び戻し、代表候補生としての心構えが成っていないという事で、イギリス女王自らお説教を行ったのだ。因みにタッグマッチトーナメント戦にはセシリアはイギリスでお説教の真っ只中の為不参加となっている。

 

「……まぁ、どう言う理由で戻されたかは知ったこっちゃない。今は最初にやり合う奴とどう戦うかが問題だ」

 

イチカは、挑戦的な目線を鈴へと向ける。

 

「えぇそうね。もしあたし達との対戦だった場合は勝たせる気は無いわよ」

 

「それはこちらも同じだ」

 

鈴とイチカは互いに挑戦的な目線で見合っていると、モニターに対戦表が映し出された。

 

「さて、兄さんと私はAブロックだな。鈴達はBブロックみたいだ」

 

マドカがそう伝えると、鈴はなんだそうなの。と若干ため息を吐くも、イチカにまた挑戦的な目線を向ける。

 

「イチカ、私達と戦う前に負けるんじゃないわよ?」

 

「そっちもな」

 

そう言いイチカ達と鈴達はそれぞれの試合が行われるアリーナへと移動した。

 

Aブロックの試合が行われるアリーナへと到着したイチカ達は対戦表で相手は、例の銀髪生徒と箒だと知った。

 

「なんだ、ポンコツコンビとか」

 

「? 兄さん、なぜあの二人をポンコツと称するんだ?」

 

イチカの何気ない呟きに、マドカは気になりそう聞くとイチカは説明を始めた。

 

「軍人として心が育っていないし、秩序と言う物を全く知らない軍人。で、もう片方が力こそが全てとしか考えていない似非武士。だからポンコツコンビって言ったんだ」

 

「なるほど。確かにポンコツだな」

 

マドカはイチカの称し方に拍手する。

 

「さて、さっさと終わらせて鈴達とどう戦うか作戦を練るぞ」

 

「分かった」

 

イチカとマドカはピットへと移動し出撃に備える。

 

『皆さん長らくお待たせいたしました! これよりタッグマッチトーナメント戦を行います! まずAブロックの第1試合の選手入場してください!』

 

アナウンスの声がピット内に響いたのを確認したイチカとマドカはアリーナへと飛び出す。その向かい側では同じように、ラウラと箒が出てきた。

 

「さて、さっさと終わらせるぞマドカ」

 

「了解だ兄さん」

 

イチカとマドカはさっさと終わらせる気でいる中、ラウラと箒の方はと言うと互いに牽制し合っていた。

 

「私の邪魔をするなよ、篠ノ之」

 

「それはこちらのセリフだ!」

 

互いの準備を終えたのを確認した司会が試合開始のアラームを響かせた。

 

『それでは、試合開始!』

 

その合図とともにラウラは前へと突撃し、箒も同じように打鉄に装備されている刀で攻撃してくる。

だが互いに同じように突撃すれば邪魔になるのは言わなくても分かる。

 

「おい! 邪魔をするなと言ったはずだ!」

 

「それはお前の方だろうが!」

 

一方イチカとマドカは呆顔で二人のやり取りを眺めていた。

 

「あの二人戦う気あるのか?」

 

「こっちを見ていないから無いんじゃないのか?」

 

そう言い、イチカとマドカは武装を展開する。

 

「ミサイル一斉発射後、ビット兵器で潰すぞ」

 

「了解」

 

イチカの作戦を聞いたマドカはビット兵器を展開し、一斉射が出来る様準備する。そしてイチカは二人に向けミサイルでロックし発射する。その後に続くようにビット兵器からのレーザー攻撃が2人へと迫った。

最初に攻撃に気づいたラウラは急いでその場を飛び退き難を逃れるが、箒は間に合わずミサイルとレーザー攻撃を真面に喰らい撃墜された。

 

「チッ、避けられたか」

 

イチカは舌打ちをしながらも、バルカンでラウラに攻撃する。

 

「喰らうものか!」

 

そう叫び、ラウラはAICでバルカンの攻撃を防ぐ。だが事前にラウラのIS情報を入手しているイチカは焦ることなくバルカンで攻撃を続ける。

 

「無駄だ! このAICがある限り貴様は勝てん!」

 

もう勝ったも同然と言った感じで言うラウラ。その背後からくる者に気付かずに。

 

「隙だらけ」

 

その言葉を聞いたラウラはハッとなり後ろからの攻撃を真面に喰らう。ラウラの背後にいたのはナイフを構えたマドカだった。

 

「お前、それでも部隊長なのか? 弱すぎるぞ」

 

マドカに呆れたような様子でそう言われ、ラウラは頭に血が昇り大雑把な攻撃を繰り出す。

 

「黙れ!」

 

そう言いワイヤーブレードで攻撃するが、マドカはそれを難なく躱しビット兵器で攻撃する。

 

「ほら、どうしたのよ? あんたの実力はそんな物?」

 

「黙れと言っている!」

 

完全にマドカのペースに乗せられたラウラは大雑把な攻撃を繰り出し続ける。そしてマドカを壁際まで追い詰めたラウラは落とせると思った。だが

 

「私だけ見てていいの?」

 

「!?」

 

ラウラは完全に相手のペースに乗せられたと自覚し、その場から離れようとしたが背後から迫ったイチカのアサルトナイフに斬られ地面へと落とされた。

イチカはマドカの傍に寄って、拳をぶつけ合った。

 

『決まりました! Aブロック第1回戦はメルダース兄妹……何、あれ?』

 

そのアナウンスにイチカとマドカは可笑しな音が鳴っている方へと目を向ける。

其処には倒れていたラウラがISを展開しており、その機体からドロドロとしたスライムが出てきて何かに変わろうとしていた。

そして変化が終わったのか一機のISの姿へと変貌する。それは暮桜だった。




次回予告
突如として現れた偽の暮桜にイチカとマドカは、特別学園警備権を行使し暮桜を撃退する。
その夜、イチカは夜の星空にある願いをする。その願いが叶うとは知らずに
次回
偽りの世界最強


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11話

突然出現した暮桜にアリーナ内の観戦席にいた生徒達はパニックとなっていた。そんな中、イチカは冷静にあれが何なのかマドカに聞く。

 

「マドカ、あれは?」

 

「恐らくVTシステムって言う物だと思う。あれは本来開発、研究は世界中で禁止されているはずなんだけどアイツのISに搭載されているってことは……」

 

「軍の連中が載せた。もしくは奴自身が載せたかのどちらかだな」

 

イチカの推測にマドカは同意するように頷き、武装を展開する。するとイチカ達に無線が入り出ると、画面にはエリシアが映っており、その背後には真耶や他の教師達が急ぎ準備している光景が映っていた。

 

「エリシア先生、準備にどれほど掛かりますか?」

 

『早くても5分よ。2人はそれまで持ち堪えるか、撃退を』

 

「了解しました」

 

無線を切ったイチカとマドカは互いの顔を見て頷く。そして目線を暮桜の方へと向ける。

 

「作戦は?」

 

「まずどれ程の脅威か確認する。その後に集中攻撃だ」

 

そう言いイチカはバルカンをいつでも撃てる様構える。

 

「それじゃあ牽制射撃を始める!」

 

そう言いイチカはブースターで移動しつつバルカンで牽制射撃を行う。暮桜は持っていた刀で防ぎつつ近接戦に持ち込もうとするが、その前にマドカのビット攻撃に阻まれた。

 

「近接攻撃だけか」

 

「兄さん、これだったら距離を置いて戦う方が勝機はあるかもしれない」

 

マドカの提案にイチカも同意し、ミサイルなどを暮桜の方へと放とうと向けた瞬間イチカの頭に突然声が響いてきた。

 

『た、……助けて…』

 

一瞬の出来事にイチカは驚くも、先ほどの声がラウラの声に似ている事に気付いた。

 

(まさか、助けを望んでいるのか?)

 

イチカはどちらか分からないが、迷っていられないと判断し単一機能を展開する。突然単一機能を展開したイチカにマドカは驚くが、何か案があるのかもと判断し援護できるようビットを展開する。

イチカは暮桜に鋭い視線を向けつつ呟く。

 

「……今助けてやるからな」

 

そう言いイチカはミサイル、そしてバルカンを一斉に暮桜の方へと向ける。そして一斉にある一点に向け発射した。ミサイル、バルカンの攻撃に暮桜は躱しつつ接近しようとしたが、ビット攻撃を受け躱す事が出来ず、イチカからの攻撃を受けた。

イチカがある一点を攻撃し続けるとその一点が抉れだし銀髪が見えた。それを確認したイチカはブースターで懐に潜り込み、塞ぎだそうとしている部分に手を突っ込みラウラを引きずり出し、その場から後退する。引きずり出された後、暮桜は悶え苦しむように暴れ、最後は力尽き倒れドロドロとしたスライムは消え去った。

 

「ふぅ~、任務完了」

 

そう言いイチカはラウラをそっと地面に寝かせる。

 

「ソイツ生きてるの?」

 

「あぁ脈と息はしっかりしている様だ」

 

そう言いイチカはピットの方へと顔を向けるとISを身に纏った教師達がやって来てラウラ、そして原因となったISを回収した。イチカとマドカは教師達と共にアリーナを後にし、学園長室で報告を行った。

 

「――――そうですか。お2人ともご苦労様でした」

 

「いえ、では我々はこれで」

 

そう言いイチカとマドカは学園長室を後にし、寮へと戻る。すると、その途中の廊下でスコールとオータムの2人と会った。

 

「あら2人とも今報告を終えた所?」

 

「えぇまぁ。それでお2人はどうして此処に?」

 

イチカの問いにスコールは少し悲しそうな顔で告げた。

 

「実は例のドイツの子、どうやらドイツから国外追放を言い渡されたらしいのよ」

 

スコールからの突然の告白にイチカとマドカは唖然となった。

 

「はぁ? どう言う訳ですかそれ?」

 

「どうやらドイツの軍上層部は彼女が勝手にVTシステムを載せたと発表して、自分達の身を潔白にしたのよ」

 

「何ですかそれ。それじゃあアイツは……」

 

マドカは悲観そうな目線を浮かべる。

 

「そう、帰る国を失ったと言う事よ。で、彼女にある提案をしに今聞きに行ってきたのよ」

 

スコールのある提案に2人は首を傾げる。

 

「スコールさん、そのある提案って一体?」

 

スコールが説明しようとしたが、オータムが自分ですると言い説明を始めた。

 

「俺の妹になってもう一度人生を一からやり直すか?って聞いたんだ。で、向こうは了承してくれたぜ」

 

「え? つまりアイツはオータムさんの家族になるって言う事ですか?」

 

「おう、そうだ」

 

オータムの告白にイチカとマドカは開いた口が閉まらなかった。

 

「それじゃあ私達はあの子の戸籍やら何やら、準備があるから帰るわね」

 

「またな、2人とも」

 

そう言い2人はイチカ達から去って行き、残された2人は未だに状況が呑み込めずただ茫然と佇んでいた。

 

その夜、千冬はある所に電話を掛けていたが何度コールをしても繋がらなかった。すると、突然背後に人の気配を感じ振り向く。

 

「やぁやぁ久しぶりだね、織斑千冬」

 

給水塔の上で月を背景に笑みを浮かべていた束だった。

 

「……あのVTシステムはお前が仕掛けたのか?」

 

「あぁ、あの不細工なシステム? あんなのが束さんの作った物だなんて思わないんで欲しんだけど。と言うか、あんなシステム作るより束さんはもっと凄い物造ってるもん」

 

そう言いながら束は給水塔の上で足をブラブラさせる様に座る。

 

「それで、一体何をしに此処に来た?」

 

千冬は睨むような目線を束へと向けるが、束はその視線をうざったい視線と思いながら答える。

 

「何って、教える訳ないじゃん」

 

そう言い束は立ち上がり、その場から去ろうとする。

 

「待て束!」

 

千冬がそう叫び、束に待ったをかける。束は顔を少しだけ千冬の方へと向けた。

 

「貴様一夏が生きていたのを知っていたのに、何故私に教えなかった!」

 

その叫びを聞いた束は最初はクスクスと笑い出し、次第に大声で笑い始めた。

 

「何故って、そんなの分かり切ったことじゃないか」

 

そう言い束は黒い笑みを浮かべつつ千冬を見下すように答えた。

 

「そりゃあ束さんが、お前の事が大嫌いだからに決まってるじゃん」

 

「!?」

 

そう言い束は笑いながらその場を去って行った。千冬は驚愕の表情を浮かべ、その場で動けず佇み続けた。

 

箒は誰もいない暗い廊下を、自身の寮がある部屋へと向かって歩いていた。

 

「何で私じゃなく、あんな奴とタッグを組んだ一夏!」

 

そう呟きながら奥歯をギリッと噛み締める箒。

 

「そりゃあお前みたいな屑とは誰だって組みたがらないからに決まってるじゃん」

 

突然の言葉に箒は思わず声のした方向に顔を向ける。其処には窓辺に座りながら、笑みを浮かべた束が居た。

 

「……ね、姉さん」

 

「やぁ久しぶり」

 

束の出現に箒は驚き、同時に歓喜した。この人に頼めば自分だけの力が持てる。そう思ったが

 

「さて、帰るね」

 

「え? ま、待って下さい、姉さん!」

 

突然顔だけ出して帰ろうとした束に箒は慌てて止める。

 

「なに? 束さんさっさと帰りたいんだけど」

 

「……実はお願いが「お前のISは造る気はないから」な、なんでですか!?」

 

自身のお願いを言おうとする前に束がその願いを潰してきた。箒は慌てて理由を尋ねる。

 

「理由? そりゃあお前が碌な使い方しないからに決まってるじゃん。それにお前、IS適正値Cランクじゃん。いっくんやマーちゃん達はSランクを有しているんだよ?他の代表候補生とかはAAだとかA+とかだし。Cランクのお前が専用機を持つとか資格すら無いから。それが理由」

 

そう言い束は去って行った。箒は慌てて束が去って行った方に追いかけたが、束が去った方向には誰一人いなかった。

 

 

部屋へと戻ってきたイチカ、そしてマドカ。学園長室から部屋に戻ってきた後部屋で寛ぎ夕飯を済ませた。そしてそれぞれ風呂を済ませ、布団に入り眠り始めるがイチカは椅子を持って来て窓辺で腰掛ける。

 

「あれから数ヵ月が経ったのか」

 

イチカは夜空に浮かぶ月を眺めながらそう呟く。自身の思い人美雲は無事か。元気にしているか。イチカの頭にはただそれだけがグルグルと回っていた。ただ一つ確信をもって言えること、それは

 

「絶対に君の元に帰るからな。待っていてくれ美雲」

 

そう呟き胸元のペンダントをギュッと握りしめ、イチカはベッドへと潜り込んだ。

 

 

そしてその頃惑星ラグナからほど近い宇宙空間で、マクロス・エリシオンはイチカ捜索の為再度周辺宙域へと飛びだっていた。

真っ黒い空間が続く外を美雲はただジッと見つめていた。そして胸元にあったペンダントを開き、中にある写真を見つめる。写真はイチカと同じ物で、美雲も大切に持っていたのだ。

 

「……イチカ、無事でいるわよね?」

 

そう呟きもう一度、外の景色を覗く。辺りは変わらず真っ黒い空間が続いていただけだった。自身の願いが届くか分からない。だが美雲は兎に角願い続けるしかなかった。

その願いが届いたか分からないが異変が起きた。

それはブリッジがいち早く感知した。

 

「艦長! 前方に高エネルギー反応! データからイチカ中尉がMIAになった時と同じ反応です!」

 

「なに!? なら今すぐこのエリアから離脱を開始だ!」

 

アーネスト艦長はエリアからの離脱を指示するが、その前に穴がエリシオンの前に現れ吸い込み始めた。

 

「駄目です艦長! 穴の吸い込む力が強く、艦が維持できません!」

 

「くっ! 全員耐ショック体勢!!」

 

その言葉が最後にマクロス・エリシオンは穴に吸い込まれてしまった。

そしてエリシオンは穴から吐き出され、何処かの宇宙空間に漂った。

 

「全員無事か?」

 

アーネストはブリッジにいるスタッフにそう聞くと、艦内の被害状況の調査を優先に行わせた。そして艦内に被害はないが、ラグナと交信が出来ない事が判明し別の銀河まで飛ばされたのかと思い、アーネストはアラドをブリッジに呼び状況を説明する。

 

「つまり、現在此処は見知らぬ宙域という事ですか」

 

「恐らくな。ラグナと交信が出来ない今、艦内にある物で何とか「艦長!」どうした?」

 

アラドとアーネストが相談している中、突然ブリッジオペレーターのミズキが大声で艦長を呼んだ。

 

「レーダーにイチカ中尉の機体反応がありました! 此処から12時の方向からです!」

 

その言葉を聞いたアラドは息子が生きている事に驚きと歓喜が沸き起こった。

 

「本当か! アーネスト艦長!」

 

「うむ。これよりエリシオンはイチカ中尉の機体の反応があった方角に進む。各班は第2種戦闘態勢でいる様伝えろ!」

 

「「「了解!」」」

 

アラドも急ぎ格納庫に向かい、イチカが生きているかもしれない事を報告しに向かった。




次回予告
謎の穴によって何処かに飛ばされたエリシオン。そしてイチカの機体があった方向へと進むと其処には地球があった。アーネストはデルタ小隊、そしてワルキューレの出撃を指示し、アラド達は地球へと降下していった。
次回
再会へのカウントダウン~いっくんの事これからもよろしくね~


現在アンケートの方実施しているので、お時間がありましたらお答えいただきますとありがたいです。


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12話

謎の穴に吸い込まれ、突如未知の宙域へと到着したマクロス・エリシオンはイチカの機体の反応が有った方角へと進んでいた。

そしてアラドは格納庫にいる自身の部下達、そしてワルキューレ達が居る待機室へと到着して居た。

 

「全員揃っているな?」

 

「隊長、一体何が起きたんだよ?」

 

ハヤテは何時でも出撃できるようパイロットスーツを着た状態でアラドに聞いた。

 

「あぁ。どうやらこのマクロス・エリシオンは何処か他の宙域に飛ばされた可能性がある。そして現在この艦が向かっている方角は」

 

アラドは其処でいったん言葉を区切り、一呼吸入れた。

 

「……イチカの機体がある方角だ」

 

アラドから出た言葉に全員驚いた表情を浮かべ、言葉が出なかった。

 

「な、なぁ隊長。いまイチカって……」

 

チャックは震える唇でそう伝えると、アラドは首を縦に振って肯定した。

 

「そうだ。先ほど艦長の所に行った際にイチカの機体の反応が有った。その為イチカが居る方角に今向かっている」

 

その言葉に美雲は自然と目から涙が出てきた。

 

「……生きてた。イチカが生きていた!」

 

美雲は溢れる涙を抑えられず、涙を流しながら喜んだ。美雲以外にもレイナやマキナも泣き喜び、互いに手を掴みながら跳ねていた。

 

「喜んでいるところ悪いが、まだイチカが生きているかどうか分かっていなんだ。その涙はアイツと会うまで残しておくようにな」

 

アラドがそう言っていると、待機室に備えられている通信モニターにブリッジにいるアーネストが映った。

 

『デルタ小隊、並びにワルキューレに通達だ。イチカが居るだと思われる惑星、そして座標を特定した。見てくれ』

 

そう言いモニターにある惑星が映った。

 

「あれ、これって……」

 

マキナはモニターに映った惑星に見覚えがあった。

 

「地球?」

 

ミラージュは思いついた惑星の名前を言うと、アーネストはそのとおりだ。と肯定する。

 

 

『だが、この惑星は恐らく我々が知っている地球ではない。恐らく別の地球だと思われる。そしてイチカの居ると思われる場所が此処だ』

 

そう言い地球のある一点が拡大された。

 

「此処にイチカが居るのか?」

 

ハヤテはそう聞くと、アーネストは首を横に振る。

 

『正確にはイチカの機体がある場所だ。詳しくは降りてみないと分からない。其処でデルタ小隊、並びにワルキューレ達を降ろそうと思う。各員は速やかに準備を終え任務にあたってくれ』

 

「了解だ。よし全員速やかに機体に搭乗しろ。ワルキューレ達は輸送機に乗り込んでくれ」

 

「「「了解(ウー・ラー・サー)!」」」

 

アラドの指令に全員機体に搭乗していき、ワルキューレ達も輸送機へと乗り込んだ。

そしてデルタ小隊とワルキューレ達を乗せた輸送機はイチカの機体の反応が有った地点へと降下していった。

デルタ小隊達が降りた場所は、イチカの機体があるエンシェントセキュリティー社から400㎞程の位置だった。エンシェントセキュリティー社は突然防空レーダー感知範囲に機影を確認できたことに驚き、スコールに報告する。

 

「司令! 此処から400㎞地点に突然所属不明の機影を確認! 数は5。真っ直ぐ此方に向かって来ます!」

 

「基地全体に警報を発令! 対空戦闘を準備の上、上げられる戦闘機は順次スクランブル用意! 所属不明機にオープン回線で呼びかけ、何処の編隊か聞きなさい!」

 

「イエス・マム! 此方エンシェントセキュリティー社、現在此方に向かっている機影に告げる。――――」

 

スコールからの指示に指令室にいた無線手はオープン回線で呼びかけ始めた。

その無線はデルタ小隊にも入っていた。

 

『此方エンシェントセキュリティー社、現在此方に向かっている機影に告げる。そちらは当基地の防空範囲に侵入している。目的を明らかにしろ。繰り返す、目的を明かせ。さもなくば防空侵犯として撃墜する』

 

『おいおい、隊長。降りる所間違えたんじゃないのか?』

 

ハヤテがそう言っている中、アラドはどうすべきか判断に迫られていた。

 

(機体の反応があったのはあの地点なんだ。だが無暗に俺達の正体を明かすのは不味いし、どうすべきだ?)

 

そう悩んでいると、突然先ほどの男性とは違う女性の声が無線に入ってきた。

 

『はろはろ~、聞こえてるぅ? 一つ確認したいんだけど、もしかして君達っていっくんが所属していたデルタ小隊って言う名前かな?』

 

「!?」

 

突然の問いにアラド、そしてデルタ小隊のメンバー全員が驚いた。

 

「そうだ。アンタが言ういっくんがイチカと言う名前なら、俺の大切な息子で部下だ」

 

『そっか、そっか。それじゃあ大丈夫だね。スーちゃん! 接近している戦闘機はいっくんの仲間だから降ろしても大丈夫だよ!』

 

その声が聞こえたと同時に女性からの無線は切れ、先ほどの男性の声が届いた。

 

『今から指示する滑走路に進入して着陸してくれ。……可笑しな真似だけはするなよ』

 

そう言われ、アラドはホッと息を吐き指示に従い滑走路へと向かった。そしてデルタ小隊、輸送機が着陸すると指示棒を持った兵士に指示されながら、機体ごとエレベーターへと乗せられ地下へと降ろされた。降りた空間にはイチカの機体もあり、アラドは機体を指示された場所へと停めた後すぐにイチカの機体によるが、数人の銃を持った兵士達に止められた。

 

「ごめんなさい。まだ貴方達がイチカ君の仲間であると確証が取れるまでは貴方達は味方か敵か判断できないの」

 

兵士達の間からスコール出てきながらそう説明する。

 

「いや、誰だってそうなるからな。そう言えばさっきの無線の女性は?」

 

アラドがそう言うと何処からともなく束が現れた。

 

「やぁやぁ、初めまして。君達がいっくんと同じ部隊の人達だね」

 

「あ、あぁ。さっきの無線の女性か? 何故俺達がイチカと同じ部隊の仲間だと気付いたんだ?」

 

ハヤテは突然現れた束に驚きつつもそう聞くと束はニンマリとした表情で答えた。

 

「そりゃあいっくんから君達の機体の写真、そして集合写真を見せてもらった事があるからだよ。ハヤテ君」

 

「!」

 

「そして其処の丁髷みたいな人が、チャック。で、赤紫色の君がミラージュ。そして貴方がいっくんのお父さん、アラドさんだね?」

 

全員驚いた表情を浮かべる中、アラドは口を開く。

 

「それで、イチカは? 俺の息子は此処に居るのか?」

 

その質問に束が答えた。

 

「うん、この世界にいるよ。けど今この基地には居ない。今は別の場所で学校に通っているんだぁ。いっくんはあぁ見えてまだ高校生だし」

 

そう言うと、アラドはそうか。と一安心したように息を吐く。その光景を見たスコールは部下達に銃を下ろすよう伝え、下がらせた。

 

「それじゃあハンガーで立ち話も何だし、応接室に行きましょう。色々聞きたいことがあるでしょうし」

 

そう言いスコールはアラド達を連れ応接室へと向かった。

 

アラド達を連れ応接室へと入ったスコール達はそれぞれ席へと着き、飲み物を持ってくるよう部下に伝えた。

 

「それじゃあまず自己紹介から始めましょうか。私がこのエンシェントセキュリーティー社社長のスコール・ミューゼルよ。で、こっちが」

 

「篠ノ之束さんだよぉ! よろしく~!」

 

そう言い、次にアラド達が自己紹介を始めた。

 

「俺がデルタ小隊の隊長、アラド・メルダースだ」

 

「デルタ3のチャック・マスタングだ」

 

「デルタ4のミラージュ・ファリーナ・ジーナスです」

 

「デルタ5のハヤテ・インメルマンだ」

 

デルタ小隊の自己紹介を終えた後にワルキューレのメンバーが自己紹介を始めた。

 

「カナメ・バッカニアと言います。ワルキューレのリーダーをやっています」

 

「マキナ・中島って言います」

 

「レイナ・プラウラー」

 

「フ、フレイヤ・ヴィオンって言います」

 

「美雲・ギンヌメールよ」

 

「美雲?」

 

束は美雲の自己紹介にすぐに反応し、その傍に近寄る。

 

「ねぇねぇ、君ってもしかしていっくんの恋人?」

 

「えぇ、そうよ」

 

美雲は答えると、束はそっかぁ。と朗らかな笑みを浮かべ手を差し出した。

 

「いっくんの事お願いね。いっくんはどうしても一人で抱え込んじゃうことが偶にあるから、傍で一緒に支えてあげて欲しいの」

 

そう言われ美雲は一瞬惚けてしまうが、直ぐに我に返り束の手を握り返した。

 

「勿論!」

 

美雲の自信たっぷりな返事に束は安心したような表情を浮かべ元の位置へと戻る。

 

「さて、自己紹介も終えた事だし、お互い情報を交換し合いましょうか? 我々はこの世界の事。そちらはこちらで出現したある機体の事を教えてもらいたいのです」

 

「ある機体? そりゃあ一体?」

 

アラドは首を傾げながらそう聞くと、スコールは部屋を暗くしスクリーンにある画像を映し出した。

それを見たアラド達は驚いた表情を浮かべる。

 

「おい、この機体って!」

 

「ドラケン! 何でウィンダミア王国の機体がこの世界に!」

 

チャック、ハヤテがそう呟いてる中、スコールが順を追って説明を始めた。

 

「この機体はイチカが今通っている学園に突如襲撃した機体の写真です。この機体が襲撃してきた後、イチカともう一人の仲間が撃退。何処で作られ、誰の命令で動いたのか調べようとしたのですが何も分かりませんでした」

 

「この機体はISって言う本来人が乗って動かす物を、機械で動かせられるよう作られているみたいなんだぁ。まさかこの束さん以外にもこんな芸当が出来る奴が居るなんて信じられないよぉ」

 

スコール達の説明にアラド達は首を傾げる以外何も出来なかった。

 

「これを作った奴がこの世界にいる可能性はあるかもしれない。だがその人物に俺達は心当たりがなぁ」

 

「あぁ。あの戦争は、元凶となった奴は白騎士が相打ちを覚悟で止めに行き戦争は終結した。奴の可能性は低い」

 

「となると、一体誰がこの機体を?」

 

応接室にいた全員が頭を捻っている中、マキナが一人手を上げる。

 

「ん? マキナさん何かしら?」

 

「あの、話は代わるんですがいっちーの機体って誰か整備とかされていたんですか? あまりいっちーの機体を見ていないので整備とかしておかないと、いざって言うとき不調で撃墜とかされたくないから」

 

そう言うと、束が答えた。

 

「束さんが時折見てたよ。けど、束さんでもどれがどのパーツなのか見当が付かなかったから、自分でわかる範囲しかしてないよ」

 

「それだったら整備の方をしたいのですが、いいですか?」

 

マキナのお願いに、スコールは別に構わないかと思い、許可した。

 

「ふむ、まぁ構わないわよ。必要な道具とかは整備班に言ってくれたら貸してくれるし。そうだ束、貴女も行って来たら? イチカ君に渡す予定の強化パーツ今行き詰ってるんでしょ」

 

「それもそうだね。ねぇマッキー、束さんもその整備見学してもいいかな?」

 

「勿論です! 何だか貴女からは私と同じ雰囲気をずっと感じていたので、2人でお話ししたかったんです!」

 

そう言われ束も私もだよぉ!と喜びながらマキナと、端末担当のレイナと一緒に束はイチカの機体があるハンガーへと向かった。

 

「ありがとうございます。メンバーのお願いを聞いて下さって」

 

カナメはスコールにそうお礼を言うと、スコールは笑みを浮かべ別にいいわよ。と返す。

 

「それではこちらの世界に関する情報をお教えします。少し信じられない事もありますが、すべて真実なので心して聞いて下さい」

 

そう言いスコールはこの世界の状況を伝え始めた。




次回予告
臨海学校の準備をしにレゾナンスへと来ていたイチカとマドカ。そして一緒についてきた簪と鈴と共に回っていた。
買い物を終えて数日後臨海学校が始まった。
次回
臨海学校~前編~


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13話

イチカとマドカは制服から私服へと着替え、寮の部屋から出て鍵を掛ける。

 

「あら、あんた達も今から買い物?」

 

「ん? おぉ鈴か。それに簪さんも。そうだが、お前らもか?」

 

そう声を掛けられ鈴と簪は頷く。

 

「そうだ、どうせなら一緒に行かない?」

 

「俺は別に良いぞ。マドカは?」

 

「私も別に構わない」

 

「よし、決まりね。それじゃあ行きましょうか」

 

そう言い鈴はイチカ達を先導するように歩き出した。イチカは相変わらずだなぁと零す。

 

「兄さん、鈴は何時もあんな感じなのか?」

 

「あぁ。俺と後2人程一緒につるんでいた時も鈴が率先して俺達を引っ張っていく感じだ。まぁアイツの持ち前の明るさがそうさせてるんだろうがな」

 

「へぇ~。……私にはそんなこと出来ないなぁ」

 

簪は鈴の性格に少し羨ましさを感じる。それを見ていたイチカはフォローすように声を掛けた。

 

「そうかぁ? 簪さんもみんなを一生懸命引っ張ている感じはするんだがなぁ」

 

「そう? 私的には皆の足を引っ張っている様な感じがするんだけど」

 

「考えすぎですよ。後少し自分を過小評価しすぎです。クラスのみんなだって簪は一生懸命頑張っているって口には出してませんが、ちゃんと評価はしているんですよ」

 

マドカにそう言われ、簪はやっぱりクラスのみんなはちゃんと私の事見ててくれているんだと嬉しい思い半分、恥ずかしい思い半分で顔を赤く染めた。

 

そして4人はモノレールへと乗り込みレゾナンスへと向かった。車内で鈴はある事を思い出しイチカに話しかけた。

 

「そう言えばイチカ。例の1組の男性操縦者、あれって結局は変装した女性だったそうで、しかもアンタの機体データを盗む為に来たって噂で聞いたんだけど本当?」

 

「あぁ、本当だ。彼女が入学してきた時からうちの会社が調査した結果判明したんだ。その後は作り笑いで何度かコンタクトしてきたんだが何日かした後に突然絡んでこなくなって部屋に閉じこもっているって聞いたぜ」

 

「ふぅ~ん。彼女も災難ねぇ~。実の父親に傀儡みたいなことさせられて。そのうえにスパイ行為までさせられそうになって」

 

鈴は呆れた様な表情を作りながらスマホで最近の学内ニュースを見始めた。

そしてモノレールは終電のレゾナンスへと到着し、買い物を開始する。最初に着いたのは水着を専門に販売しているお店。中には色とりどりの水着は置かれているがほとんどが女性ものだった。

 

「それじゃあ俺は男物がある所で見てくるから、後で合流な」

 

「えぇ、分かったわ」

 

そう言い3人と別れたイチカは男物の水着があるコーナーに行き、適当に合いそうな物を見つけ手に取り、鈴達が居る場所へと向かう。

 

「よぉ決まったか?」

 

「えぇまぁね」

 

「兄さん、この黒と白どっちがイイ?」

 

マドカは白と黒のビキニ水着を持ってイチカに尋ねる。

 

「白で良いんじゃないのか? お前の黒髪が良い具合に強調されるし」

 

「じゃあ白にする」

 

そう言いカゴに水着を入れる。

 

「それじゃあ後必要な物はあるか?」

 

「日焼け止めもカゴに入れたし、ビーチボールも入れたし、特にないわね」

 

鈴はそう言うと、イチカはそれじゃあ会計に行くかと言いレジへと向かう。

 

 

そして数日後、臨海学校当日。

 

「海ねぇ~」(そう言えばラグナに居た時にデルタのみんなとワルキューレの皆と海水浴に行ったんだっけ)

 

イチカはバスから見える海をぼぉーと眺めながら、ラグナでの楽しかった事を思い出しているとふと水着の美雲を思い出し、一人頬を真っ赤に染め誰にも見られないようにカーテンで顔を隠し寝たふりをした。

バスは旅館へと到着し、イチカ達4組はバスから降り部屋へとぞろぞろと移動する。イチカは手元にあった部屋割の紙を見ながら向かおうとしたが、部屋割に自分の名前がない事に気付き、エリシアに確認する。

 

「エリシア先生、俺の部屋は何処なんですか?」

 

「イチカ君のお部屋は私と同じ部屋よ」

 

「つまり教員部屋ってことですか」

 

イチカはそう言い、警護やら何やらの為なんだろうと納得しエリシアと共に部屋へと向かった。

 

部屋で荷物を置き、水着に着替え浜辺へと出る。イチカの水着はボクサータイプの海パンで、上にはパーカーを着ていた。

 

「あっち~」

 

そう言いながらパラソルがある所まで行き日蔭で海を眺め始めた。

すると背後から自身を呼ぶ声が聞こえ、イチカは後ろを振り向く。

 

「兄さん、どうでしょうか?」

 

そう言いマドカは白の水着を見せる。

 

「ん? おぉ似合ってるぞ」

 

そう言い頭に手をポンと置き撫でる。マドカは頬を染めながら大人しく頭を撫でられた。

 

「ちょっと、イチカ! そんなところで座ってないでこっちでビーチバレーでもやらない?」

 

鈴はビーチボールを持ちながらイチカを誘うと、イチカはいいぞ。と了承しコートへと入りチーム分けをしてビーチバレーを始めた。

 

それから時間は経ち、夕方。生徒達は旅館の大広間で夕飯をとり始めた。夕飯には刺身などが出ており、魚を生で食べたことが無い海外生徒達は悪戦苦闘しながら、夕飯をとっていた。

夕飯を終えたイチカとマドカ。そして鈴と簪、更に簪の幼馴染の布仏本音と共に旅館だったら必ずあるゲームセンターに来ていた。

 

「お! 此処にもこれが置かれているのか」

 

そう言いイチカは目の前にあるアーケードゲームに驚く。

 

「これ、よくアンタが遊んでいたヤツじゃない」

 

「そうだな。そうだマドカ、今のうちにこいつで戦闘機の動作になれとけ」

 

イチカはそう言いマドカをコックピット状になっている席に座らせる。

 

「よし、やってやる!」

 

そう言いマドカは操縦桿を握り、ゲームを始めた。

開始から数分後。

 

「うぅぅ、着陸が上手くいかなぁい!」

 

マドカは悔しそうに、ゲームオーバーが出た画面に向かって叫んでいた。

 

「管制室からの風の方向と、風速をしっかり理解できないと、機体は流されちまうからな」

 

イチカはマドカがミスした原因と改善点を教えていた。

 

「はぁ~い、ゲームセンターに居る皆さん! そろそろ就寝時間の為部屋に戻る様に!」

 

エリシアは入り口付近でそう言うと、ゲームセンターにいたイチカ達は部屋へと戻っていった。




次回予告
臨海学校2日目に、イチカ達は海岸に居ていると大型の輸送ヘリがやって来た。そして下りてきたのは束と、イチカがずっと会いたいと願っていた仲間達だった。

次回
臨海学校~後編~


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14話

臨海学校2日目の朝、専用機持ちと一般生徒達は浜辺に集合しそれぞれISスーツを身に纏っていた。

浜辺にはそれぞれの代表候補生の国から送られてきたコンテナが置かれていた。

ジャージを着た千冬は生徒達の前に出る。

 

「ではこれより一般生徒と専用機持ちごとに別れて訓練を行う。政府が用意した拡張パッケージがある者はそれぞれインストール等を行え!」

 

そう声をあげた後、一般生徒達は2組と3組の教師に連れられて訓練を行いに向かう。残った専用機持ちはその場で政府から送られた拡張パッケージをインストールするためコンテナを開けていると、海の方からローター音が聞こえイチカは海の方を見ると2機のオスプレイが飛行しており、一機にはコンテナをぶら下げており前方を飛行していたオスプレイは先に浜辺へと着陸し、中から数人の兵士達が降りて来て赤色棒でコンテナをぶら下げたオスプレイに指示を送りながら、コンテナを地面へと降ろし始めた。

 

「おい、貴様ら何処の国の者だ!」

 

千冬は怒鳴りながら兵士達に近付くと、一人の兵士がライフルを構えそれ以上近付くなと警告する。

すると背後に居たエリシアが呆れた様な表情で兵士が何者なのか話す。

 

「彼らはエンシェントセキュリティー社の兵士達です。荷物が遅れて到着すると昨日職員会議で言ってたはずですが?」

 

そう言われ千冬は視線を明後日の方へと向ける。

するとオスプレイから白衣を着た束が降りて来て兵士達に声を掛ける。

 

「ご苦労様! それじゃあ本部に報告と周辺警戒をお願いね!」

 

そう言いイチカ達の方へと体を向ける。

 

「やっほ~いっくん、マーちゃん。元気にしてた?」

 

そう言いながら束が近づく。

 

「えぇ元気にしてましたよ」

 

「同じく」

 

2人が元気にしている事が分かった束はそうかそうかと顔を振り、エリシアへと顔を向ける。

 

「エーちゃん、2人に危害を加えたり罵声を浴びせたりする馬鹿はあれ以来いる?」

 

「そうね、其処にいるラウラ・ラブリスさんはタッグマッチ戦後に2人に謝罪して許してもらってるわ。今は戦友って言った所かしら。其処にいるセシリア・オルコットさん、シャルロット・デュノアさんに関しては特に謝罪らしきものは2人にはされていないわね」

 

そう言うと、束は真顔で2人に向ける。

 

「へぇ~、まだ自分達がしでかした罪がよく分かってないのかな?」

 

そう言われ2人は冷や汗を流す。

 

「そ、それにつきましては大変失礼なことをしてしまい申し訳ありませんでした」

 

「ご、ごめんなさい」

 

2人の謝罪にまぁ、いいよ。と言い束はイチカ達の方へと行こうとするとシャルロットがあ、あの!と束に声を掛ける。

 

「なに?」

 

「約束通り全部学園に話したので、こ、この腕輪を外してください!」

 

そう言い自身の腕に付いている腕輪を見せるシャルロット。

 

「それはシャルロットさんが付けたアクセサリーでは?」

 

セシリアはそう思い口に出すが束が否定した。

 

「違うよ、それは私が付けた物だよ」

 

そう言いながら腕輪に何処からか取り出した小さな鍵を差し込む。そして

 

「ドカーーーーン!!!!」

 

「ヒッ!?!!?」

 

シャルロットは束の突然の大声に驚き尻もちをつく。それを見た束はアハハ!と笑いあげる。

 

「これは只の盗聴器しかついていない玩具だよ。爆薬なんて1グラムも入ってないよ」

 

そう言い腕輪をポケットに仕舞う束。

 

「そ、そんな! 僕を騙したんですか!?」

 

「騙した? そうだね、確かに君を騙した。だけど君もいっくんを騙そうとしてISのデータを盗ろうとしたじゃん。お互い様じゃん」

 

束にそう言われシャルロットはぐうの音も出ず黙り込む。そんな光景を見ていた鈴と簪は突然現れた人物が誰なのかイチカ達に聞いていた。

 

「ね、ねぇイチカ。あの人って……」

 

「ん? おぉお前の予想通りISの生みの親の篠ノ之束博士だぞ」

 

そう言うと鈴は驚きのあまり口がアングリとひらきっぱなしになり、簪はISを作る際に点検用のソフトをくれたのがあの篠ノ之博士だと分かり驚きのあまり束の元に駆け寄る。

 

「あ、あの篠ノ之博士。点検用のソフトとデータのコピーをくださってありがとうございます!!」

 

「ん? おぉ君がいっくんの言っていた更識簪ちゃんね。別にお礼されるような事じゃないよ」

 

そう言いイチカに近付く束。

 

「それじゃあいっくん。IS見せて」

 

そう言われイチカはISの待機形態であるドッグタグを見せる。束はコネクターを取り出しそれに挿しデータを確認する。

 

「ふむふむ。いや~、流石いっくんだね。この機体といっくんの相性は類を見ないね」

 

そう言いデータを取り終えた束はコネクターを外し、ディスプレイを閉じる。すると思い出したかのように手を叩く。

 

「そうだ、いっくんに会わせないといけない人達が居たんだった」

 

「会わせたい人?」

 

イチカは怪訝そうな顔でそう言うと、束はオスプレイに方向に大声で叫ぶ。

 

「お~~い! そろそろ出てきてもいいよ~!」

 

そう叫ぶと機体の後部ハッチから一人の男性とフードを被った3人の女性が降りてきた。イチカはその人物達に思わず目を疑った。

 

「よぉイチカ。無事でよかったぞ!」

 

そう言い男性はイチカの頭に手を置きわしゃわしゃと荒っぽく撫でる。

 

「な、何で此処に居るんだよ父さん!?」

 

イチカがそう言うとアラドは笑いながら説明する。

 

「いや~、色々あってこの博士がお前の所に行くって言うもんだから一緒に連れて来てもらったんだ。後ろの3人とな」

 

そう言い後ろにいる人物に指さす。

 

「3人? ……まさか」

 

イチカは後ろにいる3人に信じられないと言った表情を向けると、一人がフードを脱ぐとフードの中に纏めて入れていたのであろう紫色の髪がバサッと出てきた。

 

「美雲……。君なのか?」

 

「えぇ、私よ。……会いたかったわイチカ!」

 

そう言い美雲はイチカに抱き着く。イチカも抱き着いてきた美雲をそっと抱きしめ、目元から溢れる涙をそっと零す。

 

「会いたかった。ずっと会いたかった美雲!」

 

「私もよイチカ」

 

二人が抱きしめ合っていると残りの2人がフードを脱ぎ捨て2人に近付く。

 

「ちょっと~、くもくもずるい~!!」

 

「私達も感動の再会させて」

 

そう言うとイチカは2人の顔を見て驚く。

 

「マキナ! それにレイナも! 何で2人も!?」

 

「そりゃあイチカ、この二人はお前に好意を持ってるからに決まってるだろ」

 

アラドがそう説明すると、イチカはえぇ~。と困った表情を浮かべる。

 

「あの、2人の気持ちは嬉しいが俺は美雲と「うん、知ってるよ。けどそんなことで諦めるマキマキとレイレイじゃないからね!」「必ず振り向かせる!」 えぇ~」

 

イチカは困った表情を浮かべている中、美雲は笑みを浮かべながらイチカに更に密着する。

 

「ダメよ。イチカは私のモノなんだから」

 

「ちょっ!? 美雲密着しすぎだ!」

 

イチカは頬を真っ赤に染めながらそう言うが、内心嬉しく思い放そうとはしなかった。

 

「全くウチの息子はモテモテだな」

 

アラドは笑みを浮かべながらそう言っているとその傍にマドカがやって来た。

 

「えっと、お父さん」

 

「ん? おぉマドカか。久しぶりだな」

 

そう言いイチカと同じように頭を撫でる。そして口パクでこう言った。

 

《よろしく頼むな、娘よ》

 

そう言うとマドカは嬉しそうな顔をして荒っぽい撫でを受けていた。するとその傍に千冬がやって来た。

 

「あの少々宜しいですか」

 

「何か?」

 

アラドはマドカを撫でるのを止め、目線を千冬の方へと向ける。

 

「一夏をこれまで育てて下さってありがとうございます。後は私が引き取りますので」

 

「あんた何言ってるんだ?」

 

千冬がイチカを引き取ると言う話を聞いたアラドは鋭い視線を送る。

 

「アイツは俺の息子だ。アンタの家族じゃない」

 

そう言うと千冬は違うと叫びアラドに掴みかかろうとしたが、その腕を束が取り押さえる。

 

「お前まだそんな事言ってたのか?」

 

「束! 離せ!」

 

分かった、放す。そう言い束は千冬を掴み上げ、そのまま海へと投げ捨てた。

投げ捨てた束は清々したと言わんばかりに手に付いた埃を払うように叩く。

すると束を呼ぶ声が木魂した。

 

「姉さん、やはり私にISを持ってきてくれたんですね!」

 

箒がそう言うと束はまた面倒なのが来たと言わんばかりにため息を吐く。

 

「だから作らないって言ったじゃん。何? お前の頭って鳥頭なの? あぁ御免、鳥頭じゃなかったや。頭の中にある脳ミソが鳥以下だったね」

 

そう言いマドカのISの状態の確認を始める。箒は束の言葉にキッと睨んでいると視界の端にイチカが居る事に気付く。そしてその周りに見知らぬ女性が居ることも。

 

「なっ!? イチカ、誰なんだそいつらは!」

 

そう声を荒げると、イチカは直ぐに美雲達を自分の後ろに移動させ守る様に立つ。

 

「彼女達は大切な仲間だ。そしてそのうちの一人が俺の大切な彼女だ」

 

そう言うと箒は信じられないと言った表情で詰め寄る。

 

「ふ、ふざけるな!」

 

そう言い箒が近付こうとした瞬間、近くに居た兵士がライフルを構える。箒は撃たないと思いイチカに近付こうと一歩踏み出した瞬間、足元に一発放たれた。

 

「それ以上近付いた場合、今度は警告じゃないぞ」

 

そう言われ箒は、拳を握りしめ奥歯をギュッと噛む。

 

「ほら、さっさと一般生徒達の所に帰れよ」

 

そう言い束は箒の肩を押して一般生徒達の方に帰らせる。箒は舌打ちをした後一般生徒達が居る方へと戻って行った。

戻って行ったのを確認した束はイチカに顔を向ける。

 

「さて、お邪魔虫は何処かに行ったからいっくんの拡張パッケージをお披露目するね」

 

そう言い束は持ってきたコンテナを開く。中にはVF-31シリーズの拡張パーツであるスーパーパックが入っていた。

 

「スーパーパックじゃん。もしかして束さんが?」

 

「うん。けど途中で行き詰ちゃってね。それでマッキー達にも手伝ってもらってようやく完成したんだぁ」

 

そう言うとマキナとレイナがイェイ!とVサインを出す。イチカはありがとう。とお礼を言い早速ファルコにインストールした。特に問題も無く早速試そうと展開した瞬間、一人の兵士がオスプレイから降りて来て束に耳元で何かを囁く。兵士からの報告に束は顔を強張らせイチカとマドカ、そしてラウラを呼び寄せる。

 

「3人共、イスラエルのIS技術開発所から依頼が来たからオスプレイに乗って」

 

そう言い3人は意識を切り替えオスプレイへと向かう。すると旅館から真耶が走ってやって来て待ったをかける。

 

「ま、待って下さい! 学園側にも特別任務が入って来たので連れていかれるのは困ります!」

 

するとエリシアが真耶の肩に手を置く。

 

「大丈夫よ。彼らに与えられた任務もこっちに送られてきたものと同じ物だと思うし、それにエンシェントセキュリティー社に協力するよう言われているんじゃないの?」

 

そう言われ真耶はふぇ?と目を点とした表情を浮かべると、もう一人の教師が来てPDAを持ってきた。

 

「ちょっと山田先生。貴女ちゃんと確認もせず行かないの!」

 

そう言い近くに居たエリシアにPDAを渡す教師。エリシアは中身を確認してやっぱりね。と頷き真耶にコツンと頭に拳を落とす。

 

「緊急指令が来ても慌てず確認。常識でしょ」

 

そう言われ真耶はあぅううと涙目になりながら謝罪する。

 

「もういい? それじゃあ皆乗って」

 

そう言い束はイチカ達を連れてオスプレイに乗り込み飛び立った。




次回予告
オスプレイに乗り込んだイチカ達と束。具体的な作戦を旅館にいる専用機持ち達と決め、作戦を決行する。そして目標となるISを発見しパイロットの救護に成功する。すると突然多くのドラケンⅢが襲ってきた。
次回
臨海学校~襲撃~


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15話

ちょっと、前話の予告を変更しました。


旅館から飛び立ったオスプレイ内では、本部にいるスコールから作戦の内容が伝えられていた。

 

『先ほどイスラエルのIS技術開発所から依頼が来たわ。依頼してきたイスラエルによると突如出現した所属不明のIS群がアメリカと合同で開発していたISを強奪しようと攻撃をしてきたらしく、そしたら今度は攻撃を受けていたISが突然暴走し実験場から飛び立ち、太平洋を横断して日本に向かって飛んでいるらしいの。アメリカ政府は日本政府に頼みIS学園にこのISの撃墜を依頼したらしいけど、イスラエル側はISと搭乗者を無事に救護してほしいと私達に依頼してきたわ』

 

スコールからの通信にイチカ達は険しい表情を浮かべる。

 

「アメリカの連中、自分達が正義だからって何でもしてもいいって思ってるのか?」

 

「あぁ、軍事用のISは本来国土防衛用が暗黙のルールのはずだ。だが暴走したISは違うんですよね?」

 

『えぇ、暴走したISはオールレンジ型。完全に国土防衛用にしては火力が大きすぎるわ』

 

「イスラエル側はこれを知って技術を提供したのですか?」

 

ラウラは元軍人として気になりスコールに聞くと、スコールはため息を吐き首を縦に振った。

 

『イスラエルは技術は有ってもそれを活かすほどの資金も資材も無いの。それに目を付けたアメリカが今回の事を持ちかけたらしいわ。…ほとんどの権利はアメリカ側が握ってたようだけど』

 

その話を聞いたオスプレイ内に居た全員が眉間にシワが寄った。そしてイチカは本題へと移ろうと思い、学園側との作戦をスコールに聞く。

 

「それで学園側とはどういう作戦で行きますか?」

 

『現在此方の衛星によると暴走したIS、銀の福音の周りにはその所属不明らしき機影は無いわ。けど銀の福音は未だに暴走した状態の為、私達は2つの防衛ラインを構築しそれで迎え撃つ作戦で行くわ。第一防衛ラインにエンシェントセキュリティー社、そして第二防衛ラインにIS学園の専用機持ちが受け持つ。万が一第一防衛ラインでは抑えられない場合は第2防衛ラインまで後退し、学園側と共闘してISを止めてパイロットを救護よ』

 

スコールの作戦にイチカ達はそれが妥当かと思い、ISの準備に入ろうとすると学園側のモニターに映っているセシリアが手をあげた。

 

『あの、全員で攻撃した方が宜しいのではないでしょうか? 全員で攻撃すればすぐに終わる気がしますが』

 

『確かにそうすれば早く終わるかもしれないけど、さっきも言った通り所属不明機が何時乱入してくるから分からない状況では不用意に全戦力を投入出来ない。万が一所属不明のISが貴女達が泊まっている旅館付近で現れたら、教師達が持っている打鉄やラファールでは歯が立たないかもしれない為、即座に動ける予備部隊が必要なのよ』

 

そう言われセシリアは納得し分かりました。と言い座る。

 

『それじゃあ質問は以上ね? では作戦を開始して』

 

スコールの合図とともにイチカ達は頷き後方のハッチへと移動してISを纏う。イチカとマドカは何時も通りの機体で、ラウラはドイツで使っていたISは取り上げられていた為、エンシェントセキュリティー社のIS部隊に導入を考えている粘土色のIS、VF-171ナイトメアプラスを身に纏った。

 

「全員準備はいい?」

 

束は後部ハッチを開くレバーまで行き、イチカ達に問うと全員頷きサムズアップをする。

 

「よし、それじゃあ気を付けてね‼」

 

そう言い束はレバーを引き下ろしハッチを開いた。イチカ達は外へと出て福音が居る方へとブースターを吹かした。

 

オスプレイから飛び立ったイチカ達は目標の福音が通ると思われるルート付近を飛行していると旅館に設けられている指令室から通信が入った。

 

『こちら指令室です。メルダース君、目標とは接敵した?』

 

「いえ、まだです。引き続き索敵を「目標を視認‼」訂正! 目標と接敵(コンタクト)! これより迎撃に移ります!」

 

イチカはそう言い、マドカとラウラと共に福音に攻撃を開始しようとした瞬間、3人の目の前に突然ディスプレイが現れ、其処に『銀の福音』と表記されており、そして声が流れてきた。

 

「貴方達は何処の所属なの?」

 

「「「!?」」」

 

突然声を掛けてきた福音にイチカ達は驚きながらも、イチカが答えた。

 

「俺達はエンシェントセキュリティー社所属の兵士だ。俺達に与えられた指令は銀の福音に搭乗しているパイロットの救護だ」

 

そう言うと突然銀の福音の動きが停まり、イチカ達は何だと思いながら警戒する。

 

「そう、良かった。私はアメリカ空軍IS部隊所属のナターシャ・ファイルス中尉よ。救援感謝するわ」

 

そう言われイチカ達はある疑問が生じた。

 

「救援? 待ってくれ。俺達が聞いた話じゃ、暴走したISからパイロットを救護してほしいとはイスラエル側から依頼されたが救援なんて一言も無かったぞ」

 

「それとアメリカ側はその機体の撃墜をIS学園側に依頼してきました」

 

イチカとマドカの言葉にナターシャは驚いたのか、えっ!?と声をあげた。

 

「そんな…。私はあの所属不明のISから皆を守る為に、実験場から離れただけなのよ。それなのに撃墜だなんてそんな……」

 

「恐らくその機体の事が他国に漏れるのを防ぐためにIS学園に依頼したんだろう。まぁ、イスラエルがエンシェントセキュリティー社に依頼を出していた為その計画は潰れた様だが」

 

そう言い仮説を言うがナターシャは落ち込んだ感じを出し続けた。そんな中、マドカは目標を確保したことを本部に報告していた。

 

「はい、パイロット並びにISは無事に確保しました。見た限りパイロットはかなり疲労しているみたいですし、ISも所々破損が見受けられます。恐らく此処から旅館まで飛行させるのは難しいかと。…了解しました」

 

旅館からの新たな指令を貰ったマドカはイチカに報告する。

 

「兄さん、本部からの新しい指令で彼女を連れて旅館へと戻ってくるように。その際彼女を負ぶって出来るだけ早く戻ってくるようにだそうだ。それとナターシャ中尉、貴女の身柄はエンシェントセキュリティー社が預かることになりました」

 

その報告を聞いたイチカは指令のある部分に疑問が生じる。

 

「なんで彼女を背負わなきゃいけないんだ? マドカかラウラが運べばいいじゃないか」

 

「パイロットの疲労等を顧慮しての判断だそうだ。それと私達では体格的に難しい……変なことはするなよ兄さん?」

 

「するかっ‼」

 

イチカはそう叫び、ぶつくさ文句を言いながらISを解除したナターシャを背負い旅館へと戻ろうとした瞬間、束から突然無線が入った。

 

『3人ともよく聞いて‼ 其処から5㎞先で例の所属不明機の反応を検知したの! 急いで其処から離脱して‼』

 

「っ!? 了解しました! 急ぐぞ!」

 

イチカの号令と共に3人は大急ぎでその場から離れ始めた。そして数十分後3人は第2防衛ラインまで後退してくると、鈴や簪達IS学園組が居た。

 

「イチカこっちよ!」

 

「早くその人を旅館に‼」

 

そう言われイチカは頷き、第2防衛ラインを後にしようとした瞬間、背後から迫っていた所属不明のIS事ドラケンⅢが襲ってきた。

 

「やっぱりあのIS!?」

 

「っ!? 皆注意しなさいよ!」

 

「分かったよ!」

 

「分かってますわ!」

 

4人はそれぞれ武器を展開しドラケンⅢに攻撃を始め、イチカ達は無茶するなよと心の中で祈りながら旅館へと向かうと前方から一機の打鉄が現れた。

 

「一夏! 敵の前から逃げるとは何だ! 男なら戦え‼」

 

「チッ! 何でこいつが此処に居るんだよ。 悪いがお前の相手をしている暇は無いんだよ!」

 

そう言いイチカは箒を放置してマドカとラウラと共に離脱する。だが箒をそれを阻止しようと前に出てくる。

 

「ふざけるな‼ 貴様それでも男か! 男なら逃げるな!」

 

すると突然後ろに居た鈴がイチカを大声で呼んだ。

 

「イチカ‼ 一機そっちに行った!」

 

「っ!? マドカ迎撃に向かってくれ! ラウラは引き続き警護だ!」

 

そう聞こえヤバいと感じ、イチカはマドカに抜けてきたドラケンを撃退に向かわせた。そして箒を無理矢理押し退け旅館へと向かおうとすると箒がイチカの機体に掴みかかる。

 

「逃げるなって言っているだろうが‼」

 

「今お前の相手をしている暇は無いんだよ!」

 

そう怒鳴り、掴んでいた手を振りほどこうとした瞬間、背後からのロックオンのアラームが鳴り、振り返るとマドカに撃墜されそうになっているドラケンがビーム砲を自身に向け攻撃したのが見え、イチカは咄嗟に背負っていたナターシャをラウラに投げた。ラウラは突然の事に驚きながらもナターシャを掴んだ瞬間イチカはドラケンの攻撃を受けた。

 

「ぐはっ!?」

 

攻撃はイチカの背中に命中しそのまま海へと落ちていった。攻撃をしたドラケンを撃墜したマドカは直ぐに後ろを振り向くと、バシャ―ンと海へと落ちたイチカを目撃してしまった。

 

「そ、そんな……。に、兄さぁーーーん!!!??!」

 

戦場にマドカの悲痛な叫びが木霊した。

 




次回予告
イチカが落とされたのを目撃したマドカは怒りで我を忘れBITで次々にドラケンを落とし、そして箒を殺そうとした瞬間束の手によって眠らされた。そして旅館へと戻って来た7人の前に束が現れた。
次回
白き翼の墜落~本当に要らない事ばかりするよな、この愚妹が~


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16話

「そんな、嘘だ…。…嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だウソだウソダウソダウソダウソダ‼赦さないぞ、お前等っ‼」

 

兄イチカが墜ちたのを見てしまったマドカは体の奥底から沸き起こる怒りに我を忘れ、自身が展開できるビット全部を展開し攻撃をしだした。マドカの様子に危険と判断したラウラは直ぐに叫んだ。

 

「全員逃げろ‼ 今のアイツは危険だ‼」

 

そう叫ぶと鈴達は急ぎ敵から離れるべく海面擦れ擦れまで降下し、退避する。その間にマドカはビットでドラケンを次々に墜としていく。その光景は旅館に居た教師達も確認できていた。

 

「マドカさん! 応答して下さい! 駄目です、応答ありません!」

 

「面倒な事をしてくれたわね、あの子‼」

 

エリシアは下唇を噛みながら、束が居るオスプレイに連絡をとる。

 

『何? 今忙しいから手短に言って‼』

 

通信越しに忙しそうに動いている束が出た。

 

「そっちでも確認したと思うんだけど、彼女を『今止めるための作業をしているから待ってて!』分かったわ」

 

その言葉を最後に通信は切られ、エリシアは万が一に備え保険医を待機させておいた。海上ではマドカが最後の一機を墜としたところだった。

 

「たった数分で全部を…」

 

「僕達が束になっても手こずった相手をたった一人で…」

 

鈴やセシリア達は驚いた表情を浮かべる中、マドカは次に鋭い視線を向けたのは箒だった。

 

「……お前が邪魔しなければ無事に任務は終わったんだ。……お前さえいなければ兄さんは無事に旅館へと帰ってこれたんだ。私の大切な家族を…。兄さんをよくも…!」

 

そう言いマドカはビットを箒へと向け放つ。箒は恐怖から何も出来ず刺されると思ったがビットは箒の目の前で止まった。

 

「く、クソォ。何で邪魔をする…博士ぇ!」

 

そう言いマドカのISが解除され海へと落ちようとしたが簪がいち早く抱きかかえた。

 

「撤収よ。……セシリア、あそこの馬鹿を捕縛して運んで。私だと殺しそうだから」

 

そう言い鈴は睨むような視線を箒へと向けながらセシリアに頼む。セシリアはは、はい!と言い箒を拘束し旅館へと戻って来た。砂浜へと到着した8人。それを最初に出迎えたのは千冬だった。

 

「箒、お前を拘束する。それと更識そいつをこちらに渡せ」

 

そう言い5人は箒は分かるが、何故マドカまで渡さないといけないのか分からなかった。

 

「何でですか、織斑先生。彼女が居なかったら私達は死んでいたのかもしれなかったんですよ。それなのになぜ渡さないといけないんですか」

 

鈴は睨むような眼で問うと千冬は腕を組みながら訳を話した。

 

「幾ら何でもそいつ一人であれだけの敵を倒せるのは可笑しい。ならそいつのISが違法なほど威力が高いからかもしれん。だから本人に事情聴取するためだ」

 

そう言いマドカを連れて行こうと近付いた瞬間、5人は千冬の後ろに居た人物に気付く。

 

「あ、篠ノ之博士」

 

鈴がそう言うと千冬は驚いた表情を浮かべ後ろを振り向く途中で、顔面に鋭い蹴りが入りそのまま砂浜を20mくらい転がって行った。

 

「ふざけたことぬかしてんじゃねぇよ。……かんちゃん、ラーちゃん。マーちゃんとその人を保険医の元に連れて行って」

 

そう言われ簪とラウラはナターシャとマドカを保険医の元へと連れて行った。鈴は何故マドカのISが強制解除され本人の意識が無くなったのかその訳を聞く。

 

「あの、博士。なんでマドカの意識が突然無くなったんですか?」

 

「マーちゃんは家族と言う温もりを体験したことでそれを無くしたくないという思いが芽生えていると思ってたんだ。だから万が一マーちゃんが暴走した時の事を考えマーちゃんのISに鎮静剤を組み込んでいたんだ。それと若干の睡眠薬も」

 

束の説明に鈴は納得した顔を浮かべる。そして束は顔を箒へと向ける。

 

「本当に余計な事しかしないよな愚妹」

 

そう言うと箒は拳を握りしめる。

 

「―――が悪いんだ」

 

「ん?」

 

「全部一夏が悪いんだ! アイツが敵が居るにも関わらず逃げようとしているのが‼ 男なら敵に真っ向から「言い訳はそれ?」ヒッ!?」

 

箒が自分勝手な言い訳を並べている途中に遮る様に束は殺気を解放した状態で箒に近付く。周りに居たセシリアやシャルロット、鈴は恐怖から口から言葉が出なかった。

 

「敵が背後まで迫っている中、人命を背負っている状態なら旅館まで後退し、人命の安全を確保するのが最優先なんだよ。それなのに敵に真っ向からだと? だったらお前一人で行けばいいだろうがっ‼」

 

束は箒の目前まで来て顔に向け蹴りを入れた。蹴りは綺麗に箒の顔に入りメキッと音が木霊した。蹴られて仰向けに倒れ箒は鼻を押さえる。鼻を押さえて居る手の間からは血がダラダラと流れていた。

そして束は倒れ込んでいる箒に近付き、足をあげる。

 

「お前の頭は特攻と言う言葉しかないのかっ!「グフッ!?」 だったら一人で行けよなっ!「ガハッ!!?」いっくんや皆を巻き込むんじゃねえよっ‼「かはっ!??!」」

 

何度も箒の腹を目一杯踏みつけた束。何度も踏みつけられたことによって箒は胃の内容物を地面へとぶちまけ、苦しそうな顔を浮かべる。

 

「ほら、いっくんを探しに行ってこいやっ‼」

 

束はそう言い箒の脇腹に力一杯の蹴りで海へと蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた箒は海面を数回跳ねた後海へと沈んでいった。

 

「いっくんの捜索をするから3人共指揮所に出頭してよ」

 

そう言い束は砂浜を後にした。鈴は千冬と箒の事を無視して束と同様に砂浜を後にし、セシリアとシャルロットはどうすべきだろうと右往左往していると、千冬の帰りが遅い事を気にして様子を見に来た真耶がやって来たため、状況を説明し、教師達に箒の回収をお願いして指揮所へと向かった。

指揮所へと集まったマドカとイチカを除く専用機持ち達と束、そしてエリシアと数人の教師達。エリシアの表情は険しく、束も殺気全開の状態で佇み教師達、そして専用機持ち達全員早くこの部屋から退室したいと願っていた。すると一人の教師のモニターに『学園長』と表示されコール音が鳴り響く。教師は後ろに居るエリシアに顔を向けると、エリシアは黙って頷く。教師は応答ボタンを押すと投影ディスプレイに学園長が映った。

 

『エリシア先生、状況を教えてもらってもよいですか?』

 

「……はい、銀の福音のパイロットは無事保護し現在医療スタッフが状態を確認しております。それと…」

 

エリシアは下唇を噛み締め報告を続けた。

 

「救出に向かったイチカ・メルダース君が所属不明機の攻撃により被弾。現在行方不明となっております」

 

その報告を聞いた瞬間学園長の目が見開き、驚いた表情へと変わった。

 

『……何があったんですか?』

 

「本来の作戦では当学園の専用機持ち4名、並びにエンシェントセキュリティー社所属の3名が当たっておりましたが、作戦空域に篠ノ之箒が学園が訓練用に持って来ていた打鉄で現れ作戦の妨害をしました。その結果イチカ君は被弾したのです」

 

そう言うと学園長は机の上に置いていた手を握りしめ、鋭い視線を向けつつあることを聞いた。

 

『織斑先生は何処に居ますか? 指揮権は無いとは言え指揮所で勝手に部屋から退出したりする生徒が居ないか監視していたはずです』

 

そう言うと教師達の多くが困惑した表情を浮かべエリシアへと向ける。

 

「……織斑先生は作戦時間中、此処には居りませんでした」

 

『!? どう言う事ですかそれは!?』

 

エリシアからの報告に学園長は表情が固まり、握りしめていた手を机へと叩きつけ怒り口調で訳を聞いた。

 

「分かりません。それと今現在何処に居るのかも「それだったら私知ってるよ」篠ノ之博士、彼女は一体どこに?」

 

そう言うと鈴達は何とも言えない表情を浮かべ、イラついていた束は若干怒り顔で答えた。

 

「浜辺。其処で多分寝てるんじゃない?」

 

そう言っていると真耶が戻って来た。

 

「す、すいません。今戻りました」

 

「山田先生。織斑先生は?」

 

「えっと、今保険医の新垣先生に診てもらってます。何故かは分かりませんが、鼻の骨が折れているそうで」

 

そう言うとエリシアは呆れた顔を束へと向ける。

 

「篠ノ之博士、貴女でしょ? 織斑先生の鼻の骨を折ったの?」

 

そう言うと束は当然と言った表情になる。

 

「だってアイツ、マーちゃんのお陰でかんちゃん達が無事だったのに、マーちゃんを拘束しようとしたんだよ?」

 

そう言うとエリシアははぁ~。とため息を吐き、学園長は申し訳ないと言った表情になる。すると指揮所の襖が開き、其処から鼻の部分を包帯で固定された千冬が現れた。

 

「束貴様ぁ‼」

 

そう叫び掴みかかろうとしたが、エリシアがその手を掴み拘束する。

 

「な、何する貴様‼」

 

「大人しくしなさい、学園長の前よ」

 

そう言われ千冬はモニターを見る。モニターには険しい表情を浮かべた学園長が映っていた。

 

『織斑先生、率直に伺います。作戦時間、貴女は一体どこに居たんですか?』

 

そう言われ千冬は何も言えず黙ったままだった。その態度に学園長もついにブチ切れた。

 

『織斑‼ 一体どこに居たのか聞いているんだ! 答えろ‼』

 

その気迫には指揮所に居た全員が恐縮してしまい、姿勢を正す。

 

「……束に海に放り投げられ、その後部屋で服を着替えておりました。着替え終え指揮所に向かい、その際に部屋から聞こえた会話で状況を知りました」

 

『……そうですか。織斑先生、貴女に任せてある全ての指揮権を無期限の凍結、並びに無期限の減俸及び夏休み中、寮での謹慎を言い渡します』

 

学園長は険しい表情だが何時もの口調で罰則を言い渡す。千冬は反論を言おうとしたが学園長から鋭い視線を向けられ黙殺された。

 

『今後の指揮権等は全てエリシア先生、貴女にお任せします』

 

そう言われエリシアは首を縦に振った。そして学園長は通信を切り、エリシアは外に待機していたエンシェントセキュリティー社の兵士を呼ぶ。

 

「彼女を部屋から出さない様に監視しておいて」

 

そう言い兵士達は千冬を拘束した。

 

「離せ! 私が何をしたって言うんだ!」

 

「色々と邪魔とかしそうだからよ。連れて行って」

 

そう言い兵士達は暴れる千冬を拘束し部屋から連れ出した。そして残った鈴達に顔を向ける。

 

「ではこれよりイチカ・メルダース君捜索を「た、大変です‼」どうしたの?」

 

「これを見てください!」

 

真耶は慌てた様子でモニターにある光景を映した。其処にはドラケンが数十機も映っていた。

 

「!? まさか」

 

「はい、真っ直ぐこの旅館を目指して飛行しています!」

 

その報告にエリシアは舌打ちをする。

 

「作戦変更よ。此処に向かっている所属不明機の撃墜。それを新たな任務とするわ」

 

そう言うと鈴と簪とラウラはやるしかないと言った表情になり、セシリアとシャルロットは若干不安な表情を見せる。そしてセシリアは手をあげた。

 

「あ、あの私達以外に増援は頼めないのですか?」

 

「残念ながら今から呼んでも恐らく間に合わないと思うよ。と言うか日本の無能政治家共に頼る自体無理だと思うよ」

 

束はそう言い、投影ディスプレイで何かをしていた。すると指揮所の襖が開き一人の少女が入って来た。

 

「私も、行くぞ」

 

そう言い入ってきたのはマドカだった。

 

「マドカちゃん! 大丈夫なの?」

 

「大丈夫だ。博士、本当だったら殴り飛ばしたいところだが今回は水に流してやる」

 

そう言うと束はニンマリとした表情でありがとうね。と言う。

 

「では、申し訳ないけど貴女達だけが頼りなの。出来る限り此処から情報は遂次報告するから」

 

そう言われ専用機持ち達は出撃するべく浜辺へと向かった。




次回予告
所属不明機ドラケンを撃墜すべく出撃するマドカ達。そんな中束は美雲の元へと向かいあるお願いをする。それは歌を歌う事だった。
次回
神秘の歌~いっくんはきっと君達の元に帰ってくるはずだから~


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17話

今回あの某ゲームの空母名が出ます。


旅館へと接近しているドラケンを撃退すべく、専用機持ち達は浜辺へと集まっていた。

 

「それじゃあ行くわよ」

 

鈴が先頭にそれぞれ飛び上がり、出撃していった。その背後を見送る束。

 

「さて私も動きますか」

 

そう言い、旅館のある一室へと向かう。そしてその部屋の前へと到着し声を掛けた。

 

「ちょっとごめん。今いいかな?」

 

そう声を掛け、暫くすると若干不機嫌顔のアラドが扉を開けた。

 

「篠ノ之博士か。何か用か?」

 

「うん。此処だと不味いから、中でいいかな?」

 

そう言われ、アラドは扉を大きく開き束を中へと入れた。部屋へと入った束は奥へと行くと、三角座りで俯く美雲と涙を流しながら何かを作っているマキナとレイナ。

 

「イチカが行方不明と聞いてこの有様だ。……博士、原因はエリシアって言う教師から聞いてる。アンタを責めるつもりはないが、お前の妹は正直気が狂っているとしか思えないぞ」

 

「それは私も思ってた。もうアイツの頭は病気みたいなものになってるからね」

 

そう言い、束は美雲達の元に近寄り座る。

 

「……3人にお願いがあるの」

 

そう言われマキナとレイナは作業の手を止め、束を見る。美雲は俯いたままだった。

 

「……歌って欲しいの。歌を」

 

そう言うとマキナとレイナ、そしてアラドは驚いた表情を浮かべ、美雲は肩が一瞬動いた。

 

「どうして歌を?」

 

「これを見て欲しいの」

 

そう言い束は顔をあげている3人に投影ディスプレイである物を見せた。ディスプレイには心電図と名前が映されていた。心電図は微弱だがテンポよく動いており、名前には『イチカ・メルダース』と表記されていた。

 

「これって、イッチ―の心電図?」

 

「そう、まだいっくんは生きてる」

 

「「「「!?」」」」

 

束の言葉に俯いていた美雲も顔を上げた。

 

「本当に、本当にイチカは生きているの?」

 

「うん。微弱だけど、それでもいっくんは生きている。けど此処でわかるのはいっくんがまだ生きているという事だけ。だから」

 

束は意を決したような顔をマキナ達へと向ける。

 

「3人の歌の力を貸してほしいの。いっくんが居ると思われる場所は、潮の流れとかで大体予想は出来る。その場所に歌を届ければいっくんは必ず反応するはずだから」

 

そう言うと美雲は立ち上がった。その顔をは先程まで暗かった表情ではなく挑戦する顔つきだった。

 

「だったら早くイチカの元に送らないとね」

 

「うん。こんなところでイッチ―捜索アンテナ何て作っていられない!」

 

「早くイチカを助けるために」

 

3人はそう言い、立ち上がると束も立ち上がる。

 

「よし、それじゃあ空母にもう準備させてるから早く行こう!」

 

そう言うと5人は部屋から退出し、外で待機しているオスプレイへと乗り込み旅館を発った。

その頃、旅館を先に発った鈴達はドラケンの予想飛行ルートを遡る様に飛行していた。

 

「もうすぐあいつ等が来る頃よね?」

 

「あぁ。奴らが居た所から旅館までの距離を算出し、旅館から奴らの予想飛行ルート上を正しく遡っていればもう間もなくのはずだ」

 

鈴の問いにラウラが答えていると、シャルロットは前方に複数のドラケンが見えた。

 

「!? 見つけたよ!」

 

「よし、それじゃあ全員単独で動こうとせず2人1組で確実に落として!」

 

鈴の指示に全員頷き、それぞれ武装を展開し攻撃を始めた。マドカ、鈴は近接戦に持ち込みながら攻撃し、ラウラと簪は互いに前衛、後衛と初めて組んだにもかかわらず息の合った攻撃でドラケンを墜としていく。セシリア、シャルロットも互いに不得意としている近接に持ち込まれる前に、火力で敵を近づけなかった。

6人の奮闘は、敵を確実に墜としているがそれでも圧倒的物量の差に6人のSEと弾薬は着実に減り始めていた。

 

「一体どれだけいるのよ! これじゃあジリ貧じゃない!」

 

「文句を言う前に敵を墜とせ! 簪、後ろだ!」

 

ラウラの警告に簪は薙刀を展開し、背後から迫っていたドラケンを斬り捨てる。

 

「ありがとうラウラ!」

 

「礼は後だ。また来るぞ!」

 

全員何とから奮闘している中、マドカは戦いながらも心の中で願っていた。

 

(頼む兄さん。生きていたら助けて!)

 

――エンシェントセキュリティー社所有空母『ケストレル』甲板上

束と共に空母へと到着した3人は、それぞれマイクを持って甲板上に居た。束は海の中にスピーカーを下ろし、投影ディスプレイを展開してイチカの容体を遂次確認していた。

 

「2人とも準備はいい?」

 

「勿論何時でもいいよ、くもくも!」

 

「バッチオ~ケ~」

 

「それじゃあ行くわよ。女神の歌を!」

 

その声と共に曲が流れ始めた。曲は『絶対零度θノヴァティック』

3人の歌声は辺りに広まり、甲板上に居た人達はそれぞれの作業を中断し食い入る様に見る。3人の歌声が海中に送られているのを確認した束は、イチカの心電図が出ているディスプレイを確認するが大きな変化はなかった。それどころか心電はピィーと音を立てて動きを止めた。それを見た束は目を見開き、溢れる涙を零しながらも声をあげた。

 

「お願いいっくん。皆いっくんの帰りを待ってるんだよ! みーちゃんやマキマキ、レーちゃん達がいっくんの帰りを待ってるんだよ! だから死んじゃダメ!」

 

そう願っていると、突然ディスプレイが投影され其処には

 

『ファルコ、第2形態に移行します。……移行完了。パイロット状態検査……背部に重度の火傷を確認。……治療完了。パイロット意識喪失中と確認。……強制覚醒機能展開……完了』

 

そのディスプレイを見た束は何が起きたのか全く分からずにいると、艦内放送が響いた。

 

『3時方向、ISの反応あり!』

 

その報告に束は直ぐに甲板の端っこまで行き確認する。すると突如海中から水柱が立ち、其処から一機の白い機体が現れた。それは束自身が作成した機体だとすぐに分かり、声をあげた。

 

「いっくん‼」

 

その声が聞こえたのか、背を見せていたISは振り向くと其処には新たな翼を身に纏ったイチカだった。




次回予告
撃墜されたイチカは、気付けば真っ白な世界で目が覚めた。自身は死んだのかと思っているとその背後に信じられない人物が立っていた。
次回
エースとの再会
~久しぶりだな、イチカ。~


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18話

ドラケンⅢの攻撃を受け海中へと落ちたイチカは、自身が温かい何かに包まれている感覚を憶え、そっと目を開けると周りは見渡す限りの真っ白な世界であった。

 

「此処ってまさか……黄泉の国だったりしてな」

 

自虐的な笑みを浮かべながら、立ち上がるイチカ。

 

「此処が黄泉の国だと? お前は馬鹿か?」

 

そう言われ懐かしくもあり、そしてもうこの世にはいないはずの人物の声に驚き後ろを振り向くと其処には

 

「め、メッサー!?」

 

「久しぶりと言うと、可笑しいがまぁ久しぶりだな」

 

メッサーは腕を組みながらそう言うと、イチカは頭の中がこんがらがったままで、本気で死んでしまったのでは思い込んでしまう。

 

「メッサーが此処に居るって言う事は、俺は本当に死ん「お前はまだ死んでないぞ」だ、だが何で此処に居るんだよ!」

 

「それはまぁ簡単に説明すれば……」

 

メッサーの口から出る言葉に息をのむイチカ。

 

「お前が乗っているISのコアに俺の意識が宿っている」

 

「はぁ?」

 

メッサーからのカミングアウトにイチカは意味が分からんと言った表情を浮かべる。

 

「まぁいきなり言われても分からんだろうな。俺自身も最初はどう言う訳か分からなかったからな」

 

そう言いメッサーは順を追って説明を始めた。

 

「俺が白騎士とのドッグファイトに負け、そして死んだ後俺は見知らぬ場所で目が覚めたんだ。目の前にはうさ耳をした変な女が居て、体を動かそうにも言う事が聞かずただ目の前で起きている出来事を只傍観することしかできなかったんだ。ISの事、ISコアとは何かなど、多くのネットワーク上の情報を見ながら時間を潰していたある日、うさ耳の女が大慌てで部屋を出て行くのを見て女が何を発見したのかモニターを見たら、お前の機体が映っているのが見えたんだ。そしたら何故かは分からんが、自身の奥底から今まで失っていた力が込み上がってくるのが感じられたんだ。そしてお前が俺の前に現れISに触れISを身に纏った瞬間お前の身に何があったのか直ぐに読み取れた。ラグナからの撤退や終戦、そしてワルキューレの一人と付き合っている事などをな」

 

「……人の記憶を覗き見るなよ」

 

イチカはジト目で睨むと、メッサーはフン!と鼻を鳴らして続きを話し始めた。

 

「その後は女が俺に向かって『いっくんを守ってあげてね』とそう言って、お前の機体と同じような武装を乗せたISに俺を組み込まれ、ずっとお前の戦いを見ていたんだ。そしてさっきのお前が撃墜された瞬間もな」

 

そう言われ、イチカはそうだったのか。と息を吐き俯く。

 

「なるほど。それじゃあ此処は?」

 

「此処はまぁ簡単に言えば、ISコアに存在する世界だ。お前が撃墜され気絶している間、少し話がしたかったから俺が此処に呼んだ」

 

「ふぅ~ん、そうなのか。……それじゃあ俺が救助されるまで此処に居ればいいのか?」

 

「馬鹿をいえ。俺の用件が済んだらお前に俺の中に残っている力をお前に渡す。それで空に帰れ」

 

そう言われ用件?とイチカは首を傾げる。

 

「それでその用件って、なんだよ」

 

「イチカ、お前は何で空を飛び続ける?」

 

メッサーの問いに、イチカは頭に疑問符を浮かべるが自身が飛ぶ理由を考え始める。

 

「そうだな。最初、デルタ小隊に入ったのは自身の力で人を助ける正義の味方になれると思ったからヴァルキリーに乗った。だが日が経つにつれその思いが変わり始め、今は一人の女性が歌う歌を守る為に飛んでる。彼女が歌を歌い続ける限り俺は飛び続ける」

 

そう言うとメッサーは笑みを浮かべる。

 

「そうか。ならお前は空に戻れ」

 

そう言うとイチカは違う。と言う。メッサーは突然違うと言う言葉を呟いたイチカに怪訝そうな顔を浮かべる。

 

「メッサー、俺一人が戻るんじゃない。アンタも空に戻るんだよ」

 

そう言うとふっ。と笑みを浮かべメッサーは拳をイチカの前に出す。

 

「ならさっさと上がれ、イチカ。エースを超える道のりが遠くなるぞ」

 

「抜かせぇ! 直ぐにでもアンタを抜いてやるよ、メッサー!」

 

そう言い拳をぶつけるイチカ。そして世界はスゥ―と消え去り、真っ黒な世界が包む。そして体の奥から力が沸き起こる感覚を感じ、イチカは目を開こうと力を入れる。目が開き辺りを見渡すと、暗い海底で寝そべっている状態だと気付き、目の前にディスプレイを出し自身の状態を確認する。

 

「……行けるな」

 

そう言いイチカは立ち上がりブースターを吹かし、一気に海中から飛び出した。海上に出た後辺りを見渡すように首を左右に振るイチカ。

 

「此処はどの「いっくん‼」束さん?」

 

そう言い背後を見ると、空母の上に束が泣き顔で立っていた。イチカはその傍まで行く。

 

「良かったよぉ。いっくん死んだんじゃないのかって思って涙が止まんなかったんだもん‼」

 

そう言い涙を拭く束。そして顔付きを真剣な表情に変える。

 

「本当は詳しい話をしたいところだけど、マーちゃん達があいつ等と戦っているから急いで援護に行ってあげて!」

 

「あいつ等が!? 分かりました!」

 

そう言いイチカは飛び上がり、マドカ達が居る方へと飛ぼうとしたがその前に甲板の上にいた美雲達の元に向かった。

イチカが無事だったことに3人は喜び手を振った。そして束の前にディスプレイを出し、3人に見えるようにして欲しいと頼む。

 

『3人共、ちゃんとした再会を祝いたいがマドカ達を助けに行かないといけないから、行ってくる。だから頼む。歌を歌ってくれ』

 

そう言うと3人は笑顔を浮かべ頷く。

 

「任せてよイッチ―!」

 

「イチカの心をチクチクさせる歌を届けてあげる!」

 

「任せなさいイチカ。女神の歌を、貴方だけの歌を届けてあげるわ!」

 

3人の言葉にイチカは大きく頷き、マドカ達が居る空域へと向け飛行しようとすると、ディスプレイが投影された。

 

『変形モード使用可能』

 

と表示され、イチカは迷うことなくその方法を調べ機体を変形させた。機体はバトロイド形態からファイター形態へとなり飛び立った。飛んで行く姿を見送った美雲達はマイクを持つ手を握り直し、息を整える。

 

「さぁ行くわよ、女神の歌を!」

 

その声と共に歌が響く。




次回予告
数多くのドラケンに囲まれた鈴達。此処までかと思っていると突然歌が聞こえ、そして援軍が現れた。
次回
復活の翼~VF31A2改 イーグルクロウ、エンゲージ‼~


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19話

「このぉ!」

 

鈴はそう叫びながら双天牙月を振るい、ドラケンを墜とす。だが落としても落としても数は減っている感じでは無かった。

 

「ヤバいわね」

 

鈴は肩で息をしている中、マドカ達は一機でも多く落とそうと武器やBITを振るう。

 

「いけぇ‼」

 

簪は大量のミサイルを発射して墜とすも、やはり数は減っている雰囲気ではなかった。

 

「…もうミサイルが」

 

簪はディスプレイに投影されているミサイルの残弾数を確認すると、既にレッドアラートが出ておりミサイルの残弾は底をついていた。

 

「不味いな。もうこっちも弾が無いぞ」

 

ラウラは持っていたバルカンの弾が無くなった為、近接格闘武器を出す。

 

「も、もうBITが…」

 

セシリアも展開できるBITは無く、残ったSEを消費してライフルを撃つわけにもいかず、近接ナイフのインターセプターを取り出す。

 

「ぼ、僕も弾が無いよ」

 

そう言いパイルバンカーを出すシャルロット。マドカは何も言わずただ残っている数少ないBITを展開する。

 

「万事休すね」

 

鈴は此処までかと諦めかけていると、

 

「~~~~♪」

 

歌が聞こえた。鈴達はどうして歌がと疑問している中、マドカはその歌を知っていた。兄イチカがよく聞いていた歌だからだ。だからこそ最初に頭に浮かんだのが

 

「兄さん、助けに来てくれたのか?」

 

そう思っている中も、ドラケンは突然聞こえた歌に驚くもそのままマドカ達を攻撃しようとした。それぞれもう駄目だと思った瞬間、攻撃しようとしたドラケンが爆散した。一同は一体何がと驚いていると、遠くから一機の戦闘機がやって来た。

 

「あ、あれがやったの?」

 

「そ、それにしても戦闘機にしては小さくない?」

 

鈴達は接近している戦闘機の小ささに疑問している中、マドカは喜びで胸がいっぱいになった。

 

「あぁ、やっぱり兄さんだ‼」

 

そう言い、落ち込みかけていた自分に喝を入れBITをドラケンへと向け放つ。

 

「そら墜ちろ‼」

 

マドカが元気になったのにつられ、鈴達も攻撃を始める。

 

「あの機体、イチカなのマドカ?」

 

「あぁ。兄さんが乗っている機体だ!」

 

そう言いドラケンを墜とすマドカ。それを聞いた鈴は、笑みを浮かべドラケンを墜としていく。

 

「だったら心配かけた件、後でとっちめるわよ!」

 

「あぁ!」

 

鈴達に活気が漲っている中、イチカは背後から迫ってくるドラケンに急旋回などで背後に回り込み墜としていく。そして最後の一機を墜とした後、機体をバトロイド形態にしマドカ達の元に行く。

 

「悪いな心配を掛けた」

 

そう言うと鈴達は安堵した表情を浮かべ、マドカは涙を浮かべていた。

 

「兄さぁ~ん」

 

と涙を流しながら抱き着くマドカ。

 

「悪かったなマドカ。心配かけて」

 

そう言い頭を撫でるイチカ。

 

「本当に心配かけるんじゃないわよ」

 

鈴は目に溜まった涙を拭い、笑みを浮かべる。

 

「それじゃあ旅館に帰ろう」

 

そう言いイチカは鈴達と共に旅館へと帰投した。

旅館へと戻るとエリシアや真耶が居た。

 

「皆無事に戻って来てくれて、本当に良かったわ!」

 

「皆さん本当に無事で良かったですぅ」

 

エリシアは笑みを浮かべ、真耶は涙を流しながら出迎えた。

 

「それとイチカ君。貴方も無事で戻って来てくれて本当に良かったわ」

 

「えぇ。こいつのお陰ですけどね」

 

そう言いイチカはISの待機形態を見せ、笑みを浮かべる。

 

「そう。それじゃあ精密検査を受けてそれぞれ自由にしてもいいわよ」

 

そう言われ全員中へと入り、保険医の元へと向かった。

 

保険医の検査が終わったのは夜が更けた時間で、イチカは一人浜辺で散歩していた。

 

「はぁ~、色々あったなぁ」

 

そう言い浜辺の真ん中あたりに来ると、浜辺へと座り夜空を見上げる。空はキラキラと光る星々が輝いていた。

 

「まだこの辺は空気が綺麗で澄んでいるんだな」

 

そう言っていると、背後に人の気配を感じ振り向くと其処には美雲が居た。

 

「此処に居たのねイチカ」

 

「あぁ。ちょっと散歩したくてな」

 

そう言いまた空を眺めるイチカ。美雲はそっとイチカの傍に座り同じく空を眺める。

するとイチカは何かを思い出すかのように口を開く。

 

「俺が美雲に告白した時も、これだけの星が輝いていたよな」

 

「そうね。……ねぇイチカ」

 

美雲はそっとイチカの手を包み込むように掴む。

 

「もう、私を一人ぼっちにしないで。もう貴方が居ない世界は考えられないの。だから」

 

そう言い美雲は掴んでいた手を強く握りしめる。

 

「美雲……」

 

俯く美雲に、イチカは握りしめてくる手を同じように握り返す。

 

「約束する。絶対に俺は君を一人ぼっちにしない。ずっと傍にいる」

 

そう言うと美雲は顔を上げる。その目には涙が溜まっており、イチカはそっとその涙を指で拭う。

 

「本当に……。本当にずっと傍にいてくれるの?」

 

「あぁ、ずっといる。もし向こうの世界に帰れる手段が見つかったら、俺は君と共に向こうの世界に帰る」

 

そう言うと美雲は、顔を笑顔にしイチカに抱き着く。

 

「ずっと一緒よ、イチカ! ずっっとこれからも!」

 

「あぁ、ずっと一緒にいる」

 

互いの愛を確かめ合った時に、イチカはラグナでコッソリと買って何時か渡そうとしていた物を取り出そうとした瞬間

 

「あぁ~! 二人共こんなところでイチャイチャするなんてずるいぃ~!」

 

「先を越された」

 

マキナとレイナが突如現れた。

 

「えっ?! マキナ、それにレイナも!?」

 

「むぅ~! 私達もまぜろぉ~!」

 

「美雲ばかりずるい」

 

そう言いイチカ達の所に行き、同じくイチカの隣に座る2人。

 

「全く2人共、イチカは私の恋人よ?」

 

「諦めないって言ったじゃん! だから諦めずイッチ―に突撃!」

 

「イチカの傍は私の心をチクチクしてくれる」

 

そう言うと美雲は呆れる様にため息を吐くも、直ぐに笑みを浮かべる。

 

「なら私は離さない様にちゃんと見ておかないといけないわね」

 

「は、はっははは」

 

イチカは乾いた笑みを浮かべながら空を見上げる。

 

(渡すのはもう少し先でもいいか)

 

そう思い拡張領域から出した指輪をそっと戻した。

 

その頃旅館前では箒が警察に引き渡されるところだった。

 

「私は何も悪いことはしていない!」

 

「いいから、さっさと乗りなさい!」

 

女性警察官が箒をパトカーに乗せようとするが、箒は暴れて乗ろうとしなかった。するとマドカがその傍へとやって来た。

 

「ん? 君、危ないから向こうに「そんな感じでは何時までも乗りませんよ、そいつ」……けど他に方法が」

 

パトカーの横にいた男性刑事はそう言うと、マドカが箒の方へと近付く。

 

「! 貴様、見ていないで助け「兄さんを殺そうとした奴を助ける訳ないじゃん。それとこれは兄さんを殺そうとした報い」 グゥツ!!!???」

 

そう言い箒の腹に向け、力一杯の拳で殴った。箒は姉束に蹴られた脇腹に出来た内出血が更に酷くなり、痛みから気絶した。

マドカは箒に兄イチカを撃墜した報いを受けさせたらなと思い入口に来たため、丁度暴れていた為大義名分の元殴れると思い近付いたのだ。

 

「黙らせたので、後はお任せします」

 

そう言いマドカは何処かへと去って行った。警察官達はそれぞれ篠ノ之博士が蹴ったところが悪化し、気絶したと後の報告書にそう記したそうだ。

 

その頃束は空母でイチカのISを調べていた。

 

「やっぱりいっくんの機体が突然2次移行したのは、載っていたISコアのお陰なのかな? そうするとマーちゃんのコアも同じような事が起きるのかな?」

 

そう言い空を見上げる束。空には綺麗な満月が昇っていた。

 

「……まぁいいや。あの2人のコアは特別製って事で今後も経過観察だ」

 

「束様」

 

束は出していたディスプレイを閉じ、後ろから声を掛けてきたクロエに顔を向ける。

 

「何かなクーちゃん?」

 

「はい、大破した所属不明機を調べた所、載っていたISコアは全て擬似コアでした。形等は似ておりますが、やはり作りと出力等が大きく違います」

 

「そっかぁ。何処のどいつなんだろうねぇ。私の可愛い子達の偽物を作っている屑野郎は」

 

そう言い笑みを浮かべながらも、目が笑っていない束は空を見上げた。

 

 

こうして大きな謎を残しながらも臨海学校は終了となった




次回予告
夏休みが始まり、イチカはエンシェントセキュリティー社に帰って来た。するとマキナやレイナ、そして美雲が出迎えた。
次回
夏休み編
~この夏はイッチ―と急接近チャンスだからね!~


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20話

臨海学校が終わり、学園へと戻って来たイチカとマドカは部屋で荷物を纏めていた。

 

「ん? おいマドカ。この本はお前のか?」

 

「え? あぁ確かに私のだ。何処に置いたのか忘れていたんだが、兄さんのベッド下に入っていたのか」

 

そう言いながら本をスーツケースに入れる。

 

「さて荷物もまとめたし帰るか」

 

「あぁ、そうだな」

 

そう言い2人は荷物の入ったスーツケースを持ち部屋から出る。そしてその足で職員室にいるエリシアの元へとやって来た。

 

「エリシア先生」

 

「あら2人とも今から本部に?」

 

「はい、俺達は先に帰りますが先生は?」

 

「そうねぇ。この報告書が終わるまでは帰れそうにも無いわねぇ」

 

そう言い机の上に束になっている書類に目を向ける。

 

「それって臨海学校の奴ですか?」

 

「それもあるけど……。他にも主任関連の書類が前任者が全く片付けていなかったから、それの片付けもよ」

 

そう言い呆れる様にため息を吐くエリシア。イチカとマドカはお疲れ様です。と一言言い、持ってきたコーヒーの缶を置いて職員室を後にした。

2人は校門付近まで行くと兎の形をした小型バスが停まっていた。

すると運転席から顔を出し手を振る運転手が居た。運転手の頭からは機械のうさ耳が出ており2人は直ぐに誰なのか察した。

 

「おぉ~い! 2人ともこっちだよぉ!」

 

「……何してるんですか、束さん」

 

そう言い呆れながら小型バスに近付く2人。

 

「何って2人を迎えに来たんだよ。オーちゃんはラーちゃんと買い物してから帰るって言ってたからね」

 

そう言われ2人はなるほど。と納得しバスのトランクに荷物を入れた。そしてバスに乗り込もうとしたところで

 

「待て一夏!」

 

そう呼ばれイチカは顔を呼ばれた方に向ける。其処には肩で息をする千冬が居た。

 

「……何か用ですか織斑先生」

 

「お、お前が帰る場所はそっちじゃないだろ!」

 

そう言い近付こうとした瞬間

 

「それ以上近付こうとするな」

 

束の冷ややかな声が木魂した。

 

「もしそれ以上近付いたら、お前の頭が消し飛ぶよ」

 

そう言い束はバスから降りて来て、千冬に鏡を見せる。すると千冬のこめかみ付近に緑の点が映っていた。

 

「お前の事だから来ると思ってたよ。だからスナイパーを呼んで、お前を何時でも狙撃できるよう待機させておいたのさ」

 

そう言い束は一夏達にバスに乗るよう伝える。

 

「さて、追いかけようなんて考えるなよ。もしお前が少しでも近付いてくるのが分かったら叩き潰すからな」

 

そう言い束もバスに乗り込み、バスを走らせた。千冬は拳を作りそのバスが遠ざかって行くのを見送るしかできなかった。

 

「まったくアイツは懲りるって言う言葉を知らないのかねぇ」

 

そう言いながらバスを運転する束。

 

「無理でしょ。アイツの頭に懲りると言う言葉なんて存在してませんよ」

 

イチカはそう言いながら普通のバスよりフワフワな座席でゆったりしていた。

 

「博士、この座席何でこんなにフワフワなんだ?」

 

「それ? 飛行機のファーストクラスの座席に使われている素材をこのバス用に調達して使ってるからね。因みにこのバスに乗車できるのは束さんと親しい人間だけだよ」

 

そう言っていると、バスは空港に到着する。

 

「さて、バスは此処まで。後は飛行機で帰るよぉ」

 

そう言い、バスを『エンシェントセキュリティー社用バス停車場』と看板が立っている場所に止め降りる束達。そしてエンシェントセキュリティー社行きの飛行機に乗り込みエンシェントセキュリティー社に向かった。

 

飛行機はエンシェントセキュリティー社に到着し、イチカ達はタラップを使い降りて行くと美雲達が居た。

 

「お帰りなさい、イチカ、マドカ」

 

「おっかえり~!」

 

「お帰り」

 

「ただいま。3人が此処に居るってことは父さん達も此処に?」

 

「うん、今スコールさんとお話してたよ」

 

「今後の方針とか話してた」

 

そうか。とイチカは呟き荷物を持って指令所へと向かった。自室へと到着したイチカは荷物を置き勉強関連の物を机の上に置くと扉をノックする音が鳴り響く。

 

「ん? どうぞ」

 

そう言うと扉が開かれ入って来たのは美雲で、その手には大きめの荷物が握られていた。

 

「美雲、その荷物は?」

 

「今日から私もこの部屋で住むことになったのよ」

 

「はぁ!?」

 

突然の美雲の告白にイチカは驚き、持っていた勉強道具を落した。

 

「えっと、マジで言っているのか?」

 

「えぇ、本気よ。因みに司令官であるスコールさんには許可は貰ってるから」

 

そう言い荷物をベッドに置く美雲。

 

「……だ、だがベッドが一つしか「美雲様、折り畳みベッドの方をお持ちしました」えぇ~……」

 

扉が開かれ、クロエが折り畳まれたベッドを持ってきた。

 

「問題は無いわね?」

 

「……父さんがダメって「それなら大丈夫よ。アラド隊長には既に報告済み。恋人同士なら問題ないそうよ」と、父さん~……」

 

最後の綱である父アラドも許可を出された為、イチカは頭をガックシと落としもはや頷く以外なかった。

 

「……分かった。一緒に住むのは良いが……その風呂場からバスタオル姿で出てくるなよ」

 

「あら、ダメ?」

 

「ダメだ! その、俺の理性というか……兎に角バスタオル姿で脱衣所から出てくるのは禁止! それと寝るときはお互いのベッドで寝る事。いいな?」

 

イチカは顔を真っ赤にしながら、条件を言うと美雲は少し不満そうな顔をしながらも条件を飲んだ。そして荷解きを終え、部屋で寛いでいると扉をノックする音が響く。

 

「兄さん、ちょっといいか?」

 

「おう、いいぞ」

 

扉が開かれ、マドカが中へと入るとベッドに腰掛けながら本を読むイチカ、そしてイチカの膝に頭を乗せて寛ぐ美雲が居た。

 

「あ、今は不味かったか?」

 

「いや、大丈夫だ。それでどうした?」

 

「うん、父さんがイチカと一緒に地下のハンガーに来てくれだって」

 

「ハンガーに? 分かった。美雲御免、頭上げてくれるか?」

 

「分かったわ」

 

そう言い美雲は頭を上げイチカと共に立ち上がり、ハンガーへと向かった。

その頃マキナとレイナは、用意された部屋でカバンから色々取り出していた。

 

「マキナ、これって?」

 

「それ? それはイッチ―に見せる為の物だよ!」

 

そう言いふんふんふ~ん♪と鼻歌を歌いながらカバンから色々なものを取り出す。カバンから出てきたのは、サンオイル、しぼんだビーチボール、ビニールシートが出てきた。

 

「この夏はイッチ―に接近するチャンス! この機会を逃さずに行くよレイレイ!」

 

「イチカの心をチクチクしてあげる!」

 

そう言い2人は夏休みイチカ大接近大作戦を決行するのであった




次回予告
地下ハンガーに呼ばれたイチカ達。ハンガーにはアラドとハヤテ達が居た。そしてその前には一機の機体が有った。
次回
マドカの翼~こいつがマドカ、お前の機体だ~


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21話

今回は短いです。



アラドが呼んでいるという事で、イチカ、マドカ、美雲は地下のハンガーへと来ていた。エレベーターから降りると、ハンガーにはアラドにハヤテ、そしてワルキューレのフレイアが居た。

 

「父さん、用って何?」

 

「おう、来たか。実はマドカにこいつを渡そうと思って呼んだんだ」

 

そう言い後ろにあった機体に指さすアラド。アラドの後ろにはイチカと同じ黒色のVF-31A カイロスが置かれていた。

 

「こいつはマドカ、お前さんの機体だ」

 

「これが……私の機体?」

 

そう言い近付くマドカ。

 

「なんでまたマドカに機体を?」

 

「ん? マドカはパイロット志望なんだろ? だったら今のうちに渡しておこうと思ってな」

 

そう言い笑みを浮かべながら機体を触るマドカを眺めるアラド。そして唐突に何かを思いついたのか手を叩く。

 

「そうだ。マドカ、今からイチカと一緒に飛んでみるか?」

 

「「えっ!?」」

 

マドカとイチカはアラドからでた突然の提案に驚き声をあげる。

 

「と、父さん。それは無理があるだろ。マドカはまだ最近になってやっとシミュレーター訓練を終えたんだ。本来なら訓練機からやるのが普通だろ!」

 

「訓練機を使って訓練をすれば確かに基礎的な物は身に付く。だが実際に乗る機体はその訓練機とは違う。なら自分が本来乗る機体で訓練を実施した方が早く慣れるだろ」

 

アラドの説明にイチカは同意できないと反論しようとすると、

 

「兄さん、頼む」

 

マドカはイチカに向かって頭を下げお願いした。その光景を見たイチカは驚くも無理だと言おうとしたが

 

「いいじゃないイチカ。こんなにお願いしているんだし」

 

美雲はそう言いやらせてみればと言う。美雲がマドカについた事にはイチカも驚くも、若干渋る表情を浮かべる。

 

「だ、だが「それ以上渋るんだったら、俺が代わりにマドカと訓練しようか?」 ハヤテとやらせたらマドカが可哀想だ。よし、俺がやろう」

 

そう言いパイロットスーツを着に行くイチカ。

 

「わりぃなハヤテ」

 

「いいよ。あのままだと暫くは渋り続けたかもしれなかったからな」

 

そう言いハヤテは笑みを浮かべる。そしてマドカもパイロットスーツを着に更衣室に向かうと突然放送が入った。

 

『あ~、あ~。テステス。えっとハー君とフーちゃんは至急研究室に来てねぇ。あ、ハー君はハヤテ、フーちゃんはフレイアだからそれ以外は違うからね! それじゃあバイビ―‼』

 

そう言って放送は切れた。

アラドは怪訝そうな顔をハヤテの方へと向けた。

 

「なんだ? ハヤテ、博士に何かしたのか?」

 

「何もしてねぇよ!……取り合えず行こうぜ、フレイア」

 

「うん。けど、なんやろね?」

 

そう言いながら2人はハンガーを出て行った。そして2人がハンガーを去って暫くしてパイロットスーツを着たイチカとマドカがやって来て、それぞれの機体に乗り込む。アラドと美雲はよく見える管制室近くにある展望デッキに向かった。




次回
マドカは自身の翼をしっかりと羽ばたかせるためにイチカに訓練をつけて貰う。そしてその日の夜、眠っていたマドカの目の前に一人の人物が現れた。
次回
再び翼を広げる騎士~貴様は何故翼を広げようとする?~


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22話

地下のハンガーから機体を上げ、滑走路に進入し先に上がったイチカ。その後マドカも滑走路に進入する。

 

『デルタ6、離陸を許可する。頑張れよ』

 

管制官からの応援にマドカは、あぁ。と返しスロットを踏み込み空に上がった。イチカが居る高度まで上げたマドカ。そしてイチカの機体を見つけその後ろに就く。

 

『よし、マドカ。模擬空戦を行う。ルールはいたって簡単だ。互いに別方向に飛び、そしてある程度距離が取れた所でまた接近。そして互いに交差した瞬間に模擬戦開始だ。勝敗はペイント弾に撃たれるか、背後からキャプティブ弾にロックオンされ撃墜コールが鳴った瞬間終了だ』

 

「分かった」

 

マドカがそう言うと、イチカは左に旋回していきマドカは右に旋回する。そして互いに距離を取って行き、ある程度距離が離れた所でまた機体同士を向け接近する。そして互いの機体が交差した瞬間

 

『模擬戦開始!』

 

イチカの合図と共に互いに互いの背後を取ろうと旋回を始める。地上に居たアラドや美雲は空を見上げ、見物していた。

 

「さてどちらが先に撃墜されるだろうな」

 

「それ、分かってて聞いてるの?」

 

美雲は笑みを浮かべながらアラドに聞くと、フッと笑みを浮かべながら空を見上げる。

 

背後を取らせまいと旋回をし続けるマドカとイチカ。すると

 

『確かに戦闘機だったら旋回し、背後を取るチャンスを伺うのは戦闘機乗りとして鉄則だ。だがマドカ。お前が今乗っているのは只の戦闘機じゃないぞ!』

 

イチカがそう言うと、自身の機体VF—31A2をファイター形態からガウォーク形態に変形させミニガンポッドで狙い撃つ。

 

「ちょっ!? いきなり変形だなんて卑怯だぞ、兄さん‼」

 

そう言いマドカは攻撃を避けるべく海面擦れ擦れまで急降下し攻撃を避ける。

 

「変形の方法は……これか!」

 

マドカは機体を変形させる方法を見つけ、機体を同じくガウォーク形態にし反撃を開始しようとしたがすでにイチカの機体が目の前まで降下しており、既にミニガンを向けられていた。

 

『海面まで急降下したのは良い判断だ。だが敵が背後から迫っている中、ガウォーク形態になったら隙だらけで狙ってくれと言っている様なもんだぞ』

 

イチカはそう言いガンポッドを下ろす。

 

『もう一戦するか?』

 

「…勿論だ!」

 

マドカはさっきの敗因をしっかり考察し、次はある程度距離が離れてからガウォークにするか、機体が見えない死角に隠れて変形させるかと色々考察し二戦目を始めた。

その後の戦いもペイント弾やキャプティブ弾に狙われ、マドカの撃墜数が重なった。

 

訓練を開始して数時間後

 

『マドカ、そろそろ訓練を終えるぞ』

 

「……分かった」

 

マドカは体に掛かるGに耐えながら訓練に臨んでいた為、体力的にも限界が近かったのか声に張りが無かった。

そしてマドカの機体が滑走路に進入し、地下のハンガーに入った後マドカはイチカにお礼を言うべくイチカの元へと向かう。

 

「兄さん、今日はありがとう」

 

「どういたしまして。そうだ、もし明日も模擬戦をしたいって言うんだったら声を掛けてくれ。時間が有ったら模擬空戦かシミュレーターで訓練に付き合ってやるからよ」

 

「ん、分かった」

 

そう言いマドカはパイロットスーツを脱ぎに更衣室へと向かった。するとマドカと入れ違いに美雲が入って来た。

 

「お疲れ様、イチカ」

 

「おう。…やっぱりアイツは俺の妹だよ。メキメキと腕を上げてる」

 

イチカはそう言いながら美雲からミネラルウォーターを受け取り口にする。

 

「そうみたいね。最後辺りに、イチカの機体にペイント弾を1発当てて被弾を取ったんだから」

 

そう言い美雲はイチカの機体を見上げる。イチカのカイロスの翼には一発だけペイント弾が付着していた。

 

「また訓練を受けてあげるの?」

 

「アイツがそれを望むならな」

 

そう言いイチカは着替えに更衣室へと向かった。

 

 

 

それから数時間後、服を着替え終えたマドカは汗を流し、疲れ切った体を休めようとベッドに横になった。

 

「うぅ~、滅茶苦茶疲れたぁ。兄さん、容赦なさすぎるぞ」

 

そう呟きながら明日の予定を考えた。

 

「明日は、父さんにデルタ小隊のメンバーを紹介して貰って、兄さんとISの訓練とバルキリーの訓練をして、あと……。スゥ…スゥ…」

 

マドカは明日の予定を呟いていると、睡魔が襲ってきて眠りについてしまった。

 

 

「――おい、起きろ」

 

突然男の呼ぶ声が聞こえ、マドカは目を開くと其処は真っ白な世界だった。

 

「!? 此処は一体何処だ?」

 

マドカは自身が寝ていた部屋とは全く違う事に驚き辺りを見渡していると一人の男がいた。

 

「誰だお前?」

 

「俺か? 俺の名はキースだ。お前の機体、サイレントゼフィルスのコアに宿った人格だ」

 

キースと名乗った男の言葉にマドカは、何を言ってんだコイツ?と怪訝そうな顔を浮かべていた。

 

「まぁ、誰だってそんな顔をするはずだ。だが事実だ。現にお前の兄、イチカの機体には俺の好敵手が宿っているようだからな」

 

そう言いキースは、フッと笑みを浮かべた。

 

「好敵手? …! まさか兄さんが言っていたメッサーって言う人物じゃ?」

 

「そうだ。奴とは幾度となく戦い、辛くも俺が勝った。その後は(イチカ)が俺に挑むようになった。死神に負けず劣らずの技量で幾度となく戦ったが結局決着は付かなかった」

 

「…なるほど。それで、何で私の前に現れたんだ?」

 

マドカは鋭い視線をキースに向けながら、用件を聞く。するとキースは真剣な表情を浮かべマドカの方に顔を向ける。

 

「お前は何故、奴と居ようとする?」

 

キースからの問いにマドカは疑問符を浮かべる。

 

「お前は昔、自身が生み出された原因となった一家をお前は恨んでいたはずだ。それなのにお前はその一家に居たアイツと共に居る。何故だ?」

 

そう言われマドカは思い返すように顔を俯く。

 

「……確かに、昔の私が今の私を見たら怨み言の一つや二つ言うだろうな。だが、そんなことは知らん。私だけが抗っているんじゃない、兄さんも同じように抗っていたんだと知ったからだ。あの女の所為で、誰も自分を見てくれない。そんな中でも兄さんは抗った。あの女の弟ではなく、一人の人間として見てもらうべく抗った。それを聞いた瞬間、私は兄さんの家族として傍で支えたい。自分があの女のDNAで創られた命であっても兄さんの傍で支えたい。そう思ったから兄さんと共に居るんだ」

 

そう言うとキースは、真剣な表情から笑みを浮かべた。キース自身も異母兄弟であるハインツを守る為に、命を掛けた。この女もおなじ様に命を懸けて兄をを守る気だと感じたからだ。

 

「……良いだろう。お前には力も持つ覚悟がある」

 

そう言うと同時に真っ白な世界が少しずつ消え去って行く。

 

「おい、どう言う事だ! 何だ、力を持つ意味って!」

 

「朝目を開けたら分かる」

 

そう言うと同時に真っ白な世界は消え去った。

そしてマドカは目を開け体を起き上げた。辺りは質素ながらも女の子らしい人形などが置かれ、枕元の収納棚には兄イチカと束達と撮った写真の入った写真立てが置かれていた。

 

「……夢だったのか? ……ん?」

 

マドカは夢かと思っていると、目の前にディスプレイが突然現れ書いてある文字にマドカは声が出なかった。其処に書かれていたのは――

 

『第2形態に移行しますか? Yes/No』と。




次回予告
何時の間にか現れた第2形態の表示にマドカは困惑しながらも、力を受け入れた。そして束に機体のチェックを頼む。そしてイチカと訓練へと向かった。束はある物の開発を続けながら機体チェックを始めた。
次回
黒き翼


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23話

朝目が覚め、突然目の前に現れたディスプレイ。

 

『第二形態に移行しますか? Yes/No』

 

マドカは何故突然このディスプレイが現れたのか、疑問で頭が一杯だったがある可能性が上がった。

 

『お前には力を持つ覚悟がある』

 

夢の中でキースが言っていたその一言。その言葉の意味がこれか。と考えついたのだ。

 

「力を持つ覚悟か……」

 

そう呟き、ディスプレイを眺めるマドカ。

 

(兄さんは新しい力を得たことで、更に一人で大切な人達を守るべく戦うかもしれん。私は、兄さん一人にそんな無茶はさせん。……だから!)

 

そう思い、ディスプレイの『Yes』を選択した。すると機械音声が流れる。

 

『第二形態に移行します。移行中……完了。新機体名『サイレント・グリフォン』……搭乗者最適化中……完了。システムオールクリア』

 

音声がそう告げるとディスプレイは閉じ、マドカはベッドから立ち上がり服を着替え部屋から出て、ある場所へと向かった。

 

<束さんの研究室>

 

そう表札が掲げられている部屋にマドカは入って行く。部屋の奥では束が空間ディスプレイにDNAや何かの拡大画像と思われる物を見ていた。

 

「博士、少しいいか?」

 

そう声を掛けると、束は手を動かすのを止め後ろを振り向く。

 

「おりょ、マーちゃんじゃん。どうったのぉ?」

 

「私のISの点検を頼みたいんだ」

 

そう言い自身のISの待機形態である腕輪を外し、束に渡す。

 

「ん~、この前点検したばかりだよね? それなのにどうして?」

 

「詳細情報を見ればわかる」

 

そう言われ束はISにコネクターを挿し、詳細情報を開いた。

 

「さてさて一体何が……。はぁぁっ!!???」

 

束はマドカのISが何時の間にか第二形態に移行していた事に驚き、大声をあげ椅子から転げ落ちた。

 

「ちょちょちょっ! 何時第二形態になったの!? 束さん全然気付かなかったんだけど!」

 

「今朝方だ。目が覚めたら突然目の前にディスプレイが現れて、其処に第二形態に移行するかどうか聞かれたから、移行に同意した」

 

そう言うと束は

 

「やっぱりマーちゃんのコアもか。やっぱりいっくんのとこの二つは他とは違う何かがある。けど一体何が?」

 

そうブツクサ呟いていた。

 

「博士。一人で考え込むのは良いが、点検やっておいてくれよ」

 

そう言うと束は顔をニパァーと笑顔にする。

 

「もっちぃ~! お昼頃までには終わらせておくよぉ」

 

そう言うとマドカは、分かったと言い研究室から出て行った。マドカが出て行ったのを確認した束はISの待機形態を点検用の台座に置き、ISを展開する。

 

「装甲も武装もほぼ変わってる。BITはそのまま積んであるみたいだけど」

 

そう言いながらISを見つめる束。

 

「……ねぇ、君は何故他でもないマーちゃんを選んだの?」

 

そう呟きながらマドカ達を救助した時の事を思い返す。

 

 

―――数年前

 

スコール達を助けて数日が経ったある日、束は隠れ家にしている航空基地にある研究室で、頭を捻っていた。

 

「相変わらずこの2つのコアはうんともすんとも言わないなぁ~」

 

そう言いながら目の前にある二つのコアを眺める束。すると扉が開き一人の少女が入って来た。

 

「おい博士。スコールが右腕の義手の調子が悪いと言いながらお前を探していたぞ」

 

そう言いながら部屋に入って来たのはマドカだった。

 

「ん~、了解だよぉ」

 

束は顔をマドカの方へと向け返事をし、返事を聞いたマドカはそのまま部屋から出て行く。マドカが部屋から出て行ったのを確認した束は椅子から立ち上がろうと机に両手をつく。

 

「さて、スーちゃんの義手のメンテに『ピピッ、ピピッ、ピピッ』……ウソ」

 

束は見ると、これまでうんともすんとも言わなかったコアの2つの内一つが突然反応したのだ。束は何故突然動き出したんだと思い考え込む。

 

「これまでうんともすんとも言わなかったこの2つのうち一つが突然動いた。一体なんで……。……まさか」

 

そう呟き突然動き出したのはマドカが来た直後だったと気付く。だとすると先ほど来たマドカにこのコアが反応したのは、何らかの理由でこのコアはあの子を選んだと思い着いた。それから束はマドカからサイレント・ゼフィルスを預りコアを入れ替えた。

 

 

「―――それから幾日が過ぎて変化は特になかった。けどいっくんのISが第二形態に移行して直ぐにマーちゃんのISも第二形態に移行した。やっぱりあの2つは他とは違う特別な何かが備わっているんだ。けど、それが一体何かが分からないんだよねぇ」

 

そう言いながら、マドカのISを眺める。

 

「まぁ、焦らず調べていけばいいや。別に急ぎの用事でもないし。さて、オートメンテ起動っと」

 

そう言いメンテ用のロボットを起動し、マドカのISを点検させた。束は机へと戻りまた空間ディスプレイを眺め始めた。

 

「さて、問題はこっちだ。フーちゃんの老化をどうやって防ぎ、一般人と同じ寿命にするかだよね」

 

そう言い束は空間ディスプレイに映った、DNAや皮膚組織を眺めた。束はISを作る際、人間工学や人体についての勉強もしていた為ある程度知識はあった。その為イチカを救ってくれたアラド達に少しでもお礼が出来ればと思い、人より寿命が短いフレイアの寿命を伸ばす方法がないか調べるべく先日フレイアとハヤテを呼んだのだ。

 

「外見は人と同じ。けど皮膚細胞の分裂が普通の人の数倍速い。多分高い身体能力を出す代わりに、これがウィンダミア人の短命の原因なんだろうね」

 

そう呟きながら、何かないかと必死に考えを巡らせた。

 

「皮膚の移植手術。嫌、駄目だ。それだと寿命自体が伸びたわけじゃない。臓器などを入れ替える。拒絶反応が出るかもしれないし、まず地球人のと合うかが分からないからダメ。ん~、どうすればいいんだ」

 

そう言い頭を抱え込む束。するとコーヒーが入ったコップを持ってクロエが部屋へと入って来た。

 

「束様。砂糖とミルクたっぷりのコーヒーをお持ちしました」

 

「お! ありがとうねクーちゃん」

 

そう言いコーヒーを受け取り口にする。

 

「ん~! クーちゃんの淹れてくるコーヒーは何時も美味しいよ!」

 

「お褒めいただきありがとうございます」

 

クロエの淹れたコーヒーを褒めながら、感想を口にした。

 

「こう、クーちゃんの淹れてくれたコーヒーは体の内側から隅々に糖分が満遍なく行く感じなんだよね。……そうか!」

 

感想を述べていた束が突然大声をあげ立ち上がると、クロエは首を傾げながら束を見つめる。

 

「そうだよ。わざわざ皮膚移植もする必要も無ければ、臓器の入れ替えをしなくもいいじゃないか。内側から少しずつ変えていけばいいんだよ。そうと分かれば急いで、造らないと!」

 

そう言い束は今まで映していたディスプレイを閉じ、様々な計算式を打っていく。クロエは空になったマグカップを束の机から回収し、「頑張ってください、束様」と言い部屋を後にした。




次回予告
エンシェントセキュリティー社に戻って来て数日が経ったある日、久しぶりに訓練を行わず本社から程近い無人島でバカンスを取ることとなった。
次回
バカンス
~見て見てイッチー! 新しい水着なんだぁ!~


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24話

「バカンス、ですか?」

 

「そう、バカンスよ」

 

ある日、イチカはスコールから呼び出され開口一番に言われたのだ。

 

「えっと、どうして突然バカンスなんて言うんですか?」

 

「貴方、ここ最近訓練やら何やらで全然休んでいないでしょ?」

 

そう言われイチカは心当たりがあるのか、えっとぉ~。と苦笑いを浮かべる。

 

「兵士は時として休憩は必要なの。疲れた状態じゃ、いざっというときに力が発揮できない。だから心と体をリフレッシュしていらっしゃい」

 

そう言われイチカはでも。と渋ろうとした。

 

「駄目よ、これは命令。イチカ・メルダース、本日0900時から2100時までバカンスをするように。その際、監視として12名ほど貴方に付けるから」

 

「いや、12名って多すぎますよ!?」

 

「多すぎないわよ。貴方にはこれ位つけないと休まないでしょ?」

 

そう言われイチカは仕方なく部屋へと向かおうとすると、スコールが待ったを掛けた。

 

「部屋に行かなくても良いわ。此処に必要な荷物等は用意してあるから。これを持って第2埠頭に向かいなさい」

 

そう言いスコールはデスクの上に大きめのカバンを出す。イチカはそれを受け取り指令された第2埠頭まで行く。すると其処にはアラドやデルタ小隊の面々とワルキューレのメンバーが居た。

 

「あれ、皆が此処に居るって言う事は……」

 

「そうだ、俺達がお前の監視員だ」

 

アラドが笑みを浮かべながらそう言うと、イチカはなるほど。と納得した表情を浮かべた。

 

「さて、イチカも来たみたいだし行くとするか」

 

そう言い船の操舵室に居たのはオータムだった。

 

「オータムさん、船の免許持ってたんですね」

 

「船舶免許やら乗り物関連の免許だったら色々あるからな」

 

そう言われイチカはどれだけ持っているんだろう。と疑問に持ちながら船へと乗り込む。そして船は埠頭を離れエンシェントセキュリティー社から数時間ほど離れた位置にある島へと到着した。

 

「この島はバカンス様に買い取った島だから、ちゃんと英気を養えよ」

 

そう言いながら荷物を船から降ろしていくオータム。

 

「オータムさんは?」

 

「俺はこれから本部に戻ってラウラと共に買い物だ。アイツ、この前買い物に行った際に地味な服ばかり買ってやがったからスコールと一緒に買い直しに行くんだよ。明日の朝には迎えに行くから、ちゃんとバカンスしろよ」

 

そう言いオータムは船の中へと戻って行き、そのまま島から離れて行った。

 

「さて、それじゃあ行くぞ」

 

アラドがそう言うとそれぞれ荷物を持って埠頭を離れた。暫く歩くとアラド達の前に2軒のコテージが並んで建っていた。

 

「ほぉう。男女別と言う訳か」

 

「そりゃあそれが当たり前でしょ」

 

男性陣と女性陣はコテージ前で別れ、それぞれ中へと入って行った。

中へと入ったアラド達。コテージ内は広々としていた。

 

「さて、部屋に荷物を置いたら海に行って泳ぐぞ」

 

そう言い部屋があると思われる場所に向かうと貼り紙がされていた。其処には部屋割りが書かれており、奥の広めの部屋にイチカの名前が書かれていた。それを見たチャックがぶぅー、ぶぅー。と文句を漏らす。

 

「なんだよ、イチカだけ広めの部屋とか羨ましいぞ!」

 

「いや、俺に言われたってこの貼り紙を作ったスコールさんに文句を言ってくれよ」

 

そう言い貼り紙の隅に指さすイチカ。其処には小さく『スコール作』と書かれていた。

 

「まさか、あの人が決めたのかよ。案外何か仕掛けてたりしてな」

 

ハヤテが冗談交じりにそう言うと、イチカはまさかぁ?と思いながら部屋へと向かった。入口は他のと同じ窓の無い木造扉だった。イチカは扉に鍵を挿し込み、回す。そして鍵が開きドアノブを回して中へと入る。

 

「さてさて、一体どんな部屋なんだろう「あら、イチカ」「あ、いっちーだぁ!」「イチカと同室。ラッキー」……へ?」

 

部屋の中にはもう片方のコテージへと向かったはずの美雲とマキナ、そしてレイナが居た。

 

「な、なんで3人が此処に?」

 

「さぁ? 部屋割りの貼り紙には、私達3人は奥の子の部屋に名前が書かれていたんだもの

 

「もしかして、スコールさんが仕組んでくれたりしてぇ!」

 

「だったらGJ!」

 

イチカは3人も同じように奥の部屋、そして自分も奥の部屋。其処で全てが合致した。このコテージ、奥の部屋が互いのコテージと繋がっていると。

 

「……俺廊下に布団を「あら、基地だと同じ部屋で寝てくれるのに、此処だと彼女を置いて廊下で寝ようとするなんて寂しいわね」お、おい美雲! ばらす必要がるのかそれ!?」

 

美雲が2人が居るにも拘らず、同じ部屋で寝ているとばらすと、マキナとレイナは頬を膨らませた。

 

「むぅ~~、くもくもずるぅ~~い!」

 

「私達も同じ部屋が良かった!」

 

2人からの嫉妬の眼差しに美雲はどこ吹く風の様に応対する。

 

「あら、イチカと私は恋人同士ですもの。お互い同じ部屋でも何ら可笑しくないわ」

 

そう言うと2人はぶぅー、ぶぅー。と鳴らす。

イチカは取り合えず荷物を置くかと思い近くに荷物を置く。

 

「はぁ~、口論しているのは良いが海に行かなくていいのか?」

 

そう聞くと、マキナとレイナはそうだった!と気付き、水着が入っているであろう袋を持って部屋から出て行く。イチカも水着の入った袋を取り出そうとカバンを探っていると

 

「ねぇ、イチカ。これどう?」

 

そう声を掛けられ顔を上げると、水着を着た美雲が其処に立っていた。

 

「い、何時の間に着替えたんだよ!?」

 

「ふふふ。な・い・しょ♡」

 

そう言い腰を曲げ前屈みとなる美雲。

 

「~~~~っ!!」

 

顔を真っ赤にするイチカは水着が入っている袋を見つけ出し、足早に部屋から逃げ出した。

 

「あらあら、からかいすぎちゃったかしら?」

 

クスクス笑いながら鞄から袋を取り出し、それを持って部屋から出て行く。

 

水着に着替え海辺へと着いたイチカ。

 

「あっちぃ~~~」

 

照りつける太陽にイチカは砂浜に立ちっ放しはキツイと思い、持ってきたコテージ近くにあった倉庫で見つけたパラソルを開き、地面に突き刺す。

 

「はぁ~、この暑さは流石の俺でもきついなぁ」

 

そう言いながら水着に着替えたアラドはクーラーボックスの地面に置き愚痴る。

 

「父さん、それは?」

 

「ん? こいつか」

 

アラドはクーラーボックスを開けると、中には氷水に浸かったコーラやサイダーなどのジュース類にビールなど酒類が入っていた。

 

「熱中症対策にな」

 

「ほぼ自分が楽しむ用にしか思えないんだけど」

 

イチカはジト目でアラドを見ると、アラドは下手な口笛を吹きながら視線を明後日の方向に向ける。

 

「お、ジュースいただき!」

 

そうハヤテは言いサイダーに手を付ける。

 

「隊長、いただきます!」

 

チャックもそう言ってビールを取る。

 

「おいおい、それは俺が買ってきた奴なんだぞ……」

 

アラドは呆れ顔で2人に言うが、最後は諦めたように息を吐く。

 

「まぁ、多めに買って来てあるからいいか」

 

そう言っていると

 

「あ、飲み物持って来られてたんですか?」

 

「けど、人数が多いですし一応持って来て正解ですね」

 

カナメとフレイアはそう言いながら一緒に持ってきたクーラーボックスを置く。

 

「なんだ、そっちも飲み物を持ってきてたのか」

 

「はい。一応常備してあるとは聞いていたのですが、足りないといけないと思って買ってきておいたんです」

 

アラドはカナメにそう話している中、フレイアはハヤテの元へと行く。

 

「えへへへ。どうハヤテ? 可愛い?」

 

「お、おう。可愛いぞ」

 

フレイアはハヤテの前でくるっと一回転し感想を聞き、ハヤテはその可愛さに頬を赤く染めながら答えた。

 

「……く、悔しくないぞ。俺だって何時か彼女が」

 

チャックは震えながらそう言っていると

 

「いっち~~!」

 

「イチカ」

 

そう呼びながら2人がやって来た。

 

「おう、2人も来たか」

 

「うん。ねぇねぇイッチー、この新しい水着どうかな?」

 

「私も新しい水着」

 

そう言いフレイアみたくその場で一回転するマキナ。マキナは縞横のバンドゥビキニで、レイナはタンキニの水着であった。

 

「ん? 良いんじゃないのか? レイナのは動きやすそうな水着だな」

 

「「むぅ~~」」

 

イチカの感想に2人は不服そうな声を漏らす。すると美雲もやって来た。

 

「ふふふ。2人は欲しい感想が貰えず不服そうよ、イチカ」

 

そう言ってやって来た美雲は部屋で来ていた水着とは違う眼帯タイプの水着を着ていた。

 

「あれ、さっきとは違う物か?」

 

「えぇ。あれはラグナでも着てたもの。これは新しく買った物よ。どう?」

 

「その……、綺麗だぞ」

 

イチカは頬を染めながら、そう言うとマキナとレイナはむぅ~。と頬を膨らませる。

 

「イッチーはくもくもばかり褒めてずるい!」

 

「私達ももっと褒めるべき!」

 

そう言いズイッとイチカに近寄る2人。

 

「あ、いや。その2人も十分可愛いぞ」

 

突然間近まで迫られたことに驚いたイチカは、思った事を素直に口にすると2人はえへへへ。と照れた表情を浮かべる。

 

「……うぅうぅぅう、俺の春は一体何処に落ちているんだぁ」

 

涙を流しながら一人寂しくイチャつくカップル(一組違う?)を眺めるチャック。

因みにマドカは美雲にスタイルをよくする方法は何か聞いていた。

 

それから時間は経ちデルタ小隊、そしてワルキューレのメンバー達は海で泳いで遊んだり、浜辺でハヤテやチャックを埋めたりして遊びつくした。




次回予告
海でバカンスを楽しんだイチカ。夜、部屋にあるバルコニーで寛いでいると美雲達も出てきて同じく寛ぐ。そしてそれぞれ思いを口にする。
次回
恋の炎は永遠に
~私は、イチカ・メルダースの事が大好きです~


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25話

海辺で遊び、日が沈み始めた頃。アラド達はウッドハウスの元に戻って来てバーベキューの準備をし、肉を焼き始めた。

 

「よぉ~し、お前等肉が焼けたぞ」

 

そうアラドが言うと、それぞれ箸を手に肉や焼けた野菜を取り始めた。

 

「いやぁ~、滅茶苦茶遊んだ後に食う肉はうめぇなぁ」

 

そう言いながらハヤテは肉を頬張る。傍に居たフレイアはちょっと怒った顔を浮かべる。

 

「ハヤテ、野菜も食わんとあかんよぉ!」

 

そう言いフレイアは自分の皿にのっていたシイタケやピーマンをハヤテの皿に移す。

 

「ちょっ!? 自分でとるからのせるなよ!」

 

そう言いつつもフレイアがのせた野菜を戻さず頬張るハヤテ。

 

「アラドさん、どうぞ」

 

カナメはそう言い肉や野菜がのった皿をアラドに渡す。

 

「おぉ、ありがとう」

 

そう言い、アラドはトングを置き肉を食べる。

 

「兄さん、このサラダ旨いな」

 

「そう言ってくれて嬉しいぞ。新しく考えてみたドレッシングだったから心配だったがよかったぜ」

 

「へぇ~、イチカの考えたドレッシングだったのね。なかなかいい味じゃない」

 

「ん~~~! すっごく美味しぃ!」

 

「ん、美味しい」

 

サラダを頬張る美雲達はイチカの考えた特製ドレッシングに舌鼓していた。

 

「相変わらず、どうやったらこれ程の料理の腕を磨けるんですか?」

 

ミラージュは女性としてまた負けた気分がとボヤキながらサラダを頬張る。

そんな光景を見ていたチャックはと言うと

 

「あれ、可笑しいな。野菜が異様にしょっぱいぞ」

 

そう言いながら何故か異様にしょっぱい焼き野菜を頬張った。

 

 

 

「――――はぁ~、食った食った」

 

夕飯を終えたイチカはそう言いながら部屋の外にあったデッキに出て、デッキチェアにもたれながら夜空を眺める。

 

「もうすぐ半年が経つのか」

 

そう呟きながらイチカは今までの事を思い返す。

 

「色々あったなぁ。元家族との再会。新しい仲間達との出会いとか」

 

ぼぉーと夜空を眺めながらそう呟いていると、窓が開く音が背後から聞こえイチカは顔を向けると美雲やマキナ、レイナがラフな格好でやって来た。

 

「此処に居たのね、イチカ」

 

「潮風がきもちぃ~」

 

「ひんやりして良い風」

 

そう言いながら3人はそれぞれイチカと同じようにデッキチェアに座り同じく夜空を眺めた。

 

「……星空が綺麗だねぇ、イッチ~」

 

「ん? そうだな」

 

「夜空に似合うBGMオン」

 

そう言いレイナは空間ディスプレイから夜に合うBGMを流し始めた。

BGMを聞き流しながら4人は夜空を眺める。

するとマキナが口を開く。

 

「ねぇ、イッチー」

 

「なんだ?」

 

「この前私とレイナが言った事覚えてる?」

 

「あぁ~、もしかして俺の事が好きだって事か?」

 

そう言うとマキナは月明かりでも判るくらい頬を赤く染めながら、両手を胸の部分で遊ばせながら「うん」と頷く。

 

「最初は、イッチーの手助けをしたいと思って色々イッチーの事をサポートしようとバルキリーの整備をレイレイと一緒に頑張ってた。そんな時にイッチーが「何時も整備してくれてありがとう」ってお礼を言ってくれた時、他の皆から言われた時は嬉しいという気持ちを占めたのに、イッチーからのお礼は胸がポカポカしたの。レイレイも同じようにドキドキしたって聞いて、どうしてイッチーのお礼だけこんなにも胸がポカポカしてドキドキしたのか分からなかった。けど、何時しか分かったの。これが恋なんだって」

 

そう言いながらマキナとレイナは立ち上がり、月を背にイチカの正面に立つ。

 

「私、マキナ・中島と」

 

「レイナ・プラウラーは」

 

「「貴方事を心の底から愛しています」」

 

2人は頬を真っ赤に染めながらそう言うと、イチカは困った表情を浮かべる。

 

「その、2人の気持ちは嬉しい。だが俺には――」

 

イチカは美雲が居ると言おうとした瞬間2人はイチカの傍へと行き

 

「んっ」

 

「チュッ」

 

頬にキスをした。

 

「えっ!?」

 

「今はこれ位しかできない」

 

「けど、何時かくもくもと同じくらい愛される人になるから!」

 

そう言い2人はデッキから出て行った。イチカは突然キスをして出て行った2人に驚いた表情を浮かべたまま茫然としていると、美雲が口を開く。

 

「どうやらあの子達、前とは違って私から振り向かせるんじゃなくて、自分達にも私と同じように見て欲しいみたいね」

 

そう言うとイチカは「えっ?」と零す。

 

「以前はイチカを自分達に向けようと頑張ってたの、けど今のあの子達は私と同じように恋人にして欲しいと頑張ってるみたいね」

 

そう言うと美雲はデッキチェアから立ち上がり、スッとイチカの傍へと行きイチカの頬に手を添える。

 

「私自身、別にイチカがあの子達も恋人にするって言うなら反対はしないわ。けど、これだけは憶えておいて」

 

そう言い美雲はイチカの口にキスをする。

 

「貴方の一番は私だって言う事を」

 

そう言い美雲は頬を赤く染めたまま部屋へと戻って行った。イチカは美雲からのキスに驚きながらもデッキチェアに深く座る。

 

「……どうしたらいいだろうな、俺」

 

そう呟き、満天の星空を見上げた。




次回予告
バカンスが終わり、夏休みが終わり間近になったある日。鈴が職場見学をしたいと願ってきた。イチカはスコールから許可を貰い鈴をエンシェントセキュリティー社の職場見学を行った。

次回
職場見学~何事も下調べをして、就職先を見つけたいもの~


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26話

バカンスに行って数日後、イチカは機体格納庫で自身の機体をチェックしていた。その近くにはウッドボックスを椅子代わりに座りながら本を読む美雲と、機体チェックを手伝うマキナとレイナ。

 

「よし、システムはこれで良いが問題は無いか?」

 

「うん、ばっちぐぅ~」

 

レイナはそう言いながらサムズアップをし、イチカに見せる。

 

「こっちも機体チェック終わったよぉ。オイルもギアも何も問題なかったぁ」

 

マキナは汚れた顔をイチカに見せながらそう報告する。

 

「あぁ、ありがとう。ほれ、顔汚れているぞ」

 

そう言いながらイチカはマキナにタオルを差し出すと、マキナはありがとうと照れた顔を浮かべながら受け取り顔を拭く。

機体から降りたイチカは美雲の元に行き傍に置かれているミネラルウォーターを口にする。

するとポケットに入れているスマホが鳴り響いた。

 

「ん? 鈴からか。…もしもし」

 

『あ、イチカ? 今いい?』

 

「別に良いが、何の用だ?」

 

『うん、実はアンタんとこのエンシェントセキュリティー社に職場見学に行きたいのよ』

 

「はぁ?」

 

突然の職場見学にエンシェントセキュリティー社に行きたいと言い出した鈴に、イチカは困惑の声を漏らす。

 

「職場見学って、なんでわざわざ俺の所なんだ? 代表候補生なんだろ? 国家代表になればそれなりに給料は貰えるだろ」

 

『そうなんだけさぁ。けど、国家代表に実際になれる可能性って結構低いのよ。で、万が一国家代表になれなかった場合に備えて、就職先を下調べしようと思ってたら、アンタの所が先に目についたって言う訳』

 

「なるほどな。まぁ俺自身の意思じゃあ決まらねえ。司令官にいいかどうか聞いてくるから、また後で連絡するわ」

 

『分かったわ。それじゃあまた後で』

 

そう言い電話が切れると、イチカはスマホを仕舞う。

 

「鈴さんって、確かイチカの幼馴染だったかしら」

 

「あぁ。何か職場見学させて欲しいんだと。ちょっとスコールさんの所に行ってくるわ」

 

そう言いイチカは着ていた作業着を脱ぎに更衣室へと向かった。

 

服を着替え終えたイチカは地下の指令室へと赴くと、スコールは何時もと変わらず各地に出撃しているオペレーター達に指示を出していた。

 

「スコールさん、少しいいですか?」

 

「あら、イチカ君。えぇ構わないけど、何か用?」

 

「実はIS学園に通っている友人から、此処に職場見学をしに伺いたいと頼まれたんです」

 

「此処に? PMCに職場見学しに伺いたいって珍しいわね」

 

「えぇ、そうですね」

 

イチカは苦笑いを浮かべる中、スコールは考え込み笑みを浮かべた。

 

「まぁ良いわよ。その代わり案内はイチカ君に任せるわよ」

 

「分かりました。日取りは?」

 

「そうね、来週の○月×日くらいでいいでしょうね。その時ならバタバタしてないはずだし」

 

「分かりました、では許可が下りたって伝えておきます」

 

そう言いイチカは指令室から退室して行く。

 

 

 

それから数日後、エンシェントセキュリティー社の滑走路に一機のプライベートジェット機が着陸し、タラップから鈴が降りてきた。降りるとすぐにイチカが出迎えていた。

 

「よぉ、鈴」

 

「やっほぉ。今日はありがとうね」

 

「いいよ。荷物は?」

 

「このボストンバックに入ってるだけ」

 

そう言いながら鈴はボストンバックを見せる。それを見たイチカは鈴を連れ荷物検査室へと案内する。

 

「相変わらず持ち込む荷物とか少ないな。学園に転入してきた時も、それくらいの荷物で済ませたんじゃないのか?」

 

「だって、そんなに持って行く荷物なんて無いでしょ? 着替えも必要な分だけで後は買えば良いし」

 

鈴はそう言いながら案内された検査室へと入る。

 

「それじゃあ荷物を其処に置いてください」

 

そう言われ鈴はボストンバックをベルトコンベアの上に乗せると、ボストンバックはそのまま運ばれ機械の中に通された。

 

「X線検査問題無し。どうぞお通り下さい」

 

そう言われ鈴はボストンバックを受け取りイチカと共に建物から出て行く。そしてそのまま鈴を宿泊寮へと案内する。

 

「ほれ、此処が今日泊まるお前の部屋。一応冷蔵庫には飲み物が入ってるし、お腹が空いたらこの建物の一階に食堂が開かれているから其処で食べればいい」

 

「へぇ~、学園の寮とはえらく違うわね。こっちの方が綺麗じゃない」

 

そう言いながら鈴は荷物を置く。

 

「えっと、それで見学は何時始めるの?」

 

「お前が良いって言うなら、今からでも出来るぞ」

 

そう言われ鈴はじゃあお願いと言い、メモ帳とペンを持って部屋を出る。

 

 

 

最初に2人は外の戦闘車両が停められている場所に向かった。

 

「此処が戦闘車両待機所だ。此処に置いてある車両は依頼された地域に派遣されて護衛や救出、更には軍事訓練などをする移動手段とかに使われている。置いてある車両は、軽装甲偵察車両や装甲車などだ」

 

「へぇ~、よくこれだけのモノが集まるわね」

 

「此処に置いてあるのは殆んどが、軍に売られる予定だったものでISの影響で行先の無くなった商品とかだ。だから金を払うから売ってくれって兵器会社に言ったら喜んで売ってくれたんだと」

 

ふぅ~ん。と鈴は言いながらメモを取る。

そして次に向かったのはエンシェントセキュリティー社のオペレーター達が体を鍛える為のアスレチック等が置かれている場所で、今も体を鍛えるオペレーター達が居た。

 

「此処はウチのオペレーター達が体を鍛える為のアスレチック場だ」

 

「うわぁ、滅茶苦茶大変そうね」

 

鈴はそう言いながら見渡す。屈強な男性や、細い体だが程よい筋肉の女性達は汗を流しながらアスレチックを次々に越えて行く。

 

アスレチック場を後にした2人は次に到着したのはハンガー。鈴はイチカに連れられ中に入ると、様々な戦闘機が整備されており、油汚れなどで顔を汚しながらも働いている人達が目に映った。

 

「凄いわね、此処に置いてある戦闘機も兵器会社から買い取ったの?」

 

「あぁ。ISが登場して以降戦闘機や戦闘ヘリの需要は減り始めていたらしいから、一番安く調達出来たって聞いてる」

 

そう言われ鈴は、ISの影響は此処まで大きいとはと実感した。

 

それから鈴はイチカの案内の元、エンシェントセキュリティー社の各所を案内してもらい時刻は夕方となった。

 

「これでエンシェントセキュリティー社の案内は終わりだ。で、どうだった?」

 

「なんか、凄い所に勤めてるって改めて思わされたわ」

 

鈴はそう言いながらメモ帳をポケットに仕舞う。

 

「そうか。さて、夕飯を食べに食堂に行くか」

 

そう言われ鈴はイチカに続き、宿泊寮に行き一階の奥へと行くと大勢の人達が食堂で夕食をとっていた。

 

「うわ、学園と同じくらいの広さじゃないの此処?」

 

「多分同じくらいだろ。それじゃあ注文方法は学園と同じだから、行くぞ」

 

そう言いイチカは食券販売機へと向かうと、鈴も続く。そして鈴は食券販売機で中華定食(醤油ラーメン、酢豚、卵スープ)を頼み、イチカはトンカツ定食を頼み、食堂の店員に渡す。そして定食が乗ったお盆を持って席に着く。

 

「さて、飯食って明日に備えろよ」

 

「え? なんで備えるの?」

 

鈴は首を傾げながらイチカに問うと、イチカはトンカツを頬張りその訳を話した。

 

「モグモグ…。明日実際にオペレーター達がやっている訓練をして貰うんだよ。」

 

「はぁ? あたし聞いてないんだけど、それ?」

 

「何事にも経験が一番だからな。ウチについて詳しく知りたいなら実際に彼らに混ざって訓練すればよく分かる。だから俺が急遽決めた」

 

そう言いイチカは飯を頬張る。鈴は目元をぴくぴくさせ、拳を握りしめる。

 

「そう言うのは……」

 

「もっと早く言いなさいよぉおお!!」

 

そう言いイチカの頬に拳が飛ぶ。

 

「グホッォ!!!??」

 

そう言いイチカはそのまま殴り飛ばされていった。その様子を見ていたオペレーター達は

 

 

((((良いパンチ持ってるな、あの嬢ちゃん))))

 

と、褒めていた。




次回予告
翌日、鈴がエンシェントセキュリティー社のオペレーター達と共に訓練に臨んでいる頃、箒と束の父龍韻は少年刑務所へと来ていた。

次回
絶縁~束の思いを分からんような奴は、家の娘ではない!~


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27話

前日にイチカからエンシェントセキュリティー社のオペレーター達と訓練してもらうと言われ、一発イチカをぶん殴った鈴。

 

朝日が昇り始めた翌日。鈴は動きやすい服装に着替え外へと出ると、既に何人かのオペレーター達が集まっており準備運動を行っていた。

 

「おはようございます!」

 

そう言い鈴が近づくと、オペレーター達は顔を向け爽やかな笑みを浮かべる。

 

「おう、おはようさん!」

 

「おはよう、今日1日頑張ってね」

 

「ISのパイロットだって聞いてるが、少しひょろりってしてるな。今回の訓練でしっかり体を鍛えろよ」

 

そう言われながら鈴も準備運動を始めた。そして数時間後、残ったオペレーター達も宿舎から出てきて準備運動を始めた。

そして一際いかつい黒人男性がオペレーター達の前に現れ、それぞれ整列する。

 

「おはよう諸君!」

 

「「「「おはようございます! ロバート教官‼」」」」

 

「うむ、皆も知っていると思うが本日は中国のIS代表候補生である凰鈴音さんが職場見学も兼ねて諸君達と共に訓練に臨む。我々はやってのけるが、彼女はまだ学生だ。もし顔色などが悪そうであれば直ぐに休ませろ。お互いで体調を気遣い、少しでも可笑しいと判断すればすぐに報告するように。いいか!」

 

「「「「サー・イエス・サー‼」」」」

 

「宜しい。では、訓練を始める。何時もの通り滑走路の端から端の走り込みからだ! その後アスレチック場のタイムアタック、そして格闘訓練だ! さぁ、行け行け行け‼」

 

そう言われ、オペレーター達は一斉に一定の速度で走り始めた。鈴は一瞬、付いて行けるかしら?と不安が過るも直ぐにその不安は消し去り、やるっきゃないわよね!と真剣な気持ちに切り替えオペレーター達に付いて行く。

 

 

 

 

 

―――日本・とある少年院

一人の男性が腕を組みながらとある一室で待っていた。その向かいには机と対面窓で仕切られていた。そして対面窓の向こう側にあった扉が開き刑務官と収監服を着た箒が現れた。箒は目の前に居た男性に驚いた表情を浮かべながら席へと着く。

 

「久しぶりだな、箒」

 

「は、はい。お久しぶりですお父さん」

 

そう言い箒は目の前に居る自分の父篠ノ之柳韻に目線を向ける。

 

「…何時かこんな事が起こるんではないかとずっと思っていたが、まさか現実になろうとはな」

 

そう言い龍韻は鋭い視線を箒へと送る。

 

「わ、私は何も悪い事など「黙れ! 事の始まりは全て束から聞いておる!」ね、姉さんから!?」

 

龍韻の口から束の名前が出た事に驚きを隠せ無い箒。箒は家族を滅茶苦茶にした束の事を父や母も恨んでいると思っていたからだ。その為連絡も一切取っていないと思っていた。

 

「意外そうな顔だな? お前が束の事を恨んでいる事は、以前から聞いていた。私や母さんはそれを咎めようとしたが束がやらなくてもいいと言ったから何も言わなかっただけだぞ」

 

「ど、どう言う事ですか?」

 

「『お父さんやお母さんが私の事を庇えば、お父さん達も恨まれる。だから自分達も恨んでいると言った雰囲気を出しておいて』と言われたんだ。アイツは私と母さんを守る為に恨まれ役を買って出たんだ。それがどれ程苦痛だったか、お前は分かるのか‼」

 

そう言い柳韻は手を握りしめ机に置く。

 

「何でですか! あの人の所為で私達はバラバラにされたんですよ!」

 

「確かにそうだ。アイツ自身もそれを悔やんでいた。だが私と母さんはアイツの夢の為だと思えば別に迷惑だとは思っていない。だが、箒。お前が私達にかけてきた迷惑は正直言って目に余るほどだ!」

 

そう言い憤怒に染まった顔を箒に向ける柳韻。

 

「ね、姉さん以上にお父さんに迷惑を掛けた覚えなどありません!」

 

「何を言っているんだ貴様! お前が道場の者達にどれ程の怪我人を出したのか、忘れたと言うのか! それに少し指摘や注意されたらすぐに暴力で黙らせる。その度に毎日母さんは怪我をしたご家族に会いに行き頭を何度も下げていたんだぞ!」

 

そう言われ、茫然とする箒。

 

「何でもかんでも自分は悪くない。と言い、更に酷い時は束の名前を使って脅すなどしたと聞いている。束の名前を使って脅したと聞いたときはどれ程怒りが込み上がった程か‼」

 

そう言い柳韻は足元に置いてあったカバンからある紙を取り出した。

 

「お前が少年院に収監され、少しは自分が行った過ちを反省していると思っていたが、どうやらそうでもなかったようだな」

 

そう言い紙を箒の方へと見せた。其処には断絶届けと書かれており、下の親の記入欄には柳韻と母親の名前が書かれ判子が押されていた。

 

「な、何ですかそれは?」

 

「見ての通り断絶届けだ。お前が此処から出るまでに、改心がされていなければ私達とはもう連絡が取れないようにし、篠ノ之家の敷居にも一切跨がせない」

 

そう言われ箒はガッと椅子から立ち上がりガラスに手を叩きつける。

 

「な、なんでそんな物を用意されたんですか!」

 

「私達はもうお前を庇うのに疲れ切ったからだ。……正直に言ってまだ束の方が親孝行者だぞ。私達がバラバラになった事を知って、自分の所為で家族がバラバラになったことを謝罪し自分から断絶届けを出そうとさえしたからな。まぁ私達は受け取らなかったがな」

 

そう言い息を吐き深々と椅子に座り直す柳韻。

 

「ど、どうして受け取らなかったんですか」

 

「当たり前だ。お前の夢の為なら迷惑では無いと言って突き返したからだ」

 

そう言い立ち上がる柳韻。

 

「出て来るまでにその腐った性根を鍛え直せ。出来なければ篠ノ之家の敷居は跨せん!」

 

そう言って柳韻は出て行った。その後ろでは箒が泣き叫びながら柳韻を呼び止める声が響いていた。




次回予告
夜、オペレーター達と共に訓練を終えた鈴は食堂で食事をしていると、その傍に美雲がやって来た。そしてイチカとの出会いなどを談笑し始めた。

次回
幼馴染と彼女


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28話

「―――では、これにて本日の訓練は終了とする。 解散!」

 

そう教官の声が宿舎前で響くと、宿舎前に居たオペレーター達は疲れ切った表情を浮かべながらもタオルを肩にかけたりその場にへたり込み、息を整える者達で溢れた。そんな中、鈴はと言うと、疲れ切った表情を浮かべながらふらつく足を抑えながら、部屋へと戻っていく。

 

「あぁ~~~。そこそこ鍛えているから付いて行けると思ってたけど、まだまだみたいね」

 

そう零しながら部屋へと戻ってくると、着ていた服などを脱ぎ風呂場でシャワーを浴びに向かう。

 

数分後

 

「――――さぁて汗も流したし、食堂行って何食べよっかなぁ」

 

シャワーを浴び、服を着替え終えた鈴は食堂へと入ると、余り人は居らず何でだろうと首を傾げる。

 

「何で、こんなに人が少ないのかしら?」

 

「ん? おぉ~、君か」

 

そう声を掛けられ鈴は振り向くと、其処には教官が立っており鈴はこんばんわとあいさつする。

 

「あの、なんだか食堂に居る人が少ない気がするんですが……」

 

「あぁ、先程招集が掛けられて基地に居たオペレーター達は会議室に行ったんだ」

 

「そうなんですか。……もしかしてイチカもその招集に?」

 

「ん? メルダースか? 彼には掛けられていない。仮にも彼は世界初の男性IS操縦者だ。それに、君や彼それとマドカはまだ子供だ。だから汚れた戦場に行くのは俺達大人だけでいい」

 

そう言い教官はじゃあ俺は部屋に帰ると言って食堂から去って行った。鈴はその背中を見送りながら、訓練している最中に見せた厳しい顔ではなく優しい顔を見せた事に少なからず驚いていた。

 

「鬼軍曹にも仏の顔ってやつ?」

 

そう呟くと、お腹から腹の虫が鳴り響いた。

 

「突っ立ってても仕方がないわね。さて、ラーメンラーメンと」

 

そう言いながら鈴は食堂の中へと入って行き、何時もと変わらないラーメンを注文する。

 

受け渡し口でラーメンとチャーハンのセットを受け取った鈴はスカスカの食堂の何処で食べようと思い辺りを見渡していると、海が眺められる窓際の席で一人眼鏡を掛けながら読書をしている一人の女性が居る事に気付き、傍へと近寄る。

 

「えっと、ちょっといい…でしょうか?」

 

「ん? あら、あなたは確かイチカの」

 

声を掛けられた女性、美雲は読んでいた本から目を外し顔を上げるとお盆を持った鈴がおり、笑顔で応対する。

 

「何か用かしら?」

 

「えっと、向かいの席に座らせてもらってもいい…でしょうか?」

 

鈴は年上か分からず、慣れない敬語でそう聞くと美雲はえぇ、どうぞ。と言い向かいの席に手を差し出した。

 

「ありがとうございます」

 

「ふふふふっ。敬語、慣れてないなら無理して使わなくても良いわよ」

 

美雲はそう言うと鈴は、照れた表情で頭を掻きながら、それじゃあ止めるわ。と言いラーメンを食べ始めた。勿論ラーメンが美雲の方へと飛んで行かない様に。

そしてあっと言う間に鈴はラーメンとチャーハンを平らげた。鈴自身何時の間に食べ終えたのかしらとほぼ無意識に食べていた。

 

「凄い食べっぷりだったわよ。そんなにお腹空いていたの?」

 

美雲はクスクスと笑いながら聞くと、鈴はあはははは。と苦笑いで答えた。

そして鈴は食後のお茶を貰って来て席で海を眺めたり、チラッと美雲の方を覗いたりする。

 

「何か聞きたいことでもあるの?」

 

「ッ!?」

 

美雲は本から目線をはずさずそう聞くと、鈴は少し驚いた表情を浮かべる。

 

「何で気付いたの?」

 

「そりゃあチラチラとこっちを何度も見ていたら気付くわよ」

 

そう言い本から顔を上げ、眼鏡をはずす美雲。

 

「それで、何か聞きたいことがあるんじゃないの?」

 

「…その、貴女とイチカが付き合った経緯教えてもらってもいい?」

 

鈴は失恋したとはいえ、どうやって2人は結ばれたのか気になりこうして聞いているのだ。

 

「そうね。すこし昔話でもしましょうかしら」

 

そう言い美雲は懐かしむように語り出した。

 

「私とイチカが初めて会ったのは、ある料理店なの。友達とそこにご飯を食べに行った際にイチカと会ったの。それから暫くしてイチカが今の義父の子供になってデルタ小隊、つまり今イチカが所属している部隊に配属されたわ。そして月日が流れていく中、イチカは強くなっていった、そんなある日イチカにとって兄貴的な存在だった仲間が亡くなったの」

 

「亡くなった…。戦死と言う事ですか?」

 

「えぇ。しかもイチカの目の前で」

 

美雲の口から出た言葉に鈴は言葉を失った。

 

「……」

 

「それから暫くイチカは塞ぎ込む様になった。……イチカが塞ぎ込んでいた姿を見た私は、最初自分でも分からなかったけど、彼を抱きしめて慰めていたの。どう声を掛けてあげたらよかったらいいのか分からなかった私は、貴方だけの責任じゃない。あの場に居た全員が責任を感じている。もし辛く押しつぶされそうなら、私が貴方を支えてあげるから。そう言って彼を抱きしめたの」

 

美雲はその時の光景を思い出しながらそう呟いた。鈴はそうなんですか…。と呟き自分では恐らくできない。そう感じた。

鈴自身、IS学園に通い始めて命の危機を感じる様な出来事は何度もあった。だが、イチカはそれ以前から命の危機を何度も感じながらも戦場に立っていたかもしれない。そう考えれば自然とこの2人が惹かれ合うのは当たり前だ。

 

「そうだ鈴さんとイチカの出会い、私にも教えてもらってもいいかしら?」

 

「え? あたしとイチカの出会い?」

 

美雲からの突然の問いに鈴は首を傾げるも暫くして語り出す。

 

「あたしとイチカが初めて会ったのは、私が小学4年の頃。父の仕事の関係で日本に来た際転校した先にイチカが居たの。当時周りから可笑しな日本語で喋っているあたしはいじめの対象にされていたの。けど、イチカがその苛めていた奴らを二度と私を苛めない様にしたらしいの」

 

「一体どうやって?」

 

「友達から聞いた話じゃ、イチカと友人何人かとそのいじめっこグループとで殴り合いをしたらしいの。結果はイチカ達の勝ち。勿論学校じゃあ問題になりそうだったけど、いじめっ子グループにやられていた被害者たちが一斉にイチカ達の味方になってその親達もイチカ達の味方になったの。更にウサギって言うハンドルネームで学校の掲示板にいじめっこグループの住所やら家族構成が載せられたらしいのよ。結果学校に居られなくなったいじめっ子グループとその家族は逃げる様に引っ越していったのよ」

 

その話を聞いた美雲は、昔から色々やんちゃさんだったのね。とイチカの過去を知りクスクスと笑う。

 

「その頃位だったわね、あたしがイチカに一目惚れしてたのは」

 

鈴はそう零し、お茶に口を付ける。美雲はえっ?と少し心配とした顔を浮かべた。イチカの事がまだ好きなのではと。

 

「あ、心配しなくても大丈夫よ。あたしの初恋はもう終わったから。今はアイツに付き合っておけばよかったって後悔させる位綺麗な女性になろうって決めたから」

 

そう言い鈴は笑みを浮かべて席を立つ。

 

「さて、それじゃああたしは部屋に戻るわ」

 

「そう。それじゃあ私も部屋に戻るし一緒に戻りましょうか」

 

そう言い美雲も席を立ち食堂から出た。暫く廊下を歩いていると角からイチカが出てきた。

 

「ん? よぉ、もう夕飯とったのか?」

 

「あたしはね。そう言えば美雲は?」

 

「私はまだよ。今日はイチカが手料理振る舞ってくれる約束でしょ?」

 

「わかっているって。そう言えば鈴、お前明日帰国するんだろ?」

 

「えぇ。そうだけど、なんかあんの?」

 

「いや、偶には弾にも会いに行ってやれよって伝えたくてな」

 

そう言うと鈴は呆れた様な溜息を吐く。

 

「そう言うならアンタもでしょうが…」

 

「いや、俺はもう別名「名前が変わってもアンタはあいつ等の友達でしょうが。時間があったらアンタも会いに行ってやりなさいよ」……あぁ、分かったよ」

 

「じゃああたしは明日早いからね、もう寝るわ。それじゃあ!」

 

そう言い鈴は手を振って部屋へと戻って行った。

 

「…明るい幼馴染さんね」

 

「あぁ、俺と他の友人グループの中で一番明るい奴だよ。落ち込んだ奴が居ればすぐに明るくさせるいい奴だよ」

 

そう言いイチカは美雲と共に部屋へと戻って行った。




次回予告
長い夏休みは終わりイチカ達は学園へと戻って来た。そしてスコールからある女性に会いに行って欲しいと頼まれていたイチカはその女性が居る場所へと向かった。
次回

二学期始動!


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29話

長かった夏休みも終わりへと近づき、イチカはキャリーケースに服などを詰めていた。

 

「さて、学園に持って行く服とかも入れた。勉強関連の物も入れたし、忘れ物は無いな」

 

そう呟き部屋に置いてある椅子に座る。すると扉をノックする音が鳴り、イチカは「どうぞ、開いてるよ」と声を掛ける。

 

「失礼するわね」

 

そう言いながら入って来たのはスコールであった。

 

「スコールさん、どうしたんですか?」

 

「貴方に少しお願いがあるのよ」

 

お願い?とイチカは首を傾げながら、スコールの用件を聞いた。

 

「えぇ。実はIS学園に通っているある人物に会って欲しいの。一応向こうには連絡入れておいたし」

 

「どう言う人物なんです?」

 

「簡単に言えば、カウンターテロ組織の長といった所ね」

 

そう言われイチカははぁ?と首を傾げた。

 

 

 

そして夏休み最終日、イチカとマドカはキャリーケースを持ち学園行きのプライベートジェット機の傍で美雲達に見送りを受けていた。

 

「それじゃあ行ってくる」

 

「えぇ、気を付けてね」

 

「頑張ってねぇ!」

 

「ガンバ、イチカ」

 

美雲、マキナ、レイナはイチカにそう言葉を掛けた。

 

「相変わらずイチカはモテモテだな」

 

「兄さんがモテるのは、兄さんの人柄だと思う」

 

そうだな。とマドカの答えを聞きながらアラドはマドカの頭を撫で、「頑張って、勉強して来いよ」と呟く。マドカは照れながら「…うん」と小さく返した。

 

そして2人はジェット機へと乗り込み飛び立っていく。

 

数時間後空港へと着陸したジェット機から降り、2人はエンシェントセキュリティー社の警護兵が運転する車に乗ってIS学園へと向かう。

2時間ほど車に揺られ、イチカ達の乗った車は学園入口へと到着し寮へと入って行く。荷解きを手早く済ませ、イチカはマドカに部屋を少し出ることを伝え、手元にある地図を見ながら

 

「えっと、学園地図だと確か……っと、此処か」

 

そう言い目を上げた先にあったのは『生徒会室』と書かれたプラカードが掛かった教室だった。

イチカは扉の前に立つと数回ノックをする。

 

『はい、どちら様ですか?』

 

「1年のイチカ・メルダースです」

 

中から掛けられた女性の声にイチカは名を名乗って暫くして、扉が開かれ一人の眼鏡を掛けた女性が現れた。

 

「どうぞ、お入りください」

 

そう言われイチカは中へと入ると、外はねの短髪で水色髪の女性が椅子に座っていた。

 

「ようこそ、生徒会室へ。何か用かしら?」

 

「用は既に告げられていると聞いておりますが? IS学園生徒会長、いや。政府直属暗部組織、更識家当主更識楯無さん」

 

イチカはそう告げると、楯無は『御明察』と書かれた扇子を見せ、笑みを浮かべた。




次回予告
暗部組織当主である楯無と会合するイチカ。
イチカが楯無に告げたのは、ある企業の不穏な動きであった。そしてその企業はシャルロットにも関する事でもあった。

次回
暗部の長との会合


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30話

「どうぞ」

 

「あぁ、どうも」

 

机の上に置かれた紅茶に一瞬に目を向けた後、イチカは目の前に座っている人物へと目を向けた。

 

「さて、それじゃあ改めて自己紹介をさせてもらうわね。私がこのIS学園生徒会長で、そして暗部組織更識家当主の更識楯無よ。そしてこっちが」

 

「書記でお嬢様の補佐をさせていただいております、布仏虚と言います」

 

「布仏と、言いますと」

 

「はい、本音は私の妹です」

 

あぁ、そうですか。と納得した表情を浮かべ、イチカは本題を切り出す。

 

「さて、既にうちの会社からそちらにお願いしていた事、夏休み期間中のシャルロット・デュノアの動向、それの報告を聞いても?」

 

「えぇ。そちらから電話で依頼された後彼女の動向を調べたわ。電話にメール、あとは学園内での行動とかね。けど、特に可笑しい行動等は無かったわ。特に気にするよう言われた企業とのやり取りとかも無かったわ」

 

そう言われイチカはそうですか。と返す。

 

「ねぇ、どうして彼女の動向を調べさせたの? 此方は詳しい話は報告を聞きに来た人に聞いてくれと言われて納得したんだし、教えてくれるんでしょうね?」

 

「えぇ、社長からも彼女に調べさせた理由は伝えておいてくれと頼まれていますし」

 

そう言いイチカは拡張領域からあるレポートを取り出した。

 

「これは最近名を上げてきたとある企業のデータです」

 

「『オグマ社』。 確か、航空産業で名を上げ始めて、需要数が少ない戦闘機を作っているあの?」

 

「えぇ。其処の会社は最近デュノア社を買収したようなんです」

 

デュノア社を買収と聞いた瞬間楯無は首を傾げた。

 

「どうして航空産業を生業にしているオグマ社がデュノア社を? それに買収されたなんて情報何処からも来ていないわよ」

 

「デュノア社に潜入させている諜報員からの情報ですし、それにどうやら買収と言うより極秘裏の乗っ取りといった所です」

 

そう言われ楯無の顔は引き攣った。

 

「……あなたの会社、相当な事をしているのね」

 

「あそこは俺のISを奪おうと考えていた企業ですからね、念には念をと潜入させたらしいですよ」

 

「そ、そう。……話がそれたわね。それで私に依頼したシャルロットさんの監視、あれは彼女がまだ企業と繋がっているかどうか見極めるために調べさせたのね」

 

「そうです」

 

イチカの返答を聞き、そう。と返した楯無は虚が居れた紅茶に手を伸ばし口にする。何時もと変わらずほのかな苦みとうま味が楯無の口の中を広がった。

 

「しかし、本当にどうしてオグマ社はデュノア社を買収と言うか乗っ取ったのかしら。あそこは既に倒産寸前で価値なんて無いはずなのに」

 

楯無は首を傾げながら、オグマ社が何故デュノア社を乗っ取ったのか。その訳を考え込む。

 

「お嬢様、もしやこの権利を買い取るためでは?」

 

書記と書かれた札の机に座っていた虚はパソコンの画面を楯無達の方へと向けた。其処には世界中の商標権やライセンスが書かれたサイトであり、虚が指した所にはラファールの権利がデュノア社ではなくオグマ社所有になっていた。

 

「なるほど、ラファールの権利ね。けど、オグマ社は航空産業の会社よ。どうしてISの権利が必要なの?」

 

「もしかして、ISの機能を狙ったのでは?」

 

「ISの機能?」

 

イチカの予想に楯無は首を傾げる。

 

「例えば、機体装甲面に特殊なエネルギーを流し従来の数倍以上の防御能力の向上。そして武装を対空兵装から対地もしくは対艦兵装に一括変更などです」

 

「「っ!?」」

 

楯無と虚はイチカの予想を聞き、顔が強張った。

 

「そ、そんな戦闘機が開発されたら……」

 

「えぇ、下手をすればISさえ落としてしまう。そんな兵器になってしまうかもしれません。そうなったら世界中の軍事バランスは一瞬で崩壊します。そして戦闘機を乗れるパイロット達、そして男性達は大いに喜ぶでしょうね」

 

「そうでしょうね。ISとは違い、性別問わず戦闘機は操縦方法さえ憶えてしまえばだれでも操縦できるもの。そうなったら……」

 

「IS無敵説は崩れる。そしてそれを認めない女性権利団体や女尊男卑の者達との戦闘。そして激化していき、行きつく先にあるのは」

 

「……第3次世界大戦」

 

虚の口から出た第3次世界大戦、その言葉に生徒会室は重い空気が流れ込む。

 

「で、でも現在の戦闘機は化石燃料とかバイオ燃料を使用しているから、さすがに無理でしょ。エネルギー的に足りないだろうから」

 

「……だったら良いんですが」

 

イチカは楯無の実現するのはまだ先だ。その言葉に素直に頷けなかった。何故なら臨海学校で自分達を襲ってきたISが擬似ISコアだったからだ。擬似とはいえエネルギーは本物と同等もしくはそれ以上を有している。もしそれが戦闘機に搭載されたら恐らく、実現するのではと。




次回予告
話し合いを終えたイチカは部屋へと帰ろうとしたところ、楯無から生徒会に入らないかと誘われる。その頃マドカは自身のオリジナル、千冬と対峙していた。
次回
生徒会への誘い~お前はお前、私は私だ。~


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31話

「さて、会合はこれで終わりですね。自分はこれで」

 

そう言いイチカは立ち上がり生徒会室を後にしようと考えていると

 

「あ、ちょっと待ってくれない」

 

楯無にそう声を掛けられ、怪訝そうな顔を浮かべソファーに座り直した。

 

「何です?」

 

「実はお願いがあるのよ」

 

「お願い? 何ですか?」

 

楯無は座っていたソファーから立ち上がり机の引き出しから紙の束を取り出し、イチカの前に差し出した。

イチカは紙の束を受け取ると、それは『要望書』と書かれていた。イチカはその内容を見ると其処には

 

『イチカ・メルダース君を我がプラモ部に!』

 

『イチカ君を漫画部に入部させてください!』

 

『メルダース君をサッカー部に!』

 

『イチカ君をロボ研部に入部させる許可をください!』

 

などなど、紙の束を捲ってもどの内容もイチカを我が部に入部させて欲しいと言う物だった。

 

「何ですかこれ?」

 

「この学園にある部から、貴方を入部させて欲しいという要望書よ。何処の部も貴方にお近づきになりたいからこうして要望書に書いて送ってくるのよ。勿論生徒会としてはそんな本人の意思を無視して入部させるわけにいかない。そう言って断って来たけど日に日にこの要望書の量が増え始めてきたのよ。で、考えたのが」

 

区切った楯無は持っていた扇子を開くと其処には『生徒会』と書かれていた。

 

「生徒会に入れよう、そう考えたの。無論そちらが学園から依頼されている仕事の内容は理解しているわ。だから名ばかりの入部で構わないし。どう?」

 

「なるほど、まぁそれでそちらの仕事が減るなら構いませんよ。その代わり名ばかりの入部は気が引けるので、妹と共に仕事はやらせてもらいます」

 

「そぉう? だったら歓迎するわ♪」

 

笑みを浮かべながら扇子に『歓迎』と見せる楯無。

 

「それじゃあ明日から「あ、あともう一ついいですか?」何かしら?」

 

明日からお願いと言おうとした楯無を遮る様にイチカは少し真剣そうな顔付を浮かべていた。

 

「貴女の妹さん、簪さんの事です」

 

そう言うと楯無の顔から笑顔が消え、若干鋭い目つきに変わった。

 

 

 

 

―――IS学園・廊下

イチカが生徒会で会合を行っている頃、マドカは一人買い物を済ませ帰ろうとした。だが突然千冬が現れ着いて来いと言われ、人気のない廊下へと来ていたのだ。

 

「で、一体何の用なんです?」

 

マドカは()()教師だからと心の中で納得させながら用件を聞く。

 

「お前は一体、何者なんだ?」

 

鋭い視線をマドカに向けながら千冬が問う。

 

「何者? 私は私だが?」

 

「……質問の言い方を変えよう。お前は一体何なんだ?」

 

そう千冬が問うた。学園に二人の書類が届いたとき彼女の顔を何処かで見たことがある。何処で見た? 何時見た?と考えを巡らせていた。そして夏休み、寮の部屋で偶々見つけた昔の写真、其処で思い出した。アイツは昔の自分だと。だが何故私そっくりなんだ? そう考えこんでいた時、目の前にマドカが居た為に問いただすべく呼んだのだ。

 

「なんだ? まるで私が人ならざる者のような言い方だな?」

 

マドカは笑いながらそう返す。千冬は何も言わずただ黙ったまま視線を送り続けていた。するとひとしきり笑ったマドカは不敵な笑みを浮かべた。

 

「あぁ、お前の言う通り私は純粋な人じゃない」

 

「っ! ……やはりか」

 

マドカの口から出た言葉に千冬は一瞬驚く顔を浮かべ、睨むような眼を向ける。

 

「お前の事だ。私はお前のクローンか何かだと思っているだろ? そうさ、私はお前だよ織斑千冬」

 

マドカは向けられる視線を流しながら、語り続けた。

 

「昔、お前みたいに強い女性を創ろうとお前のDNAを何処からか入手し其処から私が生まれた。その後お前の様に強くなるべく色んな戦闘技術を叩き込まれた。CQC(クローズ・クウォーター・コンバット)、システマ、空手の他にも武器を使った訓練もな。だが、アイツらは未だに織斑千冬ではない、なぜ出来ないと結果ばかりを見てきた。そんな小言を毎日聞いて、私は思った。こいつらが言う織斑千冬を殺せば、私がオリジナルじゃないのかってな」

 

そう言うとマドカは拡張領域からナイフを取り出す。

 

「何時か何時かと、チャンスを伺っていた。兄さんの傍に居れば何時かチャンスが来るって。そして今、ようやくその時が来た」

 

マドカは狂気じみた笑顔で千冬へと向けると、千冬は臨戦態勢に入る。お互い暫し無言のまま睨みあっていると

 

「ぷっ! プっハハハハハ!!」

 

突然マドカが笑い出し、そしてナイフを拡張領域に仕舞った。

 

「ま、まさか即興で作った設定を信じるとか、お前騙されやすい性格じゃないのか? アッハッハッハ!」

 

マドカが笑いながら先ほどの話を嘘だと告げると、千冬は構えた状態のまま茫然としていた。

 

「私は正真正銘母親のおなかの中から生まれた。今どきクローンで人を創ろうなんざ、SF小説家でももっとましな設定を考えるぞ」

 

「だ、だったら何故お前の顔が昔の私にそっくりなんだ!」

 

「この世には同じような顔を持つ奴がごまんといる。お前の幼少の頃が私そっくりだとしても、何ら不思議でもない。それにお前と私は別人だと言う証拠はこの学園に入ってきた時から証明されているだろうが」

 

そう言われ証明されているだと?と、千冬は怪訝そうな顔を浮かべる。

 

「憶えてないのか? 入学する生徒全員は、血液検査などを行い持病や本人の気付いていない病気などが無いか検査が行われているはずだ。もし私がお前のクローンなら、検査時にお前の情報が該当するはずだ」

 

マドカが言っているのは、入学時にもしマドカが自分のクローンなら既に入学時に発覚している。だが、それは無かった。つまりマドカは自分のクローンなんかではないという事であった。

 

「それに、兄さんもこのDNA検査でお前とは姉弟では無いと言う証拠になっているはずだ」

 

そう言われ千冬は驚愕な表情を浮かべる。

 

「だってそうだろう。私がお前のクローンでないなら、私と兄さんは血の繋がりはない。だが、私と兄さんにはDNAで兄妹だと示されている。なら、お前と兄さんには血の繋がりはない結果だろ」

 

マドカの言葉に千冬は言葉が出なかった。そんな訳ない。アイツは自分の弟だとそう自分に言い聞かせる。だが、マドカの言葉がずっと頭に残る。

 

「な、何かしたんだろ? た、束辺りに何かを!」

 

「一体何をしたと言うんだ? データでも改竄したとでも言うのか? それこそ無理があるだろ。 採取されたDNAのデータを改竄するなどどうやっても出来んだろう」

 

そう言われ千冬はぐぅの音も出なかった。マドカの言う通り、DNAを変換することなど不可能に近い。恐らく束でもそれは出来ない。そう考えに至った。だが、それでも

 

「あ、あいつは私の、私の弟だ!」

 

「そうやって死んだ弟を、赤の他人に重ねるの止めたらだうだ? そんな事やったってもう弟は帰ってこないぞ」

 

マドカはそう言い帰ろうと振り返ると、千冬は拳を震わせ一歩足を踏み出すと

 

「あ、いたいた。此処に居たのね、マドカ」

 

「あ、エリシア先生」

 

千冬の背後から現れたエリシアがマドカに声を掛けながら現れた。突然現れたエリシアに千冬は奥歯を噛み締めその場から去って行った。千冬が去って行くのを2人は姿が見えなくなるまで見送った後同じく千冬とは反対の方へと向かって歩き出した。暫く歩いているとエリシアが口を開いた。

 

「何でまた彼女にあんな事言ったのよ?」

 

「ん? あぁ、聞いていたのか」

 

エリシアの問いにマドカはフッと笑みを浮かべる。

 

「なぁに、昔思っていた事を私が考えて設定した風に言ったらどんな表情を浮かべるかなと思ってな。クックックッ、今思い出しても笑えるな、アイツに嘘だと言った時の表情」

 

悪戯が成功した様な愉快そうな笑みを浮かべるマドカに、呆れた様な表情を浮かべるエリシア。

 

「はぁ~、急にあなたが自分の出生を話し出した時は少し胆が冷えたわよ。それと、DNAの事も」

 

マドカの危なすぎる行動に、エリシアは呆れる様なため息を出す。

 

 

それは入学数日前、束はある項目に口をとがらせていた。束がにらめっこをしていた項目、それは入学前の健康診断に書かれている血液検査だった。

 

「う~~~~~~~~~~ん、この血液検査どうやってパスしよっかなぁ~~~。ナノマシンとかは使えないし、織斑の時のいっくんのDNAデータは出ない様に細工したけど、マーちゃんの奴だけはアイツのが出るかもしれないから無理だろうし、本当にどうしよっかなぁ~」

 

そう言いながら座っている椅子をクルクルと回転させながら考える束。同じく部屋にいたクロエは、束の状態に暫く呼ばれることは無いだろうと思い本を読んでいた。暫し椅子が回転する音が鳴り響く部屋。すると束は回転しているにも拘らずクロエが読んでいる本のタイトルに目が行く。

 

「[世界の事件簿part4~医師編~]って、なんか凄い本読んでるねクーちゃん」

 

「えっ? いえ、偶々電子書籍されていない本を読んでみるのも悪くないと思い、探していたらこの本のシリーズを見つけたんです。サスペンス物とかですとありきたりでしたが、この本のシリーズは実際にあった事件を読者にもわかりやすく書かれているものでしたので、面白みが有ったものでしたから」

 

「へぇ~、まぁ人が考えた物語より実際にあった事件の方が、実際に何故そうした事件を起こしたのか。犯人の心理とか読み解けるからねぇ。その本を読んで気になったりとかした事件とかあった?」

 

「そうですねぇ、この○○外科医保険金殺人事件とかは少し興味が惹かれました」

 

そう言いクロエは本のページを束へと見せた。

 

「ほぉ~。どういう事件だったの?」

 

束はその事件に少しだけ興味を抱き内容を聴けるよう椅子をクロエの近くに寄せる。

 

とある国の街にある外科医の夫とその妻が暮らしておりました。そんなある日、妻が自宅で遺体となって発見され、警察は部屋にあったタンスなどが荒らされている事から物取りが家に侵入、そして偶々犯人と遭遇してしまい殺されたと考えた。警察が現場を検証した所、犯人の血痕を見つけ後は犯人を絞り込むだけと考えていました。

すると聞き込みで夫と妻がしばしば口論しているのをよく聞いたと近隣住民からもたらされた。警察は早速夫に話を聞こうと病院に行き、当日の行動などを聞こうとしたが手術が入っている為暫く待って欲しいと言われ警察は手術が終わるまで待つことに。

そして手術が終わり、夫に話を聞く警察。事件当日、夫は病院に居てお昼時に一時的に外の店には行ったが家には帰っていないと証言した。警察は夫の行動を証明してくれる人物が居ない事から血液の提出を申し出ると、夫は抵抗することなくナースを呼び、ナースの補助を受けながら血液を採取し警察に提出した。血液を持ち帰った警察は早速検査するが、DNAは不一致。捜査は暗礁に乗り上げてしまった。

事件から数ヵ月が経ったある日、一人の男が警察に逮捕された。男は酒に酔った勢いで見知らぬ人を殴り殺してしまったのだ。警察は過去にも何かしていないかと調べると、男のDNAが数ヵ月前起きた外科医の妻殺害の容疑者に一時浮上した夫と一致したのだ。

警察は何故全くの別人から夫のDNAが出たのか不思議で仕方がなかったが、男の過去を調べてその訳が判明した。

男は数ヵ月前、殺人事件が起こる数日前に夫が勤めている病院に健康診断の為訪れていたのだ。しかも男の血液型はA型。夫も同じA型だった為、警察は何らかのトリックを使い男のDNAの入った血液を警察に提出したとして、夫に再度DNAを採取すべく今度は令状と警察が用意した科学捜査班を連れ夫の元に行き、血液以外にも髪の毛、唾液を採取。結果、現場にあった血痕は採取した髪の毛などのDNAと一致した。こうして警察は夫を逮捕した。

警察は夫にどうやって血液をすり替えたか問いただすと、夫は

 

「事件後、アンタ達が此処に来ることは予想できた。だから細いゴムチューブに俺と同じ血液型の血を詰めて腕の中に埋め込んでいたのさ。だが、医療関係者とかが血液を採取しようとした時に腕の違和感に気付かれる恐れがあったから愛人に採取してくれるよう頼んだんだよ」

 

夫はそう自白した。その後、犯人を匿った罪として愛人のナースも逮捕された。

 

 

「―――これがこの事件の結末です」

 

「ほぉ~~、医療関係者は人体とか色々詳しいからね。よくやるよと言うか何と言うか」

 

そう言いながら束は良い事を思いついたと声をあげた。

 

「そうだ。この事件のトリックを使えばいいじゃん。スーちゃんに早速頼まないと!」

 

そう言って束は部屋から飛び出していった。

 

 

 

「あの時は博士が開発した道具と人工血液で貴方達二人が本当の兄妹で、織斑千冬とは別人と言う事で通せたけど、何処でばれるか分からないからもう言うんじゃないわよ」

 

「分かっている、もう言わん」

 

エリシアの注意に小言が多い奴だなぁと思いながら頷くマドカ。




次回予告
突如簪の事で話があると告げるイチカ。険悪な雰囲気を出しながらも、二人が仲が悪くなった訳を聞く。そしてイチカは2人で本気で話し合いをすれば良いと提案した。
次回
擦れ違った4年~あの子を守るためなら、私は手を汚す事に厭わないわ~


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32話

突然イチカが言った簪の事で一言で生徒会室内は一気に気温が低くなったと感じる雰囲気となっていた。

 

「……何故突然簪ちゃんの事を聞くのかしら?」

 

「御二人の仲がなぜ悪いのか、ちょっと気になったもんですからね」

 

そう言いイチカは手を組み目線を楯無に向ける。

 

「貴方には関係ない事だと思うんだけど」

 

「えぇ、確かに関係ありません。しかし、昔の塞ぎ込んでいた頃から変わろうとしている彼女に友達として手を貸したい。そう思ったからです」

 

楯無からの鋭い視線を受けながらも、イチカは訳を言う。しばしの沈黙が流れた後楯無がそっと口を開く。

 

「そう。……良いわ、話してあげる。私と簪ちゃんに何があったのか」

 

そう言い楯無は思い出すように顔を伏せながら語り出した。

 

「昔は私と簪ちゃんは仲が良かったわ。けど、時が経つにつれて私達の仲は拗れてきたの。その原因が周りの大人達。勝手に評価して比べたりしていたのよ。無論私は特に意識したことが無い。けど、内気だった簪ちゃんにとってそれが苦痛だったのよ。なんとか簪ちゃんにそんな事を言われないようにする為に私は必死になった。誰も簪ちゃんの陰口なんて叩かせない。叩く奴は例え誰であろうと潰す。手を汚す事だって厭わない。そんな思いで修行も勉学もやってきて遂に私は当主になったの。けど、私はその時簪ちゃんの思いを踏みにじることを口にしてしまったの」

 

「……何て言ったんです?」

 

楯無は俯き口を開こうとしなかった。すると傍に居た虚が口を開く。

 

「その時お嬢様は『簪ちゃんは無能のままで居なさい。私が絶対に守ってあげるから』そう言ってしまわれたのです」

 

「……なるほど。それは確かに彼女にとって屈辱的な発言でしょうね」

 

「はい。元々簪お嬢様は少し負けず嫌いな性格でしたので、お嬢様の発言で自身がやってきたことなどはすべて無意味だと捉えられてしまったのです」

 

虚の説明にイチカは何とも言えない表情を浮かべ、楯無は机の上で結んでいた手を強く握りしめていた。

 

「……悪い事はしたって思っている。けど、彼女に何て言って謝ればいいのか分からず、ずっとズルズル引き摺って今の状態よ」

 

自虐的な笑みで楯無は零すが、目には悲しみの感情が浮かんでいた。

 

「楯無さん、一度簪さんとお話しされてはどうですか?」

 

「……さっき言ったわよね? どうやって謝ればいいのか分からないって」

 

イチカの提案に疑問の声をあげながらジト目で見つめる楯無。

 

「……楯無さん、少し難しく考えていませんか?」

 

「え?」

 

「何て言って謝れば赦してもらえるだろう。昔みたいに仲良くなれるだろう。そんなこと考えても相手はこう言えば赦してもらえるだろうと考えます。恐らく簪さんだったらそう考えると思いますよ」

 

「確かに、簪お嬢様だったらお考えになるかもしれませんね」

 

「自分が悪い事をした、そしてまた仲良くなりたい。謝りたいと言う気持ちがあるなら簪さんに直接会って謝るのが一番良いと思います」

 

イチカの提案に楯無は俯き口を閉ざしてしまった。

 

「……それじゃあ自分はそろそろ行きます」

 

そう言いイチカが立ち上がり扉に手を掛けた所

 

「……ありがとう」

 

そう呟く声が聞こえ後ろを振り向く。

 

「…すこし考え過ぎだったわ。明日素直に、そして心の底から謝罪して来るわ」

 

ぎこちない笑みではあるが、それでも何か憑き物が取れた様な顔付きであった。

 

「上手くいくことを願ってます」

 

そう言ってイチカは生徒会室から出て行った。




次回予告
突如姉楯無に呼ばれた簪。生徒会室に着いた彼女は恨んでいた姉と対峙することに。
一方楯無は4年の擦れ違いを解消すべく意を決して簪と対峙する。

次回
絡まった紐を解きほぐす~本当に、ごめんなさい!~


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33話

「―――では、以上で始業式を終えます」

 

司会がそう告げるとぞろぞろと生徒達は体育館から退出していく。

ぞろぞろと退出していく中イチカとマドカ、そして簪は共に談笑しながら教室へと戻っていた。

 

「そしたらね「簪お嬢様」虚さん?」

 

傍にやって来た本音の姉、虚に簪は首を傾げながら体を向ける。

 

「何か用ですか?」

 

「はい。 この後生徒会室にお越しいただけませんでしょうか?」

 

そう言われ簪の体が一瞬強張った。

生徒会室。其処には自身の姉、楯無が居る。昔の時みたいに何か言われるのでは、と言う思いが頭をよぎった。

 

「簪さん、行ってきな」

 

「えっ?」

 

背後にいたイチカがそう告げた。

 

「もう、逃げるのは止めにしたんだろ?」

 

そう言われ簪は、しばし俯くがコクンと頷く。

 

「そう、だね。何時までも逃げてちゃダメだよね。…ちょっと行ってくる」

 

そう言って簪は虚と共に生徒会室へと向かった。

 

「上手くいくといいな」

 

「簪自身が乗り越えようとしているんだ、行けるよ。それに兄さんと私がその背を押したんだ。必ずうまくいくさ」

 

「そうだな」

 

イチカとマドカは簪と楯無、二人の仲が元に戻ることを願いつつ教室へと足を向けた。

 

 

 

虚の案内の元生徒会室へと到着した簪。

 

「それでは私はこれで」

 

「うん、ありがとう」

 

そう言い虚は2人の邪魔にならぬようにと生徒会室から離れて行く。扉の前に立っている簪はしばし深呼吸をした後、意を決して扉をノックした。

 

「どうぞ」

 

そう中から聞こえ簪は中へと入ると、ソファに座りながらぎこちない笑みを浮かべた楯無が居た。

 

「ごめんなさい、突然呼び出して」

 

「別に。それで、用は?」

 

扉を後ろ手で閉め、簪は用を聞く。

 

「その、長くなると思うから座って」

 

そう言われ簪は心の中で(逃げちゃダメ、逃げちゃダメ)と心の中で自身を奮い立たせながら楯無の向かいのソファに座る。

 

「それじゃあ、その、用件なんだけどね」

 

そう言いさっきまで浮かべていたぎこちない笑みは消え、口をつぐんだりとしばしの沈黙が流れた後

 

「……ごめんなさい」

 

突然頭を下げた楯無。頭を机にぶつけるのではと言うくらい下げる楯無に、簪は若干驚いた表情を浮かべていた。

 

「簪ちゃんを守る為とは言え、心にも無い事を言って御免なさい! ISが凍結されたって聞いた時、助けてあげられなくて御免なさい! 今まで、苦しい思いをいっぱいさせて、本当御免なさい」

 

そう言いひとしきり言った後、再び沈黙が流れた。

 

「…ずるいよ」

 

「……」

 

「私が先に謝ろうとしたのに、先に謝るなんて。本当にずるいよ、()()()()()

 

「えっ? 今、おねえちゃんって…」

 

簪の口からでた言葉に楯無は思わず顔を上げると、口を尖らせた簪が目に映った。

 

「確かに、お姉ちゃんが私の為と思ってやったのは私も分かってた。けど、それが嫌になってた。お姉ちゃんも知ってるよね、私が負けず嫌いなのは」

 

「そ、そうね」

 

「自分の身は自分で守れるんだって言いたかった。お姉ちゃんには出来ない事を私は出来るんだって言いたかった」

 

次々と言われることに楯無はただ頭が上がらなかった。

 

「だから、お姉ちゃん。罰として私の我儘を聞いて」

 

「な、何かしら?」

 

「まず、PG(パーフェクトグレード)シリーズのガンプラ全部。それと歴代仮面ライダー全シリーズ、映画版を含めたDVDとBD。それと「ちょ、ちょっと待って!」なに?」

 

「仮面ライダーシリーズなら何とかなるかもしれないけど、さ、さすがにPGシリーズ全部は無理よぉ!?」

 

楯無の言い分は確かだ。PGシリーズ、その名の通り正にパーフェクトでグレートなデザイン性の為、値段がかなり張る。

 

※因みに現在出ているシリーズ全部の合計金額は50万近く掛かる。

 

「お、お店とかに出ている物は何とかするけど、在庫限りのものはどうにも出来ないわよ!」

 

「お姉ちゃん、何とかして」

 

「そ、それは流石に更識の権限でも無理よぉ」

 

もはや涙目な楯無にジト目な簪。すると簪はフッと笑みを浮かべクスクスと笑い出した。

 

「冗談だよ、お姉ちゃん」

 

「ふぇ?」

 

「お姉ちゃんでも無理だろうって分かってた。けど試しに言ってみただけ」

 

そう言われ楯無ははぁ~、と机に突っ伏した。

 

「……び、びっくりしたぁ」

 

楯無の姿を見ながら簪はクスクスと笑い続けた。

 

「お姉ちゃんをいじるのも、案外面白い」

 

「やられる私の身にもなってちょうだい」

 

楯無はそう言いながらもその口元は若干笑顔だった。

 

「お姉ちゃん、もう一人で背負い込もうとしないでね」

 

「……えぇ、何かあったら簪ちゃんや虚ちゃんにも相談するわ」

 

そう言い上半身を上げた。

 

 

「また一人で背負い込んだら、今度こそPGシリーズを」

 

「やりません! 約束しますからぁ!」

 

そんな叫びが生徒会室からこぼれるも、2人は笑顔だった。




次回予告
2学期の行事学園祭が近付いている中、エンシェントセキュリティー社にある情報が舞い込んだ。それはオグマ社が新型の戦闘機を開発したと言うモノだった。
それも既存の戦闘機とは違い、変形が可能と言うモノだった。
次回
オグマ社の新兵器~その名もVF-0A フェニックスです~


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34話

エンシェントセキュリティー社。イチカやマドカ達が所属している、PMC(プライベートミリタリーカンパニー)だ。

その日、エンシェントセキュリティー社の指令所にある情報が舞い込んだ。

 

「なんですって? オグマ社が新型の戦闘機を開発したですって?」

 

『はい、確かな情報です』

 

指令所に居たスコールはフランスのデュノア社に潜入していた工作員からの報告に眉をひそめていた。

 

「それで、その新型の戦闘機に関する情報とかは入手したの?」

 

『残念ながら、入手できたのは機体名と機体の基礎情報の一部のみです。申し訳ありません』

 

「いえ、十分やってくれたわ。急ぎデータを此方に送って。此方で出来る限り解析を行うわ」

 

『了解しました。……それとデータを送り次第、此処から離脱してもよろしいでしょうか?』

 

「っ! 感づかれた恐れがあるの?」

 

『まだ確定している訳じゃないのですが、内部にスパイが居るっていう噂が立ち始めていて、誰もが疑心暗鬼に陥り始めているんです。これ以上侵入を続けた場合発覚の恐れがあるので…』

 

そう言われスコールはしばし考えた後顔を上げた。

 

「了解したわ、早急に荷物を纏めて離脱の準備を。此方は貴女の離脱がスムーズにいくよう手配しておく」

 

『感謝します。では、これで』

 

そう言い通信は切られ、スコールは送られてきたデータを確認した。

 

「確かに形状はF/A-18Eに似ているけど、どこか違うわね」

 

そう言いながら工作員が言っていた一部だけのデータに目を移す。

 

「データの破損状態が酷いわね。よっぽど急いでいたのか、それとも盗難対策用の処理がされていた為か?」

 

データは所々が文字化け等になっており読め取れるのは化けていない単語と、化けているが大体予想がつく単語のみだった。

するとスコールは読み取れるデータの中にある単語を見つけた。文字化けはしていなかったが、その単語には眉間にしわを寄せる様な物だった。

 

「……彼らに聞けば何かわかるかしら?」

 

そう呟き立ち上がり指令所からある場所へと足を向けた。

スコールが足を向けたのは地下格納庫だった。奥へと進んでいくスコールに気付いた整備員たちは敬礼をする。スコールは敬礼を返しながら進んでいくと、格納庫の一角にある部屋の中で何やら話し合いをしているアラド達を見つけ扉をノックする。

 

「ちょっといいかしら?」

 

「あぁ、別に構わないぜ」

 

中へと入るスコール。部屋の中にはデルタ小隊の面々が居り、机の上に置かれた幾枚の資料に目が行く。

 

「この資料は?」

 

「この世界に現れた機体を詳しくしてもらった物だ。やはり俺達の知っている機体とほぼ同じだったよ」

 

「なんでこの世界に現れたのか、もう一度考えようって事で博士に頼んだんだ」

 

ハヤテの説明を聞き、そう。と返すスコール。

 

「それで何か用があって来られたのでは?」

 

「そうだったわ。実は見て欲しいモノがあるの」

 

そう言いスコールは部屋に備えられているコンソールに行き、指令所で見ていたデータを大画面のモニターに映す。

 

「これはウチの工作員が入手した情報よ。けど何かしらの盗難対策をしていたのか、データに文字化け等になるよう細工されていたみたいなの。その為読み取れるのは機体名と一部の機能情報のみ。機体名はVF-0フェニックス」

 

「確かに見た事が無い機体だな」

 

「だな。俺達のジークフリートとは形状が違うな」

 

それぞれディスプレイに出された機体を見て自分達の機体と違うところをあげていく。

デルタ小隊が乗っているジークフリートは前進翼型、つまり翼が前に向いているタイプの機体である。前進翼は機動性と運動性に長けている為、ドッグファイトなどではかなりの利点となっている。

 

「イチカのカイロスとも形状が違う。それになんだか、訓練機のVF-1EXに似ていないか?」

 

ミラージュの何気ない一言が一同を、確かにと何処か納得する様子を見せた。

 

「確かに、訓練機に若干似ているな」

 

「……なにか、繋がりがあるのか?」

 

そう零しながら一同首を傾げる。すると

 

「やっほ~、皆何してるのぉ?」

 

「難しい顔している」

 

「どうかしたんですか?」

 

カナメ、マキナ、レイナが部屋へと入って来た。マキナの顔には若干汚れが付いており機体整備をした後だと読み取れてた。

 

「ん? あぁ、この機体の事でな」

 

アラドはそう言いディスプレイに映っている戦闘機を指す。3人がそのディスプレイを見た瞬間、マキナはムッ!と顔を難しくする。

 

「どうしたの、マキナ?」

 

「この機体、何処かで見たことがある気がする。何処だっけぇ」

 

「訓練機じゃないですか? 私達はそう思ったんですが」

 

ミラージュにそう言われレイナとカナメはアラド達同様に納得した表情を浮かべるが、マキナだけがまだ納得いった顔を浮かべていなかった。

 

「うぅうん。もっと前に見たことがある。何処だっけぇ」

 

そう言いながら思い出そうとするマキナ。そしてハッとした顔になり頭を上げる。

 

「思い出した! お爺ちゃんから貰ったノートだぁ!」

 

「ノート? 確か、貴女が大切にしているって言ってたあのノート?」

 

「うん、ちょっと待ってて!」

 

そう言ってマキナは部屋を飛び出して行った。暫くしてマキナが戻ってくるとその手にはボロボロになってつぎはぎだらけのノートが握られていた。

 

「えっと、確か昔お爺ちゃんに見せてもらった時に……。あった!」

 

そう言いマキナはノートのあるページを見せた。

 

「……こいつは!」

 

「同じ機体名と詳細」

 

「マキナ、これって」

 

「うん、多分私のひいひいお爺ちゃんか、もっと前の人が整備士として整備していたと思う。だからこれが載ってたんだと思う」

 

ノートにはフェニックスに関する色々なことが書かれていた。

 

「こいつも可変戦闘機なのか」

 

「うん、けど今ある機体とは違ってこの機体は小型熱核反応タービンエンジンじゃなくてジェットエンジン、つまり燃料が必要だったの」

 

「なるほど、今じゃあ考えられない奴だな。にしてもやはり大昔のとはいえ、俺達の世界で造られていた機体がこの世界で現れるという事は…」

 

「俺達の世界の人物がこの世界に来ている。それも過去の機体について知っている奴が」

 

ハヤテの推察に全員険しい顔を浮かべる。

 

「……オグマ社は確実に黒に近付いてきたみたいね。いざと言うときは、あなた達にも出てもらうことになるんだけど、いいかしら?」

 

「無論構わないぜ。いや、むしろこっちから頼む予定だったからな」

 

「私達の世界の技術がどうしてこの世界に現れたのか、それを突き止めないといけないですし」

 

スコールの頼みに、アラド達は躊躇うことなく了承しその日の会議は終わった。




次回予告
IS学園で開かれる文化祭の為に、出し物を決め準備をする4組。
楽しい雰囲気が漂う学園。だが黒い思惑がゆっくりと近付いていた。


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35話

IS学園の行事の一つ、学園祭の為4組では今どんな出し物をしようかとクラス内で会議が開かれていた。

教壇にはクラス代表の簪が立ち、クラスメイト達にアイデアを聞いていた。

 

「えっと、それじゃあ皆何か案があれば言って欲しい。けど、イチカ君を主体にしたのは駄目だから」

 

釘をさすようにイチカを主体にした出し物は駄目と言うと、数人程の生徒が出ばなをくじかれたと肩を落とす。

 

「はい、喫茶店とかが良いと思う!」

 

「え~。 喫茶店って他のクラスでもやると思うし別のが良いよ。例えば、ゲームセンターみたいな自作のゲームを置くとかは?」

 

「自作って言ってもプログラムやら設計するのに結構時間かかるから無理でしょ。簡単な科学実験とかは?」

 

「それじゃあ普通の高校とかでやりそうで面白みが欠けると思う」

 

色々な案が出されるが、どれも面白みが欠けるといい案が出ず全員難しい顔を浮かべながら思案する。

 

「……イチカ君、何か案ある?」

 

簪はふとイチカの方に顔を向けそう尋ねると、イチカも難しい顔を浮かべながら考え込む。

 

「他のクラスがやらなくて、面白みがあるものかぁ。う~ん、ISの解説とか?」

 

何となく呟いたその一言に周りの生徒達は首を傾げる。何故ISの解説と言った表情であった。

 

「イチカ君、なんで出し物にISの解説って言ったの?」

 

「いや、だって此処IS学園だろ? 俺達は普段からISに触れているからいろいろ知っているが、ISに触れた事が無い人とかは殆んど知らないだろ? そういった事をわかりやすく解説したりしたらお客さん面白がるんじゃないかなと思ったんだが」

 

イチカの説明に、クラスメイト達は確かに。と納得の表情を浮かべそれいいかもと声が上がっていく。

 

「えっと、みんなはイチカ君が出した案で良い?」

 

「「「「さんせ~~い!!」」」」

 

「それでいいのか?」

 

簪の確認にクラス全員が賛成の声を上げる中、イチカは苦笑いを浮かべる。しかし内心嬉しくも思っていた。こういった出し物でISの本来の使い方を説明すれば、何時か束の夢が近づく。そう思ったからだ。

 

「それじゃあ、具体的な内容決めに移るね」

 

簪の進行の元話し合いは続けられた。初めての学園祭、目指すは学年一番の出し物にと心を一つにしながら。

 

 

 

~オグマ社・社長室~

アメリカに本社を置くオグマ社の社長室。社長室と言うだけに豪華な調度品や額などが置かれていた。

 

そんな部屋に豪華な椅子に座りながら電話に出ていた初老の男性が居た。白髪で顔は厳つい男性は電話の相手に丁寧な口調で会話していた。

 

「では後日我が社の新鋭機をお送りします。データ収集の件お忘れなく。はい、では失礼します」

 

そう言って電話を切る男性。男の名はジェフ・ドース、オグマ社をたった一人で有名企業まで押し上げた男で野心家であった。

 

「ふっ、新鋭機が貰えるからと浮かれるとは。少しは疑うといった事をしておけばいいものを」

 

ジェフはそう黒い笑みを浮かべながら、つぶやいているとまた電話が掛ってくる。表示されている番号を見たジェフは顔つきを替え、受話器を耳にする。

 

「はい、私です。はい、計画は万事問題なく進んでおります。お任せください、貴方様の計画、必ず成功させます。はい、失礼します」

 

受話器を置き息を吐き、そして椅子に深々と座る。

 

「あと少しだ。あと少しでこの愚かな世界は真の平和が訪れる!」

 

そう言い窓の外に広がる街に目を向ける。その目には野心に燃える炎がメラメラと燃えていた。




次回予告
学園祭に向け色々と準備をするイチカ達。するとスコールから通信が入り、エンシェントセキュリティー社が近々横浜に停泊するアメリカの太平洋艦隊の護衛に着くべく近々来ると知らされる。


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36話

投稿されていた話が変な所にあり、感想が書けないというご指摘を頂き先ほど修正させていただきました。

ご迷惑をおかけしました


「追加の模造紙貰って来たよぉ!」

 

「カラーペンってもう無かったっけ?」

 

「確か先生が持ってきた袋に……、あった!」

 

「簪さん、配置図の方出来たんだけどこれでいいかな?」

 

「えっと、ちょっと待って。……うん、これで行こう」

 

簪を筆頭に4組の生徒達は準備を進めており、クラスに立てる掲示板や模造紙にISに関する一般知識など一般の人でも分かり易い様にと絵などを書いていた。

 

「えっと、ISスーツとは『プルプルプル~、プルプルプル~』おっと、電話だ。ごめん、ナギさんちょっとやっといてもらってもいいですか?」

 

「うん、良いよ~」

 

一緒に作業をして貰っていたクラスメイトに一言言い、スマホを持って人気のない階段の踊り場へとやって来てスマホの応答ボタンをタッチする。

 

「はい、イチカです」

 

『スコールよ。ごめんなさいね、授業中に』

 

「いえ、学園祭の準備中だった為大丈夫ですよ」

 

『そう、良かった。実は貴方に伝えておかないといけないことがあったのよ』

 

「伝えておかないといけない事?」

 

首を傾げながらイチカは何だろうと思い続きを聞く。

 

『アメリカの太平洋艦隊がパキスタンに蔓延っていたテロリスト撲滅のために派遣されていた事は知ってるわね?』

 

「えぇ、知ってます」

 

『その作戦に参加する艦隊が補給の為学園祭の日、日本に来航するらしいの。で、アメリカはその艦隊の護衛に私達エンシェントセキュリティー社に依頼してきたの』

 

「……その依頼、信用できるんですか?」

 

イチカはそう言い壁にもたれながら、懐疑的な顔を浮かべる。臨海学校時にアメリカはナターシャの乗ったIS、銀の福音の撃墜を指令してきたのだ。その為また何か裏があるのではと、そう考えていた。

 

『それは問題ないわよ。依頼してきたのは政府じゃなくアメリカ太平洋軍現司令官のアーヴィン・レイビー海軍大将よ。彼とは旧知の仲だから問題無いわ』

 

「旧知、ですか…」

 

『えぇ、彼は私が昔アメリカに居た時からの繋がりだから信用は出来るわ。と、話を戻すわね。護衛に就くのはイージス艦3隻、空母1隻、ミサイル巡洋艦1隻、ミサイル駆逐艦が2隻、補給艦が1隻就く予定よ』

 

「護衛する予定の艦隊数は?」

 

『空母1隻、巡洋艦2隻、駆逐艦3隻、補給艦2隻よ』

 

「少ないですね。もっと多いと思っていたんですが」

 

『既に他の艦隊は向かってるから、日本に寄る艦隊は後詰め部隊といった所よ』

 

なるほど。と納得するが、何かに気付くイチカ。

 

「今思ったんですが、何故その話を俺に?」

 

『護衛に就く空母にはデルタ小隊の人達が乗ってるのよ』

 

「はい? なんでまた皆が?」

 

『貴方の学園で行われる学園祭を見によ』

 

そう言われマジですか。と困惑した表情になるイチカ。スコールはクスクスと笑いながら本当よと言う。

 

『まぁいいじゃない。貴方がどういった学園に通っているのかって改めて知ってもらえるんだから』

 

「……第一印象は最悪だったと思いますけどね」

 

そう言い臨海学校時の事を思い出すイチカ。

 

『あれは仕方が無いでしょ。まぁ最初の印象が変わるよう願っておくわ』

 

そう言いスコールは電話を切る。イチカははぁ。とため息を吐き、教室へと戻って行った。




次回予告
準備開始から数日が経ち、学園祭当日エンシェントセキュリティー社の空母に乗って来たアラド達。その日は楽しい一日だと思われた。
だが、戦火の火蓋は着々と近付いていた。


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37話

学園から十数Km程離れた米海軍基地の港にエンシェントセキュリティー社の空母『ケストレル』が接岸していた。甲板にはSH-60Sナイトホークが離陸できる態勢で待機していた。

そのヘリへと近づく9人。アラド達デルタ小隊とワルキューレのメンバー達だ。

 

「よぉし、それじゃあイチカとマドカが通っているIS学園に行く。向こうでは一人で行動するなよ?」

 

「了解です!」

 

「おう」

 

「分かりました」

 

「私達も同じだからね? 勝手に一人で行動しないで、と言いたいけどウチの中じゃあ誰もいないわね」

 

カナメがそう言うと、うんうん。と頷くマキナとレイナ。そしてそうね。と呟きながら笑みを浮かべる美雲。はい!と元気よく返事するフレイア。

 

「それじゃあ、そろそろ行くぞ」

 

そう言いアラド達はヘリへと乗り込み飛び立った。

 

 

数十分ほどヘリの座席で揺られたり、外の光景を眺めたりとしていたアラド達。

 

「おぉい、デルタの諸君とお嬢様方! IS学園が見えてきたぞ!」

 

パイロットからの報告にそれぞれ窓から眺める。陸から離れた場所に建てられ様々な大小の建物が建っているIS学園。

IS学園を見たハヤテやチャックは「おぉーー!」と学園の大きさに驚きの声を漏らす。

 

「此処がIS学園か、めちゃくちゃデカいな」

 

「だな。大型遊園地かなんかと思っちまったぜ」

 

カナメやフレイアは其処まで大きな驚きの声を上げなかったが、それでも学園の大きさには驚きが隠せなかった。

 

「大きな学園ですね、カナメさん」

 

「えぇ、そうね」

 

4人は楽しそうな表情を浮かべているが、アラド、マキナ、レイナ、美雲は何とも言えない表情を浮かべていた。

 

「「「「……」」」」

 

「ん? どうしたんですか、アラド隊長。それに美雲さん達も」

 

窓の光景を見ていたミラージュは様子がおかしい4人にそう声を掛けると、アラドがあぁ。と口を開く。

 

「いや、どうも臨海学校の時のことがあってかあまり良い気分になれなくてな」

 

アラドがそう言うとマキナとレイナも頷く。美雲は頷きはしなかったが、雰囲気からして同じ思いだとミラージュ達は感じ取った。

 

「……確かに、それを考えれば良い気にはなりませんね」

 

「…だな」

 

そんな暗い雰囲気が漂っている中、ヘリは学園に備えられているヘリポートへと着陸した。アラド達はぞろぞろと降りていくと出迎えたのはイチカとマドカ。そして学園長とエリシアであった。

 

「待ってたぜ、父さん」

 

「いらっしゃい」

 

そう言い笑みを浮かべながら出迎える二人にアラド達は先程暗かった雰囲気は無くなり、笑みを浮かべる。

 

「おう、来てやったんだ。面白い催しとか有るんだよな?」

 

「父さん達が気に入るものが有るかなんて分からないよ。その前に挨拶したら?」

 

「おっと、そうだったな。初めまして、イチカとマドカの父親で、エンシェントセキュリティー社特務飛行小隊『デルタ』の隊長をしているアラド・メルダースと言います。息子達がお世話になっております」

 

「此処の学園長を務めております、轡木十蔵と言います。此方こそ、そちらのご子息達に多大なご迷惑を掛けている事、本当に申し訳ございません」

 

学園長はそう言い深々と頭を下げた。アラドは慌てて頭を上げる様に言い挨拶と謝罪を打ち切った。

 

「では、本日皆様は特例と言う事で学園祭に参加出来るように手配しておりますので、存分に楽しんでください」

 

「此方が学園内のマップとチケットになります。チケットはクラスの出している劇を見る際に必要な物なので無くさないようお願いします」

 

エリシアから手渡されたマップとチケットをそれぞれ大事にポケットに入れたりする。

 

「ではイチカ君、マドカさん皆様のご案内をお願いします」

 

「「分かりました」」

 

そう言いアラド達と共にヘリポートから学園に向け歩き出した。

 

「……一言言われるかと思いましたが、無くて良かったです」

 

「…学園長、心中お察しします」

 

残っていた轡木とエリシアはそう言いながら重い息を吐く。轡木はアラド達から何か言われる覚悟が若干あった。預かっている生徒が撃墜され行方不明となった。そんな報告誰が聞いても学園の対応に疑問と怒りが浮かぶであろう。結果無事であっても対応問題で何か言われる。

だからこそ、本来エリシアだけで十分だったのにも関わらずヘリポートへとやってきてアラド達を出迎えたのだ。

その後、轡木は学園長室へと戻って行きエリシアは見回りへと行った。

 

 

 

~北海道・航空自衛隊基地~

基地のとある部屋に集められた20人のパイロット達。彼らは何故集められたのか、おおよそ見当がついているのか談笑していた。

 

「本当に楽しみだな、新しい戦闘機」

 

「あぁ。今までのとは違うんだろ? しかも噂じゃあISとも戦えるかもしれないって言うらしいじゃないか」

 

「それだったら、あいつ等の鼻っ柱へし折ってやれるな。出撃もしたことも無いくせに威張っていてイラついていたからよ」

 

そう談笑していると、部屋に上官らしき人物が入室しそれぞれ椅子に座り背を正す。先ほどまで談笑していた雰囲気を感じさせない程に。

 

「楽にしてくれ。さて、諸君は各基地の中で一番と言っていい程の腕のいいパイロットだ。そして今回この基地に集まって貰ったのは、最新の戦闘機を君達に乗ってもらいそのデータ採取を行って貰う事だ。データ採取は実際に武装を載せ行う」

 

「質問よろしいでしょうか?」

 

「なんだ?」

 

「実弾を載せてのデータ採取を行うのは何故なんでしょうか?」

 

「貴様は実弾が載っていない戦闘機に乗ってこの国を守る気か?」

 

「い、いえ」

 

「実弾を載せデータ採取を行うのは実際に今後のシステム設定の為に必要な事だ。その為に実弾を載せその運動を調べるのに必要だからだ。他に質問は?」

 

上官がそう聞くが誰も手を挙げなかった。

 

「よろしい。では3時間後、データ採取を行う。それと提供会社から簡単に食事を用意しているとのことだから各自とっておけ」

 

そう言い上官が出て行く。部屋に残っていたパイロット達は椅子から立ち上がりその食事が用意されている部屋へと入って行く。

 

「お、旨そうだな」

 

「だな。早いとこ食べようぜ」

 

そう言いそれぞれ食事に手を付けた。

彼等の前に用意されていた料理は

 

 

 

 

アップルパイとリンゴ風味のミネラルウォーターだった。




次回予告
学園祭に訪れたアラド達を案内するイチカとマドカ。各クラスの出し物に満足している中、突如警報が鳴り響く。

次回
崩れる平和


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38話

アラド達を学園内へと連れ自身の教室へと向かうイチカ達。

 

「此処って、結構デカいんだなイチカ」

 

「そりゃあISを学ぶための学園だから、世界中から通おうと大勢の人が集まるからな」

 

「大勢ねぇ。集まるのが全員女子なんだろ? 男としてその辺どうなんだ、イチカ?」

 

チャックの茶化すような質問に、イチカは困った表情を浮かべた。

 

「嬉しくねぇよ。男一人でクラスの中いてみろ。居た堪れない気持ちになるわ」

 

「……た、確かにきついな、それ」

 

イチカの説明にハヤテは苦笑いを浮かべ、イチカに同情の視線を向けた。

 

「それに、威張るような連中もいる場所なんだぞ? 良い気になれると思うか?」

 

その言葉にはアラド達も良い表情を浮かべ無かった。ISは女性しか乗れない。だから男性は劣等種だと勝手に決めつける女性たち。

自分達の世界では男性が圧倒的に多いPMCや統合軍でも女性は居た。数は少ないが、戦場に立つ女性もいた。

戦場では役に立たない。そんな考えを持つ男性はいるが、戦いっぷりを見ればすぐに背中を任せられる頼れる仲間として見られていた。とある船団に大型ヴァルキリー、ケーニッヒモンスターをたった一人で操る女性が居るという話も存在しているからだ。

 

「さて、あんまり通っている学校の悪いところを愚痴っても仕方ねぇし、早いとこ俺のクラスまで案内するわ」

 

そう言い話を切り上げイチカはアラド達を4組へと案内した。

暫く賑わう学園内を歩き4組前へと到着した。

 

「ほい、此処が俺とマドカのクラスだ」

 

「なんか賑わってるな」

 

「ISを簡単に説明するって言う出し物だけど、確かに賑わってるね」

 

出し物が出し物で其処まで賑わうものではないと思っていたイチカとマドカは首を傾げながらアラド達と共に中に入る。

中へと入った瞬間、彼らの目に飛び込んできたのは多くの来園者だった。彼らは立て掛けられているISの簡単な資料や絵などを見たり、近くに居た生徒にISの事を教えてもらっていたりしていた。ISを分かり易く解説した絵本(束監修)を読み聞かせるコーナーの所は小さな子供達でいっぱいだった。

 

「よ、予想していた以上に賑やかだな」

 

「あ、あぁ。まさか此処まで賑やかになるなんて思わなかったぞ、兄さん」

 

そう呟き驚き固まっていると、クラスメイトの一人がイチカ達に気付き声を掛けてきた。

 

「あ、メルダース君達戻って来たって、もしかして臨海学校の時来られていた方々ですか?」

 

「あぁ。今日はうちの息子たちの行事を見学しにな」

 

「そうだったんですか! それじゃあごゆっくり観覧して行ってください!」

 

そう言いクラスメイトは他の来園者の応対に向かった。

 

「それじゃあ俺とマドカも手伝いに行くから、それぞれ見て回って行ってくれ」

 

「わかった。それじゃあ行くかお前等」

 

「うぃ~す。フレイア、まず何処に行く?」

 

「え~と。あ、此処に行かん?」

 

「芸術は○○だぁ!展? なんだそりゃ? ……まぁお前が行きたいって言うなら行くが」

 

そう言ってフレイアとハヤテは教室を出て行く。

 

「私達はどうしよっか、レイレイ?」

 

「此処でちょっと見てから他に行こう」

 

「さんせ~い!」

 

そう言いマキナとレイナは発表資料の方へと向かう。

 

「アラドさんは?」

 

「俺も暫く此処を見てから他に行く」

 

「それじゃあ私もご一緒させてもらいます」

 

カナメとアラドも同じく残って見学に向かった。

 

「美雲さんも此処に残られますか?」

 

「そうねぇ。イチカ、休憩って何時ぐらいに取れるの?」

 

「ん? そうだなぁ。昼くらいには取れると思うぞ」

 

「そう。あ、そう言えば2組に鈴が居るんだったかしら?」

 

「あぁ、鈴は2組だ。確か、中華喫茶をやってたと思うぞ」

 

「それじゃあ其処で少し時間を潰してくるわ」

 

「では、私もご一緒します」

 

「俺も喫茶店とはいえ、中華風なら気になるんで行ってくるぜ」

 

そう言い美雲とミラージュ、チャックは教室を出て2組へと向かって行った。

 

「さて、俺らも仕事するぞマドカ」

 

「分かった」

 

イチカとマドカも4組の出し物を手伝うべく来られている人々の対応を始めた。

時刻がお昼へと差し掛かり大勢いた来園者はお昼を食べに出て行き、少なくなり始めた。

 

「大分減って来たな」

 

「そうだな。兄さん、そろそろ美雲さんが居る2組に行かないか?」

 

「そうだな。休憩に行けるか、聞いてくるか」

 

そう言いイチカは簪の元に行き休憩できるか聞くと

 

「うん、イチカ君とマドカちゃんは行ってきて。それに普段離れているお父さん達が来てるんだったら一緒に回った方が良いよ」

 

そう言われマドカと共に2組へと向かった。

2組に入ると教室の中は中華風に装飾されており、香ばしい匂いで満ちていた。

 

「なんか旨そうな匂いが漂ってるな」

 

「うん、さすが中華喫茶だね」

 

「あら、あんた達来てたの?」

 

そう声を掛けられ、声の方に顔を向けるとチャイナ服を着た鈴が両手に蒸籠(セイロ)を載せたお盆を持っていた。

 

「おう。美雲達も此処に来ていると思うが」

 

「えぇ、来てるわよ。あそこの端に座ってるから行って来たら」

 

「そうか。サンキュ」

 

鈴に礼を言い端の席へと向かうと其処には確かに美雲達が居た。

 

「おまたせ、休憩貰ったから何処か行くか?」

 

「そう? それじゃあ何処かでお昼食べに行かない? 食べ歩きってものやってみたいのよ」

 

「食べ歩きをか? 分かった、行くか」

 

そう言い美雲達と共にイチカとマドカはお会計を済ませ、教室を出て外へと出た。そして学園の出店が並んでいるところへ足を向けた。

道中他の教室に行っていたマキナ達とアラド達、そしてハヤテ達と合流し出店へと向かい、焼きそばやフランクフルトを買って行った。

それから幾分か経ちイチカ達はベンチや机が並べられたテラスへと来て買ってきた物を食べながら午後の予定を考えていた。

 

「それで午後からは『ウー!ウー!ウー!』!?」

 

突然学園全体に鳴り響く警報にイチカ達は警戒態勢に入り、すぐさまイチカはスマホを取り出しエリシアに連絡を取った。

 

「エリシア先生、一体何が?」

 

『首都の上空に向かって12機ほどの戦闘機が向かっているという情報が入ったの。しかも接近しているのは例の新型機で、既に偵察に向かった味方の戦闘機数機を撃墜しているわ』

 

「っ!? どういう事です? 何故その機体が日本に?」

 

『分からないわ。兎に角一般生徒及び来賓全員をシェルターに避難させるわ。イチカ君達は指揮所に出頭して』

 

「了解です」

 

通話を切りイチカはアラドの方に顔を向ける。

 

「緊急事態みたいだな」

 

「あぁ。例の新型機が首都に向かっている。しかも味方を撃墜してだ」

 

「「「「!?」」」」

 

「不味いな、そりゃあ」

 

アラドは苦虫を噛んだように顔をしかめる。

 

「俺とマドカは指揮所に出頭してくる。父さん達は「俺達デルタ小隊は空母に急ぎ戻る」まさか?」

 

「そのまさか。いざというときの為にバルキリーを載せておいてもらったんだ。イチカとマドカの機体も積んでいる。戻り次第直ぐに学園に運ぶ」

 

「了解。美雲達は?」

 

「私達はシェルターに避難するわ」

 

「分かりました、では案内します」

 

そう言いそれぞれその場で別れアラド達は急ぎヘリポートへと向け走り、カナメ達とイチカとマドカはシェルターへと向かって行く。

暫く走って行くと教師がシェルターに避難するよう誘導している場所に到着した。

 

「此処です。山田先生!」

 

「えっ? あ、メルダース君達無事でしたか!」

 

「えぇ。すいませんが、彼女達も中に入れてもらっても?」

 

「はい、構いません。どうぞ入ってください!」

 

そう言われカナメ達は中へと入って行く。美雲とマキナとレイナは入る前にイチカの元に向かう。

 

「イチカ、無茶しないでね」

 

「イッチー、気を付けてね」

 

「怪我しちゃダメ」

 

そう言われイチカは力強く頷く。

 

「な、なにこれ?」

 

そんな声が聞こえイチカはその方向に顔を向ける。其処にはIS学園の生徒がスマホの画面を見て驚愕していた。

 

「た、立ち止まっていては危険です! 中に早く「せ、先生。こ、これ…」え、何が?……っ!?」

 

立ち止まっていた生徒に真耶が駆け寄り動くように促そうとした瞬間、生徒は振るえる唇でスマホの画面を真耶に見せた。それを見た真耶も驚愕の余り固まり、そして顔を青くする。

 

「どうしたんですか?」

 

様子がおかしい事に気になったイチカとマドカはその画面を見る。其処には

 

 

 

 

 

自衛隊に所属していると思われるIS部隊が次々に撃墜されている映像が流れていた。




次回予告
突如現れた新型機。すぐさまケストレルに戻ったアラド達はヴァルキリー発進させようと待機するも日本政府が許可しなかった。
しかし現場指揮官が出撃を許可。アラド達はすぐさまイチカ達の元にヴァルキリーを送る。

次回
燃え盛る首都


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39話

IS学園に待機させていたヘリに乗り込んだアラド達は、パイロット達を急かし急ぎ空母ケストレルへと戻って来た。ヘリが甲板に着陸し急ぎヘリから降りるアラド達。

 

「デルタ、こっちだ!」

 

甲板に居たスタッフがアラド達を呼び直ぐ下の格納庫へと案内した。

フライトスーツに着替え、すぐさまバルキリーに乗り込むアラド達。

 

「こちらデルタ1。首都上空に現れた敵機撃墜に向かう。発艦許可を!」

 

《こちらケストレル。今日本政府に我々の武力介入が出来る様言っている。だがあまり期待は出来んぞ。向こうはISがあるから大丈夫だ、何て言って許可は…待て》

 

通信兵が突然会話を止める。暫くするとまた通信が繋がった。

 

《先程日本の統合幕僚長が我々の出撃を許可した。恐らく少しでも戦力が欲しいんだろう》

 

「どう言う事だ?」

 

《実は現在ネット上にとんでもない物が放送されているからだ》

 

そう言われバルキリーに乗っていたアラド達は首を傾げる。そしてコックピットのディスプレイに映像が流れた。それはイチカ達が学園で見たISが撃墜されていっている放送だった。

 

「おいおい、これって」

 

《あぁ、最強と言われているISが簡単にやられている。政府の連中は恐らく現実を受け入れられていないんだろう。幕僚長は懸命な判断をしたんだ》

 

《だから戦力を増やそうと、俺達に出撃を許可したのか?》

 

ハヤテの問いに兵士は恐らくな。と返した。

 

《兎に角我々の武力介入は許可された。本来の任務である太平洋艦隊の護衛は君達以外の艦載機等で対処する。君達は首都防衛に行ってくれ。情報等は向こうから遂次貰う様に》

 

「了解した」

 

そしてアラド達の機体は甲板エレベーターに乗せられ甲板に出るとカタパルトへと案内した。

 

【最初にデルタ1、デルタ3を射出する。その後にデルタ4、デルタ5を射出する!】

 

『デルタ1、カタパルト接続完了。ブラストシールド展開完了! 何時でもいいぞ!』

 

「了解。デルタ1、先に上がる」

 

そう言いスラスターを吹かす。そしてアラドの機体は打ち出された。

 

【一機目が上がった! 急いで次の機体を発艦させるぞ!】

 

そう叫び声が響きながら、次々に機体を打ち上げて行く。

 

「確か、最後に無人の機体を飛ばすって聞いたが本気か?」

 

「あぁ、そうらしい。普通に考えてクレイジーだな」

 

甲板スタッフ達は無人の戦闘機を飛ばすという事にかなり難色を示していたが、今出来ることをするだけだと思い動く。

 

【次にデルタ2、デルタ6の機体を発艦させる。……上手くいくことを祈ろう】

 

そう言いスタッフ達は不安な表情を浮かべる。

 

『カタパルト接続確認! ブラストシールド展開完了! 何時でも発進できるぞ!』

 

そう言うと機体はスラスターを吹かし、そして射出された。全員落ちないでくれ。と願いながら見守る。

 

【機体の上昇を確認! 成功だ! よし、次の機体を飛ばすぞ!】

 

そう叫びスタッフ達は走り回ってマドカの機体を準備する。そしてそのままマドカの機体も空へと上がり、甲板のスタッフ達は手を振る。

 

「頑張って来いよぉ!」

 

「奴らをギッタギタにしてやれぇ!」

 

そう叫びデルタ小隊を見送った。




次回予告
指揮所に出頭したイチカとマドカ。中にいたエリシア、そして更識達専用機持ちと話し合いを行いイチカとマドカはバルキリー受領後首都に向かい、更識達は学園の警備に就くことに。
外へ向かおうとしたイチカとマドカの前に突然千冬が現れた。
次回
相容れぬ信条


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40話

アラド達が空母にて機体を受け取っている頃、イチカとマドカはIS学園の地下に装設されている指揮所に訪れていた。

 

「イチカ、マドカ今参りました」

 

そう言いながら中に入ると、何人かの教師達が忙しなく動いていた。

 

「来たわね二人共、こっちよ」

 

そうエリシアに言われ向かうと楯無や簪。更に鈴やセシリア達もいた。他にも各国の代表候補生達が居た。

 

「さて集まってもらったのは他でもないわ。現在首都で起きている戦闘よ」

 

エリシアはそう言い空間ディスプレイを投影し、首都の様子を見せた。建物の幾つかから黒煙が上がっており激しい爆発が幾つか起きていたりしていた。

 

「見ての通りもはや戦場と言っても、過言でもないわ。更にもっと言えば厄介な事も起きているわ」

 

そう言い別の空間ディスプレイを出す。

 

「もう知っていると思うけど、航空自衛隊所属のIS部隊がほぼ壊滅。現在首都上空にIS部隊はほぼ居ないと言って相違ないわ」

 

そう言われ代表候補生達の顔が青くなり始めた。

最強と言われてきたISが簡単に撃墜され、既にほぼ壊滅と言われたのだ。

 

「で、でも敵機を何機か墜としてますよね? それだったら私達でも「残念だけど、敵は一機も墜とされていないわ」そ、そんな」

 

愕然となる一人の代表候補生。他の代表候補生達も勝ち目がないと思い俯く。

 

「……それで先生、私達を此処に呼んだ理由をお聞かせください」

 

何とか正気を保っていた楯無はエリシアに聞く。

 

「貴女達に集まって貰ったのはこの学園を守ってもらう事よ」

 

「学園を…ですか?」

 

「えぇ。今現在敵は首都上空でのみ戦闘を行っている。首都にISを送れば簡単に撃墜されてしまう事は明白になっている以上、首都にISは送れない。その為あなた達には敵が万が一来た場合に備え、此処の防衛に就いてもらうわ」

 

「あ、ISを簡単に墜とすような敵とどうやって戦えば良いんですか!」

 

エリシアに学園を守るよう言われ、簡単にISを墜とす敵にどう戦えばいいのか分からない代表候補生達はそう叫ぶ。

 

「……無論降りてもらっても構わないわ」

 

そう言うとぞろぞろと代表候補生たちは指揮所から出て行き、残ったのは1年の鈴、セシリア、ラウラ、シャルロット、簪、マドカ、イチカ。そして2年の楯無と一人。最後に3年の一人が残った。

 

「はぁ~、残ってくれたことに感謝するわ。それじゃあ何処に誰を配置するのか決めるわ」

 

そう言い学園のMAPを広げる。

 

「では首都に近い方に鈴さん、ダリルさん、フォルテさん、楯無さんで。中衛にはシャルロットさん、ラウラさん。そして後衛には簪さん、セシリアさんでお願い」

 

エリシアがそう言うと、セシリアが手を挙げる。

 

「あの、メルダースさん達はどちらに?」

 

「二人は首都に向かうわ」

 

「「「っ!?」」」

 

イチカとマドカ、そしてフォルテとダリルと呼ばれた生徒以外は驚き顔をイチカ達に向ける。

 

「機体の到着予定は?」

 

「あと数分と言ったところよ」

 

「そうですか。では自分とマドカは機体を受け取り次第首都に向かいます」

 

「頼んだわ」

 

そう言いイチカとマドカは外へと向かう。

 

「ついでだ、アタイも一緒に行くぜ」

 

「ウチも一緒に行くっす」

 

そう言いダリルとフォルテは共に外へと向かう。

 

「イチカ!」

 

そう声を掛けられイチカは顔を向けると、鈴がサムズアップしながら見ていた。

 

「死ぬんじゃないわよ」

 

「おう、分かってる」

 

鈴の声援を受け外へと続く廊下を駆けだすイチカ達。

 

指揮所から出て暫くしてダリルが思い出したかのようにイチカ達に声を掛けた。

 

「そう言えば自己紹介がまだだったな。アタイはダリル・ケイシー。アメリカの代表候補生だ」

 

「ウチはフォルテ。サファイアっす。ダリルとは友人以上恋人未満みたいな関係っす!」

 

「……なんですか、それ?」

 

フォルテのダリルとの関係の説明にイチカは首を傾げる。隣のマドカは呆れた様にため息を吐く。

 

「まだ抜けることがあるんじゃないのか。えぇR?」

 

そう言うとダリルはニッと笑みを浮かべた。

 

「別に言う事でもないと思うが、まぁいいか。ダリルって言うのは普段使っている名で実際は、『レイン・ミューゼル』って言うもう一つの名があるんだ」

 

「ミューゼル? スコールさんの親戚ですか?」

 

「そんなところだ。因みにフォルテも知ってる。組織には所属してないがな」

 

「ウチはただダリルの正体が知りたいと思って付いて行っただけっすけどね」

 

はぁ。となんだかよく分からない二人の関係に首を傾げつつ外に向かって走る。

廊下を暫く走っていると、目の前に一人の教師が立っていた。

 

「ありゃ織斑先生じゃん」

 

「本当っすね。何で此処に?」

 

ダリルとフォルテは首を傾げている中、イチカとマドカは真顔を浮かべる。

遮る様に立つ千冬に4人は足を止めた。

 

「織斑先生、何か用ですか?」

 

「……」

 

千冬はただジッとイチカの方に顔を向けていた。はぁ、と一息イチカは零す。

 

「ダリル先輩、フォルテ先輩。先に行っててください。後で追いかけるんで」

 

そう言われ二人は先に外へと向かっていく。

 

「それで、今度は一体何の用です?」

 

イチカは千冬に全く興味が無いと言った表情で問いかける。

 

「……何故だ」

 

「は?」

 

「何故他人の為に命を張る? 今首都で戦っているのは他人だ。お前の知り合いでも、友人でも何でもないただの赤の他人なんだぞ」

 

「お前、一体何を言いたいんだよ」

 

千冬の問いに苛立ちの表情で聞くマドカ。

 

「あそこに居る者達は命を張ってまで守るような連中ではない。そう言っているんだ。行った所でお前に要らない責任などを背負う羽目になるんだぞ」

 

ハッキリとした口調でそう千冬は言う。

 

「…じゃあ聞くが」

 

「?」

 

「お前は戦闘機のパイロットやイージス艦の船員を殺した責任はとったのか、白騎士?」

 

「な、何故それを…」

 

イチカの口から出た言葉に千冬は驚きを隠せず顔に現れた。

 

「何も知らないとでも思っていたのか? 束さんに色々聞いたんだよ。あの事件の真相とかな」

 

そう言いながらイチカは千冬を睨む。

 

「純粋に宇宙に上がることが夢だった束さんの夢を平気で裏切り、そして巡航ミサイル迎撃に上がった戦闘機やイージス艦を次々に破壊。そして下に住宅があるにも関わらず戦闘機を墜とした。お前こそ、責任はとろうとしないのか?」

 

「……た、束の奴だって「あの人はお前の被害者だ。しかも被害者にも関わらず、IS被害者に寄付金や援助物資を送っていた。今でもエンシェントセキュリティー社を使いながら援助している」……」

 

「あの人はお前が背負わなければならない責任を背負った。責任から逃れたお前の代わりに」

 

「……」

 

黙り込む千冬にイチカははぁ。と呆れた息を吐く。

 

「……話は終わりだな。行くぞ、マドカ」

 

「あぁ、行こう」

 

そう言い千冬の横を通り抜け外へと向かって行った。一人残った千冬は拳を握りしめる。

 

「……わ、私はただ一夏を、家族を守ろうとしただけだ。他人など、そんなもの関係ない」

 

そう絞り出すように呟く千冬であった。




次回予告
ヴァルキリーを受領しイチカ達は首都へと向かう。自衛隊の戦闘機も奮戦するも敵のヴァルキリーに成す術なく撃ち落とされていく。敵のヴァルキリーを撃墜すべく攻撃を開始するデルタ小隊。すると無線がどう言う訳か混信する。
次回
首都防衛任務開始!


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41話

外へと出てきてイチカとマドカはヴァルキリーが停められる広い場所に向かうと、上空から6機のバルキリーが現れ、2機がガウォーク形態で降りてきた。

 

『イチカ、マドカ! 早く機体に乗れ、行くぞ!』

 

「「了解!」」

 

直ぐに制服の下に来たパイロットスーツに着替え、バルキリーに乗り込む。

 

「此方デルタ2、デルタ6、これより原隊復帰する」

 

『デルタリーダー、了解。 お前等行くぞ!』

 

そう言いスラスターを吹かすアラドに続きイチカ達も後に続く。

遠ざかっていく6機の機体に鈴達はただただ無事を祈るほかなかった。

 

「死ぬんじゃないわよ、イチカ。マドカ。」

 

「無事に帰って来てね」

 

 

 

~首都上空~

 

首都の上空は激しい爆発や機銃が飛び交っていた。

 

『此方シュトリゴン1! くそったれ、2,3が喰われた!』

 

『コクーン3! 敵の攻撃を受けた‼ 糞、イジェクトする!』

 

『こちらAWACS、ホークアイ! 上がっている味方機に伝える! 現在エンシェントセキュリティー社の戦闘機部隊が救援の為此方に向かっている! 何とか持ち堪えてくれ』

 

ホークアイからの報告にパイロット達に安堵の表情は余り無かった。

 

『ホークアイ、その報告はある意味嬉しいがこいつらを撃墜できるほどのパイロットは居るのか?』

 

『分からない。兎に角幕僚長が独断で許可して加えた戦力で、今の我々にとっては貴重な戦力だ』

 

首都の上空での激しい戦いは時間が経つにつれ更に過激になっていく。

そして上空を飛行していた一機の戦闘機の背後にフェニックスが張り付いていた。

 

『こちらコクーン4! ケツについている奴を何とかしてくれ!』

 

『待ってろ、今行くぞ!』

 

そう言いシュトリゴン1がコクーン4の後ろについているフェニックスの後ろにつく。

 

『貰った! シュトリゴン1、FOX2、FOX2!』

 

シュトリゴン1が乗っているF-15Jからミサイルが発射される。ミサイルはまっすぐフェニックスに向かうも、フェニックスはすぐさま方向を転換。そしてミサイルを回避した。

 

『くそ、避けられた! だがコクーン4から引き離した。このドッグファイトで落としやる!』

 

『此方ホークアイ。シュトリゴン1、ドッグファイトは止めろ! そいつらは直ぐに返り討ちに合うぞ!』

 

『持ち込まなくても同じだ!』

 

そう叫び必死にフェニックスに喰らい付くシュトリゴン1。

 

『よっしゃ! 今度こそ外さねぇ!』

 

そう言いミサイルを撃とうとした瞬間、突如フェニックスが急制動にしてスピードを一気に落としシュトリゴン1の背後に周った。

 

『クソッタレ! 何だよ、あれは!』

 

『シュトリゴン1逃げろ!』

 

味方機からの叫びを聞きシュトリゴン1はスラスター全開でビル群を抜けていく。

 

『まだ貼り付いてやがる! ッ!? ロックオンアラート!』

 

フェニックスからのロックオンにキャノピー内にアラート音が鳴り響く。

 

『シュトリゴン1、ミサイル、ミサイル!』

 

『くっ! フレア放出!』

 

シュトリゴン1の機体後部からフレアが放出され、ミサイルはフレアを追って行く。

 

『シュトリゴン1、まだ後ろに居るぞ!』

 

『逃げろ!』

 

味方機からの叫びシュトリゴン1はキャノピー内に響くアラート音に、走馬灯の様な物が走る。

 

(此処までか)

 

そう思った瞬間、背後についていたフェニックスが撃墜された。

 

『敵機が撃墜されたぞ。誰がやった?』

 

『俺達じゃないぞ。一体?』

 

『…っ!此方ホークアイ、よく聞け、騎兵隊のご到着だ!』

 

その言葉に全員レーダーを見ると、新たに6つの青い点が現れた。

 

「此方エンシェントセキュリティー社、特務飛行部隊『デルタ』だ。これより武力介入を行う!」

 

『やっと来てくれたか! 此方AWACS、コールサインはホークアイ。君達の到着をずっと待っていた!』

 

「待たせて済まない。よし、各機攻撃を開始!」

 

アラドの号令と共に散開し、フェニックスの撃墜に掛かる。

デルタの到着に漸く巻き返しが出来ると思い、上空の航空隊は反撃に転じた。更にやっとの事で地上に対空機銃を積んだ車両が到着し、首都防衛の為に攻撃を開始した。

 

「デルタ2ミサイルロック、ファイヤ!」

 

イチカは一機のフェニックスの背後に周りミサイルを撃つも避けるフェニックス。逃がすまいとその後に続き、バルカンを撃ち放ち撃墜する。

 

「スプラッシュ1!」

 

『いいぞ! 君達のお陰で敵の数が減って来た。これで……待て、新たな機影? 真上だと!?』

 

AWACSの報告に全員驚いていると、航空隊の何機かが突然爆散した。

 

『コクーン2、シュトリゴン4が撃墜! 上から敵機が来るぞ!』

 

そう叫ぶと濃い緑の機体が5機、更にSu-27に似ている可変戦闘機が上空から現れた。

 

『こいつら一体何処から来やがった!』

 

「ホークアイ、レーダーにはこいつらの影は無かったぞ!」

 

『此方ホークアイ、こちらも長距離レーダーには何も映っていなかった。兎に角現れた連中は敵機とする。各機撃破しろ!』

 

ハヤテの問いにホークアイは苛立ちの声でそう指示を飛ばす。

新たに現れた敵機に航空隊は更に苦戦を強いられた。

 

『こ、こちらラビット3、もう機体がっ…』

 

『ラビット3が撃墜! ホークアイ、援軍をっ!!?』

 

次々に墜とされていく航空隊。そんな中でもデルタは敵機を撃墜していく。

 

『クソッ! ドラケンにまた別の可変戦闘機かよ!』

 

『愚痴っていないで墜とせ、デルタ5!』

 

『デルタ6、背後に回っているぞ!』

 

『了解、回避する!』

 

苦戦を強いられながらも戦うデルタ達。そんな時、チャックの機体に妙な通信を傍受した。

 

『ん? これは?』

 

『どうしたチャック?』

 

『これを聞いて下さい』

 

そう言いチャックは傍受した無線をアラド達にも聴けるよう回す。

 

『~~~~♪』

 

『これって、歌か?』

 

『でも、なんで?』

 

全員が傍受した無線から歌が流れているのか疑問を浮かべる。

 

「ウィンダミアのアイツの歌の様では無い。別の奴か?」

 

『恐らくな。すぐにワルキューレ達を呼ばなければ』

 

『ですが、彼女達は既に避難施設の中です。外に出れるとは思えません』

 

そう言われアラドはクソッ!と声を荒げる。するとイチカはある事を思いつく。

 

「デルタ3、この無線は敵のか?」

 

『あぁ、恐らくな』

 

「だったらその無線から避難施設に居る美雲達の歌を流せば、何かしら変化があるんじゃないのか?」

 

『恐らくあると思う。だが、これがもしヴァ―ル現象とは違う何かだったら、効果は無いかもしれないんだぞ?』

 

「やってみなきゃ分からねえだろ」

 

イチカはそう言いながら敵機を墜とす。

 

「デルタ1、許可を!」

 

『……分かった。直ぐに彼女達に連絡しろ。但し歌を歌う際は避難施設の人達を落ち着かせるというカモフラージュでだ』

 

そう言い無線ですぐさまカナメ達に伝えた。

 

『―――分かりました。直ぐに準備します』

 

『頼む。うまくいくかどうかは分からない。最早賭けみたいなものだ』

 

『任せてください』

 

そう言い無線は切れた。

 

『よし、デルタ3。ワルキューレ達の声を無線で流す用意をするんだ』

 

『ウーラ・サー‼』

 

アラドの指令にチャックはすぐさま作業に取り掛かった。




次回予告
アラド達に歌を歌って欲しいと頼まれ、ワルキューレ達は歌う。そして戦闘は止まるかに見えた。だが、ドラケンのみ未だ戦闘を繰り返すも突如戦闘を中断し、撤退していく。
戦闘を終えイチカ達は学園へと戻る。
次回
戦闘終了


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42話

~IS学園・避難施設~

避難施設に居たワルキューレ達はアラド達に頼まれ歌の準備をしていた。

 

「皆、準備はいい?」

 

「「「「ばっちオッケ~!/うん/ハイなぁ!/何時でも構わないわ」」」」

 

それぞれ何時でも良いと言うと、歌を歌い始めた。彼女達が歌い始めたのは『Absolute5』であった。

 

彼女達の歌は無線のみならず避難施設全体に聞こえる様されていた。その訳は歌はどんなに暗い気分でも明るくさせることが出来る不思議な効果があるからだ。

突然の襲撃に暗い気持ちになっている人々の為にワルキューレ達は施設の人々達にも聞こえる様にしたのだ。

 

彼女達の歌を聞いたIS学園の生徒達は、突然歌い出した彼女達に不思議に思っていたが次第に暗い気分が晴れて行き明るい気分になってくる。それは来賓として来ていた者達もだ。

 

『~~♪、~~♪』

 

無線から流れる彼女達の歌に戦場は一時的に混乱が生じた。

 

『おい、誰だ。自衛隊の無線に歌を流しているのは!』

 

『けど不思議と心が落ち着くし、やる気が満ちてきたぞ』

 

『だな。やるぞお前等!』

 

航空隊は突然の歌に動揺が一瞬起きるもすぐに立て直し、敵機撃墜の為に動く。

 

『上手くいくといいんだが』

 

『こればっかりは祈るしかねぇよ』

 

『上手くいくはずだ』

 

「……頼む」

 

アラド達はワルキューレ達の歌が上手くいくことを願っていると、何機か動きが変わった。

 

『こ…こちら…ウルフェン2…な、何が起きている?』

 

『だ、誰か状況報告を頼む。此処は一体何処なんだ?』

 

そんな無線をする機体が現れ始めた。

 

『こちらAWACSホークアイ。新型機に乗っている者は直ぐに下総航空基地に着陸するんだ!』

 

そう言うと何機かから了解と返信があり機首が航空基地に向かって行く。

 

『な、なんで急に応答するようになったんだ?』

 

『分からねぇ。もしかして何か洗脳されていたのか?』

 

『口を動かしてないで、手を動かせ! 着陸していく奴らを警護しろ。撃墜されたら、今回の事件の原因が分からなくなる!』

 

ホークアイからの指示に何機かが離脱していくフェニックスとSu-27似の機体の警護につく。

離脱せず未だ戦闘を続けているのはドラケンと数機のフェニックスとSu-27似の機体だった。

 

『よし、各機残りの敵も片付ける『こちらホークアイ、少し待て』どうした、ホークアイ?』

 

『戦闘を続けていた敵機の様子が可笑しい』

 

そう言われそれぞれ敵の様子を見ると、確かに攻撃をしてくる様子が無かった。すると突然残った機体は上空へと向かって飛び出した。

 

『上空に向かって飛び始めたぞ!』

 

『まさか逃げる気か?』

 

『だが上に上がったところで行けるのは限界があるぞ。何処に逃げようってんだ』

 

航空隊はそう言い撤退を始めたドラケン達に疑問符を浮かべる中、アラド達デルタ小隊は不味いと思っていた。

 

『奴らこのまま宇宙に逃げる気か!』

 

『逃がすわけにはいかねぇ!』

 

『隊長、追撃の許可を!』

 

『当たり前だ。すぐに追跡するぞ!』

 

デルタ小隊はすぐさま離脱を開始したドラケン達を追いかけ始めた。

 

『おい、デルタ部隊! どうしたんだ?』

 

『敵を追跡『敵機、何機か反転して攻撃してきた!』 くそ、足止めする気か!』

 

共に上がっていたフェニックスと新型機が反転しデルタ小隊に攻撃を開始し、ドラケン達は妨害されることなく上昇していく。

 

『くそぉ、お前等邪魔するな!』

 

『早く墜とさないと、奴らが!』

 

『此方ホークアイ、突然レーダーから何機か消えた。どう言う事だ、まだレーダー探知範囲に入っているはずなのに。消えたぞ』

 

ホークアイからの報告にイチカ達はクソッ!と悔しそうに顔を歪める。

 

『逃げられたか。仕方ない、残った敵を撃墜するぞ』

 

『了解』

 

反転して攻撃を開始してきた敵機をデルタ、そして航空隊の活躍によって撃墜。漸く戦闘は終了した。だが街は見るも無残に破壊され、道路には瓦礫などが散乱し混乱を極めていた。

 

『終わったな』

 

『そうだな。だが、何機か逃げられちまった。クソッ!』

 

『仕方がない、今は兎に角戻ろう。美雲さん達が心配だ』

 

『そうだな。此方デルタ1、RTB』

 

『此方ホークアイ。デルタ部隊、貴隊が来なければ首都は陥落していたかもしれん。代表として礼を言う。ありがとう』

 

『いや、大したことはしていない。それじゃあな』

 

アラドはそう言いデルタ部隊は首都を離れて行く。そしてIS学園に寄りガウォーク形態で降りた。

その傍に学園の防衛の為に居た鈴や簪達が集まる。

 

「お帰り、無事に帰ってこれたみたいね」

 

「あぁ、けど多くの航空隊のパイロット達が亡くなった」

 

機体から降り悔やむ表情を浮かべるイチカ。その表情に鈴達も暗い表情を浮かべる。すると、空気を変えようと楯無が話し出す。

 

「そ、そう言えば学園内の放送から歌が聞こえたの」

 

「そう言えばあの歌の声、美雲達に似ている気がしたけど」

 

「あぁ、たぶん彼女達だ。避難施設に居る人達が不安になっているだろうからと歌を歌ったんだろう。彼女達、アイドルだからな」

 

へぇ~。と声を漏らしているとぞろぞろと美雲達がデルタの元にやって来た。

 

「お帰りなさい、イチカ」

 

「おう、ただいま。歌、届いたよ」

 

「そう。良かった」

 

頬を赤く染めながら見つめ合う二人。

 

「二人共、いちゃつくの禁止ぃ~!」

 

「人目憚らずやり取りはずるい」

 

そう言いイチカの腕に抱き着くマキナとレイナ。

 

「いや、なんで二人して抱き着くんだ?」

 

「お疲れだと思うから、癒してあげてるんだよぉ」

 

「癒し効果アリ」

 

二人の行動に苦笑いを浮かべるイチカ。すると美雲はふと何かを考える素振りを見せ、そして何かを思いついたのか正面からイチカに抱き着き、その胸に顔を埋める。

 

「ちょっ、美雲!?」

 

「本当にお疲れ様、イチカ」

 

そう言い抱き着く美雲にイチカは何も言わずただそのまま3人に抱き着かれていた。

 

「何やってんのよ、あの4人は」

 

「まぁ何時もの光景だよ」

 

「だな」

 

鈴やアラド達は呆れ顔やニヤニヤ顔を浮かべながら眺め、その他の者達は顔を真っ赤にしながら眺めていた。




次回予告
首都での戦闘報告を聞くスコール。今後の事を考えていると突如テレビ画面にオグマ社社長のジェフ・ドースが現れ世界に対し宣戦を布告した。

次回
宣戦布告


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43話

~エンシェントセキュリティー社・指揮所~

「そう、無事首都は守られたのですね」

 

『はい、デルタのお陰です。本当に感謝します、スコール司令』

 

「いえ、此方は依頼を受けた身。それを完遂したまでです」

 

日本の統合幕僚長と通信で話していたスコールは一安心した様な表情を浮かべながら話を聞く。

 

「それで、IS部隊の被害は?」

 

『酷いものだよ、残ったのは1部隊のみ。パイロットは死亡しているのは確実で、ISコアは海に落ちてしまっていて、今海上自衛隊総出で捜索を行っている』

 

「それはまた酷い物ですね」

 

『全くだ。航空機隊もかなりやられたが、デルタのお陰で被害はIS部隊より抑えられた』

 

「そうですか。また育成に時間を要しますね」

 

『あぁ。今度はIS部隊にではなく航空機隊に予算を回してもらうよう手配しなくてはな』

 

幕僚長の話にスコールはそれが良いです。と返事を返し、通信を終了した。

通信を終えたスコールはふぅ。と一息吐き、机の上に置かれた被害報告書に目を向ける。

 

エンシェントセキュリティー社被害…0

 

航空自衛隊被害

戦闘機10機(パイロット・同乗者4人戦死)

IS12機(パイロット全員死亡。ISコアは現在捜索中)

 

民間被害

死傷者100人以上(今後増える恐れあり)

重傷者300人以上(今後増える恐れあり)

 

 

その資料にスコールは顔を歪める。

 

(……デルタの彼らが居たから此処まで抑えれたから良かったけど、他の国はそうはいかなかった)

 

そう言い目線を上げ幾つもあるディスプレイの一つに目を向ける。其処には世界地図が映し出されており、世界の主要都市に赤い点、青い点で振り分けられていた。

赤い点で振り分けられていたアメリカ。その横にはニュース映像が流れていた。

 

『繰り返しお伝えします。本日未明アメリカのノースカロライナにある米空軍基地が味方の攻撃で破壊されました。被害は酷く、多数の死傷者が出ているとのことです。更に基地を攻撃した者達はそのまま基地から飛び去り他の基地に攻撃をしたとのことです。アメリカ政府は飛び去った戦闘機12機の行方を追っており、現在も捜索中とのことです』

 

ニュースキャスターがそう言いながらニュースを伝えていた。

 

(アメリカ、中国、ロシアなど。主要都市の基地がほとんどが襲撃にあって被害は甚大。その上公表はされていないようだけど、ISも恐らく撃墜されているでしょうね)

 

そう思いながら、考えに耽っていると突然ディスプレイ上に映っていたニュース映像が突然砂嵐に変わった。

 

「どうしたの?」

 

「分かりません。アンテナに異常はないのですが、突然放送が途切れました」

 

指揮所内に居たスタッフ達も困惑しており、原因を突き止めようと動いていると突然映像が流れ始めた。

 

『諸君、初めまして。この放送は届いているかね?』

 

そう言いながら映像に現れたのは机越しに座った一人の男だった。

 

「っ!? オグマ社社長、ジェフ・ドース!」

 

『私の名はジェフ・ドース、オグマ社の社長をしている者だ。私の会社が開発した戦闘機はどうだったかね? 今報告を聞いていたが、大変素晴らしい働きをしたみたいで大変嬉しいよ』

 

そう言い笑みを浮かべながら手を組むジェフ。

 

『さて、何故私がこのような事をしたのか。それはこの世界に真の平和をもたらす為だ』

 

「真の平和ですって?」

 

『この世界は何処もかしこも腐っている。ISが使えるからと威張り散らす女共、そしてそんな風潮をまき散らす女性権利団体。そしてそんな風潮を真っ向から対立する男尊女卑の男共。全くもって不愉快極まりない。そんな風潮が蔓延っている世界に真の平和などどれ程時が経とうと訪れん。ならば私がそれを叶えればいい。だから私が開発した兵器を君達に送ったのだ』

 

ジェフは狂気じみた笑みを浮かべながら、そう説明した。

 

『もしこの放送を見て同じようにこの世界に真の平和をもたらしたいと言う者が居るなら、何時でも私は歓迎しよう。逆に私に反抗し、対立を望むなら受けて立とう。どれ程愚かな行為に走ったか分からせてやる。では、さらばだ』

 

そう言い放送は途切れ、またニュース映像になるが画面の向こうにいるニュースキャスター達も大慌てになっていた。

スコールはジェフが世界に宣戦布告をしたことに顔をしかめる。

 

「……大胆な宣戦布告ね。通信!」

 

「は、はい!」

 

「今すぐIS学園に居るデルタ部隊、及びワルキューレ達を戻して。それとイチカ君達もよ!」

 

「了解しました!」

 

通信スタッフに指示を出したスコールはすぐさま作戦を実行できるよう準備を始めた。




次回予告
IS学園に居たイチカ達もジェフの放送を見ていた。難色の顔を示してるとスコールから帰投命令が入りイチカ達はIS学園を後にした。
それをただ眺める事しかできない千冬。すると突然束から電話が掛ってくる。

次回
家族とは?~本当にお前はいっくんの事ちゃんと見てた?~


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44話

~IS学園・地下指揮所~

地表にアラド達と美雲達、そしてエンシェントセキュリティー社から来たオペレーター達を機体に残ってもらいイチカとマドカは鈴達と共に指揮所へと報告に赴いていた。

その時、ジェフ・ドースの宣戦布告が流れイチカ達は険しい顔を浮かべていた。

 

「真の平和だと。ふざけやがって」

 

「全くだな、兄さん」

 

イチカ、マドカの険しい顔に鈴達は困惑の表情を浮かべる。

 

「ねぇ、イチカ。さっきの奴が今回の黒幕なの?」

 

「あぁ、奴だ」(だが、まだその後ろにまだいるはずだ。ヴァルキリーを製造できる技術を奴が持っているとは思えないし)

 

鈴の問いに応えながらイチカはジェフが本当にヴァルキリーを開発したのか疑っていた。

全員がジェフの宣戦布告に顔を歪めていると、教師の一人がエリシアの方に顔を向ける。

 

「エリシア先生、エンシェントセキュリティー社から通信が入ってます」

 

「繋いでちょうだい」

 

そう言い通信を繋げると、表情が険しいスコールがモニターに映った。

 

『突然御免なさいね、エリシア』

 

「いえ、構いません。それでどう言った御用でしょうか?」

 

『メルダース兄妹を至急エンシェントセキュリティー社に帰還させる為よ。今回の1件、恐らく大きく荒れるかもしれないから、デルタ所属の彼らが必要になる。その為よ』

 

「そうですか。……私は構いませんが、学園長はそれでよろしいですか?」

 

エリシアは部屋に居た学園長に問うとコクンと頷く轡木。

 

「今は非常事態ですが、致し方がありません」

 

「分かりました。ではメルダース兄妹、それとラブリスさんを本部に戻します。彼女もエンシェントセキュリティー社の一員ですので」

 

『ありがとう。それじゃあ3人共直ぐに戻って来てね』

 

そう言い通信は切られた。

 

「それじゃあメルダース兄妹、それとラブリスさん。3人はエンシェントセキュリティー社に戻ってちょうだい」

 

「「「了解」」」

 

敬礼で返事後、イチカ達は指揮所を後にした。

外へと出た3人。イチカとマドカは自分のバルキリーに乗り込みラウラはエンシェントセキュリティー社のヘリへと乗り込みIS学園から飛び立っていった。

 

飛び去って行くバルキリーの背を千冬は何とも言えない表情で見送っていると、突然ポケットに入れていたスマホが震える。

 

「? 誰だ『やぁ、織斑千冬。元気してた? いや、してないか。アッハハハハ!』た、束!」

 

電話に出ると相手は自分を馬鹿にした様に話す束で、千冬はスマホを握りしめる力を強める。

 

「何の用だ?」

 

『ん~? なぁに、何時までもいっくんにこだわっているお前にそろそろ自覚させないと、いっくんの邪魔ばっかりしそうだからねぇ』

 

「自覚だと?」

 

『そう、自覚。お前、未だにいっくんの事自分の家族だって言ってるんだろ?』

 

束の問いに当たり前だ!と心の中で思いながら続きを聞く千冬。

 

『けどさぁ、それ本当に家族として見てる?』

 

「……何が言いたい?」

 

『つまりさぁ、お前。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

まるで機械の様に淡々と言った口調で告げる束に千冬は奥歯を噛み締める。

 

「貴様が言えることか! 箒の事を何も『おいおい、あれは自分から突き放してたんだよ? しかも考えることを止め恨む対象であり、都合の悪い時に使える姉としか思ってない。そんな奴、私家族だと思ってないもん』」

 

淡々と箒の事を家族として見ていないと告げる束に、千冬は戦慄する。

 

『束さんの家族事情とかは置いといて、少し問題を出そうじゃないか?』

 

「問題だと?」

 

『そう、いっくんに関する問題。束さんの出す問題を多く答えられたら、お前はちゃんといっくんの事を見ていたって理解してあげる。けど、答えが少なければお前はちゃんと見ていないって言う事』

 

そう言い束は問題!と声を上げながら出す。

 

『いっくんが小学生の頃、作文に書いた将来の夢は?』

 

「……強い武人」

 

『ブゥ~、はっずれぇ! 正解は宇宙飛行士でしたぁ!』

 

「そ、そんな訳が『ホントですぅ。大体今時強い武人とかなるとか何時時代の人だよ』くっ!」

 

『はい次ぃ! いっくんが初めて篠ノ之道場に来たのはどういう理由?』

 

「け、剣道を習うため」

 

『はい残念でしたぁ! 正解はお前が忘れた道具を届けに来たからでしたぁ!』

 

ハズレと束から告げられる千冬は奥歯を噛み締める。

 

「さっさと次の問題を出せ!」

 

『何イライラしてんのさ? もしかして全然答えられないから?「いいから早く出せ!」はいはい、じゃあ次の問題!』

 

そう言い束は問題を出す。

 

それから幾分か経った。

 

『はい、残念でしたぁ! 正解は五反田食堂の店主直伝の肉豆腐でした! これで19問連続不正解ぃ!』

 

またハズレと言う言葉を聞き千冬の心は既に折れかかっていた。

 

「……」

 

『おやおや、もう折れかかっているね。まぁ19問も連続で外してるからねぇ』

 

そう言いながら束は最後の問題!と声を上げる。

 

『お前はいっくんの事、ちゃんと見てた?』

 

最後の問題、千冬は口を開き見ていた。そう言おうとするも口は開くが、言葉が出ない。普段なら出るはずの言葉が出ない。

 

「あ……え……」

 

『3…2…1…0! はい、時間切れぇ! おめでとぉ、全問不正解!』

 

束の馬鹿にした言い方に千冬は怒鳴る気力もなかった。

 

『お~い、聞こえてるぅ? まぁ怒鳴る気力も湧かないかぁ。自分がどれ程いっくんの事を見ていないか、分かったんだから』

 

「……お前は」

 

『ん~?』

 

「お前なら、…全部答えられるのか?」

 

『当たり前じゃん。誰からも見向きもされない、姉のお前にもちゃんと見て貰えない。そんな可哀想ないっくんをこの束さんが突き放すと思う? どんな小さなことでも、どうでもいい事でも束さんはちゃんと聞いてあげたし、見てあげた』

 

束は誇らしそうに、そして懐かしそうな口調で言う。

 

『これで分かっただろ? お前は結局何もいっくんの事を見てあげてない。ただ繋がりしか見ていない。家族ごっこしか出来ないお前とは違い、アラドさんはちゃんといっくんの事をまるで本当の息子の様に接している。あっちの方が本当の家族だと思えるほどにね』

 

「……」

 

束の言葉に千冬は何も返さずただ下ばかりを見つめる。

 

『……それと今日いっくんに言われた事、お前はどうするんだよ?』

 

「……私が白騎士であることか?」

 

『そう。あの時私が頼んだのはミサイルの撃墜のみ。けど、お前はそれだけじゃなく戦闘機やイージス艦も撃墜した。多くの人間を殺したお前は、どう責任を取る? 一応言うけど、こっちはあの時お前との会話内容とか全部録音してある』

 

そう言われ千冬は近くにある壁に背を預け崩れる様に座り込む。そして空模様が黒くなり始める。

 

「……公表しろ。そう言っているのか?」

 

『別に。お前が公表しようがしまいが束さんは知らない。それじゃあばいび~』

 

そう言い束は電話を切った。千冬は座り込んだ状態で地面にぽつぽつと雨が落ち、地面が濡れていく様子を見ている事しか出来なかった。




次回予告
エンシェントセキュリティー社に帰還したイチカ達。現状の戦力をスコール達と共に確認し、行動を考える。すると突然一人の男性がモニターに現れた。
次回
現状確認~久しぶりだね、キャシー~


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45話

IS学園から飛び立ち暫し飛行した後、エンシェントセキュリティー社の2隻目の空母『アルバトロス』が任務を終え帰還途中だった為着艦させてもらい一同はエンシェントセキュリティー社に帰還した。

 

数時間後、アルバトロスはエンシェントセキュリティー社に到着し機体を降ろし地下格納庫に停めるとイチカ達は指揮所へと向かった。

道中擦れ違うスタッフ達は忙しなく動いており、所々から怒声も聞こえていた。

 

「なんか何時もと雰囲気が違うな」

 

「だな。まぁ仕方ないだろ、オグマ社が全世界に対し宣戦布告をしたんだからな」

 

何時もと違い慌ただしく動くエンシェントセキュリティー社のスタッフ達をすれ違いながらイチカ達は指揮所へと到着した。

 

「デルタ部隊、ただいま帰還した」

 

「ラウラ・ラブリス、同じく戻りました」

 

指揮官用のデスクに居たスコールに向かいながら敬礼して挨拶するアラド達。スコールも同じく敬礼で返した。

 

「ご苦労様。帰って来て早々に悪いんだけどブリーフィングを行うから付いて来て」

 

そう言われスコールの後に付いて行くイチカ達。指揮所から少し離れたブリーフィングルームに到着し中に入ると、束、ナターシャ、オータム、そしていかにも堅気の親父と言った風貌の作業着を着た男性が居た。

 

「お待たせ、それじゃあブリーフィングを行うから皆デスクの周りに集まって」

 

そう言われ部屋の中央に置かれているディスプレイデスクの周りに集まる。

 

「それじゃあ単刀直入に言うけど、我がエンシェントセキュリティー社は今回のオグマ社の宣戦布告に対し真っ向から対立するつもりでいるわ」

 

スコールの言葉に皆、返事は無いが予期していた様な表情だけは浮かべていた。

 

「彼等が行おうとしているのは真の平和の為に集うように言ってるけど、実際は力による支配。そんなのは平和とは言わない」

 

「だな。で、戦う理由は分かった。それで兵力はどうするんだよ、スコール?」

 

オータムは腕を組みながら聞く。スコールは目線を男性の方に向けた。

 

「ラッセル。現状のエンシェントセキュリティー社の戦力は?」

 

「……正直言って無謀に近い。こっちの戦力と言えば航空パイロットがデルタを含めて50人居るかいないか。ISのパイロットは現状スコールを除いて12人。対して向こうは新型の戦闘機、更に例の緑色の戦闘機、ドラケンだったか? まぁ簡単に言えば対IS兵器が大量にある。明らかに戦力的に向こうの方が多い」

 

「……地上の部隊は「相手は空だ。地上から攻撃できるのは限度がある。それに…」それに?」

 

ラッセルはしかめっ面を更に険しくし、ディスプレイの画面を変えた。

ディスプレイに映っているのは、ある国に出現したドラケンが上空に向かって飛んで行く映像だった。

ドラケンは真っ直ぐ空へと向かって飛んで行き遂に見えなくなってしまった。

 

「向こうは多分、宇宙に行けるような機体だ。そうだろ、デルタのリーダー?」

 

「……あぁ、行ける。だから実質戦力になるのは」

 

「デルタ部隊の6機、そしてIS部隊の12人のみ」

 

悔しそうな表情を浮かべデスクに置いた拳を力強く握りしめるスコール。すると束が突然

 

「いや、もっと増やせるよ」

 

「「「「「はぁ?」」」」」

 

突然増やせると言った束の言葉に部屋に居た全員が口を開け束の方に顔を向ける。

 

「どう増やすのよ。宇宙で活動できる兵器なんて、この世界の何処にも無いわよ」

 

「甘いなぁ、スーちゃんは。無ければ作ればいい。そして、束さんはそれを成功させたのだぁ!」

 

人差し指を天井に向かって突き出してどや顔を決める束に、全員怪訝そうな顔を浮かべていた。

 

「向こうが擬似コアを使ってヴァルキリーを飛ばしているなら、こっちも同じようにすればいい」

 

「束さん、どう言う事ですか?」

 

束の言葉に全員首を傾げる。

 

「だからそのままの意味だよ。今回の首都防衛で意識を取り戻して航空基地に着陸したヴァルキリーあるじゃん」

 

「あぁ、ありますね。……まさか」

 

「そう、そのまさか」

 

そう言い束はポケットからある物を取り出しデスクに置く。それは野球ボールほどの大きさのもので光り輝いていた。

 

「博士、まさかこれって」

 

「そう、今回着陸したヴァルキリーに装着されていた擬似コア」

 

「「「「!?」」」」

 

突然束が取り出したものが、今回の騒動の原因とされる擬似コアでしかも、なんの悪びれもしない感じで出したのだ。

 

「ちょ、ちょっと勝手に持ち出してきたの!?」

 

「だってぇ、危ない代物なんだよ? これが日本政府の連中の手に渡ってみなよ。あいつら喜んで大量生産するよ」

 

そう言われ、何とも言えなくなるスコール達。

 

「えっと、Dr篠ノ之。もしかして他の機体のも?」

 

「うん。着陸した機体全部抜いてきた」

 

そう言われスコールは、若干眩暈を引き起こし顔に手を当てる。

 

「もう、勝手に行動しないでよ。バレたらどうするのよぉ」

 

「大丈夫、大丈夫! 証拠なんて何にも残ってないし」

 

そう言いながら笑う束に全員ガックシと肩を落とすのであった。

 

「それじゃあ、話を戻すわよ。束、その擬似コアをどうするの?」

 

「簡単だよ。これを私が模倣してこれと同じような物を作る。そしてそれを既存の戦闘機に組み込んで宇宙でも戦えるようにすればいい。また戦闘機を作るとなると時間もかかるからね。断然こっちの方が早い」

 

そう言われ、確かに。と納得の表情を浮かべる。だが、ラッセルだけは違った。

 

「おいおい篠ノ之博士。機体はそれで何とかなるが、パイロットはどうする? 今うちに居る連中だけじゃあ足りないだろ」

 

ラッセルの言葉に、束の口が尖る。

 

「其処なんだよねぇ。無人機にするっていう手もあるんだけど、データ採取を行ってあらゆるパターンとかを入力しないと上手くいかないから時間を要するから使えないんだよねぇ」

 

束の説明にまた暗礁に乗り上げた。皆そう思いながらどうするか思案していると、部屋に備えられている内線用の受話器が鳴り響く。スコールは受話器を手に取り耳に当てた。

相手は指揮所に居た通信スタッフであった。

 

『会議中申し訳ありません、スコール司令』

 

「別に構わないわ。それで、どうしたの?」

 

『実は、スコール司令のお知り合いと言う方から映像通信が入っているのですが、いかが致しましょう?』

 

「知り合い? 名前は何て言ってるの?」

 

『えっと、ビンセントと言っていました』

 

通信スタッフが言った名にスコールは若干驚いた顔を浮かべるもすぐに応対した。

 

「分かった。繋いでちょうだい」

 

『了解しました』

 

そう言うと部屋に備えられている壁の大型ディスプレイに一人の男性が映し出された。

 

『久しぶりだね、キャシー』

 

「えぇ、本当。久しぶりね」

 

スコールは画面に映った男性に向け懐かしそうな表情を浮かべていた。

 

「あの、スコール司令。えっと、キャシーって誰ですか? あとあちらの男性は?」

 

イチカ以外、他の面々も茫然と言った表情を浮かべておりスコールを見ていた。

 

「あ、そう言えば言ってなかったわね。私のスコールって言うのはコードネームで、キャシーは昔使っていた名前の一つ。で、画面に映っている男性はNATOの最高事務総長、『ケビン・ネイマー』。私の元夫よ」

 

「「「「「……はぁーー!!!???!」」」」」

 

スコールの淡々と言った説明にブリーフィングルームに居た全員が驚きの余り、声を張り上げた。

 

「も、ももも、元旦那!?」

 

「け、結婚していたのか、スコール!?」

 

「キャシーって名前、初めて聞いたぞ!?」

 

古くから付き合いの長いマドカやオータム、そしてラッセルはそう声を漏らし、イチカ達は声を上げた後茫然と言った表情を浮かべていた。

 

「随分昔の事よ。まだ若かった頃に彼と出会って恋に落ちて結婚。けどお互い仕事で忙しくてまともな結婚生活が出来なかったから、円満離婚したのよ」

 

懐かしそうに説明するスコールにケビンも懐かしいな。と呟きながら同じ表情を浮かべた。

 

「それで、わざわざ貴方が此処に連絡した理由はなに?」

 

『うむ、君は例のオグマ社の放送は見たかね?』

 

「えぇ。というよりも世界中の電波をジャックして放送していたのよ? いやでも見るわよ」

 

そう言いため息を吐くスコール。

 

「それで、もしかしてそれが関係しているの?」

 

『あぁ、私から君達エンシェントセキュリティー社に依頼を出したい。オグマ社の暴挙、これを止めて欲しい』

 

ケビンは真剣な表情でスコール達に顔を向けた。

 

「……私達だけで止めろ。そう言っているの?」

 

『無論君達だけじゃない。NATOも参加するつもりだ。彼等の隠れ家を見つけたらすぐにでも其処に「残念だけど、彼等はもしかしたらこの地上に居ないかもしれないわ」どう言う事だね?』

 

ケビンはスコールから地上にはもういないという言葉に首を傾げた。スコールは今まで話し合っていた事をケビンにも話すと、ケビンは険しい表情を浮かべる。

 

『なるほど、彼らは地上ではなく宇宙に居る可能性がある。そう言う事かね?』

 

「恐らく。けど、問題は本当に宇宙に居るかどうかよ。そんな宇宙基地みたいな物、存在するはずが『いや、一つだけある』どう言う事?」

 

『これは極秘事項に当たるものだが、もはやそのようなことを言っている猶予はないし、説明するよ』

 

そう言いケビンはあるデータをディスプレイ上に出した。

 

『これは随分昔、私がNATOの事務総長になる前に計画されていた物だ。プロジェクトの内容はこの先の未来、万が一宇宙で戦争が勃発した時にそれを止める基地が必要と言う事で宇宙に基地を立てる計画が立案、実行された。当時のNATO所属の各国が技術を出しあって建設が行われていたが、計画は途中で中断。理由は計画されていた予算よりもさらに大幅に超える事が後から分かった為だ。そして途中で中断された宇宙基地はその後放棄されたんだが、3年程前から行方が分からなくなっている。恐らくその基地を拠点にしているんだろう』

 

ケビンの説明に全員、その基地か?と思い考えこむ。

 

「……可能性が出てきた以上、やるしかないわね」

 

そう呟きスコールは決意した顔を浮かべ、部屋に居た全員を見渡す。

 

「これよりエンシェントセキュリティー社は戦闘準備態勢に移行。デルタを含む航空部隊及びIS部隊は宇宙に上がる。束、例の件しっかり頼むわよ。人員はウチとNATOの人員で「まだ問題があるぞ、スコール」……まだ何があるのラッセル?」

 

「戦闘機をどうやって宇宙にあげる? それに燃料の問題もあるぞ」

 

「いや、燃料は擬似コアから供給すれば問題無いよ。けど流石に戦闘機を宇宙にあげるのは難しいかな」

 

ラッセルの問題、燃料は問題無しと答える束。だがもう一つの輸送方法だけは難色を示していた。

 

『アメリカのフロリダ州にある試作のマスドライバーはどうだろう? 確か大型の宇宙輸送機もあったはずだ』

 

「あぁ、あれ。使えるの?」

 

『整備は必要だろうが、早急に準備するよう伝える』

 

「束、どう言う物か知ってるの?」

 

「結構前に実験用に造られていた物で、大型宇宙輸送機もその実験用の為に建造された物だよ。あの大きさなら1機に15機は入るはずだよ」

 

「……15機。それが何機あるの?」

 

「確か5機ほどだったかな? 何機か実験用って事で製造して、それで2機ほどが本格的に使用を考えて造られたけど、マスドライバー計画が中止になって放置されてる」

 

思い出しながら話す束にスコールはそう。と返し、ケビンの方に顔を向ける。

 

「ケビン、直ぐに動かないといけないから此方で選抜した航空部隊を送るわ。それと整備の為に博士も送るわ」

 

『分かった。すぐにNATO所属国に緊急招集を掛ける』

 

そう言ってケビンとの通信は切れた。

 

「…忙しくなるわ。皆、頼むわよ」

 

「「「「了解」」」」

 

そう言いそれぞれ準備の為部屋から出て行く。

 




次回予告
エンシェントセキュリティー社に依頼後、ケビンはNATO所属国を招集しエンシェントセキュリティー社と共にオグマ社を止めることを伝えた。
だが各国高官は難しい顔を浮かべていたが、ある国が名乗り上げた

次回
緊急招集


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46話

オグマ社の宣戦布告から3日目のある日。ブリュッセルにあるNATO本部の議事堂にて事務総長であるケビン・ネイマーが一番前の席に立ちながら、目の前に座っているNATO所属国から集まってもらった政府高官を見渡す。

 

「お集まりいただき感謝します。今回お集まりいただいたのは他でもありません、オグマ社の事です。かの会社は全世界に対し真の平和をもたらすと宣言をし、自分達の元に集うよう言いました。ですが、彼等が行おうとしているのは力による支配です。私はその様な暴挙は断じて認められません。ですのでNATO事務総長としてオグマ社の暴挙を止めるべく、私は皆さんのお力をどうかお貸し頂きたい」

 

ケビンは全体を見渡し言うが、各国の高官は難色の顔を示していた。

 

「ケビン事務総長、オグマ社の件は我々も何とかしたいと思っている。だが奴らが行った奇襲で軍の一部は損害が出ている。現状自分達の国の事で精一杯なんだ。それなのに、オグマ社を止めるなんて無理だ」

 

「我々もだ。今現在都市部での戦闘で多くの国民が被害を受けた。そんな中軍も大きく被害を受けた。むしろ我々の元に救援を回してもらいたいほどだ」

 

「むしろ今回の一件が起きる予想を何故アメリカは見抜けなかったんだ?」

 

「我々もまさかこのような計画を立てていたなんて、分かるわけが無いだろ! それにオグマ社社長、ジェフ・ドースはかなり頭がキレる男だ。我々の目を掻い潜ることくらい容易だったんだろう」

 

「事務総長、我々NATOだけで行うのですか?」

 

「いえ、私の知り合いが民間軍事会社を営んでおり、其処にも依頼を出しました。名はエンシェントセキュリティー社です」

 

「民間のですか……」

 

「民間の軍事会社では余りにも戦力的に著しいですな」

 

各国は自分達の国の事で手が一杯だと声を荒げる。その光景を見つめるケビンはやはり無理か。と、若干諦めかけていた。

 

(各国の力を借りなければ反抗はほぼ無理になる。特にアメリカにあるマスドライバーが無ければ……)

 

そう思いスコールになんと報告すればと暗い気持ちを抱いていると

 

「我がドイツは参加を表明する」

 

そう立ち上がり宣言したのはドイツの大統領だった。

 

「ドミニク大統領」

 

「エンシェントセキュリティー社には借りがあります。それに彼らが行おうとしている事には私も容認できません」

 

ドミニクはそう宣言すると、他の国からも我が国も出す。と声が上がる。

次々と参加表明が上がり、ケビンは同じ志を持った者達が居たことにホッとしていた。

そしてケビンはアメリカの大統領の方に顔を向ける

 

「……サイモン大統領、お願いがあります」

 

「何でしょう?」

 

「参加の無理強いはしません。その代わりにフロリダ州にあるマスドライバー施設をお借りしたい」

 

「マスドライバーを? ……理由をお聞かせいただいても?」

 

「此方で独自に調査したところ、彼らはもしかしたら宇宙に建造されている要塞から来ているのではと考えているのです」

 

ケビンの報告に各国はどよめきが走る。

 

「宇宙からだと? そんな報告何処からも「いえ、可能性はあります」 サイモン大統領?」

 

「……オグマ社の奇襲を受け、被害を受けた基地の応援に向かっていた航空部隊の一つが撮影した映像に空に上がって行く機影が見えた。だから少なからずそんな予想はしていた」

 

サイモン大統領の説明には各国は信じられないと言った表情を浮かべた。

 

「……マスドライバーの件は了承しましょう。施設にある物は何を使って貰っても構いません。ですが、それで宇宙に上がったところで兵器なんてあるんですか?」

 

「現在篠ノ之博士が彼らに対抗するための装置を開発しています。その為参加を表明された国にお願いするのは、選りすぐりの戦闘機のパイロットと戦闘機です」

 

篠ノ之博士が対抗する装置を発明している。その言葉にどよめきは強くなった。

対抗できる装置があるなら戦える。そう思ったのか参加表明をする国がさらに増えた。

皆が一丸となって戦おうとしている姿勢にケビンは力強く声を上げた。

 

「これより我々はNATO及びエンシェントセキュリティー社との統合軍を編成し、オグマ社の暴挙を阻止する!」

 

その宣誓に各国は力強く拍手を行った。




次回予告
統合軍編成が決定して数日後、フロリダのマスドライバー施設に参加表明した各国の航空パイロットが集っていた。
そして束主導の元行われていた擬似コアが組み込まれた戦闘機の説明が行われ、大型宇宙用輸送機に乗り込む。
だが其処にオグマ社のVF-0フェニックス、そしてSu-27似の機体『SV-51』が現れた。
次回
打ち上げ~何としてでも守り切れ‼~


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47話

ラストまで来たのでこのまま終わらせる勢いで書いて行きます。

誤字等に気を付けて書いておりますが、間違っていたら申し訳ありません


NATOそしてエンシェントセキュリティー社の航空部隊の連合軍結成が決まった日から数日が経った。

あれから参加表明を決めた国から次々と選りすぐりのパイロット達がアメリカのフロリダ州へとやって来た。

マスドライバー施設は大きな施設ではあるが、数多くの戦闘機が並びその光景は普段は大きなレールしかなかった施設とは思えない程驚愕な景色だった。

 

「よぉ、お前等も参加していたのか」

 

「当たり前だ、俺達の国で好き勝手されたんだ。やられたらやり返さないと気が済まねぇんだよ」

 

「はっ、そいつは言えてるぜ。一体誰に喧嘩を売ったのか思い知らせないとな」

 

集ったパイロット達は皆やる気に満ち溢れていた。

其処に別々の国だからという差別的な物は無く、皆同じ志を抱いていた。

すると一人のパイロットが何かに気付き空に向かって目を凝らす。

 

「どうしたんだ?」

 

「あれ、なんか飛んできていないか?」

 

「えっ? 本当だ、なんだよあれ?」

 

彼等の目線の先には6つの黒い点が飛んでいた。それは近付くにつれハッキリと見えてきた。

 

「おい、あれってISじゃないのか?」

 

「なんだってISが此処に? 何処の連中だ?」

 

そう言っているとIS群は着陸し一番前に居た機体が解除され眼帯をした女性2人が降りた。

 

「ドイツ軍IS特殊部隊、シュヴァルツェ・ハーゼ隊隊長を務めているクラリッサ・ハルフォーフ大尉だ。連合軍指揮官はどちらだろうか?」

 

「イタリア代表のアリーシャ・ジェセスターフなノサ。イタリア政府からの依頼で今回の作戦に参加しに来たノサ」

 

「おいおい、ISはアラスカ条約で戦争行為は禁止「NATO事務総長からの直々の命令だ」IS委員会の連中が黙ってないだろ流石に」

 

「それも問題無いサネ。何か色々交渉して黙らせたって言ってたからノサ」

 

そう言われ何とも言え無くなるパイロット達。すると次々に他の国のIS達もやって来た。その数は20人まで増えた。

 

現場にISが来たという報告は現場指揮を任されているスコールの元にも届き、通信回線を開き彼女達の参加に感謝した。

そしてIS部隊の臨時編成も行われると、場内放送が響き渡った。

 

『通達する! これより篠ノ之博士が戦闘機に新たに付けられた装置の説明を行う。各自速やかに第4ハンガー集合せよ! なお、この説明以外に通達次項がある為ISパイロット達も参加するように!』

 

そう放送が流されぞろぞろとパイロット達はハンガー内へと入ると戦闘機が一機止められているのとその前に椅子が並べられており、それぞれ席へと付いて行く。

席に着き終えそれぞれ話し声が無くなると、彼等の前に束がやって来た。

 

「はぁ~い、それじゃあ今から君達がこれから乗ってもらう戦闘機の新たな装置を説明しまぁす! 後ろ聞こえてるぅ? 聞こえたら、手を振ってくれるぅ?」

 

そう言うと一番後ろの席のパイロット達は手を挙げ振った。

 

「おけおけ! それじゃあ説明しまぁす! 今回君達が乗って来てもらった戦闘機に取り付けた装置。それは今回の騒動の原因となっている機体、あれと同じような物です」

 

束の一言に皆がやがやと騒ぎ始め、困惑の表情を浮かべる。

騒がしくなっている中、束は大型の空間ディスプレイを映し出した

 

「はいはい、静にぃ! 実はオグマ社の機体にはISコアと同じもしくはそれ以上のパワーを有した擬似コアが存在している事が分かった。それで、束さんはこの擬似コアと同等の力を出せるものを作り、君達の戦闘機に組み込んだのだ」

 

ディスプレイに映し出された、フェニックスから取り出されたコアを見せながら説明する束に皆困惑から驚きの表情へと変わっていく。

 

「博士、それはつまり普通の戦闘機でもあいつ等を墜とせる。そう言う事ですか?」

 

「今回組み込んで出来たのは戦闘機の装甲面に特殊な電磁バリアみたいなのを張り気圧だとか気密性を上げ、宇宙でも戦えるようにした事と、化石燃料ではなく擬似コアからのエネルギーを使って飛べるようにした事、あとはミサイル、特殊兵装を多く持てる位しか出来ない。墜とせるかどうかは君達の腕次第だ」

 

「……本当に俺達の腕に掛かっているのか」

 

「そう言う事だよ。それと、電磁バリアは防御面にも優れているからある程度ならダメージを受けても暫くは飛び続けられるよ。けど、分かっていると思うけど絶対じゃないから」

 

そう言われパイロット達は緊張感が走る。

 

「戦闘機に関する説明は以上。質問は?」

 

「では、一つ。その電磁バリアはどの位張っていられるのですか?」

 

「機関砲位なら暫く大丈夫だけど、ミサイルとなったら2,3発が限界かな。それと向こうはレーザー兵器を持っているかもしれない。そうなったら一瞬でお陀仏だよ」

 

「れ、レーザー兵器!?」

 

「戦闘機に載せられるレーザー兵器よ。擬似コアがあるから出来る事か」

 

とんでもない兵器を向こうは持っている事に皆眉間にしわが寄る。

 

「他は? 無いようなら、次の説明に行くよ」

 

そう言い束は何処からか何かを着せたマネキンを出し皆に見える様空間ディスプレイにも投影した。パイロット達はパイロットスーツだと思ったが、通常のスーツとは違い布ではなくぴっちりとしたタイプのモノで胸の部分には小型のBOXが付けられ、ヘルメットは通常目の部分に遮光ガラスがスライドできるようになっており、マスクは取り外しが出来るようになっているはずだが、マネキンに被せられているのは顔の部分がオレンジの遮光ガラスだと思われるものが付いており、顎下からチューブが胸の部分のBOXに繋がっていた。

 

「此方は皆に着てもらう宇宙用のパイロットスーツです! 通常のモノとは違い若干重みはあるけど宇宙空間ならそれくらいは問題は無し! 酸素は戦闘機のコックピットに居る限りは常に循環して供給できるけど、万が一イジェクトして宇宙に放り出された場合約5時間は酸素は何とかなる。それ以上伸びた場合は死ぬ」

 

「…5時間ですか?」

 

「此処まで小型するのだけでも結構苦労したんだよ。これ以上大型になったら操縦などに支障きたす。まぁ宇宙に放り出されても一応胸のBOXにGPSを組み込んでいるから直ぐに救助を行うよ。救助はIS部隊に任せるから、頼んだよ」

 

そう言われIS部隊の面々は力強く頷く。

 

「因みにこのスーツはIS部隊にも万が一の備えと言う事で渡すから。それじゃあ質問とかある?」

 

束がそう質問するも、誰も手を挙げなかった。

 

「無しだね。それじゃあ説明は以上で終わり。各自シャトルに乗り込む様に!」

 

そう指示を出され、パイロット達は席を立ちシャトルの元に向かう。

 

「いよいよ宇宙か」

 

「あぁ、初めてだがやらねぇとな」

 

アメリカのパイロット2人がそう話し合っていると一人の青年が2人の元に駆け寄ってくる。

 

「中尉殿、少尉殿!」

 

「ん? おぉ、ジョー。どうして此処に?」

 

「はい、実は中尉殿達のお見送りに来ました!」

 

そう言い笑顔を浮かべながら敬礼するジョー事、ジョージ・ハンセン。最近彼らの部隊に入ったばかりの新人パイロットだった。

 

「はっ、見送りに来る位なら腕を少しでも上げろっての」

 

そう言い少尉の男性はジョーのおでこを人差し指と中指の2本で小突く。

 

「イテっ。す、すいません」

 

「おいおい、折角見送りに来てくれたんだ。それに他の連中も見送りに来ている奴らが来ているじゃないか」

 

「そうですね。ジョー、俺達が帰ってくるまでに少しでも腕を上げておけよ」

 

「はい!」

 

元気よく敬礼するジョーに二人は朗らかな笑みを浮かべる。

そして2人はシャトルの元に向かい乗り込んだ。

 

それぞれ席に着きパイロット達は発射まで待っていると艦内放送が流れ始めた。

 

『私はNATO事務総長のケビン・ネイマーです。この放送をお聞きの全ての人達にお伝えしたい。我々は過去何度ともなく争いを行い、傷つけ合って来ました。だがそれでも我々は苦しんでいる人々が居れば手を差し伸べ、そして支え合い平和を築いてきました。だが今その平和を壊そうとしている者の手によって多くの国で血が流れました。何処の国で血が流れようとも、その痛手は全世界の痛手なのです。しかし今我々の友人達がその者を止めるべく行動を始めています。国などの違いなど関係なく、彼らはただ未来ある明日の為にです』

 

ケビンの放送が世界中に放送されていた。彼が出来るのは此処まで。ならばせめて飛び立つ彼らに少しでも勇気をと思いこの放送が行われたのだ。

 

マスドライバーを操作する制御室では大勢の作業員が慌ただしく動いていた。

 

「パイロット及び戦闘機格納完了!」

 

「了解。エネルギー充填開始!」

 

そう言い作業員の一人がメーターを確認する。

 

「エネルギー、25%!」

 

「よし、何の問題も無くこのまま《ビー、ビー、ビー!!》っ! どうした!」

 

突然の警報に施設管理者の一人が声を荒げレーダー担当の作業員に問う。

 

「北東の方角からアンノウン急速接近! 数は10機!」

 

「くそ、航空隊発進! それと対空車両もだ! 何としてでもマスドライバーとシャトルを守り切るんだ!」

 

そう指示が飛ぶと、施設防衛の為に来ていたパイロット達は急ぎ戦闘機に乗り込み空に上がった。その内の一機にジョーもいた。

 

「絶対に守り切って見せる」

 

そう呟き編隊に入った。

 

『敵機を視認! 各機散開して攻撃開始!』

 

そう指示が飛ぶと、それぞれ散開し接近してくるフェニックス、そしてSu-27似の機体、SV-51に対し攻撃を開始した。彼等が乗っている機体も束が作成した擬似コアが組み込まれており、防御面と携行できるミサイルが多くなったことで何とか敵を対処出来ていた。だが、やはりフェニックスなど可変戦闘機の方に若干押される。

 

『対空施設等準備完了! 攻撃開始!』

 

その無線と共に施設内に急遽設置された対空機銃(AAGUN)地対空ミサイル(SAM)がフェニックス撃墜に手助けしているおかげで押し返し始めた。

 

『いいぞ、状況を押し返し始めて『新たな敵機が接近!』またか!』

 

『後どのくらいで終わるんだ!』

 

『今現在で85%。あと5分です!』

 

『了解! 各機、それまで持ち堪えるぞ!』

 

そう叫び各機はフェニックス等を撃墜すべく奮闘していると、ある一機が水面ギリギリを飛行していくSV-51を発見した。その翼には大型のミサイルが搭載されていた。

 

『こちらオメガ2! 不味い、敵の大型ミサイルを確認! 奴を止めろ!』

 

そう叫び、大型ミサイルを搭載している敵機を止めようと何機か向かうも、フェニックスがそれを阻止する。

そうこうしているうちに大型ミサイルが放たれ、真っ直ぐマスドライバーのレールに向かっていく。

 

『ミサイルが発射された!?』

 

『何としてでも止めろ!』

 

『無理だ、間に合わない!』

 

もはや此処まで。誰もがそう思っていた矢先

 

『うぉおおおおぉお!!!』

 

そう叫びながらミサイルの前に向かう機体があった。

 

『お、おいあの機体何をする気だ!?』

 

『ま、まさか。ジョー、止めろぉ!』

 

そう止める叫び声が響く中、F-16に乗ったジョーはスラスターを全快にしミサイルとの前に出た。

 

(中尉、少尉。後は、…頼みます)

 

そう思ったと同時にミサイルはジョーの機体にぶつかり爆発した。

 

『じ、ジョーーーー!!?』

 

『くぅう、アイツの死を無駄にするなぁ! 絶対に次は発射させるなぁ!』

 

空にいるパイロット達全員は彼の死を無駄にしないべく、攻撃を強めた。機銃で撃たれようが、ミサイルの攻撃を受け機動性が落ち様が戦い続けた。そして

 

『5…4…3…2…1…発進!』

 

その無線と共にシャトルは発進させられ、ぐんぐんとスピードは上がり打ち上げられた。

その間にも敵機を近づけまいと連合軍の戦闘機はフェニックスとドッグファイトを繰り広げていた。

そして全機が空に上げられるとフェニックス達は任務失敗と分かり何処かに飛んで行く。施設防衛に就いていた戦闘機はそれを追撃することなく、ただ打ち上がったシャトル群を見送った。

すると操作室から無線が入る。

 

『全員ご苦労だった。後は彼等次第だ。彼等に神のご加護があらん事を』

 

 




次回予告
宇宙へと上がった5機と合流するように、マクロスエリシオンが現れた。
そしてエリシオンの事を説明しつつ、作戦を説明。そして連合軍は目的の要塞へと向かった。

次回
航空宇宙連合軍~それじゃあ作戦を伝えるわ~


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48話

マスドライバーから無事打ち上げられた輸送機は宇宙へと飛び出しており、エンシェントセキュリティー社の別動隊が待っている宙域に向かっていた。

 

「おい、この辺なのか。エンシェントセキュリティー社の別動隊がいるっていう場所は?」

 

「確かだ。GPSはこの辺を指しているが。デブリ以外何もないぞ」

 

そう言いながら輸送機のパイロット達は周辺を見渡すが、特にシャトルらしきものは見えなかった。すると突如無線が入った。

 

『此方スコール・ミューゼル。トロイ各機、聞こえる?』

 

「此方トロイ1、感度良好。指定地点に到着しているが、何処に居る?」

 

『少し待ってちょうだい』

 

そう言われ通信が切られる。すると突如目の前に大型の船が現れた。

 

「うおっ!? どっから現れたんだよ!」

 

「いきなり目の前に現れやがった。まさか、光学迷彩か?」

 

「てか、まさかこの船エンシェントセキュリティー社所有とか言うんじゃないだろうな?」

 

「あの篠ノ之博士が居るPMCだぞ。可能性はあるな」

 

そう言いながら輸送機は船の横に並ぶよう停まる。

 

『御免なさいね。敵に我々の存在に気付かれるわけにはいかなかったから、船を隠していたのよ』

 

「そう言う事ですか」

 

『それじゃあ、パイロット達を各輸送機に備えられているミーティングルームに集合させて。作戦を伝えるから』

 

「了解です」

 

スコールからの指示を聞いたパイロットは、搭乗している戦闘機とISのパイロット達にミーティングルームに集合するよう指示した。

それから数分後

 

『此方トロイ1。全員集合しました』

 

『トロイ2も集合しました』

 

『3も完了です』

 

『4、あと一人…今来ました。大丈夫です』

 

『5、此方も集合しました』

 

そう言い各機のミーティングルームに備えられているカメラに全員が映っているのを確認したスコールは頷く。

彼女が今いるのは、マクロス・エリシオンに備えられている作戦指揮所だ。ケビンに頼まれ彼女が指揮をとる事となり、現場をいち早く確認するべくエリシオンに搭乗したのだ。

無論彼女だけではなく、IS部隊のオータムやナターシャ達もいた。

 

「では、私が本作戦を指揮することになったエンシェントセキュリティー社のスコール・ミューゼルよ。先に貴方方に言わなければならない事が幾つかあるけど、これだけは先に言っておくわ。今あなた達が見ている大型の船、此方は一切の他言を禁ずる。例え上の指示があったとしてもよ」

 

『それは、エンシェントセキュリティー社の戦力を隠すためにですか?』

 

「いいえ、話は色々絡まっているのよ。だから「スコール司令、別に話しても問題は無い」……いいの?」

 

「あぁ。だが、約束してほしい。俺達の事、そしてこの船の事を一切口外しない事を」

 

アラドは真剣な表情でそう伝えた。各輸送機のパイロット達はお互いの顔を見合ったりしていると

 

『アメリカは了承する。別に上に報告したところで信じてもらえるかどうか怪しいしな』

 

『……ロシアも了承する。正直言ってDr.篠ノ之でもその船を造れるとは、到底思えないし、今の我々でもこれは無理だろう』

 

アメリカ、そしてロシアが了承すると他の国のパイロット達も了承していき、アラドはありがとうと頭を下げる。

そしてアラドは自分達の事を話し始めた。異世界からきた事、そして敵は自分達の世界に居た何者かで、裏で糸を引いてるかもしれない事を。

それを聞いたパイロット達は神妙な顔を浮かべていた。

 

『それじゃあ、アラド少佐。今回の戦争、引き金を引いたと思われる人物は誰だとお考えなんだ?』

 

「一番有力なのは、“ロイド・ブレーム”と言う男だ。この男は自身が仕えていた王を暗殺し、国を掌握。永遠の命を得ようとして自身の計画を実行するも、それに反対する者達、そして俺達デルタ部隊がそれを阻止した。その時に奴が居た場所は爆発で炎に包まれた。だから死んでいるはずなんだ。だが」

 

『どう言う訳か、この世界にあんた達の世界の技術が現れた。そう言う訳か』

 

その通りだ。と返しアラド達デルタ部隊の面々、そして連合軍のパイロット達は難しい顔を浮かべる。

 

「…今此処で裏で誰が糸を引いているか考えるのは後にしましょう。それより束、貴女が発見した事を皆に話して」

 

「ん? あぁ、あれね。ほいほ~い」

 

返事を返しながら束はディスプレイを各機体に見える様送る。其処には何やら難しい図やら人体図などが映し出されていた。

 

『は、博士。これは一体?』

 

「説明するから、ちょい待ちなって。えぇ~、それじゃあ説明しまぁす。実は此方に居るデルタ部隊のメンバーの一人が、敵の通信を傍受して見つけてくれたものなんだぁ」

 

そう言い束は再生ボタンを押すと、人とは違う機械で作られた声の歌が流された。

 

「この歌、新型に乗っていたパイロット達に聞かされるように流されていて、何故流されていたのか調べたら面白いことが分かったよ」

 

そう言い束は曲の歌の部分を消して流す。

 

《敵を撃て。自分が乗っている機体以外は全部敵だ。真の平和の為に倒せ》

 

そう言葉が流れた。

 

「歌の中に暗示を隠していたんだ。普通に聞いても恐らく誰もこの言葉に従わない。けどあの時のパイロット達だけは違った。それは何故か。彼等の体内からある物質が見つかった。それが催眠薬の成分だった。で、何処で摂取したのか調べていたら、催眠から解放されたパイロットの一人が朧気だけど憶えていた。乗る前にオグマ社が用意したアップルパイとリンゴ風味のミネラルウォーターを口にしたと」

 

『まさか、その二つに催眠薬が?』

 

「いや、調べてみたけど検出されなかった。で、試しに二つを合わせて調べたら検出された」

 

『ふたつが合わさって催眠薬になるだと? 一体どうやって?』

 

「ある会社が麻薬を科学的に分離してゼラチン性のカプセルに混ぜ込み、ふたつ合わさって初めて麻薬となる物を開発したことがあったんだぁ。結局その会社の社員の内部告発で潰れたけどね。恐らくその技術を使ったんじゃないかな?」

 

『チッ。薬を使って奴隷にみたいにしたってことか』

 

『ふざけやがって』

 

パイロット達全員が怒りの顔を浮かべる中、束は説明を続ける。

 

「説明続けるよぉ。で、薬で催眠状態に陥ったパイロット達にこの歌を聞かせ攻撃を仕掛けた。けど、日本では何機かは正気を取り戻した。その方法が、歌だった」

 

『歌だと?』

 

「そう。有得ないと思っていたけど、有得たの。彼女たちの放つ歌は丁度、催眠の歌に干渉して無効化するみたい。無論絶対じゃない。症状が軽ければ治るけど、重いと時間がかかる。だから、この戦争中は歌を生で全体に流す」

 

『おいおい、まさか歌手を戦場に立たせるのか?』

 

『危険すぎるだろ。せめて録音して流せばいいじゃないか』

 

パイロット達がそう反論するも、束は首を横に振った。

 

「残念だけど、録音だと効果が半減するんだ。だから生じゃないといけない。問題無いよ、彼女達を守る守護者たちは居るから」

 

そう言い束はニッと笑みを浮かべデルタの方に向ける。

 

「……兎に角向こうの戦力を削れるかもしれない方法が有る以上、それを活用していかなければいけない。我々だけでも戦力的に乏しく、勝算は低い。けどやらなければいけない」

 

スコールの言葉に全員覚悟を決めた表情を浮かべる。

 

「では、これより敵要塞がある方向に向け進路をとる。全員覚悟を決めて行くわよ!」

 

「「『『マム・イエス・マム‼』』」」

 

そう言い敬礼するパイロット達。

そしてマクロス・エリシオンと輸送機は要塞に向け出発した。




次回予告
要塞がある方向に向け進路を取っていると、突如敵機が襲来。航空機を発進させ迎撃に打って出る。初の宇宙での戦いに慣れないパイロットが居る中、奮戦しあと少しで撃滅できると思った所、突如不明機が現れた。
次回
ボギー(所属不明機)出現~この動き、まさか!?~


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49話

地球から飛び立ち飛行を続ける5機の輸送シャトルとエリシオン。

何処を見ても真っ暗な空間が広がっており、まるでちりばめられた宝石の様にきらきら光る星々しかなかった。

 

「見渡す限り何光年も先で光っている星々とデブリしかないな」

 

「だな。それより、訓練シミュレーターはもうやったのか?」

 

「あぁ、あれか。やったけど、地上と違ってどっちが上か分からなくなっちまうよ」

 

「確かに。おれもどっちが上だったか途中で迷っちまったよ」

 

そう言いながら苦笑いを浮かべるパイロット達。

彼等に言い渡されているのは1時間以上は宇宙に設定された訓練シミュレーターで訓練する事。地上での戦闘には経験は豊富でも宇宙での戦いとなれば彼らは初。その為少しでも戦闘に慣れる様にするべく束が用意したのだ。

 

「まだ慣れねぇけど、やらないと俺らがやられちまうからな」

 

「そうだな。そう言えば『全戦闘要員通達! 敵機接近を検知! 全員戦闘態勢!!』っ!? 早速実戦かよ!」

 

「だな! 急いで行くぞ!」

 

そう叫びパイロット達は急ぎ格納庫へと向かう。格納庫に到着したパイロット達は急ぎ宇宙用のパイロットスーツを着込み無重力状態の中、悪戦苦闘しつつコックピットに乗り込む。

 

『こちらエリシオン索敵レーダー担当のベス・マスカットです。敵の数は20機ほどです』

 

「了解した。各機聞いたな? 敵を掃討するぞ!」

 

『『『了解!』』』

 

機体に乗り込んだパイロット達は誘導員の指示の元機体を動かされ、簡易の甲板に載せられた。

 

『ヴァローナ隊、テイクオフ!』

 

『次、ノーラット隊出すぞ!』

 

そう叫びながら次々と飛行隊を射出した。無論エリシオンからもデルタ部隊のみならずアルファ部隊、ブラヴォー部隊も出された。

 

『こちらデルタリーダー。各機、ワルキューレ達を守りつつ敵を殲滅するぞ』

 

『『『『了解!/ウーラーサー!』』』』

 

アラドの指示に返事をしながらエリシオンから飛び立った。

編隊を組んだ世界中の戦闘機にイチカとマドカは若干圧倒された表情を浮かべつつも編隊に入る。

 

『各機、敵はα—3—9—4付近です。MAPとレーダーに注意しつつ戦闘を』

 

ベスの報告にパイロット達は警戒しつつ飛ぶ。そして

 

『敵機を視認!』

 

『各機散開! 敵を撃滅するぞ!』

 

無線から指示が飛ぶとパイロット達は散開しドラケンに向け攻撃を開始した。

 

『居るのは例のドラケンとか言う緑色の機体だけか』

 

『そうみたいだが、油断するな。エネルギー兵器を搭載しているらしいからな』

 

『敵にばかり集中するなよ! 岩とかデブリもあるんだ。ぶつかればただではすまんぞ!』

 

注意すべきことが無線から飛び交い、パイロット達は緊張しながらも操縦桿を握りしめる。

 

『此方ウォーウルフ2、敵の背後をとった!』

 

『ウォーウルフ2、無茶はするなよ!』

 

『ヴァローナ1、背後に敵機!』

 

『クソ、振り切れねぇ!』

 

『待ってろ、今行くぞ!』

 

連合軍の機体、そしてドラケンから放たれるミサイルがあちこちで飛び交っている中、エリシオンの甲板にワルキューレ達が現れた。

 

「それじゃあ皆、いくわよ!」

 

「了解!/うん」

 

「はいな!」

 

「えぇ」

 

カナメの号令に皆返事を返すと、歌い出した。

 

『いけないボーダーライン』

 

その歌が流れ始めると、ドラケン達に若干動きに変化が起こった。

 

『こちらウォーウルフ1、歌が流れ始めてから敵の動きが若干変化している』

 

『こちらノーラット1、此方もだ。攻撃を止め始めた戦闘機が居る』

 

そうしていると、攻撃を止め始めたドラケン達がちらほら見え始める。連合側は攻撃してくるのは重症者、もしくはオグマ社の人間かと考えていると

 

『こ、此方リオン2! 動きの速いドラケンが居る! 既に3,4が喰われた! ま、不味い……ぐわぁああぁ!』

 

『リオン2!? っ! 此方メイジ1、リオン隊をやったと思われる敵機を視認! は、速すぎる!? ブツッ…』

 

次々と何かに襲われている事に気付いた連合軍は直ぐにパニックとなった。

 

『おい、一体何が起きているんだ!』

 

『リオン隊とメイジ隊との交信が突然切れたぞ!』

 

『各機気を付けろ!』

 

そう無線が飛び交っている中、デルタ部隊も警戒を厳としていた。

 

「一体何が起きているんだ?」

 

『デルタリーダーから各機。気を付けろ、恐らくエース機が居るんだろ』

 

『エースって、それほどの腕の持ち主が居るって聞いてねぇぞ』

 

『向こうの戦力はどれ程あるのか分からないから仕方がない。だが、明らかに速すぎる』

 

ハヤテやミラージュ達も警戒心が跳ね上がっていると、チャックの機体に備えられているレドームに反応が出た。

 

『その速い機体がこっちに来てる! マドカ、お前の真上だ!』

 

チャックからの叫びにマドカ達は真上を見つつ回避行動に移ると、すれ違う様にものすごいスピードで過ぎ去る機体が見えた。

一瞬ではあったが、ハヤテやミラージュたち。そしてイチカはその機体に見覚えがあった。いや、あり過ぎた。

 

「おい、まさか今のって」

 

『あぁ、アイツの機体だ』

 

『なんで、アイツが』

 

イチカは鋭い視線をすれ違った機体に向ける。

 

「…白騎士!」

 

 




次回予告
突如イチカ達の前に現れた白騎士。対処しようとするも追い付けず、マドカは被弾。更にイチカの機体もダメージを受ける。敵は何とか撃退するも、イチカはマドカを守り切れなかったことに悔やむ。するとその傍に美雲、そしてマキナとレイナがやって来る。
次回
もがれた翼


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50話

突如として現れたウィンダミアきってのエース、白騎士。

デルタ部隊の面々は険しい顔を浮かべていた。

 

「まさか、生きていたのか?」

 

『いや、そんなまさか!』

 

『兎に角、今は敵だ。 急いで撃墜しないと!』

 

イチカ達は急ぎ白騎士の後を追う。追いかけて行く中、マドカは自身のISコアに宿っているキースに話しかけていた。

 

【おい、あの機体はお前のなのか?】

 

【確かに機体は俺のと似ている。それに操縦技術も似ているが、あれは違う】

 

【どう言う事だ?】

 

【分からん。だが、確かなのはあれは風を捉えた飛び方じゃない】

 

キースの話に疑問の表情を浮かべているマドカ。すると

 

『マドカ! 背後に回られているぞ!』

 

ハヤテの叫び声にハッ!となりマドカは背後に目を向けると、白騎士の機体が迫っていた。

 

「クソッ!」

 

そう叫びスラスター全開で回避飛行に移る。

 

「マドカ! デルタ2、これよりデルタ6の援護に向かう!」

 

『デルタリーダー了解。デルタ5、お前も行け!』

 

『了解!』

 

イチカ、そしてハヤテは急ぎマドカの救援へと向かう。

白騎士の猛攻を必死に避けながらマドカは反撃しようと隙を伺うが、それが全く見えない。

 

「避けるので、精一杯だ」

 

苦渋に満ちた顔で必死に機体を操作して避けるマドカ。

 

『マドカ、俺達が引き離すから頑張れ!』

 

「兄さん。わか『ビー、ビー、ビー』ミサイルアラート!?」

 

放たれたミサイルに急いでフレアを放ち、機体を方向転換させ避けるマドカ。だが、その先を読んでいたのか、白騎士からバルカンが撃たれる。

 

「っ!?」

 

翼部分に被弾し、機動性が落ちる機体。それでも避けようとした瞬間、数発のミサイルが接近していた。

 

「不味い!?」

 

避けようとするも、間に合わずミサイルは当たろうとした。だが

 

『させるかぁ!!』

 

その叫びと共にイチカのカイロスからバルカンが火を噴き、ミサイルを破壊する。だが一発取りこぼしマドカの機体に命中した。

 

「うわぁあぁあ!?」

 

ミサイルは機体に直撃した。マドカの機体は近くに漂っていた小惑星に不時着した。

 

『マドカ!? このぉ!』

 

マドカが落ちたのを見たイチカは怒りが込み上がり白騎士にドッグファイトを挑んだ。

 

『イチカ、待て!』

 

ハヤテの制止を振り切りイチカは白騎士にドッグファイトに持ち込み、デブリを躱しつつ追いかけるが、イチカの顔は苦渋に満ちた顔だった。

 

(反応が悪い。機体が全然思うように動かねぇ!)

 

そう思いながら白騎士を追うも、思うように機体が動かない事に険しい表情を浮かべるイチカ。

すると突然白騎士の機体がデブリに隠れる様に移動する。イチカもその後を追うが、白騎士を見失ってしまう。

 

「何処に? 【イチカ、上だ!】 なにっ!?」

 

メッサーからの忠告にイチカは上に顔を向けると、その先にガウォーク形態でレーザー砲を向けている白騎士を確認した。

すぐに回避しようと機体を動かすが、間に合わず攻撃を受けた。

 

「ぐわぁあぁ!??」

 

片翼にダメージを受け飛行できなくなるカイロス。白騎士は止めとばかりにレーザー砲を向けると駆け付けたハヤテの攻撃に阻まれる。

 

『イチカ、無事かッ?』

 

「あぁ無事だが、機体はもう動かない。イジェクトしてISで『いや、その必要は無いかもしれねぇ』なに?」

 

『白騎士の奴が戦域から離脱しやがった』

 

鋭い視線を白騎士が去っていった方に向けるハヤテ。

 

「そうか。っ! マドカは!?」

 

『大丈夫だ。命に別状は無いらしい』

 

それを聞いたイチカはそうか。と少し安堵の息を吐いた。

白騎士の撤退と同時に戦っていた他のドラケン達も撤退し、残ったのは意識を取り戻し戦闘を中断したドラケンと連合軍のみだった。

戦闘終了後、遭難救助活動を始めたIS部隊は稼働しているGPSを情報にイジェクトしたパイロット達を捜索したり、機体に生存者が居ないか確認作業を行った。

今回の戦闘で連合側は15機の戦闘機が撃墜され、10人ものパイロットが戦死となった。残りの5人は何とかイジェクトに成功し宇宙空間に漂いながらも救助されたが、爆風の衝撃などで腕や脚に打撲や骨折になり医務室に放り込まれた。

 

イチカはマクロス・エリシオンの医務室へと来ており、頭や腕を包帯で巻かれベッドの上で寝ているマドカに申し訳なさそうな表情で立っていた。

そっとイチカはマドカの頭を撫で、手を降ろす。

 

「ごめんな、マドカ」

 

そう呟き、イチカは医務室から出て行きハンガーへと赴いた。そしてイチカは自身の機体の前へと着くと、機体を見上げた。

イチカの機体は右翼が真っ黒に焦げており、配線などが黒焦げになっていたりした。整備班長曰く、修理には時間を要するから出撃は無理かもしれないと。

 

「……俺じゃあ白騎士を倒せないのか?」

 

イチカは小さくそう呟き、やるせない気持ちで手を握りしめているとそっとその手を覆う手が現れた。

突然の事に驚いたイチカは顔を向けると其処には美雲が居た。その顔は悲しそうな表情だった。

 

「……マドカの事、聞いた。無事で、良かったわ」

 

「……あぁ、本当に良かった」

 

淡々と言った返しに、美雲は握っていた手を放しギュッとイチカに抱き着く。

 

「み、美雲?」

 

「イチカ、また一人で抱え込もうとしてるでしょ?」

 

そう問われイチカは「えっ?」と心臓を一瞬跳ね上げた。

 

「マドカが撃墜されたのは自分の所為だと、そう思ってるでしょ?」

 

「……そんなこと「イチカ、私の顔を見て」……」

 

イチカはそっと目線を美雲の方に向ける。其処には先程の表情とは変わり、真剣な表情だった。

 

「マドカが落ちたのは、貴方の所為じゃないわ。あの状況じゃもっと悲惨なことになっていたかもしれない」

 

「だがあの時、マドカに迫っているミサイルを全部落してさえいれば、マドカは負傷なんかさせずに「人間は完璧じゃない。出来るのは大きな被害が起きないよう抑制する事と、小さくすることくらいしかできない。完璧に被害を無くすことなんて出来ないわ」……」

 

「イチカ、メッサーの時みたく一人で抱え込まないで。約束したじゃない、一人でもう抱え込まないって。貴方の傍には沢山の仲間達が居るし、私もいる」

 

「……美雲」

 

美雲に諭され、イチカはまた一人で抱え込もうとした事を自覚し、自然と涙を零す。

 

「ごめん、また無自覚に抱え込もうとしてた」

 

「大丈夫。貴方が無自覚に抱え込もうとしても、ちゃんと私が傍で支えるから」

 

そう言い真剣な表情から朗らかな表情を浮かべ、ギュッとイチカに密着する美雲。

暫く抱き合っていた2人は惜しみながらも離れてイチカの機体を見上げた。

 

「それで、次の戦闘はどうするの? 機体もこの状態じゃあ…」

 

「あぁ、恐らく無理だ。予備の機体があるか今整備班長に聞いてもらっていて「それなら当てがあるよ、イッチー」マキナ、それにレイナ。当てがあるってどう言う事だ?」

 

二人の背後からマキナとレイナが現れて機体に当てがあると言う。

 

「付いて来て」

 

そう言われイチカと美雲はマキナ達に案内されながら格納庫奥へと案内される。そして布が被せられた機体の前へと連れて来られた。

 

「マキナ、この機体は?」

 

「何時か必要になると思ってずっと整備班の人達とレイレイとで整備、改修してたの」

 

そう言いマキナとレイナは布を捲った。

 

「ッ!? この機体は!」

 

「うん、イッチーが今必要だと思う機体だよ」

 

イチカの目の前に現れた機体。それはかつてデルタでエースと言われ、そしてイチカの兄貴分的な人物、メッサーの機体V()F()-()3()1()F()だった。

 




次回予告
新たなイチカの機体、それはメッサーの機体だった。マキナとレイナはイチカに何故メッサーの機体を渡すのか説明する。
その頃、マドカは目を覚ますが自身の怪我の状態により戦闘には参加できないことが分かり、ある決断をする。
次回
再び広げる翼


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51話

マキナとレイナに連れられイチカの新しい機体と言って見せたのはメッサーの機体だった。

 

「な、なんでメッサーの機体を俺に? それにメッサーの機体は、オーバードライブで解体されたはずじゃあ」

 

「一度はそうなった。けど、アラアラが何時かイチカに必要になる機体かもしれないって言って解体されたのを再度組み直したの。無論、使えないパーツやシステムを全部取り換えてね」

 

マキナの説明にイチカは茫然と言った表情でメッサーの機体を見上げた。白と黒でカラーリングされたもので、イチカにとって兄貴分だったメッサーの機体。極限まで機動性などを上げた制宇宙支配戦闘機。

 

「だが、俺に乗りこなせるとは思えないぞ」

 

「それは大丈夫」

 

そう言いレイナは空中ディスプレイを立ち上げあるデータを見せた。

 

「これはメッサーの生前の戦闘データをグラフ化したやつ。そしてこれがイチカの戦闘データ」

 

そう言われイチカと美雲は見比べると、2人のデータはほぼ近いグラフ数値が表示されていた。

 

「これ、メッサーとほぼ同じ数値ね」

 

「そう。今のイチカの技量は生前のメッサーとほぼ同等を有してる。だからこの機体に乗り込んで操縦しても問題無し」

 

データ的に問題無しと説明するレイナ。

イチカは2人の説明を受けながらメッサーの機体に触れる。自身の様々な思いが巡る。だがはっきりとした思いだけはあった。

 

【覚悟は決まったか、イチカ?】

 

【あぁ、メッサー。決まったよ】

 

ISから問うメッサーにイチカは自身の思いを告げる。顔こそ見えないが、フッと笑みを浮かべているだろうと思いイチカも笑みを浮かべる。

 

「マキナ、レイナ。整備班の皆にありがとうって伝えておいてくれないか?」

 

「…うん、分かったよ!」

 

「ちゃんと伝えておく」

 

「ありがとう。二人もこいつを飛べる様にしてくれてありがとうな」

 

心の底からくる感謝を伝えると、マキナとレイナは頬を赤く染めながらどういたしまして。と返した。

 

 

 

 

その頃、エリシオンの医務室では負傷したマドカがベッドで寝ていた。

 

「いっつぅうう。……此処って?」

 

そう零しながらマドカは目を覚まし辺りを見渡す。薬品の匂い、真っ白な部屋にマドカはすぐに何処か分かった。そして何故自分が此処に居るのかも。

 

「そうか、此処ってエリシオンの医務室か。それじゃあ私はやられたのか」

 

そう呟き自身の体を見る。腕や見えないが感覚からして足とかにも包帯が巻かれているのであろう、体中が痛む状態であった。

 

「お、目を覚ましたかマドカ」

 

安堵したような声で、声を掛けてきたのはアラドだった。

 

「お父さん、私…」

 

「あぁ、あの白騎士に撃墜されたんだ。だが運よくミサイルの当たり所が良かったんだろう、大きな爆発も無く小惑星に不時着したんだ。その怪我は不時着した際の衝撃で受けたやつだ」

 

そう言われ納得した表情を浮かべるマドカ。そしてハッと顔を変えアラドに顔を向ける。

 

「お父さん、兄さんは? 兄さんは無事なんですか?」

 

「……イチカは無事だ。だが、お前と同じく機体を破壊された」

 

そう言われマドカは驚愕の表情を浮かべる。

 

「そ、そんな。わ、私の所為で「いや、お前の所為じゃない」けど、私がもっと強かったら!」

 

そう言い興奮するマドカ。するとお腹に痛みを感じ抑えた。

 

「おいおい、興奮するな。さっきも言ったがお前の所為じゃない。お前はまだ入って日が浅いんだ。倒せるような相手じゃない」

 

そう言われるが、マドカの表情は優れなかった。

 

「それに安心しろ。こんな事もあろうとイチカの代わりの機体はある。今頃受領しているはずだ」

 

そう言われマドカはそっか。と少し和らいだ感じを出すがまだ責任を感じている様子だった。アラドはその表情に少し躊躇いの表情を浮かべるも、直ぐに意を決した表情を浮かべる。

 

「…マドカ、少し酷なことを言うぞ」

 

「……なにお父さん?」

 

「医者が言うには、今のお前の状態じゃあ次の戦闘には出撃させられないとのことだ。それにお前用の機体も今無い状態なんだ」

 

そう言われマドカはアラドが言いたいことが直ぐに分かった。

 

「……ISの出撃もか?」

 

「あぁ、スコールが出撃禁止を言い渡した。お前に死んでほしくないって言ってな」

 

「そうか」

 

マドカは悲しい表情を浮かべ天井を見上げる。

 

「……足手まといにはなりたくなかったのに」

 

「マドカ……」

 

アラドは娘となったマドカに何と言って慰めてやればいいのか分からず暫し黙っていると。

 

『アラド隊長、至急ブリッジにお越しください。繰り返します、アラド隊長、至急ブリッジにお越しください』

 

そうアナウンスが鳴り響き、アラドは後ろ髪を引かれる思いをしつつ席を立つ。

 

「ちょっと行ってくる。後で何か飲み物を持ってくるからな」

 

「……うん」

 

アラドは医務室から出て行くと、マドカは一人ぼぉーと天井を見上げていた。

 

【何を考えている、マドカ?】

 

【……こんな状態じゃあ皆、そして兄さんの足手まといだなと思っただけだ】

 

【ふん、仕方ないだろう。今のお前の状態じゃあ足手まといだ。だが】

 

【だが?】

 

【足手まといと言うのは本当に何も出来ない状態の奴のことを言う。出撃が出来ないなら他の事であいつ等の力になってやれ】

 

キースの助言にマドカは今自分のできることは何だと考え始めた。暫く考え込みそして

 

「これしか、無いか」

 

【ほう、何か思いついたのか?】

 

【あぁ、この手しか無い。だが、これにはお前の承諾も必要だ】

 

【俺の承諾だと? まぁいい、話してみろ】

 

そう言われマドカは自分が思いついた方法をキースに伝える。

 

【なるほど、いい案だ。だがいいのか? 単なる気休め位しかならないし、お前の身はどうやって守る?】

 

【自分の身くらい、何とかなる。それでどうなんだ?】

 

【ふん、良いだろう。お前の案に乗ってやろう。だがどうやって実行する?】

 

【出来るさ、アイツならな】

 

そう言いマドカは机の近くにあったスマホを手に取り、ある人物を呼び出した。

 

暫くして医務室の扉が開き一人の人物が入って来た。

 

「やっほ~、マーちゃん。どんな御用かなぁ?」

 

そう言いながら束はマドカの傍に向かう。

 

「実は頼みがある」

 

「頼み? 一応先に言うけど、戦闘に参加できるようにして欲しいは無しだからね。スーちゃんにダメって言われているから」

 

「安心しろ、そんな事は言わん」

 

そう言い束を呼び出した理由を伝えた。マドカの頼みに束は驚愕の表情を浮かべ、しばし目が点となっていた。

 

「――と言う訳だ。頼めるか?」

 

「ちょ、ちょっと待って。まさか、そんな、本当なの?」

 

「あぁ、本当だ。それでどうなんだ、出来るのか?」

 

「そ、そりゃあ出来るけど、いいの?」

 

「あぁ、やってくれ」

 

そう言われ束は決心したような表情を浮かべ頷いた。

 

「分かった。出来るだけ早く仕上げるよ」

 

そう言いマドカのIS、サイレント・グリフォンを受け取り部屋から出て行った。

 

「頼んだぞ、キース」

 

そう言いマドカは目を閉じ眠りについた。




次回予告
メッサーの機体を受領し、何時でも戦闘に参加できるように準備をするイチカ。そしてブリッジでは先の戦闘での会議が開かれていた。

次回
近付く決戦


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52話

マキナとレイナからメッサーの機体、VF-31Fを受け取ったイチカはコックピットに乗り込み自身の以前まで使っていたカイロスのデータ入力をしていた。

 

「よし、機動データとかは入力は終わったな。後は「おぉ~い、いっくん!」束さん?」

 

コックピットから声がした方に顔を向けると、タッタッタッと走りながら機体の近くに来る束。

 

「どうしたんですか?」

 

「うん、ちょっとIS貸してくれない?」

 

「ISですか、なんでまた?」

 

「まぁ、メンテナンスみたいなものだよ」

 

はぐらかすような言い方にイチカは首を傾げるも、構わないかと思い待機形態のドッグタグを外し束に渡す。

 

「うん確かに。それじゃあメンテナンスが終わったら返しに来るよ」

 

そう言って束はまた走って格納庫から出て行った。

 

「なんだったんだろ?」

 

そう思いながら、作業に戻るイチカ。

その頃ブリッジではスコールやアラド達が先の戦闘報告、そして作戦会議を開いていた。

 

「それでスコール司令、さっきの戦闘で保護したパイロット達の容体はどうなんだ?」

 

「皆医務室で拘束しているわ。勿論事情は説明してるから、反対とかされなかったわ」

 

「という事は…」

 

「えぇ、体内に薬物の反応が出たわ。完全に薬物の反応が無くなるまでは戦闘には参加させられないわ」

 

そう言いため息を吐くスコール。

 

「そうか。それで、アイツらが乗っていた機体から何かわかったのか?」

 

「その辺はそっちに任せてあるんだけど…」

 

そう言いスコールはマキナ達の方に顔を向ける。

 

「うん、整備班の人達と一緒にドラケンの機体全部のシステムとかハッキングしたりしたよ」

 

「これがハッキングして入手した情報」

 

そう言いレイナはディスプレイに入手した情報を映し出す。其処には機体の基本情報やパイロットの情報などが映し出された。

 

「これは役に立ちそうにないわね」

 

「だな。レイナ、他に役に立ちそうな情報は無かったのか?」

 

「あった。でも、罠の可能性がある」

 

そう言い、レイナがディスプレイに出したのは月付近を指し示す座標だった。

 

「ドラケンが何処から発進したのかを調べたら、此処を指した。けど実際に此処に要塞があるかどうかは分からない」

 

「偽装の可能性は?」

 

「十分あると思う。一応他の機体も調べたけどほとんどがこの月の位置を示していた」

 

「罠か、はたまた本当か」

 

うぅ~ん。と全員難しい顔を浮かべていると、突然モニターが現れた。

 

『だったらこの束さんに、お任せあれぇ‼』

 

「た、束。貴女、ブリッジに来るよう言われているのに、何で来ないのよ」

 

ジト目で睨むスコールに束は苦笑いを浮かべながら舌を出す

 

『めんご、めんご。実はいっくんのISの整備してて、今手が離せないんだぁ。で、さっき話してた事だけど、長距離強行偵察ができるISを送り込めばいいんだよ』

 

「偵察を? けど、パイロットはどうするの?」

 

「スコール司令、その任我々にお任せくださいませんか?」

 

そう名乗り出たのは、ドイツのシュヴァルツェ・ハーゼ隊のクラリッサだった。

 

「私と部下2名とで偵察に向かいます」

 

「……そうね、現状それしかないわね「待って下さい」どうしたの?」

 

「実は鹵獲した敵機の内、一機だけ別の座標を有しているのがあったんです。それで、その機体を調べたら隊長機だったんです」

 

「別の座標? それは何処?」

 

「金星の方角」

 

そう言ってレイナは画面を出すと、金星の付近にマークを付ける。

 

「……怪しいわね」

 

「あぁ、隊長機は他にあったのか?」

 

「ない。一機だけだった」

 

「そうなると、信用度が余り無いわね」

 

「だが見過ごす事も出来んだろう」

 

「……そうね。束、長距離偵察用の装備ってまだあるの?」

 

『あるよぉ!』

 

「それじゃあ、アリーシャさん。貴女と他2名を選抜してもらえる?」

 

「了解サネ」

 

笑顔で了承するアリーシャにスコールは頷き、アラド達を見渡す。

 

「一応我々は速度を落としつつ金星の方角に進路を向けておきましょう。月の可能性も否定できないし直ぐに方向転換できる様にね」

 

スコールの指示にそれぞれ頷いた。




次回予告
長距離強行偵察装備をISに積み込んだアリーシャとクラリッサは部下達と共に飛び立った。
はたしてどちらに敵の要塞があるのか。そして2人とその部下達は無事戻れるのか?
次回
強行偵察~情報はどんな兵器よりも最強な兵器サネ~


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53話

大型輸送機の簡易甲板にドイツのシュヴァルツェハーゼ隊と、イタリアのアリーシャとエンシェントセキュリティー社の隊員2名がISを身に纏って居た。

 

「それじゃあ私達は月に向かうサネ」

 

「分かりました。では我々は金星の方角に」

 

そしてシュヴァルツェハーゼ隊のクラリッサは部下達と共に金星に、アリーシャは選抜したメンバーと共に月へと向かって飛び出した。

 

輸送機から飛び出したアリーシャ達は暫く細かいデブリなどが飛んでいる中、それらを避けつつ月へと向かって飛んでいた。

 

「ウルズ2、ウルズ3.聞こえるサネ?」

 

『こちらウルズ2、感度良好』

 

『ウルズ3、此方も聞こえている』

 

「それじゃあ、任務内容をもう一度確認するノサ。私達は月方向に敵の要塞があると思われるからその偵察サネ。万が一敵の要塞があれば、急ぎ情報を本隊に報告するサネ」

 

『敵の要塞は本当に月にあるんだろうか』

 

「さぁね。けど、戦争って言うのは有益な情報を先に入手した方が有利になるサネ。情報はどんな兵器よりも最強な兵器サネ」

 

『確かにそうだな。と、そろそろデブリを抜けるぞ』

 

ウルズ3がそう告げると、デブリが無くなろうとした先には月が見え始め、アリーシャたちは束が偵察用にと載せたステルス機能を発動、姿を消して接近した。

 

「こちらウルズリーダー、敵の姿及び要塞の影無しサネ」

 

『こちらウルズ2、此方も同じだ。敵の姿が無い』

 

『こっちもだ。やはり月はハズレだったようだな』

 

ウルズ2、3の言葉にアリーシャは偽情報かと思いその場から離脱しようと考えていると

 

 

『こちらウルズ2、先ほどの報告を訂正する。敵を発見した』

 

「っ! 敵の規模は?」

 

『見える範囲で6個編隊、数は30機かそれ以上だ。向こうはまだこちらに気付いていない』

 

『先制攻撃で叩くか?』

 

「いや、うちらは今装備が限られているノサ。下手に攻撃を仕掛けたところで、やられるのがオチサネ」

 

『確かにそうですね、では予定通り撤退します』

 

「そうさね、各機撤退するサネ」

 

そう言いアリーシャは大きな音が立たぬ様、気を付けてその場から離れた。

 

 

 

その頃クラリッサ達の方も金星に向け飛んでいた。ステルス機能を展開した状態で飛行し、もうすぐ到着出来る所まで来ていた。

 

「各自、もう間もなく予定ポイントだ。以後武器の使用は禁止する。敵に発見され攻撃を受けての反撃以外の攻撃は私の許可を待つように」

 

『『ヤヴォール!』』

 

クラリッサの指示に部下達は了承しそれぞれ散開し、情報収集の為のシステムを展開する。

クラリッサは宙域に漂うデブリに身を隠しつつ情報収集用のシステムで情報を収集するが特にこれといった情報は手に入らなかった。

 

「やはり、ガセか。となると月の方角にあるのか?」

 

クラリッサはそう零しながら情報を収集していると

 

『こちらシュヴァルツ3、敵の要塞と思われる物を発見! 位置情報を送ります』

 

「よくやった、シュヴァルツ3。すぐに撤退『て、敵に捕捉されました! 隊長逃げてブツッ……』シュヴァルツ3? シュヴァルツ3‼」

 

『こ、こちらシュヴァルツ2! シュヴァルツ3の撃墜を確認…』

 

部下の報告にクラリッサは奥歯を噛み締める。

 

「即刻撤退する!」

 

『ヤヴォール!』

 

指示を飛ばしたクラリッサは急ぎ撤退すべく離脱用のブースターを展開し急加速で戦域を離脱する。

 

「シュヴァルツ2何処だっ?」

 

『こちらシュヴァルツ2、隊長の後ろに付いています。っ!? 敵機接近!』

 

接近の知らせにクラリッサは背後に顔を向けると、ドラケン数機がスラスター全開で追いかけていた。その距離は着々と近付いていた。

 

「不味い、このままでは追い付かれる!」

 

クラリッサは急ぎ本隊に情報を送ろうにも此処からでは距離がある為無線が届かないのだ。すると突然シュヴァルツ2の機体が方向転換しドラケンの方に向かった。

 

「シュヴァルツ2、何を『隊長はその情報を本隊に届けてください! 私はこいつらを足止めします!』無茶だ、お前が本隊に『隊長はこの先必要なお方です! だから生きてください!』 ッ!」

 

部下からの叫びにクラリッサはギリッと歯を噛み締める。

 

『どうか、地球に居る皆を。そしてラウラ隊長の事をお願いします』

 

そう言い通信は切れ、シュヴァルツ2はドラケン達の前に立ちはだかり攻撃を開始した。

 

「……済まない」

 

クラリッサは涙が出るのを我慢し、ブースターを更に吹かし戦域を離脱するべく飛ばした。




次回予告
クラリッサが持ち帰った情報によって敵の要塞位置が特定され、イチカ達連合軍は全て終わらせるべく全戦力を投入して攻撃すべく準備していた。
そして攻撃開始時刻、イチカの元に束がやってきて預けていたISを渡された。
そしてついに最終決戦の火ぶたが切って落とされた。
次回
決戦前~まさかお前が居るなんてな、白騎士!~


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54話

マクロス・エリシオン ブリッジ

ブリッジには偵察から戻って来たクラリッサ、そしてアリーシャ達とスコール達は持って帰って来た情報の整理を行っていた。

 

「月の方角は真っ赤な嘘。それどころか罠であり、本命は金星だったと言う訳ね」

 

「そのようだな。よし、この情報を元に艦隊を動かす」

 

「お願いするわ。……クラリッサ大尉、部下の事は残念です」

 

「お心遣い痛み入ります。ですが、彼女たちのお陰で敵の位置を特定できました。彼女達は己の仕事を全うしたのです」

 

そう言いクラリッサは一礼した。

 

「敵要塞の位置は特定できた。けど偵察している事が向こうにバレたから恐らく警戒態勢に入っているでしょうね」

 

「月に居た連中も戻ってくる可能性もある。早急に要塞を叩かないとな」

 

「そうね。トロイ各機の飛行隊隊長に伝えて。今から6時間後に要塞に対して総攻撃を仕掛けるって」

 

スコールはそう指示を飛ばしブリッジに居た者達はそれぞれ頷いた。

 

 

ブリッジから戻って来たクラリッサは一人廊下を歩いていると

 

「どうした、クラリッサ?」

 

「…ラウラ隊長」

 

声を掛けてきたのはエンシェントセキュリティー社の制服を着たラウラだった。

 

「私はもう隊長ではないぞ。今はPMCのスタッフの一人だ」

 

苦笑いを浮かべながら、クラリッサに伝えるラウラ。その言葉にクラリッサは申し訳ありません、と苦笑いを浮かべた。

 

「それで、どうしたんだ? 何時になく暗い表情を浮かべていたようだが」

 

そう言いながら近くにあったベンチにクラリッサを座らせるラウラ。

そう問われクラリッサは流石隊長だ、と心の中で思いながら零し始めた。

 

「……申し訳ありません。貴女から引き継いだ大切な部下を二人も失ってしまいました」

 

「……聞いている。敵の要塞が本当にあるのか探るべく向かって一人は敵に発見され、もう1人はお前を逃がすべく足止めになったと」

 

「はい。私はこの戦争でもしかしたら部下が亡くなるかもしれないと、だから大切な部下を守ろうと。そう決心していたのですが、結局私は守れませんでした」

 

クラリッサの目からぽつぽつと涙が零れ始める。

その姿にラウラはクラリッサをそっと抱きしめた。

 

「泣きたい時は思いっきり泣け。部下を亡くしたことは辛いことだが涙を糧に強くなっていけばいい」

 

「うぅっぅう、うわっぁあああぁ!!!」

 

ラウラの言葉にクラリッサは崩壊したダムの様に大声で泣きだし、ラウラはそっとその背を摩り続けた。

 

マクロス・エリシオンと大型輸送機群はデブリを利用しつつ金星へと向かって飛行し、気付けば作戦開始時刻1時間前だった。

その頃、デルタ部隊はブリーフィングルームにて作戦会議を行っていた。

 

「――と言う訳で、俺達は他の飛行隊より先に出る。目的は出来るだけ敵を撃墜するためだ。俺達が出来るだけ敵を片付ければ後から来る飛行隊やIS部隊も楽に敵を片付けられる。そしてある程度片付いたら要塞を攻略する」

 

「具体的には?」

 

「スーパーパックを装備した俺達が中に入って要塞各所を破壊する。ある程度破壊すれば自動的に自爆シーケンスに移るらしい。その後に要塞から脱出しエリシオンに帰還する」

 

「上手くいきますかね?」

 

「やるしかないだろ」

 

不安そうなミラージュにハヤテは檄を飛ばす。

 

「確かにミラージュの不安は俺にもある。だが、俺達がやらなきゃいけない。俺達の世界の技術がこの世界を崩壊させようとしているなら、俺達がそれを止めなきゃいけないんだ」

 

アラドの言葉に全員頷き返す。

 

「よし、それじゃあいくぞ。すべて終わらせるために」

 

「「「「了解!/ウーラーサー!」」」」

 

アラドに敬礼しそれぞれブリーフィングルームから退出しハンガーへと向かい機体に乗り込む。イチカも自身の新たな機体、VF-31Fに乗り込み最終チェックを行おうとすると

 

「いっく~~~~ん!」

 

と、声を上げながら無重力状態の中イチカの元に近付く束が現れた。

 

「束さん?」

 

イチカは近付く束を手を伸ばして引っ張り寄せる。

 

「おっとと、ありがとうね。はい、これ」

 

そう言い束はポケットからイチカのISの待機形態であるドッグタグを手渡す。

 

「そう言えばメンテナンスって言ってましたけど、どう言ったメンテナンスを?」

 

「ん? あぁ、簡単な機体動作のチェックと武装チェック。それとスーパーパックにちょっとした改良をね」

 

「改良? 具体的には?」

 

「追加のSEが収められるようにしたくらいだよ」

 

「そう、ですか」

 

束の改良した内容にイチカは何処か引っ掛かる思いを浮かべながら受け取ったドッグタグを胸にかける。

 

「それじゃあいっくん、気を付けてね」

 

「えぇ、全部終わらせてきます」

 

イチカはそう言いながらヘルメットを被りキャノピーを閉める。閉める際、イチカは束にサムズアップを見せると離れた束はニンマリと笑みを見せながら敬礼した。

 

『デルタ部隊、カタパルトに移動してください!』

 

放送が流れると、イチカは気を引き締め機体をエレベーターの元に移動させる。

エレベーターが上昇していく中、通信が入りそれに出ると画面に美雲が現れた。

 

「どうした?」

 

『ごめんなさい、ちょっと声が聞きたくなったからかけたの』

 

心配そうな表情で胸の部分に手を組み美雲に、イチカは心配をさせまいと笑顔を浮かべる。

 

「いや、謝る必要なんかねえよ。……必ず生きて戻るからな」

 

『……えぇ、絶対に帰って来て』

 

美雲はまだ少し心配そうな顔を浮かべていたが、最後は笑みを浮かべ通信を切った。

 

「……必ず生きて帰る。そうだろ、メッサー?」

 

【生きて帰れるかはお前の腕次第だ。だが、今のお前なら行ける。そうだろ、()()()?】

 

「っ!?」

 

突然メッサーが白騎士と言った瞬間、イチカは心臓が跳ね上がるような感覚をおびる。

 

【ふん、気付いていたのか死神】

 

「な、なんでてめぇが居る、白騎士!」

 

【説明するのは構わないが、掻い摘んでやるぞ。まず、俺は死神と同じくISコアにどうしてか宿っていた。そしてお前の妹、マドカのISに搭載され常にお前達の行動を見ていた。そしてマドカが撃墜され負傷した際、アイツはお前を守りたい為にあの博士にある事を頼んだ。それがお前のISに追加で搭載されたスーパーパックにISコア()を載せる事。そして博士は俺を追加武装に組み込みSEを大幅に増やした。黙っていたのは、只驚かそうと思ってだそうだ】

 

キースの説明にイチカは驚愕の表情から一切顔が変わらず、只茫然と胸のドッグタグを見つめていた。

 

「……お前が何で居るのかは、分かった。だが、あの時現れた白騎士は何だ?」

 

【それは分からん。ただ言えるのはあの機体は確かに俺の飛び方だが、風を読んでの飛び方ではない】

 

「風を、読んでない?」

 

イチカはキースの言葉に首を傾げた。だが、暫し考え込んで何処か納得のいった顔つきとなった。キースの飛び方は大胆であり、そして繊細な操縦で敵を翻弄する。イチカはあの時の白騎士の機体の動き、そして自身が向こうの世界で見た白騎士の動きを重ね合わせた所、所々違うのが分かったからだ。

 

「…確かに、お前の言う通りあの機体はお前と動きは若干似ているが、細かなところが違う。じゃああの機体は一体誰が操縦しているんだ?」

 

【さぁな。それについては奴と戦って勝てば分かるだろ】

 

「チッ。あぁ、やってやるさ。絶対に墜としてやる!」

 

イチカはそう決意を決めているとエレベーターは上昇を終えた。機体をカタパルトに固定すると、通信が入る。

 

『これが最後の戦いになる。皆、絶対に勝つわよ!』

 

スコールからの檄に皆心を決めカタパルトから飛び出した。

 

 

 

 

その頃オグマ社が占拠した要塞司令部では、多くのスタッフ達が慌てた様子で各部署に連絡を行っていた。

 

「だから、何時でも出られるように準備しておけって、言ってるんだよ!」

 

「おい、この作戦マップ前に使った奴じゃないか! 今回は此処に来るんだぞ!」

 

「パイロット達を催眠させる薬の在庫何処だよ!」

 

「そんなもの知るかよ! 倉庫とか段ボールひっくり返して探せ!」

 

怒号飛び交う中、指令室上にある指揮官室からそれを眺めていたジェフ、そして仮面をかぶった者がその光景を見ていた。

 

「まさか隊長機の者の洗脳が解けるとは思いもしませんでした」

 

「仕方あるまい。だが、次は抜かるんじゃないぞ」

 

「はっ! 同じ失態はもう起こしません」

 

仮面をかぶった男は威圧感を放ちつつ部屋から退出していき、ジェフは冷や汗を流しつつ、深々と頭を下げながら見送った。

 

 




次回予告
エリシオン、そして大型輸送機から飛び出した連合軍は要塞に向け攻撃を開始した。
両者激しい攻防の中、イチカ達デルタ部隊は先行して攻撃を行っていた。そんな時、白騎士の機体が現れ、イチカはドッグファイトを仕掛ける。
イチカが奮闘している光景を見た美雲は、イチカの為に用意した歌を歌い出した。
次回
導きの歌~あなただけの歌を歌うわ!~


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55話

マクロスエリシオンから飛び発ったデルタ部隊は既に飛び発った飛行隊の前方に出た。

そしてその後方からIS部隊も現れた。皆一様に決心した表情を浮かべており、操縦桿や武器を握る手に自然と力が入っていた。

 

『こちらエリシオン、長距離レーダーに敵影を確認。B-2-4-2にて待ち構えている模様です。各機気を付けて下さい』

 

『デルタリーダー了解。よし、デルタは突貫するぞ。他の部隊はアルファー、ガンマに従ってくれ』

 

『ウォーウルフ了解』

 

『ヴァローナ了解』

 

アラドからの指示にそれぞれのリーダーが了解と返す。

 

『こちらアリーシャ。こっちはトロイの護衛に就くサネ。それと長距離支援攻撃が可能な機はそっちの飛行隊に加えて置くサネ』

 

『助かる。よし、それじゃあ行くぞ!』

 

そう言うとアラドはスラスターを吹かす。それに続くようにイチカ達もスラスターを吹かした。残った飛行隊はアルファ部隊、ガンマ部隊の先導の元別れた。

 

真っ直ぐ突貫してきたデルタ部隊に気付いたオグマ社のドラケンはすぐさま臨戦態勢に入り、攻撃を開始した。無論デルタ部隊も同様に攻撃を開始した。

前方から現れたデルタ部隊に目を奪われていたドラケン達に強襲するように挟み撃ちにするように分かれていた飛行隊が現れ、攻撃を開始した。

 

ミサイル、バルカン、フレアなどがその宙域に乱れ舞い、遠目なら綺麗な光景かもしれないがその場では命のやり取りが行われていた。

 

「墜ちろ!」

 

イチカは新たな機体VF-31Fを巧みに操りながらドラケンを墜としていく。

 

「前の機体と違って、思う様に動く」

 

そう零しながらイチカはまたドラケンを撃墜すると

 

『こちらノーラット1、例のボギーを確認! ものすごい勢いで向かってくるぞ!』

 

「ッ! 来たか」

 

通信を聞いたイチカは素早く機体を反転させ白騎士の元に向かった。

白騎士が現れた宙域に来ると既に何機か撃墜されたのか残骸が残されていた。イチカは直ぐに機体を探すと、直ぐに機体は見つかった。

 

「見つけた。……この前の借り、返させてもらうぞ!」

 

イチカはスラスター全開で白騎士にドッグファイトを挑んだ。今度は負けない。そう心に誓い。

 

 

「イチカ……」

 

エリシオンの甲板で、イチカが白騎士の機体にドッグファイトを挑む姿を見た美雲は心配そうな表情を浮かべていた。

 

<…必ず生きて帰ってくる>

 

その言葉がちゃんと守られるのか心配になる美雲は自身の胸に手を組んで暫し思案に耽っていると、おもむろに顔を上げた。

 

「……カナメ」

 

「どうしたの?」

 

美雲に呼ばれカナメは顔を向けると、挑戦する顔つきで笑みを浮かべる美雲が顔を向ける。

 

「ソロの歌、今から歌ってもいいかしら?」

 

「ソロを? ……分かった。思う存分やっちゃって!」

 

サムズアップで返すカナメ。美雲はマキナやレイナ、そしてフレイアに顔を向けると同じく笑みを浮かべながら頷く。

それを見た美雲はありがとう。と返しマイクを握り直す。そして予め用意していたBGMを流れるよう設定する。

そして小さく息を吸い、歌を歌い出した。

 

「~~~♪ ~~♬」

 

美雲が歌う歌は傷付きながらも前に進む男性と、その傷付く彼に何も出来ず悲しんでいた女性が、決意を固め付いて行く。その先がどんな暗闇が待っていようとも。

カナメ達は美雲の歌にそう感じられた。

 

美雲が歌う歌はイチカにも聞こえていた。

 

「美雲…。 行くぞぉ!」

 

イチカは美雲の歌に後押しされるようにスピードを上げた。

激しい動きの中、イチカは白騎士を逃がさまいとその後ろを追い続けていた。追尾を続けていると、イチカの目に可笑しな物が見えてきた。それはデブリの上を煌めく緑の道が出来ていた。

 

「……まさか、これが」

 

【見えたみたいだな、お前にも風が】

 

キースがそう言うと、これが風?とイチカは零す。

 

【イチカ、その道に沿って飛べ。そうすれば奴を必ず墜とせる】

 

メッサーからの言葉にイチカは頷き、その光に沿って飛ぶ。その動きは次第に大胆ではあるが繊細な動きとなって行く。

 

『こ、こちらエリシオン。レーダーでイチカ中尉の機影が確認できません。誰か確認できますか?』

 

『こちらウォーウルフ3、此方も早すぎてレーダーで確認できない』

 

『エース同士の戦いだ!』

 

周りに飛んでいた戦闘機は2機の戦いに手が出せなかった。

 

『こちらエリシオン。敵にイチカ中尉の邪魔をさせないでください!』

 

『了解、敵を抑える』

 

『あいつを墜とせるとしたらあいつだけだ。絶対に邪魔させるか!』

 

連合軍はイチカに白騎士を墜としてもらうべく他のドラケンに対し攻撃を開始した。




美雲が歌った歌
イメージソング God Knows

美雲のソロ曲が余り無かったので、色々なアニメの曲を聞いて総合的判断で考えました。
……批判とかは無しでお願いします


次回予告
戦いは激化し、双方の被害は尋常では無かった。だが、それでも戦いは止まらない。
そしてイチカと偽りの白騎士との戦いは最終局面に

次回
偽りの騎士VSエース


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56話

『ウォーウルフ4、機体がもう駄目だ。イジェクトする!』

 

『了解。出来るだけデブリに身を隠しておけ。エリシオン、IS部隊にパイロット救出を頼む!』

 

『エリシオン了解。出来るだけ早く救助に向かわせます』

 

『要塞の対空兵装一部破壊成功! ミサイル、フレア共に残弾が乏しい。一旦補給に戻る』

 

『トロイ3了解!』

 

戦力が乏しい連合側とオグマ社との戦いは激しさを増していた。ドラケンに対し何機かで対応して墜としたり、仲間と一瞬離れた戦闘機がドラケンに墜とされたりした。

そんな中デブリの中を2機の機体が目にも止まらない速さで戦っていた。

 

「逃がすかぁ!」

 

白騎士の機体を追いかけるイチカは敵の行く手を遮る様にミサイルを放つ。ミサイルは白騎士の前にあるデブリに命中すると多くの破片が飛び散った。

白騎士はそれを避ける様に上昇するとイチカはその後を追った。

 

「これじゃあ埒が明かない!」

 

暫し白騎士を追いかけていたイチカは全く仕留められない事に苛立ちを募らせるも、絶対に操縦に支障をきたしてはいけないと自制を保ちつつ操縦桿を握りしめる。

既にどれ程の時間ドッグファイトをしていたのかは分からない中、イチカと白騎士はミサイルやバルカンを撃ち合っていた。

 

するとイチカは白騎士を追いかけている最中ある物を見つけた。

 

「あれは、連合軍の機体の残骸か?」

 

そう呟きながらその機体をよく見ると、機体翼には大型ミサイルが付いていた。

 

「AGM-84 SLAM。対要塞用に持ち込んでいたのか」

 

戦闘機の残骸に残されていたのはAGM-84 SLAMと呼ばれる大型空対地ミサイルの一つだった。主に大型施設や船舶に対して使用されるミサイルである。

 

「……使えるな」

 

イチカはその機体を見つめながら呟くと、白騎士に対し攻撃を更に強めた。

 

「そら、そっちだ!」

 

白騎士をミサイルが積まれた残骸の方に誘導するように攻撃していく。すると白騎士は残骸の方へと誘導されていく。そしてその近くを飛ぼうとしているのを確認したイチカはバルカンの照準を残骸へと向けた。

 

「上手く行ってくれよ!」

 

イチカはそう呟き引き金を引く。バルカンから放たれた弾は真っ直ぐ機体に命中し爆発した。近くを飛行していた白騎士はもろに爆発に巻き込まれた。

 

「よし、どうだ?」

 

爆発を見守っていると、炎から機体からバチバチと火花と黒煙を出しながら出てくる白騎士が現れた。

 

「やっぱり、()()か」

 

そう呟きイチカは白騎士のコックピットを見つめていた。

白騎士のコックピットには人は乗っていなかった。ただ丸い球体の様な物が載せられていた。

 

【あれは…?】

 

「さぁな、ただ言えるのは恐らく無人機だな。白騎士の動きを真似するように飛ばしていたんだろう」

 

【まったく、ふざけたものを。おい、イチカ。さっさとあれを墜とせ。あんなものが飛んでいるなど、全く持って不愉快極まりない】

 

「うるせぇ。お前に言われなくても墜とすわ!」

 

キースからの言葉に不愉快そうに顔を歪めながらイチカは止めと言わんばかりにミサイルをロックする。

 

「あばよ偽物。てめぇでは白騎士を完璧に真似る事なんて出来ないんだよ」

 

そう言いミサイルを放った。ミサイルは真っ直ぐ白騎士の機体に命中し爆発四散した。

 

「こちらデルタ2、ボギーダウン。繰り返す、ボギーダウン」

 

『こちらエリシオン、デルタ2お疲れ様です!』

 

『さすがだイチカ!』

 

『よくやったぞイチカ。一旦補給に戻るか?』

 

「いや、ミサイル、バルカン等は十分ある。このまま行くよ」

 

『了解、無理するなよ。デルタリーダーout!』

 

そう返事が返り、イチカは機体を反転させ要塞の方へと向け飛ぶ。

 

その頃要塞の司令部では各部から報告が次々と上がって慌てていた。特にさらに混乱の状況に墜とした情報が入る。それが白騎士の撃墜だった。

 

「さ、先ほど白騎士が撃墜されたと……ほ、報告が」

 

「う、嘘だろ。あれには莫大な資金と技術を積み込んだんだぞ! それにあれには無人ISで蓄積させた大量の戦闘データを入れた上に、ブロイド様が想定された仮想戦闘データも入っていたんだぞ!」

 

「そ、そんな事言われたって墜とされたんだぞ! ……も、もう駄目なのか? 世界を変えるのなんて無理だったのか?」

 

一人が絶望に満ちた表情で零すと、広がる様に同じように絶望的表情になって行く。すると

 

「落ち着け!」

 

「ッ! ……ブロイド様」

 

「たかが無人機一機墜とされたくらいで狼狽えるな! 全軍に伝えよ! 『星の歌』を使う! 星の歌の加護で奴らを殲滅せよ!」

 

「「「「はっ!」」」」

 

ブロイドと呼ばれた仮面の男の叱責に司令部のスタッフ達は気を持ち直し、各部署にブロイドが言った星の歌の準備をするよう連絡した。

 

その光景を見たブロイドは指揮官室から出て行こうとする。

 

「ブロイド様、何方へ?」

 

「懐かしい者が此処に来るかもしれん。出迎える準備だ」

 

そう言い出て行くと、ジェフはただ頭を下げ、いってらしゃいませ。と見送った。




偽白騎士とのドッグファイトがしょぼい感じになってしまい本当に御免なさい!
もう少し緊迫感のあるドッグファイトにしたかったけど、力量不足で無理でした!


次回予告
偽りの白騎士を倒したイチカ。デルタ部隊と合流すると同時に突然歌が鳴り響いた。敵が更に苛烈な攻撃をしてくる上に、連合側の誰もが不愉快な気分になっている中、ワルキューレの歌がそれを妨害する。
そして要塞攻略の為にイチカ達デルタ部隊が突入した。
次回
要塞攻略~久しぶりだな、イチカ・メルダース!~


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57話

偽りの白騎士を墜としたイチカはデルタが戦闘している宙域へと到着し、戦闘を続行していた。

 

「こちらデルタ2、合流した」

 

『デルタリーダー了解。よし、お前等このまま『~~~~♪』グッ!? な、なんだ!?』

 

突然耳障りな歌が、頭の中に直接に叩きつける様に聞こえイチカ達のみならず連合軍全体が不快感に陥っていた。

 

『こ、こちらウォーウルフ2! なんだ、この歌は!? 頭がぁ』

 

『せ、戦闘に集中できねぇ…』

 

『か、各機急いで退避を』

 

どの機体も戦闘が出来るような状態では無かった。すると一人のパイロットが敵の様子に変化がある事に気付く。

 

『こ、こちらヴァローナ3。て、敵の機体の様子が可笑しい。機体が、白く変化した?』

 

「白く、なった?」

 

イチカはドラケンの色が白くなったと聞くと、まさかと思うも頭に響く歌の不快感の所為でまともに機体を動かせなかった。

 

マクロスエリシオンに居たワルキューレ達にもその歌は届いており、皆不快感に襲われていた。

 

「うぅ~、何なのこの歌…」

 

「き、気持ちわるぃ」

 

「み、皆ぁし、しっかりぃ」

 

「うぅううう~」

 

皆気分が悪く跪いている中、美雲も不快感に襲われる中必死に立ちマイクを握りしめていた。

 

(此処で歌うのを止めたら、皆が、イチカがやられてしまう。だから!)

 

そう思い美雲は大きく息を吸い込み、歌を歌った。

 

~僕らの戦場~

 

美雲は渾身の力を入れ口から歌を出す。戦場に立つ全ての兵士の為に、そして愛するイチカの為に。

美雲が必死に歌う姿にマキナやレイナ、そしてカナメやフレイアも足に力を入れる。

 

「こんな所で、諦めるもんですか!」

 

「ゴリゴリ頑張るかんねぇ!」

 

「負けない!」

 

「みんなの為、そして世界の為にも!」

 

そう言い美雲に続くように歌を歌い出した。その勢いは連合軍のパイロット達の頭に鳴り響く歌を撥ね退ける程に。

 

『歌が、さっきの不快な歌が聞こえなくなった』

 

『彼女達のお陰なのか?』

 

『……まさに戦場に立つ戦乙女(ワルキューレ)といった所か』

 

連合軍がそれぞれ立ち直り始める中、エリシオンのレーダーに新たな反応が現れた。

 

『こちらエリシオン。F-3-4-2に新たな敵影確認! 恐らく月の待ち伏せ部隊だと思われます。至急迎撃を!』

 

『ッ!? クソ、仕方ない。こちらウォーウルフ1。デルタリーダー聞こえるか?』

 

『こちらデルタリーダー。なんだ?』

 

『敵は我々連合軍が抑える。デルタ部隊は要塞内部に突入し、ケリをつけて来てくれ!』

 

『流石に無茶じゃないのか?』

 

『無茶でも君達エース部隊に任せるほかないんだ。行ってくれ!』

 

ウォーウルフ1からの言葉にアラドは苦渋に満ちた顔を浮かべた後

 

『了解。デルタ各機、要塞内部に突入するぞ!』

 

そう叫ぶとイチカ達は要塞へと向かって飛行していく。

 

『健闘を祈る。……よし、各機。敵を殲滅するぞ!』

 

ウォーウルフ1に続くように戦闘機は敵に向かっていく。

 

連合軍に後押しされたデルタ部隊は、対空兵装が破壊された区画から各機散開して侵入し破壊活動を行い始めた。イチカもあちこち格納庫などを破壊しつつ前進していると、広めの広間の様な場所へと出た。

 

「……後は此処を潰して一旦脱出を「やはり来たか、イチカ・メルダース」ッ!?」

 

突然上から声が聞こえイチカは素早くその場から退避し、ファイターからバトロイド形態に変形させた。

その視線の先には白と金の塗装が施され剣を携えたドラケンが其処に居た。

 

「指揮官機か。だが、さっきの声何処かで、それにアイツは俺を知っている?」

 

すると機体の通信ディスプレイに仮面をかぶった人物が現れた。

 

『ふっ。どうやら困惑しているようだな』

 

「てめぇは一体誰だ! 何で俺の事を知っている!」

 

『知っているさ。貴様や、貴様の仲間達にどれほどの煮え湯を飲まされた程か!』

 

ドラケンに乗っているであろう仮面のパイロットがそう叫ぶと、イチカは漸く思い出したかのような顔つきになった。

 

「お前、まさか!?」

 

『そうだとも、私だ!』

 

高々に声を上げる男にイチカは睨むような目線を向ける。

 

「ロイド・ブレ―ムぅ‼」

 

イチカはそう叫び、ロイドが乗るドラケンに攻撃を開始した。




次回予告
イチカにとって自身の大切な女性を攫った男、ロイドにイチカは攻撃を繰り出す。
攻撃をする中、ロイドはある事を語り出した。それはあの事件の事だった。

次回
ロイドVSイチカ 前編~あの時、貴様が死んでさえいれば!~


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58話

令和になりまして最初の投稿です。



要塞の外では激しい攻防が繰り広げられており、両陣消耗が激しい状態であった。

 

『こ、こちらトロイ5! 被害甚大、搭乗員を脱出させる!』

 

『こちらアーヴァレス隊、了解! 皆救助に向かうわよ!』

 

『『了解!』』

 

輸送機から火の手が上がり、ハッチから次々に脱出艇が飛び出すとIS部隊がその護衛に付き他のトロイへと送った。

 

外が激しい戦闘の中、中も同じく激しい戦闘が繰り広げられていた。それはイチカとロイドとの戦闘であった。

イチカはロイドのドラケンから放たれる剣技やミサイルを躱したり、ロイドはイチカが撃つバルカンやミサイルを躱したり叩き切ったりと一進一退をしつつ攻撃を行っていた。

 

「何でてめぇが生きてる! あの時、白騎士と共に炎に包まれたんじゃないのか!」

 

『確かにあの時私は死ぬ寸前だった。だが運良くこの世界に流れ着いたのさ。そして貴様がこの世界の人間だと知ることが出来たのも全く嬉しい事だったよ』

 

そう言いながらロイドは剣を振り下ろしてくる。イチカは振り下ろされた剣をアサルトナイフで受け止めた。

 

『だが、貴様があの時始末できなかったことが今日までの後悔だったがな!』

 

「あの時だとぉ?」

 

イチカはロイドの言うあの時と言う言葉に険しい顔を浮かべながら傾げる。

振り下ろされていた剣をはじき返しイチカは一旦距離を取った。

 

『そうだ。貴様がドイツに行った時の事だ! 貴様があの時死んでさえいれば、あの世界で私は全人類を統一できたというのに!』

 

「ッ! じゃあドイツで俺が誘拐されたのはあの女を優勝させる為ではなく、俺を亡き者にするためだったのか!」

 

イチカはロイドから語られた真実に驚きながらもドラケンに攻撃を繰り出す。

 

『その通りだ。貴様がドイツに訪れる以前から私は貴様の世界に居た。そして私は知識、技術を(ジェフ・ドース)に与え今の地位に就いた。そしてあの運命の日に貴様を消すつもりでいたのに、誘拐した馬鹿共がついでと言わんばかりに金を要求したせいで、余計な時間が生まれてしまった。その所為で貴様が脱走。お陰で全てが水の泡となった!』

 

「チッ! つまりお前があの事件を引き起こした奴って事か!」

 

『そう言う事だ!』

 

互いに攻撃を繰り出す中、互いの機体はボロボロになって行く。

イチカの機体も、腕や脚から火花が出ておりあまり長く持たない感じであり、ドラケンも同じく火花が飛んでいた。

 

【そろそろ持ちそうにないな】

 

【あぁ。…メッサー、悪いが【構わん、機体なんてものは消耗品だ。パイロットさえ無事でいれば何時でも戦える】わりぃ】

 

そう呟きイチカは機体のスラスターを吹かしドラケンに突っ込んだ。ロイドは突然突っ込んできたイチカに険しい顔を浮かべるも、叩き切らんと剣を振り下ろす。イチカはそれを待っていたと言わんばかりに機体を逸らし、振り下ろされた剣を避けアサルトナイフでドラケンの脇腹付近を刺した。

 

『ちぃ! 舐めるなぁ!』

 

そう叫びロイドは躱された剣を逆手に持ちVF-31Fに斬りかかる。イチカは斬られまいと左手を出して止めようとするも左手は破壊され脇腹を斬られてしまう。

 

「クソォ、もう限界か。イジェクトする!」

 

そう言いイチカはコックピットにある緊急脱出口から外に飛び出しISを身に纏った。暫くして2機の機体は爆発が起こり炎に包まれた。

 

「……急いで他の場所に「イチカぁ・メルダースぅ!」ちぃ!」

 

炎から飛び出してきたISサイズのドラケンが大声をあげながら剣を振り下ろしてくると、イチカは素早くのその場から退避する。

 

「決着を付けようぞぉ!」

 

「望むところだぁ、ロイド・ブレ―ム!」

 

そして互いのISはぶつかり合った。




次回予告
互いの力をぶつけ合うイチカとロイド。そして決着の時が付こうとした。

次回
ロイドVSイチカ 後編~これで、終わりだぁ!!~


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59話

機体を乗り捨て、ISを身に纏ったイチカは炎から現れた同じくドラケンのISを身に纏ったロイドが剣を振り下ろしてくるもイチカは躱しつつ応戦した。

 

「クソッタレがぁ!」

 

「いい加減に落ちよ!」

 

バルカンやミサイル、剣やナイフのぶつかり合いが続く。

 

「クソォ、出力的に向こうが上か」

 

【仕方あるまい、向こうは擬似コアだ。だが、向こうが力で増しているなら、此方は技術で押し返すしかあるまい】

 

「分かっている、メッサー!」

 

メッサーからの助言を受けつつイチカは残りの残弾などを確認する。

 

(バルカンはそろそろ尽きるし、ミサイルは残弾切れ。残るはアサルトナイフとビームポッドか。ビームポッドに関してはSEを消費するから使用できないと考えると、残りはアサルトナイフのみか)

 

内心舌打ちをしつつも、対策を考える。その間にもロイドは剣技を繰り出したりミサイルを撃ってくる。

 

「ふん、先程から避けてばかりではないか。そろそろ矢玉尽き始めたか?」

 

「……矢玉尽きたって言うのは、手も足も出ないと同じ意味だ。俺はまだ尽き果ててねぇ!」

 

そう叫び、イチカは残ったバルカンで撃ちながら距離をとる。

 

「ふん、いい加減に楽になればいいものを!」

 

そう言いロイドはミサイルを3発放つ。だがそのミサイルは弾頭が他とは違う物だった。

 

(俺の記憶に間違いが無ければ、あれは巡航クラスの爆風のミサイル。だったら!)

 

【白騎士! お前に積んでるSEを機体全体を包むほどの高密度のシールドを展開しろ!】

 

【何? ……いいだろう、やってやる!】

 

キースにシールドを高密度にするように頼んだイチカはロイドが放ったミサイルに向け残りのバルカンを放った。

数発が2発のミサイルに当たり爆発が起きる。

 

「今だ!」

 

そう叫びイチカは炎に突っ込む。そしてブースター全開で炎を掻き分けその先に居たロイドにアサルトナイフを展開しロイドに斬りかかる。

 

「無駄な足掻きを!」

 

ロイドはそう叫びイチカのアサルトナイフを剣で受け止める。

 

「貴様の機体如きに、この私が開発した機体に勝てるはずが無かろうが!」

 

「力で駄目なら、技術で補うまでだよぉ!」

 

そう叫びイチカはロイドの機体に掴みかかった。

 

「ッ!? 貴様何を!」

 

「てめぇを墜とす作戦だぁ!」

 

ニッと笑うイチカにロイドは戦慄を浮かべると、アラート音が鳴り響く。それはイチカの背後から迫ってくる、()()()()()()()()()()()()()

 

「貴様、道連れにするつもりかぁ!」

 

「悪いが、墜ちるのはてめぇ一人だぁ!」

 

逃げようともがくロイドをイチカは必死に抑え込む。そしてミサイルは時限信管が発動し爆発した。爆風が起きる中、イチカは黒煙の中から勢いよく出てきて地面に叩きつけられる。

 

「ガハッ!? ……いっつぅう。やったか?」

 

黒煙が上がる方に目を向けつつイチカはメッサーに語り掛けた。

 

【メッサー、大丈夫か?】

 

【俺の事より自分の心配をしろ。無茶な方法をとりやがって】

 

【わりぃ。ワンオフ使おうと思ったんだが、それじゃあ決定打に欠けると思ってな。あぁするしか方法が無かった】

 

【全く。機体の方だが、ほとんどボロボロだ。残りのSEも乏しいが脱出するには十分だ。で、お前の状態だが左腕と右足が折れているが、神経は傷付いていない。おい、白騎士。お前の方は?】

 

【こっちもボロボロだ。スラスターの一部が破損している】

 

【そうか。イチカ、機体はこっちで操縦する。お前は休んで【悪い、そうもいかねぇかも】ッ!?】

 

メッサーの言葉を遮る様にイチカは悔しそうな表情で睨む先には、仮面が割れ素顔を見せるロイドが足を引き摺りながらイチカに近付いていた。

 

ロイドの体は、腕がもげ肉ではなく細いチューブや金属パーツが見えており顔も若干だが皮膚が剥がれ金属の様な物が見えていた。

 

「わ、私は、まだ、負けて……ない!」

 

「しつこすぎるぞ!」

 

イチカはISを身に纏おうとするも、腕や脚の骨折の痛みで身に纏えなかった。

 

「……くそぉ、このままじゃあ」

 

イチカは腰に付けている拳銃を取り出すと、ロイドに向け撃つも止まる気配はなかった。

そして拳銃は弾切れを起こし、イチカはそれを放り捨てナイフを取り出すも対抗できる想像が出来なかった。

 

【……致し方ない。おい、白騎士】

 

【なんだ?】

 

【再び死ぬ覚悟はあるか?】

 

【……愚問だな。私は当の昔に死んでいる。今更死ぬのに恐怖などしない】

 

そうか。とメッサーは返す。

すると突然イチカの目の前にISが現れた。それはイチカの専用機であるイーグルクロウだった。

 

「……メッサー?」

 

【イチカ、お前は生きろ】

 

そう言うとイーグルクロウは突然無人のままロイドに向かってブースターを吹かしロイドに掴むとそのままどこかに飛んで行く。

 

「なっ!? メッサー!」

 

【イチカ。デルタを、そしてワルキューレの皆を任せるぞ!】

 

【ふ、ふざけんな! 俺はまだお前の事みんなに話していないんだぞ! そいつを放り捨てて戻って来いよ!】

 

【そうはいかん。俺達は既に死んだ人間だ。そんな者がこの場に残っている訳には行かん】

 

【白騎士! お前も何とか【悪いが、俺も死神に同意見だ。コアとして生きているとはいえ、俺達は既に死人だ。何時までも残っている訳には行かん】なんで、何でだよ!】

 

兄貴的存在だったメッサー、そしてその仇である白騎士事キースに言われ涙を零しつつ叫ぶイチカ。

 

【死人だからって何だよ! 別に、そんなの問題なんかじゃないだろ!】

 

【いや、これは俺の、俺達の我儘だ。許せ、イチカ。そしてこんな俺を、兄貴のように慕ってくれありがとう】

 

そうメッサーが伝えたと同時に声は聞こえなくなった。

 

「メッサー‼‼」

 

 

――エリシオン・医務室

戦闘が繰り広げられている中、マドカは医務室で動けずにおりただ無事にこの戦争に勝てることを祈っていた。すると

 

【聞こえるか、マドカ?】

 

【キース? どうしたんだ? まさか兄さんに何かあったのか!?】

 

【それは問題ない。ただこれでお前とは最後の会話になるだけだ】

 

【最後、だと? どう言う事だ?】

 

マドカに問われたキースは自身が何をしようとしているか、それを説明した。それを聞いたマドカは目に若干の涙を浮かべた。

 

【……そうか。それがお前と、そしてメッサーという人の意思なら止めない。けど兄さんは?】

 

【それは問題ない。既に救援信号を出しておいた。俺達が事を終えた頃にはアイツは救助されている】

 

【……そうか。……キース、短い間だったが、お前と共に話せた事、そしてともに飛べたことは誇らしい事だった。ありがとう】

 

【こちらこそ、共に飛べたことに感謝する。それじゃあさらばだ。マドカ・メルダース】

 

そう言葉を掛けられた後、声は聞こえなくなった。マドカは小さく、こちらこそありがとう。と零し一人涙を流した。

 

【別れの挨拶は済んだのか?】

 

【あぁ。そっちもか、死神?】

 

【ふん、泣き虫ではあるがアイツは強いから、大丈夫だ】

 

二人はそう話し合っていると、満身創痍のロイドが叫んでいた。

 

「な、何故だ! 何故人が乗っていないのにも関わらず動ける!? こ、こんな事可能なわけが」

 

【可能さ、ロイド】

 

「ッ!? キース、なのか?」

 

突然自身の頭に響くようにキースの声が聞こえ、ロイドは驚愕の顔に染まる。死んだと思っていた親友が目の前のISから聞こえたのだ。

 

「ま、まさかアイツが乗っていたISの【残念だが、それは俺の方だ。白騎士は後から載せられた拡張パーツのコアさ】だ、誰だ!?」

 

【死神とだけ言っておこう】

 

メッサーはそう言いながら機体を更にスピードを上げ向かった先は格納庫だった。そしてメッサーはある物を探していると、目的の物を見つけたのか其処に向かってブースターを吹かしロイドを抑えつけた。

 

「な、何をする気だ!」

 

【俺達は既に死人だ。死人が何時までも生者のお節介を焼く訳には行かんだろ】

 

【その通り。安心しろ、ロイド。地獄には一人で行く訳でない。我らも共に行く】

 

「は、放せ! わ、私はまだ終えていない! この世界を統一し、あの世界で出来なかった野望がまだ!」

 

ロイドの叫びを無視するように、メッサーは機体に残っているアサルトナイフを取り出すと、抑えつけていたロイドの背後にあった大型ミサイルに向け振り下ろす。

 

【これで、終わりだ】

 

ナイフがミサイルに刺さったと同時に大爆発が起き、連鎖するように他のミサイルや機体にも爆発が連鎖し、格納庫を吹き飛ばした。

 

その頃、イチカは痛む体に鞭を打ちつつ立ち上がり脱出口に向け体を引き摺っていた。

涙を流しながらだが、イチカはメッサーに託された事を全うするべく。

 

『イチカ、無事かぁ!』

 

そう叫ぶ声が聞こえると、イチカの前にハヤテのVF-31J改が現れた。

 

「ハヤテ……」

 

『救援信号が出た後に、お前の反応が消えたからびっくりしたが無事だったようだな。急いで乗れ。自爆シーケンスが発動しているみたいだ』

 

そう言われイチカはガウォーク形態から差し出された手に乗り込みそのままコックピットの後部座席に座った。

 

「よし、急いで脱出するぞ!」

 

「……あぁ」

 

イチカの返答を聞きハヤテはガウォークからファイターに変形させ要塞内部から脱出を始めた。

要塞が爆発していく中、指令所には多くのスタッフ達が残っていた。一同が顔を向けていたのはジェフにであり、司令室に居たジェフは指令所に居た者達一同の顔を見て目を瞑った。

 

「どうやら、我々の革命は失敗に終わったようだ」

 

その言葉に大勢のスタッフ達は涙を流した。嗚呼と声を上げる者が居れば静かに涙を零す者も。

 

「だが、我々の様に行動を起こす者が居るという事を世界に示すことが出来ただけでも儲けものだ。後は、地上に居る我らと同じ志を持った者達が動いてくれることを切に願うだけだ。諸君、脱出は自由だ。生きたいものは、行け。生きることは恥ではない。だが、志だけは捨てぬように。以上だ」

 

そう言い司令室の奥へと踵を返すジェフ。彼の言葉を聞いたスタッフ達はそれぞれ歩き出すも、誰一人脱出艇へと向かわなかった。それぞれ己の部屋へと入りそっと家族写真を抱く者が居れば、愛する者と抱き合いながら静かに終わりを迎えようとする者達がほとんどだった。

 

そして奥へと向かったジェフも自身の部屋に入ると、机の上に置かれている写真立てを手に取る。其処には美しい黒髪の女性と、子供、そしてジェフが写っていた。

ジェフは2人を優しく指で触りながら、椅子に深々と座り目を瞑る。

 

「済まない、2人とも。私は、お前達の仇をとれなかった」

 

そう呟き、閉じた目から涙を零すと何処からともなく

 

【おとうしゃ~ん!】

 

【あなたぁ~】

 

と自身を呼ぶ懐かしい声が聞こえた。そして目を開けると其処には亡くした二人の姿が目の前に居た。

 

「お、お前達」

 

【おとうしゃ~ん、早くあっちで遊ぼうよぉ】

 

そう言いながら子供はジェフの手を引っ張る。そして黒髪の女性は近付き、ジェフの開いている手をそっと握りしめた。

 

【あなた、もういいのです。もう無理しなくてもいいのですよ】

 

「…アーヴィン、アルベド。……そうだな、仕事は終わった。一緒にあっちで遊ぼうか」

 

そう涙を零しながら笑みを浮かべジェフは子供の手を握りしめ、アルベドと3人で歩き出す。それと同時に司令室の天井が崩れ瓦礫に埋もれた。

 

爆発が起きる要塞を眺める連合軍。既に戦闘は止んでおり、洗脳されていたパイロット達も元に戻っている中先に脱出したアラド、ミラージュ、チャックは燃え盛る要塞を心配そうに見つめていた。

 

「くそ、ハヤテの奴。遅すぎるぞ」

 

「隊長、救助に行かせてください!」

 

「ダメだ。今向かって行った所で危険すぎる。今は待つしか『こちらエリシオン! ハヤテ中尉の機体を確認! そちらに向かっています!』 本当か!」

 

エリシオンからの通信を聞いたアラドは燃え盛る要塞の方を目を凝らしながら見ていると炎の中から1機のヴァルキリーが飛び出してきた。

 

『こちらデルタ5、イチカ共々健在だ!』

 

そう無線で報告すると、連合軍の多くからよっしゃぁー!と大声で歓声が上がった。

そして生き残った連合軍機は残ったトロイへと帰還した。デルタ、アルファ、ガンマ部隊もエリシオンに帰還し格納庫でそれぞれ労いの言葉をかけあっていた。

ただ一人、イチカは若干悲しい表情を浮かべながら燃え盛る要塞を見つめていた。

 

「どうした、イチカ?」

 

アラドはイチカの表情に心配そうに近づく。

 

「いや、ちょっとな」

 

そう言葉を濁すイチカ。すると松葉杖を使いながらイチカの元に向かうマドカが居た。

 

「兄さん」

 

「マドカ。……その「いいんだ、アイツも覚悟を決めていたんだ。私よりも兄さんの方が辛くないのか?」……まぁ、そうだな」

 

「ん? どう言う事だ。二人共、一体何の話をしているんだ?」

 

そう問われ、イチカ、そしてマドカは話し始めた。自分達のISに乗った仲間、そして白騎士の事を。

 

2人の説明に最初は驚いていたが、最後の方は涙を流す者で溢れかえった。

また、自分の命と引き換えに仲間を守りやがって。と零すハヤテ。そして涙を零しながら、メッサー君。と零すカナメ。それぞれメッサー、そして白騎士の行動に涙を零したのだ。

そしてイチカは体の向きを変え燃え盛る要塞に向け一呼吸入れる。

 

「この戦いを終わらせるために共に戦ったメッサー中尉、そして白騎士に、哀悼と敬意を表して、敬礼!」

 

そう叫んで敬礼すると、マドカも敬礼をした。その姿にハヤテも同じく敬礼するとアラドやミラージュ達も続けて敬礼を行った。




次回予告
戦いは終わり、平和が訪れた。そして月日は流れ各々自分達の道を歩み始めた。

次回
エピローグ~さぁ、帰るか~


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最終話

オグマ社の反乱。この事件は世界中を大きく震撼させ、騒然とさせた。特にISがオグマ社の開発した戦闘機の前に無力だという事にも拍車がかかり、世界中はパニックに陥っていた。

だが、NATO事務総長であるケビンが各国に応援要請、そしていち早くオグマ社の陰謀に気付いたエンシェントセキュリティー社の活躍によりオグマ社の暴挙は阻止された。

 

だがその戦いは多くの犠牲が払われた。参加した戦闘機のパイロットの内20名以上が戦死。そして参加したIS部隊も9名ものパイロットが戦死した。

 

IS委員会は今回の責任をケビンにとらせようと動いたが、各国がそれに反発。さらに束が委員会が隠してきた悪事などを脅しに使い黙らせた。それによりケビンはそのままNATO事務総長として勤め続けた。

 

そして各国は此度の一件、もう一度ISについての考え方をやり直すべきだと意見が一致しISの運用方法の見直しが行われる結果に。

さらに女尊男卑も見直しが行われ過去の事件、更に政府内で女権等と癒着している政府関係者の洗い出しが行われ、闇に葬られた事件などが明るみになった。

法令の改正も行われ、女尊男卑の事件は重い重罪が掛けられるようになったとのこと。

 

これらがなぜ見直されるようになったか。それは皮肉にもオグマ社の事件があったからだ。

彼等は方法は違えど、世界を変えようとした。今の世界は間違っている。だから正しい道へと戻そうとした。一部の世間はそう捕らえオグマ社とは違う方法で世界を変えようと動いた事がきっかけで政府も動いたのだ。

 

オグマ社との戦争後、フロリダ州にあるマスドライバー施設近くに大きな墓標が立てられ、亡くなったパイロット達の名前が記された。その中にはマスドライバーを命と引き換えに守ったジョーの名前も記されていた。

 

 

それから月日は流れたある日、エンシェントセキュリティー社の滑走路には大勢の人が集まっていた。彼等の前にはイチカとマドカ、そしてワルキューレのメンバーとデルタの面々が居た。

 

「スコールさん、それにオータムさん。色々お世話になりました」

 

「こっちこそ、色々世話になったわ。今まで本当にありがとうね」

 

「向こうでも元気にやっていけよ」

 

そう言いながら握手を交わす。そして二人はマドカの方に体を向ける。

 

「マドカ、元気で頑張るのよ」

 

「あんまりイチカに迷惑かけんじゃねぇぞ」

 

「なっ!? なんで私だけは子供みたいなことを言うんだ!」

 

二人の言葉にマドカは顔を真っ赤に染めながら怒鳴る。その光景に大勢の者達が笑い声を挙げ、それに対してもマドカはキレるのであった。

 

「それにしても今日で貴方達とはお別れだと思うと寂しいわね」

 

「……すいません。ですが、俺の故郷はもう、向こうだと決めているので」

 

イチカはスコールの呟きに申し訳なさそうにそう答えた。

そう、今日を以てイチカ達はエンシェントセキュリティー社を発ち、束が月日を掛けて開発した装置を使い、元の世界に戻る日だったのだ。

 

「そう言えば、束さんは何処に?」

 

「彼女ったら、鼻水垂らしながら最後の別れがつらいから遠くから見守るってよ」

 

「そう、ですか」

 

イチカは束が見送りに来ていない事に一抹の寂しさを浮かべながらも顔付を変え、背筋を伸ばした。その姿にスコール達、見送りに来たスタッフ全員が背筋を伸ばした。

 

「スコール司令、そして皆さん。本日をもって自分、そしてマドカは此処を退社します。今までお世話になりました!」

 

「お世話になりました!」

 

そう言い敬礼した。

 

「こちらこそ。貴方達のお陰で多くの仕事がこなせたわ。そして私の過去の仇も取ることが出来た。本当にありがとう」

 

スコールがそう言い敬礼を返すと、スタッフ達全員も敬礼を返した。

 

そしてイチカとマドカは機体が無い為ワルキューレ達と同じ機体に乗り込んだ。デルタ部隊が飛び発つと同時にスタッフ達は手を振りながらそれを見送った。

 

エンシェントセキュリティー社がある島を窓から見送り、イチカ達は宇宙へと上がった。

 

「もう、此処には戻ってこれないんだな」

 

「そうだな」

 

隣に座るマドカにそう零すイチカ。すると輸送機の前にあるカーゴがガタガタと動き出す。

 

「ちょ、ちょっと何あれ!?」

 

「う、動いてますよ!?」

 

「ま、まさかエイリアン?」

 

「うえぇぇ、イッチー怖いよぉ~!」

 

ワルキューレ達は皆怖がっており、イチカとマドカは恐る恐るそのカーゴの蓋を開けると、其処から

 

「ふぅ~~~~! 狭かったぁ!」

 

「束様、やはり貨物室の方が宜しかったのではないでしょうか?」

 

そう言いながら出てきたのは束とクロエだった。

 

「た、束さん!? それにクロエも!?」

 

「な、何で此処に居るんだ!?」

 

「うん? あぁ此処に居るのはねぇ、束さんもいっくん達の世界に行くことにしたんだぁ!」

 

「「はぁ!?」」

 

イチカとマドカは突然の発言に驚きの余り声を零す。

 

「大丈夫! スーちゃんやオーちゃんには既に伝えてあるから!」

 

そう言われあの人達もグルか!と内心驚きながら、大きく溜息を吐いた。

 

「ちなみに帰る気は?」

 

「無い!」

 

と、ワッハッハー!と高笑いで宣言する束にもういいやとガックシと肩を落とす二人だった。

そしてエリシオンに格納後、輸送機に乗っていなかったはずの束が居ることにアラド達も驚かれ、結局束も連れて行くこととなった。

 

そしてエリシオンでその装置がある方に向け飛んでいると、大きな輪で出来た物が現れた。

 

「束さん、あれが束さんが開発した」

 

「そう、擬似ワープホール発生装置! 上手く行くかどうかは分からないけど、理論上は成功するはず!」

 

そう言われ一抹の不安を感じながらも装置の起動スイッチが押され、輪の中心に黒いワープホールが現れた。そしてエリシオンはその穴に飛び込んだ。

暫し真っ黒な穴の中を通ったエリシオン。すると前方から光が現れその光に飛び込むと何処かの惑星付近へと出てきた。

その惑星を見たイチカ達は懐かしそうな顔を浮かべた。

 

「帰って来たんだな、俺達」

 

「えぇ、ラグナ(故郷)に」

 

美雲とイチカは互いに手を握りしめながら故郷を眺めるのであった。

 

 

イチカ達が帰って数年が経ったある日。

エンシェントセキュリティー社の食堂で一人のツインテールの少女が働いていた。

 

「お~い鈴、中華セット一つ」

 

「はいは~い。ちょっと待ってね!」

 

そう言いながら鈴は小柄な体に似合わない中華鍋を振るいながら酢豚をこしらえた。彼女はIS学園卒業後、軍に入隊しそこである程度の知識、技術を身に付けた後エンシェントセキュリティー社に入社したのだ。そして現在は食堂のスタッフをやりつつ、災害救助IS部隊にも所属しているのだ。

ある日、彼女に結婚をする気はないのか?聞いた者が居た。

鈴の答えは

 

「あたしの初恋は当の昔に終わってる。けど新しい恋をする気はないわ。だって、あたしの心はあいつ以外に覗かせる気なんて無いもの」

 

そう言い結婚する気はないとはっきりと答えたのだ。

 

そして鈴が入社する前からいるラウラはと言うと、

 

「ほら、遅れてきているぞ!」

 

「「「い、イエス・マム!」」」

 

そう叫びながら走り込む女性隊員達。ラウラは変わらずエンシェントセキュリティー社に所属しており、鈴同様新たに編成されたIS部隊の隊長として務めている。そしてそんな彼女の傍には

 

「ラウラ隊長、昨日のレポート持って参りました」

 

「む、すまんなクラリッサ」

 

そう言いクラリッサに労いの言葉を掛けるラウラ。クラリッサはあの戦争後、軍を除隊し、ラウラと同じエンシェントセキュリティー社に入社したのだ。

 

そんなエンシェントセキュリティー社を経営しているスコールとオータムはと言うと

 

「ちょっと誰よぉ! 私が楽しみにとっておいたお酒飲んだのは!」

 

「俺じゃねぇぞ! ナタル、お前じゃないのか?」

 

「ちょっと、私じゃないわよ!」

 

「じゃあ誰が飲んだのよ?」

 

そう言いしかめっ面を浮かべるスコール。すると酒瓶片手に近付くアリーシャが近づく。

 

「どうしたんノサぁ? そんな怖い顔してるとぉ、しわ出来るサネぇ?」

何故アリーシャが居るか。それはあの戦争後、エンシェントセキュリティー社の居心地の良さにイタリア代表からエンシェントセキュリティー社所属となった為である。

 

3人はアリーシャの持っている酒瓶に目が行く。其処にはデカデカと【スコールの】と書かれていた。

 

「「「お前かぁ!!」」」

 

「ふぇ? 何だいなんだい!? いきなり襲い掛かってくるんじゃないサネ!?」

 

そう叫びつつ逃げるアリーシャと、追いかけるスコール達であった。

 

日本に居る簪、そして楯無達はと言うと

 

「ねぇ簪ちゃん。この資料はこの値で間違いないの?」

 

「何度もやった。虚さん、この前企画したあれってどうなったんですか?」

 

「はい、役員の皆さん了承の事です。準備が整い次第順次出発予定です」

 

「みんなぁ~、また子供達からお礼のお手紙が届いたよぉ!」

 

彼女達はとあるビルの一室に4人で色々な書類と睨みっこしていた。彼女達は現在束がやっていたIS被害を受けた孤児などの支援活動をおこなっていた。

父親が営んでいる更識カンパニーに入社し、楯無がリーダー、簪が副リーダー、虚が秘書、本音が副秘書として働いている。

 

 

セシリア、シャルロットはと言うと

イギリス、とある果樹園

其処に麦わら帽子をかぶり作業服を着ながら作業をするシャルロットが居た。

 

「ふぅ~、この辺の雑草はこれ位でいいかな?」

 

「シャルロットさぁ~ん、そろそろお茶にいたしませんことぉ~?」

 

そう大きな声を上げながら声を掛けたのは、同じく麦わら帽子をかぶりドレスを身に纏ったセシリアだった。

 

学園卒業後シャルロットはフランスに帰ろうかと思ったが、オグマ社の一件でデュノア社の信頼は失墜している上に、一部の幹部に虐げられていた者達がデュノア社の関係者たちを襲撃しているという情報が入り、フランスに帰られずにいた。そこでセシリアがイギリスへと亡命し、自身が持っている果樹園で働きませんかと誘ったのだ。

元々山で育ち、畑作業は若干得意だったシャルロットはその申し出を受け入れ、こうして新しい人生を送っているのだ。

 

 

箒はと言うと

とある神社。その社務所にて一人の黒髪の巫女服の女性が座りながら書き物をしていた。すると2人組の男女がやって来た。

2人はお守りを受け取ると神社の方へと向かいお祈りをした後、社務所の方へとやってくる。

 

「あの、すいません。この恋愛成就のお守り2つください」

 

「はい、では600円になります」

 

「はい、ありがとうございます」

 

そう言いお守りを受け取った後2人は帰って行った。その姿をすこし微笑ましい表情で見送った。

 

するとその背後の扉が開き白髭をした、篠ノ之龍韻が入って来た。

 

「箒、少し休憩を入れたらどうだ?」

 

「はい、お父さん」

 

そう言い箒は体を龍韻の方に向け、龍韻が持ってきたお茶を口にした。

箒は少年院に収監後に父龍韻に縁切りの事を告げられた後、しばしの間塞ぎ込んでしまっていた。そんなある日、少年院の係員の一人に箒に向けこう告げられた。

 

「貴女、今まで相手がどういう気持ちを抱いているのか、考えた事が無いの?」

 

衰弱していた箒は、係員のその言葉が頭に残りずっと考えにふけ込む様になった。自分の今までの行動すべてを。そして漸く自分がどれ程他人に迷惑を掛けたのか自覚し、贖罪すべく処罰を受けた。そして少年院から出所し、龍韻に心変わりできていると認めてもらい、現在は篠ノ之神社の巫女として頑張っている。無論贖罪の心を忘れないために、剣道を棄てた。

また剣道を習えば、また誤った道に逸れることを恐れたためだ。

 

 

そして千冬はと言うと現在、日本の刑務所に収監されていた。その訳はオグマ社の事件後、千冬が自らが数年前、日本に向け放たれたミサイルを撃墜した白騎士だという事を告発したからだ。

束にミサイルだけを墜とすよう言われたにも拘らず、戦闘機や艦船を攻撃して沈没させたのは自ら行った事だと公表し世界中からバッシングを受けた。

 

そして千冬は国際刑事裁判所に出廷し、大勢の軍人、そして民間人殺害を行ったとして有罪を受けた。

 

そして千冬の生まれた国、日本にある刑務所に収監が決まったのだ。

そんなある日、千冬は強化ガラスで仕切られた部屋にいた。そして目の前には、昔の後輩が居た。

 

「先輩、その少しお痩せになられましたか?」

 

「まぁ、此処の食事はどれも健康バランスを考えられているモノだから。それに酒も飲めるわけでは無いから、痩せもする。……真耶の方は学校は大丈夫か?」

 

そう言い強化ガラスの向こう側に居る後輩、山田真耶にそう問うと、真耶は苦笑いを浮かべた。

 

「はい。けど、先輩みたく威厳があるわけでは無いので、先生と呼んでくれる生徒は少ないです」

 

「そうか。だが、生徒から慕われているのはいい事だ。……私には出来ない事だったからな」

 

自虐的な言い方に、真耶は少し暗い表情を浮かべる。

 

「……そろそろ面会終了時間だ」

 

「は、はい。それじゃあ先輩、また来ますね」

 

「……無理して来なくても良いんだぞ?」

 

「いえ、私にとって先輩が白騎士だったとしても、尊敬できる先輩ですから」

 

そう言い一礼して真耶は部屋から出て行く。千冬は部屋から出て行くと、目から涙を零しつつ刑務官に部屋へと戻されていった。

 

そしてイチカ達はと言うと

惑星ラグナにある、イベント会場

その上空を5機のヴァルキリーが飛んでいた。一番前を飛行している機体は白を基調としており、所々が黒が入った機体だった。

その後ろは青や赤紫、更に黄色に黒色の機体が飛んでいた。

 

「こちらデルタリーダー。皆、今日も何時も通り派手なパフォーマンスをしつつお客さんを賑わせるぞ」

 

『了解』

 

『ウーラーサー!』

 

『了解だ!』

 

『分かった』

 

そう、彼らはデルタ部隊であり、4人の前に飛んでいる機体はイチカが乗っていた。

あれからラグナへと戻って来たエリシオンを出迎えたのは数年の月日が経ったラグナだった。無論数年行方が消えていたエリシオンに色々な事情聴取が行われたが、エリシオンの活動記録、及び束の証言によってエリシオンには特に逃亡罪などの罪に問われることは無かった。

 

ワルキューレ達も活動を止めていたアイドル活動を再開し、各惑星に赴きライブ活動を再開していた。

 

デルタ部隊にも変化があり、アラドは前線から退き現在はエリシオンで飛行訓練教官となって新人育成を行っている。

その為デルタ部隊の隊長枠が空くわけとなったが、誰もがイチカを推薦した。本人は断るも、皆の熱い推薦に折れ、隊長の座に就いた。

機体も新たに改造されたVF-31Fが送られた。

 

ライブ飛行は無事に終了しイチカ達は近くに着陸し美雲達の元に向かう。

 

「よぉ、美雲。お疲れ様」

 

「あらイチカ。あなたこそパフォーマンス飛行お疲れ様」

 

そう声を掛け合った。二人は相変わらず仲睦まじく、ラグナに戻った後もお忍びでデートに行ったりとその仲を深め合っていた。

 

その光景にハヤテ達はにやにやと眺めつつ休憩した。

 

「ハヤテ、ハヤテ。この後デート行かんね?」

 

「ん? おう、別に良いぜ」

 

そう言いいちゃつき始めたハヤテとフレイア。

変化があるとすればフレイアの右手に、老化の徴候は消えていた。理由は束が開発した薬のお陰だった。束が開発した薬、それはフレイアの体内にある急激な細胞分裂を抑制するものだった。薬を飲み続けて行けば人間と同じスピードで細胞分裂になるようになり寿命を延ばすことが出来る。だがデメリットとして身体能力が人間と同じくらいに低下するし、もしかたらルンが感じられなく恐れがある物だった。

薬の説明時に束はそのことを伝え、フレイアは不安な表情を浮かべたがハヤテと共にずっと生きていきたい。そんな思いが勝ちフレイアは薬を飲み続けた。

結果フレイアの寿命は延びた。だが、デメリットの通り身体能力が落ちた事。そして若干ルンが感じにくくなったそうだ。それでもフレイアは持ち前の明るさで、それを補った。

 

「相変わらず、仲が良さそうな事で」

 

「だな。……俺も出会いが欲しい」

 

「何時か見つかるさ。何時かな」

 

2人にそう伝えジュースを飲むマドカ。

 

「むぅ~、2人とも相変わらずイチャコラするぅ!」

 

「油断も隙も無い」

 

マキナとレイナも膨れっ面でぶぅーぶぅー文句を零す。相変わらずこの二人はイチカの事を好いており、イチカに買い物やご飯を食べに誘うも、なかなかイチカの中にある友達という壁から壊せていなかった。

 

「さて、今日のライブは終わったし皆、ご飯食べに行きましょ。アラドさんや束さん達がもうお店で待ってるそうよ」

 

「早いな、父さんと束さん達は。それじゃあ帰りましょうか」

 

そう言いイチカが歩き出すと、美雲もその傍に付き共に歩き出す。ハヤテ達もその後に続いた。

 

 

彼等の物語はこれからも続くであろう。だがそれを語るのはまた別の機会に‥‥。

 

~The End~




これにて『歌と共に舞うひと夏』は終了となります!
いやぁ~、長い間投稿ペースがあいたりとお待たせして本当に申し訳ありません!

それでは本作品を最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました!


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