ダブルクロス―砕けぬ夢― (クレナイ)
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The others
突然目が覚めた――――。
真っ暗だったから、もう夜なのだとわかった。
部屋は静かで、まるで誰もいないようだった。
暗闇の中、独りぼっちは心細かったので部屋の外に出た。お父さんやお母さん、妹に会いたかった。
暗い廊下に出る。そこは朝とは違ってどこまでも続いているように見えた。ズゥーッと奥にまで続いているようで、吸い込まれそうで――なんだかとても怖かった。
歩くたびにギシギシッと鳴るのは、お化けの声みたいでやっぱり怖かった。
窓から月の光が差し込む。ほこりがふわふわと舞っていて、その光を浴びるとなんだか粒子みたいにキラキラと輝いていた。
それを見ていると、まるで自分が別の世界に来てしまったみたい。
今にも不思議なことが起こるのではないかと思い、少しだけわくわくした。
遠くのほうから、なにか音が聞こえた。
吸い込まれそうな暗闇の奥。その先にある部屋で、みんなはなにか楽しいことをしているのだろうか。
ずっと待っているのに、不思議なことはいつまで経っても起こらない。
我慢できなくなり、奥の部屋へと進んでいった。
なにも、見えない。すごく、暗い。
奥にすすむと、月の光も届かない。
寒い。ただ、寒い。
独りぼっちだと、心まで凍ってしまうほど寒い冬の夜。
自分の名前が呼ばれたような気がしたので、奥の部屋に近づいていく。
暗闇を抜けたあと。
その部屋――今にはお父さん、お母さん、妹がみんなそろって待っていた。
みんな、仲良く並んで眠っていた。
みんなは冷たい、赤い布団で眠っている。
深い眠りについているのか、みんなはピクリッとも動かない。
一面が真っ赤になっているいつもはにぎやかな居間。
――どうなっているの。
ぼくはとても寂しくてお母さんのそばに行く。
――どうなって、いるの。
お母さんの隣で眠っている妹が、とても安らかな顔を浮かべていた。
ビチャッと。生温かいなにかを足に感じた。
すごく、赤い。まるでトマトジュースのように赤いもの。
眠っているみんな。
お父さんも、お母さんも、妹も――それっきりぼくの名前を呼ぶことはなかった。
――どうなっているのか、わからない。
ただ、一つだけわかることがあった。
それは、ぼくは独りぼっちがとても寂しくて、とても寒くて――それで泣きたくなったということ。
胸に黒く冷たいなにかが這い上がってくる。ぼくの心にしみこんでくる。
でも、ぜんぜん怖くなかった。
どうしてなんだろう。それはとても怖いことのはずなのに。
とても不思議だった。
でも、ぼくは子どもだからよくわからない。
大人だったらわかるのかな。それじゃあ、朝になったらお父さんかお母さんに聞いてみよう。
なんだかまた、眠くなる。
寒い、寒い冬の夜。
家族みんなと眠ったら、きっと温かくなる。
赤い布団を頭から被って、ぼくは目をつむる。
そして、夢を見よう。温かくて、笑い声の絶えない――そんなみんなと一緒にいる夢を。
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