天帝の眼が開眼しました。 (池上)
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第1話 DFに定評のある赤星くん

初めまして、池上です。
この度、サッカー漫画に条件つきですが天帝の眼を入れてみました。
それでは、第1話をどうぞ!!!


 赤星翼。この世界で第2の人生を歩む転生者ってやつだ。

そんな転生者の俺もこの世で生まれて早12年目を迎えていた。この世界で俺は近所づきあいから知り合った幼馴染3人たちと一緒にサッカーをやっていた。

 幼馴染の一条龍は、それはもうサッカーに愛された才能の持ち主で、24時間サッカーで脳が占めているとんでもないやつだ。同じく幼馴染の青梅優人と優希の双子もサッカーが好きな兄妹だった。そういう俺は、運動不足にならない程度にと思いやっている見た目は子供、頭脳はオッサン(高校生だった)な小学6年生だった。

 

「いいぞ! 翼!!」

 

そして今は、サッカーの試合中だ。相手は超絶GKの渡辺くんという小学生にしては大きな人がいるチームだった。

 

「いいよぉ! 翼!!」

 

 今もベンチから大きな声で声援を……優希がくれた……はず。双子の兄・優人がピッチにいるし、目の前に。

 

「へい、翼!」

 

 そして俺たちは残り少ない時間で相手のカウンター攻撃を防いで、逆カウンターを仕掛けた。そして、パスを要求する龍。おいおい、俺の苦手なロングパスを要求してやがる。俺はティキ・タカの奴隷だぞ。

 

「ナイスパス!」

 

 ロングパスは嫌いだが、このままPK戦はごめんだ。俺が次に苦手なのは止まったボールをけるPKだからな。CKもFKも蹴りたくないぐらいに嫌いだ。

 

「キーパーと1対1!!」

 

 相手GKの渡辺くんとの1対1になった龍は、左に動いて躱した。それに反応した渡辺くんはボールを止めようと手をと伸ばしたが、ボールはなかった。ボールに回転を掛けて右へ転がしていたのだ。すげぇ~。

 

「どりゃあ!」

 

 そのボールを追う龍とすぐにゴールマウスを守る渡辺くんの競争は龍の方に軍配が上がり、ゴールが生まれた。あまりの圧巻のゴールに静まり返った後、沸き上がった。こんなことが少年サッカーであるんだな。

 

――ピィ~~!!

 

 そして、この試合に勝った俺たちは全国大会への切符をつかんだ。大会MVPには得点王も決めた龍に与えられた。おめでとさん。

 

「優秀選手、赤星翼君」

 

 それと、おまけにベストプレイヤー的な感じで俺の名も上げられた。

 

「いいDFをしていたな」

「基本に忠実にこなすいい選手だよ」

 

 ふっ、褒めるがいい。

 

「“DFに定評のある赤星”でしたね」

 

 そこは池上だろ。そのフレーズだとあのキャラクターを連想してしまう。不遇なあのキャラを……。

 

 

 あの試合の後、いつもの俺たち4人組は雨の中を帰っていた。

 

「翼くん、早く帰ろうよ」

「ごめん、もうずぶぬれだからいいわ」

 

 帰り道に雨に合っていた俺は、衣服が濡れたことで完全にテンションがガタ下がりで前を小走りで走る3人について行く気にもなれなかった。

 

「先に行くぞ! 優人も」

「う、うん」

 

 先に歩いて行った龍と優人は長い階段へ曲がって駆け上がって行ってしまう。早く帰ってサッカーノートでもつけたいのだろう。

 

「翼くん、今日もDF凄かったよ!」

「それを言ったら龍の方だろ。アイツは天才的すぎる。俺は“DFに定評のある赤星”程度だよ」

 

 それっていい意味じゃないのと、首をかしげる優希。俺の中ではあまりいいフレーズじゃないんだ。

 

「それにしても、龍ちゃんもそうだけど翼くんも手の届かないところに行っちゃうみたい」

 

 そんなことを思う優希だったが、龍から言わせたら一生変わらないと口に出すだろうと思った時だった。

 

「きゃっ!」

 

 俺は咄嗟に優希を横に押した――――。

 

△▼

 

「きゃっ」

 

 私はこれからも変わらずに入れたらいいな、という意味で翼くんに話した時だった。いきなり私を押した翼くん。結構な強さで押された私は横に飛ばされてしまった後だった。ドスっと鈍い音が聞こえた。閉じた目を開くとそこには龍ちゃんと下敷きになる翼くんがいた……? え? どういうこと――!!?

 

「いやぁぁああ」

 

 そこには血だらけになった龍ちゃんの姿と、下敷きになって頭から血を流す翼君の姿があった。

 私はあまりの光景に、恐怖で気を失いかけた。その中で最後に聞こえたのは必死に下敷きからなんとか抜け出して龍ちゃん・私・優人のみんなの名前を叫ぶ翼くんだった――――

 

▼△▼

 

 俺、赤星翼です。DFに定評のある赤星です。

 色々あったけど、みんな無事に生きていた。でも、龍は全身に大怪我を負い優人も左腕の骨折以上に気持ち的に参っていた。優希はかすり傷程度で済み、俺は頭を強く打ったのと左目の外傷程度と全員命に別条はなかった。生きてなんぼだからな。ありがたく思わないと。

 あの事故、道に飛び出してしまった優人を龍が守るために引っ張って助けたけど、勢いで階段から落ちたとのことだった。俺はその落ちてきたところを巻き込まれた。それでけがを負った俺と龍に申し訳なく思った優人は中々俺たちの病室に会いに来られなかったようだった。まぁ、自分を責める気持ちもわからんでもないが。

 しばらくして1週間後、優人は決心したのか俺や龍の病室に訪れた。泣きながら謝る優人だったけど、龍もそうだったが俺も責めることはなかった。

 そして、優人から聞いたけど龍は決してサッカーはやめないからまた一緒にやろうと言ったらしい。それを言われれば、大怪我の龍がやるにもかかわらず頭と目をケガした程度の俺もやめられないなと思い、続けることにした。

 

「はい! 眼帯外すよ~」

 

 そして、あれから数カ月がたった頃だった。やっと外傷を受けた左目の眼帯を外していい日が来た。眼科医の先生からは視力はしっかりとトレーニングすれば回復すると言われていたこともあり、リハビリテーションで受けられる眼球運動をがんばろうと思っていた。サッカー続けたいからな。DFに定評のある赤星で居たいからな~。

 久しぶりに真っ暗に閉ざされていた左目の視界が開かれた。これから頑張って視力を戻していくぞと思った時だった。

 

「え……」

 

 俺は一度目を瞬きしてリセットと思ったが、目の前の景色をリセットすることが出来なかった。

 目の前にいる先生の筋肉の収縮が見えて……しまった。

 

「ぎゃぁぁぁぁあああ!!」

 

 リアルな筋肉模型が網膜に映し出され両目を抑えた、俺・赤星翼の中学生入学前のことだった。天帝の眼が開眼したのは――

 

▼△▼△

 

 DFに定評のあった(・・・)赤星です。

 あの日、おぞましい光景が目の前に広がった時はマジでこの世の終わり以上の衝撃ものだった。しばらく両目を開けられないほど追い込まれたからな。マジで。

 その後、俺はすぐにこれがあの某バスケット漫画の特殊眼の1つと捉えた。

 そんなことがあった俺だったけど、早いもので中学2年の秋を迎えていた。俺は今、いつもの新幹線で動体視力を鍛えるトレーニングをしていた。

 

「あっ、2両目の女・A 、C。おっS!――」

 

 車両の窓から映るかわいい女の子をランク付けするトレー二ング。あの、有名な選手もやっていたとあって――

 

「この、バカ!」

 

 いい練習――、と思ったところで後ろから思いっきり頭を叩かれた。

 

「おっ、優希に龍。こんなところでどうした?」

「翼くんこそ、またしょうもないことを!!」

 

 しょうもない? このトレーニングで俺の右目はますます磨きがかかって来た。もう、右目だけでサッカー出来る具合にね。

 

「そんなことやるなら、しっかりと左目も眼帯で隠さないで両目でやった方がいいよ」

 

 そう言う優希に頷く龍。なんだよ、トレーニング自体は反対じゃなかったのか。

 

「お前ら、俺にまたトラウマを植え付ける気か?」

 

 そう、あの日の出来事は俺にとって悪夢のような映像として脳に残っていた。やばっ、寒気が……。

 

「翼もリハビリテーションだろ。一緒に行こうぜ」

「おう、わざわざ拾ってくれてありがとう」

「じゃあ、行くか」

 

 俺は一応サッカー部として部に籍を残しているが、定期的にリハビリテーションに通っているので周りとの温度差から試合のメンバーからは外れていた。よくて控えのBに登録されるかどうか程度だ。

 

「さて、今日も頑張るか」

 

 俺は足元に置いていたスクールバックを拾って3人と一緒にリハビリテーションのある大浦東病院へ向かった。




第1話でした。まだ天帝の眼は制御しきれてないオリ主です。
では、また!


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第2話 開眼したり閉眼したり

第2話……です。さてはて、こやつはどこに向かうのか?
さっそく感想やらお気に入りやらありがとうございます。励みになります。


新幹線の踏切で車窓に映る女の子格付けをしていた俺を拾ってくれた龍と優希と一緒にリハビリテーションに来ていた。

 

「きれいな娘ね」

「そうだな、SS候補だ」

「バカっ!」

 

 眼球運動のトレーニングを終えた俺は、疲れた右目から映るハーフの女の子にそう評価を下したところを優希にチョップを入れられた。結構痛かったぞ……。本気だっただろ。

 

「あっ、だから龍のやつ声を掛けたのか!」

「は? あぁ? あの子な……」

 

 さっきスロープ前で車いすとあって登れないところ気を利かして押してあげた龍だったが、思いっきり怒鳴られていたからな。今も、親御さんと理学療法士の先生を払って出っていたのを見る限りリハビリが嫌なのだろう。まぁ、気持ちも分からなくはないが。

 その後、龍の担当医の先生からさっきの女の子について聞いた。滝沢アンナ、ジュニアフィギュアスケート界じゃ注目されている選手との情報を頂いた。確かに、それっぽかったな。

 

「実力よりあのルックスが先行している感じだけど……膝の十字靭帯やっちゃってね」

 

 あらまぁ~。可哀想なことに。

 

「はう、きっつぅ……」

 

 なんとかきついバランスボールを使った練習を終えた龍はやり切った。

 

「さぁ、今日は終わるか。あと1セットやったら」

 

 優しい顔して龍の担当医の先生は厳しくもあった。

 

 

「あ、あの子……」

 

 リハビリテーションでのリハビリを終えた俺と龍と付き添いの優希は病院を出ると、さっきのSS候補の女の子・アンナちゃんがいた……って!?

 

「なんで叩く?」

「なんか、ムッとしたから」

 

 優希のやつ、最近情緒不安定過ぎないか?

 

「よう! フィギュアの選手なんだってな」

 

 おぃぃいい!! 龍のやつめげずに話しかけたよ。お前はやっぱり凄いよ。それも一度無視されてももう一度聞くあたりは人が良すぎる。

 

「なんなのアンタ……カンケ―ないでしょ! ずいぶんお節介ね!」

「滑りたいかどうか聞いてんの!」

 

 それでも問う龍に俺たちは止めようとしたが、アンナちゃんは答えなかったから龍は近くにいたアンナちゃんのおじいさんに、本人の答えが出ないうちは無理させることはないと言って去っていた。おい、相手外国人だけど通じたか?

 

「じゃあな」

「もう、龍ちゃん……」

 

 俺たちは龍が言いたいことを言ったので帰ることにした。そして翌日のこと――

 

「スミマセ――ン」

「え、俺?」

 

 いきなり声を掛けられたので驚いたが、そこにいたのはアンナちゃんの確か親戚か何かだと思う。なんだ。日本語を……おい、何語しゃべってんだ? ジッと見られても困った……。

 

「WHAT!!?」

 

 俺の英語力舐めんな――――

 

「なんで、私が通訳なんかを……」

 

 あの後、アンナちゃんに助けてもらいおじいさんの言いたいことが伝わった。どうやら、龍のけがの重さとどれくらいリハビリを続けているかを聞きたかったようだ。俺は近く居た優希に丸投げしてその場から逃げた。

 そして何か話していると思ったら、いきなりアンナちゃんの頬を平手打ちした……!? え?

 

「翼くんや龍ちゃんはあんたみたいな意気地なしとは違うわ!!!」

 

 そう言う優希。大きな声だったので近くになくても分かったのですぐに駆け寄った。

 

「お、おい。優希?」

「――!!」

 

 優希の目には涙が浮かんでいて、すぐにリハビリテーションを出て行った。

 

「あ、あぁ……ごめんね」

 

 アンナちゃんが何か悪いことを吹き込んでも手を出した優希のことを俺はアンナちゃんに謝った。そしてアンナちゃんのおじいちゃんにも手を合わせて“ソーリー”と。

 

「ねぇ、あんた。左目見えないのにどうして……」

 

 アンナちゃんは俺の左目について聞いてきた。そしてまじまじと見てくるアンナちゃんのおじいちゃんも何か聞きたげな様子で、アンナちゃんにどこかの国の言葉で会話する。

 

「あいつと同じピッチにいたわよね」

「あぁ、いた」

「アンタも左目の視力がないんでしょ……眼帯で隠してるみたいだし」

 

 ほほぅ、俺の左目について聞いたか。いいだろう、この眼帯を取ればどうなるかを教えて――――ん? 待てよ。今、ここでエンペラーアイ(自称)を出すと……。

 

「ごめん、やっぱりやめておく」

「いや、何言っているかわからないし」

 

 その日を境に、アンナちゃんはきついリハビリと向き合うようになった。ちなみに俺が開眼を避けたのはアンナちゃんが筋肉模型になってしまうと恐れたからだった。

 

「よう、アンナ。また逃げ出したのか? リハビリ」

「意気地なしだもんね」

 

 そんなある日のこと、リハビリテーション近くでメソメソと泣いているアンナちゃんがいて声を掛ける龍と優希。あんまりからかうなよ。

 

「……ムカつく~~……! ねぇ、あんた」

「アンタじゃない! 赤星翼だ」

「ぷっ」

 

 いきなり俺を見て笑うアンナちゃん。ちょ、ちょっと胸にグサっときた……。

 

「あんた何よそれ!? 眼帯!!」

「ん? 何がだ?」

 

 龍と優希はあちゃーっと頭を抱えて笑っていた。まさか――

 

「この野郎! また落書きしやがったな!!」

 

 前から俺が昼休みに寝ていたところを眼帯に落書きしたようだ。なんだよ、これ。めっちゃ少女漫画みたいなキラキラした眼じゃないか!?

 

「おい、いつから?」

「朝のHR前にみんなで書いたよ」

 

 おい! どんな鬼なんだよ! 今日もなんか注目浴びていたからいい意味でとらえていたのがこういう意味だったとは!

 

「プっ、ハハハッ!」

 

 笑うアンナちゃん。あらま、笑った可愛いじゃん。

 

「え?」

 

 と思った矢先に、俺を見てすぐに驚いた表情に変わっていた。

 

「アンタ……、目の色が片方ずつ違う」

 

 そうだよ、事故で変色したんだよ……!?

 

「あれ? なんともない」

 

 この時、俺は落書きされた使い捨ての眼帯を取った。両目とも晒されているにもかかわらず、ここにいる3人が筋肉模型にならなかった。

 

「治った――!!」

 

 俺の忌々しき天帝の眼は閉眼したように――見えたが、違った。

 

「BとCorD……」

 

 すぐに視界が変わったと思ったら眼福ものになっていたのだった。この後、俺はすぐにかかりつけの眼科医に見てもらい精密検査を受けた。

 

「フフッ、どうやらリハビリの成果で回復したようだ」

 

 俺はピースサインで龍の部屋に押し掛けて報告した。龍も今日の夕方に高架下の壁に向かってボールを蹴って問題なかったらしい。

 

「それにしても、良かったな。回復していて」

「おう、お前たちのおかげだよ。落書きで得するとは……」

 

 もし落書きしてくれなかったら気付かなかったかもしれなかったからな。後、眼福……。

 

「おい、鼻血でてるぞ」

「おう、悪い悪い――」

 

 俺は龍からティッシュを受け取り鼻に詰めていると、優人と優希がやって来た。

 

「龍ちゃん、聞いたよ! 優希から」

「おう、優人。明日からよろしく頼むな」

 

 さっそくボールも蹴れたので明日から龍は優人の朝のランニングに付き合うことになっていた。うむ、やっぱり――

 

「(DでなくCだったな。見誤った)」

 

 そう心の中でつぶやく――はずだった。

 

「なっ!?」

「翼くん……」

 

 俺はどうやら小言で事細かに言ってしまっていた上に視線がバストの方に向いていたみたいで、思いっきり両頬にグーパンチを喰らった。その拍子か分からないけど、俺の眼福仕様の目の特徴は閉眼したのだった。無念……。

 そして翌日から龍も朝のランニングに付き合い始めることになったが、俺の眼のトレーニングには参加しないとのこと。あぁ、せっかく面白いことを……

 

「さて、明日に備えて早く寝るか」

 

 俺は赤く張れた頬をさすりながら家へ戻った。

 

△▼

 

 あの日眼福の目の要素を失った翌日から龍もサッカー部に入部して再び一緒にサッカーが出来ることになった。でも、龍は1年たちに混ざってサーキットトレーニングを主戦場に戦っていた。

 俺もサッカー部の練習は、今までリハビリだのなんだの言って良くて週4回ぐらいしか参加できなかったが、オフ以外はしっかりと部活に顔を出していた。

 

「一条――!」

 

 あれから3週間目に入った頃だった。龍が顧問の先生に呼ばれていた。翼ッズ・イアーによると、ベンチメンバーをまだ決めかねていたようだ。そこに龍がどこまで出来るかを見たいと聞こえた。

 

「先生! 俺、ボランチやりたいです」

 

 龍の付いたポジションを見て俺はAチームの左SBから中盤の底へのポジションチェンジを要求したら、案外すんなりと通った。

 

「さぁ、ひと暴れするか」

 

▼△▼

 

「アンナちゃん、こっち!」

 

 龍ちゃんがサッカー部に入り、翼くんも本格的に復帰してから1カ月が経ったころ、大浦東中学は新人戦を迎えました。

 アンナちゃんに2人の復帰戦を見てもらおうと誘うとアンナちゃんのおじいさんと一緒に来てくれました。アンナちゃんはおじいちゃんが観たいから一緒にきただけと言っていたけど、私は取っておいた場所へ案内した。

 

「なんだ、あいつら控えじゃない……」

「出番来るわよ。きっと!」

 

 私はそう信じ、ベンチにいる2人からピッチの方へと視線を移したのだった。

 

△▼△▼

 

 大浦東の新人戦、初戦の相手は夏の県大会でベスト8まで残った志村二中だった。ハッキリ言わせてもらおう。10番を背負う宮崎のパスに対しベンチにいたメンバーたちは成功率が低いというが、宮崎だけの問題でなく受け手にも問題があった。

 

「そこはビューッで、そこからボワーっと」

 

 そういった具合に攻めれば、大浦東も悪くないのにと思ってたが、結局前半は志村二中の前に0-2で折り返した。

 そしてハーフタイムのボールを使ったアップの後だった。俺と龍が呼ばれた。

 

「一条龍じゃね?」

「マジで、一条?」

「あの? 一条龍?」

 

 すげぇな~。やっぱりあの頃の龍の知名度はまだ残っているさすがだ。

 

「おい、あれって……“DFに定評のある赤……なんちゃら”じゃないか?」

 

 おい。確かに名前は知られてないだろうが、“なんちゃら”とはなんだ! もういい。この試合で植え付けてやる。‶攻守に定評のある“赤星”″ということを!

 

「さぁ、行くぞ! 龍!」

「よっしゃあ!」

 

 俺たちは緑色のピッチへ踏み入れた。

 




第2話、でした。
また、今度!


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第3話 再び始まる

第3話。
どうぞ~~。


 さっそく0-2というビハインドのピッチに入った俺と龍。最近2週間前からぐらいからかな。龍はセンターフォワードに、俺は中盤の底・ボランチに付いた。

 

「宮崎!」

 

 さっそく俺は相手の横パスを奪取してセンターサークルの位置にいた宮崎へ渡してリターンを受ける。

 

「っと!」

 

 そのリタ―ンをダイレクトでそのまま右サイドへ送った。その先には右サイドバックからオーバーラップした優人がいた。

 

「つながった!」

 

 そりゃそうだ。優人の動き出しは前半から改善されていた。龍がボールを受けたら攻撃的に前に5m近くは取るようにポジションを動かしてたからな。

 

「龍ちゃん!」

 

 優人はサイドを切り裂いてクロス。面白いクロスだった、キーパーの取れるか取れないかのギリギリに送られたクロスに龍が飛びこんだ。

 

「ポスト――――!?」

 

 ヘディングシュートはゴール右ポストに嫌われてしまい相手にクリアされた。でも、初めてこの試合を通して大浦東の決定的な場面だった。

 そのプレーから龍へのマークが厳しくなった。

 

(はてさて、どのタイミングで出そうか)

 

 俺は中盤でボールを回して伺う。

 

「龍ちゃん来てるよ!」

 

 優人が言うように俺が出したボールを受けた龍だったが、いきなりマーク2枚を付けてくる。

 

「あっ」

 

 龍のトラップは流れてしまい相手に奪われてしまう。それからも、龍は相手との競り合いや球際のところで負けてしまいボールをロストしてしまった。

 

「ほいっとな」

 

 だが、俺がしっかりと攻撃の芽を摘んで相手の得点機を防いでやった。

 

「さぁ、しっかりつないでいこうぜ!」

 

 俺は慌てず得点の機会をうかがうように周りに指示を出し、パス回しを始める中で1本のワンタッチでロングパスを出した。小学校の頃苦手だったが、今ではしっかりと狙って蹴れるようになった。

 

「オフサイドは――! なしだ!」

「完全に抜け出した!!」

 

 さっきからボールを受ける動きをしていた龍だったけど、チラッと裏への動きを目線で入れていたからな。放り込んでやった。

 

「龍! 決めろ!!」

 

 完全に抜き出した龍、あとはGKとの1対1だった。一度はシュートを阻まれたが最後はヘディングシュートで押しこんだ。

 

「おっしゃぁあ! ナイス龍!」

「ナイスパス、翼!」

 

 よく決めてくれたな。これで俺個人としてはアシストが記録され、1-2と1点差に縮めることが出来た。

 

(あと10分弱)

 

 そしてロスタイムを含めてあと10分ぐらい。射程圏内に入った。

 そこから相手の志村二中は俺が張っている中盤ではなくサイド攻撃を仕掛けてきた。まぁ、あれだけ中盤でボール取られてそれが結果的に失点につながったのだからそう考えるのも悪くないが……いいのかな? そっちのサイドに預けても?

 

「ナイス宮崎!」

 

 相手が俺たちの右サイドで攻撃を展開しようとするが、優人の運動量から追い込まれて横パスしたところを宮崎がいち早くパスを刈った。

 

「優人!」

 

 宮崎も分かっていたように、優人を走らせる。

 

「全く落ちねぇぞ!」

「どんなスタミナしているだよ!!」

 

 優人は毎日朝と夜の10㎞ランニングを欠かさずやっているだけあってさすがの運動量だった。エリア内を見た優人、龍が上手く相手のDFを引き付けたところだった。

 

「なっ!?」

 

 ボールはCBを引き付けた龍ではなく、マイナス気味の低いグラウンダーのクロスだった。その先にいたのは――俺だった。そのボールをただ右足で当てるだけで良かった。ボールはゴール右隅下にグラウンダーで入った。

 

「入った――――!!」

「大浦東同点!!」

 

 はい、きました~~!! 赤星翼のゴ~~~~ル!! 右足でズドーン!1

 

「早く戻れ!」

「おっ、そうだった」

 

 龍がすぐさま自陣に戻るように言う。そうだった、まだ同点なんだ。あと1点を奪って勝たなければ。

 

「龍、俺がボールを受けたら左サイドに流れてくれ」

「!」

「得意な形で勝負しよう」

 

 俺は今、しっかりと動けているからこそ龍にそう指示を送った。

 そして、相手のキックオフで再開されて相手は0-2から同点にされたダメージからかボール回しが雑に見えた。

 

「パスカット!」

 

 その中で、ボールを奪った優人はすぐさま俺に託した。

 

「翼!」

「合点!」

 

 俺は狙っていた通りに左に流れていた龍へパスを送った。龍のトラップは少し浮いたが形に入った。龍の得意なカットインの形へ――

 龍のことを知っている誰もが得意な形であるカットインからミドルシュートを期待した。龍の代名詞だったから。だが、現実は甘くなかった。

 

――――ピィ――!!

 

 昔なら簡単で振り切れていたが、今は振り切れなかったみたいだ。

 

「大丈夫か? 龍」

「おう、大丈夫」

 

 龍は大丈夫そうでこの絶好の位置からFKから決めようとみんなに話した。それを聞いた宮崎は勘違いしたのかわざとファウルを貰ったのかと言うが、龍が全力で行ったからこそ奪ったファウルだった。

 

「宮崎そういうことだ、頼む」

 

 俺は止まったボールを蹴るに関してはあれだからな。明後日の方向に行っちまうし……。

 

「一条、 お前が蹴れ。そして赤星。お前左利きだからダミーな」

 

 本来ならFKを任されているのは宮崎だ。それをわざわざ譲るとなると決めないとな、龍。

 

「(龍、頼むぜ)」

「(おう、でも――――)」

 

 俺たちは手で口元を隠して打ち合わせをする。ここなら間違いなく龍が蹴るだろう。雰囲気も間違いなく龍へのFKを期待した。

 

――ピィ!

 

 笛が鳴る。龍が最初にボールに向かっていた。誰もが龍が蹴るもんだと思っていたように声が上がった。だが――――

 

「ずらした!!?」

 

 そう。龍のFKに意識が向いている分、ここで蹴るのは左利きの俺だった。ちょっとでも動いているボールなら明後日の方向にはいかない自信はあった。俺は左足インサイドでボールを巻くように蹴った。

 その軌道は昔、龍と一緒にやっていた頃に初めて決めたFKと同じ軌道だった。

 

「ズラして――最後は赤星が決めた!!」

 

 ボールはゴール左隅上に突き刺さった。完璧なゴールだった。

 

「よっしゃぁあ!!」

 

 俺は喜んだ後に、セレブレーションをした。反転してからの仁王立ちのロナウド~~。

 

「すげぇよ!」

「赤星――――!!」

「ぶふぇっ」

 

 せっかくの得点からのセレブレーションが上手く行ったのに、押しつぶされた。お前ら~~!!

 

――――ピィ、ピィ、ピィ~~!!

 

「タイムアップ!」

「大浦東、赤星2ゴールと一条の1ゴールで逆転勝利!!」

 

 0-2からの逆転勝利に盛り上がるピッチ。俺は龍と優人を指さして行かなければいかない方へ連れて行った。

 

「優希、先生!」

「龍くんおめでとう! よく頑張ったね!」

「ありがとうございました!」

 

 そう笑顔で話す龍。

 

「ハハッ! 勝ったぞ、優希! お前も――」

 

 俺も一緒にピッチで喜び合おうと優希を手招きしようとする前だった。思いっきりダイブされた。

 

「翼くん、龍ちゃん……!! うわぁぁああ!!」

 

 優希は今までのことを思ってか涙を流し、それを貰ったように優希のダイブで俺と龍の下敷きになった優人も大粒の涙を流した。

 ここからだ、また俺たちのサッカーが始まると思えた瞬間だった。




またね。


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第4話 あれから俺たちは高校生に

第4話です。
評価に感想にお気に入り登録ありがとうございます!
では、どうぞ!


 あの試合から色々あった俺たちだったけど、今日から高校生だ。

 あの試合の後から勝ちあがった県大会で負けたことでチームの意識の低さがウソのように上がってきて勝つことに集中した。

 それもあって最後の大会高円宮杯の埼玉県大会に勝ち上がった俺たち。そんな中で龍が中学卒業を機におじさんが待つインドネシアにおばさんと一緒に渡るという話があった。

 どうしたら龍を日本に引き留められるか考えた末に宮崎が高円宮杯で勝ち続けてスカウトの目に留まれば日本に残れるのではと、ある日の夜に俺や優人に持ち掛けた。

 宮崎の考えの通り俺たちにできることはそれぐらいだと思い龍には内緒でチーム内では龍のために高円宮杯を勝ち抜くことが目標になった。

 そんなチームは必死に勝利に向かって頑張り迎えた高円宮杯の埼玉県大会へ進出し迎えた2回戦、対麻倉キッカーズに2-2の末のPK戦で敗れた。

 でも、龍の心に十分にチームのメンバーの気持ちが伝わっていたのかあいつはインドネシアにいるおじさんに日本に残りたい気持ちをしっかりと伝えたこともありこれからも一緒にサッカーが出来ることとなった。

 そんな濃い1年間と少しを過ごした俺たちも、今日から高校生。一体どんな生活が待ってるのだろうか。

 

「優希、もうすぐ……」

「きゃっ!」

 

 俺としたことがノックもせずに入ってしまい優希の着替えているところに入ってしまった。やってしまったけど……

 

「今に始まったことじゃない! だから――ぐぼらっ!!?」

 

 俺は重たい物を投げつけられて優希の部屋から追い出された。

 

「もうすぐ、行くから……な」

 

 とりあえずもう時間だと言うことを伝えて、その場に伏せたのだった。

 なぜ優希と優人の家に俺がいたかというと、龍と同じように俺の両親も海外勤務が決まり青梅家にお世話になっていた。龍もお世話になっている。

 

「はぁ……やっちまったぜ」

 

 今は登校しているところ。俺の今朝の一件はすでに龍や優人の耳にも入っていた。

 

「なんで決め顔なのよ! ホントっ! 最低!!」

「まぁ、優希落ち着きなよ。今に始まったことじゃ――」

「優人バッカじゃないの!!」

 

 そんな他愛もない話をしつつ俺たちがこれから通う高校・武蒼高校へ着いた。生徒用昇降口の前にはすでに人だかりが出来ていた。どうやらクラス発表の掲示がされていたようだ。

 

「あ、俺。龍ちゃんと翼くんといっしょだ」

「あたしB組だ。じゃあ、またあとでね」

 

 クラスは優希がB組で俺や龍、そして優人はC組だった。

 

「知った顔いないなぁ」

「そうだな。でも、いい機会だ。なぁ優人」

「……」

 

 新しい教室の席についてそう話す俺たちだった。だけど、優人がずっと窓際の席に視線がいっていたので見ると、そこにはスレンダー美少女がいた。

 

「……なんですか?」

「あ、青梅優人って言います! よろしく……」

「……どうも」

 

 ほほぅ……。優人の好みの女の子がいたようだ。春だね~。春が来たよ~。

 そんな春が来た優人。その舞台、私立武蒼高校は100人を超す部員を抱える埼玉屈指のサッカー強豪校として有名だ。最近は冬の選手権こそ遠ざかっているが、クラブと高校が混在するU-18リーグのプリンスリーグに属している。

 

「翼くん、龍ちゃん、優人! いよいよだね」

 

 その部に俺たち4人は入ることとなった。優希はマネージャーとして支えてくれるようでマネージャーさんたちが待つ部室棟へ向かっていた。

 

「龍!!」

 

 そして優希と別れて俺たち3人がサッカー部のグラウンドへ向かっている時だった。声を掛けてきたのは麻倉キッカーズのGKの渡辺健太ことナベケンとマリノスJrユース出身だという矢沢和成だった。ちょっとJrユース上がりだからって自信ありげだな。

 

「よろしくな」

 

 別に“ヨロシクな”じゃねぇし。

 

「お前ら、俺を追ってここを選んだのか?」

「そうじゃないぞ、なぁ龍」

「まぁ、色々考えてな。スカウト・セレクション以外にもチャンスがあるからさ」

 

 そう。ここ武蒼高校サッカー部は今まではスカウト・セレクションがAチームを占めていたが、去年の秋から一般組で入った人がレギュラーを勝ち取っていた。ナベケンも知っていたようで、それも立った1人だけしか上がってないことを俺たちに言うが、関係ない。

 

「俺はやるぜ! いきなりAに入って見せる!!」

「そういうことだ。今日のうちに決めてやるよ」

 

 そんなにゆっくりと歩いている暇はないからな。

 

 

 あれからユニフォーム姿になって芝のあるグラウンドに入った俺と龍と優人たち。俺たちが入ってくるなりざわつく。一条だ、一条龍じゃねぇ? と注目を早速浴びる龍。さすが――

 

「あ、アイツは!? DFに定評のある赤星!」

 

 そして、まだそのフレーズがあったのかと俺は頭を抱えつつ体をほぐすために柔軟体操を始めた。

 それからしばらくしてコーチと思われる人が集合を掛けた。

 

「さっそくだが新入生全員ミニゲームに参加してもらう。うちはAからDまでチームがある。そのAチームに混ざってもらおう」

 

 さっそくのチャンスとあって燃えてきた~~!!

 

「30分後に始めるからそれまでにしっかりと体をあっためておけよ」

 

 コーチに言われて俺たちはボールをもってグラウンドへ散らばっていた。さっそくそれぞれがメンバーを組む中で、俺は……。1人残されてしまった。

 

「しょうがねぇ。ポスト狙いでもするか」

 

 俺は相手がいなかったことからゴールポストリフティングなるものをすることにした。

 

「あ、アイツなんだよ……」

「ロナウドかよ!?」

 

 かつて、俺が前世にいた時にあるスポーツメーカーのCMで同じようなことをやっていた人がいたのを思い出しやってみたが、結構楽しいな。これ。

 

「っ! 外してしまった」

 

 結局5回連続しかできなかったけど、楽しさのあまり1人で30分間をゴールポストリフティングに費やした。

 

「じゃあ始めるぞ! 呼ばれたものからビブスを貰ってミニゲームに入れ」

 

 さて、ここから始まるんだ。俺の高校サッカーが!

 

△▼

 

 マネージャー届けを出しに行った私は、3年生マネージャーの佐藤加奈子さんに案内されてサッカー部のグラウンドにやって来ました。

 

「恒例の新入生歓迎ミニゲームね……やってるやってる」

 

 加奈子さん言うようにいきなり新入部員たちがAチームに混ざってミニゲームに入っていました。加奈子さんは近くにいた部員・原田さんにどうかと聞いて、私を紹介した後にササッと私の前に立ちました。どうしてでしょう?

 

「で、今年の1年はどうよ?」

「お、GKの渡辺ってやつ……いいっすね。ホラ、竜崎さんと今!」

 

 確かにナベケンと竜崎さんという人が競り合ってましたが、思わず声を出してしまうほど迫力のある競り合いでした。

 

「うひ……」

「お!」

 

 互いに地面に落ちて大丈夫かと思ったけど、2人とも起き上がって大丈夫そうでした。ナベケンと競り合った人、竜崎さんは初めて一般からトップチームに入った人です。ナベケンよりもでっかくFWとあって龍ちゃんにとって大きな壁かな。

 

「あっ! あいつもいいですよ!」

「どれよ?」「左サイド張って今レノンと対面の奴ですよ」

 

 そう原田さんが指さす先には翼くんがいた。今、対面の人は世代別代表にも選ばれる橘怜音さんに対してまったく引けを取ってないと原田さんは言う。

 

「最初は、縦に仕掛けてのカットインからのアシスト。次はどうするんだ?」

 

 あの目……、翼くんがあの目をしている時は――

 

「抜く気ですよ」

「え? いや、さすがにレノンじゃ――」

 

 そう加奈子さんが言った時でした。翼くんが2つのフェイントを入れた後に橘さんの横を通り過ぎていた。

 

「レノンが抜かれた!!?」

 

 対面のDFに定評のある橘でしたが、ここ1年で翼くんのドリブルスキルはぐんぐん上がっていました。それもあるけど、どうしてあんなに簡単に抜けるだろう?

 

「さらにゴールラインを上がって行く!!」

 

 その勢いのままに翼くんは寄せてきたDFを躱してゴールラインぎりぎりを駆け上がってラストパス。完全に切り裂いてからラストパスを竜崎さんの足元へ送り、またアシストを決めた。絶好調みたいだ!

 その後も龍ちゃんは最初あまりよくなかったけど、最後に起点から得点を作って結果を残した。優人はまだこれからといった感じでミニゲームは終わったのだった。

 

▼△▼

 

「「「「ただいま――――!」」」」 

 

 部活を終えて帰って来た俺たち4人。

 

「おかえりっ! ね、ね、ね。初日はどうだった?」

 

 出迎えてくれた優人と優希のお母さんはいきなり2人に学校初日について聞いた。優希にはかっこいい人はいたかと聞いたが、優希は興味なさげに。優人にかわいい人がいたかと聞くと、反応アリという具合だった。

 

「やだ――いたの?」

「いたんだ!」

「いない……い、いないって!」

「優人~、隠すなって」

「ちょっと、翼くん!!」

 

 優人を弄ったが、部活のことを聞いてよと言う優人はおばさんに言うも、龍の目の輝きようからわかっていたようだ。そんだけ目を輝かせていれば大丈夫だろう。

 

「で、俺は?」

「……さぁ、よるごはんにしましょうか!」

 

 ちょ、ちょっと……。俺についてはなしって。この後、俺は不貞腐れたがお肉が多めに入ってたから許すことにした。

 

「レノン! すんげぇ名前だな」

 

 そしておじさんも仕事から帰って来て夕食を囲んでいた。さっそくサッカー部の話で盛り上がっていた。

 

「だけじゃないよ。武蒼の4バックはレノン、ジョージ、リンゴ……」

「え!? まさか、もう1人は……」

「もう1人は弘でした!!」

 

 優人とおじさんが話すように、さすがに日本人でポールなんていないよな。でも、弘じゃあれだから、ポールにしようみたいな感じだったのだろう。

 その中でも、橘怜音は別格だと話す龍。確かに龍が速いパスをほしいのをいち早く感じで出したことは代表クラスってやつだろう。まぁ、俺はあの人を1発ちぎったけどな。

それからも夕食はサッカー部の話ばかりだった。

 

「あぁ、癒される……」

 

 夕食後、一番風呂を頂いた俺はゆっくりと湯船につかっていた。色々あったな……。

朝にラッキースケベなことがあったり、そんなことがあったり、あんなことがあったり……

 

「さて、上がるか」

 

 俺は浴室から出て脱衣所で体の水滴をタオルで拭って服に着替えようとしたが――あれ? パンツがない……。なぜだ、どこに……

 

「翼くんパンツ! 廊下に落ちてたから……」

 

 おいおい、いきなり風呂場に入ってくるとは優希もお転婆さんだな。まったく困ったやつ……、あっ、俺すっぽんぽんだった。

 

「優希! パンツを置いて回れ右!」

「は、はい!」

 

 優希は俺の言う通りに回れ右してそのまま機械のような動きで自分の部屋へと戻って行った。これが、逆ラッキースケベってやつか。いや、どうだろうか? まったくどちらかが得したか?

 そんなアホなことを考えつつパンツを拾って履く俺だった。




第4話。でした~。
一気にぶっ飛びました。
またね、またね~


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第5話 新戦力

だい5話です。
評価にお気に入り登録ありがとうございます!
では、どうぞ~


 サッカー部の部室がある部室棟では2、3年のメンバーたちが着替えつつ昨日のミニゲームの話をしていた。

 

「一条龍も復活していたけど、その相方がまだ一段と凄かったな。レノン」

「なんで、俺に聞くんですか……」

「そりゃ、あんなに鋭い切れのあるドリブルする奴なんてそうはいないけどな。でも、世代別代表の名が泣くぜ」

 

 3年のCBの島津譲二は昨日のミニゲームで抜かれた2年で右SBの橘怜音が翼にいいようにやられたことをネタに弄る。

 

「まぁ、言い訳になりますけど……。嫌な間合いの取り方するんですよ。あの赤星ってやつ」

「へぇ~……。そうなんだ。一応注意しておくぜ」

 

 翼の実力を買う怜音に譲二は覚えておこうとユニフォーム姿になった。

 

「それにしても、今年の1年はいいのが揃いましたよね~」

 

 それを聞いたキャプテンの星倫吾は武蒼サッカー部にとって力のあるものなら歓迎と快く迎えた。

 

 

 ミニゲームの翌日からさっそく新入部員たちもA~D振られてそれぞれのチームに入ることになった。俺と龍、そしてナベケンはAに入ったことは決まったが、もう1人Aに入ったやつがいた。あのレッズのJrユースだった桜庭巧美だ。

 性格に難のあった桜庭、きっとユースに上がれなかったのもそのせいだろうと思った。が、何があったのか知らないけどいい子ちゃんになっていた。

 

「渡辺くん、一条くん、赤星くん。お互いレギュラー目指そうよ」

 

 そうキラキラスマイルで声を掛けてきた桜庭。おい、なんか変なもんでも食って性格がイカレてしまったのか?

 ナベケンはあまりの変わりように顔を引きずるも、龍は改心したと思い握手を交わしていた。まぁ、俺はあの腐った性格はそう簡単に直らないだろうと思い、特に声を掛けることはなかった。

 そんなこともあって4月の半ば、週末のプリンスリーグに向けて戦術練習をしている時のことだった。

 

「どう……りゃ」

「うげ……」

 

 競り合う桜庭だったが、体格的に圧倒的な不利でキャプテンに思いっきりぶっ飛ばされて一度プレーは切られた。

 

「矢沢、なんだよ今の!」

 

 簡単にクロスを上げた矢沢に声を掛ける龍。本当なら足元で受けたかったのだろうが、矢沢はコーチの指示通りにやったまでだと言い返した。

 

「おい、赤星! 簡単に中に振り切られるなよ」

「いや、俺言いませんでしたっけ?」

 

 コーチにそう注意を受けたけど右サイドに回された際に自信がないとコーチに伝えた。お前なら出来るだろと、何を基準に言ってるのか分からなかったけど――

 

「あの、俺左目あんまり見えてないっすから」

 

 だから、ライン際に縦に仕掛けられるのはなんとか視界にとらえられて大丈夫だけ中に切れ込まれるとそう簡単にはとらえきれないんだよな。

 

「おい、赤星」

「なんですか、黒部先生?」

 

 その話を聞いていた監督でもある黒部先生は左サイドを張る春畑さんを呼んだ。

 

「赤星、左サイドなら出来るんだな」

「! はい!」

 

 そうそう、左サイドなら攻撃に関しては思う存分できるのを分かってくれていたようだ。てっきり昨日ミニゲームで左サイド専門ってことが分かってもらえたものと思っていただけに。

 確かに天帝の眼は開眼したけど、まだまだ制限時間と回数があった。最低でも5分、最高でも10分ぐらい。あんまり乱用したら右目の方も影響受けるから気を付けないといきない諸刃の剣だった。

 

「よろしく、ポールくん」

「お、おう」

 

 さっそく左サイドでコンビを組むポールくんにひと声かけてからプレーは再開された。

 

「いいぞ! ジョージ!そのまま上がれ!」

 

 さっそくゲームが再開されると矢沢に入ったボールをジョージさんが奪い、持ち上がる。

 

「いけっ! 新入り!」

 

 おっ、さっそく俺にボールをくれた。いい人だ。見る目あるな~。

 

「行かすかよ!」

 

 対面には右SBが立ちはだかっていたが、使うか――天帝の眼を。

 

「うっ、ぐっ!!?」

 

 俺は左右の揺さぶりで重心をずらしたところで抜き去る。これで1枚をはがした。すぐに相手のボランチが寄せてきたところを見て、一気に速いクロスを上げた。

 そのクロスに長身FWの竜崎さんが圧倒的な高さでヘディングシュート、ボールはゴールに突き刺さった。

 

「よしっ、よし!」

「ナイスクロス! 赤星!!」

 

 チームは今、竜崎さんの高さを存分に使った攻撃を活かしている。その状況下で龍のパスワークから崩すやり方に付き合うやつはいなかった。正直、俺はそっちの方が好きだけど……。

 

「前半は1失点。渡辺上出来!」

「はい!」

 

 結局、前半はナベケンの守備の高さもあって1失点で抑えられた。キャプテンが言うように、2,3点取れるチャンスがあったけどナベケンに阻まれた感は否めなかった。

 

「それにしても、お前やっぱり左目見えないだ」

「いや、視力が悪い程度です。言いませんでしたっけ?」

 

 誰も俺が左目あまり見えてないことを知らなかったようで、“知らねぇよ!”と怒鳴られた。おぉ、怖い、怖い。

 

「そういうことで、よろしくお願いしますね」

 

 仕切り直して後半戦が始まった。早々だった、いつものように守備の高い4バックが攻撃を封じると一気にカウンターで右サイドのレノンさんが駆け上がり、最後は絶妙なクロスからまた竜崎さんのヘッドがさく裂して2-0となった。

 それからも控え組は龍の速いパスでミスってはピンチの場面を作っていた。それでも龍は続けた。

 

「仕掛けてきた!」

 

 矢沢の足元に速いパスが収まった。矢沢にとっての間合いだったのか仕掛けるもレノンさんがしっかりと体を寄せて振り切らせない。

 

「矢沢!」

 

 矢沢も龍の意図に気付かされたのか速いパスを龍の足元に収めた。

 

「うぉっ!」

「ポール!!」

 

 パスを受けた龍は相手の寄せを感じることなくフリーでバイタルエリアにいた桜庭に同じように速いパスを送った。それを受けた桜庭はワントラップでポールさんをチギッて最後はGKとの1対1になって冷静に股を抜いて流しこんだ。

 完璧にバックラインを手玉に取った龍の速いパスだった。

 

△▼

 

 結局紅白戦は3-1でレギュラー組が勝利を収めて終わった。その帰り道、控え組に入っていた龍とナベケンはご機嫌斜めだった。

 

「龍……、2失点目。お前の出したパスからだったよな」

「そうだ」

「結局、ミスさせたようなもんじゃねーか。お前が」

 

 おいおい、いくらなんでも喧嘩までにはいかないよな……。そう思った時、ちょうど通りかかったレノンさんが声を掛けてくれた。

 

「よう、一条なんだよ。今日のは?」

 

 レノンさんは得点シーンに関して良かったけど、それ以外は失点シーンを含めて龍のパスからボールロストが目立ったとナベケンと同じことを話した。

 それに、龍はちゃんと目を合わせてパスを送っているからパスミスじゃない。でも、みんなの技術が思ったほど――って、おい!!?

 

「ハハハッ! スゲーなお前!」

 

 レノンさんが相手で良かった。他だったらマズかったぞ。

 

「でも、その通り」

 

 レノンさんは世代別代表を経験しているだけあって龍が期待するほどの技術を持った奴は日本にそうはいない、そこまで要求されてないからだろう、と。

 

「いきなり実践できるのは、本当にうまいやつだ」

 

 それからもレノンさんは結果的にもチームに混乱を与えて振り回した印象しかなかったことを踏まえて、もうちょっと上手く立ち回れと自転車で去っていた。

 

「龍、レノンさん言ってただろ。今のチームなら必要ないって」

「おう」

「だったらその必要性を変えるぐらいにチームを虜にしてしまえばいいんじゃね」

 

 俺の考えに、ナベケンはそれだったらなんでチームスタイルが違う武蒼にわざわざきたんだよと龍に疑問をぶつけた。龍は今のサッカーが出来るのは武蒼だけというが、ナベケンは、それはユースのサッカーで高校のサッカーで変な苦労をする必要性が考えられないみたいだった。

 

「ナベケン、サッカーに高校もユースもないと思う。目指すのは最高のサッカーだよ」

「そういうこと、変に自分を押し曲げてでもやるのも一理あるけど目指すべき方向性は曲げたらダメだ」

「じゃあ翼はなんで中盤じゃなくてサイドに回っているんだよ。言っていることと――」

「俺は今できる最高のプレーを追い求めているだけ。サイドでもゲームメイクは出来るはずだし」

 

 俺も今のチームのサッカーにはある程度満足はしているけど、さらに押し上げる存在になりたかったから、サイド攻撃重視の武蒼のサイドアタッカーの道を選んだ。

 

▼△▼

 

 翌日のことだった。武蒼にアンナがやって来てきて練習を外から観ていた。

 

――やるじゃねぇか!

――しっかしレベルたっけ――。

――ハーフの女子中学生だと!?

 

 アンナが練習に来たことにいち早く気づいたのは龍だった。それから情報は流れに流れて龍は部室で2,3年生に連行されたのち今に至る。

 

――ケガから復活した苦労人かと思ってりゃ、いきなりAであんなめちゃカワな彼女がいるとはなぁ!とんだリア充野郎だぜ!

 

 ジョージさんはたまった怒りを龍にぶつけていた。リアル、充実するといいですね。

 

――見損なった!!

――いや……、知り合いですって。それにどっちかと言うと、アンナって翼に気があるような

――!!?

 

 おいおいおい! いきなりとんだ爆弾を投げやりに投下したな! 関係なく着替えを済ましていた俺に一斉に視線が集まったよ。

 

――お疲れでした!

――そいつを連行しろぉ――!!

 

 俺は天帝の眼を使ってまでその場から退散した。マジで、ジョージさんの包囲網は厚かったせいで、帰るのが大変だったぜ。

 そんなことがあった昨日。部活初めにジョージさんからよくも逃げてくれたな、と俺の横に来て肘で突かれたけど、結構本気で突かれたので避けた。

 その日の練習は何かとポールさんやジョージさんたちから何かとちょっかいを受けるも、流しつつ翌日に控えたプリンスリーグのメンバーが発表された。

 

「4-4-2システムで行く。まずGK,久米」

「うっす!」

 

 GKはいつも通り正GKの久米さんが務めることになり、4バックも武蒼の誇る4人が守ることが決まった。

 

「ボランチ、森と戸部」

 

 ボランチには攻守で光る森さんと戸部さんが選ばれた。

 

「右MF白川」

 

 右のサイドアタッカーには白川さん。右SBのレノンさんとコンビネーションが良かった。

 

「左MF,赤星」

 

 はい、来ました~。左のサイドアタッカー。赤い彗星のこと赤星翼が選ばれました。ムムッ!

 まぁ、調子に乗るのはそれぐらいにして、2枚のFWは長身FWの竜崎さんと竜崎さんとのコンビネーションのいい小田さんが選ばれた。

 

「明日は群馬の強豪・赤城中央だ! 相手はいいチーム。しっかりと勝ち点3を狙おう!」

『はい!!』

 

 試合前日のミーティングを終えて今日の練習は終わった。

 

「さぁ、帰ろうか」

「今日は俺たちと帰ろうぜ……赤星……」

 

 ジョージさんの包囲網にかかってしまう俺だった。




第5話でした。
サッカーで黒子のミスディレクションって……何でもないです!
では、またまた!


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第6話 高校公式戦デビュー

第6話、です。
早いものでもう6話ですか~。
あっ、評価に感想にお気に入り登録毎度ながらありがとうございます!


『プレッシャー! ウォ――プレッシャー!!』

 

 群馬の強豪・赤城中央との試合。堅守速攻の俺たち武蒼に対して、赤城中央は時折速攻で仕掛けるも、ボールを繋いでくるチームだった。

 今も、ボールを失ったところで相手が中央から攻めてきたのをボランチの2人が囲んで攻撃を遅らせた。最終ラインも慌てず9番の裏への抜け出しを注意しているだけあって流石だった。

 相手のカウンターは阻止できた。そこからまた赤城中央は一度中盤の底まで下げる。中盤の底には世代別代表の藤原乃亜がいて、何度も前線にいいボールを供給していた。

 

(堅守速攻って、あんまり攻める時間がないからあれだけど守る時間が多いせいか我慢も必要だよな)

 

 俺はそんな当たり前のことを思いつつポジションを下げて自陣に戻ってゾーンディフェンスに入る。

 そして相手が中盤でボールを回す中で藤原が一本のパスを左サイドに展開。きれいにロングボール収まる。おお、上手い。にしても、世代別代表はキラキラねーむがはやりなのか? 知っているのは2人だけだが。

 

「あっ」

 

 そんなことを思っていると、相手の左サイドアタッカーがレノンさんに1対1を挑むもあっさりとボールを奪われた。ノーファウルで。

 

「誠だ! 当てろ!」

 

 はい、始まりました。武蒼のお家芸、ターゲットマン・竜崎さんへのロングボールの放り込み。レノンさんは黒部先生の言う通りにすぐにロングボールを入れた。それを竜崎さんは落とした。走って来ていた俺の足元に。

 

「小田!」

 

 俺はその落としたボールを裏へ走り抜けていた小田さんへ左足からスルーパス。一気に抜け出した小田さんはそのままゴールへ無理やり突き進む。そして強引にシュートを放った。

 

「あぁ! 止められた!!」

 

 ファーへのシュートはキーパーがパンチングで弾きエリア内を出ようとした。先にどちらがセカンドボールを取るかと思われたが、意外にも一応走っていた俺の足元に向かっていた。

 

「っし!」

 

 俺はそのまま左足を振り抜いて一閃。シュートはそのままゴール右上隅に豪快に突き刺さった。

 

『入った――!! 武蒼が先制!!』

『前半20分! 武蒼のカウンター攻撃がさく裂!!』

 

 幸先よく先制した俺たち武蒼。俺はさっそくコーナースポット手前に駆け抜けていく。そしてジャンプして反転の仁王立ち、ロナウド~~!!

 

「決まった!」

 

 得点後のセレブレーションも完璧に決まった。

 

「よくやった!」

「良く詰めてた!!」

「ぐほっ!」

 

 仁王立ちで手を広げる俺の許へ先輩たちが駆け寄ってくるとダイブして押しつぶされた。そこから何人もが下敷きになった俺の上に……重すぎる……。

 

「さぁ、さぁ! 戻るぞ!」

 

 キャプテンがそう言ってくれたなかったらずっと下敷きのままだった。マジ、助かった……。

 

「ん?」

 

 そんなことを思いつつポジションに戻った後だった。ベンチではピッチを上げて控え選手たちがアップを始めていた。誰だろう……。

 

――――ピィ!

 

 それからプレーが切れた後だった。代わるのは小田さんだった。代わって入るのは、桜庭だった。

 

「ねぇねぇ、彼も1年生?」

「あっ、はい」

 

 プレーが再開される前だった。中に絞っていた俺にちょうどポジションが重なった藤原が声を掛けてきた。デカいな~。

 

「そのまま入るのか、11番のところに?」

「いや、作戦を教える奴なんていないでしょ」

 

 俺は思ったことを言ってそのままポジションを移し替えた。

 それからまた赤城中央に攻め込まれるもしっかりと4バックが守ってクリアしたボールに竜崎さんが競り合ってこぼれ球が桜庭に渡った。

 

「おっ!」

 

 桜庭はワントラップで寄せてきたDFをあっさりと躱してしまう。さすがに、相手のDF軽すぎないか? 1人を抜いた桜庭はその勢いのままに2対1と数的有利の状況を作る。普通、周りが見えているなら横を並走する竜崎さんに預けてリターンを貰うだろう。だけど、桜庭は突っかかって相手の最後の1枚のDFを揺さぶるだけ揺さぶって最後は相手の軸足を壁に見立ててワンツーしたように抜け出した。最後は結局決定機をキーパーに詰められて逸した。

 

「二人抜いてフィニッシュ!」

「桜庭スッゲ――!!」

 

 あのシーン、アイツの中にパスという選択肢もあれば竜崎さんがフリーでシュートを打てただろう。でも、それをしなかったということは……。

 

「桜庭」

「あっ、ごめん! 夢中で」

「相手のボランチが一枚付くと思うから」

「うん、ありがと」

 

 そう笑顔を振りまく桜庭だったが、この時の俺にはあいつの心のドス黒い何かが見えていた。

 

 

 あれからもしっかりとゾーンで守る中でボールをクリアした武蒼。クリアボールはまた桜庭に収まった。そこには予想通り藤原がマンマークで付いてた。

 密着マークを受ける桜庭だったが、またワントラップで藤原をチギッてしまう。ボールを浮かして反転して前を向いたんだ。

 

「マジか!」

「桜庭すげぇ――!」

 

 完全に桜庭劇場が始まったと思った。俺もそう思ったが、逆サイドで見ていた俺は驚いた。抜かれたはずの藤原がものすごい勢いから最短距離で桜庭に迫っていたことに。

 

「3人抜き!」

 

 3人を抜いた桜庭。あとはGK1人と思いボールを前に出した時だった。桜庭からしたら長い足が突然伸びてきた感覚だっただろう。

 

「なっ!?」

 

 藤原が戻って来たことに驚く桜庭。無理もない、横を並走して遠くで見ていた俺でさえも驚くぐらいの勢いで戻って来たのだから。

 ボールを奪われて好機を逸した桜庭は、それ以降ボールを貰ってはドリブルで突っかかる。あの藤原に対してキレッキレな動きで抜く桜庭もそうだが、藤原のフィジカルはそれを凌駕していた。

 

「桜庭! 持ちすぎるな!」

 

 4人に囲まれた桜庭に指示を出す黒部先生。ベンチが俺の左サイド側だからよく聞こえるし、桜庭の耳元に届いているだろう。でも桜庭はレノンさんにパスをすると見せかけてドリブルで抜いた。

 

「ありゃ、いやだな」

 

 俺が言うように、抜いても抜いても藤原がすぐにマークに付く状況。そして――――

 

――――ピィ~~!

 

 俺の方から見えたが、明らかにファウルを誘われた桜庭。シャツを引っ張られたのを手で払いのけた。それを藤原は顔に手が入ったのをアピールしてファウルを貰ったのだ。

 

「桜庭、落ちつ……」

 

 そう近くにいた竜崎さんが声を掛けたが、届かずボールを叩きつけて余計なイエローカードを受けた桜庭は、平静を保てずにボールを貰いに持ち場を離れる動きが増えて武蒼の攻撃は淡白なものとなった。

 

――――ピィ、ピィ、ピィ~~!!

 

 最後は竜崎さんのシュートが外れたところで前半は終わり、1-0でハーフタイムを迎えた。

 

「おい、桜庭!」

 

 ハーフタイムでベンチに戻って来た俺たち。そんな中でアップに入る前の龍が桜庭に声を掛けていた。本来なら先生や先輩たちが声を掛けるところを龍は声を掛けた。自分を曲げてでもとか、チャンスが欲しかったとか聞こえたが、最後の俺とやった時と変わらないぞというのは分かった。きっと小学生の時に龍が止めたことだろう。

 結局、先生は桜庭に特に注意することなく指示だけを出してピッチへ送り出すことにしたようだ。まぁ、先生がそれでいいなら……俺から別に何も言うことはないけど。

 

△▼

 

 翼くんの得点で先制した武蒼。そして負傷交代した小田さんに代わって入ったカス・桜庭も最初の方は良かったかもしれないけど、結局余計なイエローカードを貰ってからは持ち場を離れてボールを貰いに来たからな~。

 

「ただボールに触れたいだけですよ。チームプレーなんてみじんもない。とにかくわがままでエゴが服着たような男です」

「優希! アンタどこまでねじ曲がっているの!!」

「過去はどうであれ、今はいい子じゃない!」

 

 陽子さんとマリさんは知らないだけで、あのカスの性根が変わるはずがなかった。最初はチームの指示通りしっかりと前線に張っていたけど、結局、パスを貰えない機会が2回なかっただけで――

 

「ホラ、出た」

 

 予想通りカスはボールを貰いに下がって来た。持ち場を離れたあいつにCBの星さんが出すはずもなくロングボールを入れた。

 

「あ――! 直でライン割ったか!」

 

 ボールはゴールラインを割って相手のボールからの再開となった。

 

「あ――――!」

 

 そんな時だった。ベンチでユニフォーム姿になっている誰かがいた。23番……! 龍ちゃんだ!

 ついに龍ちゃんも、翼くんが先に立ったピッチに入ろうとした。がんばれ!

 

「なんてハイテンション……」

「だって幼馴染の2人が同じピッチに入るですよ! 家が近所で……」

「うらやましいけど、かわいそ~~」

「一条くんは未だしも赤星君って可愛い彼女いるもんね」

「いや……」

「全然設定活かせてないし~」

 

 私は必死にアンナが翼くんと付き合ってないことを言っても、2人は信じてくれなかった。本当なのに!

 そしてボールが切れたところで選手交代が行われた。

 

「よろしく、よろしく!」

 

 みんなが龍ちゃんを声で後押しする。

 

「い~~ちじょ~~ヨロシク!!」

 

 私も大声で龍ちゃんを送り出した。さぁ、龍ちゃん、翼くんに続いて頑張れ!

 

▼△▼

 

 めっちゃ優希の龍を送り出す声がピッチに響いた。後から恥ずかしくなるぞ~、ププッ。

 

「龍、一発かましてやれ」

「おう!」

 

 俺は中央の位置に入った龍に一声かけて左サイドの位置に戻った。

 

「おっ」

 

 さっそくレノンさんにボールが渡ったけどパスコースがなかった。一旦下げるかと思ったけど、下がって来た龍。おいおいおい! 桜庭にあれだけ注意して……? いや待てよ。アイツなら――

 

「下がって受けてきた!」

 

 レノンさんは何かを感じてパスを出した。挟まれる龍だったが冷静にリターン。それに相手の左MFとボランチの藤原が食いついた。あっ、視えた。

 

「うまいレノン!」

 

 レノンさんは食いついてきた相手をワンタッチで抜くと、すぐに龍へ速いパスを足元に送り、上手くバックステップで距離を取っていた龍へ渡る。攻撃のスイッチが入った。

 

「一条どフリーだ!!」

 

 完全に足元に収まって寄せられないDFは遅れて龍へ寄せた。俺がとる行動は――

 

「チャンスだ! 右サイド! 白川に出せ!」

 

 ここまでのパターンなら龍の右寄りの位置なら右に叩くか中央で待つ竜崎さんだろう。でも、龍なら――

 

「え!?」

「左サイドの裏!?」

 

 龍なら見えていると思った。俺がこの試合を通して見せてなかった最終ラインの裏への動き出しを。

 

「ドンピシャ!!」

 

 裏へのスルーパスに抜け出した俺。キーパーが迫ってくる。左に蹴ると見せかけて――

 

「なっ!?」

 

 右へ巻いて蹴り込んだ。一瞬、ポストを弾いた時は焦ったけどそのままネットに転がり掛かった。

 

「決まった――!! 一条のアシストから最後は赤星!!」

「本日2点目!!」

 

 はい、来ましたよ~。来ましたよ~からの~……反転ジャンプから仁王立ち――ロナウド――!!

 

「この野郎! 練習でも裏の抜け出してなんてしてなかっただろ!」

「ポールさん、今いいところだから!」

 

 俺は仁王立ちのまま近づくポールさんを止めようとしたが、ジョージさんが迫って来て押しつぶされた。本日2得点目も押しつぶされた……。ってか、あんた最終ラインからよく走って来たな!

 

「りゅ、龍……よく見えてたな」

「おう! アイコンタクトしっかりと取れてたから」

 

 俺はあの時に目でボールをよこせと言わんばかりにアイコンタクトを取ったからな。それでもしっかりとスルーパスを通すあたりさすがだった。

 

「まだ30分残っているぞ! 引き締めろ!」

『はい!!』

 

 残り30分。試合は武蒼2-0のリード。




第6話でした。
まだまだ天帝の眼を使いこなせないオリ主です。それでもよろしくね。
今の構想では段階的に進化するようにしようかと思っています。
では、またまた!


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第7話 明暗分かれる

第7話です。
いやぁ~。まさか1週間投稿できると思ってませんでした。皆さんのおかげです。評価に感想にお気に入り登録毎度ながらどうもありがとうございます。
では、どうぞ!


 龍からのアシストで俺の2点目が決まり2-0となった。今までなら俺から龍へのアシストがほとんどだったが、初めての形だったかもしれなかった。

 まぁ、それは良かったが――

 

「あぶねっ!」

 

 武蒼は赤城中央の猛攻を耐えしのいでいた。完全に自陣を引いてはクリアするも相手に渡りの繰り返しだった。そんな中で相手チームのキーパーソンである藤原にボールが渡る。

 

「おい! やつはミドル持っているぞ! 切れこませるなよ!」

 

 そうレノンさんが下がってDFする龍に指示を出す通り、藤原は縦に仕掛けて一気に中へ切れ込む。フィジカルのせいもあったが、龍はファウルすらも貰えずに抜かれてしまう。本当に馬鹿げたフィジカルなこと。

 

「どお!」

 

 すぐに寄せたボランチの戸部さんだったが、お構いなしに藤原はミドルシュート。枠に行っていたが、ジョージさんが足を出してブロックしたが、俺の後ろへ飛び相手に渡る。マズい!

 

「千代田――――!!」

「ノアっ……」

 

 俺はすぐに寄せたが、あまりに下がりすぎて守備をしたせいか、簡単にクロスを上げてしまった。天帝の眼があっても無理な距離だった。

 

「ジョージ!!」

 

 クロスに飛ぶ藤原とDFに入るジョージさんだったが、最後は長身のジョージさんのさらに上を藤原が飛んでゴールへヘディングシュートで叩き込んだ。

 

「もう1点だ! いくぞ!!」

 

 どうやら、俺たちはこの怪物をなんとか抑えつつ勝利を手にしないといけないようだった。

 

(残り15分か……)

 

 ここでチームは打ち合いになれば失点のリスクが高まる。このリードを守り切る方が勝ちへの確率が高いと踏んで全員守備で守りを固めることにした。

 

『キモチ! キモチ!!』

『キモチ大事!』

 

 スタンドで応援するみんなが言う通り、今は球際に厳しく気持ちをぶつける場面だった。DF陣を中心に俺たち武蒼はギリギリのところで守りを固める。CBのキャプテン・倫吾さんやジョージさんを中心に。

 それでも、下がって守備をする龍だったが、藤原に何とかマークに付くのがやっとで1本のパスが左サイドに渡った。俺の出番だな。

 

「いけっ! 当たれ!!」

「来いよ、3年坊主」

「! あめぇよ」

 

 俺の安い挑発に乗ったのか中に切れ込む相手の右SBの5番の選手。だが、ハッキリと言っておこう。

 

「お前と俺の前じゃ力の差は歴然だ」

「なっ!?」

 

 この試合、最後まで我慢して取っておいた天帝の眼。一気に片を付けようじゃないか。

 

「カウンター遅らせろ!!」

 

 相手は、攻めに重きが偏っていた。だから――

 

「行けっ! 龍!!」

 

 守備の手数は一気に減る。そこを突けば一気にカウンター攻撃へつなげられる。龍は分かっていてくれたようだ。俺がここで止めてカウンター攻撃を仕掛けることを。なので、すでにボールを奪う時には前に走り出していた。俺は前線へ走る龍へパスを送った。

 

「左サイド走ってた一条に出た――――!!」

 

 ボールの先へ走る龍、その後ろからは遅れて藤原も追っていた。ボールは龍の足元へしっかりとロングボールが収まった。

 

「2対2だ! チャンスだ!!」

 

 龍に対して1枚DFが寄ってくる。龍の攻撃を遅らせて守備の枚数を整えようと必死の赤城中央、そんな奴らに構っている暇なんてないぞ龍!

 

「だぁ!!」

 

 中を見てクロスを伺わせた龍、それに食いついたDFを龍はワンフェイントで躱し切り返して中に入ろうとした。

 この時、相手DF陣は慌てていた。龍が何でもできる状況だったからミドルにラストパス。どちらを選択してもおかしくない状況だっただけに。

 

「俺が止める! ミドルは打たせねぇぞ!!」

 

 切り返した分、戻る時間が出来た藤原。この状況なら龍は中に切れ込んでミドルという選択肢が高いとスタンドもピッチの選手たちも感じただろう。だが、龍なら――

 

「はっ!!! パスだと!!」

 

 相手DFが中途半端になっていたところをしっかりとフリーになっていた竜崎さんへラストパスを送った。足元への速いパスを。

 完全な決定機、足元に収まればの話だったけど……

 

「あっ」

 

 やはり竜崎さんの足元にパスは収まらず浮いてしまった。でも、最後はフィニッシュまで持っていきゴールにはならなかったがいい攻撃だった。

 

――――ピィ!

 

 そして後半42分の時、俺は春畑さんとの交代でピッチを退いた。

 

「よくやってくれた。赤星」

「あざっす」

 

 ベンチに戻る際に黒部先生とハイタッチを交わしてみんなとも同じように。

 

「いやぁ――! いきなり2得点。大活躍じゃねぇか! 翼」

「ありがと、ナベケン」

 

 俺はがっちりとベンチ端にいたナベケンとがっちりと握手を交わしてやっと座った。

 

「惜しかったよな。最後のカウンター!」

「まぁ、竜崎さんもよく最後まで行ったけど、収まっていたら面白かっただろうな」

 

 その後、試合はそのまま武蒼がしっかりと守り切って2-1と執念の勝利をものにしたのだった。

 

 

 試合の翌日の空模様は曇っていて雨が降り始めた。

 

「腹減った~」

 

 4限目の授業が終わってさっそく青梅家特製のお弁当に手を掛けようとした時だった。

 

「今日の日直。すまないが提出したノートとプリントを運んでくれ」

 

 おい、もう弁当広げてしまっているだろ! と心の中で叫びつつも俺は抑えつつ弁当を閉じてノートを運ぶために遠い教員棟まで運ぶことになった。

 

「あ、俺がノートを持っていくよ」

「どうも」

 

 そして、同じ日直の無愛想な江藤さんと一緒に提出物を運ぶことになった。教員棟まで行く間、全くと言っていいほど会話らしい会話はなく雨音とほかの教室から聞こえる騒がしい声だけが響いた。

 

「江藤さんって、何か物活に入ってる?」

「何も」

「そ、そうか」

 

 俺、この人がしっかりとクラスメイトたちを話しているとこ見たことがないぞ……。優人が話しかけても、そうですか、どうも、何も、ぐらいしかしゃべってない気が……

 

「あ、ありがとう。手伝ってくれて」

「別に、私も日直だから」

 

 そう言って足早に職員室から江藤さんは去っていた……。

 マジで何かしたか?

 

「さて、さっさと戻って昼飯食べるか」

 

 よし切り替えて昼飯でも食べようか。はてさて、今日のメニューは何かな~。

 

「ん?」

 

 なんか俺の教室の近くの前でザワついている。何かあったのだろうかと思い、人混みをかき分けて進むとそこでは喧騒が広がっていた。

 

「おいおい!」

 

 そこでは龍と桜庭が取っ組み合いの喧嘩をした後だった。現に桜庭をナベケンが、龍をほかのサッカー部員が抑えて宥めていた。

 

「優人……」

 

 そして近くには優人が顔を抑えたまま立ち上がれないでいて優希が様子を伺っていた。

 

「おい、ナベケン」

「おっ! 翼! これを何とかしてくれ――」

「分かった」

 

 俺は状況から大体わかった。まずはこの馬鹿を抑えるか。

 

「おい、桜庭」

「んだよ! テメェ!!」

 

 昨日までは違ってやっと本性をさらしたか。だったら、こっちもそのつもりで接しようか。

 

「これ以上、俺の手を煩わせるな……」

「!!」

 

 桜庭に一睨みに利かしてそれ以上応戦しないように宥めた。だが、まだ言うことを聞かないとなると……。

 

「2度言わせるな。僕の手を煩わせるな、と」

 

 俺は桜庭の肩に手を置いて黙らせた。黙らせたというか、無理やり力が抜けるぐらいにしてやった。なので、それ以上何も応戦はしなかった。

 

「そこ、君たち! どきなさい!!」

 

 龍もなだめようと思ったがその前に知らせを聞いた教諭たち数人がやって来て、その場を収めるように生徒たちを払った。

 そして場が収まったところで原因となった龍や優人と桜庭だけでなく、事情を知っているとナベケンや俺といったメンバーも会議室に行くことになった。

 一連の事情を知っているナベケンがなぜに喧嘩が起きたかを説明した。もちろん、俺にもいろいろと聞かれたが、とにかくその場を宥めることしかしなかったことを伝え、事情聴取的なことは終わった。

 

「どうなるんだろうな……」

「さぁな。こればかりは俺たちがどうこう出来ることじゃないからな」

 

 俺とナベケンはその後の放課後、部室で待つ先輩たちに頭を下げて謝った。ジョージさんはもうすぐインターハイ予選が始まることもあって苛立ちを隠せないでいた。無理もない、もしかしたら当分の間、対外試合禁止とかの措置が取られてもおかしくない暴力事件だったのだから。

 先輩たちもインターハイ予選の不出場とプリンスリーグの不戦敗と良くないことばかり考えてしまう。確かにそうなってもおかしくなかったし不安に思うのも無理もなかった。

 

「ホラ、顔上げろ。2人とも」

 

 結局、その日の部活動はミーティングだけで協会からの決定が出るまではしばらくの間、サッカー部としての活動が休部だという知らせを黒部先生から伝えられた。




第7話でした。
さて、ここからだな……。


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第8話 俺たちは進むだけ

第8話です。いつもありがとうございます!
後書きにお知らせがあるので気になる方は見てください。
では、どうぞ~


あれからすぐして協会からの通達は突発的なことですでに手を打っていたことから部としてのお咎めもなく厳重注意という形で言い渡された。

 龍と優人、それに桜庭には暴力沙汰があったその日のうちに学校側が停学処分3日を言い渡した。それと、黒部先生も部活動への無期限謹慎も加えて……。そんなこともあってサッカー部内では少しギスギスするかと思ったけど、インターハイ予選に出られることで少しホッとする部員たちがほとんどで暴力沙汰を起こした3人には冷ややかな目で3日ぶりに学校に来て謝りに来た龍と優人を見ていた。また、桜庭に関しては全く謝りもしなかったことから部内の評価はガタ下がりだった。

 

「で、最近龍と優人と何か話してるのか?」

「いや、何も」

 

 部活前、練習着に着替えている時にナベケンからそう聞かれた。あれからもう早いもんで3,4週間か……。

 

「最近、あいつらあれ以降も土手下の方でサッカーしているって聞いた。これ内緒な」

「分かっているよ」

 

 ナベケンも知っていたようでここだけの話にとどめてくれた。その土手下でやっているメンバーはすでにサッカー部を抜けたドロップアウト組だと聞いた。それを周りが聞いたら龍たちにとって悪影響だと言うだろうけど、俺やナベケンはそうは思わないだろう。あいつなら、どんな奴でも本気にさせてしまうからな。現にしてしまったし。

 

「それにしても、インターハイ予選も始まったけどあんまり実感がないな」

「はっ? 試合に出ているのに?」

「あぁ、プリンスと違ってマークの寄せが甘いからかな……。なんでだ?」

「いや、試合に出てない俺に聞くなよ」

 

 でも、このまま順調に勝ち上がれば同じプリンスリーグに所属する同地区のライバル・聖和台との対決が待っている。その試合までに最高のコンディションで臨みたかった。

 そして、いつものように練習が始まってすぐのことだった。

 

「おっ、優希サンキュー」

 

 水分補給のボトルを優希から受け取った時に小言で話しかけられた。

 

「(翼くん、やばいのかな……)」

「(何が?)」

「(友坂さんが事情聴取を受けてるの。龍ちゃんたちの件、黒部先生に知れたみたい)」

 

 やっと気づいたのか。逆に遅いぐらいだ。

 

「(大丈夫、何も悪いことをしているわけじゃないから)」

 

 優希にそして自分自身に言い聞かせるようにそう答えた。

 その後、土手下に向かい様子を見た黒部先生たちは龍たちを呼び寄せて話し合う前に、すでにしっかりと出来上がった体を見て部への復帰を認めたのだった。

 

『ウォ――――プレッシャー!!』

 

 龍たちが復帰を認められてすぐのインターハイ予選準々決勝、対埼玉文理戦。

 

「そいつを止めろ!!」

 

 試合は4-0と武蒼が圧倒的に試合を進めていた。この試合、俺の調子はさらに上がりトップフォームに近づく勢いだった。

 

「くっそ――――!!」

 

 ドリブルから一気に勝負を仕掛けて最後はGKとの1対1を冷静に上へループシュートでゴールへ流し込んだ。

 

『決まった――――!!』

『これで5点目!!』

『この試合赤星がハットトリック! 強すぎる武蒼!!』

 

 この得点の後、相手がキックオフで再開したところタイムアップ。武蒼は、インターハイ予選準決勝へと駒を進めた。

 

 

「今日もお疲れ」

「あれ? 待っててくれたのか」

 

 練習が終わり、日が沈んだころ。昇降口の前で一人傘を持って待っている優希がいた。どうやら、俺が黒部先生と話して長くなっているのと傘を持ってないこと知っていたようで待っていてくれたようだった

 

「悪い悪い、入らしてもらうな」

「うん」

 

 早いものでもう6月の梅雨の時期に入った高校生活。最初は順風満帆に見えた俺たちだったけど、龍と優人たちが喧嘩沙汰でサッカー部での立ち位置を失った時は色々考えたな……。でも、あいつらはしっかりと受け止めてまたすぐに戻って来た時は本当にうれしかった。

 

「なんか、あれだな。2人で一緒に帰るなんていつぶりだろうね」

「そうだな。なんだかんだいつも4人かナベケンが加わっての5人で帰っていたからな~」

「そ、そうだね……」

 

 シュンっとなる優希。何かあったのだろうかと思ったけど、ここで無粋に聞いたらいつものことのように右のストレートが飛んでくるだろうと思いやめた。

 

「それにしても、2人で一緒にこうして並んで歩くのも妙に懐かしいもんだ」

「う、うん」

「いつも、龍と優人がいたからな」

 

 本当にいっつも一緒にいるよなと思う俺に優希も笑って答える。これからも一緒に歩いていけると俺は信じつつ、帰り道を進む。

 優希は本当にマネージャーとして真摯に取り組んでくれているので、周りの部員たちからも評価が高く俺も自分のようにうれしかった。他のマネさんもそうだけど。

 

「翼くん、先生と何話してたの?」

「ん? あぁ、そのことね。一応企業秘密的なことだから。いずれ分かるよ」

「そうか、じゃあ楽しみにしておくね」

 

 優希は多分だけど俺が隠していることも何故かわかっている様子だった。まぁ、今日の練習と試合のことを見ていたからわかっているのだろうけど。

 

「翼くん、もう完全にチームのエースだね」

「そうか? レノンさんを中心にしたDFにマコさんの高さ。それに比べたら――」

「いやいや、チーム最高の7得点を叩きあげている人が言うことですかね?」

 

 おっ、俺をおちょくろうとしているな。優希の奴。だが、俺をおちょくるのはまだまだな。

 

「なぁに、スタンドの監督さんに比べたら……まだまだ」

「も、もう!」

 

 だって、こいつ試合中のスタンドからよく声が響くからピッチにいても聞こえるんだよな。前の試合なんて、そりゃもう……笑いが止まらない。

 

「ご、ごめん。ププッ」

「何よ! 一人で笑ってさ!」

「思い出し笑い。主に優希さん監督のせいで……ププッ」

「そうですか、そうですか! 私の声援はさぞおもしろおかしいでしょうね!」

 

 ありゃ、拗ねてしまった。フォローフォロー……!

 俺はこの時、後ろ斜めからくる車に気付いてさっと優希の体を引いて守った。

 

――――ブロオオォォ……

 

「わ、悪い。急に引っ張って」

「あ、ありがとう……。守ってくれて」

 

 ちょうど優希の近くに大きな水たまりがあったからと車が危ない運転をしてたから守った。俺はずぶぬれになってしまった。はぁ~さっさと帰って風呂にでも入るか。

 

「あっ、タオル」

「ありがと、気が利く優希さん。さすが。でも、お気に入りのタオル汚れていいのか?」

 

 優希はいいと言うけど、一応確認だけを取ってタオルを借りた。あぁ~。お日様の香り。

 

「翼くん、いつもありがとね」

「どうした、急に改まって?」

「いや、そうでもないよ。今回、龍ちゃんと優人が土手下に行った時もあまり接してないように見えてフォローしているのを見ていたからさ。それに試合用のユニフォームの件とかも」

 

 あぁ、確かにあの時期はあんまり龍と優人に話しかけるのをやめておいたんだよな。へんにサッカー部の話をすればつらいだろうし。それと、土手下でサッカーの試合を始めると言った時にユニフォームを借りればいいじゃないかと優希に提案したら、アイツはいわく付きのオレンジ色のユニフォームをサッカー部から借りてきたからな。あの時の行動力には驚かされた。

 

「まぁ、あいつらも遠回りしたように見えていい経験だったみたいで良かったよ」

「フフっ、翼くんも2人が戻って来てから練習楽しそうだからね」

 

 まぁ、優希も気づくようにそれまでアイツらがいない部活はちょっとばかり面白くなかったからな。今は、また戻ってきてBチームにまで上がって来たから楽しいことばかりだ。

 

「それに、優希の笑顔も戻って嬉しいよ」

「!」

 

 ど、どうした!? 今、顔の上から蒸気なるものがボフッ! となったみたいに顔が真っ赤だぞ。

 

「おでこ出してみろ」

「うん……!」

 

 うん、おでこを合わしてみたらちょっとばかり熱が上がっているな。ここ最近、雨の中でマネージャーの仕事をしていたからな。

 

「よし、優希。カバン持ってやるから」

「いいよ、重いから」

「大丈夫、お前も分かっているだろ。俺がそんな軟じゃないことを」

 

 優希は分かってくれたのか素直にカバンを差し出してくれた。さて、早く帰って冷えただろう体を暖めなければ……。

 

△▼

 

 久しぶり、いや高校になって初めて翼くんと一緒に帰った帰り道は色々ありすぎて困っちゃいました。

 

「おでこ出してみろ」

 

 私は言われた通りおでこにかかる髪の毛を避けて差し出すと翼くんの顔が近かった……!? あまりの突然のことだった。目の前に翼くんの顔があってどういう顔をしたらいいのか私は分からずに目を閉じた。

 

「よし、カバン持ってやるから」

 

 翼くんはどうやら私が風邪気味で熱があるもんだと勘違いしていた。その前だよ。翼くんが嬉しそうに私の笑顔が戻ってくれたことに笑顔を向けて話したからだよ。それと、私を抱き寄せて守ってくれたことも。まったく、困った幼馴染の1人だ。

 

「優希、タオル肩にかけておけ。これで少しは寒くないだろ」

「あ、ありがとう……」

 

 優しく大きなタオルを私の肩にかけてくれた翼くん。小学校の時から中学校の時からちょっとおもしろおかしな翼くんだったけど、ここ最近は大人な感じで成長しているのが私に見えた。そんな翼くんに私は――

 

「優希、もうすぐ家だ。今日はさっさとゆっくりしろよ」

「うん、ありがと。翼くん」

 

 この熱い胸に残る気持ちはいつか伝えられる時が来るのだろうか。いや、伝えたい。いつの日か来るだろうその時に。

 

▼△▼

 

「おばさん、ただいま」

「ただいま」

 

 俺たちは雨の中を帰って来て、おばさんを呼ぶとすぐにタオルを用意してくれていた。

 

「お帰り。2人とも。あら? 優希、顔赤いわよ」

「おばさん、優希からだ冷えたみたいだから」

 

 とりあえず優希を早めにあったかいお風呂に入れさせてあげようと思い、おばさんにお願いしたら気を利かしてすでにお風呂を焚いていてくれたので、優希はすぐに浴室へと向かった。

 

「ありがとね、翼くん」

「いえいえ、あぁ。カバン優希の部屋の前に置いておきますね」

 

 俺はとりあえずズブ濡れの服を着替えるために自室へと向かい着替えた。

 

「翼くん、優希のお風呂後すぐに入ってね」

「ありがとうございます」

 

 俺はすでに食事を摂っていた龍と優人、それにおばさんとおじさんが待つ食卓に加わった。

 

「大丈夫だった。優希の奴?」

「あぁ、多分体が冷えただけだろうから大丈夫だと思いたい」

「確かに最近雨続きで大変だったからな」

 

 優人と龍も心配してくれていたようだな。

 

「おじさん」

「ん? どうしたの?」

「あとでDVDデッキ使いたいんだけどいいかな?」

「うん、いいよ。何見るの?」

「聖和台の前の試合を」

 

 俺は先生にお願いして焼き増ししてもらった準決勝の相手・聖和台の試合の映像を見たいと思い後でおじさんに操作を教えてもらうことにした。

 

「お先~」

「優希、夜ご飯はどうする?」

「う~ん……。今日は横になっておくよ」

「そう、だったらしっかりと布団にかぶって――」

 

 どうやら優希は思ったより大丈夫そうだった。最悪1日休んでもすぐにまた戻れるだろう。

 

「ねぇ、せっかくだから今から観ようよ。聖和台の試合」

「俺も見たい」

 

 結局、聖和台の試合を夕食後ではなく、前倒しで見ることになった。さて、どんなチームかをしっかりと把握しておこう。




第8話でした。
一気に次はインターハイ予選の準決勝へ飛びます!
そこで前もってお知らせをしたいのが早くてもインターハイ本戦、遅くても選手権(出場した場合)の全国の対戦相手からオリキャラ出るかもしれないということです。そんなに主要となるキャラは出さないつもりですが、出す場合が高いのでまたタグにオリキャラを追加しようかと思っています。
そういうことなので、今後もお付き合いのほどよろしくお願いします。
では、次回から不定期になるかもしれませんが、またまた!


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第9話 力量の差、表れる

第9話です。昨日不定期になるとか言いながら、久しぶりの17:00投稿が出来ました。
正直に言いますと今、ストックがなくなりマズい状況だと言うことだけは報告させていただきます。ホントに、すまない!
では、どうぞ~


 インターハイ予選準決勝の当日、ベンチ入りメンバーたちは近くの駅前で集合だった。

 

「おはようございます」

「おせぇ!」

「どうもどうも。あれ、久米さんと黒部先生は?」

 

 いつもなら“おっしゃ――気合入れろよ!!”と試合前からバカ騒ぎしているはずの久米さんがいなかった。何かあったのだろうか?

 

「赤星……、久米が今朝事故に遭った……」

「え?」

 

 どうやら久米さんはケガでアウトらしい。そうなると……

 

「おせぇっ! 渡辺!」

「す、すみません!」

 

 今遅れてやって来たナベケンにゴールマウスを守ってもらうことになった。突然のこととこういう形で出番が回って来たことに驚いていたナベケン。でも、俺はその後しっかりと試合に出る準備をしたナベケンなら任せられると思った。

 

 

 試合会場である競技場に散らばる武蒼イレブンたち。そこにはいつものメンバーとは違い2人の選手が入っていた。春畑さんとナベケンだ。ボランチの森さんが累積で出場アウトによって春畑さんが入り、今朝のけがで久米さんに代わってナベケンがスタメンに名を連ねた。

 

「さぁ、今日は山場だ! 勝って次に進むぞ!」

『しゃぁああ!!』

 

 円陣を組んでキャプテンの倫吾さんの掛け声に声を合わせて気持ちを入れた武蒼イレブンたちはポジションに散らばっていく。俺はいつもの左サイドでなかった。

 

――――ピィ~~!

 

 試合はキックオフ。相手・聖和大ボールで始まった。聖和台のサッカーはしっかりと後ろで回しビルドアップから押し上げて攻めていくチームだ。だからDFラインでも守備力もありつつしっかりと足元の技術を備えた選手がいた。なので、今も竜崎さんがボールを追ってもそう簡単には奪われないどころかしっかりとつないで中盤に預けた。

 

「おっ! 期待のルーキーが俺のマッチアップか」

「どうも」

 

 この試合、ボランチの森さんが累積処分で試合に出られないのでボランチ1枚が空席となっていたところに俺が入った。その代りの左サイドはここ最近調子を上げていた春畑さんが入る形でいつもの4-4-2システムで組まれた。

 

「あんまり、手加減出来ねぇから気を付けろよ」

「そうですか。だったら失望させないでくださいね」

 

 俺はさっきから話しかけてきた相手の中心選手である小早川忍にそう言いつつ最後に“いろんな意味で”と意味深な発言をしておいた。

 

「小早川に渡った!」

 

 そして、さっそく相手の4-3-3システムの右インサイドハーフに入る小早川に渡る。対面では俺がしっかりとマークについて簡単に前には出させず、後ろに下げさした。

 

「へいっ!」

 

 でも、すぐにリターンを受けて前を向いた小早川。このパターンも前の試合で多く見られたパターン。でも、ちょっとした誤差はパススピードの速さで前を向かれた。

 

(くっ、左方向に入ったせいで遅れた)

 

 俺の死角になってしまう左側を抜けようとする小早川だったが、それでもそこまでの圧倒的なスピードはなくチギられるほどではなかった。

 

「タテ消せ!」

 

 ポールさんの言う通り縦に簡単には出させないようにしっかりと体を寄せた。でも、一瞬だった。

 

「え?」

 

 小早川は俺を腕で上手く反動で押し返すと少しの距離感が出来た。この人、中々体の使い方が上手いと感心していると、1本のパスを外の裏へと通された。

 

「サイド破られる……」

 

 サイドを破られてクロスを相手の7番の選手が上げた。中では長身の9番とレノンさんが競っていたが危なかった。

 

「おるらぁ!」

 

 そこに割って入ったのは急遽出場のナベケンだった。ナベケンはクロスをキャッチしてピンチを凌いだ。

 

「ナイス! ナベケン!」

 

 今の動き出しを見る限りナベケンの試合の入りは問題なかった。それよりも小早川のマークが甘かったな。今もこっちをニヤニヤ見て舐められた感は否めない。だったら、こっちも仕掛けるか。

 

「おいおい、武蒼がポゼッション?」

 

 ショートパスを細かくつなぐ最後尾から繋ぐ俺たち武蒼。いつもならロングボール一辺倒かサイド攻撃が中心だった。でも、今日は違った。

 

「チェイス!」

 

 相手もボールを細かくつなぐ俺たちに食いついてきた。

 

「へいっ!」

 

 そんな中で上手くズレを活かしてフリーとして受け手になった俺にパスが回った。

 

「行かせるかよ!」

 

 そこに小早川がすぐにチェイスで体を寄せようとしたが――

 

「温いよ」

「なっ!?」

 

 俺は小早川にさっきやられたことをそのままやり返した。小早川の勢いを殺して反動から寄せを躱す動きを。

 

「っ!」

「遅い!」

 

 俺は左足で一気に右サイドで中に入った白川さんの囮で空いたサイドのスペースを走るレノンさんへ預けた。

 

「キタぁ――! うちの形!」

「っち!」

 

 ざまぁねぇは。調子に乗って笑っている暇があるなら次のプレーの対策でも考えているんだな。3年坊主が。

 

『一気にレノンがサイドを駆け上がる!』

「止めろ! 遅らせろ!」

 

 一気に遅攻から速攻へのスイッチが入ったことに相手の聖和台DFは少し後手に回っていた。その隙をついてレノンさんは一気にサイドを駆け上がって右足でクロスを上げる。その先にはセンターFWの竜崎さんが待ち構えていた。

 

「らぁっ!」

 

 竜崎さんの高さが勝ったが、最後はシュートコースにいた相手DFに当たってこぼれ球も拾えずクリアされた。

 

「いいっすよ」

 

 俺は前線に最少人数で一気にフィニッシュまで攻めたことに親指を立てて称える。最初から全員攻撃を仕掛けるほど攻勢に出る時間帯でないだけに。

 俺の横を通り過ぎる小早川は明らかに俺に対して敵意むき出しの表情を向けていた。今も、通りかかった時に肩をぶつけてきたがさっと避ける。

 

「っ、調子に乗るなよ1年が」

「そうっすね。“3”ってところかな」

「なんだと? おい、どういう意味だよ」

「さぁ?」

 

 俺は適当にトラッシュトークみたいな感じで小早川の心理面を揺さぶった。まぁ、もっと上のレベルなら汚い言葉や挑発がほとんどだろう。だから、俺の挑発なんて可愛らしいようなもので世界からしたら大したことじゃないだろう。でも、小早川の今のレベルならちょうどいいさじ加減だった。

 

「あぁ――!? 小早川のパスが流れた」

 

 さっそく俺の戯言が聞いたのかパスミスをする小早川。若い若い。今も、パスミスを俺のせいだとみているけど、結局やっているのは自分自身だし自分が下手ってことだよ。ちなみにさっきの“3”はピッチ上の格付けだった。

 

「ジョージさん!」

「おうよ!」

 

 そして、パスミスで流れたボールを受けたジョージさんにすぐにパスを出すように受け手となって指示を出す。

 

「やろっ!」

 

 すぐに足を投げだす小早川だった。結構審判に隠れて見えないことをいいことにスパイクの裏を見せてきた。汚ねぇ野郎だ。

 

「っと」

「なっ!?」

 

 そんなちょろい危険なタックルわざわざ受けるほど俺はお人よしじゃないからな。ワントラップで後ろからのDFをかいくぐって前を向いた。

 

「春さん!」

 

 俺は一気に1本の斜めのパスを左サイドで待つ春畑さんへ送る。それを受けて春畑さんは中に切れ込み連動してサイドから一気にポールさんがオーバーラップ、いい形で攻撃がしっかりとできてまたサイドアタックからクロスかと思ったがポールさんはしっかりと見えていた。俺がバイタルエリアまで上がってボールを待っていたのを。

 

(よしっ! 前を向いて――)

「行かせるかよっ!」

 

 そう言って迫ってくる小早川、本当にどこにでも湧き出てくる嫌な選手だということは認めてあげよう。

 

「よいしょっと」

「っ!」

 

 ハッキリ言って見え見えのファウルなんて見苦しいもんだ。そんなファウルにさっきも同様受ける理由がわざわざなかった。

 俺は右後ろからのタックルを左へボールを受け流し躱して一気に前へ行く。

 

「クロっ! 止めろ!!」

 

 一気にエリア内に入った俺。ここは使うか、天帝の眼を!

 

「うっ、ぐ!?」

 

 左右にシザースを入れて軸足に重心が傾いたところで一気に右へ振り抜く。

 

「そのまま座ってろ」

「!」

 

 こけながらも後ろからボールへ足を延ばす黒田という選手、諦めないCBとしての気持ちの強さはDFの鏡だろう。だが――

 

「え!?」

 

 今、俺の眼の前では無力に過ぎなかった。

 GKとの1対1、俺は冷静に複数のゴールへの光の道筋が見えた。後はそこへ流し込むだけだった。

 

『入ったぁ~~!! 武蒼が先制!!』

『最後は赤星の2人抜きの個人技でGKはまた抜き!!』

 

 俺は最後のキーパーの両足の空いたスペースにパスを送るようにゴールへ流し込んだ。先制だ。

 

『来たぁ~~! 赤星の――ロナウド!』

 

 今大会恒例になった得点後のセレブレーション。反転ジャンプからの仁王立ち、ライトヒアライトナウのロナウドだ。

 

「この野郎! 圧巻だな!!」

「どうよ、俺のナイスなパス!」

 

 毎度のことながら最終ラインからゴールを称えに来るジョージさんと、俺にマイナスのパスを送ったポールさんが駆け寄って肩を組む。それに遅れてほかのメンバーたちもばらばらとやってくる。

 

「ナイス、翼」

「あざっす、レノンさん」

 

 まずは1-0。幸先よく先制に成功した。




第9話でした。
いつも感想に評価にお気に入り登録ありがとうございます!励みになっています!
次回も試合描写になると思うので頑張ります。
では、またまた~


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第10話 途中交代

第10話です。投稿してない間に色々あったみたいで小説情報が大きく変わっていたので驚きました。いろいろとありがとうございます!
では、どうぞ~


 幸先よく先制に成功した俺たち武蒼。このまま順調に試合を展開できるかと思われたけど、そう上手くはいかないのがサッカーだった。

 前半20分を過ぎようとした時だった。さっきまで俺の対面のマッチアップだった小早川は向こうの監督さんがポジションを変えるように指示を受けてから下がり目で、俺は深追いできない状況に置かれた。なので、中盤そこ近くでボールを持って回すうちに気持ちも徐々に試合へと集中度を上げていた。

 

(もう、さっきのあの人とは考えない方がいいな)

 

 さっきまで食って掛かっていた小早川だったが、俺とのマッチアップを避けることで冷静さを取り戻しつつあった。それを1本のパスで気付かされた。

 

「戸部行けっ!」

 

 対面のマッチアップで戸部さんがマークに付くも、一瞬だった。ダイレクトで外に走らせようと見せかけて中央に一発で浮き球のスルーパスを通したのだ。

 相手のFWも来ることが分かっていたように最高の抜け出しをする。ナベケンも飛び出すかで迷いポジションがイマイチだった。マズい――。

 

「レノンさん!?」

 

 俺の前を走るレノンさんはボールに対してスライディングを掛けるも、相手のスパイクに掛かって倒してしまった。主審はレノンさんにイエローカードの提示を受ける。

 

「なんで! ボールに行ったでしょ!」

「ポールさん落ちついて」

「よせっ、裏取らせちまったのが悪いんだ……」

 

 俺は主審に抗議するポールさんを一度審判から離し宥めた。レノンさんもわかった上でのファウル覚悟だった。

 そしてFKはエリア内近く外中央の位置だった。

 

「壁! 近い近い。せこい真似すんなよ……」

 

 ほぼゴール正面での小早川のFK。完全に彼のシュートレンジと言ったところだろう。

 

「ちょい半歩! も、ちょい!!」

 

 ナベケンはFKの壁の位置に指示を出す。ナベケンはFKに強かったはずだ。ここはナベケンを信じて任せよう。何となくだが止めてくれるとナベケンの顔からうかがえただけに。

 

――――ピィ~~……

 

 小早川は短い助走距離を取る。そこから、ゆっくりとボールに近づくと右足を一気に振り上げた。ボールは――! 壁の上で通った!

 

「どるあ!!」

 

 ナベは壁の上から巻いてきたボールを左手で弾いてゴールを防いだ。ビッグセーブだ。

 

「まだだコーナーだ!」

 

 ナベケンのファインセーブに助けられた武蒼は、その後も堅守速攻からリズムを作るも前半は俺の得点による1点で折り返すことになった。

 

 

 後半開始前、黒部先生はもう一度パスを供給し始めた小早川へのマークに付くように言われた。確かに、前半途中から吹っ切れたのかいいパスを送っていたからな。しっかりとマークしようと思った。

 

『小田さんが頭から来た!』

『黒部先生攻めに出た――!!』

 

 後半が始まる前に小田さんがピッチにで待つイレブンの許へやってくる。後半開始早々から黒部先生は攻撃の1枚を代えてきた。追加点を取ってこいという意味合いだろう。

 

「聖和台も代えてきましたね、2人。8番と7番交代みたいです」

「そうみたいだな」

 

 隣にいたレノンさんも気づいていたように相手の聖和台は前半から2枚の交代カードを切って来た。1人は小柄なタイプ。もう1人は雰囲気のある上背が180ぐらいの選手だった。

 

「最初、気を付けた方がいいですね」

「おう」

 

 俺たちはとりあえず途中交代の相手選手を気にしつつ後半のピッチに散らばった。

 

△▼

 

 開始早々相手の中盤に入った16番選手が26番の小柄な選手へと左足でパスを送ったが、ジョージさんがしっかりと冷静にバックパスで逃げるも、さらに相手の26番がナベケンの方へ向かうボールへ向かう。

 

「は――っ!」

 

 もちろん、バックパスに追いつけなかった。それでもナベケンのパスを刈ろうとした26番はチェイスを掛けるも、取れるはずがないほど無理なプレーであったのは確かだった。

 

「戸部さん、相手の16番いいパス出すんで気を付けた方がよさそうです」

「あぁ、分かった」

 

 試合開始早々から相手の16番のパサータイプの選手がボールに絡んではFWの26番の選手の裏へのパスを何度も送っていた。いずれも、パスミスにはなっていたがつながっていたらいい攻撃だっただけに注意が必要だ。

 

「ねぇ~君」

「?」

 

 そんなことを考えていた時だった。相手の16番の選手が近く寄って来て声を掛けてきた。

 

「コバさん以上にやりあうなんてやるじゃん」

「どうも」

「それにしても、正直この学校に入ったことを損した気がしたけど……、君みたいなプレイヤーと対戦できるなんてラッキーだよ」

「……」

 

 何を言っているんだ? コイツ。さっきからへらへらして喋りかけてくる変な奴だ。

 

「16番入るぞ!」

 

 そんなことを話しているときだった。右サイドでボールロストした白川さん。それを奪われてすぐに16番へパスを送った。

 

「確かに、コバさん1人じゃ荷が重いけど――」

 

――――2人ならどうかな?

 

「っ!」

 

 そういうことか。やっぱりインサイドハーフにもう1人決定的なパスを出せるパサーを置くことで小早川へのマークの負担を減らす考えだったのか。くそっ、左側でワンツーつながれた。――前、向かれてる!

 

「おっと、俺は削られたくないから――」

 

 俺がワンツーで受けた16番の選手にチェイスを掛けたが、相手は分かっていたように横にパスを送った。こいつ、やっぱり戦術眼も優れている。

 

「小早川だ!」

「マークに付け!!」

 

 そうキャプテンが指示を飛ばした瞬間だった。小早川はこの時を狙っていたようにミドルシュートを放った。

 

「ナベ!」

 

 ボールはナベの右方向に向かっていた。キャッチできるボールであったが、ナベは弾いて止めた。底から一気に混戦になり――

 

「うおっしゃ――――!!」

 

 26番のFWの選手に混戦から執念で押し込まれた。同点だ。

 いいキッカー2人にこぼれ球に対して強いストライカー……嫌なコンビだな。

 

「さぁ! 取られた取り返す! 今度はこっちの番っしょ!」

 

 ナベケンの言う通りだ。取られたらまた取り返してやったらいいんだ。センターサークルでボールをセットした小田さんもその通りだと親指を立てて応えた。

 

「やるぜマコ!」

「あぁ!」

 

 二人のFWが得点に集中しやすくするために、俺が今取るべき行動は――、相手の二人のパサーを自由にさせないことに加えて、攻撃にリズムを作ることだった。

 試合は再開されるとやはり聖和台がボールを奪うと、しっかりとボールを繋いで攻撃の機会を伺う。

 

「行けっ! 光一!」

 

 そして、1本のパスをFWの26番・保志にラストパスを小早川が送ろうとする。でも、そう簡単には通させなかった。

 

「なっ!?」

 

 俺がギリギリのところで足を入れてブロックする。それからも何度も決定的なパスを送ろうとする10番の小早川と16番の三淵の2人。サイドに散らさせてクロスを簡単に上げられなければうちの強固なCBの2人、ジョージさんとキャプテンが守ってくれる。その信頼感から俺はしっかりと中へのスルーパスへの注意を高めた。

 

「ったく、もう。さっきからサイドに散らされてばっかりだね」

「だったら、中に通すか? 無理してでも」

 

 今も16番・三淵のマークに付く俺。小早川に対しては戸部さんがいい距離感でマークについて簡単にはパスを出させないようにしていた。

 ボールが三淵に渡るとそのままリターンで返す。そしてまた最終ラインへ渡って組み立て直す聖和台。あそこでボールを回されている分には問題なかった。

 

「チェイス!」

 

 そして、最前線から寄せていく小田さんとマコさん。相手のDFは慌ててボールを前に蹴り出した。ボールは俺と三淵の許へと頭での競り合いになった。その時だった。

 

――――悪いけど、消えてもらうわ。

 

 この言葉の意味を俺は気にせず上背のある三淵と競り合った。この時、三淵は俺の右腕をホールドするように絡ませたまま強引に飛んで競り合った。そして、競り合った後だった。腕の拘束を解かれないまま俺は不十分な体勢のまま地面に叩きつけれられた。

 

――――ピィ、ピィ!!

 

 あぁ……、やばい。頭を思いっきり地面に叩きつけられた。それも三淵の下敷きになったせいで十分な受け身もとれずに……。

 何か周りでみんなが集まって審判に詰め寄っている……、俺は大丈夫っすよ、と言いたかったがうまく言えず、そのまま担架に運ばれてしまった。

 

――――大丈夫か! 赤星!!

 

 石峰コーチが必死に俺を呼び掛けた後、俺の目元を確認する。俺は大丈夫だと言ったが、石峰コーチと一緒にいた梶原コーチは脳震盪を起こしていると話した。多分、俺の目の動きがおかしかったからだろう。

 

「黒部先生!」

 

 え? 俺行けますよ、と言ったが石峰コーチはバツサインを出して続行不可能を知らせた。

 

「ホラ、肩貸して」

 

 俺はそのままベンチに戻らず病院へ直行。結果は軽い脳震盪で済んだ。でも、チームはあの後、延長の末に貴重な勝ち越し点をマコさんが挙げて決勝進出、この時点でインターハイへの切符を手にしたのだった。

 それを知った時の俺は中途半端な形でピッチを抜けたことに申し訳なさでいっぱいだった。

 

▼△▼

 

――勝ったらしいぞ! 赤星!!

 

 あの後、病院に向かう最中にそう石峰コーチの電話に入って来た連絡でチームの勝利を知った俺はホッとしたのか、そのまま目を閉じた。それからしばらくして市内の病院についてみてもらった結果、軽い脳震盪で安静にしておけば大丈夫だと医師に診断を受けた。

 そしてみんなが待つ学校へ戻るとみんなが待ち構えていた。え? 何かあったのか?

 

「赤星! 大丈夫だったか!?」

 

 ジョージさんを先頭に迫ってくるメンバーたち。いや、大丈夫だけどそんなに肩をもって振られると辛い……。

 

「こらぁ、ジョージ! あんまり動かすな」

「す、すんません」

 

 石峰コーチから俺の容体は伝えられた。

 

「そうか、明日は無理なのか」

「なに! 明日は俺たちで埼玉1での出場を勝ち取ってやるよ! なぁ、レノン!」

「なんで俺に振るんだよ……」

 

 明日の決勝戦は、俺の不出場が決定的なだけにポールさんが息巻いてそう言ってレノンさんに振るも、レノンさんはあまり振ってほしくない様子だった。

 

「とりあえず、明日はまた明日で頑張ろう!」

 

 キャプテンの倫吾さんが最後を締めてこの場は収まった。

 とりあえず、ゆっくりと明日は試合を観戦するか……ん?

 

「翼! 大丈夫か?」

「「翼くん!」」

 

 幼馴染たちも心配して待っていてくれてたようだ。とりあえず、無事だったことを伝えると胸をなでおろしてホッとする龍と優希と優人だった。




第10話でした。原作ではインターハイにはいかなかったですが、行きます。
また、とびとびになるかもしれないですが、よろしくお願いします。
では、また!


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第11話 全国デビュー

第11話です。毎日投稿していたのに最近はとびとびになってすみません。これからも不定期でいつ投下されるかわからない状況ですがよろしくお願いいたします。
ちなみに、これからはオリジナルと原作を組み合わせた感じになるかと思います。
では、どうぞ!


 すんなりと手中に収めたインターハイへの切符。それを得るまでの戦いに大きくかかわっていたチームの1人の俺だったわけだが、こんな簡単に全国への切符が舞い込んできたことにおかしさなのだろうか、モヤモヤとした気持ちが胸につかえていた。

 

「そんなことないと思うよ」

 

 ここ数日、インターハイ予選決勝が終わり埼玉の代表が出揃い、各地方の都道府県でも常連の強豪や勢いのままに勝ち上がった新星などがぞろぞろと出るころ、練習終わりに俺はボソッと思わずみんなの前、龍や優人、ナベケンに優希の前で今の気持ちの在り方をこぼしてしまった。すると、優希が第一声を挙げた。

 

「そんなことないよ。まだ、大会が始まってないだけで実感がないだけだよ」

「ハハッ、翼。お前、そんなことでくよくよしてたのかよ。まぁ、俺も準決勝と決勝の試合にしか出てないけど……同じようにまだ実感はないぜ」

 

 そう言ってくれる優希とナベケン。龍と優人も同じように頷いて同意見だったようだ。

 

「翼、お前は間違いなくチームに欠かせないプレイヤーなんだぞ。自信を持ってよ」

「そうだよ、翼くん! 自信もって!」

 

 そう言われてやっと自分はチームの立ち位置など考えなくやっていたことが分かった。それだけ必死に目の前のことだけに集中していたんだな……。

 

「あぁ~、なんか話してスッキリした。ありがとう、みんな」

 

 みんなに色々と相談したことですっきりした俺だった。そうだ、もうすぐ始まるインターハイで頑張ってやっていこう! 俺はその気持ちでまた明日からの練習に取り組んだのだった。

 それからチームとしては3週間ぐらいインターハイに向けての調整で汗を流し来る日を待つだけだった。

 

 

 

 インターハイ大会の開催地である南東北にある会場に俺たち武蒼のメンバーたちは初戦のためにやって来ていた。

 

「おい! 忘れ物するなよ!」

 

 バスから競技場外の隣接するスペースでアップをするためにすぐに降りた。それにしても熱いな、どこに行っても気温は変わらないものなんだな。

 

「さっさと始めるぞ!」

 

 キャプテンの合図とともにインターハイ予選で臨んだ武蒼のベンチ入りメンバーのままで初戦の相手大分の高校との対戦に向けて準備を始めた。

 

――――……

 

 初戦の相手、大分の高校との試合。朝10時からの試合とあってまだ最高気温に達する前だが汗ばむ気候とあって首元にはすでに汗が滴っていた。

 

「へいっ!」

 

 今も中盤でボールを持った俺は一気に縦へ前線で待つ小田さんにパスを託した。

 

「おっ!?」

 

 インターハイ予選準決勝から復帰した小田さんはあの復帰戦以降から調子がうなぎのぼりでいい動きで相手のDFを攪乱させる。

 

「マコっ!」

 

 そして、ラストパスを中央で待つマコさんへパス。

 

「おらぁ!」

 

 最後は速いクロスを正確にヘディングシュートでゴールネットを揺らした。後半開始早々2-0だ。

 

「ナイス! マコさん、小田さん!」

 

 得点シーンを作った2人を称える後ろの選手たち。今日の調子ならまだまだ点を取れそうな雰囲気を前線の2人からは十分に感じられた。

 

「しゃぁ!」

 

 ポールさんが相手との対面のDFでボールを奪いすぐに俺へパスを送る。おっ、相手が寄せてきた。

 

「くっ!?」

 

 俺は相手のチェイスをしっかりといなして同じボランチに付く戸部さんへパスを送る。そこからレノンさんへ渡って、右サイドでコンビを組む白川さんとつなぎでレノンさんが抜け出す。

 

「よしっ」

 

 レノンさんは見えていた。俺がバイタルエリア中央でフリーになって受ける動きを。

 

「行かせるか!」

 

 相手がすぐにDFに入ってきたが遅かった。俺はそのままダイレクトでラストパス。その先には小田さんがすでに左足で振り抜く体勢に入り、そのまま一閃。ボールはゴールネットを豪快に揺らした。

 

『入ったぁ~~!! 武蒼3点目!!』

『武蒼ってこんなに攻撃的なチームだったか!?』

『守備も固いけど、決めるところでしっかり決めるよな!』

 

 会場は3点目とあってすでに両チームの勝負ではなく武蒼のチームについて語り始めた。会場では一気に勝利が武蒼に傾いていると感じられたわけだが、バックから大きな声で引き締める声が飛ぶ。倫吾さんだ。

 

「ここから25分! もう一回締め直すぞ!」

 

 状況をしっかりと見たキャプテンシーが感じられた場面だった。それからも、武蒼は最後まであきらめずに向かってくる大分の高校に対して真っ向から勝負に挑み初戦を5-0の大勝で次の2回戦へと駒を進めたのだった。

 

△▼

 

 初戦突破した武蒼サッカー部、試合が昼頃に終わったので宿舎に戻り連日の試合に向けて一休みすることになった。

 

「それにしても、よく小田さんへパス出したよな。翼」

「はい、見えたのでほしい動きが」

 

 休むと言っても軽くひと眠りして夕方ごろには少し散歩をするぐらいの軽い運動で流していた。最後尾でゆっくりと俺はレノンさんを話しつつ歩く。

 

「レノンさんも右サイド完全に支配してましたよ」

「まぁ、白川(シラ)とのコンビも上手く行ったからな」

 

 今日の試合、本当に右サイドから思いっきりのいいオーバーラップでチームの攻撃を活性化させてくれたレノンさん。やっぱり世代別代表なだけあって凄かった。

 

「明日の試合が山場だな」

 

 明日の相手はリーグ戦においてプリンスの上・プレミアリーグで戦う数少ない高校の1つ、福岡代表の福岡南だ。今日の相手とは格段に難しい試合になることは確かだった。

 

「相手にはJ内定の町田さんがいるからな」

「町田さん……」

 

 ピッチ中央を玉座のごとくプレーする10番・町田を中心にしたチームだ。まずはその町田さんをしっかりとシャットアウトすることが必要だな。

 

「もし明日の試合……、いやなんでもねぇ」

「ん? どうかしましたか。レノンさん?」

 

 レノンさんは結局何が言いたかったのか分からなかったけど、後々気づかされることになった。でも、まだこの時は目の前だけに集中していた俺だったので気付かず。

 

「赤星さん、お電話ですよ」

「ん? おれ?」

 

 宿舎近くの散歩から帰って来た俺に1本の電話が入っていた。俺は受話器を取ると向こうから3人の声が飛んできた。

 

「「「初戦突破おめでとう!」」」

 

 龍と優希と優人だった。そのあとすぐに龍が話しかけてきた。

 

《今日の試合みんな調子よかったみたいだな。5-0っ》

「あぁ、特に前線のマコさんと小田さんはかなり良かった。最後までしっかりと得点への動きを見せてくれたからな」

 

 それを聞いた龍は負けてられないとばかりに次に会った時は負かすぐらいの意気込みで語って来た。まぁ、俺もそう簡単に負けるのは癪なので対抗するが。

 

「とりあえず、一日でも長く試合するわ。そのあとは地獄だからな」

 

 この後、部としてはこのインターハイ後は強化合宿が組まれている。トップチームのAは菅平合宿、それ以外は学校合宿だ。ちなみに今回のインターハイには応援組はなかったので、A以外は残って学校で練習だった。

 

《電話変わるな》

 

 その後、優人が試合の詳細を聞きたかったのか事細かに教えてやった。

 

《翼くん! 初戦突破おめでとう!》

「おう、優希」

 

 そして、電話は優希に代わる。

 

《それにしても1ゴール、2アシスト! いきなりの全国デビュー戦で大活躍だね》

「うん、思ったよりすんなりと試合に入れたよ。後――」

《ん?》

「やっぱり全国に出てみたらいろんな選手と勝負が出来るって分かったからかな。やっと実感が湧いてきた」

 

 それを聞いた優希は、そうかそうかと電話口でもわかるぐらい陽気な声だったことから笑っているのが良く分かった。

 

《とにかく明日は福岡南だね! こっちから応援しているからね!》

 

 俺たちは武蒼サッカー部の代表として出ているんだ。その気持ちを胸に明日の試合に入れ込む俺だった。

 

▼△▼

 

 初戦突破翌日、連日の試合となるインターハイ。武蒼サッカー部は全国の常連であり福岡の強豪・福岡南と対戦。試合は終始、武蒼が中盤の俺やバックライン4人を中心として守備で危なげないサッカーを展開してカウンター攻撃から2得点奪い2-0の内容も伴った勝利で3回戦進出を決めてベスト16入りを果たした。

 

「赤星くん! 今日の試合どうだったかな?」

「町田君とのマッチアップ! 感想は!?」

 

 そして今、俺は多くの高校サッカー担当の記者陣に取り囲まれていた。トップ下に座る相手の町田さんとちょうど同じ位置でボランチに付く俺だったわけだが、しっかりとマッチアップした結果、しつこいぐらいに町田さんと対峙してチームは超攻撃的な福岡南を零封、その中心を俺と思った記者陣たちだったみたいだ。

 

「え……。とりあえず、最初から必死にどんなことになっても食らいつこうと思ってマッチアップに付きました」

「そうだよね、頭から激しく競り合っていたからね。バッチバチにね!」

 

 まぁ、確かに最初から気持ちをぶつけて行かないと舐められたり、こんなもんかと思われたら嫌だからな。だから、がつがつ最初から思いっきりぶつかった。結果、相手の町田さんも上手かったことからそうガツガツ行っても大丈夫だった。

 

「試合を振り返ってもらって2点目のFK。あれは練習通りだったかな?」

 

 あぁ、あのFKっか。レノンさんが少しずらして俺が左足でけり込んだ約25mのゴール右からの直接FK。いや、ずらしたから関節か? まぁ、入ったからいいや。

 

「練習でも決めていたので自信があったことは確かです」

 

 おぉ~! と記者の人たちは声を合わせる。合わせ芸でも持っているのか?

 

「最後に、明日も連戦になると思うけど意気込みをどうぞ!」

「えぇ、とりあえず目の前の1戦に集中して戦いたいと思います。ありがとうございました」

 

 最後は、どこにでもありそうなコメントを残して俺は記者の輪から抜け出すことが出来た。

 

「このぉ~! お前何人記者ひきつれているんだよ!?」

「ナベケン」

 

 抜け出してホッとしたところで長い腕が肩に掛かる、ナベケンだ。

 

「あのJ内定の町田さんと渡り合うどころから上回ってたからな! 当然だな!」

 

 ナベケンもしっかりと守ってくれたおかげだと言ったが、それでも、今日のマン・オブ・ザ・マッチはお前だと言ってくれた。まぁ、チームの勝利に大きく関われたことは嬉しかった。

 

「よぉ、翼。来たかもな、代表の話」

 

 レノンさん曰く、この試合でしっかりと名の通った町田さんをシャットアウトした俺に世代別代表の話が来てもおかしくないことをレノンさんは言うが……、

 

「あの、いくらなんでも話が早すぎるような……」

「そんなことないぜ。去年のインターハイから今日の試合まで福岡南はずっと得点を挙げていたが、今日の試合で止められた。チームのキーマンを抑えた1年生によって、な」

 

 この話の後から俺の世界は少しずつ大きくなっていくことを後々感じる俺だった。




第11話でした。結構ダイジェストみたいな感じで流れましたが、1試合はインターハイを書こうか悩んでいるところです。まぁ、気長に待っていただけると嬉しい限りです。
いつも感想に評価にお気に入り登録ありがとうございます! では、またまた!


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第12話 同種

第12話です。



《Aブロック決勝! 埼玉1・埼玉屈指の強豪・武蒼高校。対しては同じく県内で強豪としての地位を持つ静名学園のゲーム! 互いに勝ち上がって来たこともあり白熱のゲームが展開される中で先に試合を動かしたのは強豪・武蒼で1年生ながら中心選手と活躍する――――、赤星翼選手!》

 

 煽るなぁ~。と、地元のケーブルテレビでスポーツアナウンサーを務める・女子アナの人が映像を交えて話していた。

 今は、宿舎のある大きな1室で俺や武蒼のインターハイのメンバーたち全員が長い旅館座卓に肘を掛け乍ら大きな液晶テレビに映る自分たちの試合映像を見ていた。

 

《前半、このまま終わるかと思われた32分。ついに試合が動きます。相手の縦パスを一気にインターセプトした赤星選手! 一気に駆け上がるとFW・竜崎君とワンツーで一気に相手を振り切りシュート! ボールはそのままゴールネットに吸い込まれるビューティフルゴールで武蒼が先制に成功!》

 

「地方の女子アナも可愛いな~」

「そうっすね、ジョージさん」

「“そうっすね” じゃーねぇよ! この野郎!!」

 

 ジョージさんの傘下に属する左SB・ポールさんが俺の首根っこを掴んで頭をぐりぐりしようとしてきた。が、そう簡単にやられる俺でもなくすっと首元を開放する。

 

「ぐぬぬっ! ジョージさん! 大会中だったから我慢してたけどもう我慢できないっすよ!!」

 

 心の叫びをあげるポールさん。一体、何を我慢がしていたのか?

 

「そうだな、俺も我慢の限界に達しそうだ……」

 

 同じように肩を震わせつつも、声は冷静に語るジョージさん。どうしたんだ? 一体……?

 

「おい! 皆川アナの取材のとき近すぎたよな! いや、至近距離だった!」

 

 確かに今日の試合の後の取材のときに来ていた今テレビで熱く試合語っている女子アナウンサー・皆川? さん。だったかが、ジョージさんや頷いで中指を立てるポールさんの様子から察する反感を買ったようだった。

 

「いや、記者の人多かったから――」

「密着だったろ!? 当たっていただろ! おいっっっ!!!」

「さぁ、みんな。今日はこいつを生かして帰すなよ」

 

 ジョージさんは血の涙を流すとはこう言うことかと分かるぐらい流す。本当に血は流してないが。それとポールさんは左手だけだったのが両手で中指を立てた。

 

《凄かったですよ~。3点目のFKは綺麗な放物線を描いてのゴールでしたからね☆》

 

「はい、死刑」

 

 この後、ジョージとポール(戦いの場では上下関係なし)対俺のスパーリングが始まったが、俺は向かってくる2人を軽くいなして捻り潰したのだった。

 

「おい、ジョージ・ポール。おふざけはほどほどにしておけよ」

「倫吾。結構本気だったんだぞ」

「倫吾さん! コイツ、関節技が掛けられないっす」

「いいじゃないか、怪我しなくて済む」

 

 倫吾さんの真面目な意見。そういうところ、流石キャプテンです。

 

「1日空いたが明日も暑い時間帯の試合だ。もうお開きにしよう」

 

 キャプテンも言う通り明日は各ブロック決勝から勝ち上がった武蒼を含めた4チームが準決勝を戦う。相手は千葉の市立舩川、インターハイに加え選手権でも優勝した経験を持つ数少ない超強豪との試合が待っていた。ウチもそれなりに多くの試合で得点を奪っていたが、それ以上の破壊力抜群の攻撃を見せている市舩との対戦。さっきまでおふざけが過ぎたジョージさんもキリっとした表情に戻って部屋へと出て行くときだった。

 

「頼むぜ、しっかり前でチャンスを作ってくれ。後ろは俺たち4人で支えてやるからよ」

 

 やっぱりジョージさんはジョージさんだった。意味が分からない気がするけど。最後に、もっと先輩アピールを記者たちにするようにとジョージさんと同室の倫吾さんは部屋へ帰っていた。

 

「へっ、あんな破壊力抜群の攻撃魅せられても気持ち切れない辺りは流石だぜ」

「レノンさん」

 

 レノンさんはチームの大黒柱のCB2人が強気であることがチームにどれだけ重要かを分かっていたようだ。確かに、後ろであれだけのDFをされたら前の選手は半端な攻撃では済まされないからな。

 

「明日は俺も1年の怪物FWとのマッチアップになるだろうからな。気合入れねぇと。とりあえず、前は頼んだ」

 

 レノンさんも同じようなことを行って部屋へと帰っていく。去り際に俺の胸にグーで押して。それから、全員が俺の胸にグーで気持ちを託すように入れて自室へと戻っていた。まぁ、ポールさんは怨念が混じっていたが。

 

「ナベ、明日も頑張ろうぜ」

「おう。俺も明日は大変そうだからな!」

 

 翌日、準決勝当日の朝は快晴に恵まれた。

 

 

 Jの2部リーグのチームが主催の時に使う競技場での試合。ある程度の収容観客数が見込める競技場にはインターハイの準決勝とあってチラホラと観客席に人が見える。相手の千葉1の市舩は全国の常連で県内だけでなく県外からのファンもいるほどの有名校だ。にしても、多いな。

 

「今日も暑くなりそうだな」

 

 空高くから照り付くような熱さが肌に突き刺さる。でも、それだけじゃない。相手からほとばしる威圧感からもあるだろう。今も両校登場から近くにいたところから1列に並ぶので離れたが、かなり力強い目をしていた。

 

「市舩ってやっぱいつの時代にカッコいいからな」

「ナベケン」

「でも、今日は俺たちのサッカーで勝とうぜ。市舩に」

 

 今日の試合もゴールマウスを守るナベケンは静かに試合の始まりを待っていた。そして、両校のイレブンたちはガッチリと握手を交わす。そんな中でも意図的にこちらに気を向けるように握手をする相手の7番の選手がいた。

 

(コイツが……)

 

 そいつは褐色肌をしたいかにも雰囲気のある背番号7の4-3-3システムの左ウィングに入る青山大樹、相手の得点のほとんどがコイツの個人技からだっただけに要注意だったわけだが――

 

「後がつかえているぞ」

 

 ずっと手を離さない相手の青山に俺は一応後ろがつかえていることを言う。すると、悪いなと前に進んでいた。一体何がしたかったのだ?

 まぁ、でも握手して向かい合っただけで俺よりも上背が約10cmの長身186cmの身長に加えてしなやかな体の動き……。コイツが1年生ながらチームの主軸として回っていることは間違いなかった。

 そして両高の選手たちの健闘を称え合う握手が終わった所で俺たちは整列写真を収めてピッチに散らばっていく。遅れて倫吾さんがボールとサイド決めから戻ってくる。相手のボールで始まるみたいだった。

 

「さぁ、相手は市舩。でも、恐れるに足らず。だな」

 

 倫吾さんは不敵に笑みを浮かべる。

 

「全国の猛者・市舩。倒して先に進もうじゃないか!」

 

 倫吾さんも覚悟の決まった顔でイレブンたちに語りかけ、グッと隣にいた俺のユニフォームを握る。

 

「行くぞっ!!」

『おぉ!!』

 

 円陣を切った俺たちはそれぞれのポジションへと散らばっていく。相手は既に円陣を済ましてセンターサークルのボールを踏んで青山が1人ジッとこちらを見据えて待っていた。

 

「さぁ! 市舩だ!!」

「さぁ、今日は何点取るんだ!!」

「いったれー! 市舩!!」

 

 会場全体が高校サッカーのキング・市舩に対して声援を飛ばす。この会場において誰もが試合を優位に市舩が進めて行くことを考えているのだろう――――。だったら、そう簡単に行かないことを思い知らせてやろうじゃないか。

 

△▼

 

 準決勝の1つ、武蒼対市舩の試合は市舩目当てに見に来た観客たちの大声援の中で始まった。だが、今は違う。

 

『あっ! またあいつだ!』

 

 今は完全に試合を武蒼のある1人の選手によって支配していた。翼だ。

 

『どこにでも顔を出してパスの受け手になるから市舩がボールを奪えない!』

『そんでもってボールを持つと――』

 

 そう観客たちが話していると、1本のパスが左サイドの春畑に渡る。

 

『クロスあげた!』

 

 春畑は最高のパスを受けてそのままドリブルで抜けた後にクロスをあげる。クロスの先には長身FWの竜崎へ。

 

「うぐっ!」

 

 市舩のCBもしっかりと体を寄せて逆にボールを弾き返す。

 

「セカンド!!」

 

 セカンドボールを捕る様に指示を出す市舩のGK。だが、先に反応したのは中盤の底にいたはずの翼だった。

 

『赤星シュート!!』

 

 シュートの左足が一閃、ボールはゴールマウス右上をギリギリ掠る様に抜けて行き、ゴールとはならなかった。

 

『あのDFをしない青山が戻って来たぞ……』

攻撃(オフェンス)の鬼が……』

 

 足を投げ出したことでゴールを防いだ青山はふっと一息ついてゴールが入らなかったことに落ち着く。

 

「あ、どうも」

 

 スライディングで止めに行ったので座り込んでいたが、翼が手を差し出して起こすの手伝う。

 

「いやぁ~、足出してなかったら枠に行ってたかもな」

「そうだな(まさか、あのタイミングで足を出してきたから避けて上にフカしてしまった)」

 

 翼は青山を引っ張って起こすときに、そう思いつつポジションへと戻って行く。今までなら寸分のところで足を出される場面はなくゴール枠内へ押し込んでいたが違った。明らかに寄せが早かったことに思わず、翼は心のどこかで他の相手と違うと感づく。

 

「にしても、よくボールの行くところに顔出すよな? どうしてだ」

「さぁ、俺も知りたいぐらい」

「なんだよ!? 天然もんかよぉ!」

 

 ポジションが互い近いせいもあって戻りながら話す2人、というよりも一方的に青山が話しかけていた。

 

「戦術眼が良いって言われないか?」

「別に、こうしてサッカーの試合中に話すことなんてないから」

「ぇ……。でも、あんまり俺も試合中に話さないかもな」

 

 翼は良くしゃべる奴だと思いながら相手のGKが蹴られるのを見た。ボールは長身の青山ではなくセンターFWの選手を当てるもジョージさんがブロックして弾き返す。

 

「やっぱり、お前も俺と同種(・・)……だから気になるんだろうな」

「え?」

 

 青山の言うことにどう言うことか分からない翼だった。でも、次のワンプレーで考えさせられた。

 

「青山に渡った!!」

 

 ボールが落ち着かない中で1本のパスが青山に渡る。それも、対面のレノンとの1対1で。その瞬間だった。軽くボールを触っただけの青山に対して翼の危険感知度がMaxに膨れ上がった。

 

「レノンさん!」

 

 翼の予想は当たる。レノンが2つのフェイントに付いていくもあっさりと抜き去られる。尋常ないほどのアビリティ・クイックネスの速さ。レノンが警戒しているにもかかわらずぶち抜いた。

 

「行かせるかよっ――!?」

 

 レノンが抜かれてすぐにフォローに入る倫吾。だが、青山は引かずにドリブルで突っかかりまた抜いてしまう。

 

「!」

 

 そして、抜いてすぐにシュート。

 

「らるぁ!」

 

 ここはナベケンがしっかりとグラウンダー性のシュートをガッチリと掴みゴールを許さなかったが、一気に会場は盛り上がった。

 

『これだよ! これを見に来たんだよ!!』

『攻撃の鬼! やっぱり青山だ!』

 

 会場が盛り上がる中で、青山はすこし舌打ちしながら近くにいた翼を見る。本当ならあの後もう少し前で攻めようと思ったが、視界に翼が入ってシュートを打たされた格好となった。

 

「そういうことか。だろうと思った」

「?」

「赤星。今ので確信したわ――――」

 

――――お前も俺と同様“世界”で戦えるだけの器を持った奴だ。

 

 そう言って青山は翼の横を通り過ぎた。翼はなるほど、と青山と同様に笑みを浮かべるのだった。




青山大樹というライバルキャラを立てました。また情報を公開します。


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第13話 後半、互いに動く

第13話です。
初めて昼間の投稿。よろしくお願いいたします。
今回で終わると思った準決勝ですがまだ続きます。


 武蒼は試合の主導権を握って前半14分に決定機を作り翼のこの試合始めてのシュート。だが、相手のFWであるにもかかわらずDFをした青山の必死なDFの前に決定機を逸した。そして、次は本職であるオフェンスで天賦の才を見せつけるかのように青山が圧倒的な個人技で武蒼自慢のDF陣を切り裂いたが、同様に決定機を逸した。ギリギリのところで同じように足を出した翼のDFもあって。

 そこからだった。両チームの攻防は激しさを増していった。

 

 

 

『イケイケ市舩!』

『オセオセ市舩!!』

 

 試合は前半30分に差し掛かった。ここまでの両チームのシュート数は市舩が9本の内枠内3本、武蒼が5本で枠内3本と市舩が2倍近くのシュート数を放っていたが、まだゴールネットを両チームともに揺らしてなかった。

 ここまで大半の有効的な攻撃は、市舩が青山を中心にした攻撃。因みにさっきのシュート数の9本の内4本は青山で1本以外は全部枠内に飛ばしてた。でも、ナベケンがしっかりと守っていたこともあり失点は防いだ。

 対して武蒼は、4枚のDF陣が寸分のところでしっかりと体を張って守りつつ、時に今までの堅守速攻から攻撃の機会を伺っていた。これまでの試合なら最終ラインからボールを繋ぐことも出来たが、相手は上のリーグ・プレミアでやっている高校。そう簡単にボールを繋ぐことが出来なかった。

 

「赤星っ!」

 

 今も俺がボールを受けたら、最低でも2枚のDFが付く。だから、そう簡単には前に出せないわけだが――

 

「うぉっ!」

 

 相手のDF1枚をはがして右サイドハーフ白川さんへパスを送りサイド攻撃へと繋げる。そこからレノンさんが今日の試合初めてのオーバーラップで攻撃参加。そして、白川さんからのパスを受けてレノンさんはすぐに早めのクロス・アーリークロスをあげた。

 

「らぁ!」

 

 そのクロスをマコさんは強引に頭でシュートを流し込むが、相手DFに当たったことで勢いを失いGKがキャッチ。

 

「いけっ! 青山!!」

 

 相手GKから一気に俺たち自陣の右サイドに開いていた青山への正確なフィードが――収まった。

 

『市舩、GK・清川からのパントキックで一気に速攻!』

 

 相手のGKのキックの精度の高さには驚かされたが、それを受ける動きをいち早く見せた青山も流石の一言だった。この試合通してコイツは裏を取る動きを見せないが、ボールを受け方がお手本のように上手かった。これなら、パスの出し手も思わず出してしまう。

 

「おっ」

 

 俺もすぐに青山に寄せてDFに入る。一定の距離感を保ちつつボールを出すタイミングを伺う。

 

「1対1……、分かりやすくていいねぇ」

 

 そう言ったと瞬間だった。青山は一気にボールをサイドのラインへ流す動きを見せて一気に中への動きを見せる。今の一瞬の切り替えし、その鋭さは今まで見てきた中でも凄まじいものだった。

 

「へぇ~……、付いてくるか」

 

 青山は俺がしっかりと中への動きをケアしたことで守れたことに笑みを浮かべる。コイツはとことん1対1で勝負を仕掛けるタイプと見た。だから、俺は緊張の糸を張ったままDFに当たった。

 

「青山! いったん下げろ!」

 

 そこに相手のキャプテンマークを巻いた中盤の選手がいったん下げろと指示を出す。俺はこの時、青山はそれでも攻撃に出ると思ったが、青山はふて腐れながらもいったんボールを下げた。

 

「勘違いするなよ、今はまだ前半の(・・・)終了間際だからな」

 

 案外冷静な一面も持っていることに気付かされた。現にもし仕掛けてきたらレノンさんとのDFでボールを奪えても可笑しくなかったから、分かっていたのだろう。

 そこから再び市舩がボールを回したところで前半の終了を知らせるホイッスルが鳴り響いた。

 

「勝負は後半だ、赤星」

「あぁ」

 

 両チームともにゴールを割ることなく前半を折り返すことになり、一度ハーフタイムの15分で控え室へと戻るのだった。

 

 

 控え室に戻った俺たち武蒼はもう一度相手を見つめ直す。試合前から分かっていたことだがハイプレスの掛け方が予想以上のモノだったことから最終ラインでビルドアップを促す前に包囲網にかかってしまっていた。

 

「あのハイプレスは厄介だな」

「そうだぜ。でも、1試合通して出来ると思うか?」

 

 厄介なハイプレスにCBの倫吾さんはそう話すが、CBでコンビを組むジョージさんはこの暑さで1試合通してどこから緩むと思う。

 

「でも、市舩って言ったらハイプレスから奪ってのショートカウンターでしょ。それは代々受け継いでいますよ」

 

 レノンさんが言うように市舩はそれで全国を席巻する強豪。だから、この暑さでも1試合通してやり切るだけの体力と根気の強さはあるはずだ。それに、ただ無暗に走るのではなく要所要所で走っているイメージが強かった。

 

「もうここは割り切るしかないでしょう」

 

 今のチームに簡単に相手のハイプレスを引き剥がすだけのパスワークはない。だったら、もうシンプルにやっていくしかない。

 

「よし、お前らそろそろいいか?」

 

 選手同士で話し合って数分、ここで監督である黒部先生が策を持ち出した。

 

「先生、いきなり実戦のぶっつけ本番で使うんですか?」

「なに。練習では十分にやっただろ?」

 

 黒部先生は倫吾さんに笑みを向ける。その笑みには、お前達なら十分にできるという自信に満ちたモノだった。

 

「さぁ、行くぞ!」

 

 ハーフタイム終了が近づくブザー音が控え室に鳴り響いた。控え室の椅子から腰を上げて立ち上がった選手たち1人1人とガッチリ握手を交わしてポンっと背中も叩いてピッチへと送り出す黒部先生。今までの中でもしっかりと選手たち1人1人をいつも以上に送り出しているのを感じさせた。

 

「よしっ、行くぞ」

 

 後半、先にピッチに入ったのは俺たちの方だった。遅れて市舩のイレブンたちもピッチへ速足で戻ってくる。さぁ、後半戦。ケリを付けに行こう。

 

△▼

 

 後半開始前に武蒼は1人の選手交代を行う。右サイドハーフに入っていた白川に変えて守備的なボランチである森を入れる。

 

「ん? ボランチ3枚にでもするのか?」

 

 相手のセンターFWは青山に声を掛ける。青山は違うと指差す。

 

「アンカーに赤星置いている」

 

 つまりのこと中盤の2枚に入る森と戸部の下に、更に守備的MF・アンカーとして翼を置いた形を武蒼は取ったのだ。

 

「中をガチガチに固めて来た……ってわけか」

「さぁ、始まってみないと分からないっすよ」

 

 青山は後半の入り少し慎重に伺った方が良いと思い後半のキックオフを待った。

 

――ピィ~~!!

 

 後半は武蒼のキックオフで始まった。一度最終ラインまでボールを下げる武蒼に対して様子を伺う意味で相手のFW陣がチェイシングを掛ける。

 

「おっ!」

(やっぱりな)

 

 最終ライン近くにやはりアンカー的な役割で翼がボールに関わる。青山の考え通りだったが、少し違うところもあった。ただ、ボールを最終ラインで回すだけでなく中盤にも顔を出してボール回しに関与したのだ。

 

「野郎!」

 

 青山は感づく。前半まではボランチとしての動きを見せていた翼がここまで自由に1人でポジションを変えられると困ったものだと思う。最終ラインで顔を出して数的有利を作り、中盤にも顔を出しあわよくば――――

 

『赤星がシュート!!』

 

 あわよくば最前線まで顔を出してシュートに行くまでの動き。ポジションレスにも程があった。

 

『ぐわぁ――! ポストに嫌われた!!』

「あっぶねぇ!」

 

 思わず青山の動きの1つ1つを見ていた青山は翼のシュートが入らなかったことがラッキーだと思わされた。

 

「こうなったら、躱すんじゃなくてやり合わねぇとな」

 

 ジッと、青山は翼を見やった。そして、ベンチに何かサインを送る。

 

「ふぅ……。まさか本人からやるということになるとはな」

 

 市舩の監督であり名将・榊はやれやれと思いつつも親指を立てた。それを受けて青山も少しずつボールが出たところで前線の2人、そして中盤の選手に最終ラインにGKに指示を出す。

 

「ん?」

 

 その動きに翼もいち早く気づく。青山が左からポジションを中央に移していることに。そして中盤のメンバーも同じように少しポジションを動かしていることにも。

 

(青山がCFWか? でも、この位置なら……)

 

 青山は左から中央の位置に陣取るが最終ラインの近くでなくアンカーの翼の前に立っていた。他の中盤の選手は逆三角形で構築する。

 

「4-4-2?」

 

 4-4-2の中盤をダイヤモンド型にした形に取っているように見えた翼だったが、青山の特性を考えるなら――

 

「ゼロトップに似た形……」

 

 ウィングを両翼においてその真ん中を下に青山を置く形。トップ下かゼロトップとも取れる動きを見せた青山に早速中盤でボールを回す市舩イレブンは預ける。

 

「これなら――1対1だな」

(そういうことか)

 

 翼は気付いた。これなら徹底的に1対1の状況を作り、前半みたいに最低でも1対2の状況が作られにくい。両翼にFW2枚が陣取ることでSBとCB互いに両サイド注意しなければいけない。ボランチ2枚も相手の中盤に人数に割かなければいけない状況もそうだ。

 

「行くぜっ! 赤星!」

 

 青山はこの状況下を待っていた。待ったなしでいきなりトップギアに入る青山に翼も体を動かして寄せる。

 

「いいぞ! 翼! 前向かせるな!」

 

 CBジョージが声をあげる。今は翼のDFもあって青山はゴールに背を向けていた。だが――

 

『反転して前を向いた!!』

 

 急激な切り返しで反転して前を向く青山、異常なクイックネスに翼は着いていくのでやっとかと思われたがしっかりとカバーに入っていた。

 

「翼! 囲むぞ!」

 

 ここで右サイドに流れた青山を見て挟み込むようにいいタイミングでレノンが前に立つ。これなら1対2で人数も大丈夫だった。左のFWに対してもパスは出しづらいだけに後ろに戻すぐらいしかできないと思った時だった。

 

『ここでワンツー!?』

 

 それでも青山は強引に両翼でなくレノンに着いて内に絞って来た左のFWとのワンツーで翼の左横を通って抜け出す。

 

「っ!」

 

 左の目の視力が回復してきているといってもまだ弱い視界では青山の異常な速さをとらえきれなかった翼は抜かれてしまう。

 

「うぉぉおお!」

 

 もうバイタルエリア内に入り青山はCBの倫吾と競り合いつつも体の強さで全くブレない。そして、そのまま強引に右足を振り抜いた。GKの健太も必死に右手を伸ばしてゴール左へ向かう弾丸のようなシュートに触れようとした――――、が。

 

『決まったぁ~~!! 市舩先制!!』

『やっぱり決めたのは青山!!』

 

 惜しくもGK・健太の右手にボールは掠ったが、シュートは勢いのままにゴールネットを揺らした。

 

『市舩! 市舩! 市舩!』

『青山! 青山! 青山!!』

 

 市舩と青山コールが響き渡る競技場。このままでは、間違いなく流れが市舩に傾いても可笑しくなかった。

 緊張が走る武蒼イレブンたち、その中で思わず笑みを浮かべる翼の後ろ姿があった。

 

(やっぱりすごいな)

 

 試合は0-1。残り25分強を残して武蒼はこの大会初めてのビハインドの状況下に置かれ、本当の進化を問われる場面となった。




第13話でした。次回で準決勝は終わるかなと思っています。
では、また!


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第14話 場を変えてしまうプレイヤー

第14話です。本格サッカー小説の龍時を読んで凄いなと思いペラペラと読んでしまってました。もう少し研究も重ねて行こうと思います。では、インターハイ準決勝ラストスパートです!


1点ビハインドを追う俺たち武蒼。今大会初めての状況とありみんなに固さというか見えない圧力を感じているのをピッチ中央の後方に立つ俺からは見えた。そこまで見えるなら周りに声をかけた方が良いのは確かだった。でも、その前に――

 

「ハハっ」

 

 思わずこの厳しい状況で笑っている自分がいた。

 

「お、おい」

「ん? なんですか、ジョージさん?」

「何笑っているんだよ!」

 

 近くにいたジョージさんは今の状況で笑っている俺に少なからず苛立ちを持ったのかもしれない。まぁ、確かにそう思われてもおかしくないだろう。でも――

 

「やっと全国らしい場面が来たじゃないですか」

「!」

 

 ここまでの試合、正直言ってそこまでハラハラする様な展開はなかったのは確か。やっと全国大会らしい厳しい状況が巡って来たのだ。待ち望んでいたのかな? この状況を。

 

「そうだな」

 

 近くで聞いていた倫吾さんも同意だったようで、ここからが本当の勝負だと同じCBのジョージさんに声を掛けると、ジョージさんも意図を汲み取ったのか頬を軽く2,3回ほど叩いて気合を入れて引き締め直す。

 正直、さっきの得点シーン。俺の視界が遮られている左側を物凄いスピードで通ったから青山のワンツーは成立したとも言ってもいいが、それでも鮮やかだった。敵の市舩、それに青山の動きを褒めるしかなかった。それもあったからこそ敬意を表して真っ向から戦う事を望んだ。

 

「まず1点、まだ時間は十分にありますよ」

 

 レノンさんもそう声を掛けてチームの士気をあげる。そこからポールさん、戸部さんと森さんは声を出して気合を入れ前線の春畑さんに小田さん、そして竜崎さんへ伝わっていく。

 さぁ、ここからが本当の勝負。ここまでは思い通りに試合を進められた。けど、久しぶりに後ろから敗北の足音が鳴り始めたこの状況で本当の意味での俺たちの進化が問われる時間が訪れた。

 

 

 市舩がエース・青山のゴールで先制に成功してから試合は一気に互いに攻守の時間がはっきりと示し始める。

 

『青山に渡った!』

『でも、赤星がしっかりと付いている!!』

 

 この試合、通じて翼と青山の1対1は多く見られたが時間が過ぎるにつれて互いにその闘いの激しさは増す。

 

――ピィ、ピィ!

 

「っ! ファウルか」

 

 今も、体を激しく寄せてボールを奪いに行ったところ、ファウルを取られた翼だったが、まだ自陣高い位置でのファウルだったので良かった。それからも互いにチームの中心を据えた同士の戦いは熱を帯びる。

 

『赤星が奪った!!』

 

 翼がここで青山へのパスをインターセプト、一気に後半右サイドに流れていた小田へロングパスを送り通る。

 

「いけっ!」

 

 そこから一気にドリブルで駆け上がる前に小田は前線で待つ長身FW・竜崎に早めにクロスをあげるアリークロスで仕掛ける。

 

「うらぁ!」

 

 相手GKの清川はDFとGKの間のクロスを思いっ切り飛び出してパンチングで弾き出す。

 

「セカンド!」

 

 そして、すぐさま起き上がってセカンドボールを捕るように指示を出す。セカンドボールは互いに球際に激しく行ったことで再びこぼれた。

 

『どっちが獲る!?』

 

 戸部が奪い切れなかったが、すぐさま同じ並びで中盤に立つ森がボールを奪い一気に二次攻撃に移る。左には春畑、中央には竜崎、右には小田と3枚の攻撃の枚数が揃っていた。

 

「「こっち!」」

「へいっ!」

 

 それぞれが良い形でボールを受ける動きを見せる。それもあって相手の4バックにギャップが生まれる。

 

「翼!」

 

 そこで森は直接自分からは出さず攻撃参加して来た翼に預ける。翼はボールを持たずにダイレクトに右サイドのスペースにスルーパスを送る、小田だ。

 

「小田ちゃん!」

 

 中央のニアへ走り込む竜崎、そしてファーには左サイドから一気に中へはいる春畑。小田はこの時、もう一人の動きを視野で捉えていた。

 

「翼!」

 

 翼だった。エリア内中央でボールを受ける構えを取っていた翼へラストパスが送られた。

 

「なっ!?」

 

 この時、パスを送った小田は驚く。完全にフリーで受けていたはずの翼に最前線から守備に戻って来ていた青山が迫っていたから。

 

「赤星っ!」

 

 青山は後ろから翼に迫る。翼も分かっていたのかそのまま来る前にダイレクトでシュートに行こうとした。

 

「ダイレクトでも追いつきそうだぞ!?」

 

 右SBで後ろから見ていたレノンも驚く。一瞬のスピードとトップスピードへ入る時間の短さなら同じ年代別の代表にも選ばれフィジカルモンスターとも言われる藤原乃亜に引けを取るどころか超えていた。

 

(止められる!)

 

青山はこの時、スライディングで足を入れればシュートブロックが出来ると思った。そして、そこから一気に攻撃に傾いている武蒼に対してカウンター攻撃を仕掛けられることも。

 

「なっ!?」

 

 ただ右背後からスライディングで足を入れようとした青山に感づいていたのか翼は一度ボールを足裏で転がして後ろにボールを当てる。

 

「マジかっ!?」

 

 青山は完全に翼がダイレクトで行く動きを見てスライディングで行った。だが、翼はそこから直前で切り返したのだ。あまりの切り返し・ターンの動きの良さに青山は躱されてしまう。

 

「くそっ(ここで奴なら――)」

 

 青山は確実にファウル覚悟で止めに行かないと思って自身の後ろを回っていた翼に対してスライディングから更に右足を投げ出す。

 

(右足を投げ出して更に右へ流す)

「くっ、分かっていたか」

 

 青山はなす術もなく翼に躱されたかのように見えた。でも、必死に繋いだDFで市舩の強固なDF陣が翼に迫っていた。

 

「1年が守っているんだ! 行かせるかよっ!!」

 

 身を挺して守りを固める市舩DF陣に対して翼は冷静にゴールへの流れが見えていた。ポンっとまたタイミングを掴ませないタッチで左へボールを流し、細かいタッチを刻んで相手のCBを左右に振る前に尻餅をつかせる。

 

『CBの富田さんがこかされた!?』

『嘘だろ!?』

 

 千葉を代表するDFがあっさりと尻餅をつかされた状況に相手の観客席を始めスタンドがどよめく。

 

「いかせんっ!」

『まだ藤谷さんがいる! 舐めるな1年が!』

 

 同じくCBの藤谷が密集の中で危機を察知して翼に寄せた、が。

 

――――見える。ゴールへの道筋が。

 

 たくさんの敵を引きつけて完全にパスコースが無いよう見えた状況で翼にしか見えないパスルートが浮かんだ。1本のパスを左足のアウトサイドで中央へ流し込む。

 

「うっそだろ!?」

 

 CBの藤谷は一体何が起こったんだと動揺をするもまだゴールラインを割ってない状況なので諦めてなかった。

 

「止めてくれ! 清川!!」

 

 清川にそう言うも、混戦からの1本のまさかのパスで寄せられずポジショニングで躊躇う。

 

「おおぉぉ!!」

 

 中央で受けたのは竜崎。ストライカーの本能なのかそれとも翼のパスのメッセージを受けたのか、ボールを止めずにそのまま右足のインサイドでゴールへダイレクトで流し込んだ。

 

『はっ、入った――――!!』

『武蒼が残り10分で追いついた――!!』

 

 武蒼は残り10分のところで竜崎のゴールで追いつくことに成功した。

 

「ナイス、マコ! よくダイレクトで行った!」

 

 同じFWの小田がすぐにゴールを決めた竜崎の許へ、遅れて他のメンバー数人も近づき喜びをかみしめるが、竜崎はすぐにボールを捕ってセンターサークルへ向かおうとした。

 

「もう1点! 点取って勝つぞ!!」

 

 竜崎のゴールで追いついた武蒼。追いつかれた市舩としては残り時間を考えると痛い失点となった。

 

「マジかよっ! ハハハハっ!!」

 

 残り10分間を凌ぎつつ追加点を奪う予定だっただけに、悔しさをにじませる市舩イレブンの中で1人笑うのは青山だった。

 

「あそこでパスってやばいでしょっ!」

「あ、あぁ」

「いいね……。やっぱり良い相手だよ、武蒼は」

 

 青山は自陣へすぐに戻って行く武蒼を見ているつもりだったが、市舩イレブンからは明らかに翼の後姿を捉えているのを分かっていた。

 

「ホラっ! さっさと行って来い!」

「最低でも2-1だ」

 

 CBの冨田と藤谷は青山に残り時間で点を取ってこいと守ってみせるとメッセージを込める。

 

「うっす」

 

 青山は最前線に置かれたセンターサークルのボールへ向かった。

 そして、青山が後ろに蹴りだしてリスタート。そこから本当の意味での両チームの地力を見せ合う死闘となった。残り時間とロスタイムに加えて約10分弱はさらに攻守において激しさが増して行った。球際では激しさも一層増し競技場全体を通して熱くなっていく。皆が熱くなる一方で冷静に試合を見通すのは翼と青山だった。

 翼は同点後すぐの失点だけはマズいと思いバランスを考えての攻撃のリズムを作る。それに対して青山は自身の絶対的な攻撃力をゴリ押しで武蒼DFに突き刺していく。市舩の矛と武蒼の盾、両チームのストロングポイントがぶつかり合った。

 

『青山がシュート!』

 

 強引に密集地帯からシュートを放つ青山に翼がしっかりと足を投げ出してブロックする。

 

「セカンド、絶対!」

 

 GKの健太の指示が飛ぶ。それを受けてセカンドを奪ったポールはすぐさま自陣からかきだすように敵陣へクリアした。と、ここで――

 

――ピィ、ピィ、ピィ~~!!

 

『準決勝第1試合、武蒼対市立舩川の試合は前後半35分ハーフで決着つかず!』

『決着はPK戦だ!!』

 

 死力を尽くした試合、結果は35分では決着がつかず大会レギュレーションにより決勝以外は延長戦なしなのでPK戦へと入った。

 

「練習通りの順番で行くぞ」

 

 武蒼の監督の黒部はそう言って順番を名前で呼びあげて行く。1番は小田、2番はレノン。3番は倫吾、4番はジョージ、5番は春畑、それからも続くことが考えて11番目のPKが大の苦手な翼まで順番を決めてベンチ前からイレブンたちはセンターサークルへと向かった。

 PK戦、先攻はコイントスの結果武蒼に回り1番手の小田がペナルティースポットのボールの位置へ着いた。相手GKの清川はフッと一息ついて両手を広げて待つ。

 

――ピィ!

 

 小田はジッとキーパーを見てからボールから助走をとる、そして――、一気に蹴り込んだ。

 

『武蒼1人目成功!!』

 

 小田のPKはキーパーに触られたが、勢いもあってそのままゴールネットを揺らした。先ず1本目を成功した武蒼は先攻有利のアドバンテージを得た。

 次は市舩の1人目のキッカーがゆっくりとペナルティースポットへやって来る、青山だ。対して武蒼のGK渡辺もゆっくりとゴールマウスへ近づく。決めればイーブンで続き、止めればリードが奪えるだけにいきなりだったが、重要な局面を迎えた。

 

――ピィっ!

 

 青山はルーティンがあるのか大きい歩幅をエリア外に出るぐらいとる。そして両手を腰に当てて一度下を向いて集中をした後だった。迷いなくペナルティースポットのボールへと向かっていた。

 

△▼

 

 PK戦からしばらくして武蒼の選手たちはマイクロバスの車中で宿舎へ戻ろうとしていた。どのメンバーも悔しさを露わにしていた。負けたのだ、俺たち武蒼はPK戦の末に市舩に。

 

「青山のPK……。あれで一気に持っていかれたな」

 

 隣のシートに座るレノンさんがそうボソッとこぼす様に、青山のPKで一気に流れを持っていかれたのは確かだった。

 

――なっ!?

――パネンカ!?

 

 あの緊張の場面で青山は迷いなくナベケンの裏をかき、あざ笑うかのようにふわっと浮かせたPK、パネンカで流し込んだ。あれで一気に会場の雰囲気も味方に付けてしまい結果的にPK戦は1番目の小田さん以降の武蒼の選手は全員決められず、対して市舩は全員が決めてスコア1-1(1-3)で敗れた。

 

「アイツらを倒さない限り……全国制覇は無理だろうな」

「……そうですね」

 

 レノンさんが言うように、間違いなく市舩や同等の相手を倒さない限り全国制覇は夢のまた夢に終わるだろう。でも、少しだが試合中に全国制覇への光が見えた気がしたのは俺だけではなかったような気がした。皆悔しそうだった。それでも次の段階に行ける気がしたのは確かだった。

 

「これからだな」

「そうですね、これからどう過ごすかが重要ですね」

 

 武蒼のインターハイはベスト4で終わるのだった。




第14話でした。やっと終わったインターハイでした。と、言ってもダイジェストみたいな気がした私自身です。
やっと原作主要キャラたちと話を絡ませることが出来て何よりです。さて、カスラバをどうしようか……。次は選手権に向けてかいていこうと思います。また不定期に出すと思うのでしばしのお待ちを。では、また!


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第15話 夏合宿前のインターバル

お久しぶりです。池上です。
1週間以上投稿が出来なく、すみませんでした。
また、よろしくお願いします!


インターハイをベスト4で終えた俺たち武蒼高校サッカー部は南東北で行われた大会を終えたこともありすぐに荷物をまとめて地元・埼玉への帰路についた。

 帰りのバス内では今日の1試合だけであってもこの6日間で5試合をこなしたこともあってみんな帰りのバス内は寝息が立つだけで静かな帰り道となった。でも、みんな全国の舞台を知り再び直近の全国大会となる選手権への思いが一段と強くなった。今日の準決勝の試合で敗れた千葉でプレミアリーグに属する市立舩川に対して、再び全国の舞台で勝ちたいと思うほどに。それは、俺自身もそうだった。

 

(もっと……チームを活かせる個の力を強めないとな)

 

 今日の試合で感じ取った青山大樹の個の力。ポジションがFWとMFと違えど見て見ぬふりは出来ない課題だった。俺がもっと――――。そう思わされた戦いだった。

 その後も、バスは埼玉へ向けて夕日が掛かった夕方ごろの帰路から学校へ着いたころには夜になっていた。

 

「荷物、そのまま明日の必要なものは置いてくれ」

 

 明日は昼からの集合で例年通り埼玉でなく長野菅平合宿が敢行されることが前から伝わっていた。なので、必要な練習道具やらなにやらはマイクロバスに積んだままでよかった。

 

「揃ったな。明日から菅平合宿に入る。明日はただの移動日に当てる。今日は早く家に帰って休んでくれ。以上だ」

 

 監督の黒部先生が明日に向けての軽いミーティングしてその日は終わった。

 

「それにしても、予定詰め込んでいるよな。武蒼は」

「そうだな。まぁ、これが全国で戦う高校のサッカー事情なんだろうけど」

 

 家への帰り道。インターハイを戦い抜いた俺とナベケンの二人だけで帰っていた。ナベケンの首筋と腕元を見るとすごく日焼けてしているのが見えたが、多分俺も結構焼けているんだろうなと見ると、思ったより焼けていなかった。なんでだろう?

 

「なぁ、翼」

「ん?」

「強かったな。市舩」

 

 ナベケンは悔しさなのか口元をかみしめてそう話す。俺も同じようにただ、そうだな。と頷くぐらいしかできなかった。

 

「特に青山。アイツの1点目のシーンは圧巻だった。それも初めてだったぜ。普通のシュートで逆を突かれたのは」

「逆付かれたのか?」

「あぁ」

 

 確かにいつものナベケンなら止めておかしくないシュートコースだったが、止められなかった。俺もシュートのシーンは目で追っていたので見ていたわけだが、なんか、こう……独特な蹴り方をしているように見えた。なんていうんだろう――

 

「シュートコースが読めなかった。大抵の奴は大体つかめるんだけどな」

 

 そう話すナベケンを聞いて、俺はなんとなくあの青山のシュートの独特性に感じさせるものがあった。昔、映像で見たある選手のシュートに似た感じが。

 

「なぁ、ナベケンって全国にも何度か出ているよな。関東でも」

「ん? あぁそうだけど」

「青山ほどの実力者がどうしてこのインターハイまで無名だったのかが俺は不思議な気がするんだが……」

「確かにな。まぁ、龍にしてもそうだったように何かあるじゃないか?」

 

 まぁ、龍のように2年間のブランクでサッカーから離れている例があるがそれは違う気がした。あれは、ずっとサッカーを続けている感じがした。

 

「とりあえず、明日からまた頑張ろうぜ。菅平合宿」

「そうだな。5日間の強化合宿。がんばろうな」

 

 ちょうど、別れ際だったので俺はナベケンと別れてみんなが待つ青梅家へと帰った。

 

「ただいま~」

「おかえり~!」

 

 青梅家に帰ってくると出迎えてくれたのは優希だった。それからして俺が帰って来たのを知って龍や優人もリビングから顔を出して待っていた。

 

「おかえり、翼」

「おかえり、翼くん!」

「ただいま。龍、優人」

 

 リビングで出迎えていた龍と優人と玄関で待っていた優希とは1週間弱ぶりとあって、かなり久しぶりに顔を合わせたような気がした。まぁ、これまで1週間も顔を合わさないことがなかったからな。

 

「翼、活躍はこっちまで届いていたぜ」

「そうだよね。2回戦の福岡南のJ内定の町田さんに渡りあうどころか逆に良かったってネットにも挙がってたからね」

「うんうん。やっと翼くんの凄さが世に知れ渡って嬉しかったよ」

「優人、それは大袈裟だよ」

 

 優人のオーバーな言い方に笑いつつも、俺は優希が出してくれた麦茶を飲み干す。

 

「今日の準決勝、市舩はどうだった?」

 

 さっそく今日の試合の感想を聞いてくる龍。龍も市舩については軽くでも知っているだろう。俺は、とりあえずある人物の名前だけは伝えた。

 

「市舩は……。絶対的ストライカー・青山大樹を中心にしたいいチーム、いや強さのあるチームだったよ」

「青山君か……。今まで中学の頃から聞いたことのない名前だよね」

 

 優希も不思議そうに話すが、その通りだった。あれだけの実力者がどうしてこれまで表舞台に出てなかったのかが不思議でならなかった。

 

「あぁ、それなら今日のコメントに載っていたよ。ブラジルのストリートで技術面を鍛えていたって」

 

 優人がそう話してくれる。そうだったのか……。サッカー王国と呼ばれるブラジルで磨いた独特なリズムであったり動きはあそこがルーツだったのか。それなら納得できた。

 

「優人の言った通り、倫吾さんだけでなく代表に入るレノンさんもアイツの独特なリズムはつかめなかったからな。それだけでなく藤原乃亜以上のクイックネスも持ち合わせて凄かったよ」

 

 それを聞いた3人は、藤原さん以上の速さは想像できないだけに様々な表情を見せた。優人と優希は驚いた表情で、龍は見てみたいという好奇心が分かった。

 

「とりあえず、インターハイ。初めての全国に出て分かったよ」

『?』

「俺、もっとサッカーが上手くなりたい。そういう気持ちがもっと、もっと強くなった!」

 

 インターハイに出ていろんな全国にいる選手を知って俺はもっともっと上手くなりたいと思うようになった。

 

「俺も負けてられないな」

 

 龍はちょっと羨ましそうに自分も負けてられないとばかりに目を合わせる。

 

「僕も頑張らないと!」

 

 優人も同じように力強い目で俺を見る。

 

「なら、私もしっかりとマネージャーとしてサポートしないとね」

 

 優希はマネージャーとして頑張るぞとグッと小さな握りこぶしを作り、サポートすることを力強く宣言した。

 

「俺は明日から菅平合宿だけどみんなは学校だよな?」

「そうか。やっぱりAは菅平合宿に入るんだな」

「やっぱり強豪校だけあって予定が詰まっているね」

「ってことは、翼くんは菅平で、私と龍ちゃんと優人は学校だね。まぁ、場所は違えど頑張って地獄って言われている合宿を乗り切ろうね」

 

 優希の言葉に俺たちは頷いて明日からの合宿に備えて早めの就寝を取ることにした。もちろん、俺はお世話になっているおじさんとおばさんのお土産を渡してから寝た。

 

 

 夜中、3時頃だろうか。私は目が覚めて喉も乾いたこともあり居間の方へ水を飲みに来た。

 

「ん?(誰だろう……)」

 

 私は庭に誰かがいるような気がしてちょっとチラッと物陰から見るように伺うとそこには翼くんがいた。

 

(何してるんだろう?)

 

 翼くんは軒下に座ってジッと夜を照らす月を見ていた。見つめたままの翼くん、足元で何かを動かしているのを見る限りボールでじゃれているようだ。

 

「優希か?」

「!?」

 

 私は音もたてずにジッと翼くんの後ろ姿を見ていたにもかかわらず、翼くんは見えていたかのように私の名前を呼んだ。

 

「ごめんね、1人の方が良かったよね……ははっ」

 

 きっと今日の試合のことが頭から離れなくて寝ることができなかったから邪魔だろうと思い、私は自分の部屋へ戻ろうとしたが、翼くんは私を横に座るように手招きした。

 

「ちょっと、話そうよ」

「!」

 

 ちょっと!? 私大丈夫かな、今すごい顔してなかったかな――

 

「こっち」

 

私はきっと恥ずかしいぐらいに顔が紅かったが、言われるままに翼くんが空けてくれた場所へ腰を下ろして座った。

 

「埼玉もやっぱり暑いな」

「うん」

 

 翼くんはそれから何気ない話をしてくれた。サッカー以外の話を。日常の生活や学校、クラスでの話や諸々。こうやって面と向かって、隣り合って話す機会なんて少なかったから翼くんがどういう具合に周りを見て聴いて触って感じているのかが知れた気がした。

 そんな中で、私は一体どういう風に翼くんに見えているのか……!? 一体私は何を考えて!?

 

「――優希?」

「んぅ!? な、なに?」

「“私は一体俺からどう見えるか?”って言ったよな。今?」

 

 えぇぇぇ!!? 私、頭の中で思いとどめていたはずが口に出していたの!? ど、どうしよう――、翼くん、少し困った表情で顔を逸らしているし!?

 

「俺から見て――……、優希は当たり前のように俺たち(・・)の傍にいてくれた」

 

 あっ、だ、だよね~。龍ちゃんや優人たちにいつもいるからね。その中の1人としてしか見られてなかったんだよね……。

 

「でも、最近思ったんだ。この当たり前が奇跡だったみたいに」

「奇跡……」

「うん。そう思えたのも……。いや、遅いと思うけど俺は感じたんだ。傍にいて、笑顔を向けてくれる優希の存在の大きさを」

 

 翼くんは、今も私を見てそう話してくれる。この時間が私にとって何よりもうれしかった。私だけを見て話してくれる翼くんがいることが。何よりも。

 

「インターハイの時もさ、予選の時はスタンドから優希が観てくれていたから頑張れたところがあってさ。でも、今回初めて優希だけじゃなくて龍や優人と一緒にいない大会を経験して思ったんだ。俺ってやっぱりみんなと一緒にこれからも居たいんだって」

 

 翼くんの言葉に私は思わず目頭が熱くなったが、何とか泣かずに“うんうん”と頷いで話を聞いた。

 

「やっぱり――、今度はみんなで全国の舞台に出たいな」

 

 翼くんはフッと夜空を見上げてそう言った。翼くんの本心から出た言葉の数々に私にとって、とても貴重で濃い時間が静かに過ぎて行った気がした。

 

「さて、明日は移動だけでも早く寝ないとな。悪い、声を掛けて」

「うんん。良かった。こうやって久しぶりに話せて」

「そうか。ありがと」

 

 私はちょっと足早に部屋へと戻った。布団に戻った時、翼くんとだけの時間を共有した私は悶々として寝られないかと思ったけど、気が付いたらあっという間に日差しが窓のカーテンに掛かっていた。

 

「あれ……。もう朝?」

 

 私はこの時、昨夜のことを夢かと思った。けど、やっぱりコップが1つ置かれてあったことから夢じゃなかった。

 

「おはよう、優希」

「! おはよう! 翼くん」

 

翼くんが、昨日は色々話を聞いてくれてありがとう。と言ってくれた。やっぱり夢じゃ――なかったんだ。

 

「優希、暑さには気を付けるんだぞ」

「大丈夫! 私、丈夫だからね!」

 

 こうして武蒼高校サッカー部の強化合宿の日の朝が訪れたのだった。




ずっと、サッカーの試合だったので関係性を書きたいと思い書きました。
次回は一気に紅白戦に行くかもしれないです。その中で合宿の話を混ぜれたらと思っています。
最後に、投稿が遅れてすみませんでした。
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第16話 紅白戦1

長い間ほったらかしていてすみませんでした。


インターハイ本大会を終えてすぐ、俺たち武蒼高校サッカー部は毎年恒例の夏休み早々合宿へ突入――――。場所は長野県菅平、なのはAチームだけで残りの部員たちはいつものように学校でフィジカルメニュー中心に取り組むことになった。

学校組のメニューは鬼のような練習量を課されかなりきついことから地獄の夏合宿と言われていたが、菅平のほうも少数精鋭部隊で組むのでこちらも同じように地獄なものだった。

1週間ぶりにお世話になっている青梅家に帰ってきた俺は翌日の紅白戦もあることからはやめの就寝を取ったが、学校組の合宿をずっと見ていた優希がすごく意味あり気に明日の紅白戦は驚かされると息巻いていただけに、ちょっと楽しみだった。

 

「あ~。くそあちぃ!!」

「やっぱ地元は最低だ!」

 

避暑地と言われる長野菅平合宿を終えて移動日を挟んでの翌日。俺たちAのメンバーたちは合宿恒例の最後の締めである学校組選抜チームとの紅白戦を戦うことになっていた。

昨日地元の埼玉に帰ってきたが、やはり菅平は避暑地あって過ごしやすい気候だった。今もポールさんはずっと菅平にいたいとこぼしていた。

 

――――だったら、帰れ――!!

 

「え?」

 

いきなりの罵声に表紙抜けた声を出すポールさん。久しぶりの学校のピッチに入るなり学校組が待ち構えていたわけだがいきり立っていた。

 

「避暑地でのうのうとトレーニングしてきたお前らなんか、もはや仲間じゃねーな!」

「そうだ――!!」

 

入ってくるなり敵側として待っていた学校組のメンバーたち。当初、聞かされていた調整の場と言われていたゲームもどうやらガチでやり合う場になっていたようだ。Aのメンバーもピッチの完全アウェーに驚いていた。

 

「頼むぜ、一条!!」

「コーメイ!!」

「打倒A――!!」

 

そこからピッチでは選抜メンバーに対して下剋上コールが響いた。もはや、この紅白戦は単なるアピールの場とはなってなかったようだ。こんなにガラリと変えられるのは多分龍の奴だろう。

 

「すごいことになったな、翼」

「向こうはテストマッチとして見るつもりはないみたいだな、ナベケン」

 

こうなったらやり合わないといけないだろう。勝負事に関しては昔よりずっと好き嫌いがはっきりと激しくなったからな。ナベケンも同様に試合に向けて気持ちが高ぶっているのがよく分かった。

 

「さぁ、アップ始めるぞ」

 

キャプテンの倫吾さんとコーチがアップをするように促して試合前のウォーミングアップへと向かった。

 

 

 

 

――下・剋・上!

――――下・剋・上!!!

 

身内同士の紅白戦とはいえ、ここまで互いに敵を意識してのゲームはなかなかないだろう。いや、このゲームの結果が冬の選手権予選に向けてのメンバー選考も兼ねているだけに選抜メンバーからしたら喉からほしいし、今のAのメンバーはその座を死守するためにさらなるアピールが必要だった。

試合前、選抜チームの指揮を執る臨時の監督・ミルコ・コヴァッチは相手となるレギュラー組のAの指揮を執る黒部と軽い会話を交わしてベンチへと戻った。

 

「Aのスタメン、IH本大会と変わりないね」

 

選抜チームサイドのマネージャー・窪塚と優希はスターティングイレブンとピッチに立つメンバーを照らして確認していた。チームの10番・友坂の復帰を聞いていた選抜チームサイドだったが、まだ頭から出ないことにフルでは使えないための判断だろうと見ることは考える。

 

「下・剋・上!」

 

ピッチサイドから下剋上コールの歓声が試合の始まりが近づくにつれて高まる中、嫌気がさしたAの左サイドバックを務めるポールがうるさいと声を上げたが、それをヤジで返されて苛立つ。

 

「暑さでイカれちまったのか知らねぇが……イラッと来るぜ!」

 

腕を組んだままピッチサイドを見るセンターバックの島津譲二もポールほどではないが、イラッとした表情を向けていた。

 

「身内だからこそ気安く悪態付ける……でしょ」

「そうだな、レノン」

 

世代別代表の橘怜音は気にした様子もなくそう軽く返した。それに同意するのはキャプテンの星倫吾だった。

 

「ここは、ホームだ。うろたえるこたぁない。みんなの代表が俺たちだと思いだせば、騒ぎもやむ」

 

それにピッチに立つ11人も頷いた。選抜チームや選ばれなかったメンバーたちは学校での地獄の合宿を乗り越えたことから生まれた固い絆で生まれた同様、それ以上にAのメンバーたちは全国の猛者たちと渡り歩いたインターハイ本大会、そして菅平の合宿でのトレーニングで鍛え上げた経験がさらに強くなるきっかけになったと信じていた。

Aのメンバーたちの中には地元の合宿を経験したメンバーもいるが、断然菅平のほうが地獄だという自負があった。

 

「翼にナベ、菅平合宿1年からでよく耐えたな」

「うっす」

「ハイ!」

 

最前線のFWに立つ竜崎誠は1年から地獄の合宿を耐えた翼とGKの渡辺にそう声を掛けるも、島津が渡辺を茶化す。

 

「2日目の夜、便所で泣いていたくせによ~」

「あ~、確かに確かに~」

「(言わないでください、お願いします!)」

 

島津のノリについていく翼だったが、竜崎に止められ試合に集中と背中を軽くたたいて島津に声をかけていた。

 

「あんまりふざけんなよ」

「ちょっとからかっただけだぜ~。でも、大した奴だよ。翼にしても脱落しかけたナベも」

 

この夏を過ごす中で1年ながら2人は上級生たちに認められていた。

 

「まぁ、ナベはまだしも翼の奴が俺のノリについてくれるほど落ち着ているだけあって助かっているってことだよ」

「そうだな」

 

ちょっとインターハイ本大会の後から気が張っている気がした翼を心配もしていた島津と竜崎からしたら、良かったと思いつつ円陣に加わった。

 

「いくぞ!」

『おおぉぉ!』

 

円陣で気合を入れた後、散らばる両チームのメンバーたち。それぞれがポジションに付いて試合が始まるのを待った。

 

 

 

 

「4バック? 優人が中盤の底か」

 

試合開始前、相手の選抜チームのキックオフで始まる前の位置取りを見る限りDF5枚を並べてくるのかと思ったが、優人がサイドバックでなく中盤の底・ボランチに陣取っていた。

 

――ぴぃ~~!

 

主審を務める久米さんのホイッスルで試合が始まった。さっそく4-4-2の前線を張る小田さんと竜崎さんがボールを刈るように寄せた。

 

「速いパス! 狙うぞ!」

「トラップもたついたところを……」

 

2人はボランチで受けた優人のトラップ際を狙ったが、優人は速いパスを簡単にトラップしてボールを回した。

 

「さぁ、ボール回していこう!」

 

優人は大きな声で指示を飛ばした。そうか、こいつらポゼッションをやるつもりなんだ。右サイドでボールを回して中央で、前線から下りてきた龍に縦パスが入った。

 

「速いパス、一条に入る!」

「赤星もチェックに入る」

 

マークに着いた俺は龍を軽く手で押してみた。龍も来ることを分かっていたようにボールを取られない位置に置いてから、前を見たが無理に行くことなく後ろへ下げた。それからもAチームは寄せるも選抜チームは慌てずにボールをつないだ。

 

「やけに慎重だな……、なーにが下剋上だ! 立て入れてこいや――!」

 

バックのジョージさんが相手の消極的ともとれるポゼッションに偏った戦術に対してそう声を上げて煽っているが、これはこれで嫌なものだ。まず、2枚のFWのマコさんと小田さんに対して相手のバックス4人に中盤からビルドアップを促す役割で優人も加わってボールを回しているので圧倒的に数の差でただ追いかけているだけ、それに俺たちのバックス陣もいつ来るか分からない縦パスに対して常にポジショニングに気を遣わないといけない。

 

『下・剋・上!!』

『下・剋・上!!』

 

ピッチに全体に広がる下剋上コールにさすがに2分もボールを回されたら嫌でもAのイレブン全体がプレスを掛ける。左サイドに固まってボールを回す中で前線の龍にボールが入ったのをジョージさんとボランチの戸部さんがマークに付いた。

 

「一条!」

 

あっ、さっきから左サイドで回していたのはこういうことか。

 

「マズイ! プレスをかいくぐられた!!」

 

プレスをかいくぐるために左サイドに人数をかけてスペースのできた中央右に中盤に入る10番を付けた確か……水島さんがそこでボールを受けた。

 

「どっかを狭くすりゃ……ほかがスカスカになるのは必然――」

 

確かに水島さんの言う通りだ。右サイドにできたスペースに右サイドハーフの矢沢へパスを送った水島さん。こうも速い展開だと一気にクロスで持ち上がったり、中に切れ込んでも何でもできるだろう。でも、レノンさんがしっかりとこの状況を読んでいた。

 

「いけ――矢沢!」

「レノンと1対1だ、チギれ!」

 

矢沢は周りの声援もそうだが、どう見ても1対1で仕掛ける場面だ。シザースでボールを跨いでフェイントを入れて、縦にそのまま行こうとした。

 

「まだまだだな。田沢……だっけか?」

 

あっさりとボールに対して脚を入れて奪うレノンさん。それと、田沢じゃなくて矢沢です。現に今、矢沢が自分の名を名乗っているがレノンさんが気にするはずもなく俺にパスを送った。

 

「レノン、森だ!」

「オーライ」

 

ボールを奪ったレノンさんにGKのナベケンが指示を出す。

 

「切り換えろ!」

 

すぐに陣形を整えろと指示を出す龍。うん、切り替えは大事だ。

 

「こっちの反撃(カウンター)!」

「レノンから――、森! 森から前線の竜崎(マコ)へ一気に! いけるパターン」

 

Aのベンチにいる佐藤センパイの言う通りいけるパターンだった。でも、

 

「来てるぞ、森」

「ぬっ」

 

ボールを受けようとボランチの森さんに対してさっきまで中盤の底にいたはずの優人が寄せてきた。そうなったら、

 

「レノン」

 

後ろのレノンに叩いてもう一度作り直すしかないな。

 

「よし、時間をかけさせた!」

「優人ナイスディレイ!」

「後ろの人数揃った!」

「Aのカウンター潰したぞ!」

 

しっかりと出し手になる森さんのところをつぶした優人。しっかりと俺たちAのカウンターの芽をつぶした格好になった。

 

「レノン、後ろ来ているぞ」

「おらよ」

 

そして、レノンがボールを持ったところで前に奪われた矢沢がすぐにボールを刈るようにレノンへ寄せるもその前に前で待つ俺にボールを回した。

しっかりとゾーンで固められた相手DF。うん、なかなか意思統一がされている。だったら、ちょっと斜めの動きを入れよう。

 

「おっ。優人!」

 

中に切れ込もうとしたところを優人が寄せてきた。寄せてきたことでできたスペースはしっかりと水島さんがスライドし、ほかも動いている。

 

「はい、戸部さん!」

 

まぁ、無理する時間でもないし後ろへ返すか。と、言っても戸部さんなら俺が中に切れ込んだ意味を分かっているはずだ。

 

「レノン!」

 

そう、中に切れ込んで空いた右サイドのライン際にレノンさんがオーバーラップして攻撃参加できるようにしようとしたのを戸部さんも分かっていたようにパスを出した。

 

「ナイス!」

 

ボールを受けたレノンさんに対して矢沢が対面でしっかりとマークに付くも、見るからにさっきの件で闘争心がむき出しで熱くなっていた。

 

「おらぁ! 男、矢沢。やり返すぜ!」

 

レノンさんがそう相手に煽られても気にするタイプじゃないことを分かっていた。俺もパスで受けられる位置にはいたが、ここは無理せずレノンさんは後ろへボールを出した。攻めあぐねてボールを後ろに預けようとしたところを矢沢はさっきの仕返しとばかりとカットしようと右足を出した時、レノンさんは見透かしたようにキックフェイトで反転して切り返した。

 

「躱された!」

「うわ~、矢沢が子ども扱い!」

 

振り切ったレノンさんは前線を確認してニアで待つマコさんへ浮かした速めのロブパスを送った。長身のマコさんはそのまま2人を相手に長身を生かしてすらして中へポストプレーをした。何回もやったプレーに小田さんも分かっていたようにマコさんが出したパスへ向かっていたが、その前に最前線から戻ってきた龍がボール着地点へ一直線で入ってボールをクリアした。

 

「一条?」

「おお!? FWの一条があそこまで戻って……」

 

俺たちからしたらチャンスかと思ったが、その前にFWの龍が防いだ。本当ならシュートで終わりたかったが、コーナーキックになった。右サイドのコーナーキックの担当のレノンさんがボールに行き、中へ蹴り込んだ。

 

「よし、ゴールキック!」

 

コーナーキックで上がっていた倫吾さんが中央で競り勝つもヘディングシュートは枠に収まらずゴールキックになる。

上がっていた倫吾さんとジョージさんがすぐに最後尾へ戻る中、相手ももう一度陣形を整える中で、さっきまで最前線を張っていた龍がバックスの4人の中に加わっていた。




第16話でした。また、投稿できるようにしたいと思っています。
では、また!


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