お父さんになりたいれいむ (兼久)
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いち、たんっじょう!

とあるゆっくりプレイスに、1ゆの風変わりなゆっくりが居た。

 

ゆっくりれいむ。

 

人語を操る不可思議生首饅頭のうち、数多く生息している「通常種」と呼ばれる中でも特にポピュラーな存在である。

 

能力的にはゆっくり種の中でも最下層に位置する一方、その総個体数が最も多いと言われており、この群れも例外では無かった。

 

一口に風変わりと言っても、もみあげがウザい「わさ種」でもゲスの代名詞たる「でいぶ」でも無く、おりぼんが青い訳でも無い。見た目は何処にでも居る凡百の紅白饅頭だ。

 

では、一体何が変わっているのかと言えば、彼女は赤ゆの頃から「おとうさん」になりたがった。

 

だがそれは、れいむ種の数少ない取り柄である、母性(笑)を真っ向から否定する思考。

 

普通の母れいむなら何とか自分に負けないぐらいの「りょうっさいけんぼ!」にすべく「せいっさい!」も辞さずに厳しく育てようとするのだが、

 

「このむれのれいむは、すこしぐらいぼーいっしゅ!なほうが、とかいはよ」

 

と、自身の愛すべき番(つがい)は我が子の個性を尊重すべきとだと反対し、その理由を「ゆっくりりかい」した彼女は、渋々ながらに容認した。

 

これはゆっくりの常識を超越した、天文学的な確率で起こった奇跡。

 

カカア天下の番なら否応も無く叩き潰すだろうし、そうで無くとも取り合えず上辺だけ話を合わせて夫婦仲を保ち、躾と称して我が子を「えいえんにゆっくり」させる。

 

他の家族に「ぎゃっくたい!」と悟られずに事を成せれば、その母親はゆっくり基準で間違いなく良妻賢母だろう。

 

ママありすの言葉に一理あると納得させられるだけの背景と、人間的価値観では優秀な部類に入る個体だったからこそ、この物話も生まれたのだ。

 

先にも触れたれいむ種の多さについてだが、この群れでは全体5割前後を占める。お尻に前後と付くのは、本当にどうでも良い理由で死んでしまう(我侭を言う=ゲスなので制裁した、チョット目を離した隙に…ウッカリ踏み潰していた)から。

 

出産ラッシュの影響で6割を突破しても、3日と持たずに4割台まで落ち込んでいるのもザラ。それも、天災等は一切発生していないにもかかわらずに。

 

子育て上手が聞いて呆れる有様だが、他の種より「おちびちゃん」を求める傾向が強く、寂しさを埋め合わそうと早々に次の子を成すので、数の力によって虚構のイメージを植え付けているのだ。

 

彼女達のパートナーとして代表的なまりさ種が個体の多さではそれに続くのだが、その数は精々2割程度に過ぎず、この群れにおけるれいむ種の異常な繁殖力がお分かり頂けるだろうか。

 

男親としての役割を果たす事が多いまりさ種(ありす種との番に限り、その立場が逆転しているケースが少なくない)は比較的人気が高く、この群れの中でのまりさ種の需要は、人間が「希少種」に求めるソレに匹敵する。

 

そうした事情を裏付けるかの様に、この群れを率いる「長」は、本ゆんかその番がまりさ種でなくてはならないとする掟まで存在していた。

 

詰まるところ、れいむ種は滅茶苦茶余る。

 

完全無比の買い手市場、24時間365日大バーゲンセール開催中。通常ではまず有り得ない、れいむ種同士の番もこのゆっくりプレイスでは珍しく無い。

 

それでも独ゆんよりは遥かに「しあわせー!」らしく、独り身の寂しさから番を求めて旅立ち命を落としたり、中には単為生殖に励んでしまう喪れいむまで居た。

 

だから大抵のれいむ種は、赤ゆの頃から「年の近いまりさが居れば、餡を分けた姉妹を押し退けてでも自分を売り込め!」と、教育されている。

 

その為、狩りの達ゆんである親に何不由なく育て上げられた「美ゆ」なら話は別だが、亜成体ともなれば自ら「まむまむ」を開いて誘惑するビッチれいむの出現が後を絶たない。

 

そして若さ故の過ちを犯し、将来を誓い合った筈の「ふぃあんせさん」を泣かせてしまう若まりさは、3より「たくさん」数えられる長ですら、途中で投げ出してしまうほど多かった。

 

そう、母れいむが母親になる前は、そこら辺に生えている「にがにがなくささん」みたいにありふれた話の中の1ゆで、詳細は省くが紆余曲折あってママありすと番になっている。

 

新婚生活を迎える準備は万端に整っていたので、母れいむは破局の辛さから逃れようと余計に「すーりすーり!」を繰り返し、互いの額に「おちびちゃん」が実った茎を生やした。子が2倍なら、幸せは更にその倍になると言う寸法だ。

 

「ゆわーん、ありすのおちびちゃんたちはすっごくゆっくりしてるよ~」

 

「うふふ、れいむのおちびちゃんもとってもとかいはよ!」

 

ゆらゆら揺れるだけでもゆっくり、声は出ないが何か呟いてるみたいでまったり、徐々に大きくなって自分似のおちびが出来たと判明してすっきり。

 

一時はゆん生の終わりだと悲嘆に暮れていたが、その寝顔を眺めているだけで悲しみもどこかに吹き飛ばしてくれる、1粒1粒がキラキラと輝く宝石達だった。

 

各々4匹ずつ、合計8ゆ。ありすとれいむが均等に実っていた。なお、この時はまだ風変わりなれいむもお父さんになりたい、などとは欠片も思ってない。

 

「ゆゅーん!きゃわぃーれぇむが むのうなしまいにさきがけまっちゃきにうみゃりぇるよ!みんなれぇむをいっとうかゎ――“ぽいん”ぐぴょッ!」

 

「ゆゅ!まけにゃいよ!せかいのあいどるたるれーみゅがごのせんをとってうみゃれ――ゆわっ?じめんしゃんっれーみゅはきょーろきょーろちたくにゃいよぉぉぉ?やめちぇぇ“ぶちゃ”ぇ…」

 

『どぼぢでおちびちゃんがづぶれでるのぉぉおぉ!ありす(れいむ)がぢゃんどうげどめでなぎゃだめでしょをぉぉぉぉぉ?!』

 

ありすの第1子は生れ落ちた勢いそのまま元気良く地面に跳ね返り、不幸にも先の尖った小石に突き刺さった為、敢え無く絶命。

 

れいむの第1子は、落下地点が(子ゆでも何とも無い緩やかな)傾斜だった為、転がり落ちた先に生えていた木に勢い良く「ちゅっちゅ」して潰れてしまった。

 

どちらも偶々運が悪かった。

 

おうちの「ふかふかなべっとさん」の上であればこんな悲劇(笑)は起こり得なかったのだが、ぽかぽかな陽気に誘われて、お散歩に出掛けていたのだ。

 

まったり「じめんさん」を「ずーりずーり」していたら運良く生えたばかりのツクシを見つけたのも、思えば不幸の始まりだった。

 

その場で「むーしゃむーしゃ」していたら物足りなくなって「ぽんぽん」が一杯になるまでその辺のタンポポも貪り、そのままお昼寝と洒落込んだのがいけなかった。

 

「れいむがもうすぐうまれそうだからおうちでゆっくりしようねってゆったのに、ありすがむりやりつれだしたのがいけないんでしょぉぉぉ!」

 

「みつけたごはんさんはおうちにもってかえりましょうっていってるのに、いなかもののれいむがいやしくがーつがーつしはじめちゃったのがわるいのよぉぉぉ!」

 

大声で誕生を予告をする我が子を余所に、ゆぴゆぴと涎を垂らしながらグースカ眠りこけていた無能さを棚に上げ、互いに相手の配慮不足を非難する番共。

 

れいむの言う通り外出を控えるのが一番無難だったが、それではゆっくり出来ない。ありすの提案に従い、その場で食べずに持ち帰れば事無きを得ていたが、やはりそれもゆっくり出来ない。

 

結局のところ、彼女達自身がゆっくり出来るか否かが重要なのであって、我が子の安全性云々なんぞ2の次3の次に過ぎないのだ。

 

「ゆぎぎぎ、ちょっとありす、きんぱつのきっもちわるいおちびちゃんをかわいいれいむのおかおによせないでねっ、ふかいだよ!」

 

「れいむこそ、ぶきみなわさわさのかたまりをありすのめのまえにぶらぶらさせないでくれない?はきそうよ」

 

共に己の非を認めようとはせず、醜い罵り合いはやがて争いへと発展。顔面を鍔迫り合いの如く突き付けるうち、擦り合わさった茎から第2子が、第3子がと次々こそげ落ちる。

 

そして自分を命に代えても愛し、全身全霊で祝福すべき両親に、その誕生を気付いてさえ貰えないままどこかへ弾き飛ばされり、踏み潰されたりしていた。

 

「もっちょゆっぐちしちゃかっ‥‥‥ぐべぇぇ!」

 

「ゆはーゆはーっ、ありす、いちじきゅうっせん!だよっ、あささんがきたら、ゆっっくりおはなしあいするからね?」

 

「えぇ、そうしましょう、もうおかざりのいちをなおすきりょくもないわ…」

 

死力を尽くした婦々喧嘩も双方に成ゆんを永遠にゆっくりさせる程の殺傷能力が無い事が幸いし、ドローのまま折り合いを付けた。

 

疲れ過ぎて、赤ゆ達のおかざりを形見に持ち帰るも忘れて巣穴に帰り着くと、そのまま泥の様に眠ってしまった。

 

「ぴゅきゅ~!ありちゅのみゃみゃたちはちっともゆっきゅりちてにゃい いにゃかものよっ」

 

「ゅぅ、れいみゅちゃちうみゃれてるにょに じぇんじぇんきぢゅいてきゅれないよぉ」

 

停戦合意前から意識はハッキリしていたのだが、必死に茎にしがみついて嵐が過ぎ去るのを待っていた、最後に残った赤ゆ達。

 

恐怖のあまり、ギュッと目を瞑ったまま産声を上げることも無く耐え抜いていたのが災いし、まだ生まれていないと判断されてしまったのだ。

 

お腹が空いたと泣き喚けば良かったのだが、不甲斐ない両親への憤りが先立って、赤ありすは思いがけない行動に出る。

 

「ちょうよ、ぴゃぴゃがいにゃいのがいけにゃいんだわ!ありちゅはぴゃぴゃをちゃがちにいっちぇきゅるきゃら、いもーちょはゆっきゅりまっちぇちぇね!」

 

「ゆ?おねーちゃ?」

 

止める間もなくベットから転がり落ちると「ゆっち!ゆっち!」と一晩掛けておうちを飛び出してしまう。

 

そして2度と帰って来なかった。

 

「どぼぢてありすににだどがいばなおぢびぢゃんだげいなぐなっでるのよぉぉぉ!どごにやっだんだぐぞれいむぅぅぅ!」

 

「しらないよっ、そんなことよりこのうちゅういちきゅーとなおちびちゃんにくきさんをたべさせるのがさきでしょ!ばかなの?しぬの?」

 

「おねーちゃにょゆーちょおり、おちぉーしゃがいにゃいとゆっくちできにゃいんだね…」

 

赤れいむが頼もしい父性を自分に課すに至った要因は、此処にあったのかも知れない。

 



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にっ、おちょーしゃになりたい

「しゃーく、しゃーく!‥‥‥ち ち ち ちぁわしぇぇぇ~~~!ゆっくち♪ゆっくち♪みゃみゃもおきゃーしゃもゆっくちしちぇいっちぇねっ!」

 

この世に生れ落ちる瞬間から死の恐怖に晒されて、同じ境遇を慰めあった姉も失い、半日以上も飢餓感を味わい続けた赤れいむ。

 

だが、ようやく野生のゆっくりが享受出来る、最も普遍的で且つ最上級のゆっくり出来る時間を味わっていた。

 

しかも、多少萎びてはいるが本来与えられる筈の量の8倍。それこそ金バッジの飼いゆっくりですら口に出来ない丸2本分の茎は、彼女の成長にそれなりーに寄与する。

 

「ゆっくりしていってね!」

 

「ゆぅぅ‥‥‥ゆっくりしていってね、おちびちゃん」

 

赤れいむの元気な挨拶に、満面の笑みを湛える母れいむ。

 

泣き腫らした顔に、僅かに笑みが戻るママありす。

 

両親の間に漂う微妙な空気を本能的に察知した赤れいむは、自身の最大の効能でもある、鎹(かすがい)としての役割を存分に発揮しようとしていた。

 

赤れいむがママありす産であったのは、この番から生まれた中で唯一の救いだったかも知れない。

 

己が餡を分けたママありすは勿論、れいむ種は自分に似た子を優先的に可愛がる習性が有る為、母れいむは最後に残ったおちびちゃんを可愛がらない理由が無い。

 

もしも唯一残った子がママありす産のありすであれば、両親から寵愛を得るのは非常に難しかっただろう。

 

「おきゃーしゃはちょっちぇもゆっくちしちぇるね! ゆゅ、みゃみゃはどこきゃいちゃいいちゃいにゃにょ? れいみゅがなおちてあげりゅからゆっくちよくなっちぇね!」

 

『ゆわぁぁぁ!』

 

モゾモゾとママありす側に這い寄ると、哀惜の涙痕を「ぺーりょ、ぺーりょ!」と舐め始める。

 

何という事だろう!生まれたばかりの我が子が、ゆん生を終えるその日まで決して癒える事が無いと思われた心の穴を、みるみるうちに塞いでくれる。まるで「おれんじじゅーす」のよう!

 

れいむに似たおちびちゃんでさえこんなに都会派なのだ、自分似であれば、どれだけ高貴なゆっくりになるのだろうか?ありすの中のありす、クィーンありすであってもおかしくはない。

 

いや、きっとそうに違いない!歓喜に震えるママありすの「かすたーど」はアッと言う間にぽかぽかを通り越し、熱く煮え滾っていた。

 

「んほっ、んほぉぉぉ!ありがとうおちびちゃん、ままはすっかりげんきになったわ!れいむ、このてんしにかわいいいもうとをぷれぜんとしてあげましょうよぉぉぉ!」

 

「ゆゅ!いもーちょ?」

 

母れいむの「およめさん」に名乗りを上げて以来、胎生型にんっしん!をするのもさせるのも頑なに拒み続けて来たが、今なら出来る。

 

いや、むしろさせたい。たっぷりねっちょり、思う存分「すっきりー!」がしたい。

 

多少備蓄は減ったが、梅雨を迎えるのは当分先の話。育てるおちびちゃんはたった1ゆだけなのだから、片方が狩りをすれば次の子を作っても余裕で賄える。今夜は寝かさないわと息巻いた。

 

「いやだよ」

 

「えっ‥‥‥え?」

 

何を言っているのだろう?ママありすには理解出来なかった。

 

今まで何度アプローチされても中々その気になれず、ズッと断り続けていた。それでもおちびちゃんが欲しいと言う番の熱意に負け、最終的に「すーりすーり!」によるすっきりー!を条件に妥協したのだ。

 

だから、天に向かってそそり立つ逞しい「ぺにぺに」を見れば、母れいむは進んでまむまむを「くぱぁ」するだろうと思ったのだが、実に素っ気無い。

 

「ゅ~?みゃみゃはぴゃぴゃぢゃっちゃにょ?」

 

足元では純真無垢な愛娘が、不思議そうに自分を見つめている。

 

実際のところ、舌が疲れたのと自分が舐めた付近は濡れているので、下腹部?辺りでの「すーりすーり」に移行していた赤れいむ。

 

その行動によって体が勝手に反応してしまっただけなのだが、ママありすが知る由も無い。

 

「そっ、そうね!おちびちゃんのまえではしたなかったわよねぇ?ありすったらいなかものまるだしのちぇりーさんみたい‥‥‥こーゆーのはろまんちっくなむーどがだいじいよねっ」

 

そんな風には全く見えなかったのだが、もしかしてツンデレ?そういったプレイがお好みで、誘っているのだろうか?

 

心情的には乗られるのではなくて乗りたいのだが、自分のお腹を痛めて産んだ子の方が愛着も湧くだろうし、よくよく考えてみればクィーンの父と呼ばれるより、母でありたい。

 

まぁ取り合えずその辺は追々、場の空気に任せて臨機応変に望むとしよう。さぁ、オーダーを!

 

「よくきいてねありす、れいむはこのおんりーわんなおちびちゃんをむれでいちばんゆっくりしたびゆっくりにするよ!うたひめだよっ、あいどるだよっ、すえはおさのおくさんだよ!だからこのおちびちゃんがしんでれらさんになるまですっきりー!はふうっいんっするよ!」

 

「はぁぁぁ?なにいっってるのぉ?! このこはとってもとってもとかいはだけど、れ い む なのよぉぉぉ!? 」

 

その気になったところで、まさかのすっきりー!レス宣言。

 

しかも、都会派レディな自ゆんの茎から産まれたおちびちゃんとは言え、底辺の象徴たるれいむ種を、群れ1番の美ゆっくりに育てるなどとの狂った誇大妄想のオマケ付き。親馬鹿にも程がある。

 

もしも自分がお嫁さんになってあげなければ、今頃は番兵みょんに「あまあま」と引き換えに精子餡を分けて貰い「しんぐるまざー」にでもなるのが関の山だったクセに?

 

自分達の馴れ初めのうち、都合の悪い記憶を少しずつ「うんうん」として垂れ流していたママありすは「すっきりー!」が出来ないストレスも手伝って、本気でそう思い込み始めていた。

 

くどいがこの群れのヒエラルキーでは、圧倒的上位にまりさ種が君臨する。

 

他の通常種には見られない雄雄しさ。人間の手に勝るとも劣らぬ素敵なおさげと、何でも運べる立派なお帽子。父に良し、夫に良し、我が子に良し。

 

時々母性溢れるまりさも居るが、それはそれで良い物だ。

 

まりさには及ばずとも、その俊敏性を活して狩りが得意な「ちぇん」種も人気だが、数が少ない上に群れには1ゆも居ない「らんしゃま」を番にしたがる傾向が強いので、優先順位は低い。

 

頭脳労働が得意な「ぱちゅりー」種は群れの運営には欠かせないゲ…もとい、知恵袋存在だが、体力的にはれいむ種にさえ劣る為、妻にするならまだしも夫にしたいとは思われない。

 

結果、おさげや帽子は無くとも舌使いが巧みで、れいむ種よりもタフで、ぱちゅりー種に次いで頭脳明晰なありす種には、一定の需要がある。れいむ?論外。

 

「だから?このむれでいちばんかりのとくいなれいむはしあわせー!になれた?とかいはなありすはみーんなまりさのおよめさんだったっけ?れいむはいかずごけぇ!にならなければそれなりーでがまんしろってこと?」

 

「べっ、べつにそこまではいってないでしょ?でもせめていっきおくれのあらさー!(※)になってもこまらないようにたべられるくささんとか、ふかふかなべっとさんのつくりかたをさいっゆーせんでおしえてあげるのが、おやのつとめだっておはなしさんよ!」

 

「あらしゃーっちぇときゃいは?いかじゅごけぇ!はいにゃかもにょ?」

 

【アラウンドサードシーズンの略。生後6~9カ月が経過し、親元を離れて1ゆ立ち出来る年頃になった新成体の別称。ゆっくりの独立≒自分の家庭を築く、である】

 

なんて言い草だ、自分は不幸のドン底に転げ落ちた幼馴染れいむを不憫に思い、救いの舌を差し伸べた慈愛の女神であると言うのに!

 

ママありすの中枢餡に「ビキィ!」と筋が走る。

 

夫婦喧嘩が引き分けに終わったのも、自ゆんの茎とれいむの茎に実った赤ありすの安全を慮って力をセーブしたからで、本気を出していれば「ふるぼっこ!」にしていた筈だ。

 

どんなに盆暗でも夫を立てるのが妻の務めと耐え忍んで来たが、コレは「ぷくー!」せざるを得ない。

 

一触即発の空気漂う中、親ゆ達の教育方針は平行線を辿った。

 

白熱の議論はお昼まで続いたが、流石にお腹が空いて来たので一先ず我が子の希望を汲み、当面はそれに沿う方向で纏まった。

 

「ねぇ、おちびちゃん?あなたはしょうらいどんなせいゆんになりたいのかしら?とかいはなきゃりあうーゆん?それともたゆんにこびをうっていきるばいゆんふもどき?」

 

「どおしてそんなこというのぉぉぉ?! うたっておどれるすーぱーあいどるさんになりたいよね?ねっ!? 」

 

昨日と同じく鬼気迫る表情で口論を繰り返す両親。まだ暴力には訴えていないが、おそらく時間の問題だろう。

 

やっぱりゆっくり出来ないよ、自分が早くなんとかしないと。手前勝手に結論付け、意志を固める赤れいむ。

 

気持ちを落ち着かせる様に目を閉じ、吸ってもいない息を吐いてこう宣言した。

 

「ゆっ!れいみゅはやっぴゃり りっぱにゃおちょーしゃににりゃいたいょ!」

 

『はぁ?』

 

達成感一杯のキリッとした表情の赤れいむとは対照的に、思わぬ回答に呆けた両親は「あすとろん!」でもしたかのように固まってしまった。



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さん、いっきおくれのあらさー

「…おちびちゃんはどうしてそんなこというの?」

 

赤れいむの宣言に、母れいむはみるみるうちに顔を曇らせる。

 

母――になる前の次女れいむは、所謂「だぜまりさ」の父と「元飼ゆっくりれいむ」の母、そして姉妹には姉の長女れいむと末っ子まりさが居る、5ゆん家族に生まれ育った。

 

彼女は父親の教育方針により、普通のれいむとは異なる育てられ方をしている。

 

「おちび、おまえはれいむにしとくのがおしいくらいゆうっしゅう!なまりさのあんこをうけついでいるのぜ、だからどこにだしてもはずかしくない、さいっきょう!なれいむにそだてるのぜ」

 

我が子に何か特別な才能を見出した訳では無い。そうかと言って気紛れでした発言でも無い。

 

父親のまりさは隣に住む自分の妹まりさとの間で、互いの跡継ぎ(まりさ種)に相応しい番候補を育て合う「きょうってい!」を結んでいた。

 

自身こそ狩りの達ゆんと呼ばれるクラスのまりさだったが、彼女の母もそのまた母もその先も、この群れでは「姫まりさ」と呼ばれる大人しく家庭的な美ゆっくりの餡統。妹も御多分に洩れず姫。

 

だから父親は、一番最初に生まれたれいむが長姉として滅多矢鱈と母性を振り撒こうとするのを見て、取り敢えず次女は、許婚(候補)も姫であった場合の備えとした。

 

群れが今のゆっくりぷれいすを見つけた時から続く、由緒正しい「めいっもんまりさ」として当然の配慮だった。

 

「ゅ、れ~みゅもちょうおもっちぇたんぢゃよ!れ~みゅはきっちょおちょーしゃをもきょえるきゃりにょてんちゃいににゃるよ!」

 

ゆっくりは思い込みの力により、種として領分すら簡単に覆すナマモノ。

 

厳しく狩り(と言っても人間でいうところの採集が主)を仕込まれたので、少々甘やかされて育てられた末っ子まりさより、優秀な狩ゆとなった。

 

そしてその腕前を活かし、木の実でも蝶でも許婚(候補)に望まれるまま、狩りを覚え始めた子ゆの頃からその皮を削り、時には自分に与えられた特別な「あまあま」でさえ口にせず貢いでいた。

 

こうした努力が実って、長姉れいむや幼馴染のぱちゅりーとの恋のもみあげ(鞘)当てを制し、想いを寄せてくれたちぇんの告白を振り切って、見事に許婚まりさのハートを射止める。

 

長にも無事「えっとう!」をした暁には番になると報告し、家族のみならず幹部達にも満場一致で祝福された。

 

今思えば、正に「しあわせぇ~~っ!」の絶頂。それなのに、ポッと出のビッチれいむに寝取られてしまったのだ。

 

まりさ種とは思えないほど可憐で、出会ってからお別れを切り出されるその日まで「だぜのぜ」口調を使っている姿なぞ、だだの1度も見た時が無かった。

 

そんな許婚まりさが、怖い顔をした大人達から枝を突き付けられ、群れから「ついっほう!」すると脅されても、

 

「まりさはばーじんさんをささげあったれいむといっしょになるのぜ!」

 

と、そのお下げに絡まるビッチれいむを決して離そうとしない。その姿を見て、次女れいむは全てを諦めた。

 

結局、当時の長は貴重な成体まりさを失うリスクを回避する方向に舵を切った。ビッチのお腹に宿っているであろう、新たなまりさ種の誕生に期待したのだ。

 

群れに納める税の割り増しを条件に2ゆを番として群れで生活する事を認め、その代償として各々の家族達に対し、次女れいむの一家に対する「いしゃりょう」の支払いを命じている。

 

許婚――いや、裏切り者まりさの両親は、我が子は狩りの得意な次女れいむと番になるものと慢心し、幼馴染「達」に甘えてゆっくりしてばかりいる娘を「とてもゆっくりしたゆっくり」と誇りにさえ思っていた。

 

そんな馬鹿親にもかかわらず、片割れであるパパありすは狩りも道具作りも器用にこなす大変評判の良いゆっくりで、次女れいむが獲物を運ぶのに愛用している籠も、彼女のお手製だった。

 

若い頃は群れ1番の美ゆっくりと誉れ高いママまりさを番にし、誰もが羨むしあわせー!な家庭を築いたのだが、そんな生活が一転する。

 

祝福されない番には罰として1から新居を用意しろと命じられた為、巣穴を掘る必要が有るのに、花嫁は身重で何もさせられない。そればかりか、

 

「れいむはにんぷさんなんだよ!ごはんさんをいっぱいだべなきゃおなかのおちびちゃんがゆっくりできないよ!」

 

と、自分達のおうちに勝手に転がり込み、大飯を喰らっては寝てばかりいた。

 

姫として大変ゆっくり育った裏切り者まりさが、実は狩りの才能を秘めていた、なんて都合の良い話がある訳も無い。

 

出来るのはまりさ種としてはマシな程度なおうたと、都会派なコーディネートを少し齧ったぐらいで、枝を咥えた事すら無かった。

 

春を迎え、もう1ゆの自立も時間の問題。それならば、とママまりさの額は既に鈴生りとなっており、パパありすは泣く泣く自分似の実ゆっくりを間引いている。

 

2家族分のごはんさん集めを一手に引き受ける羽目になり、狩りの合間を縫っては我が子に巣穴の掘り方から教えてやらなくてはならない状態。

 

当然、相手の家族にも慰謝料の分担、そうでなくてもせめて巣立ちの日までは自分の娘の面倒ぐらい見て欲しい、と持ちかけたのだが相手は「しんぐるまざー」のでいぶ。

 

大事な働き手を盗られて困っている。自ゆんには他にもまだおちびちゃんが居るのだから、コッチが援助して欲しいぐらいだ!とまるで聞く耳を持たなかった。

 

周りからは躾の足りない馬鹿な親だと白い目で見られるばかりで、舌(手)を貸すどころか慰めもしてくれない。

 

えっとう!中に夢見た新しい子や孫ゆ達に囲まれた「へっぶんじょうたい!」は何処に行ってしまったのだろう?

 

いっそ駆け落ちでもしてくれれば楽だったが、長の裁定により、妻と子は黒い帽子に良く似合う、とっても素敵な白いおりぼんを担保として取り上げられていたので、今さらどうにもならない。

 

「まりさ!ゆっくりしていってね!」

 

「ゆ?!‥‥‥ごめんねありす、まりさはいまからゆっくりいそいでおぼうしでいけさんをわたるこうっしゅうかいにいかなくちゃいけないんだ!おうちのなかにはおねえさんがいるから、いっしょにゆっくりしていってね!」

 

苦境に立たされた裏切り者まりさ家族の1ゆ、従姉妹ありす。

 

隣のれいむ姉妹や末っ子まりさとは親戚同士、家族ぐるみの付き合いをしていたのだが、最近は毎朝毎晩ゲスで田舎者な姉の尻拭いに駆り出され、すっかり疎遠になってしまった。

 

れいむ種みたいに必死にならずとも困らない為、両親も娘を積極的に末っ子まりさと番にさせようとはしなかった。望むのなら応えよう、そんな程度の認識でしかなかった。

 

だから2ゆの仲は「他の姉妹の色恋沙汰なんか自分達には関係無い!」などと言わせるには程遠く、どうにか時間を作って会いに行っても、ぞんざいな扱いを受けている。

 

恋のライバル達は本命候補の思わぬ脱落に、ほくそ笑んでいた。

 

「そんなっ‥‥‥まりさのおねえさんが、ありすなんかとゆっくりしてくれるわけないのに‥‥‥そう、そうね、ありすはかくごをきめたわ!ごきげんよう、ありすのだいすきなまりさ」

 

ふさぎこむ次女れいむは狩りにも行かず、おうちでゆっくりすることが多くなっていた。

 

母親の元飼いゆっくりれいむは厳しい自然の冬には耐え切れず、次女れいむの失恋を知ること無く「おそらのゆっくりぷれいす」に旅立っており、留守を任せるのに都合が良かったので、誰も咎めなかった。

 

「れいむ、ゆっくりしていってね!」

 

「ありす?‥‥‥ゆっくりしていってね、でもいもうとはおでかけだよ?」

 

末っ子まりさの元には年頃のゆっくり達が、代わる代わる手土産を持って遊びに来る。

 

だが、恋ゆんの為におかざりが汚れたり傷付いたりするのも厭わず狩りに精を出していた「ゆっくりできないゆっくり」には、見向きもしない。

 

「だいじょうぶ、ありすはれいむにおはなしがあってきたの」

 

人気者の妹なら居ない。だからさっさと帰れ。事情を知った上でなお「おぉ、あわれあわれ(笑)」と蔑まれるのはもうたくさんだ。

 

つい最近までは妹みたいな存在として可愛がっていた筈なのに、お喋りするどころか顔も見たくない。どんな話題を振られても適当にあしらっているのに、一向に帰る気配すらない。

 

業を煮やして一体何の用だと訊ねてみると、従姉妹ありすは一呼吸おき、真剣な眼差しで自分を見つめる。

 

「れいむ、ありすをれいむのおよめさんにしてください!」

 

「ゆぅぅぅ!?」

 

次女れいむは最初こそ驚いたが、しばらくすると自ゆんと従姉妹ありすの置かれている状況を冷静に把握した。

 

このありすは、自分の家族から慰謝料代わりに父の「ごさいさん」とは名ばかりの「すっきり奴隷」として差し出される前に、先手を打ったのだ。

 

自分を裏切った相手の妹が?馬鹿にしてるのか?けっかい!用の枝で体中「ぷーすぷーす」してやろうかとも思ったが、実際問題として次女れいむに選択の余地は殆ど残されていなかった。

 

ライバルだったぱちゅりーは自分との争いに敗れたショックで自棄になり、しつこく言い寄る喪れいむと番になった。

 

カマキリに齧られて泣いていたので仇を討ち、ついでに傷をぺーろぺーろしてあげたり、狩りの途中に悪天候に見舞われて帰れなくなり、寒さと恐怖に震えているからすーりすーりして暖めてやった妹分的なちぇんは、なんと長姉れいむと番になっていた。

 

れいむ同士でも構わないのなら相手は簡単に見つかるだろうが、足元を見られるに決まっている。それに、生まれて来るのは苦労するのが目に見えているれいむ種だけ。そんなのは絶対に嫌だ。

 

こうして、次女れいむは従姉妹ありすと番になった。

 

一応同情されている彼女は、群れの中で空いている巣穴を優先的に使わせて貰える権利を得ていたので、おうち探しには困らない。新居用にと餌はたっぷり集めていた。

 

お歌は上手だったが、寝床作りやごはんさんの管理がド下手だった母親とは違い、新妻となったありすは快適な生活を提供してくれた。

 

そのまま「かじてつー」として老いた父親の面倒を看ながらゆん生を終える「いかずごけぇ!」にならないで済んだのも、素直に感謝はしている。

 

だが、心を許して遂に「ふぁーすとちゅっちゅ」交わそうとしたのに、ソレをやんわりと断られた時は餡子を吐きそうなくらいショックだった。

 

「このむれのれいむは、すこしぐらいぼーいっしゅ!なほうが、とかいはよ?」

 

「ゆーん♪ れいみゅわちょきゃいはー!」

 

「そうだね、ゆっくりりかいしたよ…」

 

母れいむは自分の餡子が「みずよーかん」みたいに冷えて行くのを感じながら、苦渋の選択を受け入れるしかなかった。



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よん、せ…ぇいさいきょーいく!

生後3日目。巣穴には母れいむと赤れいむの2ゆしか居ない。

 

別にママありすが愛想を尽かして「じょうっはつ!」した、なんて話では無い。お昼は「とかいはままのふろーらるさらだ」にするわ!と、張り切って狩りに出掛けただけである。

 

一般的なゆっくりの番は完全分業制なのだが、お互いにお嫁さんの立場を譲らない為、狩りと育児は1日おきの交代制になった。昨日は真っ昼間から黄昏ていた母れいむが遅まきながら狩りに出て、ママありすが子育てに励んでいる。

 

多分レンゲ草でも毟って来るのだろう。どうせなら蜜を集めに来る蜂や蝶でも捕まえた方が美味しいのに、などと母れいむはボンヤリ考えていた。

 

「おかーしゃおかーしゃ、れいみゅうんうんちたい!」

 

そんな彼女に向かって、さっきまで眠っていた赤れいむが「もるんもるんっ」と自分の尻を突き出して来る。

 

ゆっくり種の人智を超越した生態の1つに、経口摂取した物質を体内の餡へと変換し、古くなった餡を老廃物として排出する点が挙げられる。

 

人間からすればれいむ種の排泄物なんぞ漉餡か粒餡に過ぎないのだが、ゆっくり達はソレを「うんうん」と呼び、思い込みの力によって生き物には嗅ぎ取れない臭気を感知しているらしい。

 

「だいっじょうぶだよ!おちびちゃんはちゃんとおしめさんをしているよ!おといれはまだはやいから、そのまますーぱーうんうんたいむをはじめてねっ」

 

「ゆぅ、みゃみゃわ れいみゅにょあにゃるさんぺーりょぺーりょちてくりぇたょ?じゃきゃりゃきょーわおかーしゃがあにゃるしゃんぺーりょぺーりょちてねぇぇ♪」

 

「わかってるよ!ぺーろぺーろはうんうんがおわったらしてあげるよ!ついでにしーしーもするといいよ!」

 

赤ゆは成長サイクルが早く、日がな1日食べる⇒出す⇒寝る⇒食べるを繰り返す。1日あたりの食料消費量は成ゆんの約半分に匹敵するのだが、その一方で排泄機能が著しく低い。

 

だから親ゆは子に「うんうんたいそう」と称する自発的な排泄促進動作をさせるか、母猫が子猫にする様に肛門を舌で刺激して排泄を促す必要がある。さもなくば古くなった餡が体内で腐敗・膨張し、餓死より苦しみながら永遠にゆっくりする事になるだろう。

 

自分が集めてきた舌触りの良い葉っぱを「しんな~り」するまで日向ぼっこさせ、ママありすが赤ゆサイズに千切って作ったおしめさん。自分もありすもたくさんたくさん にんっしん!してたから、おしめさんもたっくさん用意した。

 

自ゆんが幼い頃には母親が毎日綺麗にしてくれた記憶もある。かわいいおちびのあなるさんなら、汚くなんか無いのだ。

 

「ちぎゃうょおきゃーしゃ、うんぅんわあにゃるしゃんぺーりょぺりょしちぇくれにゃいちょでにゃいんぢゃよ?ちょれにおちめしゃんにちーちーしちゃら、ゆっくちできにゃいでちょ?りきゃいできりゅ?」

 

「…おしめさんはおちびちゃんのおといれなんだよ、あなるさんをきれいきれいにしたらあたらしいおしめさんにかえてあげるから、はやくしてね?」

 

「いゃじゃあああ!れいみゅおしめしゃんちたままぢゃ うんぅんでにゃいよぉぉ!」

 

要望を素気無く却下され、地面に転がりながら駄々を捏ねる赤れいむ。こう言ってはいるが、実際に便秘気味な訳では無い。

 

昨日はママありすとほっぺをすーりすーりしたり、砂糖水の唾液でフニャフニャになるまで噛み締めた草を与えられたり、おうたを聞かせて貰いながらすーやすーやもしたが、1番気持ちが良かったのは全身を隈なくぺーろぺーろして貰った時だった。

 

おやつを喰い散らかした口の周り、ぴこぴこ、おりぼん、へあーさん、そして最後にあなるさんへの刺激は衝撃的だった。この世にこんな気持ちが良い事が他にあるのか?!と狼狽する程に。

 

おむつかぶれを懸念したママありすは、赤れいむが「すーぱーすやすやたいむ」に突入する前に、出す物を全部出させてしまおうとしたのだ。

 

なお、感極まった赤れいむが「うれしーしー」とうんうんを口の中に同時に噴射してしまい、自身のカスタードを吐き出す破目に遭うのは想定外だった模様である。

 

親同士が喧嘩をしている最中に漏らした「おそろしーしー」と茎を食べた時の感動の「うれしーしー」を除けば、赤れいむは消化後の初「すーぱーうんうんたいむ」以外、全ておしめの中に用を足している。

 

出した直後はスッキリするが、必ずベチョグチョとした不快感と異臭に苛まれ、泣き喚いて知らせるまで開放されないから、全然ゆっくり出来ない。

 

それは誕生から48時間にも満たない赤れいむのゆん生の中で、ワースト2位にランクインしており、反対にベスト1位か2位にすべきか悩んでしまう優しく柔らかで暖かい舌の感触を求め、甘えているのだ。

 

「そう、じゃああなるさんをこっちにむけるんじゃなくて、あおむけになるんだよ」

 

「ゆっきゅりりきゃいちたょ!れいみゅはちょのみをおかーしゃにゆじゃにぇるよ!‥‥‥ふぇ?へぎゅゅゅう?!」

 

余計な事をのたまいつつ“ころーん”と仰向けになる赤れいむを待っていたのは触手スカトロプレイでは無く、下腹部への強力な圧だった。

 

母れいむは、自分の「もみあげ」を赤ゆの腹にグリグリと押し付け始める。

 

「いちゃい!いちゃいよおかーしゃ!れいみゅのあにゃるしゃんめきゅれちゃううう!」

 

「このくらいならへーきだよっ、ぽんぽんぐーりぐーりしててあげるから、おちびちゃんはゆっくりしないでうんうんしてね!」

 

母れいむのもみあげは吐餡防止の為、ちゃんと口も塞いでいる。ゆっくりは口を縫い合わせでもしない限り何故か喋れるので、会話は可能だ。

 

もみあげを必死にピコピコさせてはいるが、いくら暴れようとも赤ゆの力ではどうにもならない。早く漏らせば楽になるのだが、潰されまいとするのに必死で便意も何処かにお出掛けらしい。

 

「はなちてぇぇ!れいみゅにゃんにもわりゅいこちょちてないでちょー!?」

 

「おかーさんはさっき、うんうんたいそーしようねっていったのに、おちびちゃんはぶらんちさんをむーしゃむーしゃして、すぐにすーやすーやしちゃったでしょ?あまえちゃだめだよ」

 

群れの1番の美ゆっくりにする、などと宣言しておいて何だが、自ゆんの壮大なる決意表明を真っ向から否定するママありす相手に引くに引けなくなっただけで、正直なところ「同世代のれいむ種の中では1、2を争うレベル」になれれば御の字だと思っていた。

 

おそらく優しく冷静に諭されていたら「てへぺろ」して下方修正していただろう。一生懸命頑張って、結果として2番ならソレで良い。だが端っから2番じゃ駄目なのか?なんてのはゲスのする考えだ。

 

「でみょれいみゅぽんぽんいちゃくてうんぅんたいしょーにゃんかできにゃいよぉ!」

 

「だからてつだってあげてるでしょ?れいむがきびしいのはおちびちゃんのためだよ?りっぱなおとーさんになるためにゆっくりりかいしてね!」

 

自ゆんは子ゆの頃、父親まりさにアイドルに「なりたい」ではなく「なれないの?」と聞いただけで「そんな軟弱ゆんは制っ裁なのぜ!」と土下座して謝っているのにおかざりを取り上げられ、一晩中ゆんゆん泣き明かした苦い思い出がある。

 

そして「うるさくってねむれないのぜ!」さらに制裁。母親れいむはオロオロするばかりで、姉や妹は震えているだけ。後で慰めはしてくれても、体を張って守ってくれたりはしなかった。

 

成長してどうにか1ゆで狩りが出来るようになった頃、何ゆんかの比較的若いまりさに話し掛けられ、同情された。自ゆん達も「きょうっいく!」を受けた経験があるが「おにぐんそー」は厳し過ぎて「そっつぎょう!」出来るゆっくりは、滅多に居なかったと。

 

どんなに狩りが上手くても幸せになれるとは限らないのは、母れいむが生き証ゆんである。だから、せめて小さいうちは普通のれいむらしいゆん生を歩んで欲しいと願った。なのに、この子は「おとーさん」になりたいと言う。

 

上等じゃないか?れいむ種の身で父として、一家の主として歩む道程がどれだけ困難を極めるのか、その餡にキッチリ刻み付けてやろう。

 

自分以上の、それこそ狩りの達ゆんと呼ばれるぐらいにならなきゃ嘘だ。その覚悟が無ければ死ぬ。挫折するなら早い方が良い。

 

「しょんなぁぁぁ、おとーしゃたちゅけてぇ~」

 

「ごうっじょうなおちびちゃんだね‥‥‥それならこのうんうんがでやすくなるくささんをたべるといいよっ」

 

母れいむはもう片方のもみあげで小分けにした草を一摘みすると、赤れいむの口に押し込んだ。

 

何がなんだかわからないが、とにかく怖い。それでも口の中の物を食べればこの苦しみから開放されると、信じて赤れいむは急いで咀嚼する。

 

「ゆゅ、れいみゅわくしゃしゃんをむーちゃむーちゃしゅるよっ――ゆげぇぇぇ、きょれどきゅはいっちぇるぅぅぅ!」

 

「どくなんてはいってないよ!くさくってにがにがなだけでいっぱいはえてるから、かりのへたなゆっくりはこれをよぉーくかんでからたべてるよ!たべすぎるとうんうんがゆるゆるになるからちゅういしてねっ、はいちゃだめだよ?」

 

苦い、臭い、こんな不味い物が食べられる訳が無い!と吐き出したが、一緒に出てしまった餡子と混ぜこぜにして詰め込まれ、再び口を塞がれる。独特の青臭さとえぐ味にもがき苦しむ赤れいむは、母れいむの解説なぞ半分も聞いちゃいなかった。

 

母れいむは自ゆんの行為が過剰であると理解してはいるが、困った時の備えとして実家で貯蔵していた物を与えただけで、虐待しているつもりは殆ど無い。

 

うんうんが出易くなる、いっぱい生えてる不味い草――ドクダミには便秘解消や利尿作用があり、お茶として飲用し、それらの効能を得ている人も多い。お腹が弱い方は飲み過ぎに注意する必要がある。

 

「もうやじゃー!おうちきゃえりゅぅぅぅ!」

 

「ゆぷぷっ、ここがおちびちゃんのおうちでしょ?‥‥‥さぁ、うんうんでたみたいだからおしめさんをかえようね?」

 

「ゆぇ?れいみゅおしょらをちょんで――?!」

 

母親が自ゆんをヒョイと持ち上げると、聖母のような微笑みであなるさんをぺーろぺーろしてくれているのだ。さっきまでの悪魔みたいな冷酷さが、まるで嘘みたいだった。

 

「ゆわゎ~ぁ、ありがちょーおーかしゃ…」

 

「おかーさんがえいっさいきょういく!するのはおとーさんになりたいおちびちゃんだけだよ?そうじゃないおちびちゃんにはしないから、いやになったらいつでもいっていいよ!まいにちごはんさんをいっぱいたべて、おうたをうたったりおどりのれんしゅうをして、つかれたらすーやすーやしてるだけでいいんだよっ!」

 

魅惑の提案だった。目の前の、ホンの少し舌を伸ばせば届く幸せ。

 

受け入れれば、お母さんはママと同じように溺愛してくれるだろう。きっと無知な自ゆんの世迷言を真に受け、心を鬼にしてお父さんになる為の訓練に協力しようとしてくれただけなのだ。

 

諦めの気持ちと、本当にそれでいいのか?と迷う気持ちが赤れいむの餡中を駆け巡り、中枢餡がぐーるぐーるする。ゆっくりしたい。ゆっくりさせて欲しいと思う本能には逆らえない。

 

「ゅぅ‥‥‥ゆっくちりきゃいしちゃよ」

 

「そう!おかーさんうれしーよ♪いっしょにいっぱいゆっくりしようねおちびちゃんっ」

 

母れいむの瞳がパァっと輝いた。そして本当に嬉しそうに赤れいむを抱き抱えたまま、すーりすーりをし始める。

 

だが――

 

「だきゃりゃやめちゃくにゃっちゃら、おかーしゃにしゅぐゆーょ?」

 

赤れいむはブルブル震えながら、それじゃ駄目?と縋るような目で回答の先延ばしを試みた。

 

さっきの酷い目に遭った時、自ゆんはママでもお母さんでも無く、おうちには居ない筈のお父さんに助けを求めた。それは何故だ?

 

やはり、この家族にはお父さんが必要なのだ。居ないのなら、どんなに大変でも自ゆんがなれるように頑張ってみるしかないではないか。ゆっくりしたいし、させたいのだ。

 

母れいむが「そ」とだけ発して能面のようなお顔に戻ったところで、狩りを終えたママありすが帰宅する。赤れいむの天国と地獄が裏表の日々は、当分続きそうだった。

 



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ごっ、おうちせんげん!

生後から1週間が経過――

 

母れいむとママありすの間に生まれ、最後に残った赤れいむはスクスクと順調に育っていた。

 

「みゅーぎにぃ、ひじゃりに、ゆーりゃゆっ――ゆぎああぁ!いぢゃいいぃ」

 

「もぅ、なんどいったらわかるの?みぎとひだりがはんたいっこだよ!やりなおしっ」

 

とは言えお外に出すにはまだまだ早過ぎるので、巣穴では母れいむが左右の概念を叩き込んでいる。狩りの最中に危険が迫った時、そんな事もわからないのではお話しさんにならないからだ。

 

間違える度に、罰として鞭のような細い枝で軽く打たれる。やり直しの回数を物語るように、まだ白くてモチモチの赤れいむの皮は、ミミズ腫れだらけになっていた。

 

余談だがゆっくりは痛覚が異常なまでに発達しており、例えるならRPGで言う「1のダメージ」を0.1刻みで、0.8~1.2までなら正確に感じ取れる。

 

そして余程訓練を積むか、不幸にも虐待生活が恒常化して心を閉ざした個体を除けば、有らん限りのオーバーリアクションで自身の負傷を猛アピールするのだ。

 

これは種としての脆弱性をカバーする為の防衛本能であると推察され、人間の赤子が泣く事で親の庇護を求めようとするのと何ら変わりが無い。

 

ゆっくりが持つ他への依存性は尋常では無く、幼少期に親・姉妹に頼るのは勿論の事、成体になっても番に、群れの長や仲間達に、果ては自身の命を奪おうとしている相手にさえ縋ろうとする。

 

己の弱さを本能的に悟りながら、その一方で自ゆんは強い・賢い・美しいと誇張しがちな二律背反性は、種の保存にはそれなりーに役立っている。自然界の厳しい生存競争をハムスターにも劣るナマモノが生き抜くには、思い込みの力でアイデンティティを確立する他無い。

 

番や子供達に頼りになる存在と誤認させ、能力的には庇護される側でしかない存在を無自覚に奮い立たているのだ。時には本ゆんすら欺き通し、結果として一家や群れを破滅に導いてしまうのもご愛嬌、である。

 

赤れいむがゆっくりまったりな日と、えいっさいきょーいく!の日を交互に繰り返していた頃、群れではチョットした騒動が発生し、ゆっくり達の間ではその話題で持ち切りとなっていた。

 

「もっど、もっどじっがりざずれぇぇ、ごのぐぞばばぁ~~っ!」

 

「ごめんね、ごめんねれいむ、もうすこしだよ、もうすこしだからゆっくりだしてね?」

 

姑であるママまりさのおさげで腹を摩ってもらいながら、悪態をつくビッチれいむ。

 

居候中に喰っちゃ寝を繰り返して完全に「でいぶ」化しており、母れいむとママありす達とは異なる胎生にんっしん!をしていた裏切り者まりさの花嫁は、出産の時を迎えていた。

 

「ゆっぎぃぃぃ、うっ、ぶばれるぅぅぅ!ふごぉぉぉぉ!!」

 

獣の如き咆哮。眼球が飛び出さんばかりに目を見開き、汗と涎と涙を汚らしく振り撒きながら息んでいる様は、醜いの一言に尽きる。

 

事の発端は、彼女の号砲から始まった。

 

「おーとしゃおかーしゃはじめまちて♪みゃりさがもーしゅぐうみやれゅるよ!ゆっくちうけちぇめてにぇ?」

 

そのまむまむから、赤まりさが少し顔を出す。善良で利発そうな子だった。

 

少し離れた位置では不安げな夫のまりさと、ママまりさのお帽子を借りたパパありすが、飛び出して来る赤ゆ達を受け止めようとスタンバっている。

 

「れいむ!ゆっくり、ゆっくりだよ!もうおちびちゃんのおかおがみえてるから、だーりんのおぼうしにひょーじゅんをあわせないと!」

 

「ぶるざぃぃぃ!でいぶざまにざじづずるなぁぁぁ!ふんぬぅぅぅ…」

 

ママまりさの助言を無視して、でいぶが“すぽーん!”と第1子を世に送り出す。

 

ナスビ型に膨れ上がった図体は下腹部の角度が斜めに上向いており、出産時に勢いを付け過ぎないよう加減が必要だった。緩やかに、放物線を描くのが理想である。

 

何も考えず力一杯ひり出せばどうなるのかは、容易に想像出来た。

 

「みゃりさわてんちのちゅばしゃをしゃ“ぶちゅ”」

 

赤まりさの口上が、途中で途切れる。

 

「?‥‥‥おちびちゃん、どこにいるの?だぜ」

 

幾ら構えたお帽子を覗いたところで「中に誰も居ませんよ」でしか無い。

 

「ぶぎぃぃぃ、まだうばれるぅぅぅ」

 

そんな状況なぞお構い無しに、でいぶは第2子をお空にリリースしようとしている。

 

「――まりさっ!」

 

このままでは、おうちの天井に餡の染みが増えるだけだ。それを悟ったパパありすは愛する妻に声を掛けると、咥えていたお帽子を愚かな娘嫁のまむまむに引っ被せた。

 

以心伝心。夫の意図を汲み取ったママまりさが、でいぶに覆い被さる自ゆんのおかざりの反対側の鍔を、ぎゅっと噛む。

 

「ゆっぷっぷっ、ひきゃりきゃぎゃやきゅまーちゃにょたんぢょーにちっとちて、たいよーしゃんぎゃいにゃいいにゃにゃいしちゃのじぇー“しゅぽん!”ーふぎょお?!」

 

夫婦の共同作業で見事、孫まりさをお帽子の中に収めていた。

 

「さいごぉぉぉ!ざっざとぢぢおやらじいどごろぉみぜろっ、ぐずばりざぁぁぁ」

 

「かちゅもくしぇよ!まんをぢしちぇびーにゃすしゃまがげんしぇにしゃいりんしゅるよ!」

 

「ゆゆっ、まかせてね!だぜっ、まりさはだでぃとしてのはつしごとをかんっぺき!にすいこーしてみせるのぜ?」

 

長女の出産に失敗し、次女はアレコレ口喧しい舅・姑に救われた。

 

せめて末っ子ぐらいは自ゆん達でどうにかしなければ、格好が付かない。産みの苦しみにも終わりが見え始めたところで、でいぶは己の面子を保つ為に愚図亭主を叱咤した。

 

我が子の誕生に感動し、スッカリ惚けていた裏切り者まりさ。喝を入れられたお陰でようやく使命を思い出し、キリリとお帽子を構え直す。

 

「にかいもうめばようっりょうはりかいしたよ!まりさはかまえてるだけでいいから、うごかないでね!」

 

でいぶが「噴っ!」と壱ひりすると、赤れいむが“ぽーん!”とお帽子に向かって綺麗なアーチを架けた。

 

『ちぇーのぉ、ゆっくちしちぇいっちぇね☆』

 

『ゆっくりしていってね!』

 

銘銘に決めポーズを取りながら挨拶をする赤ゆ達。パパありす達のおうち中に、久方ぶりとなる「しあわせー!」な空気がもたらされる。

 

娘夫婦は結果として2ゆ、1まりさ1れいむを授かった。ゆっくり的に長女の件は事故と言うより死産に等しく、カウントには含まれない。何時間かすれば、うんうんと共に忘却の彼方へと葬り去られるだろう。

 

全滅したのなら話は別だが、基本的にポジティブ思考の塊であるゆっくり達にとって、可愛いおちびちゃんと一緒にゆっくり出来る時間があるのなら、そうでは無くなった同族の死を悼む暇が惜しいのだ。

 

――そして、その翌日。

 

『ゆっきゅちりきゃいしちゃよ!』

 

「いくよおちびちゃんたち?せーのっ、ここをでいぶたちのゆっくりぷれいするよ!」

 

パパありすがゆっくりする間も惜しんで孤ゆん奮闘し、数日前には娘夫婦が孫と暮らせるおうちをどうにか完成させていた。

 

我が家の都会派なコーディネートとは比べ物にならない簡素な造りだが、ふかふかの干し草で作ったべっとさんを用意したし、狭いながらも食事の団欒と貯蔵スペースも確保した。当然、雨さんが多い日でもおうちに流れ込まないようキチンと設計してある。

 

出産が近いからと何かと理由を付けて引っ越さずに居座り続けたが、ママまりさの茎に実ったおちびちゃん達だってもう生まれていても良い頃なのだ。そろそろ落ち着かせてあげたい。

 

愛娘を半ば強引に説得し、嫁に出した娘ありすと身重の妻まで引越しを手伝いをしている最中に、事件は起きた。

 

『なにをゆってるのぉぉぉ!ここはありす(とまりさ)のおうちでしょおお!』

 

「はぁぁ~~ん?ありすたちはしんっちく!におひっこしするからこのぷれいすはいらなくなったんでしょ?あきすでおうちせんげんをしたんだから、ここはもうでいぶたちのおうちだよっ!」

 

「そうなの?まりさゆっくりしてないおうちにおひっこししなくもいいの!? ゆわわーぃ♪」

 

自慢の「まいすぃーとほーむ」が乗っ取られてしまったのだ。信じられない事に、犯人は留守を任せた筈の嫁でいぶと可愛いお孫ちゃん達。

 

餡の繋がった愛娘は咎めるどころか同調する始末で、親ゆ達はここに来てようやく自ゆんの子がゲスであると思い知らされていた。

 

「りきゃいしちゃら しゅぐにきぇちぇにぇ?れーみゅぴゅきぅしゅるよ?」

 

「しょーにゃのじぇ~♪じじーちょばばーわちゃっちゃとじぇちぇいくにょじぇ~♪」

 

『ゆがーん!』

 

ゆっくり話し合おうとしても埒が明かず、已む無く事の顛末を長に訴えたのだが、他ゆん同士での諍いならともかく親子間の問題なら「みんじ!ふっかいにゅー」だとマトモに取り合って貰えない。

 

この群れでは、空の巣穴は共用物として長が管理しており、パパありす(本来なら裏切り者まりさ)が1から作ったケースは例外として、原則「おうち宣言」は認められていなかった。

 

だが抜け道として、老ゆっくりが番に先立たれて独ゆんになったり、大家族用に増改築していたから2ゆで住むには広すぎる、とワザと空き巣にしたフリをして子や孫ゆ達のおうちと取替えっこする「せいっぜんぞーよ!」のケースに限ってお目溢しをしている。

 

今回はソレに該当すると言うのだ。後付けの理由になるのだが、裏切り者まりさの家族は生まれたばかりの赤ゆ達を含めて4ゆん。パパありす達は茎の子を含めても3ゆんじゃないか、と。

 

安住の地を愛する子と孫達に奪われたショックから来るストレスにより、ママまりさの額に実っていた3つの実まりさのうち、2つが黒ずんで腐り落ちてしまったと言うのに!だ。

 

長や幹部達も実情は何となく察してはいたが、滞納状態だった税も(しんぐるまざーでいぶ一家の分も合せて)一括納付され、群れの財政は一気に潤った。今更仲裁に入ってパパありす夫妻に味方をしたところで、何の旨味も無い。

 

それに、しっかり者の彼女達なら冬さんが来る前にはそれなりーに備蓄出来るだろうから心配御無用。などと勝手に結論付けると、お見舞い代わりとしてママまりさの白いおりぼん返還でお茶を濁している。

 

結局パパありすとママまりさは、裏切り者まりさ一家の為に掘った粗末な巣穴に棲む他無く、多くのゆっくりした宝物を失った。

 

けっかい!を彩る紅葉のカーテン、すべっすべの石さん製の豪華なテーブル、パパありすが「ぷろぽーずっ!」の為に鳥さんの羽根を集めて作った渾っ身の「ふーわふーわべっとさん」も、みんな盗られてしまった。

 

ママまりさが大のお気に入りの、おそとまで運ばなくても済む超画期的な「ぼっとん!」式おといれは、巣穴の立地条件的にたくみっ!のリフォームでも再現は困難だった。

 

赤ゆの頃からずっと姫まりさとして野生のゆっくりとしては破格の温室育ちだったママまりさには、耐え切れない転落ゆん生。その心労は、残された一粒種にもしっかりと伝播した。

 

「ゆぴぴぴっ、ゆっ、ゆくっ、ゆくち!ゆくくっ」

 

おかざりの無いゆっくりと並んで忌み嫌われる「足りゆ」と呼ばれる未熟児・足りないゆっくり。

 

おといれにも利用されていた「うんうん奴隷」を自分が産んでしまった事に絶望したママまりさは「非ゆっくり症」を発症。負の連鎖は何処までも留まる所を知らなかった。

 

愛する妻だけは失いたくない一心で、義姉(ママまりさの姉であり、母れいむの父親)に「ろーんさん」をして群れに伝わる秘薬「おれんじゅーすのもと」を得て治療に使ったが、その甲斐も無くおそらのゆっくりぷれいすに旅立ってしまう。

 

自暴自棄になったパパありすは「おたべなさい!」を試みたが、何遍やってみても悉く失敗。仕舞いには義姉の御世話係として一緒に暮らし始め、群れのゆっくりからは「めかけありす」と呼ばれるようになっていた。

 



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ろく、たりないゆ

朝ごはんさんは、さっきまで貯蔵庫でモゾモゾしてた芋虫さん。

 

優しいママが「さぁ、おちびちゃんが食べ易いようにしましょうね」真っ二つ!にしてから綺麗な葉っぱさんのお皿に並べてくれた。心なしか、大きいけど1つしかないお母さん達よりお得な気がする。

 

舌の上でもちもちとした弾力を愉しみ、むーしゃむーしゃすると、ぷりっぷりでジューシーな味わいがお口の中一杯に広がる。これメッチャ旨ぇ、パネェ、家族揃ってしあわせー!の大合唱をせずにはいられない。

 

もうすぐお母さんが狩りに出掛けるから、そしたら今日は都会派なママとゆっくりの日♪

 

一緒にお歌を唄いたい。ポンポンの上で跳ねるのも楽しい。沢山遊んだら最後に体中を綺麗にぺーろぺーろして貰おう。それから、それから~

 

赤れいむの心はウキウキと弾み、ピコピコしゃんでお空も飛べそうな勢いだった。

 

「にゃんで!? どぅちて?! きょーわみゃみゃちょゆっくちのひじゃよ?」

 

なのに何故?どうして自ゆんを置いてお出掛けするの?

 

この世の終わりみたいな顔をした赤れいむが、ママありすの行く手を遮ろうとする。確かに婦々間で取り決めたローテーションでは、ママありすが育児を担当する日であった。

 

赤れいむは生まれた時から「ゆんやー!」と「しあわせー」な日が交互に訪れていた為、ゆっくり出来なかったらその次の日は、必ずゆっくり出来るものだと思い込んでいたのだ。

 

「こらっ、ありすをこまらせちゃだめだよ!」

 

「ごめんねおちびちゃん‥‥‥いってきます」

 

ママありすは母れいむに頭を垂れると、後ろ髪引かれる思いでおうちを出る。

 

狩りに行く訳では無い。彼女はゆっくり出来ない親ゆを介護する為、俗に言う養育権(※)を一時的に放棄していた。

 

【民法上における親権のうち、子供に対する身上監護権に相当すると思しき俗称】

 

「さぁ、きょうもおかあさんとぴこぴこげーむだよっ」

 

「やじゃああぁ!! みゃみゃとゆっくち!ゆくっちしちゃい!いかにゃでぇぇ~」

 

赤れいむが泣いて縋るのはただただ寂しいから、なんて理由じゃないのは良ぉ~くわかっている。番の教え方はハッキリ言って「ぎゃっくたい!」に等しいのだから。

 

だがボーイッシュな方が都会派と言ってしまった手前、れいむの中では1番の狩ゆである彼女の教育方針に、異を唱えられなかった。

 

その分、自ゆんが面倒を見る日はトコトン愛情を注いでるつもりだ。その日どんなに辛い目に遭っても、明日はタップリ甘えられると信じていたからこそ我慢出来たに違いない。

 

そんな状況を承知の上で、どうして親孝行を優先するかと問われれば、全てが無償の愛とは言い切れない。当然ながら打算は有る。

 

妹だ。新たに生まれて来る妹まりさを、1ゆで良いから預けて欲しい。その子を自ゆんに似たおちびちゃんの許婚(※)として育てたいのだ。

 

【3以上は全て沢山になるので、叔母-姪(3親等)もハトコ(6親等)も同レベル。なお、他に候補の居ない環境下であれば姉妹でも何ら忌諱感を持たずに番となる】

 

1、2、たくさん。沢山居るのだから1ゆぐらいは分けてくれる筈。

 

両親達は承知するどころか相談すらされていないのだが、ママありすの頭の中では既に赤まりさと赤ありすを愛情一杯に育てる妄想で膨れ上がっている。

 

――お蔭で赤れいむのクシャクシャの泣き顔なんか、綺麗サッパリ忘れられた。

 

「ありずぅぅぅ、ばりざのっ、ばりざのおぢびぢゃんがぁぁぁ!」

 

少々辺鄙な所にある新しい実家から、生まれてこの方聞いた憶えが無いママまりさの絶叫が響く。おちびちゃんが、一体どうしたと言うのだ?

 

「ぱぱっ、ままっ、どうしたのっ!?」

 

慌てて巣穴に駆け付けると、腐り落ちて真っ黒になった塊をぺーろぺーろするパパありすと、ゆんゆん泣き喚くママまりさが視界に飛び込んで来た。

 

1つ、2つ。妹の成り損ないからは強烈な死臭が漂っており、思わず顔を背ける。ママまりさの額に残っているのは、たったの1ゆ。これでは計画が台無しではないか?

 

「おはかよ!ぱぱ、おはかをつくってあげてっ‥‥‥まま?ゆっくりよ、とかはいなままはゆっくりしていってね!」

 

「ゆぅぅ‥‥‥ありす、まりさをゆっくりさせてね?」

 

ゆっくり出来ない物の片付けは父親に任せ、母親にすーりすーりを繰り返す。取り敢えずゆっくりさせておかないと、大事な大事な妹まで死んでしまうのだから。

 

親ゆ達のおうちを取り返せれば全て丸く収まるとは思うのだが、多分難しいだろう。

 

妹として中立的な立場でお話しさんをしよう、と此処に来る前にもあんよを運んでみた。だが、姉まりさはブルブル震えながらも枝さんを咥え「さっさとかえってね!だぜぇ」と門前払いの姿勢を崩さず、まるで聞く皮を持たない。

 

中にはでいぶと姪っ子達の他にも誰か居るみたいだったが、本当にぷーすぷーすされそうだったので諦めるしかなかった。

 

「ゆんやぁぁ、まりさはおちびちゃんとゆっくりしたいだけなのにぃ~もうおうちかえるぅぅ!」

 

「ここだってすめばみやこよとかいはよ?いもーとがうまれれば、きっとゆっくりできるわ」

 

「――そうだよ!おちびちゃんはゆっくりしないでうまれてきてねっ、すぐでいいよ!」

 

「まま?どうしたのきゅうに?」

 

幼児退行が進み、駄々っ子のようにグズるママまりさ。

 

辟易しながらあやしていると、突然何か閃いたのかニコニコ微笑みながら額の実ゆっくりに声を掛け始めた。天啓でも下ったのか?不思議に思って話を聞いていみると、思いも寄らない答えが返って来る。

 

「みんなをゆっくりさせられるのは、まりさににたおちびちゃんだけだよ!だからとっくべつにまりさのまりさのまりさになおちびちゃんを、このこのおむこさんにしてあげるっていえば、きっとかんしゃしてまりさにおうちをかえしてくれるよっ♪」

 

「まま…」

 

近頃ゆっくり出来ないのは、おちびちゃんが居なくなったのが原因だと推論したママまりさ。そこから導き出される答えは1つ。最高にゆっくりできる自ゆん似のおちびちゃんさえ生まれてくれれば、万事目出度く解決するのだ。

 

そんなおちびちゃんと番になれる権利まで授けるのだから、あのゲス嫁だってこれまでの非礼を詫びながら、泣いて土下座するだろう。本気でそう思い込んでいるらしく、ママまりさの表情は自信に満ち溢れていた。

 

安心したらお腹が空いたので、娘ありすが持って来たおべんとさんを1ゆでがーつがーつ平らげると、そのままベットでゆぴゆぴし始める。

 

「ゆふぅ、まりさはおちびちゃんとすーやすーやするから、おちびちゃんじゃなくなったありすはもうかえっていいよ♪」

 

(まま‥‥‥なにをいってるの?このいなかもの、なかになにがつまっているの?あんこのうなのかしら?)

 

ママまりさはゆっくりしている自ゆんの姿を見せてあげる事によって、他ゆんをゆっくりさせてあげるのが大変得意な美ゆっくりだったが、それ以外は殆ど何も出来なかった。そして純天然ツンデレだった。

 

今のも「自分はもう大丈夫、ありすにも自分の家庭があるんだから、早くおうちに帰ってあげて」的な、労いの言葉なのだ。

 

「ごめんなさい、ありすのまりさはいまとってもつかれているの‥‥‥げんきになったら、きっととかいはなれでぃーにもどるから、ゆるしてあげてね?」

 

「わかってるわぱぱ、ありすはおうちにかえるけど、ままとゆっくりしていってね?」

 

だが理解したとしても、納得するかどうかはまた別の話。

 

本当におちびだった頃は、傍に居てくれるだけで充分しあわせーだった。姉まりさと一緒に、サラサラなきゅーてくるさんに埋もれてすーやすーやするのは大好きだった。

 

でも、他のおうちの子みたいにお帽子の鍔に乗って遠くを眺めてみたいとお願いしても「おかざりが汚れるのはゆっくり出来ない」と絶対に登らせてはくれず、トランポリンさんだってパパに頼めと相手にもされなかった。

 

気付けば狩りの仕方から都会派なコーディネートまで、生きるのに必要な術は全て父親に教わっていた。

 

あのゲスがした許婚への裏切りにも「あのれいむはゆっくりしてなかったから…」と、彼女にも非があるのと言わんばかりの台詞を吐いた時には、本当に驚かされたものだ。

 

お墓に向かってお祈りを済ませると、明日も顔を出すと父親に言い残し、すーりすーりしてから家路に着く。ママありすの中で、ママまりさは最早妹まりさを産む道具に成り下がっていた。

 

「ゆふん?どうしたのありすたち?まりさのおちびちゃんはとってもゆっくりしてるでしょ♪」

 

「ゆぴぴぴっ、ゆっ、ゆくっ、ゆくち!ゆくくっ」

 

『たっ――たりゆだこれーっ!! 』

 

その翌日。ママまりさの要望に応えたのか、妹まりさは早速生まれ落ちていた。

 

毟られたように少ない髪の毛には、最初からお下げが無い。お帽子も異様に小さかった。お目々はギョロギョロ動いて視点が定まらず、口からは舌がだらしなく垂れ下がり、何を言っているのか良くわからない。

 

ママまりさがのほほんとしていてるのは生まれてくるのが少し早かったからで、もう少し大きくなれば普通になると思っていたから。

 

箱入り娘の姫まりさは「足りないゆっくり」を見る機会が1度も無かったらしい。

 

「たりないゆ?このこが?‥‥‥うそだよ、まりさのおちびちゃんがそっんなことあるはっずがないよっ!こんなにゆっくりしてるんだよ!? いいっかげんなこといっわないでねっ!!」

 

「おじゃまするわよ?」

 

本当に邪魔と言うか、見計らったかのようなタイミングで訪れた幹部ぱちゅりーと、護衛みょん。

 

取り込み中だと追い返したい所だが、2ゆの用向きはパパありすが長に直訴していた、ゲス娘一家が仕出かした掟破りの件についてだった。

 

「ぱちゅりぃぃ!きいてね?きいてねっ!ありすたちがまりさのかわいいおちびちゃんをたりないゆだなんてゆーんだよ!? ごっくあくひどーなゆっくりどもをせえっさいしてね!」

 

「むきゅん?‥‥‥じじつじゃないの」

 

「みょーん」

 

「――っ!?」

 

幹部ぱちゅりーは足りゆまりさを一瞥すると、ママまりさの訴えをバッサリと切り捨てた。後ろの護衛みょんもその言に頷く。

 

驚きのあまり声も無く固まるママまりさを余所に、長の裁定とその理由を事務的に、淡々と述べる幹部ぱちゅりー。パパありす達の訴えは、無情にも退けられてしまった。

 

「おーぼーよっ!さいっしんっをようきゅうするわ!」

 

「それはおさにじゃなくてえーきさまにでもしてちょうだい、おやこ3ゆんでくらすのなら、このおうちでもじゅうぶんでしょう?それと…」

 

幹部ぱちゅりーがチラリと目線を送る。

 

護衛みょんが咥えた「はくろーけん」の先に括り付けられた葉っぱの包みを降ろすと、中からは税の担保として差し押さえられていた、ママまりさの白いおりぼんが現れた。

 

「まりさのっ、それはまりさのおぼうしのおりぼんさんだよぉぉぉ!」

 

「これはおさからのはいりょ、うけとってちょうだい‥‥‥もちろんこのさいていをうけいれれば、のおはなしさんだけど」

 

「ままっ、おちついて!ひきょうよぱちゅりー、こんなやりかたぜんぜんとかいはじゃないわっ」

 

久し振りに自ゆんのおかざりの一部を目の当たりにしたママまりさは、半狂乱になって取り返そうとするが、護衛みょんがはくろーけんを構えてソレを制していた。

 

長の権限ではおうちは戻らない。生まれてきたのは足りないゆ。目の前にぶら下げられた愛する妻のおかざり。ママありすが幹部ぱちゅりーを非難するが、こんな状態では取引にもならない。

 

「かえしてねっ!ひどいよひどいよっ、どうしてみんなまりさにいじわるするの?まりさがかわいいからってしっとしてるの?! 」

 

「まりさ…」

 

「むっきゅん、きまりのようね?」

 

まるで子ゆに戻ったかのように泣きながら突っ伏して、おさげをビタンビタンと地面に叩き付けるママまりさ。

 

その様子に勝ち誇ったかのような薄ら笑いを浮かべる、幹部ぱちぇりーと護衛みょん。貧すれば鈍す。パパありすには、もうどうする事も出来なかった。

 

「ゆわぁぁぁ、おりぼんさん!まりさのすてきなおりぼんさんおかえりなさいだよっ♪」

 

「ところでこのたりゆはどうするつもりなのかしら?なんならぱちぇがひきとってあげてもかまわないわよ?」

 

「ゆぴぃ?おぴょりゃー♪」

 

片側のもみあげで、足りゆまりさを物扱いで持ち上げる幹部ぱちぇりー。済し崩し的に取り戻したおりぼんを娘のありすに巻き直して貰い、ホックホクのママまりさが再び固まった。

 

幹部ぱちゅりーにさほど悪意は無かった。幾らうんうん奴隷ぐらいにしか使い道の無い足りないゆでも、一応我が子としての情もあるだろう。

 

他のゆっくりに知られては体裁も悪いだろうし、自ゆん達の目の届かない所であれば養子にでも出したつもりで割り切れる。それも考慮に入れての提案だった。

 

「ぱっちぇ、うぉしゅれっと、さいしんもでる!」

 

『ゆぅぅぅ?! 』

 

「むきゅーーーっ!? 」

 

真っ青になり、莫迦と叫びたいのを必死に堪える幹部ぱちぇりー。賢者の巧みな交渉術によりロハで奴隷をせしめるつもりだったのに、間抜けのせいで一瞬にしてご破算となってしまった。

 

彼女のおトイレは穴に捨てたうんうんを処理させるだけのぼっとん!式とは異なり、あなるさんを穴に近付けるとうんうん奴隷の舌先がギリギリ届く設計になっている。

 

その代わり、自由に動き回れるスペースが無いので例え足りないゆっくりであってもストレスが溜まり易く、そろそろ交換が必要な時期を迎えていたのだ。

 

「うんうんどれい‥‥‥ありす、まりさのおうちのおといれにはたりないゆがはいってたの?どうしておしえてくれかったの?そんなのゅ――ゆっくり!ゆくっ!ゆっく!! 」

 

「ししし、しつれいするわ!はやくきなさいっ、このおおばかみょん!」

 

「み、みょおぉぉん!」

 

そんな事も知らない?どうしようもないお姫様ね…と小馬鹿にするつもりが、ママまりさの徒ならぬ気配を敏感に察知した幹部ぱちぇりー。

 

厄介事に巻き込まれるのは御免だとばかりに足りゆまりさを放置して、一目散に撤退した。

 

「まりさっ!? しっかりしてぇぇぇ!! 」

 

『ゆっく!ゆっくち!ゆっくぴぃぃぃ!』

 

非ゆっくり症を罹患したママまりさが遊んでくれていると思ったのか、一緒になってピチピチと飛び跳ねる足りゆまりさ。

 

どうしてこんな事になってしまったのか?つい最近まで「とれんでぃーどらま」みたいに理想的な一家と褒め称されていたのが嘘のようだ。

 

あまりに非・現実的な光景にママありすは良く似た親子だなぁ、と思う程度でパパありすまで発狂寸前で慌てふためいているのも気にせず、ただ茫然と眺めていた。

 



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なな、ひ ゆっくりしょうとおれんじじゅーす

「ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり…」

 

「まりさ、あまあまよ?このあまあまをむーしゃむーしゃすればなおるの!ありすのおはなしさん、りかいできる!? 」

 

怒涛の不幸ラッシュに耐え切れず「非ゆっくり症」を患ってしまったママまりさ。

 

パパありすが東奔西走し、どうにか群れに伝わる秘薬・オレンジジュースの素を得たものの食事も睡眠もままならず、時間の経過と共に衰弱する一方だった。

 

いわゆる「うつ」状態ではひたすら「ゆっくり」と連呼するばかり。そして「躁うつ」状態では陸に上がった魚の如く、ピチピチと跳ね続ける。永遠のゆっくりは、確実に迫っていた。

 

「ゆっくり!ゆっくり!」

 

「まりさっ、はやくありすのまりさにおくすりさんをのませてあげて!」

 

そこでパパありすは自身のカスタードにジュースの粉末を塗した団子を作り、ママまりさを羽交い絞めにしている隙に義姉まりさに薬団子を突っ込ませる、と言う強硬策に打って出た。

 

娘同士の婚約解消によって著しく関係が悪化していた相手に協力を取り付けるあたり、彼女の形振り構わぬ姿勢が窺い知れよう。

 

「いもーとをしっっっかりおさえてるんだぜ?こんどはなしたら、いくらかんっだい!な おねーさまといえど、しょーちしないんだぜ?」

 

そんな周囲の必死さがママまりさには身の危険を感じさせるらしく、1回目は掴まれていた自身のおさげを力尽くで振り解くと、実姉に対して強烈なビンタを見舞っていた。

 

「くらえさんぱうろっ、これが!まりさの!ねお・たいがーしょっとなんだぜぇぇぇ!」

 

謎の口上と共に放たれた強烈な一撃は、脇で構えるパパありすをブッ飛ばし、ママまりさの前歯を粉砕しながらゴールたる口の奥に深々と突き刺さる。

 

主審のホイッスルのような幻聴を聞きながら、夫婦の意識はゆっくりと遠のいて逝った。

 

「ちっ、せわのかかるやつらなんだぜ‥‥‥ゆんしょっと!ふん、なかなかのべっとさんなのぜ?おやとしてはどさんぴん!でもまいすたーさんとしてのしたまえは みとめざるをえないんだぜ」

 

病ゆんである妹・ママまりさをベットに運び、義妹には葉っぱのお布団を掛けてやる。口が悪く利己的だが、ゲスと言う程でも無い義姉まりさ。

 

群れの中では困った時に相談すれば相応の対価を要求される分、それなりーに頼りになる存在と目されていた。

 

「ゆゆゆっ、さっすがはおれんじじゅーす!おれた は までなおってるんだぜ」

 

「ゆぅ?しらないてんじょうさんだよ…」

 

「まりさぁぁぁ!」

 

義姉まりさがその効能に感嘆しているうちにママまりさが目を覚まし、愛しい妻の声に反応してパパありすまでもが連鎖的に飛び起きる。

 

非ゆっくり症は、治癒したと診て間違いなさそうだった。

 

「ゆふふ、ありすったらどうしたの?ねーさままでいっしょにいるなんて、なにがあったの?」

 

「まり‥‥‥さ?」

 

しかし安堵したのも束の間。オレンジジュースの力を借りた、ゆっくりの奇跡の再生機能を以てしても、1つだけ深刻な後遺症が残っていた。

 

「びょーいんさんのべっとさんはもっさもさしててゆっくりできないから、まりさはもうたいいんさんするよ♪ おうちのふーわふーわのべっとさんですーやすーやしたいから、ありすはすぃーをごよういしてね!」

 

新しいおうちを、群れの中には有りもしない病院なんだと思い込むママまりさ。

 

何やら様子がおかしい、パパありすと義姉まりさが顔を見合わせる。だが妻は、妹は普段通り、ゆっくりとした笑顔を浮かべている。

 

「いもーとはなにをいってるんだぜ?ここは…」

 

「か、かきゅーてきすみやか~にはいりょするわ!それよりまりさ、おなかぺーこぺーこでしょ?なにかむーしゃむーしゃしたくないかしら?とかいはなかすたーどなんていかが?」

 

「ゆ?あまあまがあるんだったらまりさじゃなくておちびちゃんたちにあげてねっ‥‥‥ありす?そういえばおちびちゃんたちはどこにいったの?まりさはまだごあいさつしてないよ?」

 

比較的聡明な2ゆは、このやりとりの中でママまりさの状態をゆっくり理解した。

 

彼女はここ数日のゆっくりしてない記憶を、餡子の中から一切合財消し去っていたのだ。

 

「ま、まりさはいままでにゅういんさんしてたのよ?おちびちゃんたちはありすたちのありすにあずけてるわ!だからしんぱいしないでゆっくりしていってね?」

 

「おそくなってごめんなさいっ!このこがとちゅうでうんうんもらしちゃって…」

 

「ゆちっ、うーぅーちゅっぴぴ~♪」

 

苦心して話を合わせている最中に、最低最悪のタイミングで登場する娘と娘の出来損ない。

 

こんな足りゆでも、もしかしたら何かの役に立つかも知れない。そう思うと潰すのも忍びなく、食事の世話だけはしていたのが仇となった。

 

「ああぁ、ありすたちのありすったらどこのおちびちゃんをひろってきたの?! そんなゆっくりしてないいなかものはもとのばしょにかえしてらっしゃい!」

 

「ぱぱ?‥‥‥ままっ!」

 

一体全体これはどう言う事なのか?肝心な時に間に合わなかったのは申し訳無いと思うが、それもこれもみんなこの全然ゆっくりしてない妹が悪いのに。

 

もう何日も泣き叫ぶ自ゆんの可愛いおちびちゃんを差し置いて、こんなにも醜い足りゆの面倒を看ているというのに!

 

嗚呼、世界はどこまで麗しきアクトレスにトラゲディを演じさせれば満足するのだろう?ママありすは声を大にして叫びたかった。

 

「みゃみゃみゃゆっくちぴょぴょぴょっぴょぴょ?」

 

「なにゆってるの?そのこはまりさのおちびちゃんだよっ‥‥‥ねぇ、きょうのありすはとってもおかしいよ?なんだかぜんぜんゆっくりしてないよ!」

 

「あーこれはもうなにをゆってもむだなんだぜ?」

 

擦り寄る足りゆまりさを愛おしげに抱き抱えるママまりさ。産んだ記憶が無くなっても我が子の認識は可能な点こそ、正にゆっくりらしいご都合主義の真骨頂である。

 

ワガママお嬢気質は相変わらずも、精神的に弱っていた面はスッカリ回復したらしく、言い包めるのも一筋縄には行きそうに無かった。

 

「かかかっ、かくなるうえはありすのとかいはあいによる かれいなべっとてく!で、すっきりーかいっけつ!するわぁぁぁ」

 

『うわぁぁぁっ、れいぱーだぁぁぁ!』

 

所詮ゆっくりの浅知恵では、アドリブを利かせるのにも限度が有る。処理能力の限界を超えた事態に、パパありすの中枢餡はアッサリとオーバーヒートした。

 

突如レイピスト…日本語圏だからなのであろうか、レイパー化するパパありす。ぶっちゃけママまりさと番になれたのも勢い任せに既成事実を作ったからであり、後は誠意(結納品)で周囲を納得させたのだ。

 

ゆっくりしたおちびちゃんさえ授かれば、一先ず現状を受け入れてくれる筈。子育てに専念しているうちにこのおうちでの暮らしにも慣れるだろうし、時間さえ稼げれば前よりうんと都会派なコーディネートを施して見せる。

 

パパありすの考え方も、一理あった。

 

「んほぉぉぉ、こんかいはたいっせいにんっしん!にはっつとらーいよぉ!! 」

 

「ふっざけるんじゃないのぜぇぇぇ!」

 

だが本ゆん的には標的を間違えるような愚かしい失態を犯すつもりは無くとも、傍目は単なるれいぱーありす。

 

わざわざ不義理な妹夫婦を助けに来て「れいぽぅ」されてなるものか、とお帽子に潜ませていた護身用の鋭い枝を取り出し、熱り立つレイパーのぺにぺに向かって一閃を放った。

 

「ぎゃあああ!ありすのせーけんが えくすかりぱーにぃぃぃ!」

 

「しっかりしてぱぱぁぁぁ!? そもそもま(い)んごーしゅれべるだったでしょぉぉぉ?! 」

 

「ふんっ!まだおれんじゅーすのもとがすこしだけのこってるから、めいっこありすがすりこんでやっとくといいのぜ?‥‥‥さていもーと、これからおねーさまがするおはなしさんをゆっくりりかいしてねっ!」

 

噴水の如くカスタード飛沫を撒き散らしながら、のた打ち回るパパありす。面倒臭くなった義姉まりさは、実妹に洗い浚いブチ撒けた。

 

「このしんっちくはびょういんさんなんかじゃないのぜ?いもーとのあたらしいおうちなんだぜ!」

 

‥‥‥言われてみれば、今はこのゆっくりプレイスに病院さんは無い。思い出した。

 

まだリトルプリンセスたった頃、モグリの天才外科ゆんを自称するみょんは居たが、食べ過ぎで苦しんでいたでいぶに「ていおーせっかいのひつようがあるみょん!」とオペを強行し、誤診の咎を負ってセップクさせられたのだ。

 

だが姉も勘違いしている、ここは独ゆ立ちした可愛いまりさのまりさの為に作ってあげた新居なのだ。はて、どうしてこんな所ですーやすやしてたのか?

 

「いもーとのおちびだったまりさは、はきっけをもよおすじゃあく!てんっせいのげすなのぜっ、そしてそのおちびたちもまたげすなのはめいはっく!なんならこのおぼーしにかけたっていいんだぜ?」

 

嘘だっ、この大嘘吐きのクズ姉め!

 

全身全霊で否定したかったが、相手は狡猾で卑劣ながらも一応の筋は通す任侠ゆん。それがおかざりに誓うと公言するのだから、只事では無い。

 

同じ家族の一員だったありす達も反論しないと所を見ると、何時の間にかそうなってしまったのかも知れない。わかった、きっとあの嫁が悪いのだ。早く離っ婚させなくては!

 

「あたらしいおちびたちはこのたりないゆいがい、えいえんにゆっくりしてしまったのぜ!だから、またつくりなおしてこんどこそしあわせー!になるんだぜ?」

 

‥‥‥たりない、ゆ?

 

世界一ゆっくりしたまりさ似の、おちびちゃんが?そんな莫迦な。だってこんなに可愛い――

 

「ゆぴーっ!ちゅりちゅりちゅりぃぃ~~♪」

 

愛する我が子と孫までもがゲス。そのゲス一家におうちを乗っ取られ、ゆっくりした生活はもう2度と帰って来ない。

 

そして高貴なる名門の姫まりさが、事もあろうに足りないゆっくりを、うんうん奴隷を産んでしまった。

 

人間の手厚い保護を受けられる飼いゆっくりならば、記憶喪失も対処の仕方によっては寧ろプラスに作用させる事も出来ただろう。

 

だが野生の環境下においては、もう1度悲惨な現実を知らしめたに過ぎない。

 

「ゆぼ、ゆぼぼぼぼっ!!」

 

「ゆげっ、いもーとっ?! 」

 

『(まま)まりさぁぁぁっ、あんこさんはいちゃだめよぉぉぉ!』

 

絶望の果てに生きる気力を失ったママまりさは致死量に当たる自身の2/3を超える餡を一気に吐き出してしまい、そのままお空のゆっくりプレイスへと旅立ってしまう。

 

その表情に、群れ1番の美ゆと謳われた面影は、微塵も感じられなかった。



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はち、おめかけさん

「も゛‥‥‥たっ」

 

「まりさ?まりさぁぁぁっ!! 」

 

愛する妻の骸に駆け寄り、無意味なぺーろぺーろを繰り返すパパありす。彼女の中枢餡には、様々な思いが去来していた。

 

嫋やかに、本当にゆっくりとした姫まりさに一目惚れしたファーストコンタクト。

 

厭々と恥じらうツンデレっぷりに我慢出来ず、思わずヤッちまった初めてのすっきりー!

 

感涙にむせびながら「ゆっくりしていってね!」と交わした、新しい命とのご挨拶。

 

「どうして?どうしてこんなことに‥‥‥ぐすっ、しかたないわねぇ?もぉ、ばりさがゆっぐりでぎないどじんばいだがら ありずもいっじょにいぐわね?ざぁ、おだべなざぃ!」

 

プライドをかなぐり捨てて長や幹部、義姉に土下座してまで手に入れたオレンジジュースによる治療と、その結末。

 

元来ゆっくりは刹那的思考の持ち主である。

 

故に、彼女がこの先待ち受けている全然ゆっくり出来ないゆん生を儚んで後を追おうとするのは、極々自然な流れと言えた。

 

「さぁ!おたべなさいっ、おたべなさぁーい??? ぉ、をたべなちぃぃぃ!」

 

「ゆっぴー?まんま?‥‥‥あまーまっ!」

 

何か食べさせてくれるのかと勘違いした足りゆまりさが近寄るも、パパありすに何の変化も無い。

 

身内の2ゆがパパありすの自殺行為を止めようとはしなかったのは、多分こうなるだろうと察していたからだ。

 

諸説あるが「お食べなさい」は愛するモノへの献身であって、決して楽になる為の手段では無いのだろう。少なくとも、パパありすに我が身を捧げてでも命を繋ぎたい相手は、もう居ない。

 

「にゃんで?どぼぢでおだべなざいがでぎないのぉぉぉ!?――ちょ、なにしてるのぉぉぉ?! まりさをたべちゃだめでしょおぉぉ!! 」

 

「がっちゅ♪ がっちゅ♪」

 

何も貰えなかった代わりに足りゆまりさは自ら獲物を発見し、喜び勇んで喰らい付いた。

 

ゆっくりは苦しむと何故か餡の甘みが増すので、ママまりさの吐瀉物は格別の「あまあま」と化しているに違いない。

 

ちなみに普通の赤ゆなら毒としか思わない苦い草でも食べてしまう足りないゆだが、意外にも味覚は他ゆっくりと変わらないらしい。

 

学界では嗅覚の一部、健常なゆっくり種が持つ、同族の排泄物や死臭を感知する能力だけ欠損しているではないか?とする説が最も支持されている。

 

とは言っても、未だに人間の耳や鼻に該当する器官の発見には至っておらず(皮全体、との定義付けはあくま暫定的な仮説)存在自体がいい加減で謎に満ちたナマモノ。明日明後日急に生えたって別に可笑しくも無いのだが。

 

「こんのぉいなかもののどげすがぁぁ、ゆっくりしないでいますぐしねぇぇぇっ!!」

 

「ゆぴっ、ゆっぴょお~~っ!? 」

 

遺骸から忌み子を引き離し、怒りに任せて地面に叩き付けた。

 

驚きの声を上げつつ、痛みに悶える足りないゆ。限られた資源を如何に有効活用出来るかが肝要な野生のゆっくりには、要らない子でも使い道は充分有る。

 

少なくともこの群れでは冬篭り中に愚かな過ちを犯してしまう等、特殊な状況下を除けば安いプライドや嫌悪感で潰したりはしない。食料の足しにするにしても、余りに量が少な過ぎるからだ。

 

「ぱぱ…(い・ま・ご・ろぉ?かたぴこれいむにあげればぷりぷりいもむしさんをたくさんのたくさんくれたのに、もったいないわぁ)」

 

元よりコレを我が子だなんて認めちゃいない。卑しいハイエナさんには制裁を。

 

こんな事なら田舎者の幹部ぱちゅりーにくれてやるべきだったと後悔しつつ、一思いに踏み潰さんと狙いを定め、ジリジリ間合いを詰める。

 

「おおっと、そこまでだぜありす?」

 

「なんのつもり?そこをどきなさいっ!」

 

姉のママありすでさえ静観を決め込む中、足りゆまりさの窮地を救ったのは義姉まりさだった。

 

予想外の横槍に戸惑ったが、だからと言って舌鋒(物理)を収めるつもりは無い。

 

「ゆっちっちっ、このたりゆは ろーんさんのりしなのぜ!だからまりさのゆるしもなく、かってにころしちゃだめなんだぜ?」

 

「はぁぁ?ろーんさんはまいにちすこしずつかえしてくおやくそくでしょう?!」

 

パパありすはつい先程、自ゆんが何をしようとしていたのかも忘れたらしい。

 

長からオレンジジュースの対価として要求されたのは、野生の1ゆが必要とする約3年分の食料。つまり、一生分と形容しても差し支えない量を一括前払いする必要があった。

 

当然そんな物を用意出来る筈も無く、籠やベット作り、都会派なコーディネートを請負うから、と方々伝手を頼ったがけんもほろろに断られ、一縷の望みを賭して義姉まりさに助けを求めている。

 

「それはいもーとがぜんっかい!したらのおはなさしさんなのぜ?それにありすはじゅうっだい!なけーやくいはんをおかしてるんだから、こげっつき!さいけんのかいしゅーはとうっぜんなんだぜぇぇ!! 」

 

仲違いはしても、餡を分けた妹の命。

 

誠心誠意お願いしたら「お水さん臭いんだぜありす?まりさも一皮脱ぐんだぜ」と言ってくれまいかと幽かに期待はしていたが、義姉はあくまでビジネスライクに相談に乗ってくれた。

 

顔が広く交渉上手な彼女は、将来まりさ種が産まれた暁には出資額に応じて優先的に“お近付きに成れる”ゆん身売買スレスレの権利を餌に、瞬く間に必要量を集め、ソレを本ゆん名義で貸し付けている。

 

幾許かの葛藤は有ったが「おちびはまた作れる、それとも妹とすっきりー!したくないのか?」と問われれば「んほぉぉぉ!」としか答えられなかった。

 

「おたべなさいなんかして、のこったあまあまと いさんだけでろーんさんがかえせるとでもおもっているのかぜ?こっちはそーぞくゆんのおかざりまでさしおさえなきゃいけないんだぜ!? 」

 

「ぬゎんですってぇぇぇ?! 」

 

驚いたのはママありすだった。人間とは違い、相続放棄なんて概念はこのゆっくりプレイスには存在しない。子ゆは正負にかかわらず、親ゆの遺産を全て相続するのだ。

 

しかも債権ゆは相続ゆんの姉妹どちらから取り立てても構わないので、実質的に連帯保証ゆんと同じ状態に陥る。

 

可愛い妹を迎え入れられる可能性が完全消滅し、自ゆんの与り知らぬ所でおかざりまで取り上げられそうになっている現実を知った彼女は、父親に猛然と抗議した。

 

「はぁ?せいゆんになったこがおやのためにつくすのはとぉっぜんのことでしょ?だれのおかげでいままでゆっくりできたとおもってるのよ、このいなかもののおんしらずっ」

 

「ぎゃくぎれなんてとかいはれでぃーのすることじゃないわよっ!そもそもあんたたちがいままでげすをあまやかしてたからこーなったんでしょおが!」

 

ゲス姉夫婦の悪行から端を発した事とは言え、どうして親が作った負債まで背負わなければならぬのか?ママありすの主張は至極真っ当と思われるが、心身共に疲れ果てていたパパありすには正直どうでも良い話だった。

 

「だまれだまれだまれぇぇぇ、だいたいぞごのゆっぐりぢでないばりざっ!おまえばいっだいありずにどうじろっでゆうのよぉぉぉっ!」

 

「そりゃきまってるんだぜ?いもーとがおちびをつくれないいじょう、ここはまりささまがひとっかわぬいでやるのぜ!」

 

『ゆっ?』

 

一皮脱ぐ?ローンの返済を楯に追い詰めるような真似をしておいて、何をぬけぬけと?疑惑の目を他所に、義姉まりさは今後の方針を宣言し、即刻行動に移した。

 

「さいけんゆたちからさかうらみされちゃ、こわいこわいなのぜ?おいめいっこ、きょうりょくするならおまえにも1ゆぐらいまわしてやってもいいんだぜ?」

 

「ゆん、どくをむーしゃむーしゃするならおさらさんまでってやつね・・・・・・かくごはいいかしら?ありすはできてる」

 

「なっ、なにをいってるの?やめてっ、ちかよらないで!」

 

こんな奴とはもう親でも子でも無い。そう割り切った娘と義姉の2ゆ掛かりで押さえ付けられ、パパありすはあんよに枝を突き刺された。

 

あくまで動き封じる目的なので抜かない限り出餡は少ないが、逃げる事すらままならない。

 

「いだぃぃぃ!ごんなごどをぢでゆるざれるどおぼっでるのぉぉぉ!? だれがだづげでぇぇぇ!! 」

 

群れの外れに出来たばかりの評判ガタ落ち一家のおうちに訪ねるゆっくりなんぞ、精々関係者ぐらい。いくら泣き叫んだところでその声は誰にも届かなかった。

 

「おばさま?このおかざりはままのおぼーしにしまっとくわね」

 

何かの理由で他のゆっくりがその場に現れたしても、ご自慢の真っ赤なカチューシャも剥ぎ取られてしまったパパありすを救うどころか、義姉まりさ達に加担する可能性の方が高いだろう。

 

「ゆっくりできないゆっくりは、だまってひっぷさんをこっちにむけてりゃいいんだぜ!」

 

パパありすの背後を取った義姉まりさが圧し掛かると、へコヘコとピストン運動を開始する。暫く間、巣穴からはペチンペチンとリズミカルな音と下卑た鳴き声が漏れ続けていた。

 

「おらおらっ、おかーさんはたんっとえいようをつけなきゃだめなんだぜぇぇ、すっきりー!」

 

「いやぁぁぁ!たべたくなっ、ぶぼっ!あばあばじぁわぜぇ~~ずっぎりぃぃぃ!! 」

 

足りゆまりさの食べ残しを口の中に突っ込まれながら繰り返されるすっきりー!によって、パパありすの額からはニョキニョキ茎が生えて来る。

 

彼女達の「すっきりー!」は幾度と無く繰り返された。2ゆっきりなら栄養不足でどちらかが枯れ果てていたかも知れないが、ママありすのサポートで事無きを得ている。

 

「いちさん、にさん、まぁ!たっくさんよ♪ きゅ~とでとかいはないもうとがたくさんたくさんできて、おねぇさんうれしいわ!ぁ、いらないいもうとはゆんぽすといきね」

 

「あまーまがっちゅ、がっちゅ!」

 

不要な実ありすは芽生えた先から収穫され、即座に足りゆまりさのご飯になった。パパありすが今後垂れ流すうんしーも、ゆんぽすとが綺麗に片付けてくれだろう。

 

情事が終わるなりおうちの入り口は急勾配の階段にリフォームされ、ズリズリと這い回る事しか出来なくなったゆっくりには、脱出不能な牢獄と化している。

 

「うぅ、さいあいのまりささえうけいれたことのないありすのていそうが‥‥‥ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめん…」

 

「またくるわね、ぱ‥‥‥ありす?」

 

ヤモメである義姉ありすの名目上のお世話役になったパパありすは、妾ありすと蔑まれながらローンを返済すべく、まりさ種の苗床として第2のゆん生を歩み始めていた。

 



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きゅ、せいっちょうき!

ここ数日、ママありすは赤れいむですらハッキリ認識出来るレベルで「いーらいーら」していた。原因は主に妹モドキに依るところが大きい。

 

おかざりに欠損があるゆっくりと双璧を成す差別対象。そんな厄介モノを居候としてmyゆっくりプレイスに置かねばならず、そのせいで肩身の狭い思いをしなくてはならない。

 

「はい、はっぽのおまるさんだよ?おちびちゃんはちゃんとできるかな?」

 

「まかしぇちぇにぇ!れいみゅにょ!! しゅーぴゃーうんぅんたいむぎゃ はっぢみゃるよぉ~♪」

 

そればかりか我が子が「おといれ」も覚え始めた中、足りないゆの途轍も無く臭いあなるさんを、文字通り味わわされる屈辱。

 

うんうんは勝手に食べるので片付けなくても済むが、番の手前ひっぷさんが汚いまま、おうちの中を這いずり回らせる訳にもいかなかったのだ。

 

「たっだいまぁ~~~♪」

 

『おかえりなさぁ――っ!? 』

 

そんなストレスから解放された彼女が、鼻?歌混じりの上機嫌で帰って来た。

 

元凶の足りゆ連れではなく、とてもゆっくりとした実まりさ付きの茎を生やして。

 

「みゃ、みゃみゃにくきしゃんがはえちぇるょ!もちかちてあのきょちじんじゃっちゃにょ?」

 

「ゆふふふっ、こんなにとかいはなまりさを、あんなごみくずといっしょにしちゃだめよぅ」

 

「あぁーりぃーずぅぅぅ!! おまえぇ、どこのうまのほねさんとぉ!うわきしやがっだぁぁぁ!? 」

 

突然の出来事に驚き、戸惑うばかりの赤れいむ。緩みっ放しのニコニコ笑顔を崩さないママありす。またしても裏切られたと怒り心頭の母れいむ。

 

三者三様。一触即発。婦々喧嘩の第2ラウンドが始まれば、おうちの壁や床にはたちまち小豆色やらクリーム色のインテリアが生まれるだろう。

 

「ゆぷぷっ、やーねぇれいむったら!このおちびちゃんはありすたちのい・も・う・と☆」

 

『ゆっ??? 』

 

理解が追い付かず、動きが止まってしまう れいむ親子。家庭崩壊の危機は華麗にスルーされたが、流石のゆっくり種と言えど妹が、叔母が突然生えて来る道理は無い。

 

「なぁ~んだ、れいむったらあわてんぼうさんっ <(ゝω・´)=★ 」

 

などと反応する方がおかしいだろう。

 

2ゆの硬直が解けるのを待たず、ママありすは実家で起こった騒動を欺瞞に満ち溢れた独自解釈で語り出した。

 

「‥‥‥じゃあ、そのおちびちゃんのおとーさんはれいむのおとーさんで、おかーさんはありすのおとーさんなの?」

 

「そうよ!ままのあとをおっておたべなさいをしようとしたぱぱを、れいむのぱぱがきずをぺーろぺーろしあいながらいきようってせっとくしたの!そしてふたゆはじょうねつてきにもえあがりすぎて、くきさんがたくさんはえちゃったから ありすがいっぽんだけあずかってきたのよ」

 

彼女の言葉を借りれば、養殖も都会派な愛へと摩り替わった。過剰生産分のお零れも、姉妹愛からの献身だと言ってのけた。妄想を垂れ流しているうちに、彼女の中では完っ璧!な既成事実と化していた。

 

「ゆゎぁぁ、おかーしゃにょおちょーしゃ、きゃっこいいにぇぇ~」

 

「そう、だね…」

 

赤れいむは韓流レベルのラブストーリーに心をときめかせているが、母れいむは俄かには信じ難かった。あの父が、何の利も無く他ゆんを救う?そんな訳無い!と。

 

まりさ似のおちびが欲しい番がタダまむさせてあげるから!おちびは自ゆんで育てるからっ!とゆー惑したなんて筋書きの方が、まだシックリ来る。

 

今からでもこの目で確かめに行きたいが、すっきりー!までしておきながら再っ婚!には至らず、表向きはママまりさとパパありすの間に出来た、最後のおちびちゃんとして産ませるらしい。

 

そんな2ゆに「とかいはなあい」を育む時間をあげて欲しいと言うのだ。

 

「じぁあ、おちついたらおねーちゃんといもーとをつれて、おいっわぃにいかなくちゃね!」

 

結論だけ言えば、母れいむは一先ず折れた。

 

疑念は晴れなくとも番の話に真実が含まれていたとしたら?特に額の実ゆが本当に妹であった場合、確固たる証拠も無く制っ裁!なんぞしでかした日には、父親がどう動くか予測出来ない。

 

計算通りとほくそ笑むかも知れないし、怒り狂って今度は自ゆんが制っ裁!される危険性も孕んでいる。口惜しいが、知恵も力も到底及ばない相手なのは間違い無い。

 

口を開けば「ゆっくり」だの「しあわせー」だのと鳴き声を発しても、所詮は強さこそ正義の世界なのだ。

 

「じゃあ、いってくるわねっ!」

 

「いってらっちゃい!ゆっきゅりしにゃいではやきゅかえっちぇきちぇね?」

 

今後についてしばらく母れいむと話し込むと、ママありすはお帰りなさいのすーりーすーりもソコソコにお水を汲みに出掛けてしまった。

 

「ほんちょ?ほんちょにあちたゎゆっきゅりのひーにゃの?」

 

「ゆん、ゆっくりできるかどうかはしらないけど、あしたはありすとおるすばんだよ!おかーさんがおちびちゃんにうそついたことなんかないでしょ?」

 

「しょ、しょーだにぇ おかーしゃわみゃみゃとちがっちぇ ほんちょしかいわにゃいね…」

 

心にグッサリ突き刺さるぐらいに、とは口が裂けても言えやしない。母れいむのスパルタ指導によって、彼女の薄皮は人間が食するのに最適なモチモチ感を完全に失っていた。

 

それだけでは無い。訓練中におかざりに傷が付いては一大事!との配慮から、おりぼんを外されても動揺しない強靭な精神力も、同時に練り上げられていた。

 

「さぁ、おかーさんはしばらくかりにせんっねん!するから、おちびちゃんはきょーこそかんぺっきにぴこぴげーむをくりあーしてねっ」

 

「ゆっ、れいみゅ ちょーぎゃんびゃるよ!」

 

れいむ親子のぴこぴこゲームとは、人間で言う旗挙げゲームに該当する。母れいむがおちびと呼ばれていた頃、父親まりさに叩き込まれた特訓の1つである。

 

旗の代わりに左右のもみあげを上下にピコピコさせ、間違えれば即・鞭打ちのペナルティが待っている。もう何度叩かれたか数え切れない。

 

お陰でチョットした痛みでは音を上げる事も無くなっており、心身共にタフに育っていた。

 

「――みぎあげて!みぎさっげないでっ ひだりあっげて!」

 

「ゆぅ!ゅ、ゆー」

 

「みぎまえむけて、ひだりよこっ――うぃんくも!」

 

最初のうちは上げ下げだけだったのが、クリアすると水平にしたり、前方への突出しも加わった。更に最近ではピコピコとは関係無い動作まで要求されるようになり、難易度がドンドン跳ね上がって行く。

 

どんな風にされるのが辛いのか、苦しいのか、乗り越えられるのか?正解は母れいむの餡にタップリ浸み込んでいる。受け継がせたトラウマを自ら穿り返しているのだから、熟達も早い。

 

「どっちもさげて、ぺーろぺろっ!」

 

「ぺ、ぺりょおぉっ」

 

「よろしいっ!ごほーびのじかんだよ」

 

「ごっちぁんでしゅ!」

 

母れいむは頬に貼り付けていた葉っぱを引っ剥がすと、おいでおいでと招き寄せた。

 

幼い頃、父親まりさから与えられていた特別な「あまあま」のご褒美。お帽子の中から取り出した餡子玉だったので全然気付かなかったが、彼女は頬から直接吸わせている。

 

その様は、人間が赤ん坊にお乳を与えるのと丸っきり同じだった。

 

「ごっきゅん、ちあゎちぇ~♪」

 

「ゆふふ、よくがんばったねおちびちゃん?あしたはおかーさんがしんっせん!なごはんさんをとってきてあげるから、きたいしてていいよっ」

 

初めての時はお口一杯に含んだ餡子を地面に撒き散らしたので、思わず引っ叩いてしまった。そのせいか、以降はクドクド教え込まずとも飲み込んでから「しあわせー」をする。

 

番はそんな食べ方は都会派じゃないと言うのだが、同じ立場になってみて父親の気持ちが良ぉ~くわかった。

 

ぽんぽんの底じゃ理不尽なクズ親だとさぞかし恨んでいるんだろうが、この子にもいずれ思い知る日が来る筈だ。さぁ、今夜は明日に備えて栄養を沢っ山!摂らなくては。

 

赤れいむが一定の成果を出せた事に満足しつつ、一段落したらお外デビューの約束と明日の明日から抜きっ打ち!ぴこぴこゲームの予告で釘を刺すと、いそいそと晩ご飯の支度に取り掛かった。

 

『にっこりのひー♪ おっとりのひー♪ ほっこりのひ~♪ 』

 

翌日。久々にママありすと一緒にお歌を唄い、赤れいむはとてもゆっくりしていた。茎さんに実っているのは妹ではないし、最近よく連れて帰って来たヨソの子でも無いと言う。

 

じゃあドコにいったんだろう?結局一緒に遊ぶどころか、お話しさんすら出来なかったのは少し残念だったが、それでも充分ゆっくり出来るので満足だった。

 

「みゃみゃ!ちゅぎわとりゃんぽりんしゃん!」

 

「ごめんね、ままはいまおちびちゃんよりちいさないもうとがいるからむりなの」

 

「ゆぇぇ、ちょんにゃあ…」

 

気が付いた時は、ホンの小さな綻びだった。

 

「ゆゅ!みゃみゃのいもむししゃんのにょほーがおっきぃよ!れいみゅにちょうだいね!」

 

「だぁ~めっ、ままはあったらしぃいのち!のためにたくさんむーしゃむ-しゃしなくちゃいけないの!ゆっくりりかいしてね?」

 

「ゆがーんっ」

 

相変わらずママは優しい。それなのに、何かが違う。

 

「みゃみゃ、ちゅーりちゅーり♪」

 

「みゃみゃじゃなくてま・ま・よ?いつまでもあかゆことばをつかうのはとかいはじゃないわ」

 

「ゆががーん!」

 

上手く説明出来ないが、ゆっくり出来ないモヤモヤが「そろーりそろーり」着実に赤れいむの餡内に溜まり始めていた。

 




 


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とぉ、はんっこうき?

「まりちゃゎまりちゃぢゃよ!ゆっきゅちしちぇいっちぇにぇ!」

 

『ゆっくりしていってね!』

 

パパありすから生えた茎を持ち帰って3日後。

 

不要なありす種が間引かれて1ゆっきりになっていた事も手伝い、極めて良好な栄養状態を保っていたママありすと母れいむの「妹」は、通常と比較してかなり早めの誕生となった。

 

経緯はどうあれ愛くるしいおちびちゃんの誕生に、一家は仮初の幸福に包まれる。

 

「ゅ?‥‥‥おかーちゃ?おとーちゃわどきょ?」

 

「ゆわぁ~~ん、なんてとかいはなあかちゃんなのかしらっ!ありすがまま‥‥‥がわりのおねえさん、よ?」

 

番の鋭い視線を感じ、即座に発言を修正するママありす。

 

建前上は預かりモノでも、自ゆんの餡を養分にして産まれた子。赤れいむの時は(自業自得の)ドタバタでまともなご挨拶も出来なかったので、喜びも一入といった感があった。

 

「れいむもおちびちゃんのおねーちゃんだよっ」

 

「れいみゅわ おにーちゃ ににゃるよ!」

 

『‥‥‥‥‥‥。』

 

母れいむも直感的に餡統の繋がり嗅ぎ取ったが、自ゆんの父と夫がふりんっ!した線が消えた訳では無い。それでもゆっくり出来るおちびちゃんは掛け替えの無い宝。まりさ種であれば尚更だ。

 

我が子の相変わらずのお父さん志向に呆れつつ、ママありすの意を汲んで額から茎を引き抜いて舌の上に乗せてやると、彼女はじっくり丁寧に咀嚼し始めた。

 

「しゃーくしゃーく!さぁ、あーんしてね?」

 

「ゆぴ?ごはんしゃん?まりちゃ ぁーんしゅるよ!」

 

優しい声色と共に差し出された、エメラルドグリーンに輝くペースト状のごはんさん。

 

どういう訳か両親も一緒に生まれて来る筈だった姉妹も居ないのだが、優しくて頼もしそうな姉達が笑顔で迎えてくれている。

 

自ゆんの誕生が祝福されている事に安堵した赤まりさが、促されるまま大きく口を開いた。

 

「むちゅ~~~っ!」

 

「まっ、まりちゃにょふぁーしゅとちゅちゅ???‥‥‥あみゃあみゃちあわちぇ~~~っ!」

 

「ゆゆ!? にゃんかれいみゅにょときちょちぎゃうよ?!」

 

舌先が触れ合った瞬間、妹まりさを食べてしまいたいくらい可愛いママありすが感極まって吸い付き、口移しで茎を食べさせる。

 

不意にファーストキスを奪われたショックも束の間。何時如何なる場合でも味蕾への刺激が最優先されるゆっくりに、甘味に勝る物は無い。

 

シャクシャクとした歯ごたえを残しつつ、ママありすの唾液で甘味が増しており、抜きたて新鮮1本丸ごと愛情タップリ。ゆっくりが出来る最高の調理が施されている。

 

瞳をキラキラと輝かせ、今は穢れの無きブロンドのお下げをブンブンと振り回し、うれしーしーを撒き散らしながら全身で喜びを表現する。きっと彼女のゆん生でも屈指の絶頂期だろう。

 

「ゆふふっ、ぺーろぺーろしてあげるからころーんしてね?おわったらとかいはなべっとですーやすーやしましょうねっ」

 

「ゆきゃきゃ♪ みゃみゃくちゅぐっちゃい♪ 」

 

幼い頃から想いを寄せていた従姉妹まりさとは結ばれなかったが、代わりに授かった天使。

 

ようやく掴んだこのしあわせー!を邪魔するゲスは、たとえ誰であろうと絶対に許さない。熱烈なちゅっちゅは彼女からすれば、その決意表明みたいなモノだった。

 

「ゆっ?! まりちゃのみゃみゃじゃにゃいよ!れいみゅのだょ!ていっせいしてねっ!? ぷくーっ!!」

 

「ゅぇ?‥‥‥ゆっ、ゆ、ゅ、ゆんやーぁぁ!! 」

 

赤れいむのゆん生初「ぷくー」に驚き、ご機嫌が一変した赤まりさが狂ったように泣き喚く。

 

碌に心の準備も出来ないまま、家族が増えるから自分の優先順位が下がるのを黙って受け入れろ、と言っても無理な相談だろう。

 

このままではママを盗られてしまうのでは無いか?人間でも抱く嫉妬や焦燥感に駆られての行動だった。

 

「おにぃちゃきょわぃぃぃ!みゃみゃ~~っ」

 

「ゆゆっ?! れいみゅちゅよしゅぎちゃってごめんにぇ?でみょまりちゃがわりゅ…」

 

「うまれたばかりのあかちゃんにぷくーするなんて、いなかもののすることよっ!ありすはおちびちゃんをそんな げす にそだてたおぼえはないわよ!? 」

 

だが「しまった、やりすぎた!」と後悔しても後の祭り。縋り付く赤まりさを庇い、ママありすは怒りで真っ赤になった顔を膨らませながら、赤れいむを怒鳴り飛ばす。

 

排除の対象となるのは、我が子であっても例外では無かったらしい。

 

「ごごご、ごめんにゃしゃぃぃぃ、れいみゅがわるきゃったでしゅ~っ!」

 

「ゆん、おちびちゃんもはんせーしてるみたいだし、ありすもいもーとも ゆるしてあげてね?」

 

ビリヤード玉サイズの、ほぼ「子ゆっくり」まで成長した赤れいむだが、ママありすには窘められることはあっても本気で叱られたのは初めてな上、烈火の如く怒っているのだから堪らない。

 

思わず「ぷしゃ!」っとおそろしーしーを垂れ流しつつ、涙ながらに土下座して謝ったが、ママありすは赤れいむを一顧だにしなかった。

 

ひたすら泣きじゃくる赤まりさをあやすのに注力し、泣き疲れて寝入った後も片時も傍を離れようともしない。その態度がまだ甘えたい盛りの赤ゆの心を、深く深く傷付けようとも。

 

母れいむの取り成しもあり、翌朝にはママありすの機嫌もようやく収まったが「まりちゃ」の誕生を境にして、親子の関係には明確な変化が生じていた。

 

「じゃあ、れいむはかりにいってくるよ!」

 

「いってらっしゃい、きをつけて」

 

『いってらっちゃい!』

 

赤まりさはママありすを母と慕う為、必然的に彼女が赤ゆ達の面倒を看て、母れいむが狩りに行くスタイルがそのまま定着しつつある。

 

番を見送ると、ママありすは赤まりさを生活の中心へと据えた。当然不満は燻り続けているが、中枢餡に刻まれた優しいママが豹変する恐怖が先に立ち、赤れいむは何も言えない。

 

それを良い事に、ママありすは自ゆんの躾が姉(でも兄でも無く姪なのだが)としての自覚を促し「とかいはなれでぃ」へとまた一歩成長させたのだと解釈。

 

そして甲斐甲斐しく赤まりさの世話を焼き、赤れいむがストレスにより比べ物にならないほど臭いうんうんしても無関心で、我が子同然に――否、愛娘そっち退けで溺愛した。

 

「ゆわ~~ぃ♪ おしょらをとんじぇりゅのじぇー!」

 

「ょ、よかっちゃにぇまりちゃ…」

 

遊ぶのも。

 

「ちゅっちゅ!ごはんしゃんちゅっちゅでたべちゃい!」

 

「まぁ♪ あまえんぼうさんね?かーみかーみっ」

 

食べるのも。

 

「べっとしゃんやぢゃー! みゃみゃといっちょにしゅーゃしゅーゃにゃの~!」

 

「あらあらあら」

 

寝る時まで、全て。ママと一緒の時間がたっくさん増えたのに、全然ゆっくりさせて貰えない。

 

腹いせにまりちゃへ意地悪の1つもしてやりたくなるが、目を離したフリをしながらシッカリ監視の目を光らせているのが、お下げに取るようにわかる。

 

特訓の成果が如実に現れていたお陰で、赤れいむは余計に哀しい思いをさせられていた。

 

「みゅぎ!みゅぎ!ひじゃり!みゅぎ! ゆっきゃっきゃっ、おにーちゃおもちろ~ぃ♪ 」

 

「もぉ!まりちゃはでたらめさんすぎて、ちっともとっくんさんにならないよっ」

 

一般論として脆弱な幼生が庇護されるのは極自然な話しなのだが、このナマモノは祖先からの記憶を中途半端に受け継ぐ特異性により、自我の発芽が異常に速い。

 

そのせいで自ゆんは可愛いから、選りすぐりのエリートだから、特別扱いされて当然なんだと過信し易くなる。

 

地位、能力、容姿…他と比較して優遇されるのには、何かしらの理由があるだろう。そしてそれが積み重なれば、神仏でさえ尊大な振る舞いをする。ゆっくりが増長するのは、自明の理だ。

 

「おひめちゃまがあしょんであげちぇるのに、にゃにいちぇるの?ばきゃにゃの?ちぬの?」

 

「ゆぎぎっ‥‥‥ままぁ~」

 

姫まりさとして蝶よ花よ甘やかされ、まりちゃは生後数日の赤ゆながら、早くもゲス化の兆候を見せていた。

 

もしも赤れいむが母れいむの厳しい指導を受けていなければ、我慢の限界を超え、ゆっくり殺しの凶行に及んでいたかも知れない。

 

「おちびちゃんはおにいさんなんでしょう?いもうとをゆっくりさせられなきゃ、とかいはにはなれないわ」

 

「しょーだしょーだぁ~」

 

人間でも母親と云う生き物は、とかく長子に対してコントロールし易い従順さを求める傾向にある。ソレが可能であるのかどうかが「良い子」の判断基準に直結するのだ。

 

幸か不幸か赤れいむは立派なお父さんになる為の試練なのだと己に言い聞かせ、耐え忍んでしまった。

 

「ゅ、ゆっくりりかいしたょ…」

 

「そう、さすがありすのおちびちゃんね♪ じゃあ、こんどはままとぴょんぴょんしてあそびましょう!」

 

こうなると我が子が何を訴えようとお構いなし。何せれいむ似のおちびちゃんが狩りに連れ出せるようになったら、すっきりー!を解禁するとの約束を取り付けている。

 

今度こそ自ゆん似の赤ちゃんを最低2ゆ産んで、まりちゃのお嫁さんとお婿さんにするのだ。そしてたっくさんの孫ゆ達に囲まれて――嗚呼、なんて都会派なゆん生!

 

ママありすとしては、1日でも早い方が良い。暇さえあれば「あんよ」を鍛えさせるべく、おうちの中を這わせるか跳ねる練習をさせ、期待に応えようと赤れいむは一生懸命頑張った。

 

その努力が決して報われないのに気付かぬまま。

 



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