evangelion×fleet girls sequels ~BLESS FOR HOPE DRIVERS~ (イミテリス紫音)
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第壱話 Boy meets boys / 巡り逢う運命@二〇一八年四月

「提督養成機関・ワダツミ二期生諸君!諸君はこれから未知の中を歩んだ先達の航跡、その実りを学び、自らの手でその続きを描き続けなければならない……とはいえ、我々にとっても深海棲艦との戦いは未知に満ち満ちており、諸君が最後に頼れるのは、自分自身、そして諸君と共に歩む艦娘たちであることをゆめゆめ忘れてはいかん!」

 

提督養成機関・ワダツミ。

 

提督不足を解消すべく2017年9月に設立された、全寮制の育成機関であり、妖精さんが見える者、ベテラン提督により推薦された者、提督を志願する者はISOMCAP*1及び海軍の審査を経て問題無しと認められた後にここに入ることになる。

 

この少年――碇シンジ井伊雁 紫帆(いいかり しほ)もまた、ワダツミにいた。

 

 

「ミッチェルよ、さっきからなんだってため息ばかりついておるのだ」

 

「光輝だ――私が可愛い少年を拾った話はしたと思うが――」

 

「聞いてないぞ――氷雨光輝よ」

 

「――話さなかったか?」

 

「この初宮《ういみや》・ゴットヴァイス・元貴(もとたか)が覚えていないとは、つまりそういうことであろうよ」

 

「大した自信だな……それで、その少年、名を井伊雁紫帆とした」

 

「……ほーう?」

 

「……()()()ではなく、()()()というべきだったか」

 

「――実物を見ないことには本当に可愛いかどうか分からぬな……」

 

「見るか?」

 

「見せ給え」

 

「どーぞ」

 

「……イイカリシホ……ほーう、見る人が見れば少女と間違えてしまいそうな顔ではあるな……なるほど?光輝よ――」

 

「むっ」

 

「――貴公が拾ったのは井伊雁紫帆にあらず、碇シンジであるな?」

 

「まあ、そういうことだ」

 

「是非会って光輝の愉快なエピソードを耳打ちしたいものだ……」

 

「元貴……私にはお前が愉快に思うようなエピソードの心当たりがないのだが」

 

「おねだりCDの無料配布に出くわして『金も出せないレベルの音楽をばら撒くのがお前らのやり方か?』とイースター社の社員に3千円を叩きつけたのはなかなか愉快だったぞ?」

 

「まあ、ほしな歌唄のシングルなら3千円でも安いからなぁ……もっと出しても良かったんだが、あいにくその時は持ち合わせがなかった」

 

「あれは全財産だったのか!馬鹿か!?」

 

「ほしな歌唄を知らないからそんなことが言える」

 

「しかし、今はそのCDを持ってないと聞いたが……」

 

「妙な――今にして思えば妖精さんだったか――を引き連れた少女に『危険だから返せ』、と言われてなぁ……妙に覇気があった、あれは信念を貫くものの眼だ……そして夢の価値を知る眼だった」

 

「フン……眼にやられたか」

 

「その頃、意識不明続出事件があっただろう?どうやらおねだりCDによるものだったらしくてね」

 

「なるほど――っと、話が逸れてしまったな、彼のことだが――今後エヴァに関わる見苦しい内輪揉めに巻き込まれることもないとは言えまい?そこでだ……かの可憐なる少年を守るという高貴なる義務(ノブレス・オブリージュ)をこの初宮・ゴットヴァイス・元貴にも果たさせる気はないか?」

 

「単純に愛でたいだけだな……私が言えたことではないが」

 

 

 

「……で、溜め息の理由をまだ聞いておらんぞ」

 

「彼を提督にしようと思ってな、今日ワダツミに入るのだが……」

 

「待て待て、彼を提督に?――悪い冗談だな」

 

「冗談で言ってる訳じゃない……提督になれば当然艦娘がそばにいるわけだから、まあ少しは安全が増すだろう?」

 

「まあそれは一理あるが……単にもっと間近で愛でたいだけであろう?」

 

 

「霧崎教官、お疲れ様です……ところで、彼はどうでしょうか」

 

「おや青倉くん、久々ですねぇ……彼、というと誰かね??」

 

「井伊雁紫帆……既に噂で持ちきりです」

 

「ふうむ……今はまだ、ただ妖精さんが見えるだけの臆病者、でしょうな」

 

「それは……面白い、ですね」

 

「ほう……面白い、とな」

 

「臆病者ほど大きく伸びる、軍人で死ぬのは身の程知らずで血気盛んな奴から、と相場は決まっています」

 

「いや、彼は世界の全てに対して臆病ですからねぇ……まずそこから、ですな」

 

「心を閉ざしている、と……」

 

「まあつまらなく言ってしまえばそうなりますか」

 

「……彼と話してみたいですね」

 

「やめておきなさい、今彼に必要なのは静けさです」

 

「今日はやめておきましょう」

 

「それがいいですね」

 

 

その一時間後。

 

青倉貴志少将は呆れていた。

 

(……あまりにも知らなさすぎる!)

 

そりゃそうだ……イ級を魚の新種だと思う奴などいるわけが無い、提督を志すものならなおさら!

 

……いや、見ようによっては普通に魚にも見えるが……近海ではもっとも出現、目撃件数の多い深海棲艦である。当然知っていてしかるべきだろう……

 

「あれ、魚じゃなかったんだ……道理で血がまずいわけだ」

 

…………ん?

 

……んんん?

 

 

 

「なんで血の味知ってんの!!??」

 

直前とは別のベクトルで呆れる青倉少将、そりゃそうだ……深海棲艦の血を飲もうなんて普通考えない!

 

「一体何があったらそんな馬鹿げたことしようと考えるかね……!」

 

「昔、死にかけた事があって……食べ物もろくに無かったから、()()()の血を啜って」

 

「……島だったら食いもんぐらい……」

 

「荒れ果てていて草の一本もなくて……仕方なく、はい」

 

「そ、そうか……」

 

霧崎教官に「あいつイ級の血を飲んだことがあるみたいですよ」って言ったら面白い顔が見れそうだな……と思わず顔が綻んでしまったが私は悪くない。

 

 

「えー、鎮守府には各戦域への迅速な出撃を可能にするために量子跳躍安定化門とかクォンタポータルと呼ばれるものがある、これは赤木……ああ、ツリーの『木』だからな?キャッスルじゃないからな?空母の赤城とは字が違うからな?……んで、赤木リツコって」

 

「リツコさん!?」

 

「井伊雁、落ち着けー……んー、まあ、その赤木リツコが開発したワープシステムが、その量子跳躍安定化門(クォンタポータル)な訳だが……くれぐれも私用は厳禁だかんな?あれめっちゃ維持にエネルギー食うらしいんだわ……まあ接続先は軒並み深海棲艦がうようよする激戦区だから、私用のしようもない……おーいここ笑うとこだぞー」

 

「赤木リツコ……こんなもんも作ってたのか……」

 

「ネルフもなかなかやるな……」

 

「ストラスバーグ、浅利、私語は慎めよー」

 

「「申し訳ございませんでした!」」

 

「どこまで話したかね、あーそうそう、んでそのポータルなんだが、一応戦績に応じて順次解放することになってんだわ……近場も守れない戦力でサーモン海域行ったってお一人様艦隊(戦艦レ級)の良い的になるだけだからな……そーれーでー、だ……まずは鎮守府近海のポータルを解放するために……諸君には自力で資源をかき集め、建造をしてもらう」

 

「じ、自力で!?」

 

「そうだ!具体的にどうするかは自分で考えたり他の人と話し合ったりしろ、期限は――2週間、だ」

 

「ええっ!?」

 

「そして建造するためには妖精さんとのコミュニケーションも欠かせない、運が悪ければ資源が虚空に消えるだけだ……諸君が思うほど時間はないぞ、さあ急げ!解散!!くゎいさぁ〜んっっ!!」

 

 

5日後。

 

「はぁ……」

 

井伊雁紫帆、未だ建造せず。

 

「貴公……提督になる気がないなら辞めてしまえ、大体艦娘を信じられない時点で失格であろう」

 

「うぅ……」

 

「しかも信じられないならまだしも恐怖を抱きさえする、そのような輩はこの初宮・ゴットヴァイス・元貴の隣に立つことすら本来はとても叶わないのだが……とまあそういうわけで、だ」

 

「ふぇあ?」

 

「……この初宮・ゴットヴァイス・元貴が貴公――井伊雁紫帆を少しばかり揉んでやろう」

 

なにが『そういうわけで』なのだろうか……しかしツッコミは不在であった。

 

「……よろしく、お願いします」

 

「フッ……良い返事だ」

 

 

 

「待ちたまえ元貴!」

 

 

 

「……誰かと思えばミッチェルか」

 

「光輝だ」

 

「貴公も来るか?」

 

「えっ、えっ、光輝さんと……ええと、初宮さんが、知り合い?……なんですか?」

 

「ああそうだ……小学校からの腐れ縁でね」

 

「フッ……然り、とのみ答えよう――して、光輝よ、敢えて問おう――この軟弱者のどこに惚れたのかね」

 

「私は、彼は軟弱ではないとさえ思っているのだ……失うことの痛みを知る者こそ、真に強いとは思わないか」

 

「敢えて言おう、くっそどーでもいいと!」

 

「うん、少し落ち着こうムサシ!……うちのストラスバーグがご迷惑を……」

 

「ムサシ・リー・ストラスバーグに浅利ケイタだったね、私は大丈夫だ……多分紫帆と元貴も大丈夫、だと思いたいが……」

 

 

 

 

 

「ええい、天下に覇を競わんとする美青年たちの壮絶な語らいに生半可な覚悟で首を突っ込むな殺す覚悟も固まりきらぬ職業軍人の雛っ子が!―――と、貴公がうなだれる必要はないのだぞ紫帆……!」

 

 

 

軍人貴族かぶれの貴人(奇人)……初宮・ゴットヴァイス・元貴。

 

()()を見定め()の底にあるものを見通す商売人……氷雨光輝。

 

 

 

そこに井伊雁紫帆……もとい、碇シンジを加えたこの三人は、後にワダツミ三馬鹿トリオ、と呼ばれる事になるとかならないとか。

 

 

 

 

 

そこ、()馬鹿()()()で意味が被っているとか言わない。

 

 

 

 

 

「……で、とりあえず貴公の初期艦が誰になるのか……運試し、といこうじゃないか」

*1
国際特異海洋脅威対策推進計画(International Singular Oceanic Menace Countermeasure Advance Project)の略称。深海棲艦対策を目的に設立された特務機関。『例によって例のごとく国連直属ということになっているが、これまた例によって例のごとく日本がかなり発言力が強い立場にある。新世紀になって日本は奇貨に恵まれたといえよう』(出典 民明書房『失格カメラマン――相田ケンスケ、その半生――』より)




光輝と元貴はオリキャラです、念の為……



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第弐話 First Fleetgirl/カレがカノジョに望むこと、そして@二〇一八年四月

「大和出ろー、武蔵出ろー、って念じながら初期艦建造しようとしたら、妖精さんたちなんと言ったと思う?『資源がいくらあっても足りねーよ』、と、こうだ」

 

ワダツミ構内のカフェ・エトワールα(アルファ)……そこでムサシ・リー・ストラスバーグが串カツ片手に愚痴をこぼしていた。なぜカフェに串カツがあるのかは永遠の謎である――

 

「ストラスバーグ、貴公――大和や武蔵が仮に建造できたとして、その後どうするつもりなのだ?ただでさえ戦艦は大食らいだ、大和や武蔵なら尚更の事だ……それに修理にも時間と資源を大量に要求する」

 

初宮(ういみや)・ゴットヴァイス・元貴(もとたか)が現実的観点から問題点を指摘する。提督たるもの資源の収支には気を払わねばならない……特に資源に余裕のない最初のうちは。

 

「それはそうだが、やはり戦艦こそ王道だろ!」

 

「貴公の思う王道など知ったことか――貴公はどうなのだ、浅利ケイタ――もう建造に成功したのだろう?」

 

ロマンで押し通そうとするも一瞬で斬り捨てられるムサシであった。一方、ムサシの同期である浅利ケイタはというと――

 

「おれの所には、吹雪が来てくれました」

 

着実に一歩を踏み出していた。

 

 

 

「へー、それは良かったね、おめでとう。大事にしてあげてね?」

 

「うおっ!?」

 

(可愛い……灰色ショートカット可愛い……ってあれ?提督にしちゃ幼すぎないか?誰かの息子さん、かな……?)

 

「――浅利ケイタよ、貴公……よもや『可愛い男の子だな』、などと思ってはおるまいな?」

 

「はっ、まさにそう思っておりました!知り合いの提督さんなのかな、と!」

 

「……ボクが、提督、か……自己紹介しないと、いけない、かな――ボクはレーベレヒト・マース、1934型駆逐艦の1番艦、ゴットヴァイス提督の初期艦だ、よろしくね」

 

「えっと、あー、よろしくお願いシマス」

 

 

「……ところで、氷雨提督の初期艦は、誰なんですか?」

 

「ふむ、私の場合は……明石だった」

 

 

 

「……はぁっ!?明石!?」

 

「落ち着こうねムサシ」

 

「はっ!失礼しました!」

 

「うん、……どうせまた建造する事にもなるだろうとは思っていたのでな、戦力よりもむしろ後方支援、艤装の修理が出来る娘に来て欲しかった――蓋を開けてみれば期待の遥か上を行ってくれたがね」

 

「っていうか二人ともおかしーだろ!」

 

「ほう、ムサシ・リー・ストラスバーグよ……()()、か?」

 

「ああ!いくらなんでも引きが良すぎる!っていうか……」

 

「初期艦がレーベや明石は、強くてニューゲーム、とでも言いたいのかな?」

 

「……少なくとも、普通の提督は、」

 

「愚にもつかんな、ストラスバーグよ……初期艦がたまたま明石やレーベレヒトだった、()()()()だ。戦術と戦略があってこその提督だ、性能だけが強さではない事を思い出せ、性能よりも経験の方が余程信ずるに値する」

 

「……いや、それは、尖っていたから、でしょう?」

 

「――なぜ提督は自ら資源を稼ぎ初期艦を自らの手で建造しなければならないか、分かるか?」

 

「……分かりません」

 

「正直で結構、()()しない強さなど無意味だからだ」

 

「……共鳴?」

 

「そうだ、心と心の響き合い……それに戦略、戦術、戦訓が合わされば、性能差を覆し勝利を掴むことも出来る」

 

「なんか……エヴァみたい?」

 

「紫帆、どっから出てきたよその発想……」

 

「そもそも深海棲艦に比べれば、艦娘の性能なんてどんぐりの背比べだし、ね」

 

光輝が補足説明を入れ、いよいよ本題に。

 

「さて、それを踏まえて……貴公らは初期艦に何を求める?」

 

「強いことだ!」

 

「ストラスバーグよ、弱い艦娘がいるとでも?それに戦闘での強さのみが艦娘の強さではないぞ」

 

「例えば明石にしかできないこと、これはそのまま明石の強み、というわけだよ」

 

「ストラスバーグよ、そのあたりじっくり考えてみるといい。……次は浅利だな、建造の時何を考えていた?」

 

「おれは……『おれと一緒に戦ってくれるなら、来い!一緒に強くなろう!』って思っていたので……」

 

「これが共鳴だ」

 

「――なるほど!さっきの説明ではピンときませんでしたが、ようやく腑に落ちた心持ちです!」

 

「なるほど!じゃねえぞケイタ!」

 

「最後に井伊雁だが……」

 

 

 

「ちゃんと指示に従ってくれて、」

 

「まあそれは提督の技量と度量によるな、それで?」

 

「暴走しなくて、」

 

「それも提督の技量と度量によるな」

 

「痛みのフィードバックがなくて、」

 

「そんなの最初からないよ……?」

 

「――独立して5分以上動けること」

 

「いやいや、艦娘にタイムリミットは……って、あー……うん、何でもかんでもエヴァを基準に考えないようにね、井伊雁さん……」

 

「いや、そもそもエヴァに痛覚のフィードバックがあるなんて初耳なんだが」

 

「ひょっとして……エヴァに乗ったことが?」

 

「あ、いや、その……」

 

「あるんだな!後でじっくり尋問……ゲフンゲフン、尋問してやる!」

 

(言い直せてない……)

 

「……本題に戻ろう、紫帆君は初期艦に何を望むのかな?」

 

「えっと……きちんと片付けできる人が」

 

「やっぱり勘違いしてる……」

 

「ミサトさんと暮らしてたとき大変だったんだからね……?」

 

「えっ、ミサトと言えばネルフ作戦部長のあの葛城2佐、だよな?」

 

「おれも聞いたことがあります……で、具体的には何が大変だったんだ?」

 

「最初入ったとき足の踏み場もなかったからね?もう乱雑どころの話じゃなくてさ……それに料理とか洗濯とかほぼ全部僕がやってさ……ミサトさんとじゃんけんで分担決めた結果がこれだよ!」

 

「といいつつまーシンジのやつ嬉しそうな顔をしやがって」

 

「もう今となっては家族、みたいなものだからね……」

 

 

 

にやり、とムサシが口元を歪めた。

 

 

 

「今、()()()()()()()()()

 

「うっ……はいそうです、僕がサードチルドレンの碇シンジです……!」

 

碇シンジ、あっさり陥落。そもそも嘘をつき通すのは苦手なのだ、仕方がない。

 

「まーそんなこったろうとは思ってたさ」

 

「俺は光輝から聞いていた」

 

「拾ったのは私です」

 

「……大丈夫なんですか?こんなんで……」

 

「こんなんって何さ」

 

「――うん、確かにここまで隠し事が下手なのは……何故誰も気付かねえんだ?」

 

「視野が狭い輩が多すぎる、ということだ――こんなのが提督になるかと思うと空を仰ぎながら歎きの詩でも詠みたくなるが我慢しよう……」

 

「……で、結局シンジは初期艦をイメージしきれていないわけだ……これは、かなり危うい」

 

「危うい……?」

 

「そうだよ、というのも妖精さんは提督の想いを汲み取って建造を行うわけで……まあ汲み取った上で妖精さんがまだ早すぎると思えばそれを無視するのは普通によくあることだけれど……その想いがなければ、妖精さんは適当にやるしかないわけで……つまり、合わないパートナーと組まされる危険が増す」

 

「合わなくても強ければ……それに、少しずつ時間をかけて、というのも普通にある話だろ?」

 

「まあそれはたしかにそう、なんだが……」

 

「俺から言う事があるとするならば、シンジ、貴様は艦娘に怯え過ぎだ、たかが夢で折れてくれるな……艦娘に嬲り殺される夢を繰り返し見てしまってはそうなるのも分からないではないが」

 

「……ひょっとして、お前……艦娘が怖い、のか?」

 

シンジは何も言わず、こくん、と頷いた。

 

 

翌日。井伊雁紫帆……もとい、碇シンジは溶鉱炉の前にいた。

 

(逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ……)

 

「あらまあこわいかお」

 

「ひゃっ!?」

 

「けわしいかおはにあいませんよー」

 

「りらっくすするのですよ、しんじくーん」

 

「……ど、どちらさまですかー!?っていうかどこ!?」

 

「こっちこっちー」

 

「きいたことない?われわれはようせいさんなのです」

 

「よ、妖精さん……が、いっぱい……!」

 

「われわれはいつもいたるところにいたのです」

 

「あなたにみえなかったのはこころにかべをつくっていたから」

 

「心に、壁……」

 

「さあ、こころのじゅんびはおーけー?」

 

「てんしょん、あげて」

 

「きあい、いれて」

 

「えがお、すたんばい」

 

「はーと、あんろっく」

 

「こころのかべをぶちこわせ!」

 

「ひあ、うぃー、ごー!」

 

「え、ええー!」

 

といいつつ……持ってきた資源の8割――といっても、ベテラン提督が1日で稼ぐ資源の1割にも満たないのだが――を溶鉱炉に放り込んだ。いざというときの思い切りの良さはチルドレン時代に培った隠れた長所である――

 

「よろしくね、妖精さん」

 

「おまかせあれ」

 

「らじゃっ」

 

「ささやき!」

 

「えいしょう!」

 

「いのり!」

 

「ねんじろ!」

 

「「「「「はぁぁぁぁぁっ」」」」」

 

「いよーっ!」

 

光が迸る――!

 

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

(いなずま)です。どうか、よろしくお願いいたします。」

 

「よろしくね、電ちゃん。碇、シンジと言います」

 

「はわわっ!碇司令官さん、よろしくお願い、なのですっ!」

 

「司令、かぁ……」

 

碇司令、という響きに父親のことを思い出しつつ、優しそうないい子だなぁ、と嬉しく思うシンジなのであった。



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第参話 Phoenix flies/キャラメルの価値、目撃談の価値@二〇一八年四月

「我ながら不思議なんだよね。あれだけ艦娘さんのことが怖くて怖くて怯えてたのに、いざ建造、ってなったら急に霧が晴れたみたいになって、さ……来てくれたのが電ちゃんだったから、だと思うんだ――変なこと言ってるなあ、って自覚はあるんだけどね」

 

「そうか、それは良かったな」

 

とまあ、碇シンジが初期艦(電ちゃん)を連れて報告した数日後のことである。

 

「あー、なんだ、その……今回、初期艦が来てくれなかったやつは、まあ……その……諦めずに引き続き頑張ってくれ。腐るんじゃねーぞー」

 

「うう……」

 

「はいそこ早速ゾンビみたいな唸り声あげない!ったく、腐るなといった途端にゾンビになってやがる……」

 

碇シンジのように初期艦と邂逅できた者が多数ではあるが、しかしそれが出来なかった者もそれなりにいる。

 

「諸君、申し訳ないが海に出るのはまだまだ当分先だ」

 

「そんな!」

 

「あと2週間で、4人編成できるようにしておけ。まだ初期艦いないお前らも今ならまだ間に合うぞ、急げ!あと、2週間たたなくても、4人以上になったら俺達教官のところに来い、陣形と戦闘の稽古をつけてやる!以上!」

 

「うおおおおお!」

 

「まだだ、まだやれる!」

 

「早速ゾンビが生き返ってんよ……あ、4人揃わなくても戦いに身を投じたいやつは俺のところに来い、あるいはいいことがあるかもしれねぇぞ?」

 

 

「というわけで、あと3人か……どうしようね?」

 

「電が思うに、まだ碇司令官さんのところの艦娘は、まだまだ数が足りないのです」

 

「そりゃそうだよ、まだ電ちゃんしかいないんだから」

 

「なので、まずはあと3人、建造するのです……といっても、資源が足りないのです」

 

「それなら、確か大淀さんのところに行くといい、って教官が言ってた。細々としたおつかいさせてくれるって」

 

「なるほど、それで資源を稼ぐのです?」

 

「そう、それで――少しは懐が暖かくなる……といいなぁ」

 

「あと……駆逐艦だけでは流石に限界があるので、巡洋艦も1人いるとだいぶ楽になると思うのです」

 

「……あれ?」

 

「どうしたのです?」

 

「いや、戦艦とか空母とか潜水艦とかの話は全然出てこないなあ、ってちょっと意外だったから。――というわけで、」

 

いきなり頭を下げた。

 

「司令官さんが部下に頭を下げちゃだめなのですよっ!?」

 

「正直、僕は……海戦のことも軍艦のことも、深海棲艦のことも艦娘のことも全く知らない。電ちゃんのことだって、まだわかってないんだ、優しくてしっかりしてる素敵な女の子だってこと以外は。だから――僕に教えてほしいんだ、どうすれば、電ちゃんに相応しい提督になれるのか」

 

「もうなってるのです」

 

「ふえっ!?」

 

「相応しいと思ったから、ともに響き合えると思ったから、安心して碇さんのところに来たのです!」

 

「ありがとう、電ちゃん――一緒に頑張ろうね」

 

「はいなのです!――じゃあ、早速溶鉱炉に行くのです!」

 

「行動早っ!」

 

「思い立ったら吉日なのですっ」

 

 

「はつでーとがようこうろはかんしんしませんね」

 

「おとめごころのわからぬやつめ」

 

「えっと……戦力増強のために建造しにきました」

 

「このうわきものぉ」

 

「ひとりではまんぞくできないってかぁ」

 

「にやにや」

 

「くっ……うるさいよ!まだそんなんじゃ……」

 

「ほう!いまは、()()と……ききましたね!?」

 

「ええ、ききましたとも!」

 

「えっと……資材と!あと……キャラメルもっ!どど、どーぞっ!」

 

「ちょっとボーキが多いような気もするのです」

 

「ほう、これはなかなか」

 

「あっま〜い」

 

「きゃらめるはかつりょく、まちがいない」

 

「みなぎってきたぜ」

 

「これがたいしょうのあまみ……」

 

「えっと……まだ、あるからね?」

 

「みなさんききましたか」

 

「いよっふとっぱら!」

 

「さあ、のぞみをいいなさい」

 

「きくだけになっちゃうかもだけどねー」

 

「電ちゃんと仲良くやっていける娘に来てほしいです!できれば3人来てほしいです!妖精さん……」

 

「せーのっ」

 

「「よろしくお願いします!!」」

 

「「「「まっかせっなさいっ」」」」

 

溶鉱炉が光を放つ――

 

「しまった、これはしっぱい」

 

「あ〜あ」

 

「えっと……電です、よろし……」

 

「同じく電なのです、碇司令官の初期艦なのです」

 

「えっ……またぁ!?」

 

「こんなのはじめて」

 

「どうするべ」

 

「これは……しょうがないですね、後から来た電は一旦普通の女の子に戻るのです」

 

「えっ、どうやって?」

 

「まず艤装は外して……ああ、解体すれば資材になるし、先に来た電の艤装の強化にも使えるはずなのです」

 

「じゃあ、電ちゃんはどうするの!?戸籍とか!名前とか!働き先とか!色々あるでしょ!?」

 

「心配はいりませんよ」

 

「霧崎教官……えっと、この娘はどうなるんですか」

 

「彼女に限らず、あなたの初期艦の方の電にもいえることですが……戸籍を作り、再教育を……つまり、今の世界で生きていくために必要なことを教えるわけですね、彼女たちの記憶と今ではあまりにも違いが大きすぎるので……まあ、彼女たちも今を生きる覚悟を持っていることは、彼女たちの存在が証明していますから」

 

「……それって?」

 

「そもそも、当時アイドルやスマホはありませんよね?しかし彼女たちは時にアイドルを自称し、またスマホを持つ子もいる」

 

那珂や伊168のことである。

 

「彼女たちは……艦娘は、単にかつての軍艦の蘇り、であるだけではないのですよ」

 

「ありがとうございます、でも……戸籍ってかんたんに作れるものではないと思うのですが……」

 

「ええ、その通りです。特に艦娘の場合、父母がいないため、本来なら裁判所に就籍の申し立てをすることになる、のですが……これだと時間がかかり過ぎますのでね、そこでISOMCAPでは国際的に、艦娘に関しての戸籍登録の簡略化が進められてきました」

 

「……艦娘建造報告書って、そのためのものでもあるんですね」

 

「確かに、電を建造したあと、書類を書いていたのです」

 

「ええ、そうです……あと、再教育についてですが、これは連隊長に相当する階級以上の提督が運営する鎮守府……もしくは、ワダツミのような提督養成機関に在籍しながら行います」

 

「そして、このようなケースの場合では、彼女は……艦娘候補生、という形で、我々のもとで準備をします。具体的には、我々の手伝いですとか、スタッフとか、そういう形になりますね」

 

「なるほど」

 

 

「さあふたりめよ」

 

「一人目も、普通は大成功なんだけどね……ごめんね?」

 

「おきになさらず」

 

「2人目は誰だろ」

 

「とっても楽しみなのです」

 

「じゃじゃーん」

 

「さあみなさん、ごいっしょに」

 

「せーのっ」

 

「お願いなのです!」

 

「いい子が来てくれますように!」

 

溶鉱炉から、光が……

 

「あれ?」

 

「ざんねーん」

 

「建造……失敗なのです?」

 

「でも、光が小さくはなったけど、消えてはいないよね」

 

「かんむすはきませんでした」

 

「でもかわりにそうびつくったので」

 

「ぜひつかってほしい!」

 

――コトン。

 

「あっ、出てきた!」

 

出てきたのは――

 

「12.7mm単装機銃とドラム缶なのです!」

 

「よかったね電ちゃん」

 

「とってもありがたいのです」

 

「さあこんどこそせいこうなるか」

 

「お、おおっ、これはすごいぞ」

 

「うまくいかしてあげてね」

 

「すごい……光が眩しい……!」

 

「これは……素敵な光なのです……」

 

「そらをせいするつばさ」

 

「そのはじまりをかのじょはしっている」

 

「しんじんさん、いらっしゃ〜い!」

 

溶鉱炉から光が溢れ出す―――!!

 

 

 

 

「航空母艦、鳳翔です。ふつつか者ですが、よろしくお願い致します」

 

「あっ、ええっと……碇シンジと言います、こちらこそよろしくお願いします」

 

「電なのです、よろしくお願いします」

 

「これから共に歩んでいきましょうね、碇提督」

 

「よろしくお願いします、鳳翔さん」

 

 

 

「さて、これからどうしましょうか」

 

「えっと……出来れば、早いうちにあと二人、と思ったのだけれど……」

 

「なにをいってるのやら」

 

「まったくです」

 

「さんにんもいればなんとかなる」

 

「しんちょうもすぎるとどくなのよー」

 

「え……えっ?」

 

「司令官さん、覚えてないのです?教官さんはこうも言ったはずなのです」

 

「えっと……なんだっけ、『早速ゾンビが生き返ってんよ……』だっけ」

 

「大事なのはその後なのです、『4人揃わなくても戦いに身を投じたいやつは俺のところに来い、あるいはいいことがあるかもしれねぇぞ?』と言っていたはずなのです」

 

「でも、やっぱり安全マージンは大きくとっておきたいんだ、流石に2人だと色々と取れる作戦も限られてくるし……」

 

「鳳翔さんは航空母艦なのです、そして航空母艦は長距離中距離から艦載機で攻撃できるのです」

 

 

「……アツイ…ノォ? アツイ……デショオ…!?」

 

「ナンドデモ…ミナゾコニ…シズンデ…イキナサイッ……!!」

 

 

「うん……あれは本当に怖いよね……」

 

「司令官さん、顔真っ青なのですよ!?」

 

「えっと……敵の艦載機を撃ち落とすのって誰が得意なのかな……?」

 

「基本的には航空母艦の艦載戦闘機や、航空巡洋艦、水上機母艦の水上戦闘機により敵方の艦載戦闘機を撃墜しつつ制空権の確保、加えて駆逐艦や巡洋艦による対空射撃にて敵方の攻撃機や爆撃機の撃墜、といったところでしょうか」

 

「――えっ……待ってよ鳳翔さん、鳳翔さんが何を言っているのか半分しかわからないよ!とりあえず艦載機同士での撃墜と海から空への対空射撃の2つがあることはわかったけど……」

 

「細かい所は少しずつ覚えていきましょう」

 

「はい……」

 

「話を元に戻すのです。あと何回か建造をするとして……資源は大丈夫なのです?……あっ」

 

「どうしたの?」

 

「……よく考えたら、電を建造するときも資源は必要なはずなのです、それはどうやって集めたのです?」

 

「遭難していた頃の変な魚の食べ残し……血を飲んだだけだから飲み残し?それをワダツミの研究者に渡したら、それなりの資源を貰えたんだ」

 

「その……変な魚、って?」

 

 

 

「何って、イ級の死骸、だけど」

 

 

 

「……倒したのです!?」

 

「いや、僕が見つけた時にはもう死んでたんだよね、多分女の鬼?みたいなのの巻き添えを食らったんだと思うけど」

 

「……それ、他の人には?」

 

「言ってない、そんなおとぎ話みたいな話信じてもらえるわけ……」

 

 

 

「「「われらようせいさんのたちばは」」」

 

「それを言うなら電たち艦娘も大概ふぁんたじい、なのですよ……そんなことより、それ、とっとと偉い人に言うのです!今すぐに!」

 

「えっ、何で」

 

「いいから早く報告するのです!今すぐに!」

 

「ええ、これは一刻を争う事態ですよ!?」

 

「2人とも怖い……!分かった、報告するから!ついてきて!」

 



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第四話 Learn, learn, learn/未知を味わえるのは最初だけ@二〇一八年四月

ワダツミ上層会議室は紛糾していた。

 

「鬼だぁ!?」

 

「有り得ない……有り得ないぞ……」

 

「鬼だと……姫だと……」

 

「どうやって生き残ったんだ!?」

 

「井伊雁さん、貴方が知らないのも無理はない……まだ着任してから1か月の提督が鬼級と出くわすなど滅多にないことなので、まだ教えていませんでした……本来なら、3か月ほど提督業務を行ってから、鬼級、姫級について教えるつもりだったのですが……」

 

「鬼級、姫級、ですか……?」

 

「深海棲艦の中でも、特に強い人型実体を鬼級や姫級と呼称します。通常の深海棲艦よりもはるかに強く、特に最深部にいるものは、過去多くの犠牲を払い、ようやく撤退できる、というものでした」

 

「そんなに……」

 

「ああ……私も一度しか見たことはない、が……一人も轟沈させずに帰れたのは運が良かったとしか……」

 

「井伊雁君、聞きたいのだが……君は、どうしてそこから生きて帰れたのかね?」

 

「……砲撃と爆撃を受けて、痛くて気絶して、気付いたら知らない天井だったので……多分、流されたんだと思います、参考にならなくてすみません」

 

「確かにこれではなんの参考にもならんわい」

 

「なんだ……単に運がよかっただけか」

 

「何という幸運の持ち主……やはり」

 

「――待て、普通攻撃喰らった時点で死ぬだろ」

 

「……あっ」

 

「どうしたのかね、井伊雁君」

 

「当たる直前にいつも目の前が一瞬オレンジ色になっていたの、もしかして……あ、いえ」

 

「言いなさい」

 

「……ごめんなさい」

 

「ふうむ……少しばかり確認の必要がある、か?」

 

 

「それは……本当なのか、シンジ」

 

「はい、光輝さん、……あと元貴さんも」

 

「そのオレンジ色に、心当たりは……ありそうな顔をしているな」

 

がん、がん、という音がどこからか聞こえるが、それを無視して初宮・ゴットヴァイス・元貴が問う。

 

「……あれ、たぶん……ATフィールドだと思うんです」

 

「「……それは一体」」

 

「使徒やエヴァが持ってる、バリアみたいなものです」

 

がん、がん、と――おそらくドアをノックしているのだろう――心なしか近づいているような気もするが――

 

「なるほど……にしてもうるさいな」

 

「でも、もしそれが本当にATフィールドなら、……僕は、もう」

 

「待て待て、貴様が使徒になった、というのは流石に飛躍が過ぎる」

 

「――一つだけ確かなのは、シンジ君、君は紛れも無く……『提督』だ、ということだ」

 

「……はい」

 

がん!がん!

 

「さっきからうるさいと思っていたが、ついにここにも来たか……何者だ」

 

 

 

「井伊雁司令官麾下、暁型駆逐艦四番艦、電なのです!司令官さんを探しているのです」

 

 

 

「ああ、ごめんね、ちょっと報告とかあったから……」

 

「了解なのです」

 

「鳳翔さんは?」

 

「ワダツミの大淀さんのところなのです」

 

「ありがとう、今から僕たちも行こうか――元貴さん、光輝さん、ありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

「俺にとっては容易い事だ、またいつでも来い」

 

 

「はい、建造及び開発の成果を確認いたしました。建造研修任務、開発研修任務、完了です!」

 

「ありがとうございます」

 

「それで……これからどうするおつもりですか?」

 

「数をもっと増やしたいんだよね……出来れば30人」

 

「……」

 

「……え?」

 

辺りを見回すと、かなりの数の提督――そして艦娘たちも――が一様にため息をついていた。

 

「え、ええ!?だって、数が多ければ」

 

「それじゃあ駄目なんだ、奴ら艦娘の気配に敏感らしくてなぁ……6人までならまだ何とかなるんだが、7人超えると大抵の深海棲艦は姿を見せなくなっちまうのさ」

 

「で、でも、深海棲艦の方はいっぱい……」

 

「奴らは奴らで、何しろ元が怨念だからなぁ……集まりすぎると共食いしやがる、だから大抵5、6隻に落ち着く……例外は鬼級や姫級だぁな、あいつらは統率力に優れているのか連合艦隊を率いて来やがる……つってもたかだか12隻が限度らしいが」

 

「そう、だったんだ……」

 

「ちなみに鬼や姫ともなりゃあ多少艦娘が増えても捻り潰せる、とでも思ってるのかは知らんが……こちらも12人までは何とか出せるようになる、ことも多い……あと、後から支援艦隊送ってもそれは含まれないらしい、あくまで一度に多くの艦娘を送ると警戒するらしいな」

 

「あと、戦艦や空母を多く入れると警戒して姿を隠す奴も多い……気を付けな」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「そこで駆逐艦や巡洋艦ですよ、奴らは戦艦や空母、水母(すいぼ)や雷巡に気を取られてつい見逃すが、駆逐艦や巡洋艦は夜戦になりゃ姫すら屠る、潜水艦を倒せるのも駆逐艦と軽巡洋艦ぐらいなものだ、対空だってこなしてくれる……というわけで井伊雁君、駆逐艦を今のうちから育てなさい、いいね?」

 

「はい!」

 

「いい返事だ……さて、ここまでのまとめだ。一つ、深海棲艦相手に数で押し切る戦略はとれない。二つ、駆逐艦と巡洋艦を意識して育てろ。そして三つ――一番大事な事を言い忘れていたが――大破したら撤退しろ、必ずだ、さもないと……君が艦娘を殺すことになる」

 

「……わかり、ました」

 

 

「とはいっても、さすがに2人は少なすぎるよね」

 

「報酬の資源をさっそく溶鉱炉に投げ入れるのですね……」

 

「ま、まあ、これで誰か来てくれれば色々できることが増えると思う、し……そうなれば、おつかいとかで資源を持って帰れるはずだし、ね……あっ、それで思い出した」

 

「何をです?」

 

「確か、2人いるから練習航海遠征が出来るようになるはずなんだ」

 

「遠征、なのです!?」

 

「そう、遠征。……といいつつ、今回は初めてだし、航海の練習らしいけど」

 

「――早速訓練なのです」

 

「ええ、そうしましょう。……ところで碇提督、旗艦は私と電、どちらにいたしましょうか」

 

「んーと……初めてだし、電ちゃんに旗艦をさせてあげたいかな」

 

「承知いたしました」

 

「ありがとうございます、感謝なのです」

 

 

「――井伊雁紫帆麾下、練習航海艦隊二隻の到着を確認」

 

接続振動(Linkage Vibes)計測開始」

 

「艦隊旗艦、電、接続振動(Linkage Vibes)01.05±00.15、損傷なし(Status Green)、航行可能です」

 

「2番艦、鳳翔、接続振動(Linkage Vibes)01.03±00.05、損傷なし(Status Green)、同じく航行可能です」

 

「艦隊内の全艦娘は補給済み、問題なし」

 

「量子ポータル接続シークエンス突入……接続完了」

 

「開きます」

 

「電ちゃん、鳳翔さん、――よろしくね」

 

「安心して待っていてほしいのです」

 

「ご心配には及びません、気を楽にしてください」

 

「艤装装着完了」

 

「装備確認は行いましたか」

 

「はい、しっかりと!」

 

電には主砲とドラム缶。鳳翔には艦上爆撃機と機銃。

 

(ごめんね……帰ってきたらもっと良い装備作るからね……!)

 

ともあれ、今持っている装備をすべて積み込み。

 

「出撃用意」

 

「元気で帰ってくること、いいね!」

 

「了解なのです」

 

「提督は心配性ですね」

 

「だって初めてだし……」

 

「それはお互い様なのです……では、行ってくるのです!」

 

 

 

艦隊抜錨(Weigh Anchor)――!」

 

 

 

「量子ポータル縮小、最小限の接続余地を残し出来うる限り遮断します」

 

「……信じなきゃ、だよね……それしか、もう出来ないものね……」

 

僕たち(チルドレン)を送り出すミサトさん達もこんな心持ちだったのかな)

 

かつて戦場の最前線で命を懸けていた自分が、今は後方で送り出す側に立っている……その事実に、気を抜けば目眩がしそうだ――

 

「……っと、今の間に出来ることしないとね」

 

 

15分後。

 

「ただいまなのです」

 

「ただいま帰りました」

 

「鳳翔さん、電ちゃん、おかえりなさい――こっちも二人に見せたいものがあるんだ」



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第伍話 Progress/出会いがいっぱい@二〇一八年四月

「……これは大きすぎるのです」

 

「電にも私にも、とても積める代物ではありませんね……」

 

「え、無理なの!?」

 

「無理ですね」

 

「無理なのです」

 

電と鳳翔の両方に無理と言われ落ち込むシンジ。三人が見ているのは――

 

 

二人が遠征に行っている間にシンジが開発した、3()5().()6()c()m()()()()であった。

 

……しかし、軽空母にも駆逐艦にも大きすぎるので、今はまだむやみに場所を取るだけのただの飾りである。

 

「35.6cm連装砲は大事に取っておくのが良いのです」

 

「そうだね……さてと、新しい子誰か来ないかなぁ」

 

「建造ですね、碇提督」

 

「そう。……お願いします、ほら二人も」

 

「「お願いします」」

 

「まかされた」

 

「あのー…おかしは?」

 

「もちろん準備してるからね…はい、エクレア」

 

「これはよいものです」

 

「ばっちりこころえた」

 

「ばんじおまかせを」

 

溶鉱炉から光が迸る――

 

 

 

「僕は白露型駆逐艦、時雨。これからよろしくね」

 

「碇シンジと言います、こちらこそよろしくね」

 

 

 

「……って、まだ光が収まらないみたいだけど……」

 

「そういえば、出てくる時に誰かを追い越したような気がしたけれど……」

 

 

 

「まったく、困ったものだわ。本当なら暁だけが出る予定だったのに……こほん、まあいいわ、暁よ。一人前のレディーとして扱ってよね」

 

(いかづち)よ!かみなりじゃないわ!そこのとこもよろしく頼むわねっ!」

 

「響だよ。急に押しかけて済まなかったね……ともあれこれからよろしく頼むよ」

 

 

 

「ま、待って、ええと……」

 

「また会えたのです……!嬉しいのです!」

 

「ん?また……って?」

 

「碇提督、あの四人は姉妹艦の関係にあるんです」

 

「それで何となく雰囲気が似てたんだ……雷ちゃんと電ちゃんは似てるどころの話じゃないけど」

 

「昔も非常によく間違われたのです、漢字もそっくりだったので手紙の宛先が間違ってることもしょっちゅうだったのです」

 

(……その記憶が今の二人に影響を及ぼした、のかな?)

 

「みんな、改めて……これからよろしくね」

 

 

所変わって……

 

第3新東京市郊外、資材倉庫群の一つ、その地下に……

 

祭火(フェスタ・イグナイト)の異名を持つ鎮守府があった。

 

無尽蔵の資源資材を溜め込み、最前線で戦果を挙げ続けるその鎮守府は、開戦当時からトップを走り続けていた――

 

その、祭火(フェスタ・イグナイト)が、今、揺れていた。

 

「相田元帥が、演習に……!」

 

ここ最近、祭火(フェスタ・イグナイト)が他の鎮守府と演習を行う時に提督が出張ることは滅多になかった。

 

彼女たちを率いる相田元帥は高校生の身。普段は通学、休日は最前線で攻略部隊の指揮……なかなか演習に顔を出すことは少なかったのだ。

 

ところが、今回珍しく、相田提督自ら演習に顔を出すという。

 

「まあね……まあ、演習はついでなんだけど、ね」

 

「では……本命は」

 

相田元帥の初期艦にして秘書艦である、大和が問う。

 

「姫や鬼の群れから生き延びた奴がいるらしい……人間だぞ」

 

「……ちょっと拍子抜けしました」

 

「うん、オレも正直大した話題ではないと思うんだけどな……ワダツミじゃかなりの大ニュースらしくてね」

 

「それで、仕方なく……ですか」

 

「そしてもう一つ。――惣流のことだ」

 

「彼女も提督として艦隊の指揮を取ることとなったのでしたね」

 

「そう、そこでISOMCAPのユーロ支部とISOMCAPのアメリカ支部が取り合いを始めた……まあどっちも主戦場だからね、優秀な提督は喉から手が出るほど欲しいわけさ」

 

「でもそれだけでは相田元帥は興味を持ちませんよね」

 

「大和さんさぁ……オレをなんだと思ってるわけぇ?いや〜んな感じ!ま、冗談はともかく、だ……惣流がエヴァパイロットなのが不味かった、ISOMCAPの争いにNERVのユーロ支部とアメリカ支部が首を突っ込んできたわけ」

 

「はぁ……あれ?我が国は動かないのですか?」

 

「なにしろ本部分裂、下手したら解体の危機だもんな、他所の争いに首を突っ込んでる余裕はない……ってのがネルフ上層部の本音、逆に葛城二佐たちは惣流を日本に呼び寄せたい……とはいえ呼び寄せるのは惣流がどこに所属していてもできるし、わざわざ首を突っ込んで三つ巴にするまではない」

 

「ネルフが動かないのはそういった事情があるのですね」

 

「んで、こっちの海軍としては……正直、惣流を呼ぶメリットが薄い」

 

「ゴットヴァイス提督……いや、初宮提督?がいるからですね」

 

「あいつのおかげでオレたちはドイツとの協力関係を結べた、ネルフのどさくさに巻き込まれる危険を冒して惣流を巻き込む必要はないわけだな」

 

と、思案顔の大和、他の可能性を提示し――

 

「ネルフは、惣流さんを呼び戻せば、艦娘の……あっ」

 

現状に気付いて自分で打ち消した。

 

「それこそ葛城女史が提督のサポートをしている訳ですから、艦娘についての情報をある程度は得られ……さらに我々との協力関係を結ぶこともできていますね」

 

「そういう意味でもいまさら、というわけだね……ほい」

 

「ありがとうございます」

 

お茶を飲みつつ、話は続く――

 

 

さて、ワダツミでは……

 

「ええと、電ちゃんでしょ、鳳翔さんでしょ、そして……」

 

接続振動強度測定を終え、艦娘接続振動強度確認システムから自分が指揮している艦娘たちの接続振動――つまり、艦娘と提督の共鳴しやすさ――を確認するシンジ。

 

(接続振動とか、共鳴のしやすさ、とか言われても理解できなかったけど……多分シンクロ率みたいなものかな、と思ったらなんか腑に落ちたんだよね)

 

「……さてさて、と」

 

艦名艦種接続振動(Linkage Vibes)
駆逐艦〇二・四五±〇〇・二五
鳳翔軽空母〇二・二六±〇〇・〇八
時雨駆逐艦〇一・一五±〇〇・二五
駆逐艦〇一・〇八±〇〇・一二
駆逐艦〇一・一三±〇〇・一五
駆逐艦〇一・〇四±〇〇・二六

 

「初めて使ったけど読みにくいよ……」

 

「なんでもアラビア数字と小数点を用いた表示にしたら不具合が起きたらしい、それを解消するためにとりあえず漢数字表記にして、その後改修が行われずに今もこの有様、という訳だ……なに、そのうち慣れる」

 

「元貴さん、いつの間に」

 

「ふうむ……」

 

「――ちょっと、電源落ちた!」

 

「俺が落としたのだ、接続振動強度(レベル)*1はあくまで目安に過ぎないからな?もっとも、改装の際は一定の接続振動強度(レベル)がないと許可されないから、改装の際は多少大事にもなるが……やはり最も注視すべきは個々の艦娘の経験だ、忘れるなよ」

 

「わかりました」

 

「フッ……良い目ができるようになったではないか」

 

 

「青倉教官、――陣形についてご教示いただけませんでしょうか」

 

「……ろ、6人!?ほう……よし分かった、では井伊雁君、――陣形について教えよう」

 

「ありがとうございます」

 

「基本的に、よく使われる陣形は5種類ある」

 

「そんなに……」

 

「まず単縦陣、まっすぐ縦一列で突っ込む攻撃的な陣形だ……基本的にはこれを使うことが多い」

 

「なるほど……縦に、一列」

 

「次に複縦陣、縦に二列だ。攻撃力は単縦陣と比べ若干劣るが、命中精度が高い」

 

「よく避ける敵に効くわけですね……」

 

「ここからは使うシーンを選ぶ陣形だ。主に輪形陣と単横陣を抑えておけば良い」

 

「単横陣は……横一列、ですよね。横だと何が嬉しいのでしょうか」

 

()()()()()()()()()()()敵を見つけ、より優位を持ってことができる」

 

「そんなことって……あるんですか」

 

「ある。――潜水艦だ。いいか、潜水艦隊に対抗するには単横陣だ、よく覚えておけよ」

 

「……あの」

 

「なんだね」

 

「……もし、潜水艦がいるにはいるけど、潜水艦ではないのが多い場合、攻撃力が落ちますよね」

 

「む、いいところに気づいたな……その場合は複縦陣だ、単横陣ほどではないにしろ、こちらも潜水艦にはそれなりに優位を取れる。対潜と対水上艦を両立させたいときに有用だな」

 

「ありがとうございます……それで、5つ目は?」

 

「梯形陣、斜めだからはしご形だ。戦闘において意図してこの形を取ることはあまりない。本来は突撃用の陣形だが……深海棲艦相手にわざわざ突撃してもいい的になるだけだからな、そんなに使わない……全く使わないわけでもないが。意図しないケースとしては、単縦陣と単横陣の切り替えの際になるくらいだな……さてここで問題」

 

「はいっ」

 

「戦闘以外で梯形陣を用いるケースが少ないながらかつてはあった。それは何か」

 

「……」

 

「……」

 

「……わかりません」

 

「そうか、では正解だ。正解は、観艦式」

 

「……うーん?」

 

「もっとも、艦娘の話ではなく、艦艇……彼女たちがまだ船だった頃の話だ。船の場合、斜めだと……よく映えるんだ」

 

「――あっ!」

 

「どうした」

 

「確かに……ケンスケが見せてくれた映像、斜めだったかも!」

 

「……ケンスケ、か」

 

「はい、相田ケンスケ、といって――」

 

「その話はまた今度にしよう、それよりも……陣形の理解はできたか?」

 

「はい、多分……しっかり復習します」

 

「うむ。――では、ここからは演習だ」

*1
『接続振動、即ちLinkage VibesはLvと略されるが、これがレベルとも読めること、また接続振動強度と艦娘の強さの間にはある程度正の相関関係が認められることから、いつしかレベル、と呼ばれるようになったらしい……もっとも、いちいちレベルを気にする提督はそこまで多くはないし、数字でしか艦娘を評価できない提督には、艦娘はそんなに懐かないようである』(出典 民明書房『失格カメラマン――相田ケンスケ、その半生――』より)



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第陸話 Sally go!!/初出撃、ただいまとおかえり@二〇一八年五月

数ヶ月後。

 

ワダツミの私室にて――

 

「演習、かぁ……」

 

「碇提督、あまり根を詰め過ぎてはいけません。お茶にしましょう」

 

「ありがとう、鳳翔さん」

 

「それにしても、まさか自分の部屋が持てるようになるなんて」

 

先日の意図しない大建造で麾下の艦娘が6人になったシンジは、自らの部屋を持つことを許された。これを部屋持ち(ルームド)といい、まずはこの領域に到達することがワダツミの提督の卵たちの目標の一つだったりする。

 

さて、自分の部屋といっても、部屋自体はかなり広い。ホテルの一室をイメージすれば良いだろう。しかし……実際のところはかなり手狭だったりする。それはそうだ――

 

 

 

なにしろ提督1人に艦娘6人で、最低7人はいるのだから。

 

 

 

ちなみに、部屋のいたる所に監視カメラが仕掛けられており、常時憲兵に監視されている――半人前が艦娘に手を出すんじゃねえ、ということである。

 

まあ、一人で発散する分には憲兵も何も言わない。憲兵も分かっているのだ――可愛い女の子と同じ屋根の下で、なのに手を出せないもどかしさとか、その他諸々の事情は。

 

 

 

少々下世話な話になってしまったが、提督にとって自分の性欲とどう付き合うかは一生付き纏う大きな問題である。そういう意味でも、女性提督は有利な立ち位置にいるといえよう。

 

「次の演習は五月末から六月上旬、だったよね……」

 

「先の演習は何も出来なかったのです」

 

「阿武隈さんや由良さん、北上さんに大井さんに木曽さん、さらに瑞穂さんの6人が始まる前に終わらせてしまったからね……」

 

げに恐るべきは先制攻撃である。殺られる前に殺れ、を地で行く青倉少将のスタイルに何も出来なかった……彼女たちの後悔は深く、一週間前のショックは未だ癒えない。

 

「せめて航空攻撃で一人くらいは倒しておきたかったですね……」

 

「しかも今度は元帥が演習のために来るらしいし……あれよりもさらに強いのが来るのかぁ……とにかく今は経験を積んでいかないと、だね……」

 

「そうだね――ところで提督」

 

「なぁに、時雨」

 

「僕たちを呼び捨てにしてくれ、といってすぐ実行してくれたのは嬉しいけど、未だに鳳翔さんはさん付けなんだね」

 

「なんだろう……なんとなく、呼び捨てがためらわれる、っていうか……なんていうか、ついうっかり母さんって呼んじゃいそうなときもあってさ」

 

「まあ、ある意味では母のような存在でもあるかもしれないね……少なくとも、帝国海軍の空母の母、には違いないし、僕たち駆逐艦を始めとして、鳳翔さんにお世話になった子は多いし――それはそれとして、出撃はいつからするのかな、そろそろ大丈夫だと思うんだけど」

 

「6人を改装してから、と思っていたんだけど……改装なしでもいけそう?」

 

「やってみないことにはわからないわ、でも多分大丈夫だと思うの」

 

「そうよ、もう少しわたしたちを一人前のレディとして信じてちょうだい」

 

「……分かった、じゃあ……今日の午後に一度出撃してみよう」

 

「了解なのです」

 

 

「――井伊雁紫帆麾下、鎮守府近海攻略艦隊六隻の到着を確認」

 

「井伊雁提督、提督資格証明(アドミラル・ライセンス)提督資格証明読み取り機(ライセンス・リーダ)に通してください」

 

「はい!」

 

「認証処理、正常に終了」

 

「了解、出撃艦娘の接続振動(Linkage Vibes)計測開始」

 

「艦隊旗艦、鳳翔、接続振動(Linkage Vibes)14.67±02.69、損傷なし(Status Green)、航行可能です」

 

「2番艦、電、接続振動(Linkage Vibes)12.25±00.62、損傷なし(Status Green)、航行可能です」

 

「3番艦、雷、接続振動(Linkage Vibes)11.51±00.42、損傷なし(Status Green)、同じく航行可能です」

 

「4番艦、暁、接続振動(Linkage Vibes)12.35±00.95、損傷なし(Status Green)、航行可能です、どうぞ」

 

「5番艦、響、接続振動(Linkage Vibes)19.20±00.29、損傷なし(Status Green)、航行可能」

 

「6番艦、時雨、接続振動(Linkage Vibes)14.70±00.73、損傷なし(Status Green)、同じく航行可能です」

 

「艦隊内の全艦娘は補給済み、問題なし」

 

「量子ポータル接続シークエンス突入……接続用意」

 

「量子ポータル接続……まもなく完了」

 

「接続完了、開きます」

 

「井伊雁提督、再度提督資格証明(アドミラル・ライセンス)提督資格証明読み取り機(ライセンス・リーダ)に通してください」

 

「わかりました」

 

「再認証シークエンス完了、艤装装着を許可します」

 

「艤装装着完了」

 

「装備確認を行います――鳳翔、紫電改二8機、彗星一二型甲11機」

 

何も出来ないまま、幾度となく六本の先制雷撃に倒れ。

 

「電、12.7cm連装砲、10cm連装高角砲」

 

涙をこらえた初めての敗戦を、彼は無駄にはしない。

 

「雷、12.7cm連装砲、10cm連装高角砲」

 

せめて良い装備を持たせてやりたい。

 

「暁、12.7cm連装砲、10cm連装高角砲」

 

装備のせいで勝てない、そんな思いは絶対にさせない。

 

「響、12.7cm連装砲、12.7cm連装砲」

 

まだ十分ではない、だけど。

 

「時雨、12.7cm連装砲、10cm連装高角砲」

 

これが今の、最高だ。

 

「出撃用意」

 

「元気で帰ってくること、いいね!」

 

「了解なのです」

 

「提督は心配性ですね」

 

「本当よ!もっと私たちを頼っていいの!」

 

「必ず帰ってくるよ」

 

「だって初めてだし……」

 

「それはお互い様なのです……って、このやりとり、以前もしたのです」

 

「大丈夫。私は不死鳥と呼ばれたこともあるんだ……必ず、皆を無事に連れて帰るよ」

 

「あの……旗艦は私なのですけれど……」

 

「さ、準備はいい?」

 

「「「「「「いつでもどうぞ!」」」」」」

 

「リフトォォォ……」

 

艦隊抜錨(Weigh Anchor)――!」

 

「オォォォォフ!」

 

 

 

 

 

「量子ポータル縮小、最小限の接続余地を残し出来うる限り遮断します」

 

 

 

「……おい、シンジ……」

 

「あっ、ケイタくん」

 

浅利ケイタが物言いたそうにシンジを見ている!

 

「あのな……」

 

「はい」

 

 

 

「リフトオフって、……エヴァじゃねえんだぞ!?」

 

 

 

「あっ」

 

 

「いたよー、くちくかんがいっせきです」

 

「索敵完了しました、駆逐艦1隻よ……気は抜かないように」

 

「鳳翔さん、索敵ありがとうなのです」

 

「……見えたよ」

 

時雨が呟く。

 

「……まずいわ!丁字不利よ!」

 

深海棲艦の駆逐艦……の中でも提督が良く目にするのがイ級である。今回は1隻、しかし単縦陣で進んでいた暁たちを左舷方向に通り過ぎようとしていた。

 

これは丁字不利である。もし敵が複数ならば、敵は火力を集中させることができ、一方こちらは敵に向けられる砲の数が少ない状態で戦わねばならなかっただろう。

 

しかし。

 

「艦上爆撃機、彗星一二型甲……発艦!」

 

「りょうかい」

 

「おとなしくねむってくれよ」

 

「わるくおもわないでくれ」

 

鳳翔が動く。発艦した爆撃機は、イ級の直上で急降下。その爆撃は過たずイ級を呑み込んだ……そして。

 

……アリガ、トウ

 

「……これ、って」

 

「うん。きっと……解放、されたんだよ」

 

「きっとそうだわ、きっとそうよ」

 

「……おやすみなさい」

 

 

 

「どこかしら、なんとなく胸騒ぎはするのだけれど」

 

「鳳翔さん、響より索敵を具申したい」

 

「了解しました、飛ばしましょう」

 

「まかされた」

 

「がってんしょうち」

 

 

 

「よんせきからなる」

 

「すいらいせんたいです」

 

「敵艦隊は4隻、水雷戦隊です……見えました」

 

「われらいちばんに」

 

「われらすいせい、とっつげーき」

 

「くちくかんいっせき、おとなしくしたよー」

 

「残り3隻なのです」

 

「ちょうどすれ違う形だね……反航戦だ」

 

「もういっかい」

 

「せーのっ」

 

「残るは軽巡洋艦と、駆逐艦と……1隻ずつか」

 

「ホォォォォ……」

 

「……危ない!」

 

「えっ……って私!?」

 

「そうです、暁ちゃん狙われてるのです!」

 

敵艦隊の旗艦である軽巡洋艦……ホ級と分類されているそれが、暁に主砲を向ける。当たるか、と思われたが、

 

「よっ、と」

 

余裕を持って避けた。

 

「僕が終わらせてあげるよ……」

 

時雨が旗艦を狙い撃つ。が、

 

「傷は与えられたけど、そこまで大きな傷ではないみたいだ……」

 

「……嫌な予感がするわ、先に避けとくわね!」

 

「ちょっと、雷ちゃん!?っと、本当に避けたのです……さて、これ以上迷惑かけちゃ駄目なのです、本当の有るべきを……」

 

「そうよ、目を覚まして……!」

 

「もう、気は済んだだろう?」

 

「一人前のレディとして、貴女を……」

 

「取り戻すのです!」

 

「起きなさーい!」

 

「не смей.」

 

「救い出して差し上げますわ!」

 

4姉妹の砲撃が残る2隻に当たり、少し時間がたって……海が、輝き出した。

 

「アリガトウ」

 

「アリガトウ」

 

「オメデトウ」

 

「アリガトウ……」

 

「……よかったのです」

 

「ええ、そうね……」

 

「さあ、帰ろう……鳳翔さん?」

 

「……あれ、は?」

 

「艤装、だね……でも、どうして」

 

「オクフカクニ、ワタシタチト、オナジク」

 

「ニクシミニトリツカレ、クルシムナカマガイル」

 

「ドウカ、タスケテアゲテ」

 

「ホンノスコシ、ダケド……」

 

「ホンノ、アトオシ」

 

「ありがとうなのです、大切に使わせていただくのです」

 

「「「「「ありがとうございます」」」」」

 

 

 

「さあ、今度こそ帰りましょう」

 

 

「おかえりなさい」

 

「ただいまなのです」

 

「怪我もなくてよかったぁ……」

 

「……司令官、ちょっと涙もろすぎやしないかい?……いいんだ、泣いてもいいんだ」

 

「そーとー、心配性ね、わたしたちの司令官は」

 

「ぶじにがえっでぐれで、よがっだよぉ……」

 

「提督が良い装備を頑張って準備して、応援してくれたからだよ」

 

 

 

「――お疲れさまでした、碇提督」

 

「こちらこそ、お疲れさまでした。……さ、補給が済んだら休憩しよう、元貴さんがシュークリーム買ってきてくれたし」

 

「ありがとうなのです、碇司令官」

 

「おやつ♪おやつ♪」

 

「その前に補給を忘れないように」

 

「「「「はいっ」」」」

 

 



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