地獄先生と陰陽師一家 (花札)
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ここでの設定・キャラ紹介

名前:神崎輝二(カンザキコウジ)

性格:おっとりとした性格。心配性。

容姿:紺色の髪を耳下で結い、手首に勾玉のブレスレットを嵌めている。

説明:童守町警察庁に勤める警部。麗華と龍二の父親。バディである桐島勇二とは昔馴染み。

 

名前:迦楼羅(輝二の白狼)

性格:物静か。だが、喧嘩っ早い。

説明:焔と渚の父親。普段は鼬姿か人の姿をしている。人の時は、忍服に身を包んでいる。

 

名前:暗鬼

性格:無口

説明:輝二の式神。

とある屋敷に建てられた蔵の守り神。だが、先代の主が亡くなり、蔵も壊され行く当ても無かったところを、輝二に拾われた。姿は暗殺者の様な格好に、腰に前主から貰った刀を挿している。

 

名前:丙

説明:輝二の式神。

 

 

名前:神崎龍二(カンザキリュウジ)

性格:喧嘩っ早い。心配性。

容姿:黒い髪。

説明:鈴海高校の生徒会副会長。弓道部所属。麗華の兄。

炊事・掃除・洗濯全てを熟す。妹の麗華を誰よりも可愛がっている。

 

名前:渚(龍二の白狼)

性格:物静か。しっかり者。

説明:焔の姉。

 

名前:雛菊

説明:龍二の式神

 

名前:鎌鬼

説明:龍二の式神。

通り魔事件の犯人。輝二に魂を浄化され龍二の式神になった。

 

名前:神崎麗華(カンザキレイカ)

性格:好奇心旺盛。活発。

容姿:腰まで伸びた紺色の髪を、耳下で結っている。首には、勾玉のペンダントを下げ服の下に隠している。

説明:童守小のぬ~べ~クラスの生徒。ずば抜けた身体能力を持っている(兄も父も)。郷子とは一年の時からクラスが一緒。喘息持ちで体が弱い。

 

名前:焔(麗華の白狼)

性格:喧嘩っ早い。気性が荒い。

 

名前:氷鸞

説明:麗華の式神

 

名前:雷光

説明:麗華の式神

 

名前:神崎優華(カンザキユウカ)

性格:活発。優しい(怒ると怖い)。

容姿:黒髪の一つ三つ編み。

説明:童守町の外れにある桜花病院の院長。麗華と龍二の母親。

四年前、帰宅中に通り魔に襲われ亡くなった。

 

名前:弥都波(優華の白狼)

性格:しっかり者。優しい。

説明:焔と渚の母。

優華と共に、亡くなった。

 

名前:桐嶋勇二

性格:面倒見がいい。落ち着いている。

説明:輝二と同じく警部。同期であり昔馴染みである輝二の面倒を見ているため、署内から、第二の母親と呼ばれている。

既婚者で、四歳になる娘と、二歳になる息子がいる。

 

 

※妖怪紹介

 

名前:ショウ

説明:妖怪ねこショウ。尻尾が三つある。

野良猫達の面倒を見ている。普段は黒猫の姿で、麗華の周りを見張っている。

 

名前:瞬火

説明:ショウの嫁。彼と同じくねこショウ。

野良猫達が産んだ子猫の面倒を見ている。普段は灰色の猫の姿で、龍二の周りを見張っている。

 

名前:牛鬼

説明:妖怪でありながら、人と同じ生活をしている。喫茶店『蜘蛛の巣』を経営している。麗華と龍二を気に掛けている。

 

名前:安土

説明:牛鬼の弟。兄と共に喫茶店を経営している。



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ぬ~べ~クラスの変わり者

月明かりが照らす夜道……


月を背に空を飛ぶ獣とその背に跨ぐ、一人の少女。少女と獣は暗い空へと姿を消した。


校庭でサッカーをするぬ~べ~クラスの生徒達。

 

審判をするぬ~べ~の隣には、自身のスケッチブックに絵を描く少女が座っていた。前髪をM字に分け、腰まである長い紺色の髪を、耳下で結った彼女は体を伸ばした。

 

 

「コラ、麗華!!」

 

「!」

 

「見学者は、ちゃんと授業を見なさい!!絵ばかり描いてないで!!」

 

「……ちゃんと見てる」

 

「どこがだ!」

 

「ほら!」

 

 

突き付けられたスケッチブックを開くと、そこには、今行われているサッカーの様子が描かれていた。

 

 

「……た、確かに」

 

「見てるとやりたくなるから、気を紛らわすために絵を描いてんの」

 

「……」

 

 

 

「え?麗華のこと?」

 

 

放課後、掃除をする郷子達にぬ~べ~は質問した。

 

 

「あぁ。

 

どうも、扱い方が分からなくてなぁ……困ってんだ」

 

「まぁ、確かに」

 

「あの子を扱い熟す先生なんて、世界中探してもいないわね!家族を別として」

 

「麗華って、どんな奴なんだ?お前達から見て」

 

「そうね~……

 

まず、一人行動が凄く多い」

 

「立ち入り禁止の所に、平気で潜り込む」

 

「忍みてぇに、木に登ったり壁の上を歩いてる」

 

「か、変わった子だなぁ……」

 

「あ!でも、昔は凄い大人しい子だったよ!」

 

「え?」

 

「郷子、それ本当?」

 

「うん。私一年生の時から、ずっと麗華と同じクラスだから。

 

 

今と比べると、全然違うもん。いつも髪を下ろして喋らない子だったよ、三年生まで」

 

「へ~、そうなのか」

 

「四年生の時に何かあったんじゃ無いの?

 

どう?郷子、何かあった?」

 

「それが……

 

麗華、三年の夏から今までずっと休学してて」

 

「え?!休学?!」

 

「何でまた!?」

 

「何でも、持病が悪化して親戚の所でずっと療養してたって話よ」

 

「体育休んでのも、それが原因か?」

 

「多分……」

 

 

場所は変わりここは校庭。

そこでは、鶏小屋の前に座りスケッチブックに鶏の絵を描く麗華の周りに、下級生が集まり彼女の絵を見ていた。

 

 

「凄え!」

 

「今にも動きそう……」

 

 

騒ぐ声などお構いなしに、麗華は鶏をチラチラと見ながら絵を描き続けた。鶏達はそれを知ってなのか、全く動かずジッとしていた。

 

その時、どこからか飛んできたボールが、鶏小屋の金網に当たった。鶏達は驚き、羽をばたつかせながら、鳴き声を上げ暴れ回った。その様子に、麗華は手を止めスケッチブックを地面に置き、転がってきたボールを手にして立ち上がった。

 

 

「あー!また、やっちまった!

 

すいませーん!」

 

「……」

 

「ボール、ありがとうございまーす!」

 

「あんまり、動物小屋に当てないでね」

 

「はーい!」

 

 

ヘラヘラして笑う彼等に、麗華はボールを渡した。受け取った下級生は、そこからボールを蹴り、またサッカーを始めた。

 

未だに暴れる鶏達に、麗華は金網に手を当てて言った。

 

 

「大丈夫だよ。もう……」

 

 

その声に安心したのか、暴れ回っていた鶏達は暴れるのを止め大人しくなった。ホッとした麗華は、スケッチブックを鞄にしまい、帰って行った。彼女に続いて、周りにいた下級生達も帰って行った。

 

 

夜……鶏小屋の隅にいる一匹の鶏。赤く目を光らせそして鳴き声を上げた。

 

 

 

翌朝、鶏小屋は何者かの手により壊されていた。

 

 

「酷い……」

 

「誰がこんなこと」

 

「鶏は?」

 

「多分、もう……」

 

 

野次馬の中にいた麗華は、何かに気付いたのか壊された小屋の裏へ行った。茂みをかき分け、その中を見ると鶏が五匹いた。

 

一羽の鶏を抱き上げて、皆の前に出た。出て来た彼女に、郷子達は駆け寄った。

 

 

「良かった……鶏、生きてたんだ」

 

「こんだけ、小屋壊されてたのに良く無事だったな」

 

「……怪我してる」

 

「え?」

 

「ほら、ここ」

 

 

抱いていた鶏を麗華は地面に置き、羽を広げさせ裏を郷子達に見せた。何かで引っ掻かれたような切り傷が、そこにあった。

 

 

「本当だ……良く気付いたね?」

 

「何となく」

 

 

ウエストポーチから、消毒液を出した麗華は、それをティッシュに締め込ませ、その傷に当てた。鶏は痛そうに声を上げ、麗華の指を突っついた。

 

 

「れ、麗華!血が」

 

「大丈夫だよ。慣れっこだし!」

 

 

郷子に笑いながら、麗華は言った。しばらくすると鶏は突っつくのを止めた。手当てを終えた麗華は、ガーゼを取り出し、それを破り消毒された傷に巻いた。そこへ生徒に呼ばれたぬ~べ~が駆け付け、小屋を見て麗華を見た。

 

 

「これは酷い……?

 

麗華!指から血が!」

 

「あー、これ。

 

大丈夫!薬塗っとけば、治るよ!」

 

「いや、そうだが……?」

 

 

麗華の膝に座る鶏の体に巻かれたガーゼに、ぬ~べ~は目にした。ふと彼女の周りを見ると、四羽の鶏が麗華に寄り添うようにして座っていた。

 

 

(……不思議な子だ)

 

 

その後、壊された小屋の周りにロープを張り立ち入り禁止の札を立てた。鶏達は仮のケージに入れられ、その日を過ごした。

 

 

「なぁ、ぬ~べ~」

 

「ん?」

 

「あの鶏小屋壊したのって、やっぱり妖怪の仕業か?」

 

「それはまだ検討中だ。

 

……?」

 

 

職員室の窓を見ると、鶏達が入ったケージ前に、麗華が座り込んでいた。

 

 

「あいつ……」

 

「麗華って昔から、ああやって動物の絵を描くのよねぇ」

 

「そうなのか?」

 

「うん。

 

小一の時からずっと。飼育小屋の所に行っては、絵を描いてんのよ」

 

「……

 

!そうだ!なぁ、郷子!ぬ~べ~!」

 

 

放課後……校庭に集まるぬ~べ~クラス。

 

笛を鳴らしたぬ~べ~は、ドッチボールを手に全員を見て話した。

 

 

「今から皆で、ドッチボール大会やるぞー!」

 

「何でまた?!」

 

「まぁ、皆の親睦を深めるものだ。

 

チームは、赤組と白組に。正々堂々と戦おう!」

 

 

チームに分かれる一同……麗華は広と美樹のチームにいた。

 

 

「頑張ろうぜ!麗華!」

 

「う、うん……」

 

 

少し戸惑っている様子の麗華に、広は軽く疑問を持ちながらも、ゲーム開始のホイッスルの音と共に声を出しながら始めた。

 

 

相手チームにいた勝は、投げられてきたボールを麗華目掛けて投げた。

 

 

「麗華!ボール!」

 

「え?……うわっ!」

 

 

驚きながらも、麗華は難なくボールを受け止めた。

 

 

「凄え、勝のボール取ったぞ」

 

(……遅いボール)

 

「お、俺のボールが」

 

「……!麗華、投げろ!」

 

 

広の掛け声に、麗華はボールを思いっ切り投げ飛ばした。ボールは勝の顔スレスレに通り過ぎ、外野にいたまことの顔面に激突した。

 

 

「あ!まこと!」

 

「ヤバい……手加減がまだ……

 

小林!」




保健室……


両方の鼻に鼻栓を入れ、まことは鼻上に湿布を貼られていた。


「はい、これで大丈夫よ」


保健の先生から手当てを受け、まことは広達と一緒に教室へ戻っていった。

教室では、麗華が待っており彼女は、まことに頭を下げながら謝った。


「本当ごめん、小林」

「いいのだ。ドッチボールだし」

「……でも」

「気にしない気にしない!」

「そうよ!ドッチボールなんだから、こんなの当たり前よ」

「……」

「僕も大丈夫なのだ!」

「まこともこう言ってることだし、早速ゲーム再開」
「ごめん……」

「?」

「そろそろ、帰らないと……」

「え?そうなの?」

「うん……待ち合わせしてるから」

「待ち合わせ?誰と?」

「お兄ちゃんと。

父さんが帰り遅いから。学校終わった後いつもお兄ちゃんの学校に行くか、待ち合わせて買い物しながら帰るんだ」

「へ~……あれ?

お前、母ちゃんは?」

「あ、それは」


話そうとした時、ポーチから音が鳴った。ポーチを開けた麗華は、そこから携帯を取り出し画面を見た。


「ヤッバ!早く行かないと!

ごめん、話はまた今度」

「あ、あぁ」

「あ!

ドッチボール、楽しかった!」


嬉しそうに言って、麗華は教室を出て行った。


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鳥の悪霊

寝静まる夜童守小の生徒達……その時、窓に巨大な影が映った。窓から見えたのは、赤く光る巨大な目……鶏の鳴き声に、寝ていた少年は目を覚ました。

目を擦ろうと腕を上げた……その時頬に当たったのは、手ではなく羽だった。


「う……ウワァァアア!!」


翌朝……

 

校庭を歩く鶏。ぬ~べ~はその鶏を捕まえようと、朝早くから追い駆けていたが、一向に捕まえられなかった。

 

 

「ぬ~べ~の奴、ついに食事をも追い駆ける状況に」

 

「どんだけお金無いのよ……」

 

「違うわ!!

 

見てないで、捕まえるの手伝って!!」

 

 

そう言われ、広達は逃げ回っている鶏を捕まえようと追い駆けた。

 

 

「広!そっち行った!」

 

「おっしゃー!

 

って、ヤバっ!克也!」

 

「任せろ!

 

あれ?美樹!そっち行ったぞ!」

 

「オッケー!えい!

 

ありゃ?どこ行った?」

 

 

美樹から逃げていく鶏は、校門を抜け学校の外へ出てしまった。

 

 

「ギャー!!鶏がぁ!!」

 

「追い駆けなきゃ!」

 

 

慌てて鶏を追い掛ける一同だったが、校門を出る寸前に目の前に鶏がひょっこりと現れた。

 

 

「あれ?何で?」

 

「さっき、そこで捕まえた」

 

 

鶏を抱き上げていたのは、麗華だった。

捕まえた鶏を檻に入れ、ぬ~べ~は鍵を厳重に掛けた。

 

 

「これでもう、脱走はしないだろう」

 

「器用に開けたなぁ、こいつ」

 

「しっかしこの鶏達、私達には反抗的なのに……何で麗華には、懐くし言う事を聞くのかしら」

 

「何か秘訣でもあるのか?」

 

「別に無いよ、秘訣なんて」

 

「さぁ、朝のホームルーム始めるから、早く教室に行け」

 

「はーい!」

 

 

元気よく返事をして、郷子達は校舎の中へ入っていった。ぬ~べ~は、壊れた鶏小屋と檻に入れた鶏を交互に、鬼の手を翳した。

 

 

(……微かだが、妖気を感じる。

 

まさか)

 

 

鶏を見るぬ~べ~……そんな彼に、麗華はチラッと目を向け、郷子達の後を追い駆けていった。

 

 

放課後、麗華は鶏が入った檻の前に座り、スケッチブックに絵を描いていた。その時、飛んできたボールが麗華の頭に当たり、続いて檻に当たりその勢いのまま、ケージは倒れた。

 

 

「ゲッ!また……」

 

 

鶏は鳴き声を高らかに上げた。その声に共鳴するかのようにして、他の鶏達が鳴き声を上げた。

 

 

「な、何だ?」

 

「痛ったぁ……」

 

 

痛がる麗華……その時、檻のドアが蹴られ壊された。そこから、赤く目を光らせた鶏が鳴き声を上げ出て来た。

 

 

その妖気に気付いたぬ~べ~は、職員室の窓を開け外を見た。巨大化した鶏が、校庭を歩き遊んでいた生徒達を嘴で攻撃していた。

 

 

「な、何?!あの化け物!?」

 

「すぐに、外にいる生徒達を中に!」

 

「わ、分かりました!」

 

 

職員室の窓から外へ出たぬ~べ~は、白衣観音経を投げ鶏の動きを止めた。

 

 

「大人しくしろ!」

 

 

白衣観音経を振り払おうと、鶏は暴れ回った。ふとぬ~べ~は鶏の足下を見た。そこには、麗華と彼女にしがみつく下級生がいた。

 

 

「麗華!!」

 

「?

 

あ、先生!」

 

「待ってろ!すぐ助けに行く!」

 

 

助けに行こうとするぬ~べ~だが、手を緩めると鶏は今にも暴れ出そうとしていた。

 

 

(クソ!どうすれば……)

 

 

戸惑うぬ~べ~……麗華はポーチから、黒い玉を二つ取り出した。

 

 

「それ何?」

 

「アニメで出て来る煙幕みたいな奴。

 

息止めといて!」

 

 

彼女の指示に従い、下級生は鼻と口を手で抑え息を止めた。それと同時に煙幕玉を、麗華は思いっ切り地面に投げ捨てた。すると玉は割れ玉から煙が上がった。

 

突然自身の下から煙が出て来たのに気付いた鶏は、驚きそこから離れた。その隙を狙い、麗華は下級生の手を引きそこから出て行った。

 

 

「麗華!」

 

「先生!この子を!

 

走って!早く!」

 

 

下級生は息を吸いながら、ぬ~べ~の元へ駆け寄った。駆け寄っていた下級生を連れて、ぬ~べ~は彼を校舎の中へと入れ、再び鶏の元へ行こうとした。

 

だが、目の前に広がる光景は違った……どこからか現れた巨大な白狼が、鶏を銜えていた。鶏は妖気を吸われているかのようにして、体が徐々に小さくなっていった。

 

 

(どういう事だ……

 

妖気が減っている!?)

 

 

元のサイズになった鶏に、麗華は手を差し出し優しく撫でた。

 

彼女の元へ駆け寄るぬ~べ~に、白狼は飛び上がりその場から姿を消した。

 

 

(何だったんだ……今のは)

 

「先生、こいつもう大丈夫だよ」

 

「?」

 

「ほら、すっかり大人しくなってる!」

 

 

麗華に撫でられる鶏は、気持ち良さそうにしていた。

 

 

 

夜……

 

 

とある家に来たぬ~べ~。母親に案内され、入った部屋にいたのは、鳥のような腕を持った少年だった。

 

 

「……見たこと無い。

 

この症状は、いつ頃からですか?」

 

「今朝起こしに来たら、もう……

 

けど、息子の話だと夜中何かが来て、それにやられたって」

 

「何か……」

 

 

帰路を歩くぬ~べ~……コンビニの前を通った時、その前に座る麗華を見つけた。

 

 

(あいつ……

 

今何時だと)

 

 

叱りに行こうとした時、麗華の元へ駆け寄ってくる一人の黒い髪を少し長めに伸ばし、ハーフアップにした少年がいた。少年に気付くと、彼女は嬉しそうに立ち上がり、彼の腕に抱き着いた。抱き着いてきた麗華を、少年は撫で一緒に歩いて行った。

 

 

「……家族か?」




翌日……


麗華の調査表を見るぬ~べ~。家族構成には、父親と兄の名前は書いてあったが、母親の名前が無かった。


「鵺野先生、何をしていらっしゃるんですか?」

「あ、律子先生!

いや、少し気になる生徒がいまして」

「気になる?

あぁ、神崎さんね!


とても素直で、いい子よ。ただ昔と比べて落ち着きが無くなったのが……」

「え?律子先生、昔の麗華を知っているんですか?」

「別のクラスを担当していたので、詳しくは……

私が見る限り、いつも一人で図書室に籠もってましたね。休み時間も放課後も……放課後なんて、授業は午前中で終わったのに、四時過ぎまでいたこともありましたから」

「そんなに?!

ご家族には、何も言われないんですかね」

「それが……

神崎さんのお宅、お父さんが警察の人で夜帰ってくるのが遅いらしいんです。
それで確か、お兄さんと一緒に帰ってるって聞いたことが」

「……そうか…あれはお兄さんだったのか」


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平安の霊媒師

放課後……


ぬ~べ~の手伝いをする、郷子と広。ふと郷子が窓を見ると、大粒の雨が降っていた。


「ゲッ!凄え雨」

「さっきまで、あんなに晴れてたのに」

「親御さんには、俺から連絡しとく」

「お願いね」


そう言いながら、ぬ~べ~教室を出て行った。その数分後の事だった……麗華が教室に入ってきたのは。


「あれ?郷子に立野……」

「よぉ!麗華!

つか、あれ?お前、帰ったんじゃなかったっけ?」

「図書室で本読んでたら、雨降っててそれで……」

「なるほど~、立ち往生ってやつか!」

「そういうこと。

図書室にずっといるのもあれだし、教室で時間潰そうかなぁって思って」

「来たら、俺達がいた」

「そういうこと」


笑顔で答えながら、麗華は自身の席に座ると鞄からスケッチブックを取り出し、描き始めた。


「ねぇ麗華」

「ん?」

「何の絵、描いてんの?」

「鶏の絵。出来上がったら、あいつ等に見せるんだ」

「あいつ等って……」

「あの校庭にいる鶏達にか?」

「うん。

あいつ等、私の絵楽しみにしてるみたいだから!」


嬉しそうに言う麗華に、広は聞こえないよう郷子の耳元で囁いた。


「昔っから、ああなのか?」

「さぁ……でも、動物には結構好かれてたみたいだから」


雨が小降りになった頃、郷子達は帰ろうと外へ出ようとドアに手を掛けた。

 

だが、いくらドアを押しても開かず逆に引いてもみたが開くことはなかった。

 

 

「ど、どうなってんだ?」

 

「ちょっと、ぬ~べ~の所に行ってくるね」

 

「あぁ、頼む」

 

 

郷子がその場から駆け出そうとした時だった……突如天井から何かが落ちてきた。それは黒い塊だったが、次第に形を変え頭が鳥、体が人間になり鋭く赤く光る目を光らせ、広達に向かって咆哮した。

 

 

「走れ!!」

 

 

そう言いながら、広は郷子の手を引き駆け出した。二人の騒ぎに、職員室にいたぬ~べ~は、慌てて飛び出し逃げてきた二人を自身の背後に行かせ、白衣観音経と数珠を手に、敵が来るのを待った。

 

 

「……あれ?そういや、麗華は?」

 

「あ……」

 

「まさかお前等……」

 

「……アハハハ」

 

「ここにいろ!」

 

 

二人を残して、ぬ~べ~は麗華の元へ駆けていった。

 

 

玄関へ駆け付けたぬ~べ~は、目にした光景を疑った。

鳥人間は、麗華の髪を弄り回していた。彼女は彼女で平気な顔をしながら、笑っていた。

 

 

(な、何であんな平気なんだ……あいつは)

 

「……?

 

あ!先生!」

 

 

ぬ~べ~の気配に気付いた鳥人間は、麗華から手を離し咆哮を上げた。

 

 

「び、びっくりしたぁ……」

 

「今だ!麗華、逃げろ!」

 

「え?何で?」

 

「早くしろ!!」

 

 

叫ぶぬ~べ~に向かって、鳥人間は彼に向かって鋭く尖った羽を投げ付けた。その攻撃を白衣観音経で防ぎ、立ち上がった麗華の手を引き、ぬ~べ~はその場から逃げた。

 

 

逃げ切ったぬ~べ~は、職員室へ駆け込み鍵を閉めた。中で待っていた広と郷子は、彼に投げ入れられた麗華を受け止めた。

 

 

「痛ったぁ……

 

もう、投げなくても」

「麗華!!」

 

 

ぬ~べ~の怒鳴り声に、文句を言おうとした郷子は慌てて口を押さえた。

 

 

「何でもっと早く逃げなかったんだ!?」

 

「逃げる?何から?」

 

「あの妖怪だ!!

 

目の前にいただろ!!」

 

「あぁ!

 

あいつ、私の髪で遊んでた」

「んな訳あるか!!

 

いいか!妖怪は人を襲うんだぞ!危険だと思ったら、すぐに」

「全部の妖怪が、人を襲うわけないじゃん」

 

「!

 

麗華!今はな」

 

「あいつはただ、私の髪で遊んでただけだ!

 

それだけのことで悪者扱いされちゃ、妖怪も堪ったもんじゃない」

 

「お前は妖怪の恐ろしさを知らないから、そんなことを」

 

「知らないのはどっちだ!

 

妖怪見つけただけで攻撃しようとして……最悪」

 

「あのなぁ!!」

 

「そんなんだから、高橋先生に振り向いて貰えないんでしょ!」

 

「余計なお世話だ!」

 

 

“パリーン”

 

 

突然硝子が割れ、外からあの鳥人間が入ってきた。

 

 

「キャァァアア!!」

「ウワァァアア!!」

 

「しつこい奴だ!

 

南無大慈大悲救苦救難!鬼の手よ!今こそその力を示せ!」

 

 

鬼の手を出したぬ~べ~は、鳥人間に向けて攻撃した。すると鳥人間は、翳してきた彼の鬼の手を嘴で突き、怯んだ隙を狙い、鬼の手を銜え投げ飛ばした。

 

 

「ぬ~べ~!!」

 

 

郷子の声に、鳥人間は彼女達の方を向いた。

 

 

「ど、どうしよう……」

 

「逃げられねぇ」

 

 

睨む鳥人間は、麗華に目を向け彼女の髪を弄りだした。

 

 

「あ、ちょっと待って」

 

 

鳥人間の手を握り、空いているもう片方の手で結っていたヘアゴムを取り、髪を下ろした。

 

 

「はい、どうぞ」

 

「おい!!」

 

「危険電波、発動させなさい!!」

 

「平気だって!怖くないよ?」

 

「何でお前は、そんなに冷静なんだ……」

 

 

その時、鳥人間は突然咆哮を上げ、麗華に向かって攻撃してきた。咄嗟に机の上に置いてあった名簿を盾にして、麗華は攻撃を防いだ。

 

 

「やっと本性を現したって感じかな?」

 

「れ、麗華?」

 

 

咆哮を上げて、鳥人間は突進してきた。すると麗華が着ていたパーカーの帽子から、白い鼬が出て来たかと思うとそれは煙を上げ、そこから白い髪を生やし、赤いバンダナを額に巻き、山伏の格好をした男が現れた。

 

男は突進してきた鳥人間を素手で受け止め、投げ飛ばした。

 

 

「人の主に、手を出そうとするなんていい度胸してんじゃねぇか?」

 

「大丈夫か!?広!郷子……って、何だ!?その男は?!」

 

「突然現れ出た」

 

 

鳥人間は、腕を振り武器である羽を麗華目掛けて放った。傍にいた男は手から、炎を出しその羽を燃やした。

 

 

「建物内火気厳禁!」

 

「んなこと言われても、俺は炎しか使えねぇ」

 

「麗華!

 

何者なんだ?!そいつは?!」

 

「何者って……こいつは」

「白狼一族、名は焔だ」

 

 

腕を組みながら、焔と名乗った男はそう言った。

 

 

「白狼一族?(聞いたことはあるが……まさか本当に)」

 

「……先生。

 

今、焔のこと聞いたことはあったけど、実際にいるとは思わなかったでしょ?」

 

「うっ……」

 

「やっぱり。

 

大抵の霊能力者って、焔達のこと見ると聞いたことはあるけどいるとは思わなかったって言う奴等ばかりだもんね!」

 

「失礼だよな。正真正銘俺達はいるってんだ!」

 

「麗華……お前は一体、何者だ?」

 

「え?私?

 

えっとね」

「来るぞ!」

 

 

焔の言葉通り、鳥人間は麗華達目掛けて翼を広げて突進してきた。焔は四人の前に立ち、鳥人間を抑えその隙を狙い、ぬ~べ~はドアを開け広達を廊下へ出した。その時麗華は、抑えられている鳥人間目掛けて、どこからか出した薙刀を思いっ切り振り下ろした。

 

真っ二つになった鳥人間は、断末魔を上げながら黒い煙となり消えた。黒い煙が上がった付近には、鶏が横たわっていた。

 

 

「この鶏、確か麗華が描いてた……」

 

 

鞄からスケッチブックを取り出した麗華は、数枚ページを捲りあるページを、目覚め焔に抱き上げられていた鶏に見せた。

 

 

「ほら!絵、出来たよ!」

 

 

鶏はその絵を見ると、朝でもないのに鳴き声を上げた。

 

 

すっかり雨が上がった外に、ぬ~べ~達は出た。そして鶏を檻に戻し鍵を閉めながら、ぬ~べ~は先程の妖怪を広達に説明していた。

 

 

「恨みの塊?」

 

「あの鳥人間が?」

 

「ここの鶏小屋、校庭に近い所に建ってたせいで、遊びで飛んでくるボールが、小屋に当たっては鶏達がびっくりしてたんだ」

 

「あぁ確かに。

 

俺も一度、当てたことあるわ」

 

「その怒りが、積もるに積もって……

 

今回みたいなことが起きたんだろう」

 

「そんじゃあ、思いっ切りボール蹴ることも投げることも出来ねぇじゃ」

 

「大丈夫だ!

 

校長に頼んで、鶏小屋を別の所に移すことになった。もちろん他の動物小屋も」

 

「よかったぁ!」




「あれ?麗華」

「ん?」

「あの、焔って人は?」

「ここ」


そう言いながら、麗華は自身の肩を指差した。そこには鼬姿になった焔がいた。


「普段はこの姿なんだ」

「へー」

「ところで麗華、さっきの質問」
「あ!ねぇ、今何時!?」

「え?

今、丁度六時だが」

「ヤバい……

お兄ちゃんに怒られる~!!」

「怒られるって……

ぬ~べ~が家まで送ってくれるから、その時に訳を」
「聞くわけないじゃん!!

お兄ちゃん、校長を相手に怒鳴り込んだことあるんだから!中学時代!」

「嘘!?」

「まさかの、不良少年」

「どうしよう……何て言い訳すれば」


悩み込む麗華……その時強い風が吹きぬ~べ~達は何かを察し振り返った。
空から舞い降りてくる白く巨大な狼……その背中から、一人の少年が飛び降りてきた。


「あれって……」

「妖怪?」

「ゲッ!お、お兄ちゃん……」


歩み寄ってくる兄に隠れるかのようにして、麗華はぬ~べ~の後ろへ隠れた。


「何隠れてんだ、お前は」

「だって、怒ろうと」

「してねぇよ。

あの雨とこっから放ってた妖気で、来られねぇことぐらい分かるわい!」

「本当に怒らない?」

「怒らない。早く帰るぞ」

「本当に?」

「仏の顔も三度までってことわざ理解してるなら、怒る前に早く来い!」

「ほら!怒った!」


ぬ~べ~の後ろから出て来た麗華は、そう言いながら駆け出した。


「麗華!ったく……。


どうも、お世話様でした」

「い、いえ」

「それじゃあ」


軽く礼をして、兄は駆け出した。すると麗華は何かを思い出したのか、ぬ~べ~達の元へ駆け戻ってきた。


「さっきの質問、答え忘れてた!


平安時代の霊媒師と呼ばれた男、安倍晴明の家系陰陽師の者だよ!」


笑顔でそう言って、麗華は狼の背に飛び乗り、兄と共にその場を去って行った。


「……何ぃぃいいいい!!」
「……えぇぇええええ!!」


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陰陽師の力

「犬鳳凰(イヌホウオウ)?」


美樹が言い放った名前をクラスの一人が繰り返した。


ここ最近、頻繁にゴミ置き場や空き家、公園の草花が燃える事件が続いていた。その事件の原因が妖怪の仕業だと美樹はクラスに話していた。


「何だ?犬鳳凰って?」

「愛媛に伝わる怪鳥よ!

狐火と同じ炎を口から吐き出す妖怪なの!」

「最近起きてる、火事がその妖怪の仕業なの?」

「そうよ。

現に目撃者がいるんだから」

「いるの?!」

「えぇ。

消防署に通報したOLさんが云ってたのよ!帰り道にゴミ置き場から飛び立つ影と同時に、火が上がったんだって!」

「へぇ……」

「美樹、それ本当なの?」

「本当よ!昨日話してるの聞いたんだもん!」

「何々?何の話?」


登校してきた麗華は、美樹達の所へ行き不思議そうな顔をして、彼女に質問した。


「ここ最近、小火が起きてるでしょ?」

「うん」

「それが、犬鳳凰っていう妖怪の仕業なの!」

「犬鳳凰?

あぁ、愛媛にいるあの妖怪か」

「麗華、知ってるの?」

「うん、ちょっとね」


「チャイム鳴ったぞ!席に着け!」


ぬ~べ~の怒鳴り声に、美樹の周りにいた生徒達は慌てて、自身の席に着いた。


放課後……

 

 

教室で、本を読みながら麗華は絵を描いていた。そこへ掃除を終えた勝が、連れていた二人に笑いかけながら、彼女に歩み寄った。

 

 

「……?

 

何か用?」

 

「何描いてんだ?いつもいつも」

 

「別に……

 

何でもいいじゃん」

 

 

スケッチブックを閉じ、本と一緒に鞄にしまい帰ろうとしたが、勝についていた二人の男子がそれを阻止した。

 

 

「いつもいつも、絵描いててウザいんだよ!

 

体育の授業をサボってまで、絵を描きたいのかよ!」

 

「体育はドクターストップが掛かってんの!

 

出来るわけないじゃん!」

 

「授業受けねぇなら、学校に来んな!!」

 

 

そう言うと、勝は麗華を突き飛ばした。壁に体をぶつけた衝撃で、服の下に隠していた勾玉のペンダントが現れた。

 

 

「?

 

お前、学校にそんな物して来てんのかよ!?」

 

「こ、これは」

 

「アクセサリーは、学校に持ってきてはいけないんだぞ!」

 

「没収だ!」

 

 

勝が麗華のペンダントに手を掛けようとした時、パーカーのフードの中にいた焔が、彼の指を噛んだ。

 

 

「うわっ!何だ!?この鼠!」

 

 

勝が怯んでいる隙に、焔を手に麗華は教室を飛び出した。通り掛かったぬ~べ~に、勝は泣き付き焔に噛まれたことだけを伝えた。

 

屋上へ逃げ込んだ麗華は、梯子を登り給水タンクの裏の塀に座った。

 

 

「大丈夫か?麗」

 

「うん……

 

これも無事」

 

 

手に握っていた勾玉を、麗華は焔に見せた。安心したのか、一あくびすると彼女は、目を瞑り眠った。

 

 

心地良い風が吹き、麗華の髪を靡かせた。彼女はゆっくりと目を覚まし、起き上がった。給水タンクの裏ではなく、真っ暗な世界で水溜まりがあるだけの場所だった。

 

その時、水の上に光に包まれた何かが舞い降りてきた。それは何かを言うと、麗華の後ろを指差した。彼女はその方向を振り向いた。

 

 

「?!」

 

 

目を覚ます麗華……飛び起き眠い目を擦りながら辺りを見回した。

 

 

「あれ……寝てたのかな?」

 

 

「キャァァアア!!」

「ウワァァアア!!」

 

 

叫び声に麗華は急いで梯子から下り、校舎の中へ入った。

階段を駆け下りると、そこに何かから逃げる広と郷子、美樹に克也、さらに勝とまことが走ってきていた。

 

 

「あれって……!」

 

「犬鳳凰!?」

 

「焔!引き付けて!」

 

「応!」

 

 

鼬姿から人の姿へ変わった焔は、犬鳳凰の前に立ち蹴りを入れた。

 

 

「あれって、麗華の」

 

「皆!こっち!」

 

 

手招きをする麗華の元へ駆け寄った広達は、彼女なの誘導で家庭科室に逃げ込んだ。安全な場所に行ったのを確認すると、焔に向かって口に指を入れ、音を鳴らした。その音に彼は、犬鳳凰に攻撃し怯んだ隙を狙い黒い煙を出して目を眩ました。

 

 

家庭科室……

 

息を切らした広達は、地面に座り込んでいた。鼬姿になった焔を自身の肩に乗せ、麗華は心配そうにして彼等を見た。

 

 

「大丈夫?」

 

「た、助かった……サンキューな、麗華!」

 

「別にいいよ。

 

 

ねぇ、先生は?」

 

「それがいないのよ!!

 

宿直室にも職員室にもどこを探しても!!」

 

「ついに夜逃げしたか……」

 

「いや、単にどっか出かけてんじゃ……

 

てか、何で皆は学校に?」

 

「ぬ~べ~に提出物、出すの忘れて……それで来たんだけど」

 

「先生はいなくて、代わりに犬鳳凰がいたって事か」

 

「そう」

 

「そういう麗華は?」

 

「屋上で昼寝してたら、この時間に」

 

「昼寝ってお前……

 

お兄さん、怒らねぇか?」

 

「多分……

 

 

着信が五件入ってるから……ハハハ、怒られる」

 

「何だよお前?

 

アクセサリーだけじゃなく、携帯まで持って来てんのかよ!?」

 

「携帯は先生に伝えてるから、いいの!

 

お前と家の事情が違うんだから!」

 

「家の事情って何だよ!?

 

そのペンダントも、家の事情で着けてきてるのかよ!?」

 

「こ、これは……」

 

「勝、止しなさいよ!!

 

麗華、嫌がってるでしょ!」

 

「けどよ!」

 

 

“バーン”

 

 

突然ドアが壊され、外から犬鳳凰が入ってきた。

 

 

「キャァァアア!!」

 

「人の子が、一人増えたわ!

 

この建物を燃やした後、お前等を食ってやろう!」

 

「お、お助けぇ!!」

 

「なぁ、お前!」

 

「あん?」

 

 

犬鳳凰が振り向いた瞬間、彼の顔に強烈な跳び蹴りが当たった。

 

 

「前ばかり見てないで、後ろも見なって!」

 

「人の子の分際で!!」

 

「続きは外で!」

 

 

窓を開けながら、麗華はそう言って窓から飛び出た。犬鳳凰は頭を振ると、彼女の後を追い駆けた。外へ出た二人の後を、広達は階段を使って外へ出た。

 

外はいつの間にか暗く、月が浮かんでいた。

 

 

「ここがお前の墓場か?人の子よ」

 

「ん~、月明かりは丁度良い。

 

さぁ、こっから暴れるよ!」

 

 

ポーチに手を突っ込んだ麗華は、中から札を出し指を噛み血を出すと札に付けた。

 

 

「我に力を貸せ!急急如律令!」

 

 

札が青く光り出し、そこから冷気を放ち現れ出てきたのは、水色の長い髪を毛先だけを纏め、僧侶の格好に笠を被り、錫杖を手にした男だった。

 

 

「氷鸞!そいつをさっさと、得意技で倒しちゃいな!」

 

「そのつもりです」

 

 

錫杖から水の球を出すと、氷鸞はそれを犬鳳凰目掛けて放った。彼は素早く避け、炎を纏った羽を雨のようにばらまいた。焔は麗華を抱えて避け、それと同時に広達の周りに、白衣観音経が現れ攻撃を防いだ。

 

 

「お前等、無事か!?」

 

「ぬ、ぬ~べ~!!」

 

「もう!何やってたのよ!」

 

「お前達が来る前に、あの妖怪に頭をぶたれて」

 

「気を失ってたって事か」

 

「そうそう……って、何で麗華がここに」

 

「屋上で昼寝してた」

 

「……?

 

な、何だあの妖怪は?!」

 

 

そこにいたのは、水色の翼に七色に光る尾を持つ美しい巨鳥へ姿を変えた氷鸞に、ぬ~べ~は驚いた。

 

 

「水と氷の使い手、名は氷鸞。

 

私の式神」

 

「……」

 

「ここは、私達に任せて!先生」

 

 

一枚の札を手に、麗華は再び指を噛み血を出すと、札に付けた。

 

 

「我に力を貸せ!急急如律令!」

 

 

札が黄色く光り出し、そこから雷を放ち現れ出てきたのは、赤い角を生やし、黒く大きな馬だった。

 

 

「な、何だ……この、莫大な妖気は。

 

(この妖気、感じからして神の領域に達している……

 

これほどの妖怪を、式神にしたというのか)」

 

「おっしゃー!

 

雷光!雷放っちゃいな!」

 

「承知!」

 

 

角から雷の弾を放つ雷光に続いて、氷鸞は水の渦を犬鳳凰に向かって放った。

 

体から煙を放ちながら、犬鳳凰は蹌踉け倒れた。

 

 

「私を相手にしたのが、不覚だったね」

 

「クッ……」

 

「じゃあね。放火犯」

 

 

どこからか出した薙刀を、麗華は勢いよく振り下ろした。止めを刺された犬鳳凰、黒い煙を放ち消えた。

 

戦い終えると、氷鸞と雷光に礼を言うかのようにして、頬を撫で札へ戻した。二人がいなくなると、焔は彼女の後ろへ回り、空いていた手に自身の頭を触れさせた。

 

 

「スッゲぇ……

 

「こりゃあ、ぬ~べ~も顔負けだわ」





「えぇ!?陰陽師!?

麗華が?!」


広と郷子から麗華が陰陽師だという話を聞いた美樹達は、驚き思わず声を上げた。


「ふぇー。

身近なところにぬ~べ~みたく、妖怪と戦える人がいたなんて」

「驚きなのだ……」

「じゃあ、携帯やそのアクセサリーは、その何とかのためなのか?」

「携帯は父さんが持ってろって。

私生まれ付き喘息持ちだから、もしもの時にって」

「そうだったんだ……」

「じゃあ、体育休んでたのは」

「喘息持ちに、体が弱いから激しい運動は控えろって。

時々ならいいんだけど、毎日だとやっぱりね」

「けど、さっき普通に妖怪と戦ってたじゃねぇか」

「あれは、別。

妖怪退治は単独だから、どう動かせば体に負担が掛からないかって考えながら動いてるけど……授業とかだと、チーム戦とか団体行動が多いから、考えてる暇がなくてそれで体を壊しちゃうんだ」

「へ~」

「じゃあ、そのペンダントは?」

「あぁ、これ。




妖怪を寄せ付けない御守り!」


悪戯笑みを浮かべながら、麗華は言った。

すると月明かりに照らされ、巨大な影が学校を覆った。影に驚いた広達は、咄嗟に空を見上げた。

一瞬の風を起こし舞い降りてくる白く巨大な狼……


「あれって……」

「お、お兄ちゃん……

ヤバい……連絡するの忘れた」


狼の背中から飛び降りた兄は、怒りの形相で麗華に歩み寄ってきた。


「あれは、ヤバいな」

「だよね……よし。


逃げるが勝ち!」

「待てぇ!!麗華ぁ!!」


走り出した麗華を、龍二は全速力で追い駆けた。


「テッメェ!!こんな時間まで連絡寄越さないで、何やってたんだ!!」

「昼寝して、連絡するの忘れた!

帰ろうとしたら、妖怪に出くわした!」

「何昼寝してんだ!!」

「お兄ちゃん、顔怖いぃ!」

「うるせぇ!!」

「不良の顔になってるぅ!!

先生!ヘルプ!」


ぬ~べ~の背後に周り、麗華は隠れた。全く息の切れていなかった龍二は、急ブレーキを掛けるかのようにして止まった。


「そんなところに隠れてねぇで、とっとと出て来い!」

「出て来た瞬間、殴るじゃん」

「殴らねぇから、出て来い」

「とか言って、家に帰ってから殴るんでしょ?」

「本当に殴るぞ!!」


「その辺にしておけ」


どこからかやって来た青いくノ一の格好をし、白い髪を腰まで伸ばした女性が、龍二の肩に手を置きながら言った。麗華は素早くぬ~べ~の背後から出ると、その女性に抱き着いた。


「こいつも十分反省している。

今日の所は、これでいいじゃないか」

「……」

「まだ苛立つと言うなら」


そう言うと、女性は麗華の頭を軽く叩いた。


「私が代わりに叩いた。これでいいだろう?」

「そういう問題じゃない!!」

「あんた等兄妹喧嘩は余所でやりなさい!」


ぬ~べ~に怒鳴られ、二人はようやく喧嘩を止めた。


「遅くなって、心配するのは分かるが程がある。

けどな、お前も言える立場じゃ」
「さぁ、とっとと帰るぞぉ」


麗華を抱え、兄はいつの間にか現れ出ていた狼に歩み寄った。


「人の話を聞きなさい!! 」

「嫌なこった。

どうせ、面倒な説教するんだろ?
説教聞くくらいなら、とっとと家に帰って、寝ますよ」

「お前なぁ……」

「じゃあね!先生!皆!」


狼に乗った麗華は手を振りながら、暗い空へと消えていった。


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河童と鉄棒

とある日の放課後……


鉄棒で逆上がりの練習をするまこと。ふと隣の鉄棒を見ると、何かが垂れ下がっており、それはまことの方に振り向いた。そしてニタァっと不敵な笑いを浮かべた。


「ウワァァアア!!」


まことは叫び声を上げながら、そこから逃げていった。
彼がいなくなったと同時に、それはスッと消えた。


翌日……

 

 

校庭に集まるぬ~べ~クラス。

 

 

「今日の体育は、鉄棒のテストだ。

 

まず手始めに先生が、お手本を見せてやろう!」

 

「え?!先生、鉄棒なんてできるの!?」

 

「俺、除霊しか能のない霊能お宅だと思ってたよ」

 

「お前等なぁ!

 

 

学生時代、“鉄棒のぬーちゃん”と呼ばれた俺の実力、見せてやる!

 

見よ!片手大車輪!」

 

「おおー!!」

 

「トカチェフ!」

 

「凄え!!」

 

「カッコイイ!」

 

「意外だ!

 

あの先公に、こんな爽やかな一面があったとは!」

 

 

次々に技を見せるぬ~べ~の目に、授業で校庭に出ていた律子先生が入り、格好いいところを見せようと調子に乗り始めた。だが、律子先生の胸を見ながらやっていたせいで、謝って手を離しそのまま地面に顔面着地。

 

その情けないぬ~べ~の姿に、見ていた律子先生は呆れて溜息を吐いた。

 

 

顔を真っ赤にしたぬ~べ~は、逆上がりをする生徒達を見ながら、評価を着けていった。

 

 

「全く、すぐ調子乗るんだから!」

 

「うるさい!

 

次、神崎麗華!」

 

「ヘーイ」

 

 

立ち上がった麗華は、鉄棒の前に立ち逆上がりをしようと構えたが、逆上がりなどやらずに一回転すると、その勢いのまま棒の上に立った。

 

 

「おおー!」

 

「コラ!!逆上がりをせんか!!」

 

「出来ません」

 

「和やかに言うな!!」

 

「文句の多い先生だなぁ。

 

自分だって、さっき逆上がり以外の技やってたじゃん」

 

「俺はいいんだ!

 

次!木村克也!」

 

「ハーイ」

 

 

軽々と逆上がりをやった克也に続いて、まことが鉄棒の前に立った。

 

 

「……

 

 

先生」

 

「?」

 

「やっぱり、鉄棒やめた方がいいのだ」

 

「へ?」

 

「この鉄棒には、河童がいるのだ……

 

昨日一人で練習してたら、出たのだ……祟りがあるかもしれないから」」

 

「て、鉄棒に河童……」

 

 

言葉を繰り返し言った途端、全員笑い出した。

 

 

「まこと~嘘吐くんなら、もっとマシな嘘吐けよ~!」

 

「要するに、鉄棒出来なくて恥じかくのが嫌なんだろ?

 

ったく、しょうも無い……

 

 

麗華を見てみろ!鉄棒できないことを堂々と言ったぞ!」

 

「そう言うなら、一回転ジャンプしてよ。

 

偉そうに言うって事は、出来るんでしょ?」

 

「出来るわけねぇだろ!」

 

「嘘じゃないのだ!!

 

確かに僕は鉄棒は苦手だけど、嘘を吐いてサボろうとする様な卑怯者じゃないのだ!!」

 

「だいたい河童っていうのは、川とか沼に出るもんで……

 

何か言ってやってよ!先生」

「分かった。

 

今すぐ鉄棒を使用禁止にしよう!」

 

「ええ!?」

 

「何で!?どうして、こんな話信じるワケ!?」

 

「危険があると分かった以上、放っておく訳にはいかない。

 

皆も、今日から鉄棒に近付くな!

 

 

予定変更!今日の体育は、マラソンにする!」

 

「え~!!」

 

「嫌だぁ!!」

 

「先生、今から見学に入りまーす」

 

 

昼休み……使用禁止と書かれた札が下がる鉄棒を前に、ぬ~べ~はダウジングを手に調べていた。

 

調べる彼の前に、鼬姿の焔が通った。彼に気付いたぬ~べ~は、去って行く焔を目で追い駆け振り返ると、そこに麗華がいた。

 

 

「校長達、カンカンに怒ってたよ」

 

「いいんだ。

 

生徒が見たって言うからには、ここを調べないとな」

 

「……フーン」

 

 

その様子を、まことは影から見ていた。

 

そして、昼休みが終わる頃、まことは鉄棒を使い地面を思いっ切り蹴っていた。その様子を、広は遠くから見ていた。

 

 

「出ろ出ろ!河童!出るのだ!!」

 

「あいつ……」

 

 

立ち去ろうとした時だった……地面から突然、河童が現れまことを地面へ引きずり込んでしまった。

 

 

「ぬ~べ~!!まことが河童に!!」

 

 

慌ててぬ~べ~に知らせに行った広は、彼と共に裏庭にある古井戸へ向かった。そこには既に麗華が、ロープを繋げ降りようとしていた所だった。

 

 

「麗華!何でお前が!?」

 

「この井戸の水脈が、鉄棒の下まで続いている」

 

「え?!」

 

「それだけじゃない!

 

この水脈は学校の裏の明神沼まで、繋がってる!河童はその沼の主だ」

 

「さっすが!先生!」

 

「そ、その沼の主が何で鉄棒の邪魔するんだ?」

 

「分からない」

 

「河童って、本来は水神だったのが落ちぶれて妖怪化した奴だって聞いた」

 

「元が神だけに、その霊力も侮りがたいものがある。

 

着いたぞ!ここが鉄棒の真下!」

 

 

狭い道を歩いてきたぬ~べ~達が辿り着いた場所は、拾い空洞になっていた。

 

 

「な、何でこんな広い穴が!?」

 

「地下水脈の流れが、長い年月を掛けて少しずつ岩を削っていったんだ。

 

 

気をつけろ!敵はどこに潜んでいるか分からないぞ!」

 

 

注意したその時、後ろから何者かが広の頭を鷲掴みにした。

 

 

「わあぁぁあ!!」

 

「広!?」

「立野!?」

 

「麗、下がれ!!」

 

 

フードにいた焔は人の姿になり、麗華を後ろへ隠した。ぬ~べ~は鬼の手を構え、河童を攻撃しようとした時だった。

 

 

「待って!!

 

その河童君は、悪い妖怪じゃないのだ!!」

 

「まこと!!無事だったのか?!」

 

「ど、どういう意味だ?!」

 

「その河童君は、僕達を守ろうとしてくれたのだ!!

 

コイツから!!」

 

 

懐中電灯を照らした先にあったのは、不発弾だった。

 

 

「こんなものが、校庭の真下に……

 

?な、何?!この揺れ」

 

「……!上は、鉄棒か!!」

 

「そっかぁ……地盤が脆いから、ちょっとの振動で崩れ易くなってんだ」

 

「よし!

 

このまま、爆発させるか!」

 

「阿呆!!上の奴等が、死ぬ!!」

 

「もう間に合わない!!一か八かだ!!

 

南無大慈大悲救苦救難!白衣観音に封ぜられし鬼よ!!その力を示せ!」

 

 

鬼の手を出したぬ~べ~は、地面に手を向けた。鬼の手は地面を貫き、鉄棒で遊んでいた生徒達は、その手に驚き逃げ出した。

 

 

「ヤバい!さっきので、地盤が!」

 

「水に潜れ!!」

 

「焔!行くよ!」

 

 

広達を連れ、ぬ~べ~は潜った。次の瞬間、爆弾のスイッチが入り爆発した。

 

学校から黒い煙が上がった頃、明神沼から広達は出てきた。

 

 

「よ、よく助かったな……」

 

「ああ。あいつが引っ張って連れて来てくれたおかげだ」

 

 

ぬ~べ~が向く方向には、あの河童がいた。

 

 

「あの爆弾から、子供達を守る為に鉄棒をやらせまいとしてたんだな」

 

「良い妖怪なのだ!君は」

 

 

河童はニタっと笑うと水に潜り、そのまま姿を消した。




数日後……


体育館で卓球をするぬ~べ~クラス。鉄棒が壊れ代わりに卓球になったはいいが、まことが得意だと言っている傍ら、細かい運動が苦手な広は天狗が出るからやめようと、ぬ~べ~に訴える日がしばらく続いた。


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鏡の学校

夕方……

センター街を歩く広達。

他愛のない話をしていると、何やら人が群がっていた。気になり人混みをかき分ける見に行くと、そこにいたのは……


「この、クソガキ!!」

「よっ!」


制服を着た男の拳を、軽々とバク転しながら避ける麗華がそこにいた。


「へっへーん!お前の攻撃なんざ、見え見えなんだよ!」

「こっっのぉ!!」


「あれ、麗華だよな……」

「だな……」

「こんなとこで、何やってんだが」


手に地面を着いた麗華は、その手を軸に回転して攻撃してきた男の体に蹴りを入れた。顔面に蹴りを受けた男は、蹌踉けその場に尻を着き麗華は、彼を背に立った。

顔を手で抑えながら立ち上がった男は、彼女に向かって隠し持っていたナイフを振り下ろそうとした。その時、ナイフを振り上げた腕を、背後から何者かに掴まれ阻止された。


「人の妹を、何刺そうとしてんだ?」

「え、えっと……こ、これは」

「龍二ぃ!麗華、捕獲したぜぇ!」


いつの間にか肩車をされた麗華を見せながら、彼と同じ制服を着た男が言った。


「さぁて……一暴れするか」


翌日……

 

 

「『鈴海高校の生徒、万引き常習犯を捕まえる!』

 

凄え!これ、昨日の事じゃねぇか」

 

 

郷子が持ってきた新聞の切れ端を見ながら、広は驚いていた。

 

 

「麗華が相手にしてた高校生、万引きの常習犯だったのか!?」

 

「しかもあの高校生、警察も手を焼くほどの問題児だったらしいわよ!」

 

「ふぇー」

 

「あれ?そういえば、麗華は?」

 

「まだ、来て」

「刷り込みセーフ!」

 

 

チャイムが鳴ったと同時に、麗華は教室へ刷り込み入ってきた。その直後、ぬ~べ~も教室へ入ってきた。

 

 

「今日もギリギリセーフ!」

 

「何がギリギリセーフだ!

 

もう少し早く来んか!!」

 

「遅刻してないんだから、いいじゃん。

 

これくらい大目に見てよ!」

 

「あのなぁ!!」

「まぁまぁ、先生!

 

この記事読んで、今日の所は大目に!」

 

 

そう言われ、ぬ~べ~は広からあの新聞の切れ端を見た。

 

 

「何だ、これ今朝の新聞に載ってた記事じゃ」

 

「なんと!それに、麗華が関わってんだよ!」

 

「何?!」

 

「私達、昨日その現場見たのよ!」

 

「ほ、本当か?麗華」

 

「昨日?

 

あぁ!昨日の弱っちいくせに、偉そうにしてた高校生!

うん!相手にしたよ!」

 

「常習犯って書いてあるが、何で相手にしたんだ?」

 

「昨日たまたま、あの辺り通り掛かったらあいつが万引きするところを、目撃して。

 

それで、相手に!」

 

「それで相手にって……お前なぁ、犯人はナイフを持ってたって書いてあるぞ!

 

危ないだろ!」

 

「平気だよ!刺される寸前、お兄ちゃん達が助けてくれたから!」

 

「だからってなぁ……」

 

 

 

放課後……

 

 

「しっかし、ぬ~べ~みたいな人が、この学校に呼ばれるとは」

 

 

二軒の四階建て校舎が建つ校門の前に、ぬ~べ~は広達と立っていた。

 

 

「お前等なぁ……

 

俺は仕事でここに来たんだ。さぁ、早く帰った帰った!」

 

「そんな水くせぇこと言うなよ!」

 

「鈴海高校って言ったら、今朝の新聞に載ってた生徒に会えるかもしれないじゃない!」

 

「っ……

 

頼むから、仕事の邪魔だけはするな」

 

「ハーイ!」

 

 

来校者と書かれた名札を首から下げ、広達はぬ~べ~が話をしている間、校舎を見回り体育館と道場近くを歩いていた。

 

 

「デケぇ」

 

「本当……あ!ねぇ、見てみて!」

 

 

美樹が指差す方向に目を向けると、道場の中で道着を着た生徒達が、何かの練習をしていた。

 

 

「凄え……」

 

「何の練習してるんだろう?」

 

「あれ?郷子に立野達じゃん!」

 

 

聞き覚えのある声に、広達は振り返った。そこにいたのは、スポーツドリンクを飲む男と、タオルを持った麗華だった。

 

 

「麗華!?」

 

「何でアンタがここに?!」

 

「お前、神出鬼没だな……」

 

「何だ麗華、友達か?」

 

「学校の友達」

 

「ふーん……」

 

 

「滝沢!練習始めるぞ!」

 

「あ、はい!

 

麗華、頼む」

 

 

容器を麗華に渡すと、滝沢という男は道場へ入った。

 

 

「あの人、昨日万引き犯捕まえた人じゃ」

 

「そうだよ」

 

「嘘ぉ!!」

 

「麗華、あの人と知り合い?」

 

「うん。

 

この学校の生徒会の書記・滝沢真二」

 

「滝沢さんて言うんだ、あの人」

 

「麗華のお兄さんじゃないの?」

 

「違う違う、あの人は」

「麗華!タオル!」

 

 

道場からヒョッコリと顔を出した真二に、麗華は手に持っていたタオルを丸め、思いっ切り投げた。彼は難なくキャッチして礼を言いながら、再び中に入った。

 

 

「そういえば、何で皆ここに?」

 

「ぬ~べ~の仕事でここに!」

 

「仕事?

 

あ~、あれかな?」

 

「あれって?」

 

「麗華、何が知ってんの?」

 

「心当たりならあるよ」

 

「え?!何々?!」

 

「うんとね!」

「話すな!それ以上!」

 

 

後ろから袴姿の男が、麗華の口を手で塞ぎながらそう言った。

 

 

「あれ?この人、昨日の万引き犯を蹴り飛ばしてた」

 

「お前等……確か、麗華の」

 

「クラスメイトでーす!」

 

「やっぱり……

 

何でここに?」

 

「先生の仕事についてきたんです!」

 

「仕事?

 

あの校長、ついにインチキ霊媒師に頼んだな」

 

「インチキじゃないわ!!本物よ!」

 

「へいへい、そういう事にしときますよ。

 

そろそろか……真二!」

 

 

麗華の兄に呼ばれると、真二は部員に何かを言いながら、タオルを持ってやって来た。

 

 

「おっ待たせぇ!!」

 

「緋音迎えに行って、さっさとやるぞ」

 

「了解!」

 

「お兄ちゃん!私も!」

 

「来てもいいが、危ないことはするなよ」

 

「ハーイ!」

 

「何だ?どっか行くのか?」

 

「ん?えっとね……

 

 

生徒会のお仕事!」

 

 

笑みを見せた麗華は、先に行った龍二達の後を追い駆けていった。

 

 

 

「鏡の世界……ですか」

 

 

校長はぬ~べ~にお茶を出しながら話をした。

 

 

「はい……この新しい校舎が建つ十年ほど前は、旧校舎があり、そこの踊り場にはとても大きな鏡がありました。

 

しかし、旧校舎が取り壊され新しい校舎が建ってからおかしな事ばかりが、起こるようになりました。

 

 

誰もいない夜に、階段を駆け上る足音や昼間突然ドアが開いたり、水場のないところで水が流れ出ていたりと……奇々怪々な事ばかり」

 

「その、鏡はどうされたんですか?」

 

「校舎が壊されたと同時に、そのまま。

 

やはり、霊の仕業なのでしょうか」

 

「まだ断定は出来ません」

 

「そうですか……

 

あ、そうだ……この事件と関係があるかどうかは分かりませんが、少々ご覧になって貰いたいものがあります」

 

 

そう言うと、校長はぬ~べ~をある場所へ案内した。

 

 

案内された場所……そこには、四階と三階の踊り場に着けられた大きな鏡が飾られていた。

 

 

「これは……」

 

「先程話しました鏡の一つです」

 

「え?二つあったんですか?」

 

「はい。

 

一つは壊された旧校舎に。もう一つはここに。

 

 

七不思議と言いますか……この鏡と壊された鏡は、二つで一つだったらしいんです」

 

「二つで一つ……」

 

「詳しくは知りませんが……」

 

「校長先生!ちょっと」

 

「あ、はい。

 

それでは鵺野さん、お願いしてもいいですか?」

 

「はい。お任せ下さい」

 

 

呼ばれた教員と共に、校長はその場から去って行った。

一人になったぬ~べ~は、水晶玉と数珠を手に、鏡を調べ始めた。




“キ―ンコーンカーンコーン……キ―ンコーンカーンコーン”


学校全体に鳴り響くチャイム。美術室に着ていた広達は、音に気付き顔を上げた。
ふと、壁に飾られていた鏡に目を向けた……その時だった。


突然鏡が光り、広達を包み込んだ。光はすぐに収まった……だが、そこにいたはずの彼等の姿は、どこにもなかった。


「?」


何かを気配を察したのか、ぬ~べ~は鏡に背を向け上を見た。


(……何だ、今凄い妖気を)

「あれ?先生!」


聞き覚えのある声に、ぬ~べ~は振り向いた。そこにいたのは、階段を降りてくる麗華と兄達だった。


「麗華!?」

「あれ?先生一人?

他の皆は?」

「いや、あいつ等は校舎内を歩いてるはずだが……」

「そんなはずは無いわ。

生徒が行方不明になるからって、最終下校時間を今は五時にしているもの」

「さっき俺達が見回りしたけど、誰もいなかったもんな?」

「残ったいる奴等は、速攻帰したし……

残っているとしたら、俺等四人と先公達が数人残ってるだけだ」

「あいつらが勝手に帰るはずが……」


『助けて』


どこからか聞こえた、弱々しい声……麗華は、鏡の前に立ちそれを見た。


「麗華、どうかしたか?」

「声……」

「?」

「さっき、ここから声が……!!」


指を指した麗華の手を、鏡から白い靄の様なものが掴んでいた。抵抗する暇もなく、麗華はそのまま鏡の中へ引きずり込まれ、彼女の腕を兄は掴み引っ張ったがびくともせず、そのまま一緒に引きずり込まれた。


「龍二!!」


真二が叫んだと同時に、鏡が突然光だし彼等を包み込んだ。


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旧校舎

どこ?


どこにいるの?


あれが無くなってから、お友達は消えた。


だったら、私も……


皆を消してやる!!


目を覚ます麗華……辺り見回しながら、体を起こした。傍には兄達とぬ~べ~が、倒れていた。

 

 

「……お兄ちゃん……

 

お兄ちゃん、ねぇ!」

 

「……うっ」

 

 

頭を抑えながら、龍二は起き上がった。彼とほぼ同じようにして、ぬ~べ~達も起きた。

 

 

「何だったんだ?さっきの光は」

 

「さぁ……」

 

「つか……ここ、どこ?」

 

 

縦に長い部屋の中を見ながら、真二は言った。

 

 

「……何か、弓道場っぽくない?」

 

「確かに、そうだな……?」

 

 

弓立てに立て掛けられている弓に、龍二は目を向けしゃがみながら下を見た。

 

 

「お兄ちゃん、どうかしたの?」

 

「……この弓。

 

俺が今、使ってる弓だ」

 

「いや、当たり前だろう。ここ俺等の」

 

「名前が違う」

 

「え?」

 

「弓道は剣道や薙刀と同じように、防具と武器を用いる武道。

 

弓道の武器である弓は、ほとんど先輩達が使っていた弓をそのまま後輩が使うことが多い」

 

「そういえば、そうだな」

 

「本来、俺の名前が貼ってなきゃいけないのに……

 

この弓、名前が“神崎”じゃなく“大谷”だ」

 

「本当だ」

 

「大谷って?」

 

「昔いた部員だ。

 

部室に大谷って名前が彫られた楯が飾られてた」

 

「ま、まさか……

 

俺等」

 

「タイムスリップしたな」

 

「嘘ぉ!!」

 

 

「キャァァアアア!!」

「ウワァァアアア!!」

 

 

突然悲鳴が校舎の中から聞こえた。その声に、ぬ~べ~は目付きを変えて、外へ飛び出し中へ入った。

 

 

「先生!」

 

「麗華!勝手に動き回るな!」

 

 

ぬ~べ~を追い駆けていった麗華の後を、龍二達は追い駆けていった。

 

 

 

校舎の中では、包丁を片手に持つのっぺら坊に追い駆けられる郷子達が、走り回っていた。

走っている時、郷子は足を滑らせ転んでしまった。

 

 

「郷子!!」

 

 

慌てて広は彼女の元へ駆け寄り、支えながら立たせた。その時、殺気を感じ取り後ろを振り返った。包丁を振り上げたのっぺら坊が、目の前にいた。

 

 

「俺の生徒に、手を出すな!!」

 

 

白衣観音経を広げ、のっぺら坊にぬ~べ~は攻撃した。

 

 

「ぬ、ぬ~べ~!!」

 

「お前達、無事か!?」

 

「アーン、怖かったぁ!!」

 

 

巻き付いた白衣観音経を振り払ったのっぺら坊は、雄叫びを上げて油断していたぬ~べ~達に、包丁を振り下ろした。

 

 

「氷術氷壁!!」

 

 

彼等の前に、氷の壁が作られのっぺら坊の攻撃を防げた。壁を台に黒いマントを着た男が、持っていた大きな鎌をのっぺら坊目掛けて、振り下ろした。体を貫かれたのっぺら坊は、黒い煙を出して消えてしまった。

 

 

「大丈夫か?!」

 

「麗華、助かった」

 

「こんな所にのっぺら坊って……」

 

 

氷鸞を式に戻し、ポーチにしまいながら麗華は、郷子達の傍へ駆け寄った。

 

 

「龍二」

 

「?」

 

 

黒いマントを着た男は、のっぺら坊が消えた付近を見ながら、口を開いた。

 

 

「ここ、妖怪の住み家だね」

 

「やっぱりか……」

 

「早く帰って、輝二に知らせた方が」

 

「知らせたいのは山々だが、俺等ここにどう入ったか分かんねぇんだよ」

 

「……そうか」

 

「とりあえず、ここから避難しよう。

 

ここにいたんじゃ、何が起きるか分からない」

 

「だな。一旦弓道場に戻るか。

 

麗華、行くぞ」

 

 

龍二に呼ばれ、麗華は彼の元へ駆け寄った。郷子は広に支えられながら立ち上がり、ぬ~べ~達と共に歩いて行った。

 

 

弓道場に着いたぬ~べ~達は、中へ入り床に座り込んだ。

 

 

「そういえば、お前達どうやってここに?」

 

「美術室にあった鏡に吸い込まれたんだ」

 

「美術室の鏡?」

 

「突然光って、気が付いたら給食室にいて……」

 

「そんで、あののっぺら坊にいきなり襲われたの」

 

「……」

 

「何が起きているか、チンプンカンプンだな」

 

「……先公達は、ここに残っててくれ。緋音、ここを頼む」

 

「分かったわ」

 

「鎌鬼も頼む」

 

「了解」

 

「残れって……何をする気だ?」

 

「校舎内の探索。

 

大勢で行ったら、妖怪達の標的にされる」

 

 

着ていた上着から、巻かれていた弦を出した龍二は、弓に張り試し引きをした。

 

 

「弓はこれでいい」

 

「素手で引くのか?」

 

「引きたくねぇけど、この状況だ。かけ嵌めてたら、何も出来ねぇからな」

 

「待て、俺も行く。お前達だけじゃ危険だ」

 

「お前まで行ったら、誰がそいつ等守るんだ?」

 

「っ……」

 

「緋音と鎌鬼だけじゃ、対処しきれねぇよ」

 

「た、確かに……」

 

「そんじゃ、行ってくる」

 

「あぁ……って、麗華も連れて行く気か!?」

 

 

矢が入った筒を背負った麗華を見ながら、ぬ~べ~は龍二に言った。

 

 

「自分の妹を連れて、何が悪い」

 

「いやいや、危険だろ!」

 

「ここに残す方が危険だ!」

 

「だからってなぁ」

 

「それに麗華は、攻撃用の式神を持ってる。

 

いざという時、必要だ」

 

「はぁ……」

 

「二時間くらいしたら、帰ってくる。

 

じゃあな」

 

 

戸を開け、三人は外へ出て校舎の中へ入っていった。

 

 

「三人なら、大丈夫ですよ」

 

 

心配していたぬ~べ~に、緋音は優しく言った。

 

 

「えっと、君は……」

 

「日野崎緋音と言います。

 

薙刀部所属で、鈴海高校生徒会の会計をやっています」

 

「だから、袴か」

 

「部活を抜けたもので……

 

それから、龍二の事ごめんなさい」

 

「へ?」

 

「龍二、麗華ちゃんのことになると色々見え無くなっちゃうから」

 

「あ、はぁ……」

 

「まぁ、龍二だけじゃなく真二も私も、麗華ちゃんに何かあると、周り見え無くなっちゃうんで」

 

「付き合い長いんですか?」

 

「小さい頃かずっと。

 

幼馴染みなの」

 

「へ~」

 

 

 

緋音達が他愛のない話をしている頃、龍二達は廊下を歩いていた。

 

 

「凄い古いね」

 

「まぁ、昔の校舎だからな。

 

あんまり、離れるなよ」

 

「はーい」

 

「……?」

 

 

何かの気配を察知した真二と龍二は、足を止めた。麗華はポーチに手を入れて、辺りを見回した。

 

 

「麗、上だ!!」

「龍、上だ!!」

 

 

焔達の掛け声に、龍二は麗華を抱き上げて真二と共にそこから離れた。それとほぼ同時に天井から岩が落下し、その上に覆面をした妖怪が降り立った。

 

 

「妖怪か!?」

 

「そこの娘だけを引きずり込んだはずだが……

 

余計な者までついてきたか」

 

「なぜ麗華を狙った」

 

「その娘、妖力が高い……

 

あれを壊すには、その娘の力が必要」

 

「あれって?」

 

「話は無用。その娘を渡して貰おう」

 

「嫌なこった!

 

出て来い!管狐!」

 

 

道着の懐から、竹の筒を出した真二は管狐を出した。管は咆哮して、覆面の妖怪を攻撃した。

 

 

「あー!ズルい!

 

私もぉ!!」

 

 

ポーチから二枚の札を出すと、麗華は指を噛み血を出し札に付けた。彼女に続いて、龍二も札を出し指を噛んだ。

 

 

「我に力を貸せ!急急如律令!」

「我に力を貸せ!急急如律令!」

 

 

三枚の札が赤、黄色、青と光り出し、そこから冷気、雷、炎を放ち現れ出てきたのは、人の姿をした氷鸞と雷光、そして赤い花魁の格好をし、茶色い髪を赤い椿の飾りを付けた簪で纏めた女性だった。

 

 

「無駄な戦闘をするくらいなら、さっさと娘を渡せ」

 

「いちいちイラつくな!!」

 

「私達も戦う。焔!」

 

「応よ!」

 

 

フードの中から出て来た鼬姿の焔達は、人の姿へと変わった。

 

 

「渚と氷鸞は水だ!雷光と雛菊は風!」

 

「四人が攻撃し終えたら、焔は黒い煙!」

 

「了解!」

「はい!」

「分かりました!」

「応!」

 

 

四人が各々の攻撃をし、的が怯んだ隙を突き焔は口から黒い煙を吹いた。

 

 

「戻れ管!」

 

「真二、行くぞ!」

 

「応!」

 

 

式を戻すと、龍二達は狼姿になった焔と渚の背に飛び乗りその場を逃げた。

 

 

煙が晴れ辺りを見回す覆面の妖怪……そこにいたはずの麗華達は、既にいなくなっていた。

 

 

「逃げたか……(娘がいなければ、あいつは)」




弓道場にいた緋音と鎌鬼、ぬ~べ~は氷鸞達が使った技の妖力に気付き、道場の外を見た。


「……緋音、ここを」


鎌鬼が立ち上がった次の瞬間、突如ドアが壊された。中に入ってきたのは、金槌を持った大男だった。


「な、何だ?!あの妖怪は!?」

「ここは私達に任せて、先生は早く皆を連れて裏口から!」


大男は雄叫びを上げると、金槌を振り下ろしてきた。鎌鬼は緋音を下げ鎌で、それを切った。


「妖怪の類いではあるが、何かに操られてるって感じだね」

「じゃあこの校舎には」

「もっと強力な妖怪がいる。

少し力を解放する。巻き添えを食らわないように、緋音は皆と」

「分かったわ」


裏口へ向かう緋音を見送ると、鎌鬼は手首に嵌めていた腕輪を外した。すると禍々しいオーラを放ち、容姿を変えた鎌鬼は、襲ってきた大男に向かって大鎌を振り下ろした。

吹き飛ばされ、壁に当たった大男は気を失った。鎌鬼は腕輪を嵌め直すと、裏口から外へ出て行き緋音達の後を追った。


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大きな力

必ず……必ず、また会える。

待っていれば、必ず……


弓道場から逃げてきたぬ~べ~達は、教室に身を隠していた。

 

 

「こ、ここは安全よね?」

 

「悪いけど、ここは安全な場所はないと思った方がいいよ」

 

「嘘……」

 

「おい、怖がらせなくても」

 

「隠すより、はっきり言った方がいい。

 

自分達がどれだけ危険な立場にいるかを、実感した方が今後のためじゃないかと、僕は思うけど」

 

「……」

 

「まぁ、今の所嫌な気配は感じないから、大丈夫だと思うよ」

 

 

その時、床を軋む音が聞こえた。鎌鬼は鎌を構え、ドア付近に立ちぬ~べ~と緋音は、広達の前に立ち構えた。

 

 

勢いよく開けてきたのは、上の道着を脱いだ真二と片腕だけ道着を脱いだ龍二だった。彼等の背後には、狼姿の渚と焔がいた。

 

 

「龍二!?」

「真二!?」

 

「お前等……何で」

 

「道場が襲われたのよ!」

 

「それで、そっから逃げてきたんだ!」

 

「見たところ、怪我は無いみたいだな」

 

「そういえば、麗華は?」

 

「さっき妖怪と戦って外れた」

 

「え?!」

 

「今から探しに行く!

 

渚、焔、来い!」

 

「探すなら、皆で行った方が!」

 

「そうよ!

 

ぬ~べ~、いいわよね?」

 

「……そうだな。

 

皆で」

 

「そんなの駄目に決まってんだろ!!」

 

「!?」

 

「全員ここにいろ!

 

探すのは俺等だけだ」

 

「待て!まだ敵がいるかもしれないんだぞ!!」

 

「んな事は分かってんだよ!!

 

けどこっちは、一人で泣いてる妹を探すんだ!!危険も承知の上だ!!」

 

「俺からすれば、麗華は大事な生徒だ!!見捨てるわけにはいかない!!」

 

「何が大事な生徒だ……

 

生徒のことを信じてねぇくせに」

 

「え……」

 

「どうせ教師なんざ、自分の評価しか考えてねぇんだろ?

 

だから、片親しかいない生徒を勝手に問題児にすんだろ!」

 

 

そう怒鳴ると、龍二は渚達と共に教室を出て行った。

 

 

「……ったく、龍二の奴は」

 

「麗華ちゃんのことになると、キレやすくなるんだから」

 

 

 

その頃麗華は、美術室へ来ていた。

 

 

「……お兄ちゃーん!

 

皆ぁ!どこぉ?」

 

 

中へ入った瞬間、突然扉が勢いよく閉まった。麗華はポーチに手を入れ、一枚の札を出し指を噛み血を付けた。

 

札は煙を上げ、中から出て来たのは薙刀だった。それを手にした麗華は構えた。

 

 

「……あれ?

 

妖気はあるのに……」

 

 

辺りを見回す麗華……すると彼女の背後から、何者かが糸を伝い降りてきた。その気配に気付いた麗華は、すぐに振り返り薙刀を振り下ろした。

 

斬られたのは、巨大な蜘蛛だった。それを見た瞬間、麗華は震え出し、腰を抜かしたのかその場に座り込んだ。

 

 

「……あ……

 

アァァアアアアア!!」

 

 

彼女の叫び声と共に、目映い光が校舎を包み込んだ。中を彷徨っていた妖怪達は、その光に導かれるかのようにして向かいだした。

 

その凄まじい霊力に、ぬ~べ~と鎌鬼は教室を飛び出した。二人の後を緋音達は慌てて追い駆けていった。

 

 

「ヒック……ヒック……

 

お兄ちゃん……焔……どこ……」

 

 

ふらつきながら立ち上がった麗華は、教室を出ようと戸を開けた。だが目の前にいたのは、金槌を持った大男だった。大男は出て来た彼女目掛けて、金槌を力任せに振り下ろした。

 

麗華はすぐに避け、ポーチから青と黄色の札を出し、指を噛み血を付けた。

 

 

「我に力を貸せ!急急如律令!!」

 

 

冷気と雷を放ち出て来た氷鸞と雷光は、持っていた錫杖と刀で攻撃を防いだ。

 

二人の邪魔をしないよう、後ろへ下がろうとした時、足を何かに取られ地面に尻を着いた。

 

 

「痛ったぁ……!?」

 

 

足下に絡まっていたのは、蜘蛛の糸だった。恐る恐る振り返ると、先程倒したはずの蜘蛛が、四つの目を動かして自分を見ていた。

 

 

「……た……助け」

 

「麗様!!

 

雷光、ここを頼む!」

 

「任せろ!」

 

 

大男から離れ、氷鸞は錫杖から氷の礫を出しそれを蜘蛛に投げ付け攻撃した。蜘蛛は鳴き声を上げて痛がり、その隙に麗華の足に絡んでいる糸を切った。

 

 

「さぁ、これで大丈夫です!」

 

「うわぁーん!」

 

 

泣き出した麗華は、氷鸞に抱き着いた。抱き着いてきた彼女を氷鸞は抱き上げた。雷光はそれを見ると、大男に雷を食らわせ退路を開き手で合図をして、氷鸞と共に走り出した。

 

 

廊下を走る氷鸞と雷光……角を曲がった時、バッタリ真二達と出会した。

 

 

「ひょ、氷鸞!!」

 

「真二様……よかった」

 

「早くここから逃げて下さい!!」

 

 

雷光がそう言った時、金槌を振り上げた大男が姿を現した。鞘に入ったままの刀を手に、雷光は大男の金槌を受け止めた。

 

 

「あいつ、さっきの!!」

 

「妖怪屋敷か!ここは!

 

出て来い!管狐!」

 

 

筒から出て来た管狐は、大男に向かって炎を吹いた。火に怯んだ大男は、後ろへ引いた。

 

 

「ギャァアア!!こっちからも来てるぅ!!」

 

「ぬ~べ~!!」

 

「お前達、下がってろ!

 

南無大慈大悲救苦救難!鬼の手よ!今こそその力を示せ!」

 

 

鬼の手を出したぬ~べ~は、迫ってくる妖怪達を攻撃した。だが倒しても倒しても、妖怪はぞろぞろと出て来ては彼等に迫ってきた。

 

 

「くそ!キリが無い!!」

 

「ぬ~べ~!後ろ!!」

 

 

後ろから飛びかかる一匹の妖怪に、ぬ~べ~は出す術も無く佇んでいた。

 

 

「頭下げて!!」

 

 

その声にぬ~べ~は郷子達の頭を下げさせ、自身も頭を下げた。その頭上に薙刀を持った麗華は、飛び越えて妖怪の群れを一網打尽にした。

 

 

「氷鸞、氷の壁作って!!」

 

「分かりました!」

 

 

手に冷気を溜めた氷鸞は、両腕を広げ双方に放ち氷の壁を作った。妖怪と戦っていた雷光と真二は後ろへ下がった。

 

 

「全員、歯を食い縛ってて!」

 

 

ポーチから少量の粉が入った瓶を取ると、それを地面にばらまきマッチに火を点けそれを粉に落とした。

 

 

“ドーン”

 

 

「え?」

 

「な、何?」

 

「……!!

 

ワァァアアア!!

 

 

床が消え、広達は下へ落ちた。全員が着地すると、氷鸞は下へ降り、抜けた床を氷で塞いだ。

 

 

「痛ったぁ……」

 

「何でいきなり、床が抜けるのよ!!」

 

「文句は後!速く走って!!」

 

「もう嫌!!」

 

 

文句を言いながらも、郷子達は立ち上がり走り出した。氷鸞は白い煙を出し、それを見た鎌鬼達麗華と共にその場から立ち去った。




宿直室に逃げ込んだ麗華達……鎌鬼はドア付近に座り、神経を尖らせ外を見ていた。


「も、もう追ってこないよね?」

「……今の所、追ってくる気配は無い」

「はぁ……走りっぱなしで、疲れた~」

「喉渇いたぁ」


そう言いながら、美樹は部屋に設置されていた水道の蛇口を捻った。だが、水は出ては来なかった。


「旧校舎だから、水は出ねぇと思うぞ」

「嘘ぉ!!」

「喉カラカラなのに~」

「コップはあるのになぁ……」


部屋に置かれていた棚の引き戸を開けながら、広はがっかりして言った。


「コップがあるなら大丈夫」

「え?」


コップを取り出すと、緋音は氷鸞の前に置いた。彼は一つ一つ錫杖から出す水で洗い、水を注いでいった。


「凄え!!水が!」

「氷鸞は、氷と水の神だから!な!」

「式神って便利ね!

お水、頂きまーす!」


水の入ったコップを受け取ると、美樹達はそれを一気に飲んだ。飲む彼等を見ながら、緋音は隅で蹲っていた麗華にコップを持って、歩み寄った。


「麗華ちゃん、お水」


顔を上げた麗華は、緋音からコップを受け取り一気に飲み干した。

そんな彼女の姿を、ぬ~べ~は水を飲みながら見ていた。


(……さっきと比べて、異様に霊力が高い。

それに、凄い乱れている……どうなってんだ?


さっきの霊力と、関係があるのか?)

「……ねぇ、お兄ちゃんは?」

「龍二なら、お前を探しに焔達と」

「え……

探さなきゃ!」

「いや、ここにいろ。

また行き違いになったら、大変だ」

「……」

「大丈夫よ。龍二は強いから」

「……うん」


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大事な約束

“チリーン”



花柄の鈴を手首に着けたお前は、いつも来ては俺に話をしてくれた。

手を動かす度に、鈴の音が聞こえた……




音が鳴らなくなった鈴を見ていた覆面の妖怪は、目の前にあるものに目を向けた。

巨大な鏡に封じられた長い黒髪の少女が、静かに眠っていた。


(起こすには、あれを壊さなきゃ……

それに必要なのは、あの娘の霊力!!)


宿直室の中、走り疲れた郷子達は眠っていた。

 

 

「こんな非常時に、よくも寝られますね」

 

「散々走ったからな。

 

今は至福の時だ」

 

「……?

 

麗華、お前寝なくていいのか?」

 

「……眠くないから、大丈夫」

 

 

震える手を隠すようにして、体育座りをしていた麗華は静かにそう言った。

 

 

「……そういや、ここから外に出られないのか?」

 

「無理だ。

 

弓道場の小窓から外を見たが、地面が無かった」

 

「?!」

 

「この校舎は無いものだから、存在自体があり得ない……」

 

「……じゃあ、俺達は今どこに?」

 

「鏡の世界って言った方が早いわ。

 

鏡はものを写すもの……けど、霊界や異世界に繋がる道とも言える」

 

「合わせ鏡ってあるだろ?」

 

「あ、あぁ」

 

「それと一緒だよ。

 

俺達は何だかの力で、合わせ鏡と同じような現象が起きて、鏡に吸い込まれ今だ」

 

「……」

 

「出るには、ここの問題を片付ける他無いな」

 

「問題って?」

 

「探索してる最中に、覆面の妖怪に襲われたんだ。

 

そいつは、麗華を必要としてた」

 

「麗華を?」

 

「あぁ……」

 

 

三人が話している最中、氷鸞達は何かの気配に気づいたのか、顔を上げ武器を手にした。

 

その時だった……突然、壁が壊されそこから長い手が伸び麗華を捕らえようとした。

咄嗟に彼女は、飛び避け手に向かって薙刀の刃を突き刺した。痛みで断末魔が聞こえてきたかと思えば、土煙からそれは姿を現した。

 

長い腕を持つ妖怪と彼の肩に立つ長い黒髪を靡かせた、一人の少女がいた。

 

 

「何だ……この妖怪は」

 

「フフフ……見~つけた」

 

 

不敵な笑みを見せた少女に、ぬ~べ~達は凄まじい恐怖を感じた。

 

 

その直後、上から大きな硝子が落ちてきた。飛び散る破片にぬ~べ~は、起きていた郷子達を庇い、氷鸞は緋音を雷光は真二を鎌鬼は麗華を庇った。

 

 

「な、何で硝子が……」

 

「すぐにここから出て!!

 

緋音、真二!誘導を!」

 

 

鎌鬼に指示され、真二は勢い良く閉まっていた戸を開けた。だが外は、妖怪で埋め尽くされていた。

 

 

「こ、これじゃあ外に出られない!!」

 

「数が多過ぎる!!」

 

「管狐の鬼火だけじゃ、対処しきれねぇ!!」

 

「逃がしはしないわ……あなたがいちゃ、私の計画が台無しなのよ」

 

 

無数の鏡を自身の周りに浮かばせ、そこから鋭い刃を麗華目掛けて放った。手にしていた薙刀を振り回し、刃を防いだ。

 

 

「氷鸞!雷光!

 

退路を開いて!!」

 

 

二人は顔を見合わせると、氷鸞は妖怪の群れに向かって水を放ち、そこへ雷光は雷を纏った刀を振り下ろした。

 

水は雷を通し、群れを痺れさせ動けなくさせた。

 

 

「さぁ、早く行って」

 

 

突如氷鸞の横から何かが通り過ぎ、それは郷子達を襲おうとしていた蜘蛛に突き刺さった。

 

 

「キャア!」

 

「く、蜘蛛!?つかデカすぎだろ!!」

 

「この矢、どっから……」

 

 

蜘蛛に突き刺さった矢を見た緋音達はすぐに、放たれた方を向いた。

 

そこにいたのは矢を放った、龍二だった。彼の両隣には狼姿の焔と渚がいた。

 

 

「龍二!」

「龍二!」

 

「すぐに渚と焔に乗れ!

 

氷鸞、誘導頼む」

 

「はい!」

 

 

怖がりながらも、郷子達は焔と渚の背に乗った。ぬ~べ~が乗ると、氷鸞は氷で道を作りそこを焔と渚は一気に駆けて行き、彼等の後ろにつくようにして氷鸞は先に行った。

 

いなくなると、龍二は赤い札を取り出し指を噛み血を付けた。

 

 

「我に力を貸せ!急急如律令!」

 

 

札は炎を纏い、煙を上げ出て来たのは雛菊だった。

 

 

「雛菊、炎だ!」

 

「雷光!風!」

 

 

二人の指示通り、雛菊は持っていた扇を煽り炎を作り出し飛ばした。雷光は風を起こし、彼女が出した炎に勢いを増すかのようにして加えた。

 

 

妖怪が怯んだ隙を狙い、馬の姿になっていた雷光に真二と緋音は飛び乗り、大きくなり宙に浮いていた鎌鬼の大鎌の上に、麗華と龍二は乗り部屋を飛び出した。雛菊は黒い煙を出しそこへ火花を散らせた。火花は黒い煙に反応するかのようにして、その場で爆発を起こした。

 

 

 

図書室へ来た焔達……異様な静けさの中に、雷光達は飛び込み、龍二と真二は持っていた札を扉に貼った。それに反応するかのようにして、図書室全体に大きな結界が貼られた。

 

 

「これで大丈夫だ……

 

虫一匹、入っては来られない」

 

「確かに……かなり強い結界だな」

 

「テメェ等、いつまで背中に乗っている!」

 

「ひっ!」

 

「早く降りろ」

 

 

焔と渚から言われた広達は、慌てて降りた。首を振ると焔は座り込む麗華の元へ駆け寄り、顔を擦り寄せ頬を舐めた。

 

 

「あ~、麗華に甘えちゃって」

 

「こっちもこっちで、甘えてるぞぉ」

 

 

真二が指差す方に目を向けると、渚は尾で龍二を触り彼は彼で、彼女の頭を撫でながら辺りを見ていた。

 

 

「しっかし、古い本だなぁ」

 

「うわぁ、埃だらけ」

 

「ここについて、何か分かればいいんだけど……」

 

 

並んである本棚を見ていると、棚から一冊の本が落ちた。落ちてきた本を郷子は拾い、何気に広げると間に一枚の紙が挟まれていた。紙を見ると、そこに文字が書かれていた。

 

 

「ぬ~べ~!これ」

 

 

呼ばれたぬ~べ~は、彼女の元へ駆け寄り紙を見た。

 

そこには、見たことも無い文字で書かれていた。

 

 

「何だ?この文字」

 

「何か、蚯蚓みたいな字だな」

 

「これは妖怪文字だ」

 

「妖怪文字?」

 

「何て書いてあるんだ?」

 

「……わ、分からん」

 

 

「あの約束を忘れないで。俺はあそこにいる」

 

 

ぬ~べ~の背後からその字を見た麗華は、すらすらと言った。

 

 

「へ?麗華、この字読めるのか?」

 

「何となくなら」

 

「俺も読めるぞ」

 

「俺も」

 

「私も読めます」

 

「……」

 

 

情けない目付きで、郷子達はぬ~べ~を見た。彼等に見られた途端、ぬ~べ~は半べそをかきながら部屋の隅に蹲った。

 

 

「そう落ち込むなって!

 

俺等は特殊なんだからよ!」

 

「気にしなくていいよ!先生!」

 

「うぅ~」

 

「けど……誰に渡すつもりだったんだろう。

 

この手紙」

 

「俺の古き友だ」

 

「古き友?

 

へ~」

 

「郷子、あんた一人で何喋ってんの?」

 

「へ?

 

だって、さっき古き友だって言わなかった?」

 

「ううん」

 

「何も言ってねぇけど」

 

 

その時、図書室の窓が光り出しそこからあの覆面の妖怪が姿を現した。龍二はすぐに麗華を抱き寄せ、持っていた弓を向けた。

 

 

「警戒するな。

 

その娘の力は必要だが無理にはつれていかない」

 

「よくこの結界を抜けられたな?」

 

「鏡の中では、結界など無意味なもの……硝子があれば、自由に行き来できる」

 

「そんで、一体何の用だ?」

 

「黒髪の女に襲われたんだろう?」

 

「?!」

 

「その顔は図星だな。

 

その女について、教えてやる。ついて来い」

 

 

窓硝子が光り出し、そこに光の通路が現れた。妖怪はその道を歩き出し、続いて警戒しながらぬ~べ~達が歩きその後を真二達、雷光と氷鸞が歩き、彼等の後に龍二と彼の後ろに引っ付くようにして麗華が歩き、二人の後に焔達が歩いて行った。



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合わせ鏡

全員を消すまで、私の復讐は終わらない……決して!!


鏡から出ると、そこは階段の踊り場だった。

 

 

「うわっ!デカい鏡だなぁ!」

 

 

壁いっぱいに貼られた鏡を、広達は不思議そうに見ながら言った。

 

 

「お前達の校舎にあるあの鏡だ」

 

「え?あの鏡、こんなデカかったっけ?」

 

「あれは一部だ。

 

本来の姿が、それだ」

 

「へ~……」

 

「この鏡は、昔の校長が生徒のためにと設置したものだった」

 

「えぇ?!こんな大きな鏡を、わざわざ生徒のために!?」

 

「今と違って、昔は人数が少なかった。

 

一クラス五人六人しかいなかった。校長は全員が肩を並べて写真を撮りたいと思い、この鏡を設置した。

 

 

まぁ、俺達妖怪もこの鏡のおかげで居場所が出来た」

 

「もとから住んでたの?」

 

「まぁな。ここは昔、神社と森があった。

 

俺を含めてここにいる妖怪達は、そこを住み家にしていた。

だがある日、その神社と森は壊された。代わりにこの校舎が建った。

 

 

人には俺等の姿は見られまいと思い、引き続きここへ暮らした。子供をからかうのが面白く、よく遊んでいた」

 

「そのせいで、俺等の学校に七不思議として残ったぞ」

 

「悪い悪い。

 

そんな日々が続く中、ある一人の娘が俺達の存在に気付いた」

 

「娘?」

 

「長い黒髪に、手首に鈴を着けていた。

 

初めは嫌な奴かと思ったが、そいつが話す話が本当に楽しかった。

 

誰もいない教室に、俺等を呼んで色んな事を話してくれた。

 

 

しばらくして、彼女はここを出て行った……また来ると言って、去ってからずっと待ち続けた。

 

何年も……

 

 

どれくらいの月日が経ったが、分からないくらい過ぎたある日、突然この校舎を壊すと話を聞いた……校舎だけならまだしも、この鏡まで壊される。自分達の居場所が無くなると思って、妖怪達は暴れようとしたまさにその時だった……娘が顔を出したのは」

 

「……」

 

「昔見た容姿とはだいぶ違っていたから驚いたが、奴はすぐに校舎の取り壊しを中止しろと言った。それが駄目なら鏡を壊さないでくれとも、頭を下げてまで頼んでくれた。

 

だが、誰も耳には入れてくれなかった……娘は自分の同級生に先輩達や後輩達の所へ行き、鏡を守ってくれとお願いして回った」

 

「それだけ回ってんだったら、工事は中止になるんじゃ」

 

「……中止される前に、娘は事故で死んだ」

 

「!?」

 

「娘の意志を継いだ後輩達が、頭を下げてお願いしたら、鏡の半分は残すことになった」

 

「何で半分なんだよ……普通、全部じゃないの?」

 

「工事の金、ケチったんだろ?

 

昔から結構あるからなぁ、この学校」

 

「最も、それは昔の話。

 

今はそういう事、無くなったけどね」

 

「そんな……」

 

「望みが叶わなかったせいか……

 

 

娘は、事故から数年後……壮大な妖力を持って蘇った」

 

「!?」

 

「まさか、その蘇った奴が」

 

「さっき相手しただろ?

 

黒髪の女に」

 

「あ、あの妖怪が……その」

 

「娘だ」

 

「……」

 

「話は何となく分かった……

 

それで、何で麗華が必要なんだ?」

 

「あの娘を倒して欲しい……それには、奴以上の霊力が必要だった」

 

「それで麗華ちゃんを」

 

「そうだ……

 

ここにいる奴等は、あの娘を葬ってやりたいんだ。

自分達のために、苦しむ姿を見たくは無い……さっさと深い眠りについて欲しいんだ」

 

「……」

 

「それ、違う」

 

「?」

 

「何が違うんだ?麗華」

 

「……その人がやってるんじゃ無い。

 

もっと違う奴が、今の事をやってる」

 

「え……」

 

「あの女から、嫌な妖力は感じなかった!

 

それに、私がここに引きずり込まれる前、声が聞こえた!

 

『助けて』って」

 

「……」

 

 

「やはり、完全には眠ってはいなかったか」

 

 

その声にハッとした次の瞬間、麗華の体に糸が巻き付きそのまま上へ引き釣り上げられた。

 

 

「麗華!!」

 

 

助けに行こうとした途端、彼等の前に大きな金槌を持った大男と手の長いあの妖怪と無数の妖怪達が道を防いだ。

 

 

「この娘がいては、私の復讐は成功しない……

 

成功するまで、預かっておくわ」

 

「テメェ!!」

 

「攻撃すれば、この子の顔に傷が出来るだけよ」

 

 

吊されている彼女の横から、あの巨大な蜘蛛が糸を引いて降り、前足を麗華の頬に当てた。

 

 

「い、嫌ぁ!!」

 

 

拘束された手を必死に動かしながら、麗華はそこから逃れようと暴れた。

 

 

「妹にそれ以上、触れんじゃねぇ!!

 

渚!!」

 

 

龍二の指示に、渚は口から女に目掛けてお湯を吹き出した。女は腕でお湯を防ぎ、不敵な笑みを浮かべると腕を振った。

 

次の瞬間、突然地面が消え全員奈落の底へ落ちていった。全員がいなくなると、地面は元の姿へと戻った。

 

 

「お、お兄ちゃん!!皆ぁ!!」

 

「これで邪魔者はいなくなった……

 

 

さぁ、行きましょう」

 

 

残っていた大男に、麗華を担がせ女は深い闇の中へと消えていった。




奈落の底へ落ちていくぬ~べ~達……

人の姿へと変わった渚は龍二を、氷鸞は真二と緋音を、雛菊は美樹と郷子を、雷光は克也と広を、鎌鬼はぬ~べ~を受け止め、宙に浮いた。


「し、死ぬかと思った……」

「俺、寿命縮んだ……」

「どこなの、ここ?」

「異空間だ」


頭を抑えながら、焔に支えられていた覆面の妖怪は言った。


「異空間って……」

「鏡の中を通った時、光の道の両脇には何も無かっただろ?」

「う、うん」

「脇道に入ったんだ、俺等は」

「もし、このまま落ちていったら……」

「地獄に辿り着くかもな」

「ひぇ~~!!」

「どうすれば抜けられる!?」

「ついてこい。案内する。

頼む」

「あぁ」


動き出した焔達に続いて、渚達は龍二達を持ち直してゆっくりとついて行った。


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本性

薄暗い部屋の隅に貼られた蜘蛛の巣に、拘束された麗華……


糸を解こうと、手を動かすが解ける気配が無かった。不審な動きをすれば、上で自分を見張っている巨大蜘蛛に何をされるか分からない。声を出そうにも、糸で完全に塞がれ出すことも出来なかった。


(……焔……お兄ちゃん)


その時、床が軋む音が聞こえた。麗華は顔を上げ音の方を睨んだ。
暗闇から姿を現したのは、あの女だった。彼女は麗華に歩み寄ると、しゃがみ込み頬と髪に触れた。


「何を怖がっているの?

大人しくしていれば、何もしないわ」

「……」

「……あの鏡を壊してくれて、本当に助かったわ。

おまけに、こんな体も手に入れられたんだから」

「?……!」


女の背中に切り込みが入った……そして真っ二つに分かれ、そこから蜘蛛の容姿をした女が姿を現した。


「やはり、こっちの方が動きやすい……

あなたに良いことを教えてあげる」

「?」

「あの大きな鏡は、私を封印していたものだったの」

「!?」


「あそこだ!」

 

 

覆面の妖怪が指差す方向に、あの図書室の部屋が映った鏡があった。先に焔達が中へ突っ込み、その次に氷鸞、雷光、雛菊、鎌鬼、渚達と入っていった。

 

 

「出られたぁ!!」

 

「あ、足が地に着いたぁ……」

 

 

覆面の妖怪から離れた焔は、龍二のもとへ駆け寄った。龍二は、ポケットから札を取り出し指を噛み血を付けた。札は煙を上げ出て来たのは、黒い剣が現れその束を握り持った。

 

 

「麗華を探しに行く。

 

お前等ここで待ってろ」

 

「ちょっと待て!危険だ!!」

 

「危険なのはどっちだ!!

 

ここにいる俺等より、あの女のもとにいる麗華の方がよっぽど危険だ!!」

 

「それは分かる!

 

だかな、今行ってお前に何かあれば悲しむのは」

「担任でもねぇくせに、偉そうなこと言うな!!」

 

 

ぬ~べ~の胸倉を掴みながら、龍二は怒鳴った。真二は慌てて仲裁に入り、彼から離れさせた。

 

 

「龍二、落ち着けって!」

 

「一発こいつを殴らせろ!!」

 

「待て待て!殴るな!

 

俺も一緒に行くから!それなら文句ないだろ!?」

 

「必要じゃない暴力は駄目!

 

おじさんから言われてるでしょ!」

 

「……チッ!」

 

 

二人の腕を振り払い、龍二は焔達と共に部屋を出て行った。彼の後を、真二は慌てて追い駆けていった。

 

 

「す、凄ぇ……」

 

「周りが見えなくなるって、ああいうのを言うのね……」

 

「俺も妹いるから、気持ちは分からない訳でも無いが」

 

「でもさぁ、あんなに言わなくてもいいじゃない。

 

何か、ぬ~べ~が意見言うと怒鳴ったり嫌な顔するよね?麗華のお兄さん」

 

「仕方ないよ……だって、酷い扱いされたんだもん」

 

「酷い扱い?」

 

「中学生の頃、担任から酷いいじめを受けてたんです。龍二」

 

「え?!先生が生徒をいじめてたの?!」

 

「信じらんねぇ!!」

 

「教師失格よ!」

 

「それは私も真二も同感。

 

その事があったせいで、龍二教師には凄い反抗的なの」

 

「そうだったのか……」

 

「まぁ、麗華ちゃんのことになるともっと酷いことになるけどね」

 

 

 

階段を上り、三階へ来た龍二達……

 

 

「あ~!!クソクソ!!ムカつく!!

 

あのゲジ眉鬼教師が!!偉そうなこと言うなんじゃねぇよ!!人の気も知らねぇで!!」

 

「壁に八つ当たりするな~。

 

落ち着いたら、屋根裏行くぞ~」

 

「クッソォ!!」

 

「けど、よく知ってたね。この建物に屋根裏があるなんて」

 

「空手のコーチが、ここの卒業生でこの校舎の事で聞いたんだ。

 

 

鍵が掛かってる屋根裏があって、そこには恐ろしい化け物が封印されてるって!」

 

「そういう事を、とっとと話さんか!!己はぁ!!」

 

「す、すみません……以後、気を付けます」

 

 

屋根裏へ続く階段を見つけた真二は、駆け上り懐から針金を出すと、それを南京錠の穴に入れ弄りだした。

 

 

「すぐ開くか?」

 

「ちょい時間かかる。

 

焔達に、見張りさせ」

「させている」

 

「お早い行動で……

 

麗華が心配なのは分かるけど、教師に当たるな」

 

「知ってんだろ!あいつが蜘蛛見たら、どうなるかくらい!」

 

「あ~もう!そう怒鳴るな!

 

寿命縮むぞ!」

 

「っ……」

 

「そりゃあさ、俺も緋音も心配だよ。

 

けど、今回は俺等だけじゃない。麗華の友達もいる。

 

あいつ等を危険な目に遭わせれば、あのゲジ眉先公が黙ってない」

 

「……確かに」

 

「見る限り、あの先公は信用できるんじゃねぇのか?

 

現に、麗華の奴楽しそうに学校行ってるじゃん」

 

「……」

 

「お前に同行は言わないけど、少し妹離れしろよ?

 

あいつだって、数年経てば俺等と同じ高校生になるし、大学生にもなる。先を行けば結婚して母親になる。

 

 

それまで、兄貴がベッタリじゃ変われるもんも変わらねぇよ」

 

「けどあいつは!」

 

「気持ちは分かる。

 

けどよ、麗華だって大人の階段登ろうとしてるんだぜ。少しは遠い目で見守れるようになれよ。昔とは違うんだからよ」

 

「……」

 

「よし!開いたぞ」

 

 

南京錠が外れ、真二は龍二とアイコンタクトを交わすと、ゆっくり戸とを開けた。

 

 

「薄暗くて、何も見えねぇ」

 

「雛菊、鬼火」

 

 

龍二と入れ替わった雛菊は、口から小さな火の玉を出すと、それを扇で煽りながら少しずつ大きくし部屋の中を照らした。

 

 

「……何の気配も感じない」

 

「マジかよ……ここじゃなかったのか」

 

「調べるだけ調べよう。

 

もしかしたら、移動した後かもしんねぇ」

 

「だな」

 

「鎌鬼達は、下を見張っててくれ!

 

焔、渚!来い!」

 

 

屋根裏へ登ってきた龍二達の後から、焔と渚は登り中を見回した。

 

 

「……?

 

龍、ここおかしい」

 

「え?」

 

「麗の気配が凄いするのに、近くにいない」

 

「気配?

 

俺は感じねぇけど……龍二は?」

 

「さっきからビンビンに感じてる。

 

この近くにいるのは確かなんだが……」

 

(本当、綺麗な兄妹愛)

 

 

中に入ってきた彼等を、女は天井の柱から眺めていた。彼女の傍には、糸で拘束された麗華が座っていた。

 

 

「声を上げたり、騒いだりしてみなさい……

 

あなたの首が、飛ぶわよ?」

 

 

背後から触肢を首に当てられていた麗華は、恐怖の余り震え上がっており、身動きが取れないでいた。

 

 

『上』

 

 

どこからか聞こえた声に、龍二と真二は気付きその声の通り上を見た。

 

天井の柱に座る女と、彼女の隣に座る麗華の姿があった。

 

 

「麗華!!」

 

「あーあ、見付かっちゃった」

 

 

女が指を鳴らすと、どこからか唸り声が聞こえたかと思えば、二人の背後から金槌を持った大男と手の長い妖怪が攻撃してきた。

 

 

「その子達に勝てたら、この娘は返してあげる。

 

ただし」

 

 

女が目で合図すると、麗華の後ろにいた巨大蜘蛛は尻を動かし、雛菊と焔、渚の体に糸を絡ませ動けなくさせた。

 

 

「渚!!焔!!雛菊!!」

 

「その三匹の妖怪に頼らず、自分達の実力で倒しなさい」

 

 

大男が振り下ろしてきた金槌を龍二は剣で受け止め、手長妖怪に真二は筒を向け管狐を出し攻撃した。

 

前のめりになった麗華を、蜘蛛は体に巻かれていた糸にさらに糸を絡ませ、天井柱から吊した。

 

 

「逃げようだなんて、考えないの。

 

さぁ、仕上げをしましょうか」

 

「!!」

 

 

後ろの巨大蜘蛛は、鳴き声を上げながら触肢を麗華の体に回した。

 

 

「んー!!んー!!」

 

「あなたがいなくなれば、私は封印されない……永遠にね」

 

「麗華!!

 

うわっ!」

 

「麗!!クッソ!」

 

「この糸のせいで、技が出せん!!」

 

「ならば、炎で燃やすまで!!焔!」

 

「おっしゃぁ!」

 

「させはしない」

 

 

女の合図に、巨大蜘蛛は尻から糸玉を放った。玉は三人の口に当たり壁にくっついた。

 

 

「これで、技も出せはしない……

 

さぁ、お食事の時間よ。ゆっくり味わいなさい」

 

 

蜘蛛の牙が体に突き刺さろうとし、麗華は涙を流して目を頑なに閉じた。




龍二達が部屋を出て行き数十分が経とうとしていた頃、図書室にいた緋音は、ある一冊の本を手に取り読んでいた。

そこには、かつて神社に供えられていた鏡に封印された妖怪のことが書かれていた。


「……これって。

先生!」


緋音から書物を受け取ったぬ~べ~は、読みながら郷子達に解釈していった。


「ここにあった神社には、元々強い妖怪を封印していたらしい」

「強い妖怪?」

「さっきの女じゃねぇのか?」

「いや違う……

昔、女郎蜘蛛が妖怪化し女に化けては、人を食らっていた。それを聞いた不覡は、女郎蜘蛛を手下にしていた大蜘蛛と共に、鏡に封印したらしい」

「神社が壊された時、そんな気配は」

「おそらく、壊される前に不覡が別の場所に封印し直したんだろう。

そして、再びこの地に封印した」

「そのまんま、そこに封印しとけばいいのに」

「封印するには、その力に適応できる結界を張らなきゃいけないの。

その結界を張るには、体力かなり消耗するって、聞いた事があるわ」

「その通り。

……!?」

「な、何……この強い妖気」


顔色が突然変わった緋音とぬ~べ~に、郷子達は交互に見ながら声を掛けようとしたが、何かを察した緋音は教室を飛び出した。


「あ、緋音さん!?」

「お前達、ここにいろ!」

「ちょっと!ぬ~べ~まで!」


彼女の後を追い駆けながら、ぬ~べ~は鬼の手を出しある場所へと向かった。


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救出

屋根裏へ続く階段付近に来ると、そこでは氷鸞達が迫り来る妖怪達と戦っていた。


「何だ!?これは!?」


緋音達の姿に気付いた鎌鬼は、通路を開き二人のもとへ駆け寄った。


「すぐに屋根裏へ行って!!

龍二達が危ない!」

「分かった!」

「氷鸞、頼む!」


鎌鬼達の方に向いた氷鸞は、錫杖から冷気を集めそして吹雪を起こした。階段付近にいた妖怪達は一時的に動けなくなった。


「今の内です、早く!」

「氷鸞、ありがとう!」


ぬ~べ~は先に階段を上り、閉まっていた戸を勢い良く開けた。


その光景は、麗華が蜘蛛に食べられそうになっていた時だった。

 

 

「麗華!!

 

俺の生徒に、手を出すな!!」

 

 

鬼の手を構えぬ~べ~は、蜘蛛を殴り飛ばした。蜘蛛は悲鳴を上げて壁に激突した。

 

後から来た緋音は、麗華の体に巻き付いていた糸を解き、腕が自由になった麗華は、口に巻き付いていた糸を取った。

 

 

「……!

 

先生!後ろ!!」

 

 

先程殴り飛ばした蜘蛛は、ぬ~べ~に向かって突進してきた。

 

 

「先生!」

 

「まさか、ここで助っ人が出てくるとは……

 

運が良いのね?」

 

「ヒッ……」

 

 

震えながら麗華は、立ち上がろうと足に力を入れるが、すぐに蹌踉け立ち上がることが出来なかった。

 

それを見かねた女は、口笛を吹いた。音に気付いた巨大蜘蛛は、麗華目掛けて迫ってきた。

 

 

「麗華ちゃん!!」

 

 

駆け寄ろうとした時、どこから入ってきたのかもう一匹の巨大蜘蛛が、緋音に向かって糸を吐き動けなくさせた。

 

鎌鬼はすぐに、渚達の糸を切り裂いた。自由になった渚は龍二達の元へ行き交戦し、雛菊は緋音の元へ行き彼女の糸を切り、蜘蛛に向かって炎を放ち攻撃した。

 

焔はすぐに、麗華の元へ駆け寄り彼女を抱きその場から逃げた。

 

 

「そう何回も、主を盗られて堪るか!!」

 

「焔!」

 

「盗れないなら、盗るまでよ!!」

 

 

どこからか出て来た巨大蜘蛛は、焔に向かって前足を振り下ろした。焔は炎を吹きながら後ろへ下がった。

 

 

「ここは僕が相手を!

 

焔は、麗華を早く安全な場所に!」

 

「分かった!」

 

「逃がしはしない!」

 

 

指の鳴らす合図と共に、ドアに向かって無数の糸が出口を塞いだ。

 

 

「人を殺したことのある妖怪が、何故人の味方についている?」

 

「僕の趣味でね。一緒にいちゃ、悪いかい?」

 

「悪いわね……

 

人は妖怪にとって、霊力の糧よ?殺せば殺すほど、霊力が増すのよ?特にその子は」

 

 

不敵だ笑みを見せた女に、麗華は怯え焔の胸に顔を埋めた。

 

 

「その子の霊力、並大抵の強さじゃないわ。

 

妖怪にとっては、最高級の糧よ」

 

「んじゃあ、その最高級の糧より遙か上の糧を食わせてやるよ」

 

 

腕から血を流す龍二は、女の背後に剣先を向けながら言った。

 

 

「あなたとは質が違うの……

 

あの子がいると、私は蘇られないの」

 

「そんじゃあ、また深い眠りについて貰おうかな。

 

一生目覚めない眠りにな」

 

 

そう言うと、龍二は剣を勢い良く振り下ろした。女は油断し背中を切られた。悲鳴が響く中、下にいる氷鸞は蜘蛛の巣目掛けて氷の礫を放ち、巣を壊した。

 

 

「退路を開いた!」

 

「先に行け!」

 

 

階段を先に焔が飛び降り、その次に鎌鬼と緋音、ぬ~べ~が降り、最後に龍二達が降り全員がいなくなったのを確認した雛菊は、炎の大玉を作り出した。

 

 

「燃えて無くなれ!火術業火の玉」

 

 

炎の玉を落とすと、雛菊は素早く降り扉を閉めた。屋根裏から聞こえる悲痛な叫び声は、校舎内に響き渡った。

 

 

 

保健室に来た龍二達……

 

 

「た、助かったぁ」

 

「あれ?先生は?」

 

「別の所だろ……多分、図書室よ」

 

「……」

 

 

息を切らしていた龍二は、焔に抱き着いている麗華の元へ寄り、彼女の頭に手を置いた。その行為に、焔の胸に顔を埋めていた麗華は、ゆっくりと顔を上げた。

 

 

「……お兄ちゃん…」

 

「麗華……」

 

 

焔から離れた麗華は、龍二に抱き着きそのまま泣き出した。抱き着いてきた彼女を、強く抱き締めながら龍二は頭を優しく撫でた。

 

 

「よかったぁ……」

 

「しばらくの間は、龍二にベッタリだな」

 

 

二人の姿を見て、ホッと一息する鎌鬼だったが何かの気配を感じたのか、立ち上がりドアの前に立った。

 

同じ気配を察知したのか、麗華は怯えだし龍二にしがみついた。彼女を抱き寄せながら、龍二は鎌鬼に頷いた。

 

 

意を決意した鎌鬼が、戸を開けようとした瞬間先に戸が開き外から郷子達が入ってきた。

 

 

「お、お前等」

 

「ここにいたのか!」

 

「脅かさないで下さい~先生!」

 

「す、すまん」

 

「……!

 

麗華、無事だったのね!!」

 

「よかったぁ!見た感じ、怪我を無さそうだし一件落着ね!」

 

「いや、まだ解決してない」

 

「え?」

 

「微かだけど、あの女の妖気を感じる」

 

「まだ生きてんのか!?」

 

「どうすりゃ倒せるんだよ……」

 

 

『ついてきて』

 

 

どこからか聞こえた声に、龍二と真二と麗華、覆面の妖怪は耳を向けた。

 

 

「ん?お前等、どうかした?」

 

「ついてきてって」

 

 

その時、広の隣から淡い光が現れた。驚いた彼は、慌ててそこから離れた。

 

 

「これは……」

 

『ついてきて……お願い』

 

「……まさか、華代?」

 

「?」

 

「華代って?」

 

「さっき話した、女の名前だ」

 

「!?」

 

「とりあえず、ついて行こう」

 

 

麗華を支えながら龍二は立ち上がり言った。支えられ立ち上がった麗華だったが、思うように足に力が入らず、そのまままたその場に座り込んでしまった。

 

 

「麗華、大丈夫?」

 

「……うん」

 

「さっきので、精神的に参ってるからなぁ」

 

「あれ?でも麗華って、妖怪に慣れてるんじゃ」

 

「妖怪にも、不慣れなものもある」

 

 

狼姿になっていた焔の背に麗華を乗せた龍二は、自身が着ていた上着を掛けた。

 

 

「よし、行くか」

 

 

淡い光は、廊下を照らし宙に浮いていた。その光にぬ~べ~達はついて行った。




火が消えた屋根裏……

蜘蛛達は、丸焦げになりひっくり返っていた。その中、倒れていた女の遺体がゆっくりと動き出した。遺体は背中から真っ二つに割れ、どす黒い目を光らせた蜘蛛が、姿を現した。


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決着

淡い光と共に辿り着いた場所は、広い教室だった。奥の壁には、黒髪を長く伸ばした少女が眠る鏡が置かれていた。


「これは……」

「あ!光が!」


淡い光玉は、スッと消えてしまった。それを見た麗華は、焔から降りふらつきながら、鏡を触った。すると鏡の中にいた少女は、ゆっくりと目を開けた。


「華代!」

『……黒輝。

やっと、話せる』

「なるほど……

麗華が邪魔だというのは、この子を目覚めさせないためだったのか」

『あなた方を呼んだのは、あの妖怪を倒せる力があると分かったからです。

特にこの子には、私と同じ力があります』


華代は麗華に目を向けながら、そう言った。


「同じ力?」

『ここへ来てから、強大な力を発揮しませんでしたか?』

「……あ」


龍二達とはぐれていた時、巨大蜘蛛に襲われそうになった時、底知れぬ力が体から放たれた様な感覚を、麗華は思い出した。


「あれって、私の力じゃ」

『あなたには、まだまだ知られぬ力が眠っています。

それを狙う者は多くいます』

「確かに。


麗華は生まれ付き、霊力が高かった。小さい頃そのせいで、何度か酷い目に遭った」

「そうだったの?」

「うん……そうだったらしい」

「らしいって、覚えてないのか?」

「う~ん……小さい頃の事、よく覚えてないんだよねぇ」

「お前、記憶力滅茶苦茶いいくせに、思い出の記憶はないのか?」

「だって覚えてないんだもん」

「無駄話はいいから、話聞け」

『あの妖怪を倒し、この鏡を壊せばあなた方は元の世界に戻れます』

「壊すって……華代」

『私は死んだ者。

この世に生きてはいけない者よ』

「……それが、お前の望みか?」

『えぇ』

「……頼む。

あいつを……あの蜘蛛を倒してくれ!」


「そう簡単に、いかせないわ!」


声が教室に響いたと同時に、教室の戸が開き外から無数の蜘蛛が入ってきた。

 

 

「キャア!!巨大蜘蛛!!」

 

「お前達、下がれ!」

 

 

ぬ~べ~は鬼の手を構え、郷子達を自身の後ろへ隠した。蜘蛛達は、彼等を逃さない様に取り囲んだ。

 

 

「さっき燃やしたはずなのに!!」

 

「あれごときで、この私が死ぬわけがない」

 

 

彼等の前に糸を引き降りた女の姿は、先程と違っていた……姿形は巨大な女郎蜘蛛になっていた。

その姿を見た麗華は、震えだし焔から降りると龍二にしがみついた。

 

 

「さぁ、その子を渡しなさい!

 

そうすれば、あなた達に危害は加えないわ」

 

「誰が渡すか!!」

 

「そう強く言っていられるかしら?」

 

 

口から糸を出すと、それは郷子達の体に巻き付き吊し上げた。

 

 

「キャァアア!!」

 

「取引と行こう……その子を渡せば、この子達は返」

「そう思い通りに、行くと思わないでね?」

 

 

上にいた鎌鬼は、鎌を振り回し糸を切り裂いた。落ちた郷子達を、氷鸞と雷光は受け止めぬ~べ~の元へ置いた。

 

 

「氷鸞!氷の壁!」

 

 

ぬ~べ~達を中心に、氷鸞は氷の壁を作り上げた。その間に麗華は、一枚の札を出し指を噛み血を付けた、札から煙が上がり、そこから薙刀が現れ出た。

 

 

「そっから見てろよ?

 

俺等の実力を」

 

「実力?」

 

「麗華は俺の後ろに付け」

 

「うん」

 

 

構える四人……

二人の真上から蜘蛛が、毒針を放った……だが、その毒針は焔と雛菊の炎で燃やされた。

 

 

「我等の主に攻撃しようとは」

 

「いい度胸してるじゃねぇか?」

 

「雛菊!渚!鎌鬼!その辺にいる雑魚共の始末、任せた!」

 

「承知!」

「分かった!」

「了解だよ!」

 

「氷鸞!雷光!焔!私達の援護をお願い!」

 

「はい!」

「分かりました!」

「応よ!」

 

「出でよ!管狐!」

 

「さぁ、反撃返しといきますか!」

 

「小癪な!!」

 

 

女郎蜘蛛は口から無数の糸玉を放った。その攻撃を、麗華達の前に立った焔と雷光は、同時に炎と風の攻撃をし、糸玉を燃やした。

 

 

「っしゃぁ!!」

 

 

緋音に向かって、突進してきた蜘蛛に彼女は手から光る玉を出し放った。玉に当たった蜘蛛の体は燃え上がりひっくり返ってた。

 

 

「何だ?!あれ!?」

 

「緋音の母方の家は、代々気功術を得意とする祓い屋なんだよ!」

 

「そういう事!」

 

「やっぱ、無理!!」

 

 

薙刀を振り回し、蜘蛛を切り裂いていた麗華は、狼姿になっていた焔の背に飛び乗った。

 

 

「……!

 

焔、鏡の所に!」

 

「応!」

 

 

炎を吹き出しながら、焔は華代が眠っている鏡の前まで、麗華を連れて行った。麗華は傍に立つと薙刀を刃を鏡に向けていった。

 

 

「それ以上攻撃するなら、この鏡を壊すよ!」

 

「そうだ!そうだ!」

 

「その鏡を壊せば、アンタなんて怖くなんかないわよ~だ!」

 

「フフ……壊せればだけどね?」

 

「?……!」

 

 

突然地面から、蜘蛛の足が突き抜け麗華を地面に引きずり込んだ。彼女に続いて、氷の壁に包まれていたぬ~べ~達も地面へ引きずり込まれた。

 

 

「どうなってんの!?」

 

「これで、鏡は壊されまい」

 

 

空いた穴の下を見ると、蜘蛛の巣に絡まった麗華達がいた。

 

 

「麗華!」

 

「龍二、早く麗華を!」

 

「悪い、ここを頼む!

 

渚!焔!」

 

 

地面から飛び降りた龍二を、後から来た渚は背中に乗せ、下へ下りようとした。だがその道を、無数の巨大蜘蛛達が塞いだ。

 

 

蜘蛛の巣に貼り付けられた麗華は、起き上がり立ち上がろうとしたが、足に糸が絡み立つことが出来ないでいた。

郷子達にも、手や足に糸が張り付き身動きが取れないでいた。その時、何かの音と気配に気付いた麗華は、辺りを警戒した。

 

 

「……!

 

キャァアア!!」

 

 

郷子の悲鳴に、広達は顔を上げ彼女の方を向いた。巣の上には大量の蜘蛛が、糸を伝って自分達に迫ってきていた。

 

 

「ギャァア!!く、蜘蛛の大群!!」

 

 

逃げようとする広達だが、糸は完全に彼等の体に張り付き取れなくなっていた。

 

 

「大地の神に告ぐ!!汝の力、我に受け渡せ!その力を使い、この地を守る!!

 

出でよ!建御雷之男神(タケミカヅチ)!」

 

 

どこからともなく、雷が広達を襲おうとしていた蜘蛛達を次々に攻撃していった。麗華の傍に来た焔は、糸を切り裂き彼女を背に乗せると、龍二の元へ行った。

 

 

「百雷白虎やるぞ!」

 

「分かった!」

 

 

二枚の札を持つ龍二に、麗華は立ち上がりポーチから二枚の札を出し構えた。

 

 

「いくぞ!」

 

「応よ!」

 

「「大地の神に告ぐ!!何時の力、我に受け渡せ!!その力を使い、この地を守る!!

 

 

出でよ!建御雷之男神(タケミカヅチ)!!」」

 

 

札から放たれた雷は、全ての蜘蛛に当たった。雷のおかげか、広達の体に巻き付いていた糸が切れ、自由になった。麗華は口笛を吹き、上から氷鸞と雷光を呼んだ。

 

 

「先生達をお願い!」

 

「分かりました!」

「はい!」

 

「麗華!!先行くぞ!」

 

「あ!待って!!」

 

 

上に登ってきた龍二と麗華は、渚達から飛び降りると武器を構えて女郎蜘蛛の前に立った。

 

 

「とっとと終わらせるぞ!」

 

「応よ!!特大の管狐、出してやるよ!!

 

出でよ!!管狐!!」

 

 

筒から出てきた管狐は大きく、鳴き声を上げながら女郎蜘蛛の足を噛み千切った。それに続いて、緋音は聞こう術を放ち、弱まった彼女に向けて、龍二と麗華は剣と薙刀を力任せに振り下ろした。

 

真っ二つになった女郎蜘蛛は、断末魔を上げながら霧の様に消えていった。すると、突然地面が崩れ始めた。

 

 

「が、学校が崩れ始めてる!?」

 

「そうか……アイツがいなくなったから、この世界が消えようとしてるんだ!」

 

「何!?」

 

「ま、まだ死にたくない!」

 

『ここへ飛び込んで!』

 

 

華代の声と共に、鏡が光った。

 

 

『この鏡は、あなた方の世界に通じています!

 

さぁ、早く行って!時間がありません!』

 

「……一か八かだ。

 

俺が先に行く!お前達は、俺の後について来い!!」

 

「ちょっとぬ~べ~!!」

 

「え~い!!当たって砕けろだ!!

 

郷子!行くぞ!」

 

「待って、広!」

 

「お、俺も行くぞ!」

 

「ちょっと、私を置いて行かないでよ!!」

 

 

ぬ~べ~達が去って行く背中を見る麗華達……氷鸞達を札に戻すと真二と緋音は先に行き、麗華と龍二は焔と渚の背に乗った。そして華代がいる鏡を叩き割った。

 

叩き割った鏡は、激しく光り出し麗華達を包み込んだ。

 

 

『ありがとう……』




「おーい、大丈夫か~?」


誰かの声と体を揺らされ、麗華はゆっくりと目を開けた。目の前にいたのは、懐中電灯を持った警察官だった。


「あれ……」

「行方不明の子供と思われる、六人の子供と男性を見つけました。あと警部の」


警察官がそう報告しているのを聞いた麗華は、辺りを見回した。そこは学校の裏だった。


警察署に来たぬ~べ~達……迎えに来た親に、ぬ~べ~は頭を深く下げながら謝っていた。親達は子供が無事で何よりだと、言いながら彼を慰めていた。


「しっかし、驚きだよなぁ。

もう、十一時回ってたなんて」

「本当。

ほんのに一時間か二時間しか経ってなかったと思ってたのに」

「これも妖怪の力って奴か?どうだ?なぁ、麗華」


隣りに座っていたはずの麗華は、いつの間にかいなくなっていた。彼女だけじゃなく緋音も真二もいなかった。


「あれ?麗華達は……」

「すみません!」

「はい?」

「ここにいた人達は?」

「彼等なら、先程親御さんが迎えに来て、帰りましたが」

「え?!いつの間に!?」

「やはり、麗華は忍だ」

「だな」

「アンタ達ね……」



夜……眠る龍二の布団が少し動いた。それに気付いた彼は起き、後ろを見た。

自分に引っ付き眠る麗華がいた……はいでいた布団を掛けて龍二は、彼女の手を握りながら再び眠りに入った。


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春に舞う桜巫女

夜……一人で留守番をする一人の女の子。

テレビを見ていた時、突然部屋の電気が消えた。
女の子は怯えながら、外の様子を見ようと玄関へ向かった。

外は不気味な灯火と共に、黒い何かの行列がゆっくりと歩いていた。


その中にいた何かは、少女の姿に気付き彼女の元へ駆けていった。


「!!キャァアア!!」


その話をする美樹は怖い顔をしながら、話を続けた。

 

 

「数分後に帰ってきた母親は、玄関前に倒れてる娘を呼び掛けると、彼女は怯えきった顔で飛び起き母親にしがみついたそうよ。

 

母親は何があったかを聞くけど、女の子は震えて怯えるばかり……その日以来、女の子は一人で留守番が出来なくなった」

 

「怖~い!」

 

「結局、女の子は何を見たんだ?」

 

「さぁ。私もそこまでは知らないわ」

 

「どうしよう……うち、今日用事で親が遅くなるって」

 

「私も~」

 

「大丈夫よ!大丈夫!

 

単なる噂話だから、平気よ!」

 

 

笑いながら美樹はそう言った。話を聞いていた郷子は、ふと麗華の方を向いた。自分の後ろで、スケッチブックに何かを描いていた。気になりソッと覗くと、そこには綺麗な模様が入った丈の短い着物と簪、下駄に扇が描かれていた。

 

郷子の気配に気付いた麗華は、慌ててスケッチブックを閉じ隠した。

 

 

「勝手に見ないでよ~」

 

「ご、ごめん!

 

何描いてたの?」

 

「用事で頼まれたもの。

 

私、今日は帰るね」

 

「あ、うん。

 

じゃあね!」

 

「じゃあ!」

 

 

 

その日の夜……テレビを見ていた克也。すると、ブレーカーが落ちたのか、家の電気が全て消えた。気になり克也は、外に出た。

 

 

「……!

 

ギャァァアアアア!!」

 

 

 

翌日、克也は学校を休んだ。

放課後、郷子と広、美樹は彼の家に見舞いに行くが、玄関をいくら叩いても呼び鈴を鳴らしても、出ては来なかった。

 

仕方なく帰ろうとした時、ぬ~べ~が彼の家に着きもう一度呼び鈴を鳴らした。

 

 

「やっぱ出ないねぇ」

 

「どうしたんだろう?克也ぁ!!ドア開けてくれぇ!」

 

 

その声を発した数分後に、ドアの鍵が開く音と共に扉がゆっくりと開いた。

 

中から出て来たのは、顔を真っ青にした克也だった。

 

 

「克也!?」

 

「どうしたんだよ!その顔!」

 

「昨日から全然寝てないんだ……」

 

「寝てないって……」

 

「あ、あの行列見れば誰だって……う、うわぁ!!」

 

 

頭を抱えながら、克也はその場に座り込んだ。ぬ~べ~は、彼の背中を擦りながら周りを見た。

 

 

(微かだが、妖気を感じる……

 

克也が見た奴なのか?)

 

 

夜……

 

 

買い物を頼まれた郷子は、商店街に来ていた。買う物を買い帰路を歩いていると、何かが行進していた。電信柱に隠れながら、その行列を見るとそれは妖怪の行列だった。悲鳴を上げかけた彼女に、後ろから口を抑えられ暴れようとした時だった。

 

 

「俺だ、俺」

 

「ぬ、ぬ~べ~!?

 

もう!驚くじゃない!」

 

「すまんすまん!」

 

「……てか、何で美樹と広がいるの?」

 

「勝手についてきたんだよ!」

 

「それはさておき」

 

「さておくな!」

 

「この行列は、何なの?」

 

「あれは百鬼夜行。

 

妖怪の列だ」

 

「百鬼夜行……」

 

「どこに向かってるのかしら?」

 

「ついて行ってみようぜ!」

 

 

そう言いながら、広は駆け出し百鬼夜行の後を追った。彼に続いて郷子、美樹、ぬ~べ~と後について行った。

 

 

しばらくすると、妖怪達はある場所へ着きそこに皆入っていった。全員がいなくなると、ぬ~べ~達はその場所へ向かった。

そこは、階段が続きその上に大きな鳥居が建っていた。

 

 

(鳥居?

 

おかしい、この辺りには神社など……!)

 

 

何かを思い出したのか、ぬ~べ~は郷子達を置いて階段を駆け上って行った。そんな彼を彼女達は慌てて追い駆けていった。

階段を上りきり、茂みに隠れるぬ~べ~と郷子達。そこは広い境内に奥に本殿と平屋の家が建てられていた。

 

本殿の前には、広い舞台が作られその中心に細長い棒と四方に松明が立っていた。

 

 

「な、何だ?あの舞台」

 

「というより、ここ神社?」

 

 

「ほぉ、人の子がコソコソと」

 

 

ハッとしたぬ~べ~は、只ならぬ妖気に後ろを振り返った。そこには無数の妖怪達が彼等を囲っていた。

 

 

「ギャァア!!」

 

「全く気配を感じられなかった!!」

 

 

鬼の手が封じられている手袋に指を掛けるぬ~べ~……その時だった。

 

 

“ダン”

 

 

鳴り響く太鼓の音に、妖怪達は一斉に舞台前へと向かった。各々の席に座ると、舞台の上に青い狩衣を着た少年が登ってきた。

 

 

「今宵も、我が神社『山桜神社』へ来ていただき、ありがとうございます!」

 

「不覡!型っ苦しい挨拶良いから、早く巫女出せ!巫女!」

 

「……という意見が出たので、これから我が神社の名物、神楽舞をご披露させて貰います。今宵はこの細い棒の上で、巫女が華麗に舞いを見せます!では、どうぞご覧ください!」

 

 

挨拶が終わり少年が祭壇からいなくなったと同時に、琴や三味線、笛と太鼓の音が鳴り響いてきた。

 

その音と共に、下駄を鳴らしながら走ってくる少女が現れ、祭壇に上がるとそこから華麗に飛び上がり、細い棒の最短へ着地し、頭から被っていた羽織を脱ぎ捨てた。そして、手に持っていた扇を広げ、片足を交互に変えなら、棒の上で少女は華麗に舞った。

 

 

「おぉ!!」

 

「良いぞ!!桜巫女!!」

 

「よっ!!日本一だ!巫女!!」

 

 

その少女の華麗な舞に、圧倒され声も出せない郷子達……

 

 

“タン”

 

 

下駄が祭壇の板に降り立つ音が聞こえると同時に楽器の音が止み、広げた扇子を顔を覆うように持つ少女の姿がそこにあった。隙間から見える彼女の怪しげでだが美的な目付きで微笑む顔が、妖怪達に向けられた。

 

その目付きを見た妖怪達は、一斉に歓声を上げた。

 

 

「良いぞう!!桜巫女!!」

 

「華麗な舞、お見事だ!!」

 

「さぁ、舞も終わったとこで、今宵もこの神社へ来られたこと、そして皆さんのご苦労と日々の疲れを取れるようお祈りを込めて、乾杯!!」

 

「乾杯!!」

 

 

少女の手に握られていた扇を閉じ、声を上げて閉じた扇を上に掲げた。扇に釣られて妖怪達は自分の持っているお猪口を上に掲げて、一斉に声を上げた。

 

 

その様子を見たぬ~べ~達は、呆気に取られていた。

 

 

「ここって……妖怪の娯楽?」

 

「みたい……だよな?」

 

「じゃあ、あの人達も妖怪……」

 

「やっぱり、実在していたのか」

 

「え?」

 

「ぬ~べ~、どういう事?」

 

「童守町の外れに、妖怪向けの舞を見せる神社があると聞いたことがあったんだ」

 

「妖怪向けの舞?」

 

「普通の舞は、静かでゆっくりとした動き……

 

けど、さっきの舞は軽やかで激しい動きだ」

 

「静かな舞より、激しい舞の方が人気なんだよ」

 

 

聞き覚えのある声……ぬ~べ~達は、ゆっくりと振り返った。そこにいたのは、髪を桜の簪で纏め上げ浅葱色の生地に満開になった桜の花がデザインされた丈の短い着物に身を包み、黒い下駄を履いた麗華と先程の青い狩衣を着た龍二が立っていた。

 

 

「れ、麗華!?」

 

「よっ!」

 

「ど、どうしたのその格好!?

 

……って、その着物さっき踊ってた巫女さんの」

 

「あぁ、さっき舞ってたの、私!」

 

「えぇ!?」

 

「お前、こんな所でバイトか?兄妹揃って。

 

やめておけやめておけって!」

 

「……

 

何か、勘違いしてる?」

 

「へ?」

 

「ここ、俺達の家」

 

「……またまたぁ、そんなご冗談を!」

 

「冗談ではない」

 

「!?」

 

「この方々は、この山桜神社の不覡と巫女です」

 

 

二人の肩に手を乗せながら、笠を被った二人の男がそう言った。

 

 

(す、凄い妖気!)

 

「れ、麗華……この人達は?」

 

「桜守の桜雅と彼の友達の皐月丸!」

 

「友達ではない」

 

「ただの腐れ縁だ」

 

「またまたぁ!

 

ほら!皆に買ってきたお饅頭、無くなっちゃうよ!」

 

 

桜雅と皐月丸の手を引きながら、麗華は妖怪達の輪の中へ入っていった。

 

 

(あれだけデカい妖気を持った妖怪達と触れ合っていれば、妖怪に対する警戒心が薄くて当然か)

 

「そろそろ帰った方がいいぞぉ」

 

「え?何で?」

 

「お前達のにおいに、妖怪達が気付いたら全員相手しなきゃいけなくる。

 

アンタは、それ出来んのか?」

 

「……出来ません」

 

「なら、さっさと帰れ」

 

 

勝ち誇ったかのような顔をする龍二に、ぬ~べ~は悔しい顔で神社を出て行った。




その帰り……


「克也が見たのって、もしかしたらあの百鬼夜行かもな」

「え?何で?」

「だって、美樹が話してくれた話と克也に起きたことが全く同じだっただろ?

共通してあったのが、何かの行列」

「……あ!確かに」

「ということは、一件落着って事ね!」

「そういう事!」

「そんじゃ、次の話を皆にしちゃおう!

名付けて!『麗華の家は、妖怪だらけの神社だった!』」

「くだらぬ噂など流し、桜巫女が舞を見せてくれなくなったら、君の所に妖怪達を行かせるからね」

「またまた、そんなぁ……って、誰が言ったの?」

「え?何?」

「何だよ美樹、一人でボソボソと」

「い、いや別に……(何か、凄い寒気が)」


帰って行く四人を、面を被った妖怪は悪戯笑みを浮かべながら、しばらくの間見送っていた。


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殺人鬼参上!その名は「A」

赤が好き?
白が好き?
青が好き?


青と答えれば、水に落とされて殺される。
白と答えれば、体中の血を抜かれて殺される。
赤と答えれば、血塗れにされて殺される。


「最近、妙にパトカーが多いわよねぇ!」

 

 

登校中の広達の周りには数台のパトカーが走っていた。道にも警察官が所々に立ち、警備していた。

 

 

「何かあったのかしら?」

 

「さぁ……」

 

「この辺りに、通り魔が出たんだって」

 

 

後ろを振り返るとそこには、菓子パンを食べる麗華がいた。

 

 

「おはよう……って、お前何食ってんだよ」

 

「メロンパン」

 

「朝ご飯?」

 

「うん……お兄ちゃんが寝坊して。

 

私も寝坊したけど……」

 

「ねぇ、さっきの話本当なの?」

 

「うん……

 

昨日の夜、見掛けたって話があるって情報が来て、警察が動いたらしい」

 

「へ~」

 

「つか、よく知ってるなぁ。そんな情報」

 

「今朝ニュースは、そんなこと言ってなかったけど」

 

「今日の昼頃には、発表するでしょう。

 

てか、早く行かないと、遅刻するよ!」

 

 

最後の一口を口に入れながら、麗華は駆け出しその後を広達は追い駆けていった。

 

 

放課後……

掃除をする広達。チャンバラをする広達に注意する郷子の声が響く中、麗華はふと窓の外を見た。学校の前で駐まる一台の車。そこから出て来る灰色の背広を着た男と紺色の背広を着た男の姿が、目に入った。

 

 

職員室に着たその二人は、教員達に警察手帳を見せながら、話をし出した。

 

 

「皆様も分かっている通り、この童守にAが目撃されました。

 

調べでは今の所、死傷者は出ていません」

 

「Aを目撃した話については」

 

 

職員室から聞こえる声に、掃除が終わったことを伝えに来た広達は立ち聞きをしていた。

 

 

「オイ、何話してんだ?」

 

「何か…エビがどうとか」

 

「海老?」

 

「違うわよ、Aよ!A」

 

 

三人が話をしている間、麗華はふと地面に付けられた小さいドアに目を向けた。ドアがゆっくりと開き、中から白い鼬が鼻を動かしながら出て来た。

 

麗華は郷子達の目を盗んでソッと近付き、その鼬を抱き上げた。においに気付いたのか、フードにいた焔は鼻を動かしながら、麗華の肩に乗り抱かれている鼬に擦り寄った。そんな焔を鼬は、撫でるようにして毛繕いした。

 

 

「コラァ!!お前等ぁ!!」

 

 

怒鳴り声が聞こえ、恐る恐る振り返ると立ち聞きをしていた広達が、ぬ~べ~に見つかりこっぴどく怒られていた。

 

後から出て来た紺色の背広を着た男は、麗華の元へ駆け寄った。

 

 

「今朝のあれ?」

 

「そう。さぁ、迦楼羅を」

 

 

差し出した男の手に、麗華は迦楼羅を渡した。迦楼羅は自身の毛を舐めると、彼の背広のポケットに入った。

 

 

「ねぇ、今日も遅いの?

 

着替え、持ってく?」

 

「いいよ。

 

今日は、早く帰るようにするから」

 

「本当?!」

 

「あぁ」

 

 

「輝二!行くぞ!」

 

「すぐ行く!

 

じゃあね」

 

 

麗華の頭を撫でると、輝二はもう一人の刑事の元へ駆けていった。

 

 

その帰り道……

郷子達と別れた麗華は、龍二の学校へ向かっていた。角を曲がった時だった……突然、能面の面を顔に付けシルクハットを被り、赤いマントを着けた男が現れた。

 

 

(……び、ビックリしたぁ)

 

「赤が好き?青が好き?白が好き?」

 

「え?赤…!?」

 

 

今朝見た、資料に書かれていた文字を思い出した麗華は、慌てて口を手で抑え声を殺した。

 

だが、既に時は遅く男は手に持っていた鎌を、麗華に向けて振り下ろした。

間一髪避けた彼女は、ポーチから小さい玉を出すと、それを地面に向けて投げ付けた。玉は煙を上げ、男の視界を奪いその隙に、麗華は狼姿になっていた焔の背に乗り空へ逃げた。

 

 

「ど、どうしよう……答えちゃった……

 

 

焔、学校に戻って!!」

 

 

学校へ戻った麗華は、焔から飛び降りるとすぐに校舎へ入り、職員室に入った。

 

 

「先生!いる?!」

 

「麗華!」

 

「あれ?何で立野達が?」

 

「大変なの!!

 

美樹が変な人にさらわれて!!」

 

「変な人?」

 

「赤が好きとか青が好きとか聞いてきて、美樹も私達もそれに答えたら、彼女だけさらわれて」

 

「そいつ、シルクハット被ってなかった!?」

 

「か、被ってたわ」

 

「……先生!私も、郷子達と同じ奴に会った!!」

 

「?!」

 

 

驚きを隠せないぬ~べ~は、郷子達を職員室に残し、美樹を探しに行った。

 

 

外へ出ると、学校の給水タンクからAらしき人物が去るのが見えた。ぬ~べ~はもしやと思い、屋上へ駆け上り給水タンクの中を見た。

おもりを両手首料足首に、さらに首に付けられた美樹が沈められていた。

 

 

「あの野郎ぉぉ!!美樹!!」

 

 

すぐにおもりを外し、美樹を水から出した。数分後彼女はぬ~べ~の掛け声と共に、水を吐き出し咳き込み、そして彼の姿を見て大泣きしながら抱き着いた。

 

 

その頃、郷子達は自分達の教室にいた。ふと何かの気配を感じ取った麗華は、恐る恐る振り返った。

鎌を持つAが、立っていた……目が合った瞬間、Aは鎌を振り上げ、勢い良く振り下ろした。

 

 

間一髪避けた麗華は、立ち構え後ろにいた郷子達に怒鳴った。

 

 

「早く逃げて!!」

 

 

それだけを言うと、麗華はAの目を自分に向けさせ、教室を飛び出した。Aは鎌を持ち構えながら、彼女を追い駆けていった。

 

廊下を駆けていく麗華の前に、ぬ~べ~は現れた。彼は只事では無いことを察し、彼女を後ろへ行かせ目の前にいるAを睨んだ。彼はぬ~べ~を叩き倒すと、麗華目掛けて鎌を勢い良く振り下ろした。

 

 

“キーン”

 

 

鉄と鉄がぶつかり合う音が聞こえ、ぬ~べ~はすぐに起き上がりその光景を見た。

 

 

そこにいたのは、Aの鎌を刀で防ぐ暗殺者の様な格好をした者が、麗華の前に立っていた。Aは突如現れた彼に驚き、その場から姿を消した。

 

 

「麗華!!」

 

 

自分の名を呼ぶ声に、麗華は振り返った。そこには、放課後に会った紺色の背広を着た男と灰色の背広を着た男だった。

 

 

「怪我は無い?どこか痛いところは?」

 

「うわーん!!」

 

 

泣き出した麗華は、紺色の背広を着た男に抱き着いた。もう一人の男の手を借り、立たせて貰ったぬ~べ~は呆気に取られながら、二人を見た。




別の教室に来たぬ~べ~達……


「緊急連絡があり、近くをパトロールしていた我々がこちらに駆け付けました」

「助かりました」


ぬ~べ~と二人の刑事が話している間、麗華は暗殺者の格好をした男の元に近寄った。


「さっきはありがとう!」

「……怪我は?」

「平気!」

「……なら良かった」


そう言いながら、男は麗華の頭を軽く叩いた。


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Aの謎

「いい加減説明してよ!!ぬ~べ~!!」

「何なんだよ!?あれ!

Aって、一体何!?」

「子供は知らない方がいい……」

「何で隠すんだよ!!」

「……」

「!なぁ、麗華!

お前、今朝通り魔が出たって知ってたよな?!」

「あ、うん……」

「それと今起きてる事って、関係あんじゃねぇのか?!」

「そ、それは……」

「どうなの!?麗華!」

「……」


「関係はあるよ」

「え?」


灰色の背広を着た男は、郷子達にそう言った。


「話していいの?

あれって、子供には極秘だって……!」


言う麗華の頭を、紺色の背広を着た男は叩いた。


「あれほど、仕事の資料を見るなって言っただろ!!

何回言えば分かるんだ!!」

「じゃあ広げて置かないでよ!!

お兄ちゃんも読んでたから、読んで良い資料だって思うじゃん!!」

「龍二はいいんだ!!高校生だから!」

「ズルいぃ!!」

「ズルくない!!」

「輝二、麗華ちゃんの説教はそれくらいにしとけ。

麗華ちゃんも、もう仕事の資料見ちゃ駄目だよ」

「はーい」

「……ゴホン!」


灰色の背広を着た男が咳払いをして、再び口喧嘩をしようとしていた二人は、慌てて口を閉じた。


「では続きを……

Aはもう何十年も捕まっていない殺人鬼です」

「え!?」

「下校中の子供ばかりを狙って、百人以上も惨殺した通り魔。

各街には戒厳令がしかれ、恐怖のあまり学校を休む生徒が続出した」

「それで、大人達は真実を子供達に隠すことを決めたんだ。

“A”のことは単なる噂……作り話と信じ込ませたのさ。皆が安心して登校できるようにな」

「そして、もし奴が現れたら子供達を速やかに帰らせて、学校の先生方と協力して大人達だけで対決することに決めたんだ」

「子供が知ってはいけない、大人の秘密って事か……

あれ?何でお兄ちゃんは知ってたの?」

「龍二は一度、そのAを見掛けたことがあったから、その時に」

「ふーん」

「外の様子を見てくる。

鍵を掛けて、誰も入れるな!」


そう言って、ぬ~べ~達は教室を出て行った。


「しっかし、お前凄いなぁ!」

 

「ん?何が?」

 

「警察に刃向かうなんて!

 

俺、怖くて絶対出来ない」

 

「刃向かって何が悪いのさ!

 

皆は、親に刃向かったこと無いの?」

 

「……え?!」

 

「さっきの人、父さんだもん」

 

「ど、どっちの人?!」

 

「紺色の背広着た刑事さん」

 

「じ、じゃあ……

 

そこにいる、スパイみたいな奴って」

 

「こいつは暗鬼。父さんの式神」

 

 

暗鬼は郷子達に目を向けるが、再び逸らした。

 

 

 

廊下を歩くぬ~べ~達。

 

 

「先程は、お恥ずかしいところをお見せして、失礼しました」

 

「い、いえ」

 

「全く……他人様の前で、親子喧嘩は止せ」

 

「悪い……」

 

「?親子喧嘩?

 

失礼ながら、あなたは……」

 

「改めて、申し上げます。

 

 

童守警察署刑事課警部の神崎輝二です」

 

「同じく刑事課警部の桐島勇二です」

 

 

見せられた警察手帳には、はっきりと“神崎輝二”と“桐島勇二”と書かれていた。

 

 

「神崎……

 

 

!?神崎って……まさか麗華の」

 

「父です。

 

娘がいつもお世話になっております」

 

「いえいえ!そんな!

 

あんな素直で聞き分けの良い娘さんを、教え子に持って幸せ者です!ハッハッハ!」

 

(嘘が見え見えだ、この先公)

 

「扱いにくいでしょ?麗華。

 

父親の俺でも手を焼くくらいですから」

 

「いえいえ!そんな!」

 

「話はいいから探すぞ」

 

「あ~、はい」

 

「そういえば先生」

 

「はい?」

 

「先程、Aに襲われた女の子は青を答えたと」

 

「え、えぇ。そうです」

 

「確か、Aは見つけた子供に質問するって言っていたな。

 

 

青が好き?赤が好き?白が好き?って」

 

「まさか、色事に殺害って事ですか」

 

「えぇ。

 

青と答えれば、水に落とされて殺される。

白と答えれば、体中の血を抜かれて殺される。

赤と答えれば、血塗れにされて殺される……」

 

「……まさか」

 

 

勇二と輝二は足を止め、顔を合わせると踵を返して駆け出した。その後をぬ~べ~は、慌てて追い駆けていった。

 

 

教室でぬ~べ~達の帰りを待つ郷子達。

 

 

「Aって、本当に何者なのかしら……」

 

「ぬ~べ~なら、勝てるわよね?」

 

「無理かもね」

 

「え?何で?」

 

「だってAって、人間だもん」

 

「嘘!?妖怪じゃ無いの!?」

 

「父さんの資料に書いてあった奴だと……

 

元々は普通の床屋さんだったみたいだよ。

 

けど、子供の悪戯が原因で店は全焼。Aは体に大火傷を負ったんだって。

 

だから子供を、凄く憎んでるらしいよ」

 

「そんな理由で……

 

関係ない子供まで殺す?そんなの変よ!」

 

「そう言われても、恨み辛みってそういうもんだよ」

 

「そんな……」

 

「もしその当時の子供が、悪戯なんかしなければAという奴は出て来なかった。

 

恨みも無く、定年を迎えても尚町の人から愛される床屋の亭主になってたはず」

 

「……人間相手に、ぬ~べ~勝てるかしら」

 

「そのために、父さん達がいるんだよ!」

 

 

開いていた窓の傍に行く郷子……その時だった。

 

 

「白が好き」

 

「?……!!

 

キャァアア!!」

 

「郷子!!」

 

 

窓に身を乗り出した郷子を、上から現れたAは彼女の腕を縛り、首に穴の開いた硝子の棒を刺し、逆さ吊りにした。

 

 

「郷子!!」

 

「暗鬼!お願い!」

 

「諾!」

 

 

暗鬼と入れ違いに、Aは窓から教室へ入り残っている広と麗華に目を付けた。

 

 

「赤が好きと言った子は……」

 

「く、来るなぁ!!」

 

「立野!!

 

焔!お願い!!」

 

 

フードから出て来た焔は、人の姿へとなり鎌を振り上げたAに体当たりをした。吹っ飛ばされたAは、机に当たり体勢を崩した。

 

 

「立野!今の内に先生達を!」

 

「わ、分かっ!!

 

麗華!!前!!」

 

 

ハッとして、振り返ると目の前に鎌を勢い良く振り下ろすAの姿があった。焔は二人の前に立ち腕で鎌を受け止めた。

 

 

「焔!!」

 

「赤が好きと言った子は、血塗れにされて殺される」

 

「立野!!逃げて!!」

 

 

鎌を振り上げるA……当たる寸前、輝二と勇二が彼目掛けて跳び蹴りを食らわせた。Aは怯みその場に崩れ倒れた。

 

 

「麗華!!」

 

「父さん!」

 

 

抱き着いてきた麗華を抱き寄せ、自身の後ろへ隠し輝二は立ち上がったAを睨んだ。

 

 

「広!!郷子!!麗華!!」

 

「先生!!」

「ぬ~べ~!!」

 

「警察だ!!もう逃げられないぞ!!」

 

「……赤が好き?青が好き?白が好き?」

 

「まだ、やる気か!?」

 

「勇二!!早く、皆を!!」

 

「分かった!」

 

「迦楼羅!頼む!」

 

 

ポケットから出て来た迦楼羅は、黒い忍の格好に赤い額当てを巻いた男の姿になった。それと共に輝二は、内ポケットから札を取り出し、指を噛み血を付けた。

 

 

「我に力を貸せ!急急如律令!!」

 

 

中から出て来たのは、青い髪に銀色の簪を付け、青い生地に白い菊の花の模様を写した羽織の着た女性が、姿を現した。

 

 

「丙!すぐに焔の治療を!」

 

「あいよ!」

 

「麗華、焔達の傍に」

 

「うん!」

 

 

動こうとした麗華に、Aは逃がすまいと鎌を振り下ろした。その鎌を、輝二はどこからか槍を出しそれで受け止めた。

 

 

「悪いけど、娘には指一本触れさせないよ……迦楼羅!」

 

 

拳に溜めていた炎を、Aの腹部を殴った。腹部から燃えたAは暴れ回った。

 

暴れ回る彼から、輝二は麗華を担ぎドア付近にいた勇二に渡し、槍を構えた。炎に包まれたAは、開いていた窓から外へ悲鳴を上げて転落してしまった。

 

 

 

 

童守病院に来たぬ~べ~達……

 

血を抜かれ気を失っていた郷子は、病室のベッドの上で目を覚ました。

 

 

「ぬ~べ~……

 

あいつは、本当に人間だっのか?もしかしたら」

 

「分からないよ」

 

 

病室の隅に立っていた勇二は、静かにそう言った。

 

 

「分からないって……」

 

「けど、人間はあまりに心が醜くなると妖怪化するかもしれないね」

 

「人間から妖怪になるのは、極稀だけどね」

 

「……」




警察の霊安室で、横になるA……

すると彼の手が動き、そして赤いマントを羽織り、立ち上がった。

そして、Aはそこから姿を消した。


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霊獣・霊霧魚の誕生

「おい克也、どうしたんだ?その卵」


登校中の道、克也が手に抱えていた卵を見た広は、卵を指を指しながら質問した。


「へへ。昨日森の中にあった壊れた祠の所に落ちてたんだぜ」

「フゥ~ン」

「それにしても、この卵大きいわねぇ」

「妖怪の卵だったりして」

「ハハハ!そりゃあねぇだろ?」

「とにかく、ぬ~べ~に見せたらどう?克也?」

「駄目だ!!

せっかく見つけたのに、ぬ~べ~に見せてもし、取り上げられたら損するじゃんか?!」


「何が損するの?」


突然克也の後ろから声がし、驚いた克也は慌てて卵を後ろへ隠ながら振り返った。

そこにいたのは、大あくびをする麗華だった。


「何だ……麗華か…」

「どうしたの?眠そうな顔して」

「また夜更かしでもしたのか?」

「違う……

昨日の夜、森の中にあった祠が壊れたって妖怪達が騒いでて……気になって今朝見に行ったら、そこに封印されてたはずの卵が、無くなってたんだ」

「え?」

「卵……」


卵という言葉を聞いた郷子達は、克也の後ろに隠してあるものに目を向けた。克也もみんなに釣られて、後ろに隠している卵に目をやった。


「まっ、別にいいんだけど。

私も、その卵が何の卵かは知らないし」

「そ、そう」

「お!ぬ~べ~だ!」


腰を曲げ、眠そうな目をして大あくびをするぬ~べ~が、別の道から現れた。


「おっはよぉ!!先生!!」

「ふぁああぁ~……皆おはよう…」


あくびをしながら、ぬ~べ~は広の挨拶に答えながら、先へ歩いて行った。


「良いか?絶対このことは秘密だぞ」


通り過ぎたのを見た克也は、麗華とぬ~べ~に聞こえぬように郷子達に言った。


教室……

 

 

「というわけで、中大兄皇子と中臣鎌足は……」

 

 

社会科の授業をするぬ~べ~……

 

 

席で、違うことをしていた麗華は、教室内に漂う妖気と獣の臭いに、顔を顰めていた。

 

 

(凄い妖気……

 

あの男だな)

 

 

後ろで教科書を読みながら、生徒と共に授業を受ける金髪の長い髪を耳下で結った玉藻を麗華は見た。

 

彼女とは別に、ぬ~べ~は玉藻がそこにいるのが気にくわぬ顔をしながら、授業をしており黒板に書かれる字が殴り書きへとなっていた。

 

 

「794年、大化の改新で蘇我蝦夷と入鹿の兄弟を」

「鵺野先生」

 

 

説明している最中、突然玉藻は教科書を持ちながら立ち上がりぬ~べ~を呼んだ。

 

 

「はいはい、何ですか?玉藻先生!」

 

「大化の改新は645年です。794年は平安京。

 

さらに」

「蝦夷と入鹿は兄弟じゃなくて、父子だよ。先生」

 

 

玉藻の後に続くかのように、麗華は教科書を見ながら言った。ぬ~べ~は顔を赤くして下を向いてしまい、その様子を見た生徒達は大ウケをした。

 

 

「やーい!間違えてやんの」

 

「先生のくせに、生徒と教生に教えられてちゃ世話ないね!」

 

「アイツ、妖怪のくせに何でも知ってんだなぁ」

 

「人間社会に、災い起すための勉強でもしてるのよ」

 

「努力家なのか―。偉いなー」

 

「アンタの髑髏狙ってんのよ!あいつは!」

 

 

郷子と広が話している声を聞いた麗華は、疑いの目を玉藻に向けた。

 

 

(頭蓋骨……何で、立野の?)

 

 

 

 

放課後……

 

 

「えー、申し訳ないが……

 

今日は俺達のクラスが、草刈の当番だったということを忘れてて……

 

 

すまんが、放課後残ってくれ」

 

 

突然その事を言われた生徒たちは、嫌な声を上げながら、ぬ~べ~を責めた

 

 

「しっかりしてよ!」

 

「ドジ!」

 

「ハハハ!困った担任だね。僕も手伝うよ」

 

 

笑いながら、生徒達の輪に入った玉藻……

 

そんな玉藻を見た生徒達は皆、彼を囲い一緒に校庭へ出て行った。

 

 

「たぁまぁもぅ!!」

 

「押さえて!押さえて!」

 

 

今にも殴りかかろうとしたぬ~べ~を、慌てて郷子と広が止めた。

 

 

その頃克也は、校舎の裏に着けられていた非常階段に座り、今朝持ってきた卵を見ていた。

 

 

「どうしようかなぁ……

 

やっぱり、ぬ~べ~見せるか……うわっ!!」

 

 

あまり気が進まなかった克也は、意を決意して卵を見せようと立ち上がり、階段を降りようとした途端、足を滑らせ卵を地面へ落してしまった。

 

卵は落ちた拍子に皹が入り、突然光りだし割れてしまった。

 

 

その割れる音に気付いたぬ~べ~は、音がした方へ駆けると、裏の校舎から血相を書いて掛けてきた克也が出てきた。

 

 

「先生!!」

 

「克也、何があったんだ?!」

 

「卵が、卵が!!」

 

「卵?」

 

 

すると、校舎裏から、歪な色をした煙が舞い上がってきた。

 

 

「煙だ!」

 

「何?!火事でも起きたの?!」

 

「違う……」

 

 

郷子と広の後ろにいた麗華が、二人の横へ立ちそう言った。それに気付いた広は、彼女に顔を向け話しかけた。

 

 

「違うって、何が」

 

「あれ、煙じゃない。

 

霊霧だ!!」

 

「霊霧?」

 

「何なの?それ」

 

「霊気の霧だ……!!

 

先生、何か来る!!」

 

 

麗華の言葉に、ぬ~べ~は前方を見た。

 

すると、霧が薄くなり中から魚のような容姿をした三つ目の妖怪が姿を現した。

 

 

「な、何あれ?!」

 

「麗!!ここは危険だ!!」

 

 

フードの中にいた焔は、只ならぬ霊気に危険を察知し鼬姿から人へと姿を変えると麗華の傍に付いた。

 

そんな麗華と焔を見た玉藻は、疑いの目を向けた。

 

 

(何だ?あの妖怪……私と同じ人の姿をしているが……まさか、私と同じ種族か?)

 

 

「玉藻、あの妖怪何なのか知っているか?」

 

 

麗華に目を向けていた玉藻に、ぬ~べ~は目の前にいる妖怪について質問した。

 

 

「あれは、霊霧魚です

 

まさか、こんなところでお目にかかるとは」

 

「霊霧魚?」

 

「霊気の霧の中を泳ぐ怪魚ですよ。

 

頭は悪いが霊気は、ズバ抜けている奴だ。霧を辺り一面にまき散らし、その中に入った者を尽く……」

 

 

説明していると、霊霧魚は突然霧の中を泳ぎだし、逃げ惑う生徒たちに何かを腹から噴き出してきた。

 

背中にかかった者を生徒を見ると、背中に着いた水の様なものにゴルフボールぐらいの大きさをした卵が何十個と浮き出てきた。

 

 

「卵を産み付けた!!」

 

「その通り。

 

奴は最初は人を食わず、まずは自分の仲間を増やすための餌にするのさ。

 

 

あの卵が孵化した瞬間、何百という稚魚が肉を食い破る。今残っている生徒など、二時間もあれば食い尽くしてしまうでしょうね?」

 

「何だと?!くそっ!

 

 

南無大慈大悲救苦救難!鬼の手よ!今こそその力を示せ!」

 

 

右手に嵌めていた手袋を取り、ぬ~べ~は鬼の手を露わにし霊霧魚に攻撃した。

 

 

だが、霊霧魚の身体に出来た傷は、すぐに再生してしまった。

 

 

「再生するの?!あいつ」

 

「この霧の中にいる限り、霊霧魚は無敵です」

 

「ベラベラ喋ってる暇があるなら、お前も戦え!

 

我に力を貸せ!!急急如律令!」

 

 

腰に着けていたポーチから札を取り出し、指を噛み血を出し付けた麗華は、それを投げた。投げた札は黄色く光り煙を上げながら侍の姿をした雷光が姿を現した。

 

 

「こ、これは?!」

 

「霊霧魚!再生する能力があるから、出来ないくらい叩き切りな!」

 

「はい!」

 

 

腰に着けていた鞘から、二つの剣を取り出し雷光は、霊霧魚目掛けて攻撃をした。雷光と共に、ぬ~べ~も攻撃の手を休めることなく鬼の手で攻撃をした。

 

 

「その式神……」

 

 

二人が、攻撃をしているのを見ていた玉藻は、麗華が出した雷光を見ながら、彼女に話しかけた。近寄ってくる彼に警戒した焔は、狼の姿へとなり唸り声を上げながら、攻撃態勢へ入った。

 

 

「焔、やめて」

 

「これは、白狼一族の狼ですか?」

 

「そういうお前は、妖狐?

 

教室にいた時から、獣の臭いと霊気が漂っててお前を疑ってたけど……正解?」

 

「……正解です。

 

私は、ある目的でこの人間の世界へ来たのですが、その目的を果たす前に面白いことを見つけましてね」

 

「面白いこと?」

 

「人ですよ。

 

人は、見ていると面白い。それにあの鵺野先生の左手に封印されている鬼にも、興味がありましてね」

 

「……

 

それじゃあ今起きていることが、お前にとって好都合って事?」

 

「全くその通りだ。

 

鵺野先生が、自分の生徒を助ける時、その霊力が無限に高めることができる。

 

 

私は、そんな鵺の先生の力の秘密を知りたいんです。

例え、何人の犠牲者が出ようと」

 

 

話を聞いた麗華は怒りの目で、玉藻を睨んだ。彼女と共に聞いていた焔は怒りからか、今にも玉藻に飛び掛かろうと、牙を剥き出しにしながら彼を睨んでいた。

 

 

「さて、あなたのご質問にお答えしましたので、こちらも質問させてもらいます。

 

あなたは、何者です?」

 

「……

 

平安時代の霊媒師と呼ばれた男、安倍晴明の家系陰陽師の血を引く者……名は、神崎麗華」

 

「陰陽師でしたか。通りで式神が使えるわけか」

 

 

「麗華!!避けろ!!」

 

 

ぬ~べ~の声にハッとした麗華は見上げるとそこに霊霧魚がいた。霊霧魚は麗華目掛けて、腹から卵が入った水を噴き放った。

 

 

「麗!!」

 

 

その攻撃に、焔は麗華を口に銜えその攻撃を避けた。彼女は焔の牙を使い、彼の背に飛び乗ると霊霧魚に目を向けた。

 

 

霊霧魚は、麗華を無視して別の生徒に攻撃しようとした。襲い掛かってくる霊霧魚に鬼の手で攻撃した。霊霧魚は鬼の手により真っ二つになったが、霧のせいでまた再生し始めていた。

 

 

「キリが無い。一旦、学校の中へ行くぞ!!」

 

 

ぬ~べ~の言葉に、外で逃げ惑っていた生徒達を学校の中へと誘導し逃げ込んだ。



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鬼と妖狐と陰陽師

克也の持っていた卵から孵化した霊霧魚……

霊霧魚を退治しようとするぬ~べ~だが、霊気の霧の中では、全く歯が立たなかった。


攻撃しても切りがないことに気付いたぬ~べ~は、生徒達を連れて学校の中へと逃げ込んだ。


学校の中へ入ったぬ~べ~は、五年三組の教室へ入り鍵をかけた。

 

 

「広、卵を産み付けられたのは何人だ?」

 

「八人だ。

 

晶と克也とまこと」

 

「これからが大変ですよ?鵺の先生」

 

 

二人の話を聞いていた玉藻は、壁に寄りかかりながらそう言った。

 

 

「何が大変なんだ?」

 

「霊霧魚の卵は、日没と共に孵る。

 

もし、日没までに霊霧魚を倒さなければ……」

 

「卵を産み付けられた奴らは、全員食い殺される……」

 

「日没までって……あ、あと三十分しかないわよ…」

 

 

郷子の言葉に、ぬ~べ~は動揺の顔を隠せないでいた。

 

 

「……いや、待て。

 

 

一つだけ、方法はある」

 

 

考え込んでいたぬ~べ~が、顔を上げて生徒達に言った。

 

 

「何だよ?その方法って」

 

「説明は後で話す。

 

悪いが、誰か体育館から網を持ってきてくれ」

 

「網?」

 

「そうだ。何でもいいから、網になっている物をありったけ持ってきてくれ。作戦の説明はその後だ」

 

「分かった」

 

「体育館に行くなら、念のため雷光を連れてって。

 

雷光、お願い」

 

「はい」

 

「じゃあ皆、頼んだぞ」

 

「任せとけって!」

 

 

広が返事をすると、それを合図に数名の生徒が教室を出て行った。

 

 

 

「バレーボールのネット、サッカーのゴール、野球のバックネット……その他もろもろ。

 

 

言われた通り、ありったけの網を持ってきたぜ。先生」

 

「ご苦労」

 

「雷光、お勤めご苦労様。もう戻っていいよ」

 

「しかし……」

 

「大丈夫!

 

あとは自分で出来る」

 

「……はい」

 

 

渋々と雷光は札の姿へとなり、麗華の手元へと帰った。

 

 

「ククク……

 

そんな網で、いったいどうやってあの巨大な霊霧魚を?

 

奴の力を侮ってはいけませんよ?奴は」

「それ以上口出しするな、テメェのその喉を切り裂くぞ?」

 

 

喋っている玉藻の喉に、焔は自身の爪を立て当てた。その行為に驚いた彼は、喋るのを止め黙り込んでしまった。

 

 

黙ったのを気に、ぬ~べ~は鬼の手を出し、網に鬼の霊気を流し込んだ。

 

 

「なるほど。

 

霊力を網に封じ込めるわけですか。

 

 

これなら、霊体を捕まえることもできる……考えましたね」

 

「黙れ化け狐」

 

「おやおや、化け狐呼びですか……

 

あなたは、礼儀というものを弁えたらどうです?特に女性に仕えているというなら」

 

「余計なお世話だ!」

 

 

「この網を繋ぎ合せて、大きな網を作るんだ。

 

 

そして、校庭の周りの木に張り巡らせて、底引き網の要領で奴を斬りの外に引き出す!」

 

「まさか、校庭で漁業をやる羽目になるなんて……」

 

「でも捕まえた後、どうするの?

 

アイツは、殺してもすぐに再生するんでしょ?」

 

「それは」

 

「霧の中から出せば、いけると思うよ。

 

言ってたでしょ?あいつはこの霧の中を泳ぐ怪魚だって。

 

 

ということは、海の魚と同じように、霧の中から引き揚げられたら再生能力は失われるんじゃ」

「その通り。

 

霊霧魚はもともとは、深海魚が妖怪化したもの……

 

だから太陽の光に弱い。霧の外に出て太陽の光を当てれば、彼女が言った通り、再生能力は失われる」

 

「そっか、深海魚は暗闇の中でしか生きられないのから……」

 

「なぜ、そんなことを教えてくれる?!」

 

「私はあなたの力を知りたいんです。無限に霊力を高められる、その能力の秘密をね」

 

「生憎、そんな力は持っていない。

 

あるのは、死んでも子供達を守らずにはいられない……自分でも抑えきれない気持ちだけだ」

 

「……」

 

「麗華、俺が網を仕掛けている間、こっちの指示は頼んだ」

 

「うん!」

 

 

麗華に頼むと、ぬ~べ~は網を持って窓の外を飛び下りて行った。




霧の掛かった校庭を走り抜けていくぬ~べ~……

中には、卵を産み疲れて寝ている霊霧魚の姿があった。


(占めた!今の内だ)


ぬ~べ~は急いで、木に登り網を幹に結んで行った。

最後の網を結んだぬ~べ~は、木の天辺へ登り手を挙げて合図を出した。


「合図が出た!

皆、引っ張って!!」

「せーの!!」


合図を見た麗華の掛け声と共に、広達は一斉に網を引っ張った。網に乗っていた霊霧魚は霧の外へ引き上げられ、叫び声を上げた。


「釣れたー!!」

「見ろ!!

日光に当たった途端、アイツの身体から煙が!」

「日没まで、あと十分はあるぞ。大成功だ!」

「ヤッホー!!ぬ~べ~ばんざー」
「気を抜くな!!こっちに来る!!」


暴れていた霊霧魚は、広たちがいる教室目掛けて突進してきた。麗華はすぐに広達の前に立ち、手に持っていた薙刀を霊霧魚目掛けて振り下ろした。


「消えろ!!」

「ギャアアアア!!」


すさまじい声を上げた霊霧魚は、攻撃してきた麗華を睨みさらに突進してきた。


「火術!火炎玉!」


焔が放った火玉に、霊霧魚は驚き再び霧の中へ入ってしまった。


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怪魚死滅

霊霧魚を霧の中から引き揚げたぬ~べ~達……


だが釣れた途端、霊霧魚は暴れ出し広達がいる教室へ突進してきた。


「皆!!怪我はないか!!」

 

 

向こうの木の枝にいたぬ~べ~は、大声で教室の中にいる広達に呼び掛けた。

すると、美樹が泣きながら指を押さえて訴えた。

 

 

「あーん!ガラスで指斬ったー!」

 

 

その言葉を聞いたぬ~べ~は、怒りに満ちその感情に反応してか、鬼の手から只ならぬ霊力が高まっていった。

 

 

「こうなったら、力ずくで太陽の下に引きずり出してやるぜ!

 

 

南無大慈大悲救苦救難……

 

 

喰らえ!!鬼の威力を!!」

 

 

鬼の手を近づいてきた霊霧魚目掛けて、振り下ろし攻撃した。霊霧魚はぬ~べ~と共に霧の中へと入っていった。

 

 

「霧に潜った!」

 

「大変だ!!奴は霧の中じゃ、不死身なんだ!!」

 

「先生が死んじゃう!!」

 

「よぉし!!

 

焔、行くよ!」

 

「応よ!」

 

 

麗華の掛け声に、焔は窓の外へと飛び出し、そのまま狼化した。麗華は薙刀を持って窓から飛び降り、焔の背に乗り霧の中へと入って行った。

 

 

「麗華!!」

 

「おい!玉藻!!」

 

 

広は、教室の隅にいた玉藻に振り返り、玉藻の名を呼んだ。

 

 

「アンタも、一緒に先生達と闘ってくれ!!」

 

「バカを言うな!なんで私が!」

 

「生徒一人でも死んでみろ?!

 

ぬ~べ~は、責任をとっても教師を止めるかもしれない。最悪の場合自殺する可能性もある(一か八かだ。ハッタリかましてやる)。

 

 

そうなれば、ぬ~べ~の力の秘密は永久に分からなくなるんだぞ?それでもいいのか?!」

 

 

玉藻を責める広に、疑問を抱いた美樹は傍にいた郷子に質問した。

 

 

「郷子、どういうこと?

 

何で玉藻先生なら、闘えるの?」

 

「え?そ、その……

 

 

実は、玉藻先生もぬ~べ~に負けないくらいの、霊能力教師なのよ!それで…」

「ええ!!」

 

 

事実を知った生徒達は、一斉に玉藻に駆け寄った。その中にいた美樹は彼の腕を掴んで頼んだ。

 

 

「先生お願い!!

 

皆を助けて!!

 

 

このままじゃ、ぬ~べ~も晶達も麗華も死んじゃうわ!!

 

頼れるのは、玉藻先生しかいないの……だからお願い!!」

 

 

言い終わると、美樹は泣き崩れてしまった。そんな様子を見た玉藻は、顔を顰めた。

 

 

 

その頃、霊霧魚の頭に乗りながら、ぬ~べ~は霊霧魚に鬼の手で攻撃していた。だが、いくら切ってもその傷はすぐに再生してしまった。

 

 

(やはり太陽の光に当てなければ、ダメなのか?!こいつを倒すことはできないのか?!)

 

「先生!!日没まで、もう時間がないよ!!」

 

(くそ!!とうとう生徒達を守れなかった……ちきしょう!!)

 

 

“ドオオオ”

 

 

突然、どこからか火が噴出された。火に驚いた霊霧魚はそこから身動きが取れなくなってしまった。何かに気付いたぬ~べ~と麗華は、火が放たれた場所へ顔を向けた。

 

 

「玉藻!!」

 

 

そこにいたのは、狐の姿となり首さすまたを持った玉藻だった。

 

 

「鵺野先生!校庭を火の海にする!そうすれば、霊霧魚は耐え切れず浮上するはずだ!そこで仕留めろ!」

 

「なら!私達も協力する!焔!」

 

「勘違いするな!これは助太刀ではない!

 

あなたが負けては困るので、力を貸すだけの事だ!」

 

「玉藻……」

 

(それを、助太刀って言うんだけど……)

 

 

 

「日が沈む!!もう駄目だ!!」

 

 

窓の外で沈む夕日を見た広は、卵を産み付けられた晶達を見た。彼等の背中に着いた卵は、孵化をし小さい霊霧魚が誕生していた

 

 

「キャア!!」

 

 

“ドーン”

 

 

火の暑さに耐えきれなくなった霊霧魚が、霧の外へと這い出てきた。その頭にぬ~べ~の姿があった。

 

 

「先生!!」

 

「太陽の光よ!霊霧魚を照らせ!

 

邪悪の魂を焼き尽くせ!」

 

「今だ!鵺野先生!!」

 

「とどめだぁ!!」

 

 

太陽の光に照らされた霊霧魚に、ぬ~べ~は鬼の手で攻撃した。霊霧魚の身体はバラバラ日され、太陽の光と共に消えた。教室では霊霧魚が倒されると晶達の背中に産み付けられていた卵が一瞬で消え去り、その喜びから生徒達は歓声を上げた。




夜……


校庭に置いてあるベンチに、玉藻は腰を下ろしていた。そこへ麗華と焔、ぬ~べ~が姿を現し、彼に近付いた。


「玉藻……」

「私は、妖狐失格だ。

理由はどうあれ、人間を助けてしまったのだから……」

「妖怪が人を救うのはいけない事じゃないよ」

「?」

「人を救うことがいけないって言うなら、ここにいる焔も私の式神である雷光も氷鸞も、失格だよ」


そう言いながら、麗華は狼の焔の頭を撫でた。焔は甘え声を出しながら、彼女に擦り寄った。


「……君は妖怪に恵まれているだけだ。


アディオス鵺野先生、麗華君。


結局、鵺野先生の力の秘密を知ることが出来ず、残念です」

「待てよ、玉藻。


見せてやるぜ?あれが、俺の力の秘密だ」

「え?」


「いたー!!」


その叫び声に気付いた玉藻は後ろを振り返ると、美樹を先頭に多くの生徒たちが玉藻の傍へ駆け寄ってきて、玉藻を囲った。


「先生が助けてくれたんだってね!ありがとう!」

「玉藻先生だーい好き!」

「教員試験受かったら、絶対この学校に来てね!」


喜び、お礼を言う生徒達に、何をすればいいのか分からなかった玉藻は、先にいるぬ~べ~に再度確認した。


「ぬ、鵺野先生!これのどこが…?」

(生徒達の「ありがとう」や「大好き」……これが俺の力の源なのさ。教師になれば分かるぜ玉藻)


困り果てる玉藻を見ながら、ぬ~べ~はそう心の中で呟いた。


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病院に潜む妖怪

「夏風邪拗らせて、入院とは」


病院内のデイルームで話す郷子達の前には、入院服を着た麗華が苦笑いをしながら、座っていた。


「いやぁ、ごめんごめん!」

「どれくらいで、退院するの?」

「予定では明日」
「明後日だ」


カルテを麗華の頭に乗せながら、焦げ茶色の髪を生やし白衣を着た男は、そう答えた。


「一週間も入院してるんだよ!?

もう退院しても」
「ダーメ!

ここ何日か、体力沢山使ったでしょ?」

「う……」

「その回復も込めて、退院は明後日」

「そんなぁ!」

「退院しても、しばらくは体育見学」

「えぇ!!」

「“えぇ”じゃない」


カルテを書きながら、男は呼ばれた看護婦の元へ行きそのままどこかへ行ってしまった。


「もぉ……せっかく明日には自由の身になれると思ったのに」

「まぁまぁ、用心に超したことは無いんだから!」

「入院生活、退屈なの!

自由に動き回れないし」

「それはお気の毒に」

「それにしても、何でこの病院に入院したの?

童守病院の方が、近いのに」

「知り合いがいるから」

「知り合い?」

「さっき話してた男の人。

母さんの弟子で、私の担当医だから」

「麗華のお母さん、病院で働いてるんだ!」

「うん……前はそうだった」

「え?前はって……」
「あ!お姉ちゃん!」


花束を持った緋音の姿を目にした麗華は、嬉しそうに椅子の背もたれに手を掛けて、膝立ちをした。


「あらあら、今日はお友達がお見舞いに?」

「はい!」

「ご無沙汰してます!」

「どうも。

麗華ちゃん、寝てなくていいの?」

「平気平気!もう体調、良くなったもん!

あれ?お兄ちゃんは?」

「龍二は、今日部活で遅くなるって」

「そうなんだ……」

「そろそろ帰るね。

時間だから」

「あ、送ってくよ!」


荷物を持った郷子達に、礼を言いながら麗華は彼等を見送った。


翌日……

 

 

「大変よ!!大変よ!!」

 

 

登校してきた美樹は、大声を上げながらやって来た。世間話をしていた広と郷子は、話すのをやめ駆けてきた彼女の元へ寄った。

 

 

「どうしたんだよ?美樹」

 

「何かあったの?」

 

「さっき職員室で言ってたんだけど……

 

麗華、容体が急変したって!!」

 

「!?」

 

 

病院……

ICUに移動され、酸素マスクを着け体に数本の管を着けた麗華が、ベッドに寝かされていた。

 

硝子越しから、駆け付けたぬ~べ~は驚き彼女の姿に目を疑った。

 

 

「夜中に突然連絡があって、俺が駆け付けた時にはもう……」

 

 

廊下に置かれていた椅子に座っていた龍二は、静かにそう言った。

 

 

「……麗華」

 

 

ICUから出て来た医師の元へ、龍二は駆け寄った。医師は何かを話すと、ぬ~べ~の元へ寄ってきた。

 

 

「初めまして……麗華ちゃんの担当医の、木戸茂と言います」

 

「担任の鵺野鳴介と言います」

 

「……あぁ、あなたでしたか。

 

麗華ちゃんの担任」

 

「あ、はい」

 

「麗華ちゃん、いつも楽しそうに先生のことを話しますので、どんな方かと思っていましたが……優しそうな人で良かった」

 

「いえ、そんな……

 

あの、麗華の容体は?」

 

「あぁ、すみません……

 

非常に危険な状態です……出来る限りのことはします」

 

 

軽く礼をすると、茂は看護婦からカルテを受け取り、そのままどこかへ行ってしまった。

 

 

その時、何かの気配を感じたぬ~べ~は後ろを振り返った。だが、そこには誰もいなかった。

 

 

(……誰かに見られていたような気が……

 

気のせいか)

 

 

ぬ~べ~が目を逸らしている時、病室に何者かが入り背を向けていた看護婦の目を盗み、麗華の額に手を置いた。しばらくすると、彼女の心拍数が正常に戻った。

 

それに気付いた看護婦は慌てて、病室を飛び出し茂を呼びに行った。飛び出した彼女と共に、病室から出て来た何かはぬ~べ~の横を通り過ぎ、気配を消した。

 

 

(……今のって)

 

「院長!早く!」

 

 

駆け付けた茂は、マスクの紐を結びながら病室へ入った。そこへ息を切らしながら、父親の輝二が駆け付けた。しばらく診察すると、茂は病室から出て来た。

 

 

「茂、麗華は!?」

 

「もう大丈夫です。呼吸も安定してますし、先程目を覚ましましたよ」

 

「よ、良かったぁ……」

 

「親父!」

 

 

腰が抜けたかのようにして、座り込もうとした輝二を龍二は慌てて支え立たせた。

 

 

「詳しい話は、診察室で」

 

 

そう言って茂は輝二を連れて、別の部屋へ移動した。ぬ~べ~は、先程感じた気配を気にしながら病院を後にした。

 

 

 

その日の夜……

 

一般病室に移された麗華は、ベッドの上で眠っていた。すると天井から、何かが飛び降り彼女の元へ寄りベッドの上に乗った。次の瞬間、そいつの体に白衣観音経が巻き付いた。

 

 

「これ以上は、俺の生徒に手出しはさせない」

 

「ギ!!」

 

 

暗闇だった部屋に、電気が点いた。そこには、ぬ~べ~とドア付近に郷子と広の三人がいた。ベッドにいた麗華は、上半身だけを起こし目の前にいる妖怪に目を向けた。その妖怪は、緑色の翡翠のような目にデカい耳と毛深い体の小猿のような姿をしていた。

 

 

「妙な気配を感じていたから、もしやと思ったが……

 

お前が犯人か!」

 

「ぬ~べ~!早く、そいつをやっつけて!」

 

「ギギ!!ギーッ!!」

 

 

ぬ~べ~が鬼の手を出そうとした行為を見た、妖怪は麗華の背後に隠れた。

 

 

「こいつ、麗華の後ろに!!」

 

「先生、こいつが犯人じゃないよ!」

 

「?!」

 

「何言ってんのよ!麗華、そいつのせいで死にかけたんでしょ!?」

 

「私を殺そうとしたのは、別の奴。

 

焔!」

 

 

人の姿へとなった焔は、ぬ~べ~の後ろの壁に向かって黒い煙を吐いた。するとそこから、咽せる声が聞こえ姿を現した。

 

 

「げ?!何こいつ!?」

 

「こいつが犯人。

 

昔からいる悪霊で、治りかけの患者の容体を急変させて、入院生活を長引かせるの」

 

「い、嫌な妖怪」

 

「母さんいなくなったからって、また悪さばかりしてるらしいじゃん。

 

茂兄から聞いたよ!」

 

「黙れ!!

 

お前はいつも喜んでたじゃねぇか!!入院が長引く度に、母親と一緒にいられるって!」

 

「……

 

 

それは昔の話!!今は違う!!

 

これ以上悪さして、この病院の評判下げるなら、屋上で焼き殺すよ?」

 

 

微笑みながら、麗華はその妖怪の頭を鷲掴みにし、その横で焔は手に火玉を作り悪戯笑みを浮かべた。

 

 

「お、お助けぇ!!」

 

「だったらとっとと、この病院から出てけ!!」

 

 

いつの間にか開いていた窓に向かって、麗華はその妖怪を投げ飛ばした。妖怪は悲鳴を上げながら、夜の闇に姿を消した。

 

 

「ったく……茂兄に言って、あいつ専用の魔除け札玄関に貼っとこうかな」

 

「ああいう妖怪には、厳しいのね……」

 

「当たり前だ!

 

せっかく明日には、退院だったのに!延期になったんだよ!!退院!!」

 

「それはお気の毒に」

 

「ところで麗華」

 

「ん?」

 

「背中にしがみついてるそいつ、何者なんだ?悪い妖怪じゃないって……」

 

「あぁ、こいつ?

 

この病院の妖精、ギギーだよ」

 

「ギー!」

 

「妖精?!こいつが?」

 

「そうだよ!」

 

「ぬ~べ~、本当?」

 

「確かそいつは、インプという悪魔だけど……それは人が後から付け足したことで、本来は妖精だから本当だ」

 

「そうなんだ!」

 

「何で、ギギーって言うんだ?」

 

「ギーギー鳴くから!

 

と言っても、つけたのは母さんだけどね!」

 

「そういえば麗華、さっきの妖怪が言ってたけど……昔、入院してたの?」

 

「うん。風邪拗らせて肺炎掛かってそのまま!

 

けど、こいつがいたおかげで全然退屈じゃなかったけど!ね!」

 

「ギー!」

 

 

「盛り上がってるところ悪いけど、そろそろ君達は帰ってくれないかな?」

 

 

ドアの縁に凭り掛かり立っていた茂は、ぬ~べ~達を見ながら和やかに言った。するとギギーは、麗華から離れ茂の肩に乗り、乗ってきたギギーを彼は撫でた。

 

 

「わぁ、懐いてる」

 

「僕が見習いの頃からいるからね、こいつ。

 

さぁ、もう帰った帰った。面会時間はとっくに過ぎてるんだから」

 

「はーい」

 

「じゃあ麗華、またな!」

 

「学校で待ってるから!」

 

「じゃあ、大事に」

 

「うん!じゃあね!」

 

 

帰りの挨拶をし帰って行った三人に、手を振りながら麗華は笑顔で見送った。




院長室へ戻った茂……
彼の手から離れたギギーは、机に飾られていた写真立ての写真を見ながら、鳴き声を放った。


「……もういないよ。

先生は」

「ギー……」


その写真に写っていたのは、満面な笑みを浮かべた幼い龍二とその後ろで、彼の頭に手を乗せて笑みを浮かべる輝二、そして若い頃の自分を挟んでその隣には、幼い麗華を抱く黒髪の一つ三つ編みをした女性が写っていた。


(……あれから、四年)


思い出す過去……横たわる女性を前に、立ち尽くす自分。傍には、彼女を抱き締め泣く輝二と、泣く声を必死に抑えながら涙を流す、龍二がいた。


『ねぇ、茂兄……母さんは?』


立ち尽くす自分に、傍にいた幼い麗華は彼の服の裾を引っ張り質問した。


何と答えたか、覚えていない……


あの日の事を思い出した茂は、ソファーの上で眠ったギギーを撫でながら、暗い夜の町並みを一人静かに眺めた。


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麒麟現る

麒麟(キリン)……

それは、神に使わされた獣……神獣とも言われている。

その霊力は、極めて高く、聖域を汚す者には容赦なく厳しい罰を与える、天の裁判官とも言われている。


神社の沼へとやってきた克也……

 

 

「獲るなって言っても、ここの鯉はデカくってさ。

 

特に、刺身に出来る鯉は、魚屋で高く買ってくれるんだ」

 

 

沼に網を入れ、そこに住んでいる鯉を獲りながら言った。

 

 

「神社での殺生はいけないっていうけど、生け捕りなら神様も文句ないだろ」

 

 

鯉を持ち帰ろうとした時、空の一ヶ所が光り出しその光に克也は驚き、振り向いた。

 

 

鹿のような強大な体を持ち、顔は竜に似ており、馬の蹄に牛の尾を持った獣が、舞い降りてきた。口には血を出したチンピラを銜えており、チンピラは苦しみの声を上げながら暴れていた。

 

その光景に絶句した克也は、気を抜き思わず捕まえた鯉を網から落してしまった。落ちた場所が運悪く岩の上で、鯉は骨を折ったのか跳ねることなく、体を痙攣させ動かなくなってしまった。

 

しまったと思った克也は、無我夢中で駆けだしその場を逃げだした。

 

 

 

夜……

 

 

寝付けないでいた克也は、鯉を獲ったことを思い出していた。

 

 

“ピシャーン”

 

 

雷が鳴り、その光で外に映る獣のシルエットが、部屋の窓に映った。ふと克也は窓を見たが、そこには外に干している洗濯物の影しか映ってはいなかった。気になり、そっとカーテンの隙間から外を覗いた。

 

 

(ま、まさか……たかが魚一匹くらいで……)

 

 

 

翌日……

 

学校へ着た克也は、休み時間昨日の事を広達に話した。

 

 

「ホントかよ?

 

明神沼に、竜に似た馬が出たって」

 

「そうなんだ。

 

頭には角みたいなものがあってさ。口には血だらけになった男を銜えてて……

 

 

きっと、食われちまったんだ。多分、魚殺して罰が当たって」

 

「まさかアンタ、あの大きな鯉を釣ろうとして、明神沼に行ったんじゃないでしょうね?」

 

「どうなのよ、克也」

 

「……

 

う、うん」

 

「やっぱり!

 

とうとうあなたは、禁じられた鯉を釣ってしまったのね!

 

 

あれ程」

「釣ってはいけない鯉を釣ったの?

 

明神沼の鯉を?」

 

 

階段を下りてくる麗華は、美樹の言葉を繋げる様にして言った。

 

 

「麗華」

 

「木村、本当にあの沼の鯉を釣ったの?」

 

「あ……あぁ」

 

「殺されるよ?その獣に」

 

「え?」

 

 

「竜に似た馬の様な獣と言ったな」

 

 

その声に、郷子達は振り返った。手すりに手を置くぬ~べ~が問いかけてきた。

 

 

「そいつは麒麟かもしれんぞ?」

 

「首が長くて、黄色くて、斑のある動物園にいるキリン?」

 

 

口を揃えて言う郷子達……ぬ~べ~は少々困り果てた顔を浮かべ、麗華は苦笑いを浮かべた。

 

ぬ~べ~は階段を降り、麗華の隣へ立つと話し出した。

 

 

「そのキリンじゃない。

 

神の使いと云われている獣の事だ。

 

 

でも大丈夫、麒麟は何もしないさ。理由もなく人間を襲ったりはしない」

 

「理由がなければね」

 

「?どういう意味だ、麗華」

 

「別に~」

 

「さってと、皆放課後暇だったよな?」

 

 

郷子達に放課後残るように言うと、ぬ~べ~はどこかへ行ってしまった。

 

 

図書室で、麒麟について調べるぬ~べ~……

 

 

(麒麟は聖域を汚すものに対して、厳しい罰を与えるか)

 

「何で、私達まで手伝わなきゃならないのよ!」

 

 

文句を言いながら、図書室の本を運ぶ郷子達……

 

 

「全く、人使い荒いんだから」

 

「一人で出来ないの?先生!」

 

(まさかな……

 

麒麟が本当にいるなんてことは……)

 

 

本を片付ける郷子達……

 

克也は書棚に、持っていた本を元の場所へ戻していた。その時ふと風が吹き、気になり恐る恐る後ろを振り返った。

 

 

後ろにいたのは、あの時見た麒麟の姿……

 

 

「わぁああああ!!」

 

 

麒麟の姿に驚いた克也は、持っていた本を落とし叫んだ。その声にぬ~べ~は、すぐに立ち上がり克也の元へと行った。

 

 

克也の元へ行くと、彼は腰を抜かし座りこんでいた。

 

 

「どうした?克也」

 

「き…き…麒麟が……

 

麒麟が今、ここに!」

 

 

ぬ~べ~の後ろを指さす克也……彼の指す方にぬ~べ~は振り返った。克也の叫び声に、郷子達が駆け寄ってきた。

 

 

「どうしたんだよ、克也ぁ」

 

「急に大声何て上げてさぁ」

 

「ビックリするじゃないの」

 

 

克也のもとへ着た麗華は、ふとぬ~べ~が向いている方に目を向けた。するとパーカーにいた焔は顔を出し、麗華の方に乗り移ると話した。

 

 

「麗、麒麟の奴がここへ来た」

 

「その様だね」

 

 

二人が向く方に在ったもの……それは光る毛だった。

 

 

麗華は焔の頭を撫でながら、克也の方を振り向いた。

 

 

「罰が……罰が当たったんだ……きっと。

 

俺、鯉釣ってそれでまた沼に放してやるつもりだったのに、麒麟を見た時慌ててて、それで捕まえた鯉を岩の上に落しちまって……だから、罰が!!」

 

「なるほどねぇ……

 

ぬ~べ~、何とかしてやれば」

 

「落ち込むなよ。

 

ぬ~べ~に任せれば、大丈夫だよぉ!」

 

「そうそう!

 

心配する事なんかないわよぉ!」

 

「克也が危なくなったら、鬼の手があるじゃない!」

 

「『俺の生徒に、手を出すなぁ!』」

 

「下手くそ!『鬼の手よ、今こそその力を示せ!』」

 

 

笑い合い、冗談を言い合う郷子達……

 

ぬ~べ~の元へと行った麗華は、彼の手の上で消える麒麟の毛を見ながら小声で言った。

 

 

「今回は、先生もお手上げなんじゃないの?

 

神獣相手じゃ、その鬼の手がどこまで効くか」

 

「あぁ。

 

いくら俺でも、神の使いである麒麟を……」

 

「神獣の怒りを鎮めるには、生贄が必要」

 

「?」

 

「な~んて!

 

 

で?どうすんの?あいつ等、先生に期待してるみたいだけど?」

 

「う~ん……

 

お前ならどうする?」

 

「?何で、私?

 

大体、獲るなって立札立ってたにも関わらず沼の鯉を獲った、木村が悪いんでしょ?自業自得だと私は思う」

 

「それはそうだが……」

 

「何かして欲しいの?」

 

「っ……」

 

「……仕様がないなぁ!

 

先生の手伝いはするけど、どこまで力になれるか、分かんないよ」

 

「悪いな」

 

 

 

沼へやってきた郷子達……

 

 

「ねぇ、本当に神様の罰なんてあるのかしら」

 

「分かんないわよ!そんなこと!」

 

「まさか、地獄へ落されるとか?」

 

「じ、地獄?!」

 

「コラ!美樹!

 

何てこと言うのよ!」

 

「大丈夫だって克也!

 

きっとぬ~べ~は何とかしてくれるから、元気出せよ!」

 

「そうよ!きっとぬ~べ~が何とかしてくれるから!」

 

 

思い出す、先程のこと……

 

 

『とにかく夕方、明神沼へ行ってみよう。

 

麒麟が神の使いなら、分かってくれるさ』

 

 

その言葉を思い出す克也は、意を決意し沼の方へと歩いて行った。

 

沼へ行く途中、橋を割っていると小川から水の音と何かの声が聞こえ、郷子とまことは足を止めた。

 

 

「何かしら?」

 

「何なのだ?」

 

 

よく見ると、そこにいたのは小川に落ち草に絡み、上がれない状態になった子犬だった。

 

 

「何だ?またお前か!」

 

 

そう言いながら、克也は土手を滑り降り、小川の中へと入った。

 

 

「ったく、あれ程こっから離れろって言ったじゃねぇか!

 

バッチィ犬がよ!

 

 

いいか?今助けてほしいのは、こっちの方なんだぜ?」

 

 

文句を言いながら、克也は草を解き子犬を抱き上げた。子犬は毛を振り水を落とそうとし、その行為に驚いた克也は足を滑らせ尻を着いてしまった。

 

そんな克也の頬を、子犬は舐めてやった。舐める犬のくすぐったさに、克也は笑いながら子犬を放した。そんな彼を見る郷子達は、どこか悲しげな眼をしていた。

 

 

 

ぬ~べ~と約束の場所へ着た郷子達……

 

そこには木の釘を円形に刺し、釘を通して注連縄が設置されていた。

 

郷子達の姿を見たぬ~べ~は、顔を顰めて言った。

 

 

「お前達は、帰るんだ」

 

「どうしてよ!」

 

「いつもいつも、邪魔なんだよ!

 

お前等、前からずっと言おうと思ってたんだけどな……いいか?これは御遊びじゃないんだ。」

 

「でも!」

「帰れ!

 

もうとっくに、下校時間が過ぎてんだ!早く家へ帰れ!」

 

「け!何だよ!」

 

「帰ろ帰ろ!

 

邪魔なんだから、私達は!!」

 

「そうそう!邪魔なんだってさ!」

 

「全く、失礼しちゃうわよねぇ!」

 

「俺達がいて、助かったこともあんのにさぁ!」

 

「そうよ!それなのに、あんな言い方ないわよね!

 

 

ぬ~べ~の、おたんこなーす!!」

 

 

文句を言い捨てながら、郷子達は帰っていった。

 

そんな光景を、焔の背に乗った麗華は空から見ていた。

 

 

「あ~あ、好き勝手言って」

 

「いつ頃、あの二人の元に出るんだ?」

 

「麒麟が姿を現した頃かな?しばらくは様子見」

 

「了解」

 

「お兄ちゃんは部活と生徒会の仕事で、今日は遅いし。父さんも仕事で遅いし。

 

いい時に、重なったな!」

 

「だな」

 

 

 

「克也」

 

 

不安げな表情を浮かべた克也に、ぬ~べ~は声をかけた。

 

 

「せ、先生」

 

「これは結界だ。

 

この中にいれば何が来ても、こちらには手出しできない」

 

 

言いながら、ぬ~べ~は注連縄を結んだ円の中へと入った。彼に釣られて、克也もその中へ入った。

 

 

「で、でもどうして、こんなものを?」

 

「克也、今度は今までのように、簡単にはいかないかもしれないんだ。

 

相手は麒麟、神の使い……いや、神そのものと言ってもいいかもしれない。恐らく、俺の霊力とは桁違い」

 

「そ、それじゃ俺は?!」

 

「心配すんな!

 

お前だけは、必ず守ってやる。命に代えてもな」

 

 

その会話を、近くで聞く郷子達……

 

 

「まさか、ぬ~べ~にも勝てない相手?」

 

「じ、冗談でしょ?」

 

「麗華さえいてくれれば……」

 

「さっき帰っちゃったもんねぇ」

 

 

バックから霊水昌を取り出し、ぬ~べ~はそれを天に翳した。翳しながら、彼は数珠を手に巻きお経を唱え出した。すると、辺りが暗くなり、雷を放ち出した。

 

お経を唱えていると、霊水昌が粉々に割れぬ~べ~は沼を見た。

 

 

「来たか!」

 

「え?!」

 

 

沼に現れる一頭の獣……その姿は、紛れも無く麒麟であった。

 

 

「おい、あれって」

 

「本物?」

 

 

麒麟の姿に驚く広達……

 

 

「現れたぜ?どうする?」

 

「もう少し。

 

ヤバくなったら、行くよ」

 

「分かった」

 

 

 

降り立った麒麟は、ぬ~べ~達へ近付いてきた。

 

 

「せ、先生!!」

 

「任せろ!」

 

 

近付いて来る麒麟……麒麟の頭には、克也が言った通り角が生えていた。

 

 

(生命を尊び、殺生を嫌う麒麟の角は、通常他の生物を傷つけないよう、肉に包まれ丸くなっているという……

 

明らかに奴は、怒っている。

 

克也は、神の怒りに触れたのか……)

 

 

“グォオオオオ”

 

 

叫ぶ麒麟……声に反応してか、その角は光り出し空から雷をぬ~べ~達目掛けて落した。落された雷は、ぬ~べ~が張った結界を破り彼に攻撃した。

 

 

「先生!!」

 

 

ぬ~べ~は、体から煙を上げその場に膝を着いた。

 

 

『裁きを受けろ!』

 

 

聞こえて来る麒麟の声……

 

 

膝を着いたぬ~べ~は、白衣観音経を広げた。

 

 

「麒麟よ、訊いてくれ!

 

確かにこの子は、沼の魚を死なせてしまったかもしれない!しかし、許してやってくれ!

 

この子に悪気はなかったんだ!この子は決して、悪い奴ではない!信じてくれ!」

 

 

その言葉は、麒麟の耳には届かず、角を輝かせ雷を起こした。雷は白衣漢音郷を破り、まずいと思ったぬ~べ~は克也を守るようにして、麒麟に背を向かせた。すると雷は彼の背中へ当たった。

 

当たったぬ~べ~は、力なくその場に倒れてしまった。

 

 

「せ、先生!!」

 

『裁きを受けろ!』

 

 

“チリーン”

 

 

何処からか聞こえる、鈴の音……

 

音の方に目を向けると、麗華は焔の背中から飛び降りた。

 

 

「れ、麗華」

 

「(凄い妖気……

 

神の使いと呼ばれてる麒麟だから、ちゃんと敬語を!)そ、その者を、許してやって下さい。

 

十分に、反省しています」

 

 

ぎこちないが静かに言う麗華……だが麒麟は、怒りを鎮めることなく、彼女へ雷を放った。雷に驚いた麗華は、避けるかのようにして後ろへ飛び下がった。

 

 

「麗!!」

 

「び、ビックリしたぁ……」

 

 

麒麟は再び克也の方を向いた。克也はまるで蛇に睨まれた蛙のようにして、その場から逃げ出すことができず怯えていた。その時、倒れていたぬ~べ~がスッと立ち上がり、麒麟を睨んだ。

 

 

「やはり、俺の霊力とは桁違いか……

 

だが、例え神でも!俺の生徒に、手出しはさせん!!

 

 

我が左手に封じられしおによ、今こそその力を示せ!!」

 

 

鬼の手を出したぬ~べ~は、麒麟に攻撃した。麒麟は彼の鬼の手に角を触れさせ、鬼の手から血を流し、ぬ~べ~は叫び出し麒麟は彼を投げ飛ばした。

 

 

「……神獣に対して、鬼の手が通じるはずないのに」

 

「どうする?麗」

 

「あそこまで怒ってちゃ、手も出せない……(奇跡を待つしか……)」

 

 

角の先端を克也に向ける麒麟……

 

沼で倒れているぬ~べ~のもとへ、郷子達は駆け寄った。

 

 

「頼む!!克也を許してやってくれ!

 

俺は教師だ!その子のやったこと、俺に責任がある!

 

 

克也を裁く前に、俺を裁け!!」

 

『裁きを受けろ』

 

「克也、逃げろ!!」

 

「逃げるのよ!!克也!」

 

 

だが克也は、恐怖のあまりその場から逃げ出すことができなかった。麒麟は角を天に向け、角に反応したかのように雷が克也目掛けて、落ちてきた。

 

 

「やめろぉおお!!!」

 

 

「ワン!ワン!ワン!!」

 

 

聞こえてくる犬の鳴き声……

 

落ちてきた雷は、克也にあたる寸前で消え、麒麟はその犬の声の方に目を向けた。

 

 

克也の前に立つ、先程助けた一匹の子犬……

 

麒麟は子犬に顔を近づけさせた。すると子犬は威嚇の声を上げながら、麒麟に飛び掛かり噛みついてきた。噛みついてきた子犬を振り払い、麒麟はその子犬を見つめた。

 

子犬は、怯えもせず麒麟にずっと威嚇の声を上げていた。

 

 

そんな姿を見た麒麟は、角を引っ込め姿を消した。

 

 

「麒麟が去っていく……」

 

「たった一つの善行が、お前の罪を軽くしたんだ……

 

麒麟は天の公正な、裁判官だからね」

 

 

傍にいた麗華は、克也達に説明するかのようにして言った。

 

 

麒麟は鳴き声を発しながら、天を駆け上っていった。




沼から上がってきたぬ~べ~達……


「麗華、助けてくれてありがとう!」

「ほ、本当に助かった!」

「……」


礼を言う克也に麗華は、容赦なく彼の頭を思いっ切り叩いた。打たれた個所を押えながら、彼は半ベソを掻きながら彼女の方を見た。


「何で打つんだよ!?」

「当り前だよ!!

獲るなって言った物獲って、神の裁きを受けないなんて、私の腹の虫が治まらない!!」

「はぁ!?」

「まぁまぁ、麗華」

「……

あ~もう!!ムシャクシャするぅ!!焔、帰るよ!!」


焔に乗り、麗華は家へと帰っていった。打たれた個所を撫でながら、克也は麗華の行為が今一理解できないでいた。


「ぬ~べ~のピンチに麗華ありってね!」

「だな!」

「さーてと、腹も減ったな!

ラーメンでも食いに行くか!」

「ち、ちょっと待って!!鬼の手は!?」

「ああ、これは霊気さえあれば、一週間で再生する」

「げ~!!やっぱ、人間じゃねぇな!」

「うるさい!」


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二人の間

また怪我したの?

ほら、足出しなさい。

全く、女の子なんだからもっと大人しく過ごせないの?

ま、無理か……母さんの子だもんね。

母さんも、あなたぐらいの頃は外で思いっ切り遊んでは、体に傷付けて帰ってきたから。


保健室で、傷の手当てをされる麗華。

 

 

「痛っ!!」

 

「はーい、もう終わりよ」

 

「災難だったね。麗華」

 

「広が蹴ったボールが顔面に当たり、ボールを追い駆けてきた克也と正面衝突するなんて」

 

「おかげで、体中ガーゼだらけだ。

 

てか、見学者なのに」

 

「そ、それもそうよね……」

 

「見学者でその怪我はね……」

 

「お兄ちゃんに怒られる……トホホ」

 

「訳話せば分かるって」

 

「分かってくれる兄ならいいけど、うちの兄上そんじゃそこらの兄とは違うんでね。ハハハ」

 

 

他愛のない話をしながら、郷子達は教室へ戻った。

 

 

 

その日の夜……

 

警察署へ来た郷子達。入った瞬間、龍二から強烈な跳び蹴りをぬ~べ~は食らった。

 

 

「オイ!!人の大事な妹、どこにやった!!」

 

「ちょっと!気絶してる!気絶してる!」

 

「龍二、お前は一旦引け」

 

 

ぬ~べ~の胸倉を掴む龍二を、真二は引き離し抑えた。気を失った彼を、緋音は体を起こし背中に一発活を入れ意識を取り戻させた。

 

そこへ上から降りてきた勇二と、彼に引っ付き泣き喚く輝二がいた

 

 

「すみません、立て込んでいて……いい加減離れろ!!」

 

「うわーん!麗華が!麗華がまだぁ!」

 

「だから今から聞くんだろ!!」

 

「麗華ぁ!!comeback!!」

 

「少しは黙れ!!このへなちょこ親父!!」

 

 

龍二から回し蹴りを食らった輝二は、地面に蹲り静かになった。

 

 

「お見苦しいところ見せて、すみません」

 

「い、いえ、そんな……」

 

「麗華って、この人達と一緒に生活してるんだよね」

 

「改めて思う。麗華の奴が普通じゃない理由がここにあるって」

 

「で、何があったんです?麗華に」

 

「実は、未だに家へ帰っていないんです」

 

「え?」

 

「嘘だぁ!

 

麗華の奴、今日はお兄さんの学校に行くって先に帰ったもん!ねぇ!」

 

「うん!」

 

「その妹が、部活終わった今になっても、来てないんだよ!!

 

テメェ等、人の大事な妹に何かしたんじゃねぇだろうな?ここ最近、学校のいじめがかなり陰湿になったって、聞いたからなぁ」

 

「し、してません!!」

「し、してません!!」

 

「話進まなくなるから、お前は引っ込んでろ!!」

 

「ごめんねぇ、怖がらせちゃって」

 

「でもよ、麗華って確か焔連れてるよな?

 

大丈夫なんじゃねぇの?」

 

「そうそう!その内ヒョッコリ帰ってくるわよ!」

 

「敵が万が一、俺等と同類でイカレタ野郎だったら、焔はひとたまりも無い。

 

ただでさえ麗華は、まだ修業中の身なんだ。本格的な霊能力者同士の激しい戦いはまだ、したことが無い」

 

「へー、てっきりもう一人前かと思ってた」

 

「ねぇ。普通に妖怪達をバンバン倒して」

 

「危うくぬ~べ~が、主人公下ろされるかと思ったもの!」

 

「はっきり言うな!!」

 

「俺等から見りゃ、まだ未熟だ。

 

けど、テメェ等からしてみりゃ遥に上だな。そこにいる馬鹿教師よりはな」

 

「やっぱりか」

 

「う~……どうせ俺は……」

 

「ぬ、ぬ~べ~……」

 

(話が全然進まない……)

 

 

その時、ドアを叩く音が聞こえ勇二は席を立ち開けた。

 

 

「どうした?」

 

「犯人に動きが」

 

「!

 

輝二!」

 

 

振り返ったが、肝心の輝二は未だに蹲ったまま動いていなかった。

 

 

「息子の蹴りを食らって、まだ気を失ってるか……」

 

「恐るべし、龍二」

 

「輝二!!いい加減にしねぇと、顔面パンチ食らわせるぞ!!」

 

「はいぃ!!」

 

「凄え!目覚めた!」

 

 

部屋の外で話をする勇二と輝二。話の途中、突然輝二が目の色を変えて、走り出した。彼に続いて部屋で待っていた龍二も、飛び出した。

 

 

「輝二!!

 

 

ったく、話を最後まで聞けって……すぐにそこへ警官を向かわせろ。俺達も行く」

 

「は、はい!」

 

「刑事さん、何かあったの?」

 

「夕方、隣町で銀行強盗があってね。

 

その仲間の一部がこっちに、逃げてきたって連絡があって。

 

 

逮捕した仲間の一人が吐いたんだ……夕方、小学生くらいの女の子を、人質にさらったって」

 

「小学生くらいの……」

 

「女の子……

 

 

あ!!」

「あ!!」

 

 

 

その頃、麗華は……

 

 

とある廃屋に置かれた木箱の上に座り、飴を舐めていた。そして、何かの気配を感じたのか、木箱から飛び降り外で作業する人達に声を掛けた。

 

 

「ねぇ!早くここから離れないと、ヤバいよ!」

 

「お嬢ちゃん、少し黙っていようか?」

 

「でも」

「おい!早くしろ!

 

察にバレる前に」

 

「今やってますって!」

 

「……!

 

ねぇ!それ以上、掘らない方がいいよ!じゃないと!」

 

「少し黙ってろ!!」

 

 

怒鳴られた麗華は、驚いた拍子にその場に尻を着いた。次の瞬間、建物内から木箱が男達に向けて放たれた。

 

 

「な、何だ!?」

 

「……来た」

 

「?」

 

 

麗華の前に現れ出たのは、鋭い爪を持った猿人。赤い目を光らせると、猿人は咆哮を上げて男達を睨んだ。

 

 

 

 

「妖怪!?」

 

 

勇二が走らせる車の中、ぬ~べ~は後ろに座っている郷子達に話した。

 

 

「今向かってるところに、妖怪が住んでるのか!?」

 

「大昔、どこかの巫女が妖怪化した猿を、封じていたんだ。

 

そして、封印が解かれぬよう代々守っていたんだが、どういう訳かその血が途絶えたと風の噂で聞いた事があるんだ」

 

「その猿妖怪の封印が解かれてる可能性が、十分ある。

 

そこに、ご馳走とも言える麗華がいるって分かったら……」

 

「おじさんと龍二が駆け出すわけだわ……」

 

 

目的地に着く車……次の瞬間、銃声が鳴り響いた。車から降りた勇二は、中で待つようにぬ~べ~達に言うと、銃を構えて林の中へ入った。その後を茜と真二は追い駆け、真二は管狐を出して木の陰に隠れながら奥へ入って行った。

 

 

 

勢いを付け体を起こす麗華。頭に着いた砂を落とすようにして頭を振り、前に立っている猿人を見上げた。

 

猿人は鋭い爪で、麗華に触れた。壊れやすいものを触るよう慎重に触った。

 

 

「……お前」

 

「このぉ!!化け物が!!」

 

 

“バーン”

 

 

銃声と共に猿人は、叫び声を上げた。麗華の頬に触れていた爪に力が入り、思わず彼女の顔に傷を付けてしまった。

 

 

「ざまぁ見ろ!!

 

早くあのガキを、こっちに!」

 

「あ、はい!」

 

 

近付こうとしたその時だった。林から飛び出してきた何かに、男は顔面を蹴られ飛ばされた。銃を持った男が、ハッと振り向くとそこには拳を鳴らす、輝二と龍二がいた。

 

 

「……お兄ちゃん……父さん」

 

「人の妹連れ回すとは、いい度胸してるなぁ?」

 

「愛娘を連れ回すって事は、この後何が起きるかは覚悟してるんだよね?」

 

 

優しい微笑みを浮かべた輝二を見て、男達は恐怖で震え上がった。銃を持った男は、銃口を向けると弾を放った。その瞬間、彼等の前に管狐が現れ、銃弾を防ぎ止めた。

 

 

「ば、化け狐!?」

 

 

叫び声を上げたと同時に、男の顔面に龍二の飛び膝蹴りがもろに入った。彼に続いて、他の男達の顔面に蹴りを入れる輝二。

 

二人は息を合わせながら、その場にいた男達を全員殴り倒した。

 

 

 

集まる警察官達……腫れ上がった顔をした男達は、手錠を掛けられパトカーに連行されていった。盗まれた金は、無事銀行へ戻った。

 

 

その一方、輝二達は……

 

 

勇二から拳骨を食らい、たんこぶを作っていた。その隣で輝二は彼の手伝いをしていた。

 

 

「クソ……俺まで殴ること無いのに」

 

「まあまあ」

 

「麗華が無事だったんだし、よかったじゃなねぇか!」

 

 

頬にガーゼを貼った麗華は、来ていたぬ~べ~達と楽しそうに話していた。

 

 

「妖怪だけで無く、人間にも危険電波を発信しないとは……

 

何か、大物って感じね!麗華!」

 

「いや、危険電波もうバリバリ発信してたよ!」

 

「え?!」

 

「じゃあ何で早く逃げなかったの!?」

 

「あいつ等銃持ってたし……それに大人しくしとけば、拘束はしないって言ってたから」

 

「……」

 

「でもこの林に来た瞬間は、マジで焦った」

 

「何で?」

 

「この林、普段結界が張られてたはずなのに……結界が破られてた。

 

おまけにこの倉庫へ続く道に、古くなって自然に切れた注連縄が落ちてて、一大事だって思って」

 

「でも、犯人達麗華ほっといて何かやってたんでしょ?その隙に逃げれば……」

 

「逃げる前に、こいつがもういた」

 

 

そう言って、麗華は後ろを指差した。後ろには丙に傷を治して貰った猿人が、狼姿になっていた焔達と寛いでいた。

 

 

「あいつがいたから、逃げなかったのか」

 

「妖怪が暴れて、銃で殺られたら仲間が黙ってないからねぇ」

 

「へー」

 

 

「さてと、君等は俺の車で送るから」

 

 

白い手袋を取りながら、勇二は郷子達に歩み寄った。麗華は、彼の後から来た輝二の元へ駆け寄った。

 

 

「麗華はどうすんの?」

 

「父さん達と一緒に焔達と!

 

何か、心配掛けてごめんね」

 

「いいっていいって!」

 

「無事で何よりよ!」

 

「ヒヒ!どうも!」

 

「今回は怪我が無かったからよかったけど、これからは気を付けるんだよ」

 

「はーい」

 

「今度から焔だけで無く、鎌鬼着けとくか」

 

「いいよ。焔達だけで。

 

どっかの姫君じゃないんだから」

 

「妖怪達からすれば、お前は絶好の姫君なんだよ!」

 

「自分の身は自分で守れますぅ!」

 

「守れねぇ時があるだろ!!」

 

「そん時は焔達に守って貰うもん!」

 

「あのなぁ!!」

 

「はいはい!

 

外で兄妹喧嘩はしない!」

 

「いっちょ前に父親面すんな!!」

 

「龍二!言って良いことと悪いことがあるぞ!!」

 

「仕事仕事で、子供の面倒を見ない奴に、言う権利は無い!!」

 

「親に向かって奴とは何だ!奴とは!!」

 

 

始まった親子喧嘩……それを見た郷子達は苦笑いを浮かべ、勇二は呆れて溜息を吐きながら、目頭を抑えた。

 

傍にいた麗華は、軽く息を吸うと跳び上がり二人に踵落としを食らわせた。

 

 

「喧嘩する前に、あのお猿さん封印するよ!」

 

「は、はい……」

「は、はい……」

 

「さすが、二人の姫君」

 

「娘(妹)には、頭が上がらないってか?」




皆が帰った頃……林の奥にあった洞窟に、猿人を封印し終えた三人は、林の中を歩いていた。


「フゥー、これで片付いたか」

「まさか、封印が解けていたとは」

「あの猿、全然攻撃的じゃなかったのに、何で封印する必要があるの?」

「妖怪になってから、自分の力の制御が出来ないから、俺等の先祖に頼んで封印して貰ってたんだ。

元々、人が大好きな妖怪だから自分の力で傷付けたくなかったんだろうね」

「フーン……」

「でも、あの封印って確か……

お袋がやってたんだろ?」

「まぁ、そうだけど……




もういないからね」


輝二の言葉に、二人は少し暗い表情を浮かべた。だがすぐに、麗華は顔を上げそして龍二の右手と龍二の左手を握った。


「全然寂しくないもん!

父さんとお兄ちゃん達がいるから!」


その言葉に反応したのか、三人の肩に乗っていた焔達は狼姿になり、各々の主に擦り寄った。


「渚達もいて、まだ寂しいなんて言ってたら、お袋に怒られるな」

「だね。優華にお尻引っぱたかれちゃうよ」

「よっしゃー!家まで競争!」

「あ!コラ!待て麗華!」

「二人共!ルール違反!」


焔達に跳び乗った三人は、空へと飛び月明かりが照らされた夜の空を駆けていった。


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逆さの学校

学校を走る体育教師……


「どうなっているんだ?

逆さだ……逆さだ!」


教室へ入る教師……ところがその教室は、天井が床に床が天井に来ていた。すると、後ろからおぞましい影が現れ、教師は逃げようと窓の外へ出た。


「!!」


だが、窓の外まで逆さになっており、教師は真っ暗な空へと落ちて行った。


「わざわざ、童守中に来ていただいてすみません。

 

霊能力教師、鵺野先生の噂は中学でも有名でして」

 

「そ、そうですか。あはは……」

 

 

童守中学の校長と一緒に、ぬ~べ~は後者を見回っていた。

 

 

「知っての通り二週間くらい前、うちの体育教師が行方不明になりまして……宿直の時の出来事で。

 

生徒達の間でも、噂になって大騒ぎですよ。

 

 

我が校の七不思議の一つ『逆さ学校』に出会って死んだと……」

 

「逆さ?」

 

 

天井を見上げながら、廊下を歩いていたぬ~べ~……その時、何かに足を取られバランスを崩し転び、仰向けの状態で倒れた。

 

 

「キャハハハ!!

 

何やってんのよ、0能力教師!」

 

 

転び目に映った人物……それは紫色の髪を腰下まで伸ばした葉月いずなだった。さらにいずなの後ろに、郷子と美紀の姿もあった。

 

 

「いずな!そうか…君はこの学校の生徒だったな。

 

しかし何で、郷子や美樹まで?」

 

「いずなお姉さまが、面白いことがあるからって、呼んでくれたの!」

 

「ねぇ今回の事件、私に回してくんない?

 

最近、退屈してたしさー。私だって立派な霊能力者だし!」

 

「駄目だ!危険だ!

 

君みたいな半人前の霊能力者が!」

 

「何よ!私は東北のイタコのサラブレッドよ!」

 

「ほーお、サラブレットね!だったら、真二君にでも勝ってくれ」

 

「真二って誰よ!」

 

「うるさい!!とにかく、まだ除霊は無理だ!!この未熟者イタコギャルが!!」

 

 

「あれ?馬鹿教師じゃねぇか?」

 

 

その声に、ぬ~べ~は手を止め後ろを振り返った。そこには制服を着た真二と麗華がいた。

 

 

「真二!それに、麗華!」

 

「よっ!」

 

「何で真二さんがここに?」

 

「俺ここの卒業生でさ。後輩からこの学校で起きた事件の事聞いて来たんだ」

 

「麗華は何で?」

 

「龍二は今日、学校の用事で帰るのが遅くなるって。緋音は部活と委員会で龍二と同じく帰るのが遅いみたいだし……

 

待たせるのも可哀想だからって、俺が一緒に帰ることとなりました!」

 

 

笑いながら、真二は麗華の肩に腕を回した。

 

 

「つー訳で校長。今回の事件、俺に任せてくれ!このイタコの血を引いたこの滝沢真二さんが、見事に解決してやる!」

 

「イタコの血?」

 

「真二さんは、いずなさんと同じくイタコの血を引いてるの!」

 

「けど、男っていう理由でこっちに来たんだって!」

 

「違うわい!親の都合でこっち来たんだ!

 

つーか、何年前の話をしてんだ!!」

 

「へ~、アンタが真二って人ね」

 

「?誰だ、このくそ女は」

 

「葉月いずな!

 

自称“東北のイタコのサラブレッド”って威張ってる女子中学生。修行ほったらかして、こっちに上京したみたい。

 

過去の戦闘見てる限り、まったく無能」

 

「ちょっと何よ!この女!

 

言ってくれるじゃない!何の霊力もないくせにさ!」

 

「お前よりはあるわ!!馬鹿女!!」

 

「何ですって!!」

 

「真兄!筒貸して!」

 

「応!」

 

 

ポケットから筒を取り、真二はそれを麗華に渡した。彼女は筒を受け取ると、それをいずなに向けた。

 

 

「出でよ!管狐!」

 

 

筒から出てきたのは、白い管狐だった。管狐は声を上げ、いずなを睨んだ。

 

 

「お前には、こういう管狐出せますか??

 

出せませんでしょ?無理でしょ?見てる限りじゃ、まともな管狐出してないもんね!」

 

「生意気な口訊いてるんじゃないわよ!!

 

管!!」

 

 

麗華に向けていずなは管を出し、攻撃しようとした。その瞬間、真二がもう一つの筒から管を取り、いずなが出した管を攻撃した。彼女の管は、あっさり負け筒へと戻った。

 

 

「親友の妹、攻撃されちゃ困るんだよねぇ」

 

「う、嘘?!

 

わ、私の管が!!」

 

「無能なイタコ。俺の姉貴の方が、よっぽど能力はある」

 

「な、何よ!!」

 

「お前、実家に帰れ。そんでやり直してこい」

 

「はぁ?!」

 

「霊力無さ過ぎなんだよ!そんなんでよくもまぁ、そこにいる馬鹿教師や大事な妹に威張れるよなぁ」

 

「何よ!!年上だからって、偉そうに説教しないで!!」

 

「偉そうにしてるのはどっちだ?!

 

俺はな、お前みたいな半人前で偉そうな事を言ってる野郎が一番嫌いなんだ。

 

 

そうだ……勝負しようぜ?」

 

「勝負?」

 

「今回のこの事件……どっちが先に犯人を捕まえられるか、勝負しよう。負けたらお前は速攻で実家に帰って出直してこい」

 

「良いわよ!!引き受けてあげる!!

 

けど、アンタが負けたら私に偉そうに説教しないで!!」

 

「あぁ、いいぜ!

 

説教は、全部そこにいる教師にして貰うから、そのつもりで……

 

 

つーわけで校長、今回の事件俺等に任せてくれよ」

 

「し、しかし……」

 

「いいよな?校長」

 

「は、はいぃ……」

 

 

怯えたように、校長は許可を出した。啀み合う二人を見ながら、ぬ~べ~達は麗華に寄った。

 

 

「何か……とんでもない事になったぞ?」

 

「いずなお姉様と真二さんが、対決するなんて……どっちが勝つか見物だわ」

 

「ああなると真兄、手が着けられないからねぇ……

 

先生、審査お願い」

 

「待て待て。俺は明日おじの法事で九州に行くから……」

 

「何だ、いねぇのか……そんじゃ、麗華。お前審査員な!」

 

「遅くなると、お兄ちゃんに怒られるよ!」

 

「お前は俺のお供ってことで!」

 

「私の話、聞いて!」

 

「大丈夫大丈夫!俺がついてるし、焔のいるし!な!」

 

「いや、俺がいるからって……(駄目だ、こりゃ)」

 

「コラコラ!勝手に事を決めるな!

 

俺が帰ってくるまで、余計な事をするんじゃないぞ!特にいずな!」

 

「分かりました」

「分かってるわよ!」

 

 

 

その日の夜……

 

校舎の中へ、侵入するいずな達……

 

 

「ほ、本当に大丈夫?」

 

「当ったり前でしょ!

 

この男に勝負掛けられた以上、負けられないもの!!」

 

「精々、負けねぇ様にな」

 

「半人前イタコ!」

 

「いちいちムカつく言い方ね!!」

 

「そんじゃ、俺と麗華はこっちに行くから、お前等はお前等で頑張りな!」

 

「えぇ!!麗華、真二さんと一緒なの!?」

 

「半人前の人と一緒に行動なんかしたくない」

 

「アンタね!!夕方もそうだけど、いちいち偉そうな口訊くんじゃないわよ!!郷子ちゃん達と同じ小五のくせして!!」

 

「そっちこそ、半人前が偉そうなこと言わないでよ!!

 

私は陰陽師の血を引いている、山桜神社の桜巫女だ!お前みたいに修業ほったらかして、この戦場にいるんじゃないの!!

 

こっちは命懸けの修業を終えて、ここに立ってるの!!お前と一緒にしないで!!半人前のイタコ女!」

 

「お、陰陽師?!それって確か、阿部清明の」

 

「そうだよ。

 

ま、分家だけどね。何?怖気着いた?い・ず・な・ちゃん?」

 

「つ、ついてなんかないわよ!!郷子ちゃん、美樹ちゃん!行くわよ!」

 

「あぁ!いずなさん!」

 

 

先行くいずなの後を、郷子と美紀は追いかけて行った。彼女達の後姿を見届けると真二はため息を吐き、麗華はいずなに向かってあっかんべーをした。

 

 

「全く……強情っ張り奴だな」

 

「ああいう奴が、早死にするんだよ!」

 

「そう言うなって」

 

「ねぇ、真兄あっち行く?」

 

「何だ、気付いてたのか」

 

「一応ね。どうする?

 

正直、郷子達がいなければほっときたいんだけど」

 

「まぁまぁ。

 

 

仕様が無い……後ろから、こっそりついてくか」

 

「え~……」

 

「文句言うな」

 

 

 

静まり返った廊下を歩くいずなと郷子、そして美樹……

 

 

「夜の学校ってのは、気味悪いわねぇ」

 

「い、いいかい……しょん便ちびるんじゃないわよ。

 

怖がったら、妖怪の思うつぼ……」

 

 

郷子達に助言していたが、二人は慣れた様な顔でスタスタと廊下を歩いていた。二人とは真逆に、いずなの脚はガタついていた。

 

 

「わ、私より先に行くんじゃないわよ!!」

 

「?」

 

「怖がっているんなら、後ろで震えてていいよ!」

 

 

廊下を歩く三人……その時、天井から長い舌が伸び、舌は三人の頭を舐めた。三人は悲鳴を上げ、その場に座り込んだ。

 

 

「な、何なの今の?!」

 

「嫌だぁ!!お化け屋敷のコンニャクみたい!」

 

「え?!」

 

「どうしたの?郷……嘘!?」

 

 

今まで正常だったはずの廊下が、いつの間にか天井へと逆さまになっていた。

 

 

「さ、逆さ……」

 

「逆さになってる!!」

 

「見て、逆さにぶら下がってるよ、蛍光灯……」

 

「私等だけ、重力が逆になってるのよ……

 

妖怪の術にかかったのよ。

 

 

いるわ、何か……そこね。

 

出ておいで!!」

 

 

いずなの声に答えるかのように、妖怪が姿を現した。下を長く伸ばし、蛇の体で這っていた。

 

 

「て、天井舐め……

 

大きな屋敷や城などに住む、昔からの妖怪よ……天井裏に人を引き込んで、殺す事もある凶暴な奴……

 

現代の学校で、七不思議になっていたとは……」

 

「い、いずなさん!助けてぇ!」

 

「任せといて!

 

阿耨多羅三藐三菩提!出でよ!管狐!」

 

 

いずなの筒から出てきた管狐達は、一斉に天井舐めに攻撃したが、管狐達はあっさり負けてしまった。

 

 

「駄目よ!全然、歯が立たない!」

 

「くそぉ……それなら……

 

霊能力自然発火!!」

 

 

天井舐めに向けて、いずなは火を放った。火は忽ち天井舐めを包んだが、天井舐めは自身の舌で火を消した。

 

 

「な、舐めて消しちゃった!」

 

「うっそぉ……私の必殺技なのにぃ……」

 

 

天井舐めは、火を消すといずな達に向かってきた。

 

 

「い、いずなさん、逃げよう!」

 

「け、けど……」

 

 

その時、天井舐めは鳴き声を上げいずな達に襲ってきた。

 

 

「キャァァアア!!」

 

 

「水術渦潮の舞!!」

 

 

天井舐め目掛けて、突如水の攻撃が放たれ、天井舐めはガラスを割り激突した。放たれた方を見ると、そこには麗華達がいた。

 

 

「れ、麗華!それに真二さん!」

 

「やっぱし、こっちだったか……

 

お前、本当に使えないイタコだな?」

 

「っ……」

 

「さっきの管狐、酷過ぎだぞ?全然霊力ねぇじゃん。おまけにさっきの火、あれは何だ?火遊びでもしたかったのか?」

 

「火だったら、焔の方が強いし!」

 

「う、うるさい!!説教すんな!!」

 

「テメェはここで大人しく見てろ!!

 

麗華、水の技を俺の管狐に」

 

「応よ!」

 

「いでよ!管狐!」

 

 

筒から出てきた数匹の黒い管狐……麗華は氷鸞に指示をし、氷鸞は彼女の言う通りに、管目掛けて水を放った。水を覆った管は、鳴き声を上げながら天井舐めに攻撃した。

 

 

「す、凄ぉ」

 

「まだまだ!」

 

 

真二の声に反応してか、水を覆った管は天井舐めにもう一発攻撃を食らわせ、窓へと突き飛ばした。窓の外は学校の中と同様に、逆さになっており天井舐めは空へと落ちて行った。

 

 

天井舐めを倒すと、真二は管を筒へと戻し麗華は氷鸞を手元へと戻した。天井舐めを倒したおかげか、校舎は元通りになっていた。

 

 

「これで勝負は決まったな?」

 

「ゥ……」

 

「し、真二さん……」

 

「まさか……」

 

「……しばらくは、あの教師のいう事をしっかり聞くんだな。

 

でなきゃ、本当に実家に帰って修行して来い」

 

「え?」

 

「じゃあ」

 

「今回は引き分けだ。

 

言っとくけど、俺はまだテメェを認めちゃいねぇから、そのつもりで。帰るぞ、麗華」

 

 

筒をポケットにしまいながら、真二は先に歩き出した。肩に乗っていた焔を撫でながら、麗華はいずなに笑みを見せて、先行く彼の後を追いかけて行った。

 

 

ポカーンと口を開けていたいずなに、郷子と美紀は彼女に抱き着いた。

 

 

「やったね!いずなさん!」

 

「実家に帰らずに済んだのよ!」

 

「ハ…ハハハ……

 

と、当然よ!」

 

 

立ち上がりいずなは高笑いをした。笑いながら、二人の背中を見た。

 

 

(今回は、私の負けね。悔しいけど、二人の力は認めるわ。

 

真二さんと麗華ちゃんか……二人とも、強いなぁ。私ももっと強くならなくちゃ!今度は真二さんに認められる位)




その夜……


「お前、一体こんな夜遅くに麗華と一緒に、どこ行ってたんだ?」


麗華宅の居間で正座する真二を前に、龍二は怒りの形相で彼を睨んでいた。


「だ、だから…その……中学に行ってて」

「こんな夜遅くに、何で中学行く必要があんだ?」

「いやぁ……後輩から中学で起きてる事件聞いて、それで…解決しようかなぁって」

「何で、麗華が一緒に行くんだ?

俺は今日、部活会議と学校の仕事があるから、帰ってくるまで麗華の面倒を頼んだのに……何で、二人して俺より帰りが遅いんだ?」

「いや……だから、中学」
「言い訳すんじゃねぇ!!」

「す、すいませーん!!」


龍二怒られる真二……彼の怒られる姿を見ながら麗華は怖がる子犬のような表情をして、その場にチョコンと正座していた。傍にいた緋音はヤレヤレと云わんばかりに手を上げて事を済ました。


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土蜘蛛の怪

“ガシャーン”


「しまった!!逃がした!」

「早く捕まえろ!」

「すみません!脱走しました!」

「クソォ……

あれが人前に出たら、大変なことになるぞ」


登校する生徒達……大あくびをしながら、麗華は教室へ入った。

 

 

「さっきそう話してたのよ!」

 

 

そう言い張りながら美樹は、何かを話していた。麗華は荷物を机の上に置くと、郷子の隣に立ち質問した。

 

 

「細川、何かあったの?」

 

「それがね、この童守町に妖怪が入ってきたんだって」

 

「妖怪って……

 

毎回いるじゃん、妖怪」

 

「それが普通のと違うの!」

 

 

麗華の答えに、美樹は言い寄りながら強く言った。

 

 

「違う?何が?」

 

「その妖怪、元々はどこかの研究所で研究されてたんだけど、職員が誤って鍵をかけ忘れて脱走して、今この童守町に来てるんですって!」

 

「……どこで聞いたの?そんな話」

 

「今朝ゴミ出ししてた奥様方から!」

 

「奥様方……ハックション!」

 

「うわっ!だ、大丈夫?」

 

「今朝からくしゃみが止まらなくて……」

 

「風邪か?」

 

「分かんない」

 

 

チャイムが鳴り、ぬ~べ~が入ってきたのと同時に、美樹の周りにいた生徒達は皆各々の席へ着いた。

 

 

 

お昼過ぎ……

黄色いテープが貼られた現場に、白い手袋を嵌めながらやって来た輝二と勇二は、テープを潜った。

 

奥にはミイラ化した女性の遺体と男性の遺体があった。

 

 

「何だこりゃ?」

 

「人が犯人…じゃあ無さそうだね」

 

「見るからにそうだろう。

 

酷い有様だな」

 

「全ての体液を吸われたみたいだね。

 

ほとんど血が無い」

 

「体液を吸う……妖怪か?」

 

「勇二も感じてるだろ?強い妖気」

 

「微かにな」

 

「そんじゃあ、妖怪で確定かな」

 

「つう事は……」

 

「また俺等だね。担当」

 

「っ……

 

俺等、警部なのに」

 

「まぁまぁ」

 

「……?

 

輝二、あいつ等」

 

 

勇二が指差す方向に目を向けると、そこにはスーツ風の服を着た男とチャラい格好をした男が立っていた。

 

 

「……悪い、ちょっと離れる」

 

「分かった」

 

 

そう言って輝二は、テープを潜り抜けその二人の男の元へ駆けていった。男の一人が彼に気付き手を振りながら、呼び掛けた。

 

 

「やっぱり、来てたか」

 

「ここから、同じ気配を感じたからな」

 

「君等の仲間?」

 

「可能性は高い」

 

「仲間と言うより、同じ種族なだけだ。な!」

 

「そうだな」

 

「……二人とも、麗華と龍二を」

 

「そのつもりだ」

 

「了解しました!輝二!

 

よっしゃー!麗華を迎えに!!」

「お前は龍二だ。

 

麗華は俺が行く」

 

「えぇ!!何でぇ!!」

 

「喧嘩、するなー?」

 

 

 

放課後……

 

 

「麗華?大丈夫?」

 

 

保健室へ来た郷子はカーテンを開けながら、声を掛けた。後からやって来た広と美樹と克也は彼女の鞄とプリント類を持って、郷子に続いて顔を覗かせた。

 

 

「あー、大丈…ゲホゲホゲホ!!」

 

「む、無理に答えなくていいよ!」

 

「俺等、鞄とプリント類持ってきただけだからさ!」

 

「あ、ありがとう」

 

「それより、熱は?下がった?」

 

「全然……つか、さっきより上がったみたい」

 

「マジかよ!?」

 

「本当、大丈夫?

 

顔赤いし、目が死んでるけど……」

 

「うん、大丈夫……薬飲んで寝てれば」

 

 

そう言いながら、麗華はベッドの上で再び倒れ寝てしまった。

 

 

「完全ダウンだな、これ」

 

「お兄さん来るまで、待つか」

 

「だね!麗華の看病もしないと!」

 

「そうそう!」

 

 

「その必要は無い」

 

 

その声と共に保健室に、あのスーツ風の服を着た男とチャラい格好をした男が入ってきた。

 

 

「だ、誰?!」

 

「不審者か?!」

 

「んな訳あるか。そいつの保護者だ」

 

「嘘だぁ!!

 

麗華にこんなお兄さん達がいるなんて、聞いてないもん!」

 

「兄貴じゃねぇ……保護者だ!」

 

「もうこいつ等ほっといて、早く連れて帰ろうぜ」

 

「怪しい奴に、麗華を渡せるか!」

 

「そうよ!」

 

「……学校が楽しいって言ってたのは、本当らしいな」

 

「え?」

 

「……!

 

兄貴!」

 

「来やがったか……」

 

「え?何が?

 

って、ちょっと」

 

 

郷子達を退かした男は、勢い良くカーテンを開けベッドで眠る麗華を、横に持ち上げた。

 

 

「待てよ!麗華を連れて行こうなんざ、俺が許さねぇ!!」

 

「邪魔だ。

 

お前等も早く帰れ。次期危険が来る」

 

「危険って?」

 

 

その時、突如学校全体に黒い影が覆い被さった。いきなり暗くなったことに気付いた広達は、窓の外を見た。

 

暗くなった校庭に立つ、人の姿が目に入った。だがその人は形を変え、巨大な蜘蛛の姿を変えた。

 

 

「いっ!?く、蜘蛛!?」

 

「もう来やがったか……

 

退路を開くぞ!」

 

「アイアイサー!」

 

 

チャラい格好をした男は、ベルトに射していた銃を手に取りBB弾を放った。放たれたBB弾から、煙が上がり入ってきた何かが奇声を上げた。

 

 

「ナーハッハッハ!!どうだ!?唐辛子入り煙玉は!!」

 

「自慢してねぇで、とっとと行くぞ」

 

「応!」

 

 

机の上に置かれていた麗華の鞄を手に、二人は保健室から飛び出した。その後を広達は慌てて追い駆けていった。

 

 

走る男に担がれていた麗華は、スッと目を開けた。

 

 

「あれ?何で?」

 

「お!麗華、目ぇ覚めたか!?」

 

「……どういう状況?」

 

「お前を狙ってる妖怪が、ここにいる」

 

「……!!

 

この気配……まさか」

 

「そのまさかだ」

 

「うぅ……もう嫌だぁ!!

 

ゲホゲホゲホゲホゲホ!!」

 

「やべぇ!!麗華が吐く!!」

 

「吐かない!!

 

でも揺らさないで!マジで吐きそう……」

 

「吐くな!」

 

 

女子トイレの前に立つ牛鬼と安土……トイレから出て来た麗華は、フラフラとしながら頭を抑えて、その場に座り込んだ。

 

 

「大丈夫か?」

 

「お家帰りたい」

 

「そうしたいのは、山々だが……

 

完全に逃げ道を塞がれた」

 

「あいつ倒さねぇと、帰るのは無理だな」

 

「帰りた~い」

 

「もうちょい我慢してくれ。なぁ?」

 

「う~……」

 

「……で?

 

 

何で、テメェ等までついて来てんだよ」

 

 

廊下で待っていた広達に、牛鬼は彼等を睨んで質問した。

 

 

「だ、だってお前等、怪しい奴等だから……」

 

「麗華がさらわれるかと思って……」

 

「あぁ、大丈夫……

 

こいつ等、近所で喫茶店経営してる妖怪の兄弟……」

 

「本当?それ」

 

「ホント……

 

つか、もう質問しないで……マジで吐きそう」

 

「もう一回、吐いてこいよ」

 

「胃液しか、出ない……

 

 

帰りたい……」

 

「あーあ、お前等がとっとと麗華を寄越してくれれば、あの変な野郎から逃げ切れたのに」

 

「だ、だって!!」

 

「言い争ってる暇はない。

 

オイ、お前等の担任はいないのか?」

 

「いると思うよ。学校がこうなってるから……」

 

「てか、何か……変じゃない?」

 

「変?何が?」

 

「私達が麗華の所に来たのって、掃除終わってからよね?」

 

「う、うん……」

 

「その時、校庭にも校舎にもまだ他の生徒がいたはずよ!

 

なのに、さっきから私達以外、人の気配が全くしないんだけど……」

 

「言われてみれば……」

 

「確かに……

 

というか、これだけ校舎の外が暗くなってるのに、誰の声も聞こえないなんて……」

 

「……やられたな」

 

「だね」

 

「え?どういう事?」

 

「別世界に、俺等は放り込まれたんだ」

 

「別世界?」

 

「俺達がいる世界を中心として、この世には色々な世界があるんだ。

 

 

妖怪しかいない世界。

 

何もない世界。

 

死後の世界って。まだまだあるけどな」

 

「恐らく、俺等は妖怪しかいない世界に放り込まれた。

 

さっきから、力が凄い漲る」

 

「あぁ、それ俺も感じてた」

 

「てことは……」

 

「俺達は……」

 

「絶好の餌って事じゃない!!」

 

「お前等より、麗華の方がご馳走だ!」

 

 

“カラン”

 

 

何かが転がる音が聞こえ、郷子達は後ろを振り返った。暗い廊下からヌッと出て来た一人の女性。女性は郷子達に気付くと、ニタァっと笑いそして追い駆けてきた。

 

 

「ギャー!!なんか来たぁ!!」

 

「走れぇ!!」

 

 

牛鬼の声に郷子達は一斉に走り出した。安土は麗華を担ぎ先頭を走り、牛鬼は彼等の後ろを走りそして角を曲がる寸前に、糸の壁を作り上げ道を塞いだ。

 

 

理科室へ逃げ込んだ郷子達……麗華はふらつく足で、扉に札を貼り結界を張った。

 

 

「これで……時間……」

 

 

言いながら、麗華はその場に倒れた。郷子達は慌てて駆け寄り、彼女を呼び掛けた。

 

 

「ただでさえ、この熱だ。

 

この状態で結界なんか張ったりしたから、一気に体力が無くなったんだよ」

 

「そんな……」

 

「とりあえず、寝かしとくか……

 

一応、水はあるし」

 

 

そう言いながら、牛鬼は麗華を持ち上げ机に寝かせた。安土は腰に巻いていた上着を、彼女に掛けた。

 

 

「……本当なら、茂の所に行って診て貰う予定だったのに」

 

「だからごめんって……」

 

「謝る必要はない。

 

既に俺等は、あの妖怪に目を付けられていた。

 

 

だから姿を変えて、ここへ入ったんだが……敵の落とし穴に嵌まって、それにお前等を巻き込んだ。それだけだ」

 

「……」

 

「それに今はこいつ等を責めてる場合じゃない。

 

どうやって、こっから抜け出すかだ。早く出ないと、俺等はまだしも、こいつ等全員、妖怪の餌食になる」

 

「だな。

 

 

ところで、焔はどこ行った?」

 

「あいつは、この世界に着ていない。

 

恐らく、敵に追い出されたんだろう」




「……」


目を覚ます焔……頭を振りながら、起き上がった。自身がいたのは、保健室前の廊下だった。


「……何だ、この妖気。

麗!!牛鬼!安土!!」


人の姿へとなり、焔は駆け出した。角を曲がろうとした時、彼は誰かとぶつかった。


「痛ってぇ……

!?お前、鬼の!」


ぶつかったのは、数枚のプリントを持ったぬ~べ~だった。


「何だ?焔かぁ。

て、お前人の姿になっちゃ……!?」

「やっと気付いたか」


焔を退かしぬ~べ~は、保健室の戸を開いた。そこにいるはずの、郷子達の姿は無く置かれているベッドの中は
、空になっていた。


「……何だ、この強い妖気は。

それに、あいつ等の姿が」

「妖気はビンビンに感じるのに、姿が見えない」

「とりあえず、学校を見て回る。手伝ってくれ」

「その必要はない。


麗もあいつ等も、この近くにいるのは間違いない」


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研究された妖怪

「……?」


眠っていた麗華は、スッと目を開けると体を起こした。


(凄い妖気……)


その時、突如ドアが破壊され外から獣の妖怪が入ってきた。


「!?」

「グルルル……」


目が無いのか、獣は鼻を動かしながら辺りをキョロキョロと見回した。麗華は薙刀を出そうと、ポーチに手を掛けた時、突然後ろから手で口を塞がれた。

後ろに目をやると、そこにいたのは静かにするように言うようにして、口に人差し指を当てた牛鬼だった。

傍には郷子達が、身を潜めながら獣を警戒していた。


「ど、どうする?」

「音を立てずに、外に出ろ」

「あ、あぁ……」

「安土、誘導しろ」

「分かった」


指で合図しながら、安土は郷子達を誘導した。全員が外へ出て、最後に広が出ようとした時だった。

壊されたドアの破片を、彼が踏んでしまった……その音に、獣は広達の方に体を向けると鼻を動かしながら、彼等の方に向かった。


咄嗟に麗華は、机を思いっ切り叩いた。そしてポーチから、札を出し自身の血を着けた。


「我に……力を貸せ!

急急如律令!!」


札は煙を上げそこから出て来たのは、氷鸞と雷光だった。彼等は、突進してくる獣に攻撃を食らわせた。怯んでいる獣に、氷鸞は氷の息を吹き付け凍らせた。その隙に、安土は郷子達を外へと逃がし、牛鬼達と共に廊下を駆けていった。


霊水晶から保健室を見るぬ~べ~……

 

 

「肉眼では見えないが、この部屋の空間に亀裂がある」

 

「そこが開いて、麗達が……」

 

「可能性は高い。

 

開くには、この亀裂を作った本人がいないと……」

 

「そんなら、こじ開けるだけだ」

 

 

手に炎を纏わせ、拳を作ると焔はその亀裂を殴った。だが亀裂が広がっただけで、穴は開かなかった。

 

 

「クソ!開かねぇ!」

 

「当たり前でしょ!」

 

 

 

場所は変わり、別世界の家庭科室へ来た郷子達。

 

 

「これから、どうする?」

 

「どうするって……外に出れば、妖怪がそこら中にいるのよ!」

 

「けど、いつまでもこのままじゃ……」

 

「保健室……」

 

「え?」

 

「保健室に行けば、何とかなる」

 

「……確かに、そうだ」

 

「じゃあ」

 

「安土、こいつ等を全員保健室へ連れて行け」

 

「分かった」

 

「氷鸞、牛鬼の援護に」

 

「分かりました」

 

 

廊下へ出る牛鬼……彼は姿を変えると、手に毒槍を出し構え音を立てた。するとその音に導かれたのか、黒い霧が上がり、その中から人の姿をした妖怪が現れた。

 

 

白い上下の服を着て、首輪を付けた青年……

 

 

「……人?」

 

「まさか、人に妖気を浴びさせたの?」

 

「え?」

 

「麗華、それって……」

 

「……話でしか聞いたことないんだけど……

 

強い妖気を浴びた人間は、半妖になるって」

 

「半妖?

 

半分人で半分妖怪って事か?」

 

「うん……それに、かなり危険」

 

「え?危険?」

 

「半妖は、理性を失っている奴が多い。

 

あれば、話で終わるんだけど……無ければ……」

 

「無ければ?」

 

「……私達、全員お陀仏」

 

「……」

 

 

「人……妖気」

 

「?」

 

 

歩み出す半妖……すると、口から糸を吐き、その糸は牛鬼の腕に絡んだ。

 

 

「牛鬼!!」

「兄貴!!」

 

「早く行け!!」

 

「私達は、後から行きます!」

 

「分かった」

 

 

馬になっていた雷光の背に広達を乗せ、麗華は妖怪化した安土に担がれ、二人は駆け出した。

 

 

階段に差し掛かった時、前に妖怪が現れ攻撃してきた。

 

 

「うわっ!攻撃!」

 

「しっかり掴まってろ!」

 

「え?ちょ、ちょっと!!」

 

 

妖怪を飛び越えるかのようにして、二人は跳び上がり階段を飛び越えていった。

 

 

「す、凄え……」

 

「し、死ぬかと思った……」

 

「そのまま突っ切って!!

 

安土!」

 

 

彼から降りた麗華は、札を出しそれに自身の血を付けた。札は煙を上げそこから出て来たのは、薙刀だった。束を掴むと、雷光を攻撃しようとする妖怪達を次々に滅多切りした。

 

 

「だ、大丈夫なの?!動いて!」

 

「人間、気合いがあれば何とかなるんだよ!」

 

「……」

 

 

階段を一気に駆け下り、保健室へ着くと麗華はドアを勢い良く開けた。

 

部屋の中央に、微かだが亀裂が入っていた。

 

 

「ここだ!」

 

 

亀裂を見た麗華は、薙刀を振り上げ力任せにそこを叩いた。だがその亀裂はビクともせず、薙刀を弾き飛ばし持ち主の彼女までも飛ばした。

 

 

「麗華!」

 

 

「無駄だ……」

 

 

開けっ放しのドアの外から、聞こえてきた声……

 

前にいた麗華は、恐る恐る振り返った。巨大蜘蛛の姿で立つ半妖……顔は人間だが、体は蜘蛛その者だった。

 

 

「きゃー!!」

「わぁー!!」

 

「見つけた……

 

 

妖気」

 

 

麗華を見つめる半妖……恐怖のあまり、彼女は腰が抜け近付いてくる彼から逃げようと、後退りした。

 

 

「麗殿!!」

「麗華!!」

 

「邪魔はさせん!」

 

 

金切り声を上げると、その声に導かれたのか無数の妖怪達が保健室へ、集まった。

 

 

「ギャー!!妖怪!!」

 

「助けてぇ!!ぬ~べ~!!」

 

「チッ!合戦するぞ!!

 

雷光!麗華を頼む!」

 

「承知!」

 

 

人の姿へと変わった二人は、武器を手にして突っ込んできた妖怪達を叩き切っていった。

 

その間に、半妖は部屋の隅にいる麗華に近寄った。

 

 

半妖の前足が、麗華に触れた時だった。突如彼女の胸が、光り出した。半妖はそれに驚き、思わず後ろへ下がった。

 

 

「こ、この光……(まさか、優華?)」

 

 

麗華は服の下に隠していた勾玉を取り出し、それを首から取ると手に握りながら、立ち上がり薙刀を怯んでいる半妖に向かって、力任せに振り下ろした。

 

半妖は、足を切り落とされ悲痛な叫び声を上げながら、暴れ回った。

 

 

暴れ回る半妖に、廊下から氷の槍が突き刺さった。放たれた方に目を向けると、そこに怪我をした氷鸞と牛鬼がいた。

 

 

「兄貴!」

 

「その亀裂に向かって、攻撃しろ!!

 

雷光!氷鸞!」

 

「はい!」

「はい!」

 

 

亀裂に向かって、二人は雷と氷の技を放った。亀裂は広がり、そこに向かって安土と牛鬼は、毒槍を突き刺した。

 

 

亀裂は黒い雷を放ち、人一人が入れる大きさになった。その先には、ぬ~べ~と拳に炎を纏わせた焔が立っていた。

 

 

「お前等!先に行け!」

 

「で、でも……」

 

「グズグズするな!」

 

「うわっ!」

 

 

怖じ気着く郷子達を、牛鬼は無理矢理亀裂の穴へと押し入れた。

 

 

「全員、入った?」

 

「あぁ」

 

 

息を整える麗華……ポーチから数枚の札を出すと、それを半妖に向けて投げた。半妖の周りには薄い結界が張られ、半妖は徐々に人の姿へと変わった。

 

 

「俺は、一体……」

 

「もう、人としては生きられない」

 

「……」

 

「どうする?ここで、妖怪として生きるか……

 

もしくは、あの世へ逝くか」

 

「……もう、生きるのは良い。

 

あの世へ逝かせてくれ」

 

「うん……

 

 

縛久羅仙久羅仙且主結願菩提羅且那……

 

 

祓い給え、清め給え、急急如律令……

 

この者の魂を浄化し給え」

 

 

半妖は光の粒となり、消えていった。

 

彼をあの世へ逝かせると、麗華は薙刀をしまい氷鸞達と共に穴へ飛び込んだ。

 

 

 

亀裂から出て来た広達……彼等に続いて、牛鬼と安土、そして氷鸞と雷光が出て、その上に麗華が降りた。全員を出したと同時に、亀裂は跡形無く消えてしまった。

 

 

「お前等、無事か!?」

 

「ぬ~べ~!!」

 

「怖かった~!!」

 

 

ぬ~べ~に抱き着く郷子達……その傍で、麗華は氷鸞と雷光、そして薙刀を戻した。次の瞬間、彼女は力無く倒れた。

 

 

「麗華!!」

「麗!!」

 

「……酷い熱だ!

 

すぐに茂の所に!」

 

「焔!」

 

 

学校の外へ出ると、焔は狼の姿へとなった。その上に、牛鬼は麗華と共に乗り、それを確認すると焔は飛び立った。彼の尾に安土は掴み、共について行った。

 

ぬ~べ~達は、タクシーを呼びすぐに病院へ向かった。




病院のベッドで眠る麗華……


「麗華!!」


連絡を貰ったのか、血相をかいた龍二が病室へ飛び込んできた。彼女が眠るベッドの周りには、郷子達とぬ~べ~、安土達がいた。


「あ!お兄さん!」

「麗華、もう大丈夫そうですよ!」

「……良かったぁ」

「龍二」

「話がある」


そう言いながら、牛鬼は安土と共に龍二を連れ病室を出て行った。



庭へ出た三人……


「何だよ、話って」

「……麗華が付けてるアミュレットが、光った。

強力な妖気を放って」

「……」

「あれって確か、優華のじゃあ」

「……お前等も知っての通り、麗華は俺等より妖力が高い。

その為、様々な妖怪から狙われている」

「それは知ってる……」

「お袋が死んでから、あいつの妖力が一気に上がった」

「?!」

「制御が利かなく、一度だけ半妖になりかけた」

「そんなことが……」

「あの勾玉は、妖力が高かったお袋に親父が送った物だ」

「じゃあ、あれば妖力を抑える制御装置みたいな物か?」

「まぁ、そうだ」

「取ると、どうなるんだ?」

「……自身で制御が出来れば、問題は無い。

けど、あいつはまだそれが出来ない。


取れば、半妖になる可能性は高い」

「……」



病室へ戻ってきた龍二……中へ入ると、郷子達は既に帰っており、傍には起きた麗華と彼女に撫でられる狼姿の焔がいた。


「あ、お兄ちゃん」

「起きて、大丈夫なのか?」

「平気。熱も下がったし」

「そうか……でも、まだ寝てろ」

「いいよ。

それよりお兄ちゃん!


私ね!今日、母さんの声聞こえたんだよ!」

「え?声?」

「うん!

母さんが傍にいるから、勇気を出してって!そのおかけで、今日蜘蛛の妖怪と戦えたんだ!」

「……」


嬉しそうに笑う麗華。その表情に釣られて、龍二は笑みを溢して彼女の頭に手を乗せた。


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鬼の手使用不能

とある屋敷……

ベットの上で苦しむ一人の女性……その女性の身体には、人の顔に似たデキモノが覆い尽くしていた。


そんな女性を見るぬ~べ~に、両親は必死に彼に助けを求めていた。


「金ならいくらでも出す!

助けてくれ!娘には、何が憑いているんだ?!!」

「人面祖だ……

こいつは、幽体に融合している。だから手術で切り取っても、すぐに再生する。


こいつを治すには、幽体を出して悪霊を切り離すしかない。

南無大慈大悲救苦救難広大霊感!」


お経を唱えると、ベットの上で苦しんでいる娘の身体から、もう一人の娘が現れた。もう一人の娘にも、あの人面祖が取り憑いていた。


「見ろ……まるで幽体に、溶け込むかのようにくっ付いている……


切り離すぞ!」


鬼の手を出し、娘の幽体に憑いている人面祖を切り離した。だが隙を狙われ、切り離された人面祖は、ぬ~べ~の身体へと乗り移った。


「ぐああああ!!」


翌日……

 

 

「えー、今日は鵺野先生はお休みの為、代わりに学年の先生が交代で授業します」

 

 

教卓の前に立ち、律子先生は皆に説明した。

 

 

「先生、どうしたの?」

 

「さぁ……

 

連絡もないし、行方不明のようですよ」

 

「変よねぇ」

 

「ぬ~べ~が、理由もなく学校休むなんてなぁ」

 

「(まぁ、あの先生……

 

意外と信頼されてるのね。見直しちゃったわ)まぁまぁ、いくら教育熱心な先生でも一日くらいは」

「先生は今日みたいな、月末は給食だけで金欠だけで一日過ごすはずよ」

 

「そーよ!一日一回、律子先生のお尻を見ないと死ぬって言ってたわ!」

 

「電気代が嵩むから、宿直室で、テレビ見てクーラーにあたっているはずだよ!」

 

 

律子先生の思いとは裏腹に、生徒達はぬ~べ~の事を心配せずにいた。そんな生徒達を見た律子先生は、思わず肩を落としてしまった。

 

 

 

しかし次の日も、その次の日も、ぬ~べ~は来なかった。

 

そして、次の日……

 

 

克也の妹・愛美と友達二人が、花の水を代えに旧校舎へ行った。

 

 

水道で、誰かが顔を洗っていた。

 

 

「誰かしら?」

 

「この辺は、準備室や置物で、滅多に人来ないのにねぇ」

 

 

顔を洗っていた者は、三人に気付いたのか手を止め顔を上げた。

 

 

“パリ―ン”

 

 

その者の顔を見て、花瓶を持っていた子は思わず落してしまった。

 

顔は、化け物の様な顔をしていた。

 

 

「キャァアアア!!」

 

 

三人は、悲鳴を上げながらその場から逃げ出し、五年三組のクラスへと行った。

 

 

 

 

「何だって、旧校舎の三階に妖怪?!」

 

 

泣きながら、愛美は兄・克也に訴えてきた。

 

 

「そうなの!オペラ座の怪人みたいなの!」

 

「お兄ちゃん、早くぬ~べ~先生に言って、退治してもらって!」

 

「そ、それは」

「よし、すぐ行こう!」

 

 

克也が答える前に、広はそう答え教室に残っていた郷子達を見た。

 

 

「い、いいの?ぬ~べ~に知らせた方が」

 

「バカ!そのぬ~べ~がいないんじゃないか!

 

代わりに俺達が調べるしかない!

 

 

麗華、頼む!一緒に来てくれ!」

 

「アイアイサー!」

 

「サンキュー!」

 

「愛美は帰ってろ。後はお兄ちゃん達に任せて!」

 

 

愛美にそう言うと、広達は教室を出て行き、旧校舎の三階へと向かった。

 

 

 

 

現場である、流し場に着いた広達……

 

 

「あの流し場だ」

 

「何も居ない」

 

「奥の方に、隠れてるだけかもよ?」

 

「え?」

 

「ほら」

 

 

奥の方に耳を澄ますと、何かの呻き声が聞こえてきた。

 

 

「な、何だ?あの呻き声……」

 

 

恐る恐る、声の方へと向かうとある一室に辿り着いた。そこは『社会科資料室』と書かれた看板が架けられた教物置部屋だった。広達はソッとその部屋のドアを開けた。中には椅子に腰かけ、机に膝を着き苦しむ一つの影……広には、その人影に見覚えがあり、恐る恐るその名を呼んだ。

 

 

「ぬ~べ~?」

 

「お前達!?」

 

(……妖気?)

 

「教室に帰れ!俺に近付くな!」

 

「なーに言ってんだよ!散々人に心配掛けといて。

 

どうしたんだよ、先生!いい歳こいて、登校拒否か?麗華じゃあるまいし」

 

「悪かったね!」

 

 

ぬ~べ~を見ながら、広は部屋の隅に在ったスイッチを押し電気を点けた。

 

 

「見るな!!」

 

 

明かりが点き、ぬ~べ~の姿が見えた。その姿は左半分が、人面祖に覆われていた。

 

 

「いやあああああ!!」

「ぬ~べ~!!」

 

「こ、これって……」

 

「除霊に失敗した……取り憑かれている」

 

「いや、見りゃあ分かる」

 

「何とか……自力で除霊しようとしてみたんだが……

 

こいつは、俺の幽体に融合してしまっていてな……鬼の手を使わなければ、切り離せないんだ」

 

「こいつ、先生の左半身を支配してるね。

 

そのせいで、鬼の手が使えなくなってる」

 

「麗華の……言う通りだ」

 

「そ、そんなぁ……」

 

「それじゃ、絶対に除霊できないじゃん」

 

「どうするのよ!ぬ~べ~!」

 

「ハハ……

 

何とか、自分の霊力で追い払うさ……何日かかるか分からんが」

 

「俺達に、何かできることはないのか?」

 

「ハハハ……じゃあ、給食を頼む。体力を付けなきゃ」

 

 

ぬ~べ~の頼み通り、広達は部屋へ残りの給食を持っていき、部屋の外で中の様子を伺った。

 

給食を貪るぬ~べ~……

 

すると手にしていた食べかけのパンを落とし、苦しみだした。

 

 

(駄目だ……右半身も侵され始めた……

 

神経が麻痺して、体が言う事を聞かない!!

 

 

おまけに、無理に経文で除霊しようとすると、激痛を!)

 

 

抑えようと、お経を唱えるぬ~べ~だが、体に激しい痛みが走り、床に転がり倒れた。

 

 

(本当に……今回ばかりは、お手上げだ……

 

フ…フフ…ミイラ取りがミイラになるか……ちきしょう……参ったぜ)

 

 

弱り切った目で、ぬ~べ~はまるで助けを求めるかのようにして、部屋を覗く広達の後ろにいる麗華を見た。彼女は少し困ったような表情をして、頬を指で撫でた。

 

 

 

 

校庭で、遊具に腰掛ける広達……

 

 

「ぬ~べ~……もしかしたら、助からないんじゃ……」

 

「そ、そうよ。

 

ねぇ、あの顔絶望してたわ。私達の前じゃ強がってたけど」

 

「よくもそんな酷いこと、言えたものね!!散々助けて貰っといて!!」

 

「あ、アタシだって、どうしていいか分からないわよ!!」

 

「鬼の手……鬼の手の様に、霊を切り裂くことができるものがあれば……」

 

「おいおい、そんなもんあるわけねぇだろ?」

 

 

ふさぎ込む広達……そんな広達を見た麗華は口を開いた。

 

 

「助ける方法なら、一つだけあるよ」

 

「え?」

 

「ほ、本当?麗華」

 

「一度先生に、幽体離脱をやって貰って、幽体を出して貰う。

 

次に、焔達と力を合わせて私が薙刀で人面祖を切り離す!」

 

「何か、それ成功しそう!」

 

「早速ぬ~べ~に」

「けど、少しリスクが大きくて……

 

 

相当な体力と霊力を使うから、先生の命が危ないかも」

 

「?!!」

 

「そ、そんな……じゃあ、ぬ~べ~が」

「でも大丈夫。

 

先生だったら、鬼の霊力があるから少しは死ぬ確率が低くなる」

 

「じゃあ、ぬ~べ~を」

 

「助けることはできる」

 

「そうと分かれば、さっそくぬ~べ~の所に行くぞ!」

 

 

喜びながら、先行く広達と共に麗華も駆けていった。

 

 

 

 

再び部屋へとやってきた広達……

 

 

「お、お前等……」

 

「先生が除霊出来ないんなら、私がそいつを除霊する」

 

「?!!

 

駄目だ!!危険過ぎる!!」

 

「そんな事、分かってるよ!!

 

けど、先生を助けられる方法があんなら、俺達は助けたいんだ!」

 

「そうよ!今まで、いつも助けて貰ってきたんだもん!!」

 

「今度は俺達が助ける番だぜ!」

 

「恩を売りっぱなしで、死のうたってそうはさせないんだから!!」

 

「だそうです」

 

「お前等……」

 

「早く決めて~。こっちお兄ちゃんの雷が落ちるまでのカウントダウン、始まってんだから~。

 

 

 

どうするの?」

 

「……

 

麗華、頼む」

 

「そうこないと!」

 

「俺が、幽体離脱する……その時に」

 

「幽体離脱した後、雷光の雷を先生の体内に流す。かなりの激痛が走るけど……」

 

「構わない」

 

「分かった……

 

 

我に力を貸せ!急急如律令!」

 

 

ポーチから既に取り出していた札を投げ、雷光を出した。雷光を出した後、ポーチから一枚の紙を取り出し、指を噛み血を出した。血が出た指で麗華は持っている紙に触れた。

 

紙は彼女の血に反応し、煙を出しその中から薙刀が出てきて、麗華はそれを手に掴んだ。

 

 

その間に、ぬ~べ~はお経を唱え幽体離脱をした。その幽体を、雷光は麗華の指示に従い、雷を放った。

 

 

「グアアアアア!!!」

 

 

体に走る激痛に苦しみ叫ぶぬ~べ~……

 

麗華は、薙刀を振り上げぬ~べ~の幽体に着いた人面祖を切り落とした。切り落とした人面祖は、広達に襲い掛かろうと、突進してきた。その瞬間を、麗華はその攻撃を見逃すことなく、薙刀を振り払い人面祖を切り裂き倒した。

 

 

「やったぞ!」

 

「雷光、戻って。ご苦労さん」

 

 

幽体に放っていた雷を辞めた雷光は、紙に戻り麗華の元へと戻っていった。元の体に戻ったぬ~べ~に、広達は歓声の声を上げながら、抱き着いて行った。

 

 

「今回ばかりは、お前達の名案で助かった。ありがとう!」

 

「でも、この案考えたの、麗華なんだよ!」

 

「え?麗華が?」

 

 

前にいる麗華にぬ~べ~は目を向けた。麗華は頬を赤くし恥かしそうにして、そっぽを向いてしまった。

 

 

「(あいつ……)

 

麗華、ありがとう!」

 

「別に……気紛れでやっただけだ!」

 

「何照れてんのよ!麗華」

 

「照れてなんかない!!」

 

「またまたぁ!」

 

「けど、鬼の手がなくとも、俺達には麗華がいりゃいいかもな!」

 

「お!それ、言えてるかも!」

 

「怪我して責任取れるなら、助けてやってもいいよ。

 

お兄ちゃんの雷を食らうけどね~」

 

「意地悪!」

 

「ハハハ!

 

よーし、じゃあ今日は思い切って皆に」

「わあぁ!鰻でも奢ってくれるのかぁ!」

 

「いや……ラーメンをな」

 

「やっぱ、そういうところ、ぬ~べ~ね」

 

「っ……」

 

「奢る前に先生、兄に説明して下さい。

 

雷落ちそうなんで」

 

「っ……よ、ようし!

 

俺に任せなさい!」

 

「よかった!

 

もう、迎えにきてるんだ!」

 

「ほへ?!」

 

「説明宜しく!先生!」

 

「ぬ~べ~、終わったな」

 

「だね」



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予知夢

『輝二……』



『お願い……あの子達を』

優華?

『守って……あの子達が!』


目を覚ます輝二……

 

眠そうにあくびをしながら、伏せていた上半身を起こし体を伸ばした。

 

 

「随分お疲れみたいだな?」

 

「あ、勇二。

 

お疲れ」

 

「お疲れさん」

 

 

勇二から貰った缶コーヒーの蓋を開けると、輝二は一口飲み深く息を吐いた。

 

 

「そういや、お前奥さんの夢でも見てたのか?」

 

「え?何で?」

 

「寝言言ってたから」

 

「……あー、そういえば。

 

久し振りに見たなぁ。優華の夢なんて……しかも、あんな顔して」

 

「あんな顔って?」

 

「凄く心配そうな表情をしてたんだ。

 

それに、二人がどうとかって」

 

「二人?

 

それって、麗華ちゃんと龍二君のことじゃないのか?」

 

「多分……まさか、何かの予知?」

 

「知らねぇよ。

 

 

おおかた、二人を見ろって忠告じゃないのか?」

 

「見ろって……俺、ちゃんと子育てしてるよ!」

 

「してねぇだろ……とくにここ最近。

 

お前、いつ家に帰った?」

 

「う……」

 

「もう三日も帰ってねぇだろ?」

 

「そ、それは……」

 

「二人共、お前の仕事を理解できる歳かもしれないが、まだまだ子供だ。

 

とくに麗華ちゃんは、まだ親に甘えている年頃だぞ」

 

「え?そうなの?」

 

「お前なぁ……」

 

 

 

童守小……

 

休み時間、麗華は屋上にある給水タンクの上に座り、首に下げていた勾玉を眺めていた。

 

 

(……あれ以来、母さんの声がしない。

 

何で、光ったんだろう)

 

 

思い出すのは、牛鬼達と共に妖怪の世界へ入り、半妖と戦った時突然勾玉は強烈な光を放った。

 

そして、その光の中から母・優華の声が聞こえた。

 

 

(……そもそも、これって何だろう……

 

母さんが死んで、しばらく経ってから父さんから貰ったんだよなぁ。

 

 

先生に聞けば、何か分かるかな?)

 

 

タンクから飛び降りた麗華は、華麗に着地して校内へ入って行った。

 

 

 

「先生!」

 

 

職員室の戸を開けると、ぬ~べ~は自身の席で寝ながら何かを書いていた。呆れた麗華は、フードの中にいた焔に指示を出した。焔はフードから出ると、彼の机の上に乗り、手に噛み付いた。

 

噛み付かれた痛みで、ぬ~べ~は飛び起きた。その隙に、焔は麗華のフードの中に隠れ、ソッと様子を窺った。

 

 

「大丈夫?先生」

 

「何かに噛まれた……」

 

「寝ぼけてたんじゃないの?」

 

「いや、確かに……?」

 

 

フードの中から、ソッと覗いている焔にぬ~べ~は気付いた。

 

 

「……あ!お前か!?犯人!!」

 

「先生、気ぃ緩めちゃ駄目ですよ!

 

いつ何時、何が起きるか分からないんですから!」

 

「お前が悪戯しなければ、いい話だ!」

 

「『妖怪と戦う者、いつ何時も気を抜くな』って、輝三が言ってたよ!」

 

「輝三って、誰?」

 

「私の伯父さん」

 

「あ、そう……

 

で、何か用か?」

 

「聞きたいことがあって」

 

「ん?何だ?」

 

 

服の下に隠していた勾玉を取り出し、麗華はそれをぬ~べ~に見せた。

 

 

「これ、何だか分かる?」

 

「?

 

何だ?これがどうかしたのか?」

 

「実は……」

 

 

先日起きた事を、麗華はぬ~べ~に話した。

 

 

「なる程……

 

お前がピンチになった時、この勾玉が光ったと……」

 

「うん……

 

これが何なのか、先生になら分かるかなぁって」

 

「う~~ん……見た感じ、御守りのように見えるが。

 

それに、微かだが護符の様な役割をしてる」

 

「護符の役割……

 

やっぱり、御守りなのか」

 

「お前が産まれた時に、妖怪から守るために親が作ったんじゃないのか?」

 

「違う……

 

 

これ、元々母さんのだもん」

 

「母親の?」

 

「うん。母さんが死んでしばらくしたら、父さんが御守り代わりに持ってろって……」

 

「そうか……

 

病気で亡くなったのか?」

 

「ううん。違う」

 

「……」

 

「まぁ、あんまり覚えてないんだよね!

 

母さんが死んだの、私が小学校に入学する前だったから」

 

「……悪い、何か」

 

「いいって!

 

じゃあ先生、教室戻るね!」

 

「あぁ……!

 

 

麗華!」

 

「?」

 

「帰りのホームルーム、お前が主役になるぞ!」

 

「え?主役?」

 

「ホームルーム、楽しみに待っとけ!」

 

「……うん!」

 

 

嬉しそうに頷き、麗華は職員室を後にした。ぬ~べ~は、お茶が入った湯飲みを手に持ち啜った。

 

 

「神崎さん、何かあったんですか?」

 

「あ、いえ……ちょっとした質問に、答えたまでです」

 

「そうですか……

 

しかし、お母さんが亡くなって、四年か……」

 

「何か知っていらっしゃるんですか?田山先生」

 

「いえね……

 

僕、神崎さんのお兄さん……龍二君が六年の時に彼の担任をしていたんです。

 

 

卒業式前だったかなぁ……お母さんが亡くなったのは」

 

「そうだったんですか……」

 

「亡くなってから、相当苦労してたみたいですから。

 

卒業してしばらく経った頃だったかなぁ……短かった髪を少し長く伸ばして、女の子みたいにハーフアップにして……」

 

「何故、そんなことを……」

 

「僕も詳しくは知りませんが……

 

何でも、妹さんに寂しい思いをさせないためだとか」

 

「……」

 

「まぁ、妹さんの笑顔を見てると、少しホッとしますよ。彼の努力が、実っているって実感できますから」

 

 

眼鏡のブリッジを上げながら、田山は少し嬉しそうな表情をして校庭を眺めた。

 

 

 

放課後……席に着く郷子達。ぬ~べ~は、賞状筒を持って、教室へ入ってきた。

 

 

「先日、皆に描いて貰った絵を展示会に提出した。

 

そしたら、うちのクラスで金賞を取った奴が出た!」

 

「えぇ!!」

 

「誰?!」

 

「晶じゃないの?絵、頑張って描いたじゃん!」

 

「いや~。でも、あの絵あんまり自信ないんだよねぇ」

 

「ぬ~べ~、誰なんだよ!」

 

「勿体振らずに、教えてよ!」

 

「そう慌てるな。

 

では、発表する!

 

 

 

 

当選したのは、麗華!お前の絵だ!」

 

「……え?!」

「え?!」

 

 

驚きのあまり麗華は、思わず席から勢い良く立ち上がった。ぬ~べ~は、笑いながら筒から賞状を出し広げ、手招きをした。固まっている彼女に、郷子は軽く背中を叩き、教壇に向かわせた。

 

 

「凄え……麗華が金賞取るなんて」

 

「麗華、一年の時から絵が上手いもん」

 

「ほえー」

 

 

賞状を貰った麗華に、クラス一同は拍手を送った。彼女は照れ臭そうにして、頭を掻き嬉しそうに笑った。




鈴海高校の面談室……


困った表情をしながら、紙を見る担任を前に、龍二は真剣な眼差しで彼を見ていた。


「あのね、神崎君。

これ、三者面談なの。でね、親御さんがいないと何も……」

「連絡したって、親父は来ませんよ。

今、事件の山追ってて、三日も帰ってきてないんですから」

「いや、そうだけど……」

「話が無いなら、俺はこれで失礼します」

「いやいや、ちょっと!」

「親に何話したって、俺の考えは変わりません」


そう言うと、龍二は面談室を出て行った。

担任は深く溜息を吐きながら、困った表情を浮かべて進路志望が書かれた紙を見た。


そこには、警察官学校と書かれており、それ以外は何も書かれていなかった。


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四年前の事件

警察署……


会議室で、ホワイトボードに書かれた字と写真を見る輝二と勇二。


「また出て来たか」

「何なんでしょう……


確か、四年前にも通り魔がありましたよね?」

「あぁ。

当時の被害者は、計六人。

今回のも入れると、十人」

「酷い……

犯人の目星はついてるんですよね?」

「一応」

「じゃあ、何で捕まえないんですか!?」

「近付いたかと思ったら、逃げられる……

鼬ごっこ状態なんだよ」

「そんな……」

「こんな、若い人までを殺して、何がしたいんですかね」

「さぁね……」

「……



妖怪なら、互いを傷付けたりはしないのに」

「え?」

「輝二」

「あ……

ご、ごめん……さっきの、忘れて!」


引き攣った笑い方をしながら、輝二は会議室を出て行った。


「……どうしたんですかね。

神崎警部、いつもよりおかしい様な気が……」

「池蔵!」

「す、すいません!!」

「ああなるのも無理は無い」

「え?」

「この事件の被害者の中に、あいつの奥さんもいる」

「……」


そう言うと、勇二はホワイトボードに貼っていた一枚の写真を取り、それを机に置いた。その写真は、黒髪を一つ三つ編みに纏めた、若い女性だった。


「うわぁ、美人」

「神崎優華さん……

当時、三十四歳。娘を迎えに行く途中で、背後から刃物で刺され死亡。


爪から採取された皮膚片によって、犯人が特定することが出来た」

「神崎警部の奥さん、何か凄え」

「だが、特定できたものの……

それ以上は何も見つかることは無かった……」

「……」


屋上に出ていた輝二は、背広の内ポケットから写真を取り出した。それは、見晴らしの良い場所で、山をバックに自分達ともう一家族が写っていた。


「……四年か」

「四年がどうかしたか?」


背広のポケットから出た迦楼羅は、狼姿になり彼の傍へ寄った。


「弥都波と優華が死んで、四年経ったなぁって……」

「……」

「今でも思うよ……


俺がもっと早く仕事片付けて、麗華を迎えに行けば……優華は死ななかったかもな」

「まだ言うか……

お前、それを龍の前で言ってみろ。怒鳴られるぞ」

「……」


その時、携帯が鳴った。携帯の画面を見ると、“鈴海高校”と表示されていた。


「(龍二の学校?)

はい、神崎です。


はい……


え?そんな話、聞いて無いです……すみません。



!!」


携帯を閉じると、輝二は勢い良く屋上から飛び出ていき、署を出て行った。迦楼羅は、屋上から飛び降り、署の前で待ち、出て来た輝二を背に乗せるとそのまま、空へ飛んでいった。


嬉しそうに帰路を歩く麗華……病院へ行った麗華は、茂の仕事部屋へに入った。

 

 

「茂兄!見てみて!」

 

 

賞状筒の蓋を開け、中に入っていた賞状を広げて茂に見せた。

 

 

「金賞……って、凄いじゃないか!麗華ちゃん!」

 

「へへ!

 

帰ったら、お兄ちゃん達に見せるんだ!」

 

「そうか!

 

あれ?今日は、龍二君の所に行かなくていいの?」

 

「うん。

 

お兄ちゃん、今日なんか先生と大事な話があるから、先に帰ってろって」

 

「……そうか……

 

そろそろ、その時期か」

 

「時期?何の?」

 

「麗華ちゃんも、いつか通る道。

 

今は、知らなくて良いよ」

 

「え~!私だけ除け者扱い、嫌だ!」

 

「いやいや、除け者扱いなんかしてないよ。

 

麗華ちゃんも、龍二君と同じぐらいになったら、分かることだから」

 

「……」

 

 

日が暮れた頃、麗華は階段を上り境内に入った時だった。

 

 

“ガシャーン”

 

 

「!?」

 

 

家の中から何かが割れる音が響いてきた。驚いた麗華は、恐る恐る引き戸に触れようとした。

 

 

「待ちなさい!!龍二!!」

 

「話は終わりだ!!

 

何言われようと、俺の進路は変わらねぇからな!!」

 

 

そう怒鳴りながら、龍二は力任せに引き戸を勢い良く開け飛び出した。中から、輝二が怒りの形相で彼を呼び叫んだが、龍二はその声を無視して、境内を出て行った。

 

 

「……クソ!!」

 

 

力任せに引き戸を、輝二は閉めた。戸の片隅にいた麗華はしばらく固まり、そして緊張の糸が解けたかのようにして、その場に座り込んだ。

 

 

「……び、ビックリしたぁ」

 

「どうしたんだ?二人共……」

 

「さぁ……

 

とりあえず、中に入ろう」

 

 

ソッと引き戸を開け、麗華は中に入った。靴を脱ぎ開いていた輝二の部屋を、恐る恐る覗いた。

 

 

「……?

 

あぁ、麗華……お帰り」

 

「ただいま……

 

お兄ちゃんと、何かあった?」

 

「別に……麗華には、関係ないよ」

 

「……あ!

 

父さん、こないだ描いた絵が」

「ごめん、麗華。

 

父さん、もう仕事に戻らなくちゃ」

 

「……そう」

 

「あと、任せたよ」

 

 

そう言って、輝二は背広を手に持ち家を出て行った。

 

軽く溜息を吐きながら、麗華は居間へ行き明かりを付けた。ローテーブルの上に置かれていた湯飲みがひっくり返り、畳が濡れていた。台所へ行くと、何かを割ったのか粉々になった硝子が、床にばらついていた。

 

 

「わぁ……」

 

「こりゃあ酷い……」

 

「……焔、手伝って」

 

「あぁ」

 

 

床に落ちた硝子の破片を焔が拾い、麗華は居間の畳を拭いた。

 

 

 

翌日……

 

 

「えぇ?!お父さんとお兄さんが、大喧嘩?!」

 

 

下駄箱で、上履きに履き替えながら、麗華は郷子達に昨夜のことを話した。

 

 

「そう。おかげで昨日はその後片付け」

 

「大変だったなぁ」

 

「おまけに、昨日お兄ちゃん帰って来なかったんだよ!」

 

「嘘!?」

 

「じゃあ麗華、昨日一人だったの?!」

 

「うん」

 

「喧嘩の原因は?」

 

「知らない。

 

何か、進路がどうとか」

 

「進路?

 

それって、大学受験のことじゃない?」

 

「さぁ……聞ける雰囲気じゃ無かったし」

 

「そっかぁ……

 

 

じゃあ、昨日の賞状は……」

 

「見せられるわけ無いよ。

 

喧嘩した後、父さんは仕事に戻っちゃったし。お兄ちゃんは帰って来ないし」

 

「何か、色々大変だな」

 

「こういう時思うよ。

 

母さんいてくれたらなぁって」

 

「あれ?麗華って、母ちゃんいないのか?」

 

「いないよ。

 

私が小学校入学する前に亡くなったから」

 

「え、そうだったの?」

 

「そうだよ……って、前に話したと思ったんだけど」

 

「聞いてない聞いてない!」

 

 

そんな話をしながら、郷子達は階段を上り自分達の教室へ向かった。

 

 

「キャー!!」

 

 

突如廊下に響く悲鳴……その声に、郷子達はすぐにその声の元へ駆け寄った。

 

 

廊下から駆けてきたのは、法子だった。彼女は駆け付けた郷子にしがみついた。

 

 

「む、向こうから妖怪が……!?」

 

 

郷子達が顔を上げ前を見ると、そこに棍棒を振り回す妖怪が歩み寄ってきた。

 

 

「で、出たぁ!!」

 

「早く先生、呼んできて!!」

 

「う、うん!!」

 

「焔!」

 

 

パーカーから出て来た焔は、人の姿になると妖怪に向かって跳び蹴りをした。彼の蹴りを妖怪は、棍棒で受け止めた。後ろへやった棍棒の上に、麗華は降り立った。

 

 

「後ろにも、ご注意を!」

 

 

棍棒を軸に、麗華は妖怪に回し蹴りを食らわした。蹴りをもろに食らった妖怪は、足場をふらつかせたが頭を振り体制を整えると、麗華に向かって棍棒を突いた。

 

突いてきた棍棒を、麗華は着ていたパーカーに絡ませると、ポーチから札を取り出しそれを妖怪の額に貼った。

 

 

「闇に潜む邪悪な影よ!無に帰れ!!」

 

 

札が光り出すと、妖怪は苦しみだしたそして麗華の頭を鷲掴みにして、床へ倒した。

 

 

「麗!!」

 

「離せ!!この野郎!!」

 

 

妖怪に向かって、焔は回し蹴りを食らわした。だが当たる寸前、妖怪は彼の蹴りを受け止めそして投げ飛ばした。

 

 

「焔!!

 

 

この!!離せって!!」

 

「……記憶……蘇れ!」

 

「え?……!?」

 

 

流れる映像……目の前に立つ黒い一つ三つ編みの髪型をした女性。手を伸ばした瞬間、彼女は血塗れになった。

 

呆然と立っていた時、ふと振り返った。目の前に立つ傷だらけになった龍二と輝二……

 

 

一瞬暗くなったかと思ったら、今度は別の場所になった……横になった自分の手を握りながら、何かを唱える輝二と、札を持ち構え彼と共に唱える龍二が涙を浮かべて立っていた。

 

 

(……何……これ)

 

「麗華!!」

 

 

郷子に呼ばれ駆け付けたぬ~べ~は、白衣観音経を妖怪に向けて投げた。彼の声で気が付いた麗華は、弱まった手を振り払うと、後ろへ下がった。

 

暴れ出そうとした妖怪に、狼姿になった焔は彼に噛み付いた。身動きが取れなくなった妖怪に、ぬ~べ~は鬼の手を出し攻撃した。

 

黒い霧を放ちながら、妖怪は消えた……噛み付いていた焔は、鼬姿になり麗華の元へ駆け寄り伸ばしてきた手を伝い、肩へ上ると彼女に頬摺りした。

 

 

「麗華、怪我は?」

 

「へ、平気……(さっきの……何だったんだろう)」

 

「ぬ~べ~!」

 

「妖怪は?!」

 

「大丈夫だ。もう倒した」

 

「さっすがぬ~べ~!!」

 

 

盛り上がる郷子達……その中、麗華はずっと妖怪が消えた箇所を見つめていた。その時、ふと髪に何かが触れ顔を上げた。目の前にいたのは、黒い影だった。

 

 

(……誰?)

 

 

ふとぬ~べ~は、凄まじい妖気を感じすぐに振り返った。

 

 

「?どうかしたのか?ぬ~べ~」

 

「い、いや……?」

 

 

立ったまま微動だにしない麗華に、ぬ~べ~は気付き彼女の歩み寄った。

 

 

「麗華、大丈夫か?」

 

「……ウ」

 

「麗華?」

 

「……ガウ」

 

「オイ、麗華!」

「違う!!私じゃ無い!!」

 

 

ぬ~べ~の鬼の手を振り払って、麗華は勢い良く振り返った。その時、彼女から妖気を感じたのを彼は見逃さなかった。

 

 

「麗華、大丈夫?」

 

「……!

 

あ、うん……ごめん、ちょっと目眩がして」

 

「だったら少し、保健室で休んだ方が良いよ。

 

ぬ~べ~、保健室に連れてっていい?」

 

「あ、あぁ……」

 

「ほら、行こう」

 

「……

 

 

うん」

 

 

郷子に手を引かれ、麗華は階段を降りていった。ぬ~べ~は、彼女が立っていた場所に鬼の手を翳した。微かだが、強力な妖気を感じた。

 

 

(……まさか)




悪しき者が、この家に近付いている……




必ず、守ってみせる……麗。


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二人の母親

『母さん、今日早く仕事終わるから、迎えに行くね』

『いいよ。

今日、俺が迎えに行くから、優華は早めに帰って』

『あなたじゃ、また迎えが出来ませんって言うに決まってるわ!ねぇ、麗華!』

『優華ぁ!』

『朝っぱらから、子供の前でいちゃつくな!』


放課後……

 

 

教室で待つ麗華……その時戸が開き、外からぬ~べ~が中へ入った。

 

 

「あ、先生」

 

「だいぶ顔色良くなったな?

 

午前中、保健室で休ませた甲斐があったよ」

 

「うん。

 

実はね……昨日、あんまり寝てなかったから…へへ」

 

「寝てない?

 

さては、夜更かししたな?」

 

「……」

 

「あのなぁ、小学生が夜遅くまで起きてるのは、体に悪いんだ。

 

いくら親の帰りが遅いからって」

「父さん、四日前から帰ってきてないよ」

 

「え……」

 

「仕事で昨日まで帰って来なかった……

 

昨日は昨日で、お兄ちゃんと大喧嘩してたし……」

 

「……」

 

「お兄ちゃん、昨日喧嘩して出て行ったきり帰って来なかった。

 

父さんは、仕事が残ってるからって行っちゃうし……」

 

「……そうだったのか」

 

「昨日、お兄ちゃんが帰ってくるかと思ったから、夜遅くまで待ってた……

 

でも……帰って来なかった……

 

 

 

 

あの時と一緒……」

 

「?」

 

「あの時も、母さん来なかった……

 

 

一人……また一人っていなくなって……

 

私だけになって……時間過ぎても来なくて」

 

「麗華?」

 

 

 

脳裏に蘇る過去……

 

誰もいなくなった広い部屋で、麗華は一人絵を描き優華の迎えを待っていた。

 

だが、時間を過ぎても彼女は来なかった……描いていた紙に、麗華は涙を溢した。そんな彼女を、一緒にいた焔は慰めるようにして、頬を舐めた。

 

 

 

「麗華!」

 

「!」

 

 

ぬ~べ~に体を揺すられて、麗華はハッと意識を取り戻したかのようにして彼を見た。

 

 

「大丈夫か?」

 

「……う、うん。

 

平気」

 

 

無理に笑顔を作りながら、麗華は言った。その時、ぬ~べ~はまた感じた……あの強力な妖気を。

 

 

「……麗華」

 

「?」

 

「お前……」

 

 

聞こうとした時、突然戸が開き外から茂とギギーが入ってきた。ギギーは茂の肩から飛び降りると、麗華に飛び乗った。

 

 

「茂兄、何で……」

 

「学校から連絡があってね。

 

まだ顔色、少し悪いね」

 

「……父さんとお兄ちゃんは?」

 

「輝二さんは仕事。龍二君はまだ学校」

 

「……母さんなら……

 

 

仕事投げ出して来たのに」

 

「……麗華ちゃん?」

 

 

ハッとした麗華は、顔を下にして教室を飛び出した。ギギーは鳴き声を発しながら、彼女の後を追い駆けていった。

 

 

「麗華ちゃん!

 

 

……あ、すみません」

 

「い、いえ……

 

 

あの、麗華の母親って……」

 

「……四年前ですよ。先生が亡くなったの」

 

「え?先生?」

 

「……あ、すみません。

 

僕、麗華ちゃん達のお母さんの弟子なんです。

 

神崎院長がいたから、今の僕がいるんです」

 

「そうでしたか……」

 

「四年前、院長は仕事を全部片付けて、後の事を僕達に任せ麗華ちゃんを迎えに……

 

その途中でしたよ……殺されたのは」

 

「殺された?」

 

「先生は覚えていますか?

 

 

四年前の通り魔事件を」

 

「えぇ。新聞で見ましたから」

 

「その被害者なんです。

 

院長は」

 

「!!」

 

「運ばれてきたのは、病院を出て二〇分くらい後のことでしたよ。

 

まだ息はあった……でも、手術中……

 

 

亡くなったんです」

 

「……」

 

「死因は失血死……

 

亡くなって数分後だった……輝二さんが駆け付けたのは。

 

 

その間……麗華ちゃんはずっと、待っていたんです。

 

薄暗い広い部屋の中で、一人絵を描いて……」

 

 

 

裏校舎の物置……使われなくなった机の上に、麗華は座りスケッチブックに絵を描いていた。

 

そこに描かれていたのは、顔のない女性の絵だった。黒い一つ三つ編みに、白衣を着た容姿。

 

 

(……母さん)

 

 

「寂しいか?」

 

 

その声に、麗華は顔を上げて後ろを振り返った。

 

そこにいたのは、黒い服に身を包み顔に鬼の面を着け、赤み掛かった茶色の髪を靡かせた妖怪。

 

 

麗華はすぐに、妖怪から離れるようにして机の上から飛び降り、後ろへ下がった。パーカーの帽子から焔は出て行き人の姿になり、彼女の前に立った。

 

 

「何者だ!」

 

「答える必要は無い。

 

妾は、その女を貰いに来た」

 

「お前の所に、誰が行くか!!」

 

 

薙刀を出した麗華は、跳び上がりそれを勢い良く振り下ろした。妖怪は懐から出した彼女と同じ武器、薙刀を出し防いだ。

 

 

「!?」

 

「お主は、妾に勝てぬ……

 

必ず、妾の元へ来る」

 

「え……」

 

 

何かを察した麗華は、後ろへ身を引いた。次の瞬間、妖怪は懐から無数の寸鉄を取り出し、彼女目掛けて放った。

 

 

「麗!!」

 

 

 

保健室にいたぬ~べ~と茂は、その妖怪の妖気を感じていた。白衣観音経を手に、茂と廊下を歩いていた時だった。

 

角からギギーが鳴き声を上げて、茂に飛び付き彼をどこかへ連れて行こうと、手を引いた。

 

 

「ギギー?

 

 

 

先生、着いてきて下さい!!」

 

 

駆け出した茂をギギーは誘導するかのようにして、先頭を走り二人の後をぬ~べ~は追い駆けた。

 

 

 

外へ出て校舎裏へ来た茂達……バラバラになった用具の中、焔に抱かれ倒れる麗華がいた。

 

 

「麗華ちゃん!!焔!!」

 

 

茂の声に焔は気が付き、体に着いた砂を手で振り払った。その後、焔に体を揺らされ目覚めた麗華も起き上がった。

 

 

「二人共、大丈夫!?」

 

「平気だ……さっきの妖怪は……」

 

「僕等が来た時には、もういなかったよ」

 

「……痛っ!」

 

 

腕に激痛が走った麗華は、自身の腕に目を向けた。大きくパックリと開いた傷口から、少量の血が流れ出ていた。その傷は腕だけで無く、頬や腹部にもあった。

 

彼女だけで無く、焔にも腕や足に傷があった。

 

 

「すぐに病院に行こう」

 

「でも……あの妖怪が」

 

「妖怪は、俺が探しとく」

 

「……

 

 

先生だけじゃ、何か心配」

 

「お前なぁ!」

 

「我に力を貸せ!急急如律令!」

 

 

札を出し投げると、札は煙を上げ中から雷光が姿を現した。

 

 

「雷光と探して。

 

雷光、この辺りに残ってる妖気の持ち主を探して」

 

「はい」

 

「……先生って、生徒からあんまり信頼無いんですか?」

 

「……はい」




鈴海高校……


屋上で柵に凭り掛かり座る龍二……手に持つ進路志望の紙。第一志望には、警察官学校と書かれていた。しかし、よく見ると第二志望の欄に小さい文字で、書かれていた。


医大と……


(……昔は、医者になってお袋の後を継ぐのが夢だった……


でも……)


蘇る過去……

幼い麗華を抱えて、病院へ飛び込んだ龍二。


抱えていた彼女を茂に渡し、手術室へ入った。白い布を顔に乗せ変わり果てた、母・優華……一足先に来ていた輝二は、彼女の体の上で泣き伏せていた。



その時の事を思い出した龍二は、持っていた進路志望の紙を強く握り、目を覆いながら上を向いた。


(ヤバいヤバい……泣くところだった)


その時、突然屋上の戸が開いた。中から飛び出てきたのは、真二だった。


「龍二!!」

「真二……何か用か?」

「麗華の奴が、病院に運ばれたって!!さっき、先生が」

「麗華……!!(ヤバい……あいつを一人に!!)」


龍二は真二を退かして、校内へ入った。その後を息を切らした真二は、慌てて追い駆けていった。


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切れる糸

机に伏せて眠る輝二……そんな彼を、勇二は体を揺らしながら起こした。寝ていた輝二は、眠い目を擦りながら、体を起こした。


「お前……いつから、家に帰ってない?」

「……いつからだろう」

「……ハァ……


今日帰れ」

「……いい。

まだ、調べ物がある」

「輝二」

「……」

「何かあったか?」

「……


喧嘩した」

「は?」

「龍二と、喧嘩した」

「……」

「昨日の夕方、学校から電話があって……

龍二の進路を聞いて……それで、家に帰ってから喧嘩しちゃって……


勇二、どうしよう……」

「ちょっと待て……その、龍二君の進路は?」

「……警察官学校入学希望」

「龍二君、警察官になりたいのか?」

「そうらしい……

でも、そんな事聞いて無くて」

「それで、喧嘩か」

「うん……」

「……輝二は、龍二にどうして欲しいんだ?」

「……出来れば、俺と同じ道を歩んで欲しくない」

「そうか……

それで、龍二君と顔を合わせられないから、家に帰れないと」

「そういう事です」


その時、携帯が鳴り輝二はあくびをしながら出た。しばらくすると、彼は慌てた様子で立ち上がり、背もたれに掛けていた背広を持ち急いで、出て行った。彼の後を、勇二は追い駆けていった。


病院へ着いた輝二。彼と同じく龍二と真二も走り着いた。

 

 

「親父……」

「龍二」

 

 

目を合わせた瞬間、二人は互いに背を向けた。そんは二人に真二と後から来た勇二は、深く溜息を吐いた。

 

 

「あ!父さん!お兄ちゃん!」

 

 

茂と共に診察室から出て来た麗華は、二人の元へ駆け寄った。

 

 

「麗華……け、怪我は?大丈夫なのか?」

 

「平気!

 

さっき、茂兄に手当てして貰ったから!」

 

「そうか……

 

なら、良かった……」

 

「……じ、じゃあ……

 

俺は……」

「また仕事かよ!」

 

「仕方ないだろう」

 

「そうやって、俺等から逃げてるから……

 

息子の進路も知らなかったんだろ?」

 

「っ……」

 

「お、お兄ちゃん……」

 

「龍二、今は」

「どうなんだよ!」

 

「だったら、電話すれば良かっただろ!

 

そうすれば、時間を」

「作ったこと無いだろ!!

 

俺が高校受験の時だって、ギリギリまで知らなかっただろ!!いや、知ろうとしなかったじゃねぇか!!」

 

「それは……」

 

「お袋が生きてた頃も、そうだよな……迎えに行けるとか言って、結局行けなかったじゃねぇか!

 

 

死んだあの日だって、アンタが仕事早く終わるとか言って結局終わらなくて……それで、お袋に行かせたんだろ!!」

 

「……」

 

「どうせなら……

 

 

お袋じゃなくて、アンタが事件で死んでれば良かったかもな」

 

「龍二!!」

「龍二君!!」

 

 

渇いた音がロビーに響いた……龍二の頬が見る見るうちに赤く腫れ上がった。輝二は息を切らして、彼を睨んでいた。

 

 

「輝二!やり過ぎだ!!」

 

「……!

 

 

り、龍二、その」

 

 

輝二の手を振り払った龍二は、自身にしがみついていた麗華を払い、表へ出て行った。払われた衝撃で、麗華は地面に倒れ、ロビーに置かれていた本棚に体をぶつけた。

 

 

「麗華!」

 

 

駆け寄った真二に、麗華は抱き着き泣き出した。彼女の泣き声に、輝二はイラつきながら外へ出ていった。

 

 

 

それから数時間後だった……ぬ~べ~が病院へやって来たのは。

 

中へ入ると、ロビーの椅子で真二の膝を枕にして眠る麗華と、彼女の頭を撫でる彼の姿があった。

 

 

「……あ、麗華の。

 

ご無沙汰してます」

 

「い、いや……こっちこそ……

 

麗華の奴、どうしたんだ?」

 

「壮絶な親子喧嘩を目の当たりにして、ちょっと巻き込まれ泣き疲れて、今熟睡中」

 

「親子喧嘩って……

 

お兄さんとお父さん?」

 

「それ以外誰がいんだよ」

 

「そうですね……」

 

 

「とりあえず、輝二の事は俺に任せて下さい」

 

「お願いします。

 

僕は龍二君の方を……あれ?先生」

 

 

ロビーにいたぬ~べ~に気付いた茂は、勇二と共に彼に歩み寄った。

 

 

「ご無沙汰してます、鵺野先生」

 

「桐島さん……お久し振りです」

 

「どうも。

 

じゃあ、後お願いします」

 

「はい」

 

 

携帯のボタンを押しながら、勇二は病院を出て行った。

 

 

「……フゥ……

 

真二君も、そろそろ帰った方が良いんじゃないかな?」

 

「いいですよ!

 

麗華が起きるまで、待ってます。その後こいつを、緋音の家に送りますんで」

 

「そうかい……なら、お願いするよ」

 

「緋音って、あの薙刀部の緋音か?」

 

「そうだよ」

 

「何で、あいつに?

 

家に帰らせても……」

 

「麗華に留守番なんて、無理だぜ。先生」

 

「え……」

 

「小五にもなってって、思っただろ?

 

けど、出来ないんだよ。麗華には」

 

「……」

 

「中学の頃だったかな。

 

夏休み前に、中学で林間学校があってさ。三日間家を空けてたんだ。

 

 

帰ってきた時だった……俺と緋音も、龍二の家に行ったんだ。そしたら、玄関で半べそかいた麗華が座ってたんだよ……

 

 

それからだったかな。龍二がなるべく早く家に帰るようになったのは。担任以外、全員あいつの家庭事情知ってたから、皆が協力的だった」

 

「……昨日寝てないのは、“寝なかった”じゃなくて“寝られなかった”のか」

 

「麗華、普段明るいように見えるけど……

 

本当は凄え怖がってんだ……

 

自分が学校に行ってる間、おじさんが死んだらどうしよう……

龍二が死んだらどうしようって……いつも考えてんだよ。こいつは」

 

 

ふと思い出すぬ~べ~……

 

どんな時も、笑顔を見せていた麗華。決して弱音や弱味を見せなかった……いや、見せようとしなかった。

 

 

「……ん?」

 

 

目を開いた麗華は、眠い目を擦りながら起き上がった。

 

 

「起きたか」

 

「……お兄ちゃんと父さんは?」

 

「まだ帰ってきてないよ」

 

「……

 

 

あれ?先生……雷光」

 

 

馬の姿になっていた雷光は、彼女に顔を近付かせ擦り寄った。

 

 

「ご苦労様、雷光」

 

 

そう言って、麗華は雷光を札に戻した。

 

 

「校内と外を調べたんだが、確かに強い妖気は感じた。

 

だが、見つからなかった」

 

「……そう。

 

ありがとう、先生……」

 

 

その時、ぬ~べ~は微かに感じた……あの妖怪の妖気を。その妖気は、真二と茂にも感じていた。

 

 

「麗華、緋音の家に行こう。

 

な?」

 

「……うん」

 

 

立ち上がった麗華は、真二の手を握って一緒に出て行った。

 

 

「……さっきの妖気は……」

 

「……麗華ちゃんのことを、どこまで知っていますか?先生は」

 

「え……

 

 

 

 

強力な霊力を持っていて、自分でコントロールできないと」

 

「じゃあ、話が早いです。

 

 

彼女、今自分で抑えられていません」

 

「……え?」

 

「恐らく、今感じた妖気は彼女が放ってるもの……

 

妖怪になろうとしてる」

 

「そんなことが……」

 

「稀にあるらしいですよ。

 

彼女の家系では」

 

「……」

 

「今の所、妖怪になった人はいないみたいですけど……

 

なったとしても、ほんの一瞬。僕の先生……彼女の母親もそうだったらしいです。

 

 

輝二さんはそれ知って、彼女に御守りをあげたんです」

 

「……!

 

あの勾玉が」

 

「また、輝二さんも同じような人。

 

お返しに先生も、彼に同じ物を」

 

「……それじゃあ、龍二君にも影響が」

 

「彼の場合、自分で抑えられているんで多少は大丈夫です。

 

しかし、抑えられない時があります」

 

「……」

 

「龍二君も麗華ちゃんも、ある感情が高まれば高まるほど、妖力が増します」

 

「感情?」

 

「……

 

 

龍二君の場合は、怒り……

 

 

麗華ちゃんの場合は、恐怖」

 

 

その言葉を聞いて、ぬ~べ~は全てを理解した。鏡の世界に入った時、一人で行動していた彼女が突如高い妖力を放った……

 

 

「二人が喧嘩をしている今、麗華ちゃんは恐怖のどん底です。

 

 

その影響で、妖力を発揮してもおかしくない」




あの日……


輝三の家から帰ってきたら、二人の間がギクシャクしてた。

それが見てるのが怖くなって……
学校に馴染むことが出来なかった……


もう一度、輝三の家に行った……

その間、二人がいなくなったらどうしよう……

二人が死んだらどうしよう……


そんな考えしか、頭に浮かばなかった。


帰ってきたら、二人はいつも通りになってた……だから、嬉しかった。


間に立って二人の手、握ってれば……離れないって思った。


母さんが、私達の手を引いていたように……


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予兆

明け方……


ランニングをする一人の男性……角を曲がろうとした時だった。

道端で、血塗れになった龍二を見つけたのは……


病院へ駆け付けるぬ~べ~……

 

 

入れ違いに、麗華は外へ飛び出した。

 

 

「麗華ちゃん、待って!!」

 

 

彼女の後を、真二と緋音は追い駆けていった。

 

 

「先生……」

 

 

奥から手術用の服の上から白衣を着る、茂がぬ~べ~の元へ歩み寄った。

 

 

「連絡があったので、着たんですが……

 

 

龍二君は」

 

「傷口は深いですが、幸い命に別状はありません」

 

「そうですか……」

 

「渚も渚で、傷を負ってるんで何が起きたかは、まだ」

 

「……」

 

 

 

警察署へ来た麗華は、息を切らしながら膝に手を付いた。そして、息を整えると署の中へ入り、呼び止められる声を無視して階段を駆け上がり、刑事課の部署へ駆け込んだ。

 

 

中にいた刑事達は皆、動かしていた手や足を止め彼女に注目した。

 

 

「麗華ちゃん……」

 

 

いち早く気付いた勇二は、椅子から立ち上がった。彼の隣の席に座っていた輝二は、見ていた資料を置き遅れて立ち上がった。

 

 

「麗華……

 

どうしたんだ?仕事場には来るなって」

「何で、病院に来ないの?」

 

「え?」

 

「今朝……高校生が一人、通り魔に襲われて病院に運ばれたって、聞かなかったの?」

 

「それは聞いた……だから」

「襲われたの、お兄ちゃんなんだよ!!」

 

「!?」

 

「何で来ないの?仕事だから、来られないの?

 

それとも、お兄ちゃんと喧嘩して顔合わせられないから、来ないの?」

 

「……それは」

 

「……

 

 

無理してたの?」

 

「え?」

 

「私に心配掛けたくなかったから、無理してお兄ちゃんと仲良さそうに振る舞ってたの?」

 

「ち、違う!」

 

「何が違うのさ!

 

母さんが死んでから、お兄ちゃんも父さんもずっと距離置いてたじゃん!」

 

 

そう怒鳴ると、麗華は首から御守りを取り外し、輝二に投げ付け出て行った。

 

 

「麗華!!

 

迦楼羅、頼む!」

 

 

ポケットにいた鼬姿の迦楼羅は飛び出し、彼女を追い駆け二人の後を輝二は追い駆けていった。

 

 

 

署を飛び出した麗華は、流れ出てくる涙を拭きながら人気の無い道路を、走っていた。

 

 

走り疲れた麗華は、裏路地に入ると膝に手を付きながら、乱れる息を整えた。

 

 

「麗、大丈夫か?」

 

「……結局、二人は私の体を心配して仲良くしてただけなんだよ……

 

 

私の喘息、ストレスからくるものだって茂兄が言ってた……

それを聞いて、二人共……」

 

「……?」

 

 

次第に高まる麗華の霊力……それは妖気へと代わり、辺りに低級の妖怪が現れ出てきた。焔は狼姿になり、彼女を守るようにして立った。

 

 

「何……こいつ等」

 

「一旦ここから離れる。

 

麗、乗れ」

 

 

「逃がしはしない」

 

 

焔に乗ろうとした時、聞き覚えのある声に麗華は後ろを振り返った。

 

そこにいたのは、昨日自分達を襲ってきた妖怪だった。

 

 

「……お前」

 

「昨日ぶりだな。

 

?目の色、変わっているぞ?」

 

「え?」

 

 

言われた麗華は、ポーチから鏡を取り出し自分を見た。

 

確かに、目の色が赤になっていた……その目を見た瞬間、あの記憶が脳裏を過ぎった。だが、以前見た奴とは違う記憶だった。

 

 

寝かされた自分を抑える龍二……隣にいた輝二は、彼女の手を握りながら、何かを唱えていた。

 

 

「……何……今の」

 

「麗!!避けろ!!」

 

 

焔の叫び声に、麗華はハッと前を見た。目の前に迫る黒い霧……焔は人の姿になり彼女を庇うようにして、前に立った。

 

 

 

病室で目を開ける龍二……目に映ったのは、心配そうに自分を見下ろす真二と緋音だった。

 

 

「龍二!」

 

「緋音……真二」

 

「良かったぁ……もう、心配したんだから!!」

 

「俺、茂さん呼んでくる!」

 

 

真二が出て行くと、龍二は体を起こした。走ってくる音と共に、茂と真二が駆け付けた。

 

 

「茂さん……」

 

「よかった……あ、そうだ。

 

二三日は入院して貰うよ」

 

「はい……

 

あの、麗華は?」

 

「……」

 

「……龍二が、運ばれてきてすぐに来たんだけど……」

 

「おじさんがいないって分かって……その後すぐに、病院を飛び出して……

 

 

追い駆けたんだよ!でも、途中で見失っちゃって」

 

「それからは、どこ行ったか……

 

病院戻ってきてるもんだと思って……」

 

「……だったら、探しに!」

「駄目だ!

 

まだ傷口が塞がりきってないんだ!!」

 

「けど!!あいつ……麗華は、一人に出来ないんだ!!

 

親父と約束したんだ!!

 

 

親父が傍にいない間は、絶対にあいつの傍にいるって!!」

 

「じゃあ何で喧嘩したんだよ!!

 

 

あの喧嘩見て、麗華がどれだけ怖がってたか……」

 

「……それは……」

 

「進路のことで、何かあったんだろ?

 

あの三者面談から、お前おかしいもん」

 

「……」

 

 

顔を下にしながら、龍二は大人しくなった。それを見て、真二と緋音は彼の体から手を離した。

 

 

「……麗華のために、伸ばしたんだ……髪の毛」

 

 

龍二は静かにそう言った。その声に、病室に入ろうとしたぬ~べ~は、足を止め部屋の外で話を聞いた。

 

 

「夜泣きが酷かった頃……あやしてたら、あいつ俺の髪の毛掴んで寝たんだ。

 

 

俺が添い寝するようになってから、あいつの夜泣きは無くなった……

 

 

しばらくして、髪の毛切りに行こうとしたら……あいつ、その前夜に大泣きしたんだよな。それから切りに行くのやめて、自分で切るようになって」

 

 

肩に掛かる程度に伸びた、自身の髪の毛の先を龍二は弄った。

 

 

「誰に何言われようと、構わない……

 

 

麗華が……

 

 

あいつが、笑ってさえくれれば……」




目を開ける麗華……辺りは真っ暗になっていた。


(あれ……

さっきまで……路地裏に……)


その時、ある記憶が脳裏を過ぎった……

傷だらけになった龍二と輝二を前にして、自分が立っていた。


(父さん……お兄ちゃん)


近付こうとした途端、二人は煙のようにして消えた。


辺りを見回すが、誰もいない……暗闇の中に一人、自分だけ取り残されたかのように思えた。


「どこ……

お兄ちゃん!!父さん!!


焔!!渚!!迦楼羅!!


雷光!!氷鸞!!


鎌鬼!!雛菊!!


丙!!暗鬼!!」


暗闇の中を無我夢中で走る麗華……だがいくら走っても、光が見えてこなかった。


「牛鬼!!安土!!

桜雅!!皐月丸!!


青!!白!!

時雨!!


ショウ!!瞬火!!」


走り疲れ立ち止まった麗華は、息を切らしながら周りを見回した。


「……何で……


郷子!!立野!!細川!!


先生……



先生!!助けてぇ!!」


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暴走

麗華を追い駆け、人気の無い道路を走る輝二……すると、先に追い駆けていた迦楼羅が、彼の元へ戻ってきた。


「麗華は?」

「悪い、途中で見失った」

「……そうか」


手に握っていたアミュレットを、輝二は見た。そして、麗華の涙目を思い出した。


「……走り過ぎた」

「?」

「優華を殺した犯人が、出て来たから今度こそ逮捕しようと思って、必死になってて……


そしたら、周りが見えなくなってた……龍二との喧嘩だって、俺が原因だ。あいつの話を、ちゃんと聞いてさえすれば……それなのに、自分のことを棚に上げて怒鳴って……


馬鹿な親だよ……父親失格だ」

「輝……」

「俺と龍二の喧嘩に、麗華を巻き込んで……

彼女に辛い思いさせて……一人にさせて……


やっぱ無理なんだ……俺。


優華がいないと、何も出来ないんだよ……」


目から流れ出てきた涙は、輝二の頬を伝いアミュレットの上へと落ちた。

そんな彼の背中に、迦楼羅は思いっ切り蹴りを入れた。


「か、迦楼羅!!」

「うじうじ言ってる暇があんなら、とっとと麗を探せ!!

そんで見つけて謝れ!!


麗に謝った後は、龍にも謝れ!!分かったか!?このウジ虫!」

「は、はい……」

「ったく……その年になってまで、世話焼かすな」


そう言いながら、迦楼羅は先を歩き出した。ふと通り過ぎた細道が目に留まり、彼は戻りその道に入った。

微かに残る強大な妖気と霊力……地面を見ると、そこに見覚えのあるポーチが落ちていた。


「迦楼羅、どうかしたか?」

「……輝、これ」

「……!?」


迦楼羅から受け取ったポーチ……それは、麗華がいつも肌身離さず持っているものだった。


学校の図書室から借りてきた古い本を読むぬ~べ~……

 

その本は、妖怪の本と陰陽師の本だった。

 

 

(駄目だ……

 

 

いくら探しても、人から妖怪になるという例が無い……

 

 

麗華とその家族が、例外なのか?

 

 

分からん……ますます)

 

 

考え込む彼の元へ、ノートを持ってきた郷子と広がやって来た。

 

 

「どうしたの?ぬ~べ~。考え込んで」

 

「いや、ちょっとな」

 

「?

 

あら?ぬ~べ~、陰陽師について調べてたの?」

 

「あ、あぁ。

 

なぁ、郷子」

 

「ん?何?」

 

「お前、確か麗華とは一年の時から同じクラスだったよな?」

 

「えぇ、そうよ!」

 

「あいつ、自分の家について何か言ってなかったか?」

 

「え?

 

そうねぇ……何か、小さい頃は妖怪と遊んでたって聞いたな。そういえば」

 

「妖怪と遊んでた?」

 

「うん。風邪引いて、保育園休んだ時、妖怪達が自分の相手をしてくれたって」

 

「妖怪と一緒……」

 

「何か、その話聞くと麗華の奴って、やっぱ普通じゃ無いよな?」

 

「もう!そういう事言わないの!!

 

麗華の前で言ってみなさい!本気で殴るよ!」

 

「冗談だって!冗談!」

 

「もう!

 

あ、そういえば……」

 

「?どうかしたか?」

 

「いや、確かこの時期だったなぁって……」

 

「時期?」

 

「麗華が、学校を休学したの」

 

「確か、持病が悪化して親戚の所でずっと療養してたって理由だよな?」

 

「そう。でも、一つ気になる噂思い出したんだ」

 

「噂?」

 

「持病の療養なのは確かなんだけど……その……

 

 

大怪我したって……」

 

「大怪我?」

 

「うん……何か麗華の腕や足、頭に包帯巻いて、所々絆創膏も貼ってる姿を見たって、友達のお母さんが話してたの」

 

「……なぁ、まさか麗華の奴虐待受けてたんじゃ」

 

「いや、それは無い」

 

「え?」

 

「していたとしたら、茂さんやお父さんの同僚である桐島さんが、気付いているはずだ。

 

それに、お兄さんのあの面倒見見れば、虐待なんてあり得ない」

 

「確かに」

 

「じゃあ、何だったんだ?その、包帯は?」

 

 

その時、学校の電話が鳴った。ぬ~べ~はすぐに出た。電話をしてきたのは、麗華の父・輝二だった。

 

 

「お父さん!ご無沙汰」

「今麗華、傍にいますか!?」

 

 

尋常じゃない様子で、輝二はそう言ってきた。電話の受話器から聞こえる彼の声は、所々息切れがあり咳き込んでいた。

 

 

「い、いえ……

 

麗華は先程、病院を出て行ったきり会っていませんが……」

 

「わ、分かりました……」

 

「お父さん、どうかし」

 

 

ぬ~べ~が質問しようとした途端、電話は切れた。輝二の様子から只事では無いと思った彼は、職員室を飛び出した。ぬ~べ~の後を、郷子と広は慌てて追い駆けていった。

 

 

ぬ~べ~が辿り着いた場所……そこは、茂の病院だった。中に入ると、ロビーには勇二と緋音達がいた。

 

 

「鵺野先生!」

 

「麗華のお父さんから電話があって……あの、麗華は?」

 

「それが、何も……」

 

「……」

 

「……あれ?

 

刑事さんが持ってるポーチ、麗華のじゃ」

 

「あぁ。

 

輝二をここへ運んできたから、その時に」

 

「運んできた?」

 

「過呼吸起こしたんだよ。あいつ……

 

 

たまたまあいつを捜し回ってた時に、見つけてね」

 

「……」

 

「なぁ、刑事さん」

 

「?」

 

「二年前、麗華が何で親戚の家に行ったとか、知りませんか?」

 

「二年前?……!」

 

「その顔、知ってるんですね!」

 

「教えて下さい!!」

 

「君等に真実を教える義理は無いよ。

 

教えたところで、三人の傷が癒えるわけでも無いから」

 

「……」

 

「……!?

 

 

何だ!?この妖気は?!」

 

 

外から感じる強大な妖気……ぬ~べ~は、郷子と広を地震の後ろへ立たせ、白衣観音経を手に持った。傍にいた真二は管の筒を、緋音は気孔を手に出して構えた。

 

 

次の瞬間、ドアが突然開き強風と共にそれは入ってきた。

 

真っ白な長い髪を靡かせ、前髪の隙間から赤い目を鋭く光らせ、手に薙刀を持った者……

 

 

「あれは……」

 

「まさか……」

 

「ア……ア……」

 

 

薙刀を軸に、それは突然ぬ~べ~に攻撃した。彼は咄嗟に、その攻撃を受け止めそれを見つめた。

 

 

「そのまま抑えてろ!!」

 

 

背後から来た真二は、管狐を出すと攻撃した。それはすぐに跳び避ると、管狐を放った彼目掛けて跳び蹴りを食らわした。攻撃を食らった真二は、腹を抑えながら咳き込んだ。

 

 

「真二!!」

 

「動くな!!撃つぞ!!」

 

 

内ポケットから出した銃を、勇二はそれに向けた。すると、廊下から茂の肩を台にして、ギギーがそれの前に飛び降りた。

 

 

「勇二さん、撃たないで!!」

 

 

茂の声に、勇二は銃を下げた。鳴き声を上げるギギー……その声に、それは構えていた薙刀を下ろした。

 

 

「ギー!ギー!」

 

「……ギ……ギ……」

 

「ギー!ギー!」

 

「ギ……ギー……」

 

 

「な、何だ?

 

ギギーの奴、あの妖怪のこと知ってんのか?」

 

「分からない……」

 

 

それは座り込むと、ギギーの鳴き声を真似し続けた。ギギーは鳴き声を上げながら、踊ったりそれの髪の毛を弄ったりして、遊んでいた。

 

その行為を見た勇二の目に、ある記憶と重なって見えた。

 

 

「……まさか、麗華ちゃん?」

 

「え?」

「!?」

 

 

「バレちゃ、仕方ないな」

 

 

その声と共に、黒い煙が漂い中から黒い服に身を包み顔に鬼の面を着け、赤み掛かった茶色の髪を靡かせた妖怪が姿を現した。

 

 

「お、鬼ぃ!!」

「キャァアア!!」

 

「美味しそうな人間が、七人も……」

 

「何者だ!!」

 

「何者でも無いわ。

 

妾は、この子を迎えに来ただけ」

 

 

その妖怪の声に、座り込んでいたそれは立ち上がった。

 

 

「さぁ、こいつ等を倒しなさい」

 

 

その指示が出されたと同時に、それは薙刀を持ち構え、ぬ~べ~達に攻撃しようとした。




その時だった……それに向かって、何かが跳び蹴りを食らわせた。食らったそれは、病院の外へ飛ばされ、街灯に体をぶつけた。


「龍二!!早く抑えろ!!」

「言われずとも!!

元柱固具、八隅八気、五陽五神、陽動二衝厳神、害気を攘払し、四柱神を鎮護し、五神開衢、悪鬼を逐い、奇動霊光四隅に衝徹し、元柱固具、安鎮を得んことを、慎みて五陽霊神に願い奉る!!」


地面に浮き出てきた陣から、光の触手が現れそれを抑え込んだ。だがその触手を、妖怪は切り破いた。


「!?」

「邪魔だ、龍!」


そう言って、妖怪は龍二に水の技を放った。攻撃を食らった龍二は、後ろへ飛ばされ壁に激突した。


「龍二君!!」
「龍二!!」

(今の、呼び方……まさか)


倒れていたそれは首を振りながら、降り立った妖怪の隣に立った。そこへ白い毛並みに覆われた大狼が、降り立ちそれの後ろへ回った。

その時、病院から茂達を飛び越える二匹の獣……狼姿となった渚と迦楼羅が、唸り声を上げながらその大狼を睨んだ。壁に激突した龍二は、頭を振りながら真二の手を借りて立ち上がり、輝二と共に迦楼羅と渚の傍へ駆け寄った。


「しぶとい奴等だ……

やはり、麗の子だな?」

「麗の子って……


麗華に、子供いるの?」

「いるわけ無いでしょ!!

歳を考えなさい!歳を!!」

「何なんだ!?あの妖怪!」

「話して済む問題じゃ、無さそうだな……

我に力を貸せ!急急如律令!!」


札を出した龍二の声に、それは反応し黒く光り出し煙と共に、鎌を持った鎌鬼が姿を現した。


「鎌鬼!あいつに攻撃しろ!

俺と渚で援護する!」

「分かったよ!」


渚が口から水を吐き出すと、その攻撃に合わせて龍二は雷を放った。水は雷を纏い、二人を攻撃した。怯んだ妖怪に、鎌鬼は振り上げていた鎌を振り下ろした。


“パリーン”


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昔の家族

麗……それは、何だ?

これが……人の赤子……


可愛い……


何故、この子だけ別なんだ?


お主は、龍に似たのだな。龍も絵が上手いだろ?




嫌じゃ!!ここを離れたくない!!

約束した!!麗と……麗と約束した!!


この地を……この場所を……この家を……守るって!!


嫌じゃ……


そうだ……麗を、探せばいいのだ……




見つけた……探したぞ……


麗……


真っ二つに割れた鬼の面は、地面へと落ちた。

 

 

「!?」

 

「……嘘……だろ」

 

「こんな事が……あり得るのか……」

 

 

桃色に染まった目は、輝二をジッと見つめていた。攻撃しようとした鎌鬼に、迦楼羅は前に出て止めた。

 

 

「親父、どうしたんだよ!」

 

「……違う」

 

「違うって?」

 

「敵じゃ……ない」

 

「え?」

 

 

攻撃をやめたその時、それは手で合図を出しその合図を見た大狼は、口から炎を吐いた。迦楼羅は、全員を守るようにして前に立ち、その炎を自身が放った炎の力で押し消した。

 

 

「……妾は、紅蓮と麗を迎えにきた」

 

「その子達は違う!!

 

 

清!!」

 

 

その名に反応したのか、清はふと輝二を見つめた……しばらく見つめると、紅蓮の背中に麗と共に乗るとそこから飛び去った。

 

 

「清……」

 

 

 

空を飛ぶ清と麗……清は腰に着けていた巾着袋から、古びた櫛を出し、それを見つめた。

 

 

「やっと……見つけた」

 

「見ツケタ?何ヲ?」

 

「お主のことだよ。

 

さぁ、戻ったら髪の毛を梳かしてやる……紅蓮、お主の毛もだ」

 

 

 

「清は、俺の母さんの式神なんだ」

 

 

院長室に集まったぬ~べ~達……彼等の手当てをしながら、輝二はあの妖怪について話していた。

 

 

「母さんって事は……」

 

「麗華とお兄さんのお祖母ちゃんって、事だよな?」

 

「でも、麗華からお祖母ちゃんの話、聞いたこと無いよ」

 

「無くて当然だ。

 

もう、この世にいないんだから」

 

「え?!そうなの!?」

 

「確か、小六の時だよな?おじさん達が死んだのって」

 

「うん……

 

 

丁度、卒業式を終えた頃だったかな……」

 

「……祖母ちゃんって、何で死んだんだ?」

 

「事故で……白狼共々……」

 

「……

 

 

その後だったよな……お前が中学、別の所に行ったの」

 

「あそこに残ろうにも、兄さんはもう家持ってたから、引っ越しが出来なかった……あの当時、俺達はまだ中学生だったから、家に残るのは無理だったし……

 

 

泣く泣く、離れることになったんだよ」

 

「その際、式神達を解放させたんだ。

 

そして、新たに主を付けさせた」

 

「誰に付けたんだ?おじさんにつけたの?」

 

「いや、俺の兄が父さんの式を母さんの式をもう一人の兄が引き取ったんだ……

 

 

でも、清だけば頑としてそこを離れたくないって拒んだ。俺も兄さん達も、ずっと説得した……でも納得してくれなかった……

 

 

引っ越し当日……可哀想だったけど、あの家全体に結界を張ったんだ……どんな妖怪も通さない結界を」

 

「……それから、その清ってどうなったんだ」

 

「分からない……

 

 

風の噂で、しばらくの間あの家付近にいたらしい……でもいつしか、来なくなってそれっきり……」

 

「……」

 

「……あれ?

 

だとしたら、何で清は麗華のこと知ってたんだ?」

 

「そうそう。

 

麗って呼んでたよね?あの人の姿をした、妖怪を」

 

「それに、龍二のことも知ってたみたいだしな」

 

「それは……主の名を、言ったまでだよ。

 

麗華と龍二の名前は、二人の字を一文字取っているんだ。

 

 

母さんの名前は、神崎麗子。

父さんの名前は、神崎龍輝」

 

「……本当だ。

 

だから、麗と龍……」

 

「あの妖怪のことは分かったが……もう一人の妖怪は、一体」

 

「……

 

 

 

 

あれは、妖怪化した麗華です」

 

「?!」

 

 

 

古びた社……中で座っていた麗は、割れた鏡に映る自身に興味津々見つめ、色々な動きをしていた。

 

 

「コラ!動くな!

 

梳かせぬだろ!」

 

 

後ろにいた清は、そう言いながら麗の肩を強く叩き大人しくさせた。それを傍で見ていた紅蓮は、また動こうとした彼女に顔を近付かせ頬を舐めた。

 

 

「操られた振りをして、面白いか?」

 

「……やっぱ、バレてたか」

 

「あの技は、妖怪には効かぬ……何が目的で、一緒にいる?」

 

「主の傍を、離れたくない……それだけだ」

 

 

伸ばしてきた麗の手に、焔は自身の体に触れさせた。彼女は焔の頭を嬉しそうに撫でた。

 

 

「今の主は、人間だった頃の記憶は、何一つ無いぞ?」

 

「それでもいい……俺は、麗の傍にいるって決めてんだ」

 

「……」

 

 

二人の姿が、一瞬別人の姿と重なって見えた。

 

 

(……麗……紅蓮)

 

 

 

 

「嘘よ!!

 

だって、麗華は人間よ!!」

 

 

輝二の言葉に、郷子はそう怒鳴った。

 

 

「そう……見た目は普通の女の子。

 

 

けど、ある日を境に麗華は人と妖怪の間に立っているんだ」

 

「何で……どうして!!」

 

「娘は、産まれた時から俺等より霊力があった……

 

でも、気にはしなかった……確かに妖怪は寄ってくる。けど、麗華は皆そいつ等を『友達』にしちゃうんだよ。

 

彼女を餌として狙ってくる妖怪達は、『友達』が追い払ってくれる……だから、気にも止めなかった。

 

 

あの日が来るまで……」

 

「あの日って?」

 

「……お袋が、殺された日」

 

「え……殺されたって……」

 

「ぬ~べ~、どういう事?」

 

「お前達は、席を外せ。

 

ここからは、大人の話だ」

 

「嫌よ!!除け者は!」

 

「そうだ!!麗華は、俺達を何度も助けてくれた!」

 

「それとこれとは話が違う」

 

 

説得に困っていたぬ~べ~を、助けるかのようにして勇二は話した。

 

 

「君等が、麗華ちゃんを助けたい気持ちは分かる……

 

でも、現に君等のことを攻撃した……無論、俺達にもだ」

 

「それは……」

 

「話を聞いて、もし……君等に何かあってからじゃ遅い。

 

市民に怪我を負わせれば、俺も輝二も立場が危うくなる」

 

「……」

 

「あなた達は、私が送るわ」

 

「……はい」

 

「頼んだぞ、緋音」

 

「うん。

 

行こう」

 

 

緋音に背中を押されながら、二人は渋々帰っていった。

 

 

二人が帰ってた後、輝二は話を続けた。

 

 

「殺された当時は、まだ気付かなかった……

 

しばらくした後だった……一部の妖怪から、奇妙な噂話を聞いた。

 

 

長い白髪の女の子が、この辺りに出現したと……俺は迦楼羅と一緒にその妖怪を探した。

 

でも、見つからなかった……

 

 

 

 

数年後だった……その女の子が、麗華だと分かったのは」

 

「何で分かったんだ?龍二」

 

「……襲われたんだよ……俺が」

 

「え?」

 

「丁度、部活帰りだった……家に帰ってきたら、いきなり攻撃された。

 

 

意味が分からず、戦おうとしたけどすぐに分かった……相手が、麗華だって」

 

「龍二から連絡を受けて、すぐに家へ帰った……

 

帰ってきた時、麗華は妖力を抑えるので手一杯になってた……苦しそうに息をして……

 

 

抑え込めなければ、麗華は妖怪になる……そう思い、一部の妖力を封じたんです……その時の記憶と一緒に」

 

「だから麗華ちゃん、小さい頃の記憶が曖昧だったのか」

 

「その後、体を慣れさせるために彼女を兄の元へ送ったんです。

 

そして、自分で抑えられない分の妖力をこの勾玉で、制御していたんです」

 

 

そう言いながら、輝二は内ポケットから勾玉のアミュレットを出した。

 

 

「だから、学校を」

 

「えぇ……元々、麗華は学校が苦手のようでしたし。

 

良い機会だと思い、兄の元へ行かせてそこで修業するのも、良いかと……」

 

「……」

 

「元に戻す方法は、無いのか?」

 

「あるにはあるけど……出来るかどうか……

 

 

それに、やる前に清を説得しないと」

 

「だな……あの様子じゃ、麗華ちゃんを本当におばさんと」

 

「違うと思う……」

 

「?」

 

「清は……清は、分かってるんだと思う。

 

母さん達は、もう帰って来ないって……いないって事を。でも、信じられないんだ……

 

俺もそうだった……兄さんの家に越してきてから数ヶ月の間、二人が死んだのを受け入れられなくて」




清の膝に頭を乗せ、気持ち良さそうに眠る麗……眠る彼女の頭を、清は撫でていた。


「……母親みてぇだな……お前」

「そうか?

昔、麗にも良くこうやって撫でた。


妾を式神にした時からだ」

「……お前の主って、どんな奴だったんだ?」

「一言で言うなら、強い女。


涙一つ見せぬ、強い女だった……

麗は、霊力が高かった……そのせいで、親からあまり良い扱いをされなかった。いつも一人だった」


掠り傷をそこら中に付け、桜の木の根元で白狼の紅蓮と共に自身の薙刀の手入れをする麗子の姿が、清の目に映った。


「……麗はいつも言っていた。


人を信用したって、ろくな事がないと……その気持ち、妾にはよく分かった」

「……」

「だから……妾はこの地を、守りたいのだ。

悪しき心を持った、あの男から」

「あの男?」

「気付いておらぬのか?


見た目は人の姿をしているが、皮を剥げば現れる……


お主等は知っているはずだ……あの、四年前の犯人を」


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三人の成敗

憎い……女が……

子連れの女……

友達と馴れ合う女……

男とイチャつく女……

幸せそうに笑っている女……


憎い……恨めしい……


全員……あの世に送ってやる!!


緋音が郷子達を送り、病院へ着き中へ入ろうとした時だった。

 

 

「あの」

 

「はい?」

 

 

黒いパーカーのフードを深く被った男が、彼女に声を掛けてきた。

 

 

「えっと……コンビニって、この辺りにありますか?」

 

「コンビニですか?でしたら……!」

 

 

妖気を感じた緋音は、すぐに話すのをやめゆっくりと後ろへ下がった。

 

 

「でしたら……どこです?」

 

「えっと……

 

 

近くに、交番があるのでそこへ」

「酷いなぁ……

 

人が、道を尋ねてるのに交番に任せるなんて……

 

 

無責任すぎるよ!!」

 

「キャァアア!!」

 

 

彼女の叫び声にいち早く気付いた真二と龍二は、すぐに外へ飛び出した。外へ出ると、ハンターナイフを手に持った男が、緋音の上に馬乗りになり彼女を刺そうとしていた。

 

 

「緋音!!」

 

「この野郎!!」

 

 

助走を付けた真二は、その勢いのまま男に跳び蹴りを食らわせた。彼が緋音から離れた隙に、龍二は彼女を担ぎ上げ後からやって来た勇二に渡した。

 

男は頭を抑えながら、ナイフを手に立ち上がり彼等の方を見た。

 

 

「お前……」

 

「いやぁ、刑事さん。

 

やっと、俺を見つけてくれたね?あんなに証拠を残したのに、全然捕まえに来ないんだもん。

 

凄く退屈だったよ」

 

「先生達!!早く、建物の中へ!!

 

勇二!署に連絡!!」

 

「もう連絡している!!

 

こちら、桐島!」

 

 

ぬ~べ~達の前に立った輝二は、懐から札を取り出し血を付けた。

 

 

「我に力を貸せ!急急如律令!!」

 

 

灰色の煙を上げ、中から暗鬼が姿を現した。

 

 

「鎌鬼、お前も親父の所に!」

 

「そのつもりだ!」

 

「わぁ、妖怪がいっぱい。

 

 

アッハハハ!いいね~……さすが、陰陽師」

 

 

不気味な光を目から放つ男……その時、彼の前に狼姿の焔が降り立った。

 

彼の背から飛び降りた麗は、男を見た瞬間彼の後ろへ回り、薙刀を振り上げた。

 

 

「麗華!!やめろ!!」

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

後ろへ下がった男は、体制を整えると持っていたハンターナイフを構え直し、麗華目掛けてナイフを振り下ろした。刺される寸前、彼女の前に清が降り立ち泡を吹いた。

 

 

「清!!」

 

「早く、麗を!!

 

焔!!手伝え!!」

 

 

狼姿から人の姿へとなった焔は、男の周りに炎の壁を作り上げ、逃げ道を封じた。その直後、周りに明かりが点いた。

 

 

「お前は完全に包囲された!柴崎紀之!

 

四年前の四人の殺害容疑、そして今回六件の殺人容疑で、お前を逮捕する!」

 

 

赤いランプの明かりが点いたパトカーから、スピーカーを使い柴崎に言った。その時、彼は力無く倒れた……そして、体から黒いマントを羽織り刀を持った妖怪が姿を現した。

 

その姿を見た焔と麗華は、一瞬固まりそして思い出した……

 

 

「……コイツだ」

 

 

一筋の涙を流す焔と麗華……彼女の目に、いつもの光が戻っていた。

 

 

その妖怪は、麗華達を見下ろすとその場から去ろうとした。

 

 

「逃がすか!!」

 

「渚!!」

「迦楼羅!」

 

 

三人は逃がさぬよう、妖怪を囲った。そして、渚は口から液を掛けた。妖怪は掛けられた液の匂いに耐えられず、地面へ落ちた。弱まる妖怪に、焔と迦楼羅は炎を噴き出した。火だるまになり、もがき苦しむ妖怪に輝二、龍二、そして麗華は槍、剣、薙刀を振り上げた。

 

 

「闇に住む邪悪な影よ」

 

「人の命を吸い取り、生きる道を」

 

「我等陰陽師が、この場で成敗する!!」

「成敗する!!」

「成敗する!!」

 

 

力任せに、三人は各々の武器を振り下ろした。妖怪は悲痛な断末魔を上げながら、黒い煙を上げて消えた……

 

その瞬間、麗華の髪が白から元の色、紺色へと戻った。息を切らしながら、三人はその場で仰向けに倒れた。

 

 

 

 

翌日……

 

 

病院へ来た郷子と広、そしてぬ~べ~。受付で手続きをすると、三人はある病室へ入った。そこにいたのは、病院ベッドに座り、外を眺める麗華だった。

 

 

「麗華!」

 

「?

 

あ!郷子!立野!」

 

「何だ、結構元気そうだな?」

 

「まぁね。昨日熱下がって、今日は起きられて」

 

「ビックリしたよ!入院だなんて」

 

「へへへ……ごめん」

 

「体の方は、もういいのか?」

 

「うん……今夜、まだ残ってる妖力を牛鬼達にあげれば、もう元通り!

 

何か、ごめんね。私色々迷惑掛けちゃったみたいで」

 

「良いって!良いって!」

 

「麗華が無事なら、それでいいって!ねぇ!」

 

「そうそう!」

 

「ありがとう!ヒヒ!」

 

「それにしても、今朝のニュース凄かったわよ!

 

連続殺人鬼が捕まったって!」

 

「そうそう!

 

テレビに、お兄さんとおじさんが映ってたぜ!」

 

「そりゃあね!お兄ちゃんが犯人の顔を見て、それを頼りに父さんが捕まえたんだもん!

 

映って当然!」

 

 

楽しそうに広達と話す麗華を、清は病室の外から見ていた。そんな彼女に、薬を持ってきた茂は声を掛けた。

 

 

「そんな所にいないで、中に入ったらどうだい?」

 

「べ、別に良い。

 

 

妾は、ただ……」

 

「……罪悪感でもあるの?麗華ちゃんを、妖怪にしたって」

 

「……ただ、麗に会いたかったんだ……

 

それに、あやつは妖気が溢れていた……いっその事、妖怪にして妖気を全て、放った方が良いかと思って」

 

「妖怪にした」

 

「……」

 

「まぁ、外から見ればあまり良くはないけど……

 

 

僕は、良かったと思うよ。妖気で苦しむ麗華ちゃんを見たくなかったし」

 

「……だけど、輝は」

 

 

顔を下に向ける清……その時、病室からヒョッコリと麗華が顔を出した。

 

 

「あ!あん時の妖怪じゃん!」

 

「!」

 

「ギギーとは、違う妖気を感じたからまさかと思ったけど!

 

どうしたの?」

 

「い、いや……その……」

 

 

モジモジした清は、手に持っていた何かを麗華に渡すとその場から姿を消した。

 

 

「あの子は、恥ずかしがり屋さんだね」

 

「……!」

 

 

麗華は渡された物にふと、目を向けた。それは桃色の翡翠で出来た小さい桃の花だった。

 

 

「お見舞いに来たんだろうね。

 

勇気を出そうとしたけど、先に友達が来たから行けなかったんだろうね」




夜……

病院の屋上で、自身の髪を梳かす清。その時、後ろから小さい紙袋が差し出され、驚き振り返った。そこにいたのは、大きな饅頭を食べる輝二だった。


「輝二……」

「食べる?

輝一兄さんのお店で作ってる、特大お饅頭」

「……輝一は、和菓子屋になれたのか」

「なったなった。

兄さん、お菓子作りは上手かったから」

「……」

「……帰ってきて……くれるかな」

「え?」

「その……俺、仕事に集中しちゃうと周りが見えなくなるから……麗華と龍二を、見失っちゃいそうだから……その」

「昔みたいに、尻を叩いて欲しいのか?」

「そ、そんなんじゃ!」

「お主、昔からそうだろう?

麗にいつも尻を叩かれて」

「清~!」

「でも、良いのか?」

「良いに決まってんじゃん!」

「お主が良くとも、麗と龍は!

妾は、麗を……麗を、妖怪に」


「いたぁ!」


屋上のドアを勢い良く開けた麗華は、声を上げながら嬉しそうに二人の元へ駆け寄った。


「父さん、見っけ!」

「麗華!寝てなきゃ駄目だろ?」

「もう平気だよ!

明日は、皆が待ちに待った祭りだもん!休んでなんかいられない!」

「祭り?」

「神楽舞のことだよ。

ほら、母さんよく舞ってただろ?」

「……あの舞、出来るのか?」

「もちろん!」

「麗華は妖怪達の中じゃ、アイドルだからね」

「ヒヒ!」


満面な笑みを見せる麗華の顔が、麗子の顔と重なって見えた。


(……麗)

「ねぇ!清も来るんでしょ?」

「え?そ、それは……」

「来なきゃ駄目!」

「け、けど」

「はいはい、言い訳は麗華の舞を見てからね」

「輝二!!」


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歓迎の舞

翌日の夕方……


麗華の家へやって来た郷子達。境内に入ると、そこでは本殿から舞台が組み立てられ、石灯籠に火が灯されていた。


「よぉ!お前等ぁ!」


舞台の組み立てを手伝っていた真二は、彼等に手を上げながら声を掛けた。


「真二さん!」

「お前等も見に来たのか?神楽舞」

「はい!」

「麗華に是非見に来てって、言われて!」

「んで、肝心の麗華は?」

「あいつなら今、本殿で軽くウォーミングアップしてるぞ」

「なら、こっそり覗きに」
「覗きに行くのは構わないが、門番してる殺人鬼の餌食になっても知らねぇぞ」

「や、やめときます……」


日が暮れ、辺りが暗くなり始めた頃……次々と集まる妖怪達。集まる彼等を、郷子達は麗華の家の縁側から覗き見ていた。

 

 

「凄え……もうあんなに集まってる」

 

「ここに来る妖怪って、皆麗華の舞目当て?」

 

「そうよ。

 

麗華ちゃん、ここに来る妖怪達のアイドルだから」

 

「妖怪の……」

 

「アイドル……」

 

 

「緋音お姉ちゃん!

 

お兄ちゃんが、お饅頭と酒のつまみの準備に掛かってくれって!」

 

 

袖の無い着物風の腹出しの朝顔柄の服に、太股で切れた丈の短い水色のスカートを穿き、白い下駄を手に持ち手に朝顔柄の大振り袖を腕に嵌めた麗華が、襖の戸を開けながら言った。

 

 

「れ、麗華?」

 

「あ!郷子!立野に細川も!

 

あれ?先生は?」

 

「結界張るって、外に」

 

「そんなことより、麗華!

 

何よ!その格好!」

 

「あぁ!これ。

 

さっき着替えたんだ!夏だから、夏の花をモチーフにして!」

 

「綺麗……髪は纏めないの?」

 

「纏めるよ。

 

後でね!」

 

 

「麗!髪を纏めるぞ!」

 

「はーい!

 

じゃあ、楽しんでってね!」

 

 

腰まで伸びた長い髪を揺らしながら、麗華は縁側を駆けていった。

 

 

「行っちゃった……」

 

「私も、麗華に習って神楽舞やろうかな」

 

「無理無理!郷子には!」

 

「む!何でよ!」

 

「だって、ずぼらじゃねぇか!性格が!」

 

「うっさい!!」

 

 

郷子が広を殴ったと同時に、玄関の方から声が聞こえそれと共に何かが駆けてくる足音が聞こえた。

 

 

「ま、間に合った!」

 

「あ!おじさん!」

 

「お邪魔してまーす!」

 

「いらっしゃい、皆」

 

「おじさん、早く着替えないと龍二が」

 

「あー、分かってる!」

 

「着替え!出しときましたよ!」

 

「ありがとう!」

 

 

ネクタイを外しながら、輝二は隣の部屋へ入った。

 

 

数分後、服の紐を結びながら輝二は本殿の方へ駆けていった。

 

 

「凄い、騒がしい人」

 

「だな」

 

 

“ドン”

 

 

その時、外から大太鼓の音が響いた。

 

 

「何だ?」

 

「太鼓の音?」

 

 

「緋音!酒とつまみ!」

 

 

水色の生地に白い川の流れの模様がデザインされた、袖無しの武道服に身を包んだ龍二が、縁側から障子を勢い良く開け入ってきた。彼はすぐに運んできた物を受け取ると、郷子達を見ながら言った。

 

 

「舞、始まるぞ!」

 

「やっとか!」

 

「それじゃあ、行こう!」

 

「お前等の担任が、結界貼って待ってるぜ!

 

緋音!お前も早く来いよ!」

 

「ここの片付け終わったら、すぐ行くね!」

 

 

 

外へ出てきた郷子達は、手を上げるぬ~べ~の元へ駆け寄り、注連縄が設置された箇所に入った。

 

傍には、木に凭り掛かり立つ暗鬼がいた。

 

 

「ぬ~べ~、あれは?」

 

「用心棒だそうだ……」

 

「なるほど……ぬ~べ~だけじゃ、頼り無いって事か」

 

「少しは安心できるわね!」

 

「お前等!!」

 

「抑えて!抑えて!」

 

 

舞台に設置された松明に、焔と迦楼羅は火を灯した。全てに灯すと、二人は舞台から降り入れ替えに輝二が、舞台へ上がった。

 

 

「今宵、我が山桜神社へのお越し頂き、誠にありがとうございます。

 

 

我が神社名物の神楽舞を、とくとご覧下さい!今宵は皆様の熱気を、冷まさせてあげましょう」

 

 

不敵な笑みを浮かべた輝二は、暗がりになっていた後ろへバク転しながら下がった。

 

 

それから間もなくだった……空から小雨が降ったのは。

 

それと共に、篠笛の音色が境内に響き渡った。小雨が降る中、被衣を頭に被った麗華が、笛を吹きながら舞台へ登場した。

 

 

髪をハーフに結び、結った箇所に紫陽花の簪を挿した彼女は、舞台の上をゆっくりと歩んだ。中心へ立つと口から笛を離し、そして被っていた被衣を上に投げた。

 

 

それを合図に、太鼓の音が力強く響いた。太鼓に続いて琴、三味線、笛、琵琶の音色が奏でられた。

 

 

落ちてきた被衣を手に取った麗華は、笛を懐にしまうと入れ替えに、扇を取り広げ舞を始めた。

 

 

“タァン”

 

 

床を叩く下駄の音が、境内に響いた。太鼓の音が止み残った琴と琵琶、笛の音色が響く中、麗華はゆっくりと舞った。

 

しばらくその舞をすると、強く床を踏むと被衣を脱ぎ捨て扇を上に上げた。それを合図に、上から大量の水が流れ舞台に溜まった。

 

 

「水だ!」

 

「何々?!何が始まるの?!」

 

 

水飛沫を上げながら、麗華は扇を扇ぎながら華麗に舞った。飛沫は見ていた妖怪達に掛かるが、彼等はそんなのお構いなしに歓声を上げた。

 

 

「凄え……水が生きてるみてぇ」

 

「さっすが麗華!」

 

 

宙で回転した麗華は、水の上に着地した。すると、彼女が足を突いた箇所から、水が凍り始めた。そして麗華は凍った氷を、足で叩き割った。割れた氷は宙へ跳びそれは粉雪へと代わり、辺りに降り出した。

 

 

「今回の舞は、特別最高だな!」

 

「よっ!桜巫女!!」

 

「さぁ!今宵も皆さんのご苦労と日々の疲れを取れるようお祈りを込めて、乾杯!!」

 

「乾杯!!」

 

 

笑みを絶やさない麗華を、近くに生える木の上から清は静かに見守った。そして、彼女に釣られるようにして笑った。




賑やかだった祭りは終わりを迎え、妖怪達は満足そうに帰って行った。片付けを手伝った郷子達も、しばらくして帰って行き、その後に緋音と真二も帰って行った。


皆がいなくなり、静まり返った境内……

本殿の階段に座りながら、麗華達は大きな饅頭を食べながら、三日月を眺めていた。


「久し振りだな……

こんなにゆっくりしたの」

「ここんとこ、ずっと残業だったからね」

「おまけに帰って来ないし」

「だから、それは……」

「未成年二人をほったらかして、仕事とか最低」

「うっ……」

「全くだ」

「龍二~!」

「ほら見ろ。子供に愛想尽かされたぞ」

「迦楼羅!

……


今回は父さんが悪かった!」

「二人共悪い!

喧嘩するのは勝手だけど、私を巻き込まないで!!


お兄ちゃんに投げ飛ばされるし」

「あれは悪かったって!」

「あれ痛かったんだから!!」

「ブスくれるな!」

「ブ~!

あ!清!」


屋根から飛び降りてきた清は、皿に残っていた一つの饅頭を口に頬張った。その様子を見ながら、輝二は話し掛けた。


「久し振りの家は、どうだった?」

「何も変わってなくて、少し嬉しかった」

「そっか……よかった」

「ねぇ!清!

後でまた、髪梳かして!」

「あぁ、良いぞ」

「やったぁ!」

「お前、自分で梳かせるだろ」

「いいの!清に梳かして貰いたいから!」

「そいつに頼まなくとも、俺が梳かしてやるよ」

「嫌だ!

お兄ちゃん、雑なんだもん!」

「雑って……」

「毛先まで梳かしてくれないじゃん」

「時間ねぇだろ」

「そういう問題じゃない!」

「喧嘩はやめなさい!」


輝二に止められ、龍二は頬杖を着きながらそっぽを向き、麗華は清にしがみつきながら饅頭を頬張った。そんな二人を見た清は、思わず笑ってしまった。


「どうしたの?清?」

「仕草と良い言い方と良い、主等本当によく似ておる。

麗と龍に」

「そうなの?」

「あぁ」

「ねぇねぇ!今度、お祖母ちゃんの話してよ!」

「祖父ちゃんの話も!

親父、良いよな?!」

「良いよ。

清の方が、鮮明に覚えてるし」

「清!良い?」

「……良いぞ。

その代わり、お主達も話してくれ……自分達のことや母親のことを」

「うん!」
「あぁ!」



夜が更け、二人は眠りに付いた……


輝二は、仏間で一人日本酒を飲んでいた。傍には、広げられたアルバムが二冊置いてあった。


「終わったよ……優華。

君を殺した犯人は、もう檻の中……お前が、死ぬ間際に麗華と焔に教えてくれたおかげだよ」


仏壇に飾られた優華の遺影は、どこか嬉しそうに微笑んでいた。


「その写真の女が、お前の妻か」


部屋に入ってきた清は、遺影を見ながら言った。


「そうだよ……


優華は、本当に二人を可愛がっていた……麗華が生まれた頃、仕事が忙しくなってなかなか二人の面倒を見られなくなって、妻には申し訳なかったなぁ」

「そういう、妻に任せるところは龍そっくりだな」

「仰る通りで」

「……付き合って良いか?

一杯」

「うん……

清と酒飲めて嬉しいよ」

「妾も。

あの小さかった輝二と、飲めるとは思わなかった」

「……清」

「ん?何だ?」




「お帰り」




「……


ただいま」


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教室が凶器に変身?!

ゲーム屋に並ぶ長蛇の列。その中に並んでいた克也と彼の妹・愛美は発売されたゲームを買いに来ていた。

しかし、買いに来たはいいがお金が足りなかった。それを見た愛美は、目に涙を浮かべて残念そうにした。そんな彼女の姿を見て、克也はお金を借りてくると、彼女に言って、商店街を歩きながら友達(広達)を探した。


しばらく走って行くと、鳥居が見えた。近付き書いてある名前を読んだ。


(はたもん場?

変わった名前の神社だな)


社の中を覗くと、そこには足りない分のお金があった。良くないと思いつつも、克也はそのお金を手に取り、愛美の元へ急いだ。


翌日……

 

 

「え?!あのゲーム買えたの?!

 

 

だって、あれ昨日でたばっかの限定ソフトだろ?!」

 

「良く買えたわねぇ!!」

 

 

愛美と克也から、昨日買ったゲームの話を聞いた広達は驚いていた。

 

 

「ギリギリだったのよ!

 

でも、お兄ちゃんがお友達からお金借りてきてくれて!

 

 

お兄ちゃんは、何でも出来るの!

お兄ちゃんは世界一なの!

 

愛美、とーっても尊敬してるの!

 

 

お兄ちゃん、大好き!」

 

「かあー!見せつけちゃって!

 

まるで恋人同士だな!」

 

「クールな克也も、妹にだけは甘いのよねぇ」

 

「兄貴っつーもんは、そういうもんだ!

 

 

現にここにいる龍二も、昔は麗華に甘々だったからなぁ」

 

「真二!!テメェ!!」

 

「小学生の前で、喧嘩しない!」

 

「と言うわけで麗華……

 

昨日買った限定ソフトで、今日遊ばねぇか!」

 

「無理!

 

今日、お兄ちゃん達と餃子作るから」

 

 

ショックを受けた真二は、電信柱の影で蹲った。

 

 

「悄気るな!置いてくぞ!」

 

「あっちはあっちで、面倒なお兄さんね……」

 

「真兄、いつもああいう感じだから」

 

「愛美、幼稚園の頃まで大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになろうと思ってたの!」

 

「あら、可愛い!」

 

「バカだな」

 

「俺なんかな、小四の頃まで大きくなったら怪獣達を倒すヒーローになろうと思っていたぞ!」

 

「アンタは本当の馬鹿よ」

 

「私なんか、小学校に上がるまで大きくなったら、忍になろうと思ってたから!」

 

「アンタなら、なれるよ」

 

「けどさぁ、克也。

 

金借りたって、誰に借りたんだ?」

 

「うっ……」

 

「そうよねぇ……あの辺りは学区外だしねぇ」

 

「うちの学校の生徒、誰もいないはずだろ?」

 

「そ、それは……その……」

 

「あれじゃね?

 

どっかの神社から賽銭盗んだんじゃねぇの?」

 

「!」

 

「んなわけねぇだろう……」

 

「真二じゃあるまいし」

 

「俺はそんな事しねぇよ!!

 

麗華ぁ!龍二達がいじめる~!」

 

「よしよし」

 

 

広達が騒いでいると、傍から美しいという声が聞こえた。前を向くとそこでは、嬉し涙を流しながら律子先生を撮るぬ~べ~がいた。

 

 

「ぬ~べ~、朝っぱらから何やってんだ?」

 

「お!良いとこに来た!

 

いやぁ、近所のカメラ屋でポラロイドの安売りしてたんで買ったんだが……

 

 

どうせ撮るなら、美しいビーナスの様な律子先生をモデルにと思ってな!」

 

「もう!上手なんだから、先生ってば!」

 

「では、美男美女のツーショットを、撮って貰おうかな!?」

 

「何考えてんだか、この男は」

 

 

撮れた写真を、ぬ~べ~は手に取り律子先生に見せた。

 

そこには二人の他に、数体の霊が写っていた。

 

 

「キャァアアア!!

 

 

こんな悪戯するなんて、鵺野先生大嫌い!」

 

「い、いや……これは浮遊霊が勝手に……律子先生」

 

「さすが霊能力者だな」

 

「俺等も霊感あるけど、こんなの撮れたことないぞ」

 

「普通に撮れるもんね」

 

「俺と麗華の場合は、渚と焔が追い払ってるからな」

 

「おぉ!そうか!」

 

「知っとけ!」

 

「フィルム勿体ないから、皆!撮っちゃお!」

 

 

そう言って、郷子は広達を撮っていった。その中、克也と愛美の写真だけ異様な物が写った……

 

写った二人の首が無くなっていたのだ……

 

 

 

その日の放課後、掃除をしていた克也はさり気なくぬ~べ~にはたもん場の事について質問した。

 

 

「はたもん場?

 

ありゃ、神様何てもんじゃないぞ。

 

 

あそこは昔の処刑所の跡だ」

 

「処!」

 

「あそこは江戸時代、罪人を何百人も打ち首にして、晒し首にして、腐るまで並べていた場所なのさ……

 

 

あの祠には、今でも打ち首に使った刀が納められているという話だが」

 

(打ち首の刀……)

 

「それがどうかしたか?」

 

「い、いえ……(や、やべぇ所から金盗んじまった……

 

罰当たらなきゃいいけど)」

 

 

「克也!!」

 

「?」

 

「大変だ!愛美ちゃんが!!」

 

 

踊り場へ駆け付けると、愛美は首を怪我していた。彼女の傍には、蛍光灯が落ちていた。

 

 

「いきなり蛍光灯が、落ちてきたんだ」

 

「危ねぇな。ネジ、緩んでたのかな?」

 

 

蛍光灯を調べるぬ~べ~……少し触ってみると、指が切れ血が出て来た。

 

 

(何かで削ったのか?

 

まるで、刃物のようだ……)

 

 

「一応、保健の先生に診て貰った方がいいぜ」

 

「あ、あぁ。

 

そうするよ……(はたもん場の呪いか?

 

まさか……偶然に決まってる)」

 

「木村、大丈夫?

 

顔色悪いよ?」

 

「だ、大丈夫……

 

 

あのう、妹が怪我をして……痛!!」

 

 

戸を開けた克也の指に、激痛が走った。彼は慌てて手を見ると血が出ていた。その時、戸が勢い良く閉まり克也は慌てて、戸を避けた。

 

 

「どうした克也!?」

 

「と、扉が刃物みたいに!」

 

「本当だ!一体、誰の悪戯だ!?」

 

「……いや、これは人間の仕業ではない」

 

「妖怪の仕業。

 

微かに妖気、感じるし」

 

「……」

 

「克也!何か、心当たりは」

「し、知らねぇ!!俺は何もしちゃいねぇ!!」

 

「?」

 

 

 

「賽銭を盗んだ!?」

 

 

ぬ~べ~と別れ、帰ろうと下駄箱へ来た克也は広達に昨日の事を話した。

 

 

「三丁目のはたもん場って言ったら、処刑所の跡で超有名な所だよ!!」

 

「何でよりによって、そんな所から!」

 

「知らなかったんだ……

 

それに、愛美はあのソフト、前から欲しがってたし……

 

まさか、こんな祟りがあるなんて……」

 

「祟りも何も、神社とか寺の物を盗めば罰当たるに決まってんじゃん!(真兄の言い分が、正しかったとは……)」

 

「わ、分かってたよ!」

 

「けどよ、そんなら何でぬ~べ~に相談しないんだよ?」

 

「怒られるのが怖いの?」

 

「そ、そんなんじゃねぇよ……

 

 

家は両親とも働いててよ、毎日夜遅くならないと帰って来ない……だから、その間俺がずっと愛美の親代わりになって面倒を見てきた……

 

そのせいか、愛美は俺のこと凄え尊敬してんだ。世界一のお兄ちゃんだって言ってよ……その俺が、賽銭泥するような不良だなんて知ってみろ。

 

あいつ、どんなに悲しむか……あいつの泣き顔だけは、見たくないからだな……」

 

「妹の立場として見ると、木村凄い良いお兄ちゃんなんだけど……」

 

「けど、このままじゃ愛美の命が危ない!!

 

 

はたもんばの奴は、盗んだ金を使った愛美も呪い殺そうとしてるんだ!だから!」

 

「先生に内緒で、一緒にはたもんばに謝りに行ってくれないかってか?」

 

「そ、そう……

 

 

だめ……だろうね……やっぱ」

 

 

ガッカリしている克也を見て、郷子達は互いに顔を合わせると、鼻で笑った。

 

 

「やれやれ……虫のいい話だけど」

 

「愛美ちゃんのためだもんね。仕方ない、行ってやるか!」

 

「妹として、カッコ悪いお兄ちゃんの姿は見たくないからね!」

 

「広!郷子!麗華!」

 

 

はたもん場の神社へ来た郷子達……ぬ~べ~の荷物から白衣観音経文を盗ってきた郷子は、それを広げた。

 

 

「え~……南無……大慈……大悲……救苦救難…広大…霊感……

 

 

駄目だ……読めない」

 

「郷子、あまり言いたくないんだけど……

 

 

ちゃんと読まないと、全く意味ないよ」

 

「うっ……

 

 

じ、じゃあ麗華読んでよ!」

 

「うちの経以外の物読んだら、父さん達に怒られる!!」

 

「と、とりあえず金返そうぜ」

 

 

そう言いながら、克也はポケットからお金を取り出し、それを社の中へ投げ入れた。

 

 

「はたもんば様、お金はお返しします。どうか怒りを鎮め下さい」

 

「貸したのは僕達です。

 

有り難く受け取って下さい!」

 

「広は十円しか出してません。

 

あとは全部、私と麗華です」

 

「と、どうかな?」

 

「許してくれたんじゃねぇか?」

 

「多分ね。帰りましょ、もう遅いし」

 

「何か、嫌な気配感じる」

 

「え?!」

 

「ちょっと麗華!」

 

 

「許さん」

 

 

トーンの低い声が、社の中から聞こえてきた……驚いた広達は振り返り社を見た。

 

社の中に供えられていた刀が、電磁波を放ちながら独りでに動き出した。

 

 

「そ、そうか!借りたら普通利子がつきますもんね!

 

広!」

 

「よ、よし!」

 

 

広からお金を受け取った克也は、再び手を合わせながら社の中へ投げた。しかしはたもんば、許すどころか近くにあった地蔵の首を切り落とした。

 

 

「わぁ!!」

 

「だ、駄目だ!!怒ってる!!

 

逃げろ愛美!!殺されるぞ!!」

 

「待て!盗人が!!」

 

「!?」

 

 

「許さん……許さんぞ……」

 

 

円月輪を体に通し、車輪のように動かした妖怪がそこに姿を現した。

 

 

「我ははたもんば……

 

罪人は首を切る!!」



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はたもんばの呪い

自転車を走らせる郷子達……後から円月輪を、回しながら彼等を追い駆けるはたもんばの姿があった。

 

 

「盗人め~!!首を寄越せ~!!」

 

「しつこい奴!!

 

 

悪いけど……焔!」

 

 

走っていた焔は、振り返りはたもんばに向かって炎を吹いた。だが火は効かずはたもんばは、速度を落とすことなく追い駆けてきた。

 

 

「嘘だろ……」

 

「効き目無ーし!!

 

学校へ逃げろー!」

 

 

学校へ着いた広達は、閉まっていた門を飛び越え校舎へ入ろうとした……だが、鍵が閉まっており入れなかった。

 

 

「あ、開かない……」

 

「もう帰っちゃったんだ!」

 

「そんなぁ!!」

 

「待たんか!!ガキ共!!」

 

「や、殺られる!!」

 

「一か八か、戦う!!

 

焔!!援護!」

 

 

広達の前に立ち、薙刀を構えた麗華は迫ってくるはたもんばを睨んだ。

 

その時、突如後ろから引っ張られ校舎の中へと連れ込まれた。

 

 

「ぬ~べ!」

 

「こんな事もあろうかと、残っていて良かったよ……

 

ここには、結界が張ってある……妖怪は入ってこれない」

 

「道理で、気分が悪いわけだ……」

 

 

狼から鼬姿へとなった焔は、差し伸べてきた麗華の手を伝い、パーカーの帽子の中へと入った。

 

 

「さて、教えて貰おうか?

 

何故、あいつに追われてる?どうして、俺に隠そうとした?」

 

「……」

 

「言えないのか?」

 

「……」

 

 

その時、窓硝子が割れる音が聞こえ、振り返るとそこにははたもんばがいた。

 

 

「こいつは驚いた……結界を破って入ってくるとはな」

 

「ワァァ!」

 

「先生、もう少し強い結界張っとこうよ」

 

「っ……

 

 

それで、俺の生徒に何の用だ?」

 

「罪人は首を切る」

 

「罪人?何のことだ?」

 

「首を切る!切る切る切る切る!

 

切るのだ!!」

 

「話の通じる相手じゃないな……

 

生徒達には指一本触れさせん。

 

 

南無大慈大悲救苦救難……白衣観音によりて封じられし鬼よ。今こそその力を示せ!」

 

 

鬼の手を出したぬ~べ~だったが、はたもんばは円月輪を回し、鬼の手を切り裂いた。

 

 

「先生!」

 

「鬼の手が、弾き返された!?」

 

「ば、馬鹿!見つかるぞ!」

 

「ガキ共め~、どこへ隠れた~……罪人は、首を切るぞ」

 

 

円月輪をこぎながら、はたもんばは郷子達を探した。

 

 

「どどど、どうしよう!?」

 

「だ、段々近付いてくる……」

 

「だ、駄目だ……

 

窓から逃げ…!!」

 

 

窓の縁に触った途端、広の手に激痛が走った。ハッとして窓を見ると、窓が刃物に変わっていた。そして勢い良く閉まった。

 

 

「ま、窓が刃物になってる!!」

 

「あいつの能力だ!」

 

「あらゆる物を、刃物に変える能力……

 

 

あいつ、欲しい!」

 

「アンタは早く、危険電波を発しなさい!!」

 

「って、ことは……

 

周りにある物全部が凶器……」

 

 

広の言葉通り、教室に置かれていた本の表示刃物となり彼等目掛けて、攻撃してきた。

本だけでなく、机や椅子が独りでに動き出し、彼等に襲い掛かった。

 

 

彼等は教室を飛び出し、すぐに逃げた。だが、駆けている最中愛美は足を滑らせ転んでしまい、彼女の元へ克也は駆け寄り、立ち上がらせようとした時、刃物となったシャッターが勢い良く落ちてきた。

 

 

「克也!!」

 

「させるか!!」

 

 

間一髪、傷だらけになったぬ~べ~と麗華がシャッターを止めた。

 

 

「先生!」

 

「木村!早く!」

 

 

克也はすぐに愛美を抱きながら、シャッターから離れた。ぬ~べ~と麗華は、手を離しそれを閉めた。

 

 

「怪我は無いか?!」

 

「う、うん……」

 

「平気だよ」

 

「せ、先生……その怪我」

 

 

ぬ~べ~の鬼の手は、ズタズタに切り刻まれていた。その時、シャッターを蹴り破ろうとはたもんばが、暴れ出した。それを見たぬ~べ~達は、急いでその場から退却した。

 

 

家庭科室へ来たぬ~べ~達……麗華は、ポーチから清めの札を数枚出すと、それをぬ~べ~の鬼の手に貼り霊気を送った。

 

 

「気休めにしかならないからね」

 

「分かってる……ありがとな、麗華」

 

「あのはたもんば……鬼の手を撥ね返すとは」

 

「奴は、江戸時代罪人を打ち首にした刀が、妖怪に変化した物なんだ。

 

殺された何百人もの罪人の怨念で出来た妖刀は、鬼の力でも打ち砕けない」

 

「麗華の力を借りれば」

 

「何百人もの怨念を消すなんて、無理だよ!

 

同じ陰陽師の奴がここに何人いても、結果は変わらない」

 

「……」

 

「それはそうと……

 

あいつは、お前達のことを罪人だと言っていた……どういう事なんだ?」

 

「っ……」

 

 

「痛っ!」

 

「愛美!」

 

 

膝を擦り剥いたのか、彼女の膝に痛々しい傷があり、そこから血が出ていた。克也は自分の服の袖を破り、怪我の手当てをしながら愛美に謝った。

 

 

「ごめんな!俺のせいでこんな目に……」

 

「どうして?

 

お兄ちゃんは悪くないよ。

 

 

あの妖怪が勝手に追っ駆けてくるだけじゃない!罪人だなんて……お兄ちゃんが、悪い事するわけないもん。愛美、信じてる」

 

 

愛美の言葉に、言葉を失う克也……そして、彼は彼女の前で頭を下げて言った。

 

 

「ごめん、愛美……

 

今まで黙ってたけど……あのお金、友達から借りたんじゃないんだ……

 

 

俺、はたもん場の祠から賽銭を盗んだんだ……

 

あいつの言う通り、俺は盗人の罪人なんだよ……

 

俺は、良いお兄ちゃんでいたかったけど、お前にこんな怪我させて……最低の大馬鹿野郎さ……」

 

「お兄ちゃん……」

 

(……今日帰ったら、お兄ちゃんの膝の上に座ろう)

 

「そういう訳なんだ……先生、すまねぇ」」

 

「克也は怒られるのが怖くて黙ってたんじゃないの!

 

愛美ちゃんをガッカリさせたくなくて……」

 

「やってしまったことは、今更どうしようもない……

 

叱るのは後回しだ」

 

「今は、あの刀野郎をどうするかだ」

 

 

廊下から響く刀が擦る音……その音はどんどんこちらへ、近付いてきていた。

 

 

「ぬ、ぬ~べ~、どうするんだ!?」

 

「鬼の手が効かないんじゃ、勝ち目ないよ!!」

 

「確かに、奴の刀は強力だ……正面からの攻撃ではビクともしない。

 

だが、刀以外の一の形をした部分を狙えば、倒せる!

 

何とか、横から攻撃できれば……」

 

「だったら、私が薙刀であいつの動きを」

「麗華、先生」

 

「?」

 

「俺が囮になる……

 

俺が奴の気を引き付けるから、その隙に先生は奴を横から!」

 

「木村……命の保証、出来ないよ?それでもいいの?」

 

「あぁ良い!!

 

頼む!俺にやらせてくれ!

 

 

俺のせいで、妹や友達に危害が及ぶなんて、耐えられねぇよ!!俺はどうなったって良い!!責任を取らせてくれ!!頼む!」

 

「克也……」

 

 

 

家庭科室へ入ってきたはたもん場……

 

すると隠れていた郷子達が、白旗を挙げながら姿を現した。

 

 

「はたもんばさん、悪いのは克也一人なんだ」

 

「アタシ達は、関係ないの……だから助けて。ね?お願い」

 

「克也は、ここに閉じ込めたよ……煮るなり焼くなり好き にしてくれ」

 

 

そう言いながら、広は机下の引き出しを開けそこに隠れている克也を指差した。

 

 

「や、やめろ!!死にたくない!!」

 

「罪人め……首を切るぞ」

 

「助けてー!!馬鹿!!ろくでなし!!」

 

 

円月輪をこぎながら、はたもんばは不敵な笑みを溢して克也に斬りかかった。

 

刃は見事に克也の体に入った……かに思えた。

はたもんばが切ったのは、克也ではなく、彼が写った鏡だった。

 

 

「鏡だとぉ!!」

 

「こっちだ!はたもんば!!」

 

 

横に向いていたはたもんば目掛けて、ぬ~べ~は鬼の手で攻撃した。ダメージを食らったはたもんば元の刀へと戻り、克也の足下の床に突き刺さった。

 

麗華はその刀の束に、札を貼り厳重に封印した。

 

 

「封印、完了!」

 

「やったぁ!!」

 

「やっぱ、鬼の手は最強だ!」

 

「お兄ちゃん!」

 

「良くやったぞ!克也!

 

 

賽銭泥なんて、みっともないところも見せたが……

 

今のお前の凛々しい姿を見て、愛美ちゃんも見直したことだろう!」

 

 

恐怖のあまりション便を漏らした克也の、だらしない姿を見ながら、広達は少々笑った。

 

 

「あんまり、凜々しくもないぜ、ぬ~べ~」

 

「そっかな!」

 

「カッコ悪くも、格好良い!木村は!」

 

 

克也に抱き着いていた愛美は、嬉しそうな表情を浮かべた。

 

 

(それでも、愛美はお兄ちゃんが大大好き!)




麗華宅……


本殿の階段に座り、団子を食べる麗華と龍二。麗華は団子を持ったまま、彼の元へ寄り膝に座った。


「何だ?どうした?」

「別に~。

ただ、こうしたかっただけ」

「……」

「父さん、帰り遅いね~」

「だな。

遅ければ、連絡寄越すだろ」


彼女の頭に手を乗せながら、龍二は少し嬉しそうに団子を頬張った。その後ろで寝そべっていた焔と渚は、大きなあくびを一つすると、二人を見守るようにして眺めた。


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恐怖の遠足

とある高原に来た童守小、五年の生徒達……

 

 

各々は色々な箇所へ行き、楽しそうに遊んでいた。

 

 

木に登った麗華は、辺り一面に広がる山々を眺めた。

 

 

「何か、輝三の所みたい!」

 

「麗華ぁ!

 

何か見えるぅ?!」

 

「変わったのは何も!

 

 

でも、めっちゃ綺麗だよ!」

 

 

一方その頃、ぬ~べ~は律子先生と一緒に、景色を眺めていた。

 

 

「良い景色ですね、律子先生!」

 

「本当に!

 

あの新しく出来た鉄塔が無ければ、もっと良かったんですけどね……

 

 

でも、やっぱり気持ちいいなぁ!やっほーー!!」

 

「(おお……律子先生、何と美しき声だろう。

 

山の児玉が、まるでソナタを奏でているようだ)

 

んじゃ、僕も負けずに……やっほーー!!」

 

 

「成仏させろー!!」

 

 

「な、何ですか!?今のは?!」

 

「いや、その……

 

 

どうも、この方達が返事したようで……」

 

 

近くに立てられた看板をぬ~べ~は、律子先生に見せた。それは『早まるな!自殺者多し』と、書かれていた。

 

それを読んだ彼女は、彼を叩き走って逃げていった。

 

 

昼を食べしばらくした後、皆帰りの支度を始めた。

 

 

峠を下りるバス……崖下には、何台もの車が落ちていた。

 

 

「な、何か自棄に事故多いわね、この道」

 

「あ!あそこにまた、一台!」

 

「カーブが多いからでしょ」

 

 

「この辺りは『鬼門峠』と呼ばれ、昔から難所と言われていました。

 

伝説では、この峠のどこかに霊界が通じる『鬼門』があるからと、されています」

 

 

峠を走るバスの中、バスガイドは郷子達にそう説明した。

 

 

「鬼門って何?ぬ~べ~」

 

「何だ、広。そんなことも知らんのか?

 

 

鬼門というのは、陰陽道で不吉とされている場所で、そこでは車の衝突事故などが、起こりやすくなるんだ」

 

「その話なら、従兄弟に聞いたことあるよ!

 

鬼門に近付くと、陰陽師が体調不良を起こすって」

 

 

ぬ~べ~の隣に座っていた麗華は、窓の外を眺めながら顔を真っ青にして話した。

 

 

「お前のは単なる、車酔いだ!」

 

「焔も?」

 

「帰りてぇ……」

 

「知らん!!」

 

「ぬ~べ~!話の続き!」

 

「ウォホン!

 

 

科学的に言えば、そういう場所は地磁気が強くなっていてな。霊界との連絡口になっている。

そこからやってくる妖怪共が、事故を起こす原因なのさ」

 

「まぁ……この先生、霊の話になると急に元気になるのね。何だか気持ち悪いわ」

 

 

バスガイドの言葉に、心に傷を負ったぬ~べ~はいじけてしまった。そんな彼を、郷子は慰めた。

 

 

「今でも事故が多いの?」

 

「そうねぇ……今月に入ってから、もう十人は死んだわね。

 

生き残った人の話では、事故の直前怪奇現象があったそうよ……何かがドーンとぶつかって」

 

 

その時、車の後ろに何かがぶつかったのか、大きな音が車内に響いた。

 

 

「な、何だ?!今、物凄い音が?」

 

「何かがぶつかったんじゃ」

 

「い、いや……ミラーには何も映ってない」

 

「それで、それからどうなるの?」

 

「え?

 

ええ……その後、急にブレーキが効かなくなって」

 

 

その時、運転手が突然顔色を変えて、震えた声で言った。

 

 

「ブレーキが……効かない」

 

「ええ?!」

 

 

またしても、車に何かがぶつかったのか、大きな音がした。

 

 

「これは……」

 

「外に何かいる!!」

 

「ぬ~べ~!!」

 

「目に見えない何かが!!」

 

「ゆ、幽霊だ……幽霊がこのバスを狙ってるんだ……

 

ひー!!」

 

 

運転手は恐怖のあまり、バスのドアを開け外へ飛び出そうとした……次の瞬間、彼の体が何か鋭い刃物のような物で千切りにされてしまった。

 

 

「う、運転手さんが!!」

 

「何がいんのよ!!

 

 

姿を見せなさい!!」

 

 

ポーチから札を取り出し、麗華は窓を開けるとそれを投げた札は光を放ち、見えなかったものを見せた。

 

 

それは、事故車に寄生したヤドカリのような妖怪だった。

 

 

「キャァアア!!」

 

「いやー!!お化け!!」

 

『鬼門ヲ開ケロ……俺ヲ帰セ!!』

 

「沙裏鬼……

 

霊界の表層部にて、現世との間を往復するだけの、無害な妖怪なのに……何故!?」

 

『鬼門ヲ開ケロ!!』

 

 

そう怒鳴りながら、沙裏鬼はバスに体当たりした。バスはガードレールに当たり、今にも落ちそうになっていた。

 

 

「きゃあ!!危ない!!」

 

「突き落とされるぞ!!」

 

「やっぱ鬼門から出入りしてた化け物だ……」

 

「出てる最中に、何だかの理由で鬼門が閉じちゃったから、帰れなくなって怒ってるんだね」

 

「それで何で人を襲うのか?!」

 

「人に問題あれば、妖怪は普通に襲うよ」

 

『帰セ!!』

 

 

沙裏鬼は後ろへ下がると、バスの後部席の車窓を割った。

 

 

「キャァアア!!」

 

「しまった!!後ろをとられた!!」

 

「運転私に任せて、先生は早くあいつを!!」

 

「頼んだ!麗華!!」

 

「焔!!先生の援護!」

 

「応よ!」

 

 

運転席から離れたぬ~べ~は、後ろへ行き沙裏鬼に攻撃した。その間に、車のメーターを見ると80㎞を超えていた。

 

 

「もう!!このスピード下げなきゃ、曲がりきれない!!転落しそう!!」

 

「あと少し行けば、緊急待避所がある!

 

それまで持ち堪えるんだ!」

 

「それ聞けば、何とか持ち堪えられそう!

 

 

 

先生!!道の向こうに、歪みが見える!」

 

「?

 

あれは!!鬼門だ!

 

だが、磁場が歪んで上手く開いていない!何故だ!」

 

「……!

 

そうか……

 

 

先生!!多分、その辺に立ってる鉄塔のせいだよ!!」

 

 

麗華の言葉に、ぬ~べ~は窓から身を乗り出し鉄塔を見た。

 

 

「……そうか。

 

新しく出来た送電線の高圧電流が、鬼門の磁場を歪めていたのか」

 

「だから、人に攻撃……

 

なるほどね!それなら、納得!!」

 

「だとすると、あの電流を遮断すれば……

 

麗華!!」

 

「何!」

 

「俺は奴をバスから切り離す!!

 

お前はバスを!」

 

「避難所に入れるんでしょ!」

 

「頼んだぞ!」

 

「アイアイサー!

 

焔!先生を手伝って!」

 

「応」

 

 

鬼の手を解放しながら、ぬ~べ~はバスから飛び降り沙裏鬼に攻撃し飛び乗った。

 

 

「先生!!」

 

「鬼の手よ!!伸びろ!!」

 

 

天高く伸びる鬼の手……伸びた先は電流が走る線を握り切った。すると、歪んでいた鬼門が開き、沙裏鬼は車を捨て鬼門の中へ帰って行った。

 

 

ブレーキが効くようになった麗華は、すぐにブレーキを踏みサドルを切り車を止めた。

 

 

「と、止まった……」

 

「た、助かった」

 

「先生は?!」

「焔!」

 

 

道路には、焔の背に乗ったぬ~べ~が親指を立てていた。

 

 

「おい……」

 

「?」

 

「さっさと俺の背から降りろ!!」

 

「す、すいません!!」

 

 

慌てて降りたぬ~べ~……焔は首を振ると、麗華の元へ駆け寄り体を擦り寄せた。

 

 

「鵺野先生!!」

 

「やぁ!律子先生」

 

「キャー!!いやー!!怖い!!来ないでー!!」

 

「へ?」

 

 

突然逃げた彼女に、ぬ~べ~は訳が分からずにいた。

 

しょんぼりして、自分のバスに戻ろうとした時、彼の背中に着いていた沙裏鬼の腕が地面に落ち、それは何事も無かったかのようにスッと消えた。



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忘れられた傘と花

某所……

コンビニから出て来た塾帰りの女の子……雨の音を少し迷惑そうに聞きながら、傘立てに立てていた自身の傘を手にし広げた。


「……?


!!キャァァアアア!!」


梅雨に入り、ここ数日雨が続く童守町……

 

 

「全く、毎日毎日雨続きで嫌になるわ!」

 

 

降り続く雨を見ながら、美樹は一緒に登校していた郷子と麗華に文句を言った。

 

 

「まぁ、仕方ないじゃない。梅雨なんだし」

 

「この梅雨のせいで、全然洗濯物が干せないんだけど……」

 

「アンタは主婦か…」

 

 

歩いていると、ふと掲示板に目が留まった。板には、行方不明者の貼り紙がいくつも貼られていた。同じように、後から来た広達も彼女達に挨拶を交わしながら、その掲示板を見た。

 

 

「これ……」

 

「ここ最近、増えてるみたいだね。神隠し」

 

「神隠し?」

 

「傘から目を離した隙に、傘が入れ替わってて入れ替わった傘が、差した本人を食らうって、噂で聞いたわ!」

 

「マジかよ!」

 

「けど、入れ替わってたら普通気付かねぇか?」

 

「話じゃ、柄が一緒だから全く気付かないんですって!

 

しかも!主に狙われやすいのは、花柄の傘!」

 

「花柄の……」

 

「傘……」

 

 

美樹の言葉を繰り返しながら、郷子達は麗華の方を見た。水色に桜吹雪の柄が入った和傘を差した彼女は、彼等に釣られ自身の傘を見た。

 

 

「ありゃりゃ、狙われやすいね。私」

 

「んな呑気に言ってる場合か?」

 

「まぁ、平気でしょう!焔いるし!

 

いざとなれば、私が囮に」

「ダーメ!」

 

 

後から来た緋音は、麗華の頭に軽く叩きながら叱った。

 

 

「お姉ちゃん、まだ何もやってないのに……」

 

「そう言って、危ないことしようとするんでしょ!

 

そういう事、やっちゃ駄目って龍二から言われてるでしょ?」

 

「やらないし!」

 

「そう言って、やるんでしょ」

 

「う……」

 

(あの顔、図星だな)

 

「やるんだったら、今日泊まりに行かないわよ」

 

「あ~ん!やらないから!」

 

「緋音さん、今日麗華の家に泊まるんですか?」

 

「龍二が明日の夕方まで、部活の強化合宿でいないの。真二も同じく。

 

おじさんも、今仕事が立て込んでて泊まり込みになるからって事で」

 

「それでか」

 

「お前、もう小五なんだし留守番くらい一人でやれよ」

 

「やらせようにも、あの親子が心配性だから出来ないのよ」

 

「そうそう」

 

「それはお気の毒に」

 

 

 

放課後……

 

 

掃除が終わり、他愛のない話をしながら郷子達は下駄箱で靴を履き替えていた。

 

 

「?」

 

 

微かな妖気を感じた麗華は、傘の柄に伸ばしていた手を一瞬引っ込めた。

 

 

「……」

 

「どうかした?麗華」

 

「あ、何でも無い!」

 

 

気にしつつも、傘の柄を握り先に外へ出ていた郷子達の元へ行き、学校を後にした。

 

 

雨が降り続ける夜……

 

麗華の家で、夕飯を作っていた緋音は野菜室を開け使う野菜を探したが、そこにはなかった。

 

 

「(買いに行ってくるか……麗華ちゃん、丁度お風呂だし)

 

麗華ちゃーん!ちょっと買いだし行ってくるわね!」

 

 

風呂場に向かって声を掛けると、中にいた麗華は返事をした。返事を聞き、緋音は自身の傘を持ち外へ出た。

 

 

 

「フー!さっぱりしたぁ!」

 

 

お風呂から上がった麗華は、居間の襖を開けた。

 

居間には誰もいなかった……

 

 

「……あれ?

 

出たの、30分も前なのに……」

 

 

台所へ行くが、準備がされているだけでまだ手が付けられていない食材と、既に炊きあがった炊飯器が置かれていた。

客間、寝室、輝二の部屋、龍二の部屋、自身の部屋と各々の戸を開けるが、そこに緋音の姿は無かった。

 

 

「……焔、お姉ちゃんを探しに……」

 

 

この時、ハッと麗華は気付いた……焔がいないことに。

 

 

「……アイツ、どこ行った。

 

焔ぁ!!焔ぁ!!」

 

 

名を呼びながら、麗華は下駄を履き玄関を開けた。土砂降りの中、玄関付近に置かれた開いた朝顔が描かれた傘が、風に揺られ転がっていた。

 

 

「……」

 

 

何かを感じた麗華は、靴に履き替え地面に転がっていた傘を手に、雨の中を駆けていった。

 

 

 

その頃、緋音は暗い異空間の中で、目を覚ました。

 

 

(……あれ、ここどこ……

 

私確か、買い物に行こうとして傘差して……)

 

「目ぇ覚めたか?」

 

「え?

 

ほ、焔!?な、何で」

 

「テメェが傘に吸い込まれていくところを、目撃したから……助けようと手を伸ばしたら、そのまま一緒に」

 

「……って、麗華ちゃんは?!」

 

「……ただいま、お一人でお留守番」

 

「何やってんのよ!!

 

アンタまでいなくなったら、麗華ちゃんパニックになっちゃうじゃない!!」

 

 

怒鳴る緋音の声に、焔はうるさそうに耳を塞いだ。

 

 

『餌が二匹掛かった』

 

「え?」

 

 

見たことの無い花弁が、焔と緋音の周りを舞いそして、目の前に巨大な木が現れ、その木の幹に蔦に絡まれ身動きが取れなくなった、行方不明者達がいた。

 

 

「な、何……これ」

 

「ここにいる奴等、全員ここ最近いなくなった奴等ばかりだぞ」

 

 

 

 

「先生!!大ピンチ!!」

 

 

学校へ着いた麗華は、宿直室にいるぬ~べ~の元へ駆け付けた。彼は宿直室でエロビデオを鑑賞しており、突如開いた扉に驚き、ビデオを取り出し慌てて後ろへ隠した。

 

 

「れ、麗華!な、何だこんな夜遅くに!」

 

「……エロビデオ隠さなくても、連行しないよ」

 

「法に触れてるわけないだろう!!

 

お前に見せるのが、教育上よろしくない!!」

 

「じゃあ見るな!」

 

「うるさい!

 

 

それで、どうした?」

 

「あぁ、そうだ!

 

先生、大ピンチ!!緋音お姉ちゃんと焔が家から消えた!!」

 

「そんなの、買い物に行って……?」

 

 

何かを感じたぬ~べ~は、麗華に近寄り彼女が持っている傘に鬼の手を翳した。

 

 

「……微かだが、妖気を感じる」

 

「え?」

 

「麗華、その傘少し見せてくれないか?」

 

「別にいいよ」

 

 

緋音の桃色の傘を、麗華はぬ~べ~に渡した。

 

受け取った彼は、傘を見ながら広げた……次の瞬間、広げた傘から目映い光が二人を包み込んだ。

 

 

「……?」

 

 

目映い光が消え、麗華は恐る恐る目を開けた。そこは、暗い異空間の中だった。

 

 

「……ここ、どこ?

 

何で……先生!どこぉ」

 

「あの、俺ここなんですけど」

 

 

自身の足下を見ると、ぬ~べ~は俯せの状態で倒れていた。麗華は慌てて、彼の上から降りた。

 

 

「ここ、どこ?」

 

「あの傘に食われて、異空間に吸い込まれたのかもしれないな」

 

「また異空間……先生、最近思う。

 

私、異空間とか狂暴妖怪に何か好かれてる気がする」

 

「それは昔からだと思うぞ」

 

 

『餌が二匹掛かった』

 

 

その声に、ぬ~べ~はすぐに白衣観音経を手に構え、麗華はポーチから札を取り出し、それに血を付けると薙刀を出し構えた。

 

すると、どこからか光る玉が飛んできた。麗華はぬ~べ~の襟を掴み彼を倒し、その玉を避けた。

 

 

「何だ、あの玉?」

 

「れ、麗華……首、首」

 

「ちょっと我慢してて、先生。

 

あの光の玉の正体を……うわっ!」

「ぐへ!」

 

 

光る玉と共に、炎の玉が飛んできた。麗華は慌てて伏せ、飛んできた方向を見た。

 

 

「あの炎の玉は……」

 

「れ、麗華……し、死んじゃう」

 

 

彼の襟を離し、麗華は首に掛けていた木笛を吹いた。

 

鳴り響く笛の音……ぬ~べ~は、辺りを見回して警戒した。すると上から狼姿となった焔が、彼の上に着地した。焔の背から緋音は飛び降り、麗華の元へ駆け寄り抱き締めた。

 

 

「麗華ちゃんよかったぁ!

 

ごめんね、一人にさせちゃって!怖かった?」

 

「全然平気!

 

それより、お姉ちゃん怪我してない?大丈夫?」

 

「平気よ!

 

ねぇ、何で先生気を失いかけてるの?」

 

「さぁ」

 

 

『出て行け……ここは、我の地だ』

 

 

その声と共に、どこからか無数の針のような物が雨のように飛んできた。麗華は薙刀を振り回しその薙刀に焔は炎を放ち、飛んでくる針を消した。同じように、緋音は気孔を放ち針を消し、ぬ~べ~は白衣観音経を広げた防いだ。

 

 

『人の子にしては、かなりできるな』

 

 

開花した不気味な色をした花の上に、攻撃をした者が降り立った。

 

 

「な、何だ!?この妖怪は!?」

 

「ここ最近、起きてる失踪事件は全部こいつの仕業だ」

 

「?!」

 

「コラァ!!お前の失踪事件起こしたせいで、父さんが早く帰れないじゃない!!早く、さらった奴等解放しろ!!」

 

「麗華ちゃん!それを言うのは、今じゃない!!」

 

『そんなもん、傘を忘れる貴様等人間が悪いだけだ』

 

 

妖怪が差し伸ばした手から、無数の針のような物が再び麗華達を襲った。ぬ~べ~は二人の前に立ち、白衣観音経で防ぐと、同時に鬼の手を召喚した。

 

 

「何が目的なんだ!」

 

『人の生気を吸い、完全な妖怪になる。

 

それだけだ』

 

「……くだらない理由だな!!」

 

「麗華!!」

 

「先生!とっととやっつけて!

 

こんなくだらない理由で、父さんの仕事を増やされちゃ堪ったもんじゃない!!」

 

「お前は父親中心に、物事を考えるな!!」

 

「だって、帰り遅いんだもん!!

 

ここ最近なんて、顔見てないんだから!!」

 

 

麗華が愚痴っている間に、傍にいた緋音は手に気を溜めて、妖怪目掛けて気孔を放った。妖怪はすぐに避けたが、目の前に先程まで喧嘩していた二人が、鬼の手と薙刀を構えていた。

 

 

「悪霊退散!!」

「無に帰れ!!」

 

 

ほぼ同時に、二つの攻撃を食らった妖怪は光に包まれ消滅した。その光は四人と異空間に吸い込まれた行方不明者達を包み込んだ。




……



雨が降る音に、麗華は宿直室で目を覚ました。体を起こすと、傍にいた緋音と鼬姿になっていた焔が目を覚まし起き上がった。


「あれ?ここって……」

「学校の宿直室。先生!どこぉ!?」

「ここだ!」


下から聞こえ、目線を向けると俯せの状態で倒れているぬ~べ~の上に緋音が座っており、彼女は慌てて退いた。


「す、すみません……先生」

「いや、いい」

「まだ雨降ってる~」

「本当。

早く帰って、ご飯食べようか!」

「うん!」


床に転がっていた傘を手にして、麗華は緋音と一緒に部屋を出た。


「そういえば麗華、お前だけ何でさらわれなかったんだ?」

「え?」

「美樹の噂話だと、花柄の傘が狙われるって言っていたが……」

「……あー!

多分これ、母さんのだからだよ!


私の傘、随分前にボロボロになって捨てたんだ。新しいの買うまで、これ使ってろって父さんが」

「それでか」

「あの妖怪、麗華ちゃんをさらおうとしたけど、お母さんに邪魔されてさらえなかったから、私をさらったのね」

「多分そうだよ」

「それなら納得だ。

ほれ、途中まで送ってやるから」

「大丈夫だよ、先生!

焔に送って貰うから!」

「帰ったら、濡れた毛洗え」

「りょーかーい!」

「それじゃあ、先生色々ありがとう」

「あぁ」

「じゃあな!先生!また月曜日!」


狼姿となった焔の上に乗り、麗華は緋音と一緒に帰って行った。彼女達を見送ると、ぬ~べ~は宿直室へと戻った。


後日談……

行方不明者は、皆いなくなった場所から発見され、皆無事に家へ帰りました。


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寺の大掃除

夏休み……


補習授業のため、学校に来ていた郷子達。


「お寺の掃除?」


黒板に書かれた文字を消しながら、麗華は郷子達に話した。


「うん。

輝三の仕事で、田舎の方にある古いお寺の掃除を手伝って欲しいって話があって。

お兄ちゃん達が行く予定だったんだけど、期末テストと重なって……一人で行っても、大変だから郷子達どう?」

「寺の掃除か……」

「掃除したら、何かくれるの?」

「お駄賃程度のお金貰えるよ。

それに丁度、近所で花火大会があるから、貰ったお駄賃持って遊びに行くことも出来るし!」

「花火大会……面白そうだな!」

「花火、まだ見てないもんね!」

「よし!行くか」

「アタシも!」

「私も!」

「俺も!」

「じゃあ、行くのは木村と立野と、細川と郷子ね!

そんじゃ、輝三に伝えとくね!」

「……なぁ、麗華」

「何?」

「お前がさっきから言ってる、輝三って誰だ?」

「伯父さんだよ。父さんの一番上のお兄さん!

別の県で、父さんと同じ刑事やってるんだ」

「へ~(おじさんのお兄さん……)」


彼等の頭に浮かぶのは、輝二と似たような容姿をした輝三の姿だった。


某所……

 

バスから降りる、郷子達とぬ~べ~。

 

 

「何でぬ~べ~が来たんだよ」

 

「てっきり私達だけかと思ったのに!」

 

「保護者として、麗華のお父さんに頼まれたんだよ!!文句言うな!」

 

「娘の教師を保護者として雇うのって、父親としてどうなんだ……」

 

 

森に囲まれた道を数分歩くと、門が見えた。麗華は門を開けると、中へ入り彼女に続いて郷子達も中へ入った。

 

 

「誰もいねぇな?」

 

「出迎えに来るって言ってたのに……

 

ちょっと探してくる!」

 

「分かった!」

 

 

麗華が去った直後、突然木々が騒ぎ出した。嫌な気配を感じたのか、ぬ~べ~は白衣観音経を手にして、辺りを見回した。

 

 

すると、茂みから大きな羆と熊の毛皮を被った人が、郷子達の前に姿を現した。

 

 

「ぎゃー!!」

 

「出たぁ!!」

 

「な、何だ!?あれは」

 

 

叫び声に気付いたのか、金堂の裏から出て来た麗華は、郷子達の元へ駆け寄った。

 

 

「どうしたの?皆」

 

「れ、麗華!!あれ!!」

 

「?

 

 

あ!御住職!」

 

「ご、御住職?」

 

 

毛皮を被った人は、毛皮を取ると頭を丸くした男性だった。

 

 

「ひ、人だ……」

 

「ビックリしたぁ……てっきり、森の人かと思った!」

 

「どこ行ってたの?」

 

「山菜を採りに山に。

 

良く着たね」

 

「へへ!」

 

「ようこそ。こんな辺鄙な所へ。

 

遠かったでしょう……さ、中へ」

 

「あ、はい!」

 

 

広い和室へ案内されたぬ~べ~達……荷物を置くと、早速掃除に取り掛かった。金堂の中を広達が焔と共に掃除をし、郷子達は麗華と共に境内を掃いていた。

 

 

「広いわねぇ、この寺」

 

「本当!何かこれだけで一日が終わりそう」

 

「大丈夫!すぐ終わるって!

 

終われば、この下にあった町で花火大会が待ってるよ!」

 

 

その言葉で、郷子と美樹は再び箒を動かした。裏の方へ回った時、郷子の前にあの羆が茂みから現れた。

 

 

「キャー!!」

 

 

悲鳴に金堂の中を掃除していた広達は、慌てて外へ飛び出した。いち早く駆け付けた麗華は、腰を抜かした彼女の元へ駆け寄った。

 

 

「く、熊!!熊!」

 

「郷子、落ち着いて!この熊は平気!安全だから!」

 

「で、でも熊よ!熊!」

 

 

怯える郷子を見て、羆は鳴き声を上げながら茂みの方へ去って行った。

 

 

「ほら、郷子が騒ぐから」

 

「だ、だって!」

 

「去ったらいいじゃねぇか!

 

早く掃除終わらせて、祭り行こうぜ!」

 

「郷子!」

 

「う、うん……」

 

 

麗華に立たせられた郷子は、彼女と共に掃除へ戻った。

 

 

 

夕方……

 

 

掃除が終わり、郷子達は用具を元の場所へ片付けた。

 

 

「ふー……結局夕方まで掛かっちまった」

 

「もう、五時半だ」

 

「麗華、花火大会って何時から?」

 

「七時だよ!

 

終わるのは八時くらい!」

 

「まさか、今日ここに泊まるのか?」

 

「そうだよ。

 

明日の朝、輝三が車で迎えに来るから」

 

「嘘ぉ!!こんな不気味な所で、泊まれるわけ無いじゃない!!」

 

「さっきの熊が出て来たら、どうするのよ!!」

 

「大丈夫だって!

 

私、毎年泊まってるけど被害出てないもん!お兄ちゃん達だって、ずっと昔から泊まったことあるけど、何もなかったって言ってるし」

 

「お前等兄妹と俺達を一緒にするな!!」

 

「花火大会やめて、先に帰る?

 

この暗い道」

 

「バスがあるから平気よ!」

 

「バスもう無いよ」

 

「え?」

 

「花火大会があるから、この辺りの交通ルートは人が多いから、全部封鎖。

 

明日まで無いよ」

 

「そ、そんなぁ……」

 

「大丈夫だって!先生もいるし、住職もいるし!問題ない!」

 

「アンタはどうして、そう呑気でいられるのよ」

 

 

 

ヒグラシが鳴く森の中を歩く、郷子達。提灯を手に先頭を歩く麗華の肩に、郷子は手を置きしがみついていた。

 

 

「郷子、怖がりすぎ」

 

「だって!」

 

「近道って言ってたけど、合ってるの?」

 

「うん。何回も言ってるから、大丈夫!」

 

「……なぁ、ぬ~べ~」

 

「?」

 

「さっきから、顔怖ぇぞ」

 

「え?そ、そうか?」

 

「そういえば、寺に来てから凄い険しくなったよね?」

 

「……」

 

「険しくなって当たり前だよ。

 

境内に入ってから、妖怪の気配ビンビンだもんね!ぬ~べ~!」

 

 

笑顔で言いながら、麗華は振り返りぬ~べ~を見た。その顔に違和感を覚えた彼は、鬼の手を出し白衣観音経を彼女に向けた。

 

 

「ぬ、ぬ~べ~!?」

 

「どうしたのよ!?」

 

「お前、誰だ?」

 

「へ?何言ってるの?

 

私は、麗華!どうしたの?ぬ~べ~」

 

「……お前は麗華じゃ無い」

 

「え?」

 

「な、何言ってるの?」

 

「麗華は、俺のことを『ぬ~べ~』とは呼ばない……

 

誰だ!?」

 

「……バレちゃ、仕方ないわね」

 

 

煙を上げ姿を現したのは、三つの尾を生やした狐だった。

 

 

「き、狐?」

 

「せっかく、美味しい獲物が捕れたと思ったのに……残念ね」

 

「偽者って……じ、じゃあ麗華は?!」

 

「今頃、暗い溝の」

「勝手に殺すなぁ!!」

 

 

狐の頭に跳び蹴りを食らわした麗華は、着地しながら狐を睨んだ。

 

 

「もう!何すんのよ!!」

 

「人を騙しやがって!!

 

おかげで、ここまで来るのに時間が掛かったわ!!」

 

「騙される方が悪いのよ!」

 

「妖の世界ではそうかもしれないけど、人間の世界はそうじゃないんだよ!!

 

狐鍋にでもしてやろうか!!」

 

「そんな怒らなくてもいいじゃない!

 

あの人達がくるの楽しみにしてたのに……来やしない上に、訳の分からないクソガキと、無能の霊媒師を連れてきて」

 

「頭にきたから、麗を騙したってか?」

 

「……そうよ!

 

仕方ないから、アンタの所に寄ろうと思ったらそこの小娘達に追い払われたのよ!!箒で!」

 

「え?」

 

「……あぁ!昼間の!」

 

「麗華がちょっと離れてる時に、狐が出て来て……

 

掃除してる最中だったから、悪戯されると困ると思って追い払ったの」

 

「そうだったんだ……

 

ごめんな……」

 

「……フン!

 

今回は、お主に免じて許してやる」

 

 

そう言うと、狐は茂みの中へと姿を消した。

 

 

「あの寺は、どういう寺なんだ?」

 

 

再び森を歩き出したぬ~べ~は、前を歩く麗華に質問した。

 

 

「動物妖怪が集まる寺だよ。

 

この辺りの森って太古からあって、ずっと住み着いてる動物の子孫がいたり、妖怪になってまだ生きてる奴等もいるんだ」

 

「そうだったのか……道理で妖気を感じる訳だ!」

 

 

その時、暗かった森が急に明るくなった。それを見た麗華は、提灯の火を消し郷子達を手招き道を進んだ。

 

茂みを出ると、そこは見晴らしの良い崖になっており、向こうにはお祭りの明かりが見えた。

 

 

「凄ぉ……」

 

「特等席じゃねぇか!」

 

「昔、さっきの狐に教えて貰ったの!」

 

「あの狐が……へ~」

 

 

すると、明るくなっていた森から、次々に動物達が出て来て定位置に座った。

 

 

「何か、いっぱい寄ってきたぞ」

 

 

広が怖がった様子で、麗華の方を見ながら言うと、彼女の膝の上には昼間に見た羆が頭を置き甘えていた。

 

 

「ぎゃー!!熊ぁ!!」

 

「騒がない!」

 

「そ、そいつ噛み付いたり……しないのか?」

 

「しないよ!

 

こいつ、良い子だもん。ねぇ!ムーン!」

 

 

顔を持ち上げ、ムーンの額に自身の額を当てながら麗華は声を掛けた。ムーンはそれに応答するかのようにして、鳴き声を発した。

 

 

彼女の姿に肝を冷やしながら見る郷子達……その時、一発の花火が上がった。郷子達は、『玉屋』『鍵屋』と大声を出しながら、その花火を見た。

 

一緒に見ていたぬ~べ~は、ふと周りを見た。周りには妖気を放った動物妖怪が、そこら中にいた。一部は麗華の傍に寄り添い、一緒に花火を見ていた。

 

 

「皆、ここの花火好きなんだ」

 

「……」

 

「だから、ここに来るの。

 

父さん達も、小さい頃ここへ来たんだって!」

 

「そうだったのか……」

 

 

顔を近付けてきた先程の狐の頭を、麗華は撫でた。狐は嬉しそうな表情を浮かべて、彼女の頬を舐めた。

 

微笑ましい姿を見たぬ~べ~は、広達に混じり大声を上げながら花火を見た。




翌朝……


「ギャァァアアア!!」


広達の声で、目を覚ました郷子と美樹は眠い目を擦りながら襖を開けた。


「もう、朝っぱらからどうしたのよ……!?

キャァァアアア!!」


二つの叫び声に、朝食の手伝いをしていた麗華は、廊下を走りそこへ駆け付けた。廊下に立っていたある人物の背中に飛び乗ると、ヒョッコリと顔を出しながら彼の前で腰を抜かした、郷子達を見下ろした。


「どうしたの?皆」

「れ、れれ、麗華!!

そ、そそ、その人!!」

「?

輝三がどうかしたのか?」

「え?」

「こ…」

「輝三……」

『輝三って誰だ?』

『伯父さんだよ!父さんの一番上のお兄さん!』


行く前の言葉を思い出した郷子達の頭に浮かんでいた、想像図が一気に崩れ落ちた。

それもそのはずだ……目の前にいるのは、目付きの悪いヤクザ風のガタイのいい男だった。眼には傷痕があった。


「アッハッハッハ!!」


ご飯を食べながら、麗華は笑い転げていた。郷子達は、顔を真っ赤にして大人しく、ご飯を黙々と食べていた。


「笑い過ぎだ」


輝三から拳骨を食らった麗華は、笑い疲れ息を整えながら席に着いた。


「ヤクザと間違えられたって、仕様が無いじゃん!

そんな怖い顔してんだから!」

「袋叩きにしてやろうか」

「結構でーす」

「す、すいません……」

「ひ、悲鳴上げてしまって」

「別にいい。慣れっこだ」

「顔が怖いって理由で、刑事課に配属されたんだもんね」


食後のお茶を飲む麗華に、食べ終えた輝三は頭を鷲掴みにした。


「痛ててて!!痛い痛い!!

言い過ぎました!!ごめんなさい!!痛い!!」


離したと同時に、麗華は眼を回しながら倒れ彼女の元へ焔は駆け寄り、頬を舐めた。


住職に挨拶すると、郷子達は寺を出て帰って行った。帰り道下り坂を歩きながら、輝三は隣を歩くぬ~べ~に話し掛けた。


「楽しそうにやってるみたいですね?

姪は」

「え、えぇ……まぁ(色々と問題は起こすが……)」

「戻ってきたらどうしようかと、少し心配してましたが楽しそうで何よりです」

「戻ってきたら?」

「小三の夏に、こっちで一年半暮らしていたので」

「あぁ、そういえば……」

「ただでさえ、霊力が俺達よりも高い上に妖怪に狙われやすい体質です。

好き好んで人の中へ入るような子では無いので、こっちでリードを持っとかないと、どんどん妖怪の世界に行ってしまいそうで」

「言われてみれば……」

「先生、ご迷惑をお掛けしますが、弟家族をお願いします」

「あ、はい」


「輝三!先生!

早くー!」


笑顔を浮かべながら、手を振る麗華に輝三は一瞬微笑を浮かべて、ぬ~べ~と共に彼等の元へ向かった。


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